したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

新西尾維新バトルロワイアルpart6

835Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:35:47 ID:S7QegMTs0

「わたしは変わりませんよ。――変われません。いくら受肉をしようとも、わたしはしょせん怪異ですから」

 怪異は名に縛られる、というのは四季崎記紀の言。
変わったが最後、――本分を忘れたが最後、無窮の監獄――《くらやみ》とやらに飲み込まれるそうで。
どうでもいいですけれど、悪いですけれど。
あれから少し、お話をすることとなりました。
ほんの少し、些細な接触。些末な折衝。

「鑢七実さん」
「なんでしょう」
「わたし、あなたを許せません」
「そうでしたか」
「人を殺して楽しいですか」
「さて」
「だったらなぜ」
「あなただって、飛んで回る羽虫は鬱陶しいでしょう」
「わたしにはあなたたちが理解できません」
「ええ、当然のことです。
 ですが、それでいうならいっきーさんのことだって、理解できたりしないでしょう」
「お言葉を返すようですが、それも当然のことなのですよ、七実さん。
 人が人を理解できないように、怪異だって人を理解できているわけではありません」
「その割に口幅ったく進言したようですが」
「ご存じないですか? 怪異って存外にいい加減なんですよ。相手のことを知ったかぶって、憑りつくのです」
「いい迷惑ね」
「知ってます。怪異なんてもの、本来遭遇しない方が良いに決まってます」
「なら離れればいいじゃない」
「おっしゃる通り、本来そうするのが正しいのでしょう。
 わたしが足を引っ張っているのは事実ですから。あなたに襲われたことも含めて」
「あなたがいなければあの大男ももう少しうまく動けたでしょうに」
「……日之影さんには申し訳ないことをしてしまいました。
 ツナギさんにも、戯言さんにも、頭が下がるばかりです」
「そうね」
「――玖渚さんがお亡くなりになったことに実感が持てない理由があるとするならば、
 彼が彼女に対して何もできなかったことも、要因として大きいのだと思います」
「……」
「この六時間、わたしたちはこのランドセルランドに待機をしていました。
 そういう手筈だったから――ですが、もしもわたしたちがいなければ、戯言さんは違う行動もとれたでしょう」
「少なくとも、あなたは、体調が優れないようですが」
「七実さんほどじゃないでしょうけれど――わたしが熱で倒れたりしなければ、と思わずにはいられません」
「思い出しましたが、いっきーさん主人公がどう、とおとぎ話のようなことをおっしゃっておられましたね」
「はい。ですが実際のところ、どれだけ議論を重ねようと、意味はありません」
「まあ、元来主人公というのは目的を指す言葉ではないでしょう」
「その通りです。主人公とは善であれ悪であれ、行動を起こしてなんぼの役職でしょう。
 それで、戯言さんがこの一日やっていたことはどれほどありましょう」
「あなたの子守に他ならないのではないですか?」
「まったく自分でも恥ずかしいですが、言葉もありません。
 おかげで、事の中枢にはまるで関われなかった。
 知らない間に、話は勝手に始まり終わっている。あなた方の馴れ初めを知らないように」
「迷子でもしているみたいに、右往左往していたということね」
「これではまるで傍観者です。無駄足ばかり踏んで、玖渚さん(ヒロイン)を助けられない主人公がどこにいますか」
「いるでしょう、どこかには」
「共感を得られない作品のことなんて知りませんよ」
「あなた、相応数の方を敵に回しましたね」
「こういうのは王道でよいのです。奇を衒う必要なんてないんです」
「はあ、あなたの持論はどうであれ、でしたらなおのこと、あなたはどこかへ行けばいいのではないですか」
「――事が済めばそれもいいでしょう。いつまでも迷惑をかけるわけには参りません。ですが、仕事はやり遂げなければ」
「ああ、先ほどいっきーさんにおっしゃっていた――」
「はい。わたしは迷いへ誘う蝸牛ですけれど、――裏を返せば迷子に寄り添う怪異ですから」
「ふうん――それで。結局。
 いっきーさんを助けたいとでもいうのかしら」
「そうしたいのは山々ですが、戯言さんが自分で答えを見つけられますよ、きっと」
「主人公として――とでも?」
「いいえ、一人の人間として」

 どうか、わたしたちの帰り道を阻まないでくださいね、と。
八九寺さんは言う。
それはこちらの台詞なのだけれど。
迷子の禊さんのともにあるのはわたしなのですから――。
刀として、仕えましょう。
女として、支えましょう。
刃こぼれを起こす前の七花は、とがめさんに四つの誓いを立てたそうだ。
とがめを守る。刀を守る。己を守る。――そして、己を守る。
軍所の出身のわりにとがめさんも甘いことをおっしゃるのだなと感じたものですが、
わたしもずいぶんとぬるま湯に慣れてしまったようですね。
禊さんを助け、守る――ただそれだけを誓って。

 とりたてて意味のない幕間はこれにておしまい。
放送の時間でした。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板