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新西尾維新バトルロワイアルpart6

760おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:47:06 ID:a7794f6M0


 ◇


 探検と称して薄暗い家屋に突撃したわけですが、案の定何があるわけでもなく、ちぇーと不貞腐れた禊さんは横になられました。上等な布団に包まる禊さんの顔ときたらあまりにも安らかなものですから、見たことないほどに満たされておりますから、張り手のひとつでもお見舞いしたくもなりますが、閑話休題。
 
「さて、さて、さて」

 さて、と。思考を切り替える。思考を、あるいを趣向を。従者として、そして刀として、わたしがなにを研ぎ澄ませばいいのか、研ぎ、済ませばいいのか、今一度整理をする必要がある。これからについての、精査を。

「よく眠っていらして」

 眠る禊さんの頬を撫でる。七花よりも幼く、まだ張りを残した柔らかな頬からは、緊張感のかけらも感じられない。すやすやと眠るさまはさながら子どものようだ――いや、間違いなく禊さんは子どもなのでしょう。肉体的においても、精神的においても。
 さながら虫を潰す幼児のように、彼の中には良いも悪いもない。無邪気な狂気とでも申しましょうか。彼がしきりに申し開く、僕は悪くないという言葉。なるほど、言い得て妙かもしれません。文字通りに、悪くもなければ良くもない。何をしたところで彼の中では、何事もなく台無しで完結してして、自分勝手で、他人任せで、どうしようもなく、どうにもならない。他者と価値観を共有できず、まるごとに全てをおじゃんとする、群れを好みながらも群れに厭われる様をどうして大人と、人間と言えましょう。

「人間未満――幼きもの」

 しかし、群れに嫌われながらも、負けながらも、それでも禊さんは群れを成していたと聞きます。群れを率いていたと仰りました。マイナス十三組、『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』の三つのモットーを掲げた泥舟の頭に、禊さんはいたらしい。曰く、わたしも所属しているそうなので、伝聞のように表すのも的確ではないでしょうが、良しとしましょう。悪いとしましょう。ともあれ、あまりにも幼く、世界が己で閉じている彼が、集団行動に向かない彼が、それでも人を率いることが出来でいたとするならば、彼にあるのは幼さだけではなかったということでしょう。

「目的――目標。モットー」

 勝ちたい。
 常敗無敵である禊さんの悲願は、その一言に尽きる。彼の持ちうる最大限の人間らしさであり、彼の人間性を担保するものであり、唯一にして無二の、他者と共有できる価値観だった。だからこそ、群れることをかろうじて許された。成し遂げた。
 先刻禊さんも仰られた通り、生憎とわたしは共感できない価値観ではあります。ただし、共有することはできましょう。負けたいと願っていたわたしの願いは、方向性は真逆であれど、故にわたしの願いこそ他者に理解はされないでしょうけれど、その内実は同じようなものなのですから。隣の芝生は青いだけと指摘されれば、返す言葉も見つからないので返す刀で斬りつけてしまいそうなほど、言葉にしてしまえば存外に陳腐な願いです。禊さんには『可能』がないから、わたしには『不可能』がないからこそ、自分にできないことをしたい――。ええ、当たり前の思いでしょう。


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