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新西尾維新バトルロワイアルpart6

831Q&A(玖&円) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:32:25 ID:S7QegMTs0

「いっきーさん」

 見つめられる。
儚い光を湛えた双眸は、ぼくの目を射抜く。
冗談のように寒気がする。
見透かされているような。
見抜かれているような。
看取られているような。
おそろしくおぞましい寒気。
浅く息を呑む音が隣から聞こえる。

「やれやれ、蛇に睨まれた蛙の空々しさを味わった気分だ」
「蛇に睨まれたら人間でも怖いでしょう」
「そりゃそうだ。見守られるのならともかくね」
「蛇は古くから神様との結びつきが強いといいます。蛇が見守るというのも案外道理を外してはいないかもしれないわ」

 よく知らないけれど、と。
七実ちゃんは他愛のない話を打ち切る。
可愛げのないことだ。
とはいえぼくに服従しているわけでもなし。
彼女は一帯の警戒を緩めることなく、静かに語る。

「あそこにばらされております日和号――その正式名称をご存知でしたね」
「……微刀『釵』って聞いたかな」
「ええ、完成形変体刀が一振り、微刀『釵』。それが日和号の本来の銘ということになるのでしょう」

 人形が刀だなんて奇妙な話ではあるけれど。
同じように、変人奇人の奇行に意味を見出すのも奇怪な行いとも言えるのだろう。
その刀鍛冶を確か、四季崎記紀といったか。
戦国の世を鍛刀をもってして支配した鬼才――。

「理解に苦しむ刀工、四季崎記紀も人を愛したそうです」

 どんな奇人であれ、人を愛することだってあるだろう。
生殖の本能。
あるいは人間の本質。
恋し、愛す。
つがいになるために。
生きるために。
ぼくも愛していた。
あいつを。
憎いほどに、憎々しいほどに、憎たらしいほどに。
玖渚友を愛していた。
そのはずだった。

「偏屈な刀鍛冶は愛するあまり、その女性を模した刀を鍛造しました。
 贈呈するでもなく、餞に渡すものでもなく、愛したという証を残したといいます」
「つまりそれが、日和号だと?」
「ええ。『釵』とは女性の暗喩。微とはすなわち美の置き換えであり、
 本来の銘を微刀とするならば、根源の銘は美刀――口にするのも恥ずかしいですが」
「刀に名づけるには、些か型破りできざな銘になるね」
「名は体を表す。一方的に懸想される女性にしてみれば甚だ迷惑極まりないですが、それもひとつの愛の形でしょう」

 芸術とは表現であり、体現だ。
作品を紐解けば、表出するのは思想であり、理想であり、懸想である。
鴉の濡れ羽島で会った天才画家――スタイルを持たない画家と称された彼女の作品にも思いは込められていたのか。
 突き詰めれば刀鍛冶も表現者の一員であり、
そうであるならば四季崎なる刀鍛冶が女性を《打った》としてもなんらおかしな話ではない。
思い返せば、日和号の容姿は確かに女性らしさが垣間見えた。
おしろいを塗り、口紅を添えたような、一端の女性として。
――そんな裏話を知っていてなお、ぞんざいな扱いを出来る七実ちゃんの胆力も大したものだ。

「どんな腐った人間であれ、愛を表現することもあるということよ」

 愛。
愛の表現。
ぼくの言葉は、お前に届いていたのかな。
戯言遣い、一世一代の偽らざる気持ちだったのだけれど。
いない。
玖渚友は、おそらくもういない。
おそらくなんてつけるからダメなのか?
仮に放送で名前が呼ばれたとして、ぼくは同じようなことを言うんじゃないか?
放送で名前が呼ばれたからなんだ、と。
戯言だ。
間抜けな戯言だ。
真庭鳳凰に与えた戯言が巡り巡ってぼくにまで帰ってきたような錯覚。
 しかしまあ、なんというか。
七実ちゃんは楽しそうだ。
当然それはぼくとおしゃべりしているから、なんてつまらない理由からではないだろう。


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