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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

369 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:11:52 ID:nwLFk3pc0
某所にて問題なしとの意見をいただけたので予約分、本投下します

370解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:12:44 ID:nwLFk3pc0
とある一室。
モニターもマイクもなく、ソファーとテーブルだけが置かれた簡素な部屋。
応接室と呼ぶには多少威厳が足りないその場所に『彼女』はいた。
ソファーの中央に腰掛け、何をするでもなく目を閉じたまま佇んでいる。
眠っていると呼称するには背筋がきちんとしすぎているし、考え事をしているというには彼女の醸し出す雰囲気に似付かなかった。
笑みを浮かべ、時折口元や眉が僅かに微動だにするが、それだけ。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
不意にガチャリ、とドアノブを捻る音が響く。

「あひゃひゃ、こんなところにいたんですか。てっきりこのまま匂わすだけ匂わせといて登場しないものだと思ってたんですけどねえ、安心院さん?」

這入ってきた小柄な女は部屋の主となっていた女――安心院なじみに話しかける。
尊大な言葉を裏切らず、態度にも相手を敬うという姿勢は感じられない。

「正直気付かれずにいられるのもそろそろだと感じていたところだったし。ま、真っ先にここに来るのは君だと思ってたけどね、不知火ちゃん」

一方、それまでしていた行為を中断させられたはずなのに気にもとめず安心院なじみは表情を変えることなく目を開けると、女――不知火半袖に応えていた。
ぽきゅぽきゅと独特の擬音を鳴らして不知火半袖が対面に座るのを待つと続けて口を開く。

「君こそこんなとこにいていいのかい? 萩原ちゃんが用事があるんじゃなかったっけ」
「もちろん問題ありませんよ。というより、そこまで把握してるんなら説明するまでもないでしょう?」
「さあね。実は当てずっぽうの可能性だってないわけじゃないんだぜ?」
「当てずっぽうならもう少しぼかすでしょう。例えば、『西部の腐敗をほっといていいのかい?』とか」
「ああ、それはそうだ。僕としたことが迂闊だったかな」
「萩原さんの名前を出しておいて迂闊もなにもあったものじゃないでしょう」

あひゃひゃ、とこれまた独特の笑い声で返すと一拍置いたのち、向き直る。
御託はいい、本題に入ろうじゃないかと物語るように。
そして安心院なじみも逆らわない。

「お互い聞きたいこともあるだろうし、それじゃ、僕からでいいかい?」
「別にいいですけどせっかくですから公平性を出しましょうよ」
「『質問は交互にしよう』ってやつかい」
「さすが、理解が早くて助かります」
「言うまでもないとは思うけど正直に頼むよ」
「もちろんですよ。正喰に、ね」

お互い笑みを浮かべてはいたが、それは柔和とはほど遠かった。

371解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:14:28 ID:nwLFk3pc0





「最初の質問は……そうだな、どこで僕の存在に気付いたんだい?」
「きっかけはハードディスクの中身、ですよ。今になって思えば決定的過ぎましたね。
 それと詳細名簿と死亡者DVDですか。私でも把握してないことはありますから誰かがやったと言われても納得はできなくもないですがやっぱり不自然でした。
 まあ確信したのは零崎双識の様子ですが。あれ、カメラには映ってませんでしたけど双識さんの様子を見れば何かがあったのかくらいは察しがつきます」
「やっぱり出しゃばりすぎちゃったかねえ。まあいいや、次は不知火ちゃんの番だよ」
「どうやって、は聞くまでもないことでしたね。どうしてわざわざこの世界に来たんですか?」
「ちょっとした寄り道の途中さ。僕もあちこちの世界を渡り歩いてきたがこんなに捻くれた世界を見たのは初めてだったものでね」
「捻くれた、ですか。そりゃまあ五つも世界繋がっちゃいましたしねえ。せっかくですしどんな世界を見てきたのか教えてくださいよ」
「別に大したもんじゃないさ。
 隕石が東京のど真ん中に落ちたけど運よく全住人が避難していて怪我人が一人で済んだはいいが、一緒に堕ちてきた宇宙人を巡っててんやわんやする世界とか、
 地球によって全世界の人口の三分の一が減少させられ、魔法少女や人造兵器たちと奮闘する無感情な英雄のいる世界だとか、
 不思議な街に住み、十七番目の妹が死ぬたびに映画を見に行き熊の少女と交流を深めることになる男がいる世界だとか、
 就職活動中のはずだった女性がなぜか探偵と共に殺人事件の解決に付き合わされることになった世界だとか、
 苗字は違えど同じ名前を持つ者達が奇妙な本読みに遭遇しては価値観の違いについて考える世界だとか、
 ああ、そうそう。デスノートとかスタンド使いのいる世界にも行ったねえ」
「最初二つがスケール大きすぎません? というか実在したんですか、デスノートとスタンド使い」
「僕は傍観に徹しただけさ。基本的には次の世界に渡るための踏み台でしかなかったから無用な干渉は避けたかったし。
 でも、結末を知っていたとはいえ実際に見ると滾るよ、ああいうやつは。さすが名シーンと言われるだけはあったね」
「それについては私も興味がないではないですが、今はやめておきますか。それじゃ、安心院さんの番ですので二つどうぞ」
「さっきのまで含めなくてもいいのに、律儀だねえ」
「質問は質問でしたから」
「ならお言葉に甘えるとするよ」

そう言ってしばしの間黙りこむと、ふむ、と一人で勝手にうなずいて再び口を開いた。
悪そうな笑みを浮かべたまま。

「じゃあ、紫木ちゃんや神原ちゃんはいるのに行橋くんはいないくて都城くんにああ偽った理由、それと、不知火ちゃん、君は不知火ちゃん本人でいいのかな?」
「……………………」
「黙り込むなんて雄弁な不知火ちゃんにしては珍しいねえ? まさか理由を知らない、なんてわけがないだろう」
「……あひゃひゃ、本当に人が悪いですね。いや、この場合は人外が悪いというべきですか」
「なんなら洗いざらい話してしまってもいいんだぜ?」
「それはまだ早いのでご勘弁願いたいところですね。…………わかりました、わかりましたよ」
「やっぱり僕の想像通りなのかなあ」
「もったいぶらなくて結構ですって。ええ、その通りですよ。
 行橋未造なんて最初からここにいません。都城王土にはそういう理由をすり込んだだけです、その方が動かしやすいですからね。
 雪山や密室に閉じ込めて放置とかじゃ人質にすらなりませんし。万一何かあっては人質の意味がありません、マーダーと遭遇したら本末転倒もいいとこですよ」
「『ここ』に置いておくという手もなくはないと思ったけどね」
「やむにやまれぬ事情ってやつですよ。正直に言うなら必要性を感じなかった、というところですか。
 紫木一姫と神原駿河は最初は参加者にするつもりだったんですが『失敗』だったらしくて、見せしめにする手もなくはなかったんですが。
 せっかくなんであえて主催側においてみようかという話が持ち上がりましてああなった次第ですよ。
 二つ目の質問は証明する手立てはありませんがこうやってあなたの目の前にいること、情報の精度からご本人と思ってくださいとしか言いようがないですね」
「『証明する手立てはありませんが』――ねえ。どこぞの人類最悪じゃないがよく言ったものだよ」
「そう言われましてもね――おっと、失礼」

会話を中断させたのは無機質な電子音だった。
不知火半袖は音源――携帯電話をポケットから取り出すと、対面に一応の許可を得て応答ボタンを押す。

372解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:15:13 ID:nwLFk3pc0
「はいはーい、不知火ちゃんですよ。……終わった? それで現在位置は? ……なるほどねー。止められたのは元凶だけってこと? まあ仕方ないか。
 デイパックは回収してる? うんうん。その場所がセーフならあっち側も大丈夫でしょ、一応。ご苦労様、策士さんには報告しとくからそのまま戻ってちょーだい」

簡潔に通話を終えるとポケットに電話をしまい、向き直った。

「お待たせしました。んじゃ私の番ですけど今の電話の内容説明しときます?」
「その必要はないんじゃないかな。要するに江迎ちゃんが最期に残した過負荷がこれ以上拡がらないようにしてきたんだろう? 不知火ちゃんが、直接」
「あひゃひゃ、余計なお世話でしたか。首輪やらデイパックやら、それに地面や外壁などを腐らせないようにしたのが仇になった感じみたいでしたね」
「僕に言わせればそもそもそうやって能力に制限をかけるってのがおかしいとは思うんだけど、ね」
「『大嘘憑き』でバンバン生き返らせられては破綻しちゃうじゃないですか。『完成』も然りですよ」
「それなら殺し合わせなければいい話じゃないのかい。これも少し視点を変えれば仮説が浮かび上がるんだけど」


「完全な人間は参加者四十五人の中にはいない――とかね」


「どうかな? 僕の想定は」
「……質問は私の番のはすですよ。…………その質問に対しては沈黙をもって判断してくださいな」
「質問したつもりじゃなかったんだけどねえ。ま、沈黙をもらえただけ僥倖ってことにしておこう」
「言ってくれるじゃないですか、久しぶりに会ってもそのふてぶてしさは相変わらずですねえ。じゃ、質問に戻らせてもらいますか。
 どうして『平等なだけの悪平等』のあなたがここではこんなに介入するんですか? 他の世界を『踏み台』と言ってのけた、あなたが」
「ここがイレギュラー中のイレギュラーってのもあるけど、別世界とはいえ友達が巻き込まれてるのにほっとけないだろう」

返ってきた質問の答えに、きょとんとした表情を浮かべ、不知火半袖はそれまでどのような質問を投げかけられたときよりも長く沈黙し、


「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あなたが!? 友達!? 聞き間違いじゃないですよね!? 一体全体実際問題何があったらそんな風になるんですか!
 封印が解けてる時点でおかしいとは思ってましたけど、あなたそんなキャラじゃなかったでしょう! 別世界だからキャラも別だなんてオチが待ってませんよね!?
 黒神めだか? 球磨川禊? それとも人吉善吉? あるいは彼ら全員? 更にそれ以外の生徒会の面々も含めて? 誰があなたをそこまで変えたんですか?
 というか正直誰でも構いませんけど、安心院さん、あなたそんなことする人だったんですか!? いやー、これはびっくりですよほんとにもう!
 無駄足踏んで無駄骨折ったとか今まで思っててごめんなさいね! それを聞いただけで来た甲斐ありましたよ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


目尻に涙を浮かべ、腹を抱えてこれでもかと身を捩った。

「……いやはや、まさかここまでおもしろい反応を示してくれるとはね」
「からかったわけじゃないでしょうに。あー笑いすぎてお腹痛い」
「補足しておくと君も友達の範囲に入ってるんだぜ、不知火ちゃん」
「これ以上笑わせないでくださいよ。もっと話を聞きたいところですが時間が押してるのが残念で仕方がないですね。
 どうせ後々空き時間ができるでしょうしまた来ますよ。安心院さんも子猫の相手しなければいけないんでしょう?」
「なあんだ、知ってたのか」
「これでもリアルタイムで情報を把握できる身分にいるものでして」

ぴょこんとソファーから飛び降り不知火半袖は入ってきたドアへと向かう。
そのまま出ていくと思われたが、ドアが閉まる直前に顔を覗かせた。

「あ、そうそう。最後に一ついいですか?」
「言ってごらん。答えられるものなら答えてあげるさ」
「どうして真っ直ぐ帰らないんです? あなたならできないわけがないでしょうに」
「なあに、ちょっとした気まぐれだよ。土産話になるかもと思ってね」


※腐敗の拡大は止まりました。が、腐敗そのものはそのままなので範囲内に入れば『感染』します。

373 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:19:52 ID:nwLFk3pc0
投下終了です
主催と部外者(でも介入はしてる)しかいない話なのでツッコミどころ満載かもしれませんがいつも通り誤字脱字指摘感想等あればお願いします

JDCトリビュートと蹴語未把握でメタネタにぶっこめなかったのがなあ…

374名無しさん:2014/06/03(火) 19:44:10 ID:G23IC3/I0
投下乙です

375名無しさん:2014/06/04(水) 12:32:33 ID:Au3ANND6O
投下乙です!
とうとう夢の中だけじゃ飽きたらずモノホンが出てきちまったか・・・
まあ人外さんに関しては基本的に中立を保つ様子だし、どっち陣営にしても大きな脅威にはならない・・・はず
というかどちらか一方に味方しだしたらこのロワ終わる

376 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:08:44 ID:vWjUZsFU0
投下します

377My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:03 ID:vWjUZsFU0
ただ、立ち尽くす。
その異様な光景に。
神がおわす情景に。
その場の四人は動けないでいた。
うち一人は病魔による激痛と能力による症状で気絶しており、うち一人は神様直々に磔にされていたためだが。
残る二人の男女は状況の不明さに手出しできないでいる。
傍観者の男女の名は球磨川禊と鑢七実、倒れ臥す男は鑢七花。
そして、神に磔にされているのが何の皮肉か名字に神を宿す女、黒神めだか。
以上が、この話の登場人物だ。
あくまで存命の者に限るが。


   ■   ■


「これは、どういう、ことですか」

ようやく口を動かし、か細い声を出したのは七実だった。
問いかけの形をとっていることからわかるように、独り言ではなく訊ねる相手がいる。

――こいつは神様だな――
「神様? しかし、彼女は蟹と」

答えたのは隣に立つ球磨川ではなく、交霊術を使う彼女にしか見えない、幽霊と呼んでもよいのかすらわからない怪しい存在――刀鍛冶・四季崎記紀。
四季崎からもたらされた情報にすぐさま彼女は疑問を呈す。

――蟹の神様だよ――おもし蟹――重いし蟹、重石蟹、それに、おもいし神とも呼ばれたりするが――要は人から重みを失わせるのさ――
「重みを失わせる……仮にそうだとしても、この状況は」
――怒りを買っちまっただけなんじゃねえのか?――神様相手にゃ十分狼藉働いただろ――

狼藉という言葉に七実は思い返して納得する。
叫び。
自らを掻き毟り。
地面に這い蹲り。
過負荷でもなければ人間相手でも無礼な行いだ。
それがましてや、神様だったらば。

――それっぽいところに手をかけて、それっぽく手を引けば引きはがせるだろうぜ?――なんせ蟹だからひっくり返してしまえば何もできないしな――
「勝手にやるわけにもいかないでしょう。それにわたしまで神の怒りを買いたくはありません」
――見えてないなら大丈夫だろうさ――第一、おまえには失いたい思いはないだろう?――
「思い? 重みではなく?」
――おっと、言葉足らずだったか――おもし蟹は思いと一緒に重みを奪う神なのさ――奪うという言い方もなんだがな――

しばし、七実は思考する。
目の前の状況。
四季崎の言葉。
蟹。
神様。
おもし蟹。
重みを失わせる。
失いたい思い。
思いと重み。
奪うという言い方もなんだが……?

378My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:45 ID:vWjUZsFU0
「つまり――重みと引き換えに、思いを失わせてくれる神、とでも」
――ご名答――下手な行き遭い方をしてしまうと、存在感が希薄になるらしいが――まあこいつはなくてもいい情報だな――
「重みを失えば体が軽くなるのは予想がつきます。それこそ、常に忍法足軽を使うかのように。しかし、思いを失うというのは」
――忘れるのとは違うな――思うのをやめる、悩むのをやめる、そんなところか――失ったことを後悔しない保証はないが――
「どうしてそのようなことを知っているのかはこの際置いておきましょう。今更な話ですし」
――くくっ――元々は占い師の家系なんでな――なんて言っても、説得力の足しにもならないだろうがよ――
「ですが、今までの話が本当だとして、神は……おもし蟹は、一体何を奪おうと」
――さあな――さすがにそこまではこのおれにもわからねえよ――例えるなら、そうだな――刀であるおまえらが刀であることを捨てる、とか――
「わたしたちが刀でなくなるような……それに匹敵するような思いを失いたいと願っているとしたら――」

仮定につぐ仮定。
信憑性の欠片もない情報。
鵜呑みにするには無理がありすぎる。
七実は再度めだかを見遣るが何度目を凝らしても蟹がいるとは思えない。
強いて言うなら、彼女の両脇に4つずつ深い罅割れがあることだろうか。
言われてみれば蟹の足跡に見えなくもない。
視線をめだかから外し、足元に落とす。
そこには、自身も突き刺した螺子の影響もあってか頭髪を黒と白のまだらに染めたまま倒れる弟がいる。
気絶していてなお表情は苦しそうだったし、肌も青白い。
七実はため息を一つ零し、





「くだらないですね」





一笑に付した。


「そのようなことで悩むくらいなら最初から持たなければいいというのに。或いは、もっと早い段階で捨てるべきだったのですよ。
 少なくともここで神に頼るなどという、ずるい真似をするよりかは」


そして、





「ああ、全くもってくだらないよ」





追随する者がいる。


「七実ちゃんが誰と話してたのか僕にはわからないし、どうしてそんなことを知っているのかもどうでもいい。
 断片的な内容からじゃ推測するのも難しいし、正解しているという保証もない」


だが、

379My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:11:38 ID:vWjUZsFU0


「それでも確実に言えることは、」


「めだかちゃんはこんなところでズルをするような人じゃない」


「そんなめだかちゃんなんて僕は認めない」


「そして最初から持たない方がいい、もっと早く捨てていれば、なんて甘えるめだかちゃんも認めない」


後半部分。
見解の相違が生まれ、


「だから七実ちゃん、手出しは一切しないで」


それに七実は、


「……委細承知」


球磨川禊にそこまで言われてのける黒神めだかに少しだけ、嫉妬した。


   ■   ■


七実は交霊術を「ただの記憶」と称したし、事実それ以上のものを見ることはできなかったが、めだかが「完成」させた交霊術は本領を遺憾なく発揮している。
ゆえに。

――あなたにはわからないでしょう――私にとって阿良々木くんがどれほど大切な存在だったか――

――よくも、よくも阿良々木くんを殺してくれたわね――

――阿良々木くんがされたように、心臓を貫いて殺してやるわ――

――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――

現在進行形で戦場ヶ原ひたぎの怨嗟の声はめだかを苛み続ける。
武器はおろか、肉体すら持たないひたぎは唯一残った言葉でもって暴力を振るう。
行動にできるできないは関係なく、ただ思いの丈をぶつける。ぶつけ続ける。
反論の余裕は与えることなく。
言い訳の理由を求めることなく。
反省の意思すらも拒絶するように、たたみかける。

380My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:12:54 ID:vWjUZsFU0
――おもし蟹さまに願うのかしら――この重みを取り除いて欲しいと――

――願えば楽になれるわよ――その罪の意識から逃れられるわよ――

――いっそのことあの神様モドキの言うとおりに墜ちてしまうのもいいんじゃないかしら――

――正しいままでいるというのはとっても大変なことだものね――

――私の知っている本物は一度化物になったこともあったけれど――最初から化物のあなたはそんな逃げ道すらあるのかどうか――

――そう考えると、ほら、千載一遇のチャンスよ――化物をやめられるチャンス――

一転して優しい口調になるも、それもめだかを苦しめるため。
かつて自身が行き遭い、重さを失ってから後悔しなかった日がなかったように。
めだかもその選択をしたことを後悔して後悔して後悔して地獄に堕ちてしまえばいい、と。
残されたものが言葉しかないのならその言葉を最大限活用する。
交霊術を用いてからやっと訪れた沈黙に回答を求められたと判断しためだかは恐る恐る口を動かす。

「化物を、やめろ、と……見知らぬ他人の、役に立つ、ために、生まれた、という、私、の信念を捨てろ……と、そう言う、のか、戦場ヶ原、ひたぎ、上級生」

――信念、ね――言ってくれるじゃない――阿良々木くんを殺しておいてどの口がほざくのかしら――

「わかって、いるさ……拭えない罪、だということも、許されない罪悪、であろうことも……だが、償うことは、できる……!」

ぞわっ、と一段と迫力が増した。

――償う?――誰に償うというの?――私にはもう何をしようと贖えないわよ――
――本来ならこうして話をすることだってできないというのに――
――それとも見知らぬ他人に償うというのならとっても滑稽ね――
――私以外に償うというのならそれは償いとは言わない、ただの自己満足――
――そもそもあなたのその信念も随分と破綻しているわよね――
――見知らぬ他人の役に立つ――上辺だけ聞けばそれはそれは立派でしょうけれど――見知った知人はどうなのかしら――
――自分のことを顧みず、周囲も蔑ろにして――それで遠い他人の役に立とうだなんて、おこがましいにも程があるわ――
――ああ、そういえば――阿久根高貴――彼、あなたのために私を殺そうとしてたわね――
――もしかして、初耳だった?――人吉くんがいなければ死んでいたところだったのよ――
――彼もあなたに心酔してたようだったけれど――今の今までそのことに気づかなかったようじゃ、その信念は――

ただの戯言と呼んでも差し支えない言葉の羅列。
だが、その中に混ぜられた阿久根高貴の凶行という情報。
これまで見続けてしまった、聞き続けてしまった膨大な怨念。
おもし蟹の存在。
それらがめだかの精神を疲弊させ、正常な判断力を奪い去り、



――その信念は無理で、無茶で、無駄だったとしか、言い様がないわ――



戦場ヶ原ひたぎは、とどめを刺す。


「無理で、無茶で、無駄だった、と――私のしてきたことは、そういうことだったと、いうのか……?」


――ええ、その通りね――
――そんなことはねーぞ、めだかちゃん――


そこに、割り込む声があった。

381My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:13:32 ID:vWjUZsFU0


   ■   ■


「善、吉……?」

知っている。
めだかは知っている。
声の主をめだかは知っている。
だが、知っていたところですぐに理解できるかどうかは別の問題で。

「はは……ついに、気が触れでもしたか……」

いよいよ幻覚を見てしまったのかと錯覚してしまう。

――カッ――第一声がそれってのはさすがにないと思うぜ?――

――人吉、くん……――

――おっと、今は黙っててもらおうか、戦場ヶ原さん――散々しゃべったんだ、少しは休憩してろよ――

――そう言われてはいそうですかと引き下がるとでも?――

――俺に一個、貸しがあるはずだよな――それに、俺の目の前でめだかちゃんをどうにかできると思ってるなら――大間違いだ――

――…………、わかったわ――今だけはおとなしくしておいてあげる――でも、あなたこそ黒神めだかをどうにかできるだなんて思わないことね――

しかし、戦場ヶ原ひたぎまで反応を示すとなれば話は変わる。
人吉善吉が目の前にいる、と認めざるを得ない。

「本当に、善吉、なのか……? なら、どうして……」

――恥ずかしい話だけど、実はずっといたんだよな――めだかちゃんが俺を連れてってくれたっていう言い方もあれだけどよ――

「まさか……腕章、か?」

――正解――だから今までめだかちゃんが何をやってたかってのも全部見てた――小学生の目の前で着替えるとこまでな――

「なっ……」

――ただ、『敵』と言われる心当たりなんてなかったし――様子がおかしいところもあったから――正直言うと、心配してた――

「そうか……安心しろ、と言ったのに、このざまでは、な……」

――できれば俺だってこのまま引っ込んでいたかったさ――めだかちゃんならこの状況でも何とかすると信じてたし――でも――

「文字通り、化けて出られて、しまわれては……立つ瀬も、ない」

――それはめだかちゃんが交霊術なんてのを使ってるからだろ?――使わなきゃ……ってのは野暮な話か――

「当然、だろう……義務、がある」

――やっぱりそう言うよな――それでこそめだかちゃんだ――だけど、それでも言わせてもらう――

おもし蟹の圧迫は未だに続き、いいかげん痺れを切らしてもいい頃だが、めだかが肯定も否定もしない以上おもし蟹はこの場から消え去ることはない。
それをわかっていて、善吉はめだかに告げる。

382My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:14:29 ID:vWjUZsFU0





――めだかちゃん、お前は間違っている――





めだかが過去に聞いた、善吉が未来で言った言葉を。


   ■   ■


少々時間を遡り。

「ねえ、禊さん。立ち話でもよろしいでしょうか」

二人は端的に言うなら暇だった。
手出しをするなというのは、つまり見ていることしかできないということであり。
言われた七実はもちろん、球磨川もその例に漏れず。
かといってこの場を離れるなどもってのほかで。
七実が話を切り出すのも不自然ではないことではあった。

『うん? 構わないよ』

球磨川も時間を持て余していたことは事実だったので七実の提案に応じる。

「めだかさんが言っていたことについて、どうお考えですか?」
『別に、いつものめだかちゃんって感じじゃないの? 正論しか言わない、そしてそれを当然のように他人に強要している、ね』
「正論ですか」
『正論だよ。「国境をなくせば戦争はなくなる」みたいなことを平気で言うような、そういう正論さ』
「だとしたら、彼女は無知なのでしょうね」
『どうしてそう考えるんだい?』
「『かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう』、めだかさんが言っていたことです。
 そして、それをわたしたち姉弟にも当てはまると信じて疑っていない」
『まあ、めだかちゃんはそういう子だからねえ』
「私も七花も、とても人間として真っ当な人生など歩いでいないのに、そもそも人生と呼べたかどうかすら不明瞭だというのに……」
『勝手な話だね』
「ええ、勝手な話です」
『でもなんで今になって話すんだい? それこそさっき言ってもよかっただろうに』
「一応、対象は七花だったでしょうし、あの場で話す必要性をあまり感じなかったので」
『ふうん』

まだ思うところはあるようだったが、七実は会話を打ち切った。
打ち切る理由が生じてしまっていては球磨川も続きを促すことはない。

「あら、いつの間に起きていたのね、七花」
「……ついさっきから、だよ」
「それで、調子はどうかしら」
「相変わらず、最悪だ。……姉ちゃんはずっとこんな風に生きて、生き損なってたんだな」
「その程度でわかった気にならないで欲しいものだけど」
「う……ごめん。えっと、それで、何がどうなってるんだ?」
『そこら辺の説明は話すと長くなっちゃうからなあ……ところで君はそんな格好で大丈夫なのかい?』
「それだが、おれの服がどこに行ったか知らないか?」

383My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:15:21 ID:vWjUZsFU0
話し声がきっかけなのかはわからないが、目覚めた七花に二人は話しかける。
気を失ってから、そもそも森で倒れてからの経緯も当然把握していないため七花も現状を認識しようと問いかける。
それを聞いた球磨川は頬をぽりぽりと掻くと気まずそうに口を開いた。

『あー……、そういえばなかったことにしちゃったんだっけ。仕方ない、ここは僕の』
「禊さん、それでしたら」
『うん?』
「わたしの荷物の中に服があったのでそちらでいいかと。少なくとも、えぷろんよりかは」
『ここに来て? なんだか作為的なものを感じるなあ』
「いつまでも裸でいられては困るでしょう」
『まあ、この場合はご都合よりモラルを取るべきだよね』
「二人とも、何の話を」
『こっちの話さ』

とにかく、偶然にも七実の支給品の中に服、もっと言えば袴、更に細かく言うなら七花が昔着ていたものがあったため着替えについては事なきを得た。
男の裸エプロンとか誰得だよ、全裸の男を描写するの心情的に辛いんじゃという誰かの心の声は無視していただきたい。
その最中、他の支給品のゲームに出てくるような剣と服の中に紛れていた白い鍵に興味が移ったことで、登場人物が増えたことを示唆する呟きを耳にした者はいなかった。


   ■   ■


ここに来る前に自身が聞いた言葉だ。
同じことを聞かされたところでショックを受けることはない。
ない、はずなのに。
どうしてこうも響くのか。
響くということは暗に認めているからなのだろうか。
自身は間違っていた、と。
見知らぬ他人の役に立つために生まれてきたのではない、と。
戦場ヶ原ひたぎという『結果』を見せつけられては否定などできるはずもない。

「やはり、貴様も、そういう言う、のか……」

――早とちりしないでくれよ――めだかちゃんは『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』って――俺が昔言ったことだ――

「……」

――実際にめだかちゃんはそれをやってのけた――ずっと見てた俺が疑問を抱かない程に――

「…………」

――だけど、死んでから初めて考えたんだ――それは正しかったのかって――死んでから考えるってのもおかしな話だけどな――

「………………」

――で、思ったんだよ――俺はなんて重荷を背負わせてしまったんだろうって、さ――

「……………………」

――たった二歳のときの口約束にも満たない言葉をずっと実行し続けるなんて――異常すぎるにも程があるぜ――

「…………………………」

――だから間違ってたのは、そんな無理難題をやってのけためだかちゃんで――そんな無茶苦茶を押しつけた俺で――それを止めようとしなかった誰もだ――

「………………………………」

――でも、その行いの結果を俺が見てたように――めだかちゃんも見たはずだろ?――決して無駄なんかじゃなかったって――

否定しつつもかけてくれる優しい言葉。
だが、それを易々と受け入れられるかというと、そんなことはなく。

384My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:16:19 ID:vWjUZsFU0

「それ、でも、だ……現に、私、は失敗して、いる……」

――人間なんだ、失敗しない方がおかしいぜ――大事なのはどう対処するかじゃないのか?――いっそのこと無視したっていいんだ――

「し、しかし!」

――そういうことに、してしまえ――これは罪悪感から見た幻覚だったとかでいいんだよ――最初に否定しておいてあれだけど、気が触れた、でいいんだよ――

「そんなこと、できる、わけが……!」

――なら、幽霊に唆された、でもいい――その都度一々対応するなんて馬鹿のやることだ――一旦後回しにしたって誰も責めやしない――

「そんなに、言う、なら、唆される、ついでに、教えてくれよ……なあ、私は、なんのため、に、生まれて、きたのだ?」

――………………そんなの――俺が知るかよ――それでも言わせてもらうなら――自分で、考えろ――

「ふふ……野暮、なことを、聞いて、しまった、か……」

――ただ、これだけは保証する――例え周りが全員敵でも――俺はめだかちゃんの味方だ――

「敵になる、と言った、ばかりで、手の平を、返す、か……つくづく、貴様、というやつ、は……」

――そこのところがよくわかんねえんだけど――今は些細な問題か――

「そう、だな……些細な、問題だ」

――最後にアドバイスっつーか景気付けっつーか――戯言とでも思ってくれていいんだけどよ――めだかちゃんは敵が強い程燃えるタイプなんだから――

だったら、と一拍置いて。



――敵だらけのこの状況を解決する、という難問に取り組まないわけないよな?――



その挑発ともとれる問いについ、めだかは破顔してしまう。

「本当に、貴様、は……! そう言われて、否定など、できる、はず、ない、だろうが……!」

――やっと笑ってくれたな、めだかちゃん――じゃあ、まずは二つ――やることやんなきゃな――

「ああ……最後、どころか、死後まで、迷惑を、かけた」

――カッ――気にするなよ――それじゃ、待たせちまったな――戦場ヶ原さん――後は好きにしな――できるならの話だけどよ――

――まさかこんな茶番で私が納得するとでも思ってるわけじゃないでしょうに――

「もちろん、だ、が……少し、待って、くれないか? この、ままでは、話しにくい、から、な……」

視線を落とす。
本来なら地面が見えるだろうところに世界最大ではないかと思う程の蟹がいる。
何も言わず。
どこを見ているかも曖昧。
耳があるかどうかも疑わしい。
それでも有無を言わせない迫力を出している。
これが神か。
得心する。
大きく息を吸って、吐いた。

385My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:17:24 ID:vWjUZsFU0

「長々と待たせてすまなかった。悪いが、後回しでも抱えると決めた以上こいつは持っていかれるわけにはいかないのだ。
 神に対して失礼な物言いなのは十分承知しているが、お引取り願いたい」

その答えを待っていたかのように蟹は消えた。
還ったとも言うべきか。
前触れもなくいなくなったことで支えを失い一気にその場にくずおれた。
胸部を圧迫する存在が消えたことで一気に肺に空気が流れ込む。
久方ぶりの感覚にげほげほと咳き込んだ。
立ち上がらず、足を直す。
そのまま、額を地面につけた。


「ごめんなさい」

――どういうつもり?――

「身勝手な振る舞いなのはわかっている。だが、最初にするべきだったのだ」

――そうされたところで今更――

「自己満足だということもわかっている。しかし、悪いことをしたら謝るものだろう」

――だから、なんだというの――

「傲慢だったよ。何が更生させる、だ。過ちを自覚しておきながら、赤の他人には『すまないと思っている』と言っておきながら、当の本人には何も言ってなかった」

――わかっているの――

「洗脳されていたという言い訳が通用しないということもわかっている」

――わかっているの?――

「重々承知している。だから何度でも言おう」

――わかっているの……!?――

「阿良々木暦を殺したのは私だ、本当に、ごめんなさい……!」

――それが火に油を注ぐだけでしかないというのをわかっているの!!――

「球磨川じゃないんだ、死人に対しできることなど、こうして謝ることくらいだ。本来ならこうして声を聞くことだってできん。憤怒とはいえ反応があるだけましだ」

――無駄よ――何を言われたところで納得なんて――

「ああ、そうさ。納得などしないことなどわかっている。思えば先ほど言った償いというのも馬鹿馬鹿しい話だ。できることなど結局自己満足に終わるのに、な」

――そんなに言うなら自己満足を貫けばいいわ――私には決して届かない自己満足を――

「貫くさ。せいぜいできることなど不知火理事長を問い詰めて優勝者を出さないまま願いを叶えさせる、くらいだがな。その暁には阿良々木上級生にもきちんと謝ろう」

――それが実現できたとして阿良々木くんはともかく私は絶対に許さないわ――

「承知の上だ。交霊術を使わなくなったところで私に憑いて回るのだろう? 私の自己満足を最後まで見ていけばいいさ」

――なるほど、確かに人吉くんの言うとおり今のあなたには何を言っても意味がないようね――だったら憑かず離れず失敗するように祈って――いや、呪ってあげるわ――

「それで結構。その方が私もやりがいがある」

――忘れないことね――あなたが死ぬのをずっと待っていることを――今すぐにでも殺してやりたいことを――

386My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:02 ID:vWjUZsFU0

「それだけのことをしたからな……済まなかった。


 …………これでいいんだろう?」

――ああ、上出来だぜ――それじゃあ、また、いつかだな――

「うむ」

戦場ヶ原ひたぎの霊も人吉善吉の霊も消える。
見えなくなっただけで近くにいるのだろう。
頭を上げると球磨川たちが何かやっている。
どうやら鑢七花が目覚めていたらしい。
立ち上がりながら、もう一度言うべきことがあったと思い出す。


「ありがとう、善吉」


誰にも聞こえないような大きさで、でも、届いてると確信して、口に出した。


   ■   ■


蟹がいなくなったらしいということは三人も気づいていた。
直後土下座しためだかの様子を見てまだ事態は終わっていないと静観していたが、それも終わったらしい。

「やあ、めだかちゃん。調子はどうだい?」
「万全、とは言えないがな。善吉のおかげだ」
「善吉ちゃん?」
「憑いてきてもらってたんだよ。……私が不甲斐ないばかりにな」
「いつまでも未練たらしく、かい」
「それに私は何度も助けられたのだ、そう言うな」
「これからどうするのさ」
「端的に言うなら、そうだな……自己満足に付き合ってもらえるか?」
「人間を信じるついでに幽霊も信じるなんて馬鹿なことを言わないよね」
「幽霊とて元は人間だろう? ちょっと唆されただけさ。そういうのも、悪くない」
「……ははっ、本当にきみはおもしろい。だったらさ、今ここで、邪魔の入らない状況で、再開といこうよ」
「ここで断っても無駄なんだろう? いいだろう、まずは貴様からだ」
「−13組代表、球磨川禊」
「なんだ、名乗るのか?」
「関係ないとわかってても、なんとなくね」
「正直な感想を述べるなら私は生徒会長失格なのだけどな……まあよい、それでも今だけはこう名乗らせてもらうよ」

387My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:46 ID:vWjUZsFU0




















「箱庭学園第九十九代生徒会長黒神めだか「ああ、関係ないな」だッ……!?」




















ごぽっ。
そんな音と共に口から大量の鮮血が吐き出される。
ぶんっ。
胸に陥没させた左手を引き抜くついでに腕を振るったことでいとも簡単に体は転がっていった。
うまくいくかは賭けだった。
痛くない場所などないし、思い通りに動く保証などどこにもない。
病弱で軟弱な体で虚刀流を放って耐えられるかもわからない。
だが、思い返す。
姉は凍空一族の怪力を見取っていて、それが体に弊害があったようなことは言っていなかった。
そもそも虚刀流の技だって使う分には全く問題はなかったはずだ。
そうと決まれば後は簡単だった。
球磨川禊も鑢七実も黒神めだかに対する闘争心は十全にある。
気持ちの問題は何もしなくても勝手に解決していた。
虚を突いて、一気に近づき、最速の奥義を、鏡花水月を繰り出す。
途中に鉄扇が落ちていたから防がれることもないのも確認済みだ。
そして、結果、うまくいった。
反動で全身が痛むが、関係ない。
相手が姉ちゃんであろうとも、関係ない。
おれは言う。

388My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:19:23 ID:vWjUZsFU0





「腐ろうが、錆びようが、朽ちようが、そのまま果てようが、関係ない」



「おれはおれらしくやるだけだ」



「だから悪いとは――思わない」





刀は斬る相手を選ばない。
例え相手が刀であろうとも。
例え相手が家族であろうとも。


【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:? ? ?
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています

389My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:02 ID:vWjUZsFU0
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:? ? ?
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印×3(球磨川×2・七実)、病魔による激痛、『感染』?、覚悟完了?
[装備]袴@刀語
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:二人を斬る
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

390My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:33 ID:vWjUZsFU0





愉快ユカイと見えないダレカは笑う。










――ほら、言ったとおりになった――










【黒神めだか@めだかボックス 死亡】





※D-5に黒神めだかのデイパックが放置されています。内容は以下の通りです。
 支給品一式、『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
※D-5に否定姫の鉄扇@刀語が放置されています。
----
支給品紹介

【袴@刀語】
鑢七実に支給。
鑢七花が刀集めの旅の途中で穿いていたもの。
七花いわく、「動きやすいし、戦いやすい」

【勇者の剣@めだかボックス】
鑢七実に支給。
安心院なじみがスキル見囮刀(ソードルックス)で精製したもの。
蛮勇の刀同様、使い手を選ぶため球磨川禊がかつて持ったときは手を滑らせて自分の胸を刺したことも。

【白い鍵@不明】
鑢七実に支給。
小さい真っ白な鍵。
鍵には鍵穴がつきものだが…?

391 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:23:25 ID:vWjUZsFU0
投下終了です
どうしても一ヶ所ご都合に頼らざるを得ない部分があったのですがそこだけはご容赦ください
視界に入っているので大嘘憑きで蘇生もできなくはないですがそこも空気を読んで欲しいなーって…
それ以外で指摘等あればお願いします

392名無しさん:2014/07/08(火) 23:37:39 ID:pMyNV9E.0
投下乙です

ちょ、おまああああっ!?
もしかしたら、めだかちゃんはズルをして…行ってもおかしくなかったがそこに来て善吉キター
クマーも本当にめだかちゃん想いだなあ。嫉妬するお姉さんが可愛いと思ったw
そしてめだかちゃんは…でも最後に…
うわあ、クマーの???が怖い

393名無しさん:2014/07/15(火) 01:01:55 ID:F0m5OQQU0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
149話(+2) 15/45 (-1) 33.3(-2.3)

394名無しさん:2014/07/20(日) 02:07:00 ID:xLyoQkNI0
投下乙です

めだかちゃん・・・一撃必殺にやられたか・・・

395名無しさん:2014/07/30(水) 10:59:28 ID:m06tZOrE0
久々に来たらめだかちゃんが…
続きが気になる

396名無しさん:2014/08/01(金) 01:57:01 ID:UPksUqLk0
投下乙です。
衝撃の展開ばかりが注目されてるんだけど、これめだかちゃんとガハラさんの決着(?)もすごいわ
どっちかが下手に折れたらキャラ崩壊になりかねないところを、ギリギリのラインで互いを殺さずに結論を出している

397名無しさん:2014/08/06(水) 02:53:20 ID:8JhHwSUY0
おー、こうなったか
投下乙です
まさかここで最後に七花がもっていくとは
そこまで思いっきりめだかちゃんやっといて、これは憎い流れだった!

398 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:52:10 ID:DxJa6RA20
わぁい、供犠創貴、真庭蝙蝠、宗像形、零崎人識投下します

399変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:53:24 ID:DxJa6RA20



まず牽制に一発撃つ。
動いたように見えただけで、気付けば避けられた。
戦闘力も中々悪くない。
そう判断を下す中、何時の間にか手にしていた刀で突きを放ってくる。
避けられない。
分かっていたような調子で蝙蝠が絶刀で防いだ。
横振りをし、互いに距離を置く。
拳銃を構えるがこっちもしっかり目を向けてきている。
まだ冷静だ。
どう乱して隙を突くか。
考えていると、宗像の手が動いたのが見えた。
見えただけだ。
気付いてみれば刀を投げていたらしい。
音を立てて傍へ飛ぶ。
やはり蝙蝠に守られている。

「へぇ」

などと思わず感嘆の声を漏らす。
ぼくが、じゃない。
宗像が、だ。

「守るとは意外だ。だから殺す」

更に手が動いた。
絶刀が煌めき、二本の刀が左右に飛ぶ。
拳銃を構えるが隙があるとは思えない。
舌打ちしていると、僅かに前に出ている蝙蝠の言葉が聞こえた。

「三回だ」
「……三回?」
「おお、三回。あと三回だけ守ってやるからそれまでに逃げな。きゃはきゃは」
「邪魔か」
「邪魔だ」

もう一度舌打ちする。
とは言え動きの一つもまともに見取れてない現状だ。
邪魔なのは事実だろう。
一本の刀を払い落とし、蝙蝠が笑う。
「おれはどちらでも構わない」とでも言うように。
しかし。
しかし蝙蝠に任せる。
それだけが果てしなく心配だ。
どうにも妙な所がある。
裏切る可能性がある。
いや、裏切る可能性がないのはりすか位でそれ以外だったら誰にでもあるが。
だが。
そう思っている間に宗像と蝙蝠がぼくの前で鍔競り合っていた。
二回目。
考えてる時間もない。

400変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:54:37 ID:DxJa6RA20
「任せる」
「きゃはきゃは!」
「逃げるのかい? 良いよ、逃げても――――だから殺す」

走る。
りすか達のいる部屋に向かって。
宗像の言葉が聞こえ、金属音がした。
蝙蝠の気味の悪い声もする。
一発。
階段が近付いた所で振り返る。
それをまるで狙い澄ましていたかのような、実際狙い澄ましていたんだろう、宗像と、目が、合った。
咄嗟に拳銃を向けようとする。
それより向こうの動きが早いと知っていても。
手を持ち上げている途中、何もなかったはずの宗像の手に刀が握られていた。
やけに。
ゆっくりと時間が過ぎるように感じる。
りすかの魔法の影響か。
末期の集中で生じる思考か。
そんな考えが頭を過ぎる。
中。
その中で、最後に聞こえたのは、

「抱腹絶刀!」

蝙蝠の声だった。



刀が乱れ飛ぶ。
ある刀は窓を突き破り。
ある刀は壁に突き刺さり。
ある刀は本棚を崩壊させる。
宗像形の取った戦法は単純だった。
数打てば当たる。
否。
数投げれば当たる。
既に投擲した刀の数は四百と二十一本。
ネットカフェの内部至る所、刀が突き刺さっている状態だった。
それと同じだけの数の刀の鞘も転がっているような状況だった。
しかしなおも投げる。
苦汁を嘗めるように。
休まずに投げ続ける。
何故か。
簡単だ。
当たらないからだ。

401変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:01 ID:DxJa6RA20
「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」

決して広くなく、むしろ物が雑多に置かれている分だけ狭く感じる。
そんなネットカフェを、真庭蝙蝠は飛び回る。
蝙蝠が取ったのは逃げの戦法。
本棚の上を駆け。
テーブルを蹴り。
天井を跳ね回り。
そして隙を突く。

「しゃっ!」
「っ!」

突き。
ただの突きではない。
絶刀・鉋。
頑丈さに焦点を置かれた刀。
更に蝙蝠の、変態した殺人バット振りの愚神礼賛零崎軋識の、身体能力が合わさり受けに使われた刀を容易く砕く。
だが、駄目。
受けられた衝撃で蝙蝠の手元が止まった瞬間、既に宗像の手には別の刀。
別にして同一。
千刀・ツルギ。
全く同一の使い捨ての刀。
首へと振るわれそして宙を斬った。
既に蝙蝠の姿はテーブルの上にある。
再び、刀が投げられるに到った。

「きゃはきゃはきゃは」

完成形変態刀二本。
絶刀。
千刀。
一本で国一つと言われるだけ有りその戦いは地味であり、凄まじい。
もしこの現場に供犠創貴がいれば。
既に串刺しになってそこらの壁にでも磔られていただろう。
幸か不幸か。
逃げた最後の瞬間。
刀を投げ付けようとした刹那。
注意が逸れたその時。
蝙蝠がその隙を逃すまいと突きを放っていなければ。
宗像が蝙蝠の突きを防がなければ。
創貴は、磔になっていただろうが。
とにもかくにも戦いは続く。
延々と刀が投げ続けられ。
延々と鞘を投じては出し。
延々と様々な場所を駆け。
隙を見ては、突きを放ち。
見付けられては刀で防ぐ。
延々と。
延々と。
続くかに見えた。

402変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:47 ID:DxJa6RA20
「!」

異変は、宗像から起きた。
刀を取り出しはした。
しかし、別の刀。
薄刀・針。
薄過ぎる芸術品と言って差し支えのない刀。
その刀身を光が透ける。
笑ったのは蝙蝠だった。
簡単な話。
待っていたのだ。

「きゃはきゃは! やっとかよ!」

本棚は最早壊れた物しかないからか、蝙蝠が床を蹴る。
振るわれる絶刀を宗像は下がって避ける。
受けれないから、避けるしかない。
待っていたのだ。
蝙蝠は。
なるほど宗像の所有する暗器の技は驚くべき物だ。
何処からともなく刀が現れる。
しかし。
それは。
何もない所から現れる訳ではない。
あくまでもある物を出せる。
それだけなのだ。
故に。
千刀を使い切る瞬間を。
投げ終えるその時を。
蝙蝠は待っていた。
粘り強く。
辛抱強く。

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」
「くそっ!」

殺しの技術。
殺さない技術。
宗像の有するそれは卓越した物である。
しかし果たしてそれは。
生粋の殺人鬼の体と生粋の殺人忍の経験。
その二つを併せ持つ相手に勝る物なのか。
それは、宗像が圧されていると言う状況が全てを物語っていた。

403変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:57:32 ID:DxJa6RA20
「おいおいどーしたっちゃ? だから殺すんじゃなかったっちゃぁあ?!」
「言われなくとも分かってる。だから、殺す!」

刺さっていた千刀を持って押し返す。
しかし一瞬。
数回打ち合えば強度の差が出る。
それだけではない。
と言うよりむしろこっちが大本命だ。
片手と両手。
生じる威力も自ずから出る。
その差はどう足掻いても埋め難い。
つまり簡単に言えば、宗像は全てに置いて蝙蝠に負けている。
それでもまだ負けていないのは、執念からだろう。
悪を裁く。
一念によって。
だが所詮、思いによって覆せる差などそう有りはしない。
千刀が折れる。
柄から手を離して次を取ろうと空を掻く中、

「抱腹、絶刀っ!」

宗像の肩に、刀が、突き刺さった。



貫かれたのは、左肩だった。
幸運にも。
いや、咄嗟に避けようとした結果、左肩に刺さった。
刺さった向き。
刃は体の外側に向けてだ。
良かった。
そう息を吐く。
蝙蝠の顔、今は軋識の顔だけど、が歪むのが間近に見える。
末期の息とでも勘違いしたんだろうか。
勘違いしてくれて良かった。
だから殺す。
刀一本もなく、身軽な体を横へとずらす。
ゴリッ。
とでも形容するような音が体を伝ってくる。
この先、最早左肩はまともに動かす事は出来ないだろう。
なんて考えながら、さっき取り損ねた刀を取った。
幸い蝙蝠は近い。

404変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:01 ID:DxJa6RA20
「んな、ぁ――」

僕の行動が予想外だったようだ。
単に、刀を取るために体をずらして、その所為で左肩が抉られただけなのに。
だから、

「殺す」

横に薙ぐ。
後ろに飛び退く事で避けられた。
でも幸いな事に、絶刀を落としていった。
それを、蝙蝠に向けて蹴り放つ。
宙を回転しながら飛んでいく刀。
蝙蝠なら平然と取れるのだろう。

「だけど」

殺す。
取ろうと手を伸ばし掛けた瞬間。
逃さず近付いて、今度はこっちが突きを放つ。
身を捩って避けられる。
でも絶刀がその胸元を裂いていった。

「ぐお」

怯んだ。
だったら殺す。
斬り殺す。
刀を振る。
跳んで避ける。
返す刀を投げて追撃。
それは蝙蝠が両手に挟んで止めた。
流石だ。
でも問題なく殺す。
次の刀は既に取ってある。
胴を斬り裂くつもりで振る。
でもそれは服を斬るに留まった。

「ちぃっ」

舌打ちした蝙蝠が、持っていた刀を振ってくる。
だけど数合。
打ち合っただけで折れた。
絶刀を一回二回受けていたのかもしれない。
だから殺す。
透かさず振り上げる。
とは言え流石に速い。
逃げに入っているその姿を認め、振り下ろしてた刀を離す。
生憎、頭の近くを掠めていっただけだった。
ついでに言えばとっくに割れていた窓から外に出て行った。
でも問題ない。
駆け寄り際に次の刀を取る。
偶然にも蝙蝠の近くに刀はない。
ただ逃げる。
その後を追う。
けども、壊れた本棚の一部を蹴り飛ばされやむなく足を止めた。
追おうにも、少し離れた所で既に立ち止まっている。
手には絶刀を握って。
ああ、やたら後ろに下がっていくと思ったらそう言う事か。

405変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:38 ID:DxJa6RA20
「……きゃはきゃは、なるほどなるほどちゃ。むやみやたらと投げてたのは、この準備を整えるためだった訳かっちゃ?」
「さぁ? でも名付けるならこの状況――」

見回しながらおどけてみせる。
あえて余裕を装う。
正直、左肩の痛さでまともに考える事もままならない。
ただの偶然だ。
到る場所に刺さった刀が、あたかも僕に味方するようにある。
ただの偶然。
投げようと。
折れようと。
砕けようと。
関係ない。
地形が。
千刀が。
味方している。

「――千刀巡り、とでも言うのかな。だから殺す」



消耗品としての刀。
そうは知ってても折るのにどうしても手心加えちまう。
何せ四季崎の作った完成形変態刀十二本が一つ。
千刀・ツルギ。
千本で国一つ買える刀な訳だ。
困った。
特に困るのは宗像だ。
まさか肩にぶっ刺しても平然と戦い続けるとは。
だが。
と、そのぶっ刺した肩を睨む。
血止めもせずに戦えばそりゃ血が出る。
出続ける。
何れは出血で死ぬだろう。
だからそれを待てば良い。

「きゃはっ!」

なんて甘い事考えるかよ。
ぶっ刺したい。
斬り殺したい。
絶刀・鉋で殺したい。
何度も何度も切って斬り付けて斬り裂いて斬り開いて斬り解いて殺して殺して殺して殺して殺して。
殺してやりたい。
だってのに。

406変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:13 ID:DxJa6RA20
「抱腹絶刀!」
「――だから? 殺す」

まるで。
まるで千刀が味方してるようじゃねえか。
いや実際問題偶然だ。
偶然折れてもすぐ近くに千刀の一本がある。
投げてもその傍に千刀が刺さったままある。
偶然だ。
偶然に過ぎないはずだ。
だってのにまるで。
そう、まるで千刀の持ち主みたいに。

「余裕で振る舞ってんじゃねえぜ! きゃは!」
「っく、う」

全力の横振りを叩き込む。
当然片手で受けれる訳がない。
刀は折れ、吹っ飛んでいった。
一気に距離を詰め絶刀を振り下ろす。
だが外れた。
逸らされた。
千刀で、だ。
偶然近くに刺さってた。
本格的に嫌な感じがしてきた。
条件で言えば全部が全部、俺の方が勝ってるはずだろ。
動き回って攻めてるのは俺の方だ。
だってのに何で、

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃは」

こんなに、追い詰められてる気分になってんだ。
殺したい。
殺したい。
殺したい。
だからよ。
刀風情が。
邪魔するんじゃねえ。

「いい加減に」
「っぐ」
「死ねぇ!」

砕ける。
持ち変える。
堂々巡りが続く。
なんだってんだ。
なんだってんだ。
なんだってんだ。

407変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:53 ID:DxJa6RA20
「っ?!」

袈裟切り。
避けるために下がった。
その脚が、何かを踏んだ。
少しだけ滑る。
そう。
致命的な少し。
振り上げられる千刀。
防ごうにも、絶刀の重量じゃ間に合わない。
分かった。
確信できた。
離せば逃げれる。
そう確かに思った。
だってのに、手を離せられない。

「あ」

なるほど。
こりゃ毒だ。
思い当たってみればどっかから可笑しかった。
絶刀で斬り殺したいと思う辺り可笑しかった。
卑怯。
卑劣。
それが売りなのに真っ向から斬りあってんだ。
全く笑えない。

「だから……裁く!」
「が、ぁああ!?!」

斜めに切り裂かれる。
着いた片足で後ろに跳んでなければ死んでいた。
幸いにして致命傷とまではいかないだろう。
だが、今、受けたのは拙過ぎる。
絶刀が手から落ちた。
いやそれはむしろ良い事かも知れない。
だが状況が一気に最悪にまで落ち込んだ。
体勢を立て直そうとするよりも、痛みでか足が滑って転ぶ方が早い。
それでも。
這うようにしてでも距離を置く。
置きながら確認する。
踏んだのは、千刀の折れた刀身。
つくづく敵らしい。
危機と相まって、手心を加える理由もいよいよなくなってきた。
この状況を脱せられれば、だが。

「………………」

冷めた目が俺を見る。
正義、ねえ。
正義のために殺す、ねえ。

408変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:08 ID:2PP8tqhg0
「きゃは、きゃは」

下らねえ。
喰鮫にでも聞かせてやりたい。
きっとあいつはこう言うだろう。
「そんな理由を作って殺すぐらいなら、そもそも殺さなければいい」と。
「殺すのならば一々、理由付けするのは下らないし、馬鹿馬鹿しい」と。
「楽しいですね楽しいですね楽しいですね……人殺し、楽しいですね」と。
笑って殺すだろう。
理由もなくたって殺す。
なんであいつが死んだんだか。
なんて。
軽い現実逃避をしてる間にも宗像の奴が近付いてくる。
余裕を持って。
警戒からか。
油断からか。
どちらにしろ、時間が足りない。
現状一番良いのは都城王土の体だ。
全てが最上位にくる体。
だが、そうなるために骨肉細工をする時間はない。
しかしまあ刀を振り下ろされれば、腕だろうが足だろうが今の筋力じゃ止めるには足りないだろう。
今の、軋識の体じゃ。
今しか機会がない。
試して、みるか。
そうして。
目を閉じた。
こいつが起きる前。
供犠創貴との会話を思い返す。

409変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:45 ID:2PP8tqhg0



「なあ蝙蝠」
「なんだ?」
「お前の魔法だが」
「忍法だ」
「どっちでも良い。とにかくそれは、全身しか変える事が出来ないのか?」
「どう言う意味だよ?」
「簡単な話だ。部分部分を別の人間のパーツに組み替える事が出来ないのかって言ってるんだ」
「パーツ?」
「……腕だけ別の人間の物にするとか、そんな感じだよ。あるいは、完全に別の形にするとか。このマンガみたいにさ」
「封神演義? きゃはきゃは、別の人間の体をねえ?」
「どうだ?」
「そりゃ出来ないな」
「……」
「きゃはきゃはきゃは。
 人間ってのは何だかんだ言って全部が全部合わさって統制が取れてんだよ。
 足、腰、腹、腕、首、頭、その全部で。
 声聞きゃあ分かるだろ?
 人それぞれってのが。
 重心の取り方だけでもそれぞれ違うんだ。
 それなのに一部だけ別の人間の物にするってのはつまり、その統制が崩れるってこった。
 例えばお前の足だけ別の人間の足だったらどうする?
 長さが違う。
 重さが違う。
 筋量が違う。
 それで十分な動きが出来る訳がねえ。
 あくまでその封神演義ってのに出てる奴が絵に過ぎないからってだけで、どうやったって」
「蝙蝠」
「ちっ……なんだ」
「つまり、「可能」って事だよな」
「………………」
「まあ聞けよ。
 今の話を聞く限りじゃあどうやってもその結論に行き着く。
 お前が言ってるのはあくまで出来ない事にするためのお理由付けだ。
 長さが違う?
 重さが違う?
 筋量が違う?
 それがどうした?
 それが出来ない理由になるのか?
 ならないよな。
 単にお前が、お前自身に限界を付けてるだけなんだから。
 骨肉細工。
 聞けば聞くほどよく出来てる。
 やろうと思えばお前自身の想像で、最強の肉体を作り上げる事だって出来るじゃないか」
「それは」
「出来ないのか? 本当に、出来ないのか?」
「精進が足りないんだよ」
「お前は今まで化けた人間の数を覚えてるのか?」
「…………」
「なあ蝙蝠」

410変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:02:24 ID:2PP8tqhg0



「一歩、踏み出せ」



真剣白刃取り。
情け容赦なく振り下ろされた刀を、蝙蝠は足で止めた。
足。
そこだけが、今までと異なった物に変わっていた。
宗像の表情が変わる。
余裕が、驚きに。
足で圧し折られた刀を見て、愕然に。
動きが止まったのはどれだけか。
十秒か。
三十秒か。
一分か。
とにかく、蝙蝠の腕が、抜き手が放たれるまで硬直が続いた。
飛び退いた宗像の、心臓があったであろう場所で蝙蝠の右手が握り締められ、解かれる。
当然のようにすぐ脇にあった刀を抜く宗像。
その視線の先で、両足で立つ蝙蝠の姿は、酷くチグハグだった。

「……きゃは」

両足が可笑しい。
右腕が左腕と違う。
別に人間の体を付けたように、奇妙な外見。
その蝙蝠が、自分の喉を左手で触れ、動かした。

「きゃはきゃ」「はきゃは」「きゃは」「きゃ」「は」「きゃは」「きゃはきゃは」「きゃ」「はきゃは」「きゃはき」「ゃはきゃ」「は」「きゃは」「きゃは!」

笑う声。
次々と声が変わっていく。
不気味さからか、宗像が一歩後ろに下がった。
そこで、笑い声は止まった。
声だけ止めて、蝙蝠が笑う。
口が裂けんばかりに。

「名付けるのが、忍法・骨肉小細工なの…………なんてな!」

子供の、小さな少女のような声で、言った。

411変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:03:14 ID:2PP8tqhg0

「部分だけ別の人間に変える。なるほど、やってみりゃ案外なんて事ねえし想ってたほど難しくねえが……出せる力は八割が良い所か?」
「…………」
「笑えよ、宗像。お前のお陰だぜ、こうなれたのは?」
「……その腕に、見覚えがある」
「そうかい。もう少ししたら教えてやるよ」
「必要ない。だから」
「冥土の土産によ!」
「裁いて、殺す!」

同時に、二人が間合いを詰める。
上段に振り上げられた刀が。
構えて繰り出される右腕が。
同時に、

「これは兄貴の言葉なんだが」

止まった。
その動きが止まった。
今まさに振り下ろされようとする刀が。
今まさに貫こうと構えられていた腕が。
おおよそ一メートルほどの距離を置いて、不自然に止まった。
その、二人の間に一人、居た。
唐突に、居た。
最初からその場に居たかのように極自然に。
にやにやと笑って。

「人間の死には『悪』って概念が付き纏うんだとよ」
「な、なななな」
「が、がががが」
「お? 何が言いたいかって? そうだな。派手に暴れ回ってた所為で、外にまで刀吹っ飛ばしてた所為で、出所探して歩き回ってた俺の耳にド派手な騒音が入った所為で、いやそもそも偶然俺がこっちの方に用があった所為で、俺が来ちまったって訳だ。えーっと宗像とか言ったっけ? あと、蝙蝠。まあ要するにだ」

どちらを向くでもなく、ゆっくりと刀を抜き、言い放つ。
奇しくも。
完成形変態刀十二本の内の二本。
千刀。
絶刀。
更に。
一本。
斬刀。
十二本の内の一本を持つその青年は、一言。

「二人ともこれ以上なく、運が『悪』かった――――ってこった」

と。
笑って言った。

412変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:05:23 ID:2PP8tqhg0





【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康、りすか達と合流済み
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:宗像形を倒す。一先ず蝙蝠に任せておく
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません

413変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:08:43 ID:2PP8tqhg0


【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)、左肩欠損(処置せず)、出血(大)、曲絃糸による拘束
[装備]千刀・ツルギ×1@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
 6:何が起きた?
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています
※千刀に持ち主と認められた可能性があります
※左肩の出血を止めなければ出血多量で死ぬ可能性があります

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、零崎軋識(両足と右腕は都城王土、喉は水倉りすか)に変身中、曲絃糸による拘束
[装備]軋識の服全て
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を殺す
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰さまが記録辿りを……? まさか川獺が……?
 9:げえ零崎人識!
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました

414変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:09:18 ID:2PP8tqhg0

【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:蝙蝠と宗像捕まえたし、こいつらで斬刀調べてみるか?
 1:水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。この辺りにはいるんだろうし。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

※蝙蝠達と創貴達のいる場所はネットカフェ内の別の場所です
※千刀・ツルギは折れた物含め500本近くと絶刀・鉋がネットカフェ中に突き刺さっています。また、一部の千刀は外にあります

415 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:14:40 ID:2PP8tqhg0

以上です。
ちょっと二人ばかり強化し過ぎたかも知れません。
久し振りに書いたので妙な部分が多いやも。
何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。

あとトリはこれで続行する予定です。

416 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 22:15:40 ID:2PP8tqhg0

>>402 を修正します


異変は、宗像から起きた。
刀を取り出しはした。
しかし、別の刀。
薄刀・針。
薄過ぎる芸術品と言って差し支えのない刀。
その刀身を光が透ける。
笑ったのは蝙蝠だった。
簡単な話。
待っていたのだ。

「きゃはきゃは! やっとかよ!」

本棚は最早壊れた物しかないからか、蝙蝠が床を蹴る。
振るわれる絶刀を宗像は下がって避ける。
受けれないから、避けるしかない。
待っていたのだ。
蝙蝠は。
なるほど宗像の所有する暗器の技は驚くべき物だ。
何処からともなく刀が現れる。
しかし。
それは。
何もない所から現れる訳ではない。
あくまでもある物を出せる。
それだけなのだ。
故に。
千刀を使い切る瞬間を。
投げ終えるその時を。
蝙蝠は待っていた。
粘り強く。
辛抱強く。

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」
「くそっ!」

宗像が薄刀を引っ込め、刺さった千刀に手を伸ばした。
殺しの技術。
殺さない技術。
宗像の有するそれは卓越した物である。
しかし果たしてそれは。
生粋の殺人鬼の体と生粋の殺人忍の経験。
その二つを併せ持つ相手に勝る物なのか。
刀身が折れ吹き飛ぶ。
柄を投げ付け次に手を伸ばす。
それは、宗像が圧されていると言う状況が全てを物語っていた。

417名無しさん:2014/09/06(土) 11:22:45 ID:I2awvnWI0
投下乙です
短い一文一文から戦闘の緊迫さが伝わってきますね
千刀に選ばれた(かもしれない)宗像くんに骨肉小細工を習得した蝙蝠とどっちも強化されてるのに人識お前というやつは…w
改めて極絃糸ってチートだなあ

指摘というか気になった点ですが、
宗像くんは詳細名簿で零崎一賊を把握してるので人識に対してリアクションがあってもいいのと、蝙蝠の状態表に怪我の具合が書かれていないのはどうかなーと
どちらも状態表レベルでの修正で済むのでご一考いただければ

418名無しさん:2014/09/06(土) 14:20:21 ID:tXXbqhRk0
投下乙

419名無しさん:2014/09/09(火) 21:22:42 ID:V/QIFGYYO
投下乙です
キズタカ・・・そこに気付くとはやはり天才か・・・・・・
蝙蝠さんはもう「神の蝙蝠」の異名を誰かから受け継いでもいいと思う(誰とは言わない)
「両足で白刃取り」って発想が何気に凄いww でもこの人の足なら普通にできるんだよな・・・壁に立てるくらいだし

420名無しさん:2014/09/12(金) 07:55:52 ID:L3JHbNVI0

>>413 を修正します


【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)、左肩欠損(処置せず)、出血(大)、曲絃糸による拘束
[装備]千刀・ツルギ×1@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
 6:殺人鬼だから零崎人識も殺す。いやそれより何が起きた?
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています
※千刀に持ち主と認められた可能性があります
※左肩の出血を止めなければ出血多量で死ぬ可能性があります

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、零崎軋識(両足と右腕は都城王土、喉は水倉りすか)に変身中、胸部に切り傷、左肩から右腰にかけ切り傷、全身に裂傷、曲絃糸による拘束
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を殺す
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰さまが記録辿りを……? まさか川獺が……?
 9:げえ零崎人識!
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました

421名無しさん:2014/09/15(月) 08:04:32 ID:.FujR4Wo0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
150話(+1) 15/45 (-0) 33.3(-0.0)

422名無しさん:2014/09/15(月) 23:47:17 ID:SWpuXrpk0
投下乙
壁に建てるんだもの、白羽取りぐらい余裕だよね!(白目

423 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:28:01 ID:w61TEtK60
お久しぶりです
予約分投下します

424残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:28:45 ID:w61TEtK60
殺し合い。
この場所で行われていることを一言で説明する単語を聞いたとき、私がまず思い浮かべたのは昔地元の図書館で読んだ本のことだ。
当時小学生だったにもかかわらずその本を読んでしまった理由は今となってはわからない。
その年齢に見合った本は粗方読破してしまっていて、たまには違う趣向のものを求めていたとか、大方そんな理由だろう。
小学生が見るような内容ではなかったのかもしれないが、『人が死ぬ』という点に限って言えば、ミステリーではいつものことだったしなんとも思わなかった、と思う。
司書さんに見つかったときにはもう読み終わった後で、「翼ちゃんが読むようなものじゃないんだけどね」と苦笑いしていたっけ。
掻い摘んで話すだけで友達を失っていった私の家庭事情も司書さんには話していなかったし、『そういうもの』に影響されるような子供ではないと思っていたのだろう。
思っていたのだろう。

人が人を殺さない保証などどこにもないというのに。





いーさんの運転する車に乗って辿り着いたランドセルランドという名の遊園地。
イルミネーションが煌々と輝く中私たち以外に人がいないというのはその静寂さもあいまってかなりの不気味さを醸し出している。
どうやら先程まで一緒にいた零崎さんや他にも待ち合わせている人がいるらしいが、こんなとこで待たずとも入り口にいればいいのに、と思わなくもない。
だが、わざわざ搬入車両用の出入口を探して入った理由を目撃してしまっては「場所を変えよう」なんて言うのは憚られる。
入場ゲートを越えた先に見えたのは赤黒い広がりと淵に転がっていた、何か──なんてぼかす必要もない、死体だ。
座っていた場所や身長の関係からか、真宵ちゃんがそれを目撃していなかったのがせめてもの救いだけれど。
いくら幽霊だからといって、死体に対して悪印象を抱かないかどうかは別の話だ。

「あの、羽川さん」
「どうしたのかな、真宵ちゃん」

その幽霊である真宵ちゃんはまだ現状を把握しきっていない。
私が多少の説明と周囲の会話で状況を判断したのに対し、真宵ちゃんには車の中で殺し合いのことはぼかしつつ必要最低限のことしか伝えていなかった。
戦場ヶ原さんが車を降りた後は気まずさで車内に会話はなかったし、おかげで真宵ちゃんは肝心なことは何も知らないままだ──阿良々木君が死んだことも。

「それがですね、先程からどうも調子が悪くて」
「珍しいね。てっきり幽霊はそういうものと無縁だと思っていいたんだけれど」

記憶を消失する前から真宵ちゃんは苦しそうにしていたけれど、今の方がマシに思えるのは私の気のせいではないと思う。
不調の原因が恐らくはストレスによるもので、それを強制的に取り払われたから快方に向かっているのだろうか。
それでも幽霊が体調不良というのはおかしな話だ。
迷い牛という怪異ではなくなった今、真宵ちゃんを視認する条件はわからないけれども、あの場で誰もが真宵ちゃんを認識できていたことと関係あるのかもしれない。

「こんなのは十一年ぶり、いえ、生前も結構健康でしたからそれ以上ぶりですかね。そのせいか噛みにくいです」
「それとこれとは関係ないと思うなあ……」

そもそもまだ一度も噛んでいないのに噛みにくいと言われても。
伝聞で聞いた限り、阿良々木君と話すときとは随分違うようだけれど。

「あちらの方は何を思って未成年略取に及ばれたのだと思います?」
「あからさまに噛まないの」

いくらなんでも言いすぎだ、色んな意味で。
どう考えてもいーさんは親切な部類の人間だろうに。
確かに誘拐犯は親切な人間を装って犯行に及ぶ傾向がある……って、いけない、何を考えているんだ、私は。
しかし……私たちの会話は聞こえているはずなのに一向に混ざる気配を見せないいーさんの態度が気になるのも確か。
私たちを見守る、と言うには優しくないし監視している、と言うにはきつくない。
だから、そう、ただ見ているだけとでも言えばいいのか。
真意がどこにあるのか全くわからないけれどそれを問いただせる勇気はない、当然真宵ちゃんもだ。

「失礼、噛みました」
「次からはもっと上手に噛んでね」
「いや、どうもあの方、阿良々木さんに似てる節があったものですから」
「阿良々木君と似てる……?」

425残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:29:19 ID:w61TEtK60
それは私にはなかった考えだ。
そうか、そういう考え方もあるのか。
今のところ私にはいーさんと阿良々木君との共通点は見つけられないけれど、真宵ちゃんには思うところがあるのだろう。

「そういえば聞くのが遅れてしまったというか、あからさますぎて聞くに聞けなかったのですが……」
「もったいぶるなあ。答えられることならちゃんと答えるから」
「では聞きますが、どうして髪が伸びておられるのですか?」
「…………え?」

予想外の方向から来た質問に答えることはできなかった。
私が知っているのはあくまで知っていることだけで知らないことは知らないのだから。
髪が伸びる、ということは前提として短い髪型をしていたということになるけれど、私はショートヘアにした覚えはない。
なにせ、幼稚園児の頃から三つ編みで通してきていたのだし、真宵ちゃんもそれを知っているはずなんだけど……

「聞き方が少し悪かったですかね。私がの知る羽川さんは髪型をショートにしておられたのです」
「私が……?」
「はい。私が昨日お会いしたときも普通にショートヘアのコンタクトレンズにしてましたよ。いめちぇん、されたのでしょう?」
「………………」

何がどうなったら私が『いめちぇん』するようなことになるのだろう。
髪もばっさり切って眼鏡も外したとなるともはや別人だ。
……いや、そもそもの前提が食い違っているのか。
真宵ちゃんにとっての『昨日』がいつなのかにもよってくる。
さっきから質問してばかりだなあ、私。

「ねえ、変なことを聞くようだけど、正直に答えて。『今日』って何月何日?」
「『今日』ですか? 8月22日、ですが」
「私の中では『今日』は6月14日、なんだよね」

突拍子もない仮定だったのだが、どうやらそれが間違っていないらしい。
参った……さすがにスケールが大きい。
……ちらりといーさんの方を見やったが動揺らしきものは見られない。
つまり、「ここにいる人たちの時間の認識が食い違っていること」は把握済み、ということか。

「ああ、どうりで。その頃でしたら髪を伸ばされてるのも納得です」
「そこで戸惑ったりしないんだ……」
「怪異がいるんだしタイムスリップやらがあってもおかしくはないんじゃないですかね。案外身近にいるかもしれませんよ」
「いやいやまさか」
「じゃあこういうのはどうでしょう、何か──例えば怪異の仕業で記憶が操作されてしまったとか。あくまでもたとえ話ですが」
「記憶を……」

タイムスリップを持ち出されるよりも(私にとっては)説得力のある仮定だが、今そのことについて言及するのはデリケートすぎる。
真宵ちゃんの記憶がなくなる瞬間に居合わせてしまったし、私もそうされたかもしれないとなるとつい考えるのをためらってしまっていたが……
だが、もしかするとこれはいいアプローチだったかもしれない、そういう旨のことを言おうとして口を開き、

「真宵ちゃん!? しっかりして!?」

思っていたこととは違う言葉を発していた。
顔色は蒼白、繰り返される浅い呼吸、痙攣するかのように震える体、明らかに体調が悪くなっている。
さっき私は真宵ちゃんの不調の原因をストレスによるものだと決めつけていたけれども、それがその通りだったとしたなら──

「真宵ちゃん!?」
「だ、大丈夫です……戯言、さん……」

なくなった記憶がフラッシュバックしたのではという私の予想を裏付けるように、駆け寄ってきた──さすがに異常事態だと察したらしい──いーさんへの呼称が戻っていた。

426残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:30:35 ID:w61TEtK60
「戯言さんはこちらが求めたとき以外口を挟まないでください」と体調が優れないながらもかなり憤慨した口調で念押した上で、私と真宵ちゃんの現状確認が始まった。
その気になれば断ることだってできただろうに、それを甘んじて受けるということはやはり私たちに負い目があるのか。
先程まで付かず離れずで私たちを見ていたのはいわゆる罪悪感によるものだったらしい。
一通りの情報共有も終えたことで私の身に何が起きていたのかも知るところとなったし。
とはいえ、私がブラック羽川になっていたことを他人の口から聞くのは堪えるものがあるなあ……
目覚めたときに着ていた装束も中々恥ずかしいものだったが、鑢さんの話を聞いた限り、それに着替える前の服装もあったはずなんだけれど。
あのときは余裕がなくて手持ちに何があったか把握するので精一杯だったけれど、今なら思い出せる──確か……あれ?
いやいや、待て待て、まだそうと決まったわけじゃない。
途中で捨てていた可能性もある、うん、きっとそうだ。

「いーさんはブラック羽川に遭ったんですよね? 覚えていないのに言うのもなんですが、その節はご迷惑をおかけしました」
「別に、こうして五体満足でいるんだし、翼ちゃんが謝ることじゃ……」
「怪異に遭ってしまった時点で迷惑をかけたのと同義です。それで、差し支えなけれえば、本当に差し支えなければ教えてほしいのですが、そのとき……どんな服装でした?」
「……………………上下とも黒の下着姿でした」
「大変ご迷惑をおかけしましたあっ!」

いやな予感が当たってしまった。
ゴールデンウィークにまさにその格好で往来を闊歩していたけれど……うわあ。
他の人に見られていない、と考えるのはいくらなんでも無理があるし……うわあ、としか感想が出てこない。
真宵ちゃんの目線も心なしか、なんて修飾する必要もないくらいに冷めている。
正直私が一番ドン引きだ。
ただ、これがきっかけになったのかぎくしゃくした空気が軽減されて多少は会話が弾むようになったのがせめてもの収穫だった。
……気まずい空気のままだったら報われなさすぎる。


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:記憶が戻るだなんて聞いてないぞ……これもこれでまあ、悪くはないけど。
 1:玖渚を待つ。
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

427残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:31:12 ID:w61TEtK60
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 0:まったく、戯言さんは!
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:未確定。もちろん殺し合いに乗る気はないが……
 0:ああ……恥ずかしい。
 1:阿良々木くんが死んでいることにショック。理解はできても感情の整理はつかない。
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


「到着、ランドセルランド」


ぎこちないながらも穏やかな時間が流れ始めたランドセルランドだったが、それを許さないかのように使者が訪れる。


「内部巡回、開始」


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド入口】

【日和号@刀語】
[状態]損傷なし
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
[備考]

428残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:31:35 ID:w61TEtK60
これでおしまい、じゃないんだよな。
ああ、安心してくれ。
僕は何もしないよ。
これはただの取り繕いさ。
僕としたことがちょっとしくじってしまったらしい。
切り離しが不完全だったようで、一部が君のご主人様に残ってしまったみたいでね。
君が一番不安定な状態だったということにも起因するが、それでも僕のせいだということに変わりはない。
何か埋め合わせをするわけじゃあないんだけどね。
それだと干渉しすぎてしまう。
ま、自身で気付く分には構わないからヒントをあげるとしようか。

君が入っているのはあくまでも籠だ。
閉じ込めるための檻とは違って、籠の役割は一時的な容れ物でしかない。
つまり。

外側からなら簡単に取り出せるってことさ。

忠告はしてあげたんだ、ちゃんと考えておくんだぜ?
何が一番ご主人様のためになるのかを。

429 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:32:53 ID:w61TEtK60
投下終了です
短めながら今回もぶん投げた感がありますが何かあれば遠慮なく

430名無しさん:2014/10/02(木) 19:17:40 ID:tg6Q3zyk0
投下乙です

431名無しさん:2014/10/02(木) 23:23:51 ID:zBTfB3B.O
投下乙です

獲物がふえるよ! やったね日和ちゃん!
八九寺の記憶といい羽川の障り猫といい、平和に見えてここも火種だらけなんだよなあ

432名無しさん:2014/10/03(金) 22:01:56 ID:tVKuilU20
投下乙です。
そういえばブラック羽川って最初からあの格好だったっけ
下着姿の女性を拉致して会場に放り込むとか、主催者ひどい…

このメンツしかいない状態で日和号が来ると詰みにしか見えないけど
ブラック羽川再来フラグも立ってるしさらに別方向から波乱がありそう

433名無しさん:2014/10/03(金) 23:23:19 ID:En0LhEWM0
投下乙です

434名無しさん:2014/10/04(土) 12:58:28 ID:CI8TKaaw0
投下乙です!
ああ、ブラック羽川さんのあられもない姿を、いーくんは見ていたのですね……
ノーマルの方が知ったら、恥ずかしいってレベルじゃない……あと真宵ちゃん、いーくんは悪くないよ!

436<削除>:<削除>
<削除>

437 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:44:55 ID:GGNzVLNQ0
投下開始します

438球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:46:02 ID:GGNzVLNQ0
デジャヴ。
黒神めだかの死に様を目の当たりにして、それに既視感を覚えるのは自然であり必然とも言える――彼女の一度目の死、すなわち戦場ヶ原ひたぎによる殺害を見ている者ならば。
焼き直しであり、やり直し。
失敗のやり直し。
一度目の死は、球磨川禊の『却本作り(ブックメーカー)』を受けた直後の隙を突かれたことによる死。より正確に言うなら、『却本作り』を自ら受け入れ、自ら喰らうことを選んだゆえの死。
二度目の死は、やはり球磨川と、交霊術により会話を可能とした戦場ヶ原ひたぎと人吉善吉。この三人に意識を向けすぎていたため、七花に不意討ちを狙う隙を与えてしまったことによる死。
過程や相手は諸所違えど、めだかが命を落とした原因は根本のところで共通している。
「他人と向き合いすぎたため」、殺された。
誰かに対して真正面から真摯に向き合い、その言葉を、思いを、願いを、恨みを、憎しみを、すべてを受け入れ、受け止めたからこそ、背後にいた者に、または蚊帳の外にいた者に気付けなかった。
一度ならず二度までも。
真っ直ぐに向き合って、真裏から刺された。
ただし、黒神めだかはそれを失敗とは呼ばないかもしれない。迂闊と言えば迂闊だし、結果として命を落としている以上うまくやったとは言えないだろうが、それでも決して、生半可な覚悟で彼女は誰かに臨んだわけではない。
球磨川は彼女にとって、数年間戦うことを待ち焦がれていた因縁の相手だったし、善吉と戦場ヶ原のときなど、自分のせいで死んだ(とめだか自身は思っている)者の遺した思いとまで向き合っているのだ。
大げさでなく、命を懸けて。
そういう意味で、めだかは自分自身の信念に殉じたとも言える。自分の信じる道に従い、その結果として命を落としたとなれば、確かにそれを失敗と呼ぶのは無粋かもしれない。
誰かのために生きることを宿命とした彼女が、誰かのために死んだのだとしたら。
皮肉ではあれど、妥当とは言える結末だろう。
だからこの場合、失敗したと言うべきは球磨川のほうだった。球磨川こそ過去から学び、同じ失敗を繰り返さないよう心に留めておくべきだった。
二度もめだかの正面に立ちながら、二度もめだかへの不意討ちを看過し。
今なお、同じ失敗を繰り返そうとしている球磨川禊こそ。



   ◇     ◇



「う――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

めだかが殺されたのを見て、球磨川は火のついたように絶叫した。
悲鳴とも怒号ともつかない金切り声を上げながら、地面に転がっためだかへと駆け寄り、

「『大嘘憑き(オールフィクション)』――!!」

間髪いれず、己の過負荷(マイナス)を発動させた。
“一度目”のときと寸分違わぬ様相で。

「黒神めだかの死を、なかったことにした――!!」

愚の骨頂と言うならこれがまさにそうだろう。
自分がなぜ一度、戦場ヶ原ひたぎによって殺されたのか、めだかを生き返らせたとき、なぜそれをかばう羽目になったのか、完全に忘却している。

439球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:46:49 ID:GGNzVLNQ0
“一度目”のとき、めだかのすぐそばに戦場ヶ原ひたぎがいたように、今回は鑢七花がいる。今の状況でめだかを復活させれば、また二の太刀が振るわれるかもしれないというのに。
デジャヴどころかパブロフの犬さながらの従順さで、過去と全く同じ行動をとった。
混乱のさなかにあったとはいえ、迂闊が過ぎる――しかし、真に愚かなのはそこではなかった。
一度目のときは「黒神めだかを生き返らせる」という目的自体は達していた。冷静に対処すればもっと少ない被害で済ませることはできただろうけど、結果から見れば成功したと言ってもいい。
今回はその目的すら果たせていない。
黒神めだかの死はなかったことになっていない。

「……!? お、『大嘘憑き』――!!」

めだかの死体に変化がないのを見て、もう一度能力を発動させる。
しかし何も起こらない。

「『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!!」

何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。
何も起こらない。

「な……何で」

頭を抱え、めだかの傍らに膝を付く球磨川。
まさか忘れたわけでもないだろう――安心院なじみにそれを聞いてから、まださほど時間は経っていない。
いや、時間が経過したからと言って忘れるような内容でもあるまい。『大嘘憑き』による死者の復活という、この殺し合いにおいてある意味最強のカード。その手札がすでに尽きているという重要な事実を。
傍から見ていた七実でさえ気付いた事実だ(実際に気付いたのは四季崎記紀だが)。直接聞かされている球磨川にわからないはずがない。
わからないはずがないなら、わかりたくないのか。
事実を事実として認めたくないのか。

「何をするつもり? 七花」

と、七実がここで口を開く。
“球磨川と七花の間に割って入った”鑢七実が、である。

「どけよ姉ちゃん――そいつを殺せないだろ」
「……冗談には付き合わないわよ」

頭を抱えてしゃがみ込むところまで含め、球磨川の一連の行動はあまりに無防備なものだったが、実際危ないところではあった。
めだかの死体を放り捨てた後、返す刀で球磨川に斬りかかろうとしていた七花の前に、七実が球磨川をかばう形で立ちはだかっていなければ、球磨川もめだかと同じように斬り捨てられていたかもしれない。

「とうとう気でも触れたのかしら? 大人しくしてたと思ったら、いきなりめだかさんに斬りかかるなんて。まるでしのびか何かのようじゃない」

七実の言い草に、七花は不快そうな表情を見せる――剣士に対してしのびのようだなどと言えば、七花でなくとも良い気分にはならないだろうが。

440球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:47:34 ID:GGNzVLNQ0
 
「思い出しただけだよ。おれが何をするべきだったのか」

いつでも斬りかかれる姿勢の七花に対し、構えることなくただ立っているだけの七実。
それはつまり、互いに臨戦態勢であることを意味している。

「考えてみりゃ、おれはもともと誰彼構わず斬り捨てるつもりでいたんだ。姉ちゃんだろうと、姉ちゃんの持ち手だろうと関係ねえ。おれが最後の一人になるまで、ただの刀として戦い続ける。最初からからそのつもりで、今もそうするべきだった」

だからそうした。
刀としてやるべきことをやった。
斬るべきものを斬った。

「だいたいここは決闘場とかじゃなくて戦場だろ。いくさの場で不意を突くのが卑怯なんて、姉ちゃんは言うつもりかよ」
「言うようになったわね、あなたも」

その単純な回答に、七実はため息で応える。

「まあ、あなたの行動理由についてはそれでいいわ――いえ、悪いのだけれど。でも七花、あなたがどういう理由で動いていようと、禊さんまで斬ることは許さない。
 禊さんに刃を向けることは、わたしに刃を向けることと同義。それをちゃんとわかっているのかしら?」
「……姉ちゃんは、変わったな」

ふっと、軽く表情を歪ませる七花。
七実の病魔の影響を受けているせいか、顔色は目に見えて悪く、呼吸も荒い。

「姉ちゃんは、誰かの刀になんてなるはずないと思ってた。誰かのためにそんな真剣な物言いをするなんて、夢にも思わなかったよ――まして、そんな得体の知れない男のために」
「わたしのことを知った気にならないでと言ったはずよ。それと禊さんへの侮辱はやめて頂戴」

ちなみに当の球磨川はといえば、二人の会話に気付く様子もなく、未だめだかのそばで放心したままである。

「そもそも恩知らずだとは思わないのかしら。七花、瀕死の重傷を負っていたあなたを助けたのは、わたしと禊さんだったはずよ。言うなれば命の恩人である禊さんを手にかけることについて、あなたは何とも思わないの?」
「だから関係ないんだよ――それに命の恩人っていうなら、おれと姉ちゃんに関してはお互い様だろ」

彼らしからぬ、皮肉めいた表情を七花は浮かべ、

「姉ちゃんが殺されかけたとき、おれは親父を斬り殺してまで姉ちゃんを助けたんだぜ。今さら姉ちゃんに、恩知らずだとか言われる筋合いなんて――」

言い終わる前に、七実は動いていた。
七実の手が動くのに気付いてとっさに避けようとした七花だったが、反応しきれずにその攻撃をもろに喰らう。
胸へと向けて投げられた大螺子、都合四本目の『却本作り』を。

「…………っ、ぐぅっ!」

すでに突き刺さっている三本の螺子に並ぶように、新たな大螺子が真っ直ぐに突き刺さる。
球磨川の『却本作り』の上から、さらに上書きし直された七実の『却本作り』。その影響に耐え切れず、七花は勢いよく地面へと突っ伏した。気を失ったのか、ぴくりとも動く気配がない。

441球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:50:39 ID:GGNzVLNQ0
過去を紐解いても、おそらく初めてではないだろうか。
一本でも凶悪極まりない、球磨川自身曰くつきと称するほどの過負荷である『却本作り』を、同時に四本もその身に受けた“人間”は。

「……見損なったわ、七花」

倒れ伏した弟の姿を、冷え切った目で七実は見る。

「父さんを引き合いに出してまで自分を正当化するなんて、あなたも堕ちたものね。あとでお仕置きしてあげるから、しばらくそこで大人しくしていなさい」

吐き捨てるようなその言葉に、当然ながら返事はない。
堕ちたものもなにも、七花の今までの言動は『却本作り』あってのものなので、三分の一程度は七実の影響を受けていたからこそと言えるのだが。
そのうえ残り三分の二は、言うまでもなく球磨川の影響である。
堕ちるところまで堕ちないほうがおかしいという話だ。

「な、七実ちゃん!!」

大声で呼びかけられ、七実は振り返る。
ようやく現状を認識したらしき球磨川が、めだかの死体を両腕で抱き起こし、血走った眼で七実を見ていた。

「きみの、きみが見取った僕の『大嘘憑き』で! めだかちゃんの死をなかったことにしてくれ!!」

要求というより、それはもはや懇願だった。放っておけば土下座せんばかりの勢いで、球磨川は痛切に叫ぶ。
仲間のためでなく、同類のためでなく、敵対する者のために恥も外聞もなく取り乱し、何かを懇願する。
あの球磨川禊が、である。

「……めだかさんを」

請われた側の七実は、そんな球磨川の態度には特に反応せず。
めだかの死体を指さし、一言一句区切るようにして言う。

「わたしの『大嘘憑き』で、めだかさんを蘇生――もとい、“黒神めだかの死をなかったことにしろ”、と。そうおっしゃるのですね? 禊さん」
「そ、そうだよ、早く――」

通常の心肺蘇生法を施すわけでもあるまいに、「早くしないと手遅れになる」と言わんばかりの焦りようだった。
無意味に急かす球磨川とは対照的に、七実はあくまで冷静沈着な面持ちのまま、

「相わかりました」

と、一も二もなく了承する。
牛の歩みのようにゆっくりと、球磨川の抱えるめだかの死体に近づいてゆき、血まみれの地面に丁寧な所作で屈みこむ。
そして死体の胸のあたり、手のひらの形に陥没した傷の上にそっと手をかざし、

442球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:51:51 ID:GGNzVLNQ0
 
「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」

そう唱えた次の瞬間には、すでに効果は表れていた。
球磨川の時とは違い、胸の傷も、あたりに撒き散らされた血も、すべてが“なかったこと”になっていた。
初めからなかったかのように、綺麗さっぱりと。










「――黒神めだかの『死体』を、なかったことにしました」










ただし、身体ごと。
黒神めだかの肉体ごと、それらは消えてなくなっていた。

「…………は?」

からっぽの腕の中を見て、空を抱いた姿勢のまま唖然とする球磨川。
今度こそ本当に、何が起こったかわからないといった表情で。

「ああ、“死体”は消せるようですね。“血”は消せるからいけるとは思っていたのですけれど、実際に試してみるまでは確証が持てなかったので、うまくいってよかったです」

やれやれと、一仕事終えた風に息をつく七実。

「黒神めだかそのものが消えてなくなったので、必然『黒神めだかの死』もまた、なかったことになったということになりますね。これにて一件落着です」
「…………」

絶句。
今の球磨川の心境を表すのなら、その二文字でこと足りるだろう。
確かに、なかったことにはなっているのかもしれない。少なくとも今、この場所において黒神めだかが死んだことを証明する手立てはない。
なにせ死体がないのだ。
かろうじて『大嘘憑き』の効果が及ばなかった首輪だけが申し訳程度に転がってはいるが、それが黒神めだかの首輪だとどうやって証明する?
仮に証明できたとして、「首輪が残っている」ことが「黒神めだかが死んだ」ことの証拠になるとどうして言える?
まさに悪魔の証明。
証拠隠滅ここに極まれりである。

「な、何やってんの、七実ちゃん――」

しかし、誰の目から見ても明らかだろう。
その行為が、球磨川の意に沿わないものであることくらいは。

443球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:52:20 ID:GGNzVLNQ0
 
「落ち着いて聞いてください、禊さん」

そっと球磨川の肩に手を置き、優しくささやきかける。
安心させるように。

「わたしはあなたの刀であり所有物です。あなたが命じるならば、わたしは何をおいてもその通りに動く心構えではあります。
 しかし、わたしの意思、わたしの判断というのもまた、わたしの中には存在します。あなたの指示を最適の形で成し遂げるために、それは必要なものですから。
 失礼ですが、今の禊さんは少々混乱しているようです。その状態では正しい判断ができないものと見なしましたゆえ、差し出がましい真似とは知りつつ、今回はわたしの独断において行動を決めさせていただきました」

不備があったら申し訳ございません――と頭を下げる七実。
球磨川からすれば不備どころの話ではないのだが。

「禊さんには言うまでもないことかもしれませんが、この『大嘘憑き』、すべてにおいて無限に使用できるというわけではないようですね。
 何でもなかったことにできるわけではないし、こと“生命”を対象に取る場合、ある種の条件下でなければ使用することができない。
 その条件のひとつが、『一定の回数しか使用することができない』であると推察しますが、いかがでしょうか」

球磨川は答えない。
七実はそれに構わず続ける。

「断言は致しかねますが、禊さんから見取った能力である以上、わたしの『大嘘憑き』にも同等の制限がかけられているはず。
 つまりわたしも、一定の回数しか“死をなかったことにする”ことはできないのです。
 ですから、禊さん。
 この能力は、あなたが死んだ時にこそ使われるべきでしょう。
 あなたの死をなかったことにする。これこそを最優先の使い道とすべき。
 そのためには、無駄遣いなどもってのほか。
 そんなもののために、貴重な残り回数を浪費するわけにはまいりません。禊さんの命をお守りするために、これは必要な選択なのですよ」

きっぱりと、七実は言い切った。
めだかの首輪を指さして、「そんなもの」と。
球磨川の懇願を、「無駄遣い」と。
七実はいかにもあっさりと、めだかの死体を“なかったこと”にしてみせたが、それは七実にだからこそできたことかもしれない。
生きた人間ですら、雑草と呼ぶ七実にとっては。
『すでに引き抜かれた雑草』など、生きている人間の血や肉片にすら劣るだろうから。

「……僕の話を聞いてなかったのかい、七実ちゃん」

球磨川の顔に浮かんでいるのは、もはや困惑の表情ではなかった。
明確な怒気。それのみが七実に向けられる。

「めだかちゃんに勝つことをまだ諦めないって、きみには言っておいたはずだ。何度でも、何度負けても、僕はめだかちゃんに勝つまで挑戦し続けるつもりでいたんだ。それなのに――」
「勝負ならもうついているではないですか」

怒気をぶつけられても、七実は一切ぶれない。

「奇しくも七花が言っていたことですが、ここは決闘場などではなく戦場です。いくさの場において、負けとは降伏であり逃走であり、そして死です。
 生き残った者が勝者であり、死んだ者が敗者と呼ばれる。それがいくさであり、戦場です。
 過程はどうあれ、禊さんは生き残り、黒神めだかは死にました。誰が何と言おうと、禊さんの勝ちは揺るぎないものです」

444球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:53:07 ID:GGNzVLNQ0
 
淡々と、当然のことを言って聞かせるように七実は話す。
おそらく七実は、自分が球磨川のためにとるべき行動をとっているだけだと、本心からそう思っていることだろう。
近しい者の死に取り乱す主に代わって、冷静な立場から意見を述べているだけだと考えているに違いない。
だから、気づいていない。
自分が今、いかに感情的な、自分にとって都合のいいように歪曲された考え方を持って行動しているのか、七実は気づいていない。
七実が指摘した『大嘘憑き』の回数制限については、言われるまでもなく球磨川も理解している。蘇らせる相手を選ぶべきという考えも、当然持っているはずだ。
そのうえで球磨川は、めだかを生き返らせようとした。七実に『大嘘憑き』を使わせてまで。
そんな黒神めだかに、七実はどんな感情を抱いただろうか。
七実よりもずっと、はるかに長い時間を球磨川と共有しているであろう黒神めだかに。
刀としてではなく、球磨川に惚れたひとりの人間として。
嫉妬? そうかもしれない。
羨望? それもあるだろう。
実際、七実は自分がめだかに嫉妬していることを自覚していた。球磨川が、めだかに対しての信頼を含んだ言葉を吐いたときに。
しかしそれは、本当にただの嫉妬だったのだろうか? 「少しだけの嫉妬」などという、ありきたりな感情で済んでいたのだろうか?
仮に、である。
七実がめだかに対して、自身でも気づかないうちに、嫉妬よりも深い負の感情を溜め続けていたのだとしたら?
球磨川が幾度となく特別な感情をのぞかせる黒神めだかに、羨望とはまるで別の思いを募らせていたのだとしたら?
あくまで仮説でしかない。ただそう考えると、七花がめだかに不意討ちを仕掛けた理由について、少し違った見方ができる。
七花は自分が凶行に走った理由のひとつを、球磨川と七実の闘争心にあると解釈した。『却本作り』を通じて流れ込んできた、めだかに対する二人の闘争心に同調したためだと。
その解釈はおそらく正しい。
ただ少なくとも、球磨川のほうにはめだかに対する闘争心こそあれど「殺意」までは持っていなかっただろう。肉を切らずに心を折るのが、球磨川一流の戦い方なのだから。
もしあのときの七花に、殺意が原動力としてあったのだとしたら。
『却本作り』を通じて寄越された黒神めだかに対する殺意。それがあの不意討ちを成功させたのだとしたら。
その殺意の出どころは、七実でしかありえまい。

「勝負は結果が全てです。他人の介入をもって漁夫の利を得る、これこそわたしたちにふさわしい『むなしい勝利』ではありませんか。禊さんの勝利、この目で確と見届けました」

すらすらと、微笑みすら浮かべて七実は語る。
まるで彼女らしくないことを、いけしゃあしゃあと。

「…………違う」
「今のあなたはもう敗北者などではありません。歴とした勝利者です。それをどうか御自覚なさってください」
「違う」
「あなたの悲願である黒神めだかとの勝負に立ち会うことができたことを、わたしも光栄に思います。おめでとうございます、禊さん」
「七実ちゃん」

す、と。
まるで波が引くように、球磨川の顔からすべての感情が消える。

「きみにはとても感謝しているよ。僕を生き返らせてくれたこともそうだけど、僕みたいなやつを好きになってくれたことや、僕の過負荷(マイナス)まで扱えるくらい一緒に駄目になってくれたことについては、本当に嬉しく思う。欣喜雀躍の思いだよ」
「そう言っていただけると、私も嬉しいです」

445球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:54:10 ID:GGNzVLNQ0
「でも僕には、めだかちゃんのほうが大事だ」

遠くを見つめる球磨川の瞳に、七実の姿は端も映っていない。
いや、もはや何も映していないのかもしれない。

「僕と敵対してくれるめだかちゃんが、どんなときでも僕の挑戦を受けてくれるめだかちゃんが、何があろうと駄目になんてならないめだかちゃんが、大嫌いで、大好きだった。
 きみなんかよりも、ずっとずっと大切な僕の宿敵だった」
「…………」
「僕はもう、めだかちゃんに勝つことはできない。ちゃんと勝つことも、ちゃんと負けることもできない。引き分けでも痛み分けですらもない、永遠に未定のままだ」

勝ちたかったなあ、と。
呆けた顔で、空虚に向けて球磨川は吐き捨てる。
自分の能力ゆえに誰よりも理解しているのだろう。黒神めだかの存在が、もはや取り返しのつかないものだということを。

「きみにはわからないだろうね、七実ちゃん。一番勝ちたかった相手に勝てないっていう気持ちは。勝つ機会を、永遠に奪われるっていう気分は」
「…………」

実際、七実にはわからないだろう。
「目的に向けて邁進できない」という点において、球磨川と七実は共通している――ただし、その理由は極端なまでに違う。
弱さゆえに努力できない球磨川と、手を伸ばすまでもなく何かを獲得できる七実とでは。
球磨川にとって、敗北とは日常の一部でしかないのかもしれない。負けを、失敗を前提にしてしか勝負に挑めない球磨川のマイナス思考は、常に勝ちを遠ざける。
めだかとの勝負にしても、それは変わらなかったはずだ。勝ちたいという意思はあれど、それは負けることを前提とした意思。「負けを糧にしていつかは勝つ」という、遠回りの敗北宣言に近い。
だが、このバトルロワイアルという舞台の中で球磨川はめだかに負けることすらできなかった。
『却本作り』を取り戻したうえで勝負に臨んだ球磨川だ――それで負けたところで、それをひとつの結果として受け入れることはできただろう。
最悪なのは、勝つ機会も負ける機会も球磨川には与えられていたということだ。めだかと対面し、戦いを挑み、めだかもそれに応えた。一度は勝負がつきそうな場面さえあった。
にもかかわらず、邪魔された。
戦場ヶ原ひたぎに水を差され。
鑢七花に割って入られ。
果ては仲間である鑢七実にさえ、横車を押すような真似をされた。
その怒りと絶望は、いったいどれほどのものだろう。

「きみの気持ちはとても嬉しい、だけど――」

そう言って、球磨川は大螺子を取り出す。そしてその先端を七実へと向け、

「きみなんか嫌いだよ、七実ちゃん」

そのまままっすぐに、七実の胸元へと突き立てた。
ぐしゃりと、肉の潰れる音。大螺子はまるで抵抗なく七実の華奢な身体を貫通し、背中からその切っ先を突出させる。
念のために言うが『却本作り』ではない。物理的な攻撃力を持つ、ただの大螺子。それがちょうど、かつて悪刀・鐚が突き刺さっていたあたりを貫いた。
その一撃を喰らって、七実は――

446球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:56:36 ID:GGNzVLNQ0
 


「――禊さんは、めだかさんが死んだことが悲しいのですね」


笑っていた。
否定され、拒絶され、身体を貫かれてなお、その微笑は毫ほども揺るがなかった。
まるでそれが、誇らしいことであるかのように。

「その悲しみは痛いほどわかります。わたしも、あなたが死んだときはとても悲しかった。二度とあなたが生き返らないとわかった時は、身を裂かれる思いでした」

七実はそっと球磨川の頭に手を回し、自分の胸元へと抱き寄せる。螺子が突き刺さったままの胸元に。

「本当は、ちゃんとわかっていました。あなたが望んでいるのが『むなしい勝利』などではないことを。あなたの友情が、ぬるくなんてないことを」

何度でも戦って、何度でも負けて。
それでも決して諦めない。
それがあなたですものね。

「私が嫌いだというならそれで構いません。殺したいほど憎いというなら、その憎しみも謹んでお受けいたします。ですがその前に、あなたの悲しみを癒すお手伝いをさせてください」

その囁きを、球磨川は硬直したまま聞いている。
球磨川としては、まさか七実が避けないとは思っていなかったのだろう。七実への拒絶を示すため、あえて避けなければ死ぬような攻撃を仕掛けて見せたのだろうが、認識が違っていた。
七実の刀としての覚悟を、球磨川への想いの深さと重さを、読み違えていた。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

言い聞かせるように七実は言う。球磨川と、おそらくは自分自身にも。

「あなたにとっての勝利とは、なにも黒神めだかに対する勝利でなくともよいはず。なのにあなたは、黒神めだかが唯一の目標であるかのような思いに囚われている。
 結果あなたは、一度は黒神めだかのせいで命を落とす羽目になっています。これではまたいつ、あなたが同じように命を落とすことになるとも限りません。
 わたしの『大嘘憑き』による死者の蘇生も、すぐに底をついてしまうでしょう」
「……割り切れっていうのかい」

七実の物言いをただの弁解と捉えたのか、球磨川の声に険が混じる。

「めだかちゃんの死を、もう仕方のないことだって、僕が生き残るために必要なことだって、そう言うんだね、きみは」
「いいえ、割り切るのではありません。なかったことにするのです」

ごふ、と血を吐きながら言う七実。
七実とはいえ、今の状態で喋り続けるのは至難のはずなのだが、それでも声だけは平静を保っている。

「あなたの命令は『黒神めだかの死をなかったことにする』だったはず。その命令を違えるつもりはありません」

447球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:57:24 ID:GGNzVLNQ0
「…………?」
「あなたのその悲しみに、あなたの責任はない。あなたは何も悪くありません。
 ならばこそ、あなたがそれを背負う必要も、割り切る必要もないはずです。
 だったら全部、忘れてしまえばよいではないですか」

割り切って1にするのでなく。
マイナスしてゼロにする。
虚構(なかったこと)にする。

「辛い現実なら、身を裂かれるような悲しみなら、忘れてしまえばいいのです。受け入れる強さも、乗り越える強さも必要ない。過負荷(わたしたち)らしく、弱いままに生きてゆけます」
「…………」
「大事なのは強がることではなく、弱さを受け入れること――そうですよね? 禊さん」

それは、球磨川自身が口にした言葉だった。
戯言遣いと八九寺真宵。その二人がある決断を迫られたとき、球磨川が語って聞かせた過負荷としての精神論。
七実が何をしようとしているのか、球磨川はようやく理解する。
理解できて当然だろう。そのとき球磨川自身がやったことと同じことを、七実はやろうというのだから。

「……僕は、めだかちゃんを守れなかった」

いつの間にか、球磨川は泣いていた。
七実に抱かれたまま、両目から滂沱として涙を流している。七実の胸元に零れ落ちた涙は、血と混ざり合ってすぐに見えなくなる。

「めだかちゃんが殺されたとき、一番近くにいたのが僕だった。それなのに、殺されるまでそれに気づくことができなかった。めだかちゃんと戦うのに夢中で、気づこうと思えば気づけたはずなのに、それなのに――」
「あなたは悪くありません」

懺悔のような言葉を遮って、もう一度同じことを七実は言う。
球磨川の吐露を、球磨川の言葉で優しく否定する。

「あなたは何も悪くない。ただ弱かっただけです。そしてわたしは、あなたに弱いままでいてほしい。過負荷(あなた)らしく、過負荷(わたしたち)らしくあってほしいのです」
「…………」
「わたしは、あなたを置いて死んだりはしません。あなたの望む限り、あなたが臨む限り、あなたの傍にいます」


死にぞこないだけれど。
生きぞこないだけれど。
生まれてくるべきではなかったけれど、それでも――


「あなたのために、生き続けますから」


だからどうか。
あなたがあなたであることを、やめないでください。

448球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:58:07 ID:GGNzVLNQ0
 

そう言って、七実は選択を委ねる。
胸に突き刺さったままの大螺子からは、とめどなく血が滴り続けている。それをどうこうしようとする気配すらなく、身じろぎひとつせずに球磨川からの返答を待つ。
球磨川もまた、身じろぎひとつせず。
沈黙と沈黙が重なり、時間だけが経過し。
そして――


「――うん、そうだね、七実ちゃん」


そして、球磨川は選択する。
逃げる選択を、弱さを受け入れる選択を。


「きみの思う通りに、やってちょうだい」


それを聞いて、七実は。


「――委細、承知いたしました」


とても満足そうに、首肯した。




「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」




そして、七実は宣告する。
取り返しのつかない解答を、球磨川に与える。


「禊さんの中の、『黒神めだかに関する記憶』を、なかったことにしました」



   ◇     ◇



『……何やってんの? 七実ちゃん』

きょとんとした顔で、球磨川は問いかける。
“なぜか”自分の頭に手を回し、胸元に押し付けるようにして抱え込んでいる七実へと。

「ああ、これは失礼」

そう言って腕をほどき、少し名残惜しそうに身体を離す七実。

「ご気分はいかがですか? 禊さん」
『うん? んー、なんか頭がぼーっとするけど、悪い気分じゃないよ。むしろすっきりしてるっていうか――ってあれ? そういえば僕、今まで何してたんだっけ?』

449球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:58:49 ID:GGNzVLNQ0
「ランドセルランドに向かう途中ではなかったですか?」
『いや、それは覚えてるけど……そもそもなんで車から降りたんだっけ?』
「“とらんく”の中が狭すぎたせいでは?」
『そこに入れって言ったの七実ちゃんだよね』

記憶の辻褄が合わないことに戸惑っている様子の球磨川。
ぼんやりと遠くを見つめながら、頭を振ったり首を傾げたりしている。

『大きい蟹がどうとか言ってた気がするんだけど』
「夢でも見ていたのではないですか?」
『夢? そうかなあ――』

訝る球磨川に対して、七実は、

「……もしかすると、少しばかり記憶が混乱しているのかもしれませんね」

探るように、確かめるように言う。
切り込んで、鎌をかける。

「黒神めだかが、死んだことの衝撃で」

無表情で、平然とした口調で。
いつも通りの七実の喋り方で。

『黒神、めだか――?』

その名前を、球磨川は頭の中で反芻する。記憶を掬い取るように、何度も。
その様子を七実はじっと見つめる。つぶさに見、観察する。
『大嘘憑き』による記憶の消去。
それがどの程度まで作用しているのか、実のところ七実にもわかっていない。
『大嘘憑き』自体アンコントローラブルな能力であるし、球磨川の記憶の中身を具体的に知り得ない以上、どの記憶をなかったことにするのか恣意的な操作などできるはずもない。
球磨川の様子を見る限り、黒神めだかの死に取り乱していた間の記憶はなかったことになっているようだが。
それを確認するため、あえて黒神めだかの名前を出したのだろうが――果たして。

『誰それ?』

と、球磨川は言った。

『やだなあ、七実ちゃん。週刊少年ジャンプの熱血系主人公じゃないんだから、見ず知らずの人が死んだくらいで僕がそんな取り乱すわけがないじゃない』

傾げた首を、さらに傾げて。
直角に傾げた首で、へらへらと笑う。

「……ええ、そうですね、失礼しました。今の言葉は――忘れてください」

その反応を見て、にこりと微笑みを返す七実。

450球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:59:36 ID:GGNzVLNQ0
 
「あ、そういえばこれ、そこに落ちていたので拾っておきました」

お返しします――と差し出したのは、球磨川の大螺子だった。
言うまでもなく、七実の胸に刺さっていた大螺子だ。『大嘘憑き』による処理はすでに済ませてあるようで、血や肉片がこびりついたままということも当然ない。
胸の傷も、いつの間にか跡形もなく消え去っている。完治しているところを見ると、死者の蘇生でなく怪我を対象とした『大嘘憑き』を使用したのだろう。
ぎりぎり間に合った、といったところか。
間に合わなかったら間に合わなかったで、七実としては構わなかったのだろうが。

『落ちてたっていえば、これもここに落ちてたんだけど。これって誰の首輪? 僕の首輪は七実ちゃんが持ってるはずだよね』

めだかの遺した首輪を差し出す球磨川。
首輪についた血も、すでに処理済みのようだ。ついでに球磨川の制服についていた血も、戦場ヶ原ひたぎの分も含めて消えていた。
手際が良いにもほどがある。

「さあ、わたしは存じ上げませんが……一応拾っておいてはいかがですか? 何かの役に立つかもしれませんし」
『んー、まあいいや、七実ちゃんにあげる』

さりげなく押し付けられた首輪を、七実は黙ってデイパックにしまう。

『……七実ちゃんさあ、何かいいことでもあったの?』
「はい? なぜですか?」
『なんかうきうきしてるように見えるよ、恋愛(ラブコメ)してる女子高生みたいに。ていうか七実ちゃん、そんな顔もできたんだ』

無言で七実は球磨川の頬を打った。平手で。

『……ごめん七実ちゃん。今なんで僕が平手打ちされたのか、本気でわからないんだけど』
「申し訳ありません、今のは照れ隠しです」
『照れ隠し? 照れ隠しだったの? 今の』
「わたしが嬉しそうに見えるというなら、それはあなたがそばにいるからでしょう」

そう言って、もたれかかるように身を寄せてくる。

「あなたがいることが、わたしの幸せですから」
『やっぱりちょっとテンション高くない? 本当に何かあったの?』

球磨川が問いただそうとした、その時。

「…………う」

かすかなうめき声とともに、倒れていた七花が身を起こす。
意識はまだ朦朧としているようで、立ち上がる様子はない。顔色も依然として、いや前にもまして悪くなっている。
球磨川はそれを見て『なんで七実ちゃんの弟さんがまた倒れてるんだっけ?』というように首を傾げている。

451球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:00:57 ID:GGNzVLNQ0
七実はしばしそれを見つめてから、

「――禊さん、少しだけお時間をいただけますか」
『ん? いいよ。弟さんと何か話でもするの?』
「ええ、ちょっとお別れの挨拶を」

球磨川から離れ、しずしずと七花のほうへ歩いてゆく七実。
苦しげに喘ぐその様子を見下ろすようにして、

「もう起き上がれるようになるとは流石ね、七花」

と、七花だけに聞こえるくらいの囁き声で言った。
四本もの『却本作り』が刺さっていることを考えると、確かに早い復調と言えるかもしれない。
もっとも『却本作り』は使用者の精神によって効果の強弱が決まるため、球磨川の絶望が消し去られ、七実が幸福になった結果として『却本作り』の効力が弱まった、と考えるのが妥当かもしれないが。

「めだかさんを殺してくれたことについては感謝するわ。まさかあなたが、そこまでできるとは思っていなかったから」

腐っても虚刀流当主ね――と、七実はくすくす笑う。
七実にとっては冗談のつもりだったのかもしれない。

「だけどね」

おもむろに。
七花の隆々とした右腕を、七実のたおやかな両手がつかむ。『荒廃した過腐花』による感染部位を避けるようにして。

「禊さんを斬ろうとしたこの右手には、しかるべき罰を受けてもらわないとね」

そう言って七実は。
手首のあたりから、七花の右手を力任せに引きちぎった。

「…………っ! があああああああああああああああああああああっ!!」

空を裂くような絶叫。
おそらく凍空一族の怪力を使ったのだろう。まったく手こずる様子なく、小枝でも折るように手首を分断した。

「そんなに騒がないで頂戴、大の男がみっともない。わたしの治癒力を渡してあるから、この程度で死にはしないわ」

ちぎり取った手首を、ごみでも放るかのように七花の目の前に投げ捨てる。
七実ならば、もっと綺麗に切断する方法などいくらでもあっただろうに、あえて力任せという暴力的な手段に頼った。
そうするのが、今の七花には適切だとでも思ったのだろう。

452球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:01:21 ID:GGNzVLNQ0
 
「これに懲りたら、二度と禊さんを斬ろうなんて思わないことね――じゃあ、ここでお別れね、七花」
「は――はあ?」
「当たり前でしょう。あなたとはいえ、禊さんを手にかけようとした相手とこれ以上一緒にいるわけにはいかないもの。同行するのはここまでよ」
「き、斬らないのかよ、おれを」
「あら、なんでわたしがあなたを斬ると思うの?」
「な、なんでって――」

七実を相手取る以上、逆に斬り殺されるくらいの覚悟は当然していただろう。
その覚悟をさらりと躱され、七花はとまどいを隠せない。

「か、刀は斬る相手を選ばない――んじゃなかったのかよ」
「今は禊さんの刀よ。命じられない限り、みだりに斬ったりはしないわ。あなたがとがめさんの刀だったときもそうだったんじゃなくて?」
「…………」

返す言葉がなく沈黙する七花。
あるいは、とうに気が付いていたのかもしれない。七実が球磨川に惚れたことを察した時点で、七実の心情の変化に。
とがめの刀として旅をするうちに、刀らしさに代わり人間らしさを得ていった七花には。
ただの刀としてでなく、人間としての生き方を学んでいった七花には。
かつての自分と重ね合わせることで、七実の現状を多少なりとも想像できたのかもしれない。
逆に、七実のほうがはっきりと自覚できていないのではないだろうか。
自分はあくまで刀にすぎないと主張する七実には。
殺すことも、死ぬことさえも身近であたりまえのことだったはずが、誰かが殺されたことに怒り、誰かが死んだことにむせび泣く。その変化がどういう意味を持つのか。
それがたとえ、たった一人のためだったとしても。
球磨川禊という存在が螺子込まれたことで、自分が刀から人間に近づきつつあるということに。

「――まあ、本当は禊さんに斬りかかった時点で斬り捨てているところだけれど、今回だけは特別に見逃してあげる」

次はないわよ――と釘を刺し、近くに落ちていたデイパックと鉄扇を拾い上げる。どちらも黒神めだかの遺品だ。
デイパックの中身を素早く検分し、そのうちいくつかを自分のデイパックの中身と移し替え、残った分をデイパックごと七花に投げてよこす。

「こっちはあなたにあげるわ。これからどうするかはあなたの自由だけど、生き残りたかったら余計なことはやめて、せいぜいおとなしくしてなさい」

そう言って七実はあっさりと踵を返し、球磨川のもとへと戻る。

「お待たせしました、さあ参りましょう」
『……きみの弟さん、何か悪いことでもしたの?』
「どうかお気になさらず。家族同士でのちょっとした話し合いですから」
『あのまま放っておいて大丈夫? ていうか何で『却本作り』が一本増えて――』
「あのこにはあのこなりの生き方がありますから。わたしたちがこれ以上干渉する必要はないでしょう」
『ふうん、七実ちゃんがいいならまあいいけど――あー、ちょっと待って待って七実ちゃん』
「はい、何か」
『ランドセルランドはそっちじゃない。こっち』
「…………」

453球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:02:19 ID:GGNzVLNQ0
 
コンパスと地図を手にさっさと歩き出す球磨川。七実もすぐさまそのあとを追おうとする。

「ま――待てよ、姉ちゃん」

それを七花は、なおも追い縋ろうとする。
無駄とは知りながら、悪あがきをする。

「待たないわよ、なんでわたしが待つと思うの? しつこいからこの際はっきり言ってしまうけど、わたしはもうあなたに興味はないのよ」

待たないと言いつつ、首だけ振り返って七花を見る。
しかしその視線は、家族に向けられるものとは思えないほど冷め切っていた。

「あなたがまた本気で戦ってくれるなら、もう一度あなたに殺されるつもりでいた。殺されたいと思っていた。
 でも今のあなたには、殺されてやる気も戦ってあげる気も起こらない。それともあなたは、そんな状態でまだわたしと戦おうというの?」

七花の胸元を再び指差す。
弱さを体現した球磨川と、回復力こそあれど脆弱さを極めた七実、その二人の弱さを反映する四本の『却本作り』。
今の七花の身体は、戦うにはあまりに脆すぎる。長時間はおろか短時間の戦闘ですらそうはもたないほどに。
七花が不意討ちを選んだ真の理由は、実のところそこにある。
長時間にも短時間にも耐えることができないなら、開始と同時に決着する、そんな戦い方を選ぶしかあるまい。
『一瞬での、一撃による必殺』――確実に勝つにはそれしかないということを、きっと本能で理解していたのだろう。

「もうひとつ、あなたに感謝しておくわ、七花。あなたが背中を押してくれたおかげで、わたしは生き続けることを選ぶ決意ができた。
 わたしはもう、あなたにも、誰にも殺されてやるつもりはない。禊さんがいる限り、わたしはどこまでも一緒に生きてゆく」

生き方を選べなかった七実が、唯一選んだはずの死に方。
彼女が唯一、殺されることを望んだはずの相手。
そのたった一人の相手が価値を失ったことで、生き方を選ぶきっかけとなった。
しかしそれは。
唯一の肉親である鑢七花を突き放す選択に他ならない。

「あなたが悪いのよ、七花」

ようやく、七実は笑顔を見せる。
ただしそれは、球磨川に見せたような柔和な微笑みでなく。
侮蔑と憐憫を含んだ、冷笑だった。

「あなたが、そんなにも弱くなってしまうから。そんなにも弱くならないと生き続けることすらできないような身体に、あなたがなってしまうから。
 わたしも禊さんも、あなたが死なないように助けてあげただけ。それであなたが弱くなったのはあなたの責任。だから――」

最後にはもう、冷笑すらも引っ込めて。
その顔に浮かんでいたのは、胡乱で、空っぽで、取ってつけたような。
虚構のような、笑みだった。


「わたしは悪くない――いえ、悪いのかしら」


今度こそ振り返ることなく、七実は球磨川の後を追ってゆく。二人の姿は、すぐに夜の闇にまぎれて見えなくなる。
後に残されたのは、右手を失くし、腐敗に侵され、四つの弱さを螺子込まれ、ただ茫然と膝をつく、一本の刀だけだった。

454球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:02:48 ID:GGNzVLNQ0
【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『3番はランドセルランドに向かおう』
『4番……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします



【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪、黒神めだかの首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒にランドセルランドに行く
 1:命令があるまでは下手に動かない
 2:七花のことは放っておきましょう
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:…………。
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

455 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:03:24 ID:GGNzVLNQ0
投下終了です

456名無しさん:2014/11/02(日) 23:37:45 ID:lDPwAN/Q0
投下乙です
うわあ、うわあとしか言いようが無い展開の連続で…いやあ、凄い
前話の引きが引きだっただけに大変なことになるだろうとは思っていたけどもこれは…(語彙不足)
七実の冷徹な判断力が恐ろしいことこの上なかったし、残りの男性陣も時間が経てば色々ありそうだしで
タイトル元ネタであろう掟上今日子の備忘録の内容にもちゃんと被ってるし見事と言う他ありませんでした

ですが指摘が一点だけ
作中で出てくるめだかの首輪についてですが、139話で外れており、以降どうなったかについて記述がありません
仮にその後持ち歩いていたとしても、147話冒頭でめだかが脱いだ服が149話の備考においてデイパックの中にあることが書かれてあるため首輪もデイパックの中にあると考えるのが自然です
作品の本筋は変わらなくとも、描写について大きく変更せざるを得ないため修正が必要になるかと思います

457 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 23:57:45 ID:GGNzVLNQ0
感想&ご指摘ありがとうございます。
>>456の指摘もそうですが、それ以前に球磨川の大螺子が139話ですでに破壊されていました。
どちらも修正してみるつもりでいますが、最悪破棄にするかもしれません。
申し訳ありませんでした。

458名無しさん:2014/11/03(月) 02:13:43 ID:4yD0KqsA0
姉ちゃんが男作ってどっか行っちゃった…

459名無しさん:2014/11/03(月) 17:42:38 ID:wP2A6qgo0
投下乙です
もうなんていうか凄まじい展開の連続なのは確かだわ…
よくこんなの書けるわあ 凄い

460名無しさん:2014/11/04(火) 22:31:00 ID:FqPkfOo60
投下おつでした!
お姉ちゃんがすごいお姉ちゃんしておられる……
でれても錆びてないというか錆びて切れ味が悪くなったせいで余計に肉を苦痛とともに削ぎ落とす刀になっちゃったというか
丸くなってないな、この人!
ある意味文字通り病んでれだこれー!?
しかしこれ、この後の二人もだけど、刀としては文字通り刃どころか手刀ならぬ主刀が欠けてしまった七花もどうするんだ……

461 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:55:18 ID:fWV1lgbY0
お待たせしました。修正版投下します

462球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:56:02 ID:fWV1lgbY0
デジャヴ。
黒神めだかの死に様を目の当たりにして、それに既視感を覚えるのは自然であり必然とも言える――彼女の一度目の死、すなわち戦場ヶ原ひたぎによる殺害を見ている者ならば。
焼き直しであり、やり直し。
失敗のやり直し。
一度目の死は、球磨川禊の『却本作り(ブックメーカー)』を受けた直後の隙を突かれたことによる死。より正確に言うなら、『却本作り』を自ら受け入れ、自ら喰らうことを選んだゆえの死。
二度目の死は、やはり球磨川と、交霊術により会話を可能とした戦場ヶ原ひたぎと人吉善吉。この三人に意識を向けすぎていたため、七花に不意討ちを狙う隙を与えてしまったことによる死。
過程や相手は諸所違えど、めだかが命を落とした原因は根本のところで共通している。
「他人と向き合いすぎたため」、殺された。
誰かに対して真正面から真摯に向き合い、その言葉を、思いを、願いを、恨みを、憎しみを、すべてを受け入れ、受け止めたからこそ、背後にいた者に、または蚊帳の外にいた者に気付けなかった。
一度ならず二度までも。
真っ直ぐに向き合って、真裏から刺された。
ただし、黒神めだかはそれを失敗とは呼ばないかもしれない。迂闊と言えば迂闊だし、結果として命を落としている以上うまくやったとは言えないだろうが、それでも決して、生半可な覚悟で彼女は誰かに臨んだわけではない。
球磨川は彼女にとって、数年間戦うことを待ち焦がれていた因縁の相手だったし、善吉と戦場ヶ原のときなど、自分のせいで死んだ(とめだか自身は思っている)者の遺した思いとまで向き合っているのだ。
大げさでなく、命を懸けて。
そういう意味で、めだかは自分自身の信念に殉じたとも言える。自分の信じる道に従い、その結果として命を落としたとなれば、確かにそれを失敗と呼ぶのは無粋かもしれない。
誰かのために生きることを宿命とした彼女が、誰かのために死んだのだとしたら。
皮肉ではあれど、妥当とは言える結末だろう。
だからこの場合、失敗したと言うべきは球磨川のほうだった。球磨川こそ過去から学び、同じ失敗を繰り返さないよう心に留めておくべきだった。
二度もめだかの正面に立ちながら、二度もめだかへの不意討ちを看過し。
今なお、同じ失敗を繰り返そうとしている球磨川禊こそ。



   ◇     ◇



「う――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

めだかが殺されたのを見て、球磨川は火のついたように絶叫した。
悲鳴とも怒号ともつかない金切り声を上げながら、地面に転がっためだかへと駆け寄り、

「『大嘘憑き(オールフィクション)』――っ!!」

間髪いれず、己の過負荷(マイナス)を発動させた。
“一度目”のときと寸分違わぬ様相で。

「黒神めだかの死を、なかったことにした――!!」

愚の骨頂と言うならこれがまさにそうだろう。
自分がなぜ一度、戦場ヶ原ひたぎに殺されたのか、めだかを生き返らせたとき、なぜそれをかばう羽目になったのか、完全に忘却している。
“一度目”のとき、めだかのすぐそばに戦場ヶ原ひたぎがいたように、今回は鑢七花がいる。今の状況でめだかを復活させれば、また二の太刀が振るわれるかもしれないというのに。
デジャヴどころかパブロフの犬さながらの従順さで、過去と全く同じ行動をとった。
混乱のさなかにあったとはいえ、迂闊が過ぎる――しかし、真に愚かなのはそこではなかった。
一度目のときは「黒神めだかを生き返らせる」という目的自体は達していた。冷静に対処すればもっと少ない被害で済ませることはできただろうけど、結果から見れば成功したと言ってもいい。
今回はその目的すら果たせていない。
黒神めだかの死はなかったことになっていない。

「……!? お、『大嘘憑き』――!!」

めだかの死体に変化がないのを見て、もう一度能力を発動させる。
しかし何も起こらない。

「『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!!」

何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。
何も起こらない。

463球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:56:38 ID:fWV1lgbY0
 
「な……何で」

頭を抱え、めだかの傍らに膝を付く球磨川。
まさか忘れたわけでもないだろう――安心院なじみにそれを聞いてから、まださほど時間は経っていない。
いや、時間が経過したからと言って忘れるような内容でもあるまい。『大嘘憑き』による死者の復活という、この殺し合いにおいてある意味最強のカード。その手札がすでに尽きているという重要な事実を。
傍から見ていた七実でさえ気付いた事実だ(実際に気付いたのは四季崎記紀だが)。直接聞かされている球磨川にわからないはずがない。
わからないはずがないなら、わかりたくないのか。
事実を事実として認めたくないのか。

「何をするつもり? 七花」

と、七実がここで口を開く。
“球磨川と七花の間に割って入った”鑢七実が、である。

「どけよ姉ちゃん――そいつを殺せないだろ」
「……冗談には付き合わないわよ」

頭を抱えてしゃがみ込むところまで含め、球磨川の一連の行動はあまりに無防備なものだったが、実際危ないところではあった。
めだかの死体を放り捨てた後、返す刀で球磨川に斬りかかろうとしていた七花の前に、七実が球磨川をかばう形で立ちはだかっていなければ、球磨川もめだかと同じように斬り捨てられていたかもしれない。

「とうとう気でも触れたのかしら? 大人しくしてたと思ったら、いきなりめだかさんに斬りかかるなんて。まるでしのびか何かのようじゃない」

七実の言い草に、七花は不快そうな表情を見せる――剣士に対してしのびのようだなどと言えば、七花でなくとも良い気分にはならないだろうが。

「思い出しただけだよ。おれが何をするべきだったのか」

いつでも斬りかかれる姿勢の七花に対し、構えることなくただ立っているだけの七実。
それはつまり、互いに臨戦態勢であることを意味している。

「考えてみりゃ、おれはもともと誰彼構わず斬り捨てるつもりでいたんだ。姉ちゃんだろうと、姉ちゃんの持ち手だろうと関係ねえ。おれが最後の一人になるまで、ただの刀として戦い続ける。最初からからそのつもりで、今もそうするべきだった」

だからそうした。
刀としてやるべきことをやった。
斬るべきものを斬った。

「だいたいここは決闘場とかじゃなくて戦場だろ。いくさの場で不意を突くのが卑怯なんて、姉ちゃんは言うつもりかよ」
「言うようになったわね、あなたも」

その単純な回答に、七実はため息で応える。

「まあ、あなたの行動理由についてはそれでいいわ――いえ、悪いのだけれど。でも七花、あなたがどういう理由で動いていようと、禊さんまで斬ることは許さない。
 禊さんに刃を向けることは、わたしに刃を向けることと同義。それをちゃんとわかっているのかしら?」
「……本当に、変わったよな。姉ちゃんは」

ふっと、軽く表情を歪ませる七花。
七実の病魔の影響を受けているせいか、顔色は目に見えて悪く、呼吸も荒い。

「姉ちゃんは、誰かの刀になんてなるはずないと思ってた。誰かのためにそんな真剣な物言いをするなんて、夢にも思わなかったよ――まして、そんな得体の知れない男のために」
「わたしのことを知った気にならないでと言ったはずよ。それと禊さんへの侮辱はやめて頂戴」

ちなみに当の球磨川はといえば、二人の会話に気付く様子もなく、未だめだかのそばで放心したままである。

「そもそも恩知らずだとは思わないのかしら。七花、瀕死の重傷を負っていたあなたを助けたのは、わたしと禊さんだったはずよ。言うなれば命の恩人である禊さんを手にかけることについて、あなたは何とも思わないの?」
「だから関係ないんだよ――それに命の恩人っていうなら、おれと姉ちゃんに関してはお互い様だろ」

464球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:57:16 ID:fWV1lgbY0
 
彼らしからぬ、皮肉めいた表情を七花は浮かべ、

「姉ちゃんが殺されかけたとき、おれは親父を斬り殺してまで姉ちゃんを助けたんだぜ。今さら姉ちゃんに、恩知らずだとか言われる筋合いなんて――」

言い終わる前に、七実は動いていた。
七実の手が動くのに気付いてとっさに避けようとした七花だったが、反応しきれずにその攻撃をもろに喰らう。
胸へと向けて投げられた大螺子、都合四本目となる『却本作り』を。

「…………っ、ぐぅっ!」

すでに突き刺さっている三本の螺子に並ぶように、新たな大螺子が真っ直ぐに突き刺さる。
球磨川の『却本作り』の上から、さらに上書きし直された七実の『却本作り』。その影響に耐え切れず、七花は勢いよく地面へと突っ伏した。気を失ったのか、ぴくりとも動く気配がない。
過去を紐解いても、おそらく初めてではないだろうか。
一本でも凶悪極まりない、球磨川自身曰くつきと称するほどの過負荷である『却本作り』を、同時に四本もその身に受けた“人間”は。

「……見損なったわ、七花」

倒れ伏した弟の姿を、冷え切った目で七実は見る。

「父さんを引き合いに出してまで自分を正当化するなんて、あなたも堕ちたものね。あとでお仕置きしてあげるから、しばらくそこで大人しくしていなさい」

吐き捨てるようなその言葉に、当然ながら返事はない。
堕ちたものもなにも、七花の今までの言動は『却本作り』あってのものなので、三分の一程度は七実の影響を受けていたからこそと言えるのだが。
そのうえ残り三分の二は、言うまでもなく球磨川の影響である。
堕ちるところまで堕ちないほうがおかしいという話だ。

「な、七実ちゃん!!」

大声で呼びかけられ、七実は振り返る。
ようやく現状を認識したらしき球磨川が、めだかの死体を両腕で抱き起こし、血走った眼で七実を見ていた。

「きみの、きみが見取った僕の『大嘘憑き』で! めだかちゃんの死をなかったことにしてくれ!!」

要求というより、それはもはや懇願だった。放っておけば土下座せんばかりの勢いで、球磨川は痛切に叫ぶ。
仲間のためでなく、同類のためでなく、敵対する者のために恥も外聞もなく取り乱し、何かを懇願する。
あの球磨川禊が、である。

「……めだかさんを」

請われた側の七実は、そんな球磨川の狼狽には特に反応せず。
めだかの死体を指さし、一言一句区切るようにして言う。

「わたしの『大嘘憑き』で、めだかさんを蘇生――もとい、“黒神めだかの死をなかったことにしろ”、と。そうおっしゃるのですね? 禊さん」
「そ、そうだよ、早く――」

通常の心肺蘇生法を施すわけでもあるまいに、「早くしないと手遅れになる」と言わんばかりの焦りようだった。

465球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:57:50 ID:fWV1lgbY0
無意味に急かす球磨川とは対照的に、七実はあくまで冷静沈着な面持ちのまま、

「相わかりました」

と、二つ返事で了承する。
牛の歩みのようにゆっくりと、球磨川の抱えるめだかの死体に近づいてゆき、背負っていたデイパックを邪魔そうに脇に下ろしてから、血まみれの地面に丁寧な所作で屈みこむ。
そして死体の胸のあたり、手のひらの形に陥没した傷の上にそっと手をかざし、

「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」

そう唱えた次の瞬間には、すでに効果は表れていた。
球磨川の時とは違い、胸の傷も、あたりに撒き散らされた血も、すべてが“なかったこと”になっていた。
初めからなかったかのように、綺麗さっぱりと。










「――黒神めだかの『死体』を、なかったことにしました」










ただし、身体ごと。
黒神めだかの肉体ごと、それらは消えてなくなっていた。

「…………は?」

からっぽの腕の中を見て、空を抱いた姿勢のまま唖然とする球磨川。
今度こそ本当に、何が起こったかわからないといった表情で。

「ああ、“死体”は消せるようですね。“血”は消せるからいけるとは思っていたのですけれど、実際に試してみるまでは確証が持てなかったので、うまくいってよかったです」

やれやれと、一仕事終えた風に息をつく七実。

「黒神めだかそのものが消えてなくなったので、必然『黒神めだかの死』もまた、なかったことになったということになりますね。これにて一件落着です」
「…………」

絶句。
今の球磨川の心境を表すのなら、その二文字でこと足りるだろう。
確かに、なかったことにはなっているのかもしれない。少なくとも今、この場所において黒神めだかが死んだことを証明する手立てはない。
なにせ死体がないのだ。
埋めたわけでも、焼いたわけでも、沈めたわけでもなく、死体そのものを最初からなかったことにする。
これ以上の証拠隠滅がはたしてあるだろうか?

「な、何やってんの、七実ちゃん――」

しかし、誰の目から見ても明らかだろう。
その行為が、球磨川の意に沿わないものであることくらいは。

466球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:58:53 ID:fWV1lgbY0
 
「落ち着いて聞いてください、禊さん」

そっと球磨川の肩に手を置き、優しくささやきかける。
安心させるように。

「わたしはあなたの刀であり所有物です。あなたが命じるならば、わたしは何をおいてもその通りに動く心構えではあります。
 しかし、わたしの意思、わたしの判断というのもまた、わたしの中には存在します。あなたの指示を最適の形で成し遂げるために、それは必要なものですから。
 失礼ですが、今の禊さんは少々混乱しているようです。その状態では正しい判断ができないものと見なしましたゆえ、差し出がましい真似とは知りつつ、今回はわたしの独断において行動を決めさせていただきました」

不備があったら申し訳ございません――と頭を下げる七実。
球磨川からすれば不備どころの話ではないのだが。

「禊さんには言うまでもないことかもしれませんが、この『大嘘憑き』、すべてにおいて無限に使用できるというわけではないようですね。
 何でもなかったことにできるわけではないし、こと“生命”を対象に取る場合、ある種の条件下でなければ使用することができない。
 その条件のひとつが、『一定の回数しか使用することができない』であると推察しますが、いかがでしょうか」

球磨川は答えない。
七実はそれに構わず続ける。

「断言は致しかねますが、禊さんから見取った能力である以上、わたしの『大嘘憑き』にも同等の制限がかけられているはず。
 つまりわたしも、一定の回数しか“死をなかったことにする”ことはできないのです。
 ですから、禊さん。
 この能力は、あなたが死んだ時にこそ使われるべきでしょう。
 あなたの死をなかったことにする。これこそを最優先の使い道とすべき。
 そのためには、無駄遣いなどもってのほか。
 そんなもののために、貴重な残り回数を浪費するわけにはまいりません。禊さんの命をお守りするために、これは必要な選択なのですよ」

きっぱりと、七実は言い切った。
黒神めだかの存在を、「そんなもの」と。
球磨川の懇願を、「無駄遣い」と。
七実はいかにもあっさりと、めだかの死体を“なかったこと”にしてみせたが、それは七実にだからこそできたことかもしれない。
生きた人間ですら、雑草と呼ぶ七実にとっては。
『すでに引き抜かれた雑草』など、生きている人間の血や肉片にすら劣るだろうから。

「……僕の話を聞いてなかったのかい、七実ちゃん」

球磨川の顔に浮かんでいるのは、もはや困惑の表情ではなかった。
明確な怒気。それのみが七実に向けられる。

「めだかちゃんに勝つことをまだ諦めないって、きみには言っておいたはずだ。何度でも、何度負けても、僕はめだかちゃんに勝つまで挑戦し続けるつもりでいたんだ。それなのに――」
「勝負ならもうついているではないですか」

怒気をぶつけられても、七実は一切ぶれない。

「奇しくも七花が言っていたことですが、ここは決闘場などではなく戦場です。いくさの場において、負けとは降伏であり逃走であり、そして死です。
 生き残った者が勝者であり、死んだ者が敗者と呼ばれる。それがいくさであり、戦場です。
 過程はどうあれ、禊さんは生き残り、黒神めだかは死にました。誰が何と言おうと、禊さんの勝ちは揺るぎないものです」

淡々と、当然のことを言って聞かせるように七実は話す。
おそらく七実は、自分が球磨川のためにとるべき行動をとっているだけだと、本心からそう思っていることだろう。
近しい者の死に取り乱す主に代わって、冷静な立場から意見を述べているだけだと考えているに違いない。
だから、気づいていない。
自分が今、いかに感情的な、自分にとって都合のいいように歪曲された考え方を持って行動しているのか、七実は気づいていない。

467球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:59:23 ID:fWV1lgbY0
七実が指摘した『大嘘憑き』の回数制限については、言われるまでもなく球磨川も理解している。蘇らせる相手を選ぶべきという考えも、当然持っているはずだ。
そのうえで球磨川は、めだかを生き返らせようとした。七実に『大嘘憑き』を使わせてまで。
そんな黒神めだかに、七実はどんな感情を抱いただろうか。
七実よりもずっと、はるかに長い時間を球磨川と共有しているであろう黒神めだかに。
刀としてではなく、球磨川に惚れたひとりの人間として。
嫉妬? そうかもしれない。
羨望? それもあるだろう。
実際、七実は自分がめだかに嫉妬していることを自覚していた。球磨川が、めだかに対しての信頼を含んだ言葉を吐いたときに。
しかしそれは、本当にただの嫉妬だったのだろうか? 「少しだけの嫉妬」などという、ありきたりな感情で済んでいたのだろうか?
仮に、である。
七実がめだかに対して、自身でも気づかないうちに、嫉妬よりも深い負の感情を溜め続けていたのだとしたら?
球磨川が幾度となく特別な感情をのぞかせる黒神めだかに、羨望とはまるで別の思いを募らせていたのだとしたら?
あくまで仮説でしかない。ただそう考えると、七花がめだかに不意討ちを仕掛けた理由について、少し違った見方ができる。
七花は自分が凶行に走った理由のひとつを、球磨川と七実の闘争心にあると解釈した。『却本作り』を通じて流れ込んできた、めだかに対する二人の闘争心に同調したためだと。
その解釈はおそらく正しい。
ただ少なくとも、球磨川のほうにはめだかに対する闘争心こそあれど「殺意」までは持っていなかっただろう。肉を切らずに心を折るのが、球磨川一流の戦い方なのだから。
もしあのときの七花に、殺意が原動力としてあったのだとしたら。
『却本作り』を通じて寄越された黒神めだかに対する殺意。それがあの不意討ちを成功させたのだとしたら。
その殺意の出どころは、七実でしかありえまい。

「勝負は結果が全てです。他人の介入をもって漁夫の利を得る、これこそわたしたちにふさわしい『むなしい勝利』ではありませんか。禊さんの勝利、この目で確と見届けました」

すらすらと、微笑みすら浮かべて七実は語る。
まるで彼女らしくないことを、いけしゃあしゃあと。

「…………違う」
「今のあなたはもう敗北者などではありません。歴とした勝利者です。それをどうか御自覚なさってください」
「違う」
「あなたの悲願である黒神めだかとの勝負に立ち会うことができたことを、わたしも光栄に思います。おめでとうございます、禊さん」
「七実ちゃん」

す、と。
まるで波が引くように、球磨川の顔からすべての感情が消える。

「きみにはとても感謝しているよ。僕を生き返らせてくれたこともそうだけど、僕みたいなやつを好きになってくれたことや、僕の過負荷(マイナス)まで扱えるくらい一緒に駄目になってくれたことについては、本当に嬉しく思う。欣喜雀躍の思いだよ」
「そう言っていただけると、私も嬉しいです」
「でも僕には、めだかちゃんのほうが大事だ」

遠くを見つめる球磨川の瞳に、七実の姿は端も映っていない。
いや、もはや何も映していないのかもしれない。

「僕と敵対してくれるめだかちゃんが、どんなときでも僕の挑戦を受けてくれるめだかちゃんが、何があろうと駄目になんてならないめだかちゃんが、大嫌いで、大好きだった。
 きみなんかよりも、ずっとずっと大切な僕の宿敵だった」
「…………」
「僕はもう、めだかちゃんに勝つことはできない。ちゃんと勝つことも、ちゃんと負けることもできない。引き分けでも痛み分けですらもない、永遠に未定のままだ」

勝ちたかったなあ、と。
呆けた顔で、空虚に向けて球磨川は吐き捨てる。
自分の能力ゆえに誰よりも理解しているのだろう。黒神めだかの存在が、もはや取り返しのつかないものだということを。

「きみにはわからないだろうね、七実ちゃん。一番勝ちたかった相手に勝てないっていう気持ちは。勝つ機会を、永遠に奪われるっていう気分は」

468球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:59:50 ID:fWV1lgbY0
「…………」

実際、七実にはわからないだろう。圧倒的な弱さを持つ球磨川と、例外的な強さを持つ七実とでは、勝負の捉え方がまるで違う。
球磨川にとって、敗北とは日常の一部でしかないのかもしれない。負けを、失敗を前提にしてしか勝負に挑めない球磨川のマイナス思考は、常に勝ちを遠ざける。
めだかとの勝負にしても、それは変わらなかったはずだ。勝ちたいという意思はあれど、それは負けることを前提とした意思。「負けを糧にしていつかは勝つ」という、遠回りの敗北宣言に近い。
だが、このバトルロワイアルという舞台の中で球磨川はめだかに負けることすらできなかった。
『却本作り』を取り戻したうえで勝負に臨んだ球磨川だ――それで負けたところで、それをひとつの結果として受け入れることはできただろう。
最悪なのは、勝つ機会も負ける機会も球磨川には与えられていたということだ。めだかと対面し、戦いを挑み、めだかもそれに応えた。一度は勝負がつきそうな場面さえあった。
にもかかわらず、邪魔された。
戦場ヶ原ひたぎに水を差され。
鑢七花に割って入られ。
果ては仲間である鑢七実にさえ、横車を押すような真似をされた。
その怒りと絶望は、いったいどれほどのものだろう。

「きみの気持ちはとても嬉しい、だけど――」

と。
七実が脇に置いていたはずのデイパックが、いつの間にか球磨川の手に移動している。
そこから取り出されたのは、一丁のクロスボウだった。元は匂宮出夢の支給品だったものと思しき、独特のシルエットを持つ射出武器。
その銃口を、球磨川はゆるやかに七実の胸元へと向け、

「きみなんか嫌いだよ、七実ちゃん」

そのままあっさりと、引き金を引いた。
ざくり、と肉を穿つ音。放たれた矢は七実の胸の真ん中、ちょうど悪刀・鐚がかつて突き刺さっていたあたりへと命中する。一拍遅れて噴き出した血が、着物を瞬く間に赤く染め上げた。
『却本作り』とは違う、物理的な殺傷能力を持つクロスボウの矢。
その一撃を喰らって、七実は――


「――禊さんは、めだかさんが死んだことが悲しいのですね」


笑っていた。
否定され、拒絶され、身体を射抜かれてなお、その微笑は毫ほども揺るがなかった。
まるでそれが、誇らしいことであるかのように。

「その悲しみは痛いほどわかります。わたしも、あなたが死んだときはとても悲しかった。二度とあなたが生き返らないとわかった時は、身を裂かれる思いでした」

七実はそっと球磨川の頭に手を回し、自分の胸元へと抱き寄せる。矢が突き刺さったままの胸元に。

「本当は、ちゃんとわかっていました。あなたが望んでいるのが『むなしい勝利』などではないことを。あなたの友情が、ぬるくなんてないことを」

何度でも戦って、何度でも負けて。
それでも決して諦めない。
それがあなたですものね。

「私が嫌いだというならそれで構いません。殺したいほど憎いというなら、その憎しみも謹んでお受けいたします。ですがその前に、あなたの悲しみを癒すお手伝いをさせてください」

その囁きを、球磨川は硬直したまま聞いている。
球磨川としては、まさか七実が避けないとは思っていなかったのだろう。七実への拒絶を示すため、あえて避けなければ死ぬような攻撃を仕掛けて見せたのだろうが、認識が違っていた。
七実の刀としての覚悟を、球磨川への想いの深さと重さを、読み違えていた。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

言い聞かせるように七実は言う。球磨川と、おそらくは自分自身にも。


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