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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

145 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:11:12 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】バリアジャケット、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ、装甲車に乗車中
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、装甲車@アンリミテッド・エンドライン
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.まず目の前でふらついている奴を轢き殺す。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

146 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:11:48 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


スバルはヴァッシュからの突然の攻撃に驚いていた。
放送の途中で繰り出された白刃による斬撃は驚くべきものだったが、スバルが驚いた原因は別にあった。
一瞬前まで居た場所に刻まれた斬撃の痕。
普通ではありえないほど綺麗に刻まれた傷痕にスバルは見覚えがあった。
ここに来るまでの林で同じような切り口で切られた木が数本――。

――そしてルルーシュの右腕にも同じような傷痕が残されていた。

「ヴァッシュさん、あなたがルルーシュの右腕を……」

あの傷さえなければルルーシュが絶望する事もなかった。
あの傷さえなければルルーシュが死ぬ事もなかった。
そんな想いが沸々とスバルの内に湧き上がってくる。
確かルルーシュを襲った人物は金髪で右腕が腐った男だったはず。
一見すると右腕が腐っていない目の前の人物ではない気がするが、その前提は確実ではない。
実際最初に出会った赤コートの化け物のように再生能力を持っているかもしれない。
それに何よりその刃での特徴的な傷痕を残しているのが疑いようもない証拠だ。

「あなたのせいで!!!!!」

スバルは知らない。
実際にルルーシュを襲ったのはヴァッシュと融合したナイブズである事を。
そのヴァッシュが幻を見る程に精神が不安定になったせいで突発的な暴走状態にある事を。
先程の刃が幻覚からくる本能的な自己防衛行動である事を。

今までヴァッシュの暴走状態が止まっているのは左腕つまりナイブズと向き合ったからだ。
だが同じプラント同士とはいえその左腕は元からヴァッシュの物ではない。
だから最初のうちは暴走していたのだ。
そして今ヴァッシュが精神的に不安定になった事で左腕が再び暴走しかけようとしている。
もちろんある程度精神が安定して落ち着く事ができれば今の暴走も止まるだろう。

だが果たしてそれまでホテルが無事であるか確証は持てない。

147 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:12:20 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、質量兵器に対する不安、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容は[[せめて哀しみとともに]]参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.あなたのせいでルルーシュは!!!
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.かがみを止める。
 7.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 8.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割、、精神不安定(大)、一時的な暴走状態?
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 0.新庄君が……死んだ……。
 1.かがみを守りつつ殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。

148 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:14:12 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


柊つかさの死。
それは泉こなたにとって大きな衝撃となった。
だがこなたもここが殺し合いの場であり、親友が殺し合いに乗る事まで覚悟した身だ。
当然自分の知らない間に死んでしまう可能性も考えて、覚悟はしていた。

だがこなたは幸運であり、不幸であった。

大した力も知識もない女子高校生が並み居る猛者が死んでいく中で生き残っていた。
だから心の底で淡い希望を抱いてしまった。

『もしかしてこのまま生きて再会できるんじゃないか』

かがみは殺し合いに乗ってしまったが、裏を返せばそれだけの力が手に入ったという事は逆に自分の身を守れる事でもある。
つかさにしても保護者がいなくなっても6時間生き延びたのだから大丈夫なのではないかと思った。

だがそんな幻想は呆気なく砕かれてしまった。

そしてこなたはまだ誰かの死、さらに誰かの死体さえ見ていなかった。
駅の時でさえスバルの配慮によってスバルがクロスミラージュを持って出てくるまで待っていた。
確かに心の中では覚悟はしていた。
だが思うだけでは実際に物事に直面した時には足りなかったのかもしれない。

だからこそこなたは前に進むと決めた足を止めてしまった。

「う、そ、つ、つかさ……」

そして、再び歩み出すその足の先にある答えとは――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ付近】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、つかさの死に対する強いショック
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ(疲労小)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.つかさがしんじゃった――。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています(特にアーカードには二度と会いたくないと思っています)。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 2.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。

149 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:14:46 ID:EoGhWHlU0


【チーム:黒の騎士団】
【共通思考】
 基本:このゲームから脱出する。
 1.首輪解除の手段とハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。
 2.首輪を機動六課、地上本部、スカリエッティのアジト等で解析する。
 3.それぞれの仲間と合流する。
 4.ゆりかごの起動を阻止しヴィヴィオを救出する。
【備考】
※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。また異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付いています。
※デュエルモンスターズのカードが武器として扱える事に気付きました。
※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は[[守りたいもの]]本文参照。
※「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
※チーム内で、以下の共通見解が生まれました。
 要救助者:万丈目、明日香、つかさ、ヴィヴィオ/(万丈目は注意の必要あり)
 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ユーノ、クアットロ、アンジール、ルーテシア、C.C./(フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、クアットロ、アンジール、ルーテシアには注意の必要あり)
 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ)、炎の巨人を操る参加者(=ルーテシアorキャロ?)、ヴァッシュ、かがみ、半裸の男(=エネル)、浅倉
 判断保留:キング、天道、スーツの男(=矢車)
 以上の見解がそれぞれの名簿(スバル、こなた)に各々が分かるような形で書き込まれています。
※アニメイトを襲いヴィヴィオを浚った人物がゆりかごを起動させようとしていると考えています。


     ▼     ▼     ▼


ところでいくら新庄がヴァッシュにとって特別な存在になっていたとしても果たしてここまでの衝撃を受けるものだろうか。
だが実際こうしてヴァッシュは新庄の死に少なくない衝撃を受けている。
この会場内で起きた様々な事例を加味すれば、それも無理からぬ事かもしれない。
もしくは始を苦しめるジョーカー化への欲求の増大や普通なら凶行に及ぶはずもない参加者が手を血に染めてしまう事と何か関係があるのだろうか。
または金居の予想が正しいのか。
やはりプレシアの仕掛けた細工か、あるいは――。

150 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:15:53 ID:EoGhWHlU0
投下終了です、タイトルは「」突っ走る女」です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

151リリカル名無しA's:2010/05/14(金) 10:01:12 ID:g6jzJLBs0
投下乙、ホテルオワタ
おかしい……絶対、かがみん無双orジョーカー暴走orヴァッシュ暴走orこなたマーダー化orスバこなリイン退場orかがみん総取りになると思ったのに……普通の繋ぎじゃないか……
とりあえず、原作的に正しい反応だけどスバル落ち着け。ヴァッシュの髪の色は殆ど黒だぞ、一番の悪人はかがみで冷静にならないとこなたを失いかねないぞ。
まぁ、そのかがみは始をひき殺す……わけないよなぁ、変身可能になっているから変身出来るし、変身出来なくても対処されそうだし……ジョーカー暴走で終わりそうな気もするが。

あと、内容とは別に気になる事があるんですが、
仮投下後、氏のコメントがあってから本投下まで6日と少々時間が掛かりすぎだと思うのですが。
勿論、仮投下後の本投下や本投下後の修正の期限に関してはルールで決められていないので無制限という事で問題は一応ありません。
只、正直な所実質1週間という大幅な予約超過と変わらないんですよね。
勿論、ホテルパートは全員予約以外の予約が無く、ここの人達としても待つ分には一向に構わないと思います。
ただ、それはあくまで待つ側の話であって、投下する側がそれに甘え本投下までコメントも無しに大幅に遅れて良い話にはならないのではと思います。
氏にも都合があるでしょうから、遅れる事自体は仕方はありません。しかしそれならせめて『諸事情で2,3日遅れます』というコメント入れるなり、『修正に手間取るので一旦破棄します』とするなりやりようは幾らでもあったと思います。

したらばやwiki管理、多くのSS投下と氏が貢献しているのは理解出来ますが、だからといって根本的な期限のルールもしくはマナーを破っても構わないという話にはなりません。むしろ管理する側だからこそ守るべきではないのでしょうか?
以前にも誰かが指摘した事とは思いますが、今一度その事について考えてください。

152リリカル名無しA's:2010/05/14(金) 13:28:52 ID:I.fSqMX20
投下乙です

確かにスバルは原作通りだがそれは破滅フラグだぞ
そしてこういう時にこなたが危ない…
ああ、誰か助けて

それと俺はあまりぐだぐだ言わないが確かに連絡の一つぐらい欲しかったな
遅れる事自体は仕方ないけど

153 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 21:43:58 ID:EoGhWHlU0
>>151-152
確かに連絡の一つもしなかったのは自分の落ち度です
このたびは皆さんに迷惑を掛けてしまいどうも申し訳ありませんでした
この忠告は真摯に受け止め、執筆環境を見直し、同じようなことをしないように努力します

あとタイトルが微妙に間違っていました
正しくは「突っ走る女」です

154少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

155リリカル名無しA's:2010/05/19(水) 17:07:28 ID:.b90kewQ0
>>154
そう考えるならこの企画はあなたには合わないね
もうここに来ないことをお勧めするよ
それが双方にとって一番

156少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

157 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:50:33 ID:XV1/QtKY0
スバル・ナカジマ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、相川始、ヴィヴィオ分を投下します

158きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:52:05 ID:XV1/QtKY0
 どん、と響いた衝撃音が、始の鼓膜へと突き刺さる。
 ちら、と視線のみを向ければ、馬鹿でかい装甲車のタイヤが空回りしている。
 おおよその目測だが、速度は時速80キロほどであっただろうか。
 人の姿では、直撃を食らっていたなら一発でアウトだっただろうし、あれが堅牢な装甲車でなければ、乗り手も死んでいたかもしれない。
 そう。
 相川始は、強襲する装甲車の突撃を、食らわなかった。
 咄嗟の判断だった。
 一瞬回避が遅れていたなら、まず間違いなく食らっていたと断言できた。
 そのシビアなタイミングを掴むことができたのは、ひとえに前面に灯っていたもの――ヘッドライトのおかげと言えるだろう。
 踏むものもない舗装された道路を走っていた車だ。
 音だけでなく光すらも無く走っていたなら、最期まで気付けなかったのは間違いない。
「!」
 ぶぉん、とエンジンが唸りを上げた。
 標的を外し、勢い余って森の木々にぶち当たった装甲車が、轟音と共にバックする。
 その勢いで車体が反転し、勢い余って回りすぎたところを、戻す。
 もたついた動作は、運転免許を持たない素人のものか。
 マニュアル通りの運転をしているのなら、相手に居場所を伝えてしまうライトをつけっぱなしにしていたのも頷けた。
「変身!」
 一度目はまぐれであっても、二度目はない。
 人間と自動車とではスピード差がありすぎる。このままの姿では、次の突撃は回避できまい。
 故にほぼ反射的な動作で、カリスラウザーへとカードを通した。
『CHANGE』
 低い合成音声と共に、相川始の姿が一変。
 ヒューマンアンデッドの姿から、マンティスアンデッドを彷彿とさせる鎧姿へと変わる。
 漆黒のオーラを振り撒き現れたのは、黒金と緋々色金の戦士――ハートの仮面ライダー・カリス。
 瞬間、ぶおぉ、と吼えるエンジン。
 巨大な鉄の塊が、戦闘態勢へと移行。
 雄叫びと共に加速する体躯が、偽りの仮面の戦士へと殺到する。
「っ……!」
 これを飛び退り、回避する。
 仮面ライダーカリスの最大走力は、およそ時速75キロ。
 純粋な速さ比べならともかく、瞬発力では十二分に対処可能。
 相手もコツを掴んできたのだろう。避けられたのを理解した瞬間にブレーキをかけ、木との衝突だけは防いだ。
 とはいえ、乗り物を運転する上で、急ブレーキが悪手であることは言うまでもない。
 その理解も曖昧なうちは、素人と言って差し支えない。
(それなら、逃げ切れる)
 くるりと踵を返し、疾走。
 アスファルトの道路から飛び出し、手頃な獣道へと突っ込む。
 実のところ、始には交戦する気などなかった。
 理由は第三回放送の直後、すぐに浅倉威と戦わなかった時のそれと同様。
 ジョーカーの欲求と人の情――2つの感情に心を掻き乱されている現状では、とてもまともな状況判断などできない。
 故に無理に戦闘して下手を打つよりも、この場は最初から戦わないことを選んだのだ。
 刹那、背後から迫りくる鋼の咆哮。
 金属の光を放つ猛獣が、ばきばきと枝葉をへし折って肉迫する。
 道が開けているうちは駄目だ。装甲車のパワーとタフネスなら、それくらいの障害はこじ開けられる。
 ばっ、と。
 横跳びで獣道を外れ、茂みの中へと飛び込んだ。
 そのまま木々の密集したところを狙い、幹の合間を縫うように走る。
 これなら装甲車でも追うことはできない。相手が並の人間なら、このままやり過ごすこともできる。
「ちょこまか逃げるんじゃないわよッ!」
 相手が並の人間なら、の話だが。
 少女の金切り声が響いた。
 そのヒステリックな叫びには、覚えがあった。
 つかさなる少女から「お姉ちゃん」と呼ばれていた双子の姉――名前こそ知らないが、過去に2度顔を合わせた娘だ。
 よもやこんなにも短いスパンで、3回も顔を合わせることになるとは思わなかった。
『HENSHIN――CHANGE KICK HOPPER』
 次いで聞こえてきた機械音声は、自分達仮面ライダーのそれを想起させるもの。
 浅倉が変身した紫のライダーのような、自分の知らないライダーへの変身手段を手に入れたのだろう。
 これで機動力は互角となった。
 だが、それでもまだ始の方が有利だ。
 走るスピードが同じなら、互いの距離は詰められない。その隙に、相手に見つからないよう身を隠してしまえばいい。

159きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:53:17 ID:XV1/QtKY0
『CLOCK UP』
 その、はずだった。
「ぐぅあっ!?」
 刹那、襲いかかる鈍痛。
 腹部目掛けて放たれた衝撃と痛覚が、カリスの鎧姿を吹っ飛ばす。
 宙を舞いかけた漆黒の身体が、どん、と木の幹に当たって停止した。
 何だ、今のは。
 未だ抜けきらぬ混乱の中で思考する。
 自分と相手の間の距離は、相手が車から降りるまでに、100メートル近く開いていたはずだ。
 だというのに、攻撃が届いた。発射音が全く聞こえなかったことから、射撃攻撃でないことは分かる。
 ならば一体何をどうやった。射撃でないなら、どうやって攻撃を当てたというのだ。
「――ぉぉぉおおりゃああああああああああっ!」
 びゅぅん。
 がきぃん。
 瞬間、奇妙な情景を見聞きした。
 目の前に立っていた緑色の鎧。
 掛け声か何かのような雄叫び。
 猛スピードで空気を切り裂く音。
 カリスの鎧を叩いた金属音。
 それら4つの映像と音声が、ほとんど同時に再生されたのだ。
 関連性が、見当たらない。
 静かに佇んでいる目の前の敵と、猛然と走り追撃を仕掛けた音声とのイメージが結びつかない。
(音速を超えて動けるのか、こいつは)
 導き出された答えはただ一つ。
 敵の追撃とここまでへの到達が、追撃により発生した音を置き去りにしたということだ。
 音より速く動けるのなら、掛け声より速く手が出たのも納得がいく。
「ったく……手間、かけさせんじゃないわよ。これ、結構、疲れるんだから……」
 鎧の奥から響くのは、やはりあのツインテールの少女の声。
 改めて相川始は、眼前の仮面ライダー――キックホッパーの姿を見定めた。
 ホッパーの名前が指す通り、全体的にバッタの雰囲気を色濃く宿したライダーだ。
 身体は宵闇の中でもはっきりと伝わってくるほどの、鮮やかに輝く緑色に包まれている。
 顔面を覆うマスクなどは、そのものズバリでバッタのそれだった。
 片足に装備された金色のパーツは、これまた名前通り、キック力を増幅させるためのサポーターだろうか。
「どうやらその高速移動も、そう何発も使えるものじゃないらしいな」
 立ち上がり、態勢を立て直し、呟く。
 半ば息を切らした声からも、あれの体力消耗が大きいというのは確かなのだろう。
 ずっとあのままではたまったものではなかったが、短時間しか使えないのなら、どうにかなる。
「関係ないでしょ。どうせアンタ、ここで死刑確定なんだから」
 言いながら、緑のライダーが構えを取った。
「そうか」
 始もまた、それに応じる。
 できることなら雑念が消えるまで、戦うことなくやり過ごしたかったが、この距離ではそうも行かないだろう。
 逃げるにしても倒すにしても、確実に反撃を要求される間合いだ。
「分かったらとっとと……死ねぇぇぇっ!」
「はあぁっ!」
 緑と黒が同時に吼える。
 赤い瞳同士が肉迫する。
 加速し、振りかぶられるキックホッパーの足。
 踏み込み、突き出されるカリスの腕。
 もはや何度目とも知れぬ、仮面ライダー同士の一騎討ちが始まった瞬間だった。



 見る者が見れば、明らかに異常と分かる切り口だった。
 なればこそスバル・ナカジマは、目の前の男を犯人だと断定した。
 いくら鉄には劣るとはいえ、人間の骨は相当に頑強で強靭だ。
 いかな豪剣を持っていたとしても、よほどの達人でもない限りは、完全に平坦な切り口を作ることはかなわない。
 にもかかわらず、止血の際に垣間見た、ルルーシュ・ランペルージの傷跡は、怖ろしいほどに真っ平らだった。
 そしてここに至るまでに見た木々や、あの男が切り裂いた柱も、同じように真っ平らだった。
 故にスバル・ナカジマは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを犯人と断定した。

160きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:53:59 ID:XV1/QtKY0
「オオオオォォォォォォォッ!!」
 怒号を上げる。
 拳を振りかざす。
 獣のごとく獰猛な叫びと、獣のごとく荒々しい動作で。
 獣のごとき金色の瞳を、爛々と憎悪に煌めかせながら、勢いよく床を蹴って飛びかかる。
 びゅん、と反撃に出るのは無数の尖翼。
 袖のない左腕から迫りくる、糸のごとき白刃の雨だ。
 ぐわん、と腕を振るい、薙ぎ払った。
 両足で地面を突いて逆立ちとなり、駒のごとく両足を回した。
 ジェットエッジのスピナーが唸りを上げる。咆哮と共に旋風を成し、迫る凶刃を引きちぎる。
 かつてナイブズだったもの――ヴァッシュの左腕から伸びる尖翼の速度は、これまでに比べると明らかに遅い。
 知覚不可能な速度で放たれていたはずの斬撃が、今ではご覧の有り様だ。
 それは宿主たるガンマンの意志が、かつてほどこの左腕に毒されていないためなのだろう。
 そしてその程度の攻撃では、彼女を死に至らしめることなどできはしない。
「うああぁぁぁぁッ!!」
 今のスバル・ナカジマは全開だ。
 戦闘機人モードを解放し、IS・振動破砕を発動させ、怒りのままに四肢を振るっている。
 情けも容赦も残されていない。
 常人なら即死確定の技を使用することへの躊躇いなど、その目には一片も宿されていない。
 腕を振り、足を振り、轟然と咆哮し立ち回る姿は、まさに金眼の野獣そのもの。
 かつて地上本部攻防戦で、姉ギンガを傷つけられた時以来の、憤怒と憎悪に狂った阿修羅の形相だ。
「どぉぉぉぉぉけえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」
 目の前に立ち並ぶ刃の壁を、両手で強引にこじ開ける。
 超振動の五指が触れた先から、刃を粉々に砕いていく。
 目の前の男が殺したわけではなかった。
 黒髪の少年を死に追いやったのは、猛烈な炎を伴う攻撃だ。
 それでも、この男に負わされた手傷さえなければ、あの場から脱出することもできたはずなのだ。
「アンタ、は……!」
 ブリタニアの少年――ルルーシュの顔が脳裏に浮かぶ。
 この身をきつく抱き締めた、隻腕の感触を覚えている。
 不思議な少年だった。
 あれほどまでにストレートに、誰かに縋られたのは初めてだった。
 それほどに救いを求められたことは、生まれてこの方経験したこともなかった。
 彼の世界にいた自分のことを、それ相応に大切に思っていてくれたのかもしれない。
 ひょっとしたら、好きでいてくれたのかもしれない。
 その好意に応えることは、残念ながらできそうにない。会ってすぐの男になびくほど、自分は軽い女ではないらしい。
 それでも、あの今にもへし折れてしまいそうな背中を、支えてあげたいとは思っていた。
 こうして怒りに狂った獣へと化生するほどには、救いたいと思っていた――!
「アンタだけはああぁぁぁぁァァァァァ―――ッ!!」
 遂にスバルは絶叫した。
 怒号と共に繰り出された一撃は、遂にその防御の全てを打ち砕いた。
 生温かい吐息が漏れる。
 ぎらぎらと豹眼を輝かせる。
 百獣の軍勢のごとき威容と異様を孕み、殺意の魔獣がヴァッシュを睨む。
「く……」
 微かな呻きが、聞こえた気がした。
 目と鼻の先まで迫ったガンマンの顔は、確かに意識を失っているようにも見えた。
 しかしそれらの情報は、瞬きの後にはシャットアウトされる。
 獣が狙うは食らうべき獲物。
 すぐに叩き潰すだけの相手のことなど、いちいち気に留める必要はない。
 迷いなき敵対意識に従い。
 極大の憤怒と憎悪と共に。
 轟転するスピナーの右足を振り上げ、踵落としの姿勢を取る。
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが目を見開いたのは、ちょうどそれが振り下ろされた瞬間だった。

161きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:54:37 ID:XV1/QtKY0


 奇妙な夢を見ていた。
 否、眠っているのとは違うのだから、夢というよりは幻だろうか。
 ともかくもその幻の中では、彼は真っ暗な闇の中で、1人ぽつんと立っていた。
 上も、下も、右も、左も。
 その他ありとあらゆる方向を、どこまで遠くまで見渡しても、黒い闇しか見当たらない世界。
 地平線さえ塗り潰された、真っ黒くろの世界の中で、彼だけが、たった1人。

 そんな闇の中で立ちふさがったのが、今は亡きミリオンズ・ナイブズだった。
 彼が自らを取り巻く闇の幻に気付いたのも、ちょうどその瞬間だった。
 気付いた瞬間には既に、そこは1人ぼっちの世界ではなかった。
 ナイブズに連れ添うようにして、いくつもの顔が浮かんでくる。
 消してしまったジュライの人々。
 この戦いの中で救えなかった人々。
 自らの手で殺してしまった人。
 それらが彼をずらりと取り囲んで、一様に何かを訴えるような目を向けている。
 その目を見続けていることが耐えられなくて、彼はうつむき、視線を逸らした。

 それからどれほど経っただろうか。
 ふと、妙な気配が彼の身に降りかかった。
 己を見下ろす視線の中に、1つ覚えのあるものの存在を、肌で感じ取ったのだ。
 どこか懐かしいような、それでいて暖かいような感触。
 ふっと顔を上げてみると、人ごみの中に、その顔がある。
 長い黒髪を持った女性は、かつて彼を育てた母だった。
 レム・セイブレム――その名を呼びかけた彼だったが、その声は途中で遮られてしまう。
 彼女に伸ばそうとした手が、目に見えぬ何かに阻まれてしまったからだ。
 面食らったような顔をした彼は、その謎の違和感の正体を探る。
 それは人ごみと己とを隔てる、透明な壁のようなものだった。
 壁の向こうに立っているレムは、ただ穏やかな笑みを浮かべるだけで、彼に何も応えてくれない。
 一番手前にいたナイブズも、何も言葉にすることなく、ひたすらに沈黙を貫いていた。
 ああ、そういうことか、と彼は気づいた。
 自分の目の前に立ちはだかる壁は、死者と生者を分かつ壁だったのだ。
 後ろを振り返ってみれば、なるほど確かに、生きている知り合いは、皆壁とは反対の方向に立っていた。
 生と死の狭間の向こうには、手を伸ばそうにも届かない。
 生と死の狭間の向こうからは、相手の声を聞くこともできない。
 死んだものは、戻ってこない。
 自分はこれまで犠牲にした人々を、そんなところに送ってしまったんだな、と。
 彼は改めて実感し、それきり口を開かなくなった。

 それからまた、しばらく経って。
 いつしか壁の向こうの死者も、生者すらも見えなくなって。
 再び真っ暗闇の中で、赤いコートがたった1人。
 多少は落ち着いたのだろうか。瞳は下を向いてはおらず、ある一点を見つめていた。
 それは生死の壁の反対側。少し前まで、生きていた者達が立っていた場所。
 死者の世界を過去とするなら、未来に続いているであろう方角。
 しかし、そこから先が伴わない。
 ただじっとその先を見ているだけで、立ちあがって進むことができない。
 柄にもなく、怯えているのか。
 何が待ち受けているのか――ろくでもない結末しか切り開けないのではと、怖れを抱いているというのか。
 らしくないぞ、と己を叱る。
 今さら何をブルついているんだ。
 アンジールに救われていながら、何故また同じことを繰り返しているんだ、と。

 ふと、その時。
 闇の世界に、光が差した。
 自分しかいなかった世界の中に、不意にいくつかの光が灯った。
 ふわふわと浮く光の玉だ。地球には確か、ホタルとかいう虫がいるらしいが、ちょうどそれが近いのかもしれない。
 彼の周囲に現れた光は、ふわふわと闇の中に浮かびながら、彼の視線の方へと流れていく。
 ちょうどそれは、立ち止まって動けない彼を、先へと促しているようにも見えた。
 つられるようにして、立ちあがる。
 きょろきょろと、周囲の光を見やる。
 何故だか、妙な既視感を覚える光だった。不思議と、不快に思うことはなかった。
 光に導かれるようにして、一歩踏み出す。
 自分でも驚くほどにあっさりと、あれほど頑なに止まっていた足を動かす。
 ブーツの片足が、ず、と闇を踏みしめた瞬間。

 彼は――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、唐突に覚醒した。

162きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:55:21 ID:XV1/QtKY0


(あ……)
 闇を抜けたかと思えば、今度は靄の中にいた。
 そう誤認するほどに、視界はぼんやりと霞んでいた。
 薄っすらと確認できる地形から、そこが元のホテル・アグスタだと分かる。
 朦朧としかけた意識の中で、状況を整理した結果、自分が気を失っていたことを自覚する。
 どれほど気絶していたのだろうか。
 その間に彼女は――スバルという少女はどうしたのだろうか。
「―――ぉぉぉけええ―――――――ぇぇぇ―――ッ――」
 と。
 鼓膜に突き刺さったのは、そんな怒声だ。
 意識に割り込んできた声を皮切りに、少しずつ感覚が鋭さを取り戻してくる。
 ほとんど色しか分からなかった視力も、物のシルエットを捉えられる程度には回復してきた。
 目の当たりにしたのは、戦いの構図。
 叫びを上げる青髪の少女が、絶叫と共に暴れまわる様だ。
 敵は人ではない。細く鋭く、徒党を組んで襲いかかるのは、刃を宿したナイブズの翼。
 どうやらまた、自分の左腕がやらかしたらしい。
 意識を失っていた間に、またしても暴走したようだった。
(おいこらヴァッシュ・ザ・スタンピード、寝てる場合じゃないぞ)
 だとしたら、大変な事態だ。
 ぐ、と身体に力を込めて、動かぬ五体を起こそうとした。
 目の前の命が潰えるより前に、左腕を抑え込もうとした。
「――タ、は…――」
 それでも、身体が応えてくれない。
 今までよりはマシとはいえ、やはり左腕の主張は激しく、無理やりにヴァッシュの制御をはねのけようとしてくる。
「―ンタだけはあ―――ぁぁァァァァ――――ッ――」
 負けてたまるか。
 屈してたまるか。
 こんな程度で挫けるのが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードであってたまるものか。
 同じ過ちは犯さない。
 かつてと同じように力に呑まれ、誰かの命を奪うなんて真似はしない。
 もう2度も繰り返したのだ。
 ジュライの悲劇を繰り返すものか。
 フェイトの死別を繰り返すものか。
 だから立て。あともう一歩だ。意識を取り戻すところまで来たんだぞ。
 もうあと一歩で届くはずなんだ。
 その一歩を踏み出すんだ。
 さぁ、行くぞ――ヴァッシュ・ザ・スタンピード!
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 くわ、と瞳を見開いた瞬間、絶叫と踵落としが襲いかかった。

163きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:56:50 ID:XV1/QtKY0
「〜〜〜〜〜っ!」
 咄嗟の判断で、腰を落とす。
 するりと滑り落ちるように、相手の股下を仰向けに抜ける。
 はらり、と前髪が散ったのが分かった。
 ぞわり、と首筋を悪寒が襲った。
 おまけに、危うく舌を噛み切るところだった。
 相手のスカートの中身は――OK、覚えてない。ということは見ていない。
 この状況で考えるのもアレだが、紳士として最低限の礼儀と自制は務め上げることができたらしい。
 なんて馬鹿なことを心配している場合じゃなかったことを思い出し、身を起こして姿勢を正す。
「こぉのおおぉぉぉぉぉっ!」
 すぐさま第二撃が襲いかかった。
 ぎゅるぎゅるとローラーブレードを回転させ、猛スピードでこちらへと加速。
 ぎゅん、と唸る鉄拳は、風か嵐か稲妻か。
 当然食らうわけにはいかない。
 故に、身をよじって回避する。
 そのまま勢いに身を任せ、ばっとその場から駆け出した。
 とにかくなるべく遠く離れることだ。ついでに障害物があるとなおいい。
 相手は近接戦特化型で、おまけに足も速いと来ている。接近戦を挑んでいては、命がいくらあっても足りない。
「OKOK、落ち着いたな……そのまま大人しくしといてくれよ」
 軽く抑えた左腕は、今はすっかり静かになっている。主導権を取り戻すことは成功したようだ。
 そうして確認をしているうちに、鉢植えを倒しソファを飛び越え、廊下に差しかかり、曲がり角にしゃがみ込む。
 中腰の姿勢を作ると、壁越しに相手の様子を窺った。
「逃げるなァッ!!」
 荒々しい語気と共に振りかぶられるのは、烈風のごとき打撃の応酬。
 立ちはだかる障害物を粉微塵に砕きながら、じりじりとにじり寄るスバルの姿だ。
 先ほどまで戦っていた相手とは、どうしても同一人物には思えない。
 怒り狂った態度もそうだが、攻撃の破壊力にしたってそうだ。
 ソファを一撃でぶち抜くのもどうかしてるし、よく見れば先ほどの踵落としを食らった床も、見事にクレーターを作っているではないか。
 ぱらぱらと粉塵の舞うロビーの中、まさしく目の前のスバル・ナカジマは、憤怒の炎を燃やす悪鬼羅刹だ。
(さて、どうする)
 考えていられる時間は残り僅かだ。
 その僅かのうちに決めなければならなかった。
 恐らく、もう拳銃の威嚇は当てにならない。アレを生身で組み伏せるのはどうやっても無理だ。
 故に当初のプランではなく、新たな対策を講じなければならなくなった。
 この場を殺さずに切り抜けるには、より強力な拘束力がいる。
 この肉体以上に強靭なもので、相手の動きを封じる必要がある。
(……試してみるか!)
 そして幸いにも、その条件を満たすものは、既に己が右腕に宿されていた。
 ぐ、と右手を前方に突き出す。
 エンジェル・アームの砲弾を撃ち出す時のように、腕の中に“力”をイメージする。
 脳裏に思い浮かべるのは、左腕に刻み込まれたナイブズの記憶だ。
 力尽き死体と成り果てるまでに、数多くの敵を切り裂いてきた、刃の尖翼のイメージだ。
 同じプラント自立種で、同じエンジェル・アームである。兄貴のナイブズにできたことが、弟の自分にできないはずがない。
 兄の発現させた怒りが、殺意の剣であるというのなら。
 人々を守るためのこの身には、外敵を阻む盾がほしい。
 鋭く禍々しい刃を突き立て、誰かを傷つけることのないように。
 されどあらゆる状況からでも、誰かを守れる強靭さと精密さを。
(もう、大丈夫だ)
 もちろん、不安がないわけではない。
 この身体に宿された力への恐怖は、依然として心に残されている。
 少しでも加減を間違えれば、また誰かを殺めてしまうのではないか。
 自分が使い方を誤れば、またフェイトや新庄のように、犠牲を生んでしまうのではないか。
 その心の乱れさえも引き金となって、再び暴走を招いてしまうのではないか、と。
 未だ胸に残された罪悪は、ちくりちくりと痛覚を訴えている。
 それでも。
 だとしても、止まれない。
 ここで立ち止まるわけにはいかない。
 新庄達の死を悼むつもりがあるのなら、それこそ前に進まなければならないのだ。
 自分が動くことで、死ぬかもしれない命もある。だがそれは、自分がそうならないように努めればいいだけのこと。
 それ以上に問題なのは、自分が動かなかったことで、救えた命を救えずに終わってしまうことだ。

164きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:57:48 ID:XV1/QtKY0
 もう大丈夫だ。
 二度と立ち止まることはしないし、立ち止まろうにも立ち止まれない。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの名が示すのは暴走。
 たとえ困難が立ちはだかろうと、どんなドタバタがつきまとおうとも、ひたすらに突っ走るのが己の性分。
 だから、進め。
 歩みを止めるな。誓った覚悟をより強く固めろ。
 そう。
「――迷うな!」
 今が、その時だ。
 刹那、右腕が眩い光を放つ。
 光輝の中より顕現するのは、いい加減顔を合わせるのにも慣れてきた、危険で過激な天使の翼。
 されど姿を現した力は、命を奪う大砲ではない。
 兄のもの同様細かく枝分かれし、されど柔らかな羽毛の形を成した、ヴァッシュ・ザ・スタンピードオリジナルの尖翼だ。
 ぎゅん、と唸って翼が羽ばたく。
 大気をぶち抜いて羽が舞い躍る。
 さながら雲の巣のように展開された翼の糸が、四方八方からスバルへと迫る。
「くっ……!」
 反射的に飛び退いても手遅れだ。
 本人の明確な意志のもとに、全力で展開された尖翼の速度は、先ほどまでのそれの比ではない。
 制限が外れれば、知覚することすらかなわなくなるほどのスピード。
 たった1枚きりであろうとも、幾百千の銃弾の雨にも耐えきる堅牢性。
 首輪による制限下において、その性能を大幅に落とされたとしても。
 不意を打たれたのであれば、未だ発展途上のスバル・ナカジマに、回避できる余地はない。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 ヴァッシュが吼える。
 人間台風が唸りを上げる。
 文字通り翼という名の風を操り、一個の台風となって絶叫する。
 持てる精神力と集中力の全てを注ぎ、無数の枝葉と化した尖翼を操作。
 さながら魚を捕えるイソギンチャクだ。
 360度全方位から伸びる純白の光輝が、標的の手を掴み、足を掴む。
 握り潰すほど強固ではなく、されど逃げられるほど軟弱ではなく。
「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。
 振動破砕を当てようにも、手も足も動かせないのでは意味がない。
 ISの効果が及ぶのは、両手両足の先端のみだ。
 故に逃れることもできず、スバルはただ拘束されるがままとなっていた。
 五体を余すことなく包み込む翼が、淡い白光を放って顔面を照らす。
 肌をなめるその光が、いつでも絞め殺すことはできるんだぞと言っているようで、ほんの少し腹が立った。
「さて、と……君にいくつか聞きたいことがあるんだ」
 眼下からヴァッシュの声が響く。
 うつ伏せの姿勢で縛られていたため、相手の顔は直接見下ろすことができた。
「まず1つ。君はどうしてそんなに怒ってるんだい? ひょっとして僕、何か気に障ることでもした?」
 最初の問いかけからして、それである。
 ほんの少しどころではなく、今度は本気で腹が立った。
 こんなにも怒りを覚えるのは、随分とご無沙汰ぶりのことだ。

165きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:59:15 ID:XV1/QtKY0
「今さら何を……! ルルーシュの腕を斬ったのはアンタなんでしょ!?」
 語気が荒くなる。
 わなわなと身体が小刻みに震える。
 普段では考えられないほどの、乱暴な語調が口を突く。
 黄金色の瞳が怒りを宿し、きっと男を睨みつけた。
 忘れたとは言わせない。
 お前が負わせた傷のせいで、あの少年は苦しむことになり、命まで落としたんだ。
 直接殺したとまではいかずとも、間接的に殺したと言っても過言ではないんだ。
「僕が……斬った?」
「マントを羽織った黒髪の男の子! アンタのせいで、ルルーシュは……!」
 その上、そうしてとぼけるのだ。
 もはや堪忍袋の緒はほつれにほつれ、ぷつんと切れる直前だった。
 許せない。
 断じて許すわけにはいかない。
 どうしてルルーシュが命を落として、こんな男が生き残っているんだ。
 もしも本当に忘れていたとでも言いだすなら、この拘束を解いてでも、その顔面に拳を浴びせてやる。
 ぶん殴って、引っぱたいて、蹴っ飛ばして、嫌というほど彼の痛みを――
「待った!」
 しかし。
 刹那、一喝。
 吐き捨てかけた言葉は、下方からの声に掻き消される。
 びくり、と肩が震えたのを感じた。
 正直な話、一瞬たじろがされた。
 一瞬前のとぼけたような態度とは違う、確固たる力のこもった声に。
 想像もつかないほど真剣な表情に宿された、あまりにも濃密な意志の気配に。
 有無を言わさぬ、とはまさにこのことか。あまりの迫力に、完全に言葉を失ってしまった。
「確かに、そういうことに心当たりがないわけでもない。実際に俺は、少なくとも1人、この手で人を殺しちまってる」
 す、と持ち上がるヴァッシュの左腕。
 左側だけ袖が破れているという、歪なコートから覗いた腕。
 無数の白刃を展開し、柱を切り裂き、スバルへと襲いかかった針の山だ。
「正直な話、他に何人か巻き込んでても……死なせちまってても不思議じゃないだろうさ」
 一瞬、男の瞳から力が失せる。
 確固たる意志に光っていた眼光へと、暗い弱気の影が差す。
 そこに込められた数多の感情――無念、後悔、そして自責か。
「でも、これだけははっきりと言える」
 ふぅ、と息を1つついた。
 次の瞬間には、顔つきをきっぱりと切り替えていた。
 陰りを振り払ったその視線は、先ほどまで見せていた、意志の炎を宿した瞳だ。
 そこまで認識したところで、いつしかスバルは、自分が彼の一挙手一投足までも、正確に追いかけていたことに気がついた。
 憎むべき敵のはずなのに。
 危険人物であるはずなのに。
 その姿に、少なからず魅入っている自分がいた。
「その子を斬ったのは俺じゃない。その子が斬られた瞬間を――俺は“視ている”」



 我ながら、らしくないとは思った。
 これではまるで言い訳を言っているようで、見苦しいにもほどがあるじゃないか。
 真剣な面持ちを浮かべながら、しかしヴァッシュは、その裏ではそう自嘲していた。
 それでも、その顔に表れた意志に偽りはない。
 スバルとの間に誤解があるのなら、何としても解いておきたかった。
 こうして言葉を交わしてみて、分かったことがある。
 剥き出しの怒りをぶつけられてみて、初めて理解できたことがある。
(この娘は、話せば分かってくれるかもしれない)
 頭上に浮かぶ娘は、柊かがみが言うほど悪い人間ではないということだ。

166きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:00:31 ID:XV1/QtKY0
 彼女はスバルについて、自分に襲いかかってきた、と説明していた。
 それが正しいというのなら、スバルは殺し合いに乗っているということになるだろう。
 だがここにきて、その仮定が信じられなくなってきた。
 この娘は仲間を傷つけた相手――他ならぬヴァッシュ自身をそうだと思っている――に対し、強烈な怒りをぶつけてきた。
 誰かのために怒れるということは、それだけ誰かを深く思いやれるということ。
 それほどの優しさと思いやりを持っていて、それをこの場でも貫いているような娘だ。
 そんなスバルが、殺し合いに乗ったり、かがみに襲いかかったりするとは、どうしても考えにくい。
 かがみを信じないというわけではない。ただ、スバルのことも信じたくなっただけのことだ。
「信じろっていうんですか、それを」
 それからどれほど経っただろうか。
 ややあって、返事が返ってきた。
 口調からは随分と毒が抜けたが、未だ表情には猜疑心が残っている。
「信じられないのも無理ないと思うし、詳しく話しても、信じにくいだろうことだってことは分かってる」
 それだけを、口にした。
 まだそれ以上は語れないし、これ以上語り過ぎることも、できることならしたくなかった。
 事実、ありのままに説明をしたとしても、到底信じられる内容ではないだろう。
「それでも、聞いてほしいんだ」
 だとしても、それはヴァッシュにとっては厳然とした真実なのだ。
 ルルーシュなる者――マントを羽織った黒髪の少年のことは、覚えている。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード自身ではなく、左手に宿されたミリオンズ・ナイブズの記憶に、しかと刻み込まれている。
 その少年の腕を斬ったのは、間違いなく生きていた頃のナイブズだ。
 その記憶を垣間見たからこそ、誤解を解く必要がある。
 彼女がその少年を大切に想い、少年の死を悲しんでいるからこそ、少年の真実を伝えなければならなかった。
「……下ろしてください。話を、聞きますから」
 故に。
 彼女がそう言ってくれた時。
 話を聞くだけは聞いてやる、と返してくれた時。
「ありがとう」
 それだけでも十分だと。
 聞いてくれるだけでも十分に嬉しい、と。
 心底から、そう思った。
 いつの間にかスバルの瞳は、獣のような金色から、元の緑碧へと戻っていた。
 右腕から伸びる翼の糸――言うなれば防衛尖翼、といったところだろうか――を地上へと下ろす。
 スバルが安全に着地できるところまで高度を落とすと、その拘束を解き、腕へと引っ込める。
 すた、という音と共に、少女が床へと降り立った。
「それで、ルルーシュは誰にどんな状況で斬られたっていうんですか?」
「ああ、それは……」
 さて、これからどうするか。
 スバルに問いかけられた時、ほんの少し困ってしまった。
 ルルーシュの真実を語るに当たって、どのあたりから話をすればいいのだろう、と。
 いくらあんな翼を見せたとはいえ、彼女もヴァッシュがプラントであるなどとは思っていないだろう。
 故に自分がナイブズを左腕に取り込んだ、と話した時点で、そんなわけがあるかと突っかかってくるはずだ。
 ならば、もういっそ最初から話してしまうか。
 自分が人間でないというところから、思い切って話してしまうべきか。
 しかしそれはそれで、こいつはいきなり何を言い出すんだと、かえって疑われてしまうのではないか?
 ああでもないこうでもない、と、頭をひねっていた矢先だった。

「――ギンガ……?」

 不意に廊下から、その声が響いてきたのは。

167きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:01:22 ID:XV1/QtKY0
「「!?」」
 知覚したのはほぼ同時だった。
 赤と青。
 ヴァッシュとスバル。
 互いにトークモードから臨戦態勢へと移行し、声の方を向いて構えを取る。
 違いがあるとするならば、それぞれが浮かべる表情か。
 ヴァッシュ自身は油断なく自らの拳銃を構え、現れた相手を見定めている。
「ギン姉の、名前を……?」
 だがスバルの方はというと、怪訝そうな表情と共に、そんなことを呟いていた。
 ギン姉というのは、恐らく相手が口にした名前の主のことだろう。
 そういう反応を示したということは、そのギン姉というのは、スバルの知り合いだったのだろうか。
(っと、いけないいけない)
 とはいえ、今はそれを気にしている場合ではない。
 改めて来訪者へと視線を戻し、その姿を見定める。
 廊下の入り口に立っていたのは、全身漆黒で埋め尽くされた、禍々しい鎧を纏った男だ。
 顔はフルフェイスのマスクで隠れていたが、先ほど呟いた声で男だと判断できた。
 そしてその顔面には、ハートのマークを描くかのように、真紅の複眼が散りばめられている。
 黒と赤――闇と血の色。その上意匠も悪役っぽく、あまりいい印象は受けない。
 見た目だけで人を判断することが許されるなら、一発で悪人と認定できるだろう。
「うぉりゃああぁぁぁーっ!」
 と。
 その時だ。
 そこに、新たな声と人影が割り込んできた。
 少女の甲高い声と共に現れた者は、これまた全身鎧尽くめ。
 しかし、こちらの甲冑は緑色で、複眼もハート型ではなく、昆虫のように2つに分かれている。
「チッ!」
 舌打ちと共に、振り返る漆黒。
 どうやら黒鎧と緑鎧は、互いに敵対関係にあるらしい。
 がきん、という金属音と共に、振り上げられた新緑の回し蹴りを、漆黒の弓で受け止める構図ができあがった。
「しつこいのよ! いい加減、死になさい……ってのぉ!」
 苛立った叫びと共に、緑色の鎧が追撃を放つ。
 パンチ、キック、続いてキック。キックの回数が多いあたり、蹴り技が得意なのだろうか。
 しかしそれ以上に気になるのは、その声だ。
 二度三度と聞いていくうちに、否応なしに気付かされていく。
 聞き覚えがあるぞ、この声は。
 ついさっきまで聞いてたぞ、この声は。
「ってちょっと待った! その声……まさかかがみさんか!?」
「!? しまっ……」
 攻撃の手が止まる。焦ったような反応が返ってくる。
 できることなら、正解であってほしくはなかった。
 それでも、今の反応を見せられた以上、認めざるを得なかった。
 あの中に入っているのはあのかがみだ。
 明確な殺意と共に、黒色の鎧を襲っているのは、先ほどまで保護していた柊かがみだ。
「……あーもーめんどくさい! もういいわよ! 全員まとめて皆殺しにしちゃえばいいんでしょ!」
 苛立ちも極限を迎えたか。
 黒の鎧のもとから飛び退き、ヴァッシュと鎧の中間地点に着地して。
 幾分か捨て鉢気味にすらも感じられる声音で、かがみが殺意を振り撒き叫ぶ。
 それが彼女の本性か。
 ということは、自分は今の今まで騙されていたということか。
 それならば、自分から見たスバル評と、かがみから見たスバル評が食い違うことにも納得がいく。
 ただし、あまりしたくない納得ではあったのだが。
 一難去ってまた一難、か。
「ごめん、どうも説明は後からってことになりそうだ」
 ともかくも、相手が殺意を持っているというのなら、止めなければ。
 傍らのスバルへと、言葉を飛ばし。
 改めてアイボリーを構え直し、戦闘態勢へと移った。

168きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:02:20 ID:XV1/QtKY0


 果たして自分は、このヴァッシュという男を信用していいのだろうか。
 その疑問だけは、未だ大なり小なり残っている。
 彼はルルーシュを斬ったのは自分ではないと言った。
 だが、あのような芸当ができる人間など、他にそうそういるものではないのも事実だ。
 にもかかわらず、何故話を聞こうとしたのか。
(嘘を言ってるようには見えなかった)
 やはりひとえに、その眼差しの真摯さによるところが大きかった。
 訓練校のテストこそ好成績だが、スバルは元来そう頭の回転が早い方ではない。
 故に自分の人物眼など、そんなに信用できたものでもないのかもしれない。
 それでも、少なくともこの瞳に映るヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿は、演技をしているようには見えなかった。
 信じてほしいと願う意志も。
 人を殺してしまったことへの自責も。
 どちらもがあまりにも力強く、圧倒的な存在感とリアリティを伴って、自らの視界へと飛び込んできていた。
 この男は本当に嘘をついていないのではないか。
 危険人物というのも何かの間違いで、本当はいい人なのではないか。
(でも、多分まだ信じきるのは早い)
 それは分かっている。
 いくら嘘には見えないといえど、それすらも計算の内である可能性もある。
「ヴァッシュさん……一緒に戦いましょう」
「いいのか?」
「約束しましたから。自分のするべきことをするって……かがみさんを止めるって」
 だからこそ、これは一時的な共闘。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードという人間を理解するための、最終テストを兼ねた共同戦線。
 本当は静観を貫いた方がいいのは分かっている。
 敵かもしれない相手と同じ戦場に立つのが、危険なことであるということは理解している。
 それでも、この戦いに参戦しないわけにはいかないのだ。
 あの時、自分はこなたと約束した。
 自分がやりたいこと、やるべきことをするために、全力全開で戦う、と。
 今自分がすべきことは、彼女の友情を守るために、かがみを殺戮の魔道から、全力で引きずり上げることだ。
(相手が仮面ライダーなら、使える)
 戦闘機人モードを再起動。
 薄暗いホテルのロビーに、2つの黄金灯が光る。
 魔獣の煌めきと共に顕現するのは、一撃必殺の破壊力を宿した禁断の魔手。
 怒りに我を忘れた先ほどのように、人間に対して振るうには、危険すぎる力であることは分かっていた。
 以前にかがみと戦った時も、中身へのダメージを懸念し、結局最後まで使うことはなかった。
 それでも、相手があの紫の蛇人と同じ仮面ライダーであるなら。
 生半可な攻撃では傷一つつかないほどの、強固な鎧に守られているのならば。
 中身を傷つける心配をすることなく、遠慮なく叩き込むことができる。
 この振動破砕の力を存分に振るい、鎧のみをぶち砕くことができるはずだ。
(それに……気になることもある)
 そこで視線を、もう片方へとシフト。
 緑の鎧を纏ったかがみではなく、黒の鎧を纏った謎の男を見る。
 マスク越しにこちらを睨むかがみ同様、今はあの黒と赤の男も、静かに佇んでこちらを見ていた。
 ギンガ――その名を口にしたのは、明らかにあの男の方だ。
 もちろん、仮面ライダーに変身する知り合いなどいない。
 であればあの漆黒のライダーは、このデスゲームの中でギンガと出会い、知り合ったに違いない。
 彼と姉はどういう関係なのか。
 どのようにして出会い、どのような行動を取ったのか。
 今は亡き姉の死の瞬間に、この男は関わっていたのか否か。
「そこの人! どうして、ギン姉の……ギンガ・ナカジマの名前を知ってるんですか!?」

169きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:03:14 ID:XV1/QtKY0


 だからホテルに来るのは嫌だったんだ。
 青髪の少女を見やりながら、相川始は思考した。
 仮面ライダーキックホッパーに応戦し、その中でホテル・アグスタとやらへと舞台を移して、気付けばロビーでこの有り様。
 人と接触するのが嫌だったから、わざわざこの場所を避けていたのに、結局このような結果を迎えてしまった。
 しかも、出会った相手が相手だ。
 金髪と赤コートの方は知らない。だが、青髪の少女の方には見覚えがある。
 正確には、同じ管理局とやらの制服を纏った、彼女の姉の方の顔を覚えている。
「お前がスバル・ナカジマだな」
 ギンガ・ナカジマ。
 目の前に立っていた少女の顔は、あの女の顔と瓜二つだった。
 ロングヘアーだった頃はともかく、髪を短く切った時と見比べれば、ほとんど同一人物と言っていい顔立ちだ。
 少なくとも、初めてスバルの姿を見た始にとっては、そうだった。
「ここから去れ。お前の姉……ギンガには借りがある。できれば、お前を殺したくはない」
 真実だ。
 スバルを殺したくないということも。
 このままではスバルを殺してしまうであろうことも。
 あの少女との戦いの中で、今では随分と頭も冴えてきた。
 今なら全開で戦える。余計な雑念のない今なら、全力で殺戮ができてしまう。
 迷いが消えたということは、ジョーカーの本性に抗おうという気が、その分失せてしまったということだ。
 認めたくはないが、これから始まる戦いの中で、いつジョーカーへと変身してしまうかも分からない。
 そうなればこの場の人間は全滅だ。
 仮面ライダーも、赤コートの男も、スバル・ナカジマさえも死んでしまう。
 他の2人はともかく、スバルを殺すことだけは、できることならしたくはない。
 迷いが消えうせてなお、ギンガの遺志を踏みにじることに、強い嫌悪感を抱いている自分がいる。
 故に最後通告として、戦う前に、スバルへとこの場からの撤退を促した。
「っ……そんなこと言われて、引き下がれるわけがないよっ!」
 ああ、そうか。
 お前もそういう人間だったのか。
 どうやら裏目に出てしまったらしい。こいつも姉同様、人を見捨てることができない性分だったらしい。
 馬鹿正直なのか、それとも正義漢なのか。
 どちらにしても、これで決まってしまった。
 もはやギンガの忘れ形見との戦いは、避けられない運命なのだということが。
「……どうなっても知らないぞ」
 カリスラウザーを構え直す。
 敵意を持って、赤と青の2人組を見つめる。
 こうなってしまったのならば、もはや戦わずにはいられない。
 自分の道に立ちはだかってくるというのなら、力で排除することでしか進めない。
 皮肉にも、今の自分は全開だ。
 意識はクリアーに澄み渡っている。たとえこの乱戦の中であろうと、手加減なしで戦えてしまう。
(だが、何だ? この禍々しい感触は……)
 そしてその一方で、分かったことが1つあった。
 雑念を振り払ったことで、新たに感じられるようになったものが1つある。
 ジョーカーの持つ闘争本能――無意識的に戦いを察知する鋭敏な神経が、嫌な胸騒ぎを訴えている。
 何かのオーラを直接当てられたわけではない。
 本当に、ただ嫌な予感がするだけだ。
 ここにこのまま留まれば、何か強大な力に巻き込まれることになるかもしれない。
 その予感の主は目の前の2人組でも、ましてや緑色の仮面ライダーでもない。
 もっと強大で、醜悪で、おぞましい感触だ。
 そう、たとえばあのもう1人の赤コート――ギンガを殺したと思われる男のような。
 そしてギンガが連れていた仲間――桃色の髪の娘に襲いかかった時のような。
 いずれにせよ、ろくな相手でないことは間違いなかった。
 血のような、闇のような。
 奈落の底を流れ続ける、流血の河を思わせる予感が、絶え間なく危険を訴え続けていた。

170きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:04:11 ID:XV1/QtKY0
 


【1日目 夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.スバルと共闘し、始とかがみを止める。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】戦闘機人モード、疲労(小)、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴァッシュと共闘し、始とかがみを止める。特に始からは詳しく話を聞きたい。
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 8.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

171きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:04:56 ID:XV1/QtKY0
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカリス、疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 1.この場を切り抜ける。
 2.生きる為に戦う?
 3.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 4.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 5.アーカードに録音機を渡す?
 6.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 7.ギンガの言っていたなのは、はやてが少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
 8.できればスバルを殺したくないが……
 9.何やら嫌な予感が近付いてきているのを感じる。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】仮面ライダーキックホッパー、、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.この場の人間を皆殺しにする。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

【全体の備考】
※F-9の森の中に、装甲車@アンリミテッド・エンドラインが放置されています。

172きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:05:46 ID:XV1/QtKY0
 

 一歩一歩踏み出す度に、大地が死に絶えていくようだった。
 アスファルトを踏み締める度に、風化し塵となって流れていくようだった。
 死を纏う者――それを表す端的な言葉があるとするなら、そんなところか。
 そこに死が歩いている。
 死を振り撒く存在が、明確な姿形を持ってそこにある。
 そう錯覚させるほどの、おぞましくも禍々しき気配を孕んでいた。

 究極の闇。
 凄まじき戦士。
 古代ベルカ最後の聖王にして、その高潔な心を怒りと憎しみに枯れ果てさせた狂戦士。
 巨大な漆黒と黄金の鎌を携えるさまは、まさしく伝承の死神そのものだ。
 金色のポニーテールを風に踊らせ、新緑と鮮血のオッドアイを殺気に光らせ。
 まるで何かに引き寄せられるかのように、闘争の舞台たるホテル・アグスタの方角へと、一直線に歩いていく。
 愛する母を守るために。
 母を害するものを皆殺しにするために。
 憤怒と憎悪と敵意と殺意を引き連れて、触れるもの全てを切り裂かんがために、闘争の舞台を闊歩する魔神。

 脳裏に反響し続けるのは、少し前まで同行していた、オレンジの髪の少女の声だ。
 一休みするためにも、ホテル・アグスタという所に行こう――命を落とす前に、彼女はそう提案していた。
 行くあてもなく、求める者もいない彼女にとって、唯一それだけが行く先の指針だった。

 もうすぐ、奴がやって来る。
 四つ巴の闘争の舞台に、最悪の第5人目が現れる。
 死神の刃鎌を手に入れた最強の聖王が、禍々しき波となって、ホテル・アグスタへと押し寄せてくるだろう。
 全てを呑み込み、溺れさせんばかりの。
 行く先に立つ万象一切を、ことごとく血で染め上げんばかりの。

 厄災が迫る時は、近い。


【1日目 夜中】
【現在地 H-7】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】聖王モード、血塗れ、洗脳による怒り極大、肉体内部に吐血する程のダメージ(現在進行形で蓄積中)
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする、その為に自分がどうなっても構わない。
 1.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 2.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 3.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
 4.ホテル・アグスタに行ってみる。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。
 その影響により、現在進行形で肉体内部にダメージが徐々に蓄積されており、このまま戦い続ければ命に関わります。
 また、他にも弊害があるかも知れません。他の弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。

173 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:08:32 ID:XV1/QtKY0
投下は以上です。誤字・矛盾などありましたらご意見ください。
あと、Wikiに収録する際の今回のSSの分割点ですが、

「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。


ここの◆の部分でお願いします。

174 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:10:06 ID:XV1/QtKY0
っと、ミス発見。かがみの状態表の状態の欄に、「疲労(中)」の追加をお願いします

175リリカル名無しA's:2010/06/10(木) 17:35:10 ID:Ka6taRRo0
投下乙です。
とりあえずスバルとヴァッシュが和解出来……と思ったら始とかがみがやって来た。
始とはギンガとの絡みがあるから何とか出来そうだけど最早かがみはロクデナシだなぁ……それでもスバルとヴァッシュは殺さないだろうからタチが悪すぎる
……で、死をもたらす危険なヴィヴィオが乱入しそうという恐ろしいオチ……『死が歩いている』なんて上手い表現だのう……
ヴィヴィオの接近に気付いているのは始だけか……そういや憑神鎌の脅威の片鱗に触れていたんだっけ。
ヴィヴィオ、ジョーカー、バーサーかがみ……ヴァッシュの金髪も残り少ないから最早ホテルオワタ……

……こなたがハブられたのは、この瞬間まで全く絡んでいないからか……失礼承知で言うけど投下されるまでこなたは予約忘れだと思っていた……

とりあえずこなた伏せやー! そこはアニメイトよりも危険だー!

176リリカル名無しA's:2010/06/10(木) 20:34:44 ID:ZtB.Qidc0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは寸でのところで和解に至ったか
それにしても立ち直ったヴァッシュさすがだ
かがみの方は前話での「ドン!!!!!」は気にぶつかった音だったか
素人じゃそれでもよく運転出来た方だな
そして案の定というか行き当たりばったりで正体ばらしているよw
スバル、ヴァッシュ、始、かがみ、それにヴィヴィオ……うんホテルオワタ \(^o^)/

177リリカル名無しA's:2010/06/11(金) 08:48:14 ID:m.ZIbc6I0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは一先ず和解出来たみたいで安心した。
さて、問題はいつジョーカーが暴れ出すか分からない始と最早体面お構いなしのかがみか。
毎度ながらかがみは激情に任せて暴れ回っても勝てる気がしないんだよなぁ……。
純粋な戦闘能力じゃ始、ヴァッシュ、スバルの三人全員に敵わないだろうし。
寧ろ今回の戦いで一番危険なのはアルティメットヴィヴィ王か。

178 ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:45:19 ID:m.ZIbc6I0
エネル、金居、八神はやて(StS)分の投下を開始します。

179Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:47:34 ID:m.ZIbc6I0
 深い、濃い市街地の闇の中に、神を自称する男――エネルは居た。
 怒りと憤怒に歪んだその表情を、一言で例えるならばまさしく鬼神。
 激情の余り全身から漏れ出した電流が、鬼のような形相を怪しく照らして、それは余計に際立って見えた。
 本来ならば夜の市街地を照らす筈の電灯も、最早まともに機能してはいない。
 市街地を淡く照らす筈の月明かりも、空を覆う……というよりもエネルの周囲の空を覆う雷雲のお陰で届きはしない。
 ゆらりゆらりと、一歩を進める度に、電灯がちかちかと点灯し、消えていく。
 時たまごろごろと音を立てて、常人なら一瞬で焼け死ぬような雷が、エネルの周囲のアスファルトへと落ちる。
 闇の中を歩く鬼神と、鬼神が伴う雷雲が、周囲のありとあらゆる電力を根こそぎ奪っているのだ。
 電気がまた一つ消える度に、エネルの周囲を走る青白い電流が、夜空で光る雷が、より一層の輝きを放つ。
 首輪で制限されているとはいえ、彼は自然(ロギア)系でも最強の部類に入る、ゴロゴロの実の能力者。
 エネルがスカイピアでやってきた事を考えれば、この程度の芸当は至って簡単な事なのだ。
 しかし、それはエネルが意図してやっている事ではなかった。

「許さん……絶対に許さんぞ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード!」

 それも全ては、自分ですらも抑えきれない激情が成せる業。
 怒りで顔まで真っ赤にしたエネルが、無意識のうちに周囲の電気を奪っていたのだ。
 ここまで歩いた数キロの道のり、未だに電力が残っている建物など一軒も無い。
 初期の電力を遥かに上回る力を身に付けたエネルの標的はただ一人。
 神である自分を跪かせ、あまつさえ神である自分を騙くらかしたあの男。
 赤いコートに、トンガリ頭。白い翼のヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 エネルは先程、そのヴァッシュに良く似た白の翼を見掛けた。
 空を羽ばたく白き翼に、はためく赤のコート。それが、南東の方角へと飛翔して行った。
 それを視界に捉えた時には、翼の影はかなり小さくなっていたが、それでも見まごう訳が無い
 スカイピアの奴らに生えたちっぽけな翼とは違う、本当の天使の如き翼。
 神を死の恐怖へと追いやった、憎たらしい翼。偉大なる神を失墜させる、天使の様な悪魔の翼。
 全ての嘘を見抜いた以上、最早神に歯向う不届き者を生かしておく理由も無い。

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
 何度も何度も心中で反芻しながら、翼が消えた南東へと歩を進める。
 ヴァッシュをこの手でブチ殺した上で、全ての参加者を血祭りに上げる。
 最早そうする事でしか、失った威信を取り戻す事は出来はしない。
 それが神の名にすがるちっぽけな男に、たった一つ残されたプライドだからだ。

180Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:48:10 ID:m.ZIbc6I0
 




 金居に追随した八神はやてが、地面に出来たアスファルトを覗き込んでいるのは、ヴィータの死から数分後の出来事であった。
 四方八方どっちを見ても、視界に入って来るのは粉砕されたコンクリやアスファルトのみ。
 これが地上本部のなれの果て。この場所で幾重にも重ねられた、激しい戦いの傷跡であった。
 その中で一箇所、際立った傷がアスファルトに亀裂を走らせて、地下部分を露出させている場所があった。

「調べて欲しいものっていうのは、これの事ですね?」
「ああ、そこの看板を見てみろ」

 金居が指差した方向を見れば、そこにあったのは見覚えのある触れ込みの看板であった。
『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』なんて書いておきながら、実際には嘘八百。
 この転移魔法陣は、望んだ場所などには決して飛ばしてくれない。行き場所はランダム、主催側が設置した罠だ。
 はやては一度、キングと共にこの罠に掛っているからこそ、その真相を知っている。

「残念やけど、これは罠です。望んだ場所やなんて言いながら、実際には違います」
「というと、飛ぶ場所はランダムという事か? 何のために?」
「恐らくは、他者と手を組んだ参加者の戦力を分断する為」
「何故そう言い切れる?」
「私たちも一度、この罠に嵌ったからです」
「ほう」

 このデスゲームが始まってすぐの事、はやてはキングという少年と行動を共にした。
 そのキングがまたとんでもない馬鹿で、何の策も無しにこの罠に自ら嵌りに行った。
 はやて自身は乗り気ではなかったのだが、結局はキングに押し切られる形でこの罠を使ってしまった。
 結果、キングとは離れ離れ。到着した場所は誰もいない図書館。開始早々、はやては完全に孤立したのだ。
 それらを簡潔に、尚且つキングの無能さと危険さを前面に押し出す形で、説明を終えた。

「成程な……ちなみに聞くが、あんたは何処に飛びたいと願ったんだ?」
「それは……私の家族の、ヴィータ達の元にです」
「その図書館に、直前までヴィータ達が居た可能性は?」
「それは……今になってはもう、確かめようのない事です」

 ヴィータは死んだ。そこにヴィータが居たとしても、居なかったとしても、確かめる術は無い。
 当然ながら、死んでしまった人間にはもう、質問する事はおろか口を聞く事すら出来ないのだから。
 ここに居たヴィータは当然、家族なんかでは無い。赤の他人のヴィータだ。赤の他人のヴィータが死んだのだ。
 さっきまでここに居て、一緒に話をして、一緒に行動をしていたヴィータ。
 あのヴィータは、はやてのヴィータでこそ無いが、生きていた。
 ヴィータという名前があって、はやてと過ごした記憶があって……だけど、死んでしまった。
 それを赤の他人と割り切って、忘れてしまうのは容易い事なのだが、どういう訳か心が晴れない。
 ここまで来て、自分は何を迷っているのだ。雑念を振り払う様に、頭を二度三度振った。

「まぁ、キングと離れ離れになるのは当然だろうな」
「え……?」
「家族の場所へと飛びたいと思ったあんたは、どういう訳か図書館へと飛んだ。
 一方で、キングは一体何処に飛んだ? というより、何処へ飛びたいと思ったか?」
「考えるだけ無駄やと思いますけど」
「そうかな? 仮にこの魔法陣が本当にこの看板通りの効力を持って居たとして、
 キングとあんたの望む目的地が一致するとは、俺には到底思えないが」

 眼鏡を押し上げて、舐める様な視線ではやてを見る。至って理知的な表情であった。
 金居の言わんとする事は大体分かった。向き直って、金居の考察をまとめる事にした。

181Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:48:40 ID:m.ZIbc6I0
 
「つまり、金居さんはこう言いたいんですね? 私が飛ぶ直前まで図書館にはヴィータが居た……
 で、私はこの触れ込み通りに図書館に飛んで、キングは自分が望んだ何処かへと飛んで行った」
「その可能性は否定しきれないと思うが」
「確かにそうですけど……なら逆に訊きますけど、金居さんはこの魔法陣をどうしたいと思いますか?」

 こんな考察を続ける事にさしたる意味は無い。はやては、今後の具体案が聞きたいのだ。
 何の考えも無しにこの魔法陣を使いたいだけと言うのであれば、所詮金居もキングと同じだ。
 はやてを唸らせるだけの回答を得られなかった場合は、金居の今後の扱いも考え直さなければならない。

「ならば率直に言おう。俺はこの魔法陣を罠だとは思わない。よって俺はこれを使いたいと思っている」
「もしこれが主催側の罠で、私達が分断されてしまったら?」
「俺は“こいつ”を外す為に、工場を目指している。高町なのはともそこで落ち合う約束をしてる」

 首に装着された忌々しい鉄製の輪っかを、人差し指の爪でつつきながら言った。
 成程、なのはと共に行動していると言ってはいたが、そういう事か。これは使えるかもしれない。

「確かに、あらかじめ目的地を決めておけば、混乱する事もない……」
「そうだ。それに、二手に分かれた方が仲間を集められるかも知れない」
「逆に殺されてしまうという可能性も捨て切られへんと思いますけど」
「その時は逃げてでも生き延びれば良い。それに、お互い戦力には困ってないだろう?」

 眼鏡を押し上げながら、にやりと口角を吊り上げた。
 恐らくこの男は、はやてが既に本来の力を取り戻している事に気付いている。
 その上、お互いにとってもあまり長期間行動を共にしない方がいいという事を心得ている。
 この金居という男、恐らくは対主催に紛れて主催打倒、もしくは乗っ取りを狙う人種……はやてと同じタイプだ。
 だけど、だとしたらある意味でこんなに信用出来る相手は居ない。
 何せ、目的は自分と同じなのだ。手を組めば……もとい使い方によっては、これ以上心強い味方は居ない。

「……わかりました。金居さんがそこまで言うなら、私も信じてみようと思います」
「賢明な判断だな。それに、どうやらお互いに思う所は同じらしい」
「そうですね。ほな、分かり易く工場に飛んでみます?」
「ああ、それがいい」

 この殺し合いの場で、時間を無駄にする事は避けたい。故に、話が決まれば即行動。
 人一人が入れるくらいの亀裂から、二人は順に地下へと侵入した。
 転移魔法陣の上に乗って、はやては考える。
 工場に飛びたいとは言ったが、本当に飛べるとは思わない。
 はやてが今、何よりも欲しているのは“駒”だ。よって、必然的に駒が居る場所へと飛ぶ事になるだろう。
 だけど、駒と言っても有力なものはほとんどが死んでいる筈。残っている参加者で、有力なのは誰だ?
 高町なのは。スバル・ナカジマ。ユーノ・スクライア。戦力として考えられるのは、そんなところだろうか。
 純粋な戦力として考えるならば、一番に高町なのは、次いでスバル・ナカジマだが……。
 同時に、自分を貶めたクアットロのような策士が居る場所は避けたいと思う。
 会ってこの手で殺せればいいのだが、それは別に心から会いたいと願っている訳ではないからだ。

182Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:49:20 ID:m.ZIbc6I0
 
 さて、策士と言えばこの男もまた然りだ。
 この金居と言う男、間違いなくクアットロに近い性質を秘めている。
 当然、心の底からこの男を信頼することなどあり得ないのだが、純粋に利用し合う仲間としてなら心強い。
 その為にも、先程抱いた疑問……金居が持って居た銃は、何処から手に入れたのか。それを質問してみる事にした。

「そういえば金居さん、さっき持ってた銃……あんなん持ってはりました?」
「ああ、銃なら拾った」
「拾った?」
「誰の持ち物かは知らないが、こんな状況だ。武器の一つや二つ転がっていても可笑しくないだろう」
「……それもそうですね」

 言われて納得した。……いや、心底から納得はしていないが。
 今の持ち主である金居が拾ったと言うからには、それまでだろう。
 変に追及して怪しまれるのも得策ではないし、今はこのままでいい。
 当然、クアットロの轍を踏まない為にも、警戒を緩める気は無いが。

「さて、準備は出来ました。いいですか?」
「ああ、構わない」

 ほとんどの魔力を消費してしまった以上、残った魔力はほんの僅か。
 この短期間で少しばかり回復した魔力を、魔法陣へと注ぎ込む。
 キングと一緒に居た時と、殆ど同じ光景だ。
 淡い魔力光が、次第に強く輝き出して――刹那の内に、二人の姿は掻き消えた。





 金居が目を開ければ、そこは既に瓦礫だらけの市街地では無くなっていた。
 周囲には鬱葱とした森林が生い茂る、都会と自然の間と表現するのが相応しい場所。
 舗装されたアスファルトの道路と、その周囲の雑木林。木々の匂いは心地が良く、金居の種としての本能を刺激する。
 ここが殺し合いの場でなければ、クワガタムシの一匹くらい居ても可笑しくはないな、と思う。
 ただ一つ、異様な存在感を放って居るのが、正面に見えるホテルらしき巨大な建物。
 問題は、ここが一体何処なのかという事だが……

「どうやら、罠やなかったみたいですね」
「そうだな。まさか二人揃って飛んで来れるとは。意外だよ」

 傍らに居た低身長の女、八神はやてに嘲笑と共に返した。
 二人は確か、工場へ飛ぼうという話で魔法陣に乗った筈だ。
 それなのに、飛んで来た場所は工場などでは決してない。
 そもそも、表向きには工場に飛びたいと言っていたものの、金居にはそれよりも渇望する相手が居る。
 種の存続を掛けて、何としてでも仕留めなければならない相手が居る。
 この場で工場以外に望む場所とあらば、奴が居る場所くらいしか考えられないが……。

「ここは、何処だと思う?」
「ホテル・アグスタ……私も知ってる施設やけど、何でこないな場所に――」

 どごぉぉぉん!!!
 はやてが言い終えるよりも先に、轟音が二人の耳朶を叩いた。
 反射的にびくんと震え、二人は轟音の方向へと視線を向ける。
 その先は、ホテル・アグスタの正面玄関。そのロビー内で、轟音の主が暴れていた。
 硝子越しに、一瞬見えただけでも、この場には三人以上の人間がいるらしい。
 その三人が三人共、三つ巴状態で争っていたのだ。

183Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:50:04 ID:m.ZIbc6I0
 
「緑の仮面ライダーと、黒の仮面ライダー……それに、スバル!?」
「なるほどな。ここにお前の仲間がいる……そういう事か」
「そうです、スバルは頼れる私の部下で、味方に出来れば大きな戦力になる事は間違いない。
 ……けど、この乱戦の中に入って行くのは……ええい、情報が少なすぎる!」
「いや……そうでもないさ」

 はやては状況を判断しようと考えているらしいが、最早金居にその必要は無い。
 目の前に居るのは、はやてにとっての頼れる仲間と、己が宿敵。それが全ての答えだ。
 金居の中で全ての謎が氷解した。あの魔法陣は、罠などでは無かったのだ。
 なれば、誰が敵で、誰が味方かを視界した金居に、悩む必要が無いのは必然。

「ようやく分かったよ。俺達がここへ飛ばされた理由が」
「……どういうことです?」
「俺には、どうしても決着をつけなきゃならない宿敵がいるんでね」

 薄ら笑みを浮かべて、金居が言った。
 眼鏡の奥の鋭い眼光が捉えたのは、見まごう事無き宿敵・ジョーカー。
 伝説の鎧で身を隠して、戦いに臨む偽りの仮面ライダー。
 奴は敵だ。それも、世界に生きる生命全ての、だ。
 地球に巣くう悪質なウイルス、それがジョーカー。
 この戦いで何度も巡り合い、決着を付けられなかった相手がここに居る。
 カテゴリーキングとしての闘争本能に、火が点いて行くのが自分でも分かるようだった。

「いいか八神。スバルが味方で、あの黒のライダーが敵だ……人類全てのな!」

 嘘は言っていない。ジョーカーが生きている限り、人類も滅亡の危機と隣り合わせなのだから。
 といっても、人類にとってはジョーカーに代わって金居が最後に生き残った所で変わらないのだが。
 どうやらはやては、金居の只ならぬ雰囲気にどうしたものかと考えているらしい。
 そうこうしている内に、気付けば二人を照らしていた月明かりが、届かなくなっていた。

「これは……雨雲? なんでこないな所に……」

 ごろごろと音を立てて、空を覆う暗雲が時たまぴかっ!と光輝く。
 ホテルの屋上に設けられた避雷針が、何度も何度も空から降り注ぐ雷を吸い込むが、それでも足りない。
 信じられない量の雷が、周囲で鳴り響いていた。

「まずい……“アイツ”が来よった」
「アイツ……だと?」

 立て続けに起こる異常事態に、金居も警戒を強めて聞き返した。
 されど、それに答えるよりも先に、二人の視界に飛び込んできたのは一人の男だ。
 男の周囲だけ、他とは比べ物にならないほどの雷が奔っていた。
 空から、男から、空気中から。もはや自然に存在する雷の常識など通用しない。
 男がそのものそのまま発電機だとでも言う様に、縦横無尽に雷を奔らせているのだ。
 青白い光に照らし出されたその姿は、まさしく昔ながらの雷神というに相応しい。
 背中に背負った太鼓と、周囲で轟音を上げる雷とが、金居にそんな印象を抱かせた。

「なんだ……アイツは」

 呆然と立ち尽くす金居が、言葉を発した。
 一時的にではあれ、ジョーカーに対する闘争本能が掻き消える程の存在感。
 それは金居が……というよりも、生物が種として抱く、生理的な本能。
 雷に抗おうとする昆虫など、世界に居る訳がない。雷に触れれば、昆虫などそれで終わりだからだ。
 金居の本能全てが、奴は危険だと警鐘を鳴らしている。
 あのアーカードを初めて見た時と同等か……否、恐らくこいつは、それ以上。
 アーカードはまだ、理性を持ち合わせていたが、こいつにそれは感じられない。
 周囲の全てを焼き焦がしてしまうような怒りが、こっちにまで伝わってくる。
 現れた雷神に、二人は――。

184Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:51:32 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-9 ホテル・アグスタ前】

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.神・エネル……!!
 2.スバルは味方にしたいが……この状況をどう切り抜ける?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 8.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居の事は警戒しておく。怪しい動きさえ見せなければ味方として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

185Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:52:02 ID:m.ZIbc6I0
 

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.なんだあの化け物は……!
 2.そろそろジョーカーとの決着をつけたい。
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

186Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:52:33 ID:m.ZIbc6I0
 


 それは、鬼神へと堕ちた雷神の姿。
 それは、近寄る者全てを、本当の意味で破壊し尽くす神の姿。
 神でありながらも地べたを舐めさせられた屈辱と憤怒が、彼を破壊神へと変えたのだ。
 目的は只一つ。失ってしまった威信を、プライドをこの手に取り戻す為に。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードを塵一つ残らず消滅させてやらねば気が済まない。
 そうしなければ、身体に染み着いた『死』への恐怖は拭いされないのだ。

 一歩歩く度に、異常と呼べるまでに蓄電された電力が、アスファルトを真っ黒に焦がす。 
 空を覆う漆黒の暗雲全てが……迸る雷全てが、エネルの一部。エネルの手足なのだ。
 止めどなく迸り続ける高圧力の雷の所為で、最早昼なのか夜なのかすらも分からない。
 今が夜だと言う事は頭では理解しているが、それすらも怒りで忘れる程に、エネルは激情していた。
 周囲の電力を取り込むことで、電気人間の自分はいくらでも回復する事が出来る。
 周囲の雷雲と雷を利用する事で、兵隊百人にも等しい戦力を常時発揮する事が出来る。
 この暗雲の下に居る限り、エネルは無敵だ。圧倒的に有利な地の利を得ているのだ。
 そうだ。最初からこうすればよかった。首輪の所為で自分の身体を電気に出来ないなら、周囲の電気を使えばよかったのだ。
 雷として周囲を奔った電力は、再びエネルと雷雲に吸い込まれて、刹那の内にチャージが成される。
 空気中の静電気を始めとするあらゆる電力は、全てエネルの味方をしてくれるのだから。

 ヴァッシュは確かにこっちの方角へと消えた。
 この方角で会場に残された施設は最早、目の前のホテルしかありはしない。
 そして、そのホテル内から響く戦闘による轟音。
 間違いない。ここにヴァッシュが居る。
 既に他の誰かと戦っているのか知らないが、そんな事は関係ない。
 一緒に居る奴、近くに居る奴、邪魔をする奴。
 それらに関係なく、この雷で皆殺しにしてくれる。
 ――最早、神を止められる者は居ない。

187Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:53:33 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-8 東側】

【エネル@小話メドレー】
【状態】健康、激怒、『死』に対する恐怖
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.ヴァッシュに復讐する。
 2.ホテルに居る参加者は皆殺し
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。
※市街地と周囲の電力を取り込み、常時雷神(アマル)状態に近い放電状態になりました。
※吸収した電力で、僅かな傷や疲労は回復しています。


【全体の備考】
※エネルの周囲で大規模な停電が発生しています。
※エネルの周囲に雷雲が拡がっています。

188Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:58:20 ID:m.ZIbc6I0
投下終了です。
どうせホテルにヴィヴィオが向かってるのならもっとやらかしちまえと思いまして……はい。
ちょっとエネルはやり過ぎた感があるかも知れませんが、原作を考えればこれくらいは出来てもいいかなと。
というか自然系最大の強みである雷化が出来ない上に、太鼓二つ失って、おまけに神としての威厳まで失ってしまった以上、
こうでもしないと再び初期の様な恐ろしいマーダーとして、アーカードやナイブズと並べる事は出来ないと思いまして。
アーカードやナイブズに比べて割と不遇だった(?)マーダー三巨頭、最後の一角をここらで立ててみようぜ!って感じです。
それでは指摘などがありましたら宜しくお願いします。

189リリカル名無しA's:2010/06/11(金) 19:30:40 ID:1laH9ofE0
投下乙です。
ていうか何でみんなしてホテルに行くの!? タイミングとしてはVj氏の話の直後だよな……黒はやてに金居、そしてエネルまでやって来て……

対主催:スバル、ヴァッシュ、こなた
危険人物:はやて
マーダー:始(ジョーカー)、バーサーかがみ、金居、エネル、ヴィヴィオ

……ホテルと共に対主催オワタ。
しかし思いっきり再会の予感がするなぁ……こなた&かがみ、金居&始、ヴァッシュ&エネル、リイン&はやて……何となく碌でもない結末にしかならない気もするけど。
まさかまだ他にも来る???

190リリカル名無しA's:2010/06/12(土) 18:38:10 ID:ygtTQYQ.0
投下乙です
ああ…これは死者が出るだろうな…
ホテルに人多すぎw

191 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:54:00 ID:.m17H2vc0
泉こなた分投下します

192Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:56:00 ID:.m17H2vc0
「アジトへ向かう前に言っておく……ッ! あたしは今やつの魔法をほんのちょっぴりだが体験した」



「こなた……?」



「い……いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたんだけど……
 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 『あたしは森の中でアジトへ向かっていたと思ったらいつのまにか(森は)消えていた』」



「いや、それリインも体験しているですよ!」



「な……何を言っているのかわからねーと思うがあたしも何をされたのかわからなかった……」



「その口調の方がわけわからないですよ!」



「頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」







「………………満足したですか?」
「………………うん」
「確かにこなたの言う通り理解を超えているですね」

193Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:58:00 ID:.m17H2vc0



 泉こなたとリインフォースⅡはスカリエッティのアジトへ向かう為、森の中を北へと進んでいた。
 が、気が付いた瞬間に森は消失し平野が広がっていた。周囲を見ても森は欠片も見当たらない。
 そこでこなたは地図と磁石を出して周囲を確認する。
「地図でいうところのD-9かE-9だと思うけど……でも森になってなきゃおかしいよね」
「北には何も無いですね。それに……」
 北方向を見ても森は欠片もなく。東方向には市街地が見えると共に微かに煙が見える。
「あたし達のいた場所は東端なんだからそれより東には何もない筈だけど」
「もしかしたら地図に描かれていないだけでその先にも何かがあるのかも知れないですよ」
「だけど……地図にない場所に出られるんだったら最初からそこに逃げ込めばいいんじゃないのかな。幾ら何でもそんな事はさせないよね」
 と、こなたは首輪を触る。要するに場外は禁止エリアとして扱われ、首輪が爆発するという事を暗に語っているのだ。それはリインも理解している。
「ここは場外ではないという事になりますよ」
「場外じゃなかったら何処なの?」
「東に市街地が見える平野はB-1〜E-1……確かB-1が禁止エリアになっていた筈ですからC-1かD-1、E-1になるですよ」
「D-9かE-9からどうやってD-1かE-1に移動を……あれ?」
 こなたは指をD-9とE-9の境目からD-1とE-1の境目の間を動かしている内にある事に気付いた。
「整理すると、『D-9辺りにいると思ったらD-1辺りにいた』って事だよね」
 と、磁石を片手に西方向を向く。
「じゃあ、もしかして……」
 そして足を進めると突然周囲に森が広がった。





「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『あたしは木1本無い平野を進んでいたら……』」
「そのネタもういいですよ!!」

 リインは軽くこなたの頭をポンと叩いた。





「つまり、区切られているエリアの端と端は繋がっているという事ですね。東端と西端、北端と南端という感じですね」
「でも北に進んでいた筈なのにどうして東に?」
「さっきまで磁石出さないで走ったり歩いたりしたから方向がずれてしまったんじゃないんですか?」
 実際、こなた達の進行方向は若干東にずれてしまっていた。故に、東端のラインを越えて西端へとワープしたのである。
「そういえばあの天使、東から西方向に飛んでいた様な飛んでいなかった様な」
 今更ながらに放送より少し前にホテルアグスタの屋上に消えた天使の事を思い出した。確かあの天使は南東から北西方向へ飛んでおり、屋上で消えていた。
 だがホテルの位置は東端のF-9だ。つまり、天使の進行方向を踏まえれば天使はエリア外から来たという事になる。もっとも、この時こなた達はそこまで思考が回らなかったが。
 しかし、先程起こった現象を踏まえればこの現象は簡単に説明出来る。
「あの天使は客船や船着き場のある海方向からやって来たという事になりますね」
「何にせよ、端と端はワープ出来るって事だね」
「恐らくプレシアがリイン達を逃がさない為にこのフィールドに仕掛けた仕掛けだと思うですよ。
 それでこれからどうするですか? さっき見た感じだと市街地では戦いが起こっているみたいですけど……」

 市街地では微かに煙が上がっていた。これを踏まえれば少なくても誰かがいた事は確実。
 しかしそれは必ずしも味方とは限らない。殺し合いに乗っている参加者という可能性もある。
 更に言えば煙が上っていることから戦いが起こっている事はほぼ確実。
 リインとしては市街地に向かいたいという気持ちが無いわけではない。しかし制限の都合上こなたの同行が絶対に必要となる。
 こなたを危険に巻き込む可能性が非情に高い。何の力もない一般人を危険に遭わせる事は避けるべきである。
 その一方、あの場所に仲間がいる可能性もある。数少ない家族や仲間との合流の機会を逃したくは無いというのも本音である。
 故にリインはこなたに判断を仰いだのである。

「勿論、最初の予定通りアジトに向かうつもりだよ。もしスバルがアジトに来た時にあたし達がいなかったら……」
「そうでしたね。わかったですよ、このままアジトに向かいます」
 こうして2人は再びアジトへと足を進めた。
「今東端にいますから少し西寄りに行かないと密林を迷う事になるですよ」
「大丈夫、今度は磁石も確認するから」
「それだけならまだ良いですけど気付かないで進んで禁止エリアのA-9やB-1へ飛び込む可能性もあるですよ」
「だからわかったって」

194Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:59:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 その放送はあまりにも無機質かつ無慈悲であった。それ故に淡々と事実だけが伝えられた。
 無機質かつ無慈悲であったからこそその衝撃は非常に大きなものであった。



「シャマルまで……」



 リインにとって大事な家族であるシャマルの死亡が伝えられた。
 勿論、リインの世界のシャマル達は妖星ゴラスの媒介になっている筈なので呼ばれたシャマルはリインとは別世界の彼女だという事実は頭では理解している。
 しかし、それでも溢れ出す深い悲しみの感情は止まる事はない。故にリインの目からは涙がただただ溢れていた。
 それでも何とか放送自体は聞き逃さず聞きとめた。しかしそれが限界だった。リインの思考は大事な家族が再び失われた事で真っ白になっていた。

 そして脳裏には家族であり主でもある八神はやての姿が浮かぶ。


 前述の通りシャマル達守護騎士はゴジラを封印する為の妖星ゴラスの媒介となった。これだけならば只の悲劇で済む話だ。
 しかし、封印は決して永久ではない。その限界はたったの1年、それを過ぎればゴジラは再び復活する。
 1年を経過した時点でシャマル達の犠牲は完全な無駄となってしまうのだ。そんな事をはやてが許すわけがない。
 そして家族を助ける方法が1つあった――簡単な事だ、妖星ゴラスが限界を迎える前にゴジラを完全に抹殺する事だ。
 当然、シャマル達の限界を踏まえるならば1年などと言わず早ければ早い方が良いのは言うまでもない。

 故に、彼女は家族を助ける為にこれまでの彼女からはまず考えられない非道な事を行った。
 各次元世界に生息する怪獣達を使い魔に、時には洗脳すら施してゴジラにぶつける為の決戦兵器としたのだ。
 当然だが高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも従いながらもそれを受け入れているわけではない。故にはやてと衝突を起こした事もあった。
 全ては家族を助ける為、故に許される許されざるは別としてそれ自体は決して否定出来るものではないだろう。
 だが、客観的に言えばそれは決して許される事ではないし、自分達が当事者にならなければリインもその行いを認める事は無かっただろう。

 はやてがこの放送を聞いたとすればどうするだろうか?
 容易に想像が付く、死んだ家族を生き返らせる為、優勝を目指す可能性が非情に高い。
 もしくは優勝ではなくプレシア・テスタロッサの技術を奪う為に他の参加者を陥れてでも彼女に迫ろうとするだろう。
 それが許されざる事なのはリイン自身もわかっている。だが、リインはそれを止める事が出来ない――

 ――何しろリイン自身の中からも外見とは真逆のどす黒い邪悪な感情が湧き上がっているのだから。





 ジブンガサンカシャナラバユウショウシテデモカゾクヲトリモドシタイ





 いや、わかっている、わかっているのだ、家族や仲間がそれを望んだりしない事は。
 それ以前に自分自身、そんな事はしたくはないのだ。
 何の罪のない人々を傷付けたり陥れる事なんてしたくはないのだ。

 それでも、湧き上がる感情はとどまらない。リインは何とかそれを抑えようと――

195Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:00:00 ID:.m17H2vc0







 その瞬間、轟音が響いた。



「えっ……!?」



 音はホテルの中からだ。
 ホテルには先に安全確認の為にスバル・ナカジマが向かっていた筈だ。今現在ホテルで何が起こったのだろうか?
 確かホテルには屋上に降り立った『天使』がいた。となれば『天使』が殺し合いに乗っていて、スバルと交戦状態に陥ったのだろうか?
 真実は不明だが1つだけ確実な事がある。それはホテルは危険な場所だという事だ。


 我に返った瞬間、リインは自分の愚かな思考を恥じた。
 自分が今すべき事は何なのか? 何の力を持たない少女を守る事じゃなかったのか?
 にもかかわらず自分は今何をしていた? 家族が死んで泣いて……いや、正直それ自体は仕方がない。
 問題なのはこの瞬間まで足を止めていてあまつさえ僅かだが殺し合いに乗ろうかと考えていた事だ。
 今の自分の姿を見たらゴジラを封印する為にゴラスの触媒となったシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラが見たらどう思う? 軽蔑するに決まっている。

 自分は何者か? 無限に続く悲しみの呪縛より解放された先代よりその名を受け継ぎし蒼天をゆく祝福の風リインフォース・ツヴァイではないか?

 その名を持つ自分が他者に悲しみを与える事などあってはならない。与えるべきは祝福でなければならない。

 故に今は自らのすべき事を、目の前の少女泉こなたを守らなければならない。
 放送からどれぐらい経過しただろうか? 幸い攻撃の余波はここには届いていないがそれは結果でしかない。
 これまでの戦いを踏まえればホテルからこの場所に届く程の攻撃など無数にあり得る。惚けて棒立ちなど愚行以外の何物でもない。
 一歩間違えればこの一撃でこなたが致命傷を受けていた可能性もあるのだ。愚かと言わず何というのだろうか。

 このまま犠牲を出してしまう事は家族や先代リインフォースに対する最大の裏切りだ。彼女達の為にも二度と堕ちたりはしない――そう考えリインは周囲を見回しながら次の行動を考える。

 スバルに関しては負傷はしているものの戦闘機人としての力が使えれば余程の相手では無い限り後れを取る事はない。最悪、逃げ切る事は出来るだろう。
 ジェットエッジを渡してあるから移動に関してもおおむね問題はない。
 だが、戦闘機人としての力は威力が強すぎる。敵を倒す事に関してはともかく、周囲に及ぶ被害は甚大なものとなる。先程の轟音ももしかしたらスバルのIS振動破砕によるものかもしれない。
 つまり、この場所にいればこなたを戦いに巻き込むという事だ。スバルもそれを恐らくは理解している。
 故に自分達がこの場所にいる限りスバルは全力を出せない。相手次第だが全力を出さないで切り抜けられるとは思えない。

 だからこそ自分がとるべき判断は――

196Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:01:00 ID:.m17H2vc0





「リイン、行くよ」

 その答えを出す前にこなたが声を発した。
「え? 何処へ?」
「ここにいたらスバルに迷惑がかかるよ、だから……」
 既にこなたの足はホテルとは逆の方向に向いていた。奇しくもリインと同じ判断をこなたはしたのだ。
 しかし、あまりにも的確な判断であったが故、リインは驚きを隠せなかった。
 そもそも、何故こなたはそこまで冷静なのだろうか?確か放送では――
「大丈夫、スバルだったら何とかしてくれるよ。スバルが全力で戦う為にもあたし達はここにいない方がいいんだ!」
 こなたの声は何時もののほほんとしたものではなく、力強いものだった。
「確か、あの時ホテルの他にもう1つ目的地決めていたよね。そこに行こう、スバルも戦いが終わった後で来てくれる筈だよ」
 そう言いながら、その方向へとこなたは走り出した。リインもこなたの横を飛びながら移動をする。
 リインもおおむね同じ考えだった為、こなたの判断自体に異論はない。しかし、人の話も聞かずに行動をする事は決して良い事ではない。
 故にその事について口を出そうとするが、
「こなた、少しはリインの話も聞い――」
 横顔を見た瞬間、彼女の心情を理解した。そう、こなたは冷徹な程冷静なわけではなかったのだ。
「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けると思う……だから急がないと」
 こなたの目からは涙が溢れ流れていた。
 放送では彼女の友人である柊つかさの死亡が伝えられた。彼女にとって大事な友人である彼女の死に衝撃を受けないわけがない。
 真面目な話、暫くはショックで動けず俯いているのが自然だ。最悪、生き返らせる為に殺し合いに乗ってもおかしくはない。
 しかし、こなたの表情にはその様などす黒い感情は見えない。むしろ、スバルの為にこの場所を離れようとするこなたの瞳には強い意志が宿っていた。

 そうだ、何の力も持たないか弱き少女だって負けずに戦おうとしているのだ。自分も負けずに戦わなければならない。

 だからこそ今はこなたを守る為に戦おう。夜空に祝福の風を巻き起こすかの様に――








 こうして、こなたとリインはホテルを離れスカリエッティのアジトへと移動を開始した。
 駅にてスバル達は次の目的地としてホテルとアジトの2つを考えていた。
 その為、戦いが終わった後、ホテル周辺に自分達がいなければアジトへと向かったと判断してくれると考えたのだ。
 書き置きは何もない。残す余力が無かったというのもあるが、下手に残した所で戦いの余波に巻き込まれ紛失する可能性もあり、危険人物に読まれる可能性もあったからだ。
 ちなみに、ホテル到着直前スバルはデュエルアカデミアに向かおうかと考えていたがその事をこなたもリインも聞いていない為、それは全く考慮に入っていない。
 もっとも、崩壊の可能性があるアカデミアに戻るのも危険なので仮に聞いていたとしても選択肢に入らない可能性は高いだろうが。
 この地に残らないで移動を行った理由は前述の通り今回の戦いに巻き込まれるのを避ける為、
 これまでの事を踏まえホテルが崩壊する可能性は非常に高く、その崩壊に巻き込まれて死亡する可能性は高い。
 また攻撃の余波に巻き込まれて死亡する可能性も言うまでもなく高い。
 更に前述の通り、近くにいるとスバルは自分達を巻き込まない為に全力を出せないだろう。この状況でそれは避けるべきだ。
 また、こなたが殺された場合、当然スバルは強いショックを受けるがそれとは別に避けるべき事項が存在する。
 放送で伝えられた殺害者のボーナス支給品の話。この話を踏まえればこなたが誰かに殺された時点でその参加者は支給品を1つ確保しそのまま強化される事になる。
 それでなくても武装に乏しい状況だ。危険人物の強化は絶対に避けなければならない。
 故に、自分の身を守る為にも、スバルの身を守る為にも、2人はホテルからの待避、アジトへの移動を選択したのだ。

197Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:02:00 ID:.m17H2vc0





 こなたとリインがこの場を離れたのは放送から約10分後、幸か不幸かホテルでの戦いに巻き込まれる事を回避する事が出来た。
 だが、結果として2人はそれぞれが最も再会したい人物との再会の機会を逃す事となった。

 簡単に放送前後から2時間強の間にホテルで起こった事を客観的に説明しよう。勿論、大部分はこなたもリインも知り得ない事である事を補足しておく。

 放送直前、スバルはホテルロビーで『天使』ことヴァッシュ・ザ・スタンビートとつかさの姉でありこなたの友人である柊かがみと遭遇した。
 だが、かがみはヴァッシュにスバルは危険人物と説明した為、両者は緊迫した状態となり、かがみはホテル地下の駐車場へと移動した。
 そして放送、このタイミングでヴァッシュ自身の左腕が暴走し無数の白刃が繰り出された。
 その白刃の斬り口からスバルはルルーシュ・ランペルージの右腕を切り落とした人物と断定し戦闘機人モードとなりヴァッシュとの交戦に入った。

 こなたとリインはその戦いの衝撃から、ホテルは危険だと断定し待避するという選択を選んだのである。

 勿論、2人の待避後もホテルでの戦いは止まらない。スバルとヴァッシュの戦いは続いていた。
 その一方、かがみは駐車場にあった装甲車を発進させ、ホテル近くまで来ていた相川始を轢き殺そうとした。
 結果は失敗、そしてそのまま両名はホテル方面へと移動しながら戦闘に突入した。

 ちなみに、かがみが装甲車でホテルから出たタイミングは放送から約30分後、こなた達が既に遠く離れた後だ。故にかがみはこなたが少し前まで近くにいた事を知る事は無かった。
 もっとも、再会した所で今のかがみはそのままこなたを殺す可能性が高かった為、それを避ける事が出来たのはある意味では幸運だったのかも知れないが。

 さて、放送から約2時間後、ホテルロビーでは何とかスバルとヴァッシュは和解しかけていた。しかしこのタイミングでかがみと始がロビーに乱入し4名は再び戦闘に突入した。

 それだけではない。この直後、はやてと金居が地上本部にあった魔法陣を使いホテル前までワープして来たのだ。
 このはやてはリインと同じ世界から連れて来られている。その為、リインにとって最も会いたい人物である反面、外道に堕ちてでも目的を達しようとする危険人物でもある。
 更に金居と始は元々の世界での敵同士、両者が出会えば戦いになる事は明白だ。

 そして、更に2人の『神』がホテルに迫っていた。
 1人は雷神・エネル、ヴァッシュに敗北を喫し威厳を奪われた神はヴァッシュ他全てを抹殺する為に自らの身に雷を纏いホテルへと足を進めていた。
 1人は死神・ヴィヴィオ、母を無惨に奪われ死神の鎌を手にした神は母を殺した者全てを抹殺する為に自らの身を血で染めホテルへと足を進めていた。

 ホテルにおけるこの後の物語は今はまだ語らない――だがこれだけは確実に言える。今最も危険な場所はこの場所だということだ。





 こなた達が再会の機会を潰した事は不幸だったのかも知れない――だが、こなたがここに残ったところで出来る事など特にない。むざむざ殺され下手人を強化させるのがオチだ。
 再会出来たけどすぐに死亡しました。それもまたある意味では不幸な結末だろう。そう、柊姉妹が再会しつかさが無惨に惨殺された時の様に――





 少なくてもそんな結末はこなたもリインも、そしてスバルも望んではいない。再会するならば当然お互いに笑顔で再会すべきだろう。





 その意味では、こなた達は祝福の風を受けていたのかも知れない――

198Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:03:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





「マンガとかで、無理矢理怒らせたり、悲しい気分にさせたりする超能力ってあるよね?」
「いや、リインに同意を求められても困るんですけど。そういうのあんまり読まないですし」
「でさ、そういう気の利いた魔法とかってある?」
「ありますよ。例えば……」
 リインはこなたにコンシデレーション・コンソール、怒りや悲しみの感情を強化する洗脳技術について簡単な説明をした。
「……ってもしかして参加者の中に洗脳されている参加者がいるって言い出すんじゃないですよね?」
「いや、そういう意味じゃなく、もしかしたらあたし達の考え方や感情が操作されているんじゃないかってちょっと思って」
 こなたの言いたい事はこういう事だ。
 知らず知らずの内に自分達の思考や感情が殺し合いする上で都合の良い風に誘導されているのでは無いかという事だ。
「少なくても、こなたやスバル、それにルルーシュを見る限りそんな様子は無かったですよ」
「でもね、レイやシャーリーの豹変がどうしても気になったんだよね。それにかがみんも……」

 確かに早乙女レイが突如豹変しルルーシュに対し発砲した事はある意味異常だった。
 またシャーリーがレイを射殺した事も事前に聞いた人物評から考えれば異常である。
 そしてかがみが殺し合いに乗って何人か殺している事実などこなたにとっては今でも信じがたい話である。

 また、2人は知る由もないが貴重な首輪確保の機会を何故か逃したり、
 示し合わせたかの様に出会えば対話を放棄し戦いに突入したり、
 思考する事を放棄して安易に諦め殺し合いに乗ったり、
 元々殺し合いに乗る筈の無い人物の精神が破綻し破滅を撒き散らしたり、
 ゲームを破壊するつもりが何故かゲームを促進させてしまったり、
 冷静に見れば殺し合い継続という意味では都合の良い出来事が頻繁に起こっている様な感はある。

199Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:04:00 ID:.m17H2vc0

「突然殺し合いに放り込まれたらそういう行動に出てもおかしくは無いと思いますよ」
 リインの言う通りだ。突然殺し合いに放り込まれて普段と同じ行動をしろというのも無茶な話だ。
「あたしもそう思うけど……それで説明が終わるぐらいにわかりにくく知らず知らずの内にそういう風にもっていかれている様な感じがするんだよね」
 理由を『殺し合いだから仕方がない』と説明出来る程度の異常を発生させて参加者全員に殺し合いを加速させようと目論んでいるという説だ。
 それは極々僅かな異常だからこそ、普通はまず気付かない。
 また選んだ危険な選択肢も選ぶ可能性は低くても0ではなく状況を考えれば有り得ない話ではないと納得出来るものだ。
 そして考えられない異常があった時は『殺し合いだから』で思考を止めてしまえばそれで終了だ。
「やっぱり毎回毎回ノストラダムスのせいにするミステリー調査班みたいな有り得ない仮説なのかな?」
「リインにはよくわからない例えを出されても困りますよ」
 こなた自身もこの仮説はあまりにも突拍子も無い説だという事は理解している。リインもその仮説を軽く流そうと――
「……有り得ないとは言い切れないですよね」
 リインは先程自分の奥底で湧き上がったどす黒い感情を思い出した。
 少なくても湧き上がった感情自体は本心によるもの、それは否定しない。
 だが、それとは全く真逆の理性もあったのだ。少なくとも何時ものリインが本来の理性を全て放棄してどす黒い感情のまま行動する事などまず有り得ないと自分では思っている。
 だが、先程の状況を思い出す限り、感情のままに暴走する可能性は否定出来ない。

 つまり、殺し合いに都合の良い感情が僅かに出やすい様に強化されているという事だ。
 僅かであるが故に、普段はそれに気付かない。パニックに陥った時に良心は駆逐され倫理観を捨て去る様にし向けるという事だ。
 それがいかに異常であっても前述の通り全て『殺し合いの状況だから仕方がない』と片付ければまず気付かれる可能性はない。

「コンシデレーション・コンソールの応用で可能だと思いますが……幾らそれが弱いものでもこの舞台全部に仕掛けているなら相当大げさな装置になるですよ」
「さっきのループといい何でもありだね」
「それに、こなたの仮説通りだとしても、結局の所この舞台をどうにかしないとどうにもならない事に変わりはないですよ」
「何か良い手段は無いかな?」
「(一応今スバルが持っているハイパーゼクターが使えるかもという話ですけど……幾ら何でもプレシアがそれを見落とすわけもないですから、別の方法も考えておかないと……)
 それを見つける為にも、今はアジトへ移動しないと」
「……で、方向ってこっちで合ってる?」
「まさか迷ったってオチは無いですよね?」
「……」
「…………」
「………………」
「こー! なー! たー!」


 ちなみに、現在位置はD-9中央の森林ではあったが、夜の闇は深く目印となる灯りも無い為、自身の位置を断定しきれない2人であった。

200Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:05:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 結論を先に述べれば実感なんてまだなかった。
 こう書くと現実を直視出来ない人に見えるが実際そうだったのだ。
 そう、こなたはつかさが本当に死んだとは思えなかったのだ。
 だがそれはある意味では仕方がない。こなたは幸か不幸かこれまでまともな死体を目の当たりにした事などなかった。
 故に、放送で淡々と名前を告げられただけで死んだ事を理解出来るわけではなかった。

 いや――だが恐らく放送は真実だろう。自分は実感出来なくても既に友人や家族の死を伝えられて泣いていたスバルやリインの姿を見ていたのだ。
 それを見ていながらいざ自分の時はその現実を認めず逃避する――あまりにも酷い人物だとこなた自身が思う。

 わかっている。まだ完全に実感したわけじゃないが――柊つかさは死んだ。少なくてもそれは認めなければならないだろう。

 勿論、残酷な話だが希望がまだ無いわけじゃない。
 仮につかさが自分のいた世界と違う世界から連れて来られていたならば、元の世界に帰っても変わらずつかさはそこにいるという可能性はある。

 そんな事を一瞬でも考えた自分を酷く嫌悪した。
 自分で巫山戯るなと思った。それを希望だと思った自分に腹が立った。
 それを認める事は別の世界のスバルでも変わらず守ろうと思ったルルーシュに対する最大級の冒涜だ。
 スバルやリインだって互いが別世界から来たとしても変わらず仲間だった筈だ、彼女達に対する侮辱だ。
 大体、別の世界のつかさだとしてもそれはその世界の自分自身の友人がいなくなった事を意味する。別の世界の自分を悲しませてどうするというのだ?

 結局の所、元の世界のつかさが無事という可能性があるというだけの話であってそれ以上でもそれ以下でも無いという事だ。決して希望ではない。

 真面目な話、つかさ達を生き返らせる――いや、ゲーム機のリセットボタンを押すかの様に優勝して全てを無かった事にしようかと本当に一瞬だけだが考えた。
 しかしそう考えた瞬間、今まで出会った仲間達、ルルーシュ、スバル、リイン、ヴィヴィオ、シャーリー達の顔が浮かんできた。
 彼等はどんなに悲しくても決して投げ出そうとはしなかった。なのに自分は何を考えているのだろうか?
 故にこなたはこのデスゲームのリセットボタンを押す事を止めた。いや、リセットボタンその物を破壊して二度と馬鹿な考えをしないと思った。





 だが、進もうとしている足は止まってしまった。スタートボタンを押してポーズした状態で動きを止めてしまったのだ。
 そう、どんなに先へ進めようとも起きてしまった事実は変えられない。つかさが死んだ事実は決して揺るがないのだ。

 高い確率でつかさとは二度と会えない可能性が高いのだ――その空虚は決して埋まる事はない。限りなく切なく空しい――

 覚悟はしていた筈だった。どちらにしてももう元の生活に戻る事はないと思っていた。だから前に進もうと思っていた。
 だが、本当は何処か甘く考えていた。覚悟なんて出来ていなかったのだろう。

 結局の所、現実はゲームやアニメ等とは違うという事だ。
 所詮、現実世界では泉こなたはヒーローでもヒロインでも何でもなく、只の何の力も持たない一般人Aでしかないのだ。



 故にこなた自身、もう前に進めないと思っていた――



『そうやって悩んで立ち止まるのは……生き残ってからでも出来るだろう』



 そう考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。



(ルルーシュ……?)



 そんなオカルトは決して有り得ない。既に彼は死亡している筈なのだ、首輪も回収している以上それは揺るがない真実だ。
 ならば幻聴だというのだろうか?



『今そのために何もできずに立ち止まってそのまま殺されては何もならない。誰も喜ばないだろう』



 その言葉はこなたの胸に深く突き刺さる。
 わかっている。今このまま無為に立ちつくしても無駄に殺されるだけだ。そんな事はスバル達は勿論、元の世界にいる家族や友人達も喜びはしない。
 それは絶対に許される事ではない。

201Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:06:00 ID:.m17H2vc0



『だから……今はまず、生き残ることを考えろ』



 その通りだ。所詮自分はヒーローでもヒロインでもない、しがない只の一般市民だ。
 生き続ける限り何度でも悩み立ち止まる事はあるだろう。だがそれでも生き続ける限り何か出来る事はあり、幾らでも前に進める筈なのだ。
 死んでしまえば最早進む事も戻る事も、悩み立ち止まる事すら出来なくなる。そうなってしまえばどんなに願おうとも誰も助ける事は出来ない。



(……つかさ、ごめん。今はまだつかさの為に何が出来るかは考えられないし、つかさのいない世界を受け入れられるかはわからない……
 でも、あたしはまだ生き続けるよ……まだ生きているスバル達や……なによりかがみんの為にも……)



 轟音が響く。



「!? もしかして、あの『天使』さん敵だったの?」
 恐らくホテルではスバルと『天使』が戦っているのだろう。ならば戦いが激しくなればこの場所も危ない。
 スバルが全力で戦えば『天使』が相手でも問題は無いだろう。だが、自分が近くにいると自分を危険に巻き込むまいと全力を出せなくなる可能性がある。
 更に、自分が不用意に殺されれば殺害者へのボーナス支給品が与えられスバルを危機へと追い込んでしまうし、それでなくてもスバルはショックを受けるだろう。
(それに……スバルと約束したんだ、自分の身は自分で守るって……だから!)

 そう考えたこなたの行動は素早かった。

「リイン、行くよ」
 早急にホテル周辺から離れ予め話していたもう1つの目的地であるスカリエッティのアジトへの移動を開始した。
 自分達が無事に離れればスバルは遠慮無く全力で戦える。確かスバルにはジェットエッジを持たせていたから戦闘後すぐにでもアジトに向かってくれるはず。
 ならば迷う事はない。移動しない手はない。というより、このままこの場所に留まっている方が危険が大きい。移動すべきである。



「こなた、少しはリインの話も聞い――」



 ああそうか、リインの意見を無視していた様だ。



「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けるから……だから急がないと」



 自分は今、泣いていたのだろう。それでもみんなの為に生き残る、その為に今は悲しみに負けないで走らないとならない。



 気が付けばルルーシュの声は聞こえなくなっていた。結局の所あの声は何だったのだろうか?
 いや、実を言えばルルーシュが言っていた言葉には聞き覚えがある。というよりあって当然だ。

 その言葉は、右腕を失い絶望しているルルーシュに自分自身が言った言葉と殆ど同じじゃないか。
 そして、つかさを失い絶望している自分にルルーシュがその言葉を返したという事――

 そんな都合の良い幻想なんて無い。きっと、自分を立ち直らせる為に自分の中のルルーシュにそれを言わせただけなのだろう。ある意味酷い妄想だ。

 だけど、正直そんな事はどっちでも構わないし大した問題じゃない。どちらにしてもルルーシュが助けてくれた事に変わりはない。




「ありがとう、ルルーシュ」
「何か言ったですか?」
「ううん、何でもないよ」



 そういえば、つかさの死亡を知ったらかがみはどうするだろうか?
 それでなくても殺し合いに乗っていたのだから。強いショックを受けて暴走してもおかしくはない。出会った人を次々襲っている可能性は十分にあり得る。




(どうしてこうなった……幾らかがみんがツンデレでも、平然と人を殺せるはずが無いんだけど……まさかあのおばさんかがみんに何かしたのかな?
 それに冷静に考えてみればあの状況でいきなりレイがルルーシュを襲う事だってヤンデレ化したと片づけるには何処か不自然だし……
 シャーリーにしたって、ルルーシュに聞いた彼女の性格から考えて状況が状況とは言えレイを有無を言わさず殺す何て事有り得ないしなぁ……
 ひょっとして……あのおばさんがみんなに殺し合いさせようと操っているんじゃ……
 ……いや、考え過ぎかな……本当にどうしてこなた……)

202Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:08:00 ID:.m17H2vc0
「何よりも困難で幸運なくしては近付けない道のりだった……アジトに近付くという道のりがな……」



「実際、アレ見つけなかったら朝まで迷っていたかもしれなかったですからね。というか、こなたキャラ変わってませんか?」



 目の前には洞窟があった。リインが見たJS事件の資料で見た写真通りだった事からスカリエッティのアジトである事は間違い無い。
「まぁ、アジトって言うからには目立つ様な外見じゃ困るから見つけにくくて当然だけどね」

 幸か不幸か2人は2時間以上も森の中を迷っていた。
 リインが周囲の策敵を行っていたが魔力も人の反応も見受けられなかった為、誰にも遭遇することなく今まで時間が掛かっていたのである。
 そして無事にアジトに辿り着けたのは偶然ある痕跡を見つけた事だ。
 それは血痕、その近辺で戦いが起こった事は明白である。血の乾き具合から見て12時間以上も前のものだと推測出来た。
 血痕は何処かへ移動するかの様に続いていた。それが意味する事は治療の為に何処かの施設への移動、
 この近辺で治療に使えそうな施設はスカリエッティのアジトぐらい、故に2人はそれを辿り移動した。
 勿論、血痕が比較的早期のものというの否定出来ず、危険人物がまだ近くにいる可能性もあった為、慎重に移動した。
 そして慎重に周囲を探った事であるものを発見する事が出来た。それはチンクのナンバーズスーツの残骸だ。
 回収こそしなかったが、これによりチンクが治療の為アジトへ向かった事はほぼ確定した。
 血痕そのものは途中で途切れていたが消された痕跡があった事からも近くにアジトがある事は確実。2人は慎重に周囲を探り今ようやくこの場所にたどり着いたのだ。

 以上の事と、スバル経由で聞いたチンクの動向から次の推測が導き出された。
 チンクと万丈目準がこの近辺で交戦しチンクは負傷し治療の出来そうな施設へ移動した。
 その途中、天上院明日香もしくはユーノ・スクライアの助けを受け移動の痕跡を消した上でアジトにたどり着いた。
 そして治療が終わった後、チンク達は市街地方面へ移動したという事だ。

「……ということは、もうこの施設は調べられちゃったって事?」
「そういう事になりますね。チンクが使える道具を回収しないわけないですし。見落としが無いとは限らないですけど」
「じゃあもしかして無駄足だった?」
「そんな事は無いですよ。この施設を使えばスバルの治療も出来る筈ですし」

 戦闘機人であるスバルは通常の人間の治療があまり有効ではない。それ故に専門の施設が必要となる。
 が、アジトはチンク達戦闘機人の拠点、当然戦闘機人の治療設備は整っている。
 実際チンクがここを訪れた事がその証明と言えよう。

「じゃあ、すぐにでも中に入ろうよ。もしかしたらスバルが先に来ているかも知れないし、来ていなくても治療の準備も出来るし」
 と、足早に洞窟に入ろうとしたがリインが制止する。
「慌てないでくださいよ! 殺し合いに乗った参加者が先回りしていてここに罠を仕掛けたかも知れないんですからね!!
 それでなくても、この場所は敵地なんですよ。どんな罠や危険があるかわかったものじゃありませんよ!」
「そっか、ここはアウェーだったね」
「アニメイトの時を思い出してください。施設に入って安心した所で襲撃を受ける可能性は否定出来ませんよ。あの時助かった幸運が何度も続くわけないんですからね」
「う……」
「それに、アジトは出入り口の限られた場所です。逃げ道を封じられればその時点でこなたもリインもおしまいです。突入は慎重に行うべきですよ」
「じゃあ、安全が確認出来るまではここで待つって事?」
「そういう事になりますね。さっきも言った通り既にチンクが調べたのは確実ですから、現状リイン達が慌てて調べる必要性はないですよ」

 何はともあれ、周囲の警戒は決して怠らず2人はアジトの近くでスバル、もしくは他の仲間の到着を待つ事にした。
 ちなみに今更ながらにこれまで何も食べていなかった事もあり2人は簡単に食事を取る事にした。
 そして食べながらも2人はこれまでの情報を整理する事にした。

203Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:12:00 ID:.m17H2vc0



「とりあえず、放送の事は大体覚えていますよね」
「うん……」
「あ、誰が死んだかについての話じゃないですから。それ以上に重要な事が幾つかあるですよ」
「殺した人へのボーナスの事?」
「それに関しては殺し合いに乗っていないリイン達にはあまり関係ない話ですよ。
 ただ、殺し合いに乗った人は誰かを殺した時点で新たな武器が手に入る事になりますから、それを避ける為にも今まで以上に身を守らないとならないですよ」
「とりあえずスバル達の為にも生き続けなきゃいけないって事だね」
「そうです。現状、ボーナスに関してはこれ以上出来る事は無いからこれで話を区切りますね。こなた、先程の放送誰が行っていたか覚えていますか?」
「そういえばおばさんじゃなかったね。誰だったかな?」
「こなたが知らないのも無理無いですよ。さっき放送を行ったのはオットー、スカリエッティの戦闘機人の1人でチンク達と同じ姉妹の1人です」
「ふーん……え? それっておかしくない? それはつまりオットーはチンクの姉って事だよね……」
「妹ですよ」
「いや、声が低かったから年上だと……チンクの服も体型が……」
 そう口にした瞬間、自分の体型を思い出しこなたは暗い気持ちになった。
「勝手に自爆しないでくださいよ」
「うん、貧乳はステータスだから大丈夫。希少価値だから大丈夫」
「後で殴って良いですか?」
「それはともかく、リインの話が事実だったらそのスカリエッティ達もおばさん達に協力しているって事になるけど……
 わざわざ自分達の仲間を危険な殺し合いに放り込んでいるって事になるよね。それっておかしくない?」
「まず、前提として説明しますけど主催者側にいるスカリエッティ達は参加者にいるクアットロ、チンク、ディエチとは別世界の可能性が高いです。
 こなたにも分かり易く言えば、参加者の彼女達と主催者達はほぼ無関係という事ですね」
 仮にチンク達が主催者側の人物であれば自分達と協力関係を結ぶ可能性は非常に低い。
 だが、チンクにしてもディエチにしてもこちら側と敵対するつもりが無かった事はルルーシュやスバルの証言からも明らかだ。
 一方、クアットロに関してはこの場での彼女の動向が不明である以上、判別はつけにくい。
 しかし、クアットロの能力や性格を考えれば最も危険な参加者として戦う事はまず有り得ない。裏方に回って他の参加者を扇動する役割に回る方が自然である。
「もっとも、既にチンクとディエチは死亡していますし、クアットロはそれでなくても危険人物ですから今となってはさほど意味を成さない話ですけどね
 むしろ、チンクとディエチが死亡したタイミングだからこそオットーが前面に出てきたと思いますよ。
 チンク達だったらショックを受ける事でも、クアットロはあっさり受け入れるでしょうし」
「1つ気になったんだけど。みんなクアットロを敵だと思っているの?」
「彼女を知る人間はまず彼女を信用していないですよ。信用する人物は余程のお人好しか馬鹿としか言いようがありませんよ」
「……本当にそんな人いないの?」
「シグナムにしてもヴィータにしてもザフィーラにしてもはやてちゃんにしてもそんな馬鹿な事しないですよ」
「それだけ信用されていないんだったら、クアットロ自身も自重しそうな気もするけど…………あれ、誰か忘れてない?」
「………………話進めますよ。
 恐らく主催者側にいるスカリエッティ達はJS事件が終わる前の存在だとだと思います。そして、その戦力を確保していると考えて良いですね」
「もしかして、主催者達との戦いになった時は彼女達と戦う羽目になるって事?」
「その通りです」
 仮に首輪を解除する事に成功し主催者側との戦いに突入出来たとしよう。主催者側は恐らく自身達の持つ戦力を投入するのは明白だ。
 そしてスカリエッティ達の存在が確認出来た今、その戦力はある程度推測出来る。
 単純計算して最低でもJS事件の規模の戦力が控えていると考えて良いだろう。
「それだけじゃないですよ。プレシアの技術力が確かなら遥か未来で起こった事件の首謀者達の戦力を確保しても不思議じゃないです」
「ねぇ、それ何の無理ゲー? それにそれってあくまでも首輪を解除してそこに辿り着いてからの話だよね? まだその段階にすら辿り着けていないんだけど……」
「もしかすると『だから何やっても無駄だから諦めて殺し合え』って言いたい様に聞こえますけど、リイン達は諦めるつもりは全く無いですよ」
「そうだね」

204Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:13:00 ID:.m17H2vc0

 ふと2人は空を見上げる。空には星と共に月が輝いているのが見える。
「綺麗な満月です」
「……うん、そういえば昨日も綺麗な満月だったよ」
「そうでしたか……あれ? 『昨日も』?」
「ん、どうかした?」
「いや、連日満月なんて有り得ないですよ」
「あ……」
「ちょっと待ってくださいよ……もしかしたらリイン達はとんでもない思い違いをしていたのかも知れないですよ」
「どういう事?」
「今までこの場所に来てから雲を見ましたか?」
「そういえば見た覚えが……でもそれはたまたま天気が良かっただけじゃないの?」
「さっきホテルから離れる時雷の音が聞こえたのは覚えていますよね」

 実の所、先程ホテルから移動する際、遠くから雷鳴の音が聞こえてきたのだ。
 雷そのものを見たわけではない為具体的な場所はわからないが音の方向は西側からというのは把握出来た。
 今更な話だったが、方向が東に寄れてしまったのは無意識のうちに雷を避けていたからかも知れない。

「そういえば……雲1つ無いのに珍しい事もあると思ったけど……」
「普通雲も無いのに雷なんて落ちないですよ。多分、アレは参加者の誰かによるものだと思います」
「そういえば、ヴィヴィオがそんな参加者に出会ったって言っていた様な」
 リインの推測自体は当たっている。もっとも、雷の元凶となっている参加者の周囲には能力による雷雲が構築されていたが、確認していない2人には知る由もない。
「でも、これ自体は別に問題じゃないです。重要なのは『1日中全く雲が発生しない異常気象』という事です。多分、これは意図的によるものだと思いますよ?」
「どうして雲1つない晴れにする必要があるの?」
「雨降っている中歩き回りたいですか?」
「納得」

「それからこなた、カード出して貰えます?」
「これの事?」
 と、こなたは2枚のデュエルモンスターズのカードを出した。
「レイ達の情報が確かならカードで強力なモンスターを使えるという話でしたよね」
「使い捨てみたいだけどね」
「その力がどれぐらいなのかはリインにはわからないですけど、多分それに関しても制限がかかると思いますよ」
「まぁ、ギアスとかにも制限がかかるわけだからそれ自体は不思議じゃないけど……それがどうかした?」
「その制限は何処から発せられていると思います?」
「…………あ!」
 通常、参加者の能力を縛っているのは首輪だと誰もが考える。自分達を拘束しているのが首輪だからそう考えてもおかしくはない。
 では、参加者の能力が絡まない支給品独自の能力、例えばデュエルモンスターズのカード等に関してはどうだろうか?
 参加者自身はほぼノーリスクでその力が使える以上、その力を制限するのは首輪ではない事は明白だ。
 ではカードのモンスターの能力はどうやって制限しているのだろうか?
「このフィールド自体?」
「その通りです。正直、この小さな首輪に種々様々な力全てを制限するのは難しいです。ですが、この舞台全てがその装置だとしたら十分可能です」
「……あれ、ちょっと待って、それってもしかして……」
 これまでの話からこなたの脳内にある仮説が浮かんだ。
「このフィールドはプレシアによって作られたものだったんだよ!!」
「正解ですけど……なに急に口調変えているんですか?」
「『な、なんだってー!』って言ってくれないんだ……」

 殺し合いに都合の良い負の感情を増幅する機能、
 参加者を逃がさない様に端と端とのループ、
 永久に晴れ続け、変わらない夜を作る不自然な空、
 そして多様に存在する力の制限、

 これはこの舞台が殺し合いの為に人為的に作られた空間を示す証拠となり得るだろう。

「なんとかこれでこのフィールドを破壊出来ないかなぁ?」
 こなたは2枚のカードを見つめながらそう口にする。
「残念ですけど、その2体の威力程度はプレシアも計算済みだから無理ですよ。大体それで簡単に突破されたらあまりにもお粗末過ぎじゃないですか」
(でも……カードゲームのカードって組み合わせ次第で色々出来るんだけどね……それこそカードを作った人も知り得ないくらいにね……融合とか何か出来ればさ……)
 もしも、手元に2枚のカードを生かす為のカードがあったならば――こなた自身それが何かはわからないが想像を絶する程の力を発揮すると考えていた。
(ま、無い物ねだりしても仕方ないけど)

 そういいながらカードを仕舞った。

205Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:14:00 ID:.m17H2vc0





「……という事は、あたし達が助かる為には4つクリアしなければならない問題があるって事?」

 1つ目、殺し合いに乗った参加者を全て無力化する事、
 2つ目、首輪を解除する事、
 3つ目、殺し合いのフィールドから脱出し主催者の元に辿り着く事、
 4つ目、主催者側の戦力を打ち破る事、
 現状、これら全てをクリアしない限りこの殺し合いを打破する事は不可能という事だ。

「っていうか、1つ目すらマトモにやらせてもらっていないんだけど……」
「とりあえず参加者の無力化はリイン達には無理ですから現状は2つ目と3つ目を何とか考えなきゃならないですね」
「……ねぇ、これだけ大規模な舞台だったらその為の装置は相当な大規模になっていると思うんだけど」
「多分、相当な数のロストロギアを使っている可能性は高いですよ」
「前リインは、管理局の助けは期待出来ないって言っていたけど、これだけ大規模なのに気付かないのは流石に馬鹿過ぎるんじゃないの?」
「スカリエッティ達が絡んでいる時点で隠蔽もクリア出来るとは思いますけど……でも、これだけ大規模なのに全く察知されないのも不自然と言えば不自然ですね……」
「でしょ、この舞台がある世界の管理局だったらわかると思……ちょっと待って、逆に考えるんだ『管理局にバレてもいい』と考えれば……」
「いや、管理局にバレたらその時点で踏み込……そうですよこなた、バレても踏み込まれる前に決着を着ければ何の問題も無いですよ」
 リインはJS事件の背景事情である地上の対応の悪さについて簡単に説明をした。
 要点を纏めると管理局と言えども、完全無欠ではなく迅速に対応出来るわけではないという事だ。
 つまり、管理局にこの場所がわかったとしても対応される前に全ての決着を着ければ何の問題も無いという事だ。
 前述の通り主催側の戦力は十分に揃っている。管理局が踏み込んだとしてもある程度の時間は稼げるだろう。
「思い出してください。ボーナスの話を何度も持ち出している事から考えてもプレシア達が早くこの殺し合いを終わらせようとしている事は明らかです。
 つまり、この殺し合いは最初からタイムリミットが存在していたという事になるですよ。ペースを考えてそのタイムリミットは長くても2日程度だと思いますよ」
「……うわ、それじゃあ管理局間に合いそうにないね」
「良くてギリギリです。だからやっぱり援軍は期待出来ないですよ」
「ていうか、残り人数だけで4つの問題をクリアするのってどれだけ無理ゲーなんだろう……」
「嘆きたい気持ちはわかりますけど、とりあえず今生き残っている人を整理するですね」

206Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:15:00 ID:.m17H2vc0

 放送までに生き残っている人数はこなたを除いて18人。
 その内、相川始、アーカード、アレックス、エネル、金居、ヒビノ・ミライの6名は具体的な人物像が不明瞭なので保留。
 ちなみに赤コートの男がアーカードで雷の男がエネルなのだがこなた達はその事実を知らない。
 次にチンク経由の情報でアンジール・ヒューレーが味方でヴァッシュが敵という情報がある。もっとも、チンクが死亡した今アンジールが殺し合いに乗る可能性があるのが気になる所だ。
 メールからの情報ではキングという名の人物が要注意人物らしい。
 天道総司に関してはヴィヴィオとクラールヴィントからの情報があるもののどちら側かまでは判断が付けられない。
「ここまでで10人です」
「あと、かがみんだけど……今どこで何をしているやら」
 かがみが今も生きている事は嬉しい。しかし、殺し合いに乗っている事実がある以上素直に喜ぶ事が出来ないのが本音だ。
「一度スバルが戦ったけど止められなかった事を考えると難しいかも知れないですね」
「出来ればかがみんにはもう誰も殺して欲しくないし、殺されて欲しくもない」
「この辺はなのはちゃんやスバルを信じるしか無いですね」
 後の7人はリインもよく知る人物だ。
 なのは、はやて、ヴィータ、スバルは機動六課の仲間。先程まで行動していたスバルは頼れる仲間だが、後の3人は状況次第ではどうなっているかわからない。
「はやてちゃんですら危険人物というのがリインとしては辛いですけど」
 クアットロに関しては完全に危険人物だ。保護を頼んだディエチやチンクには悪いが信用は全く出来ない。
「でもクアットロって頭は回るんだよね。幾ら何でも自分が信用されていないとわかっているならそういう無茶はしないと思うけど」
「そう思わせておいて最後に裏切る可能性がありますよ」
「流石に可哀想になって来た気がする」
「同情しちゃダメですよ」

207Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:16:00 ID:.m17H2vc0
 そしてヴィヴィオ、放送で名前が呼ばれていない為生存は確認出来た。
 だが、彼女を連れ去った容疑者とされていたルーテシア・アルピーノ、キャロ・ル・ルシエ共に死亡しているのが引っかかる。
 勿論、この2人が犯人ではなかったという可能性もある。だが、彼女達がゆりかごに向かう途中でヴィヴィオを残して命を落とした可能性もある。
 それならばヴィヴィオは今何をしているのだろうか?
「でも、リインの話が確かだったらレリックが無い限りゆりかごを起動される心配は無いよね。少なくとも今のところその様子は無いし」
「逆言えばレリックがあれば起動出来……あ、もしも、アニメイトを襲ったのがルーテシアだったの話ですけど、その場合嫌な仮説が……」
 一番の理想はヴィヴィオとレリックが両方そろっている場合だ。その可能性も無いとは言わないが、正直少々都合の良すぎる話だ。
 だが、ルーテシアがヴィヴィオを攫ったと仮定すればどうだろうか?
 ルーテシアの体内にはレリックがある。つまり彼女を殺してそのレリックをヴィヴィオに埋め込めば条件はクリア出来るという事だ。
 おそらく全てが上手く行って余裕の表情でゆりかごにやって来た所を残虐な参加者に仕留められレリックを摘出された可能性がある。
「そんな残酷な……って、誰がそれをやったの?」
「それはわからないです。でも……それを行った人ももう死んでいる可能性がありますよ」
「え?」
「JS事件と同様にヴィヴィオを聖王にして洗脳する可能性があるです……それに放送を聞いたとしたら」
 それを聞いた瞬間、2人の表情が青ざめる。
「ヴィヴィオが大好きな人……みんな死んじゃったんだ……」
「コンシデレーション・コンソールとそのショックでヴィヴィオが全てに復讐する可能性があるです」
 勿論こなたは生きているがそんな理屈は通用しない。死者が多すぎる以上こなたの生存を認識し損なう可能性は非常に高い。
「だけど……JS事件で1度止めているんだよね?」
「あの時は先に装置を牛耳っているクアットロを仕留めて洗脳を解除したから何とか上手く行った様なものです。そんな都合の良い展開に2度もならないです。
 それに一応言っておくですけど、あの状態のヴィヴィオは全力全開のなのはちゃんよりも強いですよ」
「うそぉ……でもさ、よくわからないんだけど他の人のレリックを埋め込んでその時と同じ状態になるのかな?」
「同じ状態にならなければ大丈夫だって言いたそうですが……というか、そんなレリックをポンポン埋め込むのが身体に良いと思っているんですか?
 適合しないレリックを埋め込めば命に関わりますよ」
「つまり……死ぬって事?」
「まぁ、仮説を何重も上塗りした仮説ですからそんな事が実際に起こっているとは限らない……というか思いたくないですけど」
「ヴィヴィオ……天道さん大丈夫かな……?」
「はい? どうして天道って人の名前が出るですか?」
 シャーリーの父親はゼロに殺されていた。そんな中、シャーリーは天道をゼロだと断定しており、ヴィヴィオもその場に居合わせていた。
 もっとも、その後シャーリーはゼロの正体がルルーシュである事を知り、それが誤解だと理解した。勿論、その場所にもヴィヴィオは居合わせている。
 しかしヴィヴィオはルルーシュが残虐なゼロだとは思えなかった。こなたもルルーシュがそこまで悪い人間じゃない事をヴィヴィオに説明している。
 となれば、ヴィヴィオは未だにゼロがルルーシュではなく天道だと誤解する可能性があるだろう。
「というかどうしてシャー……」
「あれ? どうしたの?」
「いや、あっちのシャーリー(本名はシャリオ)を思い出しただけですよ。ともかくシャーリーは天道をゼロだと思ったんですかね?」
「ゼロと断定出来る物を持っていたんじゃない? 何にせよ、ヴィヴィオがあの状態になっていたら天道さんが危ないと……」
「そうそう都合の悪い事になんてならないと思いますけどね」
「なんか起こってそうな気がする」

208Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:17:00 ID:.m17H2vc0





「そういえば今何時です?」
 こなたが時計を取り出し確認をすると既に9時半を過ぎていた。ちなみに丁度今食事が終わった所だ。
「もう、ホテルでの戦いは終わったかな? 無事だったら良いけど……」
「スバルは強いですからきっと大丈夫ですよ」
 そうこなたには答えたもののリインも不安を感じている。
(でも、何時までもここで待っているわけにはいかないですね。恐らく次の放送で残り人数が15人以下になる可能性は高いですから……)
 駅には15人以下になった時点で開く事の出来る車庫がある。4人死亡したのを確認出来ない限り向かう事は不可能なのでそれが可能となるのは次の放送以降だと考えて良い。
(ただ、同じ事を考えている参加者もいる筈です。戦いになる可能性を考えるとこなたを行かせるべきではないです。
 それに、中の危険を考え突入は控えたけど何時までも只待っているわけにはいかないです。本当に中に誰もいないなら一度入るべきですか?
 もしくは他の施設へ向かうという方法もあるですね。ただ、スバルが来る可能性がある以上下手に動くわけにもいかないです……)
 リインは周囲の様子を探る。しかし、アジト及びその周囲に人がいる気配はない。
(人はいない……そう思ってむやみに動くとアニメイトの二の舞に……)
 そう考えていると、
「リインってユニゾンデバイスって話だけど、ユニゾンデバイスって何?」
「……ていうか今更な話ですね」
 リインは簡単にユニゾンデバイスについて説明をした。
「じゃあ、ユニゾンすれば強い魔法が使えるって事?」
「でも、相性の問題がありますから誰でもってわけにはいかないですよ。リインにしてもはやてちゃんとヴィータ、それにシグナムとしかユニゾンしてないですし」
「ちぇ、ユニゾンしたらあたしも使えるのかなって思ったのに……ところで他にもユニゾンデバイスっているの?」
「1人いますよ。アギト……」
「ん? どうしたの?」
 リインはアギトについての簡単な説明を行った。
 アギトはJS事件ではゼスト・グランガイツとルーテシアと行動を共にしスカリエッティと協力していた。
 JS事件後はシグナムをロードとして八神家の一員となっていたが……
「そっか、アギトの大切な人がみんな死んじゃったんだね」
「リインが支給されていた事から考えてアギトも支給されていると思いますが……心配です」





 2人は空を見上げる。そこには変わらぬ星が輝いていた――
 そしてそんな2人の横を一陣の風が吹き抜けていった――

 輝ける星は幸運の星――
 吹き抜ける風は祝福の風――

 彼女達及び家族や友人達にとってそうである様に――

209Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:18:00 ID:.m17H2vc0











「あと、ユーノって人がいたよね」
「すっかり忘れていたですよ。無限書庫の司書長をしていて、なのはちゃんが魔法に出会う切欠になった人ですね。
 チンクの話では殺し合いに乗っていないらしいですから多分大丈夫だと思いますが……」
「何か特徴とかってないの?」
「確かPT事件ではフェレットに変身していたって聞いているですよ」
「まさか一緒にお風呂に入ったってオチは……」
「何故わかったんですか? 念の為言っておくですけど、なのはちゃんが9歳の時の話ですよ」
「他に何か分かり易い特徴ってある?」
「どの時期から連れて来られているかわからないですからね……そうだ、ヴィヴィオと声が似ていましたよ」
「ユーノきゅんって男の娘?」
「言いたい事わかりますけど違いますよ!」





【1日目 夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.このまま待つ? アジトに入る? 駅に向かう? もしくは……
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

210 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:23:00 ID:.m17H2vc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>192-201が前編『Iの奇妙な冒険/祝福の風』(約26KB)で、
>>202-209が後編『Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす』(約23KB)です。

今回のサブタイトルは見ての通り『仮面ライダーW』風のタイトルになりました(本当はやるかどうか迷ったけど、結局やることにした。)。元ネタは以下の通り
『Iの奇妙な冒険』……『ジョジョの奇妙な冒険』※Iは泉こなたの泉のI
『祝福の風』……『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』※祝福の風にしたのはリインメインだから……前にも祝福の風使った事あったけど問題は無いよね?
『すたーだすとくるせいだーす』……『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』
ちなみにサブタイ当初案は『こなリンの奇妙な冒険 Part1 祝福の風』&『こなリンの奇妙な冒険 Part2 すたーだすとくるせいだーす』でした。
……また仮面ライダーW風にしちゃったよ、テヘッ♪
まぁ、仮面ライダーWのドーパントの能力ってスタンド能力的なの多いから問題は無いかな? さぁ、明日の放送が楽しみだ……って休みじゃねーか。

211リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 09:41:36 ID:z1IzJ9YYO
投下乙です
冷静に的確な判断をくだすこなたスゲーとか祝福の風として頑張ってるリインカッコいいとか貧乳はステータスだ希少価値だとか色々感想あったのに全部最後でぶっ飛んじまったw
JS事件でゆりかご内部地図とかで頑張ってくれたユーノを忘れんなよリインw
しかも貴重な対主催の一人だってのにwww

でも男の娘には同意です

212リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 18:02:32 ID:teQ9Wj2w0
連日の投下乙です

>Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6
今でさえヤバいホテルがさらにヤバいことに!?
エネルは周囲の電気を吸収して神・エネルというか常時正真正銘雷神・エネルみたいに…
それにしてもはやてと金居の腹黒二人の腹の探り合いがw

>Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE
>Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE
こなたはあの引きから止まったか
そして力がダメなら頭とばかりに色々と考察を巡らすちびっ子二人組
おいリイン!シャマルさんディするなよ!
今回やたらとネタを繰りだすこなただがもしかしてつかさの死を紛らわせようとわざとそうした行動していたのかな
あとユーノ君がんばっているんだぞ!

213リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 23:46:08 ID:lGD8LEk60
投下乙です

動揺してたのに止まって冷静に考察とはすげえ
色々とネタもあって面白いが…なるほど、こなたの死を誤魔化す為の行動かもな
そしてユーノ君の扱いがw

214リリカル名無しA's:2010/06/19(土) 16:55:56 ID:QN.ji5uY0
うおおおお!?
気付けば投下が沢山!
ヴァッシュとスバルがひとまず和解したと思えば何か危険要素がぞろぞろと!
さらにエネルまでー!
しかし天は我らを見捨てなかった!
こなりんに吹きつつ考察に感心したぜ!

215 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:46:51 ID:CvSVnTdQ0
これより高町なのは(StS)、天道総司、ヒビノ・ミライ、アンジール・ヒューレー、クアットロ、キングで投下します

216 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:48:01 ID:CvSVnTdQ0
プレシアの目論みによって開かれたデスゲームも彼此10時間が経過しようとしていた。
暗き夜に開始された凄惨な催しは朝と昼を通過して、今まさに再び夜に戻ろうとしている。
当初は60人いた参加者も既に生き残りは3分の1を切っている。
そんな過酷な環境の中で生き残った4人の参加者が紅蓮の炎に包まれたスーパーを背に対峙していた。
ここまでの激戦を潜り抜けて生き残ってきただけあって4人とも名うての兵揃いだ。
時空管理局が誇るエース・オブ・エース、高町なのは。
天の道を往き総てを司る男、仮面ライダーカブトこと天道総司。
元ソルジャー・クラス1st、アンジール・ヒューレー。
無限大の未来を秘めた宇宙警備隊のルーキー、ウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。
なのはとカブト、アンジール、そしてメビウス。
まさに三者鼎立、三竦みの状態。
今の状況は緊迫していた。
その一翼を担うなのははカブトの傍に控えながらある事が気に掛かっていた。

(銀色の鬼は殺し合いを望んでいない……?)

ここまでなのははカブトのそばで治癒魔法を行使しながら乱入してきた銀色の鬼の様子を窺っていた。
最初は問答無用にカブトを撃墜したのでアンジールの仲間かと思った。
以前弁慶から銀色の鬼は危険な存在だと聞かされていたのでてっきりそうだと思い込んでいた。
だがその直後アンジールの攻撃を阻み、さらに戦いを止めろと言った行動を目の当たりにして銀色の鬼の真意が分からなくなった。

実のところなのはは天道とアンジールの戦いに横槍が入る事を危惧していた。
その理由は周辺をサーチしてすぐ近くの雑居ビルに誰か潜んでいる事を知ったからだ。
当初可能性として考えられたのはアンジールの協力者か、様子見の参加者だった。
もしも後者ではなく前者なら天道は罠が仕掛けてあるかもしれない場所に誘い込まれた事になる。
今でさえ互角であるところに横槍を喰らえば敗北は必至。
だからこそ雑居ビルに潜む第三者に注意は払っていざとなればカブトを守るために戦場に介入するつもりだった。

ところが乱入してきたのは雑居ビルに潜んでいた者ではなく、別の方角から飛び込んできた銀色の鬼であった。
雑居ビルに注意を払っていたなのはとっさには対処する事ができなかった。
だが銀色の鬼は戦闘を止めようとしていると知って様子見で今に至る。
ここまで何も行動を起こさないという事はアンジールの協力者の線は薄くなる。

(じゃあ、いったいあのビルに潜んでいるのは――)

その時、またしても新たな乱入者が現れた。
しかも今度はなのはにとっては馴染みのある人物だった。


     ▼     ▼     ▼


「さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか」

クアットロは走っていた。
目の前に広がる光景は戦場。
三者鼎立を形作る緊張の場。
だがクアットロは悲観していない。
その場にいる4人のうち高町なのはは無闇に戦いを求める性格ではないし、アンジールは自分が説得すれば大丈夫。
しかも正体不明の銀色の戦士は戦いを止めたいらしい。
それならあとはクアットロ自身の舌三寸で皆を説得して仲間に出来る可能性は高い。
お誂え向きの状況に思わず頬が緩んでしまう。

「アンジール様ー!」

すぐに自分がクアットロだと分かってもらえるように変装用に外しておいた眼鏡を再び付ける。
そして髪もいつものように両端で結ぶ。
服装はいつものスーツではないが、それでも顔を見ればすぐに分かるはずだ。

「みなさ〜ん!」

準備は整った。
あとはこれからの交渉次第。


     ▼     ▼     ▼

217 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:48:52 ID:CvSVnTdQ0


「ダメだよ、そんなつまらない事したらさ」


     ▼     ▼     ▼


「――ッ!?」

それは突然の出来事だった。
4人がお互いを牽制して緊張状態に陥った戦場。
そこに乱入しようと走ってきたクアットロが爆発と共に宙へと吹き飛んだ。
その背後では赤と黒の爆炎が立ち上っている。
明らかに砲撃の直撃だった。
あまり突然の出来事であったために注意を呼びかける暇すらなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお」

だが急転直下の戦場はなのはに考える間も与えてはくれなかった。
突然アンジールが悲しみの叫びを上げると、クアットロを抱えて戦線から離脱したのだ。
その様子から二人の間に並々ならぬ関係があった事は明白だが、とりあえず尋常な雰囲気ではなかった。
このまま一人にするのは不味いと考えて、引き留めようとしたが――。

「アンジールさ――」

――呼びかけようとしたなのはの声は続けて放たれた砲撃音でかき消された。
しかも砲撃は何発も続き、迂闊に動けない状態だ。
反射的に展開したシールドで防ぎきれる程度ではあるが、こうも続けば爆煙が濃くなり、自ずと周囲の視界も悪くなる。
おかげでなのはもカブトもアンジールの行方を完全に見失っていた。
それと同時にもう一人この場からいなくなっている人物に気付いた。

「おい、さっきの銀色の奴もいないぞ」
「たぶんアンジールさんを追いかけていったんでしょうね」
「お前もそう思うか。で、どうする?」
「あっちは任せましょう。私達は……」
「……この砲撃手をどうにかした方が良さそうだな」

先程の一件で銀色の鬼が実は殺し合いを望んでいない事は二人とも感じ取っていた。
伝聞の情報と直に見聞した情報では後者の方が信じられる。
二人は自分達の判断を信じてこの場に残る事を選択した。

二人の考えが一致した時にはもう砲撃は止んでいた。


     ▼     ▼     ▼


(このままでは、終われませんわ……)

数秒前までは意気揚々としていたクアットロは死に瀕していた。
背後からRPG-7の砲撃を直撃したのだから当然の結果だった。
だがそこは戦闘機人。
もしクアットロが生身の身体なら砲撃の時点で五体は千切れて一瞬で死んでいた。
半分機械の身体だからこそ即死だけは避けられたのだ。
さらにとっさにデイパックを盾にした事も命を長らえた一因となっていた。
だが即死こそ避けたが、クアットロに助かる見込みはなかった。
唯一スカリエッティのアジトに行けばなんとかなるかもしれないが、どう計算しても時間的に着くまで生きている可能性は皆無だ。
地上本部の転移魔法陣を使っても間に合いそうにない。

(なんで、私が、こんな目に……)

血に濡れた頭を上げ、ぼんやりと霞む目を向けるとアンジールの姿が見えた。
先程から揺れる自分の身体と合わせてアンジールに抱えられている事は明白だ。
だがいくらアンジールの力でも生きている間にアジトへ着く事は不可能だ。
なまじ頭が良いばかりにクアットロは自分が生き残る可能性が皆無である事に思い至っていた。
本当ならこのような不条理に文句を言いたいところだが、あいにくそんな余力もない。
だからクアットロは残り少ない命を糧にして考えていた。

(いいですわ……それなら、それで私にも考えがあります……)

どうすれば生き残っている参加者により大きな絶望を与えられるかと。


     ▼     ▼     ▼

218 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:49:28 ID:CvSVnTdQ0


「よし! 追い付けた!」

あの騒動の中、メビウスは偶然にも戦場から離脱するアンジールの姿を見つける事が出来た。
そして一瞬の迷いの後に追いかける事にした。
確かに別世界のなのはも気になるが、あの時はそれ以上にアンジールが気に掛かった。
それは目の前で大切な人を亡くしたからだったのかもしれない。
なによりあのような状態で一人にする方が危なく思えた。
そのアンジールを見失う前に追いつけた事は辛い出来事が続いていたメビウスを安堵させるものだった。

「あの、すいま――」

だがすぐにメビウスは気付いた。
アンジールの目の前に砲撃を受けた女性が横たえている事に。
少し考えればここへ来るまでに女性は息絶えてしまったという事は分かった。

「そ、そんな……」

これで3度目だ。
1度目は赤コートの怪人と対峙した時に身を張って時間を稼いでくれたクロノ。
2度目はほんの少し前ゼロによって殺された壮年の戦士。
どれも目の前で死んでいった。
ミライの力が及ばないばかりに。
そしてこれで3度目。
自分のせいではないにしてもミライは後悔してもしきれなかった。

「くそっ……!」

既にメビウスの安堵は後悔に変わっている。
少し前にも同じ経験をした身としてアンジールの背後に近付いてもかける言葉が見つからなかった。
こういう時は下手に言葉をかけるよりは黙っていた方がいい気がした。
静寂の暗闇の中でカラータイマーが点滅する光と音が一層虚しく感じられる。
やはりこういう時気の利いた事が上手くできない自分はまだまだだなと居たたまれなくなる。

だから――。

「約束しよう、クアットロ」

――その言葉と共にアンジールが振るった刃に驚かされた。

「!?」

下段からの斬撃に対してとっさにメビウスディフェンサークルで防ぐが、今のメビウスにとってその判断は誤りだった。
あまりの急展開にメビウスは失念していたのだ。
変身時間の残りがもうない事に。
刹那の拮抗を齎した∞のバリアはカラータイマーの沈黙と共にあっさり砕かれ、メビウスの変身が解けたミライに刃が襲いかかる。
バリアを張るために突き出していた右腕がメビウスブレスごとバスターソードで無残に斬られていく様子がひどくスローに見えた。

(なのはちゃん、ごめん……)

奇しくもバスターソードの描く斬撃はセフィロスの正宗が斬り付けた傷口と同じ場所をなぞっていた。
そして二度と奇跡は起きなかった。


     ▼     ▼     ▼


「アンジール、様……」
「クアットロ喋るな! 今すぐ俺達のアジトに――」
「もう、無理ですわ……この傷ではアジトまで、は……」
「そんな事はない! 俺の力なら――」
「アンジール様も、分かっているのでしょう」
「…………」
「大丈夫です。私、寂しくはありませんから」
「そ、それは」
「アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています」
「!?」
「私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです」
「それは……」
「だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……」
「……クアットロ」
「……またお会いできる時を楽しみにしています」


     ▼     ▼     ▼

219 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:50:07 ID:CvSVnTdQ0


その瞬間が来るまでアンジールは自分の処遇を決めかねていた。
もちろんアンジールが悩む原因は天道だ。
決着は付かなかったとはいえあのままなら負けていたのは間違いなく自分だ。
しかも天道には自分と同じく妹がいるらしい。
その天道の言葉だからこそ少なからず共感できるものがあったのは事実だ。
だが一方で本当にそれでいいのだろうかという疑念も渦巻いている。
孤高を貫くか、手を取り合って協力するか。
アンジールはデスゲームに於いて重大な岐路に立っていた。

だが岐路を決するきっかけは呆気なく訪れた。

突如戦場に届いた新たな乱入者の声。
その声の主をアンジールは知っていた。
いや知っているどころではない。
聞き間違えるはずがない。
それはまさしくアンジールが守らんとする者の声。
もう唯一人となってしまった大事な妹。

だがその妹は突然の砲撃で瀕死の状態に陥ってしまった。

あの瞬間の紅い炎と赤い血を周囲に撒き散らせながら宙に吹き飛ばされるクアットロの姿が何度もフラッシュバックする。
近くにいたにもかかわらずアンジールは何もできなかった。
その直前まで天道の言葉に従うか悩んでいたせいで反応が遅れたからだ。
だから最初何が起こったのか理解できずにただ見ているしかできなかった。
そして地面に叩きつけられてようやく事態を理解した。

それからはほとんど反射的にクアットロを抱えて走りだしていた。
スカリエッティのアジトへ行けばまだ生きる望みはあると思ったからだ。
だがアンジールも分かっていた。
いくらソルジャーの脚力を以てしてもクアットロはアジトに着くまでに死んでしまう。
それは逃れようのない事実だった。
だがそうだとしてもアンジールは立ち止まる気はなかった。
もう自分が知らないところで妹が死んでいくのは耐えられない。

だがそんなアンジールの行動も虚しくクアットロは最期の言葉を残して死んでいった。

クアットロの最期の表情は今まで見た事もないような笑みが浮かんでいた。
だからアンジールは決意した。
なんとしてもこのデスゲームの最期の一人になると。
それこそ自分が守れなかった妹達に出来る唯一の贖罪。

「ミライの旦那ぁぁぁ」

少し思いに耽っていると、突然それを中断させる声がした。
ふと見ると、今しがた斬り捨てた参加者のデイパックから持ち主を呼ぶ声が上がっていた。
どうやら醜い絵柄のカードからその声は発せられているようだった。

「なんで、ミライの旦那を殺したんだ」
「そうだ、なんでだよ」
「この鬼、悪魔」

しかし本来なら愛嬌あるその声は決意を新たにした今のアンジールにとって耳障りでしかなかった。

「ファイガ」


     ▼     ▼     ▼

220 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:51:04 ID:CvSVnTdQ0


全ての元凶は数時間前に遡る事になる。

「えー、なんだよ。俺が狙っていた奴ほとんど死んでいるじゃんか」

どこにでもあるような灰色のコンクリート製の雑居ビルの2階の主は3回目の放送が終わるや否や早速不満の声を上げていた。
声の主は最強のアンデッドを自負するキング。
コーカサスオオカブトムシの祖であるカテゴリーKは未だ放送前のメビウスとの戦闘の傷を癒している最中であった。
1万年ぶりの敗北を味わったせいかキングを着飾る赤ジャケットと色とりどりのアクセサリーもどこかくすんで見える。
だが不満の声が上がったのは敗北による不愉快に加えて先の放送が原因だ。
実はこの放送でキングが目を付けていた参加者が大量に死んでしまっていた。

浅倉にはもっと暴れてもらって是非とも非道な仮面ライダーとして天道と対決してもらいたかった。
ミラーワールドで新たな殺し合いを開いたまでの首尾は良かったが、どうやらその戦いで死んだらしい。
自分で開いた殺し合いで自分が死んでは洒落にもならない。

キャロもあそこまで追い詰めて覚醒させてから全く会えなかった。
出来る事なら天道と再会させたかったが、それももう叶わず。

ルーテシアとフェイトも伝え聞いた話や『CROSS-NANOHA』の内容から想像するに、キャロと同様に心を抉ればさぞかし面白いものになったかもしれない。
結局その二人には一度も会う事もないままどこかで死んでしまった。

そしてルルーシュとシャーリー。
せっかくゼロの格好を手に入れたのだから是非とも二人に会って反応を楽しみたかった。
特にシャーリーはどんな顔をするのか想像するだけでワクワクしていた。
だがそれも二人の死亡によって無駄になってしまった。
しかもこれで生き残っている参加者の中でゼロのことを直接知っている者は誰もいなくなってしまった。

キングにとっては不愉快な事ばかりであった。

メビウスとの戦闘のダメージはアンデッドの回復力と手持ちの『治療の神 ディアン・ケト』を連続使用する事でほぼ回復した。
もうすでに普通に動く分には問題ないが、完全回復まではもう少しかかりそうだ。
もし今戦う事になれば雑魚相手なら支障はないが、メビウスやジョーカー相手だと少し厳しいかもしれない。
だが先程までと違って今のキングには当面急ぐ理由はない。
反応が気になる参加者のほとんどが死亡した事で新たな獲物が欲しいところだ。

雑居ビルの近くをかなりの速度でアンジールが走り去っていったのはそんな時だった。

(へぇ、しばらく見ないうちに派手に戦っているじゃん)

大通りを一心不乱に北進するアンジールを追跡する事数十分。
追いついた先で繰り広げられていたのは仮面ライダーとソルジャーの戦いだった。
その様子をキングは近くの雑居ビルに潜んで観察していた。
どうすればより面白くなるかを考えながら。
だがキングが介入する前に突然乱入してきた人物によって戦いは中断してしまった。
その人物はキングもよく知る人物。
放送前に一戦交えてキングに苦汁を嘗めさせたウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。

そのせいでこの場は膠着状態になってしまったが、その均衡は思わぬ形で崩れる事になった。

(ん、誰か来た?)

常人を遥かに上回るアンデッドの聴覚が捕らえたのはクアットロの足音だった。
クアットロに関しては『CROSS-NANOHA』で既に把握していたのですぐに分かった。
敵方として特徴的である意味自分と似た者だったというのがすぐ分かった一因だ。
そのクアットロがどうして急いで戦場に向かっているのか、その理由はすぐに分かった。

『それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……』
『――上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る……?』

その言葉だけならまだ4人を騙して上手く取り入ろうとしているのかと思った。
だが次の一言でキングの行動は決まった。

『さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか』

そしてキングはクアットロを砲撃した。
理由は簡単。
あのままクアットロに説得の機会を与えればせっかくの火種が台無しになってしまうからだ。
そうなる前に自ら手を出して火種を作る方が面白くなりそうだった。
結果は上々。
クアットロはRPG-7の直撃を受けて死亡、アンジールはそのクアットロを抱えて離脱。
それを追いかけてメビウスも離脱。
ついでに殺害ボーナスも手に入った。
予想外に場が一転したのでキングとしては満足だった。

221 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:51:46 ID:CvSVnTdQ0

「さて、どうしようかな」

この場に残っているのは高町なのはと天道総司。
二人にとって今のキングが扮しているゼロは完全に敵だ。
しかもゼロの衣装を解いても放送でペンウッドとC.C.の名前が呼ばれた以上二人ともキングを味方とは思っていないだろう。
それにRPG-7も殺傷力のある榴弾は全弾使い切って残っているのは照明弾とスモーク弾だ。
それならそれでアンデッドの姿に戻って戦うのも一興だが、それでは芸がない気もする。

「なにか面白い物ないか……ん、あれって……」

銀色のトランクケース。
それは砲撃の影響で誰かのデイパックから零れたのかキングの足元に転がっていた。
さっそく中身を確認してみると、キングは思わず目を輝かせた。
そこに入っていた物はベルトだった。

「やった、良い物見っけ!」

その笑顔はまさしく面白い玩具を見つけた子供のような純真な笑みだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、少し満足
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ギルモンとアグモンとC.C.のデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.デルタのベルトで遊ぶのも面白そうだね。
 2.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 3.はやての挑戦に乗ってやる。
 4.ヴィヴィオをネタになのはと遊ぶ。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(小)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.砲撃手を倒す。
 2.一応あとで赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをするような奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

222 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:52:22 ID:CvSVnTdQ0

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 0.砲撃手を倒す。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)、アンジール
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)


     ▼     ▼     ▼

223 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:52:57 ID:CvSVnTdQ0


赤く立ち上る炎を背に受けて天使の姿をした悪魔は歩き出す。
炎の原料となるのはファイガによって燃やされたカードとその持ち主だった死体と荷物。

「悪魔か、それでもいいだろう」

亡き妹達の願いを叶えるなら天使でも悪魔でもなんだっていい。

「悪魔なら、悪魔らしいやり方で叶えるだけだ」

もうこの手に誇りも夢もない。
その象徴だったバスターソードは最期の一撃で砕けてしまった。
今まで戦闘でそこまでダメージがあったのだろうか。
だが逆に踏ん切りがついた。
もう今の自分にはあの剣は似合わない。
今の自分にはこの『反逆』という名を冠する剣の方が似合っている。
そうだ、先程までの悩んでいた自身に反逆するのだ。

幽鬼のように歩き出した今のアンジールには夢も誇りもない。
今のアンジールにあるのは亡き妹の願いという名の呪縛だけだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 東部】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。


【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】
【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは  死亡確認】


【全体備考】

※クアットロの荷物は砲撃で木っ端微塵になりました(それなりに強度のある物なら残っているかもしれません)。
※D-2東部の路上でミライの死体と荷物が全て燃え尽きました。なお近くに折れたバスターソードが放置しています。

224 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:54:53 ID:CvSVnTdQ0
投下終了です
タイトルは「絶望の暗雲」、元ネタはメビウス49話より
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

225リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 07:31:34 ID:OfCwO1GI0
投下乙です。
やはり潰されるのはクアットロだったか(それでアンジール完全マーダー化するので。)。つか、最後に余計な事するんじゃねーよクアットロ……
で、その流れでミライも退場、荷物まで焼かれて……おジャマ……(涙)
つか、クアットロとミライの荷物ほぼ全滅か……(いや、クアットロはまだわからんが……)……ブリッツキャリバー……(涙)
で、しっかりデルタのベルトは残ってキングが使うというキングにとって都合の良いオチ(キングだったら耐えられるだろうからなぁ)……とりあえず天道、逃がすと回復アイテムで回復されるから今度こそ確実に仕留めろー。

で、アンジールがミライを仕留めて手に入れたのがリベリオンなのは状態表で把握できたが……キングがクアットロを仕留めて手に入れたボーナスはまだ判明していないよな……(状態表見たところ増えた様子は無い。)

226リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 18:04:22 ID:lYQWERJI0
投下乙です
アンジールは悲壮だな。そして道化だわ…可哀そうだがとっとと死んでねとしか言えんな
クアットロは対主催しててもやっぱりクアットロだわw
さて、キングを追う二人は打倒できるか?
キングも簡単には倒せないだろうし…

227リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 18:30:29 ID:r2qFcW0cO
投下乙です
ミライ南無…
そして本当にクアットロは最期の最期でなんて遺言残してくれたんだwww
でもそこがクアットロらしい

228 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 23:31:52 ID:CvSVnTdQ0
>>225
状態表はただの書き漏れです
wikiに収録した際に書き加えておきます(詳細は後続にお任せします)

229リリカル名無しA's:2010/07/08(木) 00:26:47 ID:7zUPXjF2O
投下乙です
綺麗なクアットロとか色々言われて来たがクアットロはやはりクアットロだったか
今までの綺麗分をここで一気に取り戻したな
ミライにはご愁傷様としか言えないな…ここまでよく頑張った。

230 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:04:29 ID:dR2I84lo0
これよりホテル組の投下を開始します。

231H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:07:14 ID:dR2I84lo0
 このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。
 では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。
 何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。
 しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。

「このっ!」

 少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。
 しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。
 ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。
 標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。
 宙に浮かび、キックの体勢を作るが――

「うわっ……!?」

 カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。
 空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。
 したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。
 すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。

「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」
「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」
「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」

 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。
 自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。
 アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。
 例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。
 そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。
 プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。
 やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。
 既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。
 そして、もう一つの理由。

「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」
「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」

 我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。
 そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。
 油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。
 とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。
 いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。
 それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。
 スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。

232H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:15:16 ID:un.zjUms0
 


 キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。
 スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。
 幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。
 先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。
 固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。
 当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。

「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」
「乗っていると言ったらどうする」
「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」

 駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。
 IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。
 ……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。
 スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。

(効かない……!?)
「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」

 カリスの言う事は正しい。
 いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。
 何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。
 本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。
 決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。
 そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。
 それ程にフォームという物は重要なのだ。
 ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。
 左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。
 仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。
 多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。
 それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。
 ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。
 だけど、それでも止まってはいられないのだ。

「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」
「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」
「え……!?」

 驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
 その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。
 漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。
 蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。

「ぐぁ……ッ」
「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」

 カリスの声が、震えていた。
 まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。
 どうしようも無い悲しみを吐き出すように。
 先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。
 その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。
 ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。
 その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。
 姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。

「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」
「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」

 言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。
 刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。
 命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。
 されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。
 瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。

233H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:18:14 ID:dR2I84lo0
 
「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」

 腹から絞り出すような怒号。
 醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。
 震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。
 カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。
 だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。

「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」
「な……ッ!」

 上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。
 僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。
 だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。
 左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。
 今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。
 同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。
 それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。

「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「が……ァ……!!?」

 カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。
 そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。
 流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。
 カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。
 その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。





 月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。
 人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。
 たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。
 はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう?

(ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。
 スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!)

 エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。
 出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。
 しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。
 今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。
 海楼石はこちらにある。倒せない事はないだろうが、今はまだその時ではない。
 勝負を仕掛けるには、確実に倒せるだけの戦力と情報が必要不可欠だ。
 幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが……

「金居さんは、現状をどう思いますか」
「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」

 金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。
 だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。
 金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。
 キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。
 つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。

(それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな)

 出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。
 その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。
 だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。
 エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが……

234H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:20:18 ID:dR2I84lo0
 
「おい、八神」
「何ですか?」
「あれを見ろ」

 森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。
 その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。
 漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。
 サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。
 しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。
 死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。
 まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。





 今の一撃は効いた。
 もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。
 それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。
 スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。
 硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。
 アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。
 赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。

「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」
「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」
「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない……
 だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」

 真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。
 ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。
 その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。
 この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。
 そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。
 この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。

「……これから殺す相手に教えても、意味がない」
「まだそんな事を……!!」

 言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。
 何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。
 そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。
 それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。
 同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。

「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」
「そうやって、逃げるんですか!?」
「何、だと……?」

235H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:25:43 ID:dR2I84lo0
 
 逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。
 最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。
 ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。
 その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。

「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ!
 戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」
「俺が何時逃げようとした」
「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか……
 ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」

 スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。
 何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。
 それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。
 しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。
 それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。

「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……!
 だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」
「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない!
 ……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」

 何だと……? 
 ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い?
 だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。
 人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する?
 なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。
 理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。

「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った……
 そのギンガが人間じゃない……? いや……」

 始は思う。それは違う、と。
 誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。
 そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。
 あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。
 紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。
 だからこそ言える。だからこそ断言できる。

「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」
「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」
「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」

 問題は凄く単純な事だ。
 ギンガの考えが、始には理解出来なかった。
 ギンガの行動が、始には理解出来なかった。
 何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。
 何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。
 誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。
 始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。

「何故だ……何故……!」

 考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。
 ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。
 守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。
 生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。
 ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。

「何故、ギンガは……!」

 だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。
 あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。
 戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。
 自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。
 それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。
 この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる?

「わからない……わからない……わからない……!」
「ギン姉は――」

 ――CLOCK UP――

「――ぇ……?」

 刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。
 左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。
 告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。
 カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。
 そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。
 確か、ギンガが死んだ時の……。

236H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:28:26 ID:dR2I84lo0
 スバルがその拳で漆黒のライダーを吹っ飛ばしたのとほぼ同時、こちらでも状況は変化しようとしていた。
 緑の装甲の仮面ライダーが、赤いコートの男に羽交い締めにされ、子供の問答の様なやりとりを繰り返す。
 我武者羅に腕を振るうだけでヴァッシュの腕から抜けられる訳も無く、そんなシュールな光景を延々と続けていたのだ。
 次第に募りに募りまくった苛立ちもMAXを向かえたのか、キックホッパーの叫びがさらに甲高くなった、その時。
 装着者である柊かがみの内側から聞こえて来る声は、かがみを安心させるものであった。

「あぁもう……わかったわよ、あんたに従う! だから話して……お願い」
「本当かい? 離した瞬間にドン、なんて御免だぜ?」
「あんたなら私にそんな隙を与えないでしょ? もう解ったから……鬱陶しいのよ。
 話だけでも聞いてあげるから、離して。お願い」
「よし、解った」

 果たして、ヴァッシュの口から発せられたのは、かがみが望んだ答え。
 キックホッパーの仮面の下で、存外思い通りに事が進んだなと、不敵に唇をゆがめる。
 ヴァッシュが自分に攻撃の隙を与えてはくれない? そんな事は素人のかがみに解る訳が無い。
 全ては、かがみの中に潜むもう一人の人格の指示するままに動いた結果であった。

「ありが……とっ」

 後は簡単だ。ヴァッシュの手が緩んだ瞬間に、かがみは軽く腰を叩いた。
 同時に鳴り響く、「クロックアップ」の電子音声。齎されたのは、キックホッパーの加速。
 周囲の時間軸を切り取り、自分を超高速の世界に顕在させる事で可能となる超加速だ。
 これには流石のヴァッシュも、対応仕切れる筈も無かった。

「さて……とりあえず一発、いっちゃおうかしら」

 驚いた表情のまま、スローモーションになってしまったヴァッシュを見据えて、不敵に告げる。
 柊かがみの戦闘能力は素人同然ではあるが、それでも仮面ライダーの装甲は強力だ。
 左脚を軸に、右脚を振り上げる。キックホッパーの得意とする蹴り技、それもミドルキック。
 ヴァッシュの脇腹目掛けて、それを振り抜いた。
 右脚がヴァッシュを叩いたのと同時、ヴァッシュの身体がゆっくりと宙に浮かんだ。

「次は、アイツね……スバル!」

 何やら黒いライダーと言い合っているようだが、そんな事はお構いなしだ。
 黒いライダーは既に戦闘不能に陥っているようだし、ライダーに邪魔をされる心配は無い。
 心おきなくスバルを蹴る事が出来る。余裕の態度でスバルの傍らへと歩み寄り。

「――ふんっ!」

 右側の脇腹へと、ミドルキックを叩き込んだ。
 後は先程のヴァッシュと同じだ。スバルの身体が、ゆっくりと宙へ浮かび上がって行く。
 これがクロックアップ空間の外であれば、きっと一瞬の出来事なのだろう。それはかがみ自身もすぐに知る事になる。
 ヴァッシュとスバルを蹴り飛ばし、もう一度地に足を付けた時には、既にクロックアップは終了していた。
 悠然と立ち尽くすキックホッパーの周囲で、同時に二つの呻き声が聞こえた。
 一つはヴァッシュ。一つはスバル。重い蹴りを叩き込まれた二人のものだ。

「……なんだ、今の一撃で死ななかったんだ?」

 心底つまらなさそうに呟いた。
 今し方蹴り飛ばした二人ともが、呻きながらも何とか受身を取っていたのだ。
 仮面ライダーの蹴りを受けて生きて居られる人間など居る訳が無い、と思ってはいたが、そこはかがみの判断ミス。
 スバルもヴァッシュも、数えきれないほどの修羅場をくぐり抜けて来た戦士なのだ。
 まともな蹴りのフォームすら知らない素人の一撃で殺される程柔では無い。

「かがみさん……! もう止めてくれ! こんな殺し合いを続けてちゃ、いつか君の命まで奪われてしまう!」
「うっさいわね……もう私の命なんてどうだっていいのよ! 皆殺して私も死ぬ! もう失う物なんて何もないのよ!」

 ずっと一緒に生活して来た、たった一人の妹は目の前で殺された。
 大勢の人の死を目の当たりにして、精神を病んでしまったかがみに最早希望は無い。
 深い闇の様な絶望だけが、かがみの孤独を癒してくれるのだ。
 絶望と激情に突き動かされるままに参加者を手当たり次第に殺して、最後は自分も死ぬ。
 これは、柊かがみという弱い人間の精いっぱいの悪あがきであった。
 左腕を庇う様に、先程吹っ飛ばしたスバルがゆらりと立ち上がった。

237H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:28:56 ID:dR2I84lo0
 
「……こなただって、諦めずに戦ってるんだよ……それなのに」
「どうせそのこなたも別の世界のこなたなんでしょ? なら私には関係無い事よ!」
「それでも、こなたがかがみさんの友達だって事に変わりはないでしょう!?
 自分の世界の、自分の知る相手でなくとも、変わらず接してくれた人を、私は知ってる!」

 スバルの言い分に、かがみが感じるのは怒り。
 それも、大層な理由があってのものではない。単純な苛立ちから来るものだ。
 確かに60人も居れば、スバルの言う様な御人好しが居ても不思議ではない。
 だが、それを自分に押し付けて来る無責任さに、かがみは腹が立ったのだ。

「ならそいつは今何処に居るのよ……? もう死んじゃったんでしょ……?
 そんな甘っちょろい事言ってるから、誰かに殺されちゃったんでしょ……!?」

 スバルは答えない。悔しげに唇を噛み締め、ただ此方を睨み付けるだけだ。
 ああ、スバルのあの目付きが気に入らない。圧倒的に不利なのに、勝てる見込みなんて無いのに、抵抗を止めない目だ。
 かがみの言う事……理解は出来ても納得は出来ないと、そう言いたげな目だ。ああ、見てるだけで腹が立つ。
 仲間と一緒に温い戦いを続けて来たスバルに、ずっと一人で戦ってきた自分の気持ちなど解られてたまるものか。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 そうだ。何も間違いは言っていない。
 かがみは自分の為だけに戦う。もう誰も守る者なんて無いし、失う物もない。
 足かせの無くなったかがみは、何に遠慮する事もなく、思うがままに戦える。
 それこそが、本当の強さだ。それこそが、真の強者だ。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 怒りを吐き出すように怒鳴った後、かがみはベルトに手を伸ばした。
 今のスバルは無防備だ。必殺技を叩き込めば、確実に殺す事が出来る。
 もうこんな苛々する戦いは御免だ。これ以上余計な事を言われる前に、スバルには死んで貰う。
 ホッパーゼクターの中心、タイフーンと呼ばれる部分を起点とするレバーを、押し倒した。
 同時にキックホッパーの左足のアンカージャッキが作動。
 身体が遥か上空へと跳ね上がり――

「死ぃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええッ!!!」

 その身に稲妻を奔らせ、それら全てを左足へと集束させる。
 タキオン粒子が駆け巡り、放たれるは目標を原子崩壊させる程の威力を秘めたキック。
 仮面ライダーの必殺技であるライダーキックを受けては、一たまりも無いだろう。
 重力に引かれるままに、キックホッパーの身体が落下しようとした、その時であった。

「きゃっ……?!」

 彼方から駆け抜けた青白い閃光によって、キックホッパーの身体が爆ぜた。
 上空で体勢を崩したキックホッパーに、その場で姿勢を矯正する事など出来はしない。
 キックホッパーの身体は、受身すらもままならない姿勢のまま、真下へと落下した。

238H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:34:26 ID:dR2I84lo0
 




 わからない。わからない。わからない。わからない。
 何度考えたって、何をどう考えたって、始の中で答えは出なかった。
 そもそもどうして自分はこんなに悩んでいるのだろう。
 どうしてこんな無駄な事を考えているのだろう。
 それは、自分の中で次第に人間の心が大きくなっているからなのだが……。
 始はそんな事実は認めないし、それに気付く事も無い。
 だから何も解らずに、カリスは終わらない葛藤を繰り返す。

 栗原親子と共に過ごす様になってから、始にとっては不可解の連続だった。
 柄にもなく、人間を守る為に戦ったり。あの親子を守る為に戦ったり。
 あの親子を傷つけられた時には、尋常でない怒りすら感じた。
 これが、ギンガの言う人間としての強さ……という奴なのであろうか。
 だが、怒りに任せて戦ったあの時の戦いは、ギンガの強さとは違う気がする。

(ああ……確かに、あいつは強かったな)

 そんな事を始は思う。
 始は、内心ではギンガを認めていたのだ。
 本当は、誰よりも強いギンガの事を、認めていた筈なのだ。
 だからこそ始は、死にゆくギンガの最期の願いを聞いた。
 始の知る誰よりも気高く、人間として生き抜いたギンガの最期の願いを。
 そして、スバルと接した今の始になら、あの願いの意味が解る気がする。
 ギンガの口から告げられなかった言葉が、告げようとした言葉が、解る気がする。

(そうだ。ギンガは俺に、スバルを……皆を、守って欲しかったんだ)

 ギンガらしい、真っ直ぐな願いだ。
 だけど、今更それに気付いた所で遅い。
 自分はもう、数えきれない程無駄な戦いを繰り返してきた。
 今更誰かの為に戦おうだなんて、虫が良すぎるというものだ。
 それに、始はまだ……自分が人間だと認めた訳ではない。
 ギンガの頼みを聞いてやる義理だってないのだ。

 だが、スバルが緑のライダーに吹っ飛ばされた時の感情は何だ。
 怒りと同時に、何処か胸が苦しくなるような……不可解な感覚を感じた。
 そして、スバルが無事だったと知った瞬間に込み上げて来た、安心にも似た感覚。
 どういう事だ。何故化け物である自分が、こんな感情を持ってしまうのだ。
 スバルが口を開く度に、緑のライダーが何かを言う度に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 ああ、そうだ。その通りだ。
 人間は無駄な物を背負い、無駄に死んでいく。
 馬鹿な考えで、無駄に命を散らしたギンガはそのいい例だ。
 それは始自身も良く解っている事だし、嫌という程に理解出来る。
 だが……理解は出来ても、納得する事は出来ない。
 頭では解っていても、始の心の何処かが、それを否定する。

239H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:44:10 ID:dR2I84lo0
 
(……違う。お前は、間違っている……)

 誰かの為に、守る為に。
 そんな馬鹿な理由の為に戦った女を、始は知っている。
 御人好しで、馬鹿な奴だったが、あいつは誰よりも強かった。
 自分達には無い輝きを、心(ハート)の輝きを、あの女は持って居た。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 ……違う。それは、違うんだ。
 この緑のライダーは、大きな勘違いをしている。
 それじゃ駄目なんだ。その強さは、ギンガを否定する。
 認める訳には行かない。こいつの強さを認めれば、ギンガの強さが否定されてしまうから。
 だが、何故自分はこんな事を考えているのだ。
 何故ギンガを否定されるのが、こんなにも嫌なんだ。
 ギンガの心の強さを否定されるのが、嫌で嫌でたまらないのだ。

 ……ああ、そうか。そういう事だったのか。
 何となくではあるが、今ようやく解ったような気がする。
 人の心の強さ……その意味が。ギンガを羨望していた、この心が。
 自分も、気付かぬ内にギンガの影響を受けていたのだろう。
 自分の知らないギンガの強さに、憧れにも似た感情を抱いていたのだろう。
 その考えに至った時、いつの間にか、始の中の疑問符は消えていた。
 緑のライダーに対する、強烈なまでの否定と、沸き起こる激情。
 それらが、カリスの回復力を更に早める。
 気付けば、痛みも忘れていた。

 ふらりと立ち上がる。
 今なら、迷い無く戦える気がする。
 疑問も何も吹っ切った今、沸き上がるのは緑のライダーに対する闘争本能のみ。
 そして、闘争本能が昂れば昂る程、自分の中のジョーカーが暴れ出す。
 だけど、この力は使わないし、使えない。
 今、本能の赴くままにこの力を使う事は、最悪の結果に繋がる。
 そうだ。それは即ち、ギンガの想いを踏み躙る行為に繋がってしまうのだ。
 ジョーカーの力は、相川始という一人の人間にとっての本当の強さでは無い。
 心と理性で本能を抑え込み、カリスアローを構えた。
 狙い定めるは、跳び上がった緑の仮面ライダー。
 弓を引き絞り……青白い光弾を、発射した。

240H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:56:59 ID:dR2I84lo0
 




 この現場を見ていた全員に共通して言える事がある。
 それは、今の一瞬で何が起こったのかが解らなかっただろう、という事。
 スバルを蹴り殺そうと飛び上がったキックホッパーが、上空で爆ぜたのだ。
 それを見ていた立会人も、下手をすれば下手人であるかがみにすらも状況は解らなかっただろう。
 しかし、それも当然だ。こんな現実を、誰が想像出来ただろうか。
 先程まで殺し合いに乗っていた人物が、誰かを助ける為に行動する等、誰に想像出来ただろうか。
 ……いや、誰にも想像出来なかったに違いない。

「あんた……弱ってると思って放っておけば、余計な真似を……!!」
「違う……貴様は間違ってる」

 否定と同時に、声にならない呻きを上げたのは、カリス。
 そして、そのまま床へと崩れ落ちる。力が抜けた様に、糸の切れた人形の様に。
 両の掌を地べたに着かせ、カリスの仮面の下、苦しそうな呻きを漏らす。
 同時に、カリスの身体に重なるように現れたのは、不気味な緑の影。 
 それは、全てを滅ぼす死神たる最強のアンデッドの影であった。
 沸き起こる激情と闘争本能に、死神が触発されたのだろう。
 だが、現れた影にそのまま包み込まれはしなかった。
 影を振り払う様に、カリスが上体を上げたのだ。

「何よ、あの化け物の姿になるならなりなさいよ。今の私なら、あんたなんか――」
「貴様如き、ジョーカーになるまでも無い……」

 不敵に佇むキックホッパーを遮って、カリスが告げた。
 カリスの脳裏を過るのは、今まで出会った大切な人達の記憶。
 始が苦しんでいる時は、いつだって付き添って看病をしてくれた遥香。
 始の事を慕い、いつだって信頼してくれる少女――天音。
 そして、二人と共に過ごす内に知った、色んな事。
 他愛ない思い出から、人間として大切だと思える想いで。
 様々な思い出が駆け巡り、始の人間としての心を揺さぶる。
 その感情が、体内で暴れ回るジョーカーの力を抑え込んで行く。

「へぇ……随分と見くびってくれるわね……いいわ、証明してあげる!」

 刹那、電子音と共にキックホッパーの姿が掻き消えた。
 次にキックホッパーが姿を現した時には、既にカリスのレンジ内。
 既に見なれた、クロックアップによる超加速を用いての急接近。
 装着者であるかがみの疲労が溜まって居たのか、攻撃に移る前に加速が終わったのhが僥倖か。
 高く振り上げた蹴り脚を防ぐべく、カリスが両の腕を振り上げるが――

「あんたなんかに、負ける訳が無いって事をね!!」
「ぐ……ぁぁ……ッ!!」

 重いキックは、スバルの一撃で体力を削られた状態のカリスには堪えた。
 キックを必殺技とするライダーの一撃は伊達では無い。
 未だ足取りの覚束ないカリスにその攻撃を受け切れる訳も無く、カリスの身体は遥か後方へと吹っ飛んだ。
 そのままホテルの内装の壁に激突したカリスは、力無く床へとずり落ちる。
 それから間もなく、再びカリスの身体に重なるのは、緑の死神――ジョーカーの面影。
 ジョーカーの姿になれば、こんな仮面ライダーに遅れは取らない。
 ジョーカーになってしまえば、こんな仮面ライダー簡単に捻り潰せる。
 だけど、カリスはジョーカーにはならない。ならないと誓ったのだ。
 表に出ようとするもう一人の自分を振り払う様に、カリスが立ち上がった。

「こんなものは、本当の強さじゃない……」
「さっきから訳のわからない事を。あんたの本当の強さが、緑の化け物だって事ならもう解ってるのよ!」
「違う……! 俺は……ジョーカーには、戻らない……!」
「何……?」

 それを宣言すると同時、カリスの身体が一気に軽くなった。
 いつも通りのファイティングポーズ。腰を低く落として、構える。
 カリスのハートの複眼が、熱い心(ハート)の輝きを宿した赤の瞳が、美しく煌めいた。
 それはまさしく、人の心を現す「ハート」に相応しい輝き。
 ハートのライダーとして選ばれた、相川始として――仮面ライダーカリスとして。
 両腕を広げ、腰を低く落とした姿勢のまま、カリスは走り出した。

241H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:12:24 ID:dR2I84lo0
 
「トゥェッ!!」
「……ッ!?」

 次の瞬間には、まるで野生の獣のように飛び掛っていた。
 キックホッパーの突き出た両肩をその手に掴み、そのまま押し倒す。
 押し倒した勢いでもつれ合った二人は、ホテルの床をごろごろと転がる。
 だが、意外にもすぐに解放されたのはキックホッパーの方であった。
 転がり様に距離を置いて立ち上がったホッパーが、カリスを視線に捉える。
 対するカリスは、いつでも受け切れるように、両手を軽く掲げ、構える。
 一拍の間を置いて、ホッパーが怒号を上げて駆け出した。

「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 一撃目は、右上段からのハイキック。振り上げた腕で、容易く振り払った。
 二撃目は、左上段からのミドルキック。これも同様、カリスの腕に阻まれ、打ち落される。
 我武者羅になって右のストレートパンチを繰り出すも、そんな単調な攻撃は絶対に通らない。
 突き出したホッパーの腕は、逆にカリスの腕に捻り上げられる。

「トゥッ!」
「……痛ッ!?」

 そのままの勢いで、カリスが繰り出したのは左右交互の1・2パンチ。
 パンチ二つをヒヒイロノカネで造られた装甲で受け止めるも、カリスの攻撃力は殺し切れない。
 カリスの戦闘力の高さは浅倉との戦いで窺い知ってはいた事だろう。
 だが、今のカリスを突き動かすのは、あの時とは決定的に違う感情だ。
 カリス自身にも解る。あの時とは、比べ物にならない程の力が湧いてくる。
 すぐにカリスはホッパーの上段を飛び越え、背後へと回った。

「ちょこまかと……!」

 すぐに振り向き、ハイキックを浴びせようと脚を振り上げるホッパー。
 だが、何度やっても同じことだ。カリスにはそんな単調な攻撃は通じはしない。
 上体を僅かに屈める事で蹴り脚を回避。矢継ぎ早に、何処かから取り出したのはカリスアロー。
 それを舞う様に振るい、ホッパーの装甲を切り裂いた。
 攻撃を受けて、派手に舞い散る火花と共に、ホッパーが数歩後退。

「本当に強いのは――!」

 カリスが、唸る様に怒号を上げる。
 思い出すのは、全ての始まりたる栗原晋の記憶。
 自分に命を奪われたも同然なのに、あの男は自分に家族を託した。
 あの男は、見ず知らずの自分に、掛け替えのない家族を託したのだ。
 最期の力を振り絞って優先した願いは、自分よりも家族の事だった。
 大切な人を守って欲しい。その願いを受けた始は、栗原家へと向かった。
 その時は理解出来なかったが……始は、晋の家族を思う心に突き動かされたのだ。
 吹きつのる愛に突き動かされて、始はあの家族を守ると誓ったのだ。
 そんな不可解な事が出来る、それが人間の心の強さ。

「強いのは――ッ!!」

 再び向かってきたホッパーの蹴りを交わし、続けざまにカリスアローを振るう。
 胸部装甲を切り裂かれたホッパーの、声にならない悲鳴。それを掻き消す様に、もう一撃。
 連撃によるダメージによってよろけるホッパーの背後へと飛び上がった。

242H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:12:54 ID:dR2I84lo0
 
 ――ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――

 思いだすのは、数時間前に出会った一人の少女。
 奴は、自分を人間だと言ってくれた。奴は、こんな自分を信じてくれた。
 本当は自分だって人間では無いのに……いや、だからこそだろうか。
 彼女は誰よりも人間らしく、そして誰よりも強く、気高い人間であった。
 では、その強さとは何か。その強さこそが、人間らしさの成せる業。
 人の心。人の想い。優しさや、愛情。それこそが、人間が持つ真の強さ。
 そして、そんな彼女が最期に託したのは、やはり自分では無く、他の誰かだった。
 ギンガは最後の最後に、自分の命よりも優先して、スバルや、その仲間達を守ってほしいと願った。

(そうだ……本当に強いのはッ!!)

 パニックに陥ったホッパーは、やはり我武者羅に腕を振るう。
 本当の意味で強い人間と言うのは、こんな奴の事を言うのではない。
 自分の為に、他者を殺す。そうまでして、自分一人で生き残ろうとする。
 この緑の仮面ライダーは、最早人間の心を持っているとは言えない。
 そんな奴の攻撃に当たる訳もなく、カウンターを入れるのはカリスの醒弓。
 一撃、二撃とホッパーの身体を切り裂き――跳び上がった。

 ――始さん!――

 脳裏を過る声は、誰のものであったか。
 そうだ。今まで自分の事を、人間として接してくれた皆の声だ。
 あの家族と、ギンガ・ナカジマの声。それが、自分を人間へと引き戻してくれる。

(今なら解る……! これが、この力が――)

 次いで思い浮かべるのは、いくつもの顔だ。
 大切な家族を、自分に託して死んでしまった晋さん。
 見ず知らずの自分を、家族として受け入れてくれた遥香さん。
 何時だって自分の事を慕って、色んな感情を教えてくれた天音ちゃん。
 そして、最期まで自分を人間だと信じて戦い抜き、命を落としたギンガ。
 それら全てが、カリスに力を与えてくれるのだ。

「――人の、想いだッ!!」

 色んな人の想い。人間としての想い。
 それらを乗せた乗せた最後の一撃は、渾身の力を込めたカリスの飛び蹴りだった。
 正面からまともにその一撃を受けたホッパーは後方まで吹っ飛び、近くに備え付けられていたテーブルへと倒れ込んだ。
 テーブルはホッパーの体重に耐えきる事は無く、見事に真っ二つに破壊。
 ホッパーも度重なるダメージに変身状態を保って居られなくなったのか、緑の装甲は粒子になって崩れ落ちた。
 そこにいるのは、漆黒の仮面ライダー・カリスと、一人の紫髪の少女のみ。
 戦いは、完全にカリスの勝利に終わった。

243誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:16:16 ID:dR2I84lo0
 バクラは悩んでいた。
 本来バクラは悩むという行為をあまりしないのだが、今回は訳が違う。
 如何なバクラであろうとも、悩まざるを得ない状況に陥ってしまったのだ。
 何故なら、今後の行動方針にも関わる人間の名が、放送で呼ばれてしまったから。

(相棒……本当に死んじまったのか?)

 心中で思い浮かべる人物の名は、キャロ・ル・ルシエ。
 まだ幼い召喚士。バクラが初めて選んだ、唯一のパートナー。
 あいつには、自分がついていないと駄目だ。自分がいなければ、駄目なんだ。
 それと同時に、キャロは今バクラがここに存在する唯一の意義。
 共に未来へのロードを進んで行くと誓った人間なのだ。

 そのキャロの名が、放送で呼ばれた。
 たった一人の相棒が、自分の預かり知らぬ所で死んでしまった。
 それを知ったバクラを襲ったのは、気の抜けたような虚無感だった。
 暫くは、死んでしまったキャロについて考えていた。
 だけど、やがてバクラはそれに意味がない事に気付いた。

(まだ相棒が死んだと決まった訳じゃねぇ)

 そう。この世界には、平行世界から連れて来られた人間が大勢いる。
 自分と同じ世界の人間かと思えば、別の世界の同一人物。そんな例が数え切れない程にある。
 だから、死んでしまったキャロが自分の知る相棒だと決めつけるのは、まだ早い。
 確かめなければならない。死んだキャロが自分の相棒だったのかどうかを。

 すぐに思い付く方法は二つだ。
 一つ。キャロと出会った参加者から話を聞くか。
 二つ。ゲームに勝ち残って、元の世界に戻って確かめるか。
 だけど、それならばあまり考える必要はなかった。
 どうせゲームには勝ち残るつもりだったし、行動方針に変わりは無い。
 ただ、今し方挙げた前者の方法を今後の行動に組み込めばいいだけだからだ。
 一つ問題を挙げるとすれば、それは現在の宿主のかがみだ。

244誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:16:48 ID:dR2I84lo0

(ケッ……オレ様が言うのも何だが、こいつは壊れ過ぎてやがる)

 そう。今のかがみに、まともな判断は出来ないだろう。
 見境なしに他者を殺し回って、自殺することしか考えていない。
 冗談では無い。自殺なんてされたら困るのだ。
 こっちはゲームに勝ち残ってでも、相棒の元に帰らねばならない。
 それなのに、相棒の元に帰る前に宿主が死んでしまっては話にならない。

(こりゃそろそろ本気で他の宿主を探した方がいいな)

 これ以上壊れ過ぎたかがみと共に行動するのは御免だ。
 こいつの考えをもう少しまともな状態まで戻せるのなら話は別だが、それでなくたってこいつは役立たず過ぎる。
 スバルには逃げられる。浅倉にはデッキを奪われる。カリスには惨敗する。
 かがみがまともにバクラの望む結果を導き出せた事など皆無と言っていい。
 今回の戦いは、態々アドバイスまでしてやったのに負けたのだから、尚更始末に負えない。

(何でもっと上手い戦い方が出来なかった? 人質でも取りゃ状況は変わっただろうがよ)

 それはつい先日までは一般の女子高生として過ごしていたかがみには酷な評価であった。
 そもそも、かがみの身体能力では例えホッパーに変身してもカリスに勝つ見込みなど無いに等しいのだ。
 まともな戦い方すらも知らない素人が、本物の戦士であるカリスに勝てる訳が無い。
 そんな事は最初から解り切ってはいた。
 だが、だからこそクロックアップの使い方は間違えて欲しく無かった。
 あそこをああすれば良かったとか、そんな事を考え出したらキリが無い。
 それ程にかがみの戦闘は落ち度だらけだった。
 上手く立ち回れば、状況はいくらでも変わった筈なのだ。

(いや……今の宿主サマじゃ無理か)

 かがみは只でさえ連戦で疲労が溜まっていた。
 続いてカリス、スバル、ヴァッシュとの乱戦、直後のクロックアップ。
 この時点でかなりの疲労が蓄積されていたであろう。それは仕方が無い。
 だが、その直後にもう一度クロックアップを使ったのは誤算でしかなかった。
 ライダーシステムは、使用者の身体に負荷が掛る前にクロックオーバーを告げる。
 疲れ切った身体でクロックアップを使っても、加速出来る時間はたかが知れているのだ。
 それをカリスへの一撃の為に使用。それも、その一撃で仕留めきれなかった。
 後は知っての通り、圧倒的な戦闘力の差でカリスに敗北し、気絶してしまった。
 挙げるとするならクロックアップ辺りがミスだったと言えるだろうか。
 気絶状態のかがみから身体を奪う事は出来るが、このダメージではまともに動けないだろう。

(だが、これはチャンスかも知れねぇ)

 誰にも見えはしない笑みを浮かべ、考える。
 かがみは気絶してしまったが、現状でかがみを殺そうという人間はいない。
 スバルもヴァッシュも甘ちゃんだし、カリスも悪ぶってはいるが悪にはなりきれない。
 ならば、こいつらは気絶したかがみをどうするだろう。
 考えるまでも無い。まず間違いなく、かがみの戦力を奪って拘束する筈だ。
 後は千年リングを誰かになすりつける事さえ出来れば、めでたく宿主交代。
 バクラもこんな思いをしなくて済む……のだが、問題が一つ。

(スバルの奴……オレ様に気付いてなきゃいいが)

 そう、スバルだけはバクラの存在に気付いているのだ。
 千年リングの存在にさえ気付かれなければ、後はどうとでもなる。
 これは掛けにも近いが、果たして――。




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