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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

2 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:43:10 ID:lCNO3scI0
【基本ルール】
・参加者全員で殺し合いをして、最後まで生き残った者のみが元の世界に帰れる。
・参加者の所持品は基本的に全て没収され、その一部は支給品として流用される。
・ただし義肢などの身体と一体化した武器や装置、小さな雑貨品は免除される。
・主催者に敵対行動を取ると殺されるが、参加者同士のやりとりは反則にならない。
・参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバーとなる。
・バトロワ開始時、全参加者はマップ各地に転送される。
・マップとなるのは「各クロス作品の建造物が配置されたアルハザード」という設定。
・バトルロワイアルの主催者はプレシア・テスタロッサ。
・バトロワの主催目的は未定です。それはバトロワの今後の発展次第で決定されます。

【支給品】
・参加者はバトロワ開始時、以下の物品を支給される。
 ・デイパック(小さなリュック。どんな質量も収納して持ち運べる素敵な機能有り)
 ・地図(アルハザードの地形が9×9マスで区分されて描かれている)
 ・名簿(参加者の名前のみが掲載されたファイル)
 ・水と食料(1日3食で3日分、都合9人分の水と食品が入っている)
 ・時計(ごく普通のアナログ時計。現在時刻を把握出来る)
 ・ランタン(暗闇を照らし、視界を確保出来る)
 ・筆記用具(ごく普通の鉛筆とノート)
 ・コンパス(ごく普通の方位磁石。東西南北を把握出来る)
 ・ランダム支給品1〜3個(現実・原作・クロス作品に登場する物品限定。参加者の能力を均一化出来る選択が必要)
・尚「地図」〜「ランダム支給品」はデイバックに収められている。

【支給品の制限】
・以下の支給品には特別な制限がかかります。詳しい内容は【制限一覧】のページを参照してください。
1.デバイス系
2.ライダーベルト系
3.火竜@FLAME OF SHADOW STS
4.巫器(アバター)@.hack//Lightning
5.カード系の支給品(遊戯王、アドベントカード@仮面ライダー龍騎、ラウズカード@仮面ライダー剣)
6.意思持ち支給品(自律行動あり)
・制限が必要そうだが制限が決定していない物品を登場させたい場合は、事前の申請・議論が必要。

3 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:43:43 ID:lCNO3scI0
【時間】
・深夜:0〜2時
・黎明:2〜4時
・早朝:4〜6時
・朝:6〜8時
・午前:8〜10時
・昼:10〜12時
・日中:12〜14時
・午後:14〜16時
・夕方:16〜18時
・夜:18〜20時
・夜中:20〜22時
・真夜中:22〜24時

【放送】
・以下の時間に「死亡者」「残り人数」「侵入禁止エリア」を生き残りの参加者に伝える。
 ・深夜になった直後(00:00)
 ・朝になった直後(06:00)
 ・日中になった直後(12:00)
 ・夜になった直後(18:00)

【地図】
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/pages/126.html

【禁止区域】
・侵入し続けると1分後に首輪が爆発するエリア。「放送」の度に3エリアずつ(放送から1時間後、3時間後、5時間後に一つずつ)増える。
・侵入禁止はバトロワ終了まで解除されない。

【首輪】
・参加者全員の首(もしくは絶対に致死する部位)に装着された鉄製の輪の事です。
・これにより参加者各人の「生死の判断」「位置の把握」「盗聴」「爆破」が行われ、「爆破」以外は常に作動しています。
 「爆破」が発動する要因は以下の4通りです。
 ・主催者が起動させた場合
 ・無理に首輪を外そうとした場合
 ・主催者へ一定以上の敵対行動を取った場合
 ・禁止区域に一定時間滞在していた場合(尚、警告メッセージが入る)

4 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:44:15 ID:lCNO3scI0
【書き手のルール】
・バトロワ作品を作る上で、書き手に求められる規則。
 ・トリップをつける
 ・本スレでも連載中の書き手は、あくまでもこちらが副次的なものである事を念頭において執筆しましょう
 ・残虐描写、性描写は基本的に作者の裁量に任されます。ただし後者を詳細に書く事は厳禁
 ・リレー小説という特性上、関係者全員で協力する事を心掛けましょう
 ・キャラやアイテムの設定において解らない所があったら、積極的に調べ、質問しましょう
 ・完結に向けて諦めない
 ・無理をして身体を壊さない

【予約について】
・他の書き手とのかぶりを防止する為、使用したいキャラを前もって申請する行為。
 ・希望者は自身のトリップと共に、予約専用スレで明言する事。
 ・予約期間は1週間(168時間)。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は解除される。
 ・ただし諸事情により延長を希望する場合は、予約スレにて申請すれば3日間の延長が可能である。
 ・自己リレー(同一の書き手が連続して同じキャラを予約する事)は2週間全く予約がなかった場合に限り許可する。ただし放送を挟む場合は1週間とする。
 ・書き手は前作の投下から24時間経過で新しい予約が可能になる。ただし修正版を投下した場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。
 ・作品に登場したキャラはその作品が投下終了してから24時間後に予約可能になる。ただし修正版が投下された場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。

【状態表のテンプレ】
・バトロワ作品に登場したキャラの、作品終了時点での状況を明白に記す箇条書きです

【○日目 現時刻(上記の時間参照)】
【現在地 ○ー○(このキャラがいるエリア名) ○○(このキャラがいる場所の詳細)】
【○○○○(キャラ名)@○○○○(参加作品名)】
【状態】○○(このキャラの体調、精神状態などを書いて下さい)
【装備】○○○○(このキャラが現在身に付けているアイテムを書いて下さい)
【道具】○○○(このキャラが現在所持しているアイテムを書いて下さい)
【思考】
 基本 ○○○(このキャラが現在、大前提としている目的を書いて下さい)
 1.○○(このキャラが考えている事を、優先順で書いて下さい)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(このキャラが把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いて下さい)

・以下は、バトロワ作品の参加キャラ数人以上が、特定の目的を果たすべく徒党を組んだ際に書くテンプレです

【チーム:○○○○○(この集団の名前を書いてください)】
【共通思考】
 基本 ○○○(この集団が共有している最大の目的を書いてください)
 1.○○(この集団に共有している思考を、優先順で書いてください)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(この集団が把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いてください)

5 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:44:47 ID:lCNO3scI0
【参加者名簿】

【主催者】
○プレシア・テスタロッサ

【魔法少女リリカルなのはStrikerS】4/10
○高町なのは(StS) ●シャマル ●ザフィーラ ○スバル・ナカジマ ●キャロ・ル・ルシエ ●ルーテシア・アルピーノ ○ヴィヴィオ ○クアットロ ●チンク ●ディエチ
【魔法少女リリカルなのはA's】1/4
●高町なのは(A's) ●フェイト・T・ハラオウン(A's) ●シグナム ○ヴィータ

【リリカル遊戯王GX】0/5
●ティアナ・ランスター ●遊城十代 ●早乙女レイ ●万丈目準 ●天上院明日香
【NANOSING】1/4
○アーカード ●アレクサンド・アンデルセン ●インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング ●シェルビー・M・ペンウッド
【コードギアス 反目のスバル】0/4
●ルルーシュ・ランペルージ ●C.C. ●カレン・シュタットフェルト ●シャーリー・フェネット
【魔法少女リリカルなのは マスカレード】4/4
○天道総司 ○相川始 ○キング ○金居
【仮面ライダーリリカル龍騎】0/3
●八神はやて(A's) ●浅倉威 ●神崎優衣
【デジモン・ザ・リリカルS&F】0/3
●エリオ・モンディアル ●アグモン ●ギルモン
【リリカルTRIGUNA's】1/3
●クロノ・ハラオウン ○ヴァッシュ・ザ・スタンピード ●ミリオンズ・ナイブズ
【なの☆すた nanoha☆stars】2/3
○泉こなた ○柊かがみ ●柊つかさ
【なのは×終わクロ】0/2
●新庄・運切 ●ブレンヒルト・シルト
【リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】1/2
●セフィロス ○アンジール・ヒューレー
【魔法妖怪リリカル殺生丸】0/2
●ギンガ・ナカジマ ●殺生丸
【L change the world after story】1/2
○ユーノ・スクライア ●L
【ARMSクロス『シルバー』】1/2
○アレックス ●キース・レッド
【仮面ライダーカブト】0/2
●フェイト・T・ハラオウン(StS) ●矢車想
【ゲッターロボ昴】0/1
●武蔵坊弁慶
【魔法少女リリカルなのは 闇の王女】0/1
●ゼスト・グランガイツ
【小話メドレー】1/1
○エネル
【ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】1/1
○ヒビノ・ミライ
【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】1/1
○八神はやて(StS)

現在:19/60

6 ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:45:41 ID:lCNO3scI0
立て直したほうがいいという意見が多かったので立てました

では投下します

7 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:47:26 ID:lCNO3scI0

創造の後には破壊があり、破壊の後には創造がある。
つまり創造は破壊から生まれるのだ。
だから一面瓦礫の山と化したこのE-5のエリアから新たな芽が息吹くのは当然の流れかもしれない。

そう静かで暗い芽が――。


     ▼     ▼     ▼

8 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:47:57 ID:lCNO3scI0


俺は負けたのか?
今まで『欠陥品』や『初期不良品』と歯牙にもかけてこなかった奴に。
同じ遺伝子プールから生まれた存在ではあるが、唯一アリスの意思を宿していない奴に。

俺は負けたのか?

いや、正確には『負けていた』が正しいか。

本来なら身体を刃で地面に刺し貫かれた時点で俺は死んでいる。
あの時レッドが“グリフォン”を発動させれば超振動でARMSの心臓たるコアは破壊されていたのかもしれない。
だがそうはならなかった。
おそらく制限によって“グリフォン”の威力がコアまで届かない可能性を危惧したんだろう。
だからこそ確実に止めが刺せるように左手に持ったベガルタを捨てて、己の刃を振り翳したのだ。

あるいは自らの手で直接最期となる感触を得たかったのかもしれない。

もう死んでしまった今となっては確かめる術はないが。

確かにあの時のキース・レッドの判断に誤りはなかった。
だがそれはこの特殊な場所だからであって、ここ以外なら死んでいたのは俺の方だ。
今も俺が生きているのは単に運が良かっただけ。

だがそんな考えは慰めでしかない。
俺はあいつに負けたんだ。
そして次はもうありえない。
あいつは俺が殺したのだから。
そうだ。
勝負に負けた俺が勝負に勝ったあいつを殺したんだ。
その事実はもうどんな事をしても拭い去る事はできない。


ああ、それにしてもここは静かだ……。


     ▼     ▼     ▼

9 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:49:00 ID:lCNO3scI0


瓦礫の山。
八神はやては目が覚めるとそこにいた。
不思議な事になぜ自分がここにいるのか記憶がない。
自分がどこにいるのか把握しようにも辺り一面360°全て瓦礫ばかり。
これでは自分がどこにいるのか分かるはずがない。
しかしそんな状況に置かれているのになんとなく受け入れている自分がいた。

「ん?」

ふと右手で何かをつかんでいる感触があった。
今まで気が付いていなかったのは不思議だが、はやては別に何とも思わなかった。
それはここがどこだかおぼろげながら理解しつつあるという事もあった
だがなにより右手にあったものが些細な疑問を全て吹き飛ばしたからだ。

「ああ、そうか……ついに、ついに、取り戻せたんや。みんなを……」

いつのまにかはやての周りには5つの人影があった。

「主はやて……」

剣の騎士、烈火の将シグナムが。

「はやて……」

鉄槌の騎士、紅の鉄騎ヴィータが。

「はやてちゃん……」

湖の騎士、風の癒し手シャマルが。

「主はやて……」

盾の守護獣、蒼き狼ザフィーラが。

そして――。

「主はやて……」

幸運の追い風、祝福のエール――リインフォースが。

「みんな……」

はやてが取り戻したいと強く願い続けてきた家族がそこにいた。

「はやてちゃん……」

そしてはやての隣には新しい家族リインフォースⅡの姿もあった。

「ああ、これでもうみんな一緒やね……みんな、みんな一緒や!
 シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――リインフォース、もちろんちっこいリインも!」

10 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:49:33 ID:lCNO3scI0

それははやてが望んでいた光景だった。
誰一人欠ける事なくみんな一緒にここにいるという願い。
それが今この瞬間目の前で実現している。
それは本当ならこの上もないほど嬉しい出来事――のはずだった。

「でもな……」

だがはやての心には嬉しさ以上の感情が渦巻いていた。

「なんで……」

それは温かいものではなく、もっと暗いもの。

「なんでみんなそんな目で私を見るんや?」

はやては自分に向けられた視線の意味を悟って愕然としていた。
すぐにこれは嘘だと自分が置かれた状況を否定しようとした。
だがそれは決して勘違いではない。

「シグナム? ヴィータ? シャマル? ザフィーラ? なあ、そんな顔やなくて、私は笑ってほしいんや……」

シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――。

「リイン! なあ、笑ってや!」

――二人のリインフォースもまたはやての笑いかける事はなかった。

「私、頑張ったのに、それなのに、なんで? なんで? そんな目で私を見るんやああああああああああ!!!!!」

はやては分からなかった。
なぜみんながそんな悲しそうな表情を浮かべているのか。
いや本当は分かっていた。
ただ認めたくなかっただけ。
その事実を認めたくないばかりにはやては泣き叫び、そして――。


『はやて! はやて! はやて!』


――静かな悪夢は終わりを迎えた。


     ▼     ▼     ▼

11 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:50:17 ID:lCNO3scI0


プレシア・テスタロッサの手によって幕を上げたバトル・ロワイアル、通称『デスゲーム』。
その会場であるアルハザードの某所に作られた特別な9km×9kmの会場の中央に位置するE-5エリア。
その位置ゆえに序盤から様々な参加者がそのエリアを訪れ、時には手を組み、時には戦い、そして今はもうすっかり廃墟と化していた。
セフィロスの『メテオ』による隕石群。
憑神刀(マハ)の持ち主によって幾度も放たれた『妖艶なる紅旋風』による竜巻。
二つのロストロギアの力を借りて天上院明日香が行使した『星を破壊する最強の光』にも匹敵する砲撃。
それ以外にも短時間でエリアに与えられたダメージは計り知れない。
これで無事であるエリアなどあるはずがない。
その跡地の中でヴィータは必死にはやてを抱え起こして名前を呼んでいた。

「はやて! はやて! はやて!」

金居からミラーワールドについての事情を聞いている最中に発生した大規模な魔力の衝突。
それによる衝撃波は辛うじて残っていた地上本部を倒壊させるほどのものだった。
幸いヴィータがいた場所までは若干距離があったのでシールドを展開する事で難を逃れる事が出来た。
そして爆発の中心に向かったところ、瓦礫の中に倒れているはやてを見つけて今に至る。

「おい、ヴィータ。あんまり大声出すなよ。まだ近くにセフィロスやアーカードがいるかもしれなないし、それに金居も――」
「うるせえ。今はそんな事よりも――」

その声を遮るかのようにデスゲーム開始から18時間が経過した事を知らせる放送が流れた。


     ▼     ▼     ▼

12 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:50:49 ID:lCNO3scI0


アーカードは静かに放送に耳を傾けていた。
今回の死者は19人。
前回の倍以上しかも前回の放送まで生き残っていた参加者の半数が死んだ事になる。
だがアーカードはあまり関心がなかった。
今のアーカードの目的はプレシア・テスタロッサの抹殺。
最終的に主インテグラのラストオーダーを果たせるなら誰が死のうと関係なかった。
それゆえに円卓会議の一員であるペンウッドが死んでいた事に別に興味はなかった。

だが例外はある。

(……セフィロス、貴様は別だ)

アーカードを後一歩まで追い詰めた化け物。
そのセフィロスもまた死んだ。
その瞬間は予想外に呆気ないものだった。
かなりのダメージを負っていたのではっきりとは分からないが、正面から撃たれて死んだらしい。
誰が殺したのか少し興味はあるが、目星は付いている。

(おそらくあの女、はやてと呼ばれていたな)

あの時点で同じエリア内で戦闘を目撃していた人物は3人。
金居とヴィータとはやて。
そのうちヴィータとは背格好が合わない上に銃殺という手段を取るとは思えない。
そうなると金居とはやての二択だが、アーカードは戦闘中の気配からはやてだと半ば確信していた。
それは殺気。
ヴィータがアーカードに対して並々ならぬ殺気に似た物を送っていたとの同様にはやてはセフィロスに対して同じものを送っていた。
むしろこっちは純粋に殺気と呼べるほどにどす黒い視線だった。
もしも予想が正しいなら生かすつもりはない。
先程の爆発で建物の崩壊に巻き込まれて傷を負ったが、問題はないだろう。

(どちらにせよ、直接会えば分かるか)

そして吸血鬼は静かに姿を現した。


     ▼     ▼     ▼

13 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:51:23 ID:lCNO3scI0


アレックスは悩んでいた。
参加者にとっては重要な放送も耳に入らないまま悩み続けていた。
これから自分は何をするべきかと。
もちろん六課の仲間と合流してデスゲームを終わらせるべきだ。
だがキース・レッドに敗北した事実はアレックスの身体をこの場に縛りつけていた。

そんな時、誰かが近付いてきた。

「おい、生きているのか?」

今のアレックスはARMSの力で再生中ではあるが、その事を知らない人から見れば死人も同然の状態だ。
だからそういう質問がされるのは半ば自然な流れだ。

「ああ……なんとかな……」

とりあえずそれだけ答えた。
正直なところ今は誰かと話す気分ではない。
それにこうして質問してくるという事は少なくとも相手は殺し合いに乗っていない。
もしも殺し合いに乗っていれば何も聞かずに殺しにくるはずだから。

「再生力が高いのか。ところで貴様は殺し合いに乗っているのか?」

ここがデスゲームの場である以上、当然とも言える質問だ。

「いや、俺は殺し合いには乗っていない」

以前なら本能のままに闘争を繰り広げていたのかもしれない。
だがアレックスは一度死んだ時にその呪縛から解き放たれている。

(そうだ、俺は決めたはずだ。運命に縛られず自らの意志で闘争を行うと! だから――)
「――それなら用はない」

真上から振り下ろされる断罪の鉄槌。
それがアレックスの目に映った最期の光景だった。


【アレックス@ARMSクロス『シルバー』  死亡確認】


     ▼     ▼     ▼

14 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:52:11 ID:lCNO3scI0


ヴィータにとって先程の放送は人数の割に衝撃は大きくなかった。
19人の死者のうちヴィータと関わりがあったのはシャマル、ゼスト、セフィロス、フェイト、ルーテシアの5人。
だがシャマルは事前にはやてからその死を聞かされていたから改めてその死を悼むに止まった。
フェイトに関しては敵対している間柄とはいえ信用できそうな人物ではあったが、そこまで深い関係でもないので上に同じ。
ゼストとルーテシアもアギトの大切な人ではあるが、直接会った事がないのでまた上に同じ。
そのアギトだが今は二人の死によるショックからかデイパックの中に籠っている。
別人の可能性があるとはいえ大切な存在を一度に失ったのだから無理もない。

だがセフィロスだけはその衝撃は大きかった。

ヴィータから見てセフィロスは別次元の強さを誇っていた。
最初ははやてを死に追いやったと思い込んで戦ったが、アギトから事情を聞くに及んで最初ほど敵視できなくなっていた。
むしろ僅かではあるが共感できるものがあった。
最後に見たのは同じく規格外の化け物であるアーカードと戦っている最中だった。
そのアーカードが生きている事から戦いに敗れて死んだのかもしれない。

(セフィロス、結局お前とは――)
「ほう、また会ったな」
「――ア、アーカード、てめえぇぇぇえええええ!!!!!」

セフィロスの最期に静かに想いを馳せていた時に聞こえてきた声。
その声をヴィータが聞き逃すはずがない。
最凶の吸血鬼アーカードの声を。

「やっぱり生きていたのかよ……」
「降りかかる火の粉は払わないといけないな」

ヴィータはすぐさま真紅のバリアジャケットを身に纏って槍を構える。
先程の戦闘の傷がまだ癒えていないのかアーカードの身体には真新しい傷がいくつも刻まれていた。
何かにうなされていたようなので治療のために核鉄をはやてに持たせているが、まだ目覚めていない。
どうせ気絶したはやてを連れて逃げ切れるとは思えないので決死の覚悟で迎え討つつもりだ。
それに今ならアーカードの傷も癒えていないので勝機の芽はあるのかもしれない。

こうして廃墟の真っ只中で静かに死闘の火蓋は切られた。

15 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:52:46 ID:lCNO3scI0


【1日目 夜】
【現在地 E-5 崩壊した市街地】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】健康、奇襲に対する危機感(大)、アーカードへの恐怖
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、セフィロスのデイパック(支給品一式)
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する。
 1.アーカードは殺す!!!
 2.はやて(StS)は様子見、当分の間は同行するが不審点があれば戦闘も辞さない。
 3.ヴィヴィオとミライを探す。
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す。
 5.グラーフアイゼンはどこにあるんだ……?
 6.そういえば金居はどこだ?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されています。
※今のところ信用できるのはミライ、なのは、ユーノのみ。
※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジールを警戒しています。
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:???
 1.旦那……ルールー……。
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。
※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です。

【アーカード@NANOSING】
【状態】疲労(中)、全身に裂傷(中)
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
 1.邪魔をするヴィータを殺した上ではやてを……。
 2.再度プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する。
 3.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない
 4.首輪解除の技能者を探してみる?
 5.アンデルセンを殺した参加者を殺す。
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※第一回放送を聞き逃しました。
※デスゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。


     ▼     ▼     ▼

16 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:53:19 ID:lCNO3scI0


(さて、どうしよっか? さすがに手負いとはいえヴィータだけでアーカードを倒せるとは思えん。
 私が加勢できたらいいんやけど、まだ回復までには時間がかかりそうやな)

はやては今の状況を努めて冷静に見ようとした。
実は少し前から意識はあったが、すぐにアーカードが来たので様子を見る事にしたのだ。
本来ならアーカードとは戦わずに逃げたい。
だが今のアーカードは万全とは言えない状態だ。
もしかしたらヴィータと組めば倒せるかもしれない。

(でもまずはヴィータに時間を稼いでもらうしかないか……)

不幸中の幸いか、明日香が魔力の源にしていたジュエルシードはその内包する力を使い切ったせいか何の反応も示さないようだ。
ジュエルシードの力も加わっていたと知った時は使うのは危険だと思ったが、これなら夜天の書も問題なく使える。
だが備えあれば憂いなし。
もし可能ならば明日香の近くに落ちている道具で使えそうなものがあれば活用したい。

はやては静かに自分が動く時を持ち続けるのだった。


【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、胸に裂傷(比較的浅め、既に止血済)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(中)、スマートブレイン社への興味
【装備】コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金
【道具】支給品一式×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、首輪(セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.様子見。
 2.手に入れた駒(ヴィータ等)は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.金居のことは警戒。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。その為なら外見だけでも守護騎士に優しくするつもりです。


     ▼     ▼     ▼

17 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:53:56 ID:lCNO3scI0


金居がアレックスを殺した理由は至極単純で簡単なものだった。
つまりこのまま生かしておけば邪魔になるからだ。
高い回復能力を持つ主催者に反抗する参加者。
しかもその戦闘能力が高いのはミラーワールド見ていたので既に知っていた。
そのような参加者を放っておけば障害になる事は確実だった。
だから満足に動けないこの千載一遇の機会を逃す手はなかった。
殺害の手口は首から胸にかけての部分にイカリクラッシャーを叩きつけて潰すというもの。
生半可な方法では再生されてしまうと考えた結果、絶対的な致死を司る首輪周辺を破壊することにした。
そして予想通りもう再生する事はなかった。

金居がアレックスを発見したのはヴィータが爆心地へ向かっている最中。
それまではミラーワールドのことを大まかに話している最中だった。
因みに話した内容はあの時点で以下の二つ。

・ミラーワールドに参加者を引きずり込んだのは浅倉威。
・確認できただけで引きずり込まれた参加者は9人(金居、キング、相川始、天道総司、柊かがみ、柊つかさ、キース・レッド、キース・レッドに似ている男、黒服の少年)

そこまで話したところであの衝撃波が襲ってきた。
まだアンデッドの姿には戻れなかったが、逆にヴィータにその姿を見せずに済んで結果オーライだった。
そのヴィータは移動中に遠目ではやての姿を確認したのか、はやてと名を呼びながら一目散に走って行った。
この時金居は無理に急いで行くつもりはなかった。
まだ近くにアーカードがいた場合、離れていた方が何かと都合がいいと考えたからだ。
それから放送があり死者の多さに驚いたが、それだけだった。
ただアーカードが死んでいないと分かって少し警戒心が増したぐらい。
アレックスを見つけたのはそんな時だった。
そして一応殺し合いに乗っているか聞いた上で邪魔になると判断して殺した。

(少し気になったのはボーナスの基準か。前の放送であんな発破をかけたぐらいだから、もしや基準はそこか?)

ボーナスとして与えられる道具が何になるか。
第二回放送から第三回放送までに殺した人数。
第三回放送までに殺した人数。
殺した参加者の力量。
果たして選ばれる基準が何に基づいているのか、それはまだ誰にも分からない。

「さて、こいつのデイパックも回収して、あとは……ん?」

それを見つけたのは偶然だった。
地面に走った亀裂。
その周囲には倒壊した地上本部のなれの果て。
つまりは地上本部の地下部分が倒壊の影響で僅かに剥き出しの状態であった。
そしてその亀裂から金居は何かを感じた。
それを確かめるべく近づくと、そこにはある模様が描かれていた。
ちなみに近くに落ちていた看板には次のような説明が書かれていた。

『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』


【1日目 夜】
【現在地:E-5 地上本部跡地】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】なし
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.なんだ、これは?
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 4.上手く状況を動かして隙を見てアーカードを殺害する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。


     ▼     ▼     ▼

18 Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:54:26 ID:lCNO3scI0


「あれは転移魔法陣!? なんで地下に移動を!?」

会場の様子を監視していたリニスがそれに驚いたのも無理はない。
確かに魔法陣は屋上にしかなく、その魔法陣も屋上ごと崩れたはず。
それが今は地下に移動している。
まるで元からそこにあったかのように。

元々リニスは今回から採用されたボーナスシステムを使ってどうにか参加者の助けとなる道具を送りたいと思っていた。
だが誰にも気づかれる事なく道具を仕込むのは簡単な事ではない。
案の定ボーナス用の道具が置かれた場所にも何らかの監視システムが設置されていた。
まずはそれをどうにか掻い潜る方法を考えている時に最初のボーナス適用者である金居が現れたのだ。
その際のボーナスの転送から何かヒントが得られないか注意して監視していた時、金居と同様に魔法陣の存在に気付いた。

(いったい何が……)

そしてその様子をさらに監視している人物がいる事にリニスは気付く事はなかった。


     ▼     ▼     ▼


(あの子は思いもしていないでしょうね。まさか私がこんなに早く休息を終えているなんて)

リニスを監視していたのは休息すると言って一度奥に引っ込んだはずのプレシア。
既にその顔には疲労の色はない。
それも当然だろう。
参加者の何人かには一瞬で体力や魔力を回復してくれる道具が配られている。
その配った張本人がそのような便利道具を全て参加者に渡して手元に残していない訳がない。

(でも地上本部が崩れるなんて……少し甘く見すぎていたようね。これからは一層の注意が必要ね)

さすがにキース・レッドによる内部破壊、E-5エリア全土に放たれたいくつもの砲撃。
まさか短時間で地上本部にここまで攻撃が集中するとは思わなかった。
キース・レッドが手を出すまで本格的な破壊活動がなかっただけに油断がなかったというのは嘘になる。

(それにしても、まさか万が一に備えて付与しておいた機能が役に立つなんて……そのおかげで『要』は無事……。
 ただ、調整のために禁止エリアにせざるを得なかったけど、果たして誰か気づく参加者がいるのかしら。
 ふっ、気づいたところで何もできないでしょうけどね。それよりも今は山猫と――)

そしてプレシアは別画面に映る二人を見て静かに微笑みを浮かべるのだった。

(――馬鹿ね。ここに辿りつけないとも知らずに……)

そこに映っていたのは亡き主の仇を討つために乗りこんできた『風』と『犬』の姿だった。


【全体備考】
※E-5のアレックスの死体に近くに以下の物が放置されています。
 アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))

19 リリカル名無しA's :2010/03/29(月) 23:55:22 ID:lCNO3scI0
投下終了です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

20 ◆HlLdWe.oBM :2010/03/29(月) 23:56:21 ID:lCNO3scI0
一応トリ付け忘れていたので

21 リリカル名無しA's :2010/03/30(火) 01:17:25 ID:Odkea5HIO
投下乙です。
アーカードとヴィータ、普通なら勝負は見えているがこれはどうだ?
そしてアレックスは再生中をやられたか。
あと魔法陣はキーポイント?

22 リリカル名無しA's :2010/03/30(火) 09:43:08 ID:qQ.e2rbI0
投下乙です。

ただ、セフィロスの技は「メテオ」ではなく「スーパーノヴァ」なのでは?

23 リリカル名無しA's :2010/03/30(火) 09:51:17 ID:5pKRjkcU0
投下乙です。
アレックスはここで退場……そして道具はほぼ金居総取り(ただ、ボーナスの解釈を断定しかねているのが気に掛かるが……まぁ、金居第2回〜第3回で仕留めていないから金居だけをみたらどっちでも変わらないか……しかし、金井の推察次第では他の対主催涙目だぞ……)。
魔法陣が何故か現れていたが……禁止エリアになる事踏まえるとどちらにしろこれが最後の出番か?
で、アーカードvsヴィータ……とりあえず結果は見え見えな気もするが何で対主催同士で争うんだよと小一時間(いや、今回は展開上しゃーないけど。)
そして早々に発見された『犬』&『風』オワタ

……実は予想では、ヴィータ辺り退場とか対主催アーカード退場とかアレックスマーダー化とか、『犬』&『風』退場とかロクでもない展開ばかりが浮かんだけど別にそんな事はなかったぜ。

24 リリカル名無しA's :2010/03/31(水) 22:09:21 ID:h9Tkmy1kO
投下乙です
アレックスは金居に殺されたか。順調にキルスコア稼いでるな
はやては目覚めたのはいいが、アーカード戦はどう乗り切るか
金居も助太刀して三人がかりなら勝率も上がりそうだが…

25 リリカル名無しA's :2010/04/01(木) 18:16:58 ID:/WvHU/1I0
投下乙です。
はやては何とか目を覚ましたみたいだけど、今のアーカードは
はやても敵対視してるから早く行動しないと拙いという……。
ヴィータだけじゃ間違いなく勝てない、はやても魔力は空っぽ、となればやはり金居がどう出るかによる?
最後に出て来た転移魔法陣もどんな展開に繋がるのか楽しみです。

26 ◆HlLdWe.oBM :2010/04/01(木) 21:45:14 ID:LdSZpDlg0
>>22
wiki上で修正しておきます

27 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:27:04 ID:tXZnpddQ0
ヴィータ、アーカード、八神はやて(StS)、金居分を投下します

28 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:28:06 ID:tXZnpddQ0
 別に、大層な正義感があったわけじゃない。
 騎士の誇りもどぶに捨て、大切な人を救うために、その人との約束に背いた身だ。
 辻斬りまがいの行為に手を染めてるあたしらに、今更正義を説く資格なんざありゃしない。
 天下の管理局に盾突いて、はやてと同い年くらいの子供にまで牙をむいた。
 外道だ悪党だと罵られたって当然さ。

 だけど、言い訳することが許されるなら、せめて1つくらいは弁解させてほしい。
 あたしらだってこんなこと、本当はしたくなかったんだ。
 あたしらは長く戦いすぎた。もう二度と戦いたくなんてなかった。
 そして、はやてはそれを叶えてくれた。
 戦うことしかできなかったあたしらに、人並みの穏やかな暮らしを与えてくれた。
 戦うことしか知らなかったあたしらに、人並みの感情というものを教えてくれた。
 だからもし許されるなら、あのまま戦うこともなく、平凡に日々を過ごしていたかったんだ。
 リンカーコアの蒐集だって、そんな日を繋ぐためにやっていたことだ。
 はやての命を救うために、仕方なくやっていたことなんだ。
 事情も目的もない戦いなんて、誰が好き好んでするものか。

 だから、今目の前にいるこいつは許せない。
 本当なら、誰だって傷つかないのが一番なのに。
 こんなくだらない殺し合いなんかで、死んでいい命なんてない方がいいのに。
 それでも奴はその力で、大勢の人間の命を奪っていった。
 いいや、こいつだけじゃない。
 こんな狂ったゲームの中で、何人もの人間が殺し合いに乗り、何人もの人間が死んでいった。
 守りたかった命。
 救えなかった命。
 大勢の人間の血が流れて、その度に自分の無力に嫌気がさした。

 ああ、そうだ。

 もうそんな想いをするのはたくさんだ。

 だから、あたしはこいつと戦う。
 こいつだけは絶対に、あたしが今ここで殺してやる。
 どんなに実力差があろうと、そんなものは知ったこっちゃない。
 どんなに絶望的な戦いだろうと、諦める理由になんかなりゃしない。
 もうこれ以上、誰もお前に殺させやしない。

 だから。

 だから、お前はここで倒されろ。

 吸血鬼――――――アーカード!

29 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:28:59 ID:tXZnpddQ0


(さて、どうしたものか)
 白銀に輝く拳銃を手に、金居は1人思考する。
 その手に握られたハンドガンは、名をデザートイーグルという。
 つい先ほど、淡い魔力の光と共に、デイパックの中に現れたボーナス支給品だ。
 放つ弾丸は50口径。超大型の鉛玉は、拳銃というくくりにおいては、世界最強の破壊力を有している。
 一方でその巨大さと反動故に、並の人間には満足に扱えない代物とも言われていた。
 反動や重量の方は、アンデッドである彼にとっては屁でもないが、確かにこのグリップの大きさは少々握りづらいだろう。
 とはいえ破壊力は申し分ない。ギリギリではあるものの、あのアーカードにも手傷を負わせる威力はあるはずだ。
 アンデッドの正体を隠しているうちは、多少は出番も回ってくるかもしれない。
(だが、果たしてこいつは当たりか外れか?)
 改めて銃身を見据えながら、自問した。
 拳銃としては破格の威力を有するデザートイーグル。
 それでも威力ではイカリクラッシャーに劣るだろうし、利便性ではデバイスに劣るだろう。
 それらの条件を加味した上では、この武器のランクはいかほどのものなのだろうか。
 プレシアの意図を探る上では、こいつの性能はかなり微妙だ。
 強いともとれるし、弱いともとれる。
 上位ともとれるし、下位ともとれる。
 紺色の髪の娘や眼鏡の女の分が得られなかったことから、ご褒美の対象が3回放送以降のキルスコアのみということは分かった。
 しかし、支給品のレアリティが敵の力量に左右されるのか、というのは謎のままだ。
(まぁそれはそれとして……問題はむしろこっちだな)
 銃をデイパックへと収め、足元の魔法陣へと視点を落とす。
 ぼんやりと煌く円環の紋様は、落ちていた看板の説明によると、望む場所へのワープに用いるものなのだそうだ。
 光の印象が似ているあたり、先ほどデザートイーグルを転移させた技術と、同じ理屈なのだろうか。
 ワープできるとだけ書かれた説明文には、それ以外の情報はほとんどなし。
 せいぜい魔力を消費する必要がある、というものくらいで、他に制約らしいものはなかった。
 つまりはほとんどリスクを冒すことなくして、無制限な距離の移動を行うことができるというわけだ。
 普通に考えてもみれば、これはやや便利すぎる代物ではないのか。
 故にこれは記述通りのお助けアイテムではなく、逆に騙されて使えば被害を被るようなトラップではないのか。
(……それはそれで不自然、か)
 しかし、その懸念もすぐに消える。
 これまでの状況を整理すれば、そんな罠が仕掛けられるはずもないというのは明確だ。
 プレシア・テスタロッサが望むのは、殺しではなく殺し合い。
 ただ死体を築き上げたいというのならば、こんな回りくどい手を使うまでもなく、首輪を一斉に爆破すれば済むだけのこと。
 第2回目の放送では、自らそれをしたくないと口にしていた。
 ミラーワールドの戦闘では、主犯の浅倉のみを始末するに留まり、残りは全員生かして会場に戻した。
 それほどに主催者側の介入を嫌がるというのなら、この魔法陣に罠を仕掛けるような真似をしでかすはずもない。
 故にこれの有用性については、八割方信じてやってもいいだろう。
(問題とすべきは、こいつがどこまで融通の利く代物か、だ)
 それが残り二割の懸念だった。
 こいつが本物であるとして、さてではその本物の機能とやらは、一体どの程度優れているのだろうか。
 有効移動圏内は、一体この場所から何マス分か。
 マスとマスの間を移動したとして、果たしてどれほど精密に着地点を指定できるのか。
 どこかにいる特定の人物と会いたいだとか、そういう正確な座標も分からない場所には飛べるのか。
(何にせよ、実際に魔法使いを連れてこないと始まらないか)
 ひとまずはそこで思考を打ち切る。
 今は亡きアレックスのデイパックを拾い上げ、自分の持ち物へと無造作に突っ込む。
 よくよく考えてもみれば、金居は魔導師ですらないのだ。
 ああだこうだと考えたところで、発動させるための魔力がなければ、何を試すこともできない。
 であればさっさとはやてらと合流し、これを使わせてみなければ。
 かつり、かつりとアスファルトを踏み、荒れ果てた廃墟を進んでいく。
 するとそれから程なくして、自分の足音とは異なる音が、遠くの方から聞こえてきた。
 きん、きん、きん、きん。
 断続的に響いているのは、金属のぶつかり合う音だ。
「どうやら向こうも向こうで、荒事になっているらしいな」
 ぼそり、と呟くと同時に。
 金居は自らを音の方へと加速させた。

30 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:30:00 ID:tXZnpddQ0


「つらそうだな」
 忌々しいあの低い声が、己の鼓膜を震わせる。
 ぜいぜいと自身の口を突く吐息に混じって、余裕たっぷりなあの声が響いてくる。
 ぐ、と歯を食いしばって、槍を地に突き立ち上がった。
 膝をつく姿勢を取っていた身体を、得物を杖代わりにして持ち上げた。
 既に我が身はボロボロだ。
 振りかざす穂先は届かない。時たま届いたとしても、すぐに傷口が再生する。
 自己修復の速度は大幅に落ちていたようだが、それでも脅威には変わらない。
 どれだけ傷つけたとしても、一分の隙も見せやしない。
 逆に敵の切っ先は、こちらの防御を押しのけて、着実にこの身体を切り裂いていく。
 騎士甲冑はずたぼろに引き裂けた。
 致命的な直撃こそまだだが、至る所が血まみれだ。
 額から流れる血液を拭い、ヴィータの瞳がアーカードを睨む。
「それで終わりか、お嬢ちゃん(フロイライン)? 身体が殺意に追いつけないのか? 一人前なのは威勢だけか?」
「うる……せぇッ」
 精一杯の強がりを吐いた。
 実際にはもういっぱいいっぱいだ。
 全身から流れ出る真紅の雫は、根こそぎ体力を奪って地に染みていく。
 五体に刻み込まれた刀傷も、痛くて痛くてたまらない。
 体力も気力も限界ギリギリ。有り余っているものといえば、せいぜい魔力くらいだろう。
「見せてくれ。そして分からせてくれ。
 お前は私を殺せるのか。私を殺すに足る者なのか。その手に握り締められた杭は、果たして私の心臓に届くのか」
 彼我の戦力差は絶望的だ。
 分かり切ったことではあったが、その事実が急速にリアリティを増して、深く身体にのしかかってくる。
 クロノが撤退を促した時点で、まともに戦える相手ではないことは推測できた。
 セフィロスと互角に戦った時点で、自分が勝てなかったあいつ並に強いことは分かっていた。
 だが、結局それらは全て傍証に過ぎない。
 こうして直接刃を交えなければ、主観の確証にはなり得なかった。
 そして、今だからこそ分かる。
 今目の当たりにしているこの鬼の、なんと猛々しくおぞましいことか。
 人間離れの再生力の、なんと忌々しいことか。
 常識外れの怪力の、なんと凄まじいことか。
 指先が震えそうだった。膝が振動で崩れ落ちそうだった。
 戦う前から刷り込まれた恐怖が、より深く心を侵食していく。
 もう嫌だ。できることなら逃げ出したい。
 こんなにも強くおぞましき魔物とは、これ以上戦いたくなんてない。
 刃が突き刺されば確実に死ぬ。
 拳を当てられただけでも砕け散る。
 明確ににじり寄る死のビジョンが、怖くて怖くてたまらない。
「できるできないじゃねぇ――」
 ああ、それでも。
 だとしても、引き下がることなどできないのだ。
 今ここで自分が逃げ出せば、今度ははやてが犠牲になる。
 自分の知るはやてとは雰囲気の違う、正直いけ好かないタイプの人間だが、さすがに殺されるのは後味が悪い。
 そしてはやてが殺されれば、今度は金居とかいう奴が襲われるだろう。
 奴までもが殺されてしまえば、もう誰にも止められない。
 自分がこの場から逃げ出すことは、それだけの人間の死を意味するのだ。
「――やるんだよッ!!」
 だから、やってやる。
 殺ってやるとも。
 一体実力差が何だというのだ。どれだけ怖かろうと知ったことか。
 どれだけ力の差があろうが、そんなことはどうだっていい。
 殺せる殺せないの問題じゃない。
 殺さなければならないのだ。
 怒号を上げるヴィータの足が、かつんと鋭くアスファルトを蹴った。

31 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:31:38 ID:tXZnpddQ0
 跳躍と同時に、飛行魔法を発動。
 滑空するような低空飛行で、真っ向からアーカードに突っ込んでいく。
 加速、加速、なおも加速。
 並行して身体強化を発動。
 ありったけの魔力を纏い、五体の運動能力を向上させる。
 煌々と煌く槍の穂先は、武器強化の術式の賜物だ。
「悪くない返事だ」
 いい返事だ、とは言わなかった。
 にぃと笑みを浮かべる吸血鬼は、それを正解とは認めなかった。
 弾丸並の加速を見せるヴィータを前に、しかしその顔には余裕の笑顔。
 口先だけとしか見なしていない。
 それだけで殺せると思っていない。
 当然といえば当然だ。自分はまだ一方的に蹴散らされるだけで、一度も結果を出していないのだ。
「では、あとは結果を示してもらおう」
 がきんっ、と響いた鋼鉄の音。
 難もなく、無造作に。
 軽く持ち上げられたのは、常識外れな長さの長剣。
 全身全霊を込めた一撃が、そんな動作で受け止められる。
 のれんをめくるかのような動作で、あっさりと受け止めてみせたのだ。
「お前は取るに足らないただの狗か、はたまた尊厳ある人間か」
 刃の向こうの瞳が光る。
 名刀・正宗越しに向けられた視線が、爛々と真紅の瞳を放つ。
 赤は燃え盛る炎の色。
 そして滴る血の色だ。
「――ッッ!」
 瞬間、烈風がヴィータを襲った。
 痛烈な衝撃が叩きつけられる。槍の穂先を怒濤が押し返す。
 ギリギリまで身体強化を付与した身体が、まるで貧弱なやせっぽちのようだ。
 渾身の力を込めた一撃が、まるで問題にもされていない。
 視界の風景が遠ざかり、みるみるうちに距離が開いた。
 ビルの残骸もたなびく煙も、遥か彼方に置き去りになった。
「くそっ!」
 吐き捨てると同時に、急制御。
 飛行魔法のベクトル制御で、吹き飛ぶ身体にブレーキをかける。
 開始からたっぷり3秒をかけ、つんのめるようにしてようやく停止。
 つくづく恐るべきはアーカードだ。
 あんな態勢からこれほどのパワーを発揮して、こちらの攻撃を弾き返してくるとは。
「言われなくとも……やってやらぁっ!」
 だが、今更その程度では足を止めない。
 力が強いことなど、とっくの昔に分かり切っていることだ。
 こんなものはせいぜい、パワー勝負では勝てないということを、再認識した程度にすぎない。
 ならば、パワー以外で勝負するまでのこと。
 力で駄目なら、スピード勝負だ。
 再度飛行魔法を加速させる。
 ぎゅんと、再度世界が加速。
 遠ざかった景色を追い越して、置き去りにして突撃する。
 風を切る音が耳に響いた。三つ編みの髪が鬱陶しく暴れた。
 猛スピードでアーカードへと殺到。
 そしてそのまま立ち止まることなく、すれ違いざまに槍を一閃。
 ざく、と肉を斬る感触を覚えた。
 振り返る先の左腕に、赤の一文字が刻み込まれた。
 そしてその程度では止まらない。空中で我が身を反転させ、再び肉迫と同時に斬撃。
 寄らば斬る。近づけば突く。
 蜘蛛の糸を描くような高速機動で、忙しなく繰り出されるヒット・アンド・アウェイ。
 スピードを突撃力ではなく、純粋に機動力として使ったというわけだ。

32 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:33:13 ID:tXZnpddQ0
(まだだ……!)
 それでもヴィータの表情は晴れない。
 苦虫を噛み潰したような表情で、肩越しに吸血鬼の姿を睨む。
 まだ足りない。
 この程度のダメージではまだ駄目だ。
 すれ違いざまに放つ一撃など、所詮はたかが知れている。
 その僅かな傷の積み重ねで、最終的に体力を削り切れるならまだよかった。
 しかし、これではまだまだ足りないらしい。
 いくら手傷を負わせようと、斬ったそばから回復していく。
 思うようにダメージが蓄積されず、瞬く間に無傷になってしまう。
 これではまるで無駄骨だ。
 弱体化したはずの再生能力すらも、上回ることができないのか。
 槍の使いこなせぬお前に、剣を持った私が倒せると思ったか――あの漆黒と銀髪の魔人の言葉が、脳裏で絶えず反響する。
 そうだ。
 相手が悪かっただけではない。
 自分の実力も足りないのだ。
 これが使い慣れたグラーフアイゼンなら、もっとましなダメージを与えられたはずだった。
 だが結果はこの有様だ。
 拙い槍の制御では、思うように力がこもらない。
 力の込め方が分からないから、中途半端な威力しか発揮できない。
 その結果がこのジリ貧だ。
 槍一つ使いこなせない未熟が、この無様な有様を生みだしたのだ。
(それでも――やるしかねぇんだよっ!)
 だからといって、止まれない。
 前言を撤回して逃げることは許されない。
 豪快に振りかぶった切っ先で、横薙ぎに叩っ斬ろうと突撃をかける。
 これまで以上に速度を上げた。
 これまで以上に力をこめた。
 ほとんどやけくその一撃だ。それでも、通らないことはないはずだ。
 フルスピードとフルパワーの特攻を、敵の視界の範囲外から叩き込むのだ。
 単純な速度はこちらが勝っている。ならばこの一撃、そう易々と反応できるはずが――
「がッ……は」
 瞬間、目の前に閃光が走った。
 電流を浴びせられたかのように、五臓六腑が硬直する。
 雷撃に照らされたかのように、視界が激しくスパークする。
 呼吸困難に陥った身体が、浮遊感と共に投げ出された。
 意識は霞がかかったように焦点を失い、ただただ強烈な苦痛の中、ゆっくりと過ぎていく風景を彷徨う。
 どすん、と背中に衝撃を感じた時。
 その時背中を打ったのだと理解し。
 かは、と息を吐き出した時。
 自分は反撃を食らって吹っ飛ばされたのだと、ようやく理解することができた。
 起伏の乏しい胸元が、絶えず激痛を訴え続ける。
 吐き気を伴う独特な感触だ。肋骨がへし折れたサインに他ならなかった。
 びくびくと痙攣する身体を懸命に起こし、足に力が入り切らず、俯いたような姿勢になる。
 攻撃を受けた。
 峰打ちとはいえ、正確なタイミングで直撃を食らった。
 よけられない角度と速度を伴い、反撃しきれない威力を乗せたはずだった。
 いいや、その認識こそが誤りだったのだ。
 そもそも思い返してみれば、奴はあのセフィロスの速度に、完璧に追いついていたではないか。

33 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:34:22 ID:tXZnpddQ0
「さぁ、どうした? まだ肋骨が折れただけだぞ」
 あの声がまた響いている。
 忌々しい声が鳴り響いている。
 かすみきった視界にも、確かに奴の存在を感じられる。
 あの恐ろしくもおぞましき、赤き装束を纏いし鬼の姿を。
 爛々と瞳を煌かせ、血塗られた長刀を携えた、吸血鬼アーカードのその姿を。
「それともやはりそこまでか? その程度の器でしかなかったということか?」
 つくづく反則的な男だ。
 不死身で無敵で不敗で最強で、嫌になるほど馬鹿馬鹿しい。
 目を向けられただけで威圧される。
 幾千万もの剣の雨を、真っ向から浴びせられたような錯覚に、心が砕けそうになる。
 気配だけでそれなのだ。現実の実力は言うまでもない。
 その手は百万の鉄槌を砕くだろう。
 その足は百万の剣閃を折るだろう。
 その身は百万の銃弾を受けても、なおも笑って佇んでいることだろう。
 何もかもが規格外の男。
 誰よりも強く、誰よりも高く、その上殺しても死なない男。
 単純に力が強いということが、これほどまでの恐怖を生むのか。
 砲撃も撃てず、音速でも走れず、空も飛べないはずの男が、これほどまでに恐ろしく映るとは。
 パワーでも駄目、スピードでも駄目。
 いかな小細工を弄したとしても、全てがことごとく叩き潰される。
 できることはこちらの方が圧倒的に多いのに、その全てを駆使しても、何一つ奴には届かない。
 これではっきりと分かってしまった。
 はっきりと理解してしまった。
 この存在には勝てないと。
 もはやこれ以上どれほどの手を尽くしても、自分にはこの男を殺す術がない、と。
「……アギト」
 背後のデイパックへと、声を飛ばした。
 その中に引きこもっている、古代ベルカの剣精へと、蚊の鳴くような声を発した。
 この存在にはかなわない。
 パワーもスピードもテクニックも、その全てが通じない。
 ならば、どうする。
 どうやって奴を倒せばいい。
 自分にはどう足掻いてもかなわない相手を、それでもなお殺すにはどうすればいい。
「ユニゾンだ……力を、貸してくれ……」
 簡単なことだ。
 自分1人でかなわないのなら、1人で戦わなければいいのだ。
 こいつを倒せるというのなら、どんな手だって使ってやる。
 何にだってすがってやるし、誰にだって頭を下げてやる。
 もはや躊躇している暇などなかった。
 故にヴィータは迷うことなく、背中の融合騎へと助力を請うた。
 彼女は自分のパートナーではない。ゼスト・グランガイツという、確固たるロードを持った融合騎だ。
 そう簡単に心を許してくれるなどとは、毛頭思ってなどいなかった。
 故にこれまでは、あえてその話題を切り出さず、可能な限り1人で戦おうとしていた。
 だが、今はそんなことを言っていられる場合ではない。
 このまま戦い続けていては、自分は間違いなく死ぬだろう。
 それも何一つ為すこともできず、アーカードを野放しにしたままに、だ。

34 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:35:41 ID:tXZnpddQ0
「……無理だよ……あたしは、戦えない……」
 たっぷり待つこと5秒間。
 返ってきたのは、そんな言葉だ。
 これがあのアギトの声か。
 烈火の二つ名が指すように、気が強く堂々としていた、あの剣精の声だというのか。
 あまりに弱く、あまりに細い。
 強気な目をしていた彼女の声が、今では風前の灯火のようだ。
 一瞬我が耳を疑ったが、それも無理からぬことだと、一瞬後には理解していた。
 彼女は数時間前の自分と同じだ。
 子供のはやてが殺された時と同じように、ルーテシアとゼストという、何物にも代えがたい身内を喪ったのだ。
 その気持ちは十分に理解できる。
 はやてのみならず、ヴォルケンリッターの全員を喪った自分にも、痛いほどに理解できる。
「今のあたしが出たって……足手まといくらいにしか――」
「――急げッ!!」
 それでも。
 だとしても。
 そうだと分かっていながらも、しかしヴィータは吼えていた。
 微かに息を呑む音が聞こえる。アギトが面食らったのだろう。
 それも無理からぬほどの、骨折患者のそれとは思えぬ雄叫びだ。
「時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!」
 確かに、お前の事情は分かっている。
 だがそれすらも、今では気にしている時間が惜しい。
 正直済まないとは思うが、それでもお前の都合を聞いているわけにはいかないんだ。
 悪いが今ここにいる以上は、腹をくくってついて来てもらう。
 この場を打開できるかもしれない力があるなら、何と言おうと戦ってもらう。
「こいつはどうしても殺さなくちゃいけないんだ……でなきゃみんな、殺されちまう……みんなみんな、守れねぇんだ……」
 思い出すのは、いくつもの顔。
 この殺し合いの中で出会った顔に、殺し合い以前から知っていた顔。
 中には敵だっている。どうしても分かり合えない奴だっている。
 それでも皆、こんなところで死んでいい命ではないのだ。
 こんな化け物みたいな男なんかに、無惨に蹴散らされていい命ではないのだ。
「こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!」
 命を落とすことは怖くない。
 今更それ自体を怖れはしない。
 それでも、自分が命を落とす時は、同時にアーカードもまた死ぬ時だ。
 そうでなければならないのだ。
 あの吸血鬼なんかよりも、奴を残して死ぬことの方が、何十倍も恐ろしいのだ。
 だから自分は命懸けで戦う。
 奴を葬り去れるというのなら、この命を賭けても構わない。
 そうすれば残された人々を守れるというのなら、命なんて惜しくはない。
 それでも今は、悲しいくらいに力が足りない。
 この命の全てを燃やし尽くしても、奴の命には届かない。
 今以上の力がいる。
 限界を超えた力がいる。
 故に。
 だからこそ。
「だからあたしに力を貸せ――アギトッ!!!」

35 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:36:37 ID:tXZnpddQ0


 最初は聞き流すつもりだった。
 途中から戦いが起きていたのには気づいていたが、それでも無視を決め込むつもりだった。
 自分にどうしろというのだ。
 自分に何ができるというのだ。
 もう、何もかもがどうでもいい。
 いつしか仲間意識を抱いていたヴィータの窮地も、この胸を打つには至らない。
 今更戦う意味など見出せなかったし、そうまでして生きる意味すらも見つからなかった。
 何せ自分は亡くしたのだ。
 あの2人を喪ってしまったのだ。
 ずっと共に連れ添ってきた、ゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノ。
 生まれてきた時のことは覚えていないし、自分を作ったマイスターの顔も知らない。
 ただ静かに長き時を眠り続け、気付けばどこぞの施設で実験動物
 いつかは心と身体が壊れて、何一つ生まれた意味を残せぬままに、終わってしまうのだとばかり思っていた苦痛の日々。
 そんな境遇を終わらせてくれたのが、あの2人組の旅人だった。
 故に孤独な自分にとっては、2人は絶対的な恩人であって、無二の家族でもあった。
 そんな肉親を喪ったのだ。
 別世界の別人の可能性はもちろんある。だが、そうでない可能性ももちろんある。
 であれば自分が生きる意味など、一体この地上のどこにある。
 無理に生き残る理由も、そのためにヴィータに力を貸す義理も、どこにも見当たりはしなかった。

 ――急げッ!!

 その、はずだった。
 その言葉を、聞くまでは。

 ――時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!

 頭から冷水をぶっかけられたような心地だった。
 こいつはなんと強い意志で、あの怪物に立ち向かっているのだ。
 自分と同じように、全ての家族を喪ってなお、こいつはまだ戦うというのか。
 なんと力強い闘志か。
 なんと逞しい決意か。
 身体がボロボロになってなお、その身に燃える灼熱の意志には、一切の陰りも見受けられない。
 何故そうまでして戦えるのだ。
 家族ですらない他人のために、何故そこまで戦おうと思えるのだ。
 そんな姿を見せられていては。
 そんな声を聞かされていては。

 ――こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!

 あの男を思い出してしまうではないか。

36 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:38:08 ID:tXZnpddQ0
 ゼスト。
 ゼスト・グランガイツ。
 こうありたいと心から思える、誇り高きベルカの騎士。
 あの日自分を救い出してくれた、ヴィータの槍の本来の持ち主。
 強く気高く雄々しかった、父にも等しき最愛の男だ。
 存命の頃のゼストもまた、己の意志と誇りに従い、真っすぐに戦い続けていた。
 傷つきボロボロになりながらも、ルーテシアの望みを叶えるために、ひたすらに槍を振るっていた。
 結果犯罪者であるスカリエッティに加担こそしたものの、その心の有りようは、正しく騎士の持つべきそれだった。
 ゼストがこの場に生きていたなら、一体どう立ち回ったか。
 恐らくは目の前のヴィータ同様、あの魔物と戦っていたのではないのだろうか。
 たとえ己が滅びようと、その胸の正義を貫くために、命を賭して戦っていたはずだ。
 ならば、自分には何ができる。
 ゼストを愛した自分には、一体彼のために何ができる。
「……分かったよ……」
 見極めろ。
 ゼストの願いとは何だ。
 ゼストの想いとは何だ。
 正しく生きてきたゼストならば、自分にもそれを求めるはずだ。
 真っすぐに己の生き様を貫き、生き続けてほしいと思うはずだ。
 その想いに従うことで、初めて報われるのではないのか。
 その願いを叶えることで、ゼストは救われるのではないのか。
 生きるために、戦うこと。
 この狂った殺し合いを打開するべく、正義を信じて立ち向かうこと。
 そのために戦い続けてこそ、初めてゼストは報われる。
 自分を救ったのは間違いではなかったと、初めて認めることができる。
「それを旦那が望むのなら、あたしも一緒に戦ってやる……!」
 腰の翼を羽ばたかせた。
 緩んだデイパックの口から、勢いよく我が身を飛び出させた。
 月の光をその身に浴びる。
 闇夜の月明をその身に受ける。
 あの日と同じ月の明かりを、五体全てで受け止める。
「ユニゾンするぞ、ヴィータッ!!」
 戦うんだ。
 ゼストの名に恥じないように。
 ゼストの恩に報いるために。
 自分はゼストの娘であったと、胸を張って生きるために――――!

37 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:38:44 ID:tXZnpddQ0


 ユニゾン・イン。
 それが魔法の言霊だ。
 共に紡いだその言葉が、剣精を光の粒子へと変える。
 眩い桜色の魔力光が、この身体へと溶け込んでいく。
 精神のリンクを感じた。
 感覚の一体化を感じた。
 燃え盛る炎の熱と共に、騎士と融合騎の肉体が、光の速さで同調していく。
 これがユニゾンというものか。
 この胸に感じる温かな炎が、身も心も重ね合わせるということか。
 同時に漲るのは力。
 血液を沸騰させんばかりに、全身からにじみ出る熱い力。
 熱気に当てられた大気中の水分が、真っ赤な湯気となって立ち上った。
 ほとばしる体温が炎を成し、火花を散らして五体を包んだ。
 燃え上がる真紅の光に包まれて、ヴィータの姿が変わっていく。
 灼熱の凱火に包まれて、2人が1つになっていく。

 ――私は、今のままでも十分幸せや。

 守りたい、命があった。

 ――我ら、夜天の主の下に集いし騎士。
 ――主ある限り、我らの魂尽きることなし。
 ――この身に命ある限り、我らは御身の下にあり。

 共に戦った、仲間がいた。

 ――お話を聞かせて!

 不思議な少女と、戦場で出会った。

 ――だけどそれが、僕の今の意思だから。
 ――死なせてしまったアグモン君やクロノ君の分まで、僕達が戦うんだ。

 共に戦えたかもしれない、人々に出会った。

 ――ヴィヴィ……ちゃ……を……お願…………―――

 救うと約束した、命があった。

 ――お前が、俺のはやてを殺したんだ。

 救えなかった、命があった。

38 燃える紅 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:40:07 ID:tXZnpddQ0
 
 まるで走馬灯のように、出会った顔が浮かび上がってくる。
 今この時を生きている、救わなければいけない者達。
 自分の力が足りなくて、散っていってしまった者達。
 自らの内より湧き上がる炎と共に、瞳に浮かんでくるいくつもの顔。
 全て、守りたかった命だ。
 守るべき者達であり、守れなかった者達だ。

 はやてのために戦ってきた。
 目的すらなかった人生を終えて、ただはやてを守るために、戦う力を振るってきたつもりだった。
 されど周りを見渡してみれば、こんなにもたくさんの顔がある。
 少なからず信じた者達の記憶が、こんなにもたくさん浮かんでくる。
 人間、変われば変わるものだ。
 はやてを救うためとはいえ、人々を脅かしたというのに。
 闇の書に支配されていたとはいえ、大勢の命を奪ったというのに。
 いつの間にか、守りたい人達でいっぱいだ。

 別に、大層な正義感があったわけじゃない。
 血と罪に染まったこの身には、正義の味方を名乗る資格はない。
 だから、これはただのわがままだ。
 人間なら誰しもが持っている、ほんのささやかで取るに足らない、子供じみたわがままだ。
 そしてそれでも構わない。
 ただのわがままでも構いはしない。
 自分1人の勝手な願いで、誰かの命が守れるのなら、いくらでも貫き通してやる。
 せめてこの最期の戦いくらい、いいカッコができるというのなら、わがままだって構うものか。

「でりゃあッ!」

 槍を握った右手を振り抜く。
 身に纏う炎を振り払う。
 赤き炎熱を闇に散らせ、戦士の姿を外気に晒す。
 ぱちぱちと舞う黄金の火花は、さながら月下の桜吹雪。
 陽炎に揺らぐ熱気を切り裂き、銀月の白光をその身に受けて、
 剣精と共に新生した鉄槌の騎士は、今こそ戦場に躍り出る。
 その身を覆う騎士甲冑は、一瞬前のそれとは違っていた。
 半袖の上着は姿を消し、ノースリーブのインナーが露出している。
 ゴシップロリータの鎧を彩る、漆黒のリボンと革の手袋は、眩い金色に染まっていた。
 黄金に煌く頭髪と、水色に輝く双眸は、さながら赤と青の炎。

「紅の鉄騎、ヴィータ」

 今こそ、その名を口にした。
 改めてその名を名乗り上げた。
 誇り高き守護騎士として。
 命を守る騎士として。
 輝く満月のスポットライトと、煌く炎の花弁に照らされて。

「烈火の剣精アギトと共に――――――推して参るッ!!」

39 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:41:48 ID:tXZnpddQ0
「らぁっ!」
 大地を蹴る。
 穂先を構える。
 鬱陶しいデイパックを放り捨て、アスファルトの地を疾走し、目標目がけて再び殺到。
 黒光りする鋼鉄の槍は、今や灼熱に輝く朱色の槍だ。
 大振りに構え、一閃。
 がきん、と鳴り響くは金属の音。
 互いの構える業物が、衝撃にびりびりと振動する。
「ほぅ」
 ぽつり、とアーカードが漏らす。
 ここに来てあの無敵の吸血鬼が、初めて感嘆の声を上げた。
 なるほど確かに、その気持ちは自分でも理解できる。
 自分ですらも驚いているのだ。
 身体強化も武器強化も、ユニゾン前とは桁違いだ。
 烈火の剣精のサポートの成果は、ヴィータの想像を大きく上回るものだった。
 ユニゾンデバイスとの融合とは、これほどのパワーをもたらすものなのか。
(でも、まだ十分じゃねえ)
 それですらもまだ足りない。
 まだまだ微妙に届かない。
 まともに押し合えるようになっただけでも、かなり進歩したと見ていいだろう。
 だが、所詮はそこまでだ。
 他の部位への攻撃はあくまで牽制。最重要目的は、弱点の心臓目がけての一突き。
 相手の反応速度よりも早く、防御不可能な速度が発揮できなければ、到底十分とは言えない。
《ヴィータ、一旦下がれ!》
「何!?」
《いいから早く!》
 唐突に脳内に浮かぶ声は、念話の感覚に近かった。
 急に後退を指示したアギトに従い、一旦その場から飛び退る。
 飛行魔法で加速をかけ、対象との間に十分な間合いを保つ。
《いいか? 今からあたしが動作を指示する。でもってお前があたしの動きに合わせて、奴に攻撃を叩き込むんだ》
「何だって?」
 着地と同時に提示されたのは、そんなアギトの提案だった。
 一瞬、意図を測りかねた。
 それもそうだ。
 そもそもユニゾンデバイスというものは、術者をサポートし戦闘能力を高めるために作られたもの。
 術者がデバイスに使われる、なんてふざけた話は聞いたことがなかった。
《槍の使い方が分からねぇんだろ? にわか仕込みで申し訳ねぇが、あたしが教えてやるって言ってんだよ》
 なるほど確かに、よくよく考えてもみれば、それも魅力的な提案かもしれない。
 元々アギトが得意とするのは、二つ名通り刀剣型のデバイスだ。
 しかし彼女のロードだったゼストは、今まさにヴィータが手にしている、槍型デバイスの使い手だった。
 つまりアギトの中には、少なくとも彼と戦闘を重ねた分だけ、槍術のノウハウが蓄積されているのである。
 おまけに騎士と神経レベルで一体となり、文字通り融合する融合騎だ。
 教官と身体感覚を共有し、全く同じ動作を体感している。恐らくその習得速度は、人間の比ではないだろう。

40 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:43:02 ID:tXZnpddQ0
「面白ぇ、その話乗った!」
 快諾の声と同時に、再度加速。
 全身に灼熱の魔力を駆け巡らせ、吸血鬼の懐へと飛び込んでいく。
 体内のアギトが動作を先取りし、狙う行動に最適な構えを取った。
 それに合わせ、ヴィータも動く。
 アギトと同様の手つきをして。
 アギトと同様に腰を落として。
 アギトと同様の呼吸リズムで。
 問題はない。しっかりとした手本があるなら、それくらいは再現可能だ。
 こんな小柄ななりをしているが、自分も数百年の時を戦い抜いてきた、ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士。
 必要な基礎体力と反応速度は、戦場で十分に磨き抜いてきた――!
「うぉりゃあっ!」
 その速度は一陣の熱風。
 その鋭さは熱砂の嵐か。
 アギトの足さばきを再現し、アギトの手さばきを再現し、低い姿勢から突き上げた。
 長身のアーカードの心臓目がけ、足元の高さから突きを放った。
 何度となく放ったはずの突き。
 それが構えが変わっただけで、その速さと威力の何としたこと。
 びゅんと風を切り焼き尽くして。
 目にも留らぬ刺突が殺到。
 もちろん、そう簡単に当てられるはずもない。急所に命中することなく、心臓直撃コースを回避される。
 だが、それだけでも驚嘆に値する成果だ。
 轟々と燃え盛る灼熱の槍は。
 煌々と光を放つ鋼の豪槍は。
「いい! 実にいいぞ守護騎士(ヴォルケンリッター)!」
 あの無敵の吸血鬼の左肩に、深々と突き刺さっていた。
 めらめらと炎が衣服に燃え移り、真紅のコートを焦がしていく。
 傷口から流れる血液が、炎に焙られ沸騰していく。
 肩に刺さった程度なら、一分もすれば塞がるだろう。
 だがそれでも、十分な成果だ。これまで軽くいなされていた攻撃が、初めてまともに直撃したのだ。
 正直、自分でも驚いていた。
 構えを矯正するだけで、こうもスピードを乗せやすくなるものなのか。
「さぁ、これでようやく第一歩だ。このまま終わってくれるなよ。この私の命にさえも、あるいは届くやもしれないぞ?」
「言われねぇでもッ!」
 力任せに槍を振った。
 肩の肉ごと切り裂いて、強引に穂先を引き戻した。
 ミディアムレアに焼けた筋肉が、宙に飛び散り霧散する。
 にぃ、と頬の肉を釣り上げて、狂的魔的に笑むアーカードを、鋭く真っ向から睨みつけた。
《融合適正はそう悪くない! もう少し火力を上げていくぞ!》
「でえぇぇぇりゃああぁっ!」
 アギトの声に合わせるようにして、再び第二撃を放つ。
 次なる動作は薙ぎ払い。
 提示された正しい動作は、使い慣れたグラーフアイゼンのそれとは全くの別物。
 ぎぃんと唸る正宗によって、今度の一撃は防御された。
 それでもまだまだ怯みはしない。すかさず三撃目を叩き込む。
 それで駄目なら四撃目。脇腹を裂いただけなら更に五撃目。
 ヴィータ1人では成し得なかった、流れるようなコンビネーション。
 そして疾風迅雷のスピードに、更に炎熱のパワーが付与される。
「ふんっ! だりゃあっ!」
 その手に立ち上るのは陽炎。
 その槍に燃え盛るのは灼熱。
 斬撃。突撃。突撃。
 炸裂。炸裂。炸裂。
 穂先が切っ先に激突する度、轟音と共に爆発が上がった。
 敵に攻撃が命中する度、炎が弾け火花が散った。
 ヴィータの操る無銘の槍は、今や文字通りの爆炎の槍だ。

41 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:44:23 ID:tXZnpddQ0
(おしいな。これで身体が万全だったら……)
 しかし、それですらも十分とは言えない。
 爆裂と刺突を繰り返しながら、しかしその頬には冷や汗が流れる。
 確かに敵のスピードは、攻撃速度も回復速度も、あのセフィロスと交戦した時に比べれば遅い。
 微々たる差ではあるものの、やはりエリア1つを壊滅させた激戦が、身体に響いている証拠だろう。
 それこそこちらのスタミナが万全ならば、あるいは持久戦の末に倒せたかもしれない。
 しかし、事はそう単純ではない。
 相手の体力が不十分であるように、こちらの体力も不十分なのだ。
 否、もはや満身創痍と言ってよかった。
 こちらは大量の刀傷を負わされ、ろくに治癒や再生もできず、おまけに肋骨を砕かれているのだ。
 その上ユニゾン影響下のスピードアップによって、動きがより激しくなったのもよくない。
 痛覚と出血による消耗はピークを向かえ、胸の傷は更に悪化の一途を辿っていた。
 適切な治療を受けなかった場合、最悪死んでしまうかもしれない。
 そしてその隙を逃す敵ではない。
 アーカードは完璧だ。
 自分のように、技術や慣れで実力が左右されるような、半端者では断じてはない。
 恐らく経験者ではないのだろうが、奴の剣術はあまりにも拙い。それこそセフィロスに指摘された、一瞬前の自分と同じだ。
 にもかかわらずこの男は、その大振りで無茶苦茶な動作で、シグナムにすらも匹敵する素早さを見せている。
 パワーに至っては言うに及ばない。
 もはや技量がどうこうだとか、そういう次元には存在しないのだ。
 そんな相手の攻撃を、いつまでもしのぎ切れるような、生易しい健康状態ではないのだ。
(どうする)
 今は気合で保っているだけだ。一瞬でもコンビネーションを崩そうものなら、あっという間に叩き潰される。
 そうならないうちに倒さなければ。
 だが、それができるかどうか。
 ユニゾン状態になってなお、未だこちらの力量は、相手の動きに追いつけるレベルを出ない。
 相手を完全に出し抜いて、一直線に心臓を潰すのは不可能だ。
 それができるというのなら、とっくにセフィロスの技量をも超越している。
 セオリー通りに戦うのなら、敵を傷つけ余力を奪い、自ら隙を作らせるしかない。
 しかしその隙を生みだすまで、この身体が耐えられるかどうか――?

 ――ばぁん。

「!?」
 刹那、轟音。
 ばぁん、ばぁん、と立て続けに2発。
 突如戦場に割り込んできたのは、拳銃の発砲音と思しき爆音。
 同時に、ぶしゅ、と赤が広がった。
 吸血鬼が剣を携える右の肩から、赤黒い液体の噴水が上がった。
 これにはさしもの魔物も驚いたのか。
 くわ、とその赤目を見開くと、反射の動作で背後を振り向く。
 次なる衝撃はその瞬間だ。
 ごしゃ、と鈍い音と共に、鬼の肩が砕け散った。
 鈍色の煌きを放つ右肩が、血と肉と骨とリンパ液を撒き散らす。
 赤と白と黄色がないまぜになって、なんだかよく分からない混合物となった肉片が、ぐちゃぐちゃと音を立て地に降り注ぐ。
 からからと乾いた音を立てたのは、取り落とされた正宗か。
 ずどんと轟音を立ててコンクリを砕いたのは、鋼鉄色のイカリクラッシャー。

「――鋼の軛ィッ!!」

 そして突然の不意討ちは、その二撃だけには留まらなかった。
 叫びと共に飛来するのは、天空より迫る銀色の閃光だ。
 放たれた極太の魔力の楔が、残された左手へと突き刺さる。
 その楔は殺すためのものではなく、その場に縫いつけるためのもの。
 盾の守護獣・ザフィーラの放つ、ヴォルケンリッター最高硬度を誇るバインド魔法だ。
 そしてその守護獣が逝った今、鋼の軛を放てる者は、このフィールドの中にただ1人しかいない。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」
 闇の書を片手に叫びを上げる、未来の八神はやての姿があった。

42 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:45:42 ID:tXZnpddQ0


 紅の騎士と吸血鬼の戦いに、突如割り込んだ2つの横槍。
 これらを放ったのが何者で、いかなる状況の末に放たれたのかを、今から順を追って説明しよう。

 まずは、2発の銃弾とイカリクラッシャー。
 このコンボを叩き込んだのは、激しい戦闘の音を頼りに、地上本部跡から帰還した金居だった。
(やはりアーカードか)
 彼が戦場にたどり着いたのは、ちょうどヴィータが峰打ちを食らい、肋骨を砕き折られた頃だ。
 化け物のような長剣を握った、化け物のような男を見据える。
 あの激戦を生き残ったのがアーカードであり、敗北したのはセフィロスであるということは、放送の時点で察していた。
 今更意外に思うことも、今更絶望することもない。
 問題はこれからどうやって、あの不死の魔物を抹殺するか、ということだ。
 彼我の戦力差は明白だ。
 最強の吸血鬼を前に、ヴィータはあまりにも無力だった。
 一方的に嬲られた姿は、まさに見た目通りの非力な子供。
(このまま静観を決め込むわけにもいかないか)
 断言してもよかった。
 このままではヴィータは殺される。
 ろくな抵抗もできないままに、無様に嬲り殺される。
 そうなれば自分のプランは台無しだ。
 身一つであの不死王(ノーライフ・キング)に勝てるなどという、自信過剰もいいとこな考えは抱いていない。
 そしてこの機会をヴィータの死によって逃そうものなら、万に一つも勝算はなくなる。
 自分も手助けをしなければ。
 自分に危害が及ばない程度に、なおかつあのアーカードを抹殺できるように。
「――ユニゾン・インッ!」
 彼女がアギトと融合したのは、ちょうどこの瞬間だった。
 なるほど、融合騎というだけのことがある。
 紅蓮と黄金に煌く炎へと変貌したヴィータの力は、飛躍的に向上していた。
 冗談のように拙かった槍の構えも、見る間に矯正されていく。
(後は、タイミング)
 それでも、まだ十分とはいえない。
 悲しいかな、今更パワーアップした程度で勝てるようになるほど、彼女の体力は残されていなかった。
 今でこそ騙し騙し互角に戦っているものの、あの傷の消耗はいずれ確実に響いてくる。
 手を出さなければならないというのは変わらない。
 もっとも手を出すタイミングは、かなり掴みやすくなったが。
(見極めろ)
 デイパックからデザートイーグルを引き抜く。
 まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかったと思いつつ、眼前の魔物目がけて構えを取る。
 タイミングが重要だ。
 あの反応速度と索敵能力を持ったアーカードだ。完全に不意をつかなければ、自分の殺気など容易く気取られるだろう。
 未だ自分の立場を守るためにも、アンデッドの正体は明かさないつもりだ。
 故に今ある支給品のみを駆使して、一撃で確実に成果を上げなければならない。
 狙うは吸血鬼の右肩。正宗を振るう右腕の付け根だ。
 見極めろ。
 一瞬の光明を見つけ出せ。
 この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
 なおかつヴィータを傷つけることなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。

43 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:47:01 ID:tXZnpddQ0
(――そこだ!)
 理解してからの反応は素早かった。
 グリップを、握りなおし。
 トリガーを、引く。
 ばぁん、ばぁん、と2連発。
 50口径の必殺の魔弾が、硝煙と裂空を伴い加速。
 拳銃史上最大クラスの弾丸が、吸い込まれるようにしてアーカードへと向かう。
 結果は命中。
 2発中どちらもが命中し、盛大な血飛沫を噴き上げさせた。
 仕込みは済んだ。本命はこれからだ。
 反動ですっぽ抜ける銃身はそのままに、もう片方の手の武器を振りかざす。
 膨大な重量を伴い振りかぶられるのは、銀色に煌くイカリクラッシャー。
 吸血鬼がこちらを向く前に。
 奴がまだ驚愕に硬直しているうちに。
 ぶん、と勢いよく投擲。
 スパイラル回転を描く超重量は、過たずして右肩に命中。
 あらかじめ空いていた銃創が拡張される。
 小さな穴を押し広げ、肩全体を粉砕する。
 結果はこれまた成功だ。
 胴体と右腕が別れを告げ、唯一の得物である正宗が放り出された。
 真紅の魔眼と目を合わせたのは、ちょうどその瞬間だった。
 その目に浮かぶ感情は、無。
 一瞬前まで覚えていた驚愕が、しかし自分と目を合わせた瞬間、急速に覚めていくのが分かった。
 やはり、お前はそうくるのか――と。
 いつかこうなることは分かっていた、とでも言わんばかりに。
 まるでこちらが胸に秘めていた殺意など、最初から見通していたと言わんばかりに。
(さぁ、これからどうする)
 底冷えする心を押し殺し、ギラファアンデッドは思考する。
 目と目を合わせた一瞬の刹那に、思考の糸を加速させる。
 ここまではできた。
 だが、ここまでで有効な手札を使いきってしまった。
 この隙を突いてヴィータがとどめを刺せるならいい。
 問題はそれが間に合わなかった場合だ。
 しくじった後の追撃を、一体どうやって実行するか。
 イカリクラッシャーは手元にない。相手に捕捉された以上、デザートイーグルの狙撃ではとどめは狙えない。
 あまり取りたくない手ではあったが、アンデッドの本性を解放し、双剣の接近戦で仕留めるか――?

「――鋼の軛ィッ!!」

 八神はやてが鋼の軛を放ったのは、ちょうどこの瞬間だった。

(これは、無理か……?)
 狸は狸らしく。
 管理局のちびだぬきは、管理局のちびだぬきらしく。
 戦場の脇で狸寝入りを決め込んでいた八神はやては、戦況の一部始終を俯瞰していた。
 その上での判断だ。
 アーカードはあまりに強すぎた。
 いくら使い慣れていない得物とはいえ、あのヴィータが赤子同然にあしらわれた。
 刀傷は全身に及んでいるし、恐らくは何本か骨も折れているだろう。
 実戦経験に乏しかったであろう、あの調子に乗った天上院明日香とは違う。
 自らの全性能を自覚し、理性(ロジック)をもって力を行使する暴君だ。
 腕っ節が強いだけでなく、全く隙を見せることがない。あまりに厄介すぎる相手だった。

44 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:47:50 ID:tXZnpddQ0
「――ユニゾン・インッ!」
 しかしその状況も、彼女がアギトと融合することで、わずかばかりとはいえ好転する。
 体力的には厳しいものがあったが、それでも動きは飛躍的によくなったのだ。
 一方的に嬲られていたヴィータが、何とか敵の動きについていけている。
 全くなかった相手の隙が、僅かばかりだが見えるようになってきた。
(今がチャンスや)
 夜天の魔導書のページをめくり、術式発動の準備を整える。
 付け入るなら今だ。
 相手の一瞬の隙を狙い、最高のタイミングで横合いから殴りつける――実現できるのは今しかなかった。
 使える武器を慎重に選定する。
 ヴィータに残された体力を考えれば、恐らくチャンスは一度しかない。
 その一度でアーカードの動きを止め、確実に葬り去らなければならないのだ。事は慎重を要した。
 憑神刀(マハ)の固有スキルの行使――これは駄目。
 範囲攻撃の「妖艶なる紅旋風」は、心臓の一点のみを貫くには適していない。
 面に展開して呑み込むにしても、それだけの魔力の余裕はない。何よりそれではヴィータが巻き込まれる。
 「愛の紅雷」も同様だ。射程圏内ギリギリまで砲台を接近させるうちに、恐らく気付かれて叩き落とされるだろう。
 ならば、ラグナロクやデアボリック・エミッションなど、自分が元々得意としていた広域魔法――これも駄目。
 これに至っては論外と言ってよかった。
 消耗が激しいことや、ヴィータを巻き込みかねないことは、「妖艶なる紅旋風」と共通している。
 そしてデメリットはそれだけではない。自前の広域魔法では、チャージに時間がかかりすぎる。
 その間にエネルギーを肌で感知され、目論見を見透かされる可能性が大きいのだ。
 残された手段はただ1つ――夜天の主の身に刻み込まれた、配下・ヴォルケンリッターの魔法。
 彼女らはそろって自分より器用だ。長いチャージ時間を必要とせず、手軽に発動できる魔法を多く有している。
 そして彼女らの技の中に、この状況に適した魔法が1つある。
 盾の守護獣・ザフィーラの必殺技――バインド魔法・鋼の軛だ。
(こいつで奴を足止めして、その隙にヴィータにとどめを刺させる)
 それがはやてのプランとなった。
 もとよりこんな横になった態勢では、攻撃魔法の狙いを定めるのは難しい。
 心臓のみを狙うなどという精密射撃は、リインフォースⅡとユニゾンでもしない限り不可能だ。
 故にここは精密射撃を諦め、大ざっぱな足止めに留めておく。
 放つべきはシュツルムファルケンでも、スターレンゲホイルでもなかった。
 標的を地面へと縫いつけ、行動を止めることに特化した、蒼き狼の拘束魔法だ。
(一撃で決めるんや)
 自分自身に言い聞かせた。
 タイミングを見極めろと。
 一種の隙を見逃すな、と。
 目指すは絶好の幸運のみだ。中途半端なチャンスに傾いていては、あの暴虐の魔王は止められない。
 狙うんだ。
 この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
 なおかつヴィータを巻き込むことなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。

45 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:48:39 ID:tXZnpddQ0
.
 ――ばぁん。

 銃声が鳴り響いたのは、ちょうどこの瞬間だった。
(!?)
 何が起こったのかなど理解できない。
 唐突に銃声が轟いて、唐突にアーカードが血を噴き出したのだ。それだけで理解しろというのが無理な話だ。
 だが混乱した彼女の思考は、次の瞬間にはクリアになっていた。
 続いてその血肉をぶち抜いたのが、見覚えのあるアンカーだったからだ。
(金居が戻ってきたんか!)
 螺旋を描き真紅にまみれるのは、あの優男に渡されたイカリクラッシャー。
 胡散臭い男ではあった。そう簡単に信用していい相手でないことは分かっていた。
 だが今この瞬間においては、まさに天恵と言っていい最高の援軍だ。
 鉄塊が飛んでくると同時に、驚愕と共に振り返るアーカード。
 今だ。
 今こそが絶好のタイミングだ。
 待ちぼうけるしかなかった機会が、今人の手によってこじ開けられた。
「――鋼の軛ィッ!!」
 力の名を、口にする。
 ありったけの魔力を注ぎ込み、白銀の聖杭を形成する。
 生み出せたのはたった1つ。だがこの際、それだけだって十分だ。
 狙うは未だ健在のもう片方の腕。
 潰された右腕とは反対側にぶら下がっている、左腕の方を狙う。
 杭は過たず命中した。
 銀の光は赤い袖を捕らえ、アーカードを縫いつけることに成功した。
 これで両腕が潰された。ヴィータが飛び込んだとしても、反撃を受けることはない。
 作戦成功だ。
 今こそこの好機を逃すことなく、最後の一撃を打ち込む時だ。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」

 以上が吸血鬼の両腕を潰し、騎士に千載一遇の好機をもたらした事象の顛末である。



 こくり、と声に頷き返す。
 サファイアの色に燃える瞳を、吸血鬼の方へと向け直す。
 いけ好かない八神はやての偽者野郎に、まだどんな奴なのかもよく分からないコートの男。
 それでも今この瞬間は、決して訪れないかもしれなかったチャンスを、必死でこじ開けてくれた者達だ。
 どんなに忌々しかったとしても、殺させたくなんてない命だ。
 分かるか、吸血鬼アーカード。
 触れるもの全てを拒絶し暴力を振るい、闘争と死を撒き散らす化け物よ。
 これが自分達人間の力。
 お前がひたすら渇望していた、尊厳ある人間とやらの力だ。
 同じ目的を果たすためなら、手を取り合って結束を結び、共に困難に立ち向かう力だ。
 孤高を気取り、差しのべられた手を払いのけ、目に映る全てを虐殺するだけのお前には、人間は絶対に負けはしない。
 1人1人は弱くたっていい。1人でお前に勝てなくたって構わない。
 弱い人間は弱いなりに、互いに手を繋ぎ合って、何度蹴散らされても立ち上がってやる。
 それで最後に立っているのがこちらなら、自分達人間の勝利なのだから。

46 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:49:12 ID:tXZnpddQ0
《ヴィータ、デバイスのフルドライブを使え! カートリッジ・ロードは一発だ!》
「おう! そっちこそ最大火力で頼むぞ……この一撃で、絶対に野郎をぶっ潰すんだ!!」
 叫びと共に、カートリッジを起動。
 がしゃん、とコッキング音が鳴り響く。しゅう、と排気煙が噴出する。
 鋼の豪槍の出力効率を、一気に最大レベルまでアップ。
 デバイス自体に変化はない。グラーフアイゼンのギガントのように、外見が変わるわけではない。
 それでも、その中身は本物だ。
 身体にかかる負担こそ増えたが、その分五体に漲るエネルギーは、十二分に増強された。
 ぼう、と穂先に火が灯る。
 烈火の剣精の火力の全てが、騎士の槍を紅蓮に染める。
 煌々と燃え盛る黄金の輝き。
 視界を揺らめかせる熱風と陽炎。
 まだだ、まだ足りない。
 もっとだ、もっと。
 もっと輝け。
 もっと煌け。
 もっと熱く、燃え上がれ。
 どうせ先の長くない命だ。朽ち果てる寸前まで痛めつけられた身体だ。
 この命の灯火が燃え尽きたっていい。命の燃料全てを焼き尽くしたっていい。
 再生すらも追いつかない、一撃必滅の灼熱の業火を、奴の心臓に叩き込んでやる。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
 構えを取った。
 腰を据えた。
 十二分に呼吸を整え、突撃の準備を整えた。
 全身からほとばしる灼熱の魔力が、もうもうと真紅の蒸気を立ち上らせる。
 槍の穂先に集められた炎が、爛々と燃え盛り大気を焼き焦がす。
 その姿、まさに灼熱真紅。
 その力、まさに爆熱真紅。
 紅の鉄騎の命の炎、今まさに全力全開極まれり。
「たぁッ!」
 がんっ、と勢いよく大地を蹴った。
 びゅん、と勢いよく飛び立った。
 地面スレスレの低空飛行。ほとんどホバリングの高度での高速機動。
 それは西洋の不死鳥か。
 はたまた東洋の鳳凰か。
 空気を切り裂き焼き尽くし、一陣の熱風が駆け抜ける。
 灼熱の爪を携えて、爆熱の翼を羽ばたかせ、小さき騎士が疾駆する。
 目の奥に浮かび上がるのは、既に逝ってしまった仲間の姿。
 守護騎士ヴォルケンリッターの中でも、最も高い技量を有した、4人を束ねる烈火の将。
 炎の魔剣レヴァンティンを振るい、灼熱業火の剣術を繰り出し、数多の敵を蹴散らした猛者だ。
 悪いな、シグナム。
 今となってはこの声も、あの世のお前には届かないんだろうが。
 オリジナルにゃ到底及ばない、馬鹿にしてるような技術だろうが。
 それでもせめてもの験担ぎだ。
 今はその名前だけでも、ちょっとだけあたしに貸してもらう。



「紫電――――――一閃ッ!!」


.

47 BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:49:42 ID:tXZnpddQ0
 大地を滑るように駆け抜けた。
 力の名前を雄叫びに乗せた。
 それは烈火の将シグナムが、最も信頼した必殺技。
 魔力変換資質を持った騎士の、基礎にして奥義と称される戦闘技能。
 この手に握るのは槍型デバイスで、技術もにわか仕込みだが。
 その穂先を燃やす炎も、自前じゃなく他人の借り物だが。
 今はせめてその名と共に、お前の力を貸してほしい。
 そしてシグナムだけでなく、みんなの力も貸してほしい。
 救えなかった命達よ。守れなかった命達よ。
 今はこの紅の鉄騎の、たった1つのわがままを貫くために、みんなの力を貸してくれ――!
「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!!!」
 咆哮が上がる。
 崩壊が鳴る。
 びりびりと大気を揺さぶる唸りと共に、ガラスの砕かれたような音が響く。
 やはり恐るべきはアーカード。
 あるいはその軛に込められた魔力が、ほんの少しばかり足りなかったのか。
 盾の守護獣の拘束をも破壊し、たっぷり溜められた手刀の一撃が、弾丸のごとく迫ってくる。
 ずぱ、と空を裂く音が聞こえた。
 どっ、と血の散る音が聞こえた。
 みちみちと肉をぶち抜いて、ばきばきと骨をぶち砕く音を、耳ではなく肌で感じていた。
《ヴィ……ヴィータッ!》
「まだ、まだあァァァァ……ッ!」
 そうだ、まだだ。
 この程度で歩みを止めてたまるものか。
 まだ直撃を食らっただけだぞ。
 腹をぶち抜かれてすぐだぞ。
 まだほんの少しだけ命は保つ。この程度では即死に至りはしない。
 ならば、こんなものに構ってられるか。
 こんな負傷ごときで止まってられるか。
 なおも飛行魔法を加速させた。
 伝説のフェニックスの翼を羽ばたかせた。
 腹に突き刺さった吸血鬼の剛腕を、根元まで食い込ませるようにして。
 ぐちゃぐちゃと血肉を引き裂かれる不快感にも、おくびも怯むさまを見せぬまま。
「ぶゥち抜けええええぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェェェェ―――――――――ッッッ!!!」
 遂に繰り出された一撃は、吸血鬼アーカードの左胸を、寸分の狂いなく貫き通した。

48 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:50:37 ID:tXZnpddQ0
 そうか、これが死だったか。
 ごふ、と口元から血を垂らしながら、最強の吸血鬼は認識する。
 薄ぼんやりと遠ざかる意識の中で、自らの身体へと意識を向けた。

 命が遠ざかっていく。
 身体の中に抱え込んだ、やかましいほどの命の声が、次々と口を噤んでいく。
 あれはかつての十字軍。あれはインドかどこかの兵士だったか。
 今息絶えていったのは、南米のホテルを襲った兵士達。
 ああ、ちょうど今消えていったのは、トバルカイン・アルハンブラとかいった、トランプ使いの伊達男か。
 嫌になるほど味わってきた、五感の喪失感と共に。
 長らくろくに味わってこなかった、第六感や意識そのものさえも、ゆっくりと喪失していく感触。
 これが、死か。
 これが死というものだったか。
 かつてまだ人であった時、あれほどに怖れ拒絶した死。
 かつて伯爵を名乗っていた時、胸に杭を突き立てられ、擬似的に味わったかりそめの死。
 そして今、この身体に、今度こそ本当の死を感じている。
 ああ、そうか。
 こんなものが死だったのか。
 こんなにも静かで穏やかなものを、かつての私は怖れていたのか。

 諦めが人を殺す。
 人間に死を与えるものは、絶対的な力でもなければ、圧倒的な悪意でもない。
 力や悪意に立ち向かうのをやめ、諦め抵抗を捨てた時点で、ようやく人間の敗北は確定する。
 だが、裏を返せば、諦めない限りは人間は無敵だ。
 たとえみっともなく逃げおおせたとしても、たとえ恥を忍んで頭を下げたとしても。
 生き延びてまた立ち向かおうとする限り、人の可能性は無限大だ。
 化物達(フリークス)よりも遥かに弱く、遥かに短命であるからこそ。
 限りある短い生命に、生きた証を残さんと、化物以上に懸命になれるからこそ。
 人とはどこまでも愛おしく、果てしなく高潔で、何物にも代えがたい強さを持った生命たり得るのだ。

「チッ……結局、相討ちか……」

 故に誇るがいい、紅の鉄騎よ。
 小さくも雄々しき心を抱いた、誇り高き守護騎士(ヴォルケンリッター)よ。
 お前は今まさに成し得たのだ。
 人の尊厳とたくましさを、その身をもって証明したのだ。
 力及ばず朽ち果てた、真紅の竜を操りし少年ですらも。
 化物じみた力を持ちながら、しかしどこまでも人であった神父ですらも。
 人であることに耐えかねて、化物へと化生した剣士ですらも、お前の領域までは至れなかった。
 お前は今まさに私を倒した。
 このあまりにも死ににくい化物の、夢の狭間を終わらせたのだ。

49 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:51:45 ID:tXZnpddQ0
 
「アーカード……てめぇは……本当にこれで、死ぬんだよな……?」

 どうか誇ってほしい。
 自分は人間だったのだと。
 その意志で化物を打ち倒し、人間の尊厳を証明したのだと。
 それが何よりの弔いだ。
 そうであれば、お前の踏み台になったこの私も、幾分かは報われるというものだ。

「ああ」

 そう。
 もう、これでおしまいだ。
 本当に私はこれで死ぬ。
 永らく渇望していた死を、今度こそ本当に迎えることができる。
 改めて思い起こしてみれば、あまりに長すぎるものではあったが、それなりに楽しい人生だった。
 何人もの狗や人間や化物が、私を殺さんと立ち向かってきた。
 ギリギリの命のせめぎ合いが、その度に私の生涯に充足を与えてくれた。
 もちろん、心残りがないわけではない。
 主インテグラの最期の命令(ラスト・オーダー)を果たせず、中途で投げ出してしまったこと。
 アンデルセンやセフィロスの仇を見つけ出し、この手で殺すことができなかったこと。
 狂った少佐の率いる最後の大隊(Lazte Battalion)に、今度こそ引導を渡してやることができなかったこと。
 だが残念ながら、それはもはやどうしようもないことだ。
 それを叶える力も時間も、今の私には残されていない。
 ないものねだりをしたところで、できないことはできないのだ。
 私は人間に対峙された、哀れな人間なのだから。

「これで、本当に――――――」

 ふと、視線を傾け空を仰ぐ。
 ああ、今夜は満月だったのか。今更になって気がついた。
 なるほど、こんな戦場には似つかわしくない、黒く澄み渡ったいい夜空だ。
 二日も満月が続くというのに、妙な違和感を覚えはしたが、それは無粋というものだろう。
 こんなに月が明るくて、こんなに星が眩いのだ。
 本当に、いい夜だと思う。
 静かで、美しくて、いい夜だ。
 こんな夜なのだから。

「――――――さよならだ」

 まぁ――死にたくもなるさ。



【アーカード@NANOSING 死亡確認】


.

50 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:53:02 ID:tXZnpddQ0


 めらめらと燃え盛る炎が、アーカードの死体を焦がしていく。
 あの忌々しいくらいに死ににくかった化け物が、再生もへったくれもないままに、静かに灰へと変わっていく。
 ああ、本当にやったんだ。
 本当にこの手で、こいつを倒すことができたんだ。
 人間、やればできるもんなんだな。まぁ、厳密にゃあたしは人間じゃねえんだけど。

《ヴィータ! おいヴィータ、しっかりしろよっ!》

 頭の中で響くアギトの声が、今はぼんやりとしか聞こえない。
 本格的にやばいんだな、これ。
 もう、ほとんど意識が保ててねぇんだ。
 無理もねぇだろうな。いくら闇の書のプログラムっつったって、基本的には人体の再現なんだ。
 そりゃあこんだけの血を喪って、脊髄も筋肉もメタメタに潰されたら、生きてなんていられないだろうさ。

「悪ぃ、な……最後の最後で……ドジ、っちまった……」

 これは嘘だ。
 こんなのは、ドジでも何でもなかった。
 どの道死因が変わるだけだ。ここまで痛めつけられた身体だったら、そのうち衰弱死してただろうさ。
 それにアギトが気付けなかったのは、多分、初めてのユニゾンだったからなんだろう。
 ま、それはそれでよかったかもしれねぇな。余計な気遣いや負い目を、あいつにさせねぇで済んだわけだから。

《畜生……なんで、なんでこうなっちまうんだよぉ……っ!》

 なんだ、こいつ泣いてるのか。
 あたしなんかが死にそうになってるのを、悲しいって思ってくれてるのか。
 不謹慎かもしれねぇけど、なんかちょっと、嬉しいもんだな。
 もう随分長いこと生きてきたけど、誰かに泣くほど心配されたのなんて、これが初めてかもしれねぇから。
 人殺しだの辻斬りだのやってきた気味悪い兵器が、こうして誰かに人間として、死ぬのを悲しんでもらえてるんだから。

「……なぁ……はやて……」

 嬉しいついでに、もう1つだけわがままを言わせてほしい。
 声をかける相手は、あのいけ好かない偽はやてだ。

「ヴィヴィオ、って娘……なんだけどな……そいつ……助けて、やって、ほしいんだ……
 あたしが……守る、って……助けてやるって……約束……した、から……」

 本当は、あまり頼みたくなんてない。
 あいつがいい奴かどうかはまだ分からないし、何より自分の引き受けた仕事を、他人に押しつけたくなんてない。
 でも、そいつはもう無理な話だ。
 あたしはこのままここで死ぬ。
 ギルモンとの約束は、もう二度とあたしの手では果たせねぇ。
 そのままあたしの命と一緒に、ヴィヴィオを助けるって約束も消えちまうよかは、誰かが引き受けてくれた方がよっぽどいい。

51 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:55:18 ID:tXZnpddQ0
 
「……分かった。約束する」

 ともあれ、これでもう用事は全部済んだ。
 生きているうちに言っておきたいことは、これで全部言い終わった。
 あとはゆっくりと、自分が死んでいくのを待つだけだ。

 ああ……にしても、これでホントに終わりなんだな。
 闇の書の主の守護騎士として、何百年も続けてきた戦いも、これで終わっちまうんだな。
 何もかもが、必ずしも満足だったってわけじゃない。
 まだまだはやてとしたいことはたくさんあった。
 行きたい場所もたくさんあったし、食べたいものもたくさんあった。
 そうでなくても、はやての足を、この手で治してやりたかった。
 でも、ごめんな。
 あたしはここまでみたいなんだ。
 もうあたしは、はやてと一緒に生きられない。
 大好きなはやての力になることも、足を治してやることもできない。
 駄目な子だよな。ごめん、叱ってくれてもいい。
 無理に欲張っちまったから、結局こんな道しか選べなかった。
 身に余る結果を求めたから、自分を犠牲にすることしかできなかった。

 でも、はやて。
 許してくれるなら、せめて1つだけ言わせて。

 あたしは確かに、何もかも全部満足したわけじゃない。
 この世に未練はまだまだあったし、本当なら死にたくなんてなかったって思ってる。

 でもさ。

 はやてと一緒に生きてる間は、本当に楽しかったんだ。
 戦うことだけしてきたあたし達が知らなかったことを、はやてはたくさん教えてくれた。
 嬉しい時には笑うことも、笑えるくらい嬉しいことが、この世界にたくさんあることも。
 あたし達ははやてに会えたから、人間みたいに生きることができたんだ。
 あたしははやてに会えたから、人間みたいに死ぬことができたんだ。

 だから、さ。

「……ありがとな……」

 あたしはホントのホントに――――――幸せだったんだよ。



【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's 死亡確認】


.

52 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:56:09 ID:tXZnpddQ0


「使えそうなものは、この首輪だけか」
 感情の希薄なクールな声で、金居がぼそりと呟いている。
 左手に握られているものは、あの吸血鬼の背中に背負われていた、すっかり炭化したデイパック。
 ああまで焼けてしまったのだ。アグモンなる者の首輪以外は、残らず全滅してしまったらしい。
「そっちはどうだ?」
 正宗を拾い上げながら、金居がはやてへと問いかける。
 逆に彼女の左手には、ヴィータが投げ捨てたデイパックが握られていた。
「ああ……ちゃんとご褒美とやらが入っとったわ」
 緩んだ鞄の口に突っ込んだ右手が、その中に入っていたものを取り出す。
 禍々しい意匠の刻み込まれた、異様な風体の短剣だ。
 魔獣の爪のような刃が、何故か3枚重なって生えている。
 色々と探ってみると、何か仕掛けでもあったのだろうか、じゃきんと刃が広がった。
 左右に展開された刃と、上を向いたままの刃。
 三つ又の歪な切っ先のシルエットは、子供が遊ぶ風車を彷彿とさせる。
 更に中を探ってみると、これと同じものがもう1つあった。どうやら2本1対の双剣だったらしい。
「……ヴィータのことは、残念だが」
 ぴくり、と。
 金居の口にした名前に、微かに肩が強張った。
「それでも、俺達に立ち止まっている時間はない。行くぞ。お前に調べてもらいたいことがある」
 冷たく事務的に言い放つと、踵を返して歩いていく。
 かつかつと遠ざかる靴音に、はやてもまた、屈んだ姿勢から立ち上がって続いた。
 そうだ。
 ヴィータは死んだ。
 あのアーカードと刺し違えて、そのまま炎の中で死んでいった。
 最期の瞬間、彼女は自分に、ヴィヴィオを助けてほしいと言った。
 あの時は「はやてらしさ」を装うために、一応返事をしておいたが、さて、一体どうしたものだろうか。
 一方アギトはデイパックの中で、しくしくと涙を流している。
 一番近くにいたというのに、守ることができなかったのだ。確かに無念ではあるだろう。
 それでも彼女は戦いの時、確かに啖呵を切ったのだ。
 あのゼスト・グランガイツが望むのなら、自分も戦ってやる、と。
 今はまだ泣かせておけばいい。役に立ってほしい時には、必ず役立ってくれるはずだ。
(それよりも……問題はヴィータやな)
 半ば炭と化した死体へと、視線を向ける。
 確かにアーカードを倒すことはできた。しかしそれと引き換えに、得難い駒を喪ってしまったのだ。
 蓋を開けて見てみれば、大失態と言っていい結果である。
 鉄槌の騎士が死亡したということは、これで異世界のヴォルケンリッターが、残らず全滅してしまったということになる。
 あれほど便利で扱いやすい駒は、もう手に入ることはなくなってしまった。
 これから先のプランにも、あるいは大幅に支障を来たすかもしれない。

53 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:56:41 ID:tXZnpddQ0
(そう、それだけなんや)
 それだけのはずだ。
 駒を失っただけなのだ。
 戦略上困難になるだけで、さして感傷を覚えるには至らないはずだ。
 それなのに。
(何で、こないな気分になる)
 この胸に込み上げる不快感は何だ。
 この胸を締め付ける寂寥感は何だ。
 一体自分はどうしたというのだ。
 あんなもの、家族の皮を被った偽物が、勝手に戦って死んだだけではないか。
 そもそも偽りのヴォルケンリッターの死など、シャマルを切り捨てた時に経験していたではないか。
 あの時は屁でもなかったというのに、何故この期に及んで同情したがる。
 今更いい子ちゃんぶろうとするな。情に左右されて目的を見失うな。
 しっかりしろ。
 らしくないぞ、八神はやて。
 クアットロの言葉がそんなに堪えたのか。
 ヴィータの姿にそんなに胸を打たれたのか。
 感傷になんて浸ってどうする。こんなにも簡単に情けに流されてどうする。
 ぺちぺち、と頬を両手で叩きながら、視線をヴィータの亡骸から背けた。
 その姿から逃げるようにして。
 その想いを封じるようにして。
 元の毅然とした表情を作り直し、はやては金居の後に続いていった。
(そういえば、あの銃……)
 と、その時。
 不意に違和感を覚え、立ち止まる。
(あんなもん……あいつの持ち物にあったか……?)

54 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:57:13 ID:tXZnpddQ0
【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.……ヴィータ……
 2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 5.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 6.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 7.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 8.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 9.金居はどこであの拳銃(=デザートイーグル)を手に入れたのか?
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

55 わがまま ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:57:46 ID:tXZnpddQ0
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 2.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 3.はやてと共に地上本部跡地へ向かい、転移魔法陣を調べる。
 4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

【全体の備考】
※E-5にアーカードとヴィータの死体と、アーカードのデイパックが放置されています。
 デイパックは焼け焦げており、中に入っていた支給品は、ボーナス支給品ごと全滅しました。
※フィールド中では、何故か2晩連続で満月が出ているようです。


【デザートイーグル@オリジナル】
金居のデイパックに転送されたボーナス支給品。
現実に存在する銃で、50口径弾を発射することができる、世界最強の威力を持った拳銃。
ただしそれ故に相当な重量とサイズを有しており、反動も大きく、使い勝手は悪い。

【虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる】
ヴィータのデイパックに転送されたボーナス支給品。
謎の少年・カイトが用いていた双剣。
普段は禍々しい鉈のような形をしているが、戦闘時には刃を展開し、風車のような三つ又の形状に変形する。

56 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/10(土) 18:59:05 ID:tXZnpddQ0
投下終了。矛盾などありましたら、ご指摘お願いします。
今回のタイトルの元ネタは、以下の通りです。

燃える紅:「仮面ライダー響鬼」二十四之巻
BRAVE PHOENIX:「魔法少女リリカルなのはA's」挿入歌
わがまま:「とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱」収録シナリオ・「魔法少女リリカルなのは」第13話サブタイトル

……いや、最近響鬼見始めまして、紅に一目惚れしちまったもので(ぉ

57 リリカル名無しA's :2010/04/10(土) 19:22:00 ID:aNwzWSzg0
投下乙です。

遂に強敵アーカード落つ!
ヴィータとアギトのユニゾン通称ヴィータ紅、そして金居とはやてのサポートでやっと倒せる程の強敵だった……ヴィータもやりきっただろう……。

ちょっと待て、確かアーカードは対主催で対主催のヴィータも退場……しまいにゃ残ったのは火種の宝庫黒はやてとステルス金居……アレ、なんか対主催涙目じゃね?(いや、どう考えてもアーカード対主催やったって火種だらけだけどさぁ)

58 リリカル名無しA's :2010/04/10(土) 22:25:20 ID:VlTRsk.k0
投下乙です

正直、ここでアーカードが脱落するとは思わなかった!
だが熱い、熱かったぞヴィータ!

確かに火種満載のアーカードが生きてるのも不都合だがヴィータも退場で残ったのはこの二人かよ…

59 リリカル名無しA's :2010/04/11(日) 18:09:58 ID:RdPwctXY0
投下乙です。
いやぁ熱い! とにかく熱い!
こんなに熱い展開は久しぶりじゃ無かろうか。
結果的にヴィータは死んでしまったけど、最後の最後まで格好良かった。
対するアーカードもようやく人間に殺される事が出来て、満足げ。
アーカードもヴィータも、最後の言葉は本当に良かったと思う。
そしてはやてもはやてでヴィータの死には何か思う事がある様子。
最近は少しずつはやても変わって来たかな? って気はするけどどうなんだろう。
うん、何はともあれGJでした!

60 リリカル名無しA's :2010/04/11(日) 22:47:28 ID:VANQX.Ak0
投下乙です
これぞ熱血!ヴィータとアギトのシンクロとか、なんという燃え展開!
そして仲間と力を合わせて強敵アーカードを倒す!しかも相討ちとか…
ヴィータお疲れ様、旦那もこの最期は本望だろう…

と、一見燃え展開みたいだけど、一歩引いて見てみると
対主催のアーカードとヴィータが誤解が発端で戦い始めて共倒れ
しかも生き残った二人は主催と通じるステルスと、冷酷な狸
さらに協力したのも自分の都合からという腹黒模様

ホント何も考えないで読んだら普通に燃え展開なのになw

61 ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:17:00 ID:/eJ4eeQc0
ユーノ・スクライア分投下します

62 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:22:00 ID:/eJ4eeQc0





『放送は僕――オットーが担当させていただきました。』





淡々とした声による放送が終わった――
西の空を見ると赤い夕日が沈んでいくのが見える――
東の空を見ると赤い満月が昇っていくのが見える――
そして周囲を闇が空気を染めていく――
それに呼応するかの様に――





彼の心も暗い闇に沈んでいく様だった――





『マスター――』





声を発したのは『人』ではない――フェイト・T・ハラオウンのデバイス閃光の戦斧バルディッシュ――
『彼』は自身のマスターであるフェイトの死を悼んでいた――

ショックがないと言えば嘘になる――
出来れば無事に再会したかった――
だが、それは最早叶わぬ事だ――

この場にいた2人のフェイトが自分の世界及び時間軸のフェイトである保証はない――
無事に元の世界に戻る事さえ出来れば無事に再会出来る可能性は十分にある――
その可能性はブレンヒルトと出会った時から推測出来ていた事だ――



しかし――そんな推測に意味は無い――



如何なる世界、如何なる時間軸であろうとも自分のマスターである事に変わりは無いのだから――
彼女の喪失が大きな空虚を生む事に変わりはない――



彼女がこの場でどの様に行動し死に至ったのか――それを知る手段はない――
例えば、誰かを守るか助ける為に強敵と戦い散っていったのか――
親友である高町なのはを生き返らせる為に修羅の道を行き朽ち果てていったのか――
もしかすると一瞬の不注意で死に至った可能性だってある――



だが――1つだけ確かな事がある――



フェイトは死の瞬間まで誰かの為に戦っていたという事だ――



それが誰なのかはわからない――
プレシアの願いを叶える為かも知れない――
なのはやアリサ・バニングスを生き返らせる為かも知れない――
プレシア・テスタロッサの真意を確かめるとともに殺し合いを止めて多くの人を救う為かもしれない――
そして――娘を助ける為かも知れない――





バルディッシュは願う――





フェイトの最期が誰かの助けとなった事を――無為に終わる事の無い事を――

63 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:25:00 ID:/eJ4eeQc0





 ここまで思考しバルディッシュはある違和感を覚えた――





『Mr.ユーノ――?』




 先程からユーノ・スクライアは淡々と名簿と地図を眺めている――
 呼ばれた人数は19人と非常に多い、それだけではなくユーノが気に掛けていた少女達や数多くの仲間達の名前が呼ばれていた――
 だが、ユーノは呼ばれた瞬間こそ驚いていたもののその後は冷静に名簿と地図をチェックしていた――
 彼はショックを受けていないのか――いや、彼の性格を考えるならばショックを受けないわけがない――
 では、何故彼はその素振りを見せずにいるのだろうか?
 彼は何を考えているのだろうか――





 そしてその口がゆっくりと開かれる――





「バルディッシュ――確か君は僕から見て4年後の未来から連れて来られたんだよね――」
『Yes――』
「だったら――教えてくれないか――君の世界で起こった事を――」





 その声は――何処か淡々としていた――





 ここにいるユーノ・スクライアはバルディッシュのいた世界のユーノ・スクライアとは別人だ。
 但し、その差異はLの存在の有無と約4年の時間軸の違いぐらいだったが――

 ちなみに言えばその事自体はブレンヒルトと行動を共にしていた時点で把握していた。
 しかし、ユーノ自身は世界が違う事については別段気にしていなかった事もあり深く切り込んだりはしなかった――
 つまりユーノの世界から見て4年後に起こるであろう機動六課設立やJS事件に関して殆ど全て聞いていなかったのだ――

 情報が大きな武器になるのは無限書庫の司書長をしているユーノ自身がよく理解している。
 参加者の中に機動六課やJS事件の関係者が数多くいるならばその情報は得るべきなのは誰にだって理解出来る。
 仮にその情報を知っていればもっと違った推測だって出来た筈である――

 つまりここに至ってそれを知らない・知ろうとしなかった事は完全な悪手でしかない――

 そういう余力が無かった――いや、明日香との遭遇後、温泉で休息を長い間取っていたし、
 ブレンヒルトと行動を共にしていた間も休息していたのが多かった為、その時にバルディッシュから確認する事は出来たはずだ――

 何故、ユーノはその事を知ろうとしなかったのだろうか――?





「そのJS事件で僕は――なのはの――」
『Ms.なのはの?』
「――いや、何でもないよ――それにしてもあのティアナが機動六課に入っていたなんてね。そういえばなのはも彼女の事を気にしていたっけ――」
『意外ですね、Ms.チンクやMs.ルーテシアの事を知らなかった貴方がMs.ティアナの事は知っていたとは』
「ああ、話を聞いて思い出したよ――彼女、少し前に僕の世界で起こったある殺人事件で協力してくれたんだ――さてと」




 と、バルディッシュからJS事件に関する事を聞き終えたユーノは名簿を手に取り、





「バルディッシュ――今までの放送は全て覚えているね」
『Yes――』
「だったら――今から、僕は今も生き残っている参加者の名前を読み上げるから合っているか確認してくれる?
 アーカード、相川始、アレックス、アンジール・ヒューレー――」
 ユーノの口から現在も生存している参加者の名前が五十音順に次々読み上げられる――
「――ヒビノ・ミライに片方のはやて――そして僕の計19人――何処か間違っているかな?」
『――いえ、漏らしも間違いもありません。その19人で間違いありません』
「わかったよ」

64 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:26:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ――これからどうするつもりですか?』
 バルディッシュは地図を見ているユーノに問う。ユーノ自身の様子を見る限り基本的な方針は変わっていない事だけは間違いない。
 しかし、具体的な行動については全く不明瞭である。
「そうだね――実はまだ決めていない。僕が市街地に向かおうとしたのはルーテシアや明日香を止める為だったけど――」
『両名とも先の放送で呼ばれています』
「うん、残念だけど最早説得は不可能になった」
 ユーノが市街地に向かっていたのは一時期行動を共にしていたが殺し合いに乗り市街地に向かったであろう天上院明日香とルーテシア・アルピーノを説得する為である。
 しかし、先の放送で名前が呼ばれた以上、両名は死亡した事が確定した為それは不可能となった。

「だけど――実の所行動を決めかねている理由はそれだけじゃないんだ。
 僕がブレンヒルトに話した脱出の手段については覚えているね、
 でも、正直な所現状のままだと厳しいかもしれない。
 いや、当初のプランはほぼ潰れたと考えて良いと思う――」
 ユーノは眼鏡に手を当てながら口を開く――
「幾つか理由はあるよ――」

 ユーノがブレンヒルトに話した脱出のプランを簡単に振り返ろう。
 次元干渉型の結晶体であるジュエルシードの力を解放し意図的に次元震を引き起こしこのフィールドを覆う結界を破壊するというものだ。
 仮に破壊に失敗したとしてもその反応を時空管理局が捕捉する事によりデスゲームは破綻するという寸法だ。
 その一方で首輪解除の手段をLが模索するというプランだ。

「まず、当初必要だった仲間が既に死亡している事――」
 先のプランの問題点としてジュエルシードの力を制御出来るのかという問題がある。
 ユーノ自身も自分1人では難しいと考えており、補助系の魔法に長けているシャマルかザフィーラが必要だと考え合流を考えていた。
 しかし、2回目の放送でザフィーラ、先の放送でシャマルの名前が呼ばれた――彼等の力を借りる事は不可能となった。
 また、先の放送でLの死亡が伝えられている――故に、首輪解除をLに頼る事も出来なくなった。





『確かにMs.シャマル達の損失により難しくなりました――ですが、制御ならばMs.なのは達でも可能では――
 首輪の解除にしてもMr.ユーノの手元にも首輪がある以上、Mr.ユーノがそちらも進めていけば――』

「そうだね――
 実はさっき生存者を確認したのはジュエルシードの制御や首輪の解析が出来そうな人を割り出す為というのもあったんだ――
 でもね――僕が潰れたと考えている理由は他にもあるんだ――
 僕がこのプランをブレンヒルトに話した時――彼女が何て言ったか覚えているかい?」

 前述のプラン――ジュエルシードを利用する事を彼女に話した際、彼女は3つの問題を指摘していた。
 1つ――ゲームの盤台を崩しかねない物を主催者であるプレシアが支給するとは思えない問題
 2つ――ジュエルシードの解放して自分達は無事で済むのかという問題
 3つ――フィールドとは別に首輪をどうするのかという問題
 その内、一番最初の問題であるジュエルシードに関してはルーテシアに支給されている事実があった。
 故にユーノもブレンヒルトもそれ以上この問題については考えていなかったが――

「だけど――その前提が間違っていた可能性が高いんだ――」

 そもそもジュエルシードが支給されていた理由に際し、ユーノはこう考えていた。
 ジュエルシードを使えば高確率で暴走を引き起こし所持者はモンスターとなり――参加者間に戦闘を引き起こし殺し合いを促進させる――
 故に、ジュエルシードは複数支給されている可能性もあると――

 そして、その仮説が正しい事はユーノ自身が身を以て体験した――
 明日香がジュエルシードの力を使い夜天の書の力を解放したのを目の当たりにしたのだ――
 一見するとその仮説は正しいと誰もが考える――

65 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:27:00 ID:/eJ4eeQc0





『それの何処が間違っているのですか、Ms.明日香の力はMr.ユーノが身を以て体験した筈です』
「あれから今までずっと考えていたんだ、ジュエルシードの力は本当にあの程度なのかという事をね――
 そして気付いたんだ――あの程度がジュエルシードの全力じゃない事をね――」

 ユーノは語る――なのはとフェイトが出会う前、街に現れた巨大な大樹の怪物の話を――
 それはジュエルシードの力によって生み出された怪物――そしてそれを生み出したのは少年だったのだ――
 ジュエルシードは強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、一番強い力を発揮する――
 だが、生み出した少年はジュエルシードの事など何も知らない、発動させたとしてもその願いは恐らくささやかなものだっただろう――
 つまり――最初から強い願いを込めて意図的に発動させたならば、当時のなのはでは対処しきれない程の怪物になっていた可能性はあったという事だ――

 ここで明日香がジュエルシードの力を引き出した時の事を思い出して欲しい。
 明日香は既にジュエルシードがどういう物かについて大まかに説明を受けていた。
 彼女がそれを発動したのは強い衝動に押されてというのもあっただろうが、おおむね意図的と考えて良い――

『今更な話ですが彼女は何故ジュエルシードを発動したのでしょうか――?』
「それについてはある程度推測出来るよ――そう、僕が刺されてから彼女がどうしていたのかを含めてね――」

 ルーテシアがユーノを刺した時、明日香はその場所にいた――
 突然のルーテシアの凶行を目の当たりにし、一般人である明日香が恐怖を感じるのは想像に難くない――
 あの現場を見れば大抵は『ルーテシアがユーノを刺殺し、次は自分を襲う』と考えるだろう――
 故に明日香はその場から逃げ出した――

「その時にルーテシアの持っていたデイパックを持ち去った。いや、奪ったんだろうね――」
『成る程、そのデイパックの中にジュエルシードと夜天の書が入っていたと――』
「ルーテシアに持たせた筈のそれを明日香が持っていたからそれはほぼ間違いないよ」
『すみませんMr.ユーノ、あの現場を見ていた筈でしたがその事に気付けませんでした――』
「仕方ないよ、事態が事態だったからね」

 そして逃げ出した明日香はどのルートを通ったのかこそ不明だが十中八九海鳴温泉にたどり着き暫しその場所で身を休めていたのだろう。
 だが、彼女の心中にはルーテシアに対する恐怖が強く刻み込まれた可能性が高い。
 そして、次に襲われた時に対処する為にジュエルシードをと夜天の書を使おうかと考えていたのだろう――

『しかし、Mr.ユーノが襲われてから彼女との再会まで6時間あった筈――
 何故、彼女はそれまでジュエルシードを使わなかったのでしょうか?』
「それは勿論、その危険性を理解していたからだよ。それについてはしっかり説明しておいたからね――
 でも、ある2つの出来事が彼女のタガを外してしまい――衝動的に発動させてしまった――
 1つが死んだはずの僕が姿を現した事――」

 仮に目の前に死んだはずの人間が現れたらどう思うだろうか――
 子供染みた理論ではあるが、恐らく死者の国へ連れて行くと考えてもおかしくはない――
 つまり、自分を殺す為に現れたのだろうと――恐怖が刻み込まれている彼女がそれを考えてもおかしくはない――
 故に、自らの身を守る為に――

『ですが放送さえ聞けばMr.ユーノの生存は確認出来る筈では?』
「簡単な事だよ、既に明日香の中では僕の名前が呼ばれるのが確定していた――
 そして、その部分を聞き逃していたとしたら――僕の名前は呼ばれたものとして補完する筈――」
『その可能性はありますが彼女は大事な放送を聞き逃す様な人物なのでしょうか?』
「行動を共にしていたのは短い間だけど、少なくとも彼女はそんな不用意な人間じゃない。
 頭に入らなかったんだ――多分、その前後で彼女の大切な人物の名前が呼ばれたんだと思う。
 その時の放送で順番的に僕のすぐ近くになるのは遊城十代――恐らく彼の死のショックでその前後が頭に入らなかったんだ――
 同時にそれがもう1つの理由――」

 大切な仲間である十代の死亡、その直後で死亡したはずのユーノとの遭遇――
 それでなくても強い恐慌状態に陥っていた彼女に冷静な判断を求める事は不可能――
 理性や良心は完全に駆逐され、恐怖を振り払う為に触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったのだろう――
 その願いは自分を傷付ける物を全て駆逐する――その為の力を手に入れる事――

66 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:28:00 ID:/eJ4eeQc0





『成る程――それで、結局の所Ms.明日香の状態の何が問題なんですか? あの力はほぼ確実にジュエルシードによるもの――十分に実証されている筈では――』
「――本当にそう考えているのかい? もし、彼女が本当にルーテシア達を殺す為の力を欲してジュエルシードを発動させたならば――
 あの時の大樹以上の怪物が生み出されないとおかしい筈なんだ――」

 ユーノの推測が正しいならばその時の明日香の願いはあの時の少年の比では無いのは明白――
 あの時の規模は海鳴市を覆うものであった――それを踏まえるならば制限の存在を加味したとしても――

 発動したその力によってあの一帯は完全に崩壊していなければおかしい事になる――

 だが、現実として強い力とはいえ常人の手に負える範囲でしか力は発動していなかった――
 確かにB-7の中央部を崩壊させたが同じB-7にある海鳴温泉にはその力は届かず無事そのもの――
 それが意味する事は――

「恐らく支給されているジュエルシードには何かしらの細工が施されている、
 その出力は本来より大幅に抑えられていると考えて間違いないよ――」
『成る程、つまり意図的にジュエルシードを発動させたとしてもフィールドを破壊する事は無いという事ですか』
「うん、まさしくブレンヒルトが口にした通りだったんだ――プレシアが何の対策も無しにジュエルシードを支給する筈がないってね――
 僕達はそれにもっと早く気付くべきだったんだ――」
『もっと早く気付けた筈という言い方ですね――』
「そもそもジュエルシードは誰に支給されていたのか――そしてその人物の近くに誰がいたのか――」

 ジュエルシードは誰に支給されていたのか、その人物はルーテシアだ――
 同時にその近くにはジュエルシードについて熟知しているユーノがいた――夜天の書を支給された上でだ。

『偶然じゃないでしょうか?』
「さっきも聞いたけど、ルーテシアは母親を目覚めさせる為にスカリエッティに協力していたんだよね?」
『ええ、ですがJS事件は既に解――』
「僕と同じ――例えばJS事件解決前に連れて来られていたとしたら――」

 ルーテシアがJS事件前から連れて来られている場合、彼女はどのように行動するだろうか?
 恐らく母親を目覚めさせる為に行動を起こす。
 最初の放送で伝えられた優勝者への御褒美、それを聞いた瞬間どう考えるだろうか?
 優勝さえすれば母親を目覚めさせる事が出来るのではないかと考えるだろう。
 ルーテシアがユーノを刺したのは放送直後、タイミング的に合致する――

67 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:29:00 ID:/eJ4eeQc0

 つまり、遅くても最初の放送が終わった時点でルーテシアが殺し合いに乗る事は確定事項だったのだ。
 そして、ルーテシアにジュエルシードと夜天の書を使わせ参加者を皆殺しにさせる算段だった可能性が高い――

 筋書きとしてはこうだ――
 ルーテシアとユーノを何とかして出会わせ彼女の近くにジュエルシードと夜天の書があるという状況を作り出す。
 勿論、スタート地点を近くにするだけでは不完全、しかしある一計を案じる事でで高確率で出会う状況を作り出した。
 それはルーテシアのスタート地点を川の上にする事、これによりルーテシアはスタート早々川に落ちる事になる。
 その後近くにいたユーノを駆けつけさせ彼女を保護させるという流れだ。
 2人は予定通りに互いに情報交換及び支給品の確認も行う――この時、ユーノにジュエルシードと夜天の書について説明させる事も予定通り。
 そして、ルーテシアが殺し合いに乗ったタイミングで彼女にユーノを殺させ、2人分の支給品を全て総取りさせ――
 後はジュエルシードの力で夜天の書を使い全ての参加者を一網打尽にさせると――

『確かにその仮説はあり得ますが、それならば最初から彼女に夜天の書とジュエルシードの両方を支給させれば良かったのでは?』
「駄目なんだ――最初から両方を支給するぐらいに優遇したら流石に気付かれる可能性が出てくる。
 だからといって、近くに僕がいなければ夜天の書とジュエルシードの情報を得る事は出来ない。
 だからこそ、ジュエルシードをルーテシアに、夜天の書を僕に支給したと思う」
『そう簡単に上手くいくでしょうか? 実際それらはMs.明日香の手に渡ったわけですし――』

 バルディッシュの指摘はもっともである。ルーテシアが殺し合いに乗るタイミングは最初の放送の後、
 つまり、その瞬間までルーテシアが無事でいなければ策は成り立たない。
 だが、ユーノに言わせればそれは大きな問題ではない――
 仮にルーテシアが最初の放送の前に退場したとしても、その場合は高確率でユーノも退場している。
 つまり、その下手人の手に夜天の書とジュエルシードが渡る可能性が高いという事だ。下手人がその力を発動すれば何の問題もない。
 同じ理由で明日香の手に渡る事も想定済みだったのだろう。その2つのロストロギアを手にした者がその力を発動すれば良いわけだから――
 また、これらの事が想定外の事態により起こらなくても別段問題はない。何しろ、これは殺し合いを促進させる為の策の1つでしかない。
 1つ策が潰れた程度で状況が大きく変わる程、脆弱な構造にはなっていないという事だ――

「前置きが長くなったね――
 僕が言いたいのは要するに最初からルーテシアにジュエルシードと夜天の書を組み合わせて使わせるつもりだったって事――」
『そんな事をすれば、Ms.明日香の時以上の事が起こりますね』
「当然プレシアがそれに対する対策を怠るわけがない、そうさせる様し向けているから当然の事――
 そう、これはもっと早く僕がルーテシアがどういう人物かがわかっていればわかった事だったんだ――」
『しかしMr.ユーノが連れて来られたタイミングはJS事件より前――わからなくても仕方が――』
「でも、JS事件の事を知っているバルディッシュと合流したのは半日も前の事だ――
 その時にちゃんと僕が知ろうとすればもっと早く――ブレンヒルトが生きている時に自分のプランの欠陥に気付けた筈だったんだ――」



 悪いのは自分――ユーノの言動からそう言っている様に感じ取れた――

68 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:30:00 ID:zxT8wbUA0





『仮にジュエルシードや夜天の書に細工が施されていたとしても、その細工を処理すれば可能では無いでしょうか――』
「細工を処理――いや、それはそれで危険――まあいいや、確かにそうかも知れないけど――
 実はもう1つあるんだ、それでもこのプランでは難しいという理由がね――」
 そう言いながらユーノは周囲を見渡す――
『周囲に人の反応はありませんが――』
「空を見て――」
 空を見上げるとそこは雲一つ無く、日が沈んだ事もあり星が瞬いている――そして東側を見ると赤みのかかった満月が浮かび上がっている――
『この空がどうかしましたか?』
「18時間以上経ってもずっと晴れ渡り雲一つ見えない空――
 ミッドチルダでも地球でも見た事の無い星の形――
 そして、1日経過しても欠ける事のない月――
 そのどれをとっても現実的には有り得ない現象――
 それだけじゃない――
 あるラインを越えたら反対側にループする不可思議な現象――
 魔法の発動を阻害する何かの存在――
 6年前と殆ど同じだった海鳴温泉――
 更に翠屋や地上本部、機動六課隊舎といった施設の配置――
 つまり――この空間は何から何まで異常だということさ――」
『異常――確かにそれは感じていましたが――』
「それ自体は僕も最初に気付いてはいたよ――恐らくプレシアがこのデスゲームを行う為に作り出した空間と考えて良いと思う――」
 ユーノが口にするのはこの空間の異常性――
 制限やループの発生は言うに及ばず、永久に晴れ続ける空や未知の夜空に欠ける事のない月、そして自分達の知る施設の存在――
 何れも現実的には有り得ない事だ――
 これについてユーノは超巨大な結界を構築した上でその中に擬似的な戦闘フィールドを構築したのだと考えたのだ――
 なお、これ自体は最初からある程度推測出来ていた事ではある――
『その空間を破壊する為にジュエルシードを使う――という話だったのでは?』
「その前に――これだけの結界を構築するのにどれぐらいの手間と魔力が必要かわかるかい?」
『シミュレータだとしても相当な労力が必要です――もしこれが現実に行われているならば――その労力は想像を絶すると考えて良いでしょうね――』
「そう、これをプレシア1人で行うのは非現実的過ぎる。協力者自体はいるみたいだけど――」
 勿論、先の放送を担当したのがスカリエッティの戦闘機人の1人オットーという時点で何れかの平行世界のスカリエッティ達が協力している事は推測出来る――しかし、
『この規模ならば何処かの世界のスカリエッティとその仲間達が協力しても難しい――』
「それに、プレシアクラスの魔導師が何人か集まっても難しいと思う――」
『プレシアクラスの魔導師、それを何人も集めるのも至難――』
「つまり――この空間を作り出しているのはプレシア達の構築した『装置』だと思う――」
 ユーノの推測――それはこの空間を作り上げているのはプレシア及びその仲間達が用意した『装置』によるものだと考えたのだ。
 『装置』さえ上手く機能すれば後は『装置』が正常に働く様に監視を怠らなければ最小限の労力で済むという事だ――
『しかしその『装置』があるとしても大規模である事は確実――そんな『装置』を用意する事は可能なんでしょうか?』
「うん、ロストロギア級の道具を幾つか用意――いや、それ自体は恐らく僕達の知る物でも十分構築は可能だよ――」
『我々の知る物――それはもしや――』

「バルディッシュの想像通りだよ――夜天の書とジュエルシード――その2つ、もしくは準じるものがあればこの舞台を作り出す事は可能――」

69 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:31:00 ID:/eJ4eeQc0

 夜天の書は一時期数多の世界を滅ぼした『闇の書』と呼ばれる非常に危険なロストロギアであった――
 だが、その本質自体は魔導師の技術を蒐集し研究を行う為に作られた収拾蓄積型の巨大ストレージデバイスでしかない――
 『闇の書』へと変貌したのも結局の所、元々あった機能が変化したものでしかない――
 故に――夜天の書を端的に言えば最高級のストレージデバイスよりも数十段優秀なストレージデバイスと考えて良い事になる――
 ストレージデバイスはバルディッシュ等に代表されるインテリジェントデバイスと違い自らの意志を持たないデバイスだ――
 自らの意志を持たないとはいえストレージデバイスがインテリジェントデバイスより劣るという事ではない――
 勿論デバイス自体がサポートする事が無い為、魔法の発動の全てを使い手自身が決定しなければならないという弱点はある――
 反面人工知能を搭載していない事から、その分処理速度は数段速い――
 つまり――優秀な使い手ならば高速かつ確実に魔法を発動出来る――条件さえ揃えばインテリジェントデバイス使い以上と言っても良いだろう――
 勿論、人工知能を搭載しない為術者の成長による能力向上はあっても、元々の性能以上の力を引き出す事は出来ないという弱点はあるが――
 要するに――優秀なストレージデバイスの演算能力は非常に高いという事だ――

 ジュエルシードは前述の通り通り次元干渉型エネルギー結晶体である。
 暴走した場合は周囲の動植物を取り込み大惨事を引き起こす事は言うに及ばず、単体でも次元震を引き起こす程の非常に危険なロストロギアだ。
 何しろ、1個の全威力の何万分の1の力程度で小規模次元震を引き起こすのだ。そのフルパワーがどれぐらいなのかは想像を絶するものなのは理解できるだろう。
 だが、扱いこそ非常に危険ではあったがその本質は莫大なエネルギーを有する結晶体でしかない。例えて言えば米粒大で1年分のエネルギーをまかなえる夢の超物質的な物という事だ。
 つまり――ジュエルシードも暴走さえ起きなければ只の魔力タンクでしか無いという事だ――

 では、夜天の書とジュエルシードでどのようにしてフィールドを作り出すのだろうか?
 まず、フィールドを作り出す魔法の術式そのものはプレシアが予め用意したものと考えて良いだろう。
 仮にアルハザードに到達しその地の技術を手に入れたならば、必要な術式を組み上げる事はそれ程難しくはないだろう――
 問題となるのは維持と制御を行う為の手段とそれらに必要な莫大な魔力エネルギーだが――
 いかにプレシアが優秀な魔導師であっても単独でそれを賄うのは不可能ではあったし、プレシアクラスの魔導師が何十人いても難しい事に違いはないだろう。
 そう――その為に夜天の書とジュエルシードを利用したという事だ――
 夜天の書を維持と制御を行う為の装置代わりにし――
 ジュエルシードをフィールドを維持し続けるだけの魔力の供給源として――

『プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は9個、それだけあれば――』
「違うよバルディッシュ――見落としていないかい、彼女は異なる平行世界を行き来出来る事を――
 プレシアがその気になれば無数の平行世界から好きなだけジュエルシードを集める事が出来る筈――
 100個でも1000個でもね――
 勿論、これは極端な話――でもね、プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は多めに考えておいた方が良い――
 ここまで言えば何故僕の言ったプランが使えないのかわかるよね?」
『ジュエルシード1個や2個程度の魔力の総量ではエネルギーが足りない、そういう事ですね』
「そう、残念だけどこれは完全に僕の見極めが甘すぎたと言わざるを得ない――
 いや、本当はブレンヒルトに指摘された時点で気付くべきだったんだ――」

70 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:32:00 ID:/eJ4eeQc0

『そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、
 あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。』

 ――あの時ブレンヒルトはこう言っていた――だが、ユーノは実際に支給されたという事実だけでその指摘を遮った――
 そして、ルーテシアを説得しジュエルシードさえ取り戻せればそれで何とかなると考えていた――
 だが、それがそもそもの間違いだったのだ――
 支給されるはずのない物が支給される理由、それを考えなければならなかったのだ――
 そう、ジュエルシードと夜天の書だけでは不可能――その結論にもっと早く気付かなければならなかったのだ――

 勿論、ジュエルシードと夜天の書の力でフィールドが構築されているのはユーノの推測でしかない。全く別のロストロギアを使っている可能性は大いにありうる――
 だが、如何なる方法であったとしても結論そのものは変わらない――
 手段そのものはジュエルシードと夜天の書を使ったものに置き換える事が出来る――
 ジュエルシード1個や2個分のエネルギー総量では足りないという結論に変わりはないのだ――





『ですがそれだけの大規模魔術であれば管理局が察知すると思いますが?』

 確かにこのフィールドに関し、内部からの破壊は現状困難だと考えて良い。
 しかし外部からはどうなのだろうか? あれだけの大規模魔術であれば管理局がその反応を捉える可能性が出てくる。
 フィールド構築に必要な魔力が大きくなれば大きくなる程比例して察知される可能性が高くなるのは誰でも理解出来る。
 勿論、それをカムフラージュする為の結界は当然施しているだろう。
 だが、膨大な魔力を隠す為に膨大な魔力を消費する――ある意味本末転倒だ、隠すのにも限界が出てくるのは明白――
 管理局に察知される事に関する対策は考えていないのだろうか?

「察知される事も織り込み済みだとしたら?」
『どういう意味です?』
「これだけの規模を探知したとして――すぐに管理局が駆けつける事が出来ると思うかい?」

 管理局が異常を察知した場合どのように動くだろうか――
 まずはその反応を確かめ規模を確かめる――
 そしてその規模に応じて部隊を編成し鎮圧に向かう――
 だが、あれだけの膨大な力を発するロストロギアの反応場所を鎮圧する為に必要な戦力を集めるのには時間が掛かるだろう――
 勿論、火急であれば時間は短縮出来るだろう――
 しかし膨大な力の反応だけではそこまで迅速には動けない――慎重に行動する可能性が高く、実際に介入するまでには大分時間がかかるだろう――
 当然の事だが、生半可な戦力では返り討ちに遭う。戦力の無駄が出来ない以上、確実に鎮圧する為に時間を掛けてでも戦力を集める筈だ――

「察知したタイミング次第だけど――急いで鎮圧できるほどの戦力を確保出来ても――実際に介入するのは2,3日ぐらい先だと思う――」
『察知されない様にカムフラージュし、同時にその場所が介入しにくい場所にあるならば実際に踏み込むのはそれだけ遅れると――』
「つまり――結局の所、その間で全ての決着を着ければ何の問題もないんだ。
 これまで3回の放送があったけど、何れもデスゲームに貢献した参加者には御褒美の話が出ていたよね」

 前述の通り、最初の放送では優勝者への御褒美を、
 2回目の放送ではキルスコアを上げた参加者に対するボーナスの検討の話を、
 そして先の放送ではこの後キルスコアを伸ばした参加者には追加支給品を与えるという話を、
 何れにしても殺し合いを促進させるものであるのは誰の目にも理解出来るだろう――
 だが、何故ここまで殺し合いを促進させる必要があるのだろうか?
 禁止エリアのルール等だけでも十分デスゲームを行う事が出来、遅くても6日目には決着が着く。
 しかし、促進させるという事はそれだけでは遅すぎるという事を意味する――
 つまり――

71 Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:33:00 ID:/eJ4eeQc0

「最初からこのデスゲームにはタイムリミットがあったんだ。
 管理局が介入してくるタイミングまでに全ての決着を着ける――
 そして、フィールドを覆う結界もその期間だけ維持出来れば十分だって事――
 その時間は管理局の動きや現状までの死亡者の数を踏まえて考え――
 約48時間――それがこのデスゲームの制限時間――」
『管理局が駆けつけるまでの時間としてはあまりにも短すぎます――それで、その制限時間を超過した場合はどうなりますか?』
「それに関してはまだわからない――フィールドを覆う結界魔法が解除される可能性は高いだろうけど――
 その内部にいる僕達が無事である保証は無い――」
『しかし、デスゲームが失敗した場合、プレシアはどうするでしょうか?』
「平行世界を渡る術を得ているのならば必要な道具だけを持って逃げれば済む話だね。
 そして条件を少しだけ変えて全く同じデスゲームを行う――
 でも、この可能性は低いと思う――」

 ユーノはプレシアが失敗した際にデスゲームをやり直す可能性は0ではないが低いと考えていた。
 確かに平行世界を行き来する術が無い限りプレシアを追う事は不可能だ。
 だが、このデスゲームを行う為に恐らくプレシアは数え切れないくらい数多くの平行世界に干渉をかけただろう――
 幾ら現状の時空管理局に平行世界を行き来する術を持っていなくてもそれだけ干渉をかければ何れは平行世界を行き来する者が現れる可能性が出てくる。
 そしてひと度その者が現れれば他の世界にもその手段が伝えられる――それにより管理局もその手段を手に入れるだろう――
 いや、今この瞬間にもその手段を得た者がプレシアを追っている可能性がある――
 今回は大丈夫であっても繰り返す内にリスクは大幅に高まるという事だ――

 故に――プレシアにとっては是が非でも今回でデスゲームを成功させに行く筈なのだ――
 プレシアがその対策を行っている可能性はある――が、仮にそうだとしてもリスクを最小限に抑える為に今回で決着を着けようとする事に変わりはないだろう――

「だから、やり直しが出来るとしてもプレシアは絶対に今回のデスゲームを成功させようと動く筈だ――
 そして、僕達にとっても今回だけがチャンスなんだ――
 プレシアは馬鹿じゃない――次行う時にリスクが大きいとわかっているならば、次は絶対に失敗しない様に今回以上に厳重な対策を施すはず――
 それこそ今度こそ止める事は不可能なぐらいにね――その為に、きっとまた多くの人を犠牲にする筈だ――
 それを止める為には――今回プレシアを止めなきゃならないんだ――僕が――





 僕が――止めなきゃならないんだ――」

72 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:39:00 ID:/eJ4eeQc0










『ところで――具体的な行動については何も決まっていないとのことですが――』
「いや、一応幾つかは考えているよ――」

 今後の行動方針は幾つか浮かんでいる。

 まず、当初の予定通り結界を破る手段の模索――前述のプランがほぼ潰れたとはいえ、諦めたわけではない。
 まだ見落としている何かがあるかも知れない、それを見つける為にも今後もジュエルシードや夜天の書等ロストロギアを集めていった方が良いだろう――

 次に首輪の解除――元々Lが行う筈だったそれをユーノが行うのだ。
 幸か不幸かユーノの手元には首輪が1つある。このまま工場かスカリエッティのアジトに向かい解析を行うのも1つの手だ――

 他に仲間達との合流もある、その為には人が集まっているであろう市街地やホテル・アグスタといった施設に向かう必要があるだろう――

「だけど、幾つか懸念があるんだ、まずはこれ」
 と、後方にある車庫を指す。残り人数が15人以下にならなければ開かない筈の車庫である。
『残り人数は19人――後4人死亡すれば開かれる筈ですね』
「そう、勿論放送を聞かない限り正確な人数は把握出来ない。でも、逆を言えば放送を聞けば人数は把握出来るという事なんだ――」
『恐らく次の放送で4人呼ばれる可能性が高い――つまり』
「次の放送直後、ここに向かう参加者が現れるという事だね
 立て札そのものはもう読めない様になっている、だけどその前に誰かが読んでいる可能性は十分にあるよ――
 その人物が殺し合いを止めようとしているなら良いんだけど――もしも逆だったら――」

 車庫内にある『何か』――それが何かは現状不明ではあるが、15人以下と指定している以上状況を変える物である可能性は高い――
 殺し合いを止めようとする者が手にすれば脱出の切り札もしくは抑止力と成り――
 優勝を目指す者が手にすれば他の参加者を一網打尽に出来るバランスブレイカーに成る――
 そして残り人数は19人――
 今現在も参加者が減少している事を踏まえるならばその封印が解かれるまで後僅かであり、既に解かれている可能性もある――
 その扉が開かれる瞬間は確実に迫っているのだ――

「出来れば僕達が手に入れたい所だけど、正確な死者の人数を把握出来ない以上手を出せるのは早くて次の放送後――」

 故に、確実に中身を手に入れるならば次の放送の時にもこの場所にいる必要がある――
 6時間で戻って来なければならない以上、この場合は行動範囲が大幅に絞られる事になる――

「でも――それでなくてもこの12時間は殆ど行動出来ていない――これ以上のんびりしている時間はない――」
『しかし、この中身を殺し合いに乗った者に奪われるのは避けたい所――』
「判断に迷うのが本音だね――だけど、気になるのは他にもあるんだ――」





 ここでユーノは今更ながらにチンクの考えていたプランを語る――
 ユーノがルーテシアと行動を共にしていた時にチンクと明日香と合流していた際に彼女が行おうとしていたプランだ――
 とはいえ、あの時は『脱出の為にレリック、聖王の器を見つけ出す』というあまりにも断片的な事しか語られておらず、
 またこの時のユーノはチンク達を別の意味での誤解や、ある意味ではオイシイオモイをしていた為、その事について深く考えてはいなかった――
 故に、この瞬間までその事を語らなかったのだ――

『レリック、聖王の器――チンクが考えていたのは――』
「そう――さっきJS事件の事を聞いたお陰で僕もチンクが何を狙っていたのかがわかったよ。
 彼女はゆりかごを起動して脱出に使うつもりだったんだ――
 だけど――そのプランも正直厳しいと思う――」

 ユーノがチンクのプランでは無理だと判断した理由――
 1つはレリックと聖王のゆりかごに何かしらの細工が施されている可能性だ――やはり、ジュエルシードと同様、殺し合いに使いやすく、脱出には使用出来ない様に細工されていると考えて良い。
 もう1つはゆりかごで結界を破る程の出力を引き出せるという確証が無いという事だ――

73 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:42:00 ID:/eJ4eeQc0





「とはいえ、話を聞いた所レリックにしてもゆりかごにしても放ってはおけないね――」
『ゆりかごに向かうという選択も視野に入れるという事ですね――レリックの方は――』
「確かあの時は病院に反応があったらしいけど、流石にもう持ち出されている可能性が高いから――何処にあるかは正直わからないよ――」
『この地に幾つあるかはわかりませんが放置は出来ませんね――』
「それに、明日香の持っていた夜天の書とジュエルシードも――」

 前述の通り、現状ジュエルシードと夜天の書では脱出は不可能と判断している。
 だが、仮に制限されていてもその力が驚異的である事に全く変わりはない。
 決して放置して良い代物ではないのだ。

『Ms.明日香は死亡したという話ですが――』
「裏を返せば、明日香を殺した人物が今ジュエルシードと夜天の書を持っているという事だよ――同時にその実力はあの状態の明日香以上――」
『更にジュエルシードと夜天の書が加わるならば――厄介な事になります――』
「出来れば、なのはかはやてが手に入れてくれれば良いけど――」
『その場合、Ms.なのはかMs.はやてがMs.明日香を殺したという事になるのですが――』
「いや、そういう意味じゃないから。だけど――実の所、それについて気になる事があるんだよね――」
『まだ何か――』
「明日香はあの時、何を願ったのか――僕達を皆殺しにする事が目的ならばその為に必要なのは――」
『力――』
「うん――きっと明日香は力を求めたと思う――それで――
 決して触れては成らない領域に手を出したのかも知れない――
 バルディッシュ――あの時の明日香の姿覚えているよね――」
『ええ、忘れやしません。あの姿は色こそ違うものの騎士甲冑自体はリインフォースのものと殆ど同じ――声も何処か似ていました――』
「声に関しては只の偶然だと思うけど――そもそもバリアジャケットは使用者のイメージによるものになる筈――
 例えば僕がレイジングハートを使ったからといって僕がなのはのジャケットを身につける筈はないし、
 ブレンヒルトのジャケットもフェイトのものにはならなかったよね――」
『Ms.ブレンヒルトがマスターのバリアジャケット身に着けたら自分は彼女に蹴り壊されていましたよ――特にソニックフォームの状態のものは――』
「だから――明日香が夜天の書を使ったからといってリインフォースの騎士甲冑を身に着けるなんてまず起こらない筈なんだ――」
『ジュエルシードの力によるものでしょうか――』
「じゃあ、ジュエルシードは何処からリインフォースの騎士甲冑を持ち出しているの?」
『夜天の書――いえ、幾らリインフォースの力を受け継いだとはいえ、あれ自体は管制人格や人工知能を有していない筈――』
「そう、普通に考えるなら明日香のイメージが優先されるべきなんだ。多分、白い色が彼女のイメージだよ――どうして白なのかはわからないけど――」
『まさか――』

74 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:47:00 ID:/eJ4eeQc0

「そう――ジュエルシードが明日香に力を与える為に夜天の書を闇の書の頃に戻して――いや、改変した可能性があるんだ――」
『言葉を返すようですが、ジュエルシード1個分の魔力分でなおかつ制限のある状況だから対処は可能だと口にしたのはMr.ユーノですよ?
 大体、細工を施されていると先程話したばかりではないですか――』
「うん――正直な所、これは考えられる最悪の仮説で僕自身それが起こる可能性は非常に低いとは思っている――
 妄想と言っても良い――
 でもね――
 仮に、明日香の願いに答えてジュエルシードがその力の全てを使って夜天の書を改変したとしたら――
 改変された夜天の書がジュエルシードに施された細工や制限を全て解いたとしたら――
 そしてそれらから解放されたジュエルシードが更なる力を夜天の書に与えたら――」
『可能性が低いとはいえ0ではないのが恐ろしいですね――』
「それだけじゃない、明日香は力を求めていた――
 もし、改変された夜天の書が明日香の願いに答えて周囲にある力を全て蒐集したとしたら――」
『かつての闇の書以上の脅威となりますが――本気でそれが起こると思っているのですか?』
「言ったはずだよ、妄想といっても良いって――」
『しかしMs.明日香は既に死亡しています――』
「だけど、その瞬間まではずっと明日香は持っていた。
 既に修復不能なまでに改変された可能性はあるし、ジュエルシードの力が今現在も改変し続けている可能性も否定出来ない――
 それに、もし次の持ち主がその力を不用意に使えば――」
『しかし、流石に最悪の事態となる前にプレシアが対処すると推測出来ますが――』
「うん、多分その事態に関しては想定済みだと思うし、仮に起こったとしても対処の用意はあると思う。
 さっきも言ったけど、ジュエルシードと夜天の書を同時に使わせる事は視野に入れていただろうからね――」


『――しかし、こうやって話してみるとこちらが何を考えても

 『プレシアは全てお見通しです、対策済みです、無駄です』

 という結論に陥ってしまうのですが。先程から全てこの結論に帰結していますよ』


「うん、正直な所、どんな異常事態が起こっても

 『プレシアならば対処出来ます』

 というオチになってしまうんだよね――」


『ですが――何にせよ夜天の書とジュエルシードも放置できませんね――』
「出来れば今誰が持っているのかだけでもわかれば良いけど――」

75 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:48:00 ID:/eJ4eeQc0





 と言いながらユーノは地図と名簿を眺める。次の行動を思案しているのは見て取れる。


 だが――バルディッシュにしてみればそれが明らかに奇妙であった――


 そして――







『Mr.ユーノ――貴方は何を考えているのですか――?』



 遂に、バルディッシュはユーノに彼の真意を問いかけたのだ――



「何って、これからどうするかについてだけ――」
『そういう意味ではありません、貴方が真剣に今後を考えているのは理解出来ます――しかし――
 何時もの貴方らしくありません――』



 その問いに対し、



「何時もの僕らしくない――それはどういう意味――?」
『先程の放送で、貴方が行動を共にしていたMs.ルーテシア、Ms.明日香、Ms.チンクの名前が呼ばれました――
 マスターやMs.シャマルの名前も――
 そして――貴方が信頼しているMr.Lの名前も――
 大切な仲間の名前が数多く呼ばれました――
 只のデバイスでしかない私でもマスターの死にショックが無いと言えば嘘になります――
 ですが貴方は――それに対しあまりにも淡々としています――
 先程の放送ではMs.ブレンヒルト達の死に対し悲しみを見せていたのに対し――
 今回はその様な様子が殆ど見られません――
 何時もの貴方からは考えられないという事ですよ――』





「バルディッシュ――君こそ妙に饒舌だね――何時もの君からは考えられないよ――」
『自分でもそう思います――もしかしたら、Ms.ブレンヒルトの影響かも知れません――』
「ブレンヒルトのお陰か――確かにそうかもね――」
『それで――貴方の方はどうなのですか――』





 何時ものバルディッシュならば気付いても指摘しなかっただろう。
 前述の通りインテリジェントデバイスはストレージデバイスと違い人工知能を有している。
 人工知能を有しているからこそ、インテリジェントデバイスは学習し――成長すると言っても良い。
 もしかすると――ブレンヒルトと行動した事によりバルディッシュは成長したのかもしれない。
 その成長がユーノの異変を指摘させたのだろう――

76 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:49:00 ID:/eJ4eeQc0





「――悲しいに決まっているよ――


 悲しくないわけなんて無いじゃないか――」





 その声は酷く震えていた――





「今すぐにでも大声を挙げて泣きたいよ――」





 その表情は今にも泣き出しそうであった――





「だけど――僕には足を止める事も、逃げる事も許されない――
 こうしている間にも誰かが殺されているかもしれないんだ――」





『それは理解出来ます――ですが――』





 ユーノの言葉は一見正しい――
 泣いている暇があるなら出来る事をやるのは当然の事だ――
 だが――何かがおかしい――
 ユーノの言葉はまるで――





『別にMr.ユーノがそこまで気負う事では無いのではないでしょうか?
 Ms.なのはやMs.はやてもこのデスゲームを止めようとしている筈です。
 もう少し彼女達を頼っても――』





「違うんだ――違うんだよバルディッシュ――
 僕は気付いたんだ――いや、最初から気付かなきゃいけなかった事なんだ――
 僕が原因なんだ――



 僕が――全ての原因だったんだ――」





 このデスゲームを行っている人物はプレシア・テスタロッサである。
 勿論、現時点で彼女が本物かどうかは不明であるし、彼女が黒幕とは言い切れない。
 だが――表に出ているのは確かに彼女だ。
 つまり、真贋はともかくとして彼女の存在が大きなウェイトを占めている事に変わりはない。
 そして――彼女の存在を考えるのならば――
 PT事件――プレシア・テスタロッサ事件を無視する事は決して出来ないのはおわかりだろう。

 PT事件の概要そのものはプレシアがジュエルシードを違法に使った事による次元災害未遂事件。
 その彼女の為にジュエルシードを集めていたフェイト・テスタロッサは重要参考人として罪に問われた。
 その罪は幽閉数百年以上の重罪。
 実際はリンディ・ハラオウン達の弁護やフェイト自身が管理局の嘱託魔導師となった事で実刑ではなく保護処分になったが――
 どちらにしてもそれは決して小さい罪ではない事はおわかりだろう。

 だが――そもそもの前提として――


 プレシア・テスタロッサがジュエルシードに手を出そうとしなければ――PT事件は起こらなかったのではなかろうか――?

77 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:50:00 ID:/eJ4eeQc0





「そう――プレシアがフェイトにジュエルシードを集めさせなければ――
 ジュエルシードがなのはの世界に散らばったりしなければ――


 いや――僕の一族が――僕がジュエルシードを見つけたりしなければ――


 PT事件は起こらなかったんだ!」





 そもそもジュエルシードはある遺跡から発掘された物でそれが輸送中の事故でなのは達の世界にばらまかれた。
 そして、発掘をしたのはスクライア一族で――現場指揮を執っていたのは当時9歳のユーノだった。


 言い換えればこういうことだ――


 PT事件の切欠を作ったのはユーノ・スクライアだと――


 つまり――このデスゲームの原因はユーノという事である。
 少々飛躍しすぎていると思う方もいるだろう。
 だが、IFの話に意味が無いとしてもユーノ達がジュエルシードを発掘したのが全ての始まりだという事は確かな話である――





『しかしスクライア一族はジュエルシードを発掘しただけ――Mr.ユーノには罪は――
 それに、Mr.ユーノが発掘しなくても誰かが発掘したでしょうし、プレシアが自力で見つけ出していた可能性も――』
「それだけじゃ無いんだ――気付いているかい――
 参加者の殆どはそれぞれの平行世界のなのは達、もしくは彼女達の仲間や関係者だという事に――」
『確かに参加者の多くはMs.なのはやマスターの仲間達や関係者でしたし、
 Ms.ブレンヒルトも彼女の世界のマスター達を知っていました。
 確かMr.キースレッドもMs.ルーテシアを知っていた様ですが――』
「そしてLも僕の世界のはやて達が保護した――
 明日香に関してはわからないけど、彼女もなのは達を知っている可能性は高いと思う――」
『マスター達の関係者が連れてこられているとしてそれがMr.ユーノと何の関係があるのですか?』
「大ありなんだ――その全ての始まりは何処にあるのか――
 PT事件――それが全ての始まりだったんだ。


 僕が――ジュエルシード集めになのはを巻き込んだりしなければ――
 なのはをこの道に引きずり込む事もなかったんだ――
 それさえなければ――ブレンヒルトやL――明日香達をこのデスゲームに巻き込む事は無かった筈なんだ!
 ジュエルシードを早く集めなきゃと焦ってなのは達に助けを求めたりしなきゃ良かったんだ――


 最初から僕1人でやろうとせず管理局に助けを求めれば良かったんだ――
 僕が――僕が――
 僕がみんなを巻き込んだんだ!!


 僕がなのはやフェイト、はやて達にブレンヒルトやL、明日香やルーテシアを!!
 そして僕の知らないなのは達の仲間を!!





 みんなを殺したんだ!! 僕が――!!」

78 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:52:00 ID:/eJ4eeQc0







 それに気付いたのは何時だったのだろうか?
 いや――もしかしたら最初から気付いていたのかも知れない――
 ずっとそれについて向き合おうとしていなかっただけなのかも知れない舵手奪取
 早々にルーテシアと出会ったから彼女を守る事を優先し――
 彼女達と別れた後はずっとブレンヒルトが傍にいた――
 仲間がいたからその事と向き合うのを先送りにしていたのかも知れない――
 向き合う切欠となったのは明日香がジュエルシードを発動し牙を向けた時――
 その対策を考える為にユーノはPT事件の事を思い返していた――
 そう――その時には全ての切欠が自分という事に薄々気付いていた――
 だが――その時のユーノは敢えてそうは考えないことにしていた――
 仮になのは達にそれを言った所で――
 『それはユーノ君のせいじゃないよ』――そう答えるのは容易に想像出来た――
 だからこそ、過去を悔やむよりも先の事を考える事にしたのだ――
 何よりも優先すべきはルーテシアと明日香の説得――
 それを考えるべきだと自分に言い聞かせ続けたのだろう――
 しかし――先の放送であまりにも多くの人が死んだ事が伝えられた――
 ルーテシアや明日香、フェイトやシャマルにL――
 彼女達の死がユーノに重くのしかかる――
 全ての切欠が自分にあると気付いた以上――
 その重圧は――15歳の少年には重過ぎたのだ――
 何よりも重いのは――誰もユーノを罪に問えない事だ――
 ユーノがした事は結局の所、ジュエルシードを見つけた事とジュエルシードを集める為になのはに助けを求めた事――
 それはなのは以外の誰であっても『ユーノのせいではない』と答えるだろう――





 では――決して問われる事の無い罪を犯した者は――





 一体、誰が裁き――赦すのだろうか――?





 何時しかユーノの目には涙が溢れ――その声には強い感情が込められていた――





「だから僕に止まる事は許されない――
 死んでいった皆の為にも――いや、このデスゲームに巻き込んでしまった全ての人の為にも――
 僕は――絶対にプレシアを止めなければならないんだ――
 それは全ての切欠になった僕がやらなければならない事なんだ――」





 そういう事だったのだ。
 ブレンヒルト達の死を気にしていないわけでも悲しんでいないわけでもなかった。
 むしろその逆――ユーノは彼女達の死に強いショックを受けていた。
 そして、その元凶が自分にあると気付いているからこそ――
 何としてでもプレシアを止める為に淡々と前に進もうとしたのか――
 深い悲しみを心の奥底に抑え込んだ上で――

 『ユーノが悪いわけではない』、『ユーノ1人の行動で全ての人間の運命が決まるなどおこがましいにも程がある』等という慰めが出来ないわけではない――
 しかし、それでは意味はない――ユーノの行動が全ての切欠というのは確かな事実なのだから――
 故に――ユーノがジュエルシードを見つけなければPT事件は起こらず、
 なのは達も魔法と関わることなく彼女達がこの殺し合いに巻き込まれ死ぬ事も無かったというのは正しい――

79 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:53:00 ID:/eJ4eeQc0





 だが――バルディッシュはそれを全て認めるわけにはいかない――





『Mr.ユーノ――貴方は大事な事を忘れていますよ――』
「――何を?」
『確かに貴方がジュエルシードを発掘しなければPT事件も起こらず、Ms.なのはも魔法と関わる事は無かったでしょう。
 きっとMs.ブレンヒルト達も殺し合いに巻き込まれる事は無かったでしょう――』
「そうだよ――」
『ですが――それがあったからこそマスターとMs.なのはは出会えた――
 そして、マスターとMs.なのはは友達になれたのですよ――』
「それは――」
『それだけではありません――闇の書事件――
 あの場にいた仲間が1人でも欠けていればMs.なのは達の街は滅び去り――
 闇の書は再び転生を繰り返し悲劇を繰り返していたかもしれません――
 つまり――Ms.なのはがいなければそうなっていたという事――
 そして――Ms.なのは達がその後管理局に入ったからこそ救えた多くの人々がいます――
 それは全て――貴方とMs.なのはの出会いが始まりでは無いのですか?』
「バルディッシュ――」
『同時に――それぞれの平行世界でもその出会いがあったからこそブレンヒルト達がマスター達と出会えた――
 Mr.ユーノ――貴方は彼女達の出会いまでも否定するというのですか――
 少なくても――Ms.ブレンヒルト達はマスター達と出会えた事を否定したりはしないでしょう――
 確かに――貴方の行動が多くの人々を死なせる結果を引き起こしたかも知れません――
 ですが――貴方の行動のお陰で多くの人々を出会わせそして救った結果もある事を忘れてはいけません――』



 ユーノの行動の全てが悪い方向に働いたわけではない――
 もし、なのはが魔法と関わる事がなければフェイトと出会う事も無く、フェイトはプレシアの人形として使い捨てられていただろう――
 なのは達がいなければ闇の書はなのは達の世界を滅ぼし再び転生を繰り返す、封印出来たとしてもはやて達を救う事は出来なかっただろう――
 そして彼女達がいなければ彼女達によって救われる多くの命が失われていた――JS事件の結末も最悪の結果を迎えていたかも知れない――
 同時に――ユーノとなのはの出会いが無ければそれぞれの世界でなのは達がブレンヒルト達と出会う事も無かっただろう――





『貴方が――いるからですよ――貴方がいるから全てが始まった――』







「そうだね――ありがとうバルディッシュ――僕が間違っていたよ――」





 そこには――ほんの少し笑みを浮かべる若き司書長がいた――

80 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:54:00 ID:/eJ4eeQc0










『と、実際の所状況は何も変わっていませんが――』
「とりあえず、僕を除いた18人の内で誰が味方かを整理しないと――」

 その内、相川始、アーカード、アレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、エネル、
 金居、キング、天道総司、柊かがみ、ヒビノ・ミライの計12人とは出会っていない為、敵か味方かすら不明瞭。

 残り6人の内、なのは、はやて、ヴィータはユーノも知る信頼出来る人物だ。
 ヴィータ辺りは片方のはやてを生き返らせる為殺し合いに乗る可能性は0では無いものの、魔法に関する分野でこの3人は信頼に値すると言って良いだろう。
「特にはやてだったら万が一夜天の書に異変が起こっても対処出来る可能性が高いし、3人の中で一番ジュエルシードに対する対処も出来ると思う」

 次にスバル・ナカジマ――
「確か、空港火災でなのはが助けた子だよね」
『ええ――あの立て札を破壊したのは彼女の可能性が高いでしょう――』
 車庫前にあった立て札は原型を留めない程粉々に砕かれていた。
 殺し合いに乗った参加者が読む事を避ける為に行ったのは明白ではあるが、普通に考えて原型を留めない程粉々にするのは手間が掛かる。
「だけど彼女の能力を使えば――それは容易だと――」
 しかし、スバルには振動破砕という対人対物に対し驚異的な力を発揮するISがある。直接触れなくても相当な威力を発揮するそれならばここまでの破壊は可能ということだ。
『それとは別にしても、JS事件後から連れて来られているならばMs.なのはやMs.はやてに負けるとも劣らない実力を持っています――』
「問題はギンガ達が死んだ事で殺し合いに乗る可能性が0じゃないという事だね――」
『Exactly――彼女は強いからその可能性は低いとは思いますが――』
 味方ならば頼もしい――が、敵に回って欲しくないのが彼女であった――

81 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:55:00 ID:/eJ4eeQc0

 そしてクアットロ――
「彼女の事は確かチンクも話していたよ――確か彼女の姉だったね――」
『その通りです――が、彼女は一番の危険人物です』
 JS事件において、スカリエッティの戦闘機人の半数以上は更正プログラムを受け管理局に協力する選択を選んでいる。
 だが、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの4名はその選択を選ばず収監されている。
 とはいえ、ウーノの場合はスカリエッティに従う以外の生きる理由を持たないものだったし、
 トーレとセッテは共に敗者としての矜持によるものであった――
 が、クアットロはそもそも人間達に譲歩するという発想が無いという事によるものだった。
 同時に、JS事件においてもスカリエッティ達が次々捕まった状況でも冷徹にその場から撤退するという行動を取った。
 つまり――彼女の性格上、他者を助ける為に戦うという事がまず有り得ないのだ。
 仮にチンクやディエチが死んでも彼女にとっては手駒を失った程度の事でしか無いだろう。
「ということは、当然なのは達は彼女に対して警戒しているって事だよね」
『ええ、JS事件を知っている者ならば皆――』
「そして、彼女は頭が切れる反面、直接的な戦闘力はそれ程高くない」
『能力さえわかっているならばMr.ユーノでも対処は可能です』
「だったら彼女と接触してみる価値はあるね」
『Ms.チンクの事が気に掛かるなら止めておくべきです、彼女の死に気を止める様な人物では――』
「だからだよ、彼女が此方に協力してくれる可能性は――高いよ」
 客観的に考えればクアットロは誰もが警戒すべき人物である。
 だが、参加者に管理局の人間が数多いならば彼等を通じてクアットロに対する警戒を強める者は多くなる。
 クアットロを保護しようとする者は彼女と同じ側にいるチンクやディエチ、そしてルーテシアぐらいのものだろう。
 つまり、最初からクアットロには敵が多いという状況ということだ。
 更に彼女自身の戦闘能力はさほど高くはない――ISのシルバーカーテンにより翻弄される可能性は高いが、身体能力は普通の人間より強い程度――
 能力にさえ気を付ければ対処は十分可能だ。故に彼女単独で勝ち残るのは非常に厳しいという事になる。
 同時に――頭の回る彼女であれば早々にその事実に気が付くはずだ。
 ならば彼女はどう動くだろうか、集団に入り込もうとする筈だろう。
 かといって人知れず他者を殺したり集団を瓦解させたりはまずしない、
 そういう事が出来るのは他者に知られないという前提が必要だからだ。
 他者から警戒されている状況でそれを行えば真っ先に疑わせすぐさま窮地に陥ってしまう、
 その事が理解出来ない彼女ではない、孤立する危険性のある愚行を考え無しにするのはまず有り得ない。
 そして残り人数は19人、ここまで状況が熾烈ならば彼女自身是が非でも自身の味方――手駒を確保しようと躍起になるだろう。
 故に――彼女自身不本意ながらも、管理局に協力する事も辞さない可能性は高いという事だ。
『成る程――しかし、先の放送で主催者側にスカリエッティがいる事はほぼ確実。彼等が彼女に参加者を殺す役割を与えているという可能性はあるのでは?』
 バルディッシュの仮説はクアットロが主催者側の人物という事だ。
 ユーノの見立てではチンクは主催者側にスカリエッティがいる事を知らなかったが、クアットロまでそうである保証はない。
 主催者側にいるスカリエッティ達がクアットロに参加者を殺す役割を与えた可能性はある――
「0では無いけど――その可能性は低いよ」
 しかし、ユーノはそれを否定する。
 その理由は至極単純、クアットロにその役割を与える旨みが殆ど無いからだ。
 彼女にその役割を与えようが与えまいが、周囲の警戒が強い事に変わりがない。
 状況的には圧倒的に不利なのだ――せいぜい支給品を若干優遇させる程度の事しか出来ないだろう。
 また、それ以前に彼女は性格的にも能力的にも最前線での戦いには全く向いていない。
 彼女は命が懸かった状況ならば逃走を選択するはず――
 故に彼女にその役割を与える事が不自然なのだ。
 それならば最初からクアットロを参加させずトーレかセッテを参加させてその役割を与えれば良いし、
 もしくはチンクかディエチにその役割を与えれば良かっただろう。
 故に――クアットロが主催者側の人間という可能性は低いという事だ。
「勿論、警戒すべき人物なのは否定しないよ――でも、それは他の皆にも同じ事が言えるよね」
『Yes――』

82 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:56:00 ID:/eJ4eeQc0

「むしろ――僕としては、彼女の知恵を借りれるならば借りたいと思うんだ。
 さっきも言ったけど恐らく生半可な作戦はほぼ確実にプレシアに読まれている――
 首輪の解除にしても単純にそれを行えるかは正直微妙――」
『その通りですね――その為に危険人物である彼女の力も借りたいと?』

「多分――L自身も首輪解除の為に戦っていた――
 でも――そのLもプレシアの前には為す術無く散っていった――
 Lは本当に優秀だよ――この地にいる誰よりも優秀な探偵だ――
 残念だけど――僕ではLを越える事は決して出来ない――
 いや――きっとそれは他の誰にも無理な事だと思う――
 でも――一人では越える事が出来なくても――

 二人なら――Lに並べる、二人なら――Lを越せる

 僕はそう思っているよ――だから、仲間達の力を集める事が出来れば――」

『Mr.Lが敗れたプレシアに――勝つ事が出来るというわけですね』
「その通り――だからまずは仲間達と何とかして合流しないとならないんだ。なのはやはやて達とね――」


 その瞳には明らかな強い決意が込められていた――
 同時に――先程までに見られた追いつめられている様子は既に無い――


「――ただ、何処に向かうかはまだ決まってないんだよね――どうしたら良いだろう?」
『禁止エリアを踏まえるならば、市街地方面から此方に向かう参加者が現れる可能性は高いでしょうが――』
 今回禁止エリアに指定された1つの場所が地上本部のあるE-5、既に隣接するE-6も禁止エリアになっており市街地から離れる参加者は出てくるだろう。
「この配置だと、ゆりかごに意識を向けさせようという感じもあるね」
 さらにH-6とI-7が指定された――既にH-4が禁止エリアとなり西側が海に囲まれている事を踏まえ、ループを使わない限り移動ルートは大幅に絞られる。
 つまり、そこからゆりかごを意識させる狙いも十分にあるという事だ。
「多分、なのは達もゆりかごの事には気付くはず――そうだゆりかごと言えば――」



 それは、先程はどうしても聞けなかった事――



「バルディッシュ――そのJS事件で僕はなのはの――力になれたかい――?」



『ええ、自分の世界のMr.ユーノは――Ms.なのはやマスター達の力になれましたよ――』
「そうか――」
『詳しい事を話しますか?』
「いや、それだけで十分だよ――」





 自分がなのは達の力になれた――それがわかっただけでも少年の心は十分に満たされていた――

83 Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 17:57:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ、確かまだ1人残っていましたね』
「ヴィヴィオ――確かJS事件でなのは達が保護した女の子だったね」
『ええ、聖王の器でもあり、ゆりかごを動かす鍵でした』
「彼女も探さないといけないね」
『お願いします――きっとマスターも『ヴィヴィオを助けてあげて』と願っている筈です』
「フェイトの声が聞こえて来そうだよ――でも、僕彼女の事を全く知らないんだよね」










『確か、声がMr.ユーノと似ています』
「僕は男だよ」
『しかし似ています』
「全然ヒントになっていないよ――」





【1日目 夜】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.何処へ向かおうかな?
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除。
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

84 ◆7pf62HiyTE :2010/04/16(金) 18:02:00 ID:/eJ4eeQc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>62-71が前編『Lを継ぐ者/Sink』(約28KB)で、
>>72-83が後編『Lを継ぐ者/あなたがいるから』(約28KB)です。

今回のサブタイトルの元ネタは
『Lを継ぐ者』……『デスノート:リライト2 Lを継ぐ者』(TVアニメ版総集編)〔注.本ロワのLはアニメ版ではなく実写版出典〕
『Sink』……『金田一少年の事件簿』ED『Sink』
『あなたがいるから』……『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』主題歌『あなたがいるから』
以上、3つを『仮面ライダーW』風のサブタイトルにしました〔注.なお、『仮面ライダーW』に英語のサブタイトルはありませんが、元ネタの都合上そうせざるを得なかった(だって、金田一の曲名で手頃なの無かったんだよ!)〕

というわけでサブタイトルだけで日本を代表する探偵大集合させてしまいました。しかも都合がよい事(偶然です)に今夜は『名探偵コナン 漆黒の追跡者』放送日&明日は『名探偵コナン 天空の難破船』上映開始日、今夜は探偵祭り♪

リリカル全然関係ねぇお……

85 リリカル名無しA's :2010/04/16(金) 20:54:42 ID:E5q./8iY0
投下乙です
まさかユーノでここまで濃い考察話になるとは想像もしなかったぞ
これは予想外
そうか…良くも悪くもユーノの一族から始まってたのか
言われて気が付いたよ

86 リリカル名無しA's :2010/04/17(土) 11:11:44 ID:7Nhuzm920
投下乙です
ユーノ君カッコいいな
そうだな、ユーノ君がいたからみんなの出会いがあったんだよな(バルディッシュナイスフォロー!)
1期の頃から一人で背負いこもうとするきらいがあったけど、よかったよかった
ああ、声が似ているも何も中の人g(ry

87 リリカル名無しA's :2010/04/17(土) 13:57:28 ID:8WgSGZyk0
投下乙です
ようやくユーノが濃い考察をした!w
今まで散々だったからなぁ……
ともあれ今後ユーノがどう活躍するのか楽しみです。
無事他の対主催と合流できるか……距離的にはホテルが近いけど……?

88 リリカル名無しA's :2010/04/17(土) 21:31:35 ID:pMGUTQ06O
投下乙です
ユーノがカッコイイ!!今までルーテシアの裸体を観察したり胸に挟まれたりチンクの大事な部分を見たりブレンヒルトのパンツを何度も拝んだりサービスシーンを披露していたりしたのが嘘のようなカッコ良さだ!!
ユーノの今後の活躍が楽しみです。クアットロと組むことは叶うのだろうか…?

89 リリカル名無しA's :2010/04/19(月) 22:55:41 ID:jXDmTmyk0
―― 使いすぎじゃね
読んでて気持ち悪くなる

90 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:34:18 ID:FwLcIe6A0
リインフォース、アルフ、リニス、ウーノ分を投下します

91 暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:36:22 ID:FwLcIe6A0
 ほの暗い闇の中を蠢く、微かな金属音が2つ。
 さながら小さなネズミのように、屋根裏を這いずり回るのは、1人の融合騎と1匹の使い魔。
 眼下の廊下から漏れ出している、ぼんやりとした電灯の光だけが、この闇の中の光源だった。
《しかしまぁ、ホントに入り組んだ構造になったもんだよ》
 額に皺を寄せながら、使い魔アルフが念話でぼやく。
 肉声での会話をシャットアウトしたのは、盗聴の危険性を考慮した結果だ。
 下の廊下には、ところどころに監視カメラが配置されている。であれば姿のみならず、声まで盗み聞きされる可能性も否定できない。
《やはり、元の時の庭園とは違うのか?》
《そりゃあ、元は別荘施設だったからね。こんな研究室みたいな作りにはなってなかったさ》
 先を行く融合騎リインフォースの問いかけに、答えた。
 かつてのプレシアの研究施設であった時の庭園だが、元々は居住スペースとして設計されたものを、研究用に改築したに過ぎない。
 デバイスルームや研究室こそあれど、それも必要最低限のものであり、あくまでオプションでしかなかった。
 だが今彼女らが潜入しているこの場所は、ただの別荘にしてはいやに複雑な構造になっている。
 廊下にいくつもの扉が並ぶその様は、むしろ時空管理局本局や、大型の研究所を彷彿とさせた。
 無機的かつ平面な壁の様子は、まるで病院の廊下のようで、生活感が感じられない。
《でも、それ以上に分からないのはこの世界そのものだよ。結局、ここは一体どこなんだ?》
 奇妙なのは時の庭園の構造だけではなかった。
 それ以上に不可解なのは、この世界だ。
 転移魔法の着地点は時の庭園のすぐ傍だったが、その周囲を見渡すだけでも、その異質さは見て取れる。
 辺りに散乱する遺跡らしき構造物は、どれもこれも見覚えのないものばかり。
 空気に漂う匂いからは、文明はおろか、自然の気配すら感じられなかった。
 既に滅亡した次元世界だということなのだろうか。
 転移座標から正体を勘ぐろうにも、提示されたのは未知の座標。つまり、まったくのお手上げだった。
《恐らくは――アルハザード》
 ぽつり、と。
 呟くように響く、リインフォースの念話。
「!」
 がん、と。
 返ってきたのは言葉ではなく。
 天井裏の低い天井に、盛大に頭をぶつけた音だった。
《アルハザード、って……そんな馬鹿な。本当に、現存していたっていうのかい……?》
 痛む頭を抑えながら、震える声でアルフが尋ねた。
 それが本当だというのなら、大問題だ。
 アルハザードといえば、幾多の伝承の中で語り継がれる、超古代文明世界の名前である。
 その歴史は古代ベルカよりも更に昔に遡り、その上その古代ベルカよりも、更に優れた技術力を有していた世界だ。
 未だ発見もされておらず、そのあまりにも現実離れした名声から、存在そのものを疑われた、まさに魔法の理想郷。
 そしてプレシアの娘・フェイトの使い魔であったアルフには、更にそれ以上に重要な意味を持つ名前でもある。
 アルハザードは、プレシアが実娘アリシアを復活させる技術を求め、ジュエルシードによって渡航を図った目的地でもあるのだ。
 そしてその桃源郷が、今まさに彼女らのいるこの場所だとするのなら。
 あのプレシア・テスタロッサは、虚数空間の漂流の末に、本当に目的地にたどり着いたということになるではないか。
《そうなのだろうな。この地の空気には覚えがある……そしてそれは、かつてのベルカの地のそれとも違う匂いだ》
《空気に覚えがある?》
《そもそも古代ベルカの魔法技術は、アルハザードとの交流によって発展したものだからな》
 だとするなら、それも真実なのだろう。
 リインフォースがいうには、現代においてロストロギアと呼ばれているベルカの遺産は、
 より優れた技術力を有した、アルハザードからの技術提供によって誕生したものなのだという。
 つまりアルハザードとは、この夜天の書の管制人格にとっては、第二の故郷にも等しい場所ということなのだ。
 そのリインフォースが、この地に漂う魔力の気配に、ベルカのそれとも異なる懐かしさを覚えている。
 ならば真実、この場所は、あの御伽噺の理想郷ということに他ならない。

92 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:39:12 ID:FwLcIe6A0
《……仮にここがそうだとすると、なおさら分からなくなるね……目的地にたどり着いたっていうのなら、何であいつはあんなことを?》
 思い返されるのは、一ヶ月弱ほど前の地獄の光景だ。
 転移魔法を行使し地球を発つ前、彼女らの暮らしていた海鳴市は、プレシアの軍勢の手によって壊滅した。
 未知の技術を取り込んだ大軍団を前に、迎撃に出た魔導師達は、1人残らず返り討ちにあったのだ。
 アルフの元の主人であるフェイトも、そのフェイトやリインフォースを救ったなのはも、あの凄惨な虐殺の果てに死亡している。
 今こうしてリインフォースについているアルフもまた、血と炎の最中で死にかけたのだ。
《プレシア・テスタロッサの目的は、娘アリシアの蘇生……だったな》
《あいつにとってはそれが全てで、他のことなんてどうでもいい、って感じだった。
 その目的を果たす手段を手に入れたのなら、今更他の世界に攻め込む理由も……フェイト達が殺される理由も、ないはずなんだ》
 不可解な点は、そこだった。
 かつてプレシアが事を起こしたのは、アルハザードへの到達という、唯一無二の目的のために他ならない。
 そしてその目的が達成された今だからこそ、あの襲撃の動機が分からなくなる。
 望みは全てアルハザードで叶うというのに、何故彼女は、わざわざ他の世界への遠征を実行したのか。
 管理局に察知されるリスクを冒してまで、今さらよそにかかわる理由など、プレシアにはないのではないのか。
《……何にせよ、調べてみる必要がありそうだな》
 がたん、と。
 念話に合わせ、前方から音が聞こえてくる。
 アルフがそちらの方を向けば、これまで以上に強い光が、眼下の廊下から差し込んでいた。
 金網状のカバーをリインフォースが外したらしい。
《そこに端末がある。幸い、監視カメラもない。この城の中枢へのハッキングを試してみる》
《ハッキング、って……あんた、できるのかい?》
《言っただろう?》
 ふわり、と闇に揺れる銀髪。
 くるり、とこちらを向く真紅の瞳。
 穴へと身を乗り出すような姿勢から、リインフォースがアルフの方へと首を向ける。
《このアルハザードは、私の第二の故郷だと》



 セキュリティを解析。
 ファイアウォールの構造を理解。システムの穴を探索し、突破。
 転送される情報を取捨選択。余剰プログラムを受け流し、必要と思しき情報を取得。
 頭部のメイン回路へと流れ込んでくるのは、複雑な数列で構成された構造式。
 それらを1つ1つ読み解いていき、サイバーデータの深淵へと泳いでいく。
 目を閉じたリインフォースの右手は、廊下に設置されていたコンピューターへとかざされていた。
 手のひらに浮かぶ銀の光は、ベルカ式の三角魔法陣。
 今まさに黒衣のユニゾンデバイスは、この時の庭園のサーバーへの不正アクセスの真っ最中だった。
《ホントにやってのけるとはね》
 感心したようなアルフの念話が、頭の片隅に響いている。
 彼女はリインフォースの傍らに立ち、敵の襲来を察知すべく、警戒態勢を保っていた。
 こうして無防備な姿を晒し、ハッキングに没頭することができるのも、彼女が見張ってくれているおかげだ。
 この狼の命を拾ったのが、人道的のみならず戦力的にも正解であったことを、改めて理解させられる。
《間もなくメインサーバーに到達できる》
 いよいよ大詰めに近づいたと、口にした。
 彼女がこのハッキングを為しえたのは、他ならぬその出自のおかげであった。
 大規模な魔法文明を誇っていたアルハザードでは、この手のデータも魔法術式で構成・管理されている。
 ミッド式でもベルカ式でもない、言うなればアルハザード式だ。並の魔導師や騎士では、解析することすら敵わないだろう。
 しかしこの場にいるのは並の騎士ではない。
 古代ベルカ最大級のロストロギアの1つ・夜天の魔導書の管制人格だ。
 アルハザードの恩恵を最大限に蓄えただけに、アルハザード式の術式にも、ある程度の心得を有している。
 加えてその身はデバイスである。プログラムの解析や操作には、生身の人間よりも長けていた。
 おまけに彼女のスペックは、そんじょそこらのデバイスの比ではない。
 幾多の魔術を蒐集・処理することを義務付けられ、それ相応の演算能力を与えられた、言うなれば史上最高峰のスーパーコンピューターだ。
 この手の作業に関しては、唯一にして最強の専門家と言えるだろう。

93 暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:40:33 ID:FwLcIe6A0
《侵入成功。これは、爆発物の制御システム?》
 メインサーバーへと到達。
 そしていの一番に上げたのは、怪訝な響きを伴う声だった。
 最初に目に留まったデータは、何らかの爆弾の起爆システムを管理するためのものだ。
 質量兵器の管理システムとは、この場には余りにも似つかわしくない。
 魔術の理想郷たるアルハザードらしくもないし、アリシアを蘇生させたがっているプレシアらしくもなかった。
《次は……名簿か?》
 故に次に開示されたデータに、あっさりと意識の矛先を向ける。
 そして今度は深く興味を示し、廊下の端末に映像を映した。
 かつかつと歩みの音が聞こえる。それに気付いたアルフが、モニターを覗き込んだのだろう。
《高町なのはに、フェイト・テスタロッサ……プレシアが殺して回った人間の目録とか?》
《いや、それにしては妙だ。ユーノ・スクライアが生存扱いになっている》
 表示されたのは五十音順に並べられた、合計60人の名の連なる名簿。
 そしてその名前のすぐ横に、「生存」ないし「死亡」のいずれかが追記されていた。
 これも一見しただけでは、意味の理解に苦しむものだ。
 なのはやフェイト、ヴォルンケンリッターらが死亡しているのだから、
 アルフが言うように、既にプレシアが殺した者と、これから殺す者の一覧表にも見える。
 だがそれでは、ユーノが生存にカテゴリされている理由が分からない。彼もまた海鳴の戦闘で、間違いなく死亡したはずだ。
 加えてなのは、フェイト、はやての3人の名前が、それぞれ2つずつ用意されているのも気になる。
 フェイトは両方死亡だったが、なのはとはやては片方ずつ死んでいた。
 これは一体何を示すものなのだろうか。他のデータと比較してみれば、何か分かるかもしれない。
 更なる解析を進めようとした矢先、
《待った》
 アルフに、制止の声をかけられた。
《臭いと音が近づいてきてる。監視がこっちに向かってるみたいだ》
 その言葉にコンピューターへのアクセスを解き、瞼を持ち上げ瞳を見せる。
 赤い双眸の先の使い魔は、耳と鼻をひくつかせていた。
 イヌ科の嗅覚と聴覚を信頼するなら、まだ若干の余裕はあるはず。
 しかしそれも、この場から天井裏へ戻るのに利用した方が有意義だ。
 よってここは素直に従い、元の屋根裏へと飛行する。
 監視の目が近づく前に、極力音を立てぬよう留意して、金網状の蓋を戻した。
《あの卵メカか》
 ややあって、眼下に現れた機影。
 その楕円形のフォルムを見据え、忌々しげにアルフが呟く。
 あれは海鳴の戦闘にも顔を見せていた、正体不明のロボット兵器だ。
 魔力を通さない特殊なフィールドによって、なのは達ミッド式の魔導師は、大いに苦戦を強いられていた。
《……そういえば、何故監視が配置されているんだ?》
 ふと。
 疑問に思い、それを思念の声に乗せる。
《何故って?》
《よく考えてもみれば、ここは秘境中の秘境のはずだ。外部からの侵入者に気を配る必要は、皆無と言ってもいいと思うのだが》
 それが疑念の正体だった。
 ここは失われた地、アルハザード。
 管理局150年の歴史をもってしても、未だ現存を確認できず、半ば御伽噺扱いさえされている場所である。
 こんな所に侵入できる人間など、普通はいないと考える方が自然だ。
 であれば、申し訳程度の監視カメラはまだしも、わざわざ制御の手間を割いてまで、あのロボットを配備する理由が見つからない。
 あるいは、
《……既に見つかっているのか?》
 こちらの侵入を察知し、その捕縛のために放ったというのなら、話は別だが。

94 暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:41:51 ID:FwLcIe6A0


(ガジェットドローンが配備されている……?)
 モニターに映された自律兵器を、使い魔リニスは怪訝な顔つきをして見つめていた。
 事が起きたのは、間もなく夜も更け始めようかといった頃。
 ちょうど転送魔法陣の移動について、モニターの映像ログを漁って調べていた時のことだ。
 デスゲームの参加者達の認識に沿うならば、
 吸血鬼アーカードの遺体が燃え尽き、八神はやてが従者のデイパックを回収した前後といったところか。
 地上本部の崩壊に伴い魔法陣が一旦消滅し、直後に地下に出現したことは、映像から確認することができた。
 誰が何をしてそうなったのかを調べようとしたのだが、
 転送魔法陣に関するデータにはプロテクトがかけられており、リニスの権限では閲覧できない。
 それでより上位の管理権限を持つ存在――プレシアが一枚噛んでいる疑いは固まったが、しかしそれ以上のことはもう分からない。
 ここまでかと落胆していた時に、ふと何の気なしに庭園内の監視カメラへ視線を飛ばすと、そこに映っていたのはガジェットドローン。
 このような経緯を経て、現在に至るというわけだ。
(プレシアが私を監視しているのかしら?)
 最初に考慮した可能性は、それだ。
 オットーの起用といい今回の件といい、どうにも自分は、プレシアに疑われているような気がする。
 とはいえ翻意を抱えているのは間違いないので、弁明のしようがないのが現実だ。
 そしてだからこそこの行動が、自分を警戒しているから、という風に結論づけることもたやすい。
 妙な行動を起こした時に、即座に始末できるように、各所にガジェットを配置したのではということだ。
(でも、それなら精神リンクを繋ぎ直せばいい)
 しかしよくよく考えてみれば、その可能性は薄いかもしれない。
 何せ、リニスはプレシアの使い魔なのだ。
 互いの行動を察知できる、精神リンクという手段を使えば、従者の謀反は主君に筒抜けになる。
 ならばわざわざ監視員を増やす必要はない。むしろ視覚のみに頼るのは、より不確かな手段と言っていい。
(なら、ナンバーズ達に何かが?)
 それなら監視の対象は自分ではなく、あの機械仕掛けの傭兵達だろうか。
 なるほど確かに、客観的な目で見れば、連中も自分と同程度にはいかがわしい。
 何せ“提供者”からしてああなのだ。その面の皮の下で何を考えているのか、分かったものではない。
 それこそこうして味方を装い、信用させたところを裏切って、アルハザードの技術をかすめ取ろうとしても不自然は――
「……?」
 と。
 その時。
 ぴぴぴぴ、と耳を打つ音があった。
 不意に鼓膜に飛び込んできたのは、コンピューターから響く電子音。
 それもこれはアラートだ。何かシステムのトラブルでもあったのだろうか。
 警告を示すアイコンを選択し、報告バルーンを展開する。
 そこに記載されていたのは。
「……っ!」
 不正アクセスの報告だった。
「侵入者っ!?」
 くわ、と瞳が見開かれる。
 さぁ、と顔色が蒼白となった。
 血の気は見る間に引いていき、顔中から嫌な汗が流れた。
 不正アクセスとはすなわちハッキングだ。
 こちらのコンピューターの所在が割れたということは、その時点で外部に居場所を察知されたことを意味する。
 加えてハッキングに利用した端末は、この庭園の廊下のコンピューターだ。
 外部からどころではない、内部からの不正アクセス。
 すなわちそれは、下手人であるハッカーが、ここに侵入を果たしていることに他ならない。

95 暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:43:09 ID:FwLcIe6A0
「くっ!」
 逸る気持ちを抑えながら。
 しかし目に見えた狼狽と共に。
 リニスは制御コンピューターを操作し、全監視カメラの映像を展開する。
 ゲームのフィールドなど後回しだ。外界に構っている暇などないのだ。
 すぐさま庭園内の映像が、ばあっとモニターを埋め尽くす。
「何故だ……何故気付けなかったッ!?」
 右を見ては、左を見て。
 上を見ては、下を見て。
 忙しなく視線を泳がせながら、苛立ちも露わな声を上げる。
 そうだ。
 何故こんな単純な理屈に気付かなかった。
 気付こうと思えば、気付けるはずだったのだ。
 そもそも監視というものは、味方を対象にした概念ではない。外敵が領地に侵入するのを防ぐため、というのが大前提だ。
 それこそ普通に考えれば、味方よりも敵の方に目を向けて当然なはずだった。
 このアルハザードは誰も特定できない、などという言い訳は、今となっては通用しない。
 現に混沌の神を名乗るカオスなる者が、この殺し合いに一度介入しているのだから。
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 過去を悔やむ暇があったら、それを現在の行動に回すべきだ。
 いかにゲームに反対しているとはいえ、プレシアを傷つけるつもりはリニスには毛頭ない。
 故にこうして、プレシアを害するであろう者を、血眼になって探すのも当然の帰結。
 敵はまだこの施設内にいるはずだ。ならば、何としても見つけ出さなければ。
 いや、その前に警報か。庭園の他の人間達にも、警報ベルでこの非常事態を――
「……けい、ほう――?」
 はっ、として。
 警報装置に伸ばした手を、止める。
 焦りも悔やみも苛立ちも、すぅっと遠のいていくのが分かった。
 狼狽に開かれていた瞳が、それとは異なる感情によって、再び丸くなっていく。
 茫然自失とした表情を浮かべながら、やがてコンソールからも手を離した。
 そう、それだ。
 外敵の可能性を排除したのは、それが原因だったのだ。
 そもそもあのガジェットドローンは、プレシアの手によって放たれた可能性が高い。
 そしてもし仮にプレシアが敵の存在を認知し、その対策としてガジェットを配備したというのなら、
 この場の全員に注意を促すためにも、警報ベルを鳴らして然るべきはずなのだ。
 しかし、この現状はどうだ。
 今この時の庭園の中では、物音1つとして鳴っておらず、非常灯の光っている形跡もない。
 故にリニスはほとんど無意識に、敵襲の可能性を否定して、味方を疑いにかかったのだ。
 だが、これが本当に、敵に対する警戒態勢だとしたら。
 敵襲を理解していながら、警報を鳴らさなかったとしたら。
「私は……プレシアに見捨てられたの……?」
 仮にこの非常事態を、“全員”に通達する気がなかったとするなら。
 思い当たる節はいくつかあった。
 側近であるはずの自分を差し置いてまで、余所者に放送という大役を任せたこと。
 本来なら自分が管理するであろうボーナス支給品システムに、アクセス権限を設けたこと。
 転移魔法陣の移動を、こちらに相談することなく強行したこと。
 そして、その魔法陣のデータの閲覧が不可能だったこと。
 のろまな手つきでコンソールを弄れば、他にも様々な動作が、アクセス権限によって制限されていた。
 それこそ、これまでなら問題なく実行できたような、首輪の制御システムへのアクセスさえも、だ。
「私にできることは……もう、何もない……?」
 無力感が、声に滲んだ。
 虚脱感が、顔に浮かんだ。
 これまで有していたアクセス権限の、その大半が凍結された。
 それが意味することは、プレシアが自分を必要としなくなったということ。
 お前はもう当てにしていないから、非常事態を伝えるつもりもない、と、暗に示しているということだ。
 そしてそれは、自分が殺し合いのフィールドに働きかけることが、事実上全くの不可能となったということを意味している。
 そのくせモニターの監視機能は、未だ使用可能ときている。
 これはなんという皮肉だ。
 なんと陰惨で痛烈な三行半だ。
「指をくわえて見ていろと……そう言いたいのですか、プレシア……?」

96 暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:43:56 ID:FwLcIe6A0


「さすがにプレシア・テスタロッサの使い魔……全くの馬鹿というわけではない、か」
 ぽつり、と呟く女の声。
 落ち着いた大人の女性といった声音の主は、黄金色に輝く双眸を、手元のモニターへと向けていた。
 そこに映し出されているのは、かの猫の使い魔リニスの姿。
 己の無力と絶望を噛み締め、呆然とした表情で、1人うなだれる無様な姿だ。
 とはいえ自力でそこまでたどり着けたというのは、さすがは大魔導師の眷属といったところか。
(深刻に捉えすぎてるような気がしないでもないけど、まぁいいお灸にはなったんじゃないかしら)
 リニスの推測通り、彼女は業を煮やしたプレシアの手によって、自らの管理権限を剥奪されていた。
 それまで担当していた職務の数々は、このモニターを見やる女を含んだ、戦闘機人達に分配されている。
 最初はプレシアも、外様に権力を与えていいものか少々迷ったようだが、
 組織のけじめを保つためにも、結局はこうしてリニスへの懲罰を優先したのだ。
 唯一使い魔の認識に間違いがあるとするなら、
 これはあくまで力差を明確に示すための、一時的な罰則に過ぎないということか。
 プレシアが言うには、あくまで第四回放送までの間頭を冷やさせるためのもので、
 それで効果が見られたのなら――余計な行動を取る気が失せたようなら、厳重注意の後に権限を元に戻すつもりだという。
 それにああも深刻なショックを受けているのは、やはりやましい意思があったということなのだろうか。
(さて……問題は彼女よりも、侵入者の方ね)
 思考の矛先を切り替え、監視カメラの映像をシャットアウト。
 その手元に映るモニターへと、ガジェットドローンの制御プログラムを呼び出す。
 リニスの読み通り、この女は――いいや他の戦闘機人もまた、侵入者の存在を認知していた。
 それこそ唯一彼女だけが、蚊帳の外へとはじき出されていたということだ。
(マリアージュはすぐに実戦投入可能だけど、今はまだ必要でもないか)
 視線のみを傍らに流し、内心で呟く。
 その目線の先に存在するのは、ガレアの王と称された少女。
 小柄な身体を薄物に包み、オレンジ色の髪を垂らした、古代ベルカの冥府の炎王――イクスヴェリアだ。
 洗脳プログラムの調整も、指揮権の剥奪も完了している。
 ひとたび彼女を目覚めさせれば、屍の兵士マリアージュは、即座にこの女の下僕となり、彼女の指示するままに働くだろう。
 しかし、今はまだその必要はない。
 所詮ガレアの冥王は、もしもの時の備えでしかない。
 高すぎる攻撃力と自爆能力を有した屍兵では、無用に建物を傷つけてしまう可能性もあるだろう。
 故に、今はまだ必要がない。
 今はガジェット達で用済みだ。
「頼むわよ、ガジェット達。私達のために邪魔者を見つけ出してちょうだい」
 プレシアのために、とは言い切らなかった。
 私達のために、とあえてぼかした。
 女の指がしなやかに踊る。心無き魔導師殺し達へとタクトを振る。
 機械人形のコンダクター――戦闘機人ナンバーⅠ・ウーノは、静かに蜘蛛の糸を張り巡らせていた。


【備考】
※リインフォースとアルフが、「首輪爆破の制御プログラム」「名簿」の二種のデータの存在を確認しました。
※リインフォースによる不正アクセスが、リニスに察知されました。
※第四回放送までの間、リニスのアクセス権限が大幅に制限されるようになりました。
 監視映像の閲覧以外の、ほとんどの権限が凍結されています。
 リインフォースとアルフの侵入も、リニスにのみ通達されていないようです。
※時の庭園内部に、ガジェットドローンⅠ型が複数配備されました。管制はウーノが行っているようです。

97 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:45:34 ID:FwLcIe6A0
投下終了。
今回分でリイン達とリニスを会わせようかとも思ったのですが、残り人数16人とまだまだギリギリ時期尚早だと思ったので、今はこのへんで。

98 ◆Vj6e1anjAc :2010/04/20(火) 08:48:06 ID:FwLcIe6A0
おっとと、いきなり誤字発見。

今はガジェット達で用済みだ。→今はガジェット達で様子見だ。

99 少し頭冷やそうか :少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

100 リリカル名無しA's :2010/04/20(火) 17:15:28 ID:OnNgqnOE0
投下乙です。
そうか、リイン&アルフはまだロワやっている事すら知らないのか(当然平行世界の存在も)。でも、もう発見されているからなぁ……オワタ。
流石にリニスは手を出せなくなったか(厳重注意だろうけど、実質ほぼアウトだからなぁ)……だが、見ているだけしか出来ないという事は……逆を言えば見る事は出来るって事だからなぁ……
だが……ウーノの口ぶりから察するに純粋にプレシアに従順というわけでは無いのが気になるが……(次の話でプレシアによって退場というオチもあるわけだが。)

しかし、これ本編扱いなのか? それとも外伝扱いなのか? どっちにすべきだろう……自分は本編でも良い様な気もするが……(でも、本当にあまり大きな動きのない外部話でもあるわけだしなぁ……)判断に迷う

101 リリカル名無しA's :2010/04/20(火) 19:14:03 ID:fbjZHEMg0
更に本編に絡む可能性を含むから本編扱いでいいと思うぞ

102 リリカル名無しA's :2010/04/20(火) 19:23:22 ID:fbjZHEMg0
改めて投下乙
そうか、二人は知らないのか。でもこれは想像も出来ないだろうな…知ったら知ったで…
リニアは絶望してるみたいだがロワでは見ることも重要だぞ。状況が変化したら或いは…
ウーノはやっぱり裏があるみたいだがこれはやっぱり…
これからどうなるかが物凄く気になるわw

103 リリカル名無しA's :2010/04/20(火) 19:24:03 ID:fM4/b7IkO
投下乙です
リニス、お灸をすえられたか
リイン達はどう動くのか…

個人的な意見としては外伝・本編両方扱いでいいかと
既に本編である前の放送に出てるんだし、登場話が本編なのに登場後ずっと外伝ってのもどうかと思うし
前の外伝話は別に無くてもいい話だったから本編扱いはされていないけど、リイン達はロワ完結に向けてこれからも絡んで来るだろうし

104 リリカル名無しA's :2010/04/20(火) 21:31:58 ID:urpKK1/Y0
投下乙です
リニスは条件付きだが実質打つ手なしか
そういえば目から鱗だがリインとアルフはロワのこと知らないのか
確かに納得

自分としては外伝扱いにした方が無難かと
けじめつけておかないとロワ本編が薄れかねないから

105 ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:24:46 ID:Zke0Tok.0
それでは、予約分の投下を開始します。

106 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:26:08 ID:Zke0Tok.0
 この短時間の内に、彼はヴィヴィオに会って、帰って来た。
 天道が齎したその情報は、なのはにとっては重要な意味を持っていた。
 何せこの半日以上、片時も忘れはしなかった大切な一人娘に会って来たと言うのだ。
 そんな一大ニュースを聞いて、なのはが慌てない筈は無かった。

「あ、会ったって……!? 何処で!? ヴィヴィオは無事なんですか!?」
「ああ、とりあえずは無事だ」
「とりあえずって……!」

 天道は飄々とした態度を崩さない。
 しかし、それは逆になのはを安心させる事となった。
 これ程までに落ち着き払っているからには、ヴィヴィオの身は安全なのだろう。
 冷静極まりない天道の視線に見据えられて、なのはも黙らざるを得なくなった。

「――すみません……少し、取り乱してました」
「無理もない、気にするな」
「それで……天道さんは、今まで何処で、何をしていたんですか?」

 まずはそこから話を聞かなくてはならない。
 それから天道が話してくれた話は、先程商店街で大混乱を招いたカードデッキに深く関わる話だった。
 コップの水面から、ミラーモンスターに引きずり込まれたのはなのはも既知の事。
 会場中から集められ、ミラーワールドに集められた参加者は、主犯者も含めて十数人居たと言う。
 そして、肝心の主犯者というのが、先程も話した浅倉威という男。根っからの危険人物らしい。
 浅倉はプレシアが最初に行った見せしめと同じ要領で、二人の若い男女の命を簡単に奪った。
 それを受けてか、集められた参加者のほぼ全員が殺し合いに乗り、戦いを始めたと言うのだ。
 そんな中、天道は自分のライダーシステムであるカブトの奪還に成功。
 カブトとして、戦いに乗った他のライダーと戦おうとした、その時。
 乱入して来たのは、金髪をサイドポニーに束ねた、オッドアイの少女。
 それを聞いた時点で、なのはには大方の予想が出来ていた。
 天道は対話を試みたらしいが、金髪の少女――ヴィヴィオは一向に応じなかった。
 というよりも、ヴィヴィオには言葉すら通用しなかったらしい。
 ただただ“なのはママを傷つけた者を殺す”事だけを戦いの理由にしていたのだ。
 結局何の進展も得られず、突如現れた不死鳥によって自分は元の場所へと連れ戻された。
 それが天道の身に起こった全てであった。

「ミラーワールドの中で、そんな事が……ヴィヴィオ、またあの姿になっちゃったんだ……」
「また……だと?」
「あ、はい……」
「なら今度はこっちから質問だ。幼い子供の筈のヴィヴィオが、何故大人になって戦っていた?」
「それは……」

 今度は、天道からの質問だった。
 ここまで情報を教えてくれた天道に、何も教えない訳には行かない。
 天道のお陰でヴィヴィオの安否も確認出来た事だし、何よりも自分の娘が天道に迷惑を掛けたのだ。
 故に、ヴィヴィオの身に起こった事情を秘匿する理由などは皆無。
 だからなのはは、重い口を開いて説明を始めた。

 そんな二人の耳朶を第三回目の放送の音が叩いたのは、話し始めてから暫く経ってからの事だった。

107 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:26:57 ID:Zke0Tok.0





 ソルジャーの持てる全力。
 それは並みの参加者のそれとは比べ物にすらならない、比類なき力。
 体力面に於いても、持久力に於いても。
 あらゆる面に於いて、ソルジャーは優れている。
 それら全てを出し尽くして、市街地を掛ける。
 目的は、只一つ。

「何処だ……チンク! クアットロ!」

 守るべき、大切な家族を保護する為。
 その為に、戦士は駆ける。





 現在位置は、差し込む光も薄れ始めた、薄暗い喫茶店――翠屋。
 今現在彼女を照らす光源は、傾き始めた太陽による僅かな光のみだった。
 誰も居ない喫茶店。横たわる首無しの惨殺死体。垂れ流しになった体液に、立ち込める異臭。
 そんな場所にたった一人佇む彼女の姿は、ともすれば“異様”とも取れるものだった。

(これでよし……と)

 片手にはキッチンから持ち出した大きめの出刃包丁。
 片手には目の前に転がる死体から剥ぎ取った首輪が一つ。
 首輪の裏には、「シャマル」という名前が刻まれていた。
 クアットロがこの翠屋に訪れたのは、これで二度目になる。
 一度目は、八神はやてとシャマルと共に。
 二度目は、死んでしまったシャマルの首輪を回収する為に。

(想像はしていましたけど、やはり死体から外しただけでは首輪は爆発しない、と……)

 心の中で呟きながら、首輪を無事回収出来た事に安堵。
 死体から首輪を外しても爆発しない――これに当たって、考えられる理由は二つ。
 一つは、首輪自身に装着者の生死を認識する能力がある、という可能性。
 一つは、主催側が常に見張っていて、危険と思った時点で爆発する、という可能性。
 何とかして解除するのであれば、機械的な前者の方が都合がいいが。

(……ま、これに関しては、もう少し下調べが必要ですわね)

 何の情報も持たない今、これについて思考しても進展は無い。
 状況を進展させる為には、首輪を解析するだけの設備が整った施設へ向かう必要がある。
 そして、首輪を解析する事が可能なラボとして思い当たるのは、二つ。
 片方は、自分達ナンバーズを生み出したスカリエッティのアジト。
 もう一つは、仮面ライダーを生み出したスマートブレイン本社ビル。
 この二つの施設ならば、首輪を解析するくらいの設備は整っているだろう。

108 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:27:39 ID:Zke0Tok.0

(最も、プレシアが何も対策を講じて居ないとは考えにくいですけど)

 もしも自分が主催側であれば、首輪を解除させるだけの施設なんて態々設置してやる程優しくは無い。
 仮に解除できたとしても、先程考えた通り、会場毎捨てられてしまえばそれでお終いだ。
 故に、迂闊に首輪を解除する様な馬鹿を野放しにする訳には行かない。
 そんな馬鹿は始末するなり自分の管理下に置くなりする必要性がある。
 そして、管理した上で必要となるのが、確実に勝利を収めるだけの戦力と、確実に首輪を解除する為の頭脳。
 後者については他ならぬ自分自身の存在を勘定に入れれば、頭脳としては既に大きな戦力を持っている事になる。
 それらを揃えて、失敗が許されない完璧なタイミングで首輪を解除しなければならないのだ。
 状況は、当初クアットロが想像していた以上に不利。

(不本意ですけど、このゲームからの脱出はもう、私個人の問題では無いという事ですね)

 自分一人ではどうしようもない。
 かといって、自分を警戒している参加者だって多いであろうこの状況下で、下手な演技は逆効果。
 これはあの無能な夜天の主の例から考えても、既に実証された事実だ。
 出来もしない演技に掛けて、窮地に立たされるのは御免被りたい。
 不本意この上無い事だが、ゲームから脱出するまでは、小競り合いをしている場合では無いのだ。
 管理局員や他の世界の勢力と手を組んででも、確実にこのゲームから脱出したいところだ。

(まず、アンジール様は何としてでも味方に付けるとして……でもでも、もうゲーム開始から随分と時間も経ってますしぃ……
 純粋な対主催勢力ってあとどのくらい居るんでしょう……下手をすれば、もう皆死んでしまったって可能性も……)

 無きにしもあらずだった。
 そもそも、殺し合いに乗らず、皆と一緒に戦う……なんて甘ちゃんはこのゲームでは生き残れない。
 シャマルだってそうだ。その甘さ故に、信じて居た主からボロ雑巾の様に捨てられ、死んでいった。
 生き残っているとしたら、純粋にゲームに乗った参加者と、戦えるだけの力を持った対主催勢力のみ。
 現在誰が生き残っているのか、性格な情報が欲しい。
 その為には、6時から始まる放送を確実に聞きたい所だが――

 『こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。 』

 おりしも、放送が始まった。
 まずはこの放送を聞いて、残った戦力について考える必要がある。
 ――のだが、それ以前に引っ掛かる事が一つあった。

(え……この声って、まさか……というかやはり……)

 一応、考えてはいた。
 もしかすれば、自分達の創造主であるジェイル・スカリエッティも関わって居るのではないかと。
 クアットロが尊敬する数少ない人物の一人――スカリエッティならばやりかねない、と
 例え自分の手駒だとしても、他の平行世界に存在するクアットロならば容赦なく斬り捨てるだろう。
 そして、淡々と放送を読み上げる声の主は、まさしくスカリエッティの手駒の一人であった。

109 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:28:12 ID:Zke0Tok.0





 まるで早送りの映像でも見ているかのように、街の景色は流れて行く。
 それも全ては、アンジールの人並み外れた走力が成せる業だった。
 アンジールはまだ知らない。
 守るべき、家族の死を。
 斃すべき、友の死を。

「放送――もう6時かッ!」

 耳朶を打ったのは、6時間毎の定時放送。
 自分の周囲で起きている事実など知る訳も無く。
 何も知らないアンジールへと、残酷な運命は付き付けられた。





 6時の放送が終わってから、経過した時間は既に一時間弱。
 たった二人しかいない事務所は今、深い悲しみに包まれていた。
 悲しみの原因は最早語るまでも無く、先程行われた放送だ。

 先程まで共に行動していたペンウッドとC.C.は死んだ。
 誤解を解かねばならない筈だった騎士、ゼストも死んだ。
 大切な教え子であるキャロも、まだ幼いルーテシアも死んだ。
 10年間という長い時間を共に過ごしてきたシャマルも、フェイトも死んだ。
 亡くなってしまった命はもう戻っては来ない。
 皆なのはにとっては大切な人間だった。
 いくら精神が強いとは言え、それに耐えて平静を保てる程、なのはの精神は頑丈では無かった。 
 そして、それが解っているからこそ、天道も下手に声を掛けはしなかった。
 天道にしても、守るべき命を19人も殺されて、全く意気消沈していないと言えば嘘になる。
 例え見ず知らずの人間であっても、罪の無い人が死んで行くのは天道の意思に反する。
 ここまでの自分は、余りに無力過ぎた。
 自分がもっとまともに戦えて居れば、救えた命もあった筈なのだ。 
 デスゲームが始まってからの戦いを振り返れば、そう思うのも仕方が無い。

(それにしても……ヴィヴィオ、か)

 不意に、思い出す。
 今回の放送では、その名が呼ばれる事は無かった。
 戦闘の意思を見せなかったとは言え、カブト相手にあれだけの戦闘力を発揮したのだ。
 そう簡単に他の参加者に殺されてしまう心配は無いだろう。
 というよりも、逆に他の参加者を殺してしまうのではないかと言う懸念すらある。

(そうなる前に、ヴィヴィオを止めたいが)

 ヴィヴィオに関する話は、大体高町なのはから聞いている。
 なのはが初めてヴィヴィオに出会ってから現在に至るまで、あらゆる話を、だ。
 始めは本当に甘えん坊で、一度なのはから離れるとなれば、大泣きは避けられなかった事。
 その度に宥めるのが大変で、それでもなのははヴィヴィオの仮初の母親として接した事。
 やがて正式になのはがヴィヴィオを引き取る事が決まって、晴れて本当の母親になれた事。
 これから本当の家族としての時間を一緒に過ごして行こうと、この親子の未来は輝いていた事。
 それらの話を天道に聞かせる時、なのはは何時になく饒舌で、楽しそうな顔をしていた。
 そんななのはの顔を見れば、どんな思いで母親としてヴィヴィオを世話していたのか等、すぐに解った。

110 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:28:59 ID:Zke0Tok.0

 天道から言わせれば、高町なのはという人間は、間違いなくヴィヴィオの母親だ。
 この親子の間に、血の繋がりだ聖王のクローンだなんて事は一切関係無い。
 揺るぎ無い絆で結ばれた二人は、誰が何と言おうと間違いなく家族なのだ。
 だからこそ、それは天道に決意をさせる十分な理由となり得た。

(もう一度、高町が楽しそうに笑う顔が見たくなった)

 絶対に、もう一度ヴィヴィオとなのはを再会させる。
 そして皆で揃ってプレシアを打破し、このゲームから脱出する。
 その時にはきっと、なのはは再び笑顔を取り戻してくれるだろう。
 彼女ならば、多くの仲間を失ってしまった悲しみを乗り越えられる筈だと、信じて居る。
 だから、もうこれ以上は誰も死なせない。
 生き残った全員の命を救った上で、何としてもこの親子を守り抜いて見せる。
 それが、天道の決めた新たな方針だった。





 守る為に、殺す。
 大切な者を守る為なら、それ以外の命など取るに足らない。
 かつてのアンジールならば、そんな考えは持たなかっただろう。
 だが今は違う。違ってしまった。
 守るべき者を知った時、人は変わるのだ。
 
「また俺は、守れなかったのか」

 そして、守るべき者まで失ってしまったと知った時――





 既に日が落ちた市街地を進む影があった。
 否、それは正確には影と言える物では無い。
 他者からすれば、影すら見えない不可視の物質。
 戦闘機人ナンバーズが4番目――クアットロ。

(頼もしいのはいいんですけど……少し速すぎじゃありません事?)

 クアットロは、心中で思う。
 先程翠屋の中で、自分は確かに見た。
 偽りの兄妹、戦闘機人・アンジールの姿を。
 その桁違いの走力で、市街地を駆け抜けて行く勇姿を。
 戦闘能力はセフィロスにも追随するトップクラス。
 走力・体力・持久力。共に化け物染みたレベル。
 頼もしいったりゃありゃしない。
 ――追い付くことが出来れば、の話だが。

(もう、一体全体この数分間でどれだけ先へ行ったって言いますの……!?)

 事実としてクアットロは、アンジールに追い付けずに居た。
 そもそも前線に出る事のないクアットロが、クラス1stの走力に追い付く事自体が難しい事なのだが。
 それでも、折角見付けた千載一遇のチャンス。
 みすみす逃すわけにはいかない。

(そう……セフィロスは死んだ様ですけど、まだ他の脅威が残っている事に変わりはありませんから)

111 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:29:30 ID:Zke0Tok.0

 セフィロスクラスに対応出来るだけの戦力を味方に付けて置くに越したことは無い。
 あれだけの戦力を持った者が味方に居れば、それだけで戦略の幅は広がるのだ。
 故に、何としてもアンジールを見逃す訳には行かないのだ。
 何としてもアンジールを取り込まねばならない。

(それにしても……はやてさんは一体どんな手を使ったんでしょう。
 まさかあの状況から、セフィロスだけを殺して生き残るなんて……)

 クアットロの知る限り、八神はやては何の道具も持ち合わせては居なかった。
 だとすれば、考えられる方法は絞られてくる。
 他の参加者と合流し、助けて貰ったか、何らかの方法で油断させ、不意を打ったか。
 まぁ、普通に考えたら前者の方がよっぽど現実的だが。

(だとすれば、少々やっかいですわねぇ)

 はやてには少々、余計な事を言い過ぎた。
 自分の悪行を広められてしまっては、余計に動きにくくなると言う物。

 ――否、自分はあの無能な部隊長と違って、まだ人殺しをしてはいない。
 どうせ最初から自分は警戒されているのだ。素直に信じてくれる御人好しなんてそうは居ないだろう。
 それなら、まだいくらでもやり様はある。
 何せ端から日和見に傾く腹積りだったのだ。
「様子見の為の嘘でした、ごめんなさい。もう嘘は付きません」と行っておけば、後は機転を利かせればどうとでもなる。
 故にはやてに関しての問題はそこまで大きな問題とは言えない。
 何せ既にギルモンやシャマルを殺しているはやての方が、状況は圧倒的に不利なのだから。

(で、主催側にはやはりドクターが絡んで居たようですけど……)

 自分を参加させている事から考えるに、「スカリエッティに頼ってゲームからの脱出」は絶望的だろう。
 ゲームから脱出させる為には、“この世界のスカリエッティ”すらも欺かなければならない。
 だが、それに関してはもう悩む必要も無い。
 スカリエッティだって平行世界の自分をこうも簡単に斬り捨てたのだ。
 自分だってそんなスカリエッティに忠義を尽くす義理は無い。
 クアットロが唯一使えるのは、クアットロが居た世界のスカリエッティなのだから。

(故に、この世界のドクターは敵……ま、これに関しては考えるまでもありませんね)

 その判断は、至って単純なもの。
 問題はそれよりも、どうやってスカリエッティを出し抜くか、だ。
 別の世界とは言え、相手はあのスカリエッティなのだ。
 生半可な計画では容易く見抜かれてしまうだろう。
 何とか仲間を集めて、上手くシルバーカーテンと組み合わせて首輪を解除する。
 シルバーカーテンの能力は絞られているとはいえ、頭脳戦に於いてこれ程に心強い物は無い。
 必ずやこの能力は役に立つ。それだけの確信がある。
 だから、今は焦らず仲間を集めるのだ。

112 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:30:03 ID:Zke0Tok.0





 失った者は、この場に残った家族。
 失った者は、この場に残った親友。
 出来る事ならば、家族を傷つけた友は、この手で倒してやりたかった。
 それが友、セフィロスに出来るせめてもの手向けだった。
 だが、それももう出来ない。
 そして何よりも。

「チンク……」

 守るべき者を失った時、人はやはり変わる。
 もうアンジールに、精神的な余裕など残されている筈も無かった。
 守護の対象は、クアットロ一人に絞られた。
 クアットロを守り抜く為ならば、何だってする。
 妹を守る為ならば、他の全員を殺すことも厭わない。
 アンジールは再び、アスファルトを蹴った。
 友と家族の死を、その剣に背負って。





 小さな非常灯に照らされた事務所内。
 音一つ無い、静かな世界だった。
 否、正確には全くの無音では無い。
 声にもならない嗚咽。
 絞り出す様な泣き声。
 それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。
 年配者なのに、自分に頼りっぱなしで、戦力としては数えられなかった。
 だけどその半面、彼は誰よりも気高い勇気を持った男だった。
 自分の命を投げ出してまで、なのはを救ってくれたのだ。
 そんな事、簡単に出来る事じゃない。
 C.C.はC.C.で、基本無表情で、何を考えているのか解らなかった。
 だけど、殺し合いに反発していたのは間違いない事実。
 ルルーシュという人物と再会する為に、共に闘う筈だった。
 だけど、C.C.も、ルルーシュも、死んでしまった。
 もう、二人が再会する事は無くなってしまったのだ。

(キャロ……騎士ゼスト……)

 キャロはまだ10歳の女の子で、なのはの教え子だった。
 こんな殺し合いに参加させられて良い訳が無い、将来有望な子供だったのだ。
 それも、なのはが一から魔法のいろはを教えた少女が、こんな下らない戦いで死んでしまった。
 エリオも、ティアナも、キャロも、皆死んでいく。
 ゼストだって、キャロ以上に頼もしいストライカー級魔道師だったのに。
 これからゼストと合流して、誤解を解かねばならないと思っていたのに。
 それも果たすことなく、その命は再び散ってしまった。

(シャマルさん……フェイトちゃん……!)

113 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:30:40 ID:Zke0Tok.0

 何よりもなのはの胸を締め付けるのは、10年来の仲間の死。
 二人とも、この10年間をずっと共に過ごしてきたのだ。
 闇の書事件以来、心強い味方として御世話になっていたシャマルさん。
 辛い時も、楽しい時も、共に数多の戦場を駆け抜けて来たフェイトちゃん。
 特にフェイトの死は、ここへ来てから二度目になる。
 幾ら心を鋼鉄で武装しようにも、耐えられる訳が無かった。

 泣くだけ泣いて、顔を上げた。
 時計を見れば、既に放送から一時間弱が経過していた。
 背後に人の気配を感じ振り向けば、そこに居るのは天道総司。
 この人はまた、自分に気を遣ってくれたのだ。
 一時間近く泣いている間、何も言わずに休ませてくれたのだ。

「ごめんなさい……もう大丈夫です」
「そうか」

 涙を拭って、立ち上がる。
 これ以上、ここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 フェイトだって、死んだ皆だって、きっとここでなのはに挫けて欲しくは無い筈。
 彼女らが成せなかった事を、自分が成し遂げて見せる。
 散って行った皆の意思を継いで、このゲームを破綻させて見せる。
 決意を新たに、天道に向き直った

「ならば、今すぐゆりかごへ向かうぞ」
「え……?」
「何だ、聞こえなかったのか。ゆりかごへ向かうと言っているんだ」
「い、いや……そうじゃなくって、どうして」
「愚問だな。逆にお前がゆりかごへ向かわない理由があるなら聞かせてみろ」

 なるほど、そういうことか。
 天道は、ヴィヴィオを救うつもりで居るのだ。
 だから、聖王と関わりの深いゆりかごへ向かうと言い出した。
 他にヒントが無い以上、ヴィヴィオの手掛かりはゆりかごにしか無いのだ。

「でも、他の皆だって助けなきゃならないのに」
「無理をするな。お前だって本当は一番に助けたいんじゃないのか?」
「……はい。たった一人の、娘ですから」
「それでいい。もしもお前が娘よりも他の参加者を優先していれば、俺はお前に失望していた」

 なのはは思う。
 天道総司という人間は、一見クールに見えて、実は人間臭い。
 金居曰く“正義の味方”という建前の元で戦う男という事だが、それは間違いだ。
 この男は正義だとか、英雄的行為だとか、そんな物に縛られてはいない。
 ただ自分の信じる正義に従って、守りたい道を貫き通す。
 ある意味では、どんな英雄よりも信用出来るタイプだ。

「でも、ゼロはどうするんですか?」
「下らん……奴はキングだ。これ以上奴のお遊びに付きやってやれる程、俺達は暇人でも御人好しでも無い」

 天道が、さもつまらなさそうに言ってのけた。
 なのはも薄々は感づいて居たが、確かにゼロはキングの可能性が高い。
 ペンウッドとC.C.の二人は死んだのに、キングだけは死んでいないのだ。
 それだけでキングを犯人だと決めつけるのはどうかと思うが、もう一つ、犯人をキングだと断定させる理由があった。
 それは、口で嘘を吐く事は出来ても、どうしたって隠し切れはしない物――瞳に宿る光だ。
 キングの瞳に宿った邪気は相当な物だったし、それに気付けないなのはでも無い。
 恐らく、ゼロはキングで間違いないだろう。
 故に、これ以上ここに留まる理由も無い。
 二人はすぐに行動を開始した。

114 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:31:19 ID:Zke0Tok.0





 最早、言葉は必要ない。
 目の前に敵が居るならば、それを駆逐する。
 アンジールの視界に映っているのは、確か管理局のスーパーエース。
 管理局であるなら敵だ。我ら家族の敵だ。
 相手が敵ならば、持てる全力を尽くして叩き潰すまで。
 例え夢も誇りも失ったとしても、最後に残ったものだけは失いたく無いから。
 家族を守る為。そんな大義名分を盾に、八つ当たりにも似た襲撃を開始した。





 放送を聞き終えたヒビノ・ミライは、たった一人市街地を歩いていた。
 その表情は、暗い。ミライの周囲を覆う夜の闇よりも暗い。
 理由は単純明快、先刻行われた放送。
 死んでしまった参加者の人数は、19人。
 前回の放送の比では無い。
 余りに多すぎる。

(こうしている間にも、19人も死んでしまうなんて……)

 その中には、先程目の前で殺されたあの人も含まれているのだろう。
 19人も名前を読み上げられれば、その中の一人を特定するのは難しい事だが。
 そして何よりも、ミライを最も悔やませるのは、その中で呼ばれた一人の名前。

(万丈目君……)

 万丈目準。
 ミライと行動を共にする、おジャマイエローの相棒。
 おジャマイエローが再会を望む、最愛のパートナー。
 絶対に再び合わせると約束したのに、それを果たす事無く、その命は奪われてしまった。
 これでは、おジャマイエローに合わせる顔が無いと言う物。
 幸か不幸か、おジャマイエローはデイバッグに引きこもっていた為に、この放送を聞いてはいない。
 このまま言わなければ、万丈目の死を知らずに済むかもしれないが……

(……いや、そんな訳には行かない)

 脳裏に過った考えを振り払う様に、ミライは首を振るった。
 確かに知ることが無ければおジャマイエローが悲しむことは無いだろう。
 だが、それは間違っている。
 本当の事を言わずに方便の嘘を吐いた所で、それはその場凌ぎでしか無いのだ。
 いつか知ってしまうなら、正直に話すべきだ。
 だが、ミライはそれでも悩む。

(一体、どんな顔をして伝えればいいんだ)

 守ると約束して、守れなかった。
 何も出来る事無く、目の前の男を死なせてしまったばかりか、約束の一つも守れない。
 こんな事で、何が光の国の戦士だ。何がウルトラマンメビウスだ。
 瞳を食いしばって、自分の無力に打ちひしがれる。
 どうしてこんなにも守れないのだろうか、と。
 そんな時だった。

115 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:31:50 ID:Zke0Tok.0

 ――キィン。

 微かに聞こえた、金属と金属のぶつかり合う音。
 全ての思考を一時的にかなぐり捨てて、ミライは顔を上げた。
 これは恐らく、と言うよりも間違いなく、戦闘音だ。
 金属と金属がぶつかり合う、戦闘による効果音。
 誰かがこの近くで、戦っているのだ。

(音は……ここから近い!)

 今ならばまだ間に合う。
 この戦闘を止めるのだ。
 今度こそ、守って見せる。
 その為に、ミライは駆け出した。

116 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:35:22 ID:Zke0Tok.0
 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

117 強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:36:34 ID:Zke0Tok.0
 



 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

「そんな鎧で、ソルジャーに勝てると思うなよ」
「俺の事よりも、自分の心配をするんだな」
「何だと」
「お前こそ、そんなナマクラで俺の命を奪えるとは思わない事だ」
「……随分と、ナメられたものだな」

 バスターソードを握る手に、自然と力が込められる。
 この男は父から受け継いだ誇りをナマクラと言った。
 アンジールの夢を、アンジールの誇りを、ナマクラと言った。
 最早この不遜な男との戦闘はどうあっても免れない。
 二人の戦闘の火蓋は、ここに斬って落とされた。

118 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:39:38 ID:Zke0Tok.0
>>116はミスです。このレスから後半になります。

///////////////////////////////////////////////


(どっちも凄い……全くの互角だ)

 高町なのはが、心中でぽつりと呟いた。
 大剣を操る戦士・アンジールと、最強の仮面ライダー・カブト。
 二人の戦いは、熾烈を極めて居た。
 アンジールが大剣を振るえば、カブトが斧で受け止める。
 カブトが斧を翻せば、アンジールの大剣が弾き返す。
 それらを、一般人では感知出来ぬ程のスピードで何度も何度も繰り返す。
 お互いに決定打となる一撃を与えられぬまま、そんな攻防が繰り返されていた。

「どうした。我武者羅に剣を振るうだけでは、この俺には敵わんぞ」
「うおおおおおおおおおおッ!!」
「やれやれ。完全に頭に血が昇ってる」

 高速で刃と刃を交えながら、カブトの仮面の下からため息が漏れた。
 アンジールが振り下ろした大剣を、今度は受け流さずに、回避した。
 その腕に自分の腕を組み、アンジールの動きを封じた上で、カブトがアンジールの顔を覗き込んだ。
 無機質な仮面の、青い視線。激情に身を任せた、青い視線。
 二つの視線が交差する。

「おばあちゃんが言っていた。男はクールであるべき……沸騰したお湯は、蒸発するだけだ。ってな」
「何ィッ!?」
「答えろ。お前の家族は、本当にお前が殺し合いに乗ることを望んでいるのか?」
「俺もあの子らも兵士だ! 殺す事にはもう慣れた!」

 それは、既に何度も口にした言葉であった。
 一度目はヴァッシュに。二度目ははやてに。
 スカリエッティの元で育てられた彼女らならば、なるほど確かに殺しに躊躇いは無いだろう。
 だが、アンジールの返答は、天道にとってはどうにも腑に落ちない返答であった。

「ほう、それは可笑しな話だな。殺すことには慣れた筈のお前が、その剣には迷いを乗せている」
「何を――!」
「お前はどうしようも無い奴だが、平気で人を殺せるような奴じゃないって事だ」

 果たして、カブトの言う事は正しかった。
 しかし、それは以前までのアンジールならば、の話だ。
 かつてのアンジールならば、より多くの人々の為に。人々の命を救う為に。
 そんな目的の為に戦っていた事だろう。
 だが、それはもう過去の話。

「お前に何が解る! お前に俺の気持ちが解るのか!
 大切な家族を、友を失った俺の気持ちが解るのかッ!」
「解るさ。俺にだって」
「黙れぇぇッ!!」

 もう一度カブトと刃を交えれば、アンジールは後方へと跳び退った。
 ほんのひと跳びで、カブトの攻撃が届かない距離まで後退する脚力は、まさに驚異。
 しかし、カブトに驚く暇など与えられはしなかった。

119 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:40:35 ID:Zke0Tok.0

「ほう」

 心を埋め尽くす激情を体現するかの様に、アンジールの身体に変化が起こった。
 右の背中から、まるで蝶がその羽で蛹の殻を破るよう――
 現れたのは、天使の羽と見まごうばかりの、純白の片翼。

「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 怒号と共に、その翼を羽ばたかせた。
 たった一度の羽ばたきで生み出されるのは、弾丸をも超える超加速。
 重厚な鎧を着込んだカブトに、そんな加速を受け止められる筈が無かった。
 刹那、叩き込まれたのは化け物染みた怪力によって振り下ろされた大剣による一撃。
 咄嗟の判断で、というよりも反射的に、斧を構えたカブトの腕を弾いて、大剣がカブトの胸部装甲を裂いた。
 どすんっ! と大きな音を立てて、組み伏せられたカブトの身体が、周囲のアスファルトと共に地面へと陥没した。
 こうなってしまっては、如何に強かろうが、もうどうしようも無い。
 カブトの身体を踏み締めて、アンジールが叫んだ。

「俺の、勝ちだッ!」

 結果は、アンジールの勝ち。カブトの負け。
 ソルジャーの、それも“1st”を相手に、カブトは良く戦った。
 確かに手強い相手ではあったが、悲しいかなカブトの力はアンジールには届かなかったのだ。
 ともあれこれで、妹たちにとっての脅威を一つ、排除する事が出来た。
 次は、そうだな。この男と一緒に居た高町なのはをどうするか。
 何せ高町なのはは管理局のエース・オブ・エースだ。
 戦力で言うなら、かなりものである事は間違いない。
 しかし、それについて考える時間が訪れる事は無かった。
 さて、どうするか――と考え始めようとしたアンジールの現実は、覆されたのだ。

「甘いな」
「な――ッ」

 声が聞こえた。
 どこから聞こえた?
 アンジールの、真下からだ。

 ――CAST OFF――

 電子音が響いた。
 それからアンジールは、ようやく理解した。
 自分が切り裂いたのは、カブト本体では無い。
 自分が切り裂いたのは、カブトが着込んだ重厚な装甲に過ぎない、と。
 片翼の突進力と、ソルジャーの怪力を以て放たれた一撃を食い止めるとは、何たる装甲か。
 その装甲が、アンジールの眼下、カブトの身体から剥離しはじめた。
 何が起こるのかと理解するよりも先に、アンジールはバスターソードを引き抜こうとした。
 されど、もう遅い。

120 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:41:17 ID:Zke0Tok.0

「く……ッ!!」

 カブトの身を包んでいた装甲が、弾け飛んだ。
 拡散する装甲が生み出したのは、驚異的な加速力。
 バスターソードが食い込んだままの胸部装甲が、カブトから離れる。
 カブトの頭部や腕を守っていた装甲が、アンジールの身体を直撃する。
 押し出される様に、アンジールの身体は後方へと吹っ飛ばされた。
 されど、アンジールもさるもの。
 むざむざアスファルトに叩きつけられまいと、空中で純白の片翼を羽ばたかせた。
 アンジールの身体は空中で一回転を加えて、減速。アスファルトへの着地、成功。
 バスターソードを振り抜いて、食い込んだままの装甲を投げ捨てた。

 ――CHANGE BEETLE――

 見れば、先程までの無骨な銀とは違う、赤の戦士がそこに居た。
 メタリックレッドのスリムな装甲。輝きを放つ青い複眼。マスクの中央の一本角。
 なるほど、確かにカブトムシは夜になってから行動を開始する。
 まさにカブトを名乗るに相応しい、と皮肉を込めた印象を抱いた。
 昼間まで寝たり、まともに戦えなかった天道の事を考えれば、あながちカブトムシという比喩も間違ってはいないのかも知れない。
 何故なら雑木林に住む昆虫のカブトムシもまた、昼間は土の中や木の皮の裏で眠っているのだから。
 まあ、そんな話はどうでもいい。

「それが本当の姿か」
「それはこっちの台詞だ」

 見下ろすアンジールに、カブトが崩れぬ余裕と共に投げ返した。
 純白の片翼を羽ばたかせ、宙に浮かぶアンジール・ヒューレー。
 赤い装甲を煌めかせ、ライダーフォームへの変身を遂げたカブト。
 二人の姿は、揃って先程までとは違っていた。


 カブトの装甲に身を包んだ天道は、思う。
 この男、殺す事に慣れたなどと言ってはいるが、それは正確ではない。
 もしもこれだけの実力を持った男が最初から殺すつもりで挑んでいたなら、マスクドフォームのままで戦っている余裕など無い。
 相手の力量を図る為にあえて様子見をした、と言えば聞こえはいいが、それはそれで不自然だ。
 どうせ殺すつもりなのであれば、最初から片翼を解放して、最初の一撃で仕留めればいいだけの話。
 片翼を最初から解放しなかった理由として、油断していた、というのも考えられるが、やはりそれも無いだろう。
 この男は、激情に身を任せて我武者羅に剣を叩き付けて来た。
 そんな“キレた”奴ならば、尚更最初から一撃で終わらせに掛っていた方が合理的だ。

(恐らくこいつは、放送で家族の名前を呼ばれているな)

 それが、天道が思い至った結論であった。
 家族の名前が放送で呼ばれたからこそ、これだけキレているのだろう。
 大方他の参加者を皆殺しにして、死んでしまった家族を生き返らせようとか、そんな事を考えているのだろう。
 もしもそうだとしたら、こいつには手の付けようがない。
 家族を失ってしまった者の行動は、ある意味天道が一番理解出来て居る。

「なるほどな。参加者を殺して勝ち残れば、死んでしまった者を生き返らせる事が出来るとでも思っているのか」
「それだけじゃない。最後に残った“妹”を守る為にも――他の誰も、あの子には近づけさせん!」
「妹、だと……?」

 仮面の下で、表情を歪める。
 何たる皮肉であろうか、目の前の男が守ろうとしていたのは、妹だという。
 あろうことか、こいつが戦う理由は、天道が戦う理由と同じ。妹を守る為。
 天道は心の奥底で、怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。
 その気持ちが何なのか、すぐには理解出来なかった。

121 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:42:07 ID:Zke0Tok.0
 
「ハッ!」
「チッ」

 カブトの狼狽を知ってか知らずか、先に打って出たのはアンジール。
 再び先程と同じ要領で加速を得て、カブトへと突貫したのだ。
 流石に装甲が無くなった今、正面から攻撃を受け止めるのは拙い。
 横方向へと跳び退りながら、滑らす様にカブトクナイガンを大剣にぶつける。
 突進の威力をそのまま受け流して、体勢を立て直す。
 お互いに万全の状態で得物を構え。

「「ハッ!!」」

 二人の掛け声が、揃った。
 アスファルトを蹴って、駆け出したカブト。
 片翼を羽ばたかせて、加速するアンジール。
 きぃん! と、甲高い金属音を打ち鳴らして、二人の刃が激突した。
 正面からの激突によって発生したのは、二人を襲う衝撃。
 二人の身体は、正反対の方向へとふっ飛ばされた。
 しかし、二人は超人である。
 みすみすコンクリートに身体を打ち付けはしない。

「ハッ」
「フンッ」

 呼吸音と共に、二人が蹴ったのはビルの壁。
 それぞれ向かい合ったビルのコンクリの壁を蹴って、再び跳躍。
 そのままの加速を殺す事無く、二人の身体は再び舞い上がった。
 今度は、空中。

「「ハァッ!」」

 イオンビームを纏った刃が、誇りの象徴たるバスターソードと激突した。
 されど、この戦いは互角では無い。
 空中戦闘に於いては、翼を持ったアンジールの方が圧倒的に有利。
 激突したクナイガンを弾き返し、アンジールは再び翼を羽ばたかせた。
 空中での推進力を失ったカブトに、これ以上の攻撃は不可能。
 それを理解した上での、大剣での追撃。

 ――CLOCK UP――

 バスターソードによる追撃の一太刀は、しかしカブトには当たらなかった。
 大剣の刃がカブトに激突する瞬間に、カブトは腰を叩いたのだ。
 ZECTが開発したマスクドライダーに標準装備された、クロックアップシステム。
 使用者を、通常の時間軸から空間ごと切り取る事で得られる、光速に近い超加速。
 クロックアップが相手では、例えアンジールと言えど太刀打ち出来る訳が無かった。
 この瞬間からは、カブトのみに感知出来る世界。
 
 突き出されたバスターソードの刃を掴んだ。
 そのまま腕に力を込めて、自分の身体を持ち上げる。
 ひらりと翻った身体で、バスターソードの上に爪先で着地した。
 次に右脚を踏み出して、アンジールの肩を踏み締め、跳躍。
 後方の雑居ビルへと跳び、その壁を蹴って、再びアンジールへと加速した。

122 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:42:48 ID:Zke0Tok.0
 
 ――CLOCK OVER――

 しかし、カブトの思い通りには行かない。
 カブトの攻撃がアンジールに届く前に、クロックアップが切れたのだ。
 クロックアップ中に飛び蹴りを当てる戦法、失敗か。
 否、まだ失敗した訳ではない。クロックアップによるアドバンテージは大きい。
 アンジールが感知するよりも速く、キックを当ててしまえばいいだけだ。
 されど、戦いとはやはり思い描いた通りにはならないもの。

「――後ろかッ!」

 アンジールが、片翼を羽ばたかせて、方向転換をした。
 何と言う反射神経だ。この男は、クロックアップによる連携攻撃に生身で着いて来たのだ。
 ライダーやワームですら、これ程の反射神経を持った者はそうはいまい。
 アンジールは、その化け物染みた反射神経を以て、バスターソードを構えた。
 横幅の広いバスターソードを盾代わりに、カブトのキックを受け止めようと言うのだ。
 されど、カブトのキック力は7トン。当然、受け止め切る事など、出来る訳も無く。
 アンジールの身体は、後方へとふっ飛ばされた。


 スーパーの屋上に着地したアンジールは、バスターソードを杖代わりに立ち上がった。
 足場に突き立てたバスターソードの柄を握り締め、アンジールは思う。
 クラス1stのソルジャーと何度もかち合って、未だお互いに決定打無し。
 この男は強い。文句なしに強いと認めざるを得ない。
 何せ、クラス1stの自分と渡り合えるだけの力を持っているのだ。
 強い。文句なしに強い。
 戦闘におけるセンスは自分と同等か、それ以上だろう。
 もしもこんな戦士が神羅に居たならば、さぞかし立派なソルジャーになれた事だろう。

「強いな。大口を叩くだけの事はある」
「当然だ。何てったって、“俺が最強”なんだからな」
「ならば、尚更だ。“最強”のお前を倒せば、妹の安全はより保証できる」
「お前には無理だ」

 その身体能力を以て、カブトが屋上まで駆け上がって来た。
 俺が最強、と言う言葉を強調して、不遜な態度を崩す事無くうそぶいた。
 だが、最強を自負するからには、この男の戦い方は少し甘すぎる。

「お前の攻撃には、殺意が無い……本気で戦う気は無いのか」
「馬鹿馬鹿しい。俺は最初から本気だ。
 最も、あの生け好かない女に従って誰かを殺すつもりは毛頭ないがな」

 なるほど、この男は殺し合いに乗ってはいない。
 不思議な男だ。ヴァッシュとはまた違って意味で、だ。
 剣を交えたからこそ解る、一種の信頼にも似た感情を、抱き始めて居た。
 これから妹以外の全員を殺して回らねばならないというのに、自分は何をしてるんだと、自嘲した。
 そうだ。死んでしまったチンクとディエチの分まで、俺はクアットロを守らねばならない。
 放送を読み上げた人物もまた掛け替えのない家族の一人だが、そんな事は後で考えれば良いだけの話。
 今考えるべきは、クアットロを守る事だけだ。
 その為にも、この男を叩き潰してでも前に進まねばならないのだ。

123 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:43:20 ID:Zke0Tok.0
 
「殺す前に聞いておこう。お前の名前は?」
「俺は天の道を往き、総てを司る男――天道、総司」
「そうか。俺はソルジャー・クラス1st――アンジール・ヒューレー」

 二人は再び、剣を構えた。
 これで、思い残す事は何もないだろう。
 戦士として戦い、戦士として葬ってやるまでだ。
 魔晄の輝きを宿したその瞳に、再び殺意が込められた。

「ハァッ!」

 アンジールはその片翼を羽ばたかせ、カブトへと突貫した。
 振り下ろす大剣を、しかしカブトは難なく回避する。
 そのままカブトの横を通過したアンジールは、振り向き様に片手を翳した。
 刹那、アンジールの手から灼熱の業火が放たれた。
 マテリアルパワーの一つ、ソルジャーが使う“魔法”。

「チッ」
「ハァァァァァッ!!」

 仮面の下で、舌を鳴らしながら地面を転がって回避した。
 しかし、ファイガは容赦なくカブトの周囲を焼き尽くす。
 火球の直撃を避けた所で、周囲の炎による熱がカブトを蝕む事に変わりは無い。
 炎を振り払う様に足掻くカブトに、アンジールは大剣を構え再び突貫した。

 戦力を見誤ったのはアンジールであった。
 マスクドライダーの装甲は、炎に焙られた程度で傷つきはしない。
 それどころか、内部の装着者には熱は全く届かない。
 ただ反射的に腕を振り払ったのを、アンジールは炎による攻撃が利いていると勘違いしたのだ。
 きぃん! と、甲高い金属音が鳴り響いた。
 アンジールの大剣を、カブトクナイガンが受け止めたのだ。
 そのまま大剣の刀身を滑らす様に、クナイガンを振り抜いた。
 切先が胸元を切り裂く前に、アンジールが上体を後方へと逸らす。
 追撃の右回し蹴りを放てば、左腕の厚い筋肉で受け止められた。
 マスクドライダーの蹴りを生身の筋肉で受け止めるなど、考えられない。
 しかし、驚愕の暇など与えられる筈も無く、アンジールはその手で受け止めた脚を弾いた。
 体勢を崩した一瞬の隙に、再び大剣を振り下ろされる。

「プットオン」

 ――PUT ON――

 咄嗟の判断だった。
 アンジールの大剣がカブトに届くよりも先に、重厚な装甲がカブトに装着されていく。
 先程アンジールの一撃を受け切ったマスクドアーマーが、再びカブトの身を包んだのだ。
 腕を交差させ、その装甲でバスターソードによる一撃を受け止める。
 ずどぉん! と、轟音を響かせて、カブトの身体と共に、コンクリートの地面が崩壊した。

124 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:43:54 ID:Zke0Tok.0
 
「……全く、大した馬鹿力だ」

 抱いた感想をそのまま口にした。
 アンジールの怪力が、屋上のコンクリートの耐久力を増していたのだ。
 だが、この程度の事で驚きはしない。
 何せ先程の一撃で既に身を以て体感しているのだから。
 アンジールの大剣に押し切られる様に、カブトの身体が階下へと落下する。
 そしてそれは、カブトの思惑通り。

「この室内では、貴様の翼も役には立つまい」

 スーパーの中には、沢山の商品棚が並んでいた。
 それはアンジールにとっては障害物となり、その動きは封じられる。
 やがて屋上の炎は、天井に空いた穴からスーパーの内部へと侵食。
 スーパー内は燃え盛る炎に包まれて、より一層身動きが取れなくなった。

「チッ……こんな事で、俺を止められると思うな!」

 それでも、アンジールは翼を羽ばたかせた。
 並んだ商品棚を吹き飛ばし、薙ぎ飛ばし、カブトへと迫る。
 しかし、やはり外で戦った時程の加速は生み出せない。
 アンジールの動きは、マスクドフォームのカブトでも捕捉出来た。
 再び甲高い金属音を鳴らして、二人の刃が激突する。

「――ブリザガ!」
「何……ッ!?」

 激突した瞬間に、呪文を唱えた。
 それはアンジールが最も得意とするマテリアルパワーであった。
 クナイガンを構えたカブトを、凄まじい冷気が襲う。
 カブトの上半身が氷漬けになって、後方へと吹っ飛んだ。
 氷の塊となったカブトは、スーパーの壁に叩き付けられて、そのまま壁ごと凍結。
 あとは氷のオブジェと化したカブトを、この大剣で一刀両断するのみだ。

「これで、終わりだァァッ!!」

 身動き一つ取れなくなったカブトに、アンジールが迫る。
 大剣を突き立てるように、突貫する。
 このまま壁ごとカブトを突き刺して、その命を刈り取る。
 これは、妹達を守る為の大きな一歩である。
 夢も誇りも、何もかも投げ捨てて、アンジールは大剣を突き立てた。

「だから言っただろう。お前は甘いと」
「な……ッ」

 カブトの右手が、僅かに動いた。それは大きな誤算だった。
 マテリアルパワーを相殺するのもまた、マテリアルパワーだ。
 氷漬けになったカブトの身体を、先刻自分が放ったファイガの炎が、僅かに溶かしていた。
 といっても、燃え移った炎で溶ける氷などほんの僅かだ。
 しかし、右腕がほんの少しでも動かす事が出来れば、それで十分。

 ――CAST OFF――

 氷漬けになった装甲が、弾け飛んだ。
 ほんの一瞬の動作で、全てのアドバンテージが帳消しにされたのだ。
 しかし、加速を加えたアンジールの身体はもう止まらない。
 弾け飛ぶマスクドアーマーの攻撃を受けながら、アンジールはカブトへと迫った。
 それをカブトは寸での所で回避。脇腹を掠めた大剣は、スーパーの壁に突き刺さった。
 たったの一撃でスーパーの壁は貫通し、周囲の壁に亀裂が走る。

125 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:44:24 ID:Zke0Tok.0
 
「アンジールとか言ったな。お前は確かに強い」
「天、道ォォォ……ッ!!」
「だが、過去現在未来、全ての時代に於いて最強を誇る俺には敵わん」

 アンジールの身体を、カブトが抱きしめた。
 小さな動きで、力のベクトルを別の方向へと変える柔の技。
 それはカブトが最も得意とする戦術――カウンター。
 アンジールの身体を、亀裂の入ったコンクリートの壁に投げ飛ばした。
 バスターソードが壁に突き刺さって、壁に亀裂が走る。これに一秒。
 カブトがアンジールの身体を掴んで、その勢いを受け流す。これに一秒。
 壁が轟音と共に崩れ去り、アンジールの身体が夜の闇へと投げ出される。これに三秒。

 僅か五秒で、戦況は一変した。
 力で押し切る剛のアンジールと、力を受け流す柔のカブト。
 お互いの実力は拮抗していたが、結果はカブトの勝ちに終わった。
 アンジールは、焦り過ぎたのだ。

 ――ONE,TWO,THREE――

 ベルトを素早く三度叩き、眼下のアンジールへ右脚を向ける。
 電子音と共に、タキオン粒子によって加速された稲妻が、カブトの身体を駆け巡る。
 古今東西、仮面ライダーの必殺技と言えばこれに決まっている。
 どんな悪であろうと、この必殺技の前には屈せざるを得ない。
 全身を迸った稲妻が、右脚に集束されて行く。

「ライダーキック!」

 仮面ライダーカブトの全身全霊を掛けた、最強の必殺技。
 全力で放てば、対象を原子崩壊させる程の威力を秘めた絶大な一撃。
 しかし、アンジールを殺すつもりは無い。
 これ程の実力を持つアンジールであれば、咄嗟にバスターソードで受け止めるだろう。
 突き出した右脚に、重力による加速が加わる。
 これで確実に、勝負は決した。





 爆発音が鳴り響く。
 空中で発生した爆発と、爆煙の中から弾き出されたのは、赤の装甲。
 果たして、一瞬の呻き声の後、アスファルトに叩き付けられたのはカブトであった。
 落下を続けるアンジールは、何とかアスファルトに激突する前に、その片翼で体勢を立て直したのだ。
 一体どういう事だ、とアンジールは思う。
 つい一瞬前までは、カブトからの一撃を受けて、自分はこの戦いに負けると思っていた。
 だけど、結果はカブトが空中で爆発。そのまま落下する、という形で終わってしまった。
 原因は解らないが、とにかく自分のチャンスという事に変わりは無い。

「どうやら、天は俺に味方したようだな」

 不敵に口元を吊り上げて、アンジールは立ち上がった。
 空中でその身体を爆ぜさせ、体勢を崩したカブトは重力に引かれるままに落下した。
 天の道を往く者が、天に見放されるとは何たる皮肉であろうか。
 これで、今度こそ自分はこの戦いの勝者となる事が出来る。
 バスターソードを振り上げ、横たわるカブトへと振り下ろそうとした、その時であった。

126 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:45:00 ID:Zke0Tok.0
 
「痛……ッ!」

 V字型の光が、大剣を握るアンジールの手元で爆ぜた。
 予期せぬダメージに、バスターソードを取り落としてしまう。
 右手を押さえながら、光が飛んで来た方向に視線を向ける。
 カブトもまた、ゆっくりと起き上がり、アンジールと同じ方向へ視線を向けた。

「もう止めるんだ! これ以上戦いを続けるというのなら、僕が相手をする!」

 そこに顕在していたのは、銀と赤の戦士であった。
 胸元には青く光り輝く水晶体。銀色の身体に、燃える炎の様な赤を走らせたボディ。
 二つの銀色の目が、カブトとアンジールを鋭く睨んでいた。

「なるほどな」

 カブトがぽつりと呟いた。
 あの銀と赤の戦士を見た時、天道は全てを理解した。
 ライダーキックの邪魔をしたのは、十中八九間違いなくあの戦士だ。
 どういった思惑があるのかはわからないが、この男はカブトとアンジールの両者に攻撃を仕掛けて来た。
 それはつまり、自分達二人に対して敵対心があるという事だろうか。
 と、考えたが、天道はすぐにその考えを振り払った。
 自分達を殺すつもりの相手が、先程のような台詞を吐くとは思えない。
 しかし、出会ったばかりの相手をすぐに信用する天道ではない。
 もしかすると、罠という可能性もあるのだ。
 どうしたものかと思考するカブトの耳朶を叩いたのは、なのはの声だった。

「大丈夫ですか、天道さん!」
「……高町か」

 その言葉を聞いた相手が、ぴくりと反応した。
 なのはの姿に反応したのか。それとも高町、という言葉に反応したのか。
 どちらにせよ、もっと情報を集める必要がありそうだ。





 ミライが駆け付けた時、既にスーパーは炎上していた。
 屋上からはごうごうと真っ赤な炎が立ち上り、夜の闇を照らしていた。
 一体どうなっているんだ、なんて考える前に、再び轟音が鳴り響いた。
 それはスーパーの壁が、何者かによってブチ抜かれた音であった。

「まだ、間に合う!」

 再びミライは走り出した。
 一つ角を曲がれば、目の前で繰り広げられて居たのは、壮絶な戦い。
 赤い装甲を纏った戦士が、落下を続ける翼を持った人間へと、その脚を向けていた。
 その脚に輝くのは、迸る稲妻。どう見たってあれを受けて只で済む訳は無かった。

「メビウゥゥゥゥゥスッ!!!」

 左手に装着したメビウスブレスに触れ、その名を叫んだ。
 先程の変身から、一時間弱。問題無く変身できるかどうか不安ではあったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
 問題無くミライの身体は、∞の光に包まれ、ウルトラマンメビウスへの変身が完了した。
 矢継ぎ早に右腕でメビウスブレスに収まった宝玉をスライドさせ、両腕を頭の上に掲げる。
 ∞の光を収束させる両腕を、眼前で十字にクロスさせた。

127 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:45:53 ID:Zke0Tok.0
 皮肉にも、古今東西仮面ライダーの必殺技と定められた攻撃を打ち破るのは、これまた古今東西ウルトラマンの必殺技とされる攻撃であった。
 大量のスペシウムを含んだ光線が、カブト目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。
 果たして、殺さない程度に威力を絞って放たれたメビュームシュートは、カブトを直撃した。
 スペシウムによる爆発が生じた後、カブトの身体はアスファルトに引かれる様に落下。
 それから、目の前で未だ戦闘を続けようとする翼の男の戦力を、メビュームスラッシュで奪った。

 そうして、現在に至る。
 目の前に現れたのは、十代後半くらいの茶髪の少女であった。
 だけど、その声には確かな聞き覚えがある。その声を、ミライが忘れる訳が無かった。
 何よりも、その瞳も、髪の色も、その立ち居振る舞いも、ミライが知る女の子に酷似していたのだ。
 そして極めつけは、赤の装甲の男から放たれた「高町」という言葉。
 最早間違いない。この女の子は、きっと未来の「高町なのは」の姿なのだろう。
 だが、もしそうならば一体この状況は何なんだろう。
 赤の装甲の男は、なのはの味方で……だとするならば、悪人はこの翼の戦士だろうか?
 何にせよ話をしない事には、状況が解らない。
 だからメビウスは、高町なのはと思しき少女に、恐る恐る話しかけた。

「なのは、ちゃん……」
「貴方は、銀色の……鬼……?」
「へ?」

 果たして、帰って来たのはそんな訳の解らない言葉であった。


【1日目 夜】
【現在地 D-2 スーパー前】

【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、変身中(メビウス)
【装備】メビウスブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは、ナイトブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは
【道具】支給品一式、『コンファインベント』@仮面ライダーリリカル龍騎、ブリッツキャリバー@魔法妖怪リリカル殺生丸
    『おジャマイエロー』&『おジャマブラック』&『おジャマグリーン』@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:仲間と力を合わせて殺し合いを止める。
 0.これ以上誰も殺させたくない。誰にも悲しい涙を流させたくない。
 1.赤い装甲の男(カブト)、翼の男(アンジール)、高町なのはから話を聞いて状況を整理したい。
 2.銀髪の男(=セフィロス)からはやてを守る。
 3.一刻も早く他の参加者と合流して、殺し合いを止める策を考える。
 4.助けを求める全ての参加者を助ける。
 5.なのは、ユーノ、はやて、と合流したい。
 6.ヴィータが心配。
 7.カードデッキを見付けた場合はそのモンスターを撃破する。
 8.変身制限などもう少し正確な制限を把握したい(が、これを優先するつもりはない)。
 9.ゼロ(キング)、アグモンを襲った大男(弁慶)、赤いコートの男(アーカード)、紫髪の少女(かがみ)を乗っ取った敵(バクラ)やその他の未知の敵たちを警戒。
 10.自分の為に他の人間の命を奪う者達に対する怒り。
 11.ブリッツキャリバーを高町なのはに渡し、ゼストの最期を伝える。
 12.おジャマイエローに万丈目の死を伝えなければならないが……。
【備考】
※メビウスブレスは没収不可だったので、その分、ランダム支給品から引かれています。
※制限に気が付きました。また再変身可能までの時間については最低1時間以上、長くても約2時間置けば再変身可能という所まで把握しました。
※デジタルワールドについて説明を受けましたが、説明したのがアグモンなので完璧には理解していません。
※おジャマイエローから彼の世界の概要や彼の知り合いについて聞きました。但し、レイと明日香の事を話したかどうかは不明です(2人が参加している事をおジャマイエローが把握していない為)。
※参加者は異なる並行世界及び異なる時間軸から連れて来られた可能性がある事に気付きました。またなのは達が10年後の姿(sts)になっている可能性に気付きました。
※スーパーにかがみが来ていたことに気付きました。
 また、少なくとももう1人立ち寄っており、その人間が殺し合いに乗っている可能性は低いと思っています。
※第2回放送を聞き逃しました、おジャマイエローから禁止エリアとブレンヒルト、弁慶、万丈目、十代の生死は聞きましたがそれ以外は把握していません。またおジャマイエローもそれ以上の事は把握していません。
 おジャマブラック、おジャマグリーンが放送内容をどれくらい把握しているかは不明です。
※ナイトブレスを手に入れた事で、メビウスブレイブへの強化変身が可能になりました。
※黒マントの男=ゼロ(キング)を倒したと思っています。

128 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:46:23 ID:Zke0Tok.0
 
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、混乱、焦り、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、セフィロスへの殺意
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:クアットロを守る。
 1.クアットロを守る為に、参加者を皆殺しにしたいが……
 2.イフリートを召喚した奴には必ず借りを返す。
 3.ヴァッシュと再び出会ったら……
 4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。。
※レイジングハートは参加者の言動に違和感を覚えています。
※グラーフアイゼンははやて(A's)の姿に違和感を覚えています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※天道とヴァッシュの事はある程度信頼しています。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※混乱している為に自分の気持ちを整理出来ていません。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(中)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アンジールを改心させる。
 2.目の前の赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをする様な奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

129 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:46:55 ID:Zke0Tok.0
 
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト、もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)

130 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:47:25 ID:Zke0Tok.0
 


 雑居ビルの物陰に身体を隠しながら、一同の行動を見守る女が一人。
 二つ括りの茶髪に、若さを感じさせる学生服――クアットロだ。
 何とか走って追い付いたものの、スーパーは既に戦場と化していた。
 まず間違いなく、アンジールが喧嘩を売ったのだろう。
 あちゃあ、手遅れだったか、と額を軽く叩いた。

「いや、でも……まだやり様はありますわ」

 見たところ、あの赤の仮面ライダーは高町なのはの味方らしい。
 この場に高町なのはが居てくれるというのは、何気に非常に美味しい。
 何せ高町なのはの戦力は、魔道師としてはほぼ最強クラス。
 おまけに、クアットロの記憶が正しければ、アンジールはレイジングハートを持っている筈だ。
 上手くアンジールを説得し、高町なのはを味方に付けることが出来れば……。
 それから、セフィロスに対抗できるアンジールと、そのアンジールを追い込んだ仮面ライダー……。
 全員を味方につける事が出来れば、これだけでも戦力としては申し分無い。

「それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……」

 次にクアットロの視線が捉えたのは、ウルトラマンメビウス。
 奴は、赤の仮面ライダーの攻撃を中断させ、トドメを刺そうとするアンジールを制した。
 それでも追撃する様子が見られない事から、どうやら本当に戦いを止めさせたかったように見える。
 となれば、自分の行動一つで、上手く立ち回れば彼ら全員を味方に付ける事だって不可能ではない筈だ。

「ここが正念場ですわよ、クアットロ……上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る!」

 自分に言い聞かせるように、頬をぱちぱちと叩いた。
 それからクアットロは、雑居ビルの物陰から躍り出た。
 最早クアットロに、彼らを一方的に利用しようなんて気はない。
 ただゲームから脱出する為に、一時的にでも手を組む為に。
 自分の考えを伝え、ゲーム脱出の為に行動する仲間を作る為に。
 クアットロは、4人の元へと向かった。

131 夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:47:57 ID:Zke0Tok.0
 

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、左腕負傷(簡単な処置済み)、脇腹に掠り傷、眼鏡無し、髪を下ろしている、キャロへの恐怖と屈辱、焦燥
【装備】私立風芽丘学園の制服@魔法少女リリカルなのは、ウォルターの手袋@NANOSING、ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、クアットロの眼鏡、大量の小麦粉、セフィロスのメモ、血塗れの包丁@L change the world after story、はやてとかがみのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式×2、スモーカー大佐のジャケット@小話メドレー、主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)、カリムの教会服とパンティー@リリカルニコラス
【道具②】支給品一式、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪(シャマル)
【思考】
 基本:例え管理局と協力する羽目になったとしてもこの場から脱出する。
 1.アンジールを説得して味方に付けた上で、残りの三人も味方に付ける。
 2.自分の考察を話した上で、ゲームから脱出する為に協力して貰う。
 3.条件(プレシアに対抗できるだけの戦力+首輪・制限の解除手段+プレシアの元へ行く手段)が揃わない限り首輪の解除は実行しないし、誰にもさせない。
 4.デルタギアの各ツールを携帯電話、デジカメ、銃として利用出来るかを確かめたい、変身ツールとしてチンクかタイプゼロに使わせても大丈夫だろうか?
 5.首輪や聖王の器を確保したいが……(後回しでも良い)。
【備考】
※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
※下手な演技をするよりも、ゲームから脱出するまでは生き残る事を優先。
※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めていません)。
※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません。
※この殺し合いがデス・デュエルと似たもので、殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。
※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています。
※地上本部地下、アパートにあるパソコンに気づいていません。
※制限を大体把握しました。制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
※主催者の中にスカリエッティや邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています。
※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
※キャロは味方に引き込めないと思っています。
※キングのデイパックの中身は全てはやて(StS)のデイパックに移してあり、キングのデイパックははやて(StS)のデイパックに入っています。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※主催側に居るナンバーズ及びスカリエッティは敵として割り切りました。一切の情はありません。


【全体の備考】
※スーパー内で激しい火災が発生しています。このままではいずれ焼け落ちます。

132 ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 17:53:45 ID:Zke0Tok.0
投下終了です。
4月に入って中々時間が取れず、数行書いては保存、中断。
また数行書いては保存、中断、という作業を繰り返していた所為か、
一つの作品内でシーンごとに文章が違っている所が多々あるかもしれません。
作品としては、主に後半の流れを変更し、わかりにくいかもしれませんが戦闘描写は殆ど書き直しております。
これで変身制限やその他諸々の条件はクリアした、筈……。

タイトル元ネタは、仮面ライダーWから、
第15話「Fの残光/強盗ライダー」
第16話「の残光/相棒をとりもどせ」
の二作です。ファングが登場した回です。
それでは、何か問題などありましたら報告よろしくお願いします。

133 リリカル名無しA's :2010/04/28(水) 19:16:13 ID:jDZOkcYI0
投下乙です

いやあ、放送後はどうなるかと思いましたがやっぱりすんなりとは行かなかったか
アンジールと天道の信念をぶつけ合ったバトルがいいw
さて、ミライも来たけど逆にややこしくなりそうだw
そしてそれをまとめようとするクワットロとかなんなんだよwww

134 リリカル名無しA's :2010/04/28(水) 19:48:05 ID:BGkiLX8E0
投下乙です

修正前と違い戦いの最中にミライが介入して中断か……
クアットロもまだ介入前だし……
うーん、修正前だったら比較的簡単に団結出来そうだけどこの展開だと難しいなぁ。

しかし冗談とか抜きにしてクアットロの思考そのものは黒っぽいのにグループを団結させようってまさしく対主催の思考なのは本当に何なんだ?
しかも、キャラ崩壊ではなく純粋(?)に対主催寄りというなのは(というかクアットロ)FANから考えたらまず有り得ない状況でって当に何なんだよ。どうしてこうなった……

ところで、1点だけ指摘……というより些細な質問ですが、
名前欄を見たところ今回の修正版のサブタイには修正前にあった『Aの残光』が無くなっているんですが、
今回のサブタイは『Aの残光/強襲ソルジャー』&『Aの残光/夢と誇りをとりもどせ』となるんですか、それとも『Aの残光』はカットして『強襲ソルジャー』&『夢と誇りをとりもどせ』となるんですか……元ネタ的に前者(Aの残光付き)だと思いますが……。

135 ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/28(水) 21:44:33 ID:Zke0Tok.0
しまった……完全に見落していました。
ご指摘ありがとうございます。仰る通り、サブタイトルは「Aの残光」です。

また、色々と思うところがあるので、収録する際は細かな文章の修正をした上で、後日自分でしておこうと思います。

136 リリカル名無しA's :2010/04/28(水) 23:49:56 ID:lxlMKWRI0
投下乙です
前回と違ってミライの介入で決着付かずか
そういえばミライってアグモンを襲った危険人物銀色の鬼容疑が掛かっていたんだっけw
それにしても仮面ライダーとウルトラマンが揃い踏みとか豪華だなw

少し気になった点
>>112の以下の部分

それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。

『なのはの心中で、死んでしまった者への』の後がないようなきがするんですが、気のせいでしょうか

137 ◆gFOqjEuBs6 :2010/04/29(木) 00:47:45 ID:zbs9bIg60
おぉっと……またしてもミスが……。
多分あれですね、何度も中断して書き始めて、の作業を繰り返してる内に、
中断した所の続きを書くのを忘れてそのまま続きを書き始めたんだと思います。

収録時には、
>>なのはの心中で、死んでしまった者への
の一文を削除しようと思います。その一文無くても大丈夫そうなので。
ご指摘ありがとうございます。引き続き、誤字や脱字があれば、報告お願いします。

138 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:07:23 ID:EoGhWHlU0
遅くなって申し訳ありませんでした
これより本投下を開始ます

139 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:08:00 ID:EoGhWHlU0
デスゲームの会場も再び夜となり、日が沈む事で満月が煌々と輝く天に対して、血で血を争う地には暗い影が広がっていた。
そんな闇の時間へと移行した会場の東方に位置するホテル・アグスタから少し離れた林の中。
月の光さえ満足に通らない林の中で一層暗く影を漂わせている場所があった。
そこには一人の男が木に腕を付いて荒く息を吐いていた。
そして、その男――闇の狩人ジョーカーである相川始は悩んでいた。

(……俺は何がしたいんだ?)

きっかけは先程おこなわれた3回目の定時放送。
なぜか放送の主はプレシアではなかったが、今の始にはどうでもよかった。
それ以上に始は放送を聞いた自分の心境に戸惑っていた。
参加者をミラーワールドに引きずり込み、二人の生贄を無残に殺して新たな殺し合いを目論んだ狂人、浅倉威。
彼の死に僅かな安堵を。
ギンガが気にかけていて、川岸に追い詰めたが突然の禍々しさのせいで殺せなかった少女、キャロ・ル・ルシエ。
まだ一度も会った事はなかったが、天音の友人だったかもしれない少女、フェイト・T・ハラオウン。
彼女達の死にはいささかの哀悼を。
放送を聞き終えた時、それぞれ異なった感情をいつのまにか抱いている自分に気付いたのだ。

そして、その感情は気のせいか前回の放送よりも強い感情のように思えた。

(……俺はジョーカーだぞ!?)

最初はここにいる全員を殺して栗原親子の元へ帰る事が唯一の目的だった。
だからこそ出会った参加者を次々と襲い続けていた。
だがあの神を自称するエネルという参加者の存在を知った時、始の中でこのバトルファイトに対して拭いきれない疑念が生じた。
いや、それがそもそも間違いだったのか。
これはバトルファイトの延長ではなく、ただプレシアが引き起こしたイレギュラーな事態。
それなら別にここで優勝しようがどうしようが、本来のバトルファイトに影響はないのではないか。
本当はそれを口実に目を背けようとしていただけではないのか。

(それがどうした! もう俺は……)

だが今の始は傍目からそれとなく分かるほどとても危うい状態だ。
ミラーワールドでのジョーカー化はこちらに戻った事で解決したが、もしもあのまま戦い続けていれば今の始はいなくなっていただろう。
それほどまでにジョーカー化の欲求を抑えるのが苦しくなっているのだ。
今も放送を聞いただけで胸の奥で先程の感情とは別にどす黒い感情が蠢いている。

だが本来なら1日も経たないうちにここまでジョーカー化の欲求が強まるのは異常だった。
どうやらここに来てから感情の揺れ幅が大きくなりやすい気もする。
それはもしかして殺し合いを促進するためにプレシアが仕掛けた細工か、あるいは――。

(とにかく今は誰にも会わない方がいい)

だが今の始にとって真相は二の次。
こうしているのも全ては今この状態で誰かに会えば自分を抑えきれるか自信がなかったからだ。
だから一度ホテルから離れて心を静めているのだ。


だが、そんな状態だからこそ始は気づく事ができなかった。


「――――ッ!?」

自らに迫り来る鋼鉄の脅威に――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、苦悩、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 0.――――。
 1.生きる為に戦う?
 2.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたスバルや他の2人(なのは、はやて)が少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

140 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:08:30 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


ホテル・アグスタ1階ロビー。
そこは一廉のホテルに相応しくソファーが備え付けられ、荘厳な意匠が凝らされた柱が視界を妨げない程度に立てられた空間。
本来なら来客を穏やかに迎え入れるはずの玄関だが、残念ながら今ロビーにいる二人は真逆の雰囲気を纏っていた。

「もうすぐ放送か……今度もまた……」

死者と禁止エリアを告げる定期放送まであと数分。
緊張した空気が漂う薄暗いロビーに1組の赤い服を身に付けた男女、金髪トンガリ頭に真紅のコートのヴァッシュ・ザ・スタンピードと紫髪サイドポニーに真紅のセーターの柊かがみはいた。
だが放送を待っているはずの二人の様子は少し違っていた。
ロビーに漂う空気と同じように暗くなり気味のヴァッシュとは対照的にかがみの心中は穏やかではなかった。

(浅倉の奴、絶対私が殺してやるんだから!!!)

自らの片割れとも言うべき双子の妹である柊つかさを目の前で殺された今のかがみの心中にあるのは『復讐』の二文字のみ。
今も目を閉じれば鮮明に思い出してしまう。
メタルゲラスに両足をつかまれて傷つきながらも必死に助けを求めていたつかさ。
その目の前で何もできずにただつさかが真っ二つに引き裂かれて殺される様を見ているしかできなかった自分。
それが罪とばかりにつかさだったものから降り注ぐつかさの体液。
あの凄惨という言葉が生ぬるいほどの光景は生涯忘れる事はないだろう。
残念ながら今はまともに戦う術がないので大人しくしているが、そうでなければ今頃憎き仇を探し回っていたに違いない。

(それにしてもさっきまでのこいつ誰かに似ていたような……ああ、騒がしいところがゆいさんに似ているのね)

かがみはソファーに座って顔を落としているヴァッシュの様子を見ながら一人で納得していた。

成実ゆい。
かがみの親友である泉こなたの従姉であり、後輩の小早川ゆたかの実姉に当たる。
苗字が違うのは既婚者だからである。
いつも騒がしくテンションが高い人だが、そういうところがどこかヴァッシュと似ているのだ。

(どこにでもいるのね、こういう人って。そういえばこなたは今どこで何しているのかしら……)

141 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:09:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


整然と立ち並ぶ林の中で綺麗にホテルまで続いている不自然な一本道。
その道が不自然に思えるのはそこだけ何か得体のしれない力で消されたかのようになっているからだろう。
道と林の境界付近の木々は揃いも揃って普通ではありえないほど綺麗な切断面があったので尚更だった。
そんな不自然な道に最大限の注意を払って進む二人の青髪の少女、背が高く短髪なスバル・ナカジマと背が低く長髪な泉こなたがいた。

「スバル、やっぱりあの天使さんも参加者なのかな?」
「…………」
「ん? スバル?」
「あ、ああ、たぶんそうじゃないかな……」

スバルはホテル・アグスタの屋上に降り立った天使の姿から一人の人物を連想していた。
少し遠目ではあったが、あの時見えた天使は金髪で赤いコートを纏っていた気がする。
それによって連想する人物はヴァッシュ・ザ・スタンピード。
チンク曰く、危険人物。
もし本当ならこれからスバル達の向かう先は安全ではなく、危険な場所である可能性が極めて高い。
そのホテルにこなたを連れて向かう事にスバルは若干危惧を抱いていた。
戦場になるかもしれない場所にこなたを連れて行って、こなたまで危険な目に遭わせるのではないかと。
幸いな事に天使を発見した時の位置関係からこなたはスバルの影に隠れていた形になっていた。
だからこなたを待たせて一人で行けば共倒れの危険性はなくなる。
しかも道すがらクロスミラージュの状態を念入りに調べていたリインからは芳しくない診断結果を聞いていた。
曰く、基礎構造部分に致命的な破損があり、専門の場所で修理すれば修復できるかもしれないが、今のままだと自動修復もままならず、もし万が一この状態で使用すればそれがクロスミラージュの最期になるだろうと。
つまり今のスバルの力は相変わらず満足に発揮できない状態だ。
スバルとこなたが調べた範囲でデュエルアカデミアに気になる物はなかった事はすでにお互い確認済みだったが、あそこにはまだ幾つか荷物が放置したままだ。
ホテルは後回しにして一度をデュエルアカデミア跡地に戻るという選択肢もありだ。
だがそんなスバルの弱気な心の内を察したのかこなたは声をかけてきた。

「大丈夫だよ」
「え?」
「自分の身は自分で守るからさ。スバルは自分がするべき事をすればいいと思うよ」

こなたの言葉は弱気になりかけていたスバルを落ち着かせるものだった。
これではどちらがしっかりしているの分かったものではない。

「……うん!」

迷いは晴れた。


     ▼     ▼     ▼


そして運命の悪戯と共に出会いはいつも突然に。

「かがみさん!?」
「ス、スバルッ……ヴァッシュ、あ、あいつが私を! いや、た、助けて!!!」
「――ッ、こんな時に!」

そして銃声と共に別れもまた唐突に。

142 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:09:32 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


一瞬にして先程よりさらに緊迫した空気が漂い始めたロビー。
その緊張した空間のソファーや柱を挟んでスバルとヴァッシュは膠着状態にあった。

(一応念のためと言ってこなたを待たせておいて正解だった。まさかかがみさんがいて、その上危険人物のヴァッシュと手を組んでいたなんて……)

いつかは再び対峙しなければいけないと思っていたが、さすがにこの状況下では厳しすぎた。
危険人物二人が手を組んで、話し合う暇もないまま銃撃されるこの状況ではいくらスバルでもこなたを守りきる自信はない。
今まで別行動で良い経験がなかったが、今回に限っては安全確認のために一人で先に入って正解と言えよう。

(でもいつまでもこのままの状態が続くのは好ましくない。どこかで隙を見て一度戻った方がいいかな)

ヴァッシュが放った初撃はギリギリ避けられたが、あの早撃ちを見る限り相当銃の扱いに長けているようだ。
今のように距離が開いた状態で銃を持った相手に対して接近戦が得意なスバルは圧倒的に不利だ。
決着を焦ればまず間違いなくスバルに勝機はなく、ゆえにここは一度戦線離脱した方がいいとスバルは考え始めたのだ。

スバルが離脱の隙を窺っていた時を同じくして、ヴァッシュもまた転機を窺っていた。

(かがみさんには避難してもらったから、あとはスバルを抑えるだけか)

既に保護対象であるかがみには念のため装甲車の鍵を渡して地下の駐車場に避難してもらっておいた。
あそこに駐車してあった装甲車の中なら万が一の事態でも安全だと考えたからだ。

(威嚇のつもりだったけど、あの初撃を避けた動作は大したものだな。でも怪我していたみたいだからなんとかなるかな)

あとはタイミングを見計らって相手を制圧するだけ。

だが突然の邂逅に対処するあまりスバルもヴァッシュも大事な事を忘れていた。

そしてそれを思いださせるかのように時計の針は12と6を指す。

『こんばんは。これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います』

二人の膠着状態を破るかの如く無慈悲な放送は始まった。

143 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:10:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


新庄・運切の訃報――それはヴァッシュにとってまさしく青天の霹靂だった。

その知らせを聞いた瞬間、ヴァッシュの頭は真っ白になった。
新庄・運切という少年はヴァッシュにとって少し特別な存在だった。
出会いは大した事ない普通なものだった。
傷心の内に沈んでいた自分の前に現われてまず初めにこの身体を心配してくれた。
始まりは本当に何でもない事だった。
ただその気遣いがとても嬉しかった。
それからしばらく黙って隣に座っていてくれた。
もしかしたら死なせてしまうかもしれないと言ったのに、それでも放っておけないと言って一緒にいてくれた。

それが少し心地よかった。

そんな新庄君だからこそ自分を死なせないために無謀とも言える提案をやってのけたのだ。
このままではいつか自分が思いつめて死んでしまうと気付いたから。
多大な危険と隣り合わせだったが、それなりの算段はあった。
新庄君からの提案だったとはいえエネルは自分の力に恐怖を覚えていたはずだ。
実際新庄君が止めなければエネルの死は確実だったので、一見無謀にも見えたが効果は絶大に思えた。
だから新庄君の身は自分が生きている間は大丈夫だと思い込んでいた。

だがそんなある意味楽観的な考えはあっけなく砕かれてしまった。

「……ぁ……ぅあ」

誰のせいだ?
誰のせいでもない。
全ては自分のせいだ。
自分の甘い考えが新庄運切という一つの命が散る原因となった。
少なくともヴァッシュ自身はこの時そう思っていた。

そして、無意識の内に心に広がる罪の意識はヴァッシュをさらに苛むのであった。

「……っ……え?」

不意に失意に沈みこむヴァッシュの上に影が差した。
誰かがヴァッシュの前に立ったせいで人影が光を遮ったのだ。
当然誰が立っているのか確認するために顔を上げないといけないのだが、なぜかそれは躊躇われた。
不思議とスバルではない確信があったので急がなくてもいいが、そういう問題ではない気がする。
ここで顔を上げたら取り返しの付かない事になってしまうような、そんな気がしたのだ。
だがいつまでもこうしているわけにもいかない。
意を決して気力を奮い立たせたヴァッシュが顔を上げると、一人の男と目が合った。

「――ナ、ナイブズッ!?」

ヴァッシュの目の前に立っていたのは死んだはずの兄――ミリオンズ・ナイブズであった。
だが次の瞬間、ヴァッシュはさらに驚く事になる。
いつのまにか自分の周りには人だかりができているのだ。
そしてよく見るとその人々には見覚えがあった。
ミリオンズ・ナイブズ、新庄・運切、フェイト・T・ハラオウン、アンジール・ヒューレー、エネル、それに今まで出会った人々――

――そして、あの忌まわしき事件で消え去ったジェライの人々もそこにいた。

そしてその全員が黙ってヴァッシュを見ていた。
ただ静かに見つめていた。

皆の瞳にはただヴァッシュの姿が映るのみ。

「……っ……止めてくれよ」

そして、その瞳の重さにヴァッシュは――。

144 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:10:42 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


「浅倉の奴、なに勝手に死んでいるのよ! あいつは、私の手で殺さないといけないのよ! つかさを殺しておいて、あいつ……!!」

何台もの車が駐車されている照明も疎らな地下駐車場。
その中にかがみの乗っている装甲車はあった。
ヴァッシュに言われた通り安全のためにここに来たが、黙って待つ気はなかった。
その理由は先程から上の方から響いてくる不気味な振動。
どうやら激しい戦闘が始まっているらしく、さらに徐々に駐車場の天井にヒビが走り始めていた。
どちらが勝つにせよこのままここにいれば生き埋めになるのは必定。
なんとしても一刻も早くここから脱出する必要があった。
キャロが死んだせいかバクラが静かだったので、とりあえず一人でなんとかするしかなかった。

「でも万丈目はいい気味ね。きっと私を殺そうとした報いよ」

憎き相手の死を知って悦になりながらかがみは必死に最低限の運転技術を覚えていた。
実際歩いた方が早いかもしれないが、この装甲車の頑丈さを考えればここで最低限の運転をできるようになっておくほうが後々便利だ。
それにこの装甲車にも他の車と同様に取扱書が付いていたし、実際の運転なら親やゆいなどと見る機会も何回かあった。
さらにAT車なので発進の方法は意外と簡単だったので、発進の仕方はギリギリ理解できた。

「えっと、まずはエンジンを掛けて、ギアは……確かここで……それでアクセルをおおおおお!!!」

ついに小気味いいエンジン音と共に無骨な装甲車は走り始めた。
ただしかがみがアクセルペダルを一気に踏み込んだためいきなりトップスピードで発進するはめになったが。
だが車線上に出口があったのですぐに外に出る事が出来て結果的に良かったとも言える。
さらに幸運だったのは装甲車がAT車であった事だ。
もしAT車ではなくMT車だったらその場でエンストを起こして立ち往生する羽目に陥っていた。

ただそんな事情を他所に当のかがみは初めて運転する車のスピードに少しばかり面食らっていた。

「うそ、ちょっと、早すぎ――って!?」

ふと前を見ると、車線上に誰かが飛び出してきた。
それは数時間前に仮面ライダーと怪物に変身して浅倉と戦っていた奴だった。
ひどく苦しそうにしていてこちらに気付いていないようだったが、それを見てもかがみは車を止める気はなかった。
むしろ――。

「轢いちゃえ」

――そのまま速度を緩めず、クラックションも鳴らさず、その勢いのまま突き進んだ。
先程の放送でこれからは参加者を殺せばボーナスの支給品が手に入ると明かされたのだ。
いまさらかがみが人殺しを躊躇う理由はどこにもなかった。


ドン!!!!!

145 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:11:12 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】バリアジャケット、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ、装甲車に乗車中
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、装甲車@アンリミテッド・エンドライン
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.まず目の前でふらついている奴を轢き殺す。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

146 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:11:48 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


スバルはヴァッシュからの突然の攻撃に驚いていた。
放送の途中で繰り出された白刃による斬撃は驚くべきものだったが、スバルが驚いた原因は別にあった。
一瞬前まで居た場所に刻まれた斬撃の痕。
普通ではありえないほど綺麗に刻まれた傷痕にスバルは見覚えがあった。
ここに来るまでの林で同じような切り口で切られた木が数本――。

――そしてルルーシュの右腕にも同じような傷痕が残されていた。

「ヴァッシュさん、あなたがルルーシュの右腕を……」

あの傷さえなければルルーシュが絶望する事もなかった。
あの傷さえなければルルーシュが死ぬ事もなかった。
そんな想いが沸々とスバルの内に湧き上がってくる。
確かルルーシュを襲った人物は金髪で右腕が腐った男だったはず。
一見すると右腕が腐っていない目の前の人物ではない気がするが、その前提は確実ではない。
実際最初に出会った赤コートの化け物のように再生能力を持っているかもしれない。
それに何よりその刃での特徴的な傷痕を残しているのが疑いようもない証拠だ。

「あなたのせいで!!!!!」

スバルは知らない。
実際にルルーシュを襲ったのはヴァッシュと融合したナイブズである事を。
そのヴァッシュが幻を見る程に精神が不安定になったせいで突発的な暴走状態にある事を。
先程の刃が幻覚からくる本能的な自己防衛行動である事を。

今までヴァッシュの暴走状態が止まっているのは左腕つまりナイブズと向き合ったからだ。
だが同じプラント同士とはいえその左腕は元からヴァッシュの物ではない。
だから最初のうちは暴走していたのだ。
そして今ヴァッシュが精神的に不安定になった事で左腕が再び暴走しかけようとしている。
もちろんある程度精神が安定して落ち着く事ができれば今の暴走も止まるだろう。

だが果たしてそれまでホテルが無事であるか確証は持てない。

147 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:12:20 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、質量兵器に対する不安、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容は[[せめて哀しみとともに]]参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.あなたのせいでルルーシュは!!!
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.かがみを止める。
 7.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 8.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割、、精神不安定(大)、一時的な暴走状態?
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 0.新庄君が……死んだ……。
 1.かがみを守りつつ殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。

148 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:14:12 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


柊つかさの死。
それは泉こなたにとって大きな衝撃となった。
だがこなたもここが殺し合いの場であり、親友が殺し合いに乗る事まで覚悟した身だ。
当然自分の知らない間に死んでしまう可能性も考えて、覚悟はしていた。

だがこなたは幸運であり、不幸であった。

大した力も知識もない女子高校生が並み居る猛者が死んでいく中で生き残っていた。
だから心の底で淡い希望を抱いてしまった。

『もしかしてこのまま生きて再会できるんじゃないか』

かがみは殺し合いに乗ってしまったが、裏を返せばそれだけの力が手に入ったという事は逆に自分の身を守れる事でもある。
つかさにしても保護者がいなくなっても6時間生き延びたのだから大丈夫なのではないかと思った。

だがそんな幻想は呆気なく砕かれてしまった。

そしてこなたはまだ誰かの死、さらに誰かの死体さえ見ていなかった。
駅の時でさえスバルの配慮によってスバルがクロスミラージュを持って出てくるまで待っていた。
確かに心の中では覚悟はしていた。
だが思うだけでは実際に物事に直面した時には足りなかったのかもしれない。

だからこそこなたは前に進むと決めた足を止めてしまった。

「う、そ、つ、つかさ……」

そして、再び歩み出すその足の先にある答えとは――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ付近】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、つかさの死に対する強いショック
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ(疲労小)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.つかさがしんじゃった――。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています(特にアーカードには二度と会いたくないと思っています)。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 2.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。

149 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:14:46 ID:EoGhWHlU0


【チーム:黒の騎士団】
【共通思考】
 基本:このゲームから脱出する。
 1.首輪解除の手段とハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。
 2.首輪を機動六課、地上本部、スカリエッティのアジト等で解析する。
 3.それぞれの仲間と合流する。
 4.ゆりかごの起動を阻止しヴィヴィオを救出する。
【備考】
※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。また異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付いています。
※デュエルモンスターズのカードが武器として扱える事に気付きました。
※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は[[守りたいもの]]本文参照。
※「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
※チーム内で、以下の共通見解が生まれました。
 要救助者:万丈目、明日香、つかさ、ヴィヴィオ/(万丈目は注意の必要あり)
 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ユーノ、クアットロ、アンジール、ルーテシア、C.C./(フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、クアットロ、アンジール、ルーテシアには注意の必要あり)
 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ)、炎の巨人を操る参加者(=ルーテシアorキャロ?)、ヴァッシュ、かがみ、半裸の男(=エネル)、浅倉
 判断保留:キング、天道、スーツの男(=矢車)
 以上の見解がそれぞれの名簿(スバル、こなた)に各々が分かるような形で書き込まれています。
※アニメイトを襲いヴィヴィオを浚った人物がゆりかごを起動させようとしていると考えています。


     ▼     ▼     ▼


ところでいくら新庄がヴァッシュにとって特別な存在になっていたとしても果たしてここまでの衝撃を受けるものだろうか。
だが実際こうしてヴァッシュは新庄の死に少なくない衝撃を受けている。
この会場内で起きた様々な事例を加味すれば、それも無理からぬ事かもしれない。
もしくは始を苦しめるジョーカー化への欲求の増大や普通なら凶行に及ぶはずもない参加者が手を血に染めてしまう事と何か関係があるのだろうか。
または金居の予想が正しいのか。
やはりプレシアの仕掛けた細工か、あるいは――。

150 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 01:15:53 ID:EoGhWHlU0
投下終了です、タイトルは「」突っ走る女」です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

151 リリカル名無しA's :2010/05/14(金) 10:01:12 ID:g6jzJLBs0
投下乙、ホテルオワタ
おかしい……絶対、かがみん無双orジョーカー暴走orヴァッシュ暴走orこなたマーダー化orスバこなリイン退場orかがみん総取りになると思ったのに……普通の繋ぎじゃないか……
とりあえず、原作的に正しい反応だけどスバル落ち着け。ヴァッシュの髪の色は殆ど黒だぞ、一番の悪人はかがみで冷静にならないとこなたを失いかねないぞ。
まぁ、そのかがみは始をひき殺す……わけないよなぁ、変身可能になっているから変身出来るし、変身出来なくても対処されそうだし……ジョーカー暴走で終わりそうな気もするが。

あと、内容とは別に気になる事があるんですが、
仮投下後、氏のコメントがあってから本投下まで6日と少々時間が掛かりすぎだと思うのですが。
勿論、仮投下後の本投下や本投下後の修正の期限に関してはルールで決められていないので無制限という事で問題は一応ありません。
只、正直な所実質1週間という大幅な予約超過と変わらないんですよね。
勿論、ホテルパートは全員予約以外の予約が無く、ここの人達としても待つ分には一向に構わないと思います。
ただ、それはあくまで待つ側の話であって、投下する側がそれに甘え本投下までコメントも無しに大幅に遅れて良い話にはならないのではと思います。
氏にも都合があるでしょうから、遅れる事自体は仕方はありません。しかしそれならせめて『諸事情で2,3日遅れます』というコメント入れるなり、『修正に手間取るので一旦破棄します』とするなりやりようは幾らでもあったと思います。

したらばやwiki管理、多くのSS投下と氏が貢献しているのは理解出来ますが、だからといって根本的な期限のルールもしくはマナーを破っても構わないという話にはなりません。むしろ管理する側だからこそ守るべきではないのでしょうか?
以前にも誰かが指摘した事とは思いますが、今一度その事について考えてください。

152 リリカル名無しA's :2010/05/14(金) 13:28:52 ID:I.fSqMX20
投下乙です

確かにスバルは原作通りだがそれは破滅フラグだぞ
そしてこういう時にこなたが危ない…
ああ、誰か助けて

それと俺はあまりぐだぐだ言わないが確かに連絡の一つぐらい欲しかったな
遅れる事自体は仕方ないけど

153 ◆HlLdWe.oBM :2010/05/14(金) 21:43:58 ID:EoGhWHlU0
>>151-152
確かに連絡の一つもしなかったのは自分の落ち度です
このたびは皆さんに迷惑を掛けてしまいどうも申し訳ありませんでした
この忠告は真摯に受け止め、執筆環境を見直し、同じようなことをしないように努力します

あとタイトルが微妙に間違っていました
正しくは「突っ走る女」です

154 少し頭冷やそうか :少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

155 リリカル名無しA's :2010/05/19(水) 17:07:28 ID:.b90kewQ0
>>154
そう考えるならこの企画はあなたには合わないね
もうここに来ないことをお勧めするよ
それが双方にとって一番

156 少し頭冷やそうか :少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

157 ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:50:33 ID:XV1/QtKY0
スバル・ナカジマ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、相川始、ヴィヴィオ分を投下します

158 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:52:05 ID:XV1/QtKY0
 どん、と響いた衝撃音が、始の鼓膜へと突き刺さる。
 ちら、と視線のみを向ければ、馬鹿でかい装甲車のタイヤが空回りしている。
 おおよその目測だが、速度は時速80キロほどであっただろうか。
 人の姿では、直撃を食らっていたなら一発でアウトだっただろうし、あれが堅牢な装甲車でなければ、乗り手も死んでいたかもしれない。
 そう。
 相川始は、強襲する装甲車の突撃を、食らわなかった。
 咄嗟の判断だった。
 一瞬回避が遅れていたなら、まず間違いなく食らっていたと断言できた。
 そのシビアなタイミングを掴むことができたのは、ひとえに前面に灯っていたもの――ヘッドライトのおかげと言えるだろう。
 踏むものもない舗装された道路を走っていた車だ。
 音だけでなく光すらも無く走っていたなら、最期まで気付けなかったのは間違いない。
「!」
 ぶぉん、とエンジンが唸りを上げた。
 標的を外し、勢い余って森の木々にぶち当たった装甲車が、轟音と共にバックする。
 その勢いで車体が反転し、勢い余って回りすぎたところを、戻す。
 もたついた動作は、運転免許を持たない素人のものか。
 マニュアル通りの運転をしているのなら、相手に居場所を伝えてしまうライトをつけっぱなしにしていたのも頷けた。
「変身!」
 一度目はまぐれであっても、二度目はない。
 人間と自動車とではスピード差がありすぎる。このままの姿では、次の突撃は回避できまい。
 故にほぼ反射的な動作で、カリスラウザーへとカードを通した。
『CHANGE』
 低い合成音声と共に、相川始の姿が一変。
 ヒューマンアンデッドの姿から、マンティスアンデッドを彷彿とさせる鎧姿へと変わる。
 漆黒のオーラを振り撒き現れたのは、黒金と緋々色金の戦士――ハートの仮面ライダー・カリス。
 瞬間、ぶおぉ、と吼えるエンジン。
 巨大な鉄の塊が、戦闘態勢へと移行。
 雄叫びと共に加速する体躯が、偽りの仮面の戦士へと殺到する。
「っ……!」
 これを飛び退り、回避する。
 仮面ライダーカリスの最大走力は、およそ時速75キロ。
 純粋な速さ比べならともかく、瞬発力では十二分に対処可能。
 相手もコツを掴んできたのだろう。避けられたのを理解した瞬間にブレーキをかけ、木との衝突だけは防いだ。
 とはいえ、乗り物を運転する上で、急ブレーキが悪手であることは言うまでもない。
 その理解も曖昧なうちは、素人と言って差し支えない。
(それなら、逃げ切れる)
 くるりと踵を返し、疾走。
 アスファルトの道路から飛び出し、手頃な獣道へと突っ込む。
 実のところ、始には交戦する気などなかった。
 理由は第三回放送の直後、すぐに浅倉威と戦わなかった時のそれと同様。
 ジョーカーの欲求と人の情――2つの感情に心を掻き乱されている現状では、とてもまともな状況判断などできない。
 故に無理に戦闘して下手を打つよりも、この場は最初から戦わないことを選んだのだ。
 刹那、背後から迫りくる鋼の咆哮。
 金属の光を放つ猛獣が、ばきばきと枝葉をへし折って肉迫する。
 道が開けているうちは駄目だ。装甲車のパワーとタフネスなら、それくらいの障害はこじ開けられる。
 ばっ、と。
 横跳びで獣道を外れ、茂みの中へと飛び込んだ。
 そのまま木々の密集したところを狙い、幹の合間を縫うように走る。
 これなら装甲車でも追うことはできない。相手が並の人間なら、このままやり過ごすこともできる。
「ちょこまか逃げるんじゃないわよッ!」
 相手が並の人間なら、の話だが。
 少女の金切り声が響いた。
 そのヒステリックな叫びには、覚えがあった。
 つかさなる少女から「お姉ちゃん」と呼ばれていた双子の姉――名前こそ知らないが、過去に2度顔を合わせた娘だ。
 よもやこんなにも短いスパンで、3回も顔を合わせることになるとは思わなかった。
『HENSHIN――CHANGE KICK HOPPER』
 次いで聞こえてきた機械音声は、自分達仮面ライダーのそれを想起させるもの。
 浅倉が変身した紫のライダーのような、自分の知らないライダーへの変身手段を手に入れたのだろう。
 これで機動力は互角となった。
 だが、それでもまだ始の方が有利だ。
 走るスピードが同じなら、互いの距離は詰められない。その隙に、相手に見つからないよう身を隠してしまえばいい。

159 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:53:17 ID:XV1/QtKY0
『CLOCK UP』
 その、はずだった。
「ぐぅあっ!?」
 刹那、襲いかかる鈍痛。
 腹部目掛けて放たれた衝撃と痛覚が、カリスの鎧姿を吹っ飛ばす。
 宙を舞いかけた漆黒の身体が、どん、と木の幹に当たって停止した。
 何だ、今のは。
 未だ抜けきらぬ混乱の中で思考する。
 自分と相手の間の距離は、相手が車から降りるまでに、100メートル近く開いていたはずだ。
 だというのに、攻撃が届いた。発射音が全く聞こえなかったことから、射撃攻撃でないことは分かる。
 ならば一体何をどうやった。射撃でないなら、どうやって攻撃を当てたというのだ。
「――ぉぉぉおおりゃああああああああああっ!」
 びゅぅん。
 がきぃん。
 瞬間、奇妙な情景を見聞きした。
 目の前に立っていた緑色の鎧。
 掛け声か何かのような雄叫び。
 猛スピードで空気を切り裂く音。
 カリスの鎧を叩いた金属音。
 それら4つの映像と音声が、ほとんど同時に再生されたのだ。
 関連性が、見当たらない。
 静かに佇んでいる目の前の敵と、猛然と走り追撃を仕掛けた音声とのイメージが結びつかない。
(音速を超えて動けるのか、こいつは)
 導き出された答えはただ一つ。
 敵の追撃とここまでへの到達が、追撃により発生した音を置き去りにしたということだ。
 音より速く動けるのなら、掛け声より速く手が出たのも納得がいく。
「ったく……手間、かけさせんじゃないわよ。これ、結構、疲れるんだから……」
 鎧の奥から響くのは、やはりあのツインテールの少女の声。
 改めて相川始は、眼前の仮面ライダー――キックホッパーの姿を見定めた。
 ホッパーの名前が指す通り、全体的にバッタの雰囲気を色濃く宿したライダーだ。
 身体は宵闇の中でもはっきりと伝わってくるほどの、鮮やかに輝く緑色に包まれている。
 顔面を覆うマスクなどは、そのものズバリでバッタのそれだった。
 片足に装備された金色のパーツは、これまた名前通り、キック力を増幅させるためのサポーターだろうか。
「どうやらその高速移動も、そう何発も使えるものじゃないらしいな」
 立ち上がり、態勢を立て直し、呟く。
 半ば息を切らした声からも、あれの体力消耗が大きいというのは確かなのだろう。
 ずっとあのままではたまったものではなかったが、短時間しか使えないのなら、どうにかなる。
「関係ないでしょ。どうせアンタ、ここで死刑確定なんだから」
 言いながら、緑のライダーが構えを取った。
「そうか」
 始もまた、それに応じる。
 できることなら雑念が消えるまで、戦うことなくやり過ごしたかったが、この距離ではそうも行かないだろう。
 逃げるにしても倒すにしても、確実に反撃を要求される間合いだ。
「分かったらとっとと……死ねぇぇぇっ!」
「はあぁっ!」
 緑と黒が同時に吼える。
 赤い瞳同士が肉迫する。
 加速し、振りかぶられるキックホッパーの足。
 踏み込み、突き出されるカリスの腕。
 もはや何度目とも知れぬ、仮面ライダー同士の一騎討ちが始まった瞬間だった。



 見る者が見れば、明らかに異常と分かる切り口だった。
 なればこそスバル・ナカジマは、目の前の男を犯人だと断定した。
 いくら鉄には劣るとはいえ、人間の骨は相当に頑強で強靭だ。
 いかな豪剣を持っていたとしても、よほどの達人でもない限りは、完全に平坦な切り口を作ることはかなわない。
 にもかかわらず、止血の際に垣間見た、ルルーシュ・ランペルージの傷跡は、怖ろしいほどに真っ平らだった。
 そしてここに至るまでに見た木々や、あの男が切り裂いた柱も、同じように真っ平らだった。
 故にスバル・ナカジマは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを犯人と断定した。

160 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:53:59 ID:XV1/QtKY0
「オオオオォォォォォォォッ!!」
 怒号を上げる。
 拳を振りかざす。
 獣のごとく獰猛な叫びと、獣のごとく荒々しい動作で。
 獣のごとき金色の瞳を、爛々と憎悪に煌めかせながら、勢いよく床を蹴って飛びかかる。
 びゅん、と反撃に出るのは無数の尖翼。
 袖のない左腕から迫りくる、糸のごとき白刃の雨だ。
 ぐわん、と腕を振るい、薙ぎ払った。
 両足で地面を突いて逆立ちとなり、駒のごとく両足を回した。
 ジェットエッジのスピナーが唸りを上げる。咆哮と共に旋風を成し、迫る凶刃を引きちぎる。
 かつてナイブズだったもの――ヴァッシュの左腕から伸びる尖翼の速度は、これまでに比べると明らかに遅い。
 知覚不可能な速度で放たれていたはずの斬撃が、今ではご覧の有り様だ。
 それは宿主たるガンマンの意志が、かつてほどこの左腕に毒されていないためなのだろう。
 そしてその程度の攻撃では、彼女を死に至らしめることなどできはしない。
「うああぁぁぁぁッ!!」
 今のスバル・ナカジマは全開だ。
 戦闘機人モードを解放し、IS・振動破砕を発動させ、怒りのままに四肢を振るっている。
 情けも容赦も残されていない。
 常人なら即死確定の技を使用することへの躊躇いなど、その目には一片も宿されていない。
 腕を振り、足を振り、轟然と咆哮し立ち回る姿は、まさに金眼の野獣そのもの。
 かつて地上本部攻防戦で、姉ギンガを傷つけられた時以来の、憤怒と憎悪に狂った阿修羅の形相だ。
「どぉぉぉぉぉけえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」
 目の前に立ち並ぶ刃の壁を、両手で強引にこじ開ける。
 超振動の五指が触れた先から、刃を粉々に砕いていく。
 目の前の男が殺したわけではなかった。
 黒髪の少年を死に追いやったのは、猛烈な炎を伴う攻撃だ。
 それでも、この男に負わされた手傷さえなければ、あの場から脱出することもできたはずなのだ。
「アンタ、は……!」
 ブリタニアの少年――ルルーシュの顔が脳裏に浮かぶ。
 この身をきつく抱き締めた、隻腕の感触を覚えている。
 不思議な少年だった。
 あれほどまでにストレートに、誰かに縋られたのは初めてだった。
 それほどに救いを求められたことは、生まれてこの方経験したこともなかった。
 彼の世界にいた自分のことを、それ相応に大切に思っていてくれたのかもしれない。
 ひょっとしたら、好きでいてくれたのかもしれない。
 その好意に応えることは、残念ながらできそうにない。会ってすぐの男になびくほど、自分は軽い女ではないらしい。
 それでも、あの今にもへし折れてしまいそうな背中を、支えてあげたいとは思っていた。
 こうして怒りに狂った獣へと化生するほどには、救いたいと思っていた――!
「アンタだけはああぁぁぁぁァァァァァ―――ッ!!」
 遂にスバルは絶叫した。
 怒号と共に繰り出された一撃は、遂にその防御の全てを打ち砕いた。
 生温かい吐息が漏れる。
 ぎらぎらと豹眼を輝かせる。
 百獣の軍勢のごとき威容と異様を孕み、殺意の魔獣がヴァッシュを睨む。
「く……」
 微かな呻きが、聞こえた気がした。
 目と鼻の先まで迫ったガンマンの顔は、確かに意識を失っているようにも見えた。
 しかしそれらの情報は、瞬きの後にはシャットアウトされる。
 獣が狙うは食らうべき獲物。
 すぐに叩き潰すだけの相手のことなど、いちいち気に留める必要はない。
 迷いなき敵対意識に従い。
 極大の憤怒と憎悪と共に。
 轟転するスピナーの右足を振り上げ、踵落としの姿勢を取る。
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが目を見開いたのは、ちょうどそれが振り下ろされた瞬間だった。

161 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:54:37 ID:XV1/QtKY0


 奇妙な夢を見ていた。
 否、眠っているのとは違うのだから、夢というよりは幻だろうか。
 ともかくもその幻の中では、彼は真っ暗な闇の中で、1人ぽつんと立っていた。
 上も、下も、右も、左も。
 その他ありとあらゆる方向を、どこまで遠くまで見渡しても、黒い闇しか見当たらない世界。
 地平線さえ塗り潰された、真っ黒くろの世界の中で、彼だけが、たった1人。

 そんな闇の中で立ちふさがったのが、今は亡きミリオンズ・ナイブズだった。
 彼が自らを取り巻く闇の幻に気付いたのも、ちょうどその瞬間だった。
 気付いた瞬間には既に、そこは1人ぼっちの世界ではなかった。
 ナイブズに連れ添うようにして、いくつもの顔が浮かんでくる。
 消してしまったジュライの人々。
 この戦いの中で救えなかった人々。
 自らの手で殺してしまった人。
 それらが彼をずらりと取り囲んで、一様に何かを訴えるような目を向けている。
 その目を見続けていることが耐えられなくて、彼はうつむき、視線を逸らした。

 それからどれほど経っただろうか。
 ふと、妙な気配が彼の身に降りかかった。
 己を見下ろす視線の中に、1つ覚えのあるものの存在を、肌で感じ取ったのだ。
 どこか懐かしいような、それでいて暖かいような感触。
 ふっと顔を上げてみると、人ごみの中に、その顔がある。
 長い黒髪を持った女性は、かつて彼を育てた母だった。
 レム・セイブレム――その名を呼びかけた彼だったが、その声は途中で遮られてしまう。
 彼女に伸ばそうとした手が、目に見えぬ何かに阻まれてしまったからだ。
 面食らったような顔をした彼は、その謎の違和感の正体を探る。
 それは人ごみと己とを隔てる、透明な壁のようなものだった。
 壁の向こうに立っているレムは、ただ穏やかな笑みを浮かべるだけで、彼に何も応えてくれない。
 一番手前にいたナイブズも、何も言葉にすることなく、ひたすらに沈黙を貫いていた。
 ああ、そういうことか、と彼は気づいた。
 自分の目の前に立ちはだかる壁は、死者と生者を分かつ壁だったのだ。
 後ろを振り返ってみれば、なるほど確かに、生きている知り合いは、皆壁とは反対の方向に立っていた。
 生と死の狭間の向こうには、手を伸ばそうにも届かない。
 生と死の狭間の向こうからは、相手の声を聞くこともできない。
 死んだものは、戻ってこない。
 自分はこれまで犠牲にした人々を、そんなところに送ってしまったんだな、と。
 彼は改めて実感し、それきり口を開かなくなった。

 それからまた、しばらく経って。
 いつしか壁の向こうの死者も、生者すらも見えなくなって。
 再び真っ暗闇の中で、赤いコートがたった1人。
 多少は落ち着いたのだろうか。瞳は下を向いてはおらず、ある一点を見つめていた。
 それは生死の壁の反対側。少し前まで、生きていた者達が立っていた場所。
 死者の世界を過去とするなら、未来に続いているであろう方角。
 しかし、そこから先が伴わない。
 ただじっとその先を見ているだけで、立ちあがって進むことができない。
 柄にもなく、怯えているのか。
 何が待ち受けているのか――ろくでもない結末しか切り開けないのではと、怖れを抱いているというのか。
 らしくないぞ、と己を叱る。
 今さら何をブルついているんだ。
 アンジールに救われていながら、何故また同じことを繰り返しているんだ、と。

 ふと、その時。
 闇の世界に、光が差した。
 自分しかいなかった世界の中に、不意にいくつかの光が灯った。
 ふわふわと浮く光の玉だ。地球には確か、ホタルとかいう虫がいるらしいが、ちょうどそれが近いのかもしれない。
 彼の周囲に現れた光は、ふわふわと闇の中に浮かびながら、彼の視線の方へと流れていく。
 ちょうどそれは、立ち止まって動けない彼を、先へと促しているようにも見えた。
 つられるようにして、立ちあがる。
 きょろきょろと、周囲の光を見やる。
 何故だか、妙な既視感を覚える光だった。不思議と、不快に思うことはなかった。
 光に導かれるようにして、一歩踏み出す。
 自分でも驚くほどにあっさりと、あれほど頑なに止まっていた足を動かす。
 ブーツの片足が、ず、と闇を踏みしめた瞬間。

 彼は――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、唐突に覚醒した。

162 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:55:21 ID:XV1/QtKY0


(あ……)
 闇を抜けたかと思えば、今度は靄の中にいた。
 そう誤認するほどに、視界はぼんやりと霞んでいた。
 薄っすらと確認できる地形から、そこが元のホテル・アグスタだと分かる。
 朦朧としかけた意識の中で、状況を整理した結果、自分が気を失っていたことを自覚する。
 どれほど気絶していたのだろうか。
 その間に彼女は――スバルという少女はどうしたのだろうか。
「―――ぉぉぉけええ―――――――ぇぇぇ―――ッ――」
 と。
 鼓膜に突き刺さったのは、そんな怒声だ。
 意識に割り込んできた声を皮切りに、少しずつ感覚が鋭さを取り戻してくる。
 ほとんど色しか分からなかった視力も、物のシルエットを捉えられる程度には回復してきた。
 目の当たりにしたのは、戦いの構図。
 叫びを上げる青髪の少女が、絶叫と共に暴れまわる様だ。
 敵は人ではない。細く鋭く、徒党を組んで襲いかかるのは、刃を宿したナイブズの翼。
 どうやらまた、自分の左腕がやらかしたらしい。
 意識を失っていた間に、またしても暴走したようだった。
(おいこらヴァッシュ・ザ・スタンピード、寝てる場合じゃないぞ)
 だとしたら、大変な事態だ。
 ぐ、と身体に力を込めて、動かぬ五体を起こそうとした。
 目の前の命が潰えるより前に、左腕を抑え込もうとした。
「――タ、は…――」
 それでも、身体が応えてくれない。
 今までよりはマシとはいえ、やはり左腕の主張は激しく、無理やりにヴァッシュの制御をはねのけようとしてくる。
「―ンタだけはあ―――ぁぁァァァァ――――ッ――」
 負けてたまるか。
 屈してたまるか。
 こんな程度で挫けるのが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードであってたまるものか。
 同じ過ちは犯さない。
 かつてと同じように力に呑まれ、誰かの命を奪うなんて真似はしない。
 もう2度も繰り返したのだ。
 ジュライの悲劇を繰り返すものか。
 フェイトの死別を繰り返すものか。
 だから立て。あともう一歩だ。意識を取り戻すところまで来たんだぞ。
 もうあと一歩で届くはずなんだ。
 その一歩を踏み出すんだ。
 さぁ、行くぞ――ヴァッシュ・ザ・スタンピード!
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 くわ、と瞳を見開いた瞬間、絶叫と踵落としが襲いかかった。

163 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:56:50 ID:XV1/QtKY0
「〜〜〜〜〜っ!」
 咄嗟の判断で、腰を落とす。
 するりと滑り落ちるように、相手の股下を仰向けに抜ける。
 はらり、と前髪が散ったのが分かった。
 ぞわり、と首筋を悪寒が襲った。
 おまけに、危うく舌を噛み切るところだった。
 相手のスカートの中身は――OK、覚えてない。ということは見ていない。
 この状況で考えるのもアレだが、紳士として最低限の礼儀と自制は務め上げることができたらしい。
 なんて馬鹿なことを心配している場合じゃなかったことを思い出し、身を起こして姿勢を正す。
「こぉのおおぉぉぉぉぉっ!」
 すぐさま第二撃が襲いかかった。
 ぎゅるぎゅるとローラーブレードを回転させ、猛スピードでこちらへと加速。
 ぎゅん、と唸る鉄拳は、風か嵐か稲妻か。
 当然食らうわけにはいかない。
 故に、身をよじって回避する。
 そのまま勢いに身を任せ、ばっとその場から駆け出した。
 とにかくなるべく遠く離れることだ。ついでに障害物があるとなおいい。
 相手は近接戦特化型で、おまけに足も速いと来ている。接近戦を挑んでいては、命がいくらあっても足りない。
「OKOK、落ち着いたな……そのまま大人しくしといてくれよ」
 軽く抑えた左腕は、今はすっかり静かになっている。主導権を取り戻すことは成功したようだ。
 そうして確認をしているうちに、鉢植えを倒しソファを飛び越え、廊下に差しかかり、曲がり角にしゃがみ込む。
 中腰の姿勢を作ると、壁越しに相手の様子を窺った。
「逃げるなァッ!!」
 荒々しい語気と共に振りかぶられるのは、烈風のごとき打撃の応酬。
 立ちはだかる障害物を粉微塵に砕きながら、じりじりとにじり寄るスバルの姿だ。
 先ほどまで戦っていた相手とは、どうしても同一人物には思えない。
 怒り狂った態度もそうだが、攻撃の破壊力にしたってそうだ。
 ソファを一撃でぶち抜くのもどうかしてるし、よく見れば先ほどの踵落としを食らった床も、見事にクレーターを作っているではないか。
 ぱらぱらと粉塵の舞うロビーの中、まさしく目の前のスバル・ナカジマは、憤怒の炎を燃やす悪鬼羅刹だ。
(さて、どうする)
 考えていられる時間は残り僅かだ。
 その僅かのうちに決めなければならなかった。
 恐らく、もう拳銃の威嚇は当てにならない。アレを生身で組み伏せるのはどうやっても無理だ。
 故に当初のプランではなく、新たな対策を講じなければならなくなった。
 この場を殺さずに切り抜けるには、より強力な拘束力がいる。
 この肉体以上に強靭なもので、相手の動きを封じる必要がある。
(……試してみるか!)
 そして幸いにも、その条件を満たすものは、既に己が右腕に宿されていた。
 ぐ、と右手を前方に突き出す。
 エンジェル・アームの砲弾を撃ち出す時のように、腕の中に“力”をイメージする。
 脳裏に思い浮かべるのは、左腕に刻み込まれたナイブズの記憶だ。
 力尽き死体と成り果てるまでに、数多くの敵を切り裂いてきた、刃の尖翼のイメージだ。
 同じプラント自立種で、同じエンジェル・アームである。兄貴のナイブズにできたことが、弟の自分にできないはずがない。
 兄の発現させた怒りが、殺意の剣であるというのなら。
 人々を守るためのこの身には、外敵を阻む盾がほしい。
 鋭く禍々しい刃を突き立て、誰かを傷つけることのないように。
 されどあらゆる状況からでも、誰かを守れる強靭さと精密さを。
(もう、大丈夫だ)
 もちろん、不安がないわけではない。
 この身体に宿された力への恐怖は、依然として心に残されている。
 少しでも加減を間違えれば、また誰かを殺めてしまうのではないか。
 自分が使い方を誤れば、またフェイトや新庄のように、犠牲を生んでしまうのではないか。
 その心の乱れさえも引き金となって、再び暴走を招いてしまうのではないか、と。
 未だ胸に残された罪悪は、ちくりちくりと痛覚を訴えている。
 それでも。
 だとしても、止まれない。
 ここで立ち止まるわけにはいかない。
 新庄達の死を悼むつもりがあるのなら、それこそ前に進まなければならないのだ。
 自分が動くことで、死ぬかもしれない命もある。だがそれは、自分がそうならないように努めればいいだけのこと。
 それ以上に問題なのは、自分が動かなかったことで、救えた命を救えずに終わってしまうことだ。

164 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:57:48 ID:XV1/QtKY0
 もう大丈夫だ。
 二度と立ち止まることはしないし、立ち止まろうにも立ち止まれない。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの名が示すのは暴走。
 たとえ困難が立ちはだかろうと、どんなドタバタがつきまとおうとも、ひたすらに突っ走るのが己の性分。
 だから、進め。
 歩みを止めるな。誓った覚悟をより強く固めろ。
 そう。
「――迷うな!」
 今が、その時だ。
 刹那、右腕が眩い光を放つ。
 光輝の中より顕現するのは、いい加減顔を合わせるのにも慣れてきた、危険で過激な天使の翼。
 されど姿を現した力は、命を奪う大砲ではない。
 兄のもの同様細かく枝分かれし、されど柔らかな羽毛の形を成した、ヴァッシュ・ザ・スタンピードオリジナルの尖翼だ。
 ぎゅん、と唸って翼が羽ばたく。
 大気をぶち抜いて羽が舞い躍る。
 さながら雲の巣のように展開された翼の糸が、四方八方からスバルへと迫る。
「くっ……!」
 反射的に飛び退いても手遅れだ。
 本人の明確な意志のもとに、全力で展開された尖翼の速度は、先ほどまでのそれの比ではない。
 制限が外れれば、知覚することすらかなわなくなるほどのスピード。
 たった1枚きりであろうとも、幾百千の銃弾の雨にも耐えきる堅牢性。
 首輪による制限下において、その性能を大幅に落とされたとしても。
 不意を打たれたのであれば、未だ発展途上のスバル・ナカジマに、回避できる余地はない。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 ヴァッシュが吼える。
 人間台風が唸りを上げる。
 文字通り翼という名の風を操り、一個の台風となって絶叫する。
 持てる精神力と集中力の全てを注ぎ、無数の枝葉と化した尖翼を操作。
 さながら魚を捕えるイソギンチャクだ。
 360度全方位から伸びる純白の光輝が、標的の手を掴み、足を掴む。
 握り潰すほど強固ではなく、されど逃げられるほど軟弱ではなく。
「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。
 振動破砕を当てようにも、手も足も動かせないのでは意味がない。
 ISの効果が及ぶのは、両手両足の先端のみだ。
 故に逃れることもできず、スバルはただ拘束されるがままとなっていた。
 五体を余すことなく包み込む翼が、淡い白光を放って顔面を照らす。
 肌をなめるその光が、いつでも絞め殺すことはできるんだぞと言っているようで、ほんの少し腹が立った。
「さて、と……君にいくつか聞きたいことがあるんだ」
 眼下からヴァッシュの声が響く。
 うつ伏せの姿勢で縛られていたため、相手の顔は直接見下ろすことができた。
「まず1つ。君はどうしてそんなに怒ってるんだい? ひょっとして僕、何か気に障ることでもした?」
 最初の問いかけからして、それである。
 ほんの少しどころではなく、今度は本気で腹が立った。
 こんなにも怒りを覚えるのは、随分とご無沙汰ぶりのことだ。

165 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 12:59:15 ID:XV1/QtKY0
「今さら何を……! ルルーシュの腕を斬ったのはアンタなんでしょ!?」
 語気が荒くなる。
 わなわなと身体が小刻みに震える。
 普段では考えられないほどの、乱暴な語調が口を突く。
 黄金色の瞳が怒りを宿し、きっと男を睨みつけた。
 忘れたとは言わせない。
 お前が負わせた傷のせいで、あの少年は苦しむことになり、命まで落としたんだ。
 直接殺したとまではいかずとも、間接的に殺したと言っても過言ではないんだ。
「僕が……斬った?」
「マントを羽織った黒髪の男の子! アンタのせいで、ルルーシュは……!」
 その上、そうしてとぼけるのだ。
 もはや堪忍袋の緒はほつれにほつれ、ぷつんと切れる直前だった。
 許せない。
 断じて許すわけにはいかない。
 どうしてルルーシュが命を落として、こんな男が生き残っているんだ。
 もしも本当に忘れていたとでも言いだすなら、この拘束を解いてでも、その顔面に拳を浴びせてやる。
 ぶん殴って、引っぱたいて、蹴っ飛ばして、嫌というほど彼の痛みを――
「待った!」
 しかし。
 刹那、一喝。
 吐き捨てかけた言葉は、下方からの声に掻き消される。
 びくり、と肩が震えたのを感じた。
 正直な話、一瞬たじろがされた。
 一瞬前のとぼけたような態度とは違う、確固たる力のこもった声に。
 想像もつかないほど真剣な表情に宿された、あまりにも濃密な意志の気配に。
 有無を言わさぬ、とはまさにこのことか。あまりの迫力に、完全に言葉を失ってしまった。
「確かに、そういうことに心当たりがないわけでもない。実際に俺は、少なくとも1人、この手で人を殺しちまってる」
 す、と持ち上がるヴァッシュの左腕。
 左側だけ袖が破れているという、歪なコートから覗いた腕。
 無数の白刃を展開し、柱を切り裂き、スバルへと襲いかかった針の山だ。
「正直な話、他に何人か巻き込んでても……死なせちまってても不思議じゃないだろうさ」
 一瞬、男の瞳から力が失せる。
 確固たる意志に光っていた眼光へと、暗い弱気の影が差す。
 そこに込められた数多の感情――無念、後悔、そして自責か。
「でも、これだけははっきりと言える」
 ふぅ、と息を1つついた。
 次の瞬間には、顔つきをきっぱりと切り替えていた。
 陰りを振り払ったその視線は、先ほどまで見せていた、意志の炎を宿した瞳だ。
 そこまで認識したところで、いつしかスバルは、自分が彼の一挙手一投足までも、正確に追いかけていたことに気がついた。
 憎むべき敵のはずなのに。
 危険人物であるはずなのに。
 その姿に、少なからず魅入っている自分がいた。
「その子を斬ったのは俺じゃない。その子が斬られた瞬間を――俺は“視ている”」



 我ながら、らしくないとは思った。
 これではまるで言い訳を言っているようで、見苦しいにもほどがあるじゃないか。
 真剣な面持ちを浮かべながら、しかしヴァッシュは、その裏ではそう自嘲していた。
 それでも、その顔に表れた意志に偽りはない。
 スバルとの間に誤解があるのなら、何としても解いておきたかった。
 こうして言葉を交わしてみて、分かったことがある。
 剥き出しの怒りをぶつけられてみて、初めて理解できたことがある。
(この娘は、話せば分かってくれるかもしれない)
 頭上に浮かぶ娘は、柊かがみが言うほど悪い人間ではないということだ。

166 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:00:31 ID:XV1/QtKY0
 彼女はスバルについて、自分に襲いかかってきた、と説明していた。
 それが正しいというのなら、スバルは殺し合いに乗っているということになるだろう。
 だがここにきて、その仮定が信じられなくなってきた。
 この娘は仲間を傷つけた相手――他ならぬヴァッシュ自身をそうだと思っている――に対し、強烈な怒りをぶつけてきた。
 誰かのために怒れるということは、それだけ誰かを深く思いやれるということ。
 それほどの優しさと思いやりを持っていて、それをこの場でも貫いているような娘だ。
 そんなスバルが、殺し合いに乗ったり、かがみに襲いかかったりするとは、どうしても考えにくい。
 かがみを信じないというわけではない。ただ、スバルのことも信じたくなっただけのことだ。
「信じろっていうんですか、それを」
 それからどれほど経っただろうか。
 ややあって、返事が返ってきた。
 口調からは随分と毒が抜けたが、未だ表情には猜疑心が残っている。
「信じられないのも無理ないと思うし、詳しく話しても、信じにくいだろうことだってことは分かってる」
 それだけを、口にした。
 まだそれ以上は語れないし、これ以上語り過ぎることも、できることならしたくなかった。
 事実、ありのままに説明をしたとしても、到底信じられる内容ではないだろう。
「それでも、聞いてほしいんだ」
 だとしても、それはヴァッシュにとっては厳然とした真実なのだ。
 ルルーシュなる者――マントを羽織った黒髪の少年のことは、覚えている。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード自身ではなく、左手に宿されたミリオンズ・ナイブズの記憶に、しかと刻み込まれている。
 その少年の腕を斬ったのは、間違いなく生きていた頃のナイブズだ。
 その記憶を垣間見たからこそ、誤解を解く必要がある。
 彼女がその少年を大切に想い、少年の死を悲しんでいるからこそ、少年の真実を伝えなければならなかった。
「……下ろしてください。話を、聞きますから」
 故に。
 彼女がそう言ってくれた時。
 話を聞くだけは聞いてやる、と返してくれた時。
「ありがとう」
 それだけでも十分だと。
 聞いてくれるだけでも十分に嬉しい、と。
 心底から、そう思った。
 いつの間にかスバルの瞳は、獣のような金色から、元の緑碧へと戻っていた。
 右腕から伸びる翼の糸――言うなれば防衛尖翼、といったところだろうか――を地上へと下ろす。
 スバルが安全に着地できるところまで高度を落とすと、その拘束を解き、腕へと引っ込める。
 すた、という音と共に、少女が床へと降り立った。
「それで、ルルーシュは誰にどんな状況で斬られたっていうんですか?」
「ああ、それは……」
 さて、これからどうするか。
 スバルに問いかけられた時、ほんの少し困ってしまった。
 ルルーシュの真実を語るに当たって、どのあたりから話をすればいいのだろう、と。
 いくらあんな翼を見せたとはいえ、彼女もヴァッシュがプラントであるなどとは思っていないだろう。
 故に自分がナイブズを左腕に取り込んだ、と話した時点で、そんなわけがあるかと突っかかってくるはずだ。
 ならば、もういっそ最初から話してしまうか。
 自分が人間でないというところから、思い切って話してしまうべきか。
 しかしそれはそれで、こいつはいきなり何を言い出すんだと、かえって疑われてしまうのではないか?
 ああでもないこうでもない、と、頭をひねっていた矢先だった。

「――ギンガ……?」

 不意に廊下から、その声が響いてきたのは。

167 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:01:22 ID:XV1/QtKY0
「「!?」」
 知覚したのはほぼ同時だった。
 赤と青。
 ヴァッシュとスバル。
 互いにトークモードから臨戦態勢へと移行し、声の方を向いて構えを取る。
 違いがあるとするならば、それぞれが浮かべる表情か。
 ヴァッシュ自身は油断なく自らの拳銃を構え、現れた相手を見定めている。
「ギン姉の、名前を……?」
 だがスバルの方はというと、怪訝そうな表情と共に、そんなことを呟いていた。
 ギン姉というのは、恐らく相手が口にした名前の主のことだろう。
 そういう反応を示したということは、そのギン姉というのは、スバルの知り合いだったのだろうか。
(っと、いけないいけない)
 とはいえ、今はそれを気にしている場合ではない。
 改めて来訪者へと視線を戻し、その姿を見定める。
 廊下の入り口に立っていたのは、全身漆黒で埋め尽くされた、禍々しい鎧を纏った男だ。
 顔はフルフェイスのマスクで隠れていたが、先ほど呟いた声で男だと判断できた。
 そしてその顔面には、ハートのマークを描くかのように、真紅の複眼が散りばめられている。
 黒と赤――闇と血の色。その上意匠も悪役っぽく、あまりいい印象は受けない。
 見た目だけで人を判断することが許されるなら、一発で悪人と認定できるだろう。
「うぉりゃああぁぁぁーっ!」
 と。
 その時だ。
 そこに、新たな声と人影が割り込んできた。
 少女の甲高い声と共に現れた者は、これまた全身鎧尽くめ。
 しかし、こちらの甲冑は緑色で、複眼もハート型ではなく、昆虫のように2つに分かれている。
「チッ!」
 舌打ちと共に、振り返る漆黒。
 どうやら黒鎧と緑鎧は、互いに敵対関係にあるらしい。
 がきん、という金属音と共に、振り上げられた新緑の回し蹴りを、漆黒の弓で受け止める構図ができあがった。
「しつこいのよ! いい加減、死になさい……ってのぉ!」
 苛立った叫びと共に、緑色の鎧が追撃を放つ。
 パンチ、キック、続いてキック。キックの回数が多いあたり、蹴り技が得意なのだろうか。
 しかしそれ以上に気になるのは、その声だ。
 二度三度と聞いていくうちに、否応なしに気付かされていく。
 聞き覚えがあるぞ、この声は。
 ついさっきまで聞いてたぞ、この声は。
「ってちょっと待った! その声……まさかかがみさんか!?」
「!? しまっ……」
 攻撃の手が止まる。焦ったような反応が返ってくる。
 できることなら、正解であってほしくはなかった。
 それでも、今の反応を見せられた以上、認めざるを得なかった。
 あの中に入っているのはあのかがみだ。
 明確な殺意と共に、黒色の鎧を襲っているのは、先ほどまで保護していた柊かがみだ。
「……あーもーめんどくさい! もういいわよ! 全員まとめて皆殺しにしちゃえばいいんでしょ!」
 苛立ちも極限を迎えたか。
 黒の鎧のもとから飛び退き、ヴァッシュと鎧の中間地点に着地して。
 幾分か捨て鉢気味にすらも感じられる声音で、かがみが殺意を振り撒き叫ぶ。
 それが彼女の本性か。
 ということは、自分は今の今まで騙されていたということか。
 それならば、自分から見たスバル評と、かがみから見たスバル評が食い違うことにも納得がいく。
 ただし、あまりしたくない納得ではあったのだが。
 一難去ってまた一難、か。
「ごめん、どうも説明は後からってことになりそうだ」
 ともかくも、相手が殺意を持っているというのなら、止めなければ。
 傍らのスバルへと、言葉を飛ばし。
 改めてアイボリーを構え直し、戦闘態勢へと移った。

168 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:02:20 ID:XV1/QtKY0


 果たして自分は、このヴァッシュという男を信用していいのだろうか。
 その疑問だけは、未だ大なり小なり残っている。
 彼はルルーシュを斬ったのは自分ではないと言った。
 だが、あのような芸当ができる人間など、他にそうそういるものではないのも事実だ。
 にもかかわらず、何故話を聞こうとしたのか。
(嘘を言ってるようには見えなかった)
 やはりひとえに、その眼差しの真摯さによるところが大きかった。
 訓練校のテストこそ好成績だが、スバルは元来そう頭の回転が早い方ではない。
 故に自分の人物眼など、そんなに信用できたものでもないのかもしれない。
 それでも、少なくともこの瞳に映るヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿は、演技をしているようには見えなかった。
 信じてほしいと願う意志も。
 人を殺してしまったことへの自責も。
 どちらもがあまりにも力強く、圧倒的な存在感とリアリティを伴って、自らの視界へと飛び込んできていた。
 この男は本当に嘘をついていないのではないか。
 危険人物というのも何かの間違いで、本当はいい人なのではないか。
(でも、多分まだ信じきるのは早い)
 それは分かっている。
 いくら嘘には見えないといえど、それすらも計算の内である可能性もある。
「ヴァッシュさん……一緒に戦いましょう」
「いいのか?」
「約束しましたから。自分のするべきことをするって……かがみさんを止めるって」
 だからこそ、これは一時的な共闘。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードという人間を理解するための、最終テストを兼ねた共同戦線。
 本当は静観を貫いた方がいいのは分かっている。
 敵かもしれない相手と同じ戦場に立つのが、危険なことであるということは理解している。
 それでも、この戦いに参戦しないわけにはいかないのだ。
 あの時、自分はこなたと約束した。
 自分がやりたいこと、やるべきことをするために、全力全開で戦う、と。
 今自分がすべきことは、彼女の友情を守るために、かがみを殺戮の魔道から、全力で引きずり上げることだ。
(相手が仮面ライダーなら、使える)
 戦闘機人モードを再起動。
 薄暗いホテルのロビーに、2つの黄金灯が光る。
 魔獣の煌めきと共に顕現するのは、一撃必殺の破壊力を宿した禁断の魔手。
 怒りに我を忘れた先ほどのように、人間に対して振るうには、危険すぎる力であることは分かっていた。
 以前にかがみと戦った時も、中身へのダメージを懸念し、結局最後まで使うことはなかった。
 それでも、相手があの紫の蛇人と同じ仮面ライダーであるなら。
 生半可な攻撃では傷一つつかないほどの、強固な鎧に守られているのならば。
 中身を傷つける心配をすることなく、遠慮なく叩き込むことができる。
 この振動破砕の力を存分に振るい、鎧のみをぶち砕くことができるはずだ。
(それに……気になることもある)
 そこで視線を、もう片方へとシフト。
 緑の鎧を纏ったかがみではなく、黒の鎧を纏った謎の男を見る。
 マスク越しにこちらを睨むかがみ同様、今はあの黒と赤の男も、静かに佇んでこちらを見ていた。
 ギンガ――その名を口にしたのは、明らかにあの男の方だ。
 もちろん、仮面ライダーに変身する知り合いなどいない。
 であればあの漆黒のライダーは、このデスゲームの中でギンガと出会い、知り合ったに違いない。
 彼と姉はどういう関係なのか。
 どのようにして出会い、どのような行動を取ったのか。
 今は亡き姉の死の瞬間に、この男は関わっていたのか否か。
「そこの人! どうして、ギン姉の……ギンガ・ナカジマの名前を知ってるんですか!?」

169 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:03:14 ID:XV1/QtKY0


 だからホテルに来るのは嫌だったんだ。
 青髪の少女を見やりながら、相川始は思考した。
 仮面ライダーキックホッパーに応戦し、その中でホテル・アグスタとやらへと舞台を移して、気付けばロビーでこの有り様。
 人と接触するのが嫌だったから、わざわざこの場所を避けていたのに、結局このような結果を迎えてしまった。
 しかも、出会った相手が相手だ。
 金髪と赤コートの方は知らない。だが、青髪の少女の方には見覚えがある。
 正確には、同じ管理局とやらの制服を纏った、彼女の姉の方の顔を覚えている。
「お前がスバル・ナカジマだな」
 ギンガ・ナカジマ。
 目の前に立っていた少女の顔は、あの女の顔と瓜二つだった。
 ロングヘアーだった頃はともかく、髪を短く切った時と見比べれば、ほとんど同一人物と言っていい顔立ちだ。
 少なくとも、初めてスバルの姿を見た始にとっては、そうだった。
「ここから去れ。お前の姉……ギンガには借りがある。できれば、お前を殺したくはない」
 真実だ。
 スバルを殺したくないということも。
 このままではスバルを殺してしまうであろうことも。
 あの少女との戦いの中で、今では随分と頭も冴えてきた。
 今なら全開で戦える。余計な雑念のない今なら、全力で殺戮ができてしまう。
 迷いが消えたということは、ジョーカーの本性に抗おうという気が、その分失せてしまったということだ。
 認めたくはないが、これから始まる戦いの中で、いつジョーカーへと変身してしまうかも分からない。
 そうなればこの場の人間は全滅だ。
 仮面ライダーも、赤コートの男も、スバル・ナカジマさえも死んでしまう。
 他の2人はともかく、スバルを殺すことだけは、できることならしたくはない。
 迷いが消えうせてなお、ギンガの遺志を踏みにじることに、強い嫌悪感を抱いている自分がいる。
 故に最後通告として、戦う前に、スバルへとこの場からの撤退を促した。
「っ……そんなこと言われて、引き下がれるわけがないよっ!」
 ああ、そうか。
 お前もそういう人間だったのか。
 どうやら裏目に出てしまったらしい。こいつも姉同様、人を見捨てることができない性分だったらしい。
 馬鹿正直なのか、それとも正義漢なのか。
 どちらにしても、これで決まってしまった。
 もはやギンガの忘れ形見との戦いは、避けられない運命なのだということが。
「……どうなっても知らないぞ」
 カリスラウザーを構え直す。
 敵意を持って、赤と青の2人組を見つめる。
 こうなってしまったのならば、もはや戦わずにはいられない。
 自分の道に立ちはだかってくるというのなら、力で排除することでしか進めない。
 皮肉にも、今の自分は全開だ。
 意識はクリアーに澄み渡っている。たとえこの乱戦の中であろうと、手加減なしで戦えてしまう。
(だが、何だ? この禍々しい感触は……)
 そしてその一方で、分かったことが1つあった。
 雑念を振り払ったことで、新たに感じられるようになったものが1つある。
 ジョーカーの持つ闘争本能――無意識的に戦いを察知する鋭敏な神経が、嫌な胸騒ぎを訴えている。
 何かのオーラを直接当てられたわけではない。
 本当に、ただ嫌な予感がするだけだ。
 ここにこのまま留まれば、何か強大な力に巻き込まれることになるかもしれない。
 その予感の主は目の前の2人組でも、ましてや緑色の仮面ライダーでもない。
 もっと強大で、醜悪で、おぞましい感触だ。
 そう、たとえばあのもう1人の赤コート――ギンガを殺したと思われる男のような。
 そしてギンガが連れていた仲間――桃色の髪の娘に襲いかかった時のような。
 いずれにせよ、ろくな相手でないことは間違いなかった。
 血のような、闇のような。
 奈落の底を流れ続ける、流血の河を思わせる予感が、絶え間なく危険を訴え続けていた。

170 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:04:11 ID:XV1/QtKY0
 


【1日目 夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.スバルと共闘し、始とかがみを止める。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】戦闘機人モード、疲労(小)、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴァッシュと共闘し、始とかがみを止める。特に始からは詳しく話を聞きたい。
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 8.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

171 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:04:56 ID:XV1/QtKY0
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカリス、疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 1.この場を切り抜ける。
 2.生きる為に戦う?
 3.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 4.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 5.アーカードに録音機を渡す?
 6.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 7.ギンガの言っていたなのは、はやてが少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
 8.できればスバルを殺したくないが……
 9.何やら嫌な予感が近付いてきているのを感じる。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】仮面ライダーキックホッパー、、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.この場の人間を皆殺しにする。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

【全体の備考】
※F-9の森の中に、装甲車@アンリミテッド・エンドラインが放置されています。

172 きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:05:46 ID:XV1/QtKY0
 

 一歩一歩踏み出す度に、大地が死に絶えていくようだった。
 アスファルトを踏み締める度に、風化し塵となって流れていくようだった。
 死を纏う者――それを表す端的な言葉があるとするなら、そんなところか。
 そこに死が歩いている。
 死を振り撒く存在が、明確な姿形を持ってそこにある。
 そう錯覚させるほどの、おぞましくも禍々しき気配を孕んでいた。

 究極の闇。
 凄まじき戦士。
 古代ベルカ最後の聖王にして、その高潔な心を怒りと憎しみに枯れ果てさせた狂戦士。
 巨大な漆黒と黄金の鎌を携えるさまは、まさしく伝承の死神そのものだ。
 金色のポニーテールを風に踊らせ、新緑と鮮血のオッドアイを殺気に光らせ。
 まるで何かに引き寄せられるかのように、闘争の舞台たるホテル・アグスタの方角へと、一直線に歩いていく。
 愛する母を守るために。
 母を害するものを皆殺しにするために。
 憤怒と憎悪と敵意と殺意を引き連れて、触れるもの全てを切り裂かんがために、闘争の舞台を闊歩する魔神。

 脳裏に反響し続けるのは、少し前まで同行していた、オレンジの髪の少女の声だ。
 一休みするためにも、ホテル・アグスタという所に行こう――命を落とす前に、彼女はそう提案していた。
 行くあてもなく、求める者もいない彼女にとって、唯一それだけが行く先の指針だった。

 もうすぐ、奴がやって来る。
 四つ巴の闘争の舞台に、最悪の第5人目が現れる。
 死神の刃鎌を手に入れた最強の聖王が、禍々しき波となって、ホテル・アグスタへと押し寄せてくるだろう。
 全てを呑み込み、溺れさせんばかりの。
 行く先に立つ万象一切を、ことごとく血で染め上げんばかりの。

 厄災が迫る時は、近い。


【1日目 夜中】
【現在地 H-7】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】聖王モード、血塗れ、洗脳による怒り極大、肉体内部に吐血する程のダメージ(現在進行形で蓄積中)
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする、その為に自分がどうなっても構わない。
 1.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 2.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 3.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
 4.ホテル・アグスタに行ってみる。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。
 その影響により、現在進行形で肉体内部にダメージが徐々に蓄積されており、このまま戦い続ければ命に関わります。
 また、他にも弊害があるかも知れません。他の弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。

173 ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:08:32 ID:XV1/QtKY0
投下は以上です。誤字・矛盾などありましたらご意見ください。
あと、Wikiに収録する際の今回のSSの分割点ですが、

「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。


ここの◆の部分でお願いします。

174 ◆Vj6e1anjAc :2010/06/10(木) 13:10:06 ID:XV1/QtKY0
っと、ミス発見。かがみの状態表の状態の欄に、「疲労(中)」の追加をお願いします

175 リリカル名無しA's :2010/06/10(木) 17:35:10 ID:Ka6taRRo0
投下乙です。
とりあえずスバルとヴァッシュが和解出来……と思ったら始とかがみがやって来た。
始とはギンガとの絡みがあるから何とか出来そうだけど最早かがみはロクデナシだなぁ……それでもスバルとヴァッシュは殺さないだろうからタチが悪すぎる
……で、死をもたらす危険なヴィヴィオが乱入しそうという恐ろしいオチ……『死が歩いている』なんて上手い表現だのう……
ヴィヴィオの接近に気付いているのは始だけか……そういや憑神鎌の脅威の片鱗に触れていたんだっけ。
ヴィヴィオ、ジョーカー、バーサーかがみ……ヴァッシュの金髪も残り少ないから最早ホテルオワタ……

……こなたがハブられたのは、この瞬間まで全く絡んでいないからか……失礼承知で言うけど投下されるまでこなたは予約忘れだと思っていた……

とりあえずこなた伏せやー! そこはアニメイトよりも危険だー!

176 リリカル名無しA's :2010/06/10(木) 20:34:44 ID:ZtB.Qidc0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは寸でのところで和解に至ったか
それにしても立ち直ったヴァッシュさすがだ
かがみの方は前話での「ドン!!!!!」は気にぶつかった音だったか
素人じゃそれでもよく運転出来た方だな
そして案の定というか行き当たりばったりで正体ばらしているよw
スバル、ヴァッシュ、始、かがみ、それにヴィヴィオ……うんホテルオワタ \(^o^)/

177 リリカル名無しA's :2010/06/11(金) 08:48:14 ID:m.ZIbc6I0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは一先ず和解出来たみたいで安心した。
さて、問題はいつジョーカーが暴れ出すか分からない始と最早体面お構いなしのかがみか。
毎度ながらかがみは激情に任せて暴れ回っても勝てる気がしないんだよなぁ……。
純粋な戦闘能力じゃ始、ヴァッシュ、スバルの三人全員に敵わないだろうし。
寧ろ今回の戦いで一番危険なのはアルティメットヴィヴィ王か。

178 ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:45:19 ID:m.ZIbc6I0
エネル、金居、八神はやて(StS)分の投下を開始します。

179 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:47:34 ID:m.ZIbc6I0
 深い、濃い市街地の闇の中に、神を自称する男――エネルは居た。
 怒りと憤怒に歪んだその表情を、一言で例えるならばまさしく鬼神。
 激情の余り全身から漏れ出した電流が、鬼のような形相を怪しく照らして、それは余計に際立って見えた。
 本来ならば夜の市街地を照らす筈の電灯も、最早まともに機能してはいない。
 市街地を淡く照らす筈の月明かりも、空を覆う……というよりもエネルの周囲の空を覆う雷雲のお陰で届きはしない。
 ゆらりゆらりと、一歩を進める度に、電灯がちかちかと点灯し、消えていく。
 時たまごろごろと音を立てて、常人なら一瞬で焼け死ぬような雷が、エネルの周囲のアスファルトへと落ちる。
 闇の中を歩く鬼神と、鬼神が伴う雷雲が、周囲のありとあらゆる電力を根こそぎ奪っているのだ。
 電気がまた一つ消える度に、エネルの周囲を走る青白い電流が、夜空で光る雷が、より一層の輝きを放つ。
 首輪で制限されているとはいえ、彼は自然(ロギア)系でも最強の部類に入る、ゴロゴロの実の能力者。
 エネルがスカイピアでやってきた事を考えれば、この程度の芸当は至って簡単な事なのだ。
 しかし、それはエネルが意図してやっている事ではなかった。

「許さん……絶対に許さんぞ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード!」

 それも全ては、自分ですらも抑えきれない激情が成せる業。
 怒りで顔まで真っ赤にしたエネルが、無意識のうちに周囲の電気を奪っていたのだ。
 ここまで歩いた数キロの道のり、未だに電力が残っている建物など一軒も無い。
 初期の電力を遥かに上回る力を身に付けたエネルの標的はただ一人。
 神である自分を跪かせ、あまつさえ神である自分を騙くらかしたあの男。
 赤いコートに、トンガリ頭。白い翼のヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 エネルは先程、そのヴァッシュに良く似た白の翼を見掛けた。
 空を羽ばたく白き翼に、はためく赤のコート。それが、南東の方角へと飛翔して行った。
 それを視界に捉えた時には、翼の影はかなり小さくなっていたが、それでも見まごう訳が無い
 スカイピアの奴らに生えたちっぽけな翼とは違う、本当の天使の如き翼。
 神を死の恐怖へと追いやった、憎たらしい翼。偉大なる神を失墜させる、天使の様な悪魔の翼。
 全ての嘘を見抜いた以上、最早神に歯向う不届き者を生かしておく理由も無い。

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
 何度も何度も心中で反芻しながら、翼が消えた南東へと歩を進める。
 ヴァッシュをこの手でブチ殺した上で、全ての参加者を血祭りに上げる。
 最早そうする事でしか、失った威信を取り戻す事は出来はしない。
 それが神の名にすがるちっぽけな男に、たった一つ残されたプライドだからだ。

180 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:48:10 ID:m.ZIbc6I0
 




 金居に追随した八神はやてが、地面に出来たアスファルトを覗き込んでいるのは、ヴィータの死から数分後の出来事であった。
 四方八方どっちを見ても、視界に入って来るのは粉砕されたコンクリやアスファルトのみ。
 これが地上本部のなれの果て。この場所で幾重にも重ねられた、激しい戦いの傷跡であった。
 その中で一箇所、際立った傷がアスファルトに亀裂を走らせて、地下部分を露出させている場所があった。

「調べて欲しいものっていうのは、これの事ですね?」
「ああ、そこの看板を見てみろ」

 金居が指差した方向を見れば、そこにあったのは見覚えのある触れ込みの看板であった。
『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』なんて書いておきながら、実際には嘘八百。
 この転移魔法陣は、望んだ場所などには決して飛ばしてくれない。行き場所はランダム、主催側が設置した罠だ。
 はやては一度、キングと共にこの罠に掛っているからこそ、その真相を知っている。

「残念やけど、これは罠です。望んだ場所やなんて言いながら、実際には違います」
「というと、飛ぶ場所はランダムという事か? 何のために?」
「恐らくは、他者と手を組んだ参加者の戦力を分断する為」
「何故そう言い切れる?」
「私たちも一度、この罠に嵌ったからです」
「ほう」

 このデスゲームが始まってすぐの事、はやてはキングという少年と行動を共にした。
 そのキングがまたとんでもない馬鹿で、何の策も無しにこの罠に自ら嵌りに行った。
 はやて自身は乗り気ではなかったのだが、結局はキングに押し切られる形でこの罠を使ってしまった。
 結果、キングとは離れ離れ。到着した場所は誰もいない図書館。開始早々、はやては完全に孤立したのだ。
 それらを簡潔に、尚且つキングの無能さと危険さを前面に押し出す形で、説明を終えた。

「成程な……ちなみに聞くが、あんたは何処に飛びたいと願ったんだ?」
「それは……私の家族の、ヴィータ達の元にです」
「その図書館に、直前までヴィータ達が居た可能性は?」
「それは……今になってはもう、確かめようのない事です」

 ヴィータは死んだ。そこにヴィータが居たとしても、居なかったとしても、確かめる術は無い。
 当然ながら、死んでしまった人間にはもう、質問する事はおろか口を聞く事すら出来ないのだから。
 ここに居たヴィータは当然、家族なんかでは無い。赤の他人のヴィータだ。赤の他人のヴィータが死んだのだ。
 さっきまでここに居て、一緒に話をして、一緒に行動をしていたヴィータ。
 あのヴィータは、はやてのヴィータでこそ無いが、生きていた。
 ヴィータという名前があって、はやてと過ごした記憶があって……だけど、死んでしまった。
 それを赤の他人と割り切って、忘れてしまうのは容易い事なのだが、どういう訳か心が晴れない。
 ここまで来て、自分は何を迷っているのだ。雑念を振り払う様に、頭を二度三度振った。

「まぁ、キングと離れ離れになるのは当然だろうな」
「え……?」
「家族の場所へと飛びたいと思ったあんたは、どういう訳か図書館へと飛んだ。
 一方で、キングは一体何処に飛んだ? というより、何処へ飛びたいと思ったか?」
「考えるだけ無駄やと思いますけど」
「そうかな? 仮にこの魔法陣が本当にこの看板通りの効力を持って居たとして、
 キングとあんたの望む目的地が一致するとは、俺には到底思えないが」

 眼鏡を押し上げて、舐める様な視線ではやてを見る。至って理知的な表情であった。
 金居の言わんとする事は大体分かった。向き直って、金居の考察をまとめる事にした。

181 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:48:40 ID:m.ZIbc6I0
 
「つまり、金居さんはこう言いたいんですね? 私が飛ぶ直前まで図書館にはヴィータが居た……
 で、私はこの触れ込み通りに図書館に飛んで、キングは自分が望んだ何処かへと飛んで行った」
「その可能性は否定しきれないと思うが」
「確かにそうですけど……なら逆に訊きますけど、金居さんはこの魔法陣をどうしたいと思いますか?」

 こんな考察を続ける事にさしたる意味は無い。はやては、今後の具体案が聞きたいのだ。
 何の考えも無しにこの魔法陣を使いたいだけと言うのであれば、所詮金居もキングと同じだ。
 はやてを唸らせるだけの回答を得られなかった場合は、金居の今後の扱いも考え直さなければならない。

「ならば率直に言おう。俺はこの魔法陣を罠だとは思わない。よって俺はこれを使いたいと思っている」
「もしこれが主催側の罠で、私達が分断されてしまったら?」
「俺は“こいつ”を外す為に、工場を目指している。高町なのはともそこで落ち合う約束をしてる」

 首に装着された忌々しい鉄製の輪っかを、人差し指の爪でつつきながら言った。
 成程、なのはと共に行動していると言ってはいたが、そういう事か。これは使えるかもしれない。

「確かに、あらかじめ目的地を決めておけば、混乱する事もない……」
「そうだ。それに、二手に分かれた方が仲間を集められるかも知れない」
「逆に殺されてしまうという可能性も捨て切られへんと思いますけど」
「その時は逃げてでも生き延びれば良い。それに、お互い戦力には困ってないだろう?」

 眼鏡を押し上げながら、にやりと口角を吊り上げた。
 恐らくこの男は、はやてが既に本来の力を取り戻している事に気付いている。
 その上、お互いにとってもあまり長期間行動を共にしない方がいいという事を心得ている。
 この金居という男、恐らくは対主催に紛れて主催打倒、もしくは乗っ取りを狙う人種……はやてと同じタイプだ。
 だけど、だとしたらある意味でこんなに信用出来る相手は居ない。
 何せ、目的は自分と同じなのだ。手を組めば……もとい使い方によっては、これ以上心強い味方は居ない。

「……わかりました。金居さんがそこまで言うなら、私も信じてみようと思います」
「賢明な判断だな。それに、どうやらお互いに思う所は同じらしい」
「そうですね。ほな、分かり易く工場に飛んでみます?」
「ああ、それがいい」

 この殺し合いの場で、時間を無駄にする事は避けたい。故に、話が決まれば即行動。
 人一人が入れるくらいの亀裂から、二人は順に地下へと侵入した。
 転移魔法陣の上に乗って、はやては考える。
 工場に飛びたいとは言ったが、本当に飛べるとは思わない。
 はやてが今、何よりも欲しているのは“駒”だ。よって、必然的に駒が居る場所へと飛ぶ事になるだろう。
 だけど、駒と言っても有力なものはほとんどが死んでいる筈。残っている参加者で、有力なのは誰だ?
 高町なのは。スバル・ナカジマ。ユーノ・スクライア。戦力として考えられるのは、そんなところだろうか。
 純粋な戦力として考えるならば、一番に高町なのは、次いでスバル・ナカジマだが……。
 同時に、自分を貶めたクアットロのような策士が居る場所は避けたいと思う。
 会ってこの手で殺せればいいのだが、それは別に心から会いたいと願っている訳ではないからだ。

182 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:49:20 ID:m.ZIbc6I0
 
 さて、策士と言えばこの男もまた然りだ。
 この金居と言う男、間違いなくクアットロに近い性質を秘めている。
 当然、心の底からこの男を信頼することなどあり得ないのだが、純粋に利用し合う仲間としてなら心強い。
 その為にも、先程抱いた疑問……金居が持って居た銃は、何処から手に入れたのか。それを質問してみる事にした。

「そういえば金居さん、さっき持ってた銃……あんなん持ってはりました?」
「ああ、銃なら拾った」
「拾った?」
「誰の持ち物かは知らないが、こんな状況だ。武器の一つや二つ転がっていても可笑しくないだろう」
「……それもそうですね」

 言われて納得した。……いや、心底から納得はしていないが。
 今の持ち主である金居が拾ったと言うからには、それまでだろう。
 変に追及して怪しまれるのも得策ではないし、今はこのままでいい。
 当然、クアットロの轍を踏まない為にも、警戒を緩める気は無いが。

「さて、準備は出来ました。いいですか?」
「ああ、構わない」

 ほとんどの魔力を消費してしまった以上、残った魔力はほんの僅か。
 この短期間で少しばかり回復した魔力を、魔法陣へと注ぎ込む。
 キングと一緒に居た時と、殆ど同じ光景だ。
 淡い魔力光が、次第に強く輝き出して――刹那の内に、二人の姿は掻き消えた。





 金居が目を開ければ、そこは既に瓦礫だらけの市街地では無くなっていた。
 周囲には鬱葱とした森林が生い茂る、都会と自然の間と表現するのが相応しい場所。
 舗装されたアスファルトの道路と、その周囲の雑木林。木々の匂いは心地が良く、金居の種としての本能を刺激する。
 ここが殺し合いの場でなければ、クワガタムシの一匹くらい居ても可笑しくはないな、と思う。
 ただ一つ、異様な存在感を放って居るのが、正面に見えるホテルらしき巨大な建物。
 問題は、ここが一体何処なのかという事だが……

「どうやら、罠やなかったみたいですね」
「そうだな。まさか二人揃って飛んで来れるとは。意外だよ」

 傍らに居た低身長の女、八神はやてに嘲笑と共に返した。
 二人は確か、工場へ飛ぼうという話で魔法陣に乗った筈だ。
 それなのに、飛んで来た場所は工場などでは決してない。
 そもそも、表向きには工場に飛びたいと言っていたものの、金居にはそれよりも渇望する相手が居る。
 種の存続を掛けて、何としてでも仕留めなければならない相手が居る。
 この場で工場以外に望む場所とあらば、奴が居る場所くらいしか考えられないが……。

「ここは、何処だと思う?」
「ホテル・アグスタ……私も知ってる施設やけど、何でこないな場所に――」

 どごぉぉぉん!!!
 はやてが言い終えるよりも先に、轟音が二人の耳朶を叩いた。
 反射的にびくんと震え、二人は轟音の方向へと視線を向ける。
 その先は、ホテル・アグスタの正面玄関。そのロビー内で、轟音の主が暴れていた。
 硝子越しに、一瞬見えただけでも、この場には三人以上の人間がいるらしい。
 その三人が三人共、三つ巴状態で争っていたのだ。

183 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:50:04 ID:m.ZIbc6I0
 
「緑の仮面ライダーと、黒の仮面ライダー……それに、スバル!?」
「なるほどな。ここにお前の仲間がいる……そういう事か」
「そうです、スバルは頼れる私の部下で、味方に出来れば大きな戦力になる事は間違いない。
 ……けど、この乱戦の中に入って行くのは……ええい、情報が少なすぎる!」
「いや……そうでもないさ」

 はやては状況を判断しようと考えているらしいが、最早金居にその必要は無い。
 目の前に居るのは、はやてにとっての頼れる仲間と、己が宿敵。それが全ての答えだ。
 金居の中で全ての謎が氷解した。あの魔法陣は、罠などでは無かったのだ。
 なれば、誰が敵で、誰が味方かを視界した金居に、悩む必要が無いのは必然。

「ようやく分かったよ。俺達がここへ飛ばされた理由が」
「……どういうことです?」
「俺には、どうしても決着をつけなきゃならない宿敵がいるんでね」

 薄ら笑みを浮かべて、金居が言った。
 眼鏡の奥の鋭い眼光が捉えたのは、見まごう事無き宿敵・ジョーカー。
 伝説の鎧で身を隠して、戦いに臨む偽りの仮面ライダー。
 奴は敵だ。それも、世界に生きる生命全ての、だ。
 地球に巣くう悪質なウイルス、それがジョーカー。
 この戦いで何度も巡り合い、決着を付けられなかった相手がここに居る。
 カテゴリーキングとしての闘争本能に、火が点いて行くのが自分でも分かるようだった。

「いいか八神。スバルが味方で、あの黒のライダーが敵だ……人類全てのな!」

 嘘は言っていない。ジョーカーが生きている限り、人類も滅亡の危機と隣り合わせなのだから。
 といっても、人類にとってはジョーカーに代わって金居が最後に生き残った所で変わらないのだが。
 どうやらはやては、金居の只ならぬ雰囲気にどうしたものかと考えているらしい。
 そうこうしている内に、気付けば二人を照らしていた月明かりが、届かなくなっていた。

「これは……雨雲? なんでこないな所に……」

 ごろごろと音を立てて、空を覆う暗雲が時たまぴかっ!と光輝く。
 ホテルの屋上に設けられた避雷針が、何度も何度も空から降り注ぐ雷を吸い込むが、それでも足りない。
 信じられない量の雷が、周囲で鳴り響いていた。

「まずい……“アイツ”が来よった」
「アイツ……だと?」

 立て続けに起こる異常事態に、金居も警戒を強めて聞き返した。
 されど、それに答えるよりも先に、二人の視界に飛び込んできたのは一人の男だ。
 男の周囲だけ、他とは比べ物にならないほどの雷が奔っていた。
 空から、男から、空気中から。もはや自然に存在する雷の常識など通用しない。
 男がそのものそのまま発電機だとでも言う様に、縦横無尽に雷を奔らせているのだ。
 青白い光に照らし出されたその姿は、まさしく昔ながらの雷神というに相応しい。
 背中に背負った太鼓と、周囲で轟音を上げる雷とが、金居にそんな印象を抱かせた。

「なんだ……アイツは」

 呆然と立ち尽くす金居が、言葉を発した。
 一時的にではあれ、ジョーカーに対する闘争本能が掻き消える程の存在感。
 それは金居が……というよりも、生物が種として抱く、生理的な本能。
 雷に抗おうとする昆虫など、世界に居る訳がない。雷に触れれば、昆虫などそれで終わりだからだ。
 金居の本能全てが、奴は危険だと警鐘を鳴らしている。
 あのアーカードを初めて見た時と同等か……否、恐らくこいつは、それ以上。
 アーカードはまだ、理性を持ち合わせていたが、こいつにそれは感じられない。
 周囲の全てを焼き焦がしてしまうような怒りが、こっちにまで伝わってくる。
 現れた雷神に、二人は――。

184 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:51:32 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-9 ホテル・アグスタ前】

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.神・エネル……!!
 2.スバルは味方にしたいが……この状況をどう切り抜ける?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 8.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居の事は警戒しておく。怪しい動きさえ見せなければ味方として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

185 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:52:02 ID:m.ZIbc6I0
 

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.なんだあの化け物は……!
 2.そろそろジョーカーとの決着をつけたい。
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

186 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:52:33 ID:m.ZIbc6I0
 


 それは、鬼神へと堕ちた雷神の姿。
 それは、近寄る者全てを、本当の意味で破壊し尽くす神の姿。
 神でありながらも地べたを舐めさせられた屈辱と憤怒が、彼を破壊神へと変えたのだ。
 目的は只一つ。失ってしまった威信を、プライドをこの手に取り戻す為に。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードを塵一つ残らず消滅させてやらねば気が済まない。
 そうしなければ、身体に染み着いた『死』への恐怖は拭いされないのだ。

 一歩歩く度に、異常と呼べるまでに蓄電された電力が、アスファルトを真っ黒に焦がす。 
 空を覆う漆黒の暗雲全てが……迸る雷全てが、エネルの一部。エネルの手足なのだ。
 止めどなく迸り続ける高圧力の雷の所為で、最早昼なのか夜なのかすらも分からない。
 今が夜だと言う事は頭では理解しているが、それすらも怒りで忘れる程に、エネルは激情していた。
 周囲の電力を取り込むことで、電気人間の自分はいくらでも回復する事が出来る。
 周囲の雷雲と雷を利用する事で、兵隊百人にも等しい戦力を常時発揮する事が出来る。
 この暗雲の下に居る限り、エネルは無敵だ。圧倒的に有利な地の利を得ているのだ。
 そうだ。最初からこうすればよかった。首輪の所為で自分の身体を電気に出来ないなら、周囲の電気を使えばよかったのだ。
 雷として周囲を奔った電力は、再びエネルと雷雲に吸い込まれて、刹那の内にチャージが成される。
 空気中の静電気を始めとするあらゆる電力は、全てエネルの味方をしてくれるのだから。

 ヴァッシュは確かにこっちの方角へと消えた。
 この方角で会場に残された施設は最早、目の前のホテルしかありはしない。
 そして、そのホテル内から響く戦闘による轟音。
 間違いない。ここにヴァッシュが居る。
 既に他の誰かと戦っているのか知らないが、そんな事は関係ない。
 一緒に居る奴、近くに居る奴、邪魔をする奴。
 それらに関係なく、この雷で皆殺しにしてくれる。
 ――最早、神を止められる者は居ない。

187 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:53:33 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-8 東側】

【エネル@小話メドレー】
【状態】健康、激怒、『死』に対する恐怖
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.ヴァッシュに復讐する。
 2.ホテルに居る参加者は皆殺し
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。
※市街地と周囲の電力を取り込み、常時雷神(アマル)状態に近い放電状態になりました。
※吸収した電力で、僅かな傷や疲労は回復しています。


【全体の備考】
※エネルの周囲で大規模な停電が発生しています。
※エネルの周囲に雷雲が拡がっています。

188 Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6 :2010/06/11(金) 18:58:20 ID:m.ZIbc6I0
投下終了です。
どうせホテルにヴィヴィオが向かってるのならもっとやらかしちまえと思いまして……はい。
ちょっとエネルはやり過ぎた感があるかも知れませんが、原作を考えればこれくらいは出来てもいいかなと。
というか自然系最大の強みである雷化が出来ない上に、太鼓二つ失って、おまけに神としての威厳まで失ってしまった以上、
こうでもしないと再び初期の様な恐ろしいマーダーとして、アーカードやナイブズと並べる事は出来ないと思いまして。
アーカードやナイブズに比べて割と不遇だった(?)マーダー三巨頭、最後の一角をここらで立ててみようぜ!って感じです。
それでは指摘などがありましたら宜しくお願いします。

189 リリカル名無しA's :2010/06/11(金) 19:30:40 ID:1laH9ofE0
投下乙です。
ていうか何でみんなしてホテルに行くの!? タイミングとしてはVj氏の話の直後だよな……黒はやてに金居、そしてエネルまでやって来て……

対主催:スバル、ヴァッシュ、こなた
危険人物:はやて
マーダー:始(ジョーカー)、バーサーかがみ、金居、エネル、ヴィヴィオ

……ホテルと共に対主催オワタ。
しかし思いっきり再会の予感がするなぁ……こなた&かがみ、金居&始、ヴァッシュ&エネル、リイン&はやて……何となく碌でもない結末にしかならない気もするけど。
まさかまだ他にも来る???

190 リリカル名無しA's :2010/06/12(土) 18:38:10 ID:ygtTQYQ.0
投下乙です
ああ…これは死者が出るだろうな…
ホテルに人多すぎw

191 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 21:54:00 ID:.m17H2vc0
泉こなた分投下します

192 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 21:56:00 ID:.m17H2vc0
「アジトへ向かう前に言っておく……ッ! あたしは今やつの魔法をほんのちょっぴりだが体験した」



「こなた……?」



「い……いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたんだけど……
 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 『あたしは森の中でアジトへ向かっていたと思ったらいつのまにか(森は)消えていた』」



「いや、それリインも体験しているですよ!」



「な……何を言っているのかわからねーと思うがあたしも何をされたのかわからなかった……」



「その口調の方がわけわからないですよ!」



「頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」







「………………満足したですか?」
「………………うん」
「確かにこなたの言う通り理解を超えているですね」

193 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 21:58:00 ID:.m17H2vc0



 泉こなたとリインフォースⅡはスカリエッティのアジトへ向かう為、森の中を北へと進んでいた。
 が、気が付いた瞬間に森は消失し平野が広がっていた。周囲を見ても森は欠片も見当たらない。
 そこでこなたは地図と磁石を出して周囲を確認する。
「地図でいうところのD-9かE-9だと思うけど……でも森になってなきゃおかしいよね」
「北には何も無いですね。それに……」
 北方向を見ても森は欠片もなく。東方向には市街地が見えると共に微かに煙が見える。
「あたし達のいた場所は東端なんだからそれより東には何もない筈だけど」
「もしかしたら地図に描かれていないだけでその先にも何かがあるのかも知れないですよ」
「だけど……地図にない場所に出られるんだったら最初からそこに逃げ込めばいいんじゃないのかな。幾ら何でもそんな事はさせないよね」
 と、こなたは首輪を触る。要するに場外は禁止エリアとして扱われ、首輪が爆発するという事を暗に語っているのだ。それはリインも理解している。
「ここは場外ではないという事になりますよ」
「場外じゃなかったら何処なの?」
「東に市街地が見える平野はB-1〜E-1……確かB-1が禁止エリアになっていた筈ですからC-1かD-1、E-1になるですよ」
「D-9かE-9からどうやってD-1かE-1に移動を……あれ?」
 こなたは指をD-9とE-9の境目からD-1とE-1の境目の間を動かしている内にある事に気付いた。
「整理すると、『D-9辺りにいると思ったらD-1辺りにいた』って事だよね」
 と、磁石を片手に西方向を向く。
「じゃあ、もしかして……」
 そして足を進めると突然周囲に森が広がった。





「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『あたしは木1本無い平野を進んでいたら……』」
「そのネタもういいですよ!!」

 リインは軽くこなたの頭をポンと叩いた。





「つまり、区切られているエリアの端と端は繋がっているという事ですね。東端と西端、北端と南端という感じですね」
「でも北に進んでいた筈なのにどうして東に?」
「さっきまで磁石出さないで走ったり歩いたりしたから方向がずれてしまったんじゃないんですか?」
 実際、こなた達の進行方向は若干東にずれてしまっていた。故に、東端のラインを越えて西端へとワープしたのである。
「そういえばあの天使、東から西方向に飛んでいた様な飛んでいなかった様な」
 今更ながらに放送より少し前にホテルアグスタの屋上に消えた天使の事を思い出した。確かあの天使は南東から北西方向へ飛んでおり、屋上で消えていた。
 だがホテルの位置は東端のF-9だ。つまり、天使の進行方向を踏まえれば天使はエリア外から来たという事になる。もっとも、この時こなた達はそこまで思考が回らなかったが。
 しかし、先程起こった現象を踏まえればこの現象は簡単に説明出来る。
「あの天使は客船や船着き場のある海方向からやって来たという事になりますね」
「何にせよ、端と端はワープ出来るって事だね」
「恐らくプレシアがリイン達を逃がさない為にこのフィールドに仕掛けた仕掛けだと思うですよ。
 それでこれからどうするですか? さっき見た感じだと市街地では戦いが起こっているみたいですけど……」

 市街地では微かに煙が上がっていた。これを踏まえれば少なくても誰かがいた事は確実。
 しかしそれは必ずしも味方とは限らない。殺し合いに乗っている参加者という可能性もある。
 更に言えば煙が上っていることから戦いが起こっている事はほぼ確実。
 リインとしては市街地に向かいたいという気持ちが無いわけではない。しかし制限の都合上こなたの同行が絶対に必要となる。
 こなたを危険に巻き込む可能性が非情に高い。何の力もない一般人を危険に遭わせる事は避けるべきである。
 その一方、あの場所に仲間がいる可能性もある。数少ない家族や仲間との合流の機会を逃したくは無いというのも本音である。
 故にリインはこなたに判断を仰いだのである。

「勿論、最初の予定通りアジトに向かうつもりだよ。もしスバルがアジトに来た時にあたし達がいなかったら……」
「そうでしたね。わかったですよ、このままアジトに向かいます」
 こうして2人は再びアジトへと足を進めた。
「今東端にいますから少し西寄りに行かないと密林を迷う事になるですよ」
「大丈夫、今度は磁石も確認するから」
「それだけならまだ良いですけど気付かないで進んで禁止エリアのA-9やB-1へ飛び込む可能性もあるですよ」
「だからわかったって」

194 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 21:59:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 その放送はあまりにも無機質かつ無慈悲であった。それ故に淡々と事実だけが伝えられた。
 無機質かつ無慈悲であったからこそその衝撃は非常に大きなものであった。



「シャマルまで……」



 リインにとって大事な家族であるシャマルの死亡が伝えられた。
 勿論、リインの世界のシャマル達は妖星ゴラスの媒介になっている筈なので呼ばれたシャマルはリインとは別世界の彼女だという事実は頭では理解している。
 しかし、それでも溢れ出す深い悲しみの感情は止まる事はない。故にリインの目からは涙がただただ溢れていた。
 それでも何とか放送自体は聞き逃さず聞きとめた。しかしそれが限界だった。リインの思考は大事な家族が再び失われた事で真っ白になっていた。

 そして脳裏には家族であり主でもある八神はやての姿が浮かぶ。


 前述の通りシャマル達守護騎士はゴジラを封印する為の妖星ゴラスの媒介となった。これだけならば只の悲劇で済む話だ。
 しかし、封印は決して永久ではない。その限界はたったの1年、それを過ぎればゴジラは再び復活する。
 1年を経過した時点でシャマル達の犠牲は完全な無駄となってしまうのだ。そんな事をはやてが許すわけがない。
 そして家族を助ける方法が1つあった――簡単な事だ、妖星ゴラスが限界を迎える前にゴジラを完全に抹殺する事だ。
 当然、シャマル達の限界を踏まえるならば1年などと言わず早ければ早い方が良いのは言うまでもない。

 故に、彼女は家族を助ける為にこれまでの彼女からはまず考えられない非道な事を行った。
 各次元世界に生息する怪獣達を使い魔に、時には洗脳すら施してゴジラにぶつける為の決戦兵器としたのだ。
 当然だが高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも従いながらもそれを受け入れているわけではない。故にはやてと衝突を起こした事もあった。
 全ては家族を助ける為、故に許される許されざるは別としてそれ自体は決して否定出来るものではないだろう。
 だが、客観的に言えばそれは決して許される事ではないし、自分達が当事者にならなければリインもその行いを認める事は無かっただろう。

 はやてがこの放送を聞いたとすればどうするだろうか?
 容易に想像が付く、死んだ家族を生き返らせる為、優勝を目指す可能性が非情に高い。
 もしくは優勝ではなくプレシア・テスタロッサの技術を奪う為に他の参加者を陥れてでも彼女に迫ろうとするだろう。
 それが許されざる事なのはリイン自身もわかっている。だが、リインはそれを止める事が出来ない――

 ――何しろリイン自身の中からも外見とは真逆のどす黒い邪悪な感情が湧き上がっているのだから。





 ジブンガサンカシャナラバユウショウシテデモカゾクヲトリモドシタイ





 いや、わかっている、わかっているのだ、家族や仲間がそれを望んだりしない事は。
 それ以前に自分自身、そんな事はしたくはないのだ。
 何の罪のない人々を傷付けたり陥れる事なんてしたくはないのだ。

 それでも、湧き上がる感情はとどまらない。リインは何とかそれを抑えようと――

195 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:00:00 ID:.m17H2vc0







 その瞬間、轟音が響いた。



「えっ……!?」



 音はホテルの中からだ。
 ホテルには先に安全確認の為にスバル・ナカジマが向かっていた筈だ。今現在ホテルで何が起こったのだろうか?
 確かホテルには屋上に降り立った『天使』がいた。となれば『天使』が殺し合いに乗っていて、スバルと交戦状態に陥ったのだろうか?
 真実は不明だが1つだけ確実な事がある。それはホテルは危険な場所だという事だ。


 我に返った瞬間、リインは自分の愚かな思考を恥じた。
 自分が今すべき事は何なのか? 何の力を持たない少女を守る事じゃなかったのか?
 にもかかわらず自分は今何をしていた? 家族が死んで泣いて……いや、正直それ自体は仕方がない。
 問題なのはこの瞬間まで足を止めていてあまつさえ僅かだが殺し合いに乗ろうかと考えていた事だ。
 今の自分の姿を見たらゴジラを封印する為にゴラスの触媒となったシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラが見たらどう思う? 軽蔑するに決まっている。

 自分は何者か? 無限に続く悲しみの呪縛より解放された先代よりその名を受け継ぎし蒼天をゆく祝福の風リインフォース・ツヴァイではないか?

 その名を持つ自分が他者に悲しみを与える事などあってはならない。与えるべきは祝福でなければならない。

 故に今は自らのすべき事を、目の前の少女泉こなたを守らなければならない。
 放送からどれぐらい経過しただろうか? 幸い攻撃の余波はここには届いていないがそれは結果でしかない。
 これまでの戦いを踏まえればホテルからこの場所に届く程の攻撃など無数にあり得る。惚けて棒立ちなど愚行以外の何物でもない。
 一歩間違えればこの一撃でこなたが致命傷を受けていた可能性もあるのだ。愚かと言わず何というのだろうか。

 このまま犠牲を出してしまう事は家族や先代リインフォースに対する最大の裏切りだ。彼女達の為にも二度と堕ちたりはしない――そう考えリインは周囲を見回しながら次の行動を考える。

 スバルに関しては負傷はしているものの戦闘機人としての力が使えれば余程の相手では無い限り後れを取る事はない。最悪、逃げ切る事は出来るだろう。
 ジェットエッジを渡してあるから移動に関してもおおむね問題はない。
 だが、戦闘機人としての力は威力が強すぎる。敵を倒す事に関してはともかく、周囲に及ぶ被害は甚大なものとなる。先程の轟音ももしかしたらスバルのIS振動破砕によるものかもしれない。
 つまり、この場所にいればこなたを戦いに巻き込むという事だ。スバルもそれを恐らくは理解している。
 故に自分達がこの場所にいる限りスバルは全力を出せない。相手次第だが全力を出さないで切り抜けられるとは思えない。

 だからこそ自分がとるべき判断は――

196 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:01:00 ID:.m17H2vc0





「リイン、行くよ」

 その答えを出す前にこなたが声を発した。
「え? 何処へ?」
「ここにいたらスバルに迷惑がかかるよ、だから……」
 既にこなたの足はホテルとは逆の方向に向いていた。奇しくもリインと同じ判断をこなたはしたのだ。
 しかし、あまりにも的確な判断であったが故、リインは驚きを隠せなかった。
 そもそも、何故こなたはそこまで冷静なのだろうか?確か放送では――
「大丈夫、スバルだったら何とかしてくれるよ。スバルが全力で戦う為にもあたし達はここにいない方がいいんだ!」
 こなたの声は何時もののほほんとしたものではなく、力強いものだった。
「確か、あの時ホテルの他にもう1つ目的地決めていたよね。そこに行こう、スバルも戦いが終わった後で来てくれる筈だよ」
 そう言いながら、その方向へとこなたは走り出した。リインもこなたの横を飛びながら移動をする。
 リインもおおむね同じ考えだった為、こなたの判断自体に異論はない。しかし、人の話も聞かずに行動をする事は決して良い事ではない。
 故にその事について口を出そうとするが、
「こなた、少しはリインの話も聞い――」
 横顔を見た瞬間、彼女の心情を理解した。そう、こなたは冷徹な程冷静なわけではなかったのだ。
「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けると思う……だから急がないと」
 こなたの目からは涙が溢れ流れていた。
 放送では彼女の友人である柊つかさの死亡が伝えられた。彼女にとって大事な友人である彼女の死に衝撃を受けないわけがない。
 真面目な話、暫くはショックで動けず俯いているのが自然だ。最悪、生き返らせる為に殺し合いに乗ってもおかしくはない。
 しかし、こなたの表情にはその様などす黒い感情は見えない。むしろ、スバルの為にこの場所を離れようとするこなたの瞳には強い意志が宿っていた。

 そうだ、何の力も持たないか弱き少女だって負けずに戦おうとしているのだ。自分も負けずに戦わなければならない。

 だからこそ今はこなたを守る為に戦おう。夜空に祝福の風を巻き起こすかの様に――








 こうして、こなたとリインはホテルを離れスカリエッティのアジトへと移動を開始した。
 駅にてスバル達は次の目的地としてホテルとアジトの2つを考えていた。
 その為、戦いが終わった後、ホテル周辺に自分達がいなければアジトへと向かったと判断してくれると考えたのだ。
 書き置きは何もない。残す余力が無かったというのもあるが、下手に残した所で戦いの余波に巻き込まれ紛失する可能性もあり、危険人物に読まれる可能性もあったからだ。
 ちなみに、ホテル到着直前スバルはデュエルアカデミアに向かおうかと考えていたがその事をこなたもリインも聞いていない為、それは全く考慮に入っていない。
 もっとも、崩壊の可能性があるアカデミアに戻るのも危険なので仮に聞いていたとしても選択肢に入らない可能性は高いだろうが。
 この地に残らないで移動を行った理由は前述の通り今回の戦いに巻き込まれるのを避ける為、
 これまでの事を踏まえホテルが崩壊する可能性は非常に高く、その崩壊に巻き込まれて死亡する可能性は高い。
 また攻撃の余波に巻き込まれて死亡する可能性も言うまでもなく高い。
 更に前述の通り、近くにいるとスバルは自分達を巻き込まない為に全力を出せないだろう。この状況でそれは避けるべきだ。
 また、こなたが殺された場合、当然スバルは強いショックを受けるがそれとは別に避けるべき事項が存在する。
 放送で伝えられた殺害者のボーナス支給品の話。この話を踏まえればこなたが誰かに殺された時点でその参加者は支給品を1つ確保しそのまま強化される事になる。
 それでなくても武装に乏しい状況だ。危険人物の強化は絶対に避けなければならない。
 故に、自分の身を守る為にも、スバルの身を守る為にも、2人はホテルからの待避、アジトへの移動を選択したのだ。

197 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:02:00 ID:.m17H2vc0





 こなたとリインがこの場を離れたのは放送から約10分後、幸か不幸かホテルでの戦いに巻き込まれる事を回避する事が出来た。
 だが、結果として2人はそれぞれが最も再会したい人物との再会の機会を逃す事となった。

 簡単に放送前後から2時間強の間にホテルで起こった事を客観的に説明しよう。勿論、大部分はこなたもリインも知り得ない事である事を補足しておく。

 放送直前、スバルはホテルロビーで『天使』ことヴァッシュ・ザ・スタンビートとつかさの姉でありこなたの友人である柊かがみと遭遇した。
 だが、かがみはヴァッシュにスバルは危険人物と説明した為、両者は緊迫した状態となり、かがみはホテル地下の駐車場へと移動した。
 そして放送、このタイミングでヴァッシュ自身の左腕が暴走し無数の白刃が繰り出された。
 その白刃の斬り口からスバルはルルーシュ・ランペルージの右腕を切り落とした人物と断定し戦闘機人モードとなりヴァッシュとの交戦に入った。

 こなたとリインはその戦いの衝撃から、ホテルは危険だと断定し待避するという選択を選んだのである。

 勿論、2人の待避後もホテルでの戦いは止まらない。スバルとヴァッシュの戦いは続いていた。
 その一方、かがみは駐車場にあった装甲車を発進させ、ホテル近くまで来ていた相川始を轢き殺そうとした。
 結果は失敗、そしてそのまま両名はホテル方面へと移動しながら戦闘に突入した。

 ちなみに、かがみが装甲車でホテルから出たタイミングは放送から約30分後、こなた達が既に遠く離れた後だ。故にかがみはこなたが少し前まで近くにいた事を知る事は無かった。
 もっとも、再会した所で今のかがみはそのままこなたを殺す可能性が高かった為、それを避ける事が出来たのはある意味では幸運だったのかも知れないが。

 さて、放送から約2時間後、ホテルロビーでは何とかスバルとヴァッシュは和解しかけていた。しかしこのタイミングでかがみと始がロビーに乱入し4名は再び戦闘に突入した。

 それだけではない。この直後、はやてと金居が地上本部にあった魔法陣を使いホテル前までワープして来たのだ。
 このはやてはリインと同じ世界から連れて来られている。その為、リインにとって最も会いたい人物である反面、外道に堕ちてでも目的を達しようとする危険人物でもある。
 更に金居と始は元々の世界での敵同士、両者が出会えば戦いになる事は明白だ。

 そして、更に2人の『神』がホテルに迫っていた。
 1人は雷神・エネル、ヴァッシュに敗北を喫し威厳を奪われた神はヴァッシュ他全てを抹殺する為に自らの身に雷を纏いホテルへと足を進めていた。
 1人は死神・ヴィヴィオ、母を無惨に奪われ死神の鎌を手にした神は母を殺した者全てを抹殺する為に自らの身を血で染めホテルへと足を進めていた。

 ホテルにおけるこの後の物語は今はまだ語らない――だがこれだけは確実に言える。今最も危険な場所はこの場所だということだ。





 こなた達が再会の機会を潰した事は不幸だったのかも知れない――だが、こなたがここに残ったところで出来る事など特にない。むざむざ殺され下手人を強化させるのがオチだ。
 再会出来たけどすぐに死亡しました。それもまたある意味では不幸な結末だろう。そう、柊姉妹が再会しつかさが無惨に惨殺された時の様に――





 少なくてもそんな結末はこなたもリインも、そしてスバルも望んではいない。再会するならば当然お互いに笑顔で再会すべきだろう。





 その意味では、こなた達は祝福の風を受けていたのかも知れない――

198 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:03:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





「マンガとかで、無理矢理怒らせたり、悲しい気分にさせたりする超能力ってあるよね?」
「いや、リインに同意を求められても困るんですけど。そういうのあんまり読まないですし」
「でさ、そういう気の利いた魔法とかってある?」
「ありますよ。例えば……」
 リインはこなたにコンシデレーション・コンソール、怒りや悲しみの感情を強化する洗脳技術について簡単な説明をした。
「……ってもしかして参加者の中に洗脳されている参加者がいるって言い出すんじゃないですよね?」
「いや、そういう意味じゃなく、もしかしたらあたし達の考え方や感情が操作されているんじゃないかってちょっと思って」
 こなたの言いたい事はこういう事だ。
 知らず知らずの内に自分達の思考や感情が殺し合いする上で都合の良い風に誘導されているのでは無いかという事だ。
「少なくても、こなたやスバル、それにルルーシュを見る限りそんな様子は無かったですよ」
「でもね、レイやシャーリーの豹変がどうしても気になったんだよね。それにかがみんも……」

 確かに早乙女レイが突如豹変しルルーシュに対し発砲した事はある意味異常だった。
 またシャーリーがレイを射殺した事も事前に聞いた人物評から考えれば異常である。
 そしてかがみが殺し合いに乗って何人か殺している事実などこなたにとっては今でも信じがたい話である。

 また、2人は知る由もないが貴重な首輪確保の機会を何故か逃したり、
 示し合わせたかの様に出会えば対話を放棄し戦いに突入したり、
 思考する事を放棄して安易に諦め殺し合いに乗ったり、
 元々殺し合いに乗る筈の無い人物の精神が破綻し破滅を撒き散らしたり、
 ゲームを破壊するつもりが何故かゲームを促進させてしまったり、
 冷静に見れば殺し合い継続という意味では都合の良い出来事が頻繁に起こっている様な感はある。

199 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:04:00 ID:.m17H2vc0

「突然殺し合いに放り込まれたらそういう行動に出てもおかしくは無いと思いますよ」
 リインの言う通りだ。突然殺し合いに放り込まれて普段と同じ行動をしろというのも無茶な話だ。
「あたしもそう思うけど……それで説明が終わるぐらいにわかりにくく知らず知らずの内にそういう風にもっていかれている様な感じがするんだよね」
 理由を『殺し合いだから仕方がない』と説明出来る程度の異常を発生させて参加者全員に殺し合いを加速させようと目論んでいるという説だ。
 それは極々僅かな異常だからこそ、普通はまず気付かない。
 また選んだ危険な選択肢も選ぶ可能性は低くても0ではなく状況を考えれば有り得ない話ではないと納得出来るものだ。
 そして考えられない異常があった時は『殺し合いだから』で思考を止めてしまえばそれで終了だ。
「やっぱり毎回毎回ノストラダムスのせいにするミステリー調査班みたいな有り得ない仮説なのかな?」
「リインにはよくわからない例えを出されても困りますよ」
 こなた自身もこの仮説はあまりにも突拍子も無い説だという事は理解している。リインもその仮説を軽く流そうと――
「……有り得ないとは言い切れないですよね」
 リインは先程自分の奥底で湧き上がったどす黒い感情を思い出した。
 少なくても湧き上がった感情自体は本心によるもの、それは否定しない。
 だが、それとは全く真逆の理性もあったのだ。少なくとも何時ものリインが本来の理性を全て放棄してどす黒い感情のまま行動する事などまず有り得ないと自分では思っている。
 だが、先程の状況を思い出す限り、感情のままに暴走する可能性は否定出来ない。

 つまり、殺し合いに都合の良い感情が僅かに出やすい様に強化されているという事だ。
 僅かであるが故に、普段はそれに気付かない。パニックに陥った時に良心は駆逐され倫理観を捨て去る様にし向けるという事だ。
 それがいかに異常であっても前述の通り全て『殺し合いの状況だから仕方がない』と片付ければまず気付かれる可能性はない。

「コンシデレーション・コンソールの応用で可能だと思いますが……幾らそれが弱いものでもこの舞台全部に仕掛けているなら相当大げさな装置になるですよ」
「さっきのループといい何でもありだね」
「それに、こなたの仮説通りだとしても、結局の所この舞台をどうにかしないとどうにもならない事に変わりはないですよ」
「何か良い手段は無いかな?」
「(一応今スバルが持っているハイパーゼクターが使えるかもという話ですけど……幾ら何でもプレシアがそれを見落とすわけもないですから、別の方法も考えておかないと……)
 それを見つける為にも、今はアジトへ移動しないと」
「……で、方向ってこっちで合ってる?」
「まさか迷ったってオチは無いですよね?」
「……」
「…………」
「………………」
「こー! なー! たー!」


 ちなみに、現在位置はD-9中央の森林ではあったが、夜の闇は深く目印となる灯りも無い為、自身の位置を断定しきれない2人であった。

200 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:05:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 結論を先に述べれば実感なんてまだなかった。
 こう書くと現実を直視出来ない人に見えるが実際そうだったのだ。
 そう、こなたはつかさが本当に死んだとは思えなかったのだ。
 だがそれはある意味では仕方がない。こなたは幸か不幸かこれまでまともな死体を目の当たりにした事などなかった。
 故に、放送で淡々と名前を告げられただけで死んだ事を理解出来るわけではなかった。

 いや――だが恐らく放送は真実だろう。自分は実感出来なくても既に友人や家族の死を伝えられて泣いていたスバルやリインの姿を見ていたのだ。
 それを見ていながらいざ自分の時はその現実を認めず逃避する――あまりにも酷い人物だとこなた自身が思う。

 わかっている。まだ完全に実感したわけじゃないが――柊つかさは死んだ。少なくてもそれは認めなければならないだろう。

 勿論、残酷な話だが希望がまだ無いわけじゃない。
 仮につかさが自分のいた世界と違う世界から連れて来られていたならば、元の世界に帰っても変わらずつかさはそこにいるという可能性はある。

 そんな事を一瞬でも考えた自分を酷く嫌悪した。
 自分で巫山戯るなと思った。それを希望だと思った自分に腹が立った。
 それを認める事は別の世界のスバルでも変わらず守ろうと思ったルルーシュに対する最大級の冒涜だ。
 スバルやリインだって互いが別世界から来たとしても変わらず仲間だった筈だ、彼女達に対する侮辱だ。
 大体、別の世界のつかさだとしてもそれはその世界の自分自身の友人がいなくなった事を意味する。別の世界の自分を悲しませてどうするというのだ?

 結局の所、元の世界のつかさが無事という可能性があるというだけの話であってそれ以上でもそれ以下でも無いという事だ。決して希望ではない。

 真面目な話、つかさ達を生き返らせる――いや、ゲーム機のリセットボタンを押すかの様に優勝して全てを無かった事にしようかと本当に一瞬だけだが考えた。
 しかしそう考えた瞬間、今まで出会った仲間達、ルルーシュ、スバル、リイン、ヴィヴィオ、シャーリー達の顔が浮かんできた。
 彼等はどんなに悲しくても決して投げ出そうとはしなかった。なのに自分は何を考えているのだろうか?
 故にこなたはこのデスゲームのリセットボタンを押す事を止めた。いや、リセットボタンその物を破壊して二度と馬鹿な考えをしないと思った。





 だが、進もうとしている足は止まってしまった。スタートボタンを押してポーズした状態で動きを止めてしまったのだ。
 そう、どんなに先へ進めようとも起きてしまった事実は変えられない。つかさが死んだ事実は決して揺るがないのだ。

 高い確率でつかさとは二度と会えない可能性が高いのだ――その空虚は決して埋まる事はない。限りなく切なく空しい――

 覚悟はしていた筈だった。どちらにしてももう元の生活に戻る事はないと思っていた。だから前に進もうと思っていた。
 だが、本当は何処か甘く考えていた。覚悟なんて出来ていなかったのだろう。

 結局の所、現実はゲームやアニメ等とは違うという事だ。
 所詮、現実世界では泉こなたはヒーローでもヒロインでも何でもなく、只の何の力も持たない一般人Aでしかないのだ。



 故にこなた自身、もう前に進めないと思っていた――



『そうやって悩んで立ち止まるのは……生き残ってからでも出来るだろう』



 そう考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。



(ルルーシュ……?)



 そんなオカルトは決して有り得ない。既に彼は死亡している筈なのだ、首輪も回収している以上それは揺るがない真実だ。
 ならば幻聴だというのだろうか?



『今そのために何もできずに立ち止まってそのまま殺されては何もならない。誰も喜ばないだろう』



 その言葉はこなたの胸に深く突き刺さる。
 わかっている。今このまま無為に立ちつくしても無駄に殺されるだけだ。そんな事はスバル達は勿論、元の世界にいる家族や友人達も喜びはしない。
 それは絶対に許される事ではない。

201 Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:06:00 ID:.m17H2vc0



『だから……今はまず、生き残ることを考えろ』



 その通りだ。所詮自分はヒーローでもヒロインでもない、しがない只の一般市民だ。
 生き続ける限り何度でも悩み立ち止まる事はあるだろう。だがそれでも生き続ける限り何か出来る事はあり、幾らでも前に進める筈なのだ。
 死んでしまえば最早進む事も戻る事も、悩み立ち止まる事すら出来なくなる。そうなってしまえばどんなに願おうとも誰も助ける事は出来ない。



(……つかさ、ごめん。今はまだつかさの為に何が出来るかは考えられないし、つかさのいない世界を受け入れられるかはわからない……
 でも、あたしはまだ生き続けるよ……まだ生きているスバル達や……なによりかがみんの為にも……)



 轟音が響く。



「!? もしかして、あの『天使』さん敵だったの?」
 恐らくホテルではスバルと『天使』が戦っているのだろう。ならば戦いが激しくなればこの場所も危ない。
 スバルが全力で戦えば『天使』が相手でも問題は無いだろう。だが、自分が近くにいると自分を危険に巻き込むまいと全力を出せなくなる可能性がある。
 更に、自分が不用意に殺されれば殺害者へのボーナス支給品が与えられスバルを危機へと追い込んでしまうし、それでなくてもスバルはショックを受けるだろう。
(それに……スバルと約束したんだ、自分の身は自分で守るって……だから!)

 そう考えたこなたの行動は素早かった。

「リイン、行くよ」
 早急にホテル周辺から離れ予め話していたもう1つの目的地であるスカリエッティのアジトへの移動を開始した。
 自分達が無事に離れればスバルは遠慮無く全力で戦える。確かスバルにはジェットエッジを持たせていたから戦闘後すぐにでもアジトに向かってくれるはず。
 ならば迷う事はない。移動しない手はない。というより、このままこの場所に留まっている方が危険が大きい。移動すべきである。



「こなた、少しはリインの話も聞い――」



 ああそうか、リインの意見を無視していた様だ。



「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けるから……だから急がないと」



 自分は今、泣いていたのだろう。それでもみんなの為に生き残る、その為に今は悲しみに負けないで走らないとならない。



 気が付けばルルーシュの声は聞こえなくなっていた。結局の所あの声は何だったのだろうか?
 いや、実を言えばルルーシュが言っていた言葉には聞き覚えがある。というよりあって当然だ。

 その言葉は、右腕を失い絶望しているルルーシュに自分自身が言った言葉と殆ど同じじゃないか。
 そして、つかさを失い絶望している自分にルルーシュがその言葉を返したという事――

 そんな都合の良い幻想なんて無い。きっと、自分を立ち直らせる為に自分の中のルルーシュにそれを言わせただけなのだろう。ある意味酷い妄想だ。

 だけど、正直そんな事はどっちでも構わないし大した問題じゃない。どちらにしてもルルーシュが助けてくれた事に変わりはない。




「ありがとう、ルルーシュ」
「何か言ったですか?」
「ううん、何でもないよ」



 そういえば、つかさの死亡を知ったらかがみはどうするだろうか?
 それでなくても殺し合いに乗っていたのだから。強いショックを受けて暴走してもおかしくはない。出会った人を次々襲っている可能性は十分にあり得る。




(どうしてこうなった……幾らかがみんがツンデレでも、平然と人を殺せるはずが無いんだけど……まさかあのおばさんかがみんに何かしたのかな?
 それに冷静に考えてみればあの状況でいきなりレイがルルーシュを襲う事だってヤンデレ化したと片づけるには何処か不自然だし……
 シャーリーにしたって、ルルーシュに聞いた彼女の性格から考えて状況が状況とは言えレイを有無を言わさず殺す何て事有り得ないしなぁ……
 ひょっとして……あのおばさんがみんなに殺し合いさせようと操っているんじゃ……
 ……いや、考え過ぎかな……本当にどうしてこなた……)

202 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:08:00 ID:.m17H2vc0
「何よりも困難で幸運なくしては近付けない道のりだった……アジトに近付くという道のりがな……」



「実際、アレ見つけなかったら朝まで迷っていたかもしれなかったですからね。というか、こなたキャラ変わってませんか?」



 目の前には洞窟があった。リインが見たJS事件の資料で見た写真通りだった事からスカリエッティのアジトである事は間違い無い。
「まぁ、アジトって言うからには目立つ様な外見じゃ困るから見つけにくくて当然だけどね」

 幸か不幸か2人は2時間以上も森の中を迷っていた。
 リインが周囲の策敵を行っていたが魔力も人の反応も見受けられなかった為、誰にも遭遇することなく今まで時間が掛かっていたのである。
 そして無事にアジトに辿り着けたのは偶然ある痕跡を見つけた事だ。
 それは血痕、その近辺で戦いが起こった事は明白である。血の乾き具合から見て12時間以上も前のものだと推測出来た。
 血痕は何処かへ移動するかの様に続いていた。それが意味する事は治療の為に何処かの施設への移動、
 この近辺で治療に使えそうな施設はスカリエッティのアジトぐらい、故に2人はそれを辿り移動した。
 勿論、血痕が比較的早期のものというの否定出来ず、危険人物がまだ近くにいる可能性もあった為、慎重に移動した。
 そして慎重に周囲を探った事であるものを発見する事が出来た。それはチンクのナンバーズスーツの残骸だ。
 回収こそしなかったが、これによりチンクが治療の為アジトへ向かった事はほぼ確定した。
 血痕そのものは途中で途切れていたが消された痕跡があった事からも近くにアジトがある事は確実。2人は慎重に周囲を探り今ようやくこの場所にたどり着いたのだ。

 以上の事と、スバル経由で聞いたチンクの動向から次の推測が導き出された。
 チンクと万丈目準がこの近辺で交戦しチンクは負傷し治療の出来そうな施設へ移動した。
 その途中、天上院明日香もしくはユーノ・スクライアの助けを受け移動の痕跡を消した上でアジトにたどり着いた。
 そして治療が終わった後、チンク達は市街地方面へ移動したという事だ。

「……ということは、もうこの施設は調べられちゃったって事?」
「そういう事になりますね。チンクが使える道具を回収しないわけないですし。見落としが無いとは限らないですけど」
「じゃあもしかして無駄足だった?」
「そんな事は無いですよ。この施設を使えばスバルの治療も出来る筈ですし」

 戦闘機人であるスバルは通常の人間の治療があまり有効ではない。それ故に専門の施設が必要となる。
 が、アジトはチンク達戦闘機人の拠点、当然戦闘機人の治療設備は整っている。
 実際チンクがここを訪れた事がその証明と言えよう。

「じゃあ、すぐにでも中に入ろうよ。もしかしたらスバルが先に来ているかも知れないし、来ていなくても治療の準備も出来るし」
 と、足早に洞窟に入ろうとしたがリインが制止する。
「慌てないでくださいよ! 殺し合いに乗った参加者が先回りしていてここに罠を仕掛けたかも知れないんですからね!!
 それでなくても、この場所は敵地なんですよ。どんな罠や危険があるかわかったものじゃありませんよ!」
「そっか、ここはアウェーだったね」
「アニメイトの時を思い出してください。施設に入って安心した所で襲撃を受ける可能性は否定出来ませんよ。あの時助かった幸運が何度も続くわけないんですからね」
「う……」
「それに、アジトは出入り口の限られた場所です。逃げ道を封じられればその時点でこなたもリインもおしまいです。突入は慎重に行うべきですよ」
「じゃあ、安全が確認出来るまではここで待つって事?」
「そういう事になりますね。さっきも言った通り既にチンクが調べたのは確実ですから、現状リイン達が慌てて調べる必要性はないですよ」

 何はともあれ、周囲の警戒は決して怠らず2人はアジトの近くでスバル、もしくは他の仲間の到着を待つ事にした。
 ちなみに今更ながらにこれまで何も食べていなかった事もあり2人は簡単に食事を取る事にした。
 そして食べながらも2人はこれまでの情報を整理する事にした。

203 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:12:00 ID:.m17H2vc0



「とりあえず、放送の事は大体覚えていますよね」
「うん……」
「あ、誰が死んだかについての話じゃないですから。それ以上に重要な事が幾つかあるですよ」
「殺した人へのボーナスの事?」
「それに関しては殺し合いに乗っていないリイン達にはあまり関係ない話ですよ。
 ただ、殺し合いに乗った人は誰かを殺した時点で新たな武器が手に入る事になりますから、それを避ける為にも今まで以上に身を守らないとならないですよ」
「とりあえずスバル達の為にも生き続けなきゃいけないって事だね」
「そうです。現状、ボーナスに関してはこれ以上出来る事は無いからこれで話を区切りますね。こなた、先程の放送誰が行っていたか覚えていますか?」
「そういえばおばさんじゃなかったね。誰だったかな?」
「こなたが知らないのも無理無いですよ。さっき放送を行ったのはオットー、スカリエッティの戦闘機人の1人でチンク達と同じ姉妹の1人です」
「ふーん……え? それっておかしくない? それはつまりオットーはチンクの姉って事だよね……」
「妹ですよ」
「いや、声が低かったから年上だと……チンクの服も体型が……」
 そう口にした瞬間、自分の体型を思い出しこなたは暗い気持ちになった。
「勝手に自爆しないでくださいよ」
「うん、貧乳はステータスだから大丈夫。希少価値だから大丈夫」
「後で殴って良いですか?」
「それはともかく、リインの話が事実だったらそのスカリエッティ達もおばさん達に協力しているって事になるけど……
 わざわざ自分達の仲間を危険な殺し合いに放り込んでいるって事になるよね。それっておかしくない?」
「まず、前提として説明しますけど主催者側にいるスカリエッティ達は参加者にいるクアットロ、チンク、ディエチとは別世界の可能性が高いです。
 こなたにも分かり易く言えば、参加者の彼女達と主催者達はほぼ無関係という事ですね」
 仮にチンク達が主催者側の人物であれば自分達と協力関係を結ぶ可能性は非常に低い。
 だが、チンクにしてもディエチにしてもこちら側と敵対するつもりが無かった事はルルーシュやスバルの証言からも明らかだ。
 一方、クアットロに関してはこの場での彼女の動向が不明である以上、判別はつけにくい。
 しかし、クアットロの能力や性格を考えれば最も危険な参加者として戦う事はまず有り得ない。裏方に回って他の参加者を扇動する役割に回る方が自然である。
「もっとも、既にチンクとディエチは死亡していますし、クアットロはそれでなくても危険人物ですから今となってはさほど意味を成さない話ですけどね
 むしろ、チンクとディエチが死亡したタイミングだからこそオットーが前面に出てきたと思いますよ。
 チンク達だったらショックを受ける事でも、クアットロはあっさり受け入れるでしょうし」
「1つ気になったんだけど。みんなクアットロを敵だと思っているの?」
「彼女を知る人間はまず彼女を信用していないですよ。信用する人物は余程のお人好しか馬鹿としか言いようがありませんよ」
「……本当にそんな人いないの?」
「シグナムにしてもヴィータにしてもザフィーラにしてもはやてちゃんにしてもそんな馬鹿な事しないですよ」
「それだけ信用されていないんだったら、クアットロ自身も自重しそうな気もするけど…………あれ、誰か忘れてない?」
「………………話進めますよ。
 恐らく主催者側にいるスカリエッティ達はJS事件が終わる前の存在だとだと思います。そして、その戦力を確保していると考えて良いですね」
「もしかして、主催者達との戦いになった時は彼女達と戦う羽目になるって事?」
「その通りです」
 仮に首輪を解除する事に成功し主催者側との戦いに突入出来たとしよう。主催者側は恐らく自身達の持つ戦力を投入するのは明白だ。
 そしてスカリエッティ達の存在が確認出来た今、その戦力はある程度推測出来る。
 単純計算して最低でもJS事件の規模の戦力が控えていると考えて良いだろう。
「それだけじゃないですよ。プレシアの技術力が確かなら遥か未来で起こった事件の首謀者達の戦力を確保しても不思議じゃないです」
「ねぇ、それ何の無理ゲー? それにそれってあくまでも首輪を解除してそこに辿り着いてからの話だよね? まだその段階にすら辿り着けていないんだけど……」
「もしかすると『だから何やっても無駄だから諦めて殺し合え』って言いたい様に聞こえますけど、リイン達は諦めるつもりは全く無いですよ」
「そうだね」

204 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:13:00 ID:.m17H2vc0

 ふと2人は空を見上げる。空には星と共に月が輝いているのが見える。
「綺麗な満月です」
「……うん、そういえば昨日も綺麗な満月だったよ」
「そうでしたか……あれ? 『昨日も』?」
「ん、どうかした?」
「いや、連日満月なんて有り得ないですよ」
「あ……」
「ちょっと待ってくださいよ……もしかしたらリイン達はとんでもない思い違いをしていたのかも知れないですよ」
「どういう事?」
「今までこの場所に来てから雲を見ましたか?」
「そういえば見た覚えが……でもそれはたまたま天気が良かっただけじゃないの?」
「さっきホテルから離れる時雷の音が聞こえたのは覚えていますよね」

 実の所、先程ホテルから移動する際、遠くから雷鳴の音が聞こえてきたのだ。
 雷そのものを見たわけではない為具体的な場所はわからないが音の方向は西側からというのは把握出来た。
 今更な話だったが、方向が東に寄れてしまったのは無意識のうちに雷を避けていたからかも知れない。

「そういえば……雲1つ無いのに珍しい事もあると思ったけど……」
「普通雲も無いのに雷なんて落ちないですよ。多分、アレは参加者の誰かによるものだと思います」
「そういえば、ヴィヴィオがそんな参加者に出会ったって言っていた様な」
 リインの推測自体は当たっている。もっとも、雷の元凶となっている参加者の周囲には能力による雷雲が構築されていたが、確認していない2人には知る由もない。
「でも、これ自体は別に問題じゃないです。重要なのは『1日中全く雲が発生しない異常気象』という事です。多分、これは意図的によるものだと思いますよ?」
「どうして雲1つない晴れにする必要があるの?」
「雨降っている中歩き回りたいですか?」
「納得」

「それからこなた、カード出して貰えます?」
「これの事?」
 と、こなたは2枚のデュエルモンスターズのカードを出した。
「レイ達の情報が確かならカードで強力なモンスターを使えるという話でしたよね」
「使い捨てみたいだけどね」
「その力がどれぐらいなのかはリインにはわからないですけど、多分それに関しても制限がかかると思いますよ」
「まぁ、ギアスとかにも制限がかかるわけだからそれ自体は不思議じゃないけど……それがどうかした?」
「その制限は何処から発せられていると思います?」
「…………あ!」
 通常、参加者の能力を縛っているのは首輪だと誰もが考える。自分達を拘束しているのが首輪だからそう考えてもおかしくはない。
 では、参加者の能力が絡まない支給品独自の能力、例えばデュエルモンスターズのカード等に関してはどうだろうか?
 参加者自身はほぼノーリスクでその力が使える以上、その力を制限するのは首輪ではない事は明白だ。
 ではカードのモンスターの能力はどうやって制限しているのだろうか?
「このフィールド自体?」
「その通りです。正直、この小さな首輪に種々様々な力全てを制限するのは難しいです。ですが、この舞台全てがその装置だとしたら十分可能です」
「……あれ、ちょっと待って、それってもしかして……」
 これまでの話からこなたの脳内にある仮説が浮かんだ。
「このフィールドはプレシアによって作られたものだったんだよ!!」
「正解ですけど……なに急に口調変えているんですか?」
「『な、なんだってー!』って言ってくれないんだ……」

 殺し合いに都合の良い負の感情を増幅する機能、
 参加者を逃がさない様に端と端とのループ、
 永久に晴れ続け、変わらない夜を作る不自然な空、
 そして多様に存在する力の制限、

 これはこの舞台が殺し合いの為に人為的に作られた空間を示す証拠となり得るだろう。

「なんとかこれでこのフィールドを破壊出来ないかなぁ?」
 こなたは2枚のカードを見つめながらそう口にする。
「残念ですけど、その2体の威力程度はプレシアも計算済みだから無理ですよ。大体それで簡単に突破されたらあまりにもお粗末過ぎじゃないですか」
(でも……カードゲームのカードって組み合わせ次第で色々出来るんだけどね……それこそカードを作った人も知り得ないくらいにね……融合とか何か出来ればさ……)
 もしも、手元に2枚のカードを生かす為のカードがあったならば――こなた自身それが何かはわからないが想像を絶する程の力を発揮すると考えていた。
(ま、無い物ねだりしても仕方ないけど)

 そういいながらカードを仕舞った。

205 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:14:00 ID:.m17H2vc0





「……という事は、あたし達が助かる為には4つクリアしなければならない問題があるって事?」

 1つ目、殺し合いに乗った参加者を全て無力化する事、
 2つ目、首輪を解除する事、
 3つ目、殺し合いのフィールドから脱出し主催者の元に辿り着く事、
 4つ目、主催者側の戦力を打ち破る事、
 現状、これら全てをクリアしない限りこの殺し合いを打破する事は不可能という事だ。

「っていうか、1つ目すらマトモにやらせてもらっていないんだけど……」
「とりあえず参加者の無力化はリイン達には無理ですから現状は2つ目と3つ目を何とか考えなきゃならないですね」
「……ねぇ、これだけ大規模な舞台だったらその為の装置は相当な大規模になっていると思うんだけど」
「多分、相当な数のロストロギアを使っている可能性は高いですよ」
「前リインは、管理局の助けは期待出来ないって言っていたけど、これだけ大規模なのに気付かないのは流石に馬鹿過ぎるんじゃないの?」
「スカリエッティ達が絡んでいる時点で隠蔽もクリア出来るとは思いますけど……でも、これだけ大規模なのに全く察知されないのも不自然と言えば不自然ですね……」
「でしょ、この舞台がある世界の管理局だったらわかると思……ちょっと待って、逆に考えるんだ『管理局にバレてもいい』と考えれば……」
「いや、管理局にバレたらその時点で踏み込……そうですよこなた、バレても踏み込まれる前に決着を着ければ何の問題も無いですよ」
 リインはJS事件の背景事情である地上の対応の悪さについて簡単に説明をした。
 要点を纏めると管理局と言えども、完全無欠ではなく迅速に対応出来るわけではないという事だ。
 つまり、管理局にこの場所がわかったとしても対応される前に全ての決着を着ければ何の問題も無いという事だ。
 前述の通り主催側の戦力は十分に揃っている。管理局が踏み込んだとしてもある程度の時間は稼げるだろう。
「思い出してください。ボーナスの話を何度も持ち出している事から考えてもプレシア達が早くこの殺し合いを終わらせようとしている事は明らかです。
 つまり、この殺し合いは最初からタイムリミットが存在していたという事になるですよ。ペースを考えてそのタイムリミットは長くても2日程度だと思いますよ」
「……うわ、それじゃあ管理局間に合いそうにないね」
「良くてギリギリです。だからやっぱり援軍は期待出来ないですよ」
「ていうか、残り人数だけで4つの問題をクリアするのってどれだけ無理ゲーなんだろう……」
「嘆きたい気持ちはわかりますけど、とりあえず今生き残っている人を整理するですね」

206 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:15:00 ID:.m17H2vc0

 放送までに生き残っている人数はこなたを除いて18人。
 その内、相川始、アーカード、アレックス、エネル、金居、ヒビノ・ミライの6名は具体的な人物像が不明瞭なので保留。
 ちなみに赤コートの男がアーカードで雷の男がエネルなのだがこなた達はその事実を知らない。
 次にチンク経由の情報でアンジール・ヒューレーが味方でヴァッシュが敵という情報がある。もっとも、チンクが死亡した今アンジールが殺し合いに乗る可能性があるのが気になる所だ。
 メールからの情報ではキングという名の人物が要注意人物らしい。
 天道総司に関してはヴィヴィオとクラールヴィントからの情報があるもののどちら側かまでは判断が付けられない。
「ここまでで10人です」
「あと、かがみんだけど……今どこで何をしているやら」
 かがみが今も生きている事は嬉しい。しかし、殺し合いに乗っている事実がある以上素直に喜ぶ事が出来ないのが本音だ。
「一度スバルが戦ったけど止められなかった事を考えると難しいかも知れないですね」
「出来ればかがみんにはもう誰も殺して欲しくないし、殺されて欲しくもない」
「この辺はなのはちゃんやスバルを信じるしか無いですね」
 後の7人はリインもよく知る人物だ。
 なのは、はやて、ヴィータ、スバルは機動六課の仲間。先程まで行動していたスバルは頼れる仲間だが、後の3人は状況次第ではどうなっているかわからない。
「はやてちゃんですら危険人物というのがリインとしては辛いですけど」
 クアットロに関しては完全に危険人物だ。保護を頼んだディエチやチンクには悪いが信用は全く出来ない。
「でもクアットロって頭は回るんだよね。幾ら何でも自分が信用されていないとわかっているならそういう無茶はしないと思うけど」
「そう思わせておいて最後に裏切る可能性がありますよ」
「流石に可哀想になって来た気がする」
「同情しちゃダメですよ」

207 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:16:00 ID:.m17H2vc0
 そしてヴィヴィオ、放送で名前が呼ばれていない為生存は確認出来た。
 だが、彼女を連れ去った容疑者とされていたルーテシア・アルピーノ、キャロ・ル・ルシエ共に死亡しているのが引っかかる。
 勿論、この2人が犯人ではなかったという可能性もある。だが、彼女達がゆりかごに向かう途中でヴィヴィオを残して命を落とした可能性もある。
 それならばヴィヴィオは今何をしているのだろうか?
「でも、リインの話が確かだったらレリックが無い限りゆりかごを起動される心配は無いよね。少なくとも今のところその様子は無いし」
「逆言えばレリックがあれば起動出来……あ、もしも、アニメイトを襲ったのがルーテシアだったの話ですけど、その場合嫌な仮説が……」
 一番の理想はヴィヴィオとレリックが両方そろっている場合だ。その可能性も無いとは言わないが、正直少々都合の良すぎる話だ。
 だが、ルーテシアがヴィヴィオを攫ったと仮定すればどうだろうか?
 ルーテシアの体内にはレリックがある。つまり彼女を殺してそのレリックをヴィヴィオに埋め込めば条件はクリア出来るという事だ。
 おそらく全てが上手く行って余裕の表情でゆりかごにやって来た所を残虐な参加者に仕留められレリックを摘出された可能性がある。
「そんな残酷な……って、誰がそれをやったの?」
「それはわからないです。でも……それを行った人ももう死んでいる可能性がありますよ」
「え?」
「JS事件と同様にヴィヴィオを聖王にして洗脳する可能性があるです……それに放送を聞いたとしたら」
 それを聞いた瞬間、2人の表情が青ざめる。
「ヴィヴィオが大好きな人……みんな死んじゃったんだ……」
「コンシデレーション・コンソールとそのショックでヴィヴィオが全てに復讐する可能性があるです」
 勿論こなたは生きているがそんな理屈は通用しない。死者が多すぎる以上こなたの生存を認識し損なう可能性は非常に高い。
「だけど……JS事件で1度止めているんだよね?」
「あの時は先に装置を牛耳っているクアットロを仕留めて洗脳を解除したから何とか上手く行った様なものです。そんな都合の良い展開に2度もならないです。
 それに一応言っておくですけど、あの状態のヴィヴィオは全力全開のなのはちゃんよりも強いですよ」
「うそぉ……でもさ、よくわからないんだけど他の人のレリックを埋め込んでその時と同じ状態になるのかな?」
「同じ状態にならなければ大丈夫だって言いたそうですが……というか、そんなレリックをポンポン埋め込むのが身体に良いと思っているんですか?
 適合しないレリックを埋め込めば命に関わりますよ」
「つまり……死ぬって事?」
「まぁ、仮説を何重も上塗りした仮説ですからそんな事が実際に起こっているとは限らない……というか思いたくないですけど」
「ヴィヴィオ……天道さん大丈夫かな……?」
「はい? どうして天道って人の名前が出るですか?」
 シャーリーの父親はゼロに殺されていた。そんな中、シャーリーは天道をゼロだと断定しており、ヴィヴィオもその場に居合わせていた。
 もっとも、その後シャーリーはゼロの正体がルルーシュである事を知り、それが誤解だと理解した。勿論、その場所にもヴィヴィオは居合わせている。
 しかしヴィヴィオはルルーシュが残虐なゼロだとは思えなかった。こなたもルルーシュがそこまで悪い人間じゃない事をヴィヴィオに説明している。
 となれば、ヴィヴィオは未だにゼロがルルーシュではなく天道だと誤解する可能性があるだろう。
「というかどうしてシャー……」
「あれ? どうしたの?」
「いや、あっちのシャーリー(本名はシャリオ)を思い出しただけですよ。ともかくシャーリーは天道をゼロだと思ったんですかね?」
「ゼロと断定出来る物を持っていたんじゃない? 何にせよ、ヴィヴィオがあの状態になっていたら天道さんが危ないと……」
「そうそう都合の悪い事になんてならないと思いますけどね」
「なんか起こってそうな気がする」

208 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:17:00 ID:.m17H2vc0





「そういえば今何時です?」
 こなたが時計を取り出し確認をすると既に9時半を過ぎていた。ちなみに丁度今食事が終わった所だ。
「もう、ホテルでの戦いは終わったかな? 無事だったら良いけど……」
「スバルは強いですからきっと大丈夫ですよ」
 そうこなたには答えたもののリインも不安を感じている。
(でも、何時までもここで待っているわけにはいかないですね。恐らく次の放送で残り人数が15人以下になる可能性は高いですから……)
 駅には15人以下になった時点で開く事の出来る車庫がある。4人死亡したのを確認出来ない限り向かう事は不可能なのでそれが可能となるのは次の放送以降だと考えて良い。
(ただ、同じ事を考えている参加者もいる筈です。戦いになる可能性を考えるとこなたを行かせるべきではないです。
 それに、中の危険を考え突入は控えたけど何時までも只待っているわけにはいかないです。本当に中に誰もいないなら一度入るべきですか?
 もしくは他の施設へ向かうという方法もあるですね。ただ、スバルが来る可能性がある以上下手に動くわけにもいかないです……)
 リインは周囲の様子を探る。しかし、アジト及びその周囲に人がいる気配はない。
(人はいない……そう思ってむやみに動くとアニメイトの二の舞に……)
 そう考えていると、
「リインってユニゾンデバイスって話だけど、ユニゾンデバイスって何?」
「……ていうか今更な話ですね」
 リインは簡単にユニゾンデバイスについて説明をした。
「じゃあ、ユニゾンすれば強い魔法が使えるって事?」
「でも、相性の問題がありますから誰でもってわけにはいかないですよ。リインにしてもはやてちゃんとヴィータ、それにシグナムとしかユニゾンしてないですし」
「ちぇ、ユニゾンしたらあたしも使えるのかなって思ったのに……ところで他にもユニゾンデバイスっているの?」
「1人いますよ。アギト……」
「ん? どうしたの?」
 リインはアギトについての簡単な説明を行った。
 アギトはJS事件ではゼスト・グランガイツとルーテシアと行動を共にしスカリエッティと協力していた。
 JS事件後はシグナムをロードとして八神家の一員となっていたが……
「そっか、アギトの大切な人がみんな死んじゃったんだね」
「リインが支給されていた事から考えてアギトも支給されていると思いますが……心配です」





 2人は空を見上げる。そこには変わらぬ星が輝いていた――
 そしてそんな2人の横を一陣の風が吹き抜けていった――

 輝ける星は幸運の星――
 吹き抜ける風は祝福の風――

 彼女達及び家族や友人達にとってそうである様に――

209 Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:18:00 ID:.m17H2vc0











「あと、ユーノって人がいたよね」
「すっかり忘れていたですよ。無限書庫の司書長をしていて、なのはちゃんが魔法に出会う切欠になった人ですね。
 チンクの話では殺し合いに乗っていないらしいですから多分大丈夫だと思いますが……」
「何か特徴とかってないの?」
「確かPT事件ではフェレットに変身していたって聞いているですよ」
「まさか一緒にお風呂に入ったってオチは……」
「何故わかったんですか? 念の為言っておくですけど、なのはちゃんが9歳の時の話ですよ」
「他に何か分かり易い特徴ってある?」
「どの時期から連れて来られているかわからないですからね……そうだ、ヴィヴィオと声が似ていましたよ」
「ユーノきゅんって男の娘?」
「言いたい事わかりますけど違いますよ!」





【1日目 夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.このまま待つ? アジトに入る? 駅に向かう? もしくは……
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

210 ◆7pf62HiyTE :2010/06/12(土) 22:23:00 ID:.m17H2vc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>192-201が前編『Iの奇妙な冒険/祝福の風』(約26KB)で、
>>202-209が後編『Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす』(約23KB)です。

今回のサブタイトルは見ての通り『仮面ライダーW』風のタイトルになりました(本当はやるかどうか迷ったけど、結局やることにした。)。元ネタは以下の通り
『Iの奇妙な冒険』……『ジョジョの奇妙な冒険』※Iは泉こなたの泉のI
『祝福の風』……『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』※祝福の風にしたのはリインメインだから……前にも祝福の風使った事あったけど問題は無いよね?
『すたーだすとくるせいだーす』……『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』
ちなみにサブタイ当初案は『こなリンの奇妙な冒険 Part1 祝福の風』&『こなリンの奇妙な冒険 Part2 すたーだすとくるせいだーす』でした。
……また仮面ライダーW風にしちゃったよ、テヘッ♪
まぁ、仮面ライダーWのドーパントの能力ってスタンド能力的なの多いから問題は無いかな? さぁ、明日の放送が楽しみだ……って休みじゃねーか。

211 リリカル名無しA's :2010/06/13(日) 09:41:36 ID:z1IzJ9YYO
投下乙です
冷静に的確な判断をくだすこなたスゲーとか祝福の風として頑張ってるリインカッコいいとか貧乳はステータスだ希少価値だとか色々感想あったのに全部最後でぶっ飛んじまったw
JS事件でゆりかご内部地図とかで頑張ってくれたユーノを忘れんなよリインw
しかも貴重な対主催の一人だってのにwww

でも男の娘には同意です

212 リリカル名無しA's :2010/06/13(日) 18:02:32 ID:teQ9Wj2w0
連日の投下乙です

>Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6
今でさえヤバいホテルがさらにヤバいことに!?
エネルは周囲の電気を吸収して神・エネルというか常時正真正銘雷神・エネルみたいに…
それにしてもはやてと金居の腹黒二人の腹の探り合いがw

>Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE
>Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE
こなたはあの引きから止まったか
そして力がダメなら頭とばかりに色々と考察を巡らすちびっ子二人組
おいリイン!シャマルさんディするなよ!
今回やたらとネタを繰りだすこなただがもしかしてつかさの死を紛らわせようとわざとそうした行動していたのかな
あとユーノ君がんばっているんだぞ!

213 リリカル名無しA's :2010/06/13(日) 23:46:08 ID:lGD8LEk60
投下乙です

動揺してたのに止まって冷静に考察とはすげえ
色々とネタもあって面白いが…なるほど、こなたの死を誤魔化す為の行動かもな
そしてユーノ君の扱いがw

214 リリカル名無しA's :2010/06/19(土) 16:55:56 ID:QN.ji5uY0
うおおおお!?
気付けば投下が沢山!
ヴァッシュとスバルがひとまず和解したと思えば何か危険要素がぞろぞろと!
さらにエネルまでー!
しかし天は我らを見捨てなかった!
こなりんに吹きつつ考察に感心したぜ!

215 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:46:51 ID:CvSVnTdQ0
これより高町なのは(StS)、天道総司、ヒビノ・ミライ、アンジール・ヒューレー、クアットロ、キングで投下します

216 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:48:01 ID:CvSVnTdQ0
プレシアの目論みによって開かれたデスゲームも彼此10時間が経過しようとしていた。
暗き夜に開始された凄惨な催しは朝と昼を通過して、今まさに再び夜に戻ろうとしている。
当初は60人いた参加者も既に生き残りは3分の1を切っている。
そんな過酷な環境の中で生き残った4人の参加者が紅蓮の炎に包まれたスーパーを背に対峙していた。
ここまでの激戦を潜り抜けて生き残ってきただけあって4人とも名うての兵揃いだ。
時空管理局が誇るエース・オブ・エース、高町なのは。
天の道を往き総てを司る男、仮面ライダーカブトこと天道総司。
元ソルジャー・クラス1st、アンジール・ヒューレー。
無限大の未来を秘めた宇宙警備隊のルーキー、ウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。
なのはとカブト、アンジール、そしてメビウス。
まさに三者鼎立、三竦みの状態。
今の状況は緊迫していた。
その一翼を担うなのははカブトの傍に控えながらある事が気に掛かっていた。

(銀色の鬼は殺し合いを望んでいない……?)

ここまでなのははカブトのそばで治癒魔法を行使しながら乱入してきた銀色の鬼の様子を窺っていた。
最初は問答無用にカブトを撃墜したのでアンジールの仲間かと思った。
以前弁慶から銀色の鬼は危険な存在だと聞かされていたのでてっきりそうだと思い込んでいた。
だがその直後アンジールの攻撃を阻み、さらに戦いを止めろと言った行動を目の当たりにして銀色の鬼の真意が分からなくなった。

実のところなのはは天道とアンジールの戦いに横槍が入る事を危惧していた。
その理由は周辺をサーチしてすぐ近くの雑居ビルに誰か潜んでいる事を知ったからだ。
当初可能性として考えられたのはアンジールの協力者か、様子見の参加者だった。
もしも後者ではなく前者なら天道は罠が仕掛けてあるかもしれない場所に誘い込まれた事になる。
今でさえ互角であるところに横槍を喰らえば敗北は必至。
だからこそ雑居ビルに潜む第三者に注意は払っていざとなればカブトを守るために戦場に介入するつもりだった。

ところが乱入してきたのは雑居ビルに潜んでいた者ではなく、別の方角から飛び込んできた銀色の鬼であった。
雑居ビルに注意を払っていたなのはとっさには対処する事ができなかった。
だが銀色の鬼は戦闘を止めようとしていると知って様子見で今に至る。
ここまで何も行動を起こさないという事はアンジールの協力者の線は薄くなる。

(じゃあ、いったいあのビルに潜んでいるのは――)

その時、またしても新たな乱入者が現れた。
しかも今度はなのはにとっては馴染みのある人物だった。


     ▼     ▼     ▼


「さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか」

クアットロは走っていた。
目の前に広がる光景は戦場。
三者鼎立を形作る緊張の場。
だがクアットロは悲観していない。
その場にいる4人のうち高町なのはは無闇に戦いを求める性格ではないし、アンジールは自分が説得すれば大丈夫。
しかも正体不明の銀色の戦士は戦いを止めたいらしい。
それならあとはクアットロ自身の舌三寸で皆を説得して仲間に出来る可能性は高い。
お誂え向きの状況に思わず頬が緩んでしまう。

「アンジール様ー!」

すぐに自分がクアットロだと分かってもらえるように変装用に外しておいた眼鏡を再び付ける。
そして髪もいつものように両端で結ぶ。
服装はいつものスーツではないが、それでも顔を見ればすぐに分かるはずだ。

「みなさ〜ん!」

準備は整った。
あとはこれからの交渉次第。


     ▼     ▼     ▼

217 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:48:52 ID:CvSVnTdQ0


「ダメだよ、そんなつまらない事したらさ」


     ▼     ▼     ▼


「――ッ!?」

それは突然の出来事だった。
4人がお互いを牽制して緊張状態に陥った戦場。
そこに乱入しようと走ってきたクアットロが爆発と共に宙へと吹き飛んだ。
その背後では赤と黒の爆炎が立ち上っている。
明らかに砲撃の直撃だった。
あまり突然の出来事であったために注意を呼びかける暇すらなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお」

だが急転直下の戦場はなのはに考える間も与えてはくれなかった。
突然アンジールが悲しみの叫びを上げると、クアットロを抱えて戦線から離脱したのだ。
その様子から二人の間に並々ならぬ関係があった事は明白だが、とりあえず尋常な雰囲気ではなかった。
このまま一人にするのは不味いと考えて、引き留めようとしたが――。

「アンジールさ――」

――呼びかけようとしたなのはの声は続けて放たれた砲撃音でかき消された。
しかも砲撃は何発も続き、迂闊に動けない状態だ。
反射的に展開したシールドで防ぎきれる程度ではあるが、こうも続けば爆煙が濃くなり、自ずと周囲の視界も悪くなる。
おかげでなのはもカブトもアンジールの行方を完全に見失っていた。
それと同時にもう一人この場からいなくなっている人物に気付いた。

「おい、さっきの銀色の奴もいないぞ」
「たぶんアンジールさんを追いかけていったんでしょうね」
「お前もそう思うか。で、どうする?」
「あっちは任せましょう。私達は……」
「……この砲撃手をどうにかした方が良さそうだな」

先程の一件で銀色の鬼が実は殺し合いを望んでいない事は二人とも感じ取っていた。
伝聞の情報と直に見聞した情報では後者の方が信じられる。
二人は自分達の判断を信じてこの場に残る事を選択した。

二人の考えが一致した時にはもう砲撃は止んでいた。


     ▼     ▼     ▼


(このままでは、終われませんわ……)

数秒前までは意気揚々としていたクアットロは死に瀕していた。
背後からRPG-7の砲撃を直撃したのだから当然の結果だった。
だがそこは戦闘機人。
もしクアットロが生身の身体なら砲撃の時点で五体は千切れて一瞬で死んでいた。
半分機械の身体だからこそ即死だけは避けられたのだ。
さらにとっさにデイパックを盾にした事も命を長らえた一因となっていた。
だが即死こそ避けたが、クアットロに助かる見込みはなかった。
唯一スカリエッティのアジトに行けばなんとかなるかもしれないが、どう計算しても時間的に着くまで生きている可能性は皆無だ。
地上本部の転移魔法陣を使っても間に合いそうにない。

(なんで、私が、こんな目に……)

血に濡れた頭を上げ、ぼんやりと霞む目を向けるとアンジールの姿が見えた。
先程から揺れる自分の身体と合わせてアンジールに抱えられている事は明白だ。
だがいくらアンジールの力でも生きている間にアジトへ着く事は不可能だ。
なまじ頭が良いばかりにクアットロは自分が生き残る可能性が皆無である事に思い至っていた。
本当ならこのような不条理に文句を言いたいところだが、あいにくそんな余力もない。
だからクアットロは残り少ない命を糧にして考えていた。

(いいですわ……それなら、それで私にも考えがあります……)

どうすれば生き残っている参加者により大きな絶望を与えられるかと。


     ▼     ▼     ▼

218 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:49:28 ID:CvSVnTdQ0


「よし! 追い付けた!」

あの騒動の中、メビウスは偶然にも戦場から離脱するアンジールの姿を見つける事が出来た。
そして一瞬の迷いの後に追いかける事にした。
確かに別世界のなのはも気になるが、あの時はそれ以上にアンジールが気に掛かった。
それは目の前で大切な人を亡くしたからだったのかもしれない。
なによりあのような状態で一人にする方が危なく思えた。
そのアンジールを見失う前に追いつけた事は辛い出来事が続いていたメビウスを安堵させるものだった。

「あの、すいま――」

だがすぐにメビウスは気付いた。
アンジールの目の前に砲撃を受けた女性が横たえている事に。
少し考えればここへ来るまでに女性は息絶えてしまったという事は分かった。

「そ、そんな……」

これで3度目だ。
1度目は赤コートの怪人と対峙した時に身を張って時間を稼いでくれたクロノ。
2度目はほんの少し前ゼロによって殺された壮年の戦士。
どれも目の前で死んでいった。
ミライの力が及ばないばかりに。
そしてこれで3度目。
自分のせいではないにしてもミライは後悔してもしきれなかった。

「くそっ……!」

既にメビウスの安堵は後悔に変わっている。
少し前にも同じ経験をした身としてアンジールの背後に近付いてもかける言葉が見つからなかった。
こういう時は下手に言葉をかけるよりは黙っていた方がいい気がした。
静寂の暗闇の中でカラータイマーが点滅する光と音が一層虚しく感じられる。
やはりこういう時気の利いた事が上手くできない自分はまだまだだなと居たたまれなくなる。

だから――。

「約束しよう、クアットロ」

――その言葉と共にアンジールが振るった刃に驚かされた。

「!?」

下段からの斬撃に対してとっさにメビウスディフェンサークルで防ぐが、今のメビウスにとってその判断は誤りだった。
あまりの急展開にメビウスは失念していたのだ。
変身時間の残りがもうない事に。
刹那の拮抗を齎した∞のバリアはカラータイマーの沈黙と共にあっさり砕かれ、メビウスの変身が解けたミライに刃が襲いかかる。
バリアを張るために突き出していた右腕がメビウスブレスごとバスターソードで無残に斬られていく様子がひどくスローに見えた。

(なのはちゃん、ごめん……)

奇しくもバスターソードの描く斬撃はセフィロスの正宗が斬り付けた傷口と同じ場所をなぞっていた。
そして二度と奇跡は起きなかった。


     ▼     ▼     ▼


「アンジール、様……」
「クアットロ喋るな! 今すぐ俺達のアジトに――」
「もう、無理ですわ……この傷ではアジトまで、は……」
「そんな事はない! 俺の力なら――」
「アンジール様も、分かっているのでしょう」
「…………」
「大丈夫です。私、寂しくはありませんから」
「そ、それは」
「アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています」
「!?」
「私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです」
「それは……」
「だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……」
「……クアットロ」
「……またお会いできる時を楽しみにしています」


     ▼     ▼     ▼

219 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:50:07 ID:CvSVnTdQ0


その瞬間が来るまでアンジールは自分の処遇を決めかねていた。
もちろんアンジールが悩む原因は天道だ。
決着は付かなかったとはいえあのままなら負けていたのは間違いなく自分だ。
しかも天道には自分と同じく妹がいるらしい。
その天道の言葉だからこそ少なからず共感できるものがあったのは事実だ。
だが一方で本当にそれでいいのだろうかという疑念も渦巻いている。
孤高を貫くか、手を取り合って協力するか。
アンジールはデスゲームに於いて重大な岐路に立っていた。

だが岐路を決するきっかけは呆気なく訪れた。

突如戦場に届いた新たな乱入者の声。
その声の主をアンジールは知っていた。
いや知っているどころではない。
聞き間違えるはずがない。
それはまさしくアンジールが守らんとする者の声。
もう唯一人となってしまった大事な妹。

だがその妹は突然の砲撃で瀕死の状態に陥ってしまった。

あの瞬間の紅い炎と赤い血を周囲に撒き散らせながら宙に吹き飛ばされるクアットロの姿が何度もフラッシュバックする。
近くにいたにもかかわらずアンジールは何もできなかった。
その直前まで天道の言葉に従うか悩んでいたせいで反応が遅れたからだ。
だから最初何が起こったのか理解できずにただ見ているしかできなかった。
そして地面に叩きつけられてようやく事態を理解した。

それからはほとんど反射的にクアットロを抱えて走りだしていた。
スカリエッティのアジトへ行けばまだ生きる望みはあると思ったからだ。
だがアンジールも分かっていた。
いくらソルジャーの脚力を以てしてもクアットロはアジトに着くまでに死んでしまう。
それは逃れようのない事実だった。
だがそうだとしてもアンジールは立ち止まる気はなかった。
もう自分が知らないところで妹が死んでいくのは耐えられない。

だがそんなアンジールの行動も虚しくクアットロは最期の言葉を残して死んでいった。

クアットロの最期の表情は今まで見た事もないような笑みが浮かんでいた。
だからアンジールは決意した。
なんとしてもこのデスゲームの最期の一人になると。
それこそ自分が守れなかった妹達に出来る唯一の贖罪。

「ミライの旦那ぁぁぁ」

少し思いに耽っていると、突然それを中断させる声がした。
ふと見ると、今しがた斬り捨てた参加者のデイパックから持ち主を呼ぶ声が上がっていた。
どうやら醜い絵柄のカードからその声は発せられているようだった。

「なんで、ミライの旦那を殺したんだ」
「そうだ、なんでだよ」
「この鬼、悪魔」

しかし本来なら愛嬌あるその声は決意を新たにした今のアンジールにとって耳障りでしかなかった。

「ファイガ」


     ▼     ▼     ▼

220 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:51:04 ID:CvSVnTdQ0


全ての元凶は数時間前に遡る事になる。

「えー、なんだよ。俺が狙っていた奴ほとんど死んでいるじゃんか」

どこにでもあるような灰色のコンクリート製の雑居ビルの2階の主は3回目の放送が終わるや否や早速不満の声を上げていた。
声の主は最強のアンデッドを自負するキング。
コーカサスオオカブトムシの祖であるカテゴリーKは未だ放送前のメビウスとの戦闘の傷を癒している最中であった。
1万年ぶりの敗北を味わったせいかキングを着飾る赤ジャケットと色とりどりのアクセサリーもどこかくすんで見える。
だが不満の声が上がったのは敗北による不愉快に加えて先の放送が原因だ。
実はこの放送でキングが目を付けていた参加者が大量に死んでしまっていた。

浅倉にはもっと暴れてもらって是非とも非道な仮面ライダーとして天道と対決してもらいたかった。
ミラーワールドで新たな殺し合いを開いたまでの首尾は良かったが、どうやらその戦いで死んだらしい。
自分で開いた殺し合いで自分が死んでは洒落にもならない。

キャロもあそこまで追い詰めて覚醒させてから全く会えなかった。
出来る事なら天道と再会させたかったが、それももう叶わず。

ルーテシアとフェイトも伝え聞いた話や『CROSS-NANOHA』の内容から想像するに、キャロと同様に心を抉ればさぞかし面白いものになったかもしれない。
結局その二人には一度も会う事もないままどこかで死んでしまった。

そしてルルーシュとシャーリー。
せっかくゼロの格好を手に入れたのだから是非とも二人に会って反応を楽しみたかった。
特にシャーリーはどんな顔をするのか想像するだけでワクワクしていた。
だがそれも二人の死亡によって無駄になってしまった。
しかもこれで生き残っている参加者の中でゼロのことを直接知っている者は誰もいなくなってしまった。

キングにとっては不愉快な事ばかりであった。

メビウスとの戦闘のダメージはアンデッドの回復力と手持ちの『治療の神 ディアン・ケト』を連続使用する事でほぼ回復した。
もうすでに普通に動く分には問題ないが、完全回復まではもう少しかかりそうだ。
もし今戦う事になれば雑魚相手なら支障はないが、メビウスやジョーカー相手だと少し厳しいかもしれない。
だが先程までと違って今のキングには当面急ぐ理由はない。
反応が気になる参加者のほとんどが死亡した事で新たな獲物が欲しいところだ。

雑居ビルの近くをかなりの速度でアンジールが走り去っていったのはそんな時だった。

(へぇ、しばらく見ないうちに派手に戦っているじゃん)

大通りを一心不乱に北進するアンジールを追跡する事数十分。
追いついた先で繰り広げられていたのは仮面ライダーとソルジャーの戦いだった。
その様子をキングは近くの雑居ビルに潜んで観察していた。
どうすればより面白くなるかを考えながら。
だがキングが介入する前に突然乱入してきた人物によって戦いは中断してしまった。
その人物はキングもよく知る人物。
放送前に一戦交えてキングに苦汁を嘗めさせたウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。

そのせいでこの場は膠着状態になってしまったが、その均衡は思わぬ形で崩れる事になった。

(ん、誰か来た?)

常人を遥かに上回るアンデッドの聴覚が捕らえたのはクアットロの足音だった。
クアットロに関しては『CROSS-NANOHA』で既に把握していたのですぐに分かった。
敵方として特徴的である意味自分と似た者だったというのがすぐ分かった一因だ。
そのクアットロがどうして急いで戦場に向かっているのか、その理由はすぐに分かった。

『それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……』
『――上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る……?』

その言葉だけならまだ4人を騙して上手く取り入ろうとしているのかと思った。
だが次の一言でキングの行動は決まった。

『さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか』

そしてキングはクアットロを砲撃した。
理由は簡単。
あのままクアットロに説得の機会を与えればせっかくの火種が台無しになってしまうからだ。
そうなる前に自ら手を出して火種を作る方が面白くなりそうだった。
結果は上々。
クアットロはRPG-7の直撃を受けて死亡、アンジールはそのクアットロを抱えて離脱。
それを追いかけてメビウスも離脱。
ついでに殺害ボーナスも手に入った。
予想外に場が一転したのでキングとしては満足だった。

221 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:51:46 ID:CvSVnTdQ0

「さて、どうしようかな」

この場に残っているのは高町なのはと天道総司。
二人にとって今のキングが扮しているゼロは完全に敵だ。
しかもゼロの衣装を解いても放送でペンウッドとC.C.の名前が呼ばれた以上二人ともキングを味方とは思っていないだろう。
それにRPG-7も殺傷力のある榴弾は全弾使い切って残っているのは照明弾とスモーク弾だ。
それならそれでアンデッドの姿に戻って戦うのも一興だが、それでは芸がない気もする。

「なにか面白い物ないか……ん、あれって……」

銀色のトランクケース。
それは砲撃の影響で誰かのデイパックから零れたのかキングの足元に転がっていた。
さっそく中身を確認してみると、キングは思わず目を輝かせた。
そこに入っていた物はベルトだった。

「やった、良い物見っけ!」

その笑顔はまさしく面白い玩具を見つけた子供のような純真な笑みだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、少し満足
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ギルモンとアグモンとC.C.のデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.デルタのベルトで遊ぶのも面白そうだね。
 2.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 3.はやての挑戦に乗ってやる。
 4.ヴィヴィオをネタになのはと遊ぶ。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(小)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.砲撃手を倒す。
 2.一応あとで赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをするような奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

222 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:52:22 ID:CvSVnTdQ0

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 0.砲撃手を倒す。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)、アンジール
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)


     ▼     ▼     ▼

223 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:52:57 ID:CvSVnTdQ0


赤く立ち上る炎を背に受けて天使の姿をした悪魔は歩き出す。
炎の原料となるのはファイガによって燃やされたカードとその持ち主だった死体と荷物。

「悪魔か、それでもいいだろう」

亡き妹達の願いを叶えるなら天使でも悪魔でもなんだっていい。

「悪魔なら、悪魔らしいやり方で叶えるだけだ」

もうこの手に誇りも夢もない。
その象徴だったバスターソードは最期の一撃で砕けてしまった。
今まで戦闘でそこまでダメージがあったのだろうか。
だが逆に踏ん切りがついた。
もう今の自分にはあの剣は似合わない。
今の自分にはこの『反逆』という名を冠する剣の方が似合っている。
そうだ、先程までの悩んでいた自身に反逆するのだ。

幽鬼のように歩き出した今のアンジールには夢も誇りもない。
今のアンジールにあるのは亡き妹の願いという名の呪縛だけだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 東部】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。


【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】
【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは  死亡確認】


【全体備考】

※クアットロの荷物は砲撃で木っ端微塵になりました(それなりに強度のある物なら残っているかもしれません)。
※D-2東部の路上でミライの死体と荷物が全て燃え尽きました。なお近くに折れたバスターソードが放置しています。

224 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 00:54:53 ID:CvSVnTdQ0
投下終了です
タイトルは「絶望の暗雲」、元ネタはメビウス49話より
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

225 リリカル名無しA's :2010/07/03(土) 07:31:34 ID:OfCwO1GI0
投下乙です。
やはり潰されるのはクアットロだったか(それでアンジール完全マーダー化するので。)。つか、最後に余計な事するんじゃねーよクアットロ……
で、その流れでミライも退場、荷物まで焼かれて……おジャマ……(涙)
つか、クアットロとミライの荷物ほぼ全滅か……(いや、クアットロはまだわからんが……)……ブリッツキャリバー……(涙)
で、しっかりデルタのベルトは残ってキングが使うというキングにとって都合の良いオチ(キングだったら耐えられるだろうからなぁ)……とりあえず天道、逃がすと回復アイテムで回復されるから今度こそ確実に仕留めろー。

で、アンジールがミライを仕留めて手に入れたのがリベリオンなのは状態表で把握できたが……キングがクアットロを仕留めて手に入れたボーナスはまだ判明していないよな……(状態表見たところ増えた様子は無い。)

226 リリカル名無しA's :2010/07/03(土) 18:04:22 ID:lYQWERJI0
投下乙です
アンジールは悲壮だな。そして道化だわ…可哀そうだがとっとと死んでねとしか言えんな
クアットロは対主催しててもやっぱりクアットロだわw
さて、キングを追う二人は打倒できるか?
キングも簡単には倒せないだろうし…

227 リリカル名無しA's :2010/07/03(土) 18:30:29 ID:r2qFcW0cO
投下乙です
ミライ南無…
そして本当にクアットロは最期の最期でなんて遺言残してくれたんだwww
でもそこがクアットロらしい

228 ◆HlLdWe.oBM :2010/07/03(土) 23:31:52 ID:CvSVnTdQ0
>>225
状態表はただの書き漏れです
wikiに収録した際に書き加えておきます(詳細は後続にお任せします)

229 リリカル名無しA's :2010/07/08(木) 00:26:47 ID:7zUPXjF2O
投下乙です
綺麗なクアットロとか色々言われて来たがクアットロはやはりクアットロだったか
今までの綺麗分をここで一気に取り戻したな
ミライにはご愁傷様としか言えないな…ここまでよく頑張った。

230 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:04:29 ID:dR2I84lo0
これよりホテル組の投下を開始します。

231 H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:07:14 ID:dR2I84lo0
 このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。
 では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。
 何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。
 しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。

「このっ!」

 少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。
 しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。
 ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。
 標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。
 宙に浮かび、キックの体勢を作るが――

「うわっ……!?」

 カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。
 空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。
 したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。
 すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。

「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」
「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」
「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」

 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。
 自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。
 アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。
 例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。
 そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。
 プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。
 やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。
 既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。
 そして、もう一つの理由。

「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」
「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」

 我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。
 そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。
 油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。
 とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。
 いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。
 それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。
 スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。

232 H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:15:16 ID:un.zjUms0
 


 キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。
 スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。
 幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。
 先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。
 固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。
 当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。

「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」
「乗っていると言ったらどうする」
「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」

 駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。
 IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。
 ……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。
 スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。

(効かない……!?)
「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」

 カリスの言う事は正しい。
 いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。
 何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。
 本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。
 決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。
 そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。
 それ程にフォームという物は重要なのだ。
 ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。
 左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。
 仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。
 多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。
 それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。
 ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。
 だけど、それでも止まってはいられないのだ。

「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」
「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」
「え……!?」

 驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
 その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。
 漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。
 蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。

「ぐぁ……ッ」
「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」

 カリスの声が、震えていた。
 まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。
 どうしようも無い悲しみを吐き出すように。
 先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。
 その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。
 ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。
 その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。
 姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。

「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」
「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」

 言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。
 刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。
 命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。
 されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。
 瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。

233 H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:18:14 ID:dR2I84lo0
 
「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」

 腹から絞り出すような怒号。
 醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。
 震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。
 カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。
 だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。

「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」
「な……ッ!」

 上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。
 僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。
 だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。
 左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。
 今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。
 同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。
 それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。

「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「が……ァ……!!?」

 カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。
 そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。
 流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。
 カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。
 その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。





 月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。
 人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。
 たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。
 はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう?

(ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。
 スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!)

 エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。
 出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。
 しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。
 今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。
 海楼石はこちらにある。倒せない事はないだろうが、今はまだその時ではない。
 勝負を仕掛けるには、確実に倒せるだけの戦力と情報が必要不可欠だ。
 幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが……

「金居さんは、現状をどう思いますか」
「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」

 金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。
 だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。
 金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。
 キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。
 つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。

(それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな)

 出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。
 その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。
 だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。
 エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが……

234 H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:20:18 ID:dR2I84lo0
 
「おい、八神」
「何ですか?」
「あれを見ろ」

 森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。
 その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。
 漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。
 サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。
 しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。
 死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。
 まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。





 今の一撃は効いた。
 もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。
 それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。
 スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。
 硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。
 アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。
 赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。

「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」
「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」
「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない……
 だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」

 真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。
 ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。
 その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。
 この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。
 そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。
 この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。

「……これから殺す相手に教えても、意味がない」
「まだそんな事を……!!」

 言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。
 何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。
 そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。
 それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。
 同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。

「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」
「そうやって、逃げるんですか!?」
「何、だと……?」

235 H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:25:43 ID:dR2I84lo0
 
 逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。
 最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。
 ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。
 その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。

「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ!
 戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」
「俺が何時逃げようとした」
「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか……
 ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」

 スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。
 何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。
 それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。
 しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。
 それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。

「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……!
 だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」
「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない!
 ……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」

 何だと……? 
 ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い?
 だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。
 人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する?
 なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。
 理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。

「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った……
 そのギンガが人間じゃない……? いや……」

 始は思う。それは違う、と。
 誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。
 そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。
 あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。
 紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。
 だからこそ言える。だからこそ断言できる。

「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」
「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」
「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」

 問題は凄く単純な事だ。
 ギンガの考えが、始には理解出来なかった。
 ギンガの行動が、始には理解出来なかった。
 何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。
 何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。
 誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。
 始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。

「何故だ……何故……!」

 考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。
 ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。
 守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。
 生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。
 ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。

「何故、ギンガは……!」

 だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。
 あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。
 戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。
 自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。
 それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。
 この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる?

「わからない……わからない……わからない……!」
「ギン姉は――」

 ――CLOCK UP――

「――ぇ……?」

 刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。
 左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。
 告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。
 カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。
 そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。
 確か、ギンガが死んだ時の……。

236 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:28:26 ID:dR2I84lo0
 スバルがその拳で漆黒のライダーを吹っ飛ばしたのとほぼ同時、こちらでも状況は変化しようとしていた。
 緑の装甲の仮面ライダーが、赤いコートの男に羽交い締めにされ、子供の問答の様なやりとりを繰り返す。
 我武者羅に腕を振るうだけでヴァッシュの腕から抜けられる訳も無く、そんなシュールな光景を延々と続けていたのだ。
 次第に募りに募りまくった苛立ちもMAXを向かえたのか、キックホッパーの叫びがさらに甲高くなった、その時。
 装着者である柊かがみの内側から聞こえて来る声は、かがみを安心させるものであった。

「あぁもう……わかったわよ、あんたに従う! だから話して……お願い」
「本当かい? 離した瞬間にドン、なんて御免だぜ?」
「あんたなら私にそんな隙を与えないでしょ? もう解ったから……鬱陶しいのよ。
 話だけでも聞いてあげるから、離して。お願い」
「よし、解った」

 果たして、ヴァッシュの口から発せられたのは、かがみが望んだ答え。
 キックホッパーの仮面の下で、存外思い通りに事が進んだなと、不敵に唇をゆがめる。
 ヴァッシュが自分に攻撃の隙を与えてはくれない? そんな事は素人のかがみに解る訳が無い。
 全ては、かがみの中に潜むもう一人の人格の指示するままに動いた結果であった。

「ありが……とっ」

 後は簡単だ。ヴァッシュの手が緩んだ瞬間に、かがみは軽く腰を叩いた。
 同時に鳴り響く、「クロックアップ」の電子音声。齎されたのは、キックホッパーの加速。
 周囲の時間軸を切り取り、自分を超高速の世界に顕在させる事で可能となる超加速だ。
 これには流石のヴァッシュも、対応仕切れる筈も無かった。

「さて……とりあえず一発、いっちゃおうかしら」

 驚いた表情のまま、スローモーションになってしまったヴァッシュを見据えて、不敵に告げる。
 柊かがみの戦闘能力は素人同然ではあるが、それでも仮面ライダーの装甲は強力だ。
 左脚を軸に、右脚を振り上げる。キックホッパーの得意とする蹴り技、それもミドルキック。
 ヴァッシュの脇腹目掛けて、それを振り抜いた。
 右脚がヴァッシュを叩いたのと同時、ヴァッシュの身体がゆっくりと宙に浮かんだ。

「次は、アイツね……スバル!」

 何やら黒いライダーと言い合っているようだが、そんな事はお構いなしだ。
 黒いライダーは既に戦闘不能に陥っているようだし、ライダーに邪魔をされる心配は無い。
 心おきなくスバルを蹴る事が出来る。余裕の態度でスバルの傍らへと歩み寄り。

「――ふんっ!」

 右側の脇腹へと、ミドルキックを叩き込んだ。
 後は先程のヴァッシュと同じだ。スバルの身体が、ゆっくりと宙へ浮かび上がって行く。
 これがクロックアップ空間の外であれば、きっと一瞬の出来事なのだろう。それはかがみ自身もすぐに知る事になる。
 ヴァッシュとスバルを蹴り飛ばし、もう一度地に足を付けた時には、既にクロックアップは終了していた。
 悠然と立ち尽くすキックホッパーの周囲で、同時に二つの呻き声が聞こえた。
 一つはヴァッシュ。一つはスバル。重い蹴りを叩き込まれた二人のものだ。

「……なんだ、今の一撃で死ななかったんだ?」

 心底つまらなさそうに呟いた。
 今し方蹴り飛ばした二人ともが、呻きながらも何とか受身を取っていたのだ。
 仮面ライダーの蹴りを受けて生きて居られる人間など居る訳が無い、と思ってはいたが、そこはかがみの判断ミス。
 スバルもヴァッシュも、数えきれないほどの修羅場をくぐり抜けて来た戦士なのだ。
 まともな蹴りのフォームすら知らない素人の一撃で殺される程柔では無い。

「かがみさん……! もう止めてくれ! こんな殺し合いを続けてちゃ、いつか君の命まで奪われてしまう!」
「うっさいわね……もう私の命なんてどうだっていいのよ! 皆殺して私も死ぬ! もう失う物なんて何もないのよ!」

 ずっと一緒に生活して来た、たった一人の妹は目の前で殺された。
 大勢の人の死を目の当たりにして、精神を病んでしまったかがみに最早希望は無い。
 深い闇の様な絶望だけが、かがみの孤独を癒してくれるのだ。
 絶望と激情に突き動かされるままに参加者を手当たり次第に殺して、最後は自分も死ぬ。
 これは、柊かがみという弱い人間の精いっぱいの悪あがきであった。
 左腕を庇う様に、先程吹っ飛ばしたスバルがゆらりと立ち上がった。

237 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:28:56 ID:dR2I84lo0
 
「……こなただって、諦めずに戦ってるんだよ……それなのに」
「どうせそのこなたも別の世界のこなたなんでしょ? なら私には関係無い事よ!」
「それでも、こなたがかがみさんの友達だって事に変わりはないでしょう!?
 自分の世界の、自分の知る相手でなくとも、変わらず接してくれた人を、私は知ってる!」

 スバルの言い分に、かがみが感じるのは怒り。
 それも、大層な理由があってのものではない。単純な苛立ちから来るものだ。
 確かに60人も居れば、スバルの言う様な御人好しが居ても不思議ではない。
 だが、それを自分に押し付けて来る無責任さに、かがみは腹が立ったのだ。

「ならそいつは今何処に居るのよ……? もう死んじゃったんでしょ……?
 そんな甘っちょろい事言ってるから、誰かに殺されちゃったんでしょ……!?」

 スバルは答えない。悔しげに唇を噛み締め、ただ此方を睨み付けるだけだ。
 ああ、スバルのあの目付きが気に入らない。圧倒的に不利なのに、勝てる見込みなんて無いのに、抵抗を止めない目だ。
 かがみの言う事……理解は出来ても納得は出来ないと、そう言いたげな目だ。ああ、見てるだけで腹が立つ。
 仲間と一緒に温い戦いを続けて来たスバルに、ずっと一人で戦ってきた自分の気持ちなど解られてたまるものか。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 そうだ。何も間違いは言っていない。
 かがみは自分の為だけに戦う。もう誰も守る者なんて無いし、失う物もない。
 足かせの無くなったかがみは、何に遠慮する事もなく、思うがままに戦える。
 それこそが、本当の強さだ。それこそが、真の強者だ。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 怒りを吐き出すように怒鳴った後、かがみはベルトに手を伸ばした。
 今のスバルは無防備だ。必殺技を叩き込めば、確実に殺す事が出来る。
 もうこんな苛々する戦いは御免だ。これ以上余計な事を言われる前に、スバルには死んで貰う。
 ホッパーゼクターの中心、タイフーンと呼ばれる部分を起点とするレバーを、押し倒した。
 同時にキックホッパーの左足のアンカージャッキが作動。
 身体が遥か上空へと跳ね上がり――

「死ぃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええッ!!!」

 その身に稲妻を奔らせ、それら全てを左足へと集束させる。
 タキオン粒子が駆け巡り、放たれるは目標を原子崩壊させる程の威力を秘めたキック。
 仮面ライダーの必殺技であるライダーキックを受けては、一たまりも無いだろう。
 重力に引かれるままに、キックホッパーの身体が落下しようとした、その時であった。

「きゃっ……?!」

 彼方から駆け抜けた青白い閃光によって、キックホッパーの身体が爆ぜた。
 上空で体勢を崩したキックホッパーに、その場で姿勢を矯正する事など出来はしない。
 キックホッパーの身体は、受身すらもままならない姿勢のまま、真下へと落下した。

238 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:34:26 ID:dR2I84lo0
 




 わからない。わからない。わからない。わからない。
 何度考えたって、何をどう考えたって、始の中で答えは出なかった。
 そもそもどうして自分はこんなに悩んでいるのだろう。
 どうしてこんな無駄な事を考えているのだろう。
 それは、自分の中で次第に人間の心が大きくなっているからなのだが……。
 始はそんな事実は認めないし、それに気付く事も無い。
 だから何も解らずに、カリスは終わらない葛藤を繰り返す。

 栗原親子と共に過ごす様になってから、始にとっては不可解の連続だった。
 柄にもなく、人間を守る為に戦ったり。あの親子を守る為に戦ったり。
 あの親子を傷つけられた時には、尋常でない怒りすら感じた。
 これが、ギンガの言う人間としての強さ……という奴なのであろうか。
 だが、怒りに任せて戦ったあの時の戦いは、ギンガの強さとは違う気がする。

(ああ……確かに、あいつは強かったな)

 そんな事を始は思う。
 始は、内心ではギンガを認めていたのだ。
 本当は、誰よりも強いギンガの事を、認めていた筈なのだ。
 だからこそ始は、死にゆくギンガの最期の願いを聞いた。
 始の知る誰よりも気高く、人間として生き抜いたギンガの最期の願いを。
 そして、スバルと接した今の始になら、あの願いの意味が解る気がする。
 ギンガの口から告げられなかった言葉が、告げようとした言葉が、解る気がする。

(そうだ。ギンガは俺に、スバルを……皆を、守って欲しかったんだ)

 ギンガらしい、真っ直ぐな願いだ。
 だけど、今更それに気付いた所で遅い。
 自分はもう、数えきれない程無駄な戦いを繰り返してきた。
 今更誰かの為に戦おうだなんて、虫が良すぎるというものだ。
 それに、始はまだ……自分が人間だと認めた訳ではない。
 ギンガの頼みを聞いてやる義理だってないのだ。

 だが、スバルが緑のライダーに吹っ飛ばされた時の感情は何だ。
 怒りと同時に、何処か胸が苦しくなるような……不可解な感覚を感じた。
 そして、スバルが無事だったと知った瞬間に込み上げて来た、安心にも似た感覚。
 どういう事だ。何故化け物である自分が、こんな感情を持ってしまうのだ。
 スバルが口を開く度に、緑のライダーが何かを言う度に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 ああ、そうだ。その通りだ。
 人間は無駄な物を背負い、無駄に死んでいく。
 馬鹿な考えで、無駄に命を散らしたギンガはそのいい例だ。
 それは始自身も良く解っている事だし、嫌という程に理解出来る。
 だが……理解は出来ても、納得する事は出来ない。
 頭では解っていても、始の心の何処かが、それを否定する。

239 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:44:10 ID:dR2I84lo0
 
(……違う。お前は、間違っている……)

 誰かの為に、守る為に。
 そんな馬鹿な理由の為に戦った女を、始は知っている。
 御人好しで、馬鹿な奴だったが、あいつは誰よりも強かった。
 自分達には無い輝きを、心(ハート)の輝きを、あの女は持って居た。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 ……違う。それは、違うんだ。
 この緑のライダーは、大きな勘違いをしている。
 それじゃ駄目なんだ。その強さは、ギンガを否定する。
 認める訳には行かない。こいつの強さを認めれば、ギンガの強さが否定されてしまうから。
 だが、何故自分はこんな事を考えているのだ。
 何故ギンガを否定されるのが、こんなにも嫌なんだ。
 ギンガの心の強さを否定されるのが、嫌で嫌でたまらないのだ。

 ……ああ、そうか。そういう事だったのか。
 何となくではあるが、今ようやく解ったような気がする。
 人の心の強さ……その意味が。ギンガを羨望していた、この心が。
 自分も、気付かぬ内にギンガの影響を受けていたのだろう。
 自分の知らないギンガの強さに、憧れにも似た感情を抱いていたのだろう。
 その考えに至った時、いつの間にか、始の中の疑問符は消えていた。
 緑のライダーに対する、強烈なまでの否定と、沸き起こる激情。
 それらが、カリスの回復力を更に早める。
 気付けば、痛みも忘れていた。

 ふらりと立ち上がる。
 今なら、迷い無く戦える気がする。
 疑問も何も吹っ切った今、沸き上がるのは緑のライダーに対する闘争本能のみ。
 そして、闘争本能が昂れば昂る程、自分の中のジョーカーが暴れ出す。
 だけど、この力は使わないし、使えない。
 今、本能の赴くままにこの力を使う事は、最悪の結果に繋がる。
 そうだ。それは即ち、ギンガの想いを踏み躙る行為に繋がってしまうのだ。
 ジョーカーの力は、相川始という一人の人間にとっての本当の強さでは無い。
 心と理性で本能を抑え込み、カリスアローを構えた。
 狙い定めるは、跳び上がった緑の仮面ライダー。
 弓を引き絞り……青白い光弾を、発射した。

240 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 18:56:59 ID:dR2I84lo0
 




 この現場を見ていた全員に共通して言える事がある。
 それは、今の一瞬で何が起こったのかが解らなかっただろう、という事。
 スバルを蹴り殺そうと飛び上がったキックホッパーが、上空で爆ぜたのだ。
 それを見ていた立会人も、下手をすれば下手人であるかがみにすらも状況は解らなかっただろう。
 しかし、それも当然だ。こんな現実を、誰が想像出来ただろうか。
 先程まで殺し合いに乗っていた人物が、誰かを助ける為に行動する等、誰に想像出来ただろうか。
 ……いや、誰にも想像出来なかったに違いない。

「あんた……弱ってると思って放っておけば、余計な真似を……!!」
「違う……貴様は間違ってる」

 否定と同時に、声にならない呻きを上げたのは、カリス。
 そして、そのまま床へと崩れ落ちる。力が抜けた様に、糸の切れた人形の様に。
 両の掌を地べたに着かせ、カリスの仮面の下、苦しそうな呻きを漏らす。
 同時に、カリスの身体に重なるように現れたのは、不気味な緑の影。 
 それは、全てを滅ぼす死神たる最強のアンデッドの影であった。
 沸き起こる激情と闘争本能に、死神が触発されたのだろう。
 だが、現れた影にそのまま包み込まれはしなかった。
 影を振り払う様に、カリスが上体を上げたのだ。

「何よ、あの化け物の姿になるならなりなさいよ。今の私なら、あんたなんか――」
「貴様如き、ジョーカーになるまでも無い……」

 不敵に佇むキックホッパーを遮って、カリスが告げた。
 カリスの脳裏を過るのは、今まで出会った大切な人達の記憶。
 始が苦しんでいる時は、いつだって付き添って看病をしてくれた遥香。
 始の事を慕い、いつだって信頼してくれる少女――天音。
 そして、二人と共に過ごす内に知った、色んな事。
 他愛ない思い出から、人間として大切だと思える想いで。
 様々な思い出が駆け巡り、始の人間としての心を揺さぶる。
 その感情が、体内で暴れ回るジョーカーの力を抑え込んで行く。

「へぇ……随分と見くびってくれるわね……いいわ、証明してあげる!」

 刹那、電子音と共にキックホッパーの姿が掻き消えた。
 次にキックホッパーが姿を現した時には、既にカリスのレンジ内。
 既に見なれた、クロックアップによる超加速を用いての急接近。
 装着者であるかがみの疲労が溜まって居たのか、攻撃に移る前に加速が終わったのhが僥倖か。
 高く振り上げた蹴り脚を防ぐべく、カリスが両の腕を振り上げるが――

「あんたなんかに、負ける訳が無いって事をね!!」
「ぐ……ぁぁ……ッ!!」

 重いキックは、スバルの一撃で体力を削られた状態のカリスには堪えた。
 キックを必殺技とするライダーの一撃は伊達では無い。
 未だ足取りの覚束ないカリスにその攻撃を受け切れる訳も無く、カリスの身体は遥か後方へと吹っ飛んだ。
 そのままホテルの内装の壁に激突したカリスは、力無く床へとずり落ちる。
 それから間もなく、再びカリスの身体に重なるのは、緑の死神――ジョーカーの面影。
 ジョーカーの姿になれば、こんな仮面ライダーに遅れは取らない。
 ジョーカーになってしまえば、こんな仮面ライダー簡単に捻り潰せる。
 だけど、カリスはジョーカーにはならない。ならないと誓ったのだ。
 表に出ようとするもう一人の自分を振り払う様に、カリスが立ち上がった。

「こんなものは、本当の強さじゃない……」
「さっきから訳のわからない事を。あんたの本当の強さが、緑の化け物だって事ならもう解ってるのよ!」
「違う……! 俺は……ジョーカーには、戻らない……!」
「何……?」

 それを宣言すると同時、カリスの身体が一気に軽くなった。
 いつも通りのファイティングポーズ。腰を低く落として、構える。
 カリスのハートの複眼が、熱い心(ハート)の輝きを宿した赤の瞳が、美しく煌めいた。
 それはまさしく、人の心を現す「ハート」に相応しい輝き。
 ハートのライダーとして選ばれた、相川始として――仮面ライダーカリスとして。
 両腕を広げ、腰を低く落とした姿勢のまま、カリスは走り出した。

241 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:12:24 ID:dR2I84lo0
 
「トゥェッ!!」
「……ッ!?」

 次の瞬間には、まるで野生の獣のように飛び掛っていた。
 キックホッパーの突き出た両肩をその手に掴み、そのまま押し倒す。
 押し倒した勢いでもつれ合った二人は、ホテルの床をごろごろと転がる。
 だが、意外にもすぐに解放されたのはキックホッパーの方であった。
 転がり様に距離を置いて立ち上がったホッパーが、カリスを視線に捉える。
 対するカリスは、いつでも受け切れるように、両手を軽く掲げ、構える。
 一拍の間を置いて、ホッパーが怒号を上げて駆け出した。

「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 一撃目は、右上段からのハイキック。振り上げた腕で、容易く振り払った。
 二撃目は、左上段からのミドルキック。これも同様、カリスの腕に阻まれ、打ち落される。
 我武者羅になって右のストレートパンチを繰り出すも、そんな単調な攻撃は絶対に通らない。
 突き出したホッパーの腕は、逆にカリスの腕に捻り上げられる。

「トゥッ!」
「……痛ッ!?」

 そのままの勢いで、カリスが繰り出したのは左右交互の1・2パンチ。
 パンチ二つをヒヒイロノカネで造られた装甲で受け止めるも、カリスの攻撃力は殺し切れない。
 カリスの戦闘力の高さは浅倉との戦いで窺い知ってはいた事だろう。
 だが、今のカリスを突き動かすのは、あの時とは決定的に違う感情だ。
 カリス自身にも解る。あの時とは、比べ物にならない程の力が湧いてくる。
 すぐにカリスはホッパーの上段を飛び越え、背後へと回った。

「ちょこまかと……!」

 すぐに振り向き、ハイキックを浴びせようと脚を振り上げるホッパー。
 だが、何度やっても同じことだ。カリスにはそんな単調な攻撃は通じはしない。
 上体を僅かに屈める事で蹴り脚を回避。矢継ぎ早に、何処かから取り出したのはカリスアロー。
 それを舞う様に振るい、ホッパーの装甲を切り裂いた。
 攻撃を受けて、派手に舞い散る火花と共に、ホッパーが数歩後退。

「本当に強いのは――!」

 カリスが、唸る様に怒号を上げる。
 思い出すのは、全ての始まりたる栗原晋の記憶。
 自分に命を奪われたも同然なのに、あの男は自分に家族を託した。
 あの男は、見ず知らずの自分に、掛け替えのない家族を託したのだ。
 最期の力を振り絞って優先した願いは、自分よりも家族の事だった。
 大切な人を守って欲しい。その願いを受けた始は、栗原家へと向かった。
 その時は理解出来なかったが……始は、晋の家族を思う心に突き動かされたのだ。
 吹きつのる愛に突き動かされて、始はあの家族を守ると誓ったのだ。
 そんな不可解な事が出来る、それが人間の心の強さ。

「強いのは――ッ!!」

 再び向かってきたホッパーの蹴りを交わし、続けざまにカリスアローを振るう。
 胸部装甲を切り裂かれたホッパーの、声にならない悲鳴。それを掻き消す様に、もう一撃。
 連撃によるダメージによってよろけるホッパーの背後へと飛び上がった。

242 H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:12:54 ID:dR2I84lo0
 
 ――ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――

 思いだすのは、数時間前に出会った一人の少女。
 奴は、自分を人間だと言ってくれた。奴は、こんな自分を信じてくれた。
 本当は自分だって人間では無いのに……いや、だからこそだろうか。
 彼女は誰よりも人間らしく、そして誰よりも強く、気高い人間であった。
 では、その強さとは何か。その強さこそが、人間らしさの成せる業。
 人の心。人の想い。優しさや、愛情。それこそが、人間が持つ真の強さ。
 そして、そんな彼女が最期に託したのは、やはり自分では無く、他の誰かだった。
 ギンガは最後の最後に、自分の命よりも優先して、スバルや、その仲間達を守ってほしいと願った。

(そうだ……本当に強いのはッ!!)

 パニックに陥ったホッパーは、やはり我武者羅に腕を振るう。
 本当の意味で強い人間と言うのは、こんな奴の事を言うのではない。
 自分の為に、他者を殺す。そうまでして、自分一人で生き残ろうとする。
 この緑の仮面ライダーは、最早人間の心を持っているとは言えない。
 そんな奴の攻撃に当たる訳もなく、カウンターを入れるのはカリスの醒弓。
 一撃、二撃とホッパーの身体を切り裂き――跳び上がった。

 ――始さん!――

 脳裏を過る声は、誰のものであったか。
 そうだ。今まで自分の事を、人間として接してくれた皆の声だ。
 あの家族と、ギンガ・ナカジマの声。それが、自分を人間へと引き戻してくれる。

(今なら解る……! これが、この力が――)

 次いで思い浮かべるのは、いくつもの顔だ。
 大切な家族を、自分に託して死んでしまった晋さん。
 見ず知らずの自分を、家族として受け入れてくれた遥香さん。
 何時だって自分の事を慕って、色んな感情を教えてくれた天音ちゃん。
 そして、最期まで自分を人間だと信じて戦い抜き、命を落としたギンガ。
 それら全てが、カリスに力を与えてくれるのだ。

「――人の、想いだッ!!」

 色んな人の想い。人間としての想い。
 それらを乗せた乗せた最後の一撃は、渾身の力を込めたカリスの飛び蹴りだった。
 正面からまともにその一撃を受けたホッパーは後方まで吹っ飛び、近くに備え付けられていたテーブルへと倒れ込んだ。
 テーブルはホッパーの体重に耐えきる事は無く、見事に真っ二つに破壊。
 ホッパーも度重なるダメージに変身状態を保って居られなくなったのか、緑の装甲は粒子になって崩れ落ちた。
 そこにいるのは、漆黒の仮面ライダー・カリスと、一人の紫髪の少女のみ。
 戦いは、完全にカリスの勝利に終わった。

243 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:16:16 ID:dR2I84lo0
 バクラは悩んでいた。
 本来バクラは悩むという行為をあまりしないのだが、今回は訳が違う。
 如何なバクラであろうとも、悩まざるを得ない状況に陥ってしまったのだ。
 何故なら、今後の行動方針にも関わる人間の名が、放送で呼ばれてしまったから。

(相棒……本当に死んじまったのか?)

 心中で思い浮かべる人物の名は、キャロ・ル・ルシエ。
 まだ幼い召喚士。バクラが初めて選んだ、唯一のパートナー。
 あいつには、自分がついていないと駄目だ。自分がいなければ、駄目なんだ。
 それと同時に、キャロは今バクラがここに存在する唯一の意義。
 共に未来へのロードを進んで行くと誓った人間なのだ。

 そのキャロの名が、放送で呼ばれた。
 たった一人の相棒が、自分の預かり知らぬ所で死んでしまった。
 それを知ったバクラを襲ったのは、気の抜けたような虚無感だった。
 暫くは、死んでしまったキャロについて考えていた。
 だけど、やがてバクラはそれに意味がない事に気付いた。

(まだ相棒が死んだと決まった訳じゃねぇ)

 そう。この世界には、平行世界から連れて来られた人間が大勢いる。
 自分と同じ世界の人間かと思えば、別の世界の同一人物。そんな例が数え切れない程にある。
 だから、死んでしまったキャロが自分の知る相棒だと決めつけるのは、まだ早い。
 確かめなければならない。死んだキャロが自分の相棒だったのかどうかを。

 すぐに思い付く方法は二つだ。
 一つ。キャロと出会った参加者から話を聞くか。
 二つ。ゲームに勝ち残って、元の世界に戻って確かめるか。
 だけど、それならばあまり考える必要はなかった。
 どうせゲームには勝ち残るつもりだったし、行動方針に変わりは無い。
 ただ、今し方挙げた前者の方法を今後の行動に組み込めばいいだけだからだ。
 一つ問題を挙げるとすれば、それは現在の宿主のかがみだ。

244 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:16:48 ID:dR2I84lo0

(ケッ……オレ様が言うのも何だが、こいつは壊れ過ぎてやがる)

 そう。今のかがみに、まともな判断は出来ないだろう。
 見境なしに他者を殺し回って、自殺することしか考えていない。
 冗談では無い。自殺なんてされたら困るのだ。
 こっちはゲームに勝ち残ってでも、相棒の元に帰らねばならない。
 それなのに、相棒の元に帰る前に宿主が死んでしまっては話にならない。

(こりゃそろそろ本気で他の宿主を探した方がいいな)

 これ以上壊れ過ぎたかがみと共に行動するのは御免だ。
 こいつの考えをもう少しまともな状態まで戻せるのなら話は別だが、それでなくたってこいつは役立たず過ぎる。
 スバルには逃げられる。浅倉にはデッキを奪われる。カリスには惨敗する。
 かがみがまともにバクラの望む結果を導き出せた事など皆無と言っていい。
 今回の戦いは、態々アドバイスまでしてやったのに負けたのだから、尚更始末に負えない。

(何でもっと上手い戦い方が出来なかった? 人質でも取りゃ状況は変わっただろうがよ)

 それはつい先日までは一般の女子高生として過ごしていたかがみには酷な評価であった。
 そもそも、かがみの身体能力では例えホッパーに変身してもカリスに勝つ見込みなど無いに等しいのだ。
 まともな戦い方すらも知らない素人が、本物の戦士であるカリスに勝てる訳が無い。
 そんな事は最初から解り切ってはいた。
 だが、だからこそクロックアップの使い方は間違えて欲しく無かった。
 あそこをああすれば良かったとか、そんな事を考え出したらキリが無い。
 それ程にかがみの戦闘は落ち度だらけだった。
 上手く立ち回れば、状況はいくらでも変わった筈なのだ。

(いや……今の宿主サマじゃ無理か)

 かがみは只でさえ連戦で疲労が溜まっていた。
 続いてカリス、スバル、ヴァッシュとの乱戦、直後のクロックアップ。
 この時点でかなりの疲労が蓄積されていたであろう。それは仕方が無い。
 だが、その直後にもう一度クロックアップを使ったのは誤算でしかなかった。
 ライダーシステムは、使用者の身体に負荷が掛る前にクロックオーバーを告げる。
 疲れ切った身体でクロックアップを使っても、加速出来る時間はたかが知れているのだ。
 それをカリスへの一撃の為に使用。それも、その一撃で仕留めきれなかった。
 後は知っての通り、圧倒的な戦闘力の差でカリスに敗北し、気絶してしまった。
 挙げるとするならクロックアップ辺りがミスだったと言えるだろうか。
 気絶状態のかがみから身体を奪う事は出来るが、このダメージではまともに動けないだろう。

(だが、これはチャンスかも知れねぇ)

 誰にも見えはしない笑みを浮かべ、考える。
 かがみは気絶してしまったが、現状でかがみを殺そうという人間はいない。
 スバルもヴァッシュも甘ちゃんだし、カリスも悪ぶってはいるが悪にはなりきれない。
 ならば、こいつらは気絶したかがみをどうするだろう。
 考えるまでも無い。まず間違いなく、かがみの戦力を奪って拘束する筈だ。
 後は千年リングを誰かになすりつける事さえ出来れば、めでたく宿主交代。
 バクラもこんな思いをしなくて済む……のだが、問題が一つ。

(スバルの奴……オレ様に気付いてなきゃいいが)

 そう、スバルだけはバクラの存在に気付いているのだ。
 千年リングの存在にさえ気付かれなければ、後はどうとでもなる。
 これは掛けにも近いが、果たして――。

245 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:23:14 ID:dR2I84lo0





「仮面ライダー!!」

 全てが終わった後、カリスの傍らへと歩み寄って来たのは、スバル・ナカジマであった。
 その表情にはやけに嬉しそうな色が浮かんでいるが……何を考えているのか、解るのが嫌だった。
 こいつはまず間違いなく、あの時のギンガと同じように自分と組もうとするだろう。
 だが、それは早計だ。カリスとしては、まだ人間になったつもりはないのだから。
 何せ、自分は人間とは呼べない程、今まで無駄な戦いを繰り返してきた。
 自分は、人間ではないし、アンデッドでも無い。それで十分だ。
 もしも変な勘違いをしているのならば、迷惑極まりない事だ。

「勘違いするな。俺は人間になったつもりはない」
「ううん、違う……貴方は人間だよ。言い逃れなんてさせない」
「……ギンガに似て、面倒臭い奴だな」

 だが、今までとは何かが違うのも確か。
 不思議と頭ごなしに否定をする気にはならないのだ。
 これが人間であるという感覚であるのなら、それも悪くは無いかもしれない。
 人間らしい感情とは不思議な物で、あれだけ燻っていたジョーカーを抑え込む事が出来たのだ。
 それに、今の戦闘で内から湧き上がってきた力は、今まで感じた事のない物だった。
 ギンガの強さ……それは、人間の心。少しだけ、理解出来た気がする。
 だけど、だからこそ悩む。化け物の自分が、そんな心を持って何になるのだろう。
 そんな事を考えていた始の耳朶を叩いたのは、一人の男の声だった。

「俺も、あんたは人間だと思うぜ」
「お前は……」

 にこやかな笑顔と共に現れた男の名は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 エンジェルアームの使用制限が限られている上、仮面ライダーが相手では銃など意味を成さない。
 それ故に、今の戦いでは静観に徹するしかなかったのだが、プラントとしての本来の力は計り知れない。
 化け物の強さと、人間としての心の強さ。その両方を兼ね備えているのが、ヴァッシュという男。

「ああ、俺の名前はヴァッシュ・ザ・スタンピード。で、あんたの名前は?」
「相川……始」
「じゃあ始、これからは俺達と一緒に、戦ってくれるって事でいいんだよね?」
「何だと……?」

 人懐っこい笑顔には、何の影も見られない。
 こいつは本気で自分を信用して、自分と一緒に戦おうというつもりなのだ。
 何て御人好しだろうと、始は思う。否……こいつもギンガと同じ、馬鹿なのかも知れない。

「断る。俺は誰とも組まない」
「そんな……! もう残った人数だってそんなに多くないんです。
 目的が同じなら、一緒に行動した方がいいに決まってる!」
「俺とお前達の目的が同じだとは限らない」
「まだそんな事を……」

 やれやれとばかりに、ヴァッシュが溜息を吐いた。
 だけど、スバルの言い分は確かに始にも理解出来る。
 残り少ない参加者が組むことで安全がより確保されるのは間違いない事だ。
 だけど、始は素直にこいつらと組む気になれずにいた。

「そうだ。そいつと組むのは止めておいた方がいい。そいつは死神だからな」

 次に言葉を発したのは、新たにやってきた第三者であった。
 咄嗟に身構える一同をよそに、眼鏡を掛けた優男は不敵な笑みを崩さない。
 始は思う。ああ、またしてもこの男と出会ってしまった、と。
 そして、出会ってしまったからにはもう、戦いは避けられない。

246 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:27:56 ID:dR2I84lo0
 
「貴様……カテゴリーキング!」
「久しぶり……でもないな、ジョーカー」

 スバルとヴァッシュを差し置いて、二人が言葉を交わす。
 カリスの赤い複眼と、眼鏡の奥の金居の視線が交差する。
 視線に込められているのは、周囲にも伝わる程にピリピリとした殺気。
 カリスの怒りと、金居の憎悪にも似た感情がぶつかり合っていた。
 そんな金居が、まるで嫌味でも言う様に呟いた。

「何だ、随分と疲れているようじゃないか、ジョーカー?」
「関係無い。貴様を倒すにはこれで十分だ」
「ほう……随分とナメられたものだな? いいだろう、ここで決着を付けてやる!」

 刹那、金居の身体に異変が起こった。
 黄色のハイネックに、黒のジャケット。それら衣服の下から溢れ出す、黄金の輝き。
 やがて金居の身体を覆い尽くした光が、もう一つの姿を象って行く。
 それは、もう何度も目撃して来た、宿敵たるアンデッドの姿。
 頭部の仮面から覘く二つの黄金の角は、まさしくクワガタムシのもの。
 ギラファノコギリクワガタの祖たる不死生物、ギラファアンデッド。
 両手に双剣を構え、深く息を吐いた――その刹那。

「ストップ! ストーップ!」
「止めて下さい、二人とも!」

 戦場に響く、場違いな声。
 男の声と女の声が、ほぼ同時に周囲の者の耳朶を打った。
 だけど、それについてはもう考える必要もない。
 こんな事を言う人間は、ここには二人しかいないからだ。

「スバル、ヴァッシュ……お前たちは手を出すな!」
「そういう訳には――」
「手を出すなッ!!」

 低く、ホテルのロビーに響き渡る様な怒号。
 漆黒の仮面の下、カリスが凄まじいまでの剣幕で声を荒げたのだ。
 流石にこの人声には驚いたのか、スバルとヴァッシュが黙り込む。

「いいな、手を出すなよ……」

 今度は少しだけ穏やかな語調で告げる。
 スバルはまだ何か言いたげにこちらを見ていたが、言葉が出て来ないのか黙り込んだままだ。
 ヴァッシュはヴァッシュで、カリスとギラファの間の空気から何かを感じ取ったのか、それ以上何も言わなくなった。
 こういう時、いくつもの修羅場をくぐり抜けて来た男はやはり状況の理解が早いものだ。

「……OK、始。ただ一つ約束してくれ」
「何だ」
「誰も死人は出さない。それだけだ」
「ああ、俺は誰も“殺さない”」

 それを聞いたヴァッシュの表情が僅かに綻んだ。
 本当に御人好しなんだな、とカリスは思う。
 だけど、一応嘘は言っていないつもりだ。
 そもそもアンデッドに死と言う概念は無い。
 カードに封印される事はあっても、本当の意味で死んでしまう事は永久に無いのだ。

「だからお前たちはそこの女を連れて、ここから立ち去れ」
「そんな……! ギン姉の事だって、始さんの事だってまだ聞いてないのに……!」
「いいから行けッ!」

 気絶したままのかがみへと一瞬視線を流し、カリスが絶叫した。
 スバルにヴァッシュの二人がかがみを連れて移動してくれるなら、もう憂いは無い。
 何にも気を使う事無く、全力でカテゴリーキングと戦う事が出来るからだ。
 だけど、スバルにとってそれは不本意らしい。

247 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:33:31 ID:dR2I84lo0
 
「私は貴方から聞き出さないと行けない事がまだ沢山ある! ここでお別れなんて出来ません!」
「……戦いになれば、俺の身体は俺の意志とは関係なく動く。どうなっても知らないぞ」
「大丈夫です。私は、そう簡単には死にません」
「ならば勝手にしろ……どうなっても知らないぞ」

 もう、こう言うしか無かった。
 このスバルという人間は、ギンガと同じだ。
 言った所で人の自分の信念を曲げたりはしない。
 ならばギンガの時の様に勝手に着いて来られるよりもマシだ。
 最初からスバルが居ると解って居るなら、スバルに危害が及ばないくらいには気を配れるだろう。
 あとはヴァッシュ達がそれでもいいと言ってくれれば、話は纏まるが。

「ヴァッシュさん、スカリエッティのアジトに向かえば、きっと私の仲間がいます。
 私も後から始さんを連れて向かうから……ヴァッシュさんを信じて、あの子を任せます」
「……約束するよスバル。君の仲間は、死なせない」
「ありがとう、ヴァッシュさん。それから、かがみさんのデイバッグを私に下さい」
「これかい?」

 言いながらヴァッシュが投げ渡してくれたのは、柊かがみが持って居たデイバッグ。 
 スバルの考えはこうだ。まずデイバッグを預かることで、かがみから戦力を奪い、自分の戦力を確保。
 かがみが危険人物である事はヴァッシュも解っているだろうから、拘束は怠らない筈だ。
 後はヴァッシュとかがみの二人に先行してアジトへ向かって貰い、こなたと合流。
 上手くいけばこなたがかがみを説得してくれる……と、信じたい。
 まずは投げられたそれを右腕で掴み取り、中身の確認をする。
 使えそうなものは……レヴァンティンとライディングボードのみ。
 どちらも使い慣れた武器ではないが、無いよりはマシだろう。
 それから、あと二つ……どうしても気になる装備がある。

「それから、かがみさんが巻いてるベルトと首からかけてるリング。
 ベルトは私に。リングは……十分気を付けた上で何処かへ処分して下さい」
「リング……? これに何かあるのかい?」

 投げ渡されたのは、無機質な銀色のベルト。
 ZECTと描かれたそのバックルに視線を落とし、それをデイバッグに突っ込んだ。
 それから、かがみの首に未だかけられたままのリングに視線を向ける。
 先程かがみと交戦した際に感じ取った、もう一つの意思。
 かがみを戦いに追い込んだのであろう、邪悪な意思。
 それが宿っているであろうリングを、放っておく訳には行かない。

「そのリングには何者かの……多分、かがみさんをここまで追い込んだ奴の人格が宿っています。
 迂闊に触って意識を乗っ取られたりしないように十分気をつけて、二度と誰も触れないように処分して下さい」
「OK、わかった……こいつは俺が責任を持って処分する」
「それから、アジトに行けばかがみさんの友達がいます。その子ならきっと、かがみさんを元に戻せるから……
 その子に会ったら、こう伝えて下さい。『かがみさんをよろしく。私もすぐに向かう』と」
「わかった……死ぬなよ、スバル」

 ハイ、と一言返しながら、スバルは再び身構える。
 目前に居る二人の脅威。仮面ライダーカリスと、黄金のギラファアンデッド。
 いつ飛び出してもおかしくないこの状況、どちらも動かずに様子を見ているのは自分達に気を使っているのだろうか。
 どちらが先に動く? そんな事を考えながら戦況を眺めるスバルの耳朶を叩いたのは、ギラファの声だった。

「待て、そこの……ヴァッシュだったか?」
「……!?」

 ギラファから、呼びかけられた。
 瞬間、反射的にスバルとヴァッシュの動きが止まる。
 今まさに柊かがみを背負って駆け出そうとしていたヴァッシュと。
 いつどちらが先に動いても対応出来るように身構えていたスバル。
 いきなり現れた相手に、いきなり呼び掛けられる義理などは無い筈だ。
 二人とも、何事かとギラファアンデッドに視線を向ける。

「あんたたちの仲間からの伝言だぜ。このホテルの外で待ってるから、合流しよう……との事だ」
「何……!?」
「八神はやてと言えば解るか。つい先ほどまで、一緒に行動していたんでね」
「八神部隊長と……!? 何でお前が……殺し合いに乗ってるんじゃないのか!?」
「生憎、俺が興味を持つのはそこにいるジョーカーだけなんでね」

 片手に持った双剣をカリスに向けながら、悠然と語る。
 どうやらこの化け物は、今すぐに自分達を殺すつもりはないらしい。
 何故なら、こいつの目的はどういう訳か相川始ただ一人だから。
 だが、それならそれでハイそうですかと許す訳にはいかない。
 カリスからは、まだ聞かねばならない事が山ほどあるのだから。

248 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:38:38 ID:dR2I84lo0
 
「さぁ、これで前座は終わりか。始めようぜ、ジョーカー……俺達の戦いを」
「望むところだ……俺とお前は、戦うことでしか解り合えないッ!」

 腰を低く落とし、醒弓を構えるカリス。
 双剣を振り上げ、戦闘態勢へと移行するギラファ。
 二人の不死生物のバトルファイトが、ここに始まろうとしていた。
 闘争本能の赴くままに戦いを始めてしまえば、二人はもう止まらない。
 だけど、カリスには今までに無かった力がある。
 人間としての心。人の想い。人の愛情。
 栗原晋が託してくれた、家族への愛。
 ギンガが託してくれた、妹と仲間達への愛。
 それらがカリスを突き動かす限り、こんなアンデッドには負けない。
 嫌……負ける訳には行かないのだ。
 ここで決着を付けて、全ての宿命を断ち切る。
 その為に、仮面ライダーカリスは走り出した。


【1日目 夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】変身中(カリス)、疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:?????????
 1.カテゴリーキングを叩き潰す。
 2.スバルの事は絶対に死なせたくない。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたなのは、はやてが少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
 7.何やら嫌な予感が近付いてきているのを感じる。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。ある程度ジョーカーを抑え込めるようになりました。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、変身中(ギラファUD)、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.ジョーカーとの決着を付ける。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

249 誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:41:22 ID:dR2I84lo0
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】戦闘機人モード、疲労(小)、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.始と金居の戦闘を見届ける。どちらも殺させはしない。
 2.戦いが終われば、始を連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 8.ヴァッシュと始の件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

250 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:50:17 ID:dR2I84lo0
 ホテルの外は、未だに漆黒の闇に包まれていた。
 だけど、物陰に潜む八神はやてに危害は及んでいない。
 輝く雷は一片たりともはやてには届いていない。
 雷鳴もまた、遠くで鳴り響いているのみであった。

「頼むでヴィヴィオ……もう少し持ち堪えてや」

 祈る様に呟く。
 鬼神たるエネルに今現在立ち向かっているのは、同じく鬼神たる存在。
 とうに優しさを枯らしてしまった、最強最悪の魔道師。
 それは、古代ベルカにおける聖王(ザンクトカイザー)の姿を取り戻した者。
 純粋な戦闘力だけで考えれば、なのはですらも勝てるかどうか解らない程の猛者。
 聖王・ヴィヴィオ。それがエネルと戦闘を繰り広げている少女の名前だった。

 さて、はやてがここで待って居るのには、理由がある。
 周囲の電気を吸収したエネルが現れた時には、万事休すかと思った。
 冷静に考えて、明らかに勝てる訳が無いのだ。
 魔力もまともに残って居ない自分と、あんな優男(金居)一人では戦力が乏しすぎる。
 仮面ライダー二人までなら相手に出来ると豪語しながらも、金居はエネルとの戦闘を避けた。
 その辺りからも金居はエネルに敵わないのだという事は容易に想像できた。
 ならばどうする。スバルは味方に引き入れたいが、乱戦中。
 かと言ってホテルの外にはエネルが待ち受けている。
 このままスバルの戦いが終わるのを待っている内にエネルに殺されてしまえば話にならない。

 そんな時、現れたのが聖王ヴィヴィオであった。
 現れたヴィヴィオは、何の迷いもなくエネルとの戦闘を開始した。
 当初はヴィヴィオでも勝てないのではないかと思ったが、それは大きな見当違いだ。
 今のヴィヴィオの戦闘能力は、どういう訳かエネルにも匹敵するポテンシャルを引き出していた。
 それどころか、傍から見ればヴィヴィオの方が有利なのではないかと思える程であった。
 またコンシデレーションコンソールで狂わされたのか、誰かの死を切欠に壊れたのかは知らないが……。

 一方で、ヴィータとはヴィヴィオを守るとの約束した覚えもある。
 だけど、今がそんな事を言っている場合ではないのは明らかだ。
 まず第一に、助けが必要なのであればあんな化け物と戦わないで欲しい。
 第二に、現状では確実にヴィヴィオの方が自分たちよりも強いのだ。
 最早自分が態々守ってやる必要もないだろう。
 ともすれば、これは大きなチャンスと鳴り得る。
 ヴィヴィオが時間を稼いでくれるし、上手くいけばヴィヴィオがエネルを倒してくれるかもしれない。

251 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:51:34 ID:dR2I84lo0
 
 と、そんな状況下で、金居はすぐに次の作戦を立案した。
 金居の目的はスバル達と戦っている黒いライダーだけだという。
 他の奴と戦うつもりはないし、黒のライダーが居る以上、スバル達にも興味は無い。
 故に、ヴィヴィオがエネルを引き付けてくれている間に、金居がホテルに潜入。
 機を見計らって、黒いライダーに戦闘を吹っ掛ける。
 その際スバル達には、「外ではやてが待っている」などと伝えて貰う。
 そしてこの場での戦闘は金居に任せて、スバル達には先に離脱を促す。
 簡単な作戦だが、この状況ではこれが最善の策だと思えた。

 そして数分後、ホテルから出て来たのは、一人の少女を背負った男であった。
 まるで箒のような、黒髪トンガリ頭にサングラス。赤いコートを靡かせて、男は走る。
 何者かと目を細めるはやてに、先に声を掛けて来たのは男の方であった。

「やぁ、あんたが八神はやてかい!?」
「え……えぇ、そうですけど……」

 男はとても悪人とは思えない、ともすれば馬鹿とも思えるような口調だった。





 時は数分前に遡る。
 ヴァッシュを殺す為に、参加者を皆殺しにする為に。
 それだけを目的にホテルの目前までやってきたエネルは、一人の少女と出会った。
 全身を漆黒で塗り固めた、金髪の少女。緑と赤のオッドアイには、気味が悪い程の虚が宿っていた。
 闇に溶けるその姿は、まるで周囲を凍てつかせるような気迫を放って居た。
 そんな第一印象を抱いた後に、エネルは自分の考えを否定した。
 神たる自分が、こんな小娘一人に何を考えているのだ。
 一撃で殺して、終わりにしてやればいいだけの話ではないか。

 そう判断して、エネルは片腕を挙げた。
 同時に、エネルの腕は雷と化し、天を埋め尽くす雷雲へと昇って行く。
 それから間もなく、空全体がぴかりと光って――計り知れない威力を秘めた雷が、少女へと降り注いだ。
 ごろごろ、ごろごろと。周囲の電気を自分の電気を合わせた一撃は、生半可な威力では無い。
 アスファルトを焼いて拡散した電力は、再び自分の身体へと舞い戻る。
 無限ループの雷地獄。あんな小娘一人が耐えきれる訳が無い。
 そう思っていた。

「ほう……?」

 雷が止んだ後、小娘はそこに変わらず立ち尽くしていた。
 エネルが殺そうとした相手・聖王ヴィヴィオは、聖王の鎧という先天固有技能を持っている。
 それはあらゆる障害から聖王を守る、強固な盾となりて、雷からヴィヴィオを救った。
 エネルは知らない。ヴィヴィオの命を削るレリックが、同時にヴィヴィオを強くする事を。
 身体に深刻なダメージを与える一方で、ヴィヴィオの命の炎を燃やし尽くさんと稼働している事を。

「まずはお前から殺してやる……!」

 ヴィヴィオが、憎悪を吐き出すように絶叫した。
 瞳には僅かな涙を浮かべて、その表情を醜く歪ませて。
 虹色の魔力光を宿した鬼神・ヴィヴィオの命はもう、長くは持たない。
 消えゆく命の輝き。その恐ろしさを、出会った参加者全てに刻みつける。
 そして、愛する者を傷つけた全ての参加者を血祭りにあげてやる。
 例え死んでも構わない。例え地獄に落ちても構わない。
 それだけの決意が、ヴィヴィオを動かしているのだ。

252 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:52:05 ID:dR2I84lo0
 
「神に対して、何たる不遜。ならば教えてやるぞ小娘よ……神の恐怖を!」

 今度は、エネルが腕を突き出した。
 刹那の内に、エネルの腕が極太の雷へと変化した。
 それは周囲全ての電力を吸収し、瞬く間に膨れ上がる。
 放たれたのは、アスファルトを抉る程の威力を秘めた電撃。
 神の裁き――エル・トール。

「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 ヴィヴィオから吐き出される、咆哮。
 放たれるは、眩い閃光。ヴィヴィオの命の輝きを体現したような虹色の輝き。 
 それらが同じく、極太の奔流となってエネルの雷を打ち消したのだ。
 これには流石のエネルも驚かずには居られない。
 何たることかと、大口を開けるエネルに対し、先に行動したのはヴィヴィオ。

「ママ……ママ……ママ……ママ……!」

 狂ったような笑み。狂ったように叫ぶ、愛しい人の名前。
 アスファルトを蹴って、ヴィヴィオがエネルへと一直線に走る。
 それを阻止せんと、周囲の雷雲が無数の電撃を放電するが……。

「解ったよ……ママ!」

 右へ跳び、左へ跳び、上空へ跳び上がり、回転する。
 見事なステップ、見事な動きで、エネルの攻撃を全て回避。
 いくつか小さな攻撃が命中するが、そんなものは聖王の鎧の前には無意味だ。
 虹色の輝きが電撃を弾き、ヴィヴィオの前進を手助けする。

「ママが……私を守ってくれてる! 私を見てくれてる!」

 口元を大きく歪め、狂った笑いを作り出す。
 なのはママの気配を感じる。フェイトママの気配を感じる。
 それだけじゃない。ザフィーラや、死んでいった他の人間。
 それら皆が、ヴィヴィオのすぐ傍に付いてくれている。
 だからヴィヴィオは、何も恐れはしない。

「ずっと……ずっと……一緒に居てくれたんだね……なのはママ!!」
「消え去るがいい……!!」

 愛する者の名を絶叫しながら、エネルの眼前まで迫る。
 今度はエネルが両手を掲げ、その電力を放出する。
 エネルの電撃の前には、何も残らない。アスファルトも、周囲の建物も。
 全てを焼き尽くす神の閃光が、至近距離でヴィヴィオへと放たれる。

「うぁぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!」
「ひぃ……ッ!?」

 だけど、ヴィヴィオは止まらない。
 今度の雷は、確かに聖王の鎧を貫いた。
 ヴィヴィオの漆黒の騎士甲冑を焼き、インナーを露出させる。
 全身にダメージを負いながらも、ヴィヴィオの猛攻は止まらない。
 これが、死さえも恐れぬ聖王の力。エネルには絶対に不可能な芸当。
 例え自分が死に、地獄に落ちる事さえ厭わない究極の聖王の姿。
 虹色の魔力を拳に宿らせて、ただ力任せに振り抜いた。

253 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:52:41 ID:dR2I84lo0
 
「地獄聖王(ヘルカイザー)を、ナメるなぁぁぁぁぁッ!!」
「わぶ……っ!?」

 最早自分は、聖王(ザンクトカイザー)などでは無い。
 ザンクトカイザーをも超えた、最強にして究極の闇。
 神すらも、地獄すらも恐怖の対象には鳴り得ない。
 その想いをぶつける様に、振り抜いた拳をエネルの顔面に叩き込んだ。
 情けない声を上げながら、エネルの身体が後方へと吹っ飛んで行く。
 何度も何度も硬いアスファルトに身体をぶつけながら、エネルの身体が醜く舞う。

「第二打ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!?」

 逃がしはしない。すぐにエネルに追い付いたヴィヴィオが、その脚を振り上げた。
 虹色の魔力光を宿した一撃が、エネルの腹を両断せんと振り抜かれる。
 咄嗟に雷によるバリアを張るが、そんなものは気休めだ。
 ヴィヴィオの威力を殺すには至らず、エネルの身体が遥か上空へと舞う。
 だけど、まだヴィヴィオの気は済まない。こんなものでは、ママの無念は晴らせない。
 半ば八つ当たりにも近い想いで、ヴィヴィオは飛び上がった。

「第三打……第四打ッ!!」
「ぐ……ぅ……!」

 一撃目は、跳びひざ蹴り。
 空中で受身など取れる訳もないエネルの腹部に、その膝を叩き込んだ。
 その口から夥しい量の鮮血を吐血し、エネルが白眼を剥いた。だけど、まだ終わらない。 
 両手の指を硬く絡ませて作り出したハンマーを、矢継ぎ早にエネルの背中目掛けて振り下ろした。
 比較的筋肉の多い背中で受ける分、まだダメージは少ないが、それでも今のエネルには十分過ぎる一撃。
 エネルの身体が、真下のアスファルトに向かって加速。
 どごぉん! と、馬鹿でかい破砕音と共に、エネルの身体がアスファルトを抉った。
 これで殺してやる。

「五連打ァァッ!!」

 アスファルトへと着地するよりも先に、ヴィヴィオが両手を突き出した。
 眩く輝く輝きは、聖王だけに許された最高純度の魔力光。
 それらを解き放つように、エネルに向かって発射――する、筈だった。

「う……ぐ、ッ!」

 ヴィヴィオの動きが止まった。
 吐血だ。エネルにも負けず劣らず、明らかに命に関わる量の鮮血。
 同時に、ヴィヴィオの胸を襲う激痛。心臓が鼓動する度に、痛みが募る。
 咄嗟に心臓を抑えた事で、空中で体勢を崩してしまった、その刹那。

「この……不届き者がぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!」
「な……ぐ、あぁぁあああああああああああああああ!?」

 遥か頭上の天空から。エネルのいる真下から。周囲の雷雲から。
 ほぼ360度から、目を眩ます程の輝きがヴィヴィオを襲った。
 それらは体調を崩した今のヴィヴィオが受け切るには、あまりに協力過ぎる。
 聖王の鎧である程度はダメージを軽減できても、それがヴィヴィオにとって大きな一撃となる事は間違い無かった。

 閃光が晴れた後に、どさりと音が鳴る。
 ヴィヴィオの身体が、アスファルトへと落下した音だ。
 あれだけの一撃を受けたのだ。最早五体を動かす事すらもままならないだろう。
 ……否、緑と赤のオッドアイはまだ見開かれていた。
 憎々しげにエネルを睨むその表情に、確かな憎悪が込められていた。

「ほう……まだ戦えるか。いいだろう、ヴァッシュより先に、貴様から裁いてくれる」

 赤い剣をその手に構え、エネルがヴィヴィオに視線を送る。
 対するヴィヴィオも、まだ戦意を失ってはいない。まだ輝きを消してはいない。
 その眼は未だにギラギラと光り輝いているし、滲みだす戦意だって生半可ではない。
 痛む身体に鞭を打って、もう一度二本の足で立ち上がった。

「お前なんかに負けてられない……ママが、見てるのに……!!」

 現実も、五感も、思考も、遠のいていく。
 ただ沸き上がる憎悪と怒りに身を任せるままに、ヴィヴィオは再び拳を構える。
 心臓の痛みは、もう引いている。
 今は只、全身が心臓になったように鼓動を鳴らしているだけだった。

254 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:53:43 ID:dR2I84lo0
 

【1日目 夜中】
【現在地 F-8 東側(ホテル付近)】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】究極聖王モード、血塗れ、洗脳による怒り極大、肉体内部に吐血する程のダメージ(現在進行形で蓄積中)
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする、その為に自分がどうなっても構わない。
 1.エネルを殺して先に進む。
 2.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 3.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 4.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
 5.ヴィヴィオにはママがずっとついてくれている。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。
 その影響により、現在進行形で肉体内部にダメージが徐々に蓄積されており、このまま戦い続ければ命に関わります。
 また、他にも弊害があるかも知れません。他の弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。
※副作用の一つとして、過剰なまでに戦闘力が強化されています。しかし、力を使えば使う程ダメージは大きくなります。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。

【エネル@小話メドレー】
【状態】ダメージ・疲労(極大)、激怒、『死』に対する恐怖
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.神の威厳を守るため、ヴィヴィオを殺す。
 2.ヴァッシュに復讐する。
 2.ヴィヴィオに対する恐怖。
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。
※市街地と周囲の電力を取り込み、常時雷神(アマル)状態に近い放電状態になりました。
※吸収した電力で、僅かな傷や疲労は回復しています。

255 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:54:17 ID:dR2I84lo0
 

 森林の中を駆け抜ける影が二つ。
 一つは、紫髪の少女を背負った赤コート。ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 一つは、管理局の制服に身を包んだ若き部隊長。八神はやて。
 少女を一人背負う事で、ヴァッシュの走る速度は著しく低下していた。
 だけど、魔法を抜けば一般人と変わり無いはやての速度に合わせるという意味では、それくらいが調度良かった。
 二人が目指す先は同じ。このマップ上に示された、スカリエッティのアジトだ。
 そこにスバルが言う仲間がいる。
 では、その仲間とは一体全体誰の事であろうか。
 生き残っている参加者から考えると、高町なのは辺りであろうか?
 もしもそうであれば、これ以上心強い物はない。が、必ずしもそうとは限らない。
 アジトに居るのがなのはなら、仲間などという間接的な表現を取る必要は無い筈だ。
 ストレートに「なのはさんがそこに居る」と言えば伝わるのだから。
 それらを踏まえて考えると、アジトに居るのははやても知らない第三者である可能性が高い。

「で、その子はどうするんですか?」
「スバルの仲間と会わせなきゃならない。俺はそうスバルと約束したから」
「わからへん……そんな危険人物を合わせる事に、意味があるんですか?」
「ああ、きっとね。スバルは無駄なお願いはしない……と思う」

 走りながら、はやては大きなため息を吐いた。
 何度か言葉を交わして解った。こいつもスバル同様御人好しタイプだ。
 態々「その子を仲間に会わせろ」と言うからには、何らかの策はあるのだろう。
 スバルの事だ、危険人物を改心させたいとか、大方そんな所だろう。
 だが、だとしたらそれは少々楽観視し過ぎではないだろうか?
 話を聞く限りでは、かがみという人間は相当な危険人物らしいが……。
 そんな不安を抱えたまま、はやて達は走り続けるのであった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-9 森林】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.スバルを信じて、スカリエッティのアジトへ向かう。
 2.柊かがみから戦力を奪った上で、スバルの仲間(=泉こなた)に会わせる。
 3.こなたに出会ったら、スバルからの伝言を伝える。
 4.首輪の解除方法を探す。
 5.アーカード、ティアナを警戒。
 6.アンジールと再び出会ったら……。
 7.千年リングには警戒する。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。

256 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:54:49 ID:dR2I84lo0
 
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スカリエッティのアジトへ向かう。
 2.柊かがみは本当に大丈夫なのか……?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居の事は警戒しておく。怪しい動きさえ見せなければ味方として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.…………
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

257 誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 19:55:20 ID:dR2I84lo0

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】気絶、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服
【道具】無し
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.………………。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.そろそろ宿主サマを変えたい
 2.キャロが自分の世界のキャロなのか確かめたい。
 3.こなたに興味。
 4.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 5.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

258 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/09(金) 20:03:34 ID:dR2I84lo0
これにて投下終了です。
言うなれば究極地獄聖王(アルティメット・ヘルカイザー・ヴィヴィオ)でしょうか。
調度ヴィヴィオもカイザーで身体にダメージ蓄積だったので、ずっとやりたかったんです。

今回の元ネタは仮面ライダーW風サブタイトルのみ。
「H激戦区/人の想いとは」「H激戦区/ハートのライダー」の二つがカリスメイン。
「H」は「HOTEL」の意と、「HEART」の意です。後はこじつけ臭いけど、「HUMAN(人)」とかもありかも知れません。
「誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE」「誕生、Hカイザー/神と聖王」の二つはヴィヴィオメイン(?)。
こちらの「H」はヘルカイザーの「HELL」の意です。単純です。

それでは、指摘などありましたらよろしくお願いいたします。

259 リリカル名無しA's :2010/07/09(金) 20:43:24 ID:CWO1f34M0
投下乙です。
うぉぉぉ、激戦未だ終わらずか!
遂に仮面ライダーとなった始、最終目的こそ未だ不明だけどひとまずギンガの想いが報われた気がする。
とはいえ、金居をどうにかしない事には先はないんですけどね。ジョーカー化の危険も消えたわけじゃないしなぁ。
一方、GX組は全滅したのにヘルカイザーは登場というわけでヴィヴィオ。そういや、GXのヘルカイザーも似たような状態だったなぁ。五連打か……なるほどキメラテック・フォートレス・ドラゴン(ヘルカイザーの切り札の1つ)じゃねーの。
エネルすら圧倒はしているけど内部からのダメージが深刻化しているのが……まぁエネルが勝とうがヴィヴィオが勝とうがマーダーである事に代わりはないんですけどね。
そしてバクラに見放されたアレ……というか、ヴァッシュもスバルもこなたに会わせれば大丈夫ってそんなの幻想だぞーそういう意味でははやてが正しいぞー、こなたオワタ……。
状況を整理すると

ホテル内部……スバル&始vs金居
ホテル近く……アルティメット・ヘルカイザー・ヴィヴィオvsゴッド・エネル
アジトへ移動中……ヴァッシュ&はやて&アギト他1名

……結局今回誰も死ななかったけど、危険は終わらないか……とりあえずスバルとこなた伏せやー! アレ(とU・H・Vと神エネル)は下手なマーダーよりも危険だー!

260 リリカル名無しA's :2010/07/09(金) 21:35:01 ID:PgCNRaus0
投下乙です

激戦区の激闘はまだこれからって感じだな
始はとうとう仮面ライダーに目覚めたか。だが金居も一筋縄ではいかないんだよな
ヴィヴィオはお前はアスカかよw まずい、敗北フラグが立ったとしか見えねえw
どぐされかがみんは…とりあえずこなたと出合っても…でも何がが起こる悪寒がするわw

261 リリカル名無しA's :2010/07/10(土) 01:02:36 ID:5h2am3/E0
五連打ってグォレンダァ!ってやつが元ネタ?

262 リリカル名無しA's :2010/07/10(土) 01:11:01 ID:aNCwsSVkO
というよりグォレンダァの元ネタが五連打

263 リリカル名無しA's :2010/07/12(月) 01:35:12 ID:P43ebYt.0
投下乙です
ついに始が仮面ライダーとして覚醒か
まだジョーカー化の可能性も残っていて予断を許さない状況だが感慨深いな
それにしてもはやて危なかったな
>海楼石はこちらにある。倒せない事はないだろうが、今はまだその時ではない。
頼りの海楼石はクアットロに奪われているでしょうがw

264 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/12(月) 02:18:13 ID:xJXYGvhs0
>>263
しまった……クアットロに奪われた事を完全に忘れていたorz
その一文に関しては、wiki編集の際にこちらの方で編集しておきます。
また、読み返してみたところ誤字脱字が多く、色々と思うところがありましたので、
今回も自分で細かな編集をした上でwikiに収録しておこうと思います。

265 ◆gFOqjEuBs6 :2010/07/12(月) 02:21:25 ID:xJXYGvhs0
おっと……もう編集されていたのか。
度々申し訳ありません、後日細かな編集を加えておこうと思います。

266 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 15:52:00 ID:GPV1PITo0
八神はやて(StS)、柊かがみ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード分投下します。

267 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 15:54:30 ID:GPV1PITo0
「む……」
 意識を取り戻した時に真っ先に感じたのは口の中に広がる違和感、
 次に感じたのは肌を滑る風の冷たさ、
 周囲を見回すとそこは何も見えない平野であった。
「ふぐ……」
 喋ろうとしても声が出ない。何かを口に詰め込まれている様だ。
 身動きを取ろうとしても両手両足を何かに拘束されている為動けないでいた。
「はんはのほ……ふぇ!?」
 そして自分の姿を見て驚いた。身に着けている物を全て剥ぎ取られていたのだ。
 どうやら自分の身に着けていたホテルの服で拘束している様だった。
 当然、先程まで身に着けていた千年リングとベルトも無くなっている。
「ひゃぁほれは……」
 そして今自分の口に詰め込まれている物が何か気が付いた。それは――自分が身に着けていた下着である。
「はにはほほっはほ!!」
 怒り苛立つ中、

「お目覚めか?」
 目の前にはスバルと同じ制服を身に着けていた女性が小刀を構えて立っていた。
「おはよう、かがみん」
「はっ……はんはがははひを!」
「そう怖い顔するなや、ちょっと『お話』しようと思っているだけや」



 その女性の笑みはどことなく冷たかった――

268 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 15:58:45 ID:GPV1PITo0




















(はぁ……本当にどうしたもんかな……)

 八神はやては内心で頭を抱えたかった。その理由とは――

 今現在置かれている状況を整理しよう。
 先程ホテルアグスタ周辺に自分を含め8人もの参加者が集結した。
 その8人ははやて、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ、金居、相川始、エネル、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみだ。
 ある者達はホテル内で戦い、ある者達はホテル外で戦い、またある者達は状況の動きを見ていた。
 その後、はやてとヴァッシュはかがみを連れてホテルを離脱しスバルの仲間が待つらしいスカリエッティのアジトへと移動していた。
 ちなみに、今現在もホテルでの戦いは続いている。

 次に、今現在も生き残っている参加者をはやての視点から整理しよう。
 放送時点で残り19人、その後ヴィータとアーカードの死亡を確認し残りは17人。
 なお、はやては気絶していた為先程の放送自体は聞き逃しているが、金居から大まかな内容である死亡者の名前と御褒美の話は聞いていた。
 では、はやて自身を除く残り16人を整理しよう。

 まず、現状殆ど情報が無い参加者がアレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、天道総司、ヒビノ・ミライの5人。残念ながら敵か味方かの判断は不可能だ。
 次に高町なのはとユーノ・スクライア、断言こそ出来ないがこの両名が殺し合いに乗る可能性は低い。更に言えばその能力は高く是非とも合流し味方に付けたい所だ。
 問題人物の1人としてクアットロがいる。真面目な話、彼女のスタンス自体はある程度理解しているし、彼女と決裂したのもある種自業自得だったのも理解はしている。
 だがあの女の事、なのは達と合流して自分の悪評を振りまいている可能性が高く、自分達との対立は不可避だ。故に自身の目的達成の障害にしかなり得ない。何とかして排除したい所だ。

 ホテルでの戦いに関係のない9人の内これで8人。あとの1人に関してはある理由からひとまず外す。

269 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 15:59:45 ID:GPV1PITo0

 ここから7人は先の戦いの関係者だ。まずその内5人について整理しよう。

 まず、現在ヴァッシュに背負われているかがみだ。ヴァッシュによると殺し合いに乗っており先の戦いでスバル達3人を圧倒した緑の仮面ライダーという話だ。もっとも変身する為のベルトはスバルが預かっているらしい。
 ヴァッシュからの証言だけなので詳しい事は不明だがこの場に来てから各所で酷い目に遭い続け、妹である柊つかさも無惨に殺されたそうだ。
 それ故に殺し合いに乗ったと好意的に解釈する事も出来なくはない。しかし、一方で彼女がお人好しなヴァッシュ達を騙している可能性……いや、確実に騙していた。
 何しろ、スバルが危険人物という偽情報を伝えヴァッシュとの無用な戦いを起こし、乱戦に入った時には掌を返し皆殺しにしようとしたのだ。
 こんな危険人物を信用する事などはやてには無理だ。聞いた所、自暴自棄になり皆殺しにして自殺すると言い張っている。
 迷惑極まりない、そんなに死にたいなら誰にも迷惑かけずに1人で死ねと言いたい。
 スバルとヴァッシュによるとアジトで待つスバルの仲間ならばかがみを説得出来るらしいが、正直それも全く信用していない。
 どうせまた、こちらが隙を見せた所を裏切り自分達を一掃するのがオチだろう。
 真面目な話、早々に彼女を斬り捨てた方が良い。とはいえ、それをやろうとすればヴァッシュやスバル達と対立するのは明白、故にむやみに行うわけにはいかないのが辛い所だ。

 次に現在の同行者であるヴァッシュ、まだ詳しい情報交換はしていない為、その全貌は掴みきれてはいない。
 しかし、強敵とも言える先の仮面ライダーとの戦いでのダメージが殆ど無い事からその実力はトップクラスと言えよう。
 思考に関しても馬鹿すぎる程のお人好しなのは把握した。つい先程まで自分を殺そうとしていた相手を殺さず保護していたからだ。
 だが気になる事もある。殺し合いに乗らない人物でなおかつ凶悪的なパワーを持つ人物をそのまま殺し合いに放り込む事をするだろうか? 何かしらのデメリットを抱えてはいないだろうか?
 ヴァッシュ自身の頭髪にも違和感を覚えた。黒髪に約1割の金髪が混じるという不自然な髪色だ。何故彼はそんな不自然な髪型をしているのだろうか?
 これが今後にとって致命傷になる可能性はある。もっとも、これは現状些細な事ではあるが。
 むしろ問題なのはお人好しという点だ。折角敵にトドメを刺せる状況になってもこの男ならばそれを強引にでも止めかねない。
 それ自体は善行と言える。だがこの場では少々不味いと言わざるを得ない。危険人物を残しておいてその逆襲を受けて此方の戦力が削られるならむしろ逆効果だろう。
 とはいえ、ヴァッシュの思考そのものはなのは達に近い。下手にそれを咎めると自分が孤立するのは明白、故に現状ではその事について口出す事は出来ないだろう。

270 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:00:30 ID:GPV1PITo0

 続いてホテル外で戦闘中のエネルだ。言うまでもなく殺し合いに乗っている危険人物でその実力もトップクラス。
 真面目な話現状のはやて達に手の打ち様が無い以上、ヴィヴィオが倒してくれる事を期待するしかない。

 だが、そのヴィヴィオに関しても大きな問題を抱えている。
 何が原因かは不明だが彼女は聖王状態となっておりエネルに匹敵する力を持っていた。だがそれは必ずしも自分達にとって良い事ばかりではない。
 その最大の理由がヴィヴィオがほぼ無差別に殺意を向けていたという事だ。一歩間違えれば自分達にその殺意が向けられていた可能性がある。エネルとの戦いに入った事はむしろ幸運だったのかも知れない。
 一応、ヴィータからヴィヴィオを助けてと頼まれた事もあり、それが無くてもなのはの娘である彼女を助ける事についてはさほど異論はない。
 だが、あの状態のヴィヴィオを止めるなど自殺行為以外の何物でもない。悪いが今のヴィヴィオを助ける事は不可能と言って良い。
 とはいえ倒す事もまず不可能だ。エネルと同等もしくはそれ以上の強敵を倒す手など今の自分にはない。
 勿論、弱点も幾つかある。遠目で見たところ、今のヴィヴィオは感情の赴くままに全力で戦っていた。
 あんな状態で戦い続けて負担がかからないわけがない。断言も出来ないし何時になるかは不明ではあるが、戦い続ければその内ヴィヴィオは自滅するだろう。
 もう1点気になる事がある。それはヴィヴィオが持っていた鎌の様な武器だ。どことなく今自分が所持している憑神刀と雰囲気が似ていた。
 同系列の武器ならば、前述の仮説がより裏付けられる事になる。なにしろ憑神刀も強い力を発揮する反面、消耗が大きい武器だからだ。
 そういえば、クアットロが大きな鎌を持ったキャロに襲われたと言っていた。もしかするとあの鎌はキャロが持っていたものかもしれない。

 何にせよ、ヴィータやなのは達には悪いが両名の戦いにおける理想の決着は共倒れだ。
 仮にどちらかが勝った場合、勝者はそのままホテルに突入する可能性が高い。疲弊しているとはいえホテル内の連中にとってもそれは同じ。避けたい結末である事に違いはない。

 次はホテル内の金居と始の戦いの場に残ったスバルだ。
 残った理由は始を、いや始も金居も死なせずに戦いを収める為らしい。勿論、スバルの性格を考えるならばその行動自体は理解出来る。
 だが、正直悪手以外の何物でもない。金居の話から察するに両名の戦いは相手を完全に滅するものだ、両名とも死なせずという事はまず不可能だ。
 それでなくても金居と始がスバルに牙を剥けないとは言い切れないし、戦いの余波に巻き込まれて命を落とす可能性もある。
 運良くそれをどうにか出来たとしよう。だが、その後素直にアジトへ向かってくれるだろうか?
 いや、もしホテル近くでヴィヴィオが戦っている事を知ったら彼女を助けに向かうのは明白だ。
 なのはや自分ですら勝てない相手に向かうなど自殺行為以外の何者でもない。戦力としてはアテにできるのにどうしてこんな頭を抱える様な行動ばかり取るのだろうか?

271 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:01:15 ID:GPV1PITo0

 続いて金居だ。金居の実力については本人の言葉を信じるならば仮面ライダーに匹敵すると考えて良い。エネル程ではないとしても強者には違いないだろう。
 そして現状では自分達に協力する素振りを見せている事から利用出来ると考えて良いが、クアットロと似た性格である金居を完全に信用は出来ない。水面下では自身の優勝を目指す為に暗躍している可能性がある。
 状況証拠として、先程持っていなかった筈の銃がある。金居自身は拾ったと言っていたが、もしかすると密かに誰かを殺してそのボーナスで得た銃という可能性もある。
 とはいえ、現場を押さえたわけではない為これ以上は追求は出来ない。とりあえずボーナスで得たなら殺した人物は自分達の仲間ではない事を祈るしかない。
 何にせよ、金居自身も此方が警戒しているとわかっているならば下手な動きは見せないだろう。具体的に手を下すのは動きを見せた時だ、今はひとまずそれで良い。

 その金居が『人類全ての敵』と言っていたのが始だ。あの戦いの様子やヴァッシュの証言からも彼がスバル達と対立していた事は間違いない。
 しかし、その始がスバル達を助けあの戦いでの敵であったかがみを倒した事実がある。同時にスバルやヴァッシュの証言から彼は現状他の参加者を殺すつもりはないという話だ。
 つまり、金居の証言と違い味方になり得る可能性が高いという事だ。はやて自身金居の証言を鵜呑みにしているわけではない、貴重な戦力、得られる物ならば得たい所である。
 だが、『人類全ての敵』という言葉に引っかかりが無いわけではない。金居が無用な嘘を吐くとは思えない、その言葉の解釈次第では始が自分達に牙を剥く可能性は十分にあるだろう。
 月並みな言葉ではあるが始に対しても警戒はしておいた方が良い。元々敵対していたわけだ、不満を言われる筋合いはない。

 何にせよ、両名の戦いは不可避だ。どちらかが退場する可能性が高いだろうが、はやてとしてはそれでも構わないと思っている。
 どちらにも危険な要素がある以上片方が潰れる事はむしろ都合が良い。スバルさえ巻き込まなければ正直それで良いと考えている。

 だが、理想を言えば片方には生き残って欲しい。その理由がこれまで言及を避けてきたキングの存在だ。
 キングははやてが最初に出会った相手で彼に翻弄されたお陰でヴィータと仲違いをし、更に開始6時間を殆ど無為に過ごす結果を引き起こした。
 あの後、奴の動きは全く見受けられない。だが逆を言えば自分の知らない所でかき回しているという事だ。
 つまり、今現在もホテルの戦いに関わっていない8人の内の誰かに仕掛けているという事だ。クアットロといった危険人物を潰す事については一向に構わないが、なのは達を潰されるのは非常に不味い、何とかして早々にキングを排除したい所だ。
 では、キングを排除する手段に関してはどうだろうか? 実の所1つ気になる事があった。
 金居と話してわかったことだが、金居の口ぶりからどうやらキングを知っている様だった。確証こそ無いが元々の世界で敵対していた可能性もある。少なくても味方という事はないだろう。
 となればこういう話は成り立たないだろうか? 金居、キング、始の3名は互いを知っていてなおかつ敵対しているという事だ。
 つまり、金居と始のどちらかをキングに対するカウンターにすれば良いという事だ。
 幸い、金居も始も味方になりそうな感じではある。キングが元々の敵であるならばキングを倒す為に協力してくれる可能性は高いだろう。
 故に金居と始の戦いでは共倒れではなく片方に生き残って貰いなおかつスバルも無事な状態でホテルから離脱して欲しいという事だ。
 だが、その為にはどちらにしてもエネルもしくはヴィヴィオとの戦いを避けなければならない。とはいえ、金居はともかく始とスバルが素直に離脱してくれるとは思えないわけだが。

272 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:02:00 ID:GPV1PITo0







(全く頭が痛いなぁ……)

 ここまでの話だけでも現状が非常に厳しい事は理解出来ただろう。
 前述の通りホテルの戦い次第では貴重な戦力とも言えるスバル、始、金居の3名がエネルもしくはヴィヴィオによって潰される可能性が高いのだ。
 残り人数の少ない状況でこれ以上戦力が潰されるのは痛い。はやてが頭を抱えるのも理解出来るだろう。
 真面目な話、スバルぐらいはホテルから離脱して欲しかったというのが本音だ。アジトに仲間を1人向かわせているという話ならばなおの事だ。
(まぁ、私も全く失敗していないわけやないけどな)
 勿論、はやて自身にも全くミスがないわけではない。
 実はこうやって移動している最中に気付いた事だが、シャマルとクアットロと情報交換した際に罠ではないという結論を出していた事を思い出していた。つまり、金居に魔法陣が罠だと説明した際にはその事を忘れていたという事だ。
(その後、色々ありすぎて私自身も整理ついていなかったからな……嫌な夢も見たし)
 もっとも、魔法陣に関しては金居の助言があったので別段大きな問題はなかった。むしろ、その際に金居とキングの関係のヒントを得られた為、その意味では幸運だったのかも知れない。

(そんなことはひとまずどうでもええか……それに……)
 先程万一に備え武器を探した際に夜天の書を構えようとしていた。しかし、それに触れた瞬間何か嫌な予感がしたのだ。気のせいだろうと思ってはいたが、脳裏にある危惧が浮かんだのだ。
(あの餓鬼……夜天の書にいらん細工せんかったか?)
 思い出せばジュエルシードのエネルギーは全て使い切られていた。はやて自身はそれで安全に使えると考えており深くは考えていなかった。
 だが、こういう解釈は出来ないだろうか。夜天の書を使っていた人物、はやて自身名前は知らないが天上院明日香が夜天の書を自分に都合の良い風に使う為にジュエルシードを利用したという事だ。
 分かり易く言えば、かつての闇の書の様に改変を行った可能性があるという事だ。
(あの餓鬼は異常なまでに力を欲しがっていた……その辺の力を蒐集出来る様に改変した可能性は無いとは言い切れん……)
 力への渇望そのものははやて自身も望む事がある為それ自体を咎める気はない。しかしその為によりにもよって夜天の書を改変しようとした事が問題なのだ。
 かつての夜天の書が改変された闇の書は多くの深い悲しみを生んだ。はやて自身もその管制人格であるリインフォースとの辛い経験をしている為、それを痛い程理解している。
 長きの時間苦しみ続けて最後に散ったリインフォースの為にも二度と闇の書を生み出してはならないのだ。
(冗談や無い……そんな事許してたまるか……! あんな餓鬼の自分勝手な都合で闇の書が生み出されてなんてたまるか……!)
 心情的な問題はともかく、実際に改変された場合、殺し合い云々以前の問題になる可能性がある。
 勿論、プレシア・テスタロッサがデスゲームを壊す事態を許すわけはないだろうが、どちらにしても自分達の障害となる可能性は否定出来ない。
 少なくてもアーカード戦の時に使った際には別段問題は無かった。だが、夜天の書の安全が保証されたわけではない。表面上はそう見えても中枢が改変されている可能性はある。
 下手に改変された場合破壊したタイミングで周辺一帯を破壊に巻き込む可能性もあり安易に処分するという選択は取れない。もっとも、大事な夜天の書を安易に処分するという選択肢もないわけだが。
 理想は改変された部分を元に戻す事だ。今の夜天の書ははやて自身が作ったからそれ自体は可能だ。あとはそれを行える大規模な施設が必要となる。
 勿論、何の問題もない可能性もあるがはやて側から見た場合、専門の設備で調べなければそれも出来ないだろう。何しろジュエルシードによる改変だ、どうなっているかは想像も付かない。
(まぁ、私の考えすぎという説もある……というかそうであって欲しいけどな)
 勿論、夜天の書の改変云々ははやての過剰な警戒という説もある。だが、闇の書事件の当事者であるはやてがそれを警戒するなと言うのも無理だろう。
 どちらにせよ、夜天の書に関しては何処か専門の施設で安全を確かめる必要がある。運が良ければアジトでそれを行える可能性はある。

273 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:03:15 ID:GPV1PITo0

(まぁ、そのアジトが何事も無く使えるとも思えないのが問題やけど)
 今現在はやて達はアジトでスバルの仲間と合流する事が目的となっていた。同時にかがみにその人物と会わせてかがみを説得し改心させる手筈となっている。
 正直それがそのまま上手く行くとは思えなかった。そもそもスバルの仲間が無事にアジトに辿り着いている保証もないし、そのアジトが危険人物によって潰されている、もしくは牛耳られている可能性もある。
 仮に以上の問題が無くてもかがみの説得が上手く行くとは思えない。大体、スバルとヴァッシュは何をもって改心出来ると確信しているのだろうか?
 話せばわかるという単純かつ馬鹿な理由もあるだろう。だが、幾らスバルでも何の考えも無しに危険人物と他人を遭遇させるなんて考えない筈だ。つまり、高確率で説得出来る相手がいるという事だ。
(真っ先に考え付くのは家族……けど、彼女の家族らしき人物は死亡している……となると友達か?)
 はやてはその人物がかがみの友人だと推測した。ヴァッシュが名前を聞いていなかった為その人物が誰か全くわからないわけだが。
 では、説得は可能なのだろうか? 確かに説得出来る可能性は0ではない。しかし成功する可能性も100ではないのだ。
 スバルやヴァッシュと言った参加者を陥れる様な危険人物だ、説得された様に見せかけて隙を見せた所を一網打尽にする可能性が高い。
 それでも説得を繰り返すという理論もあるだろうが正直人の生死が懸かっている以上そんな余力は全く無い。たった1人の危険人物を改心させる為に何人もの貴重な戦力を減らす意味など無い。
(けどなぁ、絶対に私の方が間違っているって言われるに決まっているからな……)
 客観的に見ればはやての考えはある種正しい。しかし、スバルやヴァッシュははやての考えを否定し危険人物も絶対に殺したりはしないだろう。
 同時に恐らくはなのはやユーノもスバル達の考えを指示するのは想像に難くなく、かつてのはやてもスバル達の考えを指示していただろうというのは自分でも理解している。
 つまり、危険人物だからと言ってかがみを排除する事は現状難しいという事だ。かといって、説得が成功する保証も無く、どちらにしてもはやてが望まない展開となる可能性が高いとなる。

(胃薬が欲しくなってきたな……)







「……んでだよ……なんでアイツが……」
 そんな中、はやての傍で声が響く。
 声の主は融合騎である烈火の剣精アギトだった。ヴィータの死後ずっと彼女の死を悲しみデイパックの中で泣いていたのだ。
 いや、それだけではなく先の放送で彼女の仲間であるゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノの死亡も伝えられていた。そのショックから完全に抜け出せてはいなかったのだろう。
 故にはやては現状アギトに関してはこのままにしていた。だが、そのアギトがいきなり口を出してきたのだ。
「少し黙っていてくれるか、今色々考えて……」
「おい、はやて! 何でアイツを連れているんだよ!」
「……アイツってどっちや? ヴァッシュさんか? それともかが……」
「紫の髪した女の事だよ! 見てわからねぇのかよ!」
 紫髪の女といえばかがみの事だ。アギトの口ぶりが確かならかがみと何処かで面識があったというのだろうか?
 そういえばヴィータと合流した時、自分の側の説明はしたがヴィータ側、特にアギトの事情はあまり深い所まで聞いていない事に今更ながら気が付いた。
 いや、そもそもアギトは最初からヴィータと同行していたのかも不明瞭だ。最初に接触した時には見かけなかったからだ。
 何にせよ、アギトが何か知っている可能性が高い。
「なぁ、紫髪の女が何かしたんか?」
「アイツが……○○○○を殺したんだ!」
「なん……やって……」

274 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:06:15 ID:GPV1PITo0







 その一方、ヴァッシュもある事を考えていた。
(どっかで会った気がするけど……)
 そう、ヴァッシュ自身、はやてを見た記憶があったのだ。しかし、ヴァッシュ自身それに関して強い確証が無かったのである。

 結論から言えば、ヴァッシュ自身はやてと面識は全く無い。しかし、はやてとその家族についての記憶は確かにあったのだ。
 思い出して欲しい、今のヴァッシュは自身の兄であるミリオンズ・ナイブズと融合している事を。
 融合した際に彼の記憶と動向をヴァッシュは把握した。この殺し合いでなのはを含む4人を殺した事を、そして元の世界での彼の記憶をだ。
 そう、この殺し合いに連れて来られる直前のナイブズの記憶もまた例外ではなかったのだ。
 ヴァッシュがなのはに保護されたのと同様に、ナイブズもまたはやてに保護されていた。その際に彼女の家族であるヴィータ達とも出会っていたのだ。
 では、何故ヴァッシュは確証を持てなかったのだろうか?
 まず、記憶のはやてとこの場にいるはやてが似ていたとはいえあまりにも違いすぎたのだ。ここにいるはやては20歳の女性、記憶の中のはやては9歳の車椅子の少女なのだから。
 また、そもそもナイブズがはやてに保護されてという記憶がヴァッシュにはある意味現実味が薄かったのだ。ナイブズが何度と無く人間を虐殺するのをヴァッシュは見ていたのだから。
 そして、融合以降約10時間前後力の暴走とそれによりフェイト・T・ハラオウンを殺したショックからヴァッシュ自身それどころでは無くなっていた。
 以上の事からヴァッシュははやての記憶を持ちながらもそれについての確証が持てなかったのである。

 とはいえ現状それは大きな問題ではない。いち早くアジトに向かい背負っているかがみをスバルの仲間に会わせる事が今の最優先事項だ。

 と、気が付いたらはやてよりも数十メートルも先行していた事に気が付いた。
「ちょっとー!!」
 最初の放送直後、ヴァッシュは自身のデイパックを奪われており以降地図も磁石も持たずに行動していた。その為、はやての道案内無しにアジトへ向かえる道理は無い。
 ともかく、ヴァッシュははやての所に戻り、
「はやて! ……ってあれ?」
 口を出そうとしたが、はやての傍に見慣れない小人がいた事に気が付きあっけに取られた顔をした。
「あ、すみません、ちょっと考え事していたんで」
「それはいいけど……って君は?」
「あたしは……」
「ああ、この子は仲間のアギトです。それよりヴァッシュさん、少し貴方とお話したいんですけど」
 はやての口から発せられたのは情報交換の提案だ。
「え、でもそれはアジトに行ってからゆっくりやれば……」
 確かにアジトまではそう遠くない。ここで無理に行わずともアジトに付いてからスバルの仲間を交えて行えば済む話ではある。しかし、
「ここ数時間殆ど休みらしい休みを取ってないんです、ヴァッシュさんもホテルでの戦いから休んでないですよね? 休憩がてら貴方の事情を聞きたいんやけど。
 それにアジトについてすぐに戦いになる可能性も否定出来ません。万全な状態にしておくべきやと思いませんか?」
「うーん……」
 はやての言い分は理解出来る。しかしヴァッシュとしては一刻も早くアジトへ向かい、かがみをスバルの仲間に会わせたかった。故に素直に提案を受け入れられなかったが、
「こう言っては失礼かも知れませんけど、私は貴方を完全に信じたわけやないです。仲間達の命が懸かっている以上、信用出来ない相手に背中を任せるわけにはいきません。
 勿論、全部話してとは言いません。知り合いやこの場に着てから何をしてきたかを話してくれればそれで良いです」
「……わかった」

275 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:07:00 ID:GPV1PITo0







 まず、ヴァッシュは自分が管理局に属していてこの場に大切な仲間達がいる事を説明した。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、ユーノ君とクロノ君……1つ確認したいんですけど、なのはちゃんとフェイトちゃん何歳ぐらいでした?」
「確か10歳ぐらい……って、はやての口ぶりだとなのは達を知っている様に聞こえるんだけど」
「それについて後ほど、とりあえず続けて」
 はやての言葉が気になるもののヴァッシュは説明を再開した。更に、危険人物としてナイブズが参加している事を説明した。
 まずヴァッシュは最初にアレクサンド・アンデルセンと出会い彼と行動を共にしていた事を話した。アンデルセンの話ではアーカードが危険人物でティアナ・ランスターがアーカードによって吸血鬼になったという話である。
 ちなみに、はやて達は既にアーカードが死亡している事を知っているがそれに関してはヴァッシュに伝えなかった。
 その後、2人は家族を守る為に殺し合いに乗っていたアンジールと遭遇し彼を無力化した。そしてアーカードの放送が響き渡りその場所へ向かったが――
「(そうか、あの時乱入したのがアンデルセンだったんだな……)ん、でアンタはアーカードの所に行ったのかよ?」
「いや……」
 ヴァッシュはアンデルセンを見失い、その後ナイブズの存在を察知し彼を止める為、アンジールを近くのビルに置いて1人その場所へ向かったが――
「アイツは死んでいた――」
 その後、気が付いたら何者かに襲われ左腕を斬り落とされ――
「じゃあその左腕は何なんです?」
「信じられない話かも知れないが聞いてくれ――ナイブズが俺の左腕になった――」
「1つになった……っていう解釈で良いんですね?」
「……って、妙にあっさり受け入れている!?」
 確かに驚きではあるし詳しくは聞きたい所だ。しかし今はそこの説明に必要以上の時間を取られるわけにはいかない。最低限把握出来れば十分なので、話を進める事にした。
「こういう事には慣れていますから。で、その後どうなりました?」
 ヴァッシュの口調は重いものの話は続けられた。
「アイツと一つになった事で宿った力を僕は制御出来なかった……それで……フェイトを殺した……」
「そう……ですか」
 その後、自身の制御出来ない力に他者を巻き込まない様に彷徨い神社へ辿り着きそこで新庄・運切と出会った。
 新庄を死なせまいと離れる様に言ったものの彼はそれを聞かずヴァッシュの傍にいたのだ。
 そして2度目の放送の後、雷を放ち自らを神と名乗る男が2人を襲撃してきた際にヴァッシュ自身が制御出来ない力で彼を殺しそうになった事があった。ヴァッシュは名前を知らなかったがその特徴はエネル以外に有り得ない。
「な……エネルに勝ったというんか……」
 その後、新庄がエネルを監視する名目で同行し、ヴァッシュは新庄の為に禁止エリアとなっていた神社から離れた。
 そして気が付いたら海に落ち、海から上がった後、アンジールと再会した。
 忌まわしき力はアンジールを殺さんと暴走したものの、アンジールのお陰で遂に暴走は収まった。
 その後、ヴァッシュはホテルへ移動しそこでかがみと出会ったのだ。その後、スバルと遭遇した際に放送が鳴り響き、新庄の死のショックで再び左腕が暴走しスバルと交戦する事となった。そして――
「……何とか暴走が収まりスバルと落ち着いて話そうと思ったらかがみと始が来て混戦状態になったわけですね……ちょっと整理しに行って良いですか?」

276 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:08:00 ID:GPV1PITo0







 はやてとアギトはヴァッシュから少し距離を置き、
「はやて……どうするんだ?」
 ヴァッシュの人格そのものに関してはアギトも信じて良いとは思っている。だが、左腕が暴走した際の危険性は否定出来ない。
「確かに暴走は怖い……けど、その実力は確かやし性格に関しても十分すぎるぐらいのお人好しや。あのエネルを殺せるのに殺さへんかった事からもそれは明らかや
 (そのお人好しさ加減のお陰で誰か死なせているけどな。十中八九新庄を殺したのはエネルや、全く……あの場で仕留めてくれれば良かったんに……まぁ、その場合ヴィヴィオを相手にせなあかんかったけどな)」
「そんなにエネルってヤバイのかよ?」
「アギトはデイパックの中にいたからよくわからんかも知れんけど、あそこの雷全部アイツの仕業や」
「確かに厄介そうだな……」
「暴走さえ除けば十分信頼出来ると思う」
「はやてがそう言うんだったらいいけどよ……」
(それに……幾つか面白い事も聞けたからな)
 その1つがアンジールの存在だ。アンデルセンはヴァッシュと出会う前にアンジールと交戦していたらしい。詳しい事情は不明だがアンデルセンがアンジールの家族に害を及ぼすという話なのだ。
 ここで、はやてはある話を思い出す。クアットロがこの場に来て神父らしき男に襲われたという話があった。その神父がアンデルセンである可能性が高い。
 彼女を助ける為にアンジールが現れアンデルセンと交戦した可能性があるという事だ。何の為に? それはアンジールからみてクアットロが家族だからだろう。
 それを裏付ける証拠として、アンジールは青いスーツの女達を探していた。これは言うまでもなくクアットロ達ナンバーズだ。故に、アンジールから見てクアットロ達は家族という事になる。

(けど、これだけやと根拠として弱いな……)
「そうだ、アンジールと言えば……」
「何かあったんか?」
「ああ、もう1人のお前殺していたぜ」
「って、見ていたんか!? そういう大事な事は先に言えや!」
「そんな余裕無かっただろ……」
「ていうか、ヴィータ何してたんや……」
「その時、セフィロスのデイパックの中だったんだよ。そういやアンジールとセフィロス知り合いみたいだったな」
「それ本当か? そうか、それなら……」

 アギトの話からはやてはある仮説を立てた。
 クアットロがアンデルセンに襲われた際、アンジールがクアットロを助けアンデルセンを退けた。
 その後、クアットロはアンジールを利用して参加者を殲滅しようと目論んだ。故にはやて達に対しアンジールの存在を伏せておいた。
 そして、クアットロがはやてを斬り捨てた際に強気だったのは、セフィロス対策にもなる確実な味方のアンジールがいたという事になる。
 勿論、これは推測でしかない。しかしこれまでの証言からその可能性は高いだろう。
(となると、アンジールは敵ということになるな。クアットロと敵対する以上交戦は避けられん……)

277 Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:08:45 ID:GPV1PITo0







 話し合いを終えたはやて達がヴァッシュ達の所に戻って来る。
「フェイトちゃんを殺した事に関しては決して許される事やないです。それが貴方の意志によるものやなかったとしてもや」
「ああ……それは……」
 ヴァッシュがフェイトを殺した罪の重さは今もヴァッシュは決して忘れない。
「せやけど……本当に悔やんでいるんやったらその力を……今度は人々を守る為に使ってくれませんか?」
「はやて……」
「だから約束してくれませんか、もう二度と決してその力を暴走させへん事を」
「……わかった」
「それなら貴方を仲間として迎えます。なのはちゃん達と力合わせて何とかこのゲームを止めましょう」
「ありがと……ん、ちょっと待って、はやての口ぶりだとなのはが生きている様に聞こえるんだけど……?」
 それは有り得ない。放送で名前も呼ばれていたし、ナイブズがなのはを殺す記憶をヴァッシュは見ている。だが、
「18時の放送でもフェイトちゃんの名前が呼ばれていた事に気付いてました?」
「えぇ!?」
 ホテルでの放送の時、新庄の名前が呼ばれた時点でヴァッシュの思考が停止していた為、フェイトの名前が呼ばれていた事を知らなかった。というより、フェイトの名前が呼ばれたのは12時の放送だった筈だ。一体何を言っているのだろう?
「名簿になのはちゃんとフェイトちゃん、私の名前が2つずつ乗ってます」
「そういえばそうだった様な……」
「それにですね、私の知り合いのなのはちゃん達も20歳ぐらいなんです。これらから考えて、私らは異なる平行世界から連れて来られているって事になるんです」
「あ、成る程」
 ヴァッシュ自身、なのは達にいる地球が自分の元々の世界の地球とは異っていた事を把握していた事から平行世界に関しては容易に理解出来た。
「せやから、此処にいるなのはちゃん達がヴァッシュの知る彼女達とは限らないという事になります。とはいえ、絶対に無いとは言い切れないし、別世界の別人だからってみんなの命を守る事に変わりはないですけどね」
「ああ」
 そう、仮に異なる平行世界の存在だとしても、なのはがナイブズに殺され、フェイトを自分が殺した事実に違いはなく、同時に守るべき命である事に変わりはない。結局の所、ヴァッシュにとってはさほど重要な問題ではないのだ。







「それじゃあ暫くアギトと色々話してくれますか?」
 と、アギトがヴァッシュの方へ移動する。
「ん? どういうこと?」
「私はちょっとその子と少し今後の事について『お話』しようと思いまして」
 つまり、はやてとかがみの2人きりにして話をするという事だ。
「ちょっと待ってくれ、それこそアジトに行ってからでも」
「いや、今のこの子は誰彼構わず憎しみをぶつけてきます。そんな状態で彼女の友達と会わせて取り返しのつかない事になっても困る、せやから彼女を落ち着かせた上で事情を一度説明しておこうかと思いまして」
「成る程……だったら僕も」
「ダメです、ついさっきまで命のやり取りしていたヴァッシュさんやったら彼女も警戒します。

 それに……女の子同士やないと話せない話もあると思いません?」

 その妖艶な笑みを浮かべるはやてに対し、
「そ、そうだね……」
 素直に頷くしかないヴァッシュであった。そしてヴァッシュの背からかがみが降ろされ、
「そうそう、これをどうにかしないと」
 と、彼女の首にかかっていた千年リングを外した。
「そのリングがどうしました?」
「ああ、スバルの話じゃこのリングに宿る人格がかがみをここまで追い込んだらしい。乗っ取られたりしない様に気をつけて処分してくれって言っていた」
 それを聞いたアギトが不思議そうな表情をしていたのをはやては見逃さなかった。
「ヴァッシュさんが乗っ取られたら困るんですけど大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。絶対に乗っ取られたりなんてしないから!」
 力強い声でそう答えた。そして、はやてがかがみを背負い、
「それじゃ、決して覗いたりなんかしない様に」
 そう言って、深い森林の奥へと消えていった。

「はやて……大丈夫か……」
「大丈夫だって、リングも手元にあるから」
「(そうじゃねぇんだよ……)」
「あ!」
「何かあったのかよ」
「いや、ちょっとはやての喋り聞いていたらアイツの事を思い出しただけだから」
「アイツって誰だよ……」
 ヴァッシュの脳裏には関西弁を喋る牧師の姿が浮かんでいた。

278 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:13:30 ID:GPV1PITo0
「おははひって……はひもははふほほはんへはいはほ!」
 はやてによって拘束されたかがみははやてに対しまくし立てる。
「ああ、流石にこの状態じゃ何も答えられんな」
 と言って、かがみの口から下着を取り出す。
「こんな事やって只で済むと思っ……」
 その瞬間、かがみの首に憑神刀が突き付けられる。
「助けを呼ぼうとしても無駄や、周囲には誰もおらんし仮に誰かが来るとしてもそれより早くあんたの命が終わる……少しでも長生きしたいんなら大人しく『お話』しようや」
 その表情からかがみはこの女が本気だと思った。

「お話って言われてもアンタに話す事なんて何もないわよ……殺してやる……」
 人を全裸にして下着を口に詰める様な変態に話す事はない。そう答えるかがみだったが、
「ところで、さっき青い髪のロングヘアのあんたぐらいの女の子殺したんやけど」
 そんな人物などかがみの知る限り1人しかいない。
「なっ……あんたこなたを殺したの!?」
「ほう、こなたっていうんか。そうか……」
「許さない……」
「ああ、ちなみに今の嘘や」
「え!?」
 この女はさっきから何を言っているのだろうか? 何故こなたを殺したという嘘を吐くのだろうか?
「実は、今私達は移動していたんや。あんたを説得する人物のいる場所にな」
 はやてはかがみに彼女を説得出来る人物がいるスーパーへ移動中だという事を話した。
「あんたを説得出来るという話やから多分あんたの友人って事まではわかったんやけど名前がわからなかったからこうやって聞き出したわけや。普通に聞いても答えへんと思ったからな」
 ちなみに、こなたの外見についてはヴァッシュがホテルへ移動する最中、スバルを見かけた際にこなたらしき人物も一瞬だが見かけていた為、それを聞く事で把握出来た。

「このタヌキ……」
「褒め言葉やな」
(なんなのよコイツ……それに、何処かで会った様な……)
 はやてを何処かで見た記憶があった。しかしそれが何処かまでは思い出せないでいた。

「1つ聞きたいんやけど……こなたが殺し合い止めてくれって言ってくれたら殺し合いやめてくれるんか?」
「はぁ!? そんなのやめるわけないでしょ!」
「友達が説得しても応じるつもりはないって事か?」
「どうせ別世界のこなたでしょ、関係なんて無いわよ!」
 そう、スバルに何度も話した通り、ここのこなたは別世界の他人。友達でない以上言う事を聞く必要は全く無い。
「そうか……そういうか……ははっ……」
 はやての笑いが何処か恐ろしいものに見えた。
「で、何人殺した?」
 と、憑神刀を突き付けながらかがみにそう問いかける。
「覚えてないわよ、誰を何人殺したかなんて」
 そう答えた瞬間、はやてが怖い顔をして、
「……答えろや、答えなかったらその首斬り落とす」
 そう言い放つはやてに対し、かがみはゆっくりと口を開く。
「エリオと眼帯の女の子……後は覚えていないわ……」
「そうか……じゃあ、質問を変えようか。あんた……ここに来てからどうやって殺し回ってきた?」
「は?」
「この場に来てから何をしてきたかって聞いているんや、覚えている範囲全部答えて貰う」
「だから覚えていないって言って……がばっ!」
 腹部に蹴りが叩き込まれた。
「頭悪いな……覚えている範囲と言ったやろ……」
 と、はやては右手で憑神刀を構え左手で下着ごとかがみの口を押さえ込み――

 そのまま両足首に憑神刀をなぞらせた――

「がばぁぁぁ!」

 両足首に激痛が奔る、叫びたかったが腹の痛みと口を押さえられていた事により声にならなかった。

「本当に良く斬れるな」
 かがみの両足首からは血が流れている。アキレス腱が切断されたのだ。そして口から下着を持った手が離れ、
「あ……あんた……」
「これで私がスバル達みたいなお人好しと違うって理解出来たな。あんたが下手な事すれば今度はその首が飛ぶで」
「わかったわよ……」
 勿論、かがみ自身最後には死ぬつもりだった。だからこのまま突っぱねても別段問題はない。
 しかし、この女を殺さなければ気が済まない、故に今は従うしかない。後で絶対にコイツを殺してやる……そう考えかがみはこの場に来てからの事を語り出した。

279 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:14:15 ID:GPV1PITo0







 まず、殺し合いに放り込まれたショックから自分を保護しようとしたエリオを撃った。
 その血から自身の支給品にあった仮面ライダーに変身出来るカードデッキに宿る蛇の怪物が現れエリオが喰われた事を話した。

「どうせ、エリオも後で私を裏切るつもりだったんでしょ……今となっては後悔なんて無いわ……」

 その後、自殺しようとした所を友人だったなのはに助けられたがなのはは自分の事を知らないと言い放ち裏切った。
 そして今度はクワガタの怪物が現れ自分に襲いかかった。死にたくなかった自分はなのはの支給品にあったベルトを使い黒い仮面ライダーに変身した。
 その後の事はあまり覚えていない。その後暫くは2つの変身ツールを使い無差別に暴れ回った事は覚えている。その過程で誰か殺した奴もいたかもしれない。

「そうよ、なのはが悪いのよ! 私を裏切ったなのはが!!」

 気が付いたら今度はLと名乗る男に拘束されていた。何とか逃げだしたものの奪われたデッキのモンスターに追われ殺されかけた。

「私は悪くない! 悪いのはLよ!!」

 その後、万丈目準に保護されたが今度はその万丈目に参加者を餌にしなければ自分が喰われるカードデッキを押しつけられたのだ。

「バクラが言ってた通りアイツは悪人だった! 私はまた裏切られたのよ!!」

 続きを話そうとしたかがみだったが、

「ちょっと待て、1つ確認したいがバクラってのはもしかしてリングの中に宿った人格の事か?」
「それがどうかしたの?」
「もう1つ、あんたがリングを手に入れたのは万丈目に会った時って事でええな?」
「ええ、バクラも万丈目には困っていたわ。そういえば眼帯の女の子を襲ったって言っていたわ」
「そうか……続けてくれ」

 制限時間の迫ったカードデッキの餌を探そうとする中、ある男を餌にする為襲撃したが、その男は銀色の戦士メビウスに変身しモンスターが撃破された。
 そしてモンスターを倒され力を失い逃げた所、Lに奪われた荷物を見つけ回収した。その中にはカードデッキはあったがもう1つのベルトは無くなっていた。

「あんたまさかまたそれ手にしたって言うんか?」
「そうよ、他人を殺す為には力が必要でしょ」

 その後、ホテルで休憩をとりデュエルアカデミアに向かいスバルと出会った。
 その際にスバルから参加者が異なる平行世界から連れて来られている事を知り、こなたやつかさも別の世界から来ている事を知った。
 故にこなたやつかさも殺しても問題ないと考え、まずはスバルをモンスターの餌にしようとしたがその時に眼帯の少女を喰った。
 スバルとの交戦後、昇る煙を見てレストランに向かい、黒いライダーと緑の怪物の2つの姿を持つ男と、浅倉と戦った。
 その時にカードデッキは浅倉に奪われたもののどういうわけかは不明だが緑のライダーに変身する為のベルトを手に入れた。
 そして再びホテルへと向かったが、そこで浅倉によって再びレストランの方に連れて行かれ――

「浅倉が目の前でつかさを……! アイツ……私が殺してやるはずだったのに……!」

 そして再び浅倉と戦おうとしたが気が付いたらホテルに戻っていた。その後ヴァッシュと出会い、彼にスバルが危険人物だと伝えスバルと戦わせようとして――

「で、始とあんたを交え4人で戦った所、あんたは敗れて今に至るってわけか」
「とりあえず覚えている事は全部よ……」
「最後に1つ確認してええか、あんたは自分の行動を悪いと思っているんか?」
「は!? そんなわけないでしょ! 悪いのはなのはやL、それに万丈目や浅倉、それにスバル達よ! アイツらが私をこんな目に――」
「そうか」
「あんたの知りたい事は全部答えたわ、さっさとこの拘束解きなさいよ!」

 拘束を解いた隙を突いてデイパックを奪い、逆に仕留める。ダメージは大きいが喉仏に噛みつくと言った手段はまだ使える――そう考えていたが、

280 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:15:00 ID:Ij..ItUo0



「ああ、わかった――」



 と、再度下着でかがみの口を塞ぎ――今度は手首に憑神刀をなぞらせた



「――――――!」



 声にならない叫びが漏れた。両手首の腱を斬られた激痛から、何時しか股間からは黄色い液体が流れていた――



「あんたが救いようのない阿呆餓鬼ということがな――」



 口から下着を持った手を離したはやての声は変わらず冷たいものであった――そして再び腹部に蹴りを入れる。



「な……何を……」
 かがみの両手首と両足首からは血が止めどなく流れており、目からは涙が溢れている。声を出そうとしても大きな声は出せないでいる。
「今更理解出来るとも思えへんけどな……教えてやる。全部が全部と言うつもりは無いが、あんたの行動の殆どは決して許されん悪行や」
「違う……私は悪くない……悪いのは……」
「エリオもなのはちゃんもあんたを救おうとした、その善意をあんたは裏切ったんや! 不可抗力によるものもあったんやろうけど、後から幾らでも悔いる事は出来た筈や!」
「違う……あの2人は私を……」
「違わない! 私はあんた以上にエリオもなのはちゃんも知っている! あの2人があんたを陥れる事なんてありえへん!」
「違う……」
「Lにしてもそうや、その前にあんたずっと暴れていたんやろ? 危険人物として拘束して当然や。まぁ、保護の為にモンスターを使って追わせたのは完全な失策やったけどな」
「そんなわけない……」
「万丈目に関しては完全な嵌められたといえるが……けど、あんただって同じ事考えていたやろ。万丈目を餌にしようと考えていたんと違うん? それがわかっていて素直に餌にされるアホもいないと思わん?」
「それは……」
 確かにかがみ自身万丈目を餌にしようとはしていた。だがそれは万丈目が悪人だったからだ、少なくても自分は悪くない筈だ。
「それからメビウスっちゅう奴にモンスターを倒された時点で自分が喰われる危険から解放されたんやろ、なのになしてまたそんな危険の漂うデッキを手にするんや?」
「殺さなきゃ生き残れないからよ……」
「で、スバルはあんたを保護しようとしたにも拘わらず……あんたはそれを裏切り殺そうとした。スバルが何時あんたを裏切った?」
「これから裏切るつもりだったのよ……そうに決まって……」
「スバルの事も知らんで偉そうに語るな馬鹿が! 今度はヴァッシュを騙してスバルと戦わせたっちゅうんか? 本当に救いようのない極悪人やな!」
「違う、ヴァッシュも私を裏切……」
「最初から決めつけてかかっていたんやろ。警戒するなとは言わんがあまりにも凝り固まり過ぎや……」
「違う違う違う……」
「もしかしたらバクラに騙されていたという可能性もあったわけやけど……あんたの口ぶりからそれはなさそうやな」
「それは……」
 確かにバクラは他人を殺す為のサポートを続けてくれた。しかし、覚えている限りバクラは自分を助けてくれただけで重要な決断の殆どは自分がしていた。







「本当に救われんな……こんな阿呆餓鬼にシグナムが殺されたなんてな……」
「シグナ……まさか……」
 この瞬間、かがみはシグナムを殺した時の事を思い出した。確かに桃髪の剣士を仕留めた覚えがある、そして目の前の女がシグナムと呼んでいた様な気がする。しかし何かがおかしい――
「そうや……あんたがベルトの力で暴走している時に殺したのが私の大事な家族のシグナムや!」
「違う……あれはベルトの……」
「そのベルトなら私も一度確認した。説明書さえ見ればそれがどんだけ危険なものかわかる。そしてベルトを身に着けたのはあんたの意志によるもの、暴走なんて言い訳は通用せん」
「私は悪くない……私は……」
「そういってスバルやなのはちゃんの良心に付け込んでまた騙すつもりか? いい加減にしろ! 例えどんな理由があってもあんたが私の家族を殺した事に変わりは無い!」
「くっ……そうよ、どうせシグナムって人も別の世界の人間に……」
「それはひょっとしてギャグで言っているのか? あんた、自分の家族や友人が殺されたと言われた時キレていたやん。別世界の人物だって言っておきながらな。
 その一方で友達とか家族とか言った時は別世界の人物だから関係ないって……自分に都合の良い解釈も大概にしろ!」
「それは……」
「結局の所、あんたは自分を正当化する為にそうやってずっと言い訳し続けて来ただけって事や」
「違う……私は間違ってなんか……」
「それに、別世界のシグナム達であっても私にとっては家族に変わりはない……」
「あんたもそんな甘い事を……」
「甘い……そうやな……せやけど……!」

281 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:17:45 ID:GPV1PITo0





 その瞬間、はやては下着をかがみの口の奥へ押し込み憑神刀で腹部を一瞬で貫いた。





「頭ではどんなに別人だってわかっていても割り切れるものやない……!」
 憑神刀が抜かれた瞬間、かがみの腹部からは血が溢れ出てくる。
「がば……」
 両手足、腹部の出血は大きく、かがみはただもがく事しか出来ない。
「これで終いや……運良く誰か来れば命は助かるかも知れんが……まぁ、死にたいんやったらそれでも構わん……けど……死ぬなら1人で死ね、あんたの都合にこれ以上私等を巻き込むな……」





 そう言い放ち、はやてはかがみの前から去っていった。





 そして、そこには1人、両手足と腹部を切られ、自らの服で拘束された少女が残されていた――





(違う……私は……間違ってなんか……)





 助けてくれる者も無く、少女は未だに自らの過ちを認めずにいた――





 放送まで約1時間――





 時の流れに呼応するかの様に――血と共に彼女の命も流れ――





 それが尽きる瞬間は確実に近付いていた――





【1日目 真夜中】
【現在地 D-1】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】両手首の腱及び両アキレス腱切断(出血中)、腹部に深い刺し傷(出血中)、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】全裸(両手両足をホテルの従業員の制服で拘束、口には下着が詰められている)
【道具】無し
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.私は……悪くない……。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。

282 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:18:45 ID:GPV1PITo0











(全く、これからどうしたものか……)
 バクラの予想通り、スバル達はかがみを殺す事はしなかった。しかし危惧した通りスバルがヴァッシュに自分の存在を伝え処分を頼んだのだ。
 その為、ヴァッシュも警戒してしまい下手に動く事が出来なくなったのだ。
 勿論、かがみの今の状態で動いた所でどうにもならない為、それ自体は問題ない。
 その後、はやてがかがみを連れて何処かへいく際に自身が宿るリングはヴァッシュの手へと渡った。
 これ幸いにと、今度はヴァッシュを宿主にしようかと密かに考えていたものの――
(ダメだ、コイツは救いようの無いお人好しだ)
 ヴァッシュの記憶を把握し、彼が150年もの間人々を救い続けてきた事を知った。その為、宿主にする事はまず不可能と判断した。
 勿論、強引に意識を奪おうとも考えた。だがヴァッシュが普通の人間ではない(実際、人間ではなくプラントなのだが)為、相棒であるキャロ・ル・ルシエ同様抵抗される可能性が非情に高い。
 仮に上手く乗っ取れた所で長くても1時間しか自由に出来ない。その時間が過ぎればその時点で自分は終わりだ。
 はやて辺りを宿主にしようにもヴァッシュが千年リングの危険性を説明した為間違いなく警戒されている。つまり八方塞がりに近い状況という事だ。
(とりあえず、何とか処分されない方法を考えないとな……)
 デスゲームを楽しんだは良いが自分は消えましたではシャレにならない。まずは自身が生き残る事が最優先、バクラはそう考え思考を巡らせていた。ちなみに既にかがみの事など思考にはない。





 はやてとかがみが密林へ消えた後、アギトはヴァッシュと話していた。
 アギトはルーテシアとゼストの動向をヴァッシュに聞いていたものの、ヴァッシュ自身2人を見かけたかどうかはわからないと答えていた。
 ヴァッシュによるともしかしたら自身の力の暴走に巻き込んだ可能性があるとも語ってはいるが――アギト自身口にはしないもののそれは無いと考えていた。
 ヴァッシュが善悪関係なく人々の命を守ろうとしているのはアギトでも理解出来た。そんな男が自分の力で生み出された死体を見つけたらそれを忘れる事はないだろう。
 勿論、ヴァッシュの見えない所でという可能性はある。しかしそれを確かめる事はまず不可能、故にアギトはヴァッシュを責めるつもりは全く無かった。
 少なくてもある程度信じても良い、アギトはそう考えていた。

 しかし、そんなヴァッシュを裏切ろうとしている事にアギトは胸を痛めていた。
 はやてがかがみにしようとする事をヴァッシュが知れば絶対に止めに入る。それを避ける為、アギトはヴァッシュと会話しながら時間を稼いでいたのである。

 はやてがかがみを殺してシグナムの仇を討つ、アギトはそれに手を貸していたのである。

283 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:20:45 ID:GPV1PITo0



 そもそもの話、ゼストやルーテシアの死、そしてヴィータとの別れの悲しみから数時間は動けなかった。
 それでも、遠くから聞こえる雷鳴を聞いている内に何時までも悲しんではいられないと思った。
 ゼストやヴィータ達がそれを望まない事は明白だからだ。だからこそ、意を決しデイパックから顔を――
 が、運命の悪戯か真っ先に見えたのはシグナムを殺した紫髪の少女だった。どういうわけかはわからないが彼女を連れている事はわかった。
 シグナムを殺した奴がのうのうと生きている――アギトの中でやりきれない想いが込み上げてきた。
 だからこそ、その事をはやてに伝えた。かがみという名前だったがそんな事はどうでも良かった。
 だが、結局の所アギト自身はどうしたかったのだろうか?
 少なくてもこのアギト自身にしてみればシグナムが死んだ所で仇討ちをする義理は無い。確かに悲しみは感じるがそこまでする様な関係ではない。
 大体、復讐や仇討ちなどゼストの正義とは真逆ではなかろうか。そう、頭ではそれはわかっていた。
 だが、仮に目の前のゼストやルーテシアを殺した相手を見つけて――同じ事が言えるだろうか? アギトにはそれが言えなかった、最低でも何故殺したのか位は聞かなきゃ収まらない。
 だからこそ、ヴィータがシグナムを殺したかがみを殺すと言った時もアギトはそれを咎めようとはしなかった。別段親しいわけでもなかったがヴィータの悔しさは十分に理解出来たのだ。
 のうのうと生き延びているかがみの姿を死んだヴィータが見たらどう思う? きっと悔しい想いをしているだろう。アギトにはそれが辛かった。
 しかし、別にシグナムと関係のないアギト自身にはかがみどうこうする資格はない。だからこそ全ての判断をシグナムの主であるはやてに委ねたのだ。
 はやてが許すならそれで良し、仇を討つならそれでも良しという事だ。
 そして、その結果がこれである。

 わかっている――ある意味ではゼストに対する裏切りである事は――
 それでも――ヴィータやシグナムの無念を晴らしたいというのは混じりっけのない本心だった――





 バクラやアギトの思惑に気付くことなくヴァッシュははやて達を待った。
 はやてがかがみを宥めてくれればスバルの仲間と会わせる事で説得は上手く行く――そう信じていた。
 ヴァッシュははやてがスバル同様、殺し合いを良しとしない人物だと考えていた。
 スバルの上司だからというのもあったし世界が違ってもなのは達の仲間だからだ。
 だからこそ、ヴァッシュははやての行動の真意に気付けなかった――そして、

284 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:21:30 ID:GPV1PITo0







「はぁ……はぁ……」



 深い森から出てきたのは胸から血を流したはやてだった。その様子を見た2人が駆け寄り、アギトははやての方へ移動する。
「なっ……どうしたんだはやて!? それに……」
「すみませんヴァッシュさん……かがみが急に暴れて……逃げられました……」

 はやての話によると意識を取り戻したかがみにアジトにいるスバルの仲間にしてかがみの友人であるこなたと会わせる話をした瞬間、かがみは暴れだしはやてに傷を負わせたという事だ。

「多分、アジトへ向かったんやと思います……急がんとこなたが……」
「はやては大丈夫なのか!?」
「大丈夫、前に受けた傷が開いただけですから……」
「かがみ……君は……」




 ヴァッシュは2人だけにするんじゃなかったと悔やんだ。しかし今はそれは問題ではない、かがみがアジトへ向かった以上こなたが危ない。
 素手でもその気になれば人は殺せる。それを阻止する為にも急がなければならない――

 誰も死なせない、殺させない為に――





【1日目 真夜中】
【現在地 D-9 森林】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(中)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.スカリエッティのアジトへ急行しかがみの凶行を止める。
 2.かがみをこなたに何事もなく会わせる。
 3.こなたに出会ったら、スバルからの伝言を伝える。
 4.首輪の解除方法を探す。
 5.アーカード、ティアナを警戒。
 6.アンジールと再び出会ったら……。
 7.千年リングには警戒する。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている可能性を把握しました。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.そろそろ宿主サマを変えたい、しかしヴァッシュは利用出来そうにない。
 2.千年リングを処分されない方法を考え実行する。
 3.キャロが自分の世界のキャロなのか確かめたい。
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。
※ヴァッシュを乗っ取る事はまず不可能だと考えています。

285 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:22:30 ID:GPV1PITo0





 ヴァッシュがアジトの方角へ視線を向けているのを見てはやては自分の作戦が上手く行った事を確信した。
(よし……これで自分がかがみを襲ったとは思わないな……けど油断は禁物や)

 何度も書くが、はやてはかがみの説得は難しいと考えており何とか排除したいとすら考えていた。しかし、スバル達と対立を起こす関係もありそれは難しいと思っていた。
 そこにアギトからシグナムを殺したのがかがみという事が伝えられた。
 詳しい事は聞いていないものの、それを聞いた事ではやてはかがみを排除する事を決意した。

 その過程を纏めると以下の通りだ、
 ヴァッシュに休憩と称して情報交換を持ちかける。仮にアジトに着いてからと本人が渋っても、信用出来ないからさせてくれと言えば断り切れない可能性は高い。
 その後、今度はかがみと2人だけで話をさせてくれとヴァッシュに頼む。スバルとの約束からこれまた渋るだろうが、面識のない自分なら警戒されない、女同士でしか出来ないと言えばこれまた納得して貰えるだろう。
 かがみが何も持っていなければ手も出せないだろうし、まさかスバルの仲間である自分がかがみを手に掛けるとは思わないだろう。
 その間、アギトにヴァッシュと話をさせ時間を稼いで貰う、幸いアギトはゼスト達の情報を聞き出したかったせいか素直に従ってくれた。

 と、実は当初の予定では密林の奥でかがみを排除するつもりだったがヴァッシュの話からある事がわかり予定を変更した。
 ヴァッシュの移動ルートを見る限り明らかに不自然な点が見られる。その一例として神社から移動後、海に落ちたという話だ。
 ヴァッシュは地図を持っていなかった為気付いていないだろうが、神社や北端のA-4、海は南端のI-1〜4にある。
 そう簡単に移動出来る距離ではない。仮に移動出来たとしても精神的に疲弊している状態とはいえ海に落ちるなどお粗末すぎる話では無いだろうか?
 この話からはやてはある仮説を立てた、それは『フィールドの両端は繋がっている』という説だ。確かにこの説が確かならAラインの平野からいきなりIラインの海に落ちても不思議はない。

 そう、はやてはこの仮説を利用しかがみを排除する為の場所をD-9を西に越えたエリアである東端D-1にする事にしたのだ。仮説が間違っていれば当初の予定通り密林の奥で行えばよいだけだ。
 調べた所、境界の奥は見た目ではわからない。つまり、ループの先のエリアは越えなければ把握出来ないと言う事だ。これならば万が一ヴァッシュが探しに来てもそう簡単には見つからない。
 それにどうやらヴァッシュはループには気付いていない。まさか遠く離れた東端にワープするなど考えもしないだろう。
 そして、適当な場所にたどり着いたらかがみの服を全て脱がせ隠している武器が無い事を確かめる。勿論、武器が無くても不思議な力がある可能性があった為、決して警戒は怠らない。
 かがみを丸裸にした後、着ていた服で両手と両足を拘束し下手に叫ばれない様下着をその口に詰め込んだ。

 そうして意識を取り戻したかがみから詳しい情報を聞き出し、排除するという算段だったのだ。なお、誰か助けが来そうになった場合はすぐさま首なり心臓なり斬り捨てすぐさま待避するつもりだった。
 ちなみに完全に拘束していたとはいえ反撃はずっと警戒していた。実際、手首を斬る直前電撃が僅かに奔るのが見えた為、その攻撃が来る前に手首を斬る事でそれを封じる事が出来た。

 事を終えた後は、憑神刀等でクアットロに斬られた胸の傷を強引に開き負傷した状態を作りそのまま戻る。
 その後、ヴァッシュ達にかがみに襲われ、彼女はアジトへ向かった可能性があると説明しそのままアジトへ向かうという算段だ。
 こうしておけばヴァッシュ達がかがみを発見する可能性は無いし、アジトにかがみがいなくてもそもそも可能性レベルだったと説明すれば何の問題もない。
 ちなみにかがみにはスーパーに移動中と伝えている為、かがみが回復したとしてもアジトの方へ向かう可能性は低い。

 こうしておけば自分がかがみを殺したとはすぐに気付かれないだろうが、実はバレてもある程度は何とか出来る。
 そう、シグナムの仇討ちとしてかがみを殺したと言えば良い顔はされなくてもある程度は納得してくれる。その算段があったからこそはやては行動に踏み切る事が出来たのだ。

286 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:26:30 ID:GPV1PITo0



 真面目な話、はやてにとってシグナムの仇討ちなどどうでもよかった。別世界のシグナムが殺されようか関係ないからだ。
 だが、かがみと話を進める内にはやての中からどうしようもない怒りの感情が湧き上がってきた。
 勿論それは自分の悪行を全てなのは達他人のせいにするかがみに対する憤りだったのだろう。彼女の為に貴重な戦力を失うのが許せなかったとも言える。
 もしかしたら全てバクラのせいかとも考えたがアギトが不思議がった様子から、アギトが見た時点ではリングが無かった可能性が高い。
 故にバクラのせいではない事は確定となる、もっともバクラのせいだからと言って決して許される話ではないわけだが。
 何にせよ、かがみの言動ははやてを怒らせるのに十分過ぎた、こんな奴の為にシグナム、エリオ、チンクが殺されたというのはあまりにもやりきれない。
 最後に刺した瞬間は理性など吹っ飛んでいたかも知れなかった。


 だがはやてはかがみを殺さなかった。両手首、両足首を斬り、腹部を深く刺したものの命までは奪っていない。出血が激しい為長くは保たないが助かる可能性は僅かに残っている。
 では、何故殺さなかったのか? ボーナスを考えても殺した方が得策ではないのか?


 その理由ははやて自身にもわからなかった。
 別世界のシグナムの仇討ちをする事は自分の世界のシグナムに対する裏切りだから殺さなかったのかも知れない、
 八神はやてが仇討ちをする事などあってはならないからこそ殺さなかったのかも知れない、
 その理由は誰にもわからないだろう。



 しかし、1つ確かな事がある。

(あれは……私や)
 かがみの名が示すかの様に、かがみの姿がはやて自身の姿と重なったのだ。別世界の仲間を別人と割り切った上で平気で裏切り陥れる、はやて自身が嫌悪感を示す程の醜い姿だ。
 その姿ははやて自身にもそのまま当てはまる。かがみの姿を見て、はやてはそれを理解したのだ。
(あの夢で見たみんながあんな目で私を見たのは……まぁ当然やな、私だってそう思うからな)
 先程見た夢で家族がはやてを蔑む様な悲しい目で見た理由を理解した。それは家族を取り戻した後の自分の姿なのかも知れない。
(わかっている……この先には何もないかも知れん……それでもや、それでも私はもう戻れへん……進むんや……)

287 Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:27:30 ID:GPV1PITo0





 行く先に待つのは絶望だけかも知れない。それでも、僅かな希望を信じ、八神家の娘は前へと進む――





(さしあたり考える事は……バクラ、あんたはこの状況でどう動く? ヴァッシュさんを乗っ取るつもりか? それとも――)





【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷(浅め)
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スカリエッティのアジトへ向かい、そこで夜天の書の安全を確かめたい。
 2.バクラを警戒、ヴァッシュを乗っ取るか?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居及び始は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
※夜天の書が改変されている可能性に気付きました。安全確認及び修復は専門の施設でなければ出来ないと考えています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.これで……良かったのか……?
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

288 ◆7pf62HiyTE :2010/07/14(水) 16:30:30 ID:GPV1PITo0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>267-277が前編『Yな戦慄/烈火剣精は見た!』(約29KB)で、>>278-287が後編『Yな戦慄/八神家の娘』(約28KB)です。

今回のサブタイトルも『仮面ライダーW』風……というより今回はちゃんと元ネタがあります。
『仮面ライダーW』第9話『Sな戦慄/メイド探偵は見た!』、第10話『Sな戦慄/名探偵の娘』です。
ご覧の通り、Yは八神はやてのYとなっています(一応夜天でも問題なし)
うん、亜樹子所長殿は平成ライダーでもトップクラスに有能なヒロインだな。

……しかし、今回の描写はアリだったのだろうか? まぁ失禁ぐらいはするだろう。

289 リリカル名無しA's :2010/07/14(水) 20:39:23 ID:qV.5/DlAO
投下乙です
丸裸のかがみ…汗ばんだ下着を口に突っ込まれ、四肢を縛られた状態で放尿プレイか…それなんてエロゲ。不覚にも興奮してしまった自分が嫌いだ。
まあそれはいいとしてついにかがみも現実と向き合う時が来たようで。残り僅かな命、後悔に使うか、それとも…?
それにしてもはやては本当に醜い。自分の醜さを棚に上げて、心にもない癖にシグナムが殺された事を怒りの理由にこじつけるとは。
かがみもはやてもどっちもどっちだが、かがみでこれならはやても大概いい死に方しないだろうな。

290 リリカル名無しA's :2010/07/14(水) 21:18:40 ID:R6D6v9xQ0
投下乙です。
かがみ……ここへ来てついに本当の意味で窮地に立たされたか。
はやてに言われて自分の罪と向き合う機会も出来たようだけど、もう助かるのは無理……かな?
出来ればかがみにはこなたと会って、きちんと話し合って欲しかったけど、今までの行いを考えれば自業自得か。
そして相変わらずはやても汚い。序盤から悪人で通してきて、クアットロに刺された時の住人の反応も
「はやてざまぁ」な空気だったけど、今はあの時以上に悪質さが悪化してる気が……?
さて、バクラはどう出る……? ヴァッシュに持たれたままじゃ完封されたも同然だが……。

291 リリカル名無しA's :2010/07/15(木) 00:27:09 ID:ar4uUecE0
投下乙です
これはえぐい。想像以上にえぐいの来たわw
かがみはこの状況で残りの命をどう使うのか…
これはこなたと鉢合わせは無理…というか会わないで死に別れの方がいいかも
そしてはやては醜い。打算や損得、そして己の醜さを棚上げして相手の非を叩く。俺の嫌いなタイプだ

292 リリカル名無しA's :2010/07/17(土) 17:05:38 ID:dlhSJugU0
投下乙です
かがみ=鏡=自分の姿という比喩は上手いこと嵌っているな
でも醜さレベルだとかがみの方が上だけどw
それにしてもかがみの状態が酷いな……
もう助かる可能性なんてないからいっそのこと誰か書き手さん殺して――ん、現在地D-1って確か……

293 ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:25:20 ID:.DfmzCYc0
お待たせしました。ではこれより、相川始、ヴィヴィオ、エネル、金居、スバル・ナカジマ分を投下します

294 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:26:06 ID:.DfmzCYc0
 ぎん、ぎん、ぎん、と響く音。
 ホテル・アグスタの暗闇の中で、軌跡を描くは眩い火花。
 金属音をかき鳴らしながら、2人の男が戦っている。
 人外の容貌を身に纏い、激しい攻防を繰り広げている。
「ふん!」
「はあァァァッ!」
 片や黒き鎧の男。ハートの意匠を赤く光らせ、鋭い刃を振りかざす者――相川始こと、仮面ライダーカリス。
 片や金色の怪物。二振りの双剣を振り回す、クワガタムシを模した異形――金居こと、ギラファアンデッド。
 きぃぃん、と長い刃音が鳴った。
 鎧のカリスアローが弾かれ、怪物のヘルターとスケルターが襲いかかった。
 ぎんっ、と重い音と共に、カリスの刃がギラファを阻む。
 互いに殺し合うことを決定づけられた、アンデッドのジョーカーとカテゴリーキング。
 血と殺戮の宿命に従う不死の魔物達が、その手に剣を握り、振るい、ぶつかる。
「始さん……」
 そしてその因縁の決戦を、すぐ横から傍観する者がいた。
 スバル・ナカジマ。機動六課前線フォワード分隊所属。
 青い髪をショートカットに切りそろえた、若きフロントアタッカー。
 始を救い、変えた、ギンガ・ナカジマの実の妹。
 その少女が戦場のすぐ傍に立ち、彼らの戦いを見届けている。
(攻め手を焦っている……?)
 人外の魔闘を見据える彼女が、率直に抱いた感想が、それだった。
 始だけではない。相手のカテゴリーキングなる化け物もそうだ。
 この連中の攻撃ペースは、軽い違和感を覚えるほどに早い。
 単調な攻撃を、スタミナを度外視したテンポでぶつけ合っている。
 先ほどかがみと戦っていた時に比べると、カリスの戦闘スタイルは、随分と慎重さを欠いているように見えた。
 そしてそれでもなおその隙を突かれることがないのは、相手の攻めもまた単調なものとなっているからに他ならない。
(そんなに決着をつけたいってことなんですか)
 導き出された結論に、胸が痛んだ。
 恐らく両者は、ここに至るまでに何度か刃を交えたのだろう。
 そしてその度に、何らかの事情で戦闘を中断され、決着をお預けにされてきたに違いない。
 今こそ決着を。
 今度こそここで終わりにしてやる。
 誰にも邪魔されないうちに、今度こそ奴に引導を渡してやる。
 仇敵を倒しきることができず、互いを探し求めるうちに溜めこまれてきた闘争の欲求が、今まさに爆発しているのだ。
 戦場に立ちこめる熱気は、外界からの介入を拒む壁だ。
 もはや何人であろうとも立ち寄れない――そんな錯覚さえ覚えるほどの、熱戦だった。
(それでも、いざという時には)
 ぎゅ、と右手を握りしめる。
 いかに激しい戦いであろうと、いざという時が来た時には、自分が飛び込んで止めなければならない。
 これ以上自分の目の前で、誰かが誰かを殺すのはまっぴらごめんだ。
 ようやく心を重ね合わせられそうになった始が相手ならば、なおさらだった。
 この戦いを見届ける。
 その行く末をよき方向へと導き、始をスカリエッティのアジトへと連れていく。
 今すぐに飛び出すことはできなくとも、それが今のスバルの役目であり、使命だった。

295 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:26:51 ID:.DfmzCYc0


 全く、俺は何をやっているのだろうな。
 何度となく繰り返した自問が、今もまた始の脳裏に響く。
 殺すためでない戦いなど、まるで自分らしくない。
 地球上の全生命種を虐殺するために生まれたジョーカーには、腐臭と返り血こそがお似合いだったはずなのに。
「とぁっ!」
 ぶん、とカリスアローを振るう。
 ヘルターにそれを受け止められ、スケルターによる反撃が迫る。
 ひらりと身をかわし、回避。己が刃を引き戻し、バックステップで後方へと下がる。
 構えた得物の名は醒弓。
 どどどどどっ、と音を立て、光の弾丸を連続発射。
 う゛んっ、と大気の震える音が鳴った。
 ギラファアンデッドを覆うバリアが、フォースアローを全弾防ぎきったのだ。
「オオオオオオッ!」
 だが、無論そんなことは百も承知。
 カテゴリーキングの鉄壁の牙城に、その程度の射撃が通用しないことは理解している。
 なればこそ、この連弾はあくまで牽制。
 相手の動きを抑え、直後の突撃に繋げるための囮。
『CHOP』
 カリスアローへとカードをラウズ。
 シュモクザメの始祖を封印したハートの3――チョップヘッドの効力を発動。
 消費APは600。得られる能力は、腕力強化。
 通常以上の破壊力を上乗せした必殺の手刀・ヘッドチョップの使用を可能とするラウズカードだ。
 駆ける、駆ける、疾駆する。
 己が全脚力を発揮して、ギラファアンデッドの懐へと飛び込んでいく。
 こんな気持ちで戦う日が来るとは思わなかった。
 天音母子でもない何者かの想いのために、こうして全力疾走することになるとは思わなかった。
 こんなことは、死神の仕事ではないというのに。
 ジョーカーであるはずの自分にはまったくもって似つかわしくないというのに。
「ダァッ!」
 それでも今は、かつてほどそれを不快には思わない。
 人の想いの尊さを知った今なら、多少は素直に受け止められる。
 人を守るための戦いも、その人の美しさを知った今ならば、悪くないと思える自分がいる。
 びゅん、と右手を振りかぶった。
 渦を纏った手刀が唸った。
 大気を切り裂く疾風の一撃が、目にも止まらぬ速度で異形へと殺到。
「ちィッ……!」
 がきん、という鈍い音と共に。
 神々しささえ漂わせる黄金の甲殻が、眩い火花を上げてたじろぐ。
 ゴリ押しで叩き込んだヘッドチョップが、クワガタの魔物へと命中した。
 手ごたえあり。直撃だ。
「はぁぁっ!」
 だがこの程度で倒せる相手ではないことも理解している。
 故にこの硬直につけ込み、更なる攻撃に繋げる必要がある。
 もとよりカリスの基本スペックは、カテゴリーキングたるギラファよりも劣っているのだ。
 その上で確実に勝利を手にするためには、相手に反撃の隙を与えず、一気呵成に連続攻撃で畳みかけることだ。
「調子に乗るな!」
 しかし。
 カリスアローを振り上げ、次なる攻撃を繰り出そうとした瞬間。
「ぐぁっ!」
 クロスに振り下ろされた金居の双刃が、斬撃ごと始を弾き返した。
 ヘッドチョップ以上の轟音と共に、漆黒の鎧が投げ出される。
 黄金と白銀の剛剣の軌跡が、目の奥でちかちかとスパークする。
「く……」
 唸りと共に、身を起こした。
 カリスアローを杖としながらも立ちあがり、構えを正し、正対した。
 さすがにこれだけでどうにかなるほど、仮面ライダーはヤワじゃない。
 力任せに振り抜かれた程度なら、まだスバルの放ったあの一撃の方が効く。

296 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:27:38 ID:.DfmzCYc0
「そうだ、ジョーカー。お前にはその方がお似合いだ」
 ぎらん、と金と銀が光る。
 黄金のヘルターと白銀のスケルターを、互いにこすり合わせて刃音を鳴らす。
 挑発的な動作を取りながら、黄金色の王者が語りかけた。
「所詮お前は処刑人……戦ってこそのジョーカーだ。人と群れるなんて似合わないのさ」
 だからさっさと楽になれと。
 殺戮者の本能に身を委ね、ジョーカーとなって好き勝手暴れるがいいと。
 どうせ滅ぼしてしまうのだから、人間とじゃれ合うことなどやめちまえ、と。
 なるほど確かに、こんなことはジョーカーらしくない。
 いずれは全人類を滅ぼすかもしれない厄災が、人の情になびこうとするなど、虫のいい話なのかもしれない。
「たとえそれしかできなくとも……昔のように戦うことはしない……!」
 だが、それでも構いはしない。
 自分が闘争を求める殺戮者であったとしても、それでも構わないと思っている。
 人と分かり合うことができなかったとしても、それでも構わないと思っている。
 カリスアローを握り締めた。3枚のカードを手に取った。
 ハートの形を描く紅蓮の複眼が、決意に眩く煌めいた。
「戦うことしかできないとしても……それが誰かを守ることに繋がることだってあるはずだ……」
 いずれは決着をつけなければならない時が来る。
 この身がアンデッドである限り、いつか人とぶつかり合う日は必ず来る。
 かつてのヒューマンアンデッドのように、人類種の代表として戦う戦士――仮面ライダーと戦う時は、いつか必ず訪れるだろう。
 そうなれば、必ず何かが終わる。
 人の世と自分の命、どちらかが潰えることになるだろう。
 だが、せめて。
 せめてそれまでの間は、自分にも人の想いを守れるのだと信じたい。
 ただアンデッドを駆逐するだけの戦いでも、それで救われる命があるのだと願いたい。
「本物の仮面ライダーになれなくとも、仮面ライダーの真似事くらいはできるはずだ……!」
 ハートの4――フロート。
 ハートの5――ドリル。
 ハートの6――トルネード。
 無機質な機械音声と共に、手にしたカードがラウズされていく。
 蜻蛉、巻貝、そして鷹――3種の原種の内包した力が、この身を駆け巡っていく。
『SPINING DANCE』
 あの青色の髪の娘と共に戦うことはできない――その想いは、今でも変わることはない。
 正義のヒーローは眩しすぎる。
 誰の命も奪わせたくないと願うスバルと、ギラファの犠牲も辞さない自分は、いつかどこかですれ違う。
 そして、たとえそうでなかったとしても、自分は本物のライダーにはなれないのだろう。
 人のために尽くしても、人と共存できないジョーカーは、人から賞賛されることはない。
 仮面ライダーとまるきり同じように、理解と共感を受けることはできない。
「だから俺は、仮面ライダーを名乗って戦う! まがい物であったとしても……人の想いを守るために!」
 ならば、自分は日陰者でいい。
 たとえ誰からも褒め称えられずとも、誰からも愛されなかったとしても。
 自分が勝手に愛した人間達を、勝手に守っていく程度で構わない。
 正義の味方になれずとも、日陰に紛れて悪を討つ、闇の処刑人で構わない。
 それも無駄ではないはずだ。
 それでも昔よりはましなはずだ。
 ただ淡々と敵を討つだけの日々よりは、ずっと尊く、胸を張れる生き方であるはずだ。
 そうだろう――――――ギンガ!

「俺は――仮面ライダーカリスだッ!!」

 絶叫と共に、床を蹴った。
 ラウズカードの輝きと共に。
 トルネードホークの突風と共に。
 漆黒の烈風と化したカリスが、宵闇を切り裂いて飛翔する。
 仮面ライダーとして認めてほしいわけではない。あえてその名を名乗ったのは、いわば意思表示と戒めだ。
 有言実行の意志のもと、その名に相応しい存在にならんと。
 たとえ狂気に堕ちたとしても、決して人を害することをしないようにと。
「ハァアアアアアアアアア―――――――――ッッッ!!!」
 ラウズカードコンボ、スピニングダンス。
 消費AP、3200。仮面ライダーカリスの持つ、最大最強の威力を有した必殺キック。
 その姿はまさに疾風一閃。天空より飛来し邪悪を撃ち抜く、一撃必殺の風の矢だ。
 ドリルのように身をよじり、竜巻のごとき風を纏い。
 一陣の風となった鎧の戦士が、ギラファアンデッド目掛けて殺到した。

297 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:28:29 ID:.DfmzCYc0
「馬鹿め!」
 しかし、それでも動じない。
 始の持つ最高火力のコンボを前にしても、黄金のキングは避けようともしない。
 素早く腰部へと伸ばした手を、そのまま投擲のようにして振るう。
 回転する始の視界の片隅で、きらん、と黄金が光った気がした。
 瞬間。
「っ!?」
 ずどん――と爆音。
 次いで、がくん、と身を襲う違和感。
 足元で爆ぜた衝撃と熱量が、スピニングダンスに急激なブレーキをかける。
 スピンの勢いが相殺され、回転軸が僅かにぶれた。
 それがギラファアンデッドの腰部に備え付けられた、鋏型の爆弾であった時には既に遅く。
「ォオオオオオアァッ!」
 揺らぐ視線の先には、光り輝く双剣を構える金居の姿があった。
 気合いと共に襲いかかる、二閃。
 妖しき光を纏ったヘルターとスケルターが、飛来するカリス目掛けて突き出される。
 瞬間、世界が炸裂した。
 轟、と響いた衝撃音と共に、強烈な極光が世界を照らした。
「があぁぁっ!」
 眩い闇を切り裂いたのは、今まさに必殺の一撃を放たんとしていたはずの始の悲鳴。
 呻きと共に弾かれた漆黒の鎧が、もんどりうって床を転がる。
 てらてらと水溜まりを作る緑色の血と、足から立ち上る黒煙が、そのダメージの大きさを物語っていた。
 ダイヤのカテゴリーキング――ギラファアンデッドの双刃には、ブーメラン状の光弾を放つ能力が備わっている。
 本来なら射撃武器として用いられるのだが、敵はそれを刀身に留め、斬撃の破壊力を強化したのだ。
 いかにカリスのスペックがジョーカーに劣るといえど、その最大必殺技をまともに受けては、さすがの金居もひとたまりもない。
 しかし、あらかじめ爆弾を命中させ勢いを殺したところに、
 120パーセント以上のパワーを込めた斬撃を当てれば、このようにして対処可能。
 それでも、一瞬でも爆弾を投げるタイミングが遅ければ、反撃に転ずる前に殺られていた。
 それを難なくこなしてのけたのは、さすがは最上級アンデッド屈指の切れ者といったところか。
「随分といい台詞を言うじゃないか。感動的だな」
 鎧の表面から立ち上る陽炎の奥で、黄金の異形が口を開く。
 挑発的な口調と共に、勝ち誇ったギラファが言葉を紡ぐ。
「だが無意味なんだよ。御大層な理想を口にしても、それを叶えるための実力が伴ってないようじゃあ、な」
 こんなところで俺に倒されるようでは、誰一人として救えはしないぞ、と。
「くっ……」
 ああ、確かにその通りだ。
 傷などは戦っているうちに治る。だが、問題はそこではない。
 必殺の覚悟で放ったコンボだったが、今のを防がれたことで、AP残量が相当に厳しいことになってしまったのだ。
 スピニングダンスの消費APは3600。
 さらにヘッドチョップの発動で600マイナス。
 初期APの7000からそれらを引くと、残されたAPは既に2800しかない。
 スピニングアタック――否、スピニングウェーブを使った時点で、ほぼカード1枚分のAPしか残らなくなる数値である。
 つまり、これほどの敵を相手にしていながら、カリスは完全に決め手を欠いた状態で戦わなければならないということだ。
 その程度のAPで勝てるほど、カテゴリーキングは脆弱な存在ではない。
「さて……そろそろお前との因縁にもケリをつけようか」
 じゃきん、と双剣が引き抜かれる。
 かつり、かつりと歩み寄ってくる。
 どうする。どうやって対処する。
 一度変身を解いてAP消費をリセットするか? 否、変身制限の設けられたこの舞台では、その戦法は実行できない。
 ジョーカーへと変身して戦うか? 否、それではまず間違いなくスバルを巻き込んでしまう。
 ならばスバルへと撤退を促すか? 否、あれが逃げろと言われて逃げるタマとは思えない。
 何か手を考えろ。
 残されたAPと10枚のカードで、この男を倒す方法は――
「これで終わりだ」
 瞬間。
 振りかざすヘルターとスケルターと共に。
 黄金と白銀の煌めきと共に。
 ギラファアンデッドの剛腕が、最後の死刑宣告を口にした刹那。
「!?」
 猛烈な轟音と烈光が、両者の間に割って入った。

298 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:29:05 ID:.DfmzCYc0


 この身がバラバラになろうとも。
 自分1人で闇に堕ちることになろうとも、私の知ったことじゃない。
 情けが瞳を曇らせるなら、心を捨てても構わない。
 犠牲が足りないというのなら、命を捨てても構わない。
 その一心で、身体を動かす。
 怒りの心で拳を振るい、憎しみの心で脚を繰り出す。
 罪の報いに軋む五体を、それでもなおも動かして、目の前の敵へと挑んでいく。
「はああぁぁぁぁぁぁーっ!」
 だんっ、と跳躍。
 両足で蹴られた大地が砕け、小規模なクレーターが形成される。
 噴き上がる土煙と小石の中で、金のポニーテールが舞い躍る。
 刹那の浮遊感と共に、瞬動。
 土色の闇の中で煌めくは、黄金と七曜に彩られた閃光。
 一筋の光条と化したヴィヴィオが、雄叫びに大気を震わせて殺到。
 ぐわん、と拳が空を切った。
 ぎらん、と2色の双眸が光った。
 七色の魔力光を宿した鉄拳が、吸い込まれるようにして目標へと迫る。
 鮮血と新緑の瞳に映るターゲットは、雷鳴と稲光を纏いし神――エネル。
「くどい!」
 しかし、一喝。
 ばちばちと唸る雷電を右手に溜め、迫りくる拳を迎え撃つ。
 響く烈光と烈音は、極大の電圧と魔力の反発するスパーク。
 虹色と蒼白の火花が弾け、衝撃に大気がびりびりと振動し、交錯する出力が風景すらも歪めた。
 膠着の余波は衝撃波へと変換され、ざわざわとホテル周辺の木々を掻き鳴らす。
 土と石と木の葉とが混ざり合う宵闇の中、拮抗を制したのはエネルだった。
 今や雷神は個人にあらず。
 人界・自然界双方の、ありとあらゆる電力を味方につけた群体であり、巨大な積乱雲そのものとでも言うべき現象であった。
 支配するエネルギーの総量がケタ違いなのだ。
 エネルギー同士で真っ向からぶつかり合えば、もはや何物にも打ち負けることは有り得ない。
 暴風のごとき速度で肉迫していたヴィヴィオが、風に煽られた落ち葉のように吹っ飛ばされる。
「まだ……まだァッ!」
 されど、それでも怯みはしない。
 エネルが雷神だと言うのなら、ヴィヴィオもまた只人にはあらず。
 エネルが纏うのが暗雲ならば、ヴィヴィオが纏うのは究極の闇。
 地獄の大帝の名を名乗り、極大の怖れと畏れを引き連れて、戦場を闊歩する凄まじき戦士。
 古代ベルカの叡智の詰め込まれた、最強最悪の殺戮兵器――聖王なのだ。
 ぐるんと体躯を回転させ、勢いを相殺。
 そのまま飛行魔法を行使し、遥か頭上高くへと飛翔。
 高く、もっと高く。
 速く、もっと速く。
 雷電の光と暗雲の闇を掻き分け、彼方の高みへと一直線。
 皮膚から漏れる膨大な魔力が、雲を引き裂き千切れさせ、天上の満月を露出させる。
「スケィィィィィィィィスッ!!」
 月に吼えた。
 煌々と光る銀月を背後に、自らの力を高々と掲げた。
 <死の恐怖>の二つ名を冠する、漆黒と黄金に彩られた刃鎌――“憑神鎌(スケィス)”。
 最愛の母という欠落に呼応し、復讐の意志に従って顕現した、死神の力を宿すロストロギア。
 黒天を照らす満月に、三日月模様の影が差す。
「神たる私よりも高く飛ぶな……!」
 それが神(ゴッド)・エネルにとっては、何物にも代えがたき恥辱であった。
 天とは神のおわす場所。
 雷の神たるエネルにとって、天空とは自らの領域であり、絶対不可侵の聖域だった。
 それをあのような小娘が、我が物顔で侵している。
 誰よりも強く高き存在であるはずの自分を、更なる高みに立って見下ろしている。
 まったくもって度し難く、まったくもって許し難い、最低最悪の不敬罪だった。
「神たる私を見下すなッ!!」
 怒りの咆哮はまさに神鳴り。
 真昼のごとき煌めきと共に、乱神エネルが空へと飛び立つ。
 下半身から伸びる二条の雷光が、上空高くへとエネルを押し出す。
 両足を雷へと変換し、更に大気の静電気を集め、推力へと変換した電気ロケットだ。
 大地を舐める電圧が、熱量となって地面を炙った。
 木々を薙ぎ倒し焼き尽くし、緑の森を赤色へと染めた。

299 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:29:46 ID:.DfmzCYc0
「雷鳥(ヒノ)! 雷獣(キテン)!」
 鳥神招雷。
 獣神招雷。
 3000万ボルトの眷属が、2体同時に解き放たれる。
 ノーモーションで放たれた鳥と狼が、暗闇を踏み締めヴィヴィオへと殺到。
 大技を使う際に叩いていた太鼓は、電力を効率よく使用するための予備電力だ。
 全身是雷電と化した今のエネルには、わざわざ太鼓を叩く必要などありはしない。
「ふん! せぇぇぇいっ!」
 斬――と二閃。
 全身の筋肉ををフルに使って、躍動感たっぷりに鎌をぶん回す。
 七色の魔力を纏った憑神鎌の刃が、2つの虹のリングを描く。
 迫り来る稲妻の猛獣を、魔性の処刑鎌(デスサイズ)をもって両断。
 瞬きの間に切り裂かれた雷神の使いは、霧散し闇へと溶けていった。
 刹那、ばちっ、と。
 ヴィヴィオの視界の片隅を、電気の烈音が立ち上った。
 反射的に、上を向く。
 天空に座するは、雷神エネル。
 稲光を後光とし、まさしく神の威容を醸し出す大男が、莫大な閃光と共に浮かんでいた。
 ばちばちと弾ける雷鳴は、さながら巨獣の唸りのようだ。
「受けよ、6000万ボルトの雷――雷龍(ジャムブウル)ッ!!」
 否。
 それはただしく巨獣であり。
 それはまさしく龍神だった。
 鼓膜を突き破らんばかりの爆音が襲う。
 網膜を焼き切らんばかりの極光が迫る。
 超巨大な龍蛇の姿を成した雷の塊が、雄叫びと共に舞い降りてきたのだ。
 身をくねらせ牙を剥くさまは、伝承に伝えられたドラゴンそのもの。
 これはスケィスでは切り裂けない。砲撃で返すにはチャージ時間が足りない。
 故に急速旋回し、反撃ではなく回避を行う。
 必要最低限の動作で、掠めるほどのギリギリの回避。
 あえて転身には出力を使わず、生じた余裕を上昇へと使う。
 昇る聖王に、下る雷龍。
 灼熱の光に煌めく龍の腹をなぞるようにして、七色の王が天へと昇る。
 輝く星々は点から線へと。
 流れた吐血が乾くほどの。
 疾風迅雷の速さと共に、天上で吼える神へと迫る。
「オオオオオオオッ!」
「ダアアアアアアッ!」
 轟くは赤と黒。
 血濡れのごときレイピアと、宇宙の暗黒のごとき処刑鎌。
 雷を纏ったジェネシスの剣と、妖光を孕んだ憑神鎌が、月光をバックに真っ向から衝突。
 火花さえも呑み込むスパークが、激烈に鮮烈に爆裂する。
 猛反発の生んだ衝撃が暴風を成し、天空を満たす雨雲全てを弾き飛ばした。
 千々に千切れた暗闇の中を、疾走する2柱の天神と邪神。
 駆ける。交わる。離れて駆ける。
 走る。ぶつかる。すれ違い走る。
 もはや人間の動体視力では、人影として視認することすらかなわなかった。
 人知を超えた超速で疾駆する神々は、一切の誇張なく2本の光線と化した。
 金と虹が闇を飛び交い、激突と離脱を繰り返し、夜空に蜘蛛の巣のごとき軌跡を生む。
 音すらも置き去りにした光と光による、瞬きよりも速い空中演舞。
 ずぅぅん、と大地を爆音が襲った。
 今さらになって地面に着弾した雷龍(ジャムブウル)が、森林を呑み込む業火へと化生。
 轟――と炎熱の音が湧き上がると同時に、ヴィヴィオとエネルが空中で静止し、一瞬の対峙を生み出した。
 今や空を満たすのは、夜の暗黒のみではない。
 大帝が放つ七曜の極光。
 雷神が纏う雷電の神光。
 地より昇る灼熱の烈光。
 天より注ぐ銀月の霊光。
 銀色、赤色、白色、七色。
 数多の光彩が入り混じり、魔力の残滓がプリズムを成し、雷鳴と火花が伴奏を奏でる、暴力的な光の混沌。
 恐るべきはこのカオスが、たった2人の人間によって生み出されたということだ。
 自然の法則を真っ向から粉砕し、狂的魔的な光の異界を創造した両者は、とうの昔に人間の次元を超越していた。

300 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:30:29 ID:.DfmzCYc0
「もう一度食らうがいい!」
 振り上がる両腕。
 突き出される掌。
 神の裁き(エル・トール)の電力を上乗せされ、更なる凶暴性を得た雷龍(ジャムブウル)が再臨する。
 煌々と輝く剛腕から射出された龍神が、一直線にヴィヴィオへと襲来。
「それはもう、覚えた!」
 されど、地獄の聖帝は怯まない。
 震えも怖れも見せぬまま、悠然とも取れる覇気と共にそこに在る。
 瞬間、光が揺れた。
 内より湧き上がる膨大な魔力に、周囲の光が陽炎のごとく揺らいだ。
 魔力の風に煽られて、金糸のサイドポニーがはためいた。
 エネルと同じように両手を振り上げ。
 エネルと同じように両掌を突き出し。
 エネルと同じように溜め込んだ力を。
「吼えろ――帝龍(カイゼルドラッヘ)ッ!!」
 エネルと同じ龍の名と共に、放つ。
 瞬間、爆音を伴い現れたのは、プラズマの鱗を煌めかせる七星の龍。
 暗雲を引き裂きまき散らし、渦巻く魔力の轟音を雄叫びとして。
 虹色のオーラを身に纏いし魔導の龍が、大気を焦がし火花すらも熔かして、満月の夜空に躍り出た。
 聖王ヴィヴィオを最強の生物兵器たらしめるものは、その圧倒的パワーだけでも、堅牢な聖王の鎧だけでもない。
 戦いの中で相手の技を解析し、理解し、我が物として習得する――それが聖王第3の能力・高速データ収集だ。
 単一脳で動作し殺戮する野獣ではなく、ロジカルをもって力を制御する暴君。
 奇しくもかの不死王(ノスフェラトゥ)アーカードと同じ、知性的なパワーファイター。
 それこそが古代ベルカ技術の粋を集めて生み出された、最強最悪の凄まじき戦士である。
 輝くカイゼル・ファルベを媒介として顕現した、帝王の名を冠する龍は、エネルの雷龍(ジャムブウル)の紛い物。
 されどそこに宿りし力と威容は、本物の雷龍(ジャムブウル)にも一歩も劣らぬ確かな物。
 その巨体は見る者全ての網膜を焼き尽くし。
 その咆哮は見る者全ての鼓膜を引き千切り。
 その剛力は寄る者全ての五体を蒸発させる。
 ばちばちと叫ぶ白色の龍が、牙を剥いて飛びかかった。
 ごうごうと唸る虹色の龍が、うねりと共に迎え撃った。
 龍と龍。
 雷と虹。
 オリジナルとダイレクトコピー、その力は全くの互角。
 衝突により生じた光と音は、世界を隔てる境界さえも、ガラスのごとくかち割らんばかりの迫力。
 地獄の業火に照らされた宵闇の中で、2頭の巨龍が咆哮した。
 互いに爪を立て合い肉を噛み千切り合い、身が絡まらんばかりの勢いでのたうち合った。
「神の力を真似る盗人めがッ!」
 エネルが迫る。
 灼熱色の切っ先を、稲妻色に照らし上げ、怒れる雷神が襲いかかる。
 龍と龍の攻防を背景にして、神と神とが激突する。
 振るわれるは幾千万の快刀乱舞。
 迎え撃つは怪力無双の虹の円環。
 目にも留まらぬ速さで繰り出される連続攻撃を、目にも留らぬ速さで連続防御。
「くっ……」
 僅かにエネルの勢いが勝った。
 身長差から来る高低差が、エネルへと有利に働いた。
 一瞬の防御の崩れ――その刹那を突いたジェネシスの剣が、ヴィヴィオを地へと叩き落とす。
 接地寸前のところでバランスを立て直し、大地を滑るようにして、着地。
 憑神鎌の切っ先を地へと突き立て、慣性に引きずられる身体へとブレーキをかける。
 後を追うようにしてエネルが着地し、再び対峙する姿勢となった。
 初撃の雷龍(ジャムブウル)に焼かれた森は、まさに灼熱の運河のど真ん中だ。
 そしてそこへ迫る、新たな光。
 エネルの着地とほとんど同時に、2頭の龍が地へと降り立つ。
 互いの身を貪り合う雷龍と帝龍が、互いに絡み合いながら迫り来る。
 両雄は主君らのすぐ脇を掠め、その後方にそびえる施設――ホテル・アグスタへと殺到。
 ばごん、と鈍い音が鳴り響いた。
 コンクリートの壁が砕かれ、ガラス窓が瞬時に蒸発し、ホテルに巨大な風穴が空いた。

301 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:31:11 ID:.DfmzCYc0
「ほう……?」
 ふと。
 その、瞬間。
 不意にエネルの目線が逸れた。
 殺意にたぎっていた乱神の視線が、ヴィヴィオ以外の何物かを捉え、興味深げな呟きを漏らす。
「あ奴め、まだ生きていたのか」
 にやり、と笑った。
 訝しがるヴィヴィオもまた、つられるようにして視線の方へと振り返る。
 ぱらぱらと瓦礫の音を立て、煙をたなびかせる穴を見やる。
 暗闇の中にあったのは、合計3つの人影だ。
 1つは全身を黄金色に染め上げた、クワガタムシのごとき外観を有した怪物。
 1つは鏡の世界で戦った男にも似た、ハートの意匠が目を引く漆黒の鎧。
「スバル、さん……?」
 そして最後の1つは、管理局の制服を着た青髪の少女――なのはの部下、スバル・ナカジマ。
「どうして……どうしてそんなところにいるの……」
 何故だ。
 何故お前がここにいる。
 こんな所で何を悠長に引きこもっている。
 黒々とした理不尽な怒りが、沸々と胸へと込み上げてくる。
 お前にはやるべきことがあるだろう。
 私の最愛の母であり、お前の上官であるなのはママを守ること――それがお前の役割だろう。
 なのにその有り様は何だ。
 自分の職務をほっぽり出して、一体何をしているのだ。
 ママを守ることもせずに、訳の分からない異形と共に、一体何をじゃれ合っているというのだ。
 そんな人型崩れの化け物の相手の方が、ママよりも大事だとでも言うのか。
 許せない。
 断固として許しておけない。
 相手がかつての仲間であろうと知ったことじゃない。
 ママを見捨てた裏切り者は、私がこの手で始末してやる。
 そこにいる黒と金色の2人組諸共、まとめて迅速に殺戮してやる。
「このぉ……裏切り者があああああぁぁぁぁァァァァァァァ――――――ッ!!」



「あの時の雷の男か……!」
 嫌な予感の正体はこいつらか。
 こちらを覗く2人の姿を見た瞬間、始は即座に理解していた。
 突如、ホテルに空いた大穴の外に立っていたのは、数時間前に戦った自称神――エネル。
「気付かれたか」
 ち、と舌打ちしながら呟く金居の声が聞こえる。
 目の前の男は、避雷針を破壊するほどの雷を操り、小細工なしでスピニングダンスを破り、自分を倒したほどの強敵だ。
 あの時ギンガに助けられていなければ、確実に蒸し焼きになって死んでいただろう。
 おまけにその身に纏う電力は、あの時とは桁外れなまでに膨れ上がっている。
 スバルと対峙した時に感じた、禍々しい気配の正体としては、十分過ぎるほどの脅威だった。
「驚いたぞ、青海人よ。ただの人間風情が、あの雷地獄から生き延びていたとはな」
「俺はただの人間じゃない。もっとも、それでも危ないところだったがな」
 言いながら、身を起こす。
 今のやりとりの間に、立ちあがれるほどには回復していた。
 一瞬状況が好転したかと思ったが、すぐにそれが間違いであったことを理解する。
 何が好転したというのだ。
 目の前に立っている雷神は、ギラファアンデッドよりも遥かに危険な相手ではないか。
「ここまでだな、ジョーカー。決着がつけられないのは残念だが、俺はここで失礼させてもらう」
 そしてそのギラファが口にしたのは、そんな言葉。
「何だと?」
「あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね。まぁ、せいぜい戦って死んでくるがいい」
 そんな捨て台詞を残して、黄金の背中が遠ざかっていく。
 ダイヤのアンデッド種の中でも、最強を誇る金居の撤退――それが意味するところが分からないほど、相川始は間抜けではない。
 むしろエネルの実力を考えれば、あの理屈屋が逃げ出すというのも、自然な反応だと思えた。
 だが、奴は何と言った?
 奴“ら”? 金居の手に負えない相手は、あのエネルだけではないというのか?
 半裸の自称神と対峙する者――あの金髪と黒衣の女もまた、エネルと同等の脅威であるとでもいうのか?

302 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:32:00 ID:.DfmzCYc0
「あれは、まさか……ヴィヴィオ!?」
「知っているのか?」
 不意に声を上げたスバルに、問いかける。
「はい。あたしの上官が、娘として引き取った子です。本当はもっと小さい子なんですけど……」
「うあああぁぁぁぁぁっ!!」
 説明に割って入る、怒号。
 反射的に声の方を向き、反射的に身をかわした。
 一瞬前まで自分がいた場所を襲ったのは、激烈な虹色の衝撃波だ。
 その手に構えた巨大な鎌に纏ったエネルギーを、スイングの勢いで放ったのだろう。
 理屈は簡単だ。
 だが、それがもたらした被害の何としたこと。
 ただエネルギーを放出しただけの一撃の跡が、煌々と赤い光を放っているではないか。
 七色の刃が抉った床が、燻った音を立てどろどろに赤熱していた。
「どうやらここから出る方が先らしいな」
 正面玄関を視界に収めながら、呟く。
 ただでさえここにはエネルもいるというのに、あんなものをバカスカと連発されてはまずい。
 広範囲攻撃を可能とする雷撃に、砲撃じみた勢いの斬撃――この閉鎖空間でそんなものを相手にしていては、今度こそ蒸し焼きにされてしまう。
「脱出するぞ!」
「あ、はい!」
 スバルに声をかけると同時に、出入り口を目指して、疾駆。
 背後を通過する電撃や射撃には目もくれず、ひたすら目的地目掛けて走る。
 自動ドアが開かない。開くのを待っている暇はない。
 カリスアローを振りかぶり、ガラスをかち割って脱出。
 いつしかホテル・アグスタの外は、あの時と同じ火の海になっていた。
 自分達が戦いに没頭していたうちに、これほどの破壊活動が行われていたというのか。
 カリスの鎧を茜色に光らせながら、己が不注意を恥じた。
「あの子は聖王っていう特別な生まれの子で、前にもああいう風になって暴走したことがあるらしいんです」
 後ろから追いかけてくるスバルが、先ほど中断された説明を続ける。
「暴走か」
「その時と同じことになってるのなら、適切な処置を施せば落ち着くはず……とにかく、急いで無力化させないと!」
「なら話は早い。さっさと無力化させて、ここから逃げるぞ」
 方針は決まった。
 まずはそのヴィヴィオとやらから戦闘能力を奪い、その上で戦線を離脱する。
 エネルがあの時よりも強力になっており、おまけにヴィヴィオがそれと同等の実力者だと言うのなら、現状での勝算は毛ほどにもない。
 しかし彼らを2人とも野放しにすれば、取り返しのつかなくなるほどの犠牲が出ることは容易に想像できる。
 幸いにもヴィヴィオには、無理に殺さずとも黙らせることのできる裏技があるらしい。ならば狙うのはそちらだ。
 彼女を無力化させることができれば、それで脅威は半減するはずだ。
「分かりました! 援護頼みます、始さん!」
 言うや否や、スバルが駆けた。
 ジェットエッジのエンジンを噴かせ、炎熱の焼け野原を一直線。
 考えなしの突撃ではない。
 考える余裕がなかったのなら、エネルを野放しにするという選択に異を唱えていただろう。
 彼我の戦力差を見極め、現時点ではあの雷神に勝てないと判断する冷静さを持ちながら、あえて腕の負傷を度外視し、ヴィヴィオの懐へと飛び込んだのだ。
 ならば、そこにはそうしなければならない理由があるに違いない。
 たとえばその適切な処置とやらが、スバルにしかできないものである、といったところか。
「いいだろう」
 それならば話は早い。
 もとよりこちらもAPに余裕はないのだ。今回は援護に徹させてもらうとしよう。
 カリスアローを油断なく構え、金髪を揺らめかせる少女を狙う。
 問題はない。スバルは絶対に死なせない。
 自分に大切なことを教えてくれた、あのギンガの忘れ形見を死なせはしない。
 そう固く胸に誓い、エネルギーの矢を醒弓につがえた。

303 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:32:41 ID:.DfmzCYc0


「うおおおおおおっ!」
 気合いと共に、歩を進める。
 ジェットエッジの最大加速をもって、ヴィヴィオへと一直線に突っ込んでいく。
 全く恐怖がないわけではない。
 直接戦ったことも、目の当たりにしたこともなかった聖王モードだが、その戦闘力の高さは聞かされている。
 AMFによる制限下にあったとはいえ、あのなのはのブラスターモードと、互角以上に渡り合ったというのだ。
 この手に培った力が、本当に通用するかどうかは分からない。
 おまけに左腕を封じられた今、望みは更に薄くなっていることだろう。
 最悪、手も足も出ないままに、一撃で抹殺されてしまうかもしれない。
 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
 この場でヴィヴィオを止められるのは、自分1人しかいないのだから。
(防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン……!)
 それが攻略法だった。
 相手がゆりかご攻防戦の時と同じ状態に陥っているというのなら、あの魔力の源泉となっているのは、体内に組み込まれたレリックのはずだ。
 最大威力のディバインバスターをぶつけ、レリックを破壊することで、彼女の聖王モードを強制解除させる。
 それこそがスバルの狙いだった。
 腰を据える。
 構えを取る。
 いきなり必殺技を当てられるとは思えない。牽制や体力削りを駆使して、当てられる状況を作らなければ。
「てぇりゃっ!」
 ジェットエッジのスピナーを回転。
 左足を軸にして、豪快な右回し蹴りを叩き込む。
 脳天目掛けて放たれた一撃が、轟然と唸りを上げて肉迫。
「このっ!」
 されど、通じず。
 この程度の一撃が、聖王に通るはずもない。
 龍鱗のごとき漆黒の籠手が、放たれたキックを難なく防御。
 火花散らす渾身の蹴りを、身じろぎ1つすることなく受け止める。
 ある程度覚悟していたとはいえ、何という圧倒的なパワーか。
 年相応の少女の細腕の守りが、鋼鉄の壁のように硬く、思い。
「何で、なのはママを守ってくれなかったの……何でなのはママを見殺しにしたの……!」
 ぼそり、と膠着の奥から響く声。
 怨嗟と憤怒に彩られた、低く鋭いヴィヴィオの声。
「ッ!」
 胸が痛んだ。
 どうしようもなかったこととはいえ、どうしてもちくりと刺さるものがあった。
 会うことさえもできなかったのだから、見殺しにすらもしようがなかったのは確かだ。
 それでも、それはただの言い訳に過ぎない。結局なのはのうちの片方を、助けることができなかったのには変わりない。
「なのはママが死んじゃったのに……何でスバルさんなんかが生き残ってるのぉぉっ!!」
 怒りと悲しみの込められた、悲鳴のような絶叫だった。
 鉄壁の防御から、怒濤の反撃へと。
 力任せに振り払われたヴィヴィオの腕が、スバルをあっさりと吹き飛ばす。
 彼女自身がそうされた時は、飛行魔法でブレーキをかけ、即座に態勢を立て直した。
 しかしスバルをそうした時には、制御の隙など与えなかった。
「!」
 瞬きの刹那。
 直前まで視認していた聖王が消える。
 一瞬後に現れたのは、目前にまで迫った聖王の威光。
「がッ! う……っ!」
 一撃、そして一撃。
 食らったのはアッパーカットと、それからボディーブローだろうか。
 拳の軌道は見えなかった。だがそれでも、顎と腹から響く痛覚が、攻撃を受けたことを理解させた。
 目にも留まらぬとはまさにこのことか。
 吹っ飛ばされた態勢では、知覚すら不可能な速度での連撃を叩き込まれた。
 初撃のアッパーによる減速感から、二撃目のブローで再び加速。
 燃え盛る炎の風景が流れていく。
 やがて身体が地に落ちて、もんどりうって転がっていく。
 背後に熱風の揺らめきを感じた。
 ようやく止まったその場所は、火種の目と鼻の先だった。
 もう少しだけ運が悪ければ、炎の中に突っ込んでいたということか。いよいよ背筋がぶるりと震えた。

304 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:33:14 ID:.DfmzCYc0
 そしてそれだけには留まらない。
 怒号と共に迫る第三撃。
 土煙を撒き散らして迫るのは、死神の大鎌を構えしヴィヴィオの姿。
 <死の恐怖>の名を冠する憑神鎌が、黒金と彫金に彩られたその身を、炎の紅蓮に煌めかせる。
 真紅の光が線となり、軌跡を成してスバルへと襲来。
「っ!」
 カリスからの援護攻撃が放たれたのは、ちょうどこの瞬間だった。
 きんきん、きん、と響く音。
 カリスアローから連続発射されたアローショットが、次々とヴィヴィオに着弾する。
 されど、それでも凄まじき戦士は止まらない。
 黒より暗き究極の闇は、光の矢ごときでは晴らせない。
 飛来し着弾する光弾の全てが、堅牢な聖王の鎧を前に、虚しく弾き返されるのみ。
「死んじゃえェッ!」
 鼓膜を打つ裂空の音。
 虚空を引き裂く死神の鎌。
 振りかざされた黄金の輝きが、脳天目掛けて叩き込まれる。
「くっ!」
 そんなものに当たるわけにはいかない。
 痛む身体に鞭打って、ごろりと身を転がして回避する。
 豪快に空振った憑神鎌の切っ先が、がつんと音を立てて地に突き刺さった。
 油断はできない。すぐに追撃が来る。
 普通に起き上がっていては遅い。迎撃より先に追撃が飛んでくる。
 故にジェットエッジのエンジンを噴かせ、強制的に足を振り上げさせる。
 轟、と響く唸りと共に、右足が上空へと押し出された。
 結果、命中。強引に繰り出されたハイキックが、ヴィヴィオの顎へと直撃した。
 そのまま左足のエンジンをも起動。くるりと空中で身を縦に一回転させ、着地。
「ウィングロードッ!」
 叫びと共に、地を殴る。
 今の一撃分で怯んだ隙に、魔力で固めた空色のロードを顕現。
 そのままウィングロードに飛び乗ると、急速にヴィヴィオとの間合いを開けていく。
 まともに打ち合うことはしなかった。敵の戦闘能力を考えれば、真っ向勝負を挑むのは危険だ。
 故に、ヒット・アンド・アウェイ。
 極力相手との接触を避け、一撃に懸ける戦法を取るしかなかった。
 そして。
 その、刹那。
「!?」
 ごろごろ――と。
 突如として、世界が白光に満ちた。
 耳朶を打つは猛烈な音。
 視界を覆うは蒼白の闇。
 戦場全域に落雷が放たれたのだ。真昼のごとき煌めきと共に、周囲の全風景が雷光で埋め尽くされた。
「神の存在を忘れて戦えるとは、随分と余裕なことだなぁ」
 余裕綽々といった様子で呟くのは、半裸と異様な福耳が目を引く男だ。
 そういえばヴィヴィオだけでなく、この男もまたこの場にいたことを思い出す。
 であれば今の無数の雷撃は、この男が放ったということか。
 自然の摂理をこうまで意のままに操るとは――そこまで考えたところで、それもまた納得がいくかと思い直す。
 そもそもこの雷男は、つい先ほどまでこのヴィヴィオと対峙し、そして生き残った男だ。
 そんな奴が、只人のしゃくし定規で計れるような、凡庸な男であるはずがなかった。
「まとめて消し炭となるがいい!」
 そうこうしているうちに、追撃が迫る。
 雷鳴が鳴り、雷光が光り、暴力的殺傷力を持った死の稲妻が、軍勢を率いて襲いかかる。
 悠長に止まっている暇はない。足を止めれば、そこを突かれて一巻の終わりだ。
 ウィングロードから飛び降り、燃え盛る大地へと着地。
 予めこちらの進路を知らせることになるあの魔法を、この状況で使い続けるのはまずい。
 エンジン、再始動。
 加速、カット、そしてカット。
 天空より迫る稲妻を、稲妻の軌跡をもって回避していく。
 光速の雷を直接回避しているわけではない。ランダムな軌道を取ることで、相手の照準精度を狂わせているのだ。
 ちら、とカリスの方を見やる。どうやらあちらもちゃんと回避できているらしい。
 そしてヴィヴィオの方を向く。こちらはかわすまでもなく、シールドをもって防御していた。
 やはり魔力総量の桁が違う。稲妻を真っ向から受け止めるなど、並の人間には決して出来たものではない。
 本当にあの聖王には、首輪による制御が課せられているのだろうか? それすらも疑わしく思えてきた。

305 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:34:03 ID:.DfmzCYc0
「邪、魔……だああぁぁぁぁッ!!」
 そのヴィヴィオの咆哮と共に、莫大な魔力が込み上げる。
 聖王の怒りと共に顕現したのは、七色に煌めく巨大な龍。
 スバルにとっては知るよしもないが、あの時エネルの技をコピーし編み出された攻撃魔法――帝龍(カイゼルドラッヘ)だ。
 荒ぶる龍神へと化生した極大の魔力が、轟音と共に虚空を泳ぐ。
 地に落ちた無数の雷を、貪り食うかのように蛇行。
 そして円の軌道を描く龍が、方向を転じ牙を剥き、スバル目掛けて一直線に飛来。
 あれは雷よりも危険だ――目に見えて明らかな分析結果だった。
 エネルの雷すらも噛み砕き、呑み込んだ龍の攻撃をまともに受けては、恐らく死体すらも残るまい。
「っ!」
 ほとんどでんぐり返しのような動作で、スレスレのところを緊急回避。
 かわしきれなかった前髪の先端が、巨龍の光輝に掠められる。
 文字通り眼前で直視させられた光彩は、幾多の色が複雑怪奇に絡み合い交わり合う、気が狂いそうになるほどの虹色だった。
 じゅっ、と音がしたかと思えば、前髪から焼け焦げた臭いが漂ってきた。
 たっぷり3秒ほどかけて、帝龍(カイゼルドラッヘ)がスバルの頭上を通過する。
 轟然と飛翔する龍神は、しかしそれ以上深追いをせず、次なる目標へと意識をシフトしたようだ。
 ぎゅおん、と大気をぶち砕き。
 がりがり、と大地を削り取り。
 土埃と岩石を巻き上げて駆ける先には、落雷を起こした張本人たる神(ゴッド)・エネル。
「神の裁き(エル・トール)――MAX2億ボルト!」
 異様な風体の雷男が取った行動は、回避でもなければ防御でもなかった。
 命中すれば即死確定の一撃を前に、しかし避けるでも防ぐでもなく、悠然と両手を突き出すのみ。
 瞬間。
 雷神と帝龍の影が重なる。
 カイゼル・ファルベの化身たる龍神が、エネルの体躯を噛み砕く。
 その、はずだった。
「!?」
 されど。
 次なる瞬間目にしたのは、龍の放つ七曜光ではなく。
 その内側より迸る、蒼白色の雷光だった。
 ぱっ、ぱっ、ぱっ、と。
 頭から、下顎から、首から、胴から。
 さながら強靭な龍鱗を、体内からかち割り突き出す槍のごとく。
 帝龍(カイゼルドラッヘ)の全身から、次々と漏れ出す線上の光条。
 刹那。
 どう――と音を立て、爆散。
 ぼこぼこと泡立つように巨体が膨らんだかと思えば、次の瞬間には爆裂四散し、世界が白光に満たされる。
 光輝の中心より現れたのは、煌めく双剣を携えし雷神。
 舞い踊る虹色の火花の中に立つのは、不敵な笑みを浮かべるエネル。
 否、それは双剣ではなかった。
 さながら巨大な剣のごとく、長大に膨張した両腕であった。
 雷化した両手が光の剣を成し、中心から龍を左右に引き裂いたのだ。
 あれだけのエネルギーの集合体を、いともたやすく消失させるとは。
 やはりこの男も、ヴィヴィオと対峙するだけはあるということか。
 自分達人間や戦闘機人とは、根本的に次元の違う存在を、まざまざと五感で痛感させられた。

306 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:34:40 ID:.DfmzCYc0
「こぉんのぉぉぉぉぉーッ!」
 怒れる凄まじき戦士の瞳には、もはやエネルしか映っていないらしい。
 完全に頭に血を上らせたヴィヴィオが、地に憑神鎌を刺し固定させ、両の手に魔力球を形成。
 投擲、そして投擲と、息つく暇もなく二連発。
 刹那、光の弾が爆ぜた。
 それもエネルによって迎撃されたのではない。直撃の寸前で、自ら弾丸が炸裂したのだ。
 1は10へ。2は20へ。
 四散した2つの弾丸は、瞬時に数十の散弾へと変貌。
 あれは確かセイクリッドクラスター――ミッド式の魔導師が使用する、散弾タイプの射撃魔法だったはずだ。
 球体から雨へと転じた魔力弾が、一斉にエネルへと襲いかかる。
 ずどどん、どどんと小気味よく響く、弾丸の奏でる爆裂音。
 されど七色の花火が弾けるのは、エネルの表皮の上ではない。
 ランダムな角度から迫り来る弾丸は、しかしそれら全てが回避される。
 ステップを踏むエネルが身軽にかわし、散弾は虚しく地へと落ちる。
「ヤハハハハッ! どうした、こんなもので終わりか!」
「何で……何で当たらないのっ!?」
 声高に嘲笑するエネル。
 焦燥に顔を歪めるヴィヴィオ。
 焦りは苛立ちへと変遷し、弾丸を生むペースを加速させる。
 続々と次弾を装填し、続々とターゲットへと投げ込んでいく。
 しかし、平静さを欠いた射撃が、そう簡単に当たるはずもない。
「なっ……!?」
 そしてその隙を見逃すほど――仮面ライダーカリスは甘くなかった。
「ハァァァッ!」
 斬、斬、続けて斬。
 ぎん、ぎん、がきんと響く。
 立て続けに掻き鳴らされる、醒弓の放つ金属音。
 漆黒の聖王の鎧を叩くのは、白銀に輝くカリスアローの刃。
 エネルに意識を集中させていたヴィヴィオの隙を突き、始が一気呵成に斬りかかったのだ。
 完全に不意を打たれる形になったヴィヴィオは、反撃も防御もすることができない。
 そのままいいように攻撃されるうちに、いつのまにか背後に回り込まれ、羽交い絞めの姿勢を取らされる。
「今だ、スバル!」
 両腕で動きを封じたカリスが、スバルへと叫んだ。
 処置とやらを施すのなら、今のうちにさっさとやれと。
 自分が抑えているうちに、この聖王との戦いにケリをつけろ、と。
「………分かりました!」
 返事をしてからの反応は素早かった。
 言葉を返すや否や、再びジェットエッジを起動。
 ロケットエンジンのバーニア炎が光る。車輪が大地を掴んで唸る。
 さながら一発の砲弾のように、スバルの身体が撃ち出された。
 駆ける、駆ける、疾駆する。
 速く、速く、もっと疾く。
 瞬間ごとに加速度を上昇させ、マックススピードへと一直線。
「このっ……離せ、離せェッ!」
「離、さんっ!」
 目の前ではじたばたと暴れるヴィヴィオを、カリスが必死に抑えつけている。
 あれほどの怪力を持つ身体だ。恐らく仮面ライダーといえど、そうそう長くは保たせられまい。
 なればこそ、あの拘束が解ける前に、とどめの一撃を叩き込まなければ。
 デイパックからレヴァンティンを取り出し、セットアップ。
 最後に残されたカートリッジのロードと同時に、腰に出現した鞘へと納刀。
 剣は振るうためのものではない。あくまで魔力制御のためのものだ。
 足元にベルカの三角陣が浮かぶ。
 合わせて両の腕を回転させる。
 みしみしと左腕が軋むのをこらえ、虚空に空色の魔力スフィアを形成。
 狙うはゼロ距離で発射する、最大出力のディバインバスター。
「ディバイィィィーンッ―――」
 未だこの身に刻んだ力が、彼女に通用するかは分からない。
 未熟な自分の砲撃が、レリックを砕くことができるかどうかは分からない。
 それでも。
 だとしても、やるしかないんだ。
 今の自分達に取れる手段は、これ1つっきりしかないんだ。
 やれるやれないの話ではない。やらなければならないんだ。
 必ず成功させてみせる。
 この手でヴィヴィオを止めてみせる。
 かつて憧れの人がそうしたように、少女を縛る狂気の鎖の、この一撃で打ち砕いてみせる――!
「―――バスタアアアァァァァァ――――――ッッッ!!!」
 右の拳が、スフィアを打った。
 空色の弾丸が、砲撃へと転じた。
 始がヴィヴィオに払いのけられたのは、ちょうどこの瞬間だった。

307 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:35:14 ID:.DfmzCYc0
「ぐううぅぅぅぅっ!!?」
 もはや今さら逃れても遅い。
 超至近距離まで接近したスバルの攻撃から、逃れられる者など存在しない。
 全力全開で放たれたディバインバスターが、過たずして腹部へと命中。
 轟、と唸る音と共に、魔力が激流となって放出される。
 一筋の空色の光線が、必殺の破壊力をもってヴィヴィオを飲み込む。
 オリジナルには劣るとはいえ、前線フォワードきってのパワーファイターたるスバル・ナカジマの、正真正銘最強最後の切り札だ。
 それを喰らう者にとっては、暴風雨の直撃にすら匹敵する衝撃だった。
 倒せなくともいい。
 これが通りさえすればいい。
 この一撃がレリックを破壊し、聖王モードの解除に繋がりさえすればいい。
 この全力全開の砲撃で、ヴィヴィオを止めることさえできれば――
「こん、な、も……のおおぉぉぉぉぉォォォォッ!!」
 しかし。
 無情にもヴィヴィオの放った声は、未だ憎悪に濁った怒号。
 膨大な魔力の奔流を掻き分け、魔獣の金の爪が迫る。
 空色の光から伸びた龍鱗の腕が、スバルの頭をむんずと掴む。
 エネルギーの流れに逆らいながら、強引に砲手の身体を、投擲。
「うわああぁぁぁぁっ!」
 浮遊感は一瞬だった。
 超高速で投げ出されたスバルは、あっという間に地に叩きつけられる。
 髪についた土を払いながら、途切れかけた意識を取り戻した。
 痛む身体を突き動かして、うつ伏せになった上体を起こした。
「もういい……もうたくさんだ……みんなまとめて、吹き飛ばしてやる……!」
 僅かに靄のかかった瞳が捉えたのは、大鎌を引き抜くヴィヴィオの姿。
 極大の憤怒と憎悪に身を震わせる、怖ろしくもおぞましき地獄大帝の姿。
 天に突き上げた右腕へと、更なる魔力が集束される。
 天の満月を模したかのような、虹色の魔力スフィアが形成される。
 それはスバルの発射法と同じもの。奇しくも母の教え子を通じて、たった今その身に記憶した、最愛の母の信頼する必殺奥義。
 しかしそこに宿された破壊力は、スバルはおろかなのはのものですら比較にならない。
 2倍、3倍と膨れ上がったスフィアの直径は、スバルのそれの5倍以上。
 もはや砲撃魔法どころか、集束魔法にすら匹敵するエネルギー量だ。
 あれがひとたび発射されれば、自分どころかここら一帯の万象一切が、例外なく消し炭と成り果てるであろう。
「食らえ! ディバイイィィィィーン―――……ッッ!!」
 やはり、駄目なのか。
 ありったけの砲撃をぶつけても、ヴィヴィオを止めることはできなかった。
 自分ごときの力では、彼女を救うことはできなかったのか。
「バス――――――」
 掌が振り下ろされる。
 七曜の恒星が叩き落とされる。
 もはやこれまでと理解し。
 諦めと共に固く瞳を閉じ。
 その、刹那。
 極限までエネルギーを込められたディバインバスターが、今まさに放たれようとした瞬間。
「……―――――――――ッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
 異変が、起こった。

308 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:36:07 ID:.DfmzCYc0


 ここで今一度思い出してほしい。
 ルーテシアのレリックと融合し、本来なら相性の合わない組み合わせで目覚めた聖王ヴィヴィオは、
 いくつもの欠陥をその身に抱えた、不完全なレリックウェポンと化していた。
 現時点までに発覚していた変化は、2つ。
 1つはかつてのゼスト・グランガイツのそれと同じ、身体を蝕む拒絶反応。
 1つはレリックの暴走による、一時的な魔力量の向上。
 一度に発揮できる魔力の量こそ増えたものの、同時に身体へのダメージさえも助長され、
 本人の意識せぬままに、より早いペースで身体にダメージを溜め込んでいくという悪循環である。

 しかし――本当に、それだけだろうか?
 ヴィヴィオの身体に起きた変化は、本当にその2つだけだったのだろうか?

 考えてもみてほしい。
 ヴィヴィオが何者であるのかを。
 聖骸布のDNAから生み出された人造魔導師が、一体何者なのかということを。
 ヴィヴィオはかつての聖王のコピーだ。
 古代ベルカ技術の直系を受け継いだ、最高のレリックウェポンの素体だ。
 身に溜め込んだ戦闘力と魔力は、並の人間を遥かに凌駕している。
 そのベルカ最強の生体兵器として生まれた彼女の身体を、凡百の人間と同じ定規で計っていいものなのか?
 いかにストライカー級騎士とはいえ、突き詰めればただの人間に過ぎないゼストと、全く同一のケースと見なしていいものなのだろうか?

 回りくどい言い方はここまでにしよう。
 ここからは率直に事実のみを述べることにしよう。

 言うなれば聖王ヴィヴィオの身体は、その莫大な魔力を内に溜め込み、コントロールするための器だ。
 大量の水を貯水池に留め、必要量のみを放出する、ダムのようなものである。
 では、そのダムが壊れたらどうなるか?
 水を抑え込めなくなるほどに脆くなったらどうなるか?
 拒絶反応の影響で、ボロボロになった肉体が、魔力制御の限界域を突破したら?

 その先に待つのは、たった1つのシンプルな回答。

 それはその身に宿った全魔力の――――――暴発。

 肉体の限界を超えた魔力が、器を破り全面放出されることによる、魔力エネルギーの大爆発である。

 これまではギリギリ耐えることができた。
 今までに蓄積されたダメージでは、ダムを決壊させるまでには、ほんの僅かに至らなかった。
 しかしそこへ、とうとう決定打が叩き込まれる。
 完全破壊までには至らなかったとはいえ、スバルの放ったディバインバスターが、レリックにダメージを与えたのだ。
 衝撃を与えられたレリックは安定性を失い、体内の魔力は大きく掻き乱された。
 そんな水流の大きく乱れた状態へ、更に追い討ちをかけるように、
 最大出力でディバインバスターを放つべく、ダムのほぼ全ての水門が開け放たれたのである。
 そうなれば、どうなるか。
 結論は決壊の2文字しかない。
 レリックの魔力のみならず、ヴィヴィオ自身の体内に潜在される魔力まで、根こそぎ放出されるのみである。

 こうしていくつもの条件が重なったことによって、薄氷の上に成り立っていた聖王の身体は――遂に、限界の瞬間を迎えたのであった。

309 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:36:55 ID:dce8GgBA0


「ぐォッ……!」
 その瞬間を、その場にいた誰もが目撃していた。
 超巨大魔力スフィアを発射しようとしていたヴィヴィオが、突如としてもがき苦しみ始めたのだ。
 両手で自身を抱くように掴み、呻きと共に肌を掻き毟る。
 スフィアは緩やかに消滅し、代わりに聖王の身体から、魔力が霧のように漂い始める。
 そしてそこに宿された光は、カイゼル・ファルベの虹色だけではない。
 不穏な気配を放つ赤色が、その中に混じり始めたのだ。
 赤はロストロギア・レリックの色。
 それが漏れ出したということは、ヴィヴィオの魔力回路を介することなく、直接レリックから漏れていることに他ならない。
 見る者が見れば、容易に危険だと推測できる状況だった。
「う……ゥ、ォオオオオオ……ッ!」
 遂に堪え切れなくなったのか、膝をついて崩れ落ちた。
 四つん這いの姿勢になったヴィヴィオの身体が、びくびくと小刻みに痙攣を始める。
 美貌にはじっとりと脂汗が滲み、サイドポニーの金髪がへばりついた。
 地に着いた四肢はがくがくと震え、口からは明らかに危険な量の涎が零れた。
 それどころかその中には、薄っすらと血が混ざっているようにさえ見える。
「ゥ、ア……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」
 瞬間。
 絶叫した。
 叫びが上がった。
 これまでの怒りの滲んだ怒号ではない、断末魔さえも思わせる悲痛な叫び。
 不意に弓なりに身体を反らし、中腰の姿勢となって放たれた咆哮。
 それが破綻の始まりだった。
 それが全ての合図となった。
 ヴィヴィオの絶叫を皮切りに、霧が間欠泉へと転じる。
 濁流のごとき勢いで、赤と虹の光が発せられる。
 さながら火山の噴火のように、漆黒の聖王の肢体から、膨大な魔力が放出されたのだ。
 轟々と渦巻くそのさまは、さながら小規模な暴風雨。
 暴力的なまでの閃光と爆音が、殺人的破壊力を伴ってぶちまけられた。

「何だ、あれは……?」
 相川始との予期せぬ再会によって、幾分か頭の冷えたエネルは、その光景を悠長に構えて見つめていた。
 不届きにも己と互角の勝負を展開していた小娘が、突然もがき苦しみ始めたのだ。
 そして身を起こしたかと思えば、この有り様。
 一体何が起きているというのか。
 見たところ、体調が悪くなったのは間違いないらしい。
 攻めるなら今をおいて他にないのだろうが、はてさて、あの身体から噴き出したエネルギーをどうするか。
 これまでの経験則からして、あれは当たったら痛そうだ。
 いくら回復手段があるとはいえ、痛みを覚えるのは面倒くさい。
 できれば下手に怪我することなく、あれを突破したいのだが――。

310 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:37:49 ID:.DfmzCYc0
 
「ヴィヴィオ……一体、どうしたの!?」
 ディバインバスターを直撃させ、意図せぬうちにこの状況を作ったスバルは、不安げな声でヴィヴィオに呼び掛けていた。
 あの状態はまずい。
 何が起こったのかはさっぱり分からないが、尋常ではない苦しみ方からして、彼女が生命の危機に瀕していることは分かる。
 できることなら助けたい。いいや、助けなければならない。
 たとえディバインバスターが効かなかったとしても、一度助けると決めたからには――
「なっ!?」
 そう思った、次の瞬間。
「逃げるぞ!」
 不意にカリスに手を掴まれ、そのままぐいと引き寄せられた。
「待ってください! ヴィヴィオを、ヴィヴィオを助けないと……!」
「もう限界だ! このままだと、俺達まで危険に晒されかねない!」
「そんな……!」
 始は本能的に察していた。
 あれは危険な現象だと。
 ヴィヴィオ1人のみならず、自分達周囲の人間にさえ、危険を振り撒きかねない現象であると。
 具体的に何が起こるのかは分からない。
 ただ漠然と、危険な気配だけは感じ取っていた。
 振りかえって見るだけでも分かる。
 見えない脅威を振り払わんと、巨大な憑神鎌を振り回し、先端から余剰魔力を光波として放つさまは、明らかに常軌を逸している。
 見捨てることで心が痛むのは確かだ。
 それでも今は、出会ったばかりの小娘よりも、ギンガの妹の方が大事だった。
 彼女だけは絶対に守る。
 人の想いの力を教えてくれたスバルを、絶対に死なせはしない。
 その一心で彼女の手を引き、得体の知れないカタストロフから、必死に逃げのびようとしていた。

「ゥウッ! グゥァアアアッ!!」
 獣のごとき雄叫びを上げ、狂ったように鎌を振るう。
 我が身を苛む何物かを、懸命に遠ざけようとするように。
 魔力の嵐の中心で、ヴィヴィオは苦痛の真っただ中にあった。
 燃え燻る森の火種も、挑みかかって来る敵の姿も、空の満月も見えはしない。
 全天360度の光景は、有象無象の区別なく、慈悲なく容赦なく万遍なく、神々しくもおぞましき虹色へと埋め尽くされる。
 浮かび上がる紅蓮の影は、手にした憑神鎌の力の顕現だったのか。
 レリックより滲み出る赤い魔力が、処刑鎌の待機形態を彷彿させる顔をした、三つ目の死神の姿を浮かび上がらせた。
「グェ、ェ、ェエエエエ……ッ!」
 痛い。痛いよ。
 身体中が苦しいよ。
 何でこんなことになっちゃったんだろう。
 どうしてこんなところまで来てしまったんだろう。
 仕方がないことだと思っていた。
 身体が痛いのも苦しいのも、人を殺そうとするヴィヴィオが悪い子だから、その罰を与えられたんだと思っていた。
 でも、本当はこんな苦しい思い、しなくていいのならしたくはなかった。
 こんな怖い思いなんて、本当はしたくなかったのに。
「ァ……ァアー、ア……」
 ママ。
 どこにいるの、なのはママにフェイトママ。
 一緒にいてくれると思っていたのに。すぐ傍で見ていてくれると思っていたのに。
 もう嫌だよ、ママ。
 痛いのも苦しいのも怖いのも、もうこれ以上味わいたくない。
 だから助けてよ。
 ここまで助けに来てよ、ママ。
 なのにママはどこにもいない。
 どこにもなのはママを感じられない。
 ああ――私、見捨てられちゃったんだ。
 あんまりヴィヴィオが悪い子だから、そんな子はもう知らないって、なのはママにも捨てられちゃったんだ。
 これで私は、独りぼっち。
 生まれた時と同じ、独りぼっち。
 誰にも助けられなくて、誰にも愛してもらえない。
 ヴィヴィオはもう――独りぼっち。

「……がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

311 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:38:22 ID:.DfmzCYc0


 それはただただ圧倒的で、暴力的で冒涜的な力の発言。
 燃え滓となった灰色の木々も。
 森林に鎮座したコンクリートのホテルも。
 そこに立つ人影達さえも。
 全てが区別なく平等に、光の中へと飲まれていく。
 地面の絨毯をひっぺ返し、大口開けて酸素を取り込み。
 恐怖さえも煽る虹色のドームが、全てを無へと帰していく。
 衛星のように駆け巡る赤色の線が、全てを切り裂き消し去っていく。
 影さえも飲み込む死の光。
 闇を切り裂く七曜の闇。
 全てが虹色に支配され、それ以外の何もかもが見えなくなって。
 たっぷり10秒間は続いた大爆発は、エリアF-8に現象する一切合財を、余すことなく飲み込んだのであった。

312 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:39:05 ID:.DfmzCYc0


 かつてホテル・アグスタと呼ばれていた、その施設の面影は既にない。
 ヴィヴィオの巻き起こした魔力爆発が、これまで健在であった建物に、遂にとどめを刺したからだ。
 コンクリートの壁も鉄骨も、情け容赦なく粉砕された。
 今その土地にあるものは、焦げた臭いを漂わせる、煤けた瓦礫の山だけだ。
「あの、女ぁぁぁ……!」
 そしてその灰色の山の中で、怒りに震える男がいる。
 全身をコンクリートに埋めながら、額に青筋を立てる男がいる。
 男の名は、神・エネル。
 スカイピアの神を自称し、恐怖こそが神であると自論し、恐怖による支配体制を敷き続けた雷の男である。
 その男が、生きていた。
 あれほどの爆発の中にあっても、驚くほどの軽傷を負うに留まり、こうして生きながらえていた。
 決め手となったのは、周囲の自然や建造物から電力を集めた、あの巨大な積乱雲だ。
 恐るべきことにこの男は、自らの支配した雷全てを使って、自らに襲いかかる魔力を、完全に相殺しきったのだった。
「最初から最後まで神を愚弄し……おまけにこんな屈辱を味わわせるとは……!」
 何だというのだ、この有り様は。
 全能の神を自称していた自分が、一体何という体たらくだ。
 か弱い少女を狩らんとしたら、あろうことか川に突き落とされ。
 神を信じぬ不届き者も、殺したと思っていたのに殺しきれず。
 赤いコートの男に返り討ちにされ、訳の分らぬ感情に心を乱され。
 男だか女だか分からないような奴に、いいように騙され利用されて。
 自らを檻に閉じ込めた紫鎧も、結局自分の手で殺す前に死に。
 あの女には見下ろされ技を盗まれ、挙句せっかく溜めた電力も使い切らさせられた。
 ひどい有り様だ。
 ここに飛ばされたから自分は、まったくもって嘗められっぱなしではないか。
「もう堪忍袋の緒が切れた! この場に生き残った全員、ただの1人として生かしては帰さん!」
 許さない。断じて許すわけにはいかない。
 これ以上醜態をさらすのは、自分のプライドが許さない。
 殺す。
 殺してやる。
 この場に集った全員を、自分自身の手で殺してやる。
 恐怖という名の崇拝を掴み取るために、再び最強の恐怖の象徴として返り咲いてやる。
 そうだ。
 もう誰も取りこぼしはしない。
「全員私の手で殺して――」
 ――ばぁん。



【エネル@小話メドレー 死亡確認】



.

313 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:40:00 ID:.DfmzCYc0
 銃口からたなびく硝煙が、男の顔を静かに撫でる。
 脳天を真上からぶち抜かれ、物言わぬ死体となったエネルを、冷淡な視線が見下ろしている。
 いつからそこにいたのだろうか。
 そこにいつから立っていて、いつから神を見下ろしていたのか。
「怒りってのはよくないな。気が散って危機管理が疎かになる」
 スマートな体型を有した青年――金居が、デザートイーグルを構えてそこに立っていた。
 四つ巴の激闘から、真っ先に尻尾を巻いて逃げだしたこの男が、エネル達の生死を確かめるために戻って来たのだ。
(ボーナスは……これだな)
 がさごそとデイパックを漁ってみれば、新たな手ごたえをその手に感じた。
 鞄から引き抜かれた御褒美は、長大な柄を持った鉄槌だ。
 殴打する部分には痛々しげな刺が連なっており、凶悪な破壊力を醸し出している。
 重量こそあるものの、アーカードの持っていた、やたら長い刀よりは使い勝手がいいだろう。
 当面はこれを得物としようと判断し、デザートイーグルをデイパックにしまうと、そのまま左手にハンマーを持つ。
「それにしても、とんでもない被害だな」
 そこで思い出したように、高みから周囲を見回し、呟いた。
 数分前に起こった大災害には、さしものカテゴリーキングも肝を冷やした。
 何せ逃げのびたかと思えば、いきなり目の前で虹色の大爆発が起きたのだ。
 あの時真南のG-9ではなく、F-9エリアに留まったままだったら、巻き込まれ消し炭になっていたかもしれない。
 これまでの情報を整理すれば、あのカラミティを巻き起こしたのは、間違いなくあのヴィヴィオだろう。
 何にせよ、厄介な2人が共倒れになってくれたのは幸いだった。
 死んだのか否かはまだ調べていないが、ヴィヴィオも小さな子供の姿になって倒れている。もはや脅威となることはあるまい。
(さて、これからどうするか)
 ともあれ、これで当面の目的は果たした。
 であれば、次の目的はどうすべきか。
 エネル達という不安要素が排除され、はやて達とも別れた今、自分がすべきことは何か。
 同行者が1人もいなくなったのだから、工場に立ち寄る理由もない。つまり、やることがなくなってしまったのだ。
 そこまで考えたところで、ふと、デイパックに入れたきりになっていたアイテムの存在を思い出した。
 学校で見つけ、それきり調べる機会のなかったUSBメモリだ。
 せっかく1人になったのだから、いい加減こいつの中身を調べてみよう。
 とりあえずは市街地に行って、適当なパソコンを調達し、こいつを開いてみることにしよう。
 そうと決まれば善は急げだ。
 コンクリートの山を滑り降り、倒れ伏す人影のすぐ横を、悠然と歩き去っていく。
「……感謝するよ、お嬢ちゃん」
 ふと。
 不意に、にやり、と口元を歪め。
 すたすたと歩いていた足を止め、首だけを背後へと振り向かせる。
「本当に厄介な奴を始末してくれたことを、さ」
 キングの視線の先にあるものは――

314 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:40:59 ID:.DfmzCYc0
 

【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】疲労(小)、1時間変身不可(アンデッド)、ゼロ(キング)への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル@オリジナル(4/7)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.USBメモリの内容を確認するために市街地に戻る。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。


「う……」
 呻き声と共に、目を覚ます。
 未だがんがんと痛む頭を振り、ぼやけた瞳を指先で擦る。
 ヴィヴィオにやられた鈍痛の残る身体を、片腕でのそのそとと起こした。
 あれから一体どうなったのだろう。
 いいや、あれだけのことがあって、何故自分は生き残ることができたのだろう。
 徐々に冴えてきた脳内で、スバル・ナカジマは思考する。
 最後に記憶したものは、聖王の背後で吼える死神の姿と、網膜を蒸発させんばかりの魔力光だ。
 前後の状況から推察するに、恐らくはヴィヴィオの身体から発せられた魔力が、とんでもない規模の爆発を引き起こしたのだろう。
 あまりの光量と音量に、意識が吹っ飛んだほどの破壊力だ。
 まともに考えるのならば、今ここで自分が生きているのはおかしい。
 何が死期を遅めたのか。
 あの圧倒的な火力の中、一体何が自分を救ったのか。
「……ッ!」
 そして。
 次の瞬間、見てしまった。
 上へと持ち上げた視線に、その存在を捉えてしまった。

 自分が倒れている目の前に、異形の怪物の死体が立っていた。

「あ……ああ……!」
 見覚えのない、禍々しい背中。
 頭部から伸びた触角に、おぞましく歪んだ甲殻から覗く緑色の肌。
 全身を煤けさせながらも、倒れることなく逝った立ち往生の死に様。
 いかにも怪物らしいこの怪物の背中を、自分はこれまでに見たことがない。
 それでも、確かに悟ってしまった。
 否応なしにも、理解させられてしまった。
「始、さん……!」
 これは相川始だと。
 あの素顔も知らない仮面ライダーカリスが、自分をここで庇っていたのだと。
 圧倒的な魔力に身を焼かれても、それでも決して引き下がることなく、そしてそのまま最期を迎えたのだと。
 また、目の前で人が死んだ。
 死なせないと誓った人を、結局救えず死なせてしまった。
 皆を守ると約束したのに、結局守られてしまった。
 その厳然とした事実はスバルを苛み、涙腺に熱いものを込み上げさせる。
 きりきりと胸を締め上げる悔しさと情けなさが、瞳から涙を落とさせようとする。

315 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:41:48 ID:.DfmzCYc0
「………」
 それでも。
 だとしても、泣くことはしなかった。
 静かに身体を起き上がらせ、視線を左側へと逸らす。
 始の死体の向こう側にいたのは、焼け焦げた大地の中心で倒れ伏す、元の小さな姿のヴィヴィオだ。
 すぐ近くに突き刺さっていたナイフは、始を殺したことで手にしたボーナス支給品だろうか。
 無言で立ち上がり、歩み寄る。未だ真新しいナイフを回収し、気絶した少女の身体を抱き上げる。
 ひゅーひゅーと響く呼吸音は驚くほど小さく、心臓の鼓動はあまりにもか細い。
 誰の目にも明らかな、満身創痍の有り様だった。
「……あたし、泣きませんから」
 ぼそり、と。
 消え入るような声で、呟いた。
 そうだ。こんな所で泣いている暇はない。
 こうして立ち止まっているうちにも、目の前の命はどんどん蝕まれていく。
 今ここで涙し膝をつけば、せっかくレリックの呪縛から解き放たれたヴィヴィオの命が消えてしまう。
「ヴィヴィオを死なせないためにも、前を向いて歩きますから」
 振り返ることはしなかった。
 それきり始の死体を見ることはなかった。
 ジェットエッジのローラーを回転させ、北へ北へと進んでいく。
 今は涙を流せない。
 始の死を悲しんでやることも、弔ってやることさえもできない。
 今目の前で死にかけているヴィヴィオを、スカリエッティのアジトへと運び、その命を救うこと――それがスバルの使命なのだから。
「だから、もう行きます」
 白のバリアジャケットがはためく。緑の瞳が光り輝く。
 胸にこみ上げる悲しみよりも、なおも大きな決意を抱いて、満月の下を進んでいく。
「ありがとうございました――始さん」
 それが相川始との、最期の別れの言葉だった。


【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 2.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。
 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

316 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:42:18 ID:.DfmzCYc0
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。

317 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:43:13 ID:.DfmzCYc0
 

 時は僅かにさかのぼる。
 これはヴィヴィオの魔力が暴発した、その瞬間の出来事である。

 悪い予感は的中した。
 否、正直予感以上だった。
 これほどの規模の大爆発は、これまでのバトルファイトを振りかえっても一度も目撃したことがない。
 腕に抱き止めたギンガの妹は、あまりの音と光に気絶してしまった。
 人間の開発したスタングレネートやらを、遥かに凌駕する音と光だ――正直自分自身さえも、未だ意識を保っているのが不思議だった。
 爆発が背後にまで迫る。
 目と鼻の先にまで光がにじり寄る。
 このまま飲み込まれてしまえば、それで何もかも終わりだ。
 身体はあっという間に蒸発し、骨まで残さず消え果てるだろう。
 自分はどうなろうと構わない。だが、それ以上に死なせたくないのはスバルだ。
 昏倒した少女を背後へと放ると、迫り来るカラミティへと正対する。
『REFLECT』
 カリスアローにラウズしたのは、ハートの8番目のカード――リフレクトモス。
 ギラファアンデッドの攻撃にも耐えられなかった防壁が、どこまで有効かは分からない。
 それでも手にしたラウズカードの中で、最もましな防御力を持っていたのがこれだ。
 すぐさま光の壁が出現し、カリスの盾となって立ちふさがる。
 爆発と正面から衝突したのは、ちょうどそれから2秒後だ。
 すぐさま、強烈な反発が襲いかかった。
 ばちばちと耳触りなスパークが響き渡り、衝撃が大気越しに身体を震わす。
 ハートのマスクの下の眉間を、苦悶を宿した皺に歪めた。
 見ればリフレクトの障壁には、既に亀裂が走っている。恐らくはあと数秒と保たずに、この壁は消滅するだろう。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」
 それでも、諦めてなるものか。
 膝をついてなるものか。
 全身から暗黒色の飛沫を放ち、本来の姿たるジョーカーへと変幻。
 黒と赤の鎧が消失し、黒と緑の甲殻が姿を現す。
 リフレクトがばりんと音を立て砕け散ったのは、ちょうどこの瞬間だった。
「くっ、お、おおおおおお……っ!」
 轟――と身を襲うのは、耐えがたいほどの灼熱と圧力。
 カリスの姿なら即死していたであろう殺人的破壊力に、無敵のジョーカーの体躯すら、じりじりと焦がされていく。
 命が遠ざかっていくのを感じた。
 不死身であるはずのこの命が、驚くほど静かに消えていくのを感じた。
 このままでは遠からず自分は死ぬだろう。
 たとえスバルの盾となり、彼女を守り通したとしても、その未来に自分の命はないのだろう。
 ふ――と。
 不思議と、笑みが込み上げた。
 まったくもって、不思議なこともあるものだ。
 殺戮のために生まれたジョーカーの最期の仕事が、命を守ることだとは。
 魔力の炎に焼き尽くされながら、しかし不思議と穏やかな気分で、自分の奇妙な運命を見据える。
 少し前まではこんなこと、考えたことすらもなかった。
 そんな自分を変えたのは、愛すべき人間達の心だ。
 スバルが懸命に説得してくれたからこそ、人の想いの強さを知ることができた。
 ギンガに命を救われたからこそ、人の想いに触れることができた。
 そして、最初に人の心を教えてくれたのは、あの栗原遥香と天音の親子だ。
 すいません、遥香さん。ごめん、天音ちゃん。
 俺はどうやらここまでらしい。ここから生きて帰ることはできないようだ。
 そして、それでも。
 だとしても、これでよかったと思える自分がいる。
 自分の命の捨て方としては、十分に満足できる死に様だと思っている自分がいる。
 人を殺す運命にあった自分が、人を守って死ねるのだ。こんなに上等な死に方はなかった。
 これで、いいんだよな。
 今は亡き少女が最期に見せた、穏やかな笑顔へと問いかける。
 俺はしっかり生き抜いたよな。
 お前が言ってくれた通り、人間の心に従って、真っ当に死ぬことができたんだよな。
 そうだよな……ギンガ――――――



【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード 死亡確認】


.

318 散る――― ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:43:57 ID:.DfmzCYc0
【全体の備考】
※F-8にて大規模な火災と魔力爆発が発生し、以下の被害が生じました。
 ・F-8が壊滅状態となりました
 ・ホテル・アグスタがほとんど全壊状態となりました。
 ・装甲車@アンリミテッド・エンドラインが大破しました。
 ・ヴィヴィオの支給品一式が消滅しました。
 また、火災は魔力爆発によって鎮火しています。


【バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜】
金居に支給されたボーナス支給品。
未確認生命体第45号ことゴ・バベル・ダの使用する大金槌。
高い殺傷能力を有しており、バベルの怪力と相まって、紫のクウガの鎧に傷をつけるほどの威力を発揮した。

【黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK】
ヴィヴィオに支給されたボーナス支給品
「組織」に所属する契約者・黒(ヘイ)が使用するナイフ。

319 ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 00:45:32 ID:.DfmzCYc0
ふぅ、何とか宣言の範疇の時間に投下できた……というわけで投下は以上です。
誤字・矛盾などありましたらご意見ください。

320 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 01:56:43 ID:qsn2Ooe.O
投下乙です
ヴィヴィオとエネルのバトルはまさに圧巻。規模で言えば殺生丸とナイブズをも越えるんじゃなかろうか
で、美味しい所を持って行くのはやはり金居。アレックス同様漁夫の利で殺害数を稼ぐか。
そして始。最期まで誰かを守る為に戦い抜いた姿に感銘を受けた。お前は偽物なんかじゃない本物の仮面ライダーだ!

そして指摘が二つ程。
ヴィヴィオはフォワード4人は呼び捨ての筈なので、スバルさんではなくスバルと呼んだ方が自然かと。
もうひとつは、このロワでは死亡=ラウズカード化だった筈なので、カード化の描写も入れた方がいいのではないかと思いました。

321 ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 02:10:21 ID:.DfmzCYc0
了解しました。前者はそのようにいたします。
で、後者の方なんですけど……ジョーカーってラウズカード化するんでしょうか? そこが分からなかったので、こういった扱いにしたのですが

322 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 03:07:36 ID:nMQrsHmw0
映画でカードになってるよ

323 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 03:53:02 ID:iis7eLVQ0
投下乙です。
相変わらず熱い! ヴィヴィオとエネルの戦いも勿論の事始の散り際も熱かった!
ヴィヴィオはもう魔法を使えなくなってしまったけど、ロワ的にはそっちの方がいいのかも。
もう聖王になる事もないし、只の子供になってしまうけれど、そっちの方がかえって安全かもしれないし。
一つ心配なのはヴィヴィオが元の精神状態に戻れるかだが……一緒に居るのがスバルなら大丈夫か?
そして今回一番かっこよかった始。始の心を動かした晋やギンガと同じく、始もまた誰かを守る為に散った。
正体が化け物とか人間とかそんな問題でなく、最期の最期で本当の意味で仮面ライダーになれたんだと思うな。
ルルーシュや始、ギンガ達……死んでいった者達の命を背負ったスバルの今後に期待です。

ジョーカーのラウズカード化に関してですが、既に言われている通りジョーカーもまたカード化します。
53枚中、どんなラウズカードの代わりにも使える、言わば全ての能力を持ったカードがジョーカーのカード。
劇場版でも登場していますが、外見さえ知って居れば問題なく書けるレベルかと思います。

自分も一つ気になったのですが、アンデッドには死亡や破壊・消滅と言う概念が無く、その為にカードに封印されます。
まぁ封印されれば死んだも同然なのですが、一応破壊する事も消滅させることも不可能なのがラウズカードなので、
始の死後、始が所持していたハートのラウズカード10枚の行方も描写しておいた方がいいかな?と思いました。
(実際ギャレンが死んだ(と思われた)時も、持っていたラウズカードが全部戦闘後の海岸に散らばっていたし)

324 名無し :2010/07/20(火) 04:10:36 ID:TFRDfDvE0
遂にマスカレードからも死者が・・・まあ、4人も参加して第3回放送まで誰も死ななかったのも十分すごいけど。

325 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 10:37:46 ID:KhF25q020
投下乙です。
ホテル戦完全決着!!
始vs金居、ヴィヴィオvsエネルという引きでどんな激闘になると思ったらスバル達によるヴィヴィオ救出戦になるとは。
スバルの攻撃が通じなかった時はどうなるかと思ったけどまさか暴走とは……
大暴れしたエネルは遂に此処で退場(でも、皮肉な事だけどエネルがいなければヴィヴィオを助けられなかったんだよなぁ……)
下手人の金居は最低限のダメージで最大限の戦果……コイツが一番の勝ち組じゃねーの……
ヴィヴィオは何とか元に戻ったけど肉体的なダメージも酷いし精神的にもボロボロ……大丈夫か?

そして始……退場したとはいえスバルを守りきった上での退場……それが結果としてヴィヴィオも救った……
登場当初は無差別マーダーでダークローチ大量発生とかトップクラスの危険人物だったのに最後の最後で仮面ライダーになれたか……
ギンガ達の願いが届いたんだなぁ……
始に救われたスバルはヴィヴィオ達を守れるのか、急げスバル、今度はアジトが危険だー!!

ここからは指摘と質問です。
ヴィヴィオの支給品が消えたのはわかるんですが、始とエネルの支給品も消えたんですか? 始はともかく描写的にエネルの支給品は無事で金居が回収しそうな気が……
始にしても他の人も指摘していますが、他の支給品はともかくラウズカードは消失しない筈なのでその辺の描写は必要だと思いますが(勿論、始自身のカードも含めて)。

……そうか、パーフェクトゼクターもクラールヴィントもヴィヴィオのぬいぐるみも消失したんだな……(遠い目)

326 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 14:17:44 ID:UQCnfIKQ0
投下乙です

ホテル戦はみんな完全燃焼したなあwww
ヴィヴィオがスバルらを皆殺しと思ってたら最後で引っくり返った。これぞロワ!
エネルは結果的にヴィヴィオを助けることになった、奴がいなければ確かにこうはならなかったなぁ
金居は美味しく漁夫の利を得て邪魔ものも消えてうはうはだな

最後に始……最後はスバルを守り心穏やかに逝くことができたのか…
本当にギンガらの想いが通じたよ…
だがロワはまだ終わらない。スバルよ、アジトに急いでくれ! そちらもピンチだ!

327 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 15:39:26 ID:qsn2Ooe.O
そうか始はパーフェクトゼクターも持ってたのか
アレは消失するのか?一応隕石同士の衝突による衝撃で大気圏突入しても無傷な装甲を更に練磨した素材とかだった筈だが…

328 リリカル名無しA's :2010/07/20(火) 18:52:20 ID:k3uNdhe60
投下乙です
たとえジョーカーだろうと今のお前は間違いなく仮面ライダーだ!始えええええ!!!
あのマーダーから始まった始がまさかここまで熱い最期を迎えるとは感慨深いなあ
そしてその脇でひっそりと死んだエネル…なんだろう、なんとなく哀れに感じる…

既に指摘されている荷物の件について
エネルの荷物に関してはこのままでいいと思います
金居の様子と状態表から次の話で拾って立ち去ったとしても、そのまま放置しても、どっちでも不自然ではないですから
始の方はいくつか消滅しないものがありますが、その辺りは描写する以外にも後続の書き手に一任しても構わないと思います
どちらにせよVj6e1anjAc氏がしたいようにしたらいいと思います

329 ◆Vj6e1anjAc :2010/07/20(火) 23:38:42 ID:.DfmzCYc0
支給品の件ですが、エネルのものは完全に書き忘れです。
で、始のものは最初消滅扱いにしようと思ったのですけど、色々思うところがありまして、やっぱり残すことにします。
いずれにせよ、近日中に修正案を用意しますので。

330 リリカル名無しA's :2010/07/25(日) 21:44:39 ID:tSQTY5js0
スケィスも消えちゃった……。

スケェェェェェェェェェィスっっっっっ!!!!!!!(泣)

331 ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 19:55:30 ID:TIW0LW2g0
スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ分投下します。

332 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 19:57:00 ID:TIW0LW2g0
「IS……発動」

 その声と共にスバル・ナカジマの手にあったある『モノ』が粉砕された。そして近くに降ろしていたヴィヴィオを再び背負い走り出した。
 ヴィヴィオは衰弱している為急がなければならない。では、何故スバルは急がなければならないにもかかわらず足を止めある『モノ』を砕いたのだろうか――?















   ★   ☆   ★   ☆   ★





 暗い闇の中にヴィヴィオはいた。
 身体中が悲鳴をあげているかの様に痛くそして苦しい。
 助けを求めようとも周囲には誰もいない。





 それでも闇の中を歩き――見つけた。





「ザッフィー……シャマル……」

 シャマルとザフィーラが立ちつくしていた。ヴィヴィオは重い身体を引きずって近付こうとするが――
 見てしまったのだ。2人が自分を蔑む様な視線を向けるのを、それは明らかな拒絶の意志――
 それだけではない、シャマルの手には破損が著しいクラールヴィントがあった。
 何故、クラールヴィントは破損していたのか? ああそうだ、それは先程の戦いで――自分が壊したんだ――

 ザフィーラは悲しんでいる所を励ましてくれたのに自分はそれを裏切った。
 シャマルにとってクラールヴィントは相棒だったのに自分はそれを破壊した。
 2人が自分を蔑んでも当然だ。





 気が付くと2人は消えていた。再びヴィヴィオは周囲を見回し、

333 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 19:58:40 ID:TIW0LW2g0





「シャーリーお姉さん……」

 浴衣を着たシャーリー・フェネットを見つけた。ヴィヴィオは駆け寄ろうとするが――

「来ないで……」

 シャーリーはそう言い放つ。またしても明らかな拒絶だ。

「どうしてスバルを殺そうとしたの……言ったよね、スバルは友達だって……」

 そうだ、自分はあの時スバルを……

「ひどいよ……」





 そういって、シャーリーの姿が消えた。そして入れ代わる様に漆黒の服に身を包んだ少年が現れた。





「俺を治療してくれた事には感謝している。だが……」
「ルルお兄さん……」

 その少年ルルーシュ・ランペルージは自身を治療した事について礼を述べたが、

「何故スバルを殺そうとした? シャーリーからも聞いていたんだろう、スバルは俺やシャーリーの友人だという事を」
「それは……」

 ママである高町なのはを助けようともせず漆黒の怪物と戯れていたから、つまりママを裏切ったからだと正直に言おうとしたが、

「高町なのはを助けずに怪物と戯れ彼女を裏切ったからか? まさか本気でスバルが裏切ったと思っているのか?」

 ルルーシュはその理由を既に看破していた。

「違うな、間違っているぞ。スバルの性格を考えてみろ、俺の様な悪人やあの場にいた得体の知れない怪物であっても説得する事ぐらいわからないか?」
「うぅ……」
「それに高町なのはの事なら俺も少しは聞いている。彼女も同じではないのか? あの場に彼女がいたならば恐らく同じ事をしていたと思うが?」

 その通りだ、何故彼がそれを知っているのかはともかく恐らくなのはママも同じ事をしていたのはヴィヴィオにもわかる。

「つまりだ……裏切ったのはスバルではない、ヴィヴィオ! お前だ!! お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」

 その眼には明らかな憎悪と憤怒が込められていた。彼にとってスバルは自分にとってのママ達同様大切な存在だったのだろう。それを自分は――





 気が付けばルルーシュの姿も消えていた。そんな中背後から、

334 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:00:40 ID:TIW0LW2g0





「えriおくnを……かeせ……」

 振り向くとそこには人らしき『モノ』がいた。皮膚が破れ肉が露出し所々骨や内蔵が飛び出し身体中血塗れで至る所に欠損が見られる。そして頭部から僅かに見られる桃色の髪からそれが誰か理解した。

「キャ……ロ……」

 それはキャロ・ル・ルシエだった『モノ』だ。そうだ、あの時自分が彼女を完膚無きまでに破壊し尽くした。その残骸が集まり再び人の形を成したのだろう。

「えりokuんを……こんnaにしte……」

 その手らしき所にはボロボロになった鎌が握られていた。アレは自分がキャロから奪った鎌、恐らくは先の戦いでクラールヴィント同様……

「yuるさなi……!」

 そしてキャロは全身でヴィヴィオに飛びついた。肉の塊だったそれはヴィヴィオにぶつかると同時に砕け散りその血肉はヴィヴィオの身体中に染みこんでいく。

「あぁぁ……」

 放たれる死臭が気持ち悪い。それはまさしくヴィヴィオ自身の罪の象徴なのだろう。それでもヴィヴィオは助けを求めるかの様に彷徨う――





 そして――





「なのは……ママ……」

 フェイト・T・ハラオウン同様幼くなってはいたが、なのはを見つけた。しかしなのはは駆け寄ろうとするヴィヴィオに有無を言わさず魔力弾を直撃させた。

「え……」

 戸惑うヴィヴィオに対し、

「おかしいなぁ……どうしちゃったのかな……誰がみんなを殺してくれって言ったの……私がそんな事言うと思っているの……ねぇ、私の言っている事……そんなに間違ってる……?」

「ママ……」
「少し……頭冷やそうか……」

 そして再び魔力弾をヴィヴィオに当てた。ルルーシュの言う通りだった。なのはが皆殺しを望むわけがない、自分は彼女の事を全然理解していなかったのだ。





 再び立ち上がろうとするが、目の前にはゆりかごで見た時と同様に幼いフェイトがいた。




「フェイト……ママ……」

 何とか彼女に助けを求めるが、

「なんでなのはを……みんなを裏切ったんだ……」

 彼女の眼には明らかな怒りが込められていた。

「お前にこんな事をさせる為に助けたんじゃない……なのは達を裏切らせる為に助けたんじゃない……お前なんか……」

 ダメだ、その先の言葉を言うな、ヴィヴィオはそう口にしようとしたが、

「お前なんか……嫌いだ……!」

 そう言ってフェイトは消えた。

335 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:01:20 ID:TIW0LW2g0





「うぅぅ……」

 ママ達からも拒絶されヴィヴィオの眼には涙が溢れていた。そんな中、視線の先には、





「あ……浅倉お兄さ……」

 自身のぬいぐるみを手に持っている蛇皮の服を着た男性浅倉威がいた。その手にあるぬいぐるみは所々が破れ中身が飛び出している。
 ヴィヴィオは僅かな力を振り絞り浅倉に駆け寄るが、

「がっ……」

 浅倉によって蹴り飛ばされた。

「五月蠅い餓鬼が……イライラするぜ……」

 そう言って、ぬいぐるみを持ったままヴィヴィオの前から消えていった。ぬいぐるみの視線も自分を蔑んでいるかの様に見えた。そうだ、ぬいぐるみもあの戦いで――





 人だけではなく、デバイスやぬいぐるみからも拒絶されヴィヴィオは本当に独りぼっちになっていた。

「ぐばぁ……はぁはぁ……」

 蹴られた衝撃からか口からは大量の血が吐き出される。身体の奥が痛くて苦しく感じる。だが、ヴィヴィオを助けてくれる者はだれもいない。
 どうして誰も助けてくれないのか? ああ、その理由は自分が理解している、皆を裏切り皆殺しにしようとしたのだ、皆が自分から離れていって当然だ。

 いっそ殺して欲しいとすら思う。しかし死神すらも自分には見えない。死が近いとしても簡単には死なせてくれないらしい。
 死の瞬間まで苦しめと――いや、死んだとしてもずっと独りなのだから苦しみは決して終わらないのだろう。





 それはヴィヴィオに対する罪なのだろうか?





「だれか……ヴィヴィオを……たすけてよ……」





 その声に応える者は誰もいない。誰か現れても蔑むだけで決して助けてはくれない。





 悪夢は終わらない――仮に、ここでヴィヴィオが死んだとしても――





   ☆   ★   ☆   ★   ☆

336 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:02:00 ID:TIW0LW2g0













「始さんに別れを告げた後、あたしはヴィヴィオを背負いアジトへ向かった。アジトに先行しているこなた達や八神部隊長達と合流し、衰弱しているヴィヴィオを助ける為に。
 その途中、1枚のカードを見つけた。多分始さんが持っていたカードがあの時の衝撃と風でここまで吹き飛んだと思う。
 余裕なんて無かったけどあたしはそのカードがどうしても気になりそれを拾った。何故かはわからないけど始さんにとって大事な物だと思ったから――」





 ジェットエッジの調子は良好、このペースならばスカリエッティのアジトまでそう時間はかからない。
 とはいえこの時間を無駄には使えない。周囲の警戒を怠らず、先の戦いやこれからの事を考える。

 放送を冷静に思い返す。放送時点での残り人数は19人、その内ホテルに集結した参加者は自分を含めた9人。
 その内、泉こなた、八神はやて、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、カテゴリーキングと呼ばれた男が先に離脱、相川始と雷の男が死亡し自分とヴィヴィオが最後にホテルを離れた。
 勿論、なのは達を含めた残り10人の動向も気になるがそれについてはひとまず置いておく。大丈夫という保証も無いが考えてもきりがないからだ。

 真っ先に気になるのはヴィヴィオの状態だ。
 あの惨事の中心部にいたとは言えヴィヴィオは何とか生きていた。もしかしたら彼女が持っていたクラールヴィントが自らを犠牲にしてでもヴィヴィオのダメージを最小限に抑えようとしていたのかも知れない。
 しかしそれは最悪の事態を避ける事が出来ただけだ。現在進行形で衰弱している事に変わりはない。
 一体、ヴィヴィオに何が起こったのだろうか? いや起こった事自体はわかっている。体内に埋め込まれたレリックが暴走して大爆発を起こしたのだ。
 問題は何故彼女の体内にレリックが埋め込まれJS事件の時の様な洗脳状態に陥ったのかという事だ。
 少なくてもこなたやリインといた時にはそれが無かったらしい。となると連れ去られた後から約6時間の間に何かがあった事になる。
(確か、キャロかルーテシアのどちらかがゆりかごに連れ去った可能性が高いから……)
 連れ去った者が聖王のゆりかごでレリックを埋め込み洗脳した。そう考えれば一応筋は通る、しかし幾つか腑に落ちない点がある。
 まず、レリックは何処にあったのか? 勿論既に埋め込まれていた可能性もあるし、都合良く持っていた可能性もあるがそうそう上手く事が運ぶわけもない。
 また、連れ去った可能性が高いキャロとルーテシア・アルピーノの両名は共に放送前に死亡している点も引っかかる。洗脳しておいて殺されるのはお粗末な話だろう。
(……待って、もしかしたら)
 が、逆にこの事がある仮説を導き出した。ルーテシアがヴィヴィオをゆりかごまで連れて行ったが、そこで何者かにルーテシアが殺され彼女の体内のレリックをヴィヴィオに埋め込んだ可能性だ。
 これならば十分に筋は通る。暴走が起こった事に関してもルーテシアのレリックが適合しなかったとすれば問題はない。その影響でヴィヴィオが苦しんでいるのだろう。
 勿論、これは仮説に仮説を重ねたものでしかない為確証はない。しかし、可能性は十分にあり得るだろう。
 それ以上に気になるのは彼女に染み着いた夥しい血肉の臭い。確かにあの状態ならば誰かを殺しても不思議はない。しかし、普通に返り血を浴びたとしてもここまで酷くなるとは思えない。
 考えられるのは殺した死体を完膚無きまでに破壊した際に飛び散った血肉が染み着いた可能性だ。幾ら洗脳状態とは言え正直やりすぎではなかろうか?

337 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:03:00 ID:TIW0LW2g0

 勿論、ヴィヴィオの行動自体は洗脳状態だった為、スバルとしてはそれを責めるつもりはない。
 しかし、ヴィヴィオが正気に戻った時に彼女がその時の事を覚えていたらどうだろうか?
 ヴィヴィオは罪の重責で苦しむのではないだろうか? なのは達から拒絶される可能性を考えるのではなかろうか?
 スバル自身は別段気にしないしそれについてはなのは達も同じだろう。だが、ヴィヴィオ自身が納得出来るかは全くの別問題だ。
 このままでは仮に命が助かってもヴィヴィオの心が壊れてしまう可能性が高い。
(何とかしてヴィヴィオを助けないと……出来れば早くなのはさんと会わせたいけど……)
 とりあえずホテルでの戦いではヴィヴィオは誰も殺さなかったと説明しておこう。幸いあの惨状を見たのは自分だけだから誤魔化しはきく。
 ボーナスでナイフを得た事を知っているのも自分だけだからそれで知る事も……
(待って、それじゃあの男は誰が?)
 ホテル跡には始の他に雷の男の死体もあった。ヴィヴィオ優先だった為詳しくは調べていないがあの戦いで死んだ事は間違いない。
 危険人物ではあったが彼がヴィヴィオを抑えてくれなければヴィヴィオに一撃をたたき込めなかった事は確実、つまり彼の存在のお陰でヴィヴィオを助ける事が出来たという事になる。ある意味皮肉な話だ。
 普通に考えれば彼が死んだ理由は暴走に巻き込まれたからだろうがそれならヴィヴィオが得るボーナスは2つでなければならない。
 また、何よりあの男の遺体は始と比較して損傷はそれ程酷く無く、頭部に撃たれた痕跡があった。
 つまり、雷の男を殺したのは別の者という事だ。では一体誰が?
(いた、それが出来る人が……)
 それはカテゴリーキングだ。エネルとヴィヴィオが乱入した時点で危険を悟り早々に離脱したのだろうが、後から戻ってきて危険人物である雷の男にトドメを刺した可能性は否定出来ない。
 自分達を助ける為……とは思えなかった。本当に自分達を助けるつもりならばヴィヴィオや自分を放置する筈がない。つまり、あの男は自分だけの為に雷の男を仕留めたのだろう。
 自分達を放置した理由は不明、あの男にとっては自分達は排除する必要すらない取るに取らない存在なのだろうか?
 始との対立云々を別にしても、その立ち回りと思考から警戒すべき人物なのは確かだろう。もしかしたらメールにあった『キング』と何か関係があるかもしれない。後でもう少し整理した方が良いだろう。
(あれ、何か引っかかるんだけど……)
 ここまで考えて引っかかりを感じたものの深く考える余裕は無い。他にも考える事はある。

(かがみさん……無事にこなたの説得が通じれば良いけど……)
 それは殺し合いに乗ったかがみの存在だ。アジトに到着すれば友達であるこなたが説得してくれる筈だ。
 しかし、それは希望論でしかない。一番説得出来そうなのはこなたではあったが絶対という保証はない。
 それ以前にこなた達がアジトに無事に到着しているという確証も無いし、はやて達が途中で何者かに襲われている可能性もある。
 また、場合によっては彼女の持つリングに宿るバクラが何かする可能性も否定出来ない。
(いや、バクラに関しては一応ヴァッシュさんに注意しておいたから多分大丈夫だと思うけど……)
 そう思いながらも不安は拭えない。また、前に会った時と比べてかがみが荒んでいるのも見て取れた。
(ホテルで再会するまで6時間弱、何があったんだろう……そうだ)
 と、スバルはデイパックからレヴァンティンを出した。レヴァンティンは元々スバルが持っていたがデュエルアカデミアでの戦いでかがみに奪われ先の戦いで取り戻すまでずっとかがみが所持していたものだ。
 つまり、レヴァンティンがその間に何があったか把握している筈だという事だ。
「……というわけで、かがみさんに何があったかわかる範囲で良いから教えて」
 事情を説明しレヴァンティンに問う。

338 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:05:40 ID:TIW0LW2g0

 そしてレヴァンティンはそれまでに起こった話を語り出す。
 かがみの様子を見る限り、度々誰かと会話している様な様子が見られた。しかし相手の人物の声が聞こえなかった為詳しい事はわからない。
(バクラね)
 スバルとの戦いを終えた後、かがみはレヴァンティン以外のデバイスの力を利用してバリアジャケットを展開しようとした。
「え!? かがみさん何かデバイス持っていたの? ……あれ、もしかしたらあの時隠し持っていたかも知れないってこと……まぁ、かがみさん魔力無いだろうからあんまり問題は……部隊長もいるだろうし」
 そして、煙の見えるレストランに向かい集まった参加者を一網打尽にしようとしていた。
 ちなみに仮面ライダーには変身出来ないらしく持っていた機関銃で撃ち殺そうとしていた。
 そして機関銃の準備をしている所で始と遭遇、始は人間を助ける気は無いとは言いながらもかがみを止める事は無かった。その一方逆に襲う事も無かったらしい。
 その後、かがみがレストラン跡にいた浅倉と始を襲った。もっともその試みは失敗しかがみの持つ仮面ライダーに変身する為のカードデッキは浅倉に奪われ逆に返り討ちにあった。
「え、ということはかがみさん仮面ライダーに変身出来なくなったの?」
 その後は浅倉と始が戦いが始まったらしいがその場面を直接見ていない為具体的な事は不明ではある。
 一方、気が付けばかがみの腹部に何かベルトが装着されそのままかがみは別の仮面ライダーに変身しその場を離脱した。恐らくホテルでの姿はそれだろう。
「どういう事? アカデミアで戦った時と違うのは気になったけど、ベルトが手に入った理由がわからないんだけど……」
 そう問うスバルだったがレヴァンティン自身もわからないし何よりかがみ自身すらもわかっていなかったらしい。
 そしてホテルに戻ったが、そこでいきなり何かに引きずり込まれたらしい。引きずり込まれた先で待っていたのは浅倉によるかがみの妹柊つかさの惨殺。
「そんな……」
 これによりかがみの精神は破綻、そして浅倉と戦いになったらしいが気が付けば元のホテルに戻ってきていた。
 それからヴァッシュと遭遇し、スバルとの再会後離脱し何かの車で始を轢き殺そうとしたが失敗し始と戦いになりあの場に戻ったのだ。
 勿論、ここまでの話はデイパックの中から会話や音を聞いた事による判断なのでレヴァンティン自身詳しい状況まではわからない。それでも何があったのかは概ね理解出来た。

「つまり、かがみさんがああいう風になったのは目の前でつかささんを殺されたから……」
 かがみが壊れた原因はつかさの死という事は理解出来た。これ自体は不幸な事だが逆を言えば説得の糸口になる。
 異なる世界の別人と決めつけながらも実の妹が殺されてショックを受けたのだ。例え口では別人と言っても割り切れないのだろう、説得の可能性が僅かに見えたと言える。
「それにしてもバクラが思ったよりも役に立っていないのが気になるんだけど……」
 一方でバクラの動向も気になった。バクラが自分に都合の良い風にかがみを誘導している割には思ったよりも戦果があがっていないのだ。かがみの口ぶりからバクラは一度彼女を見捨てようとしたらしい。
 一応、身体を使う等の話も出ていたが別段そんな様子は無かった。基本的にはかがみ任せにしていた事は間違いない。
 もしかするとバクラ自身にも強い制限がかけられている可能性があるのかも知れない。制限故にかがみを誘導していたのだろう。
 かがみのあまりの不甲斐なさに一度見捨てようとした事もその現れかもしれない。
 とはいえ、バクラの存在がかがみを追い込んだ事に変わりはない為、それを許すつもりは全く無い。

339 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:07:50 ID:TIW0LW2g0

 と、スバルは何かに気付き足を止めヴィヴィオを一端降ろし、デイパックからベルトを出して試しに身に着けてみた。しかし、別に反応する事はなかった。
「あたしじゃこのベルトは使えない……けど、かがみさんには使える……だったら!」
 ベルトを外して手に持ち
「IS……発動」
 そう言ってベルトを粉砕し再び走り出した。
 何故ベルトを粉砕したのか? それは再びかがみに利用されるのを防ぐ為だ。
 何故ベルトがかがみに装着されていたのだろうか? 何故かがみがベルトを使う事が出来、自分は使う事が出来なかったのか?
 その理由はかがみにはその資格があり自分には資格が無いからではなかろうか?
 資格が何かはわからない。だが資格があったからこそベルトは勝手にかがみに装着され彼女に力を与えたのだろう。
 もしここでのこのこかがみに近付いたらどうなるだろうか? 恐らく先程同様ベルトがかがみに装着される可能性が高い。そうなれば折角取り上げた意味が無くなってしまう。
 あの仮面ライダーの力は絶大、あの時は上手くいったが次も上手く行くとは限らない。故に二度と使われる事が無いようにベルトを破壊したのだ。
 勿論、かがみの説得が上手くいった場合、その力を奪った事は一見デメリットに思える。
 だが、かがみに力を与えるという事はかがみを戦わせる事を意味する。スバルはこなたやかがみ達といった戦いと無縁の人々を戦わせるつもりは全く無い。
 かがみ以外が扱えず、そのかがみにも使わせるつもりが無いならばその道具に意味など無い。だからこそ破壊したのである。

(とりあえず、これでもうかがみさんに戦う術はない……後は説得だけど……大丈夫、こなたならきっと助けられるし何かあってもヴァッシュさんや八神部隊ちょ……)
 ここまで考えてスバルは違和感を覚えた。
(ちょっと待って……部隊長はあの男と行動をしていた……どうして部隊長はあの男と?)
 カテゴリーキングはジョーカーだけが目的だと言っていた。確かにそれはある程度は信用出来る、だが殺し合いを止めようと言う風には感じなかった。
 何故はやては彼と行動を共にしていたのだろうか。勿論この状況下だ、例え敵でも組まなければならない時があるのはわかる。しかし何かが引っかかるのだ。

『あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね』
 それは雷の男がやって来た時にあの男が言った言葉だ。あいつ“ら”――複数いた、つまりヴィヴィオがいたことも知っていたという事だ。
 そして恐らくははやても知っていた可能性が高い。それを知って待避したという事は――
(部隊長はヴィヴィオを見捨てた……)
 友人の娘を見捨てたという事実、それはスバルにとっては信じがたい話であった。
 だが、感情的な面を抜きにして考えれば有り得ない話ではない。ヴィヴィオの力が驚異的だったのはスバル自身も理解している。場を切り抜けるならば撤退という選択を選ぶ可能性が無いとは言えない。
 同時にリインの話も思い出した。リインの世界の彼女は家族を取り戻す為に非人道的な作戦の指揮をとっている話だ。彼女の世界のはやてならばその選択を選んでもおかしくはない。
 当然その世界のはやてである保証はないが、似たような状況に置かれた世界の彼女の可能性は十分にある。その可能性を頭から否定する事は愚行以外の何物でもない。

340 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:08:30 ID:TIW0LW2g0

 選択自体は認めたくはないが間違っているわけではない。だが、もしもはやての人格がスバルの推測通りだとしたらスバルにとって避けるべき事態が起こる可能性がある。
(かがみさんが危ない……)
 ここで以下の3人について客観的に考えてみて欲しい。

 力を暴走させてはいたものの、それ以外では友好的な姿勢を見せ、戦いにおいても誰であろうとも殺さずに無力化しようとしたヴァッシュ、
 口では殺すとか戦うとは言っておきながら撤退を促し、最終的には誰も殺さず此方を助けてくれた始、
 此方が説得したにも拘わらず、聞く耳を一切持たずに自分達を騙し陥れ仲間達を皆殺しにしようとしたかがみ、

 3人の行動を見て誰が信用出来るか? それぞれ意見はあるだろうが殆どの者は一番信用出来ない危険人物がかがみなのは理解出来るだろう。
 しかし、スバルは一般論とは外れた行動を取っているのはこれまでの行動からも明らかだ。他の2人とは戦ってはいたが、かがみに対しては戦うという選択ではなく助けるという選択肢しか選んでいない。
 この理由はかがみが何の力を持たないか弱き少女であり、こなたの友人であり、同情出来る部分が多かったからというものだろう。
 しかし逆を言えばその理由が無ければ話が通じないかがみこそが一番の危険人物ではなかろうか?
 バクラが元凶だ、かがみは何も悪くない? そんな理屈は通用しない、現在進行形で放置出来ない危険人物である事に違いはない。理由はどうあれチンクを殺し自分達をも殺そうとした事実は決して変わらないのだ。
 話が通じないならばどうするかなど考えるまでもない。排除するしか無くなる、殺し合いを打破する為ならばその選択が間違っているとは言えない。

 つまり、はやてが障害となるかがみを排除する可能性が高いという事だ。
 自分の世界のはやてならばその可能性は無いと断言出来るが、リインの話やヴィヴィオへの対応を考えれば危険人物を排除する可能性は否定出来ない。
 その考え方自体はわからなくはないからそれも致し方ない。だが、殺し合いとは無縁だった彼女を殺させる事を容認出来るわけがない。
 勿論、はやてが行動を起こしてもヴァッシュが止めてくれる可能性はある。だがそれでは遅いのだ、事が起こればその時点でかがみは裏切られたと考え更に説得を難しくする。なんとしてでも止めなければならない。
(お願いです……早まらないで下さい、八神部隊長……)
 杞憂であれば良い、しかしその可能性がある以上無視する事は出来ない。急がなければならない、故にジェットエッジを更に走らせようと――

341 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:09:40 ID:TIW0LW2g0





 ――バランスを崩し転倒しそうになった。何とか転倒こそしなかったがスバルは一端足を止めた。





 足場の良くない夜の森林であった事に加え考えていた以上に自身の受けたダメージや疲労は大きかったのだろう。
 それ以前に焦りと急ぐのに夢中で周辺の警戒を怠ってはいなかっただろうか? このタイミングで奇襲に遭えばアニメイトの二の舞だ。
 こんな調子では守れるものも守れず、救えるものも救えない。
 スバルは深く深呼吸する。長々と休むつもりは無いが心を落ち着ける事は必要だ。

 ふとデイパックから2枚のカードを出した。それは始が変化したカードと先程拾った彼が持っていたらしいカードだ。
 1枚はハートの2『SPIRIT』、中にはヒトとハートが描かれている。1枚はジョーカー『JOKER』、中には始の本来の姿の頭部が描かれていて、見ようによっては緑のハートに見えなくも無い。
(始さんから何も聞けなかったな……)
 カードを見て始の事を思い返す。結局の所、始は一体何者でスバルの姉であるギンガ・ナカジマと何があったのだろうか?
 少なくても彼自身が語った通り彼が人間とは違う異質な怪物という事は間違いないだろう。遺体がカードとなっていることからもそれは明らかだ。
 その一方、カテゴリーキングと始の会話からみるに、始が死神にして非常な殺戮者だったのはほぼ間違いないだろう。彼が殺し合いに乗っていた事についてはそれでほぼ説明出来る。
 更にスバルは2枚のカードと前にルルーシュが持っていたクラブのKのカードが同じものであると共に、それらがある物に似ている事に気付いた。それはトランプだ。
 となれば、『始=ジョーカー』が死神と呼ばれるというのも的を射た表現だ。トランプにおいてジョーカーは他の52枚とは異質な存在で時には忌み嫌われる事もあるからだ。
 つまり、始は最初から他者とは違う全く異質な存在という事だ。

 では、その始と解り合う事は不可能なのか? 答えはNoだ。
 そもそもの話、最初から異質な存在という意味ではスバル達も同じなのだ。
 スバルやギンガ達戦闘機人は「ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として生み出す」という手段で生み出されたものであり、その目的はその名前通り高い戦闘力を持つ人型兵器を生み出す事だ。
 つまり、スバル達も最初から兵器として生み出されており人間達とは違う全く異質な存在なのだ。
 だが、現実ではスバル達はクイント・ナカジマに保護された後、ナカジマ家で人間として育った。また、ナンバーズにしてもその大半は更正プログラムを受けた後、ナカジマ家の養子になる等人間として暮らす事になった。
 始にもスバル達と同じ事が言える筈なのだ。自分達の声が届く筈がない、スバルはそう思っている。

 始とギンガの間に何があったのだろうか?
 始によるとギンガは殺し合いに乗った自分を助けて命を落としたらしい。だが、始の口ぶりではギンガとの遭遇はその時1度だけだとは思えなかった。
 ギンガは何度も始を説得しようとしていたのでは無いだろうか? ギンガは始と解り合えると思っていたのではないだろうか? 故に何度も説得を試み――その途中で敵の攻撃から始を守って死んだのだろう。
 始はそれを馬鹿な行為だと言った、しかしスバルはそれを否定する。ギンガが無駄な命を救う訳がなかったし何より始の言動そのものがそれを証明している。
 始は自分の為にギンガが死んだ事に強い悲しみを感じていた。本当にギンガの行動を馬鹿だと思うならそう感じるわけがない。
 そして何より、始はギンガの言葉の影響を強く受けていたのが先の戦いでもわかった。ギンガの声は始に届いていたのだろう。

 正直な話、少なくても始の行動を見る限り能動的に殺し合いに乗っていたとは思えなかった。
 ホテルでの戦いでは自分に去る様に言ったり、自身のとどめを刺すように促したりしていた。
 また、レストランでの戦いでも始はかがみを襲おうとはしなかった。
 本当に能動的に殺し合いに乗っているのならばそんな行動をとりはしないだろう。

342 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:11:30 ID:TIW0LW2g0

 もしかすると、そもそも始は誰かが言ったような『死神』として殺し合いに乗っていたのではなく、別の理由で殺し合いに乗っていたのでは無いだろうか? 例えば、待っている人達の元に帰る為といったものだ。
 勿論、何の確証も無い想像でしかないしそれを確かめる術もない。しかし、本当に只の『死神』ならギンガの説得は何も届かず逆に彼女を殺していた可能性が高い。
 始自身が気付いていたかはわからないが、きっと始自身誰かを守る為に戦っていたのかもしれない。誰かを守ろうとしたからこそギンガの説得が届いたのだろう。

 確かにジョーカーは『死神』等に代表される嫌悪される存在の意味を持っている。しかし、ジョーカーが持つ意味はそれだけではない。1つは他を凌駕する絶大な力、もう1つは他のあらゆる存在の代替になれる事だ。
 つまり、ジョーカーこと始はその絶大な力で皆を救える存在にもなれるという事だ。そして確かに彼は自らの力でスバルとヴィヴィオを救う存在となった。

『誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ』

 かがみが言った言葉、確かにそれは事実だ。
 ディエチもチンクもルルーシュもギンガも誰かを守ろうとして死んでいった。
 真面目な話、スバル自身あの時死んだと思っていたし、実際に自分とヴィヴィオを助ける為に始が死んだ事は確かだから否定出来るわけがない。
 それでもだ、死んでいった者達は仲間達に何かを届けてくれた。彼等の死は無駄ではなく同時に決して無駄にしてはいけない、それだけは断言出来る。
 彼等が遺した物はこの血塗られた運命を破る切り札となるかも知れない。しかし切る者がいなければ切り札に意味はない、故に生き残った者達は決して諦めてはならないのだ。

 カードが煌めいた気がした。スバル達を励ますかの様に――





 スバルは再び走り出した。調子はさっきよりも良い、これならば躓く事なくアジトまで行けるだろう。
 ヴィヴィオの容態は悪く、かがみの説得が上手く行く保証もない。はやての動向等気になる事は多く不安は尽きない。
 それでもスバルは決して諦めたりはしない。諦める事は簡単だ、だが諦めるという事は自分達を守る為に死んでいった者達の想いや意志を裏切る事になる。
 彼等の行動を無駄にしない為にも必ず皆を守り殺し合いを止めるのだ。





「ルルーシュ、ディエチ、チンク、ギン姉……みんなの想いと願い、決して無駄にしない……
 そして始さん……貴方の『心』と『魂』は私が受け継ぎます……
 必ずなのはさん達と力を合わせてヴィヴィオ達を助けてこの殺し合いを止めます――」

343 A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:12:00 ID:TIW0LW2g0





【1日目 真夜中】
【現在地 E-9】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、
     クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 2.六課のメンバーとの合流。かがみの事はこなたに任せる。はやてに早まった真似をさせない。
 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード、金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。

344 ◆7pf62HiyTE :2010/08/01(日) 20:15:30 ID:TIW0LW2g0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回のサブタイトルの元ネタは8月7日から上映される『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』からです。……まだ上映前なんだけどなぁ……良いのかな?
今回容量は29KBなので分割無しで収録可能……ですよね?
……分割無しで収めたのって『命の理由』以来だなぁ……もしストラーダスバルが回収してあったんだったら分割になっていたかもわからんな(ストラーダから聞き出すシーンが入るので)

345 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 03:57:50 ID:arCjFvuI0
投下乙です。
ヴィヴィオは本当にどうなるんだろう……起きてからが怖いなぁ。
早くなのはさんと合流して貰いたいところ。逆にはやてとはあんまり合流させたくないな。
あのはやてと今のヴィヴィオじゃ合流してもヴィヴィオの精神面的に碌な事にならなさそうだからなぁ……。
始の意思を受け継ぐ事を決意したスバルもかっこいい。
ジョーカーのカード、何処かで役に立ってくれるといいなぁ。


それでは連続になりますが、自分も
アンジール、キング、なのは、天道、かがみ分を投下しようと思います。

346 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:02:03 ID:arCjFvuI0
 私は悪くない。
 悪いのは全部私をここまで追い込んだ奴らだ。
 ここで出会った奴……皆して私を裏切った。
 だから私は、こんな所まで来てしまったのだ。
 嗚呼……どこで間違えてしまったんだろう。
 どうしてこんな、最期の最期まで苦しい思いをしなくてはいけないのだろう。
 体中から流れる大量の血液が、柊かがみの意識を急速に奪っていく……そんな感覚。
 四肢から流れ出た血液が周囲に赤の血だまりを作り、腹部から流れる血液が下腹部を濡らす。
 人間は通常、身体の三分の一から二分の一の血液が無くなった時点で、死に至ると言われている。
 もうそろそろ流れ出る血液は三分の一に達する頃だろうか。
 「死」が、もうすぐそこまで迫っているのだ。
 それはかがみ自身も、直感的に感じていた。

(ああ……私、死ぬんだ。嫌だ……死にたくないな……)

 次第に薄くなって行く意識の中で、かがみは思った。
 つい先ほどまでは、他の皆を殺して自分も死ぬつもりだった。
 だけど、一瞬で死ねるならまだしも、こんな苦しい思いをして死ぬなんてのは、予想外だ。
 だからかがみは、急速に接近する「死」を、受け入れられずにいた。
 成程確かに、八神はやてに言われた通りだ。自分は本当に都合がいい考えをしていた。
 そもそもの話、他を皆殺しにして自分が死ねばそれで全て終わるなんて、虫が良すぎたのだ。
 それでいていざ「死」が迫ると、自分はそれを受け入れられずにいる。

(死にたくない……死にたくないよ……)

 止めどなく溢れ出る涙。高鳴る心臓の鼓動。
 感覚が鈍って行く。目眩と涙とで、視界が歪む。
 死にたくないんだ。私は今、生きたいと願っているんだ。
 だけど、ここで生き延びたってする事なんて何もない。
 だってもう、柊かがみは全てを失ってしまったのだから。

 人間が最も簡単にPTSD(トラウマ)に陥る理由は、大きく分けて二つ。
 一つは、明確な殺意を持った者によって、「殺される」という恐怖を与えられる事。
 一つは、不可抗力にせよ何にせよ、誰かほかの人間を「殺してしまう」こと。
 エリオを殺してしまった。シグナムを殺してしまった。だからはやてに殺されてしまう。
 この一日でそれらの条件を尽く満たしてしまったかがみに、冷静な判断など出来る訳が無い。
 心に大きな傷を負ったかがみが、この先に希望を見いだせる訳が無いのだ。
 つまり今のかがみは、死にたくも無いが、生きたくもない……ただ絶望に打ちひしがれるのみ。
 第一、エリオやシグナムを殺してしまった自分に、この先も平然と生きていけるとは思えなかった。

(エリオ……シグナム……そうだ……私が、殺したんだ……)

 先程の少女――はやての表情を思い出す。
 瞳を見れば解った。あのはやてという少女、最初から自分を殺すつもりだったのだ。
 自分は彼女の大切な家族を――シグナムを奪ったのだ。この手で……。
 他の世界だろうが何だろうが、そんな事は関係ない。
 家族を殺された。だからはやては私を殺す。至って単純な事だ。
 憎しみによって繋がる負の連鎖。何処かで断ち切らねば永遠に続く悪循環。
 それが巡り巡って、明確な殺意となってかがみへと返って来た。
 殺された者の無念。遺族の愛憎。行き場の無い憎悪。
 それら全てを、殺意と言う形でぶつけられたのだ。
 それは浅倉につかさを殺された時、はやてにこなたを殺されたと言われた時、自分自身も感じた筈だ。
 結局のところ、八神はやては先程までの自分自身と同じ。

(どうして……私は……)

 どうして、こんな簡単な事に気付かなかったのだろう。
 本当に大切な者は失ってから初めて気付くとか、自分が経験して初めて気付くとか。
 そういう事は良く言うけど、こうして一人でじっと考える機会が訪れて、ようやく気付いた。
 自分は、人を殺した。周囲が悪かったから……という理由も多分にあるが、それだけでは言い逃れられない。
 人を殺せば、その人の人生も、未来も失われる。そうすれば、その人の遺族にも憎まれる。
 考えればすぐに解った筈なのに……自分の事でそんな事にも気付けなかった。
 そしてかがみを襲ったのは、家族を殺された者からの、愛憎による殺意。
 今更反省したところで遅いし、そんな虫の良い事をする気にもなれない。
 自分は本当に、どうにも取り返しのつかない事をしてしまったのだ。

347 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:03:04 ID:arCjFvuI0
 
(こなた……こんな私じゃ、もう友達だなんて言ってくれないかな……)

 また、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
 本当に信頼出来る、数少ない友達を胸に思い描く。
 出来る事なら、最期にもう一度その顔を見たかった。
 死を前にして初めて解った。結局自分は、こなたを求めているのだ。
 どうせ別の世界だから……なんてのは、はやての言った通り自分を誤魔化す為の言い訳に過ぎない。
 だから自分は、つかさが死んだ時だってあんなに取り乱してしまったのだ。
 だけど、それに気付くのも……何もかもが、遅すぎた。





 炎上するスーパーの前に佇む、三人の男女。
 一人は赤の装甲に身を包んだ仮面ライダー――天道総司。
 一人は時代を感じさせる着物に身を包んだ少女――高町なのは。
 そして最後の一人は、全身黒ずくめの仮面――魔王ゼロだ。
 両手を高らかに掲げて前進する魔王ゼロの姿は、見る者に異様な迫力を与えるようだった。

「聞け、力を持つ参加者よ! 刮目せよ! 私はゼロ……魔王ゼロだ!
 私は悲しい。繰り返される無秩序な殺戮、略奪! ルール無用の殺し合い!
 私はこの野蛮なバトル・ロワイヤルを善しとしない!」

 漆黒の仮面の奥から響く声は、低く、重たく、周囲へと響き渡った。
 言っている事はつまり、この殺し合いには乗って居ないという事だろうが……
 それは最早、天道となのはにとってはナメくさっているとしか思えない言い分であった。
 C.C.やペンウッドを誘拐し、今し方自分達を砲撃したこいつの何処が殺し合いに乗って居ないと言うのだ。

「だから私は、ここに新たなゲームを提案する! それに当たって、参加者の戦力は平等でなければならない!
 故に私は、ゲーム進行の妨げと為り得る乱入者達を、今し方このゲームから排除した!」
「ゲーム、だと……?」

 カブトの仮面の下、その表情の更に下側に明確な“怒り”を隠して、天道が問うた。
 こいつのふざけたゲームの為にC.C.とペンウッドは犠牲となり、今現れたもう一人の少女は死んだ。
 恐らくは奴がアンジールの妹なのだろうと言う事は、アンジールの反応を見れば解る。
 アンジールは、目の前で妹を無惨にも爆殺されたのだ。
 それを思えば、天道も冷静ではいられなかった。

「そうだ。ゲームという物は本来、決められたルールの下で楽しむべきもの!
 それ故に、私はこのゲームに新たなルールを設けた上で、諸君らに参加して貰いたく思う!」
「ふざけるな! そんな事の為に、貴様は何人もの命を……!」
「少し黙って貰おうか、仮面ライダー。貴様に拒否権は無いんだよ。」

 それ以上、言葉は必要なかった。
 カブトクナイガンが閃き、カブトの赤き装甲が踊る。
 卓越した戦闘センスで一瞬のうちにゼロとの距離を詰めたカブトが、短刀を振るった。
 きんっ! と、鳴り響く金属音。現れたのは、カブトの攻撃を遮る様に浮かぶ、黄金にも近い色の盾。
 構うものかと、続けて放つはハイキック。されど、それも先程と同じくして現れた盾によって阻まれる。

「私はゲームマスター、言わばプレイヤーだ。そして君たちは、プレイヤーによって盤上で動かされる駒。
 盤上で踊るべきキャラクターがプレイヤーに反逆する事は不可能! よって、君の攻撃は通らないよ!」

 言うが早いか、ゼロが掌を突き出した。
 巻き起こる突風。突風はカブトの身体を浮かばせ、そのまま後方へと吹き飛ばす。
 同時にカブトが肩から担いでいたデイバッグがカブトの身体から引き剥がされ、宙へ浮かぶ。
 浮かんだデイバッグは、カブトの身体とは反対方向――即ち、ゼロの方向へ向かって飛行。
 カブトが雑居ビルの壁に身体を打ち付ける頃には、デイバッグはゼロの手に握られていた。

348 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:03:45 ID:arCjFvuI0
 
「ゲーム開始時に初期装備が充実し過ぎていては、ゲームバランスが崩れかねないだろう?
 さぁ、仮面ライダーカブトよ……貴様の初期装備品はそのカブトゼクターのみだ!」
「貴様……ッ!」
「次はお前だ、高町なのはよ!」
「え……っ!?」

 カブトにはもう用無しだと言わんばかりの変わり身の早さで、なのはへと向き直る。
 驚く隙すら与えずに、ゼロが巻き起こしたのは先程と同じ突風。
 強力な念動力によって起こされた突風を回避する事は難しい。
 回避も防御も出来ずに、なのはの身体からデイバッグが引き剥がされた。
 それらもすぐにゼロの元へと飛行し、そのままゼロの手中へと収まった。

「これで君のアイテムは無くなった……だが、それではフェアじゃあない……。
 そこで特例として、君に初期装備アイテムを支給しようと思う。受け取りたまえ!」
「わっ、とと……え、これって確か……デルタギア!?」

 ゼロのデイバッグから取り出されたのは、銀色のアタッシェケース。
 放り投げられたアタッシェケースを何とか両腕でキャッチ。
 それは、なのはにとって確かな見覚えのあるベルトであった。
 そう。それは本来自分に支給された筈のベルト――デルタギア。
 それを手に取り、なのははゼロを見据える。

「これで準備は整った。君達にこのゲームのルールを説明する!
 カブト、デルタ……君達仮面ライダー二人には、タイムリミットまでに何人の参加者を殺せるかを競って貰う!」
「冗談じゃない……誰がそんなゲームに――きゃっ!?」
「まだ説明は終わって居ないよ、高町なのは……いや、デルタよ」

 カブトのすぐ傍らのコンクリの壁に、なのはの身体が叩き付けられた。
 念動力による突風だ。それに吹き飛ばされ、なのはの身体も飛ばされたのだ。

「君たちは私の駒だ。私の思い通りに動くしかない。さもなくば……残念だが、私はこいつを殺すしかなくなる」

 デイバッグの中へと突っ込まれたゼロの腕が掴んだのは、細い首だった。
 白く、美しい毛並みの小さな竜。仮にもなのはと組んだ相棒――フリードリヒだ。
 苦しそうに足掻くフリードなど意に介さず、力強く握り締めたその腕を、天高く振りかざした。
 月明かりの元、いつでも殺せる状況へと追い込まれたフリードが、じたばたと暴れていた。

「フリード!」
「ドラゴンと言えど命は命。それを尊く思うなら、私には逆らわない事だ。さて、それでは説明に戻らせて貰おう。
 ゲームは至って単純だ。次に私と出会うまでに何人殺せるか、いくつの首輪とボーナスアイテムを得られるかで競って貰う。
 そうだな……首輪のノルマは、一人につき二つ。それを満たせなかった場合は、この龍を殺す。
 君達が勝った場合は、次に出会ったとき、首輪四つとボーナスアイテム四つをこの龍と交換してやろう」

 これが、ゼロが持ちかけたゲームのルール。
 このデスゲームに新たな縛りを追加したものだ。
 次にゼロと出会うまでに、天道となのはは合計で四人の参加者を殺さねばならない。
 そして得た首輪と、ボーナスアイテム全てをフリードと交換しなければならないのだ。

「一応言っておくが、これまでの放送で名前を呼ばれた者の首輪を持ってきても数にはカウントしない。
 君達が仕入れた、新しい首輪とボーナスアイテムを持って来なかった場合は、無条件にこの龍を殺す」
「そのゲームに乗る必要はない。何故ならキング……お前は今、ここで俺に倒されるからだ」
「……キング? はて、何の事かな」
「とぼけても無駄だ。今さっき貴様が出した盾、俺には見覚えがある」

 掲げられたカブトの指先が、ゼロへと向けられた。
 天道は一度、コーカサスアンデッドへと変身したキングの姿をその眼で見ているのだ。
 その際に、キングが腕に装備していたソリッドシールド。それはまさしく、先程カブトの攻撃を防いだ盾だ。
 もう言い逃れは出来ないと言わんばかりに、カブトは真っ直ぐにゼロを指差していた。
 天道の思惑を察したゼロも、これ以上の演技に意味は無い事を悟ったのだろう。

「……あーあ、つまんないなぁ。まぁ、気付かれたからって僕の要求は変わんないけどさ」

 さもつまらなさげに呟きながら、その漆黒の仮面を外した。
 ゼロの正体は、案の定今となっては明確な敵となったキングであった。
 仮面を外した途端に声が変わった事を考えると、あの仮面には変声機でも付いているのだろう。

349 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:04:15 ID:arCjFvuI0
 
「ま、僕もそろそろゼロには限界感じてたからいいんだけどさ」
「キング……殺し合いには乗って無いっていうのは、やっぱり嘘だったの?」
「嘘じゃないさ。僕にとっちゃ人間同士の殺し合いなんて微塵も興味無い。それはホント。
 ただ、こうした方が面白いだろ? 正義の味方が人を殺すなんて、最高の見世物じゃんか!」
「そんな下らない理由の為に……!」
「やめろ高町……最早こいつには何を言っても無駄だ」

 カブトの、天道の冷静な声に宥められるなのは。
 ――否。カブトの声色にも、確かな怒りと最大限の侮蔑が込められていた。
 やはり人として感じる憤りはなのはも天道も変わらない。
 こいつは、キングは最悪だ。図らずも二人の意見は一致していた。

「貴様はここで俺が倒す。それで何の問題も無い」
「ちょっとちょっと、ゲームのルール聞いてなかったの? 僕は別に戦う気は無いんだってば! 第一僕、戦い嫌いだし」
「貴様こそ俺の話を聞いてなかったのか。俺は貴様を、ここで倒すと言ってるんだ」
「ああもう……わっかんない奴だなぁ! 戦ったとしても、お前レベルじゃ僕は倒せないって言ってんの。
 折角生き残るチャンス与えてやってんのに、何で無駄死にしようとすんのさ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 君の頭を疑うよとでも言いたげに、キングが両手を広げた。
 この自信、ハッタリ等では無い。それは天道自身にも良く解る。
 アンジールとの戦いで疲弊した今、果たして万全の状態のキングに勝てるだろうか。
 ……いや、勝てるかどうかではないのだ。倒さなければならないから、倒す。
 だから天道は、天の道を貫く為、キングに戦いを挑まなければならない。

 ――きぃんっ!!――

 刹那、何かの金属音が響いた。
 聞き覚えがある。キングの盾と、刃物が激突する音。
 カブトから見て、キングの後方にソリッドシールドが形成されていた。
 そして、ソリッドシールドと一緒に見えた影は――純白の、片翼。

「アンジールか……!」
「あぁそっか……最後の妹、死んじゃったんだ。だから他の参加者を手当たり次第に殺す事にした?」
「黙れッ!!!」

 激昂したアンジールが、反逆の名を冠した剣を横一閃に振った。
 されど、それはキングの身体に届く事は無く、直前でソリッドシールドによって阻まれる。
 キングの言う事は正しい。事実、アンジールはクアットロを失った事で、夢も誇りも失った。
 もう、先程までのアンジールは死んだ。今ここにいるのは、ただ殺す為だけに戦う堕天使。
 事実、盾に防がれていなければ、アンジールの剣の軌道はどれも確実にキングを死に追いやる太刀筋であった。

「アンジール……それがお前の選んだ道か」

 ぽつりと吐き出された天道の言葉は、何処か言い様のない寂しさを帯びていた。
 だけど、アンジールが全ての参加者を殺す事に決めたのなら、それも理解出来る。
 もしも自分が、掛け替えのない妹――樹花やひよりを殺されたら、その時は自分だってどう行動するか解らない。
 妹の為だけに戦うアンジールは、言わば天道とは鏡映しと言って良い。限りなく似て非なる存在なのだ。
 だからアンジールの行動を責める事は出来ないし、アンジールの判断を間違いとも思わない。
 なれば、今の自分には何が出来るだろう。これ以上アンジールの誇りを汚さない為には……。

350 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:04:56 ID:arCjFvuI0
 
「やはり、倒すしかないか」

 ぽつりと呟かれたカブトの言葉など、まるで意に介さない様子だった。
 アンジールの身体が、片翼による羽ばたきで、刹那の内に上空へと掻き消えたのだ。
 キングに只の斬撃は通用しない事を学んだのだろう。アンジールが次に狙った相手は――

「――ひっ!?」
「どこを狙っている……アンジール?」

 きぃん、と響く金属音。
 なのはの首筋を狙い、一直線に振り払われた剣を、カブトクナイガンが受け止めた。
 咄嗟の判断でカブトがなのはの眼前へと躍り出なければ、ここでなのはは死んでいた。
 もう、この男に誇りという物は無い。殺せるならば、女子供に関わらず手当たり次第に殺す。
 ならば天道は、その刃に脅かされる命を守り、アンジールを倒さなければならない。
 カブトクナイガンを翻し、リベリオンを払いのける。
 勢いそのまま、アンジールへと躍り掛かろうとするが――

「ダメダメ! ゲームの邪魔はルール違反だよ!」

 カブトの刃がアンジールと再び接触する前に、アンジールの身体が吹っ飛んだ。
 同時にアンジールの身体からデイバッグが引き離され、キングの元へと飛んで行く。
 それを片手でキャッチし、自分のデイバッグの中へと放り込み、言い放った。

「ようこそアンジール、君は三人目のゲームプレイヤーだ! ライダーチーム対堕天使アンジールってね!」

 漆黒のマントをばさりと広げ、高らかに言い放った。
 だが、天道は最早キングの言葉になど耳を貸していない。
 カブトがその視界に捉えたのは、開きっ放しになったキングのデイバッグのみ。
 そして、考える。先程の戦いで疲弊した今、キングとアンジールを同時に相手にするのは確かに骨が折れる。
 だが、今のアンジールは目に映る者全てを殺すマーダー。そしてキングは、揺るぎなき明確な「悪」だ。
 ならば……戦う以外にも、こいつらを潰し合わせる事は出来る。

「高町!」
「え……!?」

 ――CLOCK UP――

 自分の背後に控えたなのはの腰を掴んだ。
 そのままなのはの意思などお構いなしに、腰のスイッチを叩く。
 同時に響いたのは、クロックアップの開始を告げる電子音。
 天道は元々の体力が人並み外れているとはいえ、今はアンジールとの戦闘直後。
 その上なのはをも抱えている事を考えれば、クロックアップ出来る時間はそう長くない。
 だから、勝負は一瞬だ。一瞬で“それ”をこなし、戦闘から離脱せなばならない。
 残り僅かな加速を使い、カブトはキングに掴み掛った。

351 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:05:27 ID:arCjFvuI0
 




 一瞬で、カブトの姿が掻き消えた。
 なのはの姿も一緒に掻き消えて、残されたのは二人きり。
 炎上するスーパーの炎に照らされながら、キングは再び漆黒の仮面で顔を隠した。

「やれやれ……逃げるなんて、仮面ライダーとしてはどうかと思うんだけど、なぁ?」

 全てを言い終えるまでもなく、キングの眼前にソリッドシールドが形成された。
 言うまでもなく、ソリッドシールドを出す要因となったのは、アンジールの剣だ。
 有無を言わさずに、アンジールはキングへと斬り掛かって来たのだ。

「あぁ、そういう事。アンジールと僕をぶつけようって? 甘い甘い! それじゃ甘いよカブト!」
「何をごちゃごちゃと……!」

 今度は、真っ赤な火球だ。
 だけど、それもキングの元へと届く前に現れた盾によって掻き消された。
 アンジールもそろそろ気付く頃だろう。自分の攻撃はキングには通用しない、と。
 それを理解できるまで、キングは防戦一方というスタンスを貫く。
 そして、幾度かアンジールの攻撃を防いだ後で、キングが口を開いた。

「今のアンジールを、ザックスが見たらどう思うかな」
「何ぃ……!?」

 キングは知っている。
 アンジールに、愛弟子が居る事を。
 夢と誇りの全てを託した者が居る事を。

「バスターソードはどうした? 父の形見では無かったのか?」
「黙れ……黙れ! 何故貴様がそれを知っている……!?」

 解りやすい程に動揺している。
 相手を騙す上での基本。まずは、相手を信用させる為の地盤を築く。
 自分は他の参加者では知り得ない、アンジールの全てを知っているのだと思い込ませるのだ。

「クアットロに、チンク、ディエチ。戦闘機人、ナンバー4、5、10……お前の大切な妹達だな?」

 マスクのお陰で、キングの声は低く響くような声へと変声される。
 それがアンジールに異様な迫力を与え……時を待たずして、その動きが止まった。
 これはチャンスだ。ここで畳み掛ければ、単純なコイツはすぐに落ちる。

352 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:06:07 ID:arCjFvuI0
 
「他の者は知り得ない情報を何故私が知っていると思う? 何故私に攻撃が通用しないと思う?」

 あの携帯サイトを見れば全ての参加者の情報を得る事なんて容易い。
 攻撃が通用しない……これに至っては、キングの元々の能力だ。
 だけど、こうやって考えさせる事には確かな意味がある。

「単刀直入に言おう。私は主催側の手の者だ……故に、私を殺す事は不可能!」
「なん……だと……!?」
「そして、私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが」
「何……!? それは本当か……!?」

 まだ疑ってはいるようだが、ここまで来れば成功したも同然だ。
 あとはそれらしい理由を並べてこいつを自分の駒にすればいい。
 カブトは自分達を潰し合わせる腹積もりだったのだろうが、そうは問屋が降ろさない。
 カブトが考えた想像よりも、遥かに楽しい展開に持ち込んでやろう。

「未だに殺し合いに乗ろうとしない輩が多い事は想像に難くないだろう。
 私はそう言った参加者達を扇動する為にプレシアによって遣わされた者」
「どうすれば、妹達を生き返らせてくれる……?」
「私はこれから市街地へ向かい、他の参加者達に追加条件でゲームを持ちかける。
 君には逆らう者を黙らせる為の、私の兵隊になって貰いたく思うのだが」
「兵隊……だと?」
「ああ、勿論……私の申し出を聞かずに他の参加者を皆殺しにして、自力で妹達を生き返らせるのも結構。
 ただし、たった一人で戦って皆殺しにするか、主催側の私と繋がりを持った上で他の参加者を皆殺しにするか……
 妹達を生き返らせると言う一つの目的の上で行動するなら、どちらの方がより確率が高いかは考えるまでもなかろう」
「……俺、は……」

 嗚呼もう完璧だ。ニヤけが止まらない。
 このソルジャー、完全に自分の事を信じているらしい。
 ゼロのマスクが無ければ、仮面の下で笑っていた事が一発でバレていただろう。
 声だって多少笑いが込められて居ても、それはこの変声機のお陰で誤魔化せる。
 逆に嘲笑とも取れるし、余裕を見せつける上ではかえってプラスかも知れない。

(さあ、どうするアンジール?)

 従わないなら従わないで、ここで殺してしまえばいい。
 この男程度のレベルならば、変身すれば問題無く倒せるだろう。
 だけどそれでは面白くない。何よりもカブトの思い通りになるのが気に入らない。
 キングはただ、全て自分の思い通りなのだと言う事を知らしめてやりたいのだ。
 そしてもう一つ。高町なのはに渡した仮面ライダーデルタのベルトについてだ。
 デルタギア、恐らく自分ならば問題無く使いこなせるだろう。だが、それではつまらない。
 だから高町なのはに渡した。アレを使えば、如何になのはと言えど暴走は免れないだろうから。
 別にゲームに乗ってくれなくたって構わないし、その時はその時でフリードを殺せばいい話だ。
 そう……キングが何よりも楽しみにして居たのは、ゲームなどでは無い。
 なのはにデルタを使わせる事自体が、キングの楽しみだったのだ。

 ――されど一つだけ、キングも気付いていない事がある。
 それは、開け放たれたままのキングのデイバッグの中身についてだ。
 カブトが離脱する瞬間、クロックアップ空間の中でキングとカブトは一度だけ接触した。
 キングが知覚するよりも早く、ソリッドシールドが形成されるよりも早く。
 そう。カブトは一瞬よりもさらに短い刹那の内に、キングのデイバッグに掴み掛った。
 そして、無造作に掴んだデイバッグが二つ――ごっそりと、キングのデイバッグの中から消えていた。
 しかし、キングがそれに気付くのは、まだもう少し先のお話なのであった。

353 Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:07:12 ID:arCjFvuI0
 


【1日目 真夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールを駒にする。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.本当に妹達を生き返らせる事が出来るのか……?
 2.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが対主催側の人間だと思っています。

354 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:07:48 ID:arCjFvuI0
 
 ――CLOCK OVER――

 鳴り響いた電子音は、超加速の終了を告げる合図。
 誰も居ない平野まで駆け抜けて、ライダーシステムが限界を感じた。
 距離にすれば、1キロ走ったかどうか。普段の天道ならば、大した距離では無い。
 されど、今は状況が特別だ。クロックアップの時間制限と、なのはという名の足かせ。
 それらを抱えて走り抜けた天道には、既に戦える程の体力は残されて居ない。
 立ち止まると同時に、天道の身体から赤の装甲と抱えていたなのはが離れた。

「あれ……ここは? 今さっきまでキングが……」
「クロックアップで離脱した。お前を守りながらあの二人と同時に戦うのは無理だ」
「離脱……? 天道さんが……?」

 らしくない。普段の天道ならば、逃げたりはしない筈だ。
 例え状況が不利であっても、カブトという力がある限り、天道は戦う。
 そういう人間だと思っていただけに、意外な撤退には正直面食らった。
 ……否、先程の天道の動揺を考えれば、それも無理は無いのかもしれない。
 本人は表には出していないつもりだろうが、アンジールが妹を殺されたと聞いた時――
 天道は確かに動揺していた。カブトの仮面の下で、きっと想像も出来ない様な表情をしていた。
 それが一体何故なのかなど、なのはには解る訳も無いのだが……。

「今のアンジールとキングは、まず間違いなく潰し合う。どちらが勝ったとしても、俺が倒せばいいだけの話だ」
「天道さん……」

 強がってはいるが、やはりいつもの天道では無かった。
 何と言うか、らしくない。どういう訳か、不自然さを抱かせる。
 逃げるしか無かった自分が許せないから? 戦っても勝ち目が無かったと自分自身で気付いているから?
 そういった罪悪感と、アンジールの一件。それらが、天道に確かな動揺を与えているようだった。
 されど、二人に立ち止まって居る時間などは与えられなかった。

「――待て、何か聞こえるぞ!」
「え……あ、これは……泣き声……?」

 言われてみれば、微かに聞こえる。
 女の子が、すすり泣いているような声だ。
 ここからそう遠くない。このままでは危険だ。
 この場で泣き声を響かせると言うのは、自分の居場所を教えているようなもの。
 最悪の事態になる前に駆け付けて、泣き声の主を保護しなければならない。
 何故泣いているのか、話を聞くのは保護してからでも遅くは無い。
 そして、そう考えているのは天道も同じらしい。
 二人はすぐに、声の元へと駆け出した。

355 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:09:26 ID:arCjFvuI0
 

 それから間もなく、二人は声の主を発見した。
 一目見た時、あまりの惨たらしさに口を塞いでしまった。
 紫の髪の少女が、全裸で四肢を縛り付けられていたのだ。
 それも、四肢からは止めどなく血液が溢れ出して、腹部に至っては貫通されている。
 相当なショックだったのだろう。失禁した形跡すら見られる。
 最早少女は、なのは達が目の前に来ても何の反応も見せなかった。
 ただただ、何事かを呟きながら涙を流し続けるだけ。
 口に下着を詰め込まれて居るせいで、何を呟いているのかは解らなかったが……。
 もうこの子は壊れている。身体だけでなく、心も。
 なのはにそう思わせるには十分だった。

「この子……あの時の……」

 この少女には、見覚えがある。
 あの時――このデスゲームが始まってすぐに出会った少女だ。
 自分があの時この子の話をきちんと聞いて居れば、きっとこの子はここまで追い込まれなかった。
 この子がこうなってしまった原因の一つは自分でもある。出来る事なら、何とかして助けたい。
 だけど……今自分に出来るのは、ケリュケイオンによるヒーリングだけだ。
 あの時キングは、なのはのグローブ――ケリュケイオンを見落していた。
 だから、このデバイスだけはキングに奪われずに済んだのだ。
 口に詰め込まれた下着を引き抜いて、掌を腹部に翳す。
 そうして初めて、少女の呟きが聞きとれるものとなった。

「エリオ……シグナム……私が……殺したから、殺される……家族、殺された、から……
 私……悪かった、の……かな……もう、誰も居ない……一人ぼっち……わた、し……」
「一人ぼっちじゃない……私が居る! 貴女には私が、私達がついてるから……!」

 この子が何らかの理由でエリオを殺してしまった事は、もう知っている。
 その上でシグナムも殺してしまったのならば、それは確かに許されざる罪だ。
 だけど、今ここで死んでいい命なんてある訳が無いし、これ以上誰にも死んで欲しくは無い。
 この子は自分が犯した罪と向き合って、きちんと罪を償わなければならない。
 だから、まだここで殺す訳には行かないのだ。

「なんで……どうして……こんな事に……もう、死ねば……いいのに、私なんて……」
「死ぬなんて言っちゃ駄目だよ! 私はまだ貴女の名前も聞いてない……ねぇ、名前は?
 名前を教えて? 私の名前は高町なのは……誰も居ないなら、私が貴女の友達になるから……」

 ようやく、少女がぴくりと反応した。
 ぱちりと瞬きをして、一際大粒の涙がその瞳から零れ落ちた。
 それからすぐに、少女が再び口を開いた。

356 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:10:56 ID:arCjFvuI0
 
「わたし……私は、柊……かがみ……お願い、なのは……私を、殺して……もう、嫌なの……」
「かがみ……かがみだね? 悪いけど、そのお願いは聞けないよ。嫌って言われても、私はかがみを助ける」
「エリオ……シグナム……それから、眼帯の女の子……私が、殺した……だから、私は……もう……」
「その話なら後で聞くから……だから、生きることを諦めないで。辛い事があったなら、一人で背負い込まないで……」

 どんなにヒーリングを続けても、そんな物はその場凌ぎにしかならなかった。
 腹部から、手足から、止めどなく溢れ続ける血液を止めるには、回復量が少なすぎる。
 この少女、既に完全に諦めきっている。完全に絶望してしまっている。
 だけど高町なのはという人間は、まだ諦めてはいない。
 そんな時だった。

「そいつを助ける手段、無い訳じゃ無い」

 背後から、天道が声を発した。
 二つのデイバッグをその場に降ろし、その中から見なれない機械を取り出した。
 どうやら腕に装着するディスクらしく、緑のカードが一枚セットされていた。
 リリカル遊戯王GXの世界に登場する、デュエルディスクと呼ばれる機械だ。
 片手に持った説明書を読みながら、天道が言葉を続ける。

「だが、そいつに使ってやる義理は無いな」
「そんな……!」
「そいつは三人も人を殺してる。そんな奴を仲間に入れてどうするんだ」
「それは……罪は償う事は出来ます……この子だって――」
「そいつには無理だ。生きる気が無い人間を助けた所で、また同じ事を繰り返すだけだからな」

 確かに、天道の言う事は正しい。
 死にたがっているかがみを無理に生き返らせても、逆に今度は世界を憎むかも知れない。
 何故自分を殺してくれなかった。何故こんな辛い世界で、自分を生き長らえさせた、と。
 事実、かがみはこれまでも周囲を呪い続けて、その結果として三人も殺してしまったのだろう。
 そんな状態のかがみを助ける事は、確かに得策とは思えない。
 だけど……

「それでも、私はこの子を助けたい……! 後の事は、私が責任を取るから――」
「お前では話にならん」
「な……天道さん!?」

 なのはの言葉を遮って、天道が進み出た。
 全裸のかがみの前に立って、真っ直ぐにその顔を見下ろす。
 鋭い視線で射抜くように見据えて、言葉を続けた。

「おい、お前……“かがみ”とか言ったな。死ねば赦されるとでも思ってるのか?」
「死なないと……あの子、私……許さない……だって、私も……浅倉、許せないから……
 つかさ……殺された、から……だから、シグ……ナム、殺した私……死なないと……」
「あの子ってまさか……はやてちゃ――」
「甘えるのもいい加減にしろ! お前がそいつに殺されたとして、お前が殺した三人はどうなる……!?
 例えお前を殺しても、そいつはお前を絶対に赦さない。死んだ者は還って来ないんだ。心が晴れる訳が無い。
 だが、そいつが仇を取る為にお前を殺せば、死んだ三人はどう思う!? 絶対に喜びはしない筈だ……!」

 なのはの言葉を遮ったのは、怒号であった。
 天道総司という人間が怒鳴る姿を、なのはは初めて見た。
 いつだって冷静に的確な判断を下していた筈の天道だからこそ、怒鳴るなどとは思って居なかった。
 そういったイメージも手伝って、天道の迫力に拍車が掛っているように見えた。
 だけど、きっとそれは錯覚などでは無いのだろう。

357 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:11:58 ID:arCjFvuI0
 
「生きた、って……皆、私を裏切る……だって、皆……別の世界の……人、だから……なのはも……」
「私は裏切らない……! もう、かがみを離さないから……だから、私を信じて? お願い!」
「でも……万丈、目……だって……バクラだって、私……裏切られたから……」
「だからって何だ。そいつらが裏切ったからって、高町までお前を裏切ると誰が決めた?」

 おかしいな、となのはは思う。
 先程まではかがみを助けるつもりは無いなんて言っていたのに、今の天道の言葉はまるで真逆に聞こえる。
 まるでかがみを改心させて、助けようとしているような。助ける為に、かがみに罪と向かい合わせる為に。
 もしかすると、天道は最初からそうするつもりだったのではなかろうかとすら思ってしまう程であった。

「……と、言った所で生きる気力の無いお前には何を言っても無駄だな。お前がどうしても死にたいと言うなら、俺は止めはしない。
 だが……お前がここで死んでしまえば、お前の言いたい事や、伝えたい事……誰にも何も、永遠に伝える事は出来なくなってしまう」
「伝えたい……こと……そんなの……もう、私には……」
「かがみ、良く考えて……? 友達の事、家族の事……元の世界で待ってる皆や、ここで戦ってるお友達の事……本当にそれでいいの?」

 恐らく、先の放送で呼ばれた「柊つかさ」というのは、かがみの家族だろう。
 それはかがみの言葉を聞いて居れば想像がつくし、だからこそここまで壊れてしまったのも納得が行く。
 誰だって家族が死んでしまって、平然としていられる訳が無いのだ。
 それもかがみの様に元が完全な一般人なら、尚の事。
 だけど、それでも生き残った人の事……死んでしまった家族の想いを、考えて欲しい。

「伝え、たい事……ほん、とは……沢山ある……こなただって、生きてる……戦ってる、って……
 でも……でも……人を、殺した……こんな、私が……今更……こなたと……出来る訳ない……出来る、訳……」
「かがみ……事情があったにしろ、人を殺した事は赦されないし……多分、私だって貴女を赦す事は出来ないと思う……
 だけど、それでも……貴女を想ってくれるお友達の事や、死んでしまった大切な人の想い、忘れないで欲しいんだ。
 私の友達だって、何度もいがみ合って、ぶつかり合って……それでも、罪を背負ってでも、最後は解りあえたから……」

 フェイトの事。はやて達ヴォルケンリッターの事。
 彼女らはかがみとは状況も、罪の重さも全く違う。それくらいはなのはにだって解る。
 なのははきっと、エリオやシグナム、チンクを殺された事……きっとかがみを赦す事は出来ない。
 だけど、それでもかがみにはその罪を背負って、前を向いて生きて欲しいと思う。
 だからなのはは、こんなにもかがみを殺したくないと必死になれるのだ。
 死んだ三人の想い、ここでかがみが死んで報われるものでもないのだから。
 だけど、ヒーリングを続けているとは言え、かがみが現在進行形で衰弱しているのもまた事実。
 このまま話が長引けば、本当に死んでしまうかもしれない。それだけは避けたいのだが……。
 そう考え始めた矢先、天道も状況を察したのか、顔色を変えて話始めた。

「良く聞けかがみ。お前にまだ生きたいと願う意思があるなら……罪を償いたいと思う心があるなら……
 例え他の誰が裏切ろうと、俺と高町なのはだけは絶対にお前を裏切らない。離れていても、俺達がずっとそばに居てやる」
「えっ……う、あ……あぁ……そんな、都合良い……話……今更……うぐ……う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 とっくに崩壊していた涙腺から、濁流の様な涙が零れ落ちた。
 まるで子供の様に、その口から呻き声を漏らして……泣き崩れた。
 今までずっと辛い思いをしてきたかがみに、初めてかけられた優しい言葉。
 本心から、救いたいと願ってくれる者の言葉。
 だけど、後戻りは出来ないと言う事実……重圧。
 それらがかがみに、最後の壁を作って抵抗させる。
 今なら解る。かがみは、本当に死にたいなんて言っていた訳ではない。
 本当はこの子だって、戻りたいのだ。昨日までの、平和だった頃の自分に。
 友達たちと笑いあって居たであろう頃に――。

 不意に、天道が右手の人差し指をそっと掲げた。
 空を軽く見上げながら、言葉を続ける。

358 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:12:49 ID:arCjFvuI0
 
「おばあちゃんが言っていた。……嘆くなら抗え。悔やむなら進め。不幸だと嘆くだけなら誰でも出来る……ってな。
 いいかかがみ。世界はお前の敵じゃない……困難は多いだろうが、お前にはその困難に立ち向かう義務がある。
 そしてそれを背負って生きて行く限り、お前には何処の世界でだって生きて行く権利がある」
「う、ぁ……だって……私……わた、しぃ……三人も……ひっく……ぐすっ……」
「その三人の事を、絶対に忘れるな。そして、その三人の分まで生きて、戦い抜け。それがお前に出来る償いだ」

 ただ生きて行くだけではない。
 嘆くくらいなら、抗え。悔やむくらいなら、前に進め。
 殺してしまった三人の呪縛に捉われてがんじがらめにされるのではなく。
 未来を生きたいと願う希望の光と、背負った三人の命、罪という名の闇。
 自分の中の光と闇と……その両方を背負って、走り続けなければならない。
 それこそがこれからかがみがしなければならない、終わる事の無い戦い。
 自分自身を見失わない様に、自分の心と戦い続けなければならないのだ。

 ――それきりかがみは喋らなくなった。
 ただ聞こえるのは、声にならない嗚咽と、すすり泣く声だけだ。
 一人で何を考えているのかは、なのは達の知る所では無い。
 だけど、生きたいと願うのであれば……何事かを告げる筈。
 逆に、自分達の説得でも駄目だったなら……かがみは何も言わないだろう。
 果たして、その答えは――





 嗚呼、私にはまだ、こんなにも想ってくれる人間が居たんだ。
 なのはには、あんな酷い事をしたのに……裏切られたと思って、裏切っていたのは私の方だったのに。
 それでも目の前の二人は、自分を信じてくれると言っている。裏切らないと言ってくれている。
 その言葉は、今でも完全に信じる事は出来ないし……心の何処かでは、未だに疑っている。
 だけど同時に、信じたいと願う自分も居る。

(わたし……生きていても、いいのかな……ここに居ても、いいのかな)

 もうバクラは居ない。
 つかさだって居ないし、こなただってどうか解らない。
 だけど、自分にも生きる事が赦されるなら……生きていたいと思う。

 そして、ここで生きていていいのなら。ここに居てもいいのなら。
 犯してしまった罪はきっと、永遠に消えないのだろうけど……それでも。
 誰かと一緒に、誰かの為に、死んでしまった三人の分まで戦いたい。
 自分自身と戦って、生き抜きたい……きっと皆、都合が良いって言うと思うけど……。
 あの関西弁の少女に会うのも、殺してしまった人の関係者に会うのも、迷惑を掛けてしまった皆に会うのも、正直に言えば怖い。
 また殺されるんじゃないだろうか。自分なんて信じて貰えないんじゃないだろうか。
 きっとこれまで関わった皆から、都合が良いって罵られる筈だ。
 正直言って怖い。怖くて怖くて、また心がどうにかなってしまいそうだ。
 だけど、それでも逃げる訳には行かない。自分はそれに立ち向かわなくちゃならないから。
 罪を背負うって言うのはきっと……そういう事でもあるのだと思うから。
 だから、私は――。

「なの、は……ありが、とう……私、最後に……あんたに、会えて……良かった」
「かがみ……最後だなんて言わないで!? これからも、一緒に戦おう……一緒にゲームから脱出しよう!?」
「わか……るから……私、も……駄目、だって……だから、私の分、まで……なのは……生き、て……」
「かがみ……かがみ!? そんなの駄目だよ……かがみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 悲しいかな、手遅れだ。
 もう何をしても、間に合わない。自分でも解る。
 体中からこれだけ血液を流したのだから、当然だ。
 生きる気力はあっても、考え方を変える事が出来ても、現実には敵わない。
 だけど最後の最後で本当の自分を取り戻す事が出来た。
 そして、最後になのはにお礼を言えただけで、もう満足した。
 嗚呼、今の自分は、ちゃんと笑う事が出来てるだろうか。
 最後くらいは、笑顔でいたいから……
 だから――

「――ありがとう」

 それだけ言って、かがみは意識を手放した。
 と言うよりも、意識を保って居られなくなったのだ。
 喋り続けた所為か、意識の混濁が余計に早まっているように思える。
 だけど、意識が途切れる寸前に、男の声が聞こえた気がした。

「合格だ、かがみ」

 何が合格なのか……今となっては何も解らない。
 もう何も考える事など出来ないのだから……。

359 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:17:31 ID:arCjFvuI0
 




 柊かがみが意識を手放してから、既に数十分が経過していた。
 天道総司も、高町なのはも、今はその場に腰掛けて、休憩をとって居た。
 二人の表情に、先程までの緊迫感は無い。どちらも今はただ身体を休める事に集中しているようだった。
 本来ならば、かがみの事でそう簡単には立ち直れないのだろうが……。

「天道さん、最初からかがみを助けるつもりだったんでしょう?」
「勘違いするな。俺は生きる意志を持つものしか助けるつもりは無い」
「でも、最初からかがみを見捨てようとはしなかった……
 それは、かがみが本当は優しい子だって気付いてたからじゃないですか?」

 なのはが問うが、天道はそれ以上何も答えなかった。
 無駄話をしている暇があるなら、体力を回復させろ、と。まるでそう言っているようだった。
 今の天道は、ただ目を瞑り腕を組んで、瞑想でもしているかのように俯いているのみ。
 もしかしたら何事かを考えているのかも知れないが……それは天道にしか解らない。
 二人が無言になれば、すやすやと聞こえてくるのは安らかな寝息。
 紫髪の少女が身体になのはの上着の着物をかけられて、ぐっすりと眠っていた。

「デュエルディスク……カードさえあれば、何度でも使える支給品。正直、こんな便利な物があったなんて……」
「と言っても、かがみの場合はあと何度か使わないと完全には回復しないだろうがな」
「その……かがみの傷、やっぱりはやてちゃんがやったんでしょうか」
「それに関しては、起きてから直接かがみに話を聞くしかないな」

 犯人はほぼはやてで間違い無いのだが……天道はそうだとは言わない。
 それも当然だろう。天道だって、はやてがなのはの友達だと言う事は理解している。
 絶対にはやてがやったのだと言う確信があるのなら話は別だが、そうでないなら想像だけで迂闊な事は言えない。
 かがみが気を失う瞬間に、天道が咄嗟にデュエルディスクを装着させ、カードの効果を使ったから助かったものの……。
 下手をすれば、そんな事をする機会すらないまま、一方的に殺されていた可能性だってあるのだ。
 そんな事を、あの八神はやてがした。悪い冗談だと信じたい、と……そう思っているのは二人ともだ。

「何にせよ、今は考えても無駄だ。放送まであと僅かだ。それを聞いたら、俺はこのまま西へ向かう」
「西……? でも、地図を見る限りじゃ、ここより先は……」
「俺の予想が正しければ……エリアの端と端は繋がっているかも知れない」
「え……それはどうしてですか?」
「かがみを拘束するのに使われていた服、見たところホテルの従業員の制服だ。
 なのは、お前が最初にかがみと出会った時、確か制服を着てたって言ってたよな?」
「つまり、かがみは一度ホテルに行ってから、この平野まで戻って来た……?」
「ああ。そしてここにかがみを襲った犯人は居ない。何も無い平野だ、この周囲に隠れている訳でもあるまい」

 天道の言っているのはつまり、こういう事だ。
 かがみはなのはと出会ってから、どういう訳か一度ホテルへ向かった。
 そこでホテルの従業員の制服を手にし、それを着て移動を開始した。
 だが、移動途中に何者かに襲撃され、この場に置き去りにされてしまった。
 とするならば、その犯人は何処へ逃げた? この周囲に隠れる場所は無い。
 かがみの傷を見たところ、恐らくやられたのはそんなに前という訳でもないだろう。
 そう考えれば、考えられるのは、このエリアの向こう側はそのまま東側に繋がっているという可能性。
 プレシアの事だ。エリアの外に出たからって首輪爆発なんてつまらない事はしないだろうし、十分にあり得る。

「それに、ゆりかごに向かうなら東側から行った方が圧倒的に近い」
「……それだけじゃない。もしも犯人がはやてちゃんなら、どうしてこんな酷い事をしたのか……
 もしそこで出会えたら、きちんと本人から話を聞く事も出来るかもしれない」

 これで話はまとまった。
 まずは放送を聞き、それからかがみから事情を聞く。
 そしてすぐに西へ向かい、エリアが繋がっているのかどうかを確認。
 それからゆりかごへ向かい、ヴィヴィオを救出する。
 これが当面の彼らの行動方針であった。

360 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:18:31 ID:arCjFvuI0
 

 キングから奪い取ったデイバッグをその手に抱え、二人は星空を見上げていた。
 各々の思考を巡らせながら、この無情なデスゲームに憤りを募らせる。
 こんなゲームは絶対に終わらせなければならない。
 その為にも、自分達は戦わなければならないのだ。
 放送まであと僅かだ。それを聞いたら、すぐにでも動きださなければならない。

 そして、そう考える高町なのはのデイバッグの中には――
 彼女にとっての、最高の切り札が今も眠っているのであった。



【1日目 真夜中】
【現在地 D-1 平野】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デルタギア一式・デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.放送を聞いた後で、かがみから話を聞く。
 2.西へ向かい、エリアの端と端が繋がっている事を確かめる。
 3.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 4.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 5.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 6.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。キングは最悪の相手だと判断しています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(中)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.放送を聞いた後で、かがみから話を聞く。
 2.西へ向かい、エリアの端と端が繋がっている事を確かめる。
 3.なのはと共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.一応あとで赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 5.キング及びアンジールは倒さなければならない敵。
 6.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】全裸、両手首の腱及び両アキレス腱切断(回復中)、腹部に深い刺し傷(回復中)、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー
【装備】デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【道具】ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:出来るなら、生きて行きたい。
 0.ありがとう、なのは……。
 1.……(気絶中)。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。

361 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:19:35 ID:arCjFvuI0
 

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング、アンジール
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、柊かがみ、(ギルモン・アグモン)

362 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/02(月) 04:36:23 ID:arCjFvuI0
これで投下終了です。
最後のなのはの状態表のフリードはミスです。
wiki収録時に削除して修正しておこうと思います。

さて、今回のMは「Mirror(鏡)」の意。柊かがみの鏡。
また、かがみとはやて、天道とアンジール、それぞれ自分自身を映し出した鏡。
で、後半の「M」はマイナスのMの意味もあります。毎度ながらこじつけです。
他の書き手さんの作品も合わせて、ロワ完結までにAからZまで全部出せたらなぁとか思ってます。

ここからは「あとがき」と言う名の「言い訳」です。
エリオに次いで、多分最初にかがみが壊れてしまうきっかけを作った自分が言うのもなんですが、かがみは本当は優しい女の子だと思うんですよね。
色んな事があって、全部を周囲の所為にして、挙句やさぐれてしまったのは明らかにかがみの非だと思うけれど。
だけどはやてに殺されかけて、多分今までここの読者達がずっとかがみに言いたいと思ってた事をはやてが直接ぶつけてくれて、
自分はようやく、かがみにもバクラとかの割り込み無しに自分の行動を振り返り、考え直す時が来たんだ、と思いました。
実際、自分ははやてとのやりとりが無ければかがみでこんな話を書こうと思う事も無かったと思いますし……。
そんな訳で、“本当”のかがみらしく、弱くても変わろうとする姿、立ち向かおうとする姿を描写したつもりです。
またこんな都合の良い話を書きやがって、と思う方も大勢いるとは思いますが……。
長々と失礼しました。それでは、指摘などあればよろしくお願いします。

363 ◆7pf62HiyTE :2010/08/02(月) 10:38:02 ID:0MIgizXE0
自分の作品の感想書かない時点でバレバレなのでトリ付きで失礼。

gF氏、投下乙です。
とりあえずかがみはようやく反省したか……手足の機能(腱を切られている)まで回復出来るかは微妙だからまさしくマイナスからのリスタートだが……まぁはやてとアギト以外は許すだろうけど……
それにしてもはやてにとっては涙目だなぁ、なのはと天道にまで自分の悪行知られるわけだし。
一方のキングは相変わらずやりたい放題、3人からフリードとか道具奪って(まぁ一部天道がGetしたけど)マスター気取りかよ。アンジールはもう……うん、道化やね。
ようやくなのはがレイハー奪還成功(無事使えるかどうかわからんけど)かやっと主役になれるか?……(なのはの状態表にキングに奪われた筈のフリードがあるけどこれは削除ミスだよな)
なんか前の話が8時過ぎぐらいだと思ったらもう放送直前か……天なのこの6時間アンジールとキングに翻弄されただけな気がする。

>ロワ完結までにAからZまで全部出せたらなぁとか
……今まで出てきたのがT、K、R、L、A、I、H、Y、Mの9つ……後17もあるのか……
拙作『A to J』は流石にノーカンだからなぁ……

ここから書き忘れた拙作の言い訳を、『A to J』はA〜KそしてJOKERを含めた全てのラウズカードという意味(Wのガイアメモリが剣のラウズカードになったと考えてもらえば)ですが。
当初は『Jの継承(仮)』で前後編でのプロットだったけど、短く纏めたかったというのも理由もあり、またラウズカード絡みの話は今回が最後になりそうでなおかつ劇場版のタイトルがしっくり来るという判断だったんですよね。
正直、他に『A to Z』使いたかった人には少し申し訳無かったと思いましたが(勿論自分は使っても構わない)。

364 ◆7pf62HiyTE :2010/08/02(月) 12:11:02 ID:vvEhH9wA0
……って、フリードのミスは既に氏自身語っていたか……

365 リリカル名無しA's :2010/08/02(月) 20:58:52 ID:GrGdaw.A0
投下乙です

ヴィヴィオはヤバい。物凄くヤバいわ…
なのはらと合流できたら、スバルが上手く納得できたら或いは…
スバルは懸命に考察してるな。原作では単純みたいなイメージあったけどここのスバルは必死に答えを出そうとしてるな
このままこなたらと合流するとしてもはやてがなぁ

かがみん、正直に言うとこのロワで本性が出たって感じてたんだよな
前からかがみんの悪い部分が目に付いてたがこのロワではそれがよく出てたと感じてたよ
頑固で嫌いな物には容赦が無くて気が短いなぁとも思ってました。自分がツンデレが好きでないのもありますが
ただそれでも優しくていい子だと思うのは同意なんですよ。いい所もあるんですよw
なるほど。前作のはやての影響ですか。こういう展開もあるのかと感心
天道となのははとりあえず一息付けたか。支給品は奪われたがレイハが帰ってきたぞw
キングはもうね…やりたい放題し放題でロワ充してるなw ゼロの仮面も気にいってるみたいだしw
アンジールは…道化以外の何物でもないわ。可哀そうだが無残な最期しか思い浮かばん

さて、次ははやてが涙目になるのかそれとも…

366 リリカル名無しA's :2010/08/04(水) 11:51:01 ID:KZrJDX0QO
投下乙です
あれほど悪行を重ねたかがみに救済か、虫唾が走るな(褒め言葉)
でもたまにはこういう救いもありか、読み終えてほっとした
そういや一気に時間進んだ気がしたけど、回復とか考えたらそんなもんか

ちょっと気になったところ
なのはやアンジールがここまでの流れから見て些か違和感を覚えます
アンジールは前回で覚悟完了しているにもかかわらず即行でフラフラしているし
なのはもいくら不意をつかれたからと言って「―――ひっ!?」とか悲鳴を上げるほどやわではないと思います
その辺り描写が不足しているのか意図的に情けなくしているのか
どうもキャラのブレがちょっと見過ごすには致命的な気がしました

367 リリカル名無しA's :2010/08/04(水) 13:45:15 ID:04sh.6CU0
二人とも投下乙です

>A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE
ヴィヴィオ地味にヤバいな、もう見ていられない…
ほんの数時間前まではほとんど無力な子供だったのに…なんだこの急転直下振りは…
そしてスバルはみんなの想いを継いで頑張るとか諸に王道だな

>Mの姿/鏡 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6
ただの一般人がいきなり殺し合いに巻き込まれたらそりゃあ最悪な手段に転ぶのは仕方ない
でもいざ自分がした事をまざまざと見せつけられて向き合えるのは大きな一歩だよな
それにしてもこのキング相変わらずノリノリである

>>366
アンジールに関してはそこまで懸念するほどではないかと
いきなり主催側?の人物が現れて妹を生き返らせてやろうと言われたら覚悟完了のアンジールでも揺らいでも不思議ではありません
それにはっきりと形として見えるのは状態表だけですから
(状態表は所詮付属的な位置だからある程度無視しても構わないでしょう)
でもなのはは少しエースオブエースとしては情けない気がしないでもない
Sts作中そうは見えなくてもある程度の修羅場は潜っているはずだから……違和感を覚えるという意見は否定できないかも
だけど今回のは書き手の匙加減の域を出ない気もしないではない
フォローなり加筆なりあった方が良い気がするけど、そこまで強くは言えないかな

368 リリカル名無しA's :2010/08/04(水) 17:14:57 ID:dw29.bocO
なのはは確かに可愛すぎるな。「ひっ!?」をなんか別の台詞に変えるだけでも変わると思う。
アンジールに関しては俺もとくに違和感は感じないかな。元々振り回されてばかりの道化だったし。

369 リリカル名無しA's :2010/08/04(水) 21:00:35 ID:Ye24Xxeo0
キングを主催一派と勘違いして妹たち復活云々でブレるのは分るが、バスターソードの事やザックスの事を追及されただけで取り乱すってのはなんとなくポクない気が。
セフィロスから聞いたとか、元世界が同じでザックスから伝聞したたとか、一応理由は色々と考えられると思いますし。
まあこのへんは、矛盾というより作者の解釈の範疇だから、修正しなくても問題ないけど。

取り敢えずなのはについては修正に賛成。
一応なのはも、十年以上一線に立ち続けた歴戦の魔導師な訳だし、流石に違和感が強すぎかと。
セリフを変えるだけで充分だと思いますし。

370 リリカル名無しA's :2010/08/04(水) 21:43:29 ID:DF1UbKNA0
今の話題とは別ですが気になった点

>>356で天道がデュエルディスクの説明をする場面で説明書を読むシーンがありますが、件の説明書はないはずです
と言うのもそのデュエルディスクは106話「Road to Reunion」にてセフィロスが放置して143話「キングの狂宴/狙われた天道」にてキングが回収したものです
だから説明書はセフィロスが持ったままで回収されたのはディスクのみとなります
しかも天道となのははここまでDMの知識が皆無のままこの場面になるのでいきなり使い方が分かるのは無理があると思います

さらに今まで二人が遭遇したカード類は龍騎に代表されるようにカードを引き抜いて使用するものでした
だから自然な流れで行けばディスクからカードを引き抜いて使用するのが普通だと思われます
しかしそれではカードは1回しか使えずかがみが命を取り止めるには届かなくなってしまうと思います

だからこのままだと最悪かがみ死亡という展開になってしまう可能性が・・・

371 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/04(水) 22:10:53 ID:r6da80560
ご指摘ありがとうございます。
なのはに関しては今となっては自分でもなんでそんな事を言わせたのか……いや、自分が恥ずかしいです。
理由としては多分、自分の中でのなのはのイメージは9歳時代の方が圧倒的に強い(自分が書いてるクロス作品も全て子供時代)事、
それからもう一つは単純に指摘のあった部分をあまり考えずに流れで書いてしまったから、というものだと思います。
「今のアンジールに説得は無駄だ」という事を理解させる為の手段としてその描写を入れたんですが、
目的を優先し過ぎた所為で、手段がおざなりになってしまったというのは自分でも思います。
ですので、なのはの台詞に関してはwiki収録時に適当な台詞に変換しておこうと思います。

次にアンジールに関して。
これに関して、自分はアンジールの最終目的は「優勝」では無く、「妹たちの蘇生」であると判断しています。
前回優勝を目指す方向で覚悟完了したのも、そもそもは妹を蘇らせる為。
なので、最終目的である「妹」をネタに揺さぶりを掛けられれば、ブレても可笑しくないと思っています。
しかし、そうなると確かにザックスやバスターソード程度のネタでブレるのはどうかと思いました。
後日、その部分の描写を加筆修正した上で、修正スレの方に投下しようと思います。
また、アンジールの状態表にも意味の解らないミスを発見しましたので、それも合わせて修正しておきます。

最後になりますが、言い訳です。見苦しいので読まなくても大丈夫な話です。
今回の修正で、アンジールの扱いがああなったのは、自分の好きなキングを立たせる為だ……と思う方も居るかも知れません。
ですが、それは違います。正直言って自分はキングが嫌いです。度々描写する機会がありますが、その度に心底鬱陶しいと思っています。
その一方で、キングとは逆にアンジールというキャラクターは自分としてはFFの中でも割と好きな方だったりします。
では何故あんな風になったのかですが……キングに関して毎回気を配るのは、自分の中で考えられる最大限の鬱陶しさ。
自分が第三者なら、何が一番キングに腹立たしさを覚えるか、という所だったりします。
それを考えた上で書いた結果がアレです。我ながらキングマジうぜぇ、と思ってます。
ただ実際、そういう考え方の方がキングというキャラを書く上では逆に有利になると思うのです。
いや、何が言いたいかと言うと、自分は別に好きなキャラを贔屓したつもりで書いた訳ではない……という事なんですけど、
なんかもう完全に言い訳にしか聞こえないし他の方からしたら「だから何だ」って話だろうと思いますので、この辺にしておきます。
それでは、他に何か指摘などあればよろしくお願いします。

372 ◆gFOqjEuBs6 :2010/08/04(水) 22:14:17 ID:r6da80560
おっと……更新して無かった。
>>370に関して、了解しました。
デュエルディスクの使用に関しても、納得出来る形に修正して投下しようと思います。

373 リリカル名無しA's :2010/08/05(木) 00:13:28 ID:e0Gnu4UkO
了解です、修正お待ちしています

374 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:24:54 ID:B6FwF9Dw0
これより、ユーノ・スクライアと泉こなたの分の本投下をします

375 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:25:48 ID:B6FwF9Dw0
辺りは闇に包まれ、真冬のように風が冷たくなっていた。
殺し合いという、異様な現実を象徴するかのように。
その中で、デイバッグを肩に掲げる一人の少年が、足を進めていた。
ランタンで闇を照らしながら、ユーノ・スクライアは地図を見ている。

「えっと、今はD−8……だね」
『それで合っていると思われます』

ユーノの呟きを、無機質な電子音声が返答する。
それは、今は亡きフェイト・T・ハラオウンの相棒と呼べるインテリジェントデバイス、バルディッシュ・アサルトの声だった。
彼らは今、D−8地点にいる。
何かが封印されていると思われる車庫の前で、今後の行動方針について考えた後に、移動を開始したのだ。
その目的地は、C−9地点に存在するスカリエッティのアジト。
理由は、自分達の命を握っている首輪を解析するため。
あれから考えた末に、まずはこの問題の解決に専念することにした。
首輪がある以上、参加者全員の行動が制限される。
特にあと数時間経つと、四回目の放送が行われる時間だ。
そうなっては、禁止エリアが増えて命の危険が増す。
それらの問題を解決するために、まずは首輪の解析を急がなければならないと、ユーノは判断した。
これから行く施設はバルディッシュが言うには、ミッドチルダを震撼させたJS事件の首謀者である科学者、ジェイル・スカリエッティの拠点らしい。
そのような場所ならば、首輪を解析するための設備も、ある程度は整っている可能性はある。

(でも、あまり楽観的には考えられないな……)

ユーノは、心の中で呟いた。
この施設が、完全な物とは考えられない。
地図には『スカリエッティのアジト』という名前が書かれていたが、実際の内部はどうなっているか。
元の世界に存在する設備が、全て揃っているのか。
いや、その可能性はあまり期待できない。
主催者であるプレシア・テスタロッサが、参加者に脱出のヒントを与えるような真似をするだろうか。
そうなると、施設の名前を借りただけの全くの別物、という可能性も充分にある。
外装だけを真似て、実際の建物に設置されていた設備は全く存在しない。
もし存在していたとしても、起動しない可能性だってある。
万が一、全ての施設が揃っていたとして、使用できたとしてもだ。
安心は全く出来ない。

(この施設の存在が、罠かもしれないし……)

376 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:28:35 ID:B6FwF9Dw0
理由は、工場やアジトと言った設備の整っている施設が、他の場所以上に厳重な監視が敷かれている可能性があるからだ。
これらの施設には、参加者には見つけることの出来ない大量の監視カメラが置かれていて、主催側に情報が送られる。
その結果、首輪を外した者はすぐさま命を奪われるに違いない。
そうでなければ、ゲームを続けることは不可能だ。
だからこそ、プレシアはアリサ・バニンクスを見せしめに殺したのだろう。
参加者に恐怖を植え付けるために。
それだけではない。最悪のケースとしては、殺し合いの続行が困難と判断した主催側が、会場を破棄することも考えられる。
無論参加者は、ゲームの証拠を残さないために、一人残らず皆殺しだ。
考案の結果、首輪の解除とゲームオーバーは、隣り合わせにある。
故に、これからスカリエッティのアジトへ向かい、首輪の解析をすることは、大きなリスクを伴う行為だ。
こちらが勝てる可能性が全く期待できない、危険極まりないギャンブル。
仮に解除に成功したとしても、制限から解放されるとはとは限らない。
それでも、長きに渡る友人である高町なのはや八神はやてを初めとした、殺し合いに巻き込まれた人間を救うために、やるべきだ。
この会場に連れてこられてから、逆転に繋がるような行動はほとんど行ってなかった。
これ以上、時間を無駄に消費するわけにはいかない。
それに、危険を犯す覚悟はとうに決めている。
自分を守るために死んだ、ブレンヒルト・シルトにもそう言ったのだから、今更引き下がるわけにはいかない。
ユーノは自分にそう言い聞かせて、ランタンで道を照らしながら漆黒の中を進む。
彼の周りを覆うそれは、この世の中に存在する物ではなく、まるで冥府の闇のようだった。
参加者を、死後の世界に引きずり込むような。



余談だが、彼の考案はとてもよく似ていた。
今はもうこの世にいない、戦闘機人No.4・クアットロの考えと。
これは、偶然に過ぎない。
それを彼が気付くことはないし、何より気付いたところでどうなるわけでもないだろう。
そんなユーノは、バルディッシュと共に先の見えない闇の中を進み続けた――








鬱蒼と生い茂った森林の中に、洞窟があった。
その中は、微かな明かりだけに照らされていて、薄暗い。
歩く者の気分を害するような環境だが、二人は周囲を警戒しながら歩いている。

377 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:29:25 ID:B6FwF9Dw0
視界の先がはっきりしない道の中を、泉こなたは進んでいた。
彼女の脇では、ユニゾンデバイスのリインフォースIIが宙を漂っている。
あれから、入り口の前で待っていても何も始まらないとこなたが提案して、リインは悩みながらもそれを受け入れた。
自分達を縛り付けている、首輪を解除するための手がかりを見つけるために。
このような施設ならば、そういった機材が存在する可能性がある。
今、別行動を取っているスバル・ナカジマの為に、それを見つける必要があった。
幸いにも、この施設には自分達以外の参加者や、罠のような物は見られない。

「う〜ん、ここにある部屋ってもうみんな調べたんだよね?」
「そうですよ、さっきの部屋で最後になりますね」

こなたの疑問に、リインは答えた。
突如、戦いの始まったホテルを離れてから、既に数時間が経つ。
スバルの足を引っ張らないように、目的地であるこのアジトに来た。
ここでは、自分の見たことが無い電子機器を見つける。
特撮作品に出てきそうな、実験用と思われる巨大なテーブル。
怪しげな黄色い液体が入った、巨大な試験管。
様々なデータが入っていると思われる、複数のパソコン。
どれも、怪しげな実験場という雰囲気を醸し出す物だった。
だが、それを見つけたところでこなたにはどうすることも出来ない。
多くのネットゲームをしてきたので、ここに置かれているパソコンの操作自体は可能だろう。
だからといって、それを使って複雑な機械の解析など、出来るはずがなかった。
ましてや、この首輪にはこなたの知らない、魔法という技術によって作られている可能性もある。
そうなっては、手の出しようがない。
やがて彼女は体を休めるために、備え付けられた椅子に目を向けた。
念のために、外から持ち出した木の棒でそれを突く。
何も起こらないことを知り、それが普通の椅子であると判断した。

「ちょっと、この辺で休もうか」
「そうですね」

溜息を吐きながら、こなたは呟く。
彼女は、休憩を取りたかった。
殺し合いと言う場において、泉こなたという存在は、何の力を持たない女子高生に過ぎない。
故に、そのような異常な場所にいては、精神が不安定となりつつある。
今は何も起こっていないが、油断は出来ない。
平穏な毎日を過ごしていたはずの彼女が、突然殺し合いの場に放り込まれた。
それから、様々な異常事態が起こり、何度も命の危機に脅かされる。
ついには、毎日を共に過ごしていた親友までもが、死んだと告げられた。

378 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:31:51 ID:B6FwF9Dw0
(つかさ……何で死んじゃったの……?)

三度目の放送でその名が呼ばれてしまった、柊つかさ。
柊かがみの妹であり、調理師を夢見ていた彼女。
本当なら、今日も彼女たちや高良みゆきと一緒に、何気ない毎日を過ごすはずだったのに。
それがどうして、こんなことになってしまったのか。
思い出されるのは、四人で過ごしていた毎日。
春、新しい気持ちを胸に、一つ上の学年に上がった。
夏、コミケや夏祭りと言ったイベントに心を躍らせながら、みんなで旅行にも行った。
秋、食欲が増す季節となって、おいしい物をたくさん食べた。
冬、一年の終わりと新年の始まりを感じて、みんなで初詣に行った。
どれも楽しかった思い出の日々。
そんな毎日が、これからもずっと続くと信じていたが、もう二度と戻ることはない。
だって、つかさはもういないのだから。

(つかさがいなくなったら、かがみんやみゆきさんが悲しむよ……? みさきちや峰岸さんだって、みんな悲しむよ……?)

こなたは、再びその目から涙を流しそうになる。
もしも、ここで全てを忘れることが出来るのならどれだけ楽になれるか。
アニメや漫画や特撮の登場人物のように、記憶喪失になれたら。
だが、弱音を吐くようなことはしない。
もしもここで逃げ出したりしたら、自分のために頑張ってるスバルやリインの足を引っ張ることになる。
ここで悲しみに溺れることは、二人に対する侮辱に他ならない。
そう思い、こなたは今の現実に耐えた。
少なくともスバルやリインには、今の気持ちを知られてはならない。
だからこそ、このアジトに向かう途中に森を歩いていたとき、わざとふざけた言動をして悲しみを紛らわせたのだ。
死人が出ているのに、このような行為をするのは不謹慎と分かっている。

「ス、スクライア司書長!?」

悲しみに耽っていたこなたの耳に、リインの声が響いた。
その瞬間、意識が覚醒する。
そのまま彼女は、驚いたような表情を浮かべながら振り向いた。
その先には、見知らぬ一人の青年が立っている。

「君はもしかして……リイン!?」







ユーノ・スクライアがこの施設に現れてから、一同はある一室に集まっていた。
そこは複数の電子機器が起動している影響か、外に比べて室温が高く感じる。
三人は、互いに情報を交換した。
その際に、ユーノは提案する。

379 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:33:58 ID:B6FwF9Dw0
この話し合いの内容が、プレシアに聞かれないように文章で対話をするのが望ましいと。

(そういや、ルルーシュの時にもこういうのあったな……)

突如、ルルーシュ・ランペルージとシャーリー・フェネットの姿が、こなたの脳裏に蘇る。
亡くなった二人のことを思い出し、胸の奥から悲しみが沸き上がりそうになるが、それを堪えた。
今やるべき事は、別にある。
そして、白紙の紙とペンを三人は手に取った。



この会場に連れてこられたから起こった、様々な出来事。
この殺し合いの参加者は、それぞれ別々の世界から連れてこられた可能性。
リインのいた、ゴジラという怪物が暴れている世界。
ユーノのいた、管理外世界よりLという名の名探偵が現れた世界。
別行動を取っている、首輪を所持しているスバル・ナカジマについて。
脱出の手がかりとなる可能性のある機械、ハイパーゼクター。
残り人数が一五人を切ったとき、開くとされる謎の車庫。
首輪だけでなく、この会場には結界が張られていて、それも制限となっている説。
殺し合いの促進のため、参加者の感情に異常を与える装置。
そして、ユーノとリインがデスゲームに関して立てた仮説。



奇しくも、互いの考案には酷似する内容が多数あった。
情報交換を終えた彼らは、黒いテーブルの上に置かれている銀色の輪っかと睨めっこをしている。
それは殺し合いを強制させる道具とも言える、首輪。
隕石によって、海が枯れ果ててしまった地球に存在する組織に所属する男、矢車想に巻かれていた首輪。
これの解析を今から進めようとしている。
無論、ユーノはそれによって生じる危険性を二人に説明した。
解除した瞬間が、自分達の最後になるかもしれないことを。
その事実を聞かされたこなたとリインは、ほんの一瞬だけ戸惑った。
ようやく生まれてきた希望が、死という最悪の絶望と繋がっている可能性を知って。
それでも、先を進むために二人は提案を受け入れた。









時計の針は、ただ進み続けている。
ユーノとリインは、この施設で見つけたドライバーなどの工具を持ち、首輪の解析を進めていた。

380 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:35:08 ID:B6FwF9Dw0
だが、その場にこなたはいない。
解除の途中で、首輪が爆発する可能性も充分にある。
それに巻き込まれないため、彼女は部屋の前で待っていることになった。
何か異常事態が起こったら、大声で叫ぶという条件を持って。

(かがみんやスバル……大丈夫かな)

薄暗い廊下の中で、こなたは溜息を吐く。
二人は無事なのだろうか。
未だに名前を呼ばれていないとはいえ、特にかがみの方が心配だった。
しっかり者の彼女とはいえ、妹を失ってはどうなるか分からない。
ただ、出来ることならプレシア・テスタロッサの言うまま、これ以上殺し合いに乗って欲しくなかった。
こんな綺麗事が言える立場ではないのは分かっている。
自分はかがみと違い、スバルやリインやユーノに頼ってばかりだ。
しかも、何も出来ない。
スバルは自分のために、戦っている。
リインやユーノは、首輪の解析を頑張っている。
なのに、自分は何だ。
何の力も持たない、ただの人間。
分かっている。
でも、それは何もしていない事への免罪符にならない。

(何やってんだろ……あたし)

部屋の中にいる二人に聞こえないように、溜息を吐いた。
それと同時に、部屋の扉が音を立てて開く。
中からは、ユーノとリインの二人が姿を現した。
ユーノは無言で、手招きをしている。
その導きのまま、こなたは再び部屋に入った。









三人のいる薄暗い部屋は、未だに沈黙が広がっている。
彼らが集まっているテーブルの上には、複雑な金属回路や部品がいくつも散らばっていた。
それを見て、二人は首輪の解析に成功したとこなたは察する。
しかし、彼女の表情は晴れていない。
その手には、一枚の書類が握られている。
そこには、ユーノとリインの物と思われる綺麗な文字が書かれていた。

381 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:38:11 ID:B6FwF9Dw0

この首輪のことで分かったことがいくつかある。

まず一つ目、この首輪の構成はいくつかの部品で構成されている。

参加者を殺害するための起爆装置
参加者の情報を伝えるための盗聴装置
この二つの動力源と思われる装置
それらを守る枠の部分

外装自体は、工具さえ使えば表面だけは外せる。
でも、その下には金属回路が張り巡らされていて、その先には動力源と見られる装置があった。
この部分は、魔力を流し込めば無効化することだけは出来る。
そこから、パズルを分解するような要領で、慎重に魔力を流し込めば、解除することだけは可能。

ただし、これは対象が『既に死んだ参加者の首輪』だから、成立する可能性がある。
説明したように、首輪の解除とゲームオーバーは隣り合わせの危険性が高い。
ここにいる自分達が殺されない理由は、まだ『生きている参加者の首輪』に手を付けていないから。
故に、首輪の構図と解除の方法を知っただけでは、まだ主催者に殺させるわけではない。
その段階に入る基準は、恐らく『生きている参加者の首輪』を解除したとき。
だから、自分達の首輪は現段階では解除するべきではない。
脱出の手段、仲間達全員の首輪を解除できる状況になったとき、メンバーの集合。
この三つの条件が整うまでは、これ以上動くことは出来ない。
そして、ここに書かれた内容は信頼できる人物以外には、決して見せてはいけない。



「うん、だいたい分かったよ……ユーノ君」

それら全てを読み終えたこなたは、二人の方に顔を向けた。
黙然とした部屋にようやく声が響くと、ユーノもまた口を開く。

「とにかく、今は一旦外に出てスバルを待つしかないよ。それから、情報をまた集めて……まとめ直す。まずはそこからだよ」

その提案に、二人は頷いた。
今はまだ、行動に移すときではない。
信頼する仲間を待ち、そこからプランを立てる。
こなたは書類を返した。
それを受け取ったユーノは、解体の終えた首輪と書類をデイバッグに入れる。
自分達の役割を察した三人は、部屋から出て行った。

382 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:39:37 ID:B6FwF9Dw0
【1日目 真夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】

【共通認識】

※アジトの内部は、全て捜索しました。
※三人の間で情報交換(自分達のいた世界、仲間達、これまで起こった出来事、このデスゲームに関する仮説、車庫の存在)をしました
※首輪の内部構造、及び解除方法を把握しました
※それに関して、二つの仮説を立てています
※首輪の解除自体は魔法を用いれば、解除は可能
※ただし、これは死んだ参加者の首輪だから成立することで、生きている参加者の首輪を解除するとゲームオーバーの危険が高い
※現状では、スバルと合流してから再び行動しようと考えています。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.こなたやリインと共に、スバルを待つ。
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除は、状況が整うまで待つ
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

383 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:40:26 ID:B6FwF9Dw0
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、悲しみ
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.ユーノと共に、スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.ユーノやこなたと共に、スバルの到着を待つ
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています

384 こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:41:00 ID:B6FwF9Dw0
空調の整っていたアジトの外から出た三人は、冷たい空気を浴びていた。
不意に、こなたの中で疑問が生まれる。

「ねえ、そういえばユーノ君。聞きたいことがあるんだけど」
「ん? どうしたの、こなた」
「ユーノ君って、本当に男の子だよね」

あまりにも突拍子もない発言に、ユーノとリインは怪訝な表情を浮かべた。

「……こなた、あなたは一体何を言ってるんですか」
「え? だってそうじゃん」

そこから数秒の間が空いた後、こなたは口を開く。

「こんな可愛い顔をした人が、男の子のはずないじゃん。やっぱり、ユーノ君って男の娘?」

ユーノとリインは盛大にすっ転んだ。

385 ◆LuuKRM2PEg :2010/09/05(日) 10:44:54 ID:B6FwF9Dw0
これにて、本投下終了です
タイトルの元ネタは、本日より放送が始まった
仮面ライダーオーズ第一話の「メダルとパンツと謎の腕」です。

自分の実力では、どこまで行けるか分かりませんが
今後とも、よろしくお願いします

386 リリカル名無しA's :2010/09/05(日) 13:27:15 ID:g7l3TcQM0
投下乙です。
ようやく首輪関連の話が進んだか。
こなたもユーノと合流出来て、一先ずは安心?
はやて組と合流するかスバルと合流するか……今後の展開が気になるなぁ。
そしてこなた……ついに本人に言ってしまったかw
今まで誰も直接本人に男の娘とまでは言わなかったのにw

387 リリカル名無しA's :2010/09/05(日) 15:39:57 ID:kz8N3G8Y0
投下乙です。 初投下お疲れ様でした。今後とも宜しくお願いします。
真面目な話、こなたかユーノのどっちか退場するのではと思ったが別にそんな事は無かったぜ。
ともかくようやく本当にようやく首輪解除の糸口が見えたか……つか、解除そのものは思ったよりも簡単な感じか……まぁ、今更複雑すぎたら本当に手の打ちようないしなぁ。
とりあえず幾つか不安要素が無いではないけど何とかなり……きっと後々『そう思っていた時期がおれにもありました』と言うんだろうなぁ。

……そしてこなたよ……誰もが考えたとはいえユーノ君に男の娘発言をマジでするとは……
というかここの書き手は皆してユーノ君をネタキャラにし過ぎな気がするんだが……
ルーテシアの全裸鑑賞、チンクの下半身鑑賞、ブレンとアーッ、サービスシーン、そして男の娘……何処へ行くんだこのフェレットは……


そういえば冷静に考えると参加者の大半がアジトに向かいそうな感じなんだよなぁ。

こなた&ユーノ……アジトで待機
はやて&ヴァッシュ……こなたを襲おうとするかがみを止める為(はやての大嘘)アジトへ急行
スバル&ヴィヴィオ……アジトへ急行
なのは&天道&かがみ……放送後ループ越え、位置関係から考えアジトへ向かう可能性高し。

はやて組とスバル組、どちらが先にこなたと合流出来るだろうか……まぁその直後に悲劇という可能性もあるけどね。

実に12人中9人……つか対主催側全員がアジト行く可能性高い。
もっともかがみの扱いの問題(はやては殺すつもりでそれに伴う対立)、やヴィヴィオの問題(精神肉体共にボロボロ、またはやてが見捨てた的な事も問題)、はやての問題(前述の理由から絶対対立する)と不安要素しかねぇ。
しかもこれだけ戦力集まっても残りのマーダーに一掃される予感しかしねぇのも……どないせいっちゅうねん。

388 リリカル名無しA's :2010/09/05(日) 15:46:01 ID:kz8N3G8Y0
書き忘れ

そういや早速オーズタイトルが来たか……どうやら『○○○と○○○と○○○』というタイトルパターンになりそうだからな……今後オーズ風タイトルが大量に出現するんだろうか? それともW風タイトルが今後も席巻するか?

389 リリカル名無しA's :2010/09/05(日) 22:03:23 ID:3rH0d6CY0
投下乙です
死者のものとはいええらくあっさり首輪バラせたな
でもあっさりすぎるから逆に後が怖いガクガクブルブル
道中のおとぼけはやっぱりわざとか、いつもみたいでいつもと違う心境なんだな
そして終始シリアスだったのに最後の1レスwwwww

390 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 10:54:53 ID:GRCPS2WwO
金居、プレシア・テスタロッサで投下します

391 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 10:56:30 ID:GRCPS2WwO
このデスゲームの会場にはいくつもの建造物があるが、中には奇妙なものもある。
E-7北西部にある駅もその一つ。
普通なら移動に便利だからと考えて人が集まりそうなものだが、あいにく駅から走る線路の行き着く先は会場外。
当然ながらこれでは集客など覚束ない。
そんな奇妙な駅の近くには奇妙な建造物に相応しく、中身が不明の曰くありげの車庫があった。
そして車庫の唯一の扉の前には、今では破壊されてしまったが、ある立札が掲げられていた。
そこには次のような警告が記されていた。

『残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか』

そのためここへ立ち寄った者は皆こぞって車庫の中身を気にしつつも無理に開けなかった。
早く中身を手に入れたいが、さすがにリスクを冒してまで手に入れようとは思わなかったからだ。
それに時期が来れば自然と扉を開く事ができるのだ。
ここへ来た者は皆同じような結論に至って、そして去って行った。


しかし現在開かずの車庫の中には照明が灯っていて、中に収められている物の前には誰かがいた。


「へー、なるほどね」

それがデスゲーム開始してから初めて車庫に中に入った参加者――ギラファアンデッド、金居の第一声だった。

392 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 10:58:55 ID:GRCPS2WwO
 ◆

時間を遡ること1時間前。
金居はエネル殺害後、USBメモリの中身を確認するべく市街地に向かっていた。
途中で離脱したので戦闘の疲労もそれほどではなく、何の問題もなくガソリンスタンドを横目にF-8まで足を進めていた。
そんな時だった。
このデスゲームを開いた張本人、プレシア・テスタロッサからコンタクトがあったのは。

――ここまでの活躍見ていたわ。ところで行ってほしい場所があるの。

突然首輪から発せられたプレシアの要件は次のようなものだった。
現在生き残っている参加者の大半が北東C-9にあるスカリエッティのアジトを目指している。
しかもほぼ全員がデスゲームを打ち砕こうとする者ばかり。
だからそこへ行ってどんな方法でもいいから大集団ができないようにしろという事だった。
無論集まった参加者を殺害してくれる方がデスゲーム的には歓迎すると。

これを聞かされた時、最初金居はプレシアの要件を聞き入れる事を渋った。
いくらカテゴリーキングの金居と言えども、何の用意もなくノコノコとそんな場所に飛び込んでいけば返り討ちに遭う可能性が高い。
無力な一般人なら何人集まろうが金居の敵ではないが、アジトにいるのはここまで生き残ってきた参加者だ。
そんな簡単に殺されてくれるほど柔な連中とは思えなかった。
この制限下ではまだ3人までならなんとかなるが、それ以上になるとさすがに成功は覚束ない。

だが建前上プレシアに協力したいと申し出ている以上ここは素直に受け入れた方が得策。
直接的でなくて間接的であれば、例えばある程度時間をかけて不和の種を仕込んで瓦解させる方向なら不可能ではないはず。
それに使いどころが難しいが、いざとなれば先程手に入れた支給品を使えばある程度の結果は残せるだろう。

結局金居は若干渋りつつもプレシアの提案を受け入れたのだった。
すると金居の逡巡を知ってか知らずか、最後にプレシアは意味ありげな言葉を残していった。

――そうだわ、大変そうだから耳寄りな『情報』教えてあげる。荷物調べてみなさい、何か役に立つ『情報』あるかもしれないわよ。

プレシアが何を言いたかったのか、それはすぐに分かった。
敢えて荷物を調べるように促して、しかも『情報』という言葉を強調していった。


現在金居の所持品はかなりの量であったが、この状況でそれに該当するようなものは一つ――これから調べようと思っていたUSBメモリに他ならない。


幸いにも目と鼻の先にあったガソリンスタンドには作業用のパソコンが事務室にあった。
さっそく件のUSBメモリを指し込んでデータを読み込み始めたが、ここで予想外の事態が起きた。


突然金居を中心に転移魔法陣が発動したのだ。


そして金居は何が起こったのか理解する間もなく車庫の中へと強制的に転移させられて――今に至る。

「へー、なるほどね」

最初こそ突然の事態に困惑していた金居だが、目の前に広がる光景を見てある程度理解は出来た。
生物と機械の中間のような独特なメタリックなフォルム。
青と銀を基調とした多脚式ボディーとV字型の金色のモノアイ。
その手足には鋭い鎌が備えられており、しかも完全ステルス機能まで搭載している。
それら寸分違わず同一な5体の兵器が新たな主を待っていた。

393 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 11:00:48 ID:GRCPS2WwO
それが金居の目の前で機動を待つ機械兵器――ガジェットドローンIV型だった。


車庫内側に備え付けられたパソコンに記されたスペックを見る限り、これらはかなり使えそうだった。
全部で5体と向こうと比べて頭数は足りないが、完全ステルス機能を有効に使えばその差を埋める事は可能だ。
しかも素のスペックも中々侮りがたいものであり、その点も十分満足できるものだった。

「これは報酬の前払いみたいなものか? それならそれに見合った働きはしないといけないな」

若干オーバーにプレシアへの感謝を示しつつ、金居は起動の準備に取りかかった。
もちろん実際にそこまで思っている訳ではない。
一応建前上何か行動する気でいるが、あまり無理をするつもりはない。
一歩間違えればその場の全員と戦うはめになる可能性もあるため、ここは出来るだけ機を窺いたいところだった。

「しかし操作が割と単純で助かった。俺はキングほど詳しくないからな」

確かにこのガジェットの操作方法は然程コンピュータに詳しくない金居でも理解できるものになっていた。
自身の嵌めている首輪を認証させて、それによってガジェットはその者を所有者として認識する。
ちなみに命令は頭で思い浮かべるだけで実行してくれるらしい。
ただしあまり複雑なものは実行できないようなので、その点は気をつけないといけない。

「さて、行くか」

それほど時間をかけずに無事にガジェットを機動させた金居は4体のガジェットをデイバックに収納していた。
そして残った1体のガジェットを飛行形態にさせると、低空飛行でスカリエッティのアジトを目指して移動を開始した。
金居が手の内を見せるかのようにガジェットを移動に使用したのには理由があった。

まずは体力の温存。
出発前に砂糖と拾ったデイパックの中にあった食糧を拝借して体力はほぼ回復したが、温存できるならそれに越した事はない。
ちなみにそのデイパックは荷物を少し整理した際に要らないと判断して、車庫の中に置いてきた。

そして何よりこうする事で相手に油断が生まれると踏んだからだ。
まさかあちらも同じ機体があと4機もあるとは思わないはず。
そういった先入観は隙を作りだし、後々仕事がやりやすくなる。

(さて、去り際に仕掛けた爆弾に引っ掛かるのは誰になるかな)

実は金居は車庫から出る際に扉の内側にエネルの支給品であったクレイモア地雷を2個仕掛けてきたのだ。
どちらも扉が開くと爆発するようにワイヤーを調節しておいた。
別に深い意味はない。
ただ使い道が限られて無用の長物化しそうだった支給品で誰か引っ掛かれば儲けものというぐらいの理由だった。

金居が去って再び人気が無くなると、車庫はまるで何事もなかったかのように見える。
だが実際はその内で哀れな獲物を喰い殺そうと牙が研がれているとは誰が予想出来ようか。


奇妙な駅の曰くありげの車庫はこうして再び不気味な沈黙を守るのだった。

394 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 11:03:18 ID:GRCPS2WwO
【1日目 真夜中】
【現在地 D-7平野部】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒、ガジェトドローンⅣ型に搭乗中
【装備】ガジェトドローンⅣ型@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×6、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、L、ザフィーラ、エネルのデイパック(道具①・②・③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、ガジェットドローンⅣ型×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに向かい、そこに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

395 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 11:05:31 ID:GRCPS2WwO
 ◆

「どうやら今のところは私に従うみたいね」

アジトに向かって移動を開始した金居をモニター越しに見ながらプレシアは笑みを浮かべていた。
確かに車庫に入る事ができるのは生存者が15人以下になってからだが、実は別の方法でも入る方法はあった。

それが今回金居の使用したUSBメモリを利用する方法だ。

元々あのメモリは情報端末に接続させると『第3回放送後に3人以上の参加者を殺している者はこのメモリを接続すれば力を手に入れる事ができるだろう』というメッセージが表示されるようになっていた。
もちろんそのメッセージは真実であり、その条件を満たせば一度だけ対象者を車庫へ転移させて、そこで車庫の中身を手に入れられる仕組みになっていた。
ちなみに一度発動すればメモリは某スパイ組織のように自動的に消滅されるようにしてある。
実のところプレシアとしてはそのメッセージをきっかけに殺し合いが促進してくれる事を期待していた。
しかし意外な事に今回金居が使用するまで誰もUSBメモリを活用しなかったので、結局プレシアの意図は外れる結果となった。

一方でその車庫の中身であるガジェトドローンⅣ型にもいくつか仕掛けが施されている。
まず元々ゆりかごの防衛機能の一つであるというプログラムを改竄して、最初の所有者の命令を聞くようにセットし直した。
そうしなければ万が一聖王であるヴィヴィオと出会った時、不都合が生じかねなかったからだ。
一応所有者の死後は流用されないように所有者が死亡した場合は機能停止するようにしてある。
それから使い勝手がいいように思念通話を応用して命令手段に組み込ませた。
これは本来魔力を持たない者がデバイスを起動させたりできるようにした仕組みを応用させた。
これ以外にもいくつか改造点はあるが、なのはとヴィータを襲撃した性能は折り紙付きだ。
これらは全てここまでの戦いで力を失ってもまださらに殺し合いに参加できるようにという思惑での改造だった。

(でも最後の一言ですぐに理解するなんて、さすがね)

そう思いつつもプレシアは金居なら十中八九こちらの意図を汲んでくれると確信していた。
それはミラーワールドでの巧妙なやり取りでも薄々実感していた。
だからと言って金居を全面的に信頼するつもりはないのだが。

(さてデスゲームもそろそろ終わりが近づいて来たようね……今回こそは成功させてみるわ……。そのためにも――)

【全体備考】
※F-8のガソリンスタンドが火事になりました(火元は事務室のパソコン)。
※車庫の扉を開くとクレイモア地雷が爆発するようにセットされています。
※車庫内にアレックスのデイパック(支給品一式※食料なし)が放置されています。

【ガジェトドローンⅣ型@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
全5体。多脚生物のような動きを見せるガジェットドローン。
光学迷彩に近いステルス機能と騎士服を易々と貫く攻撃力を有しており、主に奇襲などを得意としている。
ガジェットドローンと呼称されているが、実際はゆりかご内部に備えられた装備であり、スカリエッティの作品ではない。
元々はゆりかごの防衛機構の一つとして装備されているものである。
今回は作中でも触れているようにプレシアによって所有者に従うようにプログラミングされている。

396 ◆WwbWwZAI1c :2010/09/23(木) 11:06:54 ID:GRCPS2WwO
投下終了です
タイトルは「Ooze Garden(軟泥の庭)」でお願いします

397 リリカル名無しA's :2010/09/23(木) 11:48:16 ID:fBJcY/aM0
投下乙です
とうとう車庫の中身が判明したか、今の参加者にステルスは怖いな
これで金居もアジト行きで役者が揃ってきたな
もういっそのことキング・アンジールもアジトへ向かって全員集合でw

398 リリカル名無しA's :2010/09/23(木) 12:14:47 ID:srqetTkA0
投下乙です。

車庫とUSBの中身が遂に判明し金居もアジトへ向かうか。
参加者の大半がアジト方向に向かいそうだからいよいよ最終決戦の雰囲気が……
で、車庫には罠が……誰か引っかかりそうな勢いだなぁ。

399 リリカル名無しA's :2010/09/26(日) 20:25:12 ID:ktihWKs20
投下乙です

とうとう車庫とUSBの中身が遂に判明したか
確かに今の参加者にステルスは怖い。終盤近くまでステルスが生き残るのは珍しいかも
さて、アジトで何が起こるか…

400 ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:22:36 ID:6aYOplck0
それでは、自分の放送案が通りましたので、こちらに本投下をさせていただきます

401 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:25:33 ID:6aYOplck0
 ――おはよう、みんな。0時の放送の時間よ。
 仮眠も取ったことだし、ここからは今まで通り、私が放送を行うわ。
 まぁもっとも、この放送もあと何度続くことになるか、分かったものじゃないのだけど……
 ……フフ、ではまず、禁止エリアを発表させてもらうわね。
 メモの準備はいい? こんなところまで来ておいて、自滅なんてされたら困ってしまうわ。
 ……では、読み上げるわよ。

 1時よりH−2
 3時よりG−8
 5時よりB−7

 以上の3か所よ。

 では続いて、これまでの死者を発表するわ。

 アーカード
 相川始
 アレックス
 ヴィータ
 エネル
 クアットロ
 ヒビノ・ミライ

 以上、7名。
 この24時間を生き抜いたのは、合計12名よ。
 ……まぁ、きっかり10名にならなかったのは、キリの悪い数字だと思ったけれど。
 ペースとしては上々。さすがに1日で終わるなんてことはなかったようだけど、
 これなら順調に終わってくれるかしら? 貴方達には、本当に感心させられるわね。

 ……今回はここまででいいわ。
 私が用意してあげたご褒美も、十分機能しているようだし。
 じゃあ、せいぜい最後まで頑張ってちょうだいね。
 貴方達の願い、そして私の目指すもの……どちらも成就するまであと一歩。
 フフ……期待させてもらうわよ。

402 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:26:13 ID:6aYOplck0


 かくして4度目の放送は流れた。
 最悪の1日は終わりを告げ、最悪の2日目が始まった。
 24時間目の時報を耳にしたのは、合計12人の生存者。
 僅か24時間のうちに、60人の参加者達は、実にその8割を喪っていた。

 誰もが耳を傾ける。
 誰もが放送を耳にする。
 安堵、悲嘆、希望、絶望。
 それぞれの思惑を胸に宿し、それぞれの感想を胸に抱く。



 しかし此度の放送は、それまでに繰り返されたものとは、ある1点において違っていた。



 ある者は全く気付かなかった。
 ある者は気付いていたのかもしれない。
 この放送に隠されたものに。
 この放送が意味するものに。

 そこに時計を持つ者がいて、その者が時計を見ていたのなら、容易に気付くことができたであろう。





 現在時刻、0:10。





 今回の放送は、これまでの放送とは異なり、予定より10分遅れて流れていた。





 ――――――異変は、この時既に始まっていた。

403 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:27:05 ID:6aYOplck0


「もう間もなく放送の時間か……」
 ぽつり、と呟いた女の声が、狭い一室に木霊する。
 巨大なモニターとコンソールを前に、1人座っていた者は、プレシア・テスタロッサの使い魔・リニス。
 青く澄んだ猫の瞳は、しかし今この瞬間は、失意の陰りに満ちていた。
 第3回目の放送から、色々と試してみたものの、その結果は芳しくない。
 彼女の有する権限の大多数は、主君によって凍結されていた。
 部屋から出て問い詰めに向かおうにも、ドアにまでロックがかけられている。
 とどのつまりは、完全なる手詰まり。
 何もできず、どこへも行けず。
 籠の中のカナリアのごとく。
 プレシアの下した制裁は、リニスからこの殺し合いに介入する、あらゆる術を奪っていた。
(何が希望だ)
 歯を軋ませる。
 苦虫を噛み潰したような表情で、己自身を嘲笑う。
 所詮自分の力などこんなものか。
 こんなにもあっさりと、何もできなくなってしまうものなのか。
 その程度の力しかない私に、一体どんな希望が与えられるものか。
 何もできない。
 何も変えられない。
 こんな矮小な私などには、殺し合いを止めることも、参加者を救うこともできはしない。
 広がりゆくのは心の暗黒。
 自分の弱さと情けなさが、自身の心を苛んでいく。
 罪を償うこともできないという事実が、自らの罪を思い起こさせ、良心の重荷を思い出させる。
 何ができる。
 何をすればいい。
 私にできることがあるなら、今すぐにでも示してほしい。
 籠の中のカナリアごときに、何かが変えられるというのなら――



 ――がこん。



 その、時だ。
「……?」
 リニスの座るすぐ背後で、何かの音が鳴った気がしたのは。
 聞き間違いでなかったとするなら、金具が落ちたような音だったはずだ。
 否、自分に限って聞き違いはあるまい。猫の聴力は人間よりも高い。
 ほとんど確信を持ちながら、ゆっくりとその身を振り返らせる。
 分かっているのに振り返ったのは、音の主を知らないから。
 音の質こそ分かっていたものの、その音が何によって奏でられたのかを知らなかったから。
 故にそれを確かめるために、視線を音の方へと向け、
「よう」
 その女と、対峙した。
 そこに立っていた者は、燃えるようなオレンジの女。
 橙色の長髪をたなびかせ、青い瞳を光らせる者。
 そのコスチュームの露出度は高く、すらりと伸びた四肢の皮下には、くっきりと筋肉が浮かび上がる。
 顔に浮かべるは不敵な笑み。左手に持つのは通気孔の金網。
 そしてその頭には――リニスと同じ、獣の耳が生えていた。
「貴方は……アルフ!?」
 は、としたような顔になり。
 ほとんど反射的に椅子を蹴る。
 額にじわりと冷や汗を浮かべ、後ずさるようにして立ち上がる。
 どういうことだ。何故アルフがここにいるのだ。
 フェイト・テスタロッサ諸共、自分達が殺してしまったはずの犬の使い魔が、何故こんなところに現れるのだ。

404 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:27:56 ID:6aYOplck0
「何故貴方が――」
 そこまで言いかけた瞬間。
「……っ!?」
 身に感じたのは、物理的衝撃。
 ぐわん、と視界が落下する。
 膝が強制的に曲げられ、身体が勢いよく倒れる。
 強引に押さえつけられた五体が、床に叩きつけられる硬質な感触。
 巻き添えを食らった足元の椅子が、空中に放り出されたのを見た。
 がたん、と椅子が落ちるのと同時に。
 己の視界に差す影を認知し。
 己を押さえこんだ者の正体を、目にした。
 それはかの使い魔ではない。そこに眩しいオレンジ色はない。
 そこに現れた者は――漆黒。
 全身を黒ずくめの騎士甲冑で固めた女が、リニスの身体に馬乗りになって、首筋と右肩を押さえていた。
 背中に生えていたものは、烏を彷彿とさせる艶やかな羽。
 色素の抜け落ちたかのような銀髪と、血濡れのごとき深紅の瞳。
「リイン……フォース……!?」
 やはり自らの手で殺したはずの、夜天の魔導書の管制プログラムが、目の前に姿を現していた。



 時は数分前にさかのぼる。
 その時彼女らはその場所にいた。
 リインフォースとアルフの2名は、相変わらず四つん這いの態勢で、時の庭園の屋根裏を移動していた。
《ホント、地図でも手に入ればよかったんだけどねぇ……》
 溜息混じりに、アルフが念話でぼやく。
 先ほどリインフォースがハッキングを行った時に閲覧できたデータは、爆発物の制御装置と謎の名簿。
 地図などの有用なものが得られなかったばかりか、得たものも得たもので意味不明の代物。
 そしてそのまま再び降りることもできず、こうしてただひたすらに、薄暗い屋根裏を徘徊している。
《もう一度降りられるといいのだが、これでは無理だな》
《そもそも2回目は向こうも警戒を強めてるだろうし……やっぱり別の方法を探るしかなさそうだね》
 金網から眼下を覗くリインフォースに、アルフが言う。
 彼女らがハッキングを途中で切り上げたのは、今まさに廊下を巡回しているものが原因だ。
 元いた世界の海鳴市を滅ぼした、プレシアの軍勢に加わっていた卵型の機動兵器――ガジェットドローン。
 あれさえいなければ下に降りることも可能なのだが、
 いなくなるどころか、どうにも先ほどから少し数が増えたようにも見える。
 とてもじゃないが、監視の目を盗んで端末にアクセスを……などと言っていられる状況ではなかった。
《一度どこかの部屋に入ってみるか? 何か使えるものがあるかもしれん》
 そう提案したのはリインフォースだ。
《あー、それもいいかもね。そこならあの機械もいないかもしれないし》
 言いながら、アルフの視界が眼下を探る。
 近くに確認できる廊下の扉は、隣り合うようにして配置された2つ。
 ひとまずは近い方の金網を目指すことにして、両者は移動を再開した。
 そして数歩のうちに目的地へとたどり着き、2人のうちアルフが様子を窺う。
 仮に中にガジェットや人がいた場合、降りた途端に見つかって、増援を呼ばれてしまう可能性があるからだ。
 実際、そこには人が1人いたのだが、
《っ!? そんな……あれは、リニス……!?》
 それがいるはずのない知り合いであったということは、さすがに予想だにしていなかった。
《知った顔か?》
《フェイトを教育してた、プレシアの使い魔だよ。でも何でだ? リニスは死んだはずじゃ……》
 忘れがちだが、本来ならばリニスは故人である。
 彼女はプレシアとの短い契約期間を満了し、元の屍へと戻ったはずなのだ。
 にもかかわらず、彼女はここにいた。
 生前と一切変わらぬ姿で、時の庭園の中に存在していた。
 これは大いなる矛盾だ。まさかリーゼ姉妹のように、双子がいたというわけではあるまい。
《……リインフォース。情報を手に入れる方法が、もう1つあるよ》
《何だ?》
 故にアルフはこう提案した。
《尋問》
 リニスと向き合い、問い詰めることを。
 彼女の生存とプレシアの意図、どちらも纏めて聞き出さねばならない、と。

405 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:28:29 ID:6aYOplck0


 かくして時間は現在へと戻る。
「久しぶりだね、リニス。こんな形で再会することになるとは思わなかったけど」
 床に仰向けに押さえつけられた猫の使い魔へと、犬の使い魔が切り出した。
 本当に、こんなはずではなかったことばかりだ。
 死んだとばかり思っていたリニスと、こうして再会することになったことも。
 その美しくも優しい教育係と、敵として対峙しなければならなくなったことも。
「あんた、何で生きてるんだ? 契約を完了した使い魔は、そのまま死ぬ宿命だったはずだ」
「私はリニス本人ではありません。
 プロジェクトFの技術を応用して作られた、同じ容姿と記憶を持ったクローンに過ぎません」
「……そうかい」
 寂しげに目を伏せ、それだけを呟く。
 もしかしたら、とは思っていたが、どうやらそうも都合のいい話は存在しないらしい。
 プロジェクトF――フェイトが生まれるきっかけともなった、記憶転写クローン技術。
 その末に生まれたのがこのリニスだというのならば、
 オリジナルのリニスは、やはりこの世にはいないということになる。
「いくつか聞かせてもらいたいことがある」
 複雑な心境にあるであろう、アルフへの配慮だったのだろうか。
 ちら、とアルフに目配せした後、リインフォースが問いかける。
 そこからの尋問の主導権は、リインフォースが引き継ぐこととなった。
「まずは貴方の主人――プレシアについてのことだ。彼女はここで何かを行っているようだが……一体何を企んでいる?」
 第一に確認すべきは、そこだ。
 アルハザードへの到達を目的としていたプレシア・テスタロッサは、恐らくその悲願を達成した。
 だとしたら、己の都合以外に一切の執着を持たないはずの彼女が、今更海鳴に攻撃を仕掛けるはずもない。
 しかし現実として海鳴は滅び、高町なのはとのその関係者は、今ここにいる2名を除いて全滅した。
 ならば、まだ何かある。
 プレシアが何かしらの目的を持って、未だに暗躍していることになる。
 最初に問いただすべきは、それであった。
「………」
 返ってきたのは、沈黙。
 微かな逡巡を湛えた表情と共に訪れる、静寂。
 数瞬の間、その状態が続き、
《……私に話を合わせてください。この部屋もプレシアに監視されているでしょうから》
 返ってきたのは、言葉ではなく念話だった。
《話を合わせる、ってのは、どういうことだい?》
 不可解な言い回しに、アルフが問いかける。
 監視されている可能性がある、という言葉には、さほど驚きは感じなかった。
 ここが敵の本拠地であるのなら、ある程度は仕方がないと割り切れるからだ。
 故にそれ以上に不可解なのは、リニスの持ちかけてきた提案。
 話を合わせろということは、演技をしろということだ。
 プレシアに従う身であるはずの彼女が、何故そのプレシアに本音を隠そうとするのか。
《私にはこれ以上、この件に干渉することはできません……ですから、貴方達に託そうと思います》
 答えが返ってくるまでには、さほど時間はかからなかった。
《お願いです――彼女を、プレシアを止めてください》

406 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:29:15 ID:6aYOplck0


 そして真実は語られた。
 伏せられていた情報の全ては、今ここに白日のもとに晒された。
 プレシアがたどり着いたこの場所は、間違いなくアルハザードであったということ。
 そこにたどり着いたにもかかわらず、未だアリシアは蘇っていないということ。
 そのアリシアの復活のために、プレシアが今動いているということ。
 そしてその手段として夜天の書を奪い、そのためにあの海鳴市を滅ぼしたということ。
「そんな……」
 そして。
「アリシアを復活させるために、大勢の人間が殺し合わされているだって……!?」
 それらの犠牲を払った末に、今まさに実行されていることさえも。
「何でだよ……どういうことなんだよ! そんな残酷なことが、死んだ人間の復活に繋がるのかよ!?」
 しばし呆然としていたアルフが、一転し、激昂の様相を見せた。
 今にも掴みかからんばかりの勢いで、リニスに向かって問いかける。
 敵を尋問しているように見せるための演技――ではない。この怒りは彼女の真意だ。
 まっとうな蘇生実験のために、フェイト達が犠牲になったというのなら、この際まだマシな方と言っていい。
 だがその犠牲が、そんな無駄な殺し合いのために払われたというのなら話は別だ。
 何故だ。
 何故そんなことのために、フェイト達が殺されなければならなかった。
 そんな無軌道な殺戮のために、何故愛しい主と仲間達の命が――
「それが、繋がるんです。彼女が行っているのは、そういう儀式ですから」
「儀式?」
 リニスの返事に反応を返したのは、やはりアルフではなくリインフォースだった。
 基本的に、この場で一番平静を保っているように見えるのは常に彼女だ。
 もっともその彼女自身もまた、プレシアの暴挙を許したわけではないのだが。
「今あの結界の中で行われている殺し合いこそが、アルハザードで確立されていた、死者を復活させるための儀式なのです。
 60人の人間を戦わせ、敗れた59人分の生命エネルギーを利用することで……勝ち残った1人の肉体に魂を降ろす。
 同時に肉体が生前のそれへと再構成されることで、完全なる死者蘇生は実現される」
「蟲毒だな、まるで」
 古代中国の呪術の名を例に挙げ、言った。
 もっともそちらの方は、虫や小動物を食い合わせて怨念を集め、猛毒を持った生物兵器を生み出すための呪法なのだが。
「そんなむちゃくちゃな……ここは仮にも、魔法の聖地なんて言われた場所なんだろう!?」
 それでもなお納得できないといった様子で、アルフが反論する。
 否、その感情の様相は、先ほどとはまた異なるものとなっていた。
 プレシアの暴挙に対して抱いたものが怒りなら、今この瞬間抱くものは困惑の二文字。
 優れた魔法技術を有したアルハザードの様式にしては、その方法はあまりにも野蛮で、あまりにも前時代的だ。
 魔法のまの字すら見えないこの儀式が、アルハザードの正統な技術であるなどと、一体誰が信じられるものか。
「だからこそ、なのです。
 リインフォース……蟲毒などという術を知っているのならば、地球に存在する生け贄の儀式のことも、聞いたことがあるのでしょう?」
「ああ。アステカ、インカ、中国……日本でも行われていた時期があったようだな」
「地球の場合、多くは神への貢物として行われていたようですが……
 あの世界を含む、リンカーコアを制御する術を持たない世界のうちのいくつかでは、超常の力を発揮するために、
 生け贄という形で肉体を損壊することで、強引に生命エネルギーを流出させる手段を取っていたのです」
「成る程……言わばあれらの風習もまた、超原始的な魔法だったということか」
 アステカの生け贄が、神を動かす力となったように。
 蟲毒の生き残りが、怨念を猛毒へと昇華させたように。
「にしたって60人って数は……あまりにも、多すぎる」
「完全な死者蘇生のためには、それほどの途方もない力が必要だったということか」
 そもそも死者を復活させるということは、あの世から死者の魂を連れ戻すということだ。
 そしていかに科学や魔術が発展した世界であっても、少なくともアルフ達管理世界の住民が知る限りでは、
 現世から冥界へと至る術を発見した世界は、未だない。
 彼岸と此岸の境界とは、それほどに強固なものなのだ。
 途方もないほどに強固な壁を越えるには、途方もないほどの代償を払わければならないということだ。

407 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:30:25 ID:6aYOplck0
《……事情は分かったよ。理解したくないけど、理解しなけりゃいけないってことが分かった》
 眉間に皺を寄せながら、毛髪の奥の頭皮を掻く。
 不機嫌そうな表情のまま、アルフがリニスへと念話を送る。
《では……》
《もちろん、最初からそのつもりさ。プレシアはあたし達が止めてくる》
 全て納得したと言えば、嘘になるだろう。
 正直な話、未だに唐突感はぬぐい去れない。あまりにも荒唐無稽すぎる話には、未だ理解が追いつかない。
 それでも、自分達はここに理解をしに来たのではないのだ。
 自分達がここに来たのは、プレシアの真意を問いただし、ろくでもないことを企んでいるのなら、それを止めるためなのだ。
 そして今まさに行われていたことが、そのろくでもないことであることは理解できる。
 ならば、この際細かいことはどうだっていい。
 今すぐプレシアの所へ殴り込み、このふざけた儀式とやらを止めるしかない。
 既に何人もの人間が犠牲になっているというのなら、なおさらのことだ。
《使い魔リニス。この施設の見取り図があったら、見せていただけないだろうか》
「この施設の見取り図がほしい。今すぐそのモニターに映せ」
 念話による本音では、穏便に。
 肉声による演技では、威圧的に。
 2つの言語を同時に駆使して、リインフォースが要求した。
「分かりました」
 その両方に、いっぺんに応じる。
 銀髪の融合騎の要求に、山猫の使い魔が応答を返す。
《窮屈だろうが、我慢してくれ》
 念話で前置きをしながら、リインフォースがリニスを強引に立たせる。
 首元に添えた手はそのままだ。建前上は脅迫している身なのだから、拘束を解くわけにはいかない。
 かくして彼女らはモニターへと向かう。
 倒れた椅子はそのままに、立った状態でコンソールを叩いた。
 かちかち、とキーボードを弾く音が響いた後、モニターに映し出されたのは時の庭園の見取り図。
 リインフォース達にとっては、実に6時間もの長きに渡って待ち望んだ代物だ。
「確認した」
 言うと同時に、リインフォースの手が伸びる。
 細く滑らかな指先が、コンソールの端子へと触れる。
 一瞬、ぴか、とその肌が光った。
 魔力光が瞬くと同時に、モニターに新たなウィンドウが開く。
 コピー完了――魔法術式タイプのコンピューターの特性を利用し、自らの内にデータを取り込んだ結果だった。
 もちろん、それだけではアルフが地図を使えない。
 故に適当な棚から、リニスに携帯端末を取り出させデータを出力し、それをアルフに投げて渡す。
「あとは……そうだな。参加者を拘束している首輪の制御装置はどこにある?」
 残された問題は、例の爆発物管理プログラムの正体――参加者に架せられた爆弾首輪だ。
 先ほどのハッキングではプログラムの存在こそ確認できたものの、それをどうこうすることは不可能だった。
 そしてあれをどうにかしない限りは、参加者をフィールドから逃がすことなど、不可能と言っていい。
 地図にそれらしきもののある部屋の名前が確認できなかった以上、その所在を問いただす必要があった。
「首輪はプレシア自身が管理しています。制御システムも、彼女の部屋に――」



 ――その、刹那。


.

408 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:32:08 ID:6aYOplck0
「ッ!?」
 世界の様相は一変した。
 視界は赤一色に満たされ、静寂は爆音に塗り潰された。
 ちかちかと点滅する非常灯。
 けたたましく鳴り響くサイレンの音。
 話声以外の音もなかった一室が、一瞬にして音と光の嵐へとぶち込まれた。
「これは……!?」
 誰が口にしたのかも分からぬ、戸惑いの声が上がるのも束の間。
「!」
 ぷしゅっ、と短く鳴る音と共に、部屋の自動ドアが開く。
 中から開いたのではない。扉はプレシアによってロックされている。
 であれば、答えは簡単だ。
 外から強制的に開けさせられたのだ。
「こいつら……!」
 扉の向こうに並ぶのは、見渡すばかりの鉄、鉄、鉄。
 卵を彷彿とさせる楕円形に、触手のごとく伸びた赤いケーブル。中央に光る黄金の瞳は、瞬きするかのように明滅する。
 ガジェットドローンの大軍だ。
 巡回を行っていた機動兵器達が、一斉にこの部屋へと押しかけてきたのだ。
「――バルディッシュ!」
 刹那、咆哮。
 凛とした雄叫びが上がると共に、黄金の光が赤を切り裂く。
 稲妻を宿した魔力光が、一瞬非常ライトを上から塗り潰した。
 声の主――使い魔リニスの手に握られていたのは、漆黒の煌めきを放つ長柄の斧。
 アルフの主人が生前用いていたものと、寸分違わぬ姿を持った、閃光の戦斧・バルディッシュ。
「はぁっ!」
 声を上げている暇などなかった。
 姿を知覚した瞬間には、既に動作に移っていた。
 跳躍。疾駆。接近。斬撃。
 カモシカのごとく両足をしならせ、敵に飛びかかりデバイスを振るう。
「リニス!?」
 アルフが声を上げた時には、既に1機のガジェットが破壊されていた。
 返す刃で次なる標的を切り裂き、改めてバルディッシュを構え直す。
 黒光りする切っ先越しに、山猫の双眸が機械兵を睨む。
「ここは私が引き受けます! 貴方達は隣の部屋に!」
「えっ……!?」
「この兵器達の放つフィールドには、魔力結合を阻害する効力があります。
 遠距離攻撃は不利です。隣の武器庫から、リインフォースの武器を調達して行ってください!」
 もはや演技をしている余裕はなかった。
 否、リニスの安否を無視して兵力を送った以上、大方プレシアにはばれていたのだろう。
 取り繕っていた体裁をかなぐり捨て、リニスがリインフォースらに向かって叫ぶ。
 そしてその言葉を聞いて、彼女らは一瞬忘れかけていた、敵の特性をようやく思い出した。
 あの金眼の兵器には、魔法を無力化させる能力が備わっていた。
 どういうからくりなのかが今までずっと気がかりだったが、なるほどそういうことだったのか。
「でも、1人で大丈夫なのかい? バルディッシュが近接戦タイプだからって……」
「見くびらないでくださいよ。これでも、フェイトの先生だったんですから」
 不安げなアルフを笑い飛ばすように。
 無粋なことを、と言いたげに、リニスが強気な笑みを浮かべる。
 それでも、未だ不安は消えない。
 いくら敵がガジェットだけでなかったからとはいえ、そのフェイトの敗北を目の当たりにしたからには、安心できるはずもない。
 確かにこのロボットそのものの耐久力はそう高くない。自分で殴り壊したからこそ分かることだ。
 だがそれでも、いくら何でもこれほどの数を前に、1人で戦えるものなのだろうか。
「やむを得ないか……ここは頼む。行くぞ、アルフ」
「……ああ」
 それでも、今は行くしかない。
 でなければせっかく足止めを買って出てくれた、リニスの意志が無駄になる。
 ここでまごついているうちにも、更なる犠牲者が出てしまうかもしれないのだ。
 無理やりに自分を納得させ、アルフはリインフォースの後に続いた。

409 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:33:20 ID:6aYOplck0
 部屋を出て、すぐ隣にあったドアを開く。
 先ほどちらと見た地図によれば、この部屋は殺し合いを行う際に必要となる、支給品とやらの転送室らしい。
 転送する武器の選別は、現在はランダムかつオートとなっているらしく、人の影は見当たらない。
 障害がないことを幸いとし、室内に並べられた武器を物色。
「……これがよさそうだな」
 そう言ってリインフォースが手にしたのは、一振りの日本刀だった。
 剣を選んだのは、ヴォルケンリッターの烈火の将・シグナムが剣の使い手だったからだ。
 彼女の魔法・紫電一閃は、純粋魔力ではなく、魔力変換によって生じた火力を纏うものである。
 魔力結合を阻害するガジェット相手には、ただの斬撃よりも有効と言えるだろう。
 故にシグナムの技を再現すべく、数ある武器の中からそれを選んだというわけだ。
 ただの刀が紫電一閃の火力に耐えられるのか、とも思ったが、どうやらこの刀、見た目以上に頑丈らしい。
 元々の持主たる異界の戦国武将・片倉小十郎が、この刀に雷を纏わせて戦っていたのだから、当然と言えば当然なのだが。
「よし、行くぞ」
「分かってる。……リニス! あたしらが戻るまで持ちこたえてくれよ!」
 部屋を出たアルフが最初に口にしたのは、ガジェットの大軍と戦うリニスへの呼びかけだった。
 そしてそれに対して返されたのは、彼女の無言の頷きだった。
 今はそれで納得するしかない。
 リインフォースらは彼女に背を向けると、すぐさま戦線を離脱する。
 硬質な廊下の床を蹴り、傍らの見取り図を見やりながら、時の庭園内部を走っていく。
 目標は2つ。
 今回の事件の首謀者であり、首輪の制御装置を保有しているプレシアの部屋。
 奪われた夜天の書が利用されているという、殺し合いのフィールドを生成する動力室。
 それぞれ最上階と最下層――PT事件を体験したアルフにとっては、一種懐かしささえ思わせる状況だった。
「リインフォース。ここは二手に分かれよう」
 そしてそのアルフが切り出したのは、またしても当時を想起させる提案だった。
「二手に……?」
「今は一分一秒が惜しい。あんたが地下の動力室を目指して、あたしがプレシアの部屋に向かうってのでどうだ」
「正気か? プレシア・テスタロッサの実力は、あの機械の比ではないのだろう……?」
 不可解な進言に、リインフォースが眉をひそめる。
 本業は科学者であるとはいえ、プレシアはSランクの魔力を有した大魔導師だ。
 まさかガジェット同様のフィールドを張るなんてことはないだろうが、それ以上に地力の差が桁違いである。
 事実として、アルフは以前プレシアに反旗を翻した際に、完膚なきまでに叩きのめされていた。
 理論上はその方が手っ取り早いとはいえ、どう考えても自殺行為としか思えない判断だ。
「夜天の書を取り返すことができれば、あんたもいくらか本調子を取り戻せるんだろ?
 心配なら、早く夜天の書を取り戻してきて、あたしを助けに来ておくれよ」
 返ってきたのは、不敵な笑み。
 にっと笑った表情は、先ほどのリニスのそれとも似通っていた。
 なるほど確かに、言われてみれば、リインフォースは夜天の書を奪われたことで、未だ本力を発揮できずにいる。
 その調子で2人がかり挑んだとしても、確実に勝利できるとは言い難いだろう。
 とはいえ2人で夜天の書の奪還に向かえば、その隙に参加者達を殺されてしまう。
 ならばここはアルフが注意を引きつけることで、本命のリインフォースに繋ぐのが最も確実だ。
「分かった……お前も、それまで死なないでいてくれよ」
「おうともさ」
 それが最後のやりとりとなった。
 階段にさしかかったところで、両者はそれぞれの道へと別れる。
 犬の使い魔は上を目指し。
 銀の融合騎は下を目指す。
 互いの目的を達成し、再び共に戦うために。
 あの忌まわしき魔女を打倒し、最期の悲願を果たすために。

410 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:33:52 ID:6aYOplck0


 身体強化術式を行使。
 速度強化と、腕力強化を最優先。
 AMFによる強化阻害の影響は、無視できるほど小さくはない。
 普段より数段重く遅い身体を、それでも懸命に力を込め、振るう。
『Scythe Form.』
 排気音と機械音を伴い、デバイスを近接攻撃形態へと移行。
 どうせ魔力弾は通用しないのだ。ならばこそ、接近戦に特化したフォームを選択するのは必然。
 振るう。振るう。薙ぎ払う。
 斬る。斬る。斬り刻む。
 迫る攻撃は全てかわした。
 普段より労力がかかる分、防御のタイミングはよりシビアだ。なればバリアになど頼っていられない。
 360度全方位に視線を配り、一心不乱に立ちまわる。
「はああぁぁっ!」
 柄にもなく気合の叫びを上げながら、リニスはひたすらに戦斧を振るった。
 我ながら大した出来だ――自らの手に握りしめた得物に、そんな感想を抱き、笑みを浮かべる。
 このバルディッシュは完璧だ。
 攻撃力も、魔力効率も、演算速度も申し分ない。さすがにフェイトのために、大枚をはたいて作っただけはある。
 フェイトはこの力作を気に行ってくれただろうか。
 オリジナルの私が最期に残したものを、喜んでくれていたのだろうか。それだけが気がかりだった。
(今の私にはこうすることしかできない……でも、彼女達にはできることがある)
 今のリニスを突き動かすのは、その一心だ。
 自分には何もできなかった。
 面と向かって立ち向かうこともできず、陰でこそこそと動くことしかできず、
 結局できたことといえば、参加者への可能性の丸投げだけだ。
 やがてプレシアに手足をもがれ、それすらも不可能となっていた。
 そして訪れた結末は、侵入者ごと抹殺対象となるという有り様。
 まったくもって不甲斐ない。大魔導師の使い魔とまで言われておきながら、情けないことこの上なかった。
「たぁっ!」
 しかし、彼女達は違う。
 彼女達はあの戦いを生き延びた。
 自分達を追うことに命を懸け、遂にはこのアルハザードにまでたどり着いた。
 何かを変えられるのは自分ではない――あの娘達だ。彼女達にこそ、希望があるのだ。
 ならば自分は捨て石ともなろう。
 こうして囮役を引き受けることで、希望を繋ぐことができるなら、喜んでここに屍をさらそう。
 犯してしまった罪を償う術が、こうする他にないのなら――
『――まったく、困った使い魔ね』
 その、瞬間。
 ぶんっ、と空気を揺らす音。
 不意に目の前に表れたのは、通信端末の空間モニター。
 画面越しに語りかけるのは、ウェーブのかかった黒髪と、冷たく射抜くような紫の視線。
『見え見えなのよ、あんな臭い芝居は。命を惜しむような柄でもないでしょう、貴方は』
「プレシア……」
 プレシア・テスタロッサ。
 全ての元凶たる大魔導師にして、山猫の使い魔リニスの主君。
 実子アリシアを蘇らせるために、大勢の命を犠牲にし、フェイトさえも手にかけた魔女。
 これまで沈黙を続けていた彼女が、遂にこうして回線を開き、再び姿を現していた。
 そしてそれに呼応するようにして、これまで戦っていたガジェット達もまた、一斉にその動作を止めた。
『本当に困った使い魔だわ……お仕置きされて反省するどころか、敵と結託するだなんて』
 ふぅ、とため息をつきながら、呆れた様子でプレシアが言う。
 自らが犯した大罪も、目の前で起きている反乱すらも、まるでに歯牙にもかけぬように。
「……私は間違っていました……
 貴方を止めたいというのなら、こそこそ隠れるのではなく、こうして戦うべきだった」
 何が悪かったというのなら、最初から何もかもが悪かった。
 本当に主の暴挙を制するのなら。
 本当に己が罪を償いたいのなら。
 黙ってその命に従って、この手を汚すべきではなかった。
 可能性だけを参加者に与え、解決を委ねるべきではなかった。
 たとえ相手が主君であろうと、あの2人の娘達のように、真っ向から立ち向かうべきだった。
 自分はそれに気付くのが、途方もないほどに遅すぎたのだ。

411 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:34:38 ID:6aYOplck0
『どっちにしても間違いよ』
 ぎろり、と。
 刹那、冷たく輝く紫の双眸。
 纏う気配は絶対零度。肌を切り裂き臓腑を射抜き、血肉を凍てつかせる氷雪の殺意。
 気だるげな様相が一転し、威圧的な形相へと姿を変える。
 やはり、そうか。
 プレシアは己の意に背く者は、誰であっても許しはしない。
 利用価値のない者ならばなおさらだ。間違いなく自分はここで殺されるだろう。
『馬鹿げたことをしてくれたわね……それとも何? まだフェイトを切り捨てたことを根に持っているの?』
 ぴくん、と。
 帽子の下の耳が、一瞬揺れた。
『貴方があの子をどう思おうと、あんなのは所詮アリシアの出来そこないなのよ。私にとっては――』
 ああ、そうか。
 やはり、そうなのか。
 どれほどの経験を重ねても、結局貴方はそうなのか。
 あの子にどれだけ尽くされようとも、貴方にはまるで届かないのか。
 あの子をどれだけ傷つけようとも、貴方にはまるで響かないのか。
 貴方にとってのあの子とは、そんなものでしかないのか――!
「――黙れ」
 自分でも驚くほどに、冷たく低い声音だった。
 これほどに冷酷な声が出せるのかと、一瞬自分で自分が信じられなかった。
 画面の奥のプレシアも、さすがにこれには驚いたらしい。
 氷の刃のごとき視線が、一瞬丸くなったのがその証拠だ。
「私は貴方達家族のことは、ほとんど何も覚えていない……
 貴方とアリシアがどんな親子だったのかは、私には知る由もない……それでも、これだけははっきりと言える……!」
 肩がわなわなと震える。
 バルディッシュがかたかたと鳴く。
 使い魔となる前の記憶は、ほとんど頭の中に残されていない。
 自分がアリシアに懐いていたことも、アリシアが自分を拾ってくれたことも、主体として実感することはできない。
 故に、プレシアとアリシアの関係について、とやかく言うつもりはない。
 それでも。
 だとしても。

「私にとってのフェイトは本物だ!
 紛い物でも出来そこないでもない……あの子を否定することは、私が許さないっ!!」

 遂に私は絶叫した。
 己の胸にこみ上げる怒りを、ありのままにぶちまけた。
 プレシアのアリシアへの愛が、本物だというのなら。
 私のフェイトへの愛もまた、本物であるのは間違いないのだ。
 彼女と出会って、魔法を教えて、笑い合う日々を幸せだと思った。
 彼女がいかなる生まれの人間だったかなど、自分には何の関係もなかった。
 フェイトと積み重ねた想い出も。
 フェイトからもらった信頼も。
 フェイトへと向ける愛情も。
 それら全てが本物だから。紛い物でもなんでもない、確かなものであると言い切れるから。
 だからこそ、私はプレシアを許さない。
 誰かの勝手な悲しみに、誰かを巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない。
 自分のエゴで作ったフェイトを、自分のエゴで殺す愚を、私は決して許さない。
『……もういいわ。お前はもう死になさい』
 一拍の間を置いて、一言。
 それを最後通告として、プレシアの顔は目の前から消えた。
 通信の終了と同時に、静まり返っていたガジェット達が、再び駆動音の唸りを上げる。
 これが終わりの始まりなのだろう。
 ここからが、本当の最期の戦いなのだろう。
 随分と魔力を無駄遣いしてしまった。まだまだ半分くらいは残っているが、それではこの数相手には心もとない。
 それでも、自分は決して絶望しない。最後の最後まで抗うことをやめない。
 囮としての戦いは終わった。十分に時間は稼げたはずだ。
 だからこれから始めるのは、自分の個人的な戦い。
 プレシアに叩きつけたこの想いを、最期の瞬間まで示し続けるためだけの、自分勝手なプライドを懸けた戦いだ。

412 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:35:20 ID:6aYOplck0
「バルディッシュ」
 右手のデバイスへと語りかける。
「こんな身勝手に付き合わせてごめんなさい」
 結局は自分も、プレシアと何ら変わらないのかもしれない。
 自分で複製したこのバルディッシュを、本来担うべきだった目的すら果たさせずに、
 自分の勝手なエゴに巻き込んで、ここで果てさせてしまおうとしている。
 己の欲望の果てにフェイトを死なせた彼女と、変わらないことをしようとしているのかもしれない。
「それでも……貴方が私を、まだマスターだと認めてくれるなら……最後の力を、貸してください」
 祈りのような言葉だった。
 それがリニスの口にした、最後の言葉と呼べる言葉だった。
 両の手で長柄を強く握る。
 サイズフォームの光刃を輝かせ、眼前のターゲットを見据える。
 意識は怖ろしいほどにクリアーだ。
 もう何も怖くはない。死でさえも自分を怖れさせはしない。
 ただ、刃を振るうのみ。
 最期に事切れる瞬間まで、前に進み続けるのみだ。
「……うおおおおぉぉぉぉぉーっ!!」
 咆哮と共に、山猫は駆ける。
 黄金と漆黒のデスサイズを携え、大魔導師の使い魔は疾駆する。
 間合いを取ると共に、切り裂き。
 間合いを詰めると共に、薙ぎ払った。
 AMFの壁に阻まれようとも、ひたすらに刃を叩き込んだ。
 全身をレーザーに焼き焦がされ、五体を触手に貫かれようとも、一心不乱に斧を振るった。
《アルフ》
 心残りがないと言えば、嘘になる。
 しかしそれらを叶える機会は、当に自身の手で投げ捨ててしまった。
 それでも、最後の1つだけは、どうにか叶えることができた。
 故に最後の力を振り絞り、猫の使い魔は言葉を紡ぐ。
 声ではなく思念通話を通して、願いの先へと想いを伝える。
《大きく……なりましたね》
 フェイトと共に面倒を見てきた、小さな狼の娘・アルフ。
 フェイトに会うことはできなくとも。
 フェイトの成長した姿は見れなくとも。
 その愛らしい使い魔は、大きく勇敢に育ってくれた。
 その姿を見られただけでも、彼女は十分に幸せだった。
 記憶を引き継いだクローンとして、蘇った意味はあったのだと。
 最期の瞬間に、そう実感することができた。

413 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:36:21 ID:6aYOplck0


 上へ、ただに上へ。
 延々と続く階段を、上り続ける女がいる。
 漆黒のマントとオレンジの髪を、走る勢いにたなびかせ、ひたすらに駆け抜ける者がいる。
 ひく、と獣の耳が揺れた。
 ぴく、とマントの肩が揺れた。
「……ばかやろうっ……」
 瞳を光らせる獣の女が、震えた声で呟いていた。










【リニス@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】












「まったく……使い魔風情が偉そうなことを」
 はぁ、とため息をつきながら。
 リニスの死亡を確認した主君――大魔導師プレシア・テスタロッサは、うんざりとした様子でそう呟いた。
 腰掛ける椅子に右肘をつき、己の頬を手のひらに預ける。
 これで彼女は独りきりだ。
 たった1人の協力者を、自らの手で切り捨てたプレシアは、本当に独りになってしまった。
 もはや周りにいる者は、得体の知れないあの男から借りてきた、いかがわしい機械人形達だけしかいない。
 それでもプレシアは、それで別に構わないとさえ思っていた。
 どうせもうすぐ片はつく。あとたった11人の人間が死ぬだけだ。
 そうなれば儀式は完遂し、冥府の扉を開くための59人の生け贄が揃う。
 最後の1人の身体に魂が宿り、アリシア・テスタロッサの完全な復活は完了される。
 自分には、ただアリシアさえいればいい。
 そしてその時は、もう目前にまで迫ってきている。

414 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:37:15 ID:6aYOplck0
「ミズ・プレシア。動力炉への兵員の配備、完了しました」
 その時。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て。
 機械人形のうちの1人――ボーイッシュなナンバーⅧ・オットーが姿を現した。
「ああ、そう」
 まったくもって面白味のない奴だ。
 せっかくいい気分に浸っていたのに、余計な水を差すなんて。
 無粋な来訪者の報告に、興味なさげな発音で返す。
 裏切り者のリニスを排除した今、残された問題はあと2つ。
 夜天の融合騎・リインフォースと、犬の使い魔・アルフの2名である。
 そのうちアルフに対しては、ほとんど無視に近い対応を取っている。
 どの道あの使い魔程度の実力では、この部屋に入ることなど不可能だと分かりきっているからだ。
 となると、残る問題はリインフォース。
 こちらへまっすぐ向かってくるならまだしも、夜天の魔導書を狙われるのはまずい。
 さすがにこちらは無視できないということで、オットーに兵力の派遣を指示しておいたのだ。
 ナンバーⅦ・セッテと、ナンバーⅩⅡ・ディード――最後発組2名が相手とあれば、
 欠陥を抱えた融合騎など、ひとたまりもなく消し飛ぶだろう。
 そうなれば、全てはチェックメイト。
 このプレシア・テスタロッサを邪魔できる者は、広大な次元世界の海に、誰1人として存在しなくなる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、アリシアと再会することができるのだ。
 込み上げる笑いをこらえきれず、我知らぬままに口元がにやけた。
「……あら?」
 そして、その時。
 ふと、ほんの僅かな違和感を覚えた。
「貴方、さっきまで羽織っていたジャケットはどこにやったの?」
 それはオットーの身なりへの違和感。
 中性的な容姿をした彼女は、その胸元を隠すように、グレーの上着を羽織っていた。
 しかし今、彼女の身体にそれは確認できない。
 ナンバーズスーツの上には長ズボンだけ。慎ましやかな胸の隆起が、スーツ越しに見受けられるようになっている。
「それはですね……」
 そして。
 プレシアがその返答を聞くよりも早く。




 ――ぐさり。




「ッ……!?」
 腹部へと激痛が襲いかかった。

415 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:38:00 ID:6aYOplck0
 焼けつくような痛覚が、腹と脳髄を苛み焦がす。
 久しく味わうことのなかった鉄の味が、口の中へと満たされていく。
 アルハザードの叡智を用い、己が病を克服して以来、久方ぶりに感じる吐血の感触。
「あ……ァあ……」
 喉から漏れる声は、言葉にならず。
 震える両手は、傷口へと届かず。
「――こういうことなんですよ」
 それらが意味をなすよりも早く、何者かの声が耳朶を打った。
 聞き覚えのない女の声。
 嘲笑うような不愉快な声。
 のろまと言っても差し支えない動作で、声の方へと首を向ける。
「オットーの上着は、正式名称をステルスジャケットと言いまして……
 その名の通り、あらゆるセンサーの索敵から、身を隠すことができるんです」
 そこに立っていた者は、プレシアの知らない女の姿。
 全身をフィットスーツで覆った容姿は、オットーら戦闘機人と共通したもの。
 しっとりと光るブロンドを、腰まで伸ばした妖艶な女性。
 そしてその胸元には――ナンバーⅡの刻印が施されていた。
「ばか、な……まるで……気配、が……」
「あらあら、こちらは隠密が仕事なんですよ? 科学者ごときに、私を気配を捉えられるはずがないじゃないですか」
 にぃ、と笑う女の顔。
 同時に腹を襲ったのは、ずぷ、という音を伴う更なる苦痛。
「ぅううッ……!」
 目の前が一気に真っ赤に染まった。
 何かしらの得物でせき止められていたらしい血液が、一挙に傷口から噴き出した。
 ぶしゅう、と響く音と共に、勢いよく噴き出される紅色の噴水。
 患部から吐き出される赤色は、プレシアの身体の体力さえも、根こそぎ流し出していく。
「申し遅れました。私は戦闘機人のナンバーⅡ・ドゥーエでございます。以後、お見知りおきを……」
 意味深な響きと共に放たれた言葉を、どこまで明瞭に聞けたのかは分からない。
 もはや椅子に座ることすらも、プレシアには不可能な動作であった。
 ごろごろ、と豪快な音が上がる。
 深紅に染まった黒のドレスが、椅子から転げ落ちて床へと横たわる。
「そん……な……」
 何だこれは。
 何だというのだ、この有り様は。
 信じられないといった形相で、うつ伏せのプレシアが声を漏らした。
 一体何が起こっている。
 どうしてこんなことが起きている。
 あと一歩のところまで来たのに。
 アルハザードへと到達し、その上悲願達成の目前までたどり着いたのに。
 何故だ。何故こうも上手くいかない。
 何故誰もかれもが立ちはだかる。何故こうも誰もが邪魔をする。
 私の行いがそんなに悪いのか。
 幸せを求めるのがそんなに間違っているのか。
 私は。
 私は、ただ。
「ア、リ……シア……――」
 ただ――――――娘の笑顔が見たかっただけなのに。

416 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:39:22 ID:6aYOplck0


 ぱっ、と右手を軽く振る。
 ピアッシングネイルにこびりついた血糊を、床に目掛けて振り払う。
 ふぅ、と軽く息をついて、戦闘機人の次女・ドゥーエは、左手で金の長髪を梳いた。
「これにてお仕事完了、と……悪いわね、貴方の服を汚しちゃって」
「いえ。お疲れ様でした、ドゥーエ姉様」
 微かに返り血の付着したジャケットを脱ぎ、それをオットーへと投げて渡す。
 右手を束縛する得物をも外すと、両手を頭の上で組み、んっと背伸びする姿勢を取る。
「っ、とぉ……やれやれ、本当にお疲れだったわ」
 まったく、創造主も無茶を言ってくれる。内心でそう毒づいた。
 これまでにも様々な潜入任務を行ってきたが、丸々1週間何もしないで待ち続けたのは初めてのことだ。
 他のナンバーズ達と共に時の庭園に入り、しかし自身はプレシア達と接触せず、誰にも存在を気取られず施設内に潜伏。
 そして指示が下ると同時に、デバイスの探知を免れられるオットーと共にプレシアに接触、これを殺害する。
 これこそが、彼女の受け持った任務の全容である。
 侵入者に付け入られ、たった1人の仲間であるリニスが排除された時点で、プレシアは用済みとなったのだ。
『――やぁ、ドゥーエ。どうやら滞りなく終わったようだね』
 そして、その時。
 室内のモニターに浮かんだのは、通信機能のカメラ映像。
 スクリーンに大映しになったのは、1人の男の顔だった。
「これはドクター。お達しの通り、つつがなくお仕事を終わらせましたわ」
 そう。
 この男こそ。
 ドゥーエがかしずくこの男こそが、彼女達を束ねる創造主。
 紫色の長髪と、爬虫類のような黄金の瞳に、白衣がトレードマークの男。
 無限の欲望とあだ名される、広域次元犯罪者。
 Dr.ジェイル・スカリエッティ。
 プレシア・テスタロッサの協力者にして、今まさに彼女を裏切った、最悪のマッド・サイエンティストである。
『実に結構。……ウーノ、いるかい?』
『はい、ドクター。ここに』
 同時に2つ目のウィンドウが開き、ウーノの顔が映し出される。
 彼女は今、別の仕事を行うために、次元航行船用のドックで作業をしているはずだ。
『プレシアの研究成果の全てを持ち出すまでに、あとどれくらいの時間がかかる?』
『今から約6時間ほどかかります』
『では、脱出艇の調整にあとどれくらいの時間がかかる?』
『そちらも6時間ほどかかります』
『結構』
 にぃ、とスカリエッティが笑った。
 それこそがウーノの請け負った仕事であり、同時にこの稀代の科学者が、プレシアに接近した最大の理由である。
 アルハザードに存在する、優れた文明の遺産の強奪――それが彼らの目的だ。
 誰よりも旺盛な知識欲を持ち、貪欲なまでに未知を求めるスカリエッティにとって、
 その故郷とでも言うべきアルハザードは、何物にも勝る宝の山に他ならなかった。
『ではウーノ。参加者達に架せられた首輪の爆破装置を、誰にも気づかれないようにオフにしてくれたまえ』
『爆破装置をオフに、ですか?』
『時間制限という新たな制約がついたんだ。それ以上に制約を設けるのは、アンフェアというものだろう?』
『……ドクター、貴方また遊ばれるおつもりですね?』
 はぁ、とウーノが呆れたように溜息をついた。
『せっかくプレシアが始めたゲームだ。まだ終わっていないのだし、我々も乗らせてもらおうじゃないか』
 モニターの向こうのスカリエッティは、くつくつと愉快そうに笑っている。
 それに呼応するようにして、ドゥーエもまた苦笑した。
 目的はこれで十中八九果たされたも同然だが、どうやら創造主の退屈は、未だ満たされてはいないらしい。

417 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:40:22 ID:6aYOplck0
『……ではドゥーエ、君はプレシアの代役を。0時10分頃を目途に、彼女に代って放送を行ってくれたまえ』
「分かりました」
『オットーはディード達と合流し、夜天の融合騎の迎撃を』
「了解です」
 頷くと同時に、オットーは部屋を去っていった。
 ディードやセッテもそうだが、クアットロが教育したという最後発組は、どうにも感情表現が希薄だ。
 戦闘においてはそれでも構わないが、日常生活を送るにはどうにも面白味が薄い。
 これが終わってラボへと帰ったら、その辺りをクアットロにツッコんでおかねば。
 そんなことを思いながら、遠ざかる短髪の背中を見送った。
『クク……さぁ、それではゲームを再開しよう。
 彼らが勝てば全て終わり。負ければアルハザードからの脱出手段を我々に奪われ、二度とここから帰れなくなる。
 タイムリミットは次の放送を迎えるまでだ。そしてそれを過ぎた時点で――』
 かくして新たな幕は開いた。
 当事者達の知らぬ裏側で、異変は着々と侵攻していた。
 魔女は塔から引きずり降ろされ、第一楽章は終了する。
 新たなゲームマスターは、不敵に笑う金眼の道化師(クラウン)。
 ここに戦争の時代は終わり、世界の終わりが始まった。
 最悪の24時間が終了し、最悪の6時間が始まった。
 第二楽章はここから始まる。
 語り部が力尽き倒れてもなお、狂気の綴る悪夢の詩は、未だ終わることはない。










『――バトルロワイアルは、中止だ』










【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】

【参加者勝利条件変更:ナンバーズ一派の、時の庭園からの脱出阻止】
 ※参加者の首輪の爆破装置が、全てオフになりました。
 ※リインフォースに強奪されたため、
  黒龍@魔法少女リリカルBASARAStS 〜その地に降り立つは戦国の鉄の城〜が支給不可能となりました。
 ※セッテ、オットー、ディードの3名が、時の庭園最深部の動力炉に配置されました。

【バトルロワイアル終了まで――――――05:50:00】

418 第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc :2010/10/04(月) 23:41:41 ID:6aYOplck0
以上です。何か所か誤字等がありましたので、一部修正させていただきました。
禁止エリアに関しては、アイデアが浮かばなかったので、ひとまず◆Lu氏の案からアイデアをお借りしました。

419 リリカル名無しA's :2010/10/05(火) 23:57:25 ID:.eHpWy2E0
放送投下乙でした。

リニスとプレシア退場か……プレシアの最大の失敗はリニスを斬り捨てた事か……まー散々人を見下した愚者にとっては相応しい結末だろう。
そして前面に出てきたのがスカ軍団。首輪爆破オフしてくれるなんてお気遣い……ってちょっと待て、あと6時間で脱出って地味に難易度上がってねぇか?
しかもよくよく考えてみりゃ、放送10分遅れ程度の情報であんな事態察せるわけねぇって。地味に詰んだ?

……そういやプレシア直前話で金居に指示出してノリノリだった矢先での退場だったなぁ……まぁよくある話か(ねぇよ)
……しかし優勝者がアリシアになるか……これ真面目な話優勝者にとっては最悪な話だなぁ、実質優勝しても願いは叶えられず自身も消滅だからなぁ。
しかし場合によってはアーカードやナイブズやセフィロスやエネルがアリシアになっていたのか……(いやSSよく読めば、肉体もアリシアに再構成されるってあるけどね)

禁止エリア案は船着き場、映画館、温泉か……確かにこれが最後の放送ならば差し障りはないが……どうしようか?
(まぁ爆破装置がオフになっているから意味はないかも知れないけど、参加者は知らない話だからなぁ)
とはいえ違う場所でもwiki収録時に直せば済む話ですよね(極端に変な場所じゃない限り大きな影響は無いだろうし)

420 リリカル名無しA's :2010/10/06(水) 00:11:34 ID:wI23fkrw0
投下乙です

リニスとプレシアの方が退場か
もしかしたら、とも思ったが……主催の座から転げ落ちたか
そしてスカ博士キター やっぱりお前もいたのかw
更に首輪爆破オフとかきつい事しやがったぞ

さて、これが最後の放送になるかどうか…

421 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:29:16 ID:VVdjLK8s0
キング、アンジール・ヒューレーを投下します

422 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:31:37 ID:VVdjLK8s0

アルハザードを舞台としたバトルロワイヤルという名目の、殺し合い。
プレシア・テスタロッサの手によって始められてから、既に二四時間が経過していた。
辺りは闇に包まれ、風が冷え切っている。
星々は輝いているが、それを見上げる者は誰一人としていない。
そんな空の下で、一つの建物がメラメラと音を鳴らしながら、燃え上がっていた。
静寂を破る火炎は闇を照らし、二つの人影を映し出す。
一人は、黒いマスクで顔を覆い、同じ色のスーツとマントに身を包む男、キング。
またの名を、魔王ゼロ。
本来は、世界を変えようと決意した少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの仮初の姿。
しかし今は、己の快楽の為に戦うカテゴリーキングの位が与えられたアンデットが、ゼロの名を名乗っていた。
その仮面を被るキングの前に立つのは、アンジール・ヒューレー。
本来は、遥か彼方の宇宙より地球に飛来した生命体、ジェノバの細胞を人間に埋め込む計画、ジェノバ・プロジェクトによって生まれた男。
しかし厳密には、ミッドチルダに流れたライフストリームと呼ばれるエネルギーから、ジェイル・スカリエッティが生み出したコピー。
アンジールは、ゼロと名乗る仮面を被った男の言葉に、困惑を感じていた。
この人物は、自分のことを『プレシア・テスタロッサ』が送り込んだ者と言った。
そして、手を組むのなら死んだ妹たちを生き返らせてみせるとも。
だが、そんなことは自分を騙す為の戯言で、本当は隙を突いて殺そうと企んでいるかもしれない。
しかし、ゼロは愛弟子であるザックス・フェアの名前や、既に折れたバスターソードの事を知っていた。
もしかしたら、この男と組めばクアットロ、チンク、ディエチの三人を、本当に生き返らせることが出来る――?

(いや、ここには奴もいた。もしこいつが奴と出会ったとすれば……!)

思い出されるのは、既に名前が呼ばれたかつての親友、セフィロス。
可能性は低いが、あの男がゼロに情報を売った可能性もある。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
この男をどうするか。
もしも、自分を殺そうと企むのなら、答えは一つのみ。
連戦によって体に疲労を感じるが、死力を尽くせばあの奇妙な盾も砕けるはず。
自分の世界では、バリアやマバリアといった魔法も存在する。
攻撃を防いだ防壁も、それと同じ種類か。

「何を迷っている? アンジール」

アンジールが思考を巡らせていると、仮面の奥から低い声が響く。
それは鼓膜を刺激し、彼の意識を発生源に向けた。
地獄の業火を思わせるような炎を背に立つゼロの様子は、まさに「魔王」と呼ぶに相応しい。
テロリストの仮面を被るキングは、アンジールの様子を尻目に言葉を続けた。

423 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:32:14 ID:VVdjLK8s0

「先程の放送を聞いただろう? 貴様の愛する妹たちはもう誰もいない。皆、殺されたんだよ」
「――黙れッ!」
「だから決めろと言っている! 貴様は何の為に戦うか! 貴様が求める物は何か! そして、貴様は何を決意した!?」

激高は、呆気なくかき消される。
闇の中で響くゼロの言葉によって、アンジールの勢いは止まった。
表情から怒りが消えていき、再び元に戻る。
その様子を、マスクの下から眺めるキングは、笑みを浮かべていた。
しかしそれを声には出さない。
変声機があるから誤魔化せるかもしれないが、面倒は御免だ。
最も、そうなった場合はアンジールを始末すればいいだけのこと。
だがそれでは仮面ライダーカブト、天道総司の思い通りになる。
奴の狙いに嵌るのは、気に食わない。
今やるべきことは、餌をぶら下げる事。

「君が抱くクアットロへの思いはその程度か!? 君とチンクの絆はこの位で揺らぐ程度か!? 君がディエチに感じている愛情はこの程度か!?」

キングは、放送で呼ばれたナンバーズの名前を次々に言った。
そして、警戒心を解かせる為に「君」を使う。
一人一人告げる度に、アンジールの表情が崩れていった。
何ていう愚かなことか。
調べてみると、この三人はサイボーグらしい。
ならば、鉄屑で出来たガラクタの人形ということだ。
そうなると目の前にいるアンジールとは、人形にしか愛情を向けられない、愚かな男ということになるだろう。
このような奴の弟子になったザックスという人物は、哀れかもしれない。
出来ることなら、今のアンジールの顔をカメラに収めておきたいが、それは我慢だ。
もしも、タイトルを付けるのなら『ガラクタの人形を姉妹と呼ぶ、愚かで哀れな男』だろう。
仮面の下で笑みを作るキングは、愚かで哀れなアンジールを揺さぶるために言葉を続けた。

「そしてこの事実をオットーは知っている! 彼女もまた、姉妹の死に心を痛めているはずだ!」
「ッ……!?」
「君がやらずして、誰が妹を生き返らせるのだ!? 思い出せ。君にとって、妹とは何だ!」
――アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています――

ゼロの怒号を聞いた途端、アンジールの脳裏に一つの光景が浮かび上がる。
ようやく再会できた、クアットロの姿。
そして、彼女が言った最後の言葉。

――私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです――
――だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……――

アンジールの中で駆け巡るのは、クアットロの声。
傷だらけの体にも関わらず、彼女は残る力を振り絞って、自分に託した。
クアットロと、チンクと、ディエチと、また一緒に暮らせるという願いを。

――……またお会いできる時を楽しみにしています――

彼女はこの言葉を残して、逝ってしまった。
全ては、自分の力が足りなかったせいで起こってしまった、忌々しい数時間前の出来事。
そしてプレシアの元にいるオットーも、この事を知っているはず。
彼女はきっと、いや絶対に不甲斐ない自分に失望し、憎んでいるに違いない。
だが、どんな罵りだろうと甘んじて受けるつもりだ。
二人は黙り込み、炎が燃える音だけが響く。
そんなアンジールの様子が気に食わないキングは、次のアクションを起こした。

424 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:33:17 ID:VVdjLK8s0
「…………所詮、君はその程度の男か」
「何……?」
「今の君を見たら、妹たちはどう思うだろうねぇ……?」

三回目の放送で名前が呼ばれた、キャロ・ル・ルシエの時のように、誘惑する。
今のアンジールなど、手に落ちるまでそれほど時間は要らない。
キングは確信を持ちながら、目の前の男を揺さぶり続ける。

「最も、君が一人で戦い続けるというのなら、私は別に……」
「待てッ!」

濁ったような声を、アンジールはかき消した。
仮面の下で、キングが笑みを浮かべていることを気付かずに。

「いいだろう……お前と手を組んでやる」
「良い返事が聞けて嬉しいよ、交渉成立だな」
「だが、分かっているだろうな……」
「心配は要らない。約束は必ず守る。でなければ、こんな話は持ち出さない」

アンジールは微かな可能性に賭けて、この男の提案を受け入れた。
キングが自称する魔王の名が、ゼロの名が、プレシアの配下であることが。
そして、妹達を生き返らせるという褒美が、全て嘘であることを知らずに。
屈強な兵士が、ただの人形と成り果てた事実に、キングは歓喜を覚える。
しかしそれを表に出すことは、しなかった。

「ではまずは、逃げ出したあの二人を追おう。市街地に向かうのはその後だ」

キングは提案を出すと、歩を進める。
その後ろを、アンジールは歩いた。

(ハハハハハハッ! 残念だったね、カブト。 君の狙いは外れたよ!)

心の中で大笑いしながら、キングは天道に対して侮蔑の感情を抱く。
あの男にバッグを少しだけ奪われたのは残念だが、これで御相子だ。
それ以上に、高町なのはには仮面ライダーデルタに変身するという、楽しみも待っている。
正義の味方を気取っている女が、あれを使って暴走するようなことになればどうなるか。
どうせベルトの毒が生み出す快楽に溺れ、狂った挙句に人を殺すに違いない。
ならば、その様子を携帯のカメラに残してやろう。

(そして、ウルトラマンメビウス……死んじゃったんだね、君。弱いくせに王様に刃向かったから、罰が当たったんだな!)

先程の放送で呼ばれた、ヒビノ・ミライの名前。
恐らく、自分が遊んだ際にアンジールに殺されたんだろう。

425 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:34:04 ID:VVdjLK8s0
諦めないなどと戯言を言っておきながら、この結果だ。
所詮、中途半端な力しか持たない弱者だったということ。
ウルトラマンであろうと仮面ライダーであろうと、自分に抗うなど無理だということだ。

(そういや、放送の時間が十分だけ遅れてたな……)

キングは充足感を覚えている一方で、疑問を感じている。
放送の時間が、少しだけ遅れていたのだ。
これまでは、一秒のズレもなくプレシアは情報を伝えている。
それが今回に限って、何故遅れていたのか。

(どうなってるんだ?)



一方で、アンジールもまた考えている。
先程の放送では、七人の名が呼ばれた。
クアットロの名前以外は、呼ばれても関係ない。
自分のやるべき事はただ一つ。
愛する妹達の命を、取り戻すこと。
だが、アンジールにとって気がかりなことが一つだけあった。
それは、呼ばれなかった名前が存在すること。

(あの男……生きていたのか)

三度に渡って戦いを繰り広げた、あの男が生きていたこと。
自分と同じように、望まぬ運命によって望まぬ力を得てしまった、あの男が生きていたこと。
自分の境遇と重なって見えた、あの男が生きていたこと。
そして、自分の手で望まぬ運命を断ち切った、あの男が生きていたこと。
妹達を守る盾の役割を託した、あの男が生きていたこと。

(いや、もう関係ない……俺は悪魔になると決めた。ならば、あの男も例外ではない)

アンジールは心の中で呟くが、あの男の顔が頭の中で思い浮かんでしまう。
振り払おうとするが、消えることはない。
続くように、あの男の声が聞こえた。

――そんな方法で家族を守ったとして……その人達が喜ぶのか!?――

――やっぱ……馬鹿みてぇか、俺?――

――……もう無理なんだ……意志だけじゃあ抑えきれない……もう言うことを聞かない……今すぐにでも離れてくれないと……僕は、君を、殺してしまう……――

それらは、アンジールの中で次々と蘇っていく。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、何故こんな声が聞こえるのか。
今の自分にとっては、雑音に等しい。
消えろ。消えてしまえ。

426 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:34:43 ID:VVdjLK8s0

――だって君も見逃してくれたじゃん――

――ついさっきビルに叩き付けられた時のことだよ。……確実にトドメを刺せる状況だったのに君は攻撃しなかった。その借りを返しただけさ――

アンジールは念じるが、消えることはない。
それどころか、声はより一層増えていく。
そして、苦笑を浮かべるあの男の顔も。
声に比例するかのように、疑問も徐々に増えていく。
だが、今はそれに気を取られている場合ではないはずだ。
やるべき事は、妹達の蘇生。


アンジールの頭の中で浮かぶ男の顔。
もしも、もっと早く出会えてたら手を組めたかもしれない男。
戦場にも関わらずして、自分を助けようとした男。
そして、今もどこかにいるはずの男。


――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの顔と声が、アンジールの中で浮かび上がっていた。

427 闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg :2010/10/22(金) 21:38:36 ID:VVdjLK8s0
【2日目 深夜】
【現在地 D-2】


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールと共に天道総司を追跡する。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。
※デイバッグを奪われたことに、気付きました。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。


【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し