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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

2リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:43:10 ID:lCNO3scI0
【基本ルール】
・参加者全員で殺し合いをして、最後まで生き残った者のみが元の世界に帰れる。
・参加者の所持品は基本的に全て没収され、その一部は支給品として流用される。
・ただし義肢などの身体と一体化した武器や装置、小さな雑貨品は免除される。
・主催者に敵対行動を取ると殺されるが、参加者同士のやりとりは反則にならない。
・参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバーとなる。
・バトロワ開始時、全参加者はマップ各地に転送される。
・マップとなるのは「各クロス作品の建造物が配置されたアルハザード」という設定。
・バトルロワイアルの主催者はプレシア・テスタロッサ。
・バトロワの主催目的は未定です。それはバトロワの今後の発展次第で決定されます。

【支給品】
・参加者はバトロワ開始時、以下の物品を支給される。
 ・デイパック(小さなリュック。どんな質量も収納して持ち運べる素敵な機能有り)
 ・地図(アルハザードの地形が9×9マスで区分されて描かれている)
 ・名簿(参加者の名前のみが掲載されたファイル)
 ・水と食料(1日3食で3日分、都合9人分の水と食品が入っている)
 ・時計(ごく普通のアナログ時計。現在時刻を把握出来る)
 ・ランタン(暗闇を照らし、視界を確保出来る)
 ・筆記用具(ごく普通の鉛筆とノート)
 ・コンパス(ごく普通の方位磁石。東西南北を把握出来る)
 ・ランダム支給品1〜3個(現実・原作・クロス作品に登場する物品限定。参加者の能力を均一化出来る選択が必要)
・尚「地図」〜「ランダム支給品」はデイバックに収められている。

【支給品の制限】
・以下の支給品には特別な制限がかかります。詳しい内容は【制限一覧】のページを参照してください。
1.デバイス系
2.ライダーベルト系
3.火竜@FLAME OF SHADOW STS
4.巫器(アバター)@.hack//Lightning
5.カード系の支給品(遊戯王、アドベントカード@仮面ライダー龍騎、ラウズカード@仮面ライダー剣)
6.意思持ち支給品(自律行動あり)
・制限が必要そうだが制限が決定していない物品を登場させたい場合は、事前の申請・議論が必要。

3リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:43:43 ID:lCNO3scI0
【時間】
・深夜:0〜2時
・黎明:2〜4時
・早朝:4〜6時
・朝:6〜8時
・午前:8〜10時
・昼:10〜12時
・日中:12〜14時
・午後:14〜16時
・夕方:16〜18時
・夜:18〜20時
・夜中:20〜22時
・真夜中:22〜24時

【放送】
・以下の時間に「死亡者」「残り人数」「侵入禁止エリア」を生き残りの参加者に伝える。
 ・深夜になった直後(00:00)
 ・朝になった直後(06:00)
 ・日中になった直後(12:00)
 ・夜になった直後(18:00)

【地図】
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/pages/126.html

【禁止区域】
・侵入し続けると1分後に首輪が爆発するエリア。「放送」の度に3エリアずつ(放送から1時間後、3時間後、5時間後に一つずつ)増える。
・侵入禁止はバトロワ終了まで解除されない。

【首輪】
・参加者全員の首(もしくは絶対に致死する部位)に装着された鉄製の輪の事です。
・これにより参加者各人の「生死の判断」「位置の把握」「盗聴」「爆破」が行われ、「爆破」以外は常に作動しています。
 「爆破」が発動する要因は以下の4通りです。
 ・主催者が起動させた場合
 ・無理に首輪を外そうとした場合
 ・主催者へ一定以上の敵対行動を取った場合
 ・禁止区域に一定時間滞在していた場合(尚、警告メッセージが入る)

4リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:44:15 ID:lCNO3scI0
【書き手のルール】
・バトロワ作品を作る上で、書き手に求められる規則。
 ・トリップをつける
 ・本スレでも連載中の書き手は、あくまでもこちらが副次的なものである事を念頭において執筆しましょう
 ・残虐描写、性描写は基本的に作者の裁量に任されます。ただし後者を詳細に書く事は厳禁
 ・リレー小説という特性上、関係者全員で協力する事を心掛けましょう
 ・キャラやアイテムの設定において解らない所があったら、積極的に調べ、質問しましょう
 ・完結に向けて諦めない
 ・無理をして身体を壊さない

【予約について】
・他の書き手とのかぶりを防止する為、使用したいキャラを前もって申請する行為。
 ・希望者は自身のトリップと共に、予約専用スレで明言する事。
 ・予約期間は1週間(168時間)。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は解除される。
 ・ただし諸事情により延長を希望する場合は、予約スレにて申請すれば3日間の延長が可能である。
 ・自己リレー(同一の書き手が連続して同じキャラを予約する事)は2週間全く予約がなかった場合に限り許可する。ただし放送を挟む場合は1週間とする。
 ・書き手は前作の投下から24時間経過で新しい予約が可能になる。ただし修正版を投下した場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。
 ・作品に登場したキャラはその作品が投下終了してから24時間後に予約可能になる。ただし修正版が投下された場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。

【状態表のテンプレ】
・バトロワ作品に登場したキャラの、作品終了時点での状況を明白に記す箇条書きです

【○日目 現時刻(上記の時間参照)】
【現在地 ○ー○(このキャラがいるエリア名) ○○(このキャラがいる場所の詳細)】
【○○○○(キャラ名)@○○○○(参加作品名)】
【状態】○○(このキャラの体調、精神状態などを書いて下さい)
【装備】○○○○(このキャラが現在身に付けているアイテムを書いて下さい)
【道具】○○○(このキャラが現在所持しているアイテムを書いて下さい)
【思考】
 基本 ○○○(このキャラが現在、大前提としている目的を書いて下さい)
 1.○○(このキャラが考えている事を、優先順で書いて下さい)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(このキャラが把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いて下さい)

・以下は、バトロワ作品の参加キャラ数人以上が、特定の目的を果たすべく徒党を組んだ際に書くテンプレです

【チーム:○○○○○(この集団の名前を書いてください)】
【共通思考】
 基本 ○○○(この集団が共有している最大の目的を書いてください)
 1.○○(この集団に共有している思考を、優先順で書いてください)
 2.○○
 3.○○
【備考】
 ○○○(この集団が把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いてください)

5リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:44:47 ID:lCNO3scI0
【参加者名簿】

【主催者】
○プレシア・テスタロッサ

【魔法少女リリカルなのはStrikerS】4/10
○高町なのは(StS) ●シャマル ●ザフィーラ ○スバル・ナカジマ ●キャロ・ル・ルシエ ●ルーテシア・アルピーノ ○ヴィヴィオ ○クアットロ ●チンク ●ディエチ
【魔法少女リリカルなのはA's】1/4
●高町なのは(A's) ●フェイト・T・ハラオウン(A's) ●シグナム ○ヴィータ

【リリカル遊戯王GX】0/5
●ティアナ・ランスター ●遊城十代 ●早乙女レイ ●万丈目準 ●天上院明日香
【NANOSING】1/4
○アーカード ●アレクサンド・アンデルセン ●インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング ●シェルビー・M・ペンウッド
【コードギアス 反目のスバル】0/4
●ルルーシュ・ランペルージ ●C.C. ●カレン・シュタットフェルト ●シャーリー・フェネット
【魔法少女リリカルなのは マスカレード】4/4
○天道総司 ○相川始 ○キング ○金居
【仮面ライダーリリカル龍騎】0/3
●八神はやて(A's) ●浅倉威 ●神崎優衣
【デジモン・ザ・リリカルS&F】0/3
●エリオ・モンディアル ●アグモン ●ギルモン
【リリカルTRIGUNA's】1/3
●クロノ・ハラオウン ○ヴァッシュ・ザ・スタンピード ●ミリオンズ・ナイブズ
【なの☆すた nanoha☆stars】2/3
○泉こなた ○柊かがみ ●柊つかさ
【なのは×終わクロ】0/2
●新庄・運切 ●ブレンヒルト・シルト
【リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】1/2
●セフィロス ○アンジール・ヒューレー
【魔法妖怪リリカル殺生丸】0/2
●ギンガ・ナカジマ ●殺生丸
【L change the world after story】1/2
○ユーノ・スクライア ●L
【ARMSクロス『シルバー』】1/2
○アレックス ●キース・レッド
【仮面ライダーカブト】0/2
●フェイト・T・ハラオウン(StS) ●矢車想
【ゲッターロボ昴】0/1
●武蔵坊弁慶
【魔法少女リリカルなのは 闇の王女】0/1
●ゼスト・グランガイツ
【小話メドレー】1/1
○エネル
【ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】1/1
○ヒビノ・ミライ
【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】1/1
○八神はやて(StS)

現在:19/60

6 ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:45:41 ID:lCNO3scI0
立て直したほうがいいという意見が多かったので立てました

では投下します

7Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:47:26 ID:lCNO3scI0

創造の後には破壊があり、破壊の後には創造がある。
つまり創造は破壊から生まれるのだ。
だから一面瓦礫の山と化したこのE-5のエリアから新たな芽が息吹くのは当然の流れかもしれない。

そう静かで暗い芽が――。


     ▼     ▼     ▼

8Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:47:57 ID:lCNO3scI0


俺は負けたのか?
今まで『欠陥品』や『初期不良品』と歯牙にもかけてこなかった奴に。
同じ遺伝子プールから生まれた存在ではあるが、唯一アリスの意思を宿していない奴に。

俺は負けたのか?

いや、正確には『負けていた』が正しいか。

本来なら身体を刃で地面に刺し貫かれた時点で俺は死んでいる。
あの時レッドが“グリフォン”を発動させれば超振動でARMSの心臓たるコアは破壊されていたのかもしれない。
だがそうはならなかった。
おそらく制限によって“グリフォン”の威力がコアまで届かない可能性を危惧したんだろう。
だからこそ確実に止めが刺せるように左手に持ったベガルタを捨てて、己の刃を振り翳したのだ。

あるいは自らの手で直接最期となる感触を得たかったのかもしれない。

もう死んでしまった今となっては確かめる術はないが。

確かにあの時のキース・レッドの判断に誤りはなかった。
だがそれはこの特殊な場所だからであって、ここ以外なら死んでいたのは俺の方だ。
今も俺が生きているのは単に運が良かっただけ。

だがそんな考えは慰めでしかない。
俺はあいつに負けたんだ。
そして次はもうありえない。
あいつは俺が殺したのだから。
そうだ。
勝負に負けた俺が勝負に勝ったあいつを殺したんだ。
その事実はもうどんな事をしても拭い去る事はできない。


ああ、それにしてもここは静かだ……。


     ▼     ▼     ▼

9Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:49:00 ID:lCNO3scI0


瓦礫の山。
八神はやては目が覚めるとそこにいた。
不思議な事になぜ自分がここにいるのか記憶がない。
自分がどこにいるのか把握しようにも辺り一面360°全て瓦礫ばかり。
これでは自分がどこにいるのか分かるはずがない。
しかしそんな状況に置かれているのになんとなく受け入れている自分がいた。

「ん?」

ふと右手で何かをつかんでいる感触があった。
今まで気が付いていなかったのは不思議だが、はやては別に何とも思わなかった。
それはここがどこだかおぼろげながら理解しつつあるという事もあった
だがなにより右手にあったものが些細な疑問を全て吹き飛ばしたからだ。

「ああ、そうか……ついに、ついに、取り戻せたんや。みんなを……」

いつのまにかはやての周りには5つの人影があった。

「主はやて……」

剣の騎士、烈火の将シグナムが。

「はやて……」

鉄槌の騎士、紅の鉄騎ヴィータが。

「はやてちゃん……」

湖の騎士、風の癒し手シャマルが。

「主はやて……」

盾の守護獣、蒼き狼ザフィーラが。

そして――。

「主はやて……」

幸運の追い風、祝福のエール――リインフォースが。

「みんな……」

はやてが取り戻したいと強く願い続けてきた家族がそこにいた。

「はやてちゃん……」

そしてはやての隣には新しい家族リインフォースⅡの姿もあった。

「ああ、これでもうみんな一緒やね……みんな、みんな一緒や!
 シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――リインフォース、もちろんちっこいリインも!」

10Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:49:33 ID:lCNO3scI0

それははやてが望んでいた光景だった。
誰一人欠ける事なくみんな一緒にここにいるという願い。
それが今この瞬間目の前で実現している。
それは本当ならこの上もないほど嬉しい出来事――のはずだった。

「でもな……」

だがはやての心には嬉しさ以上の感情が渦巻いていた。

「なんで……」

それは温かいものではなく、もっと暗いもの。

「なんでみんなそんな目で私を見るんや?」

はやては自分に向けられた視線の意味を悟って愕然としていた。
すぐにこれは嘘だと自分が置かれた状況を否定しようとした。
だがそれは決して勘違いではない。

「シグナム? ヴィータ? シャマル? ザフィーラ? なあ、そんな顔やなくて、私は笑ってほしいんや……」

シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――。

「リイン! なあ、笑ってや!」

――二人のリインフォースもまたはやての笑いかける事はなかった。

「私、頑張ったのに、それなのに、なんで? なんで? そんな目で私を見るんやああああああああああ!!!!!」

はやては分からなかった。
なぜみんながそんな悲しそうな表情を浮かべているのか。
いや本当は分かっていた。
ただ認めたくなかっただけ。
その事実を認めたくないばかりにはやては泣き叫び、そして――。


『はやて! はやて! はやて!』


――静かな悪夢は終わりを迎えた。


     ▼     ▼     ▼

11Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:50:17 ID:lCNO3scI0


プレシア・テスタロッサの手によって幕を上げたバトル・ロワイアル、通称『デスゲーム』。
その会場であるアルハザードの某所に作られた特別な9km×9kmの会場の中央に位置するE-5エリア。
その位置ゆえに序盤から様々な参加者がそのエリアを訪れ、時には手を組み、時には戦い、そして今はもうすっかり廃墟と化していた。
セフィロスの『メテオ』による隕石群。
憑神刀(マハ)の持ち主によって幾度も放たれた『妖艶なる紅旋風』による竜巻。
二つのロストロギアの力を借りて天上院明日香が行使した『星を破壊する最強の光』にも匹敵する砲撃。
それ以外にも短時間でエリアに与えられたダメージは計り知れない。
これで無事であるエリアなどあるはずがない。
その跡地の中でヴィータは必死にはやてを抱え起こして名前を呼んでいた。

「はやて! はやて! はやて!」

金居からミラーワールドについての事情を聞いている最中に発生した大規模な魔力の衝突。
それによる衝撃波は辛うじて残っていた地上本部を倒壊させるほどのものだった。
幸いヴィータがいた場所までは若干距離があったのでシールドを展開する事で難を逃れる事が出来た。
そして爆発の中心に向かったところ、瓦礫の中に倒れているはやてを見つけて今に至る。

「おい、ヴィータ。あんまり大声出すなよ。まだ近くにセフィロスやアーカードがいるかもしれなないし、それに金居も――」
「うるせえ。今はそんな事よりも――」

その声を遮るかのようにデスゲーム開始から18時間が経過した事を知らせる放送が流れた。


     ▼     ▼     ▼

12Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:50:49 ID:lCNO3scI0


アーカードは静かに放送に耳を傾けていた。
今回の死者は19人。
前回の倍以上しかも前回の放送まで生き残っていた参加者の半数が死んだ事になる。
だがアーカードはあまり関心がなかった。
今のアーカードの目的はプレシア・テスタロッサの抹殺。
最終的に主インテグラのラストオーダーを果たせるなら誰が死のうと関係なかった。
それゆえに円卓会議の一員であるペンウッドが死んでいた事に別に興味はなかった。

だが例外はある。

(……セフィロス、貴様は別だ)

アーカードを後一歩まで追い詰めた化け物。
そのセフィロスもまた死んだ。
その瞬間は予想外に呆気ないものだった。
かなりのダメージを負っていたのではっきりとは分からないが、正面から撃たれて死んだらしい。
誰が殺したのか少し興味はあるが、目星は付いている。

(おそらくあの女、はやてと呼ばれていたな)

あの時点で同じエリア内で戦闘を目撃していた人物は3人。
金居とヴィータとはやて。
そのうちヴィータとは背格好が合わない上に銃殺という手段を取るとは思えない。
そうなると金居とはやての二択だが、アーカードは戦闘中の気配からはやてだと半ば確信していた。
それは殺気。
ヴィータがアーカードに対して並々ならぬ殺気に似た物を送っていたとの同様にはやてはセフィロスに対して同じものを送っていた。
むしろこっちは純粋に殺気と呼べるほどにどす黒い視線だった。
もしも予想が正しいなら生かすつもりはない。
先程の爆発で建物の崩壊に巻き込まれて傷を負ったが、問題はないだろう。

(どちらにせよ、直接会えば分かるか)

そして吸血鬼は静かに姿を現した。


     ▼     ▼     ▼

13Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:51:23 ID:lCNO3scI0


アレックスは悩んでいた。
参加者にとっては重要な放送も耳に入らないまま悩み続けていた。
これから自分は何をするべきかと。
もちろん六課の仲間と合流してデスゲームを終わらせるべきだ。
だがキース・レッドに敗北した事実はアレックスの身体をこの場に縛りつけていた。

そんな時、誰かが近付いてきた。

「おい、生きているのか?」

今のアレックスはARMSの力で再生中ではあるが、その事を知らない人から見れば死人も同然の状態だ。
だからそういう質問がされるのは半ば自然な流れだ。

「ああ……なんとかな……」

とりあえずそれだけ答えた。
正直なところ今は誰かと話す気分ではない。
それにこうして質問してくるという事は少なくとも相手は殺し合いに乗っていない。
もしも殺し合いに乗っていれば何も聞かずに殺しにくるはずだから。

「再生力が高いのか。ところで貴様は殺し合いに乗っているのか?」

ここがデスゲームの場である以上、当然とも言える質問だ。

「いや、俺は殺し合いには乗っていない」

以前なら本能のままに闘争を繰り広げていたのかもしれない。
だがアレックスは一度死んだ時にその呪縛から解き放たれている。

(そうだ、俺は決めたはずだ。運命に縛られず自らの意志で闘争を行うと! だから――)
「――それなら用はない」

真上から振り下ろされる断罪の鉄槌。
それがアレックスの目に映った最期の光景だった。


【アレックス@ARMSクロス『シルバー』  死亡確認】


     ▼     ▼     ▼

14Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:52:11 ID:lCNO3scI0


ヴィータにとって先程の放送は人数の割に衝撃は大きくなかった。
19人の死者のうちヴィータと関わりがあったのはシャマル、ゼスト、セフィロス、フェイト、ルーテシアの5人。
だがシャマルは事前にはやてからその死を聞かされていたから改めてその死を悼むに止まった。
フェイトに関しては敵対している間柄とはいえ信用できそうな人物ではあったが、そこまで深い関係でもないので上に同じ。
ゼストとルーテシアもアギトの大切な人ではあるが、直接会った事がないのでまた上に同じ。
そのアギトだが今は二人の死によるショックからかデイパックの中に籠っている。
別人の可能性があるとはいえ大切な存在を一度に失ったのだから無理もない。

だがセフィロスだけはその衝撃は大きかった。

ヴィータから見てセフィロスは別次元の強さを誇っていた。
最初ははやてを死に追いやったと思い込んで戦ったが、アギトから事情を聞くに及んで最初ほど敵視できなくなっていた。
むしろ僅かではあるが共感できるものがあった。
最後に見たのは同じく規格外の化け物であるアーカードと戦っている最中だった。
そのアーカードが生きている事から戦いに敗れて死んだのかもしれない。

(セフィロス、結局お前とは――)
「ほう、また会ったな」
「――ア、アーカード、てめえぇぇぇえええええ!!!!!」

セフィロスの最期に静かに想いを馳せていた時に聞こえてきた声。
その声をヴィータが聞き逃すはずがない。
最凶の吸血鬼アーカードの声を。

「やっぱり生きていたのかよ……」
「降りかかる火の粉は払わないといけないな」

ヴィータはすぐさま真紅のバリアジャケットを身に纏って槍を構える。
先程の戦闘の傷がまだ癒えていないのかアーカードの身体には真新しい傷がいくつも刻まれていた。
何かにうなされていたようなので治療のために核鉄をはやてに持たせているが、まだ目覚めていない。
どうせ気絶したはやてを連れて逃げ切れるとは思えないので決死の覚悟で迎え討つつもりだ。
それに今ならアーカードの傷も癒えていないので勝機の芽はあるのかもしれない。

こうして廃墟の真っ只中で静かに死闘の火蓋は切られた。

15Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:52:46 ID:lCNO3scI0


【1日目 夜】
【現在地 E-5 崩壊した市街地】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】健康、奇襲に対する危機感(大)、アーカードへの恐怖
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、セフィロスのデイパック(支給品一式)
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する。
 1.アーカードは殺す!!!
 2.はやて(StS)は様子見、当分の間は同行するが不審点があれば戦闘も辞さない。
 3.ヴィヴィオとミライを探す。
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す。
 5.グラーフアイゼンはどこにあるんだ……?
 6.そういえば金居はどこだ?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されています。
※今のところ信用できるのはミライ、なのは、ユーノのみ。
※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジールを警戒しています。
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:???
 1.旦那……ルールー……。
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。
※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です。

【アーカード@NANOSING】
【状態】疲労(中)、全身に裂傷(中)
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
 1.邪魔をするヴィータを殺した上ではやてを……。
 2.再度プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する。
 3.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない
 4.首輪解除の技能者を探してみる?
 5.アンデルセンを殺した参加者を殺す。
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※第一回放送を聞き逃しました。
※デスゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。


     ▼     ▼     ▼

16Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:53:19 ID:lCNO3scI0


(さて、どうしよっか? さすがに手負いとはいえヴィータだけでアーカードを倒せるとは思えん。
 私が加勢できたらいいんやけど、まだ回復までには時間がかかりそうやな)

はやては今の状況を努めて冷静に見ようとした。
実は少し前から意識はあったが、すぐにアーカードが来たので様子を見る事にしたのだ。
本来ならアーカードとは戦わずに逃げたい。
だが今のアーカードは万全とは言えない状態だ。
もしかしたらヴィータと組めば倒せるかもしれない。

(でもまずはヴィータに時間を稼いでもらうしかないか……)

不幸中の幸いか、明日香が魔力の源にしていたジュエルシードはその内包する力を使い切ったせいか何の反応も示さないようだ。
ジュエルシードの力も加わっていたと知った時は使うのは危険だと思ったが、これなら夜天の書も問題なく使える。
だが備えあれば憂いなし。
もし可能ならば明日香の近くに落ちている道具で使えそうなものがあれば活用したい。

はやては静かに自分が動く時を持ち続けるのだった。


【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、胸に裂傷(比較的浅め、既に止血済)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(中)、スマートブレイン社への興味
【装備】コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金
【道具】支給品一式×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、首輪(セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.様子見。
 2.手に入れた駒(ヴィータ等)は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.金居のことは警戒。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。その為なら外見だけでも守護騎士に優しくするつもりです。


     ▼     ▼     ▼

17Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:53:56 ID:lCNO3scI0


金居がアレックスを殺した理由は至極単純で簡単なものだった。
つまりこのまま生かしておけば邪魔になるからだ。
高い回復能力を持つ主催者に反抗する参加者。
しかもその戦闘能力が高いのはミラーワールド見ていたので既に知っていた。
そのような参加者を放っておけば障害になる事は確実だった。
だから満足に動けないこの千載一遇の機会を逃す手はなかった。
殺害の手口は首から胸にかけての部分にイカリクラッシャーを叩きつけて潰すというもの。
生半可な方法では再生されてしまうと考えた結果、絶対的な致死を司る首輪周辺を破壊することにした。
そして予想通りもう再生する事はなかった。

金居がアレックスを発見したのはヴィータが爆心地へ向かっている最中。
それまではミラーワールドのことを大まかに話している最中だった。
因みに話した内容はあの時点で以下の二つ。

・ミラーワールドに参加者を引きずり込んだのは浅倉威。
・確認できただけで引きずり込まれた参加者は9人(金居、キング、相川始、天道総司、柊かがみ、柊つかさ、キース・レッド、キース・レッドに似ている男、黒服の少年)

そこまで話したところであの衝撃波が襲ってきた。
まだアンデッドの姿には戻れなかったが、逆にヴィータにその姿を見せずに済んで結果オーライだった。
そのヴィータは移動中に遠目ではやての姿を確認したのか、はやてと名を呼びながら一目散に走って行った。
この時金居は無理に急いで行くつもりはなかった。
まだ近くにアーカードがいた場合、離れていた方が何かと都合がいいと考えたからだ。
それから放送があり死者の多さに驚いたが、それだけだった。
ただアーカードが死んでいないと分かって少し警戒心が増したぐらい。
アレックスを見つけたのはそんな時だった。
そして一応殺し合いに乗っているか聞いた上で邪魔になると判断して殺した。

(少し気になったのはボーナスの基準か。前の放送であんな発破をかけたぐらいだから、もしや基準はそこか?)

ボーナスとして与えられる道具が何になるか。
第二回放送から第三回放送までに殺した人数。
第三回放送までに殺した人数。
殺した参加者の力量。
果たして選ばれる基準が何に基づいているのか、それはまだ誰にも分からない。

「さて、こいつのデイパックも回収して、あとは……ん?」

それを見つけたのは偶然だった。
地面に走った亀裂。
その周囲には倒壊した地上本部のなれの果て。
つまりは地上本部の地下部分が倒壊の影響で僅かに剥き出しの状態であった。
そしてその亀裂から金居は何かを感じた。
それを確かめるべく近づくと、そこにはある模様が描かれていた。
ちなみに近くに落ちていた看板には次のような説明が書かれていた。

『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』


【1日目 夜】
【現在地:E-5 地上本部跡地】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】なし
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.なんだ、これは?
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 4.上手く状況を動かして隙を見てアーカードを殺害する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。


     ▼     ▼     ▼

18Round ZERO 〜KING SILENT ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:54:26 ID:lCNO3scI0


「あれは転移魔法陣!? なんで地下に移動を!?」

会場の様子を監視していたリニスがそれに驚いたのも無理はない。
確かに魔法陣は屋上にしかなく、その魔法陣も屋上ごと崩れたはず。
それが今は地下に移動している。
まるで元からそこにあったかのように。

元々リニスは今回から採用されたボーナスシステムを使ってどうにか参加者の助けとなる道具を送りたいと思っていた。
だが誰にも気づかれる事なく道具を仕込むのは簡単な事ではない。
案の定ボーナス用の道具が置かれた場所にも何らかの監視システムが設置されていた。
まずはそれをどうにか掻い潜る方法を考えている時に最初のボーナス適用者である金居が現れたのだ。
その際のボーナスの転送から何かヒントが得られないか注意して監視していた時、金居と同様に魔法陣の存在に気付いた。

(いったい何が……)

そしてその様子をさらに監視している人物がいる事にリニスは気付く事はなかった。


     ▼     ▼     ▼


(あの子は思いもしていないでしょうね。まさか私がこんなに早く休息を終えているなんて)

リニスを監視していたのは休息すると言って一度奥に引っ込んだはずのプレシア。
既にその顔には疲労の色はない。
それも当然だろう。
参加者の何人かには一瞬で体力や魔力を回復してくれる道具が配られている。
その配った張本人がそのような便利道具を全て参加者に渡して手元に残していない訳がない。

(でも地上本部が崩れるなんて……少し甘く見すぎていたようね。これからは一層の注意が必要ね)

さすがにキース・レッドによる内部破壊、E-5エリア全土に放たれたいくつもの砲撃。
まさか短時間で地上本部にここまで攻撃が集中するとは思わなかった。
キース・レッドが手を出すまで本格的な破壊活動がなかっただけに油断がなかったというのは嘘になる。

(それにしても、まさか万が一に備えて付与しておいた機能が役に立つなんて……そのおかげで『要』は無事……。
 ただ、調整のために禁止エリアにせざるを得なかったけど、果たして誰か気づく参加者がいるのかしら。
 ふっ、気づいたところで何もできないでしょうけどね。それよりも今は山猫と――)

そしてプレシアは別画面に映る二人を見て静かに微笑みを浮かべるのだった。

(――馬鹿ね。ここに辿りつけないとも知らずに……)

そこに映っていたのは亡き主の仇を討つために乗りこんできた『風』と『犬』の姿だった。


【全体備考】
※E-5のアレックスの死体に近くに以下の物が放置されています。
 アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))

19リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:55:22 ID:lCNO3scI0
投下終了です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

20 ◆HlLdWe.oBM:2010/03/29(月) 23:56:21 ID:lCNO3scI0
一応トリ付け忘れていたので

21リリカル名無しA's:2010/03/30(火) 01:17:25 ID:Odkea5HIO
投下乙です。
アーカードとヴィータ、普通なら勝負は見えているがこれはどうだ?
そしてアレックスは再生中をやられたか。
あと魔法陣はキーポイント?

22リリカル名無しA's:2010/03/30(火) 09:43:08 ID:qQ.e2rbI0
投下乙です。

ただ、セフィロスの技は「メテオ」ではなく「スーパーノヴァ」なのでは?

23リリカル名無しA's:2010/03/30(火) 09:51:17 ID:5pKRjkcU0
投下乙です。
アレックスはここで退場……そして道具はほぼ金居総取り(ただ、ボーナスの解釈を断定しかねているのが気に掛かるが……まぁ、金居第2回〜第3回で仕留めていないから金居だけをみたらどっちでも変わらないか……しかし、金井の推察次第では他の対主催涙目だぞ……)。
魔法陣が何故か現れていたが……禁止エリアになる事踏まえるとどちらにしろこれが最後の出番か?
で、アーカードvsヴィータ……とりあえず結果は見え見えな気もするが何で対主催同士で争うんだよと小一時間(いや、今回は展開上しゃーないけど。)
そして早々に発見された『犬』&『風』オワタ

……実は予想では、ヴィータ辺り退場とか対主催アーカード退場とかアレックスマーダー化とか、『犬』&『風』退場とかロクでもない展開ばかりが浮かんだけど別にそんな事はなかったぜ。

24リリカル名無しA's:2010/03/31(水) 22:09:21 ID:h9Tkmy1kO
投下乙です
アレックスは金居に殺されたか。順調にキルスコア稼いでるな
はやては目覚めたのはいいが、アーカード戦はどう乗り切るか
金居も助太刀して三人がかりなら勝率も上がりそうだが…

25リリカル名無しA's:2010/04/01(木) 18:16:58 ID:/WvHU/1I0
投下乙です。
はやては何とか目を覚ましたみたいだけど、今のアーカードは
はやても敵対視してるから早く行動しないと拙いという……。
ヴィータだけじゃ間違いなく勝てない、はやても魔力は空っぽ、となればやはり金居がどう出るかによる?
最後に出て来た転移魔法陣もどんな展開に繋がるのか楽しみです。

26 ◆HlLdWe.oBM:2010/04/01(木) 21:45:14 ID:LdSZpDlg0
>>22
wiki上で修正しておきます

27 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:27:04 ID:tXZnpddQ0
ヴィータ、アーカード、八神はやて(StS)、金居分を投下します

28燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:28:06 ID:tXZnpddQ0
 別に、大層な正義感があったわけじゃない。
 騎士の誇りもどぶに捨て、大切な人を救うために、その人との約束に背いた身だ。
 辻斬りまがいの行為に手を染めてるあたしらに、今更正義を説く資格なんざありゃしない。
 天下の管理局に盾突いて、はやてと同い年くらいの子供にまで牙をむいた。
 外道だ悪党だと罵られたって当然さ。

 だけど、言い訳することが許されるなら、せめて1つくらいは弁解させてほしい。
 あたしらだってこんなこと、本当はしたくなかったんだ。
 あたしらは長く戦いすぎた。もう二度と戦いたくなんてなかった。
 そして、はやてはそれを叶えてくれた。
 戦うことしかできなかったあたしらに、人並みの穏やかな暮らしを与えてくれた。
 戦うことしか知らなかったあたしらに、人並みの感情というものを教えてくれた。
 だからもし許されるなら、あのまま戦うこともなく、平凡に日々を過ごしていたかったんだ。
 リンカーコアの蒐集だって、そんな日を繋ぐためにやっていたことだ。
 はやての命を救うために、仕方なくやっていたことなんだ。
 事情も目的もない戦いなんて、誰が好き好んでするものか。

 だから、今目の前にいるこいつは許せない。
 本当なら、誰だって傷つかないのが一番なのに。
 こんなくだらない殺し合いなんかで、死んでいい命なんてない方がいいのに。
 それでも奴はその力で、大勢の人間の命を奪っていった。
 いいや、こいつだけじゃない。
 こんな狂ったゲームの中で、何人もの人間が殺し合いに乗り、何人もの人間が死んでいった。
 守りたかった命。
 救えなかった命。
 大勢の人間の血が流れて、その度に自分の無力に嫌気がさした。

 ああ、そうだ。

 もうそんな想いをするのはたくさんだ。

 だから、あたしはこいつと戦う。
 こいつだけは絶対に、あたしが今ここで殺してやる。
 どんなに実力差があろうと、そんなものは知ったこっちゃない。
 どんなに絶望的な戦いだろうと、諦める理由になんかなりゃしない。
 もうこれ以上、誰もお前に殺させやしない。

 だから。

 だから、お前はここで倒されろ。

 吸血鬼――――――アーカード!

29燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:28:59 ID:tXZnpddQ0


(さて、どうしたものか)
 白銀に輝く拳銃を手に、金居は1人思考する。
 その手に握られたハンドガンは、名をデザートイーグルという。
 つい先ほど、淡い魔力の光と共に、デイパックの中に現れたボーナス支給品だ。
 放つ弾丸は50口径。超大型の鉛玉は、拳銃というくくりにおいては、世界最強の破壊力を有している。
 一方でその巨大さと反動故に、並の人間には満足に扱えない代物とも言われていた。
 反動や重量の方は、アンデッドである彼にとっては屁でもないが、確かにこのグリップの大きさは少々握りづらいだろう。
 とはいえ破壊力は申し分ない。ギリギリではあるものの、あのアーカードにも手傷を負わせる威力はあるはずだ。
 アンデッドの正体を隠しているうちは、多少は出番も回ってくるかもしれない。
(だが、果たしてこいつは当たりか外れか?)
 改めて銃身を見据えながら、自問した。
 拳銃としては破格の威力を有するデザートイーグル。
 それでも威力ではイカリクラッシャーに劣るだろうし、利便性ではデバイスに劣るだろう。
 それらの条件を加味した上では、この武器のランクはいかほどのものなのだろうか。
 プレシアの意図を探る上では、こいつの性能はかなり微妙だ。
 強いともとれるし、弱いともとれる。
 上位ともとれるし、下位ともとれる。
 紺色の髪の娘や眼鏡の女の分が得られなかったことから、ご褒美の対象が3回放送以降のキルスコアのみということは分かった。
 しかし、支給品のレアリティが敵の力量に左右されるのか、というのは謎のままだ。
(まぁそれはそれとして……問題はむしろこっちだな)
 銃をデイパックへと収め、足元の魔法陣へと視点を落とす。
 ぼんやりと煌く円環の紋様は、落ちていた看板の説明によると、望む場所へのワープに用いるものなのだそうだ。
 光の印象が似ているあたり、先ほどデザートイーグルを転移させた技術と、同じ理屈なのだろうか。
 ワープできるとだけ書かれた説明文には、それ以外の情報はほとんどなし。
 せいぜい魔力を消費する必要がある、というものくらいで、他に制約らしいものはなかった。
 つまりはほとんどリスクを冒すことなくして、無制限な距離の移動を行うことができるというわけだ。
 普通に考えてもみれば、これはやや便利すぎる代物ではないのか。
 故にこれは記述通りのお助けアイテムではなく、逆に騙されて使えば被害を被るようなトラップではないのか。
(……それはそれで不自然、か)
 しかし、その懸念もすぐに消える。
 これまでの状況を整理すれば、そんな罠が仕掛けられるはずもないというのは明確だ。
 プレシア・テスタロッサが望むのは、殺しではなく殺し合い。
 ただ死体を築き上げたいというのならば、こんな回りくどい手を使うまでもなく、首輪を一斉に爆破すれば済むだけのこと。
 第2回目の放送では、自らそれをしたくないと口にしていた。
 ミラーワールドの戦闘では、主犯の浅倉のみを始末するに留まり、残りは全員生かして会場に戻した。
 それほどに主催者側の介入を嫌がるというのなら、この魔法陣に罠を仕掛けるような真似をしでかすはずもない。
 故にこれの有用性については、八割方信じてやってもいいだろう。
(問題とすべきは、こいつがどこまで融通の利く代物か、だ)
 それが残り二割の懸念だった。
 こいつが本物であるとして、さてではその本物の機能とやらは、一体どの程度優れているのだろうか。
 有効移動圏内は、一体この場所から何マス分か。
 マスとマスの間を移動したとして、果たしてどれほど精密に着地点を指定できるのか。
 どこかにいる特定の人物と会いたいだとか、そういう正確な座標も分からない場所には飛べるのか。
(何にせよ、実際に魔法使いを連れてこないと始まらないか)
 ひとまずはそこで思考を打ち切る。
 今は亡きアレックスのデイパックを拾い上げ、自分の持ち物へと無造作に突っ込む。
 よくよく考えてもみれば、金居は魔導師ですらないのだ。
 ああだこうだと考えたところで、発動させるための魔力がなければ、何を試すこともできない。
 であればさっさとはやてらと合流し、これを使わせてみなければ。
 かつり、かつりとアスファルトを踏み、荒れ果てた廃墟を進んでいく。
 するとそれから程なくして、自分の足音とは異なる音が、遠くの方から聞こえてきた。
 きん、きん、きん、きん。
 断続的に響いているのは、金属のぶつかり合う音だ。
「どうやら向こうも向こうで、荒事になっているらしいな」
 ぼそり、と呟くと同時に。
 金居は自らを音の方へと加速させた。

30燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:30:00 ID:tXZnpddQ0


「つらそうだな」
 忌々しいあの低い声が、己の鼓膜を震わせる。
 ぜいぜいと自身の口を突く吐息に混じって、余裕たっぷりなあの声が響いてくる。
 ぐ、と歯を食いしばって、槍を地に突き立ち上がった。
 膝をつく姿勢を取っていた身体を、得物を杖代わりにして持ち上げた。
 既に我が身はボロボロだ。
 振りかざす穂先は届かない。時たま届いたとしても、すぐに傷口が再生する。
 自己修復の速度は大幅に落ちていたようだが、それでも脅威には変わらない。
 どれだけ傷つけたとしても、一分の隙も見せやしない。
 逆に敵の切っ先は、こちらの防御を押しのけて、着実にこの身体を切り裂いていく。
 騎士甲冑はずたぼろに引き裂けた。
 致命的な直撃こそまだだが、至る所が血まみれだ。
 額から流れる血液を拭い、ヴィータの瞳がアーカードを睨む。
「それで終わりか、お嬢ちゃん(フロイライン)? 身体が殺意に追いつけないのか? 一人前なのは威勢だけか?」
「うる……せぇッ」
 精一杯の強がりを吐いた。
 実際にはもういっぱいいっぱいだ。
 全身から流れ出る真紅の雫は、根こそぎ体力を奪って地に染みていく。
 五体に刻み込まれた刀傷も、痛くて痛くてたまらない。
 体力も気力も限界ギリギリ。有り余っているものといえば、せいぜい魔力くらいだろう。
「見せてくれ。そして分からせてくれ。
 お前は私を殺せるのか。私を殺すに足る者なのか。その手に握り締められた杭は、果たして私の心臓に届くのか」
 彼我の戦力差は絶望的だ。
 分かり切ったことではあったが、その事実が急速にリアリティを増して、深く身体にのしかかってくる。
 クロノが撤退を促した時点で、まともに戦える相手ではないことは推測できた。
 セフィロスと互角に戦った時点で、自分が勝てなかったあいつ並に強いことは分かっていた。
 だが、結局それらは全て傍証に過ぎない。
 こうして直接刃を交えなければ、主観の確証にはなり得なかった。
 そして、今だからこそ分かる。
 今目の当たりにしているこの鬼の、なんと猛々しくおぞましいことか。
 人間離れの再生力の、なんと忌々しいことか。
 常識外れの怪力の、なんと凄まじいことか。
 指先が震えそうだった。膝が振動で崩れ落ちそうだった。
 戦う前から刷り込まれた恐怖が、より深く心を侵食していく。
 もう嫌だ。できることなら逃げ出したい。
 こんなにも強くおぞましき魔物とは、これ以上戦いたくなんてない。
 刃が突き刺されば確実に死ぬ。
 拳を当てられただけでも砕け散る。
 明確ににじり寄る死のビジョンが、怖くて怖くてたまらない。
「できるできないじゃねぇ――」
 ああ、それでも。
 だとしても、引き下がることなどできないのだ。
 今ここで自分が逃げ出せば、今度ははやてが犠牲になる。
 自分の知るはやてとは雰囲気の違う、正直いけ好かないタイプの人間だが、さすがに殺されるのは後味が悪い。
 そしてはやてが殺されれば、今度は金居とかいう奴が襲われるだろう。
 奴までもが殺されてしまえば、もう誰にも止められない。
 自分がこの場から逃げ出すことは、それだけの人間の死を意味するのだ。
「――やるんだよッ!!」
 だから、やってやる。
 殺ってやるとも。
 一体実力差が何だというのだ。どれだけ怖かろうと知ったことか。
 どれだけ力の差があろうが、そんなことはどうだっていい。
 殺せる殺せないの問題じゃない。
 殺さなければならないのだ。
 怒号を上げるヴィータの足が、かつんと鋭くアスファルトを蹴った。

31燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:31:38 ID:tXZnpddQ0
 跳躍と同時に、飛行魔法を発動。
 滑空するような低空飛行で、真っ向からアーカードに突っ込んでいく。
 加速、加速、なおも加速。
 並行して身体強化を発動。
 ありったけの魔力を纏い、五体の運動能力を向上させる。
 煌々と煌く槍の穂先は、武器強化の術式の賜物だ。
「悪くない返事だ」
 いい返事だ、とは言わなかった。
 にぃと笑みを浮かべる吸血鬼は、それを正解とは認めなかった。
 弾丸並の加速を見せるヴィータを前に、しかしその顔には余裕の笑顔。
 口先だけとしか見なしていない。
 それだけで殺せると思っていない。
 当然といえば当然だ。自分はまだ一方的に蹴散らされるだけで、一度も結果を出していないのだ。
「では、あとは結果を示してもらおう」
 がきんっ、と響いた鋼鉄の音。
 難もなく、無造作に。
 軽く持ち上げられたのは、常識外れな長さの長剣。
 全身全霊を込めた一撃が、そんな動作で受け止められる。
 のれんをめくるかのような動作で、あっさりと受け止めてみせたのだ。
「お前は取るに足らないただの狗か、はたまた尊厳ある人間か」
 刃の向こうの瞳が光る。
 名刀・正宗越しに向けられた視線が、爛々と真紅の瞳を放つ。
 赤は燃え盛る炎の色。
 そして滴る血の色だ。
「――ッッ!」
 瞬間、烈風がヴィータを襲った。
 痛烈な衝撃が叩きつけられる。槍の穂先を怒濤が押し返す。
 ギリギリまで身体強化を付与した身体が、まるで貧弱なやせっぽちのようだ。
 渾身の力を込めた一撃が、まるで問題にもされていない。
 視界の風景が遠ざかり、みるみるうちに距離が開いた。
 ビルの残骸もたなびく煙も、遥か彼方に置き去りになった。
「くそっ!」
 吐き捨てると同時に、急制御。
 飛行魔法のベクトル制御で、吹き飛ぶ身体にブレーキをかける。
 開始からたっぷり3秒をかけ、つんのめるようにしてようやく停止。
 つくづく恐るべきはアーカードだ。
 あんな態勢からこれほどのパワーを発揮して、こちらの攻撃を弾き返してくるとは。
「言われなくとも……やってやらぁっ!」
 だが、今更その程度では足を止めない。
 力が強いことなど、とっくの昔に分かり切っていることだ。
 こんなものはせいぜい、パワー勝負では勝てないということを、再認識した程度にすぎない。
 ならば、パワー以外で勝負するまでのこと。
 力で駄目なら、スピード勝負だ。
 再度飛行魔法を加速させる。
 ぎゅんと、再度世界が加速。
 遠ざかった景色を追い越して、置き去りにして突撃する。
 風を切る音が耳に響いた。三つ編みの髪が鬱陶しく暴れた。
 猛スピードでアーカードへと殺到。
 そしてそのまま立ち止まることなく、すれ違いざまに槍を一閃。
 ざく、と肉を斬る感触を覚えた。
 振り返る先の左腕に、赤の一文字が刻み込まれた。
 そしてその程度では止まらない。空中で我が身を反転させ、再び肉迫と同時に斬撃。
 寄らば斬る。近づけば突く。
 蜘蛛の糸を描くような高速機動で、忙しなく繰り出されるヒット・アンド・アウェイ。
 スピードを突撃力ではなく、純粋に機動力として使ったというわけだ。

32燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:33:13 ID:tXZnpddQ0
(まだだ……!)
 それでもヴィータの表情は晴れない。
 苦虫を噛み潰したような表情で、肩越しに吸血鬼の姿を睨む。
 まだ足りない。
 この程度のダメージではまだ駄目だ。
 すれ違いざまに放つ一撃など、所詮はたかが知れている。
 その僅かな傷の積み重ねで、最終的に体力を削り切れるならまだよかった。
 しかし、これではまだまだ足りないらしい。
 いくら手傷を負わせようと、斬ったそばから回復していく。
 思うようにダメージが蓄積されず、瞬く間に無傷になってしまう。
 これではまるで無駄骨だ。
 弱体化したはずの再生能力すらも、上回ることができないのか。
 槍の使いこなせぬお前に、剣を持った私が倒せると思ったか――あの漆黒と銀髪の魔人の言葉が、脳裏で絶えず反響する。
 そうだ。
 相手が悪かっただけではない。
 自分の実力も足りないのだ。
 これが使い慣れたグラーフアイゼンなら、もっとましなダメージを与えられたはずだった。
 だが結果はこの有様だ。
 拙い槍の制御では、思うように力がこもらない。
 力の込め方が分からないから、中途半端な威力しか発揮できない。
 その結果がこのジリ貧だ。
 槍一つ使いこなせない未熟が、この無様な有様を生みだしたのだ。
(それでも――やるしかねぇんだよっ!)
 だからといって、止まれない。
 前言を撤回して逃げることは許されない。
 豪快に振りかぶった切っ先で、横薙ぎに叩っ斬ろうと突撃をかける。
 これまで以上に速度を上げた。
 これまで以上に力をこめた。
 ほとんどやけくその一撃だ。それでも、通らないことはないはずだ。
 フルスピードとフルパワーの特攻を、敵の視界の範囲外から叩き込むのだ。
 単純な速度はこちらが勝っている。ならばこの一撃、そう易々と反応できるはずが――
「がッ……は」
 瞬間、目の前に閃光が走った。
 電流を浴びせられたかのように、五臓六腑が硬直する。
 雷撃に照らされたかのように、視界が激しくスパークする。
 呼吸困難に陥った身体が、浮遊感と共に投げ出された。
 意識は霞がかかったように焦点を失い、ただただ強烈な苦痛の中、ゆっくりと過ぎていく風景を彷徨う。
 どすん、と背中に衝撃を感じた時。
 その時背中を打ったのだと理解し。
 かは、と息を吐き出した時。
 自分は反撃を食らって吹っ飛ばされたのだと、ようやく理解することができた。
 起伏の乏しい胸元が、絶えず激痛を訴え続ける。
 吐き気を伴う独特な感触だ。肋骨がへし折れたサインに他ならなかった。
 びくびくと痙攣する身体を懸命に起こし、足に力が入り切らず、俯いたような姿勢になる。
 攻撃を受けた。
 峰打ちとはいえ、正確なタイミングで直撃を食らった。
 よけられない角度と速度を伴い、反撃しきれない威力を乗せたはずだった。
 いいや、その認識こそが誤りだったのだ。
 そもそも思い返してみれば、奴はあのセフィロスの速度に、完璧に追いついていたではないか。

33燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:34:22 ID:tXZnpddQ0
「さぁ、どうした? まだ肋骨が折れただけだぞ」
 あの声がまた響いている。
 忌々しい声が鳴り響いている。
 かすみきった視界にも、確かに奴の存在を感じられる。
 あの恐ろしくもおぞましき、赤き装束を纏いし鬼の姿を。
 爛々と瞳を煌かせ、血塗られた長刀を携えた、吸血鬼アーカードのその姿を。
「それともやはりそこまでか? その程度の器でしかなかったということか?」
 つくづく反則的な男だ。
 不死身で無敵で不敗で最強で、嫌になるほど馬鹿馬鹿しい。
 目を向けられただけで威圧される。
 幾千万もの剣の雨を、真っ向から浴びせられたような錯覚に、心が砕けそうになる。
 気配だけでそれなのだ。現実の実力は言うまでもない。
 その手は百万の鉄槌を砕くだろう。
 その足は百万の剣閃を折るだろう。
 その身は百万の銃弾を受けても、なおも笑って佇んでいることだろう。
 何もかもが規格外の男。
 誰よりも強く、誰よりも高く、その上殺しても死なない男。
 単純に力が強いということが、これほどまでの恐怖を生むのか。
 砲撃も撃てず、音速でも走れず、空も飛べないはずの男が、これほどまでに恐ろしく映るとは。
 パワーでも駄目、スピードでも駄目。
 いかな小細工を弄したとしても、全てがことごとく叩き潰される。
 できることはこちらの方が圧倒的に多いのに、その全てを駆使しても、何一つ奴には届かない。
 これではっきりと分かってしまった。
 はっきりと理解してしまった。
 この存在には勝てないと。
 もはやこれ以上どれほどの手を尽くしても、自分にはこの男を殺す術がない、と。
「……アギト」
 背後のデイパックへと、声を飛ばした。
 その中に引きこもっている、古代ベルカの剣精へと、蚊の鳴くような声を発した。
 この存在にはかなわない。
 パワーもスピードもテクニックも、その全てが通じない。
 ならば、どうする。
 どうやって奴を倒せばいい。
 自分にはどう足掻いてもかなわない相手を、それでもなお殺すにはどうすればいい。
「ユニゾンだ……力を、貸してくれ……」
 簡単なことだ。
 自分1人でかなわないのなら、1人で戦わなければいいのだ。
 こいつを倒せるというのなら、どんな手だって使ってやる。
 何にだってすがってやるし、誰にだって頭を下げてやる。
 もはや躊躇している暇などなかった。
 故にヴィータは迷うことなく、背中の融合騎へと助力を請うた。
 彼女は自分のパートナーではない。ゼスト・グランガイツという、確固たるロードを持った融合騎だ。
 そう簡単に心を許してくれるなどとは、毛頭思ってなどいなかった。
 故にこれまでは、あえてその話題を切り出さず、可能な限り1人で戦おうとしていた。
 だが、今はそんなことを言っていられる場合ではない。
 このまま戦い続けていては、自分は間違いなく死ぬだろう。
 それも何一つ為すこともできず、アーカードを野放しにしたままに、だ。

34燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:35:41 ID:tXZnpddQ0
「……無理だよ……あたしは、戦えない……」
 たっぷり待つこと5秒間。
 返ってきたのは、そんな言葉だ。
 これがあのアギトの声か。
 烈火の二つ名が指すように、気が強く堂々としていた、あの剣精の声だというのか。
 あまりに弱く、あまりに細い。
 強気な目をしていた彼女の声が、今では風前の灯火のようだ。
 一瞬我が耳を疑ったが、それも無理からぬことだと、一瞬後には理解していた。
 彼女は数時間前の自分と同じだ。
 子供のはやてが殺された時と同じように、ルーテシアとゼストという、何物にも代えがたい身内を喪ったのだ。
 その気持ちは十分に理解できる。
 はやてのみならず、ヴォルケンリッターの全員を喪った自分にも、痛いほどに理解できる。
「今のあたしが出たって……足手まといくらいにしか――」
「――急げッ!!」
 それでも。
 だとしても。
 そうだと分かっていながらも、しかしヴィータは吼えていた。
 微かに息を呑む音が聞こえる。アギトが面食らったのだろう。
 それも無理からぬほどの、骨折患者のそれとは思えぬ雄叫びだ。
「時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!」
 確かに、お前の事情は分かっている。
 だがそれすらも、今では気にしている時間が惜しい。
 正直済まないとは思うが、それでもお前の都合を聞いているわけにはいかないんだ。
 悪いが今ここにいる以上は、腹をくくってついて来てもらう。
 この場を打開できるかもしれない力があるなら、何と言おうと戦ってもらう。
「こいつはどうしても殺さなくちゃいけないんだ……でなきゃみんな、殺されちまう……みんなみんな、守れねぇんだ……」
 思い出すのは、いくつもの顔。
 この殺し合いの中で出会った顔に、殺し合い以前から知っていた顔。
 中には敵だっている。どうしても分かり合えない奴だっている。
 それでも皆、こんなところで死んでいい命ではないのだ。
 こんな化け物みたいな男なんかに、無惨に蹴散らされていい命ではないのだ。
「こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!」
 命を落とすことは怖くない。
 今更それ自体を怖れはしない。
 それでも、自分が命を落とす時は、同時にアーカードもまた死ぬ時だ。
 そうでなければならないのだ。
 あの吸血鬼なんかよりも、奴を残して死ぬことの方が、何十倍も恐ろしいのだ。
 だから自分は命懸けで戦う。
 奴を葬り去れるというのなら、この命を賭けても構わない。
 そうすれば残された人々を守れるというのなら、命なんて惜しくはない。
 それでも今は、悲しいくらいに力が足りない。
 この命の全てを燃やし尽くしても、奴の命には届かない。
 今以上の力がいる。
 限界を超えた力がいる。
 故に。
 だからこそ。
「だからあたしに力を貸せ――アギトッ!!!」

35燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:36:37 ID:tXZnpddQ0


 最初は聞き流すつもりだった。
 途中から戦いが起きていたのには気づいていたが、それでも無視を決め込むつもりだった。
 自分にどうしろというのだ。
 自分に何ができるというのだ。
 もう、何もかもがどうでもいい。
 いつしか仲間意識を抱いていたヴィータの窮地も、この胸を打つには至らない。
 今更戦う意味など見出せなかったし、そうまでして生きる意味すらも見つからなかった。
 何せ自分は亡くしたのだ。
 あの2人を喪ってしまったのだ。
 ずっと共に連れ添ってきた、ゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノ。
 生まれてきた時のことは覚えていないし、自分を作ったマイスターの顔も知らない。
 ただ静かに長き時を眠り続け、気付けばどこぞの施設で実験動物
 いつかは心と身体が壊れて、何一つ生まれた意味を残せぬままに、終わってしまうのだとばかり思っていた苦痛の日々。
 そんな境遇を終わらせてくれたのが、あの2人組の旅人だった。
 故に孤独な自分にとっては、2人は絶対的な恩人であって、無二の家族でもあった。
 そんな肉親を喪ったのだ。
 別世界の別人の可能性はもちろんある。だが、そうでない可能性ももちろんある。
 であれば自分が生きる意味など、一体この地上のどこにある。
 無理に生き残る理由も、そのためにヴィータに力を貸す義理も、どこにも見当たりはしなかった。

 ――急げッ!!

 その、はずだった。
 その言葉を、聞くまでは。

 ――時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!

 頭から冷水をぶっかけられたような心地だった。
 こいつはなんと強い意志で、あの怪物に立ち向かっているのだ。
 自分と同じように、全ての家族を喪ってなお、こいつはまだ戦うというのか。
 なんと力強い闘志か。
 なんと逞しい決意か。
 身体がボロボロになってなお、その身に燃える灼熱の意志には、一切の陰りも見受けられない。
 何故そうまでして戦えるのだ。
 家族ですらない他人のために、何故そこまで戦おうと思えるのだ。
 そんな姿を見せられていては。
 そんな声を聞かされていては。

 ――こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!

 あの男を思い出してしまうではないか。

36燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:38:08 ID:tXZnpddQ0
 ゼスト。
 ゼスト・グランガイツ。
 こうありたいと心から思える、誇り高きベルカの騎士。
 あの日自分を救い出してくれた、ヴィータの槍の本来の持ち主。
 強く気高く雄々しかった、父にも等しき最愛の男だ。
 存命の頃のゼストもまた、己の意志と誇りに従い、真っすぐに戦い続けていた。
 傷つきボロボロになりながらも、ルーテシアの望みを叶えるために、ひたすらに槍を振るっていた。
 結果犯罪者であるスカリエッティに加担こそしたものの、その心の有りようは、正しく騎士の持つべきそれだった。
 ゼストがこの場に生きていたなら、一体どう立ち回ったか。
 恐らくは目の前のヴィータ同様、あの魔物と戦っていたのではないのだろうか。
 たとえ己が滅びようと、その胸の正義を貫くために、命を賭して戦っていたはずだ。
 ならば、自分には何ができる。
 ゼストを愛した自分には、一体彼のために何ができる。
「……分かったよ……」
 見極めろ。
 ゼストの願いとは何だ。
 ゼストの想いとは何だ。
 正しく生きてきたゼストならば、自分にもそれを求めるはずだ。
 真っすぐに己の生き様を貫き、生き続けてほしいと思うはずだ。
 その想いに従うことで、初めて報われるのではないのか。
 その願いを叶えることで、ゼストは救われるのではないのか。
 生きるために、戦うこと。
 この狂った殺し合いを打開するべく、正義を信じて立ち向かうこと。
 そのために戦い続けてこそ、初めてゼストは報われる。
 自分を救ったのは間違いではなかったと、初めて認めることができる。
「それを旦那が望むのなら、あたしも一緒に戦ってやる……!」
 腰の翼を羽ばたかせた。
 緩んだデイパックの口から、勢いよく我が身を飛び出させた。
 月の光をその身に浴びる。
 闇夜の月明をその身に受ける。
 あの日と同じ月の明かりを、五体全てで受け止める。
「ユニゾンするぞ、ヴィータッ!!」
 戦うんだ。
 ゼストの名に恥じないように。
 ゼストの恩に報いるために。
 自分はゼストの娘であったと、胸を張って生きるために――――!

37燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:38:44 ID:tXZnpddQ0


 ユニゾン・イン。
 それが魔法の言霊だ。
 共に紡いだその言葉が、剣精を光の粒子へと変える。
 眩い桜色の魔力光が、この身体へと溶け込んでいく。
 精神のリンクを感じた。
 感覚の一体化を感じた。
 燃え盛る炎の熱と共に、騎士と融合騎の肉体が、光の速さで同調していく。
 これがユニゾンというものか。
 この胸に感じる温かな炎が、身も心も重ね合わせるということか。
 同時に漲るのは力。
 血液を沸騰させんばかりに、全身からにじみ出る熱い力。
 熱気に当てられた大気中の水分が、真っ赤な湯気となって立ち上った。
 ほとばしる体温が炎を成し、火花を散らして五体を包んだ。
 燃え上がる真紅の光に包まれて、ヴィータの姿が変わっていく。
 灼熱の凱火に包まれて、2人が1つになっていく。

 ――私は、今のままでも十分幸せや。

 守りたい、命があった。

 ――我ら、夜天の主の下に集いし騎士。
 ――主ある限り、我らの魂尽きることなし。
 ――この身に命ある限り、我らは御身の下にあり。

 共に戦った、仲間がいた。

 ――お話を聞かせて!

 不思議な少女と、戦場で出会った。

 ――だけどそれが、僕の今の意思だから。
 ――死なせてしまったアグモン君やクロノ君の分まで、僕達が戦うんだ。

 共に戦えたかもしれない、人々に出会った。

 ――ヴィヴィ……ちゃ……を……お願…………―――

 救うと約束した、命があった。

 ――お前が、俺のはやてを殺したんだ。

 救えなかった、命があった。

38燃える紅 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:40:07 ID:tXZnpddQ0
 
 まるで走馬灯のように、出会った顔が浮かび上がってくる。
 今この時を生きている、救わなければいけない者達。
 自分の力が足りなくて、散っていってしまった者達。
 自らの内より湧き上がる炎と共に、瞳に浮かんでくるいくつもの顔。
 全て、守りたかった命だ。
 守るべき者達であり、守れなかった者達だ。

 はやてのために戦ってきた。
 目的すらなかった人生を終えて、ただはやてを守るために、戦う力を振るってきたつもりだった。
 されど周りを見渡してみれば、こんなにもたくさんの顔がある。
 少なからず信じた者達の記憶が、こんなにもたくさん浮かんでくる。
 人間、変われば変わるものだ。
 はやてを救うためとはいえ、人々を脅かしたというのに。
 闇の書に支配されていたとはいえ、大勢の命を奪ったというのに。
 いつの間にか、守りたい人達でいっぱいだ。

 別に、大層な正義感があったわけじゃない。
 血と罪に染まったこの身には、正義の味方を名乗る資格はない。
 だから、これはただのわがままだ。
 人間なら誰しもが持っている、ほんのささやかで取るに足らない、子供じみたわがままだ。
 そしてそれでも構わない。
 ただのわがままでも構いはしない。
 自分1人の勝手な願いで、誰かの命が守れるのなら、いくらでも貫き通してやる。
 せめてこの最期の戦いくらい、いいカッコができるというのなら、わがままだって構うものか。

「でりゃあッ!」

 槍を握った右手を振り抜く。
 身に纏う炎を振り払う。
 赤き炎熱を闇に散らせ、戦士の姿を外気に晒す。
 ぱちぱちと舞う黄金の火花は、さながら月下の桜吹雪。
 陽炎に揺らぐ熱気を切り裂き、銀月の白光をその身に受けて、
 剣精と共に新生した鉄槌の騎士は、今こそ戦場に躍り出る。
 その身を覆う騎士甲冑は、一瞬前のそれとは違っていた。
 半袖の上着は姿を消し、ノースリーブのインナーが露出している。
 ゴシップロリータの鎧を彩る、漆黒のリボンと革の手袋は、眩い金色に染まっていた。
 黄金に煌く頭髪と、水色に輝く双眸は、さながら赤と青の炎。

「紅の鉄騎、ヴィータ」

 今こそ、その名を口にした。
 改めてその名を名乗り上げた。
 誇り高き守護騎士として。
 命を守る騎士として。
 輝く満月のスポットライトと、煌く炎の花弁に照らされて。

「烈火の剣精アギトと共に――――――推して参るッ!!」

39BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:41:48 ID:tXZnpddQ0
「らぁっ!」
 大地を蹴る。
 穂先を構える。
 鬱陶しいデイパックを放り捨て、アスファルトの地を疾走し、目標目がけて再び殺到。
 黒光りする鋼鉄の槍は、今や灼熱に輝く朱色の槍だ。
 大振りに構え、一閃。
 がきん、と鳴り響くは金属の音。
 互いの構える業物が、衝撃にびりびりと振動する。
「ほぅ」
 ぽつり、とアーカードが漏らす。
 ここに来てあの無敵の吸血鬼が、初めて感嘆の声を上げた。
 なるほど確かに、その気持ちは自分でも理解できる。
 自分ですらも驚いているのだ。
 身体強化も武器強化も、ユニゾン前とは桁違いだ。
 烈火の剣精のサポートの成果は、ヴィータの想像を大きく上回るものだった。
 ユニゾンデバイスとの融合とは、これほどのパワーをもたらすものなのか。
(でも、まだ十分じゃねえ)
 それですらもまだ足りない。
 まだまだ微妙に届かない。
 まともに押し合えるようになっただけでも、かなり進歩したと見ていいだろう。
 だが、所詮はそこまでだ。
 他の部位への攻撃はあくまで牽制。最重要目的は、弱点の心臓目がけての一突き。
 相手の反応速度よりも早く、防御不可能な速度が発揮できなければ、到底十分とは言えない。
《ヴィータ、一旦下がれ!》
「何!?」
《いいから早く!》
 唐突に脳内に浮かぶ声は、念話の感覚に近かった。
 急に後退を指示したアギトに従い、一旦その場から飛び退る。
 飛行魔法で加速をかけ、対象との間に十分な間合いを保つ。
《いいか? 今からあたしが動作を指示する。でもってお前があたしの動きに合わせて、奴に攻撃を叩き込むんだ》
「何だって?」
 着地と同時に提示されたのは、そんなアギトの提案だった。
 一瞬、意図を測りかねた。
 それもそうだ。
 そもそもユニゾンデバイスというものは、術者をサポートし戦闘能力を高めるために作られたもの。
 術者がデバイスに使われる、なんてふざけた話は聞いたことがなかった。
《槍の使い方が分からねぇんだろ? にわか仕込みで申し訳ねぇが、あたしが教えてやるって言ってんだよ》
 なるほど確かに、よくよく考えてもみれば、それも魅力的な提案かもしれない。
 元々アギトが得意とするのは、二つ名通り刀剣型のデバイスだ。
 しかし彼女のロードだったゼストは、今まさにヴィータが手にしている、槍型デバイスの使い手だった。
 つまりアギトの中には、少なくとも彼と戦闘を重ねた分だけ、槍術のノウハウが蓄積されているのである。
 おまけに騎士と神経レベルで一体となり、文字通り融合する融合騎だ。
 教官と身体感覚を共有し、全く同じ動作を体感している。恐らくその習得速度は、人間の比ではないだろう。

40BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:43:02 ID:tXZnpddQ0
「面白ぇ、その話乗った!」
 快諾の声と同時に、再度加速。
 全身に灼熱の魔力を駆け巡らせ、吸血鬼の懐へと飛び込んでいく。
 体内のアギトが動作を先取りし、狙う行動に最適な構えを取った。
 それに合わせ、ヴィータも動く。
 アギトと同様の手つきをして。
 アギトと同様に腰を落として。
 アギトと同様の呼吸リズムで。
 問題はない。しっかりとした手本があるなら、それくらいは再現可能だ。
 こんな小柄ななりをしているが、自分も数百年の時を戦い抜いてきた、ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士。
 必要な基礎体力と反応速度は、戦場で十分に磨き抜いてきた――!
「うぉりゃあっ!」
 その速度は一陣の熱風。
 その鋭さは熱砂の嵐か。
 アギトの足さばきを再現し、アギトの手さばきを再現し、低い姿勢から突き上げた。
 長身のアーカードの心臓目がけ、足元の高さから突きを放った。
 何度となく放ったはずの突き。
 それが構えが変わっただけで、その速さと威力の何としたこと。
 びゅんと風を切り焼き尽くして。
 目にも留らぬ刺突が殺到。
 もちろん、そう簡単に当てられるはずもない。急所に命中することなく、心臓直撃コースを回避される。
 だが、それだけでも驚嘆に値する成果だ。
 轟々と燃え盛る灼熱の槍は。
 煌々と光を放つ鋼の豪槍は。
「いい! 実にいいぞ守護騎士(ヴォルケンリッター)!」
 あの無敵の吸血鬼の左肩に、深々と突き刺さっていた。
 めらめらと炎が衣服に燃え移り、真紅のコートを焦がしていく。
 傷口から流れる血液が、炎に焙られ沸騰していく。
 肩に刺さった程度なら、一分もすれば塞がるだろう。
 だがそれでも、十分な成果だ。これまで軽くいなされていた攻撃が、初めてまともに直撃したのだ。
 正直、自分でも驚いていた。
 構えを矯正するだけで、こうもスピードを乗せやすくなるものなのか。
「さぁ、これでようやく第一歩だ。このまま終わってくれるなよ。この私の命にさえも、あるいは届くやもしれないぞ?」
「言われねぇでもッ!」
 力任せに槍を振った。
 肩の肉ごと切り裂いて、強引に穂先を引き戻した。
 ミディアムレアに焼けた筋肉が、宙に飛び散り霧散する。
 にぃ、と頬の肉を釣り上げて、狂的魔的に笑むアーカードを、鋭く真っ向から睨みつけた。
《融合適正はそう悪くない! もう少し火力を上げていくぞ!》
「でえぇぇぇりゃああぁっ!」
 アギトの声に合わせるようにして、再び第二撃を放つ。
 次なる動作は薙ぎ払い。
 提示された正しい動作は、使い慣れたグラーフアイゼンのそれとは全くの別物。
 ぎぃんと唸る正宗によって、今度の一撃は防御された。
 それでもまだまだ怯みはしない。すかさず三撃目を叩き込む。
 それで駄目なら四撃目。脇腹を裂いただけなら更に五撃目。
 ヴィータ1人では成し得なかった、流れるようなコンビネーション。
 そして疾風迅雷のスピードに、更に炎熱のパワーが付与される。
「ふんっ! だりゃあっ!」
 その手に立ち上るのは陽炎。
 その槍に燃え盛るのは灼熱。
 斬撃。突撃。突撃。
 炸裂。炸裂。炸裂。
 穂先が切っ先に激突する度、轟音と共に爆発が上がった。
 敵に攻撃が命中する度、炎が弾け火花が散った。
 ヴィータの操る無銘の槍は、今や文字通りの爆炎の槍だ。

41BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:44:23 ID:tXZnpddQ0
(おしいな。これで身体が万全だったら……)
 しかし、それですらも十分とは言えない。
 爆裂と刺突を繰り返しながら、しかしその頬には冷や汗が流れる。
 確かに敵のスピードは、攻撃速度も回復速度も、あのセフィロスと交戦した時に比べれば遅い。
 微々たる差ではあるものの、やはりエリア1つを壊滅させた激戦が、身体に響いている証拠だろう。
 それこそこちらのスタミナが万全ならば、あるいは持久戦の末に倒せたかもしれない。
 しかし、事はそう単純ではない。
 相手の体力が不十分であるように、こちらの体力も不十分なのだ。
 否、もはや満身創痍と言ってよかった。
 こちらは大量の刀傷を負わされ、ろくに治癒や再生もできず、おまけに肋骨を砕かれているのだ。
 その上ユニゾン影響下のスピードアップによって、動きがより激しくなったのもよくない。
 痛覚と出血による消耗はピークを向かえ、胸の傷は更に悪化の一途を辿っていた。
 適切な治療を受けなかった場合、最悪死んでしまうかもしれない。
 そしてその隙を逃す敵ではない。
 アーカードは完璧だ。
 自分のように、技術や慣れで実力が左右されるような、半端者では断じてはない。
 恐らく経験者ではないのだろうが、奴の剣術はあまりにも拙い。それこそセフィロスに指摘された、一瞬前の自分と同じだ。
 にもかかわらずこの男は、その大振りで無茶苦茶な動作で、シグナムにすらも匹敵する素早さを見せている。
 パワーに至っては言うに及ばない。
 もはや技量がどうこうだとか、そういう次元には存在しないのだ。
 そんな相手の攻撃を、いつまでもしのぎ切れるような、生易しい健康状態ではないのだ。
(どうする)
 今は気合で保っているだけだ。一瞬でもコンビネーションを崩そうものなら、あっという間に叩き潰される。
 そうならないうちに倒さなければ。
 だが、それができるかどうか。
 ユニゾン状態になってなお、未だこちらの力量は、相手の動きに追いつけるレベルを出ない。
 相手を完全に出し抜いて、一直線に心臓を潰すのは不可能だ。
 それができるというのなら、とっくにセフィロスの技量をも超越している。
 セオリー通りに戦うのなら、敵を傷つけ余力を奪い、自ら隙を作らせるしかない。
 しかしその隙を生みだすまで、この身体が耐えられるかどうか――?

 ――ばぁん。

「!?」
 刹那、轟音。
 ばぁん、ばぁん、と立て続けに2発。
 突如戦場に割り込んできたのは、拳銃の発砲音と思しき爆音。
 同時に、ぶしゅ、と赤が広がった。
 吸血鬼が剣を携える右の肩から、赤黒い液体の噴水が上がった。
 これにはさしもの魔物も驚いたのか。
 くわ、とその赤目を見開くと、反射の動作で背後を振り向く。
 次なる衝撃はその瞬間だ。
 ごしゃ、と鈍い音と共に、鬼の肩が砕け散った。
 鈍色の煌きを放つ右肩が、血と肉と骨とリンパ液を撒き散らす。
 赤と白と黄色がないまぜになって、なんだかよく分からない混合物となった肉片が、ぐちゃぐちゃと音を立て地に降り注ぐ。
 からからと乾いた音を立てたのは、取り落とされた正宗か。
 ずどんと轟音を立ててコンクリを砕いたのは、鋼鉄色のイカリクラッシャー。

「――鋼の軛ィッ!!」

 そして突然の不意討ちは、その二撃だけには留まらなかった。
 叫びと共に飛来するのは、天空より迫る銀色の閃光だ。
 放たれた極太の魔力の楔が、残された左手へと突き刺さる。
 その楔は殺すためのものではなく、その場に縫いつけるためのもの。
 盾の守護獣・ザフィーラの放つ、ヴォルケンリッター最高硬度を誇るバインド魔法だ。
 そしてその守護獣が逝った今、鋼の軛を放てる者は、このフィールドの中にただ1人しかいない。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」
 闇の書を片手に叫びを上げる、未来の八神はやての姿があった。

42BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:45:42 ID:tXZnpddQ0


 紅の騎士と吸血鬼の戦いに、突如割り込んだ2つの横槍。
 これらを放ったのが何者で、いかなる状況の末に放たれたのかを、今から順を追って説明しよう。

 まずは、2発の銃弾とイカリクラッシャー。
 このコンボを叩き込んだのは、激しい戦闘の音を頼りに、地上本部跡から帰還した金居だった。
(やはりアーカードか)
 彼が戦場にたどり着いたのは、ちょうどヴィータが峰打ちを食らい、肋骨を砕き折られた頃だ。
 化け物のような長剣を握った、化け物のような男を見据える。
 あの激戦を生き残ったのがアーカードであり、敗北したのはセフィロスであるということは、放送の時点で察していた。
 今更意外に思うことも、今更絶望することもない。
 問題はこれからどうやって、あの不死の魔物を抹殺するか、ということだ。
 彼我の戦力差は明白だ。
 最強の吸血鬼を前に、ヴィータはあまりにも無力だった。
 一方的に嬲られた姿は、まさに見た目通りの非力な子供。
(このまま静観を決め込むわけにもいかないか)
 断言してもよかった。
 このままではヴィータは殺される。
 ろくな抵抗もできないままに、無様に嬲り殺される。
 そうなれば自分のプランは台無しだ。
 身一つであの不死王(ノーライフ・キング)に勝てるなどという、自信過剰もいいとこな考えは抱いていない。
 そしてこの機会をヴィータの死によって逃そうものなら、万に一つも勝算はなくなる。
 自分も手助けをしなければ。
 自分に危害が及ばない程度に、なおかつあのアーカードを抹殺できるように。
「――ユニゾン・インッ!」
 彼女がアギトと融合したのは、ちょうどこの瞬間だった。
 なるほど、融合騎というだけのことがある。
 紅蓮と黄金に煌く炎へと変貌したヴィータの力は、飛躍的に向上していた。
 冗談のように拙かった槍の構えも、見る間に矯正されていく。
(後は、タイミング)
 それでも、まだ十分とはいえない。
 悲しいかな、今更パワーアップした程度で勝てるようになるほど、彼女の体力は残されていなかった。
 今でこそ騙し騙し互角に戦っているものの、あの傷の消耗はいずれ確実に響いてくる。
 手を出さなければならないというのは変わらない。
 もっとも手を出すタイミングは、かなり掴みやすくなったが。
(見極めろ)
 デイパックからデザートイーグルを引き抜く。
 まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかったと思いつつ、眼前の魔物目がけて構えを取る。
 タイミングが重要だ。
 あの反応速度と索敵能力を持ったアーカードだ。完全に不意をつかなければ、自分の殺気など容易く気取られるだろう。
 未だ自分の立場を守るためにも、アンデッドの正体は明かさないつもりだ。
 故に今ある支給品のみを駆使して、一撃で確実に成果を上げなければならない。
 狙うは吸血鬼の右肩。正宗を振るう右腕の付け根だ。
 見極めろ。
 一瞬の光明を見つけ出せ。
 この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
 なおかつヴィータを傷つけることなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。

43BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:47:01 ID:tXZnpddQ0
(――そこだ!)
 理解してからの反応は素早かった。
 グリップを、握りなおし。
 トリガーを、引く。
 ばぁん、ばぁん、と2連発。
 50口径の必殺の魔弾が、硝煙と裂空を伴い加速。
 拳銃史上最大クラスの弾丸が、吸い込まれるようにしてアーカードへと向かう。
 結果は命中。
 2発中どちらもが命中し、盛大な血飛沫を噴き上げさせた。
 仕込みは済んだ。本命はこれからだ。
 反動ですっぽ抜ける銃身はそのままに、もう片方の手の武器を振りかざす。
 膨大な重量を伴い振りかぶられるのは、銀色に煌くイカリクラッシャー。
 吸血鬼がこちらを向く前に。
 奴がまだ驚愕に硬直しているうちに。
 ぶん、と勢いよく投擲。
 スパイラル回転を描く超重量は、過たずして右肩に命中。
 あらかじめ空いていた銃創が拡張される。
 小さな穴を押し広げ、肩全体を粉砕する。
 結果はこれまた成功だ。
 胴体と右腕が別れを告げ、唯一の得物である正宗が放り出された。
 真紅の魔眼と目を合わせたのは、ちょうどその瞬間だった。
 その目に浮かぶ感情は、無。
 一瞬前まで覚えていた驚愕が、しかし自分と目を合わせた瞬間、急速に覚めていくのが分かった。
 やはり、お前はそうくるのか――と。
 いつかこうなることは分かっていた、とでも言わんばかりに。
 まるでこちらが胸に秘めていた殺意など、最初から見通していたと言わんばかりに。
(さぁ、これからどうする)
 底冷えする心を押し殺し、ギラファアンデッドは思考する。
 目と目を合わせた一瞬の刹那に、思考の糸を加速させる。
 ここまではできた。
 だが、ここまでで有効な手札を使いきってしまった。
 この隙を突いてヴィータがとどめを刺せるならいい。
 問題はそれが間に合わなかった場合だ。
 しくじった後の追撃を、一体どうやって実行するか。
 イカリクラッシャーは手元にない。相手に捕捉された以上、デザートイーグルの狙撃ではとどめは狙えない。
 あまり取りたくない手ではあったが、アンデッドの本性を解放し、双剣の接近戦で仕留めるか――?

「――鋼の軛ィッ!!」

 八神はやてが鋼の軛を放ったのは、ちょうどこの瞬間だった。

(これは、無理か……?)
 狸は狸らしく。
 管理局のちびだぬきは、管理局のちびだぬきらしく。
 戦場の脇で狸寝入りを決め込んでいた八神はやては、戦況の一部始終を俯瞰していた。
 その上での判断だ。
 アーカードはあまりに強すぎた。
 いくら使い慣れていない得物とはいえ、あのヴィータが赤子同然にあしらわれた。
 刀傷は全身に及んでいるし、恐らくは何本か骨も折れているだろう。
 実戦経験に乏しかったであろう、あの調子に乗った天上院明日香とは違う。
 自らの全性能を自覚し、理性(ロジック)をもって力を行使する暴君だ。
 腕っ節が強いだけでなく、全く隙を見せることがない。あまりに厄介すぎる相手だった。

44BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:47:50 ID:tXZnpddQ0
「――ユニゾン・インッ!」
 しかしその状況も、彼女がアギトと融合することで、わずかばかりとはいえ好転する。
 体力的には厳しいものがあったが、それでも動きは飛躍的によくなったのだ。
 一方的に嬲られていたヴィータが、何とか敵の動きについていけている。
 全くなかった相手の隙が、僅かばかりだが見えるようになってきた。
(今がチャンスや)
 夜天の魔導書のページをめくり、術式発動の準備を整える。
 付け入るなら今だ。
 相手の一瞬の隙を狙い、最高のタイミングで横合いから殴りつける――実現できるのは今しかなかった。
 使える武器を慎重に選定する。
 ヴィータに残された体力を考えれば、恐らくチャンスは一度しかない。
 その一度でアーカードの動きを止め、確実に葬り去らなければならないのだ。事は慎重を要した。
 憑神刀(マハ)の固有スキルの行使――これは駄目。
 範囲攻撃の「妖艶なる紅旋風」は、心臓の一点のみを貫くには適していない。
 面に展開して呑み込むにしても、それだけの魔力の余裕はない。何よりそれではヴィータが巻き込まれる。
 「愛の紅雷」も同様だ。射程圏内ギリギリまで砲台を接近させるうちに、恐らく気付かれて叩き落とされるだろう。
 ならば、ラグナロクやデアボリック・エミッションなど、自分が元々得意としていた広域魔法――これも駄目。
 これに至っては論外と言ってよかった。
 消耗が激しいことや、ヴィータを巻き込みかねないことは、「妖艶なる紅旋風」と共通している。
 そしてデメリットはそれだけではない。自前の広域魔法では、チャージに時間がかかりすぎる。
 その間にエネルギーを肌で感知され、目論見を見透かされる可能性が大きいのだ。
 残された手段はただ1つ――夜天の主の身に刻み込まれた、配下・ヴォルケンリッターの魔法。
 彼女らはそろって自分より器用だ。長いチャージ時間を必要とせず、手軽に発動できる魔法を多く有している。
 そして彼女らの技の中に、この状況に適した魔法が1つある。
 盾の守護獣・ザフィーラの必殺技――バインド魔法・鋼の軛だ。
(こいつで奴を足止めして、その隙にヴィータにとどめを刺させる)
 それがはやてのプランとなった。
 もとよりこんな横になった態勢では、攻撃魔法の狙いを定めるのは難しい。
 心臓のみを狙うなどという精密射撃は、リインフォースⅡとユニゾンでもしない限り不可能だ。
 故にここは精密射撃を諦め、大ざっぱな足止めに留めておく。
 放つべきはシュツルムファルケンでも、スターレンゲホイルでもなかった。
 標的を地面へと縫いつけ、行動を止めることに特化した、蒼き狼の拘束魔法だ。
(一撃で決めるんや)
 自分自身に言い聞かせた。
 タイミングを見極めろと。
 一種の隙を見逃すな、と。
 目指すは絶好の幸運のみだ。中途半端なチャンスに傾いていては、あの暴虐の魔王は止められない。
 狙うんだ。
 この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
 なおかつヴィータを巻き込むことなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。

45BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:48:39 ID:tXZnpddQ0
.
 ――ばぁん。

 銃声が鳴り響いたのは、ちょうどこの瞬間だった。
(!?)
 何が起こったのかなど理解できない。
 唐突に銃声が轟いて、唐突にアーカードが血を噴き出したのだ。それだけで理解しろというのが無理な話だ。
 だが混乱した彼女の思考は、次の瞬間にはクリアになっていた。
 続いてその血肉をぶち抜いたのが、見覚えのあるアンカーだったからだ。
(金居が戻ってきたんか!)
 螺旋を描き真紅にまみれるのは、あの優男に渡されたイカリクラッシャー。
 胡散臭い男ではあった。そう簡単に信用していい相手でないことは分かっていた。
 だが今この瞬間においては、まさに天恵と言っていい最高の援軍だ。
 鉄塊が飛んでくると同時に、驚愕と共に振り返るアーカード。
 今だ。
 今こそが絶好のタイミングだ。
 待ちぼうけるしかなかった機会が、今人の手によってこじ開けられた。
「――鋼の軛ィッ!!」
 力の名を、口にする。
 ありったけの魔力を注ぎ込み、白銀の聖杭を形成する。
 生み出せたのはたった1つ。だがこの際、それだけだって十分だ。
 狙うは未だ健在のもう片方の腕。
 潰された右腕とは反対側にぶら下がっている、左腕の方を狙う。
 杭は過たず命中した。
 銀の光は赤い袖を捕らえ、アーカードを縫いつけることに成功した。
 これで両腕が潰された。ヴィータが飛び込んだとしても、反撃を受けることはない。
 作戦成功だ。
 今こそこの好機を逃すことなく、最後の一撃を打ち込む時だ。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」

 以上が吸血鬼の両腕を潰し、騎士に千載一遇の好機をもたらした事象の顛末である。



 こくり、と声に頷き返す。
 サファイアの色に燃える瞳を、吸血鬼の方へと向け直す。
 いけ好かない八神はやての偽者野郎に、まだどんな奴なのかもよく分からないコートの男。
 それでも今この瞬間は、決して訪れないかもしれなかったチャンスを、必死でこじ開けてくれた者達だ。
 どんなに忌々しかったとしても、殺させたくなんてない命だ。
 分かるか、吸血鬼アーカード。
 触れるもの全てを拒絶し暴力を振るい、闘争と死を撒き散らす化け物よ。
 これが自分達人間の力。
 お前がひたすら渇望していた、尊厳ある人間とやらの力だ。
 同じ目的を果たすためなら、手を取り合って結束を結び、共に困難に立ち向かう力だ。
 孤高を気取り、差しのべられた手を払いのけ、目に映る全てを虐殺するだけのお前には、人間は絶対に負けはしない。
 1人1人は弱くたっていい。1人でお前に勝てなくたって構わない。
 弱い人間は弱いなりに、互いに手を繋ぎ合って、何度蹴散らされても立ち上がってやる。
 それで最後に立っているのがこちらなら、自分達人間の勝利なのだから。

46BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:49:12 ID:tXZnpddQ0
《ヴィータ、デバイスのフルドライブを使え! カートリッジ・ロードは一発だ!》
「おう! そっちこそ最大火力で頼むぞ……この一撃で、絶対に野郎をぶっ潰すんだ!!」
 叫びと共に、カートリッジを起動。
 がしゃん、とコッキング音が鳴り響く。しゅう、と排気煙が噴出する。
 鋼の豪槍の出力効率を、一気に最大レベルまでアップ。
 デバイス自体に変化はない。グラーフアイゼンのギガントのように、外見が変わるわけではない。
 それでも、その中身は本物だ。
 身体にかかる負担こそ増えたが、その分五体に漲るエネルギーは、十二分に増強された。
 ぼう、と穂先に火が灯る。
 烈火の剣精の火力の全てが、騎士の槍を紅蓮に染める。
 煌々と燃え盛る黄金の輝き。
 視界を揺らめかせる熱風と陽炎。
 まだだ、まだ足りない。
 もっとだ、もっと。
 もっと輝け。
 もっと煌け。
 もっと熱く、燃え上がれ。
 どうせ先の長くない命だ。朽ち果てる寸前まで痛めつけられた身体だ。
 この命の灯火が燃え尽きたっていい。命の燃料全てを焼き尽くしたっていい。
 再生すらも追いつかない、一撃必滅の灼熱の業火を、奴の心臓に叩き込んでやる。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
 構えを取った。
 腰を据えた。
 十二分に呼吸を整え、突撃の準備を整えた。
 全身からほとばしる灼熱の魔力が、もうもうと真紅の蒸気を立ち上らせる。
 槍の穂先に集められた炎が、爛々と燃え盛り大気を焼き焦がす。
 その姿、まさに灼熱真紅。
 その力、まさに爆熱真紅。
 紅の鉄騎の命の炎、今まさに全力全開極まれり。
「たぁッ!」
 がんっ、と勢いよく大地を蹴った。
 びゅん、と勢いよく飛び立った。
 地面スレスレの低空飛行。ほとんどホバリングの高度での高速機動。
 それは西洋の不死鳥か。
 はたまた東洋の鳳凰か。
 空気を切り裂き焼き尽くし、一陣の熱風が駆け抜ける。
 灼熱の爪を携えて、爆熱の翼を羽ばたかせ、小さき騎士が疾駆する。
 目の奥に浮かび上がるのは、既に逝ってしまった仲間の姿。
 守護騎士ヴォルケンリッターの中でも、最も高い技量を有した、4人を束ねる烈火の将。
 炎の魔剣レヴァンティンを振るい、灼熱業火の剣術を繰り出し、数多の敵を蹴散らした猛者だ。
 悪いな、シグナム。
 今となってはこの声も、あの世のお前には届かないんだろうが。
 オリジナルにゃ到底及ばない、馬鹿にしてるような技術だろうが。
 それでもせめてもの験担ぎだ。
 今はその名前だけでも、ちょっとだけあたしに貸してもらう。



「紫電――――――一閃ッ!!」


.

47BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:49:42 ID:tXZnpddQ0
 大地を滑るように駆け抜けた。
 力の名前を雄叫びに乗せた。
 それは烈火の将シグナムが、最も信頼した必殺技。
 魔力変換資質を持った騎士の、基礎にして奥義と称される戦闘技能。
 この手に握るのは槍型デバイスで、技術もにわか仕込みだが。
 その穂先を燃やす炎も、自前じゃなく他人の借り物だが。
 今はせめてその名と共に、お前の力を貸してほしい。
 そしてシグナムだけでなく、みんなの力も貸してほしい。
 救えなかった命達よ。守れなかった命達よ。
 今はこの紅の鉄騎の、たった1つのわがままを貫くために、みんなの力を貸してくれ――!
「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!!!」
 咆哮が上がる。
 崩壊が鳴る。
 びりびりと大気を揺さぶる唸りと共に、ガラスの砕かれたような音が響く。
 やはり恐るべきはアーカード。
 あるいはその軛に込められた魔力が、ほんの少しばかり足りなかったのか。
 盾の守護獣の拘束をも破壊し、たっぷり溜められた手刀の一撃が、弾丸のごとく迫ってくる。
 ずぱ、と空を裂く音が聞こえた。
 どっ、と血の散る音が聞こえた。
 みちみちと肉をぶち抜いて、ばきばきと骨をぶち砕く音を、耳ではなく肌で感じていた。
《ヴィ……ヴィータッ!》
「まだ、まだあァァァァ……ッ!」
 そうだ、まだだ。
 この程度で歩みを止めてたまるものか。
 まだ直撃を食らっただけだぞ。
 腹をぶち抜かれてすぐだぞ。
 まだほんの少しだけ命は保つ。この程度では即死に至りはしない。
 ならば、こんなものに構ってられるか。
 こんな負傷ごときで止まってられるか。
 なおも飛行魔法を加速させた。
 伝説のフェニックスの翼を羽ばたかせた。
 腹に突き刺さった吸血鬼の剛腕を、根元まで食い込ませるようにして。
 ぐちゃぐちゃと血肉を引き裂かれる不快感にも、おくびも怯むさまを見せぬまま。
「ぶゥち抜けええええぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェェェェ―――――――――ッッッ!!!」
 遂に繰り出された一撃は、吸血鬼アーカードの左胸を、寸分の狂いなく貫き通した。

48わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:50:37 ID:tXZnpddQ0
 そうか、これが死だったか。
 ごふ、と口元から血を垂らしながら、最強の吸血鬼は認識する。
 薄ぼんやりと遠ざかる意識の中で、自らの身体へと意識を向けた。

 命が遠ざかっていく。
 身体の中に抱え込んだ、やかましいほどの命の声が、次々と口を噤んでいく。
 あれはかつての十字軍。あれはインドかどこかの兵士だったか。
 今息絶えていったのは、南米のホテルを襲った兵士達。
 ああ、ちょうど今消えていったのは、トバルカイン・アルハンブラとかいった、トランプ使いの伊達男か。
 嫌になるほど味わってきた、五感の喪失感と共に。
 長らくろくに味わってこなかった、第六感や意識そのものさえも、ゆっくりと喪失していく感触。
 これが、死か。
 これが死というものだったか。
 かつてまだ人であった時、あれほどに怖れ拒絶した死。
 かつて伯爵を名乗っていた時、胸に杭を突き立てられ、擬似的に味わったかりそめの死。
 そして今、この身体に、今度こそ本当の死を感じている。
 ああ、そうか。
 こんなものが死だったのか。
 こんなにも静かで穏やかなものを、かつての私は怖れていたのか。

 諦めが人を殺す。
 人間に死を与えるものは、絶対的な力でもなければ、圧倒的な悪意でもない。
 力や悪意に立ち向かうのをやめ、諦め抵抗を捨てた時点で、ようやく人間の敗北は確定する。
 だが、裏を返せば、諦めない限りは人間は無敵だ。
 たとえみっともなく逃げおおせたとしても、たとえ恥を忍んで頭を下げたとしても。
 生き延びてまた立ち向かおうとする限り、人の可能性は無限大だ。
 化物達(フリークス)よりも遥かに弱く、遥かに短命であるからこそ。
 限りある短い生命に、生きた証を残さんと、化物以上に懸命になれるからこそ。
 人とはどこまでも愛おしく、果てしなく高潔で、何物にも代えがたい強さを持った生命たり得るのだ。

「チッ……結局、相討ちか……」

 故に誇るがいい、紅の鉄騎よ。
 小さくも雄々しき心を抱いた、誇り高き守護騎士(ヴォルケンリッター)よ。
 お前は今まさに成し得たのだ。
 人の尊厳とたくましさを、その身をもって証明したのだ。
 力及ばず朽ち果てた、真紅の竜を操りし少年ですらも。
 化物じみた力を持ちながら、しかしどこまでも人であった神父ですらも。
 人であることに耐えかねて、化物へと化生した剣士ですらも、お前の領域までは至れなかった。
 お前は今まさに私を倒した。
 このあまりにも死ににくい化物の、夢の狭間を終わらせたのだ。

49わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:51:45 ID:tXZnpddQ0
 
「アーカード……てめぇは……本当にこれで、死ぬんだよな……?」

 どうか誇ってほしい。
 自分は人間だったのだと。
 その意志で化物を打ち倒し、人間の尊厳を証明したのだと。
 それが何よりの弔いだ。
 そうであれば、お前の踏み台になったこの私も、幾分かは報われるというものだ。

「ああ」

 そう。
 もう、これでおしまいだ。
 本当に私はこれで死ぬ。
 永らく渇望していた死を、今度こそ本当に迎えることができる。
 改めて思い起こしてみれば、あまりに長すぎるものではあったが、それなりに楽しい人生だった。
 何人もの狗や人間や化物が、私を殺さんと立ち向かってきた。
 ギリギリの命のせめぎ合いが、その度に私の生涯に充足を与えてくれた。
 もちろん、心残りがないわけではない。
 主インテグラの最期の命令(ラスト・オーダー)を果たせず、中途で投げ出してしまったこと。
 アンデルセンやセフィロスの仇を見つけ出し、この手で殺すことができなかったこと。
 狂った少佐の率いる最後の大隊(Lazte Battalion)に、今度こそ引導を渡してやることができなかったこと。
 だが残念ながら、それはもはやどうしようもないことだ。
 それを叶える力も時間も、今の私には残されていない。
 ないものねだりをしたところで、できないことはできないのだ。
 私は人間に対峙された、哀れな人間なのだから。

「これで、本当に――――――」

 ふと、視線を傾け空を仰ぐ。
 ああ、今夜は満月だったのか。今更になって気がついた。
 なるほど、こんな戦場には似つかわしくない、黒く澄み渡ったいい夜空だ。
 二日も満月が続くというのに、妙な違和感を覚えはしたが、それは無粋というものだろう。
 こんなに月が明るくて、こんなに星が眩いのだ。
 本当に、いい夜だと思う。
 静かで、美しくて、いい夜だ。
 こんな夜なのだから。

「――――――さよならだ」

 まぁ――死にたくもなるさ。



【アーカード@NANOSING 死亡確認】


.

50わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:53:02 ID:tXZnpddQ0


 めらめらと燃え盛る炎が、アーカードの死体を焦がしていく。
 あの忌々しいくらいに死ににくかった化け物が、再生もへったくれもないままに、静かに灰へと変わっていく。
 ああ、本当にやったんだ。
 本当にこの手で、こいつを倒すことができたんだ。
 人間、やればできるもんなんだな。まぁ、厳密にゃあたしは人間じゃねえんだけど。

《ヴィータ! おいヴィータ、しっかりしろよっ!》

 頭の中で響くアギトの声が、今はぼんやりとしか聞こえない。
 本格的にやばいんだな、これ。
 もう、ほとんど意識が保ててねぇんだ。
 無理もねぇだろうな。いくら闇の書のプログラムっつったって、基本的には人体の再現なんだ。
 そりゃあこんだけの血を喪って、脊髄も筋肉もメタメタに潰されたら、生きてなんていられないだろうさ。

「悪ぃ、な……最後の最後で……ドジ、っちまった……」

 これは嘘だ。
 こんなのは、ドジでも何でもなかった。
 どの道死因が変わるだけだ。ここまで痛めつけられた身体だったら、そのうち衰弱死してただろうさ。
 それにアギトが気付けなかったのは、多分、初めてのユニゾンだったからなんだろう。
 ま、それはそれでよかったかもしれねぇな。余計な気遣いや負い目を、あいつにさせねぇで済んだわけだから。

《畜生……なんで、なんでこうなっちまうんだよぉ……っ!》

 なんだ、こいつ泣いてるのか。
 あたしなんかが死にそうになってるのを、悲しいって思ってくれてるのか。
 不謹慎かもしれねぇけど、なんかちょっと、嬉しいもんだな。
 もう随分長いこと生きてきたけど、誰かに泣くほど心配されたのなんて、これが初めてかもしれねぇから。
 人殺しだの辻斬りだのやってきた気味悪い兵器が、こうして誰かに人間として、死ぬのを悲しんでもらえてるんだから。

「……なぁ……はやて……」

 嬉しいついでに、もう1つだけわがままを言わせてほしい。
 声をかける相手は、あのいけ好かない偽はやてだ。

「ヴィヴィオ、って娘……なんだけどな……そいつ……助けて、やって、ほしいんだ……
 あたしが……守る、って……助けてやるって……約束……した、から……」

 本当は、あまり頼みたくなんてない。
 あいつがいい奴かどうかはまだ分からないし、何より自分の引き受けた仕事を、他人に押しつけたくなんてない。
 でも、そいつはもう無理な話だ。
 あたしはこのままここで死ぬ。
 ギルモンとの約束は、もう二度とあたしの手では果たせねぇ。
 そのままあたしの命と一緒に、ヴィヴィオを助けるって約束も消えちまうよかは、誰かが引き受けてくれた方がよっぽどいい。

51わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:55:18 ID:tXZnpddQ0
 
「……分かった。約束する」

 ともあれ、これでもう用事は全部済んだ。
 生きているうちに言っておきたいことは、これで全部言い終わった。
 あとはゆっくりと、自分が死んでいくのを待つだけだ。

 ああ……にしても、これでホントに終わりなんだな。
 闇の書の主の守護騎士として、何百年も続けてきた戦いも、これで終わっちまうんだな。
 何もかもが、必ずしも満足だったってわけじゃない。
 まだまだはやてとしたいことはたくさんあった。
 行きたい場所もたくさんあったし、食べたいものもたくさんあった。
 そうでなくても、はやての足を、この手で治してやりたかった。
 でも、ごめんな。
 あたしはここまでみたいなんだ。
 もうあたしは、はやてと一緒に生きられない。
 大好きなはやての力になることも、足を治してやることもできない。
 駄目な子だよな。ごめん、叱ってくれてもいい。
 無理に欲張っちまったから、結局こんな道しか選べなかった。
 身に余る結果を求めたから、自分を犠牲にすることしかできなかった。

 でも、はやて。
 許してくれるなら、せめて1つだけ言わせて。

 あたしは確かに、何もかも全部満足したわけじゃない。
 この世に未練はまだまだあったし、本当なら死にたくなんてなかったって思ってる。

 でもさ。

 はやてと一緒に生きてる間は、本当に楽しかったんだ。
 戦うことだけしてきたあたし達が知らなかったことを、はやてはたくさん教えてくれた。
 嬉しい時には笑うことも、笑えるくらい嬉しいことが、この世界にたくさんあることも。
 あたし達ははやてに会えたから、人間みたいに生きることができたんだ。
 あたしははやてに会えたから、人間みたいに死ぬことができたんだ。

 だから、さ。

「……ありがとな……」

 あたしはホントのホントに――――――幸せだったんだよ。



【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's 死亡確認】


.

52わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:56:09 ID:tXZnpddQ0


「使えそうなものは、この首輪だけか」
 感情の希薄なクールな声で、金居がぼそりと呟いている。
 左手に握られているものは、あの吸血鬼の背中に背負われていた、すっかり炭化したデイパック。
 ああまで焼けてしまったのだ。アグモンなる者の首輪以外は、残らず全滅してしまったらしい。
「そっちはどうだ?」
 正宗を拾い上げながら、金居がはやてへと問いかける。
 逆に彼女の左手には、ヴィータが投げ捨てたデイパックが握られていた。
「ああ……ちゃんとご褒美とやらが入っとったわ」
 緩んだ鞄の口に突っ込んだ右手が、その中に入っていたものを取り出す。
 禍々しい意匠の刻み込まれた、異様な風体の短剣だ。
 魔獣の爪のような刃が、何故か3枚重なって生えている。
 色々と探ってみると、何か仕掛けでもあったのだろうか、じゃきんと刃が広がった。
 左右に展開された刃と、上を向いたままの刃。
 三つ又の歪な切っ先のシルエットは、子供が遊ぶ風車を彷彿とさせる。
 更に中を探ってみると、これと同じものがもう1つあった。どうやら2本1対の双剣だったらしい。
「……ヴィータのことは、残念だが」
 ぴくり、と。
 金居の口にした名前に、微かに肩が強張った。
「それでも、俺達に立ち止まっている時間はない。行くぞ。お前に調べてもらいたいことがある」
 冷たく事務的に言い放つと、踵を返して歩いていく。
 かつかつと遠ざかる靴音に、はやてもまた、屈んだ姿勢から立ち上がって続いた。
 そうだ。
 ヴィータは死んだ。
 あのアーカードと刺し違えて、そのまま炎の中で死んでいった。
 最期の瞬間、彼女は自分に、ヴィヴィオを助けてほしいと言った。
 あの時は「はやてらしさ」を装うために、一応返事をしておいたが、さて、一体どうしたものだろうか。
 一方アギトはデイパックの中で、しくしくと涙を流している。
 一番近くにいたというのに、守ることができなかったのだ。確かに無念ではあるだろう。
 それでも彼女は戦いの時、確かに啖呵を切ったのだ。
 あのゼスト・グランガイツが望むのなら、自分も戦ってやる、と。
 今はまだ泣かせておけばいい。役に立ってほしい時には、必ず役立ってくれるはずだ。
(それよりも……問題はヴィータやな)
 半ば炭と化した死体へと、視線を向ける。
 確かにアーカードを倒すことはできた。しかしそれと引き換えに、得難い駒を喪ってしまったのだ。
 蓋を開けて見てみれば、大失態と言っていい結果である。
 鉄槌の騎士が死亡したということは、これで異世界のヴォルケンリッターが、残らず全滅してしまったということになる。
 あれほど便利で扱いやすい駒は、もう手に入ることはなくなってしまった。
 これから先のプランにも、あるいは大幅に支障を来たすかもしれない。

53わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:56:41 ID:tXZnpddQ0
(そう、それだけなんや)
 それだけのはずだ。
 駒を失っただけなのだ。
 戦略上困難になるだけで、さして感傷を覚えるには至らないはずだ。
 それなのに。
(何で、こないな気分になる)
 この胸に込み上げる不快感は何だ。
 この胸を締め付ける寂寥感は何だ。
 一体自分はどうしたというのだ。
 あんなもの、家族の皮を被った偽物が、勝手に戦って死んだだけではないか。
 そもそも偽りのヴォルケンリッターの死など、シャマルを切り捨てた時に経験していたではないか。
 あの時は屁でもなかったというのに、何故この期に及んで同情したがる。
 今更いい子ちゃんぶろうとするな。情に左右されて目的を見失うな。
 しっかりしろ。
 らしくないぞ、八神はやて。
 クアットロの言葉がそんなに堪えたのか。
 ヴィータの姿にそんなに胸を打たれたのか。
 感傷になんて浸ってどうする。こんなにも簡単に情けに流されてどうする。
 ぺちぺち、と頬を両手で叩きながら、視線をヴィータの亡骸から背けた。
 その姿から逃げるようにして。
 その想いを封じるようにして。
 元の毅然とした表情を作り直し、はやては金居の後に続いていった。
(そういえば、あの銃……)
 と、その時。
 不意に違和感を覚え、立ち止まる。
(あんなもん……あいつの持ち物にあったか……?)

54わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:57:13 ID:tXZnpddQ0
【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.……ヴィータ……
 2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 5.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 6.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 7.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 8.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 9.金居はどこであの拳銃(=デザートイーグル)を手に入れたのか?
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

55わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:57:46 ID:tXZnpddQ0
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 2.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 3.はやてと共に地上本部跡地へ向かい、転移魔法陣を調べる。
 4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

【全体の備考】
※E-5にアーカードとヴィータの死体と、アーカードのデイパックが放置されています。
 デイパックは焼け焦げており、中に入っていた支給品は、ボーナス支給品ごと全滅しました。
※フィールド中では、何故か2晩連続で満月が出ているようです。


【デザートイーグル@オリジナル】
金居のデイパックに転送されたボーナス支給品。
現実に存在する銃で、50口径弾を発射することができる、世界最強の威力を持った拳銃。
ただしそれ故に相当な重量とサイズを有しており、反動も大きく、使い勝手は悪い。

【虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる】
ヴィータのデイパックに転送されたボーナス支給品。
謎の少年・カイトが用いていた双剣。
普段は禍々しい鉈のような形をしているが、戦闘時には刃を展開し、風車のような三つ又の形状に変形する。

56 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:59:05 ID:tXZnpddQ0
投下終了。矛盾などありましたら、ご指摘お願いします。
今回のタイトルの元ネタは、以下の通りです。

燃える紅:「仮面ライダー響鬼」二十四之巻
BRAVE PHOENIX:「魔法少女リリカルなのはA's」挿入歌
わがまま:「とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱」収録シナリオ・「魔法少女リリカルなのは」第13話サブタイトル

……いや、最近響鬼見始めまして、紅に一目惚れしちまったもので(ぉ

57リリカル名無しA's:2010/04/10(土) 19:22:00 ID:aNwzWSzg0
投下乙です。

遂に強敵アーカード落つ!
ヴィータとアギトのユニゾン通称ヴィータ紅、そして金居とはやてのサポートでやっと倒せる程の強敵だった……ヴィータもやりきっただろう……。

ちょっと待て、確かアーカードは対主催で対主催のヴィータも退場……しまいにゃ残ったのは火種の宝庫黒はやてとステルス金居……アレ、なんか対主催涙目じゃね?(いや、どう考えてもアーカード対主催やったって火種だらけだけどさぁ)

58リリカル名無しA's:2010/04/10(土) 22:25:20 ID:VlTRsk.k0
投下乙です

正直、ここでアーカードが脱落するとは思わなかった!
だが熱い、熱かったぞヴィータ!

確かに火種満載のアーカードが生きてるのも不都合だがヴィータも退場で残ったのはこの二人かよ…

59リリカル名無しA's:2010/04/11(日) 18:09:58 ID:RdPwctXY0
投下乙です。
いやぁ熱い! とにかく熱い!
こんなに熱い展開は久しぶりじゃ無かろうか。
結果的にヴィータは死んでしまったけど、最後の最後まで格好良かった。
対するアーカードもようやく人間に殺される事が出来て、満足げ。
アーカードもヴィータも、最後の言葉は本当に良かったと思う。
そしてはやてもはやてでヴィータの死には何か思う事がある様子。
最近は少しずつはやても変わって来たかな? って気はするけどどうなんだろう。
うん、何はともあれGJでした!

60リリカル名無しA's:2010/04/11(日) 22:47:28 ID:VANQX.Ak0
投下乙です
これぞ熱血!ヴィータとアギトのシンクロとか、なんという燃え展開!
そして仲間と力を合わせて強敵アーカードを倒す!しかも相討ちとか…
ヴィータお疲れ様、旦那もこの最期は本望だろう…

と、一見燃え展開みたいだけど、一歩引いて見てみると
対主催のアーカードとヴィータが誤解が発端で戦い始めて共倒れ
しかも生き残った二人は主催と通じるステルスと、冷酷な狸
さらに協力したのも自分の都合からという腹黒模様

ホント何も考えないで読んだら普通に燃え展開なのになw

61 ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:17:00 ID:/eJ4eeQc0
ユーノ・スクライア分投下します

62Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:22:00 ID:/eJ4eeQc0





『放送は僕――オットーが担当させていただきました。』





淡々とした声による放送が終わった――
西の空を見ると赤い夕日が沈んでいくのが見える――
東の空を見ると赤い満月が昇っていくのが見える――
そして周囲を闇が空気を染めていく――
それに呼応するかの様に――





彼の心も暗い闇に沈んでいく様だった――





『マスター――』





声を発したのは『人』ではない――フェイト・T・ハラオウンのデバイス閃光の戦斧バルディッシュ――
『彼』は自身のマスターであるフェイトの死を悼んでいた――

ショックがないと言えば嘘になる――
出来れば無事に再会したかった――
だが、それは最早叶わぬ事だ――

この場にいた2人のフェイトが自分の世界及び時間軸のフェイトである保証はない――
無事に元の世界に戻る事さえ出来れば無事に再会出来る可能性は十分にある――
その可能性はブレンヒルトと出会った時から推測出来ていた事だ――



しかし――そんな推測に意味は無い――



如何なる世界、如何なる時間軸であろうとも自分のマスターである事に変わりは無いのだから――
彼女の喪失が大きな空虚を生む事に変わりはない――



彼女がこの場でどの様に行動し死に至ったのか――それを知る手段はない――
例えば、誰かを守るか助ける為に強敵と戦い散っていったのか――
親友である高町なのはを生き返らせる為に修羅の道を行き朽ち果てていったのか――
もしかすると一瞬の不注意で死に至った可能性だってある――



だが――1つだけ確かな事がある――



フェイトは死の瞬間まで誰かの為に戦っていたという事だ――



それが誰なのかはわからない――
プレシアの願いを叶える為かも知れない――
なのはやアリサ・バニングスを生き返らせる為かも知れない――
プレシア・テスタロッサの真意を確かめるとともに殺し合いを止めて多くの人を救う為かもしれない――
そして――娘を助ける為かも知れない――





バルディッシュは願う――





フェイトの最期が誰かの助けとなった事を――無為に終わる事の無い事を――

63Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:25:00 ID:/eJ4eeQc0





 ここまで思考しバルディッシュはある違和感を覚えた――





『Mr.ユーノ――?』




 先程からユーノ・スクライアは淡々と名簿と地図を眺めている――
 呼ばれた人数は19人と非常に多い、それだけではなくユーノが気に掛けていた少女達や数多くの仲間達の名前が呼ばれていた――
 だが、ユーノは呼ばれた瞬間こそ驚いていたもののその後は冷静に名簿と地図をチェックしていた――
 彼はショックを受けていないのか――いや、彼の性格を考えるならばショックを受けないわけがない――
 では、何故彼はその素振りを見せずにいるのだろうか?
 彼は何を考えているのだろうか――





 そしてその口がゆっくりと開かれる――





「バルディッシュ――確か君は僕から見て4年後の未来から連れて来られたんだよね――」
『Yes――』
「だったら――教えてくれないか――君の世界で起こった事を――」





 その声は――何処か淡々としていた――





 ここにいるユーノ・スクライアはバルディッシュのいた世界のユーノ・スクライアとは別人だ。
 但し、その差異はLの存在の有無と約4年の時間軸の違いぐらいだったが――

 ちなみに言えばその事自体はブレンヒルトと行動を共にしていた時点で把握していた。
 しかし、ユーノ自身は世界が違う事については別段気にしていなかった事もあり深く切り込んだりはしなかった――
 つまりユーノの世界から見て4年後に起こるであろう機動六課設立やJS事件に関して殆ど全て聞いていなかったのだ――

 情報が大きな武器になるのは無限書庫の司書長をしているユーノ自身がよく理解している。
 参加者の中に機動六課やJS事件の関係者が数多くいるならばその情報は得るべきなのは誰にだって理解出来る。
 仮にその情報を知っていればもっと違った推測だって出来た筈である――

 つまりここに至ってそれを知らない・知ろうとしなかった事は完全な悪手でしかない――

 そういう余力が無かった――いや、明日香との遭遇後、温泉で休息を長い間取っていたし、
 ブレンヒルトと行動を共にしていた間も休息していたのが多かった為、その時にバルディッシュから確認する事は出来たはずだ――

 何故、ユーノはその事を知ろうとしなかったのだろうか――?





「そのJS事件で僕は――なのはの――」
『Ms.なのはの?』
「――いや、何でもないよ――それにしてもあのティアナが機動六課に入っていたなんてね。そういえばなのはも彼女の事を気にしていたっけ――」
『意外ですね、Ms.チンクやMs.ルーテシアの事を知らなかった貴方がMs.ティアナの事は知っていたとは』
「ああ、話を聞いて思い出したよ――彼女、少し前に僕の世界で起こったある殺人事件で協力してくれたんだ――さてと」




 と、バルディッシュからJS事件に関する事を聞き終えたユーノは名簿を手に取り、





「バルディッシュ――今までの放送は全て覚えているね」
『Yes――』
「だったら――今から、僕は今も生き残っている参加者の名前を読み上げるから合っているか確認してくれる?
 アーカード、相川始、アレックス、アンジール・ヒューレー――」
 ユーノの口から現在も生存している参加者の名前が五十音順に次々読み上げられる――
「――ヒビノ・ミライに片方のはやて――そして僕の計19人――何処か間違っているかな?」
『――いえ、漏らしも間違いもありません。その19人で間違いありません』
「わかったよ」

64Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:26:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ――これからどうするつもりですか?』
 バルディッシュは地図を見ているユーノに問う。ユーノ自身の様子を見る限り基本的な方針は変わっていない事だけは間違いない。
 しかし、具体的な行動については全く不明瞭である。
「そうだね――実はまだ決めていない。僕が市街地に向かおうとしたのはルーテシアや明日香を止める為だったけど――」
『両名とも先の放送で呼ばれています』
「うん、残念だけど最早説得は不可能になった」
 ユーノが市街地に向かっていたのは一時期行動を共にしていたが殺し合いに乗り市街地に向かったであろう天上院明日香とルーテシア・アルピーノを説得する為である。
 しかし、先の放送で名前が呼ばれた以上、両名は死亡した事が確定した為それは不可能となった。

「だけど――実の所行動を決めかねている理由はそれだけじゃないんだ。
 僕がブレンヒルトに話した脱出の手段については覚えているね、
 でも、正直な所現状のままだと厳しいかもしれない。
 いや、当初のプランはほぼ潰れたと考えて良いと思う――」
 ユーノは眼鏡に手を当てながら口を開く――
「幾つか理由はあるよ――」

 ユーノがブレンヒルトに話した脱出のプランを簡単に振り返ろう。
 次元干渉型の結晶体であるジュエルシードの力を解放し意図的に次元震を引き起こしこのフィールドを覆う結界を破壊するというものだ。
 仮に破壊に失敗したとしてもその反応を時空管理局が捕捉する事によりデスゲームは破綻するという寸法だ。
 その一方で首輪解除の手段をLが模索するというプランだ。

「まず、当初必要だった仲間が既に死亡している事――」
 先のプランの問題点としてジュエルシードの力を制御出来るのかという問題がある。
 ユーノ自身も自分1人では難しいと考えており、補助系の魔法に長けているシャマルかザフィーラが必要だと考え合流を考えていた。
 しかし、2回目の放送でザフィーラ、先の放送でシャマルの名前が呼ばれた――彼等の力を借りる事は不可能となった。
 また、先の放送でLの死亡が伝えられている――故に、首輪解除をLに頼る事も出来なくなった。





『確かにMs.シャマル達の損失により難しくなりました――ですが、制御ならばMs.なのは達でも可能では――
 首輪の解除にしてもMr.ユーノの手元にも首輪がある以上、Mr.ユーノがそちらも進めていけば――』

「そうだね――
 実はさっき生存者を確認したのはジュエルシードの制御や首輪の解析が出来そうな人を割り出す為というのもあったんだ――
 でもね――僕が潰れたと考えている理由は他にもあるんだ――
 僕がこのプランをブレンヒルトに話した時――彼女が何て言ったか覚えているかい?」

 前述のプラン――ジュエルシードを利用する事を彼女に話した際、彼女は3つの問題を指摘していた。
 1つ――ゲームの盤台を崩しかねない物を主催者であるプレシアが支給するとは思えない問題
 2つ――ジュエルシードの解放して自分達は無事で済むのかという問題
 3つ――フィールドとは別に首輪をどうするのかという問題
 その内、一番最初の問題であるジュエルシードに関してはルーテシアに支給されている事実があった。
 故にユーノもブレンヒルトもそれ以上この問題については考えていなかったが――

「だけど――その前提が間違っていた可能性が高いんだ――」

 そもそもジュエルシードが支給されていた理由に際し、ユーノはこう考えていた。
 ジュエルシードを使えば高確率で暴走を引き起こし所持者はモンスターとなり――参加者間に戦闘を引き起こし殺し合いを促進させる――
 故に、ジュエルシードは複数支給されている可能性もあると――

 そして、その仮説が正しい事はユーノ自身が身を以て体験した――
 明日香がジュエルシードの力を使い夜天の書の力を解放したのを目の当たりにしたのだ――
 一見するとその仮説は正しいと誰もが考える――

65Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:27:00 ID:/eJ4eeQc0





『それの何処が間違っているのですか、Ms.明日香の力はMr.ユーノが身を以て体験した筈です』
「あれから今までずっと考えていたんだ、ジュエルシードの力は本当にあの程度なのかという事をね――
 そして気付いたんだ――あの程度がジュエルシードの全力じゃない事をね――」

 ユーノは語る――なのはとフェイトが出会う前、街に現れた巨大な大樹の怪物の話を――
 それはジュエルシードの力によって生み出された怪物――そしてそれを生み出したのは少年だったのだ――
 ジュエルシードは強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、一番強い力を発揮する――
 だが、生み出した少年はジュエルシードの事など何も知らない、発動させたとしてもその願いは恐らくささやかなものだっただろう――
 つまり――最初から強い願いを込めて意図的に発動させたならば、当時のなのはでは対処しきれない程の怪物になっていた可能性はあったという事だ――

 ここで明日香がジュエルシードの力を引き出した時の事を思い出して欲しい。
 明日香は既にジュエルシードがどういう物かについて大まかに説明を受けていた。
 彼女がそれを発動したのは強い衝動に押されてというのもあっただろうが、おおむね意図的と考えて良い――

『今更な話ですが彼女は何故ジュエルシードを発動したのでしょうか――?』
「それについてはある程度推測出来るよ――そう、僕が刺されてから彼女がどうしていたのかを含めてね――」

 ルーテシアがユーノを刺した時、明日香はその場所にいた――
 突然のルーテシアの凶行を目の当たりにし、一般人である明日香が恐怖を感じるのは想像に難くない――
 あの現場を見れば大抵は『ルーテシアがユーノを刺殺し、次は自分を襲う』と考えるだろう――
 故に明日香はその場から逃げ出した――

「その時にルーテシアの持っていたデイパックを持ち去った。いや、奪ったんだろうね――」
『成る程、そのデイパックの中にジュエルシードと夜天の書が入っていたと――』
「ルーテシアに持たせた筈のそれを明日香が持っていたからそれはほぼ間違いないよ」
『すみませんMr.ユーノ、あの現場を見ていた筈でしたがその事に気付けませんでした――』
「仕方ないよ、事態が事態だったからね」

 そして逃げ出した明日香はどのルートを通ったのかこそ不明だが十中八九海鳴温泉にたどり着き暫しその場所で身を休めていたのだろう。
 だが、彼女の心中にはルーテシアに対する恐怖が強く刻み込まれた可能性が高い。
 そして、次に襲われた時に対処する為にジュエルシードをと夜天の書を使おうかと考えていたのだろう――

『しかし、Mr.ユーノが襲われてから彼女との再会まで6時間あった筈――
 何故、彼女はそれまでジュエルシードを使わなかったのでしょうか?』
「それは勿論、その危険性を理解していたからだよ。それについてはしっかり説明しておいたからね――
 でも、ある2つの出来事が彼女のタガを外してしまい――衝動的に発動させてしまった――
 1つが死んだはずの僕が姿を現した事――」

 仮に目の前に死んだはずの人間が現れたらどう思うだろうか――
 子供染みた理論ではあるが、恐らく死者の国へ連れて行くと考えてもおかしくはない――
 つまり、自分を殺す為に現れたのだろうと――恐怖が刻み込まれている彼女がそれを考えてもおかしくはない――
 故に、自らの身を守る為に――

『ですが放送さえ聞けばMr.ユーノの生存は確認出来る筈では?』
「簡単な事だよ、既に明日香の中では僕の名前が呼ばれるのが確定していた――
 そして、その部分を聞き逃していたとしたら――僕の名前は呼ばれたものとして補完する筈――」
『その可能性はありますが彼女は大事な放送を聞き逃す様な人物なのでしょうか?』
「行動を共にしていたのは短い間だけど、少なくとも彼女はそんな不用意な人間じゃない。
 頭に入らなかったんだ――多分、その前後で彼女の大切な人物の名前が呼ばれたんだと思う。
 その時の放送で順番的に僕のすぐ近くになるのは遊城十代――恐らく彼の死のショックでその前後が頭に入らなかったんだ――
 同時にそれがもう1つの理由――」

 大切な仲間である十代の死亡、その直後で死亡したはずのユーノとの遭遇――
 それでなくても強い恐慌状態に陥っていた彼女に冷静な判断を求める事は不可能――
 理性や良心は完全に駆逐され、恐怖を振り払う為に触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったのだろう――
 その願いは自分を傷付ける物を全て駆逐する――その為の力を手に入れる事――

66Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:28:00 ID:/eJ4eeQc0





『成る程――それで、結局の所Ms.明日香の状態の何が問題なんですか? あの力はほぼ確実にジュエルシードによるもの――十分に実証されている筈では――』
「――本当にそう考えているのかい? もし、彼女が本当にルーテシア達を殺す為の力を欲してジュエルシードを発動させたならば――
 あの時の大樹以上の怪物が生み出されないとおかしい筈なんだ――」

 ユーノの推測が正しいならばその時の明日香の願いはあの時の少年の比では無いのは明白――
 あの時の規模は海鳴市を覆うものであった――それを踏まえるならば制限の存在を加味したとしても――

 発動したその力によってあの一帯は完全に崩壊していなければおかしい事になる――

 だが、現実として強い力とはいえ常人の手に負える範囲でしか力は発動していなかった――
 確かにB-7の中央部を崩壊させたが同じB-7にある海鳴温泉にはその力は届かず無事そのもの――
 それが意味する事は――

「恐らく支給されているジュエルシードには何かしらの細工が施されている、
 その出力は本来より大幅に抑えられていると考えて間違いないよ――」
『成る程、つまり意図的にジュエルシードを発動させたとしてもフィールドを破壊する事は無いという事ですか』
「うん、まさしくブレンヒルトが口にした通りだったんだ――プレシアが何の対策も無しにジュエルシードを支給する筈がないってね――
 僕達はそれにもっと早く気付くべきだったんだ――」
『もっと早く気付けた筈という言い方ですね――』
「そもそもジュエルシードは誰に支給されていたのか――そしてその人物の近くに誰がいたのか――」

 ジュエルシードは誰に支給されていたのか、その人物はルーテシアだ――
 同時にその近くにはジュエルシードについて熟知しているユーノがいた――夜天の書を支給された上でだ。

『偶然じゃないでしょうか?』
「さっきも聞いたけど、ルーテシアは母親を目覚めさせる為にスカリエッティに協力していたんだよね?」
『ええ、ですがJS事件は既に解――』
「僕と同じ――例えばJS事件解決前に連れて来られていたとしたら――」

 ルーテシアがJS事件前から連れて来られている場合、彼女はどのように行動するだろうか?
 恐らく母親を目覚めさせる為に行動を起こす。
 最初の放送で伝えられた優勝者への御褒美、それを聞いた瞬間どう考えるだろうか?
 優勝さえすれば母親を目覚めさせる事が出来るのではないかと考えるだろう。
 ルーテシアがユーノを刺したのは放送直後、タイミング的に合致する――

67Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:29:00 ID:/eJ4eeQc0

 つまり、遅くても最初の放送が終わった時点でルーテシアが殺し合いに乗る事は確定事項だったのだ。
 そして、ルーテシアにジュエルシードと夜天の書を使わせ参加者を皆殺しにさせる算段だった可能性が高い――

 筋書きとしてはこうだ――
 ルーテシアとユーノを何とかして出会わせ彼女の近くにジュエルシードと夜天の書があるという状況を作り出す。
 勿論、スタート地点を近くにするだけでは不完全、しかしある一計を案じる事でで高確率で出会う状況を作り出した。
 それはルーテシアのスタート地点を川の上にする事、これによりルーテシアはスタート早々川に落ちる事になる。
 その後近くにいたユーノを駆けつけさせ彼女を保護させるという流れだ。
 2人は予定通りに互いに情報交換及び支給品の確認も行う――この時、ユーノにジュエルシードと夜天の書について説明させる事も予定通り。
 そして、ルーテシアが殺し合いに乗ったタイミングで彼女にユーノを殺させ、2人分の支給品を全て総取りさせ――
 後はジュエルシードの力で夜天の書を使い全ての参加者を一網打尽にさせると――

『確かにその仮説はあり得ますが、それならば最初から彼女に夜天の書とジュエルシードの両方を支給させれば良かったのでは?』
「駄目なんだ――最初から両方を支給するぐらいに優遇したら流石に気付かれる可能性が出てくる。
 だからといって、近くに僕がいなければ夜天の書とジュエルシードの情報を得る事は出来ない。
 だからこそ、ジュエルシードをルーテシアに、夜天の書を僕に支給したと思う」
『そう簡単に上手くいくでしょうか? 実際それらはMs.明日香の手に渡ったわけですし――』

 バルディッシュの指摘はもっともである。ルーテシアが殺し合いに乗るタイミングは最初の放送の後、
 つまり、その瞬間までルーテシアが無事でいなければ策は成り立たない。
 だが、ユーノに言わせればそれは大きな問題ではない――
 仮にルーテシアが最初の放送の前に退場したとしても、その場合は高確率でユーノも退場している。
 つまり、その下手人の手に夜天の書とジュエルシードが渡る可能性が高いという事だ。下手人がその力を発動すれば何の問題もない。
 同じ理由で明日香の手に渡る事も想定済みだったのだろう。その2つのロストロギアを手にした者がその力を発動すれば良いわけだから――
 また、これらの事が想定外の事態により起こらなくても別段問題はない。何しろ、これは殺し合いを促進させる為の策の1つでしかない。
 1つ策が潰れた程度で状況が大きく変わる程、脆弱な構造にはなっていないという事だ――

「前置きが長くなったね――
 僕が言いたいのは要するに最初からルーテシアにジュエルシードと夜天の書を組み合わせて使わせるつもりだったって事――」
『そんな事をすれば、Ms.明日香の時以上の事が起こりますね』
「当然プレシアがそれに対する対策を怠るわけがない、そうさせる様し向けているから当然の事――
 そう、これはもっと早く僕がルーテシアがどういう人物かがわかっていればわかった事だったんだ――」
『しかしMr.ユーノが連れて来られたタイミングはJS事件より前――わからなくても仕方が――』
「でも、JS事件の事を知っているバルディッシュと合流したのは半日も前の事だ――
 その時にちゃんと僕が知ろうとすればもっと早く――ブレンヒルトが生きている時に自分のプランの欠陥に気付けた筈だったんだ――」



 悪いのは自分――ユーノの言動からそう言っている様に感じ取れた――

68Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:30:00 ID:zxT8wbUA0





『仮にジュエルシードや夜天の書に細工が施されていたとしても、その細工を処理すれば可能では無いでしょうか――』
「細工を処理――いや、それはそれで危険――まあいいや、確かにそうかも知れないけど――
 実はもう1つあるんだ、それでもこのプランでは難しいという理由がね――」
 そう言いながらユーノは周囲を見渡す――
『周囲に人の反応はありませんが――』
「空を見て――」
 空を見上げるとそこは雲一つ無く、日が沈んだ事もあり星が瞬いている――そして東側を見ると赤みのかかった満月が浮かび上がっている――
『この空がどうかしましたか?』
「18時間以上経ってもずっと晴れ渡り雲一つ見えない空――
 ミッドチルダでも地球でも見た事の無い星の形――
 そして、1日経過しても欠ける事のない月――
 そのどれをとっても現実的には有り得ない現象――
 それだけじゃない――
 あるラインを越えたら反対側にループする不可思議な現象――
 魔法の発動を阻害する何かの存在――
 6年前と殆ど同じだった海鳴温泉――
 更に翠屋や地上本部、機動六課隊舎といった施設の配置――
 つまり――この空間は何から何まで異常だということさ――」
『異常――確かにそれは感じていましたが――』
「それ自体は僕も最初に気付いてはいたよ――恐らくプレシアがこのデスゲームを行う為に作り出した空間と考えて良いと思う――」
 ユーノが口にするのはこの空間の異常性――
 制限やループの発生は言うに及ばず、永久に晴れ続ける空や未知の夜空に欠ける事のない月、そして自分達の知る施設の存在――
 何れも現実的には有り得ない事だ――
 これについてユーノは超巨大な結界を構築した上でその中に擬似的な戦闘フィールドを構築したのだと考えたのだ――
 なお、これ自体は最初からある程度推測出来ていた事ではある――
『その空間を破壊する為にジュエルシードを使う――という話だったのでは?』
「その前に――これだけの結界を構築するのにどれぐらいの手間と魔力が必要かわかるかい?」
『シミュレータだとしても相当な労力が必要です――もしこれが現実に行われているならば――その労力は想像を絶すると考えて良いでしょうね――』
「そう、これをプレシア1人で行うのは非現実的過ぎる。協力者自体はいるみたいだけど――」
 勿論、先の放送を担当したのがスカリエッティの戦闘機人の1人オットーという時点で何れかの平行世界のスカリエッティ達が協力している事は推測出来る――しかし、
『この規模ならば何処かの世界のスカリエッティとその仲間達が協力しても難しい――』
「それに、プレシアクラスの魔導師が何人か集まっても難しいと思う――」
『プレシアクラスの魔導師、それを何人も集めるのも至難――』
「つまり――この空間を作り出しているのはプレシア達の構築した『装置』だと思う――」
 ユーノの推測――それはこの空間を作り上げているのはプレシア及びその仲間達が用意した『装置』によるものだと考えたのだ。
 『装置』さえ上手く機能すれば後は『装置』が正常に働く様に監視を怠らなければ最小限の労力で済むという事だ――
『しかしその『装置』があるとしても大規模である事は確実――そんな『装置』を用意する事は可能なんでしょうか?』
「うん、ロストロギア級の道具を幾つか用意――いや、それ自体は恐らく僕達の知る物でも十分構築は可能だよ――」
『我々の知る物――それはもしや――』

「バルディッシュの想像通りだよ――夜天の書とジュエルシード――その2つ、もしくは準じるものがあればこの舞台を作り出す事は可能――」

69Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:31:00 ID:/eJ4eeQc0

 夜天の書は一時期数多の世界を滅ぼした『闇の書』と呼ばれる非常に危険なロストロギアであった――
 だが、その本質自体は魔導師の技術を蒐集し研究を行う為に作られた収拾蓄積型の巨大ストレージデバイスでしかない――
 『闇の書』へと変貌したのも結局の所、元々あった機能が変化したものでしかない――
 故に――夜天の書を端的に言えば最高級のストレージデバイスよりも数十段優秀なストレージデバイスと考えて良い事になる――
 ストレージデバイスはバルディッシュ等に代表されるインテリジェントデバイスと違い自らの意志を持たないデバイスだ――
 自らの意志を持たないとはいえストレージデバイスがインテリジェントデバイスより劣るという事ではない――
 勿論デバイス自体がサポートする事が無い為、魔法の発動の全てを使い手自身が決定しなければならないという弱点はある――
 反面人工知能を搭載していない事から、その分処理速度は数段速い――
 つまり――優秀な使い手ならば高速かつ確実に魔法を発動出来る――条件さえ揃えばインテリジェントデバイス使い以上と言っても良いだろう――
 勿論、人工知能を搭載しない為術者の成長による能力向上はあっても、元々の性能以上の力を引き出す事は出来ないという弱点はあるが――
 要するに――優秀なストレージデバイスの演算能力は非常に高いという事だ――

 ジュエルシードは前述の通り通り次元干渉型エネルギー結晶体である。
 暴走した場合は周囲の動植物を取り込み大惨事を引き起こす事は言うに及ばず、単体でも次元震を引き起こす程の非常に危険なロストロギアだ。
 何しろ、1個の全威力の何万分の1の力程度で小規模次元震を引き起こすのだ。そのフルパワーがどれぐらいなのかは想像を絶するものなのは理解できるだろう。
 だが、扱いこそ非常に危険ではあったがその本質は莫大なエネルギーを有する結晶体でしかない。例えて言えば米粒大で1年分のエネルギーをまかなえる夢の超物質的な物という事だ。
 つまり――ジュエルシードも暴走さえ起きなければ只の魔力タンクでしか無いという事だ――

 では、夜天の書とジュエルシードでどのようにしてフィールドを作り出すのだろうか?
 まず、フィールドを作り出す魔法の術式そのものはプレシアが予め用意したものと考えて良いだろう。
 仮にアルハザードに到達しその地の技術を手に入れたならば、必要な術式を組み上げる事はそれ程難しくはないだろう――
 問題となるのは維持と制御を行う為の手段とそれらに必要な莫大な魔力エネルギーだが――
 いかにプレシアが優秀な魔導師であっても単独でそれを賄うのは不可能ではあったし、プレシアクラスの魔導師が何十人いても難しい事に違いはないだろう。
 そう――その為に夜天の書とジュエルシードを利用したという事だ――
 夜天の書を維持と制御を行う為の装置代わりにし――
 ジュエルシードをフィールドを維持し続けるだけの魔力の供給源として――

『プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は9個、それだけあれば――』
「違うよバルディッシュ――見落としていないかい、彼女は異なる平行世界を行き来出来る事を――
 プレシアがその気になれば無数の平行世界から好きなだけジュエルシードを集める事が出来る筈――
 100個でも1000個でもね――
 勿論、これは極端な話――でもね、プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は多めに考えておいた方が良い――
 ここまで言えば何故僕の言ったプランが使えないのかわかるよね?」
『ジュエルシード1個や2個程度の魔力の総量ではエネルギーが足りない、そういう事ですね』
「そう、残念だけどこれは完全に僕の見極めが甘すぎたと言わざるを得ない――
 いや、本当はブレンヒルトに指摘された時点で気付くべきだったんだ――」

70Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:32:00 ID:/eJ4eeQc0

『そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、
 あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。』

 ――あの時ブレンヒルトはこう言っていた――だが、ユーノは実際に支給されたという事実だけでその指摘を遮った――
 そして、ルーテシアを説得しジュエルシードさえ取り戻せればそれで何とかなると考えていた――
 だが、それがそもそもの間違いだったのだ――
 支給されるはずのない物が支給される理由、それを考えなければならなかったのだ――
 そう、ジュエルシードと夜天の書だけでは不可能――その結論にもっと早く気付かなければならなかったのだ――

 勿論、ジュエルシードと夜天の書の力でフィールドが構築されているのはユーノの推測でしかない。全く別のロストロギアを使っている可能性は大いにありうる――
 だが、如何なる方法であったとしても結論そのものは変わらない――
 手段そのものはジュエルシードと夜天の書を使ったものに置き換える事が出来る――
 ジュエルシード1個や2個分のエネルギー総量では足りないという結論に変わりはないのだ――





『ですがそれだけの大規模魔術であれば管理局が察知すると思いますが?』

 確かにこのフィールドに関し、内部からの破壊は現状困難だと考えて良い。
 しかし外部からはどうなのだろうか? あれだけの大規模魔術であれば管理局がその反応を捉える可能性が出てくる。
 フィールド構築に必要な魔力が大きくなれば大きくなる程比例して察知される可能性が高くなるのは誰でも理解出来る。
 勿論、それをカムフラージュする為の結界は当然施しているだろう。
 だが、膨大な魔力を隠す為に膨大な魔力を消費する――ある意味本末転倒だ、隠すのにも限界が出てくるのは明白――
 管理局に察知される事に関する対策は考えていないのだろうか?

「察知される事も織り込み済みだとしたら?」
『どういう意味です?』
「これだけの規模を探知したとして――すぐに管理局が駆けつける事が出来ると思うかい?」

 管理局が異常を察知した場合どのように動くだろうか――
 まずはその反応を確かめ規模を確かめる――
 そしてその規模に応じて部隊を編成し鎮圧に向かう――
 だが、あれだけの膨大な力を発するロストロギアの反応場所を鎮圧する為に必要な戦力を集めるのには時間が掛かるだろう――
 勿論、火急であれば時間は短縮出来るだろう――
 しかし膨大な力の反応だけではそこまで迅速には動けない――慎重に行動する可能性が高く、実際に介入するまでには大分時間がかかるだろう――
 当然の事だが、生半可な戦力では返り討ちに遭う。戦力の無駄が出来ない以上、確実に鎮圧する為に時間を掛けてでも戦力を集める筈だ――

「察知したタイミング次第だけど――急いで鎮圧できるほどの戦力を確保出来ても――実際に介入するのは2,3日ぐらい先だと思う――」
『察知されない様にカムフラージュし、同時にその場所が介入しにくい場所にあるならば実際に踏み込むのはそれだけ遅れると――』
「つまり――結局の所、その間で全ての決着を着ければ何の問題もないんだ。
 これまで3回の放送があったけど、何れもデスゲームに貢献した参加者には御褒美の話が出ていたよね」

 前述の通り、最初の放送では優勝者への御褒美を、
 2回目の放送ではキルスコアを上げた参加者に対するボーナスの検討の話を、
 そして先の放送ではこの後キルスコアを伸ばした参加者には追加支給品を与えるという話を、
 何れにしても殺し合いを促進させるものであるのは誰の目にも理解出来るだろう――
 だが、何故ここまで殺し合いを促進させる必要があるのだろうか?
 禁止エリアのルール等だけでも十分デスゲームを行う事が出来、遅くても6日目には決着が着く。
 しかし、促進させるという事はそれだけでは遅すぎるという事を意味する――
 つまり――

71Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:33:00 ID:/eJ4eeQc0

「最初からこのデスゲームにはタイムリミットがあったんだ。
 管理局が介入してくるタイミングまでに全ての決着を着ける――
 そして、フィールドを覆う結界もその期間だけ維持出来れば十分だって事――
 その時間は管理局の動きや現状までの死亡者の数を踏まえて考え――
 約48時間――それがこのデスゲームの制限時間――」
『管理局が駆けつけるまでの時間としてはあまりにも短すぎます――それで、その制限時間を超過した場合はどうなりますか?』
「それに関してはまだわからない――フィールドを覆う結界魔法が解除される可能性は高いだろうけど――
 その内部にいる僕達が無事である保証は無い――」
『しかし、デスゲームが失敗した場合、プレシアはどうするでしょうか?』
「平行世界を渡る術を得ているのならば必要な道具だけを持って逃げれば済む話だね。
 そして条件を少しだけ変えて全く同じデスゲームを行う――
 でも、この可能性は低いと思う――」

 ユーノはプレシアが失敗した際にデスゲームをやり直す可能性は0ではないが低いと考えていた。
 確かに平行世界を行き来する術が無い限りプレシアを追う事は不可能だ。
 だが、このデスゲームを行う為に恐らくプレシアは数え切れないくらい数多くの平行世界に干渉をかけただろう――
 幾ら現状の時空管理局に平行世界を行き来する術を持っていなくてもそれだけ干渉をかければ何れは平行世界を行き来する者が現れる可能性が出てくる。
 そしてひと度その者が現れれば他の世界にもその手段が伝えられる――それにより管理局もその手段を手に入れるだろう――
 いや、今この瞬間にもその手段を得た者がプレシアを追っている可能性がある――
 今回は大丈夫であっても繰り返す内にリスクは大幅に高まるという事だ――

 故に――プレシアにとっては是が非でも今回でデスゲームを成功させに行く筈なのだ――
 プレシアがその対策を行っている可能性はある――が、仮にそうだとしてもリスクを最小限に抑える為に今回で決着を着けようとする事に変わりはないだろう――

「だから、やり直しが出来るとしてもプレシアは絶対に今回のデスゲームを成功させようと動く筈だ――
 そして、僕達にとっても今回だけがチャンスなんだ――
 プレシアは馬鹿じゃない――次行う時にリスクが大きいとわかっているならば、次は絶対に失敗しない様に今回以上に厳重な対策を施すはず――
 それこそ今度こそ止める事は不可能なぐらいにね――その為に、きっとまた多くの人を犠牲にする筈だ――
 それを止める為には――今回プレシアを止めなきゃならないんだ――僕が――





 僕が――止めなきゃならないんだ――」

72Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:39:00 ID:/eJ4eeQc0










『ところで――具体的な行動については何も決まっていないとのことですが――』
「いや、一応幾つかは考えているよ――」

 今後の行動方針は幾つか浮かんでいる。

 まず、当初の予定通り結界を破る手段の模索――前述のプランがほぼ潰れたとはいえ、諦めたわけではない。
 まだ見落としている何かがあるかも知れない、それを見つける為にも今後もジュエルシードや夜天の書等ロストロギアを集めていった方が良いだろう――

 次に首輪の解除――元々Lが行う筈だったそれをユーノが行うのだ。
 幸か不幸かユーノの手元には首輪が1つある。このまま工場かスカリエッティのアジトに向かい解析を行うのも1つの手だ――

 他に仲間達との合流もある、その為には人が集まっているであろう市街地やホテル・アグスタといった施設に向かう必要があるだろう――

「だけど、幾つか懸念があるんだ、まずはこれ」
 と、後方にある車庫を指す。残り人数が15人以下にならなければ開かない筈の車庫である。
『残り人数は19人――後4人死亡すれば開かれる筈ですね』
「そう、勿論放送を聞かない限り正確な人数は把握出来ない。でも、逆を言えば放送を聞けば人数は把握出来るという事なんだ――」
『恐らく次の放送で4人呼ばれる可能性が高い――つまり』
「次の放送直後、ここに向かう参加者が現れるという事だね
 立て札そのものはもう読めない様になっている、だけどその前に誰かが読んでいる可能性は十分にあるよ――
 その人物が殺し合いを止めようとしているなら良いんだけど――もしも逆だったら――」

 車庫内にある『何か』――それが何かは現状不明ではあるが、15人以下と指定している以上状況を変える物である可能性は高い――
 殺し合いを止めようとする者が手にすれば脱出の切り札もしくは抑止力と成り――
 優勝を目指す者が手にすれば他の参加者を一網打尽に出来るバランスブレイカーに成る――
 そして残り人数は19人――
 今現在も参加者が減少している事を踏まえるならばその封印が解かれるまで後僅かであり、既に解かれている可能性もある――
 その扉が開かれる瞬間は確実に迫っているのだ――

「出来れば僕達が手に入れたい所だけど、正確な死者の人数を把握出来ない以上手を出せるのは早くて次の放送後――」

 故に、確実に中身を手に入れるならば次の放送の時にもこの場所にいる必要がある――
 6時間で戻って来なければならない以上、この場合は行動範囲が大幅に絞られる事になる――

「でも――それでなくてもこの12時間は殆ど行動出来ていない――これ以上のんびりしている時間はない――」
『しかし、この中身を殺し合いに乗った者に奪われるのは避けたい所――』
「判断に迷うのが本音だね――だけど、気になるのは他にもあるんだ――」





 ここでユーノは今更ながらにチンクの考えていたプランを語る――
 ユーノがルーテシアと行動を共にしていた時にチンクと明日香と合流していた際に彼女が行おうとしていたプランだ――
 とはいえ、あの時は『脱出の為にレリック、聖王の器を見つけ出す』というあまりにも断片的な事しか語られておらず、
 またこの時のユーノはチンク達を別の意味での誤解や、ある意味ではオイシイオモイをしていた為、その事について深く考えてはいなかった――
 故に、この瞬間までその事を語らなかったのだ――

『レリック、聖王の器――チンクが考えていたのは――』
「そう――さっきJS事件の事を聞いたお陰で僕もチンクが何を狙っていたのかがわかったよ。
 彼女はゆりかごを起動して脱出に使うつもりだったんだ――
 だけど――そのプランも正直厳しいと思う――」

 ユーノがチンクのプランでは無理だと判断した理由――
 1つはレリックと聖王のゆりかごに何かしらの細工が施されている可能性だ――やはり、ジュエルシードと同様、殺し合いに使いやすく、脱出には使用出来ない様に細工されていると考えて良い。
 もう1つはゆりかごで結界を破る程の出力を引き出せるという確証が無いという事だ――

73Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:42:00 ID:/eJ4eeQc0





「とはいえ、話を聞いた所レリックにしてもゆりかごにしても放ってはおけないね――」
『ゆりかごに向かうという選択も視野に入れるという事ですね――レリックの方は――』
「確かあの時は病院に反応があったらしいけど、流石にもう持ち出されている可能性が高いから――何処にあるかは正直わからないよ――」
『この地に幾つあるかはわかりませんが放置は出来ませんね――』
「それに、明日香の持っていた夜天の書とジュエルシードも――」

 前述の通り、現状ジュエルシードと夜天の書では脱出は不可能と判断している。
 だが、仮に制限されていてもその力が驚異的である事に全く変わりはない。
 決して放置して良い代物ではないのだ。

『Ms.明日香は死亡したという話ですが――』
「裏を返せば、明日香を殺した人物が今ジュエルシードと夜天の書を持っているという事だよ――同時にその実力はあの状態の明日香以上――」
『更にジュエルシードと夜天の書が加わるならば――厄介な事になります――』
「出来れば、なのはかはやてが手に入れてくれれば良いけど――」
『その場合、Ms.なのはかMs.はやてがMs.明日香を殺したという事になるのですが――』
「いや、そういう意味じゃないから。だけど――実の所、それについて気になる事があるんだよね――」
『まだ何か――』
「明日香はあの時、何を願ったのか――僕達を皆殺しにする事が目的ならばその為に必要なのは――」
『力――』
「うん――きっと明日香は力を求めたと思う――それで――
 決して触れては成らない領域に手を出したのかも知れない――
 バルディッシュ――あの時の明日香の姿覚えているよね――」
『ええ、忘れやしません。あの姿は色こそ違うものの騎士甲冑自体はリインフォースのものと殆ど同じ――声も何処か似ていました――』
「声に関しては只の偶然だと思うけど――そもそもバリアジャケットは使用者のイメージによるものになる筈――
 例えば僕がレイジングハートを使ったからといって僕がなのはのジャケットを身につける筈はないし、
 ブレンヒルトのジャケットもフェイトのものにはならなかったよね――」
『Ms.ブレンヒルトがマスターのバリアジャケット身に着けたら自分は彼女に蹴り壊されていましたよ――特にソニックフォームの状態のものは――』
「だから――明日香が夜天の書を使ったからといってリインフォースの騎士甲冑を身に着けるなんてまず起こらない筈なんだ――」
『ジュエルシードの力によるものでしょうか――』
「じゃあ、ジュエルシードは何処からリインフォースの騎士甲冑を持ち出しているの?」
『夜天の書――いえ、幾らリインフォースの力を受け継いだとはいえ、あれ自体は管制人格や人工知能を有していない筈――』
「そう、普通に考えるなら明日香のイメージが優先されるべきなんだ。多分、白い色が彼女のイメージだよ――どうして白なのかはわからないけど――」
『まさか――』

74Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:47:00 ID:/eJ4eeQc0

「そう――ジュエルシードが明日香に力を与える為に夜天の書を闇の書の頃に戻して――いや、改変した可能性があるんだ――」
『言葉を返すようですが、ジュエルシード1個分の魔力分でなおかつ制限のある状況だから対処は可能だと口にしたのはMr.ユーノですよ?
 大体、細工を施されていると先程話したばかりではないですか――』
「うん――正直な所、これは考えられる最悪の仮説で僕自身それが起こる可能性は非常に低いとは思っている――
 妄想と言っても良い――
 でもね――
 仮に、明日香の願いに答えてジュエルシードがその力の全てを使って夜天の書を改変したとしたら――
 改変された夜天の書がジュエルシードに施された細工や制限を全て解いたとしたら――
 そしてそれらから解放されたジュエルシードが更なる力を夜天の書に与えたら――」
『可能性が低いとはいえ0ではないのが恐ろしいですね――』
「それだけじゃない、明日香は力を求めていた――
 もし、改変された夜天の書が明日香の願いに答えて周囲にある力を全て蒐集したとしたら――」
『かつての闇の書以上の脅威となりますが――本気でそれが起こると思っているのですか?』
「言ったはずだよ、妄想といっても良いって――」
『しかしMs.明日香は既に死亡しています――』
「だけど、その瞬間まではずっと明日香は持っていた。
 既に修復不能なまでに改変された可能性はあるし、ジュエルシードの力が今現在も改変し続けている可能性も否定出来ない――
 それに、もし次の持ち主がその力を不用意に使えば――」
『しかし、流石に最悪の事態となる前にプレシアが対処すると推測出来ますが――』
「うん、多分その事態に関しては想定済みだと思うし、仮に起こったとしても対処の用意はあると思う。
 さっきも言ったけど、ジュエルシードと夜天の書を同時に使わせる事は視野に入れていただろうからね――」


『――しかし、こうやって話してみるとこちらが何を考えても

 『プレシアは全てお見通しです、対策済みです、無駄です』

 という結論に陥ってしまうのですが。先程から全てこの結論に帰結していますよ』


「うん、正直な所、どんな異常事態が起こっても

 『プレシアならば対処出来ます』

 というオチになってしまうんだよね――」


『ですが――何にせよ夜天の書とジュエルシードも放置できませんね――』
「出来れば今誰が持っているのかだけでもわかれば良いけど――」

75Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:48:00 ID:/eJ4eeQc0





 と言いながらユーノは地図と名簿を眺める。次の行動を思案しているのは見て取れる。


 だが――バルディッシュにしてみればそれが明らかに奇妙であった――


 そして――







『Mr.ユーノ――貴方は何を考えているのですか――?』



 遂に、バルディッシュはユーノに彼の真意を問いかけたのだ――



「何って、これからどうするかについてだけ――」
『そういう意味ではありません、貴方が真剣に今後を考えているのは理解出来ます――しかし――
 何時もの貴方らしくありません――』



 その問いに対し、



「何時もの僕らしくない――それはどういう意味――?」
『先程の放送で、貴方が行動を共にしていたMs.ルーテシア、Ms.明日香、Ms.チンクの名前が呼ばれました――
 マスターやMs.シャマルの名前も――
 そして――貴方が信頼しているMr.Lの名前も――
 大切な仲間の名前が数多く呼ばれました――
 只のデバイスでしかない私でもマスターの死にショックが無いと言えば嘘になります――
 ですが貴方は――それに対しあまりにも淡々としています――
 先程の放送ではMs.ブレンヒルト達の死に対し悲しみを見せていたのに対し――
 今回はその様な様子が殆ど見られません――
 何時もの貴方からは考えられないという事ですよ――』





「バルディッシュ――君こそ妙に饒舌だね――何時もの君からは考えられないよ――」
『自分でもそう思います――もしかしたら、Ms.ブレンヒルトの影響かも知れません――』
「ブレンヒルトのお陰か――確かにそうかもね――」
『それで――貴方の方はどうなのですか――』





 何時ものバルディッシュならば気付いても指摘しなかっただろう。
 前述の通りインテリジェントデバイスはストレージデバイスと違い人工知能を有している。
 人工知能を有しているからこそ、インテリジェントデバイスは学習し――成長すると言っても良い。
 もしかすると――ブレンヒルトと行動した事によりバルディッシュは成長したのかもしれない。
 その成長がユーノの異変を指摘させたのだろう――

76Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:49:00 ID:/eJ4eeQc0





「――悲しいに決まっているよ――


 悲しくないわけなんて無いじゃないか――」





 その声は酷く震えていた――





「今すぐにでも大声を挙げて泣きたいよ――」





 その表情は今にも泣き出しそうであった――





「だけど――僕には足を止める事も、逃げる事も許されない――
 こうしている間にも誰かが殺されているかもしれないんだ――」





『それは理解出来ます――ですが――』





 ユーノの言葉は一見正しい――
 泣いている暇があるなら出来る事をやるのは当然の事だ――
 だが――何かがおかしい――
 ユーノの言葉はまるで――





『別にMr.ユーノがそこまで気負う事では無いのではないでしょうか?
 Ms.なのはやMs.はやてもこのデスゲームを止めようとしている筈です。
 もう少し彼女達を頼っても――』





「違うんだ――違うんだよバルディッシュ――
 僕は気付いたんだ――いや、最初から気付かなきゃいけなかった事なんだ――
 僕が原因なんだ――



 僕が――全ての原因だったんだ――」





 このデスゲームを行っている人物はプレシア・テスタロッサである。
 勿論、現時点で彼女が本物かどうかは不明であるし、彼女が黒幕とは言い切れない。
 だが――表に出ているのは確かに彼女だ。
 つまり、真贋はともかくとして彼女の存在が大きなウェイトを占めている事に変わりはない。
 そして――彼女の存在を考えるのならば――
 PT事件――プレシア・テスタロッサ事件を無視する事は決して出来ないのはおわかりだろう。

 PT事件の概要そのものはプレシアがジュエルシードを違法に使った事による次元災害未遂事件。
 その彼女の為にジュエルシードを集めていたフェイト・テスタロッサは重要参考人として罪に問われた。
 その罪は幽閉数百年以上の重罪。
 実際はリンディ・ハラオウン達の弁護やフェイト自身が管理局の嘱託魔導師となった事で実刑ではなく保護処分になったが――
 どちらにしてもそれは決して小さい罪ではない事はおわかりだろう。

 だが――そもそもの前提として――


 プレシア・テスタロッサがジュエルシードに手を出そうとしなければ――PT事件は起こらなかったのではなかろうか――?

77Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:50:00 ID:/eJ4eeQc0





「そう――プレシアがフェイトにジュエルシードを集めさせなければ――
 ジュエルシードがなのはの世界に散らばったりしなければ――


 いや――僕の一族が――僕がジュエルシードを見つけたりしなければ――


 PT事件は起こらなかったんだ!」





 そもそもジュエルシードはある遺跡から発掘された物でそれが輸送中の事故でなのは達の世界にばらまかれた。
 そして、発掘をしたのはスクライア一族で――現場指揮を執っていたのは当時9歳のユーノだった。


 言い換えればこういうことだ――


 PT事件の切欠を作ったのはユーノ・スクライアだと――


 つまり――このデスゲームの原因はユーノという事である。
 少々飛躍しすぎていると思う方もいるだろう。
 だが、IFの話に意味が無いとしてもユーノ達がジュエルシードを発掘したのが全ての始まりだという事は確かな話である――





『しかしスクライア一族はジュエルシードを発掘しただけ――Mr.ユーノには罪は――
 それに、Mr.ユーノが発掘しなくても誰かが発掘したでしょうし、プレシアが自力で見つけ出していた可能性も――』
「それだけじゃ無いんだ――気付いているかい――
 参加者の殆どはそれぞれの平行世界のなのは達、もしくは彼女達の仲間や関係者だという事に――」
『確かに参加者の多くはMs.なのはやマスターの仲間達や関係者でしたし、
 Ms.ブレンヒルトも彼女の世界のマスター達を知っていました。
 確かMr.キースレッドもMs.ルーテシアを知っていた様ですが――』
「そしてLも僕の世界のはやて達が保護した――
 明日香に関してはわからないけど、彼女もなのは達を知っている可能性は高いと思う――」
『マスター達の関係者が連れてこられているとしてそれがMr.ユーノと何の関係があるのですか?』
「大ありなんだ――その全ての始まりは何処にあるのか――
 PT事件――それが全ての始まりだったんだ。


 僕が――ジュエルシード集めになのはを巻き込んだりしなければ――
 なのはをこの道に引きずり込む事もなかったんだ――
 それさえなければ――ブレンヒルトやL――明日香達をこのデスゲームに巻き込む事は無かった筈なんだ!
 ジュエルシードを早く集めなきゃと焦ってなのは達に助けを求めたりしなきゃ良かったんだ――


 最初から僕1人でやろうとせず管理局に助けを求めれば良かったんだ――
 僕が――僕が――
 僕がみんなを巻き込んだんだ!!


 僕がなのはやフェイト、はやて達にブレンヒルトやL、明日香やルーテシアを!!
 そして僕の知らないなのは達の仲間を!!





 みんなを殺したんだ!! 僕が――!!」

78Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:52:00 ID:/eJ4eeQc0







 それに気付いたのは何時だったのだろうか?
 いや――もしかしたら最初から気付いていたのかも知れない――
 ずっとそれについて向き合おうとしていなかっただけなのかも知れない舵手奪取
 早々にルーテシアと出会ったから彼女を守る事を優先し――
 彼女達と別れた後はずっとブレンヒルトが傍にいた――
 仲間がいたからその事と向き合うのを先送りにしていたのかも知れない――
 向き合う切欠となったのは明日香がジュエルシードを発動し牙を向けた時――
 その対策を考える為にユーノはPT事件の事を思い返していた――
 そう――その時には全ての切欠が自分という事に薄々気付いていた――
 だが――その時のユーノは敢えてそうは考えないことにしていた――
 仮になのは達にそれを言った所で――
 『それはユーノ君のせいじゃないよ』――そう答えるのは容易に想像出来た――
 だからこそ、過去を悔やむよりも先の事を考える事にしたのだ――
 何よりも優先すべきはルーテシアと明日香の説得――
 それを考えるべきだと自分に言い聞かせ続けたのだろう――
 しかし――先の放送であまりにも多くの人が死んだ事が伝えられた――
 ルーテシアや明日香、フェイトやシャマルにL――
 彼女達の死がユーノに重くのしかかる――
 全ての切欠が自分にあると気付いた以上――
 その重圧は――15歳の少年には重過ぎたのだ――
 何よりも重いのは――誰もユーノを罪に問えない事だ――
 ユーノがした事は結局の所、ジュエルシードを見つけた事とジュエルシードを集める為になのはに助けを求めた事――
 それはなのは以外の誰であっても『ユーノのせいではない』と答えるだろう――





 では――決して問われる事の無い罪を犯した者は――





 一体、誰が裁き――赦すのだろうか――?





 何時しかユーノの目には涙が溢れ――その声には強い感情が込められていた――





「だから僕に止まる事は許されない――
 死んでいった皆の為にも――いや、このデスゲームに巻き込んでしまった全ての人の為にも――
 僕は――絶対にプレシアを止めなければならないんだ――
 それは全ての切欠になった僕がやらなければならない事なんだ――」





 そういう事だったのだ。
 ブレンヒルト達の死を気にしていないわけでも悲しんでいないわけでもなかった。
 むしろその逆――ユーノは彼女達の死に強いショックを受けていた。
 そして、その元凶が自分にあると気付いているからこそ――
 何としてでもプレシアを止める為に淡々と前に進もうとしたのか――
 深い悲しみを心の奥底に抑え込んだ上で――

 『ユーノが悪いわけではない』、『ユーノ1人の行動で全ての人間の運命が決まるなどおこがましいにも程がある』等という慰めが出来ないわけではない――
 しかし、それでは意味はない――ユーノの行動が全ての切欠というのは確かな事実なのだから――
 故に――ユーノがジュエルシードを見つけなければPT事件は起こらず、
 なのは達も魔法と関わることなく彼女達がこの殺し合いに巻き込まれ死ぬ事も無かったというのは正しい――

79Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:53:00 ID:/eJ4eeQc0





 だが――バルディッシュはそれを全て認めるわけにはいかない――





『Mr.ユーノ――貴方は大事な事を忘れていますよ――』
「――何を?」
『確かに貴方がジュエルシードを発掘しなければPT事件も起こらず、Ms.なのはも魔法と関わる事は無かったでしょう。
 きっとMs.ブレンヒルト達も殺し合いに巻き込まれる事は無かったでしょう――』
「そうだよ――」
『ですが――それがあったからこそマスターとMs.なのはは出会えた――
 そして、マスターとMs.なのはは友達になれたのですよ――』
「それは――」
『それだけではありません――闇の書事件――
 あの場にいた仲間が1人でも欠けていればMs.なのは達の街は滅び去り――
 闇の書は再び転生を繰り返し悲劇を繰り返していたかもしれません――
 つまり――Ms.なのはがいなければそうなっていたという事――
 そして――Ms.なのは達がその後管理局に入ったからこそ救えた多くの人々がいます――
 それは全て――貴方とMs.なのはの出会いが始まりでは無いのですか?』
「バルディッシュ――」
『同時に――それぞれの平行世界でもその出会いがあったからこそブレンヒルト達がマスター達と出会えた――
 Mr.ユーノ――貴方は彼女達の出会いまでも否定するというのですか――
 少なくても――Ms.ブレンヒルト達はマスター達と出会えた事を否定したりはしないでしょう――
 確かに――貴方の行動が多くの人々を死なせる結果を引き起こしたかも知れません――
 ですが――貴方の行動のお陰で多くの人々を出会わせそして救った結果もある事を忘れてはいけません――』



 ユーノの行動の全てが悪い方向に働いたわけではない――
 もし、なのはが魔法と関わる事がなければフェイトと出会う事も無く、フェイトはプレシアの人形として使い捨てられていただろう――
 なのは達がいなければ闇の書はなのは達の世界を滅ぼし再び転生を繰り返す、封印出来たとしてもはやて達を救う事は出来なかっただろう――
 そして彼女達がいなければ彼女達によって救われる多くの命が失われていた――JS事件の結末も最悪の結果を迎えていたかも知れない――
 同時に――ユーノとなのはの出会いが無ければそれぞれの世界でなのは達がブレンヒルト達と出会う事も無かっただろう――





『貴方が――いるからですよ――貴方がいるから全てが始まった――』







「そうだね――ありがとうバルディッシュ――僕が間違っていたよ――」





 そこには――ほんの少し笑みを浮かべる若き司書長がいた――

80Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:54:00 ID:/eJ4eeQc0










『と、実際の所状況は何も変わっていませんが――』
「とりあえず、僕を除いた18人の内で誰が味方かを整理しないと――」

 その内、相川始、アーカード、アレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、エネル、
 金居、キング、天道総司、柊かがみ、ヒビノ・ミライの計12人とは出会っていない為、敵か味方かすら不明瞭。

 残り6人の内、なのは、はやて、ヴィータはユーノも知る信頼出来る人物だ。
 ヴィータ辺りは片方のはやてを生き返らせる為殺し合いに乗る可能性は0では無いものの、魔法に関する分野でこの3人は信頼に値すると言って良いだろう。
「特にはやてだったら万が一夜天の書に異変が起こっても対処出来る可能性が高いし、3人の中で一番ジュエルシードに対する対処も出来ると思う」

 次にスバル・ナカジマ――
「確か、空港火災でなのはが助けた子だよね」
『ええ――あの立て札を破壊したのは彼女の可能性が高いでしょう――』
 車庫前にあった立て札は原型を留めない程粉々に砕かれていた。
 殺し合いに乗った参加者が読む事を避ける為に行ったのは明白ではあるが、普通に考えて原型を留めない程粉々にするのは手間が掛かる。
「だけど彼女の能力を使えば――それは容易だと――」
 しかし、スバルには振動破砕という対人対物に対し驚異的な力を発揮するISがある。直接触れなくても相当な威力を発揮するそれならばここまでの破壊は可能ということだ。
『それとは別にしても、JS事件後から連れて来られているならばMs.なのはやMs.はやてに負けるとも劣らない実力を持っています――』
「問題はギンガ達が死んだ事で殺し合いに乗る可能性が0じゃないという事だね――」
『Exactly――彼女は強いからその可能性は低いとは思いますが――』
 味方ならば頼もしい――が、敵に回って欲しくないのが彼女であった――

81Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:55:00 ID:/eJ4eeQc0

 そしてクアットロ――
「彼女の事は確かチンクも話していたよ――確か彼女の姉だったね――」
『その通りです――が、彼女は一番の危険人物です』
 JS事件において、スカリエッティの戦闘機人の半数以上は更正プログラムを受け管理局に協力する選択を選んでいる。
 だが、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの4名はその選択を選ばず収監されている。
 とはいえ、ウーノの場合はスカリエッティに従う以外の生きる理由を持たないものだったし、
 トーレとセッテは共に敗者としての矜持によるものであった――
 が、クアットロはそもそも人間達に譲歩するという発想が無いという事によるものだった。
 同時に、JS事件においてもスカリエッティ達が次々捕まった状況でも冷徹にその場から撤退するという行動を取った。
 つまり――彼女の性格上、他者を助ける為に戦うという事がまず有り得ないのだ。
 仮にチンクやディエチが死んでも彼女にとっては手駒を失った程度の事でしか無いだろう。
「ということは、当然なのは達は彼女に対して警戒しているって事だよね」
『ええ、JS事件を知っている者ならば皆――』
「そして、彼女は頭が切れる反面、直接的な戦闘力はそれ程高くない」
『能力さえわかっているならばMr.ユーノでも対処は可能です』
「だったら彼女と接触してみる価値はあるね」
『Ms.チンクの事が気に掛かるなら止めておくべきです、彼女の死に気を止める様な人物では――』
「だからだよ、彼女が此方に協力してくれる可能性は――高いよ」
 客観的に考えればクアットロは誰もが警戒すべき人物である。
 だが、参加者に管理局の人間が数多いならば彼等を通じてクアットロに対する警戒を強める者は多くなる。
 クアットロを保護しようとする者は彼女と同じ側にいるチンクやディエチ、そしてルーテシアぐらいのものだろう。
 つまり、最初からクアットロには敵が多いという状況ということだ。
 更に彼女自身の戦闘能力はさほど高くはない――ISのシルバーカーテンにより翻弄される可能性は高いが、身体能力は普通の人間より強い程度――
 能力にさえ気を付ければ対処は十分可能だ。故に彼女単独で勝ち残るのは非常に厳しいという事になる。
 同時に――頭の回る彼女であれば早々にその事実に気が付くはずだ。
 ならば彼女はどう動くだろうか、集団に入り込もうとする筈だろう。
 かといって人知れず他者を殺したり集団を瓦解させたりはまずしない、
 そういう事が出来るのは他者に知られないという前提が必要だからだ。
 他者から警戒されている状況でそれを行えば真っ先に疑わせすぐさま窮地に陥ってしまう、
 その事が理解出来ない彼女ではない、孤立する危険性のある愚行を考え無しにするのはまず有り得ない。
 そして残り人数は19人、ここまで状況が熾烈ならば彼女自身是が非でも自身の味方――手駒を確保しようと躍起になるだろう。
 故に――彼女自身不本意ながらも、管理局に協力する事も辞さない可能性は高いという事だ。
『成る程――しかし、先の放送で主催者側にスカリエッティがいる事はほぼ確実。彼等が彼女に参加者を殺す役割を与えているという可能性はあるのでは?』
 バルディッシュの仮説はクアットロが主催者側の人物という事だ。
 ユーノの見立てではチンクは主催者側にスカリエッティがいる事を知らなかったが、クアットロまでそうである保証はない。
 主催者側にいるスカリエッティ達がクアットロに参加者を殺す役割を与えた可能性はある――
「0では無いけど――その可能性は低いよ」
 しかし、ユーノはそれを否定する。
 その理由は至極単純、クアットロにその役割を与える旨みが殆ど無いからだ。
 彼女にその役割を与えようが与えまいが、周囲の警戒が強い事に変わりがない。
 状況的には圧倒的に不利なのだ――せいぜい支給品を若干優遇させる程度の事しか出来ないだろう。
 また、それ以前に彼女は性格的にも能力的にも最前線での戦いには全く向いていない。
 彼女は命が懸かった状況ならば逃走を選択するはず――
 故に彼女にその役割を与える事が不自然なのだ。
 それならば最初からクアットロを参加させずトーレかセッテを参加させてその役割を与えれば良いし、
 もしくはチンクかディエチにその役割を与えれば良かっただろう。
 故に――クアットロが主催者側の人間という可能性は低いという事だ。
「勿論、警戒すべき人物なのは否定しないよ――でも、それは他の皆にも同じ事が言えるよね」
『Yes――』

82Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:56:00 ID:/eJ4eeQc0

「むしろ――僕としては、彼女の知恵を借りれるならば借りたいと思うんだ。
 さっきも言ったけど恐らく生半可な作戦はほぼ確実にプレシアに読まれている――
 首輪の解除にしても単純にそれを行えるかは正直微妙――」
『その通りですね――その為に危険人物である彼女の力も借りたいと?』

「多分――L自身も首輪解除の為に戦っていた――
 でも――そのLもプレシアの前には為す術無く散っていった――
 Lは本当に優秀だよ――この地にいる誰よりも優秀な探偵だ――
 残念だけど――僕ではLを越える事は決して出来ない――
 いや――きっとそれは他の誰にも無理な事だと思う――
 でも――一人では越える事が出来なくても――

 二人なら――Lに並べる、二人なら――Lを越せる

 僕はそう思っているよ――だから、仲間達の力を集める事が出来れば――」

『Mr.Lが敗れたプレシアに――勝つ事が出来るというわけですね』
「その通り――だからまずは仲間達と何とかして合流しないとならないんだ。なのはやはやて達とね――」


 その瞳には明らかな強い決意が込められていた――
 同時に――先程までに見られた追いつめられている様子は既に無い――


「――ただ、何処に向かうかはまだ決まってないんだよね――どうしたら良いだろう?」
『禁止エリアを踏まえるならば、市街地方面から此方に向かう参加者が現れる可能性は高いでしょうが――』
 今回禁止エリアに指定された1つの場所が地上本部のあるE-5、既に隣接するE-6も禁止エリアになっており市街地から離れる参加者は出てくるだろう。
「この配置だと、ゆりかごに意識を向けさせようという感じもあるね」
 さらにH-6とI-7が指定された――既にH-4が禁止エリアとなり西側が海に囲まれている事を踏まえ、ループを使わない限り移動ルートは大幅に絞られる。
 つまり、そこからゆりかごを意識させる狙いも十分にあるという事だ。
「多分、なのは達もゆりかごの事には気付くはず――そうだゆりかごと言えば――」



 それは、先程はどうしても聞けなかった事――



「バルディッシュ――そのJS事件で僕はなのはの――力になれたかい――?」



『ええ、自分の世界のMr.ユーノは――Ms.なのはやマスター達の力になれましたよ――』
「そうか――」
『詳しい事を話しますか?』
「いや、それだけで十分だよ――」





 自分がなのは達の力になれた――それがわかっただけでも少年の心は十分に満たされていた――

83Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:57:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ、確かまだ1人残っていましたね』
「ヴィヴィオ――確かJS事件でなのは達が保護した女の子だったね」
『ええ、聖王の器でもあり、ゆりかごを動かす鍵でした』
「彼女も探さないといけないね」
『お願いします――きっとマスターも『ヴィヴィオを助けてあげて』と願っている筈です』
「フェイトの声が聞こえて来そうだよ――でも、僕彼女の事を全く知らないんだよね」










『確か、声がMr.ユーノと似ています』
「僕は男だよ」
『しかし似ています』
「全然ヒントになっていないよ――」





【1日目 夜】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.何処へ向かおうかな?
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除。
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

84 ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 18:02:00 ID:/eJ4eeQc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>62-71が前編『Lを継ぐ者/Sink』(約28KB)で、
>>72-83が後編『Lを継ぐ者/あなたがいるから』(約28KB)です。

今回のサブタイトルの元ネタは
『Lを継ぐ者』……『デスノート:リライト2 Lを継ぐ者』(TVアニメ版総集編)〔注.本ロワのLはアニメ版ではなく実写版出典〕
『Sink』……『金田一少年の事件簿』ED『Sink』
『あなたがいるから』……『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』主題歌『あなたがいるから』
以上、3つを『仮面ライダーW』風のサブタイトルにしました〔注.なお、『仮面ライダーW』に英語のサブタイトルはありませんが、元ネタの都合上そうせざるを得なかった(だって、金田一の曲名で手頃なの無かったんだよ!)〕

というわけでサブタイトルだけで日本を代表する探偵大集合させてしまいました。しかも都合がよい事(偶然です)に今夜は『名探偵コナン 漆黒の追跡者』放送日&明日は『名探偵コナン 天空の難破船』上映開始日、今夜は探偵祭り♪

リリカル全然関係ねぇお……

85リリカル名無しA's:2010/04/16(金) 20:54:42 ID:E5q./8iY0
投下乙です
まさかユーノでここまで濃い考察話になるとは想像もしなかったぞ
これは予想外
そうか…良くも悪くもユーノの一族から始まってたのか
言われて気が付いたよ

86リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 11:11:44 ID:7Nhuzm920
投下乙です
ユーノ君カッコいいな
そうだな、ユーノ君がいたからみんなの出会いがあったんだよな(バルディッシュナイスフォロー!)
1期の頃から一人で背負いこもうとするきらいがあったけど、よかったよかった
ああ、声が似ているも何も中の人g(ry

87リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 13:57:28 ID:8WgSGZyk0
投下乙です
ようやくユーノが濃い考察をした!w
今まで散々だったからなぁ……
ともあれ今後ユーノがどう活躍するのか楽しみです。
無事他の対主催と合流できるか……距離的にはホテルが近いけど……?

88リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 21:31:35 ID:pMGUTQ06O
投下乙です
ユーノがカッコイイ!!今までルーテシアの裸体を観察したり胸に挟まれたりチンクの大事な部分を見たりブレンヒルトのパンツを何度も拝んだりサービスシーンを披露していたりしたのが嘘のようなカッコ良さだ!!
ユーノの今後の活躍が楽しみです。クアットロと組むことは叶うのだろうか…?

89リリカル名無しA's:2010/04/19(月) 22:55:41 ID:jXDmTmyk0
―― 使いすぎじゃね
読んでて気持ち悪くなる

90 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:34:18 ID:FwLcIe6A0
リインフォース、アルフ、リニス、ウーノ分を投下します

91暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:36:22 ID:FwLcIe6A0
 ほの暗い闇の中を蠢く、微かな金属音が2つ。
 さながら小さなネズミのように、屋根裏を這いずり回るのは、1人の融合騎と1匹の使い魔。
 眼下の廊下から漏れ出している、ぼんやりとした電灯の光だけが、この闇の中の光源だった。
《しかしまぁ、ホントに入り組んだ構造になったもんだよ》
 額に皺を寄せながら、使い魔アルフが念話でぼやく。
 肉声での会話をシャットアウトしたのは、盗聴の危険性を考慮した結果だ。
 下の廊下には、ところどころに監視カメラが配置されている。であれば姿のみならず、声まで盗み聞きされる可能性も否定できない。
《やはり、元の時の庭園とは違うのか?》
《そりゃあ、元は別荘施設だったからね。こんな研究室みたいな作りにはなってなかったさ》
 先を行く融合騎リインフォースの問いかけに、答えた。
 かつてのプレシアの研究施設であった時の庭園だが、元々は居住スペースとして設計されたものを、研究用に改築したに過ぎない。
 デバイスルームや研究室こそあれど、それも必要最低限のものであり、あくまでオプションでしかなかった。
 だが今彼女らが潜入しているこの場所は、ただの別荘にしてはいやに複雑な構造になっている。
 廊下にいくつもの扉が並ぶその様は、むしろ時空管理局本局や、大型の研究所を彷彿とさせた。
 無機的かつ平面な壁の様子は、まるで病院の廊下のようで、生活感が感じられない。
《でも、それ以上に分からないのはこの世界そのものだよ。結局、ここは一体どこなんだ?》
 奇妙なのは時の庭園の構造だけではなかった。
 それ以上に不可解なのは、この世界だ。
 転移魔法の着地点は時の庭園のすぐ傍だったが、その周囲を見渡すだけでも、その異質さは見て取れる。
 辺りに散乱する遺跡らしき構造物は、どれもこれも見覚えのないものばかり。
 空気に漂う匂いからは、文明はおろか、自然の気配すら感じられなかった。
 既に滅亡した次元世界だということなのだろうか。
 転移座標から正体を勘ぐろうにも、提示されたのは未知の座標。つまり、まったくのお手上げだった。
《恐らくは――アルハザード》
 ぽつり、と。
 呟くように響く、リインフォースの念話。
「!」
 がん、と。
 返ってきたのは言葉ではなく。
 天井裏の低い天井に、盛大に頭をぶつけた音だった。
《アルハザード、って……そんな馬鹿な。本当に、現存していたっていうのかい……?》
 痛む頭を抑えながら、震える声でアルフが尋ねた。
 それが本当だというのなら、大問題だ。
 アルハザードといえば、幾多の伝承の中で語り継がれる、超古代文明世界の名前である。
 その歴史は古代ベルカよりも更に昔に遡り、その上その古代ベルカよりも、更に優れた技術力を有していた世界だ。
 未だ発見もされておらず、そのあまりにも現実離れした名声から、存在そのものを疑われた、まさに魔法の理想郷。
 そしてプレシアの娘・フェイトの使い魔であったアルフには、更にそれ以上に重要な意味を持つ名前でもある。
 アルハザードは、プレシアが実娘アリシアを復活させる技術を求め、ジュエルシードによって渡航を図った目的地でもあるのだ。
 そしてその桃源郷が、今まさに彼女らのいるこの場所だとするのなら。
 あのプレシア・テスタロッサは、虚数空間の漂流の末に、本当に目的地にたどり着いたということになるではないか。
《そうなのだろうな。この地の空気には覚えがある……そしてそれは、かつてのベルカの地のそれとも違う匂いだ》
《空気に覚えがある?》
《そもそも古代ベルカの魔法技術は、アルハザードとの交流によって発展したものだからな》
 だとするなら、それも真実なのだろう。
 リインフォースがいうには、現代においてロストロギアと呼ばれているベルカの遺産は、
 より優れた技術力を有した、アルハザードからの技術提供によって誕生したものなのだという。
 つまりアルハザードとは、この夜天の書の管制人格にとっては、第二の故郷にも等しい場所ということなのだ。
 そのリインフォースが、この地に漂う魔力の気配に、ベルカのそれとも異なる懐かしさを覚えている。
 ならば真実、この場所は、あの御伽噺の理想郷ということに他ならない。

92 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:39:12 ID:FwLcIe6A0
《……仮にここがそうだとすると、なおさら分からなくなるね……目的地にたどり着いたっていうのなら、何であいつはあんなことを?》
 思い返されるのは、一ヶ月弱ほど前の地獄の光景だ。
 転移魔法を行使し地球を発つ前、彼女らの暮らしていた海鳴市は、プレシアの軍勢の手によって壊滅した。
 未知の技術を取り込んだ大軍団を前に、迎撃に出た魔導師達は、1人残らず返り討ちにあったのだ。
 アルフの元の主人であるフェイトも、そのフェイトやリインフォースを救ったなのはも、あの凄惨な虐殺の果てに死亡している。
 今こうしてリインフォースについているアルフもまた、血と炎の最中で死にかけたのだ。
《プレシア・テスタロッサの目的は、娘アリシアの蘇生……だったな》
《あいつにとってはそれが全てで、他のことなんてどうでもいい、って感じだった。
 その目的を果たす手段を手に入れたのなら、今更他の世界に攻め込む理由も……フェイト達が殺される理由も、ないはずなんだ》
 不可解な点は、そこだった。
 かつてプレシアが事を起こしたのは、アルハザードへの到達という、唯一無二の目的のために他ならない。
 そしてその目的が達成された今だからこそ、あの襲撃の動機が分からなくなる。
 望みは全てアルハザードで叶うというのに、何故彼女は、わざわざ他の世界への遠征を実行したのか。
 管理局に察知されるリスクを冒してまで、今さらよそにかかわる理由など、プレシアにはないのではないのか。
《……何にせよ、調べてみる必要がありそうだな》
 がたん、と。
 念話に合わせ、前方から音が聞こえてくる。
 アルフがそちらの方を向けば、これまで以上に強い光が、眼下の廊下から差し込んでいた。
 金網状のカバーをリインフォースが外したらしい。
《そこに端末がある。幸い、監視カメラもない。この城の中枢へのハッキングを試してみる》
《ハッキング、って……あんた、できるのかい?》
《言っただろう?》
 ふわり、と闇に揺れる銀髪。
 くるり、とこちらを向く真紅の瞳。
 穴へと身を乗り出すような姿勢から、リインフォースがアルフの方へと首を向ける。
《このアルハザードは、私の第二の故郷だと》



 セキュリティを解析。
 ファイアウォールの構造を理解。システムの穴を探索し、突破。
 転送される情報を取捨選択。余剰プログラムを受け流し、必要と思しき情報を取得。
 頭部のメイン回路へと流れ込んでくるのは、複雑な数列で構成された構造式。
 それらを1つ1つ読み解いていき、サイバーデータの深淵へと泳いでいく。
 目を閉じたリインフォースの右手は、廊下に設置されていたコンピューターへとかざされていた。
 手のひらに浮かぶ銀の光は、ベルカ式の三角魔法陣。
 今まさに黒衣のユニゾンデバイスは、この時の庭園のサーバーへの不正アクセスの真っ最中だった。
《ホントにやってのけるとはね》
 感心したようなアルフの念話が、頭の片隅に響いている。
 彼女はリインフォースの傍らに立ち、敵の襲来を察知すべく、警戒態勢を保っていた。
 こうして無防備な姿を晒し、ハッキングに没頭することができるのも、彼女が見張ってくれているおかげだ。
 この狼の命を拾ったのが、人道的のみならず戦力的にも正解であったことを、改めて理解させられる。
《間もなくメインサーバーに到達できる》
 いよいよ大詰めに近づいたと、口にした。
 彼女がこのハッキングを為しえたのは、他ならぬその出自のおかげであった。
 大規模な魔法文明を誇っていたアルハザードでは、この手のデータも魔法術式で構成・管理されている。
 ミッド式でもベルカ式でもない、言うなればアルハザード式だ。並の魔導師や騎士では、解析することすら敵わないだろう。
 しかしこの場にいるのは並の騎士ではない。
 古代ベルカ最大級のロストロギアの1つ・夜天の魔導書の管制人格だ。
 アルハザードの恩恵を最大限に蓄えただけに、アルハザード式の術式にも、ある程度の心得を有している。
 加えてその身はデバイスである。プログラムの解析や操作には、生身の人間よりも長けていた。
 おまけに彼女のスペックは、そんじょそこらのデバイスの比ではない。
 幾多の魔術を蒐集・処理することを義務付けられ、それ相応の演算能力を与えられた、言うなれば史上最高峰のスーパーコンピューターだ。
 この手の作業に関しては、唯一にして最強の専門家と言えるだろう。

93暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:40:33 ID:FwLcIe6A0
《侵入成功。これは、爆発物の制御システム?》
 メインサーバーへと到達。
 そしていの一番に上げたのは、怪訝な響きを伴う声だった。
 最初に目に留まったデータは、何らかの爆弾の起爆システムを管理するためのものだ。
 質量兵器の管理システムとは、この場には余りにも似つかわしくない。
 魔術の理想郷たるアルハザードらしくもないし、アリシアを蘇生させたがっているプレシアらしくもなかった。
《次は……名簿か?》
 故に次に開示されたデータに、あっさりと意識の矛先を向ける。
 そして今度は深く興味を示し、廊下の端末に映像を映した。
 かつかつと歩みの音が聞こえる。それに気付いたアルフが、モニターを覗き込んだのだろう。
《高町なのはに、フェイト・テスタロッサ……プレシアが殺して回った人間の目録とか?》
《いや、それにしては妙だ。ユーノ・スクライアが生存扱いになっている》
 表示されたのは五十音順に並べられた、合計60人の名の連なる名簿。
 そしてその名前のすぐ横に、「生存」ないし「死亡」のいずれかが追記されていた。
 これも一見しただけでは、意味の理解に苦しむものだ。
 なのはやフェイト、ヴォルンケンリッターらが死亡しているのだから、
 アルフが言うように、既にプレシアが殺した者と、これから殺す者の一覧表にも見える。
 だがそれでは、ユーノが生存にカテゴリされている理由が分からない。彼もまた海鳴の戦闘で、間違いなく死亡したはずだ。
 加えてなのは、フェイト、はやての3人の名前が、それぞれ2つずつ用意されているのも気になる。
 フェイトは両方死亡だったが、なのはとはやては片方ずつ死んでいた。
 これは一体何を示すものなのだろうか。他のデータと比較してみれば、何か分かるかもしれない。
 更なる解析を進めようとした矢先、
《待った》
 アルフに、制止の声をかけられた。
《臭いと音が近づいてきてる。監視がこっちに向かってるみたいだ》
 その言葉にコンピューターへのアクセスを解き、瞼を持ち上げ瞳を見せる。
 赤い双眸の先の使い魔は、耳と鼻をひくつかせていた。
 イヌ科の嗅覚と聴覚を信頼するなら、まだ若干の余裕はあるはず。
 しかしそれも、この場から天井裏へ戻るのに利用した方が有意義だ。
 よってここは素直に従い、元の屋根裏へと飛行する。
 監視の目が近づく前に、極力音を立てぬよう留意して、金網状の蓋を戻した。
《あの卵メカか》
 ややあって、眼下に現れた機影。
 その楕円形のフォルムを見据え、忌々しげにアルフが呟く。
 あれは海鳴の戦闘にも顔を見せていた、正体不明のロボット兵器だ。
 魔力を通さない特殊なフィールドによって、なのは達ミッド式の魔導師は、大いに苦戦を強いられていた。
《……そういえば、何故監視が配置されているんだ?》
 ふと。
 疑問に思い、それを思念の声に乗せる。
《何故って?》
《よく考えてもみれば、ここは秘境中の秘境のはずだ。外部からの侵入者に気を配る必要は、皆無と言ってもいいと思うのだが》
 それが疑念の正体だった。
 ここは失われた地、アルハザード。
 管理局150年の歴史をもってしても、未だ現存を確認できず、半ば御伽噺扱いさえされている場所である。
 こんな所に侵入できる人間など、普通はいないと考える方が自然だ。
 であれば、申し訳程度の監視カメラはまだしも、わざわざ制御の手間を割いてまで、あのロボットを配備する理由が見つからない。
 あるいは、
《……既に見つかっているのか?》
 こちらの侵入を察知し、その捕縛のために放ったというのなら、話は別だが。

94暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:41:51 ID:FwLcIe6A0


(ガジェットドローンが配備されている……?)
 モニターに映された自律兵器を、使い魔リニスは怪訝な顔つきをして見つめていた。
 事が起きたのは、間もなく夜も更け始めようかといった頃。
 ちょうど転送魔法陣の移動について、モニターの映像ログを漁って調べていた時のことだ。
 デスゲームの参加者達の認識に沿うならば、
 吸血鬼アーカードの遺体が燃え尽き、八神はやてが従者のデイパックを回収した前後といったところか。
 地上本部の崩壊に伴い魔法陣が一旦消滅し、直後に地下に出現したことは、映像から確認することができた。
 誰が何をしてそうなったのかを調べようとしたのだが、
 転送魔法陣に関するデータにはプロテクトがかけられており、リニスの権限では閲覧できない。
 それでより上位の管理権限を持つ存在――プレシアが一枚噛んでいる疑いは固まったが、しかしそれ以上のことはもう分からない。
 ここまでかと落胆していた時に、ふと何の気なしに庭園内の監視カメラへ視線を飛ばすと、そこに映っていたのはガジェットドローン。
 このような経緯を経て、現在に至るというわけだ。
(プレシアが私を監視しているのかしら?)
 最初に考慮した可能性は、それだ。
 オットーの起用といい今回の件といい、どうにも自分は、プレシアに疑われているような気がする。
 とはいえ翻意を抱えているのは間違いないので、弁明のしようがないのが現実だ。
 そしてだからこそこの行動が、自分を警戒しているから、という風に結論づけることもたやすい。
 妙な行動を起こした時に、即座に始末できるように、各所にガジェットを配置したのではということだ。
(でも、それなら精神リンクを繋ぎ直せばいい)
 しかしよくよく考えてみれば、その可能性は薄いかもしれない。
 何せ、リニスはプレシアの使い魔なのだ。
 互いの行動を察知できる、精神リンクという手段を使えば、従者の謀反は主君に筒抜けになる。
 ならばわざわざ監視員を増やす必要はない。むしろ視覚のみに頼るのは、より不確かな手段と言っていい。
(なら、ナンバーズ達に何かが?)
 それなら監視の対象は自分ではなく、あの機械仕掛けの傭兵達だろうか。
 なるほど確かに、客観的な目で見れば、連中も自分と同程度にはいかがわしい。
 何せ“提供者”からしてああなのだ。その面の皮の下で何を考えているのか、分かったものではない。
 それこそこうして味方を装い、信用させたところを裏切って、アルハザードの技術をかすめ取ろうとしても不自然は――
「……?」
 と。
 その時。
 ぴぴぴぴ、と耳を打つ音があった。
 不意に鼓膜に飛び込んできたのは、コンピューターから響く電子音。
 それもこれはアラートだ。何かシステムのトラブルでもあったのだろうか。
 警告を示すアイコンを選択し、報告バルーンを展開する。
 そこに記載されていたのは。
「……っ!」
 不正アクセスの報告だった。
「侵入者っ!?」
 くわ、と瞳が見開かれる。
 さぁ、と顔色が蒼白となった。
 血の気は見る間に引いていき、顔中から嫌な汗が流れた。
 不正アクセスとはすなわちハッキングだ。
 こちらのコンピューターの所在が割れたということは、その時点で外部に居場所を察知されたことを意味する。
 加えてハッキングに利用した端末は、この庭園の廊下のコンピューターだ。
 外部からどころではない、内部からの不正アクセス。
 すなわちそれは、下手人であるハッカーが、ここに侵入を果たしていることに他ならない。

95暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:43:09 ID:FwLcIe6A0
「くっ!」
 逸る気持ちを抑えながら。
 しかし目に見えた狼狽と共に。
 リニスは制御コンピューターを操作し、全監視カメラの映像を展開する。
 ゲームのフィールドなど後回しだ。外界に構っている暇などないのだ。
 すぐさま庭園内の映像が、ばあっとモニターを埋め尽くす。
「何故だ……何故気付けなかったッ!?」
 右を見ては、左を見て。
 上を見ては、下を見て。
 忙しなく視線を泳がせながら、苛立ちも露わな声を上げる。
 そうだ。
 何故こんな単純な理屈に気付かなかった。
 気付こうと思えば、気付けるはずだったのだ。
 そもそも監視というものは、味方を対象にした概念ではない。外敵が領地に侵入するのを防ぐため、というのが大前提だ。
 それこそ普通に考えれば、味方よりも敵の方に目を向けて当然なはずだった。
 このアルハザードは誰も特定できない、などという言い訳は、今となっては通用しない。
 現に混沌の神を名乗るカオスなる者が、この殺し合いに一度介入しているのだから。
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 過去を悔やむ暇があったら、それを現在の行動に回すべきだ。
 いかにゲームに反対しているとはいえ、プレシアを傷つけるつもりはリニスには毛頭ない。
 故にこうして、プレシアを害するであろう者を、血眼になって探すのも当然の帰結。
 敵はまだこの施設内にいるはずだ。ならば、何としても見つけ出さなければ。
 いや、その前に警報か。庭園の他の人間達にも、警報ベルでこの非常事態を――
「……けい、ほう――?」
 はっ、として。
 警報装置に伸ばした手を、止める。
 焦りも悔やみも苛立ちも、すぅっと遠のいていくのが分かった。
 狼狽に開かれていた瞳が、それとは異なる感情によって、再び丸くなっていく。
 茫然自失とした表情を浮かべながら、やがてコンソールからも手を離した。
 そう、それだ。
 外敵の可能性を排除したのは、それが原因だったのだ。
 そもそもあのガジェットドローンは、プレシアの手によって放たれた可能性が高い。
 そしてもし仮にプレシアが敵の存在を認知し、その対策としてガジェットを配備したというのなら、
 この場の全員に注意を促すためにも、警報ベルを鳴らして然るべきはずなのだ。
 しかし、この現状はどうだ。
 今この時の庭園の中では、物音1つとして鳴っておらず、非常灯の光っている形跡もない。
 故にリニスはほとんど無意識に、敵襲の可能性を否定して、味方を疑いにかかったのだ。
 だが、これが本当に、敵に対する警戒態勢だとしたら。
 敵襲を理解していながら、警報を鳴らさなかったとしたら。
「私は……プレシアに見捨てられたの……?」
 仮にこの非常事態を、“全員”に通達する気がなかったとするなら。
 思い当たる節はいくつかあった。
 側近であるはずの自分を差し置いてまで、余所者に放送という大役を任せたこと。
 本来なら自分が管理するであろうボーナス支給品システムに、アクセス権限を設けたこと。
 転移魔法陣の移動を、こちらに相談することなく強行したこと。
 そして、その魔法陣のデータの閲覧が不可能だったこと。
 のろまな手つきでコンソールを弄れば、他にも様々な動作が、アクセス権限によって制限されていた。
 それこそ、これまでなら問題なく実行できたような、首輪の制御システムへのアクセスさえも、だ。
「私にできることは……もう、何もない……?」
 無力感が、声に滲んだ。
 虚脱感が、顔に浮かんだ。
 これまで有していたアクセス権限の、その大半が凍結された。
 それが意味することは、プレシアが自分を必要としなくなったということ。
 お前はもう当てにしていないから、非常事態を伝えるつもりもない、と、暗に示しているということだ。
 そしてそれは、自分が殺し合いのフィールドに働きかけることが、事実上全くの不可能となったということを意味している。
 そのくせモニターの監視機能は、未だ使用可能ときている。
 これはなんという皮肉だ。
 なんと陰惨で痛烈な三行半だ。
「指をくわえて見ていろと……そう言いたいのですか、プレシア……?」

96暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:43:56 ID:FwLcIe6A0


「さすがにプレシア・テスタロッサの使い魔……全くの馬鹿というわけではない、か」
 ぽつり、と呟く女の声。
 落ち着いた大人の女性といった声音の主は、黄金色に輝く双眸を、手元のモニターへと向けていた。
 そこに映し出されているのは、かの猫の使い魔リニスの姿。
 己の無力と絶望を噛み締め、呆然とした表情で、1人うなだれる無様な姿だ。
 とはいえ自力でそこまでたどり着けたというのは、さすがは大魔導師の眷属といったところか。
(深刻に捉えすぎてるような気がしないでもないけど、まぁいいお灸にはなったんじゃないかしら)
 リニスの推測通り、彼女は業を煮やしたプレシアの手によって、自らの管理権限を剥奪されていた。
 それまで担当していた職務の数々は、このモニターを見やる女を含んだ、戦闘機人達に分配されている。
 最初はプレシアも、外様に権力を与えていいものか少々迷ったようだが、
 組織のけじめを保つためにも、結局はこうしてリニスへの懲罰を優先したのだ。
 唯一使い魔の認識に間違いがあるとするなら、
 これはあくまで力差を明確に示すための、一時的な罰則に過ぎないということか。
 プレシアが言うには、あくまで第四回放送までの間頭を冷やさせるためのもので、
 それで効果が見られたのなら――余計な行動を取る気が失せたようなら、厳重注意の後に権限を元に戻すつもりだという。
 それにああも深刻なショックを受けているのは、やはりやましい意思があったということなのだろうか。
(さて……問題は彼女よりも、侵入者の方ね)
 思考の矛先を切り替え、監視カメラの映像をシャットアウト。
 その手元に映るモニターへと、ガジェットドローンの制御プログラムを呼び出す。
 リニスの読み通り、この女は――いいや他の戦闘機人もまた、侵入者の存在を認知していた。
 それこそ唯一彼女だけが、蚊帳の外へとはじき出されていたということだ。
(マリアージュはすぐに実戦投入可能だけど、今はまだ必要でもないか)
 視線のみを傍らに流し、内心で呟く。
 その目線の先に存在するのは、ガレアの王と称された少女。
 小柄な身体を薄物に包み、オレンジ色の髪を垂らした、古代ベルカの冥府の炎王――イクスヴェリアだ。
 洗脳プログラムの調整も、指揮権の剥奪も完了している。
 ひとたび彼女を目覚めさせれば、屍の兵士マリアージュは、即座にこの女の下僕となり、彼女の指示するままに働くだろう。
 しかし、今はまだその必要はない。
 所詮ガレアの冥王は、もしもの時の備えでしかない。
 高すぎる攻撃力と自爆能力を有した屍兵では、無用に建物を傷つけてしまう可能性もあるだろう。
 故に、今はまだ必要がない。
 今はガジェット達で用済みだ。
「頼むわよ、ガジェット達。私達のために邪魔者を見つけ出してちょうだい」
 プレシアのために、とは言い切らなかった。
 私達のために、とあえてぼかした。
 女の指がしなやかに踊る。心無き魔導師殺し達へとタクトを振る。
 機械人形のコンダクター――戦闘機人ナンバーⅠ・ウーノは、静かに蜘蛛の糸を張り巡らせていた。


【備考】
※リインフォースとアルフが、「首輪爆破の制御プログラム」「名簿」の二種のデータの存在を確認しました。
※リインフォースによる不正アクセスが、リニスに察知されました。
※第四回放送までの間、リニスのアクセス権限が大幅に制限されるようになりました。
 監視映像の閲覧以外の、ほとんどの権限が凍結されています。
 リインフォースとアルフの侵入も、リニスにのみ通達されていないようです。
※時の庭園内部に、ガジェットドローンⅠ型が複数配備されました。管制はウーノが行っているようです。

97 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:45:34 ID:FwLcIe6A0
投下終了。
今回分でリイン達とリニスを会わせようかとも思ったのですが、残り人数16人とまだまだギリギリ時期尚早だと思ったので、今はこのへんで。

98 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:48:06 ID:FwLcIe6A0
おっとと、いきなり誤字発見。

今はガジェット達で用済みだ。→今はガジェット達で様子見だ。

99少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

100リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 17:15:28 ID:OnNgqnOE0
投下乙です。
そうか、リイン&アルフはまだロワやっている事すら知らないのか(当然平行世界の存在も)。でも、もう発見されているからなぁ……オワタ。
流石にリニスは手を出せなくなったか(厳重注意だろうけど、実質ほぼアウトだからなぁ)……だが、見ているだけしか出来ないという事は……逆を言えば見る事は出来るって事だからなぁ……
だが……ウーノの口ぶりから察するに純粋にプレシアに従順というわけでは無いのが気になるが……(次の話でプレシアによって退場というオチもあるわけだが。)

しかし、これ本編扱いなのか? それとも外伝扱いなのか? どっちにすべきだろう……自分は本編でも良い様な気もするが……(でも、本当にあまり大きな動きのない外部話でもあるわけだしなぁ……)判断に迷う

101リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:14:03 ID:fbjZHEMg0
更に本編に絡む可能性を含むから本編扱いでいいと思うぞ

102リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:23:22 ID:fbjZHEMg0
改めて投下乙
そうか、二人は知らないのか。でもこれは想像も出来ないだろうな…知ったら知ったで…
リニアは絶望してるみたいだがロワでは見ることも重要だぞ。状況が変化したら或いは…
ウーノはやっぱり裏があるみたいだがこれはやっぱり…
これからどうなるかが物凄く気になるわw

103リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:24:03 ID:fM4/b7IkO
投下乙です
リニス、お灸をすえられたか
リイン達はどう動くのか…

個人的な意見としては外伝・本編両方扱いでいいかと
既に本編である前の放送に出てるんだし、登場話が本編なのに登場後ずっと外伝ってのもどうかと思うし
前の外伝話は別に無くてもいい話だったから本編扱いはされていないけど、リイン達はロワ完結に向けてこれからも絡んで来るだろうし

104リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 21:31:58 ID:urpKK1/Y0
投下乙です
リニスは条件付きだが実質打つ手なしか
そういえば目から鱗だがリインとアルフはロワのこと知らないのか
確かに納得

自分としては外伝扱いにした方が無難かと
けじめつけておかないとロワ本編が薄れかねないから

105 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:24:46 ID:Zke0Tok.0
それでは、予約分の投下を開始します。

106強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:26:08 ID:Zke0Tok.0
 この短時間の内に、彼はヴィヴィオに会って、帰って来た。
 天道が齎したその情報は、なのはにとっては重要な意味を持っていた。
 何せこの半日以上、片時も忘れはしなかった大切な一人娘に会って来たと言うのだ。
 そんな一大ニュースを聞いて、なのはが慌てない筈は無かった。

「あ、会ったって……!? 何処で!? ヴィヴィオは無事なんですか!?」
「ああ、とりあえずは無事だ」
「とりあえずって……!」

 天道は飄々とした態度を崩さない。
 しかし、それは逆になのはを安心させる事となった。
 これ程までに落ち着き払っているからには、ヴィヴィオの身は安全なのだろう。
 冷静極まりない天道の視線に見据えられて、なのはも黙らざるを得なくなった。

「――すみません……少し、取り乱してました」
「無理もない、気にするな」
「それで……天道さんは、今まで何処で、何をしていたんですか?」

 まずはそこから話を聞かなくてはならない。
 それから天道が話してくれた話は、先程商店街で大混乱を招いたカードデッキに深く関わる話だった。
 コップの水面から、ミラーモンスターに引きずり込まれたのはなのはも既知の事。
 会場中から集められ、ミラーワールドに集められた参加者は、主犯者も含めて十数人居たと言う。
 そして、肝心の主犯者というのが、先程も話した浅倉威という男。根っからの危険人物らしい。
 浅倉はプレシアが最初に行った見せしめと同じ要領で、二人の若い男女の命を簡単に奪った。
 それを受けてか、集められた参加者のほぼ全員が殺し合いに乗り、戦いを始めたと言うのだ。
 そんな中、天道は自分のライダーシステムであるカブトの奪還に成功。
 カブトとして、戦いに乗った他のライダーと戦おうとした、その時。
 乱入して来たのは、金髪をサイドポニーに束ねた、オッドアイの少女。
 それを聞いた時点で、なのはには大方の予想が出来ていた。
 天道は対話を試みたらしいが、金髪の少女――ヴィヴィオは一向に応じなかった。
 というよりも、ヴィヴィオには言葉すら通用しなかったらしい。
 ただただ“なのはママを傷つけた者を殺す”事だけを戦いの理由にしていたのだ。
 結局何の進展も得られず、突如現れた不死鳥によって自分は元の場所へと連れ戻された。
 それが天道の身に起こった全てであった。

「ミラーワールドの中で、そんな事が……ヴィヴィオ、またあの姿になっちゃったんだ……」
「また……だと?」
「あ、はい……」
「なら今度はこっちから質問だ。幼い子供の筈のヴィヴィオが、何故大人になって戦っていた?」
「それは……」

 今度は、天道からの質問だった。
 ここまで情報を教えてくれた天道に、何も教えない訳には行かない。
 天道のお陰でヴィヴィオの安否も確認出来た事だし、何よりも自分の娘が天道に迷惑を掛けたのだ。
 故に、ヴィヴィオの身に起こった事情を秘匿する理由などは皆無。
 だからなのはは、重い口を開いて説明を始めた。

 そんな二人の耳朶を第三回目の放送の音が叩いたのは、話し始めてから暫く経ってからの事だった。

107強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:26:57 ID:Zke0Tok.0





 ソルジャーの持てる全力。
 それは並みの参加者のそれとは比べ物にすらならない、比類なき力。
 体力面に於いても、持久力に於いても。
 あらゆる面に於いて、ソルジャーは優れている。
 それら全てを出し尽くして、市街地を掛ける。
 目的は、只一つ。

「何処だ……チンク! クアットロ!」

 守るべき、大切な家族を保護する為。
 その為に、戦士は駆ける。





 現在位置は、差し込む光も薄れ始めた、薄暗い喫茶店――翠屋。
 今現在彼女を照らす光源は、傾き始めた太陽による僅かな光のみだった。
 誰も居ない喫茶店。横たわる首無しの惨殺死体。垂れ流しになった体液に、立ち込める異臭。
 そんな場所にたった一人佇む彼女の姿は、ともすれば“異様”とも取れるものだった。

(これでよし……と)

 片手にはキッチンから持ち出した大きめの出刃包丁。
 片手には目の前に転がる死体から剥ぎ取った首輪が一つ。
 首輪の裏には、「シャマル」という名前が刻まれていた。
 クアットロがこの翠屋に訪れたのは、これで二度目になる。
 一度目は、八神はやてとシャマルと共に。
 二度目は、死んでしまったシャマルの首輪を回収する為に。

(想像はしていましたけど、やはり死体から外しただけでは首輪は爆発しない、と……)

 心の中で呟きながら、首輪を無事回収出来た事に安堵。
 死体から首輪を外しても爆発しない――これに当たって、考えられる理由は二つ。
 一つは、首輪自身に装着者の生死を認識する能力がある、という可能性。
 一つは、主催側が常に見張っていて、危険と思った時点で爆発する、という可能性。
 何とかして解除するのであれば、機械的な前者の方が都合がいいが。

(……ま、これに関しては、もう少し下調べが必要ですわね)

 何の情報も持たない今、これについて思考しても進展は無い。
 状況を進展させる為には、首輪を解析するだけの設備が整った施設へ向かう必要がある。
 そして、首輪を解析する事が可能なラボとして思い当たるのは、二つ。
 片方は、自分達ナンバーズを生み出したスカリエッティのアジト。
 もう一つは、仮面ライダーを生み出したスマートブレイン本社ビル。
 この二つの施設ならば、首輪を解析するくらいの設備は整っているだろう。

108強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:27:39 ID:Zke0Tok.0

(最も、プレシアが何も対策を講じて居ないとは考えにくいですけど)

 もしも自分が主催側であれば、首輪を解除させるだけの施設なんて態々設置してやる程優しくは無い。
 仮に解除できたとしても、先程考えた通り、会場毎捨てられてしまえばそれでお終いだ。
 故に、迂闊に首輪を解除する様な馬鹿を野放しにする訳には行かない。
 そんな馬鹿は始末するなり自分の管理下に置くなりする必要性がある。
 そして、管理した上で必要となるのが、確実に勝利を収めるだけの戦力と、確実に首輪を解除する為の頭脳。
 後者については他ならぬ自分自身の存在を勘定に入れれば、頭脳としては既に大きな戦力を持っている事になる。
 それらを揃えて、失敗が許されない完璧なタイミングで首輪を解除しなければならないのだ。
 状況は、当初クアットロが想像していた以上に不利。

(不本意ですけど、このゲームからの脱出はもう、私個人の問題では無いという事ですね)

 自分一人ではどうしようもない。
 かといって、自分を警戒している参加者だって多いであろうこの状況下で、下手な演技は逆効果。
 これはあの無能な夜天の主の例から考えても、既に実証された事実だ。
 出来もしない演技に掛けて、窮地に立たされるのは御免被りたい。
 不本意この上無い事だが、ゲームから脱出するまでは、小競り合いをしている場合では無いのだ。
 管理局員や他の世界の勢力と手を組んででも、確実にこのゲームから脱出したいところだ。

(まず、アンジール様は何としてでも味方に付けるとして……でもでも、もうゲーム開始から随分と時間も経ってますしぃ……
 純粋な対主催勢力ってあとどのくらい居るんでしょう……下手をすれば、もう皆死んでしまったって可能性も……)

 無きにしもあらずだった。
 そもそも、殺し合いに乗らず、皆と一緒に戦う……なんて甘ちゃんはこのゲームでは生き残れない。
 シャマルだってそうだ。その甘さ故に、信じて居た主からボロ雑巾の様に捨てられ、死んでいった。
 生き残っているとしたら、純粋にゲームに乗った参加者と、戦えるだけの力を持った対主催勢力のみ。
 現在誰が生き残っているのか、性格な情報が欲しい。
 その為には、6時から始まる放送を確実に聞きたい所だが――

 『こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。 』

 おりしも、放送が始まった。
 まずはこの放送を聞いて、残った戦力について考える必要がある。
 ――のだが、それ以前に引っ掛かる事が一つあった。

(え……この声って、まさか……というかやはり……)

 一応、考えてはいた。
 もしかすれば、自分達の創造主であるジェイル・スカリエッティも関わって居るのではないかと。
 クアットロが尊敬する数少ない人物の一人――スカリエッティならばやりかねない、と
 例え自分の手駒だとしても、他の平行世界に存在するクアットロならば容赦なく斬り捨てるだろう。
 そして、淡々と放送を読み上げる声の主は、まさしくスカリエッティの手駒の一人であった。

109強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:28:12 ID:Zke0Tok.0





 まるで早送りの映像でも見ているかのように、街の景色は流れて行く。
 それも全ては、アンジールの人並み外れた走力が成せる業だった。
 アンジールはまだ知らない。
 守るべき、家族の死を。
 斃すべき、友の死を。

「放送――もう6時かッ!」

 耳朶を打ったのは、6時間毎の定時放送。
 自分の周囲で起きている事実など知る訳も無く。
 何も知らないアンジールへと、残酷な運命は付き付けられた。





 6時の放送が終わってから、経過した時間は既に一時間弱。
 たった二人しかいない事務所は今、深い悲しみに包まれていた。
 悲しみの原因は最早語るまでも無く、先程行われた放送だ。

 先程まで共に行動していたペンウッドとC.C.は死んだ。
 誤解を解かねばならない筈だった騎士、ゼストも死んだ。
 大切な教え子であるキャロも、まだ幼いルーテシアも死んだ。
 10年間という長い時間を共に過ごしてきたシャマルも、フェイトも死んだ。
 亡くなってしまった命はもう戻っては来ない。
 皆なのはにとっては大切な人間だった。
 いくら精神が強いとは言え、それに耐えて平静を保てる程、なのはの精神は頑丈では無かった。 
 そして、それが解っているからこそ、天道も下手に声を掛けはしなかった。
 天道にしても、守るべき命を19人も殺されて、全く意気消沈していないと言えば嘘になる。
 例え見ず知らずの人間であっても、罪の無い人が死んで行くのは天道の意思に反する。
 ここまでの自分は、余りに無力過ぎた。
 自分がもっとまともに戦えて居れば、救えた命もあった筈なのだ。 
 デスゲームが始まってからの戦いを振り返れば、そう思うのも仕方が無い。

(それにしても……ヴィヴィオ、か)

 不意に、思い出す。
 今回の放送では、その名が呼ばれる事は無かった。
 戦闘の意思を見せなかったとは言え、カブト相手にあれだけの戦闘力を発揮したのだ。
 そう簡単に他の参加者に殺されてしまう心配は無いだろう。
 というよりも、逆に他の参加者を殺してしまうのではないかと言う懸念すらある。

(そうなる前に、ヴィヴィオを止めたいが)

 ヴィヴィオに関する話は、大体高町なのはから聞いている。
 なのはが初めてヴィヴィオに出会ってから現在に至るまで、あらゆる話を、だ。
 始めは本当に甘えん坊で、一度なのはから離れるとなれば、大泣きは避けられなかった事。
 その度に宥めるのが大変で、それでもなのははヴィヴィオの仮初の母親として接した事。
 やがて正式になのはがヴィヴィオを引き取る事が決まって、晴れて本当の母親になれた事。
 これから本当の家族としての時間を一緒に過ごして行こうと、この親子の未来は輝いていた事。
 それらの話を天道に聞かせる時、なのはは何時になく饒舌で、楽しそうな顔をしていた。
 そんななのはの顔を見れば、どんな思いで母親としてヴィヴィオを世話していたのか等、すぐに解った。

110強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:28:59 ID:Zke0Tok.0

 天道から言わせれば、高町なのはという人間は、間違いなくヴィヴィオの母親だ。
 この親子の間に、血の繋がりだ聖王のクローンだなんて事は一切関係無い。
 揺るぎ無い絆で結ばれた二人は、誰が何と言おうと間違いなく家族なのだ。
 だからこそ、それは天道に決意をさせる十分な理由となり得た。

(もう一度、高町が楽しそうに笑う顔が見たくなった)

 絶対に、もう一度ヴィヴィオとなのはを再会させる。
 そして皆で揃ってプレシアを打破し、このゲームから脱出する。
 その時にはきっと、なのはは再び笑顔を取り戻してくれるだろう。
 彼女ならば、多くの仲間を失ってしまった悲しみを乗り越えられる筈だと、信じて居る。
 だから、もうこれ以上は誰も死なせない。
 生き残った全員の命を救った上で、何としてもこの親子を守り抜いて見せる。
 それが、天道の決めた新たな方針だった。





 守る為に、殺す。
 大切な者を守る為なら、それ以外の命など取るに足らない。
 かつてのアンジールならば、そんな考えは持たなかっただろう。
 だが今は違う。違ってしまった。
 守るべき者を知った時、人は変わるのだ。
 
「また俺は、守れなかったのか」

 そして、守るべき者まで失ってしまったと知った時――





 既に日が落ちた市街地を進む影があった。
 否、それは正確には影と言える物では無い。
 他者からすれば、影すら見えない不可視の物質。
 戦闘機人ナンバーズが4番目――クアットロ。

(頼もしいのはいいんですけど……少し速すぎじゃありません事?)

 クアットロは、心中で思う。
 先程翠屋の中で、自分は確かに見た。
 偽りの兄妹、戦闘機人・アンジールの姿を。
 その桁違いの走力で、市街地を駆け抜けて行く勇姿を。
 戦闘能力はセフィロスにも追随するトップクラス。
 走力・体力・持久力。共に化け物染みたレベル。
 頼もしいったりゃありゃしない。
 ――追い付くことが出来れば、の話だが。

(もう、一体全体この数分間でどれだけ先へ行ったって言いますの……!?)

 事実としてクアットロは、アンジールに追い付けずに居た。
 そもそも前線に出る事のないクアットロが、クラス1stの走力に追い付く事自体が難しい事なのだが。
 それでも、折角見付けた千載一遇のチャンス。
 みすみす逃すわけにはいかない。

(そう……セフィロスは死んだ様ですけど、まだ他の脅威が残っている事に変わりはありませんから)

111強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:29:30 ID:Zke0Tok.0

 セフィロスクラスに対応出来るだけの戦力を味方に付けて置くに越したことは無い。
 あれだけの戦力を持った者が味方に居れば、それだけで戦略の幅は広がるのだ。
 故に、何としてもアンジールを見逃す訳には行かないのだ。
 何としてもアンジールを取り込まねばならない。

(それにしても……はやてさんは一体どんな手を使ったんでしょう。
 まさかあの状況から、セフィロスだけを殺して生き残るなんて……)

 クアットロの知る限り、八神はやては何の道具も持ち合わせては居なかった。
 だとすれば、考えられる方法は絞られてくる。
 他の参加者と合流し、助けて貰ったか、何らかの方法で油断させ、不意を打ったか。
 まぁ、普通に考えたら前者の方がよっぽど現実的だが。

(だとすれば、少々やっかいですわねぇ)

 はやてには少々、余計な事を言い過ぎた。
 自分の悪行を広められてしまっては、余計に動きにくくなると言う物。

 ――否、自分はあの無能な部隊長と違って、まだ人殺しをしてはいない。
 どうせ最初から自分は警戒されているのだ。素直に信じてくれる御人好しなんてそうは居ないだろう。
 それなら、まだいくらでもやり様はある。
 何せ端から日和見に傾く腹積りだったのだ。
「様子見の為の嘘でした、ごめんなさい。もう嘘は付きません」と行っておけば、後は機転を利かせればどうとでもなる。
 故にはやてに関しての問題はそこまで大きな問題とは言えない。
 何せ既にギルモンやシャマルを殺しているはやての方が、状況は圧倒的に不利なのだから。

(で、主催側にはやはりドクターが絡んで居たようですけど……)

 自分を参加させている事から考えるに、「スカリエッティに頼ってゲームからの脱出」は絶望的だろう。
 ゲームから脱出させる為には、“この世界のスカリエッティ”すらも欺かなければならない。
 だが、それに関してはもう悩む必要も無い。
 スカリエッティだって平行世界の自分をこうも簡単に斬り捨てたのだ。
 自分だってそんなスカリエッティに忠義を尽くす義理は無い。
 クアットロが唯一使えるのは、クアットロが居た世界のスカリエッティなのだから。

(故に、この世界のドクターは敵……ま、これに関しては考えるまでもありませんね)

 その判断は、至って単純なもの。
 問題はそれよりも、どうやってスカリエッティを出し抜くか、だ。
 別の世界とは言え、相手はあのスカリエッティなのだ。
 生半可な計画では容易く見抜かれてしまうだろう。
 何とか仲間を集めて、上手くシルバーカーテンと組み合わせて首輪を解除する。
 シルバーカーテンの能力は絞られているとはいえ、頭脳戦に於いてこれ程に心強い物は無い。
 必ずやこの能力は役に立つ。それだけの確信がある。
 だから、今は焦らず仲間を集めるのだ。

112強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:30:03 ID:Zke0Tok.0





 失った者は、この場に残った家族。
 失った者は、この場に残った親友。
 出来る事ならば、家族を傷つけた友は、この手で倒してやりたかった。
 それが友、セフィロスに出来るせめてもの手向けだった。
 だが、それももう出来ない。
 そして何よりも。

「チンク……」

 守るべき者を失った時、人はやはり変わる。
 もうアンジールに、精神的な余裕など残されている筈も無かった。
 守護の対象は、クアットロ一人に絞られた。
 クアットロを守り抜く為ならば、何だってする。
 妹を守る為ならば、他の全員を殺すことも厭わない。
 アンジールは再び、アスファルトを蹴った。
 友と家族の死を、その剣に背負って。





 小さな非常灯に照らされた事務所内。
 音一つ無い、静かな世界だった。
 否、正確には全くの無音では無い。
 声にもならない嗚咽。
 絞り出す様な泣き声。
 それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。
 年配者なのに、自分に頼りっぱなしで、戦力としては数えられなかった。
 だけどその半面、彼は誰よりも気高い勇気を持った男だった。
 自分の命を投げ出してまで、なのはを救ってくれたのだ。
 そんな事、簡単に出来る事じゃない。
 C.C.はC.C.で、基本無表情で、何を考えているのか解らなかった。
 だけど、殺し合いに反発していたのは間違いない事実。
 ルルーシュという人物と再会する為に、共に闘う筈だった。
 だけど、C.C.も、ルルーシュも、死んでしまった。
 もう、二人が再会する事は無くなってしまったのだ。

(キャロ……騎士ゼスト……)

 キャロはまだ10歳の女の子で、なのはの教え子だった。
 こんな殺し合いに参加させられて良い訳が無い、将来有望な子供だったのだ。
 それも、なのはが一から魔法のいろはを教えた少女が、こんな下らない戦いで死んでしまった。
 エリオも、ティアナも、キャロも、皆死んでいく。
 ゼストだって、キャロ以上に頼もしいストライカー級魔道師だったのに。
 これからゼストと合流して、誤解を解かねばならないと思っていたのに。
 それも果たすことなく、その命は再び散ってしまった。

(シャマルさん……フェイトちゃん……!)

113強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:30:40 ID:Zke0Tok.0

 何よりもなのはの胸を締め付けるのは、10年来の仲間の死。
 二人とも、この10年間をずっと共に過ごしてきたのだ。
 闇の書事件以来、心強い味方として御世話になっていたシャマルさん。
 辛い時も、楽しい時も、共に数多の戦場を駆け抜けて来たフェイトちゃん。
 特にフェイトの死は、ここへ来てから二度目になる。
 幾ら心を鋼鉄で武装しようにも、耐えられる訳が無かった。

 泣くだけ泣いて、顔を上げた。
 時計を見れば、既に放送から一時間弱が経過していた。
 背後に人の気配を感じ振り向けば、そこに居るのは天道総司。
 この人はまた、自分に気を遣ってくれたのだ。
 一時間近く泣いている間、何も言わずに休ませてくれたのだ。

「ごめんなさい……もう大丈夫です」
「そうか」

 涙を拭って、立ち上がる。
 これ以上、ここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 フェイトだって、死んだ皆だって、きっとここでなのはに挫けて欲しくは無い筈。
 彼女らが成せなかった事を、自分が成し遂げて見せる。
 散って行った皆の意思を継いで、このゲームを破綻させて見せる。
 決意を新たに、天道に向き直った

「ならば、今すぐゆりかごへ向かうぞ」
「え……?」
「何だ、聞こえなかったのか。ゆりかごへ向かうと言っているんだ」
「い、いや……そうじゃなくって、どうして」
「愚問だな。逆にお前がゆりかごへ向かわない理由があるなら聞かせてみろ」

 なるほど、そういうことか。
 天道は、ヴィヴィオを救うつもりで居るのだ。
 だから、聖王と関わりの深いゆりかごへ向かうと言い出した。
 他にヒントが無い以上、ヴィヴィオの手掛かりはゆりかごにしか無いのだ。

「でも、他の皆だって助けなきゃならないのに」
「無理をするな。お前だって本当は一番に助けたいんじゃないのか?」
「……はい。たった一人の、娘ですから」
「それでいい。もしもお前が娘よりも他の参加者を優先していれば、俺はお前に失望していた」

 なのはは思う。
 天道総司という人間は、一見クールに見えて、実は人間臭い。
 金居曰く“正義の味方”という建前の元で戦う男という事だが、それは間違いだ。
 この男は正義だとか、英雄的行為だとか、そんな物に縛られてはいない。
 ただ自分の信じる正義に従って、守りたい道を貫き通す。
 ある意味では、どんな英雄よりも信用出来るタイプだ。

「でも、ゼロはどうするんですか?」
「下らん……奴はキングだ。これ以上奴のお遊びに付きやってやれる程、俺達は暇人でも御人好しでも無い」

 天道が、さもつまらなさそうに言ってのけた。
 なのはも薄々は感づいて居たが、確かにゼロはキングの可能性が高い。
 ペンウッドとC.C.の二人は死んだのに、キングだけは死んでいないのだ。
 それだけでキングを犯人だと決めつけるのはどうかと思うが、もう一つ、犯人をキングだと断定させる理由があった。
 それは、口で嘘を吐く事は出来ても、どうしたって隠し切れはしない物――瞳に宿る光だ。
 キングの瞳に宿った邪気は相当な物だったし、それに気付けないなのはでも無い。
 恐らく、ゼロはキングで間違いないだろう。
 故に、これ以上ここに留まる理由も無い。
 二人はすぐに行動を開始した。

114強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:31:19 ID:Zke0Tok.0





 最早、言葉は必要ない。
 目の前に敵が居るならば、それを駆逐する。
 アンジールの視界に映っているのは、確か管理局のスーパーエース。
 管理局であるなら敵だ。我ら家族の敵だ。
 相手が敵ならば、持てる全力を尽くして叩き潰すまで。
 例え夢も誇りも失ったとしても、最後に残ったものだけは失いたく無いから。
 家族を守る為。そんな大義名分を盾に、八つ当たりにも似た襲撃を開始した。





 放送を聞き終えたヒビノ・ミライは、たった一人市街地を歩いていた。
 その表情は、暗い。ミライの周囲を覆う夜の闇よりも暗い。
 理由は単純明快、先刻行われた放送。
 死んでしまった参加者の人数は、19人。
 前回の放送の比では無い。
 余りに多すぎる。

(こうしている間にも、19人も死んでしまうなんて……)

 その中には、先程目の前で殺されたあの人も含まれているのだろう。
 19人も名前を読み上げられれば、その中の一人を特定するのは難しい事だが。
 そして何よりも、ミライを最も悔やませるのは、その中で呼ばれた一人の名前。

(万丈目君……)

 万丈目準。
 ミライと行動を共にする、おジャマイエローの相棒。
 おジャマイエローが再会を望む、最愛のパートナー。
 絶対に再び合わせると約束したのに、それを果たす事無く、その命は奪われてしまった。
 これでは、おジャマイエローに合わせる顔が無いと言う物。
 幸か不幸か、おジャマイエローはデイバッグに引きこもっていた為に、この放送を聞いてはいない。
 このまま言わなければ、万丈目の死を知らずに済むかもしれないが……

(……いや、そんな訳には行かない)

 脳裏に過った考えを振り払う様に、ミライは首を振るった。
 確かに知ることが無ければおジャマイエローが悲しむことは無いだろう。
 だが、それは間違っている。
 本当の事を言わずに方便の嘘を吐いた所で、それはその場凌ぎでしか無いのだ。
 いつか知ってしまうなら、正直に話すべきだ。
 だが、ミライはそれでも悩む。

(一体、どんな顔をして伝えればいいんだ)

 守ると約束して、守れなかった。
 何も出来る事無く、目の前の男を死なせてしまったばかりか、約束の一つも守れない。
 こんな事で、何が光の国の戦士だ。何がウルトラマンメビウスだ。
 瞳を食いしばって、自分の無力に打ちひしがれる。
 どうしてこんなにも守れないのだろうか、と。
 そんな時だった。

115強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:31:50 ID:Zke0Tok.0

 ――キィン。

 微かに聞こえた、金属と金属のぶつかり合う音。
 全ての思考を一時的にかなぐり捨てて、ミライは顔を上げた。
 これは恐らく、と言うよりも間違いなく、戦闘音だ。
 金属と金属がぶつかり合う、戦闘による効果音。
 誰かがこの近くで、戦っているのだ。

(音は……ここから近い!)

 今ならばまだ間に合う。
 この戦闘を止めるのだ。
 今度こそ、守って見せる。
 その為に、ミライは駆け出した。

116強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:35:22 ID:Zke0Tok.0
 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

117強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:36:34 ID:Zke0Tok.0
 



 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

「そんな鎧で、ソルジャーに勝てると思うなよ」
「俺の事よりも、自分の心配をするんだな」
「何だと」
「お前こそ、そんなナマクラで俺の命を奪えるとは思わない事だ」
「……随分と、ナメられたものだな」

 バスターソードを握る手に、自然と力が込められる。
 この男は父から受け継いだ誇りをナマクラと言った。
 アンジールの夢を、アンジールの誇りを、ナマクラと言った。
 最早この不遜な男との戦闘はどうあっても免れない。
 二人の戦闘の火蓋は、ここに斬って落とされた。

118夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:39:38 ID:Zke0Tok.0
>>116はミスです。このレスから後半になります。

///////////////////////////////////////////////


(どっちも凄い……全くの互角だ)

 高町なのはが、心中でぽつりと呟いた。
 大剣を操る戦士・アンジールと、最強の仮面ライダー・カブト。
 二人の戦いは、熾烈を極めて居た。
 アンジールが大剣を振るえば、カブトが斧で受け止める。
 カブトが斧を翻せば、アンジールの大剣が弾き返す。
 それらを、一般人では感知出来ぬ程のスピードで何度も何度も繰り返す。
 お互いに決定打となる一撃を与えられぬまま、そんな攻防が繰り返されていた。

「どうした。我武者羅に剣を振るうだけでは、この俺には敵わんぞ」
「うおおおおおおおおおおッ!!」
「やれやれ。完全に頭に血が昇ってる」

 高速で刃と刃を交えながら、カブトの仮面の下からため息が漏れた。
 アンジールが振り下ろした大剣を、今度は受け流さずに、回避した。
 その腕に自分の腕を組み、アンジールの動きを封じた上で、カブトがアンジールの顔を覗き込んだ。
 無機質な仮面の、青い視線。激情に身を任せた、青い視線。
 二つの視線が交差する。

「おばあちゃんが言っていた。男はクールであるべき……沸騰したお湯は、蒸発するだけだ。ってな」
「何ィッ!?」
「答えろ。お前の家族は、本当にお前が殺し合いに乗ることを望んでいるのか?」
「俺もあの子らも兵士だ! 殺す事にはもう慣れた!」

 それは、既に何度も口にした言葉であった。
 一度目はヴァッシュに。二度目ははやてに。
 スカリエッティの元で育てられた彼女らならば、なるほど確かに殺しに躊躇いは無いだろう。
 だが、アンジールの返答は、天道にとってはどうにも腑に落ちない返答であった。

「ほう、それは可笑しな話だな。殺すことには慣れた筈のお前が、その剣には迷いを乗せている」
「何を――!」
「お前はどうしようも無い奴だが、平気で人を殺せるような奴じゃないって事だ」

 果たして、カブトの言う事は正しかった。
 しかし、それは以前までのアンジールならば、の話だ。
 かつてのアンジールならば、より多くの人々の為に。人々の命を救う為に。
 そんな目的の為に戦っていた事だろう。
 だが、それはもう過去の話。

「お前に何が解る! お前に俺の気持ちが解るのか!
 大切な家族を、友を失った俺の気持ちが解るのかッ!」
「解るさ。俺にだって」
「黙れぇぇッ!!」

 もう一度カブトと刃を交えれば、アンジールは後方へと跳び退った。
 ほんのひと跳びで、カブトの攻撃が届かない距離まで後退する脚力は、まさに驚異。
 しかし、カブトに驚く暇など与えられはしなかった。

119夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:40:35 ID:Zke0Tok.0

「ほう」

 心を埋め尽くす激情を体現するかの様に、アンジールの身体に変化が起こった。
 右の背中から、まるで蝶がその羽で蛹の殻を破るよう――
 現れたのは、天使の羽と見まごうばかりの、純白の片翼。

「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 怒号と共に、その翼を羽ばたかせた。
 たった一度の羽ばたきで生み出されるのは、弾丸をも超える超加速。
 重厚な鎧を着込んだカブトに、そんな加速を受け止められる筈が無かった。
 刹那、叩き込まれたのは化け物染みた怪力によって振り下ろされた大剣による一撃。
 咄嗟の判断で、というよりも反射的に、斧を構えたカブトの腕を弾いて、大剣がカブトの胸部装甲を裂いた。
 どすんっ! と大きな音を立てて、組み伏せられたカブトの身体が、周囲のアスファルトと共に地面へと陥没した。
 こうなってしまっては、如何に強かろうが、もうどうしようも無い。
 カブトの身体を踏み締めて、アンジールが叫んだ。

「俺の、勝ちだッ!」

 結果は、アンジールの勝ち。カブトの負け。
 ソルジャーの、それも“1st”を相手に、カブトは良く戦った。
 確かに手強い相手ではあったが、悲しいかなカブトの力はアンジールには届かなかったのだ。
 ともあれこれで、妹たちにとっての脅威を一つ、排除する事が出来た。
 次は、そうだな。この男と一緒に居た高町なのはをどうするか。
 何せ高町なのはは管理局のエース・オブ・エースだ。
 戦力で言うなら、かなりものである事は間違いない。
 しかし、それについて考える時間が訪れる事は無かった。
 さて、どうするか――と考え始めようとしたアンジールの現実は、覆されたのだ。

「甘いな」
「な――ッ」

 声が聞こえた。
 どこから聞こえた?
 アンジールの、真下からだ。

 ――CAST OFF――

 電子音が響いた。
 それからアンジールは、ようやく理解した。
 自分が切り裂いたのは、カブト本体では無い。
 自分が切り裂いたのは、カブトが着込んだ重厚な装甲に過ぎない、と。
 片翼の突進力と、ソルジャーの怪力を以て放たれた一撃を食い止めるとは、何たる装甲か。
 その装甲が、アンジールの眼下、カブトの身体から剥離しはじめた。
 何が起こるのかと理解するよりも先に、アンジールはバスターソードを引き抜こうとした。
 されど、もう遅い。

120夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:41:17 ID:Zke0Tok.0

「く……ッ!!」

 カブトの身を包んでいた装甲が、弾け飛んだ。
 拡散する装甲が生み出したのは、驚異的な加速力。
 バスターソードが食い込んだままの胸部装甲が、カブトから離れる。
 カブトの頭部や腕を守っていた装甲が、アンジールの身体を直撃する。
 押し出される様に、アンジールの身体は後方へと吹っ飛ばされた。
 されど、アンジールもさるもの。
 むざむざアスファルトに叩きつけられまいと、空中で純白の片翼を羽ばたかせた。
 アンジールの身体は空中で一回転を加えて、減速。アスファルトへの着地、成功。
 バスターソードを振り抜いて、食い込んだままの装甲を投げ捨てた。

 ――CHANGE BEETLE――

 見れば、先程までの無骨な銀とは違う、赤の戦士がそこに居た。
 メタリックレッドのスリムな装甲。輝きを放つ青い複眼。マスクの中央の一本角。
 なるほど、確かにカブトムシは夜になってから行動を開始する。
 まさにカブトを名乗るに相応しい、と皮肉を込めた印象を抱いた。
 昼間まで寝たり、まともに戦えなかった天道の事を考えれば、あながちカブトムシという比喩も間違ってはいないのかも知れない。
 何故なら雑木林に住む昆虫のカブトムシもまた、昼間は土の中や木の皮の裏で眠っているのだから。
 まあ、そんな話はどうでもいい。

「それが本当の姿か」
「それはこっちの台詞だ」

 見下ろすアンジールに、カブトが崩れぬ余裕と共に投げ返した。
 純白の片翼を羽ばたかせ、宙に浮かぶアンジール・ヒューレー。
 赤い装甲を煌めかせ、ライダーフォームへの変身を遂げたカブト。
 二人の姿は、揃って先程までとは違っていた。


 カブトの装甲に身を包んだ天道は、思う。
 この男、殺す事に慣れたなどと言ってはいるが、それは正確ではない。
 もしもこれだけの実力を持った男が最初から殺すつもりで挑んでいたなら、マスクドフォームのままで戦っている余裕など無い。
 相手の力量を図る為にあえて様子見をした、と言えば聞こえはいいが、それはそれで不自然だ。
 どうせ殺すつもりなのであれば、最初から片翼を解放して、最初の一撃で仕留めればいいだけの話。
 片翼を最初から解放しなかった理由として、油断していた、というのも考えられるが、やはりそれも無いだろう。
 この男は、激情に身を任せて我武者羅に剣を叩き付けて来た。
 そんな“キレた”奴ならば、尚更最初から一撃で終わらせに掛っていた方が合理的だ。

(恐らくこいつは、放送で家族の名前を呼ばれているな)

 それが、天道が思い至った結論であった。
 家族の名前が放送で呼ばれたからこそ、これだけキレているのだろう。
 大方他の参加者を皆殺しにして、死んでしまった家族を生き返らせようとか、そんな事を考えているのだろう。
 もしもそうだとしたら、こいつには手の付けようがない。
 家族を失ってしまった者の行動は、ある意味天道が一番理解出来て居る。

「なるほどな。参加者を殺して勝ち残れば、死んでしまった者を生き返らせる事が出来るとでも思っているのか」
「それだけじゃない。最後に残った“妹”を守る為にも――他の誰も、あの子には近づけさせん!」
「妹、だと……?」

 仮面の下で、表情を歪める。
 何たる皮肉であろうか、目の前の男が守ろうとしていたのは、妹だという。
 あろうことか、こいつが戦う理由は、天道が戦う理由と同じ。妹を守る為。
 天道は心の奥底で、怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。
 その気持ちが何なのか、すぐには理解出来なかった。

121夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:42:07 ID:Zke0Tok.0
 
「ハッ!」
「チッ」

 カブトの狼狽を知ってか知らずか、先に打って出たのはアンジール。
 再び先程と同じ要領で加速を得て、カブトへと突貫したのだ。
 流石に装甲が無くなった今、正面から攻撃を受け止めるのは拙い。
 横方向へと跳び退りながら、滑らす様にカブトクナイガンを大剣にぶつける。
 突進の威力をそのまま受け流して、体勢を立て直す。
 お互いに万全の状態で得物を構え。

「「ハッ!!」」

 二人の掛け声が、揃った。
 アスファルトを蹴って、駆け出したカブト。
 片翼を羽ばたかせて、加速するアンジール。
 きぃん! と、甲高い金属音を打ち鳴らして、二人の刃が激突した。
 正面からの激突によって発生したのは、二人を襲う衝撃。
 二人の身体は、正反対の方向へとふっ飛ばされた。
 しかし、二人は超人である。
 みすみすコンクリートに身体を打ち付けはしない。

「ハッ」
「フンッ」

 呼吸音と共に、二人が蹴ったのはビルの壁。
 それぞれ向かい合ったビルのコンクリの壁を蹴って、再び跳躍。
 そのままの加速を殺す事無く、二人の身体は再び舞い上がった。
 今度は、空中。

「「ハァッ!」」

 イオンビームを纏った刃が、誇りの象徴たるバスターソードと激突した。
 されど、この戦いは互角では無い。
 空中戦闘に於いては、翼を持ったアンジールの方が圧倒的に有利。
 激突したクナイガンを弾き返し、アンジールは再び翼を羽ばたかせた。
 空中での推進力を失ったカブトに、これ以上の攻撃は不可能。
 それを理解した上での、大剣での追撃。

 ――CLOCK UP――

 バスターソードによる追撃の一太刀は、しかしカブトには当たらなかった。
 大剣の刃がカブトに激突する瞬間に、カブトは腰を叩いたのだ。
 ZECTが開発したマスクドライダーに標準装備された、クロックアップシステム。
 使用者を、通常の時間軸から空間ごと切り取る事で得られる、光速に近い超加速。
 クロックアップが相手では、例えアンジールと言えど太刀打ち出来る訳が無かった。
 この瞬間からは、カブトのみに感知出来る世界。
 
 突き出されたバスターソードの刃を掴んだ。
 そのまま腕に力を込めて、自分の身体を持ち上げる。
 ひらりと翻った身体で、バスターソードの上に爪先で着地した。
 次に右脚を踏み出して、アンジールの肩を踏み締め、跳躍。
 後方の雑居ビルへと跳び、その壁を蹴って、再びアンジールへと加速した。

122夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:42:48 ID:Zke0Tok.0
 
 ――CLOCK OVER――

 しかし、カブトの思い通りには行かない。
 カブトの攻撃がアンジールに届く前に、クロックアップが切れたのだ。
 クロックアップ中に飛び蹴りを当てる戦法、失敗か。
 否、まだ失敗した訳ではない。クロックアップによるアドバンテージは大きい。
 アンジールが感知するよりも速く、キックを当ててしまえばいいだけだ。
 されど、戦いとはやはり思い描いた通りにはならないもの。

「――後ろかッ!」

 アンジールが、片翼を羽ばたかせて、方向転換をした。
 何と言う反射神経だ。この男は、クロックアップによる連携攻撃に生身で着いて来たのだ。
 ライダーやワームですら、これ程の反射神経を持った者はそうはいまい。
 アンジールは、その化け物染みた反射神経を以て、バスターソードを構えた。
 横幅の広いバスターソードを盾代わりに、カブトのキックを受け止めようと言うのだ。
 されど、カブトのキック力は7トン。当然、受け止め切る事など、出来る訳も無く。
 アンジールの身体は、後方へとふっ飛ばされた。


 スーパーの屋上に着地したアンジールは、バスターソードを杖代わりに立ち上がった。
 足場に突き立てたバスターソードの柄を握り締め、アンジールは思う。
 クラス1stのソルジャーと何度もかち合って、未だお互いに決定打無し。
 この男は強い。文句なしに強いと認めざるを得ない。
 何せ、クラス1stの自分と渡り合えるだけの力を持っているのだ。
 強い。文句なしに強い。
 戦闘におけるセンスは自分と同等か、それ以上だろう。
 もしもこんな戦士が神羅に居たならば、さぞかし立派なソルジャーになれた事だろう。

「強いな。大口を叩くだけの事はある」
「当然だ。何てったって、“俺が最強”なんだからな」
「ならば、尚更だ。“最強”のお前を倒せば、妹の安全はより保証できる」
「お前には無理だ」

 その身体能力を以て、カブトが屋上まで駆け上がって来た。
 俺が最強、と言う言葉を強調して、不遜な態度を崩す事無くうそぶいた。
 だが、最強を自負するからには、この男の戦い方は少し甘すぎる。

「お前の攻撃には、殺意が無い……本気で戦う気は無いのか」
「馬鹿馬鹿しい。俺は最初から本気だ。
 最も、あの生け好かない女に従って誰かを殺すつもりは毛頭ないがな」

 なるほど、この男は殺し合いに乗ってはいない。
 不思議な男だ。ヴァッシュとはまた違って意味で、だ。
 剣を交えたからこそ解る、一種の信頼にも似た感情を、抱き始めて居た。
 これから妹以外の全員を殺して回らねばならないというのに、自分は何をしてるんだと、自嘲した。
 そうだ。死んでしまったチンクとディエチの分まで、俺はクアットロを守らねばならない。
 放送を読み上げた人物もまた掛け替えのない家族の一人だが、そんな事は後で考えれば良いだけの話。
 今考えるべきは、クアットロを守る事だけだ。
 その為にも、この男を叩き潰してでも前に進まねばならないのだ。

123夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:43:20 ID:Zke0Tok.0
 
「殺す前に聞いておこう。お前の名前は?」
「俺は天の道を往き、総てを司る男――天道、総司」
「そうか。俺はソルジャー・クラス1st――アンジール・ヒューレー」

 二人は再び、剣を構えた。
 これで、思い残す事は何もないだろう。
 戦士として戦い、戦士として葬ってやるまでだ。
 魔晄の輝きを宿したその瞳に、再び殺意が込められた。

「ハァッ!」

 アンジールはその片翼を羽ばたかせ、カブトへと突貫した。
 振り下ろす大剣を、しかしカブトは難なく回避する。
 そのままカブトの横を通過したアンジールは、振り向き様に片手を翳した。
 刹那、アンジールの手から灼熱の業火が放たれた。
 マテリアルパワーの一つ、ソルジャーが使う“魔法”。

「チッ」
「ハァァァァァッ!!」

 仮面の下で、舌を鳴らしながら地面を転がって回避した。
 しかし、ファイガは容赦なくカブトの周囲を焼き尽くす。
 火球の直撃を避けた所で、周囲の炎による熱がカブトを蝕む事に変わりは無い。
 炎を振り払う様に足掻くカブトに、アンジールは大剣を構え再び突貫した。

 戦力を見誤ったのはアンジールであった。
 マスクドライダーの装甲は、炎に焙られた程度で傷つきはしない。
 それどころか、内部の装着者には熱は全く届かない。
 ただ反射的に腕を振り払ったのを、アンジールは炎による攻撃が利いていると勘違いしたのだ。
 きぃん! と、甲高い金属音が鳴り響いた。
 アンジールの大剣を、カブトクナイガンが受け止めたのだ。
 そのまま大剣の刀身を滑らす様に、クナイガンを振り抜いた。
 切先が胸元を切り裂く前に、アンジールが上体を後方へと逸らす。
 追撃の右回し蹴りを放てば、左腕の厚い筋肉で受け止められた。
 マスクドライダーの蹴りを生身の筋肉で受け止めるなど、考えられない。
 しかし、驚愕の暇など与えられる筈も無く、アンジールはその手で受け止めた脚を弾いた。
 体勢を崩した一瞬の隙に、再び大剣を振り下ろされる。

「プットオン」

 ――PUT ON――

 咄嗟の判断だった。
 アンジールの大剣がカブトに届くよりも先に、重厚な装甲がカブトに装着されていく。
 先程アンジールの一撃を受け切ったマスクドアーマーが、再びカブトの身を包んだのだ。
 腕を交差させ、その装甲でバスターソードによる一撃を受け止める。
 ずどぉん! と、轟音を響かせて、カブトの身体と共に、コンクリートの地面が崩壊した。

124夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:43:54 ID:Zke0Tok.0
 
「……全く、大した馬鹿力だ」

 抱いた感想をそのまま口にした。
 アンジールの怪力が、屋上のコンクリートの耐久力を増していたのだ。
 だが、この程度の事で驚きはしない。
 何せ先程の一撃で既に身を以て体感しているのだから。
 アンジールの大剣に押し切られる様に、カブトの身体が階下へと落下する。
 そしてそれは、カブトの思惑通り。

「この室内では、貴様の翼も役には立つまい」

 スーパーの中には、沢山の商品棚が並んでいた。
 それはアンジールにとっては障害物となり、その動きは封じられる。
 やがて屋上の炎は、天井に空いた穴からスーパーの内部へと侵食。
 スーパー内は燃え盛る炎に包まれて、より一層身動きが取れなくなった。

「チッ……こんな事で、俺を止められると思うな!」

 それでも、アンジールは翼を羽ばたかせた。
 並んだ商品棚を吹き飛ばし、薙ぎ飛ばし、カブトへと迫る。
 しかし、やはり外で戦った時程の加速は生み出せない。
 アンジールの動きは、マスクドフォームのカブトでも捕捉出来た。
 再び甲高い金属音を鳴らして、二人の刃が激突する。

「――ブリザガ!」
「何……ッ!?」

 激突した瞬間に、呪文を唱えた。
 それはアンジールが最も得意とするマテリアルパワーであった。
 クナイガンを構えたカブトを、凄まじい冷気が襲う。
 カブトの上半身が氷漬けになって、後方へと吹っ飛んだ。
 氷の塊となったカブトは、スーパーの壁に叩き付けられて、そのまま壁ごと凍結。
 あとは氷のオブジェと化したカブトを、この大剣で一刀両断するのみだ。

「これで、終わりだァァッ!!」

 身動き一つ取れなくなったカブトに、アンジールが迫る。
 大剣を突き立てるように、突貫する。
 このまま壁ごとカブトを突き刺して、その命を刈り取る。
 これは、妹達を守る為の大きな一歩である。
 夢も誇りも、何もかも投げ捨てて、アンジールは大剣を突き立てた。

「だから言っただろう。お前は甘いと」
「な……ッ」

 カブトの右手が、僅かに動いた。それは大きな誤算だった。
 マテリアルパワーを相殺するのもまた、マテリアルパワーだ。
 氷漬けになったカブトの身体を、先刻自分が放ったファイガの炎が、僅かに溶かしていた。
 といっても、燃え移った炎で溶ける氷などほんの僅かだ。
 しかし、右腕がほんの少しでも動かす事が出来れば、それで十分。

 ――CAST OFF――

 氷漬けになった装甲が、弾け飛んだ。
 ほんの一瞬の動作で、全てのアドバンテージが帳消しにされたのだ。
 しかし、加速を加えたアンジールの身体はもう止まらない。
 弾け飛ぶマスクドアーマーの攻撃を受けながら、アンジールはカブトへと迫った。
 それをカブトは寸での所で回避。脇腹を掠めた大剣は、スーパーの壁に突き刺さった。
 たったの一撃でスーパーの壁は貫通し、周囲の壁に亀裂が走る。

125夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:44:24 ID:Zke0Tok.0
 
「アンジールとか言ったな。お前は確かに強い」
「天、道ォォォ……ッ!!」
「だが、過去現在未来、全ての時代に於いて最強を誇る俺には敵わん」

 アンジールの身体を、カブトが抱きしめた。
 小さな動きで、力のベクトルを別の方向へと変える柔の技。
 それはカブトが最も得意とする戦術――カウンター。
 アンジールの身体を、亀裂の入ったコンクリートの壁に投げ飛ばした。
 バスターソードが壁に突き刺さって、壁に亀裂が走る。これに一秒。
 カブトがアンジールの身体を掴んで、その勢いを受け流す。これに一秒。
 壁が轟音と共に崩れ去り、アンジールの身体が夜の闇へと投げ出される。これに三秒。

 僅か五秒で、戦況は一変した。
 力で押し切る剛のアンジールと、力を受け流す柔のカブト。
 お互いの実力は拮抗していたが、結果はカブトの勝ちに終わった。
 アンジールは、焦り過ぎたのだ。

 ――ONE,TWO,THREE――

 ベルトを素早く三度叩き、眼下のアンジールへ右脚を向ける。
 電子音と共に、タキオン粒子によって加速された稲妻が、カブトの身体を駆け巡る。
 古今東西、仮面ライダーの必殺技と言えばこれに決まっている。
 どんな悪であろうと、この必殺技の前には屈せざるを得ない。
 全身を迸った稲妻が、右脚に集束されて行く。

「ライダーキック!」

 仮面ライダーカブトの全身全霊を掛けた、最強の必殺技。
 全力で放てば、対象を原子崩壊させる程の威力を秘めた絶大な一撃。
 しかし、アンジールを殺すつもりは無い。
 これ程の実力を持つアンジールであれば、咄嗟にバスターソードで受け止めるだろう。
 突き出した右脚に、重力による加速が加わる。
 これで確実に、勝負は決した。





 爆発音が鳴り響く。
 空中で発生した爆発と、爆煙の中から弾き出されたのは、赤の装甲。
 果たして、一瞬の呻き声の後、アスファルトに叩き付けられたのはカブトであった。
 落下を続けるアンジールは、何とかアスファルトに激突する前に、その片翼で体勢を立て直したのだ。
 一体どういう事だ、とアンジールは思う。
 つい一瞬前までは、カブトからの一撃を受けて、自分はこの戦いに負けると思っていた。
 だけど、結果はカブトが空中で爆発。そのまま落下する、という形で終わってしまった。
 原因は解らないが、とにかく自分のチャンスという事に変わりは無い。

「どうやら、天は俺に味方したようだな」

 不敵に口元を吊り上げて、アンジールは立ち上がった。
 空中でその身体を爆ぜさせ、体勢を崩したカブトは重力に引かれるままに落下した。
 天の道を往く者が、天に見放されるとは何たる皮肉であろうか。
 これで、今度こそ自分はこの戦いの勝者となる事が出来る。
 バスターソードを振り上げ、横たわるカブトへと振り下ろそうとした、その時であった。

126夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:45:00 ID:Zke0Tok.0
 
「痛……ッ!」

 V字型の光が、大剣を握るアンジールの手元で爆ぜた。
 予期せぬダメージに、バスターソードを取り落としてしまう。
 右手を押さえながら、光が飛んで来た方向に視線を向ける。
 カブトもまた、ゆっくりと起き上がり、アンジールと同じ方向へ視線を向けた。

「もう止めるんだ! これ以上戦いを続けるというのなら、僕が相手をする!」

 そこに顕在していたのは、銀と赤の戦士であった。
 胸元には青く光り輝く水晶体。銀色の身体に、燃える炎の様な赤を走らせたボディ。
 二つの銀色の目が、カブトとアンジールを鋭く睨んでいた。

「なるほどな」

 カブトがぽつりと呟いた。
 あの銀と赤の戦士を見た時、天道は全てを理解した。
 ライダーキックの邪魔をしたのは、十中八九間違いなくあの戦士だ。
 どういった思惑があるのかはわからないが、この男はカブトとアンジールの両者に攻撃を仕掛けて来た。
 それはつまり、自分達二人に対して敵対心があるという事だろうか。
 と、考えたが、天道はすぐにその考えを振り払った。
 自分達を殺すつもりの相手が、先程のような台詞を吐くとは思えない。
 しかし、出会ったばかりの相手をすぐに信用する天道ではない。
 もしかすると、罠という可能性もあるのだ。
 どうしたものかと思考するカブトの耳朶を叩いたのは、なのはの声だった。

「大丈夫ですか、天道さん!」
「……高町か」

 その言葉を聞いた相手が、ぴくりと反応した。
 なのはの姿に反応したのか。それとも高町、という言葉に反応したのか。
 どちらにせよ、もっと情報を集める必要がありそうだ。





 ミライが駆け付けた時、既にスーパーは炎上していた。
 屋上からはごうごうと真っ赤な炎が立ち上り、夜の闇を照らしていた。
 一体どうなっているんだ、なんて考える前に、再び轟音が鳴り響いた。
 それはスーパーの壁が、何者かによってブチ抜かれた音であった。

「まだ、間に合う!」

 再びミライは走り出した。
 一つ角を曲がれば、目の前で繰り広げられて居たのは、壮絶な戦い。
 赤い装甲を纏った戦士が、落下を続ける翼を持った人間へと、その脚を向けていた。
 その脚に輝くのは、迸る稲妻。どう見たってあれを受けて只で済む訳は無かった。

「メビウゥゥゥゥゥスッ!!!」

 左手に装着したメビウスブレスに触れ、その名を叫んだ。
 先程の変身から、一時間弱。問題無く変身できるかどうか不安ではあったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
 問題無くミライの身体は、∞の光に包まれ、ウルトラマンメビウスへの変身が完了した。
 矢継ぎ早に右腕でメビウスブレスに収まった宝玉をスライドさせ、両腕を頭の上に掲げる。
 ∞の光を収束させる両腕を、眼前で十字にクロスさせた。

127夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:45:53 ID:Zke0Tok.0
 皮肉にも、古今東西仮面ライダーの必殺技と定められた攻撃を打ち破るのは、これまた古今東西ウルトラマンの必殺技とされる攻撃であった。
 大量のスペシウムを含んだ光線が、カブト目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。
 果たして、殺さない程度に威力を絞って放たれたメビュームシュートは、カブトを直撃した。
 スペシウムによる爆発が生じた後、カブトの身体はアスファルトに引かれる様に落下。
 それから、目の前で未だ戦闘を続けようとする翼の男の戦力を、メビュームスラッシュで奪った。

 そうして、現在に至る。
 目の前に現れたのは、十代後半くらいの茶髪の少女であった。
 だけど、その声には確かな聞き覚えがある。その声を、ミライが忘れる訳が無かった。
 何よりも、その瞳も、髪の色も、その立ち居振る舞いも、ミライが知る女の子に酷似していたのだ。
 そして極めつけは、赤の装甲の男から放たれた「高町」という言葉。
 最早間違いない。この女の子は、きっと未来の「高町なのは」の姿なのだろう。
 だが、もしそうならば一体この状況は何なんだろう。
 赤の装甲の男は、なのはの味方で……だとするならば、悪人はこの翼の戦士だろうか?
 何にせよ話をしない事には、状況が解らない。
 だからメビウスは、高町なのはと思しき少女に、恐る恐る話しかけた。

「なのは、ちゃん……」
「貴方は、銀色の……鬼……?」
「へ?」

 果たして、帰って来たのはそんな訳の解らない言葉であった。


【1日目 夜】
【現在地 D-2 スーパー前】

【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、変身中(メビウス)
【装備】メビウスブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは、ナイトブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは
【道具】支給品一式、『コンファインベント』@仮面ライダーリリカル龍騎、ブリッツキャリバー@魔法妖怪リリカル殺生丸
    『おジャマイエロー』&『おジャマブラック』&『おジャマグリーン』@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:仲間と力を合わせて殺し合いを止める。
 0.これ以上誰も殺させたくない。誰にも悲しい涙を流させたくない。
 1.赤い装甲の男(カブト)、翼の男(アンジール)、高町なのはから話を聞いて状況を整理したい。
 2.銀髪の男(=セフィロス)からはやてを守る。
 3.一刻も早く他の参加者と合流して、殺し合いを止める策を考える。
 4.助けを求める全ての参加者を助ける。
 5.なのは、ユーノ、はやて、と合流したい。
 6.ヴィータが心配。
 7.カードデッキを見付けた場合はそのモンスターを撃破する。
 8.変身制限などもう少し正確な制限を把握したい(が、これを優先するつもりはない)。
 9.ゼロ(キング)、アグモンを襲った大男(弁慶)、赤いコートの男(アーカード)、紫髪の少女(かがみ)を乗っ取った敵(バクラ)やその他の未知の敵たちを警戒。
 10.自分の為に他の人間の命を奪う者達に対する怒り。
 11.ブリッツキャリバーを高町なのはに渡し、ゼストの最期を伝える。
 12.おジャマイエローに万丈目の死を伝えなければならないが……。
【備考】
※メビウスブレスは没収不可だったので、その分、ランダム支給品から引かれています。
※制限に気が付きました。また再変身可能までの時間については最低1時間以上、長くても約2時間置けば再変身可能という所まで把握しました。
※デジタルワールドについて説明を受けましたが、説明したのがアグモンなので完璧には理解していません。
※おジャマイエローから彼の世界の概要や彼の知り合いについて聞きました。但し、レイと明日香の事を話したかどうかは不明です(2人が参加している事をおジャマイエローが把握していない為)。
※参加者は異なる並行世界及び異なる時間軸から連れて来られた可能性がある事に気付きました。またなのは達が10年後の姿(sts)になっている可能性に気付きました。
※スーパーにかがみが来ていたことに気付きました。
 また、少なくとももう1人立ち寄っており、その人間が殺し合いに乗っている可能性は低いと思っています。
※第2回放送を聞き逃しました、おジャマイエローから禁止エリアとブレンヒルト、弁慶、万丈目、十代の生死は聞きましたがそれ以外は把握していません。またおジャマイエローもそれ以上の事は把握していません。
 おジャマブラック、おジャマグリーンが放送内容をどれくらい把握しているかは不明です。
※ナイトブレスを手に入れた事で、メビウスブレイブへの強化変身が可能になりました。
※黒マントの男=ゼロ(キング)を倒したと思っています。

128夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:46:23 ID:Zke0Tok.0
 
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、混乱、焦り、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、セフィロスへの殺意
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:クアットロを守る。
 1.クアットロを守る為に、参加者を皆殺しにしたいが……
 2.イフリートを召喚した奴には必ず借りを返す。
 3.ヴァッシュと再び出会ったら……
 4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。。
※レイジングハートは参加者の言動に違和感を覚えています。
※グラーフアイゼンははやて(A's)の姿に違和感を覚えています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※天道とヴァッシュの事はある程度信頼しています。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※混乱している為に自分の気持ちを整理出来ていません。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(中)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アンジールを改心させる。
 2.目の前の赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをする様な奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

129夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:46:55 ID:Zke0Tok.0
 
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト、もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)

130夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:47:25 ID:Zke0Tok.0
 


 雑居ビルの物陰に身体を隠しながら、一同の行動を見守る女が一人。
 二つ括りの茶髪に、若さを感じさせる学生服――クアットロだ。
 何とか走って追い付いたものの、スーパーは既に戦場と化していた。
 まず間違いなく、アンジールが喧嘩を売ったのだろう。
 あちゃあ、手遅れだったか、と額を軽く叩いた。

「いや、でも……まだやり様はありますわ」

 見たところ、あの赤の仮面ライダーは高町なのはの味方らしい。
 この場に高町なのはが居てくれるというのは、何気に非常に美味しい。
 何せ高町なのはの戦力は、魔道師としてはほぼ最強クラス。
 おまけに、クアットロの記憶が正しければ、アンジールはレイジングハートを持っている筈だ。
 上手くアンジールを説得し、高町なのはを味方に付けることが出来れば……。
 それから、セフィロスに対抗できるアンジールと、そのアンジールを追い込んだ仮面ライダー……。
 全員を味方につける事が出来れば、これだけでも戦力としては申し分無い。

「それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……」

 次にクアットロの視線が捉えたのは、ウルトラマンメビウス。
 奴は、赤の仮面ライダーの攻撃を中断させ、トドメを刺そうとするアンジールを制した。
 それでも追撃する様子が見られない事から、どうやら本当に戦いを止めさせたかったように見える。
 となれば、自分の行動一つで、上手く立ち回れば彼ら全員を味方に付ける事だって不可能ではない筈だ。

「ここが正念場ですわよ、クアットロ……上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る!」

 自分に言い聞かせるように、頬をぱちぱちと叩いた。
 それからクアットロは、雑居ビルの物陰から躍り出た。
 最早クアットロに、彼らを一方的に利用しようなんて気はない。
 ただゲームから脱出する為に、一時的にでも手を組む為に。
 自分の考えを伝え、ゲーム脱出の為に行動する仲間を作る為に。
 クアットロは、4人の元へと向かった。

131夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:47:57 ID:Zke0Tok.0
 

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、左腕負傷(簡単な処置済み)、脇腹に掠り傷、眼鏡無し、髪を下ろしている、キャロへの恐怖と屈辱、焦燥
【装備】私立風芽丘学園の制服@魔法少女リリカルなのは、ウォルターの手袋@NANOSING、ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、クアットロの眼鏡、大量の小麦粉、セフィロスのメモ、血塗れの包丁@L change the world after story、はやてとかがみのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式×2、スモーカー大佐のジャケット@小話メドレー、主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)、カリムの教会服とパンティー@リリカルニコラス
【道具②】支給品一式、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪(シャマル)
【思考】
 基本:例え管理局と協力する羽目になったとしてもこの場から脱出する。
 1.アンジールを説得して味方に付けた上で、残りの三人も味方に付ける。
 2.自分の考察を話した上で、ゲームから脱出する為に協力して貰う。
 3.条件(プレシアに対抗できるだけの戦力+首輪・制限の解除手段+プレシアの元へ行く手段)が揃わない限り首輪の解除は実行しないし、誰にもさせない。
 4.デルタギアの各ツールを携帯電話、デジカメ、銃として利用出来るかを確かめたい、変身ツールとしてチンクかタイプゼロに使わせても大丈夫だろうか?
 5.首輪や聖王の器を確保したいが……(後回しでも良い)。
【備考】
※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
※下手な演技をするよりも、ゲームから脱出するまでは生き残る事を優先。
※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めていません)。
※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません。
※この殺し合いがデス・デュエルと似たもので、殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。
※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています。
※地上本部地下、アパートにあるパソコンに気づいていません。
※制限を大体把握しました。制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
※主催者の中にスカリエッティや邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています。
※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
※キャロは味方に引き込めないと思っています。
※キングのデイパックの中身は全てはやて(StS)のデイパックに移してあり、キングのデイパックははやて(StS)のデイパックに入っています。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※主催側に居るナンバーズ及びスカリエッティは敵として割り切りました。一切の情はありません。


【全体の備考】
※スーパー内で激しい火災が発生しています。このままではいずれ焼け落ちます。

132 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:53:45 ID:Zke0Tok.0
投下終了です。
4月に入って中々時間が取れず、数行書いては保存、中断。
また数行書いては保存、中断、という作業を繰り返していた所為か、
一つの作品内でシーンごとに文章が違っている所が多々あるかもしれません。
作品としては、主に後半の流れを変更し、わかりにくいかもしれませんが戦闘描写は殆ど書き直しております。
これで変身制限やその他諸々の条件はクリアした、筈……。

タイトル元ネタは、仮面ライダーWから、
第15話「Fの残光/強盗ライダー」
第16話「の残光/相棒をとりもどせ」
の二作です。ファングが登場した回です。
それでは、何か問題などありましたら報告よろしくお願いします。

133リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 19:16:13 ID:jDZOkcYI0
投下乙です

いやあ、放送後はどうなるかと思いましたがやっぱりすんなりとは行かなかったか
アンジールと天道の信念をぶつけ合ったバトルがいいw
さて、ミライも来たけど逆にややこしくなりそうだw
そしてそれをまとめようとするクワットロとかなんなんだよwww

134リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 19:48:05 ID:BGkiLX8E0
投下乙です

修正前と違い戦いの最中にミライが介入して中断か……
クアットロもまだ介入前だし……
うーん、修正前だったら比較的簡単に団結出来そうだけどこの展開だと難しいなぁ。

しかし冗談とか抜きにしてクアットロの思考そのものは黒っぽいのにグループを団結させようってまさしく対主催の思考なのは本当に何なんだ?
しかも、キャラ崩壊ではなく純粋(?)に対主催寄りというなのは(というかクアットロ)FANから考えたらまず有り得ない状況でって当に何なんだよ。どうしてこうなった……

ところで、1点だけ指摘……というより些細な質問ですが、
名前欄を見たところ今回の修正版のサブタイには修正前にあった『Aの残光』が無くなっているんですが、
今回のサブタイは『Aの残光/強襲ソルジャー』&『Aの残光/夢と誇りをとりもどせ』となるんですか、それとも『Aの残光』はカットして『強襲ソルジャー』&『夢と誇りをとりもどせ』となるんですか……元ネタ的に前者(Aの残光付き)だと思いますが……。

135 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 21:44:33 ID:Zke0Tok.0
しまった……完全に見落していました。
ご指摘ありがとうございます。仰る通り、サブタイトルは「Aの残光」です。

また、色々と思うところがあるので、収録する際は細かな文章の修正をした上で、後日自分でしておこうと思います。

136リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 23:49:56 ID:lxlMKWRI0
投下乙です
前回と違ってミライの介入で決着付かずか
そういえばミライってアグモンを襲った危険人物銀色の鬼容疑が掛かっていたんだっけw
それにしても仮面ライダーとウルトラマンが揃い踏みとか豪華だなw

少し気になった点
>>112の以下の部分

それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。

『なのはの心中で、死んでしまった者への』の後がないようなきがするんですが、気のせいでしょうか

137 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/29(木) 00:47:45 ID:zbs9bIg60
おぉっと……またしてもミスが……。
多分あれですね、何度も中断して書き始めて、の作業を繰り返してる内に、
中断した所の続きを書くのを忘れてそのまま続きを書き始めたんだと思います。

収録時には、
>>なのはの心中で、死んでしまった者への
の一文を削除しようと思います。その一文無くても大丈夫そうなので。
ご指摘ありがとうございます。引き続き、誤字や脱字があれば、報告お願いします。

138 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:07:23 ID:EoGhWHlU0
遅くなって申し訳ありませんでした
これより本投下を開始ます

139 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:08:00 ID:EoGhWHlU0
デスゲームの会場も再び夜となり、日が沈む事で満月が煌々と輝く天に対して、血で血を争う地には暗い影が広がっていた。
そんな闇の時間へと移行した会場の東方に位置するホテル・アグスタから少し離れた林の中。
月の光さえ満足に通らない林の中で一層暗く影を漂わせている場所があった。
そこには一人の男が木に腕を付いて荒く息を吐いていた。
そして、その男――闇の狩人ジョーカーである相川始は悩んでいた。

(……俺は何がしたいんだ?)

きっかけは先程おこなわれた3回目の定時放送。
なぜか放送の主はプレシアではなかったが、今の始にはどうでもよかった。
それ以上に始は放送を聞いた自分の心境に戸惑っていた。
参加者をミラーワールドに引きずり込み、二人の生贄を無残に殺して新たな殺し合いを目論んだ狂人、浅倉威。
彼の死に僅かな安堵を。
ギンガが気にかけていて、川岸に追い詰めたが突然の禍々しさのせいで殺せなかった少女、キャロ・ル・ルシエ。
まだ一度も会った事はなかったが、天音の友人だったかもしれない少女、フェイト・T・ハラオウン。
彼女達の死にはいささかの哀悼を。
放送を聞き終えた時、それぞれ異なった感情をいつのまにか抱いている自分に気付いたのだ。

そして、その感情は気のせいか前回の放送よりも強い感情のように思えた。

(……俺はジョーカーだぞ!?)

最初はここにいる全員を殺して栗原親子の元へ帰る事が唯一の目的だった。
だからこそ出会った参加者を次々と襲い続けていた。
だがあの神を自称するエネルという参加者の存在を知った時、始の中でこのバトルファイトに対して拭いきれない疑念が生じた。
いや、それがそもそも間違いだったのか。
これはバトルファイトの延長ではなく、ただプレシアが引き起こしたイレギュラーな事態。
それなら別にここで優勝しようがどうしようが、本来のバトルファイトに影響はないのではないか。
本当はそれを口実に目を背けようとしていただけではないのか。

(それがどうした! もう俺は……)

だが今の始は傍目からそれとなく分かるほどとても危うい状態だ。
ミラーワールドでのジョーカー化はこちらに戻った事で解決したが、もしもあのまま戦い続けていれば今の始はいなくなっていただろう。
それほどまでにジョーカー化の欲求を抑えるのが苦しくなっているのだ。
今も放送を聞いただけで胸の奥で先程の感情とは別にどす黒い感情が蠢いている。

だが本来なら1日も経たないうちにここまでジョーカー化の欲求が強まるのは異常だった。
どうやらここに来てから感情の揺れ幅が大きくなりやすい気もする。
それはもしかして殺し合いを促進するためにプレシアが仕掛けた細工か、あるいは――。

(とにかく今は誰にも会わない方がいい)

だが今の始にとって真相は二の次。
こうしているのも全ては今この状態で誰かに会えば自分を抑えきれるか自信がなかったからだ。
だから一度ホテルから離れて心を静めているのだ。


だが、そんな状態だからこそ始は気づく事ができなかった。


「――――ッ!?」

自らに迫り来る鋼鉄の脅威に――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、苦悩、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 0.――――。
 1.生きる為に戦う?
 2.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたスバルや他の2人(なのは、はやて)が少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

140 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:08:30 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


ホテル・アグスタ1階ロビー。
そこは一廉のホテルに相応しくソファーが備え付けられ、荘厳な意匠が凝らされた柱が視界を妨げない程度に立てられた空間。
本来なら来客を穏やかに迎え入れるはずの玄関だが、残念ながら今ロビーにいる二人は真逆の雰囲気を纏っていた。

「もうすぐ放送か……今度もまた……」

死者と禁止エリアを告げる定期放送まであと数分。
緊張した空気が漂う薄暗いロビーに1組の赤い服を身に付けた男女、金髪トンガリ頭に真紅のコートのヴァッシュ・ザ・スタンピードと紫髪サイドポニーに真紅のセーターの柊かがみはいた。
だが放送を待っているはずの二人の様子は少し違っていた。
ロビーに漂う空気と同じように暗くなり気味のヴァッシュとは対照的にかがみの心中は穏やかではなかった。

(浅倉の奴、絶対私が殺してやるんだから!!!)

自らの片割れとも言うべき双子の妹である柊つかさを目の前で殺された今のかがみの心中にあるのは『復讐』の二文字のみ。
今も目を閉じれば鮮明に思い出してしまう。
メタルゲラスに両足をつかまれて傷つきながらも必死に助けを求めていたつかさ。
その目の前で何もできずにただつさかが真っ二つに引き裂かれて殺される様を見ているしかできなかった自分。
それが罪とばかりにつかさだったものから降り注ぐつかさの体液。
あの凄惨という言葉が生ぬるいほどの光景は生涯忘れる事はないだろう。
残念ながら今はまともに戦う術がないので大人しくしているが、そうでなければ今頃憎き仇を探し回っていたに違いない。

(それにしてもさっきまでのこいつ誰かに似ていたような……ああ、騒がしいところがゆいさんに似ているのね)

かがみはソファーに座って顔を落としているヴァッシュの様子を見ながら一人で納得していた。

成実ゆい。
かがみの親友である泉こなたの従姉であり、後輩の小早川ゆたかの実姉に当たる。
苗字が違うのは既婚者だからである。
いつも騒がしくテンションが高い人だが、そういうところがどこかヴァッシュと似ているのだ。

(どこにでもいるのね、こういう人って。そういえばこなたは今どこで何しているのかしら……)

141 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:09:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


整然と立ち並ぶ林の中で綺麗にホテルまで続いている不自然な一本道。
その道が不自然に思えるのはそこだけ何か得体のしれない力で消されたかのようになっているからだろう。
道と林の境界付近の木々は揃いも揃って普通ではありえないほど綺麗な切断面があったので尚更だった。
そんな不自然な道に最大限の注意を払って進む二人の青髪の少女、背が高く短髪なスバル・ナカジマと背が低く長髪な泉こなたがいた。

「スバル、やっぱりあの天使さんも参加者なのかな?」
「…………」
「ん? スバル?」
「あ、ああ、たぶんそうじゃないかな……」

スバルはホテル・アグスタの屋上に降り立った天使の姿から一人の人物を連想していた。
少し遠目ではあったが、あの時見えた天使は金髪で赤いコートを纏っていた気がする。
それによって連想する人物はヴァッシュ・ザ・スタンピード。
チンク曰く、危険人物。
もし本当ならこれからスバル達の向かう先は安全ではなく、危険な場所である可能性が極めて高い。
そのホテルにこなたを連れて向かう事にスバルは若干危惧を抱いていた。
戦場になるかもしれない場所にこなたを連れて行って、こなたまで危険な目に遭わせるのではないかと。
幸いな事に天使を発見した時の位置関係からこなたはスバルの影に隠れていた形になっていた。
だからこなたを待たせて一人で行けば共倒れの危険性はなくなる。
しかも道すがらクロスミラージュの状態を念入りに調べていたリインからは芳しくない診断結果を聞いていた。
曰く、基礎構造部分に致命的な破損があり、専門の場所で修理すれば修復できるかもしれないが、今のままだと自動修復もままならず、もし万が一この状態で使用すればそれがクロスミラージュの最期になるだろうと。
つまり今のスバルの力は相変わらず満足に発揮できない状態だ。
スバルとこなたが調べた範囲でデュエルアカデミアに気になる物はなかった事はすでにお互い確認済みだったが、あそこにはまだ幾つか荷物が放置したままだ。
ホテルは後回しにして一度をデュエルアカデミア跡地に戻るという選択肢もありだ。
だがそんなスバルの弱気な心の内を察したのかこなたは声をかけてきた。

「大丈夫だよ」
「え?」
「自分の身は自分で守るからさ。スバルは自分がするべき事をすればいいと思うよ」

こなたの言葉は弱気になりかけていたスバルを落ち着かせるものだった。
これではどちらがしっかりしているの分かったものではない。

「……うん!」

迷いは晴れた。


     ▼     ▼     ▼


そして運命の悪戯と共に出会いはいつも突然に。

「かがみさん!?」
「ス、スバルッ……ヴァッシュ、あ、あいつが私を! いや、た、助けて!!!」
「――ッ、こんな時に!」

そして銃声と共に別れもまた唐突に。

142 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:09:32 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


一瞬にして先程よりさらに緊迫した空気が漂い始めたロビー。
その緊張した空間のソファーや柱を挟んでスバルとヴァッシュは膠着状態にあった。

(一応念のためと言ってこなたを待たせておいて正解だった。まさかかがみさんがいて、その上危険人物のヴァッシュと手を組んでいたなんて……)

いつかは再び対峙しなければいけないと思っていたが、さすがにこの状況下では厳しすぎた。
危険人物二人が手を組んで、話し合う暇もないまま銃撃されるこの状況ではいくらスバルでもこなたを守りきる自信はない。
今まで別行動で良い経験がなかったが、今回に限っては安全確認のために一人で先に入って正解と言えよう。

(でもいつまでもこのままの状態が続くのは好ましくない。どこかで隙を見て一度戻った方がいいかな)

ヴァッシュが放った初撃はギリギリ避けられたが、あの早撃ちを見る限り相当銃の扱いに長けているようだ。
今のように距離が開いた状態で銃を持った相手に対して接近戦が得意なスバルは圧倒的に不利だ。
決着を焦ればまず間違いなくスバルに勝機はなく、ゆえにここは一度戦線離脱した方がいいとスバルは考え始めたのだ。

スバルが離脱の隙を窺っていた時を同じくして、ヴァッシュもまた転機を窺っていた。

(かがみさんには避難してもらったから、あとはスバルを抑えるだけか)

既に保護対象であるかがみには念のため装甲車の鍵を渡して地下の駐車場に避難してもらっておいた。
あそこに駐車してあった装甲車の中なら万が一の事態でも安全だと考えたからだ。

(威嚇のつもりだったけど、あの初撃を避けた動作は大したものだな。でも怪我していたみたいだからなんとかなるかな)

あとはタイミングを見計らって相手を制圧するだけ。

だが突然の邂逅に対処するあまりスバルもヴァッシュも大事な事を忘れていた。

そしてそれを思いださせるかのように時計の針は12と6を指す。

『こんばんは。これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います』

二人の膠着状態を破るかの如く無慈悲な放送は始まった。

143 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:10:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


新庄・運切の訃報――それはヴァッシュにとってまさしく青天の霹靂だった。

その知らせを聞いた瞬間、ヴァッシュの頭は真っ白になった。
新庄・運切という少年はヴァッシュにとって少し特別な存在だった。
出会いは大した事ない普通なものだった。
傷心の内に沈んでいた自分の前に現われてまず初めにこの身体を心配してくれた。
始まりは本当に何でもない事だった。
ただその気遣いがとても嬉しかった。
それからしばらく黙って隣に座っていてくれた。
もしかしたら死なせてしまうかもしれないと言ったのに、それでも放っておけないと言って一緒にいてくれた。

それが少し心地よかった。

そんな新庄君だからこそ自分を死なせないために無謀とも言える提案をやってのけたのだ。
このままではいつか自分が思いつめて死んでしまうと気付いたから。
多大な危険と隣り合わせだったが、それなりの算段はあった。
新庄君からの提案だったとはいえエネルは自分の力に恐怖を覚えていたはずだ。
実際新庄君が止めなければエネルの死は確実だったので、一見無謀にも見えたが効果は絶大に思えた。
だから新庄君の身は自分が生きている間は大丈夫だと思い込んでいた。

だがそんなある意味楽観的な考えはあっけなく砕かれてしまった。

「……ぁ……ぅあ」

誰のせいだ?
誰のせいでもない。
全ては自分のせいだ。
自分の甘い考えが新庄運切という一つの命が散る原因となった。
少なくともヴァッシュ自身はこの時そう思っていた。

そして、無意識の内に心に広がる罪の意識はヴァッシュをさらに苛むのであった。

「……っ……え?」

不意に失意に沈みこむヴァッシュの上に影が差した。
誰かがヴァッシュの前に立ったせいで人影が光を遮ったのだ。
当然誰が立っているのか確認するために顔を上げないといけないのだが、なぜかそれは躊躇われた。
不思議とスバルではない確信があったので急がなくてもいいが、そういう問題ではない気がする。
ここで顔を上げたら取り返しの付かない事になってしまうような、そんな気がしたのだ。
だがいつまでもこうしているわけにもいかない。
意を決して気力を奮い立たせたヴァッシュが顔を上げると、一人の男と目が合った。

「――ナ、ナイブズッ!?」

ヴァッシュの目の前に立っていたのは死んだはずの兄――ミリオンズ・ナイブズであった。
だが次の瞬間、ヴァッシュはさらに驚く事になる。
いつのまにか自分の周りには人だかりができているのだ。
そしてよく見るとその人々には見覚えがあった。
ミリオンズ・ナイブズ、新庄・運切、フェイト・T・ハラオウン、アンジール・ヒューレー、エネル、それに今まで出会った人々――

――そして、あの忌まわしき事件で消え去ったジェライの人々もそこにいた。

そしてその全員が黙ってヴァッシュを見ていた。
ただ静かに見つめていた。

皆の瞳にはただヴァッシュの姿が映るのみ。

「……っ……止めてくれよ」

そして、その瞳の重さにヴァッシュは――。

144 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:10:42 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


「浅倉の奴、なに勝手に死んでいるのよ! あいつは、私の手で殺さないといけないのよ! つかさを殺しておいて、あいつ……!!」

何台もの車が駐車されている照明も疎らな地下駐車場。
その中にかがみの乗っている装甲車はあった。
ヴァッシュに言われた通り安全のためにここに来たが、黙って待つ気はなかった。
その理由は先程から上の方から響いてくる不気味な振動。
どうやら激しい戦闘が始まっているらしく、さらに徐々に駐車場の天井にヒビが走り始めていた。
どちらが勝つにせよこのままここにいれば生き埋めになるのは必定。
なんとしても一刻も早くここから脱出する必要があった。
キャロが死んだせいかバクラが静かだったので、とりあえず一人でなんとかするしかなかった。

「でも万丈目はいい気味ね。きっと私を殺そうとした報いよ」

憎き相手の死を知って悦になりながらかがみは必死に最低限の運転技術を覚えていた。
実際歩いた方が早いかもしれないが、この装甲車の頑丈さを考えればここで最低限の運転をできるようになっておくほうが後々便利だ。
それにこの装甲車にも他の車と同様に取扱書が付いていたし、実際の運転なら親やゆいなどと見る機会も何回かあった。
さらにAT車なので発進の方法は意外と簡単だったので、発進の仕方はギリギリ理解できた。

「えっと、まずはエンジンを掛けて、ギアは……確かここで……それでアクセルをおおおおお!!!」

ついに小気味いいエンジン音と共に無骨な装甲車は走り始めた。
ただしかがみがアクセルペダルを一気に踏み込んだためいきなりトップスピードで発進するはめになったが。
だが車線上に出口があったのですぐに外に出る事が出来て結果的に良かったとも言える。
さらに幸運だったのは装甲車がAT車であった事だ。
もしAT車ではなくMT車だったらその場でエンストを起こして立ち往生する羽目に陥っていた。

ただそんな事情を他所に当のかがみは初めて運転する車のスピードに少しばかり面食らっていた。

「うそ、ちょっと、早すぎ――って!?」

ふと前を見ると、車線上に誰かが飛び出してきた。
それは数時間前に仮面ライダーと怪物に変身して浅倉と戦っていた奴だった。
ひどく苦しそうにしていてこちらに気付いていないようだったが、それを見てもかがみは車を止める気はなかった。
むしろ――。

「轢いちゃえ」

――そのまま速度を緩めず、クラックションも鳴らさず、その勢いのまま突き進んだ。
先程の放送でこれからは参加者を殺せばボーナスの支給品が手に入ると明かされたのだ。
いまさらかがみが人殺しを躊躇う理由はどこにもなかった。


ドン!!!!!

145 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:11:12 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】バリアジャケット、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ、装甲車に乗車中
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、装甲車@アンリミテッド・エンドライン
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.まず目の前でふらついている奴を轢き殺す。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

146 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:11:48 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


スバルはヴァッシュからの突然の攻撃に驚いていた。
放送の途中で繰り出された白刃による斬撃は驚くべきものだったが、スバルが驚いた原因は別にあった。
一瞬前まで居た場所に刻まれた斬撃の痕。
普通ではありえないほど綺麗に刻まれた傷痕にスバルは見覚えがあった。
ここに来るまでの林で同じような切り口で切られた木が数本――。

――そしてルルーシュの右腕にも同じような傷痕が残されていた。

「ヴァッシュさん、あなたがルルーシュの右腕を……」

あの傷さえなければルルーシュが絶望する事もなかった。
あの傷さえなければルルーシュが死ぬ事もなかった。
そんな想いが沸々とスバルの内に湧き上がってくる。
確かルルーシュを襲った人物は金髪で右腕が腐った男だったはず。
一見すると右腕が腐っていない目の前の人物ではない気がするが、その前提は確実ではない。
実際最初に出会った赤コートの化け物のように再生能力を持っているかもしれない。
それに何よりその刃での特徴的な傷痕を残しているのが疑いようもない証拠だ。

「あなたのせいで!!!!!」

スバルは知らない。
実際にルルーシュを襲ったのはヴァッシュと融合したナイブズである事を。
そのヴァッシュが幻を見る程に精神が不安定になったせいで突発的な暴走状態にある事を。
先程の刃が幻覚からくる本能的な自己防衛行動である事を。

今までヴァッシュの暴走状態が止まっているのは左腕つまりナイブズと向き合ったからだ。
だが同じプラント同士とはいえその左腕は元からヴァッシュの物ではない。
だから最初のうちは暴走していたのだ。
そして今ヴァッシュが精神的に不安定になった事で左腕が再び暴走しかけようとしている。
もちろんある程度精神が安定して落ち着く事ができれば今の暴走も止まるだろう。

だが果たしてそれまでホテルが無事であるか確証は持てない。

147 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:12:20 ID:EoGhWHlU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、質量兵器に対する不安、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容は[[せめて哀しみとともに]]参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.あなたのせいでルルーシュは!!!
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.かがみを止める。
 7.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 8.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割、、精神不安定(大)、一時的な暴走状態?
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 0.新庄君が……死んだ……。
 1.かがみを守りつつ殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。

148 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:14:12 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


柊つかさの死。
それは泉こなたにとって大きな衝撃となった。
だがこなたもここが殺し合いの場であり、親友が殺し合いに乗る事まで覚悟した身だ。
当然自分の知らない間に死んでしまう可能性も考えて、覚悟はしていた。

だがこなたは幸運であり、不幸であった。

大した力も知識もない女子高校生が並み居る猛者が死んでいく中で生き残っていた。
だから心の底で淡い希望を抱いてしまった。

『もしかしてこのまま生きて再会できるんじゃないか』

かがみは殺し合いに乗ってしまったが、裏を返せばそれだけの力が手に入ったという事は逆に自分の身を守れる事でもある。
つかさにしても保護者がいなくなっても6時間生き延びたのだから大丈夫なのではないかと思った。

だがそんな幻想は呆気なく砕かれてしまった。

そしてこなたはまだ誰かの死、さらに誰かの死体さえ見ていなかった。
駅の時でさえスバルの配慮によってスバルがクロスミラージュを持って出てくるまで待っていた。
確かに心の中では覚悟はしていた。
だが思うだけでは実際に物事に直面した時には足りなかったのかもしれない。

だからこそこなたは前に進むと決めた足を止めてしまった。

「う、そ、つ、つかさ……」

そして、再び歩み出すその足の先にある答えとは――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ付近】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、つかさの死に対する強いショック
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ(疲労小)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.つかさがしんじゃった――。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています(特にアーカードには二度と会いたくないと思っています)。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 2.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。

149 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:14:46 ID:EoGhWHlU0


【チーム:黒の騎士団】
【共通思考】
 基本:このゲームから脱出する。
 1.首輪解除の手段とハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。
 2.首輪を機動六課、地上本部、スカリエッティのアジト等で解析する。
 3.それぞれの仲間と合流する。
 4.ゆりかごの起動を阻止しヴィヴィオを救出する。
【備考】
※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。また異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付いています。
※デュエルモンスターズのカードが武器として扱える事に気付きました。
※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は[[守りたいもの]]本文参照。
※「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
※チーム内で、以下の共通見解が生まれました。
 要救助者:万丈目、明日香、つかさ、ヴィヴィオ/(万丈目は注意の必要あり)
 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ユーノ、クアットロ、アンジール、ルーテシア、C.C./(フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、クアットロ、アンジール、ルーテシアには注意の必要あり)
 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ)、炎の巨人を操る参加者(=ルーテシアorキャロ?)、ヴァッシュ、かがみ、半裸の男(=エネル)、浅倉
 判断保留:キング、天道、スーツの男(=矢車)
 以上の見解がそれぞれの名簿(スバル、こなた)に各々が分かるような形で書き込まれています。
※アニメイトを襲いヴィヴィオを浚った人物がゆりかごを起動させようとしていると考えています。


     ▼     ▼     ▼


ところでいくら新庄がヴァッシュにとって特別な存在になっていたとしても果たしてここまでの衝撃を受けるものだろうか。
だが実際こうしてヴァッシュは新庄の死に少なくない衝撃を受けている。
この会場内で起きた様々な事例を加味すれば、それも無理からぬ事かもしれない。
もしくは始を苦しめるジョーカー化への欲求の増大や普通なら凶行に及ぶはずもない参加者が手を血に染めてしまう事と何か関係があるのだろうか。
または金居の予想が正しいのか。
やはりプレシアの仕掛けた細工か、あるいは――。

150 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:15:53 ID:EoGhWHlU0
投下終了です、タイトルは「」突っ走る女」です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

151リリカル名無しA's:2010/05/14(金) 10:01:12 ID:g6jzJLBs0
投下乙、ホテルオワタ
おかしい……絶対、かがみん無双orジョーカー暴走orヴァッシュ暴走orこなたマーダー化orスバこなリイン退場orかがみん総取りになると思ったのに……普通の繋ぎじゃないか……
とりあえず、原作的に正しい反応だけどスバル落ち着け。ヴァッシュの髪の色は殆ど黒だぞ、一番の悪人はかがみで冷静にならないとこなたを失いかねないぞ。
まぁ、そのかがみは始をひき殺す……わけないよなぁ、変身可能になっているから変身出来るし、変身出来なくても対処されそうだし……ジョーカー暴走で終わりそうな気もするが。

あと、内容とは別に気になる事があるんですが、
仮投下後、氏のコメントがあってから本投下まで6日と少々時間が掛かりすぎだと思うのですが。
勿論、仮投下後の本投下や本投下後の修正の期限に関してはルールで決められていないので無制限という事で問題は一応ありません。
只、正直な所実質1週間という大幅な予約超過と変わらないんですよね。
勿論、ホテルパートは全員予約以外の予約が無く、ここの人達としても待つ分には一向に構わないと思います。
ただ、それはあくまで待つ側の話であって、投下する側がそれに甘え本投下までコメントも無しに大幅に遅れて良い話にはならないのではと思います。
氏にも都合があるでしょうから、遅れる事自体は仕方はありません。しかしそれならせめて『諸事情で2,3日遅れます』というコメント入れるなり、『修正に手間取るので一旦破棄します』とするなりやりようは幾らでもあったと思います。

したらばやwiki管理、多くのSS投下と氏が貢献しているのは理解出来ますが、だからといって根本的な期限のルールもしくはマナーを破っても構わないという話にはなりません。むしろ管理する側だからこそ守るべきではないのでしょうか?
以前にも誰かが指摘した事とは思いますが、今一度その事について考えてください。

152リリカル名無しA's:2010/05/14(金) 13:28:52 ID:I.fSqMX20
投下乙です

確かにスバルは原作通りだがそれは破滅フラグだぞ
そしてこういう時にこなたが危ない…
ああ、誰か助けて

それと俺はあまりぐだぐだ言わないが確かに連絡の一つぐらい欲しかったな
遅れる事自体は仕方ないけど

153 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 21:43:58 ID:EoGhWHlU0
>>151-152
確かに連絡の一つもしなかったのは自分の落ち度です
このたびは皆さんに迷惑を掛けてしまいどうも申し訳ありませんでした
この忠告は真摯に受け止め、執筆環境を見直し、同じようなことをしないように努力します

あとタイトルが微妙に間違っていました
正しくは「突っ走る女」です

154少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

155リリカル名無しA's:2010/05/19(水) 17:07:28 ID:.b90kewQ0
>>154
そう考えるならこの企画はあなたには合わないね
もうここに来ないことをお勧めするよ
それが双方にとって一番

156少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

157 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:50:33 ID:XV1/QtKY0
スバル・ナカジマ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、相川始、ヴィヴィオ分を投下します

158きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:52:05 ID:XV1/QtKY0
 どん、と響いた衝撃音が、始の鼓膜へと突き刺さる。
 ちら、と視線のみを向ければ、馬鹿でかい装甲車のタイヤが空回りしている。
 おおよその目測だが、速度は時速80キロほどであっただろうか。
 人の姿では、直撃を食らっていたなら一発でアウトだっただろうし、あれが堅牢な装甲車でなければ、乗り手も死んでいたかもしれない。
 そう。
 相川始は、強襲する装甲車の突撃を、食らわなかった。
 咄嗟の判断だった。
 一瞬回避が遅れていたなら、まず間違いなく食らっていたと断言できた。
 そのシビアなタイミングを掴むことができたのは、ひとえに前面に灯っていたもの――ヘッドライトのおかげと言えるだろう。
 踏むものもない舗装された道路を走っていた車だ。
 音だけでなく光すらも無く走っていたなら、最期まで気付けなかったのは間違いない。
「!」
 ぶぉん、とエンジンが唸りを上げた。
 標的を外し、勢い余って森の木々にぶち当たった装甲車が、轟音と共にバックする。
 その勢いで車体が反転し、勢い余って回りすぎたところを、戻す。
 もたついた動作は、運転免許を持たない素人のものか。
 マニュアル通りの運転をしているのなら、相手に居場所を伝えてしまうライトをつけっぱなしにしていたのも頷けた。
「変身!」
 一度目はまぐれであっても、二度目はない。
 人間と自動車とではスピード差がありすぎる。このままの姿では、次の突撃は回避できまい。
 故にほぼ反射的な動作で、カリスラウザーへとカードを通した。
『CHANGE』
 低い合成音声と共に、相川始の姿が一変。
 ヒューマンアンデッドの姿から、マンティスアンデッドを彷彿とさせる鎧姿へと変わる。
 漆黒のオーラを振り撒き現れたのは、黒金と緋々色金の戦士――ハートの仮面ライダー・カリス。
 瞬間、ぶおぉ、と吼えるエンジン。
 巨大な鉄の塊が、戦闘態勢へと移行。
 雄叫びと共に加速する体躯が、偽りの仮面の戦士へと殺到する。
「っ……!」
 これを飛び退り、回避する。
 仮面ライダーカリスの最大走力は、およそ時速75キロ。
 純粋な速さ比べならともかく、瞬発力では十二分に対処可能。
 相手もコツを掴んできたのだろう。避けられたのを理解した瞬間にブレーキをかけ、木との衝突だけは防いだ。
 とはいえ、乗り物を運転する上で、急ブレーキが悪手であることは言うまでもない。
 その理解も曖昧なうちは、素人と言って差し支えない。
(それなら、逃げ切れる)
 くるりと踵を返し、疾走。
 アスファルトの道路から飛び出し、手頃な獣道へと突っ込む。
 実のところ、始には交戦する気などなかった。
 理由は第三回放送の直後、すぐに浅倉威と戦わなかった時のそれと同様。
 ジョーカーの欲求と人の情――2つの感情に心を掻き乱されている現状では、とてもまともな状況判断などできない。
 故に無理に戦闘して下手を打つよりも、この場は最初から戦わないことを選んだのだ。
 刹那、背後から迫りくる鋼の咆哮。
 金属の光を放つ猛獣が、ばきばきと枝葉をへし折って肉迫する。
 道が開けているうちは駄目だ。装甲車のパワーとタフネスなら、それくらいの障害はこじ開けられる。
 ばっ、と。
 横跳びで獣道を外れ、茂みの中へと飛び込んだ。
 そのまま木々の密集したところを狙い、幹の合間を縫うように走る。
 これなら装甲車でも追うことはできない。相手が並の人間なら、このままやり過ごすこともできる。
「ちょこまか逃げるんじゃないわよッ!」
 相手が並の人間なら、の話だが。
 少女の金切り声が響いた。
 そのヒステリックな叫びには、覚えがあった。
 つかさなる少女から「お姉ちゃん」と呼ばれていた双子の姉――名前こそ知らないが、過去に2度顔を合わせた娘だ。
 よもやこんなにも短いスパンで、3回も顔を合わせることになるとは思わなかった。
『HENSHIN――CHANGE KICK HOPPER』
 次いで聞こえてきた機械音声は、自分達仮面ライダーのそれを想起させるもの。
 浅倉が変身した紫のライダーのような、自分の知らないライダーへの変身手段を手に入れたのだろう。
 これで機動力は互角となった。
 だが、それでもまだ始の方が有利だ。
 走るスピードが同じなら、互いの距離は詰められない。その隙に、相手に見つからないよう身を隠してしまえばいい。

159きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:53:17 ID:XV1/QtKY0
『CLOCK UP』
 その、はずだった。
「ぐぅあっ!?」
 刹那、襲いかかる鈍痛。
 腹部目掛けて放たれた衝撃と痛覚が、カリスの鎧姿を吹っ飛ばす。
 宙を舞いかけた漆黒の身体が、どん、と木の幹に当たって停止した。
 何だ、今のは。
 未だ抜けきらぬ混乱の中で思考する。
 自分と相手の間の距離は、相手が車から降りるまでに、100メートル近く開いていたはずだ。
 だというのに、攻撃が届いた。発射音が全く聞こえなかったことから、射撃攻撃でないことは分かる。
 ならば一体何をどうやった。射撃でないなら、どうやって攻撃を当てたというのだ。
「――ぉぉぉおおりゃああああああああああっ!」
 びゅぅん。
 がきぃん。
 瞬間、奇妙な情景を見聞きした。
 目の前に立っていた緑色の鎧。
 掛け声か何かのような雄叫び。
 猛スピードで空気を切り裂く音。
 カリスの鎧を叩いた金属音。
 それら4つの映像と音声が、ほとんど同時に再生されたのだ。
 関連性が、見当たらない。
 静かに佇んでいる目の前の敵と、猛然と走り追撃を仕掛けた音声とのイメージが結びつかない。
(音速を超えて動けるのか、こいつは)
 導き出された答えはただ一つ。
 敵の追撃とここまでへの到達が、追撃により発生した音を置き去りにしたということだ。
 音より速く動けるのなら、掛け声より速く手が出たのも納得がいく。
「ったく……手間、かけさせんじゃないわよ。これ、結構、疲れるんだから……」
 鎧の奥から響くのは、やはりあのツインテールの少女の声。
 改めて相川始は、眼前の仮面ライダー――キックホッパーの姿を見定めた。
 ホッパーの名前が指す通り、全体的にバッタの雰囲気を色濃く宿したライダーだ。
 身体は宵闇の中でもはっきりと伝わってくるほどの、鮮やかに輝く緑色に包まれている。
 顔面を覆うマスクなどは、そのものズバリでバッタのそれだった。
 片足に装備された金色のパーツは、これまた名前通り、キック力を増幅させるためのサポーターだろうか。
「どうやらその高速移動も、そう何発も使えるものじゃないらしいな」
 立ち上がり、態勢を立て直し、呟く。
 半ば息を切らした声からも、あれの体力消耗が大きいというのは確かなのだろう。
 ずっとあのままではたまったものではなかったが、短時間しか使えないのなら、どうにかなる。
「関係ないでしょ。どうせアンタ、ここで死刑確定なんだから」
 言いながら、緑のライダーが構えを取った。
「そうか」
 始もまた、それに応じる。
 できることなら雑念が消えるまで、戦うことなくやり過ごしたかったが、この距離ではそうも行かないだろう。
 逃げるにしても倒すにしても、確実に反撃を要求される間合いだ。
「分かったらとっとと……死ねぇぇぇっ!」
「はあぁっ!」
 緑と黒が同時に吼える。
 赤い瞳同士が肉迫する。
 加速し、振りかぶられるキックホッパーの足。
 踏み込み、突き出されるカリスの腕。
 もはや何度目とも知れぬ、仮面ライダー同士の一騎討ちが始まった瞬間だった。



 見る者が見れば、明らかに異常と分かる切り口だった。
 なればこそスバル・ナカジマは、目の前の男を犯人だと断定した。
 いくら鉄には劣るとはいえ、人間の骨は相当に頑強で強靭だ。
 いかな豪剣を持っていたとしても、よほどの達人でもない限りは、完全に平坦な切り口を作ることはかなわない。
 にもかかわらず、止血の際に垣間見た、ルルーシュ・ランペルージの傷跡は、怖ろしいほどに真っ平らだった。
 そしてここに至るまでに見た木々や、あの男が切り裂いた柱も、同じように真っ平らだった。
 故にスバル・ナカジマは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを犯人と断定した。

160きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:53:59 ID:XV1/QtKY0
「オオオオォォォォォォォッ!!」
 怒号を上げる。
 拳を振りかざす。
 獣のごとく獰猛な叫びと、獣のごとく荒々しい動作で。
 獣のごとき金色の瞳を、爛々と憎悪に煌めかせながら、勢いよく床を蹴って飛びかかる。
 びゅん、と反撃に出るのは無数の尖翼。
 袖のない左腕から迫りくる、糸のごとき白刃の雨だ。
 ぐわん、と腕を振るい、薙ぎ払った。
 両足で地面を突いて逆立ちとなり、駒のごとく両足を回した。
 ジェットエッジのスピナーが唸りを上げる。咆哮と共に旋風を成し、迫る凶刃を引きちぎる。
 かつてナイブズだったもの――ヴァッシュの左腕から伸びる尖翼の速度は、これまでに比べると明らかに遅い。
 知覚不可能な速度で放たれていたはずの斬撃が、今ではご覧の有り様だ。
 それは宿主たるガンマンの意志が、かつてほどこの左腕に毒されていないためなのだろう。
 そしてその程度の攻撃では、彼女を死に至らしめることなどできはしない。
「うああぁぁぁぁッ!!」
 今のスバル・ナカジマは全開だ。
 戦闘機人モードを解放し、IS・振動破砕を発動させ、怒りのままに四肢を振るっている。
 情けも容赦も残されていない。
 常人なら即死確定の技を使用することへの躊躇いなど、その目には一片も宿されていない。
 腕を振り、足を振り、轟然と咆哮し立ち回る姿は、まさに金眼の野獣そのもの。
 かつて地上本部攻防戦で、姉ギンガを傷つけられた時以来の、憤怒と憎悪に狂った阿修羅の形相だ。
「どぉぉぉぉぉけえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」
 目の前に立ち並ぶ刃の壁を、両手で強引にこじ開ける。
 超振動の五指が触れた先から、刃を粉々に砕いていく。
 目の前の男が殺したわけではなかった。
 黒髪の少年を死に追いやったのは、猛烈な炎を伴う攻撃だ。
 それでも、この男に負わされた手傷さえなければ、あの場から脱出することもできたはずなのだ。
「アンタ、は……!」
 ブリタニアの少年――ルルーシュの顔が脳裏に浮かぶ。
 この身をきつく抱き締めた、隻腕の感触を覚えている。
 不思議な少年だった。
 あれほどまでにストレートに、誰かに縋られたのは初めてだった。
 それほどに救いを求められたことは、生まれてこの方経験したこともなかった。
 彼の世界にいた自分のことを、それ相応に大切に思っていてくれたのかもしれない。
 ひょっとしたら、好きでいてくれたのかもしれない。
 その好意に応えることは、残念ながらできそうにない。会ってすぐの男になびくほど、自分は軽い女ではないらしい。
 それでも、あの今にもへし折れてしまいそうな背中を、支えてあげたいとは思っていた。
 こうして怒りに狂った獣へと化生するほどには、救いたいと思っていた――!
「アンタだけはああぁぁぁぁァァァァァ―――ッ!!」
 遂にスバルは絶叫した。
 怒号と共に繰り出された一撃は、遂にその防御の全てを打ち砕いた。
 生温かい吐息が漏れる。
 ぎらぎらと豹眼を輝かせる。
 百獣の軍勢のごとき威容と異様を孕み、殺意の魔獣がヴァッシュを睨む。
「く……」
 微かな呻きが、聞こえた気がした。
 目と鼻の先まで迫ったガンマンの顔は、確かに意識を失っているようにも見えた。
 しかしそれらの情報は、瞬きの後にはシャットアウトされる。
 獣が狙うは食らうべき獲物。
 すぐに叩き潰すだけの相手のことなど、いちいち気に留める必要はない。
 迷いなき敵対意識に従い。
 極大の憤怒と憎悪と共に。
 轟転するスピナーの右足を振り上げ、踵落としの姿勢を取る。
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが目を見開いたのは、ちょうどそれが振り下ろされた瞬間だった。

161きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:54:37 ID:XV1/QtKY0


 奇妙な夢を見ていた。
 否、眠っているのとは違うのだから、夢というよりは幻だろうか。
 ともかくもその幻の中では、彼は真っ暗な闇の中で、1人ぽつんと立っていた。
 上も、下も、右も、左も。
 その他ありとあらゆる方向を、どこまで遠くまで見渡しても、黒い闇しか見当たらない世界。
 地平線さえ塗り潰された、真っ黒くろの世界の中で、彼だけが、たった1人。

 そんな闇の中で立ちふさがったのが、今は亡きミリオンズ・ナイブズだった。
 彼が自らを取り巻く闇の幻に気付いたのも、ちょうどその瞬間だった。
 気付いた瞬間には既に、そこは1人ぼっちの世界ではなかった。
 ナイブズに連れ添うようにして、いくつもの顔が浮かんでくる。
 消してしまったジュライの人々。
 この戦いの中で救えなかった人々。
 自らの手で殺してしまった人。
 それらが彼をずらりと取り囲んで、一様に何かを訴えるような目を向けている。
 その目を見続けていることが耐えられなくて、彼はうつむき、視線を逸らした。

 それからどれほど経っただろうか。
 ふと、妙な気配が彼の身に降りかかった。
 己を見下ろす視線の中に、1つ覚えのあるものの存在を、肌で感じ取ったのだ。
 どこか懐かしいような、それでいて暖かいような感触。
 ふっと顔を上げてみると、人ごみの中に、その顔がある。
 長い黒髪を持った女性は、かつて彼を育てた母だった。
 レム・セイブレム――その名を呼びかけた彼だったが、その声は途中で遮られてしまう。
 彼女に伸ばそうとした手が、目に見えぬ何かに阻まれてしまったからだ。
 面食らったような顔をした彼は、その謎の違和感の正体を探る。
 それは人ごみと己とを隔てる、透明な壁のようなものだった。
 壁の向こうに立っているレムは、ただ穏やかな笑みを浮かべるだけで、彼に何も応えてくれない。
 一番手前にいたナイブズも、何も言葉にすることなく、ひたすらに沈黙を貫いていた。
 ああ、そういうことか、と彼は気づいた。
 自分の目の前に立ちはだかる壁は、死者と生者を分かつ壁だったのだ。
 後ろを振り返ってみれば、なるほど確かに、生きている知り合いは、皆壁とは反対の方向に立っていた。
 生と死の狭間の向こうには、手を伸ばそうにも届かない。
 生と死の狭間の向こうからは、相手の声を聞くこともできない。
 死んだものは、戻ってこない。
 自分はこれまで犠牲にした人々を、そんなところに送ってしまったんだな、と。
 彼は改めて実感し、それきり口を開かなくなった。

 それからまた、しばらく経って。
 いつしか壁の向こうの死者も、生者すらも見えなくなって。
 再び真っ暗闇の中で、赤いコートがたった1人。
 多少は落ち着いたのだろうか。瞳は下を向いてはおらず、ある一点を見つめていた。
 それは生死の壁の反対側。少し前まで、生きていた者達が立っていた場所。
 死者の世界を過去とするなら、未来に続いているであろう方角。
 しかし、そこから先が伴わない。
 ただじっとその先を見ているだけで、立ちあがって進むことができない。
 柄にもなく、怯えているのか。
 何が待ち受けているのか――ろくでもない結末しか切り開けないのではと、怖れを抱いているというのか。
 らしくないぞ、と己を叱る。
 今さら何をブルついているんだ。
 アンジールに救われていながら、何故また同じことを繰り返しているんだ、と。

 ふと、その時。
 闇の世界に、光が差した。
 自分しかいなかった世界の中に、不意にいくつかの光が灯った。
 ふわふわと浮く光の玉だ。地球には確か、ホタルとかいう虫がいるらしいが、ちょうどそれが近いのかもしれない。
 彼の周囲に現れた光は、ふわふわと闇の中に浮かびながら、彼の視線の方へと流れていく。
 ちょうどそれは、立ち止まって動けない彼を、先へと促しているようにも見えた。
 つられるようにして、立ちあがる。
 きょろきょろと、周囲の光を見やる。
 何故だか、妙な既視感を覚える光だった。不思議と、不快に思うことはなかった。
 光に導かれるようにして、一歩踏み出す。
 自分でも驚くほどにあっさりと、あれほど頑なに止まっていた足を動かす。
 ブーツの片足が、ず、と闇を踏みしめた瞬間。

 彼は――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、唐突に覚醒した。

162きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:55:21 ID:XV1/QtKY0


(あ……)
 闇を抜けたかと思えば、今度は靄の中にいた。
 そう誤認するほどに、視界はぼんやりと霞んでいた。
 薄っすらと確認できる地形から、そこが元のホテル・アグスタだと分かる。
 朦朧としかけた意識の中で、状況を整理した結果、自分が気を失っていたことを自覚する。
 どれほど気絶していたのだろうか。
 その間に彼女は――スバルという少女はどうしたのだろうか。
「―――ぉぉぉけええ―――――――ぇぇぇ―――ッ――」
 と。
 鼓膜に突き刺さったのは、そんな怒声だ。
 意識に割り込んできた声を皮切りに、少しずつ感覚が鋭さを取り戻してくる。
 ほとんど色しか分からなかった視力も、物のシルエットを捉えられる程度には回復してきた。
 目の当たりにしたのは、戦いの構図。
 叫びを上げる青髪の少女が、絶叫と共に暴れまわる様だ。
 敵は人ではない。細く鋭く、徒党を組んで襲いかかるのは、刃を宿したナイブズの翼。
 どうやらまた、自分の左腕がやらかしたらしい。
 意識を失っていた間に、またしても暴走したようだった。
(おいこらヴァッシュ・ザ・スタンピード、寝てる場合じゃないぞ)
 だとしたら、大変な事態だ。
 ぐ、と身体に力を込めて、動かぬ五体を起こそうとした。
 目の前の命が潰えるより前に、左腕を抑え込もうとした。
「――タ、は…――」
 それでも、身体が応えてくれない。
 今までよりはマシとはいえ、やはり左腕の主張は激しく、無理やりにヴァッシュの制御をはねのけようとしてくる。
「―ンタだけはあ―――ぁぁァァァァ――――ッ――」
 負けてたまるか。
 屈してたまるか。
 こんな程度で挫けるのが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードであってたまるものか。
 同じ過ちは犯さない。
 かつてと同じように力に呑まれ、誰かの命を奪うなんて真似はしない。
 もう2度も繰り返したのだ。
 ジュライの悲劇を繰り返すものか。
 フェイトの死別を繰り返すものか。
 だから立て。あともう一歩だ。意識を取り戻すところまで来たんだぞ。
 もうあと一歩で届くはずなんだ。
 その一歩を踏み出すんだ。
 さぁ、行くぞ――ヴァッシュ・ザ・スタンピード!
「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」
 くわ、と瞳を見開いた瞬間、絶叫と踵落としが襲いかかった。

163きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:56:50 ID:XV1/QtKY0
「〜〜〜〜〜っ!」
 咄嗟の判断で、腰を落とす。
 するりと滑り落ちるように、相手の股下を仰向けに抜ける。
 はらり、と前髪が散ったのが分かった。
 ぞわり、と首筋を悪寒が襲った。
 おまけに、危うく舌を噛み切るところだった。
 相手のスカートの中身は――OK、覚えてない。ということは見ていない。
 この状況で考えるのもアレだが、紳士として最低限の礼儀と自制は務め上げることができたらしい。
 なんて馬鹿なことを心配している場合じゃなかったことを思い出し、身を起こして姿勢を正す。
「こぉのおおぉぉぉぉぉっ!」
 すぐさま第二撃が襲いかかった。
 ぎゅるぎゅるとローラーブレードを回転させ、猛スピードでこちらへと加速。
 ぎゅん、と唸る鉄拳は、風か嵐か稲妻か。
 当然食らうわけにはいかない。
 故に、身をよじって回避する。
 そのまま勢いに身を任せ、ばっとその場から駆け出した。
 とにかくなるべく遠く離れることだ。ついでに障害物があるとなおいい。
 相手は近接戦特化型で、おまけに足も速いと来ている。接近戦を挑んでいては、命がいくらあっても足りない。
「OKOK、落ち着いたな……そのまま大人しくしといてくれよ」
 軽く抑えた左腕は、今はすっかり静かになっている。主導権を取り戻すことは成功したようだ。
 そうして確認をしているうちに、鉢植えを倒しソファを飛び越え、廊下に差しかかり、曲がり角にしゃがみ込む。
 中腰の姿勢を作ると、壁越しに相手の様子を窺った。
「逃げるなァッ!!」
 荒々しい語気と共に振りかぶられるのは、烈風のごとき打撃の応酬。
 立ちはだかる障害物を粉微塵に砕きながら、じりじりとにじり寄るスバルの姿だ。
 先ほどまで戦っていた相手とは、どうしても同一人物には思えない。
 怒り狂った態度もそうだが、攻撃の破壊力にしたってそうだ。
 ソファを一撃でぶち抜くのもどうかしてるし、よく見れば先ほどの踵落としを食らった床も、見事にクレーターを作っているではないか。
 ぱらぱらと粉塵の舞うロビーの中、まさしく目の前のスバル・ナカジマは、憤怒の炎を燃やす悪鬼羅刹だ。
(さて、どうする)
 考えていられる時間は残り僅かだ。
 その僅かのうちに決めなければならなかった。
 恐らく、もう拳銃の威嚇は当てにならない。アレを生身で組み伏せるのはどうやっても無理だ。
 故に当初のプランではなく、新たな対策を講じなければならなくなった。
 この場を殺さずに切り抜けるには、より強力な拘束力がいる。
 この肉体以上に強靭なもので、相手の動きを封じる必要がある。
(……試してみるか!)
 そして幸いにも、その条件を満たすものは、既に己が右腕に宿されていた。
 ぐ、と右手を前方に突き出す。
 エンジェル・アームの砲弾を撃ち出す時のように、腕の中に“力”をイメージする。
 脳裏に思い浮かべるのは、左腕に刻み込まれたナイブズの記憶だ。
 力尽き死体と成り果てるまでに、数多くの敵を切り裂いてきた、刃の尖翼のイメージだ。
 同じプラント自立種で、同じエンジェル・アームである。兄貴のナイブズにできたことが、弟の自分にできないはずがない。
 兄の発現させた怒りが、殺意の剣であるというのなら。
 人々を守るためのこの身には、外敵を阻む盾がほしい。
 鋭く禍々しい刃を突き立て、誰かを傷つけることのないように。
 されどあらゆる状況からでも、誰かを守れる強靭さと精密さを。
(もう、大丈夫だ)
 もちろん、不安がないわけではない。
 この身体に宿された力への恐怖は、依然として心に残されている。
 少しでも加減を間違えれば、また誰かを殺めてしまうのではないか。
 自分が使い方を誤れば、またフェイトや新庄のように、犠牲を生んでしまうのではないか。
 その心の乱れさえも引き金となって、再び暴走を招いてしまうのではないか、と。
 未だ胸に残された罪悪は、ちくりちくりと痛覚を訴えている。
 それでも。
 だとしても、止まれない。
 ここで立ち止まるわけにはいかない。
 新庄達の死を悼むつもりがあるのなら、それこそ前に進まなければならないのだ。
 自分が動くことで、死ぬかもしれない命もある。だがそれは、自分がそうならないように努めればいいだけのこと。
 それ以上に問題なのは、自分が動かなかったことで、救えた命を救えずに終わってしまうことだ。

164きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:57:48 ID:XV1/QtKY0
 もう大丈夫だ。
 二度と立ち止まることはしないし、立ち止まろうにも立ち止まれない。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの名が示すのは暴走。
 たとえ困難が立ちはだかろうと、どんなドタバタがつきまとおうとも、ひたすらに突っ走るのが己の性分。
 だから、進め。
 歩みを止めるな。誓った覚悟をより強く固めろ。
 そう。
「――迷うな!」
 今が、その時だ。
 刹那、右腕が眩い光を放つ。
 光輝の中より顕現するのは、いい加減顔を合わせるのにも慣れてきた、危険で過激な天使の翼。
 されど姿を現した力は、命を奪う大砲ではない。
 兄のもの同様細かく枝分かれし、されど柔らかな羽毛の形を成した、ヴァッシュ・ザ・スタンピードオリジナルの尖翼だ。
 ぎゅん、と唸って翼が羽ばたく。
 大気をぶち抜いて羽が舞い躍る。
 さながら雲の巣のように展開された翼の糸が、四方八方からスバルへと迫る。
「くっ……!」
 反射的に飛び退いても手遅れだ。
 本人の明確な意志のもとに、全力で展開された尖翼の速度は、先ほどまでのそれの比ではない。
 制限が外れれば、知覚することすらかなわなくなるほどのスピード。
 たった1枚きりであろうとも、幾百千の銃弾の雨にも耐えきる堅牢性。
 首輪による制限下において、その性能を大幅に落とされたとしても。
 不意を打たれたのであれば、未だ発展途上のスバル・ナカジマに、回避できる余地はない。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 ヴァッシュが吼える。
 人間台風が唸りを上げる。
 文字通り翼という名の風を操り、一個の台風となって絶叫する。
 持てる精神力と集中力の全てを注ぎ、無数の枝葉と化した尖翼を操作。
 さながら魚を捕えるイソギンチャクだ。
 360度全方位から伸びる純白の光輝が、標的の手を掴み、足を掴む。
 握り潰すほど強固ではなく、されど逃げられるほど軟弱ではなく。
「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。
 振動破砕を当てようにも、手も足も動かせないのでは意味がない。
 ISの効果が及ぶのは、両手両足の先端のみだ。
 故に逃れることもできず、スバルはただ拘束されるがままとなっていた。
 五体を余すことなく包み込む翼が、淡い白光を放って顔面を照らす。
 肌をなめるその光が、いつでも絞め殺すことはできるんだぞと言っているようで、ほんの少し腹が立った。
「さて、と……君にいくつか聞きたいことがあるんだ」
 眼下からヴァッシュの声が響く。
 うつ伏せの姿勢で縛られていたため、相手の顔は直接見下ろすことができた。
「まず1つ。君はどうしてそんなに怒ってるんだい? ひょっとして僕、何か気に障ることでもした?」
 最初の問いかけからして、それである。
 ほんの少しどころではなく、今度は本気で腹が立った。
 こんなにも怒りを覚えるのは、随分とご無沙汰ぶりのことだ。

165きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 12:59:15 ID:XV1/QtKY0
「今さら何を……! ルルーシュの腕を斬ったのはアンタなんでしょ!?」
 語気が荒くなる。
 わなわなと身体が小刻みに震える。
 普段では考えられないほどの、乱暴な語調が口を突く。
 黄金色の瞳が怒りを宿し、きっと男を睨みつけた。
 忘れたとは言わせない。
 お前が負わせた傷のせいで、あの少年は苦しむことになり、命まで落としたんだ。
 直接殺したとまではいかずとも、間接的に殺したと言っても過言ではないんだ。
「僕が……斬った?」
「マントを羽織った黒髪の男の子! アンタのせいで、ルルーシュは……!」
 その上、そうしてとぼけるのだ。
 もはや堪忍袋の緒はほつれにほつれ、ぷつんと切れる直前だった。
 許せない。
 断じて許すわけにはいかない。
 どうしてルルーシュが命を落として、こんな男が生き残っているんだ。
 もしも本当に忘れていたとでも言いだすなら、この拘束を解いてでも、その顔面に拳を浴びせてやる。
 ぶん殴って、引っぱたいて、蹴っ飛ばして、嫌というほど彼の痛みを――
「待った!」
 しかし。
 刹那、一喝。
 吐き捨てかけた言葉は、下方からの声に掻き消される。
 びくり、と肩が震えたのを感じた。
 正直な話、一瞬たじろがされた。
 一瞬前のとぼけたような態度とは違う、確固たる力のこもった声に。
 想像もつかないほど真剣な表情に宿された、あまりにも濃密な意志の気配に。
 有無を言わさぬ、とはまさにこのことか。あまりの迫力に、完全に言葉を失ってしまった。
「確かに、そういうことに心当たりがないわけでもない。実際に俺は、少なくとも1人、この手で人を殺しちまってる」
 す、と持ち上がるヴァッシュの左腕。
 左側だけ袖が破れているという、歪なコートから覗いた腕。
 無数の白刃を展開し、柱を切り裂き、スバルへと襲いかかった針の山だ。
「正直な話、他に何人か巻き込んでても……死なせちまってても不思議じゃないだろうさ」
 一瞬、男の瞳から力が失せる。
 確固たる意志に光っていた眼光へと、暗い弱気の影が差す。
 そこに込められた数多の感情――無念、後悔、そして自責か。
「でも、これだけははっきりと言える」
 ふぅ、と息を1つついた。
 次の瞬間には、顔つきをきっぱりと切り替えていた。
 陰りを振り払ったその視線は、先ほどまで見せていた、意志の炎を宿した瞳だ。
 そこまで認識したところで、いつしかスバルは、自分が彼の一挙手一投足までも、正確に追いかけていたことに気がついた。
 憎むべき敵のはずなのに。
 危険人物であるはずなのに。
 その姿に、少なからず魅入っている自分がいた。
「その子を斬ったのは俺じゃない。その子が斬られた瞬間を――俺は“視ている”」



 我ながら、らしくないとは思った。
 これではまるで言い訳を言っているようで、見苦しいにもほどがあるじゃないか。
 真剣な面持ちを浮かべながら、しかしヴァッシュは、その裏ではそう自嘲していた。
 それでも、その顔に表れた意志に偽りはない。
 スバルとの間に誤解があるのなら、何としても解いておきたかった。
 こうして言葉を交わしてみて、分かったことがある。
 剥き出しの怒りをぶつけられてみて、初めて理解できたことがある。
(この娘は、話せば分かってくれるかもしれない)
 頭上に浮かぶ娘は、柊かがみが言うほど悪い人間ではないということだ。

166きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:00:31 ID:XV1/QtKY0
 彼女はスバルについて、自分に襲いかかってきた、と説明していた。
 それが正しいというのなら、スバルは殺し合いに乗っているということになるだろう。
 だがここにきて、その仮定が信じられなくなってきた。
 この娘は仲間を傷つけた相手――他ならぬヴァッシュ自身をそうだと思っている――に対し、強烈な怒りをぶつけてきた。
 誰かのために怒れるということは、それだけ誰かを深く思いやれるということ。
 それほどの優しさと思いやりを持っていて、それをこの場でも貫いているような娘だ。
 そんなスバルが、殺し合いに乗ったり、かがみに襲いかかったりするとは、どうしても考えにくい。
 かがみを信じないというわけではない。ただ、スバルのことも信じたくなっただけのことだ。
「信じろっていうんですか、それを」
 それからどれほど経っただろうか。
 ややあって、返事が返ってきた。
 口調からは随分と毒が抜けたが、未だ表情には猜疑心が残っている。
「信じられないのも無理ないと思うし、詳しく話しても、信じにくいだろうことだってことは分かってる」
 それだけを、口にした。
 まだそれ以上は語れないし、これ以上語り過ぎることも、できることならしたくなかった。
 事実、ありのままに説明をしたとしても、到底信じられる内容ではないだろう。
「それでも、聞いてほしいんだ」
 だとしても、それはヴァッシュにとっては厳然とした真実なのだ。
 ルルーシュなる者――マントを羽織った黒髪の少年のことは、覚えている。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード自身ではなく、左手に宿されたミリオンズ・ナイブズの記憶に、しかと刻み込まれている。
 その少年の腕を斬ったのは、間違いなく生きていた頃のナイブズだ。
 その記憶を垣間見たからこそ、誤解を解く必要がある。
 彼女がその少年を大切に想い、少年の死を悲しんでいるからこそ、少年の真実を伝えなければならなかった。
「……下ろしてください。話を、聞きますから」
 故に。
 彼女がそう言ってくれた時。
 話を聞くだけは聞いてやる、と返してくれた時。
「ありがとう」
 それだけでも十分だと。
 聞いてくれるだけでも十分に嬉しい、と。
 心底から、そう思った。
 いつの間にかスバルの瞳は、獣のような金色から、元の緑碧へと戻っていた。
 右腕から伸びる翼の糸――言うなれば防衛尖翼、といったところだろうか――を地上へと下ろす。
 スバルが安全に着地できるところまで高度を落とすと、その拘束を解き、腕へと引っ込める。
 すた、という音と共に、少女が床へと降り立った。
「それで、ルルーシュは誰にどんな状況で斬られたっていうんですか?」
「ああ、それは……」
 さて、これからどうするか。
 スバルに問いかけられた時、ほんの少し困ってしまった。
 ルルーシュの真実を語るに当たって、どのあたりから話をすればいいのだろう、と。
 いくらあんな翼を見せたとはいえ、彼女もヴァッシュがプラントであるなどとは思っていないだろう。
 故に自分がナイブズを左腕に取り込んだ、と話した時点で、そんなわけがあるかと突っかかってくるはずだ。
 ならば、もういっそ最初から話してしまうか。
 自分が人間でないというところから、思い切って話してしまうべきか。
 しかしそれはそれで、こいつはいきなり何を言い出すんだと、かえって疑われてしまうのではないか?
 ああでもないこうでもない、と、頭をひねっていた矢先だった。

「――ギンガ……?」

 不意に廊下から、その声が響いてきたのは。

167きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:01:22 ID:XV1/QtKY0
「「!?」」
 知覚したのはほぼ同時だった。
 赤と青。
 ヴァッシュとスバル。
 互いにトークモードから臨戦態勢へと移行し、声の方を向いて構えを取る。
 違いがあるとするならば、それぞれが浮かべる表情か。
 ヴァッシュ自身は油断なく自らの拳銃を構え、現れた相手を見定めている。
「ギン姉の、名前を……?」
 だがスバルの方はというと、怪訝そうな表情と共に、そんなことを呟いていた。
 ギン姉というのは、恐らく相手が口にした名前の主のことだろう。
 そういう反応を示したということは、そのギン姉というのは、スバルの知り合いだったのだろうか。
(っと、いけないいけない)
 とはいえ、今はそれを気にしている場合ではない。
 改めて来訪者へと視線を戻し、その姿を見定める。
 廊下の入り口に立っていたのは、全身漆黒で埋め尽くされた、禍々しい鎧を纏った男だ。
 顔はフルフェイスのマスクで隠れていたが、先ほど呟いた声で男だと判断できた。
 そしてその顔面には、ハートのマークを描くかのように、真紅の複眼が散りばめられている。
 黒と赤――闇と血の色。その上意匠も悪役っぽく、あまりいい印象は受けない。
 見た目だけで人を判断することが許されるなら、一発で悪人と認定できるだろう。
「うぉりゃああぁぁぁーっ!」
 と。
 その時だ。
 そこに、新たな声と人影が割り込んできた。
 少女の甲高い声と共に現れた者は、これまた全身鎧尽くめ。
 しかし、こちらの甲冑は緑色で、複眼もハート型ではなく、昆虫のように2つに分かれている。
「チッ!」
 舌打ちと共に、振り返る漆黒。
 どうやら黒鎧と緑鎧は、互いに敵対関係にあるらしい。
 がきん、という金属音と共に、振り上げられた新緑の回し蹴りを、漆黒の弓で受け止める構図ができあがった。
「しつこいのよ! いい加減、死になさい……ってのぉ!」
 苛立った叫びと共に、緑色の鎧が追撃を放つ。
 パンチ、キック、続いてキック。キックの回数が多いあたり、蹴り技が得意なのだろうか。
 しかしそれ以上に気になるのは、その声だ。
 二度三度と聞いていくうちに、否応なしに気付かされていく。
 聞き覚えがあるぞ、この声は。
 ついさっきまで聞いてたぞ、この声は。
「ってちょっと待った! その声……まさかかがみさんか!?」
「!? しまっ……」
 攻撃の手が止まる。焦ったような反応が返ってくる。
 できることなら、正解であってほしくはなかった。
 それでも、今の反応を見せられた以上、認めざるを得なかった。
 あの中に入っているのはあのかがみだ。
 明確な殺意と共に、黒色の鎧を襲っているのは、先ほどまで保護していた柊かがみだ。
「……あーもーめんどくさい! もういいわよ! 全員まとめて皆殺しにしちゃえばいいんでしょ!」
 苛立ちも極限を迎えたか。
 黒の鎧のもとから飛び退き、ヴァッシュと鎧の中間地点に着地して。
 幾分か捨て鉢気味にすらも感じられる声音で、かがみが殺意を振り撒き叫ぶ。
 それが彼女の本性か。
 ということは、自分は今の今まで騙されていたということか。
 それならば、自分から見たスバル評と、かがみから見たスバル評が食い違うことにも納得がいく。
 ただし、あまりしたくない納得ではあったのだが。
 一難去ってまた一難、か。
「ごめん、どうも説明は後からってことになりそうだ」
 ともかくも、相手が殺意を持っているというのなら、止めなければ。
 傍らのスバルへと、言葉を飛ばし。
 改めてアイボリーを構え直し、戦闘態勢へと移った。

168きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:02:20 ID:XV1/QtKY0


 果たして自分は、このヴァッシュという男を信用していいのだろうか。
 その疑問だけは、未だ大なり小なり残っている。
 彼はルルーシュを斬ったのは自分ではないと言った。
 だが、あのような芸当ができる人間など、他にそうそういるものではないのも事実だ。
 にもかかわらず、何故話を聞こうとしたのか。
(嘘を言ってるようには見えなかった)
 やはりひとえに、その眼差しの真摯さによるところが大きかった。
 訓練校のテストこそ好成績だが、スバルは元来そう頭の回転が早い方ではない。
 故に自分の人物眼など、そんなに信用できたものでもないのかもしれない。
 それでも、少なくともこの瞳に映るヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿は、演技をしているようには見えなかった。
 信じてほしいと願う意志も。
 人を殺してしまったことへの自責も。
 どちらもがあまりにも力強く、圧倒的な存在感とリアリティを伴って、自らの視界へと飛び込んできていた。
 この男は本当に嘘をついていないのではないか。
 危険人物というのも何かの間違いで、本当はいい人なのではないか。
(でも、多分まだ信じきるのは早い)
 それは分かっている。
 いくら嘘には見えないといえど、それすらも計算の内である可能性もある。
「ヴァッシュさん……一緒に戦いましょう」
「いいのか?」
「約束しましたから。自分のするべきことをするって……かがみさんを止めるって」
 だからこそ、これは一時的な共闘。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードという人間を理解するための、最終テストを兼ねた共同戦線。
 本当は静観を貫いた方がいいのは分かっている。
 敵かもしれない相手と同じ戦場に立つのが、危険なことであるということは理解している。
 それでも、この戦いに参戦しないわけにはいかないのだ。
 あの時、自分はこなたと約束した。
 自分がやりたいこと、やるべきことをするために、全力全開で戦う、と。
 今自分がすべきことは、彼女の友情を守るために、かがみを殺戮の魔道から、全力で引きずり上げることだ。
(相手が仮面ライダーなら、使える)
 戦闘機人モードを再起動。
 薄暗いホテルのロビーに、2つの黄金灯が光る。
 魔獣の煌めきと共に顕現するのは、一撃必殺の破壊力を宿した禁断の魔手。
 怒りに我を忘れた先ほどのように、人間に対して振るうには、危険すぎる力であることは分かっていた。
 以前にかがみと戦った時も、中身へのダメージを懸念し、結局最後まで使うことはなかった。
 それでも、相手があの紫の蛇人と同じ仮面ライダーであるなら。
 生半可な攻撃では傷一つつかないほどの、強固な鎧に守られているのならば。
 中身を傷つける心配をすることなく、遠慮なく叩き込むことができる。
 この振動破砕の力を存分に振るい、鎧のみをぶち砕くことができるはずだ。
(それに……気になることもある)
 そこで視線を、もう片方へとシフト。
 緑の鎧を纏ったかがみではなく、黒の鎧を纏った謎の男を見る。
 マスク越しにこちらを睨むかがみ同様、今はあの黒と赤の男も、静かに佇んでこちらを見ていた。
 ギンガ――その名を口にしたのは、明らかにあの男の方だ。
 もちろん、仮面ライダーに変身する知り合いなどいない。
 であればあの漆黒のライダーは、このデスゲームの中でギンガと出会い、知り合ったに違いない。
 彼と姉はどういう関係なのか。
 どのようにして出会い、どのような行動を取ったのか。
 今は亡き姉の死の瞬間に、この男は関わっていたのか否か。
「そこの人! どうして、ギン姉の……ギンガ・ナカジマの名前を知ってるんですか!?」

169きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:03:14 ID:XV1/QtKY0


 だからホテルに来るのは嫌だったんだ。
 青髪の少女を見やりながら、相川始は思考した。
 仮面ライダーキックホッパーに応戦し、その中でホテル・アグスタとやらへと舞台を移して、気付けばロビーでこの有り様。
 人と接触するのが嫌だったから、わざわざこの場所を避けていたのに、結局このような結果を迎えてしまった。
 しかも、出会った相手が相手だ。
 金髪と赤コートの方は知らない。だが、青髪の少女の方には見覚えがある。
 正確には、同じ管理局とやらの制服を纏った、彼女の姉の方の顔を覚えている。
「お前がスバル・ナカジマだな」
 ギンガ・ナカジマ。
 目の前に立っていた少女の顔は、あの女の顔と瓜二つだった。
 ロングヘアーだった頃はともかく、髪を短く切った時と見比べれば、ほとんど同一人物と言っていい顔立ちだ。
 少なくとも、初めてスバルの姿を見た始にとっては、そうだった。
「ここから去れ。お前の姉……ギンガには借りがある。できれば、お前を殺したくはない」
 真実だ。
 スバルを殺したくないということも。
 このままではスバルを殺してしまうであろうことも。
 あの少女との戦いの中で、今では随分と頭も冴えてきた。
 今なら全開で戦える。余計な雑念のない今なら、全力で殺戮ができてしまう。
 迷いが消えたということは、ジョーカーの本性に抗おうという気が、その分失せてしまったということだ。
 認めたくはないが、これから始まる戦いの中で、いつジョーカーへと変身してしまうかも分からない。
 そうなればこの場の人間は全滅だ。
 仮面ライダーも、赤コートの男も、スバル・ナカジマさえも死んでしまう。
 他の2人はともかく、スバルを殺すことだけは、できることならしたくはない。
 迷いが消えうせてなお、ギンガの遺志を踏みにじることに、強い嫌悪感を抱いている自分がいる。
 故に最後通告として、戦う前に、スバルへとこの場からの撤退を促した。
「っ……そんなこと言われて、引き下がれるわけがないよっ!」
 ああ、そうか。
 お前もそういう人間だったのか。
 どうやら裏目に出てしまったらしい。こいつも姉同様、人を見捨てることができない性分だったらしい。
 馬鹿正直なのか、それとも正義漢なのか。
 どちらにしても、これで決まってしまった。
 もはやギンガの忘れ形見との戦いは、避けられない運命なのだということが。
「……どうなっても知らないぞ」
 カリスラウザーを構え直す。
 敵意を持って、赤と青の2人組を見つめる。
 こうなってしまったのならば、もはや戦わずにはいられない。
 自分の道に立ちはだかってくるというのなら、力で排除することでしか進めない。
 皮肉にも、今の自分は全開だ。
 意識はクリアーに澄み渡っている。たとえこの乱戦の中であろうと、手加減なしで戦えてしまう。
(だが、何だ? この禍々しい感触は……)
 そしてその一方で、分かったことが1つあった。
 雑念を振り払ったことで、新たに感じられるようになったものが1つある。
 ジョーカーの持つ闘争本能――無意識的に戦いを察知する鋭敏な神経が、嫌な胸騒ぎを訴えている。
 何かのオーラを直接当てられたわけではない。
 本当に、ただ嫌な予感がするだけだ。
 ここにこのまま留まれば、何か強大な力に巻き込まれることになるかもしれない。
 その予感の主は目の前の2人組でも、ましてや緑色の仮面ライダーでもない。
 もっと強大で、醜悪で、おぞましい感触だ。
 そう、たとえばあのもう1人の赤コート――ギンガを殺したと思われる男のような。
 そしてギンガが連れていた仲間――桃色の髪の娘に襲いかかった時のような。
 いずれにせよ、ろくな相手でないことは間違いなかった。
 血のような、闇のような。
 奈落の底を流れ続ける、流血の河を思わせる予感が、絶え間なく危険を訴え続けていた。

170きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:04:11 ID:XV1/QtKY0
 


【1日目 夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.スバルと共闘し、始とかがみを止める。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】戦闘機人モード、疲労(小)、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴァッシュと共闘し、始とかがみを止める。特に始からは詳しく話を聞きたい。
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 8.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

171きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:04:56 ID:XV1/QtKY0
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカリス、疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 1.この場を切り抜ける。
 2.生きる為に戦う?
 3.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 4.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 5.アーカードに録音機を渡す?
 6.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 7.ギンガの言っていたなのは、はやてが少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
 8.できればスバルを殺したくないが……
 9.何やら嫌な予感が近付いてきているのを感じる。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】仮面ライダーキックホッパー、、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.この場の人間を皆殺しにする。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

【全体の備考】
※F-9の森の中に、装甲車@アンリミテッド・エンドラインが放置されています。

172きみのたたかいのうた ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:05:46 ID:XV1/QtKY0
 

 一歩一歩踏み出す度に、大地が死に絶えていくようだった。
 アスファルトを踏み締める度に、風化し塵となって流れていくようだった。
 死を纏う者――それを表す端的な言葉があるとするなら、そんなところか。
 そこに死が歩いている。
 死を振り撒く存在が、明確な姿形を持ってそこにある。
 そう錯覚させるほどの、おぞましくも禍々しき気配を孕んでいた。

 究極の闇。
 凄まじき戦士。
 古代ベルカ最後の聖王にして、その高潔な心を怒りと憎しみに枯れ果てさせた狂戦士。
 巨大な漆黒と黄金の鎌を携えるさまは、まさしく伝承の死神そのものだ。
 金色のポニーテールを風に踊らせ、新緑と鮮血のオッドアイを殺気に光らせ。
 まるで何かに引き寄せられるかのように、闘争の舞台たるホテル・アグスタの方角へと、一直線に歩いていく。
 愛する母を守るために。
 母を害するものを皆殺しにするために。
 憤怒と憎悪と敵意と殺意を引き連れて、触れるもの全てを切り裂かんがために、闘争の舞台を闊歩する魔神。

 脳裏に反響し続けるのは、少し前まで同行していた、オレンジの髪の少女の声だ。
 一休みするためにも、ホテル・アグスタという所に行こう――命を落とす前に、彼女はそう提案していた。
 行くあてもなく、求める者もいない彼女にとって、唯一それだけが行く先の指針だった。

 もうすぐ、奴がやって来る。
 四つ巴の闘争の舞台に、最悪の第5人目が現れる。
 死神の刃鎌を手に入れた最強の聖王が、禍々しき波となって、ホテル・アグスタへと押し寄せてくるだろう。
 全てを呑み込み、溺れさせんばかりの。
 行く先に立つ万象一切を、ことごとく血で染め上げんばかりの。

 厄災が迫る時は、近い。


【1日目 夜中】
【現在地 H-7】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】聖王モード、血塗れ、洗脳による怒り極大、肉体内部に吐血する程のダメージ(現在進行形で蓄積中)
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする、その為に自分がどうなっても構わない。
 1.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 2.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 3.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
 4.ホテル・アグスタに行ってみる。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。
 その影響により、現在進行形で肉体内部にダメージが徐々に蓄積されており、このまま戦い続ければ命に関わります。
 また、他にも弊害があるかも知れません。他の弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。

173 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:08:32 ID:XV1/QtKY0
投下は以上です。誤字・矛盾などありましたらご意見ください。
あと、Wikiに収録する際の今回のSSの分割点ですが、

「う、うわああぁぁっ!」
 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。



「ん……このっ……」
 じたばたと身をもがかせようにも、うんともすんとも動かない。


ここの◆の部分でお願いします。

174 ◆Vj6e1anjAc:2010/06/10(木) 13:10:06 ID:XV1/QtKY0
っと、ミス発見。かがみの状態表の状態の欄に、「疲労(中)」の追加をお願いします

175リリカル名無しA's:2010/06/10(木) 17:35:10 ID:Ka6taRRo0
投下乙です。
とりあえずスバルとヴァッシュが和解出来……と思ったら始とかがみがやって来た。
始とはギンガとの絡みがあるから何とか出来そうだけど最早かがみはロクデナシだなぁ……それでもスバルとヴァッシュは殺さないだろうからタチが悪すぎる
……で、死をもたらす危険なヴィヴィオが乱入しそうという恐ろしいオチ……『死が歩いている』なんて上手い表現だのう……
ヴィヴィオの接近に気付いているのは始だけか……そういや憑神鎌の脅威の片鱗に触れていたんだっけ。
ヴィヴィオ、ジョーカー、バーサーかがみ……ヴァッシュの金髪も残り少ないから最早ホテルオワタ……

……こなたがハブられたのは、この瞬間まで全く絡んでいないからか……失礼承知で言うけど投下されるまでこなたは予約忘れだと思っていた……

とりあえずこなた伏せやー! そこはアニメイトよりも危険だー!

176リリカル名無しA's:2010/06/10(木) 20:34:44 ID:ZtB.Qidc0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは寸でのところで和解に至ったか
それにしても立ち直ったヴァッシュさすがだ
かがみの方は前話での「ドン!!!!!」は気にぶつかった音だったか
素人じゃそれでもよく運転出来た方だな
そして案の定というか行き当たりばったりで正体ばらしているよw
スバル、ヴァッシュ、始、かがみ、それにヴィヴィオ……うんホテルオワタ \(^o^)/

177リリカル名無しA's:2010/06/11(金) 08:48:14 ID:m.ZIbc6I0
投下乙です
ヴァッシュとスバルは一先ず和解出来たみたいで安心した。
さて、問題はいつジョーカーが暴れ出すか分からない始と最早体面お構いなしのかがみか。
毎度ながらかがみは激情に任せて暴れ回っても勝てる気がしないんだよなぁ……。
純粋な戦闘能力じゃ始、ヴァッシュ、スバルの三人全員に敵わないだろうし。
寧ろ今回の戦いで一番危険なのはアルティメットヴィヴィ王か。

178 ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:45:19 ID:m.ZIbc6I0
エネル、金居、八神はやて(StS)分の投下を開始します。

179Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:47:34 ID:m.ZIbc6I0
 深い、濃い市街地の闇の中に、神を自称する男――エネルは居た。
 怒りと憤怒に歪んだその表情を、一言で例えるならばまさしく鬼神。
 激情の余り全身から漏れ出した電流が、鬼のような形相を怪しく照らして、それは余計に際立って見えた。
 本来ならば夜の市街地を照らす筈の電灯も、最早まともに機能してはいない。
 市街地を淡く照らす筈の月明かりも、空を覆う……というよりもエネルの周囲の空を覆う雷雲のお陰で届きはしない。
 ゆらりゆらりと、一歩を進める度に、電灯がちかちかと点灯し、消えていく。
 時たまごろごろと音を立てて、常人なら一瞬で焼け死ぬような雷が、エネルの周囲のアスファルトへと落ちる。
 闇の中を歩く鬼神と、鬼神が伴う雷雲が、周囲のありとあらゆる電力を根こそぎ奪っているのだ。
 電気がまた一つ消える度に、エネルの周囲を走る青白い電流が、夜空で光る雷が、より一層の輝きを放つ。
 首輪で制限されているとはいえ、彼は自然(ロギア)系でも最強の部類に入る、ゴロゴロの実の能力者。
 エネルがスカイピアでやってきた事を考えれば、この程度の芸当は至って簡単な事なのだ。
 しかし、それはエネルが意図してやっている事ではなかった。

「許さん……絶対に許さんぞ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード!」

 それも全ては、自分ですらも抑えきれない激情が成せる業。
 怒りで顔まで真っ赤にしたエネルが、無意識のうちに周囲の電気を奪っていたのだ。
 ここまで歩いた数キロの道のり、未だに電力が残っている建物など一軒も無い。
 初期の電力を遥かに上回る力を身に付けたエネルの標的はただ一人。
 神である自分を跪かせ、あまつさえ神である自分を騙くらかしたあの男。
 赤いコートに、トンガリ頭。白い翼のヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 エネルは先程、そのヴァッシュに良く似た白の翼を見掛けた。
 空を羽ばたく白き翼に、はためく赤のコート。それが、南東の方角へと飛翔して行った。
 それを視界に捉えた時には、翼の影はかなり小さくなっていたが、それでも見まごう訳が無い
 スカイピアの奴らに生えたちっぽけな翼とは違う、本当の天使の如き翼。
 神を死の恐怖へと追いやった、憎たらしい翼。偉大なる神を失墜させる、天使の様な悪魔の翼。
 全ての嘘を見抜いた以上、最早神に歯向う不届き者を生かしておく理由も無い。

 殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
 何度も何度も心中で反芻しながら、翼が消えた南東へと歩を進める。
 ヴァッシュをこの手でブチ殺した上で、全ての参加者を血祭りに上げる。
 最早そうする事でしか、失った威信を取り戻す事は出来はしない。
 それが神の名にすがるちっぽけな男に、たった一つ残されたプライドだからだ。

180Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:48:10 ID:m.ZIbc6I0
 




 金居に追随した八神はやてが、地面に出来たアスファルトを覗き込んでいるのは、ヴィータの死から数分後の出来事であった。
 四方八方どっちを見ても、視界に入って来るのは粉砕されたコンクリやアスファルトのみ。
 これが地上本部のなれの果て。この場所で幾重にも重ねられた、激しい戦いの傷跡であった。
 その中で一箇所、際立った傷がアスファルトに亀裂を走らせて、地下部分を露出させている場所があった。

「調べて欲しいものっていうのは、これの事ですね?」
「ああ、そこの看板を見てみろ」

 金居が指差した方向を見れば、そこにあったのは見覚えのある触れ込みの看板であった。
『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』なんて書いておきながら、実際には嘘八百。
 この転移魔法陣は、望んだ場所などには決して飛ばしてくれない。行き場所はランダム、主催側が設置した罠だ。
 はやては一度、キングと共にこの罠に掛っているからこそ、その真相を知っている。

「残念やけど、これは罠です。望んだ場所やなんて言いながら、実際には違います」
「というと、飛ぶ場所はランダムという事か? 何のために?」
「恐らくは、他者と手を組んだ参加者の戦力を分断する為」
「何故そう言い切れる?」
「私たちも一度、この罠に嵌ったからです」
「ほう」

 このデスゲームが始まってすぐの事、はやてはキングという少年と行動を共にした。
 そのキングがまたとんでもない馬鹿で、何の策も無しにこの罠に自ら嵌りに行った。
 はやて自身は乗り気ではなかったのだが、結局はキングに押し切られる形でこの罠を使ってしまった。
 結果、キングとは離れ離れ。到着した場所は誰もいない図書館。開始早々、はやては完全に孤立したのだ。
 それらを簡潔に、尚且つキングの無能さと危険さを前面に押し出す形で、説明を終えた。

「成程な……ちなみに聞くが、あんたは何処に飛びたいと願ったんだ?」
「それは……私の家族の、ヴィータ達の元にです」
「その図書館に、直前までヴィータ達が居た可能性は?」
「それは……今になってはもう、確かめようのない事です」

 ヴィータは死んだ。そこにヴィータが居たとしても、居なかったとしても、確かめる術は無い。
 当然ながら、死んでしまった人間にはもう、質問する事はおろか口を聞く事すら出来ないのだから。
 ここに居たヴィータは当然、家族なんかでは無い。赤の他人のヴィータだ。赤の他人のヴィータが死んだのだ。
 さっきまでここに居て、一緒に話をして、一緒に行動をしていたヴィータ。
 あのヴィータは、はやてのヴィータでこそ無いが、生きていた。
 ヴィータという名前があって、はやてと過ごした記憶があって……だけど、死んでしまった。
 それを赤の他人と割り切って、忘れてしまうのは容易い事なのだが、どういう訳か心が晴れない。
 ここまで来て、自分は何を迷っているのだ。雑念を振り払う様に、頭を二度三度振った。

「まぁ、キングと離れ離れになるのは当然だろうな」
「え……?」
「家族の場所へと飛びたいと思ったあんたは、どういう訳か図書館へと飛んだ。
 一方で、キングは一体何処に飛んだ? というより、何処へ飛びたいと思ったか?」
「考えるだけ無駄やと思いますけど」
「そうかな? 仮にこの魔法陣が本当にこの看板通りの効力を持って居たとして、
 キングとあんたの望む目的地が一致するとは、俺には到底思えないが」

 眼鏡を押し上げて、舐める様な視線ではやてを見る。至って理知的な表情であった。
 金居の言わんとする事は大体分かった。向き直って、金居の考察をまとめる事にした。

181Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:48:40 ID:m.ZIbc6I0
 
「つまり、金居さんはこう言いたいんですね? 私が飛ぶ直前まで図書館にはヴィータが居た……
 で、私はこの触れ込み通りに図書館に飛んで、キングは自分が望んだ何処かへと飛んで行った」
「その可能性は否定しきれないと思うが」
「確かにそうですけど……なら逆に訊きますけど、金居さんはこの魔法陣をどうしたいと思いますか?」

 こんな考察を続ける事にさしたる意味は無い。はやては、今後の具体案が聞きたいのだ。
 何の考えも無しにこの魔法陣を使いたいだけと言うのであれば、所詮金居もキングと同じだ。
 はやてを唸らせるだけの回答を得られなかった場合は、金居の今後の扱いも考え直さなければならない。

「ならば率直に言おう。俺はこの魔法陣を罠だとは思わない。よって俺はこれを使いたいと思っている」
「もしこれが主催側の罠で、私達が分断されてしまったら?」
「俺は“こいつ”を外す為に、工場を目指している。高町なのはともそこで落ち合う約束をしてる」

 首に装着された忌々しい鉄製の輪っかを、人差し指の爪でつつきながら言った。
 成程、なのはと共に行動していると言ってはいたが、そういう事か。これは使えるかもしれない。

「確かに、あらかじめ目的地を決めておけば、混乱する事もない……」
「そうだ。それに、二手に分かれた方が仲間を集められるかも知れない」
「逆に殺されてしまうという可能性も捨て切られへんと思いますけど」
「その時は逃げてでも生き延びれば良い。それに、お互い戦力には困ってないだろう?」

 眼鏡を押し上げながら、にやりと口角を吊り上げた。
 恐らくこの男は、はやてが既に本来の力を取り戻している事に気付いている。
 その上、お互いにとってもあまり長期間行動を共にしない方がいいという事を心得ている。
 この金居という男、恐らくは対主催に紛れて主催打倒、もしくは乗っ取りを狙う人種……はやてと同じタイプだ。
 だけど、だとしたらある意味でこんなに信用出来る相手は居ない。
 何せ、目的は自分と同じなのだ。手を組めば……もとい使い方によっては、これ以上心強い味方は居ない。

「……わかりました。金居さんがそこまで言うなら、私も信じてみようと思います」
「賢明な判断だな。それに、どうやらお互いに思う所は同じらしい」
「そうですね。ほな、分かり易く工場に飛んでみます?」
「ああ、それがいい」

 この殺し合いの場で、時間を無駄にする事は避けたい。故に、話が決まれば即行動。
 人一人が入れるくらいの亀裂から、二人は順に地下へと侵入した。
 転移魔法陣の上に乗って、はやては考える。
 工場に飛びたいとは言ったが、本当に飛べるとは思わない。
 はやてが今、何よりも欲しているのは“駒”だ。よって、必然的に駒が居る場所へと飛ぶ事になるだろう。
 だけど、駒と言っても有力なものはほとんどが死んでいる筈。残っている参加者で、有力なのは誰だ?
 高町なのは。スバル・ナカジマ。ユーノ・スクライア。戦力として考えられるのは、そんなところだろうか。
 純粋な戦力として考えるならば、一番に高町なのは、次いでスバル・ナカジマだが……。
 同時に、自分を貶めたクアットロのような策士が居る場所は避けたいと思う。
 会ってこの手で殺せればいいのだが、それは別に心から会いたいと願っている訳ではないからだ。

182Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:49:20 ID:m.ZIbc6I0
 
 さて、策士と言えばこの男もまた然りだ。
 この金居と言う男、間違いなくクアットロに近い性質を秘めている。
 当然、心の底からこの男を信頼することなどあり得ないのだが、純粋に利用し合う仲間としてなら心強い。
 その為にも、先程抱いた疑問……金居が持って居た銃は、何処から手に入れたのか。それを質問してみる事にした。

「そういえば金居さん、さっき持ってた銃……あんなん持ってはりました?」
「ああ、銃なら拾った」
「拾った?」
「誰の持ち物かは知らないが、こんな状況だ。武器の一つや二つ転がっていても可笑しくないだろう」
「……それもそうですね」

 言われて納得した。……いや、心底から納得はしていないが。
 今の持ち主である金居が拾ったと言うからには、それまでだろう。
 変に追及して怪しまれるのも得策ではないし、今はこのままでいい。
 当然、クアットロの轍を踏まない為にも、警戒を緩める気は無いが。

「さて、準備は出来ました。いいですか?」
「ああ、構わない」

 ほとんどの魔力を消費してしまった以上、残った魔力はほんの僅か。
 この短期間で少しばかり回復した魔力を、魔法陣へと注ぎ込む。
 キングと一緒に居た時と、殆ど同じ光景だ。
 淡い魔力光が、次第に強く輝き出して――刹那の内に、二人の姿は掻き消えた。





 金居が目を開ければ、そこは既に瓦礫だらけの市街地では無くなっていた。
 周囲には鬱葱とした森林が生い茂る、都会と自然の間と表現するのが相応しい場所。
 舗装されたアスファルトの道路と、その周囲の雑木林。木々の匂いは心地が良く、金居の種としての本能を刺激する。
 ここが殺し合いの場でなければ、クワガタムシの一匹くらい居ても可笑しくはないな、と思う。
 ただ一つ、異様な存在感を放って居るのが、正面に見えるホテルらしき巨大な建物。
 問題は、ここが一体何処なのかという事だが……

「どうやら、罠やなかったみたいですね」
「そうだな。まさか二人揃って飛んで来れるとは。意外だよ」

 傍らに居た低身長の女、八神はやてに嘲笑と共に返した。
 二人は確か、工場へ飛ぼうという話で魔法陣に乗った筈だ。
 それなのに、飛んで来た場所は工場などでは決してない。
 そもそも、表向きには工場に飛びたいと言っていたものの、金居にはそれよりも渇望する相手が居る。
 種の存続を掛けて、何としてでも仕留めなければならない相手が居る。
 この場で工場以外に望む場所とあらば、奴が居る場所くらいしか考えられないが……。

「ここは、何処だと思う?」
「ホテル・アグスタ……私も知ってる施設やけど、何でこないな場所に――」

 どごぉぉぉん!!!
 はやてが言い終えるよりも先に、轟音が二人の耳朶を叩いた。
 反射的にびくんと震え、二人は轟音の方向へと視線を向ける。
 その先は、ホテル・アグスタの正面玄関。そのロビー内で、轟音の主が暴れていた。
 硝子越しに、一瞬見えただけでも、この場には三人以上の人間がいるらしい。
 その三人が三人共、三つ巴状態で争っていたのだ。

183Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:50:04 ID:m.ZIbc6I0
 
「緑の仮面ライダーと、黒の仮面ライダー……それに、スバル!?」
「なるほどな。ここにお前の仲間がいる……そういう事か」
「そうです、スバルは頼れる私の部下で、味方に出来れば大きな戦力になる事は間違いない。
 ……けど、この乱戦の中に入って行くのは……ええい、情報が少なすぎる!」
「いや……そうでもないさ」

 はやては状況を判断しようと考えているらしいが、最早金居にその必要は無い。
 目の前に居るのは、はやてにとっての頼れる仲間と、己が宿敵。それが全ての答えだ。
 金居の中で全ての謎が氷解した。あの魔法陣は、罠などでは無かったのだ。
 なれば、誰が敵で、誰が味方かを視界した金居に、悩む必要が無いのは必然。

「ようやく分かったよ。俺達がここへ飛ばされた理由が」
「……どういうことです?」
「俺には、どうしても決着をつけなきゃならない宿敵がいるんでね」

 薄ら笑みを浮かべて、金居が言った。
 眼鏡の奥の鋭い眼光が捉えたのは、見まごう事無き宿敵・ジョーカー。
 伝説の鎧で身を隠して、戦いに臨む偽りの仮面ライダー。
 奴は敵だ。それも、世界に生きる生命全ての、だ。
 地球に巣くう悪質なウイルス、それがジョーカー。
 この戦いで何度も巡り合い、決着を付けられなかった相手がここに居る。
 カテゴリーキングとしての闘争本能に、火が点いて行くのが自分でも分かるようだった。

「いいか八神。スバルが味方で、あの黒のライダーが敵だ……人類全てのな!」

 嘘は言っていない。ジョーカーが生きている限り、人類も滅亡の危機と隣り合わせなのだから。
 といっても、人類にとってはジョーカーに代わって金居が最後に生き残った所で変わらないのだが。
 どうやらはやては、金居の只ならぬ雰囲気にどうしたものかと考えているらしい。
 そうこうしている内に、気付けば二人を照らしていた月明かりが、届かなくなっていた。

「これは……雨雲? なんでこないな所に……」

 ごろごろと音を立てて、空を覆う暗雲が時たまぴかっ!と光輝く。
 ホテルの屋上に設けられた避雷針が、何度も何度も空から降り注ぐ雷を吸い込むが、それでも足りない。
 信じられない量の雷が、周囲で鳴り響いていた。

「まずい……“アイツ”が来よった」
「アイツ……だと?」

 立て続けに起こる異常事態に、金居も警戒を強めて聞き返した。
 されど、それに答えるよりも先に、二人の視界に飛び込んできたのは一人の男だ。
 男の周囲だけ、他とは比べ物にならないほどの雷が奔っていた。
 空から、男から、空気中から。もはや自然に存在する雷の常識など通用しない。
 男がそのものそのまま発電機だとでも言う様に、縦横無尽に雷を奔らせているのだ。
 青白い光に照らし出されたその姿は、まさしく昔ながらの雷神というに相応しい。
 背中に背負った太鼓と、周囲で轟音を上げる雷とが、金居にそんな印象を抱かせた。

「なんだ……アイツは」

 呆然と立ち尽くす金居が、言葉を発した。
 一時的にではあれ、ジョーカーに対する闘争本能が掻き消える程の存在感。
 それは金居が……というよりも、生物が種として抱く、生理的な本能。
 雷に抗おうとする昆虫など、世界に居る訳がない。雷に触れれば、昆虫などそれで終わりだからだ。
 金居の本能全てが、奴は危険だと警鐘を鳴らしている。
 あのアーカードを初めて見た時と同等か……否、恐らくこいつは、それ以上。
 アーカードはまだ、理性を持ち合わせていたが、こいつにそれは感じられない。
 周囲の全てを焼き焦がしてしまうような怒りが、こっちにまで伝わってくる。
 現れた雷神に、二人は――。

184Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:51:32 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-9 ホテル・アグスタ前】

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.神・エネル……!!
 2.スバルは味方にしたいが……この状況をどう切り抜ける?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 8.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居の事は警戒しておく。怪しい動きさえ見せなければ味方として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

185Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:52:02 ID:m.ZIbc6I0
 

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.なんだあの化け物は……!
 2.そろそろジョーカーとの決着をつけたい。
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

186Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:52:33 ID:m.ZIbc6I0
 


 それは、鬼神へと堕ちた雷神の姿。
 それは、近寄る者全てを、本当の意味で破壊し尽くす神の姿。
 神でありながらも地べたを舐めさせられた屈辱と憤怒が、彼を破壊神へと変えたのだ。
 目的は只一つ。失ってしまった威信を、プライドをこの手に取り戻す為に。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードを塵一つ残らず消滅させてやらねば気が済まない。
 そうしなければ、身体に染み着いた『死』への恐怖は拭いされないのだ。

 一歩歩く度に、異常と呼べるまでに蓄電された電力が、アスファルトを真っ黒に焦がす。 
 空を覆う漆黒の暗雲全てが……迸る雷全てが、エネルの一部。エネルの手足なのだ。
 止めどなく迸り続ける高圧力の雷の所為で、最早昼なのか夜なのかすらも分からない。
 今が夜だと言う事は頭では理解しているが、それすらも怒りで忘れる程に、エネルは激情していた。
 周囲の電力を取り込むことで、電気人間の自分はいくらでも回復する事が出来る。
 周囲の雷雲と雷を利用する事で、兵隊百人にも等しい戦力を常時発揮する事が出来る。
 この暗雲の下に居る限り、エネルは無敵だ。圧倒的に有利な地の利を得ているのだ。
 そうだ。最初からこうすればよかった。首輪の所為で自分の身体を電気に出来ないなら、周囲の電気を使えばよかったのだ。
 雷として周囲を奔った電力は、再びエネルと雷雲に吸い込まれて、刹那の内にチャージが成される。
 空気中の静電気を始めとするあらゆる電力は、全てエネルの味方をしてくれるのだから。

 ヴァッシュは確かにこっちの方角へと消えた。
 この方角で会場に残された施設は最早、目の前のホテルしかありはしない。
 そして、そのホテル内から響く戦闘による轟音。
 間違いない。ここにヴァッシュが居る。
 既に他の誰かと戦っているのか知らないが、そんな事は関係ない。
 一緒に居る奴、近くに居る奴、邪魔をする奴。
 それらに関係なく、この雷で皆殺しにしてくれる。
 ――最早、神を止められる者は居ない。

187Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:53:33 ID:m.ZIbc6I0
 

【1日目 夜中】
【現在地:F-8 東側】

【エネル@小話メドレー】
【状態】健康、激怒、『死』に対する恐怖
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.ヴァッシュに復讐する。
 2.ホテルに居る参加者は皆殺し
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。
※市街地と周囲の電力を取り込み、常時雷神(アマル)状態に近い放電状態になりました。
※吸収した電力で、僅かな傷や疲労は回復しています。


【全体の備考】
※エネルの周囲で大規模な停電が発生しています。
※エネルの周囲に雷雲が拡がっています。

188Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6:2010/06/11(金) 18:58:20 ID:m.ZIbc6I0
投下終了です。
どうせホテルにヴィヴィオが向かってるのならもっとやらかしちまえと思いまして……はい。
ちょっとエネルはやり過ぎた感があるかも知れませんが、原作を考えればこれくらいは出来てもいいかなと。
というか自然系最大の強みである雷化が出来ない上に、太鼓二つ失って、おまけに神としての威厳まで失ってしまった以上、
こうでもしないと再び初期の様な恐ろしいマーダーとして、アーカードやナイブズと並べる事は出来ないと思いまして。
アーカードやナイブズに比べて割と不遇だった(?)マーダー三巨頭、最後の一角をここらで立ててみようぜ!って感じです。
それでは指摘などがありましたら宜しくお願いします。

189リリカル名無しA's:2010/06/11(金) 19:30:40 ID:1laH9ofE0
投下乙です。
ていうか何でみんなしてホテルに行くの!? タイミングとしてはVj氏の話の直後だよな……黒はやてに金居、そしてエネルまでやって来て……

対主催:スバル、ヴァッシュ、こなた
危険人物:はやて
マーダー:始(ジョーカー)、バーサーかがみ、金居、エネル、ヴィヴィオ

……ホテルと共に対主催オワタ。
しかし思いっきり再会の予感がするなぁ……こなた&かがみ、金居&始、ヴァッシュ&エネル、リイン&はやて……何となく碌でもない結末にしかならない気もするけど。
まさかまだ他にも来る???

190リリカル名無しA's:2010/06/12(土) 18:38:10 ID:ygtTQYQ.0
投下乙です
ああ…これは死者が出るだろうな…
ホテルに人多すぎw

191 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:54:00 ID:.m17H2vc0
泉こなた分投下します

192Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:56:00 ID:.m17H2vc0
「アジトへ向かう前に言っておく……ッ! あたしは今やつの魔法をほんのちょっぴりだが体験した」



「こなた……?」



「い……いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたんだけど……
 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 『あたしは森の中でアジトへ向かっていたと思ったらいつのまにか(森は)消えていた』」



「いや、それリインも体験しているですよ!」



「な……何を言っているのかわからねーと思うがあたしも何をされたのかわからなかった……」



「その口調の方がわけわからないですよ!」



「頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」







「………………満足したですか?」
「………………うん」
「確かにこなたの言う通り理解を超えているですね」

193Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:58:00 ID:.m17H2vc0



 泉こなたとリインフォースⅡはスカリエッティのアジトへ向かう為、森の中を北へと進んでいた。
 が、気が付いた瞬間に森は消失し平野が広がっていた。周囲を見ても森は欠片も見当たらない。
 そこでこなたは地図と磁石を出して周囲を確認する。
「地図でいうところのD-9かE-9だと思うけど……でも森になってなきゃおかしいよね」
「北には何も無いですね。それに……」
 北方向を見ても森は欠片もなく。東方向には市街地が見えると共に微かに煙が見える。
「あたし達のいた場所は東端なんだからそれより東には何もない筈だけど」
「もしかしたら地図に描かれていないだけでその先にも何かがあるのかも知れないですよ」
「だけど……地図にない場所に出られるんだったら最初からそこに逃げ込めばいいんじゃないのかな。幾ら何でもそんな事はさせないよね」
 と、こなたは首輪を触る。要するに場外は禁止エリアとして扱われ、首輪が爆発するという事を暗に語っているのだ。それはリインも理解している。
「ここは場外ではないという事になりますよ」
「場外じゃなかったら何処なの?」
「東に市街地が見える平野はB-1〜E-1……確かB-1が禁止エリアになっていた筈ですからC-1かD-1、E-1になるですよ」
「D-9かE-9からどうやってD-1かE-1に移動を……あれ?」
 こなたは指をD-9とE-9の境目からD-1とE-1の境目の間を動かしている内にある事に気付いた。
「整理すると、『D-9辺りにいると思ったらD-1辺りにいた』って事だよね」
 と、磁石を片手に西方向を向く。
「じゃあ、もしかして……」
 そして足を進めると突然周囲に森が広がった。





「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『あたしは木1本無い平野を進んでいたら……』」
「そのネタもういいですよ!!」

 リインは軽くこなたの頭をポンと叩いた。





「つまり、区切られているエリアの端と端は繋がっているという事ですね。東端と西端、北端と南端という感じですね」
「でも北に進んでいた筈なのにどうして東に?」
「さっきまで磁石出さないで走ったり歩いたりしたから方向がずれてしまったんじゃないんですか?」
 実際、こなた達の進行方向は若干東にずれてしまっていた。故に、東端のラインを越えて西端へとワープしたのである。
「そういえばあの天使、東から西方向に飛んでいた様な飛んでいなかった様な」
 今更ながらに放送より少し前にホテルアグスタの屋上に消えた天使の事を思い出した。確かあの天使は南東から北西方向へ飛んでおり、屋上で消えていた。
 だがホテルの位置は東端のF-9だ。つまり、天使の進行方向を踏まえれば天使はエリア外から来たという事になる。もっとも、この時こなた達はそこまで思考が回らなかったが。
 しかし、先程起こった現象を踏まえればこの現象は簡単に説明出来る。
「あの天使は客船や船着き場のある海方向からやって来たという事になりますね」
「何にせよ、端と端はワープ出来るって事だね」
「恐らくプレシアがリイン達を逃がさない為にこのフィールドに仕掛けた仕掛けだと思うですよ。
 それでこれからどうするですか? さっき見た感じだと市街地では戦いが起こっているみたいですけど……」

 市街地では微かに煙が上がっていた。これを踏まえれば少なくても誰かがいた事は確実。
 しかしそれは必ずしも味方とは限らない。殺し合いに乗っている参加者という可能性もある。
 更に言えば煙が上っていることから戦いが起こっている事はほぼ確実。
 リインとしては市街地に向かいたいという気持ちが無いわけではない。しかし制限の都合上こなたの同行が絶対に必要となる。
 こなたを危険に巻き込む可能性が非情に高い。何の力もない一般人を危険に遭わせる事は避けるべきである。
 その一方、あの場所に仲間がいる可能性もある。数少ない家族や仲間との合流の機会を逃したくは無いというのも本音である。
 故にリインはこなたに判断を仰いだのである。

「勿論、最初の予定通りアジトに向かうつもりだよ。もしスバルがアジトに来た時にあたし達がいなかったら……」
「そうでしたね。わかったですよ、このままアジトに向かいます」
 こうして2人は再びアジトへと足を進めた。
「今東端にいますから少し西寄りに行かないと密林を迷う事になるですよ」
「大丈夫、今度は磁石も確認するから」
「それだけならまだ良いですけど気付かないで進んで禁止エリアのA-9やB-1へ飛び込む可能性もあるですよ」
「だからわかったって」

194Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 21:59:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 その放送はあまりにも無機質かつ無慈悲であった。それ故に淡々と事実だけが伝えられた。
 無機質かつ無慈悲であったからこそその衝撃は非常に大きなものであった。



「シャマルまで……」



 リインにとって大事な家族であるシャマルの死亡が伝えられた。
 勿論、リインの世界のシャマル達は妖星ゴラスの媒介になっている筈なので呼ばれたシャマルはリインとは別世界の彼女だという事実は頭では理解している。
 しかし、それでも溢れ出す深い悲しみの感情は止まる事はない。故にリインの目からは涙がただただ溢れていた。
 それでも何とか放送自体は聞き逃さず聞きとめた。しかしそれが限界だった。リインの思考は大事な家族が再び失われた事で真っ白になっていた。

 そして脳裏には家族であり主でもある八神はやての姿が浮かぶ。


 前述の通りシャマル達守護騎士はゴジラを封印する為の妖星ゴラスの媒介となった。これだけならば只の悲劇で済む話だ。
 しかし、封印は決して永久ではない。その限界はたったの1年、それを過ぎればゴジラは再び復活する。
 1年を経過した時点でシャマル達の犠牲は完全な無駄となってしまうのだ。そんな事をはやてが許すわけがない。
 そして家族を助ける方法が1つあった――簡単な事だ、妖星ゴラスが限界を迎える前にゴジラを完全に抹殺する事だ。
 当然、シャマル達の限界を踏まえるならば1年などと言わず早ければ早い方が良いのは言うまでもない。

 故に、彼女は家族を助ける為にこれまでの彼女からはまず考えられない非道な事を行った。
 各次元世界に生息する怪獣達を使い魔に、時には洗脳すら施してゴジラにぶつける為の決戦兵器としたのだ。
 当然だが高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも従いながらもそれを受け入れているわけではない。故にはやてと衝突を起こした事もあった。
 全ては家族を助ける為、故に許される許されざるは別としてそれ自体は決して否定出来るものではないだろう。
 だが、客観的に言えばそれは決して許される事ではないし、自分達が当事者にならなければリインもその行いを認める事は無かっただろう。

 はやてがこの放送を聞いたとすればどうするだろうか?
 容易に想像が付く、死んだ家族を生き返らせる為、優勝を目指す可能性が非情に高い。
 もしくは優勝ではなくプレシア・テスタロッサの技術を奪う為に他の参加者を陥れてでも彼女に迫ろうとするだろう。
 それが許されざる事なのはリイン自身もわかっている。だが、リインはそれを止める事が出来ない――

 ――何しろリイン自身の中からも外見とは真逆のどす黒い邪悪な感情が湧き上がっているのだから。





 ジブンガサンカシャナラバユウショウシテデモカゾクヲトリモドシタイ





 いや、わかっている、わかっているのだ、家族や仲間がそれを望んだりしない事は。
 それ以前に自分自身、そんな事はしたくはないのだ。
 何の罪のない人々を傷付けたり陥れる事なんてしたくはないのだ。

 それでも、湧き上がる感情はとどまらない。リインは何とかそれを抑えようと――

195Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:00:00 ID:.m17H2vc0







 その瞬間、轟音が響いた。



「えっ……!?」



 音はホテルの中からだ。
 ホテルには先に安全確認の為にスバル・ナカジマが向かっていた筈だ。今現在ホテルで何が起こったのだろうか?
 確かホテルには屋上に降り立った『天使』がいた。となれば『天使』が殺し合いに乗っていて、スバルと交戦状態に陥ったのだろうか?
 真実は不明だが1つだけ確実な事がある。それはホテルは危険な場所だという事だ。


 我に返った瞬間、リインは自分の愚かな思考を恥じた。
 自分が今すべき事は何なのか? 何の力を持たない少女を守る事じゃなかったのか?
 にもかかわらず自分は今何をしていた? 家族が死んで泣いて……いや、正直それ自体は仕方がない。
 問題なのはこの瞬間まで足を止めていてあまつさえ僅かだが殺し合いに乗ろうかと考えていた事だ。
 今の自分の姿を見たらゴジラを封印する為にゴラスの触媒となったシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラが見たらどう思う? 軽蔑するに決まっている。

 自分は何者か? 無限に続く悲しみの呪縛より解放された先代よりその名を受け継ぎし蒼天をゆく祝福の風リインフォース・ツヴァイではないか?

 その名を持つ自分が他者に悲しみを与える事などあってはならない。与えるべきは祝福でなければならない。

 故に今は自らのすべき事を、目の前の少女泉こなたを守らなければならない。
 放送からどれぐらい経過しただろうか? 幸い攻撃の余波はここには届いていないがそれは結果でしかない。
 これまでの戦いを踏まえればホテルからこの場所に届く程の攻撃など無数にあり得る。惚けて棒立ちなど愚行以外の何物でもない。
 一歩間違えればこの一撃でこなたが致命傷を受けていた可能性もあるのだ。愚かと言わず何というのだろうか。

 このまま犠牲を出してしまう事は家族や先代リインフォースに対する最大の裏切りだ。彼女達の為にも二度と堕ちたりはしない――そう考えリインは周囲を見回しながら次の行動を考える。

 スバルに関しては負傷はしているものの戦闘機人としての力が使えれば余程の相手では無い限り後れを取る事はない。最悪、逃げ切る事は出来るだろう。
 ジェットエッジを渡してあるから移動に関してもおおむね問題はない。
 だが、戦闘機人としての力は威力が強すぎる。敵を倒す事に関してはともかく、周囲に及ぶ被害は甚大なものとなる。先程の轟音ももしかしたらスバルのIS振動破砕によるものかもしれない。
 つまり、この場所にいればこなたを戦いに巻き込むという事だ。スバルもそれを恐らくは理解している。
 故に自分達がこの場所にいる限りスバルは全力を出せない。相手次第だが全力を出さないで切り抜けられるとは思えない。

 だからこそ自分がとるべき判断は――

196Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:01:00 ID:.m17H2vc0





「リイン、行くよ」

 その答えを出す前にこなたが声を発した。
「え? 何処へ?」
「ここにいたらスバルに迷惑がかかるよ、だから……」
 既にこなたの足はホテルとは逆の方向に向いていた。奇しくもリインと同じ判断をこなたはしたのだ。
 しかし、あまりにも的確な判断であったが故、リインは驚きを隠せなかった。
 そもそも、何故こなたはそこまで冷静なのだろうか?確か放送では――
「大丈夫、スバルだったら何とかしてくれるよ。スバルが全力で戦う為にもあたし達はここにいない方がいいんだ!」
 こなたの声は何時もののほほんとしたものではなく、力強いものだった。
「確か、あの時ホテルの他にもう1つ目的地決めていたよね。そこに行こう、スバルも戦いが終わった後で来てくれる筈だよ」
 そう言いながら、その方向へとこなたは走り出した。リインもこなたの横を飛びながら移動をする。
 リインもおおむね同じ考えだった為、こなたの判断自体に異論はない。しかし、人の話も聞かずに行動をする事は決して良い事ではない。
 故にその事について口を出そうとするが、
「こなた、少しはリインの話も聞い――」
 横顔を見た瞬間、彼女の心情を理解した。そう、こなたは冷徹な程冷静なわけではなかったのだ。
「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けると思う……だから急がないと」
 こなたの目からは涙が溢れ流れていた。
 放送では彼女の友人である柊つかさの死亡が伝えられた。彼女にとって大事な友人である彼女の死に衝撃を受けないわけがない。
 真面目な話、暫くはショックで動けず俯いているのが自然だ。最悪、生き返らせる為に殺し合いに乗ってもおかしくはない。
 しかし、こなたの表情にはその様などす黒い感情は見えない。むしろ、スバルの為にこの場所を離れようとするこなたの瞳には強い意志が宿っていた。

 そうだ、何の力も持たないか弱き少女だって負けずに戦おうとしているのだ。自分も負けずに戦わなければならない。

 だからこそ今はこなたを守る為に戦おう。夜空に祝福の風を巻き起こすかの様に――








 こうして、こなたとリインはホテルを離れスカリエッティのアジトへと移動を開始した。
 駅にてスバル達は次の目的地としてホテルとアジトの2つを考えていた。
 その為、戦いが終わった後、ホテル周辺に自分達がいなければアジトへと向かったと判断してくれると考えたのだ。
 書き置きは何もない。残す余力が無かったというのもあるが、下手に残した所で戦いの余波に巻き込まれ紛失する可能性もあり、危険人物に読まれる可能性もあったからだ。
 ちなみに、ホテル到着直前スバルはデュエルアカデミアに向かおうかと考えていたがその事をこなたもリインも聞いていない為、それは全く考慮に入っていない。
 もっとも、崩壊の可能性があるアカデミアに戻るのも危険なので仮に聞いていたとしても選択肢に入らない可能性は高いだろうが。
 この地に残らないで移動を行った理由は前述の通り今回の戦いに巻き込まれるのを避ける為、
 これまでの事を踏まえホテルが崩壊する可能性は非常に高く、その崩壊に巻き込まれて死亡する可能性は高い。
 また攻撃の余波に巻き込まれて死亡する可能性も言うまでもなく高い。
 更に前述の通り、近くにいるとスバルは自分達を巻き込まない為に全力を出せないだろう。この状況でそれは避けるべきだ。
 また、こなたが殺された場合、当然スバルは強いショックを受けるがそれとは別に避けるべき事項が存在する。
 放送で伝えられた殺害者のボーナス支給品の話。この話を踏まえればこなたが誰かに殺された時点でその参加者は支給品を1つ確保しそのまま強化される事になる。
 それでなくても武装に乏しい状況だ。危険人物の強化は絶対に避けなければならない。
 故に、自分の身を守る為にも、スバルの身を守る為にも、2人はホテルからの待避、アジトへの移動を選択したのだ。

197Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:02:00 ID:.m17H2vc0





 こなたとリインがこの場を離れたのは放送から約10分後、幸か不幸かホテルでの戦いに巻き込まれる事を回避する事が出来た。
 だが、結果として2人はそれぞれが最も再会したい人物との再会の機会を逃す事となった。

 簡単に放送前後から2時間強の間にホテルで起こった事を客観的に説明しよう。勿論、大部分はこなたもリインも知り得ない事である事を補足しておく。

 放送直前、スバルはホテルロビーで『天使』ことヴァッシュ・ザ・スタンビートとつかさの姉でありこなたの友人である柊かがみと遭遇した。
 だが、かがみはヴァッシュにスバルは危険人物と説明した為、両者は緊迫した状態となり、かがみはホテル地下の駐車場へと移動した。
 そして放送、このタイミングでヴァッシュ自身の左腕が暴走し無数の白刃が繰り出された。
 その白刃の斬り口からスバルはルルーシュ・ランペルージの右腕を切り落とした人物と断定し戦闘機人モードとなりヴァッシュとの交戦に入った。

 こなたとリインはその戦いの衝撃から、ホテルは危険だと断定し待避するという選択を選んだのである。

 勿論、2人の待避後もホテルでの戦いは止まらない。スバルとヴァッシュの戦いは続いていた。
 その一方、かがみは駐車場にあった装甲車を発進させ、ホテル近くまで来ていた相川始を轢き殺そうとした。
 結果は失敗、そしてそのまま両名はホテル方面へと移動しながら戦闘に突入した。

 ちなみに、かがみが装甲車でホテルから出たタイミングは放送から約30分後、こなた達が既に遠く離れた後だ。故にかがみはこなたが少し前まで近くにいた事を知る事は無かった。
 もっとも、再会した所で今のかがみはそのままこなたを殺す可能性が高かった為、それを避ける事が出来たのはある意味では幸運だったのかも知れないが。

 さて、放送から約2時間後、ホテルロビーでは何とかスバルとヴァッシュは和解しかけていた。しかしこのタイミングでかがみと始がロビーに乱入し4名は再び戦闘に突入した。

 それだけではない。この直後、はやてと金居が地上本部にあった魔法陣を使いホテル前までワープして来たのだ。
 このはやてはリインと同じ世界から連れて来られている。その為、リインにとって最も会いたい人物である反面、外道に堕ちてでも目的を達しようとする危険人物でもある。
 更に金居と始は元々の世界での敵同士、両者が出会えば戦いになる事は明白だ。

 そして、更に2人の『神』がホテルに迫っていた。
 1人は雷神・エネル、ヴァッシュに敗北を喫し威厳を奪われた神はヴァッシュ他全てを抹殺する為に自らの身に雷を纏いホテルへと足を進めていた。
 1人は死神・ヴィヴィオ、母を無惨に奪われ死神の鎌を手にした神は母を殺した者全てを抹殺する為に自らの身を血で染めホテルへと足を進めていた。

 ホテルにおけるこの後の物語は今はまだ語らない――だがこれだけは確実に言える。今最も危険な場所はこの場所だということだ。





 こなた達が再会の機会を潰した事は不幸だったのかも知れない――だが、こなたがここに残ったところで出来る事など特にない。むざむざ殺され下手人を強化させるのがオチだ。
 再会出来たけどすぐに死亡しました。それもまたある意味では不幸な結末だろう。そう、柊姉妹が再会しつかさが無惨に惨殺された時の様に――





 少なくてもそんな結末はこなたもリインも、そしてスバルも望んではいない。再会するならば当然お互いに笑顔で再会すべきだろう。





 その意味では、こなた達は祝福の風を受けていたのかも知れない――

198Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:03:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





「マンガとかで、無理矢理怒らせたり、悲しい気分にさせたりする超能力ってあるよね?」
「いや、リインに同意を求められても困るんですけど。そういうのあんまり読まないですし」
「でさ、そういう気の利いた魔法とかってある?」
「ありますよ。例えば……」
 リインはこなたにコンシデレーション・コンソール、怒りや悲しみの感情を強化する洗脳技術について簡単な説明をした。
「……ってもしかして参加者の中に洗脳されている参加者がいるって言い出すんじゃないですよね?」
「いや、そういう意味じゃなく、もしかしたらあたし達の考え方や感情が操作されているんじゃないかってちょっと思って」
 こなたの言いたい事はこういう事だ。
 知らず知らずの内に自分達の思考や感情が殺し合いする上で都合の良い風に誘導されているのでは無いかという事だ。
「少なくても、こなたやスバル、それにルルーシュを見る限りそんな様子は無かったですよ」
「でもね、レイやシャーリーの豹変がどうしても気になったんだよね。それにかがみんも……」

 確かに早乙女レイが突如豹変しルルーシュに対し発砲した事はある意味異常だった。
 またシャーリーがレイを射殺した事も事前に聞いた人物評から考えれば異常である。
 そしてかがみが殺し合いに乗って何人か殺している事実などこなたにとっては今でも信じがたい話である。

 また、2人は知る由もないが貴重な首輪確保の機会を何故か逃したり、
 示し合わせたかの様に出会えば対話を放棄し戦いに突入したり、
 思考する事を放棄して安易に諦め殺し合いに乗ったり、
 元々殺し合いに乗る筈の無い人物の精神が破綻し破滅を撒き散らしたり、
 ゲームを破壊するつもりが何故かゲームを促進させてしまったり、
 冷静に見れば殺し合い継続という意味では都合の良い出来事が頻繁に起こっている様な感はある。

199Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:04:00 ID:.m17H2vc0

「突然殺し合いに放り込まれたらそういう行動に出てもおかしくは無いと思いますよ」
 リインの言う通りだ。突然殺し合いに放り込まれて普段と同じ行動をしろというのも無茶な話だ。
「あたしもそう思うけど……それで説明が終わるぐらいにわかりにくく知らず知らずの内にそういう風にもっていかれている様な感じがするんだよね」
 理由を『殺し合いだから仕方がない』と説明出来る程度の異常を発生させて参加者全員に殺し合いを加速させようと目論んでいるという説だ。
 それは極々僅かな異常だからこそ、普通はまず気付かない。
 また選んだ危険な選択肢も選ぶ可能性は低くても0ではなく状況を考えれば有り得ない話ではないと納得出来るものだ。
 そして考えられない異常があった時は『殺し合いだから』で思考を止めてしまえばそれで終了だ。
「やっぱり毎回毎回ノストラダムスのせいにするミステリー調査班みたいな有り得ない仮説なのかな?」
「リインにはよくわからない例えを出されても困りますよ」
 こなた自身もこの仮説はあまりにも突拍子も無い説だという事は理解している。リインもその仮説を軽く流そうと――
「……有り得ないとは言い切れないですよね」
 リインは先程自分の奥底で湧き上がったどす黒い感情を思い出した。
 少なくても湧き上がった感情自体は本心によるもの、それは否定しない。
 だが、それとは全く真逆の理性もあったのだ。少なくとも何時ものリインが本来の理性を全て放棄してどす黒い感情のまま行動する事などまず有り得ないと自分では思っている。
 だが、先程の状況を思い出す限り、感情のままに暴走する可能性は否定出来ない。

 つまり、殺し合いに都合の良い感情が僅かに出やすい様に強化されているという事だ。
 僅かであるが故に、普段はそれに気付かない。パニックに陥った時に良心は駆逐され倫理観を捨て去る様にし向けるという事だ。
 それがいかに異常であっても前述の通り全て『殺し合いの状況だから仕方がない』と片付ければまず気付かれる可能性はない。

「コンシデレーション・コンソールの応用で可能だと思いますが……幾らそれが弱いものでもこの舞台全部に仕掛けているなら相当大げさな装置になるですよ」
「さっきのループといい何でもありだね」
「それに、こなたの仮説通りだとしても、結局の所この舞台をどうにかしないとどうにもならない事に変わりはないですよ」
「何か良い手段は無いかな?」
「(一応今スバルが持っているハイパーゼクターが使えるかもという話ですけど……幾ら何でもプレシアがそれを見落とすわけもないですから、別の方法も考えておかないと……)
 それを見つける為にも、今はアジトへ移動しないと」
「……で、方向ってこっちで合ってる?」
「まさか迷ったってオチは無いですよね?」
「……」
「…………」
「………………」
「こー! なー! たー!」


 ちなみに、現在位置はD-9中央の森林ではあったが、夜の闇は深く目印となる灯りも無い為、自身の位置を断定しきれない2人であった。

200Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:05:00 ID:.m17H2vc0





   こ   な   ☆   り   ん





 結論を先に述べれば実感なんてまだなかった。
 こう書くと現実を直視出来ない人に見えるが実際そうだったのだ。
 そう、こなたはつかさが本当に死んだとは思えなかったのだ。
 だがそれはある意味では仕方がない。こなたは幸か不幸かこれまでまともな死体を目の当たりにした事などなかった。
 故に、放送で淡々と名前を告げられただけで死んだ事を理解出来るわけではなかった。

 いや――だが恐らく放送は真実だろう。自分は実感出来なくても既に友人や家族の死を伝えられて泣いていたスバルやリインの姿を見ていたのだ。
 それを見ていながらいざ自分の時はその現実を認めず逃避する――あまりにも酷い人物だとこなた自身が思う。

 わかっている。まだ完全に実感したわけじゃないが――柊つかさは死んだ。少なくてもそれは認めなければならないだろう。

 勿論、残酷な話だが希望がまだ無いわけじゃない。
 仮につかさが自分のいた世界と違う世界から連れて来られていたならば、元の世界に帰っても変わらずつかさはそこにいるという可能性はある。

 そんな事を一瞬でも考えた自分を酷く嫌悪した。
 自分で巫山戯るなと思った。それを希望だと思った自分に腹が立った。
 それを認める事は別の世界のスバルでも変わらず守ろうと思ったルルーシュに対する最大級の冒涜だ。
 スバルやリインだって互いが別世界から来たとしても変わらず仲間だった筈だ、彼女達に対する侮辱だ。
 大体、別の世界のつかさだとしてもそれはその世界の自分自身の友人がいなくなった事を意味する。別の世界の自分を悲しませてどうするというのだ?

 結局の所、元の世界のつかさが無事という可能性があるというだけの話であってそれ以上でもそれ以下でも無いという事だ。決して希望ではない。

 真面目な話、つかさ達を生き返らせる――いや、ゲーム機のリセットボタンを押すかの様に優勝して全てを無かった事にしようかと本当に一瞬だけだが考えた。
 しかしそう考えた瞬間、今まで出会った仲間達、ルルーシュ、スバル、リイン、ヴィヴィオ、シャーリー達の顔が浮かんできた。
 彼等はどんなに悲しくても決して投げ出そうとはしなかった。なのに自分は何を考えているのだろうか?
 故にこなたはこのデスゲームのリセットボタンを押す事を止めた。いや、リセットボタンその物を破壊して二度と馬鹿な考えをしないと思った。





 だが、進もうとしている足は止まってしまった。スタートボタンを押してポーズした状態で動きを止めてしまったのだ。
 そう、どんなに先へ進めようとも起きてしまった事実は変えられない。つかさが死んだ事実は決して揺るがないのだ。

 高い確率でつかさとは二度と会えない可能性が高いのだ――その空虚は決して埋まる事はない。限りなく切なく空しい――

 覚悟はしていた筈だった。どちらにしてももう元の生活に戻る事はないと思っていた。だから前に進もうと思っていた。
 だが、本当は何処か甘く考えていた。覚悟なんて出来ていなかったのだろう。

 結局の所、現実はゲームやアニメ等とは違うという事だ。
 所詮、現実世界では泉こなたはヒーローでもヒロインでも何でもなく、只の何の力も持たない一般人Aでしかないのだ。



 故にこなた自身、もう前に進めないと思っていた――



『そうやって悩んで立ち止まるのは……生き残ってからでも出来るだろう』



 そう考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。



(ルルーシュ……?)



 そんなオカルトは決して有り得ない。既に彼は死亡している筈なのだ、首輪も回収している以上それは揺るがない真実だ。
 ならば幻聴だというのだろうか?



『今そのために何もできずに立ち止まってそのまま殺されては何もならない。誰も喜ばないだろう』



 その言葉はこなたの胸に深く突き刺さる。
 わかっている。今このまま無為に立ちつくしても無駄に殺されるだけだ。そんな事はスバル達は勿論、元の世界にいる家族や友人達も喜びはしない。
 それは絶対に許される事ではない。

201Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:06:00 ID:.m17H2vc0



『だから……今はまず、生き残ることを考えろ』



 その通りだ。所詮自分はヒーローでもヒロインでもない、しがない只の一般市民だ。
 生き続ける限り何度でも悩み立ち止まる事はあるだろう。だがそれでも生き続ける限り何か出来る事はあり、幾らでも前に進める筈なのだ。
 死んでしまえば最早進む事も戻る事も、悩み立ち止まる事すら出来なくなる。そうなってしまえばどんなに願おうとも誰も助ける事は出来ない。



(……つかさ、ごめん。今はまだつかさの為に何が出来るかは考えられないし、つかさのいない世界を受け入れられるかはわからない……
 でも、あたしはまだ生き続けるよ……まだ生きているスバル達や……なによりかがみんの為にも……)



 轟音が響く。



「!? もしかして、あの『天使』さん敵だったの?」
 恐らくホテルではスバルと『天使』が戦っているのだろう。ならば戦いが激しくなればこの場所も危ない。
 スバルが全力で戦えば『天使』が相手でも問題は無いだろう。だが、自分が近くにいると自分を危険に巻き込むまいと全力を出せなくなる可能性がある。
 更に、自分が不用意に殺されれば殺害者へのボーナス支給品が与えられスバルを危機へと追い込んでしまうし、それでなくてもスバルはショックを受けるだろう。
(それに……スバルと約束したんだ、自分の身は自分で守るって……だから!)

 そう考えたこなたの行動は素早かった。

「リイン、行くよ」
 早急にホテル周辺から離れ予め話していたもう1つの目的地であるスカリエッティのアジトへの移動を開始した。
 自分達が無事に離れればスバルは遠慮無く全力で戦える。確かスバルにはジェットエッジを持たせていたから戦闘後すぐにでもアジトに向かってくれるはず。
 ならば迷う事はない。移動しない手はない。というより、このままこの場所に留まっている方が危険が大きい。移動すべきである。



「こなた、少しはリインの話も聞い――」



 ああそうか、リインの意見を無視していた様だ。



「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けるから……だから急がないと」



 自分は今、泣いていたのだろう。それでもみんなの為に生き残る、その為に今は悲しみに負けないで走らないとならない。



 気が付けばルルーシュの声は聞こえなくなっていた。結局の所あの声は何だったのだろうか?
 いや、実を言えばルルーシュが言っていた言葉には聞き覚えがある。というよりあって当然だ。

 その言葉は、右腕を失い絶望しているルルーシュに自分自身が言った言葉と殆ど同じじゃないか。
 そして、つかさを失い絶望している自分にルルーシュがその言葉を返したという事――

 そんな都合の良い幻想なんて無い。きっと、自分を立ち直らせる為に自分の中のルルーシュにそれを言わせただけなのだろう。ある意味酷い妄想だ。

 だけど、正直そんな事はどっちでも構わないし大した問題じゃない。どちらにしてもルルーシュが助けてくれた事に変わりはない。




「ありがとう、ルルーシュ」
「何か言ったですか?」
「ううん、何でもないよ」



 そういえば、つかさの死亡を知ったらかがみはどうするだろうか?
 それでなくても殺し合いに乗っていたのだから。強いショックを受けて暴走してもおかしくはない。出会った人を次々襲っている可能性は十分にあり得る。




(どうしてこうなった……幾らかがみんがツンデレでも、平然と人を殺せるはずが無いんだけど……まさかあのおばさんかがみんに何かしたのかな?
 それに冷静に考えてみればあの状況でいきなりレイがルルーシュを襲う事だってヤンデレ化したと片づけるには何処か不自然だし……
 シャーリーにしたって、ルルーシュに聞いた彼女の性格から考えて状況が状況とは言えレイを有無を言わさず殺す何て事有り得ないしなぁ……
 ひょっとして……あのおばさんがみんなに殺し合いさせようと操っているんじゃ……
 ……いや、考え過ぎかな……本当にどうしてこなた……)

202Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:08:00 ID:.m17H2vc0
「何よりも困難で幸運なくしては近付けない道のりだった……アジトに近付くという道のりがな……」



「実際、アレ見つけなかったら朝まで迷っていたかもしれなかったですからね。というか、こなたキャラ変わってませんか?」



 目の前には洞窟があった。リインが見たJS事件の資料で見た写真通りだった事からスカリエッティのアジトである事は間違い無い。
「まぁ、アジトって言うからには目立つ様な外見じゃ困るから見つけにくくて当然だけどね」

 幸か不幸か2人は2時間以上も森の中を迷っていた。
 リインが周囲の策敵を行っていたが魔力も人の反応も見受けられなかった為、誰にも遭遇することなく今まで時間が掛かっていたのである。
 そして無事にアジトに辿り着けたのは偶然ある痕跡を見つけた事だ。
 それは血痕、その近辺で戦いが起こった事は明白である。血の乾き具合から見て12時間以上も前のものだと推測出来た。
 血痕は何処かへ移動するかの様に続いていた。それが意味する事は治療の為に何処かの施設への移動、
 この近辺で治療に使えそうな施設はスカリエッティのアジトぐらい、故に2人はそれを辿り移動した。
 勿論、血痕が比較的早期のものというの否定出来ず、危険人物がまだ近くにいる可能性もあった為、慎重に移動した。
 そして慎重に周囲を探った事であるものを発見する事が出来た。それはチンクのナンバーズスーツの残骸だ。
 回収こそしなかったが、これによりチンクが治療の為アジトへ向かった事はほぼ確定した。
 血痕そのものは途中で途切れていたが消された痕跡があった事からも近くにアジトがある事は確実。2人は慎重に周囲を探り今ようやくこの場所にたどり着いたのだ。

 以上の事と、スバル経由で聞いたチンクの動向から次の推測が導き出された。
 チンクと万丈目準がこの近辺で交戦しチンクは負傷し治療の出来そうな施設へ移動した。
 その途中、天上院明日香もしくはユーノ・スクライアの助けを受け移動の痕跡を消した上でアジトにたどり着いた。
 そして治療が終わった後、チンク達は市街地方面へ移動したという事だ。

「……ということは、もうこの施設は調べられちゃったって事?」
「そういう事になりますね。チンクが使える道具を回収しないわけないですし。見落としが無いとは限らないですけど」
「じゃあもしかして無駄足だった?」
「そんな事は無いですよ。この施設を使えばスバルの治療も出来る筈ですし」

 戦闘機人であるスバルは通常の人間の治療があまり有効ではない。それ故に専門の施設が必要となる。
 が、アジトはチンク達戦闘機人の拠点、当然戦闘機人の治療設備は整っている。
 実際チンクがここを訪れた事がその証明と言えよう。

「じゃあ、すぐにでも中に入ろうよ。もしかしたらスバルが先に来ているかも知れないし、来ていなくても治療の準備も出来るし」
 と、足早に洞窟に入ろうとしたがリインが制止する。
「慌てないでくださいよ! 殺し合いに乗った参加者が先回りしていてここに罠を仕掛けたかも知れないんですからね!!
 それでなくても、この場所は敵地なんですよ。どんな罠や危険があるかわかったものじゃありませんよ!」
「そっか、ここはアウェーだったね」
「アニメイトの時を思い出してください。施設に入って安心した所で襲撃を受ける可能性は否定出来ませんよ。あの時助かった幸運が何度も続くわけないんですからね」
「う……」
「それに、アジトは出入り口の限られた場所です。逃げ道を封じられればその時点でこなたもリインもおしまいです。突入は慎重に行うべきですよ」
「じゃあ、安全が確認出来るまではここで待つって事?」
「そういう事になりますね。さっきも言った通り既にチンクが調べたのは確実ですから、現状リイン達が慌てて調べる必要性はないですよ」

 何はともあれ、周囲の警戒は決して怠らず2人はアジトの近くでスバル、もしくは他の仲間の到着を待つ事にした。
 ちなみに今更ながらにこれまで何も食べていなかった事もあり2人は簡単に食事を取る事にした。
 そして食べながらも2人はこれまでの情報を整理する事にした。

203Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:12:00 ID:.m17H2vc0



「とりあえず、放送の事は大体覚えていますよね」
「うん……」
「あ、誰が死んだかについての話じゃないですから。それ以上に重要な事が幾つかあるですよ」
「殺した人へのボーナスの事?」
「それに関しては殺し合いに乗っていないリイン達にはあまり関係ない話ですよ。
 ただ、殺し合いに乗った人は誰かを殺した時点で新たな武器が手に入る事になりますから、それを避ける為にも今まで以上に身を守らないとならないですよ」
「とりあえずスバル達の為にも生き続けなきゃいけないって事だね」
「そうです。現状、ボーナスに関してはこれ以上出来る事は無いからこれで話を区切りますね。こなた、先程の放送誰が行っていたか覚えていますか?」
「そういえばおばさんじゃなかったね。誰だったかな?」
「こなたが知らないのも無理無いですよ。さっき放送を行ったのはオットー、スカリエッティの戦闘機人の1人でチンク達と同じ姉妹の1人です」
「ふーん……え? それっておかしくない? それはつまりオットーはチンクの姉って事だよね……」
「妹ですよ」
「いや、声が低かったから年上だと……チンクの服も体型が……」
 そう口にした瞬間、自分の体型を思い出しこなたは暗い気持ちになった。
「勝手に自爆しないでくださいよ」
「うん、貧乳はステータスだから大丈夫。希少価値だから大丈夫」
「後で殴って良いですか?」
「それはともかく、リインの話が事実だったらそのスカリエッティ達もおばさん達に協力しているって事になるけど……
 わざわざ自分達の仲間を危険な殺し合いに放り込んでいるって事になるよね。それっておかしくない?」
「まず、前提として説明しますけど主催者側にいるスカリエッティ達は参加者にいるクアットロ、チンク、ディエチとは別世界の可能性が高いです。
 こなたにも分かり易く言えば、参加者の彼女達と主催者達はほぼ無関係という事ですね」
 仮にチンク達が主催者側の人物であれば自分達と協力関係を結ぶ可能性は非常に低い。
 だが、チンクにしてもディエチにしてもこちら側と敵対するつもりが無かった事はルルーシュやスバルの証言からも明らかだ。
 一方、クアットロに関してはこの場での彼女の動向が不明である以上、判別はつけにくい。
 しかし、クアットロの能力や性格を考えれば最も危険な参加者として戦う事はまず有り得ない。裏方に回って他の参加者を扇動する役割に回る方が自然である。
「もっとも、既にチンクとディエチは死亡していますし、クアットロはそれでなくても危険人物ですから今となってはさほど意味を成さない話ですけどね
 むしろ、チンクとディエチが死亡したタイミングだからこそオットーが前面に出てきたと思いますよ。
 チンク達だったらショックを受ける事でも、クアットロはあっさり受け入れるでしょうし」
「1つ気になったんだけど。みんなクアットロを敵だと思っているの?」
「彼女を知る人間はまず彼女を信用していないですよ。信用する人物は余程のお人好しか馬鹿としか言いようがありませんよ」
「……本当にそんな人いないの?」
「シグナムにしてもヴィータにしてもザフィーラにしてもはやてちゃんにしてもそんな馬鹿な事しないですよ」
「それだけ信用されていないんだったら、クアットロ自身も自重しそうな気もするけど…………あれ、誰か忘れてない?」
「………………話進めますよ。
 恐らく主催者側にいるスカリエッティ達はJS事件が終わる前の存在だとだと思います。そして、その戦力を確保していると考えて良いですね」
「もしかして、主催者達との戦いになった時は彼女達と戦う羽目になるって事?」
「その通りです」
 仮に首輪を解除する事に成功し主催者側との戦いに突入出来たとしよう。主催者側は恐らく自身達の持つ戦力を投入するのは明白だ。
 そしてスカリエッティ達の存在が確認出来た今、その戦力はある程度推測出来る。
 単純計算して最低でもJS事件の規模の戦力が控えていると考えて良いだろう。
「それだけじゃないですよ。プレシアの技術力が確かなら遥か未来で起こった事件の首謀者達の戦力を確保しても不思議じゃないです」
「ねぇ、それ何の無理ゲー? それにそれってあくまでも首輪を解除してそこに辿り着いてからの話だよね? まだその段階にすら辿り着けていないんだけど……」
「もしかすると『だから何やっても無駄だから諦めて殺し合え』って言いたい様に聞こえますけど、リイン達は諦めるつもりは全く無いですよ」
「そうだね」

204Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:13:00 ID:.m17H2vc0

 ふと2人は空を見上げる。空には星と共に月が輝いているのが見える。
「綺麗な満月です」
「……うん、そういえば昨日も綺麗な満月だったよ」
「そうでしたか……あれ? 『昨日も』?」
「ん、どうかした?」
「いや、連日満月なんて有り得ないですよ」
「あ……」
「ちょっと待ってくださいよ……もしかしたらリイン達はとんでもない思い違いをしていたのかも知れないですよ」
「どういう事?」
「今までこの場所に来てから雲を見ましたか?」
「そういえば見た覚えが……でもそれはたまたま天気が良かっただけじゃないの?」
「さっきホテルから離れる時雷の音が聞こえたのは覚えていますよね」

 実の所、先程ホテルから移動する際、遠くから雷鳴の音が聞こえてきたのだ。
 雷そのものを見たわけではない為具体的な場所はわからないが音の方向は西側からというのは把握出来た。
 今更な話だったが、方向が東に寄れてしまったのは無意識のうちに雷を避けていたからかも知れない。

「そういえば……雲1つ無いのに珍しい事もあると思ったけど……」
「普通雲も無いのに雷なんて落ちないですよ。多分、アレは参加者の誰かによるものだと思います」
「そういえば、ヴィヴィオがそんな参加者に出会ったって言っていた様な」
 リインの推測自体は当たっている。もっとも、雷の元凶となっている参加者の周囲には能力による雷雲が構築されていたが、確認していない2人には知る由もない。
「でも、これ自体は別に問題じゃないです。重要なのは『1日中全く雲が発生しない異常気象』という事です。多分、これは意図的によるものだと思いますよ?」
「どうして雲1つない晴れにする必要があるの?」
「雨降っている中歩き回りたいですか?」
「納得」

「それからこなた、カード出して貰えます?」
「これの事?」
 と、こなたは2枚のデュエルモンスターズのカードを出した。
「レイ達の情報が確かならカードで強力なモンスターを使えるという話でしたよね」
「使い捨てみたいだけどね」
「その力がどれぐらいなのかはリインにはわからないですけど、多分それに関しても制限がかかると思いますよ」
「まぁ、ギアスとかにも制限がかかるわけだからそれ自体は不思議じゃないけど……それがどうかした?」
「その制限は何処から発せられていると思います?」
「…………あ!」
 通常、参加者の能力を縛っているのは首輪だと誰もが考える。自分達を拘束しているのが首輪だからそう考えてもおかしくはない。
 では、参加者の能力が絡まない支給品独自の能力、例えばデュエルモンスターズのカード等に関してはどうだろうか?
 参加者自身はほぼノーリスクでその力が使える以上、その力を制限するのは首輪ではない事は明白だ。
 ではカードのモンスターの能力はどうやって制限しているのだろうか?
「このフィールド自体?」
「その通りです。正直、この小さな首輪に種々様々な力全てを制限するのは難しいです。ですが、この舞台全てがその装置だとしたら十分可能です」
「……あれ、ちょっと待って、それってもしかして……」
 これまでの話からこなたの脳内にある仮説が浮かんだ。
「このフィールドはプレシアによって作られたものだったんだよ!!」
「正解ですけど……なに急に口調変えているんですか?」
「『な、なんだってー!』って言ってくれないんだ……」

 殺し合いに都合の良い負の感情を増幅する機能、
 参加者を逃がさない様に端と端とのループ、
 永久に晴れ続け、変わらない夜を作る不自然な空、
 そして多様に存在する力の制限、

 これはこの舞台が殺し合いの為に人為的に作られた空間を示す証拠となり得るだろう。

「なんとかこれでこのフィールドを破壊出来ないかなぁ?」
 こなたは2枚のカードを見つめながらそう口にする。
「残念ですけど、その2体の威力程度はプレシアも計算済みだから無理ですよ。大体それで簡単に突破されたらあまりにもお粗末過ぎじゃないですか」
(でも……カードゲームのカードって組み合わせ次第で色々出来るんだけどね……それこそカードを作った人も知り得ないくらいにね……融合とか何か出来ればさ……)
 もしも、手元に2枚のカードを生かす為のカードがあったならば――こなた自身それが何かはわからないが想像を絶する程の力を発揮すると考えていた。
(ま、無い物ねだりしても仕方ないけど)

 そういいながらカードを仕舞った。

205Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:14:00 ID:.m17H2vc0





「……という事は、あたし達が助かる為には4つクリアしなければならない問題があるって事?」

 1つ目、殺し合いに乗った参加者を全て無力化する事、
 2つ目、首輪を解除する事、
 3つ目、殺し合いのフィールドから脱出し主催者の元に辿り着く事、
 4つ目、主催者側の戦力を打ち破る事、
 現状、これら全てをクリアしない限りこの殺し合いを打破する事は不可能という事だ。

「っていうか、1つ目すらマトモにやらせてもらっていないんだけど……」
「とりあえず参加者の無力化はリイン達には無理ですから現状は2つ目と3つ目を何とか考えなきゃならないですね」
「……ねぇ、これだけ大規模な舞台だったらその為の装置は相当な大規模になっていると思うんだけど」
「多分、相当な数のロストロギアを使っている可能性は高いですよ」
「前リインは、管理局の助けは期待出来ないって言っていたけど、これだけ大規模なのに気付かないのは流石に馬鹿過ぎるんじゃないの?」
「スカリエッティ達が絡んでいる時点で隠蔽もクリア出来るとは思いますけど……でも、これだけ大規模なのに全く察知されないのも不自然と言えば不自然ですね……」
「でしょ、この舞台がある世界の管理局だったらわかると思……ちょっと待って、逆に考えるんだ『管理局にバレてもいい』と考えれば……」
「いや、管理局にバレたらその時点で踏み込……そうですよこなた、バレても踏み込まれる前に決着を着ければ何の問題も無いですよ」
 リインはJS事件の背景事情である地上の対応の悪さについて簡単に説明をした。
 要点を纏めると管理局と言えども、完全無欠ではなく迅速に対応出来るわけではないという事だ。
 つまり、管理局にこの場所がわかったとしても対応される前に全ての決着を着ければ何の問題も無いという事だ。
 前述の通り主催側の戦力は十分に揃っている。管理局が踏み込んだとしてもある程度の時間は稼げるだろう。
「思い出してください。ボーナスの話を何度も持ち出している事から考えてもプレシア達が早くこの殺し合いを終わらせようとしている事は明らかです。
 つまり、この殺し合いは最初からタイムリミットが存在していたという事になるですよ。ペースを考えてそのタイムリミットは長くても2日程度だと思いますよ」
「……うわ、それじゃあ管理局間に合いそうにないね」
「良くてギリギリです。だからやっぱり援軍は期待出来ないですよ」
「ていうか、残り人数だけで4つの問題をクリアするのってどれだけ無理ゲーなんだろう……」
「嘆きたい気持ちはわかりますけど、とりあえず今生き残っている人を整理するですね」

206Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:15:00 ID:.m17H2vc0

 放送までに生き残っている人数はこなたを除いて18人。
 その内、相川始、アーカード、アレックス、エネル、金居、ヒビノ・ミライの6名は具体的な人物像が不明瞭なので保留。
 ちなみに赤コートの男がアーカードで雷の男がエネルなのだがこなた達はその事実を知らない。
 次にチンク経由の情報でアンジール・ヒューレーが味方でヴァッシュが敵という情報がある。もっとも、チンクが死亡した今アンジールが殺し合いに乗る可能性があるのが気になる所だ。
 メールからの情報ではキングという名の人物が要注意人物らしい。
 天道総司に関してはヴィヴィオとクラールヴィントからの情報があるもののどちら側かまでは判断が付けられない。
「ここまでで10人です」
「あと、かがみんだけど……今どこで何をしているやら」
 かがみが今も生きている事は嬉しい。しかし、殺し合いに乗っている事実がある以上素直に喜ぶ事が出来ないのが本音だ。
「一度スバルが戦ったけど止められなかった事を考えると難しいかも知れないですね」
「出来ればかがみんにはもう誰も殺して欲しくないし、殺されて欲しくもない」
「この辺はなのはちゃんやスバルを信じるしか無いですね」
 後の7人はリインもよく知る人物だ。
 なのは、はやて、ヴィータ、スバルは機動六課の仲間。先程まで行動していたスバルは頼れる仲間だが、後の3人は状況次第ではどうなっているかわからない。
「はやてちゃんですら危険人物というのがリインとしては辛いですけど」
 クアットロに関しては完全に危険人物だ。保護を頼んだディエチやチンクには悪いが信用は全く出来ない。
「でもクアットロって頭は回るんだよね。幾ら何でも自分が信用されていないとわかっているならそういう無茶はしないと思うけど」
「そう思わせておいて最後に裏切る可能性がありますよ」
「流石に可哀想になって来た気がする」
「同情しちゃダメですよ」

207Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:16:00 ID:.m17H2vc0
 そしてヴィヴィオ、放送で名前が呼ばれていない為生存は確認出来た。
 だが、彼女を連れ去った容疑者とされていたルーテシア・アルピーノ、キャロ・ル・ルシエ共に死亡しているのが引っかかる。
 勿論、この2人が犯人ではなかったという可能性もある。だが、彼女達がゆりかごに向かう途中でヴィヴィオを残して命を落とした可能性もある。
 それならばヴィヴィオは今何をしているのだろうか?
「でも、リインの話が確かだったらレリックが無い限りゆりかごを起動される心配は無いよね。少なくとも今のところその様子は無いし」
「逆言えばレリックがあれば起動出来……あ、もしも、アニメイトを襲ったのがルーテシアだったの話ですけど、その場合嫌な仮説が……」
 一番の理想はヴィヴィオとレリックが両方そろっている場合だ。その可能性も無いとは言わないが、正直少々都合の良すぎる話だ。
 だが、ルーテシアがヴィヴィオを攫ったと仮定すればどうだろうか?
 ルーテシアの体内にはレリックがある。つまり彼女を殺してそのレリックをヴィヴィオに埋め込めば条件はクリア出来るという事だ。
 おそらく全てが上手く行って余裕の表情でゆりかごにやって来た所を残虐な参加者に仕留められレリックを摘出された可能性がある。
「そんな残酷な……って、誰がそれをやったの?」
「それはわからないです。でも……それを行った人ももう死んでいる可能性がありますよ」
「え?」
「JS事件と同様にヴィヴィオを聖王にして洗脳する可能性があるです……それに放送を聞いたとしたら」
 それを聞いた瞬間、2人の表情が青ざめる。
「ヴィヴィオが大好きな人……みんな死んじゃったんだ……」
「コンシデレーション・コンソールとそのショックでヴィヴィオが全てに復讐する可能性があるです」
 勿論こなたは生きているがそんな理屈は通用しない。死者が多すぎる以上こなたの生存を認識し損なう可能性は非常に高い。
「だけど……JS事件で1度止めているんだよね?」
「あの時は先に装置を牛耳っているクアットロを仕留めて洗脳を解除したから何とか上手く行った様なものです。そんな都合の良い展開に2度もならないです。
 それに一応言っておくですけど、あの状態のヴィヴィオは全力全開のなのはちゃんよりも強いですよ」
「うそぉ……でもさ、よくわからないんだけど他の人のレリックを埋め込んでその時と同じ状態になるのかな?」
「同じ状態にならなければ大丈夫だって言いたそうですが……というか、そんなレリックをポンポン埋め込むのが身体に良いと思っているんですか?
 適合しないレリックを埋め込めば命に関わりますよ」
「つまり……死ぬって事?」
「まぁ、仮説を何重も上塗りした仮説ですからそんな事が実際に起こっているとは限らない……というか思いたくないですけど」
「ヴィヴィオ……天道さん大丈夫かな……?」
「はい? どうして天道って人の名前が出るですか?」
 シャーリーの父親はゼロに殺されていた。そんな中、シャーリーは天道をゼロだと断定しており、ヴィヴィオもその場に居合わせていた。
 もっとも、その後シャーリーはゼロの正体がルルーシュである事を知り、それが誤解だと理解した。勿論、その場所にもヴィヴィオは居合わせている。
 しかしヴィヴィオはルルーシュが残虐なゼロだとは思えなかった。こなたもルルーシュがそこまで悪い人間じゃない事をヴィヴィオに説明している。
 となれば、ヴィヴィオは未だにゼロがルルーシュではなく天道だと誤解する可能性があるだろう。
「というかどうしてシャー……」
「あれ? どうしたの?」
「いや、あっちのシャーリー(本名はシャリオ)を思い出しただけですよ。ともかくシャーリーは天道をゼロだと思ったんですかね?」
「ゼロと断定出来る物を持っていたんじゃない? 何にせよ、ヴィヴィオがあの状態になっていたら天道さんが危ないと……」
「そうそう都合の悪い事になんてならないと思いますけどね」
「なんか起こってそうな気がする」

208Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:17:00 ID:.m17H2vc0





「そういえば今何時です?」
 こなたが時計を取り出し確認をすると既に9時半を過ぎていた。ちなみに丁度今食事が終わった所だ。
「もう、ホテルでの戦いは終わったかな? 無事だったら良いけど……」
「スバルは強いですからきっと大丈夫ですよ」
 そうこなたには答えたもののリインも不安を感じている。
(でも、何時までもここで待っているわけにはいかないですね。恐らく次の放送で残り人数が15人以下になる可能性は高いですから……)
 駅には15人以下になった時点で開く事の出来る車庫がある。4人死亡したのを確認出来ない限り向かう事は不可能なのでそれが可能となるのは次の放送以降だと考えて良い。
(ただ、同じ事を考えている参加者もいる筈です。戦いになる可能性を考えるとこなたを行かせるべきではないです。
 それに、中の危険を考え突入は控えたけど何時までも只待っているわけにはいかないです。本当に中に誰もいないなら一度入るべきですか?
 もしくは他の施設へ向かうという方法もあるですね。ただ、スバルが来る可能性がある以上下手に動くわけにもいかないです……)
 リインは周囲の様子を探る。しかし、アジト及びその周囲に人がいる気配はない。
(人はいない……そう思ってむやみに動くとアニメイトの二の舞に……)
 そう考えていると、
「リインってユニゾンデバイスって話だけど、ユニゾンデバイスって何?」
「……ていうか今更な話ですね」
 リインは簡単にユニゾンデバイスについて説明をした。
「じゃあ、ユニゾンすれば強い魔法が使えるって事?」
「でも、相性の問題がありますから誰でもってわけにはいかないですよ。リインにしてもはやてちゃんとヴィータ、それにシグナムとしかユニゾンしてないですし」
「ちぇ、ユニゾンしたらあたしも使えるのかなって思ったのに……ところで他にもユニゾンデバイスっているの?」
「1人いますよ。アギト……」
「ん? どうしたの?」
 リインはアギトについての簡単な説明を行った。
 アギトはJS事件ではゼスト・グランガイツとルーテシアと行動を共にしスカリエッティと協力していた。
 JS事件後はシグナムをロードとして八神家の一員となっていたが……
「そっか、アギトの大切な人がみんな死んじゃったんだね」
「リインが支給されていた事から考えてアギトも支給されていると思いますが……心配です」





 2人は空を見上げる。そこには変わらぬ星が輝いていた――
 そしてそんな2人の横を一陣の風が吹き抜けていった――

 輝ける星は幸運の星――
 吹き抜ける風は祝福の風――

 彼女達及び家族や友人達にとってそうである様に――

209Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:18:00 ID:.m17H2vc0











「あと、ユーノって人がいたよね」
「すっかり忘れていたですよ。無限書庫の司書長をしていて、なのはちゃんが魔法に出会う切欠になった人ですね。
 チンクの話では殺し合いに乗っていないらしいですから多分大丈夫だと思いますが……」
「何か特徴とかってないの?」
「確かPT事件ではフェレットに変身していたって聞いているですよ」
「まさか一緒にお風呂に入ったってオチは……」
「何故わかったんですか? 念の為言っておくですけど、なのはちゃんが9歳の時の話ですよ」
「他に何か分かり易い特徴ってある?」
「どの時期から連れて来られているかわからないですからね……そうだ、ヴィヴィオと声が似ていましたよ」
「ユーノきゅんって男の娘?」
「言いたい事わかりますけど違いますよ!」





【1日目 夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.このまま待つ? アジトに入る? 駅に向かう? もしくは……
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

210 ◆7pf62HiyTE:2010/06/12(土) 22:23:00 ID:.m17H2vc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>192-201が前編『Iの奇妙な冒険/祝福の風』(約26KB)で、
>>202-209が後編『Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす』(約23KB)です。

今回のサブタイトルは見ての通り『仮面ライダーW』風のタイトルになりました(本当はやるかどうか迷ったけど、結局やることにした。)。元ネタは以下の通り
『Iの奇妙な冒険』……『ジョジョの奇妙な冒険』※Iは泉こなたの泉のI
『祝福の風』……『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』※祝福の風にしたのはリインメインだから……前にも祝福の風使った事あったけど問題は無いよね?
『すたーだすとくるせいだーす』……『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』
ちなみにサブタイ当初案は『こなリンの奇妙な冒険 Part1 祝福の風』&『こなリンの奇妙な冒険 Part2 すたーだすとくるせいだーす』でした。
……また仮面ライダーW風にしちゃったよ、テヘッ♪
まぁ、仮面ライダーWのドーパントの能力ってスタンド能力的なの多いから問題は無いかな? さぁ、明日の放送が楽しみだ……って休みじゃねーか。

211リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 09:41:36 ID:z1IzJ9YYO
投下乙です
冷静に的確な判断をくだすこなたスゲーとか祝福の風として頑張ってるリインカッコいいとか貧乳はステータスだ希少価値だとか色々感想あったのに全部最後でぶっ飛んじまったw
JS事件でゆりかご内部地図とかで頑張ってくれたユーノを忘れんなよリインw
しかも貴重な対主催の一人だってのにwww

でも男の娘には同意です

212リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 18:02:32 ID:teQ9Wj2w0
連日の投下乙です

>Round ZERO 〜GOD FURIOUS ◆gFOqjEuBs6
今でさえヤバいホテルがさらにヤバいことに!?
エネルは周囲の電気を吸収して神・エネルというか常時正真正銘雷神・エネルみたいに…
それにしてもはやてと金居の腹黒二人の腹の探り合いがw

>Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE
>Iの奇妙な冒険/すたーだすとくるせいだーす ◆7pf62HiyTE
こなたはあの引きから止まったか
そして力がダメなら頭とばかりに色々と考察を巡らすちびっ子二人組
おいリイン!シャマルさんディするなよ!
今回やたらとネタを繰りだすこなただがもしかしてつかさの死を紛らわせようとわざとそうした行動していたのかな
あとユーノ君がんばっているんだぞ!

213リリカル名無しA's:2010/06/13(日) 23:46:08 ID:lGD8LEk60
投下乙です

動揺してたのに止まって冷静に考察とはすげえ
色々とネタもあって面白いが…なるほど、こなたの死を誤魔化す為の行動かもな
そしてユーノ君の扱いがw

214リリカル名無しA's:2010/06/19(土) 16:55:56 ID:QN.ji5uY0
うおおおお!?
気付けば投下が沢山!
ヴァッシュとスバルがひとまず和解したと思えば何か危険要素がぞろぞろと!
さらにエネルまでー!
しかし天は我らを見捨てなかった!
こなりんに吹きつつ考察に感心したぜ!

215 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:46:51 ID:CvSVnTdQ0
これより高町なのは(StS)、天道総司、ヒビノ・ミライ、アンジール・ヒューレー、クアットロ、キングで投下します

216 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:48:01 ID:CvSVnTdQ0
プレシアの目論みによって開かれたデスゲームも彼此10時間が経過しようとしていた。
暗き夜に開始された凄惨な催しは朝と昼を通過して、今まさに再び夜に戻ろうとしている。
当初は60人いた参加者も既に生き残りは3分の1を切っている。
そんな過酷な環境の中で生き残った4人の参加者が紅蓮の炎に包まれたスーパーを背に対峙していた。
ここまでの激戦を潜り抜けて生き残ってきただけあって4人とも名うての兵揃いだ。
時空管理局が誇るエース・オブ・エース、高町なのは。
天の道を往き総てを司る男、仮面ライダーカブトこと天道総司。
元ソルジャー・クラス1st、アンジール・ヒューレー。
無限大の未来を秘めた宇宙警備隊のルーキー、ウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。
なのはとカブト、アンジール、そしてメビウス。
まさに三者鼎立、三竦みの状態。
今の状況は緊迫していた。
その一翼を担うなのははカブトの傍に控えながらある事が気に掛かっていた。

(銀色の鬼は殺し合いを望んでいない……?)

ここまでなのははカブトのそばで治癒魔法を行使しながら乱入してきた銀色の鬼の様子を窺っていた。
最初は問答無用にカブトを撃墜したのでアンジールの仲間かと思った。
以前弁慶から銀色の鬼は危険な存在だと聞かされていたのでてっきりそうだと思い込んでいた。
だがその直後アンジールの攻撃を阻み、さらに戦いを止めろと言った行動を目の当たりにして銀色の鬼の真意が分からなくなった。

実のところなのはは天道とアンジールの戦いに横槍が入る事を危惧していた。
その理由は周辺をサーチしてすぐ近くの雑居ビルに誰か潜んでいる事を知ったからだ。
当初可能性として考えられたのはアンジールの協力者か、様子見の参加者だった。
もしも後者ではなく前者なら天道は罠が仕掛けてあるかもしれない場所に誘い込まれた事になる。
今でさえ互角であるところに横槍を喰らえば敗北は必至。
だからこそ雑居ビルに潜む第三者に注意は払っていざとなればカブトを守るために戦場に介入するつもりだった。

ところが乱入してきたのは雑居ビルに潜んでいた者ではなく、別の方角から飛び込んできた銀色の鬼であった。
雑居ビルに注意を払っていたなのはとっさには対処する事ができなかった。
だが銀色の鬼は戦闘を止めようとしていると知って様子見で今に至る。
ここまで何も行動を起こさないという事はアンジールの協力者の線は薄くなる。

(じゃあ、いったいあのビルに潜んでいるのは――)

その時、またしても新たな乱入者が現れた。
しかも今度はなのはにとっては馴染みのある人物だった。


     ▼     ▼     ▼


「さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか」

クアットロは走っていた。
目の前に広がる光景は戦場。
三者鼎立を形作る緊張の場。
だがクアットロは悲観していない。
その場にいる4人のうち高町なのはは無闇に戦いを求める性格ではないし、アンジールは自分が説得すれば大丈夫。
しかも正体不明の銀色の戦士は戦いを止めたいらしい。
それならあとはクアットロ自身の舌三寸で皆を説得して仲間に出来る可能性は高い。
お誂え向きの状況に思わず頬が緩んでしまう。

「アンジール様ー!」

すぐに自分がクアットロだと分かってもらえるように変装用に外しておいた眼鏡を再び付ける。
そして髪もいつものように両端で結ぶ。
服装はいつものスーツではないが、それでも顔を見ればすぐに分かるはずだ。

「みなさ〜ん!」

準備は整った。
あとはこれからの交渉次第。


     ▼     ▼     ▼

217 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:48:52 ID:CvSVnTdQ0


「ダメだよ、そんなつまらない事したらさ」


     ▼     ▼     ▼


「――ッ!?」

それは突然の出来事だった。
4人がお互いを牽制して緊張状態に陥った戦場。
そこに乱入しようと走ってきたクアットロが爆発と共に宙へと吹き飛んだ。
その背後では赤と黒の爆炎が立ち上っている。
明らかに砲撃の直撃だった。
あまり突然の出来事であったために注意を呼びかける暇すらなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお」

だが急転直下の戦場はなのはに考える間も与えてはくれなかった。
突然アンジールが悲しみの叫びを上げると、クアットロを抱えて戦線から離脱したのだ。
その様子から二人の間に並々ならぬ関係があった事は明白だが、とりあえず尋常な雰囲気ではなかった。
このまま一人にするのは不味いと考えて、引き留めようとしたが――。

「アンジールさ――」

――呼びかけようとしたなのはの声は続けて放たれた砲撃音でかき消された。
しかも砲撃は何発も続き、迂闊に動けない状態だ。
反射的に展開したシールドで防ぎきれる程度ではあるが、こうも続けば爆煙が濃くなり、自ずと周囲の視界も悪くなる。
おかげでなのはもカブトもアンジールの行方を完全に見失っていた。
それと同時にもう一人この場からいなくなっている人物に気付いた。

「おい、さっきの銀色の奴もいないぞ」
「たぶんアンジールさんを追いかけていったんでしょうね」
「お前もそう思うか。で、どうする?」
「あっちは任せましょう。私達は……」
「……この砲撃手をどうにかした方が良さそうだな」

先程の一件で銀色の鬼が実は殺し合いを望んでいない事は二人とも感じ取っていた。
伝聞の情報と直に見聞した情報では後者の方が信じられる。
二人は自分達の判断を信じてこの場に残る事を選択した。

二人の考えが一致した時にはもう砲撃は止んでいた。


     ▼     ▼     ▼


(このままでは、終われませんわ……)

数秒前までは意気揚々としていたクアットロは死に瀕していた。
背後からRPG-7の砲撃を直撃したのだから当然の結果だった。
だがそこは戦闘機人。
もしクアットロが生身の身体なら砲撃の時点で五体は千切れて一瞬で死んでいた。
半分機械の身体だからこそ即死だけは避けられたのだ。
さらにとっさにデイパックを盾にした事も命を長らえた一因となっていた。
だが即死こそ避けたが、クアットロに助かる見込みはなかった。
唯一スカリエッティのアジトに行けばなんとかなるかもしれないが、どう計算しても時間的に着くまで生きている可能性は皆無だ。
地上本部の転移魔法陣を使っても間に合いそうにない。

(なんで、私が、こんな目に……)

血に濡れた頭を上げ、ぼんやりと霞む目を向けるとアンジールの姿が見えた。
先程から揺れる自分の身体と合わせてアンジールに抱えられている事は明白だ。
だがいくらアンジールの力でも生きている間にアジトへ着く事は不可能だ。
なまじ頭が良いばかりにクアットロは自分が生き残る可能性が皆無である事に思い至っていた。
本当ならこのような不条理に文句を言いたいところだが、あいにくそんな余力もない。
だからクアットロは残り少ない命を糧にして考えていた。

(いいですわ……それなら、それで私にも考えがあります……)

どうすれば生き残っている参加者により大きな絶望を与えられるかと。


     ▼     ▼     ▼

218 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:49:28 ID:CvSVnTdQ0


「よし! 追い付けた!」

あの騒動の中、メビウスは偶然にも戦場から離脱するアンジールの姿を見つける事が出来た。
そして一瞬の迷いの後に追いかける事にした。
確かに別世界のなのはも気になるが、あの時はそれ以上にアンジールが気に掛かった。
それは目の前で大切な人を亡くしたからだったのかもしれない。
なによりあのような状態で一人にする方が危なく思えた。
そのアンジールを見失う前に追いつけた事は辛い出来事が続いていたメビウスを安堵させるものだった。

「あの、すいま――」

だがすぐにメビウスは気付いた。
アンジールの目の前に砲撃を受けた女性が横たえている事に。
少し考えればここへ来るまでに女性は息絶えてしまったという事は分かった。

「そ、そんな……」

これで3度目だ。
1度目は赤コートの怪人と対峙した時に身を張って時間を稼いでくれたクロノ。
2度目はほんの少し前ゼロによって殺された壮年の戦士。
どれも目の前で死んでいった。
ミライの力が及ばないばかりに。
そしてこれで3度目。
自分のせいではないにしてもミライは後悔してもしきれなかった。

「くそっ……!」

既にメビウスの安堵は後悔に変わっている。
少し前にも同じ経験をした身としてアンジールの背後に近付いてもかける言葉が見つからなかった。
こういう時は下手に言葉をかけるよりは黙っていた方がいい気がした。
静寂の暗闇の中でカラータイマーが点滅する光と音が一層虚しく感じられる。
やはりこういう時気の利いた事が上手くできない自分はまだまだだなと居たたまれなくなる。

だから――。

「約束しよう、クアットロ」

――その言葉と共にアンジールが振るった刃に驚かされた。

「!?」

下段からの斬撃に対してとっさにメビウスディフェンサークルで防ぐが、今のメビウスにとってその判断は誤りだった。
あまりの急展開にメビウスは失念していたのだ。
変身時間の残りがもうない事に。
刹那の拮抗を齎した∞のバリアはカラータイマーの沈黙と共にあっさり砕かれ、メビウスの変身が解けたミライに刃が襲いかかる。
バリアを張るために突き出していた右腕がメビウスブレスごとバスターソードで無残に斬られていく様子がひどくスローに見えた。

(なのはちゃん、ごめん……)

奇しくもバスターソードの描く斬撃はセフィロスの正宗が斬り付けた傷口と同じ場所をなぞっていた。
そして二度と奇跡は起きなかった。


     ▼     ▼     ▼


「アンジール、様……」
「クアットロ喋るな! 今すぐ俺達のアジトに――」
「もう、無理ですわ……この傷ではアジトまで、は……」
「そんな事はない! 俺の力なら――」
「アンジール様も、分かっているのでしょう」
「…………」
「大丈夫です。私、寂しくはありませんから」
「そ、それは」
「アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています」
「!?」
「私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです」
「それは……」
「だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……」
「……クアットロ」
「……またお会いできる時を楽しみにしています」


     ▼     ▼     ▼

219 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:50:07 ID:CvSVnTdQ0


その瞬間が来るまでアンジールは自分の処遇を決めかねていた。
もちろんアンジールが悩む原因は天道だ。
決着は付かなかったとはいえあのままなら負けていたのは間違いなく自分だ。
しかも天道には自分と同じく妹がいるらしい。
その天道の言葉だからこそ少なからず共感できるものがあったのは事実だ。
だが一方で本当にそれでいいのだろうかという疑念も渦巻いている。
孤高を貫くか、手を取り合って協力するか。
アンジールはデスゲームに於いて重大な岐路に立っていた。

だが岐路を決するきっかけは呆気なく訪れた。

突如戦場に届いた新たな乱入者の声。
その声の主をアンジールは知っていた。
いや知っているどころではない。
聞き間違えるはずがない。
それはまさしくアンジールが守らんとする者の声。
もう唯一人となってしまった大事な妹。

だがその妹は突然の砲撃で瀕死の状態に陥ってしまった。

あの瞬間の紅い炎と赤い血を周囲に撒き散らせながら宙に吹き飛ばされるクアットロの姿が何度もフラッシュバックする。
近くにいたにもかかわらずアンジールは何もできなかった。
その直前まで天道の言葉に従うか悩んでいたせいで反応が遅れたからだ。
だから最初何が起こったのか理解できずにただ見ているしかできなかった。
そして地面に叩きつけられてようやく事態を理解した。

それからはほとんど反射的にクアットロを抱えて走りだしていた。
スカリエッティのアジトへ行けばまだ生きる望みはあると思ったからだ。
だがアンジールも分かっていた。
いくらソルジャーの脚力を以てしてもクアットロはアジトに着くまでに死んでしまう。
それは逃れようのない事実だった。
だがそうだとしてもアンジールは立ち止まる気はなかった。
もう自分が知らないところで妹が死んでいくのは耐えられない。

だがそんなアンジールの行動も虚しくクアットロは最期の言葉を残して死んでいった。

クアットロの最期の表情は今まで見た事もないような笑みが浮かんでいた。
だからアンジールは決意した。
なんとしてもこのデスゲームの最期の一人になると。
それこそ自分が守れなかった妹達に出来る唯一の贖罪。

「ミライの旦那ぁぁぁ」

少し思いに耽っていると、突然それを中断させる声がした。
ふと見ると、今しがた斬り捨てた参加者のデイパックから持ち主を呼ぶ声が上がっていた。
どうやら醜い絵柄のカードからその声は発せられているようだった。

「なんで、ミライの旦那を殺したんだ」
「そうだ、なんでだよ」
「この鬼、悪魔」

しかし本来なら愛嬌あるその声は決意を新たにした今のアンジールにとって耳障りでしかなかった。

「ファイガ」


     ▼     ▼     ▼

220 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:51:04 ID:CvSVnTdQ0


全ての元凶は数時間前に遡る事になる。

「えー、なんだよ。俺が狙っていた奴ほとんど死んでいるじゃんか」

どこにでもあるような灰色のコンクリート製の雑居ビルの2階の主は3回目の放送が終わるや否や早速不満の声を上げていた。
声の主は最強のアンデッドを自負するキング。
コーカサスオオカブトムシの祖であるカテゴリーKは未だ放送前のメビウスとの戦闘の傷を癒している最中であった。
1万年ぶりの敗北を味わったせいかキングを着飾る赤ジャケットと色とりどりのアクセサリーもどこかくすんで見える。
だが不満の声が上がったのは敗北による不愉快に加えて先の放送が原因だ。
実はこの放送でキングが目を付けていた参加者が大量に死んでしまっていた。

浅倉にはもっと暴れてもらって是非とも非道な仮面ライダーとして天道と対決してもらいたかった。
ミラーワールドで新たな殺し合いを開いたまでの首尾は良かったが、どうやらその戦いで死んだらしい。
自分で開いた殺し合いで自分が死んでは洒落にもならない。

キャロもあそこまで追い詰めて覚醒させてから全く会えなかった。
出来る事なら天道と再会させたかったが、それももう叶わず。

ルーテシアとフェイトも伝え聞いた話や『CROSS-NANOHA』の内容から想像するに、キャロと同様に心を抉ればさぞかし面白いものになったかもしれない。
結局その二人には一度も会う事もないままどこかで死んでしまった。

そしてルルーシュとシャーリー。
せっかくゼロの格好を手に入れたのだから是非とも二人に会って反応を楽しみたかった。
特にシャーリーはどんな顔をするのか想像するだけでワクワクしていた。
だがそれも二人の死亡によって無駄になってしまった。
しかもこれで生き残っている参加者の中でゼロのことを直接知っている者は誰もいなくなってしまった。

キングにとっては不愉快な事ばかりであった。

メビウスとの戦闘のダメージはアンデッドの回復力と手持ちの『治療の神 ディアン・ケト』を連続使用する事でほぼ回復した。
もうすでに普通に動く分には問題ないが、完全回復まではもう少しかかりそうだ。
もし今戦う事になれば雑魚相手なら支障はないが、メビウスやジョーカー相手だと少し厳しいかもしれない。
だが先程までと違って今のキングには当面急ぐ理由はない。
反応が気になる参加者のほとんどが死亡した事で新たな獲物が欲しいところだ。

雑居ビルの近くをかなりの速度でアンジールが走り去っていったのはそんな時だった。

(へぇ、しばらく見ないうちに派手に戦っているじゃん)

大通りを一心不乱に北進するアンジールを追跡する事数十分。
追いついた先で繰り広げられていたのは仮面ライダーとソルジャーの戦いだった。
その様子をキングは近くの雑居ビルに潜んで観察していた。
どうすればより面白くなるかを考えながら。
だがキングが介入する前に突然乱入してきた人物によって戦いは中断してしまった。
その人物はキングもよく知る人物。
放送前に一戦交えてキングに苦汁を嘗めさせたウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ。

そのせいでこの場は膠着状態になってしまったが、その均衡は思わぬ形で崩れる事になった。

(ん、誰か来た?)

常人を遥かに上回るアンデッドの聴覚が捕らえたのはクアットロの足音だった。
クアットロに関しては『CROSS-NANOHA』で既に把握していたのですぐに分かった。
敵方として特徴的である意味自分と似た者だったというのがすぐ分かった一因だ。
そのクアットロがどうして急いで戦場に向かっているのか、その理由はすぐに分かった。

『それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……』
『――上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る……?』

その言葉だけならまだ4人を騙して上手く取り入ろうとしているのかと思った。
だが次の一言でキングの行動は決まった。

『さあ、みんなで協力してこのデスゲームから脱出しましょうか』

そしてキングはクアットロを砲撃した。
理由は簡単。
あのままクアットロに説得の機会を与えればせっかくの火種が台無しになってしまうからだ。
そうなる前に自ら手を出して火種を作る方が面白くなりそうだった。
結果は上々。
クアットロはRPG-7の直撃を受けて死亡、アンジールはそのクアットロを抱えて離脱。
それを追いかけてメビウスも離脱。
ついでに殺害ボーナスも手に入った。
予想外に場が一転したのでキングとしては満足だった。

221 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:51:46 ID:CvSVnTdQ0

「さて、どうしようかな」

この場に残っているのは高町なのはと天道総司。
二人にとって今のキングが扮しているゼロは完全に敵だ。
しかもゼロの衣装を解いても放送でペンウッドとC.C.の名前が呼ばれた以上二人ともキングを味方とは思っていないだろう。
それにRPG-7も殺傷力のある榴弾は全弾使い切って残っているのは照明弾とスモーク弾だ。
それならそれでアンデッドの姿に戻って戦うのも一興だが、それでは芸がない気もする。

「なにか面白い物ないか……ん、あれって……」

銀色のトランクケース。
それは砲撃の影響で誰かのデイパックから零れたのかキングの足元に転がっていた。
さっそく中身を確認してみると、キングは思わず目を輝かせた。
そこに入っていた物はベルトだった。

「やった、良い物見っけ!」

その笑顔はまさしく面白い玩具を見つけた子供のような純真な笑みだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、少し満足
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ギルモンとアグモンとC.C.のデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.デルタのベルトで遊ぶのも面白そうだね。
 2.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 3.はやての挑戦に乗ってやる。
 4.ヴィヴィオをネタになのはと遊ぶ。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(小)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.砲撃手を倒す。
 2.一応あとで赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをするような奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

222 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:52:22 ID:CvSVnTdQ0

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 0.砲撃手を倒す。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)、アンジール
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)


     ▼     ▼     ▼

223 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:52:57 ID:CvSVnTdQ0


赤く立ち上る炎を背に受けて天使の姿をした悪魔は歩き出す。
炎の原料となるのはファイガによって燃やされたカードとその持ち主だった死体と荷物。

「悪魔か、それでもいいだろう」

亡き妹達の願いを叶えるなら天使でも悪魔でもなんだっていい。

「悪魔なら、悪魔らしいやり方で叶えるだけだ」

もうこの手に誇りも夢もない。
その象徴だったバスターソードは最期の一撃で砕けてしまった。
今まで戦闘でそこまでダメージがあったのだろうか。
だが逆に踏ん切りがついた。
もう今の自分にはあの剣は似合わない。
今の自分にはこの『反逆』という名を冠する剣の方が似合っている。
そうだ、先程までの悩んでいた自身に反逆するのだ。

幽鬼のように歩き出した今のアンジールには夢も誇りもない。
今のアンジールにあるのは亡き妹の願いという名の呪縛だけだった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-2 東部】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。


【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】
【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは  死亡確認】


【全体備考】

※クアットロの荷物は砲撃で木っ端微塵になりました(それなりに強度のある物なら残っているかもしれません)。
※D-2東部の路上でミライの死体と荷物が全て燃え尽きました。なお近くに折れたバスターソードが放置しています。

224 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 00:54:53 ID:CvSVnTdQ0
投下終了です
タイトルは「絶望の暗雲」、元ネタはメビウス49話より
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

225リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 07:31:34 ID:OfCwO1GI0
投下乙です。
やはり潰されるのはクアットロだったか(それでアンジール完全マーダー化するので。)。つか、最後に余計な事するんじゃねーよクアットロ……
で、その流れでミライも退場、荷物まで焼かれて……おジャマ……(涙)
つか、クアットロとミライの荷物ほぼ全滅か……(いや、クアットロはまだわからんが……)……ブリッツキャリバー……(涙)
で、しっかりデルタのベルトは残ってキングが使うというキングにとって都合の良いオチ(キングだったら耐えられるだろうからなぁ)……とりあえず天道、逃がすと回復アイテムで回復されるから今度こそ確実に仕留めろー。

で、アンジールがミライを仕留めて手に入れたのがリベリオンなのは状態表で把握できたが……キングがクアットロを仕留めて手に入れたボーナスはまだ判明していないよな……(状態表見たところ増えた様子は無い。)

226リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 18:04:22 ID:lYQWERJI0
投下乙です
アンジールは悲壮だな。そして道化だわ…可哀そうだがとっとと死んでねとしか言えんな
クアットロは対主催しててもやっぱりクアットロだわw
さて、キングを追う二人は打倒できるか?
キングも簡単には倒せないだろうし…

227リリカル名無しA's:2010/07/03(土) 18:30:29 ID:r2qFcW0cO
投下乙です
ミライ南無…
そして本当にクアットロは最期の最期でなんて遺言残してくれたんだwww
でもそこがクアットロらしい

228 ◆HlLdWe.oBM:2010/07/03(土) 23:31:52 ID:CvSVnTdQ0
>>225
状態表はただの書き漏れです
wikiに収録した際に書き加えておきます(詳細は後続にお任せします)

229リリカル名無しA's:2010/07/08(木) 00:26:47 ID:7zUPXjF2O
投下乙です
綺麗なクアットロとか色々言われて来たがクアットロはやはりクアットロだったか
今までの綺麗分をここで一気に取り戻したな
ミライにはご愁傷様としか言えないな…ここまでよく頑張った。

230 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:04:29 ID:dR2I84lo0
これよりホテル組の投下を開始します。

231H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:07:14 ID:dR2I84lo0
 このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。
 では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。
 何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。
 しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。

「このっ!」

 少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。
 しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。
 ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。
 標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。
 宙に浮かび、キックの体勢を作るが――

「うわっ……!?」

 カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。
 空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。
 したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。
 すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。

「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」
「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」
「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」

 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。
 自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。
 アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。
 例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。
 そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。
 プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。
 やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。
 既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。
 そして、もう一つの理由。

「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」
「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」

 我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。
 そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。
 油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。
 とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。
 いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。
 それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。
 スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。

232H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:15:16 ID:un.zjUms0
 


 キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。
 スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。
 幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。
 先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。
 固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。
 当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。

「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」
「乗っていると言ったらどうする」
「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」

 駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。
 IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。
 ……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。
 スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。

(効かない……!?)
「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」

 カリスの言う事は正しい。
 いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。
 何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。
 本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。
 決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。
 そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。
 それ程にフォームという物は重要なのだ。
 ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。
 左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。
 仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。
 多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。
 それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。
 ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。
 だけど、それでも止まってはいられないのだ。

「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」
「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」
「え……!?」

 驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
 その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。
 漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。
 蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。

「ぐぁ……ッ」
「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」

 カリスの声が、震えていた。
 まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。
 どうしようも無い悲しみを吐き出すように。
 先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。
 その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。
 ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。
 その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。
 姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。

「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」
「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」

 言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。
 刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。
 命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。
 されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。
 瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。

233H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:18:14 ID:dR2I84lo0
 
「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」

 腹から絞り出すような怒号。
 醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。
 震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。
 カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。
 だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。

「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」
「な……ッ!」

 上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。
 僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。
 だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。
 左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。
 今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。
 同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。
 それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。

「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」
「が……ァ……!!?」

 カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。
 そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。
 流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。
 カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。
 その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。





 月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。
 人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。
 たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。
 はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう?

(ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。
 スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!)

 エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。
 出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。
 しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。
 今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。
 海楼石はこちらにある。倒せない事はないだろうが、今はまだその時ではない。
 勝負を仕掛けるには、確実に倒せるだけの戦力と情報が必要不可欠だ。
 幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが……

「金居さんは、現状をどう思いますか」
「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」

 金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。
 だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。
 金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。
 キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。
 つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。

(それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな)

 出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。
 その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。
 だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。
 エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが……

234H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:20:18 ID:dR2I84lo0
 
「おい、八神」
「何ですか?」
「あれを見ろ」

 森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。
 その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。
 漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。
 サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。
 しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。
 死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。
 まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。





 今の一撃は効いた。
 もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。
 それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。
 スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。
 硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。
 アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。
 赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。

「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」
「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」
「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない……
 だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」

 真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。
 ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。
 その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。
 この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。
 そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。
 この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。

「……これから殺す相手に教えても、意味がない」
「まだそんな事を……!!」

 言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。
 何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。
 そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。
 それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。
 同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。

「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」
「そうやって、逃げるんですか!?」
「何、だと……?」

235H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:25:43 ID:dR2I84lo0
 
 逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。
 最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。
 ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。
 その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。

「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ!
 戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」
「俺が何時逃げようとした」
「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか……
 ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」

 スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。
 何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。
 それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。
 しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。
 それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。

「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……!
 だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」
「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない!
 ……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」

 何だと……? 
 ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い?
 だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。
 人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する?
 なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。
 理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。

「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った……
 そのギンガが人間じゃない……? いや……」

 始は思う。それは違う、と。
 誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。
 そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。
 あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。
 紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。
 だからこそ言える。だからこそ断言できる。

「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」
「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」
「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」

 問題は凄く単純な事だ。
 ギンガの考えが、始には理解出来なかった。
 ギンガの行動が、始には理解出来なかった。
 何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。
 何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。
 誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。
 始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。

「何故だ……何故……!」

 考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。
 ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。
 守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。
 生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。
 ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。

「何故、ギンガは……!」

 だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。
 あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。
 戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。
 自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。
 それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。
 この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる?

「わからない……わからない……わからない……!」
「ギン姉は――」

 ――CLOCK UP――

「――ぇ……?」

 刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。
 左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。
 告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。
 カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。
 そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。
 確か、ギンガが死んだ時の……。

236H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:28:26 ID:dR2I84lo0
 スバルがその拳で漆黒のライダーを吹っ飛ばしたのとほぼ同時、こちらでも状況は変化しようとしていた。
 緑の装甲の仮面ライダーが、赤いコートの男に羽交い締めにされ、子供の問答の様なやりとりを繰り返す。
 我武者羅に腕を振るうだけでヴァッシュの腕から抜けられる訳も無く、そんなシュールな光景を延々と続けていたのだ。
 次第に募りに募りまくった苛立ちもMAXを向かえたのか、キックホッパーの叫びがさらに甲高くなった、その時。
 装着者である柊かがみの内側から聞こえて来る声は、かがみを安心させるものであった。

「あぁもう……わかったわよ、あんたに従う! だから話して……お願い」
「本当かい? 離した瞬間にドン、なんて御免だぜ?」
「あんたなら私にそんな隙を与えないでしょ? もう解ったから……鬱陶しいのよ。
 話だけでも聞いてあげるから、離して。お願い」
「よし、解った」

 果たして、ヴァッシュの口から発せられたのは、かがみが望んだ答え。
 キックホッパーの仮面の下で、存外思い通りに事が進んだなと、不敵に唇をゆがめる。
 ヴァッシュが自分に攻撃の隙を与えてはくれない? そんな事は素人のかがみに解る訳が無い。
 全ては、かがみの中に潜むもう一人の人格の指示するままに動いた結果であった。

「ありが……とっ」

 後は簡単だ。ヴァッシュの手が緩んだ瞬間に、かがみは軽く腰を叩いた。
 同時に鳴り響く、「クロックアップ」の電子音声。齎されたのは、キックホッパーの加速。
 周囲の時間軸を切り取り、自分を超高速の世界に顕在させる事で可能となる超加速だ。
 これには流石のヴァッシュも、対応仕切れる筈も無かった。

「さて……とりあえず一発、いっちゃおうかしら」

 驚いた表情のまま、スローモーションになってしまったヴァッシュを見据えて、不敵に告げる。
 柊かがみの戦闘能力は素人同然ではあるが、それでも仮面ライダーの装甲は強力だ。
 左脚を軸に、右脚を振り上げる。キックホッパーの得意とする蹴り技、それもミドルキック。
 ヴァッシュの脇腹目掛けて、それを振り抜いた。
 右脚がヴァッシュを叩いたのと同時、ヴァッシュの身体がゆっくりと宙に浮かんだ。

「次は、アイツね……スバル!」

 何やら黒いライダーと言い合っているようだが、そんな事はお構いなしだ。
 黒いライダーは既に戦闘不能に陥っているようだし、ライダーに邪魔をされる心配は無い。
 心おきなくスバルを蹴る事が出来る。余裕の態度でスバルの傍らへと歩み寄り。

「――ふんっ!」

 右側の脇腹へと、ミドルキックを叩き込んだ。
 後は先程のヴァッシュと同じだ。スバルの身体が、ゆっくりと宙へ浮かび上がって行く。
 これがクロックアップ空間の外であれば、きっと一瞬の出来事なのだろう。それはかがみ自身もすぐに知る事になる。
 ヴァッシュとスバルを蹴り飛ばし、もう一度地に足を付けた時には、既にクロックアップは終了していた。
 悠然と立ち尽くすキックホッパーの周囲で、同時に二つの呻き声が聞こえた。
 一つはヴァッシュ。一つはスバル。重い蹴りを叩き込まれた二人のものだ。

「……なんだ、今の一撃で死ななかったんだ?」

 心底つまらなさそうに呟いた。
 今し方蹴り飛ばした二人ともが、呻きながらも何とか受身を取っていたのだ。
 仮面ライダーの蹴りを受けて生きて居られる人間など居る訳が無い、と思ってはいたが、そこはかがみの判断ミス。
 スバルもヴァッシュも、数えきれないほどの修羅場をくぐり抜けて来た戦士なのだ。
 まともな蹴りのフォームすら知らない素人の一撃で殺される程柔では無い。

「かがみさん……! もう止めてくれ! こんな殺し合いを続けてちゃ、いつか君の命まで奪われてしまう!」
「うっさいわね……もう私の命なんてどうだっていいのよ! 皆殺して私も死ぬ! もう失う物なんて何もないのよ!」

 ずっと一緒に生活して来た、たった一人の妹は目の前で殺された。
 大勢の人の死を目の当たりにして、精神を病んでしまったかがみに最早希望は無い。
 深い闇の様な絶望だけが、かがみの孤独を癒してくれるのだ。
 絶望と激情に突き動かされるままに参加者を手当たり次第に殺して、最後は自分も死ぬ。
 これは、柊かがみという弱い人間の精いっぱいの悪あがきであった。
 左腕を庇う様に、先程吹っ飛ばしたスバルがゆらりと立ち上がった。

237H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:28:56 ID:dR2I84lo0
 
「……こなただって、諦めずに戦ってるんだよ……それなのに」
「どうせそのこなたも別の世界のこなたなんでしょ? なら私には関係無い事よ!」
「それでも、こなたがかがみさんの友達だって事に変わりはないでしょう!?
 自分の世界の、自分の知る相手でなくとも、変わらず接してくれた人を、私は知ってる!」

 スバルの言い分に、かがみが感じるのは怒り。
 それも、大層な理由があってのものではない。単純な苛立ちから来るものだ。
 確かに60人も居れば、スバルの言う様な御人好しが居ても不思議ではない。
 だが、それを自分に押し付けて来る無責任さに、かがみは腹が立ったのだ。

「ならそいつは今何処に居るのよ……? もう死んじゃったんでしょ……?
 そんな甘っちょろい事言ってるから、誰かに殺されちゃったんでしょ……!?」

 スバルは答えない。悔しげに唇を噛み締め、ただ此方を睨み付けるだけだ。
 ああ、スバルのあの目付きが気に入らない。圧倒的に不利なのに、勝てる見込みなんて無いのに、抵抗を止めない目だ。
 かがみの言う事……理解は出来ても納得は出来ないと、そう言いたげな目だ。ああ、見てるだけで腹が立つ。
 仲間と一緒に温い戦いを続けて来たスバルに、ずっと一人で戦ってきた自分の気持ちなど解られてたまるものか。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 そうだ。何も間違いは言っていない。
 かがみは自分の為だけに戦う。もう誰も守る者なんて無いし、失う物もない。
 足かせの無くなったかがみは、何に遠慮する事もなく、思うがままに戦える。
 それこそが、本当の強さだ。それこそが、真の強者だ。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 怒りを吐き出すように怒鳴った後、かがみはベルトに手を伸ばした。
 今のスバルは無防備だ。必殺技を叩き込めば、確実に殺す事が出来る。
 もうこんな苛々する戦いは御免だ。これ以上余計な事を言われる前に、スバルには死んで貰う。
 ホッパーゼクターの中心、タイフーンと呼ばれる部分を起点とするレバーを、押し倒した。
 同時にキックホッパーの左足のアンカージャッキが作動。
 身体が遥か上空へと跳ね上がり――

「死ぃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええッ!!!」

 その身に稲妻を奔らせ、それら全てを左足へと集束させる。
 タキオン粒子が駆け巡り、放たれるは目標を原子崩壊させる程の威力を秘めたキック。
 仮面ライダーの必殺技であるライダーキックを受けては、一たまりも無いだろう。
 重力に引かれるままに、キックホッパーの身体が落下しようとした、その時であった。

「きゃっ……?!」

 彼方から駆け抜けた青白い閃光によって、キックホッパーの身体が爆ぜた。
 上空で体勢を崩したキックホッパーに、その場で姿勢を矯正する事など出来はしない。
 キックホッパーの身体は、受身すらもままならない姿勢のまま、真下へと落下した。

238H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:34:26 ID:dR2I84lo0
 




 わからない。わからない。わからない。わからない。
 何度考えたって、何をどう考えたって、始の中で答えは出なかった。
 そもそもどうして自分はこんなに悩んでいるのだろう。
 どうしてこんな無駄な事を考えているのだろう。
 それは、自分の中で次第に人間の心が大きくなっているからなのだが……。
 始はそんな事実は認めないし、それに気付く事も無い。
 だから何も解らずに、カリスは終わらない葛藤を繰り返す。

 栗原親子と共に過ごす様になってから、始にとっては不可解の連続だった。
 柄にもなく、人間を守る為に戦ったり。あの親子を守る為に戦ったり。
 あの親子を傷つけられた時には、尋常でない怒りすら感じた。
 これが、ギンガの言う人間としての強さ……という奴なのであろうか。
 だが、怒りに任せて戦ったあの時の戦いは、ギンガの強さとは違う気がする。

(ああ……確かに、あいつは強かったな)

 そんな事を始は思う。
 始は、内心ではギンガを認めていたのだ。
 本当は、誰よりも強いギンガの事を、認めていた筈なのだ。
 だからこそ始は、死にゆくギンガの最期の願いを聞いた。
 始の知る誰よりも気高く、人間として生き抜いたギンガの最期の願いを。
 そして、スバルと接した今の始になら、あの願いの意味が解る気がする。
 ギンガの口から告げられなかった言葉が、告げようとした言葉が、解る気がする。

(そうだ。ギンガは俺に、スバルを……皆を、守って欲しかったんだ)

 ギンガらしい、真っ直ぐな願いだ。
 だけど、今更それに気付いた所で遅い。
 自分はもう、数えきれない程無駄な戦いを繰り返してきた。
 今更誰かの為に戦おうだなんて、虫が良すぎるというものだ。
 それに、始はまだ……自分が人間だと認めた訳ではない。
 ギンガの頼みを聞いてやる義理だってないのだ。

 だが、スバルが緑のライダーに吹っ飛ばされた時の感情は何だ。
 怒りと同時に、何処か胸が苦しくなるような……不可解な感覚を感じた。
 そして、スバルが無事だったと知った瞬間に込み上げて来た、安心にも似た感覚。
 どういう事だ。何故化け物である自分が、こんな感情を持ってしまうのだ。
 スバルが口を開く度に、緑のライダーが何かを言う度に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。

「所詮人間なんてそんなもんでしょ? 誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ」

 ああ、そうだ。その通りだ。
 人間は無駄な物を背負い、無駄に死んでいく。
 馬鹿な考えで、無駄に命を散らしたギンガはそのいい例だ。
 それは始自身も良く解っている事だし、嫌という程に理解出来る。
 だが……理解は出来ても、納得する事は出来ない。
 頭では解っていても、始の心の何処かが、それを否定する。

239H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:44:10 ID:dR2I84lo0
 
(……違う。お前は、間違っている……)

 誰かの為に、守る為に。
 そんな馬鹿な理由の為に戦った女を、始は知っている。
 御人好しで、馬鹿な奴だったが、あいつは誰よりも強かった。
 自分達には無い輝きを、心(ハート)の輝きを、あの女は持って居た。

「私は今、本当の意味で強くなれた……今の私は、アンタ達なんかに負けない!」

 ……違う。それは、違うんだ。
 この緑のライダーは、大きな勘違いをしている。
 それじゃ駄目なんだ。その強さは、ギンガを否定する。
 認める訳には行かない。こいつの強さを認めれば、ギンガの強さが否定されてしまうから。
 だが、何故自分はこんな事を考えているのだ。
 何故ギンガを否定されるのが、こんなにも嫌なんだ。
 ギンガの心の強さを否定されるのが、嫌で嫌でたまらないのだ。

 ……ああ、そうか。そういう事だったのか。
 何となくではあるが、今ようやく解ったような気がする。
 人の心の強さ……その意味が。ギンガを羨望していた、この心が。
 自分も、気付かぬ内にギンガの影響を受けていたのだろう。
 自分の知らないギンガの強さに、憧れにも似た感情を抱いていたのだろう。
 その考えに至った時、いつの間にか、始の中の疑問符は消えていた。
 緑のライダーに対する、強烈なまでの否定と、沸き起こる激情。
 それらが、カリスの回復力を更に早める。
 気付けば、痛みも忘れていた。

 ふらりと立ち上がる。
 今なら、迷い無く戦える気がする。
 疑問も何も吹っ切った今、沸き上がるのは緑のライダーに対する闘争本能のみ。
 そして、闘争本能が昂れば昂る程、自分の中のジョーカーが暴れ出す。
 だけど、この力は使わないし、使えない。
 今、本能の赴くままにこの力を使う事は、最悪の結果に繋がる。
 そうだ。それは即ち、ギンガの想いを踏み躙る行為に繋がってしまうのだ。
 ジョーカーの力は、相川始という一人の人間にとっての本当の強さでは無い。
 心と理性で本能を抑え込み、カリスアローを構えた。
 狙い定めるは、跳び上がった緑の仮面ライダー。
 弓を引き絞り……青白い光弾を、発射した。

240H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 18:56:59 ID:dR2I84lo0
 




 この現場を見ていた全員に共通して言える事がある。
 それは、今の一瞬で何が起こったのかが解らなかっただろう、という事。
 スバルを蹴り殺そうと飛び上がったキックホッパーが、上空で爆ぜたのだ。
 それを見ていた立会人も、下手をすれば下手人であるかがみにすらも状況は解らなかっただろう。
 しかし、それも当然だ。こんな現実を、誰が想像出来ただろうか。
 先程まで殺し合いに乗っていた人物が、誰かを助ける為に行動する等、誰に想像出来ただろうか。
 ……いや、誰にも想像出来なかったに違いない。

「あんた……弱ってると思って放っておけば、余計な真似を……!!」
「違う……貴様は間違ってる」

 否定と同時に、声にならない呻きを上げたのは、カリス。
 そして、そのまま床へと崩れ落ちる。力が抜けた様に、糸の切れた人形の様に。
 両の掌を地べたに着かせ、カリスの仮面の下、苦しそうな呻きを漏らす。
 同時に、カリスの身体に重なるように現れたのは、不気味な緑の影。 
 それは、全てを滅ぼす死神たる最強のアンデッドの影であった。
 沸き起こる激情と闘争本能に、死神が触発されたのだろう。
 だが、現れた影にそのまま包み込まれはしなかった。
 影を振り払う様に、カリスが上体を上げたのだ。

「何よ、あの化け物の姿になるならなりなさいよ。今の私なら、あんたなんか――」
「貴様如き、ジョーカーになるまでも無い……」

 不敵に佇むキックホッパーを遮って、カリスが告げた。
 カリスの脳裏を過るのは、今まで出会った大切な人達の記憶。
 始が苦しんでいる時は、いつだって付き添って看病をしてくれた遥香。
 始の事を慕い、いつだって信頼してくれる少女――天音。
 そして、二人と共に過ごす内に知った、色んな事。
 他愛ない思い出から、人間として大切だと思える想いで。
 様々な思い出が駆け巡り、始の人間としての心を揺さぶる。
 その感情が、体内で暴れ回るジョーカーの力を抑え込んで行く。

「へぇ……随分と見くびってくれるわね……いいわ、証明してあげる!」

 刹那、電子音と共にキックホッパーの姿が掻き消えた。
 次にキックホッパーが姿を現した時には、既にカリスのレンジ内。
 既に見なれた、クロックアップによる超加速を用いての急接近。
 装着者であるかがみの疲労が溜まって居たのか、攻撃に移る前に加速が終わったのhが僥倖か。
 高く振り上げた蹴り脚を防ぐべく、カリスが両の腕を振り上げるが――

「あんたなんかに、負ける訳が無いって事をね!!」
「ぐ……ぁぁ……ッ!!」

 重いキックは、スバルの一撃で体力を削られた状態のカリスには堪えた。
 キックを必殺技とするライダーの一撃は伊達では無い。
 未だ足取りの覚束ないカリスにその攻撃を受け切れる訳も無く、カリスの身体は遥か後方へと吹っ飛んだ。
 そのままホテルの内装の壁に激突したカリスは、力無く床へとずり落ちる。
 それから間もなく、再びカリスの身体に重なるのは、緑の死神――ジョーカーの面影。
 ジョーカーの姿になれば、こんな仮面ライダーに遅れは取らない。
 ジョーカーになってしまえば、こんな仮面ライダー簡単に捻り潰せる。
 だけど、カリスはジョーカーにはならない。ならないと誓ったのだ。
 表に出ようとするもう一人の自分を振り払う様に、カリスが立ち上がった。

「こんなものは、本当の強さじゃない……」
「さっきから訳のわからない事を。あんたの本当の強さが、緑の化け物だって事ならもう解ってるのよ!」
「違う……! 俺は……ジョーカーには、戻らない……!」
「何……?」

 それを宣言すると同時、カリスの身体が一気に軽くなった。
 いつも通りのファイティングポーズ。腰を低く落として、構える。
 カリスのハートの複眼が、熱い心(ハート)の輝きを宿した赤の瞳が、美しく煌めいた。
 それはまさしく、人の心を現す「ハート」に相応しい輝き。
 ハートのライダーとして選ばれた、相川始として――仮面ライダーカリスとして。
 両腕を広げ、腰を低く落とした姿勢のまま、カリスは走り出した。

241H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:12:24 ID:dR2I84lo0
 
「トゥェッ!!」
「……ッ!?」

 次の瞬間には、まるで野生の獣のように飛び掛っていた。
 キックホッパーの突き出た両肩をその手に掴み、そのまま押し倒す。
 押し倒した勢いでもつれ合った二人は、ホテルの床をごろごろと転がる。
 だが、意外にもすぐに解放されたのはキックホッパーの方であった。
 転がり様に距離を置いて立ち上がったホッパーが、カリスを視線に捉える。
 対するカリスは、いつでも受け切れるように、両手を軽く掲げ、構える。
 一拍の間を置いて、ホッパーが怒号を上げて駆け出した。

「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 一撃目は、右上段からのハイキック。振り上げた腕で、容易く振り払った。
 二撃目は、左上段からのミドルキック。これも同様、カリスの腕に阻まれ、打ち落される。
 我武者羅になって右のストレートパンチを繰り出すも、そんな単調な攻撃は絶対に通らない。
 突き出したホッパーの腕は、逆にカリスの腕に捻り上げられる。

「トゥッ!」
「……痛ッ!?」

 そのままの勢いで、カリスが繰り出したのは左右交互の1・2パンチ。
 パンチ二つをヒヒイロノカネで造られた装甲で受け止めるも、カリスの攻撃力は殺し切れない。
 カリスの戦闘力の高さは浅倉との戦いで窺い知ってはいた事だろう。
 だが、今のカリスを突き動かすのは、あの時とは決定的に違う感情だ。
 カリス自身にも解る。あの時とは、比べ物にならない程の力が湧いてくる。
 すぐにカリスはホッパーの上段を飛び越え、背後へと回った。

「ちょこまかと……!」

 すぐに振り向き、ハイキックを浴びせようと脚を振り上げるホッパー。
 だが、何度やっても同じことだ。カリスにはそんな単調な攻撃は通じはしない。
 上体を僅かに屈める事で蹴り脚を回避。矢継ぎ早に、何処かから取り出したのはカリスアロー。
 それを舞う様に振るい、ホッパーの装甲を切り裂いた。
 攻撃を受けて、派手に舞い散る火花と共に、ホッパーが数歩後退。

「本当に強いのは――!」

 カリスが、唸る様に怒号を上げる。
 思い出すのは、全ての始まりたる栗原晋の記憶。
 自分に命を奪われたも同然なのに、あの男は自分に家族を託した。
 あの男は、見ず知らずの自分に、掛け替えのない家族を託したのだ。
 最期の力を振り絞って優先した願いは、自分よりも家族の事だった。
 大切な人を守って欲しい。その願いを受けた始は、栗原家へと向かった。
 その時は理解出来なかったが……始は、晋の家族を思う心に突き動かされたのだ。
 吹きつのる愛に突き動かされて、始はあの家族を守ると誓ったのだ。
 そんな不可解な事が出来る、それが人間の心の強さ。

「強いのは――ッ!!」

 再び向かってきたホッパーの蹴りを交わし、続けざまにカリスアローを振るう。
 胸部装甲を切り裂かれたホッパーの、声にならない悲鳴。それを掻き消す様に、もう一撃。
 連撃によるダメージによってよろけるホッパーの背後へと飛び上がった。

242H激戦区/ハートのライダー ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:12:54 ID:dR2I84lo0
 
 ――ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――

 思いだすのは、数時間前に出会った一人の少女。
 奴は、自分を人間だと言ってくれた。奴は、こんな自分を信じてくれた。
 本当は自分だって人間では無いのに……いや、だからこそだろうか。
 彼女は誰よりも人間らしく、そして誰よりも強く、気高い人間であった。
 では、その強さとは何か。その強さこそが、人間らしさの成せる業。
 人の心。人の想い。優しさや、愛情。それこそが、人間が持つ真の強さ。
 そして、そんな彼女が最期に託したのは、やはり自分では無く、他の誰かだった。
 ギンガは最後の最後に、自分の命よりも優先して、スバルや、その仲間達を守ってほしいと願った。

(そうだ……本当に強いのはッ!!)

 パニックに陥ったホッパーは、やはり我武者羅に腕を振るう。
 本当の意味で強い人間と言うのは、こんな奴の事を言うのではない。
 自分の為に、他者を殺す。そうまでして、自分一人で生き残ろうとする。
 この緑の仮面ライダーは、最早人間の心を持っているとは言えない。
 そんな奴の攻撃に当たる訳もなく、カウンターを入れるのはカリスの醒弓。
 一撃、二撃とホッパーの身体を切り裂き――跳び上がった。

 ――始さん!――

 脳裏を過る声は、誰のものであったか。
 そうだ。今まで自分の事を、人間として接してくれた皆の声だ。
 あの家族と、ギンガ・ナカジマの声。それが、自分を人間へと引き戻してくれる。

(今なら解る……! これが、この力が――)

 次いで思い浮かべるのは、いくつもの顔だ。
 大切な家族を、自分に託して死んでしまった晋さん。
 見ず知らずの自分を、家族として受け入れてくれた遥香さん。
 何時だって自分の事を慕って、色んな感情を教えてくれた天音ちゃん。
 そして、最期まで自分を人間だと信じて戦い抜き、命を落としたギンガ。
 それら全てが、カリスに力を与えてくれるのだ。

「――人の、想いだッ!!」

 色んな人の想い。人間としての想い。
 それらを乗せた乗せた最後の一撃は、渾身の力を込めたカリスの飛び蹴りだった。
 正面からまともにその一撃を受けたホッパーは後方まで吹っ飛び、近くに備え付けられていたテーブルへと倒れ込んだ。
 テーブルはホッパーの体重に耐えきる事は無く、見事に真っ二つに破壊。
 ホッパーも度重なるダメージに変身状態を保って居られなくなったのか、緑の装甲は粒子になって崩れ落ちた。
 そこにいるのは、漆黒の仮面ライダー・カリスと、一人の紫髪の少女のみ。
 戦いは、完全にカリスの勝利に終わった。

243誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:16:16 ID:dR2I84lo0
 バクラは悩んでいた。
 本来バクラは悩むという行為をあまりしないのだが、今回は訳が違う。
 如何なバクラであろうとも、悩まざるを得ない状況に陥ってしまったのだ。
 何故なら、今後の行動方針にも関わる人間の名が、放送で呼ばれてしまったから。

(相棒……本当に死んじまったのか?)

 心中で思い浮かべる人物の名は、キャロ・ル・ルシエ。
 まだ幼い召喚士。バクラが初めて選んだ、唯一のパートナー。
 あいつには、自分がついていないと駄目だ。自分がいなければ、駄目なんだ。
 それと同時に、キャロは今バクラがここに存在する唯一の意義。
 共に未来へのロードを進んで行くと誓った人間なのだ。

 そのキャロの名が、放送で呼ばれた。
 たった一人の相棒が、自分の預かり知らぬ所で死んでしまった。
 それを知ったバクラを襲ったのは、気の抜けたような虚無感だった。
 暫くは、死んでしまったキャロについて考えていた。
 だけど、やがてバクラはそれに意味がない事に気付いた。

(まだ相棒が死んだと決まった訳じゃねぇ)

 そう。この世界には、平行世界から連れて来られた人間が大勢いる。
 自分と同じ世界の人間かと思えば、別の世界の同一人物。そんな例が数え切れない程にある。
 だから、死んでしまったキャロが自分の知る相棒だと決めつけるのは、まだ早い。
 確かめなければならない。死んだキャロが自分の相棒だったのかどうかを。

 すぐに思い付く方法は二つだ。
 一つ。キャロと出会った参加者から話を聞くか。
 二つ。ゲームに勝ち残って、元の世界に戻って確かめるか。
 だけど、それならばあまり考える必要はなかった。
 どうせゲームには勝ち残るつもりだったし、行動方針に変わりは無い。
 ただ、今し方挙げた前者の方法を今後の行動に組み込めばいいだけだからだ。
 一つ問題を挙げるとすれば、それは現在の宿主のかがみだ。

244誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:16:48 ID:dR2I84lo0

(ケッ……オレ様が言うのも何だが、こいつは壊れ過ぎてやがる)

 そう。今のかがみに、まともな判断は出来ないだろう。
 見境なしに他者を殺し回って、自殺することしか考えていない。
 冗談では無い。自殺なんてされたら困るのだ。
 こっちはゲームに勝ち残ってでも、相棒の元に帰らねばならない。
 それなのに、相棒の元に帰る前に宿主が死んでしまっては話にならない。

(こりゃそろそろ本気で他の宿主を探した方がいいな)

 これ以上壊れ過ぎたかがみと共に行動するのは御免だ。
 こいつの考えをもう少しまともな状態まで戻せるのなら話は別だが、それでなくたってこいつは役立たず過ぎる。
 スバルには逃げられる。浅倉にはデッキを奪われる。カリスには惨敗する。
 かがみがまともにバクラの望む結果を導き出せた事など皆無と言っていい。
 今回の戦いは、態々アドバイスまでしてやったのに負けたのだから、尚更始末に負えない。

(何でもっと上手い戦い方が出来なかった? 人質でも取りゃ状況は変わっただろうがよ)

 それはつい先日までは一般の女子高生として過ごしていたかがみには酷な評価であった。
 そもそも、かがみの身体能力では例えホッパーに変身してもカリスに勝つ見込みなど無いに等しいのだ。
 まともな戦い方すらも知らない素人が、本物の戦士であるカリスに勝てる訳が無い。
 そんな事は最初から解り切ってはいた。
 だが、だからこそクロックアップの使い方は間違えて欲しく無かった。
 あそこをああすれば良かったとか、そんな事を考え出したらキリが無い。
 それ程にかがみの戦闘は落ち度だらけだった。
 上手く立ち回れば、状況はいくらでも変わった筈なのだ。

(いや……今の宿主サマじゃ無理か)

 かがみは只でさえ連戦で疲労が溜まっていた。
 続いてカリス、スバル、ヴァッシュとの乱戦、直後のクロックアップ。
 この時点でかなりの疲労が蓄積されていたであろう。それは仕方が無い。
 だが、その直後にもう一度クロックアップを使ったのは誤算でしかなかった。
 ライダーシステムは、使用者の身体に負荷が掛る前にクロックオーバーを告げる。
 疲れ切った身体でクロックアップを使っても、加速出来る時間はたかが知れているのだ。
 それをカリスへの一撃の為に使用。それも、その一撃で仕留めきれなかった。
 後は知っての通り、圧倒的な戦闘力の差でカリスに敗北し、気絶してしまった。
 挙げるとするならクロックアップ辺りがミスだったと言えるだろうか。
 気絶状態のかがみから身体を奪う事は出来るが、このダメージではまともに動けないだろう。

(だが、これはチャンスかも知れねぇ)

 誰にも見えはしない笑みを浮かべ、考える。
 かがみは気絶してしまったが、現状でかがみを殺そうという人間はいない。
 スバルもヴァッシュも甘ちゃんだし、カリスも悪ぶってはいるが悪にはなりきれない。
 ならば、こいつらは気絶したかがみをどうするだろう。
 考えるまでも無い。まず間違いなく、かがみの戦力を奪って拘束する筈だ。
 後は千年リングを誰かになすりつける事さえ出来れば、めでたく宿主交代。
 バクラもこんな思いをしなくて済む……のだが、問題が一つ。

(スバルの奴……オレ様に気付いてなきゃいいが)

 そう、スバルだけはバクラの存在に気付いているのだ。
 千年リングの存在にさえ気付かれなければ、後はどうとでもなる。
 これは掛けにも近いが、果たして――。

245誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:23:14 ID:dR2I84lo0





「仮面ライダー!!」

 全てが終わった後、カリスの傍らへと歩み寄って来たのは、スバル・ナカジマであった。
 その表情にはやけに嬉しそうな色が浮かんでいるが……何を考えているのか、解るのが嫌だった。
 こいつはまず間違いなく、あの時のギンガと同じように自分と組もうとするだろう。
 だが、それは早計だ。カリスとしては、まだ人間になったつもりはないのだから。
 何せ、自分は人間とは呼べない程、今まで無駄な戦いを繰り返してきた。
 自分は、人間ではないし、アンデッドでも無い。それで十分だ。
 もしも変な勘違いをしているのならば、迷惑極まりない事だ。

「勘違いするな。俺は人間になったつもりはない」
「ううん、違う……貴方は人間だよ。言い逃れなんてさせない」
「……ギンガに似て、面倒臭い奴だな」

 だが、今までとは何かが違うのも確か。
 不思議と頭ごなしに否定をする気にはならないのだ。
 これが人間であるという感覚であるのなら、それも悪くは無いかもしれない。
 人間らしい感情とは不思議な物で、あれだけ燻っていたジョーカーを抑え込む事が出来たのだ。
 それに、今の戦闘で内から湧き上がってきた力は、今まで感じた事のない物だった。
 ギンガの強さ……それは、人間の心。少しだけ、理解出来た気がする。
 だけど、だからこそ悩む。化け物の自分が、そんな心を持って何になるのだろう。
 そんな事を考えていた始の耳朶を叩いたのは、一人の男の声だった。

「俺も、あんたは人間だと思うぜ」
「お前は……」

 にこやかな笑顔と共に現れた男の名は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 エンジェルアームの使用制限が限られている上、仮面ライダーが相手では銃など意味を成さない。
 それ故に、今の戦いでは静観に徹するしかなかったのだが、プラントとしての本来の力は計り知れない。
 化け物の強さと、人間としての心の強さ。その両方を兼ね備えているのが、ヴァッシュという男。

「ああ、俺の名前はヴァッシュ・ザ・スタンピード。で、あんたの名前は?」
「相川……始」
「じゃあ始、これからは俺達と一緒に、戦ってくれるって事でいいんだよね?」
「何だと……?」

 人懐っこい笑顔には、何の影も見られない。
 こいつは本気で自分を信用して、自分と一緒に戦おうというつもりなのだ。
 何て御人好しだろうと、始は思う。否……こいつもギンガと同じ、馬鹿なのかも知れない。

「断る。俺は誰とも組まない」
「そんな……! もう残った人数だってそんなに多くないんです。
 目的が同じなら、一緒に行動した方がいいに決まってる!」
「俺とお前達の目的が同じだとは限らない」
「まだそんな事を……」

 やれやれとばかりに、ヴァッシュが溜息を吐いた。
 だけど、スバルの言い分は確かに始にも理解出来る。
 残り少ない参加者が組むことで安全がより確保されるのは間違いない事だ。
 だけど、始は素直にこいつらと組む気になれずにいた。

「そうだ。そいつと組むのは止めておいた方がいい。そいつは死神だからな」

 次に言葉を発したのは、新たにやってきた第三者であった。
 咄嗟に身構える一同をよそに、眼鏡を掛けた優男は不敵な笑みを崩さない。
 始は思う。ああ、またしてもこの男と出会ってしまった、と。
 そして、出会ってしまったからにはもう、戦いは避けられない。

246誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:27:56 ID:dR2I84lo0
 
「貴様……カテゴリーキング!」
「久しぶり……でもないな、ジョーカー」

 スバルとヴァッシュを差し置いて、二人が言葉を交わす。
 カリスの赤い複眼と、眼鏡の奥の金居の視線が交差する。
 視線に込められているのは、周囲にも伝わる程にピリピリとした殺気。
 カリスの怒りと、金居の憎悪にも似た感情がぶつかり合っていた。
 そんな金居が、まるで嫌味でも言う様に呟いた。

「何だ、随分と疲れているようじゃないか、ジョーカー?」
「関係無い。貴様を倒すにはこれで十分だ」
「ほう……随分とナメられたものだな? いいだろう、ここで決着を付けてやる!」

 刹那、金居の身体に異変が起こった。
 黄色のハイネックに、黒のジャケット。それら衣服の下から溢れ出す、黄金の輝き。
 やがて金居の身体を覆い尽くした光が、もう一つの姿を象って行く。
 それは、もう何度も目撃して来た、宿敵たるアンデッドの姿。
 頭部の仮面から覘く二つの黄金の角は、まさしくクワガタムシのもの。
 ギラファノコギリクワガタの祖たる不死生物、ギラファアンデッド。
 両手に双剣を構え、深く息を吐いた――その刹那。

「ストップ! ストーップ!」
「止めて下さい、二人とも!」

 戦場に響く、場違いな声。
 男の声と女の声が、ほぼ同時に周囲の者の耳朶を打った。
 だけど、それについてはもう考える必要もない。
 こんな事を言う人間は、ここには二人しかいないからだ。

「スバル、ヴァッシュ……お前たちは手を出すな!」
「そういう訳には――」
「手を出すなッ!!」

 低く、ホテルのロビーに響き渡る様な怒号。
 漆黒の仮面の下、カリスが凄まじいまでの剣幕で声を荒げたのだ。
 流石にこの人声には驚いたのか、スバルとヴァッシュが黙り込む。

「いいな、手を出すなよ……」

 今度は少しだけ穏やかな語調で告げる。
 スバルはまだ何か言いたげにこちらを見ていたが、言葉が出て来ないのか黙り込んだままだ。
 ヴァッシュはヴァッシュで、カリスとギラファの間の空気から何かを感じ取ったのか、それ以上何も言わなくなった。
 こういう時、いくつもの修羅場をくぐり抜けて来た男はやはり状況の理解が早いものだ。

「……OK、始。ただ一つ約束してくれ」
「何だ」
「誰も死人は出さない。それだけだ」
「ああ、俺は誰も“殺さない”」

 それを聞いたヴァッシュの表情が僅かに綻んだ。
 本当に御人好しなんだな、とカリスは思う。
 だけど、一応嘘は言っていないつもりだ。
 そもそもアンデッドに死と言う概念は無い。
 カードに封印される事はあっても、本当の意味で死んでしまう事は永久に無いのだ。

「だからお前たちはそこの女を連れて、ここから立ち去れ」
「そんな……! ギン姉の事だって、始さんの事だってまだ聞いてないのに……!」
「いいから行けッ!」

 気絶したままのかがみへと一瞬視線を流し、カリスが絶叫した。
 スバルにヴァッシュの二人がかがみを連れて移動してくれるなら、もう憂いは無い。
 何にも気を使う事無く、全力でカテゴリーキングと戦う事が出来るからだ。
 だけど、スバルにとってそれは不本意らしい。

247誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:33:31 ID:dR2I84lo0
 
「私は貴方から聞き出さないと行けない事がまだ沢山ある! ここでお別れなんて出来ません!」
「……戦いになれば、俺の身体は俺の意志とは関係なく動く。どうなっても知らないぞ」
「大丈夫です。私は、そう簡単には死にません」
「ならば勝手にしろ……どうなっても知らないぞ」

 もう、こう言うしか無かった。
 このスバルという人間は、ギンガと同じだ。
 言った所で人の自分の信念を曲げたりはしない。
 ならばギンガの時の様に勝手に着いて来られるよりもマシだ。
 最初からスバルが居ると解って居るなら、スバルに危害が及ばないくらいには気を配れるだろう。
 あとはヴァッシュ達がそれでもいいと言ってくれれば、話は纏まるが。

「ヴァッシュさん、スカリエッティのアジトに向かえば、きっと私の仲間がいます。
 私も後から始さんを連れて向かうから……ヴァッシュさんを信じて、あの子を任せます」
「……約束するよスバル。君の仲間は、死なせない」
「ありがとう、ヴァッシュさん。それから、かがみさんのデイバッグを私に下さい」
「これかい?」

 言いながらヴァッシュが投げ渡してくれたのは、柊かがみが持って居たデイバッグ。 
 スバルの考えはこうだ。まずデイバッグを預かることで、かがみから戦力を奪い、自分の戦力を確保。
 かがみが危険人物である事はヴァッシュも解っているだろうから、拘束は怠らない筈だ。
 後はヴァッシュとかがみの二人に先行してアジトへ向かって貰い、こなたと合流。
 上手くいけばこなたがかがみを説得してくれる……と、信じたい。
 まずは投げられたそれを右腕で掴み取り、中身の確認をする。
 使えそうなものは……レヴァンティンとライディングボードのみ。
 どちらも使い慣れた武器ではないが、無いよりはマシだろう。
 それから、あと二つ……どうしても気になる装備がある。

「それから、かがみさんが巻いてるベルトと首からかけてるリング。
 ベルトは私に。リングは……十分気を付けた上で何処かへ処分して下さい」
「リング……? これに何かあるのかい?」

 投げ渡されたのは、無機質な銀色のベルト。
 ZECTと描かれたそのバックルに視線を落とし、それをデイバッグに突っ込んだ。
 それから、かがみの首に未だかけられたままのリングに視線を向ける。
 先程かがみと交戦した際に感じ取った、もう一つの意思。
 かがみを戦いに追い込んだのであろう、邪悪な意思。
 それが宿っているであろうリングを、放っておく訳には行かない。

「そのリングには何者かの……多分、かがみさんをここまで追い込んだ奴の人格が宿っています。
 迂闊に触って意識を乗っ取られたりしないように十分気をつけて、二度と誰も触れないように処分して下さい」
「OK、わかった……こいつは俺が責任を持って処分する」
「それから、アジトに行けばかがみさんの友達がいます。その子ならきっと、かがみさんを元に戻せるから……
 その子に会ったら、こう伝えて下さい。『かがみさんをよろしく。私もすぐに向かう』と」
「わかった……死ぬなよ、スバル」

 ハイ、と一言返しながら、スバルは再び身構える。
 目前に居る二人の脅威。仮面ライダーカリスと、黄金のギラファアンデッド。
 いつ飛び出してもおかしくないこの状況、どちらも動かずに様子を見ているのは自分達に気を使っているのだろうか。
 どちらが先に動く? そんな事を考えながら戦況を眺めるスバルの耳朶を叩いたのは、ギラファの声だった。

「待て、そこの……ヴァッシュだったか?」
「……!?」

 ギラファから、呼びかけられた。
 瞬間、反射的にスバルとヴァッシュの動きが止まる。
 今まさに柊かがみを背負って駆け出そうとしていたヴァッシュと。
 いつどちらが先に動いても対応出来るように身構えていたスバル。
 いきなり現れた相手に、いきなり呼び掛けられる義理などは無い筈だ。
 二人とも、何事かとギラファアンデッドに視線を向ける。

「あんたたちの仲間からの伝言だぜ。このホテルの外で待ってるから、合流しよう……との事だ」
「何……!?」
「八神はやてと言えば解るか。つい先ほどまで、一緒に行動していたんでね」
「八神部隊長と……!? 何でお前が……殺し合いに乗ってるんじゃないのか!?」
「生憎、俺が興味を持つのはそこにいるジョーカーだけなんでね」

 片手に持った双剣をカリスに向けながら、悠然と語る。
 どうやらこの化け物は、今すぐに自分達を殺すつもりはないらしい。
 何故なら、こいつの目的はどういう訳か相川始ただ一人だから。
 だが、それならそれでハイそうですかと許す訳にはいかない。
 カリスからは、まだ聞かねばならない事が山ほどあるのだから。

248誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:38:38 ID:dR2I84lo0
 
「さぁ、これで前座は終わりか。始めようぜ、ジョーカー……俺達の戦いを」
「望むところだ……俺とお前は、戦うことでしか解り合えないッ!」

 腰を低く落とし、醒弓を構えるカリス。
 双剣を振り上げ、戦闘態勢へと移行するギラファ。
 二人の不死生物のバトルファイトが、ここに始まろうとしていた。
 闘争本能の赴くままに戦いを始めてしまえば、二人はもう止まらない。
 だけど、カリスには今までに無かった力がある。
 人間としての心。人の想い。人の愛情。
 栗原晋が託してくれた、家族への愛。
 ギンガが託してくれた、妹と仲間達への愛。
 それらがカリスを突き動かす限り、こんなアンデッドには負けない。
 嫌……負ける訳には行かないのだ。
 ここで決着を付けて、全ての宿命を断ち切る。
 その為に、仮面ライダーカリスは走り出した。


【1日目 夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】変身中(カリス)、疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:?????????
 1.カテゴリーキングを叩き潰す。
 2.スバルの事は絶対に死なせたくない。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたなのは、はやてが少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
 7.何やら嫌な予感が近付いてきているのを感じる。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。ある程度ジョーカーを抑え込めるようになりました。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、変身中(ギラファUD)、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.ジョーカーとの決着を付ける。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

249誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:41:22 ID:dR2I84lo0
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】戦闘機人モード、疲労(小)、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.始と金居の戦闘を見届ける。どちらも殺させはしない。
 2.戦いが終われば、始を連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 8.ヴァッシュと始の件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

250誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:50:17 ID:dR2I84lo0
 ホテルの外は、未だに漆黒の闇に包まれていた。
 だけど、物陰に潜む八神はやてに危害は及んでいない。
 輝く雷は一片たりともはやてには届いていない。
 雷鳴もまた、遠くで鳴り響いているのみであった。

「頼むでヴィヴィオ……もう少し持ち堪えてや」

 祈る様に呟く。
 鬼神たるエネルに今現在立ち向かっているのは、同じく鬼神たる存在。
 とうに優しさを枯らしてしまった、最強最悪の魔道師。
 それは、古代ベルカにおける聖王(ザンクトカイザー)の姿を取り戻した者。
 純粋な戦闘力だけで考えれば、なのはですらも勝てるかどうか解らない程の猛者。
 聖王・ヴィヴィオ。それがエネルと戦闘を繰り広げている少女の名前だった。

 さて、はやてがここで待って居るのには、理由がある。
 周囲の電気を吸収したエネルが現れた時には、万事休すかと思った。
 冷静に考えて、明らかに勝てる訳が無いのだ。
 魔力もまともに残って居ない自分と、あんな優男(金居)一人では戦力が乏しすぎる。
 仮面ライダー二人までなら相手に出来ると豪語しながらも、金居はエネルとの戦闘を避けた。
 その辺りからも金居はエネルに敵わないのだという事は容易に想像できた。
 ならばどうする。スバルは味方に引き入れたいが、乱戦中。
 かと言ってホテルの外にはエネルが待ち受けている。
 このままスバルの戦いが終わるのを待っている内にエネルに殺されてしまえば話にならない。

 そんな時、現れたのが聖王ヴィヴィオであった。
 現れたヴィヴィオは、何の迷いもなくエネルとの戦闘を開始した。
 当初はヴィヴィオでも勝てないのではないかと思ったが、それは大きな見当違いだ。
 今のヴィヴィオの戦闘能力は、どういう訳かエネルにも匹敵するポテンシャルを引き出していた。
 それどころか、傍から見ればヴィヴィオの方が有利なのではないかと思える程であった。
 またコンシデレーションコンソールで狂わされたのか、誰かの死を切欠に壊れたのかは知らないが……。

 一方で、ヴィータとはヴィヴィオを守るとの約束した覚えもある。
 だけど、今がそんな事を言っている場合ではないのは明らかだ。
 まず第一に、助けが必要なのであればあんな化け物と戦わないで欲しい。
 第二に、現状では確実にヴィヴィオの方が自分たちよりも強いのだ。
 最早自分が態々守ってやる必要もないだろう。
 ともすれば、これは大きなチャンスと鳴り得る。
 ヴィヴィオが時間を稼いでくれるし、上手くいけばヴィヴィオがエネルを倒してくれるかもしれない。

251誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:51:34 ID:dR2I84lo0
 
 と、そんな状況下で、金居はすぐに次の作戦を立案した。
 金居の目的はスバル達と戦っている黒いライダーだけだという。
 他の奴と戦うつもりはないし、黒のライダーが居る以上、スバル達にも興味は無い。
 故に、ヴィヴィオがエネルを引き付けてくれている間に、金居がホテルに潜入。
 機を見計らって、黒いライダーに戦闘を吹っ掛ける。
 その際スバル達には、「外ではやてが待っている」などと伝えて貰う。
 そしてこの場での戦闘は金居に任せて、スバル達には先に離脱を促す。
 簡単な作戦だが、この状況ではこれが最善の策だと思えた。

 そして数分後、ホテルから出て来たのは、一人の少女を背負った男であった。
 まるで箒のような、黒髪トンガリ頭にサングラス。赤いコートを靡かせて、男は走る。
 何者かと目を細めるはやてに、先に声を掛けて来たのは男の方であった。

「やぁ、あんたが八神はやてかい!?」
「え……えぇ、そうですけど……」

 男はとても悪人とは思えない、ともすれば馬鹿とも思えるような口調だった。





 時は数分前に遡る。
 ヴァッシュを殺す為に、参加者を皆殺しにする為に。
 それだけを目的にホテルの目前までやってきたエネルは、一人の少女と出会った。
 全身を漆黒で塗り固めた、金髪の少女。緑と赤のオッドアイには、気味が悪い程の虚が宿っていた。
 闇に溶けるその姿は、まるで周囲を凍てつかせるような気迫を放って居た。
 そんな第一印象を抱いた後に、エネルは自分の考えを否定した。
 神たる自分が、こんな小娘一人に何を考えているのだ。
 一撃で殺して、終わりにしてやればいいだけの話ではないか。

 そう判断して、エネルは片腕を挙げた。
 同時に、エネルの腕は雷と化し、天を埋め尽くす雷雲へと昇って行く。
 それから間もなく、空全体がぴかりと光って――計り知れない威力を秘めた雷が、少女へと降り注いだ。
 ごろごろ、ごろごろと。周囲の電気を自分の電気を合わせた一撃は、生半可な威力では無い。
 アスファルトを焼いて拡散した電力は、再び自分の身体へと舞い戻る。
 無限ループの雷地獄。あんな小娘一人が耐えきれる訳が無い。
 そう思っていた。

「ほう……?」

 雷が止んだ後、小娘はそこに変わらず立ち尽くしていた。
 エネルが殺そうとした相手・聖王ヴィヴィオは、聖王の鎧という先天固有技能を持っている。
 それはあらゆる障害から聖王を守る、強固な盾となりて、雷からヴィヴィオを救った。
 エネルは知らない。ヴィヴィオの命を削るレリックが、同時にヴィヴィオを強くする事を。
 身体に深刻なダメージを与える一方で、ヴィヴィオの命の炎を燃やし尽くさんと稼働している事を。

「まずはお前から殺してやる……!」

 ヴィヴィオが、憎悪を吐き出すように絶叫した。
 瞳には僅かな涙を浮かべて、その表情を醜く歪ませて。
 虹色の魔力光を宿した鬼神・ヴィヴィオの命はもう、長くは持たない。
 消えゆく命の輝き。その恐ろしさを、出会った参加者全てに刻みつける。
 そして、愛する者を傷つけた全ての参加者を血祭りにあげてやる。
 例え死んでも構わない。例え地獄に落ちても構わない。
 それだけの決意が、ヴィヴィオを動かしているのだ。

252誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:52:05 ID:dR2I84lo0
 
「神に対して、何たる不遜。ならば教えてやるぞ小娘よ……神の恐怖を!」

 今度は、エネルが腕を突き出した。
 刹那の内に、エネルの腕が極太の雷へと変化した。
 それは周囲全ての電力を吸収し、瞬く間に膨れ上がる。
 放たれたのは、アスファルトを抉る程の威力を秘めた電撃。
 神の裁き――エル・トール。

「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 ヴィヴィオから吐き出される、咆哮。
 放たれるは、眩い閃光。ヴィヴィオの命の輝きを体現したような虹色の輝き。 
 それらが同じく、極太の奔流となってエネルの雷を打ち消したのだ。
 これには流石のエネルも驚かずには居られない。
 何たることかと、大口を開けるエネルに対し、先に行動したのはヴィヴィオ。

「ママ……ママ……ママ……ママ……!」

 狂ったような笑み。狂ったように叫ぶ、愛しい人の名前。
 アスファルトを蹴って、ヴィヴィオがエネルへと一直線に走る。
 それを阻止せんと、周囲の雷雲が無数の電撃を放電するが……。

「解ったよ……ママ!」

 右へ跳び、左へ跳び、上空へ跳び上がり、回転する。
 見事なステップ、見事な動きで、エネルの攻撃を全て回避。
 いくつか小さな攻撃が命中するが、そんなものは聖王の鎧の前には無意味だ。
 虹色の輝きが電撃を弾き、ヴィヴィオの前進を手助けする。

「ママが……私を守ってくれてる! 私を見てくれてる!」

 口元を大きく歪め、狂った笑いを作り出す。
 なのはママの気配を感じる。フェイトママの気配を感じる。
 それだけじゃない。ザフィーラや、死んでいった他の人間。
 それら皆が、ヴィヴィオのすぐ傍に付いてくれている。
 だからヴィヴィオは、何も恐れはしない。

「ずっと……ずっと……一緒に居てくれたんだね……なのはママ!!」
「消え去るがいい……!!」

 愛する者の名を絶叫しながら、エネルの眼前まで迫る。
 今度はエネルが両手を掲げ、その電力を放出する。
 エネルの電撃の前には、何も残らない。アスファルトも、周囲の建物も。
 全てを焼き尽くす神の閃光が、至近距離でヴィヴィオへと放たれる。

「うぁぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!」
「ひぃ……ッ!?」

 だけど、ヴィヴィオは止まらない。
 今度の雷は、確かに聖王の鎧を貫いた。
 ヴィヴィオの漆黒の騎士甲冑を焼き、インナーを露出させる。
 全身にダメージを負いながらも、ヴィヴィオの猛攻は止まらない。
 これが、死さえも恐れぬ聖王の力。エネルには絶対に不可能な芸当。
 例え自分が死に、地獄に落ちる事さえ厭わない究極の聖王の姿。
 虹色の魔力を拳に宿らせて、ただ力任せに振り抜いた。

253誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:52:41 ID:dR2I84lo0
 
「地獄聖王(ヘルカイザー)を、ナメるなぁぁぁぁぁッ!!」
「わぶ……っ!?」

 最早自分は、聖王(ザンクトカイザー)などでは無い。
 ザンクトカイザーをも超えた、最強にして究極の闇。
 神すらも、地獄すらも恐怖の対象には鳴り得ない。
 その想いをぶつける様に、振り抜いた拳をエネルの顔面に叩き込んだ。
 情けない声を上げながら、エネルの身体が後方へと吹っ飛んで行く。
 何度も何度も硬いアスファルトに身体をぶつけながら、エネルの身体が醜く舞う。

「第二打ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!?」

 逃がしはしない。すぐにエネルに追い付いたヴィヴィオが、その脚を振り上げた。
 虹色の魔力光を宿した一撃が、エネルの腹を両断せんと振り抜かれる。
 咄嗟に雷によるバリアを張るが、そんなものは気休めだ。
 ヴィヴィオの威力を殺すには至らず、エネルの身体が遥か上空へと舞う。
 だけど、まだヴィヴィオの気は済まない。こんなものでは、ママの無念は晴らせない。
 半ば八つ当たりにも近い想いで、ヴィヴィオは飛び上がった。

「第三打……第四打ッ!!」
「ぐ……ぅ……!」

 一撃目は、跳びひざ蹴り。
 空中で受身など取れる訳もないエネルの腹部に、その膝を叩き込んだ。
 その口から夥しい量の鮮血を吐血し、エネルが白眼を剥いた。だけど、まだ終わらない。 
 両手の指を硬く絡ませて作り出したハンマーを、矢継ぎ早にエネルの背中目掛けて振り下ろした。
 比較的筋肉の多い背中で受ける分、まだダメージは少ないが、それでも今のエネルには十分過ぎる一撃。
 エネルの身体が、真下のアスファルトに向かって加速。
 どごぉん! と、馬鹿でかい破砕音と共に、エネルの身体がアスファルトを抉った。
 これで殺してやる。

「五連打ァァッ!!」

 アスファルトへと着地するよりも先に、ヴィヴィオが両手を突き出した。
 眩く輝く輝きは、聖王だけに許された最高純度の魔力光。
 それらを解き放つように、エネルに向かって発射――する、筈だった。

「う……ぐ、ッ!」

 ヴィヴィオの動きが止まった。
 吐血だ。エネルにも負けず劣らず、明らかに命に関わる量の鮮血。
 同時に、ヴィヴィオの胸を襲う激痛。心臓が鼓動する度に、痛みが募る。
 咄嗟に心臓を抑えた事で、空中で体勢を崩してしまった、その刹那。

「この……不届き者がぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!」
「な……ぐ、あぁぁあああああああああああああああ!?」

 遥か頭上の天空から。エネルのいる真下から。周囲の雷雲から。
 ほぼ360度から、目を眩ます程の輝きがヴィヴィオを襲った。
 それらは体調を崩した今のヴィヴィオが受け切るには、あまりに協力過ぎる。
 聖王の鎧である程度はダメージを軽減できても、それがヴィヴィオにとって大きな一撃となる事は間違い無かった。

 閃光が晴れた後に、どさりと音が鳴る。
 ヴィヴィオの身体が、アスファルトへと落下した音だ。
 あれだけの一撃を受けたのだ。最早五体を動かす事すらもままならないだろう。
 ……否、緑と赤のオッドアイはまだ見開かれていた。
 憎々しげにエネルを睨むその表情に、確かな憎悪が込められていた。

「ほう……まだ戦えるか。いいだろう、ヴァッシュより先に、貴様から裁いてくれる」

 赤い剣をその手に構え、エネルがヴィヴィオに視線を送る。
 対するヴィヴィオも、まだ戦意を失ってはいない。まだ輝きを消してはいない。
 その眼は未だにギラギラと光り輝いているし、滲みだす戦意だって生半可ではない。
 痛む身体に鞭を打って、もう一度二本の足で立ち上がった。

「お前なんかに負けてられない……ママが、見てるのに……!!」

 現実も、五感も、思考も、遠のいていく。
 ただ沸き上がる憎悪と怒りに身を任せるままに、ヴィヴィオは再び拳を構える。
 心臓の痛みは、もう引いている。
 今は只、全身が心臓になったように鼓動を鳴らしているだけだった。

254誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:53:43 ID:dR2I84lo0
 

【1日目 夜中】
【現在地 F-8 東側(ホテル付近)】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】究極聖王モード、血塗れ、洗脳による怒り極大、肉体内部に吐血する程のダメージ(現在進行形で蓄積中)
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする、その為に自分がどうなっても構わない。
 1.エネルを殺して先に進む。
 2.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 3.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 4.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
 5.ヴィヴィオにはママがずっとついてくれている。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。
 その影響により、現在進行形で肉体内部にダメージが徐々に蓄積されており、このまま戦い続ければ命に関わります。
 また、他にも弊害があるかも知れません。他の弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。
※副作用の一つとして、過剰なまでに戦闘力が強化されています。しかし、力を使えば使う程ダメージは大きくなります。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。

【エネル@小話メドレー】
【状態】ダメージ・疲労(極大)、激怒、『死』に対する恐怖
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.神の威厳を守るため、ヴィヴィオを殺す。
 2.ヴァッシュに復讐する。
 2.ヴィヴィオに対する恐怖。
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。
※市街地と周囲の電力を取り込み、常時雷神(アマル)状態に近い放電状態になりました。
※吸収した電力で、僅かな傷や疲労は回復しています。

255誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:54:17 ID:dR2I84lo0
 

 森林の中を駆け抜ける影が二つ。
 一つは、紫髪の少女を背負った赤コート。ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 一つは、管理局の制服に身を包んだ若き部隊長。八神はやて。
 少女を一人背負う事で、ヴァッシュの走る速度は著しく低下していた。
 だけど、魔法を抜けば一般人と変わり無いはやての速度に合わせるという意味では、それくらいが調度良かった。
 二人が目指す先は同じ。このマップ上に示された、スカリエッティのアジトだ。
 そこにスバルが言う仲間がいる。
 では、その仲間とは一体全体誰の事であろうか。
 生き残っている参加者から考えると、高町なのは辺りであろうか?
 もしもそうであれば、これ以上心強い物はない。が、必ずしもそうとは限らない。
 アジトに居るのがなのはなら、仲間などという間接的な表現を取る必要は無い筈だ。
 ストレートに「なのはさんがそこに居る」と言えば伝わるのだから。
 それらを踏まえて考えると、アジトに居るのははやても知らない第三者である可能性が高い。

「で、その子はどうするんですか?」
「スバルの仲間と会わせなきゃならない。俺はそうスバルと約束したから」
「わからへん……そんな危険人物を合わせる事に、意味があるんですか?」
「ああ、きっとね。スバルは無駄なお願いはしない……と思う」

 走りながら、はやては大きなため息を吐いた。
 何度か言葉を交わして解った。こいつもスバル同様御人好しタイプだ。
 態々「その子を仲間に会わせろ」と言うからには、何らかの策はあるのだろう。
 スバルの事だ、危険人物を改心させたいとか、大方そんな所だろう。
 だが、だとしたらそれは少々楽観視し過ぎではないだろうか?
 話を聞く限りでは、かがみという人間は相当な危険人物らしいが……。
 そんな不安を抱えたまま、はやて達は走り続けるのであった。


【1日目 夜中】
【現在地 D-9 森林】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.スバルを信じて、スカリエッティのアジトへ向かう。
 2.柊かがみから戦力を奪った上で、スバルの仲間(=泉こなた)に会わせる。
 3.こなたに出会ったら、スバルからの伝言を伝える。
 4.首輪の解除方法を探す。
 5.アーカード、ティアナを警戒。
 6.アンジールと再び出会ったら……。
 7.千年リングには警戒する。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。

256誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:54:49 ID:dR2I84lo0
 
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スカリエッティのアジトへ向かう。
 2.柊かがみは本当に大丈夫なのか……?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居の事は警戒しておく。怪しい動きさえ見せなければ味方として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.…………
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

257誕生、Hカイザー/神と聖王 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 19:55:20 ID:dR2I84lo0

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】気絶、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服
【道具】無し
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.………………。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.そろそろ宿主サマを変えたい
 2.キャロが自分の世界のキャロなのか確かめたい。
 3.こなたに興味。
 4.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 5.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。

258 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/09(金) 20:03:34 ID:dR2I84lo0
これにて投下終了です。
言うなれば究極地獄聖王(アルティメット・ヘルカイザー・ヴィヴィオ)でしょうか。
調度ヴィヴィオもカイザーで身体にダメージ蓄積だったので、ずっとやりたかったんです。

今回の元ネタは仮面ライダーW風サブタイトルのみ。
「H激戦区/人の想いとは」「H激戦区/ハートのライダー」の二つがカリスメイン。
「H」は「HOTEL」の意と、「HEART」の意です。後はこじつけ臭いけど、「HUMAN(人)」とかもありかも知れません。
「誕生、Hカイザー/NEXT BATTLE」「誕生、Hカイザー/神と聖王」の二つはヴィヴィオメイン(?)。
こちらの「H」はヘルカイザーの「HELL」の意です。単純です。

それでは、指摘などありましたらよろしくお願いいたします。

259リリカル名無しA's:2010/07/09(金) 20:43:24 ID:CWO1f34M0
投下乙です。
うぉぉぉ、激戦未だ終わらずか!
遂に仮面ライダーとなった始、最終目的こそ未だ不明だけどひとまずギンガの想いが報われた気がする。
とはいえ、金居をどうにかしない事には先はないんですけどね。ジョーカー化の危険も消えたわけじゃないしなぁ。
一方、GX組は全滅したのにヘルカイザーは登場というわけでヴィヴィオ。そういや、GXのヘルカイザーも似たような状態だったなぁ。五連打か……なるほどキメラテック・フォートレス・ドラゴン(ヘルカイザーの切り札の1つ)じゃねーの。
エネルすら圧倒はしているけど内部からのダメージが深刻化しているのが……まぁエネルが勝とうがヴィヴィオが勝とうがマーダーである事に代わりはないんですけどね。
そしてバクラに見放されたアレ……というか、ヴァッシュもスバルもこなたに会わせれば大丈夫ってそんなの幻想だぞーそういう意味でははやてが正しいぞー、こなたオワタ……。
状況を整理すると

ホテル内部……スバル&始vs金居
ホテル近く……アルティメット・ヘルカイザー・ヴィヴィオvsゴッド・エネル
アジトへ移動中……ヴァッシュ&はやて&アギト他1名

……結局今回誰も死ななかったけど、危険は終わらないか……とりあえずスバルとこなた伏せやー! アレ(とU・H・Vと神エネル)は下手なマーダーよりも危険だー!

260リリカル名無しA's:2010/07/09(金) 21:35:01 ID:PgCNRaus0
投下乙です

激戦区の激闘はまだこれからって感じだな
始はとうとう仮面ライダーに目覚めたか。だが金居も一筋縄ではいかないんだよな
ヴィヴィオはお前はアスカかよw まずい、敗北フラグが立ったとしか見えねえw
どぐされかがみんは…とりあえずこなたと出合っても…でも何がが起こる悪寒がするわw

261リリカル名無しA's:2010/07/10(土) 01:02:36 ID:5h2am3/E0
五連打ってグォレンダァ!ってやつが元ネタ?

262リリカル名無しA's:2010/07/10(土) 01:11:01 ID:aNCwsSVkO
というよりグォレンダァの元ネタが五連打

263リリカル名無しA's:2010/07/12(月) 01:35:12 ID:P43ebYt.0
投下乙です
ついに始が仮面ライダーとして覚醒か
まだジョーカー化の可能性も残っていて予断を許さない状況だが感慨深いな
それにしてもはやて危なかったな
>海楼石はこちらにある。倒せない事はないだろうが、今はまだその時ではない。
頼りの海楼石はクアットロに奪われているでしょうがw

264 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/12(月) 02:18:13 ID:xJXYGvhs0
>>263
しまった……クアットロに奪われた事を完全に忘れていたorz
その一文に関しては、wiki編集の際にこちらの方で編集しておきます。
また、読み返してみたところ誤字脱字が多く、色々と思うところがありましたので、
今回も自分で細かな編集をした上でwikiに収録しておこうと思います。

265 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/12(月) 02:21:25 ID:xJXYGvhs0
おっと……もう編集されていたのか。
度々申し訳ありません、後日細かな編集を加えておこうと思います。

266 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 15:52:00 ID:GPV1PITo0
八神はやて(StS)、柊かがみ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード分投下します。

267Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 15:54:30 ID:GPV1PITo0
「む……」
 意識を取り戻した時に真っ先に感じたのは口の中に広がる違和感、
 次に感じたのは肌を滑る風の冷たさ、
 周囲を見回すとそこは何も見えない平野であった。
「ふぐ……」
 喋ろうとしても声が出ない。何かを口に詰め込まれている様だ。
 身動きを取ろうとしても両手両足を何かに拘束されている為動けないでいた。
「はんはのほ……ふぇ!?」
 そして自分の姿を見て驚いた。身に着けている物を全て剥ぎ取られていたのだ。
 どうやら自分の身に着けていたホテルの服で拘束している様だった。
 当然、先程まで身に着けていた千年リングとベルトも無くなっている。
「ひゃぁほれは……」
 そして今自分の口に詰め込まれている物が何か気が付いた。それは――自分が身に着けていた下着である。
「はにはほほっはほ!!」
 怒り苛立つ中、

「お目覚めか?」
 目の前にはスバルと同じ制服を身に着けていた女性が小刀を構えて立っていた。
「おはよう、かがみん」
「はっ……はんはがははひを!」
「そう怖い顔するなや、ちょっと『お話』しようと思っているだけや」



 その女性の笑みはどことなく冷たかった――

268Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 15:58:45 ID:GPV1PITo0




















(はぁ……本当にどうしたもんかな……)

 八神はやては内心で頭を抱えたかった。その理由とは――

 今現在置かれている状況を整理しよう。
 先程ホテルアグスタ周辺に自分を含め8人もの参加者が集結した。
 その8人ははやて、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ、金居、相川始、エネル、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみだ。
 ある者達はホテル内で戦い、ある者達はホテル外で戦い、またある者達は状況の動きを見ていた。
 その後、はやてとヴァッシュはかがみを連れてホテルを離脱しスバルの仲間が待つらしいスカリエッティのアジトへと移動していた。
 ちなみに、今現在もホテルでの戦いは続いている。

 次に、今現在も生き残っている参加者をはやての視点から整理しよう。
 放送時点で残り19人、その後ヴィータとアーカードの死亡を確認し残りは17人。
 なお、はやては気絶していた為先程の放送自体は聞き逃しているが、金居から大まかな内容である死亡者の名前と御褒美の話は聞いていた。
 では、はやて自身を除く残り16人を整理しよう。

 まず、現状殆ど情報が無い参加者がアレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、天道総司、ヒビノ・ミライの5人。残念ながら敵か味方かの判断は不可能だ。
 次に高町なのはとユーノ・スクライア、断言こそ出来ないがこの両名が殺し合いに乗る可能性は低い。更に言えばその能力は高く是非とも合流し味方に付けたい所だ。
 問題人物の1人としてクアットロがいる。真面目な話、彼女のスタンス自体はある程度理解しているし、彼女と決裂したのもある種自業自得だったのも理解はしている。
 だがあの女の事、なのは達と合流して自分の悪評を振りまいている可能性が高く、自分達との対立は不可避だ。故に自身の目的達成の障害にしかなり得ない。何とかして排除したい所だ。

 ホテルでの戦いに関係のない9人の内これで8人。あとの1人に関してはある理由からひとまず外す。

269Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 15:59:45 ID:GPV1PITo0

 ここから7人は先の戦いの関係者だ。まずその内5人について整理しよう。

 まず、現在ヴァッシュに背負われているかがみだ。ヴァッシュによると殺し合いに乗っており先の戦いでスバル達3人を圧倒した緑の仮面ライダーという話だ。もっとも変身する為のベルトはスバルが預かっているらしい。
 ヴァッシュからの証言だけなので詳しい事は不明だがこの場に来てから各所で酷い目に遭い続け、妹である柊つかさも無惨に殺されたそうだ。
 それ故に殺し合いに乗ったと好意的に解釈する事も出来なくはない。しかし、一方で彼女がお人好しなヴァッシュ達を騙している可能性……いや、確実に騙していた。
 何しろ、スバルが危険人物という偽情報を伝えヴァッシュとの無用な戦いを起こし、乱戦に入った時には掌を返し皆殺しにしようとしたのだ。
 こんな危険人物を信用する事などはやてには無理だ。聞いた所、自暴自棄になり皆殺しにして自殺すると言い張っている。
 迷惑極まりない、そんなに死にたいなら誰にも迷惑かけずに1人で死ねと言いたい。
 スバルとヴァッシュによるとアジトで待つスバルの仲間ならばかがみを説得出来るらしいが、正直それも全く信用していない。
 どうせまた、こちらが隙を見せた所を裏切り自分達を一掃するのがオチだろう。
 真面目な話、早々に彼女を斬り捨てた方が良い。とはいえ、それをやろうとすればヴァッシュやスバル達と対立するのは明白、故にむやみに行うわけにはいかないのが辛い所だ。

 次に現在の同行者であるヴァッシュ、まだ詳しい情報交換はしていない為、その全貌は掴みきれてはいない。
 しかし、強敵とも言える先の仮面ライダーとの戦いでのダメージが殆ど無い事からその実力はトップクラスと言えよう。
 思考に関しても馬鹿すぎる程のお人好しなのは把握した。つい先程まで自分を殺そうとしていた相手を殺さず保護していたからだ。
 だが気になる事もある。殺し合いに乗らない人物でなおかつ凶悪的なパワーを持つ人物をそのまま殺し合いに放り込む事をするだろうか? 何かしらのデメリットを抱えてはいないだろうか?
 ヴァッシュ自身の頭髪にも違和感を覚えた。黒髪に約1割の金髪が混じるという不自然な髪色だ。何故彼はそんな不自然な髪型をしているのだろうか?
 これが今後にとって致命傷になる可能性はある。もっとも、これは現状些細な事ではあるが。
 むしろ問題なのはお人好しという点だ。折角敵にトドメを刺せる状況になってもこの男ならばそれを強引にでも止めかねない。
 それ自体は善行と言える。だがこの場では少々不味いと言わざるを得ない。危険人物を残しておいてその逆襲を受けて此方の戦力が削られるならむしろ逆効果だろう。
 とはいえ、ヴァッシュの思考そのものはなのは達に近い。下手にそれを咎めると自分が孤立するのは明白、故に現状ではその事について口出す事は出来ないだろう。

270Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:00:30 ID:GPV1PITo0

 続いてホテル外で戦闘中のエネルだ。言うまでもなく殺し合いに乗っている危険人物でその実力もトップクラス。
 真面目な話現状のはやて達に手の打ち様が無い以上、ヴィヴィオが倒してくれる事を期待するしかない。

 だが、そのヴィヴィオに関しても大きな問題を抱えている。
 何が原因かは不明だが彼女は聖王状態となっておりエネルに匹敵する力を持っていた。だがそれは必ずしも自分達にとって良い事ばかりではない。
 その最大の理由がヴィヴィオがほぼ無差別に殺意を向けていたという事だ。一歩間違えれば自分達にその殺意が向けられていた可能性がある。エネルとの戦いに入った事はむしろ幸運だったのかも知れない。
 一応、ヴィータからヴィヴィオを助けてと頼まれた事もあり、それが無くてもなのはの娘である彼女を助ける事についてはさほど異論はない。
 だが、あの状態のヴィヴィオを止めるなど自殺行為以外の何物でもない。悪いが今のヴィヴィオを助ける事は不可能と言って良い。
 とはいえ倒す事もまず不可能だ。エネルと同等もしくはそれ以上の強敵を倒す手など今の自分にはない。
 勿論、弱点も幾つかある。遠目で見たところ、今のヴィヴィオは感情の赴くままに全力で戦っていた。
 あんな状態で戦い続けて負担がかからないわけがない。断言も出来ないし何時になるかは不明ではあるが、戦い続ければその内ヴィヴィオは自滅するだろう。
 もう1点気になる事がある。それはヴィヴィオが持っていた鎌の様な武器だ。どことなく今自分が所持している憑神刀と雰囲気が似ていた。
 同系列の武器ならば、前述の仮説がより裏付けられる事になる。なにしろ憑神刀も強い力を発揮する反面、消耗が大きい武器だからだ。
 そういえば、クアットロが大きな鎌を持ったキャロに襲われたと言っていた。もしかするとあの鎌はキャロが持っていたものかもしれない。

 何にせよ、ヴィータやなのは達には悪いが両名の戦いにおける理想の決着は共倒れだ。
 仮にどちらかが勝った場合、勝者はそのままホテルに突入する可能性が高い。疲弊しているとはいえホテル内の連中にとってもそれは同じ。避けたい結末である事に違いはない。

 次はホテル内の金居と始の戦いの場に残ったスバルだ。
 残った理由は始を、いや始も金居も死なせずに戦いを収める為らしい。勿論、スバルの性格を考えるならばその行動自体は理解出来る。
 だが、正直悪手以外の何物でもない。金居の話から察するに両名の戦いは相手を完全に滅するものだ、両名とも死なせずという事はまず不可能だ。
 それでなくても金居と始がスバルに牙を剥けないとは言い切れないし、戦いの余波に巻き込まれて命を落とす可能性もある。
 運良くそれをどうにか出来たとしよう。だが、その後素直にアジトへ向かってくれるだろうか?
 いや、もしホテル近くでヴィヴィオが戦っている事を知ったら彼女を助けに向かうのは明白だ。
 なのはや自分ですら勝てない相手に向かうなど自殺行為以外の何者でもない。戦力としてはアテにできるのにどうしてこんな頭を抱える様な行動ばかり取るのだろうか?

271Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:01:15 ID:GPV1PITo0

 続いて金居だ。金居の実力については本人の言葉を信じるならば仮面ライダーに匹敵すると考えて良い。エネル程ではないとしても強者には違いないだろう。
 そして現状では自分達に協力する素振りを見せている事から利用出来ると考えて良いが、クアットロと似た性格である金居を完全に信用は出来ない。水面下では自身の優勝を目指す為に暗躍している可能性がある。
 状況証拠として、先程持っていなかった筈の銃がある。金居自身は拾ったと言っていたが、もしかすると密かに誰かを殺してそのボーナスで得た銃という可能性もある。
 とはいえ、現場を押さえたわけではない為これ以上は追求は出来ない。とりあえずボーナスで得たなら殺した人物は自分達の仲間ではない事を祈るしかない。
 何にせよ、金居自身も此方が警戒しているとわかっているならば下手な動きは見せないだろう。具体的に手を下すのは動きを見せた時だ、今はひとまずそれで良い。

 その金居が『人類全ての敵』と言っていたのが始だ。あの戦いの様子やヴァッシュの証言からも彼がスバル達と対立していた事は間違いない。
 しかし、その始がスバル達を助けあの戦いでの敵であったかがみを倒した事実がある。同時にスバルやヴァッシュの証言から彼は現状他の参加者を殺すつもりはないという話だ。
 つまり、金居の証言と違い味方になり得る可能性が高いという事だ。はやて自身金居の証言を鵜呑みにしているわけではない、貴重な戦力、得られる物ならば得たい所である。
 だが、『人類全ての敵』という言葉に引っかかりが無いわけではない。金居が無用な嘘を吐くとは思えない、その言葉の解釈次第では始が自分達に牙を剥く可能性は十分にあるだろう。
 月並みな言葉ではあるが始に対しても警戒はしておいた方が良い。元々敵対していたわけだ、不満を言われる筋合いはない。

 何にせよ、両名の戦いは不可避だ。どちらかが退場する可能性が高いだろうが、はやてとしてはそれでも構わないと思っている。
 どちらにも危険な要素がある以上片方が潰れる事はむしろ都合が良い。スバルさえ巻き込まなければ正直それで良いと考えている。

 だが、理想を言えば片方には生き残って欲しい。その理由がこれまで言及を避けてきたキングの存在だ。
 キングははやてが最初に出会った相手で彼に翻弄されたお陰でヴィータと仲違いをし、更に開始6時間を殆ど無為に過ごす結果を引き起こした。
 あの後、奴の動きは全く見受けられない。だが逆を言えば自分の知らない所でかき回しているという事だ。
 つまり、今現在もホテルの戦いに関わっていない8人の内の誰かに仕掛けているという事だ。クアットロといった危険人物を潰す事については一向に構わないが、なのは達を潰されるのは非常に不味い、何とかして早々にキングを排除したい所だ。
 では、キングを排除する手段に関してはどうだろうか? 実の所1つ気になる事があった。
 金居と話してわかったことだが、金居の口ぶりからどうやらキングを知っている様だった。確証こそ無いが元々の世界で敵対していた可能性もある。少なくても味方という事はないだろう。
 となればこういう話は成り立たないだろうか? 金居、キング、始の3名は互いを知っていてなおかつ敵対しているという事だ。
 つまり、金居と始のどちらかをキングに対するカウンターにすれば良いという事だ。
 幸い、金居も始も味方になりそうな感じではある。キングが元々の敵であるならばキングを倒す為に協力してくれる可能性は高いだろう。
 故に金居と始の戦いでは共倒れではなく片方に生き残って貰いなおかつスバルも無事な状態でホテルから離脱して欲しいという事だ。
 だが、その為にはどちらにしてもエネルもしくはヴィヴィオとの戦いを避けなければならない。とはいえ、金居はともかく始とスバルが素直に離脱してくれるとは思えないわけだが。

272Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:02:00 ID:GPV1PITo0







(全く頭が痛いなぁ……)

 ここまでの話だけでも現状が非常に厳しい事は理解出来ただろう。
 前述の通りホテルの戦い次第では貴重な戦力とも言えるスバル、始、金居の3名がエネルもしくはヴィヴィオによって潰される可能性が高いのだ。
 残り人数の少ない状況でこれ以上戦力が潰されるのは痛い。はやてが頭を抱えるのも理解出来るだろう。
 真面目な話、スバルぐらいはホテルから離脱して欲しかったというのが本音だ。アジトに仲間を1人向かわせているという話ならばなおの事だ。
(まぁ、私も全く失敗していないわけやないけどな)
 勿論、はやて自身にも全くミスがないわけではない。
 実はこうやって移動している最中に気付いた事だが、シャマルとクアットロと情報交換した際に罠ではないという結論を出していた事を思い出していた。つまり、金居に魔法陣が罠だと説明した際にはその事を忘れていたという事だ。
(その後、色々ありすぎて私自身も整理ついていなかったからな……嫌な夢も見たし)
 もっとも、魔法陣に関しては金居の助言があったので別段大きな問題はなかった。むしろ、その際に金居とキングの関係のヒントを得られた為、その意味では幸運だったのかも知れない。

(そんなことはひとまずどうでもええか……それに……)
 先程万一に備え武器を探した際に夜天の書を構えようとしていた。しかし、それに触れた瞬間何か嫌な予感がしたのだ。気のせいだろうと思ってはいたが、脳裏にある危惧が浮かんだのだ。
(あの餓鬼……夜天の書にいらん細工せんかったか?)
 思い出せばジュエルシードのエネルギーは全て使い切られていた。はやて自身はそれで安全に使えると考えており深くは考えていなかった。
 だが、こういう解釈は出来ないだろうか。夜天の書を使っていた人物、はやて自身名前は知らないが天上院明日香が夜天の書を自分に都合の良い風に使う為にジュエルシードを利用したという事だ。
 分かり易く言えば、かつての闇の書の様に改変を行った可能性があるという事だ。
(あの餓鬼は異常なまでに力を欲しがっていた……その辺の力を蒐集出来る様に改変した可能性は無いとは言い切れん……)
 力への渇望そのものははやて自身も望む事がある為それ自体を咎める気はない。しかしその為によりにもよって夜天の書を改変しようとした事が問題なのだ。
 かつての夜天の書が改変された闇の書は多くの深い悲しみを生んだ。はやて自身もその管制人格であるリインフォースとの辛い経験をしている為、それを痛い程理解している。
 長きの時間苦しみ続けて最後に散ったリインフォースの為にも二度と闇の書を生み出してはならないのだ。
(冗談や無い……そんな事許してたまるか……! あんな餓鬼の自分勝手な都合で闇の書が生み出されてなんてたまるか……!)
 心情的な問題はともかく、実際に改変された場合、殺し合い云々以前の問題になる可能性がある。
 勿論、プレシア・テスタロッサがデスゲームを壊す事態を許すわけはないだろうが、どちらにしても自分達の障害となる可能性は否定出来ない。
 少なくてもアーカード戦の時に使った際には別段問題は無かった。だが、夜天の書の安全が保証されたわけではない。表面上はそう見えても中枢が改変されている可能性はある。
 下手に改変された場合破壊したタイミングで周辺一帯を破壊に巻き込む可能性もあり安易に処分するという選択は取れない。もっとも、大事な夜天の書を安易に処分するという選択肢もないわけだが。
 理想は改変された部分を元に戻す事だ。今の夜天の書ははやて自身が作ったからそれ自体は可能だ。あとはそれを行える大規模な施設が必要となる。
 勿論、何の問題もない可能性もあるがはやて側から見た場合、専門の設備で調べなければそれも出来ないだろう。何しろジュエルシードによる改変だ、どうなっているかは想像も付かない。
(まぁ、私の考えすぎという説もある……というかそうであって欲しいけどな)
 勿論、夜天の書の改変云々ははやての過剰な警戒という説もある。だが、闇の書事件の当事者であるはやてがそれを警戒するなと言うのも無理だろう。
 どちらにせよ、夜天の書に関しては何処か専門の施設で安全を確かめる必要がある。運が良ければアジトでそれを行える可能性はある。

273Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:03:15 ID:GPV1PITo0

(まぁ、そのアジトが何事も無く使えるとも思えないのが問題やけど)
 今現在はやて達はアジトでスバルの仲間と合流する事が目的となっていた。同時にかがみにその人物と会わせてかがみを説得し改心させる手筈となっている。
 正直それがそのまま上手く行くとは思えなかった。そもそもスバルの仲間が無事にアジトに辿り着いている保証もないし、そのアジトが危険人物によって潰されている、もしくは牛耳られている可能性もある。
 仮に以上の問題が無くてもかがみの説得が上手く行くとは思えない。大体、スバルとヴァッシュは何をもって改心出来ると確信しているのだろうか?
 話せばわかるという単純かつ馬鹿な理由もあるだろう。だが、幾らスバルでも何の考えも無しに危険人物と他人を遭遇させるなんて考えない筈だ。つまり、高確率で説得出来る相手がいるという事だ。
(真っ先に考え付くのは家族……けど、彼女の家族らしき人物は死亡している……となると友達か?)
 はやてはその人物がかがみの友人だと推測した。ヴァッシュが名前を聞いていなかった為その人物が誰か全くわからないわけだが。
 では、説得は可能なのだろうか? 確かに説得出来る可能性は0ではない。しかし成功する可能性も100ではないのだ。
 スバルやヴァッシュと言った参加者を陥れる様な危険人物だ、説得された様に見せかけて隙を見せた所を一網打尽にする可能性が高い。
 それでも説得を繰り返すという理論もあるだろうが正直人の生死が懸かっている以上そんな余力は全く無い。たった1人の危険人物を改心させる為に何人もの貴重な戦力を減らす意味など無い。
(けどなぁ、絶対に私の方が間違っているって言われるに決まっているからな……)
 客観的に見ればはやての考えはある種正しい。しかし、スバルやヴァッシュははやての考えを否定し危険人物も絶対に殺したりはしないだろう。
 同時に恐らくはなのはやユーノもスバル達の考えを指示するのは想像に難くなく、かつてのはやてもスバル達の考えを指示していただろうというのは自分でも理解している。
 つまり、危険人物だからと言ってかがみを排除する事は現状難しいという事だ。かといって、説得が成功する保証も無く、どちらにしてもはやてが望まない展開となる可能性が高いとなる。

(胃薬が欲しくなってきたな……)







「……んでだよ……なんでアイツが……」
 そんな中、はやての傍で声が響く。
 声の主は融合騎である烈火の剣精アギトだった。ヴィータの死後ずっと彼女の死を悲しみデイパックの中で泣いていたのだ。
 いや、それだけではなく先の放送で彼女の仲間であるゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノの死亡も伝えられていた。そのショックから完全に抜け出せてはいなかったのだろう。
 故にはやては現状アギトに関してはこのままにしていた。だが、そのアギトがいきなり口を出してきたのだ。
「少し黙っていてくれるか、今色々考えて……」
「おい、はやて! 何でアイツを連れているんだよ!」
「……アイツってどっちや? ヴァッシュさんか? それともかが……」
「紫の髪した女の事だよ! 見てわからねぇのかよ!」
 紫髪の女といえばかがみの事だ。アギトの口ぶりが確かならかがみと何処かで面識があったというのだろうか?
 そういえばヴィータと合流した時、自分の側の説明はしたがヴィータ側、特にアギトの事情はあまり深い所まで聞いていない事に今更ながら気が付いた。
 いや、そもそもアギトは最初からヴィータと同行していたのかも不明瞭だ。最初に接触した時には見かけなかったからだ。
 何にせよ、アギトが何か知っている可能性が高い。
「なぁ、紫髪の女が何かしたんか?」
「アイツが……○○○○を殺したんだ!」
「なん……やって……」

274Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:06:15 ID:GPV1PITo0







 その一方、ヴァッシュもある事を考えていた。
(どっかで会った気がするけど……)
 そう、ヴァッシュ自身、はやてを見た記憶があったのだ。しかし、ヴァッシュ自身それに関して強い確証が無かったのである。

 結論から言えば、ヴァッシュ自身はやてと面識は全く無い。しかし、はやてとその家族についての記憶は確かにあったのだ。
 思い出して欲しい、今のヴァッシュは自身の兄であるミリオンズ・ナイブズと融合している事を。
 融合した際に彼の記憶と動向をヴァッシュは把握した。この殺し合いでなのはを含む4人を殺した事を、そして元の世界での彼の記憶をだ。
 そう、この殺し合いに連れて来られる直前のナイブズの記憶もまた例外ではなかったのだ。
 ヴァッシュがなのはに保護されたのと同様に、ナイブズもまたはやてに保護されていた。その際に彼女の家族であるヴィータ達とも出会っていたのだ。
 では、何故ヴァッシュは確証を持てなかったのだろうか?
 まず、記憶のはやてとこの場にいるはやてが似ていたとはいえあまりにも違いすぎたのだ。ここにいるはやては20歳の女性、記憶の中のはやては9歳の車椅子の少女なのだから。
 また、そもそもナイブズがはやてに保護されてという記憶がヴァッシュにはある意味現実味が薄かったのだ。ナイブズが何度と無く人間を虐殺するのをヴァッシュは見ていたのだから。
 そして、融合以降約10時間前後力の暴走とそれによりフェイト・T・ハラオウンを殺したショックからヴァッシュ自身それどころでは無くなっていた。
 以上の事からヴァッシュははやての記憶を持ちながらもそれについての確証が持てなかったのである。

 とはいえ現状それは大きな問題ではない。いち早くアジトに向かい背負っているかがみをスバルの仲間に会わせる事が今の最優先事項だ。

 と、気が付いたらはやてよりも数十メートルも先行していた事に気が付いた。
「ちょっとー!!」
 最初の放送直後、ヴァッシュは自身のデイパックを奪われており以降地図も磁石も持たずに行動していた。その為、はやての道案内無しにアジトへ向かえる道理は無い。
 ともかく、ヴァッシュははやての所に戻り、
「はやて! ……ってあれ?」
 口を出そうとしたが、はやての傍に見慣れない小人がいた事に気が付きあっけに取られた顔をした。
「あ、すみません、ちょっと考え事していたんで」
「それはいいけど……って君は?」
「あたしは……」
「ああ、この子は仲間のアギトです。それよりヴァッシュさん、少し貴方とお話したいんですけど」
 はやての口から発せられたのは情報交換の提案だ。
「え、でもそれはアジトに行ってからゆっくりやれば……」
 確かにアジトまではそう遠くない。ここで無理に行わずともアジトに付いてからスバルの仲間を交えて行えば済む話ではある。しかし、
「ここ数時間殆ど休みらしい休みを取ってないんです、ヴァッシュさんもホテルでの戦いから休んでないですよね? 休憩がてら貴方の事情を聞きたいんやけど。
 それにアジトについてすぐに戦いになる可能性も否定出来ません。万全な状態にしておくべきやと思いませんか?」
「うーん……」
 はやての言い分は理解出来る。しかしヴァッシュとしては一刻も早くアジトへ向かい、かがみをスバルの仲間に会わせたかった。故に素直に提案を受け入れられなかったが、
「こう言っては失礼かも知れませんけど、私は貴方を完全に信じたわけやないです。仲間達の命が懸かっている以上、信用出来ない相手に背中を任せるわけにはいきません。
 勿論、全部話してとは言いません。知り合いやこの場に着てから何をしてきたかを話してくれればそれで良いです」
「……わかった」

275Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:07:00 ID:GPV1PITo0







 まず、ヴァッシュは自分が管理局に属していてこの場に大切な仲間達がいる事を説明した。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、ユーノ君とクロノ君……1つ確認したいんですけど、なのはちゃんとフェイトちゃん何歳ぐらいでした?」
「確か10歳ぐらい……って、はやての口ぶりだとなのは達を知っている様に聞こえるんだけど」
「それについて後ほど、とりあえず続けて」
 はやての言葉が気になるもののヴァッシュは説明を再開した。更に、危険人物としてナイブズが参加している事を説明した。
 まずヴァッシュは最初にアレクサンド・アンデルセンと出会い彼と行動を共にしていた事を話した。アンデルセンの話ではアーカードが危険人物でティアナ・ランスターがアーカードによって吸血鬼になったという話である。
 ちなみに、はやて達は既にアーカードが死亡している事を知っているがそれに関してはヴァッシュに伝えなかった。
 その後、2人は家族を守る為に殺し合いに乗っていたアンジールと遭遇し彼を無力化した。そしてアーカードの放送が響き渡りその場所へ向かったが――
「(そうか、あの時乱入したのがアンデルセンだったんだな……)ん、でアンタはアーカードの所に行ったのかよ?」
「いや……」
 ヴァッシュはアンデルセンを見失い、その後ナイブズの存在を察知し彼を止める為、アンジールを近くのビルに置いて1人その場所へ向かったが――
「アイツは死んでいた――」
 その後、気が付いたら何者かに襲われ左腕を斬り落とされ――
「じゃあその左腕は何なんです?」
「信じられない話かも知れないが聞いてくれ――ナイブズが俺の左腕になった――」
「1つになった……っていう解釈で良いんですね?」
「……って、妙にあっさり受け入れている!?」
 確かに驚きではあるし詳しくは聞きたい所だ。しかし今はそこの説明に必要以上の時間を取られるわけにはいかない。最低限把握出来れば十分なので、話を進める事にした。
「こういう事には慣れていますから。で、その後どうなりました?」
 ヴァッシュの口調は重いものの話は続けられた。
「アイツと一つになった事で宿った力を僕は制御出来なかった……それで……フェイトを殺した……」
「そう……ですか」
 その後、自身の制御出来ない力に他者を巻き込まない様に彷徨い神社へ辿り着きそこで新庄・運切と出会った。
 新庄を死なせまいと離れる様に言ったものの彼はそれを聞かずヴァッシュの傍にいたのだ。
 そして2度目の放送の後、雷を放ち自らを神と名乗る男が2人を襲撃してきた際にヴァッシュ自身が制御出来ない力で彼を殺しそうになった事があった。ヴァッシュは名前を知らなかったがその特徴はエネル以外に有り得ない。
「な……エネルに勝ったというんか……」
 その後、新庄がエネルを監視する名目で同行し、ヴァッシュは新庄の為に禁止エリアとなっていた神社から離れた。
 そして気が付いたら海に落ち、海から上がった後、アンジールと再会した。
 忌まわしき力はアンジールを殺さんと暴走したものの、アンジールのお陰で遂に暴走は収まった。
 その後、ヴァッシュはホテルへ移動しそこでかがみと出会ったのだ。その後、スバルと遭遇した際に放送が鳴り響き、新庄の死のショックで再び左腕が暴走しスバルと交戦する事となった。そして――
「……何とか暴走が収まりスバルと落ち着いて話そうと思ったらかがみと始が来て混戦状態になったわけですね……ちょっと整理しに行って良いですか?」

276Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:08:00 ID:GPV1PITo0







 はやてとアギトはヴァッシュから少し距離を置き、
「はやて……どうするんだ?」
 ヴァッシュの人格そのものに関してはアギトも信じて良いとは思っている。だが、左腕が暴走した際の危険性は否定出来ない。
「確かに暴走は怖い……けど、その実力は確かやし性格に関しても十分すぎるぐらいのお人好しや。あのエネルを殺せるのに殺さへんかった事からもそれは明らかや
 (そのお人好しさ加減のお陰で誰か死なせているけどな。十中八九新庄を殺したのはエネルや、全く……あの場で仕留めてくれれば良かったんに……まぁ、その場合ヴィヴィオを相手にせなあかんかったけどな)」
「そんなにエネルってヤバイのかよ?」
「アギトはデイパックの中にいたからよくわからんかも知れんけど、あそこの雷全部アイツの仕業や」
「確かに厄介そうだな……」
「暴走さえ除けば十分信頼出来ると思う」
「はやてがそう言うんだったらいいけどよ……」
(それに……幾つか面白い事も聞けたからな)
 その1つがアンジールの存在だ。アンデルセンはヴァッシュと出会う前にアンジールと交戦していたらしい。詳しい事情は不明だがアンデルセンがアンジールの家族に害を及ぼすという話なのだ。
 ここで、はやてはある話を思い出す。クアットロがこの場に来て神父らしき男に襲われたという話があった。その神父がアンデルセンである可能性が高い。
 彼女を助ける為にアンジールが現れアンデルセンと交戦した可能性があるという事だ。何の為に? それはアンジールからみてクアットロが家族だからだろう。
 それを裏付ける証拠として、アンジールは青いスーツの女達を探していた。これは言うまでもなくクアットロ達ナンバーズだ。故に、アンジールから見てクアットロ達は家族という事になる。

(けど、これだけやと根拠として弱いな……)
「そうだ、アンジールと言えば……」
「何かあったんか?」
「ああ、もう1人のお前殺していたぜ」
「って、見ていたんか!? そういう大事な事は先に言えや!」
「そんな余裕無かっただろ……」
「ていうか、ヴィータ何してたんや……」
「その時、セフィロスのデイパックの中だったんだよ。そういやアンジールとセフィロス知り合いみたいだったな」
「それ本当か? そうか、それなら……」

 アギトの話からはやてはある仮説を立てた。
 クアットロがアンデルセンに襲われた際、アンジールがクアットロを助けアンデルセンを退けた。
 その後、クアットロはアンジールを利用して参加者を殲滅しようと目論んだ。故にはやて達に対しアンジールの存在を伏せておいた。
 そして、クアットロがはやてを斬り捨てた際に強気だったのは、セフィロス対策にもなる確実な味方のアンジールがいたという事になる。
 勿論、これは推測でしかない。しかしこれまでの証言からその可能性は高いだろう。
(となると、アンジールは敵ということになるな。クアットロと敵対する以上交戦は避けられん……)

277Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:08:45 ID:GPV1PITo0







 話し合いを終えたはやて達がヴァッシュ達の所に戻って来る。
「フェイトちゃんを殺した事に関しては決して許される事やないです。それが貴方の意志によるものやなかったとしてもや」
「ああ……それは……」
 ヴァッシュがフェイトを殺した罪の重さは今もヴァッシュは決して忘れない。
「せやけど……本当に悔やんでいるんやったらその力を……今度は人々を守る為に使ってくれませんか?」
「はやて……」
「だから約束してくれませんか、もう二度と決してその力を暴走させへん事を」
「……わかった」
「それなら貴方を仲間として迎えます。なのはちゃん達と力合わせて何とかこのゲームを止めましょう」
「ありがと……ん、ちょっと待って、はやての口ぶりだとなのはが生きている様に聞こえるんだけど……?」
 それは有り得ない。放送で名前も呼ばれていたし、ナイブズがなのはを殺す記憶をヴァッシュは見ている。だが、
「18時の放送でもフェイトちゃんの名前が呼ばれていた事に気付いてました?」
「えぇ!?」
 ホテルでの放送の時、新庄の名前が呼ばれた時点でヴァッシュの思考が停止していた為、フェイトの名前が呼ばれていた事を知らなかった。というより、フェイトの名前が呼ばれたのは12時の放送だった筈だ。一体何を言っているのだろう?
「名簿になのはちゃんとフェイトちゃん、私の名前が2つずつ乗ってます」
「そういえばそうだった様な……」
「それにですね、私の知り合いのなのはちゃん達も20歳ぐらいなんです。これらから考えて、私らは異なる平行世界から連れて来られているって事になるんです」
「あ、成る程」
 ヴァッシュ自身、なのは達にいる地球が自分の元々の世界の地球とは異っていた事を把握していた事から平行世界に関しては容易に理解出来た。
「せやから、此処にいるなのはちゃん達がヴァッシュの知る彼女達とは限らないという事になります。とはいえ、絶対に無いとは言い切れないし、別世界の別人だからってみんなの命を守る事に変わりはないですけどね」
「ああ」
 そう、仮に異なる平行世界の存在だとしても、なのはがナイブズに殺され、フェイトを自分が殺した事実に違いはなく、同時に守るべき命である事に変わりはない。結局の所、ヴァッシュにとってはさほど重要な問題ではないのだ。







「それじゃあ暫くアギトと色々話してくれますか?」
 と、アギトがヴァッシュの方へ移動する。
「ん? どういうこと?」
「私はちょっとその子と少し今後の事について『お話』しようと思いまして」
 つまり、はやてとかがみの2人きりにして話をするという事だ。
「ちょっと待ってくれ、それこそアジトに行ってからでも」
「いや、今のこの子は誰彼構わず憎しみをぶつけてきます。そんな状態で彼女の友達と会わせて取り返しのつかない事になっても困る、せやから彼女を落ち着かせた上で事情を一度説明しておこうかと思いまして」
「成る程……だったら僕も」
「ダメです、ついさっきまで命のやり取りしていたヴァッシュさんやったら彼女も警戒します。

 それに……女の子同士やないと話せない話もあると思いません?」

 その妖艶な笑みを浮かべるはやてに対し、
「そ、そうだね……」
 素直に頷くしかないヴァッシュであった。そしてヴァッシュの背からかがみが降ろされ、
「そうそう、これをどうにかしないと」
 と、彼女の首にかかっていた千年リングを外した。
「そのリングがどうしました?」
「ああ、スバルの話じゃこのリングに宿る人格がかがみをここまで追い込んだらしい。乗っ取られたりしない様に気をつけて処分してくれって言っていた」
 それを聞いたアギトが不思議そうな表情をしていたのをはやては見逃さなかった。
「ヴァッシュさんが乗っ取られたら困るんですけど大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。絶対に乗っ取られたりなんてしないから!」
 力強い声でそう答えた。そして、はやてがかがみを背負い、
「それじゃ、決して覗いたりなんかしない様に」
 そう言って、深い森林の奥へと消えていった。

「はやて……大丈夫か……」
「大丈夫だって、リングも手元にあるから」
「(そうじゃねぇんだよ……)」
「あ!」
「何かあったのかよ」
「いや、ちょっとはやての喋り聞いていたらアイツの事を思い出しただけだから」
「アイツって誰だよ……」
 ヴァッシュの脳裏には関西弁を喋る牧師の姿が浮かんでいた。

278Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:13:30 ID:GPV1PITo0
「おははひって……はひもははふほほはんへはいはほ!」
 はやてによって拘束されたかがみははやてに対しまくし立てる。
「ああ、流石にこの状態じゃ何も答えられんな」
 と言って、かがみの口から下着を取り出す。
「こんな事やって只で済むと思っ……」
 その瞬間、かがみの首に憑神刀が突き付けられる。
「助けを呼ぼうとしても無駄や、周囲には誰もおらんし仮に誰かが来るとしてもそれより早くあんたの命が終わる……少しでも長生きしたいんなら大人しく『お話』しようや」
 その表情からかがみはこの女が本気だと思った。

「お話って言われてもアンタに話す事なんて何もないわよ……殺してやる……」
 人を全裸にして下着を口に詰める様な変態に話す事はない。そう答えるかがみだったが、
「ところで、さっき青い髪のロングヘアのあんたぐらいの女の子殺したんやけど」
 そんな人物などかがみの知る限り1人しかいない。
「なっ……あんたこなたを殺したの!?」
「ほう、こなたっていうんか。そうか……」
「許さない……」
「ああ、ちなみに今の嘘や」
「え!?」
 この女はさっきから何を言っているのだろうか? 何故こなたを殺したという嘘を吐くのだろうか?
「実は、今私達は移動していたんや。あんたを説得する人物のいる場所にな」
 はやてはかがみに彼女を説得出来る人物がいるスーパーへ移動中だという事を話した。
「あんたを説得出来るという話やから多分あんたの友人って事まではわかったんやけど名前がわからなかったからこうやって聞き出したわけや。普通に聞いても答えへんと思ったからな」
 ちなみに、こなたの外見についてはヴァッシュがホテルへ移動する最中、スバルを見かけた際にこなたらしき人物も一瞬だが見かけていた為、それを聞く事で把握出来た。

「このタヌキ……」
「褒め言葉やな」
(なんなのよコイツ……それに、何処かで会った様な……)
 はやてを何処かで見た記憶があった。しかしそれが何処かまでは思い出せないでいた。

「1つ聞きたいんやけど……こなたが殺し合い止めてくれって言ってくれたら殺し合いやめてくれるんか?」
「はぁ!? そんなのやめるわけないでしょ!」
「友達が説得しても応じるつもりはないって事か?」
「どうせ別世界のこなたでしょ、関係なんて無いわよ!」
 そう、スバルに何度も話した通り、ここのこなたは別世界の他人。友達でない以上言う事を聞く必要は全く無い。
「そうか……そういうか……ははっ……」
 はやての笑いが何処か恐ろしいものに見えた。
「で、何人殺した?」
 と、憑神刀を突き付けながらかがみにそう問いかける。
「覚えてないわよ、誰を何人殺したかなんて」
 そう答えた瞬間、はやてが怖い顔をして、
「……答えろや、答えなかったらその首斬り落とす」
 そう言い放つはやてに対し、かがみはゆっくりと口を開く。
「エリオと眼帯の女の子……後は覚えていないわ……」
「そうか……じゃあ、質問を変えようか。あんた……ここに来てからどうやって殺し回ってきた?」
「は?」
「この場に来てから何をしてきたかって聞いているんや、覚えている範囲全部答えて貰う」
「だから覚えていないって言って……がばっ!」
 腹部に蹴りが叩き込まれた。
「頭悪いな……覚えている範囲と言ったやろ……」
 と、はやては右手で憑神刀を構え左手で下着ごとかがみの口を押さえ込み――

 そのまま両足首に憑神刀をなぞらせた――

「がばぁぁぁ!」

 両足首に激痛が奔る、叫びたかったが腹の痛みと口を押さえられていた事により声にならなかった。

「本当に良く斬れるな」
 かがみの両足首からは血が流れている。アキレス腱が切断されたのだ。そして口から下着を持った手が離れ、
「あ……あんた……」
「これで私がスバル達みたいなお人好しと違うって理解出来たな。あんたが下手な事すれば今度はその首が飛ぶで」
「わかったわよ……」
 勿論、かがみ自身最後には死ぬつもりだった。だからこのまま突っぱねても別段問題はない。
 しかし、この女を殺さなければ気が済まない、故に今は従うしかない。後で絶対にコイツを殺してやる……そう考えかがみはこの場に来てからの事を語り出した。

279Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:14:15 ID:GPV1PITo0







 まず、殺し合いに放り込まれたショックから自分を保護しようとしたエリオを撃った。
 その血から自身の支給品にあった仮面ライダーに変身出来るカードデッキに宿る蛇の怪物が現れエリオが喰われた事を話した。

「どうせ、エリオも後で私を裏切るつもりだったんでしょ……今となっては後悔なんて無いわ……」

 その後、自殺しようとした所を友人だったなのはに助けられたがなのはは自分の事を知らないと言い放ち裏切った。
 そして今度はクワガタの怪物が現れ自分に襲いかかった。死にたくなかった自分はなのはの支給品にあったベルトを使い黒い仮面ライダーに変身した。
 その後の事はあまり覚えていない。その後暫くは2つの変身ツールを使い無差別に暴れ回った事は覚えている。その過程で誰か殺した奴もいたかもしれない。

「そうよ、なのはが悪いのよ! 私を裏切ったなのはが!!」

 気が付いたら今度はLと名乗る男に拘束されていた。何とか逃げだしたものの奪われたデッキのモンスターに追われ殺されかけた。

「私は悪くない! 悪いのはLよ!!」

 その後、万丈目準に保護されたが今度はその万丈目に参加者を餌にしなければ自分が喰われるカードデッキを押しつけられたのだ。

「バクラが言ってた通りアイツは悪人だった! 私はまた裏切られたのよ!!」

 続きを話そうとしたかがみだったが、

「ちょっと待て、1つ確認したいがバクラってのはもしかしてリングの中に宿った人格の事か?」
「それがどうかしたの?」
「もう1つ、あんたがリングを手に入れたのは万丈目に会った時って事でええな?」
「ええ、バクラも万丈目には困っていたわ。そういえば眼帯の女の子を襲ったって言っていたわ」
「そうか……続けてくれ」

 制限時間の迫ったカードデッキの餌を探そうとする中、ある男を餌にする為襲撃したが、その男は銀色の戦士メビウスに変身しモンスターが撃破された。
 そしてモンスターを倒され力を失い逃げた所、Lに奪われた荷物を見つけ回収した。その中にはカードデッキはあったがもう1つのベルトは無くなっていた。

「あんたまさかまたそれ手にしたって言うんか?」
「そうよ、他人を殺す為には力が必要でしょ」

 その後、ホテルで休憩をとりデュエルアカデミアに向かいスバルと出会った。
 その際にスバルから参加者が異なる平行世界から連れて来られている事を知り、こなたやつかさも別の世界から来ている事を知った。
 故にこなたやつかさも殺しても問題ないと考え、まずはスバルをモンスターの餌にしようとしたがその時に眼帯の少女を喰った。
 スバルとの交戦後、昇る煙を見てレストランに向かい、黒いライダーと緑の怪物の2つの姿を持つ男と、浅倉と戦った。
 その時にカードデッキは浅倉に奪われたもののどういうわけかは不明だが緑のライダーに変身する為のベルトを手に入れた。
 そして再びホテルへと向かったが、そこで浅倉によって再びレストランの方に連れて行かれ――

「浅倉が目の前でつかさを……! アイツ……私が殺してやるはずだったのに……!」

 そして再び浅倉と戦おうとしたが気が付いたらホテルに戻っていた。その後ヴァッシュと出会い、彼にスバルが危険人物だと伝えスバルと戦わせようとして――

「で、始とあんたを交え4人で戦った所、あんたは敗れて今に至るってわけか」
「とりあえず覚えている事は全部よ……」
「最後に1つ確認してええか、あんたは自分の行動を悪いと思っているんか?」
「は!? そんなわけないでしょ! 悪いのはなのはやL、それに万丈目や浅倉、それにスバル達よ! アイツらが私をこんな目に――」
「そうか」
「あんたの知りたい事は全部答えたわ、さっさとこの拘束解きなさいよ!」

 拘束を解いた隙を突いてデイパックを奪い、逆に仕留める。ダメージは大きいが喉仏に噛みつくと言った手段はまだ使える――そう考えていたが、

280Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:15:00 ID:Ij..ItUo0



「ああ、わかった――」



 と、再度下着でかがみの口を塞ぎ――今度は手首に憑神刀をなぞらせた



「――――――!」



 声にならない叫びが漏れた。両手首の腱を斬られた激痛から、何時しか股間からは黄色い液体が流れていた――



「あんたが救いようのない阿呆餓鬼ということがな――」



 口から下着を持った手を離したはやての声は変わらず冷たいものであった――そして再び腹部に蹴りを入れる。



「な……何を……」
 かがみの両手首と両足首からは血が止めどなく流れており、目からは涙が溢れている。声を出そうとしても大きな声は出せないでいる。
「今更理解出来るとも思えへんけどな……教えてやる。全部が全部と言うつもりは無いが、あんたの行動の殆どは決して許されん悪行や」
「違う……私は悪くない……悪いのは……」
「エリオもなのはちゃんもあんたを救おうとした、その善意をあんたは裏切ったんや! 不可抗力によるものもあったんやろうけど、後から幾らでも悔いる事は出来た筈や!」
「違う……あの2人は私を……」
「違わない! 私はあんた以上にエリオもなのはちゃんも知っている! あの2人があんたを陥れる事なんてありえへん!」
「違う……」
「Lにしてもそうや、その前にあんたずっと暴れていたんやろ? 危険人物として拘束して当然や。まぁ、保護の為にモンスターを使って追わせたのは完全な失策やったけどな」
「そんなわけない……」
「万丈目に関しては完全な嵌められたといえるが……けど、あんただって同じ事考えていたやろ。万丈目を餌にしようと考えていたんと違うん? それがわかっていて素直に餌にされるアホもいないと思わん?」
「それは……」
 確かにかがみ自身万丈目を餌にしようとはしていた。だがそれは万丈目が悪人だったからだ、少なくても自分は悪くない筈だ。
「それからメビウスっちゅう奴にモンスターを倒された時点で自分が喰われる危険から解放されたんやろ、なのになしてまたそんな危険の漂うデッキを手にするんや?」
「殺さなきゃ生き残れないからよ……」
「で、スバルはあんたを保護しようとしたにも拘わらず……あんたはそれを裏切り殺そうとした。スバルが何時あんたを裏切った?」
「これから裏切るつもりだったのよ……そうに決まって……」
「スバルの事も知らんで偉そうに語るな馬鹿が! 今度はヴァッシュを騙してスバルと戦わせたっちゅうんか? 本当に救いようのない極悪人やな!」
「違う、ヴァッシュも私を裏切……」
「最初から決めつけてかかっていたんやろ。警戒するなとは言わんがあまりにも凝り固まり過ぎや……」
「違う違う違う……」
「もしかしたらバクラに騙されていたという可能性もあったわけやけど……あんたの口ぶりからそれはなさそうやな」
「それは……」
 確かにバクラは他人を殺す為のサポートを続けてくれた。しかし、覚えている限りバクラは自分を助けてくれただけで重要な決断の殆どは自分がしていた。







「本当に救われんな……こんな阿呆餓鬼にシグナムが殺されたなんてな……」
「シグナ……まさか……」
 この瞬間、かがみはシグナムを殺した時の事を思い出した。確かに桃髪の剣士を仕留めた覚えがある、そして目の前の女がシグナムと呼んでいた様な気がする。しかし何かがおかしい――
「そうや……あんたがベルトの力で暴走している時に殺したのが私の大事な家族のシグナムや!」
「違う……あれはベルトの……」
「そのベルトなら私も一度確認した。説明書さえ見ればそれがどんだけ危険なものかわかる。そしてベルトを身に着けたのはあんたの意志によるもの、暴走なんて言い訳は通用せん」
「私は悪くない……私は……」
「そういってスバルやなのはちゃんの良心に付け込んでまた騙すつもりか? いい加減にしろ! 例えどんな理由があってもあんたが私の家族を殺した事に変わりは無い!」
「くっ……そうよ、どうせシグナムって人も別の世界の人間に……」
「それはひょっとしてギャグで言っているのか? あんた、自分の家族や友人が殺されたと言われた時キレていたやん。別世界の人物だって言っておきながらな。
 その一方で友達とか家族とか言った時は別世界の人物だから関係ないって……自分に都合の良い解釈も大概にしろ!」
「それは……」
「結局の所、あんたは自分を正当化する為にそうやってずっと言い訳し続けて来ただけって事や」
「違う……私は間違ってなんか……」
「それに、別世界のシグナム達であっても私にとっては家族に変わりはない……」
「あんたもそんな甘い事を……」
「甘い……そうやな……せやけど……!」

281Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:17:45 ID:GPV1PITo0





 その瞬間、はやては下着をかがみの口の奥へ押し込み憑神刀で腹部を一瞬で貫いた。





「頭ではどんなに別人だってわかっていても割り切れるものやない……!」
 憑神刀が抜かれた瞬間、かがみの腹部からは血が溢れ出てくる。
「がば……」
 両手足、腹部の出血は大きく、かがみはただもがく事しか出来ない。
「これで終いや……運良く誰か来れば命は助かるかも知れんが……まぁ、死にたいんやったらそれでも構わん……けど……死ぬなら1人で死ね、あんたの都合にこれ以上私等を巻き込むな……」





 そう言い放ち、はやてはかがみの前から去っていった。





 そして、そこには1人、両手足と腹部を切られ、自らの服で拘束された少女が残されていた――





(違う……私は……間違ってなんか……)





 助けてくれる者も無く、少女は未だに自らの過ちを認めずにいた――





 放送まで約1時間――





 時の流れに呼応するかの様に――血と共に彼女の命も流れ――





 それが尽きる瞬間は確実に近付いていた――





【1日目 真夜中】
【現在地 D-1】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】両手首の腱及び両アキレス腱切断(出血中)、腹部に深い刺し傷(出血中)、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ
【装備】全裸(両手両足をホテルの従業員の制服で拘束、口には下着が詰められている)
【道具】無し
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.私は……悪くない……。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。

282Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:18:45 ID:GPV1PITo0











(全く、これからどうしたものか……)
 バクラの予想通り、スバル達はかがみを殺す事はしなかった。しかし危惧した通りスバルがヴァッシュに自分の存在を伝え処分を頼んだのだ。
 その為、ヴァッシュも警戒してしまい下手に動く事が出来なくなったのだ。
 勿論、かがみの今の状態で動いた所でどうにもならない為、それ自体は問題ない。
 その後、はやてがかがみを連れて何処かへいく際に自身が宿るリングはヴァッシュの手へと渡った。
 これ幸いにと、今度はヴァッシュを宿主にしようかと密かに考えていたものの――
(ダメだ、コイツは救いようの無いお人好しだ)
 ヴァッシュの記憶を把握し、彼が150年もの間人々を救い続けてきた事を知った。その為、宿主にする事はまず不可能と判断した。
 勿論、強引に意識を奪おうとも考えた。だがヴァッシュが普通の人間ではない(実際、人間ではなくプラントなのだが)為、相棒であるキャロ・ル・ルシエ同様抵抗される可能性が非情に高い。
 仮に上手く乗っ取れた所で長くても1時間しか自由に出来ない。その時間が過ぎればその時点で自分は終わりだ。
 はやて辺りを宿主にしようにもヴァッシュが千年リングの危険性を説明した為間違いなく警戒されている。つまり八方塞がりに近い状況という事だ。
(とりあえず、何とか処分されない方法を考えないとな……)
 デスゲームを楽しんだは良いが自分は消えましたではシャレにならない。まずは自身が生き残る事が最優先、バクラはそう考え思考を巡らせていた。ちなみに既にかがみの事など思考にはない。





 はやてとかがみが密林へ消えた後、アギトはヴァッシュと話していた。
 アギトはルーテシアとゼストの動向をヴァッシュに聞いていたものの、ヴァッシュ自身2人を見かけたかどうかはわからないと答えていた。
 ヴァッシュによるともしかしたら自身の力の暴走に巻き込んだ可能性があるとも語ってはいるが――アギト自身口にはしないもののそれは無いと考えていた。
 ヴァッシュが善悪関係なく人々の命を守ろうとしているのはアギトでも理解出来た。そんな男が自分の力で生み出された死体を見つけたらそれを忘れる事はないだろう。
 勿論、ヴァッシュの見えない所でという可能性はある。しかしそれを確かめる事はまず不可能、故にアギトはヴァッシュを責めるつもりは全く無かった。
 少なくてもある程度信じても良い、アギトはそう考えていた。

 しかし、そんなヴァッシュを裏切ろうとしている事にアギトは胸を痛めていた。
 はやてがかがみにしようとする事をヴァッシュが知れば絶対に止めに入る。それを避ける為、アギトはヴァッシュと会話しながら時間を稼いでいたのである。

 はやてがかがみを殺してシグナムの仇を討つ、アギトはそれに手を貸していたのである。

283Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:20:45 ID:GPV1PITo0



 そもそもの話、ゼストやルーテシアの死、そしてヴィータとの別れの悲しみから数時間は動けなかった。
 それでも、遠くから聞こえる雷鳴を聞いている内に何時までも悲しんではいられないと思った。
 ゼストやヴィータ達がそれを望まない事は明白だからだ。だからこそ、意を決しデイパックから顔を――
 が、運命の悪戯か真っ先に見えたのはシグナムを殺した紫髪の少女だった。どういうわけかはわからないが彼女を連れている事はわかった。
 シグナムを殺した奴がのうのうと生きている――アギトの中でやりきれない想いが込み上げてきた。
 だからこそ、その事をはやてに伝えた。かがみという名前だったがそんな事はどうでも良かった。
 だが、結局の所アギト自身はどうしたかったのだろうか?
 少なくてもこのアギト自身にしてみればシグナムが死んだ所で仇討ちをする義理は無い。確かに悲しみは感じるがそこまでする様な関係ではない。
 大体、復讐や仇討ちなどゼストの正義とは真逆ではなかろうか。そう、頭ではそれはわかっていた。
 だが、仮に目の前のゼストやルーテシアを殺した相手を見つけて――同じ事が言えるだろうか? アギトにはそれが言えなかった、最低でも何故殺したのか位は聞かなきゃ収まらない。
 だからこそ、ヴィータがシグナムを殺したかがみを殺すと言った時もアギトはそれを咎めようとはしなかった。別段親しいわけでもなかったがヴィータの悔しさは十分に理解出来たのだ。
 のうのうと生き延びているかがみの姿を死んだヴィータが見たらどう思う? きっと悔しい想いをしているだろう。アギトにはそれが辛かった。
 しかし、別にシグナムと関係のないアギト自身にはかがみどうこうする資格はない。だからこそ全ての判断をシグナムの主であるはやてに委ねたのだ。
 はやてが許すならそれで良し、仇を討つならそれでも良しという事だ。
 そして、その結果がこれである。

 わかっている――ある意味ではゼストに対する裏切りである事は――
 それでも――ヴィータやシグナムの無念を晴らしたいというのは混じりっけのない本心だった――





 バクラやアギトの思惑に気付くことなくヴァッシュははやて達を待った。
 はやてがかがみを宥めてくれればスバルの仲間と会わせる事で説得は上手く行く――そう信じていた。
 ヴァッシュははやてがスバル同様、殺し合いを良しとしない人物だと考えていた。
 スバルの上司だからというのもあったし世界が違ってもなのは達の仲間だからだ。
 だからこそ、ヴァッシュははやての行動の真意に気付けなかった――そして、

284Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:21:30 ID:GPV1PITo0







「はぁ……はぁ……」



 深い森から出てきたのは胸から血を流したはやてだった。その様子を見た2人が駆け寄り、アギトははやての方へ移動する。
「なっ……どうしたんだはやて!? それに……」
「すみませんヴァッシュさん……かがみが急に暴れて……逃げられました……」

 はやての話によると意識を取り戻したかがみにアジトにいるスバルの仲間にしてかがみの友人であるこなたと会わせる話をした瞬間、かがみは暴れだしはやてに傷を負わせたという事だ。

「多分、アジトへ向かったんやと思います……急がんとこなたが……」
「はやては大丈夫なのか!?」
「大丈夫、前に受けた傷が開いただけですから……」
「かがみ……君は……」




 ヴァッシュは2人だけにするんじゃなかったと悔やんだ。しかし今はそれは問題ではない、かがみがアジトへ向かった以上こなたが危ない。
 素手でもその気になれば人は殺せる。それを阻止する為にも急がなければならない――

 誰も死なせない、殺させない為に――





【1日目 真夜中】
【現在地 D-9 森林】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(中)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.スカリエッティのアジトへ急行しかがみの凶行を止める。
 2.かがみをこなたに何事もなく会わせる。
 3.こなたに出会ったら、スバルからの伝言を伝える。
 4.首輪の解除方法を探す。
 5.アーカード、ティアナを警戒。
 6.アンジールと再び出会ったら……。
 7.千年リングには警戒する。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている可能性を把握しました。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.そろそろ宿主サマを変えたい、しかしヴァッシュは利用出来そうにない。
 2.千年リングを処分されない方法を考え実行する。
 3.キャロが自分の世界のキャロなのか確かめたい。
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。
※ヴァッシュを乗っ取る事はまず不可能だと考えています。

285Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:22:30 ID:GPV1PITo0





 ヴァッシュがアジトの方角へ視線を向けているのを見てはやては自分の作戦が上手く行った事を確信した。
(よし……これで自分がかがみを襲ったとは思わないな……けど油断は禁物や)

 何度も書くが、はやてはかがみの説得は難しいと考えており何とか排除したいとすら考えていた。しかし、スバル達と対立を起こす関係もありそれは難しいと思っていた。
 そこにアギトからシグナムを殺したのがかがみという事が伝えられた。
 詳しい事は聞いていないものの、それを聞いた事ではやてはかがみを排除する事を決意した。

 その過程を纏めると以下の通りだ、
 ヴァッシュに休憩と称して情報交換を持ちかける。仮にアジトに着いてからと本人が渋っても、信用出来ないからさせてくれと言えば断り切れない可能性は高い。
 その後、今度はかがみと2人だけで話をさせてくれとヴァッシュに頼む。スバルとの約束からこれまた渋るだろうが、面識のない自分なら警戒されない、女同士でしか出来ないと言えばこれまた納得して貰えるだろう。
 かがみが何も持っていなければ手も出せないだろうし、まさかスバルの仲間である自分がかがみを手に掛けるとは思わないだろう。
 その間、アギトにヴァッシュと話をさせ時間を稼いで貰う、幸いアギトはゼスト達の情報を聞き出したかったせいか素直に従ってくれた。

 と、実は当初の予定では密林の奥でかがみを排除するつもりだったがヴァッシュの話からある事がわかり予定を変更した。
 ヴァッシュの移動ルートを見る限り明らかに不自然な点が見られる。その一例として神社から移動後、海に落ちたという話だ。
 ヴァッシュは地図を持っていなかった為気付いていないだろうが、神社や北端のA-4、海は南端のI-1〜4にある。
 そう簡単に移動出来る距離ではない。仮に移動出来たとしても精神的に疲弊している状態とはいえ海に落ちるなどお粗末すぎる話では無いだろうか?
 この話からはやてはある仮説を立てた、それは『フィールドの両端は繋がっている』という説だ。確かにこの説が確かならAラインの平野からいきなりIラインの海に落ちても不思議はない。

 そう、はやてはこの仮説を利用しかがみを排除する為の場所をD-9を西に越えたエリアである東端D-1にする事にしたのだ。仮説が間違っていれば当初の予定通り密林の奥で行えばよいだけだ。
 調べた所、境界の奥は見た目ではわからない。つまり、ループの先のエリアは越えなければ把握出来ないと言う事だ。これならば万が一ヴァッシュが探しに来てもそう簡単には見つからない。
 それにどうやらヴァッシュはループには気付いていない。まさか遠く離れた東端にワープするなど考えもしないだろう。
 そして、適当な場所にたどり着いたらかがみの服を全て脱がせ隠している武器が無い事を確かめる。勿論、武器が無くても不思議な力がある可能性があった為、決して警戒は怠らない。
 かがみを丸裸にした後、着ていた服で両手と両足を拘束し下手に叫ばれない様下着をその口に詰め込んだ。

 そうして意識を取り戻したかがみから詳しい情報を聞き出し、排除するという算段だったのだ。なお、誰か助けが来そうになった場合はすぐさま首なり心臓なり斬り捨てすぐさま待避するつもりだった。
 ちなみに完全に拘束していたとはいえ反撃はずっと警戒していた。実際、手首を斬る直前電撃が僅かに奔るのが見えた為、その攻撃が来る前に手首を斬る事でそれを封じる事が出来た。

 事を終えた後は、憑神刀等でクアットロに斬られた胸の傷を強引に開き負傷した状態を作りそのまま戻る。
 その後、ヴァッシュ達にかがみに襲われ、彼女はアジトへ向かった可能性があると説明しそのままアジトへ向かうという算段だ。
 こうしておけばヴァッシュ達がかがみを発見する可能性は無いし、アジトにかがみがいなくてもそもそも可能性レベルだったと説明すれば何の問題もない。
 ちなみにかがみにはスーパーに移動中と伝えている為、かがみが回復したとしてもアジトの方へ向かう可能性は低い。

 こうしておけば自分がかがみを殺したとはすぐに気付かれないだろうが、実はバレてもある程度は何とか出来る。
 そう、シグナムの仇討ちとしてかがみを殺したと言えば良い顔はされなくてもある程度は納得してくれる。その算段があったからこそはやては行動に踏み切る事が出来たのだ。

286Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:26:30 ID:GPV1PITo0



 真面目な話、はやてにとってシグナムの仇討ちなどどうでもよかった。別世界のシグナムが殺されようか関係ないからだ。
 だが、かがみと話を進める内にはやての中からどうしようもない怒りの感情が湧き上がってきた。
 勿論それは自分の悪行を全てなのは達他人のせいにするかがみに対する憤りだったのだろう。彼女の為に貴重な戦力を失うのが許せなかったとも言える。
 もしかしたら全てバクラのせいかとも考えたがアギトが不思議がった様子から、アギトが見た時点ではリングが無かった可能性が高い。
 故にバクラのせいではない事は確定となる、もっともバクラのせいだからと言って決して許される話ではないわけだが。
 何にせよ、かがみの言動ははやてを怒らせるのに十分過ぎた、こんな奴の為にシグナム、エリオ、チンクが殺されたというのはあまりにもやりきれない。
 最後に刺した瞬間は理性など吹っ飛んでいたかも知れなかった。


 だがはやてはかがみを殺さなかった。両手首、両足首を斬り、腹部を深く刺したものの命までは奪っていない。出血が激しい為長くは保たないが助かる可能性は僅かに残っている。
 では、何故殺さなかったのか? ボーナスを考えても殺した方が得策ではないのか?


 その理由ははやて自身にもわからなかった。
 別世界のシグナムの仇討ちをする事は自分の世界のシグナムに対する裏切りだから殺さなかったのかも知れない、
 八神はやてが仇討ちをする事などあってはならないからこそ殺さなかったのかも知れない、
 その理由は誰にもわからないだろう。



 しかし、1つ確かな事がある。

(あれは……私や)
 かがみの名が示すかの様に、かがみの姿がはやて自身の姿と重なったのだ。別世界の仲間を別人と割り切った上で平気で裏切り陥れる、はやて自身が嫌悪感を示す程の醜い姿だ。
 その姿ははやて自身にもそのまま当てはまる。かがみの姿を見て、はやてはそれを理解したのだ。
(あの夢で見たみんながあんな目で私を見たのは……まぁ当然やな、私だってそう思うからな)
 先程見た夢で家族がはやてを蔑む様な悲しい目で見た理由を理解した。それは家族を取り戻した後の自分の姿なのかも知れない。
(わかっている……この先には何もないかも知れん……それでもや、それでも私はもう戻れへん……進むんや……)

287Yな戦慄/八神家の娘 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:27:30 ID:GPV1PITo0





 行く先に待つのは絶望だけかも知れない。それでも、僅かな希望を信じ、八神家の娘は前へと進む――





(さしあたり考える事は……バクラ、あんたはこの状況でどう動く? ヴァッシュさんを乗っ取るつもりか? それとも――)





【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷(浅め)
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スカリエッティのアジトへ向かい、そこで夜天の書の安全を確かめたい。
 2.バクラを警戒、ヴァッシュを乗っ取るか?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居及び始は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
※夜天の書が改変されている可能性に気付きました。安全確認及び修復は専門の施設でなければ出来ないと考えています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.これで……良かったのか……?
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

288 ◆7pf62HiyTE:2010/07/14(水) 16:30:30 ID:GPV1PITo0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>267-277が前編『Yな戦慄/烈火剣精は見た!』(約29KB)で、>>278-287が後編『Yな戦慄/八神家の娘』(約28KB)です。

今回のサブタイトルも『仮面ライダーW』風……というより今回はちゃんと元ネタがあります。
『仮面ライダーW』第9話『Sな戦慄/メイド探偵は見た!』、第10話『Sな戦慄/名探偵の娘』です。
ご覧の通り、Yは八神はやてのYとなっています(一応夜天でも問題なし)
うん、亜樹子所長殿は平成ライダーでもトップクラスに有能なヒロインだな。

……しかし、今回の描写はアリだったのだろうか? まぁ失禁ぐらいはするだろう。

289リリカル名無しA's:2010/07/14(水) 20:39:23 ID:qV.5/DlAO
投下乙です
丸裸のかがみ…汗ばんだ下着を口に突っ込まれ、四肢を縛られた状態で放尿プレイか…それなんてエロゲ。不覚にも興奮してしまった自分が嫌いだ。
まあそれはいいとしてついにかがみも現実と向き合う時が来たようで。残り僅かな命、後悔に使うか、それとも…?
それにしてもはやては本当に醜い。自分の醜さを棚に上げて、心にもない癖にシグナムが殺された事を怒りの理由にこじつけるとは。
かがみもはやてもどっちもどっちだが、かがみでこれならはやても大概いい死に方しないだろうな。

290リリカル名無しA's:2010/07/14(水) 21:18:40 ID:R6D6v9xQ0
投下乙です。
かがみ……ここへ来てついに本当の意味で窮地に立たされたか。
はやてに言われて自分の罪と向き合う機会も出来たようだけど、もう助かるのは無理……かな?
出来ればかがみにはこなたと会って、きちんと話し合って欲しかったけど、今までの行いを考えれば自業自得か。
そして相変わらずはやても汚い。序盤から悪人で通してきて、クアットロに刺された時の住人の反応も
「はやてざまぁ」な空気だったけど、今はあの時以上に悪質さが悪化してる気が……?
さて、バクラはどう出る……? ヴァッシュに持たれたままじゃ完封されたも同然だが……。

291リリカル名無しA's:2010/07/15(木) 00:27:09 ID:ar4uUecE0
投下乙です
これはえぐい。想像以上にえぐいの来たわw
かがみはこの状況で残りの命をどう使うのか…
これはこなたと鉢合わせは無理…というか会わないで死に別れの方がいいかも
そしてはやては醜い。打算や損得、そして己の醜さを棚上げして相手の非を叩く。俺の嫌いなタイプだ

292リリカル名無しA's:2010/07/17(土) 17:05:38 ID:dlhSJugU0
投下乙です
かがみ=鏡=自分の姿という比喩は上手いこと嵌っているな
でも醜さレベルだとかがみの方が上だけどw
それにしてもかがみの状態が酷いな……
もう助かる可能性なんてないからいっそのこと誰か書き手さん殺して――ん、現在地D-1って確か……

293 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:25:20 ID:.DfmzCYc0
お待たせしました。ではこれより、相川始、ヴィヴィオ、エネル、金居、スバル・ナカジマ分を投下します

294散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:26:06 ID:.DfmzCYc0
 ぎん、ぎん、ぎん、と響く音。
 ホテル・アグスタの暗闇の中で、軌跡を描くは眩い火花。
 金属音をかき鳴らしながら、2人の男が戦っている。
 人外の容貌を身に纏い、激しい攻防を繰り広げている。
「ふん!」
「はあァァァッ!」
 片や黒き鎧の男。ハートの意匠を赤く光らせ、鋭い刃を振りかざす者――相川始こと、仮面ライダーカリス。
 片や金色の怪物。二振りの双剣を振り回す、クワガタムシを模した異形――金居こと、ギラファアンデッド。
 きぃぃん、と長い刃音が鳴った。
 鎧のカリスアローが弾かれ、怪物のヘルターとスケルターが襲いかかった。
 ぎんっ、と重い音と共に、カリスの刃がギラファを阻む。
 互いに殺し合うことを決定づけられた、アンデッドのジョーカーとカテゴリーキング。
 血と殺戮の宿命に従う不死の魔物達が、その手に剣を握り、振るい、ぶつかる。
「始さん……」
 そしてその因縁の決戦を、すぐ横から傍観する者がいた。
 スバル・ナカジマ。機動六課前線フォワード分隊所属。
 青い髪をショートカットに切りそろえた、若きフロントアタッカー。
 始を救い、変えた、ギンガ・ナカジマの実の妹。
 その少女が戦場のすぐ傍に立ち、彼らの戦いを見届けている。
(攻め手を焦っている……?)
 人外の魔闘を見据える彼女が、率直に抱いた感想が、それだった。
 始だけではない。相手のカテゴリーキングなる化け物もそうだ。
 この連中の攻撃ペースは、軽い違和感を覚えるほどに早い。
 単調な攻撃を、スタミナを度外視したテンポでぶつけ合っている。
 先ほどかがみと戦っていた時に比べると、カリスの戦闘スタイルは、随分と慎重さを欠いているように見えた。
 そしてそれでもなおその隙を突かれることがないのは、相手の攻めもまた単調なものとなっているからに他ならない。
(そんなに決着をつけたいってことなんですか)
 導き出された結論に、胸が痛んだ。
 恐らく両者は、ここに至るまでに何度か刃を交えたのだろう。
 そしてその度に、何らかの事情で戦闘を中断され、決着をお預けにされてきたに違いない。
 今こそ決着を。
 今度こそここで終わりにしてやる。
 誰にも邪魔されないうちに、今度こそ奴に引導を渡してやる。
 仇敵を倒しきることができず、互いを探し求めるうちに溜めこまれてきた闘争の欲求が、今まさに爆発しているのだ。
 戦場に立ちこめる熱気は、外界からの介入を拒む壁だ。
 もはや何人であろうとも立ち寄れない――そんな錯覚さえ覚えるほどの、熱戦だった。
(それでも、いざという時には)
 ぎゅ、と右手を握りしめる。
 いかに激しい戦いであろうと、いざという時が来た時には、自分が飛び込んで止めなければならない。
 これ以上自分の目の前で、誰かが誰かを殺すのはまっぴらごめんだ。
 ようやく心を重ね合わせられそうになった始が相手ならば、なおさらだった。
 この戦いを見届ける。
 その行く末をよき方向へと導き、始をスカリエッティのアジトへと連れていく。
 今すぐに飛び出すことはできなくとも、それが今のスバルの役目であり、使命だった。

295散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:26:51 ID:.DfmzCYc0


 全く、俺は何をやっているのだろうな。
 何度となく繰り返した自問が、今もまた始の脳裏に響く。
 殺すためでない戦いなど、まるで自分らしくない。
 地球上の全生命種を虐殺するために生まれたジョーカーには、腐臭と返り血こそがお似合いだったはずなのに。
「とぁっ!」
 ぶん、とカリスアローを振るう。
 ヘルターにそれを受け止められ、スケルターによる反撃が迫る。
 ひらりと身をかわし、回避。己が刃を引き戻し、バックステップで後方へと下がる。
 構えた得物の名は醒弓。
 どどどどどっ、と音を立て、光の弾丸を連続発射。
 う゛んっ、と大気の震える音が鳴った。
 ギラファアンデッドを覆うバリアが、フォースアローを全弾防ぎきったのだ。
「オオオオオオッ!」
 だが、無論そんなことは百も承知。
 カテゴリーキングの鉄壁の牙城に、その程度の射撃が通用しないことは理解している。
 なればこそ、この連弾はあくまで牽制。
 相手の動きを抑え、直後の突撃に繋げるための囮。
『CHOP』
 カリスアローへとカードをラウズ。
 シュモクザメの始祖を封印したハートの3――チョップヘッドの効力を発動。
 消費APは600。得られる能力は、腕力強化。
 通常以上の破壊力を上乗せした必殺の手刀・ヘッドチョップの使用を可能とするラウズカードだ。
 駆ける、駆ける、疾駆する。
 己が全脚力を発揮して、ギラファアンデッドの懐へと飛び込んでいく。
 こんな気持ちで戦う日が来るとは思わなかった。
 天音母子でもない何者かの想いのために、こうして全力疾走することになるとは思わなかった。
 こんなことは、死神の仕事ではないというのに。
 ジョーカーであるはずの自分にはまったくもって似つかわしくないというのに。
「ダァッ!」
 それでも今は、かつてほどそれを不快には思わない。
 人の想いの尊さを知った今なら、多少は素直に受け止められる。
 人を守るための戦いも、その人の美しさを知った今ならば、悪くないと思える自分がいる。
 びゅん、と右手を振りかぶった。
 渦を纏った手刀が唸った。
 大気を切り裂く疾風の一撃が、目にも止まらぬ速度で異形へと殺到。
「ちィッ……!」
 がきん、という鈍い音と共に。
 神々しささえ漂わせる黄金の甲殻が、眩い火花を上げてたじろぐ。
 ゴリ押しで叩き込んだヘッドチョップが、クワガタの魔物へと命中した。
 手ごたえあり。直撃だ。
「はぁぁっ!」
 だがこの程度で倒せる相手ではないことも理解している。
 故にこの硬直につけ込み、更なる攻撃に繋げる必要がある。
 もとよりカリスの基本スペックは、カテゴリーキングたるギラファよりも劣っているのだ。
 その上で確実に勝利を手にするためには、相手に反撃の隙を与えず、一気呵成に連続攻撃で畳みかけることだ。
「調子に乗るな!」
 しかし。
 カリスアローを振り上げ、次なる攻撃を繰り出そうとした瞬間。
「ぐぁっ!」
 クロスに振り下ろされた金居の双刃が、斬撃ごと始を弾き返した。
 ヘッドチョップ以上の轟音と共に、漆黒の鎧が投げ出される。
 黄金と白銀の剛剣の軌跡が、目の奥でちかちかとスパークする。
「く……」
 唸りと共に、身を起こした。
 カリスアローを杖としながらも立ちあがり、構えを正し、正対した。
 さすがにこれだけでどうにかなるほど、仮面ライダーはヤワじゃない。
 力任せに振り抜かれた程度なら、まだスバルの放ったあの一撃の方が効く。

296散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:27:38 ID:.DfmzCYc0
「そうだ、ジョーカー。お前にはその方がお似合いだ」
 ぎらん、と金と銀が光る。
 黄金のヘルターと白銀のスケルターを、互いにこすり合わせて刃音を鳴らす。
 挑発的な動作を取りながら、黄金色の王者が語りかけた。
「所詮お前は処刑人……戦ってこそのジョーカーだ。人と群れるなんて似合わないのさ」
 だからさっさと楽になれと。
 殺戮者の本能に身を委ね、ジョーカーとなって好き勝手暴れるがいいと。
 どうせ滅ぼしてしまうのだから、人間とじゃれ合うことなどやめちまえ、と。
 なるほど確かに、こんなことはジョーカーらしくない。
 いずれは全人類を滅ぼすかもしれない厄災が、人の情になびこうとするなど、虫のいい話なのかもしれない。
「たとえそれしかできなくとも……昔のように戦うことはしない……!」
 だが、それでも構いはしない。
 自分が闘争を求める殺戮者であったとしても、それでも構わないと思っている。
 人と分かり合うことができなかったとしても、それでも構わないと思っている。
 カリスアローを握り締めた。3枚のカードを手に取った。
 ハートの形を描く紅蓮の複眼が、決意に眩く煌めいた。
「戦うことしかできないとしても……それが誰かを守ることに繋がることだってあるはずだ……」
 いずれは決着をつけなければならない時が来る。
 この身がアンデッドである限り、いつか人とぶつかり合う日は必ず来る。
 かつてのヒューマンアンデッドのように、人類種の代表として戦う戦士――仮面ライダーと戦う時は、いつか必ず訪れるだろう。
 そうなれば、必ず何かが終わる。
 人の世と自分の命、どちらかが潰えることになるだろう。
 だが、せめて。
 せめてそれまでの間は、自分にも人の想いを守れるのだと信じたい。
 ただアンデッドを駆逐するだけの戦いでも、それで救われる命があるのだと願いたい。
「本物の仮面ライダーになれなくとも、仮面ライダーの真似事くらいはできるはずだ……!」
 ハートの4――フロート。
 ハートの5――ドリル。
 ハートの6――トルネード。
 無機質な機械音声と共に、手にしたカードがラウズされていく。
 蜻蛉、巻貝、そして鷹――3種の原種の内包した力が、この身を駆け巡っていく。
『SPINING DANCE』
 あの青色の髪の娘と共に戦うことはできない――その想いは、今でも変わることはない。
 正義のヒーローは眩しすぎる。
 誰の命も奪わせたくないと願うスバルと、ギラファの犠牲も辞さない自分は、いつかどこかですれ違う。
 そして、たとえそうでなかったとしても、自分は本物のライダーにはなれないのだろう。
 人のために尽くしても、人と共存できないジョーカーは、人から賞賛されることはない。
 仮面ライダーとまるきり同じように、理解と共感を受けることはできない。
「だから俺は、仮面ライダーを名乗って戦う! まがい物であったとしても……人の想いを守るために!」
 ならば、自分は日陰者でいい。
 たとえ誰からも褒め称えられずとも、誰からも愛されなかったとしても。
 自分が勝手に愛した人間達を、勝手に守っていく程度で構わない。
 正義の味方になれずとも、日陰に紛れて悪を討つ、闇の処刑人で構わない。
 それも無駄ではないはずだ。
 それでも昔よりはましなはずだ。
 ただ淡々と敵を討つだけの日々よりは、ずっと尊く、胸を張れる生き方であるはずだ。
 そうだろう――――――ギンガ!

「俺は――仮面ライダーカリスだッ!!」

 絶叫と共に、床を蹴った。
 ラウズカードの輝きと共に。
 トルネードホークの突風と共に。
 漆黒の烈風と化したカリスが、宵闇を切り裂いて飛翔する。
 仮面ライダーとして認めてほしいわけではない。あえてその名を名乗ったのは、いわば意思表示と戒めだ。
 有言実行の意志のもと、その名に相応しい存在にならんと。
 たとえ狂気に堕ちたとしても、決して人を害することをしないようにと。
「ハァアアアアアアアアア―――――――――ッッッ!!!」
 ラウズカードコンボ、スピニングダンス。
 消費AP、3200。仮面ライダーカリスの持つ、最大最強の威力を有した必殺キック。
 その姿はまさに疾風一閃。天空より飛来し邪悪を撃ち抜く、一撃必殺の風の矢だ。
 ドリルのように身をよじり、竜巻のごとき風を纏い。
 一陣の風となった鎧の戦士が、ギラファアンデッド目掛けて殺到した。

297散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:28:29 ID:.DfmzCYc0
「馬鹿め!」
 しかし、それでも動じない。
 始の持つ最高火力のコンボを前にしても、黄金のキングは避けようともしない。
 素早く腰部へと伸ばした手を、そのまま投擲のようにして振るう。
 回転する始の視界の片隅で、きらん、と黄金が光った気がした。
 瞬間。
「っ!?」
 ずどん――と爆音。
 次いで、がくん、と身を襲う違和感。
 足元で爆ぜた衝撃と熱量が、スピニングダンスに急激なブレーキをかける。
 スピンの勢いが相殺され、回転軸が僅かにぶれた。
 それがギラファアンデッドの腰部に備え付けられた、鋏型の爆弾であった時には既に遅く。
「ォオオオオオアァッ!」
 揺らぐ視線の先には、光り輝く双剣を構える金居の姿があった。
 気合いと共に襲いかかる、二閃。
 妖しき光を纏ったヘルターとスケルターが、飛来するカリス目掛けて突き出される。
 瞬間、世界が炸裂した。
 轟、と響いた衝撃音と共に、強烈な極光が世界を照らした。
「があぁぁっ!」
 眩い闇を切り裂いたのは、今まさに必殺の一撃を放たんとしていたはずの始の悲鳴。
 呻きと共に弾かれた漆黒の鎧が、もんどりうって床を転がる。
 てらてらと水溜まりを作る緑色の血と、足から立ち上る黒煙が、そのダメージの大きさを物語っていた。
 ダイヤのカテゴリーキング――ギラファアンデッドの双刃には、ブーメラン状の光弾を放つ能力が備わっている。
 本来なら射撃武器として用いられるのだが、敵はそれを刀身に留め、斬撃の破壊力を強化したのだ。
 いかにカリスのスペックがジョーカーに劣るといえど、その最大必殺技をまともに受けては、さすがの金居もひとたまりもない。
 しかし、あらかじめ爆弾を命中させ勢いを殺したところに、
 120パーセント以上のパワーを込めた斬撃を当てれば、このようにして対処可能。
 それでも、一瞬でも爆弾を投げるタイミングが遅ければ、反撃に転ずる前に殺られていた。
 それを難なくこなしてのけたのは、さすがは最上級アンデッド屈指の切れ者といったところか。
「随分といい台詞を言うじゃないか。感動的だな」
 鎧の表面から立ち上る陽炎の奥で、黄金の異形が口を開く。
 挑発的な口調と共に、勝ち誇ったギラファが言葉を紡ぐ。
「だが無意味なんだよ。御大層な理想を口にしても、それを叶えるための実力が伴ってないようじゃあ、な」
 こんなところで俺に倒されるようでは、誰一人として救えはしないぞ、と。
「くっ……」
 ああ、確かにその通りだ。
 傷などは戦っているうちに治る。だが、問題はそこではない。
 必殺の覚悟で放ったコンボだったが、今のを防がれたことで、AP残量が相当に厳しいことになってしまったのだ。
 スピニングダンスの消費APは3600。
 さらにヘッドチョップの発動で600マイナス。
 初期APの7000からそれらを引くと、残されたAPは既に2800しかない。
 スピニングアタック――否、スピニングウェーブを使った時点で、ほぼカード1枚分のAPしか残らなくなる数値である。
 つまり、これほどの敵を相手にしていながら、カリスは完全に決め手を欠いた状態で戦わなければならないということだ。
 その程度のAPで勝てるほど、カテゴリーキングは脆弱な存在ではない。
「さて……そろそろお前との因縁にもケリをつけようか」
 じゃきん、と双剣が引き抜かれる。
 かつり、かつりと歩み寄ってくる。
 どうする。どうやって対処する。
 一度変身を解いてAP消費をリセットするか? 否、変身制限の設けられたこの舞台では、その戦法は実行できない。
 ジョーカーへと変身して戦うか? 否、それではまず間違いなくスバルを巻き込んでしまう。
 ならばスバルへと撤退を促すか? 否、あれが逃げろと言われて逃げるタマとは思えない。
 何か手を考えろ。
 残されたAPと10枚のカードで、この男を倒す方法は――
「これで終わりだ」
 瞬間。
 振りかざすヘルターとスケルターと共に。
 黄金と白銀の煌めきと共に。
 ギラファアンデッドの剛腕が、最後の死刑宣告を口にした刹那。
「!?」
 猛烈な轟音と烈光が、両者の間に割って入った。

298散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:29:05 ID:.DfmzCYc0


 この身がバラバラになろうとも。
 自分1人で闇に堕ちることになろうとも、私の知ったことじゃない。
 情けが瞳を曇らせるなら、心を捨てても構わない。
 犠牲が足りないというのなら、命を捨てても構わない。
 その一心で、身体を動かす。
 怒りの心で拳を振るい、憎しみの心で脚を繰り出す。
 罪の報いに軋む五体を、それでもなおも動かして、目の前の敵へと挑んでいく。
「はああぁぁぁぁぁぁーっ!」
 だんっ、と跳躍。
 両足で蹴られた大地が砕け、小規模なクレーターが形成される。
 噴き上がる土煙と小石の中で、金のポニーテールが舞い躍る。
 刹那の浮遊感と共に、瞬動。
 土色の闇の中で煌めくは、黄金と七曜に彩られた閃光。
 一筋の光条と化したヴィヴィオが、雄叫びに大気を震わせて殺到。
 ぐわん、と拳が空を切った。
 ぎらん、と2色の双眸が光った。
 七色の魔力光を宿した鉄拳が、吸い込まれるようにして目標へと迫る。
 鮮血と新緑の瞳に映るターゲットは、雷鳴と稲光を纏いし神――エネル。
「くどい!」
 しかし、一喝。
 ばちばちと唸る雷電を右手に溜め、迫りくる拳を迎え撃つ。
 響く烈光と烈音は、極大の電圧と魔力の反発するスパーク。
 虹色と蒼白の火花が弾け、衝撃に大気がびりびりと振動し、交錯する出力が風景すらも歪めた。
 膠着の余波は衝撃波へと変換され、ざわざわとホテル周辺の木々を掻き鳴らす。
 土と石と木の葉とが混ざり合う宵闇の中、拮抗を制したのはエネルだった。
 今や雷神は個人にあらず。
 人界・自然界双方の、ありとあらゆる電力を味方につけた群体であり、巨大な積乱雲そのものとでも言うべき現象であった。
 支配するエネルギーの総量がケタ違いなのだ。
 エネルギー同士で真っ向からぶつかり合えば、もはや何物にも打ち負けることは有り得ない。
 暴風のごとき速度で肉迫していたヴィヴィオが、風に煽られた落ち葉のように吹っ飛ばされる。
「まだ……まだァッ!」
 されど、それでも怯みはしない。
 エネルが雷神だと言うのなら、ヴィヴィオもまた只人にはあらず。
 エネルが纏うのが暗雲ならば、ヴィヴィオが纏うのは究極の闇。
 地獄の大帝の名を名乗り、極大の怖れと畏れを引き連れて、戦場を闊歩する凄まじき戦士。
 古代ベルカの叡智の詰め込まれた、最強最悪の殺戮兵器――聖王なのだ。
 ぐるんと体躯を回転させ、勢いを相殺。
 そのまま飛行魔法を行使し、遥か頭上高くへと飛翔。
 高く、もっと高く。
 速く、もっと速く。
 雷電の光と暗雲の闇を掻き分け、彼方の高みへと一直線。
 皮膚から漏れる膨大な魔力が、雲を引き裂き千切れさせ、天上の満月を露出させる。
「スケィィィィィィィィスッ!!」
 月に吼えた。
 煌々と光る銀月を背後に、自らの力を高々と掲げた。
 <死の恐怖>の二つ名を冠する、漆黒と黄金に彩られた刃鎌――“憑神鎌(スケィス)”。
 最愛の母という欠落に呼応し、復讐の意志に従って顕現した、死神の力を宿すロストロギア。
 黒天を照らす満月に、三日月模様の影が差す。
「神たる私よりも高く飛ぶな……!」
 それが神(ゴッド)・エネルにとっては、何物にも代えがたき恥辱であった。
 天とは神のおわす場所。
 雷の神たるエネルにとって、天空とは自らの領域であり、絶対不可侵の聖域だった。
 それをあのような小娘が、我が物顔で侵している。
 誰よりも強く高き存在であるはずの自分を、更なる高みに立って見下ろしている。
 まったくもって度し難く、まったくもって許し難い、最低最悪の不敬罪だった。
「神たる私を見下すなッ!!」
 怒りの咆哮はまさに神鳴り。
 真昼のごとき煌めきと共に、乱神エネルが空へと飛び立つ。
 下半身から伸びる二条の雷光が、上空高くへとエネルを押し出す。
 両足を雷へと変換し、更に大気の静電気を集め、推力へと変換した電気ロケットだ。
 大地を舐める電圧が、熱量となって地面を炙った。
 木々を薙ぎ倒し焼き尽くし、緑の森を赤色へと染めた。

299散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:29:46 ID:.DfmzCYc0
「雷鳥(ヒノ)! 雷獣(キテン)!」
 鳥神招雷。
 獣神招雷。
 3000万ボルトの眷属が、2体同時に解き放たれる。
 ノーモーションで放たれた鳥と狼が、暗闇を踏み締めヴィヴィオへと殺到。
 大技を使う際に叩いていた太鼓は、電力を効率よく使用するための予備電力だ。
 全身是雷電と化した今のエネルには、わざわざ太鼓を叩く必要などありはしない。
「ふん! せぇぇぇいっ!」
 斬――と二閃。
 全身の筋肉ををフルに使って、躍動感たっぷりに鎌をぶん回す。
 七色の魔力を纏った憑神鎌の刃が、2つの虹のリングを描く。
 迫り来る稲妻の猛獣を、魔性の処刑鎌(デスサイズ)をもって両断。
 瞬きの間に切り裂かれた雷神の使いは、霧散し闇へと溶けていった。
 刹那、ばちっ、と。
 ヴィヴィオの視界の片隅を、電気の烈音が立ち上った。
 反射的に、上を向く。
 天空に座するは、雷神エネル。
 稲光を後光とし、まさしく神の威容を醸し出す大男が、莫大な閃光と共に浮かんでいた。
 ばちばちと弾ける雷鳴は、さながら巨獣の唸りのようだ。
「受けよ、6000万ボルトの雷――雷龍(ジャムブウル)ッ!!」
 否。
 それはただしく巨獣であり。
 それはまさしく龍神だった。
 鼓膜を突き破らんばかりの爆音が襲う。
 網膜を焼き切らんばかりの極光が迫る。
 超巨大な龍蛇の姿を成した雷の塊が、雄叫びと共に舞い降りてきたのだ。
 身をくねらせ牙を剥くさまは、伝承に伝えられたドラゴンそのもの。
 これはスケィスでは切り裂けない。砲撃で返すにはチャージ時間が足りない。
 故に急速旋回し、反撃ではなく回避を行う。
 必要最低限の動作で、掠めるほどのギリギリの回避。
 あえて転身には出力を使わず、生じた余裕を上昇へと使う。
 昇る聖王に、下る雷龍。
 灼熱の光に煌めく龍の腹をなぞるようにして、七色の王が天へと昇る。
 輝く星々は点から線へと。
 流れた吐血が乾くほどの。
 疾風迅雷の速さと共に、天上で吼える神へと迫る。
「オオオオオオオッ!」
「ダアアアアアアッ!」
 轟くは赤と黒。
 血濡れのごときレイピアと、宇宙の暗黒のごとき処刑鎌。
 雷を纏ったジェネシスの剣と、妖光を孕んだ憑神鎌が、月光をバックに真っ向から衝突。
 火花さえも呑み込むスパークが、激烈に鮮烈に爆裂する。
 猛反発の生んだ衝撃が暴風を成し、天空を満たす雨雲全てを弾き飛ばした。
 千々に千切れた暗闇の中を、疾走する2柱の天神と邪神。
 駆ける。交わる。離れて駆ける。
 走る。ぶつかる。すれ違い走る。
 もはや人間の動体視力では、人影として視認することすらかなわなかった。
 人知を超えた超速で疾駆する神々は、一切の誇張なく2本の光線と化した。
 金と虹が闇を飛び交い、激突と離脱を繰り返し、夜空に蜘蛛の巣のごとき軌跡を生む。
 音すらも置き去りにした光と光による、瞬きよりも速い空中演舞。
 ずぅぅん、と大地を爆音が襲った。
 今さらになって地面に着弾した雷龍(ジャムブウル)が、森林を呑み込む業火へと化生。
 轟――と炎熱の音が湧き上がると同時に、ヴィヴィオとエネルが空中で静止し、一瞬の対峙を生み出した。
 今や空を満たすのは、夜の暗黒のみではない。
 大帝が放つ七曜の極光。
 雷神が纏う雷電の神光。
 地より昇る灼熱の烈光。
 天より注ぐ銀月の霊光。
 銀色、赤色、白色、七色。
 数多の光彩が入り混じり、魔力の残滓がプリズムを成し、雷鳴と火花が伴奏を奏でる、暴力的な光の混沌。
 恐るべきはこのカオスが、たった2人の人間によって生み出されたということだ。
 自然の法則を真っ向から粉砕し、狂的魔的な光の異界を創造した両者は、とうの昔に人間の次元を超越していた。

300散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:30:29 ID:.DfmzCYc0
「もう一度食らうがいい!」
 振り上がる両腕。
 突き出される掌。
 神の裁き(エル・トール)の電力を上乗せされ、更なる凶暴性を得た雷龍(ジャムブウル)が再臨する。
 煌々と輝く剛腕から射出された龍神が、一直線にヴィヴィオへと襲来。
「それはもう、覚えた!」
 されど、地獄の聖帝は怯まない。
 震えも怖れも見せぬまま、悠然とも取れる覇気と共にそこに在る。
 瞬間、光が揺れた。
 内より湧き上がる膨大な魔力に、周囲の光が陽炎のごとく揺らいだ。
 魔力の風に煽られて、金糸のサイドポニーがはためいた。
 エネルと同じように両手を振り上げ。
 エネルと同じように両掌を突き出し。
 エネルと同じように溜め込んだ力を。
「吼えろ――帝龍(カイゼルドラッヘ)ッ!!」
 エネルと同じ龍の名と共に、放つ。
 瞬間、爆音を伴い現れたのは、プラズマの鱗を煌めかせる七星の龍。
 暗雲を引き裂きまき散らし、渦巻く魔力の轟音を雄叫びとして。
 虹色のオーラを身に纏いし魔導の龍が、大気を焦がし火花すらも熔かして、満月の夜空に躍り出た。
 聖王ヴィヴィオを最強の生物兵器たらしめるものは、その圧倒的パワーだけでも、堅牢な聖王の鎧だけでもない。
 戦いの中で相手の技を解析し、理解し、我が物として習得する――それが聖王第3の能力・高速データ収集だ。
 単一脳で動作し殺戮する野獣ではなく、ロジカルをもって力を制御する暴君。
 奇しくもかの不死王(ノスフェラトゥ)アーカードと同じ、知性的なパワーファイター。
 それこそが古代ベルカ技術の粋を集めて生み出された、最強最悪の凄まじき戦士である。
 輝くカイゼル・ファルベを媒介として顕現した、帝王の名を冠する龍は、エネルの雷龍(ジャムブウル)の紛い物。
 されどそこに宿りし力と威容は、本物の雷龍(ジャムブウル)にも一歩も劣らぬ確かな物。
 その巨体は見る者全ての網膜を焼き尽くし。
 その咆哮は見る者全ての鼓膜を引き千切り。
 その剛力は寄る者全ての五体を蒸発させる。
 ばちばちと叫ぶ白色の龍が、牙を剥いて飛びかかった。
 ごうごうと唸る虹色の龍が、うねりと共に迎え撃った。
 龍と龍。
 雷と虹。
 オリジナルとダイレクトコピー、その力は全くの互角。
 衝突により生じた光と音は、世界を隔てる境界さえも、ガラスのごとくかち割らんばかりの迫力。
 地獄の業火に照らされた宵闇の中で、2頭の巨龍が咆哮した。
 互いに爪を立て合い肉を噛み千切り合い、身が絡まらんばかりの勢いでのたうち合った。
「神の力を真似る盗人めがッ!」
 エネルが迫る。
 灼熱色の切っ先を、稲妻色に照らし上げ、怒れる雷神が襲いかかる。
 龍と龍の攻防を背景にして、神と神とが激突する。
 振るわれるは幾千万の快刀乱舞。
 迎え撃つは怪力無双の虹の円環。
 目にも留まらぬ速さで繰り出される連続攻撃を、目にも留らぬ速さで連続防御。
「くっ……」
 僅かにエネルの勢いが勝った。
 身長差から来る高低差が、エネルへと有利に働いた。
 一瞬の防御の崩れ――その刹那を突いたジェネシスの剣が、ヴィヴィオを地へと叩き落とす。
 接地寸前のところでバランスを立て直し、大地を滑るようにして、着地。
 憑神鎌の切っ先を地へと突き立て、慣性に引きずられる身体へとブレーキをかける。
 後を追うようにしてエネルが着地し、再び対峙する姿勢となった。
 初撃の雷龍(ジャムブウル)に焼かれた森は、まさに灼熱の運河のど真ん中だ。
 そしてそこへ迫る、新たな光。
 エネルの着地とほとんど同時に、2頭の龍が地へと降り立つ。
 互いの身を貪り合う雷龍と帝龍が、互いに絡み合いながら迫り来る。
 両雄は主君らのすぐ脇を掠め、その後方にそびえる施設――ホテル・アグスタへと殺到。
 ばごん、と鈍い音が鳴り響いた。
 コンクリートの壁が砕かれ、ガラス窓が瞬時に蒸発し、ホテルに巨大な風穴が空いた。

301散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:31:11 ID:.DfmzCYc0
「ほう……?」
 ふと。
 その、瞬間。
 不意にエネルの目線が逸れた。
 殺意にたぎっていた乱神の視線が、ヴィヴィオ以外の何物かを捉え、興味深げな呟きを漏らす。
「あ奴め、まだ生きていたのか」
 にやり、と笑った。
 訝しがるヴィヴィオもまた、つられるようにして視線の方へと振り返る。
 ぱらぱらと瓦礫の音を立て、煙をたなびかせる穴を見やる。
 暗闇の中にあったのは、合計3つの人影だ。
 1つは全身を黄金色に染め上げた、クワガタムシのごとき外観を有した怪物。
 1つは鏡の世界で戦った男にも似た、ハートの意匠が目を引く漆黒の鎧。
「スバル、さん……?」
 そして最後の1つは、管理局の制服を着た青髪の少女――なのはの部下、スバル・ナカジマ。
「どうして……どうしてそんなところにいるの……」
 何故だ。
 何故お前がここにいる。
 こんな所で何を悠長に引きこもっている。
 黒々とした理不尽な怒りが、沸々と胸へと込み上げてくる。
 お前にはやるべきことがあるだろう。
 私の最愛の母であり、お前の上官であるなのはママを守ること――それがお前の役割だろう。
 なのにその有り様は何だ。
 自分の職務をほっぽり出して、一体何をしているのだ。
 ママを守ることもせずに、訳の分からない異形と共に、一体何をじゃれ合っているというのだ。
 そんな人型崩れの化け物の相手の方が、ママよりも大事だとでも言うのか。
 許せない。
 断固として許しておけない。
 相手がかつての仲間であろうと知ったことじゃない。
 ママを見捨てた裏切り者は、私がこの手で始末してやる。
 そこにいる黒と金色の2人組諸共、まとめて迅速に殺戮してやる。
「このぉ……裏切り者があああああぁぁぁぁァァァァァァァ――――――ッ!!」



「あの時の雷の男か……!」
 嫌な予感の正体はこいつらか。
 こちらを覗く2人の姿を見た瞬間、始は即座に理解していた。
 突如、ホテルに空いた大穴の外に立っていたのは、数時間前に戦った自称神――エネル。
「気付かれたか」
 ち、と舌打ちしながら呟く金居の声が聞こえる。
 目の前の男は、避雷針を破壊するほどの雷を操り、小細工なしでスピニングダンスを破り、自分を倒したほどの強敵だ。
 あの時ギンガに助けられていなければ、確実に蒸し焼きになって死んでいただろう。
 おまけにその身に纏う電力は、あの時とは桁外れなまでに膨れ上がっている。
 スバルと対峙した時に感じた、禍々しい気配の正体としては、十分過ぎるほどの脅威だった。
「驚いたぞ、青海人よ。ただの人間風情が、あの雷地獄から生き延びていたとはな」
「俺はただの人間じゃない。もっとも、それでも危ないところだったがな」
 言いながら、身を起こす。
 今のやりとりの間に、立ちあがれるほどには回復していた。
 一瞬状況が好転したかと思ったが、すぐにそれが間違いであったことを理解する。
 何が好転したというのだ。
 目の前に立っている雷神は、ギラファアンデッドよりも遥かに危険な相手ではないか。
「ここまでだな、ジョーカー。決着がつけられないのは残念だが、俺はここで失礼させてもらう」
 そしてそのギラファが口にしたのは、そんな言葉。
「何だと?」
「あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね。まぁ、せいぜい戦って死んでくるがいい」
 そんな捨て台詞を残して、黄金の背中が遠ざかっていく。
 ダイヤのアンデッド種の中でも、最強を誇る金居の撤退――それが意味するところが分からないほど、相川始は間抜けではない。
 むしろエネルの実力を考えれば、あの理屈屋が逃げ出すというのも、自然な反応だと思えた。
 だが、奴は何と言った?
 奴“ら”? 金居の手に負えない相手は、あのエネルだけではないというのか?
 半裸の自称神と対峙する者――あの金髪と黒衣の女もまた、エネルと同等の脅威であるとでもいうのか?

302散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:32:00 ID:.DfmzCYc0
「あれは、まさか……ヴィヴィオ!?」
「知っているのか?」
 不意に声を上げたスバルに、問いかける。
「はい。あたしの上官が、娘として引き取った子です。本当はもっと小さい子なんですけど……」
「うあああぁぁぁぁぁっ!!」
 説明に割って入る、怒号。
 反射的に声の方を向き、反射的に身をかわした。
 一瞬前まで自分がいた場所を襲ったのは、激烈な虹色の衝撃波だ。
 その手に構えた巨大な鎌に纏ったエネルギーを、スイングの勢いで放ったのだろう。
 理屈は簡単だ。
 だが、それがもたらした被害の何としたこと。
 ただエネルギーを放出しただけの一撃の跡が、煌々と赤い光を放っているではないか。
 七色の刃が抉った床が、燻った音を立てどろどろに赤熱していた。
「どうやらここから出る方が先らしいな」
 正面玄関を視界に収めながら、呟く。
 ただでさえここにはエネルもいるというのに、あんなものをバカスカと連発されてはまずい。
 広範囲攻撃を可能とする雷撃に、砲撃じみた勢いの斬撃――この閉鎖空間でそんなものを相手にしていては、今度こそ蒸し焼きにされてしまう。
「脱出するぞ!」
「あ、はい!」
 スバルに声をかけると同時に、出入り口を目指して、疾駆。
 背後を通過する電撃や射撃には目もくれず、ひたすら目的地目掛けて走る。
 自動ドアが開かない。開くのを待っている暇はない。
 カリスアローを振りかぶり、ガラスをかち割って脱出。
 いつしかホテル・アグスタの外は、あの時と同じ火の海になっていた。
 自分達が戦いに没頭していたうちに、これほどの破壊活動が行われていたというのか。
 カリスの鎧を茜色に光らせながら、己が不注意を恥じた。
「あの子は聖王っていう特別な生まれの子で、前にもああいう風になって暴走したことがあるらしいんです」
 後ろから追いかけてくるスバルが、先ほど中断された説明を続ける。
「暴走か」
「その時と同じことになってるのなら、適切な処置を施せば落ち着くはず……とにかく、急いで無力化させないと!」
「なら話は早い。さっさと無力化させて、ここから逃げるぞ」
 方針は決まった。
 まずはそのヴィヴィオとやらから戦闘能力を奪い、その上で戦線を離脱する。
 エネルがあの時よりも強力になっており、おまけにヴィヴィオがそれと同等の実力者だと言うのなら、現状での勝算は毛ほどにもない。
 しかし彼らを2人とも野放しにすれば、取り返しのつかなくなるほどの犠牲が出ることは容易に想像できる。
 幸いにもヴィヴィオには、無理に殺さずとも黙らせることのできる裏技があるらしい。ならば狙うのはそちらだ。
 彼女を無力化させることができれば、それで脅威は半減するはずだ。
「分かりました! 援護頼みます、始さん!」
 言うや否や、スバルが駆けた。
 ジェットエッジのエンジンを噴かせ、炎熱の焼け野原を一直線。
 考えなしの突撃ではない。
 考える余裕がなかったのなら、エネルを野放しにするという選択に異を唱えていただろう。
 彼我の戦力差を見極め、現時点ではあの雷神に勝てないと判断する冷静さを持ちながら、あえて腕の負傷を度外視し、ヴィヴィオの懐へと飛び込んだのだ。
 ならば、そこにはそうしなければならない理由があるに違いない。
 たとえばその適切な処置とやらが、スバルにしかできないものである、といったところか。
「いいだろう」
 それならば話は早い。
 もとよりこちらもAPに余裕はないのだ。今回は援護に徹させてもらうとしよう。
 カリスアローを油断なく構え、金髪を揺らめかせる少女を狙う。
 問題はない。スバルは絶対に死なせない。
 自分に大切なことを教えてくれた、あのギンガの忘れ形見を死なせはしない。
 そう固く胸に誓い、エネルギーの矢を醒弓につがえた。

303散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:32:41 ID:.DfmzCYc0


「うおおおおおおっ!」
 気合いと共に、歩を進める。
 ジェットエッジの最大加速をもって、ヴィヴィオへと一直線に突っ込んでいく。
 全く恐怖がないわけではない。
 直接戦ったことも、目の当たりにしたこともなかった聖王モードだが、その戦闘力の高さは聞かされている。
 AMFによる制限下にあったとはいえ、あのなのはのブラスターモードと、互角以上に渡り合ったというのだ。
 この手に培った力が、本当に通用するかどうかは分からない。
 おまけに左腕を封じられた今、望みは更に薄くなっていることだろう。
 最悪、手も足も出ないままに、一撃で抹殺されてしまうかもしれない。
 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
 この場でヴィヴィオを止められるのは、自分1人しかいないのだから。
(防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン……!)
 それが攻略法だった。
 相手がゆりかご攻防戦の時と同じ状態に陥っているというのなら、あの魔力の源泉となっているのは、体内に組み込まれたレリックのはずだ。
 最大威力のディバインバスターをぶつけ、レリックを破壊することで、彼女の聖王モードを強制解除させる。
 それこそがスバルの狙いだった。
 腰を据える。
 構えを取る。
 いきなり必殺技を当てられるとは思えない。牽制や体力削りを駆使して、当てられる状況を作らなければ。
「てぇりゃっ!」
 ジェットエッジのスピナーを回転。
 左足を軸にして、豪快な右回し蹴りを叩き込む。
 脳天目掛けて放たれた一撃が、轟然と唸りを上げて肉迫。
「このっ!」
 されど、通じず。
 この程度の一撃が、聖王に通るはずもない。
 龍鱗のごとき漆黒の籠手が、放たれたキックを難なく防御。
 火花散らす渾身の蹴りを、身じろぎ1つすることなく受け止める。
 ある程度覚悟していたとはいえ、何という圧倒的なパワーか。
 年相応の少女の細腕の守りが、鋼鉄の壁のように硬く、思い。
「何で、なのはママを守ってくれなかったの……何でなのはママを見殺しにしたの……!」
 ぼそり、と膠着の奥から響く声。
 怨嗟と憤怒に彩られた、低く鋭いヴィヴィオの声。
「ッ!」
 胸が痛んだ。
 どうしようもなかったこととはいえ、どうしてもちくりと刺さるものがあった。
 会うことさえもできなかったのだから、見殺しにすらもしようがなかったのは確かだ。
 それでも、それはただの言い訳に過ぎない。結局なのはのうちの片方を、助けることができなかったのには変わりない。
「なのはママが死んじゃったのに……何でスバルさんなんかが生き残ってるのぉぉっ!!」
 怒りと悲しみの込められた、悲鳴のような絶叫だった。
 鉄壁の防御から、怒濤の反撃へと。
 力任せに振り払われたヴィヴィオの腕が、スバルをあっさりと吹き飛ばす。
 彼女自身がそうされた時は、飛行魔法でブレーキをかけ、即座に態勢を立て直した。
 しかしスバルをそうした時には、制御の隙など与えなかった。
「!」
 瞬きの刹那。
 直前まで視認していた聖王が消える。
 一瞬後に現れたのは、目前にまで迫った聖王の威光。
「がッ! う……っ!」
 一撃、そして一撃。
 食らったのはアッパーカットと、それからボディーブローだろうか。
 拳の軌道は見えなかった。だがそれでも、顎と腹から響く痛覚が、攻撃を受けたことを理解させた。
 目にも留まらぬとはまさにこのことか。
 吹っ飛ばされた態勢では、知覚すら不可能な速度での連撃を叩き込まれた。
 初撃のアッパーによる減速感から、二撃目のブローで再び加速。
 燃え盛る炎の風景が流れていく。
 やがて身体が地に落ちて、もんどりうって転がっていく。
 背後に熱風の揺らめきを感じた。
 ようやく止まったその場所は、火種の目と鼻の先だった。
 もう少しだけ運が悪ければ、炎の中に突っ込んでいたということか。いよいよ背筋がぶるりと震えた。

304散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:33:14 ID:.DfmzCYc0
 そしてそれだけには留まらない。
 怒号と共に迫る第三撃。
 土煙を撒き散らして迫るのは、死神の大鎌を構えしヴィヴィオの姿。
 <死の恐怖>の名を冠する憑神鎌が、黒金と彫金に彩られたその身を、炎の紅蓮に煌めかせる。
 真紅の光が線となり、軌跡を成してスバルへと襲来。
「っ!」
 カリスからの援護攻撃が放たれたのは、ちょうどこの瞬間だった。
 きんきん、きん、と響く音。
 カリスアローから連続発射されたアローショットが、次々とヴィヴィオに着弾する。
 されど、それでも凄まじき戦士は止まらない。
 黒より暗き究極の闇は、光の矢ごときでは晴らせない。
 飛来し着弾する光弾の全てが、堅牢な聖王の鎧を前に、虚しく弾き返されるのみ。
「死んじゃえェッ!」
 鼓膜を打つ裂空の音。
 虚空を引き裂く死神の鎌。
 振りかざされた黄金の輝きが、脳天目掛けて叩き込まれる。
「くっ!」
 そんなものに当たるわけにはいかない。
 痛む身体に鞭打って、ごろりと身を転がして回避する。
 豪快に空振った憑神鎌の切っ先が、がつんと音を立てて地に突き刺さった。
 油断はできない。すぐに追撃が来る。
 普通に起き上がっていては遅い。迎撃より先に追撃が飛んでくる。
 故にジェットエッジのエンジンを噴かせ、強制的に足を振り上げさせる。
 轟、と響く唸りと共に、右足が上空へと押し出された。
 結果、命中。強引に繰り出されたハイキックが、ヴィヴィオの顎へと直撃した。
 そのまま左足のエンジンをも起動。くるりと空中で身を縦に一回転させ、着地。
「ウィングロードッ!」
 叫びと共に、地を殴る。
 今の一撃分で怯んだ隙に、魔力で固めた空色のロードを顕現。
 そのままウィングロードに飛び乗ると、急速にヴィヴィオとの間合いを開けていく。
 まともに打ち合うことはしなかった。敵の戦闘能力を考えれば、真っ向勝負を挑むのは危険だ。
 故に、ヒット・アンド・アウェイ。
 極力相手との接触を避け、一撃に懸ける戦法を取るしかなかった。
 そして。
 その、刹那。
「!?」
 ごろごろ――と。
 突如として、世界が白光に満ちた。
 耳朶を打つは猛烈な音。
 視界を覆うは蒼白の闇。
 戦場全域に落雷が放たれたのだ。真昼のごとき煌めきと共に、周囲の全風景が雷光で埋め尽くされた。
「神の存在を忘れて戦えるとは、随分と余裕なことだなぁ」
 余裕綽々といった様子で呟くのは、半裸と異様な福耳が目を引く男だ。
 そういえばヴィヴィオだけでなく、この男もまたこの場にいたことを思い出す。
 であれば今の無数の雷撃は、この男が放ったということか。
 自然の摂理をこうまで意のままに操るとは――そこまで考えたところで、それもまた納得がいくかと思い直す。
 そもそもこの雷男は、つい先ほどまでこのヴィヴィオと対峙し、そして生き残った男だ。
 そんな奴が、只人のしゃくし定規で計れるような、凡庸な男であるはずがなかった。
「まとめて消し炭となるがいい!」
 そうこうしているうちに、追撃が迫る。
 雷鳴が鳴り、雷光が光り、暴力的殺傷力を持った死の稲妻が、軍勢を率いて襲いかかる。
 悠長に止まっている暇はない。足を止めれば、そこを突かれて一巻の終わりだ。
 ウィングロードから飛び降り、燃え盛る大地へと着地。
 予めこちらの進路を知らせることになるあの魔法を、この状況で使い続けるのはまずい。
 エンジン、再始動。
 加速、カット、そしてカット。
 天空より迫る稲妻を、稲妻の軌跡をもって回避していく。
 光速の雷を直接回避しているわけではない。ランダムな軌道を取ることで、相手の照準精度を狂わせているのだ。
 ちら、とカリスの方を見やる。どうやらあちらもちゃんと回避できているらしい。
 そしてヴィヴィオの方を向く。こちらはかわすまでもなく、シールドをもって防御していた。
 やはり魔力総量の桁が違う。稲妻を真っ向から受け止めるなど、並の人間には決して出来たものではない。
 本当にあの聖王には、首輪による制御が課せられているのだろうか? それすらも疑わしく思えてきた。

305散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:34:03 ID:.DfmzCYc0
「邪、魔……だああぁぁぁぁッ!!」
 そのヴィヴィオの咆哮と共に、莫大な魔力が込み上げる。
 聖王の怒りと共に顕現したのは、七色に煌めく巨大な龍。
 スバルにとっては知るよしもないが、あの時エネルの技をコピーし編み出された攻撃魔法――帝龍(カイゼルドラッヘ)だ。
 荒ぶる龍神へと化生した極大の魔力が、轟音と共に虚空を泳ぐ。
 地に落ちた無数の雷を、貪り食うかのように蛇行。
 そして円の軌道を描く龍が、方向を転じ牙を剥き、スバル目掛けて一直線に飛来。
 あれは雷よりも危険だ――目に見えて明らかな分析結果だった。
 エネルの雷すらも噛み砕き、呑み込んだ龍の攻撃をまともに受けては、恐らく死体すらも残るまい。
「っ!」
 ほとんどでんぐり返しのような動作で、スレスレのところを緊急回避。
 かわしきれなかった前髪の先端が、巨龍の光輝に掠められる。
 文字通り眼前で直視させられた光彩は、幾多の色が複雑怪奇に絡み合い交わり合う、気が狂いそうになるほどの虹色だった。
 じゅっ、と音がしたかと思えば、前髪から焼け焦げた臭いが漂ってきた。
 たっぷり3秒ほどかけて、帝龍(カイゼルドラッヘ)がスバルの頭上を通過する。
 轟然と飛翔する龍神は、しかしそれ以上深追いをせず、次なる目標へと意識をシフトしたようだ。
 ぎゅおん、と大気をぶち砕き。
 がりがり、と大地を削り取り。
 土埃と岩石を巻き上げて駆ける先には、落雷を起こした張本人たる神(ゴッド)・エネル。
「神の裁き(エル・トール)――MAX2億ボルト!」
 異様な風体の雷男が取った行動は、回避でもなければ防御でもなかった。
 命中すれば即死確定の一撃を前に、しかし避けるでも防ぐでもなく、悠然と両手を突き出すのみ。
 瞬間。
 雷神と帝龍の影が重なる。
 カイゼル・ファルベの化身たる龍神が、エネルの体躯を噛み砕く。
 その、はずだった。
「!?」
 されど。
 次なる瞬間目にしたのは、龍の放つ七曜光ではなく。
 その内側より迸る、蒼白色の雷光だった。
 ぱっ、ぱっ、ぱっ、と。
 頭から、下顎から、首から、胴から。
 さながら強靭な龍鱗を、体内からかち割り突き出す槍のごとく。
 帝龍(カイゼルドラッヘ)の全身から、次々と漏れ出す線上の光条。
 刹那。
 どう――と音を立て、爆散。
 ぼこぼこと泡立つように巨体が膨らんだかと思えば、次の瞬間には爆裂四散し、世界が白光に満たされる。
 光輝の中心より現れたのは、煌めく双剣を携えし雷神。
 舞い踊る虹色の火花の中に立つのは、不敵な笑みを浮かべるエネル。
 否、それは双剣ではなかった。
 さながら巨大な剣のごとく、長大に膨張した両腕であった。
 雷化した両手が光の剣を成し、中心から龍を左右に引き裂いたのだ。
 あれだけのエネルギーの集合体を、いともたやすく消失させるとは。
 やはりこの男も、ヴィヴィオと対峙するだけはあるということか。
 自分達人間や戦闘機人とは、根本的に次元の違う存在を、まざまざと五感で痛感させられた。

306散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:34:40 ID:.DfmzCYc0
「こぉんのぉぉぉぉぉーッ!」
 怒れる凄まじき戦士の瞳には、もはやエネルしか映っていないらしい。
 完全に頭に血を上らせたヴィヴィオが、地に憑神鎌を刺し固定させ、両の手に魔力球を形成。
 投擲、そして投擲と、息つく暇もなく二連発。
 刹那、光の弾が爆ぜた。
 それもエネルによって迎撃されたのではない。直撃の寸前で、自ら弾丸が炸裂したのだ。
 1は10へ。2は20へ。
 四散した2つの弾丸は、瞬時に数十の散弾へと変貌。
 あれは確かセイクリッドクラスター――ミッド式の魔導師が使用する、散弾タイプの射撃魔法だったはずだ。
 球体から雨へと転じた魔力弾が、一斉にエネルへと襲いかかる。
 ずどどん、どどんと小気味よく響く、弾丸の奏でる爆裂音。
 されど七色の花火が弾けるのは、エネルの表皮の上ではない。
 ランダムな角度から迫り来る弾丸は、しかしそれら全てが回避される。
 ステップを踏むエネルが身軽にかわし、散弾は虚しく地へと落ちる。
「ヤハハハハッ! どうした、こんなもので終わりか!」
「何で……何で当たらないのっ!?」
 声高に嘲笑するエネル。
 焦燥に顔を歪めるヴィヴィオ。
 焦りは苛立ちへと変遷し、弾丸を生むペースを加速させる。
 続々と次弾を装填し、続々とターゲットへと投げ込んでいく。
 しかし、平静さを欠いた射撃が、そう簡単に当たるはずもない。
「なっ……!?」
 そしてその隙を見逃すほど――仮面ライダーカリスは甘くなかった。
「ハァァァッ!」
 斬、斬、続けて斬。
 ぎん、ぎん、がきんと響く。
 立て続けに掻き鳴らされる、醒弓の放つ金属音。
 漆黒の聖王の鎧を叩くのは、白銀に輝くカリスアローの刃。
 エネルに意識を集中させていたヴィヴィオの隙を突き、始が一気呵成に斬りかかったのだ。
 完全に不意を打たれる形になったヴィヴィオは、反撃も防御もすることができない。
 そのままいいように攻撃されるうちに、いつのまにか背後に回り込まれ、羽交い絞めの姿勢を取らされる。
「今だ、スバル!」
 両腕で動きを封じたカリスが、スバルへと叫んだ。
 処置とやらを施すのなら、今のうちにさっさとやれと。
 自分が抑えているうちに、この聖王との戦いにケリをつけろ、と。
「………分かりました!」
 返事をしてからの反応は素早かった。
 言葉を返すや否や、再びジェットエッジを起動。
 ロケットエンジンのバーニア炎が光る。車輪が大地を掴んで唸る。
 さながら一発の砲弾のように、スバルの身体が撃ち出された。
 駆ける、駆ける、疾駆する。
 速く、速く、もっと疾く。
 瞬間ごとに加速度を上昇させ、マックススピードへと一直線。
「このっ……離せ、離せェッ!」
「離、さんっ!」
 目の前ではじたばたと暴れるヴィヴィオを、カリスが必死に抑えつけている。
 あれほどの怪力を持つ身体だ。恐らく仮面ライダーといえど、そうそう長くは保たせられまい。
 なればこそ、あの拘束が解ける前に、とどめの一撃を叩き込まなければ。
 デイパックからレヴァンティンを取り出し、セットアップ。
 最後に残されたカートリッジのロードと同時に、腰に出現した鞘へと納刀。
 剣は振るうためのものではない。あくまで魔力制御のためのものだ。
 足元にベルカの三角陣が浮かぶ。
 合わせて両の腕を回転させる。
 みしみしと左腕が軋むのをこらえ、虚空に空色の魔力スフィアを形成。
 狙うはゼロ距離で発射する、最大出力のディバインバスター。
「ディバイィィィーンッ―――」
 未だこの身に刻んだ力が、彼女に通用するかは分からない。
 未熟な自分の砲撃が、レリックを砕くことができるかどうかは分からない。
 それでも。
 だとしても、やるしかないんだ。
 今の自分達に取れる手段は、これ1つっきりしかないんだ。
 やれるやれないの話ではない。やらなければならないんだ。
 必ず成功させてみせる。
 この手でヴィヴィオを止めてみせる。
 かつて憧れの人がそうしたように、少女を縛る狂気の鎖の、この一撃で打ち砕いてみせる――!
「―――バスタアアアァァァァァ――――――ッッッ!!!」
 右の拳が、スフィアを打った。
 空色の弾丸が、砲撃へと転じた。
 始がヴィヴィオに払いのけられたのは、ちょうどこの瞬間だった。

307散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:35:14 ID:.DfmzCYc0
「ぐううぅぅぅぅっ!!?」
 もはや今さら逃れても遅い。
 超至近距離まで接近したスバルの攻撃から、逃れられる者など存在しない。
 全力全開で放たれたディバインバスターが、過たずして腹部へと命中。
 轟、と唸る音と共に、魔力が激流となって放出される。
 一筋の空色の光線が、必殺の破壊力をもってヴィヴィオを飲み込む。
 オリジナルには劣るとはいえ、前線フォワードきってのパワーファイターたるスバル・ナカジマの、正真正銘最強最後の切り札だ。
 それを喰らう者にとっては、暴風雨の直撃にすら匹敵する衝撃だった。
 倒せなくともいい。
 これが通りさえすればいい。
 この一撃がレリックを破壊し、聖王モードの解除に繋がりさえすればいい。
 この全力全開の砲撃で、ヴィヴィオを止めることさえできれば――
「こん、な、も……のおおぉぉぉぉぉォォォォッ!!」
 しかし。
 無情にもヴィヴィオの放った声は、未だ憎悪に濁った怒号。
 膨大な魔力の奔流を掻き分け、魔獣の金の爪が迫る。
 空色の光から伸びた龍鱗の腕が、スバルの頭をむんずと掴む。
 エネルギーの流れに逆らいながら、強引に砲手の身体を、投擲。
「うわああぁぁぁぁっ!」
 浮遊感は一瞬だった。
 超高速で投げ出されたスバルは、あっという間に地に叩きつけられる。
 髪についた土を払いながら、途切れかけた意識を取り戻した。
 痛む身体を突き動かして、うつ伏せになった上体を起こした。
「もういい……もうたくさんだ……みんなまとめて、吹き飛ばしてやる……!」
 僅かに靄のかかった瞳が捉えたのは、大鎌を引き抜くヴィヴィオの姿。
 極大の憤怒と憎悪に身を震わせる、怖ろしくもおぞましき地獄大帝の姿。
 天に突き上げた右腕へと、更なる魔力が集束される。
 天の満月を模したかのような、虹色の魔力スフィアが形成される。
 それはスバルの発射法と同じもの。奇しくも母の教え子を通じて、たった今その身に記憶した、最愛の母の信頼する必殺奥義。
 しかしそこに宿された破壊力は、スバルはおろかなのはのものですら比較にならない。
 2倍、3倍と膨れ上がったスフィアの直径は、スバルのそれの5倍以上。
 もはや砲撃魔法どころか、集束魔法にすら匹敵するエネルギー量だ。
 あれがひとたび発射されれば、自分どころかここら一帯の万象一切が、例外なく消し炭と成り果てるであろう。
「食らえ! ディバイイィィィィーン―――……ッッ!!」
 やはり、駄目なのか。
 ありったけの砲撃をぶつけても、ヴィヴィオを止めることはできなかった。
 自分ごときの力では、彼女を救うことはできなかったのか。
「バス――――――」
 掌が振り下ろされる。
 七曜の恒星が叩き落とされる。
 もはやこれまでと理解し。
 諦めと共に固く瞳を閉じ。
 その、刹那。
 極限までエネルギーを込められたディバインバスターが、今まさに放たれようとした瞬間。
「……―――――――――ッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
 異変が、起こった。

308散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:36:07 ID:.DfmzCYc0


 ここで今一度思い出してほしい。
 ルーテシアのレリックと融合し、本来なら相性の合わない組み合わせで目覚めた聖王ヴィヴィオは、
 いくつもの欠陥をその身に抱えた、不完全なレリックウェポンと化していた。
 現時点までに発覚していた変化は、2つ。
 1つはかつてのゼスト・グランガイツのそれと同じ、身体を蝕む拒絶反応。
 1つはレリックの暴走による、一時的な魔力量の向上。
 一度に発揮できる魔力の量こそ増えたものの、同時に身体へのダメージさえも助長され、
 本人の意識せぬままに、より早いペースで身体にダメージを溜め込んでいくという悪循環である。

 しかし――本当に、それだけだろうか?
 ヴィヴィオの身体に起きた変化は、本当にその2つだけだったのだろうか?

 考えてもみてほしい。
 ヴィヴィオが何者であるのかを。
 聖骸布のDNAから生み出された人造魔導師が、一体何者なのかということを。
 ヴィヴィオはかつての聖王のコピーだ。
 古代ベルカ技術の直系を受け継いだ、最高のレリックウェポンの素体だ。
 身に溜め込んだ戦闘力と魔力は、並の人間を遥かに凌駕している。
 そのベルカ最強の生体兵器として生まれた彼女の身体を、凡百の人間と同じ定規で計っていいものなのか?
 いかにストライカー級騎士とはいえ、突き詰めればただの人間に過ぎないゼストと、全く同一のケースと見なしていいものなのだろうか?

 回りくどい言い方はここまでにしよう。
 ここからは率直に事実のみを述べることにしよう。

 言うなれば聖王ヴィヴィオの身体は、その莫大な魔力を内に溜め込み、コントロールするための器だ。
 大量の水を貯水池に留め、必要量のみを放出する、ダムのようなものである。
 では、そのダムが壊れたらどうなるか?
 水を抑え込めなくなるほどに脆くなったらどうなるか?
 拒絶反応の影響で、ボロボロになった肉体が、魔力制御の限界域を突破したら?

 その先に待つのは、たった1つのシンプルな回答。

 それはその身に宿った全魔力の――――――暴発。

 肉体の限界を超えた魔力が、器を破り全面放出されることによる、魔力エネルギーの大爆発である。

 これまではギリギリ耐えることができた。
 今までに蓄積されたダメージでは、ダムを決壊させるまでには、ほんの僅かに至らなかった。
 しかしそこへ、とうとう決定打が叩き込まれる。
 完全破壊までには至らなかったとはいえ、スバルの放ったディバインバスターが、レリックにダメージを与えたのだ。
 衝撃を与えられたレリックは安定性を失い、体内の魔力は大きく掻き乱された。
 そんな水流の大きく乱れた状態へ、更に追い討ちをかけるように、
 最大出力でディバインバスターを放つべく、ダムのほぼ全ての水門が開け放たれたのである。
 そうなれば、どうなるか。
 結論は決壊の2文字しかない。
 レリックの魔力のみならず、ヴィヴィオ自身の体内に潜在される魔力まで、根こそぎ放出されるのみである。

 こうしていくつもの条件が重なったことによって、薄氷の上に成り立っていた聖王の身体は――遂に、限界の瞬間を迎えたのであった。

309散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:36:55 ID:dce8GgBA0


「ぐォッ……!」
 その瞬間を、その場にいた誰もが目撃していた。
 超巨大魔力スフィアを発射しようとしていたヴィヴィオが、突如としてもがき苦しみ始めたのだ。
 両手で自身を抱くように掴み、呻きと共に肌を掻き毟る。
 スフィアは緩やかに消滅し、代わりに聖王の身体から、魔力が霧のように漂い始める。
 そしてそこに宿された光は、カイゼル・ファルベの虹色だけではない。
 不穏な気配を放つ赤色が、その中に混じり始めたのだ。
 赤はロストロギア・レリックの色。
 それが漏れ出したということは、ヴィヴィオの魔力回路を介することなく、直接レリックから漏れていることに他ならない。
 見る者が見れば、容易に危険だと推測できる状況だった。
「う……ゥ、ォオオオオオ……ッ!」
 遂に堪え切れなくなったのか、膝をついて崩れ落ちた。
 四つん這いの姿勢になったヴィヴィオの身体が、びくびくと小刻みに痙攣を始める。
 美貌にはじっとりと脂汗が滲み、サイドポニーの金髪がへばりついた。
 地に着いた四肢はがくがくと震え、口からは明らかに危険な量の涎が零れた。
 それどころかその中には、薄っすらと血が混ざっているようにさえ見える。
「ゥ、ア……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」
 瞬間。
 絶叫した。
 叫びが上がった。
 これまでの怒りの滲んだ怒号ではない、断末魔さえも思わせる悲痛な叫び。
 不意に弓なりに身体を反らし、中腰の姿勢となって放たれた咆哮。
 それが破綻の始まりだった。
 それが全ての合図となった。
 ヴィヴィオの絶叫を皮切りに、霧が間欠泉へと転じる。
 濁流のごとき勢いで、赤と虹の光が発せられる。
 さながら火山の噴火のように、漆黒の聖王の肢体から、膨大な魔力が放出されたのだ。
 轟々と渦巻くそのさまは、さながら小規模な暴風雨。
 暴力的なまでの閃光と爆音が、殺人的破壊力を伴ってぶちまけられた。

「何だ、あれは……?」
 相川始との予期せぬ再会によって、幾分か頭の冷えたエネルは、その光景を悠長に構えて見つめていた。
 不届きにも己と互角の勝負を展開していた小娘が、突然もがき苦しみ始めたのだ。
 そして身を起こしたかと思えば、この有り様。
 一体何が起きているというのか。
 見たところ、体調が悪くなったのは間違いないらしい。
 攻めるなら今をおいて他にないのだろうが、はてさて、あの身体から噴き出したエネルギーをどうするか。
 これまでの経験則からして、あれは当たったら痛そうだ。
 いくら回復手段があるとはいえ、痛みを覚えるのは面倒くさい。
 できれば下手に怪我することなく、あれを突破したいのだが――。

310散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:37:49 ID:.DfmzCYc0
 
「ヴィヴィオ……一体、どうしたの!?」
 ディバインバスターを直撃させ、意図せぬうちにこの状況を作ったスバルは、不安げな声でヴィヴィオに呼び掛けていた。
 あの状態はまずい。
 何が起こったのかはさっぱり分からないが、尋常ではない苦しみ方からして、彼女が生命の危機に瀕していることは分かる。
 できることなら助けたい。いいや、助けなければならない。
 たとえディバインバスターが効かなかったとしても、一度助けると決めたからには――
「なっ!?」
 そう思った、次の瞬間。
「逃げるぞ!」
 不意にカリスに手を掴まれ、そのままぐいと引き寄せられた。
「待ってください! ヴィヴィオを、ヴィヴィオを助けないと……!」
「もう限界だ! このままだと、俺達まで危険に晒されかねない!」
「そんな……!」
 始は本能的に察していた。
 あれは危険な現象だと。
 ヴィヴィオ1人のみならず、自分達周囲の人間にさえ、危険を振り撒きかねない現象であると。
 具体的に何が起こるのかは分からない。
 ただ漠然と、危険な気配だけは感じ取っていた。
 振りかえって見るだけでも分かる。
 見えない脅威を振り払わんと、巨大な憑神鎌を振り回し、先端から余剰魔力を光波として放つさまは、明らかに常軌を逸している。
 見捨てることで心が痛むのは確かだ。
 それでも今は、出会ったばかりの小娘よりも、ギンガの妹の方が大事だった。
 彼女だけは絶対に守る。
 人の想いの力を教えてくれたスバルを、絶対に死なせはしない。
 その一心で彼女の手を引き、得体の知れないカタストロフから、必死に逃げのびようとしていた。

「ゥウッ! グゥァアアアッ!!」
 獣のごとき雄叫びを上げ、狂ったように鎌を振るう。
 我が身を苛む何物かを、懸命に遠ざけようとするように。
 魔力の嵐の中心で、ヴィヴィオは苦痛の真っただ中にあった。
 燃え燻る森の火種も、挑みかかって来る敵の姿も、空の満月も見えはしない。
 全天360度の光景は、有象無象の区別なく、慈悲なく容赦なく万遍なく、神々しくもおぞましき虹色へと埋め尽くされる。
 浮かび上がる紅蓮の影は、手にした憑神鎌の力の顕現だったのか。
 レリックより滲み出る赤い魔力が、処刑鎌の待機形態を彷彿させる顔をした、三つ目の死神の姿を浮かび上がらせた。
「グェ、ェ、ェエエエエ……ッ!」
 痛い。痛いよ。
 身体中が苦しいよ。
 何でこんなことになっちゃったんだろう。
 どうしてこんなところまで来てしまったんだろう。
 仕方がないことだと思っていた。
 身体が痛いのも苦しいのも、人を殺そうとするヴィヴィオが悪い子だから、その罰を与えられたんだと思っていた。
 でも、本当はこんな苦しい思い、しなくていいのならしたくはなかった。
 こんな怖い思いなんて、本当はしたくなかったのに。
「ァ……ァアー、ア……」
 ママ。
 どこにいるの、なのはママにフェイトママ。
 一緒にいてくれると思っていたのに。すぐ傍で見ていてくれると思っていたのに。
 もう嫌だよ、ママ。
 痛いのも苦しいのも怖いのも、もうこれ以上味わいたくない。
 だから助けてよ。
 ここまで助けに来てよ、ママ。
 なのにママはどこにもいない。
 どこにもなのはママを感じられない。
 ああ――私、見捨てられちゃったんだ。
 あんまりヴィヴィオが悪い子だから、そんな子はもう知らないって、なのはママにも捨てられちゃったんだ。
 これで私は、独りぼっち。
 生まれた時と同じ、独りぼっち。
 誰にも助けられなくて、誰にも愛してもらえない。
 ヴィヴィオはもう――独りぼっち。

「……がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

311散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:38:22 ID:.DfmzCYc0


 それはただただ圧倒的で、暴力的で冒涜的な力の発言。
 燃え滓となった灰色の木々も。
 森林に鎮座したコンクリートのホテルも。
 そこに立つ人影達さえも。
 全てが区別なく平等に、光の中へと飲まれていく。
 地面の絨毯をひっぺ返し、大口開けて酸素を取り込み。
 恐怖さえも煽る虹色のドームが、全てを無へと帰していく。
 衛星のように駆け巡る赤色の線が、全てを切り裂き消し去っていく。
 影さえも飲み込む死の光。
 闇を切り裂く七曜の闇。
 全てが虹色に支配され、それ以外の何もかもが見えなくなって。
 たっぷり10秒間は続いた大爆発は、エリアF-8に現象する一切合財を、余すことなく飲み込んだのであった。

312散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:39:05 ID:.DfmzCYc0


 かつてホテル・アグスタと呼ばれていた、その施設の面影は既にない。
 ヴィヴィオの巻き起こした魔力爆発が、これまで健在であった建物に、遂にとどめを刺したからだ。
 コンクリートの壁も鉄骨も、情け容赦なく粉砕された。
 今その土地にあるものは、焦げた臭いを漂わせる、煤けた瓦礫の山だけだ。
「あの、女ぁぁぁ……!」
 そしてその灰色の山の中で、怒りに震える男がいる。
 全身をコンクリートに埋めながら、額に青筋を立てる男がいる。
 男の名は、神・エネル。
 スカイピアの神を自称し、恐怖こそが神であると自論し、恐怖による支配体制を敷き続けた雷の男である。
 その男が、生きていた。
 あれほどの爆発の中にあっても、驚くほどの軽傷を負うに留まり、こうして生きながらえていた。
 決め手となったのは、周囲の自然や建造物から電力を集めた、あの巨大な積乱雲だ。
 恐るべきことにこの男は、自らの支配した雷全てを使って、自らに襲いかかる魔力を、完全に相殺しきったのだった。
「最初から最後まで神を愚弄し……おまけにこんな屈辱を味わわせるとは……!」
 何だというのだ、この有り様は。
 全能の神を自称していた自分が、一体何という体たらくだ。
 か弱い少女を狩らんとしたら、あろうことか川に突き落とされ。
 神を信じぬ不届き者も、殺したと思っていたのに殺しきれず。
 赤いコートの男に返り討ちにされ、訳の分らぬ感情に心を乱され。
 男だか女だか分からないような奴に、いいように騙され利用されて。
 自らを檻に閉じ込めた紫鎧も、結局自分の手で殺す前に死に。
 あの女には見下ろされ技を盗まれ、挙句せっかく溜めた電力も使い切らさせられた。
 ひどい有り様だ。
 ここに飛ばされたから自分は、まったくもって嘗められっぱなしではないか。
「もう堪忍袋の緒が切れた! この場に生き残った全員、ただの1人として生かしては帰さん!」
 許さない。断じて許すわけにはいかない。
 これ以上醜態をさらすのは、自分のプライドが許さない。
 殺す。
 殺してやる。
 この場に集った全員を、自分自身の手で殺してやる。
 恐怖という名の崇拝を掴み取るために、再び最強の恐怖の象徴として返り咲いてやる。
 そうだ。
 もう誰も取りこぼしはしない。
「全員私の手で殺して――」
 ――ばぁん。



【エネル@小話メドレー 死亡確認】



.

313散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:40:00 ID:.DfmzCYc0
 銃口からたなびく硝煙が、男の顔を静かに撫でる。
 脳天を真上からぶち抜かれ、物言わぬ死体となったエネルを、冷淡な視線が見下ろしている。
 いつからそこにいたのだろうか。
 そこにいつから立っていて、いつから神を見下ろしていたのか。
「怒りってのはよくないな。気が散って危機管理が疎かになる」
 スマートな体型を有した青年――金居が、デザートイーグルを構えてそこに立っていた。
 四つ巴の激闘から、真っ先に尻尾を巻いて逃げだしたこの男が、エネル達の生死を確かめるために戻って来たのだ。
(ボーナスは……これだな)
 がさごそとデイパックを漁ってみれば、新たな手ごたえをその手に感じた。
 鞄から引き抜かれた御褒美は、長大な柄を持った鉄槌だ。
 殴打する部分には痛々しげな刺が連なっており、凶悪な破壊力を醸し出している。
 重量こそあるものの、アーカードの持っていた、やたら長い刀よりは使い勝手がいいだろう。
 当面はこれを得物としようと判断し、デザートイーグルをデイパックにしまうと、そのまま左手にハンマーを持つ。
「それにしても、とんでもない被害だな」
 そこで思い出したように、高みから周囲を見回し、呟いた。
 数分前に起こった大災害には、さしものカテゴリーキングも肝を冷やした。
 何せ逃げのびたかと思えば、いきなり目の前で虹色の大爆発が起きたのだ。
 あの時真南のG-9ではなく、F-9エリアに留まったままだったら、巻き込まれ消し炭になっていたかもしれない。
 これまでの情報を整理すれば、あのカラミティを巻き起こしたのは、間違いなくあのヴィヴィオだろう。
 何にせよ、厄介な2人が共倒れになってくれたのは幸いだった。
 死んだのか否かはまだ調べていないが、ヴィヴィオも小さな子供の姿になって倒れている。もはや脅威となることはあるまい。
(さて、これからどうするか)
 ともあれ、これで当面の目的は果たした。
 であれば、次の目的はどうすべきか。
 エネル達という不安要素が排除され、はやて達とも別れた今、自分がすべきことは何か。
 同行者が1人もいなくなったのだから、工場に立ち寄る理由もない。つまり、やることがなくなってしまったのだ。
 そこまで考えたところで、ふと、デイパックに入れたきりになっていたアイテムの存在を思い出した。
 学校で見つけ、それきり調べる機会のなかったUSBメモリだ。
 せっかく1人になったのだから、いい加減こいつの中身を調べてみよう。
 とりあえずは市街地に行って、適当なパソコンを調達し、こいつを開いてみることにしよう。
 そうと決まれば善は急げだ。
 コンクリートの山を滑り降り、倒れ伏す人影のすぐ横を、悠然と歩き去っていく。
「……感謝するよ、お嬢ちゃん」
 ふと。
 不意に、にやり、と口元を歪め。
 すたすたと歩いていた足を止め、首だけを背後へと振り向かせる。
「本当に厄介な奴を始末してくれたことを、さ」
 キングの視線の先にあるものは――

314散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:40:59 ID:.DfmzCYc0
 

【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】疲労(小)、1時間変身不可(アンデッド)、ゼロ(キング)への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル@オリジナル(4/7)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.USBメモリの内容を確認するために市街地に戻る。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。


「う……」
 呻き声と共に、目を覚ます。
 未だがんがんと痛む頭を振り、ぼやけた瞳を指先で擦る。
 ヴィヴィオにやられた鈍痛の残る身体を、片腕でのそのそとと起こした。
 あれから一体どうなったのだろう。
 いいや、あれだけのことがあって、何故自分は生き残ることができたのだろう。
 徐々に冴えてきた脳内で、スバル・ナカジマは思考する。
 最後に記憶したものは、聖王の背後で吼える死神の姿と、網膜を蒸発させんばかりの魔力光だ。
 前後の状況から推察するに、恐らくはヴィヴィオの身体から発せられた魔力が、とんでもない規模の爆発を引き起こしたのだろう。
 あまりの光量と音量に、意識が吹っ飛んだほどの破壊力だ。
 まともに考えるのならば、今ここで自分が生きているのはおかしい。
 何が死期を遅めたのか。
 あの圧倒的な火力の中、一体何が自分を救ったのか。
「……ッ!」
 そして。
 次の瞬間、見てしまった。
 上へと持ち上げた視線に、その存在を捉えてしまった。

 自分が倒れている目の前に、異形の怪物の死体が立っていた。

「あ……ああ……!」
 見覚えのない、禍々しい背中。
 頭部から伸びた触角に、おぞましく歪んだ甲殻から覗く緑色の肌。
 全身を煤けさせながらも、倒れることなく逝った立ち往生の死に様。
 いかにも怪物らしいこの怪物の背中を、自分はこれまでに見たことがない。
 それでも、確かに悟ってしまった。
 否応なしにも、理解させられてしまった。
「始、さん……!」
 これは相川始だと。
 あの素顔も知らない仮面ライダーカリスが、自分をここで庇っていたのだと。
 圧倒的な魔力に身を焼かれても、それでも決して引き下がることなく、そしてそのまま最期を迎えたのだと。
 また、目の前で人が死んだ。
 死なせないと誓った人を、結局救えず死なせてしまった。
 皆を守ると約束したのに、結局守られてしまった。
 その厳然とした事実はスバルを苛み、涙腺に熱いものを込み上げさせる。
 きりきりと胸を締め上げる悔しさと情けなさが、瞳から涙を落とさせようとする。

315散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:41:48 ID:.DfmzCYc0
「………」
 それでも。
 だとしても、泣くことはしなかった。
 静かに身体を起き上がらせ、視線を左側へと逸らす。
 始の死体の向こう側にいたのは、焼け焦げた大地の中心で倒れ伏す、元の小さな姿のヴィヴィオだ。
 すぐ近くに突き刺さっていたナイフは、始を殺したことで手にしたボーナス支給品だろうか。
 無言で立ち上がり、歩み寄る。未だ真新しいナイフを回収し、気絶した少女の身体を抱き上げる。
 ひゅーひゅーと響く呼吸音は驚くほど小さく、心臓の鼓動はあまりにもか細い。
 誰の目にも明らかな、満身創痍の有り様だった。
「……あたし、泣きませんから」
 ぼそり、と。
 消え入るような声で、呟いた。
 そうだ。こんな所で泣いている暇はない。
 こうして立ち止まっているうちにも、目の前の命はどんどん蝕まれていく。
 今ここで涙し膝をつけば、せっかくレリックの呪縛から解き放たれたヴィヴィオの命が消えてしまう。
「ヴィヴィオを死なせないためにも、前を向いて歩きますから」
 振り返ることはしなかった。
 それきり始の死体を見ることはなかった。
 ジェットエッジのローラーを回転させ、北へ北へと進んでいく。
 今は涙を流せない。
 始の死を悲しんでやることも、弔ってやることさえもできない。
 今目の前で死にかけているヴィヴィオを、スカリエッティのアジトへと運び、その命を救うこと――それがスバルの使命なのだから。
「だから、もう行きます」
 白のバリアジャケットがはためく。緑の瞳が光り輝く。
 胸にこみ上げる悲しみよりも、なおも大きな決意を抱いて、満月の下を進んでいく。
「ありがとうございました――始さん」
 それが相川始との、最期の別れの言葉だった。


【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 2.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。
 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

316散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:42:18 ID:.DfmzCYc0
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。

317散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:43:13 ID:.DfmzCYc0
 

 時は僅かにさかのぼる。
 これはヴィヴィオの魔力が暴発した、その瞬間の出来事である。

 悪い予感は的中した。
 否、正直予感以上だった。
 これほどの規模の大爆発は、これまでのバトルファイトを振りかえっても一度も目撃したことがない。
 腕に抱き止めたギンガの妹は、あまりの音と光に気絶してしまった。
 人間の開発したスタングレネートやらを、遥かに凌駕する音と光だ――正直自分自身さえも、未だ意識を保っているのが不思議だった。
 爆発が背後にまで迫る。
 目と鼻の先にまで光がにじり寄る。
 このまま飲み込まれてしまえば、それで何もかも終わりだ。
 身体はあっという間に蒸発し、骨まで残さず消え果てるだろう。
 自分はどうなろうと構わない。だが、それ以上に死なせたくないのはスバルだ。
 昏倒した少女を背後へと放ると、迫り来るカラミティへと正対する。
『REFLECT』
 カリスアローにラウズしたのは、ハートの8番目のカード――リフレクトモス。
 ギラファアンデッドの攻撃にも耐えられなかった防壁が、どこまで有効かは分からない。
 それでも手にしたラウズカードの中で、最もましな防御力を持っていたのがこれだ。
 すぐさま光の壁が出現し、カリスの盾となって立ちふさがる。
 爆発と正面から衝突したのは、ちょうどそれから2秒後だ。
 すぐさま、強烈な反発が襲いかかった。
 ばちばちと耳触りなスパークが響き渡り、衝撃が大気越しに身体を震わす。
 ハートのマスクの下の眉間を、苦悶を宿した皺に歪めた。
 見ればリフレクトの障壁には、既に亀裂が走っている。恐らくはあと数秒と保たずに、この壁は消滅するだろう。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」
 それでも、諦めてなるものか。
 膝をついてなるものか。
 全身から暗黒色の飛沫を放ち、本来の姿たるジョーカーへと変幻。
 黒と赤の鎧が消失し、黒と緑の甲殻が姿を現す。
 リフレクトがばりんと音を立て砕け散ったのは、ちょうどこの瞬間だった。
「くっ、お、おおおおおお……っ!」
 轟――と身を襲うのは、耐えがたいほどの灼熱と圧力。
 カリスの姿なら即死していたであろう殺人的破壊力に、無敵のジョーカーの体躯すら、じりじりと焦がされていく。
 命が遠ざかっていくのを感じた。
 不死身であるはずのこの命が、驚くほど静かに消えていくのを感じた。
 このままでは遠からず自分は死ぬだろう。
 たとえスバルの盾となり、彼女を守り通したとしても、その未来に自分の命はないのだろう。
 ふ――と。
 不思議と、笑みが込み上げた。
 まったくもって、不思議なこともあるものだ。
 殺戮のために生まれたジョーカーの最期の仕事が、命を守ることだとは。
 魔力の炎に焼き尽くされながら、しかし不思議と穏やかな気分で、自分の奇妙な運命を見据える。
 少し前まではこんなこと、考えたことすらもなかった。
 そんな自分を変えたのは、愛すべき人間達の心だ。
 スバルが懸命に説得してくれたからこそ、人の想いの強さを知ることができた。
 ギンガに命を救われたからこそ、人の想いに触れることができた。
 そして、最初に人の心を教えてくれたのは、あの栗原遥香と天音の親子だ。
 すいません、遥香さん。ごめん、天音ちゃん。
 俺はどうやらここまでらしい。ここから生きて帰ることはできないようだ。
 そして、それでも。
 だとしても、これでよかったと思える自分がいる。
 自分の命の捨て方としては、十分に満足できる死に様だと思っている自分がいる。
 人を殺す運命にあった自分が、人を守って死ねるのだ。こんなに上等な死に方はなかった。
 これで、いいんだよな。
 今は亡き少女が最期に見せた、穏やかな笑顔へと問いかける。
 俺はしっかり生き抜いたよな。
 お前が言ってくれた通り、人間の心に従って、真っ当に死ぬことができたんだよな。
 そうだよな……ギンガ――――――



【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード 死亡確認】


.

318散る――― ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:43:57 ID:.DfmzCYc0
【全体の備考】
※F-8にて大規模な火災と魔力爆発が発生し、以下の被害が生じました。
 ・F-8が壊滅状態となりました
 ・ホテル・アグスタがほとんど全壊状態となりました。
 ・装甲車@アンリミテッド・エンドラインが大破しました。
 ・ヴィヴィオの支給品一式が消滅しました。
 また、火災は魔力爆発によって鎮火しています。


【バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜】
金居に支給されたボーナス支給品。
未確認生命体第45号ことゴ・バベル・ダの使用する大金槌。
高い殺傷能力を有しており、バベルの怪力と相まって、紫のクウガの鎧に傷をつけるほどの威力を発揮した。

【黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK】
ヴィヴィオに支給されたボーナス支給品
「組織」に所属する契約者・黒(ヘイ)が使用するナイフ。

319 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 00:45:32 ID:.DfmzCYc0
ふぅ、何とか宣言の範疇の時間に投下できた……というわけで投下は以上です。
誤字・矛盾などありましたらご意見ください。

320リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 01:56:43 ID:qsn2Ooe.O
投下乙です
ヴィヴィオとエネルのバトルはまさに圧巻。規模で言えば殺生丸とナイブズをも越えるんじゃなかろうか
で、美味しい所を持って行くのはやはり金居。アレックス同様漁夫の利で殺害数を稼ぐか。
そして始。最期まで誰かを守る為に戦い抜いた姿に感銘を受けた。お前は偽物なんかじゃない本物の仮面ライダーだ!

そして指摘が二つ程。
ヴィヴィオはフォワード4人は呼び捨ての筈なので、スバルさんではなくスバルと呼んだ方が自然かと。
もうひとつは、このロワでは死亡=ラウズカード化だった筈なので、カード化の描写も入れた方がいいのではないかと思いました。

321 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 02:10:21 ID:.DfmzCYc0
了解しました。前者はそのようにいたします。
で、後者の方なんですけど……ジョーカーってラウズカード化するんでしょうか? そこが分からなかったので、こういった扱いにしたのですが

322リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 03:07:36 ID:nMQrsHmw0
映画でカードになってるよ

323リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 03:53:02 ID:iis7eLVQ0
投下乙です。
相変わらず熱い! ヴィヴィオとエネルの戦いも勿論の事始の散り際も熱かった!
ヴィヴィオはもう魔法を使えなくなってしまったけど、ロワ的にはそっちの方がいいのかも。
もう聖王になる事もないし、只の子供になってしまうけれど、そっちの方がかえって安全かもしれないし。
一つ心配なのはヴィヴィオが元の精神状態に戻れるかだが……一緒に居るのがスバルなら大丈夫か?
そして今回一番かっこよかった始。始の心を動かした晋やギンガと同じく、始もまた誰かを守る為に散った。
正体が化け物とか人間とかそんな問題でなく、最期の最期で本当の意味で仮面ライダーになれたんだと思うな。
ルルーシュや始、ギンガ達……死んでいった者達の命を背負ったスバルの今後に期待です。

ジョーカーのラウズカード化に関してですが、既に言われている通りジョーカーもまたカード化します。
53枚中、どんなラウズカードの代わりにも使える、言わば全ての能力を持ったカードがジョーカーのカード。
劇場版でも登場していますが、外見さえ知って居れば問題なく書けるレベルかと思います。

自分も一つ気になったのですが、アンデッドには死亡や破壊・消滅と言う概念が無く、その為にカードに封印されます。
まぁ封印されれば死んだも同然なのですが、一応破壊する事も消滅させることも不可能なのがラウズカードなので、
始の死後、始が所持していたハートのラウズカード10枚の行方も描写しておいた方がいいかな?と思いました。
(実際ギャレンが死んだ(と思われた)時も、持っていたラウズカードが全部戦闘後の海岸に散らばっていたし)

324名無し:2010/07/20(火) 04:10:36 ID:TFRDfDvE0
遂にマスカレードからも死者が・・・まあ、4人も参加して第3回放送まで誰も死ななかったのも十分すごいけど。

325リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 10:37:46 ID:KhF25q020
投下乙です。
ホテル戦完全決着!!
始vs金居、ヴィヴィオvsエネルという引きでどんな激闘になると思ったらスバル達によるヴィヴィオ救出戦になるとは。
スバルの攻撃が通じなかった時はどうなるかと思ったけどまさか暴走とは……
大暴れしたエネルは遂に此処で退場(でも、皮肉な事だけどエネルがいなければヴィヴィオを助けられなかったんだよなぁ……)
下手人の金居は最低限のダメージで最大限の戦果……コイツが一番の勝ち組じゃねーの……
ヴィヴィオは何とか元に戻ったけど肉体的なダメージも酷いし精神的にもボロボロ……大丈夫か?

そして始……退場したとはいえスバルを守りきった上での退場……それが結果としてヴィヴィオも救った……
登場当初は無差別マーダーでダークローチ大量発生とかトップクラスの危険人物だったのに最後の最後で仮面ライダーになれたか……
ギンガ達の願いが届いたんだなぁ……
始に救われたスバルはヴィヴィオ達を守れるのか、急げスバル、今度はアジトが危険だー!!

ここからは指摘と質問です。
ヴィヴィオの支給品が消えたのはわかるんですが、始とエネルの支給品も消えたんですか? 始はともかく描写的にエネルの支給品は無事で金居が回収しそうな気が……
始にしても他の人も指摘していますが、他の支給品はともかくラウズカードは消失しない筈なのでその辺の描写は必要だと思いますが(勿論、始自身のカードも含めて)。

……そうか、パーフェクトゼクターもクラールヴィントもヴィヴィオのぬいぐるみも消失したんだな……(遠い目)

326リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 14:17:44 ID:UQCnfIKQ0
投下乙です

ホテル戦はみんな完全燃焼したなあwww
ヴィヴィオがスバルらを皆殺しと思ってたら最後で引っくり返った。これぞロワ!
エネルは結果的にヴィヴィオを助けることになった、奴がいなければ確かにこうはならなかったなぁ
金居は美味しく漁夫の利を得て邪魔ものも消えてうはうはだな

最後に始……最後はスバルを守り心穏やかに逝くことができたのか…
本当にギンガらの想いが通じたよ…
だがロワはまだ終わらない。スバルよ、アジトに急いでくれ! そちらもピンチだ!

327リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 15:39:26 ID:qsn2Ooe.O
そうか始はパーフェクトゼクターも持ってたのか
アレは消失するのか?一応隕石同士の衝突による衝撃で大気圏突入しても無傷な装甲を更に練磨した素材とかだった筈だが…

328リリカル名無しA's:2010/07/20(火) 18:52:20 ID:k3uNdhe60
投下乙です
たとえジョーカーだろうと今のお前は間違いなく仮面ライダーだ!始えええええ!!!
あのマーダーから始まった始がまさかここまで熱い最期を迎えるとは感慨深いなあ
そしてその脇でひっそりと死んだエネル…なんだろう、なんとなく哀れに感じる…

既に指摘されている荷物の件について
エネルの荷物に関してはこのままでいいと思います
金居の様子と状態表から次の話で拾って立ち去ったとしても、そのまま放置しても、どっちでも不自然ではないですから
始の方はいくつか消滅しないものがありますが、その辺りは描写する以外にも後続の書き手に一任しても構わないと思います
どちらにせよVj6e1anjAc氏がしたいようにしたらいいと思います

329 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/20(火) 23:38:42 ID:.DfmzCYc0
支給品の件ですが、エネルのものは完全に書き忘れです。
で、始のものは最初消滅扱いにしようと思ったのですけど、色々思うところがありまして、やっぱり残すことにします。
いずれにせよ、近日中に修正案を用意しますので。

330リリカル名無しA's:2010/07/25(日) 21:44:39 ID:tSQTY5js0
スケィスも消えちゃった……。

スケェェェェェェェェェィスっっっっっ!!!!!!!(泣)

331 ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 19:55:30 ID:TIW0LW2g0
スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ分投下します。

332A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 19:57:00 ID:TIW0LW2g0
「IS……発動」

 その声と共にスバル・ナカジマの手にあったある『モノ』が粉砕された。そして近くに降ろしていたヴィヴィオを再び背負い走り出した。
 ヴィヴィオは衰弱している為急がなければならない。では、何故スバルは急がなければならないにもかかわらず足を止めある『モノ』を砕いたのだろうか――?















   ★   ☆   ★   ☆   ★





 暗い闇の中にヴィヴィオはいた。
 身体中が悲鳴をあげているかの様に痛くそして苦しい。
 助けを求めようとも周囲には誰もいない。





 それでも闇の中を歩き――見つけた。





「ザッフィー……シャマル……」

 シャマルとザフィーラが立ちつくしていた。ヴィヴィオは重い身体を引きずって近付こうとするが――
 見てしまったのだ。2人が自分を蔑む様な視線を向けるのを、それは明らかな拒絶の意志――
 それだけではない、シャマルの手には破損が著しいクラールヴィントがあった。
 何故、クラールヴィントは破損していたのか? ああそうだ、それは先程の戦いで――自分が壊したんだ――

 ザフィーラは悲しんでいる所を励ましてくれたのに自分はそれを裏切った。
 シャマルにとってクラールヴィントは相棒だったのに自分はそれを破壊した。
 2人が自分を蔑んでも当然だ。





 気が付くと2人は消えていた。再びヴィヴィオは周囲を見回し、

333A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 19:58:40 ID:TIW0LW2g0





「シャーリーお姉さん……」

 浴衣を着たシャーリー・フェネットを見つけた。ヴィヴィオは駆け寄ろうとするが――

「来ないで……」

 シャーリーはそう言い放つ。またしても明らかな拒絶だ。

「どうしてスバルを殺そうとしたの……言ったよね、スバルは友達だって……」

 そうだ、自分はあの時スバルを……

「ひどいよ……」





 そういって、シャーリーの姿が消えた。そして入れ代わる様に漆黒の服に身を包んだ少年が現れた。





「俺を治療してくれた事には感謝している。だが……」
「ルルお兄さん……」

 その少年ルルーシュ・ランペルージは自身を治療した事について礼を述べたが、

「何故スバルを殺そうとした? シャーリーからも聞いていたんだろう、スバルは俺やシャーリーの友人だという事を」
「それは……」

 ママである高町なのはを助けようともせず漆黒の怪物と戯れていたから、つまりママを裏切ったからだと正直に言おうとしたが、

「高町なのはを助けずに怪物と戯れ彼女を裏切ったからか? まさか本気でスバルが裏切ったと思っているのか?」

 ルルーシュはその理由を既に看破していた。

「違うな、間違っているぞ。スバルの性格を考えてみろ、俺の様な悪人やあの場にいた得体の知れない怪物であっても説得する事ぐらいわからないか?」
「うぅ……」
「それに高町なのはの事なら俺も少しは聞いている。彼女も同じではないのか? あの場に彼女がいたならば恐らく同じ事をしていたと思うが?」

 その通りだ、何故彼がそれを知っているのかはともかく恐らくなのはママも同じ事をしていたのはヴィヴィオにもわかる。

「つまりだ……裏切ったのはスバルではない、ヴィヴィオ! お前だ!! お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」

 その眼には明らかな憎悪と憤怒が込められていた。彼にとってスバルは自分にとってのママ達同様大切な存在だったのだろう。それを自分は――





 気が付けばルルーシュの姿も消えていた。そんな中背後から、

334A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:00:40 ID:TIW0LW2g0





「えriおくnを……かeせ……」

 振り向くとそこには人らしき『モノ』がいた。皮膚が破れ肉が露出し所々骨や内蔵が飛び出し身体中血塗れで至る所に欠損が見られる。そして頭部から僅かに見られる桃色の髪からそれが誰か理解した。

「キャ……ロ……」

 それはキャロ・ル・ルシエだった『モノ』だ。そうだ、あの時自分が彼女を完膚無きまでに破壊し尽くした。その残骸が集まり再び人の形を成したのだろう。

「えりokuんを……こんnaにしte……」

 その手らしき所にはボロボロになった鎌が握られていた。アレは自分がキャロから奪った鎌、恐らくは先の戦いでクラールヴィント同様……

「yuるさなi……!」

 そしてキャロは全身でヴィヴィオに飛びついた。肉の塊だったそれはヴィヴィオにぶつかると同時に砕け散りその血肉はヴィヴィオの身体中に染みこんでいく。

「あぁぁ……」

 放たれる死臭が気持ち悪い。それはまさしくヴィヴィオ自身の罪の象徴なのだろう。それでもヴィヴィオは助けを求めるかの様に彷徨う――





 そして――





「なのは……ママ……」

 フェイト・T・ハラオウン同様幼くなってはいたが、なのはを見つけた。しかしなのはは駆け寄ろうとするヴィヴィオに有無を言わさず魔力弾を直撃させた。

「え……」

 戸惑うヴィヴィオに対し、

「おかしいなぁ……どうしちゃったのかな……誰がみんなを殺してくれって言ったの……私がそんな事言うと思っているの……ねぇ、私の言っている事……そんなに間違ってる……?」

「ママ……」
「少し……頭冷やそうか……」

 そして再び魔力弾をヴィヴィオに当てた。ルルーシュの言う通りだった。なのはが皆殺しを望むわけがない、自分は彼女の事を全然理解していなかったのだ。





 再び立ち上がろうとするが、目の前にはゆりかごで見た時と同様に幼いフェイトがいた。




「フェイト……ママ……」

 何とか彼女に助けを求めるが、

「なんでなのはを……みんなを裏切ったんだ……」

 彼女の眼には明らかな怒りが込められていた。

「お前にこんな事をさせる為に助けたんじゃない……なのは達を裏切らせる為に助けたんじゃない……お前なんか……」

 ダメだ、その先の言葉を言うな、ヴィヴィオはそう口にしようとしたが、

「お前なんか……嫌いだ……!」

 そう言ってフェイトは消えた。

335A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:01:20 ID:TIW0LW2g0





「うぅぅ……」

 ママ達からも拒絶されヴィヴィオの眼には涙が溢れていた。そんな中、視線の先には、





「あ……浅倉お兄さ……」

 自身のぬいぐるみを手に持っている蛇皮の服を着た男性浅倉威がいた。その手にあるぬいぐるみは所々が破れ中身が飛び出している。
 ヴィヴィオは僅かな力を振り絞り浅倉に駆け寄るが、

「がっ……」

 浅倉によって蹴り飛ばされた。

「五月蠅い餓鬼が……イライラするぜ……」

 そう言って、ぬいぐるみを持ったままヴィヴィオの前から消えていった。ぬいぐるみの視線も自分を蔑んでいるかの様に見えた。そうだ、ぬいぐるみもあの戦いで――





 人だけではなく、デバイスやぬいぐるみからも拒絶されヴィヴィオは本当に独りぼっちになっていた。

「ぐばぁ……はぁはぁ……」

 蹴られた衝撃からか口からは大量の血が吐き出される。身体の奥が痛くて苦しく感じる。だが、ヴィヴィオを助けてくれる者はだれもいない。
 どうして誰も助けてくれないのか? ああ、その理由は自分が理解している、皆を裏切り皆殺しにしようとしたのだ、皆が自分から離れていって当然だ。

 いっそ殺して欲しいとすら思う。しかし死神すらも自分には見えない。死が近いとしても簡単には死なせてくれないらしい。
 死の瞬間まで苦しめと――いや、死んだとしてもずっと独りなのだから苦しみは決して終わらないのだろう。





 それはヴィヴィオに対する罪なのだろうか?





「だれか……ヴィヴィオを……たすけてよ……」





 その声に応える者は誰もいない。誰か現れても蔑むだけで決して助けてはくれない。





 悪夢は終わらない――仮に、ここでヴィヴィオが死んだとしても――





   ☆   ★   ☆   ★   ☆

336A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:02:00 ID:TIW0LW2g0













「始さんに別れを告げた後、あたしはヴィヴィオを背負いアジトへ向かった。アジトに先行しているこなた達や八神部隊長達と合流し、衰弱しているヴィヴィオを助ける為に。
 その途中、1枚のカードを見つけた。多分始さんが持っていたカードがあの時の衝撃と風でここまで吹き飛んだと思う。
 余裕なんて無かったけどあたしはそのカードがどうしても気になりそれを拾った。何故かはわからないけど始さんにとって大事な物だと思ったから――」





 ジェットエッジの調子は良好、このペースならばスカリエッティのアジトまでそう時間はかからない。
 とはいえこの時間を無駄には使えない。周囲の警戒を怠らず、先の戦いやこれからの事を考える。

 放送を冷静に思い返す。放送時点での残り人数は19人、その内ホテルに集結した参加者は自分を含めた9人。
 その内、泉こなた、八神はやて、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、カテゴリーキングと呼ばれた男が先に離脱、相川始と雷の男が死亡し自分とヴィヴィオが最後にホテルを離れた。
 勿論、なのは達を含めた残り10人の動向も気になるがそれについてはひとまず置いておく。大丈夫という保証も無いが考えてもきりがないからだ。

 真っ先に気になるのはヴィヴィオの状態だ。
 あの惨事の中心部にいたとは言えヴィヴィオは何とか生きていた。もしかしたら彼女が持っていたクラールヴィントが自らを犠牲にしてでもヴィヴィオのダメージを最小限に抑えようとしていたのかも知れない。
 しかしそれは最悪の事態を避ける事が出来ただけだ。現在進行形で衰弱している事に変わりはない。
 一体、ヴィヴィオに何が起こったのだろうか? いや起こった事自体はわかっている。体内に埋め込まれたレリックが暴走して大爆発を起こしたのだ。
 問題は何故彼女の体内にレリックが埋め込まれJS事件の時の様な洗脳状態に陥ったのかという事だ。
 少なくてもこなたやリインといた時にはそれが無かったらしい。となると連れ去られた後から約6時間の間に何かがあった事になる。
(確か、キャロかルーテシアのどちらかがゆりかごに連れ去った可能性が高いから……)
 連れ去った者が聖王のゆりかごでレリックを埋め込み洗脳した。そう考えれば一応筋は通る、しかし幾つか腑に落ちない点がある。
 まず、レリックは何処にあったのか? 勿論既に埋め込まれていた可能性もあるし、都合良く持っていた可能性もあるがそうそう上手く事が運ぶわけもない。
 また、連れ去った可能性が高いキャロとルーテシア・アルピーノの両名は共に放送前に死亡している点も引っかかる。洗脳しておいて殺されるのはお粗末な話だろう。
(……待って、もしかしたら)
 が、逆にこの事がある仮説を導き出した。ルーテシアがヴィヴィオをゆりかごまで連れて行ったが、そこで何者かにルーテシアが殺され彼女の体内のレリックをヴィヴィオに埋め込んだ可能性だ。
 これならば十分に筋は通る。暴走が起こった事に関してもルーテシアのレリックが適合しなかったとすれば問題はない。その影響でヴィヴィオが苦しんでいるのだろう。
 勿論、これは仮説に仮説を重ねたものでしかない為確証はない。しかし、可能性は十分にあり得るだろう。
 それ以上に気になるのは彼女に染み着いた夥しい血肉の臭い。確かにあの状態ならば誰かを殺しても不思議はない。しかし、普通に返り血を浴びたとしてもここまで酷くなるとは思えない。
 考えられるのは殺した死体を完膚無きまでに破壊した際に飛び散った血肉が染み着いた可能性だ。幾ら洗脳状態とは言え正直やりすぎではなかろうか?

337A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:03:00 ID:TIW0LW2g0

 勿論、ヴィヴィオの行動自体は洗脳状態だった為、スバルとしてはそれを責めるつもりはない。
 しかし、ヴィヴィオが正気に戻った時に彼女がその時の事を覚えていたらどうだろうか?
 ヴィヴィオは罪の重責で苦しむのではないだろうか? なのは達から拒絶される可能性を考えるのではなかろうか?
 スバル自身は別段気にしないしそれについてはなのは達も同じだろう。だが、ヴィヴィオ自身が納得出来るかは全くの別問題だ。
 このままでは仮に命が助かってもヴィヴィオの心が壊れてしまう可能性が高い。
(何とかしてヴィヴィオを助けないと……出来れば早くなのはさんと会わせたいけど……)
 とりあえずホテルでの戦いではヴィヴィオは誰も殺さなかったと説明しておこう。幸いあの惨状を見たのは自分だけだから誤魔化しはきく。
 ボーナスでナイフを得た事を知っているのも自分だけだからそれで知る事も……
(待って、それじゃあの男は誰が?)
 ホテル跡には始の他に雷の男の死体もあった。ヴィヴィオ優先だった為詳しくは調べていないがあの戦いで死んだ事は間違いない。
 危険人物ではあったが彼がヴィヴィオを抑えてくれなければヴィヴィオに一撃をたたき込めなかった事は確実、つまり彼の存在のお陰でヴィヴィオを助ける事が出来たという事になる。ある意味皮肉な話だ。
 普通に考えれば彼が死んだ理由は暴走に巻き込まれたからだろうがそれならヴィヴィオが得るボーナスは2つでなければならない。
 また、何よりあの男の遺体は始と比較して損傷はそれ程酷く無く、頭部に撃たれた痕跡があった。
 つまり、雷の男を殺したのは別の者という事だ。では一体誰が?
(いた、それが出来る人が……)
 それはカテゴリーキングだ。エネルとヴィヴィオが乱入した時点で危険を悟り早々に離脱したのだろうが、後から戻ってきて危険人物である雷の男にトドメを刺した可能性は否定出来ない。
 自分達を助ける為……とは思えなかった。本当に自分達を助けるつもりならばヴィヴィオや自分を放置する筈がない。つまり、あの男は自分だけの為に雷の男を仕留めたのだろう。
 自分達を放置した理由は不明、あの男にとっては自分達は排除する必要すらない取るに取らない存在なのだろうか?
 始との対立云々を別にしても、その立ち回りと思考から警戒すべき人物なのは確かだろう。もしかしたらメールにあった『キング』と何か関係があるかもしれない。後でもう少し整理した方が良いだろう。
(あれ、何か引っかかるんだけど……)
 ここまで考えて引っかかりを感じたものの深く考える余裕は無い。他にも考える事はある。

(かがみさん……無事にこなたの説得が通じれば良いけど……)
 それは殺し合いに乗ったかがみの存在だ。アジトに到着すれば友達であるこなたが説得してくれる筈だ。
 しかし、それは希望論でしかない。一番説得出来そうなのはこなたではあったが絶対という保証はない。
 それ以前にこなた達がアジトに無事に到着しているという確証も無いし、はやて達が途中で何者かに襲われている可能性もある。
 また、場合によっては彼女の持つリングに宿るバクラが何かする可能性も否定出来ない。
(いや、バクラに関しては一応ヴァッシュさんに注意しておいたから多分大丈夫だと思うけど……)
 そう思いながらも不安は拭えない。また、前に会った時と比べてかがみが荒んでいるのも見て取れた。
(ホテルで再会するまで6時間弱、何があったんだろう……そうだ)
 と、スバルはデイパックからレヴァンティンを出した。レヴァンティンは元々スバルが持っていたがデュエルアカデミアでの戦いでかがみに奪われ先の戦いで取り戻すまでずっとかがみが所持していたものだ。
 つまり、レヴァンティンがその間に何があったか把握している筈だという事だ。
「……というわけで、かがみさんに何があったかわかる範囲で良いから教えて」
 事情を説明しレヴァンティンに問う。

338A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:05:40 ID:TIW0LW2g0

 そしてレヴァンティンはそれまでに起こった話を語り出す。
 かがみの様子を見る限り、度々誰かと会話している様な様子が見られた。しかし相手の人物の声が聞こえなかった為詳しい事はわからない。
(バクラね)
 スバルとの戦いを終えた後、かがみはレヴァンティン以外のデバイスの力を利用してバリアジャケットを展開しようとした。
「え!? かがみさん何かデバイス持っていたの? ……あれ、もしかしたらあの時隠し持っていたかも知れないってこと……まぁ、かがみさん魔力無いだろうからあんまり問題は……部隊長もいるだろうし」
 そして、煙の見えるレストランに向かい集まった参加者を一網打尽にしようとしていた。
 ちなみに仮面ライダーには変身出来ないらしく持っていた機関銃で撃ち殺そうとしていた。
 そして機関銃の準備をしている所で始と遭遇、始は人間を助ける気は無いとは言いながらもかがみを止める事は無かった。その一方逆に襲う事も無かったらしい。
 その後、かがみがレストラン跡にいた浅倉と始を襲った。もっともその試みは失敗しかがみの持つ仮面ライダーに変身する為のカードデッキは浅倉に奪われ逆に返り討ちにあった。
「え、ということはかがみさん仮面ライダーに変身出来なくなったの?」
 その後は浅倉と始が戦いが始まったらしいがその場面を直接見ていない為具体的な事は不明ではある。
 一方、気が付けばかがみの腹部に何かベルトが装着されそのままかがみは別の仮面ライダーに変身しその場を離脱した。恐らくホテルでの姿はそれだろう。
「どういう事? アカデミアで戦った時と違うのは気になったけど、ベルトが手に入った理由がわからないんだけど……」
 そう問うスバルだったがレヴァンティン自身もわからないし何よりかがみ自身すらもわかっていなかったらしい。
 そしてホテルに戻ったが、そこでいきなり何かに引きずり込まれたらしい。引きずり込まれた先で待っていたのは浅倉によるかがみの妹柊つかさの惨殺。
「そんな……」
 これによりかがみの精神は破綻、そして浅倉と戦いになったらしいが気が付けば元のホテルに戻ってきていた。
 それからヴァッシュと遭遇し、スバルとの再会後離脱し何かの車で始を轢き殺そうとしたが失敗し始と戦いになりあの場に戻ったのだ。
 勿論、ここまでの話はデイパックの中から会話や音を聞いた事による判断なのでレヴァンティン自身詳しい状況まではわからない。それでも何があったのかは概ね理解出来た。

「つまり、かがみさんがああいう風になったのは目の前でつかささんを殺されたから……」
 かがみが壊れた原因はつかさの死という事は理解出来た。これ自体は不幸な事だが逆を言えば説得の糸口になる。
 異なる世界の別人と決めつけながらも実の妹が殺されてショックを受けたのだ。例え口では別人と言っても割り切れないのだろう、説得の可能性が僅かに見えたと言える。
「それにしてもバクラが思ったよりも役に立っていないのが気になるんだけど……」
 一方でバクラの動向も気になった。バクラが自分に都合の良い風にかがみを誘導している割には思ったよりも戦果があがっていないのだ。かがみの口ぶりからバクラは一度彼女を見捨てようとしたらしい。
 一応、身体を使う等の話も出ていたが別段そんな様子は無かった。基本的にはかがみ任せにしていた事は間違いない。
 もしかするとバクラ自身にも強い制限がかけられている可能性があるのかも知れない。制限故にかがみを誘導していたのだろう。
 かがみのあまりの不甲斐なさに一度見捨てようとした事もその現れかもしれない。
 とはいえ、バクラの存在がかがみを追い込んだ事に変わりはない為、それを許すつもりは全く無い。

339A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:07:50 ID:TIW0LW2g0

 と、スバルは何かに気付き足を止めヴィヴィオを一端降ろし、デイパックからベルトを出して試しに身に着けてみた。しかし、別に反応する事はなかった。
「あたしじゃこのベルトは使えない……けど、かがみさんには使える……だったら!」
 ベルトを外して手に持ち
「IS……発動」
 そう言ってベルトを粉砕し再び走り出した。
 何故ベルトを粉砕したのか? それは再びかがみに利用されるのを防ぐ為だ。
 何故ベルトがかがみに装着されていたのだろうか? 何故かがみがベルトを使う事が出来、自分は使う事が出来なかったのか?
 その理由はかがみにはその資格があり自分には資格が無いからではなかろうか?
 資格が何かはわからない。だが資格があったからこそベルトは勝手にかがみに装着され彼女に力を与えたのだろう。
 もしここでのこのこかがみに近付いたらどうなるだろうか? 恐らく先程同様ベルトがかがみに装着される可能性が高い。そうなれば折角取り上げた意味が無くなってしまう。
 あの仮面ライダーの力は絶大、あの時は上手くいったが次も上手く行くとは限らない。故に二度と使われる事が無いようにベルトを破壊したのだ。
 勿論、かがみの説得が上手くいった場合、その力を奪った事は一見デメリットに思える。
 だが、かがみに力を与えるという事はかがみを戦わせる事を意味する。スバルはこなたやかがみ達といった戦いと無縁の人々を戦わせるつもりは全く無い。
 かがみ以外が扱えず、そのかがみにも使わせるつもりが無いならばその道具に意味など無い。だからこそ破壊したのである。

(とりあえず、これでもうかがみさんに戦う術はない……後は説得だけど……大丈夫、こなたならきっと助けられるし何かあってもヴァッシュさんや八神部隊ちょ……)
 ここまで考えてスバルは違和感を覚えた。
(ちょっと待って……部隊長はあの男と行動をしていた……どうして部隊長はあの男と?)
 カテゴリーキングはジョーカーだけが目的だと言っていた。確かにそれはある程度は信用出来る、だが殺し合いを止めようと言う風には感じなかった。
 何故はやては彼と行動を共にしていたのだろうか。勿論この状況下だ、例え敵でも組まなければならない時があるのはわかる。しかし何かが引っかかるのだ。

『あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね』
 それは雷の男がやって来た時にあの男が言った言葉だ。あいつ“ら”――複数いた、つまりヴィヴィオがいたことも知っていたという事だ。
 そして恐らくははやても知っていた可能性が高い。それを知って待避したという事は――
(部隊長はヴィヴィオを見捨てた……)
 友人の娘を見捨てたという事実、それはスバルにとっては信じがたい話であった。
 だが、感情的な面を抜きにして考えれば有り得ない話ではない。ヴィヴィオの力が驚異的だったのはスバル自身も理解している。場を切り抜けるならば撤退という選択を選ぶ可能性が無いとは言えない。
 同時にリインの話も思い出した。リインの世界の彼女は家族を取り戻す為に非人道的な作戦の指揮をとっている話だ。彼女の世界のはやてならばその選択を選んでもおかしくはない。
 当然その世界のはやてである保証はないが、似たような状況に置かれた世界の彼女の可能性は十分にある。その可能性を頭から否定する事は愚行以外の何物でもない。

340A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:08:30 ID:TIW0LW2g0

 選択自体は認めたくはないが間違っているわけではない。だが、もしもはやての人格がスバルの推測通りだとしたらスバルにとって避けるべき事態が起こる可能性がある。
(かがみさんが危ない……)
 ここで以下の3人について客観的に考えてみて欲しい。

 力を暴走させてはいたものの、それ以外では友好的な姿勢を見せ、戦いにおいても誰であろうとも殺さずに無力化しようとしたヴァッシュ、
 口では殺すとか戦うとは言っておきながら撤退を促し、最終的には誰も殺さず此方を助けてくれた始、
 此方が説得したにも拘わらず、聞く耳を一切持たずに自分達を騙し陥れ仲間達を皆殺しにしようとしたかがみ、

 3人の行動を見て誰が信用出来るか? それぞれ意見はあるだろうが殆どの者は一番信用出来ない危険人物がかがみなのは理解出来るだろう。
 しかし、スバルは一般論とは外れた行動を取っているのはこれまでの行動からも明らかだ。他の2人とは戦ってはいたが、かがみに対しては戦うという選択ではなく助けるという選択肢しか選んでいない。
 この理由はかがみが何の力を持たないか弱き少女であり、こなたの友人であり、同情出来る部分が多かったからというものだろう。
 しかし逆を言えばその理由が無ければ話が通じないかがみこそが一番の危険人物ではなかろうか?
 バクラが元凶だ、かがみは何も悪くない? そんな理屈は通用しない、現在進行形で放置出来ない危険人物である事に違いはない。理由はどうあれチンクを殺し自分達をも殺そうとした事実は決して変わらないのだ。
 話が通じないならばどうするかなど考えるまでもない。排除するしか無くなる、殺し合いを打破する為ならばその選択が間違っているとは言えない。

 つまり、はやてが障害となるかがみを排除する可能性が高いという事だ。
 自分の世界のはやてならばその可能性は無いと断言出来るが、リインの話やヴィヴィオへの対応を考えれば危険人物を排除する可能性は否定出来ない。
 その考え方自体はわからなくはないからそれも致し方ない。だが、殺し合いとは無縁だった彼女を殺させる事を容認出来るわけがない。
 勿論、はやてが行動を起こしてもヴァッシュが止めてくれる可能性はある。だがそれでは遅いのだ、事が起こればその時点でかがみは裏切られたと考え更に説得を難しくする。なんとしてでも止めなければならない。
(お願いです……早まらないで下さい、八神部隊長……)
 杞憂であれば良い、しかしその可能性がある以上無視する事は出来ない。急がなければならない、故にジェットエッジを更に走らせようと――

341A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:09:40 ID:TIW0LW2g0





 ――バランスを崩し転倒しそうになった。何とか転倒こそしなかったがスバルは一端足を止めた。





 足場の良くない夜の森林であった事に加え考えていた以上に自身の受けたダメージや疲労は大きかったのだろう。
 それ以前に焦りと急ぐのに夢中で周辺の警戒を怠ってはいなかっただろうか? このタイミングで奇襲に遭えばアニメイトの二の舞だ。
 こんな調子では守れるものも守れず、救えるものも救えない。
 スバルは深く深呼吸する。長々と休むつもりは無いが心を落ち着ける事は必要だ。

 ふとデイパックから2枚のカードを出した。それは始が変化したカードと先程拾った彼が持っていたらしいカードだ。
 1枚はハートの2『SPIRIT』、中にはヒトとハートが描かれている。1枚はジョーカー『JOKER』、中には始の本来の姿の頭部が描かれていて、見ようによっては緑のハートに見えなくも無い。
(始さんから何も聞けなかったな……)
 カードを見て始の事を思い返す。結局の所、始は一体何者でスバルの姉であるギンガ・ナカジマと何があったのだろうか?
 少なくても彼自身が語った通り彼が人間とは違う異質な怪物という事は間違いないだろう。遺体がカードとなっていることからもそれは明らかだ。
 その一方、カテゴリーキングと始の会話からみるに、始が死神にして非常な殺戮者だったのはほぼ間違いないだろう。彼が殺し合いに乗っていた事についてはそれでほぼ説明出来る。
 更にスバルは2枚のカードと前にルルーシュが持っていたクラブのKのカードが同じものであると共に、それらがある物に似ている事に気付いた。それはトランプだ。
 となれば、『始=ジョーカー』が死神と呼ばれるというのも的を射た表現だ。トランプにおいてジョーカーは他の52枚とは異質な存在で時には忌み嫌われる事もあるからだ。
 つまり、始は最初から他者とは違う全く異質な存在という事だ。

 では、その始と解り合う事は不可能なのか? 答えはNoだ。
 そもそもの話、最初から異質な存在という意味ではスバル達も同じなのだ。
 スバルやギンガ達戦闘機人は「ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として生み出す」という手段で生み出されたものであり、その目的はその名前通り高い戦闘力を持つ人型兵器を生み出す事だ。
 つまり、スバル達も最初から兵器として生み出されており人間達とは違う全く異質な存在なのだ。
 だが、現実ではスバル達はクイント・ナカジマに保護された後、ナカジマ家で人間として育った。また、ナンバーズにしてもその大半は更正プログラムを受けた後、ナカジマ家の養子になる等人間として暮らす事になった。
 始にもスバル達と同じ事が言える筈なのだ。自分達の声が届く筈がない、スバルはそう思っている。

 始とギンガの間に何があったのだろうか?
 始によるとギンガは殺し合いに乗った自分を助けて命を落としたらしい。だが、始の口ぶりではギンガとの遭遇はその時1度だけだとは思えなかった。
 ギンガは何度も始を説得しようとしていたのでは無いだろうか? ギンガは始と解り合えると思っていたのではないだろうか? 故に何度も説得を試み――その途中で敵の攻撃から始を守って死んだのだろう。
 始はそれを馬鹿な行為だと言った、しかしスバルはそれを否定する。ギンガが無駄な命を救う訳がなかったし何より始の言動そのものがそれを証明している。
 始は自分の為にギンガが死んだ事に強い悲しみを感じていた。本当にギンガの行動を馬鹿だと思うならそう感じるわけがない。
 そして何より、始はギンガの言葉の影響を強く受けていたのが先の戦いでもわかった。ギンガの声は始に届いていたのだろう。

 正直な話、少なくても始の行動を見る限り能動的に殺し合いに乗っていたとは思えなかった。
 ホテルでの戦いでは自分に去る様に言ったり、自身のとどめを刺すように促したりしていた。
 また、レストランでの戦いでも始はかがみを襲おうとはしなかった。
 本当に能動的に殺し合いに乗っているのならばそんな行動をとりはしないだろう。

342A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:11:30 ID:TIW0LW2g0

 もしかすると、そもそも始は誰かが言ったような『死神』として殺し合いに乗っていたのではなく、別の理由で殺し合いに乗っていたのでは無いだろうか? 例えば、待っている人達の元に帰る為といったものだ。
 勿論、何の確証も無い想像でしかないしそれを確かめる術もない。しかし、本当に只の『死神』ならギンガの説得は何も届かず逆に彼女を殺していた可能性が高い。
 始自身が気付いていたかはわからないが、きっと始自身誰かを守る為に戦っていたのかもしれない。誰かを守ろうとしたからこそギンガの説得が届いたのだろう。

 確かにジョーカーは『死神』等に代表される嫌悪される存在の意味を持っている。しかし、ジョーカーが持つ意味はそれだけではない。1つは他を凌駕する絶大な力、もう1つは他のあらゆる存在の代替になれる事だ。
 つまり、ジョーカーこと始はその絶大な力で皆を救える存在にもなれるという事だ。そして確かに彼は自らの力でスバルとヴィヴィオを救う存在となった。

『誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ』

 かがみが言った言葉、確かにそれは事実だ。
 ディエチもチンクもルルーシュもギンガも誰かを守ろうとして死んでいった。
 真面目な話、スバル自身あの時死んだと思っていたし、実際に自分とヴィヴィオを助ける為に始が死んだ事は確かだから否定出来るわけがない。
 それでもだ、死んでいった者達は仲間達に何かを届けてくれた。彼等の死は無駄ではなく同時に決して無駄にしてはいけない、それだけは断言出来る。
 彼等が遺した物はこの血塗られた運命を破る切り札となるかも知れない。しかし切る者がいなければ切り札に意味はない、故に生き残った者達は決して諦めてはならないのだ。

 カードが煌めいた気がした。スバル達を励ますかの様に――





 スバルは再び走り出した。調子はさっきよりも良い、これならば躓く事なくアジトまで行けるだろう。
 ヴィヴィオの容態は悪く、かがみの説得が上手く行く保証もない。はやての動向等気になる事は多く不安は尽きない。
 それでもスバルは決して諦めたりはしない。諦める事は簡単だ、だが諦めるという事は自分達を守る為に死んでいった者達の想いや意志を裏切る事になる。
 彼等の行動を無駄にしない為にも必ず皆を守り殺し合いを止めるのだ。





「ルルーシュ、ディエチ、チンク、ギン姉……みんなの想いと願い、決して無駄にしない……
 そして始さん……貴方の『心』と『魂』は私が受け継ぎます……
 必ずなのはさん達と力を合わせてヴィヴィオ達を助けてこの殺し合いを止めます――」

343A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:12:00 ID:TIW0LW2g0





【1日目 真夜中】
【現在地 E-9】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、
     クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 2.六課のメンバーとの合流。かがみの事はこなたに任せる。はやてに早まった真似をさせない。
 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード、金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。

344 ◆7pf62HiyTE:2010/08/01(日) 20:15:30 ID:TIW0LW2g0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回のサブタイトルの元ネタは8月7日から上映される『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』からです。……まだ上映前なんだけどなぁ……良いのかな?
今回容量は29KBなので分割無しで収録可能……ですよね?
……分割無しで収めたのって『命の理由』以来だなぁ……もしストラーダスバルが回収してあったんだったら分割になっていたかもわからんな(ストラーダから聞き出すシーンが入るので)

345 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 03:57:50 ID:arCjFvuI0
投下乙です。
ヴィヴィオは本当にどうなるんだろう……起きてからが怖いなぁ。
早くなのはさんと合流して貰いたいところ。逆にはやてとはあんまり合流させたくないな。
あのはやてと今のヴィヴィオじゃ合流してもヴィヴィオの精神面的に碌な事にならなさそうだからなぁ……。
始の意思を受け継ぐ事を決意したスバルもかっこいい。
ジョーカーのカード、何処かで役に立ってくれるといいなぁ。


それでは連続になりますが、自分も
アンジール、キング、なのは、天道、かがみ分を投下しようと思います。

346Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:02:03 ID:arCjFvuI0
 私は悪くない。
 悪いのは全部私をここまで追い込んだ奴らだ。
 ここで出会った奴……皆して私を裏切った。
 だから私は、こんな所まで来てしまったのだ。
 嗚呼……どこで間違えてしまったんだろう。
 どうしてこんな、最期の最期まで苦しい思いをしなくてはいけないのだろう。
 体中から流れる大量の血液が、柊かがみの意識を急速に奪っていく……そんな感覚。
 四肢から流れ出た血液が周囲に赤の血だまりを作り、腹部から流れる血液が下腹部を濡らす。
 人間は通常、身体の三分の一から二分の一の血液が無くなった時点で、死に至ると言われている。
 もうそろそろ流れ出る血液は三分の一に達する頃だろうか。
 「死」が、もうすぐそこまで迫っているのだ。
 それはかがみ自身も、直感的に感じていた。

(ああ……私、死ぬんだ。嫌だ……死にたくないな……)

 次第に薄くなって行く意識の中で、かがみは思った。
 つい先ほどまでは、他の皆を殺して自分も死ぬつもりだった。
 だけど、一瞬で死ねるならまだしも、こんな苦しい思いをして死ぬなんてのは、予想外だ。
 だからかがみは、急速に接近する「死」を、受け入れられずにいた。
 成程確かに、八神はやてに言われた通りだ。自分は本当に都合がいい考えをしていた。
 そもそもの話、他を皆殺しにして自分が死ねばそれで全て終わるなんて、虫が良すぎたのだ。
 それでいていざ「死」が迫ると、自分はそれを受け入れられずにいる。

(死にたくない……死にたくないよ……)

 止めどなく溢れ出る涙。高鳴る心臓の鼓動。
 感覚が鈍って行く。目眩と涙とで、視界が歪む。
 死にたくないんだ。私は今、生きたいと願っているんだ。
 だけど、ここで生き延びたってする事なんて何もない。
 だってもう、柊かがみは全てを失ってしまったのだから。

 人間が最も簡単にPTSD(トラウマ)に陥る理由は、大きく分けて二つ。
 一つは、明確な殺意を持った者によって、「殺される」という恐怖を与えられる事。
 一つは、不可抗力にせよ何にせよ、誰かほかの人間を「殺してしまう」こと。
 エリオを殺してしまった。シグナムを殺してしまった。だからはやてに殺されてしまう。
 この一日でそれらの条件を尽く満たしてしまったかがみに、冷静な判断など出来る訳が無い。
 心に大きな傷を負ったかがみが、この先に希望を見いだせる訳が無いのだ。
 つまり今のかがみは、死にたくも無いが、生きたくもない……ただ絶望に打ちひしがれるのみ。
 第一、エリオやシグナムを殺してしまった自分に、この先も平然と生きていけるとは思えなかった。

(エリオ……シグナム……そうだ……私が、殺したんだ……)

 先程の少女――はやての表情を思い出す。
 瞳を見れば解った。あのはやてという少女、最初から自分を殺すつもりだったのだ。
 自分は彼女の大切な家族を――シグナムを奪ったのだ。この手で……。
 他の世界だろうが何だろうが、そんな事は関係ない。
 家族を殺された。だからはやては私を殺す。至って単純な事だ。
 憎しみによって繋がる負の連鎖。何処かで断ち切らねば永遠に続く悪循環。
 それが巡り巡って、明確な殺意となってかがみへと返って来た。
 殺された者の無念。遺族の愛憎。行き場の無い憎悪。
 それら全てを、殺意と言う形でぶつけられたのだ。
 それは浅倉につかさを殺された時、はやてにこなたを殺されたと言われた時、自分自身も感じた筈だ。
 結局のところ、八神はやては先程までの自分自身と同じ。

(どうして……私は……)

 どうして、こんな簡単な事に気付かなかったのだろう。
 本当に大切な者は失ってから初めて気付くとか、自分が経験して初めて気付くとか。
 そういう事は良く言うけど、こうして一人でじっと考える機会が訪れて、ようやく気付いた。
 自分は、人を殺した。周囲が悪かったから……という理由も多分にあるが、それだけでは言い逃れられない。
 人を殺せば、その人の人生も、未来も失われる。そうすれば、その人の遺族にも憎まれる。
 考えればすぐに解った筈なのに……自分の事でそんな事にも気付けなかった。
 そしてかがみを襲ったのは、家族を殺された者からの、愛憎による殺意。
 今更反省したところで遅いし、そんな虫の良い事をする気にもなれない。
 自分は本当に、どうにも取り返しのつかない事をしてしまったのだ。

347Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:03:04 ID:arCjFvuI0
 
(こなた……こんな私じゃ、もう友達だなんて言ってくれないかな……)

 また、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
 本当に信頼出来る、数少ない友達を胸に思い描く。
 出来る事なら、最期にもう一度その顔を見たかった。
 死を前にして初めて解った。結局自分は、こなたを求めているのだ。
 どうせ別の世界だから……なんてのは、はやての言った通り自分を誤魔化す為の言い訳に過ぎない。
 だから自分は、つかさが死んだ時だってあんなに取り乱してしまったのだ。
 だけど、それに気付くのも……何もかもが、遅すぎた。





 炎上するスーパーの前に佇む、三人の男女。
 一人は赤の装甲に身を包んだ仮面ライダー――天道総司。
 一人は時代を感じさせる着物に身を包んだ少女――高町なのは。
 そして最後の一人は、全身黒ずくめの仮面――魔王ゼロだ。
 両手を高らかに掲げて前進する魔王ゼロの姿は、見る者に異様な迫力を与えるようだった。

「聞け、力を持つ参加者よ! 刮目せよ! 私はゼロ……魔王ゼロだ!
 私は悲しい。繰り返される無秩序な殺戮、略奪! ルール無用の殺し合い!
 私はこの野蛮なバトル・ロワイヤルを善しとしない!」

 漆黒の仮面の奥から響く声は、低く、重たく、周囲へと響き渡った。
 言っている事はつまり、この殺し合いには乗って居ないという事だろうが……
 それは最早、天道となのはにとってはナメくさっているとしか思えない言い分であった。
 C.C.やペンウッドを誘拐し、今し方自分達を砲撃したこいつの何処が殺し合いに乗って居ないと言うのだ。

「だから私は、ここに新たなゲームを提案する! それに当たって、参加者の戦力は平等でなければならない!
 故に私は、ゲーム進行の妨げと為り得る乱入者達を、今し方このゲームから排除した!」
「ゲーム、だと……?」

 カブトの仮面の下、その表情の更に下側に明確な“怒り”を隠して、天道が問うた。
 こいつのふざけたゲームの為にC.C.とペンウッドは犠牲となり、今現れたもう一人の少女は死んだ。
 恐らくは奴がアンジールの妹なのだろうと言う事は、アンジールの反応を見れば解る。
 アンジールは、目の前で妹を無惨にも爆殺されたのだ。
 それを思えば、天道も冷静ではいられなかった。

「そうだ。ゲームという物は本来、決められたルールの下で楽しむべきもの!
 それ故に、私はこのゲームに新たなルールを設けた上で、諸君らに参加して貰いたく思う!」
「ふざけるな! そんな事の為に、貴様は何人もの命を……!」
「少し黙って貰おうか、仮面ライダー。貴様に拒否権は無いんだよ。」

 それ以上、言葉は必要なかった。
 カブトクナイガンが閃き、カブトの赤き装甲が踊る。
 卓越した戦闘センスで一瞬のうちにゼロとの距離を詰めたカブトが、短刀を振るった。
 きんっ! と、鳴り響く金属音。現れたのは、カブトの攻撃を遮る様に浮かぶ、黄金にも近い色の盾。
 構うものかと、続けて放つはハイキック。されど、それも先程と同じくして現れた盾によって阻まれる。

「私はゲームマスター、言わばプレイヤーだ。そして君たちは、プレイヤーによって盤上で動かされる駒。
 盤上で踊るべきキャラクターがプレイヤーに反逆する事は不可能! よって、君の攻撃は通らないよ!」

 言うが早いか、ゼロが掌を突き出した。
 巻き起こる突風。突風はカブトの身体を浮かばせ、そのまま後方へと吹き飛ばす。
 同時にカブトが肩から担いでいたデイバッグがカブトの身体から引き剥がされ、宙へ浮かぶ。
 浮かんだデイバッグは、カブトの身体とは反対方向――即ち、ゼロの方向へ向かって飛行。
 カブトが雑居ビルの壁に身体を打ち付ける頃には、デイバッグはゼロの手に握られていた。

348Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:03:45 ID:arCjFvuI0
 
「ゲーム開始時に初期装備が充実し過ぎていては、ゲームバランスが崩れかねないだろう?
 さぁ、仮面ライダーカブトよ……貴様の初期装備品はそのカブトゼクターのみだ!」
「貴様……ッ!」
「次はお前だ、高町なのはよ!」
「え……っ!?」

 カブトにはもう用無しだと言わんばかりの変わり身の早さで、なのはへと向き直る。
 驚く隙すら与えずに、ゼロが巻き起こしたのは先程と同じ突風。
 強力な念動力によって起こされた突風を回避する事は難しい。
 回避も防御も出来ずに、なのはの身体からデイバッグが引き剥がされた。
 それらもすぐにゼロの元へと飛行し、そのままゼロの手中へと収まった。

「これで君のアイテムは無くなった……だが、それではフェアじゃあない……。
 そこで特例として、君に初期装備アイテムを支給しようと思う。受け取りたまえ!」
「わっ、とと……え、これって確か……デルタギア!?」

 ゼロのデイバッグから取り出されたのは、銀色のアタッシェケース。
 放り投げられたアタッシェケースを何とか両腕でキャッチ。
 それは、なのはにとって確かな見覚えのあるベルトであった。
 そう。それは本来自分に支給された筈のベルト――デルタギア。
 それを手に取り、なのははゼロを見据える。

「これで準備は整った。君達にこのゲームのルールを説明する!
 カブト、デルタ……君達仮面ライダー二人には、タイムリミットまでに何人の参加者を殺せるかを競って貰う!」
「冗談じゃない……誰がそんなゲームに――きゃっ!?」
「まだ説明は終わって居ないよ、高町なのは……いや、デルタよ」

 カブトのすぐ傍らのコンクリの壁に、なのはの身体が叩き付けられた。
 念動力による突風だ。それに吹き飛ばされ、なのはの身体も飛ばされたのだ。

「君たちは私の駒だ。私の思い通りに動くしかない。さもなくば……残念だが、私はこいつを殺すしかなくなる」

 デイバッグの中へと突っ込まれたゼロの腕が掴んだのは、細い首だった。
 白く、美しい毛並みの小さな竜。仮にもなのはと組んだ相棒――フリードリヒだ。
 苦しそうに足掻くフリードなど意に介さず、力強く握り締めたその腕を、天高く振りかざした。
 月明かりの元、いつでも殺せる状況へと追い込まれたフリードが、じたばたと暴れていた。

「フリード!」
「ドラゴンと言えど命は命。それを尊く思うなら、私には逆らわない事だ。さて、それでは説明に戻らせて貰おう。
 ゲームは至って単純だ。次に私と出会うまでに何人殺せるか、いくつの首輪とボーナスアイテムを得られるかで競って貰う。
 そうだな……首輪のノルマは、一人につき二つ。それを満たせなかった場合は、この龍を殺す。
 君達が勝った場合は、次に出会ったとき、首輪四つとボーナスアイテム四つをこの龍と交換してやろう」

 これが、ゼロが持ちかけたゲームのルール。
 このデスゲームに新たな縛りを追加したものだ。
 次にゼロと出会うまでに、天道となのはは合計で四人の参加者を殺さねばならない。
 そして得た首輪と、ボーナスアイテム全てをフリードと交換しなければならないのだ。

「一応言っておくが、これまでの放送で名前を呼ばれた者の首輪を持ってきても数にはカウントしない。
 君達が仕入れた、新しい首輪とボーナスアイテムを持って来なかった場合は、無条件にこの龍を殺す」
「そのゲームに乗る必要はない。何故ならキング……お前は今、ここで俺に倒されるからだ」
「……キング? はて、何の事かな」
「とぼけても無駄だ。今さっき貴様が出した盾、俺には見覚えがある」

 掲げられたカブトの指先が、ゼロへと向けられた。
 天道は一度、コーカサスアンデッドへと変身したキングの姿をその眼で見ているのだ。
 その際に、キングが腕に装備していたソリッドシールド。それはまさしく、先程カブトの攻撃を防いだ盾だ。
 もう言い逃れは出来ないと言わんばかりに、カブトは真っ直ぐにゼロを指差していた。
 天道の思惑を察したゼロも、これ以上の演技に意味は無い事を悟ったのだろう。

「……あーあ、つまんないなぁ。まぁ、気付かれたからって僕の要求は変わんないけどさ」

 さもつまらなさげに呟きながら、その漆黒の仮面を外した。
 ゼロの正体は、案の定今となっては明確な敵となったキングであった。
 仮面を外した途端に声が変わった事を考えると、あの仮面には変声機でも付いているのだろう。

349Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:04:15 ID:arCjFvuI0
 
「ま、僕もそろそろゼロには限界感じてたからいいんだけどさ」
「キング……殺し合いには乗って無いっていうのは、やっぱり嘘だったの?」
「嘘じゃないさ。僕にとっちゃ人間同士の殺し合いなんて微塵も興味無い。それはホント。
 ただ、こうした方が面白いだろ? 正義の味方が人を殺すなんて、最高の見世物じゃんか!」
「そんな下らない理由の為に……!」
「やめろ高町……最早こいつには何を言っても無駄だ」

 カブトの、天道の冷静な声に宥められるなのは。
 ――否。カブトの声色にも、確かな怒りと最大限の侮蔑が込められていた。
 やはり人として感じる憤りはなのはも天道も変わらない。
 こいつは、キングは最悪だ。図らずも二人の意見は一致していた。

「貴様はここで俺が倒す。それで何の問題も無い」
「ちょっとちょっと、ゲームのルール聞いてなかったの? 僕は別に戦う気は無いんだってば! 第一僕、戦い嫌いだし」
「貴様こそ俺の話を聞いてなかったのか。俺は貴様を、ここで倒すと言ってるんだ」
「ああもう……わっかんない奴だなぁ! 戦ったとしても、お前レベルじゃ僕は倒せないって言ってんの。
 折角生き残るチャンス与えてやってんのに、何で無駄死にしようとすんのさ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 君の頭を疑うよとでも言いたげに、キングが両手を広げた。
 この自信、ハッタリ等では無い。それは天道自身にも良く解る。
 アンジールとの戦いで疲弊した今、果たして万全の状態のキングに勝てるだろうか。
 ……いや、勝てるかどうかではないのだ。倒さなければならないから、倒す。
 だから天道は、天の道を貫く為、キングに戦いを挑まなければならない。

 ――きぃんっ!!――

 刹那、何かの金属音が響いた。
 聞き覚えがある。キングの盾と、刃物が激突する音。
 カブトから見て、キングの後方にソリッドシールドが形成されていた。
 そして、ソリッドシールドと一緒に見えた影は――純白の、片翼。

「アンジールか……!」
「あぁそっか……最後の妹、死んじゃったんだ。だから他の参加者を手当たり次第に殺す事にした?」
「黙れッ!!!」

 激昂したアンジールが、反逆の名を冠した剣を横一閃に振った。
 されど、それはキングの身体に届く事は無く、直前でソリッドシールドによって阻まれる。
 キングの言う事は正しい。事実、アンジールはクアットロを失った事で、夢も誇りも失った。
 もう、先程までのアンジールは死んだ。今ここにいるのは、ただ殺す為だけに戦う堕天使。
 事実、盾に防がれていなければ、アンジールの剣の軌道はどれも確実にキングを死に追いやる太刀筋であった。

「アンジール……それがお前の選んだ道か」

 ぽつりと吐き出された天道の言葉は、何処か言い様のない寂しさを帯びていた。
 だけど、アンジールが全ての参加者を殺す事に決めたのなら、それも理解出来る。
 もしも自分が、掛け替えのない妹――樹花やひよりを殺されたら、その時は自分だってどう行動するか解らない。
 妹の為だけに戦うアンジールは、言わば天道とは鏡映しと言って良い。限りなく似て非なる存在なのだ。
 だからアンジールの行動を責める事は出来ないし、アンジールの判断を間違いとも思わない。
 なれば、今の自分には何が出来るだろう。これ以上アンジールの誇りを汚さない為には……。

350Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:04:56 ID:arCjFvuI0
 
「やはり、倒すしかないか」

 ぽつりと呟かれたカブトの言葉など、まるで意に介さない様子だった。
 アンジールの身体が、片翼による羽ばたきで、刹那の内に上空へと掻き消えたのだ。
 キングに只の斬撃は通用しない事を学んだのだろう。アンジールが次に狙った相手は――

「――ひっ!?」
「どこを狙っている……アンジール?」

 きぃん、と響く金属音。
 なのはの首筋を狙い、一直線に振り払われた剣を、カブトクナイガンが受け止めた。
 咄嗟の判断でカブトがなのはの眼前へと躍り出なければ、ここでなのはは死んでいた。
 もう、この男に誇りという物は無い。殺せるならば、女子供に関わらず手当たり次第に殺す。
 ならば天道は、その刃に脅かされる命を守り、アンジールを倒さなければならない。
 カブトクナイガンを翻し、リベリオンを払いのける。
 勢いそのまま、アンジールへと躍り掛かろうとするが――

「ダメダメ! ゲームの邪魔はルール違反だよ!」

 カブトの刃がアンジールと再び接触する前に、アンジールの身体が吹っ飛んだ。
 同時にアンジールの身体からデイバッグが引き離され、キングの元へと飛んで行く。
 それを片手でキャッチし、自分のデイバッグの中へと放り込み、言い放った。

「ようこそアンジール、君は三人目のゲームプレイヤーだ! ライダーチーム対堕天使アンジールってね!」

 漆黒のマントをばさりと広げ、高らかに言い放った。
 だが、天道は最早キングの言葉になど耳を貸していない。
 カブトがその視界に捉えたのは、開きっ放しになったキングのデイバッグのみ。
 そして、考える。先程の戦いで疲弊した今、キングとアンジールを同時に相手にするのは確かに骨が折れる。
 だが、今のアンジールは目に映る者全てを殺すマーダー。そしてキングは、揺るぎなき明確な「悪」だ。
 ならば……戦う以外にも、こいつらを潰し合わせる事は出来る。

「高町!」
「え……!?」

 ――CLOCK UP――

 自分の背後に控えたなのはの腰を掴んだ。
 そのままなのはの意思などお構いなしに、腰のスイッチを叩く。
 同時に響いたのは、クロックアップの開始を告げる電子音。
 天道は元々の体力が人並み外れているとはいえ、今はアンジールとの戦闘直後。
 その上なのはをも抱えている事を考えれば、クロックアップ出来る時間はそう長くない。
 だから、勝負は一瞬だ。一瞬で“それ”をこなし、戦闘から離脱せなばならない。
 残り僅かな加速を使い、カブトはキングに掴み掛った。

351Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:05:27 ID:arCjFvuI0
 




 一瞬で、カブトの姿が掻き消えた。
 なのはの姿も一緒に掻き消えて、残されたのは二人きり。
 炎上するスーパーの炎に照らされながら、キングは再び漆黒の仮面で顔を隠した。

「やれやれ……逃げるなんて、仮面ライダーとしてはどうかと思うんだけど、なぁ?」

 全てを言い終えるまでもなく、キングの眼前にソリッドシールドが形成された。
 言うまでもなく、ソリッドシールドを出す要因となったのは、アンジールの剣だ。
 有無を言わさずに、アンジールはキングへと斬り掛かって来たのだ。

「あぁ、そういう事。アンジールと僕をぶつけようって? 甘い甘い! それじゃ甘いよカブト!」
「何をごちゃごちゃと……!」

 今度は、真っ赤な火球だ。
 だけど、それもキングの元へと届く前に現れた盾によって掻き消された。
 アンジールもそろそろ気付く頃だろう。自分の攻撃はキングには通用しない、と。
 それを理解できるまで、キングは防戦一方というスタンスを貫く。
 そして、幾度かアンジールの攻撃を防いだ後で、キングが口を開いた。

「今のアンジールを、ザックスが見たらどう思うかな」
「何ぃ……!?」

 キングは知っている。
 アンジールに、愛弟子が居る事を。
 夢と誇りの全てを託した者が居る事を。

「バスターソードはどうした? 父の形見では無かったのか?」
「黙れ……黙れ! 何故貴様がそれを知っている……!?」

 解りやすい程に動揺している。
 相手を騙す上での基本。まずは、相手を信用させる為の地盤を築く。
 自分は他の参加者では知り得ない、アンジールの全てを知っているのだと思い込ませるのだ。

「クアットロに、チンク、ディエチ。戦闘機人、ナンバー4、5、10……お前の大切な妹達だな?」

 マスクのお陰で、キングの声は低く響くような声へと変声される。
 それがアンジールに異様な迫力を与え……時を待たずして、その動きが止まった。
 これはチャンスだ。ここで畳み掛ければ、単純なコイツはすぐに落ちる。

352Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:06:07 ID:arCjFvuI0
 
「他の者は知り得ない情報を何故私が知っていると思う? 何故私に攻撃が通用しないと思う?」

 あの携帯サイトを見れば全ての参加者の情報を得る事なんて容易い。
 攻撃が通用しない……これに至っては、キングの元々の能力だ。
 だけど、こうやって考えさせる事には確かな意味がある。

「単刀直入に言おう。私は主催側の手の者だ……故に、私を殺す事は不可能!」
「なん……だと……!?」
「そして、私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが」
「何……!? それは本当か……!?」

 まだ疑ってはいるようだが、ここまで来れば成功したも同然だ。
 あとはそれらしい理由を並べてこいつを自分の駒にすればいい。
 カブトは自分達を潰し合わせる腹積もりだったのだろうが、そうは問屋が降ろさない。
 カブトが考えた想像よりも、遥かに楽しい展開に持ち込んでやろう。

「未だに殺し合いに乗ろうとしない輩が多い事は想像に難くないだろう。
 私はそう言った参加者達を扇動する為にプレシアによって遣わされた者」
「どうすれば、妹達を生き返らせてくれる……?」
「私はこれから市街地へ向かい、他の参加者達に追加条件でゲームを持ちかける。
 君には逆らう者を黙らせる為の、私の兵隊になって貰いたく思うのだが」
「兵隊……だと?」
「ああ、勿論……私の申し出を聞かずに他の参加者を皆殺しにして、自力で妹達を生き返らせるのも結構。
 ただし、たった一人で戦って皆殺しにするか、主催側の私と繋がりを持った上で他の参加者を皆殺しにするか……
 妹達を生き返らせると言う一つの目的の上で行動するなら、どちらの方がより確率が高いかは考えるまでもなかろう」
「……俺、は……」

 嗚呼もう完璧だ。ニヤけが止まらない。
 このソルジャー、完全に自分の事を信じているらしい。
 ゼロのマスクが無ければ、仮面の下で笑っていた事が一発でバレていただろう。
 声だって多少笑いが込められて居ても、それはこの変声機のお陰で誤魔化せる。
 逆に嘲笑とも取れるし、余裕を見せつける上ではかえってプラスかも知れない。

(さあ、どうするアンジール?)

 従わないなら従わないで、ここで殺してしまえばいい。
 この男程度のレベルならば、変身すれば問題無く倒せるだろう。
 だけどそれでは面白くない。何よりもカブトの思い通りになるのが気に入らない。
 キングはただ、全て自分の思い通りなのだと言う事を知らしめてやりたいのだ。
 そしてもう一つ。高町なのはに渡した仮面ライダーデルタのベルトについてだ。
 デルタギア、恐らく自分ならば問題無く使いこなせるだろう。だが、それではつまらない。
 だから高町なのはに渡した。アレを使えば、如何になのはと言えど暴走は免れないだろうから。
 別にゲームに乗ってくれなくたって構わないし、その時はその時でフリードを殺せばいい話だ。
 そう……キングが何よりも楽しみにして居たのは、ゲームなどでは無い。
 なのはにデルタを使わせる事自体が、キングの楽しみだったのだ。

 ――されど一つだけ、キングも気付いていない事がある。
 それは、開け放たれたままのキングのデイバッグの中身についてだ。
 カブトが離脱する瞬間、クロックアップ空間の中でキングとカブトは一度だけ接触した。
 キングが知覚するよりも早く、ソリッドシールドが形成されるよりも早く。
 そう。カブトは一瞬よりもさらに短い刹那の内に、キングのデイバッグに掴み掛った。
 そして、無造作に掴んだデイバッグが二つ――ごっそりと、キングのデイバッグの中から消えていた。
 しかし、キングがそれに気付くのは、まだもう少し先のお話なのであった。

353Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:07:12 ID:arCjFvuI0
 


【1日目 真夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールを駒にする。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.本当に妹達を生き返らせる事が出来るのか……?
 2.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが対主催側の人間だと思っています。

354Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:07:48 ID:arCjFvuI0
 
 ――CLOCK OVER――

 鳴り響いた電子音は、超加速の終了を告げる合図。
 誰も居ない平野まで駆け抜けて、ライダーシステムが限界を感じた。
 距離にすれば、1キロ走ったかどうか。普段の天道ならば、大した距離では無い。
 されど、今は状況が特別だ。クロックアップの時間制限と、なのはという名の足かせ。
 それらを抱えて走り抜けた天道には、既に戦える程の体力は残されて居ない。
 立ち止まると同時に、天道の身体から赤の装甲と抱えていたなのはが離れた。

「あれ……ここは? 今さっきまでキングが……」
「クロックアップで離脱した。お前を守りながらあの二人と同時に戦うのは無理だ」
「離脱……? 天道さんが……?」

 らしくない。普段の天道ならば、逃げたりはしない筈だ。
 例え状況が不利であっても、カブトという力がある限り、天道は戦う。
 そういう人間だと思っていただけに、意外な撤退には正直面食らった。
 ……否、先程の天道の動揺を考えれば、それも無理は無いのかもしれない。
 本人は表には出していないつもりだろうが、アンジールが妹を殺されたと聞いた時――
 天道は確かに動揺していた。カブトの仮面の下で、きっと想像も出来ない様な表情をしていた。
 それが一体何故なのかなど、なのはには解る訳も無いのだが……。

「今のアンジールとキングは、まず間違いなく潰し合う。どちらが勝ったとしても、俺が倒せばいいだけの話だ」
「天道さん……」

 強がってはいるが、やはりいつもの天道では無かった。
 何と言うか、らしくない。どういう訳か、不自然さを抱かせる。
 逃げるしか無かった自分が許せないから? 戦っても勝ち目が無かったと自分自身で気付いているから?
 そういった罪悪感と、アンジールの一件。それらが、天道に確かな動揺を与えているようだった。
 されど、二人に立ち止まって居る時間などは与えられなかった。

「――待て、何か聞こえるぞ!」
「え……あ、これは……泣き声……?」

 言われてみれば、微かに聞こえる。
 女の子が、すすり泣いているような声だ。
 ここからそう遠くない。このままでは危険だ。
 この場で泣き声を響かせると言うのは、自分の居場所を教えているようなもの。
 最悪の事態になる前に駆け付けて、泣き声の主を保護しなければならない。
 何故泣いているのか、話を聞くのは保護してからでも遅くは無い。
 そして、そう考えているのは天道も同じらしい。
 二人はすぐに、声の元へと駆け出した。

355Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:09:26 ID:arCjFvuI0
 

 それから間もなく、二人は声の主を発見した。
 一目見た時、あまりの惨たらしさに口を塞いでしまった。
 紫の髪の少女が、全裸で四肢を縛り付けられていたのだ。
 それも、四肢からは止めどなく血液が溢れ出して、腹部に至っては貫通されている。
 相当なショックだったのだろう。失禁した形跡すら見られる。
 最早少女は、なのは達が目の前に来ても何の反応も見せなかった。
 ただただ、何事かを呟きながら涙を流し続けるだけ。
 口に下着を詰め込まれて居るせいで、何を呟いているのかは解らなかったが……。
 もうこの子は壊れている。身体だけでなく、心も。
 なのはにそう思わせるには十分だった。

「この子……あの時の……」

 この少女には、見覚えがある。
 あの時――このデスゲームが始まってすぐに出会った少女だ。
 自分があの時この子の話をきちんと聞いて居れば、きっとこの子はここまで追い込まれなかった。
 この子がこうなってしまった原因の一つは自分でもある。出来る事なら、何とかして助けたい。
 だけど……今自分に出来るのは、ケリュケイオンによるヒーリングだけだ。
 あの時キングは、なのはのグローブ――ケリュケイオンを見落していた。
 だから、このデバイスだけはキングに奪われずに済んだのだ。
 口に詰め込まれた下着を引き抜いて、掌を腹部に翳す。
 そうして初めて、少女の呟きが聞きとれるものとなった。

「エリオ……シグナム……私が……殺したから、殺される……家族、殺された、から……
 私……悪かった、の……かな……もう、誰も居ない……一人ぼっち……わた、し……」
「一人ぼっちじゃない……私が居る! 貴女には私が、私達がついてるから……!」

 この子が何らかの理由でエリオを殺してしまった事は、もう知っている。
 その上でシグナムも殺してしまったのならば、それは確かに許されざる罪だ。
 だけど、今ここで死んでいい命なんてある訳が無いし、これ以上誰にも死んで欲しくは無い。
 この子は自分が犯した罪と向き合って、きちんと罪を償わなければならない。
 だから、まだここで殺す訳には行かないのだ。

「なんで……どうして……こんな事に……もう、死ねば……いいのに、私なんて……」
「死ぬなんて言っちゃ駄目だよ! 私はまだ貴女の名前も聞いてない……ねぇ、名前は?
 名前を教えて? 私の名前は高町なのは……誰も居ないなら、私が貴女の友達になるから……」

 ようやく、少女がぴくりと反応した。
 ぱちりと瞬きをして、一際大粒の涙がその瞳から零れ落ちた。
 それからすぐに、少女が再び口を開いた。

356Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:10:56 ID:arCjFvuI0
 
「わたし……私は、柊……かがみ……お願い、なのは……私を、殺して……もう、嫌なの……」
「かがみ……かがみだね? 悪いけど、そのお願いは聞けないよ。嫌って言われても、私はかがみを助ける」
「エリオ……シグナム……それから、眼帯の女の子……私が、殺した……だから、私は……もう……」
「その話なら後で聞くから……だから、生きることを諦めないで。辛い事があったなら、一人で背負い込まないで……」

 どんなにヒーリングを続けても、そんな物はその場凌ぎにしかならなかった。
 腹部から、手足から、止めどなく溢れ続ける血液を止めるには、回復量が少なすぎる。
 この少女、既に完全に諦めきっている。完全に絶望してしまっている。
 だけど高町なのはという人間は、まだ諦めてはいない。
 そんな時だった。

「そいつを助ける手段、無い訳じゃ無い」

 背後から、天道が声を発した。
 二つのデイバッグをその場に降ろし、その中から見なれない機械を取り出した。
 どうやら腕に装着するディスクらしく、緑のカードが一枚セットされていた。
 リリカル遊戯王GXの世界に登場する、デュエルディスクと呼ばれる機械だ。
 片手に持った説明書を読みながら、天道が言葉を続ける。

「だが、そいつに使ってやる義理は無いな」
「そんな……!」
「そいつは三人も人を殺してる。そんな奴を仲間に入れてどうするんだ」
「それは……罪は償う事は出来ます……この子だって――」
「そいつには無理だ。生きる気が無い人間を助けた所で、また同じ事を繰り返すだけだからな」

 確かに、天道の言う事は正しい。
 死にたがっているかがみを無理に生き返らせても、逆に今度は世界を憎むかも知れない。
 何故自分を殺してくれなかった。何故こんな辛い世界で、自分を生き長らえさせた、と。
 事実、かがみはこれまでも周囲を呪い続けて、その結果として三人も殺してしまったのだろう。
 そんな状態のかがみを助ける事は、確かに得策とは思えない。
 だけど……

「それでも、私はこの子を助けたい……! 後の事は、私が責任を取るから――」
「お前では話にならん」
「な……天道さん!?」

 なのはの言葉を遮って、天道が進み出た。
 全裸のかがみの前に立って、真っ直ぐにその顔を見下ろす。
 鋭い視線で射抜くように見据えて、言葉を続けた。

「おい、お前……“かがみ”とか言ったな。死ねば赦されるとでも思ってるのか?」
「死なないと……あの子、私……許さない……だって、私も……浅倉、許せないから……
 つかさ……殺された、から……だから、シグ……ナム、殺した私……死なないと……」
「あの子ってまさか……はやてちゃ――」
「甘えるのもいい加減にしろ! お前がそいつに殺されたとして、お前が殺した三人はどうなる……!?
 例えお前を殺しても、そいつはお前を絶対に赦さない。死んだ者は還って来ないんだ。心が晴れる訳が無い。
 だが、そいつが仇を取る為にお前を殺せば、死んだ三人はどう思う!? 絶対に喜びはしない筈だ……!」

 なのはの言葉を遮ったのは、怒号であった。
 天道総司という人間が怒鳴る姿を、なのはは初めて見た。
 いつだって冷静に的確な判断を下していた筈の天道だからこそ、怒鳴るなどとは思って居なかった。
 そういったイメージも手伝って、天道の迫力に拍車が掛っているように見えた。
 だけど、きっとそれは錯覚などでは無いのだろう。

357Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:11:58 ID:arCjFvuI0
 
「生きた、って……皆、私を裏切る……だって、皆……別の世界の……人、だから……なのはも……」
「私は裏切らない……! もう、かがみを離さないから……だから、私を信じて? お願い!」
「でも……万丈、目……だって……バクラだって、私……裏切られたから……」
「だからって何だ。そいつらが裏切ったからって、高町までお前を裏切ると誰が決めた?」

 おかしいな、となのはは思う。
 先程まではかがみを助けるつもりは無いなんて言っていたのに、今の天道の言葉はまるで真逆に聞こえる。
 まるでかがみを改心させて、助けようとしているような。助ける為に、かがみに罪と向かい合わせる為に。
 もしかすると、天道は最初からそうするつもりだったのではなかろうかとすら思ってしまう程であった。

「……と、言った所で生きる気力の無いお前には何を言っても無駄だな。お前がどうしても死にたいと言うなら、俺は止めはしない。
 だが……お前がここで死んでしまえば、お前の言いたい事や、伝えたい事……誰にも何も、永遠に伝える事は出来なくなってしまう」
「伝えたい……こと……そんなの……もう、私には……」
「かがみ、良く考えて……? 友達の事、家族の事……元の世界で待ってる皆や、ここで戦ってるお友達の事……本当にそれでいいの?」

 恐らく、先の放送で呼ばれた「柊つかさ」というのは、かがみの家族だろう。
 それはかがみの言葉を聞いて居れば想像がつくし、だからこそここまで壊れてしまったのも納得が行く。
 誰だって家族が死んでしまって、平然としていられる訳が無いのだ。
 それもかがみの様に元が完全な一般人なら、尚の事。
 だけど、それでも生き残った人の事……死んでしまった家族の想いを、考えて欲しい。

「伝え、たい事……ほん、とは……沢山ある……こなただって、生きてる……戦ってる、って……
 でも……でも……人を、殺した……こんな、私が……今更……こなたと……出来る訳ない……出来る、訳……」
「かがみ……事情があったにしろ、人を殺した事は赦されないし……多分、私だって貴女を赦す事は出来ないと思う……
 だけど、それでも……貴女を想ってくれるお友達の事や、死んでしまった大切な人の想い、忘れないで欲しいんだ。
 私の友達だって、何度もいがみ合って、ぶつかり合って……それでも、罪を背負ってでも、最後は解りあえたから……」

 フェイトの事。はやて達ヴォルケンリッターの事。
 彼女らはかがみとは状況も、罪の重さも全く違う。それくらいはなのはにだって解る。
 なのははきっと、エリオやシグナム、チンクを殺された事……きっとかがみを赦す事は出来ない。
 だけど、それでもかがみにはその罪を背負って、前を向いて生きて欲しいと思う。
 だからなのはは、こんなにもかがみを殺したくないと必死になれるのだ。
 死んだ三人の想い、ここでかがみが死んで報われるものでもないのだから。
 だけど、ヒーリングを続けているとは言え、かがみが現在進行形で衰弱しているのもまた事実。
 このまま話が長引けば、本当に死んでしまうかもしれない。それだけは避けたいのだが……。
 そう考え始めた矢先、天道も状況を察したのか、顔色を変えて話始めた。

「良く聞けかがみ。お前にまだ生きたいと願う意思があるなら……罪を償いたいと思う心があるなら……
 例え他の誰が裏切ろうと、俺と高町なのはだけは絶対にお前を裏切らない。離れていても、俺達がずっとそばに居てやる」
「えっ……う、あ……あぁ……そんな、都合良い……話……今更……うぐ……う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 とっくに崩壊していた涙腺から、濁流の様な涙が零れ落ちた。
 まるで子供の様に、その口から呻き声を漏らして……泣き崩れた。
 今までずっと辛い思いをしてきたかがみに、初めてかけられた優しい言葉。
 本心から、救いたいと願ってくれる者の言葉。
 だけど、後戻りは出来ないと言う事実……重圧。
 それらがかがみに、最後の壁を作って抵抗させる。
 今なら解る。かがみは、本当に死にたいなんて言っていた訳ではない。
 本当はこの子だって、戻りたいのだ。昨日までの、平和だった頃の自分に。
 友達たちと笑いあって居たであろう頃に――。

 不意に、天道が右手の人差し指をそっと掲げた。
 空を軽く見上げながら、言葉を続ける。

358Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:12:49 ID:arCjFvuI0
 
「おばあちゃんが言っていた。……嘆くなら抗え。悔やむなら進め。不幸だと嘆くだけなら誰でも出来る……ってな。
 いいかかがみ。世界はお前の敵じゃない……困難は多いだろうが、お前にはその困難に立ち向かう義務がある。
 そしてそれを背負って生きて行く限り、お前には何処の世界でだって生きて行く権利がある」
「う、ぁ……だって……私……わた、しぃ……三人も……ひっく……ぐすっ……」
「その三人の事を、絶対に忘れるな。そして、その三人の分まで生きて、戦い抜け。それがお前に出来る償いだ」

 ただ生きて行くだけではない。
 嘆くくらいなら、抗え。悔やむくらいなら、前に進め。
 殺してしまった三人の呪縛に捉われてがんじがらめにされるのではなく。
 未来を生きたいと願う希望の光と、背負った三人の命、罪という名の闇。
 自分の中の光と闇と……その両方を背負って、走り続けなければならない。
 それこそがこれからかがみがしなければならない、終わる事の無い戦い。
 自分自身を見失わない様に、自分の心と戦い続けなければならないのだ。

 ――それきりかがみは喋らなくなった。
 ただ聞こえるのは、声にならない嗚咽と、すすり泣く声だけだ。
 一人で何を考えているのかは、なのは達の知る所では無い。
 だけど、生きたいと願うのであれば……何事かを告げる筈。
 逆に、自分達の説得でも駄目だったなら……かがみは何も言わないだろう。
 果たして、その答えは――





 嗚呼、私にはまだ、こんなにも想ってくれる人間が居たんだ。
 なのはには、あんな酷い事をしたのに……裏切られたと思って、裏切っていたのは私の方だったのに。
 それでも目の前の二人は、自分を信じてくれると言っている。裏切らないと言ってくれている。
 その言葉は、今でも完全に信じる事は出来ないし……心の何処かでは、未だに疑っている。
 だけど同時に、信じたいと願う自分も居る。

(わたし……生きていても、いいのかな……ここに居ても、いいのかな)

 もうバクラは居ない。
 つかさだって居ないし、こなただってどうか解らない。
 だけど、自分にも生きる事が赦されるなら……生きていたいと思う。

 そして、ここで生きていていいのなら。ここに居てもいいのなら。
 犯してしまった罪はきっと、永遠に消えないのだろうけど……それでも。
 誰かと一緒に、誰かの為に、死んでしまった三人の分まで戦いたい。
 自分自身と戦って、生き抜きたい……きっと皆、都合が良いって言うと思うけど……。
 あの関西弁の少女に会うのも、殺してしまった人の関係者に会うのも、迷惑を掛けてしまった皆に会うのも、正直に言えば怖い。
 また殺されるんじゃないだろうか。自分なんて信じて貰えないんじゃないだろうか。
 きっとこれまで関わった皆から、都合が良いって罵られる筈だ。
 正直言って怖い。怖くて怖くて、また心がどうにかなってしまいそうだ。
 だけど、それでも逃げる訳には行かない。自分はそれに立ち向かわなくちゃならないから。
 罪を背負うって言うのはきっと……そういう事でもあるのだと思うから。
 だから、私は――。

「なの、は……ありが、とう……私、最後に……あんたに、会えて……良かった」
「かがみ……最後だなんて言わないで!? これからも、一緒に戦おう……一緒にゲームから脱出しよう!?」
「わか……るから……私、も……駄目、だって……だから、私の分、まで……なのは……生き、て……」
「かがみ……かがみ!? そんなの駄目だよ……かがみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 悲しいかな、手遅れだ。
 もう何をしても、間に合わない。自分でも解る。
 体中からこれだけ血液を流したのだから、当然だ。
 生きる気力はあっても、考え方を変える事が出来ても、現実には敵わない。
 だけど最後の最後で本当の自分を取り戻す事が出来た。
 そして、最後になのはにお礼を言えただけで、もう満足した。
 嗚呼、今の自分は、ちゃんと笑う事が出来てるだろうか。
 最後くらいは、笑顔でいたいから……
 だから――

「――ありがとう」

 それだけ言って、かがみは意識を手放した。
 と言うよりも、意識を保って居られなくなったのだ。
 喋り続けた所為か、意識の混濁が余計に早まっているように思える。
 だけど、意識が途切れる寸前に、男の声が聞こえた気がした。

「合格だ、かがみ」

 何が合格なのか……今となっては何も解らない。
 もう何も考える事など出来ないのだから……。

359Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:17:31 ID:arCjFvuI0
 




 柊かがみが意識を手放してから、既に数十分が経過していた。
 天道総司も、高町なのはも、今はその場に腰掛けて、休憩をとって居た。
 二人の表情に、先程までの緊迫感は無い。どちらも今はただ身体を休める事に集中しているようだった。
 本来ならば、かがみの事でそう簡単には立ち直れないのだろうが……。

「天道さん、最初からかがみを助けるつもりだったんでしょう?」
「勘違いするな。俺は生きる意志を持つものしか助けるつもりは無い」
「でも、最初からかがみを見捨てようとはしなかった……
 それは、かがみが本当は優しい子だって気付いてたからじゃないですか?」

 なのはが問うが、天道はそれ以上何も答えなかった。
 無駄話をしている暇があるなら、体力を回復させろ、と。まるでそう言っているようだった。
 今の天道は、ただ目を瞑り腕を組んで、瞑想でもしているかのように俯いているのみ。
 もしかしたら何事かを考えているのかも知れないが……それは天道にしか解らない。
 二人が無言になれば、すやすやと聞こえてくるのは安らかな寝息。
 紫髪の少女が身体になのはの上着の着物をかけられて、ぐっすりと眠っていた。

「デュエルディスク……カードさえあれば、何度でも使える支給品。正直、こんな便利な物があったなんて……」
「と言っても、かがみの場合はあと何度か使わないと完全には回復しないだろうがな」
「その……かがみの傷、やっぱりはやてちゃんがやったんでしょうか」
「それに関しては、起きてから直接かがみに話を聞くしかないな」

 犯人はほぼはやてで間違い無いのだが……天道はそうだとは言わない。
 それも当然だろう。天道だって、はやてがなのはの友達だと言う事は理解している。
 絶対にはやてがやったのだと言う確信があるのなら話は別だが、そうでないなら想像だけで迂闊な事は言えない。
 かがみが気を失う瞬間に、天道が咄嗟にデュエルディスクを装着させ、カードの効果を使ったから助かったものの……。
 下手をすれば、そんな事をする機会すらないまま、一方的に殺されていた可能性だってあるのだ。
 そんな事を、あの八神はやてがした。悪い冗談だと信じたい、と……そう思っているのは二人ともだ。

「何にせよ、今は考えても無駄だ。放送まであと僅かだ。それを聞いたら、俺はこのまま西へ向かう」
「西……? でも、地図を見る限りじゃ、ここより先は……」
「俺の予想が正しければ……エリアの端と端は繋がっているかも知れない」
「え……それはどうしてですか?」
「かがみを拘束するのに使われていた服、見たところホテルの従業員の制服だ。
 なのは、お前が最初にかがみと出会った時、確か制服を着てたって言ってたよな?」
「つまり、かがみは一度ホテルに行ってから、この平野まで戻って来た……?」
「ああ。そしてここにかがみを襲った犯人は居ない。何も無い平野だ、この周囲に隠れている訳でもあるまい」

 天道の言っているのはつまり、こういう事だ。
 かがみはなのはと出会ってから、どういう訳か一度ホテルへ向かった。
 そこでホテルの従業員の制服を手にし、それを着て移動を開始した。
 だが、移動途中に何者かに襲撃され、この場に置き去りにされてしまった。
 とするならば、その犯人は何処へ逃げた? この周囲に隠れる場所は無い。
 かがみの傷を見たところ、恐らくやられたのはそんなに前という訳でもないだろう。
 そう考えれば、考えられるのは、このエリアの向こう側はそのまま東側に繋がっているという可能性。
 プレシアの事だ。エリアの外に出たからって首輪爆発なんてつまらない事はしないだろうし、十分にあり得る。

「それに、ゆりかごに向かうなら東側から行った方が圧倒的に近い」
「……それだけじゃない。もしも犯人がはやてちゃんなら、どうしてこんな酷い事をしたのか……
 もしそこで出会えたら、きちんと本人から話を聞く事も出来るかもしれない」

 これで話はまとまった。
 まずは放送を聞き、それからかがみから事情を聞く。
 そしてすぐに西へ向かい、エリアが繋がっているのかどうかを確認。
 それからゆりかごへ向かい、ヴィヴィオを救出する。
 これが当面の彼らの行動方針であった。

360Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:18:31 ID:arCjFvuI0
 

 キングから奪い取ったデイバッグをその手に抱え、二人は星空を見上げていた。
 各々の思考を巡らせながら、この無情なデスゲームに憤りを募らせる。
 こんなゲームは絶対に終わらせなければならない。
 その為にも、自分達は戦わなければならないのだ。
 放送まであと僅かだ。それを聞いたら、すぐにでも動きださなければならない。

 そして、そう考える高町なのはのデイバッグの中には――
 彼女にとっての、最高の切り札が今も眠っているのであった。



【1日目 真夜中】
【現在地 D-1 平野】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デルタギア一式・デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.放送を聞いた後で、かがみから話を聞く。
 2.西へ向かい、エリアの端と端が繋がっている事を確かめる。
 3.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 4.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 5.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 6.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。キングは最悪の相手だと判断しています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(中)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.放送を聞いた後で、かがみから話を聞く。
 2.西へ向かい、エリアの端と端が繋がっている事を確かめる。
 3.なのはと共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.一応あとで赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 5.キング及びアンジールは倒さなければならない敵。
 6.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】全裸、両手首の腱及び両アキレス腱切断(回復中)、腹部に深い刺し傷(回復中)、疲労(極大)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー
【装備】デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【道具】ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:出来るなら、生きて行きたい。
 0.ありがとう、なのは……。
 1.……(気絶中)。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。

361Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:19:35 ID:arCjFvuI0
 

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング、アンジール
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、柊かがみ、(ギルモン・アグモン)

362 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/02(月) 04:36:23 ID:arCjFvuI0
これで投下終了です。
最後のなのはの状態表のフリードはミスです。
wiki収録時に削除して修正しておこうと思います。

さて、今回のMは「Mirror(鏡)」の意。柊かがみの鏡。
また、かがみとはやて、天道とアンジール、それぞれ自分自身を映し出した鏡。
で、後半の「M」はマイナスのMの意味もあります。毎度ながらこじつけです。
他の書き手さんの作品も合わせて、ロワ完結までにAからZまで全部出せたらなぁとか思ってます。

ここからは「あとがき」と言う名の「言い訳」です。
エリオに次いで、多分最初にかがみが壊れてしまうきっかけを作った自分が言うのもなんですが、かがみは本当は優しい女の子だと思うんですよね。
色んな事があって、全部を周囲の所為にして、挙句やさぐれてしまったのは明らかにかがみの非だと思うけれど。
だけどはやてに殺されかけて、多分今までここの読者達がずっとかがみに言いたいと思ってた事をはやてが直接ぶつけてくれて、
自分はようやく、かがみにもバクラとかの割り込み無しに自分の行動を振り返り、考え直す時が来たんだ、と思いました。
実際、自分ははやてとのやりとりが無ければかがみでこんな話を書こうと思う事も無かったと思いますし……。
そんな訳で、“本当”のかがみらしく、弱くても変わろうとする姿、立ち向かおうとする姿を描写したつもりです。
またこんな都合の良い話を書きやがって、と思う方も大勢いるとは思いますが……。
長々と失礼しました。それでは、指摘などあればよろしくお願いします。

363 ◆7pf62HiyTE:2010/08/02(月) 10:38:02 ID:0MIgizXE0
自分の作品の感想書かない時点でバレバレなのでトリ付きで失礼。

gF氏、投下乙です。
とりあえずかがみはようやく反省したか……手足の機能(腱を切られている)まで回復出来るかは微妙だからまさしくマイナスからのリスタートだが……まぁはやてとアギト以外は許すだろうけど……
それにしてもはやてにとっては涙目だなぁ、なのはと天道にまで自分の悪行知られるわけだし。
一方のキングは相変わらずやりたい放題、3人からフリードとか道具奪って(まぁ一部天道がGetしたけど)マスター気取りかよ。アンジールはもう……うん、道化やね。
ようやくなのはがレイハー奪還成功(無事使えるかどうかわからんけど)かやっと主役になれるか?……(なのはの状態表にキングに奪われた筈のフリードがあるけどこれは削除ミスだよな)
なんか前の話が8時過ぎぐらいだと思ったらもう放送直前か……天なのこの6時間アンジールとキングに翻弄されただけな気がする。

>ロワ完結までにAからZまで全部出せたらなぁとか
……今まで出てきたのがT、K、R、L、A、I、H、Y、Mの9つ……後17もあるのか……
拙作『A to J』は流石にノーカンだからなぁ……

ここから書き忘れた拙作の言い訳を、『A to J』はA〜KそしてJOKERを含めた全てのラウズカードという意味(Wのガイアメモリが剣のラウズカードになったと考えてもらえば)ですが。
当初は『Jの継承(仮)』で前後編でのプロットだったけど、短く纏めたかったというのも理由もあり、またラウズカード絡みの話は今回が最後になりそうでなおかつ劇場版のタイトルがしっくり来るという判断だったんですよね。
正直、他に『A to Z』使いたかった人には少し申し訳無かったと思いましたが(勿論自分は使っても構わない)。

364 ◆7pf62HiyTE:2010/08/02(月) 12:11:02 ID:vvEhH9wA0
……って、フリードのミスは既に氏自身語っていたか……

365リリカル名無しA's:2010/08/02(月) 20:58:52 ID:GrGdaw.A0
投下乙です

ヴィヴィオはヤバい。物凄くヤバいわ…
なのはらと合流できたら、スバルが上手く納得できたら或いは…
スバルは懸命に考察してるな。原作では単純みたいなイメージあったけどここのスバルは必死に答えを出そうとしてるな
このままこなたらと合流するとしてもはやてがなぁ

かがみん、正直に言うとこのロワで本性が出たって感じてたんだよな
前からかがみんの悪い部分が目に付いてたがこのロワではそれがよく出てたと感じてたよ
頑固で嫌いな物には容赦が無くて気が短いなぁとも思ってました。自分がツンデレが好きでないのもありますが
ただそれでも優しくていい子だと思うのは同意なんですよ。いい所もあるんですよw
なるほど。前作のはやての影響ですか。こういう展開もあるのかと感心
天道となのははとりあえず一息付けたか。支給品は奪われたがレイハが帰ってきたぞw
キングはもうね…やりたい放題し放題でロワ充してるなw ゼロの仮面も気にいってるみたいだしw
アンジールは…道化以外の何物でもないわ。可哀そうだが無残な最期しか思い浮かばん

さて、次ははやてが涙目になるのかそれとも…

366リリカル名無しA's:2010/08/04(水) 11:51:01 ID:KZrJDX0QO
投下乙です
あれほど悪行を重ねたかがみに救済か、虫唾が走るな(褒め言葉)
でもたまにはこういう救いもありか、読み終えてほっとした
そういや一気に時間進んだ気がしたけど、回復とか考えたらそんなもんか

ちょっと気になったところ
なのはやアンジールがここまでの流れから見て些か違和感を覚えます
アンジールは前回で覚悟完了しているにもかかわらず即行でフラフラしているし
なのはもいくら不意をつかれたからと言って「―――ひっ!?」とか悲鳴を上げるほどやわではないと思います
その辺り描写が不足しているのか意図的に情けなくしているのか
どうもキャラのブレがちょっと見過ごすには致命的な気がしました

367リリカル名無しA's:2010/08/04(水) 13:45:15 ID:04sh.6CU0
二人とも投下乙です

>A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE
ヴィヴィオ地味にヤバいな、もう見ていられない…
ほんの数時間前まではほとんど無力な子供だったのに…なんだこの急転直下振りは…
そしてスバルはみんなの想いを継いで頑張るとか諸に王道だな

>Mの姿/鏡 Mの姿/マイナスからのリスタート ◆gFOqjEuBs6
ただの一般人がいきなり殺し合いに巻き込まれたらそりゃあ最悪な手段に転ぶのは仕方ない
でもいざ自分がした事をまざまざと見せつけられて向き合えるのは大きな一歩だよな
それにしてもこのキング相変わらずノリノリである

>>366
アンジールに関してはそこまで懸念するほどではないかと
いきなり主催側?の人物が現れて妹を生き返らせてやろうと言われたら覚悟完了のアンジールでも揺らいでも不思議ではありません
それにはっきりと形として見えるのは状態表だけですから
(状態表は所詮付属的な位置だからある程度無視しても構わないでしょう)
でもなのはは少しエースオブエースとしては情けない気がしないでもない
Sts作中そうは見えなくてもある程度の修羅場は潜っているはずだから……違和感を覚えるという意見は否定できないかも
だけど今回のは書き手の匙加減の域を出ない気もしないではない
フォローなり加筆なりあった方が良い気がするけど、そこまで強くは言えないかな

368リリカル名無しA's:2010/08/04(水) 17:14:57 ID:dw29.bocO
なのはは確かに可愛すぎるな。「ひっ!?」をなんか別の台詞に変えるだけでも変わると思う。
アンジールに関しては俺もとくに違和感は感じないかな。元々振り回されてばかりの道化だったし。

369リリカル名無しA's:2010/08/04(水) 21:00:35 ID:Ye24Xxeo0
キングを主催一派と勘違いして妹たち復活云々でブレるのは分るが、バスターソードの事やザックスの事を追及されただけで取り乱すってのはなんとなくポクない気が。
セフィロスから聞いたとか、元世界が同じでザックスから伝聞したたとか、一応理由は色々と考えられると思いますし。
まあこのへんは、矛盾というより作者の解釈の範疇だから、修正しなくても問題ないけど。

取り敢えずなのはについては修正に賛成。
一応なのはも、十年以上一線に立ち続けた歴戦の魔導師な訳だし、流石に違和感が強すぎかと。
セリフを変えるだけで充分だと思いますし。

370リリカル名無しA's:2010/08/04(水) 21:43:29 ID:DF1UbKNA0
今の話題とは別ですが気になった点

>>356で天道がデュエルディスクの説明をする場面で説明書を読むシーンがありますが、件の説明書はないはずです
と言うのもそのデュエルディスクは106話「Road to Reunion」にてセフィロスが放置して143話「キングの狂宴/狙われた天道」にてキングが回収したものです
だから説明書はセフィロスが持ったままで回収されたのはディスクのみとなります
しかも天道となのははここまでDMの知識が皆無のままこの場面になるのでいきなり使い方が分かるのは無理があると思います

さらに今まで二人が遭遇したカード類は龍騎に代表されるようにカードを引き抜いて使用するものでした
だから自然な流れで行けばディスクからカードを引き抜いて使用するのが普通だと思われます
しかしそれではカードは1回しか使えずかがみが命を取り止めるには届かなくなってしまうと思います

だからこのままだと最悪かがみ死亡という展開になってしまう可能性が・・・

371 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/04(水) 22:10:53 ID:r6da80560
ご指摘ありがとうございます。
なのはに関しては今となっては自分でもなんでそんな事を言わせたのか……いや、自分が恥ずかしいです。
理由としては多分、自分の中でのなのはのイメージは9歳時代の方が圧倒的に強い(自分が書いてるクロス作品も全て子供時代)事、
それからもう一つは単純に指摘のあった部分をあまり考えずに流れで書いてしまったから、というものだと思います。
「今のアンジールに説得は無駄だ」という事を理解させる為の手段としてその描写を入れたんですが、
目的を優先し過ぎた所為で、手段がおざなりになってしまったというのは自分でも思います。
ですので、なのはの台詞に関してはwiki収録時に適当な台詞に変換しておこうと思います。

次にアンジールに関して。
これに関して、自分はアンジールの最終目的は「優勝」では無く、「妹たちの蘇生」であると判断しています。
前回優勝を目指す方向で覚悟完了したのも、そもそもは妹を蘇らせる為。
なので、最終目的である「妹」をネタに揺さぶりを掛けられれば、ブレても可笑しくないと思っています。
しかし、そうなると確かにザックスやバスターソード程度のネタでブレるのはどうかと思いました。
後日、その部分の描写を加筆修正した上で、修正スレの方に投下しようと思います。
また、アンジールの状態表にも意味の解らないミスを発見しましたので、それも合わせて修正しておきます。

最後になりますが、言い訳です。見苦しいので読まなくても大丈夫な話です。
今回の修正で、アンジールの扱いがああなったのは、自分の好きなキングを立たせる為だ……と思う方も居るかも知れません。
ですが、それは違います。正直言って自分はキングが嫌いです。度々描写する機会がありますが、その度に心底鬱陶しいと思っています。
その一方で、キングとは逆にアンジールというキャラクターは自分としてはFFの中でも割と好きな方だったりします。
では何故あんな風になったのかですが……キングに関して毎回気を配るのは、自分の中で考えられる最大限の鬱陶しさ。
自分が第三者なら、何が一番キングに腹立たしさを覚えるか、という所だったりします。
それを考えた上で書いた結果がアレです。我ながらキングマジうぜぇ、と思ってます。
ただ実際、そういう考え方の方がキングというキャラを書く上では逆に有利になると思うのです。
いや、何が言いたいかと言うと、自分は別に好きなキャラを贔屓したつもりで書いた訳ではない……という事なんですけど、
なんかもう完全に言い訳にしか聞こえないし他の方からしたら「だから何だ」って話だろうと思いますので、この辺にしておきます。
それでは、他に何か指摘などあればよろしくお願いします。

372 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/04(水) 22:14:17 ID:r6da80560
おっと……更新して無かった。
>>370に関して、了解しました。
デュエルディスクの使用に関しても、納得出来る形に修正して投下しようと思います。

373リリカル名無しA's:2010/08/05(木) 00:13:28 ID:e0Gnu4UkO
了解です、修正お待ちしています

374 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:24:54 ID:B6FwF9Dw0
これより、ユーノ・スクライアと泉こなたの分の本投下をします

375こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:25:48 ID:B6FwF9Dw0
辺りは闇に包まれ、真冬のように風が冷たくなっていた。
殺し合いという、異様な現実を象徴するかのように。
その中で、デイバッグを肩に掲げる一人の少年が、足を進めていた。
ランタンで闇を照らしながら、ユーノ・スクライアは地図を見ている。

「えっと、今はD−8……だね」
『それで合っていると思われます』

ユーノの呟きを、無機質な電子音声が返答する。
それは、今は亡きフェイト・T・ハラオウンの相棒と呼べるインテリジェントデバイス、バルディッシュ・アサルトの声だった。
彼らは今、D−8地点にいる。
何かが封印されていると思われる車庫の前で、今後の行動方針について考えた後に、移動を開始したのだ。
その目的地は、C−9地点に存在するスカリエッティのアジト。
理由は、自分達の命を握っている首輪を解析するため。
あれから考えた末に、まずはこの問題の解決に専念することにした。
首輪がある以上、参加者全員の行動が制限される。
特にあと数時間経つと、四回目の放送が行われる時間だ。
そうなっては、禁止エリアが増えて命の危険が増す。
それらの問題を解決するために、まずは首輪の解析を急がなければならないと、ユーノは判断した。
これから行く施設はバルディッシュが言うには、ミッドチルダを震撼させたJS事件の首謀者である科学者、ジェイル・スカリエッティの拠点らしい。
そのような場所ならば、首輪を解析するための設備も、ある程度は整っている可能性はある。

(でも、あまり楽観的には考えられないな……)

ユーノは、心の中で呟いた。
この施設が、完全な物とは考えられない。
地図には『スカリエッティのアジト』という名前が書かれていたが、実際の内部はどうなっているか。
元の世界に存在する設備が、全て揃っているのか。
いや、その可能性はあまり期待できない。
主催者であるプレシア・テスタロッサが、参加者に脱出のヒントを与えるような真似をするだろうか。
そうなると、施設の名前を借りただけの全くの別物、という可能性も充分にある。
外装だけを真似て、実際の建物に設置されていた設備は全く存在しない。
もし存在していたとしても、起動しない可能性だってある。
万が一、全ての施設が揃っていたとして、使用できたとしてもだ。
安心は全く出来ない。

(この施設の存在が、罠かもしれないし……)

376こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:28:35 ID:B6FwF9Dw0
理由は、工場やアジトと言った設備の整っている施設が、他の場所以上に厳重な監視が敷かれている可能性があるからだ。
これらの施設には、参加者には見つけることの出来ない大量の監視カメラが置かれていて、主催側に情報が送られる。
その結果、首輪を外した者はすぐさま命を奪われるに違いない。
そうでなければ、ゲームを続けることは不可能だ。
だからこそ、プレシアはアリサ・バニンクスを見せしめに殺したのだろう。
参加者に恐怖を植え付けるために。
それだけではない。最悪のケースとしては、殺し合いの続行が困難と判断した主催側が、会場を破棄することも考えられる。
無論参加者は、ゲームの証拠を残さないために、一人残らず皆殺しだ。
考案の結果、首輪の解除とゲームオーバーは、隣り合わせにある。
故に、これからスカリエッティのアジトへ向かい、首輪の解析をすることは、大きなリスクを伴う行為だ。
こちらが勝てる可能性が全く期待できない、危険極まりないギャンブル。
仮に解除に成功したとしても、制限から解放されるとはとは限らない。
それでも、長きに渡る友人である高町なのはや八神はやてを初めとした、殺し合いに巻き込まれた人間を救うために、やるべきだ。
この会場に連れてこられてから、逆転に繋がるような行動はほとんど行ってなかった。
これ以上、時間を無駄に消費するわけにはいかない。
それに、危険を犯す覚悟はとうに決めている。
自分を守るために死んだ、ブレンヒルト・シルトにもそう言ったのだから、今更引き下がるわけにはいかない。
ユーノは自分にそう言い聞かせて、ランタンで道を照らしながら漆黒の中を進む。
彼の周りを覆うそれは、この世の中に存在する物ではなく、まるで冥府の闇のようだった。
参加者を、死後の世界に引きずり込むような。



余談だが、彼の考案はとてもよく似ていた。
今はもうこの世にいない、戦闘機人No.4・クアットロの考えと。
これは、偶然に過ぎない。
それを彼が気付くことはないし、何より気付いたところでどうなるわけでもないだろう。
そんなユーノは、バルディッシュと共に先の見えない闇の中を進み続けた――








鬱蒼と生い茂った森林の中に、洞窟があった。
その中は、微かな明かりだけに照らされていて、薄暗い。
歩く者の気分を害するような環境だが、二人は周囲を警戒しながら歩いている。

377こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:29:25 ID:B6FwF9Dw0
視界の先がはっきりしない道の中を、泉こなたは進んでいた。
彼女の脇では、ユニゾンデバイスのリインフォースIIが宙を漂っている。
あれから、入り口の前で待っていても何も始まらないとこなたが提案して、リインは悩みながらもそれを受け入れた。
自分達を縛り付けている、首輪を解除するための手がかりを見つけるために。
このような施設ならば、そういった機材が存在する可能性がある。
今、別行動を取っているスバル・ナカジマの為に、それを見つける必要があった。
幸いにも、この施設には自分達以外の参加者や、罠のような物は見られない。

「う〜ん、ここにある部屋ってもうみんな調べたんだよね?」
「そうですよ、さっきの部屋で最後になりますね」

こなたの疑問に、リインは答えた。
突如、戦いの始まったホテルを離れてから、既に数時間が経つ。
スバルの足を引っ張らないように、目的地であるこのアジトに来た。
ここでは、自分の見たことが無い電子機器を見つける。
特撮作品に出てきそうな、実験用と思われる巨大なテーブル。
怪しげな黄色い液体が入った、巨大な試験管。
様々なデータが入っていると思われる、複数のパソコン。
どれも、怪しげな実験場という雰囲気を醸し出す物だった。
だが、それを見つけたところでこなたにはどうすることも出来ない。
多くのネットゲームをしてきたので、ここに置かれているパソコンの操作自体は可能だろう。
だからといって、それを使って複雑な機械の解析など、出来るはずがなかった。
ましてや、この首輪にはこなたの知らない、魔法という技術によって作られている可能性もある。
そうなっては、手の出しようがない。
やがて彼女は体を休めるために、備え付けられた椅子に目を向けた。
念のために、外から持ち出した木の棒でそれを突く。
何も起こらないことを知り、それが普通の椅子であると判断した。

「ちょっと、この辺で休もうか」
「そうですね」

溜息を吐きながら、こなたは呟く。
彼女は、休憩を取りたかった。
殺し合いと言う場において、泉こなたという存在は、何の力を持たない女子高生に過ぎない。
故に、そのような異常な場所にいては、精神が不安定となりつつある。
今は何も起こっていないが、油断は出来ない。
平穏な毎日を過ごしていたはずの彼女が、突然殺し合いの場に放り込まれた。
それから、様々な異常事態が起こり、何度も命の危機に脅かされる。
ついには、毎日を共に過ごしていた親友までもが、死んだと告げられた。

378こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:31:51 ID:B6FwF9Dw0
(つかさ……何で死んじゃったの……?)

三度目の放送でその名が呼ばれてしまった、柊つかさ。
柊かがみの妹であり、調理師を夢見ていた彼女。
本当なら、今日も彼女たちや高良みゆきと一緒に、何気ない毎日を過ごすはずだったのに。
それがどうして、こんなことになってしまったのか。
思い出されるのは、四人で過ごしていた毎日。
春、新しい気持ちを胸に、一つ上の学年に上がった。
夏、コミケや夏祭りと言ったイベントに心を躍らせながら、みんなで旅行にも行った。
秋、食欲が増す季節となって、おいしい物をたくさん食べた。
冬、一年の終わりと新年の始まりを感じて、みんなで初詣に行った。
どれも楽しかった思い出の日々。
そんな毎日が、これからもずっと続くと信じていたが、もう二度と戻ることはない。
だって、つかさはもういないのだから。

(つかさがいなくなったら、かがみんやみゆきさんが悲しむよ……? みさきちや峰岸さんだって、みんな悲しむよ……?)

こなたは、再びその目から涙を流しそうになる。
もしも、ここで全てを忘れることが出来るのならどれだけ楽になれるか。
アニメや漫画や特撮の登場人物のように、記憶喪失になれたら。
だが、弱音を吐くようなことはしない。
もしもここで逃げ出したりしたら、自分のために頑張ってるスバルやリインの足を引っ張ることになる。
ここで悲しみに溺れることは、二人に対する侮辱に他ならない。
そう思い、こなたは今の現実に耐えた。
少なくともスバルやリインには、今の気持ちを知られてはならない。
だからこそ、このアジトに向かう途中に森を歩いていたとき、わざとふざけた言動をして悲しみを紛らわせたのだ。
死人が出ているのに、このような行為をするのは不謹慎と分かっている。

「ス、スクライア司書長!?」

悲しみに耽っていたこなたの耳に、リインの声が響いた。
その瞬間、意識が覚醒する。
そのまま彼女は、驚いたような表情を浮かべながら振り向いた。
その先には、見知らぬ一人の青年が立っている。

「君はもしかして……リイン!?」







ユーノ・スクライアがこの施設に現れてから、一同はある一室に集まっていた。
そこは複数の電子機器が起動している影響か、外に比べて室温が高く感じる。
三人は、互いに情報を交換した。
その際に、ユーノは提案する。

379こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:33:58 ID:B6FwF9Dw0
この話し合いの内容が、プレシアに聞かれないように文章で対話をするのが望ましいと。

(そういや、ルルーシュの時にもこういうのあったな……)

突如、ルルーシュ・ランペルージとシャーリー・フェネットの姿が、こなたの脳裏に蘇る。
亡くなった二人のことを思い出し、胸の奥から悲しみが沸き上がりそうになるが、それを堪えた。
今やるべき事は、別にある。
そして、白紙の紙とペンを三人は手に取った。



この会場に連れてこられたから起こった、様々な出来事。
この殺し合いの参加者は、それぞれ別々の世界から連れてこられた可能性。
リインのいた、ゴジラという怪物が暴れている世界。
ユーノのいた、管理外世界よりLという名の名探偵が現れた世界。
別行動を取っている、首輪を所持しているスバル・ナカジマについて。
脱出の手がかりとなる可能性のある機械、ハイパーゼクター。
残り人数が一五人を切ったとき、開くとされる謎の車庫。
首輪だけでなく、この会場には結界が張られていて、それも制限となっている説。
殺し合いの促進のため、参加者の感情に異常を与える装置。
そして、ユーノとリインがデスゲームに関して立てた仮説。



奇しくも、互いの考案には酷似する内容が多数あった。
情報交換を終えた彼らは、黒いテーブルの上に置かれている銀色の輪っかと睨めっこをしている。
それは殺し合いを強制させる道具とも言える、首輪。
隕石によって、海が枯れ果ててしまった地球に存在する組織に所属する男、矢車想に巻かれていた首輪。
これの解析を今から進めようとしている。
無論、ユーノはそれによって生じる危険性を二人に説明した。
解除した瞬間が、自分達の最後になるかもしれないことを。
その事実を聞かされたこなたとリインは、ほんの一瞬だけ戸惑った。
ようやく生まれてきた希望が、死という最悪の絶望と繋がっている可能性を知って。
それでも、先を進むために二人は提案を受け入れた。









時計の針は、ただ進み続けている。
ユーノとリインは、この施設で見つけたドライバーなどの工具を持ち、首輪の解析を進めていた。

380こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:35:08 ID:B6FwF9Dw0
だが、その場にこなたはいない。
解除の途中で、首輪が爆発する可能性も充分にある。
それに巻き込まれないため、彼女は部屋の前で待っていることになった。
何か異常事態が起こったら、大声で叫ぶという条件を持って。

(かがみんやスバル……大丈夫かな)

薄暗い廊下の中で、こなたは溜息を吐く。
二人は無事なのだろうか。
未だに名前を呼ばれていないとはいえ、特にかがみの方が心配だった。
しっかり者の彼女とはいえ、妹を失ってはどうなるか分からない。
ただ、出来ることならプレシア・テスタロッサの言うまま、これ以上殺し合いに乗って欲しくなかった。
こんな綺麗事が言える立場ではないのは分かっている。
自分はかがみと違い、スバルやリインやユーノに頼ってばかりだ。
しかも、何も出来ない。
スバルは自分のために、戦っている。
リインやユーノは、首輪の解析を頑張っている。
なのに、自分は何だ。
何の力も持たない、ただの人間。
分かっている。
でも、それは何もしていない事への免罪符にならない。

(何やってんだろ……あたし)

部屋の中にいる二人に聞こえないように、溜息を吐いた。
それと同時に、部屋の扉が音を立てて開く。
中からは、ユーノとリインの二人が姿を現した。
ユーノは無言で、手招きをしている。
その導きのまま、こなたは再び部屋に入った。









三人のいる薄暗い部屋は、未だに沈黙が広がっている。
彼らが集まっているテーブルの上には、複雑な金属回路や部品がいくつも散らばっていた。
それを見て、二人は首輪の解析に成功したとこなたは察する。
しかし、彼女の表情は晴れていない。
その手には、一枚の書類が握られている。
そこには、ユーノとリインの物と思われる綺麗な文字が書かれていた。

381こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:38:11 ID:B6FwF9Dw0

この首輪のことで分かったことがいくつかある。

まず一つ目、この首輪の構成はいくつかの部品で構成されている。

参加者を殺害するための起爆装置
参加者の情報を伝えるための盗聴装置
この二つの動力源と思われる装置
それらを守る枠の部分

外装自体は、工具さえ使えば表面だけは外せる。
でも、その下には金属回路が張り巡らされていて、その先には動力源と見られる装置があった。
この部分は、魔力を流し込めば無効化することだけは出来る。
そこから、パズルを分解するような要領で、慎重に魔力を流し込めば、解除することだけは可能。

ただし、これは対象が『既に死んだ参加者の首輪』だから、成立する可能性がある。
説明したように、首輪の解除とゲームオーバーは隣り合わせの危険性が高い。
ここにいる自分達が殺されない理由は、まだ『生きている参加者の首輪』に手を付けていないから。
故に、首輪の構図と解除の方法を知っただけでは、まだ主催者に殺させるわけではない。
その段階に入る基準は、恐らく『生きている参加者の首輪』を解除したとき。
だから、自分達の首輪は現段階では解除するべきではない。
脱出の手段、仲間達全員の首輪を解除できる状況になったとき、メンバーの集合。
この三つの条件が整うまでは、これ以上動くことは出来ない。
そして、ここに書かれた内容は信頼できる人物以外には、決して見せてはいけない。



「うん、だいたい分かったよ……ユーノ君」

それら全てを読み終えたこなたは、二人の方に顔を向けた。
黙然とした部屋にようやく声が響くと、ユーノもまた口を開く。

「とにかく、今は一旦外に出てスバルを待つしかないよ。それから、情報をまた集めて……まとめ直す。まずはそこからだよ」

その提案に、二人は頷いた。
今はまだ、行動に移すときではない。
信頼する仲間を待ち、そこからプランを立てる。
こなたは書類を返した。
それを受け取ったユーノは、解体の終えた首輪と書類をデイバッグに入れる。
自分達の役割を察した三人は、部屋から出て行った。

382こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:39:37 ID:B6FwF9Dw0
【1日目 真夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】

【共通認識】

※アジトの内部は、全て捜索しました。
※三人の間で情報交換(自分達のいた世界、仲間達、これまで起こった出来事、このデスゲームに関する仮説、車庫の存在)をしました
※首輪の内部構造、及び解除方法を把握しました
※それに関して、二つの仮説を立てています
※首輪の解除自体は魔法を用いれば、解除は可能
※ただし、これは死んだ参加者の首輪だから成立することで、生きている参加者の首輪を解除するとゲームオーバーの危険が高い
※現状では、スバルと合流してから再び行動しようと考えています。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.こなたやリインと共に、スバルを待つ。
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除は、状況が整うまで待つ
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

383こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:40:26 ID:B6FwF9Dw0
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、悲しみ
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.ユーノと共に、スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.ユーノやこなたと共に、スバルの到着を待つ
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています

384こなたとリインと男の娘 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:41:00 ID:B6FwF9Dw0
空調の整っていたアジトの外から出た三人は、冷たい空気を浴びていた。
不意に、こなたの中で疑問が生まれる。

「ねえ、そういえばユーノ君。聞きたいことがあるんだけど」
「ん? どうしたの、こなた」
「ユーノ君って、本当に男の子だよね」

あまりにも突拍子もない発言に、ユーノとリインは怪訝な表情を浮かべた。

「……こなた、あなたは一体何を言ってるんですか」
「え? だってそうじゃん」

そこから数秒の間が空いた後、こなたは口を開く。

「こんな可愛い顔をした人が、男の子のはずないじゃん。やっぱり、ユーノ君って男の娘?」

ユーノとリインは盛大にすっ転んだ。

385 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:44:54 ID:B6FwF9Dw0
これにて、本投下終了です
タイトルの元ネタは、本日より放送が始まった
仮面ライダーオーズ第一話の「メダルとパンツと謎の腕」です。

自分の実力では、どこまで行けるか分かりませんが
今後とも、よろしくお願いします

386リリカル名無しA's:2010/09/05(日) 13:27:15 ID:g7l3TcQM0
投下乙です。
ようやく首輪関連の話が進んだか。
こなたもユーノと合流出来て、一先ずは安心?
はやて組と合流するかスバルと合流するか……今後の展開が気になるなぁ。
そしてこなた……ついに本人に言ってしまったかw
今まで誰も直接本人に男の娘とまでは言わなかったのにw

387リリカル名無しA's:2010/09/05(日) 15:39:57 ID:kz8N3G8Y0
投下乙です。 初投下お疲れ様でした。今後とも宜しくお願いします。
真面目な話、こなたかユーノのどっちか退場するのではと思ったが別にそんな事は無かったぜ。
ともかくようやく本当にようやく首輪解除の糸口が見えたか……つか、解除そのものは思ったよりも簡単な感じか……まぁ、今更複雑すぎたら本当に手の打ちようないしなぁ。
とりあえず幾つか不安要素が無いではないけど何とかなり……きっと後々『そう思っていた時期がおれにもありました』と言うんだろうなぁ。

……そしてこなたよ……誰もが考えたとはいえユーノ君に男の娘発言をマジでするとは……
というかここの書き手は皆してユーノ君をネタキャラにし過ぎな気がするんだが……
ルーテシアの全裸鑑賞、チンクの下半身鑑賞、ブレンとアーッ、サービスシーン、そして男の娘……何処へ行くんだこのフェレットは……


そういえば冷静に考えると参加者の大半がアジトに向かいそうな感じなんだよなぁ。

こなた&ユーノ……アジトで待機
はやて&ヴァッシュ……こなたを襲おうとするかがみを止める為(はやての大嘘)アジトへ急行
スバル&ヴィヴィオ……アジトへ急行
なのは&天道&かがみ……放送後ループ越え、位置関係から考えアジトへ向かう可能性高し。

はやて組とスバル組、どちらが先にこなたと合流出来るだろうか……まぁその直後に悲劇という可能性もあるけどね。

実に12人中9人……つか対主催側全員がアジト行く可能性高い。
もっともかがみの扱いの問題(はやては殺すつもりでそれに伴う対立)、やヴィヴィオの問題(精神肉体共にボロボロ、またはやてが見捨てた的な事も問題)、はやての問題(前述の理由から絶対対立する)と不安要素しかねぇ。
しかもこれだけ戦力集まっても残りのマーダーに一掃される予感しかしねぇのも……どないせいっちゅうねん。

388リリカル名無しA's:2010/09/05(日) 15:46:01 ID:kz8N3G8Y0
書き忘れ

そういや早速オーズタイトルが来たか……どうやら『○○○と○○○と○○○』というタイトルパターンになりそうだからな……今後オーズ風タイトルが大量に出現するんだろうか? それともW風タイトルが今後も席巻するか?

389リリカル名無しA's:2010/09/05(日) 22:03:23 ID:3rH0d6CY0
投下乙です
死者のものとはいええらくあっさり首輪バラせたな
でもあっさりすぎるから逆に後が怖いガクガクブルブル
道中のおとぼけはやっぱりわざとか、いつもみたいでいつもと違う心境なんだな
そして終始シリアスだったのに最後の1レスwwwww

390 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 10:54:53 ID:GRCPS2WwO
金居、プレシア・テスタロッサで投下します

391 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 10:56:30 ID:GRCPS2WwO
このデスゲームの会場にはいくつもの建造物があるが、中には奇妙なものもある。
E-7北西部にある駅もその一つ。
普通なら移動に便利だからと考えて人が集まりそうなものだが、あいにく駅から走る線路の行き着く先は会場外。
当然ながらこれでは集客など覚束ない。
そんな奇妙な駅の近くには奇妙な建造物に相応しく、中身が不明の曰くありげの車庫があった。
そして車庫の唯一の扉の前には、今では破壊されてしまったが、ある立札が掲げられていた。
そこには次のような警告が記されていた。

『残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか』

そのためここへ立ち寄った者は皆こぞって車庫の中身を気にしつつも無理に開けなかった。
早く中身を手に入れたいが、さすがにリスクを冒してまで手に入れようとは思わなかったからだ。
それに時期が来れば自然と扉を開く事ができるのだ。
ここへ来た者は皆同じような結論に至って、そして去って行った。


しかし現在開かずの車庫の中には照明が灯っていて、中に収められている物の前には誰かがいた。


「へー、なるほどね」

それがデスゲーム開始してから初めて車庫に中に入った参加者――ギラファアンデッド、金居の第一声だった。

392 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 10:58:55 ID:GRCPS2WwO
 ◆

時間を遡ること1時間前。
金居はエネル殺害後、USBメモリの中身を確認するべく市街地に向かっていた。
途中で離脱したので戦闘の疲労もそれほどではなく、何の問題もなくガソリンスタンドを横目にF-8まで足を進めていた。
そんな時だった。
このデスゲームを開いた張本人、プレシア・テスタロッサからコンタクトがあったのは。

――ここまでの活躍見ていたわ。ところで行ってほしい場所があるの。

突然首輪から発せられたプレシアの要件は次のようなものだった。
現在生き残っている参加者の大半が北東C-9にあるスカリエッティのアジトを目指している。
しかもほぼ全員がデスゲームを打ち砕こうとする者ばかり。
だからそこへ行ってどんな方法でもいいから大集団ができないようにしろという事だった。
無論集まった参加者を殺害してくれる方がデスゲーム的には歓迎すると。

これを聞かされた時、最初金居はプレシアの要件を聞き入れる事を渋った。
いくらカテゴリーキングの金居と言えども、何の用意もなくノコノコとそんな場所に飛び込んでいけば返り討ちに遭う可能性が高い。
無力な一般人なら何人集まろうが金居の敵ではないが、アジトにいるのはここまで生き残ってきた参加者だ。
そんな簡単に殺されてくれるほど柔な連中とは思えなかった。
この制限下ではまだ3人までならなんとかなるが、それ以上になるとさすがに成功は覚束ない。

だが建前上プレシアに協力したいと申し出ている以上ここは素直に受け入れた方が得策。
直接的でなくて間接的であれば、例えばある程度時間をかけて不和の種を仕込んで瓦解させる方向なら不可能ではないはず。
それに使いどころが難しいが、いざとなれば先程手に入れた支給品を使えばある程度の結果は残せるだろう。

結局金居は若干渋りつつもプレシアの提案を受け入れたのだった。
すると金居の逡巡を知ってか知らずか、最後にプレシアは意味ありげな言葉を残していった。

――そうだわ、大変そうだから耳寄りな『情報』教えてあげる。荷物調べてみなさい、何か役に立つ『情報』あるかもしれないわよ。

プレシアが何を言いたかったのか、それはすぐに分かった。
敢えて荷物を調べるように促して、しかも『情報』という言葉を強調していった。


現在金居の所持品はかなりの量であったが、この状況でそれに該当するようなものは一つ――これから調べようと思っていたUSBメモリに他ならない。


幸いにも目と鼻の先にあったガソリンスタンドには作業用のパソコンが事務室にあった。
さっそく件のUSBメモリを指し込んでデータを読み込み始めたが、ここで予想外の事態が起きた。


突然金居を中心に転移魔法陣が発動したのだ。


そして金居は何が起こったのか理解する間もなく車庫の中へと強制的に転移させられて――今に至る。

「へー、なるほどね」

最初こそ突然の事態に困惑していた金居だが、目の前に広がる光景を見てある程度理解は出来た。
生物と機械の中間のような独特なメタリックなフォルム。
青と銀を基調とした多脚式ボディーとV字型の金色のモノアイ。
その手足には鋭い鎌が備えられており、しかも完全ステルス機能まで搭載している。
それら寸分違わず同一な5体の兵器が新たな主を待っていた。

393 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 11:00:48 ID:GRCPS2WwO
それが金居の目の前で機動を待つ機械兵器――ガジェットドローンIV型だった。


車庫内側に備え付けられたパソコンに記されたスペックを見る限り、これらはかなり使えそうだった。
全部で5体と向こうと比べて頭数は足りないが、完全ステルス機能を有効に使えばその差を埋める事は可能だ。
しかも素のスペックも中々侮りがたいものであり、その点も十分満足できるものだった。

「これは報酬の前払いみたいなものか? それならそれに見合った働きはしないといけないな」

若干オーバーにプレシアへの感謝を示しつつ、金居は起動の準備に取りかかった。
もちろん実際にそこまで思っている訳ではない。
一応建前上何か行動する気でいるが、あまり無理をするつもりはない。
一歩間違えればその場の全員と戦うはめになる可能性もあるため、ここは出来るだけ機を窺いたいところだった。

「しかし操作が割と単純で助かった。俺はキングほど詳しくないからな」

確かにこのガジェットの操作方法は然程コンピュータに詳しくない金居でも理解できるものになっていた。
自身の嵌めている首輪を認証させて、それによってガジェットはその者を所有者として認識する。
ちなみに命令は頭で思い浮かべるだけで実行してくれるらしい。
ただしあまり複雑なものは実行できないようなので、その点は気をつけないといけない。

「さて、行くか」

それほど時間をかけずに無事にガジェットを機動させた金居は4体のガジェットをデイバックに収納していた。
そして残った1体のガジェットを飛行形態にさせると、低空飛行でスカリエッティのアジトを目指して移動を開始した。
金居が手の内を見せるかのようにガジェットを移動に使用したのには理由があった。

まずは体力の温存。
出発前に砂糖と拾ったデイパックの中にあった食糧を拝借して体力はほぼ回復したが、温存できるならそれに越した事はない。
ちなみにそのデイパックは荷物を少し整理した際に要らないと判断して、車庫の中に置いてきた。

そして何よりこうする事で相手に油断が生まれると踏んだからだ。
まさかあちらも同じ機体があと4機もあるとは思わないはず。
そういった先入観は隙を作りだし、後々仕事がやりやすくなる。

(さて、去り際に仕掛けた爆弾に引っ掛かるのは誰になるかな)

実は金居は車庫から出る際に扉の内側にエネルの支給品であったクレイモア地雷を2個仕掛けてきたのだ。
どちらも扉が開くと爆発するようにワイヤーを調節しておいた。
別に深い意味はない。
ただ使い道が限られて無用の長物化しそうだった支給品で誰か引っ掛かれば儲けものというぐらいの理由だった。

金居が去って再び人気が無くなると、車庫はまるで何事もなかったかのように見える。
だが実際はその内で哀れな獲物を喰い殺そうと牙が研がれているとは誰が予想出来ようか。


奇妙な駅の曰くありげの車庫はこうして再び不気味な沈黙を守るのだった。

394 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 11:03:18 ID:GRCPS2WwO
【1日目 真夜中】
【現在地 D-7平野部】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒、ガジェトドローンⅣ型に搭乗中
【装備】ガジェトドローンⅣ型@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×6、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、L、ザフィーラ、エネルのデイパック(道具①・②・③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、ガジェットドローンⅣ型×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに向かい、そこに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

395 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 11:05:31 ID:GRCPS2WwO
 ◆

「どうやら今のところは私に従うみたいね」

アジトに向かって移動を開始した金居をモニター越しに見ながらプレシアは笑みを浮かべていた。
確かに車庫に入る事ができるのは生存者が15人以下になってからだが、実は別の方法でも入る方法はあった。

それが今回金居の使用したUSBメモリを利用する方法だ。

元々あのメモリは情報端末に接続させると『第3回放送後に3人以上の参加者を殺している者はこのメモリを接続すれば力を手に入れる事ができるだろう』というメッセージが表示されるようになっていた。
もちろんそのメッセージは真実であり、その条件を満たせば一度だけ対象者を車庫へ転移させて、そこで車庫の中身を手に入れられる仕組みになっていた。
ちなみに一度発動すればメモリは某スパイ組織のように自動的に消滅されるようにしてある。
実のところプレシアとしてはそのメッセージをきっかけに殺し合いが促進してくれる事を期待していた。
しかし意外な事に今回金居が使用するまで誰もUSBメモリを活用しなかったので、結局プレシアの意図は外れる結果となった。

一方でその車庫の中身であるガジェトドローンⅣ型にもいくつか仕掛けが施されている。
まず元々ゆりかごの防衛機能の一つであるというプログラムを改竄して、最初の所有者の命令を聞くようにセットし直した。
そうしなければ万が一聖王であるヴィヴィオと出会った時、不都合が生じかねなかったからだ。
一応所有者の死後は流用されないように所有者が死亡した場合は機能停止するようにしてある。
それから使い勝手がいいように思念通話を応用して命令手段に組み込ませた。
これは本来魔力を持たない者がデバイスを起動させたりできるようにした仕組みを応用させた。
これ以外にもいくつか改造点はあるが、なのはとヴィータを襲撃した性能は折り紙付きだ。
これらは全てここまでの戦いで力を失ってもまださらに殺し合いに参加できるようにという思惑での改造だった。

(でも最後の一言ですぐに理解するなんて、さすがね)

そう思いつつもプレシアは金居なら十中八九こちらの意図を汲んでくれると確信していた。
それはミラーワールドでの巧妙なやり取りでも薄々実感していた。
だからと言って金居を全面的に信頼するつもりはないのだが。

(さてデスゲームもそろそろ終わりが近づいて来たようね……今回こそは成功させてみるわ……。そのためにも――)

【全体備考】
※F-8のガソリンスタンドが火事になりました(火元は事務室のパソコン)。
※車庫の扉を開くとクレイモア地雷が爆発するようにセットされています。
※車庫内にアレックスのデイパック(支給品一式※食料なし)が放置されています。

【ガジェトドローンⅣ型@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
全5体。多脚生物のような動きを見せるガジェットドローン。
光学迷彩に近いステルス機能と騎士服を易々と貫く攻撃力を有しており、主に奇襲などを得意としている。
ガジェットドローンと呼称されているが、実際はゆりかご内部に備えられた装備であり、スカリエッティの作品ではない。
元々はゆりかごの防衛機構の一つとして装備されているものである。
今回は作中でも触れているようにプレシアによって所有者に従うようにプログラミングされている。

396 ◆WwbWwZAI1c:2010/09/23(木) 11:06:54 ID:GRCPS2WwO
投下終了です
タイトルは「Ooze Garden(軟泥の庭)」でお願いします

397リリカル名無しA's:2010/09/23(木) 11:48:16 ID:fBJcY/aM0
投下乙です
とうとう車庫の中身が判明したか、今の参加者にステルスは怖いな
これで金居もアジト行きで役者が揃ってきたな
もういっそのことキング・アンジールもアジトへ向かって全員集合でw

398リリカル名無しA's:2010/09/23(木) 12:14:47 ID:srqetTkA0
投下乙です。

車庫とUSBの中身が遂に判明し金居もアジトへ向かうか。
参加者の大半がアジト方向に向かいそうだからいよいよ最終決戦の雰囲気が……
で、車庫には罠が……誰か引っかかりそうな勢いだなぁ。

399リリカル名無しA's:2010/09/26(日) 20:25:12 ID:ktihWKs20
投下乙です

とうとう車庫とUSBの中身が遂に判明したか
確かに今の参加者にステルスは怖い。終盤近くまでステルスが生き残るのは珍しいかも
さて、アジトで何が起こるか…

400 ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:22:36 ID:6aYOplck0
それでは、自分の放送案が通りましたので、こちらに本投下をさせていただきます

401第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:25:33 ID:6aYOplck0
 ――おはよう、みんな。0時の放送の時間よ。
 仮眠も取ったことだし、ここからは今まで通り、私が放送を行うわ。
 まぁもっとも、この放送もあと何度続くことになるか、分かったものじゃないのだけど……
 ……フフ、ではまず、禁止エリアを発表させてもらうわね。
 メモの準備はいい? こんなところまで来ておいて、自滅なんてされたら困ってしまうわ。
 ……では、読み上げるわよ。

 1時よりH−2
 3時よりG−8
 5時よりB−7

 以上の3か所よ。

 では続いて、これまでの死者を発表するわ。

 アーカード
 相川始
 アレックス
 ヴィータ
 エネル
 クアットロ
 ヒビノ・ミライ

 以上、7名。
 この24時間を生き抜いたのは、合計12名よ。
 ……まぁ、きっかり10名にならなかったのは、キリの悪い数字だと思ったけれど。
 ペースとしては上々。さすがに1日で終わるなんてことはなかったようだけど、
 これなら順調に終わってくれるかしら? 貴方達には、本当に感心させられるわね。

 ……今回はここまででいいわ。
 私が用意してあげたご褒美も、十分機能しているようだし。
 じゃあ、せいぜい最後まで頑張ってちょうだいね。
 貴方達の願い、そして私の目指すもの……どちらも成就するまであと一歩。
 フフ……期待させてもらうわよ。

402第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:26:13 ID:6aYOplck0


 かくして4度目の放送は流れた。
 最悪の1日は終わりを告げ、最悪の2日目が始まった。
 24時間目の時報を耳にしたのは、合計12人の生存者。
 僅か24時間のうちに、60人の参加者達は、実にその8割を喪っていた。

 誰もが耳を傾ける。
 誰もが放送を耳にする。
 安堵、悲嘆、希望、絶望。
 それぞれの思惑を胸に宿し、それぞれの感想を胸に抱く。



 しかし此度の放送は、それまでに繰り返されたものとは、ある1点において違っていた。



 ある者は全く気付かなかった。
 ある者は気付いていたのかもしれない。
 この放送に隠されたものに。
 この放送が意味するものに。

 そこに時計を持つ者がいて、その者が時計を見ていたのなら、容易に気付くことができたであろう。





 現在時刻、0:10。





 今回の放送は、これまでの放送とは異なり、予定より10分遅れて流れていた。





 ――――――異変は、この時既に始まっていた。

403第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:27:05 ID:6aYOplck0


「もう間もなく放送の時間か……」
 ぽつり、と呟いた女の声が、狭い一室に木霊する。
 巨大なモニターとコンソールを前に、1人座っていた者は、プレシア・テスタロッサの使い魔・リニス。
 青く澄んだ猫の瞳は、しかし今この瞬間は、失意の陰りに満ちていた。
 第3回目の放送から、色々と試してみたものの、その結果は芳しくない。
 彼女の有する権限の大多数は、主君によって凍結されていた。
 部屋から出て問い詰めに向かおうにも、ドアにまでロックがかけられている。
 とどのつまりは、完全なる手詰まり。
 何もできず、どこへも行けず。
 籠の中のカナリアのごとく。
 プレシアの下した制裁は、リニスからこの殺し合いに介入する、あらゆる術を奪っていた。
(何が希望だ)
 歯を軋ませる。
 苦虫を噛み潰したような表情で、己自身を嘲笑う。
 所詮自分の力などこんなものか。
 こんなにもあっさりと、何もできなくなってしまうものなのか。
 その程度の力しかない私に、一体どんな希望が与えられるものか。
 何もできない。
 何も変えられない。
 こんな矮小な私などには、殺し合いを止めることも、参加者を救うこともできはしない。
 広がりゆくのは心の暗黒。
 自分の弱さと情けなさが、自身の心を苛んでいく。
 罪を償うこともできないという事実が、自らの罪を思い起こさせ、良心の重荷を思い出させる。
 何ができる。
 何をすればいい。
 私にできることがあるなら、今すぐにでも示してほしい。
 籠の中のカナリアごときに、何かが変えられるというのなら――



 ――がこん。



 その、時だ。
「……?」
 リニスの座るすぐ背後で、何かの音が鳴った気がしたのは。
 聞き間違いでなかったとするなら、金具が落ちたような音だったはずだ。
 否、自分に限って聞き違いはあるまい。猫の聴力は人間よりも高い。
 ほとんど確信を持ちながら、ゆっくりとその身を振り返らせる。
 分かっているのに振り返ったのは、音の主を知らないから。
 音の質こそ分かっていたものの、その音が何によって奏でられたのかを知らなかったから。
 故にそれを確かめるために、視線を音の方へと向け、
「よう」
 その女と、対峙した。
 そこに立っていた者は、燃えるようなオレンジの女。
 橙色の長髪をたなびかせ、青い瞳を光らせる者。
 そのコスチュームの露出度は高く、すらりと伸びた四肢の皮下には、くっきりと筋肉が浮かび上がる。
 顔に浮かべるは不敵な笑み。左手に持つのは通気孔の金網。
 そしてその頭には――リニスと同じ、獣の耳が生えていた。
「貴方は……アルフ!?」
 は、としたような顔になり。
 ほとんど反射的に椅子を蹴る。
 額にじわりと冷や汗を浮かべ、後ずさるようにして立ち上がる。
 どういうことだ。何故アルフがここにいるのだ。
 フェイト・テスタロッサ諸共、自分達が殺してしまったはずの犬の使い魔が、何故こんなところに現れるのだ。

404第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:27:56 ID:6aYOplck0
「何故貴方が――」
 そこまで言いかけた瞬間。
「……っ!?」
 身に感じたのは、物理的衝撃。
 ぐわん、と視界が落下する。
 膝が強制的に曲げられ、身体が勢いよく倒れる。
 強引に押さえつけられた五体が、床に叩きつけられる硬質な感触。
 巻き添えを食らった足元の椅子が、空中に放り出されたのを見た。
 がたん、と椅子が落ちるのと同時に。
 己の視界に差す影を認知し。
 己を押さえこんだ者の正体を、目にした。
 それはかの使い魔ではない。そこに眩しいオレンジ色はない。
 そこに現れた者は――漆黒。
 全身を黒ずくめの騎士甲冑で固めた女が、リニスの身体に馬乗りになって、首筋と右肩を押さえていた。
 背中に生えていたものは、烏を彷彿とさせる艶やかな羽。
 色素の抜け落ちたかのような銀髪と、血濡れのごとき深紅の瞳。
「リイン……フォース……!?」
 やはり自らの手で殺したはずの、夜天の魔導書の管制プログラムが、目の前に姿を現していた。



 時は数分前にさかのぼる。
 その時彼女らはその場所にいた。
 リインフォースとアルフの2名は、相変わらず四つん這いの態勢で、時の庭園の屋根裏を移動していた。
《ホント、地図でも手に入ればよかったんだけどねぇ……》
 溜息混じりに、アルフが念話でぼやく。
 先ほどリインフォースがハッキングを行った時に閲覧できたデータは、爆発物の制御装置と謎の名簿。
 地図などの有用なものが得られなかったばかりか、得たものも得たもので意味不明の代物。
 そしてそのまま再び降りることもできず、こうしてただひたすらに、薄暗い屋根裏を徘徊している。
《もう一度降りられるといいのだが、これでは無理だな》
《そもそも2回目は向こうも警戒を強めてるだろうし……やっぱり別の方法を探るしかなさそうだね》
 金網から眼下を覗くリインフォースに、アルフが言う。
 彼女らがハッキングを途中で切り上げたのは、今まさに廊下を巡回しているものが原因だ。
 元いた世界の海鳴市を滅ぼした、プレシアの軍勢に加わっていた卵型の機動兵器――ガジェットドローン。
 あれさえいなければ下に降りることも可能なのだが、
 いなくなるどころか、どうにも先ほどから少し数が増えたようにも見える。
 とてもじゃないが、監視の目を盗んで端末にアクセスを……などと言っていられる状況ではなかった。
《一度どこかの部屋に入ってみるか? 何か使えるものがあるかもしれん》
 そう提案したのはリインフォースだ。
《あー、それもいいかもね。そこならあの機械もいないかもしれないし》
 言いながら、アルフの視界が眼下を探る。
 近くに確認できる廊下の扉は、隣り合うようにして配置された2つ。
 ひとまずは近い方の金網を目指すことにして、両者は移動を再開した。
 そして数歩のうちに目的地へとたどり着き、2人のうちアルフが様子を窺う。
 仮に中にガジェットや人がいた場合、降りた途端に見つかって、増援を呼ばれてしまう可能性があるからだ。
 実際、そこには人が1人いたのだが、
《っ!? そんな……あれは、リニス……!?》
 それがいるはずのない知り合いであったということは、さすがに予想だにしていなかった。
《知った顔か?》
《フェイトを教育してた、プレシアの使い魔だよ。でも何でだ? リニスは死んだはずじゃ……》
 忘れがちだが、本来ならばリニスは故人である。
 彼女はプレシアとの短い契約期間を満了し、元の屍へと戻ったはずなのだ。
 にもかかわらず、彼女はここにいた。
 生前と一切変わらぬ姿で、時の庭園の中に存在していた。
 これは大いなる矛盾だ。まさかリーゼ姉妹のように、双子がいたというわけではあるまい。
《……リインフォース。情報を手に入れる方法が、もう1つあるよ》
《何だ?》
 故にアルフはこう提案した。
《尋問》
 リニスと向き合い、問い詰めることを。
 彼女の生存とプレシアの意図、どちらも纏めて聞き出さねばならない、と。

405第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:28:29 ID:6aYOplck0


 かくして時間は現在へと戻る。
「久しぶりだね、リニス。こんな形で再会することになるとは思わなかったけど」
 床に仰向けに押さえつけられた猫の使い魔へと、犬の使い魔が切り出した。
 本当に、こんなはずではなかったことばかりだ。
 死んだとばかり思っていたリニスと、こうして再会することになったことも。
 その美しくも優しい教育係と、敵として対峙しなければならなくなったことも。
「あんた、何で生きてるんだ? 契約を完了した使い魔は、そのまま死ぬ宿命だったはずだ」
「私はリニス本人ではありません。
 プロジェクトFの技術を応用して作られた、同じ容姿と記憶を持ったクローンに過ぎません」
「……そうかい」
 寂しげに目を伏せ、それだけを呟く。
 もしかしたら、とは思っていたが、どうやらそうも都合のいい話は存在しないらしい。
 プロジェクトF――フェイトが生まれるきっかけともなった、記憶転写クローン技術。
 その末に生まれたのがこのリニスだというのならば、
 オリジナルのリニスは、やはりこの世にはいないということになる。
「いくつか聞かせてもらいたいことがある」
 複雑な心境にあるであろう、アルフへの配慮だったのだろうか。
 ちら、とアルフに目配せした後、リインフォースが問いかける。
 そこからの尋問の主導権は、リインフォースが引き継ぐこととなった。
「まずは貴方の主人――プレシアについてのことだ。彼女はここで何かを行っているようだが……一体何を企んでいる?」
 第一に確認すべきは、そこだ。
 アルハザードへの到達を目的としていたプレシア・テスタロッサは、恐らくその悲願を達成した。
 だとしたら、己の都合以外に一切の執着を持たないはずの彼女が、今更海鳴に攻撃を仕掛けるはずもない。
 しかし現実として海鳴は滅び、高町なのはとのその関係者は、今ここにいる2名を除いて全滅した。
 ならば、まだ何かある。
 プレシアが何かしらの目的を持って、未だに暗躍していることになる。
 最初に問いただすべきは、それであった。
「………」
 返ってきたのは、沈黙。
 微かな逡巡を湛えた表情と共に訪れる、静寂。
 数瞬の間、その状態が続き、
《……私に話を合わせてください。この部屋もプレシアに監視されているでしょうから》
 返ってきたのは、言葉ではなく念話だった。
《話を合わせる、ってのは、どういうことだい?》
 不可解な言い回しに、アルフが問いかける。
 監視されている可能性がある、という言葉には、さほど驚きは感じなかった。
 ここが敵の本拠地であるのなら、ある程度は仕方がないと割り切れるからだ。
 故にそれ以上に不可解なのは、リニスの持ちかけてきた提案。
 話を合わせろということは、演技をしろということだ。
 プレシアに従う身であるはずの彼女が、何故そのプレシアに本音を隠そうとするのか。
《私にはこれ以上、この件に干渉することはできません……ですから、貴方達に託そうと思います》
 答えが返ってくるまでには、さほど時間はかからなかった。
《お願いです――彼女を、プレシアを止めてください》

406第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:29:15 ID:6aYOplck0


 そして真実は語られた。
 伏せられていた情報の全ては、今ここに白日のもとに晒された。
 プレシアがたどり着いたこの場所は、間違いなくアルハザードであったということ。
 そこにたどり着いたにもかかわらず、未だアリシアは蘇っていないということ。
 そのアリシアの復活のために、プレシアが今動いているということ。
 そしてその手段として夜天の書を奪い、そのためにあの海鳴市を滅ぼしたということ。
「そんな……」
 そして。
「アリシアを復活させるために、大勢の人間が殺し合わされているだって……!?」
 それらの犠牲を払った末に、今まさに実行されていることさえも。
「何でだよ……どういうことなんだよ! そんな残酷なことが、死んだ人間の復活に繋がるのかよ!?」
 しばし呆然としていたアルフが、一転し、激昂の様相を見せた。
 今にも掴みかからんばかりの勢いで、リニスに向かって問いかける。
 敵を尋問しているように見せるための演技――ではない。この怒りは彼女の真意だ。
 まっとうな蘇生実験のために、フェイト達が犠牲になったというのなら、この際まだマシな方と言っていい。
 だがその犠牲が、そんな無駄な殺し合いのために払われたというのなら話は別だ。
 何故だ。
 何故そんなことのために、フェイト達が殺されなければならなかった。
 そんな無軌道な殺戮のために、何故愛しい主と仲間達の命が――
「それが、繋がるんです。彼女が行っているのは、そういう儀式ですから」
「儀式?」
 リニスの返事に反応を返したのは、やはりアルフではなくリインフォースだった。
 基本的に、この場で一番平静を保っているように見えるのは常に彼女だ。
 もっともその彼女自身もまた、プレシアの暴挙を許したわけではないのだが。
「今あの結界の中で行われている殺し合いこそが、アルハザードで確立されていた、死者を復活させるための儀式なのです。
 60人の人間を戦わせ、敗れた59人分の生命エネルギーを利用することで……勝ち残った1人の肉体に魂を降ろす。
 同時に肉体が生前のそれへと再構成されることで、完全なる死者蘇生は実現される」
「蟲毒だな、まるで」
 古代中国の呪術の名を例に挙げ、言った。
 もっともそちらの方は、虫や小動物を食い合わせて怨念を集め、猛毒を持った生物兵器を生み出すための呪法なのだが。
「そんなむちゃくちゃな……ここは仮にも、魔法の聖地なんて言われた場所なんだろう!?」
 それでもなお納得できないといった様子で、アルフが反論する。
 否、その感情の様相は、先ほどとはまた異なるものとなっていた。
 プレシアの暴挙に対して抱いたものが怒りなら、今この瞬間抱くものは困惑の二文字。
 優れた魔法技術を有したアルハザードの様式にしては、その方法はあまりにも野蛮で、あまりにも前時代的だ。
 魔法のまの字すら見えないこの儀式が、アルハザードの正統な技術であるなどと、一体誰が信じられるものか。
「だからこそ、なのです。
 リインフォース……蟲毒などという術を知っているのならば、地球に存在する生け贄の儀式のことも、聞いたことがあるのでしょう?」
「ああ。アステカ、インカ、中国……日本でも行われていた時期があったようだな」
「地球の場合、多くは神への貢物として行われていたようですが……
 あの世界を含む、リンカーコアを制御する術を持たない世界のうちのいくつかでは、超常の力を発揮するために、
 生け贄という形で肉体を損壊することで、強引に生命エネルギーを流出させる手段を取っていたのです」
「成る程……言わばあれらの風習もまた、超原始的な魔法だったということか」
 アステカの生け贄が、神を動かす力となったように。
 蟲毒の生き残りが、怨念を猛毒へと昇華させたように。
「にしたって60人って数は……あまりにも、多すぎる」
「完全な死者蘇生のためには、それほどの途方もない力が必要だったということか」
 そもそも死者を復活させるということは、あの世から死者の魂を連れ戻すということだ。
 そしていかに科学や魔術が発展した世界であっても、少なくともアルフ達管理世界の住民が知る限りでは、
 現世から冥界へと至る術を発見した世界は、未だない。
 彼岸と此岸の境界とは、それほどに強固なものなのだ。
 途方もないほどに強固な壁を越えるには、途方もないほどの代償を払わければならないということだ。

407第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:30:25 ID:6aYOplck0
《……事情は分かったよ。理解したくないけど、理解しなけりゃいけないってことが分かった》
 眉間に皺を寄せながら、毛髪の奥の頭皮を掻く。
 不機嫌そうな表情のまま、アルフがリニスへと念話を送る。
《では……》
《もちろん、最初からそのつもりさ。プレシアはあたし達が止めてくる》
 全て納得したと言えば、嘘になるだろう。
 正直な話、未だに唐突感はぬぐい去れない。あまりにも荒唐無稽すぎる話には、未だ理解が追いつかない。
 それでも、自分達はここに理解をしに来たのではないのだ。
 自分達がここに来たのは、プレシアの真意を問いただし、ろくでもないことを企んでいるのなら、それを止めるためなのだ。
 そして今まさに行われていたことが、そのろくでもないことであることは理解できる。
 ならば、この際細かいことはどうだっていい。
 今すぐプレシアの所へ殴り込み、このふざけた儀式とやらを止めるしかない。
 既に何人もの人間が犠牲になっているというのなら、なおさらのことだ。
《使い魔リニス。この施設の見取り図があったら、見せていただけないだろうか》
「この施設の見取り図がほしい。今すぐそのモニターに映せ」
 念話による本音では、穏便に。
 肉声による演技では、威圧的に。
 2つの言語を同時に駆使して、リインフォースが要求した。
「分かりました」
 その両方に、いっぺんに応じる。
 銀髪の融合騎の要求に、山猫の使い魔が応答を返す。
《窮屈だろうが、我慢してくれ》
 念話で前置きをしながら、リインフォースがリニスを強引に立たせる。
 首元に添えた手はそのままだ。建前上は脅迫している身なのだから、拘束を解くわけにはいかない。
 かくして彼女らはモニターへと向かう。
 倒れた椅子はそのままに、立った状態でコンソールを叩いた。
 かちかち、とキーボードを弾く音が響いた後、モニターに映し出されたのは時の庭園の見取り図。
 リインフォース達にとっては、実に6時間もの長きに渡って待ち望んだ代物だ。
「確認した」
 言うと同時に、リインフォースの手が伸びる。
 細く滑らかな指先が、コンソールの端子へと触れる。
 一瞬、ぴか、とその肌が光った。
 魔力光が瞬くと同時に、モニターに新たなウィンドウが開く。
 コピー完了――魔法術式タイプのコンピューターの特性を利用し、自らの内にデータを取り込んだ結果だった。
 もちろん、それだけではアルフが地図を使えない。
 故に適当な棚から、リニスに携帯端末を取り出させデータを出力し、それをアルフに投げて渡す。
「あとは……そうだな。参加者を拘束している首輪の制御装置はどこにある?」
 残された問題は、例の爆発物管理プログラムの正体――参加者に架せられた爆弾首輪だ。
 先ほどのハッキングではプログラムの存在こそ確認できたものの、それをどうこうすることは不可能だった。
 そしてあれをどうにかしない限りは、参加者をフィールドから逃がすことなど、不可能と言っていい。
 地図にそれらしきもののある部屋の名前が確認できなかった以上、その所在を問いただす必要があった。
「首輪はプレシア自身が管理しています。制御システムも、彼女の部屋に――」



 ――その、刹那。


.

408第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:32:08 ID:6aYOplck0
「ッ!?」
 世界の様相は一変した。
 視界は赤一色に満たされ、静寂は爆音に塗り潰された。
 ちかちかと点滅する非常灯。
 けたたましく鳴り響くサイレンの音。
 話声以外の音もなかった一室が、一瞬にして音と光の嵐へとぶち込まれた。
「これは……!?」
 誰が口にしたのかも分からぬ、戸惑いの声が上がるのも束の間。
「!」
 ぷしゅっ、と短く鳴る音と共に、部屋の自動ドアが開く。
 中から開いたのではない。扉はプレシアによってロックされている。
 であれば、答えは簡単だ。
 外から強制的に開けさせられたのだ。
「こいつら……!」
 扉の向こうに並ぶのは、見渡すばかりの鉄、鉄、鉄。
 卵を彷彿とさせる楕円形に、触手のごとく伸びた赤いケーブル。中央に光る黄金の瞳は、瞬きするかのように明滅する。
 ガジェットドローンの大軍だ。
 巡回を行っていた機動兵器達が、一斉にこの部屋へと押しかけてきたのだ。
「――バルディッシュ!」
 刹那、咆哮。
 凛とした雄叫びが上がると共に、黄金の光が赤を切り裂く。
 稲妻を宿した魔力光が、一瞬非常ライトを上から塗り潰した。
 声の主――使い魔リニスの手に握られていたのは、漆黒の煌めきを放つ長柄の斧。
 アルフの主人が生前用いていたものと、寸分違わぬ姿を持った、閃光の戦斧・バルディッシュ。
「はぁっ!」
 声を上げている暇などなかった。
 姿を知覚した瞬間には、既に動作に移っていた。
 跳躍。疾駆。接近。斬撃。
 カモシカのごとく両足をしならせ、敵に飛びかかりデバイスを振るう。
「リニス!?」
 アルフが声を上げた時には、既に1機のガジェットが破壊されていた。
 返す刃で次なる標的を切り裂き、改めてバルディッシュを構え直す。
 黒光りする切っ先越しに、山猫の双眸が機械兵を睨む。
「ここは私が引き受けます! 貴方達は隣の部屋に!」
「えっ……!?」
「この兵器達の放つフィールドには、魔力結合を阻害する効力があります。
 遠距離攻撃は不利です。隣の武器庫から、リインフォースの武器を調達して行ってください!」
 もはや演技をしている余裕はなかった。
 否、リニスの安否を無視して兵力を送った以上、大方プレシアにはばれていたのだろう。
 取り繕っていた体裁をかなぐり捨て、リニスがリインフォースらに向かって叫ぶ。
 そしてその言葉を聞いて、彼女らは一瞬忘れかけていた、敵の特性をようやく思い出した。
 あの金眼の兵器には、魔法を無力化させる能力が備わっていた。
 どういうからくりなのかが今までずっと気がかりだったが、なるほどそういうことだったのか。
「でも、1人で大丈夫なのかい? バルディッシュが近接戦タイプだからって……」
「見くびらないでくださいよ。これでも、フェイトの先生だったんですから」
 不安げなアルフを笑い飛ばすように。
 無粋なことを、と言いたげに、リニスが強気な笑みを浮かべる。
 それでも、未だ不安は消えない。
 いくら敵がガジェットだけでなかったからとはいえ、そのフェイトの敗北を目の当たりにしたからには、安心できるはずもない。
 確かにこのロボットそのものの耐久力はそう高くない。自分で殴り壊したからこそ分かることだ。
 だがそれでも、いくら何でもこれほどの数を前に、1人で戦えるものなのだろうか。
「やむを得ないか……ここは頼む。行くぞ、アルフ」
「……ああ」
 それでも、今は行くしかない。
 でなければせっかく足止めを買って出てくれた、リニスの意志が無駄になる。
 ここでまごついているうちにも、更なる犠牲者が出てしまうかもしれないのだ。
 無理やりに自分を納得させ、アルフはリインフォースの後に続いた。

409第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:33:20 ID:6aYOplck0
 部屋を出て、すぐ隣にあったドアを開く。
 先ほどちらと見た地図によれば、この部屋は殺し合いを行う際に必要となる、支給品とやらの転送室らしい。
 転送する武器の選別は、現在はランダムかつオートとなっているらしく、人の影は見当たらない。
 障害がないことを幸いとし、室内に並べられた武器を物色。
「……これがよさそうだな」
 そう言ってリインフォースが手にしたのは、一振りの日本刀だった。
 剣を選んだのは、ヴォルケンリッターの烈火の将・シグナムが剣の使い手だったからだ。
 彼女の魔法・紫電一閃は、純粋魔力ではなく、魔力変換によって生じた火力を纏うものである。
 魔力結合を阻害するガジェット相手には、ただの斬撃よりも有効と言えるだろう。
 故にシグナムの技を再現すべく、数ある武器の中からそれを選んだというわけだ。
 ただの刀が紫電一閃の火力に耐えられるのか、とも思ったが、どうやらこの刀、見た目以上に頑丈らしい。
 元々の持主たる異界の戦国武将・片倉小十郎が、この刀に雷を纏わせて戦っていたのだから、当然と言えば当然なのだが。
「よし、行くぞ」
「分かってる。……リニス! あたしらが戻るまで持ちこたえてくれよ!」
 部屋を出たアルフが最初に口にしたのは、ガジェットの大軍と戦うリニスへの呼びかけだった。
 そしてそれに対して返されたのは、彼女の無言の頷きだった。
 今はそれで納得するしかない。
 リインフォースらは彼女に背を向けると、すぐさま戦線を離脱する。
 硬質な廊下の床を蹴り、傍らの見取り図を見やりながら、時の庭園内部を走っていく。
 目標は2つ。
 今回の事件の首謀者であり、首輪の制御装置を保有しているプレシアの部屋。
 奪われた夜天の書が利用されているという、殺し合いのフィールドを生成する動力室。
 それぞれ最上階と最下層――PT事件を体験したアルフにとっては、一種懐かしささえ思わせる状況だった。
「リインフォース。ここは二手に分かれよう」
 そしてそのアルフが切り出したのは、またしても当時を想起させる提案だった。
「二手に……?」
「今は一分一秒が惜しい。あんたが地下の動力室を目指して、あたしがプレシアの部屋に向かうってのでどうだ」
「正気か? プレシア・テスタロッサの実力は、あの機械の比ではないのだろう……?」
 不可解な進言に、リインフォースが眉をひそめる。
 本業は科学者であるとはいえ、プレシアはSランクの魔力を有した大魔導師だ。
 まさかガジェット同様のフィールドを張るなんてことはないだろうが、それ以上に地力の差が桁違いである。
 事実として、アルフは以前プレシアに反旗を翻した際に、完膚なきまでに叩きのめされていた。
 理論上はその方が手っ取り早いとはいえ、どう考えても自殺行為としか思えない判断だ。
「夜天の書を取り返すことができれば、あんたもいくらか本調子を取り戻せるんだろ?
 心配なら、早く夜天の書を取り戻してきて、あたしを助けに来ておくれよ」
 返ってきたのは、不敵な笑み。
 にっと笑った表情は、先ほどのリニスのそれとも似通っていた。
 なるほど確かに、言われてみれば、リインフォースは夜天の書を奪われたことで、未だ本力を発揮できずにいる。
 その調子で2人がかり挑んだとしても、確実に勝利できるとは言い難いだろう。
 とはいえ2人で夜天の書の奪還に向かえば、その隙に参加者達を殺されてしまう。
 ならばここはアルフが注意を引きつけることで、本命のリインフォースに繋ぐのが最も確実だ。
「分かった……お前も、それまで死なないでいてくれよ」
「おうともさ」
 それが最後のやりとりとなった。
 階段にさしかかったところで、両者はそれぞれの道へと別れる。
 犬の使い魔は上を目指し。
 銀の融合騎は下を目指す。
 互いの目的を達成し、再び共に戦うために。
 あの忌まわしき魔女を打倒し、最期の悲願を果たすために。

410第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:33:52 ID:6aYOplck0


 身体強化術式を行使。
 速度強化と、腕力強化を最優先。
 AMFによる強化阻害の影響は、無視できるほど小さくはない。
 普段より数段重く遅い身体を、それでも懸命に力を込め、振るう。
『Scythe Form.』
 排気音と機械音を伴い、デバイスを近接攻撃形態へと移行。
 どうせ魔力弾は通用しないのだ。ならばこそ、接近戦に特化したフォームを選択するのは必然。
 振るう。振るう。薙ぎ払う。
 斬る。斬る。斬り刻む。
 迫る攻撃は全てかわした。
 普段より労力がかかる分、防御のタイミングはよりシビアだ。なればバリアになど頼っていられない。
 360度全方位に視線を配り、一心不乱に立ちまわる。
「はああぁぁっ!」
 柄にもなく気合の叫びを上げながら、リニスはひたすらに戦斧を振るった。
 我ながら大した出来だ――自らの手に握りしめた得物に、そんな感想を抱き、笑みを浮かべる。
 このバルディッシュは完璧だ。
 攻撃力も、魔力効率も、演算速度も申し分ない。さすがにフェイトのために、大枚をはたいて作っただけはある。
 フェイトはこの力作を気に行ってくれただろうか。
 オリジナルの私が最期に残したものを、喜んでくれていたのだろうか。それだけが気がかりだった。
(今の私にはこうすることしかできない……でも、彼女達にはできることがある)
 今のリニスを突き動かすのは、その一心だ。
 自分には何もできなかった。
 面と向かって立ち向かうこともできず、陰でこそこそと動くことしかできず、
 結局できたことといえば、参加者への可能性の丸投げだけだ。
 やがてプレシアに手足をもがれ、それすらも不可能となっていた。
 そして訪れた結末は、侵入者ごと抹殺対象となるという有り様。
 まったくもって不甲斐ない。大魔導師の使い魔とまで言われておきながら、情けないことこの上なかった。
「たぁっ!」
 しかし、彼女達は違う。
 彼女達はあの戦いを生き延びた。
 自分達を追うことに命を懸け、遂にはこのアルハザードにまでたどり着いた。
 何かを変えられるのは自分ではない――あの娘達だ。彼女達にこそ、希望があるのだ。
 ならば自分は捨て石ともなろう。
 こうして囮役を引き受けることで、希望を繋ぐことができるなら、喜んでここに屍をさらそう。
 犯してしまった罪を償う術が、こうする他にないのなら――
『――まったく、困った使い魔ね』
 その、瞬間。
 ぶんっ、と空気を揺らす音。
 不意に目の前に表れたのは、通信端末の空間モニター。
 画面越しに語りかけるのは、ウェーブのかかった黒髪と、冷たく射抜くような紫の視線。
『見え見えなのよ、あんな臭い芝居は。命を惜しむような柄でもないでしょう、貴方は』
「プレシア……」
 プレシア・テスタロッサ。
 全ての元凶たる大魔導師にして、山猫の使い魔リニスの主君。
 実子アリシアを蘇らせるために、大勢の命を犠牲にし、フェイトさえも手にかけた魔女。
 これまで沈黙を続けていた彼女が、遂にこうして回線を開き、再び姿を現していた。
 そしてそれに呼応するようにして、これまで戦っていたガジェット達もまた、一斉にその動作を止めた。
『本当に困った使い魔だわ……お仕置きされて反省するどころか、敵と結託するだなんて』
 ふぅ、とため息をつきながら、呆れた様子でプレシアが言う。
 自らが犯した大罪も、目の前で起きている反乱すらも、まるでに歯牙にもかけぬように。
「……私は間違っていました……
 貴方を止めたいというのなら、こそこそ隠れるのではなく、こうして戦うべきだった」
 何が悪かったというのなら、最初から何もかもが悪かった。
 本当に主の暴挙を制するのなら。
 本当に己が罪を償いたいのなら。
 黙ってその命に従って、この手を汚すべきではなかった。
 可能性だけを参加者に与え、解決を委ねるべきではなかった。
 たとえ相手が主君であろうと、あの2人の娘達のように、真っ向から立ち向かうべきだった。
 自分はそれに気付くのが、途方もないほどに遅すぎたのだ。

411第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:34:38 ID:6aYOplck0
『どっちにしても間違いよ』
 ぎろり、と。
 刹那、冷たく輝く紫の双眸。
 纏う気配は絶対零度。肌を切り裂き臓腑を射抜き、血肉を凍てつかせる氷雪の殺意。
 気だるげな様相が一転し、威圧的な形相へと姿を変える。
 やはり、そうか。
 プレシアは己の意に背く者は、誰であっても許しはしない。
 利用価値のない者ならばなおさらだ。間違いなく自分はここで殺されるだろう。
『馬鹿げたことをしてくれたわね……それとも何? まだフェイトを切り捨てたことを根に持っているの?』
 ぴくん、と。
 帽子の下の耳が、一瞬揺れた。
『貴方があの子をどう思おうと、あんなのは所詮アリシアの出来そこないなのよ。私にとっては――』
 ああ、そうか。
 やはり、そうなのか。
 どれほどの経験を重ねても、結局貴方はそうなのか。
 あの子にどれだけ尽くされようとも、貴方にはまるで届かないのか。
 あの子をどれだけ傷つけようとも、貴方にはまるで響かないのか。
 貴方にとってのあの子とは、そんなものでしかないのか――!
「――黙れ」
 自分でも驚くほどに、冷たく低い声音だった。
 これほどに冷酷な声が出せるのかと、一瞬自分で自分が信じられなかった。
 画面の奥のプレシアも、さすがにこれには驚いたらしい。
 氷の刃のごとき視線が、一瞬丸くなったのがその証拠だ。
「私は貴方達家族のことは、ほとんど何も覚えていない……
 貴方とアリシアがどんな親子だったのかは、私には知る由もない……それでも、これだけははっきりと言える……!」
 肩がわなわなと震える。
 バルディッシュがかたかたと鳴く。
 使い魔となる前の記憶は、ほとんど頭の中に残されていない。
 自分がアリシアに懐いていたことも、アリシアが自分を拾ってくれたことも、主体として実感することはできない。
 故に、プレシアとアリシアの関係について、とやかく言うつもりはない。
 それでも。
 だとしても。

「私にとってのフェイトは本物だ!
 紛い物でも出来そこないでもない……あの子を否定することは、私が許さないっ!!」

 遂に私は絶叫した。
 己の胸にこみ上げる怒りを、ありのままにぶちまけた。
 プレシアのアリシアへの愛が、本物だというのなら。
 私のフェイトへの愛もまた、本物であるのは間違いないのだ。
 彼女と出会って、魔法を教えて、笑い合う日々を幸せだと思った。
 彼女がいかなる生まれの人間だったかなど、自分には何の関係もなかった。
 フェイトと積み重ねた想い出も。
 フェイトからもらった信頼も。
 フェイトへと向ける愛情も。
 それら全てが本物だから。紛い物でもなんでもない、確かなものであると言い切れるから。
 だからこそ、私はプレシアを許さない。
 誰かの勝手な悲しみに、誰かを巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない。
 自分のエゴで作ったフェイトを、自分のエゴで殺す愚を、私は決して許さない。
『……もういいわ。お前はもう死になさい』
 一拍の間を置いて、一言。
 それを最後通告として、プレシアの顔は目の前から消えた。
 通信の終了と同時に、静まり返っていたガジェット達が、再び駆動音の唸りを上げる。
 これが終わりの始まりなのだろう。
 ここからが、本当の最期の戦いなのだろう。
 随分と魔力を無駄遣いしてしまった。まだまだ半分くらいは残っているが、それではこの数相手には心もとない。
 それでも、自分は決して絶望しない。最後の最後まで抗うことをやめない。
 囮としての戦いは終わった。十分に時間は稼げたはずだ。
 だからこれから始めるのは、自分の個人的な戦い。
 プレシアに叩きつけたこの想いを、最期の瞬間まで示し続けるためだけの、自分勝手なプライドを懸けた戦いだ。

412第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:35:20 ID:6aYOplck0
「バルディッシュ」
 右手のデバイスへと語りかける。
「こんな身勝手に付き合わせてごめんなさい」
 結局は自分も、プレシアと何ら変わらないのかもしれない。
 自分で複製したこのバルディッシュを、本来担うべきだった目的すら果たさせずに、
 自分の勝手なエゴに巻き込んで、ここで果てさせてしまおうとしている。
 己の欲望の果てにフェイトを死なせた彼女と、変わらないことをしようとしているのかもしれない。
「それでも……貴方が私を、まだマスターだと認めてくれるなら……最後の力を、貸してください」
 祈りのような言葉だった。
 それがリニスの口にした、最後の言葉と呼べる言葉だった。
 両の手で長柄を強く握る。
 サイズフォームの光刃を輝かせ、眼前のターゲットを見据える。
 意識は怖ろしいほどにクリアーだ。
 もう何も怖くはない。死でさえも自分を怖れさせはしない。
 ただ、刃を振るうのみ。
 最期に事切れる瞬間まで、前に進み続けるのみだ。
「……うおおおおぉぉぉぉぉーっ!!」
 咆哮と共に、山猫は駆ける。
 黄金と漆黒のデスサイズを携え、大魔導師の使い魔は疾駆する。
 間合いを取ると共に、切り裂き。
 間合いを詰めると共に、薙ぎ払った。
 AMFの壁に阻まれようとも、ひたすらに刃を叩き込んだ。
 全身をレーザーに焼き焦がされ、五体を触手に貫かれようとも、一心不乱に斧を振るった。
《アルフ》
 心残りがないと言えば、嘘になる。
 しかしそれらを叶える機会は、当に自身の手で投げ捨ててしまった。
 それでも、最後の1つだけは、どうにか叶えることができた。
 故に最後の力を振り絞り、猫の使い魔は言葉を紡ぐ。
 声ではなく思念通話を通して、願いの先へと想いを伝える。
《大きく……なりましたね》
 フェイトと共に面倒を見てきた、小さな狼の娘・アルフ。
 フェイトに会うことはできなくとも。
 フェイトの成長した姿は見れなくとも。
 その愛らしい使い魔は、大きく勇敢に育ってくれた。
 その姿を見られただけでも、彼女は十分に幸せだった。
 記憶を引き継いだクローンとして、蘇った意味はあったのだと。
 最期の瞬間に、そう実感することができた。

413第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:36:21 ID:6aYOplck0


 上へ、ただに上へ。
 延々と続く階段を、上り続ける女がいる。
 漆黒のマントとオレンジの髪を、走る勢いにたなびかせ、ひたすらに駆け抜ける者がいる。
 ひく、と獣の耳が揺れた。
 ぴく、とマントの肩が揺れた。
「……ばかやろうっ……」
 瞳を光らせる獣の女が、震えた声で呟いていた。










【リニス@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】












「まったく……使い魔風情が偉そうなことを」
 はぁ、とため息をつきながら。
 リニスの死亡を確認した主君――大魔導師プレシア・テスタロッサは、うんざりとした様子でそう呟いた。
 腰掛ける椅子に右肘をつき、己の頬を手のひらに預ける。
 これで彼女は独りきりだ。
 たった1人の協力者を、自らの手で切り捨てたプレシアは、本当に独りになってしまった。
 もはや周りにいる者は、得体の知れないあの男から借りてきた、いかがわしい機械人形達だけしかいない。
 それでもプレシアは、それで別に構わないとさえ思っていた。
 どうせもうすぐ片はつく。あとたった11人の人間が死ぬだけだ。
 そうなれば儀式は完遂し、冥府の扉を開くための59人の生け贄が揃う。
 最後の1人の身体に魂が宿り、アリシア・テスタロッサの完全な復活は完了される。
 自分には、ただアリシアさえいればいい。
 そしてその時は、もう目前にまで迫ってきている。

414第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:37:15 ID:6aYOplck0
「ミズ・プレシア。動力炉への兵員の配備、完了しました」
 その時。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て。
 機械人形のうちの1人――ボーイッシュなナンバーⅧ・オットーが姿を現した。
「ああ、そう」
 まったくもって面白味のない奴だ。
 せっかくいい気分に浸っていたのに、余計な水を差すなんて。
 無粋な来訪者の報告に、興味なさげな発音で返す。
 裏切り者のリニスを排除した今、残された問題はあと2つ。
 夜天の融合騎・リインフォースと、犬の使い魔・アルフの2名である。
 そのうちアルフに対しては、ほとんど無視に近い対応を取っている。
 どの道あの使い魔程度の実力では、この部屋に入ることなど不可能だと分かりきっているからだ。
 となると、残る問題はリインフォース。
 こちらへまっすぐ向かってくるならまだしも、夜天の魔導書を狙われるのはまずい。
 さすがにこちらは無視できないということで、オットーに兵力の派遣を指示しておいたのだ。
 ナンバーⅦ・セッテと、ナンバーⅩⅡ・ディード――最後発組2名が相手とあれば、
 欠陥を抱えた融合騎など、ひとたまりもなく消し飛ぶだろう。
 そうなれば、全てはチェックメイト。
 このプレシア・テスタロッサを邪魔できる者は、広大な次元世界の海に、誰1人として存在しなくなる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、アリシアと再会することができるのだ。
 込み上げる笑いをこらえきれず、我知らぬままに口元がにやけた。
「……あら?」
 そして、その時。
 ふと、ほんの僅かな違和感を覚えた。
「貴方、さっきまで羽織っていたジャケットはどこにやったの?」
 それはオットーの身なりへの違和感。
 中性的な容姿をした彼女は、その胸元を隠すように、グレーの上着を羽織っていた。
 しかし今、彼女の身体にそれは確認できない。
 ナンバーズスーツの上には長ズボンだけ。慎ましやかな胸の隆起が、スーツ越しに見受けられるようになっている。
「それはですね……」
 そして。
 プレシアがその返答を聞くよりも早く。




 ――ぐさり。




「ッ……!?」
 腹部へと激痛が襲いかかった。

415第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:38:00 ID:6aYOplck0
 焼けつくような痛覚が、腹と脳髄を苛み焦がす。
 久しく味わうことのなかった鉄の味が、口の中へと満たされていく。
 アルハザードの叡智を用い、己が病を克服して以来、久方ぶりに感じる吐血の感触。
「あ……ァあ……」
 喉から漏れる声は、言葉にならず。
 震える両手は、傷口へと届かず。
「――こういうことなんですよ」
 それらが意味をなすよりも早く、何者かの声が耳朶を打った。
 聞き覚えのない女の声。
 嘲笑うような不愉快な声。
 のろまと言っても差し支えない動作で、声の方へと首を向ける。
「オットーの上着は、正式名称をステルスジャケットと言いまして……
 その名の通り、あらゆるセンサーの索敵から、身を隠すことができるんです」
 そこに立っていた者は、プレシアの知らない女の姿。
 全身をフィットスーツで覆った容姿は、オットーら戦闘機人と共通したもの。
 しっとりと光るブロンドを、腰まで伸ばした妖艶な女性。
 そしてその胸元には――ナンバーⅡの刻印が施されていた。
「ばか、な……まるで……気配、が……」
「あらあら、こちらは隠密が仕事なんですよ? 科学者ごときに、私を気配を捉えられるはずがないじゃないですか」
 にぃ、と笑う女の顔。
 同時に腹を襲ったのは、ずぷ、という音を伴う更なる苦痛。
「ぅううッ……!」
 目の前が一気に真っ赤に染まった。
 何かしらの得物でせき止められていたらしい血液が、一挙に傷口から噴き出した。
 ぶしゅう、と響く音と共に、勢いよく噴き出される紅色の噴水。
 患部から吐き出される赤色は、プレシアの身体の体力さえも、根こそぎ流し出していく。
「申し遅れました。私は戦闘機人のナンバーⅡ・ドゥーエでございます。以後、お見知りおきを……」
 意味深な響きと共に放たれた言葉を、どこまで明瞭に聞けたのかは分からない。
 もはや椅子に座ることすらも、プレシアには不可能な動作であった。
 ごろごろ、と豪快な音が上がる。
 深紅に染まった黒のドレスが、椅子から転げ落ちて床へと横たわる。
「そん……な……」
 何だこれは。
 何だというのだ、この有り様は。
 信じられないといった形相で、うつ伏せのプレシアが声を漏らした。
 一体何が起こっている。
 どうしてこんなことが起きている。
 あと一歩のところまで来たのに。
 アルハザードへと到達し、その上悲願達成の目前までたどり着いたのに。
 何故だ。何故こうも上手くいかない。
 何故誰もかれもが立ちはだかる。何故こうも誰もが邪魔をする。
 私の行いがそんなに悪いのか。
 幸せを求めるのがそんなに間違っているのか。
 私は。
 私は、ただ。
「ア、リ……シア……――」
 ただ――――――娘の笑顔が見たかっただけなのに。

416第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:39:22 ID:6aYOplck0


 ぱっ、と右手を軽く振る。
 ピアッシングネイルにこびりついた血糊を、床に目掛けて振り払う。
 ふぅ、と軽く息をついて、戦闘機人の次女・ドゥーエは、左手で金の長髪を梳いた。
「これにてお仕事完了、と……悪いわね、貴方の服を汚しちゃって」
「いえ。お疲れ様でした、ドゥーエ姉様」
 微かに返り血の付着したジャケットを脱ぎ、それをオットーへと投げて渡す。
 右手を束縛する得物をも外すと、両手を頭の上で組み、んっと背伸びする姿勢を取る。
「っ、とぉ……やれやれ、本当にお疲れだったわ」
 まったく、創造主も無茶を言ってくれる。内心でそう毒づいた。
 これまでにも様々な潜入任務を行ってきたが、丸々1週間何もしないで待ち続けたのは初めてのことだ。
 他のナンバーズ達と共に時の庭園に入り、しかし自身はプレシア達と接触せず、誰にも存在を気取られず施設内に潜伏。
 そして指示が下ると同時に、デバイスの探知を免れられるオットーと共にプレシアに接触、これを殺害する。
 これこそが、彼女の受け持った任務の全容である。
 侵入者に付け入られ、たった1人の仲間であるリニスが排除された時点で、プレシアは用済みとなったのだ。
『――やぁ、ドゥーエ。どうやら滞りなく終わったようだね』
 そして、その時。
 室内のモニターに浮かんだのは、通信機能のカメラ映像。
 スクリーンに大映しになったのは、1人の男の顔だった。
「これはドクター。お達しの通り、つつがなくお仕事を終わらせましたわ」
 そう。
 この男こそ。
 ドゥーエがかしずくこの男こそが、彼女達を束ねる創造主。
 紫色の長髪と、爬虫類のような黄金の瞳に、白衣がトレードマークの男。
 無限の欲望とあだ名される、広域次元犯罪者。
 Dr.ジェイル・スカリエッティ。
 プレシア・テスタロッサの協力者にして、今まさに彼女を裏切った、最悪のマッド・サイエンティストである。
『実に結構。……ウーノ、いるかい?』
『はい、ドクター。ここに』
 同時に2つ目のウィンドウが開き、ウーノの顔が映し出される。
 彼女は今、別の仕事を行うために、次元航行船用のドックで作業をしているはずだ。
『プレシアの研究成果の全てを持ち出すまでに、あとどれくらいの時間がかかる?』
『今から約6時間ほどかかります』
『では、脱出艇の調整にあとどれくらいの時間がかかる?』
『そちらも6時間ほどかかります』
『結構』
 にぃ、とスカリエッティが笑った。
 それこそがウーノの請け負った仕事であり、同時にこの稀代の科学者が、プレシアに接近した最大の理由である。
 アルハザードに存在する、優れた文明の遺産の強奪――それが彼らの目的だ。
 誰よりも旺盛な知識欲を持ち、貪欲なまでに未知を求めるスカリエッティにとって、
 その故郷とでも言うべきアルハザードは、何物にも勝る宝の山に他ならなかった。
『ではウーノ。参加者達に架せられた首輪の爆破装置を、誰にも気づかれないようにオフにしてくれたまえ』
『爆破装置をオフに、ですか?』
『時間制限という新たな制約がついたんだ。それ以上に制約を設けるのは、アンフェアというものだろう?』
『……ドクター、貴方また遊ばれるおつもりですね?』
 はぁ、とウーノが呆れたように溜息をついた。
『せっかくプレシアが始めたゲームだ。まだ終わっていないのだし、我々も乗らせてもらおうじゃないか』
 モニターの向こうのスカリエッティは、くつくつと愉快そうに笑っている。
 それに呼応するようにして、ドゥーエもまた苦笑した。
 目的はこれで十中八九果たされたも同然だが、どうやら創造主の退屈は、未だ満たされてはいないらしい。

417第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:40:22 ID:6aYOplck0
『……ではドゥーエ、君はプレシアの代役を。0時10分頃を目途に、彼女に代って放送を行ってくれたまえ』
「分かりました」
『オットーはディード達と合流し、夜天の融合騎の迎撃を』
「了解です」
 頷くと同時に、オットーは部屋を去っていった。
 ディードやセッテもそうだが、クアットロが教育したという最後発組は、どうにも感情表現が希薄だ。
 戦闘においてはそれでも構わないが、日常生活を送るにはどうにも面白味が薄い。
 これが終わってラボへと帰ったら、その辺りをクアットロにツッコんでおかねば。
 そんなことを思いながら、遠ざかる短髪の背中を見送った。
『クク……さぁ、それではゲームを再開しよう。
 彼らが勝てば全て終わり。負ければアルハザードからの脱出手段を我々に奪われ、二度とここから帰れなくなる。
 タイムリミットは次の放送を迎えるまでだ。そしてそれを過ぎた時点で――』
 かくして新たな幕は開いた。
 当事者達の知らぬ裏側で、異変は着々と侵攻していた。
 魔女は塔から引きずり降ろされ、第一楽章は終了する。
 新たなゲームマスターは、不敵に笑う金眼の道化師(クラウン)。
 ここに戦争の時代は終わり、世界の終わりが始まった。
 最悪の24時間が終了し、最悪の6時間が始まった。
 第二楽章はここから始まる。
 語り部が力尽き倒れてもなお、狂気の綴る悪夢の詩は、未だ終わることはない。










『――バトルロワイアルは、中止だ』










【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】

【参加者勝利条件変更:ナンバーズ一派の、時の庭園からの脱出阻止】
 ※参加者の首輪の爆破装置が、全てオフになりました。
 ※リインフォースに強奪されたため、
  黒龍@魔法少女リリカルBASARAStS 〜その地に降り立つは戦国の鉄の城〜が支給不可能となりました。
 ※セッテ、オットー、ディードの3名が、時の庭園最深部の動力炉に配置されました。

【バトルロワイアル終了まで――――――05:50:00】

418第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc:2010/10/04(月) 23:41:41 ID:6aYOplck0
以上です。何か所か誤字等がありましたので、一部修正させていただきました。
禁止エリアに関しては、アイデアが浮かばなかったので、ひとまず◆Lu氏の案からアイデアをお借りしました。

419リリカル名無しA's:2010/10/05(火) 23:57:25 ID:.eHpWy2E0
放送投下乙でした。

リニスとプレシア退場か……プレシアの最大の失敗はリニスを斬り捨てた事か……まー散々人を見下した愚者にとっては相応しい結末だろう。
そして前面に出てきたのがスカ軍団。首輪爆破オフしてくれるなんてお気遣い……ってちょっと待て、あと6時間で脱出って地味に難易度上がってねぇか?
しかもよくよく考えてみりゃ、放送10分遅れ程度の情報であんな事態察せるわけねぇって。地味に詰んだ?

……そういやプレシア直前話で金居に指示出してノリノリだった矢先での退場だったなぁ……まぁよくある話か(ねぇよ)
……しかし優勝者がアリシアになるか……これ真面目な話優勝者にとっては最悪な話だなぁ、実質優勝しても願いは叶えられず自身も消滅だからなぁ。
しかし場合によってはアーカードやナイブズやセフィロスやエネルがアリシアになっていたのか……(いやSSよく読めば、肉体もアリシアに再構成されるってあるけどね)

禁止エリア案は船着き場、映画館、温泉か……確かにこれが最後の放送ならば差し障りはないが……どうしようか?
(まぁ爆破装置がオフになっているから意味はないかも知れないけど、参加者は知らない話だからなぁ)
とはいえ違う場所でもwiki収録時に直せば済む話ですよね(極端に変な場所じゃない限り大きな影響は無いだろうし)

420リリカル名無しA's:2010/10/06(水) 00:11:34 ID:wI23fkrw0
投下乙です

リニスとプレシアの方が退場か
もしかしたら、とも思ったが……主催の座から転げ落ちたか
そしてスカ博士キター やっぱりお前もいたのかw
更に首輪爆破オフとかきつい事しやがったぞ

さて、これが最後の放送になるかどうか…

421 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:29:16 ID:VVdjLK8s0
キング、アンジール・ヒューレーを投下します

422闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:31:37 ID:VVdjLK8s0

アルハザードを舞台としたバトルロワイヤルという名目の、殺し合い。
プレシア・テスタロッサの手によって始められてから、既に二四時間が経過していた。
辺りは闇に包まれ、風が冷え切っている。
星々は輝いているが、それを見上げる者は誰一人としていない。
そんな空の下で、一つの建物がメラメラと音を鳴らしながら、燃え上がっていた。
静寂を破る火炎は闇を照らし、二つの人影を映し出す。
一人は、黒いマスクで顔を覆い、同じ色のスーツとマントに身を包む男、キング。
またの名を、魔王ゼロ。
本来は、世界を変えようと決意した少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの仮初の姿。
しかし今は、己の快楽の為に戦うカテゴリーキングの位が与えられたアンデットが、ゼロの名を名乗っていた。
その仮面を被るキングの前に立つのは、アンジール・ヒューレー。
本来は、遥か彼方の宇宙より地球に飛来した生命体、ジェノバの細胞を人間に埋め込む計画、ジェノバ・プロジェクトによって生まれた男。
しかし厳密には、ミッドチルダに流れたライフストリームと呼ばれるエネルギーから、ジェイル・スカリエッティが生み出したコピー。
アンジールは、ゼロと名乗る仮面を被った男の言葉に、困惑を感じていた。
この人物は、自分のことを『プレシア・テスタロッサ』が送り込んだ者と言った。
そして、手を組むのなら死んだ妹たちを生き返らせてみせるとも。
だが、そんなことは自分を騙す為の戯言で、本当は隙を突いて殺そうと企んでいるかもしれない。
しかし、ゼロは愛弟子であるザックス・フェアの名前や、既に折れたバスターソードの事を知っていた。
もしかしたら、この男と組めばクアットロ、チンク、ディエチの三人を、本当に生き返らせることが出来る――?

(いや、ここには奴もいた。もしこいつが奴と出会ったとすれば……!)

思い出されるのは、既に名前が呼ばれたかつての親友、セフィロス。
可能性は低いが、あの男がゼロに情報を売った可能性もある。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
この男をどうするか。
もしも、自分を殺そうと企むのなら、答えは一つのみ。
連戦によって体に疲労を感じるが、死力を尽くせばあの奇妙な盾も砕けるはず。
自分の世界では、バリアやマバリアといった魔法も存在する。
攻撃を防いだ防壁も、それと同じ種類か。

「何を迷っている? アンジール」

アンジールが思考を巡らせていると、仮面の奥から低い声が響く。
それは鼓膜を刺激し、彼の意識を発生源に向けた。
地獄の業火を思わせるような炎を背に立つゼロの様子は、まさに「魔王」と呼ぶに相応しい。
テロリストの仮面を被るキングは、アンジールの様子を尻目に言葉を続けた。

423闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:32:14 ID:VVdjLK8s0

「先程の放送を聞いただろう? 貴様の愛する妹たちはもう誰もいない。皆、殺されたんだよ」
「――黙れッ!」
「だから決めろと言っている! 貴様は何の為に戦うか! 貴様が求める物は何か! そして、貴様は何を決意した!?」

激高は、呆気なくかき消される。
闇の中で響くゼロの言葉によって、アンジールの勢いは止まった。
表情から怒りが消えていき、再び元に戻る。
その様子を、マスクの下から眺めるキングは、笑みを浮かべていた。
しかしそれを声には出さない。
変声機があるから誤魔化せるかもしれないが、面倒は御免だ。
最も、そうなった場合はアンジールを始末すればいいだけのこと。
だがそれでは仮面ライダーカブト、天道総司の思い通りになる。
奴の狙いに嵌るのは、気に食わない。
今やるべきことは、餌をぶら下げる事。

「君が抱くクアットロへの思いはその程度か!? 君とチンクの絆はこの位で揺らぐ程度か!? 君がディエチに感じている愛情はこの程度か!?」

キングは、放送で呼ばれたナンバーズの名前を次々に言った。
そして、警戒心を解かせる為に「君」を使う。
一人一人告げる度に、アンジールの表情が崩れていった。
何ていう愚かなことか。
調べてみると、この三人はサイボーグらしい。
ならば、鉄屑で出来たガラクタの人形ということだ。
そうなると目の前にいるアンジールとは、人形にしか愛情を向けられない、愚かな男ということになるだろう。
このような奴の弟子になったザックスという人物は、哀れかもしれない。
出来ることなら、今のアンジールの顔をカメラに収めておきたいが、それは我慢だ。
もしも、タイトルを付けるのなら『ガラクタの人形を姉妹と呼ぶ、愚かで哀れな男』だろう。
仮面の下で笑みを作るキングは、愚かで哀れなアンジールを揺さぶるために言葉を続けた。

「そしてこの事実をオットーは知っている! 彼女もまた、姉妹の死に心を痛めているはずだ!」
「ッ……!?」
「君がやらずして、誰が妹を生き返らせるのだ!? 思い出せ。君にとって、妹とは何だ!」
――アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています――

ゼロの怒号を聞いた途端、アンジールの脳裏に一つの光景が浮かび上がる。
ようやく再会できた、クアットロの姿。
そして、彼女が言った最後の言葉。

――私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです――
――だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……――

アンジールの中で駆け巡るのは、クアットロの声。
傷だらけの体にも関わらず、彼女は残る力を振り絞って、自分に託した。
クアットロと、チンクと、ディエチと、また一緒に暮らせるという願いを。

――……またお会いできる時を楽しみにしています――

彼女はこの言葉を残して、逝ってしまった。
全ては、自分の力が足りなかったせいで起こってしまった、忌々しい数時間前の出来事。
そしてプレシアの元にいるオットーも、この事を知っているはず。
彼女はきっと、いや絶対に不甲斐ない自分に失望し、憎んでいるに違いない。
だが、どんな罵りだろうと甘んじて受けるつもりだ。
二人は黙り込み、炎が燃える音だけが響く。
そんなアンジールの様子が気に食わないキングは、次のアクションを起こした。

424闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:33:17 ID:VVdjLK8s0
「…………所詮、君はその程度の男か」
「何……?」
「今の君を見たら、妹たちはどう思うだろうねぇ……?」

三回目の放送で名前が呼ばれた、キャロ・ル・ルシエの時のように、誘惑する。
今のアンジールなど、手に落ちるまでそれほど時間は要らない。
キングは確信を持ちながら、目の前の男を揺さぶり続ける。

「最も、君が一人で戦い続けるというのなら、私は別に……」
「待てッ!」

濁ったような声を、アンジールはかき消した。
仮面の下で、キングが笑みを浮かべていることを気付かずに。

「いいだろう……お前と手を組んでやる」
「良い返事が聞けて嬉しいよ、交渉成立だな」
「だが、分かっているだろうな……」
「心配は要らない。約束は必ず守る。でなければ、こんな話は持ち出さない」

アンジールは微かな可能性に賭けて、この男の提案を受け入れた。
キングが自称する魔王の名が、ゼロの名が、プレシアの配下であることが。
そして、妹達を生き返らせるという褒美が、全て嘘であることを知らずに。
屈強な兵士が、ただの人形と成り果てた事実に、キングは歓喜を覚える。
しかしそれを表に出すことは、しなかった。

「ではまずは、逃げ出したあの二人を追おう。市街地に向かうのはその後だ」

キングは提案を出すと、歩を進める。
その後ろを、アンジールは歩いた。

(ハハハハハハッ! 残念だったね、カブト。 君の狙いは外れたよ!)

心の中で大笑いしながら、キングは天道に対して侮蔑の感情を抱く。
あの男にバッグを少しだけ奪われたのは残念だが、これで御相子だ。
それ以上に、高町なのはには仮面ライダーデルタに変身するという、楽しみも待っている。
正義の味方を気取っている女が、あれを使って暴走するようなことになればどうなるか。
どうせベルトの毒が生み出す快楽に溺れ、狂った挙句に人を殺すに違いない。
ならば、その様子を携帯のカメラに残してやろう。

(そして、ウルトラマンメビウス……死んじゃったんだね、君。弱いくせに王様に刃向かったから、罰が当たったんだな!)

先程の放送で呼ばれた、ヒビノ・ミライの名前。
恐らく、自分が遊んだ際にアンジールに殺されたんだろう。

425闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:34:04 ID:VVdjLK8s0
諦めないなどと戯言を言っておきながら、この結果だ。
所詮、中途半端な力しか持たない弱者だったということ。
ウルトラマンであろうと仮面ライダーであろうと、自分に抗うなど無理だということだ。

(そういや、放送の時間が十分だけ遅れてたな……)

キングは充足感を覚えている一方で、疑問を感じている。
放送の時間が、少しだけ遅れていたのだ。
これまでは、一秒のズレもなくプレシアは情報を伝えている。
それが今回に限って、何故遅れていたのか。

(どうなってるんだ?)



一方で、アンジールもまた考えている。
先程の放送では、七人の名が呼ばれた。
クアットロの名前以外は、呼ばれても関係ない。
自分のやるべき事はただ一つ。
愛する妹達の命を、取り戻すこと。
だが、アンジールにとって気がかりなことが一つだけあった。
それは、呼ばれなかった名前が存在すること。

(あの男……生きていたのか)

三度に渡って戦いを繰り広げた、あの男が生きていたこと。
自分と同じように、望まぬ運命によって望まぬ力を得てしまった、あの男が生きていたこと。
自分の境遇と重なって見えた、あの男が生きていたこと。
そして、自分の手で望まぬ運命を断ち切った、あの男が生きていたこと。
妹達を守る盾の役割を託した、あの男が生きていたこと。

(いや、もう関係ない……俺は悪魔になると決めた。ならば、あの男も例外ではない)

アンジールは心の中で呟くが、あの男の顔が頭の中で思い浮かんでしまう。
振り払おうとするが、消えることはない。
続くように、あの男の声が聞こえた。

――そんな方法で家族を守ったとして……その人達が喜ぶのか!?――

――やっぱ……馬鹿みてぇか、俺?――

――……もう無理なんだ……意志だけじゃあ抑えきれない……もう言うことを聞かない……今すぐにでも離れてくれないと……僕は、君を、殺してしまう……――

それらは、アンジールの中で次々と蘇っていく。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、何故こんな声が聞こえるのか。
今の自分にとっては、雑音に等しい。
消えろ。消えてしまえ。

426闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:34:43 ID:VVdjLK8s0

――だって君も見逃してくれたじゃん――

――ついさっきビルに叩き付けられた時のことだよ。……確実にトドメを刺せる状況だったのに君は攻撃しなかった。その借りを返しただけさ――

アンジールは念じるが、消えることはない。
それどころか、声はより一層増えていく。
そして、苦笑を浮かべるあの男の顔も。
声に比例するかのように、疑問も徐々に増えていく。
だが、今はそれに気を取られている場合ではないはずだ。
やるべき事は、妹達の蘇生。


アンジールの頭の中で浮かぶ男の顔。
もしも、もっと早く出会えてたら手を組めたかもしれない男。
戦場にも関わらずして、自分を助けようとした男。
そして、今もどこかにいるはずの男。


――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの顔と声が、アンジールの中で浮かび上がっていた。

427闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:38:36 ID:VVdjLK8s0
【2日目 深夜】
【現在地 D-2】


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールと共に天道総司を追跡する。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。
※デイバッグを奪われたことに、気付きました。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。


【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.ゼロ(キング)と共に、参加者を殺す。
 2.参加者の殲滅。
 3.ヴァッシュのことが、微かに気がかり。(殺すことには、変わりない)
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが主催側の人間だと思っています。

428 ◆LuuKRM2PEg:2010/10/22(金) 21:52:08 ID:VVdjLK8s0
これにて、投下終了です。
誤字・脱字・矛盾点がありましたら、ご指摘をお願いします。
今回のサブタイトルの元ネタは「伝説のオウガバトル」の隠れマップ
アンタンジルで使われたサブタイトルからです。


そして、このロワの皆様へ。
自分はこのロワで作品を参加させていないにも関わらず
死者スレにて、自作品「地獄の四兄弟」からネタを使って頂いて
誠にありがとうございました。
心より、お礼を申し上げます。

そして差し支えなければ、これからもよろしくお願いします。

429リリカル名無しA's:2010/10/23(土) 09:40:08 ID:jurvEGsU0
投下乙です。あーやっぱりあんじーるはきんぐにだまくらかされたかー。

一応、キングは放送の遅れが気にしていたが……まさか主催陣で騒動が起こっている事なんて夢にも思わないだろうなぁ。
しかし天道達を追跡するのは良いが……どっちに向かうんだ?

430リリカル名無しA's:2010/10/23(土) 14:22:00 ID:FZ0RpV1QO
投下乙です
まぁやっぱりそうなるよなぁ…アンジールは完全に人形に成り果てたか
キングも放送遅れに気付いたけど…まだヒントが足りないか
で、キング…クロックアップで逃げたカブトをどっちに向かって追跡するんだろう?
あと支給品奪われた事にはもう気付いてるのか?

431リリカル名無しA's:2010/10/23(土) 20:34:34 ID:uKvYI8.20
投下乙です
アンジールはこの段階だとこの判断は正解だと思うな
今の状態で戦ったらアンジールの勝ち目薄だし、なにより生き残ることは大切だよ

>>430
気づいているよ

432リリカル名無しA's:2010/10/24(日) 01:00:10 ID:2Vx4H7Q60
投下乙です

まぁ、この段階でキングに喧嘩売ってもな…
アンジールが対主催になる道はあったんだがクア姉さんが断った時点で…
優勝狙いならこの判断は…でも1対1でキングに勝てるのか?
キングは放送の遅れには気が付いたが…

433 ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:31:00 ID:P7Ipieq60
高町なのは(StS)、柊かがみ、天道総司分投下します。

434救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:33:15 ID:P7Ipieq60
Chapter.01 EGO〜eyes glazing over



「あれ……ここは……?」
 気が付けば柊かがみは暗闇の中にいた。
「確かホテルで……」
 冷静に意識を失う前の事を思い出そうとする。だが、何故かこれまでにあった事を思い出す事が出来ない。
「ダメ、思い出せない……」
 かがみは周囲を見回した。暗がりだったが為に良くは分からなかったが、周囲には何人かの人間が倒れていた。かがみはその中の赤い髪の少年に触れるが、
「し、死んでいる……!?」
 躰は冷たく、生気を感じる事は出来なかった。
「じゃ、じゃあ……もしかしてこの人達はみんな……」
 倒れている者達は全て死体だった。
「なんなのよ一体……一体誰がこんな事を……?」
 そう口にはするものの、それ以上考えようとはしなかった。それはまるで、脳内で警告を発していたかの様に――



 それ以上思い出してはいけないと――



 それでも何もしないわけにはいかない。かがみは慎重に周りを探り――それを見つけた。
「つかさ……」
 そこにはかがみの双子の妹である柊つかさの死体があった。そしてすぐ傍には、
「浅倉……!」
 頭部こそ失っていたがかがみにはそれが何かすぐに理解した。つかさを惨殺した浅倉威の死体であることを――そう、かがみは自分の眼前でつかさが浅倉に殺された時の事を思い出したのだ。

「な……何勝手に死んでいるのよ!! つかさを殺しておいて勝手に死んでんじゃないわよ!!」
 胸に湧き上がるのは憎悪と憤怒、その感情が赴くままにかがみは物言わぬ骸を足蹴にする。
 何度も何度も、何度も何度も、骨が折れる音がしようとも、内臓や筋肉が潰れる音がしようとも止まる事はない。
 頭の中から『もうやめるんだ!』という声が響いても、
 脳裏に蛇の甲冑を身に着けた者が桃色の髪の女性と栗色の髪の少女を襲うヴィジョンがよぎっても決して止まらなかった。



「はぁ……はぁ……」



 そうして思う存分亡骸に暴行を加えたもののかがみの心は決して晴れなかった。むしろ逆に背筋に強烈な寒気が襲って来たのだ。



「なんなのよ……一体……私が一体何をしたっていうの……? 悪い夢なら覚めてよ……」
 そんな時、脳裏に1人の少女の姿が浮かんだ。
「こなた……何処にいるの……?」
 かがみはいるかどうかもわからない友人である泉こなたの姿を探した。


『カノジョニアッテドウスル? メントムカッテカオヲアワセルコトガデキルノカ?』


 頭の中から声が響いてくる。
「うっさい……」


『オモイダセ、オマエハイママデナニヲシテキタノカヲ?』


「うっさい!」


『オマエハモハヤカノジョノ『トモダチ』デハナイ……タダノ『■■■■■』ダ!』


「黙れー!!」
 頭から響く声を叫ぶ事で強引にかき消した。
「私は悪くなんかない……私が悪いわけじゃ……」



 息切れしながらも周囲を見回す。そして、



「こなた……」
 青い髪の少女――こなたの後ろ姿を見つけたのだ。かがみはすぐさまこなたの所へ向かう。
「こなた……良かった、無事だったのね……」
 その声に反応したのか、こなたはゆっくりとかがみの方を向き――

435救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:35:45 ID:P7Ipieq60







 ――次の瞬間、その首が落下した。







「え?」





 かがみは何が起こったのか理解が出来なかった。そして――







「ああ……あぁーーーーーーー!!」







 慟哭が暗闇に響き渡った――










「本当に五月蠅い餓鬼やな……」
 と、立ちつくしたままのこなたの首無し死体の後ろから血に濡れた小刀を構えた関西弁の女性が現れた。
「あああああ……あんたがこなたを!」
 かがみは目の前でこなたを斬首した女性を睨み付けるが、
「いや、本当はアンタの妹の方が良かったんやけどそうそう都合良い話にはならんからな……で、都合良くアンタの友達がいたっちゅうわけや」
 その女性は全く悪びれる事無く言い放った。しかもその口ぶりでは本当ならばつかさを殺すつもりだったというではないか。

「何を言っているのよアンタ! こんな事しておいて只で済むと思って……」
「その言葉そっくりそのまま返すで」
 かがみの怒号を女性は平然と返す。
「は? 何を言っているの?」
「質問を質問で返す様やけど……アンタ、さっき浅倉を何で足蹴にしたん?」
「何でって浅倉がつかさを殺したからよ! 本当だったら私が殺す筈だったのに……」
「つまり、家族や友人が殺されたからというわけやな。だったら私が何故こないな事したかわかるよなぁ?」
「え……?」
「アンタ……私の目の前で何をしたのか忘れたのか?」
「何の事よ……?」
 かがみはその女性が何を言っているのかを未だに理解出来ないでいた。
「アンタの足下よう見てみ」
「足下……?」
 と、足下に桃色の髪の女性の死体があった。
「これは……」
 その死体を見て、かがみはこれまでに起こった事、そして『その瞬間』を思い出す。



「そうや……アンタが私の大事な大事な家族……シグナムを殺したんや! よりにもよって私の目の前でな」





『あー、あいつ、本当にイライラするわね』
 そう言ってかがみは幸せそうにしている少女に対し攻撃を仕掛けた――その結果、彼女を庇う様に桃髪の女性シグナムがその攻撃を受けた。そしてその少女が彼女の名を叫ぶもののかがみは幾度と無く攻撃を続けた。
 無論、シグナム自身深手を負いながらも応戦を続けた。しかし結果は惨敗、
『やった!! 勝った!! 殺した!!
あはははははははは!!! これで静かになったーーー!!!
あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!』
 その場にはもう1人銀髪の男性もいた為、かがみは戦いを続けていた。その一方、
『シグナムーーーーーーー!!!』
 少女が悲壮な叫び声を響かせていた。しかしそれはかがみにとって達成感と充実感、言うなれば悦びを与えていた。そして笑いながら少女と銀髪の男性を仕留めるため動こうとしたが、


『妖艶なる紅旋風』


 少女による魔法の言葉により世界は真っ赤に染まった――

436救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:37:00 ID:P7Ipieq60





「あああああ……まさか……」

「どうした? 思い出せたか? そうや、アンタが私の大事な家族を奪ったんや」
「え……でもちょっと待って……」
 だが、冷静に考えると何かがおかしい。
 確かに目の前の女性はあの時少女が持っていた小刀を持っていた気がするし、目の前の女性の声が少女のものと同じなのも別段問題はない。
 しかし、あの時の少女はどう見ても自分よりもずっと子供、見た目だけで言えばこなたと大差無いはずだ。しかし目の前の女性は自分より若干年上だ。
「アンタが何を考えているかは知らんし興味はない。重要なのはアンタがシグナムやエリオ達を殺したという事実や」
「う……」
 かがみはふと後ろを振り返る。幾つかの死体の中に最初に見た赤髪の少年ことエリオ・モンディアル、眼帯の少女チンクの死体があるのが見える。どちらもかがみの手によって死を迎えた死体だ。
「ち……違う……アレは……」
「それだけやない。そこにある死体は全部アンタが殺した奴等や」
「え……?」
 そう、かがみの周囲にはかがみ自身名前を知らない者もいるが他にもシェルビー・M・ペンウッド、金居、セフィロス、アレックス、L、万丈目準、ヒビノ・ミライ、チンク、スバル・ナカジマ、相川始、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体があった。
「ちょ……ちょっと待って……百歩譲ってエリオやシグナム……それからそこの女の子までは私が殺したとしても……他は違うわよ……」
 と、黒い服の少年こと万丈目の死体を指し、
「コイツなんか私にカードデッキを押しつけて殺そうとしたのよ、なんで私が殺したって事になるのよ?」
「アンタは押しつけられる前どうするつもりやった? 2人で協力してデッキのモンスターをどうにかしようと考えたんか? 違うやろ?」
「それは……」
「アンタはモンスターの餌にするつもりやったやろ? もし、アンタと万丈目の立場が逆でアンタが狙いに気付いたらどうするつもりやった?」
「デッキを押しつけて……逃げ……」
「せやな、普通はそうする」
「論点ずれてない? それでどうして私が殺したと……?」
「普通の性格やったら、人を殺したらショックを受ける……それに万丈目の奴他に使える武器何も無かったんやろ? そんな状態で凶悪な人間に遭遇したらどうなる?」
 人殺しの経験がない人間が人を殺した場合、精神に大きな傷を受ける。当然後々の行動に影響を与えるのは言うまでもない。
 また、万丈目はデッキ以外に使える武器を所持していなかった。装備と精神状態が悪化している状態では生き残れる道理は全く無い。
「だ、だからってそれは私のせいじゃ……」
「違うな、間違っているで。あの時点ではまだ猶予時間はそれなりに残っていた筈や。それまでにモンスターを倒せば2人とも生き残れた。アンタ自身が生き残れた事がその証拠や」
 事実、デッキを押しつけられたものの餌にされる前に銀色の巨人メビウスがモンスターを倒したためかがみは生き残れた。
「つまり、アンタが餌にしようとせんかったら2人とも生き残れたという事や、アンタが万丈目を殺したというのはそういう事や」
「そ、そんなの屁理屈よ! 実際そんな都合良い話なんて無いでしょ」
「ああ、そうや。これは一番極端なパターン、実際にそうかなんて私も知らん。万丈目が本当に悪人やったのかも知れんからな」
「そうよ! 万丈目は悪人よ! だから悪くなんか……」
「けどそれはアンタが決める事やない。確実なのは万丈目が危険なカードデッキをアンタに押しつけたという事実だけや、万丈目の人格や真意は万丈目以外にわかるわけがない」

437救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:37:40 ID:P7Ipieq60

 彼女の指摘はかがみが今までに感じた万丈目への憎悪の正当性を完全に否定するものだった。かがみ自身認めたくは無かったが返す言葉が見つけられない。
「他の連中も大体同じや、アンタが襲った事が後々になって影響を及ぼした可能性は否定出来ないな」
「それは……」
 かがみは金居、ペンウッドの死体を見る。あの時の事を冷静に思い出す限り、一歩間違えれば2人を殺していた可能性は多分にあるし、もしかしたらあの直後に死んでいた可能性はある。
 勿論殺したという感触はなかったがそれはあくまでもかがみの主観、見えていない所で何が起こったかなどかがみにわかるわけもない。
 セフィロスとアレックスにしても同じ事だ。目の前の女性の攻撃に巻き込まれて死んだ場合下手人は彼女という事になるがその切欠を作ったのは他でもないかがみだ。
 また、Lに奪われたデッキを後々回収出来た事実から考え、L自身カードデッキのモンスターに襲われ負傷しその傷が元で数時間後に死亡したという可能性があるだろう。
 元々かがみがデッキを持っていたという事実からこれもかがみの行動が影響したと言えなくもない。
 ミライについてもある程度ダメージを与えた以上、後々の影響は否定出来ない。
 スバル、ヴァッシュ、始に関しては彼女自身戦いをし向けていた為言うまでもない。
 以上の事から少々乱暴な理論ではあるが彼等が死亡したのはがみの行動による可能性があると言えるのだ。

「うう……」
「それにな、まさかこれだけやと思っているんか?」
「え?」
「当たり前やけどあんたが殺した奴等にも友達や家族、もしかしたら恋人がいたかもしれん。その死を知って殺し合いに乗った可能性だってある……」
 エリオ達の死を知り悲しみ嘆き怒り、それが元で修羅の道へ落ちた者が出てくる。そしてその者達は多くの参加者を殺していくだろう。
 では、その元凶は何処にあるのだろうか? 修羅の道へ落ちる切欠を作ったかがみでは無いだろうか?
「そ……そんなのその人が勝手にやっていることでしょ! そこまで私に言われたって……」
「ほーこの期に及んでまだ自分を正当化するか、まぁアンタの言う通りこれは半分は言いがかりに近いと思う。せやけど、自分の行動は何がなんでも正当化するのに、相手の行動は正当化させへんってちょっと我が儘が過ぎると思わへんか?
 大体、アンタがエリオやシグナム達を殺した以上、それが切欠でアンタを殺そうと考える事は流石に否定したらあかんやろ?
 アンタがつかさを殺されて浅倉に憎しみやら殺意やらを抱いているわけやしな」
「だって……」



「それにな……そのつかさが死んだのだってアンタのせいかも知れないんやで」
「は?」
 つかさが死んだ原因は自分? 何を言っているのだろうか? つかさは浅倉によって一方的に惨殺された筈だ、何処に自分の責任があるというのだ?
「そもそもの話、浅倉があんたを恨んであんたを苦しめる為にやった可能性だってあるやろ、あんたが私の目の前でシグナムを殺した様にな」
「ちょ……何を言っているのよ……浅倉が何で私を苦しめ……」
「確かその前にレストランで戦ったやろ、最初に仕掛けたのは誰や?」
「それは……」
 レストランでの戦いを思い出して欲しい。確かに浅倉は戦闘目的でレストランを燃やし参加者を呼び寄せ、それに惹かれ始とかがみがやって来た。
 しかし、あの戦いで最初に仕掛けたのは始でも浅倉でもなくかがみだ。始にはモンスターを、浅倉には機関銃による銃撃を仕掛けた。
 戦いの切欠など問題ではない、浅倉が最初に奇襲を仕掛けたかがみを強く意識したという可能性は多分にあるだろう。
 そして、つかさとかがみは双子であるが故非常に似ている。浅倉がかがみを意識しつかさに手を掛けたという説は大いにあり得る事だ。
「そんな……まさか……そんな事って……」
「曖昧な言い方はもう止めようか……ハッキリと言ってやる――



 ――アンタが自分の妹である柊つかさを殺した――」

438救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:38:40 ID:P7Ipieq60





「あああぁ……浅倉じゃなく……私が……つかさを……そんなことって……」
 今までのかがみであれば感情的でも何でも否定しただろう。しかし、ここまでの話や自身の行動を振り返れば振り返る程、それらが今の結果を引き起こした可能性を強めてしまう。
 故に最早かがみに女性の言葉を否定する事は出来ない。





「さてと……」
「……いっそ殺してよ……その刀でひと思いに……」
「何で私があんたの言葉に従わなあかん? そうやなぁ……あんた元の世界に家族や友達がいたよなぁ」
「!?」
 その言葉から彼女が何を考えているのか想像がついた。
「ままままままままさか……父さんや母さん達、それにみゆき達をををを……」
「アンタの目の前で1人1人……」
「そ、そんなどうし……いや……そんな事して許されると思っているの……? そんなの私と同じ只の『人殺し』じゃない!!」
「違うな、アンタはその罪から目を背け続けていたやろ。けど私は違う、私は自分の……いや家族の罪まで全部含めて背負う覚悟がある!」
 確かあの三文芝居を聞いた限り人殺しの罪を犯したシグナムを少女が受け入れていた様な会話だった。
 それから考えても目の前の彼女が家族の罪まで背負う覚悟を持っており、同時に自身もまた家族の為に罪を犯す覚悟が出来ている事は理解出来た。
「そ……そんな……」
「安らかな死など与えへん……私やシグナム達が受けた苦しみ、存分に受けてもらう……恨むのやったら自分の愚かな行動を恨むんやな……まずは下手に抵抗されへんようその両手両足を斬り落とそうか……
 まぁ、もしかしたらそれでショック死するかもしれへんけど……その時は私の読みが甘かったというだけの話や」

 そうして、女性は小刀を構えゆっくりとかがみに近付いていき、遂にその小刀を振り下ろした――





 どうしてこんな事になったのだろうか――





 そんな事は考えるまでもない、因果応報にして自業自得でしかない――





 だからこそ彼女の行いに関しては仕方の無い事かもしれない――





 それでも幾ら自分もやった事とは言え、自分の行動と関係の無い家族や友人達が殺されて良いわけがない――





 いや、それを望む事すらも今更自分勝手な理屈なのだろう――





 悪い夢ならば覚めて欲しい――





 だが――







 この夢はまだ終わらない――

439救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:39:24 ID:P7Ipieq60










Chapter.02 Heavenly Stars



「やっと……会えたね……」
『はい、マスター』



 高町なのははインテリジェントデバイスにして自身の相棒レイジングハートを手に感慨深い表情を浮かべていた。
 放送が終わり、かがみから事情を聞いた後すぐに動き出さなければならない。故に、放送前に改めて自身の手持ち道具を確かめていたのだ。
 ちなみにデイパックの中にあった仮面ライダーへの変身ツールであるデルタギアに関してはその手の道具に関しての知識が一番深い天道総司に渡しておいた。
 その最中デイパックを探って見つけたのが前述のレイジングハートである。デイパックの奥の奥に埋もれていたが為発見が遅れていたのだ。
 そしてデイパックの中にはヴィータのデバイスであるグラーフアイゼンも見つかった。
 一方、天道のデイパックの中にチンクが使う武器であるスティンガーを確認した。現状の手持ち道具はこれで以上である。

 今現在天道は見たところ放送を待ちながら身体を休めている模様。とはいえ、彼の表情を見る限り全く油断は見られない。不測の事態が起これば何時でも動けるだろう。
 そしてなのはの傍らではかがみが眠っている。なのはの治療魔法やデュエルモンスターズの魔法カードのお陰で死に至るダメージ自体は回復出来た。
 とはいえ未だ全快には至らず、仮に傷が治った所で腱を切断された手足の機能が回復するかどうかは不明瞭だ。

 その一方、なのはは手元にあるデバイス3機からこれまでの情報を整理する事にした。レイジングハートと話している内にデバイス達が何か記録しているのではと考えたのだ。
 思えばこの6時間は殆どアンジール・ヒューレーやキングに振り回され殆ど何も出来なかった。他所でも殺し合いが繰り広げられている事を踏まえればどんな小さな情報でも欲しい所だ。



 まず、ケリュケイオンから得られた情報だ。とはいえケリュケイオンは比較的早い段階でなのはと再会している関係もあり得られた情報は他2機より少ない。
 とはいえ、全くというわけではない。ケリュケイオンの支給先はどうやらキャロ・ル・ルシエの知り合いという事がわかった。その後、ある人物がその参加者『喋るトカゲ』を喰うために襲撃したらしい。
 しかし、その際に別の参加者が『喋るトカゲ』を助けたため事なきを得た。その後両名が自己紹介した事でアグモンとヒビノ・ミライという名前が判明した。
 ここまでの話からなのはは前述の人物が誰なのかを推察する事が出来た。
 武蔵坊弁慶は黄色の恐竜を喰おうと仕掛けた際に銀色の鬼によって妨害されたと語っていた。
 つまり、ケリュケイオンの支給先は『喋るトカゲ』ことアグモン、アグモンを襲った人物が弁慶、それを助けたのが銀色の鬼ことヒビノ・ミライという事だ。

 その後、アグモン達はキャロに似た声に惹かれ学校へ向かいクロノ・ハラオウンそしてヴィータと遭遇したらしい。しかしその時、凶悪な参加者が現れ戦闘になりその際にアグモンが殺害された事までは確認出来た。但し、残る参加者の生死は不明。
 そしてその学校になのは達が辿り着き以後はペンウッドの手を経由してなのはの手に渡ったという事だ。
 ちなみにケリュケイオンの記録にて殺害者が『インテグラルにくれてやれば、まあ、喜ぶか』と口にしていた事からその人物はアーカードだという事が推測出来た。
 そしてなのは達が既に得ていた情報から判断してアーカードによってクロノとアグモンが殺され、ヴィータとミライは離脱。アーカードは何故かクロノの遺体を持ってそのまま移動したという事が推測出来た。

440救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:43:35 ID:P7Ipieq60



 続いてグラーフアイゼンからの情報だ。グラーフアイゼンの支給先は危険人物である神父アレクサンド・アンデルセンだ。
 アンデルセンは最初クアットロを襲撃したがその時にアンジールによって阻止されたという話だった。
 但し、アンデルセン本人は完全な殺人鬼ではなくプレシア打倒を考えていたらしい。それ故にその後に出会ったヴァッシュと共闘する事にした模様。なお、このヴァッシュという人物は誰も死なせまいと行動をしていたらしい。
 ところがそこに再びアンジールと遭遇、殺し合いに乗ったアンジール、そのアンジール達を殺そうとするアンデルセンだったがヴァッシュのお陰で何とか誰も死なす事無くアンジールを無力化した。
 が、そこにアーカードの放送が鳴り響き、アンデルセンは2人を置いてその場所へ移動しアーカードとの激闘を繰り広げたものの巨大な光によって戦いは中断された。
 その後、アンデルセンはチンクを襲撃したがそこにまたしてもアンジールが助けに入り両名は激闘を繰り広げた。だが、そこに炎の巨人の劫火に灼かれアンデルセンは死亡、その後はアンジールに回収された。
 それ以降に関してはレイジングハートと重複するため、ここで話を区切りレイジングハートからの情報に移す。



 レイジングハートの支給先はクアットロ。当然危険人物だと分かり切っていた為全く反応はしなかった。
 前述の通りクアットロはアンデルセンの襲撃に遭いアンジールに救助されたがその際にレイジングハートはアンジールに渡された。そしてクアットロと共謀しシャマルを騙した後、アンジールは単独行動を取りアンデルセン及びヴァッシュと遭遇。
 その為、アーカードの放送までの行動については前述の通り。その後、ヴァッシュもその場を離れたらしくアンジールは1人置き去りにされた。
 そして放送でディエチの死を知ったアンジールは知り合いらしいセフィロスと八神はやてと遭遇。アンジールははやてを殺害したがその時にセフィロスが豹変したらしい。もっともセフィロスはこの場ではアンジールを殺そうとはしなかった模様。
 その後、チンクを助けるためにアンデルセンと交戦したが炎の巨人の劫火によりチンクとも離れ離れになったらしい。
 それから数時間彷徨い続け再びヴァッシュと再会。しかしその時のヴァッシュの様子は違っていて自身の強大な力を制御出来ず暴走状態になっていたらしい。
 だが、なんとかヴァッシュの腕を切り落とす事でそれを止めた。但し、放送で呼ばれていなかった事から生存している模様。
 そしてスーパーでなのは達と遭遇し、自身とグラーフアイゼンの入ったデイパックがようやくなのはの手に戻ったという事だ。



 3つのデバイスから得られた情報は相当なもの。しかし、その中身を吟味する事である程度見えてくる事がある。
 その中で現状一番重要なのがアンジールの情報だ。アンジールはクアットロ、チンク、ディエチの兄としてジェイル・スカリエッティの所にいたらしく、妹達を守る為に殺し合いに乗っていたとの事だ。
 しかし、その3人の妹は既に死亡済み。それによりアンジールは修羅の道に落ちたらしい。
 都合良くキングとアンジールが戦ってくれれば良いが過度な期待は出来ない。恐らく天道もその可能性は考えているだろう。両名が共闘する事になれば厄介なのは確実だ。
 そのアンジールと関わった人物で今現在も生存しており重要な人物がヴァッシュだ。彼の性格は善良らしいが暴走する危険な力を有しておりそれにより誰か殺害したらしい。今現在も生存しているものの正直読み切れない所だ。

441救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:44:10 ID:P7Ipieq60



 そんな中――



「あの銀色の鬼……ううん、ヒビノ・ミライ君だったかな……」
『彼がどうかしましたか?』
「アンジールを追った筈だったのに戻ってこなかった……」
 この時点ではまだ放送が流れていない為断定は出来ない。しかし、状況から考えてアンジールによって惨殺された可能性が高い。
「もしもあの時、ちゃんと彼と話を出来ていたら……」
『仕方ありませんよ、緊迫していた状況でしたから』
「違うの、もっと早くケリュケイオンから話を聞いていたら……」
 そもそもの話、なのはが銀色の鬼ことミライを警戒していたのは金居と弁慶から危険性を指摘されていたからだ。勿論それ自体は別段問題ではない。
 が、ケリュケイオンからの情報を統合すればそれが間違いなのはほぼ明白だ。それを把握していたならば遭遇時に別の対応が出来た可能性はある。
 つまり、ミライを死なせずに済んだ可能性もあったという事だ。
 緊迫していた状況だから仕方がない? 確かにそういう見方はある。だが今回に関しては果たしてそうだろうか?
 思い出して欲しい、ケリュケイオンがなのはの手に渡ったのは10数時間も前、ケリュケイオンから話を聞く機会は幾らでもあった筈だ。
 何も得られないと思った? それこそ馬鹿げている。学校での惨劇の場に居合わせた以上、それに関する情報を得られた可能性は高い。
 では何故それをしなかったのか?
 1つ目として前述の通りケリュケイオンは一度ペンウッドの手に渡ってからなのはに渡された。つまり数時間のタイムラグがあったが為に学校での惨劇の事が頭から抜け落ちたのだ。
 2つ目としてケリュケイオンを手にしてからはスペック確認を優先した為、それにより話を聞く事を怠ってしまったという事だ。それ以降は様々な事が起こり優先すべき事項が数々と出てきたために忘却の彼方に置かれてしまったということだ。



 脳裏に去来するのはジュエルシード集めをしていた時、ジュエルシードの暴走によって海鳴市に巨大な大樹が現れた時の事だ。
 実はなのははあの時、1人の少年がジュエルシードを持っていた事をある程度察知していた。にもかかわらずその時に特に言及しなかったが為に暴走を止められず大惨事を引き起こす結果を引き起こした。
 勿論、あの当時はまだ魔法と出会って間もなかったし、それに加え連日のジュエルシード回収で疲労していた事もあった為ある程度は仕方が無かったと言える。
 それでもその一件が自分なりの精一杯ではなく本当の全力でジュエルシード集めをする決意を固めさせた。無論、同じ事を引き起こさないためである。

 だが、果たして今それが出来ているだろうか? 本当の全力ではなく自分なりの精一杯レベルでは無かったのだろうか? 現状を見る限りあの時と比べて進歩したとは言い難い。
 『仕方が無い』の言葉で片付けて良いのは本当に全力を出した時だけだ。しかし、今回は違う。打てる手が十分にあった以上それを打たなかったのは怠慢以外の何物でもない。
 少々乱暴な言い方ではあるがミライを殺したのはなのは、そういう解釈だって出来るという事だ。



 そんな中、傍らで眠っているかがみを見る。かがみに関わる問題にしてもなのはが全く無関係というわけではない。
 エリオを殺した事で動揺しているかがみへの対応を誤ってしまい、自身に支給されていたデルタギアを奪われる結果を引き起こしている。
 状況から考えてシグナムを殺した事に関してはデルタギアの暴走によるものと考えて良い。
 それ以降に関しては現段階では情報不足だが2人殺したともなれば精神に負う傷は相当なものなのは確実だ。
 勿論、これらの事に関しても客観的に言えば『仕方がない』で片付ける事も出来る。 だが果たして本当にそうだろうか?
 もし、かがみへの対応を誤らなければ? もしデルタギアを奪われなければ? 恐らくシグナムがかがみによって殺される事は無かっただろうしその後もチンクを殺す事は無かっただろう。
 いや、それ以前に最初の銃声が聞こえる前に行動を始めていればエリオを死なせる結果すらも避ける事が出来た可能性もあっただろう。
 そう、かがみをここまで追いつめてしまい多くの参加者を死なせてしまった要因の1つはなのはの行動によるものだという事だ。

442救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:44:40 ID:P7Ipieq60





 なのはの脳裏にティアナ・ランスターとの模擬戦での一件が思い返される。
 それはなのはの教導を無視して危険な行動を取ったティアナを一撃で仕留めた後、無抵抗状態になった彼女にもう一撃加えた時の一件だ。
 この時のなのはの行動には明確な理由があったわけだがそれに関してはこの場では一切考慮しない。
 そもそも、ティアナがそこまでの行動に至った動機を考えてみて欲しい。ティアナは兄の無念を晴らそうと強くなろうとしていた。
 しかし周囲には才能に溢れた者が多すぎた。それ故にティアナは焦りホテル・アグスタでは誤射するという事態を起こしたのだ。
 その失敗を取り返すために無茶な特訓を続け模擬戦での暴走に至ったというわけだ。

 おわかりだろうか? なのは自身がもっと早くティアナの暴走を諫めきちんとした対話を行っていれば模擬戦での暴走は起こらなかっただろう。
 更に言えばその後の対応に関しても正しい対応が出来ていたとは正直言いがたい。結果だけを見れば場は収まったわけだがそれはシャリオ・フィニーノ達が上手く立ち回ってくれたからに過ぎない。
 しかし考えてもみて欲しい、それは本来ならばなのは自身が行わなければならなかったのではないか?
 更に言えば、今回の対応が本当に最善だったのか? もう少し上手いやり方があったのではないだろうか?
 あの時はガジェットの反応があったからそれを優先しなければならなかったのでは? 確かにそういう見方は出来る。
 だが実際はそうではない。なのはは頭を冷やす必要性があると対話を翌日にしようとしていた。つまり、対話する気ならばもっと早く出来たという事だ。
 それ以前に最終的に事が綺麗に纏まったのはある意味では幸運だったからでは無いだろうか? 場合によっては上手くいかず拗れた可能性だってあっただろう。

 つまり――この一件が取り返しのつかない結果を引き起こしていた可能性だってあるという事だ。それこそ生死に関わりかねない程の――





 そして、それと似た事をかがみを通じて繰り返してしまったという事だ。
 エリオを殺した事でどれだけ精神的な負担がかかったのだろうかをちゃんと考えただろうか?
 いや、結論から言えば考えていなかったと言わざるを得ない。あの場に遺体が無かった事からなのはは最初かがみがエリオを殺した事を信じなかった。故にそれは無いと頭から決めつけてしまったのだ。
 そして放送でエリオが死亡した事が伝えられてもかがみが殺したという事に関しては深く考えていなかっただろう。その事を理解出来たのはモンスターとの大軍との戦闘を経た2度目の放送後の情報交換時だ。
 結局の所、なのははかがみをデルタギアで暴走した不幸な少女としか見ていなかったという事だ。こんな甘い見通しで正しい対話など出来るわけがないだろう。
 勿論、どういう風に対応すれば良かったかは今となっては誰にもわからない。しかし、その対応の甘さはまさしくティアナの一件と重なると言える。
 しかもあの時とは違い今度はかがみを暴走させ何人もの死者を出してしまい取り返しの付かない事態を引き起こしてしまった。
 勿論、暴走し何人も殺したかがみに責任があるのは言うまでもない。しかし何度も書く様に対応を誤ったなのは自身にも責任はあるだろう。



 どちらにしても、かがみが目を覚ましたら今度こそちゃんと彼女と向き合わなければならないだろう。自分なりの精一杯ではなく、本当の全力で――

443救済N/EGO〜eyes glazing over ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:45:15 ID:P7Ipieq60





 そんな中、天道の方に視線を向ける。自分とデバイスの情報交換の方は聞こえていたと思うが特に何か言うわけでもなく沈黙を保っている。一体彼は何を考えているだろうか?
 思えば何度と無く彼には助けられ続けた。商店街での乱戦や先のアンジール戦、そしてかがみの治療、何れも彼の存在無くしては最悪な事態を迎えていただろう。
 更に言えばヴィヴィオの話を聞いて此方の心中を察しヴィヴィオ救出を優先してくれてもいる。
 その一方で自分は何をしていたのだろうか? 乱戦時にはフリードリヒを暴走させ、戦いは殆ど天道任せ、更に言えばフリードをキングに奪われ人質にされてしまう体たらく。せいぜい治療やサポートしか出来ていなかっただろう。
 管理局のエース・オブ・エースと呼ばれておきながらあまりにもお粗末と言わざるを得ない。所詮はまだ19歳の小娘でしかなかったという事だ。
 レイジングハートが無かったから本来の力が出せなかった? そんなのは言い訳にもならない。天道はカブトのベルトが無くても十分に戦っていたし、かがみを助けた時に関してはカブトの有無は関係ない。
 断言しても良い。天道は自分達よりもずっとずっと強いと――彼の行動はそれを体現している。

 だが何時までも彼に頼り続けてはいけない。そもそもこの殺し合いの参加者は自分達の関係者が中心だ。
 主催者が自分達と関係の深いプレシア・テスタロッサである事を踏まえてもこの件は自分達の手で片を着けなければならないだろう。

 正直な所、自分の無力さに心が折れないと言えば嘘になる。想いや願いとは裏腹に殺戮が繰り返される現実に目を背けたくなる。
 しかし自分が膝を付くわけにはいかない。今もスバルやユーノ・スクライア達は現実に負けることなく戦っているだろうし、ヴィヴィオもきっと助けを求めている筈なのだ。
 そんな状況で自分が諦めてどうするというのだ? 信頼出来る仲間もいる、相棒もこの手に戻ってきた。自分達の本当の全力を出し切れば乗り越えられない困難などこの世の何処にもないだろう。

 ふと空を見上げれば綺麗な星々が輝いている。同じ星空の下でスバルやユーノ達も戦っている事だろう。そう考えれば自分はまだ戦える。



 決して折れる事の無い、不屈の心を持って――








「高町」
 そんな中、今まで沈黙を保っていた天道が声を掛けてきた。彼が次に口にした言葉は――



「状況が変わった、俺は今から西へ向かう」

444救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:46:55 ID:P7Ipieq60
Chapter.04 Destiny's Play



「……別の人に変身する魔法はありますし、スカリエッティの戦闘機人の中にも変身能力を持っていた人がいました」
「……わかった」

 かがみが意識を取り戻した時、真っ先に聞こえてきたのはそんな会話だった。

「あ……あれ……私……? それにここは……?」
 周囲を見回すとそこは森の中。
「あ、気が付いた? 天道さん、かがみが目を覚ましました」
 と、なのはと天道は足を止めた。今現在かがみはなのはの背に背負われている状態だ。
「……あれ……それじゃあさっきまでのは……?」
 状況を把握し切れていないかがみを余所になのはは彼女を降ろす。一方で天道は周囲の警戒を行っている。
「う……痛……」
 と、地面に降ろされたものの両手足に激痛が奔り上手く立つことが出来ず腰を下ろした。
「大丈夫? このカードを使えば……」
 と、なのははかがみにデュエルディスクの使い方を説明し、かがみは手際よくセットされているカードを発動した。それにより大分痛みが和らいだ。もっとも手足の違和感まではまだ完全には治らないが。
「あの……なのは……」
「ねぇ、今までに何が起こったか覚えている?」
「うん……あの関西弁のあの子に斬られた後……なのは達が……そうだ、こなた達は!?」
「大丈夫、今さっき放送があったけどこなたの名前は呼ばれなかったよ」
「お願い急いで! 早くしないとこなたがあの子に……!」
 かがみの言い分では急がないとはやてにこなたが殺されるらしい。それが確かならば急がなければならないが、
「落ち着いて、今までに何があったのかもう一度話してくれる? 私と別れた後、一体何があったのかを……」
「それは……」
「あの時も言ったけど、辛い事は今度こそ私が受け止めるから……」
 それはこの場で最初に出会った時と同じ真剣な眼差しだった。
「うん……あの後……」

445救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:47:40 ID:P7Ipieq60

 そしてかがみはあの後に起こった事について語り始めた。ベルトの力に呑まれ暴走しなのは達と別れた後、銀髪の男性とシグナム、他1人の男性が戦っている現場に出くわし彼等に戦いを仕掛けた。
 その後、かがみ自身はあっさり倒されたものの気が付くと銀髪男性、シグナム、そして関西弁の少女が和解する会話が聞こえた。どうやらシグナムと関西弁の少女は家族だったらしい。
「はやてちゃんだ……」
「でもそれを私は……」
 が、それに苛ついたかがみは攻撃を仕掛けシグナムを惨殺、そしてはやてが手にした小刀の力によりかがみは再び倒されたのだ。

 意識を取り戻した時にようやくベルトの力が切れ正気に戻っていたもののその時Lに拘束されており、ベルトもデッキもLに奪われていた。その後Lの所から何とか逃げ出したもののモンスターに追いかけ回されたことを語った。
 そして何とか万丈目と遭遇したが彼の持っていた千年リングに宿るバクラによると彼は眼帯の少女を襲った危険人物と語っていた為、彼の持っていたデッキのモンスターの餌にしようかと目論んだが逆にデッキを押しつけられ逃げられた。
 これまでに多くの人々に痛い目に遭わされ決定的な裏切りを受けた事で皆殺しにする事を決めたと語った。
 その後、参加者の1人に襲いかかったがそこでタイムリミットを迎え餌にされそうになったものの銀色の巨人メビウスによってモンスターが倒された事で何とか助かったのだ。
 メビウスから逃げ出した後、Lに奪われていたデイパックを運良く回収出来デッキもかがみの手に戻った。かがみは生き残るため参加者を皆殺しにしようとバクラの助言に従いつつエリアの端を超えてホテルに向かった。
 その後ホテルからデュエルアカデミアに向かいスバル達と遭遇・襲撃しその際に眼帯の少女をモンスターに喰わせ殺した。
 スバルに逃げられた後、煙の立ち上ったレストランに向かいそこで漆黒の鎧姿と緑の怪物の2つの変身体を持つ男性と浅倉と戦ったものの惨敗し浅倉にデッキを奪われた。
 なんとかあの場で別の変身ベルトを手に入れ助かったが、ホテルに戻った後いきなり奇妙な場所に引き込まれた。
「かがみもあそこに……」
 そこで浅倉によってつかさを目の前で惨殺されかがいは自暴自棄になり戦った。その後気が付いたら再びホテルに戻りヴァッシュと遭遇。
 かがみはヴァッシュを利用しようと思い、後からやって来たスバルと戦わせた。そして自分と緑の怪物に変身する男の計4人を交えての乱戦になり敗れ、
「気が付いたら目の前にあの時の女の子がいた……それで……刀を突き付けられて……」
 洗いざらい喋らされ、お前がシグナム達をを殺したんだと両手足を斬られ更に腹を刺されたと語った。

 ちなみに今回なのはに語った内容はかがみの主観によるものではあるが、かがみ自身による一方的な決めつけによる要素は少なくなっており、自分から襲った部分に関しても概ね事実を述べている。
「そこに私達が現れたと……」
 正直な所、同じ24時間でここまで悲惨な経験をしているとは予想外だった。遠くから周囲の警戒をしながらかがみの話を聞いていた天道の表情も真剣そのものだ。
 一方のなのはもかがみの話には色々と思う事はある。
 正直な所謝罪されても許されない部分は多分にある。幾ら状況がそうさせたといっても不可抗力と言って良いのはメビウスを襲った所までだ。
 それ以降――チンクを殺しスバル達を襲った辺りからはそういった言い訳は通用しない。バクラの存在があったとしても最終的に行動を起こしたのはかがみである以上、当然彼女にも責任はある。

446救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:48:15 ID:P7Ipieq60

「……幾つか確認して良いかな? スバルはかがみをどうしようとしていた? スバルは一方的にかがみを襲ったの?」
「それは……」
 かがみはスバルの言葉を思い出す。
『こなたは言ってました……貴方は怒りっぽいけど、根は優しい人だって……だから……』
『……こなただって、諦めずに戦ってるんだよ……それなのに』
『それでも、こなたがかがみさんの友達だって事に変わりはないでしょう!?
 自分の世界の、自分の知る相手でなくとも、変わらず接してくれた人を、私は知ってる!』
 何度と無く殺そうとした自分に対しずっと説得を続けて来た。あの時は口喧しい言葉だと思っていたが彼女はずっと自分とこなたを再会させようとしていたのは理解出来る。それを自分は……
「違う……スバルはずっと私を説得してこなたと私を再会させようとしてくれた……」
「そっか……」
 実の所、なのはははやてやフェイトが危険人物になっているという話を聞いて不安な気持ちで一杯だった。
 普通は有り得ないと斬って捨てる事だがこの状況どうなっているかは未知数、更に言えばはやてががかみを拷問する事実が余計に不安にさせた。
 もしかしたらスバルやユーノも危険人物になっているのではないかと……本人が聞いたら怒りそうな事を内心で考えたのだ。
 だが、かがみの言葉が確かならばスバルはずっと諦めずに戦い続けていたという事になる。ならば彼女の憧れの対象である自分もそれに応えなければならないだろう。

「もう一つ聞かせて……かがみははやてちゃん……その関西弁の女の子に何か言わなかった?」
 はやてがかがみを拷問した事は恐らく紛れもない事実だろう。シグナムの家族でなおかつ関西弁を話し自分の事を『なのはちゃん』と呼ぶ者など彼女しかいない。
 しかし、幾らシグナムを殺したとはいえヴィータならばともかくあのはやてが復讐のために一方的に拷問するとは思えなかった。
 勿論これは自分の色眼鏡も多分にあるのは承知している。それでもここまでの凶行に至ったのは他に決め手がある様に思えた。
「……そういえば自分の行動を悪いと思っているのか聞いてきたけど……でも私は……自分は悪くなくてスバル達が悪いって……」
 そう答えるまでは本心はどうあれ脅し程度にしか小刀を使わなかったが、以降は憎悪を隠すことなく怒りをぶつけてきた。
「はやてちゃん……」
 はやての行動はやり過ぎ、それは変わらないもののそういう受け答えをされれば彼女が怒るのもある意味仕方がない。何しろ、自分自身そうやって返されて憤りを感じないわけがないのだ。
 しかし、やはり友人だからこそはやての行動には何処か腑に落ちない点がある。
 本当に復讐ならばいっそひと思いに殺せば良いのに何故死にかけの状態で放置したのだろうか? それ以前に復讐が目的だったのだろうか?
 だが、かがみからの証言ではこれ以上はわからない。こればかりははやて側の言い分も聞かなければわからないだろう。

「最後にもう1つだけ質問させて……はやてちゃんに聞かれた質問、あの時はそう答えたんだろうけど……今ではどう思っているの?」
「……」
 暫しの沈黙……かがみの脳裏にはこれまでの出来事が浮かび上がる。流石に浅倉や万丈目の事等に関しては素直に認められないものの、シグナム達3人を殺した事やスバル達に仕掛けた事に関してはそうではない。
「私が……悪かった……と思う」
「じゃあ、かがみはこれからどうしたい?」
「……あの子……はやてって人や、エリオ達の友達、それにスバル達に謝りたい……今更許して貰えるなんて思えないけど……それから、こなたにも……」
 その言葉通り、再び出会った所で復讐されるだけかもしれない。それでもそれがかがみの心からの答えだ。それを聞いたなのはは、
「わかった。大丈夫だよ、例えはやてちゃんがかがみを殺そうとしても私はかがみの味方、絶対に守ってみせるから」
 笑顔でそう答えた。はやての真意が何であったとしても、かがみがシグナム達を殺すという許されざる罪を犯したとしても、その為に彼女が殺されるなんて誰が何と言おうとも、それが当事者のはやてであっても認めることは出来ない。
 勿論、なのは自身かがみの罪を許す事は出来ない。それでもかがみがその罪と向き合い生きていこうとするならばそれを支えていきたいと思う。
 ――それが彼女をここまで追いつめる切欠を作ってしまった自分に出来る事なのだから。

447救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:48:50 ID:P7Ipieq60




 どれぐらい時間が経過しただろうか? まだ放送から20分も経過していないぐらいだろう。かがみの証言等から考えてはやて達の集合場所は恐らくスカリエッティのアジトと言った所だ。
 早急にそこに向かいはやて達と合流しその後ヴィヴィオを助ける為にゆりかごへ向かわなければならない。

 しかし状況は芳しくない。生き残っている参加者は残り12人。なのは、天道、かがみを除けば残り9人、

 この場においても無力な参加者を守りこの殺し合いを打破するために戦っているスバル、
 なのは自身が魔法と出会う切欠を与えたユーノ、
 聖王となって暴れてはいるが何とかして助け出したいヴィヴィオ、
 友人ではあるがかがみに対する凶行の真意が気になるはやて
 善良な性格らしいが暴走する力が気に掛かるヴァッシュ、
 かがみの友人でスバルがずっと保護していたらしいこなた、
 別れた後の動向がずっと不明瞭で信用しがたい金居、
 自分達を掻き回し殺し合わせ様とするキング、
 妹達を殺され修羅の道に落ちたアンジール、

 それ以外の者は皆死亡した。それについて思う所はあるが今はそれについて想いを馳せる余裕はない。
 9人の内味方及び保護すべき対象と言えるのはスバル、ユーノ、こなたの3人、
 危険人物ではあるが何とか助け出したいのがヴィヴィオ、
 一応味方といえるが完全に信用出来ないのがはやて、ヴァッシュ、金居の3人、
 出来うる事ならば説得したいが厳しいと思われるアンジール、
 そして最悪の敵とも言うべきキング。

 この中で現状明確な危険人物はヴィヴィオ、アンジール、キングの3人。なのはとしては当然ヴィヴィオは助けるつもりであったし前述の通りアンジールも出来れば説得したい。
 しかしキングだけは確実に打倒しなければならない存在と言えるだろう。殺さなければならない相手と言って良い。
 殺しをする事に抵抗が無いといえば嘘になるしそれが受け入れがたい事に変わりはない。それでもキングの為に何人もの参加者が死に更に殺し合いを煽ろうとしている以上殺すという選択もやむを得ないだろう。

448救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:49:25 ID:P7Ipieq60

 一方で金居に関しても気になる所がある。金居の言動を思い返した所、銀色の鬼やペンウッドを疑ってかかっていた。
 憤りは感じるもののそう思う事自体は問題ではない。しかし情報を纏めた所銀色の鬼ことミライやペンウッドが悪人という事はなかった。
 勿論、金居が知り得ない事であり警戒心が強かったからと片付けられないこともない。しかしどうにも学校でのやりとりは完全に金居が主導権を握っていた事から踏まえても何かが引っかかるのだ。
 そう、まるで金居が自分達の間に不和を起こして分裂させる事を狙うかの様に……勿論これだけならば趣味の悪い妄想だろう。
 だが、ある一件が気になるのだ。かがみから聞いた所デッキには説明書が付属していたらしい。しかしなのは達もデッキを手にしてはいたが説明書は存在しなかった。
 C.C.が持っていたデッキの説明書はフリードリヒによって使用不能になったとして、自分達が学校で手に入れたデッキの説明書は何処に行ったのだろうか?
 デイパックはそのまま残っていたから中に残っているのが自然だ。だとすれば――誰かがなんらかの理由で処分したという可能性がある。
 状況から考えて学校でデッキを使っていた人物はクロノと考えて良い。しかしあのクロノが説明書を処分するとは思えない。では処分した人物は誰なのか?
 説明書を処分しなければどうなるのであろうか? 説明書にはモンスターに生きた参加者を喰わせなければ所有者が喰われるとあったらしい。それがあったからこそ万丈目はかがみにデッキを押しつけたのだろう。
 それを知らずに平然と持っていれば持ち主がモンスターに喰われるだけという事だ。
 なのはとペンウッドはそれを知らずにデッキを持っていた。放置すれば自分達が餌になるのは言うまでもない。つまり、説明書を処分した人物は2人を死なせる事を狙っていたという事だ。
 そしてその容疑者はあの場で別行動をした弁慶と金居のどちらかに絞られ、言動などから考慮して金居がそれを行った可能性が高い。
 金居は表向き自分達に協力してくれていた。しかし、味方の中に入り込んで内部から潰すという手法は存在する。
 金居は本当は優勝を狙っていたのではなかろうか? いや、出会った当初はともかく放送を聞いたことで優勝狙いに切り替えた可能性もあるだろう。こちらが動揺している間に色々仕掛けていたということだ。
 以上の事は推測レベルの話、確たる証拠があるわけではない。勿論、出来うる事ならば信じたい所だ。しかし思考停止し無条件に信用して取り返しの付かない事になるのだけは避けなければならない。
 何にせよ、金居をこのまま味方として信用する事は避けるべきだ。もしかしたらアンジール、はやて、ヴァッシュ以上に危険な存在かも知れない。





「天道さん……」
 移動を再開するため近くで周囲を警戒していた天道に声を掛け、
「話は聞いていた。それより、動けるのか?」
「私なら大丈夫だから……お願い、こなたを……」
 かがみ自身生きていたいと思っても今更許されるとは考えていない。再びはやてと再会した所で殺されても文句は言えないだろう。
 だが、自分の行動が原因でこなたが殺される事は望まない。せめてこなただけは助けて欲しい、それがかがみの本心である。
 なのははそんなかがみの言葉を聞いてかがみ自身本当は優しい子だと感じだ。だからこそこなたは勿論のことかがみも助けようと思う。例えはやてと対立する事になってもそこを譲るつもりはない。
「わかったよ……でも、こなたはかがみが死ぬことを望んだりしないよね? だから……」
「うん……私も諦めない……」
 とはいえまだ完全回復には至っておらず、それ故なのはに背負われている状態だ。それでも、彼女の言葉からは確かなる意志が現れていた。

449救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:49:55 ID:P7Ipieq60



 そしてここ暫くの間殆ど沈黙を保っていた天道も只沈黙をしていたわけではない。
 そもそも当初の予定では放送を聞いた後、かがみの意識が戻り彼女から事情を聞いてから移動を始めるつもりだった。しかし実際はかがみ覚醒時にはすでに移動途中だった。
 天道が移動を前倒しした切欠は漠然としていれば見落としかねないある事が起こったから。それは0時丁度になっても放送が始まらなかった事だ。
 天道自身最初の放送は聞き逃していたが2度目と3度目の放送は共に12時、18時丁度に行われた。にも関わらず今回は0時丁度から2、3分過ぎても放送が始まらなかった。
 何故これまでは定時に行われた放送が今回に限って行われなかったのか? 定時に放送を行えない事情があったのではないのか? つまり、主催側でこのデスゲームに関わる重要な事が起こった可能性だ。
 となればこのまま只時間を潰すのは得策ではない。状況が大きく動いたのならば急がなければならない。最悪殺し合いをやっている事態では無くなっている可能性もあるのだから。
 故に移動を前倒しする旨を話しなのはもそれに賛同し移動を始めたのだ。動くとなればその足は速く早々に西端を越えて仮説通り東端の森に到達した。
 そのタイミング、定時より10分遅れて4度目の放送が流れた。放送自体はプレシアが行っておりその内容に特別な情報は何も無かった。
 いや、『特別な情報は何も無かった』事こそが異常であった。
 定時より10分遅れての放送にも拘わらず仮眠を取ったから自分が行うという話だけで遅れについては何も言及していない。これまで厳密に行ってきた割にあまりにずさんではなかろうか? 遅れるにしても一言程度でも言及する方が自然だ。
 そもそも本人が定時に行えない事情があるならば前回の放送同様、オットー辺りに放送を任せれば済む話だ。本人が出て直接何かしたわけではないのだからそれで十分事足りる。
 では、なぜ10分遅れてでもプレシア自身で放送を行わなければならなかったのか? 少なくても前述の通りプレシアが行う必然性はない。
 が、ここで見方を変えてみよう。放送を行う人物は『プレシアでなければならなかった』と考えればどうだろうか?
 主催がプレシアである以上、プレシア以外が行ってもプレシアは健在だとだれもが考える。しかし、今回に限ってはプレシアの存在を無理にアピールしているかの様に思える。

 そう、まるで『放送を行っているのはプレシアです。何も問題はありません』と無理に見せているかの様な――それが意味することは1つ、『放送を行ったのはプレシアの姿を借りた誰か』という事だ。
 つまり、何者かがプレシアの姿を借りて放送を行ったという事だ。そうまでしてプレシアが健在であるかの様に見せるという事は――

 主催側で何かが起こり、プレシアが主催の座から転落した――

 天道がその仮説に至れたのは彼の世界にいるワームの存在があったからだ。ワームは人間に擬態する能力を持っておりその際に記憶や人格をも引き継ぐ――そう、肉親が実はワームだったという話もあり得るという事だ。
 つまり、放送を行った者はプレシアに擬態したワームという可能性もあるという事だ。
 もっとも、天道の世界の常識だけで物事を計ってはならない。天道はなのはに全くの別人に偽装する能力や魔法が存在するかどうかの確認を行った。
 なのは自身も放送の異常は感じており、天道の問いかけで彼女も同様の仮説に至る事が出来、天道に変身魔法の存在及び、スカリエッティの戦闘機人の中に変身能力を持つドゥーエがいる事を話した。
 これにより、主催側の異変・プレシアの転落の可能性が非情に強まった事になる。となると、最早このデスゲームは瓦解寸前、脱出のため行動を急がなければならないだろう。

 勿論、これらの事は完全に断定出来たわけではない。単純にプレシアが此方を攪乱するために10分遅らせただけという事もあり得る為、罠の可能性も考慮に入れなければならない。
 しかし、どちらにしても早々に動かなければならないだろう。放送の真相が何であれ、参加者の中にはこの異常に気付き行動を起こす者が出てくるからだ。



 天道は多くを語らない。それ故に放送やかがみの証言等から何を考え最終的にどうするつもりかまではなのは達の視点からはわからない。
 だが、その瞳にはこのデスゲームを打倒し参加者達を救うという強い意志が宿っている――

450救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:52:00 ID:P7Ipieq60





 残り人数は12人、10分もの謎の放送遅れ、それらから鑑みてこのデスゲームは終盤に入ったと考えて良いだろう。

 終焉を告げる歌は静かに奏でられ始めた――
 そして、異なる運命を持った役者達はある一点へと集おうとしていた――





 運命が繋がる――





【2日目 深夜】
【現在地 D-9 森林】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物(上着無し)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.アジトに向かい仲間達と合流する。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.はやてからかがみを守る。
 4.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 5.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】両手首の腱及び両アキレス腱切断(回復中)、腹部に深い刺し傷(回復中)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、はやて(StS)に対する恐怖、なのは(StS)に背負われている
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
 基本:出来るなら、生きて行きたい。
 1.アジトに向かい、はやてやスバル達に謝りたい。
 2.こなたを守る。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギア一式・デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アジトに向かう。
 2.なのはと共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 3.キング及びアンジールは倒さなければならない敵。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

451救済N/Destiny's Play ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 17:56:35 ID:P7Ipieq60










Chapter.03 REBIRTH 〜女神転生〜




 何時まで経っても腕にも足にも激痛は奔らない。手足の感覚までおかしくなったのだろうか? それとも……


「何のつもりや?」
 振り下ろされた筈の小刀はある者の右手の指だけで止められていてそこからは僅かに血も流れている。
「おかしいなぁ……はやてちゃんどうしちゃったのかな……」
 その凶刃を止めたのはなのはだ。
「え……なのは……?」
「はっ、何もおかしな事なんてあらへん。私は目の前でシグナム達を殺した阿呆餓鬼に同じ事をしているだけや」
「少し頭冷やして……そんな事、シグナムやエリオが望んでいると思う? 誰も望まないよ」
「望むか望まないかは問題やない。コイツは私ら家族の絆を踏みにじり沢山の人を殺しておきながら自分は悪くない悪いのは私らって言い切ったんや。そんな奴を許せる道理なんかあるかい」
「それは……」
「そもそも、コイツは妹が殺された復讐を正当化しているんや。私がやろうとしていることも正当化されて然るべきやと思わへん?」
 かがみがつかさを殺した浅倉を許せず殺そうと考えた以上、はやてがシグナムを殺したかがみを許せず復讐しようとする事を一方的に否定される道理はない。
「なのはちゃんにしてもエリオ達を殺されているわけやろ。まさかとは思うけど、エリオ達は死んで良くてそれを殺したかがみは死んじゃダメなんてアホな事言うつもりやないよな?」
「エリオ達が死んで良いなんて誰も思わないよ。でも今も生きているかがみを死なせてもダメだよ」
「寝言は寝て言えや。コイツが今まで何をしてきたか理解して言っているんか? コイツは自分の悪行を正当化し悪いことは全部他人のせいにして、スバル達を騙し殺し合わせたんや。
 シグナム達が死んでいるのにコイツが生きているのは理不尽にも程があると思わへんか?」
「私だって許せるわけないよ! だけど……死んだ方が良いなんて事も絶対にない!」
「そうは言うがなのはちゃん、あんたも助けようとしたけど裏切られたんやろ? スバルやエリオも助けようとして裏切られた……コイツはそんななのはちゃん達の善意をまた裏切るで」
 そう……なのはに裏切られたと言っても冷静に考えてみればそれは誤解によるものに過ぎない。エリオとスバルはそもそも助けようとしていて裏切ってなどいない。
 他の人に関しても裏切られていたと思っているのは自分だけで、本当は助けようとしていたのかも知れない。にもかかわらず自分はそれを歪曲して受け取りその想いを裏切り踏みにじってきたのだ……
 バクラに誘導された? いや、そんな言い訳は通用しない。確かにそうし向けていた所はあったのかも知れないが最終的にその選択をしたのは自分だ。そう、悪いのは自分なのだ。
「言っておくが、コイツは自分の都合の良い風にしか物事を考えへん。今ここでなのはちゃんが助けようとしても、裏切るって思って信じたりなんかせん。そんな奴をこのまま生かしておいても良いと言うんか?」
 そう、なのはが自分を助けようとしていても心の底から信じる事は出来ないでいる。
「それでも私は裏切らないよ! それにかがみにだって元の世界に友達や家族だっている。その人達はかがみの事を信じて待っているんだよ!
 それにかがみは本当は優しい子だよ! 家族や友達が死んで怒れるって事がその証拠じゃない!
 だから今からでもやり直せる、今からでも死んだ人達の事を忘れずに殺した罪を背負って生きていく事だって出来るよ! はやてちゃん達だってそうだったんだから……」





 こんな自分を信じてくれる……まだやり直せると言ってくれる……なのはは本当に私を助けたいと思ってくれていた……
 なのはだって本当はエリオ達を殺された事は許せない筈なのに……それでも私を助けたいと……
 正直な所、あまりに虫の良い話だと思うし今更皆に会わせる顔なんて無いと思う。
 それでも、やり直せるならばやり直したい。今度こそきちんと罪と向き合って――
 だって、こんなにも自分を信じて助けようとしている人がいるんだから――





 長い夢が終わる――





 彼女が目覚めた後どのような選択を取るのか――
 その選択の末にどのような結末を迎えるのか――
 それは今はわからない――





 それでも――





 呪われた運命を変える力は誰もが持っている――
 今からでも生まれ変わる事は可能――





 そう信じている――

452 ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 18:03:00 ID:ixD5vNwI0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>434-443(Chapter.01&02)が前編『救済N/EGO〜eyes glazing over』(約27KB)で、
>>444-451(Chapter.04&03(前後しているのは投下間違いではなく作劇の都合))が後編『救済N/Destiny's Play』(約23KB)です。

サブタイトルはまたしても『仮面ライダーW』風です……ロワ終了までに26個コンプ出来るのか?
『救済N』に関しては『なのは(Nanoha)が救済』&『悪夢(Nightmare)からの救済』という意味で、
前編及びChapter.01の『EGO〜eyes glazing over』は『仮面ライダー555』の挿入歌で、
後編及びChapter.04の『Destiny's Play』は『仮面ライダーキバ』の挿入歌です。
何れの曲名も何れサブタイトルに使いたかったのでこのタイミングで一気に使いました。

なお余談ですがChapter.02及びChapter.03のタイトルになった『Heavenly Stars』及び『REBIRTH 〜女神転生〜』は共になのはの中の人田村ゆかりの楽曲から取りました。

本当は何からきすた関係の楽曲で使えるのあれば良かったのに……都合の良い曲ねぇんだよぉぉぉ!!

453 ◆7pf62HiyTE:2010/10/25(月) 20:29:50 ID:ixD5vNwI0
……見直したら状態表にチームスターズ部分が抜けていたため、天道の状態表の後に以下の部分追加します。


【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト)、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、(ヴィータ)、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)、こなた、かがみ、(つかさ)、(ミライ)、ヴァッシュ
 敵対的:(アーカード)、(アンデルセン)、(浅倉)、(相川始)、(エネル)、キング、アンジール
 要注意:(クアットロ)、はやて、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、(ギルモン・アグモン)

454リリカル名無しA's:2010/10/25(月) 23:05:15 ID:R.za.LcA0
投下乙です
夢の中のはやてテラヤバスw
はやてもかがみもある意味では被害者であり加害者なんだな
誰が悪いでもなし、しいて言うならロワに巻き込まれたのが運のつきか
それにしてもなのはは気負いすぎな気もするが、そう思うのも仕方ないか
でもぶっちゃけケリュケイオンから情報を聞き出すとかこの話見るまで全く思いつかなかった、なぜだ?

455リリカル名無しA's:2010/10/26(火) 17:58:48 ID:EsQ0DKkM0
投下乙です。
夢とは言え相変わらずはやては黒いなぁ
そしてかがみ達と情報交換、主催側の異変にも気付いたか
一方で着々とアジトに集いつつある仲間達……
どんな形で一同が合流するのか楽しみだなぁ

456リリカル名無しA's:2010/10/27(水) 16:08:43 ID:5QzPlzWU0
>>447で『かがみの証言等から考えてはやて達の集合場所は恐らくスカリエッティのアジトと言った所だ。』ってありますけど、
「Yな戦慄/八神家の娘」だとはやてはかがみにスーパーに向かっていると言っているのですが、それ以外に何かアジトと断定する判断材料があったのでしょうか?

457 ◆7pf62HiyTE:2010/10/27(水) 17:20:10 ID:gM9hWAS20
>>456
>>447にもある通り『かがみの証言等』とあるのでかがみの証言だけではなく置かれていた状況を踏まえてからの判断です。
かがみの証言からホテルから北上した事は確実。更に『Mの姿/マイナスからのリスタート』で既に天道が『ループを使い東側に逃げた』推測が成されています。
その為、ホテルより北に移動して(D-1の隣にある)D-9の近くで集合場所に使える場所はアジトという判断です。(なお、スーパーに向かったという証言は自分達のいた場所が激戦区であるスーパーなので犯人の偽装だと判断。)

ただ、指摘を踏まえると少々言葉足らずであったのは否めないため該当分を修正します。これならば問題は無くなったと思いますがどうでしょうか?


 どれぐらい時間が経過しただろうか? まだ放送から20分も経過していないぐらいだろう。かがみの証言等から考えてはやて達の集合場所は恐らくスカリエッティのアジトと言った所だ。


 この部分を以下の通りに修正、


 どれぐらい時間が経過しただろうか? まだ放送から20分も経過していないぐらいだろう。
 かがみの証言から考えはやて達がF-9にあるホテルから北上したのは確か。そして会場のループを使いかがみをD-1に置き去りにした事を踏まえはやて達の集合場所はループ地点であるD-9に近いC-9のスカリエッティのアジトと言った所だろう。
 なお、スーパーに向かったという話だが先程まで自分達が戦っていた危険な場所なのでその部分ははやてがすぐにアジトに向かわせるのを避ける為の偽装だろう。

458 ◆7pf62HiyTE:2010/10/27(水) 18:04:45 ID:gM9hWAS20
重ね重ね失礼します。色々考え該当部分を以下の通りに再修正。


 どれぐらい時間が経過しただろうか? まだ放送から20分も経過していないぐらいだろう。
 かがみの証言等から考えてはやて達はF-9にあるホテルから北上したのは確か。そして会場のループを使いかがみをD-1に置き去りにした事を踏まえはやて達の集合場所はループ地点であるD-9に近いC-9のスカリエッティのアジトと言った所だろう。
 なお、スーパーに向かったという話だが先程まで自分達が戦っていた危険な場所なのでその部分ははやてがすぐにアジトに向かわせるのを避ける為の偽装だろう。なお、このことは既にかがみにも説明している。

459リリカル名無しA's:2010/10/27(水) 21:15:59 ID:5QzPlzWU0
なるほど、素早い対応乙です

460 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:03:27 ID:iKb4r1060
天道総司、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ユーノ・スクライア、高町なのは(StS)、八神はやて(StS)、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ、泉こなた、柊かがみ
この9名を投下します

461 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:04:45 ID:iKb4r1060

夜空は、とても美しかった。
数え切れないほどの星々と満月に照らされ、その光は地上を照らしていく。
一切の濁りが見られないほど、神秘的な黒い色に満ちていた。
二つの輝きに包まれた辺り一帯は、静寂に満ちている。
夜という世界を象徴するかのように。
この世界の出来事を何も知らなければ、平和な場所だと誰もが思うだろう。
しかし、ここは破壊と殺戮に満ちたアルハザードと呼ばれる戦場。
プレシア・テスタロッサの手によって、数多の世界から集められた多くの人間が、強制された殺し合いを行う場所だ。
僅かな安堵だろうと、抱く者は誰一人としていない。
そんな世界に、微かな微風が流れていた。
木々に生えた葉と、地面に生えた草が音を立てて揺れていく。
暗闇で満ちている森林の中を、三つの人影が進んでいた。
その先頭を、一人の青年が周囲を警戒しながら、足を動かしている。
頭髪は癖が強く、鍛え抜かれた長身痩躯の肉体を、ジャケットとジーンズで包んでいた。
天道総司は辺りを見渡しながら、思考を巡らせている。
十分という遅れがあった先程の放送。
時間に関する真相もそうだが、それ以外にも思案するべき問題がある。
あの中では、キングとアンジール・ヒューレーの名前が呼ばれなかった。
これが意味することはただ一つ。あの二人は未だに生きていること。
潰し合わせる為に離脱したが、それが失敗に終わってしまった。
それどころか、あの二人が共闘するという最悪の可能性も存在する。
だが、優勝という道を決めたアンジールが、何故そのような選択を選んだか。
可能性は低いが、キングが何か余計なことを吹き込んだかもしれない。

(俺は……一体何をやっている)

天道は、自分自身に憤りを覚えた。
突然、この会場に連れてこられたという失態もそうだが、これまでに多くの命が失われている。
偉大なるおばあちゃんから、多くのことを学んだはずだ。
ひよりを守るために、ワームとの戦いに備えて七年間、体を鍛え続けたはずだ。
そして天の道を往き、世界を照らす太陽の神、仮面ライダーカブトに選ばれたはずだ。
それにも関わらずして、このザマだ。

(だが、今は悔やんでいる場合ではない。まずは急ぐことが先決だ)

ここで悲しみと後悔に溺れ、止まることは許されない。
それでは、この戦いを仕組んだ主催者、そしてキングの思う壺だ。
あの放送では、後ろに歩く高町なのはと柊かがみの知る人間で、呼ばれていない者がいる。

462 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:06:11 ID:iKb4r1060
なのはの幼なじみである、八神はやてとユーノ・スクライア。
愛弟子である、スバル・ナカジマ。
娘である、ヴィヴィオ。
グラーフアイゼンからの情報で知った人物、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
そして、かがみの親友である泉こなた。
ヴァッシュとはやてに関しては、まだ不確定な部分がある。
しかしそれでも、残された彼らの命は救わなければならない。
それが自分の使命なのだから。

「なのはさん!?」

天道が考えながら歩いていると、突如として声が響く。
後ろから聞こえてきたそれによって、彼は反射的に振り向いた。
見ると、なのはは驚愕の表情を浮かべている。
彼女の視界の先には、見知らぬ一人の少女が立っていた。
短く整った青い髪、僅かに跳ねた毛先、宝石のような輝きを持つ瞳、小柄な背丈を包むレディーススーツ。
その背中には、更に小さい体格の少女が背負われている。

「スバル……それに、ヴィヴィオ!?」

現れた二人の少女を見たなのはの声は、震えていた。
そこには、安堵と驚きが込められている。





スバル・ナカジマはヴィヴィオを背負いながら、辺り一面に生えた雑草と木の根を踏みしめながら、先を進んでいた。
視界はとても暗く、足下が不安定なので、先程のように慌てて進んではいけない。
それにもし転ぶような事をしては、背中にいるヴィヴィオにも響いてしまう。
ホテルで繰り広げた戦いのせいで身体はボロボロで、顔色も悪い。
そんな彼女に無理をさせては駄目だ。
だから、移動のペースを落とす必要がある。
C−9地点にあるジェイル・スカリエッティのアジトに着くまで、時間がかかるというデメリットはあるが、焦るわけにはいかない。
もしそれで集中力を乱し、殺し合いに乗った者の襲撃を受けては全てが無駄となる。
そんなことになっては、こんな下らないことで命を奪われた人達の、無念は晴らせない。
スバルは唇を噛みしめながら、自分に言い聞かせた。

(始さん、ヴィータ副隊長…………ッ!)

四度目の放送で呼ばれた七人の名前。
その中で、知っている人が呼ばれてしまった。
出会って間もない自分を、命を賭けて守ってくれた相川始。
彼はアンデットという生命体だったらしいが、それは違う。
始さんは正真正銘の人間で、立派な仮面ライダーだ。
それだけは、紛れもない事実。
そして、未熟な自分を一生懸命に鍛えてくれたヴィータ。
彼女は尊敬する恩師、高町なのはと一緒に多くのことを教えてくれた。
訓練はとても厳しかったが、それがあったお陰で今の自分がある。
だからこんなところで止まっている場合ではない。
もしも泣くようなことをしたら、それこそ二人に対する侮辱になる。
今やるべき事は、一刻も早くアジトへ向かい、こなたやヴァッシュ達との合流だ。

(こなた、ヴァッシュさん、なのはさん、八神部隊長……無事でいて下さい!)

幸いにも、まだ名前の呼ばれなかった人達もいる。
だが、安堵などしていられない。

463 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:07:11 ID:iKb4r1060
ヴァッシュやなのはやはやてはともかく、こなたは一般市民だ。
リイン曹長が一緒にいるとはいえ、彼女をこれ以上待たせては何があるか分からない。
こなたの身を案じながら、スバルは足を進める。
その最中だった。

「…………え?」

突然、近くから音が聞こえる。
草木を踏むような、ほんの僅かな足音が。
常人ならばあっさり聞き逃してしまうだろうが、彼女は戦闘機人。
察知するのは、造作もない。
スバルは呟きながら、歩みを止めてしまう。
たった今、音が聞こえてきたことを意味するのは、たった一つのみ。
この近くに、誰かがいること。
それは一つだけでなく、複数に聞こえる。
彼女は反射的に、物陰に隠れた。

(どうしよう……)

誰がいるにしても、警戒しなければならない。
殺し合いに乗ってないなら良いが、そうでない可能性もある。
もしも、近くにいるのが後者ならば、自分はひとたまりもない。
疲労が溜まっている上に、左腕も折れている。
加えて背中には、ヴィヴィオがいるのだ。
こんな状況で戦いなどやっても、負ける結果しか思い浮かばない。
気が付くと、足音がこちらに近づいていた。
木の陰に身を潜めているスバルは、覚悟を決めてそちらを覗き込む。
その瞬間、彼女は目を見開いた。

「えっ、まさか……!?」

驚愕の表情で、スバルは口を開く。
闇に包まれた木々の間から現れたのは、見知らぬ青年。
しかしその後ろには、合流を望んでいた高町なのはの姿があった。
さらになのはの背中には、この戦いに乗っていた筈の柊かがみもいる。
背負われているかがみの顔からは、一切の殺意が感じられない。
何故彼女が、なのはと一緒にいるのかは分からないが、話を聞く必要がある。
そう思ったスバルの行動は、決まっていた。

「なのはさん!?」





一同は合流してから、互いに情報を交換している。
これから向かうアジトに、こなたとヴァッシュとはやてが待っていること。
かがみに重傷を負わせたはやて。
ホテルで起きたヴィヴィオの暴走。
危険人物であるキングとアンジール。
はやてと一緒にいた、金居という謎の男。
ヴァッシュに渡した千年リングという、危険な支給品。
そして、罪を償うと決意したかがみ。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい……!」

なのはに背負われたかがみは、涙を流しながらスバルに謝罪した。
大切な人を、三人も殺してしまったことに。
何も理解しようとせずに、自分を助けようとした彼女を殺そうとしたことに。
そして、スバルを支えてくれた人やこなたを否定したことに。
そんなかがみの様子を見て、スバルは安堵を覚えた。

464 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:08:02 ID:iKb4r1060

「大丈夫ですよ、かがみさん」

彼女は微笑みながら、優しい声で告げる。
スバルには、確信が出来た。
生きる力を取り戻した今の彼女なら、こなたと会わせても大丈夫。
初めはきっと、罪の意識に悩まされるだろう。
でも、そんな苦しみをかがみさん一人に背負わせたりはしない。
なのはさんや、一緒に説得してくれた男の人みたいに、彼女を支えてみせる。

「こなたも、絶対に喜んでくれますよ。かがみさんが元に戻ってくれたことに」
「うん…………」
「これから、一緒にやり直せば良いんです。だから、頑張りましょう」

弱々しいかがみの呟きに、スバルは笑顔で答えた。
その瞳は今までとは違って、殺気と言った負の感情は一片たりとも感じられない。
ふと、かがみはスバルに背負われているヴィヴィオに視線を向ける。
そして、彼女は左腕を掲げた。

「ねえ、スバル……これをその子に使ってあげて」
「え、でもそれって……!」
「私はもう大丈夫だから、お願い…………!」

かがみは、自分の命を助けた白い大きな腕輪、デュエルディスクをヴィヴィオに渡そうとしている。
これは彼女の出来る、せめてもの償いだった。
見ると、なのはの娘であるヴィヴィオの顔色はとても悪く、息も荒い。
このまま放置しては、自分のように命の危険に晒されてしまう。
もうこれ以上、誰かの命が失われるのは嫌だった。
そんなかがみの意志を察したのか、天道は口を開く。

「いいだろう」
「え、ちょっと……!?」
「ありがとう……」

スバルの抗議は、かがみの声に遮られた。
天道はその行動を見て、おばあちゃんより教えて貰った大事な言葉を思い出す。
子どもは宝物。この世でもっとも罪深いのは、その宝物を傷つける者だ……と。
そしてもう一つ。
小さな親切を受けたら、大盛りで返しなさい……と。
かがみが取り戻した『献身』の感情を、無駄にするわけにはいかない。
幸いにも、命に別状がない段階まで体の調子を取り戻した。
天道はかがみの腕からデュエルディスクを外し、スバルの背で眠るヴィヴィオに取り付ける。
その瞬間、小さい呼吸は徐々に整っていき、身体の擦り傷も治り始めた。
出来るならば、かがみの時のように回復に時間を置きたいが、そういうわけにもいかない。
まずは、ナカジマが言っていた仲間達の合流が、先決だ。

「とにかく、そのアジトに向かうぞ。行動に移すのは合流してからだ」
「分かりました」

天道の言葉になのはが頷く。
彼は再び先頭に立ち、前に進み始めた。
その背中を見たスバルは、ハッとしたような表情を浮かべる。
勢いに流され、呆気に取られてしまった彼女は、大事なことを聞き忘れていたのだ。
耳打ちするように、なのはに尋ねる。

465 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:08:50 ID:iKb4r1060

「あの、なのはさん」
「ん、どうかしたのスバル?」
「そういえば、あの人は一体……?」

そう、名前を聞き忘れてしまった事。
ヴィヴィオやこなた達、そしてかがみの事に気が向かっていたので、そこまで行かなかったのだ。
そんなスバルの疑問を、なのはは答えようとする。

「ああ、あの人はね――」
「おばあちゃんはこう言っていた」

しかし彼女の声は、あっさりと遮られた。
それをしたのは、決まっている。
なのはでもない。
スバルでもない。
ヴィヴィオでもない。
かがみでもない。
声の主である男は、突然足を止めた。
そのまま、背後に振り向く。

「俺は天の道を行き、総てを司る男――」

彼は天空に向かって、堂々と左腕を高く掲げた。
まるで、世界は自分を中心に回ってる、と宣言するかのように。
その直後、木々の間から光が射し込まれてくる。
彼を照らすスポットライトとなるように。
それは月の輝きであるはずなのに、とても眩しく見えた。
例えるならば、世界全てを包み込む太陽の光。
スバルは、不意に目を細める。
その一方で、男は強い意志の込められた瞳を向けたまま、最後の言葉を口にした。

「俺の名は……天道 総司」
「…………へ?」

名乗りを上げた天道に対し、スバルは呆気にとられるしかできない。
どういう反応を取ればいいのか、彼女には分からなかった。
変人。
会って間もない人間に対して失礼かもしれないが、そんな印象を持ってしまう。
それと同時に、スバルは天道の言葉に、とてつもない力が存在していると、錯覚してしまった。





余談だが、これはまるである出来事を再現しているかのようだった。
ここにいる天道総司も、ここにいるスバル・ナカジマも知らない事実。
それはとある時間の、とある世界の出来事。
来るべき全ての戦いを終えた天道は、異世界より突如現れたスバルと、出会いを果たしたことがある。
偶然の重なった、運命によって起こってしまった事。
本来ならば有り得ないはずだった、二人の邂逅。
奇しくも、その世界で起こった出会いと、とても酷似していた。
REVOLUTIONの名を持つ出会いと――




466 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:09:52 ID:iKb4r1060

「はやてちゃん……!」
「ごめんな、リイン。心配かけて」

祝福の風の名を持つユニゾンデバイス、リインフォースⅡは涙を流しながら、八神はやての胸に飛び込んでいた。
その様子を、烈火の剣精アギトは、呆れたような表情で眺めている。

「てめえな、こんな時に泣いてんじゃねえよ」
「な、泣いてなんていませんよっ!」

リインは否定するが、その瞳は未だに潤んでいた。
その様子を、泉こなたは笑みを浮かべながら眺めている。
C−9地点、スカリエッティのアジトの前では、四人の人間と二人のユニゾンデバイスが集まっていた。
一人は、厳密には人間ではないプラントの名称を持つ生命体。
そして、元々いた本来の世界で人間台風と呼ばれ、600億$$の懸賞金が付けられた男。
針鼠のように伸びた黒い頭髪、その中で僅かに混ざった金髪、長身を包む炎のように赤いロングコート、朱色のレンズが埋め込まれたサングラス。
百年以上の時を生きてきた優しい死神、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
彼の前に立つのは、ユーノ・スクライアだった。

「……そうなんですか、あなたがフェイトを」
「ごめん、本当にごめん……!」

ヴァッシュは、必死に頭を下げて謝罪している。
彼ははやてと共にこの場所に到着してから、全てをユーノに話した。
自分が、フェイト・T・ハラオウンを殺したことを。
目の前にいる青年からは、確かにユーノの面影が感じられた。
とても賢く、とても優しいあの少年の。
ユーノが立派に成長してくれた事が、ヴァッシュにはとても嬉しかった。
たとえそれが、平行世界の彼でも。
しかし、今のヴァッシュにはそれを喜ぶ事が出来ない。
何故なら、フェイトをこの手で殺してしまったのだから。

「ヴァッシュさん、あなたがフェイトを殺したのは事実かもしれません……」

ユーノは、寂しげな表情を浮かべながら口を開く。
初めは真実を知った時、ユーノの中でどす黒い物が吹き出ていた。
憎悪という名を持つ、負の感情。
しかし一緒にいたはやてが言うには、フェイトの命を奪った力はもう暴走しないらしい。
そして、今度からはみんなを守るために、その力を使うと。
長きに渡る付き合いである彼女が言うからには、ヴァッシュを信頼しても良いかもしれない。
それにこのような憎しみを抱いても、死んだフェイトは戻らないし、喜ばないはずだ。

「でも、はやてが言うように、その力はみんなの為に使ってください。フェイトも、それを望んでいるはずですから」
「わかったよ、ユーノ……」

ユーノの言葉を聞いて、ヴァッシュは顔を上げる。
先程はやてに言われたのと、同じような言葉だった。
それでも、自分の罪が許されるとは決して思っていない。
この世界では、もう一人のなのはやクロノ・ハラオウンも犠牲となった。
リンディさんや士朗さんや桃子さん、それに恭也や美由希は絶対に許しはしないだろう。
もっとも、こんな不甲斐ない自分など、恨まれて当然だ。
見知らぬ場所に流れ着いた、自分の面倒を見てくれたのにも関わらず、恩返しも出来ない。
もしも、みんなから罵倒されるような事になっても、当然だ。
例え殺されたって、文句は言えない。

467 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:11:26 ID:iKb4r1060

(俺は……何をやってるんだろうな)

ヴァッシュの中で、自己嫌悪の感情が強くなっていく。
それは、ここに辿り着いた時に流れた放送を聞いたことも、原因の一つだった。
あそこで呼ばれた、相川始の名前。
これから一緒に戦えると思ったのに、それがもう出来ない。
やはり、スバルと一緒にあそこに残った方が良かっただろうか。
顔も知らない彼だったが、悪い奴ではなかったはず。
出来るなら、一緒にここから脱出して色んな事を話し合いたかった。
そしてお互いのことも、腹を割って語り合いたかった。
唯一安堵できたのは、スバルが生きていたこと。
今は、彼女を待つ事しかできない。

(それに、どうしよう。あの子にかがみの事を伝える訳には……)

不意にヴァッシュは、こなたの方に顔を向ける。
彼女はホテルで暴れていた少女、柊かがみの親友らしい。
ここに辿り着いてユーノ達と情報交換して、スバルからの伝言を伝えた。
その際に、向こうは既に首輪の解除を成功したと知る。
しかし、自分もはやても今のかがみの事だけは伝えていない。
でも、このまま黙ったままでは、いつ彼女がここに来るか分からない。
そうなっては、こなたは命の危機に晒される。
どちらの道を行っても、傷つくことになってしまう二択の問題。
選べと言われても、簡単に選べる物ではなかった。

「はやてちゃん!? ユーノ君!?」

ヴァッシュが悩んでいると、聞き覚えのある声がする。
刹那、その場にいた全員が背後に振り向いた。
そこに現れたのは、彼らがよく知る人物。

「なのはっ!?」
「なのはちゃんに……スバル!?」

高町なのはの顔を見て、ユーノとはやては同時に口を開いた。
その一方で、ヴァッシュとこなたは一緒にいたスバルの元に駆け寄る。
彼女の背中には、ヴィヴィオの姿があった。

「スバル、無事だったんだな!」
「心配かけてすみません、あたしはこの通り大丈夫です!」

スバルは、ヴァッシュに力強い笑みを浮かべる。
だがこなたの顔が、急に青ざめた。
その理由は、変わり果ててしまったヴィヴィオの姿を見たため。

「え……? ヴィヴィオ、どうかしたの!?」
「あ、ヴィヴィオなら大丈夫だよ! 今、治療してる最中だから」
「どういうこと?」
「えっと、それはね……」

困惑したこなたの疑問に、スバルは答えようとする。
しかしそれを口にすることは、出来なかった。

「何でや……何であんたがここにおるん!?」

突然、はやての怒号が響く。
それに反応して、三人の顔はそちらに向けられた。
すると、ヴァッシュとこなたの顔は驚愕で染まる。
その先には、探していた柊かがみがいたからだ。

468 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:12:36 ID:iKb4r1060

「君は……!?」
「え、かがみん……!?」
「こなたっ…………!」

背中から降りたかがみは、浮かない表情で呟く。
その様子を横目で見てからなのはは、はやてに顔を向けた。
そして、事情を説明しようとする。

「はやてちゃん、聞いて。この子は――」
「そうか、なのはちゃんが助けたんか。その阿呆餓鬼を」

しかしなのはの言葉は、一瞬で遮られた。
彼女の前に立つはやての声と瞳は、恐ろしいほどの冷たさを放っている。
それを向けられたかがみは迫力に押されてしまい、思わず後退った。

「変やと思ったんや。何で、名前が呼ばれなかったのか」
「え、名前が呼ばれなかった……?」

はやての言葉を聞いて、ヴァッシュは怪訝な表情を浮かべる。
ここに着く前、彼女は「かがみが急に暴れ出して、逃げられた」と話したはずだ。
それなのに、何故。
ヴァッシュが疑問を抱く一方で、はやては自分のデイバッグに手を入れる。
その中から一丁の黒い拳銃、コルト・ガバメントを取り出して、銃口をかがみに向けた。
彼女の行動を見た瞬間、この場に集まった全員の目が見開かれる。

「は、はやてちゃん。何を――!?」
「なのはちゃん、そこ退いてくれへん? 私は今からその阿呆餓鬼を始末するから」
「えっ……!?」

なのはの事などお構いなしに、はやては引き金に指を絡ませた。
当然、それを見逃す者はいない。
天道は右腕を伸ばしてはやての行為を制止し、ヴァッシュはかがみの前に立った。

「おい、何を考えている!」
「はやて、ちょっと待った! ストップ! ストップ!」
「何ですか、二人とも? 邪魔をしないで下さい」

しかしはやては、あっさりと冷たく二人に言い放つ。
再び現れたかがみを見た瞬間、彼女の中で二つの感情が膨れ上がっていた。
憎しみと殺意。
放送でその名前が呼ばれなかったので、悪い予感はしていた。
そして、それは見事に的中。
はやてには、エリオとシグナムを殺した挙げ句、それを自己正当化しようとするかがみが許せなかった。

(のうのうと生き延びたはいいが、まさかなのはちゃんやスバルと一緒にいるとはな……)

お人好しな彼女たちが現れたのなら、助かっても当然かもしれない。
だが、自分はこれ以上かがみに情けをかけるつもりは無い。
泉こなたに真実を伝えなかっただけでも、有り難いと思うべきだ。
ユーノと一緒にいた彼女に何故伝えなかったのは、彼女自身わからない。
何の力も持たない一般人だからか。
それとも、かがみに対する最後のお情けだったのか。

469 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:13:40 ID:iKb4r1060
(けど、もう関係あらへん……)

こうなった以上、やるべきことは一つ。
なのはやスバルがやらなかったのなら、自分がここで引導を渡すべきだ。
大方、二人に命乞いでもして、助けてもらったのだろう。
そして、ここにいる自分達を殺そうと企んでるに、違いない。
何にせよ、これ以上甘やかしては、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
恐らく、自分の行動も確実に知られているだろう。

「なのはちゃん、一ついいことを教えてやろうか? その阿呆餓鬼の事を」

銃を構えるはやては、かがみを冷たく睨み付けながら、言い放つ。
彼女の様子を見たヴァッシュは、ハッとしたような表情を浮かべた。
ここには、かがみの親友であるこなたがいる。
そして、はやてから放たれる冷たい雰囲気。
この二つの事柄から、天道とヴァッシュは危機感を感じた。

「待て!」
「待つんだ、はやて!」
「そいつはな、エリオとシグナムを殺したんや。その挙げ句に、殺人を正当化するような救いのない極悪人なんやっ!」

しかし、彼らの制止は届かない。
はやては声色に悪意を込めながら、言い放った。
彼女の怒号は、闇に包まれた森の中に響き渡る。
いや、わざとそうなるように力を込めたのだ。
その言葉は無論、かがみの耳に容赦なく入っていく。
それは、まるで鋭利な刃物のように、彼女の心を抉っていった。

「え、かがみん…………やっぱり、なの?」

続くように響いたのは、こなたの声。
反射的に、かがみはそちらに振り向いた。
そこにいるこなたの瞳は、信じていた者に裏切られたような、絶望が感じられる。
親友の視線に耐えることが出来ず、かがみは目をそらした。
その行為がはやての勘に障ったのか、顔がより一層歪んでいく。
かがみの表情を見て、なのははもう一度前を向いた。

「お願いだから聞いて、はやてちゃん。この子は、もう危ないことなんてしないよ!」
「なのはちゃん、私が何を言ったか聞いたんか? そいつはな――」
「知ってる! この子から全て聞いた! シグナムさんやエリオの事も!」
「なら、何でそいつを庇うんや!? そんな甘ったれた奴を生かしていたらな、なのはちゃんもすぐに殺される!」
「だからって、銃を向けるのはやめて!」
「何でそんな事言うんや!? 二人を殺しただけじゃない、なのはちゃんやスバルの善意を裏切った! それがわからんのか!?」

なのはとはやては、お互いに怒号を飛ばしあう。
危機を察したユーノは、二人の間に割って入った。

「落ち着いてよ、二人とも!」

双方の勢いが、一瞬だけ緩む。
しかしはやての目から感じられる憤怒は、未だに収まっていない。
普段の彼女からは想像できない様子に、ユーノは少しだけ戸惑う。
それでも二人を落ち着かせるために、口を開いた。

470 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:14:28 ID:iKb4r1060

「なのはもはやても、そう熱くならないで。今は揉めてる場合じゃないでしょ」
「何や、ユーノ君もその極悪人を庇うつもりなんか」
「そういうことじゃないよ! 僕は詳しい事情は知らない、でもこんなことをしたって何にもならないって!」
「じゃあ、ここでみんな仲良くその阿呆餓鬼に殺されろって言うんか?」
「違うって! なのはも言ってたでしょ、その子はもう人殺しなんてしないって……」
「それはどうなんでしょうか」

ユーノは必死に説得をしていると、新たにリインの声が入る。
振り向くと、その瞳からは今にも涙が流れそうだった。
同時に、今のはやてとよく似た、黒い感情も感じられる。

「だって、その人はシグナムを殺したそうじゃないですか。そんな人を、許すなんて……」
「リインまで、やめてよ!」

その瞬間、ユーノは気づいた。
リインの小さな身体が、震えていることに。
彼女も、理屈では分かっている。
かがみという少女をいくら責めたところで、エリオやシグナムはもう帰ってこない。
そして憎しみを抱いても、エリオやシグナムは喜ばない。
だが、それ以前の問題だった。
なのはは「もう人は殺さない」と言っているが、関係ない。
二人を殺した張本人が、目の前にいる。
それだけでも、リインの中で憎しみを沸き上がらせるのに、充分だった。
先程ホテルから離れた時に固めた決意を、忘れさせてしまうほどに。
なのはには、リインの言い分も理解できた。
家族を殺されたのだから、憎しみを抱くのは当然。
しかしそれでも、分かって貰う必要がある。

「とにかくはやてちゃん、お願いだからこの子の話を聞いて」
「はっ、今更何を……」
「お願いっ!」

なのはは必死になって、詰め寄った。
はやてが警戒するのも無理はない。
でも、かがみは本当は優しい心を持っている。
現に自分のことを構わず、怪我をしたヴィヴィオを助けようとした。
それをわかって欲しい。
そんななのはの姿を見たかがみは、覚悟を決めた。

「え、ちょっと……!」

彼女はヴァッシュの後ろから、はやての前に出る。
その瞳を見て、殺されそうになった時のことを思い出した。
しかしそれでも、逃げてはいけない。
天道やヴァッシュ、なのはやスバルはこんな自分のことを庇ってくれた。
その好意に、答えなければならない。

「何や、腹を括ったんか? ええ度胸やな、ならお望み通りに……」
「ごめんなさいっ!」

はやてによる怨嗟の声は、途中で止まる。
かがみは頭を下げて、精一杯の謝罪を始めた。

471 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:15:23 ID:iKb4r1060

「謝っても許して貰えないのは分かってる、私がみんなを裏切ったのは分かってる、何も知らないのにみんなを侮辱したのも分かってる……どれだけ酷いことをしたかも、分かってる! 
私がどうしようもない馬鹿ってことも、分かってる! 本当に、本当にごめんなさい!」
「かがみん……」

彼女の様子を見て、こなたの表情に希望が戻る。
はやてっていうあの人は、かがみが人を二人も殺したと言った。
それを聞いた時、ショックで倒れそうになった。
信じていた大切な友達が、殺人を犯したという事実。
そして、その殺された人達と親しいはやてとリインの憎悪。

(でも、かがみんは元に戻ってくれたんだ……!)

もうこれ以上、かがみが間違いを犯さない。
その事実が、こなたにとって何よりも嬉しかった。
なのはっていう人はよく知らないけど、ユーノの幼なじみでスバルの上司らしい。
それなら、信頼できる。
こなたは笑顔を浮かべていく一方、なのはははやてに声をかけた。

「はやてちゃんやリインの言いたいことも分かる。でも、かがみは本当は優しい子なの! その証拠に、今までの罪をちゃんと償おうとしてる!
だから、今からでもやり直せる! 死んだ人達の事を忘れずに、罪を背負って生きていく事だって出来るよ!」

奇しくも、その言葉は似ていた。
夢の中ではやてに責められていた際に、なのはがかがみを庇うときに言った言葉と。
初めは、二人は許さないかもしれない。
でも、時間をかけてゆっくりとかがみの事を分かってもらう。
自分も、そうやってはやて達と分かりあえたのだから。
その思いを、なのはは言葉に込める。
しかし、彼女の希望が叶うことはなかった。

「言いたいことはそれだけか」
「「え?」」

突然、はやての声が聞こえる。
それに反応して、かがみは顔を上げた。
その瞬間、コルト・ガバメントの銃口が、彼女の視界に飛び込んでくる。

「――ッ!」

反射的に天道は腕を伸ばし、銃身を掴んだ。
その瞬間、はやては銃のトリガーを引く。
そして、一発の乾いた銃声が、森の中で響いた。

472 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:16:36 ID:iKb4r1060





辺りに、火薬の匂いが漂う。
銃口からは、一筋の煙が吹き出した。
しかしそれらは、冷たい風がすぐに流していく。
何故、このような事が起こったか。
その答えは一つ。

「…………貴様、どういうつもりだ?」

沈黙は、天道によって破られた。
彼は、はやての握るコルト・ガバメントを左斜め上に向けている。
それによって、放たれた銃弾は誰にも当たる事はなかった。
横で立つ天道を、はやては睨みつける。

「それはこっちの台詞ですよ? 何で邪魔をするんですか」

そのまま彼女は腕を振り払った。
そして、はやては再びかがみに銃を向けようとする。
しかしそんな彼女の前に、なのはが立った。

「はやてちゃん…………どうして?」
「それはこっちが聞きたいわ」

疑問は、あっさりと返される。
はやての表情は、一向に変わらない。
いや、むしろ先程よりも険しさを増していた。
彼女の中で溢れる、怒りと憎しみの二つも。
結論からすると、かがみの謝罪は何の意味も成さない。
それどころか、負の感情をより一層増幅させる、スパイスとなってしまったのだ。
はやては、銃声によって地面にへたり込んでしまったかがみを睨みながら、口を開く。

「あんた、確かかがみと言ったな。一つ聞いてもええか?」
「え…………?」

声をかけられた事によって、少女の体がピクリと震えた。
それを見て、はやての苛立ちは更に強まる。
しかし、今は我慢だ。
この極悪人には、教えなければならないことがある。
拳銃を撃ちたい衝動を必死に堪えながら、彼女は言葉を続けた。

「今更謝られても『ハイそうですか。許してあげます』って、言ってもらえる思ってたんか? だとしたら、随分おめでたい頭をしとるんやな」
「ち、違う…………!」
「わざわざそんな三文芝居を見せつける為に、なのはちゃんに命を助けてもらうとはな…………」

言葉による暴力を、はやては止めない。
怯えるかがみの中で、先程の記憶がフラッシュバックしていく。
はやてから放たれる憎悪。
自分の犯した罪の重さ。
体中から流れていく血液。
時間と共に消える命。
そして、一人になった自分。
次々と記憶は蘇り、かがみは恐怖を覚える。
かつての自分自身と、はやてに対して。

473 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:17:28 ID:iKb4r1060

「そんな猿でも出来るお芝居を考えるくらいなら、とっとと…………」
「はやてちゃんっ!」

かがみへの責めは、唐突に終わる。
乾いた音が響くのと同時に、はやての頬に衝撃が走った。
彼女の体は少しだけ、よろめいてしまう。
だが、すぐに体勢を立て直した。

「…………どういうつもりや、なのはちゃん」

八神はやては、冷たい怒りを燃やしながら呟く。
そして、振り向いた。
自分のことを引っ叩いた親友、高町なのはの方へと。
彼女もまた、怒りを燃やしている。
涙を、その瞳から流しながら。

「…………それはこっちの台詞だよ、はやてちゃん」

二人は、互いに睨みあう。
互いに同じ夢を持った、親友同士が。
互いに色々な事を語り合った、親友同士が。
互いに遊んだ、親友同士が。
互いに涙を流した、親友同士が。
互いに何度も助け合った、親友同士が。
互いに笑い合った、親友同士が。
先に口を開いたのは、はやてからの方だった。

「何でわからないんや、なのはちゃん。放っといたら……!」
「はやてちゃんこそ、何で分からないのっ!」

彼女達は、一歩たりとも譲らない。
今の二人が持つ感情は、とても違うようでとても似ていた。
何も知らないのに、かがみを侮辱したことに怒るなのは。
何も知らないのに、なのはを侮辱したことに怒るはやて。
別の世界からやって来た彼女達だが、胸の中に持つ思いは似ていた。
それが皮肉にも、対立の原因を作ってしまっている。

「二人とも、待ってくれよ!」
「お前達、いい加減にしろ!」

ヴァッシュと天道は、二人を止めようとした。
このまま揉め続けては、取り返しの付かないことになる。
それは誰の目から見ても、明らかだった。
なのはとはやては、一瞬だけ止まる。
その隙を付いて、ヴァッシュと天道は説得を続けた。

「なのはもはやても落ち着いてくれ! さっきユーノが言ってたみたいに、今は揉めてる場合じゃないでしょ!」
「その通りだ。この戦いに乗った奴はまだ残っている……こんな時に、そいつらが来れば一巻の終わりだ。状況を考えろ!」

彼らは言うが、なのはとはやての間では剣呑な雰囲気が漂い続ける。
そんな中、天道とヴァッシュに続くように、ユーノも二人の間へ出てきた。

「なのは、はやて。君たちの言い分は分かる。でも、今は……!」
「そんな風に言って、そいつの罪を有耶無耶にするんか?」

しかし、彼の言葉ははやてによって遮られる。
無論、ユーノにそのような意図は全くない。
これ以上、長年付き合ってきた二人が言い争うのが、耐えられなかったのだ。
こんな事を続けていては、きっとフェイトは悲しむ。
なのはとはやての目線は未だに交錯する中、ユーノはそう思った。

474 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:18:04 ID:iKb4r1060




(まずいな……このままでは、崩れ落ちるのも時間の問題だ)

二人が睨み合う中、天道は考える。
そう簡単に解決するとは思っていなかったが、まさかこんな事になるとは。
あの八神はやてという女性は、自分の知る八神はやての面影を確かに持っている。
しかし、あの時の少女からは想像できないような憎悪が、感じられた。
だがそんな事は関係ない。
今、この会場にはキングとアンジールという、殺し合いに乗った二人が残っている。
そして、金居という謎の人物。
奴らがここに現れる可能性も充分にある。
このまま二人の口論が続き、襲撃など受けてしまっては、ひとたまりもない。
こんな状態では、まともに脱出することも出来ない。
まずは、二人を落ち着かせて、それから全員を纏めなければならないだろう。

(とにかく今は、口論を止めることが先決か)

天道は結論を付けた。





(どうする……どうする……どうする!? 考えろ、考えるんだ! ヴァッシュ・ザ・スタンピード!)

二人が睨むあう中、ヴァッシュは考える。
何故、はやてはかがみをあそこまで責めるのか。
何故、スバルがかがみと一緒にいるのか。
何故、はやては「名前が呼ばれなかったのか」とかがみを見たときに言ったのか。
わからないことだらけだ。
そしてスバルと一緒に現れた、なのはと呼ばれた女性。
恐らく、はやての言っていた自分とは別の世界から来た、もう一人の高町なのはだろう。
その顔と声は、あの優しい少女を思い出させる物だ。
生きていたことは、非常に嬉しい。
それと同時に、罪悪感も沸き上がった。
でも、感慨に浸ることは出来ない。
なのはの親友であるフェイトは、自分が殺したのだから。
彼女が現れてから、それを伝えようと思っていた。
しかし、今はそんな空気ではない。
ヴァッシュは、不意にかがみの方へ振り向いた。

(もう、こんな戦いには乗らないんだな……良かった)

彼女からは、ホテルで出会ったときのような敵意は感じられない。
ということは、なのはが言ったことは真実だ。
彼は荒廃した世界で、数え切れないほどの世界を切り抜けてきた男。
敵意を持つ者と持たない者を見分けるのは、造作もなかった。
だがそれよりも、友達同士の二人をこれ以上争わせてはいけない。

(とにかく今は、二人を落ち着かせないと)

ヴァッシュは結論を付けた。





(なのは……はやて……)

二人が睨み合う中、ユーノは考える。
先程から何度説得しても、一向に収まる気配がない。
むしろ、時間と共に酷さを増していた。
バインド魔法を使って、強制的に止める方法もある。
だが、力ずくで説得したところで、届くわけがない。
それどころか、逆効果になる。やるにしても、これは最終手段にしなければならない。
はやてはあのかがみという少女が、シグナムを殺したと言っていた。
それを許すことが出来ないのは、当然だろう。
現に自分も、その事実を聞いたとき、ヴァッシュの時のような憎しみを感じた。
でも、なのははこれ以上人を殺さないとも言っていた。
どちらの言い分も理解できるが、どちらかに肩入れするわけにもいかない。
そんな事をしては、余計に険悪な空気になる。

(とにかく今は、なのはとはやてを止めないと)

ユーノは結論を付けた。




475 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:18:46 ID:iKb4r1060


「なのはさん、八神部隊長……」

なのはとはやてが言い争っている光景を、スバルは不安な表情で見つめている。
普段の二人からは、まるで想像する事が出来ない状況だ。
はやての意見は理解することが出来る。
かがみは自分やヴァッシュや始に危害を加え、こなたすらも殺そうとした。
だが、それは以前の話。
今のかがみは、自分の罪をしっかりと受け止めて、これからを生きると決めた。
だから、死なせたくはない。

「……スバル、貴方は本当にその人を信じてるんですか?」
「え?」

リインの声が聞こえ、スバルは振り向いた。
八神家の一員である祝福の風は、未だに憎悪の視線をかがみに突き刺している。
その隣で漂うアギトも、同じように警戒しているような表情を浮かべていた。

「その人は、スバル達を裏切ったそうじゃないですか……それに、シグナムやエリオも……」
「リイン曹長っ!」

冷たい言葉を、スバルは遮る。
その瞬間、リインはハッとしたような表情を浮かべた。
彼女は憎しみのあまりに、忘れてしまっている。
ここには、かがみの親友であるこなたがいることを。
はやての手によってかがみが射殺されそうになったとき、彼女は一瞬だけ思ってしまった。
当然の報いだ、と。
スバルやこなたがいるにも関わらずして。
そう気付いた瞬間、リインは自己嫌悪に襲われた。
今のかがみは、只の一般人。
もっとも、そのような考えに至っても当たり前かもしれない。
加えて、彼女は次々と家族を失ったことで、精神が疲弊していた。
いくら多くの戦場を潜り抜けたと言って、仕方のないこと。

「こ、こなた……わ、私はそんなつもりで……!」
「おいっ!」

リインの声が震えた途端、アギトはそれを一喝する。
しかし、それは届かない。
一方のこなたは、未だに震えたままのかがみを、悲しい目で見つめていた。
出来ることならかがみのことを、守ってあげたい。
でも、今の状況で出てきたところで、何かができるとも思えない。
けれど放っておいたら、取り返しのつかないことになる。

(どうしたら、どうしたらいいの…………? かがみん…………)

出来ることなら、かがみの為に何かをしたい。
だが、どうすればいいのかこなたには分からなかった。
答えは、未だに出てこない。




476 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:19:19 ID:iKb4r1060

(ほう? 何か随分面白そうなことになってるじゃねえか)

盗賊王、バクラは笑みを浮かべていた。
このアジト前で起こった、騒動を見たことによって。
一時はどうなるかと思っていたが、まだチャンスはある。
騒ぎに乗ずれば、何かが出来るかもしれない。
前の宿主であるかがみがいるが、もはやどうでもいい。
今は、チャンスを待つのみ。

(さて、精々頑張ってくれよ……正義の味方さん達よ!)

千年もの時を越えた王は、何を見るか。



【2日目 深夜】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギア一式・デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.まずはなのはとはやての口論を止め、それから体制を整える。
 2.ここにいる全員を纏める。
 3.キング及びアンジールは倒さなければならない敵。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。


【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(小)、なのはとユーノへの罪悪感、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 1.まずはなのはとはやてを落ち着かせて、それからフェイトのことを話す
 2.かがみを守る
 3.アンジールと再び出会ったら……。
 4.千年リングには警戒する。
 5.アーカード、ティアナを警戒。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている可能性を把握しました。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。
※暴走現象は止まりました。
※防衛尖翼を習得しました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.そろそろ宿主サマを変えたい、しかしヴァッシュは利用出来そうにない。
 2.千年リングを処分されない方法を考え実行する。
 3.キャロが自分の世界のキャロなのか確かめたい。
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。
※ヴァッシュを乗っ取る事はまず不可能だと考えています。

477 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:20:10 ID:iKb4r1060


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.まずはなのはとはやてを止める。最終手段としては、バインドも使ってでも止める。
 2.ヴィヴィオの保護。
 3.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 4.首輪の解除は、状況が整うまで待つ。
 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。
※フェイトの死の真相を知りました。ヴァッシュを恨むつもりはありません。


【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、はやてへの強い怒り
【装備】とがめの着物(上着無し)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.はやてと話をして、かがみを守る。
 2.全員と共にゆりかごに向かう。
 3.はやてからかがみを守る。
 4.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 5.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

478 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:21:03 ID:iKb4r1060

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷(浅め) 、かがみへの強い怒り
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(4/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、
    首輪(セフィロス)、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.なのはと話をして、かがみに引導を渡す。
 2.バクラを警戒、ヴァッシュを乗っ取るか?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キングの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居及び始は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
※夜天の書が改変されている可能性に気付きました。安全確認及び修復は専門の施設でなければ出来ないと考えています。


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、
     クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ

479 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:22:16 ID:iKb4r1060
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.こなたとかがみを守る(二人には絶対に戦闘をさせない)。
 2.かがみと一緒に、罪を背負う。
 3.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 4.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 5.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード、金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。


【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大、回復中)、肉体内部にダメージ(極大、回復中)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。

480 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:22:52 ID:iKb4r1060
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、悲しみ
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.どうしよう…………?
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、出来ることなら支えたい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。


【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】両手首の腱及び両アキレス腱切断(回復済み)、腹部に深い刺し傷(回復済み)、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、はやて(StS)に対する恐怖、脱力感
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー
【道具】なし
【思考】
 基本:出来るなら、生きて行きたい。
 1.?????
 2.こなたを守る。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。

481 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:25:53 ID:iKb4r1060
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.かがみを警戒する……?
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています
※かがみに憎しみを抱いています。それによって、自己嫌悪も芽生えています。

【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.かがみを警戒する
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

482 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/02(火) 23:27:24 ID:iKb4r1060
これにて、投下終了です
タイトルの元ネタはトライガン・マキシマム一巻に収録された
6話のサブタイトルからです。
矛盾点、誤字・脱字などがありましたら、ご指摘をお願いします。

483リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 12:02:42 ID:/94TBiNc0
投下乙です。
なのスバ合流、なのヴィヴィ親子再会、はやリイ合流、こなかが再会、やった対主催集結だ!!
……と上手く行けばよかった筈なのに、かがみを軸に思いっきり仲違いをする皆様。(いや、主にはやてとリインがかがみを殺そうとしているのを周りが止めているわけだが。)
つかはやて……言いたい事わかるがお前だってギルモン殺しているだろうに偉そうな事言うなや(他2名はマーダーなので除外)……
ていうか、近くに金居がいる状況であんまり仲違いすなー一撃入れられたら終わりやでー!!
……そういや、金居アジト近くで一体何やってるんだ??? 出待ち?

とりあえず一点気になったんですが、

『その事実が、こなたにとって何よりも嬉しかった。
なのはっていう人はよく知らないけど、ユーノの幼なじみでスバルの上司らしい。
それなら、信頼できる。』

こなた側から見てなのはは元の世界の知り合いなので、よく知らないという事は無いのでは? この辺は些細な内容なのでwiki収録時に修正すれば済む話ですが。

484 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/03(水) 13:10:45 ID:qeziA8oA0
ご指摘ありがとうございます
勘違いをして、申し訳ありませんでした。
以後、このようなことがないように気を付けます
収録時に、修正いたします。

485リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 13:41:57 ID:rjSYAKhg0
投下乙です
対主催集合でさあみんな一致団結して……と、簡単にはいかないよな
特にはやてとかがみはもうこれ修復不可能レベル
ここで上手くまとめないとドロドロの展開もあり得るか?
そういやはやては元世界でなのはとフェイトと口喧嘩したところから来たんだっけ
なんの因果なんかねえ

ちょっと気になった点
本文中見るとはやてはリインが自分の世界のリインだと分かっているようですが、状態表見ると違っているみたいですけど状態表の不備でいいんでしょうか
あと
>何も知らないのに、かがみを侮辱したことに怒るなのは。
>何も知らないのに、なのはを侮辱したことに怒るはやて。
前者は「はやてが」でしょうけど、後者は誰がになるのでしょうか

486 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/03(水) 15:46:54 ID:qeziA8oA0
前者の状態表に関しては自分のミスです
以下のように、修正します

 1.なのはと話をして、かがみに引導を渡す。
 2.バクラを警戒、ヴァッシュを乗っ取るか?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キングの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 8.金居は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。

後者の修正
何も知らないのに、はやてがかがみを侮辱したことに怒るなのは。
何も知らないのに、かがみがなのはを侮辱したことに怒るはやて。

487リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 21:33:51 ID:rjSYAKhg0
修正乙です

488リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 21:37:27 ID:rjSYAKhg0
もう本当に終盤なんだな

489リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 21:41:25 ID:rjSYAKhg0
あ、雑談スレに書き込むはずだったのに
まあいいか

490リリカル名無しStrikerS:2010/11/03(水) 23:21:25 ID:rjSYAKhg0
>>483
金居の性格上少し離れた場所で様子を窺っている可能性は大だな
それも今の予約次第か

491 ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:22:10 ID:3dDhRjqw0
金居、キング、アンジール・ヒューレー分投下します。

492Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:26:00 ID:3dDhRjqw0










 ――ふと空を見上げる。そこには変わらぬ満月が彼を照らしていた。





「嫌な月だ――」





 金居はそう呟く。
 昨日と同じ変わらぬ満月――自分達参加者以外には人も動物も虫もいない異常な空間――それはこの場所が作られた空間である事を意味している。
 その場所に放り込まれて一方的に殺し合いをしろと言われて良い気などするわけがないだろう。





 C-9、ジェイル・スカリエッティのアジトより北方数百メートルの位置に金居はいた。
 放送前、プレシア・テスタロッサからの要請でアジトに集結するであろう対主催集団を崩壊させろと指示を受けていた筈の金居はアジトに向かう事無くその場所で待機していた。
 プレシアの指示を無視? 確かに最終的に遵守するつもりはないが、現状で刃向かうメリットなど少ない。では何故か?

 実際の所、アジト周辺に到着したのは放送開始前だった。上空から確認した所アジトには2人の参加者が既に到着していたのが見えた。
 両名とも自身にとって未知の人物であった為、この2人と接触し攪乱もしくは殺害する事を考えてはいた。
 だが、やはり上空から確認した所、ヴァッシュ・ザ・スタンピードと八神はやてがアジトに向かってくるのが見えていた。
 そして、実際に地上に降りた後、アジトに近付こうとしたタイミングではやてとヴァッシュが到着。結果として接触のタイミングを逃してしまった。
 その後、連中に気付かれない様にアジトから離れたという事だ。幸い再会での盛り上がり、及び放送が流れてきた事で周囲への警戒が多少緩んでいたため自分の存在には気付かれていないだろう。
 そして、双方共に確認出来ない場所まで移動し周辺への警戒は怠らず待機していたという事だ。なお、只待っていても意味など無い為砂糖を舐めながらである。

 何故、4人の集団に接触しなかったのか? それは金居自身にとって少々分の悪い賭けだったからだ。
 金居、ヴァッシュ、はやては共に激闘が繰り広げられたホテルアグスタにいたがその場所から先に離脱したのはヴァッシュとはやてだ。金居はジョーカーこと相川始と戦う為その場に残った。
 その後、金居と始は激闘を繰り広げたがそこにエネルとヴィヴィオという金居でも手を焼く強敵が乱入した事で金居は2人をジョーカー、そして始の戦いを見届けるため残ったはやての部下スバル・ナカジマに任せる形でホテルより離脱した。
 金居が戦いに加わる前、始は既にスバル、ヴァッシュ、そして柊かがみと戦っていた。その決着については始が紫髪の少女を倒しヴァッシュとスバルを助ける形で終わった。そしてヴァッシュとスバルは始を仲間として迎えていた。
 始の正体は最強最悪の存在ジョーカー、ギラファクワガタムシの祖であるギラファアンデッドである金居から見ても人類から見ても敵でしかない。だが、事情を知らないヴァッシュ達が理解出来なくても仕方のない話ではある。
 つまり、もしこの場でのこのこ自分が現れた場合、始やスバルを置き去りにした事でヴァッシュやはやてから不要な疑いを掛けられる可能性が高い。少なくても始が封印された事は事実なのでどちらにしても警戒される可能性は高いだろう。
 そもそもホテルを経ったタイミングが遅い筈なのに同じタイミングで現れるというのも違和感を覚えさせる要因だ。

 幾らプレシアの要請とはいえ、金居にとっては不利な要因が大きい。戦いになったところで負けるつもりは無いが、後にキングとの戦いが控えている以上消耗は最小限に抑えたい。
 故に現状は下手に介入せず近くで待機する事が最善と判断したのだ。時が経ち状況が変われば介入するタイミングも見えるだろう。

493Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:26:30 ID:3dDhRjqw0



 とはいえ、ただ無駄に待つ事をプレシアは望まないだろうし金居としてもそうするつもりはない。
 故に金居は先を読み一手仕掛ける事にした。そう、金居の手元にあるガジェットドローン5機を利用するという事だ。
 頭に命令を思い浮かべるだけで実行するそれは金居にとって強力な武器だ。金居は手元の5機にある命令を送り現在位置よりから北方向へ飛ばしたのだ。無論、アジトからは確認出来ないように。

 その命令は『各種施設の探索及び破壊』、『施設に向かった参加者の殺害』である。

 何故、ガジェットをアジトで繰り広げられるであろう戦闘で使わず遠くの施設に飛ばしたのか?
 勿論手元に密かに置いておく事で隙を作るメリットは確かにあった。しかし一方でガジェットを所持しておく事で不要な警戒を招く危険性もある。
 故に全てのガジェットを手元から離す事でその疑いを避けるという手法も有効だという事だ。
 幸いガジェットへの命令は頭で思い浮かべるだけで済む為、集団でいる所でガジェットに自分以外を襲う様にし向けても自分が命令元だと悟られる可能性はさほど高くはない。

 さて、先の命令を送った理由だが、それは対主催集団の次の行動を読んでの事だ。
 アジトに集った参加者は次はどうするのか? おおかた首輪解除に向けて工場等他の施設に向かうだろう。
 また、アジトで戦闘が起こった場合も他の施設へ待避する事も想像に難くない。
 つまり、先手を打つ事で連中の次の手を潰し仕留めるという事だ。対主催の妨害になっているのならば少なくてもプレシアから文句を言われる筋合いは無いだろう。

 北を見ると火の手が上がっているのが見える。どうやら工場が炎上しているのだろう。ガジェット達はちゃんと仕事をしているという事だ。

「これで首輪解除の手段が1つ潰れたな」

494Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:27:10 ID:3dDhRjqw0



 その最中、金居は今後の事を考える。放送からある程度時間が経過した。このタイミングならば連中の前に姿を現しても疑われる可能性は大分低くなる。
 とはいえ絶対とは言い難い、残り人数は自身を含め12人。彼等の情報を今一度纏め直したい所だ。
 まず元々の敵とも言うべきコーカサスビートルアンデッドキング、厳密に言えばここで決着を着ける必然性も無いが奴の性格上自身の目的の障害になる可能性が高い故、戦いは避けられない。
 そもそも最後の1人になるまで戦う事を偽装するならばキングとも戦うという事は当然の理だろうし金居もキングと戦う事については異存はない。
 幸いこの場では時間停止が行えない事は確認済みなので戦いになっても自身が圧倒的に不利という事はないだろう。とはいえ自身と同じカテゴリーKである以上その実力は互角、どういう状況になるにせよ極力自分優位に持っていきたい所だ。
 次に仮面ライダーカブトこと天道総司、ライダーに変身出来ないならば戦力的に問題は無いが変身出来るならば厄介な相手だ。
 また変身出来ない状況でもその能力は侮りがたい。味方だと入り込んだ所で自身の目的を看破される可能性が高いだろう。
 続いてはやて、高町なのは、スバル、ユーノ・スクライア、管理局の4人だ。ユーノに関しては未知の人物だがはやてとなのは辺りに対してはある程度信頼を得てはいるが完全とは言い難い。
 いや、以前仕掛けたカードデッキの仕掛を看破されたならばなのはからも警戒されている可能性も高い。どちらにせよ以前のように味方として接する事が出来るとは言い難いだろう。
 またスバルに対しても彼女が始を信頼していた事などを踏まえ自分を敵と認識している可能性が高いだろう。ジョーカーが危険な存在であってもその脅威を知らない以上それも仕方がない。
 続いてなのはの娘であるヴィヴィオ、ホテルでの戦いでは殺戮マシーン状態だったが、今現在は元の無力な幼女に戻った事を確認済み。故に現状警戒する必要はない。
 次にヴァッシュだ。先の戦いを見た所その実力は確か。同時に人格面でも殺し合いを良しとしない事は明白。自分の事をどう思っているかは不明瞭だが警戒しておくにこした事はない。
 先のホテルで始達が交戦したかがみに対しては特別脅威ではないだろう。ライダーに変身するベルトは既にスバルが取り上げている。ベルトがなければ只の少女、大きな障害にはなり得ない。
 もっともライダーに変身したところで始の変身したカリスに敗れている以上その実力は始以下、どちらにしろ問題はない。
 泉こなた、アンジール・ヒューレーに関しては詳細不明、もしかしたらアジトで待っていた人物かもしれないがそうでない可能性もあるため言及は避けよう。

 勿論、金居自身アンデッドや仮面ライダーはともかく人間程度に負けるとは思ってはいない。
 しかし前にギンガ・ナカジマ及び始と戦った時、武蔵坊弁慶が盾にならなければ自分が敗れていた状況であった事を踏まえるならば人間を侮りすぎる事は愚行と言える。
 そもそもエネルやアーカード、先のヴィヴィオと言った自身の戦闘能力を凌駕する連中が数多くいる事は認めたくはないが事実だ。どの相手に対しても油断せずにゆくべきだろう。
 とはいえどんな強敵であっても倒す事が可能なのはこれまでの戦いが証明している。故にそれについては絶望していない。だが、それはこちらも同じ事、いかにアンデッドといえども倒される可能性を決して忘れてはならない。

495Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:28:00 ID:3dDhRjqw0



 一方で金居自身ある事が引っかかっていた。それは先の放送が定時より10分遅れだった事だ。金居にとってこれは重要な事である。
 金居視点から見た場合、10分遅れた理由は放送前に自身との接触があり、自身が無事にプレシアの言葉に従い倉庫の中身を確保しアジトに向かうかどうかを確かめていたからと説明する事は可能だ。
 しかし、今回に限っては説明出来てしまっては正直まずい。要するに10分遅れてしまったら、暗に何かあったのではと思案される危険がある。
 つまり、遅れたのは『何か仕掛をしていた=金居と接触していた』と悟られる可能性があるという事だ。
 わかりきった事だが金居としてはこれは非常に困る話だ。散々人に参加者殺せと言っておきながらその足を引っ張るのは如何なものか。
 別にサポートしてくれとは言わないがせめて足を引っ張らないで欲しいと思う。
 勿論、これ自体がプレシアが参加者を攪乱させる為だけという話も無いではないが、警戒される以上自分としては良い迷惑である。真意が何であれ自分に不利益な解釈をされかねない事は避けてもらいたかった。

「定時に出来ないのなら前の放送の様に誰かに変わってもらえば良かっただろうが……」

 そう毒突く金居であったが、実際3回目の放送の様にオットーにやらせれば何の問題もない話なのは確か。自分との接触で遅れたのならば正直笑えない話である。

 だが、プレシアもそこまで愚者だとは思えない。もしかすると自身との接触の段階では問題は無かったがその直後に何かあったという可能性は否定出来ない。
 いや、それならそれでひとまずオットー辺りに定時に行わせプレシア自身は事態の鎮圧に向かえば良い。それでもどうにもならなければ10分遅れた事について簡単で良いからフォローを入れればある程度違和感は拭える筈だ。
 それをせずに単純に10分遅れただけで何の変哲も無い放送をしたとなると、漠然と放送を聞くだけの何も考えない参加者はともかく知略に秀でた者達は容易にその異常さに気付くだろう。
 考えられる事としてはオットーに放送を任せられない事態が発生したという可能性。つまり、主催側の内乱である。
 だが、こういう解釈が出来るとなるとその内乱でプレシア自身にも何かが起こり――最悪退場した可能性もある。
 そしてプレシアがいかにも健在であるかの様に見せる為、放送はプレシアに扮した者が行うという話だ。金居自身の世界に人間に擬態するワームの存在がある以上そういう可能性があっても不思議ではないだろう。


 だが――


「――何にしても現状すべき事に変わりはない」

 結局の所、主催側で何かが起こったとしてもそれは想像の域を出ない。確定的な証拠が出ない以上断定は避けるべきだ。
 それに仮に何かが起こっていたとしても自分優位な状況を作り出すため今後も当面は参加者同士を潰し合わせる方針に変わりはない。
 そもそも主催側の事情がどうあれキングは何れ倒す敵である事に変わりはないし、参加者の中には障害となるものもいる。故に、

「あんたの望む通りに戦ってやる。もっとも俺なりのやり方ではあるがな――」

 プレシアに聞こえる様にそう呟いた――

496Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:29:20 ID:3dDhRjqw0



 そんな中、1体のガジェットが金居の所に戻ってきた。前述の金居の指示に従うならば戻ってくる理由は――

「……ほう」
 ガジェットが持ってきたのは3つの道具だ。一見すると全て無用の長物に見える。しかし金居の目を惹くものがそこには確かにあった。
「まさかクラブのKが手に入るとはな」
 その内の1つがアンデッドが封印されているラウズカード、それも金居やキング同様カテゴリーKのカードだ。
 もっとも、金居が手に入れた所で別段使えるものではない。しかし自身の世界のものである以上捨て置く理由はない。故に金居はそれをデイパックに仕舞う。
「後の2つは……よくわからんな」
 残りは宝石の様な球体と何かの首飾りだった。
 使い道がわからない為、今の金居にとって有用な道具ではないが他の者にとってはそうとは言えない。
 故に下手に利用されるのを避けるため自分の手元に置いておく分には問題はないだろう。そうかさばるものではないというのも理由にある。
 そして用事を済ませたガジェットは再び金居の指示に従い北へ向かった。
「しかし、一体何処で手に入れたんだ? まぁどうでもいい話だがな」



 金居自身知る由は無いが3つの道具はある場所から回収されたものだ。
 それらは聖王のゆりかご玉座の間にあった。ガジェット達は北上しループを越えてゆりかごに辿り着いた。そしてその玉座の間にあった道具の中で使えると判断したものを回収したのだ。
 これまでの話を読んだ方の中には玉座の間には他にも道具があったのではと疑問に思う者も数多いだろう。しかし結論を言えば他に使える道具を見つける事は出来なかった。
 何故か? そもそも玉座の間には3人の参加者ルーテシア・アルピーノ、キャロ・ル・ルシエ、フェイト・T・ハラオウンが所持していた道具があった。
 だが、その後ヴィヴィオがキャロの遺体を完膚無きまでに破壊した際に力任せに攻撃を繰り返した。エネルにも匹敵する力を無尽蔵に加えればどうなるだろうか?
 その結末など考えるまでもない。その周囲にも破壊が及ぶのは当然の理。結論を言えば、そこに置かれていた道具の殆どは完膚無きまでに破壊された。
 破壊を免れたのは惨劇の場から離れていた首飾り型のスバルのデバイスマッハキャリバー、破壊される事の無いラウズカード、本当に幸運にも被害を避ける事の出来た球体かいふくのマテリアぐらいだった。
 余談だがフェイトの道具に関してはフェイトが事切れる前フェイトの手から離れていた。そのためフェイトの遺体自体は攻撃から免れたが道具に関しては破壊に巻き込まれている。なお、フェイトの遺体はその後ヴィヴィオによって何処かへ移送されている。

 なお、マテリアにしてもマッハキャリバーにしても金居にとって未知のものである以上使用は不可能。当然だがマテリアの説明書きは攻撃に巻き込まれ消失している。
 マッハキャリバーについてはマッハキャリバー自身がガジェット及び金居を敵と判断したため一切の応答を断っていた。
 ルーテシアに利用されて持ち主のスバルを危険に巻き込んでしまった事もあり、もう二度と敵に利用されるつもりはなかった。利用されるぐらいならば壊された方がずっとマシだと考えている。
 幸い金居は自身を知らない為、現状は何の変哲もない首飾りと思われている。それで十分だとマッハキャリバーは思考していた。

497Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:30:00 ID:3dDhRjqw0





「さて、そろそろ動こうか――」
 腹ごしらえも済みアジトへ向けて歩を進めようとした矢先、一発の銃声が響いた。無論方向はアジト方面である。
「どうやら俺が手を下すまでもなく争ってくれているようだな」
 このタイミングならば内部に入り込み集団を瓦解させる事も襲撃して一網打尽する事も可能ではある。
 しかし油断してはいけない、内部分裂の状況だからこそ襲撃を警戒する者もいるだろう。





「どうしたものか――選択肢は数多い――いや、俺が選ぶ道は1つか――」





【2日目 深夜】
【現在地 C-7密林】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、L、ザフィーラ、エネルのデイパック(道具①・②・③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに向かい、そこに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。

【全体の備考】
※ガジェットドローンⅣ型×5@魔法少女リリカルなのはStrikerSがアジトより北にある各種施設に向かいました。以下の命令を受けています。
 ・各種施設の探索及び破壊、確保した道具は金居の所へ持ち帰る。
 ・施設に向かった参加者の殺害。
※工場がガジェットにより破壊されています。
※ゆりかご玉座の間に残っていた道具の殆どが使用不能になるまで破壊されています。もしかしたら何か使える物が残っているかもしれません。

498Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:30:30 ID:3dDhRjqw0










 ――ふと空を見上げる。そこには変わらぬ満月が彼等を照らしていた。





「ふっ、良い月だ」





 キングはそう呟く。
「何か言ったか?」
「いや、別に」
 アンジール・ヒューレーの問いかけをそう返したキングの心中は高揚していた。
 月光はゲームの支配者である自分だけを照らしている。一方的に放り込まれ殺し合えと言われた時は良い気はしなかったが実際はどうだろうか?
 ゲームは幾つかの不測の事態があったものの概ね自分の思う通りに進んでいる。天も地も、そして全ての者達が自分の玩具であった。
 月明かりは自分を祝福してくれると思えば良い気もするだろう。





 E-9にある森林に2人はいた。D-2のスーパー跡地にいたはずの2人が何故ここにいるのか? そこで、少し時間を遡りつつ振り返っていこう。

 そもそも2人はあの後逃走した天道となのはの追跡をしていた。逃走した方向に関しては戦闘時の立ち位置等からある程度予測出来た。その方向は西方向、故に2人はまず西へと向かった。
 市街地の闇に消えた可能性も無いではなかったが敢えてその裏をかき、逆方向の平野へ向かった説もあるとキングは判断していた。
 アンジールはそうではないが、キングにとってはここで2人を見失っても別段問題はない。只の戯れの1つ程度にしか思っていなかった。

 結論から言えば2人を見つける事は出来なかったがその代わりにD-1に血痕をそれも比較的新しいものを見つけた。
「ふむ……」
「そんなものどうでも良いだろう、何もないなら市街地に戻るぞ」
「いや、そうでもないさ。何故こんな所に血痕が出来る?」
「ここで戦いが起こったからだろう?」
「アンジール、君はわざわざフィールドの端で戦ったりするか?」
「……そういう事か」
 普通に考え参加者は人のいる市街地へ向かい当然戦いもそこで起こる。殺すにしろ組むにしろ参加者の足取りは端から中央、もしくは施設に向くのは当然の事だ。
 だが、D-1はエリアの端にあり同時に周囲に施設はない。好き好んでここで戦いを起こす理由は皆無だ。しかもこの場所はD-1においても西側、ますますこの場所で戦う必然性に欠けるだろう。
「……試してみるか」
 キングは更に西方向に足を進める。アンジールは何を考えているんだと思いつつ着いていくが――突然キングの姿が消えた。
「何?」
 アンジールは慌てて追いかけた。そして気が付いたら景色が森に変わっていた。
「なるほど。プレシアの奴も面白い仕掛しやがって」
 と、ゼロを演じる事も忘れ素の姿をキングはさらけ出していた。
「どういうことだ?」
「何、大したことじゃない。フィールドの端と端は繋がっているというだけの話だ」
 一連の事から端と端は繋がっていてループするという事実に気が付いた。先の血痕の主もループしD-9へとワープしたのだろう。と、
「キング……お前主催者側の人間だったな、知らなかったのか?」
「私とてプレシアから全てを聞かされているわけじゃないさ。逃がさない仕掛をしているとは聞いていたがまさかループとは予想外だったという事さ」
「それでこれからどうする? 俺にとってはループなどどうでも良いんだが……」
「そうだな……状況から考えて2人もループを使って逃げた可能性が高い……」
 キングは地図を見ながら
「よし、ホテルへ向かおうか。恐らくそこで参加者を集めているのだろう」
 と、南方向へと足を進めていく。アンジールも後方のアジトを気に掛けながらもキングの後を着いていった。





「ところで――先程君は私をキングと呼んでいたが、私は君に名乗っていたかね?」
「……さっきの戦いで天道達がお前をそう呼んでいただろう。それを聞いただけだ」
「そういえばそうだったな。正直この姿の時はゼロとでも呼んで欲しいが……まぁいい」

499Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:31:00 ID:3dDhRjqw0





 その後、2人はF-9に辿り着いたがそこは崩壊したホテルと1人の半裸の男の死体しか残っていなかった。真面目な話半裸の男の死体など2人にとっては意味は無く、得る物も無い為早々にこの場から離れようとしたが、

「……あれは?」
 キングは地面に何かを見つけその場所に向かった。そして
「これジョーカーのカードじゃん、何でこんな所に?」
 とまたしてもゼロを演じるのを忘れカードを拾い上げる。それはハートのAのラウズカードだ。
「キン……ゼロ、そのカードがどうかしたのか?」
「いや、別に君に関係の無い事だ」
「それと同じようなカードなら向こうにもあるぞ」
 と、少し離れた場所にも別のラウズカードが落ちているのが見える。
 それらの位置から考え起こった事はある程度推測出来た。ホテルでジョーカーこと始は戦い激闘の末に封印された。その後、カードだけが風などで飛ばされて散っていったという事だ。
「アンジール、他にもカードが落ちているだろう。捜すぞ」
「ちょっと待て、こんなカードなどどうでも良いだろうが。何故……」
「おや、君は私に逆らえる立場だったかな? まぁ君が捜したくないというのなら別段構わ……」
「くっ……わかったそのカードを捜せば良いんだな?」
 キングにとってラウズカードはある種最高の玩具、故にキングはそれを集めようとしていた。アンジールは渋々それに付き合いカード探索をした。





 そして、キングの手元にはハートのA、3〜10、9枚のラウズカードが集った。
「ふむ、ジョーカーとハートの2が無いのは些か妙だな……先に拾われたか?」
 こうしてカード探しをしている内にE-9まで戻ったという事だ。どうやら風が北方向に吹いていたためカードも北方向に散らばりそれらを拾っていく内に北へ進んだという事だ。
「ゼロ、そういえばさっきからバックの中で何かが騒いでいるが何かあったのか?」
「ん? ああ、こいつか。只の人質だよ、連中を従わせる為のね」
 なのはから奪ったフリードリヒはキングを警戒、いやむしろ嫌悪していた。キングのした事を踏まえるならばそれも当然の事である。
 故に度々フリードは暴れだそうとしていたがデイパックに押し込まれていたが故に何も出来なかったのだ。
「人質程度で連中がお前に従うとは思えないが?」
「だが少なくとも私に刃向かう事は無いだろう」
「不意を突かれ奪還されるかも知れないだろうがな」
 そう口にするアンジールの言葉を聞いてキングも少し考える。
 確かに先の戦闘でカブトは自分から2つのデイパックを奪取している。2度も同じ事をされるとは思わないが警戒しておいて損はない。
「そうだな……ならコレは君が持っていたまえ」
 と、フリードの入ったデイパックをアンジールに渡した。
「良いのか?」
「構わないさ、他にこれといった物は何もない」
「俺がコイツを殺すとは考えないのか?」
「ソレは参加者じゃない。殺した所で君にメリットは皆無だ。それに私の意に背いて殺したり逃がしたりなど君に出来るのか?」
「……もっともだな」
「もし私に何かがあればその時は……」
 キングが追いつめられた時、アンジールがフリードに刃を突き付け連中を抑制しろ……その指示をアンジールは無言で頷いた。
 連中もフリードをアンジールに渡しているとは思うまい。優位に立ったと思った所で絶望させる……そう考えキングは仮面の下で笑みを浮かべていた。
 真面目な話、渡した理由の中にはデイパックの中で騒ぐフリードが正直疎ましく感じていたからというのもあった。

 その最中、キングは地図を確認し次の目的地をスカリエッティのアジトに定めていた。恐らくホテルでの戦いを終えた者達はそこに向かっていると判断した。
「喜べアンジール、ようやく君の望む通り戦えるだろう」
 強敵とも言うべきジョーカーもエネルももう退場済み、仮面ライダーであろうとも自分を倒す事は不可能。いざとなればフリードを人質にすればよい。
 放送が10分遅れた事もキングにとってはどうでも良い話、主催側で何が起こっていようが自分はやりたい様にやるだけだ。
 このゲームの支配者はプレシアではなく自分――そう考えキングは足を進めていた。

500Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:31:30 ID:3dDhRjqw0







「(――全く、何をやっているんだろうな俺は……なぁセフィロス……)」
 キングの後方でアンジールは空を見上げていた。
 妹達を守る為に戦い続けたが結局何も守れず、生き返らせる為に戦おうとしても結局は主催関係者と語るゼロの手駒と化す状況、
「(これでは道化人形としか言いようがないな……)」
 これまでずっと守る為に走り続けたアンジールにとってキングの指示に只従うという状況は結果として落ち着いて考える時間を与えてくれた。

 結論から言えばアンジール自身、キングの言葉については疑心を抱いている。そう、キングがプレシアの手先であるという部分について嘘の可能性を疑っているという事だ。
 前述の通りキングの名前を知っていた事に関しては斬りかかる直前天道及びなのはの口からキングの名前が出てきた事が耳に入ったからだ。それに対してキングが何と応えていたかまでは聞き取れてはいなかったが。
 勿論、それだけでゼロがキングという名前だと判断出来るとは言い難い。しかし、少し時間が経過し考えている内にある事を思い出したのだ。
 それはデパートのパソコンに残っていたメールのログ。そこにはキングに警戒しろという情報があった。その時点では特に気にしていなかったがそれを思い出した事を切欠にキングの存在とゼロを結びつける事が出来たのだ。

 勿論、これだけならばキングが警戒すべき存在でしかない。だが、どうにもキングの言動を見る限り本当に主催者側の人間として働いている様な感じがしない。
 突然口調が変わった事と言い、追跡すると言っておきながらカード集めに走った事といい、どうにも納得がいかない。悪く言えば遊んでいるとしか思えないという事だ。
 しまいには主催側の人間といっておきながらループの事を知らなかったのも気になる。
 そう、主催者側の人間という話自体が自分との戦いを避け同時に手駒にする為の口からでまかせという可能性に気付いたのだ。主催者側の人間でないならば従う通りは全く無い。
 自分について妙に詳しかったのは別のカラクリがあったとすれば説明が付く。
 それこそ当初考えた様にセフィロス辺りが自分の情報を売ったという説もあるし、自分がメールで情報を得たのと同様に何処かの施設で情報を得たという説もある。確かメールには施設を調べろという事も書かれていた筈なので情報を得られる可能性はある。

501Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:32:00 ID:3dDhRjqw0

 勿論、本当に主催者側の可能性もあるが仮にそうだとしても許せる存在ではない。
 そもそもの話、クアットロを殺したのはキングではないのか? 仮に主催者側の人間であったとしても直接の下手人を許せる道理はない。
 また、根本的な部分で引っかかる事がある。オットーが放送を行った件についてだ。勿論、これ自体はオットー達も主催者側にいるという事で説明が出来るだろう。
 だが、一方でクアットロ達が参加者側にいる事が気になる。オットー達がいるならクアットロ達も主催者側の人間でなければおかしいだろう。
 ではクアットロ達も主催者側の人間で参加者を攪乱するために送り込まれていたのか? いや、一度クアットロと接触した限りクアットロは自分を覚えていなかったしそういう役割を与えられていたという素振りも見せなかった。
 勿論、記憶を操作した上でそういう役割を与えたという説もあるだろう。だが仮にそうだとするならばなおの事キングを許す事は出来ない。
 キングは参加者の情報を与えられている一方、クアットロ達は記憶封鎖されている。何故こうも扱いに差があるのだ? キングや主催側に怒りを覚えずにはいられない。
 そして最終的にはクアットロ達を斬り捨てた――オットー達もきっと主催者側に命を握られているのだろう。決して主催者達を許す事は出来ない。

 だが現状では主催者の望み通り彼等に従い優勝を目指し妹達を助けるしか選択肢はない。それが真実という保証も無いが嘘だという確証も無い。故に今は従うしかないのだ。
 同時にキングに対しても現状は従うしかない。キングに疑心があるとはいえこれまた確たる証拠が無い。もし本当に主催者側の人物だったら彼の機嫌を損ねれば最悪優勝しても願いは叶わない。
 自分が状況に流されるだけの道化人形だという事は理解している。それでも願い事を叶えたいという想いだけは誰にも否定させやしない。



「(笑えよ――セフィロス――)」



 友が今の自分を見てどう思っているかはわからない。妹達を守るために奴の大切な者――八神はやてを殺しておきながら結局何も守れなかった。
 今の自分の姿はさぞかし滑稽に映っているだろう。





 自虐はそこで終える。何にせよ目的地はある意味本拠地とも言うべきスカリエッティのアジト。全ての決着を着けるという意味ではある意味相応しい場所だ。

「(キング、今はお前に従ってやる。だが、クアットロを殺したお前を許すつもりはない――何れ落とし前だけは着けさせてもらう――
 プレシア達もだ――妹達をこの殺し合いに巻き込んで只で済むと思うな――)」

 敵意だけは決して消すことなく、道化へと堕ちてもなお兄としての僅かなプライドを残して戦士は行く――

502Round ZERO 〜MOONLIT BEATLES ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:32:30 ID:3dDhRjqw0





「そうだ――俺が選ぶ選択肢は――1つだ――」
「何か言ったか?」
「いや、別に」





【2日目 深夜】
【現在地 E-9】
【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.アジトに向かう。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(小)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングと主催陣に対する怒り
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.キングと共に、参加者を殺す。
 2.参加者の殲滅。
 3.ヴァッシュのことが、微かに気がかり。(殺すことには、変わりない)
 4.キングが主催者側の人間で無かった事が断定出来た場合、キングを殺す。
 5.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。
※キングが主催側の人間という事について疑いを持っています。





 月明かりに照らされながら終末の光へと誘われるかの様に虫の王達は一点へと集う――





 それは偶然か? それとも必然か?





 何れにせよ運命の決着は近い――





 決めてとなる切札は王の手にあるのか――





 あるいは――

503 ◆7pf62HiyTE:2010/11/07(日) 17:36:30 ID:3dDhRjqw0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。 容量としては29KBなので分割無しで収録可能だと思います。
今回のサブタイトルの元ネタは過去何度も使われているのでご承知の事と思いますが『仮面ライダー剣』OP『Round ZERO 〜 BLADE BRAVE』です。
ちなみに後半部分の『MOONLIT BEATLES』については一応『GALAXY ANGEL Moonlit Lovers』(ギャラクシーエンジェルのゲーム第2作)から取りました。
決して、伝説のバンド名から取ったわけではありません、結果的にそうなっただけです。(意味合いとしては『月光に照らされた甲虫達(カブトムシやクワガタムシ等)』)

ぶっちゃけ金居サイドは別段今回の話必要無いと思うけど、アジトパートで色々やっている間棒立ちというのもおかしいのでワンクッション入れさせてもらいました。
キングサイドは……真面目な話、こうでもしなきゃ他の参加者と絡む可能性低いと思った。
さぁ、アンデッド無双が始まるか?

504リリカル名無しStrikerS:2010/11/07(日) 23:43:50 ID:yVsqUiYE0
投下乙です
続々とアジトに集結する参加者たち
もう何があってもおかしくないなw
そして着々とアンジールに離反フラグが…でもクアットロの遺言あるからどうなんだろう…
できればこのまま最後の一人を目指してほしいな

505リリカル名無しStrikerS:2010/11/08(月) 19:13:11 ID:K6KlF1KQO
投下乙です
アジトでの最終戦へと着々と進んで行ってるな
4つのカテゴリーキングとジョーカーも集まってるし、14フラグも?
さあ、一体どんな乱闘が起こるのか…

506リリカル名無しStrikerS:2010/11/09(火) 11:02:57 ID:wNMi3NgA0
投下乙です
金居にキング、アンジールも着実にアジトへ向かうか
キングはボロが出かけてるが、これは何気にアンジールの離反フラグ?
そういえばこのロワって未だに金居とキングの邂逅は無かったんだな……
そろそろ二人のカテゴリーキングが出会ってしまうが、やっぱり戦闘になるかな?
てかキングは全て破滅させるのが行動理念の筈がいつの間にかちゃっかり殺し合いにのっちゃってる気が……w

507 ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:23:51 ID:VDYaY.Gc0
天道、ヴァッシュ、ユーノ、なのは、はやて、スバル、ヴィヴィオ、こなた、かがみ、金居、キング、アンジール・ヒューレー
で投下します

508Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:25:34 ID:VDYaY.Gc0

「はやてちゃん……」
「なんで分かってくれへんのや……」
「なのはもはやても落ち着いてくれ!」
「お前たち、今の状況を考えろ!」
「二人とも冷静になって!」
「私は……」
「なのはさん……八神部隊長……」
「…………ぅ…………ぅ」
「かがみん……」
「あ、そ、そんなつもりじゃ……」
「おい、お前も落ち着け!」

風変わりな青系統の着物を身にまとった魔導師が説得を試み――。
茶色の陸士制服の胸元を真っ赤な血で染めた魔導師が主張して――。
深緑のスーツを着こなす司書長が場を静めようとして――。
ジャケットとジーンズという格好の天の道を往き総てを司る男が咎め――。
真紅のコートに身を包んだガンマンが仲裁を図ろうとして――。
薄汚れた下着の上に着物の上着という露わな姿を晒す女子高生は怯え――。
白きバリアジャケットを展開する魔導師は苦悶して――。
薄紫の大きな帽子と橙色の大きなリボンで着飾った幼き子は未だ眠り続け――。
水色と白のセーラー服とスカートを着用した女子高生は悩み――。
烈火と蒼天の二人の融合騎は急転する状況に混乱を隠せず。

(おいおい、なんだこれは……)

今の状況を一言で表すなら『混沌』、そんな言葉が相応しいとバクラは一人で思いを巡らせていた。
デスゲームの会場の北東部、鬱蒼と木々が茂った森の中に隠れるように建設されたスカリエッティのアジト。
その入り口付近に集った参加者は延べ9名+精霊みたいなやつ2名+バクラ。
総勢60人もいたデスゲームの参加者も24時間の間に全体の8割にも及ぶ48人が脱落して、残りは僅かに12人。
つまり実に生き残った参加者の4分の3がアジト前に集結している事になる。
しかも9名とも一応全員今のところは積極的に殺し合いをして優勝を目指すつもりではないらしい。
だが優勝するつもりがないからと言って、皆で一致団結してプレシアを打倒しようという流れにならないのは、悲しいかな人の性か。
人が集まれば集まるほど力は結束して強まる場合もあるが、その反面僅かな諍いからせっかく結集した力が崩壊する場合もある。
それが集団というものの宿命であり、どうやら今は後者の場合になりかけているらしい。

最大の焦点はバクラの元宿主でもある柊かがみへの処分についてだ。

だが実のところ大半の参加者はそれぞれ程度の差はあれど改心したかがみを信じて許す方向に傾いている。
それに対してはやてだけが強硬に禍根を断つべき、つまりここで始末するべきだと主張していた。
一応リインフォースⅡもはやての意見に同調する様子を見せているが、それでも一見すると大勢は明らかに思える。
しかしはやての主張にも納得できる部分があるために、誰もがはやての意見を頭から抑える事が出来ないでいた。
さらに危険人物のキングやアンジール、不審な行動が目に付く金居といった参加者が今もどこかで暗躍しているのかもしれない。
このままでは早々に事態の解決を図らないと最悪全滅の可能性も出てくる。
一方ではやてはここでかがみを始末しないと後々必ずや災いとなると確信しているので、何がなんでもかがみを殺そうと必死だった。
それゆえに誰も彼もが不安と焦りを知らず知らずのうちに胸の内に抱えていた。

だがそれこそバクラの望むところだ。

(ヒャハハハハハァ、元宿主様は良い仕事してくれるねぇ。なるほど、この状況なら……)

ヴァッシュの首にかけられた千年リングの中で盗賊王の魂は盗賊らしく盗みの準備に取り掛かろうとしていた。

509Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:26:26 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(どちらも強情だな。しかしここで上手く収まったところで前途多難だな)

天道はこの状況が収集した後に待ち受ける事態に危惧を抱いていた。
未だにこの会場を闊歩している危険人物キングとアンジール、そして裏で何を考えているか分からない金居。
そのうちアンジールはまだ説得の余地がありそうだが、ここで大きな問題がある。
アンジールがいた世界ではナンバーズはアンジールにとって妹のような存在であったらしい。
そのナンバーズ達が殺された事でアンジールが修羅に落ちた事は容易に想像がつく。
だがよりにもよってかがみはそのナンバーズの一人であるチンクを殺している。
もしアンジールに仲間になるよう説得するとなると、この事実を隠し通すか打ち明けるか悩みどころだ。

(だが、まずはこの二人をどうにかする方が先決か)

510Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:27:51 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(やっぱり、あの時はやてはかがみに……)

二人の間に割って入りつつヴァッシュは少し前の出来事を思い出していた。
それははやてがかがみと二人っきりで話したいと言って森の中に入っていった時。
今までの話からするとはやてがかがみを殺そうとしているのは疑う余地もない。
おそらくあの時も自分が見ていないところではやてはかがみを殺そうとして逃げられたのだろう。
つまり本当ならかがみはあの時はやてに殺されていたかもしれないのだ。

(俺は何をやっていたんだ……フェイトの時も、新庄君の時も、何度同じ過ちを繰り返すんだ……)

それは悔恨。
自分の知らないところで起きた凶行、だがもしかしたら止められたかもしれない惨劇。
それは確実にヴァッシュを苛む小さな要因になっていた。

511Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:30:08 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(はのはとはやてのこんな光景を見るなんて……くそっ、デスゲームめ……)

ユーノもまたなのはとはやてを仲裁しようとしている一人だった。
実はその気になれば天道やヴァッシュと違ってユーノは得意のバインドを使って二人の動きを封じる事もできた。
だがユーノはある理由からその手段の行使を躊躇っていた。
その理由は数時間前に同じような場面でバインド使って失敗したからだ。
相手は元一般人で白夜天の主として覚醒した天上院明日香。
ユーノは明日香をいきなりバインドで捕獲してしまったせいで明日香を修羅に落とした経緯があった。
もちろんバインドを使ったのは止むを得ない事情があったからだが、明日香にその意図は伝わらないまま別れてしまった。
そしてユーノの知らないところで明日香は死んでいった。
だから同じような過ちを繰り返さないためにも強硬手段に打って出るのは極力避けたかった。

だがユーノは知らなかった。
その明日香を殺した張本人が目の前にいるはやてである事に。

512Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:32:13 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(なんでこんな事に……)

スバルは今の状況を見ているしかできなかった。
初めて見る隊長同士が本気でいがみ合う場面に気圧されたのかもしれない。
だが理由はそれだけではない。
なのはとはやての諍いの他にも、背中で回復中のヴィヴィオ、かがみを責めるような発言をしたリイン。
複数の問題が同時に発生してスバルは正直軽くパニックだった。
本来なら頼りになるはずの上官であるリインは自分で自分の身体を強く抱きしめてガクガク震えている。
先程のかがみへの非難に対して激しく自己嫌悪に陥っているのは目に見えて明らかだ。

(それにこなたも……)

ふと横目で見たこなたの表情は相変わらず暗いままだった。
それも当然だ。
待ちに待った親友との再会がこのような形になったのだ。
その心中に渦巻く感情の複雑さは容易には計り知れない。

(ルルーシュ、あたしどうしたらいいんだろう)

なんとなく先程デイパックから出して左手の薬指に嵌めたお守り代わりのエメラルドの指輪に視線を向けてみた。
そうする事で少し不安が和らぐような気がしたから。
スバルの切なる願いに答えたのか一瞬指輪が光ったように見えた。

513Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:34:36 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(そ、そんな、そんなつもりじゃなかったのに……)

祝福の風を運ぶはずの融合騎リインフォースⅡは先程の自らの発言に激しく後悔していた。
いくらシグナムやエリオを殺した張本人だからとはいえ、かがみを悪しざまに非難するような言葉を言うなんて最低だ。
しかもこなたやスバルの目の前で何の配慮もなしに吐露するなど、普段のリインからは想像しがたい行動だった。
だが殺し合いという環境は本来無邪気であったリインの精神を蝕むのに十分すぎるものだった。
次々と死んでいく仲間、何もできない自分の無力さ、そして突然対面した仲間殺しの犯人。
まだ幼いリインが冷静に対処するには酷な状況というものだ。

だがリインとて管理局に身を投じる一員だ。
自らの発言をなかった事にするなど出来ない事ぐらい分かっている。
だからこそ自らの非を認めて、その上で相手に誠意を込めて謝る事を優先しなければいけない。

そのはずなのだが。

(でも、本当にかがみは許してもいいんでしょうか?)

まだ幼いリインにとって理性よりも感情が行動に与える影響は大きい。
だからこそ思い悩むのだ。
本当にかがみは許されるべき存在なのか。
確かにはやてや守護騎士のみんなは闇の書事件の罪を償った。
だがあの時は守護騎士たちが誰も殺す気はなかった事もあって、誰一人として死者は出なかった。
しかし今回は明確な殺意を持って殺人を繰り返した上での改心だ。
果たしてそのような人物でも罪を償えるものなのか。
まだ人生経験の浅いリインには俄かには判断が付かない難問だった。

(はやてちゃん……はやてちゃん……! リインは、リインはどうしたいいんですか……!)

ふと項垂れていた頭を上げて激しく主張を繰り返す主の方に顔を向けた。
何か少しでも不安を取り除きたかったから。


そして光が見えた。


その光は次の瞬間にはリインの目の前まで迫っていて――。

(え、なん、で……す…………か――)

――気付いた時にはもうリインの胴体は光に喰われていた。

何も分からなかった。
何も理解できなかった。

そしてリインは驚愕と苦悶に満ちた表情と共に消えていった。

514Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:36:57 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


それはあまりに唐突な出来事だった。
それは誰も気づかないうちに終わっていた。
それは静かに一瞬で奪っていった。
それは光、誰にも阻まれる事なく全てを持っていく光。

その光が皆の前から奪っていったもの――それは幼き祝福の風、リインフォースⅡの命だった。

蒼天の融合騎は最期まで自身の身に降りかかった悲劇を理解できないまま死んでいった。

そしてこの場に残された者達も皆一様に突然の凶事に理解が追い付いていなかった。

驚愕と苦悶に満ちたリインの生首が地面に落下して光の粒子となって消えた時と同時に、皆ようやく何が起こったのか理解できた。

「い、いやああああああああああ!!!!!!!!!!」

最初に反応したのはリインのマイスターであるはやてだった。
もちろん慟哭という形で。
数秒前まで言い争っていたなのはも、あれほど殺そうと躍起になっていたかがみも放り出して、リインが消えたであろう場所にしゃがみ込んで泣き叫ぶ姿はさっきまでの姿とは打って変わって痛々しかった。
そのあまりに鬼気迫る様子にリインの傍にいたスバルやこなたは自然とその場から離れていた。

そして、残りの全員も事態を把握すると当然の疑問が湧き上がった――つまり誰がリインを殺したのか。
しかしこれはすぐに分かった。
なぜなら下手人は右手の凶器を構えたまま棒立ちになっていたからだ。


真紅のコートに身を包んだヴァッシュ・ザ・スタンピードは右腕を水平に構えたまま呆然とした表情を浮かべていた。


だがすぐに我に帰ると、すぐさまはやての元に駆け寄ろうとした。

「はやて――」

そこで皆の耳に静かにある単語が飛び込んできた。

「……憑神刀(マハ)」

その単語の意味を悟った時には、もうすでに真紅の旋風が迫っていた。

515Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:39:31 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


“憑神刀(マハ)”。

異世界よりも持ち込まれた巫器(アバター)はこれまでも幾度となく参加者に大いなる被害をもたらしてきた。
その性質上その時の所有者の心の喪失に対する強靭な意志を糧に。
一度目はシグナムを失ったはやて(小)によって。
二度目ははやて(小)を失ったセフィロスによって。
三度目は家族を失ったはやて(大)によって。

だがこの3人の中ではやて(大)だけは少々事情が違った。

それは他の二人とは違って失ったものが戻ってくる可能性がある点だ。
一度目と二度目の場合、シグナムははやて(小)の目の前で、はやて(小)はセフィロスの目の前で死んでいった。
それに対して三度目の場合、はやて(大)の家族は元の世界で存命中だ。
ただしゴジラを封印するために再会が限りなく困難という意味で失った事に変わりはない。

だからはやては当初からこの会場にいる家族は全て偽者であると断じて、時として非情な対応もしてきた。
だがリインフォースⅡだけは別だ。
リインだけは唯一はやての下に残された家族であり、リインだけがこの会場内で正真正銘の家族であった。
その家族が殺された。
これは憑神刀(マハ)を手にした時の喪失を遥かに上回るものだった。
さらに人が身体を保護するために無意識にかけているリミッターを半ば外してまで魔力を注ぎ込んだ一撃だ。
それゆえにはやての今回の『妖艶なる紅旋風』の威力は半端なものではなかった。

案の定周囲にいた参加者は全員方々に吹き飛ばされてしまった。

まずなのは・ユーノ・スバルといった魔導師達はさすがと言うべきか反射的に防御魔法を展開できていた。
だがその直前ヴァッシュの凶行に気を取られていた3人の対応には一瞬の遅れが生じざるをえなかった。
しかも背後にいたこなた達のような力のない参加者を守ろうと効果範囲を広げた事で逆に耐久力が落ちた事も一因だった。
それゆえに不十分な状態で展開されたなのは達3人のプロテクションは直撃こそ防いだが、威力を完全に相殺する事は出来なかった。
はやてなら自分の身を優先してこなた達を切り捨てる選択をしたが、なのは達がその選択肢を取るはずがなかった。

次にこなたとかがみは後ろの方にいたおかげでなのは達の思惑通りプロテクションの効果範囲に入っていた。
スバルに背負われていたヴィヴィオは言わずもがなだ。
しかもここでこなたは密かにバスターブレイダーを召喚していた。
だが単純な強さならもう一枚のカード、レッド・デーモンズ・ドラゴンの方を選ぶべきだ。
なぜわざわざ弱い方のカードを選んだのか。
それはレッド・デーモンズ・ドラゴンの召喚に必要なチューナーをどうすればいいか分からなかったからだ。
しかも今回は攻撃ではなく防御なので守備力2000のレッド・デーモンズ・ドラゴンよりも守備力2300のバスターブレイダーの方が適していると判断した。

だが天道は効果範囲から少し外れたために防ぎきれず、ヴァッシュに至ってははやてに近づいていたがために直撃を食らっていた。

そしてが『妖艶なる紅旋風』が収まると、その被害の様子が月光の下に晒されていた。
あれほど鬱蒼としていた森の木々は大部分が根こそぎ倒されて、アジト前の一帯は完全に荒れ地と化していた。
しかもあちこちに多種多様な道具やその残骸が散らばっている。
ここまでの激戦で痛んでいたデイパックのいくつかが限界に達して、とうとう破れて中身が散乱しているのだ。
もちろん元が大量生産品の基本支給品一式を皮切りに、耐久力が低い道具はことごとく破損しているようだ。
しかもアジトの入り口への被害は岩盤の崩落という甚大なもので、ほぼ出入りは不可能な状態となっていた。

そして『妖艶なる紅旋風』を発動させた張本人であるはやてはしばらく蹲ったままだった。
だがその胸にはかつてないほどの激情が渦巻いていた。

516Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:42:24 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


『ヒャハハハハハァ! 計 画 通 り !』

一連の惨劇の発端を作ったバクラは現状に大いに満足していた。
先程バクラがした事は簡単に言うと“乗っ取り”だ。
万丈目やかがみにしたようにヴァッシュの身体を一時的に乗っ取ったのだ。
だが今回は今までとは違った。
まず乗っ取った時間は僅かに数秒が限界で、しかも完全に身体を乗っ取る事は不可能だった。
それはひとえにヴァッシュの強固な精神の賜物。
最初の見立て通り今のバクラではヴァッシュの身体を乗っ取って自由に行動する事は不可能であった。

だが完全ではなくとも、片手を上げさせて、その精神をコンマ数秒ほど揺るがす事は可能だ。

例えるなら今のヴァッシュは水が入った器。
バクラの狙いはその器を少しでも傾けて中の水を外に零す事。

つまり精神の安定を崩してエンジェルアームを暴発させる事こそバクラの狙いだった。

だがそのような僅かな時間で暴発させたところで出来る事は限られている。
それにヴァッシュが身体の自由を奪い返したら、有無を言わさずリングが破壊されるのは必然。
でもバクラにとってはその一瞬だけで十分だった。

八神はやての家族であるリインフォースⅡを殺すのにはそれで十分だった。

そもそもこのまま現状維持だとバクラは遠からず破壊される事は目に見えていた。
今までの所業から見て参加者がバクラを生かしておく理由は皆無。
まさにかがみ以上に百害あって一利なしの存在。
特にスバルとヴァッシュは実際にバクラが唆したかがみと戦っているだけあって、その事実を痛感しているはずだ。
先程は相次ぐ戦闘で後回しにされたが、いつ千年リングの破壊を進言するか時間の問題だった。
それはバクラ自身が一番分かっていた。
だから早急に何か手を打たないとみすみす滅びの時を待つだけ。

そこで降って湧いたかのように勃発したのがかがみの処遇を巡る騒動。
これによって強硬に意見を主張するはやては若干孤立気味になっていて大分気が立っていた。
そこでヴァッシュが事故とはいえ大切な家族であるリインを殺せばどうなるか。
今以上の大混乱が起きるのは火を見るより明らか。
あとはその混乱に乗じてリングが別の人に拾われるのを待つだけ。

正直これはかなり危険な賭けだった。
だがこのまま何もしないでいるのは座して死を待つだけ。
それならば最期まで足掻いて活路を見出すしかない。

『さて、ここまでは順調だ。だが問題は誰が俺様を拾うかだ』

死んだリインを除いてあの場にいたのはアギトも含めて10人。
そのうちバクラの危険性を知っていて且つ即座に破壊しそうな奴以外ならこの混乱に乗じて上手く誘導すれば――。

「IS起動……」

だが最後の最後で天は盗賊王に微笑まなかった。
一番重要なところで引いてはいけないジョーカーを引いてしまったようだ。

『はぁ、また俺様の負けか』
「……振動破砕!!」

こうして千年リングに宿った盗賊王バクラの魂による最後の盗みは一応成功に終わった。
自らの存在という大きすぎる代償を払った上で。

517Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:44:49 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


「鋼の軛」

その言葉と共に一つの魔法が発動した。
守護騎士が一人“蒼き狼”の二つ名を持つ盾の守護獣ザフィーラが得意とした拘束魔法。
本来なら対象を突き刺して動きを止める・室内の通路を塞ぐという形で使われる捕獲系の魔法だ。
だが今回は違った。
明確な殺意を以て地面より伸びた1本の条は地面に横たわる青年の首と胴体を容赦なく切り離していた。

もうそこにあるのはヴァッシュ・ザ・スタンピードという参加者のなれの果てだ。

「…………ッ、仇は取らせてもらったで」

物言わぬ骸に向けて八神はやては冷たい目線を浴びせていた。
今のはやてにとってヴァッシュはもう協力者でも何でもなかった。
「仮に100歩譲ってあの阿保餓鬼のシグナム殺しを許したとしても、あんたが仕出かしたリイン殺しは天地が引っくり返っても許されへん!
 あの子はなあ、シグナム達みたいな偽者やのうて本物の家族や、私のとってはたった一人残された家族や!!
 だから、それを奪ったあんたは、あの阿保餓鬼以上に許されへん!!!」

たった一人残された家族であるリインフォースⅡを殺した極悪人。
どんな事情にせよエンジェルアームを暴発させてしまった危険人物。
この時点ではやてにとってヴァッシュはかがみ以上に生かしておくべきでない人物になったのだ。
だからこそ先程のように邪魔が入る前に禍根を断った。
幸いにもヴァッシュは近くで気絶した状態で転がっているところをすぐに発見できた。
先程無理して『妖艶なる紅旋風』を放った反動で身体を動かすのも辛い状況だったので、その場から動かずに始末できたのは助かった。
だが逆に『妖艶なる紅旋風』の影響で周囲には土煙が舞い上がっているのは好都合だった。
そのおかげで月光だけが頼りの闇夜との相乗効果で視界の確保は困難だ。
つまり誰が何をしようと他の人に気付かれる可能性が大幅に低くなっている。

「で、これがボーナスか。ちっ、リボルバーナックルとか重たくて使えないちゅうねん」

ヴァッシュ殺害に際して送られてきたボーナス支給品は右手用のリボルバーナックル。
だが近接戦闘を得手としないはやてにとってそれは外れの部類だった。
初期支給品の組み合わせといい今回のボーナスといい、どうも運に恵まれていない感がある。
しかも『妖艶なる紅旋風』でデイパックがどこかへ飛んでいってしまったせいで、せっかく手に入れたボーナス支給品も容易に持ち運びできない。

518Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:46:40 ID:VDYaY.Gc0

「まあいいわ。全く外れというわけでもないからな。それよりも今のうちにあの阿保餓鬼を殺さな……そうや、今が絶好の好機や……」
「おい、ちょっと待てよ」

ヴァッシュの生首に一蹴り入れて本命の柊かがみを探そうと悲鳴を上げる身体に鞭打って移動しようとしたその時。
後ろから自分を呼びとめる声が掛かった。
それはこの場に残されたもう一人の融合騎のものだった。

「なんやアギトか。無事でなによりやわ」

烈火の剣精アギト。
その二つ名に相応しく両手には燃え盛る炎を灯していた。
はやてはそれを冷静に見ていた。
既にこの時点でアギトが何を見ていたのか予想は付いていた。

「お前、今自分が何をしたのか分かっているのか」
「ああ、見ていたんか。はぁ、仕方ないやろ。あんなまたいつ暴発するかも分からへん危険人物を生かしておく気が知れへん」
「だから殺したのか?」

アギトの詰問に対してはやてはしばらく黙ってから、少し間を置いて答えを返した。
自分でも驚くほど思考が冷めているのが分かった。

「そうや、みんなは優しすぎるからなあ。私が汚れ役は引き受けたるしかないやん」
「じゃあ、シャマルはどうなんだよ」
「…………」

守護騎士が一人“風の癒し手”の二つ名を持つ湖の騎士シャマルの名を聞いた瞬間、はやての表情は凍り付いた。
それを知ってか知らずかアギトは胸の内に抱えていた心境を吐露していた。

「あたしはこの耳で聞いたんだぞ、お前がシャマルを見殺しにしたって!
 それにさっきシグナム達は偽者って、それじゃあヴィータもお前にとっては偽者で、あれは捨て駒だったのか!!
 それってつまりあのバッテンチビ以外はお前にとって家族でもなんで――」
「蒐集」
『Sammlung.』
「な――お、お前、そこま――」

最後まで言葉を言う暇もなくアギトは光の粒子となって消えていった。
そしてその粒子は夜天の書に余さず吸収される様子をはやては冷静に見つめていた。

「……ベラベラと要らんこと喋って五月蝿いわ」

はやてがアギトを蒐集した理由はいくつかある。
まずは口封じ。
先程のヴァッシュ殺しもそうだが、アギトにはシャマルを見殺しにした話も聞かれていた。
今でさえ立場が微妙なのにこれ以上悪くされたら取り返しのつかない事態になってしまう。
それにアギトは融合騎だから蒐集すればそれなりの魔力を蓄える事ができる。
闇の書時代に所有者達が最後のページを埋めるためによく守護騎士で行っていた方法だ。

だがそれ以上に――。

(シグナム達の事をどう思おうが私の勝手やろ、ホンマ胸糞悪いわ……)

――アギトの言葉がはやてをどうしようもなく苛立たせていた。

519Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:48:36 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


「ありがとう、バスターブレイダー」

水色と白の制服に付いた土埃を払いながら今は亡き竜騎士に対してこなたは感謝の言葉を送っていた。
リインがヴァッシュに射殺されて、はやてが紅い旋風を放った瞬間。
こなたはとっさにデイパックからバスターブレイダーのカードを取り出してモンスターを召喚していた。
最初の直撃を防いだ時点でバスターブレイダーは破壊されたが、そのおかげでこなた達へのダメージはいくらか軽減されたはず。
だからこそ今こうして生き延びられているのだ。
もしも召喚が間に合わなければあの紅い旋風のダメージで死んでいたかもしれない。

(でも、タイミング悪すぎるよ……リイン、せっかくはやてと再会できたのに……)

はやての事を誰よりも案じていたのはリインだった。
こなたもかがみと再会したいとずっと願っていたから、はやてとリインが再会した時は自分の事のように嬉しかった。
それが再会できた直後、しかもあんなギスギスな状況の中で死んでいくなんてあんまりだ。

(そうだ、みんなは、かがみは!?)

真っ先に思い至るのは仲間の安否、特に親友であるかがみの安否。
先程再会したかがみの姿は想像していた以上に実に痛々しかった。
こなたが知っているかがみは、紫のツインテールを揺らして、陵桜学園の制服を着て、ツッコミを入れてくれる元気な女子高生だ。
だが再会したかがみは、ツインテールの片方はなくなってサイドポニーが寂しく揺れて、下着に着物の上着だけというみすぼらしい格好で、どこか怯えている少女だった。
同じ24時間を過ごしていてもあそこまで変わるのかと驚いたが、あの言い合いを聞く限りそれも無理もない。
今までの話を総合すると、かがみはこのデスゲームで3人もの参加者の命を奪ったのだ。
しかもそれ以上の数の参加者に襲いかかった事もあるらしい。
つまりこのデスゲームの趣旨通りずっと殺し合いの中に身を投じていたのだ。
今は悔い改めて罪を償うと言っているのが、せめてもの救いだ。
だがせっかく再会できたかがみも先程の紅い旋風のせいでまた離ればなれだ。

(かがみん、どこにいるの? 私もっとかがみんと話したいよ。そして、かがみんの口からどんな事があったのか聞きたい)

それが親友としての務めであり、それこそ泉こなたができる事だ。
今までみんな自分にできる事を精一杯やっている中で自分だけが何もできなかった。
でもこれは自分にしかできない事だ。
それに自分はこうして運良く大した怪我もなく生きているが、かがみもそうだとは言い切れない。
もしかしたらさっき吹き飛ばされた時に打ち所が悪くて一人寂しく――。

「……痛っ! ん、ここは……え、こなた……」

だがそんな最悪な想像は背後からの呼び声でかき消された。
それは間違いなくかがみの声。
柊かがみが生きている証だ。

「か、かがみん!!」
「……こなた」

ほのかな月明かりの下、急いで後ろを振り返ると、そこには少し離れた場所でこちらを見ているかがみの姿があった。
どうやらあちらも大きな怪我はしていないようだ。
その姿を見たらもう何も考えられなかった。
だから必死に足を動かして、走って、走って、走って――。

「かがみん!」

――思いっきり突き飛ばした。

そしてこなたは目にした――自分目がけて伸びてくる紅い光を。

520Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:51:22 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


「きゃっ!?」

ようやく再会できた親友に突き飛ばされた。
少し前までのかがみなら別人だとか思いこんだ挙句に疑心暗鬼に陥って、敵意を剥き出しにしていただろう。
だが今は違う。
数々の苦難を経験して、時に人の浅ましさに、時に人の優しさに触れてきた。
だからこれもきっと何か理由があるのだとかがみはまずは気持ちを落ち着ける事ができた。
そして、その理由を教えてもらおうと振り向いた先にあったのは――。

「こなた、いった……い、え、こ、こなた……」

――かがみを庇った結果、頭から血を流して倒れていく親友の最期の瞬間だった。

「いやああああああああああああ!!!!!!!!!!」

悲鳴と共に出した両手でなんとかこなたの身体を支えようとしたが、それは無駄な事だった。
頭を貫通した穴から赤い血が噴き出して止まる気配はなく、瞳は虚ろな状態。
すでに事切れているのは明白だった。

「嘘でしょ! ねえ目を開けてよ、こなた! 私、私、あんたに謝らないといけないのに! ねえ、こなた! こなた! こなた!」

かがみが何度呼びかけてもこなたが目を開ける事はなかった。
それでもかがみはこなたの死を受け入れられなかった。
そんなかがみの背後に影が一つ忍び寄っていたが、目の前で親友を殺されたかがみが迫り来る危険に気づくはずなかった。

521Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:54:30 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


「すいません、あたしがあの時リングを破壊しておけば……」
「いまさら悔やんでも仕方ないよ。それにもうリングはスバルが破壊してくれたんでしょ。それならもうバクラの件はおしまい」
「うん、リインが死んで責任を感じるのは分かるけど……でも、とりあえずなのはもスバルも無事で良かったよ」

はやてによって吹き飛ばされたなのは、ユーノ、スバルら魔導師3名は運良く合流する事に成功していた。
もちろんスバルに背負われていたヴィヴィオも。

「いえ、実はあたしとヴィヴィオが無事なのはこの子のおかげなんです」

そう言ってスバルが懐から取り出したのはひび割れた一枚のカード。
白地に赤の意匠が施されたそれはスバルのパートナーであるティアナのデバイス、クロスミラージュだった。
あの『妖艶なる紅旋風』の発動の瞬間、直撃を回避するためにスバルがとっさにデイパックに手を入れてつかんだ物がそれだった。
結果的にスバルのプロテクション+クロスミラージュの補助+リアクティブパージの三段構えのおかげでヴィヴィオへのダメージが極力軽減された。
しかしその代償として手持ち以外の道具はデイパックごと吹き飛ばされて、何よりほぼ破損状態での使用でクロスミラージュは完全にその機能を破壊してしまった。
つまりもうクロスミラージュが起動する事はない。
教え子のデバイスの最期の活躍を聞いて、なのははティアナの事も思い出しつつ少し目頭が熱くなるのを感じていた。

「それにすいません。せっかく貰った回復アイテムが……」

スバルが指し示したのはヴィヴィオの腕に装着されているデュエルディスク――の壊れた姿だった。
先程の騒動からヴィヴィオを守った衝撃は極力軽減されていたが、着地の際の地面との接触でディスクは壊れてしまった。
今までも幾度も乱暴な扱いを受けた事で蓄積していたガタがここ来て限界に来たのだ。

「それなら僕がヴィヴィオの回復は引き継ぐよ。それに他の皆を早く探した方がいい。特に――」
「――かがみだね」

こうしてなのは達3人は合流できたが、未だに他の仲間の行方は杳として不明だ。
だがそのうち天道とヴァッシュは自分達と同等以上の力を持っているのであまり心配要らない。
ただヴァッシュはエンジェルアーム暴発の件が気掛かりではあるが。
そしてはやてとこなた、そしてかがみ。
はやては直前までかがみへの仇討ちに強い執念を見せたので、この混乱に乗じて目的を遂行しないか心配だ。
こなたは特別な力を持たない一般人ゆえに3人の防御の背後にいたとしても、どこまで効果があったのか確認は出来なかった。
かがみはその両方の意味で心配であり、今最も気掛かりな存在であった。
とりあえずヴィヴィオの治療はユーノに一任して、カードは回復の手段を持たないスバルが持つ事になった。

522Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:55:10 ID:VDYaY.Gc0

「レイジングハート、エリアサーチお願い」

まだ手放してから1日しか経っていないのにもう随分と久しぶりな気がすると、長年の相棒を構えながらなのはは周囲一帯の探索に取り掛かった。
デスゲームの制限下でどこまで探れるか不安だったが、意外とすぐに反応があった。
ここからすぐ近くの地点に特別な力を持たない者が二人。
その条件に該当する参加者は泉こなたと柊かがみの二人だ。
幸先良い結果に頬を緩ます3人は急いで合流しようと二人がいる方向へ移動を開始した。

「嘘でしょ! ねえ目を開けてよ、こなた! 私、私、あんたに謝らないといけないのに! ねえ、こなた! こなた! こなた!」

だがそこで待ち受けていたのは、なのは達の努力を無下に嘲笑うかのような光景。
頭部を紅い光線で貫かれて糸が切れたかのように倒れる泉こなたと、それを支えようとする柊かがみ。
あまりの光景に思わず3人ともその場で足を止めざるを得なかった。
そして時間が止まったかのように静寂な空間で沈黙を破ったのは愛機の名を叫ぶ白き衣を纏った魔導師。

「レイジングハート!!!」
――Flash Move――

ガンッ

間一髪だった。
こなたの死にショックを受けて無防備だった背中に振り下ろされようとしていたレイピア。
その斬撃はレイジングハートの障壁に阻まれていた。
そしてかがみの無事を確認すると、なのははレイピアの持ち主に問いかけた。

「なんでこんな事するの、はやてちゃん!」

なのはの視線の先にいる人物。
それは間違いなく親友の八神はやてに相違なかった。
先程あれほどかがみを許すように訴えていたにもかかわらず、はやてには少しの共感も得られなかったようだ。
だが同時にやはりという妙な納得感もあった。

「そんなの分かってるやろ。じゃあ、逆に聞くで。なんでこんな奴助けたりするんや!?」
「約束したんだ、例えはやてちゃんがかがみを殺そうとしても私はかがみの味方、絶対に守ってみせるからって!!」

それはたった一つの約束。
だがそれゆえに何にも代えがたい尊い誓いだった。

「そうか、どうしてもその阿保餓鬼を守るって言うんやな」
「うん、かがみは絶対に殺させないよ」
「……ふっ、今のなのはちゃんの顔、かなり怖いな。まるで悪魔みたいや」
「悪魔で……いいよ。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!!!」

523Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/13(土) 23:57:28 ID:VDYaY.Gc0


     ▼     ▼     ▼


(はぁ、出来る事なら戦いたくなかったけど……もうこうなったら避けられへんな……)

はやての執念が天に通じたのか思ったよりも早くかがみは見つかった。
しかも何かに気を取られているようでこちらにはまるで気付いていない。
だから今が好機と思って『愛の紅雷』を発動したところ、御覧の有様だ。
確かに必殺の薔薇のニードルに貫かれた者は死んだ。
ただし目標だったかがみではなく、そのかがみを庇って躍り出た泉こなたが死んでしまった。
はやての位置からは死角になっていてこなたの姿は確認できなかったのだ。

まさしく完全な事故だったが、意外とはやては冷静だった。

(……まあこの際ええわ。それに良い気味や。これで私の気持ちも少しは分かったやろ)

するとすぐそばで見慣れた光が見えた。
こなたを殺した事によるボーナス支給品の転送だ。
先程外れだった事もあって期待はしていなかったが、今回は違った。
ファウードの回復液。
体力や傷の治癒、さらに魔力も回復できるという今までの外れが全て帳消しにできるかのような当たりだった。
あまりの出来過ぎ具合に驚きつつも、はやては迷わずそれを摂取した。
魔力はリボルバーナックルから抜いたカートリッジで補充したとはいえ、体力や負傷は半壊した核鉄では追い付かない。
先程怒りに任せて大規模な魔法を行使した事も少なからず身体への負担を大きくしていた。
だからこの支給品は当たり中の当たりだった。
そして一気に飲み干して空になった水筒を投げ捨てると同時に、はやては泣き叫ぶかがみの下へ走り始めた。

今後こそかがみの息の根を止めるために。

だが結果は失敗に終わり、こうして親友との対決に至っている。

(それにしてもここでもなのはちゃんと対立する羽目になるとは、なんや因縁めいているな)

思い出すのはここに連れてこられる直前の出来事。
オペレーションFINAL WARS実行のために怪獣を使い魔化させる事に不満を述べたなのはと自分は今のように激しく口論を交わしていた。
その時も今も口論に至った原因は自分が冷徹であるのに対して、なのはが優しすぎるのだ。
確かにその優しさには自分もずいぶん救われたものだ。
だがこのデスゲームでは優しいだけでは生き残れない。
最悪の場合、不用意に優しくすれば悪意ある者に付けこまれて破滅するだけだ。
はやてには成し遂げなければならない目標があった。
だからこそこんなところで躓く訳にはいかない。

(これで終わりや、阿保餓鬼。私にはやらなあかん事があるんや。
 なにがなんでもプレシアの技術を手に入れてみんなを、本当のみんなを取り返すんや!)

524Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:00:29 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


『ユーノ君、ヴィヴィオをお願いね』
『分かったよ、でもその代わり無茶はしないでほしい』
『……難しいなあ。善処してみる』
『うん、なのはならきっと上手くできるって信じているよ。それから僕たちは駅に避難しておく』
『……駅? うん、了解』

念話でのやり取りを終えた時を見計らってスバルはユーノに疑問を投げかけた。
この制限下での念話は少し距離が開くと無理になってしまうが、これくらい近くだとなんとかできるようだ。
もちろん先程の念話はスバルにも聞こえるように調節されていたので内容は把握していたが、どうしても腑に落ちない点があった。

「ユーノさん、なんで駅なんですか?」
「ああ、元々首輪はアジトで解析していたけど見ての通りアジトの出入り口はさっきの騒動で崩落して中も無事かどうか。
 それでもここから北に行けば工場があるけど、ほら見てごらんよ」
「北って……え、あっちの方の空が赤い……!?」
「おそらく誰かが先回りして工場を破壊したんだろう」

いったい誰がそんな事を?
決まっている、デスゲームの打倒を良しとしない者だ。
おそらくキング辺りが。

「それに駅には残り人数が15人になったら……」
「それなら知っています。確かにもう15人切っていますからね」
「……もしかして、あの立札壊したのって」
「え、はい、あたしですけど……すいません、もしかして不味かったですか?」
「いや、いいんだ。それよりも早く移動しよう」
「はい、まずはかがみさんを連れて……」

そこでスバルはかがみを見て居たたまれなくなった。
かがみはさっきからずっとこなたの遺体の前で蹲っていた。
スバルもこなたの死に大きな衝撃を受けている。
だが今はのんびりと感傷に浸っていられる状況ではない。
すぐ近くでSランク同士の激戦が始まろうとしているのだ。
いくら制限が掛かっていてもこの周辺が無事である可能性はほぼ皆無。
それにヴィヴィオの容体も心配だ。
だから心を鬼にしてかがみに早く移動を促そうと近づいて、そこで気付いた。
かがみの手に銀色のグリップのようなものが握られている事に。
そしていつのまにか腰には何かのベルトが巻かれていた。

「まさか、かがみさん、ダメ――」
「変身」

525Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:01:12 ID:Fz3yIYd20

――Standing By――

そしてスバルの見ている前でかがみはグリップをベルトの横に装着して。

――Complete――

紫白色のフォトンストリームがかがみの身体を包みこみ、光が晴れた時そこには仮面の戦士がいた。
かがみの狂気に走らせた元凶とも言うべき忌むべきデルタの姿だった。

「かがみさん、いったいどうして……まさか、こなたの――」
「ええ、その通りよ」

この状況でかがみが再び力を手にした理由。
思いつく理由は単純なものだった。
それが分かったからこそスバルはかがみの前に立ち塞がった。

「お願いスバル、そこを退いてちょうだい」
「ダメだよ、かがみさん! そんな事をしてもこなたは――」
「そんな事は分かっているわよ!!!!!」
「――ッ!?」
「でも、でも、無理なのよ。あのはやてと一緒で大切な親友を! 家族を! 目の前で殺されて、素直に許せるほど私は立派な人間じゃないのよ」
「かがみさん、お願い。あたしの話を――」
「ごめん、無理。だってこれは理屈じゃないのよ……たぶん呪いなのかな……」
「呪い?」
「例えばさあ、スバル。あんた今目の前で私がなのはを殺したら、どうする?」
「え、そ、そんな……」
「ほら、今一瞬私のこと許せないって思ったでしょ」
「そ、そんなこと……」

だがスバルは最後まで言葉を続けられずに、顔を下に向けてしまった。
確かに一瞬かがみがなのはを殺す場面を想像して、かがみが言うような感情を抱いていたのは事実だ。
それにスバルには似たような前科があった。
スカリエッティによる地上本部襲撃の時。
スバルは目の前でボロボロに傷つけられた姉のギンガを見て、我を忘れて暴走している。
目の前の敵を同じようにボロボロにしてギンガの仇を取ろうとした。
だからそんな自分が果たして今のかがみを止められるのか迷ってしまったのだ。

「それが普通なのよ。でも、たぶんなのはやあんたはそのうち呪いに打ち勝てる奴なのよ、でも私は違う」
「だから八神部隊長を殺すの?」
「今のはやてはつかさを殺した浅倉と一緒で、私にとってはどうしようもない悪人なのよ。だから私がこの手で――。
 ごめんなさい、本当は私だって皆に許されたい、皆と一緒にいたい。
 だけど、あいつだけは、こなたを殺したあいつだけは絶対許せない、あいつだけは私がこの手で……そうじゃないと私、私……。
 だからあと一度だけ罪を犯すわ、そうしたらもう本当に罪は全部償う、だからお願いスバルそこをどいてよ」

かがみの言い分は分かった。
だが、だからと言ってここを退く訳にはいかない。

「それでも、かがみさんにこれ以上罪を重ねさせるわけにはいかないよ」
「そう、それならあんたを倒してでも私は行くわ」
「それなら私も全力全開でかがみさんを止めてみせる」

そう言い切るスバルの手に握られているのは腕時計――いや起動したその姿は槍、エリオのデバイスであるストラーダだった。
それをレヴァンティンと左手の間に差し込んで新たな添え木とすると同時に、バリアジャケットを構築し終えた。
今の自分の力で仮面ライダーの力を手にしたかがみを止められるか分からない。

(だから、シグナム隊長、そしてエリオ、力を貸して!)

526Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:02:35 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


(こなた、やっぱりあんたも怒るわよね)

こなたが仇討ちを望まない事は百も承知だ。
こんなに手を血で汚した自分でさえ受け入れてくれた親友がさらに罪を重ねる事を望むはずない。
それは痛いほど分かっていた。

だが理解できていても、どうしても譲れないものはある。

(八神はやて、あんただけは絶対に許さない)

527Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:04:45 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


『そういうわけでユーノさん、あたしはかがみを止めてから行きます。あとヴァッシュさんと天道さんも探しておきます』
『うん、分かった。じゃあ駅で待っているよ』

こういうところは本当になのはと似ているなと、先生と教え子の関係を垣間見たユーノ。
実のところユーノもこの場に残って後方支援をした方がいいのかもしれない。
だがなのはとスバルの両方に託されたヴィヴィオの回復がこの状況では優先されるだろう。
それにあの二人の戦いに手を加えるのは無粋だとなんとなく感じていた。

(二人とも信じているよ)

528Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:06:44 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「あっちでいいんだな、ハイパーゼクター」

新たな騒動の中心から少し離れた場所。
そこに天道はいた。
あの旋風に巻き込まれてデイパックを失って気絶していた天道を呼び覚ましたのは他でもなく現在先導役を務めているハイパーゼクター。
近くに資格者がいると察知したハイパーゼクターはスバルのデイパックから抜け出して、天道の元に馳せ参じていたのだ。
しかしハイパーゼクターはそれ単体だけではただの空飛ぶ銀色のカブトムシに過ぎない。
その真価が発揮されるのは仮面ライダーカブトが使ってこそ。
ハイパーゼクターの力で変身するカブトの第3形態、ハイパーフォーム。
そのポテンシャルはマスクドライダーの中で最強を誇り、時間移動さえ可能なその性能は並みの相手では太刀打ちできない。

だが天は微笑まなかった。

「また会ったな、天道総司」

不意に横から聞こえる呼び声に思わず足を止める。
その声には聞き覚えがあった。
数時間前死力を尽くして戦い合った修羅に落ちた戦士、アンジール・ヒューレー。
キングと潰し合わせるように仕向けて以来の再会だった。
そして放送でどちらの名前も呼ばれず、アンジールにも目立った新しい傷がないという事はキングと手を組んだ可能性が高い。

「残念だったな、カブト。そうそうお前の思い通りにはいかなかったようだ」
「そうか、最初からそれが狙いだったのか」

相も変わらず黒尽くめのゼロの格好に身を包むキングも当然のようにこの場に現れた。
その足元には先程まで先導役を務めていたハイパーゼクターの残骸が月の光を反射しながら転がっていた。
最初から二人の狙いはハイパーゼクターだったのだ。
おそらく何らかの方法でハイパーゼクターの脅威を知った二人が力を発揮される前に破壊しに来たというところだろう。
そうでなければわざわざ不意打ちの機会を捨ててまで天道の注意を引きつける理由がない。

「キング、いつまでその格好で茶番をしているつもりだ」
「なんのことかな」
「元々その仮面はC.C.が持っていた物だ。その仮面もマントも、C.C.とペンウッドを殺して手に入れたものだろ」

もう正体がばれていると当人も分かっているはずなのに未だにゼロを演じるキング。
ここに来た当初シャーリーにゼロと誤解された天道にとっては複雑な心境だった。
しかもその衣装が一時でも行動を共にした仲間のものである事も天道の神経を少なからず逆撫でしていた。

「少々口煩いな。やはり君はここで――」
「待てゼロ、あいつの相手は俺がしよう。悪いがデイパックは預かっておいてくれ」
「……なるほど、いいだろう。見届けさせてもらうぞ、貴様の覚悟を」

正直なところここでアンジールと戦うのは得策ではないだろう。
もし勝ったとしても次に控えているのは最強クラスのキングだ。
アンジールと戦った後で勝てるほど楽な相手ではない。
だが避ける訳にはいかない。
おそらくアンジールを説得するなら早い方がいい。
時間が経てばキングにそれだけ毒される。
正直かなり厳しいが、それでも天道に諦める気は全くなかった。

「おばあちゃんが言っていた、俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する!」
――HENSIN――

529Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:08:48 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


カブトムシの仮面ライダーとカブトムシのアンデッド。
似て非なる者のやり取りを見ていたアンジールは密かにキングへの疑いを強めていた。

(どういうことだ、つまりこの格好は現地調達で揃えたのか? もしや中身は俺の知っている奴で正体を隠すために仮面とマントを……だが今は――)

時間と共に深まるキングへの疑念をひとまず頭の片隅に追いやってアンジールは目の前の敵に目を向ける。
天道総司。
同じデスゲームの参加者ではあるが、出会ったのはほんの数時間前。
あの時の決着はミライの横槍で結局有耶無耶に終わってしまった。
だからこれはその時の続き。
そして今度こそ決着がついた時こそ――。

「決着を付けようか、天道総司」

530Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:10:07 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


(さ〜て、どっちが勝つかなあ。んー、コンディションはカブトの方が良さそうだけど、もし変身が解ければアンジールの勝利は確定。
 五分五分かなあ、いやあハイパーゼクターあらかじめ壊しておいて正解だったね)

この会場で持ち主である天道総司を除いてハイパーゼクターの脅威を把握していたのがキングだ。
『CROSS-NANOHA』で特に天道について念入りに調べていたおかげで、天道を発見した時すぐにハイパーゼクターの存在にも気づけた。
正直なところ時間移動は自分同様制限されている可能性が高いが、自分と同じ事ができるのは気に食わなかった。
それにあれほどの強化アイテムを破壊されたと知った時の天道の顔も是非とも拝んでみたかった。
だからアンジールと打ち合わせて天道の注意が逸れた時を見計らって、ハイパーゼクターをつかまえて爆砕牙で滅多刺しにしてやった。
結果的に天道の反応は大して面白くなかったが、成り行き上始まったカブトVSアンジールは新たな楽しみとしては十分だった。

(そういえばさっきの紅い竜巻みたいなのはなんだったんだろう。あとで確認しておかなくちゃ)

531Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:12:13 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


(ほう、天道とアンジールが対決で、キングは高みの見物か……さてどうするかな……。
 あっちはあっちで、ヴァッシュと泉こなたが死亡、さらになのはとはやてが、スバルとかがみが激突。
 そしてユーノとヴィヴィオは南東へ避難か……)

これまでの一部始終を目にしていた冷徹なアンデッド、金居。
銃声を頼りに着いてみれば、そこはすでに混乱の坩堝。
金居が手を下すまでもなく、アジトに集った参加者たちは分裂していた。
それを隠れて観察していた金居はあまりの展開に笑いを堪えるので必死だった。

(やはりキングが高みの見物なのは後々の事を考えると厄介だな。どうにかして戦場に引きずり出して消耗してくれれば、こちらも楽なんだがな)

532Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:14:51 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「はやてちゃん、絶対にかがみはやらせないよ!」
「ごめんな。私にだって譲れへんものあるんよ!」


【2日目 黎明】
【現在地 C-9 森の中】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン(待機モード)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、グラーフアイゼン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.かがみを守るために全力全開ではやてを止める。
 2.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷痕、かがみへの強い怒り、騎士甲冑展開中
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、カートリッジ×3@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.なのはを倒して、かがみに引導を渡す。
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キングの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 8.金居は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。

533Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:16:20 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「かがみさん、絶対に止めてみせます」
「……ごめんね、スバル」


【2日目 黎明】
【現在地 C-9 森の中】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット展開中、魔力消費(中)、全身ダメージ(中)、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(添え木代わり、0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS)、ストラーダ(添え木代わり、3/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.これ以上かがみに罪を重ねさせないために、全力全開で止める。
 2.かがみと一緒に、罪を背負う。
 3.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
【備考】
※金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(小)、両手首と両太腿に切断痕、腹部に刺傷痕、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、デルタに変身中
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:出来るなら、生きて行きたい。
 1.スバルを倒して、はやてを殺す。
 2.1が叶えば、みんなに身を委ねる。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。
※耐性ができたせいか今のところデルタによる精神汚染の影響はありません。

534Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:18:18 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「なのは、スバル、信じているよ」
「…………ぅ………ぁ」


【2日目 黎明】
【現在地 D-8北東部 森の中】

【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、魔力消費(中)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.駅で待機しつつ、ヴィヴィオの治療を行う。
 2.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 3.首輪の解除は状況が整うまで待つ。
 4.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大、回復中)、肉体内部にダメージ(極大、回復中)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
 基本:?????
 1.ママ……。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。

535Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:19:52 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「」
「」


【2日目 黎明】
【現在地 D-9 森の中】

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】全身にダメージ(小)、カブトに変身中
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アンジールとキングを倒す。
 2.なんとかして皆と合流して全員をまとめる。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(小)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングと主催陣に対する怒り
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】なし
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.天道との決着を付ける。
 2.参加者の殲滅。
 3.ヴァッシュのことが、微かに気がかり。(殺すことには、変わりない)
 4.キングが主催者側の人間で無かった事が断定出来た場合はキングを殺す。
 5.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。

536Pain to Pain ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:22:48 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


「さて、どっちが勝つかな〜どっちが勝つかな〜」
(さて、どうやって引きずり出すかな)


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具⑤】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.カブトとアンジールの対決を高みの見物。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.キングをどうにかして戦場に引きずり出す。
 2.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに向かい、そこに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。

537リリカル名無しStrikerS:2010/11/14(日) 00:24:46 ID:Fz3yIYd20


     ▼     ▼     ▼


草木も眠る丑三つ刻、それぞれの戦いの幕が今切って落とされた


【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's  死亡確認】
【泉こなた@なの☆すた  死亡確認】
【リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS  消滅確認】
【バクラ@キャロが千年リングを手に入れたようです  消滅確認】
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS  消滅確認】

【全体備考】
※以下のものがC-9スカリエッティのアジト付近に放置されています。
・ヴァッシュの死体(ダンテの赤コートとアイボリー(5/10)を装備、首と胴体が分離)
・こなたの死体(涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)着用)
・コルト・ガバメント(4/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、首輪(セフィロス)、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
※はやて、ヴィータ、天道、こなた、スバル、かがみ、始のデイパック及び上記以外の中身は「妖艶なる紅旋風」で破損しました。
※D-9森の中にハイパーゼクターの残骸が放置されています。

538 ◆HlLdWe.oBM:2010/11/14(日) 00:26:43 ID:Fz3yIYd20
投下終了です
誤字・脱字、矛盾、疑問などありましたら指摘して下さい
タイトルの元ネタはリリカルなのはStrikerS第22話より

539リリカル名無しStrikerS:2010/11/14(日) 01:26:27 ID:zJULzm5.O
投下乙です
まさかこの土壇場でこれだけ混沌とした状況に陥るとは…全滅エンドフラグ?
スバルも天道も状況的には圧倒的に不利か。うん、対主催涙目だな。


質問ですが、プレシアは死に、スカ一味も逃げる準備をしているという現状でもボーナス支給品は支給されるのでしょうか?
ロワが放棄されたなら、ボーナス制度も停止していると思うのですが。

540リリカル名無しStrikerS:2010/11/14(日) 08:46:29 ID:p.ujl5OU0
投下乙です。
うわぁ、敵側3名何もしていないのに対主催ボロボロじゃねーの。バクラは最後にトンデモナイものを残していきました。つか意志持ち支給品一網打尽かよ……
対主催側で収拾つけたところで残り戦力でダブルカテゴリーKどうにかなるとは思えないんだが……

指摘点についてはどうだろう……まぁ、表向きにはまだ進行中を装っているから機能していそうな気もするが……ぶっちゃけ出てきたのがリボルバーナックルにしろファウードの回復液にしろ回復アイテムとしてしか使ってないから展開上必然ってわけでもないんですよね(というか回復液って小ネタにちょこっと出てきただけじゃねぇか……)。いっそ無しにしても問題なさそうな気も。
正直、キングと金居は戦力充実していますから今更必要性があるとも思いませんし(対主催側が倒した時のボーナスの必要も無いからなぁ)。


……というかコレ、千年リングをもっと早く粉砕しなかったスバルとヴァッシュの怠慢じゃね(ホテル戦の段階で砕く事が出来た筈)?

541 ◆Vj6e1anjAc:2010/11/14(日) 12:44:02 ID:R3BHTnLs0
>>539
それに関しては自分がお答えします。
ボーナス支給システムについては、放送SSで「オートになっている」と書いたので、
そのまま機能していると判断してもらって構いません

542リリカル名無しStrikerS:2010/11/14(日) 13:57:47 ID:9hNKdNOY0
投下乙です。
まさかあの状況から二人も死者を出すとは……
本物のマーダーはまだ手出ししてないっていうのにまさかの大混乱。
まぁはやてはやっぱりというか、ある意味で本物のマーダーより悪質か……。

そして現在の対戦カードは
はやてVSなのは、
かがみVSスバル、
アンジールVSカブト……。
でもスバルとなのはを除けばかがみVSはやての構図になる。
キングは高みの見物で、金居はキングを引きずりだそうと暗躍。
あとの対主催メンバーは離脱か……これは先が読めなくなってきたな……。

543リリカル名無しStrikerS:2010/11/15(月) 18:24:17 ID:5dEkgfIQ0
投下乙です
マーダーが誰も手を出してないのに二人死ぬって…対主催涙目すぎる…
これ、終わったとしてもカテゴリーK相手にできるんだろうか…?

それはそうと、>>535のセリフがカギ括弧だけになってます。

544リリカル名無しStrikerS:2010/11/15(月) 21:28:46 ID:Q.uXURfU0
投下乙です
ハイパーゼクターが破壊され、対主催も仲間割れと今のところ二大アンデッドの思惑通りにことがすすんでいるな・・・・
このまま悪が勝ってしまうのだろうか

545 ◆HlLdWe.oBM:2010/11/15(月) 21:31:53 ID:cH0hVcXA0
>>543
wiki収録の際に修正しておきます

>>539
すでに>>541でも返答あるように機能していると判断します

546 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:50:29 ID:MZGXMrQQ0
天道総司、キング、金居、アンジール・ヒューレー、ジェイル・スカリエッティ、ウーノ、ドゥーエ、セッテ、オットー、ディード、リインフォース、アルフ
これより投下します

547地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:51:29 ID:MZGXMrQQ0

アルハザードを舞台とした狂気の演劇、バトル・ロワイヤル。
その主催者たるプレシア・テスタロッサは死んだ。
協力者たる科学者、ジェイル・スカリエッティの一味によって。
これより、時の庭園の主導権は彼らの手に渡った。
そして、戦いの終了条件も、変わる。
スカリエッティ達の、脱出を阻止すること。



だが、プレシアの罠はまだ生きていた。
それは怨念が乗り移ったかのように、瞳を煌めかせている。
罠が蠢いていることに気づいている者は、誰一人としていない。
プレシアはもしもの時に備えて、戦力を整えていた。
ルーテシア・アルビーノが使役する召喚虫。
究極召喚によって呼ばれる王、白天王。
巨大甲虫、地雷王。
ルーテシアの守護兵、ガリュー。
古代より目覚めた屍兵器、マリアージュ。
そして――――――



これらの主導権を握っていたのは、他でもない只一人。
プレシア・テスタロッサのみ。
地上壊滅の序曲は、もうすぐ始まる。







現在時刻、黎明。
暗闇に覆われた森の中を、二つの影が駆け抜けていた。
互いを敵と認識し、睨み合っている。
そして、銀色の輝きを放つ刃を、彼らは振るった。
瞬き一つの時間が経過した後、激突する。
接触面から火花が飛び散り、周囲を照らした。
それと同時に、甲高い音が彼らの鼓膜を刺激する。
木々の間に光が灯ったことで、姿が浮かび上がった。
一人は、重厚感溢れる銀色の鎧に身を包んだ、天道総司のもう一つの姿。
水色の輝きを放つ単眼、額からVの字に伸びたアンテナ、右肩に刻まれたゼクトマーク、腰のベルトに装着されたカブトゼクター、下半身を守る黒いスーツ。
『光を支配せし太陽の神』と呼ばれる仮面ライダーカブトの第一形態、マスクドフォーム。
対峙するのは、反逆の名が付けられた剣、リベリオンを構える屈強な戦士。

548地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:52:33 ID:MZGXMrQQ0
その背中からは白い片翼を生やし、肉体を黒い装甲で覆っている。
ソルジャー・クラス1St、アンジール・ヒューレー。
深い森の中で、一陣の風が吹き荒れている。
それは、自然現象によって生まれる物ではなかった。
百戦錬磨の戦士たる彼らの手によって、起こされている。
互いに武器を振るい、互いに攻撃を回避し、互いに闘気を向けた。
二人の戦士が繰り広げる戦いに巻き込まれて、木々は次々と折られる。
一本は刃によって、一本は魔法によって生まれた炎によって、一本は銃弾によって。
次々に大木が倒れたことで、地面に振動が生まれる。
枝から振る木の葉は、風で舞っていた。
しかし、瞬時に両断されてしまう。
戦士達には、それは空気にも等しい存在。
故に、気を止める必要はなかった。

「はあっ!」
「オオオオオオオッ!」

そして今もまた、彼らは得物を振るい続ける。
カブトのかけ声と、アンジールの雄叫びは重なった。
互いに凄まじい勢いで、刃を交えた。
カブトは下から掬い上げるように、斧の形状へと変えたカブトクナイガンを振るう。
アンジールは上から両断するように、リベリオンを振り下ろす。
瞬時に激突し、火花が飛び散った。
激突音が鳴った瞬間、互いの身体に衝撃が伝わる。
腕に僅かな痺れを感じる中、彼らは同時に背後へ跳躍。
数メートルほどの距離を下がり、着地した。
そして、二人は地面を蹴って距離を詰め、武器を振るう。

(やはり、一筋縄ではいかないか)

カブトクナイガンを振るう中、カブトは考えた。
目の前で対峙する男、アンジールとはこれで三度目の戦いとなる。
一度目は、スーパーの前で突然の襲撃を受けたことから、始まった。
二度目は、キングが下らないゲームとやらの開催宣言から、始まった。
しかし、どちらも決着を付けるまでには、至らない。
前者の戦いは、銀色の戦士が乱入したことで、膠着状態に繋がることで終わった。
後者の戦いは、高町なのはを守りながらキングとアンジールの二人を同時に相手にするのが、不可能と判断して撤退した。
そして今、この森の中で三度目の戦いに突入している。

(奴は確実に、俺の手の内を読んでるな……)

この戦いにおける不安要素。
それは、自分との戦闘経験が二度もあること。
アンジールとの激闘で、こちらはキャストオフとクロックアップの機能を使った。
加えて、こちらの戦闘パターンを見ている。
これら二つが示すこと。
手の内が全て、相手に知れ渡っていることだ。
これほどの達人ならば、対抗策を考えているはず。

(恐らく奴は、まだ何か手があるだろう)

自分も、アンジールとの戦いは経験済み。
その結果、戦法及び炎や氷を放出する魔法を使うことを、知ることが出来た。
だが、それはほんの一部という可能性がある。
二度に渡る戦いでは使っていなかった技も、存在するかもしれない。
そして、最大の武器であるハイパーゼクターも、先程キングによって破壊されてしまっている。
しかし不安に溺れたり、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
どんな隠し技があろうとも、ハイパーフォームになれなくても、アンジールを打ち破る。
今やるべき事は、これ一つだけだ。

549地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:53:08 ID:MZGXMrQQ0

「ハアッ!」

カブトの右肩を目がけて、アンジールはリベリオンを振るう。
だが、それが当たることはない。
鎧が斬られようとした瞬間、カブトは後ろに飛び退く。
この行為によって、リベリオンは地面を少し抉るだけに終わった。
そして、アンジールに微かな隙が出来る。
カブトがそれを見逃すことはなかった。
彼は地面に着地すると、拳銃を持つようにカブトクナイガンを構え直す。
握る右手をアンジールに向けて、トリガーを引いた。
銃口が輝くと同時に、イオンを原料とした高エネルギーのビームが、放たれる。

「チッ!」

だが、アンジールはただでやられる訳ではない。
迫り来る光の弾丸を前に、突進を開始した。
自らの姿勢を低くしながら、彼はリベリオンを構える。
そして、イオンビームを切り裂いた。
カブトとの距離を詰めながら、大剣を振る。
横に一閃。弾丸は真っ二つに分かれて、アンジールの横を通り過ぎた。
縦に一閃。弾丸を構成する物質が、呆気なく吹き飛ばされる。
斜めに一閃。弾丸の軌道を強制的に変え、背後の地面に着弾させた。
その際に生じる爆風で、アンジールは自らの速度を上昇させる。
刃で銃弾を弾くという、あまりにも常軌を外れた行為。
しかしソルジャーとして、多くの戦場を乗り越えたアンジールには、造作もない事だった。
高速の勢いで放たれる弾丸を、次々とリベリオンで弾いていく。
やがてアンジールは、カブトの目前にまで迫った。

「ダアッ!」

横薙ぎにリベリオンを振るう。
この勢いには流石のカブトも対抗できず、胸板を切り裂かれた。
未知の金属、ヒヒイロノカネで構成された鎧に傷を付け、火花が飛び散る。
アンジールが与えた一撃を受けて、カブトは後ろへ吹き飛んだ。
そのまま彼の身体は、背中から大木へ叩きつけられる。

「がっ…………!」

痛みを感じて、呻き声を漏らした。
やはり、アンジールは強い。
防御力に特化したマスクドフォームの鎧に、こうも易々と傷を付けるほどの怪力。
加えて、クロックアップを用いた連係攻撃に対抗できるほどの、反射神経。
スーパーで繰り広げた戦いでも感じたが、ただ者ではない。
カブトは体勢を立て直しながら、改めて思う。
その最中に、アンジールは既に追撃を加えるために、迫っていた。
彼は両手でリベリオンを、頭上に掲げる。
標的となったカブトは、クナイガンを再びアックスモードの形で構えた。
刹那、二人の武器は激突し、鍔迫り合いの体制に入る。
互いに押し合い、力の拮抗が始まった。
視線がぶつかる中、カブトは呟く。

「甘いな」
「何?」

彼の右腕が、腰に伸びた。
そしてその手で、カブトゼクターの角を掴む。
それを見たアンジールは目を見開くと、すぐさま後ろに飛んだ。
彼は激情のあまりに、失念していたのだ。
先程この目で見た、天道が身に纏う鎧が持つ機能を。
距離を取ろうとするが、もう遅い。

「キャストオフ!」
『CAST OFF』

力強い宣言と共に、ゼクターホーンを反対側へ倒す。
すると、主の言葉に応えるかのように、カブトゼクターから電子音声が発せられた。
中心部が輝きを放ち、全身に電流が迸る。
その直後、全身を守る銀色の装甲は、勢いよく弾け飛んだ。

550地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:54:35 ID:MZGXMrQQ0
頭部、両腕、胴体の順番に。
これは、マスクドライダーシステムに搭載されている、キャストオフと呼ばれる機能。
カブトの身体から生まれた衝撃波と、辺りに散らばっていく鎧はアンジールの身体に激突した。
後方に吹き飛んでいくも、純白の翼を羽ばたかせる。
彼は空中で後ろ向きに一回転し、体制を整えながら地面に着地。
一方で、キャストオフを行ったカブトの顎から、一本の角が力強くせり上がる。
単眼を複眼に変えると、その輝きが更に強くなった。

『CHANGE BEETLE』

新たなる形態に変えたことを示す、声が響く。
太陽のように赤く彩られる鎧、カブト虫を思わせる額から伸びた角、闇の中で強い輝きを放つ瞳。
それは俊敏性に優れた、仮面ライダーカブトのもう一つの姿。
ライダーフォームの名を持つ形態へと、変身を果たした。
重厚な鎧を脱ぎ捨てたことで、身が軽くなるのをカブトは感じる。
そのままクナイガンから鋭利な刃を出し、持ち方を変えた。
イオンが纏われた黄金の刃が輝く、クナイモードの形状へと。
カブトとアンジールは、互いに睨み合う。
数秒の時間が経過した後、一陣の微風が彼らの間に吹いた。
それがゴングとなるように、二人は同時に地面を蹴る。

「「ハアッ!」」

掛け声が、重なった。
それはまるで、初めて繰り広げた戦いのように。
突進を開始した彼らの刃は、すぐに激突する。
微かな火花が闇を照らし、激突音が木々の間に流れた。
剣戟を振るう度に、腕から衝撃が伝わる。
カブトはクナイガンを振るうが、アンジールはそれを防いだ。
アンジールはリベリオンを振るうが、カブトはそれを弾いた。
この場で行われている、己を鍛え抜いた達人同士の戦い。
どちらも、なかなか決定打を放てないでいた。
何度目かの激突の後、互いに距離を取る。

(何処だ……何処にいる?)

不意に、カブトはアンジールの背後に視線を向けた。
その先には、漆黒のマスクと衣装、そしてマントに身を包み、魔王ゼロを演じているキングが立っている。
右手には、自分やなのはから奪い取ったデイバッグが、いくつもあった。
あの中の一つに、閉じこめられているはず。
こんな下らない戦いの、ゲームマスターを気取りたければ、勝手にすればいい。
キングの定めたルールがまだ残っているなら、生きているはず。

「デヤアッ!」

しかし、そちらにばかり意識を向けていられない。
目の前には、強敵であるアンジールがいる。
こちらの相手と、彼の捜索。
少々骨が折れるが、やれないことはない。
アンジールの刃を捌きながら、探せばいいだけのこと。
迫り来るリベリオンを、カブトはクナイガンで防ぐ。
だが、このまま力比べに持ち込むつもりはない。
腕力では、アンジールの方に分がある。
まともに正面からぶつかっても、勝てるわけがない。
カブトは横に飛んで、大剣を受け流した。
そして、ほんの僅かにキングへ近づく。

(いるはずだ……)

カブトは、一瞬だけ視線を横に向けた。
キングの手にあるデイバッグは、何も変わる気配がない。
それを察すると、再びアンジールの方に振り向いた。

「ハアァァァッ!!」

この僅かな時間で、敵は既に目前まで迫っている。
それが視界に映った瞬間、アンジールの姿が消えた。
突然すぎる出来事だが、カブトは狼狽えない。
彼は、すぐさま上空に顔を向ける。
すると、一瞬の内に十メートルを超える高さに跳び上がっている、アンジールが見えた。
相手は空中でこちらを見下ろしながら、右腕を向ける。

「サンダガッ!」

アンジールは、マテリアルパワーを集中させた。
そして手の平を地面に向け、言葉を紡ぐ。
最上級の位が与えられた、必殺の魔法を放つために。
その直後、カブトに向かって雷が降り注ぎ、轟音が鳴り響いた。
サンダガの影響に伴い、周囲が眩い光で覆われる。
天空より襲いかかる雷によって、カブトは目を細めた。

551地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:55:13 ID:MZGXMrQQ0

「くっ…………!」

アンジールが使った魔法は、周囲を容赦なく破壊する。
地面は砕かれ、雑草は黒く焦げて、木々はあっという間に燃え尽きた。
雷による爆音は闇の中で響き、カブトの身体に直撃する。
衝撃は感じるが、熱は内部に届かない。
マスクドライダーを構成するパーツの一つに、サインスーツが存在する。
あらゆる衝撃から資格者を守る耐久性。
五千度から絶対零度まで、広い温度に対する守備範囲。
これら二つの特性によって、サンダガのダメージは装着する天道には響かない。
しかし、彼の中で疑問が芽生えた。
これは自分の知らない、アンジールの技の一つか。
だが、マスクドライダーの鎧に魔法攻撃が通じないことは、先の戦いで経験したはず。
それなのに、何故使ったのか。
精々、視界を遮ることしか出来ていない。

(…………そういうことか!)

カブトは、答えを見つける。
仮面の下で、彼は目を見開いた。
その途端、上空よりリベリオンを構えながら、急降下に迫るアンジールの姿を見つける。
これほどの達人が、何の考えもなしに技を使うわけがない。
雷の魔法を使った意図は、単なる目くらましの為。
視界が不安定となり、硬直した隙を付いて一閃を放つことが、本当の目的だ。
このまま真っ正面に攻撃を受けるのは、拙い。
元々の鍛え抜かれた筋力に、空からの落下スピードが加算される。
そうなっては、マスクドライダーの鎧でも耐えられるかどうか。

「オオオオオォォォォォッ!」

咆吼と共に、アンジールは突進する。
この勢いでは、回避が不可能。
リベリオンの標的となったカブトは、左に飛びながらクナイガンを構える。
そして、互いに武器を振るった。
激突によって音が生じ、空気が震える。
その衝撃によって、カブトは僅かに蹌踉めき、後退った。
直撃は避けられたとはいえ、アンジールの力を全て受け流すことは、流石に出来ない。
腕に痺れを覚えながらも、彼は身体を反転させた。
そのまま、敵の方に振り向く。
すると、アンジールが突きを繰り出す姿が、目に映った。

「ッ!?」

直後、胸に衝撃が走る。
攻撃を受け、少し吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直して後ろに飛ぶ。
カブトはキングに近づくように、アンジールと距離を取った。
痛みを感じるが、この程度は何て事もない。
彼はもう一度、王を気取る観戦者の方に振り向いた。
キングが持っている、五つのデイバッグ。
その中に一つだけ、異様に膨らんでいる物がある。
まるで何かが暴れているかのように、表面が蠢いていた。

(あそこか)

カブトは確信する。
あのデイバッグに、閉じこめられている事を。
これで、第一段階は終了。
次にやることは、悟られないようにキングに出来る限り近づくことだ。
その為には、この戦いを続けなければならない。

「ダアッ!」

アンジールの握る剣が、カブトに襲いかかる。
軌道を読み取り、クナイガンで防いだ。
そこから力比べに入る前に、カブトは横に回り込んで敵の一撃を受け流す。
勢いを止めることが出来ずに、アンジールの体勢がほんの少しだけ不安定となった。
生まれた隙を付き、カブトは左足を軸にした鋭い回し蹴りを放つ。
だが、アンジールはリベリオンを掲げて、それを受け止めた。
七トンもの衝撃によって両腕に痺れを感じ、数歩分後退してしまう。
しかし、アンジールはすぐにリベリオンを構え直し、カブトを睨んだ。
そのまま彼は、勢いよく地面を蹴って前進する。

552地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:55:55 ID:MZGXMrQQ0
「ハアァァァァッ!」
「ふんっ!」

一瞬の内に、開いた距離は詰められた。
その瞬間、互いに武器を振るう。
アンジールはリベリオンを。
カブトはクナイガンを。
伝説の魔剣士が愛用していた大剣と、マスクドライダー計画の産物である刃が激突した。
アンジールの得意とする、直線的な剛の戦術。
カブトの得意とする、力を受け流す柔の戦術。
対極に位置する二人は、それぞれ大剣と刃を交錯させる。
アンジールが力に任せて我武者羅に振るう度に、カブトは必要最低限の動きで受け流した。
先程から、何度もそれが繰り返されて行われている。
妹達に新たなる生を与えるため、カブトを倒そうとするアンジール。
離れ離れとなった仲間達と合流するため、アンジールを退かそうとするカブト。
その目的の為、純粋に戦う二人の闘士。
彼らが抱く信念は、とてもよく似ていた。
されど、その為に取る行動は、全く正反対。
彼らが武器を振るい、火花と金属音を辺りに散らし続けた。

(もう少しか)

その最中、カブトは考える。
キングが立つ場所まで、ほんの数メートルまで近づいていた。
これで、第二段階は完了。
残ったのは、あと一つだけ。
アンジールに隙を作らせること。

「ダアァァァァッ!」
「はあっ!」

暴風雨のように繰り出される斬撃を、クナイガンで防ぎ続ける。
機会が訪れないが、焦ってはいけない。
無理に踏み込もうとしては、返り討ちに遭う。
斜め上から袈裟斬りが来るが、身体を捻って紙一重の差で回避。
直ぐさまアンジールは、軌道を戻すように斬り返しを放った。
眼下より迫るリベリオンを、クナイガンで受け止める。
そして、横に飛んで距離を取った。
だが、アンジールの斬撃は終わらない。
彼は続くように、横胴斬りを放った。
リベリオンを振るった際に、大気が音を立てて震える。
カブトは再び、跳躍して回避した。
その直後、彼の立っていた位置に生えている木が、次々と倒れる。
この結果を見るに、威力がどれほど高いかを物語っていた。
けれども、臆することはしない。

(よし、見切った)

むしろ、ようやくチャンスが訪れた。
自分は今、アンジールの死角に立っている。
それに加えて、キングとの距離も近い。
行動するならば、今しかない。
カブトは脇腹に手を伸ばし、スイッチを叩いた。

「クロックアップ!」
『CLOCK UP』

二つの声が重なる。
その瞬間、カブトゼクターからタキオン粒子が噴出され、全身に流れ込んだ。
張り巡らされた血液と神経を通り、カブトの運動速度を劇的に上げる。
すると、周囲に存在していたあらゆる物質の存在が、スロー再生のように減速。
否、カブトだけがたった一人、光速での移動を行ったのだ。
機密組織ZECTが、ワームに対抗するために生み出した機能、クロックアップ。
それは使用者を通常とは、異なる時間流への突入を可能とさせるシステム。
しかしこの戦いでは、首輪の制限によって発動時間が短くなっており、使用後に疲労が溜まるように仕組まれている。
それ故に乱用が出来ず、タイミングを見極める必要があった。
カブトはアンジールの手を掴み、リベリオンを奪い取る。
そのままキングの方に振り向いて、勢いよく投降した。

553地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:56:32 ID:MZGXMrQQ0

(クロックアップの時間は短い。ならばこれしかないな)

残り時間、五秒。
リベリオンが空中で一直線に進む中、カブトも走り出す。
銀色の大剣は、キングが被るゼロの仮面に突き刺さろうとした。
しかしその瞬間、虚空より障壁が現れる。
それはキングの能力によって、自動的に生まれる盾、ソリッドシールド。
如何に優れた切れ味を誇るリベリオンといえど、貫くことは出来ない。
金属音と同時に勢いを失い、ゆっくりと落下を始めた。
キングを守ったソリッドシールドは、未だ顕在している。

(これでいい)

しかし、これは想定の範囲内。
キングにダメージを与えることが、目的ではない。
残り時間、四秒。
ソリッドシールドは、顔面の前でゆっくりと収縮していく。
カブトはその間に、地面を蹴って全力で駆け抜けた。
キングとの距離は一瞬で、埋まる。

「ふんっ!」

残り時間、三秒。
クナイガンを構えて、横一文字に振るう。
その狙いは、キングが握るデイバッグの肩紐。
荷物が入った場所から切断し、その中の一つを掴む。
これは今まで探していた、目的のデイバッグ。
とても遅いスピードでだが、表面は蠢いている。

(当たりか)

残り時間、二秒。
直ぐさまカブトは、キングの元から離脱を開始する。
他のデイバッグも奪うべきだったが、そんな暇はない。
残り時間、一秒。
彼は瞬時に木の裏に隠れて、ファスナーを開く。
やはり、中に彼がいた。

『CLOCK OVER』

クロックアップの終了を告げる、音声が流れる。
その瞬間、カブトの体感時間は通常の物へと戻った。
証拠に、何かが地面に落下するような音が、後ろより聞こえる。
だが、そんなことはどうでもいい。
カブトの意識は、デイバッグの中に閉じこめられていた仲間の方に向いていた。
雪のように白い肌、紫色に染まった背中、頭部から伸びた角、それに巻かれたリング、小さな二つの翼。
高町なのはのパートナーである飛竜、フリードリヒ。

「大丈夫か」
『キュ〜!』

カブトの言葉に、フリードは笑顔で返す。
これなら、大丈夫だ。
見たところ、何処にも怪我はない。
その手からすぐに、フリードを離す。
無事を確認し、本来ならば安堵すべきだが、そんな暇はない。

「奴らは俺が叩き潰す。お前は早く行け」
『キュックル〜』
「高町達は向こうだが、注意しろ。妙な爆発が起こって、散り散りとなった」

フリードは頷き、カブトに背を向ける。
そのまま、空へと羽ばたいた。
一瞬の内にフリードの背中が小さくなり、木々の間へと消えていく。
見えなくなった瞬間、カブトは物陰から姿を現した。
戻った先では、キングとアンジールの二人が、こちらに視線をぶつけている。

「やってくれるじゃないか、カブト」

黒い仮面の下から、声が発せられた。
変声機で低く聞こえるが、怒りが込められているのを感じる。
その足下には、紐の千切れたデイバッグが全て、転がっていた。

554地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:57:11 ID:MZGXMrQQ0

「ゲームのルールを守らずに、私に攻撃して景品だけを奪うとはね……」
「それがどうした」

キングの言葉を、カブトはあっさりと遮る。
もうこれ以上、茶番に付き合うつもりは毛頭無い。
減らず口も、言わせる気がなかった。

「おばあちゃんが言っていた」

カブトは、声に力を込める。
彼の脳裏には、おばあちゃんから教わった偉大な教えが、蘇っていた。
それをキングに言い聞かせるため、言葉を続ける。

「まずい飯屋と、悪の栄えた試しはない…………ってな」

これが示す意味は、言葉の通り。
半端な料理しか作れない飯屋は、一度たりとも栄光を掴めないこと。
そしてもう一つ。
世界を作り続けてきた長い歴史の中で、悪が未だかつて勝利を果たしていないこと。
その言葉をぶつけられた事により、キングは仮面の中で表情を顰めた。
彼は今、カブトに対する強い苛立ちを感じている。
最初はあのベルトを浅倉に渡し、人々を守れなくした。
キャロ・ル・ルシエを暗黒道に落とし、如何に無力な存在であるかを分からせようとした。
C.C.やシェルビー・M・ペンウッドの命を奪い、絶望させようとした。
フリードを人質にとって、正義の味方を気取るあの男に人殺しをさせようとした。
ハイパーゼクターを破壊した時の、反応に期待していた。

(気に入らないなぁ…………)

だが、どれも自分が満足できる結果にまで、至らない。
それどころか、カブトにとって都合のいいように動いている。
クロックアップをし、アンジールが使う剣を自分に投げて、ソリッドシールドが形成された隙を付いた。
これはオートで出現するが、逆に仇となるなんて。
視界を防ぐ為に、わざわざ自分の所まで近づくよう戦っていたのか。
たかが人間の分際で、小細工を仕掛けるなんて。
そして最強の王である自分に、ここまで逆らうなんて。
もはや、我慢の限界だ。

「どうやら、君にはお仕置きが必要みたいだね」

キングは、一歩だけ前に踏み出す。
リベリオンを拾ったアンジールは、それを制止しようとした。

「待て、奴の相手は俺がすると――――」
「奴はゲームのルールを破った、もうこれ以上遠慮をするつもりはない」

しかし、彼の言葉はあっさりと流される。
その瞬間、キングの身体から黄金の光が放たれ、姿を変えていった。
漆黒の衣装は、瞬く間に消えていく。
キングは、コーカサスオオカブトの始祖たる、異形の姿に変貌を果たした。
アンデッドと呼ばれる、異形の怪物へと。
カブト虫を連想させる額から伸びた角、黄金色に輝く外骨格、全身から突き出した禍々しい棘、腰に顕在するバックル。
今のキングは、他のアンデットより遙かに優れた能力を持つ、上級アンデットの一体だった。
その名を、コーカサスビートルアンデッド。

(アンジールにはバレるけど…………まあ、いっか)

もはや、こうなった以上関係ない。
カブトは。いや、天道総司はこの手で叩き潰さなければ、気が済まない。
もしもアンジールが真実を知り、自分に刃向かおうというなら、始末すればいいだけだ。

555地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:57:51 ID:MZGXMrQQ0
ふと、ヒビノ・ミライの事を思い出す。
奴もウルトラマンメビウスに変身し、自分の知らない攻撃を使った。
あの時は屈辱を覚えたが、今回は違う。
ハイパーカブトになる為の道具は、この手で壊してやった。
メビウスの時のようなことは、もう起こらない。
元々二対一で戦う予定だった。
だから、丁度いい。
コーカサスビートルアンデッドはカブトを睨みながら、額に手を当てる。
そのまま、両手に武装を出現させた。
右手には、あらゆる物質を両断する破壊剣、オールオーバーを。
左手には、百五十トンもの衝撃に耐える盾、ソリッドシールドを。
それぞれ握り、コーカサスビートルアンデッドは構えた。
冷酷な輝きを放つ破壊剣を、カブトに向ける。

「第二ラウンドの、始まりだね」

緑色の瞳からは、確実な殺意が感じられた。
されど、それに押し潰されることはない。
カブトもまた、その瞳から覇気を放っていた。
人数で不利に陥ろうとも、関係ない。
自分の使命はただ一つ。
天の道を往き、目の前の敵を倒すことだ。
コーカサスビートルアンデッドは装備を構えながら、一歩一歩近づいてくる。
カブトはクナイガンを構えながら、それに迎え撃った。







(あれが、ゼロの本当の姿か)

黄金色の異形、コーカサスビートルアンデッドへと姿を変えたキングを、アンジールは目撃する。
その姿は、まるで自分が元いた世界に生息する、モンスターのようだ。
天道との決着を付けようとしたが、奴はそれを無視している。
きっかけはついさっき、敵があの超高速移動を使ったときのこと。
自分から剣を奪うと、キングの方へ投げた。
発生した盾で視界を覆った隙を付いて、あの白い竜を解放する。
正直な所、フリードが逃げられたとしても、アンジールからすればどうでもよかった。
気にくわない男の荷物が無くなったところで、こちらの知ったことではない。
カブトとコーカサスビートルアンデッドが刃をぶつけ、火花を散らす中、アンジールは考えていた。
そして、奴らは鍔迫り合いの体制に入る。

「アンジール、お前はそれで良いのか」

そんな中、カブトの声が聞こえた。
コーカサスビートルアンデッドを押して、剣戟を交わす。
すぐに距離を取って、言葉を続けた。

「このままキングの操り人形のまま、終わるつもりか」
「何……!?」
「こいつの元に付いたところで、天は微笑まない」

その声は、アンジールの心に突き刺さる。
確かに、このまま手駒となったところで、妹達が生き返るとは限らない。
むしろその可能性は、限りなく低いだろう。
あの姿に変わった途端、一気に口調が変わった。
威厳で満ちた声から、まるで我が儘な子どもを思わせる声に。

556地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:58:35 ID:MZGXMrQQ0
(やはり、奴は俺を騙している……?)

アンジールはその可能性を、思いついた。
先程考えていたように、クアットロを殺したのはキングである可能性を。
そして、このまま奴の言いなりになればどうなるか。
協力したところで、道化のままで終わることもあり得る。
別にキングを、心から信頼しているわけではない。
それどころか、時間と共に疑念が強くなる。

「そんな戯言を言って、どうするのかな?」

アンジールが考える最中、新たな声が響いた。
その主であるコーカサスビートルアンデッドは、オールオーバーを横に振るう。
標的となったカブトは、クナイガンでそれを受け止めた。
青白い火花が、闇の中で飛び散る。
一瞬だけ光が灯ると、コーカサスビートルアンデッドはアンジールに振り向いた。

「アンジール、何をしてるの」

異形の瞳と、目線が合う。
コーカサスビートルアンデッドが乱入してから、アンジールは一切動いていなかった。
何故カブトと戦わないのかは、彼自身分かっていない。
自分に命令する、コーカサスビートルアンデッドへの反抗心か。
それとも、横槍を入れられたことで興が醒めたのか。
もしくは二対一で決着を付けるのを、プライドが許さないのか。

「君は妹達を生き返らせたいんでしょ。だったら、一緒にあいつを倒そうよ」

コーカサスビートルアンデッドは、淡々と言い放つ。
その瞬間、彼の中でクアットロの最後の姿が、一気に蘇った。
自分が死んでも、アンジールが生き返らせると、クアットロは言った。
そして、チンクやディエチもそれを望んでいると、クアットロは言った。
その為にやる事は、この戦いで優勝して願いを叶えること。

「…………そうだったな」

アンジールはリベリオンを構えて、コーカサスビートルアンデッドに答える。
そうだ、今やるべき事は迷うことではない。
目の前の敵、カブトを倒すこと。
その為ならば、夢も誇りも全部捨てて、参加者を皆殺しにする。
もしもコーカサスビートルアンデッドが裏切るのなら、殺せばいいだけのことだ。
人形になった所で、後悔など無い。
それが妹達の為に出来る、唯一の選択だ。
自らにそう言い聞かせて、アンジールは走る。
そして、リベリオンを振りかぶった。







(なるほど、やってくれるじゃないか。天道総司)

カブトとアンジールの戦いに、コーカサスビートルアンデッドが乱入する光景を、一人の男が眺めている。
身に纏うのは、黄色のハイネックと黒いジャケット。
その顔には、銀縁の眼鏡を掛けている。
理知的な雰囲気を漂わせるその男の名は、金居。
上級アンデッドの中でも、ダイヤスートのカテゴリーキングに位置する。
先程から金居は、何とかキングを戦場に引きずり出せないかと、策を練っていた。
だが、その手間はすぐに省ける。
カブトの手によって、何とあのキングの方から、自ら戦いの場に出たのだ。
理由は単純。
キングのバッグを奪い、その中に閉じこめられていた白い竜を、カブトが逃がしたから。
それで何故戦場に出たのかは分からないが、キングはアンデッドへと姿を変える。
この結果だけでも、金居にとっては充分。

(わざわざ俺の手間を省いてくれるとはね…………礼を言うよ)

思考を巡らせる必要すら、無かったとは。
その事に笑みを浮かべながら、心の中で呟く。
無論、アンデッドである金居が、人間に対して感謝などしない。
彼にとって、あの戦場で戦っている三人は、ただの駒。
自分の都合のいいように動く、哀れな者達にしか見えなかった。

557地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:59:22 ID:MZGXMrQQ0

(まあ、後は待つしかないか)

とにかく、やるべきことはもう無い。
あとは勝手に潰し合って、倒れるのを待つだけだ。
もし、仮に誰か一人でも生き残ったとしよう。
実力者同士の戦いなら、消耗は避けられないはずだ。
そうなったら、こちらから楽にしてやればいい。
デザートイーグルで狙撃するか。
それとも、アンデットとなって殺害するか。
物陰から戦場を眺める金居は、口元を歪めながら思考する。

(精々頑張ってくれよ、俺は応援してるからな)

誰にも気づかれないように、侮蔑の言葉を投げた。
自分にとって都合のいい出来事が、ここまで続くなんて。
金居自身、予想していなかった。
彼は声を漏らさぬよう、笑みを浮かべ続ける。
あの三人の中で、果たして誰が一番長く耐えるか。
ふと、金居は思うようになる。







激しさを増す戦いの影響で、辺りは次々と吹き飛んでいった。
仮面ライダーと、アンデッドと、ソルジャーの手によって。
周囲の大地は所々が砕かれ、所々に亀裂が走り、植物はメラメラと音を立てながら燃えていた。
もはや、森林という元の原形は一片たりとも、保っていない。
そんな中で、三人は戦いを繰り広げていた。
カブトは、クナイガンの引き金を引いて、イオンで出来た弾丸を放つ。
アンジールは、渾身の力を込めてリベリオンを振るって、それを弾いた。
コーカサスビートルアンデッドは、ソリッドシールドを形成させ、イオンビームを防ぐ。
遠距離からの攻撃は、通らずに終わった。
カブトはクナイガンの持ち方を、クナイモードに変える。
目前からは、アンジールがリベリオンを振りかぶりながら、迫っていた。

「フンッ!」
「はあっ!」

クナイガンを頭上に掲げて、カブトは銀色の剣を防ぐ。
二つの得物が、掛け声と同時に激突し、火花を散らせた。
クナイガンとリベリオンの刃が擦れ合い、互いの力が拮抗する。
しかし、純粋な腕力ならばアンジールの方に、分があった。
故に、カブトは徐々に押されていく。
彼はふと、疑問を感じた。
コーカサスビートルアンデッドの姿が、見られない。
鍔迫り合いの中、彼は一瞬だけ横に視線を移す。
すると、見えた。
少し離れた位置から、コーカサスビートルアンデッドが真っ直ぐに腕を向けているのを。
何をするつもりなのか。
疑問を抱いた瞬間、掌から輝きが放たれる。

「「ッ!?」」

カブトとアンジールは、同時に背後へ飛んだ。
その直後、轟音と共にエネルギー弾が発射され、彼らのいた場所を飲み込んでいく。
そして凄まじい爆発が起こり、辺りの地面を容赦なく吹き飛ばした。
しかし、それだけでは終わらない。
音と共に発生した爆風は、カブトの身体を容赦なく飛ばした。

「くっ!」

だが、彼はすぐに受け身を取る。
そのお陰で、地面に激突する事態だけは、避けることが出来た。
ここから半径三メートル。
視界を遮る物は、全て跡形もなく吹き飛ばされていた。

558地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 00:59:55 ID:MZGXMrQQ0

「なるほどな」

体勢を整えながら、カブトはぽつりと呟く。
コーカサスビートルアンデッドは、まだこんな隠し球を持っていたとは。
先程の念力に加えて、今のエネルギー弾。
そしてアンジールと同じように、奴は自分の戦いを見切っている。
状況は、こちらが圧倒的に不利だ。
だがそんなことは関係ない。
おばあちゃんだって、言っていた。
仕事は納豆のように粘り強くするものだ…………と。
だから、今は必死に戦う。
その言葉を思い出しながら、カブトは敵に振り向いた。

「…………貴様、俺を巻き込むつもりだったのか」

アンジールは、コーカサスビートルアンデッドを睨み付ける。
彼もまた、エネルギー弾による衝撃波に、吹き飛ばされていた。
後退したことで、幸いにもダメージは負っていない。

「君だったら、すぐに避けられたでしょ?」
「何?」
「そんなことより、カブトを倒そうよ」

しかしコーカサスビートルアンデッドは、まるで悪びれもせずに答えた。
アンジールが避けるのを見て、彼は失望の感情を抱く。
この男は優勝するためなら、何でもするかと思っていた。
だが、実際はこのザマ。
カブトを止めている隙にエネルギー弾を放とうとしたが、避けるなんて。

(やれやれ、こいつはただの腰抜けだな)

コーカサスビートルアンデッドは、心中で溜息を吐く。
もうこの男は駄目だ、使えない。
初めは妹を殺した自分の駒になるという、シチュエーションに心を躍らせた。
しかし、実際の戦いになってはロクに使えない。
カブトを始末するための道具にしたが、それすらも満足に出来ないとは。
だが、今だけは特別に一緒に戦ってあげよう。
侮蔑の視線を一瞬だけアンジールに向けて、カブトに振り向いた。

「ゲームを続けようか、カブト」

言い放ちながら、コーカサスビートルアンデッドは足を進める。
その様子は、まさに王。
カテゴリーキングの名が示すように、威風堂々としていた。
異形の身体からは、圧倒的と呼べるほどの覇気を放っている。

「一つ教えてやろう」

それを真っ向から受けながらも、カブトは微動だにしない。
彼もまた、一直線に足を進めていた。
その様子は、まさに太陽。
仮面ライダーカブトに与えられた、太陽の神の称号を示すように、威風堂々としていた。

「例え如何なる王が相手だろうと……太陽の前には平伏すのみ」
「太陽だって? 笑わせないでよ」

カブト虫を彷彿とさせる赤い仮面ライダーと、カブト虫を彷彿とさせる金色のアンデッド。
昆虫の王と、昆虫の王。
互いに言葉を、そして敵意を乗せた視線を激突させる。
太陽を自称する、カブト。
王を自称する、コーカサスビートルアンデッド。
同時に武器を振るって、激突を再開した。
クナイガンとオーバーオールの刃が、闇夜で煌めく。
力に任せたコーカサスビートルアンデッドの斬撃を、カブトは一つ一つ受け流した。
接触面から、次々と甲高い音が響く。
数度の撃ち合いが終わった後、彼らは距離を取った。
しかし、カブトは息を整える暇が与えられない。
地面に足を付けた直後、流れるようにアンジールが突進してきたのだ。

559地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:00:40 ID:MZGXMrQQ0
「オオォォォォッ!」

咆吼と共に、リベリオンが左袈裟斬りで振るわれる。
再度跳躍して、カブトは斬撃を回避した。
その結果、刃先は空振りに終わる。
カウンターを放つために、カブトはクナイガンを振るった。
しかし、それは届かない。

「うっ!?」

突然、身体が宙に浮かぶのを感じる。
地面から両足が離れた瞬間、カブトは数メートル後ろに吹き飛ばされていった。
受け身を取ろうとするが、四肢が動かない。
この現象には、覚えがあった。
数時間前にも経験した、キングの念力。
無様にも、カブトは地面に叩きつけられてしまう。
そのまま転がってしまうが、何とか起きあがって体勢を立て直した。
刹那、彼は見てしまう。
コーカサスビートルアンデッドとアンジールが、こちらに掌を向けているのを。
それを目撃したカブトの行動は、早かった。

「――――プットオン!」
『PUT ON』

カブトゼクターの角を、反対側に倒す。
それは咄嗟の判断だった。
この離れた位置からのクロックアップは、途中で切れる危険性が高い。
故に、マスクドフォームに戻るための機能、プットオンを選ぶ。
電子音声と共に、伸びた角が元の位置に下がっていった。
その直後、キャストオフによって吹き飛んだ銀色の鎧が、カブトの身体を覆う。

「遅いよっ!」
「ファイガ!」

そして、それぞれの腕から、エネルギー弾と灼熱の炎が襲いかかった。
ファイガはカブトの全身を飲み込み、光線が爆音を鳴らす。
一発だけでなく、無慈悲に次々と放たれていった。
連射される二つの力によって、大地は抉られていく。
それによって、大量の粉塵が舞い上がった。
視界が遮られたのを見て、二人はようやく攻撃を止める。
この光景を見て、コーカサスビートルアンデッドは充実感を覚えた。

(ハハハッ! 太陽とか名乗っておきながら、やっぱり弱いな! さて、どんな無様な姿を見せてくれるかな?)

敵は咄嗟にマスクドフォームになった。
『MASUKARE−DO』に書かれた文章によると、あれは防御に特化した形態らしい。
だが、この攻撃の前では意味を成さないだろう。

『CAST OFF』

侮蔑の視線を向けていると、音声が聞こえた。
その途端、目の前から金属片が放出されて、一気に煙が晴れる。
コーカサスビートルアンデッドとアンジールの脇を、凄まじい勢いで通り過ぎた。

『CHANGE BEETLE』

そして再び、粉塵の中から姿を現す者がいる。
言うまでもなく、ただ一人。
ライダーフォームへと形態を変えた、カブトだった。
しかし、先程とは少しだけ違うところがある。
短剣一本で戦っていたはずなのに、反対側の手に見慣れぬ剣が握られていたのだ。

「――――いくぞ」

右手には、クナイガンを。
左手には、黄金の輝きを放つ巨大な剣を持っていた。
それはZECTが生み出した、全てのゼクターの頂点に立つ必殺の武器。
ハイパーゼクターと同じく、ワームとの戦いに勝利する鍵の一つ。
パーフェクトゼクターの名を持つ、究極の剣だった。

560地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:01:14 ID:MZGXMrQQ0







時間は、ほんの少し遡る。
爆発の衝撃を受けて、カブトは地面に吹き飛ばされた。
身体が転がっていくが、瞬時に勢いを止める。
エネルギー弾と炎の直撃を受けたが、瞬時にマスクドフォームとなったため、ダメージは軽減された。
関節を軽く動かす。やはり、致命傷は負ってない。
周りを見渡しながら、カブトは考える。
煙幕が広がっているので、視界がはっきりしない。
キャストオフをする手があるが、それでは格好の的になるだけ。
かといって、このままでは煙の向こうから、奇襲を受けるだろう。

(…………ん?)

周囲を見渡すカブトは、思考を止めた。
吹き上がる爆煙の向こうで、一つの影を見つける。
一瞬、敵かと思い構えを取った。
しかし、影は動かない。
それは棒のように、この場に突き刺さっている。
何かと思い、カブトは一歩前に進んだ。
見えるところまで行った途端、仮面の下で目を見開く。

(これは、まさか……)

そこに顕在するのは、一本の巨大な剣だった。
刀身は黄金色に輝いて、握り手には四つのボタンが備え付けられている。
それぞれのスイッチには赤、黄、水色、紫の四色に彩られていた。
この武器を、カブトは知っている。
ワームを初めとした数多の脅威に対抗するため作られた、完全の名を持つゼクター。

「やはり、パーフェクトゼクターか…………」

敵に悟られないほどの小さな声で、カブトは呟く。
何故、これがここにあるのか。
ここに、彼の知らない事実が存在する。
先程合流したスバル・ナカジマの荷物の中に、パーフェクトゼクターが存在した。
しかしそれは、八神はやてが『妖艶なる紅旋風』を放ったことで、このC−9地点まで吹き飛ばされてしまう。
そして偶然にも、コーカサスビートルアンデッドとアンジールの攻撃によって、カブトもまたここまで辿り着いた。
彼はすぐにパーフェクトゼクターを手に取る。
まるで主の帰還を喜ぶかのように、刃は輝きを放った。
ハイパーフォームにはなれないため、本来の威力を発揮することは出来ない。
しかし、自身の中で力が沸き上がっていくような感覚がした。
これさえあれば、戦える。
カブトは、空いた方の手でゼクターホーンを反転させた。

「キャストオフ!」
『CAST OFF』

カブトゼクターから、力強い音声が発せられる。
その瞬間、堅牢な鎧と共に、辺りの煙が吹き飛んだ。







C−9地点と、D−9地点の境目。
そこは既に、完全な荒れ地と成り果てていた。
カブトがパーフェクトゼクターを手に入れたことにより、戦況は更に変わる。
コーカサスビートルアンデッドとアンジールが、数と物量の差で有利に立っていたはずだった。
カブトの視線に、左右から同時に凶器が襲いかかるのを目にする。
彼はそれらに対抗するため、両腕を突き出した。
左から迫るオーバーオールを、パーフェクトゼクターで受け止める。
右から迫るリベリオンを、クナイガンで受け止める。
四つの武器が衝突し、火花が散った。
そのままカブトはバックステップを踏んで、距離を取る。
そして、構えを取った。
普段なら二刀流での戦いは行わないが、この場合は仕方がない。

561地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:02:07 ID:MZGXMrQQ0

(…………まるで、あいつみたいだな)

ふと、カブトは仮面の下で笑みを浮かべる。
今の構えが、長い間共に戦っていたあの男と、とても似ているのに気づいたため。
『戦いの神』と呼ばれる、クワガタ虫を模したマスクドライダーの資格者と。
とても考えが甘いが、見ていてとても面白いあの男と。
仮面ライダーガタック。
否、加賀美新とよく似ていたのだ。

「そんな武器を使うなんて、いけないなぁ」

無論、感慨に耽っている場合ではない。
コーカサスビートルアンデッドは、こちらに腕を向けている。
これが意味するのは、二つ。
エネルギー弾での攻撃か、念力を使ってパーフェクトゼクターを奪うこと。
可能性としては、後者が高い。
両足に力を込めて、カブトは跳躍した。
その途端、先程立っていた空間は予想通り、歪みが生じる。

「はあっ!」

舞い上がるカブトは、空中でクナイガンを投げた。
標的は、地上にいるコーカサスビートルアンデッド。
突き刺さろうとした瞬間、刃はソリッドシールドに阻まれる。
だが、それでいい。
目的は先程のように、敵の視界を隠すこと。
それを果たしたカブトは、身体を反転させる。
目前からは、アンジールが片翼を羽ばたかせながら、高速で迫っていた。

「「ダアッ!」」

互いに武器を振るい、激突させる。
スーパーでの戦いを再現しているようだったが、二つの違いがあった。
一つ、二人は相手の戦術を見切っていること。
二つ、所持する武器の違い。
それ故、彼らの条件は拮抗していた。
パーフェクトゼクターとリベリオンが、間髪入れずに次々と振るわれる。
一度激突する度に、火花が飛んだ。
一度激突する度に、微かな光が灯った。
一度激突する度に、金属同士が激突する音が響いた。
一度激突する度に、闇が震えた。
純粋な力ならば、アンジールに天秤が傾く。
しかし今のカブトは、パーフェクトゼクターを手に戦っていた。
その威力は、クナイガンを上回る。
アンジールまでには届かないが、その要素を足すことでカブトは戦っていた。
やがて、彼らの打ち合いは一時終わる。
きっかけは、アンジールが更に上空へ羽ばたいたことによって。

(距離を取る…………なるほどな)

カブトは、眼下に視線を移す。
案の定、その先ではコーカサスビートルアンデッドが、腕を向けていた。
直後、あのエネルギー弾が轟音と共に放たれる。
最初に使った念力は、ただの囮だった。
空中戦という、アンジールの本領を発揮できる状況まで追い込んで、先程のように光線を放つ。
しかしその攻撃を、ただ受けることなどしない。

「クロックアップ」
『CLOCK UP』

再び脇腹のスイッチを叩いて、クロックアップを行った。
瞬時にカブトは超高速の世界に突入して、落下する。
周りの光景が遅く見える中、パーフェクトゼクターのボタンに指を付けた。

562地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:02:48 ID:MZGXMrQQ0

『KABUTO POWER』

大剣から、音程の高い機械音声が発せられる。
それは、聞き慣れた音。
武器の力を発揮するための、合図だった。
音声が鳴った瞬間、パーフェクトゼクターの刀身にタキオン粒子が纏われる。
生まれた原子は稲妻の形となって、赤い輝きを放った。
そんな中、カブトは地面に着地する。
残された時間は、三秒も満たない。
彼は姿勢を低くしながら地面を蹴って、コーカサスビートルアンデッドの懐に潜り込んだ。

『CLOCK OVER』

全ての動きが、元通りになる知らせが告げられる。
コーカサスビートルアンデッドはそれに反応し、振り向いた。
視界に映るカブトは、パーフェクトゼクターの握り手に備えられた、引き金を引く。

『HYPER BLADE』
「はあああぁぁぁぁっ!」
「なっ……!?」

咆吼と電子音声が、重なった。
パーフェクトゼクターから、凄まじいほどの赤い風圧が放たれる。
カブトはコーカサスビートルアンデッドの胸板を、下から斜め上に薙ぎ払った。
咄嗟に発生したソリッドシールドすらも、易々と砕いて。
タキオン粒子によって生まれた刃、ハイパーブレイドの一撃は、コーカサスビートルアンデッドを呆気なく吹き飛ばした。
その反動は凄まじく、身体が痺れるのをカブトは感じる。
いつもなら、感じたことのない衝撃。
本来パーフェクトゼクターは、ハイパーフォームに変身することを前提で、作られた武器。
このゼクターに内蔵されている一撃の威力は高いが、反動も凄まじい。
通常の形態で技を使っては、こちらに衝撃が来ても当然だった。
加えて、手応えがいつもより感じられない。

(だが、キングにダメージを与えた…………上出来だ)

それでも、コーカサスビートルアンデッドに傷を負わせた。
クロックアップの疲労や、パーフェクトゼクターの反動など、耐えればいいだけ。
天の道を往く自分なら、この程度は何て事無い。
先程投げたクナイガンを、カブトは拾う。
その直後、空に飛んでいたアンジールもまた、地面に降りた。
片翼から羽根が舞い落ちる中、無言でリベリオンを構える。
カブトもまた、何も言わずに二刀流の構えを取った。
二人は睨み合い、冷たい空気が広がる。

「あ〜あ…………痛いなぁ」

そんな中、緊張感を壊すような声が聞こえた。
カブトとアンジールは、そちらに振り向く。
二人の視線の先から、異形の怪人が黄金色の身体を輝かせながら、ゆっくりと迫っていた。

「やってくれるじゃないか、カブト。でも、礼を言うよ」

コーカサスビートルアンデッドは、気怠そうに肩を回す。
現れたアンデッドを見て、カブトは違和感を感じた。
あるはずの物が、身体にない。

「なんだかよく分からないけど、君のおかげで力を取り戻せたよ! ありがとう!」

そう、コーカサスビートルアンデッドの首にあるはずの首輪が、無かったのだ。
絶対に外せないはずの物が、何故。
カブトの中で、疑問が広がっていく。

563地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:03:26 ID:MZGXMrQQ0







これは、幾つもの出来事が重なった結果、起こったことだった。
まず一つ目。
コーカサスビートルアンデッドはウルトラマンメビウスと戦った際に、二人のウルトラマンが力を合わせて放った技を受けた。
メビュームナイトブレードの名を持つ、闇を切り払う剣を。
それを受けたコーカサスビートルアンデッドは、莫大なダメージを負った。
この時はアンデッドの再生能力と、治療の神 ディアン・ケトのカードを使って、命を繋ぐ。
次に二つ目。
これは参加者の知らない出来事だった。
第四回放送の際に主催側で内乱が起きて、プレシア・テスタロッサは死亡。
新たにゲームマスターとなったジェイル・スカリエッティが、参加者とのバランスを取るために、全ての首輪に備えられた爆薬を解除した。
その結果、首輪の爆発による死亡は、起こらなくなる。
そして最後に三つ目。
パーフェクトゼクターを手に入れたカブトによって、必殺の攻撃を受けた。
下から上に掬い上げるように放たれた、ハイパーブレイド。
その刃先が、コーカサスビートルアンデッドの力を縛る首輪に、偶然にも命中したのだ。
本来なら、首輪はこれだけでは壊れない程の耐久力を持っている。
しかし、メビウスとの戦いで敗北した際に、大きく劣化していたのだ。
アンデッドの再生力とディアン・ケトで、コーカサスビートルアンデッドの傷は治った。
だが、治癒されるのは身体のみ。
能力を縛る首輪は、その対象ではなかったのだ。
メビュームナイトブレードによる爆発と、ハイパーブレイドの一撃。
それら二つと、主催者が行った爆破解除が奇跡的に合わさって、首輪から解放された事になる。
その結果、コーカサスビートルアンデッドは本来の力を、全て取り戻した。
恐らく、この真相に気づくのは、誰一人としていない。







「ふふふふふふ、力が漲っていくなぁ…………!」

コーカサスビートルアンデッドはわざと両腕を広げながら、嘲るように喋る。
その態度からは絶対的有利に立ったという、余裕が感じられた。
首輪が破壊されて、何故無事でいられるのかは、彼自身分からない。
だが、真相などどうでもよかった。
忌々しい首輪が無くなったと言うことは、もう死ぬことはない。
元から心配もしていなかったが。
自分の身体が軽くなったような感覚を、コーカサスビートルアンデッドは覚えている。
そのまま、カブトとアンジールの方に振り向いた。

「せっかくだから、君にプレゼントをあげるよ」

軽く呟きながら、コーカサスビートルアンデッドは腕を向ける。
そしていつものように、二人を目がけて勢いよく衝撃波を放った。
カブトとアンジールはすぐに後ろに飛んで、回避行動を取る。
直後、彼らのいた大地にエネルギーの塊が激突し、大爆発を起こした。
その威力は先程までとは比較にならず、大地を激しく揺らしていく。
そしてエネルギーの余波で飛ばされそうになりながらも、カブトとアンジールは地面に着地した。
そんな中でも、コーカサスビートルアンデッドは笑い声を漏らしている。

564地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:03:59 ID:MZGXMrQQ0

「わかったでしょ、君じゃ僕には勝てないって。さあ、どうするのかな?」

たった今放った衝撃波の威力を見て、確信していた。
やはり自分こそが、最強の存在であると。
そして、脆弱な人間をもっと苦しめてやりたい。
コーカサスビートルアンデッドの脳裏に、いつもの光景が浮かぶ。
苦しむ人間の姿を見つけて、それを携帯のカメラに収めてホームページにアップロードすること。
もしも目の前にいるカブトを敗北へ追い込み、その姿にタイトルを付けるなら何がいいか。
そんなことを考えながら、コーカサスビートルアンデッドはエネルギー弾を放ち続ける。

「くっ!」

標的となったカブトは、左右に飛んで回避した。
彼は必死になって避けるが、その先に繋ぐ余裕がない。
何度目になるかわからない爆発の直後、周囲が再び煙で覆われる。
それでもコーカサスビートルアンデッドは、笑い声を上げながらエネルギー弾を発射した。
今度は、プットオンもクロックアップもさせない。
ペースがこちらに乗ったと確信した故の行動。
その最中、爆音と共に広がっていく粉塵の中から、一つの影が跳び上がってきた。

「はああぁぁぁぁぁっ!」
「ちっ!」

パーフェクトゼクターを構えながら、カブトは姿を現す。
叫びと共に大剣を、重力の落下速度と重ねながら、敵に目がけて振り下ろした。
コーカサスビートルアンデッドは、オールオーバーを構えて迎え撃つ。
そして、二つの刃は激突した。
カブトの与えた一撃によって、コーカサスビートルアンデッドが立つ地面は、ほんの少しだけ沈む。
だが、そこから先に進むことは出来なかった。
純粋な腕力だけで言えば、コーカサスビートルアンデッドに分がある。
カテゴリーキングの称号があるように、それはアンジールと匹敵するほどだった。
それを察したカブトは、上空からの攻撃を選ぶ。
この結果、ようやくコーカサスビートルアンデッドにまで力が届いたのだ。
地面に足が付いたカブトは、背後へ飛ぶ。
彼の首には、あの銀色の首輪が巻かれていなかった。
コーカサスビートルアンデッドの攻撃で煙が吹き荒れる中、彼はもしやと思い外すことを選ぶ。
結果、爆発は起こらなかった。

(どういう事だ、爆発が起こらないとは…………何かの罠か?)

プレシア・テスタロッサは殺し合いを強制させる手段として、一人の少女を犠牲にしたはず。
だが何も起こらない。
もしや、これ自体が何かの罠で、首輪を外した参加者にペナルティを用意してるのか。

(いや、考えるのは後だ。まずはこいつらを倒すことが先決だ)

目の前には、コーカサスビートルアンデッドとアンジールがいる。
まずは、この二人との戦いに集中するべき。
特にアンジールも、自分達を見て異変が起こらないと気づいて、首輪を掴む。
そして力ずくで外し、残骸を投げ捨てた。
案の定、その首が飛ぶことはない。
こうしてここにいる三人は、自らに課せられた制限から解放させた。
彼らは同時に、地面を蹴って走り出す。
そのまま武器を掲げた。

565地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:05:03 ID:MZGXMrQQ0







戦士達が突進を再開した瞬間、荒れ地に火花と金属音が広がる。
しかし、それは起こらなかった。
突如、足下の地面が大きく揺れて、崩壊する。
亀裂が走った大地に、巨大な穴が現れた。

「「「なっ――――!?」」」

あまりにも唐突すぎる出来事によって、三人は驚愕の声を漏らす。
皆、反応する暇がなかった。
眼下にあるのは、闇。
地面が壊れた原因は、度重なる激闘によって。
カブトの、アンジールの、コーカサスビートルアンデッドの。
それぞれの攻撃が、大地に亀裂を走らせていた。
決定打は、制限が解除されたコーカサスビートルアンデッドのエネルギー弾。
そして偶然にも、真下に存在する空洞。
地面の脆い部分に、何度も刺激を加えた故の結果。
それまで耐えていたが、もはや限界だった。

「「「――――ッ!」」」

全員、闇の中へと落ちていく。
しかし幸運にも、彼らは鍛え抜かれた強者達。
不測の事態だろうと、対応する事は用意だった。
カブトはクロックアップを行いながら、空中で着地の体制を整える。
アンジールは片翼を羽ばたかせて、落下の勢いを緩めた。
コーカサスビートルアンデッドは念力を使って、ゆっくりとそこに降り立つ。
そうして彼らは、激突することなく地面への着地を成功した。







「何だ、ここは…………?」

突然発生した大穴に落下し、何とか着地を果たしたカブトは周りを見渡す。
何も見えない暗闇かと思っていたが、光に照らされていたのだ。
しかし、それは自然による物ではない。
電気が生み出す人工の輝きだった。
青白い光に覆われるこの空間は、辺り一面に機械が存在している。
この会場のマップや、上下する波紋が映し出された画面も見つけた。
それらの周りには、キーボードのような物や、点滅を放つ謎の機械も存在する。
どれも、彼の理解を超える物だった。
そしてもう一つ、光を放つ物体を見つける。
奇妙な模様が円の中に重ねられて、謎の文字が周りに並んでいた。
まるで、魔法陣のように見える。

「ふうん、こんな場所があったなんてね」

突如、背後から声が聞こえた。
振り向いた先にいるのは、コーカサスビートルアンデッドとアンジールの二人。
彼らもまた、この場所に疑問を抱いている。
続いて口を開いたのは、アンジールだった。

「これは一体どういう事だ」
「知らないね」
「何?」
「さっきも言ったでしょ。プレシアから全てを聞かされてる訳じゃないって」

だが、あっさりと流される。
その態度に、アンジールはコーカサスビートルアンデッドに対する苛立ちを、更に強めた。
そして、確信する。
この男は、自分との協力など初めから考えていない。
先程から何度も、攻撃に巻き込もうとしたのがその証拠。
奴にとって自分とは、使い捨ての駒に過ぎない。
ならばこれから、反旗を翻すべきか。
いや、この状況でそれを行うのは危険。

(奴の力は侮れない…………どうする)

コーカサスビートルアンデッドは、念力に加えてエネルギー弾を撃つ。
その威力は、先程目にした通り。
下手に突っ込んでいっても、返り討ちになる可能性がある。
ならば、まずはカブトとの戦いを優先するべきか。
その隙を付いて、コーカサスビートルアンデッドを討つ。
クアットロを殺した奴が相手なら、どんな卑劣な手段でも使うつもりだ。
そう決意を固めながら、アンジールは振り向く。
視線に気づいたカブトは、構えた。
戦いはまた続いている。
この場所がどうだろうと、関係ない。
首輪もそうだが、真相を確かめるのは後だ。
二人の闘士が、ゆっくりと近づいてくる。
カブトも、構えながら足を進めた。
その瞬間に、モニターの画面が急に変わる。
気づいた三人は足を止め、振り向いた。

「あれは……まさか!?」

赤い仮面の下で、カブトは驚愕の表情を浮かべる。
そこに映し出されているのは、一人の女性だった。
この戦いを仕組んだ主催者、プレシア・テスタロッサ。
唐突に画面に現れたプレシアは、口を開く。

566地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:05:44 ID:MZGXMrQQ0
『この画面が映っていると言うことは、私は既にこの世にいないでしょうね。ジェイル・スカリエッティ』
「何…………?」

疑問に満ちた声で、カブトは呟いた。
そんなことを気にせず、プレシアは言葉を続ける。

『これは、私からの制裁よ…………裏切った愚かな貴方達へのね』







時計の針は、少しだけ戻る。
既に、プレシアの遺産は動き出していた。
それは最悪の二日目が始まって、数時間が経った後に。
時の楽園に眠る、兵士達。
皆、主の無念を晴らすために、動き出す。







「これは…………」

モニター画面を見つめるドゥーエは、驚愕の表情を浮かべた。
彼女の瞳は、D−9地点で起きた異変を映している。
あの場所に空いた、巨大な穴。
それが偶然にも、参加者全員が知らない施設に繋がっていたのだ。
その中に進入した、三人の男。
天道総司。
キング。
アンジール・ヒューレー。

「まさか、あそこに進入するとはね…………」

ぽつりと呟く。
あの場所は時の庭園の一部であり、殺し合いの会場を生み出す中枢と呼べる場所だ。
あそこに設置してある機械が、禁止エリアや転送魔法陣のエネルギーを生み出し、会場に設置されている施設を作っている。
そしてあそこには、時の庭園にまで転送するための、魔法陣もあるのだ。
この殺し合いで、何か不都合がないかを点検するため。
そんな場所へ、一度に三人もの参加者が進入した。
これは、見逃せない。

「とにかく、ドクターに…………ん?」

ふと、背後から気配を感じる。
ドゥーエが振り向くと、堅牢な骨格に身を包んだ一匹の異形が姿を現した。
それは本来、ルーテシア・アルビーノが使役していた召喚虫の一匹で、それをプレシアが奪い取った。
今は、スカリエッティが使役主となっている。

「どうかしたの、ガリュー?」

しかし、ガリューは何も答えない。
ドゥーエは、怪訝な表情を浮かべた。
それにも関わらず、相手は沈黙を保っている。
彼女は溜息を吐きながら、モニターに視線を戻した。

(全く、所詮虫かしら…………)

そんな奴に、まともな答えを期待するのが間違いかもしれない。
今はそんなのに構っている場合ではなく、侵入者への対応を練ることだ。
ドクターもウーノも、研究成果の持ち出しや脱出艇の調整に力を注いでいる。
セッテ、オットー、ディードの三人は、時の庭園に進入した夜天の融合騎体制に入った。
残った自分は、こうして参加者の監視を行っている。
ドゥーエは自らの指を、パネルに伸ばした。
しかし、それは届かない。

「…………ガアッ!?」

苦痛に満ちた、悲鳴が漏れる。
そして、下腹部に激痛が走った。
全身の神経に焼けるような痛みが伝わる中、ドゥーエは視線を落とす。
その先には、紫色の刃が腹部を貫き、血を流しているのが見えた。
凶器は、一瞬の内に消える。
ドゥーエには、何が起こっているのか理解できない。
足下が蹌踉めく中、彼女は傷口を押さえる。
首を動かすと、ガリューの両腕から鋭利な刃が突き出ているのが見えた。
左手からは、黒い血潮が床に滴り落ちている。

567地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:06:20 ID:MZGXMrQQ0

「な、何を――――!」

疑問の言葉は、最後まで出ない。
上から振り下ろすように、ガリューは再び刃を振るったのだ。
あまりに唐突すぎる出来事で、ドゥーエは反応できない。
そして、ガリューの刃は一切の容赦なく、彼女の身体を切り裂いていった。
声にならない悲鳴を漏らしながら、一気に倒れる。
ドゥーエの血が、ガリューの身体にかかった。
彼女は受け身が取れず、背中に衝撃を感じる。
ドゥーエを見下ろすガリューの目は、機械のように冷たかった。
召喚虫は、足を振り上げる。
そして、ドゥーエの首を目がけて勢いよく振り下ろした。

「…………あ…………ぁ………」

もはや呼吸すら、まともに出来ない。
異形の発達した足によって、首が砕かれる。
鈍い音が鳴った途端、ドゥーエの身体は痙攣した。
しかし、すぐに終わる。
もう二度と、彼女の身体が動くことはない。
奇しくも、その姿は彼女が殺したプレシアと、とてもよく似ていた。
動かなくなったドゥーエの姿を見ても、ガリューは何の感情も抱かない。
自分の役目は、始まった。
返り血をその身体に残しながら、彼はこの部屋を後にする。
次の得物を狩るために。


【ドゥーエ 死亡確認】









全てが終わった部屋の中では、ドゥーエの亡骸が転がっていた。
身体からは血が流れ、鉄の匂いが漂う。
そんな中、モニターの画面が急に切り替わった。
この部屋だけではない。
時の庭園全体に設置された、全てのモニターも。
そして、アルハザードの地下に隠された、会場の機能を司る施設にも。
彼女の姿が映し出されていた。
かつての主催者である、プレシア・テスタロッサの姿が。
映し出された魔女は、静かに語り始めた。

『この画面が映っていると言うことは、私は既にこの世にいないでしょうね。ジェイル・スカリエッティ』

彼女の隣に、新しい画面が映る。
それは、プレシアの用意していた戦力が、動き出す姿だった。
究極召喚、白天王。
巨大甲虫、地雷王。
屍兵、マリアージュ。
プレシアの生み出した、傀儡兵。
そして、ガリューがドゥーエを殺害する光景。

『これは、私からの制裁よ…………裏切った愚かな貴方達へのね』

次に映し出されるのは、兵隊達が暴れ出す姿。
ある者は動きだし、ある者は武器を振るい、ある者は周囲への破壊行動を始めた。
その総数は、三桁を超す。

『哀れな貴方達に教えてあげるわ。どういうトリックなのかを』

プレシアはそう言い放つと、順を追って説明を始めた。
まず、スカリエッティ達が求める自分の研究成果には、ある仕掛けがある。
それら全てに、定期的に魔力を送りつけていたのだ。
そして、これらを持ち出すには、自分の手でロックを解除する必要がある。
その意味は、反逆者が現れた時の備え。

『もしも、強制的に魔力リンクが全て断たれた時、この映像が流れてることになっているわ。恐らく、貴方達は私を殺した…………』

プレシアは画面の向こうで、冷たい笑みを浮かべる。
彼女の隣では、未だに兵隊達が暴れていた。

568地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:06:51 ID:MZGXMrQQ0
『私を出し抜いたことは褒めてあげるわ、素晴らしいじゃない
貴方達みたいな能無しの科学者や人形風情が、少ない知恵を振り絞って頑張ったのだから
でも、やっぱり能無しは能無しね』

一言一言に、侮蔑と嘲笑が込められているのが容易に感じられる。
そのままプレシアは続けた。

『何の考えもなしに、私を殺したのですから…………そして、目的だけを果たそうとするなんて
素敵な根性じゃない。なら、私もそれに答えて素敵なプレゼントを贈ってあげるわ』

そして、画面はもう一度切り替わる。
映し出された場所には、空間に亀裂が生じていた。
そこからあっという間に、次元断裂と変わる。
その向こうには、虚空空間が広がっていた。
やがて一枚のカードが、虚無へと消えていく。
それは『RYU−KI』の世界に存在する時を操るカード、タイムベント。

『このフィールドを囲む結界を生み出すジュエルシード…………それらに刺激を与えて、貴方達もろとも時の楽園とアルハザードを消してあげる
逃げたければ逃げればいいわ。出来たらの話だけれど』

プレシアが語る一方で、兵隊達は破壊行動を続ける。
ごく一部は、虚空空間に落下したが、それに気を止める者はいない。

『でも安心しなさい、私は寛大だからすぐには消してあげないわ。貴方の愛するお人形さん達と一緒に、怯える時間は残してあげる
後悔するなら、好きなだけしなさい。私は別に止めはしないから…………
そしてもう一つ、素敵な映像を見せてあげる』

映像は、再び切り替わる。
新しくそこに映し出されたのは、血の池に沈む少女達の姿。
それは時の庭園にいない、ナンバーズ達だった。

『スカリエッティ、貴方が死んでしまったら残った娘達が可哀想でしょう?
だから貴方がいない間、私がこっそり転送魔法で体内に爆弾を仕掛けてあげたわ。
この映像が流れると当時に爆発する仕組みだから、先にあの世で待つことになるでしょうね
素敵じゃない、あの世で家族仲良く暮らせるなんて』

ナンバーズ実戦リーダー、トーレが。
幻惑の使い手、クアットロが。
刃舞う爆撃手、チンクが。
潜行する密偵、セインが。
破壊する突撃者、ノーヴェが。
狙撃する砲手、ディエチが。
守護する滑空者、ウェンディが。
皆、身体がバラバラとなった状態で映っていた。
これが意味することは、裏切られた事によるプレシアからの復讐。

『貴方のために作ってあげた最後の数時間…………その間に、どんな風に死ぬのか考える事ね』

その一言を最後に、画面からプレシアが消える。
残ったのは、時の庭園が虚無へと飲み込まれていくまでのカウントダウンだった。







呪いの言葉は、ようやく終わりを告げる。
今までプレシアが映っていた画面は、ようやく元に戻った。
しかし、先程とは違う部分が一つある。
それは画面の右端に、終末への時間が書かれていたこと。
モニターの前に、一組の男女が立っている。
女が呆然とした表情を浮かべている一方で、男は笑みを浮かべた。

「ハハハハハハハハッ! まさか彼女が罠を仕掛けていたとは、一杯食わされたよ!」

その男、ジェイル・スカリエッティは心の底から愉快な表情で、笑う。
彼はやることがなくなったので、たまたま次元航行船用のドックへ訪れた。
その途端、プレシアの映像が流れ、全てを知った。
アジトにいるナンバーズが、殺された事による悲しみはない。
プレシアが罠を仕掛けていた事に対する、驚愕はない。
スカリエッティの心に沸き上がっているのは、歓喜。
彼の表情からは、一片の正気が感じられない。

569地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:07:44 ID:MZGXMrQQ0

「ゲームマスターのつもりだったが、知らない間にプレイヤーにされていたとは! やってくれるじゃないか、プレシア・テスタロッサ!」

主催者の跡を継ぐつもりでいた。
だが、それはただの勘違い。
本当はドゥーエがプレシアを殺したときから、既に一人のプレイヤーに格下げされていたのだ。
参加者だけでなく、時の庭園もろとも虚空に巻き込み、全てのターゲットを破壊する狂気の装置。
バーサークシステムと、呼ぶべきだろうか。
何処からか爆音が響く中、スカリエッティはそんなことを考える。
その一方で、別のモニター画面を眺めるウーノは、狼狽した顔でキーボードを叩いていた。
時の庭園には、多くの兵が暴走しており、武器を振るっている。
それらはすぐに動力炉にも進行し、セッテ、オットー、ディードの三名が、その対応に追われていた。

「ドクター! 時の楽園各所に、プレシアの用意した兵が次々と…………はっ!」

次の瞬間、強大な魔力反応を関知する。
ウーノは画面を切り替えた。
見ると、時の庭園の巨大ホールに、唐突に巨大な転送魔法陣が出現。
その中央から、山のように大きな怪物が次々と姿を現した。
参加者の一人に、八神はやてがいる。
彼女がいた『FINAL WARS』の世界から、プレシアが強制的に捕まえた怪獣。
長く伸びた三つの首、龍を思わせる頭部、全身に輝く黄金の鱗、背中から広々と伸びた巨大な翼、太い両足から揺らめく二本の尻尾。
最大の特徴は、百メートルを超えるその巨体だった。

『『『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』』』

全ての頭部が、同時に咆吼する。
現れたキングギドラの後ろを付いていくように、他の怪獣が次々と現れた。
ラドン、アンギラス、マンダ、クモンガ。
五体の怪獣軍団は、時の庭園を揺らしながら進撃を開始した。
これら全て、スカリエッティ達に存在を知らせず、プレシアが隠し持っていた兵器。
ウーノは、静かに息を呑んだ。

「いいだろう、プレシア・テスタロッサ! 私もプレイヤーの一人として、君のデスゲームに付き合ってあげよう! 娘達の弔い合戦といこうじゃないか!」

スカリエッティは、両腕を広げながら高らかと宣言する。
そのままウーノに振り向いた。

「ウーノ、君はそのまま作業に集中したまえ。私はアレを導入する」
「ヴォルテールと、ガジェットドローンですか」
「それだけじゃない。最近手に入れた『アレ』もだよ」

直後、彼女の背筋が凍る。
創造主は、狂喜に満ちた笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

「あの世界では『生体ロストロギア』と分類された怪獣王。封印されている結界の技術を複製し、興味があってプレシアの技術で手に入れたが…………まさか、こんな所でその力を拝めるとは」
「待ってください、ドクター! 『アレ』の調整はまだ終わっておらず、完全に制御できるかわかりません! それに危険度が強すぎます、一歩間違えれば私たちにも牙を――!」
「いいじゃないか! 目には目を、歯には歯を、怪獣には怪獣王を! もしも暴走して我々が滅ぶとしても、大人しくその運命を受け入れようじゃないか!」

ウーノの反論は、あっさりと遮られる。
冷静で理知的な彼女を、ここまで狼狽えさせる兵器。
それはキングギドラを筆頭とした怪獣達の、頂点に立つ王。
『FINAL WARS』の世界を、滅亡寸前にまで追い込んだ、生体ロストロギア。
そんな危険な兵器を、創造主は導入しようとしている。
長年サポートをした彼女ですらも、その決断には恐怖を覚えていた。

「それに、この時の庭園はまもなく消える。『アレ』が面倒になれば、一緒に虚空へと放り込めばいいじゃないか!」

しかし、それとは対照的にスカリエッティの胸にあるのは、純粋な好奇心。
これから使おうとしている兵器が、いったいどれほどの力を持つのか。
聞いた話によれば、闇の書や聖王のゆりかごとロストロギアが、まるで子供だましと呼べるらしい。
科学者として、その力を見たいと思うのは当然だ。
プレシアのバーサークシステムを使うなら、こちらもバーサークシステムで対抗するのが礼儀だろう。
スカリエッティは起動させるため、画面の前に立った。

「さあ、我々にその力を見せてくれ! 怪獣王、ゴジラよ!」

彼は、キーボードを叩く。
その直後、キングギドラ達の前に一匹の怪獣が姿を現したのが、モニターに映った。
怪獣王、ゴジラ。
比類無き力を持つ無敵の存在が、時の庭園で咆吼した。



この時、彼らは気づかない。
既に時の庭園へ進入した参加者が、数人いることを。
監視役をしていたドゥーエが死んだのだから、当然かもしれない。
それが如何なる結果を迎えるか、まだ誰にも分からなかった。

570地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:09:14 ID:MZGXMrQQ0







リインフォースは、時の庭園の動力室まで、ようやく辿り着く。
しかし、彼女は物陰に隠れていた。
理由は一つ、目的地には戦闘が繰り広げられているため。
スカリエッティの配下である戦闘機人三体が、突然現れた傀儡兵やマリアージュの軍団と戦っている。
恐らく数は三桁に届くかもしれない。
そんな中、別行動を取っているアルフからの念話が届いた。

(リインフォース、聞いたか! 今の話を)
(ああ、プレシアは殺されたようだ。私は目的地まで着いたが、敵で大勢いて迂闊に近づけない)
(こっちもだよ! いきなり変な奴らが通路を埋め尽くして、辺りを破壊してる!)
(それだけじゃないぞ。この時の庭園には、時間と共に次元断裂が広がっていくようだ…………)

リインフォースは、目の前の光景を苦い視線で見つめる。
もしこのまま、潰し合うのならそれはそれで有り難い。
だが、そんな時間を待っている余裕など、残されてなかった。
先程発信されたプレシアの放送が終わった直後、彼方此方から爆音が聞こえる。
そして、不気味な獣の叫び声も。

(使い魔アルフ、とにかく無闇に突撃するな。もう何が起こっても可笑しくはない)
(わかってるよ! そんなこと)
(私は何とか隙を伺う、お前も気を付けろ)
(ああ、それじゃあな!)

そのやり取りを最後に、念話が終わる。
轟音が響く中、彼女は歯軋りをした。
まさかプレシアが、このような罠を残していたなんて。
だが、今更そんなことを言っても仕方がない。
何が起きても可笑しくないのは、とうに分かり切ったことだ。

「さて、どうするか…………」

不意に、リインフォースは呟く。







映し出された映像が、元の物に戻った。
三人は皆、言葉がない。
プレシアの告げた、真実。
殺されていた、少女達。
ジェイル・スカリエッティと呼ばれた名前。
そして、動き始めた地上壊滅へのカウントダウン。
カブトも、コーカサスビートルアンデッドも、アンジールも何も言えなかった。

「馬鹿な…………!」

そんな中、ようやく沈黙が破られる。
プレシアの映像を見て、カブトは自分の推測が真実だと確信した。
放送の時間が遅れたのは、主催側で異変が起きたため。
そしてそれを起こしたのは、スカリエッティと呼ばれた一味。
恐らく首輪が爆発しないのも、この時に何かが起こったからだろう。
だが、そんなことはもうどうでもいい。

(まさか、俺達の知らない間にこんなことになっていたとは)

プレシアの言葉が正しければ、このままでは参加者全員が虚空空間とやらへと、飲み込まれてしまう。
そうなっては、全てはおしまいだ。
まずは仲間達と合流し、この事を話さなければならない。

571地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:11:50 ID:MZGXMrQQ0

「セッテ……オットー……ディードッ!」

そんな中、アンジールが叫ぶ。
妹達が無惨な屍とあって映し出されたとき、彼は言葉で表せないほどの衝撃を受けた。
目の前でクアットロが殺された時以上の。
しかし、悲しみに溺れている暇はない。
次に映し出された、セッテとオットーとディードが、凄まじい数の敵に襲われている光景。
それを見た途端、アンジールの体は動いていた。
その行き先は、この空間の中で光を放つ転送魔法陣。
彼の中では、カブトとの決着や、コーカサスビートルアンデッドを殺すなど、完全に消え去っていた。
アンジールの脳裏を支配するのは、妹達を助けること。
たった一つだけ。
転送魔法陣に飛び込んだ瞬間、アンジールの身体は光に包まれる。
すると彼の姿は、一瞬で消えていった。

「やっぱり、あれって転送魔法陣だったんだ」

コーカサスビートルアンデッドは、軽い呟きを漏らす。
それを聞いたカブトは、振り向いた。

「転送魔法陣だと?」
「良いこと教えてあげる。あれの上に乗るとね、自分の思った場所にワープできるんだ。僕もこれを使って、君に会えたんだし」

初めに八神はやてと出会ったときに知った、転送魔法陣。
コーカサスビートルアンデッドはそれを見つけて、天道を見つけた。
ここにもあると言うことは、恐らく時の庭園という場所に繋がってるかもしれない。
プレシアの言葉によれば、ここはもうすぐ消滅するらしい。
それに、物凄い化け物が大勢いた。
商店街で暴れていたミラーモンスターが、まるでちっぽけに見えるほどの。

「君との勝負はここまでだね、僕もあれを使って一足先に脱出させて貰うよ。もうここにいても面白くなさそうだし」
「逃がすと思ったのか」
「僕に構ってる暇があるのかな? 君の仲間にこの事を早く伝えないと、大変なことになるよ」

楽しそうに笑いながら、コーカサスビートルアンデッドは告げる。
カブトは気づいた。
今の放送が、散り散りになった仲間達にも届いているとは限らない。
そして何より、首輪のこともある。
仮に地上に届いているにしても、これに関しては何も語られなかった。
まず優先するのは、離れた仲間達との合流。

「まあ、僕と戦いたいなら好きにすれば? いつでも殺してあげるから! じゃあね!」

コーカサスビートルアンデッドは右腕をカブトに向ける。
そして、エネルギー弾を放った。
カブトは横に飛んで、それを回避する。
彼の背後に着弾し、爆音と共に周囲が煙で覆われた。
すぐに視界は晴れるが、既にコーカサスビートルアンデッドの姿はない。
敵を逃がしてしまった事で、カブトは己に苛立ちを感じた。

「…………いや、まずは合流が先だ」

コーカサスビートルアンデッドとアンジールより、まずは仲間達との合流。
彼は上空に空いた大穴を、見上げた。
パーフェクトゼクターを握り締め、両足に力を込める。
そして、カブトは跳躍した。
三十七メートルの高さすらもあっという間に届くジャンプ力で、彼は地上に戻る。
離れ離れになった仲間達との再会を目指し、カブトは走った。

572地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:13:11 ID:MZGXMrQQ0





【2日目 黎明】
【現在地 D-9 荒れ地】


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、カブトに変身中
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.まずは仲間達と再会し、今の状況を話す。
 2.アンジールとキングを倒す。
【備考】
※首輪を外したので、全ての制限から解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。









誰もいなくなった、地下の施設。
その中に、新たに一人の男が進入する。
全員が消えた隙を付いて、戦いの衝撃で空いた穴からここに入った。
その男、金居の表情は若干の焦りが見られる。

「チッ、とんでもない事になったな」

繰り広げられていた戦いを見て、彼は己の不運を呪った。
物事が自分の都合の良いように動いていると思ったら、むしろ逆。
戦いの最中で、何故かキングの首輪が壊れたのだ。
それだけでなく、この施設から発せられたプレシアの声。
これが真実だとするなら、あの女はスカリエッティという輩に、殺されたことになる。
別にそれ自体は大きな問題ではない。
当初の予定からは外れるが、殺す手間が省けただけのこと。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
金居は、モニターに目を移す。
そこには赤い字で、この世界が消えるまでのタイムリミットが書かれていた。

「残された時間は三時間を切ったか…………」

苛立ちを覚えながら、金居は呟く。
キング達が落下してから、放置された荷物で必要な物だけを拾い、首輪を壊した。
その際に、荷物の整理を行って、必要のない物は放置する。
今の状況で荷物が多くあっても、邪魔なだけ。
まず最優先に行うのは、脱出通路の確保。
キングやスカリエッティ達は、余裕があった場合に始末する。
画像では、多くの化け物達が暴れている光景が見えた。

(まあ、キング達はあの怪物に任せておけばいいか)

自分の邪魔となる者達は、出来る限りプレシアが呼んだ兵に任せる。
もしも前に立ちはだかる場合、戦えばいい。
金居は行動方針を決めると、転送魔法陣に足を踏み入れた。







淡い光が視界を包み、身体が浮かぶのを感じる。
しかし、すぐに両足に地面が着いた。
金居は目を開ける。
そこは当然のように、自分の知らない場所だった。
周りを見渡すと、見覚えのない巨大な乗り物を多数見つける。
まるで、人間の作り出した飛行機のようだった。

573地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:16:29 ID:MZGXMrQQ0

(もしかしたら、当たりか?)

金居はその可能性に辿り着く。
会場にあった転送魔法陣も、自分の望んだ場所にワープできると書かれていた。
ということは、たった今使った物も同じ効果かもしれない。
しかし、金居は安堵をしなかった。
もしこれらの機械が脱出の手がかりだとしても、動かし方が分からなければどうしようもない。

(さて、どうするか…………)
「ウーノ、先程言ったように君はここで作業をしたまえ。私は上に戻って娘達に指示をしてこよう」

眼鏡を押し上げながら、金居は考える。
直後、何処からか聞き覚えのない声が聞こえた。
それに気づいた彼は、物陰からそちらに目を向ける。
視線の先には、一組の男女が立っていたのだ。
金居は知らないが、その男こそがジェイル・スカリエッティと呼ばれた、プレシアを殺した張本人。
スカリエッティはすぐ側にある階段に登り、この場所から消える。
残されたウーノと呼ばれた女性は頷くと、画面の前に立ってパネルを叩いた。

(まさか、あの男がプレシアの言っていたジェイル・スカリエッティとやらか?)

不意に、その考えを思い立つ。
これが正しければ、ウーノとやらは奴の娘。
プレシアは奴らのことを『能無しの科学者や人形風情』と言っていた。
その言葉が真実なら、奴らは脱出の手がかりを持っている。

(何にせよ、どうするかな…………)

制限が解放されたアンデッドは、考えた。
金居の瞳は、脱出艇の調整を続けるウーノの姿を、映し続けている。


【2日目 黎明】
【現在地 エリア外 時の庭園 次元航行船用 ドック】


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)及びスカリエッティ一味への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルとギルモンと天道とアンジールのデイパック(道具①②③④⑤⑥)
【道具①】支給品一式
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【道具④】RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具⑤】『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具⑥】ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【思考】
 基本:この世界から脱出する。
 1.あの女(ウーノ)は…………?
 2.脱出の手段を確保する。
 3.キング及びスカリエッティ一味は、プレシアの戦力と潰し合わせる。
 4.出来る限り戦わない。邪魔者が現れた場合、自らの手で始末する。
 5.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※首輪を外したので、全ての制限から解放されました。









「へぇ、早速凄いお出迎えをしてくれるじゃないか!」

転送魔法陣を使ったコーカサスビートルアンデッドの前に現れたのは、傀儡兵と屍兵マリアージュの軍団だった。
その数は五十体を超えている。
冷たい瞳からは、殺意が感じられた。
されど、コーカサスビートルアンデッドには、子供騙しにしか感じない。
やがて傀儡兵達は、多種多様の武器を振りかぶりながら、飛びかかる。
しかしその一撃が届くことはなかった。
ある攻撃は、神速の勢いで振るわれたオーバーオールで弾かれる。
ある攻撃は、突然現れたソリッドシールドに防がれる。
ある攻撃は、コーカサスビートルアンデッドの念力で強制的に起動を反らされた。
続くようにマリアージュ達もまた、武器を振るう。
だが、結果は同じ。
どれか一つたりとも、コーカサスビートルアンデッドに届くことはなかった。

「弱っ! マジで弱っ! 君達なんかで、僕が倒せるわけないじゃん!」

574地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:17:03 ID:MZGXMrQQ0
侮蔑の言葉と共に、オーバーオールを振るう。
その一撃は、傀儡兵とマリアージュの身体を同時に貫いた。
まるでゴミを捨てるかのように、勢いよく引き抜く。
迫り来る数々の一撃をソリッドシールドで防ぎながら、武器を振るった。
それは力に任せた攻撃だが、一発たりとも外していない。
カテゴリーキングの実力なら、当然だった。
制限を解除されたコーカサスビートルアンデッドの進行を、止めることは出来ない。
オーバーオールの刃を浴びた異形は、呆気なくその身体を粉砕された。
やがて、コーカサスビートルアンデッドの周りを囲んでいた者の数は、既に一桁にまで減っている。
その直後、ガリューの名を持つ新たな異形が姿を現した。

「もしかして、君ってガリューって奴? 何、僕と戦う気?」

問いに答えずに、構えを取る。
そして、ガリューは勢いよく飛びかかった。
その反応を見たコーカサスビートルアンデッドは、呆れたように溜息を吐く。

「やれやれ」

ガリューが両腕に備え付けた刃を振るった瞬間、金属音が鳴り響いた。
原因は、突然出現したソリッドシールドと激突したことによって。
次の瞬間、ガリューの腹部は鋭い刃に貫かれていた。
コーカサスビートルアンデッドが握る、オーバーオールに。
それによって、ガリューの体勢は揺らぐと、刃が引き抜かれる。
そしてコーカサスビートルアンデッドは、勢いよくオーバーオールを振り下ろした。
この一撃を彼は避けることが出来ず、肉体を切り裂かれる。
そのままガリューは背中から倒れ、二度と動くことはなくなった。
コーカサスビートルアンデッドはそれに目を向けずに、残った敵に振り向く。
感情を持たない兵隊達は、一斉に飛びかかった。
だが、そんな行動をしても意味はない。
その手に握る剣を、コーカサスビートルアンデッドは勢いよく横に振るった。
最後の傀儡兵を一瞬で葬って、進行を再開する。

「さて、何をしようかな」

兵隊達の残骸が積み重なる道で、コーカサスビートルアンデッドは呟いた。
好奇心に駆られて、彼はここの進入を決意する。
たくさんあった道具は全部置いてきたが、もう必要ない。
ここを探せば、何かあるかもしれないからだ。
もしも、何もないなら脱出の方法を探せばいい。
こういう場所なら、帰る手段もあるだろう。
そして何より、そろそろここにいるのも飽きてきた。
カブト達を待ったり、アンジールを探すのも良いかもしれないが、そこまで胸は踊らない。

「…………まぁ、精々楽しもうかな」

鼻歌を歌いながら、コーカサスビートルアンデッドは呟く。
彼の行く先には、何があるか。




【2日目 黎明】
【現在地 エリア外 時の庭園】


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、全身にダメージ(小)、今の状況に対する多大な期待、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:この騒動を楽しむ。
 1.何か面白い物がないか探す
 2.面白い物が何もなかったら、脱出する。
 3.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。
 4.カブト達やアンジールが自分の前に現れたなら、再び戦う。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※首輪が外れたので、全ての制限から解放されました。







575地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:17:48 ID:MZGXMrQQ0



時の庭園の最深部に存在する、動力炉。
その場所で今、一つの戦いが繰り広げられていた。
スカリエッティによって生み出された戦闘機人、セッテ、オットー、ディード。
彼女たちもまた、プレシアの遺産である兵隊達と戦っていた。
放送が終わった直後、突然目の前に現れた傀儡兵とマリアージュの軍団に、三人は襲撃を受ける。
初めの内は対抗できていたが、物量の差は歴然。
瞬時に、ナンバーズ達は窮地に陥った。

「くっ…………!」

そんな中、セッテは膝を付ける。
オットーとディードにも言えるが、限界が近づいている。
こちらがいくら対抗しても、相手の勢いは止まる気配が見られなかった。
ここは、時の庭園の心臓部。
だからこそ、戦力を集中させたのかもしれない。
しかしだからといって、撤退は不可能。
ドクターが命じたのだから、ここは守らなければならない。

「はっ!」

しかし、そんなセッテの決意を嘲笑うかのように、敵は一斉に襲いかかる。
彼女も得物で防ごうとするが、既に疲弊した状態。
その状態では、間に合うわけがなかった。

「――――ファイガッ!」

直後、聞き覚えのない声が響く。
そして、自分達に襲いかかろうとした敵が、一瞬で火だるまとなった。
次の瞬間、敵の間を縫うように、一筋の影が駆け抜けるのが見える。
それによって、傀儡兵とマリアージュは、次々と吹き飛ばされていった。
唐突な出来事に驚愕しながら、ナンバーズ達は現れた存在に目を向ける。
そこには、背中から白い片翼を生やした屈強な戦士が立っていた。

「大丈夫か、お前達」

現れた男、アンジール・ヒューレーは安堵の笑みを浮かべる。
彼は転送魔法陣に突入した後、ひたすらに念じた。
『妹達が捕らわれている場所に、急がねばならない』と。
その結果、彼はここまで訪れることに成功する。
アンジールの姿を見て、初めに口を開いたのはオットーからだった。

「貴方は…………何故、こんな所に」
「説明している暇はない」

疑問を遮ると、敵の軍団に振り向く。
見ると、その後ろからは見覚えのある巨大な虫が姿を現していた。
スカリエッティの協力者である少女、ルーテシアが使役していた召喚虫。
地雷王と呼ばれる、四匹の巨大な虫が。

(まさか奴は、プレシアの手先となっているのか)

ナンバーズ達が連れてこられたのなら、召喚虫も捕らわれた可能性がある。
その結果、プレシアが妹達を攻撃するように仕掛けを施した。
仲間と戦うのに心苦しい所はあるが、妹達を殺そうとするなら話は別。
アンジールは、リベリオンの刃先を敵に向けた。

(お前達、すまない…………また、俺は助けられなかった)

彼の中で、罪悪感が更に強くなる。
その原因は、プレシアの流した映像。
共に暮らした妹達を、見殺しにしてしまった。
自責の念に、アンジールは押し潰されそうになる。
しかし、悲しみに溺れてはいられなかった。
自分の後ろには、残された妹達がいる。
やるべき事は、彼女たちを守ることだ。

576地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:19:23 ID:MZGXMrQQ0

「来い、俺が相手になってやる」

アンジールは力強い視線を向けながら、口を開く。
彼は知らない。
その後ろにいる妹達が、自分の知る妹達とは違う世界に住んでいることを。
彼はまだ知らない。
その事実が、一体どのような結果を導き出すのか。
まだ誰にも分からなかった。




【2日目 黎明】
【現在地 エリア外 時の庭園】



【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングへの疑念、妹達が生きていた事による微かな安堵
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】なし
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.セッテ、オットー、ディードの三人を守る。
 2.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。
※首輪を外したので、全ての制限から解放されました。



【全体備考】
※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS が、C−9地点に向かっています。
※戦いの衝撃によって、D−9地点に巨大な穴が空きました。
※その中には会場の設備を司る施設があり、時の庭園に繋がる転送魔法陣が存在します。
※その仕組みは会場に設置された魔法陣とほぼ同じです。
※以下の物が、金居が役に立たないと判断し、D−9地点の巨大な穴付近に放置されています。
・マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
・トランプ@なの魂
・ラウズカード(ハートの1、3〜10、J、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
・首輪(アグモン、シグナム、アーカード)
・いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
・ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(中身なし)
・菓子セット@L change the world after story
・首輪の考察に関するメモ
・レリック(刻印ナンバーⅥ、偽装解除済み)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
・首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル
・ガムテープ@オリジナル
・顔写真一覧表@オリジナル


【時の庭園について】
※プレシアの罠によって、ジュエルシードが暴走を開始しました。
※その影響により、各所に次元断裂が生じています。
※時間の経過と共に、その場所は広くなります。(どの程度かは、後続の書き手さんにお任せします)
※虚空空間に落ちたら、二度と脱出が出来ません。
※ドゥーエが死んだ為、セッテ、オットー、ディードを除くスカリエッティ一味は侵入者の存在を知りません。
※時の楽園での戦力表。
【スカリエッティ一味の戦力】
・ヴォルテール、ガジェットドローン各種
・ゴジラ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【プレシアの残した戦力】
・白天王、地雷王、マリアージュ、傀儡兵。
・ラドン、アンギラス、マンダ、クモンガ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
※ガジェットドローン、マリアージュ、傀儡兵の数は後続の書き手さんにお任せします。







577地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:21:01 ID:MZGXMrQQ0
状態表訂正

【2日目 黎明】
【現在地 エリア外 時の庭園最深部 動力炉】



【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングへの疑念、妹達が生きていた事による微かな安堵
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】なし
【思考】
 基本:今は妹達を守る。
 1.セッテ、オットー、ディードの三人を守る。
 2.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。
※首輪を外したので、全ての制限から解放されました。

578地上壊滅の序曲 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:22:20 ID:MZGXMrQQ0



プレシアの罠が、ようやく牙を剥いた。
彼女の残した負の遺産、バーサークシステム。
それにより、第二楽章の行く先は全く見えなくなった。
スカリエッティ一味が時の庭園から脱出するか。
全てが虚空の彼方へと飲み込まれるか。
そのどちらでもない結末を迎えるか。
誰にも分からない。
天の道を往き、全てを司る仮面ライダーは、仲間達の元へ急ぎ。
スペードスートのカテゴリーキングは、己の欲求のまま動き。
ダイヤスートのカテゴリーキングは、脱出の手段を探り。
ソルジャークラス・1Stは、妹達を守るために戦う。
新たなる行動を開始した四人によって、この戦いに何をもたらすか。
誰にも分からない。
地上壊滅の序曲は、こうして始まった。
破滅のタイムリミットは、誰に求めることは出来ない。
終末への時間は、刻一刻と迫っていた。




【バトルロワイアル終了、時の楽園及びアルハザード消滅まで――――――02:50:00】

579 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 01:24:30 ID:MZGXMrQQ0
これにて、投下終了です
タイトルの元ネタはウルトラマンマックス第38話のサブタイトル「地上壊滅の序曲」からです。
矛盾点・修正点・疑問点がありましたら、ご指摘をお願いします

580リリカル名無しStrikerS:2010/11/21(日) 17:39:18 ID:lIBjW6EkO
投下乙です
感想よりも先に指摘になってしまいますが、今回の話は少しやり過ぎではないでしょうか
まず度重なる攻撃で地盤が割れ、会場の地下が時の庭園に繋がっていたという描写に関して指摘させて頂きますが、
いくら制限を解除されたからと言って、たった三人の戦いで足場が破壊されるとは思えないのですが
会場にはヘルシング本部地下や海といった底の深い施設が多数あります
それを考えると、数十〜百メートルはあるであろう大地を戦いの余波だけで破壊するのは不可能かと
また、会場はアルハザードという設定が存在する以上、会場が時の庭園内部に存在しているというのも少し無理があるのではないかと思いました

そしてこれは設定云々に関わらない話ですが、今回の描写は書き手間の話し合いによるものでしょうか?
もしそうなのであれば何も言う事はありませんが、そうでないならやはり独断先行のし過ぎではないかと
今回の話は、終盤だから仕方ないとはいえ余りにもロワ外部の話に比重を置き過ぎているように感じたので
正直な感想を告げると、この話を書くにしても、これだけ外部のキャラを動かす以上、一度仮投下スレに投下し、住人の意見を聞いてからでも遅くはなかったのではないかと思います

581 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 20:58:15 ID:MZGXMrQQ0
ご指摘ありがとうございます
この度は、行き過ぎた独断専行を行ってご迷惑をおかけして
誠に申し訳ありませんでした。
今回の作品は、主催側のパートを全てカットして
天道、キング、金居、アンジールのパートを修正して
それを仮投下スレにまた投下させて頂こうと思いますが
よろしいでしょうか

582リリカル名無しStrikerS:2010/11/21(日) 21:23:31 ID:dHeM/7QQ0
ひとまず投下乙です
自分は氏が言っているように主催パート全カットでの修正でいいと思います

583 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 22:54:08 ID:MZGXMrQQ0
>>565->>578の部分を全てカットして、それ以降の修正版を投下します







三つ巴の戦いを物陰から眺める金居は、舌打ちをする。
その理由は、コーカサスビートルアンデッドの首輪が突然破壊されたため。
あれは自分の記憶が正しければ、爆発する仕組みになっているはずだ。
しかし、カブトの攻撃を受けても何も起こらない。
ここは禁止エリアになっている訳でもないのに、何故。
疑問が広がっていく中、カブトとアンジールも首輪を外す。
それでも爆発することはなかった。

「チッ、何がどうなっている…………?」

苛立ちながら呟く。
物事が自分の都合の良いように動いていると思ったら、むしろ逆だった。
だが、これは逆にチャンスかもしれない。
金居は自分を縛り付ける、首輪に手を掛ける。
そのままアンデッドの力で、勢いよく引きちぎった。
数秒の時間が経過するが、やはり何も起こらない。

「何だと……」

何故爆発しないのか。
これが意味することは、参加者の解放。
何かの罠を、プレシアは仕掛けているのか。
もしや主催者は、自分達をこの世界もろとも捨てようとしている。
だから、首輪を爆発させる必要が無くなったのか。
金居は考えるが、答えが見つからない。
そんな彼の前では、未だに戦いが続いていた。





【2日目 黎明】
【現在地 D-9 荒れ地】


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、カブトに変身中、首輪が爆発しなかった事による疑問
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アンジールとキングを倒す。
 2.なんとかして皆と合流して全員をまとめる。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。



【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具⑤】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.アンジールと共に、カブトを叩き潰す。
 2.先程の紅い旋風が何か調べる。
 3.他の参加者にもゲームを持ちかけてみたり、騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限から解放されました。

584 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 22:56:00 ID:MZGXMrQQ0
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングへの疑念、主催陣(キング含む)に対する怒り
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】なし
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.天道との決着を付ける。
 2.参加者の殲滅。
 3.ヴァッシュの事が微かに気掛かり(殺す事には変わりない)。
 4.キングが主催者側の人間でなかった事が断定出来た場合は殺す。
 5.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。



【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒、首輪が爆発しなかった事による疑問、現状への危機感。
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.何故、首輪が爆発しなかった?
 2.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。

【全体備考】
※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerSがC−9地点に向かっています。
※戦いの余波によって、D−9地点が荒れ地となりました。




以上、投下終了です
矛盾点・修正点・疑問点がありましたら、ご指摘をお願いします
タイトル名は「解ける謎!!」に修正します

585リリカル名無しStrikerS:2010/11/21(日) 23:09:12 ID:a82PNMmY0
投下乙です。
今回は残念でしたが、また機会があれば主催側の投下も待ってます。
さて、今回はようやく首輪解除か……これで少なくとも変身制限とかからは解除される事に。
ん……待てよ、制限から解放されたという事は、アンデッドは本当の不死に戻ってしまった……?
ここで金居がキングを倒すのが無意味と分かってしまえば、もう金居は脱出の事しか考え無くなりそうだなぁ。
そしてキングに不信感を募らせるアンジール。着々と離反フラグを積み重ねているなぁ……。

一箇所だけ指摘が。
キングの支給品一覧の中にフリードが残って居るので、それだけ消した方がいいかも。
後は概ね問題無いかと思います。

586 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 23:17:15 ID:MZGXMrQQ0
ご指摘、ありがとうございます
修正スレで、投下します

587リリカル名無しStrikerS:2010/11/21(日) 23:50:11 ID:dHeM/7QQ0
投下乙です
カブトとアンジールの対決は何度目でも熱いな
そしてアンジールの中で不信感が……
キングよ、そんなに調子に乗って大丈夫か?

一つ気になった点
首輪を外したら制限が解除されたようですが、それはもう確定事項でしょうか

588 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/21(日) 23:57:43 ID:MZGXMrQQ0
いえ、制限に関しては
明日修正スレで一旦修正版を投下して
それに関して、皆様から意見を頂こうと思っています。

589リリカル名無しStrikerS:2010/11/22(月) 17:54:24 ID:fiicUb2.0
投下乙です。

主催パートカットの為か戦いは首輪破壊で中断か……とはいえそれでもカブトは強くフリード救出成功だ……(でも、C-9行きってかえって危険な気も)
で、首輪解除か……制限が完全解除はないとしてもどちらにしても大きな転機になるのは確か。
この戦いがある種、命運を握っているのは確かだからなぁ……カブトなら……カブトならきっと何とかしてくれる……

あと、没になったけどプレシア大人しく死んでろよ……

590 ◆WwbWwZAI1c:2010/11/23(火) 23:01:14 ID:M0EUz9AAO
高町なのは(StS)、八神はやて(StS)で投下します

591 ◆WwbWwZAI1c:2010/11/23(火) 23:02:05 ID:M0EUz9AAO
「さあ、始めようか。最初で最後の本気の勝負をな!」
「…………ハッ、待ってはやてちゃん!」
「ああ、なんや。正直なのはちゃんの御託はもう聞き飽きたで」
「違うの、聞いて。ねえ、さっきの放送はやてちゃんも聞いていたよね?」
「さっきの放送……? もちろん聞いていたで。それがどうしたん?」
「それなら思い出してみて! さっきの放送、今までと違ってじ「10分遅れていた」――え!?」
「それが言いたいんやろ。そんなこと気付いたに決まっているやん。
 今まで1秒の狂いもなく行われていた放送が10分も遅れていたら、そりゃあ余程の阿呆でない限り気づくわ」
「だったら、こんなことしている場合じゃないよ! だって、もしかしたらプ「プレシアはもう死んでいるかもしれない」――って、はやてちゃん……気づいていたの……?」
「当たり前や。10分遅れた時点でプレシア側に何か問題が起こったということは容易に想像が付く。
 最悪、いや寧ろ逆か、ともかくその延長線上で『あの放送のプレシアが偽者で本物のプレシアは既に死んでいる』なんて予想も容易く立てられるわ」
「それじゃあ、なんでかがみを殺そうとするの!? それだけ分かっているなら今はお互いに争っている場合じゃないってことぐらい分からないの!!」
「なのはちゃんこそ分かってへんな。逆や、逆。こんな状況だからこそなおさらや」
「ど、どういうこと……!?」
「まず、今のは全部ただの推測の域を出えへん代物や。状況証拠だけで物的証拠はなーんもあらへん。
 そんな確証もない憶測で私は自分の信じた行動を覆せへん。
 それにや、よーく考えてみ。私達の最終目的はプレシア……いやもう死んでいたら黒幕になるんか? まあ、ようはそいつらを倒すことや」
「……………………」
「つまり最終的にそいつらと戦うわけや。
 でも、そんな時にあんないつまた裏切るか分からへん危険人物をのさばらせておくなんて愚の骨頂もいいところ。
 そんなん役に立たへん足手まといを連れて行くよりもよっぽど質が悪いわ」
「だから、かがみは今までの事を反省して――」
「なあ、さっきからあの阿保餓鬼が改心したって言うけど――それならあっちのあれはどういうことや?」
「え、あれって……まさかデルタ……!?」
「ああ、やっぱりあれがデルタで変身した姿やったんか。ユーザーズガイド読んではいたけど、実物見るんは初めてや」
「でも、いったい誰が――」
「それはひょっとしてギャグで言ってるんか、なのはちゃん?」
「え?」
「あの阿保餓鬼、柊かがみがデルタやで」
「そ、そんな!?」
「なんならレイジングハートに調べてもらったらどうや? いくら力が制限されていてもそれぐらいならサーチできるやろ」
『マスター、残念ですがMs.八神の言う通りです』
「そんな……かがみ……なんで……」
「まあ理由はいろいろ思いつくけど、これではっきりしたやろ。
 あいつは危険や、これからも自分の都合で力を振るって周りに危害を加える。
 そうなる前に殺すべきや――私、なにか間違ったこと言っているか?」
「……………………させない」
「ん?」
「殺させない、かがみは絶対に殺させない! 私はそう約束したんだ!」
「……ふぅ、どうあってもあの阿保餓鬼の言葉を信じて心中する気みたいやな」
「私はかがみを信じるよ。あの涙が、言葉が、嘘とは思えないから!!!」
「……やっぱり実力行使しかないみたいやな」

「レイジングハート!」「マハ!」

「「いくよ!!/いくで!!」」

592 ◆WwbWwZAI1c:2010/11/23(火) 23:02:56 ID:M0EUz9AAO
【2日目 黎明】
【現在地 C-9】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン(待機モード)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、グラーフアイゼン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.何があってもかがみを守るために全力全開ではやてを止める。
 2.駅でユーノ達と合流する。
 3.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 4.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷痕、かがみへの強い怒り、騎士甲冑展開中
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、カートリッジ×3@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.なんとしてでもなのはを倒して、必ずかがみに引導を渡す。
 2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キングの危険性を伝えて皆で排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 5.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 6.金居は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。

593 ◆WwbWwZAI1c:2010/11/23(火) 23:06:13 ID:M0EUz9AAO
投下終了です
タイトルは「分かたれたインテルメッツォ」でお願いします

594リリカル名無しStrikerS:2010/11/23(火) 23:25:58 ID:rSBncRLM0
投下乙です
まさかの全編台詞オンリーw
そしてもうこの二人引くに引けないところまで来ているなあ
でもって相変わらずはやてが良い性格している

そしてタイトル、やっぱりかwww

595リリカル名無しStrikerS:2010/11/23(火) 23:48:16 ID:hDrSWkJU0
投下乙
つか決着かと思いきやまだ戦っていなかった罠。というかカブトが大マジで戦っているのにはよ戦えよ。
それからはやて……流石に放送で気付いた所までは良いが……
今かがみがデルタで変身した原因は オ ノ レ ガ コ ナ タ ヲ コ ロ シ タ カ ラ ダ
それ棚に上げておいて偉そうな事言うなよ……なのはもそこツッコめや!

……まぁ、長々とツッコんだけど戦いになればどうかんがえてもなのは不利だよなぁ(遠い目)。

596 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 03:47:31 ID:0cPae8kg0
これよりスバル、かがみ分を投下します

597戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:00:39 ID:0cPae8kg0
 少女は堕ちて行く。
 暗い、暗い、闇の底へと。
 それはまさしく、底なしの沼。
 死ぬまで這い上がる事の叶わぬ地獄。

 或いは、少女はもう既に堕ちていたのかも知れない。
 救われた様な気がしただけで、実際には救われてなどいないのかも知れない。
 だけど、それでも――救わなければならない。何としてでも、救い出さなければならないのだ。
 もう一度あの底なしの地獄に脚を踏み込んでしまう前に。

「かがみさんの気持ちも、わかる……けど、それじゃダメなんだ!」

 ああそうだ。彼女の気持ちが分からない訳じゃない。
 大切な物を奪われた瞬間に感じる気持ち。痛い程に分かる。
 だから、ここでかがみを止める事が絶対に正しいだなんて言い切る事は出来ない。
 もしかしたら、今のままかがみを止めた所で、かえって逆効果かも知れない。
 だけど、それ以上に強い気持ちが、スバルを突き動かすのだ。

 ――これ以上、目の前で救える命を奪われたくはないから!

 ――これ以上、かがみさんの手を血で染めさせたくはないから!

「だからあたしは、貴女と戦う――そして!」

 スバルが憧れたヒーローは、誰より強くて、誰よりも優しくて、誰よりも格好良かった。
 何度も諦めかけた、あの絶望の淵から――あの人は自分を救い出してくれたのだ。
 その瞬間から、スバルの人生が変わった。目指すものも、未来も、何もかもが。
 だからスバルは力を求めた。あの人の様に、誰かを救える人間になりたいと。
 そうだ。出来るとか出来ないとかの問題では、最早ない。
 あの日誓った夢の為にも――やるしかないのだ。
 この手で、この力で!

「……救って見せる! あたしの力で……安全な場所まで、一直線に!」

 その願いには、一切の迷いも無い。
 今のかがみを止めるには、自分の全力全開をもって想いをぶつけるしかない。
 例えこの身体が朽ち果てようとも、自分の全力を叩きつけるしかないのだ。
 憧れたあの人が、どうしても想いを伝えられない相手にそうしたように。
 そして、救い出す。あの闇の中から、安全な場所まで一直線に。
 ずっと背中を追い続けた、“あたしの師匠”がそうしたように。
 そして貫くのだ。この想いと誇りを、全力全開で、真っ直ぐに!

598戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:01:58 ID:0cPae8kg0
 
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 ジェットエッジによる噴射推進。
 暴力的な加速が、スバルの身体を前方へと押し出す。
 それを迎え撃たんと放たれる、紫色のエネルギービーム。
 柊かがみが変身する「デルタ」の、唯一の武装だ。
 デルタのフォトンブラッドのエネルギーは、常に最大値。
 そこから繰り出されるエネルギーをまともに受ければ、例え戦闘機人と言えど一たまりも無い。
 だが、それは“当たれば”の話だ。当たりさえしなければ、どうという事は無い。
 当然の如く、そんな単調な射撃攻撃に今のスバルを止められる訳が無かった。
 一撃、二撃と、鋭角的な動きで全ての光弾を回避して、前進を続ける。

「速い――!? でも!!」

 眼前のデルタが、デルタムーバーの照準器を閉じた。
 元々はビデオカメラのディスプレイ画面として使用されていたものだ。
 次にその引き金を引いた時には、一度に発射されるビームの数が、増えていた。
 紫の高出力ビームが、同時に三方向に向かって発射されたのだ。

(かわし切れない……!? それならっ!)

 動かない左腕の所為で、動きは格段に鈍っていた。
 加速を続ける自分の目の前から、同時に三方向へと照射されたエネルギー。
 放たれたビームの速度は、通常の銃弾と遜色ない。止まらないジェットエッジの加速。
 判断までの時間は、一瞬にも満たない刹那。当然、考える時間すらも与えられない。
 されど、人間の比にもならない演算能力と、類まれなる戦闘力を持ったスバルには、それで十分。
 ビームが己の身体へと着弾する前に、跳躍。

「ハッ!」

 水色に煌めく魔力を纏わせ、その右脚を振り抜いた。
 空中で振り抜かれた右の回し蹴りは、放たれたビームを叩き落し、掻き消した。
 一瞬にも満たない攻防。瞬きの間に、スバルのローラーブレードは再び地面を駆ける。
 スバルがデルタのレンジ内に突入するのに掛った時間は、加速開始からほんの数秒。
 ジェットエッジで得た加速をそのまま活かして、再び繰り出される右のハイキック。

「つッ……!?」
「まだまだぁッ!」

 ジェットエッジがデルタの仮面を強打した。
 そのまま崩れ落ちるデルタに、追撃とばかりに左のキックを振り抜く。
 ライダーのマスクに直接的な攻撃が効かない事は、先の王蛇戦で経験済み。
 なればこそ、ライダーの耐久力という壁を越える為に必要となるのが、加速と連撃だ。
 デルタが反応するよりも早く、左のハイキックはデルタの顔面を再び強打。
 キックの勢いそのままに、デルタの身体を右方向へと軽く吹っ飛ばした。
 だが、隙を与えはしない。バランスを取り直して着地したデルタに、再び肉薄。
 振りかぶった右の拳を、真っ直ぐに突き出した。

「させないわよっ!」

 ――が。
 拳がデルタの仮面を叩く前に、突き出されたのはデルタムーバー。
 寸での所で拳を止める。デルタもまた、スバルの顔面に銃口を突き付けていた。
 この柊かがみという少女、伊達にライダーの力を連続使用していただけの事はある。
 それがデルタの能力でもあるのだろうが、根本的な戦闘能力が底上げされているのだ。
 戦闘機人の、それもスバルの連撃に追随する等、ただの一般人にはあり得ない事なのだから。

「あんたは強い! ええ、そりゃあ、心も身体も、私なんかよりもずっと……!」
「あたしが強くなれたのは、守りたいものがあるから! 救いたい人が、そこに居るから!」
「でも、でもね! 私にだって譲れないものがあるのよ! あの子がそんな事を望まないとしても!」
「手が届くのに伸ばさなかったら、死ぬほど後悔するから……! それが嫌だから!」

 言葉として吐き出される、それぞれの想い。
 揺るがぬ決意と共に、想いを叩きつけようとするスバル。
 涙を押し殺した声で、スバルに訴えかけるかがみ。
 二人の想いは、どちらも単純で、真っ直ぐで――。

599戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:02:41 ID:0cPae8kg0
 
「その為に私は――!」
「だからあたしは――!」

 銃撃音と共に放たれる、デルタムーバーからの三連ビーム弾。
 されど、それらが放たれたのは全て、遥か上空へ向けて、だ。
 放たれた薄紫のビーム兵器は、何処にも命中する事無く、夜空の闇へと溶けて行った。
 では何故スバルに突き付けられていた筈の銃口が、遥か天空へと撃ち放たれたのか。
 その答えは、至極簡単――。

「……ウイングロードッ!」

 デルタの身体を吹っ飛ばしたのは、突如宙に現れた光の道。
 蒼く輝くそれは、近代ベルカの魔法陣で形成された、スバルの得意技。
 空を飛べないスバルが、この大空を駆け抜ける為に作った、文字通り“翼の道”だ。
 ウイングロードはスバルの翼となりて、スバルの身体を空へと誘う。
 一方で、地べたを一回転し、起きあがったデルタが取った行動は。

「ファイアッ!」

 掛け声と共に、放たれる三連ビーム。
 それを二回、三回と立て続けに撃ち放つ。
 ほんの数秒の後には、空を駆けるスバルを襲うビーム弾幕の出来上がりだ。
 されど降り注ぐビームのシャワーと言えど、スバルに命中はしない。
 寧ろ、地上戦と言う縛りから解放されたスバルは先程よりも身軽で――。

「当たらないっ……! 動きが、速過ぎる!?」

 照準を狙い定めている内に、ウイングロードは上空で一回転。
 まるでジェットコースターの様に、コースに沿って走り続ける。
 もうスバルに対して銃は役に立たないと、そう判断したのだろう。
 腰のハードポイントにデルタムーバーを装着し、両腕で構えを取る。
 素人に毛が生えたような、形ばかりの構えであった。

「来なさい、スバル……! 私を倒してみせなさいよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 デルタの眼前で、ウイングロードは終わりを告げた。
 スバルが自分の意思でウイングロードの具現を説き、その身を空中へと投げ出したのだ。
 右の拳、その表面に、青白い魔力が生成される。重力による落下と、スバル自身の力。
 そして、マッハキャリバーやリボルバーナックルの協力が無いのが心もとないが、繰り出される一撃。
 対するデルタが取った行動は、両腕による前方へのガード。
 だけど、そんな素人芸ではスバルの一撃は止められない。

「はぁっ!!」
「……きゃっ!?」

 その拳をデルタの両腕の甲に叩きつけた。
 白銀のブライトストリームが眩しい両腕に叩き込まれる一撃。
 ライダーシステムの装甲が、内部へのダメージは遮断するものの、衝撃は殺し切れず。
 デルタの身体は、地面をバウンドして、後方へと転がるように倒れ込んだ。

「やっぱり、強いわね、スバル……! 仮面ライダー相手に、ここまでやるなんて!」
「立って下さい、かがみさん! 貴女の全力を、貴女の想いをあたしに見せ付けて下さい!」
「言われなくてもやってやるわ! バクラでもデルタでもない、これが本当の私だから!」
「そうでないと、かがみさんは一生そこから救われない! 例えあたしに負けても、このままずっと……!」
「救われなくたっていい! 私はそれだけの罪を犯した……呪われて当然の人間だから!」

 かがみの言う通りだ。
 いくら罪を背負うと言った所で、かがみの罪は重すぎる。
 人を三人も殺して、その上でさらにもう一人殺そうと言うのだ。
 そんな人間が救われていい筈がないと思うのは、何もかがみだけではないだろう。
 それこそ、この戦いを生き抜いたとしても、法によって処刑される可能性だってある。
 だけど――!

600戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:04:06 ID:0cPae8kg0
 
「「それでも!」」

「あいつだけは! 八神はやてだけは! この手で殺さなきゃ、私はもっと救われない!」
「もしも貴女をこの先へ進ませたら、あたしはきっと一生後悔する! そんなのは嫌だから!」

 重なり合う二人の絶叫。
 最早、お互いの耳に、お互いの頭に。
 お互いの言葉の意味など届いては居ないのだろう。
 ただ「負ける訳には行かない」という信念だけが通い合った。
 そして、後に残った問題は、最後にどちらが立っていられるか。
 今の二人には、その事実だけで十分だ。

「見せてみなさいよ、あんたの力を!」

 両腕を軽く掲げ、戦闘の構えを取るデルタ。
 先程までとは違う。より改善された、ファイターに近い構え。
 これまでに培われたデルタの戦闘データが、デモンズイデアとなってかがみの脳波に干渉。
 デルタのメインコンピュータが、最善の戦闘スタイルを直接かがみの頭に叩き込んでいるのだ。
 されど、今のかがみにデモンズイデアによる精神汚染は見られない。
 一度デルタに変身した事と、極限状態で戦い続けた事。
 その二つの事実が、驚異的な速度で免疫を作らせたのだ。

「ハァッ!」
「くっ……!」

 一瞬で間合いに入りこんできたスバルの蹴りを、左腕で受け止める。
 ジェット加速をつけてのハイキック。だがそれは既に痛い程に味わった。
 理想的な兵士を作る為のシステムであるデルタに、そう何度も通用する技ではない。
 とは言うものの、スバルの一撃の威力は生半可な物では無い。
 ここ24時間で実績を積んだだけの少女に、完全に耐えきれる訳がなかった。
 多少なりともバランスを崩したデルタに、スバルは容赦なく追撃を叩き込む。

「耐えきったっ……!? でも……!」
「耐え切れるっ……!? これなら……!」

 またしても二人の声が重なる。
 矢継ぎ早に繰り出されたのは、左のハイキック。
 短時間ではあるが、デルタはスバルの攻撃を何度も受けた。
 デルタのシステムがその攻撃パターンを記憶し、かがみの脳に刻み込む。
 一度目のハイキックで、ジェットの加速を殺した。
 二度目のハイキックは、加速無しの左腕骨折状態というハンデ付き。
 威力を十分に出し切れない現状ならば、未だ発展途上のかがみでも対応出来る。

「そこぉっ!」
「こんのぉっ!」

 スバルの攻撃パターンと、デルタとしての記憶。それらのファクターから捻出された答え。
 それは、スバルに負けるとも劣らない、理想的なハイキックのフォームであった。
 腰を捻り、その脚を振り上げる。弧を描いたハイキックが、スバルのハイキックと激突した。
 二つのキックによる衝撃は、お互いの身体を相対的に吹っ飛ばす。
 だが、こんな事で終わりはしない。終れる筈がないのだ。
 即座に体勢を立て直したデルタが、真っ直ぐに駆け出した。

「行けるっ……!」

 やはりデルタの装甲の能力は素晴らしい。
 スバルとの激突でお互いに蓄積されたダメージは、どうやらスバルの方が多かったらしい。
 デルタが駆け出した時、ようやくスバルはその身を起こし、次の動作へ移ろうとしていた。
 右腰にマウントしたデルタムーバーのグリップを握り、銃口をスバルへと向けた。
 当たらなくたって構わない。動きさえ封じられればそれで良いのだ。
 真っ直ぐにスバルに向かって走りながら、三連のビームを発砲。

「チッ……!」

 スバルが舌を打つ音が、デルタのマスクを通して聞こえる。
 回避か、退避か、突貫か。如何なる行動でこの攻撃をやり過ごすのであろうか。
 あらゆる状況に応じて的確に行動を選ばなければ、この勝負に勝ち目は無い。
 デルタのコンピュータとかがみの脳。それらをフル回転させて、考える。
 対するスバルが取った行動は――跳躍。想像を絶する、驚異的な跳躍力で。
 夜の闇へと跳び込む様に、スバルの身体は一気に真上へと跳び上がったのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 漆黒の夜空を仰ぎ見る。
 デルタの視界に飛び込んだのは、蒼の魔法陣で構成された光の道。
 跳び上がった地点からデルタの眼前まで、一直線に伸びるウイングロード。
 スバルの咆哮と、甲高い車輪の音。その二つが威圧感を伴って、デルタに迫る。
 最早間違いない。スバルの次の攻撃は、真上からの一撃。
 何と真っ直ぐで、力強い攻撃であろうか。

601戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:04:43 ID:0cPae8kg0
 
(何て分かりやすい……!)

 スバルらしい攻撃だ。
 それはまるでその拳に意思を投影しているかのようで。
 きっとそれは間違いじゃない。その心を真っ直ぐにぶつける。
 素直じゃない自分には絶対に出来ない芸当。それ故に、恐ろしい。
 真っ直ぐ正面からぶつかりあって、全力全開で打ち倒す。
 そんな単純な戦い方なのに、今はこいつが誰よりも恐ろしい。

(けど……! こんなもんで、行く道退いてらんないのよ!)

 こいつは壁だ。目の前に立ち塞がる壁だ。
 ここで壁に阻まれたまま終わるのでは、結局自分は何も変わらない。
 現実から逃げて、罪から逃げて……知らん顔をして、親友に背を向けるのか?
 否。そんなものは違う。圧倒的に違う。これ以上、そんな醜態を晒したくはない。
 故にかがみは反逆するのだ。己の全てを賭けて、何も抗って来なかった今までの自分に。
 なればこそ、成すべき事は一つ。目の前の壁をぶち壊して、その先へ進むのだ。
 そしてこの手で、罪のない親友の命を奪ったアイツを叩き潰す!
 それを果たすまでは、一歩も退く訳には行かない!

「スゥゥゥバァァァァルゥウウウウウウウウウウウウウッ!!!」
 
 腰を捻って、右の拳を真上の敵へ向かって突き出す。
 奴のパンチは、デルタの装甲さえあれば防ぐ事が出来る。
 されど奴は違う。何の装甲も無しにデルタの拳を受ければ一たまりも無いだろう。
 チャンスは一瞬。この一瞬に持てる力をつぎ込んで、狙うは必殺のクロスカウンター。
 されど、相対するスバルはやはり、かがみの想像を超える相手であった。
 絶妙なタイミングで振り上げた筈の拳は、しかし目標への直撃ならず。
 攻撃を予測したスバルが、僅かに首の角度を捻ったのだ。
 結果、デルタの拳はスバルの左頬を掠めるだけに終わった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁッ!!!」

 デルタは気付かない。否、気付こうとすらしなかっただろう。
 真っ直ぐに目標を見据えるスバルの瞳の色が、変色していた事に。
 数秒前までは、エメラルド色の瞳をしていた。されど今は、黄金色。
 まるで得物を仕留めんと空を翔ける猛禽類の如き、鋭く煌めく黄金の瞳。
 スバルの持つIS。その名は振動破砕。瞳の変化は、ISを解き放った証。
 勿論、リボルバーナックルが無い今、必殺の振動拳を放つ事は不可能だ。
 されど、振動破砕は“触れるだけ”でもダメージを与える事が出来る接触兵器。
 例え振動拳が使えなくとも、拳にISの効果を乗せて振り抜けば威力は十分。
 右の拳頭に、蒼く輝く魔力を込めて、振り抜く拳はストレートパンチ。

「ぐっ……ぁぁぁああっ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 スバルの拳は、デルタの左頬へ直撃。
 盛大に体勢を崩したデルタの仮面が、拳ごと地面へと叩きつけられた。
 仮面を中心に、浅くめり込む森の土。即座に拳を振り上げて、追撃へと移る。
 頭から先に大地へ突き刺さったデルタの身体は、一拍遅れて頭を追いかける。
 軽く跳躍したスバルは、右のハイキックで落下中のデルタの身体を蹴り上げた。

「――ぁぁぁぁあああッ!」
「はぁっ!」

 意思に反して、漏れ出す絶叫。
 デルタの装甲とスーツを貫通してのダメージに、気が遠くなる。
 だが、スバルの追撃は止まらない。軽く吹っ飛んだデルタの身体に、もう一撃。
 今度はジェット噴射で加速した、左のキックを胴体へと叩き込まれた。
 最初のクロスカウンターを外してからの三連撃に、一秒と掛ってはいない。
 それぞれの攻撃を、一つ一つ知覚する隙も余裕も有りはしなかった。
 それこそ、三つ合わせて一つの攻撃ではないかと錯覚してしまいそうになる程だ。
 もしもこの攻撃を生身で受けていたら、本当に死んでいたかもしれない。
 スバルの攻撃は、デルタの装甲を抜いて内部まで振動を与える。
 だが、デルタも伊達に“最強のライダーズギア”を名乗ってはいない。
 その装甲とスーツが振動を極力抑え、かがみの生を繋いでくれた。
 まだ戦える。痛くとも、辛くとも、まだ立ち上がる事が出来る。

602戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:05:25 ID:0cPae8kg0
 
「こんな事で終わりじゃないでしょう、仮面ライダーなら!」
「言われなくとも……こっちだって、まだまだ戦えるわよっ!」

 デモンズスレートがかがみの闘争本能を刺激し、その身を起こさせる。
 しかし、前回デルタに変身した時とは全く違う。感覚が、意識が、何もかもが違っている。
 今回の戦いは、欲求に任せた無意味な戦いでは無い。目の前の敵を倒さねばならぬ理由があるのだから。
 故にこそかがみは、たった一つの目的と、明確な自分の意思を持って、この戦いに挑む。
 マイナス方向に傾けば精神に異常を来すデモンズイデアも、プラスに傾けば話は別。
 上手く使いこなす事が出来れば、これ程心強いライダーズギアは存在しない。
 攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習する。かがみを勝利へと導いてくれる。
 大容量のハードディスクに蓄積されたデータが、かがみの脳に直接戦い方を叩き込んでくれる。
 この一日の戦いの記憶と、明確な戦闘の意思。それらと相俟って、かがみは驚異的な速度で成長していた。
 故にかがみは思う。八神はやてとの決戦の前に、この戦いは必要な布石であったのだと。

「あの壁を乗り越えて、私は先へ進む……!」
「その先に未来は無いって言ってるのに……!」
「なら力づくで止めて見せなさいって言ってるでしょう、スバル!」

 それ以上の言葉は必要ない。
 スバルの返事を聞く前に、デルタは駆け出していた。
 真っ直ぐに、加速をつけて。どうせこの身体はもう、止まらない。
 自分の力では、どうやったって止める事なんて出来はしないのだ。
 かといって後ろに退き下がるなんて論外だ。そんな事はかがみの心が許さない。
 ならば残された道はたった一つ……ただ一直線に、突き進むのみ。
 前に、前に……行ける所まで、ひたすら真っ直ぐに!

「はっ! ふんっ!」

 スバルが吐き出す荒い息が、デルタの仮面から耳に入る。
 ひゅんと風を切り裂いて、振り上げられた左の回し蹴りと、右のストレートパンチ。
 片腕が骨折している人間に繰り出せるとは到底思えない、洗練されたフォーム。
 だけれど、デルタにはその攻撃が見える。それも、先程までよりも鮮明にだ。
 巧みに身を翻し、繰り出された連撃を全て回避したデルタは、一瞬でスバルへと肉薄。

「はぁぁっ!!」
「なっ……速っ――ガァ……ッ!?」

 デルタが突き出した拳が、スバルの頬を確かに捉えた。
 その拳に感じる、確かな直撃の手応え。相手が人間であれば、まず骨折は間違いない。
 声にならない呻きと共に後方へと吹っ飛んだスバルを見て、次に自分の拳を見遣る。
 初めて感じる手応え。初めて与えたダメージ。初めて一人で、戦う事が出来た。
 この分ならば、自分の想いをぶつけられる。お互いの気持ちをぶつけ合える!

「もう、一発ッ!!」
「ぐっ……ストラーダ! カートリッジロード!」

 地べたをバウンドして転がるスバルに向かって駆け出す。
 同時に、スバルの左腕に添えられた槍が、一発の弾丸を装填した。
 魔力の弾丸が排出される頃には、スバルは再びその身で構えを取っていた。
 かがみの予想を越えた、規格外のタフさ。戦闘機人であるが故の耐久力。
 そう。スバルの底力はこんなものではない。こんな程度で終わりはしない。
 入れてしまったのだ。今の一撃で、スバルの中のスイッチを。

603戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:06:46 ID:0cPae8kg0
 
「今のパンチは効いたよ、かがみさん」

 対するスバルの思考は、至って冷静。
 口内の血液を吐き出して、唸るように呟いた。
 スバルとしても、認識を改めざるを得ない。刻み込むしかない。
 柊かがみの、その覚悟を。負けられないというひたむきなまでの意地を。
 それら全てを真っ向から受け止めた上で、この拳で想いをぶつける。
 今のかがみを止める事が出来る唯一の方法。そして、それを出来るのは自分だけだ。
 歯を食い縛った。拳を引き、構えを取った。金の瞳に、デルタを見据えた。
 高町なのは譲りのこの一撃……放つ準備は整った。

「うおおおおおおおおおおッ!」
「一撃、必倒ッ……!!」

 これで何度目であろうか。かがみの咆哮とスバルの唸りが、重なった。 
 デルタがスバルの間合いに踏み込んで、一瞬と待たずにその拳を振りかぶった。
 勢いの乗せた、飛び込み様のパンチ。フットワークの速さで、一気に畳み掛ける気だ。
 驚異的な学習能力だと、スバルも思う。今のかがみは王蛇として戦った時とはまるで違う。
 これがかがみの意地か。何としてでも自分を打倒し、その先へ進みたいという意地か。
 ちっぽけだけれど、愚直なまでに真っ直ぐな意地が、かがみをここまで成長させたのか。
 だというなら、こっちもそれに恥じない戦いをしなければならない!
 全力の自分を見せつけなければ、この戦いは終われないから……!

「ディバインッ……! バスタァァァァァァァァァッ!!!」
「なっ――」

 最早左腕の痛みなど忘れて、右の拳を振り抜いた。
 デルタの拳が風を切って、スバルの顔面の真横を通り抜けて行く。
 相手の攻撃を寸での所で回避してからの、この一撃。
 次の瞬間には、右の拳頭に集束された魔力が、光の奔流となってデルタを飲み込んだ。
 デルタの装甲に魔法攻撃がどれ程通用するかは分からないが、それでもタダでは済まない筈だ。
 リボルバーナックルによる補助が受けられないのが口惜しいが、腐ってもこの技は一撃必倒。
 確かな手応えと共に、重たいデルタの装甲が軽々と吹っ飛ばされるのを感じた。

「――ぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 吹っ飛んだデルタの身体が、激しい粉塵を巻き上げて、岩肌に激突。
 一秒と待たずに激突した岩肌に亀裂が入り、次いで粉砕。
 粉々に砕け散った岩と共に、デルタの身体がどさりと崩れ落ちた。
 その奥に見えるは、つい先刻入口を封鎖されたスカリエッティのアジト。
 入口を塞ぐように降り積もった岩が、今の攻撃でバランスを崩して崩れ去ったのだ。
 砕かれ、崩れ去った岩石はさらに激しい粉塵を巻き上げ、デルタを完全に覆い隠した。

「はぁ……はぁ……ぐっ!?」

 一部始終を眺めるや否や、左腕に感じる激痛。
 へし折れた左腕からの警鐘だ。声にならない呻きを漏らし、患部を押える。
 痛みは当然。例えストラーダを添え木として使おうと、これだけ派手に戦ったのだ。
 骨折個所へと振動が響くのは当たり前。痛みを感じるのは至極当然。
 だけれど、例えどんなに傷が痛もうと、スバルは倒れない。地に膝を付かせもしない。
 当然だ。かがみの敗北を確認するまでこの戦いは終らないのだから。
 故にこそ、ここで自分が先に倒れる事は、スバルのプライドが許さなかった。

「ああ、そうだ……まだ、終わってない!」

 両の脚で大地を踏みしめて、痛みに堪える。
 重たい頭を上げて、粉塵の中のデルタを見据える。
 手応えは確かにあった。だが、まだだ。まだ足りない。
 こんなもので終わるとは思えないし、終れる筈も無かった。
 かがみには、まだ何かがある。奴はこの短期間でここまで進化し、歴戦のスバルを殴った。
 あの重たい一撃を放った相手が、こんな事で簡単に負けてくれるとはどうしても思えなかった。
 やがて徐々に粉塵は晴れてゆく。スバルは、クリアになっていく視界を凝視した。

604戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:09:07 ID:0cPae8kg0
 
「かがみ、さん……!?」

 そこに居たのは、力無く横たわるデルタの姿であった。
 黒のボディは砂色に汚れ、白銀のフォトンストリームはくすんで見えた。
 白銀の翼をイメージさせるデルタの身体も、こうなってしまえば翼をもがれた鳥も同然。
 だが、スバルの毛穴は未だ開いたまま。目の前の脅威に、本能が警鐘を鳴らしているかの様に。

「う……ぐっ……」
「……ッ!!」

 何秒、何十秒。或いは何分間であろうか。
 一瞬だった気もするし、果てしない時間が流れた様にも感じる。
 無限にも思える緊迫した空気を引き裂いたのは、眼前のデルタであった。
 横たわったまま、砕けた小さな岩石を握り潰して、その拳を握り締める。
 大地を殴りつける様に、その拳を地面へと叩き付けた。
 それを拠り所に、デルタがふらふらと立ち上がった。

「ぬるいわね…………甘くて、ぬるいっ!」
「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」

 消え入りそうな声。
 涙を堪えて、押し殺したような声。
 だけれど、それは何よりも強く、逞しく聞こえた。
 彼女が今泣いていたとしても、それは甘えの涙ではないのだろう。
 絶対に譲れないものがある。その信念を貫く為に、必要な涙。
 嗚呼、そうだ。彼女は今、泣いても良い。いくらだって、泣いていいんだ。
 涙に濡れたその運命を、あたしがこの手で救って見せるから……!

「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」
「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」

 なればこそ、彼女を救い出すの為にも、この戦いは避けられない。
 彼女に譲れない意思がある様に、自分にも譲れないものはある。
 そればっかりは譲れないし、一歩も退く事は出来ない。
 救える命を救って、安全な場所まで一直線に連れて行く――
 たった一つのその夢を叶える為にも、こんなところで負けて居られないのだ。
 だから……目の前で「助けて」と泣く少女が居るのなら、あたしは全力で守り抜く! 

「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
 クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」
「なら、あたしももう容赦は出来ない!
 貴女が部隊長を殺すというのなら、その前にあたしが貴女を倒して見せる!」

 こうして、何度もぶつけあった想いを再びぶつけあった。
 結局二人とも同じなんだ。負ける事も、退く事も許されはしない。
 その決意は絶対に揺るがない。目の前に壁が立ち塞がるなら、叩き潰すだけだ。
 それは何が起ころうと変わらない。変わりはしないのだ。

 ここに居る二人は只の戦士。
 何もかもを投げ捨てて戦う決意を固めた戦士と。
 夢の為に、守る為に、全てをぶつけて戦う戦士と。
 一対一の、想いを賭けた戦い。お互いのプライドを賭けた一騎打ち。
 全ての決着を付ける為――二人の戦士は、再び駆け出した。

605戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:10:20 ID:0cPae8kg0
 嗚呼、こなた。
 私はあんたに、なんて謝ればいいんだろう。
 あんたは最後の最後まで、こんな私を信じてくれてた。
 人を殺めてのうのうと生きる、どうしようもないクズを救ってくれた。
 そして最後は無常にも、あの女の刃に――。

 混濁する意識の中で、柊かがみが思い出すのは最後に残った親友の事。
 青い髪の毛を揺らして、いつだって能天気に笑っていた。
 だけども、その笑顔は本当は誰よりも優しい笑顔で。
 アニメやゲームが大好きな彼女は、得意分野の話となれば何時にも増して笑顔になった。
 振り回されてばかりだったけど、あの子と一緒に居る時間は楽しかった。
 いつも素直になれなくて、怒ってばかりだったけど、今なら言える。
 私はあの子と、そして他の皆と過ごす時間が何よりも大好きだった。

(今更ズルいわよね、こんな事)

 自分でも分かる。ああ、分かっている。
 失った今となっては何を思おうと、何を言おうと、もう遅いのだ。
 かがみが伝えようとした言葉は永遠に伝える事は出来ないし、二度と話をすることも叶わない。
 だってそうだろう。いくら話したいと願った所で、いくら謝りたいと願った所で――。
 泉こなたは、もう居ない。遠い遠い、最果ての地へ旅立ってしまったのだから。

(嗚呼、私って馬鹿よね……ええ、大馬鹿よ……本当に、本当に……!
 あの子とは何度だって話すチャンスがあったのに……ええそうよ、あの時だって!)

 スバル・ナカジマとの一度目の交戦。
 あの時あの場所に泉こなたが居たのは間違いない。
 スバルだって、全力で自分の暴挙を止めようとしてくれた。
 だのに、馬鹿な自分は自分の心にまで嘘を吐いて、修羅の道を貫こうとした。
 中途半端な覚悟で、自分だけでなく、周囲まで騙し続けて。
 その結果が、泉こなたの哀れな死。

(あんなに簡単にっ……! あんなに呆気なくっ……! 圧倒的なまでに、容易くっ……!)

 頭に焼き付いて離れない、泉こなたの最後。
 死に損ないの自分を守る為に“生きる筈だった”彼女は死んだ。
 何人もの命を奪って、それでも許されようとしている愚かな自分の為に。
 あまりに無常。あまりに非情。あまりにも、哀れ過ぎる……!

 ――八神はやてを、この手でブチ殺すっ!!!――

 同時に湧き上がる怒りと憎しみ。
 それは泉こなたを奪われた虚無感と相俟って、壮絶なまでの愛憎へと変わっていく。
 もう枯れ果てたとばかり思っていたこの瞳からは、止めどなく涙が溢れ続ける。
 嗚呼、自分はまだこんなにも涙を流す事が出来るのだ。誰かの為に、泣く事が出来るのだ。
 なれば……なればこそ。自分はやらねばならない。この手で、この力で――
 家族も友も、何もかも失っても未だ消えぬ“友情”の為に。友への想いの為に。
 最後に残ったこの感情は、友の仇を取らんと熱く燃え滾っているのだ。
 ならば立ち止まってなどいられない。挫けてなどいられない。
 起ち上がるのだ。あの子との友情を果たすまで、何度だって。

606戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:11:39 ID:0cPae8kg0

(ええ、そうよ……そうと決めたら迷わない! 私はもう立ち止まらない!)

 涙は止まらない。
 湧き出る想いと激情は、どうしたって止められない。
 だけど、それでいい。これは柊かがみに残った、人としての最後の感情だから。
 この感情を抱えたまま、最後まで走り抜くのだ。例え刺し違える事になったとしても。
 そうだ。死ぬのが怖い訳じゃない。このまま何もせずに、黙って死ぬのが怖いのだ。
 こなたの命を踏み躙ったアイツに一矢報いる事無く、何の証も立てられずに死ぬのが怖いのだ。
 だからこそ――命を、魂を、自分を自分としている全てを賭けて、あの女だけはこの手で倒す!

(我儘かしら……?)

 ああそうだ。これは只の我儘だ。
 こなたがそんな事を望む筈がないなんて事は分かる。
 嗚呼、自分でも分かっている! 嫌という程に、分かっている!

(我儘よね……!)

 だけれど、もうこの身体は止まらない。
 もう二度と自分の心に嘘を吐いて生きて行くのは御免だから。
 罪を背負ってでも前に進みたい。その気持ちには一片の嘘も無い。
 だけど、その為に八神はやてを許すなんて事は出来ない。だから――
 だからもう一度だけ罪を犯す。あの女も罪も、全部背負って、それが今の自分だから。
 歪んでいると言われようと、クズだと罵られようと構いはしない。
 こればっかりは、誰でも無い自分自身で決めた意思だから!

(そうよねぇっ……!)

 嗚呼、ようやく気付いた。
 泉こなたの為だなんて言って、これは結局自分の為の戦いだ。
 友情の為だなんて言って、結局自分はあの女を許せないだけなのだ。
 だけど、それは意地だ。たった一つのちっぽけな意地(プライド)なのだ。
 自分が自分で有り続ける為にも、意地と力の全てを賭けて、あの女を倒す!
 その為に邪魔なら、目の前の壁もブッ潰す!

(さぁ、進むわよ……!)

 前に。ただひたすら、前に!
 最早涙を止める事すら考えずに、柊かがみは拳を握り締めた。
 白銀と黒のデルタの拳。それを大地に打ち付けて、ボロボロの身体を起こした。
 まだ戦える。戦える筈だ。自分はまだ、何一つ成し遂げてはいないのだから。
 この殺し合いの中で見付けた、たった一つの目的。最初で最後の、願い。
 復讐と言う名の自分勝手なエゴを押し貫く為に、もう一度立ち上る。

607戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:12:17 ID:0cPae8kg0

「ぬるいわね……甘くて、ぬるいっ!」

 痛みが何だ。苦しみが何だ。
 無惨な殺され方をしたこなたの痛みと比べれば。
 自分が殺した三人が受けた苦しみに比べれば。
 こんなものは致命傷でも何でもない。
 甘くて温い、陳腐なダメージだ。

「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」
「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」

 スバルの想いは伝わっている。
 自分があの女を殺したいと思っているのと同じくらい、スバルは誰にも傷ついて欲しくないのだ。
 だけど、それだけじゃない。あろうことか、目の前の女は救おうとしているのだ。
 その手で……救いようも無い、バカでクズで、どうしようもないこんな自分を。
 なのはと同じだ。優しくて、強くて、きっとこれからも沢山辛い経験をするだろう。
 だが、それでもスバルは止まらないのだろうと……そんな事は容易に想像できる。
 あいつはいい奴だ。どうしようもないくらい、真っ直ぐで、優しい御人好しだ。
 嗚呼……こんな出会い方をしなければ。もっと、もっと違う出会い方をしていたなら。
 きっと、これ以上無い程に良い友達になれた事だろう。

(でも、それは夢……儚い、夢)

 一緒に笑いあって、一緒にふざけ合って。
 一緒に他愛の無い日々を送って居られた事だろう。
 いや、きっとそれは只のIFではない。実際にあり得た事だ。
 何処かの世界で、きっと二人はもっと別な出会い方をしていた筈なのだ。
 こなたと、つかさと、スバルと、皆と――きっと、毎日楽しく過ごせた事だろう。
 こんな殺し合いにさえ放り込まれなければ、実現していたかもしれない夢。
 きっといつまでも続いていたであろう、幸せな日々……そんな現実。
 けど、それは今ここにいるかがみは永久に掴み取る事は出来ない、儚い夢。
 もう戻る事は出来ない。引き返す事は出来ない。退路等何処にも無い。
 だから戦うのだ。前に進む為に。最期まで自分を貫く為に。

「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」
「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
 クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」

 何度も立ち止まって、何度も負けた。
 自分の意思で戦おうとすらせずに、何度も地べたを舐めた。
 だけど、今回ばかりは違う。こればっかりは譲れない。誰が何と言おうと譲れない。
 柊かがみはクズだ。柊かがみはバカだ。どうしようもない、人殺しの狂人だ。
 嗚呼、何とでも言えばいい。バカだのクズだの人殺しだの、何だって受け入れてやる。
 それであの女を殺せるのならば、最早何だっていい。それが今の自分なのだ。

「なら、私ももう容赦は出来ない! 貴女が部隊長を殺すというのなら、その前に私が貴女を倒して見せる!」

 ああそうだ。それでいい。
 ここで引き下がろうものなら、拍子抜けだ。
 きっとこれで、柊かがみが誰かと気持ちをぶつけ合えるのは最後になるだろう。
 だから最後に戦うスバルにだけは、その真っ直ぐな気持ちを偽って欲しくはない。
 妥協も何も許さずに、ただひたすらに素直な気持ちをぶつけてくれる。
 八神はやてとの最後の戦いに赴く前に、スバルと戦えて良かったと思う。
 自分の意思で人を殺して、悪鬼へと堕ちてしまう前に――
 人として、最後に拳を交える相手がスバルで、本当に良かったと思う。

(……なんて、自分勝手よね。そんな事は分かってるのよ)

 嫌になる程、つくづく思う。
 本当に自分は自分の事しか考えていないのだな、と。
 スバルなら良かった。そんな物は逃げだ。ただの逃避だ。
 勝手に自分の最後の相手をスバルに押し付けて、勝手に一人で満足している。
 あんなになってまで戦うスバルの気持ちを理解していながら、自分はそれをスバルに押し付けるのだ。
 なんて醜い事だろうか。なんて卑怯な事だろうか。なんて自分勝手な事だろうか。
 だけど、それが今の自分。目の前のあいつとは、絶対に相容れる事の無い自分。
 相容れる事があり得ないのであれば、もう戦いしか残されてはいない。

608戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:15:01 ID:0cPae8kg0
 
「さあ、来なさいよスバル! あんたの魔法なんて、ぜんっぜん効いてないのよ!」

 嘘だ。効いていない訳がない。
 痛い程に、スバルの魔法はこの身に響いている。
 その言葉、言うならばメッセージとも言えるだ。
 もっと全力で来い。もっと力を見せ付けろ。あんたの全てを私にぶつけてくれ。
 今の言葉には、そんな柊かがみの想いが痛いくらいに詰め込まれていた。
 その行動に恥じぬ様に、今にも倒れそうな身体に鞭打って、デルタは大地を蹴った。
 デルタが駆け出すと同時、スバルのジェットが轟音を掻き立てて噴射を開始。
 お互いがお互いの間合いに踏み込むのに掛る時間は、加速から一合まで数えてもほんの一瞬。
 何度目になるか分からないこの“一瞬”で、二人はお互いの力をぶつけ合うのだ。

「はあああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」

 右の拳を振り上げ、真っ直ぐに突き出すデルタ。
 ジェットの加速をそのままに、魔力を込めた拳を真っ直ぐに突き出すスバル。
 歴戦の勇士に遜色無い見事なまでのパンチングスタイルで、二人の拳が激突した。
 黒いグローブを振り抜いたデルタと、蒼の魔力光を宿したスバルの拳。
 二つが激突した刹那、巻き起こるのは蒼の魔力による激しい爆発。
 拳に込めた魔力が、デルタと接触するや否や炸裂したのだ。

「なっ……!?」

 眩い魔力の光に、一瞬視界を奪われる。
 次いで、容易く吹っ飛ばされてしまう身体。
 宙を舞う速度は、錯覚であろうか、酷くスローに感じられた。
 夜空に煌めく無数の星。自分達を照らす、淡い月の輝き。
 それらに心奪われる余裕など与えられる訳も無く、デルタの視界を覆ったのは蒼の光。
 宙を舞うデルタの周囲360度。全方位、縦横無尽に駆け巡る、蒼の魔法陣。
 もう何度も目にした、ウイングロードだ。

「がっ……ぐっ……あぁっ――!!」

 次いで、身体中のあちこちが悲鳴を上げる。
 身動きの取れぬデルタでは対処しきれぬ、あらゆる角度からの攻撃。
 右斜め下から蹴り上げられたかと思えば、左斜め上から叩き落される。
 凄まじいまでの加速。知覚すら追い付かない、強烈なヒットアンドアウェイ。
 ウイングロードを縦横無尽に駆け巡り、何度も何度も、デルタの身体が宙を舞う。
 やがて攻撃が止まる。スバルも手負いの身だ。攻撃する側とは言え、体力にも限界があるのだろう。
 気付けば自分の身体は、空を翔けるウイングロードの内の一本に、力無く横たわっていた。

「ぐっ……スバ、ルぅ……」

 軽く寝返りを打てば、その身体は真っ逆さま。
 重力に引かれるままに、固い地面へと打ち付けられた。
 だけれど、それで終わりはしない。這う様に身体を引きずって、その身を起こす。
 拳で大地を殴りつけて、その反動でもう一度立ち上がったのだ。

「全く……何処まで強いのよ、あんたは……
 八神はやてなんかより、あんたの方が100倍は怖いわよ……!」
「あたしなんかに勝てないなら、八神部隊長と戦おうなんて止めた方がいいですよ」
「ええ、分かってるわよ! アイツがあんたと違うって事は!」

 きっと八神はやては、最初から自分を殺すつもりで来るだろう。
 どんな状況にあろうと絶対に人を殺めはしないであろうスバルとは、決定的に違う。
 あの非情さ。冷徹さ。冷たさ。何を取っても、スバルのそれとは比べ物にならない。
 想いを乗せてぶつけるスバルの攻撃は、どれも温かいのだ。それこそ、ぬるいくらいに。
 だけど、あの女は違う。こなたを殺したあの攻撃は、凍て付く様に冷たかった。
 だが、それだけの話だ。そんな事で立ち止まるつもりはない。
 スバルに勝てないのならあの女にも勝てない? ならばスバルを倒すまでの話。
 嗚呼そうだ。もう、この想いに迷いは無いのだ。一片たりとも……!

609戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:15:43 ID:0cPae8kg0
 
「だからさぁ……こんなんじゃ終われない……! 終われないのよっ!!」

 デルタの大容量コンピュータが、かがみの脳に絶えず情報を送ってくれる。
 戦う為の技術。理想的な反射。勝つ為の法則。そしてデルタのシステム概要。
 この状況に於いての、最良の判断。それらが、システムと同調したかがみの脳へと直接流し込まれる。

「――おおおおおおおおっ!」

 かがみの頭に煩いくらいに響き渡る、スバルの絶叫。
 ウイングロードから飛び降りたスバルが、右の回し蹴りでデルタを蹴り飛ばそうと迫る。
 デルタのシステムが教えてくれる、理想的な回避の手段。攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習するのだ。
 対してスバルは、骨折と戦闘によって体力を消耗し、技を繰り出す度にその鋭さを鈍らせている。
 落ち着いて対応すれば、回避できない攻撃では無い。
 上体を屈めて、スバルの蹴りを回避した。

「……かわされた!?」

 心の中で呟いたのであろう言葉が、早口に口から紡ぎ出される。
 当然だ。誰も今のデルタにスバルの攻撃を回避出来る等とは思わない。
 それを成したのは、スバルの想像を超えたライダーズギアの装甲。
 そして、理想的な兵士を生み出す為のシステム……デモンズスレート。
 対するデルタは、バネの様に状態を伸ばした。
 空中で蹴りを空振ったスバルへと繰り出す、右のアッパー。

「あぐ……っ!?」

 腹部から突き上げられたスバルの身体が、宙を舞った。
 刹那、がら空きになった守り。連撃を叩き込むなら、これ以上のチャンスは無い。
 そして今のデルタになら、それが出来る。格闘における連続攻撃のやり方は、最高の相手から教わった。
 何度も何度も繰り出されたスバルの連撃を、かがみとデルタはその身体で、痛みと共に覚えたのだ。
 スバルの動きを、そのままコピーする様に……繰り出す攻撃は、右の回し蹴り。

「はっ!」
「ぐっ……ぁ――!」

 重力に引かれて落下するスバルの胴体に、重たい回し蹴りが炸裂した。
 生身とは言え、スバルの身体はデルタの攻撃を耐え切れる。だから、手加減もしない。
 どごんっ! と、不吉な音を立てて、デルタの右脚装甲が、スバルの身体を吹っ飛ばした。
 近くの岩場に激突したスバルの身体は、軽く痙攣して、すぐに立ち上がる。

「やっぱり、今のあんたは万全じゃない! これなら!」
「今のあたし達の戦力は……互角!」

 憎々しげに、スバルが告げた。
 スバルの判断は正しい。事実として、発展途上のデルタにもそれ程の技量がある訳ではないのだから。
 その上、見ればスバルの左腕は骨折している様に見える。そんな状態でであれだけ動いていたのだ。
 何という体力か。何という精神力か。やはりスバルは只者では無いと認めざるを得ない。
 だけども、それでも骨折による体力の消耗は半端な物ではない。
 ここまでデルタと互角以上に戦って、体力がろくに残っている訳がないのだ。
 ならば、自分にも勝機はある。デルタが教えてくれるデータによれば、自分にはまだ奥の手がある。
 それをスバルは知らない。デルタが持てる最大の必殺技を、奴はまだ知らないのだ。

610戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:16:21 ID:0cPae8kg0
 
「終わりにしよう、スバル……これ以上戦ったら、あんたは壊れてしまう!」
「そんな事、構うもんか! あたしは死なない……あたしはまだ、夢を叶えて居ないから!」

 その夢の為に、スバルは死さえ厭わずに自分に向き合ってくれているというのか。
 何て真っ直ぐな少女なんだろう。何でそんな事が出来るんだろう。
 考えれば考える程に、スバルの優しさに触れそうになる度に、涙が止まらなくなる。
 嗚呼、もう終わりにしよう。こんな苦痛は、終わらせてやろう。
 それがスバルに出来る、唯一の恩返しだ。

「行くわよ……スバルッ!!」

 かがみの絶叫を皮切りに、最後の戦いが始まった。
 この夜空を縦横無尽に駆け巡る蒼き光の魔法陣。先程までに展開を続けて来たウイングロードだ。
 天にだって届くのではないか。この大空を、何処までだって走って行けるのではないか。
 そんな錯覚さえも覚えるウイングロードに、デルタとスバルは飛び乗った。

「はぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 重なる絶叫。
 相反する想いを賭けた、壮絶な激突。
 縦横無尽の翼の道を、跳び移り、駆け廻り、何度も何度も拳を交える。
 スバルが拳を振るえばデルタの腕に阻まれる。デルタが蹴りを放てばスバルが回避する。
 スバルが魔力を解き放てば、腰にマウントされた銃から放たれる光弾がそれを相殺させる。
 何度も何度もぶつかり合って、それでも二人の攻撃は一向にお互いの身体へ命中しない。
 一進一退。攻めては守られ、守れば攻められの攻防が続いた。
 そうしている間に、果てしない程の時間が流れてゆく。
 それでも白黒ハッキリ付けるまで、二人の身体は止まらない。
 この手に勝利の二文字を掴み取るまで、二人の殴り合いは終わらない。
 だが。

「おおおおおおおおおおおッ!!」
「えっ――」

 戦いの終幕は、唐突に訪れる。
 何度も何度もウイングロードの上で戦いを繰り返した。
 魔力を、フォトンを爆発させて、何度も何度も殴り合った。
 その果てに、劣化したウイングロードはデルタの体重に耐えられなくなっていたのだ。
 スバルのパンチを防ぐと同時。パンチの衝撃を受けたデルタの足場が、崩れ去ったのだ。
 天高く、まるで蜘蛛の巣の様に張り巡らされたウイングロードから、落下するデルタ。

611戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:18:37 ID:0cPae8kg0
 
「――まだよっ! まだ、終わらないっ!!!」

 嗚呼、だけどもこの死に損ないの身体は、そんな事では挫けてくれない。
 立ち止まってもくれないし、スバルの想いに負けてくれるなんて、もっとあり得ない。
 嗚呼そうだ。こんな下らない事で、何も成し遂げられぬままに負ける事など出来る訳がないのだ。
 空中で姿勢を制御したデルタが、すぐ下方に展開されていたウイングロードに着地した。
 だけど、これで隙は出来た。スバルがデルタに一撃を撃ち込むには十分過ぎる隙が。
 ならばもう回避をする必要も無い。もうこれ以上、こんな戦いを続ける必要も無い。
 終わらせよう。この泥沼のような戦いを。

「チェック、メイトよっ! スゥゥゥバァァァァルッ!!」

 ――Exceed Charge――

「うおおおおおおおおおおおおりゃぁああああああああああああああああッ!!」

 デルタムーバーの銃身が、ガチャンと音を立てて伸びた。
 スバルの左腕に装着されたストラーダが、ガシャンと音を立てて弾丸を排出した。
 真上へと跳び上がったデルタと、真っ直ぐに走り続けるスバル。
 スバルの右腕には、今までと同じ要領で、蒼の光が集束していく。
 一方で、空に舞い上がったデルタの身体を駆け巡るのは、白銀のフォトンブラッド。
 ベルトから駆け廻った光は、ブライトストリームを通して、右腕のデルタムーバーへと送られてゆく。
 やがて、変形したデルタムーバーの銃口から発射されたのは、一発の光弾であった。
 螺旋を描きながらスバルへと迫る光弾に対して、スバルはその右腕を一気に振り抜いた。
 あの光弾ごと、その先のデルタを吹き飛ばすつもりなのだろう。だけれど、それはミスだ。
 されど、そのミスを笑う気にはならない。本当に、最後まで真っ直ぐな戦い方をする奴だと、かがみは思う。

「なっ……なに、コレ……!?」

 スバルが驚くのも、無理は無い。
 身体を動かそうにも、その身体が動かないのだ。
 魔力を撃ち放とうにも、それ以前に右腕が自由に動かないのだ。
 それこそが、デルタの持てる最大の必殺技。何体ものオルフェノクを葬って来た、最強の必殺技。
 それを放つ為の第一段階。スバルの眼前に、光り輝く逆三角錐が形成された。
 まるで頂点はスバルに突き刺さるかの様に。底辺はデルタの身体を待ち受けるかの様に。
 ドリルの如き高速回転を始めた逆三角錐に向かって、デルタは真っ直ぐに両足を突き出し――

「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 逆三角錐の底辺へと、跳び込んだ。

612戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:19:12 ID:0cPae8kg0
 




 空に輝くウイングロードは、もうない。
 何処までも真っ直ぐだった少女は、もういない。
 思えば、さっきまでは随分と騒々しかったなと思う。
 空は一面、何処を見渡しても蒼く輝く光の道。
 耳に入って来るのは、口煩い女の叫び声。
 少女の絶叫を聞く度に、その言葉がかがみの胸へと突き刺さる様だった。
 もううんざりだ。あんな御託をいつまでも聞き続けていては、ノイローゼになってしまう。
 だけれども、かがみはスバルに対して、一片たりとも怨みの感情を抱いては居なかった。

「ありがとう、スバル」

 右腕に掴んだ少女に、一言礼を告げた。
 この子が居てくれて、本当に良かったと思う。
 まさかこの殺し合いに放り込まれてから、自分がこんな気持ちで戦える等とは夢にも思って居なかった。
 最後に触れ合えた人間らしい相手。彼女が居たから、彼女の名前をこの胸に刻み付けたから。
 かがみはもう、何の迷いも無く前へ進む事が出来る。

「スリー、エイト、トゥー、ワン」

 左腕に携えたデルタムーバーへと、何事かを告げた。
 それは、来るべき最後の戦いに於いて、必要となるであろう戦力。
 殺す事に何の躊躇いも持たない、あの悪魔の様な女に何処まで通用するかは分からない。
 だけれども、それでも無いよりは幾分かマシだった。
 そうだ。これはかがみが自分自身の因縁に決着を付ける為に必要な、空への翼。
 この大空を自由に跳び回るあの女に届く為に、必要な翼なのだ。

「私はもう行くから……さよなら」

 スバル・ナカジマの身体を、大穴が空いた洞穴へと投げ込んだ。
 八神はやての攻撃でその入り口を閉ざし、スバルの攻撃で再び道を開いた洞穴へと。
 否……それは只の洞穴ではない。スカリエッティのアジトと言う、立派な名前を与えられた施設だ。
 きっとこのアジトの中なら、どんなに激しい戦いが起こっても飛び火する事はないだろう。
 この中に隠れて居れば、きっとこれ以上スバルの身体が傷つく事はないだろう。
 最後に眠る様に横たわるスバルへと一瞥し、デルタは歩き出した。

 柊かがみはもう居ない。
 何もかもを捨てて、彼女は魔人となったのだ。
 己の信念を貫いて戦った戦士達の戦いの果てに、勝者は居なかった。
 事実上戦いに敗北したスバルは勿論の事、柊かがみという一人の少女も、居なくなったのだから。

「ええ、そうよ。私はもう柊かがみなんかじゃない。
 復讐の為だけに戦う一人の仮面ライダー、デルタ」

 それだけで、十分だ。

613戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:23:16 ID:0cPae8kg0
 

【2日目 早朝】
【現在地 C-9】

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(大)、全身ダメージ(大)、つかさとこなたの死への悲しみ、はやてへの強い怒り、デルタに変身中
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:はやてを殺す。
 1.はやてを殺す。
 2.1が叶えば、みんなに身を委ねる。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。
※デルタのシステムと完全に同調しました。





 月夜が照らす市街地に、その建造物はあった。
 未だかつて誰も踏み居る事無く、奇跡的にも傷を負う事の無かった施設。
 周囲の高層ビルがちっぽけに見えてしまう程、巨大なビル。
 かつてとある世界において、最先端の技術を世に送り出し続けていた企業。
 その本社ともなれば、豪華絢爛の限りを尽くした造りになるのは当然の事。

 そんなビルに――スマートブレイン本社ビルに今、異変が起ころうとしていた。
 ゴゴゴゴゴ、と鳴り響く地響き。それは周囲のビルにまで響き渡り、小規模な地震と勘違いしてしまう程だった。
 スマートブレインのビルの側面……一面に張り巡らされた窓ガラスが、音を立てて割れて行く。
 耐震性、テロ行動。あらゆる状況に備えて造られたビルが、遂に耐える事敵わなくなったのだ。

 そもそも、何故このデスゲームにこの施設が設置されたのか。
 全てのライダーベルトは参加者に支給され、それ以上の道具はこの会場には存在しない。
 それならば、ライダーズギアシステムを開発したこの企業がここに存在する理由など、何処にも無い。
 せめて本社内部に未だ参加者の知り得ぬライダーズギアが有るのならば話は別だが。
 そしてその答えが今、明かされる。

 それは空で戦う術を持たぬ戦士の為に開発された翼。
 圧倒的なスピードと、圧倒的なパワーを持って、敵を殲滅する為に開発された兵器。
 スマートブレインモータースが誇る、最高の技術の粋を凝らして造られたスーパーマシン。
 今この瞬間、スマートブレイン本社の壁をぶち壊して、“それ”が姿を現した。
 コンクリもガラスも、全てを粉々に粉砕して、この地上に解き放たれた。
 “それ”を持つべき者が、“それ”の力を必要としているから。

 だから“それ”行く。
 戦場と化した北東へと、その轟音を響かせながら。
 空中をホバリングしながら旋回。次の瞬間には、大出力のジェットを燃やしていた。
 時速1300kmを誇る“それ”ならば、すぐに主人の元へと駆け付ける事が出来るだろう。

 マシンの名はジェットスライガー。
 最後の戦場へ赴くデルタの為に。
 飛び立てないデルタの翼となる為に――。


【全体の備考】
※F-5からC-9へとジェットスライガーが向かっています。
※アジトの入口に再び穴が空きました。

614戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:23:53 ID:0cPae8kg0
 




「う……ぐっ……」

 目を覚ませば、そこは薄暗い闇の中であった。
 こんな洞穴の中だ。夜である事も手伝って、内部まで光は届かない。
 どうやらこの洞穴の中に元々あった筈の光源も、八神はやての攻撃で破壊されてしまったらしい。
 だけれど、破壊されたのはアジトの入口付近だけなのだろう。
 奥を見れば、少しずつ明るくなっているのが見える。

「そう、だ……かがみさんは……!」

 そうだ。自分は、スバル・ナカジマは、先程までかがみと戦っていた筈だ。
 それがこんなアジトの中に放り出されているとは、一体どういう事なのであろうか。
 その答えを見付ける為にも、重たい身体を持ち上げて、立ち上がろうとするが――

「――つっ……!」

 身を裂く様な激痛。
 左腕の骨折個所だけでなく、体中のあちこちが悲鳴を上げていた。
 身体を起こそうとすれば、上半身が……恐らく内部フレームが痛む。
 立ち上がろうとすれば、二本の脚が軋みを上げて、がくがくと震え出す。
 無理に戦闘を続けようとすれば、全身が砕けてしまうのではないかと。
 そんな錯覚すら覚えてしまう程に、スバルのコンディションは絶望的だった。
 当然のように、こんなコンディションでは戦闘どころでは無い。
 かがみ達を止めるどころか、足手まといも良い所だ。

(こんな時に……! なんて、不甲斐ない……!)

 右腕で、地べたを殴りつけた。
 悔しい。自分の力が必要とされるこの局面で、自分は何も出来ないのだ。
 かがみを止める為に戦うつもりが、逆にかがみに破れてしまったのだ。
 こんなに不甲斐ない事があろうか。こんなに情けない事があろうか。
 自分を責め立てて、自己嫌悪に陥る。

(でも……どうしてあたしは生きているんだろう)

 今のかがみに、人の言う事を聞く余裕など存在しない。
 目の前の敵を叩き潰して、その先へと進む。最早それしか頭に無かった筈だ。
 きっとあの状況のかがみならば、相手を殺す事も厭わないと思っていた。
 それ故に、かがみとの戦いに負ける事は即ち死を意味するのだと思っていた。
 だけれども、自分は生きている。今こうして、この場所に存在している。
 それは何故かと考えて……そして、思い出す。

(そうだ……かがみさんは、あの時わざと……!)

 最後の瞬間、柊かがみは――

615戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:24:23 ID:0cPae8kg0
 

「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 デルタが、逆三角錐へと跳び込んだ。
 逆三角錐の頂点は、スバルの身を抉るドリルの如く回転を続ける。
 身を削らんと迫る蒼紫の光のドリル。だのに、スバルの身体は身動き一つ取れはしない。
 このままでは、自分は死ぬ。圧倒的な力の前に、このまま成す術もなく殺されてしまう。
 だけど、そんなスバルの運命を変えたのは、一人の少女の意思だった。

「ぐっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 聞こえる絶叫。
 それはスバルのものではない。もう一人の少女が発する声。
 まるで何かに抗う様に。何かの力に立ち向かう様に。
 低く、唸るような声の発生源へと、スバルは視線を向けた。

(かがみさん……まさか……!)

 少しずつ、頂点の座標がズレてゆく。
 スバルに突き刺さらんばかりの軌道で迫っていた逆三角錐が、ブレていく。
 何故だ。このままその光のドリルを突き出せば、スバルの命は散ると言うのに。
 柊かがみの勝利は揺るがぬものになるというのに。
 それなのに……それなのに、何故!

(かがみさん……貴女は、あたしを……)

 それ以上の出来事を考える事は敵わなかった。
 蒼紫の光のドリルが、スバルから見て左側を通過したのだ。
 だけども、通過と言ってもただ攻撃が外れた訳ではない。それでは意味がないからだ。
 スバルへと迫る蒼紫は、スバルの身体に触れか否かのギリギリを走り抜けて行った。
 犠牲になったのは、左腕に装着していたストラーダ。
 巨大なドリルとなって迫るデルタが、ストラーダを砕いて粉々にしてゆく。
 ここまで共に闘ってくれたストラーダの最期。されど、衝撃はそれだけにあらず。
 外れたとは言え、絶大な威力を誇る必殺技がスバルの身体へ与えた衝撃と振動は半端な物では無かった。
 それこそスバルの持つIS――振動破砕をまともに食らうのと、遜色無い程の威力。
 そんな衝撃を……身体がバラバラになりそうな程の振動を、スバルは身体に叩き込まれたのだ。
 だけど、結果としては――。


 ――柊かがみはスバルの命を奪わなかった。

 それが事の真相。それがこの戦いの決着。
 だけど、スバルの身体にもう戦う力などは残されていない。
 骨折した左腕。蓄積された疲労。デルタから受けた攻撃の数々。
 それらはスバルの身体を蝕み、今では最早動くだけでもフレームが軋みを上げる。
 このままでは、戦い以前に、その場にいるだけでも足手まといだ。
 だけど――。

616戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:25:53 ID:0cPae8kg0
 
「まだ、方法はある……!!」

 ここは、スカリエッティのアジト。
 壊れた戦闘機人を修理し、メンテナンスまでもこなせる施設。
 13体ものナンバーズを修理するだけの技術と設備が整っているのだ。
 この左腕を直して、もう一度戦えるレベルまで修復する事だって、不可能ではない筈。
 いいや、この際贅沢は言わない。完全回復でなくたって構わない。
 足手まといにならない様に、最低限戦う事が出来ればそれで良いのだ。
 そうと決めれば迷いはしない。

「早く、しないと……!」

 自分がどれ程寝ていたのかは分からない。
 だけど、デルタとの戦いは相当な時間を掛けた覚えだけはある。
 その間に戦っていたのは、高町なのはと八神はやて。ストライカー魔道師二人。
 Sランク魔道師二人が全力で激突したとあれば、一体どんな結末が訪れるのかなどスバルにも分からない。
 だけれども、デルタがスバルを倒した時点で、二人の決着も付いていた可能性もある。
 そこに加えて、自分はこんな大切な時に眠っていたのだ。
 何分、何時間寝ていたのかは分からないが、最悪の事態に陥っている可能性もある。
 ――既に全ての戦いが終結し、誰一人生き残ってはいないという可能性。

「そんなのは、嫌だ!」

 だから、スバルは今の自分に出来る事をする。
 今は一刻も早くこの身体を修理して、すぐに戦場に戻らなければならない。
 せめて足手まといにならないだけの力を、もう一度手に入れる為に。
 自分の夢を果たす為にも、こんな所で立ち止まってはいられないから。
 その想いを胸に、スバルは壁へと寄りかかり、少しずつ奥へと歩を進めて行くのであった。


【2日目 早朝】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト内部】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、全身ダメージ(大)、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(待機フォルム、0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.一刻も早く身体を修理し、戦場に戻る。
 2.ヴァッシュと天道を探して、駅でユーノ達と合流する。
【備考】
※金居を警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※ストラーダはルシファーズハンマーによって破壊されました。

617 ◆gFOqjEuBs6:2010/11/25(木) 04:28:12 ID:0cPae8kg0
投下終了です。
タイトル元ネタはいつも通り仮面ライダーW風。
戻らないDays(日々)。例えどんなに願おうと、あの頃にはもう戻れません。
戻らないDELTA(デルタ)。例え何があろうと、デルタはもう引き返しません。
だいたいそんな感じです。

618リリカル名無しStrikerS:2010/11/25(木) 08:51:11 ID:dNBiPtF60
投下乙です
正直、スバル相手によく頑張ったよかがみは…………
どっちか死ぬかと思ったけど、そうじゃなくて一安心?
そしてついにジェットスライガーキタ―――(゜∀゜)―――!!!

619リリカル名無しStrikerS:2010/11/25(木) 11:57:56 ID:jpfjwDjs0
投下乙です
なんというガチバトル、かがみはこれまでの戦闘の結晶とも言えるなあ
なんだろう、ここにきてかがみがすごいかっこよくなっている
熱い、熱いね、体も、心も!

BGMで555の曲流して読んでいたら、いろいろ合っていて楽しかった

620リリカル名無しStrikerS:2010/11/25(木) 20:17:53 ID:bJswdInY0
投下乙です。

デルタかがみ完全勝利! ってジェットスライガーなんてチートなもん召喚すんじゃねぇ!!
まぁでもそれぐらいしないと今のはやて倒せそうにないしなぁ……

けど、スバルは生き残っているけどボロボロでヤバイなぁ……まぁ治療のアテがあるのはある種の救いだけど……

……って地味に早朝って……おーいタイムリミットタイムリミット!!

621リリカル名無しStrikerS:2010/11/25(木) 20:33:02 ID:jpfjwDjs0
>>620
現時点で参加者がそれを知る術ないからねえ>タイムリミット
それはそれで緊張感あっていいな

622 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:29:40 ID:Txd.3GjY0
ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ分投下します。

623 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:30:35 ID:Txd.3GjY0
Claymore



 唐突だがここで読者諸兄にクレイモア地雷について簡単に説明しよう。

 地雷という名前から地面に埋められた踏めば爆発する爆弾というものだとイメージする者も多いだろう。
 しかし、クレイモア地雷は他の地雷とは少々趣が異なる。
 M18クレイモアの場合、中身は直径1.2mmの鉄球が約700個入っており爆発させたい方向にのみ鉄球が散弾されるというものだ。散弾銃の爆弾版と解釈してもこの際大きな問題はないだろう。
 その性格上、地中に埋めるのではなく、地雷に付いている4本の足を地面に突き刺す事で仕掛けるものだ。地雷という名前ではあるが地面に埋められないのがある意味では滑稽ではある。
 重要なのはその威力だ。殺傷範囲は扇状に約60度、距離にして50m以内であればほぼ確実に殺傷でき、100m以内ならばダメージを与える事が出来、鉄球の最大射程は250mだ。
 つまり――至近距離で不意に炸裂された場合常人であればまず死亡するという事だ。





 そのクレイモア地雷がある参加者の手によりE-7駅にある車庫の扉の内側に2つ仕掛けられた。扉を開ければ地雷が爆発する様にセットした上でだ。
 扉を開けたらどうなるか? そんな事、これまでの説明を踏まえれば容易に想像が付くだろう。
 超至近距離からの無数の鉄球が不意に飛んでくるのだ。対人兵器に類されるに相応しく、直撃を受ければ絶命する事はほぼ確実だろう。

 勿論、結界を展開出来れば防げるだろうが、完全な不意打ちに対処する事は不可能だ。完全自動で発生する防御能力があるならば話は別だが――





 少々脱線するが、手に持って扱う銃器と違い、仕掛けた後は別段気にする必要のない地雷というものは兵器としては悪質なものだ。ある種無情なる兵器と言っても良いだろう。
 紛争地域での地雷撤去が話題になるのはある意味そういう背景もあると言える。







 そして――その無情なる悪魔が牙を――クレイモア地雷が爆発する瞬間が訪れた――

624 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:31:55 ID:Txd.3GjY0










Guided



 悪逆な漆黒の魔王により拘束された白き竜――
 天の道を往き総てを司る太陽の戦士によって解き放たれ――
 仲間達の待つ所へその翼を広げ向かって――



 いや、向かえなかった――



 太陽の戦士が示した方向は確かに仲間達のいる方向だ。
 しかし同時にその仲間同士で激しい戦いが繰り広げられている場所でもある。
 生命の危機に及ぶ場所に不用意に近付く生物などまずいない。
 下手にのこのこ近付いていけば戦いに巻き込まれ死ぬだけだ。
 いや、それだけならばまだ良い、最悪の事態は自身の存在が仲間達の足を引っ張る状態に陥る事だ。
 そもそも、自身が漆黒の魔王に拘束されたお陰で仲間達は彼の者への攻撃を躊躇せざるを得なくなった。
 彼の者の増長を許したのは自身が原因、それを踏まえるならば二度と同じ失敗を犯すわけにはいかない。
 出会えずに死に別れた主人や仲間達の為にも激闘が繰り広げられている場所には向かえない――



 故に、白き竜は向かえなかった。そんな中――



『キュルゥゥゥ……!?』



 懐かしき匂いを感じた。ああ、その匂いは自身が一番理解している。



 我が主人■■■・■・■■■の匂いだ――



 だが、本当にそんな匂いを感じる事が出来るのか?
 都合良く主人の匂いを感じるなんて話があるのか?
 それ以前に既に死亡している筈の主人の匂いを何故今というタイミングで感じるのだ?



 もしかするとこの匂いは白き竜が願った都合の良い幻想なのかも知れない。道を見失った自分が存在し得ない主人を求め生み出した――



 だが、今はそれでも良かった――それが幻想であれ現実であれ、感じた事は事実なのだから――



 故に白き竜は舞う――起こりえない主人との再会を信じて――

625 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:32:34 ID:Txd.3GjY0










Explosion



 車庫の扉は完膚無きまでに破壊された。クレイモア地雷2個分の威力――対人兵器とはいえ、至近距離ならば扉程度簡単に破壊出来る。
 そして、その真正面に誰かがいたならばその者はほぼ確実に物言わぬ骸となっているだろう――















 だが――














 車庫のすぐ前に骸は無かった――何故なら――















「予想が当たったよ――出来れば当たって欲しくなかったけどね」















 車庫のすぐ前に人などいなかったのだから――















 車庫より10数メートル離れた地点にヴィヴィオを背負ったユーノ・スクライアがいた。その手にはフェイトの相棒ともいうべきバルディッシュが握られている――

626S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:34:10 ID:Txd.3GjY0















Truth



 高町なのは達と別れたユーノはヴィヴィオを背負ったまま駅へと向かっていた。そこですべき事は『ヴィヴィオの治療』、『首輪の解除』、『車庫の中身の確保』だ。
 だが、現状では首輪の解除に関してはリスクが大きい。気になる所が無いではないが断定出来ないため優先順位は低い。
 となると残りはヴィヴィオの治療と車庫の中身の確保という事になる。
「バルディッシュ、ヴィヴィオの容態はどう?」
『先程までの治療のお陰で生命の危機だけは回避できました。ですが、それとは別に大きな問題が――』
 それは、ヴィヴィオの体内のリンカーコアが消失しているという問題だ。
『恐らく先の戦いでリンカーコアが失われる程の現象が起こったということでしょう』
「つまりもうヴィヴィオは魔法が使えないって事か……複雑だなぁ……」
 魔法が使えなければ戦う事が無くなるためある意味では危険に巻き込まないで済ませられる。しかし、魔法が二度と使えないという事が大きなハンディになる事に変わりはない。
「とりあえず、リンカーコアについてはこのデスゲームが終わってから考えるしかないね。それよりも――」

 前方に駅が見える。ユーノはすぐさま近くの車庫へと向かった。

「先に車庫の中身を確認してからで良いね」
『そうですね、治療を行うとしても建物の中の方が都合が良いですしね』
「よし……」


 と、車庫の扉に手を掛けようとしたが――その直前で手が止まる。


『Mr.ユーノ?』
「……バルディッシュ、周辺と車庫の中をサーチするよ」
『え?』
「いいから」
 そして、サーチを行ったが周囲に自分達以外の存在は察知出来ない。

『異常は何もありません……Mr.ユーノ……?』

 が、バルディッシュの言葉にも構わず、ユーノは車庫の扉から少し距離を取る。

「バルディッシュ……フォトンランサー」
『何を言っているんですか?』
「ランサーで無くても良いから、あの扉をこの距離から撃ち破れるならね」
『Yes...Photon Bullet』





 一筋の魔力弾が扉へと飛んでいき直撃――同時にその瞬間、扉の内側にある何かが炸裂し――





 扉は破壊され無数の鉄球と扉の破片がユーノ達目掛けて飛んできた――だが、





 ユーノが発動した結界魔法――それらによって飛んできた鉄球と破片は全て防がれユーノ達に直撃する事は無かった――





「予想が当たったよ――出来れば当たって欲しくなかったけどね」

627S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:36:05 ID:Txd.3GjY0















Reason



 車庫の中を調べた所、扉の近くに2つ分の爆弾の残骸が遺されていた。
「どうやら扉を開けたら爆発する仕掛になっていた様だね。もし不用意に開けていたら……」
『中には殆ど何も残っていません』
「デイパックだけが残っていた所を見ると既に誰かが手に入れた事になるね」
 ちなみに残されていたデイパックの中身は基本的な支給品しか無かった。



「ま、予想していなかったわけじゃないから。それよりヴィヴィオの治療を再開しないと」
 そう言いながらユーノはヴィヴィオに治療魔法をかけていく。そんな中、





『Mr.ユーノ、治療しながらで良いので聞いて良いでしょうか? どうして車庫に攻撃を――いえ、何故車庫に爆弾が仕掛けられていた事がわかったのですか?』
「どういう事?」
『Mr.ユーノの先程の行動が不可解でした。しかし、今にして思えば貴方は手を掛ける直前にその事に気付いたのは確実。だからこそ、直撃を回避する為に遠距離から扉を破ったのでしょう。
 ですが、根本的な理由が不明瞭です。外から見る限り変わった様子は無かった。故に、誰かが入ったかどうかすら分からないはず。
 では、何故――』

「多分、僕以外の人間だったら恐らく気付かなかったと思うよ」
『と言いますと?』
「バルディッシュ、本当に変わった所は無かった? 僕とバルディッシュだけは気付ける筈だよ」
『Mr.ユーノと自分だけ……まさか!』

「そう、扉の前にはあるべき筈のものが無かったんだ。だからこそ、僕は違和感を覚えたんだ」





 ここで1つ思い出して欲しい事がある。
 車庫の前には説明が書かれた立て札があったがそれは悪用回避のためスバル・ナカジマによって破壊され消失した。
 だが、ユーノは危険である事まで隠してしまうという問題を回避するため、『危険。触るな』と書かれた紙をセロテープで扉に貼り付けた。
 ちなみに、紙を貼り付けた事に関しては話す余力が無かった等の為、他の参加者には一切話していない。故にこのことはユーノとバルディッシュだげが知り得る話である。

 ところが、今扉を見るとその紙が無くなっていた。つまり、何者かが車庫に辿り着き張り紙を外したという事である。
 同時にその人物が車庫の中身を確保した可能性もあり、最悪の場合は次にやって来た者を抹殺するために罠を仕掛けた可能性もあるだろう。
 勿論、これは推測レベルの話だ。だが、可能性に気付いた以上最悪の事態は避けなければならない。故にユーノは安全の為、前述の行動を取ったのだ。
 勿論、何も仕掛けられていない、もしくは中身まで破壊する可能性もある。だがそれでも構わない、重要なのはヴィヴィオの身を守る事だ。その為ならば選択肢としては間違っていないだろう。

628S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:37:10 ID:Txd.3GjY0





 では、実際の所はどうだったのだろうか?
 実は仕掛けた者は扉から入ったのではなく、ある転移魔法で直接車庫内に入った。そして中身を確保した後クレイモア地雷を仕掛け扉から出た。
 出る時及び仕掛けた拍子に仕掛けた者が気付かぬ所で張り紙が外れた可能性がある。
 もともとセロテープ程度の粘着力程度であったし、貼り付けた直後に放送が始まったが為、確実に貼り付けてあったかを確認し切れていなかった可能性もあり有り得ない話ではない。
 また、仕掛ける際に邪魔になって一端剥がし、もう一度そのまま張った可能性もあるが、粘着力の落ちたが為に風で剥がれた可能性もあるだろう。
 もしくは張り紙があるが故に、避けられては困ると考え敢えて外したという可能性もある。

 結局の所、真相はわからない。だが、先に訪れた者が細工を行った事で結果として張り紙が外れたという事実だけは確かである。





『――なるほど、だからこそ既に中身を確保され逆に罠を仕掛けられた可能性を考えたと』
「僕1人だったら無理に開けても良かったんだけど、ヴィヴィオを守る事を優先するなら……ね」
『しかし一体誰が……』
「『誰が開けたか』というより『誰が中身を持っているか』の方が重要だよ、あんまり意味は変わらないけど」
 今となっては中に何があったのかはわからない。だが、中身を持つ者がいる事は確かだ。
「といっても、その可能性のある人物は3人に絞られるよ」
『金居、キング、アンジールですね』
 放送時点で生き残っている参加者は12人、その内9人がアジトに集結していた。
 だが、車庫の中身についての話題ははやて達からもなのは達からも聞かれなかった。故に、アジトに集結していた9人は除外される。
 故にそれ以外の3人、金居、キング、アンジール・ヒューレーの内の誰かが確保したという事になる。

「スバルが立て札を破壊する前に確認すれば問題なく確保出来るよ。放送から2時間経っていることを踏まえると先行されていても不思議は無いわけだし」
『Mr.ユーノ達の策が無駄に終わりましたね』
「……これは僕の想像なんだけど、もしかしたらプレシアが何か仕掛けた可能性があるよ」
 プレシア・テスタロッサは十中八九自分達の行動を監視している。当然、自分達が車庫の中身を確保するために色々策を巡らせている事も把握されているだろう。
 車庫の中身が殺し合いを望まない者に確保されれば一番困るのはプレシアだ。故にプレシアは車庫の中身を殺し合いを望む者に渡す事を策謀する可能性が高い。
「ルーテシアに参加者の殺害をさせようとした可能性がある事を踏まえれば有り得なくはないよ。それに口を出すといっても、
『良い情報を教えて上げるわ。駅の車庫の中身を確かめてみなさい』
という風に
それだけ伝えれば済む話だよ」
『なるほど……確かにプレシアの性格上行う可能性はありますね』
「とはいえ、これは何の確証もない想像。だからこれ以上考えても仕方がないよ。確実なのは車庫の中身が殺し合いを望む者に渡ったという事実」
『車庫に近付いた者を爆弾で一掃する辺り凶悪なのは確かですね』
「3人の情報が不足しているのが辛いなぁ……」

629S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:37:45 ID:Txd.3GjY0





『しかし最悪な状況ですね』
「そうだね、皆が集まった時点ではこんな事になるとは思わなかったよ」


 起こった事をユーノとバルディッシュが把握している範囲で整理してみよう。
 まず、なのはとはやてがかがみを巡って言い争いをしている隙を突いて千年リングに宿るバクラがヴァッシュ・ザ・スタンピードを操り何らかの方法でリインフォースⅡを惨殺。
 次にそれに逆上したはやてが広範囲攻撃を展開し仲間達を散り散りにさせる。
 なお、千年リングはスバルが確保し振動破砕で千年リングを粉砕しバクラもそれにより消失。
 なのは、ユーノ、ヴィヴィオ、スバルは無事に合流出来たがはやてがかがみの目の前でこなたを殺害。
 なおもかがみを殺害しようとするはやてに対しなのはが対峙、
 こなたの仇を討とうとするかがみを止める為スバルが対峙、
 そしてユーノとヴィヴィオは駅へと先行した――
 なお、ヴァッシュ、天道総司、アギトは消息不明だ。


「纏めるとこんな感じだね」
『Mr.ヴァッシュ、Mr.天道、アギトは無事でしょうか?』


 その問いかけに対し――


「天道さんについてはわからないけど……後の2人は……」


 ユーノは重い口を開きそう答えた。それはイコール2人の生存は絶望的だという事を意味している。

『貴方がそう語るという事は断定出来る理由があるという事ですね』
「今のはやてが、大事な家族であるリインを殺した奴を許すと思う?」
『――No.』
「フェイトを殺した事をずっと悔やみ苦しんでいたヴァッシュさんだよ、操られていたとしてもリインを殺してしまった事にショックを受けないわけがない。その隙を突けば簡単に殺せるよ」
 ユーノははやてが広範囲行為を仕掛けた後、すぐさまリインを殺して唖然としているであろうヴァッシュを殺害し仇を討ったと推測した。
 勿論、ユーノ達が知るはやてならばその可能性は低いが、シグナムの仇討ちと称しかがみを殺そうとする今のはやてならばほぼ確実に仇討ちに出るのは明白。
「とはいえ、ヴァッシュさんを殺した件に関しては責めるつもりはないよ。千年リングとバクラを甘く見ていたという意味では僕もスバルもヴァッシュさんも同罪だからね」

 『――に関して『は』』――その言い方に何か別の意味があるのかとバルディッシュは一瞬考えたものの一端それを脇に置き、

『アギトに関しては?』
「1つ確認したいんだけど、アギトはああいう人を惨殺したりする行為を好むかい?」
『いえ、それは無いです。彼女は騎士ゼストを慕っていましたしJS事件でもスカリエッティ一味のやり方に関しては反感を持っていました。その彼女が人殺しを肯定するとは考えられません――が、それが何か関係あるんですか?』
「大ありだよ、ヴァッシュを殺した事に関してはさっきも言った通り当然の結末だと思うしそれに関してはアギト自身も肯定してもおかしくはないよ」
『でしょうね。よく喧嘩していましたがあの2人仲が良かったですし』
「とはいえ、その前に僕達を巻き込んで広範囲行為をしたのは頂けないよ。そんな暴走をアギトが許すと思う?」
『――No, 恐らく彼女はMs.はやてを諫めようとするはずです』
「だけど今のはやてがそんな彼女の言葉を聞くと思う?」
『つまり……Ms.はやてが邪魔なアギトを殺したという事ですか? しかし幾らなんでもそう簡単にアギトを……』





「僕は見たよ――彼女の手に『アレ』があったのをね……それを使えば簡単だよ」
『『アレ』……まさか!?』
「そう、夜天の書……はやてはそれを使ってアギトを蒐集したと思う……」
 あの時、一瞬だがはやての手に夜天の書が握られているのが見えた。恐らくそれを使い邪魔なアギトを蒐集したのだろう。
 あの状況でいきなり蒐集をするとはアギトも考えない。完全な不意打ちならば回避は出来ないだろう。
『何て事を……』
「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ」

630S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:38:20 ID:Txd.3GjY0





『やはりあのままMs.かがみをMs.はやてに殺させるべきだったでしょうか――そうすれば溝が出来るとはいえ今回の様な最悪の事態は避けられたのでは――』
 あまりにも最悪な事態にバルディッシュ自身はIFの可能性を考える。覆水盆に返らずとはいえ、別の可能性があったのではと考えずにはいられない。勿論、こんな事をユーノが肯定する筈など――
「――そうだね、かがみがシグナムを殺した以上、はやてが彼女を殺す事に関しては認めざるを得ないよ。こなた達には悪いけど彼女は殺し合いに乗っていたみたいだし危険因子を排除するならばそれもまた仕方がないと僕も少しは思っていたよ」
 意外にもユーノはバルディッシュの言葉を肯て――





「でもそれは間違いだよ。はやてにかがみを断罪する資格なんてない――


 今の彼女は機動六課の部隊長でも八神家の主でもない――


 只の愚かな殺人鬼だよ――」





『――どういう意味です?』
「はやてはプレシアを打ち破るために、仲間達を集めて障害を排除しようとしている――それが外見上の彼女の行動方針なのは見てわかるよね」
『その通りですね。だからこそ不穏因子であるMs.かがみを排除しようと……』
「でも、そんなことフェイトやなのはが認めると思う? なのはについては見ての通りだけど――」
『マスターも恐らくMs.なのはと同じ事をしていたでしょうね』
「そう、はやての行動方針は成立しえないんだ。絶対になのは達と対立を起こす筈、
 少し考えればはやてだってそれに気付く筈なんだ。だからこそ最大限の譲歩としてあの場ではかがみの厳重拘束が最善だった。それならなのはも良い顔はしないとはいえ了承してくれた筈だ

 つまり――はやては自分の行動を正当化し、自身の意に添わない人物を排除している只の駄々っ子でしかないって事、自分の欲望を満たしたいだけの只の子供だよ――」

『お言葉ですが、リインの仇討ちとしてMr.ヴァッシュを、シグナムの仇討ちとしてMs.かがみを殺す事に関して彼女が根本的に間違っているとは思えませんが?
 マスターも同じ事をしていた可能性は否定出来ませんし――』

「アギトとこなたは何故殺されなきゃならなかったの? 彼女達がはやての家族を殺したのかい?」
『それは……』
「はやてには悪いけど、こなたを殺した時点でかがみを断罪する資格は失われたよ。それ以上は只気に入らないから殺す程度の我が儘でしかないよ。むしろ、かがみからの断罪を甘んじて受け入れなければならないかも知れないね」
 その声は何時ものユーノからは考えられない位冷たかった――そう、はやての行動にユーノ自身強い怒りを感じていたのだ。

631S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:39:00 ID:Txd.3GjY0



「それに夜天の書を持っていた事から明日香を殺した事もほぼ確実。彼女が殺し合いに乗ったのはある種の暴走でしかない、彼女を殺す必要なんてなかったはずなんだ……」
 ユーノの知る限り、夜天の書はジュエルシードと共にユーノが一時期行動を共にしていた天上院明日香が所持していた。
 その時の彼女はその2つの力に呑まれ参加者を皆殺しにしようとしていた。だが、本来ならば彼女は善良な何の力もない一般人、彼女を殺す必要は皆無だ。
『危険人物だから排じ――』
「そんな事は僕だってわかっているしある意味では仕方なかったのかも知れない。でも、それならそれでちゃんとその罪と向き合わなければいけないよ! 人を殺した事に違いは無いんだから……
 でもはやてはその事を全く話さなかった……
 ヴァッシュさんがフェイトを殺した事に関しては上から目線で諫め、シグナムを殺したかがみに関しては彼女が反省の色を見せたにも拘わらず一切許さず、僕達が言い争いしている場合じゃないと言っても有耶無耶にするのかと聞く意味持たなかった……
 自分の行動は棚に上げて相手の人殺しだけ一方的に非難する……只の子供の駄々でしかないよ……」
 ユーノは激しい感情ではやてを非難する。だが、
『Mr.ユーノ……自分を責めないでください』
 バルディッシュはユーノが明日香の死亡の原因が自分にあると考えている事を察し、ユーノを慰めようとする。
「ごめんバルディッシュ……ちょっと熱くなりすぎたよ……明日香の件に関しては僕にも責任があったからつい……」
『今の姿をMs.ブレンやMr.Lが見たら何て言うか……』
「本当だよ……」
『ともかく今はヴィヴィオの治療に専念してください』



「ただ、どちらにしてもはやてを許す事は出来ないよ。彼女が人殺しをした事を意に介さない事は事実だからね。
 今の彼女は強い力を持って正義という言葉で自分を正当化している只の殺人鬼、彼女は絶対に止めるよ」





 さながらそれは死神のノートを手にし新世界の神となろうとした『ヤガミ』に挑んだ最高の探偵の姿に似ていた――















『――と言った所で、Mr.ユーノの力ではMs.はやてを止める事など不可能だと思いますがね』

「図星だけど言われると傷付くなぁ。まぁ、実際不可能に近いけどね……正直なのはでも難しいと思うよ」
 夜天の書とジュエルシード、それに強力な小刀型デバイスを持つはやての力は参加者中でも最強クラス。幾ら本来のデバイスであるレイジングハートが戻ったとはいえなのはでも厳しいのが実情だ。
 また、なのはが不利な要素が他にも存在する。
 忘れがちだがはやてはこなた(場合によってはヴァッシュも)を殺した事でボーナスを確保している。一方のなのはは先の広範囲攻撃等で消耗が激しい。
 故に、そもそもの戦力差が付いているという事だ。
 また、それぞれの心構えも問題点だ。なのはは恐らくどのような状態になってもはやてを殺す事はしないだろう。だが一方のはやては邪魔となるならば殺人も厭わない事は確実。
 つまり、はやては生きている限り他の参加者を殺す事でボーナスを得て幾らでも戦えるという事だ。そういう面でもなのはが不利である事がよくわかるだろう。





『最悪――Mr.ユーノとヴィヴィオ以外は誰も生き残れないかもしれませんね』
 自分達以外の8人中、なのはははやてと対峙、スバルはかがみと対峙、天道は行方不明、そして残り3人の参加者は敵の可能性がある。
 断定こそ出来ないししたくはないが自分達以外の仲間は全滅という可能性も否定出来ない。


「うん……それでも彼女、ヴィヴィオは何としてでも助けるよ。その為ならば僕は――」

632S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:42:24 ID:Txd.3GjY0















Alive



 それは果ての見えない悪夢だった――






「うっ……うっ……」





 ヴィヴィオは1人耳を塞ぎ蹲っていた。助けを求めようとも助ける者は誰も現れず、現れた者は皆ヴィヴィオを拒絶した――





 ――どうしてこんな事になってしまったのか?





 それはヴィヴィオ自身が一番理解している。なのはママやフェイトママ達の願いや想いを踏みにじり裏切り他の人達を皆殺しにしようとしたからだ。
 そんな事誰も求めないのはわかりきった事なのに――





 身体の痛みは何時しか消えていた――だが、染みこんだ血肉の匂いは決して消えない――ヴィヴィオが咎人である事に何ら代わりは無いのだ――





「もうやだよぉ……」





 口から零れる嘆き――それでも頭の中には延々と声が響き続ける――





「どうしてスバルを殺そうとしたの……」
「お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」
「えriおくnを……かeせ……」
「少し……頭冷やそうか……」
「お前なんか……嫌いだ……!」
「イライラするぜ……」





「やめてよぉ……」





 聞きたくない罵声は止まらない――何時しかヴィヴィオの心は壊れそうになっていた――





 いっそ死ねば楽になれる――こんな悪い子がここにいるなんて許されない――





 そう考えヴィヴィオは顔を上げ瞳を閉じて舌を噛み切ろうと――

633S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:43:24 ID:Txd.3GjY0










「待つですよー!」





 次の瞬間、自分の額を誰かが叩いていた。





「あれ……リイ……ン?」
 自分の目の前にリインフォースⅡが浮いていた。しかしヴィヴィオは、
「ああああぁぁぁ……いやだよぉ……」
 リインにまで蔑まされると思い脅えきっていた。自分は自ら死ぬ事すら許されないのかと――





「ヴィヴィオ、いつまでこんな所にいるつもり?」





 と、後ろから声が聞こえてきた。振り向くと





「……こなた……お姉さん?」





 こなたが変わらぬ表情で立っていた。



「全く……なのはちゃん達を裏切って皆殺しにしようとしていた事はリイン達だってよーく知ってますよ!」
 リインは怒った様な表情でそう口にする。
「う……」
「で、スバル達も殺そうとしたんだよね?」
 何時もの表情でこなたはそう口にする。

「はっきりと言うですよ。ヴィヴィオのした事は決して許されないですよ! みんなの想いを踏みにじったわけですからね」
 そんな事は今更言われなくてもわかっている。もうやめて欲しいと思っている。
「それでもう死ぬしかないと思ったの?」
 そう問われてヴィヴィオは頷く。
「……それじゃあ、ヴィヴィオを助けようとした人達の努力は何だったんですか?」
「え……?」
 こんな自分を助けたいと思う人がいる? 信じがたい話にヴィヴィオは耳を疑った。
「忘れたのかな? スバルはヴィヴィオをどうしようとしていた?」

 ヴィヴィオはあの時の戦いを思い出す。確かスバルは自分を妨害――いや止めようとして体内に埋め込まれた何かを破壊しようとしていた。
 今にして思えば殺し合いに乗っていた自分を止めようとしていたのは十分に理解出来る。

「ここで死んじゃったらそれこそスバル達に対する裏切りだよ」

 そうだ、ここで死んでしまえば今まで自分を助けてくれた人達の想いや願いを裏切る事になる。だが――

634S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:44:45 ID:Txd.3GjY0



「でも……」

 今更、皆を殺そうとした自分が許されるとは思えない。また拒絶されると思うとどうにも踏み切れない。そんなヴィヴィオに対し――

「そんな事……やってみなきゃわからないよ――だって、まだヴィヴィオは生きているんだよ。
 きっとこの先ヴィヴィオは辛い事を沢山経験するんだと思う――だけど、楽しい事にだって出会える筈だよ、友達を作ったりしてさ――
 死んだらそんな事も出来なくなるよ――そんなの誰も望まないよ――」

 勿論、ヴィヴィオの先には罵倒等の困難が待っている可能性が高い。だが、同時に更にその先には幸せな暮らしが待っている可能性もある。
 なのは達がヴィヴィオを助けようとしたのはヴィヴィオを幸せにするためでは無かったのだろうか?

「いいの……?」
「当たり前ですよ、ほら聞こえて来ないですか?」





『それでも彼女、ヴィヴィオは何としてでも助けるよ。その為ならば僕は――』





 何処からか自分を助けたいと願う少年の声が聞こえてきた。



「ユーノ……?」
「早く戻ったらどうです? きっとヴィヴィオが目を覚ますのを待っているですよ」
「……うん」
 また拒絶されるのではという不安がある。それでも自分を助けたいと願う人がいるのならば――その願いに応えたいとヴィヴィオは思った。





 そして、いつしか自分の身体が浮き上がっていくのを感じる――終焉の時が来たのだと――
「リイン……? こなたお姉さん……?」
 だが、2人は浮上するヴィヴィオを只見送るだけだ。

「言った筈だよ、辛い事も楽しい事も経験出来るのは生きている人だけだって――」

 ああ、そうか。そうだった――2人とももう――
「ううっ……」
 ヴィヴィオの目から涙がこぼれ落ちる。




「さよなら……」





 その最中少し離れた所にルルーシュ・ランペルージとフェイト・T・ハラオウンの姿が見えた。声こそは聞こえなかったがその口の動きから何を言おうとしているのかは理解出来た。





『なのはを』
『スバルを』
『『頼んだよ(ぞ)』』





 そして、最後にヴィヴィオのぬいぐるみを持った浅倉威が一瞬だけヴィヴィオの方を見た。言葉にはしていなかったが何を言いたいのかをヴィヴィオは理解した――





『イライラさせるなよ――』





「みんな……」





 そして、ヴィヴィオの記憶はここで途切れた――

635S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:45:40 ID:Txd.3GjY0




























































「行っちゃったか……」
「行っちゃったですね……」
「ヴィヴィオ、大丈夫かなぁ……」
「心配なのはわかるですけど、リイン達に出来る事なんて何も無いですよ」
「そうだね……」
「本当にごめんなさいです。はやてちゃんのせいで……」
「あーいいよ、最後に■■■んを助ける事が一応出来たから満足か……な……」





「こなた……?」





「ごめん……やっぱりこんなんじゃ満足出来ないや……」





 少女の瞳には涙が溢れていた――

636S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:47:20 ID:Txd.3GjY0
Awaken



「みんな……」
『Mr.ユーノ、ヴィヴィオが目を覚ましました』
「良かった……」
 ヴィヴィオが意識を取り戻した事にユーノとバルディッシュは安堵した
「あれ……こなたお姉さんやリインは……それに……」
「ああ、みんなは……」
「そっか……」
 見たところヴィヴィオはこなた達の死を理解している様だった。何故理解していたのか気にならないではないがそれについてはひとまず触れなくても良いだろう。





 その時、





『キュルゥゥゥゥ……』
 車庫に出来た穴の前にフリードリヒが立っていた。
「あれは!?」
『Ms.キャロが使役しているフリードリヒです、しかし何故ここに……』
 予期せぬ来客者に動揺するユーノ。しかし一方、
「あぁぁぁぁ……」
 ヴィヴィオが何かに脅えた様な表情をしている。それに呼応するかの様にフリードはヴィヴィオの方へと向かっていく。
『何故彼女の方に……?』
「まさか、ヴィヴィオが浴びた血の匂いに惹かれたんじゃ……そうだ、バルディッシュ、周辺の様子を探って」

 警戒を強めるユーノとバルディッシュに構わう事無くフリードはヴィヴィオの前に立つ。その眼は何処か鋭かった。

「ううっ……」
 ヴィヴィオにはフリードが何故やって来たのかわかっていた。ヴィヴィオ自身に染み着いている血肉の匂いはキャロ・ル・ルシエのもの――
 慣れ親しんだ匂いに惹かれてやって来たという事だ。そこまで強い嗅覚があるのか? そんな事は大きな問題ではない、主人を想う強い意志がフリードをここへと導いたという事だ。
 わかっている、彼女の死体を完膚無きまでに破壊しその尊厳まで壊したのは自分だ、フリード側から見れば恨んでも何ら不思議はない。
 わかっている、自分が許されざる罪を起こした事は――だが、



 自分を送り届けてくれたこなた達の為にも――




 ヴィヴィオはフリードを抱き留め――





『キュルゥゥ……』





 その瞳に涙を溜めながら――





「ごめんね……」





『キュル……』





 零れ落ちた涙を受け、フリードはヴィヴィオへの警戒を解いた。ヴィヴィオを謝罪を受け入れたのだろうか――





 犯した罪は決して許されない――だが重要な事はそこから逃げる事ではない。その罪と向き合いこれからどうするかである。
 死や思考停止は只の逃避だ。犯した罪の重さを深く受け止め、そこから何かを学び取り前へと進む事が重要なのだ。






 それは、生きている者にしか出来ない事だ――

637S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:49:50 ID:Txd.3GjY0














Dismantle



『マスター……』
 ヴィヴィオから大まかな話を聞いたバルディッシュは亡き主人であるフェイトの事を考えていた。
 ヴィヴィオの証言にあったフェイトはヴィヴィオの事を知らない9歳ぐらいではあったがそれでもヴィヴィオを助けようとした。バルディッシュは機械らしくはなかったものの不思議と嬉しく感じていた。

「昔のフェイトがヴィヴィオを助ける為にキャロを殺し、こなた達を殺しフェイトにも致命傷を負わせキャロの死体をヴィヴィオが破壊したか――」
 どうやら、ヴィヴィオはアニメイト襲撃の際にこなたとリインが殺されたと思っている様だ。事実は違うわけだが状況が大きく変わる訳ではないため、特別修正することもなく話を進める。

 ちなみになのはが今も生きている事を聞いてヴィヴィオは驚いていたもののまだママに会えると思い少し嬉しそうな表情を見せていた。少しというのは、暴走し皆殺しにしようとした事を悔やんでいるからだろう。
(頼むよなのは……これ以上ヴィヴィオを悲しませないでくれ……)
 そう願うユーノであった。

『ゆりかごを利用出来ればまだ……』
 何とかなのは達と再合流した後はゆりかごへ向かうべきだと進言するバルディッシュであったが、ユーノは何かを考えている様だった。
『Mr.ユーノ?』
「バルディッシュ……周囲に人の反応は?」
『全く反応ありません』





「どうする……僕の仮説が正しければ……だけどもしこれ自体が罠だったら……失敗は許されない……」
 ある瞬間から感じていた違和感等からユーノの脳裏にある仮説が浮かんでいた。それはこの状況を打開する可能性のある重要な仮説である。
 しかしそれはあくまでも状況証拠でしかなく、一歩間違えれば全滅の可能性をも秘めた危険な仮説だ。
「だけど何れはやらなきゃいけない事なんだ……でも……」
「ユーノ……?」
『キュルル……?』
『お願いですからヴィヴィオ達を心配させる事しないでください』
「なのは達が戻るのを待つか……だけど、こんなリスクが高い事なのは達だってさせるわけないしなぁ……」
 3者が気にするにも構わずユーノは思考を広げる。


『勝手に自己完結しないでください。Mr.ユーノはそうやって全部自分で背負い込む悪い所があるんですからね』
 そう言い放つバルディッシュに対し、
「わかったよ、バルディッシュ……これからする事は成功するか解らない賭けだ……だから細かい質問は後で聞くから僕の指示に従ってくれる?」
『Yes.』

 そしてユーノは駅の詰め所から幾つかの工具を持ち出し再び車庫に戻り、

「じゃあヴィヴィオ、フリードを貸してくれるかい?」
「うん……」

 と、フリードを受け取ったユーノは――




 バルディッシュと幾つかの工具でフリードの首輪を解体し始めた。バルディッシュは何か言いたそうだったが口を出さず、ユーノは黙々と慎重に素早く解体を行う。そして、
「出来た……だけど……そんな事って……」
 フリードの首を拘束していた首輪が外れた。続いて、
「ヴィヴィオ、来て貰える?」
「え……うん」
 その後間髪入れずにヴィヴィオの首輪の解体を始めた。今度は先程よりもハイペースで進みやはり首輪が外される。
「やっぱりそうか……でもこれって……もしかしたら……バルディッシュ、ヴィヴィオに僕の首輪を斬らせて」
「え?」
『正気ですか?』
「最悪僕が死ぬだけで済むよ。時間がない、すぐにでも始めて」
『ですが……』
 と、構わずユーノはフェレット状態に変身する。ヴィヴィオの背では自分の首まで手が届かないと考えての配慮である。なお、急いでいたため、しゃがめば良いという発想には至らなかった。
「急いで!」
「う……うん、お願い、バルディッシュ……」
『Yes,ヴィヴィオ……』

 そして、ヴィヴィオとバルディッシュの理解が追いつかないままユーノの首輪にバルディッシュの刃が入り、首を傷付けない様にして首輪の切断に成功した。そしてユーノは切断された首輪を引っ張りそれを外し元の人間状態に戻った。

 かくしてユーノ、ヴィヴィオ、フリードは忌まわしき首輪の呪縛より解放されたのだった。

638S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:50:20 ID:Txd.3GjY0



「はぁ……はぁ……よかった……僕の予想が当たった……」
 と、ユーノは再びバルディッシュを受け取る
『予想とはどういう事ですか?』
「ああ、結論だけ先に言うよ。首輪が解除……正確には起爆装置が解除されていたんだ」
 ユーノが気付いた事実。それは首輪の起爆装置がOFFになっていた事である。
『確かに前に調べた時と比べ何かが違うと思いましたが……ですが何故それに気づいたのですか?』
「フリードのお陰だよ」
 ユニゾンデバイスやフリードの様に自律行動可能な支給品にも首輪が装着されている。同時にそれらには参加者とは違うある制限も課せられていた。
 それは参加者の首輪から一定距離以上離れれば行動不能になるという制限だ。余談だがこの事を知ったのはアジトでリインと首輪解体を行った時である。実は首輪解体の際に首輪に関して色々話していたのだ。

 ここまで書けば何故ユーノが首輪に異変が起こっている可能性に気付けたのかわかるだろう。
 フリードは単身でいきなりユーノとヴィヴィオの前に現れたからだ。フリードにもリイン達同様の制限が掛けられていると考えるならばそれは起こりえない事だ。
 所有権が移らない限りは50メートル以内に他の参加者がいる筈だ。だが、ユーノがバルディッシュにサーチさせた限り周囲に人の反応は全く無い。
 つまり、制限の範囲を超えてフリードは普通に動いていたという事だ。勿論、制限がユニゾンデバイスと同様とは限らないが参加者ではない支給品を自由自在にさせる事など有り得ない。
 故にユーノは首輪に異変が起こった可能性を考えた。同時に上手く行けば解除出来る可能性だ。ある違和感を踏まえれば可能性は低いものではない。
 だが、それはあくまでも可能性レベル、それ自体がプレシアの仕掛た巧妙な罠であるかも知れない。
 本当ならばもう少し慎重に行くべきだったかも知れない。だが、首輪の解除は何時かは行わなければならない事、決して避けては通れない。
 更に違和感から導き出される推測が確かならば急がなければならない。クリアしなければならない問題は首輪だけでは無いのだから。

 なによりこんなリスクの高い事をなのは達の前で話しても彼女達が躊躇するのは明白。ならばいっそここで勝負するべきだろう。

 Lならばきっと同じように自分の命を懸けてでも勝負に出るだろう、
 ブレンヒルトならば毒突きならばもユーノの賭けに乗るかもしれない、

 この地で散った2人の為にもユーノはここで勝負に出たのだ。





 かくしてユーノは勝負に勝った。
 調べた所フリードの首輪の起爆装置はOFFになっていた。爆発しないとわかれば解体は容易、迅速に行う事ができた。
 その後、なのはに託されている手前少し躊躇したものの敢えてユーノは予測が当たっている事を信じヴィヴィオの首輪の解体に乗り出した。
 その結果、予想通りヴィヴィオの首輪の起爆装置もOFFになっていた。やはりそこからの解体は容易だ。
 そして他に解体出来る人がいないため後回しになっていた自分の首輪に関しては単純に首輪を切断するという手法で済ませた。真面目な話起爆装置がOFFになっているならばそれでも問題ないはずだ。実際、その推測通り解体は成功した。

639S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:51:05 ID:Txd.3GjY0





『……理由はよくわかりました。ですが、もう少し詳しい説明してください』
「僕自身絶対大丈夫っていう確証が無かったから……ともかくこれで問題の1つはクリアしたね」
 だが、身体の調子を見る限り首輪を付けていた時と比べて目に見える程の変化は感じない。予め調べていた時からわかっていた事だが制限は首輪主導ではなくフィールド主導なのだろう。
 勿論、ある程度制限が解除されている可能性は否定出来ないが過度な期待はしない方が良いだろう。
『Ms.なのはが聞いたら怒りますよ、ヴィヴィオを危険な目に遭わせて……死んだらどうするんですか?』
「いや、それはわかってはいるんだけど……でも首輪解除の時で絶対について回る問題でもあったし……」





『それにしても何故首輪の起爆装置がOFFに?』
「これは僕の想像だけど……プレシアはこのデスゲームの表舞台から去った可能性があるよ。
 断定出来るわけじゃないし変に皆に希望を持たせたくなかったら言わなかったけど……放送が10分遅れていたんだよね」
 何人かの参加者が気付いているのと同様にユーノもまた先の放送が定時より10分遅れていた事に気付いていた。
 プレシアに何かあった可能性もあったがそれならそれで3回目の放送同様オットーに代理を頼むなり、放送の際に適当に遅れた理由を言えば済む話だ。だが、実際は10分遅れたにもかかわらず普通に放送をしていた。
 何も起こっていないかの様に――
 さもこれは不自然なまでにプレシアが健在である事をアピールするかのように感じたのだ。
『スカリエッティの戦闘機人の中に変身能力を持った者がいます。先の放送のプレシアは実は彼女だったという可能性は否定出来ません』
「あ、そういう事出来る人いるんだ。それなら仮説が正しい可能性が高まったよ」
『JS事件のやり口を考えてもスカリエッティ達がプレシアを出し抜く可能性が高いです』
 JS事件の事は知らなかったが、バルディッシュからの証言でユーノは更に仮説を進めていく。
 それは放送前にスカリエッティ達がプレシアを裏切り彼女を退場させ、このデスゲームを乗っ取ったという事だ。
 完遂させる事を一番に望んでいたプレシアが退場したならばデスゲームの監視は緩くなるのは当然の事だ、首輪解除の隙も出来やすくなる。
『しかしそれだけでは首輪の起爆装置がOFFになる理由の説明にはなりません』
「そう、そこなんだ。激しい戦いが繰り広げられる以上、何かの拍子でOFFになる可能性は0ではないとはいえ限りなく低い……だとしたらやっぱりこれは主催側でOFFにしたとしか思えないんだ。
 正直、そんな事するメリットがわからないんだけど……」
『いえ、相手がスカリエッティなら有り得ない話では無いですよ。あの人はJS事件もある種のゲームの様に楽しんでいましたからね』
「嫌な犯罪者だね……それはともかく、OFFにしたって事はOFFにしても問題ない事を意味するね。OFFにしても大丈夫という算段があるって事かな?」
 首輪を解除した所で今いるフィールドから脱出して主催陣のいる場所に辿り着かなければ意味はない。故に脱出への障害は十分に残っている事になるのだ。

640S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:51:45 ID:Txd.3GjY0





Limit



『何にせよ、首輪が解除出来るならば後はMs.なのは達と再合流して脱出に向けて動くだけですね。絶望的だった状況に光が――』
「むしろ逆、首輪解除しても問題ないって事は首輪解除だけでは何の進展もないって事だよ。大体、スカリエッティがそんな都合良く脱出させると本気で考えているの?」
『それはないですね。ゲームを仕掛けているとしてもスカリエッティ側がある程度有利な様に設定して――そういうことですか?』
「そう、首輪の問題がクリアされた時点で僕達の目的はフィールドからの脱出に変わる。だったらスカリエッティ側の目的は僕達の脱出を阻止しつつロワに使われた技術を確保したまま離脱するという事になるね」
『――タイムリミット』
「その通りだよ。プレシアを退場させた時点でスカリエッティの目的の前提条件はクリア。後は早々に離脱するだけ、長居をする必要なんて何処にもない。」

 纏めるとこういう事だ。ユーノは放送の遅れからプレシアが退場しスカリエッティ達が主催になったと推測した。
 だが、プレシアにとってはアリシア・テスタロッサ復活という目的があるデスゲームであってもスカリエッティ達にとって同じではない。
 少なくてもスカリエッティ達が律儀にデスゲームを執り行う理由は少ない。
 むしろ、早々に切り上げ離脱する可能性の方が高いだろう。当然離脱された時点でデスゲームは瓦解、残された参加者の生死は考えるまでもない。
 故に、主催が変わった事により、タイムリミットの設定が変更されたという事になるのだ。

「それがどれくらいかはわからない。とはいえ脱出だけならばそんなに手間はかからないだろうからそう時間は残っていないと思うよ。
 待って――もしスカリエッティが意図的に放送遅れや首輪の爆弾を解除したのなら……次の放送前後がタイムリミットになると思う」
 首輪の爆弾解除や放送の遅れは異変のヒントとなる。確かにそれだけでは確定的なものではない。
 だが、時間の経過と共にそれを切欠として異変に気付く者は多くなる。ユーノが気付いた事実を他の参加者が気付かない道理は無い。
 情報交換等を考えるならば恐らく6時間もあれば大半の参加者に伝わるだろう。
 が、スカリエッティ側からみればこちらが幾らその情報を得たとしても踏み込まれる前に脱出すれば問題はない。つまりこちら側がその情報を得るまでの時間も計算に入っているという事だ。
 故に、タイムリミットは前述の通り、異常の起こった放送から6時間後、次の放送が行われる予定だった6時前後がタイムリミットと考えて良い。

「それに……プレシアが退場したとはいえ、このまま黙っているとも思えないんだ……」
 プレシアが退場したとしても、前に推測した通り、その対策が施されている可能性は否定出来ない。それこそスカリエッティ達も自分達も全滅させる様な凶悪な罠を仕掛けている可能性がある。
 どちらにしても自分達にはもう時間がないという事だけは確かだ。

641S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:54:30 ID:Txd.3GjY0





『後数時間……あまりにも少なすぎます……』
 タイムリミットを踏まえるならば最早ゆりかごに向かう時間もない。
「残念だけど現状ではこのまま駅で待つ事しかできないよ」
 ユーノ達は車庫を出て仲間達の到着を待つ。状況は最悪と言って良い。それでも――





(大丈夫だよ、なのはなら――出会った頃と変わらず、強い不屈の心を持った彼女なら――僕の知る彼女よりもずっと成長した彼女なら――)





 この場にいるなのはは自分の知る彼女よりも4歳年上の大人の女性だった。少し大人になった彼女と彼女から見て少し幼い自分が顔を会わせるのに気恥ずかしさを感じないと言えば嘘になる。
 それでも、別れ際に見た彼女の顔を思い出す度に心の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。





(なのは――君が守りたがっていたヴィヴィオは何としてでも僕が守るよ――だから――





 負けないで――)





【2日目 黎明】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意、はやてに対する怒り
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(内1つ食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
 1.駅でなのは達の到着を待つ。
 2.ヴィヴィオを守る。
 3.ジュエルシード、レリックの探索。
 4.仲間達の首輪を解除し、脱出方法を模索する。
 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※プレシアが退場した可能性に気付きました。同時にこのデスゲームのタイムリミットが2日目6時前後だと考えています。

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(中)、肉体内部にダメージ(中)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、フリードリヒ(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1.なのはママ達の到着を待つ。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。

【全体備考】
※2個のクレイモア地雷が爆発し車庫の扉が破壊されました。

642S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙 ◆7pf62HiyTE:2010/11/26(金) 13:58:24 ID:Txd.3GjY0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>623-635が前編『S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて』(約24KB)で、
>>636-641が後編『S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙』(約16KB)です。

サブタイトルの元ネタは何時もの様に仮面ライダーW風、
『S少年の事件簿』……『金田一少年の事件簿』(Sはユーノ・スクライアのS)
『殺人犯、八神はやて』……『名探偵コナン』第521話『殺人犯、工藤新一』
『フリードの来訪にヴィヴィオの涙』……『名探偵コナン』第522話『新一の正体に蘭の涙』

以上の様になっています。ちなみに冒頭数レスサブタイトルを入れなかったのはタイトルの時点で内容がバレる為です。
……後半タイトルがコナンにしたから前半タイトルもコナンにしようかと投下直前考えたけど、Yはもう使用済なので当初の予定通り金田一になりましたとさ。

643リリカル名無しStrikerS:2010/11/26(金) 14:08:06 ID:305WY3oU0
乙でした〜
一時期は完全に迷走していたのに、今は対主催頭脳派、かっこいいぞ、ユーノ

644リリカル名無しStrikerS:2010/11/26(金) 21:26:34 ID:2bJay3iEO
投下乙です
ついに首輪解除か胸アツだな
フリードという運要素はあったとはいえ首輪解除にタイムリミットにまで気づけたのは流石頭脳派と言わざるをえない
一時はサービスシーン担当だったけど

しかしタイムリミットは刻々と迫っているのに今だ参加者同士の戦闘は続いているとか現状かなりヤバイんじゃないか?

645リリカル名無しStrikerS:2010/11/26(金) 23:08:45 ID:5vYddidM0
投下乙です
おお、やっぱりユーノ君死亡フラグ回避ktkr
最初の頃はサービズシーンばかりでユーノ爆発しろ状態だったのに……
あと夢の中だけど浅倉がなんか良い人みたいに……って、そういや未だにヴィヴィオ視点だと浅倉は正義のヒーローなんだっけ
とりあえずヴィヴィオもがんばれ!

ちょっと気になった点
>>629でユーノがヴァッシュとアギトの生存を絶望視していますが、ちょっと極論すぎるように思えました
ヴァッシュは理由が理由なので納得できましたが、アギトは今の段階でそう思うのは少し違和感がありました
「八神はやてと会ったなら」みたいな一文挟んで、その前提条件で話すのなら違和感もないですけど

646 ◆7pf62HiyTE:2010/11/27(土) 00:50:20 ID:Db.UVRaA0
>>645
……確かに、極論過ぎる様な部分は確かにありますね。では、


「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ」


ここの部分を


「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ。勿論、アギトが都合良くはぐれてはやての所に戻らなければそれも無いんだろうけど……」
『すぐ近くにいましたし彼女の性格上、Ms.はやての暴走を止めようと戻る可能性は否定出来ません……ですが、流石に悲観視し過ぎでは? 仮説に仮説を上塗りした極論にも感じますし』
「……自分でも少し思うけど、今のはやてを見ていると有り得ないとは言い切れないんだよね。これが杞憂であれば良いけど……」

以上の様に修正(実質追記)してみます。これならば前提条件も入りましたし、あくまでも『悲観的な極論』である事も示せるので違和感も拭えると思いますがどうでしょうか?

647リリカル名無しStrikerS:2010/11/27(土) 11:15:08 ID:JR/3J2Rw0
はい、それで大丈夫だと思います

648 ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:13:45 ID:Kpwp5ctE0
高町なのは(StS)、八神はやて(StS)分投下します。

649抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:15:35 ID:Kpwp5ctE0
 誰もが自分は正しいと信じて行動している。
 だが、果たしてその行動は本当に正しかったのか?
 その行動の結果はもしかしたら誤りだったのかも知れない。
 また、誤りだと判断した選択がもしかしたら正しい選択だったのかも知れない。



『世界は何時だってこんなハズじゃないことばっかりだよ!』



 ある事件である執務官が語った言葉ではあったがそれはまさしく真理だ。
 自分が信じた行動をとった所で突き付けられる結果は裏腹な現実だ。

 最善と信じた行動の結果が、最悪な結果をもたらす事もある――
 また、最悪だと考えられた方法が後に最善の選択だったのかもしれないと言われる事もある――





 世界は矛盾に満ちている――
















 デスゲームが開始してから27時間以上が経過――
 60人いた参加者は6分の1の10人にまで減少、
 C-9にあるジェイル・スカリエッティのアジトに集結しようとしていた参加者は散り散りになりそれぞれの戦いを繰り広げている。

 仮面ライダーカブト天道総司はD-9にてアンジール・ヒューレーとキングと激闘を繰り広げ、金居は彼等を出し抜く為に機を伺っていた。
 スバル・ナカジマはC-9にて泉こなたの仇討ちをせんとする柊かがみを止めんと対峙していた。
 ユーノ・スクライアはヴィヴィオを背負い、再び仲間達が合流出来ると信じE-7の駅へと向かっていた。

 そして、残る2人は――

650抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:16:45 ID:Kpwp5ctE0
















「はぁ……はぁ……」



 森の中を少女が駆ける――彼女の名は高町なのは、機動六課スターズ分隊長の彼女は左手にレイジングハートを構えひたすらに対峙した相手と適度に距離を取りつつ森を駆ける――



「……!」



 振り向きざまに魔力弾を瞬時に生成し打ち出し背後に迫っていたビット型のニードルガンを撃ち落とす。しかしすぐ後ろに別のビットが迫る。



「甘いよ」



 だが、僅かに視線を向けそのまま魔力弾を発射し迫っていたビットを撃ち落とした。



「レイジングハート、周囲の様子はどう?」
『ビットがまだ数個周辺を飛び回っています』
「向こうとの距離は?」
『距離を取りすぎた為、詳しい状況は不明。ですが、この様子では未だ戦闘を繰り広げているでしょう』
「周囲に他に誰かいる?」
『No...今現在一番近くにいるのは『彼女』だけです』
「そっか……まだ天道さんとアギトの行方は掴めないか……」



 攻撃をかわしながら移動する最中、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体を見つけた。本来ならば弔いたかった所ではあったが状況が状況、手を出す事が出来ず移動を余儀なくされたのだ。



『状況から考えて彼を殺したのは……』
「言われなくてもわかっているよ……」



 そう言いながら連続で魔力弾を発射し次々とビットを撃ち落としていくが、



『左横、来ます』
「くっ」



 左腕を狙い一筋の聖杭が迫る。しかし、レイジングハートの察知が一手早かったためそれは命中する事無く回避出来た。



「ありがとう、レイジングハート」
『お気になさらず。ですが、このままでは……』

651抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:17:30 ID:Kpwp5ctE0
















「やっぱりそう簡単にはいかんか」



 森の中で少女がそう零す――彼女の名は八神はやて、右手に巫器(アバター)の第六相<誘惑の恋人>憑神刀を、左手に夜天の書を持ち目標を仕留めんと鋭い目を向ける。
 憑神刀の持つスキルである薔薇型のニードルガンを生成する愛の紅雷を複数放ちその対処に追われた隙を突き鋼の軛で利き腕である左腕を破壊する。
 それを目論んで仕掛けた攻撃ではあったが今の所失敗に終わっている。



「レイジングハートとなのはちゃんのコンビはそう簡単には崩せんか……」



 その最中少し離れた場所で戦いの音が聞こえてくる。



「少し離れすぎたか……チッ」



 舌打ちの音が響く。なのはの作戦に乗せられていると感じたのだ。
















 2人の置かれている状況を今一度整理してみよう。
 そもそもの話、2人が戦っている原因はシグナムを殺し他の参加者も殺そうとしていた柊かがみの処遇を巡っての対立だった。
 誤解の無い様に書いておくが、かがみが殺し合いに乗っていたのは過去の話で、合流の段階では殺し合いに乗った事を反省しはやて達に謝罪しようとしていた。
 だが、はやてはかがみを許すことなく断罪しようとし銃口を向けた。だが、なのはがそれを許すことなく彼女に立ち塞がったのだ。
 その後、ヴァッシュが持っていた千年リングに宿るバクラの陰謀でリインフォースⅡが惨殺され、それに逆上したはやてが広域攻撃で周囲を吹き飛ばしたのだ。
 そして、ヴァッシュを殺害した後はやてはかがみを見つけ愛の紅雷を放ったがこなたが庇う形でその攻撃を受け死亡。
 なおもかがみに迫ろうとした所で駆けつけたなのはが立ち塞がっているというわけだ。
 なのはははやての牙がかがみに向けられるのを防ぐ為、戦いながら少しずつ場所を移していた。
 攻撃を仕掛けては防がれ、攻撃を仕掛けられてはかわし続け繰り返す事何十回、時間にして数十分、何時しか2人の戦場はC-9を離れC-8まで移動していた。
 前述の通りかがみ達はC-9にいる為、かがみから距離を取るという意味ではなのはの作戦は上手く行っていたのだ。

652抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:18:10 ID:Kpwp5ctE0
















「本音やったら今すぐにでもあの餓鬼んトコに向かいたいんやけど……けど、その前になのはちゃんに撃たれるわなぁ……」



 今ここでなのはを放置しかがみの所へ向かおうとしたら長距離からの砲撃魔法の餌食になるのはほぼ確実。故に、現状でなのはを放置するわけにはいかなかったのだ。



「出来るだけ早く決着を着けたいけど……」



 そう言いながら手元にあるカートリッジを使い消耗した魔力を補充した。
 憑神刀と夜天の書という2つのデバイスを使い次々と攻撃を繰り出す事による消耗は決して小さくない。特に憑神刀は絶大な力を与える反面通常のデバイスとは比較にならない程の負担を強いる。
 それ故に、はやては合間をみてはこうしてカートリッジの魔力を回復に使っていたのだ。そして、今使ったカートリッジが最後のカートリッジである。



「魔力の補充手段はもう無い……けどまだ私の方が優勢や……」



 なのはと違い、その声に答える者はいない。
















 一見すると2人の戦いは互角に見える。
 実際の所両者の能力だけを見た場合は殆ど互角と言って良い。魔力の総量ははやての方が上だか、戦闘経験という分野ではなのはの方が秀でている。
 それらを考えれば両者が互角に見えるのはある種当然とも言える。
 また、戦闘開始時点では万全なはやてに対しなのははそこそこに消耗していた。しかし前述の通りはやての魔力消耗はなのはとは段違いに大きい。
 故に総合的な部分を見ても互角、もしくははやてがやや有利程度と見る事が出来るだろう。

 だが果たして本当にそうだろうか?
 本当に互角に近い状況と言えるのだろうか?



 2者の戦いは森林の中で繰り広げられている。両者共に空戦スキルを有しているにも拘わらず、殆ど空中に出ての戦闘は行っていない。
 その理由は2つ。1つは飛行魔法を使用しての消耗を抑える為、もう1つは空中に出る事により攻撃の的になる可能性が高い為だ。
 一方、地上では森林という地形という事もあり木々が適度に視界を遮ってくれる。同時に今はまだ視界の悪い夜中、その点を踏まえても下手に空中戦を仕掛けるよりは地上で戦った方が都合がよい。
 その判断により互いの策敵が遅れ戦闘の早期決着を阻み膠着したともいえるが、それは逆に双方に度々思考する時間を与えてくれているのだ。

653抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:18:45 ID:Kpwp5ctE0
















「レイジングハート、はやてちゃんまでの距離は?」
『北西20から30位の所です』



 周辺及びはやての次の行動を警戒しつつなのはは木の影で息を整える。数十メートル離れた先でははやてがビットを展開しつつ周囲を探っているのがわかる。



『妙ですね……あれだけの魔法を繰り出していながらマスター程疲れている様には見えません』
「うん、私もそう思った」



 思えば、最初に仲間達を散り散りにした広範囲攻撃の時点ではやては著しく消耗している筈だ。
 しかし、対峙した段階では何故か消耗は見受けられなかった。
 むしろ、合流した時点よりも元気になっているとすら思える。
 更に、長々と戦いを繰り広げている割に消耗の度合いも少ない。あれだけ魔法を繰り出せばなのはと同じとまではいかなくてもある程度は疲労していなければおかしい。



「回復道具があった……でも、あったんだったら先に合流していた筈のユーノ君が知らないのも妙だし……」
『Mr.ユーノ達に隠していたか……もしくは……』



 それはなのは自身認めがたい推測だ。だが、状況を考えれば有り得ない話ではない。



「もし、それが本当だったら許せないよ……」



 同時に脳裏にある人物が口にしていた話を思い出す。その話は信じがたい内容であったし、口にした人物自体も信用に値しない人物であった為、なのは自身その話を殆ど信用していなかった。
 だが、火のない所に煙は立たないとはよく言ったものだ。今のはやての様子を見る限り、彼が此方を攪乱する目的で口にしたとしてもその話を持ち出した事に無理は感じない。
















 そう考えていると、

654抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:19:30 ID:Kpwp5ctE0
















『なのはちゃん、もうやめにしないか?』



 はやてからの念話が頭に響く。近付かれたか近付きすぎたかどうかは不明瞭だが念話可能な距離まで来ていたらしい。すぐさまなのはは距離をある程度取ろうとする。とはいえ、一抹の可能性を信じなのはは何とかそれに答えようとする。



『やめにするって事は、考え直してくれたって事?』
『何を言っているんや、なして私の方が折れなあかんの? 折れるのはなのはちゃんの方や』



 はやてはなのはに降伏し自分の言う通りにしろと言ってきたのだ。



『それでかがみを殺すのを見逃せっていうの?』
『せや、そもそも私等が戦っている場合じゃ無いっていったのはなのはちゃんやで、あの餓鬼がおらんかったら全て上手くいくんや』
『同じ事を繰り返すけどかがみは殺させないよ』



 何時念話が途切れ戦闘が再開するかはわからない。故になのはは警戒を一切解かず森の中を走り回る。同じ様になのはとの一定の距離を保つ為にはやてもまた森の中を動く。



『もう殺し合いに乗っていない……けど、実際はどうや? デルタに変身してスバルと戦っているやん。すぐにでもスバルに加勢してかがみを仕留めた方が賢い選択やで?』
『私はスバルを信じているよ。スバルだったらそう簡単に負けたりなんかしないし、かがみだってもうスバルを殺したりなんかしないよ』



 そうは口にするもののスバルに加勢した方が良いというのはなのは自身も考えている。
 なのはの手元には先程ヴァッシュの遺体を見つけた際に拾ったスバルのリボルバーナックルがある。それを考えるなら早々にスバルと合流してそれを渡したい所だ。
 だが、はやてにかがみを殺させるのを阻止する為にはここで引くわけにはいかない。



『はやてちゃんがかがみを殺さないって言うんだったら何時でも引いてあげるよ。でも殺すって言うなら……』
『言う事聞かないならぶっ飛ばしてでも言う事聞かせる……相変わらずなのはちゃんらしいやり方やな』
『褒め言葉? それとも皮肉?』
『只の感想や、けどそれはぶっ飛ばせるって前提が無いと成り立たないやろ?』

655抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:20:05 ID:Kpwp5ctE0



 はやてがなのはに降伏を呼びかけた理由、それは――



『私じゃはやてちゃんに勝てないって事?』
『そういう事や』
『はやてちゃんの実力は知っているけど、私とそこまで差があるとは思っていないよ』
『それは私も理解している。けど、実力の問題やない。ちゃんとした理由がある』



 なのはでははやてに勝てない。その確信があるからこそはやては降伏を呼びかけたのだ。
 そもそも2人が争う必然性は少ない。むしろ状況を考えるならば力を合わせて残る敵の打倒に回る方が建設的だ。
 だからこそこれ以上無駄な消耗を避けるために降伏を呼びかけたのだ。



『ちなみにその理由って何?』
『その前に1つ確認させてもらうで……聞くまでもない話やけど、誰も殺すつもりは無いんやろ』
『本当に聞くまでもない話だね……勿論、出来るだけ殺すつもりはないよ』



 キング辺りは流石に殺す事も辞さないが、それ以外は極力話し合いで何とかするつもりである事に変わりはない。それ故の返答だ。



『つまり、私を黙らせるつもりであっても私を殺すつもりはないっちゅう事やな』
『当然だよ、でもそれがどうかしたの?』
『それがなのはちゃんが勝てない最大の理由や、私は障害となる奴はみんな殺すつもりや』



 本心を伏せるべきという考えもあったが、今更隠す事に意味はないと判断しあえて本心を口にする。勿論、なのは自身はやての返答自体はある程度予測出来ていた。故になのはは冷静に応える。



『それがどうして勝てない理由に繋がるの?』
『わからんか? 例えなのはちゃんが私を運良く無力化出来ても生きている限り幾らでも復帰出来るっちゅうわけや』



 はやての言いたい事はこういう事だ。
 3度目の放送以降、参加者を殺害した参加者はボーナス支給品を1つ得られる。
 これにより例え疲弊した状態であっても運次第ではあるが状況の立て直しが可能となる。
 勿論、殺害した相手が持っていた支給品をそのまま自身の次の装備にする事も出来る。

 だが、参加者を殺害する意志を持たない者はそのボーナスを得る事は殆ど無い。
 戦いを繰り返して激しく消耗しても回復する手段は基本的にはない。

 つまり、殺害する意志を有す参加者と殺害する意志を有しない参加者が戦った場合、
 殺害する参加者は何度敗北しようが生きている限りボーナス支給品を得る事で何度でも戦線に復帰出来るが、
 殺害しない参加者は1度の敗北がそのまま退場に繋がる。

 前述の通り両者の戦力差そのものは致命的なまでに開いてはいない。
 それ故に両者の戦いが膠着すればする程戦闘が終わった時の互いの疲弊は激しくなる。
 だが、ここで前述の問題が大きな意味を成す。
 殺害する意志を持たない者は回復する術を持たず今後も戦いも強いられる、
 その一方、殺害する意志を持つ者は誰でも良いから誰か殺せばボーナス支給品を得る事で立て直しを行える。
 立て直しが済めばすぐに先程戦った相手と戦い仕留める事が可能。同時に更なるボーナスも得る事が出来る。

 故に、殺害の意志を持たざるなのはは殺害の意志を持つなのはに勝てないという事だ。
 敵を殺せない以上、何時かは限界が来る。その問題があるからこその指摘なのだ。

 以上の意味合いの説明を行い更にはやては言葉を続ける。



『更に言えば残り参加者は私ら入れて10人、あの場にいた7人を除いた残り参加者の中にまだ敵はおる。そいつ等と戦う事を踏まえればここで私等が戦う事にメリットは何処にもない』



 はやての言葉はある意味正しい、なのは視点で見ても参加者の中でキングとアンジール・ヒューレーは倒さなければならない敵だ。
 金居に関しても判断しかねるが敵の可能性は否定しきれない。
 後々この3人との戦いが控えている事を考えるならば無駄な疲弊は確かに避けたい所だ。



『10人……やっぱりあの人を殺したのははやてちゃんだったんだ』
『ああ、リインを殺した奴を許すわけにはいかんからな』



 真の元凶はバクラ……そう言おうとも思ったがそれについては言わない事にした。今更それを言った所でリインもヴァッシュも戻ってこないからだ。

656抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:20:35 ID:Kpwp5ctE0



『それで、私に比べて妙に元気なのはあの人を殺して得たボーナスのお陰なんだね』
『大した収穫は無かったけどな』
『……その夜天の書や武器も誰かを殺して手に入れたの?』
『そう思いたかったらそれでも構わん。けど夜天の書はそもそも私の物や、私の物を取り返して何が悪い? 大体、なのはちゃんかてレイジングハートどうやって取り戻したん?』
『天道さんが上手くやってくれたからだよ。私は何も出来なかったよ』



 何時しかなのはの声のトーンが落ち込んでいた。それに構う事無く森の中を駆け回りながらの両者の念話は続く。



『ずっと聞きたかった事があるんだけど……はやてちゃん、殺し合いに乗ったって聞いたんだけどそれって本当?』
『誰から聞いたんや? いや、敢えて聞く必要もないな』



 はやての知る限り、それを話しそうな人物はキングとクアットロ、それにかがみぐらいだ。予想出来ていたが故に衝撃は少ない。



『そんな事は問題じゃないよ、でも聞いた限りじゃ赤い恐竜みたいなのを殺したって話だよ』
『その件はキングが私とヴィータを仲違いさせる為に仕掛けたん罠や、ヴィータが赤い恐竜に襲われているって話でな』



 キングの悪行はなのは自身も理解している。故にはやての言動は恐らく真実だろう。だが、あの写真のはやての表情もまた恐らく真実だろう。



『で、キングの思惑通りヴィータちゃんと仲違いしたんだね』
『まぁそういう事やな』



 素直に自分の話を信用してくれた事に一応は安堵するはやてであったが、



『……はやてちゃんらしくないね』



 次になのはが口にしたのは否定である。



『どういう意味や?』
『キングに何を言われたのかはわからないけど、私の知るはやてちゃんだったらどんな理由があっても殺害を肯定なんてしないよ。
 そんなはやてちゃん見てヴィータちゃんが拒絶するのも当然の話だよ』
『私はヴィータを助ける為にやったんや、否定される謂われは何処にもない』



 冷静に応えている様に感じるが内心では少しずつ苛立ちを感じている。



『今のはやてちゃんの姿、ヴィータちゃんやシグナムさん、それにザフィーラさんにシャマルさんが見たらどう思うのかな?』
『何や……』
『はやてちゃん……闇の書事件でヴィータちゃん達がはやてちゃん達を助ける為とはいえ、どうして殺人を犯さなかったかわからないの?
 はやてちゃんを助ける事を優先するんだったらその方が確実だよ?』
『黙れ……』


 なのはが言おうとしている事を察するにつれはやての苛立ちはより募ってくる。



『はやてちゃんがそれを望まなかったからじゃないの?
 自分の幸せよりも他人の幸せを優先していたはやてちゃんの想いに応える為にみんな誰も殺そうとしなかったんじゃないの?』
『黙れと言っているやろ……』



 はやての苛立ちに構うことなくなのはの言葉は続く。



『今のはやてちゃんはどうなの?
 幾らヴィータちゃんを守るためとはいえ誰かを殺すなんて考えられない話だよ。
 それにシグナムさんの仇討ちの為にかがみを殺すのだってそう、シグナムさんがはやてちゃんが誰かに手をかける事なんて望まないよ?
 それってヴィータちゃん達に対する裏切りなんじゃ……』
『家族の為にやっているんや! 何も知らないなのはちゃんが口を挟むなや!!』

657抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:21:10 ID:Kpwp5ctE0



 はやての怒号が響く。それでも構わずなのはは言葉を続ける。



『家族の為……本当にみんながそれを望むと思う? リインだって幾ら仇討ちでもはやてちゃんがあの人を殺す事を望んだりしないよ』
『もうおらんみんながどう思っているかなんて勝手に決めつけるなや!』
『でも、まだアギトがいるよ。アギトが今のはやてちゃん見て……』



 なのはの知る限りJS事件後アギトはシグナムの融合騎となり同時に八神家の一員となった。残された家族であるアギトがはやての凶行を良く思うわけもない



『……アギトももうおらんわ』



 本当ならば言うつもりはなかった。だが、恐らく苛立ちが頂点にまで達していたのだろう。
 故に売り言葉に買い言葉の如くつい答えてしまったのだ。
 なのはは一瞬だけ驚いたがすぐに落ち着きを取り戻し、


『どういう事?』
『あまりにも胸糞悪い事言うから蒐集させてもらったわ。言っておくけど、ここにいるアギトはJS事件終わる前から連れて来られたらしいんや。つまりまだ私達の敵やったって事や』



 今更なのはに対し取り繕う必要など無かった。故に、真実を殆どそのまま伝えた。



『つまり、アギトも障害になるから殺……蒐集したんだ』
『そうや、今後を考えればその方が好都合やろ』
















 沈黙が続く……その間も両者の距離の取り合いは続き、はやての繰り出すビットをなのはが撃ち落とすという小競り合いが続く。





 そしてその沈黙を破り、

658抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:22:00 ID:Kpwp5ctE0
















『もう一度だけ聞かせて、どうしてかがみを殺そうとするの?』
『何度も言わせるなや、シグナムを殺したあの餓鬼は私らの目的の障害になる、だから殺そうとした。それを妨害し……』
『はやてちゃんがそれを言うの?』
『は?』
『確かにかがみが殺し合いの乗っていたのは事実だし、何人も殺して来たことは間違いないよ。
 でもそれを言うなら私達だって何かしらの罪は犯して来たよ。フェイトちゃんやヴィータちゃん達もPT事件や闇の書事件で何かしらの罪は犯してきたよ。
 私だって自分のミスで色々な人に迷惑をかけてきたし、ユーノ君だってジュエルシードを見つけた事について責任を感じていた…… でも、みんなその罪を背負ってこれからの為に生きて来たんだよ。それがわからないはやてちゃんじゃないでしょ?』



 勿論、この場での罪とこの場に連れて来られてからの罪を同一視する事はある意味筋違いではある。
 だが、犯した罪を反省しその罪と向き合い今後を生きていくという意味では間違ってはいない。



『矛盾していると思わない? どうして自分達は良くてかがみはダメなの?』
『けど現実にあの餓鬼は私等をまた裏切ったやろ! それがわかっていたからや! 大体、あの餓鬼を殺すんはシグナムを殺したからやって何度も言っているやろ……その罪を有耶無耶にするいう……』
『有耶無耶にしているのははやてちゃんの方だよ』
『なん……やと……』



 一体自分が何時罪を有耶無耶にしたというのだ? はやてにはそれがわからない。



『納得したわけじゃないけど、かがみを殺そうとするのもあの人を殺したのも仇討ちなんだと思う』
『そうや、有耶無耶になんてしてへんやん』
『でも、はやてちゃんに仇討ちする資格なんてないよ』
『何でや! 私以外の誰が無念を晴らせるんや!?』
『こなたを殺したのは誰の仇討ち? アギトを蒐集したのは誰の為? 夜天の書を持っていた人ははやてちゃんの家族を殺したの?』
『それは……』
『それにあの赤い恐竜を殺したのは? ヴィータちゃんを襲っていたからだとしてもあの時点ではまだヴィータちゃん殺されていなかったよね?』
『なんやねん、私が何か間違った事した言うんか? みんなを助ける為に障害を取り除いた、それの何処に問題がある?』
『言いたい事はわかるし、やった事を今更言っても仕方ないよ。でも、はやてちゃんその事について少しでも悪いと思った?』
『思うわけなんてあるかい』



 一々、良心を痛めていては目的を達成する事は出来ない。実際、今更自分が悪いとは思っていない為はやてはそう答えた。



『自分で何言っているかわかっている? それかがみがはやてちゃんに言ったのと同じだよ』
『違う、私が殺したのは本当に障害になった奴等だけや。何もやってへん奴を殺してなんかいない』



 少なくても夜天の書を持った餓鬼は夜天の書やリインフォースを冒涜していたし、アギトやセフィロスは自分の家族に対する想いを侮辱していた。
 ヴァッシュに関しては何度も触れている通り今更語るまでもない。
 こなたに関してもかがみに自分の怒りを思い知らせるという意味で良心の呵責は全く感じていない。
 赤い恐竜はそもそもゴジラみたいな怪物だ、そんな奴に配慮する心なんてない。



『何がはやてちゃんにそこまでさせたのかはわからないし、全部見てきたわけじゃないからもしかしたら本当にはやてちゃんの言う通りだったのかも知れないと思う……
 だけど、やっぱりアギトとこなたを殺した事に関してはどうしても理解出来ないよ』
『なしてわからないんや!』
『だって、アギトははやてちゃんの行動を諫めようとしただけだよ、確かにあの時は敵だったのかもしれないけどアギトは騎士ゼストに恥じる生き方なんて絶対しない!
 それをはやてちゃんは……』
『五月蠅い……』
『こなたにしたってそう。かがみの友達ってだけで殺したんだったらそんなの絶対に許せないよ。そんな自分勝手な理屈で人を殺すはやてちゃんに仇討ちをどうこういう資格なんて無い!』
『五月蠅いって言っているやろ!』



 苛立ちは既に怒りに変わっていた。何故ここまで自分の行動を否定されなければならないのだろうか?

659抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:22:35 ID:Kpwp5ctE0



『かがみがデルタに変身した本当の理由……はやてちゃんにはわからないの?』
『だから何度も言わせるなや、あの餓鬼は私らを騙……』
『かがみ……言っていたんだ、自分が殺されるのは仕方がないけどこなたは助けてって……』
『何……?』



 あの後意識を取り戻したかがみは真っ先にこなたの身を案じた。そしてなのは達に自分の事よりもこなたを助けて欲しいと頼んだのだ。
 恐らくかがみははやてが復讐のために自身の目の前でこなたを殺害する可能性を考えていたのだろう。
 自分よりも友達の事を心配する、それがかがみの本来の姿なのだろう。



『はっ、そんなんなのはちゃん達を騙す為の方便に決まっているやろ』
『そう思いたいんだったらそれでも良いよ……でも現実にかがみが恐れていた事は起こったんだ……』
『それで?』
『かがみはこなたを殺したはやてちゃんを殺す為に変身したんだと思う。シグナムが殺された仇討ちをしようとしたはやてちゃんと同じなんだよ……』
『あんな餓鬼と私の想いを一緒にするなや!』



 かがみのこなたに対する想いと自分の家族に対する想いが一緒? 考えただけで腑が煮えくりかえる、故にはやてはそれを否定する。
 だが、その言葉こそがなのは自身引けなかった最後の引き金を引かせた。







『はやてちゃんにかがみを侮辱する資格なんてない! ううん、誰の想いや願いを否定する権利も資格もない……





 はやてちゃんは機動六課の部隊長でも……





 八神家の主でも……





 私やフェイトちゃんの友達でもない……





 只の……只の人殺しだよ……』

660抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:23:20 ID:Kpwp5ctE0







 なのはとて10年来の友情を否定したくはない。だが、自分の考えに凝り固まり、他者の言動を否定するだけの彼女の姿に遂になのは自身怒りが頂点に達したのだ。



 だが、それははやてにとっても同じ事、自分の考えについて一向に理解を示さないなのはにはほとほと愛想が尽きかけている。
 正直、命までは取るつもりはなかったがもはやそんな考えは捨てた。なのはも最早障害以外の何物でもない。
 消耗を抑える為、何とか説得で場を収めようとしたが最早そんなつもりはない。絶対にここで排除するつもりだ。



『最後に1つだけ聞いておくわ……ゴジラって知っているか?』
『ゴジラ? 何それ?』
『そうか、知らへんのやったらそれでもええわ』



 元々ある程度予測していたがこの返答で確信した。ここのなのはは自分の世界のなのはではない。故にここで排除する事に何の問題もない。



『言っておくが、私の優勢に代わりはないで。
 そもそもの話、なのはちゃんの狙いに気付かないとでも思ったんか?
 自分に注意を引きつけたまま最小限の魔力で私の攻撃を防ぎ続ける戦法……私の魔力切れを狙っているのはバレバレや。
 それで魔力が切れた所を全力全開の砲撃魔法で撃ち落とす……悪い戦法やないけどわかっていれば幾らでも対処できるで』
『……』
『その見立てに間違いはない。けど、なのはちゃんの調子を見る限り、私の魔力が切れる頃にはなのはちゃんの魔力も殆ど残らないと違うん?
 それに、そんな戦法で来るとわかっていて素直にやらせるアホもいないやろ? 私の魔力が切れる前になのはちゃんの方を仕留めれば何の問題もない』
『……その割にはずっと防がれている気がするけど?』
『なのはちゃんが魔力を温存していた様に……私の方もある程度温存していたっちゅうわけや、何しろなのはちゃんの後にはかがみやキングを倒さなきゃならないからな』
『言っておくけど、今のはやてちゃんだったらユーノ君やスバルも邪魔するよ。それに天道さんだって……』



 ユーノとスバルが今のはやての暴挙を許すわけがない。きっと2人も自分と同じ様にはやてを止めようとするだろう。
 天の道を往き総てを司る彼が今のはやてを見たら何て言うだろうか? きっと天の道を外れたと言ってはやてを止めようとする。不思議とそんな気がした。



『私の邪魔をするなら倒すだけや。天道さんがどれぐらい戦えるかは知らんがユーノ君やスバル程度が今の私に勝てるとは思えないけどな』





『……スバルもユーノ君ははやてちゃんが考えているよりもずっと強いよ……でも天道さんもユーノ君もスバルもはやてちゃんとは戦わせない……


 はやてちゃんはここで私が止める! それが友達としての私の責任だから!』





 その言葉を最後に念話は途切れた。次の瞬間、なのはが全力で駆けだしはやてとの距離を開こうとしたからだ。





「友達……か、けど例え友達でも私の目的を邪魔させへん……」



 そう言って、薔薇のニードルガンを次から次へと射出する。その量はこれまでの数倍だ。
 後々の戦いを踏まえていた為ある程度温存していたが最早なりふり構ってはいられない。
 物量戦に持ち込みなのはを先に疲弊させ仕留めるという事だ。
 なのはがしびれを切らし砲撃魔法を撃って来たならばそれを防ぐ手段は幾らでもある。
 普通に防御魔法を使って防ぐ事も出来るし、憑神刀には今まで使わなかった最大の切り札もある。
 消耗の問題がある為出来るだけ避けたかったが、なのはを仕留めた際のボーナスを使うなり、なのはが持っている支給品を使えばある程度回復出来るだろう。
 よしんば回復しきれなかったとしてもその後で互いに戦い疲弊したスバルとかがみを仕留めれば更なるボーナスを得られるので何の問題もない。
 どうせどっちも障害にしかならないのだ、殺した所で何の問題もないだろう。



「そうや、私は何も間違った事はしていない。家族を……家族を取り戻すんや! その為やったら何を犠牲にしても構わん!」

661抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:24:01 ID:Kpwp5ctE0
















 その攻撃は先程までの非ではない。1つ撃ち落とせば今度は2つ、2つ撃ち落とせば今度は3つという風に攻撃ペースは格段に上がっていた。
 なのはは自分を襲うビットを次から次へと撃ち落としていくが目に見えて疲労の色が濃くなっていく。



『マスター、プロテクションは何時でもいけますよ』
「まだ使わないで……言った筈だよ、出来るだけ消耗は抑えるって……」



 この戦いの際、なのはは殆ど防御魔法を使っていない。長年の鍛錬で培った経験だけで撃ち落としと回避を続けている。
 直線的なものではなく三次元の攻撃を可能にしその自由自在な軌道で攻撃対象になった者を苦しめるビットによる攻撃ではあるが、所詮は1人の手によって繰り出されているものだ。
 どれだけ繰り出す人物が優れていても、扱う者が1人である以上、結局の所腕の数を増やしての攻撃と殆ど違いはない。
 集中力を途切れさせなければ対応出来ないものではない。

 高町なのはは管理局のエース・オブ・エースなど呼ばれている。それは彼女の持つ魔法の才能が開花したからだとよく言われている。
 確かにその見立てそのものはある程度は正しい。才能無くして彼女がエース・オブ・エースになる事はなかった。
 だが、魔法に出会う前の彼女はそれこそ普通の少女だった。彼女の家は武術家であったが、なのは自身は体育は苦手だったのだ。恐らく、スバル達がその話を聞けば驚くだろう。
 その彼女がここまで戦える様になったのはひとえに長年の訓練のたまものだ。特に8年程前に再起不能になる程の負傷してからはより一層基礎を重視する様になった。
 更に言えば彼女自身、指揮に回るよりも前線で戦ったり実戦による訓練を繰り返したりする事が多く戦闘経験は非常に豊富だ。
 長年培われた経験、それが彼女を管理局のエース・オブ・エースと呼ばれるまでに成長させたという事だ。

 その経験はこの場において最大限に発揮されている。
 そもそも闇の書事件の辺り、なのはは誘導弾で空き缶を落とさずに当て続けるという訓練を繰り返してきた。
 10年もの前からそういう訓練を積んできた彼女にとって、迫るビットを撃ち落とす事などそこまで難しい話ではない。

 だが、攻撃はビットだけではない。ビットの合間を縫うが如く鋼の軛による波状攻撃が飛んでくる。先程までの腕狙いの攻撃ではなく今度はその命を刈り取る為に牙を向けている。
 幸いなのは及びレイジングハートがギリギリの所で察知出来ているため未だに直撃は喰らっていないのが不幸中の幸いだ。
 また、消耗を抑える為ではあってもむやみにバリアジャケットを解除する事は出来ない。バリアジャケットを解除すれば恐らく旅の扉で直接リンカーコアを掴み取ろうとする可能性が高い。
 別に実際にリンカーコアを直接攻撃する必要はない。一時的に動きを封じる事が出来ればそのまま連続で攻撃を叩き込めばその時点で終わりだ。
 バリアジャケットを展開している限り旅の扉による直接攻撃の危険は少ないが、闇の所事件で一度その攻撃を受けている以上警戒を怠るつもりは全く無い。

 だが、状況は明らかに悪化している。確かにはやての攻撃は何れも回避出来ているがなのはの消耗も決して小さくはない。
 このまま戦い続け疲弊が続けば何れは限界を迎える事になる。
 プロテクションを使おうにもあれだけの攻撃を防ぐとなると無駄に消耗が激しくなる。完全にジリ貧状態に陥ってしまったと言えよう。

662抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:25:35 ID:Kpwp5ctE0



『マスターの作戦は完全に読まれています。今のままでは勝てる可能性は低いでしょう』



 なのはがはやてを無力化させる為の作戦は先程はやてが語った通りで大体正解だ。
 かがみに矛先が向かない様に自分に注意を向けたまま戦場を移し、必要最小限の魔力の消費ではやての魔力を使い切らせ疲弊した所を全力全開の砲撃で仕留めるという至極単純なものだ。
 確かに後先考えない全力全開ならば短時間で無力化出来る可能性もあろう。だが、キング等他の敵もおり、更にヴィヴィオ達を守るという事を考えるならばこの戦いで全てを使い切るわけにはいかない。
 それ以前に、可能性があるとはいえそこそこに疲弊した状態でほぼ万全のはやてを短時間で止めるのは難しい。故に時間をかけてでもはやてを消耗させるという作戦を選んだのだ。
 上手く時間を稼げればかがみを無力化したスバルや、はぐれていた天道が援護に来てくれる可能性もあった。
 本音を言えば自分1人で決着を着けたいという想いも無いではない。だが、前述の通りこれで終わりではない以上、それに拘りすぎて足元をすくわれる可能性もある為、そこに拘るつもりはなかった。

 だが、実際はなのはの思う通りにはいかなかった。
 はやての魔力総量を甘く見すぎていたのに加え彼女は魔力の回復手段を所持していたのだ。これでははやての魔力が尽きた所で、最後の一撃を加える程の魔力が残るかどうかは不明瞭。
 さらにあれだけあからさまな事をしていたが故、当然といえば当然だが作戦も読まれていた。こちらの作戦がわかっている以上はやてがその対策をとるのは考えるまでもない。
 おまけにスバルや天道の援護も期待出来ない状況だ。信じたくはないが、2人とも倒されている可能性も否定出来ない。

 なんにせよ、作戦の見直しが必要だろう。

663抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:32:40 ID:Kpwp5ctE0
 はやての猛攻を避ける為、なのはは距離を取ろうと森の中を駆ける。



『距離が開き過ぎています、逃げたと判断されればMs.かがみの方に矛先が向けられますよ』
「今のはやてちゃんなら私を逃がしたりはしないよ!」



 そう言いながらビットによる猛攻を避けつつ移動を続けた。ビットによる猛攻も目に見えて減少し周辺に静寂が訪れる。それはさながら嵐の前の静けさの様な――
 なのはは息を整えつつ自身の持つ道具を改めて確認する事にした。



 まずは自身の相棒ともいうべきレイジングハート、搭載されているカートリッジは未だ未使用だがあくまでもこれははやてに一撃を入れる為の切り札、使い所を誤るわけにはいかない。



『ですが、使わないで仕留められては意味がありません。そうなればMs.はやては私のカートリッジを使うことでしょう』
「それをさせるつもりはないよ」



 次にブーストデバイスであるケリュケイオン、自身にブーストをかければ一時的に対応はしやすくはなる。



『しかし……』
「その分魔力の消費は激しくなる……か」



 そして先程拾ったリボルバーナックル。だが、重量も重くなのはの戦い方には合わない為使用には適さない。おまけにカートリッジは既に抜き取られている。



「これは後で何とかスバルに渡すしかないね」
『この場を切り抜けてという前提になりますが』



 真面目な話、これだけでどうやって対処しろというのだろうか? バリアジャケットの下の和服の持ち主の様な奇策を考えそれを実行する事などなのは1人では困難だ。



「ティアナやスバルもこんな気持ちだったのかなぁ……」
『あの時の模擬戦ですね』



 それはホテルアグスタの一件の後に行われた模擬戦での事だった。アグスタでの誤射の失敗を挽回せんとティアナ・ランスターはスバルを巻き込み無茶な特訓を重ね、模擬戦でも無茶な戦法でなのはに挑んだ。
 なのははその無茶を諫める等の理由でティアナを一蹴した後、更にもう一撃加えたわけだがその事はこの場ではあまり問題にはしない。
 重要なのは、あの2人が絶対的に格上の相手に勝つ為に色々思案や努力を繰り返していた事だ。
 2人が模擬戦までに、どれだけの作戦を考え試行錯誤していたのだろうか? 生半可な作戦は通じないと何度絶望したのだろうか?
 完全に同一とはいかないまでも、似た様な境遇に立つ事で今更ながらにティアナの心境を真の意味で理解出来たような気がした。



「……でも、今は感傷に浸っている場合じゃないね」



 そう言いながらリボルバーナックルをデイパックに戻し、更に中を探りあるものを見つけた。



「これは……」

664抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:34:00 ID:Kpwp5ctE0





『にゃのは……アイツを止めてくれ……』





 不意にヴィータの声が聞こえた気がした。



「ヴィータちゃん?」
『何も聞こえませんでしたよ』



 レイジングハートが知覚できないという事は恐らく只の幻聴だろう。だが、なのはにはそうは思えなかった。



「そうだね、ヴィータちゃんも今のはやてちゃんを止めて欲しいんだね……」



 きっとヴィータもはやての暴挙を悲しみなのはに止めて欲しいと願っているのだろう。



「なんかちゃんと名前呼べていなかった様な気がするけど……」
『だから何も聞こえませんでしたよ』



 恐らくそれはヴィータだけではない。シグナム、シャマル、ザフィーラ、それにリインやアギトも止めて欲しいと願っている。
 彼等の家族にして主のはやてが家族の為とは言えその手を血で汚す事など望むわけがないのだから――
 更に、リインフォースも呪われし存在だった自身に名前を与えて救ってくれた者が他者を傷付ける事など願っていないだろう――



「それにフェイトちゃんだって願っている――」



 それだけではない。はやてを止めるだけではなく、この哀しいデスゲームを打破する事を皆は願っている筈なのだ。
 フェイト・T・ハラオウンやクロノ・ハラオウン等多くの者達は願い半ばにして散っていった。
 だが、彼等の願いは決して消えやしない。彼等の願いは今もなのは達生き残った者達の中に生き続けている。
 いや、散っていった者達だけではない――



「スバルに天道さんだって戦っている――」



 今も仲間達を信じ自分の戦いを続けている者達も願う事は同じ――



「ヴィヴィオだって私の事を待っている――」



 ようやく会えた娘も望む事は同じ――



 そして――



「何より、ユーノ君が私を信じてくれている――」



 全ての切欠となった少年が求める事は同じ――



「だから――レイジングハート、付き合ってくれるね」
『Yes. master』



 彼等の願いに応える為にも力の限り戦い、はやてを止め、デスゲームを破壊するのだ――

665抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:34:40 ID:Kpwp5ctE0
















「どこや……」



 無数のニードルガンを展開しつつはやてはなのはの探索を続けていた。



「なのはちゃんの性格上、ここで逃げるなんて事はあり得へん……こうなったら空から探すか?」



 そう考えた矢先、遠方のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。



「そこか?」



 はやては振り向きニードルガンを差し向ける。しかし今度は全くの逆方向に展開していた筈のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。



「なんやと?」



 更に木の枝が次々と落下する音が聞こえる。どうやら魔力弾で枝を撃ち落としているのだろう。



「ちょっと待てや、今までと違い速すぎる、どういう事なんや?」



 十中八九、撃ち落としているのはなのはだ。しかし気になるのはそのスピードだ。先程までと比較して格段にその動きは速くなっている。



「こんなやり方まるでフェイトちゃんやん……」



 その姿に一瞬だけフェイトの存在を連想した。まさかフェイトまでも自分の前に立ち塞がると言うのか?
 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。広範囲に展開したニードルガンを戻してなのはの攻撃に備えなければならない。
 だが、引っかかる謎がある。今まで高速戦をしかけて来なかったのは力を温存していたからという解釈でよい。
 しかし本当にそれだけなのか? 何か重要なカラクリがあるのではないか?



「何処や? 何処からくるんや?」



 この場合一番避けなければならないのは意図せぬ方向からの奇襲、いかに強者であっても不意打ちであれば簡単に倒されるのが現実だ。
 故にはやてはサーチを駆使しなのはの姿を探す。反応こそすぐに見つけられたが夜の森という環境故に肉眼で姿を確認する事は出来ないでいた。
 何とかはやてはニードルガンを自分の死角に展開しなのはの襲撃に備える。仮に死角から仕掛けようとも先にニードルガンが立ち塞がる事になり、攻撃が一手遅れるからだ。
 程なくその目論見通り後方に展開していたニードルガンが落とされる音が聞こえすぐさま振り向く。すると、



「いた、なのはちゃんや!」



 ほんの一瞬だったが左手でレイジングハートを構えたなのはの姿を確認出来た。だが、なのはは高速で枝を落としつつ木の陰に隠れていくためすぐさま見失う事となった。

666抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:35:20 ID:Kpwp5ctE0



「……成る程、そういう事か」



 だが、その一瞬だけで高速移動のカラクリを見破る事が出来た。
 そう、なのはの両手にケリュケイオンが装着されていたのだ。
 合流していた段階で身に着けていたような気もするが、かがみに気を取られていた為、はやてはその存在を失念していた。
 更に言えば戦闘開始時点ではケリュケイオンは待機状態であったが為、やはり存在を見落としていた。
 ともかく、なのははケリュケイオンを駆使し自己ブーストを施す事で高速戦を実現させたという事だ。



「けど、なのはちゃん。そんな状態で戦えば消耗は激しくなる事理解しているんか?」



 自己ブーストを行えば確かに能力強化を行う事が出来る。だが反面、その状態での魔法の発動による消費は格段に増大し同時に負荷も大きくかかる事になる。
 さらに過剰なブーストをかけた場合、圧力に耐えきれずデバイスの破損や魔力の暴発を引き起こす危険性もある。

 以上の事から、はやては落ち着きを取り戻す。
 消耗などのデメリットを覚悟しての自己ブーストという事はなのはにとって勝負所という事だ。逆を言えばこの局面を切り抜けた時点ではやての勝利が確定する事を意味する。



「カラクリがわかってしまえば何て事はない。予想外の方向からの奇襲にさえ気を付ければ幾らでも対処が出来る」



 なのはがはやてを仕留める方法は2つ、完全な不意打ちで仕留めるか、圧倒的な力で押し切るかの2つだ。
 だが、なのはの姿を確認出来た時点で不意打ちへの対処は概ね可能。後は力押しによる方法という事になるが基本的には難しいとはやては判断した。
 一応接近戦も可能ではあるがなのはとレイジングハートの得意分野は中遠距離戦だ。接近戦においては基本的に憑神刀を持つはやての方が圧倒的に有利だ。
 後は砲撃を仕掛ける事になるわけだが、距離が離れすぎた場合は十分に防御や回避など対処は可能だ。
 では至近距離からの砲撃という事になるがそれならそれで対処は可能だ。
 幾ら至近距離といえどはやてを確実に仕留める程の火力で攻撃を仕掛けるまでにはワンテンポのタイムラグが発生する。
 その一瞬があればはやてにとっては十分、先に攻撃を仕掛ける自信がある。

 さらに、はやてには未だ使っていない切り札がある。それさえ決まれば確実に勝てる。





 斜め後ろから魔力弾が飛んでくる。その反応を察知しはやては振り向き障壁を展開しそれを防ぐ。
 その直後すぐ背後から別の魔力弾が飛ぶ、今度はニードルガンを差し向けそれを相殺する。
 攻撃のペースが上がっている事からすぐそこまで迫っているのだろう。







「……そこや! 行け、愛の紅雷!」







 その言葉と共に振り向き薔薇型のニードルガンを一気に展開する。その方向の先に――







 なのははいた――







「やはりな! さぁ、どないするつもりや?」







 なのはは迫り来る愛の紅雷を次々と撃ち落としつつはやてに迫る。







「来るなら来い、憑神刀の錆にしてやるわ!」

667抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:35:50 ID:Kpwp5ctE0







 そしてはやてまで後数メートルまで迫った所で大きく飛び上がった――







「血迷ったん……!?」







 真っ正面から仕掛ける馬鹿正直さに呆れつつはやてがなのはを見上げる――そして言葉を失った。







「ちぇりおぉー!!」







 なのはの右手には巨大なハンマーが握られていたのだ。
 そう、グラーフアイゼンのギガントフォルムだ。







『ギルモンを殺して……はやての名を語って……
 お前だけは……お前だけは……絶対に許さねぇッ!!!』







 はやての脳内にヴィータの声が響き渡る。
 偽物のヴィータが死しても尚自分に立ち塞がるというのか?
 確かあのヴィータは闇の書事件の最中から連れて来られている。故になのはの味方をするなど無いはずだ。
 それなのに自分を倒すためになのはに力を貸すというのか?

 何にせよこれは完全にはやてにとって想定外だった。自己ブーストで強化された状態でギガントフォルムの攻撃を受けきれるかどうかは不明瞭。
 何より完全に予想外の行動であったが為に防御が間に合わない。これがなのはの奇策だというのか?







 だが――







「(今更、偽物がノコノコしゃしゃり出てくんなや……)」







 今更偽物に出しゃばられた所ではやては足を止めるわけにはいかない。本物の家族を取り戻す為には何としてでもその怨念を消し去らねばならない。







「誘惑スル……薔薇ノ雫……」

668抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:36:30 ID:Kpwp5ctE0







 ミッド式ともベルカ式とも違う魔法陣が展開され憑神刀から一筋の弾丸が飛ぶ――







 弾丸は吸い込まれる様にグラーフアイゼンへと着弾。その瞬間、グラーフアイゼンは急速に元のミニチュアのハンマーに戻り地へと落ちていった。







「流石はデータドレイン……くっ……力が……」







 データドレイン……それは憑神刀を代表する巫器が共通して保有している最強のスキルだ。
 それそのものには攻撃力はない。だが魔力結合の術式に干渉・改竄する事が出来、人間に命中すればリンカーコアにまで干渉を及ぼす事が可能だ。
 当然、魔力によって起動していたデバイスに着弾すればデバイスの力は失われる。
 故に対魔術師においては最強最悪のスキルと言えよう。
 だが、反面消費する魔力もまた膨大、実用レベルで考えれば1回の戦闘で1発しか撃てない代物だ。故にはやての身体から一気に力が抜けていったのだ。

 それがはやての言う最大の切り札だったのだ。これが決まればなのはも――







「ちょっと待てや、なのはちゃんは何処に?」







 そう、グラーフアイゼンが落ちた時には既になのはの姿はなかった。まさかと思い周囲を見渡すと――







 レイジングハートを構えはやてを狙い撃とうとするなのはの姿を見つけた。







「(やられた……アイゼンは囮やったというわけか……)」







 データドレイン着弾直前、なのははアイゼンを捨てすぐさま後方か横へ離脱したのだろう。
 そしてレイジングハートに持ち替え、データドレイン発動で疲弊したはやてに狙いを定めていたのだろう。

669抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:37:05 ID:Kpwp5ctE0







「もうデータドレインは撃てへん……けど、私の全力はまだ終わってへん!」







 そう言って憑神刀を構え、







「憑神刀よ……なのはちゃんを……立ち塞がる者全てを薙ぎ払え……妖艶なる紅旋風!!」







 残る魔力をこの一撃に懸ける――







 主の叫びに呼応するが如く憑神刀を中心に烈風と薔薇の破片が森林を破壊していく――







 世界は紅に染まり、木々は倒され大地は荒れ果てていく――







 それはまさしくはやての願い通りに――







「まだや……まだ終わりやない……愛の……紅雷……」







 と、僅かに残った魔力を振り絞り愛の紅雷を放った――







 恐らくなのはは妖艶なる紅旋風を受けても再び立ち塞がってくる。だが二度と刃向かわせない為に愛の紅雷で確実にトドメを刺すのだ――







 そして、愛の紅雷は程なく紅に染まった空へと消えて行った――

670抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:41:45 ID:Kpwp5ctE0





















「はぁ……はぁ……」





 紅の蹂躙が終わり、C-8の森林は完全に消失し荒れ地だけが広がっていた。そしてその中心にはやて1人だけが立っていた。







『■■■――』







「流石はなのはちゃんって所か……もう殆ど魔力なんて残ってへん……」



 度重なる攻撃に誘惑スル薔薇ノ雫、妖艶なる紅旋風、そして愛の紅雷を立て続けに連発した事ではやての残り魔力は僅かとなっていた。
 真面目な話、騎士甲冑を展開するのもやっとの位だ。







『■■■――』

671抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:42:30 ID:Kpwp5ctE0







「けど、私の想いまでは撃ち落とせへんかった様やな……」



 だが、はやては未だ立っている。故にはやては勝利を信じて疑わなかった。



「ボーナスの転送がない……ちゅう事は何とか耐えきられたか……けど、妖艶なる紅旋風の直撃は確かに決まった筈や。もう私に刃向かう事も無いやろ……」







『■■■■■――』







「とはいえ、こっちも消耗が激しいからな……かがみ殺す前に先になのはちゃんにトドメを刺してボーナスを……」







 故に気付けなかった――







「手に入れ……」







 既に眼前まで桃色の魔力光が迫っていた事に――







 そして、気付いた時にははやての身体は桃色の光に包まれていた――

672抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:43:40 ID:Kpwp5ctE0




















「はぁ……はぁ……」



 恐らく今の自分の姿は他の誰にも見せられないだろう。
 とある世界の奇策師の着物の損傷は激しく素肌と下着をひたすらに露出してる。
 年頃の男性が見ようによっては劣情を催す可能性だって否定出来ない。
 もっとも、それ以前に全身に渡り切り傷が刻まれているわけではあるが。



『目標への直撃を確認しました。しかしどうなったかは不明です』
「うん……引き続き警戒を続けて……」



 そしてすぐさまバリアジャケットを再展開する。残り魔力は少なかったがまだ戦いが終わったわけではない。ここで防御を解く事など愚の骨頂でしかないのだ。
 それ以前に、下着や素肌を露出した状態で人前に出たくないという年頃の少女の心理というのもある。



「ごめんね、アイゼン……」



 足元にはグラーフアイゼンだったものの欠片が転がっている。恐らく先の攻撃で上手くなのは達の所まで飛んで来たのだろう。
 だが、攻撃に耐える事が出来ず遂に砕けたという事だ。



「でも、アイゼンがいたからここまでやれたんだ……本当にありがとう」



 そう、なのはの立てた作戦はグラーフアイゼン無くして成り立たなかった。
 まずケリュケイオンの力を駆使し自己ブーストを施し高速で立ち塞がるビットを撃ち落としつつ接近しながらはやてを翻弄する。
 そしてタイミングを見計らって急接近し――グラーフアイゼンを起動しそのまま叩き付けようとしたのだ。
 はやてはグラーフアイゼンの存在を知らない。故に接近戦を仕掛ける所までは予測出来てもグラーフアイゼンが来る所までは読み切れない筈だと読んだのだ。

 グラーフアイゼンで仕留めるつもりだったのか? 答えはNoだ。そもそもなのはは最初からグラーフアイゼンで仕留めるつもりはなかった。
 それははやてに妖艶なる紅旋風を使わせる為の布石だったのだ。防げない攻撃が来るとなれば全てをなぎ払う攻撃が来ると読んだのだ。
 だが、予想外にもはやては今まで見せた事のない攻撃を仕掛けた。長年の経験からそれが危険なものという事まではわかったが正直対処仕切れる自信はなかった。
 が、ここで幸か不幸か偶然にもグラーフアイゼンがなのはの手を抜けていったのだ。
 何故グラーフアイゼンが手を抜けていったのか? それは使い慣れない武器故に掴む力が甘かったのだろう。
 いや、もしかするとグラーフアイゼン自身がなのはを助ける為に自ら抜けて出て行ったのかもしれない。
 だが、真実はどうあれグラーフアイゼンがなのはの手を離れた事でデータドレインの直撃を回避出来た事には変わりはない。
 さて、予想外の攻撃ではあったがなのはは怯む事無くすかさずレイジングハートに持ち替え至近距離から砲撃を仕掛ける『様に見せた』。

 そしてなのはの目論見とは少々遅れて妖艶なる紅旋風が発動された。それこそがなのはの狙いだったのだ。
 なのはは防御魔法を最大限に駆使し更にはリアクターパージを使いそれを耐えきった。それでも完全に防ぎきる事が出来ず全身にダメージを負ってはしまったが。
 だが、C-7まで吹き飛ばされながらも体勢を整えつつ砲撃体勢に入った。
 そして、最大級の攻撃魔法を連発し疲弊し同時に勝ち誇った所をなのはとレイジングハートにとっての最大の攻撃魔法であるスターライトブレイカーを叩き込んだのだ。
 はやてを無力化するために手加減は出来ない。故にレイジングハートに搭載されているカートリッジは全てこの一撃で使い切った。

 つまり、自己ブーストによる突撃も、グラーフアイゼンによる奇襲も、至近距離からの砲撃も全てはやてに妖艶なる紅旋風を使わせ魔力を消耗させる為の布石だったのだ。
 最初からなのはは遠距離からの砲撃で仕留めるつもりだったというわけだ。


 なのはにとってこの一撃は自分1人だけのものではない。ヴィータやフェイト達、数多くの仲間達の想いを込めた一撃だったのだ。
 彼等の想いは決して外させない。皆の持てる全てを賭けてなのははその一撃を撃ち込んだという事だ。

673抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:44:55 ID:Kpwp5ctE0



「レイジングハート……周辺の様子は……それにはやてちゃんは?」
『今の所反応はありません、Ms.はやての姿も確認出来ません』



 だが、前述の通り戦いが終わったわけではない。
 確かにはやてに一撃撃ち込んだとはいえ、命までは奪っていない筈だ。はやてを拘束しない限り彼女を本当の意味で止める事は出来ないだろう。
 また、かがみを抑えているスバルの方も心配だ。信じていないわけではないが、一歩間違えればどちらかが死亡の危機に瀕する可能性もある。出来るだけ早く合流したい所だ。
 更に、未だ行方の掴めない天道の事も気になる。もしかしたら金居、アンジール、キングと遭遇し交戦している可能性もあるだろう。
 無論、その3者がいつ牙を剥くかもわからない。警戒を解くわけにはいかないというわけだ。
 そして何より、駅で待っているであろうユーノとヴィヴィオも気がかりだ。出来るだけ早く彼等と合流したいのが本音だ。
 何にせよ、選択肢は数多いが誤ったものを選ぶわけにはいかない。迅速に慎重に次の行動を決めなければならな――



『待ってくださいマスター』
「どうしたの? レイジングハート……?」
『首輪が無くなっています』
「え? ……本当だ」



 レイジングハートの言う通り、首に着けられた筈の首輪が無くなっていた。その代わりに首に何かのかすり傷が付けられている。命に関わる程のものではないのが不幸中の幸いだ。



『恐らく先程の攻撃が上手く首輪に命中したのだと思いますが……』
「爆発しなかった……もしかして……」



 真相はわからない。だがデスゲームの根底を支えていた首輪が外れた以上確実な事がある。



 デスゲーム終焉を告げる夜明けの鐘が鳴り響く瞬間が刻一刻と近付いているという事だ――



【2日目 早朝】
【現在地 C-7】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(大)、首筋に擦り傷、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し、ボロボロ)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ホテル従業員の制服、リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.どうして首輪が……?
 2.はやてを拘束する? スバルとかがみの所に向かう? 天道を探す? それとも……
 3.駅でユーノ達と合流する。
 4.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)の暴走を許すつもりはありません。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。

674抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:47:10 ID:Kpwp5ctE0
















「はぁ……はぁ……スターライトブレイカーとは……ぬかったわぁ……」



 殆ど魔力を失った状態でのスターライトブレイカーの直撃を受けてもなおはやては立ち上がろうとする。
 その一撃で完全に魔力は枯渇、騎士甲冑すら解除された状態だ。
 すぐ近くにはヘルメスドライブの核鉄の残骸と夜天の書が転がっている。どうやら今の一撃で吹き飛ばされた際に破損状態だったヘルメスドライブは完全に砕けたのだろう。
 なお、一方の夜天の書には別段異常はない。



「けど、まだ私を倒すには足りなかった様やな……せや、勝つのは私や……」



 そう言いながら立ち上がろうとするが――







「ん……あれ?」







 何かがおかしい、立ち上がろうと憑神刀を杖代わりにしようとしてもどうにも上手く行かない。その上、何だが頭が重く眩暈がする。







「どういう事……なん……?」







 と、右手の方を見ようとしたが――







「な……なんでなん……?」







 憑神刀毎はやての右手が消え失せており、右手首からは大量の血液が流れ出していた。剥き出しになった手首の先からは肉や骨が痛々しく見える。







「ま……まさか……さっきの砲撃は……」

675抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:48:25 ID:Kpwp5ctE0







 この瞬間、はやてはなのはの真の狙いが憑神刀である事に気が付いたのだ。
 考えてもみれば当然だろう。あれだけ憑神刀の力を存分に放ち続けたのだ、警戒されてもおかしくはない。
 だが、憑神刀ははやてにとって家族を象徴する何よりもかけがえのないものだ。そんなものが砕ける事など信じがたい話だ。

 確かに憑神刀等巫器は超古代文明が作り上げたロストロギアの1つでありその能力は計り知れないものがある。
 更に吸血鬼の真祖の放った数百キロクラスの攻撃を受けても白夜の龍の一閃を受けても砕かれる事はなかった。
 だがそれは巫器が決して砕かれる事の無いという証明にはなり得ない。
 事実としてこの場に支給されたもう1つの巫器はある出来事により消失した。それを見ても巫器を粉砕する事は可能だという事だ。

 前述の通り、憑神刀は度重なる激闘をくぐり抜けてきた。最初に起動させた者はそれを振るって戦う事など殆ど無かったが次に手にした片翼の剣士が起動して以降は激闘の連続であった。
 時間にして約20時間に渡り憑神刀は持ち主の心の空虚に応えるが如くあらゆる敵との激闘をくぐり抜けた。
 だが、激闘を繰り返す度に疲弊していくのは当然の理、前述の通り吸血鬼の攻撃を受けてもひび一つ入る事は無かったが受けた負担は非常に大きく内部にダメージを受けた可能性は否定出来ない。
 その後も白夜龍の一閃を防いだ際に更にダメージが蓄積されていくのは容易に理解出来るだろう。
 そして何度と無く繰り出される妖艶なる紅旋風……その殆どはSランククラスの魔力を持つ最大級の攻撃だ。幾ら頑強な憑神刀とはいえ負担がかからないわけがない。
 とはいえ、そうそう簡単に砕ける事はない。普通に戦う分には殆ど問題は無いと考えて良いだろう。
 だが、最初から憑神刀を砕くつもりで仕掛けていたのならばどうだろうか?
 通常、武器を砕くつもりで攻撃する事はあまりない。武器で防がれない様に隙を突いて本体に仕掛けるのが普通だ。
 しかし、なのはは最初から憑神刀を砕くつもりで全力全開のスターライトブレイカーを撃ち込んだ。
 はやての力の源が憑神刀ならばそれを砕く事でほぼ無力化出来ると考えたのだ。

 何? 確かに理屈としてはわからなくはないが、そんな都合良く砕けるだろうか? そう言いたい気持ちはわかる。
 だが実は憑神刀が砕けたのにはもう1つ理由が存在する。

 今一度先程の戦闘を思い出して欲しい。
 はやては妖艶なる紅旋風を放った後、確実になのはにトドメを刺すために愛の紅雷を放った。
 勿論、魔力が殆ど残っていない状態で放った攻撃でなおかつ破壊の暴風の中を進ませる以上威力は格段に落ちる。
 だが格段に威力が落ちても高確率で死に至らしめられる部位が存在する、それが首輪だ。
 デスゲームのルール上、首輪を強引に破壊しようとすれば爆破される。はやては知らないが実際にその方法で死に至った参加者もいるため有効な方法だ。
 はやてはそれを目論見首輪狙いの攻撃を仕掛けたのだ。
 だが、なのはが全力で防御に回っていた、破壊の暴風で狙いが逸れた等の理由で狙いが若干それたが為、首輪の表面をなぞる様な形で攻撃は命中した。それ故になのはの首そのものにはさほどダメージを与える事は出来なかった。
 それでも首輪そのものを破壊する程のダメージは与えた。はやての目論見通りならばこれで爆発する筈『だった』。

676抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:49:00 ID:Kpwp5ctE0

 ここではやての知らない事実が重要になる。
 先の放送で主催者であったプレシア・テスタロッサが退場しスカリエッティが実質的な仕切を行う事となった。
 その際にスカリエッティは首輪の爆破装置を解除したのだ。
 なお、はやてもプレシアの退場の可能性自体は予想していたものの、まさか爆破装置が解除される所までは考えていなかったし、そもそも不確定な情報をアテにしていなかったためそれに気が付かなかったのもある意味仕方がない。
 何にせよ、はやての攻撃によりなのはの首輪が破壊され更に妖艶なる紅旋風によって首輪が外されてしまったという事だ。

 そして、首輪を外した事によりある影響が現れる。それは制限からの解放だ。
 制限を与えているのはフィールドそのものなので首輪を外した所で完全に解放されるという事はない。
 しかし全く無関係というわけでもない。事実として先に首輪が外れた参加者がその影響で本来の力をある程度取り戻したという現実がある。

 ここまで言えばどういう事か理解出来るだろう。なのはの放ったスターライトブレイカーは制限がある程度解放された事でその威力をある程度増していた。勿論、なのは本人の知らぬ所でだ。
 一方の憑神刀はロストロギアとはいえ持ち主のはやての制限下に置かれている事に変わりはない。
 故に、カートリッジを全て注ぎ込んだスターライトブレイカーの力に耐えきる事が出来ず遂に粉砕されたという事だ。

 では何故、はやての右手までが潰されてしまったのだろうか?
 これは至極単純な理由だ、憑神刀の破壊に巻き込まれてしまったという事だ。
 憑神刀が破壊される際のエネルギーに巻き込まれ右手が消し飛んだ可能性もあろう。
 憑神刀が破壊され吹っ飛ばされる際にはやて自身も吹っ飛びそのまま右手が地面や木々の残骸にぶつかり千切れ飛んだ可能性もあろう。
 少しとはいえ制限が解放されたスターライトブレイカーを受けたのだ。例え非殺傷設定にしていてもはやて本人が受ける衝撃は相当なもの、吹っ飛ばされてそのまま右手を潰してしまったという事も有り得なくはない。
 真相はわからない。だが、何にせよはやての右手が消し飛んだという事実だけは確かである。
 余談ではあるが、元々破損状態だったヘルメスドライブが完全に破壊されたのもほぼ同様の理由である。

 ちなみに言えば、直撃を受ける際に憑神刀を手放していれば右手を失う事を避ける事が出来た。
 だがはやてにはそれが出来なかった。憑神刀は家族を失ったという空虚によって起動した。いうなれば家族の代替であったのだ。
 それを手放すという事は家族を手放す事、はやてにそれが出来るわけなどないだろう。
 しかし、その傲慢さが憑神刀と共に右手を失わせる結果になり、夥しく流れる血液により死へと近付かせる結果となったのだ。

677抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:49:40 ID:Kpwp5ctE0



「な……なしてこんな事になったんや……?」



 意識はどれぐらい飛んでいたのだろうか? 一体どれだけの血液を失ったのだろうか? どうやら貧血も起こしている様だ。
 ダメージとショックから最早はやてに強気な心は消え失せていた。
 なのはが自分を殺すわけがないとタカをくくっていたし、先の砲撃も命を奪うつもりがなかったのは理解している。
 だが、実際は家族の象徴を破壊され更には命までも奪われようとしている。



「どうしてなんや……私何か悪い事したんか……家族を取り戻したいっていうのがそんなにいけない事なんか……?」



 自問自答を繰り返す。自分の判断が間違っているとは思えない。だが迎えた結果は最悪な結果だ。どうしてこんな事になったのだろうか?



 いや、はやて自身は基本的にその時点において最善の行動を取っていた。だが、それが必ずしも望む結果を与えるとは限らないという事だ。
 そもそも、はやてはずっと同じ事を繰り返してきた。
 ヴィータを助けようとギルモンを殺した結果、彼女と敵対する羽目となり、
 セフィロスの攻撃から身を守る為シャマルを盾にした結果、彼に自身を否定されクアットロからも斬り捨てられる事となり、
 不穏分子だからとかがみを殺そうとした結果、その隙を突かれリインを殺される体たらく、
 更にかがみを殺そうと庇ったこなたを殺した結果、かがみに再び殺意を抱かせた。
 そしてそれらを最善の行動と断じた結果、なのはと決定的な対立を引き起こし今に至った。
 そう、結局は繰り返しだったのだ。彼女は知らず知らず最悪な結果を引き起こす選択を選び続けてきたのだ。
 もしかすると、最初にゴジラを封印する時に家族を犠牲にした事自体が最悪の結果を引き起こす選択だったのかも知れない――





 だが、はやての願いまでは潰えてはいない。右手で家族を掴む事は出来なくなったがその意志は消えない。
 しかし、状況は最悪だ。魔力は完全に枯渇し、右腕からは現在進行形で血が流れて貧血状態に陥り生命の危機は迫っている。だが、散々あれだけの事をしておいて今更仲間をアテにする事など出来やしない。
 そして、今にも自分を殺そうとかがみが迫ろうとしているのだ。なのはの話が真実にしろそうでないにしろ自分を襲う事だけは確実だ。
 全て彼女自身最善と判断した選択が招いた最悪な結果だ。





「いやや……ぜったいに……ぜったいにとりもどすんや……」





 周囲を見回し使える物を探す。しかし自分の攻撃で吹き飛ばしたせいか使える物は見当たらない。
 アジトまで戻れば何かあるかも知れないがそれまで身体が保つとは思えないし、かがみと鉢合わせすればそれで終わりだ。





 いや、1つ……正確には2つだけあった。この状況をひっくり返せる可能性を秘めた物が。





「そうや……夜天の書にジュエルシード……まだ使えれば……」





 それはまさしく悪魔の選択、ジュエルシードの力で夜天の書をかつての闇の書の様に改変を行う。
 そうする事でまだ逆転の可能性はある。あの餓鬼が少しでも改変していたのであれば今からでもまだ間に合う筈だ。
 だが、ジュエルシードの残り魔力が無いのは確認済み。最早不可能なのか――

678抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:50:30 ID:Kpwp5ctE0





 それでもはやては涙を零しながら最後の可能性を信じジュエルシードと夜天の書に懇願する――



「魔力が足りないなら私の命をやる……命でも足りないんやったらこの世界をやる……
 だから……だから……もう1度だけ……もう1度だけ家族を取り戻すチャンスをくれや……
 闇の書は主に絶大な力を与えてくれるんやろ?
 ジュエルシードは願いを叶える石なんやろ?
 だったらその力で私の願いを叶えてや……
 その為やったら私の命も、この世界もなんもいらん……
 ヴィータを……シグナムを……シャマルを……ザフィーラを……そしてリインを取り戻したいんや……!
 応えてや……頼む……!」



【現在地 C-8】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】全身にダメージ(小)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、右手欠損(出血中)、貧血
【装備】夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.ジュエルシードで夜天の書を改変し力を取り戻す。
 2.自分を含めた全てを捨ててでも家族を取り戻す。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。
















 ジュエルシードで改変の可能性が無い事は今は亡きプレシア自身が断定していた。
 それを踏まえるならばはやての願いは決して叶う事はない。
 もっとも、願いが叶わなければこのまま死を迎える可能性が非情に高いだけでしかないが。

 しかしはやての願いが叶い、夜天の書がかつての闇の書の様になった場合、以前説明した通り世界崩壊を引き起こす引き金となりうる。
 ジュエルシードもまたロストロギア、可能性が絶対に無いとは言い切れない。

 仮に最悪の事態を起こしてしまった場合の話だが、それを引き起こしたのはある意味なのはの行動が原因と言えよう。
 無論、なのは本人は最善の行動をとったつもりだ。だが、その結果最悪の事態が起ころうとしていたのだ。
 よしんば起こらなかったとしてもはやての右手を失った事自体がなのはの望む結果ではない。

 ああ、明らかに矛盾している――



 はやての願いがどのような結末にを導くかはわからない。
 だが、終焉の鐘が鳴り響くまで――
 夜明けまではまだ時間がある――



 矛盾を抱えた物語はまだ――終わらない――





【全体の備考】
※グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、ヘルメスドライブ@なのは×錬金が破壊されました。
※C-8が妖艶なる紅旋風により荒れ地となりました。

679 ◆7pf62HiyTE:2010/12/07(火) 17:54:30 ID:Kpwp5ctE0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>649-662が前編『抱えしP/makemagic』(約29KB)で、
>>663-678が後編『抱えしP/DAYBREAK'S BELL』(約30KB)です。

サブタイトルの元ネタは何時もの様に仮面ライダーW風、
『makemagic』……『劇場版 遊☆戯☆王 超融合!時空を越えた絆』主題歌
『DAYBREAK'S BELL』……『機動戦士ガンダム00』OP
『抱えしP』のPはPower(力)もしくはParadox(矛盾)を意味しています。
で、『DAYBREAK'S BELL』をタイトルに採用した理由は『夜明けのタイミングにこのタイトルを使おう』とずっと考えていたから。
じゃあ、『makemagic』を採用した理由はというと……前述の遊戯王の劇場版の敵が今回の話のテーマに近かったからです。そんなわけで来年再上映が決まった遊戯王劇場版、そしてストーリーも佳境に入った5D'sをみんなで見よう。

680リリカル名無しStrikerS:2010/12/07(火) 20:46:22 ID:jVqhN/U60
投下乙です

いやあ、二転三転してどうなるかと思ったがなのは・レイハ組に軍配が上がったか…
はやては…確かにこれまでの選択は最善に見えて最悪だったわw
そして更に最悪な事をしそうだ…どうなる?

681リリカル名無しStrikerS:2010/12/07(火) 23:26:54 ID:t1iCxt.M0
投下乙です
終始お互い駆け引き読みあいの勝負だったな
はやての敗因は憑神刀(マハ)を重視しすぎたに尽きるかな
緊張感ある戦いだったなあ

682 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/09(木) 08:15:18 ID:Iz3/YCDc0
八神はやて(StS)、柊かがみで投下します

683リリカル名無しStrikerS:2010/12/09(木) 08:15:50 ID:Iz3/YCDc0
「魔力が足りないなら私の命をやる……命でも足りないんやったらこの世界をやる……」

月と星の光が薄らいできた空の下、木々と土塊だけが存在する荒野で声がする。

「だから……だから……もう1度だけ……もう1度だけ家族を取り戻すチャンスをくれや……」

必死に嘆願する少女の声がする。

「闇の書は主に絶大な力を与えてくれるんやろ?」

むしろ呼びかけに近いか。

「ジュエルシードは願いを叶える石なんやろ?」

どちらにせよ少女は心から願う。

「だったらその力で私の願いを叶えてや……」

ずっと叶えたいと思い続けてきた望みに祈りを込めて。

「その為やったら私の命も、この世界もなんもいらん……」

その望みを叶えるための力を欲するが故に。

「ヴィータを……シグナムを……シャマルを……ザフィーラを……そしてリインを取り戻したいんや……!」

傷だらけの少女は――八神はやては――12年前のような奇跡が起きる事を願った。

「応えてや……頼む……!」








そして――。








「な……」








最後の希望は――。

684 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/09(木) 08:16:58 ID:Iz3/YCDc0








「なんでや………」








祈りの果ての奇跡は――。








「なんで、私の願いに応えてくれへんのや…………!!!!」








少女に何も齎さなかった。








それもそのはずだろう。
ジュエルシードが「願いが叶う宝石」と言われたところで、その本質は次元干渉型エネルギー結晶体に過ぎない。
その内包するエネルギーは現在空っぽだ。
これでは奇跡も何も起きるはずがない。
ちなみにはやて自身に魔力が残っていれば結果は違ったかもしれないが、今の枯渇した状態では無理な話だ。

「そんな、ここで終わりなんか……私にはまだやらなあかん事がッ――!?」

だが嘆く暇もなくはやての下に死神の鎌の如く放たれた紫の光線が飛来した。
前触れなしで飛来したその光線は容赦なくはやての目の前にあった夜天の書とジュエルシードに着弾して跡形もなく破壊した。
それをはやては爆発の余波で後ろに吹き飛ばされながら信じられない面持ちで見ていた。
そして地面を転がって止まった先で今まで自分がいた方に顔を向けたはやての目にそれは飛び込んできた。
自分の命を奪うであろう日の出を背負った白銀と黒の復讐者が掲げる銃口を。

「……柊、かがみ」
「見つけたわよ、八神はやて」

685 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/09(木) 08:21:17 ID:Iz3/YCDc0


【2日目 早朝】

【現在地 C-8】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、右手欠損(出血中)、貧血
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.あ、あぁ、そんな……。
 2.自分を含めた全てを捨ててでも家族を取り戻す。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(大)、全身ダメージ(大)、つかさとこなたの死への悲しみ、はやてへの強い怒り、デルタに変身中
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:はやてを殺す。
 1.はやてを殺す。
 2.1が叶えば、みんなに身を委ねる。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。
※デルタのシステムと完全に同調しました。

【全体備考】
※夜天の書とジュエルシードは跡形もなく破壊されました。

686 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/09(木) 08:22:48 ID:Iz3/YCDc0
タイトルは「……起きないから奇跡って言うんですよ」

投下終了です
誤字・脱字、矛盾、疑問などありましたら指摘して下さい

687リリカル名無しStrikerS:2010/12/09(木) 11:53:23 ID:5NLuo83IO
投下乙です
はやて、終わったな……

688リリカル名無しStrikerS:2010/12/09(木) 15:30:03 ID:kO269h1w0
投下乙です
もう本当にはやては後がないな
今までならどんなピンチもまだ助かる可能性あったけど、
今回ばっかりは状況が悪すぎる。かがみは絶対にはやてを許さないだろうし。
持ってるアイテムも何もない、放っておいても死亡する、でもかがみはその前にはやてを殺す気満々。
でも、なのはかスバル、天道かキングあたりが間に合えばまだ状況も変わるか……?

689リリカル名無しStrikerS:2010/12/09(木) 17:12:17 ID:VA746Qek0
投下乙です。
どっちも退場しないで両方強化(マハや右手復活、闇の書復活)という最悪な事態も考えたけど別にそんなこともなかった。
で、ですよねー的な流れでジュエルシードは応えてくれず夜天共々破壊され遂にかがみに追い込まれるはやて。
……まぁ、まだ誰か助け来れば可能性は見えるけど……もうゴールしてもいいんじゃね?

690 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:09:28 ID:GSDRaqe.0
リインフォース、アルフ、オットー、ドゥーエで投下します

691 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:10:33 ID:GSDRaqe.0

時の庭園。
デスゲームの主催者であるプレシアの居城は主が亡くなった今も変わらぬ姿を誇っている。
だがそれは外見上の話だ。
ひとたび中に目を向けると、庭園内部の一部では激しい戦闘の痕が目に付く。
最上階にあるプレシアの部屋へと続く唯一の通路。
そこもまた狼の使い魔アルフと機械仕掛けの鉄屑ガジェットドローンによる激戦の場であった。

(よし、ここを抜ければ!)

アルフは無数の青い光線が飛び交う通路を右に左に疾走して、ガジェットの大群から抜け出たところだった。
そしてオレンジの毛並みが冴える狼形態から黒いマントを羽織った人間形態に変化しながら、目の前に迫った扉をキッと睨んだ。
やはり主の部屋を守るようにここまでに至る道中には数えきれないほどのガジェットが配置されていた。
だがある時は雷撃で蹴散らして、ある時は俊敏に躱して、ある時は拳で殴り飛ばして、どうにかここまで辿り着けた。
そうやって相手にしてきたのは進行の邪魔になる物だけ。
それ以外は無視して来た。

(あと少し……)

なぜなら今こうしている間にもデスゲームと呼ばれる胸糞の悪い最低最悪な殺し合いは続いているのだ。
それを止めるために最も手っ取り早いのは首謀者であるプレシアを倒す事。
だから今は一分一秒でも惜しかった。
それに既に見つかってしまった以上今更隠れて行動する意味もない。

(……それに早くあいつを殴り飛ばさないと、あたしの気が晴れないよ)

背後から迫るガジェットの大群に向かって放たれた雷撃で追撃の手が一瞬緩む。
もう扉までに邪魔なガジェットは一体もいない。
まさに千載一遇の好機。
あとは扉まで一直線に進んで、中にいるプレシアに――。

「ぎゃあああああァァァアアアアア――――――――――!!!!!?????」

――だがアルフの進行は突然止まってしまった。
アルフの足を止めたのは雷撃。
いきなりプレシアのサンダーレイジO.D.Jレベルの威力を秘めた雷撃が上下左右からアルフに襲いかかったのだ。
まさに一瞬の出来事。
前触れなしの雷撃に対してアルフは防御する暇も、もちろん避ける暇もなく、為す術なく全身に雷撃を浴びるしかなかった。
それは一瞬だったかしばらく続いたのかアルフ自身分からなかった。
なぜならオレンジの毛並みが真っ黒に変わるほどに黒焦げと化したアルフの全身は麻痺状態となり、雷撃が終わった時には何も感じる事ができなくなっていたからだ。

「なん……だよ……」

当然走る事はおろか立つ事さえできない身体は床の上に崩れるように倒れて、アルフは扉の目の前で倒れ伏す結果になった。
なんとかして指一本でも動かそうとしたが、アルフの想いとは裏腹に身体は全く言う事を聞いてはくれなかった。
あまりの理不尽さに涙が出そうになったが、その涙さえ麻痺した涙腺から流れる事はなかった。

(くそっ、こんなところで終わってたまるかよ! あいつに、せめて一発だけでも……)

だがこんなところで終わるわけにはいかない。
ここで死んでしまえば今まで生き永らえてきた意味がなくなる。
フェイトを失って死にかけていた自分をリインフォースは助けてくれた。
そうして侵入した先で再会したリニスは命を賭けて足止めを買って出てくれた。
今の自分の命はもう自分のものだけではなく、だからこそこんなところで失っていい命ではない。

「――ッ」

そう思ったらなぜか動かないはずの身体が少しだが動いた。
まるでフェイトやリニスが後押ししてくれているかのように。
不思議な事にリインフォースから力が流れてきたような気さえした。
そうだ、みんなの夢を踏み躙ったプレシアに一発叩きいれるまでは死んでも死にきれない。

「覇アアアアアァァァァァああああああああああ!!!!!!!!!!」

692 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:11:08 ID:GSDRaqe.0


     ▼     ▼     ▼


「目標の到着まで約5分、各自迎撃用意」

ナンバーズの一人、無口で茶髪の中性的な顔立ちをしたオットーの声が時の庭園最下層のフロアに響き渡る。
現在このフロアではオットーを中心にセッテとディード、そして無数のガジェットドローンが迎撃態勢を固めていた。
彼らが狙う先にあるのは上階からここへ伸びる階段の出口。
それはこの時の庭園の最下層に繋がる唯一の通路。
今まさにその階段を降りて、一人の侵入者がここへ向かっている。
彼の者の名はリインフォース。
闇の書から本来の名に戻った夜天の書の管制人格であり、この動力炉に据えられた夜天の書の分身とも言うべき存在。
リインフォースがここを目指している理由は自らの状態を万全とするために夜天の書の奪還する事に他ならない。

だからこそこうして迎撃態勢を敷いているのだ。

本来ならここに辿り着くまでに始末できたらよかったが、どこの通路もそれほど広くはなく、またいくつか候補があった。
だからその場合必然的に戦力を分断せざるを得ない状況になってしまう。
だが夜天の書が手元にないとはいえ、相手はあのいくつもの次元世界を滅ぼしてきたロストロギアの管制人格。
もう暴走の心配がないとしても、決して侮る事は出来ない。
ここでの下手な戦力の分散は逆効果、ゆえにこの唯一の出入口に放火を集中させて一部の隙もない弾幕を浴びせて消滅させる手筈だ。
さらに万が一弾幕を潜り抜けてきたらオットーのレイストームで足止め&セッテとディードによる一撃でダメージを与えた後に一斉砲撃の2段構えで止めを刺す算段だ。
正直もっと他にもやりようはあるかもしれないが、あまり時間もないので一番シンプルで効果的なこの方法を採用した。

「目標到着まで――」

だがオットーの目論みは予想外の形で崩れる事になった。

「――なッ!」

あと30秒と言おうとした瞬間、突如として異変は起きた。
周辺のサーチ情報を映し出している空間モニターを見た時、オットーは目を疑った。
だが目の前に迫ったプレッシャーがそれを事実だと伝えてくる。

「そんな……加速した、だって……!?」

それは文字通り加速としか言いようがなかった。
モニターに映ったリインフォースを示す光点が今までの速度を遥かに凌駕するものに変わった。
本来なら30秒かかるところが僅か数秒に縮まったほどに。
ここへ向かうためにリインフォースが加速してくる可能性を考えなかったわけではない。
だが1分切っても速度が変わらなかったため、てっきりこれが限界なのだと思っていた。
まさかこんな土壇場、それも残り僅かなこんな場所で加速してくるとは思わなかった。
そんな事をしても到着までに短縮できる時間など高が知れているはず。

(いや、違う。時間じゃない、狙いは――)

オットーがリインフォースの狙いに気付いた次の瞬間、その危惧が現実のものとなった。

(――タイミングが外された!!!)

予想よりも早い到着だったがガジェットはリインフォースを感知すると一斉に砲撃を始めた。
だが命中したのは半分にも満たなかった。
到着直前の加速魔法のせいでガジェットの感知が追い付いていないのだ。
それに加えて床から青の条や緑の紐が飛び出して狙いを付けにくくされている。

「レ、レイストーム!」

ガジェットに遅れてオットーもISを起動して応戦した。
セッテとディードも各々武器を手にして斬りかかろうとした。
だがもう遅かった。
それはまるで白昼夢のようだった。

693 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:11:38 ID:GSDRaqe.0


     ▼     ▼     ▼


(……チャンスは一度だけ)

自分達の行動がプレシア側に察知されている事は承知の上だった。
だから敢えて身を隠して進むよりは一刻も早く夜天の書の下へ向かう事を優先した。
だがその際決して加速魔法の類は一切使わずに、極力魔力は温存した。
夜天の書がある最下層には強固な防衛線が敷かれているはず。
それをいちいち相手にしていては夜天の書に辿り着く事など不可能だ。

だから一瞬で勝負を付ける。

前方に障壁を展開して、戒めの鎖と鋼の軛で一時的な足止めをして、フェアーテの加速で以て一気に防衛線を突破する。
確かにAMF影響下では大きな効果は望めない。
だが僅かなものでも積み重ねれば一瞬の隙を作り出す事はできるはずだ。
そして予想通り今リインフォースは防衛線を突破する事に成功している。
もう夜天の書までの距離はあと僅かだ。

(烈火の将よ、お前の技、借り受けるぞ!)

この手の防衛線は一度突破すれば反撃するのは難しい。
現に今ガジェットは目標の予想外の加速により照準を合わせる事が満足にできないでいる。
しかも防衛線に突っ込んだ事で後方に回り込めたので、砲塔はこちらを向いていない。
だがそれもすぐに修正される。
見慣れない青いスーツの戦士もこちらの狙いに気付いて態勢を立て直しかけている。

だが夜天の書を覆う障壁を破壊して取り戻すのに必要な時間は稼げた。

「紫電――」

あと少し。
この一撃で皆を悪夢から解放できる。

「――、一閃!!!!!」

694 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:13:27 ID:GSDRaqe.0


     ▼     ▼     ▼


『ドゥーエお姉さま、ご報告があります』

不意に通信が入ったのでドゥーエは今まで見ていたモニターから目を離すと、そちらのモニターに目を向けた。
現在ドゥーエはウーノの作業を妨げないように護衛兼連絡役の任に就いている。
本来諜報活動と暗殺が主任務のドゥーエには適した役割とは言い難いが、どのみち後数時間で全てが終わるので大して問題ではない。
ついでに会場の監視も行っているが、あと10人なのでそこまで大変ではない。
元々参加者の監視を担っていた仕掛けの内、首輪の盗聴機能とインゼクト(プレシアがルーテシアから使役権を奪った)は既に機能していない。
だから今は会場に設置された隠しカメラだけなので必然的に監視する量も減っているので、一人でもこなせるのだ。

「ん、どうしたの?」

ドゥーエが視線を向けた先、最下層からのモニターには若干肩で息をしている妹オットーの姿があった。
その後方にはオットーほどではないが息を荒くしているセッテとディード、そしてガジェットドローンの軍勢が映っている。
だがガジェットの軍勢はあちこち痛んでおり、よく見ると残骸も何体か転がっている。

「その様子だと夜天の融合騎が来たみたいね。で、首尾は?」
『大丈夫、問題ないです。少々予定外の出来事はありましたが、夜天の融合騎の消滅を確認しました』

オットーの報告によるとリインフォースは最下層到着直前で最大限の加速魔法を活用して防衛線の突破を試みたようだ。
実際に当初その試みは成功して、その結果がモニターに映る被害だ。
だが最終的にリインフォースが夜天の書を手にする事はなかった。
防衛線突破後、夜天の書の周囲に配置していた最終防衛線の完全ステルスモードのガジャットⅣ型に身を切り裂かれたという。
最期は地面に叩きつけられたところで態勢を立て直したオットー達の一斉射撃で塵一つ残らず消滅したとの事だ。
いくら強大な力を秘めていても万全でない状況の上に単騎で挑んでは数の暴力を押し返す事は出来なかったのだ。

「そう、ごくろうさま。これで不安因子はなくなったわね」
『と、言いますと……』
「あっちの使い魔もさっき消滅を確認したわ。プレシアが残した罠に嵌ってね」

奇しくもリインフォースが消滅した前後にアルフもまた消滅していた。
モニター越しに見ていたが、決定打となったのは皮肉にも今は亡きプレシアが仕掛けた罠だ。
元々プレシアは侵入者が自分の部屋に辿り着く事はないと確信していた。
その理由がこれだ。
あらかじめ登録していた人物以外が通過すると上下左右の天井・壁・床からS+レベルの雷撃を食らうという寸法だ。
しかもプレシアの部屋に向かうには必ずその通路を使わなければならないので、侵入者はこの罠を避けては通れない仕組みだ。
実はプレシア殺害時にドゥーエもこの通路を通ったが、その時はステルスジャケットのおかげで罠の目を潜り抜けている。
そうでなかったら今頃黒焦げの消し炭になってこの反乱劇は未遂に終わっていた。
アルフはその罠に嵌ってもなお立ち上がろうとしたが、追い付いてきたガジェットの一斉砲撃で散っていった。

『それでは僕達は引き続き動力炉の守備に就きます』
「もう侵入者いないから大丈夫だと思うけど、一応気を付けなさい」
『お気遣いありがとうございます、ではまた後ほど』

そう言ってオットーとの通信は終わった。
結局最後までオットーの表情が変わる事はなかった。
あの夜天の融合騎に勝ったのだからもう少し嬉しそうな顔をしたらいいのに。
やはりアジトに戻ったらその辺りの感情の希薄さはクアットロ及びドクターに一言突っ込まねば。
そう心中で考えを巡らせていると、また別のモニターが新たな人物との通信を告げていた。

695 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:14:15 ID:GSDRaqe.0

それはドゥーエ達の主であるDr.スカリエッティからのものだった。

『ドゥーエ、そちらの作業の進捗具合はどうかな?』
「ええ、ウーノの方は予定通りに進んでいます。
 それと、ついさっき夜天の融合騎リインフォースと使い魔アルフの消滅を確認しました」
『そうか、これで不安因子はなくなったか』
「……ところでドクター、一つお聞きしたい事が」
『ん、なにかね?』
「なぜ首輪の爆破機能を解除したのですか? あれでは制限から完全に解放される者が現れる可能性があります」

周知の通り、首輪の爆破機能は放送の際にドクターの指示でオフになっている。
つまりその時点で誰でも安全に首輪を外す事ができるようになったのだ。

そもそも首輪には爆破機能の他にも盗聴や位置情報などの送信機能、そして制限の調整機能も密かに動力源の部分に組み込まれていた。
これは会場全体にかかっている制限を参加者ごとに強めたり弱めたりする機能だ。
だいたい生き残りの面子の中でも屈指の魔導師である高町なのはと一般人である柊かがみが同じ制限を受けているはずがない。
もし同じ制限を課せばどちらかに不都合が生じてしまう。
その不都合を是正する機能がこれだ。
例えばなのはの場合は会場の制限を強めたり、かがみの場合は逆にそのままか弱めたり。

そして支給品として配られた多種多様な道具にも一様に制限が掛かっていた。
これはひとえに制限の出所が首輪ではなく会場のある場所であるからに他ならない。
それはずばり地上本部。
その地下にはあらゆる特殊な力を抑制させる装置が設置されている。
実のところ転移魔法陣は会場に制限を行き渡らせる出口のようなものであり、転移魔法はその余剰エネルギーの活用であった。
ちなみに参加者が最初に集められた広間も実はここであった。
一番制限を強く受ける場所だからこそ皆静かにプレシアの宣言を聞く他なかったのだ。

そのような重要装置をわざわざ地上本部に設置した理由は主に二つ。
一つは会場全体に制限をかけるには会場の中心が一番効率的だったこと。
もう一つはまさかそんな重要なものが目に付く場所にあるはずがないという参加者の心理的盲点を利用したこと。

だからこそ地上本部は参加者の攻撃では倒壊しないように他の施設以上に丈夫に設置されていたのだが、結局相次ぐ激戦の末に耐久範囲を超えたために倒壊してしまった。
今となってはキャロやキース・レッドによる内部破壊は全体からすれば僅かなものだった。
その直後のセフィロスによるスーパーノヴァはエリア一つを崩壊させる程だったが、なんとか耐えきった。
だがあまり時間を置かずに放たれた『妖艶なる紅旋風』により、とうとう耐久限度を超えてしまった。
バックアップ機能ですぐさま地下に代替の魔法陣は出現したが、あくまでそれはバックアップ機能のおかげでしかない。
さらなる被害を受ければどうなるか不安があったので、結局プレシアは地上本部があるE-5は禁止エリアにせざるを得なかった。

つまり今の参加者がこの事実に辿り着けば首輪を外して禁止エリアのE-5の地上本部にある転移魔法陣ごと地下の制限装置を破壊すれば全ての制限から解き放たれる事になる。

『なるほど、君はそれを危惧しているのか』
「はい、あと数時間でウーノの作業が終わるとはいえ油断は禁物かと」
『君の心配はもっともだ。だが、例え彼らが制限から解き放たれたところで何もできはしないだろう』
「と、言いますと?」
『なに簡単な事さ。今の時点でだいぶ消耗している彼らの制限がなくなったところでは君達を相手にするのは少し厳しいだろう』
「確かにそうですが……」
『それに行き先が分からないのではどうしようもあるまい』
「ああ、なるほど。確かにそうですね」
『だが万が一という事もある。ドゥーエ、引き続き会場の監視の方も頼むよ』
「はい、了解しました。ではドクター、勝利の美酒などを用意して待っていて下さい」
『うむ、君達の帰還を心待ちにしているよ』

そう言って次元の向こうにある自分達が元いた世界のアジトにいるドクターとの通信は終わった。
かなり長いこと自分も含めて数人のナンバーズが留守にしていて心配でないかと言われれば嘘になるが、あちらにもガジェットやナンバーズは残っている。
それゆえに大して心配はない。

「さて、プレシアの夢の果てがどういう結末を迎えるか見届けましょうか」

696せやけど、それはただの夢や ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:16:35 ID:GSDRaqe.0


     ▼     ▼     ▼


ああ、私は破れたのか。

私は皆を救う事も、プレシアを止める事も、何もできなかった。

どこの誰でもいい、どんな手段でもいい。

この絶望の輪廻を断ち切ってはもらえないか。

あの会場に連れて行かれた者達だけでいい、救ってはもらえないか。

神でもいい、悪魔でもいい。

どうか、あの子らを救ってくれ。

そして、使い魔アルフ、私の最後の力をお前に与え――。















――せやけど、それはただの夢や。


【全体備考】
※リインフォース@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−、アルフ@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−、共に消滅しました。

697 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 00:18:28 ID:GSDRaqe.0
投下終了です
誤字・脱字、矛盾、疑問などありましたら指摘して下さい

698リリカル名無しStrikerS:2010/12/13(月) 08:06:12 ID:CwLXddxkO
投下乙です
惜しいな どっちもあともう少しだったのに
地上本部か 誰か気付けばいいけど

699リリカル名無しStrikerS:2010/12/13(月) 08:31:15 ID:d7EGlnag0
投下乙です。
あー、やはり2人だけで突破は厳しいかー。
で、制限突破の鍵は禁止エリアの地上本部……ちょっと待て、魔法陣の存在気付いているのはキングと金居……ダメだ、どうしようもねぇ(あと1名? ……今更、仲間と協力出来ると思います?)
……でもキングか金居辺りの場合突入出来れば無双できるよな?

1つ疑問ですが、これは主催パートだけなので外伝扱いなんですか? だからこそ時間表記も無いという解釈で良いのですか?

700 ◆HlLdWe.oBM:2010/12/13(月) 08:58:10 ID:GSDRaqe.0
その点はどうするかちょっと悩んでいます
少し前なら迷わず外伝扱いにしたと思いますけど、終盤で放送パートであれだけ出ているから本編扱いにした方がいいのか
もし本編扱いするなら時間表記は付け加えておきます、たぶん【2日目 黎明】になると思います

701 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:10:00 ID:9AGMIfD.0
スバル・ナカジマ、柊かがみ、八神はやて(StS)分投下します。

702Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:11:20 ID:9AGMIfD.0
【2】 Powerless





 轟音が響き渡ると共に、スバルは意識を取り戻した。



「ん……んっ……」



 彼女のいる場所はC-9にあるジェイル・スカリエッティのアジト、その内部にある戦闘機人の修復を行う事の出来る生体ポッドの中だ。
 少し前、こなたの仇討ちをする為はやてを殺そうと仮面ライダーデルタに変身した柊かがみを止める為交戦したものの惨敗した。
 だが彼女の凶行を止める為、そしてなのは達と共にこのデスゲームから脱出する為、戦闘機人であるスバルはここの施設を使い自身の身体の治療……いや、修理を行っていた。
 ポッドに入った彼女はこれまでのダメージも大きかったせいかすぐに意識を手放した。そして先の轟音と共に意識を取り戻したのだ。
 スバルはすぐさまポッドから出て脱ぎ捨ててあった服に再び袖を通す。
 身体の調子は完全では無いものの戦えるぐらいには回復した。特に左腕の骨折も直ったのが大きい。



「あれからどれぐらい経ったんだろう……」



 だが不安要素も数多い。これだけの治療を行うのにどれだけ時間を費やしたのかがわからないのだ。
 一応、約26時間程前、負傷した戦闘機人がここの施設を使い約1〜2時間程度で完全回復した実績がある。とはいえスバルにはそれはわからない話だ。
 何にせよ、これ以上治療に費やしている時間は無いという事だ。



 服を着たスバルはレヴァンティンを起動し自身のバリアジャケットを展開する。これでとりあえずの戦闘準備は完了した。
 だが、戦場から離れていた時間は決して短くはない。果たして戦況はどうなっているのだろうか?

 把握している範囲ではかがみを殺そうとしていたはやてに対しなのはが対峙していた。
 2者の戦いがどうなっていたかについては自身の戦いに集中していた為把握していない。
 しかし自分達の戦いに影響が及んでいなかった事から考え恐らくなのはははやての矛先が向くのを避ける為戦場を移しながら戦ったのだろう。
 両者の実力は殆ど同等、おまけに10年来の付き合いという事も踏まえ互いの性格や手の内は殆ど把握済だろう。
 故に、両者の戦いがどうなるかは全く不明。なのはがはやてを止めている可能性もあるし、はやてがなのはを倒している可能性もある。
 そして何より共倒れになっている可能性も否定出来ない。
 勿論、散り散りになっていたヴァッシュや天道、危険及び謎の人物であるキング、アンジール・ヒューレー、金居が介入した事で泥沼に陥っている可能性もある。

 だが、如何なる状況であったとしてもはやて達がいる所にかがみが向かっている事は確実だ。
 スバルとしてはかがみにはやてを殺させるつもりもかがみにはやてを殺させるつもりもない。何としてでも最悪の結末を迎える前に止めに向かいたい所だが――





「あれ……?」



 すぐ近くにある物が落ちている事に気が付いた。スバルはそれを手に取り、



「これ、ギン姉のリボルバーナックルだ……」



 それはスバルの姉ギンガ・ナカジマのリボルバーナックルであった。スバルの持つ右手用と違い彼女のは左手用だ。
 というより元々リボルバーナックル自体が彼女達の母親クイント・ナカジマの遺品であり、右手用をスバルが、左手用をギンガが使っているわけだが。



「ポットに入る時には無かったと思うんだけど……」



 スバルが考えたのは、アジトに元々置かれていた。もしくは放置されていた可能性だ。
 だがよくよく考えてみれば、既に何人もの出入りがある筈なのにずっと放置されていたのは奇妙な話だ。
 それ以前に幾ら治療優先とはいえ、リボルバーナックルの存在を見落とすなど注意力散漫にも程があろう。
 何にせよ、これである程度本来の戦い方は可能。幸い骨折の治療は済んでいる為使用にも支障はない。これで何とか戦える筈だ。

703Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:14:00 ID:9AGMIfD.0





 準備を済ませたスバルは大急ぎで出口へと向かう。いち早く戦場へと戻る為に――





 そして、出口のすぐ傍に“それ”はあった――





「え……何……これ……?」




 “それ”をもっとも分かり易い言葉で言えばバイク――
 だが、“それ”は並のバイクよりもずっと巨体で、バイクというよりは兵器としか言いようが無かった。
 “それ”の名はジェットスライガー、スマートブレインが自社の作り出した仮面ライダー3体の為に作った超絶バイクである。





 だが、スバルにとってはそんな事などどうでも良い。何故ジェットスライガーがここにあるのかが問題だ。
 そんな中、ジェットスライガーの前に何かの残骸が落ちているのを確認した。





「これって……もしかして……デルタのベルト?」





 そう、それは先程スバルと戦ったかがみを変身させていた仮面ライダーデルタのベルトの残骸である。
 だが、何故残骸だけなのか? 着けている人物は何故いないのか?
 頭の中で疑問が渦巻く中、スバルは今まで何故か視線を向ける事が出来ないでいたジェットスライガーの操縦席に視線を向けた。





 ジェットスライガーの存在感故に気付けなかったのか――
 もしくは、待っている現実が受け入れがたかったが故に視線を背けていたのか――





 スバルは遂に『それ』を確認した。そう、『それ』なのだ――『何者か』ではないのだ――





「か……がみ……さん……」





 操縦席には、背中をもたれたままのかがみが眠る様に座っていた。すぐさまスバルはかがみに駆け寄り抱き抱え呼びかける。





「かがみさん、かがみさん! 目を開けてください!!」





 必至に呼びかけてもかがみは何も応えない。





 それもその筈だ。既に彼女の身体は冷たくなっており、心音も止まっていた――





 そう、柊かがみは既に死んでいたのだ――

704Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:16:05 ID:9AGMIfD.0





「そんな……どういう事……?」





 スバルには何が起こったのか理解出来なかった。



 恐らく、あの後かがみははやての所に向かった筈、それだけは間違いない。
 だが、何故去っていったかがみがわざわざ戻り死んでいたのだろうか?
 そんな中、スバルは操縦席の下に何かが置かれているのを確認した。
 それらから考えある仮説を導き出した。
 かがみははやてを殺す為に出て行った。恐らく、目的を達成するまで戻る事は無いはずだ。
 つまり、かがみははやてを殺害する事に成功し戻ってきたという事だ。操縦席の下に置かれているのははやてを殺す事で手に入れたボーナス支給品というわけだ。

 では、かがみは何故死んでいたのだろうか? はやてと相討ちになったならばここに戻ってくる事など有り得ない。
 ここが戦場になっていたのであれば戦いの音が聞こえていたはずだし、何より近くにはやての遺体が無い為それも無い。

 その最中、かがみの遺体にあるものを見つけた。
 それはかがみの両手首及び両足首、そして腹部から大量の出血があった事だ。
 聞いた話では、これは数時間前にはやてによって傷付けられた傷で、なのはと天道がそれを治療したらしい。

 それを見る内にスバルはかがみ死亡の原因に気が付いたのだ。



「まさか……あの戦いで……」



 そう、自分との戦いにより、傷口が開いて再出血を起こしたという事だ。前述の通り治療はしたが、完全回復には至っていなかったという事だ。
 その傷が開いた事で出血し、失血した事でかがみは死に至ったという事だ。つまり――


「あたしが……あたしがかがみさんを……殺したんだ……」



 決定的な証拠はもう1つある。それが先程のリボルバーナックルだ。それはかがみを結果的に殺した事でスバルの元に転送されたというわけだ。



 スバルは受けたショックは計り知れない。当然の事だ、助けるつもりだった人物を結果として殺してしまったわけなのだから――
 だが、あの時はかがみを倒すつもりでいかなければ止められなかった故、全力で戦うしかなかった。もっとも全力で戦っても止められなかったわけだが――
 勿論、状況的に考えてある意味では仕方のない話ではある。だが、その事実からスバルは俯き動けないでいた。



 助けたい意志を持っても、結局の所誰も助けられなかったのだから――



 勿論、ここだけではない。そもそもその前段階で致命的なミスを犯していたのだ。
 もし、ホテルにいた段階で千年リングを粉砕していればリインが死ぬ事も無かった筈なのだ。
 あの場でリインを死なせなければはやてが広域攻撃を放ち仲間を散り散りにさせる事もなく、更にこなたを死なせる事もかがみが復讐に堕ちる事も無かった筈なのだ。
 なのは達はその事を強く咎めなかったが自身の行動が最悪な結果を招いた事実に変わりはない。



 体は戦える程回復しても、心が戦えなくなってしまったのだ――

705Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:16:45 ID:9AGMIfD.0





 そんな中、





「どうして……どうして……どうしてそんなに……



 満足そうな顔しているんですか――?」





 かがみの死に顔は信じられない位に満たされた顔をしていた――





 何にせよ、かがみをこのままにしておけない為、ジェットスライガーから降ろそうとしたが――





 操縦席に血で何か書かれているのを見つけたのだ――





「これは……」





 それはかがみがスバルに遺した最期の――

706Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:18:48 ID:9AGMIfD.0










【5】 Lucifer





 『彼女』の頭は恐ろしい程に冷えていた。
 アジトを出た『彼女』――親友を殺した悪魔に復讐する為に仮面ライダーデルタの力を得て魔人――
 いや、悪魔を殺すという意味では天使といった方が良いだろう。とはいえそれは地に堕ちた堕天使ではあるが――
 堕天使となった『彼女』はすぐさま悪魔を探す。ジェットスライガー到着まで待つべきではあったが、彼女はそれを待たず行動を開始した――



 もしかすると、既に『それ』に気付いていたのかも知れない――



 そして程なく、轟音と共に西方向から猛烈な突風が吹き込んできた。それは恐らく先程悪魔が使ったあの技だろう。
 故にその方向に悪魔がいると判断し其処へと向かった。


 それが、自分を信じてくれた者達に対する裏切りなのは理解している。同時に、きっと自分を信じ助ける為に悪魔を止めようとしている者は今の自分の凶行を止める筈だ。
 それを裏切る事もそうだが、彼女の友人である悪魔を殺す事で彼女を悲しませる事が全く心苦しく無いといえば嘘になる。
 それでもこれだけは譲れない。他の皆にだって譲れないものがあるのと同じ様に――

 仇討ちや復讐など誰も望まないのは理解している。そう、これは自分の為の行動でしかない。只の自己満足だという事だ――

 勝算などあるわけがない。体は既にボロボロ、一方の悪魔は先程自分が倒した相手よりも圧倒的に強い――それは先の暴風を見ても明らかだ。
 それでもこの想いだけは譲れない。



『本当に強いのは――!』



 脳裏に浮かぶのはホテルで戦った人の姿を騙った緑色の怪物の言葉――



『――人の、想いだッ!!』



 そう言って、怪物の力を使うことなく想い無しに只得ただけの力に溺れていた自分を打ち破った。



 ああ、まさしくそれは正しかった。今自分を突き動かしているのはベクトルこそ真逆かも知れないが確かに人の想いであるのだから。



 その想いを通す為にも絶対に負ける事は出来ない。だからこそボロボロの体を引きずってでも行くのだ。
 力が足りないならば命を原動力とすれば良い、命でも足りないならば想いを原動力とすれば良い、
 だからこそ、もう1度だけチャンスを与えてくれと――



 堕天使が暴風によって荒廃したエリアに入った瞬間、桃色の光が直撃するのが見えた。
 ああ、きっと悪魔を止める為に彼女が撃ったのだろう。文字通り全力全開の――
 彼女は悪魔も堕天使も助けるつもりだったのだろう。そんな事は百も承知だ――



 だが、堕天使は敢えてそれを裏切るのだ――



 爆心地には悪魔がいた――



 それは最後に見かけた時とは違い随分と見窄らしい姿だった。武器と右手を失い何かの本と宝石に懇願している姿だった――
 嗚呼、こんな奴に我が友は殺されたのか――
 空しさを感じないではないが、止まるつもりはない――






 悪魔の力を奪うべく――堕天使は迷うことなく本と宝石を撃ち抜いた――

707Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:20:40 ID:9AGMIfD.0










【4】 Egoist





「……柊、かがみ」
「見つけたわよ、八神はやて」



 八神はやてはデルタを見上げながら憎悪の目を向けていた。



「何て事をしてくれたんや……何をしたかわかっているんか?」
「何かは知らないけど、それで私やなのは達を殺そうと思ったんでしょ? そんな事素直にさせる馬鹿もいないわよ、只の本にそんな力あるかどうか知らないけど」
「これは只の本やない! 私達家族にとって大切なものだったんや! それを……」



 しかし、何とか冷静さを取り戻し、



「……スバルはどうしたん?」
「今更私の言う事を信じるの?」
「答えろや……」
「心配しなくても殺してはいないわ。暫くは動けないと思うけど……もっとも、貴方には関係ない事よね。
 ところで、その姿は……いや、やめときましょ、大方の予想は付く事だし」



 そう言いながらデルタはデルタムーバーを構える。それを見ながらはやては、



(本当に最悪な事態や……コイツがスバルをどうしたにせよここにいる以上スバルは負けたってことに変わりはない……
 かといって、こんな状態じゃ勝てるわけなんてない……
 くっ、こなた殺した時に得た回復液少しでも温存しとくべきやったわ……何か方法は無いんか……?)



 この局面を切り抜ける方法を考えていた。約2時間ぐらい前は魔力も体力も万全で武器も揃っていたのに今じゃその全てが失われ右手すらも無くなった状態だ。
 放っておいても死ぬ可能性もあるのに、戦う事など出来るわけもない。だが、



(いや……まだ方法はある……さっき私をなのはちゃんが撃ち抜いたってことはまだなのはちゃんは無事や。
 なのはちゃんのことやから、私を拘束する為にすぐに向かってくる筈や。なのはちゃんさえ来ればまだ何とかなる……
 何とかして時間を稼ぐんや……)



 高町なのはが到着すれば、なのはは十中八九デルタを止めると共に自分を助ける。そうなれば幾らでも逆転のチャンスが出来るという事だ。



(なのはちゃんが言っていたな。確かコイツがデルタに変身した理由は……それが確かなら……)



 正直、この悪鬼に頭を下げる事すら耐え難い屈辱だ。それでも、目的を果たす為に敢えてはやては立ち上がり、



「こなたのこと……すまんかったな……」
「……!」



 泉こなたを殺した事についてデルタに頭を下げた。それに反応してかデルタの動きが一瞬止まる。



「今更言っても信じて貰えるとは思えないけど、こなたを殺すつもりは無かったんや……まさかあそこでこなたが飛び出して来るとは思わなかったんや……」



 そう、少なくてもその事は嘘ではない。
 あの時はやての位置からはこなたの姿は確認出来なかった。故にこなたを殺した事に関しては完全に事故だったのだ。

708Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:21:15 ID:9AGMIfD.0



「あの時はリインを殺されたお陰で色々と気が動転していたんや、だからこなたが死んでも悪いなんて思えなかったんや。
 けど、自分でも馬鹿な事したと思ってる……本当にごめんな……」



 あの時はリインフォースⅡを惨殺されて感情的になっていたのも事実だ。だからこそこなたが死んでもそれを悪いとは思えなかった。
 だが、許されざる事に変わりはない。だからこそはやては謝罪を続ける。



「そう……」



 はやての謝罪を聞いて、デルタはわかってくれた様な素振りを見せる。



(よし……何とか踏みとどまってくれた……)



 だが、はやては心の底から謝罪をしているわけではない。確かにこなたを殺した事に関しては悪かったと思っている。
 しかし、はやてにとってこなたの犠牲など今後に尾を引く事項ではない。
 はやてにとって重要なのは家族を助け出す事、その為には何を犠牲にしても立ち止まるつもりは全く無い。
 こなたの犠牲もその過程で発生する犠牲の1つでしかないのだ。
 罪の償いなど全てが終わった後で幾らでもやってやる。プレシア・テスタロッサの技術を手に入れれば幾らでも取り戻せる。
 だが、自分の命が無くなればそれも達成出来なくなる、だからこそ今は生き残る為に謝罪のポーズを取るのだ。



(なのはちゃんが来ればチャンスが出来る、戦うならその隙に離脱すればいいし、戦わないなら隙を見て殺せば良い……こんな所で終わってたまるか……)



 そう考えた矢先、何かの音が響いてきた。



(よし、なのはちゃんや! これで……)



 そう思い、邪悪なる笑みを浮かべたが、







「言いたいことはそれだけ?」







「え?」







 その瞬間、デルタムーバーからの銃口から光線が発射された。







 それはさながらほんの数時間前展開されたやりとりと似ていた。
 違うのは撃つ側と撃たれる側が逆になった点、
 そして、あの時とは違い銃身を掴む者がいなかった点だ。故に――







 ――光線は何事もなくはやての左手に命中した。

709Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:21:50 ID:9AGMIfD.0







 デルタは更に2度引き金を連続で引き、右足、左足へと連続で光線を撃ち込んだ。







「がっ……はっ……」







 はやてはそのまま倒れ込んだ。そして見た、今やって来たものを――







「な……なんなんや……それ……」







 それはバイクとも戦車ともつかない異様な乗り物だった。



「あんたをブチ殺す為の堕天使の翼って所ね。もっとも、もう必要無いみたいだけど」



 デルタは何事も無かったかの様に言い放った。



(そういやユーザーガイドにそんな事も書いてあった様な……くっ、そんなんでくるんやったらもう少し温存して戦うべきやったわ……)



 仮の話だがスターライトブレイカーの直撃を受けなかったとしても、消耗した状態で先の乗り物ジェットスライガーに乗ったデルタ戦うのは厳しかっただろう。
 故にはやては自身の判断の甘さを呪った。もし、勝負を急がずもう暫くなのはと静かな小競り合いを続けていれば十分に対処出来た。
 だが、今となっては後の祭り、両手足からは血が流れ出しておりもはや立つ事すら出来なくなった。



「運良くなのはが来れば助かるかもしれないわね……」



 デルタは何処かで聞いた様な台詞を口にした。しかしその時とは違い更に言葉を――



「でも、そんな可能性だって与えてあげないわ……バレバレなのよ、アンタの狙いはね!」
「なっ……」



 デルタははやての目論見を見破っていたのだ。



「大体右手を失った時点でアンタは死にかけ、残った道具もさっき私が壊した、そんな状況で助かる方法なんて誰か助けに来てくれる事なのは少し考えれば誰だってわかるわよ!
 おおかたなのはが来てくれるのを期待していたんでしょ?」



 先程までの静かさとは違い力強い声で言葉を紡いでいく。

710Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:22:30 ID:9AGMIfD.0



「そういえば来る途中でヴァッシュの死体見つけたけどアレもアンタの仕業よね? 何でヴァッシュを殺したの?」
「アイツはリインを殺した……だから仇を取ったんや……それについては全く悪いとは思ってへん……」



 そう、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはリインを殺害した。だからこそその仇討ちをした。全く後悔していない。



「ふぅ……アンタ、ヴァッシュの事全く理解していなかったでしょ? いや、そもそも理解するつもりもなかったんでしょうね……」
「どういう意味や……?」
「ヴァッシュはスバルやなのは達同様恐ろしい程のお人好しよ? そんなアイツが何の理由も無しに人殺しするなんて思っているの?」
「アイツは凶悪な力を持っていたわ……それでフェイトちゃんを殺したって言っていたし……大方それがまた暴走したんやろ……」
「だったら無力な私殺すよりも先にヴァッシュ殺せば良か……そうだ、もう1つだけ確認させて。千年リング誰が持っていたか覚えている?」
「は?」
「答えないんだったらそれでも良いわ。このまま撃ち殺すだけだから」



 そう言いながら更に腹部に光弾を撃ち込む。



「がばっ……せや……確か……アイツが持って……まさか……」



 この瞬間、はやてはあの瞬間起こった事の真相に気が付いた。
 千年リングの中にはバクラという凶悪な魂がいたらしい。はやてはヴァッシュからそれを聞かされていた。
 恐らく自分達が揉めている隙を突いてヴァッシュの体を一時的に乗っ取りリインを惨殺したのが真相だろう。



「せやけど……乗っ取られたりしないって言っていた筈なんや……せやから……」
「それでずっと持たせていたの? 有無を言わさず私を排除しようとしていたアンタにしては随分とお粗末な話ね。
 あのお人好しのスバルが警戒していたの知らないの? アイツ、私が殺し合いに乗っていたのはバクラのせいだって思っていたわよ。
 それ聞いているんだったらもっとちゃんとした対応出来ていたと思うけど?」
「なんや……それじゃまるで私が悪いみたいや……」
「みたいじゃなくてそうだって言っているのよ。
 ハッキリと言ってやるわ、リインを殺したのはヴァッシュじゃなくてアンタよ、八神はやて」



 自分が助けたかった家族を殺した? それははやてにとって耐え難い現実であった。その言葉に衝撃を受けないわけもない。



「な……なしてそんな事になるんや……!?」
「わからない? バクラの存在を知っていてそれを放置したのはアンタ、
 バクラの危険性を知りながらその時無力だった私の方にかまけていたのもアンタ、
 そしてなのは達と揉めた事でバクラに付けいる隙を作ったのもアンタ、
 全部アンタが原因じゃないの?」



 勿論、バクラの存在を甘く見ていたという意味ではスバル達も同罪ではあったし、同時に揉める原因が自分自身にあった事は理解している。
 それでも敢えて其処には触れずはやての落ち度を突き付けていく。



「巫山戯るな……そんなアホな屁理屈が通るかい……」
「ええ屁理屈よ、でもアンタに責任が全く無いとは言わせないわ。今この状況を作ったのはアンタの行動が原因なんだからね」
「違う……アンタがおらんかったら万事上手くいっていたんや……!」



 デルタの言葉にはやては反論する。揉めて隙を作った原因はデルタであったし、なのはとここまで泥沼な戦いをした原因も彼女にある。
 真面目な話、彼女がいなければ綺麗に集団が出来ていたと言っても過言ではないだろう。



「少し前に私に言った事覚えている?
 『全部が全部と言うつもりは無いが、あんたの行動の殆どは決して許されん悪行や』
 そう言っていたわよね?
 そりゃ揉める原因自体は私にあったわ。でも、私が言うのもおかしいけどアンタがあそこでもう少し歩み寄ってくれれば別の結末もあったんじゃないの?
 例えば殺し合い終了まで両手両足を拘束するとかっていう風にね……それだったらなのはだって了承してくれた筈よ?」
「それは……」
「大体なのはとは友達なんでしょ? 少し考えれば揉めるってわかっていてどうしてそんな馬鹿な選択肢を選ぶの?
 馬鹿な選択をしたのはアンタでしょ? それについてまで私に責任押しつけないでくれる?」

711Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:23:30 ID:9AGMIfD.0



 はやての脳裏にクアットロに言われた言葉を思い返す。



『仮にはやてちゃんが運良く合流して私を殺す様言っても同じ事だと思いますわよ。むしろ彼女達と仲違い起こす事になるだけじゃないかしら?』
『でも、仲違い起こすとわかっていて本音を隠さないのはどうなのかしら? 敵である私にすらバレているんじゃ只の大根役者ですわね』



 クアットロは自分を斬り捨てる際、(本人にとっては何時もの調子で馬鹿にしていただけなのだろうが)御丁寧に忠告してくれた。
 そう、クアットロはわかっていたのだ。はやての行動が火種そのものだという事を。
 はやてはそれを一度は理解しようとした。だが本当に理解出来ていたのだろうか?
 いや、理解したつもりになって結局何も変えなかったのだ。その愚かさこそが無用な対立を引き起こしリインを死なせる結果になったという事だ。



「違う……全部アンタが……」



 それでも目の前の堕天使にだけは言われたくはない。故にはやては睨み続ける。



「それからアンタなのはが来るまで時間稼ぎしてたけど、森をこんなにしたって事はなのはを殺すつもりだったんでしょ?
 散々なのはを殺そうとしていて、自分が困った時には都合良く助けを求めるって虫が良すぎない?
 まぁそれでもなのはは助けるでしょうね。あれだけされても右手吹っ飛ばすだけで済ませているんだものね」
「黙れや……」
「私に言ったわよね、
 『スバルやなのはちゃんの良心に付け込んでまた騙すつもりか?』
 その言葉そっくりそのまま返すわ」
「私は騙してなんかいない!」
「黙れ人殺し……!」
「お前が言え……」
「なのはの事だけじゃないわ。アンタ、ヴィヴィオも殺したでしょ?」



 突然ヴィヴィオの名前が出てきた事ではやては一瞬あっけにとられた顔をする。



「え……ヴィヴィオ……どういう事や……?」
「あの場にヴィヴィオがいたでしょ? それも死にかけの状態でね……そんな状態であんな攻撃放たれたらどうなるかなんて考えるまでもないでしょ?」
「いや、ヴィヴィオは……死んでなんかない……」



 はやて自身、あの瞬間ヴィヴィオの存在は完全に失念していたし、それ以降もヴァッシュやかがみの存在に夢中で全くヴィヴィオの存在に気が回らなかった。
 だが、ボーナスの転送が無い事から彼女の生存は間違いない。



「死んで無いから問題ない? 語るに落ちたわね……死んでさえいなければ殺す程痛めつけても構わないって理屈もないでしょ……」



 その声は何処までも冷たく、はやての心に突き刺さる。



「というか……アンタ私を殺す時シグナムを殺したからって言っていたわよね? 確認したいんだけど、彼女自分の為にアンタが手を汚す事を望んでいたのかしら?」
「な……何を……?」
「デルタのシステムでおかしくなってたからあんまり覚えてないんだけど、確かアンタシグナムに罪を償っていこうって言っていた様な気がしたのよね?
 それから考えると、どう考えてもシグナムが仇討ちを望んでいるとは思えないのよね?」



 それはもう1人の自分の話だろう。この堕天使は自分ともう1人の自分が同一人物だと思っているのか? そうはやては考えていた。



「もしかしてシグナムってあんたに人殺しをさせたがる残虐非道なド悪人なのかしら? それなら納……」
「巫山戯るな……それ以上シグナムを侮辱する事は……」
「でしょうね。やっぱりシグナムはそんな事望んでいないわよね……」
「何が言いたいんや……?」
「簡単な事よ、アンタは家族の為とかどうとか言っているけど結局の所自分の為にしか戦っていなかったって事よ」
「なっ……違う、私は……」
「違わないわ、アンタにとっては友達も仲間も部下も全部自分を満たす為の道具でしかないわ! 家族ですらね!」
「違う……違う……」
「だったら何でなのはやヴィヴィオを殺そうとしたの!?
 それはつまりアンタにとって自分の意を沿わない奴はみんな邪魔者なのよ!!」
「違う……それは家族を助け……」
「わからないの!? 家族を言い訳にする事自体が家族に対する冒涜よ! 大体さっきアンタ自身がシグナム達が人殺しを望むわけ無いって言っていたでしょ!? それをアンタは自分から裏切っているのよ!
 こんな奴を守ろうとしたシグナムやなのは……それにスバル達が可哀想よ……」
「五月蠅い……」

712Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:24:10 ID:9AGMIfD.0



『何がきっかけなのかは知らんが、他者を利用し陥れることを嫌い、他者を切り捨てることを嫌い……
 ……たとえ自分が傷つこうとも、その目に映るもの全てを、その手で守り抜こうとしていた』
『お前は――『八神はやて』ではない』



 脳裏にはセフィロスが自分を否定した時の言葉が、
 わかっている。確かに自分はあの時とは変わった。しかしそれは全て家族を取り戻し本来の自分を取り戻す為なのだ。
 その為ならば友人も仲間も部下も全部利用すべきものでしかない。それは奴の言う通りだ。
 だが、この殺人鬼は取り戻すべき大事な家族すら道具もしくは利用すべき対象だと言い切ったのだ。何故そこまで言われなければならないのだ?



「人殺しが……偉そうな事言うな……苛々するわ……」
「そうね……そろそろ終わりにしましょう」



 と、デルタはデルタムーバーを構える。



「安心したわ、あんたがこなたを殺した事を後悔してくれないでいてくれて……これで心おきなく殺せるわ」
「何……?」



「こなたはね……馬鹿みたいにアニメやゲームが大好きだったのよ……
 運動とか得意な癖に夕方のアニメが見られなくなるから部活に入らないぐらいだったのよ……
 本当だったらきっとアイツはこれからも深夜のアニメや日曜の特撮を見て馬鹿みたいにつかさやみゆき達にその事を話す筈だったのよ……」



 何かと思えば遊ぶ事しか考えていない餓鬼ではないか。はやてにとってそんな人間に存在価値など無い。
 正直、ボーナス要因の価値しかない。彼女を殺した自分の判断は間違ってはいないと言える。
 そう、そんな下らない人間の為に命を懸けるなど愚の骨頂なのだ。



「そんなアニメやゲーム如きしか考えてへんなんて……下らん……」
「こなたの侮辱は許さない! アンタに譲れないものがあるのと同じぐらいこなたにだって譲れないものがあった!
 こなたにとっては何よりもアニメとかが大切だったのよ! それを否定なんて誰にも……特にアンタには絶対にさせない!
 そのこなたを虫螻の様に殺したアンタだけは絶対に許さない!」
「仇討ちやって喜ぶ様な下衆なんか、こな……」



「安心して、これはこなたの為なんかじゃない。こなたが殺された事に耐えられない馬鹿な女の只の我が儘よ……アンタと同じね……」

713Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:25:30 ID:9AGMIfD.0







 そう言って、デルタは高く飛び上がる。







「チェック……そう、アンタが好き放題他人の命や想いを踏みにじって来た様に……」







 ――Exceed Charge――







「私もアンタの想いや命を踏みにじるだけ……だから……」







 はやての真上に逆三角垂が形成される――







「眠れ……」







 それはさながら、罪人を罰する断頭台に備えられたギロチンの様に――







「地の底に……!」







 違うのは狙いが首ではなく腹部だという事――







「なんでや……こんなところで終わるんか……」







 不可避の死が迫ったせいかデルタの動きは恐ろしい程に緩やかに感じたた――
 しかし身体は動かない――
 それもその筈、両手両足は潰され腹部からも血が流れており体力も魔力も底をついている――

714Zに繋がる物語/白銀の堕天使 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:26:05 ID:9AGMIfD.0







「私は家族を取り戻したかっただけなんや……人殺しがしたかったわけやないんや……なのに……なんで誰も助けてくれないんや……」







 どんなに懇願しても堕天使は止まらない――
 どんなに懇願しても誰も助けに来ない――
 なのはの体力ははやての攻撃で大幅に削られている。すぐに動ける状態ではない。
 スバルはデルタに倒され当然助けになど来られるわけがない。
 ユーノ・スクライアも今のはやてに手を出せるわけもなく助けに来るわけがない。
 ヴィヴィオについては論外だ。
 天道にしてもはやての攻撃で吹っ飛ばされたまま消息不明。
 助けを来られなくしたのは全てはやての行動が原因なのだ――因果応報、自業自得とも言うべきだ。







『それに―――力さえあれば何でも手に入ると思っているみたいやけどな―――力があった所で本当に大切な物を失う事だってある―――』







 それははやてが力に溺れた愚かな少女に対し口にした言葉だ。だがそれは自分自身では無かっただろうか?
 憑神刀や夜天の書、それからヴァッシュやアギト、そしてこなたを殺したボーナスや魔力を得て天狗になっていたのではないのか?
 結局の所、その為に友達や仲間、そして部下が離れていき、手にしていた武器すらも失ったのではないのか?







「どこで間違えたんや……どうすれば良かったんや……なぁ……?」







 それを答える者はいない。だが、本当ならば彼女は最初からその答えを知っていた筈だった。
 だが、堕ちていく内に何時しか持っていた答えすら見失ってしまったのだ――
 ここにいるのは深く永い哀しみを終わらせた夜天の書の主ではない――
 只の醜い愚者でしかない――
 その愚かなる者になど祝福の風が吹くわけなどない――







 深く――静かに――







「こんな結末……満足でけへんわぁ……」







 堕天使の槌は降ろされた――







【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS 死亡確認】

715Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:27:40 ID:9AGMIfD.0
【3】 Geass





 デルタの最強の技、ルシファーズハンマーは本来対オルフェノク用のものだ。
 何の力もない一般人がその直撃を受ければ肉体がバラバラになるのは当然の理。
 ルシファーズハンマーによって四散し青い炎で燃えるはやての死体から視線を逸らしたデルタはジェットスライガーに背を預ける。



「ごめんね……折角呼んであげたのに出番を与えてあげなくてね……」



 そう言ってジェットスライガーに謝る。仇討ちを果たした堕天使の心境は――



「『満足でけへん』……ふっ……満足なんて出来るわけなんてないわよ……」



 先程殺したはやて同様、満たされるわけなど無かった。残るのは空虚でしかない。
 同時に身体には人を殺したという実感が恐ろしい程に染み着いている。
 堕天使ははやてを殺す前に3人殺している。しかしモンスターに喰わせる、もしくは暴走状態であった為、強い実感があったかと言えばそういうわけではない。



「これが人殺しの感覚か……嫌な感覚ね……」



 今更自分にそれを口にする資格は無いとはわかっているがそれでも口にしてしまう。





 そんな中、急激に力が抜けていくのを感じた――





「そっか……私、死ぬのね……」





 思い出して欲しい、スバルと戦っていた時は文字通り全力全開、出せる全ての力で戦ってきた。
 だが、はやてと再会してからはあまり感情的にはならず悠長に長々と話をしてから彼女にトドメを刺した。

 はやての策に乗ったフリをしていたのか? 殆ど無力になったはやてが哀れに感じたから? 復讐を踏みとどまろうと考えたからか?
 それが全く無かったとは言えない。最初からはやてがこなたを殺した事を悔やみ心から謝罪してくれれば違う可能性も――
 だが、そんなのは幻想に過ぎなかった。そもそも謝罪するつもりだったのならば森を消し飛ばしなのはを殺そうとするわけなんてないのだから――
 それ以前にあの女が最初に口にしたのは本を破壊された事の恨み言だった。つまり、その時点ではやては謝罪をする気は0だったというわけだ。
 そう、はやての謝罪がこの場をやり過ごす為の方便である事は最初から解っていた事なのだ。
 だがそれで良かった。はやてが全く後悔してくれなかったお陰で後腐れ無く彼女を殺す事が出来たのだから――
 どちらにしてもはやてを見逃すつもりなんて無かったのだ――



 話を戻そう。デルタが悠長に話をしていた本当の理由――



 そう、既にデルタは戦える状態では無かったからだ。
 スバルとの戦いで前にはやてによって傷付けられた両手足及び腹部の傷が開いたのだ。治療したとはいえ完全ではなかった為、無茶をすればぶり返すのは当然の話だ。
 スバルの攻撃そのものは非殺傷でも、地面などに激突した際に受ける衝撃までは非殺傷ではない、その衝撃は確実にかがみを蝕んでいった。
 スーツの中ではずっと血が流れ続けていたというわけだ。そんな状態で戦い続ければどうなるかなど誰にだってわかる。
 つまり――





 とっくの昔に彼女の肉体は限界を超えていたのだ――

716Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:28:10 ID:9AGMIfD.0





 彼女の脳裏にあるマンガのある話が浮かび上がる。
 とあるギャングのリーダーがボスに致命傷を負わされたがそれでも仲間の力と強い精神力だけで肉体は死してもずっと活動をし続けたという話だ。
 今の自分はさながらそのリーダーの状態に似ていたのかも知れない。

 彼女は肉体の限界を超えても尚、こなたを殺したはやてを殺したいという自身の想い……我が儘を叶える為、想いだけで戦い続けた。
 緑の怪物の言葉はまさしく正しかった。僅かに残った想いだけでデルタの力を最大限に引き出しスバルを打ち倒しはやての所へ向かえたのだ。

 だが、それで精一杯。はやてと対峙した時には既に戦える状態ではなくなっていた。
 ジェットスライガーを使えばまだ可能性はあったが、そもそもそのパワーに耐えきれる確証すら無かった。
 しかし幸運にもはやて自身がなのはとの戦いで重症を負い殆ど無力化した状態になっていた。
 なのははそんなつもりでやったつもりは無かったのだろうが、その事について2つ感謝した。
 1つは今の状態でも殺せるくらい弱体化させた事、もう1つが殺さないでおいてくれた事だ。
 デルタが望むのは戦いではない。復讐の為の殺害でしかないのだ、少々拍子抜けだがそれで十分だ。

 ゆっくりと話をしていく内に少しずつ熱を取り戻し……そして最期の一撃を叩き込んだのだ。
 撃つだけで殺せたかもしれない。だが、それでは意味がなかった。
 呆気なく殺されたこなたの無念を果たす為に彼女には十分過ぎる程苦しみを与えたかったのだ。そうでなければあまりにもこなたが不憫だと思ったのだ。
 勿論、誰かが来るとなればすぐにでも射殺するつもりだった。拘りすぎて仕留めるチャンスを逃すという愚行を犯すつもりはない。



「ま、すぐ殺してもじっくり殺しても同じ事だけど……」



 そして、はやてを殺した瞬間。彼女を支えていた最期の想いは消え去った。彼女の命を支えていたのが想いであるならばそれが消えれば死へと至るだけなのはおわかりだろう。



 勿論、なのは辺りが助けに来ればまだ生きられる可能性はある。
 だが、今更生きる事に固着するつもりはない。
 厳密に言えばまだまだ生きていたいという想いが無いわけではない。だが足りないのだ、傷付きすぎた身体を生かす為には今内にある想いだけでは足りないのだ。
 それ以前に、どういういきさつにしろ天道やなのは達を裏切ったのだ、それが許されるわけがない。
 それでもなのはは自分を許すだろう。だが自分自身がそれを許せないのだ。
 自分がこなたを殺されて許されない様に、きっとなのはもはやてを殺されて許せるわけなどないのだから。
 自分にとっては仇であっても、なのはにとっては友人である事に変わりはないのだから。



「本当にバカよね……なのはもスバルも……こんな愚か者をそれでも許すんだから……」



 もしかしたら、こなたを守ってという約束を守れなかった事を悔やんでいるかもしれない。なのははそれぐらい大馬鹿者なのだろう。



「大丈夫よ……そんな事で恨んだりなんかしないから……だって……元々悪いのは私なんだから……」



 気になるのは生き残った仲間達だ。
 スバルはアジトに放り込んだから恐らくは無事、
 なのはに関してもはやての言動から大丈夫だろう。
 行方不明の天道だが何となく無事だろう。何となくだがそんな気がした。
 ヴィヴィオに関しては正直心配だ。ちゃんと誰かに保護されていれば良いが――
 あと1人――眼鏡の少年、もしかしたら男の娘か何かがいた様な気がしたが大丈夫なのだろうか?
 確か聞いた話ではまだ3人程敵もしくは不穏な人物がいるらしい。そんな連中を相手に脱出なんて出来るのだろうか?



「今更そんな資格も無いわね……結局の所、私がぶち壊した事に変わりは無いんだから……」



 そう、自分の我が儘を通す為、スバルに重傷を負わせはやてを殺した自分が言えた話ではない。
 2人分の力を奪ってしまったわけなのだから。




 そんな中、かがみの傍に何かが転送されてきた。



「そういえばボーナス支給品が出るんだっけ……でも、もう自分には必要ないわね……ま、ジェットスライガーもそれもなのは達が有効利用してくれれば……」







 そう言いながら、意識を手放――

717Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:28:50 ID:9AGMIfD.0







「あれ……? そういえば……私が死んだら誰にボーナスが出るのかしら……?」





 それはほんのささやかな疑問。そう、自分が死んだ時のボーナスは誰に支給されるかだ。
 その疑問に気付いた時、消えかけていた命の炎が再び僅かに燃え上がるのを感じた。





「そうだわ……まだやらなきゃいけない事があったわ……」





 そう口にしボーナス支給品を拾いジェットスライガーの操縦席に座る。





「こんな使い方望まないと思うけど……付き合ってくれるわね……」





 そう言って、ジェットスライガーに搭載されている武器弾薬を一斉に発射し始めた。着弾地点は荒れ果てた大地、誰に当てるわけでもない只の無駄撃ちだ。





「ぐっ……」





 元々ジェットスライガーはオルフェノクが変身する仮面ライダーの為に作られた超絶マシンだ。それゆえに身体にかかる衝撃は相当な者。
 同時に今変身しているのは衰弱した死にかけの人間だ、何時衝撃に耐えきれず事切れてもおかしくはない。





「まだよ……もう少しだけでいいから……」





 それでもジェットスライガーに搭載されているミサイルを撃ち尽くそうとした。





 デルタは考えた。自分の死後、これは生き残った参加者が使うのだろうと。
 だが、これはどう考えても過ぎた力だ。なのは達が手にした所で持て余すものだ。恐らく彼女達は搭載されている武器を使おうとはしない。
 かといって危険人物に渡すわけにもいかない。その時点でなのは達が危機に瀕してしまう。
 その為、なのは達でも十分に扱え、危険人物に渡してもその脅威を減らす為に敢えて弾薬を消耗させていたのだ。





 そして1発だけ残した上でミサイルを出し尽くした後、デルタはそのままアジトへと走り出した。





 ジェットスライガーの最高時速は時速1300km、分速にして21km強だ。当然、9km四方のこのフィールドなど1分も経たずに走り抜けられる。
 だがそこまでのオーバースペックなど出させるわけもない。少なくてもこの場に置いては大幅に制限がかけられている。
 それでも並のバイクを遙かに凌駕するスペックを発揮する事に変わりはない。数キロ程度など数分で駆け抜けられる事に違いはない。
 しかし前述のミサイル同様操縦者に大きな負荷がかかる事は間違いない。普通の人間ではその性能を引き出す事など不可能だ。
 同時に今にも死にそうな人間が耐えられる道理もない。故にかかる負荷により、デルタに残った僅かな生命力は急激に消耗していった。

718Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:29:25 ID:9AGMIfD.0





「ぐっ……」





 強い衝撃が身体を襲う。スーツ越しであっても傷付いた身体には堪えるものであった。
 気を抜けば一瞬で意識を失うだろう。それは即ち死を意味する。
 最早死ぬ事だけは確定事項、数分早いか遅いかの違いしかない。





「まだよ……今死んだら……きっとアイツは立ち直れなくなる……そうしたら……それこそ誰も救えなくなる……だから……全てが終わるまで……この身体を……保たせて……」





 今更生き延びたいというわけではない。しかし、今死んだら困るのだ。自分の死が彼女に影響を与えてしまう。
 それだけは避けねばならない。生きている間散々迷惑をかけておいて死んでもなお迷惑をかける事など耐えられない。





 そんな中、かがみの脳裏にこの殺し合いに連れて来られてから起こった事が浮かび上がってくる。
 パニックに陥りエリオ・モンディアルを撃ってしまいそのままモンスターに喰わせてしまった事、
 助けてくれたなのはの想いを裏切りデルタに呑まれた事、
 そのまま暴れ続けシグナムを殺した事、
 保護してくれた筈のLを裏切り逃げ出した事、
 万丈目準に危険なモンスターを押しつけられた事、
 そのモンスターに喰われそうになったがメビウスが助けてくれた事、
 バクラと共に色々話したりホテルで休んだ事、
 デュエルアカデミアで片目の少女を殺しスバルを襲った事、
 レストランで参加者を殺そうとしたが浅倉威達にしてやられた事、
 奇妙な空間に引きずり込まれ妹である柊つかさを浅倉に惨殺された事、
 ホテルで緑の怪物に破れた事、
 はやてに自身の罪を突き付けられ瀕死の重傷を負わされた事、
 そんな自分をなのは達が助けてくれた事、
 はやてによってこなたを惨殺された事、
 仇討ちをする自分を止める様とするスバルと戦った事、
 そしてそのはやてを仕留め遂に仇討ちを果たした事、





「本当に色々あったわね……みんな……本当にごめんね……」





 それはある意味無限に続くと思われた地獄と言っても良い。
 その中でデルタは多くの迷惑をかけた事を改めて謝罪する――





「万丈目も死にたくなかっただけなのよね……いいわ、向こうで一発殴るから……それで許してあげる……」





 死を前にして、万丈目が自分にした凶行を遂に許し――





「バクラ……馬鹿な宿主で本当にごめんね……私以外の人に出会えたらもっと違った結末もあったのに……」





 離れ離れになって消息の掴めないバクラに想いを馳せた――
 あの攻撃で吹き飛ばされて放置されたままなのか、スバル達によって破壊されたかそれはわからない――
 だがどちらにしてももうバクラにはどうする事も出来ないだろう。
 バクラは悪ではあったが、強い意志と目的を持っていた。その存在に利用されてはいたが十分に助けられた事は事実――
 が、結局自分はバクラの存在を都合良く利用しただけだった。
 それが今更ながらにすまなく感じたのだ――

719Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:30:00 ID:9AGMIfD.0





 これまでの事を思い返していく内に終焉が近付いているのを感じた。死の間際に見る走馬燈の一種なのだろう――





「不公平な話もあったものよね……」





 こなたやつかさはそういうのすら見ない内に呆気なく殺されたというのに自分にはそれを見せる。神の悪戯だとするならばなんと残酷な話だろう。





 そうしていく内に脳裏には元の世界でこなた達と話した様々なマンガやアニメなどの内容が思い浮かんでくる――

 神社の家に生まれた少女が戦国時代にタイムスリップして妖怪と人間の間に産まれた少年と共に旅をする話――
 世界や人々を守ろうとした戦士が長き戦いの果てに友となった人の心を得た怪物と人々両方を救う為ある決断をする話――
 カードゲームが大好きな少年がカードゲームの学校で様々な経験や決闘を行い成長する話――

 そう、他人事の様な作り話ではあったが自分もそれが好きだったのだ――
 何故今頃になって思い出したのか――きっと本当に大事な事は忘れた頃に気付くものなのだろう――





「そういえば……あのアニメのアイツは幸せになれたのかしら……」





 何のアニメかまでは思い出せない。確か内容はこんな話だったはずだ。
 その少年はある国の王子だったが妹と共に国を追われた、そして、妹の為に世界に君臨する祖国を倒そうとする話だ。
 だが、その先に待つのは多くの犠牲と親友との対立だった――
 普通に考えればその少年が救われる事などまず有り得ない。少年の妹が殺戮を望むわけなどないのだから――
 こなた辺りに聞けばその答えもわかるかもしれない――だが、それは最早叶わない話だ。





「きっと幸せになれる筈よね……現実とフィクションは違うんだから……フィクションの中でぐらい救われたってバチはあたらないわよ……」





 そうして考えていく内にようやくアジトの入口まで辿り着いた。





「後は……」





 デルタは変身を解除し、僅かに残った力を振り絞り自身に力を与えていたベルト一式をジェットスライガーの前に放り投げた。
 そしてすぐさま操縦席を操作し最後のミサイルを発射しベルト一式に命中させそれを破壊した。
 もう二度とデルタに変身する者が現れない様に――





 傷口からは血が流れきり、身体もとっくの昔に冷え切り、身体の感覚など最早消え失せている。もうまともに物も見えない状況だ。
 間違いない、あと数十秒で自分は死ぬと――





「これで……これで……最期よ……」





 それでも少女は右手を動かし血を使って操縦席に何かを書き残そうとする。
 それは最初に自分の死体を見つけるであろうスバルへの――

720Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:30:35 ID:9AGMIfD.0





 もし、自分が死んだ場合。自分の死によって発生したボーナスは誰の元に向かうのだろうか?
 最後にはやてと対峙した際、はやては自分に全く攻撃を仕掛けられなかった。故に彼女の元にボーナスが転送される事はない。
 では誰の元に転送されるのか? 自分に致命傷を与えた人物、つまりつい先程まで戦っていたスバルの元に転送される事になる。
 ボーナスが転送される事自体は問題ない。問題なのはスバルに自分を殺したという負い目を感じさせることなのだ。
 一歩間違えればその罪の意識から戦えなくなる可能性だって否定出来ない。それが少女には耐えられなかったのだ。
 自身の死は自身の我が儘が引き起こした結果、それを付き合わされたスバルが背負う必要なんてないのだ。
 本当は面と向かって話すべきだったのかもしれない。だが、そこまで身体が保たないのだ。
 故にすぐにスバルが見つけてくれる場所へ移動し彼女にメッセージを遺すのだ。





「あんたが殺したのは馬鹿な復讐鬼デルタ……柊ががみっていう女の子じゃない……だから……何も気に病む事なんてないのよ……
 でもきっとあんたがそれをずっと引きずる……それ自体は嬉しいけど……それじゃダメなのよ……
 まだヴィヴィオや男の娘……ユーノだったからしら……そいつもいるのよ……
 なのはや天道さんがどうなっているかわからないんだから……あんたしかいないのよ……
 今更言えた話じゃないけど……アンタがみんなを守らなきゃいけないの……
 それでも私の事を……気にするっていうなら……私の事を気にしなくなる様に……
 呪い……そう、ギアスをかけてあげる……だから……私の事は……」





 そう言いながら4文字の血文字を刻み込んだ。そして全てをやり遂げた少女は操縦席に背をもたれ込む。







「はぁ……はぁ……終わった……」







 もう何も見えないし聞こえない。意識が途切れるのを待つだけだ。
 今の自分はどんな顔をしているのだろうか?
 あの頃の様に笑っているのだろうか?
 それを確かめる事はもう出来ない。







 それでも肌をなでる風が優しく感じた。
 ああ、この世界から拒絶されたと思っていたのに許してくれるのか――
 元の自分に戻れた事を祝福してくれるのか――







 それがとても嬉しく感じた――







「ありがとう……これで……満足……できた……わ……」







【柊かがみ@なの☆すた 死亡確認】

721Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:31:10 ID:9AGMIfD.0










【1】 Nexus





「『ワスレロ』……かがみさんは解っていたんだ……あたしがかがみさんを殺した事を悔やむって……」



 操縦席に遺された血文字は『ワ』、『ス』、『レ』、『ロ』。



「馬鹿ですよかがみさん……こんなメッセージ遺すのに残った力を使うなんて……」



 はやてと戦った場所は少し離れた場所だ。はやてを殺してここまで戻りメッセージを遺すのに無駄な力を使う位ならば別の方法があった筈なのだ。
 確かにはやてを殺して得たと思われるボーナス支給品は回復には使えない為、彼女の手元には回復道具はない。それでも安静にしていればまだ可能性はあった筈だ。
 何故、彼女は残った命を無駄に使ったのだろうか?

 いや、そんな事は分かり切っている。自分がかがみを殺した事を悔やむ事を予想した上での行動だ。
 『自分の事は忘れろ、気にするな』というメッセージを遺す事で、自分の事よりも生き残っている他の皆を助けろという事なのだろう。
 こなたに聞いた通り、本当に他人に優しい人だと思う――



「でも……でも……あたしの助けたい人の中にはかがみさんも入っていたんですよ……それなのに……」



 それでも、スバルがかがみを助けたかった事、そして助けられなかった事実に変わりはない。スバルの中には強い悔しさが残る。

 だが何時までも後悔したまま俯いてはいられない。ここで俯いたままではかがみが命を賭して遺したメッセージを無駄にしてしまうからだ。
 それだけは決して許されない。



「かがみさん……やっぱり貴方の最期のお願いは聞けません……かがみさんを死なせてしまった事は一生忘れられないと思います……」



 かがみの死体をアジトの奥へと運ぶ。アジトの中ならばもう誰も手を出したりしないだろう。
 本音を言えばこなたの死体も一緒に置いておきたかったが彼女の死体を探す時間も運ぶ時間もない。



「でも……その想いは無駄にはしませんから……」



 かがみは生き残った者達を助けて欲しいと願っていた。それには応えなければならない、それはスバルの望みでもあるのだから。
 はやてとなのはの戦いは恐らく両方疲弊させきった泥仕合ともいうべきものだったと推測される。
 故にかがみははやてを殆ど難なく仕留める事が出来たと考えて良い。
 恐らくなのははその場に駆けつけてはいない。疲弊しきって駆けつけられる状態ではなかった。もしくは既に激闘で――
 どちらにせよなのはは殆ど戦える状態ではない可能性が高い。
 天道の行方がわからない今、戦えるのはユーノ・スクライアと自分だけだ。しかしユーノは攻撃は不得手であり、彼にはヴィヴィオを守る仕事がある。
 となれば自分が戦わなくてはならない。残った力で生き残った仲間達を脱出させなければならない。





 そう、スバル1人で――

722Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:32:00 ID:9AGMIfD.0





 いや――





『大丈夫よ、スバル――』
「ギン姉……?」





 リボルバーナックルからギンガの声が、





『あんたならやれるわよ――』
「ティア……?」





 破損したクロスミラージュからティアナ・ランスターの声が、





『お前は1人じゃない――』
「始さん……」





 風で飛んだせいかジェットスライガーの傍に落ちていた2枚のカードから相川始の声が、





『お前には俺達が付いている――』
「ルルーシュ……」





 指輪からルルーシュ・ランペルージの声が、





 そして――





『だから、あんただったら守れるはずよ――』
「かがみさん……」





 ジェットスライガーからかがみの声が聞こえた気がした――





 スバルにはこんなに自分を信じてくれる仲間がいるのだ。この場にいなくても彼等は自分に力を与えてくれる――
 彼等の想いがある限り決して諦めたりはしない――

723Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:35:01 ID:Ujb88uPs0





 カードを拾い胸に納め、ジェットスライガーに乗り込みそれを起動する。
 仮面ライダークラスでなければ扱いきれないがそれと互角の戦いを繰り広げたスバルなら移動程度には使いこなせる。
 目的は仲間との合流だ。だが、天道の行方がわからない以上駅で待つユーノ達との合流を優先した方が良いだろう。
 少し走った所でヴァッシュの遺体を見つけた。状況から考えてはやてが殺したのだろう。ヴァッシュを弔いたかったが今は時間がない。





「ヴァッシュさんの想いも私が背負いますから――」





 そう言って走り抜けた。
 吹き付ける風は冷たい。それはこの先が決して平坦な道ではない事を示しているのだろう。
 だが決して負けるわけにはいかない。
 スバルは1人ではない。彼女の中には出会い去っていった者達と紡いでいったもの、想いと絆の力がある。





「絶対に……こんな哀しい戦いを終わらせます……こんな結末じゃ満足なんて出来ませんから――」





 その想いを胸にスバルは駆ける――





【2日目 早朝】
【現在地 C-9】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(中)、全身ダメージ(中)、悲しみとそれ以上の決意、バリアジャケット展開中
【装備】リボルバーナックル(左手用、6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX、
    ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ジェットスライガー(ミサイル残弾数0)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ボーナス支給品(確認済、回復アイテムではない)
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.駅でユーノ達と合流する。
【備考】
※金居を警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。

724Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:35:40 ID:Ujb88uPs0




















【0】 Satisfaction





「……ちゃん、お姉ちゃん……」



 その声と共に少女は目を覚ました。



「あれ……ここは? 私……死んだはずじゃ……って■■■!」



 目の前には少女の妹がいた。



「あれ……どういうこと?」
「あーやっぱり■■■んも死んじゃったかー」
「……その声は……■■■!?」



 そしてその近くには少女の友人も変わらずそこにいた。



「守れた時は大丈夫かなーって思っていたのにやっぱり現実はゲームとは違うねー」
「そうだね、■■ちゃん」



 目の前の2人は殺し合いの場所にいた事も忘れて何時もの様に楽しそうに話している。いや、それ以前に――



「……ねぇ……まだ私の事友達とか姉って言ってくれるの?」
「え?」
「だって、私沢山人殺したのよ、それにアンタ達だって殺そうと……」
「当然だよお姉ちゃん、だってお姉ちゃんに何があったってお姉ちゃんである事に変わりないもの」
「そうだよ■■■ん、どんな事があったって■■■んは友達だよ」



 2人は愚かな自分をそれでも姉や友達だって言ってくれた。これが幻でも何でもそれがたまらなく嬉しく感じた。



「それにそれを言うなら私も十代君やフェイトちゃんを殺しちゃったし……お互い様だよ」
「そうそう、あたしも最初に出会った赤いコート着た人の頭にナイフ刺しちゃったし」
「(そっか……2人も辛い思いして戦って来たんだ……)」
「それとも、もしかして■■■の姉とかあたしの友達とかもうイヤ?」
「……イヤなわけなんてないわよ、ずっと■■■の姉だし■■■の友達よ!」
「もしかしてお姉ちゃん泣いてる?」
「泣いてなんかないわよ!」
「もー■■■んは本当にツンデレだねー♪」

725Zに繋がる物語/サティスファクション ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:36:15 ID:Ujb88uPs0



 こうやって馬鹿馬鹿しい話をしていく内に内心で言葉に出来ない感情が湧き上がって来るのを感じた。



「……ねぇ、万丈目もこっちに来ているの?」
「うん、あっちで十代君と決闘していたよ」
「もしかして■■■んの彼氏とか?」
「いや、一発ぶん殴りたいと思っただけよ……」



 そう言いながら歩き出す。



「そうだ……ねぇねぇ、1つ聞いて良い?」
「何よ?」
「本当の所、どう思っているの? 満足出来た?」
「は? それは……」



 そう、確かに自分はあの時満たされた。だが……



「満足なんて……出来るわけないわよ……」



 死んで満足なんて所詮は幻想だ。理想を言えばみんなで生きて戻りたかった。それが叶わないとしても思わずにはいられない。



「そうだね……だから……



 私達の満足はこれからだー!」
「おー!」
「って、何処の打ち切りエンドよ!?」










【リボルバーナックル(左手用)@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
スバル・ナカジマに支給されたボーナス支給品。
ギンガが左手に装着している「非人格式・拳装着型アームドデバイス」(リボルバー式カートリッジシステム付き、装弾数は6発)。
それなりに重量がある。

【全体の備考】
※C-8に四散したはやて(StS)の死体とジェットスラーガーのミサイルで開けられた穴があります。
※デルタギア一式は破壊されました。
※スカリエッティのアジト内部にかがみの死体があります。

726 ◆7pf62HiyTE:2010/12/13(月) 15:37:15 ID:Ujb88uPs0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で【2】、【5】、【4】(>>702-714)が前編『Zに繋がる物語/白銀の堕天使』(約27KB)で、
【3】、【1】、【0】(>>715-725)が後編『Zに繋がる物語/サティスファクション』(約23KB)です。
パート番号が大きい順からカウントダウンする構成になっています(【2】が一番最初に来ているのも構成上の都合)

サブタイトルの元ネタは何時もの様に仮面ライダーW風、
『白銀の堕天使』……スーパーロボット大戦のBGM『白銀の堕天使(ルシファー)』
『サティスファクション』……遊戯王5D's第92話『サティスファクション』
Zの意味はいうまでも無くゼロ(Zero)、全てを失いゼロとなった少女、何とかゼロに戻れた少女、新たに決意するゼロの少女、そんな彼女達の物語です。

727リリカル名無しStrikerS:2010/12/13(月) 15:47:07 ID:OdxQjLUQ0
投下乙です
はやてにかがみがついに逝ったか…………!
2人とも、今までお疲れ様
これで残り人数は10人を切ったか
本当、これからどうなるだろう

728リリカル名無しStrikerS:2010/12/13(月) 16:25:13 ID:GSDRaqe.0
投下乙です
燃え尽きた……といったところか
はやては家族を取り戻しただけだったのに、どこで道を間違えたのか
でも考え自体は否定できるものではないから、たぶん必死になりすぎていただけなんだろうなあ
かがみはホントいろいろことがあった、おつかれさま
いろいろ酷い目に遭ったけど最期は穏やかに逝けたようでロワ全体から見れば恵まれているな
ところで最後願いが『ワスレロ』というところが某鍵のたいやき娘を連想する……

729リリカル名無しStrikerS:2010/12/13(月) 22:50:49 ID:owxp4vOYO
投下乙です
かがみ…最後までよく戦ったよ
途中はなのすたキャラの中でも一番酷い境遇に追い込まれ一番壊れたのに、最後はこなたやつかさよりも一番恵まれた死に方したと思う
エリオの死から始まったかがみん伝説もこれで本当に終わりか…胸が熱くなるな

730リリカル名無しStrikerS:2010/12/14(火) 01:20:03 ID:BDLKqduM0
投下乙です
ここでついに主催戦への大きな不安要素であるかがみとはやての退場か……
うん、はやては別にいいけど、かがみの最期はやばかった。胸にグッときた。
正直中盤はあんなに鬱陶しかったかがみが最後の最期でここまで化けるとは思って無かったなぁ。
ある意味誰よりも一番ロワらしさを体現し、誰よりも愛された境遇だったんじゃないかな。皮肉だけど。
というか途中までははやてもかがみも似たような存在だったのに、罪と向き合うか否かでこうも変わるものなんだなぁとしみじみ。
余談だけどデルタに堕天使は非常に上手いと思った。デルタのデザインは(肩とか)見様によっては天使の翼みたいに見えるから。

二つほど気になった点が。
ギアに倒された敵が青く燃える原理は確かフォトンによる崩壊(=灰化)だった筈。
だから、ルシファーズハンマーをモロに食らったはやては物理的なダメージで死亡するのではなく、
そのまま身体を灰化させられてしまうんじゃないかと思いました。死後に青い炎が上がるのなら尚更。
一応過去のルシファーズハンマーを見る限り、シグナムもスバルも直撃しては居なかったので……。
それともう一つ。デルタに倒された者は他のギアと違って「赤の炎」に燃えながら死亡するという設定があります。
原作後半じゃ結局デルタ一人で敵を仕留める事が無かったので、初期の方しか語られなかったイメージがありますが……。

731 ◆7pf62HiyTE:2010/12/14(火) 17:35:20 ID:s1djGrSY0
>>730
ご指摘ありがとうございました。その為、>>715

 デルタの最強の技、ルシファーズハンマーは本来対オルフェノク用のものだ。
 何の力もない一般人がその直撃を受ければ肉体がバラバラになるのは当然の理。
 ルシファーズハンマーによって四散し青い炎で燃えるはやての死体から視線を逸らしたデルタはジェットスライガーに背を預ける。

この部分を

 デルタの最強の技、ルシファーズハンマーは本来対オルフェノク用のものだ。
 オルフェノクより遙かに脆弱でなおかつ何の力もない一般人がその直撃を受ければどうなるかは語るまでもない。
 ルシファーズハンマーによって赤き炎をあげ瞬時に灰化し散華したはやての死体から視線を逸らしたデルタはジェットスライガーに背を預ける。

に、それに伴い、全体備考部分の

※C-8に四散したはやて(StS)の死体とジェットスラーガーのミサイルで開けられた穴があります。

こちらを

※C-8にはやて(StS)の首輪とジェットスライガーのミサイルで開けられた穴があります。

に修正します。

ちなみに、デルタ=堕天使というのはそもそも必殺技がルシファーズハンマー(堕天使の槌)という所から引っ張ったネタだったりします。
……なんでファイズやカイザ、それにサイガは○○スマッシュなのにデルタはルシファーズハンマーなんだろう……いや、だからこそ好きなんですがね。

732リリカル名無しStrikerS:2010/12/14(火) 20:36:15 ID:dIuDwp.E0
投下乙!
ああ、遂にかがみ死んだか
下手に力を手に入れたりもしたけれど、メンタル面じゃずっとよくも悪くも一般人だったんだよな
状況に翻弄されて、罪を犯して、助けてくれる人がいて、罪と向き合って、それでも意思の感情の赴くままに生き、そして死んだ
あんたは人間だったよ、柊かがみ
目的を果たさんとして意思を忘れてしまったはやてとの対比も良かった
そしてうぐうは俺も思っちまったが死に様には震えたな
ギアスとか犬夜叉とかのメタ知識もいいように動いていたと思うぜ
最後の部分はちと超個人的には蛇足に思えちまったがな
それでも面白かったです。いい柊かがみの最終回でした

733 ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:21:27 ID:GyeeVd1I0
予約分の投下を開始します

734Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:22:09 ID:GyeeVd1I0
 アンジールとカブト、そしてキング。
 いくつもの修羅場を駆け抜けて来た男達の激闘。
 その戦力はどれも拮抗しており、三者三様に決定打は与えられない。

 皆が皆、それぞれの剣をその手に握り、一進一退の攻防を続けていた。
 その様子はまるで、仮面を付けた男達による激しい剣の舞の様で。
 言うなれば、二人の仮面と一人の剣士による、仮面舞踏会。

 だけれど、どんな歌もどんな踊りも、永遠に続く事はあり得ない。
 いつかはその一節が終わり、次のリズムが流れ始める。
 それはこの仮面舞踏会(マスカレード)でも同じ事。

 誰も予想し得なかった状況で、第一楽章は終わりを告げた。



「ガッ……は……っ!?」

 アンジールが、その口元から真っ赤な血反吐を吐き出した。
 一片の汚れも見えない、綺麗な綺麗な深紅の血反吐。
 本当に身体の内からしか出血する事はあり得ない、鮮血。
 踊り続けた剣士の鮮血は、カブトの赤よりもずっと鮮やかだった。

 何故だ、なんて今更な疑問は抱かない。
 こうなる事は十分に想像出来た筈だったのに。
 それでも家族の為に踊り続けた結果が、この現状だ。
 そう。二人の仮面と踊り続けた剣士の姿は、まるで道化。
 道化の様に踊らされ続けて、挙句の果てには訳の分からぬ大打撃。
 脇腹の筋肉を抉った黒金は躊躇い無く剣士の身体の芯まで到達していた。
 身体の軸となる腹部まで、その身を見事に引き裂いて――。





 完全の名を冠する大剣と。
 反逆の名を冠する大剣と。
 超越の名を冠する大剣と。

 人は誰もが、心の中で自分だけの音楽を奏でている。
 そんな三人が打ち鳴らす剣のリズムは、至って不快な不協和音。
 当然だ。三人が三人、誰一人として同じ音楽など奏でてはいない。
 皆皆、全く別の未来を目指して、自己を推し貫く為に剣を振るうのだ。
 そんな三人のリズムが一致する事など、天地が引っくり返ってもあり得ない。

 きぃんっ! と。 
 また二つの剣が激突した。
 カブトの赤い装甲を目前にかち合ったのは、反逆と超越。
 キングの剣と、アンジールの剣が、カブト目前にして激突したのだ。
 二つの件はどちらもカブトを狙って居た筈。これは目標が同じであるが故のミス。
 連携も取れない二人が同じ標的を狙って剣を振るえば、お互いに脚を引っ張ってしまうのは自明の理。
 今の激突で、一体何度目になるだろう。最早キングには、アンジールへの仲間意識など見られない。
 それは先程キングがアンジール毎カブトを焼き尽くそうとエネルギー弾を放った事からも明白。
 ただキングは、カブトが気に入らないから、その剣でもって王の裁きを下そうとするだけ。
 アンジールはアンジールで、ただ妹を蘇らせたいから、その剣で修羅の道を歩もうとするだけ。
 それだけが今の彼らの行動理念。そこに複雑な謀などは存在しない。至って単純明快な戦いであった。

「ああもう、またかよ! 邪魔すんなよアンジール!」
「お前こそ俺の邪魔をするな、キング!」
「……やれやれ」

 仮面の下で嘆息一つ。
 今度は完全の名を冠する黄金の剣を振るった。
 だけれど、それは反撃の一振りによって振り払われてしまう。
 如何に相手側の連携が壊滅的だと言っても、それが勝因にはなり得ない事の証明。
 確かにこの二人の連携攻撃は最悪だが、それぞれ個々の戦闘能力は圧倒的に高いのだ。
 何とかチャンスを見計らって攻撃に転じるつもりだが――今のままでは勝ち目がない。
 だからと言って、ここまで力を取り戻した天道総司の辞書に「敗北」の二文字はあり得ない。
 今はどんなに厳しい戦いであっても、絶対に希望だけは捨てはしない。

735Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:22:39 ID:GyeeVd1I0





 戦いの飛び火が移る事の無い、傍観者だけの空間。
 この素晴らしい立場に居る限り、金居の身体が傷つく事は無い。
 絶対的な安全領域を揺るがす事は無く、戦いの結末だけに視線を向ける。
 だけど、あれは仮にも幾つもの修羅場を潜って来た男たちの戦い。
 そうそう簡単に両者の間で決着が着いてくれる筈も無かった。

「さて、どうしたものか」

 丸一日金居を縛り続けた首輪の残骸を、矯めつ眇めつする。
 こいつがある限り、参加者は常に命を握られた状態であった。
 もっと言えばこの首輪を破壊した所で、プレシアを倒さなければ現状に変わりはない。
 だから金居は、何としてでもこの首輪を破壊して、プレシアを倒すつもりだった。
 だけれど、この全くもって不可解な現状は一体何だ。
 金居の頭の中を、いくつもの「?」が覆い尽くす。

(何故だっ……何故あれだけ戦えと言っておいて今更爆弾を解除したっ……!
 これではまるで……殺し合いの崩壊っ! 圧倒的っ……崩壊っ……!)

 ざわ……ざわ……と。
 金居の周囲のあらゆる音が遠のいて聞こえる。
 木々のさざめきも、剣と剣の衝突も、キングの笑い声も。
 何もかもが、ただのざわめきとなって金居の耳を抜けて行く。
 何かの罠か? いや、わざわざそんな罠を張るメリットがない。
 残った参加者の中にプレシアにそんな行動をさせる要因となる者が居ないのだ。
 故に、不可解。どう考えてもこれはプレシアが不利になる要因しかない。
 ならば何故だ。何故あの魔女は首輪を解除した。

(もう殺し合いをする必要がないから……? いや、それとも)

 プレシアは何者かによって殺され、この殺し合いが頓挫したから。
 考えられない話では無い。あれだけ用意周到に参加者を集めたとは言え、プレシアもまた人間。
 絶対にミスをしないとも限らないし……寧ろ今のプレシアには敵の方が多いのだ。
 もしかしたら、第三勢力がプレシアを殺害したという可能性もあり得る。

(なら何故だっ……何故俺達は未だに殺し合わされているっ……!)

 殺し合いに反発する者が殺し合いを潰したのだとしたら、それもまた不可解。
 折角プレシアを殺したのに、こんな殺し合いを続けていたのでは意味がない。
 プレシアを殺してくれたのなら、いっその事自分達も解放してくれればいいものを。

(解放する事が出来なかったからか……? だが何故……)

 仮説はいくらでも成り立つ。
 例えば、プレシアと刺し違えた、とか。
 例えば、殺し合いには興味が無かった、とか。
 パズルのピースは殆ど欠けたまま。真実からは遠過ぎる。
 だけど恐らく、プレシアがもうこの世に居ない事は間違いないだろう。
 となれば、下手をすればこの世界はもう捨てられていたとしても可笑しくは無い。
 どうせ放棄する世界に居残った住人など、どうだっていい。だから爆弾を解除した。
 そういう考え方だって出来る。

「ならば――」

 今の自分に出来る事は何か。
 このまま結末の見えないゲームに参加し続けるか。
 ようやく戦場へと出て来たキングを見逃して……?
 そんな事、出来る訳がない。

「どうせこのままここに居ても埒が明かない。かといって今のまま元の世界に戻るのも拙い」

 そう。元の世界に戻れば、キングは全ての制限から解放される。
 そうなってしまえばキングを倒すチャンスは消え、仮面ライダーに頼らねばならなくなる。
 別に仮面ライダーを利用する事自体に躊躇いは無いが……自分の手で仕留められるなら、それに越した事は無い。
 この会場内に居る限り、あのジョーカーでさえ封印出来たのだ。今の自分にキングを倒せない道理は無い。
 そうだ。仮にも自分はダイアのキングなのだ。スペードのキングなぞに舐められたままでいいのか?
 答えは、否だ。このままで言い訳がない。

「ここで決着を付けようか……キング」

736Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:23:19 ID:GyeeVd1I0





 王様にとって、これはお遊び。
 気まぐれで始めた、正義の味方気どりの相手とのゲーム。
 別に生きる事に執着を持っている訳でもないし、したい事がある訳でもない。
 だけど、折角現代に解放され、現代の知識を得て生活する事が出来るなら……。
 折角こんな面白いゲームに巻き込まれ、濃密な時間を過ごす事が出来るのなら……。
 とことんまでに遊び尽くしたい。楽しい事を求めて、飽きるまで遊び尽くしたい。

 キングはただ面白ければ、それで良かった。
 他者を破滅させて、楽しいゲームをプレイ出来るなら、それで良かった。
 その為のキングの目的が、目の前にいる赤の仮面ライダーの撃破にある。
 プレイするからには負けたく無いし、攻略を目指すのはキングにとって当然の事。
 だからようやく手に入れた駒を利用し、カブトを潰しに掛ったのだが。

 きぃん!

 鳴り響く金属音。 
 キングが突き出した剣をカブトが回避した。
 同時に、アンジールが振り下ろした剣をも回避。
 結果、二人の剣はカブトに届く事無くお互いに激突したのだ。
 またか、とキングは思う。

 異変が起きたのは先程自分がエネルギー弾を放ってからだ。
 アンジール毎巻き込んで攻撃しようとしたあの瞬間から、歯車が狂い始めた。
 元々この男は、自分に対して並々ならぬ反感を抱いていた。
 そんな男を無理に従わせる事に快感を得ていたのだが……。
 どうやら先程の一撃で、元々壊滅的だった仲間意識が完全に崩壊したらしい。
 アンジールも最早キングを邪魔者としか思って居ないし、だからこそのこの現状だ。
 お互いがお互いを疎ましく思っているからこそ、この衝突が起こってしまう。
 いい加減、カブト以前にこの足手まといの方が邪魔だとさえ思えてしまう。
 あと一撃でもこんな衝突を繰り返そうものなら、その場で切り捨てよう。
 使えない手駒など居るだけ邪魔だ。何より腹立たしいし、活かしておく義理も無い。

 だから出来る限り積極的に、そのきっかけが訪れる様に剣を振るう。
 アンジールだって同じ様な心境だろうし、ここで見限る事に躊躇いは感じない。
 当然、狙ってやったのなら、再びその瞬間が訪れるまでにそれ程の時間は必要とせず――
 無能な駒への“みきわめ”の瞬間が訪れたのは、それからすぐ直後の事だった。





 アンジールの最終的な目的は、失った家族を取り戻す事である。
 その為に、このゲームに参加している参加者を皆殺しにし、最後の一人になる。
 そうする事で、プレシアは死んでしまった参加者すらも蘇生させてくれると言った。
 そう、事実上プレシアに踊らされるままにアンジールは戦ったのだが。
 
 ――私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが――

 あの魔王の言葉が、疑念となってアンジールの頭を駆け廻る。
 キングの目的は他の参加者を狩る事。そうする事でもう一度家族に会える。
 少しでも可能性があるなら、例えそれが苦渋の選択であろうと構いはしない。
 他の参加者を一人でも多く狩って、優勝に近付く。その時点でキングが邪魔なら倒せばいい。
 そう考えて、アンジールはキングにさえも従って、このデスゲームを踊り続けて来た。
 だけど恐らくこのキングという男に、アンジールへの仲間意識は無い。
 いざとなればこちらが切り捨てられる可能性だってある。

 だけど、もうアンジールには未来が見えなかった。
 家族の為に我武者羅になって戦おうと、キングに踊らされようと。
 その先に待ち受ける幸せな未来など見えないし、今の自分の行動が正しいとも思えない。
 目の前で家族を失ってしまったアンジールは、半ば自棄になっていた。
 それでも、キングに対する反感だけは大きくなっていく。

 だから、アンジールは遮二無二剣を振るう。
 たとえ、キングを巻き添えにしようが知った事は無い。
 それが、カブトを倒して家族を取り戻す事になると無理矢理にでも信じて。
 そして、その結果が招くのは、最早連携とも言えぬ三つ巴の戦い。
 やがて、その果てに待って居たのは、キングによる最悪の結末。
 そんな、簡単な事実に気付く事も出来ずに。
 だけど、それが彼の招いた物語の終焉。

 ――キィン! と金属音を伴って、再び“反逆”と“超越”が激突した。

737Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:23:50 ID:GyeeVd1I0

「             !!!」

 それが声になっているのかすらも分からなかった。
 感じるのは、ただただ不可解な気味の悪さと、激しい熱。
 最早痛みさえ伴いはしない。ただ、訳の分からない感覚がアンジールを襲う。
 だけれど、それに対してアクションを起こす事など出来はしない。
 何故なら、アンジールが振るおうとした剣と腕は既に、地べたに落ちていたから。
 腕を失った右の肩口が、夥しい量の血液を噴出させて、気が遠くなるのを感じる。
 だけど、一体何故? だなんて今更な疑問を口にする事は無かった。
 これは十分に想像し得た結果の筈だから。

「お前……最初から」

 消え入りそうな声を発したのは、アンジール。
 回想するべきは、キングとアンジールの剣が激突した直後の出来事。
 キングは剣が激突したと思えば、すぐにその身を翻し、剣を振り下ろした。
 ゴウッ! と、身近で空気が切り裂かれる音が聞こえて――腕が無くなった。
 まさかこの境遇でキングが自分を切り捨てるとは考えて居なかった。
 それはまさに、アンジールにとっての最大の不覚であった。





 朦朧とする視界。混濁する意識。
 腕を切り落とされてからの事はあまり覚えてはいなかった。
 キングは最早問いに応える事すらせずに、アンジールの身体を剣で引き裂いた。
 中心から見事に切り裂かれた身体から溢れ出すのは血液という名の大量の生命力。 
 さしものソルジャーと言えど、生命を動かす為の大前提である血液を失って、只で居られる訳が無かった。
 肩口から噴き出した大量の赤。あらゆる臓器を引き裂いて撒き散らされたアンジールの生命力。
 それらを失っては最早立って居る事すら叶わず、アンジールはその場に崩れ落ちていた。

「アンジール」

 だけど、この命はまだ尽き果ててはいない。
 意識は朦朧とするけれど、自分の名を呼ぶその声はハッキリと聞こえた。
 重たい瞼をゆっくりと上げて、その瞳に映るのは一人の男。
 黒の天然パーマに、整った顔立ち。何処か悲しい瞳をしたその男を、アンジールは知っている。
 先程まで自分がこの手で殺そうとしていた、どうしても決着を付けなければならぬ相手。
 セフィロスの居ない今、彼だけがアンジールの宿敵として存在し得る、まさに最後の敵。
 だけど、自分を見下ろす彼の瞳には、一切の敵意は感じられなかった。
 どうしてそんな瞳をするのだろう、と。感じるのは疑問だ。

738Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:24:28 ID:GyeeVd1I0

「馬鹿だったよ、俺は」
「ああ、そうだな」

 自分は何をしていたのだろう。
 家族を守りたいと言って、結局何も出来なかった。
 八神はやてを殺して、セフィロスを修羅の道に堕として。
 大切な者を奪われたセフィロスの気持ちは、痛い程に分かる。
 だからアンジールは、尚更引き返す事など出来なかった。
 その気持ちが分かるからこそ、止まる訳には行かなかった。
 大切な友の、大切な人間を奪った自分に、そんな資格はないのだ。
 それなのに……それなのに。

「結局俺は、只の道化か……最悪だな」

 そうして戦い続けた結果が、こんな惨めな終わりだったとは。
 全く予想していなかったのかと問われても、今はもう分からない。
 あの時別の選択を選んでいたら、こうはならなかったんじゃないか。
 そんな後悔がいくつ過るけれど、それはもう実現し得ない事。
 どんなに悔やんでも、現実は何も変わらないのだから。

「例え世界を敵に回しても、守るべきものがある――俺のおばあちゃんの言葉だ」
「そうだ……俺は、守るべき者の為に今まで――」
「ああ。お前は確かにどうしようもない馬鹿野郎だ。お前の想いに間違いは無かった」

 ただ、そのやり方を間違えてしまったのだ。
 家族を守りたいという意思を優先させ過ぎて。
 本当なら、戦えない全ての人々を、全ての命を、守りたかった。
 守って、守って、守り抜いて……人々の未来を守り抜きたかった。
 だけどその想いは、家族への愛が故に歪んで行き――こんな所まで来てしまった。
 今更やり直しようが無いし、失った時間も家族も、絶対に戻っては来ない。
 結局自分は家族の為と言いながら、何一つ成す事が出来なかったのだ。
 死に瀕した今だからこそ、ようやっと冷静に物事を考える事が出来た。

「俺は……兄としては最低だったな」
「ああ、お前は最低だ。だが、同時に最高の兄でもあった」

 刹那、アンジールの目頭が熱くなった。
 こんなどうしようもない自分に――最悪な自分に。
 まだ最高の兄だなんて言ってくれる奴が居たなんて。
 一滴の涙がアンジールの瞳から零れ落ちた。

「おばあちゃんはこうも言ってた。人は人を愛すると弱くなる――
 けど、恥ずかしがる事は無い。それは本当の弱さじゃないから。
 弱さを知ってる人間だけが、本当に強くなれるんだ。
 お前は誰よりも強く、立派な兄だったよ……アンジール」

 その言葉だけで十分だった。
 例え歪んで居ようと、アンジールを突き動かしたのは、妹達への愛だ。
 例え道化に堕ちようと、例え自分の中の弱さに翻弄されようと。
 その感情は元を辿れば、誰よりも強い愛情であった。
 そして今なら分かる。その弱さを認める事が、本当の強さなのだと。

739Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:28:25 ID:GyeeVd1I0
>>738 はミスです。
読む時はこちらで願いします。

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「馬鹿だったよ、俺は」
「ああ、そうだな」

 自分は何をしていたのだろう。
 家族を守りたいと言って、結局何も出来なかった。
 八神はやてを殺して、セフィロスを修羅の道に堕として。
 大切な者を奪われたセフィロスの気持ちは、痛い程に分かる。
 だからアンジールは、尚更引き返す事など出来なかった。
 その気持ちが分かるからこそ、止まる訳には行かなかった。
 大切な友の、大切な人間を奪った自分に、そんな資格はないのだ。
 それなのに……それなのに。

「結局俺は、只の道化か……最悪だな」

 そうして戦い続けた結果が、こんな惨めな終わりだったとは。
 全く予想していなかったのかと問われても、今はもう分からない。
 あの時別の選択を選んでいたら、こうはならなかったんじゃないか。
 そんな後悔がいくつ過るけれど、それはもう実現し得ない事。
 どんなに悔やんでも、現実は何も変わらないのだから。

「例え世界を敵に回しても、守るべきものがある――俺のおばあちゃんの言葉だ」
「そうだ……俺は、守るべき者の為に今まで――」
「分かってる。お前はどうしようもない馬鹿野郎だが、その想いに間違いは無かった」

 ただ、そのやり方を間違えてしまったのだ。
 家族を守りたいという意思を優先させ過ぎて。
 本当なら、戦えない全ての人々を、全ての命を、守りたかった。
 守って、守って、守り抜いて……人々の未来を守り抜きたかった。
 だけどその想いは、家族への愛が故に歪んで行き――こんな所まで来てしまった。
 今更やり直しようが無いし、失った時間も家族も、絶対に戻っては来ない。
 結局自分は家族の為と言いながら、何一つ成す事が出来なかったのだ。
 死に瀕した今だからこそ、ようやっと冷静に物事を考える事が出来た。

「俺は……兄としては最低だったな」
「……ああ、お前は最低だ。だが、同時に最高の兄でもある」

 刹那、アンジールの目頭が熱くなった。
 こんなどうしようもない自分に――最悪な自分に。
 まだ最高の兄だなんて言ってくれる奴が居たなんて。
 一滴の涙がアンジールの瞳から零れ落ちた。

「おばあちゃんはこうも言ってた。人は人を愛すると弱くなる――
 けど、恥ずかしがる事は無い。それは本当の弱さじゃないから。
 弱さを知ってる人間だけが、本当に強くなれるんだ。
 お前は誰よりも強く、立派な兄だったよ……アンジール」

 その言葉だけで十分だった。
 例え歪んで居ようと、アンジールを突き動かしたのは、妹達への愛だ。
 例え道化に堕ちようと、例え自分の中の弱さに翻弄されようと。
 その感情は元を辿れば、誰よりも強い愛情であった。
 そして今なら分かる。その弱さを認める事が、本当の強さなのだと。

740Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:29:43 ID:GyeeVd1I0

 戦って、戦って……家族の笑顔を信じて。
 戦って、戦って、戦い続けたその結果がこれなら。
 とんだ茶番だと言いたくもなるけれど、その想いに羞恥は無い。
 誰が何と言おうが、自分は家族の為に戦ったのだ。
 家族に謝罪するのは、あの世に逝ってからでも遅くは無い。

「最期に一つだけ……聞いてくれるか」
「ああ、何だって聞くさ……アンジール」
「……お前には……夢は、あるか……?」
「ああ……あるぞ。とびきりでかい夢がな」
「そうか……それは良かった」

 その答えに、自然と笑みが零れた。
 もう自分の命はそう長くは無いのだろう。
 自分の事だから、自分が一番分かっている。
 だから最期に一つだけ……これだけは、どうしても伝えたい。
 この戦いで最も信頼出来るであろう人物に――自分の信念を。
 そして、ここまで戦い続けて来た、自分の生きた証を、刻みたい。

「夢を持て――そして誇りも」

 誰よりも大きな夢を持っているであろうこの男に。
 かつての自分と同じ、守るべき立場にあるこの男に。
 消え入る意識の中で、どうしても伝えたい言葉を、紡ぎ出す。
 一言言葉を発する度に、その意識が薄れて行くけれど。
 そんな事は、構いはしなかった。

「どんな時でも……夢と誇りを、手放すな」

 自分にはついぞ出来なかった事を、託す。
 最期の最期で何もかもを手放してしまった自分の代わりに。
 愛弟子であるザックスと……自分と同じ誇りを持ったこの男に。
 例え自分が居なくなっても、彼らがきっと自分の想いを継いでくれるから。
 最期の瞬間にアンジールがその胸に抱いたのは、消えない夢と、誇りだった。




【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 死亡確認】

741Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:32:11 ID:GyeeVd1I0
 



 キングと金居。
 コーカサスオオカブトとギラファノコギリクワガタ。
 世界最大の甲虫の祖たる二人の王が、月光に照らされ相対する。
 餌を求めて、夜な夜な動き出すのはカブトとクワガタの性とも言える。
 蜜のしたたる木の上で、カブトとクワガタが戦うのは最早日常の出来事。
 ただ一つ違うのは、ただの蟲ではなく、全ての先祖となった二人が出会ったという事。
 金の仮面に覆われた二人の視線が激突して、目には見えない火花が散った。

「どういう事、ギラファ? 僕達は仲間じゃ無かったの?」
「元の世界ではそうだったかも知れないが……今のお前は、ただの敵だ」
「らしくないなぁ。もしかしてこのゲームに乗っちゃったの?」
「さあ、どうだろうな? お前がその答えを知る必要は無い」

 それ以上の問答は不要だった。
 クワガタの祖たる黄金が、大地を蹴って駆け出す。
 一歩を踏み出す度に腐葉土で出来た地べたに足跡が刻まれる。
 それぞれのスートの王たる存在。その実力は拮抗していると言っていい。
 振り下ろしたクワガタのヘルターを、カブトのオールオーバーが受け止める。
 されど攻撃はそれで止みはしない。クワガタの武器は、一組の双剣なのだから。
 間髪いれずに叩き込んだスケルターは、しかしソリッドシールドによって阻まれた。
 昆虫の王者たるカブトの祖先ともなれば、生半可な防御力では無いという事か。
 闇夜に眩い火花を舞い散らせて、二人の王の戦いが始まった。

742Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:33:25 ID:GyeeVd1I0
【2日目 早朝】
【現在地 D-9 雑木林】


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具⑤】支給品一式、
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.ギラファと戦う……?
 2.先程の紅い旋風が何か調べる。
 3.『魔人ゼロ』はもういいかな。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ギラファアンデッドに変身中
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.キングを封印する。
 2.キングを封印して、何としてでも元の世界に帰る。
 3.出来れば二度とこんな戦いに巻き込まれない様に、主催側も潰しておきたい。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※最早プレシアのいいなりに戦う事は無意味だと判断しました。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。

743Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:34:03 ID:GyeeVd1I0
 


 空を舞うのは、無数の白の羽根。
 繊細で、美しくて、幻想的な光景であった。
 月光に照らされながら、空を舞う白の羽根を見上げる天道の瞳はやはり、何処か悲しげであった。
 ただ何をするでもなく、その場に佇んで、空から舞い落ちる羽根をぼんやりと眺める。
 天道自身、ここでどれだけそうしていたのか、自分でも分かりはしない。
 ただ空から振り続ける天使の羽根に魅了された様に、その場を動けなかった。
 やがて思い立ったように、その羽根の一枚を手に取る。
 それはまるで天使の羽根の様に柔らかかった。

 一枚、また一枚と、地べたに堕ちて行く。
 やがて全ての羽根が土に汚れた地べたに舞い落ちて、幻想的な夜は終わりを告げた。
 ただ、地面に落ちて汚れてしまった羽根と、何処か寂しげな満月の光だけが残る。
 誰も居なくなった静寂の中で、天道はその手に握り締めた純白の翼を見遣った。

「俺の夢は……妹が笑って暮らせる世界を創る事。その為に、俺はあの青空を守り続ける」

 残った一枚の美しい羽根。
 それに言い聞かせる様に、天道は呟いた。
 それはきっと、アンジールも同様に願って居た夢なのだろう。
 誰よりも妹思いで、誰よりも立派な兄であったアンジールの夢。
 自分はそれを受け継いだ。彼の夢と誇りを、その胸に刻みつけた。
 緑の光となって消えたアンジールに、改めて誓ったのだ。
 だから天道に、立ち止まる事は許されない。
 夢と誇りを守り抜く為にも――

「このふざけたゲームは、俺が潰すっ……!!」

 アンジールの羽根を握り締め、その瞳に再び強い怒りを宿らせた。
 こんなふざけたゲームの為に、誰よりも優しい兄の人生は狂わされた。
 妹を奪われ、運命の歯車を狂わされ、死ななくてもいい命が、散ってしまった。
 沸き起こる激情は、命を粗末に扱う主催者への激しい怒り。
 アンジールの分まで、何としてでも戦い抜こう。
 それが自分に出来る、せめてもの弔いだった。

 そんな時だった。
 ――ドゴォン! と、鳴り響いたのは何かの轟音。
 最初は断続的に、そしてやがて連続的に、鳴り響く爆発音。
 何者かがミサイルでも発射しているかのような炸裂音であった。
 聞こえる場所は、ここからそう遠くは無い。

 どうしたものかと思考する。
 キングは突然現れた別のアンデッドと共に何処かへと消えた。
 というよりも、もう一体のアンデッドがキングの身体を掴んで、森林の中へと転がり込んだのだ。
 恐らくはキングと敵対する関係にある別のアンデッドなのだろう。
 カブトに変身出来ない自分が向かった所で、戦い様がない。
 ならばやはり、爆発音が聞こえた場所へ向かうべきか。

 天道は知らない。
 爆発音の正体は、同じ頃に乱れ撃ちされたジェットスライガーによるもの。
 死を目前にした柊かがみが、誰にもミサイルを悪用されない様に放ったもの。
 あの少女の、人間としての最期の足掻き。言うなればその爆発音は、少女の魂の叫び。
 それを知らない天道は、とにかくそこで誰かと合流しようと脚を向ける。
 どっち道、カブトになれない今、キングを追っても犬死にするだけだ。
 ならば、仲間が居る可能性を信じて、天道は爆心地へ向かう。
 そこに誰か、共に戦うべき仲間が居ると信じて。


【2日目 早朝】
【現在地 D-8 荒れ地】

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、一時間変身不可(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.爆発音の場所へ向かい、誰かと合流、生き残った全員を纏める。
 2.首輪が爆発しなかった事による疑問。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。

744Masquerade ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 20:37:07 ID:GyeeVd1I0
投下完了です。
途中重要なシーンで誤字を発見したので、修正ついでに台詞も修正しました。
最初はキングと金居の決着まで書こうと思っていたのですが、ここで切った方がいいかなと思ったので。
それでは、指摘などがあればよろしくお願いいたします。

745リリカル名無しStrikerS:2010/12/16(木) 21:28:51 ID:yClfzZYgO
投下乙です!
アンジール、お疲れ様……!
天道、彼の意志を継いで頑張ってくれ!

746リリカル名無しStrikerS:2010/12/16(木) 21:29:32 ID:.l.VjwPM0
投下乙です
アンジール終始妹のために戦い続けたお前はまさしく「兄」だったよ
それにしても>>735の時の金居もしかして鼻とか顎が尖っていたりするんだろうか

ところでアンジール殺しのボーナスが見当たらないようですけど、書き忘れでしょうか

747リリカル名無しStrikerS:2010/12/16(木) 21:41:53 ID:KnI4pRrc0
投下乙です

誰か死ぬと思ったがアンジールが…もう安らかに眠ってくれ…手段は間違えていたがそれでもお前は…
金居は首輪が外れたから…とも思ってたが、そうだよな…彼的はキングは放置できんか。でもそんなことしてる時間はないぞw
キング、このまま金居とタイマンか?、それとも…
そして天道はそっちに行くか。急げ、時間が無いぞ

748 ◆gFOqjEuBs6:2010/12/16(木) 22:04:35 ID:GyeeVd1I0
>>746
指摘ありがとうございます。
完全に見落していました。ウィキ収録時に修正しておきます。
また、アンジールの死亡時の描写と各状態表で思う所があるので、
その辺も収録時に修正しておきます。話の流れは変わりません。

749リリカル名無しStrikerS:2010/12/17(金) 00:20:03 ID:Bzp5bz520
投下乙です。

アンジールが遂に退場か……最後まで道化だったとはいえ、その生き方そのものは天道が認めてくれたのがせめてもの救いか……
で、合流に動いた天道は……ってかがみが乱発したミサイルの方に向かうのか!
そして賭博黙示録金居がついにキングに挑みアンデッド頂上決戦……他のキャラとの位置関係的にいよいよ最終局面だなぁ。

750 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:19:34 ID:NjnAvwz60
天道総司、ユーノ・スクライア、高町なのは(StS)、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオを投下します

751Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:20:41 ID:NjnAvwz60

天の輝きは、次第に増していた。
地平線の彼方より昇っていく、太陽によって。
それでも、未だに風は冷たかった。
時刻はまだ早朝。
薄暗さの残る空には、星が煌めきを放っている。
肌寒い空気をその身に浴びながら、天道総司は歩いていた。
つい先程響いた、轟音の正体を突き止めるため。
位置から考えるに、スカリエッティのアジト付近だろう。
やはり、自分がいない間に何か一悶着が起こった可能性が高い。
高町なのはと八神はやては、険悪な雰囲気を放っていた。
むしろ起きないのがおかしいかもしれない。
その可能性を危惧した天道は、歩くスピードを速める。
一刻も早く、仲間達と合流するために。

「…………ん?」

その最中、彼は足を止めた。
何処からともなく、音が聞こえたため。
それは乗り物が動いているように、鈍かった。
鼓膜が刺激され、天道は反射的に振り向く。
すると目の前からは、黒と銀の二色に輝く巨大なマシンが、こちらに近づいていた。

「何ッ!?」

天道は目を見開く。
現れた機械は、エンジン音を鳴らしながら凄まじい勢いで接近していた。
それは彼の世界に存在する企業、スマートブレインが生み出したジェットスライガーと呼ばれるマシン。
しかし、天道がそれを知る術はない。
ジェットスライガーは、地面を抉りながら近づいてくる。
目前にまで迫った途端、その動きを止めた。
反射的に天道は構えを取る。
すると、ジェットスライガーの影から青髪の少女が姿を現した。
アジトに向かう前に合流した高町なのはの弟子、スバル・ナカジマ。

「天道さん!?」
「ナカジマ…………無事だったか」
「はい、あたしは大丈夫です!」

現れたスバルはジェットスライガーから降りると、力強く答える。
小柄な身体には、生傷がいくつか見られた。
しかしこの様子を見る限り、問題はないと思われる。

「他の奴らはどうした?」

天道は、疑問を口にした。
アジトの前に集まっていた仲間達が、他に誰もいない。
その直後、スバルの表情は曇る。
暗い顔をしながら、彼女は口を開こうとした。

「えっと、その……」
「スバル、天道さんっ!」

だが、スバルの言葉は遮られる。
上空から突然、声が聞こえたため。
それに反応して、天道とスバルは上を向く。
空からは、ドレスのような純白の衣装を纏った、高町なのはが降りてきた。
彼女の左手には、先端に真紅の宝石が付けられた黄金の杖、レイジングハートが握られている。

752Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:21:29 ID:NjnAvwz60

「良かった…………二人とも無事で」
「なのはさん…………!」

現れたなのはを見て、スバルは安堵の表情を浮かべた。
八神はやてを止めようとした恩師が、無事に戻ってきてくれたことに対して。
だがその直後、彼女の表情は再び暗くなる。

「…………なのはさん、天道さん。お話があるんです」

そこから、スバルは全てを告げた。
自分が柊かがみを止められなかったことを。
はやては彼女に殺されてしまったことを。
そして、かがみがジェットスライガーを初めとした支給品を、自分に託したことを。
それを聞いた天道となのはもまた、表情を暗くする。
瀕死の重傷を負ったかがみを助けて、生きる気力を取り戻させた。
だが、はやての凶行を止めることが出来ずに、こんな結果となってしまう。
しかし二人は、悲しみに沈むことはしなかった。
ここで倒れては、死んだ者達に手向けが出来ない。
スバルの話を終えた後、なのはは天道に話した。
彼が遠くに吹き飛ばされた間に、アジトで起こった悲劇を。
はやてがヴァッシュ・ザ・スタンピードや泉こなたを殺して、かがみを襲おうとした事。
その間に、ユーノ・スクライアがヴィヴィオを連れてE−7地点に避難した事。

「……なるほどな」

天道は頷く。
続くように彼も、自分に起こった出来事を話した。
キングやアンジール・ヒューレーと、戦いを繰り広げた事。
その最中に、捕らわれたフリードリヒを解放した事。
突然現れた謎のアンデットが、キングを連れ去った事。
キングの裏切りを受けたアンジールが、殺されてしまった事。
そして、キングは未だ自分達に襲いかかる可能性がある事。
全てを話した後、スバルは気づく。
天道となのはの首に首輪が巻かれていないことに。
戦いの余波によって、外すことが出来た正確無比の爆弾。
壊しても何も起こらないことを、天道となのはは伝える。
恐る恐る、スバルも首輪に手を掛けた。
渾身の力を込めて外したが、何も起こらない。

「どうして……?」

スバルは疑問の声を漏らす。
今までこれを解除するために奮闘していたのに、こんなあっさりと外れるなんて。
一体、自分達の苦労は何だったのか。
ルルーシュは、必死になって苦労したのに。
みんなは、こんな物に命を縛られていたのか。
そう思った瞬間、スバルの中で怒りが沸き上がってくる。
しかし、彼女はそれを抑えた。
激情に惑わされて、冷静さを欠くようなことはあってはならない。

753Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:22:39 ID:NjnAvwz60

「あたし達は……こんな物に縛られてたなんて」
「憤りを感じている場合ではない、今は残った二人との合流が先決だ」
「…………そうですね」

天道の言葉に、スバルは頷いた。
泉こなたや柊かがみ、そして自分に思いを託したティアナ・ランスターやギンガ・ナカジマや相川始。
そしてこんな戦いの犠牲にされた、たくさんの人達。
みんなの無念を晴らすなら、やるべき事は何か。
そう、主催者を倒して生きてここから脱出すること。
みんなも、それを願っているはずだから。

「ところで、あいつはどうした? お前達の所に向かっていた筈だが」
「フリードですか? あたしは知りませんけど……なのはさんは?」
「いや、私の所にも来てないけど…………」

なのはとスバルは、首を横に振る。
フリードはキングの元から解放した後、アジトに向かわせたはずだった。
それなのに、二人とも知らないと言う。

(まさか、戦いに巻き込まれた……いや、それはないだろう)

真っ先に思い浮かんだ最悪の可能性を、天道は否定した。
フリードはそれなりの知性を持つ龍。
ならば、危機を察してからそれを回避することも出来るはず。
もしくは、残ったユーノと合流を果たしたか。
それならば、二人が見ていなくても仕方がない。

「もしかしたら、他の二人と合流しているかもしれない。まずは急ぐぞ」

天道の言葉に、なのはとスバルは頷く。
そのまま三人は、ユーノとヴィヴィオが待つE−7地点に向かった。











E−7地点。
ユーノ・スクライアは、ヴィヴィオやフリードリヒと一緒に待ち続けていた。
はやての攻撃によって散り散りとなった、なのは達を。
このデスゲームに、タイムリミットが迫っている可能性がある。
しかし、自分達だけではどうしようもない。
今できることは、みんなの到着を待つことだ。

754Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:23:21 ID:NjnAvwz60

「あれは……?」

そんな中、ユーノは気づく。
目の前から、巨大なシルエットが近づいてくるのを。
見てみると、何かの乗り物に見えた。
その機体はユーノの前で止まる。
そして、運転席から現れた人物を見て、ユーノは驚愕した。
そこにいたのは、アジトの前で合流した二人。
天道総司とスバル・ナカジマだった。
彼らに続くように、バリアジャケットを展開した高町なのはも、空から現れる。
三人の顔を見て、ユーノは安堵の表情を浮かべた。

「なのは…………良かった、みんな無事だったんだね」
「心配かけてごめんね。ユーノ君、ヴィヴィオ」
「なのはママっ……!」

なのはの胸に、ヴィヴィオは飛び込む。
血に濡れた服を纏った少女を、母は受け止めた。
そして、ヴィヴィオの小さな背中を、なのはは両腕で包み込む。

「会いたかった…………会いたかったよ、ママ」
「うん…………ママも、ヴィヴィオに会いたかったよ」

母と娘は、ようやく再会を果たした。
狂気のデスゲームによって、離れ離れとなった親子。
涙を流し続けるヴィヴィオを、なのはは笑顔を浮かべながらゆっくりと抱きしめる。
それは、殺し合いと言う現状を忘れさせてしまうほど、暖かかった。
抱擁を交わしているなのはとヴィヴィオを、他の三人は見守っている。
天道は安堵の目線を向け、ユーノとスバルは柔らかい笑顔を浮かべていた。











集結した一同は、崩壊した車庫の前で会話を始めた。
天道、なのは、スバルの三人が繰り広げた戦いとその結果。
ユーノが訪れた場所に仕掛けられた罠。
このデスゲームに架せられた、タイムリミットの仮説。
未だ自分達に牙を向ける可能性がある、二体の怪物。
キングと、ギラファノコギリクワガタを模した謎のアンデッド。
なのはとスバルは、それが金居である可能性があると語った。
なのはは金居を、まだ戦いに乗っていた頃のかがみから、自分を助けてくれた人物と言う。
スバルは金居を、はやてと共に行動していた、謎の人物と言う。
一見すると、友好的に見えるかもしれない。
しかし、その内面は未だ知ることが出来なかった。
いずれにせよ、キングだけでなく金居に対しても何かしらの警戒をしなければならない。
一同は、そう結論を付けた。

755Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:23:53 ID:NjnAvwz60

「…………たくさんの人が、犠牲にされたんですね」

暗い表情を浮かべながら、スバルは不意に呟く。
六十人もの参加者が、既にもう七人しか残っていない。
その内二人が、危険人物の可能性がある。
同じ世界から連れてこられた恩師や親友達、そしてこの地で出会った人々。
ほとんどが、死んでしまった。

「もう、残った時間もそんなに無い…………」

支給された時計を、ユーノは見つめる。
その針は、既に五時を超えていた。
推測していたタイムリミットを超えるまで、もう一時間もない。
それでもユーノは決して、絶望することはしなかった。
例え、未来を迎えられる可能性が低いとしても、最後まで希望を捨てることはしない。

「なのはママ…………」
「…………大丈夫だよヴィヴィオ、ママがついてるから」

怯えているヴィヴィオを、なのはは優しく励ます。
二人はそれぞれ、後悔を抱いていた。
ヴィヴィオは、なのはやスバルを裏切ってこんな殺し合いに乗ってしまい、キャロ・ル・ルシエの死体を滅茶苦茶にした事。
それだけではなく、なのはと一緒にいた天道を襲ってしまった事。
なのはは、はやてやかがみを助けることが出来なかった事。
そして、たくさんの人を助けられなかった事。
それでも二人は、後悔に支配されなかった。
ここで立ち止まっても、何もならない。
真にやるべき事は、過ちを二度と繰り返さないと決意して、前を向くこと。

「…………」

残された仲間達の顔を、天道は見つめた。
この狂ったゲームに集められて、様々な悲劇に巻き込まれる。
しかし誰一人として、途中で屈することはしなかった。
そしてこれからも、倒れることはない。
いや、自分がさせない。
例え主催者が、どんな罠を仕掛けていようとも、必ず打ち破ってみせる。
ここにいる全員、誰一人として欠けるようなことは、これ以上絶対にあってはならない。
キングのよって殺された、アンジール・ヒューレーにもそう誓ったのだから。

「あ、そういえばみんな。もう一つだけ、言いたいことがあるんだ」

ユーノは、アジトの前ではやてと出会った際に聞いたことを話す。
この会場の中央に位置するエリア、E−5。
既に禁止エリアとなったそこは、参加者の望む場所に転送する魔法陣が存在するらしい。
そこに行けば、何かの手がかりが得られる可能性がある。
しかし、可能性としてはあまりにも低かった。
そこにある転送魔法陣が、残っているとは限らない。
仮にあったとしても、それが脱出に繋がるかどうかも不確定。
そもそも主催者が、参加者を助けるようなことがするはずがない。
それにそのような場所なら、制限の影響も強く出るはず。

756Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:26:00 ID:NjnAvwz60

「正直、分が悪いけど…………他に方法が無いんだ」
「ならば、やるしかないか」

ユーノの提案を、天道は受け入れる。
他の三人も、それに頷いた。
これで、ようやく彼らの行動方針が決まる。
まず、禁止エリアとなったE−5地点に行って、手がかりを探すこと。
ただし、キングと金居にも充分に警戒を向けなければならない。
この状況では、彼らが結託して自分に牙を向ける可能性も充分にあるからだ。

「一つだけ言おう」

全てが決まった直後、天道は口を開く。
彼の瞳には、確固たる意志と強さが感じ取れた。
そこに映るのは、残った仲間達。
高町なのは。
ユーノ・スクライア。
スバル・ナカジマ。
ヴィヴィオ。
フリードリヒ。
誰一人として視界から欠かすことなく、真っ直ぐな視線で見つめながら天道総司が言葉を続けた。

「一度しか言わない…………例え世界がどんな暗闇に包まれていようとも、太陽は必ず昇る。人の道を歩む限り、明日は訪れる」

天道は一語だろうと欠かさずに、言動に力を込める。
これは、おばあちゃんの言葉ではない。
天道自身が語る言葉だった。
彼の言葉を、全員はしっかりと耳にしていた。

「これ以上、誰一人として死なせない…………いいな!」

天道は静かに、それでいて大声で語る。

「わかりました!」

なのはは頷く。

「そうですね!」

ユーノは頷く。

「はい!」

スバルは頷く。

「うん!」

ヴィヴィオは頷く。

「キュ〜!」

フリードは頷く。

『『Yes!』』

レイジングハートとバルディッシュは、了承の合図としてその身体を輝かせる。
狂気の戦場に放り込まれ、生き残った者達。
ここにいる全員は皆、意志を持っていた。
絶対に、こんな不条理な戦いの犠牲にはならない。
そして散っていった者達の為に、前を進む。
揺るぎない思いが、彼らを動かす力となっていた。

757Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:26:39 ID:NjnAvwz60











それからなのははケリュケイオンを使って、龍魂召喚を行った。
フリードを巨大化させて、ユーノとヴィヴィオを自分達に追いつかせるために。
その提案には、フリードもあっさりと受け入れた。
今はタイムリミットが迫っている。故に、急がなければならない。
残る天道とスバルは、ジェットスライガーを上手く二人乗りして、空を飛んでいる三人に並んだ。
なのははバリアジャケットを展開して。
ユーノとヴィヴィオはフリードの上に乗って。
天道とスバルはジェットスライガーを操作して。
それぞれE−5地点を目指した。
この戦いに残された時間は、もう一時間を切っている。
果たして、如何なる結末を迎えるのか。
革命(レボリューション)の時は、訪れるのか。
それは、誰にも分からない。







【2日目 早朝】
【現在地 E−7】


【全体備考】
※まず、E−5地点に向かって脱出の手がかりを探そうと考えています。
※何かの罠があるかもしれない、と警戒しています。
※キングと金居を警戒しています。
※情報交換を交わしました。


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、全身にダメージ(小)
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.ここにいる全員を先導して、アルハザードから脱出する。
 2.主催側に警戒。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。

758Revolution  ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:27:09 ID:NjnAvwz60
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(小)、疲労(中)、魔力消費(中)、首筋に擦り傷、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し、ボロボロ)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ホテル従業員の制服、リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.これ以上誰も死なせずに、脱出する。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)の暴走を許すつもりはありません。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(小)、魔力消費(中)、強い決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(内1つ食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。
 2.ヴィヴィオを守る。
 3.ジュエルシード、レリックの探索。
 4.E−5地点の転送魔法陣を調べ、脱出方法を模索する。
 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※プレシアが退場した可能性に気付きました。同時にこのデスゲームのタイムリミットが2日目6時前後だと考えています。


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、全身ダメージ(小)、悲しみとそれ以上の決意、バリアジャケット展開中
【装備】リボルバーナックル(左手用、6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX、
    ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ジェットスライガー(ミサイル残弾数0)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ボーナス支給品(確認済、回復アイテムではない)
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ここにいる全員と一緒に、脱出する。
【備考】
※金居とキングを警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。



【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(小)、肉体内部にダメージ(小)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、フリードリヒ(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1.みんなと一緒に、生きて帰る。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※天道に対する誤解を解きました。

759 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 00:28:47 ID:NjnAvwz60
以上で、自分の本年度最後の投下完了です。
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。
それでは皆様、よいお年を。

760リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 07:58:18 ID:Mrf66MEIO
投下乙です
脱出なるか、対主催!?
そうだよな、キングと金居は勝手に二人で決着つけるだろうし、後は残ったメンバーがどう脱出するかが重要なんだよな
にしてもジェットスライガーに二人乗りは座席の構造的に危な過ぎるぞ天道w

一つ疑問なんですが、ユーノってはやてから魔法陣の話なんて聞いてましたっけ?
それと、何故その魔法陣が脱出への手掛かりに繋がるのかという考察が分かり辛かったので、もう少し考察に説明を入れた方がいいかもしれません

761 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/31(金) 08:39:30 ID:NjnAvwz60
魔法陣の話に関しては、はやてと出会った際に情報交換したと本文に書きましたので
その時に、知ったというつもりで書きました。
指摘された部分を、修正or描写追加します。
もしくは魔法陣&移動パートをカットしようと思います。

762リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 08:53:51 ID:exOpJu7.0
投下乙です、

無事残り対主催が集結したか……キングと金居の動きが不穏ではあるものの首輪も全解除しようやく動けそうな……
とりあえず魔法陣に向かう方向になるが……間に合うだろうか……キングと金居の動きもあるしなぁ。

誰もアギトについて触れないのがちょっと可哀想に感じたお(なのはぁ……)……

指摘された点については描写追加で問題は無いと思います。
合流当時には描写されていなかったけど、実はそういう情報聞いていました的なパターンは何度かありましたし(例えば、放送遅れについて、はやてもユーノも放送直後の話ではなく後々の話で実は気付いていたと描写されている。)。
今まで話に出なかったのは、合流時点では禁止エリアになるから手の出しようが無かったからとすれば問題はないわけですし。

763リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 09:46:54 ID:U5z9BWms0
投下乙です
おお、対主催チームはそう動くか
これなら確かに上手い事地上本部に集まれそうだw
天道は天道でいい味出してたし、いよいよ戦いもラストスパートかな
……ん? 残り時間が一時間切ってるって事は、天道はもうこの会場でカブトに変身する事はないという事に……?
まあでも天道なら大丈夫か……だって天道だし。

764リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 09:59:14 ID:exOpJu7.0
この話の間で1時間経過したと考えれば一応変身は可能では? 状態表にも変身不能って無いからあり得そうですし。
まぁ、不能でも天道ならなんとなく大丈夫そうな気もするが。
それに、残り時間っていうのも厳密なものじゃない筈なのでので多少の誤差(数分〜数十分?)が出るだろうし。

765リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 16:44:24 ID:UYEROnUo0
投下乙です
もう終わりまで秒読み段階だな
あ、そういえばこれがなのはとヴィヴィオ待望の再会か(前はヴィヴィオが気絶していたので)
よかったよかった

ちょっと気になった点
最後の方でなのはがフリードを竜魂召喚していましたけど、あれケリュケイオンごとユーノに渡してしてもらった方が自然だと思いました
あと状態表ちらほらと不必要な文ありました(既に死んだ人に関する云々etc)

766リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 16:46:41 ID:UYEROnUo0
>>762
それは少し違うのでは
少なくともそのはやてとユーノの事例に関しては全員が共有できる情報で且つ「その人個人」の中で完結しているものであるので特に問題ではないでしょう
でも今回は他者からの情報によるものなので同じものと見なすのは少々違うと思います
その情報を知った時の話を書いた書き手がわざと伝えなかった可能性もあるので
しかし今回は該当部分が大雑把に書かれているのでこういう会話があってもおかしくないので問題はないと思います
ただしもし会話部分がもう少し詳しく書かれていれば何らかの修正が必要だった可能性があるでしょう

長々と書きましたが、つまりもしどこか他の場所で同じような事をしたら修正を要求される可能性があるので注意してください、と言いたかった
お節介かもしれませんが

767リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 16:47:29 ID:UYEROnUo0
追記:別に>>762だけに言ったのではなく、ここを見ている人全員へ

768リリカル名無しStrikerS:2010/12/31(金) 21:51:42 ID:hzhueTjo0
>>766
大部分に関してはその通りだと思うし、場合によっては修正される可能性が高いという事は確かかもしれません。
只、
>その情報を知った時の話を書いた書き手がわざと伝えなかった可能性もあるので
……この部分に関しては正直容認仕切れません。
というのもリレー企画である以上、前の書き手の意図を100%理解しきって話を書けるとは限らないと思っています。
例えば前述の通りわざと伝えなかったとしても、次の書き手がどう判断するかは次の書き手次第だと思っています。
意図しないリレーをされたくないのであればややこしい描写などせず最初からちゃんと描けという話だと思います。

何にせよ、氏の意見や自分の意見が絶対という事は無いという事だけは踏まえてください。

本題に戻りますが、ユーノ達の合流話『罪』(ちなみに実はこれもLuu氏が書いている)では

>ここに辿り着いてユーノ達と情報交換して、スバルからの伝言を伝えた。
その際に、向こうは既に首輪の解除を成功したと知る。
しかし、自分もはやても今のかがみの事だけは伝えていない。

とあるので、魔法陣の情報交換を行っている可能性はあると判断しても良いと思います。

769リリカル名無しStrikerS:2011/01/01(土) 01:24:37 ID:MePFKmCw0
>>765

ケリュケイオンごとユーノに渡して と言いましたが、
竜魂召喚はちゃんと心を通わせた人物でないと、
フリードが暴走してしまうので難しいうえに危険です(過去の作品で実際に暴走描写があります)。

あと、なのはがスバルにリボルバーナックル(右手用)を渡してないのは何でだろう?

770 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 11:47:49 ID:U.zoA8Zg0
皆様、新年あけましておめでとうございます
それでは修正次第、指摘された点を修正スレに投下させていただきます

771 ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:17:22 ID:tZb6wLm60
予約分の投下を開始します。

772Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:21:28 ID:tZb6wLm60
 カブトの破壊剣と、クワガタの双剣が激突した。
 お互いの腕と、踏ん張る脚に振動が響き渡って、溜まらず数歩後退。
 突き刺す様な視線を交差させて、黄金の仮面の下でキングが嘯いた。

「ねえギラファ、もう止めようよ。僕達が戦う事に何の意味があるのさ」

 何を抜け抜けと、と金居は思う。
 自分達はアンデッドだ。戦わないアンデッドに存在意義などない。
 最後の勝者になって初めて、アンデッドとしての存在意義を証明出来るのだ。
 にも関わらず、このスペードのキングには戦う意思がないと言う。
 金居にはそれが理解出来なかったし、理解するつもりも無かった。
 故に、無言のうちに双剣を振りかざし、再びキングに肉薄する。

「シェアッ!」

 だが、コーカサスは微動だにしない。
 ギラファが振り下ろしたヘルターは、コーカサスに触れる前に盾に阻まれた。
 ならばとばかりに、矢継ぎ早にスケルターを振り上げるが、それも通りはしない。
 繰り出した攻撃は尽くコーカサスの盾に阻まれ、無駄に火花を散らすだけだった。

「はぁ……僕達に戦う意味がないって言ったのは、ギラファじゃないか」
「ああそうだ……確かにあの時点では俺たちに戦う意味など無かった……!」
「今だって無いよ。だって、そもそも僕に君と戦う意思がないんだもん」

 ギラファの剣を盾で弾き返して、コーカサスが告げた。

「戦う気が無いならそれまでだ。この場で俺が封印してやる」

 そう、あの時は確かに自分に他のアンデッドを封印する術は無かった。
 故にライダーシステムに頼るしか無かったし、アンデッド同士は結託するのが得策かと思えた。
 だけど、今は違う。今は、この会場の中に居る限り、この男を封印する術が、自分にはある。 
 この場で力でねじ伏せれば、それだけでキングを封印する事が出来るのだ。
 だからこそ、金居はこの場で何としてもキングを封印する。
 その為に剣を振り続けるのだが――

「別にいいよ。ギラファが僕を封印したいなら」
「何……?」

 予想外の言葉に、振り下ろす双剣が止まる。
 封印された時点で、アンデッドとしては死んだも同然。
 確かに封印された後も何らかの形で現実世界に干渉する事は可能だ。
 だが、それでも封印前と比べれば殆どの行動が制限されるし、封印されるメリットなど無い。
 故にキングの言葉を戯れ言と切り捨てようとした、その瞬間だった。
 おもむろにデイバッグに手を突っ込んで――

「ほら、これあげるよ」
「これは――!!」

 三枚のカードを、ギラファに向かって乱暴に投げつけた。
 それらは全てギラファの黄金の胸板に当たって、はらはらと舞い落ちる。
 落ちたカードを手にとり、その絵柄を確認した所で、ギラファは驚愕した。
 それはギラファも良く知る、自分達を封印する為のラウズカード。
 鎖だけが描かれた、何も封印されていない状態のそれの名は。

773Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:22:19 ID:tZb6wLm60
 
「これは……プロパーブランクのカード……! 何故貴様がこれを!?」
「ボーナス支給品って奴だろうね。別にいらないから、ギラファにあげるよ」

 仮面ライダー達はこのカードを使い、アンデッドを封印し続けて来た。
 それが何を意味するのか――つまりは、このカードさえ持って居れば、金居もライダーと同じ様に戦えるという事。
 といっても、今手元にあるプロパーブランクに対応しているのは、三体のアンデッドだけのみ。
 それぞれのカードに記された記号は、スペードのK、ダイアのK、コモンブランクで計三枚。
 そう、この会場で殺し合いに参加させられていた三体のアンデッドに対応しているのだ。
 故に、この瞬間から金居は、元の世界に戻ってからでも、キングを封印出来るのだ。

「これで俺はいつでもお前を封印出来る。お前は何が望みなんだ?」
「別に何も。僕は楽しければそれでいいからさ」

 嘲笑う様に告げて、キングの装甲が音を立てて消失した。
 そこに居るのは、最強のアンデッドなどでは無く、只の一人の少年。
 煩わしそうに黒の仮面とマントをその場に脱ぎ捨てて、髪の毛をかき上げる。
 微かに日が昇り始めた雑木林の中で、風に靡く赤いジャケットは酷く浮いて見えた。
 ともあれ、変身制限が掛けられたこの会場で、自ら変身を解除するのは、自殺行為。
 この場でキングを殺せば、ブランクを持った金居に敗北はあり得ない。

「僕はバトルファイトなんてどうだっていい。だから別に封印されたって構わない」
「解せないな。なら、お前は何のために今まで戦い続けて来た」
「だ、か、ら、言っただろ? 楽しければそれでいいってさ」

 呆れた様に笑いながら、キングがのたまった。
 プロパーブランクのカードを矯めつ眇めつして、考える。
 こいつは本気で自分と戦う気など皆無なのではないか、と。
 もっと別な何かを考えて、その上で金居に協力を持ちかけているのではないか。
 少しでも情報を得たい現状、キングを信じて、話を聞くくらいはしてやってもいいのではないか。

「いいだろう。お前の考えを聞いてやる」

 そこまで考えて、ギラファアンデッドは黄金の装甲を解除した。


 それから一時間足らず。
 二人は現状の情報交換を行った。
 といっても、この会場で起こった出来事にそれ程興味は無い。
 二人が今何よりも優先して行わなければならない情報は、主催についてだった。
 金居がこれまで主催側とコンタクトを取っていたという事実を知って、キングは神妙に頷いた。

「なるほどね。実は僕もプレシアから情報を与えられてたんだ」
「情報、だと……?」
「ま、簡単に言うと参加者全員の詳細情報って所かな」

 だから金居がワームのボスの時間停止に負けた事も知っている、と続けた。
 それを知っているという事は、キングの時間停止を利用しようとしていた事も知られているのだろう。
 となれば、キングに対してこの会場に来る前の出来事を隠し通す事はほぼ不可能と考えていいだろう。
 だが、何故カテゴリーキングの二人にだけ主催側とのパイプが用意されていたのか。
 今度はそんな疑問が残る。

「もしかしたら、プレシアは僕達をジョーカーとして利用しようとしてたのかも知れないね」
「やめてくれないか。仮にそうだとしても他の言葉を使って貰いたいな」
「あっはっは、そっか! ギラファはジョーカーと因縁があるんだっけ!」

 キングの言うジョーカーとは、奴――相川始――の事では無い。
 そうと分かってはいるのに、金居の中で言い様の無い嫌悪感が湧き起こる。
 全ての生命を滅ぼす奴を、自分達の存在意義を無にする奴を、金居は認めたくはなかった。
 冗談であったとしても、全ての生命の宿敵と同じ名前として利用されるなど考えたくもない。

「とにかく、そこまで殺し合いを促進させておいて、この終盤でこうも簡単に首輪を解除させるのが解せない」
「それなんだけどさ、多分プレシア死んじゃったんじゃないかなって僕は思うんだけど」
「お前もそう思うか」

 それに関しては、どうやらキングも同じ見解らしかった。
 プレシア死亡に至るまでの考察は、今まで何度も考えた通りだ。
 定時放送が不自然に10分送れた事。首輪が突然解除された事。
 それらから考えるに、少なくともプレシアの身に何も起こっていないとは考え難い。

774Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:22:55 ID:tZb6wLm60
 
「プレシア自身も、多分48時間くらいがタイムリミットだと思ってたんじゃないかな。
 でもそのタイムリミットが来る前に、この殺し合いは誰かに乗っ取られちゃった。
 なら、この殺し合いはどうなるのかな? 次の放送はあるのか、それとも……」
「下手をすれば俺達はこのまま、この世界ごと捨てられる可能性もある」
「ははっ、相変わらず察しがいいね、ギラファ」

 首輪が無い意味、もう何を話そうが盗聴される恐れは無い。
 二人は堂々と各々の見解を語り合い、一つの答えへと結び付けて行く。
 カテゴリーキングの二人の考察はだいたい同じで、自分達が危機的状況にある事に繋がってゆく。

「だとすれば……拙いな。この世界と心中だけは避けたいが……」
「ギラファ、一つ聞かせて欲しいんだけど、君はこの戦いで何を求めていたのさ?
 まさか何も考えずに殺し合いに乗ったら元の世界に帰れるなんて馬鹿な事考えてた訳でもないだろ?」

 当然だ。
 ギラファの目的は、二度とこんな殺し合いに巻き込まれない様にする事。
 その為に主催であるプレシアに従ったフリをしながら、最終的にはプレシアを殺す。
 主催側を完全に叩き潰して、完全にこんな殺し合いからはおさらばする。
 それが目的だったのに、当面の敵が見えなくなってしまった。
 それを告げると、キングは愉快そうに笑って、嘯いた。

「やっぱり僕の思った通りだ! ギラファならそういう事考えてると思ってたよ!」
「だが、今となってはもう、それを考えた所でどうしようもない」
「どうかな? まだ出来る事はあるかも知れないよ」
「何……?」

 不敵に笑うキング。
 それからキングの主導で、もう一度二人の行動を洗い直した。
 二人の行動に共通していたのは、この会場の中央部へ赴いた事。
 場所は違えども、二人は共通した魔法陣を目撃し、それで移動を行った。
 キングが知っている魔法陣は、確かに地上本部の頂上にあった筈だ。
 なのに、地上本部倒壊後には地下へと転移していた。

「プレシア達は、どうしても魔法陣が必要だったのかな?」
「そうだとして、それが何になる? この世界が放棄されれば魔法陣など関係ないだろう」
「うーん、それはそうなんだけど、どうしても気になるんだよね」

 わざとらしく顎に手を添えて、考える素振りを見せるキング。
 魔法陣がどうなろうと、今更そんな事は大した問題では無い。
 今はどうやってここから脱出するか、が重要なのだ。

「もしかしたらさ、その魔法陣、逆転の切り札になるかも知れないよ」
「何……どれはどういう事だ?」
「だって、どうしてもその魔法陣が必要だったとするなら、何の為に必要だったと思う?」
「知るか。この殺し合いの裏方の都合など……」
「なら、なんで必要な魔法陣を作りなおした直後に、あそこを禁止エリアになんてしたんだと思う?」

 金居の中で、確かな疑問が芽吹いてゆく。
 キングの言う通りだ。どうしても必要で魔法陣を作ったのだとしたら、そこを禁止エリアにする理由は何だ?
 どうせ禁止エリアにするつもりなのなら、魔法陣など作らずともそのまま捨て置けばいいのではないか?
 ならば、何故だ。何故奴らはもう一度魔法陣を作り直したのだ。
 殺し合いを続ける上で、どうしても必要だったから?

「どうせ首輪ももう無いんだ、ここでじっとしてるくらいなら、ちょっと行ってみない? 気になるんだよね、どうしても」
「構わないが……お前はそこへ行ってから、どうするんだ」

 それだけが気掛かりだった。
 キングは殺し合いには興味がないから、封印されても構わないとのたまう。
 だけれど、地上本部に向かった後どうするのか、明確なビジョンは未だ見えない。
 だから不安要素を今のうちに消しておくためにも、金居はキングに質問した。

「そうだなぁ……仮に魔法陣が必要だったとして、ギラファは何の為に必要だったと思う?」
「具体的にはわからないが、会場と主催側を繋ぐ何らかのパイプとして必要だった……とか、そんな所じゃないか」
「ま、そうなるだろうね。もしもこのそれで主催側の本拠地に乗り込めたなら、さ」

 口角を吊り上げて、心底楽しそうに続ける。

「僕は、プレシアの力が、欲しい」
「何だと……?」

 それは、キングが初めて告げた、「楽しむ」以外の欲望。
 否。それも元を辿れば、楽しむ為の過程に過ぎないのかも知れない。
 金居の神妙な視線と、キングの愉快気な視線が交差して、キングは語り出した。

775Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:23:27 ID:tZb6wLm60
 
「だって凄いじゃないか。プレシアはこんなにも沢山の世界に干渉する力を持ってる
 考えてもみなよ。その力と比べれば、僕達の世界のバトルファイトなんて取るに足らない。
 無数に存在する世界を全部、自分の自由に出来るとしたら、こんなに素敵な事は無いよ!」
「お前は、バトルファイトで優勝する事よりも、その力を望むのか……?」
「当然さ。だって馬鹿馬鹿しいんだよね。あんなちっぽけな世界で争い続けたって、僕は満足しない。
 ワームや人間達に邪魔されながらも頑張って戦い抜いて、世界を作り変えて、自分だけの楽園を創る?
 ……馬鹿馬鹿しいよ。そんな事をするくらいなら、まだ何が起こるか分からない無数の世界に僕は賭けたいんだ」

 それがキングの考えだった。
 思えば、この男は初めて出会った時にもそんな事を言って居た気がする。
 この男は、際限なく戦い続け、勝者を決めるだけのこの戦いに嫌気が刺していたのだろう。
 だから、「楽しむ」為に他者を利用し、全てをブチ壊して、何もかもを破滅させようとしていた。
 そんなキングに舞い込んだチャンス。全ての世界を自由に出来るという、途方も無い程の力。
 仮にそれが得られなくとも、それに賭けて動いてみるのは、十分楽しいゲームなのだろう。
 だからキングは、この新しいゲームを攻略する為に、金居に話を持ちかけた。
 そこまで分かって、金居はキングに向き直った。

「いいだろう……確かに、世界が無数にあるなら、どちらかの勝者を決める必要などない」
「そうそう。きっと僕達二人でだって持て余すくらい、世界は沢山あるんだ。
 なら元の世界のバトルファイトにこだわる必要なんてない。君があの世界にこだわるなら、君の好きにすればいい。
 仮にもしも僕の憶測が外れて、他の世界を手に入れられなかったとしても、それは単に僕がゲームオーバーってだけ。
 その時は、君が僕を封印して、元の世界に帰ってくれればいい。君にとって、デメリットはないだろ?」

 確かに、キングの言う通りだった。
 基本的にキングは、自分の封印に関しては元々こだわっていない様子だった。
 となれば、ブランクのカードを持っている今、この男を封印する事はそれ程難しい事では無い。
 それよりも寧ろ、キングの話に乗って、何らかの時間停止に対抗する手段を得た方が得策だと思える。
 ワームのボスにリベンジを果たした上で、金居は自分のバトルファイトで優勝する。
 それさえ出来ればいいのだから、二人の利害は一致している。

「分かった……次の放送まで時間もそれ程残されてはいない。とっとと地上本部跡地へ向かおうか」
「あっ……ちょっと待って」

 不意に、キングが神妙な面持ちで金居を遮った。
 次の放送があるかどうかも分からない今、ここでじっとしていたくは無い。
 少しでも可能性があるなら、一刻も早く行動に出たかったのだが――。

「あれ、見てよ」

 キングが指差したのは、彼方の空。
 普通の人間よりも圧倒的に強力な視力を持った金居には、それが見えた。
 日が昇り始めた空を駆け抜ける、一台の巨大マシンと、一匹の巨大な竜。
 それから魔法で空を飛ぶ女が一人と、竜の背には点々と人間の影も見えた。
 そして、奴らが向かっている方向は、恐らくは会場の中央方面。

「ほう……どうやら奴らも考える事は同じだったようだな」
「はは、ギラファ、これで尚更行く用事が出来たね」

 生き残った参加者達が、こぞって地上本部に向かっている。
 このまま先を越されて、奴らだけ脱出などされては、堪ったものではない。
 また、一緒に脱出したとしても、元の世界に帰れば、高確率で仮面ライダーは敵になる。
 ならばこの会場が朽ち果てる前に、奴らをこの手で倒しておくのも悪くは無い。

「これが、この場での最後の戦いになるか……?」
「さあ、どうだろうね。ここまで来たら流石の僕にもわかんないや」

 恐らく、嘘は言って居ないのだろう。
 地上本部に何があるのかは分からないが故に、キングにも今後の想像は出来ない。
 当然の事だ。だけれど、キングの性格を考えれば、奴らと一緒に脱出など考えている訳も無い。
 こいつの事だ。どうせ最後のお楽しみとか何とか言って、あの参加者共で遊ぶつもりなのだろう。
 それを止めるつもりも、邪魔するつもりもない。奴らがどうなろうが知った事は無いからだ。

776Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:24:01 ID:tZb6wLm60
 
「だが、どうやって向かう? 徒歩じゃ追い付けないぜ」
「大丈夫だよ。移動手段なら、ある」

 いいながら、デイバッグを逆さにした。
 ぐぐっと、口を前回まで広げて、そこから何かを取り出そうとする。
 このデイバッグには、質量などという物は関係ない。何だって収納できる、魔法の鞄だった。
 どんな原理か想像も出来ない鞄の中から、金色の何かが音を立てて落下を始める。

「これは……」

 それから間も無くして、それは完全に姿を現した。
 金色と黒のボディを輝かせて、どすんっ! と音を立てて現れたのは、一台のバイク。
 SMART BRAINのロゴを輝かせて、特徴的なフォルムを見せつけるそれは、仮面ライダーの乗り物だ。
 金居は見た事がなかったが、左サイドにサイドカーを装着したそのバイクの名は、サイドバッシャー。
 それをどうしてキングが持っているのか。そんな疑問を口にする前に、荷物の整理をしていたキングが口を開いた。

「ボーナス支給品、って奴だろうね。多分クアットロを殺した時の奴。
 ずっと気付いてたんだけど、使い道がないからそのままスルーしてたんだよ」
「まさかこんな所で役に立つとは……とんだご都合主義だな」

 呆れたように笑って見せるが、これ程の僥倖は無い。
 仮面ライダーのマシンを使えば、圧倒的なまでの加速が可能だ。
 これを使えば恐らくは、奴らに追い付く事だって可能。

「さあ、準備完了。運転は僕に任せてよ」

 邪魔な荷物を全てその場に置き去りにして、キングが運転席に跨る。
 ならば自分もとばかりに、自分の持つ余計な荷物を全てその場に捨て置く。
 思えば自分も余計な荷物を持ち過ぎて、やたらとデイバッグの中がごちゃごちゃしていた様に思う。
 金居がサイドカーに乗った事を確認すれば、キングはサイドバッシャーにエンジンをかける。
 ドルルルル! と轟音を響かせて、サイドバッシャーのライトに眩い明かりが灯った。
 ライトの光に照らされた一本の道。それは、これから二人が歩むたった一つの道のりだ。

 この先に、果たして何が待って居るのか。
 最後の戦いか。はたまたそれ以外の結末か。
 全ての世界を手にするか、何も得られずに終わるか。
 終わる世界を前に、二人の道化は最後の戦場へと赴く。

777Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:24:32 ID:tZb6wLm60
【2日目 早朝】
【現在地 D-9 雑木林】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートのA、3〜10)、
    RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にし、主催を乗っ取る。
 1.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 2.地上本部に集まった参加者達で何か遊んでみる……?
 3.楽しむ事が出来たなら、最終的に金居に封印されても構わない。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。
※キングが邪魔だと判断した支給品は全て捨てました。


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、デザートイーグル(4/7)@オリジナル
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK、ダイアKのブランク、スペードKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
    ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
    ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:ゲームからの脱出、もしくは主催の乗っ取り。
 1.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 2.地上本部に集まった参加者に利用価値がないなら容赦なく殺す。
 3.最終的にキングが自分にとって邪魔になるなら、自分の手で封印する。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※最早プレシアのいいなりに戦う事は無意味だと判断しました。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※金居が邪魔だと判断した支給品は全て捨てました。

【全体の備考】
※以下の支給品をD-9 雑木林に放置しました。
 ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち
 おにぎり×10、菓子セット@L change the world after story、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎
 いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、顔写真一覧表@オリジナル、ガムテープ@オリジナル
 トランシーバー×2@オリジナル、トランプ@なの魂、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル
 首輪の考察に関するメモ、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(アグモン、アーカード、シグナム)
 かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デイバッグ×8

778Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:37:24 ID:tZb6wLm60
投下終了です。
いやあ皆さん、2010年は色々とお世話になりました。
気付けば本スレで自作を更新するよりも、こちらの方がホームになっていたとうか。
というか正直ここで書いている時が一番自分らしさを出せている気がするんですよね、自分。
チャットやら何やらで色んな書き手さんと交流を持てたりとか、いい経験も沢山積めましたし。
そんなこんなで、最初はサブのつもりだったけど、気付けば他の何処よりも思い入れが強くなっちゃったんですよね、この企画。
そんな思い入れの強いロワ企画、もうすぐ終わりそうですが、今年も完結に向けて頑張って行きますので、よろしくお願いします。

さて、今回のサブタイトルの「U」は、ユートピア(理想郷)、アンデッドの二つです。
キングが望む理想郷へ向かって、二人のアンデッドは行動を共にするのですが、
今の今まで理想郷のくだりを本分に入れる事を完全に失念していたっていうね。
そんなこともあって、wiki収録時にはまた本文を多少弄る事になると思います。
そういう事にならない様に投下前によく考えて推敲すれば良かったと後悔してます。すみません。
それでは、また指摘やら何やらあればよろしくお願いいたします。

779リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 20:40:31 ID:PV5cpvPcO
投下乙です
ああ、キングと金居も地上本部に向かうか…………
果たして、どんな結末を迎えるだろう

780リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 21:11:17 ID:SgEI4in20
投下乙です
おお、これはもう「最終回」間近ですね
結局キングと金居は手を組んだ……って、前回の引きから考えられる対主催にとっては最悪のパターン!?
でも捨てた支給品大半が要らないものだけど、一部惜しい物がw
正宗は長いから使いづらいとして、用途不明だったとはいえレリックとかいふくのマテリアを捨てるなんて……
ん?キング、クロス作品読んだのならレリックやマテリアのこと分かりそうだが……流し読みじゃ無理か……?

781 ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 21:19:21 ID:tZb6wLm60
あー……かいふくのマテリアについては最初は残すつもりだったんです。レリックも。
けど、よくよく考えたら金居視点ではあの球体を見ただけでマテリアだと判断するのは難しいかなー……と。
で、金居はそのまま他のと一緒にマテリアを捨て、キングもサイドバッシャーにかまけていた為に気付かなかった、と。
あと、この期に及んで唯一残ったマーダー組であるこいつらに回復品を残すのもどうかなー……と思いまして。

ちなみにレリックはもしかしたらヴィヴィオに使えるかもしれないので残したかったんですが、
花に偽装してるなら間違いなくいらないものとみなされるだろうと判断してそのまま捨てさせました。

782リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 21:22:55 ID:SgEI4in20
わざわざ返答してくださりありがとうございました

783リリカル名無しStrikerS:2011/01/06(木) 00:14:43 ID:ZrXvpXRk0
投下乙です、
キングとアンジールはここで組んでいよいよ地上本部最終決戦か……対主催がボロボロである事考えるとこれもう詰みかもしれんなぁ……
キングは遊ぶつもりで、金居も対主催側が脱出する事は阻止するだろうし……
……まぁ、キングと金居もある意味では対主催なわけですが(脱出目的的な意味で)
……ということはこれってある種スカ組、アンデッド組、天道組の三つ巴か?

784リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 02:00:06 ID:Z06J4xsQ0
投下乙です

このまま泥沼の可能性もあったが組んだか
対主催の面々にとってはまずいか
種スカ組もどう動くか…

785リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 03:28:43 ID:f/Ty.wQIO
種スカ組?

786リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 08:15:39 ID:8tFLBWBE0
スカはスカリエッティとして、種はなんだろう

787リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 09:58:04 ID:pRBAPN7w0
主催スカ組を略して主スカ組と書く所『主』を『種』と間違えて種スカと書いたんじゃ?

788 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:32:13 ID:gAI2iztE0
高町なのは(StS)、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、スバル・ナカジマ、天道総司、キング、金居、ウーノ、ドゥーエ、オットーで投下します

789 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:33:22 ID:gAI2iztE0

「ちょっといいかしら、ウーノ」
「どうぞ」
「生き残りが魔法陣で脱出するとかどうとか言っているけど、放っておいていいの?」
「ああ、それね……ふふふ……」
「?」
「気にする必要はないわ、だって――」


     ▼     ▼     ▼

790 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:34:07 ID:gAI2iztE0


スバルが目を開くと、炎に蹂躙されるアスファルトとコンクリートの瓦礫が見えた。
それらは辺り一面に転がり、次いで焼け焦げた匂いが鼻の奥を刺激する。
目の前に広がるのは瓦礫と炎が作り出した光景。
こんな光景を以前にもどこかで見た覚えがある。

(あ、そうだ。あの時だ……)

4年前、大規模な火災が起きたミッドチルダ北部臨海第8空港。
あの時スバルはまだ幼かった。
火災の前から姉のギンガと逸れていた上に一人で燃え盛る空港を彷徨っていた。
そして徐々に周囲の炎の勢いが増す様子に怯えて、途方に暮れた末に立ち止まってしまった。

その瞬間、スバルの近くにあった天使像が倒れてきた。

あの時、自分はここで死んでしまうんだと本気で思った。

だがスバルは生きている――憧れの恩師である高町なのはの活躍で。

(あの時は助けられるだけだったな……)

あの時はただ見ているしかできなかった。
自分を助けに来た高町なのはという魔導師の雄姿は今もはっきりと覚えている。

それからだ、スバルが魔導師を目指したのは。

(そうだ、もうあたしは『誰かに助けられる』側じゃない! 今のあたしは『誰かを助ける』側だ!)

そのために今まで精一杯努力してきた。
この腕は立ち塞がる障害を突破するため。
この足は少しでも早く救助に向かうため。

(そう、こんなところであたしは寝ている場合じゃ……………………え?)

その時、スバルは自分の置かれた状態を理解した。
頭部と左腕以外は瓦礫の下敷き。
戦闘機人の身体でなかったら即死だったかもしれない。
この時ばかりは半分機械の身体がありがたく思えた。
その頭部と左腕にしても無事とは言い難く、特に頭部は額を切ったせいか出血で視界が若干赤く滲んでいる。

だがそのような怪我など、両足が瓦礫で跡形もなく潰されている事に比べたら些細な事だ。

「うそ……そ、そんな……ッ、アアアァァァアアアアア!!!!!」

両足が潰れた。
それは当然もう走る事はおろか歩く事さえ、いやそれ以前に大地に立つ事もできない事を意味する。
スバルは両足の痛みも忘れて、呆然としていた。
もうこれでは誰かを助ける事など出来ない。
これでまた自分は『誰かに助けてもらう』側に戻ってしまった。

(……こ、こんな事って)

そして、あの時と同じように何もできない。

(……こんな事って……あんまりだ)

その瞬間、火災で耐久度が落ちた瓦礫がスバルの頭上に落下してきた。
少し前までのスバルならこれくらいの危機など脱する事ができたはずだ。
だが両足を失い、夢が断たれた今のスバルには、抗う気力がなかった。
ボーナス支給品の蒼天の書も他の道具と一緒に瓦礫の下敷きでこの状況では使い道がなかった。

(みんな……ごめん……)

デスゲームで死んでいった者とまだ生きている仲間の事を思いながらスバルは死を覚悟した。
だがいつまで経っても予想していた衝撃は来なかった。
それは誰かが落下してくる瓦礫を破壊してくれたおかげだと気付いたのはすぐだった。

「え?」

それはまるであの時の再現。
赤く滲む視界の向こうに誰かが手に持った何かをこちらに向けて立っていた。
炎の中に立つその姿はまるで光のように輝いていた。

「なのはさ――」
「皮肉だな。姉妹揃って同じ相手に殺されるとは」


     ▼     ▼     ▼

791 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:35:37 ID:gAI2iztE0


昇りかけの太陽に照らされた荒廃した大地。
その地の名は“E-5”。
このデスゲームの会場の中心に位置するビル密集地であり、その中央には時空管理局地上本部がひときわ高く聳え立っていた。
遠くからでも見上げる事ができたその姿は本部の名に相応しく立派に威容を誇っていた。

だがそれは最早今となっては過去の話だ。

セフィロス、アーカード、キース・レッド、アレックス、天上院明日香、八神はやて。
人外の域に達する力を備えた者同士が幾度となく激戦を繰り広げたおかげで、E-5にあった建造物はことごとく崩壊してしまった。
その結果、現在この地は以前とは打って変わって殺風景な瓦礫の野原と化していた。
まだこの地が無事だった頃を知る者からすれば、あまりの変わり様に思わず目を疑った事だろう。

しかし残念ながらE-5の手前に降り立った5人の参加者はいずれも初めてこの地を訪れた者ばかり。
それゆえにそこまでの驚きが湧いてくる事はなかった。

高町なのは、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、スバル・ナカジマ、天道総司。
さまざまな苦難を乗り越えて、5人の参加者は一堂に集い、今こうして一つの目的のために動き出していた。
この血塗られたデスゲームから抜け出し、元の世界へと帰還する事。
それこそが5人の目指すゴール。
そのためにはE-5にある転移魔法陣が重要な鍵である可能性が高い。
だから話し合いの末にE-5へ向かったのだが、目的地の上空に到着したところで厄介な問題が判明した。

その件の魔法陣がどこにあるのか見当が付かないのだ。

ユーノははやてとの情報をやり取りした際に『E-5には参加者を転移させる魔法陣がある』と聞いていた。
だがそれが具体的にどこにあるかは聞きそびれてしまっていた。
後から詳しく聞こうと思っていたのだが、その暇もないうちになのは達が合流して先程の騒動に巻き込まれた。
そして真相を知るはやては何も伝えないまま死んでしまい、情報源は消えてしまった。
なのは、天道、ヴィヴィオは魔法陣の存在を駅で合流した時に初めて知ったので詳しい場所など知っているはずなかった。
唯一スバルはデュエルアカデミアではやてが“月村すずかの友人”の名で送信したメールにて魔法陣の場所を知っているはずだった。
だが駅での話し合いで何も言わなかったように、かがみの襲撃に始まり衝撃的な事がありすぎたせいで忘却の彼方に追いやられてしまっていた。

つまり誰も魔法陣の正確な所在を知らない事になる。
しかし駅で集合した際にユーノ以外誰も魔法陣の存在を知らなかったのは不運としか言いようがなかった。
それでもE-5に向かったのは、E-5に行けば何かしらの手がかりがあると踏んだからだ。
まさかエリア1つ完膚なきまでに崩壊しているとは思っていなかった。

「とりあえず一旦小休止も兼ねて、今後の対策を練ろう」

フリードに乗って上空からE-5の惨状を目の当たりにしたユーノはそう提案せざるを得なかった。
残りの4人もその意見には賛成だった。
このまま捜索を開始してもいいが、やはり具体的にどうするか決めておいた方が無難だ。

「そうだ。なのは、今の内に回復魔法掛けるよ。5分ぐらいで終わらせるから」
「うん、ありがとうユーノ君。じゃあバリアジャケットは解除しておくね」

着地するや早々に開口一番ユーノはなのはに声をかけていた。
再び出立するまでの間に出来るだけコンディションを良くしておきたい。
そんな配慮を感じ取ったなのはも喜んでユーノの申し出を受け入れ、すぐに優しい緑の光の回復魔法がその身を包み始めた。
そして少しでも魔力消費を抑えようと思ってバリアジャケットの解除に入った。

だがなのははある事実を忘れていた。

792 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:36:07 ID:gAI2iztE0

『マスター! 待って下さい、今マスターの服装は――』

その事実に気付いたレイジングハートが制止の声を上げたが、既に遅かった。
淡い光と共にバリアジャケットが消えたなのはの姿は実に扇情的なものだった。
はやてとの激戦で着物風の服装は多大な被害を受けてボロボロの状態になっていた。
辛うじて下着こそ無事だが、逆にボロボロになった着物から覗く下着は独特の色気を醸し出していた。

「――きゃっ!?」

エースには可愛すぎる悲鳴と共になのははバリアジャケットを解除した事を激しく後悔した。
ハッと気づいて皆の方を見ると、スバルとヴィヴィオは困惑した表情を浮かべて立ち尽くしていた。
一方で天道とユーノの男性陣は紳士的にも明後日の方を向いていてくれた。
だが一瞬でも霰のない姿を見た事は疑う余地はないだろう。
さすがにこのままは不味いと思って何か変わりの服はないかとデイパックを漁ってみるが、そんな都合よく替えの衣服はなかった。
一応かがみが着ていたホテル従業員の制服があったが、血や土で盛大に汚れていたので使えそうもなかった。

「えっと、この際タオルでもいいから誰か身体隠す物持っていたりしない?」
「それならこれを着ろ」

ダメ元で聞いてみると、後ろを向いたまま天道がどこかの店のウェイトレスのような衣装を差し出してきた。
だがなのははそれに見覚えがあった。
いや見覚えがあるどころではない。
白いシャツに臙脂色のスカート、そして黒のエプロン。
間違いなくそれはなのはが幼い頃より見慣れている喫茶翠屋の制服だ。

「天道さん、その服どこで?」
「ああ、そこに転がっていたデイパックの中に入っていたんだ。たぶん誰かが落としていたんだろう」

余談だが、この天道が拾ったデイパックの元の持ち主の名はカレン・シュタットフェルト。
そして瀕死のカレンを助けようとしたのがこの会場に連れて来られたもう一人のなのは、つまり小学3年生の頃のなのはであった。
最終的にカレンを助ける事は出来ず、またその死にショックを受けて隙を見せたところで殺されてしまったが。

(そういえば最初に転送された場所が翠屋だったな。まだ1日ちょっと前なのに……もうだいぶ前みたいに思える……)

あの時、自分は深い怒りと悲しみですぐに動けなかった。
だがアリサの死に報いるためにという想いで立ち上がった。
それから様々な出会いと別れがあった。
柊かがみ、シェルビー・M・ペンウッド、武蔵坊弁慶、C.C.、アンジール・ヒューレー、八神はやて。
この地で出会い死んでいった者達の想いを無駄にしないためにも、あと一息だ。

「あともう一着子供用の制服もあったが、ヴィヴィオに着せてやれ」
「天道さん、ありがとうございます」

天道から渡されたもう一つの衣服。
それは半袖の白シャツにブラウンのスカート、そして薄緑色のベスト。
ミッドチルダにある聖王教会系列の魔法学校、St.ヒルデ魔法学院の制服だった。
それはなのはがヴィヴィオが進むべき未来として考えていた場所。
まさかその姿がこんな場所で見られるとは思わなかったので、正直ちょっと嬉しかった。


     ▼     ▼     ▼

793 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:36:54 ID:gAI2iztE0


なるほど、だいたい分かった。

中〜遠距離を得意とする砲撃魔導師/時空管理局が誇るエース魔導師/高町なのは。
防御と補助魔法を得意とする後方支援型/超巨大データベース無限書庫の司書長/ユーノ・スクライア。
格闘戦を得意とする陸戦魔導師/ギンガの双子の妹/スバル・ナカジマ。
聖王の器/レリックを埋め込めば聖王として覚醒/ヴィヴィオ。
天の道を往き総てを司ると豪語する男/仮面ライダーカブト/天道総司。
陵桜学園に通う女子高校生/仮面ライダーデルタ/柊かがみ。

高町なのはが無事であり八神はやての姿が見えない以上、この時点ではやてが生存している可能性は低い。
つまりこの6人が俺とキングを除いた生存者か。
もっともキングの言った事が正しければの話だが、いまさら嘘を付く理由もない。
それにいろんな奴から聞いた話とだいたい合っているから疑う必要はないな。

そうなると、ここから脱出するために俺が取るべき最善の方策は――。


     ▼     ▼     ▼

794 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:38:55 ID:gAI2iztE0


「やっぱり地道に探すしかないね」

なのはとヴィヴィオの着替え(着ていた衣服はホテル従業員の制服と一緒に放置)、及び各自食事などによる体力の回復に努めながら話し合った結果、そういう結論に至った。
はやての情報によるとE-5のどこかに魔法陣がある事は間違いない。
1km四方のエリアだが、5人もいれば決して探せない広さではない。
ちなみにはやての発言が嘘という可能性もあったが、あの時はまだ友好的な関係だったのでわざわざ偽の情報を混ぜる理由は低いと判断した。
それよりも問題はタイムリミットの方だが、こればかりはどうしようもない。
すでにユーノが予想したタイムリミットまで1時間を切っている。
正直なところ、これがラストチャンスと言っても過言ではない。

「ユーノ君、ヴィヴィオをお願いね」

既に出立の準備を終えた高町なのははユーノと視線を合わせながら約束を交わした。
はやてとの激戦で消耗した体力と魔力はユーノの回復魔法のおかげで、全快とまではいかないが、ある程度回復できた。
その手にケリュケイオンは装着されておらず、今は長年の相棒レイジングハート・エクセリオンのみ。
その身には気高き意志を示すかの如く純白のバリアジャケットを纏っている。
はやてとの戦いでカートリッジを使い切って魔力面で心配があったが、幸運にもその問題は解決できた。
天道が見つけたデイパックの近くに落ちていた別のデイパックの中にカートリッジが13発も入っていたのだ。
幸いレイジングハートにも使えるものだったので問題なく補充する事ができた。

「大丈夫、ヴィヴィオのことは任せておいて」

ヴィヴィオの後ろ姿を目に入れつつユーノはなのはの頼みを快く引き受けた。
元々司書長らしく落ち着いた感じの深緑のスーツは今となっては所々ボロボロになっている。
だが逆にそれが強い意志を秘めた瞳と合わさって一層頼もしく見える。
その手には本来の姿を得た白銀の飛竜フリードリヒの手綱が握られていた。

「なのはママも気を付けてね」

幼いヴィヴィオも状況の深刻さを感じ取り、手を振る事でなのはを安心させようとしていた
その首には捜索の手助けになるようにとユーノから渡された双眼鏡が掛かっていた。
さらにその身には遠い将来通う事になる真新しいSt.ヒルデ魔法学院の制服が映えていた。
そしてその小さな両手にはなのはから譲り受けたケリュケイオンが装着されていた。
ホテルでの戦闘の後遺症でヴィヴィオのリンカーコアは消失していたので、本来ならこの組み合わせは無理がある。
だが小休止中に改めて調べたところ、ヴィヴィオの体内にリンカーコアとは別の似たような働きをするものがある事が判明した。

実はこれはデスゲームを円滑に進めたためにプレシアが設けた仕掛けの一つであった。
本来ならデバイスは魔力源であるリンカーコアを持つ者しか扱えない。
だがそれでは参加者間で不公平が生じると考えたプレシアは事前に参加者に擬似的なリンカーコアを植え付ける事で解決しようとした。
支給品として大量のデバイスの類が配布される以上、その問題は見過ごせなかった。
そしてそれは擬似的なリンカーコアとしての働きの他にも魔力に類する力を魔力に相互変換する機能も備えていた。
そのため本物のリンカーコアに比べれば遥かに性能は劣る事になり、せいぜいデバイスの起動と張りぼてのバリアジャケットを展開する程度になった。
だがプレシアとしては最低限デバイスが起動するだけの力が備わればいいと考えていたので支障はなかった。
この仕掛けのおかげで別世界の魔力に類する力を持つ者や何の力を持たない一般人でもデバイスを起動する事ができたのだ。
もちろんなのは達はそこまで詳しい事情を知っていた訳ではなかったが、今は時間もないので深くは考えなかった。

795 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:40:14 ID:gAI2iztE0

重要なのはヴィヴィオが自ら皆の役に立ちたいと強く申し出た点だった。

当初なのはは今まで通り竜魂召喚を継続するつもりだったが、それはさすがに魔力の消費が大きすぎた。
なのはの身を案じたユーノとしてはこの後戦闘になるかもしれない状況でなのはの魔力消費は可能な限り抑えたいところだった。
そこで発言者であるユーノが自ら竜魂召喚を引き受けようとしたのだが、ここでヴィヴィオが自ら志願してきた。
みんなのために少しでもいいから頑張りたい。
それはただ純粋で幼いながらもヴィヴィオがずっと抱いてきた想いだった。
もちろん最初はなのはを筆頭に4人ともヴィヴィオの申し出を受け入れなかった。
だが実際フリードの様子を見ると、信を置いている順位は『新しく主になったなのは>お互いに向き合ったヴィヴィオ>キャロの同僚であるスバル・助けてくれた天道>ユーノ』が妥当に思えた。
なのはを避けるなら次点のヴィヴィオが受け継ぐのは自然な流れであり、最も上手くいく組み合わせであった。
結局最後はユーノが後ろで全面的に補佐するという事でなのはも納得した。
なによりヴィヴィオの真剣な願いを無碍にしたくなかったというのが真情だったのかもしれない。

「それじゃあ、また後で」

右手に嵌めたリボルバーナックルの調子を確認しつつスバルは皆を見渡しながら声をかけた。
その姿はストライカーの名に恥じぬ威風堂々としたものだった。
右手に尊敬する母の形見であるリボルバーナックル。
両足にはいつか仲良くなりたいと願う妹?が使っていたジェットエッジ。
そして身に纏うのは憧れの恩師のものを模した純白のバリアジャケット。
ちなみに左手用のリボルバーナックルはカートリッジだけを抜かせてもらって、天道が拾ったデイパックをもらって入れている。
最初は両手装備にしようかと思っていたが、やはりまだ『重い』ので慣れた右手だけにしておいた。
それからレヴァンティン、完全に破損したクロスミラージュ、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)、そして目下使い道がない蒼天の書も一緒にデイパックの中に仕舞っておいた。

「よし、行くぞ」

ジェットスライガーに乗り込んだ天道の号令が聞こえる。
その服装はユーノ以上にボロボロだが、それが逆に天道の不敵さを際立たせていた。
『これ以上、誰一人として死なせない』という誓いを必ず果たすべく、気力は十分だった。

E-5のどこかにある転移魔法陣の捜索にあたって5人は4手に分かれる事にした。
飛行魔法を使えるなのはとフリードに乗ったユーノとヴィヴィオは上空から。
ジェットエッジを走らせるスバルとジェットスライガーに乗った天道は地上から。
4手に別れたのは捜査範囲を広げて、時間を短縮するために他ならない。
だがこれは時間短縮というメリットとは逆に戦力を分散させるというデメリットも同時に生じてくる。
もちろん5人ともその可能性は考えたが、最終的に問題ないと判断した。
まず今の時点で5人を襲う可能性があるのはキングと金居のどちらか。
今までの話を総合するとキングと金居はお互いに種の存続を賭けて戦う間柄なので手を組む可能性は低いが、その可能性が皆無というわけではない。
だが万が一組んだところでE-5は一面瓦礫の山なので動く物があれば上空からはすぐに分かる。
つまりもし襲いに来ても上空の3人が容易に発見するため、対応は遅れずに行える。
だからこそメリットを重視して4手に別れて捜索するという案を採用した。

不屈のエースは両足に光の羽を纏って空に舞い上がる。
優しき司書長と幼き聖王は白銀の巨竜の背に乗って空に舞い上がる。
蒼きストライカーは両足のモーターを振るわせながら駆け出す。
天の道を往き総てを司る男は銀と黒の化け物バイクにエンジンをかけて走り出す。

今この瞬間、5人は最後の希望を求めて、行動を開始した。


     ▼     ▼     ▼

796 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:41:38 ID:gAI2iztE0


「うーん、これはギリギリかな」

スマートブレイン社製のサイドカー“サイドバッシャー”のハンドルを巧みに操りながらキングはふと呟いていた。
おそらく現在位置は森林地帯から平野部に飛び出た辺りなのでE-8辺りだろうか。
背後から差し込む朝日でサイドバッシャーの漆黒のボディーは一層輝いていたが、キングの心中は裏腹に若干曇り気味だった。
ついさっき上空からE-5に降りていく残りの参加者の姿が確認できた。
これから荒廃したE-5エリアの中心で魔法陣探しに取りかかるはずだ。
正直今から向かって間に合うかどうかは微妙なラインだ。
もしも到着した時に全てが終わっていたら興醒めどころの話ではない。
それでは何のために必死になってバイクを走らせているのか分からなくなってしまう。

「大丈夫だ、問題ない」

不意に横合いから合いの手が入った。
サイドカーに身を委ねるギラファアンデッドの人間としての姿である金居だ。
先程まではキングから残りの参加者の情報を聞いていたが、聞き終わるとしばらく黙っていた。
ギラファが持っていた茶釜の中に入っていた和菓子と大量の角砂糖を二人で食べていたので静かになったのはある意味当然だったが。
それがいきなり装備の具合に返答するかの如く軽い調子で言葉を振ってきたのだ。
だがその返事に面白い気配を感じ取ったキングは興味津津といった具合にほくそ笑んでいた。

「どういうこと?」
「言葉通りだ。あいつらの足止めをしたから『俺達が到着した時には全て終わっていた』なんて最悪な展開にはならないという事だ」
「へー、さすがギラファ! 手回しがいいね!」

ギラファがどうやって離れた場所にいる参加者の足を止めたのかは分からない。
だがこの慎重なアンデッドが自信を以て言っているのだ。
現にE-5にいる参加者は足止めを食らって途方に暮れているのだろう。

「そうだ、一つ聞いていいか」
「ん、なに?」

説明になっていない説明を終えたギラファはついでといった風に問いかけてきた。

「さっき言ったよな――『楽しければそれでいい』と」
「ああ、言ったね」
「何か具体的なプランでもあるのか?」

確かにE-5に着いたら生き残った参加者で遊ぶつもりだった。
最初それは漠然としたもので具体的には特に考えていなかった。
だが今こうして問われてみると、徐々に何をしたいのか頭の中で整理されてきた。

「そうだなー。最初はカブトと戦おうとも思ったけど、もう十分戦ったから後は僕の手で始末できたらいいや。
 ……ああ、そうだ。最後にあいつらに僕の力を見せつけてやりたいな」
「もう十分見せつけているんじゃないのか?」
「なんて言うかね、あいつらいくら脅しても諦めないから、最期にガツンと見せつけてやりたんだ」

それはキングが『最強』であるが故に。

「ねえ、『最強』vs『最強』って燃えない? もちろん真の『最強』は僕だけどね」


     ▼     ▼     ▼

797 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:42:37 ID:gAI2iztE0


それは突然現れた。
いや現れた時にはもう彼らの仕事は終わっていた。
彼らに与えられた仕事は唯一つ。

『身を呈してE-5にいる参加者を足止めしろ』

それは命令。
機械の身では決して抗う事が出来ぬ絶対遵守の力。
そして彼らは自らを犠牲にして4つの花火を作りだし、その命令を全うした。

そのために魔導師が地に落ち、戦士が地を這う事になろうとも、彼らの知った事ではない。
もうその身は命令を遂行した際にバラバラになってしまっている。

あとにはただ自らが為した仕事の成果が転がるだけ。


     ▼     ▼     ▼

798 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:43:26 ID:gAI2iztE0


目の前に広がる光景にデジャブを感じた。
アスファルトとコンクリートの瓦礫が辺り一面に転がり、次いで焼け焦げた匂いが鼻の奥を刺激する。
7年前、巨大隕石の落下という災厄によって壊滅した渋谷。
今ではエリアXと呼ばれる地域の光景と天道が今この瞬間目にしている光景は似ていた。
そしてあの時も天道は同じように傷だらけで災厄の真っ只中にいた。

「……ッ、みんなは――!?」

あれは小休止を終えて魔法陣を探そうと散らばった、まさにその時だった。
徐々に加速し始めたジェットスライガーが突然爆発した。
爆発の直前に何かがぶつかったような衝撃を感じた気もするが、その直後に意識が飛んだので定かなところは分からない。
その感覚を信じるならジェットスライガーは謎の物体の衝突で大破した事になる。
周囲に散乱する焼け焦げた破片が何よりの証拠だ。
だがいくらなんでも爆破を引き起こすような物体の接近を見逃したとは思えない。
何か危険が迫れば上空の高町やスクライアが知らせる手筈になっていたにも関わらずにだ。

(やはり高町達もやられたのか……)

上空を見渡しても見えるのは青い空を汚す不吉な灰色の雲だけ。
本来なら上空にいるはずの高町やフリードの姿はどこにもなかった。
おそらくジェットスライガーを襲った物に襲われたと仮定するのが妥当だろう。

「…………ッ」

だがそこまで考えをまとめたところで天道の身体はグラっとふらついた。
ジェットスライガーが爆破した時に負った傷はさすがの天道も無視できるようなものではなかった。
ジャケットとジーンズはほぼ焼け焦げて、その下の生身の身体には擦り傷と火傷が隙間なく刻まれている。
さらにその傷跡からの出血は個々は微々たるものだが、全体では正直危険な状態だ。
普段通り平気な風を装いながら、その実かなり危ない状態にある事は天道自身も理解していた。

「……不味いな。早くみんなと合流して――」
「あ、カブト見っけ」
「ちっ、キング!?」

相手を馬鹿にしたような特徴的な聞き覚えのある声。
そこにいたのは思った通り、色とりどりのアクセサリーで身を飾り付けた赤いジャケットの青年。
間違いなく生き残りの中でも最も危険な人物、キングだった。
ここで見つかった以上当然戦う他に道はない。
これまでのキングの行動からして話し合いなど全くの無意味だ。
だからいつものように右手を天高く掲げ、飛来してきたカブトゼクターを掌でつかみ取り、腰のベルトに装着して――。

「変し――ガッ!?」
「いつまでも敵が悠長に変身終わるまで待っているとか思っていたのかい?」

――「変身」の掛け声が天道の口から発せられる事はなかった。

目の前にいるのは青年という仮の姿を脱ぎ捨てたキングの真の姿、黄金に輝くアンデッドの王コーカサスビートルアンデッド。
その右手に握られた破壊剣オールオーバーの剣身は紛う事なく天道の腹部をカブトゼクターとベルトごと刺し貫いていた。
先程の爆破による負傷で天道の動きにはいつものようなキレがなくなっていた。
それはキングがコーカサスビートルアンデッドの姿に戻り、カブトへ変身が終わる間を与えずに天道に止めを刺すには十分すぎる隙だった。

「もう飽きたから君で遊ぶのも終わりだよ」

それは文字通り“天の道を往く”男の最期であった。


     ▼     ▼     ▼

799 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:46:55 ID:gAI2iztE0


「フリード!? ねえ、フリード! お願い、目を開けてよ……あああぁぁぁ……」
「……ぅ、ここは……いったい何が――」
『Mr.ユーノ、気が付いたのですね』

目覚めたユーノの耳にまず飛び込んできたのはなのはから託されたヴィヴィオの悲しき叫び声。
さらに続いて聞こえてきたのは親友のデバイスであるバルディッシュ・アサルトの気遣いが感じられる電子音。
そうこうするうちに意識がはっきりするにつれて周囲の様子が徐々に見えてきた。

アスファルトとコンクリートが織り成す瓦礫の平野。
少し離れた場所では何かが燃えているのか黒い煙が立ち上っているが、少なくともここまでは火が広がってくる事はないように見える。
そんな場所にユーノとヴィヴィオはいて、ヴィヴィオの腕の中には物言わぬフリードの躯が抱きかかえられていた。
その真っ白な小さな体躯は見事なまでに血で真っ赤に染まっていた。

「バルディッシュ? これは――!? そうだ! あの時、いきなり何かに襲われて――」

全て思い出した。
フリードの手綱を引いてなのはと共に上空へ飛び立った、まさにその瞬間。
突然地上で爆発音がしたと思ったら、次の瞬間フリードに何かが突撃してきた。
おそらく何らかの方法で姿を消していたのだろう。
だから誰も襲撃者の接近を察知できなかったのだ。
突然の襲撃にフリードも、フリードの背に乗っていたユーノやヴィヴィオも、何一つ対処する暇はなかった。
ただ襲撃されて墜落するだけだった。
だがなんとかヴィヴィオだけは抱き寄せてスフィアプロテクションで落下の衝撃を和らげようとした。

そこでユーノの記憶は途切れていた。

『フリードはあんな傷だらけになっても二人を守るために落下の衝撃を和らげようと必死に翼を動かして制動を掛けて、それで力を使い果たして……』
「そうだったんだ……」

つまり今こうしてユーノもヴィヴィオも大した怪我もなく生きているのはフリードのおかげなのだ。
おそらくユーノだけではここまで無傷では済まなかったはずだ。
だがそのためにフリードが死んでしまうなんて、やりきれない気持ちでいっぱいだった。

「ユーノ君……ヴィヴィオ……」

ふと気づくと、一緒に飛んでいたはずのなのはがすぐ後ろにいた。
もう既に状況を把握したのか、その表情は沈痛な面持ちだった。

「なのは、無事だったんだね」
「うん、さすがに突撃は防げなくて墜落したんだけど、スバルからもらったカードのおかげでその時負った傷はなんとか治せた」
「そっか、確か出発する前に渡されていたっけ」

唯一の回復アイテムである“治療の神 ディアン・ケト”がなのはに渡されたのはつい先程の事だ。
元々スバルが持っていたのだが「自分には効果が薄いと思う」という事だったので、一番無茶をしそうななのはに渡されたのだ。
その理由を聞いた時にはなのはも苦笑いしていたが、教え子の気遣いに対してとても嬉しそうだった。

「ごめん、私があのカード使わずにいれば、フリードを……」
「気にする事ないよ。フリードは墜落した時にはもう手遅れだったんだ。
 でも、そのおかげで僕もヴィヴィオもこうして無事に助かったんだ」
「そう、だったんだ……フリード、ありがとう……」

白銀の巨竜は志半ばにしてその小さな命を散らした。
だがここで足を止めるわけにはいかない。
フリードのためにも必ずや魔法陣を探し出して、皆でここから脱出しなくては。

800 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:48:01 ID:gAI2iztE0

「なのは、スバルと天道さんは?」
「私も探してみたけど、ユーノ君とヴィヴィオしか見つけられていないの」
「それなら早く見つけないと! なのははヴィヴィオの傍にいてあげて。僕が二人を探して――」
「待ってユーノ君! 私が探しに行く、私なら単独行動でも問題ないから」
「いや、でも……」
「大丈夫だよ、スバルも天道も強いから、きっと――」


「あ、その二人なら探さなくていいよ、はいこれプレゼント」


「「え?」」

突然瓦礫の向こうから姿の現した黄金の怪人。
なのははその怪人が誰なのか知っていた。
それは何人もの参加者を弄んだ最悪な参加者、キングの真の姿。
そのキングが投げた二つの物体は地面をバウンドしてなのはとユーノの下に転がって来た。
一瞬何か爆弾のようなものかと思ったが、その二つの物体がはっきりと見える位置まで来ると二人は言葉を失った。

天道総司とスバル・ナカジマの生首――それがなのはとユーノの足元に転がってきた物体の正体だった。

「天道さん、スバル……そんな、二人とも……」

なのはもユーノも今自分達が見ている光景が信じられなかった。
天道総司と云う男はどんな状況も打開するような頼もしい男だった。
スバル・ナカジマはどんな苦境にも屈しない立派な魔導師だった。
そんな二人がこんな短時間で死んでしまうなど信じたくなかった。

だがこれは紛れもなく事実――そう天道総司とスバル・ナカジマはもういない。

「ユーノ君。ヴィヴィオを連れて、少し離れていて」
「なのは……」
「ごめん、でもこんなところ、あの子にみられたくないの……だからお願い……!」
「分かった、でも危ないようだったら手は貸すよ」
「……ユーノ君にはいつも背中を守ってもらってぱなしだね」
「僕の方こそ……!? ぼ、僕達の事は気にしないで。全力全壊手加減なしで!!!」
「うん!」

なのはにエールを送るとユーノはすぐさま踵を返した。
今のなのはの顔には今まで見た事もないほど怒りで満ちていた。
これから始まるのはおそらく先程のはやて戦以上の激戦になるだろう。
だからこちらも相当の覚悟をしなくてはならない。
だが今回はただ避難するだけじゃない。
ギリギリ戦況が把握できる位置でヴィヴィオを守りながらサポートをするつもりだ。

「ヴィヴィオ、急いでここから離れよう」
「ぅ、ぅん、なのはママは?」
『ママなら大丈夫。この相手をやっつけたらすぐに行くから』
「わかった、なのはママ気を付けてね」

801 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:48:49 ID:gAI2iztE0

不幸中の幸いはヴィヴィオがフリードの死を悲しんでずっと泣いていた事。
そのためヴィヴィオは天道とスバルの生首を見ずに済んだ。
フリードの死に加えて天道とスバルの死まで知れば幼いヴィヴィオの受けるショックは計り知れない。
後々知る事になろうとも、今は知らずに済ませておく方がいい。

「さあ、こっちへ。バルディッシュ、どの辺りがギリギリ――」
「貴様がユーノ・スクライアだな?」
「え、グハァ!?」
「ユーノさ、きゃあ!!」

自分を呼ぶ声に振り向いたらいきなり見えない衝撃で吹き飛ばされた。
誰かに殴られたようだが、周囲にはヴィヴィオしかない。
いや、違う。
ヴィヴィオの様子がおかしい。
まるで誰かに捕まっているようにその場から動けないでいるのだ。

「まさか、ステルス能力!?」
「さすがに頭の回転が早いな」

その声と共に見えない襲撃者は不可視のマントを取り払って姿を現した。
黄色のハイネックに黒ジャケット、そして銀縁眼鏡を掛けた青年。
直接会うのは初めてで話にしか聞いていないが誰かは分かっている。

「君が金居か」
「ふっ、さすがに分かるか」

ユーノは先程の襲撃者は金居との勝負に勝ったキングだと思っていた。
だが事態はそれ以上に最悪だった。
おそらくキングと金居は何らかの条件で手を組んだのだろう。
その手始めの行動が先程の見えない襲撃。

「ヴィヴィオを離せ! 用があるのは僕の方なんだろ!」
「人質だ、悪く思うな。単刀直入に言おう、ここから脱出するための考えを聞かせろ」
「なんだって!?」
「早くしろ、さもないとこの娘の命が……」
「ひっ!?」

金居は有無を言わさぬ空気を前面に押し出して、ヴィヴィオの首筋に真紅のレイピアを当てていた。
急転直下追い詰められたユーノは悩んでいた。
正直に話すべきか話さざるべきか。
だがその悩む時間もあまりない事は肌で感じていた。
金居の様子からヴィヴィオの命を奪う事に躊躇いはないようだ。
少しでも対応を間違えればヴィヴィオの身に危険が及ぶのは誰の目にも明らかだった。

(くそっ、あと少しだったのに……)

ユーノの心中の焦りを嘲笑うかの如く、大地は静かに鳴動し始めていた。


     ▼     ▼     ▼

802 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:49:23 ID:gAI2iztE0


(ここまでは予定通りか、それにしてもキング随分と楽しそうだな)

金居とキングにとってここまでは順調な流れだった。
キングから残りの参加者の情報を聞いた段階で金居の目的はユーノ・スクライアとヴィヴィオの二人だった。
カテゴリーキングのアンデッドが二人。
6連装ミサイルや4連装バルカンの搭載が説明書で判明したサイドバッシャーのバトルモード。
茶道具一式と一緒にデイパックに入っていたC4爆弾。
スバル殺害時に手に入れたボーナス支給品であるステルス機能を備えたシルバーケープ。
そして途中で拾ったレリックなる赤い宝石。
これだけあれば武力面での問題は心配なかったが、やはり魔法などに関する知識面については不安があった。
だから残りの参加者の内で豊富な知識を持つユーノと次点でヴィヴィオはどうしても押さえておきたかった。
そういう事情もあって、先んじて会場に散らせていた完全ステルス機能を搭載したガジェットドローンⅣ型による足止めを決行した。
金居としてはただ足を止めてくれるだけで良かったのだが、命令に問題があったのか想定外に過激な方法を取っていたので内心驚かざるを得なかった。
正直なところユーノとヴィヴィオさえ手に入れば残りの参加者の生死はどうでもよかったので、結果的に問題なかったが。

(まあ、何も教える気がないならそれでもいい。それなら別の脱出方法に切り替えるまでだ)

金居はキングから残りの参加者の情報を得た際にある事に思い至っていた。
それはヴィヴィオと聖王のゆりかごを利用してここから脱出できないかというものだった。
ヴィヴィオにレリックを埋め込み、聖王のゆりかごを動かすように仕向ければ、ゆりかごの機能でここから脱出できるのではないか。
既に聖王状態のヴィヴィオは確認済みなので、この会場内でも条件さえ揃えばヴィヴィオを聖王として覚醒させる事は可能だ。
だがそのような抜け道をプレシアがわざわざ用意していたとは思えない。
十中八九ゆりかごの転移機能は封じられていると見ていいだろう。
だが一方でゆりかごがそれだけの航行に耐えうる構造である事は間違いない。
つまりあそこに避難すれば会場が消滅したとしても、無事でいられる可能性は十分にある。

(それにどちらも頓挫したとして、俺達が死ぬ事はない)

アンデッドはその名の通り不死の存在だ。
だがそれではゲームが成立しないので、制限を掛けられて今は不死でなくなっている。
それは首輪が外れた今でもそうだ。
だがもしもこの会場がなくなれば金居達を縛るものは名実共に皆無になる。
これがなのは達なら生存のために様々な心配があるが、アンデッドはそのような心配は要らない。
あとはどこかの世界の住人に拾われたところで移動手段を奪って元の世界に戻ればいい。
本当なら統制者に期待したいところだが、今のバトルファイトを見る限り一抹の不安がある。
だが今まで出会った参加者から聞いた話を総合すると、この世には時空管理局やそれに類する機関がいくつもある。
ここの参加者のうち、それらに属している者なら捜索の手は伸びているはずだ。
もっとも、皮肉なのはそいつらが助けたい奴らが既に全員死亡しているという点だが。

(だが俺達の力で成し遂げられるのならそれに越した事はない。さあ、ユーノ・スクライア、お前の答えを聞かせろ)

静かに鳴動する大地はさながら金居によるカウントダウンのようであった。

803 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:49:59 ID:gAI2iztE0


【2日目 早朝】
【現在地 E-5 瓦礫の山(なのはとキングから少し離れた場所)】

【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(中)、魔力消費(中)、強い決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(どちらも食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。フィールドを覆う結界の破壊。
 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。
 2.ヴィヴィオを助けたいが、どうしたらいいんだ……!?
 3.E-5地点の転送魔法陣を調べ、脱出方法を模索する。
 4.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(小)、肉体内部にダメージ(小)、血塗れ、金居に捕まっている
【装備】St.ヒルデ魔法学院の制服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、フリードリヒの遺体(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1,うぅ、ユーノさん……なのはママ……。
 2.みんなと一緒に、生きて帰る。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ・Q・K、クラブのK、ダイアKのブランク、スペードKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、リンディの茶道具一式(お茶受けと角砂糖半分消費)@魔法少女リリカルなのは、C4爆弾@NANOSING、シルバーケープ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:ゲームからの脱出、もしくは主催の乗っ取り。
 1.ユーノから魔法関係の知識を聞き出す。
 2.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 3.魔法陣での脱出が無理なら、聖王のゆりかごでの脱出を試みる。
 4.最終的にキングが自分にとって邪魔になるなら、自分の手で封印する。


     ▼     ▼     ▼

804 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:51:35 ID:gAI2iztE0


「……………………」
「いいよ、いいねえ、その表情! そうだよ、そんな表情が見たかったんだよ!
 あははは、ねえ、もっとそんな表情を見せて僕を楽しませてよ!! もっと僕を笑顔にしてよ!!!」

キングは今の状況に満足していた。
アンデッド最強のコーカサスビートルアンデッドvs魔導師最強の高町なのは。
いつの世も最強同士の対決は胸が躍るものだ。

だがそれ以上にキングは気に食わなかった。

「そういえば君さ、元の世界では最強のエース魔導師らしいじゃん」
「…………」
「それは困るなあ、僕が最強なんだから。この僕を差し置いて最強とか許せないんだよねえ」
「……レイジングハート、非殺傷設定解除……エクシード、ドライブ……!」
『Ignition.』

それは高町なのはが自分を差し置いて『最強』と呼ばれている点だ。
『最強』はたった一人だからこそ『最強』なのだ。
それはアンデッドでも魔導師でも関係ない。
だからキングは最後に気に食わない幻想をぶち殺しに来た。
さまざまな世界で最強の魔導師と謳われた高町なのはを負かして力の差を見せつける事によって。
そのために天道とスバルを殺して、焚きつけやすいようにわざわざ生首を用意したのだ。
厳密にはスバルを殺したのはギラファだが、そのような裏事情を敢えて話す気はない。

「だからさ、白黒はっきりさせようよ」
「……私は、あなたを――」
「君を倒して這い蹲らせて教えてあげるよ、“一番強い”のはこの僕だってね!!!」
「――許さない!!!」

だが相手の存在を許せないのはキングだけではない。
高町なのはもまたキングを、そしてこんな悲劇を止められなかった自分を許せなかった。
戦闘用に特化されたエクシードモードを起動したのも、そんな覚悟の表れだ。
エクシードモードに切り替わった新たなバリアジャケットは常よりも純白のものとなり、あたかもなのはの決意を表す白装束のようだった。

そんなこれから始まる二人のバトルファイトに呼応したのか、大地は静かに鳴動し始めるのだった。


【2日目 早朝】
【現在地 E-5 瓦礫の山】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ(小)、キングへの強い怒り、バリアジャケット(エクシードモード)展開中
【装備】翠屋の制服@魔法少女リリカルなのは、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(エクシードモード、6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、カートリッジ(残り7発)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.キングを倒す。
 2.魔法陣を探し出してユーノとヴィヴィオと共に脱出する。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッド状態
【装備】キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートのA・3〜10)、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にし、主催を乗っ取る。
 1.なのはを完膚なきまでに叩きのめして、自分こそが最強だと思い知らせる。
 2.1が終わったら魔法陣を調べる。
 3.楽しむ事が出来たなら、最終的に金居に封印されても構わない。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。


     ▼     ▼     ▼

805 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:52:16 ID:gAI2iztE0


時の庭園に備え付けられた唯一の脱出艇。
元々ここを本拠地として定めていたプレシアはまさかこれを使う日が来るとは思っていなかった。
但しプレシア亡き今乗り込んでいるのはプレシアを殺害したナンバーズの面々であった。

「ただいま、到着しました」
「おつかれさま、オットー。それではそちらの調整をお願い」
「はい、了解しました」

最下層の動力フロアでの仕事を終えたオットーとセッテとディードが脱出艇に乗り込んできた。
これで時の庭園の残る者はいない。
既に冥王イクスヴェリアと屍兵器マリアージュは処分済みだ。
元の世界に持って帰れば有効に使える可能性もあったが「人語を解するくせに作戦行動能力は昆虫並の変な兵器」ゆえに処分の指示が出ていた。
その他の証拠隠滅のため順次施設破棄を兼ねて、各所で自爆シークエンスが作動している。
ここでの痕跡を調べられてドクターの計画に支障が出ては本末転倒だ。
またここから脱出する際に時空管理局などの組織に捕捉されても同じ事だ。
そのため周囲の警戒は厳にしているが、幸い最も早いもので24時間後にしか気づかれないという事だった。

「オットー、ごくろうさま」
「はい、ドゥーエ姉さまもごくろうさまでした」

最後の仕事である夜天の書の破壊とジュエルシードの回収が無事に済んだ事は先程報告を受けていた。
夜天の書を破壊したところですぐに会場が消滅するという事はないらしい。
ある程度は余力で保たれるが、それも長くは続かずに徐々に会場は消滅していき、あと1時間程度で完全に消滅するという事だ。

「ディードとセッテは万が一に備えて戦闘状態で待機。ドゥーエは――」
「分かっているわよ。最後まで監視はしておくわ」

だが会場の参加者も哀れなものだ。
本当に魔法陣などというプレシアが用意したもので脱出できると思っているのだろうか。
その対策をプレシアが何も講じていないと思っているのだろうか。
だがどの道パイプである夜天の書は破壊された。

――それに行き先が分からないのではどうしようもあるまい。

ドクターはそう言っていた。
どこかに転移するためには転移先の座標を把握しておかねばならない。
しかし参加者は誰も時の庭園の座標を知らない。
だから最初から魔法陣で脱出するなど無理でしかなかったのだ。
先程ウーノにも同じような事を言われた。
だがウーノはその後で一つ付け加えていた。

――ゆりかごに揺られていれば、もしかしたら助かったのかもしれないのにね。


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード  死亡確認】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】

【全体備考】
※ジェットスライガーは大破しました。
※E-5の手前にとがめの着物・ホテル従業員の制服・フェルの衣装(全て着られる状態ではない)が放置されています
※E-5のどこかに天道総司の首なし死体(パーフェクトゼクターとアンジールの羽根の状態は不明、カブトゼクターとベルトは破壊されました)、とスバル・ナカジマの首なし死体(ジェットエッジは両足ごと、またその他の所持品及び持ち物は瓦礫に潰されました)が放置されています。
※なのはの足元に天道とスバルの生首が転がっています。
※ザフィーラの不明支給品は【リンディの茶道具一式@魔法少女リリカルなのは】と【C4爆弾@NANOSING】でした。

806リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 14:53:15 ID:gAI2iztE0
投下終了で

807 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:57:23 ID:gAI2iztE0
失礼、投下終了です
タイトルは「Round ZERO〜REQUIEM SECRET」です
誤字脱字、矛盾、疑問点などありましたら指摘して下さい

と、金居の状態表で修正
バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜→道具欄へ
ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使→装備欄へ

808リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 15:50:03 ID:4l6XpFjo0
投下乙です。
わー、やはりフルボッコか(まぁ全滅ENDも予想していただけにそれよりはマシだが……)……天道にスバル……
なのはがキングに勝てるかどうかも微妙だけどまだ金居もいるからなぁ……
……が、一番の問題はもうスカ側の脱出準備は完了していてこっち側は思いっきり脱出の糸口が見えない点……
……アレ、これキング&金居側からみても詰んでね?

後、本当にどうでも良いけど……

『新しく主になったなのは>お互いに向き合ったヴィヴィオ>キャロの同僚であるスバル・助けてくれた天道>ユーノ』

……ユーノォォォォォ

……それにしてもここまできて未だにユーノが生存している事が一番の驚きだなぁ……。


ちょっと1点だけ気になったんですが、

>そして彼らは自らを犠牲にして4つの花火を作りだし、その命令を全うした。

これがガジェットⅣ型の自爆なのはわかるんですが、支給された総数は5つだと思うのですが1つだけ残したんですか? それとも誤記ですか?

809リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 17:11:04 ID:XSjsPJLgO
投下乙です
僅かな対主催の内即二人と一匹が死亡。そしてスカ側はほぼ脱出準備を済ませて会場も一時間持たず消えるとか無理ゲーすぎだろ
こうなってくるとキングVSなのはも勿論気になるがユーノがどうでるかによって今後の展開が決まってくるな

初期はラッキースケベでサービス担当だったユーノがまさかここに来てこの役回りとは…

810 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 20:30:39 ID:gAI2iztE0
>>808
参加者一人につき一体が特攻したつもり(つまりフリードに二体特攻)で書いたのですが、その部分を書いていませんでした
wiki収録の際にそのように加筆修正しておきます



あと月報用にデータ(例によって合っているのか不安)
なのはR 197話(+11) 5/60 (- 5) 8.3 (- 8.4)

811リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 22:17:25 ID:QycZdi.g0
これ完結したら、第2次なのはロワとかあるのか?

812リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 23:05:12 ID:66wHgfkYO
乗る人がいれば始まるかもよ

813リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 23:25:38 ID:SLk5kWXoO
投下乙です
もう少しというところで天道とスバルは脱落か
ガジェットなんてすっかり忘れていたわ
あと金居の台詞に士やダグバがw

作中で金居がレリックを拾ったと言ってますが状態表にないのはミスでしょうか?

814 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/16(日) 00:00:17 ID:L6Ng71Vo0
>>813
ミスです
wiki収録の際に書き加えておきます

815リリカル名無しStrikerS:2011/01/16(日) 00:32:27 ID:05m1g29s0
投下乙です

ここに来て天道とスバルが…これはきつい…
幾らなのはでもキングはきつい
そして博士らは既に脱出準備を済ませているのか…
詰みに近いな…

816リリカル名無しStrikerS:2011/01/16(日) 10:05:22 ID:u.WLhRmQ0
投下乙です
予想はしていたけど、まさかこんなに簡単に二人も脱落するとは……
というかなのは一人でキングに勝てるのかが不安だなあ
そうか、アンデッドは死ぬことないから、会場崩壊したら確実に助かるんだ
これは本格的にアンデッドの勝ち残りエンドもあり得るんじゃ……

817 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:35:31 ID:ycBlxCLg0
予約分の投下をします。

818 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:36:09 ID:ycBlxCLg0



   /01「決死の一手」



少し遠くで激しい戦闘音が聞こえる。
確認するまでもなく、なのはとキングが戦っているのだ。

それに引き摺られるように、仮初めの世界が鳴動する。
その振動でヴィヴィオの首筋に当てられた真紅のレイピアが僅かにぶれ、出来
た傷から血が一筋溢れる。
ユーノは思わず駆け寄りそうになるが、辛うじて自身を押し留める。

「どうした、応えられないのか?」
「………………ッ!」

そんなユーノの様子などお構いなしに、金居は答えを要求する。
ユーノは拳を握り、歯を食いしばる。
そして搾り出すように、ゆっくりと答えた。

819 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:36:40 ID:ycBlxCLg0

「…………僕たちはこの【E-5】にあると思われる、“参加者を望んだ場所に転
移させる魔法陣”を使って脱出を考えていた」

その話し方から、ユーノが時間を稼ごうとしている事を、金居には容易に推測
できた。
だが金居は、ユーノが喋っている間は待ってやってもいいと判断した。

「もちろん、その魔法陣がまだ残っているとは限らないし、あったとしても脱
出に使えるかどうかは判断がつかない。
 それにもし脱出できたとしても、僕たちは首輪から解放されてずいぶん経っ
ている。
 当然、危険な罠だって用意されているはずだ」

その理由は、絶対的優位から来る余裕。
もとよりヴィヴィオを捕らえている限り、脱出に関する利は金居にある。

820 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:38:19 ID:ycBlxCLg0

「それでも、僕達にはこれしか方法がなかった。
 たとえどんなに部の悪い賭けだろうと、どんなにリスクが大きかろうと関係
ない。
 僕たちは絶対に諦めない、最後まで足掻き続ける。そう誓ったからね」

それに自分はアンデット。何が起こったところで、容易に死ぬ存在ではない。
故に金居は、僅かでも情報があればいいと、ユーノを止めることをしなかった
のだ。

「だから僕たちはここに来たんだ。
 このエリアの何処かにある魔法陣を見付け出して脱出をするか、それが出来
なくても何かの助けになればいい、そう願って調査・解析するためにね」

そしてそこまで聴いて金居は、少しだけ襲撃を早まったか、と思った。
金居(ついでにキング)は一度、八神はやてと共に魔法陣による転移を経験し
ている。
つまりその場所も、その有用性も知っているという事だ。

821 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:39:11 ID:ycBlxCLg0

だが自分たちは魔導師ではない。
つまり魔法陣を起動させることは出来ないということだ。
だがあと少し襲撃を遅らせていれば、ユーノ達を誘導し、魔法陣を起動させた
ところで、シルバーケープを使って紛れ込むなり、無理矢理便乗する事も出来
たかもしれない。
そうすれば、たとえ転移に失敗しようが、転移した先に罠があろうが関係ない。
もし失敗しても、その時はその時。予定通りに行動すればいい。
それに自分たちはアンデッド。
たとえどんな罠があろうが、この会場から出てしまえば決して死なないからだ。

だが、それほど深く考えることでもない。
何故ならここには、二人も魔導師がいる。
なのはの方はキングが殺すだろうから使えないが、魔法陣を起動させるだけな
ら一人だけでも十分すぎる。
従わなかった時は、殺せばいいだけだ。

金居はユーノの話を、そう結論づけた。

822 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:39:44 ID:ycBlxCLg0


「それで話は終わりか?」
「残念ながらね……」
「そうか。
 ならばついて来い、お前たちには魔法陣を起動してもらう。魔法陣の場所も
知っている」
「――――――ッ!」
「もっとも、何かの隙に反旗を翻されても困るのでな。可能であるのならば、
いつでも起動可能なようにしてもらう。
 無論、拒否すれば殺す」
「わかった」

金居はそう言うと、ヴィヴィオに刃を当てたまま、魔法陣のある場所へと歩き
出した。
その時金居は、妙に物分かりの良いユーノに僅かな疑念を抱いたが、どうでも
いいことと捨ておいた。

それが、ユーノの決死の策の、微かな失敗と気づかずに。

823 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:40:26 ID:ycBlxCLg0



   /02「エースオブエース その手の魔法」



地面に膝を付き、肩で大きく息をする。
対する相手は、傷一つなく、息も乱れた様子がない。
自らを最強と自負する敵――キングは、その言葉通りに圧倒的な力を持ってい
た。

最強となるのに、複雑な技や入念な策などいらない。
すべてを砕く剣と、すべてを防ぐ盾があればいい。
キングの所有する最強とは、つまりそういう類のものだった。

その剣は、まともに受ければなのはのシールド魔法であっても容易に砕いた。
その盾は、なのはの砲撃魔法を防ぎきり、キングの死角からの攻撃にも対応し
た。
かと言って、より強力な砲撃を行おうと足を止めれば、念動力でレイジングハ
ートを奪おうとしてくる。

剣技自体はそれほどでもなく、遠距離攻撃にも乏しいのが救いといえば救いだ
が、それでもその攻撃は苛烈だ。
防御し続ければ、容易に魔力を削られるので、回避するしかない。

824 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:41:03 ID:ycBlxCLg0

それでも何度か攻撃は通っていた。
なのはが見つけた、キングの盾のただ一つの隙。キングが剣を振るって攻撃す
る瞬間の、その剣筋のライン。
いかなる理由からか、そこにだけは、盾によるオートガードが発生していなか
った。

なのははその僅かな隙に、幾度もシューターによる攻撃を行った。
だがその効果は薄く、ダメージを受けた端から再生していく。
今でこそ直接的な傷はないが、バリアジャケットはすでにボロボロだ。
このままでは、いつか決定的なダメージを受けてしまうだろう。

『大丈夫ですか、マスター』
「大丈夫、とは言いえないかな」

むしろ最悪と言ってもいい。
こちらの攻撃は殆ど効かず、あちらは一撃当てればそれだけで優位になる。
そうなる前に、どうにか効果的な一撃を当てなければならない。

「やっぱり、あれしかないかな」
『現状ではそれしかないでしょう』
「剣を交わしてその隙に砲撃を撃つか」
『盾の張れない零距離から、やはり砲撃を撃つ、ですね』

825 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:41:33 ID:ycBlxCLg0

だがそれは、どちらもキングの剣を避けきることが前提となる。
なのはのバスターはその性質上、どうしても撃つ時に足を止めなければならな
い。
もし砲撃を躱されたり、逃げる時間を稼げるだけの効果がなければ、その瞬間
にキングの剣がなのはを捉え、殺されるだろう。

だが、躊躇している余裕もない。
魔力には限りがあるし、倒すべき敵もまだいる。
さらには残された時間もあと僅かしかない。


なのはは少しでも可能性を上げるために、“最後の切札”の使用を決意する。
立ち上がってレイジングハートを構え、キングを睨みつける。

応じるように、キングも一歩ずつ踏み出してきた。
そしてここまで頑張ったなのはに、彼なりの賞賛を送った。

「さすが最強のエースって呼ばれるだけの事はあるね。まさかここまで粘るな
んて。
 けど、本当の最強は君じゃない、この僕だ。
 だからさあ、早く死んじゃってよ」

その言葉になのはは、キングが優勝するために戦っているのではないことを知
った。
キングは、ただなのはが最強と呼ばれているのが気に入らないだけなのだと悟
った。
そして感じたのは落胆と、激しい怒り。
そんな事のために二人を殺したのかという、憎悪にも似た感情だった。
だからその間違いを正すように、自らの考え、あるいは感情を口にした。

826 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:42:05 ID:ycBlxCLg0

「…………くだらないよ、そんな事」
「ん? なにか言った?」
「くだらないって言ったの。
 誰が強いとか弱いとか、どっちが最強だとか。
 私にはどうでもいい事でしかない」
「……なんだって?」

それは、キングにとっては信じられない言葉だった。
思わず自身の耳を疑い、なのはへと訊き返す。

「それは、一体どういう意味なのかな」
「言葉通りの意味だよ。
 私は別に、自分が最強だなんて思ってないし、最強になりたい訳でもない。
 私はただ、誰にも悲しい思いをしてほしくなかった。
 私の知りうる限りの世界では、みんなに笑顔でいて欲しかった。
 だからせめて、自分の手の届くところに居る人たちだけは助けようって、一
生懸命に頑張っていたの。
 そうしたらいつの間にか、最強のエースオブエースだなんて呼ばれてただけ」

もともと「高町なのは」という少女は、どこにでもいるような、人より少し優
しいだけの女の子でしかなかった。
彼女が魔法を手にした理由ですら、偶然彼女に魔法の素質があり、偶然ユーノと出会い、そして必然的に彼女は、自分に出来ることをしようとしたに過ぎな
い。

「私はね、みんなが笑顔でいてくれるのなら、強くなんかなくていい。
 みんなが幸せでいられるのなら、世界で一番弱くたってかまわない」
「……………………」

それはつまるところ、この戦いにおけるキングの理由の全否定。
もしキングが「僕が最強でいいよね」と言えば、なのはは「うん、いいよ」と
返すだけの、無意味な独り相撲でしかなかった。

827 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:42:36 ID:ycBlxCLg0

だが、なのはにとって、この戦いの理由は違った。

「この手の魔法は、悲しみと涙を撃ち抜く力。
 泣いている人たちが、笑顔になれる場所まで導く翼。
 だから、笑いながら平気で人を傷付けるあなたなんかには、
 絶対に負けないッ!!」

なのははただ、キングが許せないだけ。
キングかこれまでにしてきた非道に怒り、
これからもするであろう凶行を阻止しようとしているだけだった。


「…………もういい。君、つまらない」
「ッ…………!」

キングはその事実を理解すると同時、心の内に在った熱が冷めていくのを感じ
た。
後に残ったのは、怒りにも似た嫌悪感。
どうしてこんなヤツが、最強の称号を持っているのかという、拒絶にも似た感
情だった。

キングが気だるげに足を踏み出す。
そこには先ほどまでの、“遊び”に対する気の緩みはない。
普段キングは、その圧倒的優位な状況から、相手をなぶる様に戦う。
そのキングが、今度は自分から動く。そこに如何なる差異が生じるのか。
それを見極めるため、なのはは限界まで集中力を高めていく。

「こんなつまらない戦いなんか、早く終わらせよう」
「レイジングハート! ブラスターシステム、リミット1、リリース!!」
『Blaster set.』

“最後の切り札”の一枚目を切り、不屈のエースオブエースは、最後の死闘へ
と赴いた。

828 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:43:33 ID:ycBlxCLg0



   /03「反撃の時」



「ここだ」

周囲には粉砕されたコンクリや亀裂の走ったアスファルト。目の前には『魔力
を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』と書かれた看板。
金居が案内したそこに、目標とした転送用の魔法陣があった。

「さあ、とっとと起動可能にしろ」
「……わかりました」

だが、その感慨にふける間もなく、金居が魔法陣の起動を急かす。
ユーノは言われたとおりに魔法陣に魔力を流し込み、同時に“解析”を掛ける。
そして魔法陣の緑色の光がある程度強まった頃、ユーノが口を開いた。

「駄目ですね、この魔法陣はある程度魔力を注ぎ込めば自動で起動するタイプ
で、待機状態にする事は出来ません」
「そうか」

その事に金居は僅かに落胆するが、もともと魔法陣を待機状態にするのは保険
であり、出来なかったところで、さしたる問題は無かった。

「なら―――」
「ああそうだ、一つ言い忘れてた事がありました」

ないと思うが、そのまま魔法陣を使われて逃げられても面倒だと、ユーノに魔
法陣から離れるように言おうとして、その直前でユーノに口を挟まれる。
その事に僅かに苛つきながらも、その言い忘れた事とやらを聞く事にする。
その理由は先ほどと変わらない。
つまりは“余裕”からだ。

「何だ、言ってみろ」
「はい、わかりました。
 これは直接的には、脱出とあまり関係がありませんけど、それでも言ってお
きます」

だがその口ぶりから、金居はユーノへの警戒を僅かに強める。
ユーノは魔法陣へ手を当て、金居に背を向けたままだ。

「このデスゲームにおいて僕たちは、首輪と言う制限か掛けられていました。
 と言うより、首輪があったからこそ、このデスゲームが成立したと言っても
過言ではありません。
 ですがこの首輪は、ある時期を境に、容易に外せるようになってしまいまし
た」

829 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:44:05 ID:ycBlxCLg0

それは今この会場に生き残っている人間なら、誰でも知っている事だ。
それをなぜ今さら語るのか。

「その時期とはおそらく、第四回放送。
 向こうに何か事情があったのなら、前回と同様代理に任せればよかったはず
です。
 それなのに、何故か十分遅れでプレシアが放送したあの時からでしょう。
 僕たちは、あの時点でプレシアがこのデスゲームから去った可能性があると
考えました」
「そんな事は俺も気付いている。それがどうしたと言うんだ」
「それは即ち、このデスゲームの破綻を意味しています。
 その理由は、一度放送の代理を行った人物です。
 彼女たちはナンバーズと呼ばれ、様々な能力を有しています。
 おそらく十分遅れの放送を行ったのも、変身能力を持つ彼女の姉妹でしょう」
「だからそれが何だと言うんだ。
 無駄口を叩くだけならば今すぐにでも殺すぞ!」

ユーノの回りくどい言葉に、金居は段々と苛立ちを募らせていった。
だがそれさえも、ユーノの決死の策の一つだった。

「問題は彼女たちの背後、創造主とも言える人物です。
 名前はジェイル・スカリエッティ。
 研究者でもある彼の目的はおそらく、このデスゲームに使われた技術でしょ
う。
 そしてプレシアを退場させた時点でスカリエッティの目的の前提条件はク
リア。
 後は早々に離脱するだけ、長居をする必要なんて何処にもない。
 証拠となるモノを処分して、さっさと退散すれば良いだけです」

そこまで聞いて、金居にもユーノの言いたいことが予想できるようになった。
そしてそれと同時に、内心に僅かな疑念と不安、強い焦燥が湧きあがり始める。

「目的を達成した時点で、彼にとって僕たちの結末はどうでもいいでしょう。
 そして、ここが人工的に作られた世界であるのなら、その破棄は容易です。
 この世界を構成するにあたって核となるモノを、停止か破壊すればいい。
 そうすればこの世界は自動的に崩壊し、後には何も残らない」

830 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:45:02 ID:ycBlxCLg0

世界全体が鳴動している。
心なしかそれは、先ほどよりも大きく聞こえた。

「……お前は、何が言いたい」
「タイムリミットですよ、このデスゲームの。
 僕たちが考えたゲーム終了のリミットは約一時間。
 次の放送までです。そして―――」

否。それは気のせいではない。
確実に、そして着実に大きくなっていく。
そしてユーノは、己が策の成就を宣言した。

「そのリミットは、もうすぐだ」

瞬間。
一際大きな振動が、仮初の世界を揺らした。
その振動によって金居は、僅かに体勢を崩す。
それと同時、ユーノが光と共に消えた。

「転移か!」

そう判断した金居は、ようやくユーノの策に気付いた。
彼はずっとこの機会を待っていたのだ。
そして自分は、ユーノの策にまんまと乗せられたのだと気付いた。
次にどこに逃げたのか、何故ヴィヴィオを平気で見捨てたのか。
そう考え、再び訪れた振動に足を取られる。
その直後だった。

「ケリュケイオン!」
『Set up.』

背後から逃げたはずのユーノの声がした。
思わず振り返り、同時に抱え込んだヴィヴィオの体が光る。
その光に一瞬眼が眩んだ。
瞬間、警戒の薄かった真正面から身体を断ち切られた。

831 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:46:01 ID:ycBlxCLg0

「グウッ!?」
『Plasma Smasher.』
「――――――ッ!!」

痛みに耐えながら、即座にその方向へとレイピアを振るうが、ゼロ距離から放
たれた砲撃魔法によって吹き飛ばされる。
大したダメージはない。即座に体勢を立て直し、襲撃者を睨みつける。
そこには黒い戦斧を構え、自分のデイバックとシルバーケープを抱えたユーノ。
隣には何故か服装の変わったヴィヴィオがいた。

「ッ!! 逃がすか!!」

金居は即座に赤いレイピアで斬りかかる。
だがアンデッドに変身していない金居では、その行動は僅かに遅かった。
ユーノはシルバーケープを着こみ、ヴィヴィオを抱えると、

『Sonic Move.』

その音だけを残して消え去った。
遅れてレイピアが空を切る。
金居は振り抜いた姿勢のまま動かない。

この結末の理由。
それはこの事態を予想していた者と、そうでない者の、心構えの差だった。

「くそぉ!!! 次は殺すッ!!」

近くの瓦礫へと、力の限りレイピアを叩きつける。
行き先は簡単に予想が付く。
金居はアンデッドへと変身し、彼らが向かうであろう場所まで駆けだした。

832 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:46:32 ID:ycBlxCLg0





「ここまでくれば、とりあえずは大丈夫か」

バルディッシュによる高速移動を解除し、岩陰に隠れる。
その際、シルバーケープによる光学迷彩も一緒に解除する。

「ヴィヴィオ、怪我は大丈夫?」
「大丈夫。でも私よりユーノさんの方が」
「僕だって大丈夫だよ。こんな傷、スバルや天道さんの受けた痛みに比べれば、
どうって事ない」

そう言うユーノの肩口は、明らかに血で滲んでいた。
これは不意打ちを行った際に受けた傷だった。



先の不意打ちにおいて、重要な役割を担ったモノが三つあった。
それは「念話」と「バリアジャケット」、そして「会場の崩壊」だ。
本来リンカーコアを持たない者に、念話もバリアジャケットの装着は行えない。
だが、ヴィヴィオには疑似リンカーコアが残っていたおかげで、一応だがそれ
らの行使が可能だった。

更にユーノは、魔法陣を調べた際にそれを通じて会場の状態を“解析”し、崩
壊が起こり始めるおおよその残り時間を割り出したのだ。
結界魔導師であり、スクライアの一族として幾つもの遺跡を発掘した事のある
彼にとって、それは容易な事だった。

そして念話によって彼らは、金居に知られる事なく奇襲を計画する事に成功し
たのだ。
後は会話によって金居の注意をヴィヴィオから外し、
転移によってユーノが逃げたと金居が誤解したところを不意打ちし、
バリアジャケットを装着する際の一瞬の光を目くらましに利用したのだ。

833 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:47:14 ID:ycBlxCLg0



「ヴィヴィオ。僕はソニックムーブでの移動に専念するから、君は金居のデイ
バックから使える物がないが探してくれ。
 可能な限り揺らさないようにするけど、一応ヴィヴィオも気をつけて」
「うん、わかった。ヴィヴィオ、頑張る」
「ありがとう、ヴィヴィオ。
 バルディッシュ、頼んだ」
『Yes, sir. Sonic Move.』

目的地はなのはの元だ。
キングと金居が組んでた以上、なのはを一人にしておくのは危険だと判断した
からだ。
もし金居がなのはの元へ向かった場合、あの強敵相手に二対一となってしまう。
それでは流石のなのはでも勝ち目が薄い。
だから、たとえ戦力にはならなくても、足止めくらいにはなってみせる。
心の内で、ユーノはそう決意した。

ヴィヴィオを所謂お姫様抱っこで抱え、再びバルディッシュによる高速移動を
再開する。
その直前、ユーノは抑えきれない感情を呟いた。

「なのは、無事でいてくれ」

834 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:48:05 ID:ycBlxCLg0



   /04「オーバードライブ・ブラスター」



迫り来る一撃を寸でのところで回避し、即座にゼロ距離から砲撃を撃ちこむ。
ダメージの確認をする間もなく即座に離脱する。
直後、先ほどまでいた空間を剣が切り裂く。
そこに再び砲撃を撃ちこむが、今度は盾に防がれてしまう。

「しつこいなあ、さっさと死んでよ」
「ッ――――!」

土煙の中から振るわれた一撃を上体を逸らして躱し、
そこに撃ちこんだ砲撃の慣性で距離を取る。

息が上がる。
背中は冷や汗でぐっしょりだ。
体力よりも精神の消耗が激しい。
レイジングハートを持つ力が覚束なくなる。
対するキングは、まだ疲れた様子も見せていなかった。

間違いなくダメージはある。
だが、それ以上に相手の回復力が高いのだ。

「レイジングハート、まだ行ける?」
『もちろんです。ですが切りがありません』
「そうだね。生物である以上、頭か心臓を潰せば倒せるはずだけど。
 相手もそれは理解しているからね。そこだけは絶対に守ってる」

状況は非常に厳しい。
何度か直撃させた砲撃は、確かにキングにダメージを与えている。
だがそれ以上にキングの再生が速い。
再生にもいつか限界が来るはずだが、このままではこちらの限界が先に来る。

「どうにかして盾を破壊するしか、無いかな」
『ですが、それは容易ではありません。
 あの盾の破壊には、おそらくスターライトブレイカー級の威力が必要でしょ
う。ですが』
「そんな余裕。簡単には与えてくれないよね」

先ほどの交戦でもそうだった。
あの盾は複数同時に出現する事も可能らしく、シューターによる同時攻撃も防
がれていた。
それではブラスターユニットによる支援は期待できない。

835 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:48:35 ID:ycBlxCLg0

さらにどれ程強固にバインドを掛けても、キングはそれをすぐに破ってしまう。
制限から解放されたカテゴリーキングが相手では、せいぜい数秒程度の拘束し
か出来ない。
通常のバスターでもぎりぎりなのだ。
その程度の時間では、キングを相手にスターライトブレイカーを使う暇はない。

「けど、このままじゃどうしようも―――」
「考え事は終わった?」
「――ッ! しまった!!」

突如飛来したエネルギー弾を回避する。
少し考えに没頭しすぎた。
そしてその隙は致命的だった。

こちらの行動を先読みしたのだろう。
回避した先にキングが現れる。

(回避……だめ! 間に合わな―――!!)
「バイバイ、最強の魔導師さん」

振り下ろされた剣が地面を砕き、その衝撃で土煙が舞う。
この一撃には、どんな相手だって耐えられないだろう。
ましてやなのはは防御すら出来なかったのだ。
生きている筈がない。
だというのに。

「………………。
 つまんないなあ、また邪魔が入ったよ」

土煙が晴れる。
そこには、ある筈の高町なのはの死体は無かった。

「なのはは僕が守る。絶対に死なせない!」
「ユーノくん?」

声のした方向を向けば、そこに高町なのははいた。
ユーノ・スクライアに抱かれるような形で。

「ユーノさん……なのはママ、苦しい」
「あ、ごめんねヴィヴィオ」
「ごめんヴィヴィオ。もう少しだけ我慢して」

間にヴィヴィオを挟んでいたが。

836 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:49:42 ID:ycBlxCLg0


「邪魔しないでくれるかなあ」
「そんな訳にはいかないよ。
 なのはは絶対に殺させない」

そんなことはお構いなしに、キングは苛立ちを見せ始める。
対するユーノも、堂々とキングに言い返す。

「もうウザいんだってば!」

その事に更なる苛立ちを募らせたキングが、ユーノに向かってエネルギー弾を
放つ。
だが、それがユーノに届くころには、ユーノ達は姿を消していた。

「ああもう! イライラする!!」

その事に切れたキングは、なのは達を探すついでに周囲に当たり散らし始めた。





そこから僅かに離れた位置で、ユーノはなのは達を下ろすと座り込んだ。

「大丈夫? ユーノ君」
「少し、無茶をし過ぎたかな」
『ご苦労様です』

その手にはバルディッシュが握られ、ヴィヴィオが見つけた足にはマッハキャ
リバーが装備されていた。
あの一瞬ユーノは、マッハキャリバーによる加速と、バルディッシュのソニッ
クムーブを併用する事によって、辛うじてなのはを助ける事に成功したのだ。
だが、元より戦闘向きでないユーノが人二人を抱えて行うには、大きな負担と
なったのだ。

837 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:50:12 ID:ycBlxCLg0

「でも、ありがとうユーノ君。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。
 でもそれよりなのは、伝えなきゃならない事がある」

感謝もそこそこに、なのははユーノの真剣な表情に気を引き締める。

「キングと金居が手を組んだ」
「……ッ! ユーノ君たちは大丈夫だったの?」
「なんとかね。でも、おかげで魔法陣の場所がわかった」

なのははその事に、僅かに安堵する。
会場の振動はどんどん強まっている。
この分では、いつ崩壊が始まるか判った物ではない。

「それでなのは。君はこれからどうする。
 敵はキングと金居だけじゃない。まだスカリエッティ達が残っている筈だ。
 それに残り時間も少ない。
 生き残る事を優先するなら、今すぐ魔法陣へ向かった方がいい。
 それだけは言っておくよ」

その言葉に、なのはは少し思案する。
強大な敵。見つかった脱出への糸口。
自分のするべき事。護りたいモノ。
そして。

「ここで……。ここでキング達を倒す」

それがなのはの出した答えだった。

「今ここで脱出しても、キング達は会場の崩落と一緒に死ぬかもしれない。
 けど、もし何らかの形で助かったとしたら、きっとまた同じことを繰り返す。
 そんな事、私は絶対許せないから」
「……わかった。それなら、出来る限り僕もなのはを手伝うよ。
 まず、今わかってるキングの情報を、出来るだけ詳しく教えて」

838 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:50:47 ID:ycBlxCLg0

それを聞いたユーノは頷き、キングの情報を求めた。
それに応じてなのはも、自分が知る限りの情報を伝える。

「ユーノ君、何か思いついた?」
「……二つ、思いついたよ。
 でも、一つはほとんど確証がなくて、もう一つはとても危険な手段だ。
 ハッキリ言って、命にかかわる」

そう言うとユーノはなのはの顔を見つめる。
そしてふうと、諦めたように溜息をついた。

「でも、なのははやるんだろ?」
「さすがユーノ君。私の事、良く知ってるね。」
「そうだね。だからこれだけは言っておくよ。
 やるなら全力全開、手加減なしで。
 そして、絶対に生きて戻ってきて」

その言葉に、なのはは笑顔で頷いて言った。

「当然!」
『まったくです』





その頃キングは八つ当たりにも飽き、そろそろ本格的になのは達を探そうとし
始めていた。
その時だった。
突如として足元に出現した魔法陣から、緑色に光る鎖が無数に出現し、次々と
キングを拘束したのだ。

「鬱陶しいなあ」

だがそんなモノ、彼にはさしたる意味はなく、キングは鎖を次々と引き千切ら
れていく。
だが全ての鎖が千切れる寸前、再び何重にも鎖が絡みついてきた。

839 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:51:20 ID:ycBlxCLg0

「このっ!」

キングは全身に力をいれ、鎖と引き千切っていくが、その度に新たな鎖が絡み
つく。
その鎖はユーノが作りだしたモノだった。
彼はシルバーケープで姿を隠し、物陰からチェーンバインドを行使しているの
だ。

「絶対に、離さない!」

どれだけ引き千切ろうとも出現し、何度も彼を拘束しようとする鎖に、流石の
キングも身動きが取れなかった。

そこにはユーノの決意があった。
決してキングを逃がすまいとする意志が。



そのころ、キングからは百メートル程離れた場所になのははいた。
彼女は現在、レイジングハートとマッハキャリバーの二機を装備している。
更には近くにヴィヴィオが控え、彼女もケリュケイオンを装備している。


ユーノの考えた二つの策。
その内の一つ目は、キングの剣を奪い、それを使って攻撃するという事。
キングの剣による攻撃の時に盾のオートガードがないのは、攻撃の邪魔になる
からか、自分の攻撃によって盾を壊しかねないからではないか、という考えか
らだ。
この策の欠点は三つ。

一つ。
ガードがない理由が前者だった場合、剣では盾を破壊できない可能性がある。

二つ。
たとえ後者が理由だったとしても、キングが剣をいくつでも作り出せるのなら、
なのはは慣れない剣での戦いを強いられてしまう。

三つ。
キングの破壊力が剣ではなく、キング自身の力によるものだった場合、そもそ
もこの策は成立しないという事だ。

これらの不安材料から、なのははもう一つの策を選択した。
即ち、限界まで強化・加速させた、直接攻撃による盾の破壊だ。

840 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:51:55 ID:ycBlxCLg0

なのはの攻撃でキングの盾を破壊できない最大の理由は、砲撃魔法は基本、面
での攻撃であり、威力が拡散しやすい事にある。
故にその逆。力を一点に集束させた、ストライクフレームによる攻撃ならば、
もしかしたら通るのではと考えたのだ。
かつてなのはが、闇の書の意志の障壁を貫いた時の様に。


「みんな、準備はいい?」
『いつでもいけます』
『どうぞご命令を』
「お仕事がんばりまーす」

返ってきた返答にくすりと笑い、すぐに顔を引き締める。
ここから先は決死行。僅かなミスで、即死に繋がる。
だがその顔に、躊躇いはない。

「レイジングハート、マッハキャリバー」
『All right, Strike Flame.』
『Gear Exelion, Drive ignition.』
「ヴィヴィオ、お願い」
「りょーかい!」

カートリッジウィリードし、レイジングハートとマッハキャリバーが、魔力翼
を展開する。
そこにヴィヴィオが、それぞれの手に握られたカートリッジ二つを燃料に、ケ
リュケイオンによるブーストを掛ける。

「我が乞うは、疾風の翼。星光の砲撃主に、駆け抜ける力を」
『Boost Up. Acceleration.』
「猛きその身に、力を与える祈りの光を」
『Boost Up. Strike Power.』

ブーストによって強化され、ストライクフレームがまるで大剣の様な刃になる。
それを確認すると、なのはの瞳は彼方の標的を捉える。

841 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:52:53 ID:ycBlxCLg0

「ウィング、ロード!」
『Wing Road.』

マッハキャリバーで走るのに、もっとも最適な道を作りだす。
これでいつでも引き金を引ける。
撃ち出される弾丸はなのは自身。その威力は想定不能。
なのははそこに、最後の強化を行おうとする。

「…………なのはママ」

その時、後ろから心配そうな声が聞こえた。
振り返れば、ヴィヴィオが心配そうな表情をしている。
なのははそんなヴィヴィオを安心させるように言葉を紡ぐ。

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。ちゃんと帰ってくるから」
「…………うん。
 ママ、行ってらっしゃい」

その一言に、どんなに思いが込められているか。
それは想像に難くない。
だからなのはも、一言だけ返した。

「行ってきます、ヴィヴィオ」

“ただいま”と言うために。
“お帰りなさい”を聞くために。
この道の先にいる敵を、打ち倒す!

「いくよ、レイジングハート、マッハキャリバー。
 ブラスター2、リリース!」
『『A.C.S. Standby!』』

“最後の切り札”の二枚目を切り、更に限界を超えた強化を行う。

マッハキャリバーのホイールが唸りを上げる。
キングはユーノ君が足止めしてくれてる。
彼我の距離は百メートルほど。
阻む物は、何も無い!!

「A.C.S.ドライバー、オーバーブースト! フルドライブ!!」
『『Charge!!』』

瞬間、衝撃をともなって桜色の閃光が解き放たれた。

842 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:53:29 ID:ycBlxCLg0



通る端から崩壊していく翼の道。
二つのA.C.Sによる超加速は、周囲に圧倒的な破壊力をまき散らし、なお加速
していく。
速度は音速にまで達し、ともすれば音の壁を突き破りかねないほど。
その事実は、それだけで高町なのはの肉体に、異常なまでの負担を強いる。

だがそれさえも一瞬。
辛くも間にあったキングの盾が、高町なのはに更なる急制動を強要する。
最大150tもの衝撃にも耐えられるソリッドシールドは、亀裂が入りはしても
容易には砕けず、激突と音速からの急停止による衝撃が大地を粉砕する。
それによりなのはには、常人ならば耐えられぬ程の負荷がかかる。

全身の骨は軋み、内臓は重圧に潰され、毛細血管が破裂する。
レイジングハートを握る手は、今にも指が千切れ飛びそう。
視界は激しく明滅し、まともに前を見る事さえ叶わない。

だがその全てを、高町なのはは歯を噛み砕く程食いしばって耐えきった。
唇からは大量の血が零れ、全身いたる所に裂傷が奔り、その手は真っ赤に染ま
っている。
されどその瞳は、真っ直ぐにキングを捉えていた。

「まさかここまでやるとはね。
 僕の盾に亀裂が入るなんて、そうそうある事じゃないよ。
 もしかしてさっきまでの鬱陶しい鎖は、この為の足止めかい?」

流石のキングにも、声に余裕がない。
しかしその複眼に、自らの勝利に対する確信は残ったままだ。
されど、なのはの瞳にもまだ、勝利への決意が宿っていた。

「けどここまでだよ。
 君の攻撃は、絶対に通らない!」
「通す!!
 レイジングハートが! マッハキャリバーが!
 みんなが私に力をくれてる! 命と心を賭けて、答えてくれてる!
 あなたみたいな人を、絶対に倒すんだって!!」

843 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:54:39 ID:ycBlxCLg0

両者の力は拮抗し、お互いに譲り合う事を良しとしない。
なのはのレイジングハートにも、キングの盾と同様亀裂が入っている。
それは即ち、レイジングハートが砕けた時点でなのはの敗北を意味する。

されど、ここでそれを案じて躊躇うのならば、そもそもこんな作戦は行わない。
故に――――

「ブラスター3!!!」
「なっ! まだ先があるって言うのか!」

“最後の切り札”の最後の一枚を切る。
跳ね上がる魔力出力。次々とロードされるカートリッジ。
ソリッドシールド、レイジングハートの双方に、さらなる亀裂が奔る。
それに構う事なく、限界以上に魔力を流し込む。

「嘘だ。 こんな事、認めない!
最強は、この僕なんだ―――ッッッ!」
「ブチ抜けええぇぇぇッッッッ!!!!!!!!」

砕け散る最強の盾。
桜色の穂先は、違う事なくキングの胸元へと吸い込まれ、その心臓を貫いた。



視界が白く染まっていく。
全身から力が抜け、穏やかな感覚に包まれていく。

どうしてかな。
帰る場所があるのに。
まだやるべき事があるのに。
どうしようもなく、眠い――――――

844 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:55:32 ID:ycBlxCLg0



   /05「覚悟の証明」



その光景を、ユーノ・スクライアは確かに見た。

辺り一面を照らす桜色の光。大地さえ打ち砕く神速の衝撃。
死をも恐れぬ限界を超えた一撃を以って、高町なのははキングを倒したのだ。

だが――――その代償は計り知れない。

確かにこの策を提案したのはユーノ自身だ。
しかし、この決戦は想像の範疇を遥かに超えていた。

なのはが通った道は深く抉られている。
キングと激突した場所は深く陥没し、まるでクレーターの様。
そこから何十メートルか離れた場所になのははいた。

「なのは!」
「なのはママ!」

駆けつけたヴィヴィオと共に、倒れ伏すなのはに駆け寄る。
なのはの状態は、一目見て判るほど凄惨だ。
全身傷のない所など無く。出血のせいか、顔色も酷く悪い。
更に両手は真っ赤に染まり、レイジングハートの柄も、その大半が血に濡れて
いる。
五体満足でいること自体が奇跡のようだった。

「なのは! 起きて、なのは!!」
「なのはママ! 目を覚まして、なのはママ!!」

二人の声に反応してか、なのはは小さくせき込み、薄く眼を開けた。
そして二人の顔を見つめると、小さく微笑みを浮かべた。

「ただいま、ヴィヴィオ」
「お帰りなさい、なのはママ!」

なのはとヴィヴィオは、お互いを抱きしめ合う。
こうして二人の親子は、小さな約束を果たしたのだった。

845 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:56:14 ID:ycBlxCLg0


「でもよく無事だったね」
「レイジングハートとマッハキャリバーが、護ってくれたんだ」

それはキングの盾を砕き、その身体を貫いた直後の事だった。
レイジングハートとマッハキャリバーはA.C.Sを停止させ、
同時にプロテクションを張ったのだ。
その二重の障壁により、なのはは慣性による瓦礫への激突と、それによる致命
傷を免れたのだ。


「何はともあれ、本当に良かった」

大きく息を吐き、胸を撫で下ろす。
その時ふと視界の隅に影が映り込む。
直後、背筋に激しい悪寒が奔った。
即座にバルディッシュを背後へと振り上げる。

響く金属音。
背後からの襲撃者が持っていた、赤いレイピアが弾き飛ばされる。
そして襲撃者――アンデッドへと変身した金居は、悔しそうに舌打ちをした。

「やはりヘルターとスケルターを使うべきだったか」
「…………ッ! 何もこのタイミングで……、いや、このタイミングだから
か!」

金居が襲撃してきたタイミングの悪さを嘆こうとして、
それが意図的なものであると悟った。
金居はいつの間にか自分たちの近くへと接近していたのだ。
元より、あれだけ派手な戦闘をしていて、気付かない方がおかしい。
今まで襲撃しなかったのは、確実に自分達を殺せるタイミングを待っていたの
だろう。

「まあさしたる問題ではないな。
 キングがやられた事は予想外だが、そこの女は瀕死、残る二人も戦力外とな
れば、結末は自ずと見える」
「――――ッ!」

846 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:57:07 ID:ycBlxCLg0

なのはがレイジングハートを支えに立ち上がろうとするが、すぐに膝をついて
しまう。無理だ。そんな状態で戦える訳がない。
ヴィヴィオにしたって、魔力はカートリッジで代用しても、戦闘経験がほとん
どない。金居相手にそれでは無謀でしかない。
つまり、現状戦えるのは僕一人だけという事だ。

だからと言って逃げる事も難しい。
僕一人では金居を相手にしながら、二人を抱えて逃げ切る事は出来ない。
キングの時は不意を突いたから上手くいったのだ。
今の金居には前回のような油断はない。半端な奇襲は、もう通じないだろう。
それでも何もしない訳にはいかない。

金居の両手に黒と金の二色の双剣が現れる。

「さあ、さっさと死ね。
 すぐに後ろの女も後を追わせてやる」
「そんな事は絶対にさせない!!
 バルディッシュ!!」
『Sonic Move.』

バルディッシュの支援とシルバーケープによるステルスで金居の背後に回り
込み、力の限りバルディッシュを振り被り、一撃する。
だが。

「無駄だ」
「なっ!」

その一撃は、あまりにも容易く避けられた。
返す一刀を辛うじてバルディッシュで受ける。
だがその威力に勢いよく飛ばされ、なのは達のところへと転がり落ちる。

「確かに姿が見えず、高速で動く敵は厄介だ。
 だが、所詮は素人。行動は読みやすく、一撃も軽い。
 以前の様に完全な不意を突いたのならともかく、正面から相対している以上、
お前に勝てる要素は皆無だ」

847 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:57:53 ID:ycBlxCLg0

そんな事はとっくに理解している。
だが、それでもなのは達を殺させる訳にはいかない!

「たとえ……たとえどんなに可能性がなくても、そんな事は関係ない。
 どんなに無茶でも。どんなに危険でも。僕たちはみんなで脱出すると誓った。
 だから! お前には負けない! なのは達は、僕が守ってみせる!!」
「そうか。ならば証明して見せろ!!」

金居が双剣を構える。
あちらから攻めないのは余裕の表れか、それとも後の先を狙うタイプだからな
のか。
どちらにせよ、今は助かる。

「妙なる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ。
 ラウンドガーダー・エクステンド」

なのはを中心に防御と肉体・魔力の回復を同時に行う結界を形成する。
これで僕が死なない限りは、なのはの治癒が行われる。

「ヴィヴィオ、なのはをお願い。
 僕はあいつを倒す」
「ユ−ノさん」
「行くよ、バルディッシュ」
『Yes, sir.』

金居を正面に見据え、バルディッシュを構える。
あいつを倒す、なんて大それたことを言ったけど、
僕自身に有効な手立てがある訳ではない。
だからと言って、死ぬつもりはない。

僕に出来るのは時間稼ぎくらいだけど、それだけでも状況が好転する事もある。
バルディッシュのサポート。シルバーケープによるステルス。
そして、僕が考えうる限りの機略を以って、金居に決死の一撃を叩きこむ!

848 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:58:30 ID:ycBlxCLg0



   /06「なのはとヴィヴィオ 約束」



そうして、ユーノ・スクライアは無謀な死闘へと挑んでいった。
ステルスによって姿を消したユーノと、それに対応できる金居は、徐々に戦闘
領域を移し、ついには今いる場所からは見えなくなってしまった。


その光景を、私は見ている事しか出来なかった。
ユーノさん達が消えさった方向を、ただ見つめている。
それを見て何を思ったのか、なのはママが問いかけてきた。

「ねえ、ヴィヴィオ。
 悔しい? それとも、怖い?」
「――――――ッ!!」

そしてそれは、私の心を的確に捉えていた。

悔しいという思いも。怖いという感情も。きっと両方正しい。
何が悔しくて、何が怖いのかも、なのはママはきっと気付いてる。

「どうして、分かったの?」
「だって私は、ヴィヴィオのママだから。
 まだほんの少ししか一緒に過ごしてないけど、それでも本当のママになれる
ように努力してきたんだよ」

わかってる。
あの戦いの中でなのはママはそう言った。
だからきっと、私が思う以上に頑張ってるんだ。

「ヴィヴィオは、ヴィヴィオの思った通りにして良いよ。
 失敗したって大丈夫。私達がついてるから。
 言ったよね? 助けるって。いつだって、どんな時だって」

覚えてる。
もう自分の意志では止まれなかった私を、なのはママは傷だらけになりながら
も助けてくれた。

「だから、ちゃんと自分の心を信じてあげて。
 何のためにその力があるのか。
 その手の力で何ができるのか。
 それはきっと、自分の心で決める事だから」
「うん……!」

涙声で頷く。
それはきっとなのはママが通って来た道。
その先で見つけた確かな答えなのだろう。

849 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:59:11 ID:ycBlxCLg0


悔しかったのは、何も出来ない自分。
自分に力がなかったから、大切な人たちが目の前で死んでしまった。

怖かったのは、制御できない自分。
哀しみや憎しみを抑える事ができなくて、力を手に入れても壊す事しか出来な
かった。

けど、今は違う。
私を信じてくれる人がいる。
私を助けてくれる人がいる。
だから、もう大丈夫。


「ありがとう、ママ。
 私はもう大丈夫だよ。
 ちゃんと一人で立てるよ。
 強くなるって、約束したから」

抱えていたデイバックから、赤い宝石を取り出す。
私にとって罪の象徴ともいえる、レリック。

これを受け入れる事は、今までの自分を全部受け入れる事なんだと思う。
きっと、とても辛くて、とても悲しくて、とても怖い。
それでも私は、みんなを守りたい。

「だからなるよ。
 なのはママみたいに強く。フェイトママみたいに優しくなってみせるよ」
「……うん、きっとなれるよ。
 ヴィヴィオがそうなりたいって思って、そうなろうって頑張れば、
 なれないものなんて、きっとないから」

だから大丈夫。
なのはママが、私を信じてくれるから。
私が、誰かを守りたいって願っているから。
―――だからきっと大丈夫。私はもう、自分には負けない。

850 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:59:45 ID:ycBlxCLg0


『――――わたしを、ヴィヴィオの元に』
「マッハキャリバー?」
『わたしはこのデスゲームにおいてヴィヴィオが聖王となった際に、彼女とレ
リック、そして“ゆりかご”とのバイパスとして使用されました。
 その為、わたしはヴィヴィオの個体情報を獲得しています。レリックと融合
する際の助けになれるでしょう』

マッハキャリバーが自分から待機形態へと移行する。
それは私に受け取ってくれ、という意思表示なのだろう。

『お願いします。
 わたしはまだ動けます。まだ戦う事が出来ます。
 わたしはまだ、あなた達の助けになりたいのです』
「……わかった。手伝って、マッハキャリバー」
『ありがとうございます』

なのはママからマッハキャリバーを受け取る。
するとなのはママが、私の手を強く握った。

「今度は私の番だね。
 ヴィヴィオ、行ってらっしゃい」
「――――!」

その言葉に驚き、それ以上にうれしくなる。
握られた手を、強く握り返す。

「うん。行ってきます、なのはママ」

名残惜しげに手を離す。
けど、今は惜しむ暇はない。
ユーノさんが今も戦っている。

マッハキャリバーを片手に、レリックを胸に抱く。
赤い魔力の結晶が体内に溶け込み、体に再び魔力が満ちていく。
それと同時に、私は虹色の光に包まれた。



虹色の光が治まる。
そこには金色の髪をサイトアップに結い纏め、黒と白の騎士甲冑を纏う、17歳
前後の少女――聖王ヴィヴィオの姿があった。

聖王となったヴィヴィオは、僅かに振り向いてなのはを見つめる。
その緑と赤の双眸に宿すのは、かつての様な怒りや憎しみではなく、
母と同じ優しい光。

「本当にもう、大丈夫だね」

小さく頷き、視線を前へと戻す。
約束を胸に、清らかなる戦士はこのデスゲームを終わらせる為の戦いへと赴く。


「頑張ってね、ヴィヴィオ」
『御武運を』

その後ろ姿を見つめ、なのは達はそう言った。
そこには絶対の信頼と、母親特有の優しさがあった。

851 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:00:19 ID:ycBlxCLg0



   /07「死闘」



黒い戦斧を振り上げ、迫り来る黒い短剣を弾く。
それだけでバルディッシュを持つ手が痺れ、取り落としそうになる。
それをどうにか堪え、続く二撃目をシールドで防ぐ。
そのまま一旦距離をとり、再び斬りかかる。


ハッキリ言って、僕は戦いには向いてない。
僕が得意とする魔法は、防御や結界などの支援魔法ばかり。逆に、攻撃魔法全
般には全く適正がなかった。
そんな僕が金居を相手にして、今なお接近戦を挑んでいる理由は一つだけ。

金居には遠距離攻撃が効かない。
それは射撃魔法であろうが、砲撃魔法であろうが変わりない。そのどちらもが
金居のバリアに弾かれてしまう。
おそらく、ゼロ距離からならバリアも発生しないだろう。だが、それでは接近
戦を行うのと変わりがない。

つまり僕の目論見は、前提から崩れていたのだ。
どんなになのはが強くても、金居に遠距離攻撃が効かない以上、“砲撃魔導師”
であるなのはの攻撃は、そのほとんどが無意味。必然的に接近戦をしなければ
ならなくなる。
そして今のなのはに、そんな危険を冒させる訳にはいかない。
倒すのなら、金居を先に倒すべきだったのだ。
だけど後悔している暇はない。

今僕に出来る事は一つ。
限界まで時間を稼ぎ、崩落によって出来るだろう空間の穴に、金居を叩き落と
す事だ。
そうすれば金居は、少なくともこの会場には戻ってこれなくなる。
問題は、それまで僕が生きていられるかだ。


現在僕の有利な点は一つ。相手に姿が見えないという事だけだ。
けど金居は、その見えない僕に容易に対応している。

おそらく地面を踏んだ時の足跡とか、バルディッシュを振るった時の風斬り音
とか、あるいは僕自身の気配だとか。
そういった些細な物から判断しているんだろう。

もしこれで僕の姿が見えていたのなら、きっと僕は既に死んでいる。
つまり一瞬でも油断すれば、その場で死ぬ。
けど、他に手段はない。

852 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:01:14 ID:ycBlxCLg0


緊張で呼吸が乱れる。
疲労から足が縺れそうになる。
あまりの実力差に心が挫けそうになる。
その全てを堪えて、眼前の敵へと挑む。

その時だった。

「もう貴様の時間稼ぎにつき合う気は無い!」
「ッ! バルディッシュ!」
『Sonic Move.』

金居が地面を攻撃し、土煙が舞う。
すぐにその意図を察し、離脱する。
だが僅かに遅く、左腕に熱が奔る。

『大丈夫ですか?』
「大丈夫。深くはない。
 それよりも、問題は」

金居を中心に土煙が舞っている。
そこには、僕が移動した跡がはっきり残されていた。
これではステルスの意味がない。

「これで終りだ。無駄な抵抗は止めて、大人しく死ね」
「っ…………!」

そこに僕が攻め入れば、土煙がまた僕の軌跡を残すだろう。
そして僕の居場所を完全に把握できる金居は、容易に僕を殺せる。
かと言って逃げだせば、あいつはなのは達を殺しに行くだろう。
それだけはさせる訳にはいかない。
だから逃げる事は絶対に出来ない。

故にこれで詰み。
戦う事も、逃げる事も封じられた僕は、ただ死を待つしかない。

…………だからと言って、諦める事だけは出来ない!

「ッ! オォォォォオオオオオオッッッッ!!!!!」

せめて一矢報いようと、渾身の力を籠めてバルディッシュを振りかぶる。
ステルスに使っていた魔力さえ攻撃に回す。
金居はそれを当然の様に受け止める。

ブリッツアクションで四肢の動きを加速し、怒涛の連続攻撃を叩きこむ。
だがその全てを、金居は防ぎ続けている。

853 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:01:54 ID:ycBlxCLg0

一度でも守勢に回ればそこで負ける。
息つく間も惜しんで攻め続ける。
その中に僅かな隙を見つけた。
残された体力も少ない。
その僅かな隙に、渾身の力でバルディッシュを叩きこむ。


だがそれを、金居は深くしゃがみ込んで躱した。


それが作られた隙であると理解する間もない。
金居はしゃがんだまま、まま背中が見える程に体を捻じり、黒い短剣を斬り上
げるように降り抜ぬく。
咄嗟に回避しながらシールドを張る。
だが――――

「ジェェアァァァアアアアッッッッ!!!!!」
「――――ッ!!」

敵の渾身の一撃の前に、僕のシールドは容易く切裂かれた。
そのまま上下からの挟み込む様な一撃。
それを見て僕は、ここで死ぬんだと理解した。

「――――ごめん、なのは」

そう諦めの言葉を残す――――直前。

「セイクリッド、クラスター!」

僕と金居の周囲に、複数の小さな魔力弾が穿たれ、爆散した。
金居はその攻撃に驚き動きを止め、土煙が相手の姿を隠せそうなほどに舞い上
がる。
その隙にどうにか距離を取り、安全圏まで離脱する。

854 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:02:51 ID:ycBlxCLg0


目の前に、今の攻撃を行った人物であろう、どこか見覚えのある少女が降り立
った。
この少女は一体誰なのかと考えて、そもそもこの会場には、残り四人の人物し
かあり得ない事に思い至る。

「君は……一体……?」
「大丈夫? ユーノさん」

そのどこか聞き覚えのある声を聞いて、少女の格好にも見覚えがある事に気づ
く。
なのはと同じ結い方の金色の髪。似通った形状のバリアジャケット。
そして、緑と赤のオッドアイ。

「まさか、ヴィヴィオ!?」
「うん。そうだよ、ユーノさん」

改めてその顔を確かめれば、確かに面影が色濃く残っている。
それに今更ながらに気付いた事だが、彼女はその手足にマッハキャリバーとケ
リュケイオンを装備している。
これで気づかない方がおかしい。

「でもその姿は、一体……」
「それは後で。今はあの人の相手をしなきゃ」
「――――ッ! そうだね、話はあいつを倒してからだ」

ヴィヴィオの視線の先では、晴れていく土煙の中に金居の姿が見えている。
あいつの表情は判らないが、その気配が険呑としている事は感じ取れる。

「ヴィヴィオ。君は前衛と後衛、どっち?」
「前衛だよ」
「それならバルディッシュを渡す。代わりにケリュケイオンを渡して。
 後方支援は僕の領分だ」
「うん、わかった。
 バルディッシュ、力を貸してくれる?」
『Of course.』

バルディッシュと交換したケリュケイオンを装着する。
ヴィヴィオも慣れたような手付きでバルディッシュを構える。
金居との距離は十メートルもない。

「気をつけて。あいつに遠距離攻撃は効かない。
 射撃にしろ、砲撃にしろ。撃つならゼロ距離からだ」
「わかった。行くよ、バルディッシュ!」
『Yes sir. Haken Form.』

855 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:03:26 ID:ycBlxCLg0

先制はヴィヴィオ。
バルディッシュがその姿を光刃の大鎌へと変化させ、僕とは比べ物にならない
威力の力で、金居に向けて一撃する。
僕は攻撃対象にならないよう、再びステルスで姿を隠す。

対する金居は、ヴィヴィオの一撃を金色の短剣で防ぎ、もう一つの短剣でヴィヴィオへと攻撃する。
だがそれは、突如出現した虹色の障壁に阻まれた。

「今だ! ケリュケイオン!」
『Boost Up. Acceleration.』
「もう一つ!」
『Boost Up. Strike Power.』

その隙にヴィヴィオにブーストを掛ける。
それによりバルディッシュの光刃は、通常よりもさらに大きな刃となっていた。


大鎌による攻撃の特徴に、防御の難しさがある。
生半可な防ぎ方では、肝心の刃が回り込むように届いてしまうのだ。
ましてや、ブーストにより巨大化した今の光刃なら尚更だ。

金居とてそれは百も承知している。
大鎌を防ぐうえで最適な、面での防御手段を持たない金居は、ヴィヴィオの攻撃を全て回避するか、受け流している。


「ハアッ!」
「チィッ!」

ヴィヴィオが金居へと攻撃すれば、金居はそれを躱す。
その隙にもう一つの短剣で斬りかかれば、障壁に阻まれ距離を取られる。
攻撃の速さはヴィヴィオが。手数の多さは金居が強く。一撃の威力はほぼ同等。
双剣と大鎌がぶつかり合う度に、激しい衝撃が大気を揺るがす。

―――それはもはや、僕では届かない領域の戦いだった。

856 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:04:18 ID:ycBlxCLg0



   /08「受け継がれるもの」



光刃の大鎌を振り抜く。
金居はそれをうまく躱し、隙だらけとなっている私の懐に斬りこんでくる。
だがそれは、私の体から発生する虹色の障壁――聖王の鎧によって防がれる。

その隙にバルディッシュを振り抜き、僅かに距離を取らせる。
そこにもう一閃。今度は刃を引っ掛けるように旋回させる。
金居はそれを双剣で受ける。
だがそのまま堪えるのではなく、体と双剣を逸らして受け流す。

マッハキャリバーで急速後退。
反撃を受ける前に距離を取る。


金居の攻撃は、その大半が魔力の障壁――聖王の鎧によって防がれている。
だが、それに安心する事は出来ない。
ゆりかごに直結していない今、聖王の鎧の防御力は以前に比べて数段劣る。
ある程度力を籠められた攻撃ならば、その筋力と相まってバリアを抜いてくる
事もあるだろう。
だから、それを可能とする程の隙を与える訳にはいかない。
故に取りうる戦法はヒット&ウェイ。
ソニックムーブとマッハキャリバーによる一撃離脱―――ではない。

その姿から、金居とキングはおそらく同じ存在だろう。
つまり、なのはママから伝え聞いたその回復力も同じである可能性がある。
現に、私達が金居から逃げ出した時に、金居はユーノさんによる砲撃の直撃を
受けたはずなのに、大してダメージを受けた様子がなかった。

ならば金居を倒すには、その回復力を超えた一撃が必要と言う事。
つまりこの戦いは、先に必殺の一撃を決めた者が勝者となるのだ。


バルディッシュの柄を短く持ち、小さく半回転する様に刻む。
ブーストによって強化された魔力刃は、もはやそれだけで脅威だ。
その巨大な刃は、双剣を交差して受け止めた金居を僅かに後方へと弾く。

そこにバルディッシュを槍の如く突き出す。
金居は状態を逸らして躱し、そのままバク転で距離を取る。
金居の視線が私から外れた僅かな隙に、その背後へと高速移動する。
そのままバルディッシュを一際大きく振りかぶり、

『Haken Slash.』
「ッ――――!?」

力の限りバルディッシュを振り抜く。
強化された大鎌の光刃は、受け止めた所でその守りごと切り裂くだろう。
金居はそれを深くしゃがみ込むことで躱す。
私の体は慣性に従い、金居に背を向ける事となる。
それを好機と見た金居が双剣を振り上げ、力を籠める。
聖王の鎧を破るには十分な威力が籠められた双剣が、私へと襲いかかる。

857 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:04:59 ID:ycBlxCLg0

直前、下方からの奇襲があった。
私に必殺の一撃を叩き込まんとした金居に、巨大な刃が襲いかかる。
慣性によって金居に背を向けた私は、魔力刃にマッハキャリバーで更なる遠心
力を与え、その回転方向を制御したのだ。

地面から刃が生えたと錯覚しそうな振り抜き。
金居は辛うじて半身になって避ける。
そこに左手を突き付ける。

「プラズマスマッシャー!」

ゼロ距離から砲撃を叩きこむ。
それにより金居は大きく撃ち飛ばされる。

「バルディッシュ!」
『Zamber Form.』

バルディッシュを大剣へと変化させる。
金居の強さはもう理解している。
故に、敵が体勢を立て直す前に、強大な一撃で打ち倒す。

「撃ち抜け、雷神!」
『Jet Zamber.』

長大化した魔力刃による一閃。
武器の延長と判定されたのか、遠距離攻撃を無効化するバリアは発生せず、その身体を魔力刃が切裂いた。

だが、金居はまだ倒れてはいない。
マッハキャリバーで金居へと接近する。
あれで倒せないのなら、直接その首か心臓を断ち切る。

流石にダメージがあったのか、金居は片膝を突いたまま動かない。
バルディッシュを金居に向けて振り下ろす。

「……俺を……」
「――――っ!」

ガキィン、と音を立てて防がれた。
バルディッシュは交叉された双剣によって受け止められている。

858 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:05:45 ID:ycBlxCLg0

金居が立ち上がる。
双剣はバルディッシュを受け止めたままだ。
その両腕は、見て判る程に力が込められている。

「俺を、舐めるなァァアアアッッッ!!!!」
「なッ――――!!!」

そのあまりの斥力に、バルディッシュを持つ手が跳ね上げられる。
その瞬間バルディッシュが蹴り飛ばされ、さらに足払いを掛けられる。
私の体が崩れた体制のまま宙に浮いた。

「オォオオラァアアッッッッッッ!!!!!!!」
「ッ――――――ガハッ!!!」

顔を掴まれ、一回転。そのまま地面に叩き付けられた。
あまりの衝撃に呼吸が止まり、心臓が不整脈を起こす。
地面からのバウンドでありながら、かなりの高さまで跳ね上げられる。
そこへさらに金居の追撃が入る。

「ジェアァァァアアアアアアッッッッッ―――――!!!!!」
「ッッッ―――――!!!!」

振り上げられた双剣。
そこに膨大な量のエネルギーが集束し、二色の光に輝きだす。
そこから想定される威力に背筋が凍りつく。

「ラウンドシールド!」
『Enchant. Defence Gain.』

反撃も回避も間にあわない。
全魔力を防御に集中させ、少しでもダメージを減らそうと試みる。
そこへさらに、ユーノさんとケリュケイオンによる防御支援も加えられる。
だが―――

「ハアァァァァァ――――――ッッッッッ!!!!!」
「ッガァァアアアッッッ――――――!!!!!」

極限まで高められたその一撃は、それの守りを全て粉砕した。


勢い良く地面に叩きつけられる。
体は何十メートルも転がり、一つの大きな瓦礫に激突した。
その衝撃で瓦礫は崩れ、私の体はそこでようやく止まってくれた。

瓦礫で体を支え、ふらつく頭を手で押さえながら立ち上がる。
その時だった。

パシャリと、水溜りでも踏んだかのような音がした。
周囲からは、どこか鉄のような臭いがする。
それを不思議に思い、足元を見れば、

そこには夥しい量の血溜まりがあった。

僅かに混乱していた頭が漂白され、一気に冷静さを取り戻す。
まるで冷水を頭から被ったかの様に青ざめる。
それ程までに、この光景は衝撃的だった。

859 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:06:26 ID:ycBlxCLg0


この血溜まりは自分の物ではない。
防御が功を奏したのか、私には大出血をするような傷はない。
それに、これがただ一人の人物からの出血だとすれば、
これは既に致死量を超えている。

私は思わず周囲を見渡してしまい、一目で “ソレ”を見つけてしまった。


“ソレ”は両足を潰され、首を切断された、私の知ってる誰かの死体だった。


ホントは、何となく予想していた。
あれほど激しく戦っても、いっこうに姿を現さない二人。
最初に金居から逃げた時の、ユーノさんの言葉。
きっと二人はもう、死んだのだと分かってた。

…………出来れば、知らないままでいたかった。
それが現実逃避だという事も。いつかは絶対に知る事になるのも理解している。
けど、だからと言って、せめてこんな風に死んだなんて知りたくなかった。

心の底から、怒りが沸々と湧き上がるのがわかる。
あいつを許せないという感情が強くなる。
けど―――

『ヴィヴィオ』
「……大丈夫。ちゃんと、頑張れるから」

怒りも悲しみも、憎しみも受け入れる。
どれも大切な私の感情の一つだから。
けど二度と、それに飲まれたりはしない。

なのはママに、強くなるって約束したから。
だから負けない。他の誰かに負けるのはいい。
けど、自分にだけは負けられない―――!

私の戦う理由は、怒りや憎しみじゃなくて、大切な人たちを守るため。
こんな、悲しみしか生まない争いを終わらせるために、戦うんだ。
だからこんな所で、立ち止まってなんかいられない。


スバルの亡骸から、リボルバーナックルとデイバックを受け取る。
彼女がそれらを装備したままだったのは、瓦礫に潰され隠れていたからだろう。
それが、私がぶつかった際に瓦礫が砕け、露出したのだ。

デイバックからもう一つのリボルバーナックルを取り出し、装備する。
サイズは私に最適化されたが、色彩は白系統のまま。
多分、マッハキャリバーがそうしたのだろう。

リボルバーナックルが装備された両拳を打ち鳴らす。
両手首のナックルスピナーが唸りを上げる。
瓦礫に潰されたせいで多少傷が入ってはいたが、使用に問題はないようだ。

「―――行こう、マッハキャリバー。
 こんな事を、全部終わらせる為に」
『ええ、行きましょう』

ガチャリと、両手のリボルバーナックルが音を鳴らす。
その音はまるで、反撃を告げる狼煙の様だ。

860 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:08:58 ID:ycBlxCLg0



金居はユーノさんの支援だろう、緑光の鎖に囚われている。
ウィングロードで金居の頭上まで跳び上がる。
スバルのリボルバーナックルのスピナーが高速回転する。

「リボルバー、キャノン!」
「また不意打ちか!」

その渾身の一撃を金居に向けて叩き込む。
それに気付いた金居は渾身の力で鎖を引き千切り、大きく飛び退いて躱す。
交わされた一撃が地面を砕き、大量の粉塵を巻き上げる。

「てやぁぁあ―――!」
『Storm Tooth.』
「チィッ!」

それを煙幕に金居へと追撃し、ギンガのリボルバーナックルで打ち下ろす。
金居はそれを、双剣を交差して受け止めるが、その威力に防御を崩す。
そこへ再び、スバルのリボルバーナックルを打ち上げるように叩き込む。
胴体に直撃を受けた金居は大きく殴り飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着
地する。

「貴様。その武器は……」
『そうです。あなたが殺した、スバル・ナカジマとギンガ・ナカジマの武具で
す』
「そうか。そう言えばあの女を殺したのは、この辺りだったな」

そのどうでもいいような言い方に、頭に血が上るのがわかる。
それはマッハキャリバーも同じなようだ。

『今なら解る気がします。これが、「怒る」という感情』
「マッハキャリバー……」

その言葉が、酷く尊く、そして悲しいモノの様に感じた。
けど、今は感傷に浸る暇は無い。
金居がスバルやギンガの敵だというのなら、なおの事ここで倒す必要がある。
マッハキャリバーに戦闘準備を告げ、カートリッジをロードする。

「最初から全開で行くよ、マッハキャリバー」
『All right.』
「フルドライブ!」
『Ignition.』
「ギア・エクセリオン!!」
『A.C.S. Standby.』

マッハキャリバーに魔力翼が発生する。
両腕を上げ、前方へと構える。
応じるように、金居も双剣を構える。

『金居。あなたに、最後に一つだけ言っておきます』
「ほう。何だ?」
『―――わたしは、あなたを決して許さない』

861 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:09:46 ID:ycBlxCLg0

その言葉を合図に、金居へと向けて突撃する。
攻撃方法は単純な正面突破。
だが単純であるが故に強力な一撃は、金居の防御を容易く崩す。

続く一撃は回避されるが反撃はない、否、反撃を当てる隙など与えない。
A.C.Sによって強化されたマッハキャリバーの加速は、反撃された所で当たる
前にその射程から逃れる事が出来る。
今の私達に攻撃を当てるには拘束して動きを止めるか、同等かそれ以上の速度
で迫るか、防御か迎撃によるカウンターが条件となる。

だが金居には私達を拘束する術はなく、またそれ程の移動速度もない。
故に金居が取れる手段はカウンターの一つしかない。


「たあッ―――!」
「グウッ―――!」

ナックルダスターにより強化された一撃を、金居は双剣を交差して受け止める。
そこに残ったもう一つの拳を叩き込む。

「リボルバーキャノン―――ッ!?」
「セヤアッ!!」

瞬間、金居がわざと上体の力を抜き、私を加速させる。
A.C.Sによる加速と、リボルバーキャノンの撃ち抜きに合わせて前蹴りを打ち
込まれる。
聖王の鎧による自動防御が発動するが、金居の人外の筋力に私自身の加速も相
まって、その防御は容易く破られた。


その衝撃のよってお互いに弾き合う。
どうにか着地するも、大きくせき込む。

『大丈夫ですか?』
「……どうにか…ね」

インパクトの瞬間なら威力はこちらが上。
だが、金居は基礎能力で勝る。力比べになれば、こちらが不利だ。

「なら、プラズマアーム!」

両腕に稲妻を纏わせる。
それは両腕のリボルバーナックルと相まって、より強力な効力を得る事となる。
おそらく、単純な一撃の威力はこれで互角。

金居へと突撃し、雷撃を纏った拳を打ち抜く。
それに合わせるように、金居が双剣を振りかぶる。

一撃目。ぶつかり合った右拳と黒い短剣が、周囲に衝撃波を起こす。

二撃目。速度で勝る私の左拳が、筋力で勝る金居の金色の短剣に防がれる。

三撃目。お互いの上段蹴りが激突し、一時的に距離が出来る。

四撃目。私のリボルバーキャノンと、金居の双剣による一撃が激突する。

五撃目。ノックバックで距離の開いた金居に突撃し、追撃の一撃を入れる。

六撃目。プラズマアームの電気エネルギーを圧縮し、直接金居へと撃ち込む。

七撃目。先の一撃で体の浮いた金居に、再びリボルバーキャノンを叩き込む。

大きく金居が吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突き刺さる。

862 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:10:24 ID:ycBlxCLg0


乱れた息を急いで立て直す。
十秒に満たない攻防で、もう息が上がっている。
魔力の限界はまだ遠い。だが体力の限界が近づいている。

瓦礫の中から金居が姿を現す。
その姿に目に見えるダメージはない。
やはり金居を倒すには必殺の一撃を決める必要がある。
腰を深く落とし、必殺の一撃に神経を集中させる。
こちらの覚悟を見てとってか、金居が双剣に力を籠め始める。

即座に金居に向けて突撃する。
金居の全力での一撃は驚異的だ。
完全に力を溜めきる前に、必殺の一撃を叩き込む。

「おおおおオオオオオ――――!!!!!」
「ハァアアアアッッッ――――!!!!!」

それを認識した金居が、合わせるように双剣を振り抜く。
魔力を可能な限り聖王の鎧へと注ぎ込む。
金居の双剣はやはり聖王を切り裂き、その先の私を切り裂かんと迫り来る。
それを、ナックルバンカーで強化したギンガのリボルバーナックルで防御する。

リボルバーナックルに阻まれた双剣が妖光を放ち、全てを断ち切らんと軋みを
上げる。
双剣を受け止めたナックルスピナーが高速回転し、二つの刃を弾き飛ばさんと
火花を散らす。


それは十秒か、一分か、それ以上か。
筋力で劣る私が、金居に圧され始めた時だった。

ビシリと音を立て、リボルバーナックルと金居の双剣に亀裂が入る。
ギンガのリボルバーナックルが、金居の双剣と共に破砕する。
残るカートリッジを全てロードする。

「一撃……、必倒―――!!!」
「ッッッッ――――――!!!!!!」

そのまま武器破壊により体勢の崩れた金居に左拳を打ち込み、その先端に魔力
スフィアを形成して押し当てる。

「ディバイン―――!!!」

押し当てられたスフィアは膨張し、金居の体勢をさらに崩す。
そこに渾身の力で、スバルのリボルバーナックルを叩きこんだ。

「―――バスター―――ッッッ!!!!!」

撃ち出された閃光は金居を飲み込み、必殺の威力を以って吹き飛ばした。

863 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:11:15 ID:ycBlxCLg0



「はぁ……はぁ……、っはあ……」

肩で大きく息をする。
どうにか敵は倒した。
だがマッハキャリバーはフルドライブを維持している。

金居はバスターの直撃を受けた。
ならばその生死はともかく、少なくとも戦う事は出来ないはずだ。
だが、聖王としての闘争本能が、まだ気を緩めることを良しとしないのだ。

そしてその直感が正しかった事を、私はすぐに知る事になる。


「ヴィヴィオ!」

ユーノさんが近づいてくる。
その手にはバルディッシュを持っている。
弾き飛ばされた時に回収してくれたのだろう。
その表情には金居を倒した事による安堵が浮かんでいる。
だがそれは、今この場においてはあまりにも致命的だった。

「ダメ! ユーノさん、逃げて!!」
「――――ッ!? しまった!!」

瓦礫の中から、金居が飛び出してくる。
その手には機械仕掛けの剣――パーフェクトゼクターが握られている。
金居はそれを大上段に構え、ユーノさんに向けて振り下ろす。

「ハアァァアアアッッッ!!!」
「このおッ―――!!」

マッハキャリバーがまだフルドライブであったことが幸いした。
辛うじて二人の間に割り込み、聖王の鎧とスバルのリボルバーナックルで防ぐ。

だが、パーフェクトゼクターによる攻撃は強力過ぎた。
聖王の鎧は容易に斬り裂かれ、攻撃を受け止めたスバルのリボルバーナックルに亀裂が奔る。
そしてそのままの勢いで、ユーノさん諸共に弾き飛ばされた。
すぐさま体勢を立て直し、ユーノさんを抱えて距離を取る。

「……やっぱり、無事たった」
「気付いていたのか」
「何となくだけどね」

相対する金居には目立った傷がない。
否。僅かに見える傷もあっという間に再生していく。
不死身、という言葉が脳裏を過ぎる。
それは奇しくも、確たる事実でもあった。

864 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:11:48 ID:ycBlxCLg0

「ユーノさん、バルディッシュを」
「わかってる」
「もう少し頑張らないとね、バルディッシュ」
『Yes, sir. Riot Blade.』
「レヴァンティンも、手伝って」
『Jawohl.』

バルディッシュを受け取り、ライオットブレードへと変形させる。
更にデイバックからレヴァンティンを取り出し、左手に装備する。

「バルディッシュ」
『Thunder Arm.』
「ケリュケイオン」
『Boost Up Acceleration. Enchant Defence Gain.』

バルディッシュの詠唱により電撃が左手に集中発生し、握られたレヴァンティ
ンが帯電する。
そこにユーノさんの支援が行われ、移動と防御が強化される。

「行くよ、みんな!」

紫電を纏う双剣を構え、金居へと突撃する。
これが金居との、最後の戦いになるようにと願いながら。

865 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:12:21 ID:ycBlxCLg0



   /09「星の輝き-ViVid-」



金居へと飛び掛かり、双剣を同時に振り下ろす。
掲げる様に持ち上げられたパーフェクトゼクターが、双剣の攻撃を阻む。
バク転するように跳びのき、突撃と同時にレヴァンティンを振り抜く。
金居は応じるようにパーフェクトゼクターで迎撃する。
それによりレヴァンティンとパーフェクトゼクターが鍔競り合う。
レヴァンティンからパーフェクトゼクターを通して、金居に稲妻が伝播する。手元の剣から伝わる雷撃に、金居の動きは鈍らざるを得ない。
そこへバルディッシュを槍のように突き出す。
金居は辛うじてそれを躱し、距離を取る。

パーフェクトゼクターを構える金居は、明らかに困惑の表情を見せていた。
なぜならヴィヴィオの剣筋は、金居にとって酷く見覚えがあるモノだったのだ。

「貴様、まさか……」
「あなたの戦い方、“覚えさせて”いただきました」

それもそのはず。
今のヴィヴィオの剣技は、双剣を使った自分の剣技そのものだったのだから。

それが常ならば、分は金居にあっただろう。
ヴィヴィオが使うのは自らの剣技であり、所詮は借り物。
その利点も欠点も、金居は熟知している。
その対処は容易に過ぎる。

だが、ヴィヴィオの持つデバイスがそれを覆していた。
ライオットブレードとなったバルディッシュ。
サンダーアームを受けたレヴァンティン。
この二機はその刀身に高圧電流を伴い、接触する度に金居に雷撃によるダメー
ジを与えてくる。

ダメージ自体はたいした事はない。
だが、これにより金居は、ヴィヴィオの攻撃にまともな対処ができないでいた。

866 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:12:52 ID:ycBlxCLg0



金居が剣を振り下ろす。
それを僅かに下がることで躱し、返すようにバルディッシュを振り下ろす。
返しからの切り上げで防がれる。
そこにレヴァンティンを突き出す。
回避と同時に右回転し、遠心力を加えた一撃が迫り来る。
マッハキャリバーで急加速し、前進することで回避する。


パーフェクトゼクターの一撃を受け止める事はしない。
金居のパーフェクトゼクターを使った攻撃は強力だ。
速度こそ双剣の時ほどはないものの、その威力はスバルのリボルバーナックル
を、ただの一撃で大破寸前にまで追い込んだ事からも窺える。

故に、攻撃は常に私から。
もし受け手に回ってしまえば、戦いの形勢は逆転しかねない。
今の私の攻撃はライオットブレードとサンダーアームの効果により、接触する
度に相手に電撃を流し込む。
それにより、パーフェクトゼクターに力が乗る前にその攻撃をキャンセルする。


痺れを切らした金居が、バルディッシュによる一撃を左腕で直接受け止める。
高い切断力を誇るライオットブレードに、腕を半ばまで切り裂かれるが、それでも刃の侵攻は止まった。
バルディッシュから流れる高圧電流を耐え抜き、パーフェクトゼクターを大き
く振り被る。

「バルディッシュ! レヴァンティン!」
『Load cartridge.』
『Schlange Form.』

バルディッシュがカートリッジをロードし、その魔力を受けたレヴァンティン
がシュランゲフォルムへと変化して、パーフェクトゼクターを絡め取る。
サンダーアームの効果はまだ続いている。
パーフェクトゼクターを握る腕ごと拘束された金居は剣を手放す事が叶わず、
結果、両腕から高圧電流が流れ込む。

「ガア――――ッ!!」

金居は二重の雷撃によるダメージで動けない。
その絶対の隙にバルディッシュを引き抜き、金居の心臓へと突き出す。
だが―――

「言った筈だ! 俺を舐めるなとッ!!!」
「ッ―――! しまった!」

金居は雷撃に耐え、自らの腕に絡まったレヴァンティンを力の限り引っ張る。
私は堪らず体勢を崩し、レヴァンティンを手放してしまう。
そこへパーフェクトゼクターが降り抜かれる。

867 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:13:29 ID:ycBlxCLg0

どうにかバルディッシュで防ぐも、バルディッシュがまたも弾き飛ばされる。
金居はレヴァンティンを振り解き、パーフェクトゼクターへとエネルギーを籠
め、今まさに止めの一撃を放たんとする。

そのパーフェクトゼクターの一撃は、壊れかけのリボルバーナックルでは、た
とえ聖王の鎧越しでも防ぎきる事は出来ないだろう。
可能な限りの速さで体勢を立て直し、その一撃を回避する。

しかし、私が体勢を立て直すよりも早く、必殺の一撃が放たれた。

「死ねェッ!!!」
「ッ―――!!!」

稲妻の如く突き出された一撃。
体勢を崩した私では防ぐ事も避ける事も敵わない。
それでも諦めず、聖王の鎧に魔力を集中させようとした、
その時だった。

ふわりと、風に飛ばされてきたものがあった。
どこか見覚えのある、一枚の白い羽根が、一瞬だが金居の視界を遮った。

『Wing Road!』

その隙を見逃さず、マッハキャリバーが金居の一撃を迎撃した。
すぐにマッハキャリバーの狙いを看破し、その指示に従う。

『Calibur shot, left turn!』

ウィングロードで体を無理やりに回転させ体勢を立て直し、金居を蹴り飛ばす。
それによって、今度は金居が僅かに体勢を崩す。

『Shoot it!』

そこに渾身の力を籠め、スバルのリボルバーナックルを叩き込む。
金居はパーフェクトゼクターを盾に防ぐが、それでも十数メートルの距離を弾
き飛ばされる。


――――それと同時に、右手からリボルバーナックルが壊れる音が聞こえた。
もともと壊れかけていたスバルのリボルバーナックルは、今の一撃で限界を超
え、ギンガの物と同じように大破してしまったのだ。

『……Thank you, and good bye. My best buddy.』

マッハキャリバーが別れを告げる。
それがどちらに対してのものか、などと考える意味はない。
だって彼女たちは、いつもずっと一緒だったのだから。

868 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:14:06 ID:ycBlxCLg0


金居はまだ防御姿勢を崩していない。
おそらくこれが最後のチャンス。
金居に自分が知る限りでもっとも強力な拘束魔法を掛け、その体を固定する。

「レストリクトロック!」
「――――――ッ!?」

それでも金居を相手に拘束していられる時間は、僅か数秒。
ならその数秒の内に、私の最高の魔法を以って決着をつける!

「バルディッシュ!」
『Riot Zamber.』

すぐさまバルディッシュを回収し、カートリッジをロード。
バルディッシュをライオットザンバー・カラミティに変化させ、正眼に構える。

それと同時に、周囲の空間に虹色の輝きが次々に現れ、バルディッシュの刀身
へと集束してゆく。
星空から流星が落ちるように、それは集い、輝きを増していく。

その流星雨はまるで『星の光(スターライト)』
彼女の母と同じ、集束魔法特有の輝きだった。


金居に遠距離攻撃は効かない。
それはどれ程の威力のものであろうと変わりがない。
金居への攻撃は直接的なものか、ゼロ距離からのものに限定される。
故に攻撃の通用するゼロ距離へと肉薄し、
直接剣を叩き込む―――


「ッ――――!!」

だが金居は、もうすぐ全てのバインドを破ろうとしてた。

間にあわない。
このままでは振り抜く前に抜け出され、直撃を避けられてしまう。
かと言って、追加拘束は出来ない。
この魔法は制御が難しい。今は私自身の詠唱を必要とする魔法は使えない。
――――ならばイチかバチか、金居の次撃に合わせて叩き込む!

そう決意した直後だった。
緑色に輝く鎖が、金居を再び拘束したのだ。

「ヴィヴィオ! 今の内に!」

ユーノの言葉に頷き、大きく構えを落とす。
傍から見ればその体勢は、力を溜める肉食獣そのものだ。


刀身に集められた魔力が、臨界点へと達する。
ベースとなった魔法の名残か、虹色に輝く刀身に金色の雷光が迸る。

金居は必死で抜け出そうともがいている。
刀身に圧縮された魔力は、もはや暴発直前の様相だ。
マッハキャリバーのホイールが地面と摩擦し咆をあげる。

「行くよ、これが私の全力全開―――!」

―――駆ける。
A.C.Sによる加速を得たマッハキャリバーが、彼我の距離を一瞬で零にする。
数秒と経たずに、金居の目前へと跳び上がる。

「スターライトザンバー―――!!」

その魔法(キセキ)の真名と共に、星の剣を振り上げる。
刀身が一際眩く輝き、昇り始めた太陽よりも強く、崩壊する世界を照らし出す。


交錯する視線。
ここに決まる勝者と敗者。
その差は、他者を利用し、自分だけを信じた者と。
他者を信じ、仲間との絆を紡いだ者との差だった。


「――――ブレイカー――――!!!!」

炸裂する虹の極光。
その輝きは、周囲の全てを飲み込み、長き戦いの終わりを告げる旭光となった。

869 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:14:45 ID:ycBlxCLg0



体力は完全に底をついた。
マッハキャリバーは稼働限界を超えてスタンバイモードへと戻り、バルディッシュもアサルトフォームへと戻っている。
そして極光が炸裂した爆心地では、


金居が半壊したパーフェクトゼクターを支えに、再び立ち上がっていた。

「そんな……嘘だろう!? まだ立つのか!?」

ユーノさんが驚愕の声を上げる。
それも当然だろう。
あの一撃の直撃を受けて立ち上がれる者など、普通はいない。
しかも金居の胸にある大きな傷跡が、見る間に再生されていく。
ユーノさんはその事実に絶望感を顕わにする。
けど不思議と私は、危機感を感じなかった。

スバルのデイバックから、一枚のカードを取り出す。
それはジョーカーと書かれた一枚のトランプ。
このカードを取り出した理由は、自分でもよく解らない。
ただ、このカードが自分を使えと言っているように感じるのだ。

そしてそれは正しかったようで、金居は腹部のバンクルに手を当てた後、目に
見えて狼狽する。
それにどんな意味があったのか、私には分からないが、金居にとっては致命的
なことであるらしい。
ジョーカーのカードを片手に金居へと歩みよる。

「ア、アァアアアア――――!!!!」

追い詰められた金居が、パーフェクトゼクターを振り上げ斬りかかってくる。
だがパーフェクトゼクターは、聖王の鎧に阻まれるまでもなく、金居を拒絶す
るかのように自壊した。

「………………ふん。
 今回は、ここまでか」

それを目の当たりにした金居は、そう小さく呟いた。

ジョーカーのカードを押し当てる。
最後の武器を失った金居は、もう抵抗をしなかった。
ジョーカーは、彼の世界でケルベロスと呼ばれるカードと同じく、
金居――ギラファアンデッドを封印した。

870 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:15:39 ID:ycBlxCLg0



   /10「安らぎの場所に向かって」



クレーターの中央付近で、スペードのKと書かれたカードを拾う。
近くにはデイバックがあり、当然それも拾い、中身を確認する。

中にはハンドグレネードとRPG-7、天道さんの持っていた爆砕牙、それと先ほ
ど拾ったトランプと同種の、ハートのAと3から10の9枚が入っていた。

ユーノ君の結界を出て行動しているのは、身体の調子を見る為と、私にも何か
できる事がないかと、周囲を捜索していたのだ。
結果見つかったのは、金居が使っていた赤いレイピアと、仄かに魔力を感じる
青白く輝く鉱石。それとキングの物と思われるデイバックとカードだけだった。

今一ぱっとしない結果に、もう一度捜し回ってみようかとも考えたが、今はま
だ無茶は出来ない。
もし探すのであれば、ユーノ君達と合流してからにする。


クレーターの外へと飛翔し、大きく息を吐く。
体の調子は悪くない。
まだあちこちが痛み、戦闘行動を執るのは難しいだろうけど、普通に移動する
分には問題ない。
問題があるとすれば―――

「レイジングハートは大丈夫?」
『自動修復可能範囲内ではありますが、時間がかかります。
 現状、戦闘行動を行うのは厳しいでしょう』
「そっか。やっぱり……」

今戦闘を行えば、レイジングハートが壊れる危険があるという事だ。

この後にナンバーズが控えている今、レイジングハートと一緒に戦えないのは
非常に厳しい。
実家が古流武術の道場であるため、多少なら刀の心得もあるが、やはり自分は
魔導師なのだ。
自分の相棒が戦えないというのは、酷く心許ない。

871 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:16:11 ID:ycBlxCLg0


その時だった。
何処からか、誰かの走る足音が聞こえた。
序で聞こえたのは、自分の名前を呼ぶ声だった。

「なのはママ!」
「なのは!」
「ヴィヴィオ! ユーノ君!」

声の方向へと振り返ってみれば、ヴィヴィオとユーノが走ってくる。
思わず体の痛みを忘れて駆けだした。
そしてある程度の距離まで近づくと、ヴィヴィオが跳び付いて来た。
それをしっかりと抱き止める。

「ただいま、なのはママ」
「お帰りなさい、ヴィヴィオ。
 よく頑張ったね、えらいぞ」
「うん!」

お互いに抱きしめ合い、約束の言葉を交わす。
聖王になっても感情に飲まれる事なく、自分の意思で戦えたヴィヴィオを目一
杯褒める。
無事帰る事が出来たら、何かご褒美を上げなきゃいけないと思う。

「なのは、もう動いて大丈夫なの?」
「なんとかね。ユーノ君の方こそ、怪我してない?」
「ヴィヴィオのおかげで、なんとかね。
 なのはが動けるんなら話が速い。
 時間がないから手短に言うよ」

そう言うとユーノ君は座り込んで、自分のデイバックを目の前の地面に置いた。
私もユーノ君にならって座り込み、抱えていた三つのデイバックを地面に置く。
ヴィヴィオも同様に座り込んで、デイバックを地面に置いた。
それと同時にユーノ君が、ラウンドガーダー・エクステンドを発動する。

872 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:16:54 ID:ycBlxCLg0

「ユーノ君、これは?」
「説明や作業の間、少しでも回復できるようにね。
 大丈夫。僕は後方支援が基本になるからね。
 戦闘ではなのは達ほどには魔力を消費しない。
 て言うか、むしろこういう時こそ後方支援の出番だろ」
「それもそうだね」

そう言って思わず苦笑する。
そしてユーノ君は咳を一つ、真顔になって喋りはじめた。

「じゃあ始めるよ。
 まず、全員の荷物を簡単に整理するんだ。
 自分が持っておいた方がいいモノ、持っておきたいもの。
 使える物や使えない物。全部だ」
「それはいいけど、一体なんで?」

そう聞くと、ユーノ君は一際真剣な声で言った。

「もうすぐ会場の大崩落が始まると思う」
「大崩落?」
「そう。この会場を維持していた核と言える部分が、既に機能していない。
 今は余剰魔力でなんとか持ってるけど、それももうすぐ尽きる。
 そうなったら、底の割れたバケツみたいに、一気に中の物が零れ出す。
 つまり、この会場があっという間に崩落するんだ。
 そうなる前に魔法陣で安全な場所まで転移する」

つまり、今は小康状態となっているが、会場に響いている振動や轟音は、この
世界の悲鳴の様なものなのか。

「よく分かったね、そんなこと」
「魔法陣を調べた時に、ついでにね」
「それで、安全な場所って? やっぱり、プレシア達のいた所?」
「いや、多分そっちには転移出来ない。
 言っただろう、核がないって」

873 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:17:43 ID:ycBlxCLg0


通常、転移魔法は使用者が目的の場所の座標を知らなければ、術者が望んだ場
所へは転移出来ない。
これは転移魔法を知る者なら誰でも知っている常識である。
当然、ユーノは勿論、なのはだって知っている。
そしてなのは達はプレシアのいた場所の座標を知らない。

ならば何故ここに来たのか。
それはここの転移魔法陣が“使用者の望んだ場所へと転移させる”機能を持っ
ていたからだ。
そしてそれは、八神はやてが二度実践し、確かであると証明している。
一度目はヴィータの所へ、二度目はスバルの所へと。
そして当然、はやては二人の居場所――つまり座標など知らなかった。
ならば何故はやては望んだ場所へと転移出来たのか。

それはその魔法陣とこの会場、そして参加者に関係があった。
まず魔法陣があるエリアは【E-5】。つまり会場の中央に存在する。
そして会場の端と端はループしている。
言い換えれば、端から端へ転移しているのだ。
この時点で魔法陣が会場のループに関係がある事は、容易に想像がつく。
そこから発展させれば、会場の構成そのものにもだ。
もし魔法陣が会場を構成する上で重要な機構となっているのなら、会場の中で
あるならばどこへ転移させるのも容易い事だろう。

次に、このデスゲームの参加者には、必ず共通している点が一つあった。
そう、首輪だ。
参加者たちは、ゲーム開始時点では全員が首輪をしていた。
この首輪は参加者への抑止力であると同時に、プレシアへの生死の報告や、禁
止エリアへ入った参加者への警告・粛清も兼ねていた。
つまり何らかの情報を送受信する事が出来るのだ。

ここまで言えば解るだろう。
そう、その魔法陣の効果の転移とは、参加者の首輪を目印にした物だったのだ。
つまりはやては、“望んだ場所に”ではなく“望んだ人物の近くに”転移した
のだ。

874 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:18:19 ID:ycBlxCLg0


ユーノは魔法陣と会場を解析した際に、それらの仕組みを大凡ではあるが把握
したのだ。
魔法陣を維持するエネルギー源たる核が、同時にこの会場の核である事も。
そして既にその核が存在していない事も、また同時に。

もし核が健在であれば、そのエネルギーの流れを逆算して核の座標を割り出し、
そこに転移する事も可能だったかもしれないが、エネルギーの供給が断たれた
以上、それは不可能だ。


「じゃあどこに転移するの?
 この会場から出られないんじゃあ、何処に至って危険だよ」

その説明を大雑把に聞いた私は、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。

「あるだろ、一つだけ。
 衛星軌道上に上る事も可能で、次元跳躍も可能な空中戦艦が」

けどユーノ君は自身を持ってそう断言した。
それを聞いて私も、思い当たるモノが一つだけあった事に気づく。

「あ……そうか、“聖王のゆりかご”!」
「そう。ゆりかごなら、この会場の崩落にも耐えられるかもしれない。
 もしかすれば、元の次元に帰る事だってね。
 幸い、こっちには艦長役もいる事だし」
「へ……? それって、私のこと?」

いきなり話を振られたヴィヴィオが、困惑気味に聞き返してくる。
その様子を見て、私とユーノ君はクスクスと笑った。

「まあとにかく、そういう事だから」
「解った。でもなんで荷物の整理を?
 時間がないならい出来る限り急いだ方がいいじゃないのかな」
「時間がないと行っても、別に一分一秒を争う訳じゃない。
 時々、大きい振動が起こるから勘違いしやすいけどね。
 この振動は、結界の核がなくなって、維持できなくなった部分。
 つまり、ループ機能とかが壊れ始めているからだと思う」

それはつまり、先ほどまで繋がっていた空間が、いきなり断絶したという事。
いわば次元震に近いものなのだろう。

「それに転移が上手くいったとしても、“何が起こるか判らない”からね。
 すぐに対処できるように、出来る限りの準備はしておくべきだ」

その言葉に頷く。
私達はこのデスゲームの開幕を始め、突発的な出来事に翻弄され続けている。
なら、今度だって何が起こるか判らないのだ。

875 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:18:56 ID:ycBlxCLg0





「よし。これで多分大丈夫だと思う」

目の前には三つのまとめられたデイバック。
私達の手元にはそれぞれのデバイスや武器があった。

レイジングハートは現在、自動修復機能をフル稼働させてる。
当分は戦闘に出せない。

バルディッシュやレヴァンティン、マッハキャリバーはヴィヴィオが持ってる。
元々砲撃魔導師な上、まだダメージでまともに動けない私よりは、ヴィヴィオ
の方が接近戦には適任だからだ。

ケリュケイオンは私が持っている。
最初はユーノ君に渡そうとしたんだけど、ユーノ君いわく、

「ケリュケイオンで使える補助魔法はもう覚えた。
 アスクレピオスの補助があれば自力で使えるから、ケリュケイオンはなのは
が使ってあげて」

との事。
ユーノ君はよく私を天才だって言うけど、ユーノ君だって十分凄いと思う。
ちなみにアスクレピオスは、私と合流する前にスバル達の遺品と一緒に拾った
らしい。

蒼天の書はユーノ君が持っている。
ヴィヴィオは前衛だし、私では蒼天の書の魔法を使いこなせないからだ。

しかし、現在保有するデバイスの中で一番特異なのが、私の持つ紫紺色の宝玉
状態のデバイスだろう。
それはヴィヴィオに支給されたボーナス支給品で、十年前のレイジングハート
と殆ど全く同じ形状の、色彩とAIだけが違うデバイスだった。
いつ、どこで、どうやって作られたのか。持ち主はいったい誰なのか。
ルシフェリオンと名乗った彼女は、自己紹介を済ませると黙りこんでしまって、
何も聞く事が出来なかった。

けど、力は貸してくれるようなので、レイジングハートの力を借りれない今は、
それだけでも有り難かった。

876 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:21:04 ID:ycBlxCLg0


非常時用の武器は、刀の心得がある私が爆砕牙とデザートイーグルを、ユーノ
君は赤いレイピアを持っている。
ヴィヴィオは、いざとなれば素手でも平気、との事だ。


その他の道具は、私はスバルが身に着けていた指輪と天道さんが持っていた羽。
二人の形見に、と思ったのだ。

ヴィヴィオは壊れたデバイスと、キング達が変化した謎のトランプ。
ボーナスが支給された以上、死亡した事にはなっているのだろう。

ユーノ君が一番数が多くて、余ったデイバック二つに、それぞれ重火器と完全
に使い道のない道具を入れている。


道具の確認を終えたところでユーノ君が立ち上がり、デイバックを肩に担ぐ。
同様に私達も立ち上がり、自分の荷物を背負う。

「さあ、行こう」

その言葉に頷き、私たちは魔法陣の元へと移動した。



足元には淡く光る魔法陣。
その光は小さく明滅し、今にも消えそうだった。
この魔法陣が会場の維持に関係しているのなら、この魔法陣が消えた時にこの
会場も完全に崩壊するのだろう。

「みんな、準備はいい?
 だいぶ荒い転送になると思うから、気をつけて」

ユーノ君がサイドバッシャーをデイバックに直しながら言った。
その言葉に私とヴィヴィオは頷く。

「僕が転送のサポートをするから、ヴィヴィオはゆりかごを強く思い浮かべて。
 一度行った事のある君の方が、座標の特定がしやすいんだ」

その言葉でヴィヴィオが思い浮かべるのは、まだ幼かったフェイト。
ヴィヴィオは自分に、嫌いにならないで、と彼女に言った少女を思い浮かべる。
首環で転移の位置を探知するなら、誰か人を思い浮かべた方がいいのだろうと
いう判断からだ。

魔法陣の淡い魔力光が次第に強く輝き出す。
それはまるで、消える寸前の蝋燭の輝きのようだった。

「行くよ、みんな! しっかり掴まってて!
 座標確認! 場所、聖王のゆりかご!
 転送、開始―――!!」

その声の直後、魔法陣が一際強く輝き、光が私達三人を飲み込んだ――――

877 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:23:30 ID:ycBlxCLg0



【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード  封印確認】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード  封印確認】

【2日目 朝?】
【現在地 ?-? 聖王のゆりかごへ転移中】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ(大)、魔力消費(中)、バリアジャケット(エクシードモード)展開中
【装備】ルシフェリオン(6/6)@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−、{ケリュケイオン、レイジングハート・エクセリオン(6/6、中破)}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、{翠屋の制服、すずかのヘアバンド}@魔法少女リリカルなのは
【道具】支給品一式、カートリッジ詰め合わせ(残り20発)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.聖王のゆりかごへ向かう。
 2.ユーノとヴィヴィオと共に脱出する。
【備考】
※ブラスター3を使用しました。何らかの後遺症が残っている可能性があります。


【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】聖王モード、疲労(大)、魔力消費(小〜中?)、ダメージ(小)、
肉体内部にダメージ(小)、騎士甲冑展開中、リンカーコア消失、強い決意
【装備】{バルディッシュ・アサルト(6/6)、レヴァンティン(3/3)、マッハキャリバー、レリック(刻印ナンバーⅦ、融合中)、St.ヒルデ魔法学院の制服}@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、{リボルバーナックル(右手用、大破)、リボルバーナックル(左手用、大破)、クロスミラージュ(破損)、フリードリヒの遺体(首輪無し)}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ジョーカー、ハートのA〜K、スペードK、ダイアK、クラブのK、スペードKとダイアKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1. なのはママの様に強くなる。もう二度と暴走しない。
 2. 聖王のゆりかごへ向かい、起動させる。
 3. みんなと一緒に、生きて帰る。
【備考】
※現在使用している魔力は、レリック(刻印ナンバーⅦ)によるものです。
※スターライトザンバーブレイカーを習得しました。系統は集束砲撃魔法です。

878 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:24:19 ID:ycBlxCLg0


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、肩に切り傷、疲労(大)、魔力消費(大)、強い決意
【装備】{アスクレピオス、シルバーケープ}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、蒼天の書@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS、{バリアのマテリア、ジェネシスの剣@}魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式×2(食料有り)、支給品一式×2(食料無し)、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX、サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード、キングと金居のデイバック(道具①②)
【道具①】RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、C4爆弾@NANOSING、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具②】リンディの茶道具一式(お茶受けと角砂糖半分消費)@魔法少女リリカルなのは、砂糖1kg×5、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。
 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。
 2.聖王のゆりかごへ向かう。
 3.ゆりかごに着いたら、今後の対策を考える。
 4.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerSによって使用できる補助魔法を習得しました。アスクレピオスの補助があれば使用が可能です。
※魔法陣は、この会場を構成する上での『要』である可能性があると推測しました。


【全体の備考】
※【E-5 瓦礫の山】に中規模のクレーターが出来ました。
※会場はもう間もなく崩壊します。



【カートリッジ詰め合わせ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
高町なのはに支給されたボーナス支給品。
名前通りの代物。
カートリッジ各種が、計30発入った箱。


【ルシフェリオン@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−】
ヴィヴィオに支給されたボーナス支給品。
星光の殲滅者の所有デバイス。
性能は第二期(A's)のレイジングハート・エクセリオンと同程度。
性格は非常に無口と思われるが、詳細不明。


【スターライトザンバーブレイカー】
ヴィヴィオが戦いの中で習得した“集束砲撃魔法”。
なのはのスターライトブレイカーとフェイトのプラズマザンバーブレイカーを合体させたもの。
儀式魔法による雷のエネルギーではなく、周囲の空間の魔力をザンバーの刀身に集束し、強力な砲撃として一気に放出する攻撃魔法。
本来は定石道理に、“対象を拘束し、その後に砲撃する”のが基本である。
が、今回劇中で使用したのは、マッハキャリバーのA.C.Sを用いて高速突撃し、零距離砲撃を行う、“スターライトザンバーブレイカーA.C.S”である。
ちなみにイメージは某騎士王の聖剣。

879 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:28:18 ID:ycBlxCLg0
投下終了しました。
リベンジ完了です。

あと、>>874

「じゃあどこに転移するの?
 この会場から出られないんじゃあ、何処に至って危険だよ」



 この会場から出られないんじゃあ、何処にいたって危険だよ」

に修正します。

悔いがあるとすれば、ユーノの「なのポ GoD」参戦決定ぐらいです。
戦闘描写に関してで。

880リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 19:45:25 ID:mRfwOMUM0

正直、予約の時点でユーノ君は死ぬと思い、読んでる間もハラハラしてました
この後も、彼自体の死亡フラグぽさが心配です

881リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 20:07:34 ID:Q6eZXp1g0
投下乙です。

絶望的な状況と思われたけどなんとビックリなのユーヴィヴィの誰も退場せずに最強アンデッド2人封印!
とりあえず、後は無事に脱出出来るかどうかだけど……ダメだ、どうにもなりそうにねぇ……。

あと、これ質問なんですが……今回のサブタイトルは何になるんですか?
話の途中にタイトルらしきものが入っているんですが、それに従うと10分割になる気が……。

882リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 20:13:39 ID:I.MIec720
投下乙です
GJ! マジGJです!
金居&キング、お疲れ様……
なのはもユーノもヴィヴィオもみんな、凄く活躍してましたね!
ああ、自分も見習わないとな。
最後にもう一度、GJです!

883リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 20:17:05 ID:kTjuP4cg0
投下乙です
予約の時点&読んで居る間はどうなるかと冷や冷やしていたけど、まさかの大勝利!
もう何より熱かった。残った全てのデバイスを使用し、強敵に立ち向かうヴィヴィオ。
そしてトドメはスターライトザンバーブレイカー……なんかもう読んで居て涙が出てきました。
支給品も、今まで出て来た全ての要素を余すことなく使っているし、展開運びもなのはらしくて良かったなぁ
思えばこれが初めて、デバイスフル使用の最初から最後までなのはらしさを貫いた熱血バトルなんだよなぁ。
キングを倒すなのはも、最後までなのはらしくて格好良かったです。

参加者内での脅威は無くなったけど、果たして三人は無事脱出出来るのか。
次に期待が持てる話でした。GJ!

884リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 20:33:56 ID:a/3y8XPEO
投下乙&GJ!
熱い、熱いよ!まさかここまで絶望的な状況でこんな展開が見れるとは思ってなかった!
終始熱いバトルの駆け引き、今まで戦って来た全ての仲間達の力を受け継いでの決着!
熱血魔法少女ヴィヴィオに、バルディッシュ、マッハキャリバー、レヴァンティン…
締めはジョーカーでの封印と、今まで積み重ねて来たフラグ全てを活かした展開…
そしていよいよフィナーレって感じかな?
面白かったです、もう一度GJ!

885リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 21:27:28 ID:vQMoWntM0
投下乙です
まさにバトルロワイアルの最終決戦に相応しい一戦!
なのはvsキング、ヴィヴィオvs金居、そして終始サポートに徹する寡黙な功労者ユーノ君
みんな輝いているなー、GJでした
個人的に金居の最期の台詞「………………ふん。今回は、ここまでか」が印象深かった

あと既に言われているけど、タイトル付け忘れていますからそこだけ
それと出来れば収録の際に文章の途中で改行している部分を訂正してほしい

886 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 22:10:39 ID:ycBlxCLg0
感想ありがとうございます。
何度か言われているタイトルの方は、分割する数が分からなかったので、分割数が分かってから決めようと思ってました。
その事についての連絡を書き忘れてしまい、申し訳ありません。

あと、>>885が言いました文章の途中での改行ですが、これは読みやすいようになればと35文字で改行してんですが、
逆に読みにくかったり、迷惑でしたら申し訳ありません。

収録の方ですが、今一よく解らないので代理でやってくれると嬉しいのですが、自分でやった方がいいというのでしたら頑張ります。

引き続き、ご意見やご感想などお願いします。

887リリカル名無しStrikerS:2011/02/03(木) 22:30:58 ID:Q6eZXp1g0
了解です。

ちなみに今さっき投下分の容量を確認した所80KB強ありました(正確な容量はそちらで把握出来ると思いますが)。
その為1ページの容量は30KB強程度なので恐らく3〜4分割になるかと思いますがもし区切る所に拘りがあるのでしたら連絡の方お願いします。
とりあえず、3分割でも可能かもしれませんが区切り次第では4分割になる可能性もあるのでその前提でサブタイトルと区切りを指定してくれれば収録の助けになると思います。

888 ◆19OIuwPQTE:2011/02/04(金) 01:41:37 ID:EMSaWdYk0
>>887

タイトルは、
>>818-833が 魔法少女リリカルなのはBR
Stage01 ラストステージ
>>834-850が 魔法少女リリカルなのはBR
Stage02 心の力を極めし者
>>851-864が 魔法少女リリカルなのはBR
Stage03 紡がれる絆
>>865-878が 魔法少女リリカルなのはBR
Stage04 虹の星剣
でお願いします。

あと文書途中の改行については、特に拘りはありません。

889 ◆19OIuwPQTE:2011/02/04(金) 08:09:50 ID:EMSaWdYk0
すいません。また修正です。

タイトルの Stage01 ラストステージ を Stage01 ファイナルゲーム に。

>>865の改行し忘れで、
>レヴァンティンからパーフェクトゼクターを通して、金居に稲妻が伝播する。手元の剣から伝わる雷撃に、金居の動きは鈍らざるを得ない。

>レヴァンティンからパーフェクトゼクターを通して、金居に稲妻が伝播する。
>手元の剣から伝わる雷撃に、金居の動きは鈍らざるを得ない。
に修正します。

890リリカル名無しStrikerS:2011/02/04(金) 23:30:18 ID:f0ESZohI0
ちょっと読み返していて気付いた点
本文に転移魔法陣が首輪を起点にしていると書いてありますが、人物ではなく場所を思い浮かべて転移した事例があります
例:キャロ→ゆりかご、キース・レッド→ベガルタ
だからそこ(>>873>>876の該当部分)は削った方がいいと思います

891 ◆19OIuwPQTE:2011/02/05(土) 00:36:06 ID:oQ7vN7Ns0
>>890
分かりました。
該当部分を修正後、仮投下・修正用スレへと投稿させていただきます。
ついでに、見つけた誤字等の修正も一緒に。

892 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:00:14 ID:1IH4IKEM0
それでは皆様、お待たせしました。
これより最終回を投下しようと思います。

893魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:01:07 ID:1IH4IKEM0
 仄暗い洞窟の足元で、ぼんやりと光る金の照明。
 岩肌が露出した壁とタイル張りの床の、異質にして不釣り合いなコラボレーション。
『――なるほど。そのために私を呼びつけたというわけか』
 そんな空間の只中で、にぃ、と口元を歪ませながら、一人の男がそう言っていた。
 紫の髪を肩まで伸ばし。
 金の瞳を爛々と光らせ。
 化学者の白衣を翻し、不敵に笑う男だった。
「貴方に拒否権を与えるつもりはないわ、ジェイル・スカリエッティ。
 長生きしたいのならその技術を、私のために役立てなさい」
『とんでもない。むしろ大歓迎だよ』
 モニター越しに向けた脅迫にも、物おじすることなく、返す。
 画面を隔てて男と向き合うのは、黒髪と黒いドレスの妙齢の女。
 どこか人を小馬鹿にしたような、薄っすらと喜色の滲んだ金眼とは違う。
 他者を威嚇し威圧する、凄みのこもった紫の瞳だ。
 男の立つラボから遠く離れた、遥か異界の地からの遠距離通信でありながらも、
 そこから放たれるプレッシャーは、決して衰えることはないだろう。
 大の大人であろうとも、一目で竦ませるであろうほどの気迫。
『君の提示したプランは、私にとっても魅力的な内容だった。
 人間・人外を問わずランダムに集めた、60の生命の殺し合い……
 そうした極限状態において、全く見ず知らずの人間達が、いかな交流を見せてくれるかというのは、
 生命科学の見地からしても、非常に興味深いサンプルになり得る』
「それは心理学の領域ではなくて?」
『一つの視野から世界を読み解くというスタンスは、既に時代遅れだということさ』
 機械工学と生命科学のミックスが、戦闘機人を生み出したように。
 女の凄みをその身で受けながら、しかし白衣の男は恐れない。
 微塵も表情を変えることなく、薄い笑みすらも浮かべながら、つらつらと饒舌に言葉を重ねる。
「……まぁいいわ」
 不快感を覚える気にも、怒りに震える気にもなれず。
 ふぅ、と呆れのこもった溜息をつきながら、女はぽつりとそう答えた。
「必要なものの詳細は追って伝える。そう長くかかることもないだろうから、それまで待っていなさい」
 そしてその言葉を最後にして、長距離通信のスイッチを切る。
 相変わらず、相手にしていると疲れる男だ。
 そんなことを思いながら、女は椅子の背もたれに身を預けた。
 ドクター・ジェイル・スカリエッティ――お互いが指名手配犯になる前に、何度か顔を合わせたことのある男。
 アルハザードの生命技術の寵児にして、彼女にアルハザードの存在を信じさせた男。
 あれはあれで純粋な奴だ。
 生まれながらに与えられた探究心に、愚直なまでに忠実でいられるその姿勢には、
 同じ技術者として一種の尊敬すら覚える。
 見返りさえ与えれば言うとおりに動く――まさに今回の実験には、うってつけの人材であると言えるだろう。
(でも、万一ということもある)
 内心でそう呟きながら、女は端末のキーボードへ向かった。
 確かに彼の技術力と探究心は、今回の実験において多いに役立つ。
 しかしだからといって、それが全幅の信頼を寄せていいということには繋がらない。
 でなければ、法の束縛を嫌って管理局に反旗を翻し、法を乗っ取ろうとしたことの説明がつかない。
 あれの純粋さは時として危険だ。
 どこかで方向性が食い違ったり、別の目標を見つけでもしたら、即座に手を切られるだろう。
(そうなった時のために、手を打っておくに越したことはない……か)
 裏切られたまま終わるのは癪だ。
 黙ってとんずらされるのは御免だ。
 モニターを見つめるプレシア・テスタロッサは、組み立て途中だったプログラムを呼び出し、指先でキーボードを叩いた。

894魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:01:39 ID:1IH4IKEM0


 バトルロワイアル2日目、午前6時。
 プレシア・テスタロッサの実験場は、日の出を迎えると同時に崩壊した。
 ジュエルシードのエネルギーを用い、闇の書が術式を実行することで構成されていた結界は、
 それらの制御を失うことによって自然消滅。
 行き場を失った莫大な魔力が引き起こすのは、次元震にも匹敵する大爆発。
 森が、街が、海が、死体が。
 9キロメートル四方のフィールド内の、ありとあらゆる物質が、極光と轟音の中へと消えていく。
 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 天地創造のビックバンと呼んでも、過言ではないほどの光景だった。
 それほどの劇的な破綻と共に、30時間に及んだ殺人遊戯は、遂にその幕を下ろしたのであった。

 忘れられた地、アルハザード。
 あらゆる生命体が死滅し、遺跡と残骸のみを残した無人世界は、今や灰色の土煙に覆われていた。
 未だ遠く響く地鳴りと、焦土を逆巻かせる風の音。
 世界に満ちていた戦いの音も、世界に生きていた命の声もなく。
 60人の戦いも、大魔導師の暗躍も、一切全てをぬぐい去って、再び静寂を取り戻した。
 管理者が消え、参加者が皆死に絶えた今、アルハザードは元の無人世界へと戻ったのである。

 だが、しかし。

「――急速浮上!」

 瞬間、爆音が大地を揺るがした。
 灰色の沈黙を破り裂き、生者の怒号が木霊する。
 炸裂の地鳴りをも塗り潰し、エンジンの激音が世界を満たす。
 死の灰を引き裂き振り払い、現れたのは一隻の戦艦。
 絢爛の黄金と高貴の紫――ツートンに塗られた鋼の箱舟が、大地と大気を切り裂いて、轟然と天空へ舞い上がった。
 その名を、聖王のゆりかご。
 遥か遠きベルカの時代、史上最強の生体兵器・聖王を乗せて世界を制した、超弩級魔導戦艦である。
 そして王者の舟のブリッジに、腰を預ける者が1人。
 現代に遺された聖遺物より生まれ、レリックの力と共に蘇った、最後の聖王の写し身・ヴィヴィオ。
 母と慕った栗毛の女と。
 女の慕った金髪の男と共に。
 聖王の名の後継者は、バトルフィールドの大破壊から、見事生還してみせたのだった。

「何とか、生き残れたみたいだね……」
 ぱらぱらと土くれの舞う窓外を見ながら、高町なのはが呟いた。
「……よし、これなら航行には問題なさそうだ。さすがは古代ベルカ最強の戦艦といったところかな」
 ふぅ、と安堵の息をつきながら、ユーノ・スクライアが相槌を打つ。
 かつてのJS事件において、その最終決戦の舞台となった、聖王のゆりかごの玉座の間。
 エースオブエースと謳われたなのはと、聖王の血を覚醒させたヴィヴィオが、悲しくも激しい決戦を繰り広げた場所だ。
 しかし今のこの場所に、戦いの火花と涙はない。
 刃を交えた母と娘は、今は互いに手を取り合って、この巨大戦艦を浮上させ、殺戮劇から生還した。
 役者はほとんど同じでありながら、全く違う想いを乗せて、聖王のゆりかごは飛翔していた。
「ルーテシア……」
 それでも、誤魔化しきれない怨嗟の痕は、消えることなく残り続ける。
 なのはの視線の先にあったのは、無造作に転がった少女の首。
 ルーテシア・アルピーノ――幼い蟲使いの召喚師の亡骸だ。
 そして視線をその脇へ向ければ、もはや原型が分からぬほどに損壊された、ぐちゃぐちゃの肉塊が放置されている。
「……片方はキャロの。奥には、もう1人のフェイトママの死体もある」
 沈痛な面持ちで呟いたのは、玉座に腰を預けるヴィヴィオだった。
 この艦内に転がる死体の中に、彼女が殺めたものは1つもない。
 それでも、その全てが自分のすぐ傍で喪われた命で、キャロに至っては、死後自分が蹂躙した死体だ。
 無力な自分が救えなかった命。
 あの悲劇の舞台で喪われた命。
「本当なら、死んでしまうこともなかった命なのに……」
 素直に脱出を喜ぶ気にはなれなかった。
 結局生き残ることができたのは、ヴィヴィオを含めても3人だけ。
 アリサ・バニングスを含んだ、58人もの命が、救われることなく消えてしまったのだ。
 これだけ生き残れたのではない。
 これだけしか救えなかったのだ――弱い自分は。

895魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:02:34 ID:1IH4IKEM0
「……確かにこの戦いでは、あまりに多くの命が喪われてしまった」
 少女の悼みに割って入ったのはユーノだ。
「それでも……だからこそ、生き残った僕達は、生き延びて責任を果たさなくちゃいけない。
 時空管理局に帰って、この事件のことを報告して……何としても、犯人達を捕まえなくちゃならないんだ」
 デスゲームの中断――そんな事態になった以上、恐らくプレシア・テスタロッサは、既にこの世にはいないのだろう。
 それでも、まだ全てが終わったわけではない。
 恐らくは彼女に肩入れし、そして彼女を廃除して、まんまと逃げおおせたスカリエッティがいる。
 彼らを逮捕しない限り、この事件は終わらない。
「だから僕達には、くよくよしている暇なんて、ないんだよ」
 そう、強く締めくくった。
 それがこの悲しい事件の中で、散っていった数多の命への、せめてもの手向けになるのなら。
 絶望と悲嘆の重みでうつむいて、後悔に縛られるわけにはいかないのだ。
 生きることが戦いならば。
 この身が生き続ける限り、戦わなくてはならないのだ。
「……分かりました」
 まだ、完全に本調子になったわけではない。
 それでもヴィヴィオの返事には、いくらか覇気が戻っていた。
 そしてそれを見やる母親の顔には、柔和な笑みが浮かんでいた。
「さてと! それじゃあ早速、私達の世界へ戻らないとね」
 一声で気持ちを切り替えて、なのはが今後の方針に触れる。
「うん、そうしよう」
 現状のコンディションと装備では、脱出した主催者達を追いかけるのは不可能だ。
 故に現在優先すべきは、手近な管理世界への帰還。
 ジェイル・スカリエッティの居場所を突き止め逮捕するのも。
 並行世界を渡り、それぞれの世界へと帰る手段を探すのも、全てはそれからになるだろう。
「でも、ちゃんと帰れるのかな……? このゆりかごだって、エネルギーがもつかどうか……」
 弱気な疑問を口にしたのはヴィヴィオだ。
 確かに、彼女の不安にも一理ある。
 これまでありとあらゆる観測を逃れてきた、次元世界の最果て・アルハザード。
 それほどの深淵から、オリジナルよりも小柄なこの艦が、果たして抜け出せるかどうか。
 ひょっとすれば、ミッドチルダまで燃料がもたず、途中で止まってしまうかもしれない。
「その時はその時だよ、ヴィヴィオ。
 悩んでも事態が解決するわけじゃないんだから……だったら、まずは行動してみないと」
「そうか……そうだよね。分かったよ、なのはママ」
 なのはの言葉に同意し、頷く。
 確かにここで悩んでいたところで、状況が好転するはずもない。
 それに運がよければ、動力を分けてもらえるような世界までなら、辿りつくこともできるかもしれない。
 どれだけ時間がかかろうとも、最悪辿りつけなくとも、
 それでも、まずは試すこと。この場で一番大事なのは、それだった。
「……それじゃあ、次元航行に入ります! 転移先をミッドチルダに指定……」
 各種計器を操作し、ゆりかごを潜航態勢へと移行させる。
 実際に自分で操るのは初めてだったが、それでも操作はスムーズに進む。
 やはり、この艦は聖王のためのものだということか。自らに流れる血に感謝した。
 ともあれ、これで準備は完了だ。
 これでようやく、このアルハザードから脱出できる。
 ミッドチルダへと帰還し、未来へと希望を繋げることができる。
「聖王のゆりかご、出港!」
 ブリッジに立つ若き聖王が、高らかに宣言した瞬間。
「待って! 航行システムに異常が……これは――――――ッ!?」

896魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:03:39 ID:1IH4IKEM0


 時の庭園、プレシアの部屋。
 主の遺体は片付けられ、乗っ取った者達も撤退し。
 殺し合いを支配すべきゲームマスターを失い、がらんどうになった司令室。
 薄暗いその部屋の中で、コンピューターのモニターだけが、淡い光を放っていた。
 使用する意味も意義も失い、電源を落とされたはずの端末が、微かな機械音と共に起動している。
 表示されたデスクトップに、展開されていたのは2つのウィンドウ。

 1つのウィンドウに映されたのは、「緊急転送システム」なるものの、実行完了を伝えたメッセージ。
 そしてもう1つに映されたのは、「脱走妨害システム」なるものの、実行開始を伝えるメッセージ。

 なのは達を襲った異変は、それらのうち後者によるものだった。
 参加者達に逃げられるという、最悪の状況を考慮したプレシアは、
 実験場の周囲一帯を、巨大な転送妨害フィールドで覆っていたのである。
 外からの侵入をも防止できるほどのものではない。リインフォースの侵入を許したのはそのためだ。
 しかし内側からの脱出に対しては、たとえそれが誰であろうとも、例外なく牙を剥くように設定してある。
 ここから出ようとした者は、その制御を狂わされ、周辺の辺境世界へと投げ出されるという寸法だ。
 あとは野となれ山となれ、のたれ死ぬのが関の山。
 それが脱走妨害システムの全容だった。

 そしてもう1つの、緊急転送システムは――それはまた、別の機会に語られることになるだろう。

897魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:04:34 ID:1IH4IKEM0


 どこまでも続く、水平線と地平線。
 それを遮る人工物は、二元の世界には存在せず。
 ただ荒涼としたサバンナと、底抜けに青い空だけが、延々と続いていく世界。
 その中にいくつかの木があって、少し遠くには川が見えて。
 本当にただそれだけの、未開の土地とでも言うべき世界。
 そんな風景の只中に、1つだけ場違いな物体が存在した。
 もうもうと煙を上げながら、その鈍色の巨体を横たえるもの。
 ひしゃげた鋼鉄の翼から、ぱちぱちと電流火花を舞わせるもの。
 それはかのナンバーズ達を乗せた、時の庭園の脱出艇。
「参ったわね。スラスター全基損傷……このままじゃ転移し直すこともできないわ」
 そしてその操縦席で、金髪の戦闘機人・ドゥーエが、がっくりとした声音を発していた。
 窓に映る天井の太陽を、疎ましげな眼光と共に、睨む。
 まったくもって暑苦しい光だ。苦労しているこちらの気も知らないで、と。
「……こっちも駄目。何が起こったのかは知らないけれど、ドクターからの応答がない」
 通信機に向かっていたのは、ナンバーズ12姉妹の長姉・ウーノだ。
 苦々しげに呟きながら、通信モニターのスイッチを切る。
 一流企業の社長秘書を思わせる、鉄壁のクールビューティーも、この状況には弱り切っていたらしい。
「姉様方、一体何が起こったのですか」
 ぷしゅっ、という軽い音と共に、後方の自動ドアが開いた。
 操縦室に入って来たのは、桃髪の戦闘機人・セッテ。
 そしてその後ろには、オットーとディードの双子も続いている。
「プレシア・テスタロッサにしてやられたのよ。私達は妨害プログラムに弾かれて、未開の世界へ不時着したの」
 創造主を連想させる金眼を細めながら、妹の問いに答えるウーノ。
「妨害プログラムに……? 何故僕達の脱出艇が?」
「プレシアによる承認がなければ、勝手に出られないようになっていた、ってことね。
 あの女……私達が勝手にとんずらする可能性を、予め読んでいたのよ」
 ボーイッシュなオットーの疑問に、ドゥーエが続けた。
 彼女らナンバーズの脱出艇もまた、プレシアの残した脱走妨害プログラムによって、辺境世界に飛ばされていたのだ。
 ある意味で敵と呼んでもいい、参加者達の脱走を阻害するためのプログラム――それに引っ掛かったということは、
 戦闘機人の姉妹達もまた、味方として見なされてはいなかったということか。
「いずれにせよ、このままでは帰還するのは不可能よ。整備部品は足りないし、あとはドクターに救援を求めるしか……」
「それも繋がらないんじゃねぇ」
 あくまで平静を装おうとするウーノに、おどけた様子で肩を竦めるドゥーエ。
 次女の態度とは裏腹に、彼女らの置かれていた状況は切迫していた。
 不時着の際の衝撃で、ナンバーズを乗せていた脱出艇は、航行能力を失ってしまったのだ。
 積み荷や乗組員に被害が出なかったのは幸いだったが、これでは元の世界に帰れない。
 こんな原っぱのド真ん中に、脱出艇を修理するためのパーツがあるはずもない。
 おまけに迎えを頼もうにも、スカリエッティとの通信は繋がらないときている。
 まさに八方塞がりだ。このままでは野垂れ死にを待つだけだった。
「そんな……」
 感情の希薄なオットーにも、さすがに危機感はあるらしい。
 無表情な顔立ちに、微かな焦りが浮かんでいた。
「――姉様方、あれを」
 その時だ。
 ナンバーズの末妹・ディードが、窓外の景色を指差したのは。
 人差し指の向こうには、遥か遠い地平線。
 しかしその空の色は、一瞬前とは大きく異なっていた。
 青一色だったはずの空の中に、漆黒の穴が開いていたのだ。
「あれは、次元航行艦の転送ゲート……?」
 我知らず、ウーノが呟いていた。
 あれは次元航行に入っていた艦船が、次元世界にワープアウトする際に開かれるワームホールのはずだ。
 ということは、何かしらの舟が、この世界へと降りてくるということである。
 スカリエッティのよこした迎えだろうか? 否、それでは通信が繋がらないことに説明がつかない。
 第一、向こうから舟がやって来たにしては、到着時間が早すぎる。
 ならば一体どこの舟が、何の目的でこんなところに――?
「!」
 次の瞬間。
 金色と紫でペイントされた戦艦が、勢いよく草原に放り出された。

898魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:05:23 ID:1IH4IKEM0
「ウーノ、あれは……!」
 現れた舟を指差して、狼狽気味にドゥーエが言う。
 地鳴りと土煙を引き連れて、豪快に大地を滑る金の煌めき。
 皆まで言わずとも理解している。あんなフォルムとカラーリングの戦艦など、他に見覚えがあるはずもない。
「会場に設置されていた、レプリカのゆりかご……ということは、参加者の生き残りが?」
 考えられる可能性が、それだった。
 今まさに目の前に不時着したのは、デスゲームの会場に用意された聖王のゆりかごだ。
 模造品であるとはいえ、極限まで本物に似せて造った代物である。
 会場で起こると予想された大崩壊に耐えたとしても、十分に頷けるだろう。
 自分達と同じように不時着してきたということは、やはり生き残った参加者が、あれで脱出を図ったのだろうか。
「チャンスです、姉様。あのゆりかごを奪えば、ドクターの下へ帰還することができます」
 冷静に言い放ったのはセッテだった。
 なるほど確かに、その通りだ。
 今まさに静止した聖王のゆりかごは、特に目立ったダメージもなく、その威容を周囲に振りまいている。
 恐るべくはその堅牢性――だが今はそれが僥倖となった。
 あの程度の損傷ならば、ゆりかごは再度の次元航行にも、問題なく対応しうるだろう。
「そうね。中に乗っている連中も、とっくにボロボロになっているはず……」
 にぃ、と冷酷な笑みを浮かべて、ドゥーエが舌舐めずりするように言った。
 次元航行艦を乗りこなしているということは、
 恐らく生き残ったのはあの3人――ヴィヴィオ、高町なのは、ユーノ・スクライアと見て間違いないだろう。
 だとすれば、倒すのは容易だ。
 彼女らは度重なる戦闘によって、著しく体力を消耗している。
 この場に揃った3人の最後発型ナンバーズと、残存するガジェットドローン達で対処可能。
 であれば、この場では強硬策こそが最善策だ。
「……分かったわ。全ガジェットを動員する。セッテ、オットー、ディード――貴方達も行きなさい」

「いたた……」
 壁で打った頭を押さえ、ユーノはうつ伏せの身体を起こす。
 一体何があったのだろう。
 アラートが発生したかと思えば、突然とてつもない衝撃が襲ってきて、今になってようやく治まったのだ。
 外の風景もプラズマの光で、一瞬前まではとても見れたものではなかった。
 ひとまず艦内の端末を呼び出して、被害状況を確認する。
 どうやら装甲へのダメージはほとんどなかったらしい。つくづく怖ろしいほどの耐久性だ。
「ユーノ君、ここは一体……」
 どうやらなのは達も気がついたらしい。
 倒れていた身を起こし、モニターで外の様子を確認している。
 彼もそれにならって、外部カメラの映像を呼び出した。
 画面一面に広がるのは、見渡す限りの大平原――とてもじゃないが、ミッドチルダとは思えない。
「どうやらさっきので制御が狂って、別の世界に投げ出されたらしい。
 ……多分、アルハザードからそう離れていないとは思うけど」
 一応起こったことがことなので、次元航行を司るシステムをチェック。
 特に問題は見受けられなかった。であれば、原因は内部の故障ではなく、外部からの干渉だったのだろう。
 となるとあのプレシアが、脱走者が出たことを想定して、元の世界へ帰らせないようにと仕掛けた罠だったのだろうか。
 いずれにせよ、再度のワープが可能なのは幸いだった。
 少々駆動系にダメージが及んでいたが、操縦者を乗せたゆりかごは、自己修復機能を発揮できる。
 少しばかり時間をかければ、再び飛び立つことは容易かった。
 ならば当面は、修復完了までしばらく待機ということに――
「! なのはママ、ユーノさん、あれっ!」
 その、瞬間。
 不意にヴィヴィオの放った声が、頭上から鼓膜へと突き刺さった。

899魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:06:38 ID:1IH4IKEM0
 刹那、玉座の間に巨大なモニターが投影される。
 どうやらヴィヴィオが呼び出したものらしい。彼女の尋常ならざる気配につられ、反射的に目を向けた。
 そこに映し出されていたのは、先ほど自分が見たのと同じ外の光景。
 決定的に違っていたのは、そこに無数の機影があったことだ。
「あれは、ガジェットドローン……!」
 大量の機動兵器を前に、なのはが驚愕も露わに呟く。
 確かその名は、スカリエッティの操っていた、無人兵器の総称だったはずだ。
 であればあれを操っているのは、あのデスゲームの主催者達ということか。
「……後方に、チンクと同じ衣装の人間が3人。さらにその後ろには輸送艇が見える。
 あの損傷では次元航行は無理だ……恐らくこのゆりかごを、足にするために奪おうとしているんだろう」
 望遠映像を呼び出しながら、ユーノが言う。
 主催者であるはずの彼女らが、何故自分達と同じように、この世界へと漂着していたのかは分からない。
 ひょっとしたらプレシアとの間に、自分達の知らない何かがあったのかもしれない。
 だが、そんなことを考えている暇はなかった。
 このままでは、自分達はゆりかごから引きずり降ろされ、命を奪われてしまうだろう。
 ならば、大人しくやられるわけにはいかない。
 ここまで生き残った自分達には、生きて帰って、なすべきことをなす義務があるのだ。
「戦おう、ユーノ君!」
 声に出して言い放ったのは、白いバリアジャケットのエースオブエース。
 漆黒のレイジングハート――ルシフェリオンを、油断なく構えながらなのはが言った。
 当然、異論などあるはずもない。無言でなのはに頷き返すと、ユーノもアスクレピオスを起動させる。
「ヴィヴィオはここに残って、自己修復機能を維持していてて。外の敵は、私達が迎え撃つから」
「分かった。生きて帰ってきてね……なのはママ、ユーノさん」
 ヴィヴィオの声に、頷き返す。
 現状最も体力が温存されているのはヴィヴィオだ。
 しかし彼女がこの場を離れれば、ゆりかごはその機能を停止させてしまう。
 どちらにせよこちらはボロボロなのだ。優先事項が元の世界への帰還であることに変わりはない。
 故にここはヴィヴィオを後方へ下げ2人で打って出ることにした。
「それじゃあ行こう、なのは!」
「うん!」
 共に互いの武器を構え、玉座の間から駆け出していく。
 これが最後の戦いだ。
 このバトルロワイアルの場においては、この一戦こそが締めくくりとなる。
 必ずゆりかごを守り抜かなければ。
 そう固く心に決め、アスクレピオスの手のひらを握りしめた。



 先行したガジェットの軍団が、聖王のゆりかごへと向かっていって。
 3人組の妹達が、それを追うように出撃して。
 高町なのはとユーノ・スクライアの2人が、彼女らを迎え撃つために出てくる。
「聖王陛下サマは出てこないのね」
 ドゥーエは脱出艇の操縦席につき、その光景を頬杖をつきながら眺めていた。
「出せないのよ。ゆりかごのシステムは、彼女の生命反応がなければ機能しないから」
「それもそうか」
 どうやら敵はこちらの逮捕よりも、ゆりかごによる逃走を優先させるつもりらしい。
 なるほど、あのボロボロな状態ならば、その方が賢明な判断か。
 ウーノの返事を耳に入れながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
 その傍らで長女の五指は、せわしなくキーボードを叩いている。
 戦況に応じてガジェットのAIを書き換え、戦術をリアルタイムで変更しているのだ。
 さすがに何百何千という機体を動かすのは無理だそうだが、これくらいならばギリギリ許容範囲とのこと。
「……ま、せいぜい高見の見物でもさせてもらおうかしら」
 言いながら、ドゥーエは両手を後頭部で組み合わせた。
 今の彼女に仕事はない。せいぜいスカリエッティとのコンタクトを試し続けるくらいだ。
 戦闘能力に乏しく、ウーノ程のスキルもない隠密型には、できることなどさしてないだろう。
 今回の仕事は、プレシアを刺し殺しておしまいか。
 そんな暢気なことを考えながら、未だ返事をよこさない、通信画面を見つめていた。

900魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:07:34 ID:1IH4IKEM0


「はあぁぁぁぁーっ!」
 女の叫びが戦場を揺らす。
 女の右手が風を切り裂く。
 妖しく煌めく太刀筋が、緑色の軌跡を描いた。
 轟――鳴り響くは破壊の咆哮。
 刀身から放たれた莫大な妖気が、無数の敵機へと襲いかかる。
 爆散。爆裂。そして爆砕。
 まるで獣の軍勢だ。鉄の軍勢を噛み砕き、飲み込み蹂躙する剣の波動を、エースオブエースはそう評していた。
「IS発動、レイストーム」
「!」
 上空より響く、声。
 程なくして天から殺到するのは、雲霞のごときレーザーの束。
 殺意を孕んだ光の嵐を、縫うようにしてかわしていく。
 白衣の女が天に向けるは、腰だめに構えた漆黒の杖。
「ディバィィィーンッ――」
 魔法の呪文を口にした。
 桜花の光が杖に宿った。
 己が身より湧き上がる奇跡の波動を、練り上げかき集め砲弾へと変える。
 魔力スフィアの照り返しを受け、バリアジャケットを輝かせる姿は、さながら神話に謳われた女神か。
「バスタァァァァァ―――ッ!!」
 それが奇跡の砲弾のトリガーだ。
 チャージされた桃色の魔力が、叫びと共に解放される。
 風を唸らせ、大気を焦がし。
 伝説の龍のブレスのごとく。
 膨大なエネルギーの奔流が、一条の光線となって発射された。
「っ……」
 目標には、当たらず。
 茶髪を短く切った戦闘機人には、しかし命中することなく。
 敵の射撃をことごとく飲み込み、天上高く放たれたそれは、虚空を穿つのみに留まった。
「アクセルシューター!」
 黒杖ルシフェリオンを振る動作に合わせ、魔力の宝珠が展開される。
 逃げるターゲットを追いかけるべく、10発の誘導弾を連続発射。
 反撃に放たれた緑の光雨は、自身がそうしたようにかわしていった。
 しかし半数が避け切れず、空中で相殺・四散した。
 そして残り半数も、横合いから飛んできたブーメランに、次々と叩き落とされていく。
「くっ……!」
 そして今度は、右脇からの強襲だ。
 弾丸のごとき速度で突っ込んでくるガジェットⅡ型を、右手の妖刀で叩き落とす。
 両断された残骸は、しばし虚しく宙を舞い、彼女の背後で爆発した。
 魔性の剛剣・爆砕牙を構え直し、女は態勢を立て直す。
「はぁ、はぁっ……」
 微かに息を荒げながら、エースオブエース・高町なのはは、次なる敵機へと魔力弾を放った。
 今の彼女の戦闘スタイルは、爆砕牙とルシフェリオンの二刀流だ。
 そうでもして立ち回らなければ、とても手数が足りなかった。
 恐らくフィールドから出たことで、能力制限から解き放たれたのだろう。
 あのアルハザードを脱出してから、魔法の調子は元に戻っていた。
 しかし、もはやその程度の条件では、余裕を取り戻すには至れないのだ。
 日付が変わってからの6時間の中で、なのはは二度もの激戦を繰り広げていた。
 呪われし魔剣を携えた、異世界の八神はやてとの苦闘。
 最強の不死者を自負していた、コーカサスアンデッドとの死闘。
 立て続けに行われた戦いは、なのはの魔力と体力を、極限まで奪い取っていたのだ。
(このままじゃジリ貧だ……!)
 眼下のユーノを見やりながら。
 焦りの冷や汗を浮かべながら。
 放たれるガジェットのレーザーを、プロテクションの光で防いだ。
 双剣の機人を相手取る彼も、どうにか防衛線を築いてはいるが、
 恐らくは自分同様、かなり厳しい戦いを強いられているだろう。
 疲労は鎖となって四肢に付きまとい、負傷は体力を五体から削ぎ落とす。
 本来なら楽勝であるはずのガジェットとの戦いが、今はどうしようもなくキツい。
 そこに3体ものナンバーズだ。勝算の有無は、火を見るよりも明らかだった。

901魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:08:12 ID:1IH4IKEM0
「っ!?」
 その瞬間、背後より襲いかかる気配。
 反応した時には既に遅かった。
 極限状態に追いつめられたなのはは、それほどまでに判断力を削られていた。
 触手のごとく迫るのは、ガジェットⅠ型の真紅のコード。
 総勢4機の鉄の機影が、純白の四肢へと絡みつく。
「くぅっ……!」」
 無人兵器の金のモノアイが、視界の片隅でちかちかと光る。
 ぎりぎりと込められる圧力が、女の手足の自由を奪う。
 利き腕でない方の右手から、爆砕牙がすり抜けるようにして落ちた。
 両手両足を縛られたなのはは、空中で大の字になって拘束されていた。
「なのは! うわっ……!」
「ユーノ君っ!」
 眼下から響いてきた悲鳴に、弾かれたようにして視線を向ける。
 地上を見れば、ガジェットの一斉砲火を喰らったユーノが、後方へと吹っ飛ばされる姿が目に移った。
 そしてそこへと迫る追撃の影。
 茶髪の少女の振り上げる双剣と、桃髪の女が構えるブーメラン。
 このままでは彼が八つ裂きにされる――!
「っ……レイジングハート、ブラスタービット!」
 首から提げた愛機へと号令。
 同時に背後に顕現するのは、黄金に輝く4つの聖槍。
 レイジングハートの穂先を模した、合計4基の機動砲台が、なのはの背中から一斉に放たれる。
 斬――と触手を切り裂いたビットは、その勢いを保ったまま、ユーノの待つ地上へと飛び去った。
 天を舞い地へと迫る様は、さながら宇宙より降り注ぐ金色の流星。
 その先端より放たれるのは、彗星のごとく煌めく灼熱の砲火。
 どん、どん、どん、どん。
 連続して放たれた砲撃が、ディードとセッテの2人を牽制する。
《すまない、なのは》
 敵が後ずさった隙に、態勢を立て直したユーノから、なのはの脳へと念話が届いた。
《どういたしまして。それより、ユーノ君……》
《うん、思った以上に消耗が響いてる……このままじゃじきに押し切られるよ》
 聞くや否や、耳に飛び込んできたのは爆発音。
 先ほど放ったブラスタービットが、オットーのレイストームに撃ち落とされたのだ。
 ひび割れ傷ついたフォルムが、爆炎に呑まれ消えていく。
 その様はまさに未来の暗示だ。金の装甲に映ったのは、なのは自身の顔だった。
《……ユーノ君。ほんの少しの間でいいから、敵の戦闘機人を一か所に留められる?》
 故になのははそう切りだした。
 これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。
 そうなれば我が身どころか、ヴィヴィオ諸共共倒れだ。
 この身に限界が来る前に、勝負をつけなければならなかった。
 この力が枯れ果てる前に、覚悟を決めなければならなかった。
《やってみせるよ。というか、ちょうど同じことを考えてたところだ》
《何だかんだ言って、考えることは一緒か》
《君の考えくらい分かるよ。お互い、付き合い長かったしね》
 くすり、と互いに苦笑を向き合わせた。
 こんな状況でも笑っていられるのは、暢気というか、何というか。
 まぁそれでも、そんな気分になってしまうのも仕方ない。
 今肩を並べて戦っているユーノは、異なる世界で生きてきた、それも4年も前の人間なのに。
 それでも心が通じ合うというのが、何だかおかしく感じられて、何だか暖かく感じられたから。
《――ヴィヴィオ、聞こえる?》
 さぁ、そろそろ始めよう。
 そのためにはもう1つだけ、条件を満たす必要がある。
 最後の準備を整えるべく、なのはは後方へと念話を飛ばした。

902魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:09:34 ID:1IH4IKEM0


「なのはママ……!」
 聖王のゆりかご、玉座の間。
 そこに1人残されたヴィヴィオは、苦闘を続ける魔導師の姿を、不安げな視線をもって見つめていた。
 ぐ、と手のひらを握りしめる。
 もどかしい。
 もっと早くゆりかごが直れば、彼女達を回収して逃げることができるのに。
 自分がここから離れられれば、飛び込んで共に戦うことができるのに。
 誰も死なせないと決めた誓いを、今の自分は果たせずにいる。
 事実は自責となって胸に刺さり、ヴィヴィオの心を苛んでいく。
 だが、それももうすぐ終わりだ。既にゆりかごの自己修復は、残り20パーセントを切っている。
 完全に修復が完了すれば、なのは達を助けに行ける――
《――ヴィヴィオ、聞こえる?》
 そこまで思考した、その瞬間。
 外の光景が大映しになったモニターに、新たなウィンドウが表示された。
 画面越しに伝わってくるのは、母なのはから届いた念話だ。
「ママ? どうしたの?」
 一体何があったのだろうか。まさか、何か悪い知らせでもあるのだろうか。
 嫌な予感を感じ取ったヴィヴィオは、おずおずとなのはに問いかける。
 その様子は幼子そのものだ。
 聖王モードと化したことで、大きく成長した姿には、ひどく不釣り合いな仕種だった。
《今、ゆりかごの修復率はどれくらい?》
「84パーセント……もうすぐ、また飛び立てるようになるよ」
《うん、ならいいんだ……いい、ヴィヴィオ? ゆりかごが飛べるようになったら、すぐにこの世界から離脱して》
「えっ……!?」
 一瞬、耳を疑った。
 目の前の顔が発した声を、言葉通りに受け止められなかった。
 世界が反転したかのような。
 天と地がひっくり返ったかのような、衝撃と虚脱感が襲いかかった。
 何だ、それは?
 この人は一体何を言っているんだ?
 すぐにこの世界から離脱? 馬鹿な。そんなことができるものか。
 それはつまり修理が終わったら、なのは達の帰還を待たず、即座に逃げろということじゃないか。
 冗談じゃない。それじゃあ筋が通らないじゃないか。
 みんなで帰ると決めたはずなのに、何故2人を見捨てなければならないのだ。
「なのはママ……それって、どういう……」
 軽い放心状態の中、何とかそれだけを口にした。
《残念だけど、ママ達はもう帰れないの……
 今ここで私達が、ゆりかごに戻るために後退したら、そのまま敵に押し切られちゃう。
 だから私達は、ヴィヴィオを無事に帰すために、敵を抑えておかなくちゃならない》
 理屈で判断するのなら、なのはの言うことはもっともだ。
 少しずつ減ってきてはいるが、それでもガジェットの数はまだ多い。戦闘機人に至っては、未だ3機とも健在だ。
 浮上時の無防備なところを狙われれば、所詮レプリカにすぎないゆりかごは、あっという間に攻略されてしまうだろう。
「そんな……そんなの駄目だよっ!」
 それでも、そんなものはあくまで理屈だ。
 理屈と感情は全くの別物だ。
 そんな事実を受け入れられるほど、ヴィヴィオは冷徹な人間ではなかった。
「ユーノさんや、なのはママを置いてくなんて……ママ達を守るって、決めたのにっ……!」
 涙がぼろぼろと溢れ出す。
 ルビーとエメラルドが水滴に滲む。
 オッドアイの両目から、とめどなく雫が込み上げてきた。
 もう少しで、手が届くのに。
 もう少しで、助けに行けたのに。
 それでも諦めなければならないのか。最愛の母を捨て置いて、自分1人だけで生き延びなければならないのか。
 そんな残酷な結論を、貴方は私に迫るというのか――!

903魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:10:36 ID:1IH4IKEM0
《――大丈夫》
 刹那。
 耳を打った、母の声。
 今まで自分を支えてくれた、優しくも力強いエースの声。
 今まで自分を愛してくれた、慈愛に満ちたなのはの声だ。
《ヴィヴィオは、私に言ってくれたよね。ひとりで立って歩けるって……私みたいに強くなるって》
 画面に映った母の顔は、これまで見てきたどの顔よりも、優しく穏やかに笑っていた。
 この戦乱の最中にありながら。
 まるで戦闘などなかったかのように。
 画面越しの高町なのはは、何度となく惹かれたその笑顔を、涙するヴィヴィオに向けている。
《だから私は、ヴィヴィオに“これから”を託せるの。
 ひとりでも歩いていけるって……強く優しくなるって信じてるから、ヴィヴィオを送り出していけるんだよ》
 生まれて初めて巡り会った、自分に優しくしてくれる人。
 生まれて初めてこうなりたいと思えた、誰よりも強く立派な人。
 生まれた時からずっとずっと、私を支えてくれたなのはママ。
 生まれた時からずっとずっと、私を愛してくれたなのはママ。
《だからお願い。ヴィヴィオだけは生き延びて。
 この事件に巻き込まれた、全ての人達が生きた証を、生きて帰って、みんなに伝えて。
 きっとそれが私達の――生きた証になるはずだから》
 ああ、ずるいなぁ。
 そんな笑顔を向けられたら、断るに断れなくなってしまう。
 もうどんな反論も無駄なのだと、思い知らされてしまうじゃないか。
「……うん……」
 高町なのはの最大の強さは、圧倒的な大火力でも、堅牢無比の防御力でもない。
 自分がこうと決めたなら、最後までその道を貫き通す、決して折れない不屈の心だ。
 そのなのはママが心に決めた想いを、誰かに止められるはずもない。
 そのなのはママが心に抱いた願いを、誰かが止めていいはずもない。
「約束するよ……必ず、生きてミッドチルダに帰るって……みんなが生きてきた証は……絶対に無駄にしないって」
 改めて、誓いを口にした。
 貫き通すと決めた想いを、声に出して宣言した。
 それが高町なのはにとって、せめてもの救いとなるのなら。
 それが高町なのはにとって、一番の報いになるのなら。
《ありがとう――》
 最高の笑顔をその顔に浮かべて、ヴィヴィオの愛したなのはママは、モニターの上から姿を消した。



 願いは伝えた。
 想いは届けた。
 これでいい。思い残すことはなくなった。
 これでもう何も怖くない。
 どんな戦いであろうとも、迷うことなく飛び込んでいける。
 たとえこの身体が朽ち果てようとも、一切の後悔を抱くことなく、この身を捧げることができる。
 この身がこの地に眠っても、その魂は死ぬことはなく。
 受け継いだあの子が生きる限り、永遠に生き続けるだろう。
《……いくよ、なのは》
 ああ、なんてことだろう。
 今にも死んでしまいそうなほど、身体中が軋んでいるのに。
 命を投げ出すような作戦に、身を投げ込もうとしているのに。
 この殺し合いで多くを喪ったあの子の背中に、自分の死すらも背負わせようとしているというのに。
《うん》
 私は今――この上なく幸せに感じてしまっているのだ。

904魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:11:32 ID:1IH4IKEM0


(何をする気なんだ、あれは?)
 内心でオットーが訝しがる。
 高町なのはが奇妙な行動に出たのは、ちょうどこの瞬間だった。
 これまで戦闘行動を続けていた、白いバリアジャケットの魔導師が、突如高度を上げ始めたのだ。
 高く、ただ高く。
 上へ、上へと飛んでいく。
 ちょうど今まさに彼女と戦っていた自分の、およそ倍の高度まで上がったところで、彼女は静かに停止した。
 分かっているはずだ。
 そんな高度に敵はいないということも。
 そんなことに意味はないということも。
 ならば何故、そこまで飛ぶ?
 ゆりかごを守らなければならないこの状況で、何故戦場からわざわざ遠ざかる必要がある?
《まずいわね……彼女、集束砲のチャージを始めるつもりだわ》
 その疑問は即座に氷解した。
 己が身体に組み込まれた無線に、ウーノが通信を入れてきたからだ。
 なるほど確かに、それならばあの行動にも合点がいく。
 強力な魔法のチャージを行う際、その術者は完全に無防備になる。
 敵の攻撃を逃れるために、射程外へ退避したというのなら、合理的だと言えるだろう。
《撃ち落としなさい。あれを撃たせては駄目よ》
 言われるまでもない。
 恐らく敵はこの一撃で、一気にケリをつけるつもりなのだろう。
 もちろん、既に敵は虫の息だ。普通なら警戒する程の相手ではない。
 しかし不屈のエースオブエースは、普通の範疇に収まる相手ではないのだ。
 たとえ満身創痍の身体でも、あの集束魔法を撃たれれば、こちらもただではすまなくなる。
 そうなるのは真っ平御免だった。故にレイストームの照準を、天上のなのはへと合わせた。
 びゅん、と。
 両脇から2つの影が飛び出す。
 ツインブレイズを携えたディードと、ブーメランブレードを構えたセッテが、ターゲット目掛けて上昇する。
 そちらの思うようにはさせない。
 むしろ我々3姉妹の手で、逆に高町なのはに終止符を打ってやる。
「――ぐぅっ!?」
 刹那。
 ぐっ、と何かが食い込むのを感じた。
 弾幕を放とうとした自分の身を、何物かが強固に圧迫する感触を覚えた。
 これは一体何なのだ。攻撃を止めたのは一体何だ。
 己が身体を見下ろした先には、緑の光を放つ魔力の鎖。
「ぅっ……!」
「ガ……ッ!」
 うめき声が近づいてくる。
 近づいたと思えば遠ざかる。
 頭上へ飛んでいったはずのディード達が、眼下へ落ちていくのを感じた。
 そして自分自身もまた、地上へと急速に手繰り寄せられていった。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーっ!」
 風圧の中で耳にしたのは、ユーノ・スクライアの放つ雄叫び。
 緑の鎖の正体は、彼の魔力によって形成された、拘束魔法・チェーンバインド。
 魔道の枷を嵌められた身体は、懸命な抵抗も虚しく地に堕ちる。
 ウーノやドゥーエの待つ脱出艇へと、身体が勢いよく放り出される。
《そんな……一体どこに、あれほどの力が……!?》
 驚愕も露わなウーノの声が聞こえた。
 それはオットー自身も感じた驚愕だ。
「逃がす、ものかぁぁぁぁっ!」
 何故あの男はこうまでやれる。
 とうに魔力の尽きかけた男が、何故こうまで強力なバインドを発動できる。
 考えられる可能性があるなら、それは火事場の馬鹿力。
 自身の生存を度外視し、生命維持に必要なエネルギーさえも、根こそぎ発揮したが故の力。
 こいつはそれほどの覚悟なのか。
 それほどまでに思い詰めて、これだけの力を発揮したのか。
「くっ……!」
 避けられない。
 身動きがまるでとれやしない。
 このままではあの一撃を喰らってしまう。
 このまま反撃ができなければ、高町なのはの本気の一撃を、まともにこの身に浴びてしまう。
 エースオブエースの必殺技が――集束魔法の一撃が、来る!

905魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:13:34 ID:1IH4IKEM0


「風は空に、星は天に――」
 ぽぅ、と輝く光があった。
 空に瞬く小さな光が、1つまた1つと浮かんでいった。
 夜空に煌めく星々のように、淡い光が天に浮かんで。
 夜空を駆ける流星のように、桜の光が天を走って。
 されど今は夜ではない。光の浮かぶ空は青く、天頂に座しているのは太陽だ。
 なればこそ、蒼天に煌めく星々は、自然の放つ煌めきではなく。
「――不屈の心は、この胸に」
 人の想いが手繰り寄せた、魔道の輝きに他ならなかった。

 円環をなすテンプレートが、天上を駆け廻り形を生む。
 青一色の大空へと、桜色のラインが刻まれていく。
 その円の中心にて脈動するのは、より強く大きな魔力の結晶。
 人が己の身より湧き立たせ、形を成した奇跡の力――超特大の魔力スフィアだ。
 光は全てを飲み込んでいく。
 暗黒のブラックホールのように、全ての光を取り込んでいく。
 高町なのはが繰り出した、幾多の攻撃魔法の桃の光も。
 ユーノ・スクライアが繰り出した、数多の防御魔法の緑の光も。
 この地の大気に漂っていた、様々な色の光でさえも。

 がしゃん、がしゃんと響く音。
 漆黒の杖に備えられた、カートリッジシステムの駆動音。
 鋼の弾丸に封じられた魔力が、コッキング音と共に解放される。
 この身の魔力は僅かしかない。一撃で勝負を決するためには、限界までエネルギーを取り込まねばならない。
 デイパックの中に貯め込んでいた、予備のカートリッジさえもロード。
 10発、20発と装填した弾丸が、己が身に魔力を注ぎ込んでいく。
「――――――っ」
 同時に五体を襲うのは、苦痛。
 このルシフェリオンに備わった機能が、見た目通りのものであるなら。
 10年前のレイジングハートと、寸分たがわぬ構造であるのなら。
 当時未成熟であったカートリッジ・システムは、術者の身体にも負担を強いる、諸刃の剣でもあるはずだった。
 数発ロードするだけでも、相当な苦痛を強いるものを、既に2桁も使っているのだ。
 その身にはね返る反動は、10年前の比ではなかった。
 狙いを定めようとするだけで、全身の関節が砕けそうになる。
 身体中の穴という穴から、鮮血がどくどくと溢れ出てくる。
 目の前は霞み、意識は揺らぎ、もはや足元すらもおぼつかず、地へと墜ちてしまいそうになる。

 それでも。
 だとしても。
 構うものか、と杖を握った。
 負けるものかと己を鼓舞した。
 どうせこの身はここで朽ちる。この一撃を放てば最期、高町なのはの肉体は、永遠に失われることになる。
 ならば、何を気にすることがあろうか。
 何を恐れることがあろうか。
 どうせ中途半端に痛むくらいなら、地獄の苦痛を味わってもいい。
 不発に終わるくらいなら、全力全開の覚悟で臨む。
 痛みと苦しみに震える手を、確固たる意志で構えさせた。
 血の涙が流れる双眸を、不屈の心で見開かせた。
 持てる力の全てを込めて、狙うべき標的を確かに見定め、脈動するスフィアを地へと向けた。

 轟――と。
 耳に入った爆音は、自身の放ったものではない。
 遥か眼下に身を横たえた、聖王のゆりかごの船体が、再び浮上を開始したのだ。
 まったく、妙にちょうどいいタイミングで浮き上がるものだ。
 ほんの少し、苦笑が漏れた。
 ならばそれも悪くない。
 この命の最期の一花を、愛娘に見せつけてやるのも悪くない。
 ああ、そうだ。そうしよう。
 これから放つ一撃を、彼女への餞別に捧げよう。
 この命の全てを燃やし尽くし、盛大な花火で見送ってやろう。
 それが母親としてしてやれる、最期のことであるならば。
 エースオブエースと謳われた己の、持てる力と誇りの全てを、この一撃に注ぎ込んでやる。

906魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:14:32 ID:1IH4IKEM0

「受けてみて」
 デバイスの非殺傷モードを解除。
 ありとあらゆるリミッターを解放し、星の光を最大限に高める。
 殺さずに捕えるという選択肢は、既に存在していなかった。
 眼下に拘束された者達は、どの道ミッドチルダへ連れて行くことはできない。
 余計な手心を加えていては、確実にヴィヴィオを守りきることはできないかもしれない。
 故に、一切の手加減はできない。彼女達には悪いとは思うが、目の前の標的は、ここで消す。
 長きに渡る戦いの果てに、最後にたどりついたのは。
 死と殺戮のゲームの中で、力強く否定し続けてきたはずの、殺意という名の意識だった。
「正真正銘――」
 それでも、それを悔やむつもりはない。
 後悔なんてあるはずがない。
 自分自身で選んだ道だ。
 他の誰でもない自分が選び、自分の手足で道を進み、自分の意志で示した選択肢だ。
 殺人の業は自分で背負う。
 自分で決めたことならば、自分で受け止めることができる。
 だから、この手を止めはしない。
 決して歩みを止めることなく、自分の道を貫いてみせる。
「――これが最後の、全力全開!」
 魔法の杖を高々と掲げた。
 決意の言葉を高らかに叫んだ。
 大気をも震わす桜花の光は、自身が最も頼りとする超新星の煌めき。
 管理局最強のエースとまで呼ばれた、高町なのはが思い描く、何物にも敗れぬ最強のイメージ。
 この身に宿す力を。
 この身が描く奇跡を。
 今、万感の想いと共に。
 揺らぐことなく駆け抜けた、不屈の誓いの名の下に。
 これが高町なのはの放つ、一世一代の輝きだ――!



「スターライトォォォ―――ブレイカアアァァァァァァァァ―――――――――ッッッ!!!」



 奇跡の名前を口にした。
 それが最後のトリガーだった。
 煌々と輝く極星は、引き金を引かれた弾丸は、遂に地上へと発射された。

 極限まで練り上げられた集束砲は、その軌道を微塵もぶれさせることなく、鮮やかな直線を描いて降下する。
 仮に彼方から見た者がいれば、それは美しき彗星として、その者の瞳に映るだろう。
 されどそこに込められた破壊力は、彗星と呼ぶにはあまりにも苛烈。
 目の前の大気の壁はぶち破った。
 目の前に漂う空気は焼き焦がした。
 必倒? 必殺? もはや必滅の領域だろうか。
 全天全地、三千世界の果てまでも、万象一切を滅ぼさんばかりの一撃は、さながら新星の大爆発。
 熾烈、激烈、そして猛烈。
 いかな形容詞を並べようとも、その本質には届かない。
 いかに言葉で言い表そうとも、その真実には至らない。
 宇宙創成の瞬間を、誰も見たことがないように。
 天地創造の大爆発を、誰も言い表すことができないように。

907魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:15:35 ID:1IH4IKEM0

 道理の通らぬことが起きた時、人はそれを奇跡と呼ぶ。
 道理を捻じ曲げてみせるからこそ、奇跡は奇跡として存在たりえる。
 故に幾千万の奇跡を束ね、一条の光へとまとめた波動は、
 地表へと着弾した瞬間、容易く世界の法則を捻じ曲げた。
 雲ひとつないサバンナの大地に、巻き起こったのは熱風の嵐。
 弾丸につきまとった衝撃波が、地表を舐め回し駆け廻り、獰猛な竜巻を形成する。
 サイクロンをなす熱風は、その場に在った一切を、瞬きの間に蒸発させた。
 無様に大地に横たわった、半壊状態の脱出艇も。
 血と肉と鋼を元に構成された、一騎当千の超人達も。
 超人達をも抑え込んでいた、魔性に輝く緑の鎖も。
 死を前に微笑みさえ浮かべていた、盾と結界を操る魔導師すらも。
 そこに善悪の区別はなく、有象無象の容赦もなく。
 全てが平等に公平に、極大の奇跡へと飲み込まれ、存在を無為へと掻き消されていく。

 どん、と爆発音が続いた。
 最初に悲鳴を上げたのは、ナンバーズの脱出艇の動力だ。
 スラスター周辺の故障により、容易く魔力の侵入を許したそれは、なす術もなく爆炎によじれた。
 続いて炸裂したものは、彼女らが運んでいた積み荷だ。
 プレシア・テスタロッサの研究成果には、当然ロストロギアの現物も存在する。
 言うなれば火事に晒されたダイナマイト。
 それが途方もないほどに、規模を拡大させたと考えればいい。
 アルハザードの技術によって、大量の魔力を蓄えた遺失物は、次々と大爆発を起こし消えた。
 激突が衝撃を巻き起こし。
 衝撃が新たな衝撃を呼ぶ。
 大地をめくり、岩盤を削り。
 無間地獄をも連想させる破壊の連鎖は、戦場一帯を丸々呑み込み、世界に巨大な風穴を開けた。
 見る者の網膜を、聞く者の鼓膜をも焼き切らんばかりの大爆発は、
 この文明なき辺境の世界に、深々とクレーターを刻んだのだった。

 目を覆いたくなるほどのカラミティが過ぎ去り。
 耳を疑いたくなるほどの静寂が訪れ。
 ぱらぱらと虚空を舞う桃色の残滓と、もうもうと立ち込める灰色の煙のみが、世界の全てを支配した頃。
 純白の装束に身を包んだ天使が、ゆっくりと戦場跡へ墜ちていった。
 ふわり、ふわりと風を掴み。
 重力が衰えたかのような緩慢さで。
 まるで桜の花びらのような、光の群れに包まれて。
 ぼろぼろに引き裂けた戦装束を、翼のように羽ばたかせながら、魔導師の成れの果てが地に墜ちていく。
 もう、何も残っていない。
 自らが生み出した弾丸は、自らの身体の力の全てを、根こそぎ奪い取ってしまった。
 天を掴む羽は実体を失い。
 地を貫く杖は身を砕かれた。
 もはや生きているのかどうかさえも、曖昧となった搾り滓が、ゆっくりと焦土へと向かっていく。



「……なのはママァァァァァァァ―――っ!!!」



 聞こえるはずのない声が、彼女の耳に届いた気がした。

 墜ちていく魔法使いの顔に、笑みが浮かんでいたような気がした。

908魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:16:52 ID:1IH4IKEM0


「やーれやれ、結局今回は出番なしか……」
 退屈そうな女の声が、薄暗い部屋にこだまする。
 無人となった時の庭園の、プレシア・テスタロッサの部屋。
 誰もいないはずのその部屋で、1人のうら若い女性が、大魔導師の椅子に腰かけていた。
「邪悪な魔女と化学者は、正義の味方に退治され、悪夢のゲームはめでたくおしまい……
 ……何となく嫌な予感はしてたから、元々目立たないようにはしてたんだけどねぇ」
 ぐわん、とリクライニングを傾けながら、右手を高々と掲げる。
 外見年齢の割には大人げない仕種で、手に握った携帯端末をいじり回す。
 左肩に刻み込まれた、藍色の羽の刺青が、妙に印象に残る女だった。
「ま、異世界の技術が手に入っただけでも、収穫とさせてもらいますかね」
 言いながら、ひょいっ、と席を立った。
 背もたれを倒し寝そべっていた身体を、飛び跳ねるようにして軽やかに起こす。
 かつりと漆黒のブーツを鳴らして、女は出口へ向かって歩いていった。
「それにこれだけの小説があれば、しばらく暇潰しには困らないだろうし」
 にっかと笑って見つめたものは、右手に持った携帯端末。
 『CROSS-NANOHA』――表示されたアルファベットは、キングの携帯電話に登録されたサイトと、全く同じ名前だった。
 違うところを挙げるならば、そこに蓄えられた蔵書量か。
 プレシアが観測者の世界と評した世界――そこに存在するオリジナルのサイトと、
 寸分たがわぬ量のテキストが、彼女の端末には保存されていた。
 この実験における女の貢献度は、あのジェイル・スカリエッティに比べればあまりにも低い。
 せいぜい強固な首輪を作るために、自分達の特異体質のデータを、プレシアに与えてやったくらいだ。
 当然、大した見返りを望める立場ではない。
 だからこそ彼女は、プレシアにとって価値が薄そうで、なおかつ自分にとっては楽しめるもの――この小説を報酬として所望した。
 これが見事に大当たりだったのは、僥倖としか言いようがない。
 管理局の英雄達や、異世界のヒーロー達の活躍を、様々な解釈・見地から楽しむことができるのだ。
 史実通りとまでは行かずとも、アクション小説・時代劇小説としては、十分に楽しめるものだった。
「さってと! みんなも待たせちゃってるし、そろそろ元の世界に帰りましょうか」
 ぱたん、と携帯端末を閉じる。
 ぷしゅ、と自動ドアを開く。
 黒ずくめの衣装を翻し、硬質なブーツの足音を鳴らして。
 藍の羽のタトゥーを持った、プレシア・テスタロッサの最後の協力者は、誰にも知られることなく庭園を去った。
「これにてバトルロワイアルは終了。
 フッケバインの大親分――カレン・フッケバイン姉さんは、本業に戻らせてもらいますよ、っと」

909魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:18:19 ID:1IH4IKEM0


 次元の狭間の闇を、進む。
 無限に広がる世界を繋ぐ、次元空間の大海原を、黄金の舟が進んでいく。
 最期のスターライトブレイカーが放たれた直後、聖王のゆりかごのレプリカは、次元航行モードへの移行を完了した。
 高町なのはの命の輝き――あの桜色のビッグバンが、ヴィヴィオが最後に見た光景となった。
 生きざまを、最後まで見届けたのだ。
「っ……う、うぅっ……」
 そしてだだっ広い玉座の間では、1人の少女がうずくまり、抑えた嗚咽を響かせていた。
 これで本当に独りきりだ。
 プレシアのデスゲームからの生還者は、本当に自分1人だけになってしまった。
 想いを汲み取ったはずなのに。
 それがなのはの心からの願いだと、納得した上で撤退したはずだったのに。
 それでも涙が止まらない。
 悲嘆と後悔と自責の涙が、次から次へと溢れ出す。
 「強くなりたい」という願いは、母の末路を見たことで、半ば折れかかってしまっていた。
「どうして……どうして、こんなっ……!」
 強くなると決めたはずだった。
 この手の届く限りの命は、守りたいと願ったはずだった。
 それは今でも変わらない。変えることなどあり得ない想いだ。
 最愛の母が死を選んだのは、自分の力が足りなかったから。
 ガジェット達に苦戦して、帰還する余力を失ったのは、これまでのなのはの戦いを、助けてやることができなかったから。
 きっとキングとの戦いで、ブラスターモードを使っていなければ。
 コーカサスアンデッドとの戦いの時点で、既に助太刀に加わっていたならば。
 いいや、なのはだけではない。金居との戦いへの参加が早ければ、ユーノの消耗も抑えられたはずだ。
 そうなればもっと余裕をもって、ガジェット達に対処することができただろう。
 ブラスター3を解放したのがあの場だったなら、ナンバーズさえも撃退できただろう。
 つまるところ、自分が不甲斐なかったから、なのは達は死を選ばざるを得なかったのだ。
 弱いのだ、私は――ヴィヴィオは。
「こんなはずじゃ、なかったのに……っ!」
 痛みと嘆きは連鎖する。
 最愛の母を喪った苦痛は、新たな苦痛を呼び起こす。
 この30時間の戦いの中で、あまりに多くの命が喪われてしまった。
 燃え盛る地獄の業火に焼かれ、命を落としたというルルーシュとシャーリー。
 目の前で死んでいったもう1人のフェイトと、死体を嬲ってしまったキャロ。
 少し怖い顔をしていたけれど、一度は自分を救ってくれた、浅倉威という男。
 怒りに狂った自分の手で、命を奪ってしまった相川始。
 こなた、スバル、リイン……共に生き残るために頑張ってきた、かけがえのない仲間達。
 その他大勢をも含めた、60人をも超える命。
 それら全ての重圧が、ヴィヴィオの双肩へとのしかかってくる。
 何故だ。
 何故彼らは死ななければならなかった。
 こんな殺し合いさえなければ、普通に生きられたはずだったのに。
 この殺し合いから出られれば、暖かな日常へと帰れたはずなのに。
 自分が弱い子供でなければ――そのうちの何人かは確実に、この手で救えたはずなのに。
 こんなはずじゃ、なかったのに。

910魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:19:42 ID:1IH4IKEM0
「……?」
 その、時だ。
 不意に、目の前が明るくなった。
 がらんどうの玉座の間に、淡く青白い光がともったような気がした。
 否、光っているのは部屋ではない。
 光っているのは自分自身だ。
 漆黒と純白の騎士甲冑が、いつの間にか、淡い光を放っていた。
「あっ」
 ぽぅ、と光が指先から離れる。
 追いかけるように伸ばした手から、全身の光が離れていく。
 青く白く光る何かは、数メートルほど漂ったのち、自分の目の前に留まった。
 いつからそこにあったのだろうか。
 そこに静かに浮いていたのは、2つの青い宝石だった。
 光は宝石のもとに集まって、少しずつ形を変えていく。
 不定形の青い光が、少しずつ輪郭をなしていき、2つの個体へと変わっていく。
「なのは、ママと……フェイトママ……?」
 光の中から現れたのは、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。
 ちょうどもう1人のフェイトのような――自分の知る2人の母よりも、随分と年下の幼い姿だ。
 本来の自分の姿よりも、いくつか歳は上だろうか。昔何かの折で見た、9歳くらいの頃の姿が近いかもしれない。
「貴方達は、一体……?」
 それでも、自分の知る彼女らとは別人だ。
 目の前の2人が纏う衣装は、9歳当時の彼女らのそれとは、微妙に異なったデザインとなっていた。
 なのはのバリアジャケットは、先ほどまで自分の母が着ていた、エクシードフォームを思わせるものに。
 フェイトのバリアジャケットも、大きな違いはないものの、より装飾が大人しいものに変わっていた。
《私達はジュエルシード……古の人々の願いと共に、この世界に生まれた結晶体》
「ジュエル、シード……?」
 ヴィヴィオに微笑みかける幼いなのはは、自分達のことをそう名乗った。
 確かそれは、かつてなのは達が回収していたという、ロストロギアの名前だったはずだ。
 もちろん、そんなものを持った覚えはない。
 そのジュエルシードとやらが、このゆりかごに現れた理由は、皆目見当もつきそうにない。
《かつてプレシア・テスタロッサが、虚数空間の海へと落ちた時、
 私達9つのジュエルシードもまた、道連れに次元の狭間へと沈んでいった》
《アルハザードの周囲を漂っていた私達は、貴方の放つジュエルシードの気配に引かれて、貴方のもとへやってきた。
 そしてこの姿は、貴方の心の中にある、想いの形を具現化したもの》
《貴方とお話をするために、貴方の心の中から借りた、貴方の強い想いの形》
 代わる代わる言葉を紡ぐ、なのはの幻とフェイトの幻。
 そこに浮かんだ穏やかな笑顔は、思い出のそれと変わらないのに。
 その口から放たれる懐かしい声色は、思い出のそれと違わないのに。
 その事務的な口調には、人としての温もりを感じられず、どこか歪な印象を受ける。
 本当に目の前に立っているのは、ただの幻に過ぎないのだと、否応なしに思い知らされる。
「……強くなんて、ないよ」
 ゆらり、と金のサイドポニーを揺らし。
 ルビーとエメラルドの光を地へ向けて。
 目の前の幻が言い放った何気ない言葉に、ヴィヴィオは己が顔を俯かせて、呟く。
「私は強くなんてなかった……私のちっぽけな想いなんかじゃ、結局誰も、救えなかった」
 罪を懺悔するかのように。
 頭を垂れた聖王が、言った。
 強くなりたいという誓いは、結局死の運命を打倒できなかった。
 手が届くところにあったはずの命にさえ、手を伸ばすこともできなかった。
 何も救えなかった自分が、そんなに強いはずがない。
 何も守れなかった想いが、強いだなんて言えるはずもない。

911魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:20:50 ID:1IH4IKEM0
《信じて》
 それでも。
 目の前の幻が口にしたのは、そんな言葉だった。
《魔法は胸の内に込められた力を、具現化させて解き放つ力……人の想いを形にした力》
《だからこそ、魔力の結晶である私達には、人の想いを叶える力が備わった》
《「死んでいったみんなのためにも、強くなって生き続けたい」……
 ……他の誰でもない、貴方の強い想いの力が、私達を呼び寄せた》
《たとえ今は弱くとも、その想いが貴方を突き動かすのなら、貴方はもっと強くなれる。
 貴方の抱く強い想いを、魔法は決して裏切りはしない》
 これはヴィヴィオはおろか、全ての参加者が知り得なかったことだが、
 ジュエルシードによって張られたフィールドにいた参加者達は、
 少なからず、ジュエルシードの性質を持った魔力を、その身に浴び続けていた。
 それが2つのジュエルシードを、ヴィヴィオの下へと招いたのだが、彼らはそれだけでは足りなかったと言った。
 ヴィヴィオの強い願いの力こそが、彼らをこの舟へ引き寄せたのだと。
 ヴィヴィオの強い想いの力こそが、奇跡の力を呼び寄せたのだと。
『ヴィヴィオ』
 不意に、少女の首元から声が響いた。
 明滅する空色の宝石は、インテリジェントデバイス・マッハキャリバー。
 この30時間の戦いで散ってしまった、スバル・ナカジマの相棒だったデバイスだ。
 そういえば今この瞬間まで、半ば存在を忘れかけていた。
 ここまでずっと自分を支えてきてくれた、大事な仲間の1人だったというのに。
『以前、私は相棒に、こんなことを言ったことがあります。
 貴方が私に教えたもの……私の生まれた理由、貴方の憧れ……それを嘘にしないでほしい、と』
「あ……」
『一度起きてしまったことには、もう取り返しはつきません。
 それでも貴方には未来があります。同じことを繰り返さないよう、努力するチャンスが残されています。
 生きて責任を果たすこと……生きて帰って、強くなると約束したこと……
 Ms.なのはに誓った貴方の想いを、嘘にしないでください』
 そうだ。
 マッハキャリバーの言うとおりだ。
 殺し合いのフィールドを発つ前に、ユーノが言っていたことを思い出す。
 この戦いを生き延びた自分達には、果たさなければならない責任があるのだと。
 喪われてしまった多くの命に、報いなければならないのだと。
 高町なのはの死を看取るまでが、自分に課せられた責務ではない。
 まだやらねばならないことが残っていたのだ。くよくよしている暇はなかったのだ。
 ――だから私は、ヴィヴィオに“これから”を託せるの。
 なのはママの遺言が、胸の奥深くで木霊する。
 自分で進むと決めた道を、貫き通せるのだと信じているから、未来を託すことができるのだと。
 自らの進む道を選択し、それを最後までやり通す意志。それこそがジュエルシードの言う、想いだ。
 誰よりも強く優しいママに、太鼓判を押してもらった――信じられると言われた、想いだ。
「……分かったよ」
 俯いていた顔を、上げる。
 聖者の印と謳われたオッドアイで、確たる意志と共に、前を見据えた。
 身を屈ませた後悔の震えは、今はもうその背中にはなく。
 涙に滲んだ赤と緑は、色鮮やかな光を放つ。
「なのはママがそう望んだのなら……私は生きてみようと思う。
 それが、強く生きるって約束した……ひとりで立てるって宣言した、私の責任なんだから」
 この30時間の戦いで、ヴィヴィオは多くの死を背負った。
 肉体年齢6歳という、あまりにも幼いその背中に、あまりにも重いものを背負い込まされた。
 それでも、彼女は生きることを望んだ。
 過去に悲嘆する道ではなく、未来へと続く道を選んだ。
 彼女も怖かったはずなのに、それでも自分を励ましてくれたシャーリーのように。
 スバルやシャーリーを守り抜かんと、懸命に戦ったルルーシュのように。
 戦う力を持たずとも、弱いなりに自分を支えようとしていたこなたのように。
 そして何より、あの高町なのはのように。
 強き想いを力へと変え、母の望む生き方を、その力で為さんと決意したのだ。
 ならば、祝福すべきだろう。
 ヴィヴィオが選択した道が、結局はなのはが指し示した道だったとしてもだ。
 この歳で完全に自立しろというのは、それこそ酷な話だろう。それはこの先少しずつ、ゆっくりと成長しながら果たせばいい。
 それでもヴィヴィオは今日この日、責任を背負うということを知った。
 こうして幼かったヴィヴィオは、ほんの少しだけ、大人になった。

912魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:21:43 ID:1IH4IKEM0
《願いを聞かせて、高町ヴィヴィオ》
《貴方の望む想いの形を……本当の気持ちを、私達に教えて》
 目の前の幻影が語りかける。
 願いを叶えるジュエルシードが、叶えるべき願いを問いかける。
「ゆりかごの針路を、ミッドチルダに……私を元の世界へ連れて行って」
 確たる口調で、宣言した。
 かつてプレシア・テスタロッサは、21個のジュエルシードに、娘の命を願ったという。
 されどヴィヴィオが選ぶのは、死した母の蘇生ではない。
 命よりも大事な願いを、なのはは自分に託したのだ。
 ならば彼女から託された願いは、喪われた彼女の命以上に、優先させるべき願いだ。
《その願いを、叶えよう》
 願いを聞き届けた幻のなのはは、無機質な声と共に、にこやかに微笑む。
 自分が聖王化していたのもあって、身体の大きさが完全に逆転していたのが難点だったが。
 それでもそこにあった笑みは、これまで愛してやまなかった、最愛の母の笑みそのものだった。
《貴方の望む道筋は、私達の力で切り拓いてあげる》
《どれだけ時間がかかろうとも、どれだけの壁に阻まれようとも、私達が必ず送り届ける》
 ぽぅ――と。
 その一言を言い終えると同時に、2人の幻に陰りが生じた。
 青白い光から生まれた幻が、少しずつその輪郭をぼかしていく。
 幻影の不透明度が落ちていき、少しずつ虚空へと溶け込んでいく。
 さらさらと四肢の端から零れるのは、蛍のごとき青い光。
 ジュエルシードの煌めきが、ゆっくりと霧散していって、聖王のゆりかごを包んでいく。
《あとは貴方次第だよ――高町ヴィヴィオ》
 それが最後の一言だった。
 その一言を言い終えると同時に、2人の幻は姿を消した。
 玉座の間に静寂が訪れる。
 だだっ広い空間の中で、人影がまた1人きりになる。
 胸の内へと訪れるのは、ほんの少しばかりの寂寞。
「……帰ろう、マッハキャリバー」
 それでも、少女の瞳に涙はなく。
 晴れやかな笑みさえも浮かべて、真っすぐに前を見つめている。
 ジュエルシードの幻の、最後の言葉を聞いた時、母に背を押されたような気がした。
 まるでなのはママ自身に、エールをもらったような気がして、それだけで満たされたような気がした。
「私達の故郷へ……なのはママと暮らした場所へ!」
 その言葉を合図としたかのように、ゆりかごの床が微かに揺れた。
 2つのジュエルシードの放つ、青白いオーロラに覆われて。
 黄金に煌めく聖王のゆりかごは、未来に向かって出港した。
(私は、もっと強くなる)
 強くなって、生き続ける。
 この命が続く限り、この身が朽ち果てぬ限り。
 死んでしまった人々に報いるために。
 ママとの約束を果たすために。
 私を守り続けてくれた、世界一大好きなママの生涯が、無駄ではなかったことを証明するために。
 未来へ続くこの道を、私は胸を張って歩き続ける。
 そう。
 私の行く道は終わらない。
 私の道は、これからも――。

913魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:22:40 ID:1IH4IKEM0


リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル・最終戦績報告

1日目・深夜
・エリオ・モンディアル      :柊かがみのミラーモンスターにより死亡
・ギルモン              :八神はやて(StS)のツインブレイズにより死亡
・ティアナ・ランスター      :シグナムのバスターソードにより死亡
・神崎優衣             :キース・レッドのグリフォンにより死亡

1日目・黎明
・殺生丸               :自身の蒼龍破により死亡
・シグナム               :柊かがみのヘビープレッシャーにより死亡
・アグモン            :アーカードの手により死亡
・クロノ・ハラオウン        :アーカードのパニッシャーにより死亡

1日目・早朝
・矢車想               :エネルの鉄矛により死亡
・カレン・シュタットフェルト   :ミリオンズ・ナイブズのエンジェルアームにより死亡
・高町なのは(A's)         :ミリオンズ・ナイブズのエンジェルアームにより死亡
・ディエチ               :ミリオンズ・ナイブズのエンジェルアームにより死亡
・ミリオンズ・ナイブズ     :キース・レッドのジャッカルにより死亡

1日目・朝
・フェイト・T・ハラオウン(StS):ヴァッシュ・ザ・スタンピードのエンジェルアームにより死亡
・八神はやて(A's)         :アンジール・ヒューレーのアイボリーにより死亡

1日目・午前
・ザフィーラ           :自身のミラーモンスターにより死亡
・アレクサンド・アンデルセン :ルーテシア・アルピーノのイフリートにより死亡

1日目・昼
・遊城十代             :柊つかさの手により死亡
・武蔵坊弁慶           :ギンガ・ナカジマのプラズマスマッシャーにより死亡
・インテグラル・ヘルシング  :金居の朱羅により死亡
・ギンガ・ナカジマ         :金居の朱羅により死亡
・ブレンヒルト・シルト      :キース・レッドのグリフォンにより死亡

1日目・日中
・チンク               :柊かがみのミラーモンスターにより死亡
・シャマル            :セフィロスの憑神刀(マハ)により死亡
・C.C.                   :首輪爆発により死亡
・シェルビー・M・ペンウッド  :首輪爆発により死亡

1日目・午後
・早乙女レイ            :ルーテシア・アルピーノのエボニーにより死亡
・ルルーシュ・ランペルージ  :ルーテシア・アルピーノのイフリートにより死亡
・シャーリー・フェネット     :ルーテシア・アルピーノのイフリートにより死亡

1日目・夕方
・セフィロス               :八神はやて(StS)のコルト・ガバメントにより死亡
・ルーテシア・アルピーノ    :キャロ・ル・ルシエの憑神鎌(スケィス)により死亡
・キャロ・ル・ルシエ       :フェイト・T・ハラオウン(A's)のオーバーフラッグにより死亡
・フェイト・T・ハラオウン(A's) :キャロ・ル・ルシエの憑神鎌(スケィス)により死亡
・万丈目準             :浅倉威のミラーモンスターにより死亡
・柊つかさ              :浅倉威のミラーモンスターにより死亡
・浅倉威               :首輪爆発により死亡
・エル・ローライト          :キース・レッドのグリフォンにより死亡
・新庄・運切               :エネルのジェネシスの剣により死亡
・ゼスト・グランガイツ       :キングのオールオーバーにより死亡
・キース・レッド         :アレックスのブリューナグの槍により死亡
・天上院明日香         :八神はやて(StS)の愛の紅雷により死亡

914魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:23:42 ID:1IH4IKEM0

1日目・夜
・アレックス           :金居のイカリクラッシャーにより死亡
・アーカード           :ヴィータのゼストの槍により死亡
・ヴィータ             :アーカードの手により死亡

1日目・夜中
・クアットロ            :キングのRPG-7により死亡
・ヒビノ・ミライ             :アンジール・ヒューレーのバスターソードにより死亡

1日目・真夜中
・エネル                  :金居のデザートイーグルにより死亡
・相川始               :ヴィヴィオの魔力爆発により封印

2日目・深夜
・(死亡者なし)

2日目・黎明
・ヴァッシュ・ザ・スタンピード :八神はやて(StS)の鋼の軛により死亡
・泉こなた             :八神はやて(StS)の愛の紅雷により死亡

2日目早朝
・八神はやて(StS)         :柊かがみのルシファーズハンマーにより死亡
・柊かがみ            :スバル・ナカジマの手により死亡
・アンジール・ヒューレー     :キングのオールオーバーにより死亡
・スバル・ナカジマ          :金居のジェネシスの剣により死亡
・天道総司             :キングのオールオーバーにより死亡
・キング                 :高町なのは(StS)のレイジングハート・エクセリオンにより封印
・金居                 :ヴィヴィオのラウズカード(ジョーカー)により封印










【ウーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】
【ドゥーエ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】
【セッテ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】
【オットー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】
【ディード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story 死亡確認】

【残り:1人】









.

915魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:24:37 ID:1IH4IKEM0


 天の光は全て星。
 なべて世はこともなし。
 第一管理世界・ミッドチルダの宇宙は、新暦78年を終えようとするこの瞬間にも、平穏無事であり続けていた。
 見渡す限りに広がるものは、暗黒よりもなお黒き闇。
 漆黒のカーテンに散りばめられるのは、幾億幾兆の星々の煌めき。
 どこまでも高く、どこまでも深く。
 どこまでも遠く、どこまでも広く。
 文字通り無限の容積を持った、光と闇の大海原に、ぽつんと浮かぶ星が1つ。
 サファイアのごとく煌めく青と。
 エメラルドのごとく映える緑。
 生命の色に満ちたその星こそが、ミッドチルダの本星だった。
 この色鮮やかな星の中で、多くの命が息づいて。
 出会い、群れ合い、親しみ、別れる、大勢の命が生きている星。
 漆黒の宇宙空間の中で、一際美しく放たれる輝きは、そこに暮らす人々の、命の活力を表しているのかもしれない。

《――応答願います。時空管理局、応答願います》

 そんな無明の宇宙の中に、1つの影が姿を現す。
 無音無酸素の宇宙の中で、声を電波に乗せるのは、金色に煌めく大型戦艦。
 スラスターも噴かせることなく、無重力空間を漂い続ける、豪華絢爛な舟があった。
 眩い陽光が船体を照らす。
 ミッドチルダの向こうから、顔を出した太陽の光が、宇宙を黄金色に染め上げる。
 気の遠くなるほどの旅路の果てに、目的地へ辿り着いた舟は、
 世界そのものに祝福されているかのように、誇らしげな光を放っていた。

《私の名前は高町ヴィヴィオ……高町なのはの娘です!》

 新暦79年、1月1日0:00。
 新たな年の幕開けと共に、数奇な運命に翻弄された少女が、生まれ故郷への帰還を果たしていた。










【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 生還】










【リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル――――――完】

916魔法少女、これからも。 ◆Vj6e1anjAc:2011/02/15(火) 21:25:07 ID:1IH4IKEM0
投下はこれで以上です。
これまで読んでくださった読み手の皆様、本当にありがとうございました。
リレーを続けてくださった書き手の皆様、本当にお疲れ様でした。
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルの、その本筋の物語は、これにて全て終了となります。

今回までに語られなかった要素は、別作者様のエピローグにて、触れられることになっております。
どうかあともう少しだけお付き合いくださいませ。

917リリカル名無しStrikerS:2011/02/15(火) 21:29:55 ID:yz/CY96g0
投下乙です!
ついに、ついにこの物語も終わりましたね!
お疲れ様でしたっ!
本当に、皆様お疲れ様でしたっ!
エピローグの方も、楽しみにしてます!

918リリカル名無しStrikerS:2011/02/15(火) 21:34:32 ID:MmrSwLQk0
投下乙です!
ああ、とうとうこの物語も終わったんだよね!
お疲れ様でしたっ!
本当に、皆様お疲れ様でしたっ!

俺もエピローグを楽しみにしてますが……少し怖い様な……

919リリカル名無しStrikerS:2011/02/15(火) 21:43:12 ID:uf2EdJWs0
投下乙です
ああ、これで完結なのか
エピローグはあるけど、一応ロワはここで完結
なんか感慨深いなあ
と、まあ今はこれだけ、続きはまたもう一回読んでから

でも一言、カレンさんあんた何やってんの!?

920リリカル名無しStrikerS:2011/02/15(火) 22:03:49 ID:5UcRVG9Y0
投下乙です。

なのユーの原点最強コンビでヴィヴィオ脱出大成功!
なのユーカップルは至高な自分にとっては満足な結末だったにゃー。
ヴィヴィオが浅倉やルルやシャーリー、それにこなたを思い出したりというのも印象深かったし……というかヴィヴィオ視点では最後まで浅倉善人扱いだったんだなぁ……こんな扱いされる浅倉はここだけだぞ。

……で、ラスト……いや、持ち逃げしたのはあくまでも読み物だけだよね!? というか2ndの伏線とかじゃないよね!?!?

エピローグもありますが何はともあれもう一度Vj氏及び書き手諸兄の皆様乙でした。

921リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 01:22:26 ID:2H5ynQiIO
投下乙です!
祝・完結!長かった…ここまで本当に長かった!
60人で始まったバトルロワイアルも、生還者はヴィヴィオただ一人…なのはらしい結末でした!
なのはとユーノが咲かせた一世一代の命の華も、本当に格好良かった!
そしてまさか最終回でなのはの殺害数が一気に跳ね上がるとは、誰が予想しただろうw

エピローグも楽しみです!
一先ずは書き手の皆様、お疲れ様でした!

922リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 02:17:08 ID:3Bbd7oiY0
投下乙です
これでようやくこの企画も完結か……胸が熱くなるなぁ。
なのはの最期の戦いは前回のアンデッド戦に負けず劣らず、ロワのラストを飾るに相応しい戦いでした。
ユーノはユーノで最後の最後までヴィヴィオを逃がす為になのはに付き合い、共に散ると……なんと男らしい!
そして最も愛する母から、この戦いで散って行った皆から、色んなものを託されて、ついに生還。
ヴィヴィオ生還ENDはある意味最もなのはらしい形で未来へ繋げるENDだった様に思うなぁ。
4年経ってようやく帰還した様だけど、ヴィヴィオの今後は果たして……?

923リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 02:38:19 ID:JUc5YHoU0
完結おめでとう。そしてこれだけは言わせてくれ
乙。

924リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 03:32:46 ID:lSb6RHtM0
投下乙、エピソードで語られるであろうスカさんが待ち遠しいです

あと、ヴィヴィオの世界では、ユーノが生きてることに
ちょっと不思議な気持ちになります

925リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 16:17:28 ID:9meDKze.O
投下乙です
ついに完結。書き手の皆様本当にお疲れ様でした!

最後死亡者と生還者の項目見てクロス作品からのキャラがユーノだけだったのに吹いたのは秘密だ

926リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 22:48:24 ID:TWYAHw8Q0
最終回乙です!
せっかくなので最初から順に追ってみる
冒頭スカ博士を全く信用していなかったプレシアさん
予想通りナンバーズは報いを受けたけど、博士は果たして……
つうか、ここまで予想していたのに暗殺までは予想できなかったんだな
そしてゆりかご発進!
今更だが生き残ったの出身世界無視したら全員原作メンバーなのか
緊急転送システムって……ああ、やっぱりそういうことなのか……
とりあえずナンバーズ御愁傷様
最期なんだからドゥーエ一働きしたら良かったのに、でも乱戦で散るか
爆砕牙とルシフェリオンの二刀流とか、なにこの武闘派なのはw
>総勢4機の鉄の機影が、純白の四肢へと絡みつく。
ごめん、シリアスな場面なのに期待してしまった……
でも本当良いコンビだな(夫婦に非ず)
ここのヴィヴィオ、ホント強くなったな、成長したわ
>これでもう何も怖くない。
マミさあああああん
SLBのシーンでBGMかけてみた、ヤバいかなり燃えた
>後悔なんてあるはずがない。
話題沸騰中の某魔法少女アニメネタがここにもw
で、カレンさんは何してやがりますかあああああ
そして擬似的だがMOVIE1stのなのはとフェイト登場
それにしてもいいなあ、こういう場面でほんのりする
そしてエンドロール風の死者たち
地味にLが本名になっておるw
で、やっぱり1日目夕方死にすぎw
そしてヴィヴィオお帰りなさい……

>>921
でも実質的にはユーノ君一人
あとはカンウント外だな
でなければアーカードの殺害数が一気に跳ね上がるw

927リリカル名無しStrikerS:2011/02/16(水) 23:06:18 ID:7tuIqBlM0
完結乙です!
書き手の皆さんもお疲れ様でした。

素晴らしくってなんと言っていいのかわからない…だからただ一言GJ!

928リリカル名無しStrikerS:2011/02/17(木) 00:27:24 ID:.fY2x7sw0
>>916
3分割になりそうなので、分割点の指定お願いします

929リリカル名無しStrikerS:2011/02/23(水) 21:12:28 ID:VU4AQvPE0
長かった・・・ホントに長かった。完結できるのか少し不安もあったけど・・・
描き手の皆、本当に乙っした!!

930StrikerS名無しX:2011/03/09(水) 02:13:56 ID:K9V/KUow0
エピローグ書くのに新スレ立てなくていいのか?

931StrikerS名無しX:2011/03/09(水) 08:26:15 ID:9QN57bnY0
まだ70弱ほど書き込めるから大丈夫だろ
もしも埋まったら雑談スレか仮投下スレと統合でいいと思う
もうあと少しだから

932StrikerS名無しX:2011/03/10(木) 10:08:56 ID:pXmxZLps0
それに埋まると決まったわけじゃないからな

933 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:06:47 ID:D5cW9/Q.0
大変長らくお持たせしました。
これより、エピローグの投下を開始します。

934 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:12:28 ID:D5cW9/Q.0
 己が欲望の為に悪魔に魂を売った女は既に殺され――
 彼女から全てを奪った奴らは、一目散に逃げ出した。
 この“時の庭園”に残された者は、最早誰一人居ない。
 ……と、少なくとも、奴らはそう思っていたのだろう。

 だが、実際は違う。
 まだ、残っているのだ。
 プレシアにとっての、最後の戦力が。
 見捨てられたと思っていた、生き残りの戦力が。
 奴らの決定的な失敗は、完全にシステムを掌握しただろうという過信。
 首謀者であるプレシアを殺した時点で、邪魔者など居ない……そんな慢心。
 それが勝った気でいる奴らにとっての最大の綻びになるなどと、誰が想像出来ただろう。





 目覚めた少女は、碧銀の髪を揺らし、立ち上がる。
 蒼と紺の虹彩―所謂オッドアイだ―で、仄暗い一室を見渡す。
 自分の他は、数人の女が壁際に設置されたコンソールを叩いているだけだ。
 それが誰なのか、何て事を少女は知らないし、自分が何故ここに居るのかすらも解らない。
 少女にはそれ以前の記憶が殆ど残されてはいなかった。
 だけど、だからと言って思い悩んだりする必要もない。
 成すべき事は、只一つ。愚かな裏切り者の始末、だ。
 与えられた任務は、ジェイル・スカリエッティを叩き潰す事。
 それだけが確固たる目的として、脳裏に刻み付けられていた。

「武装形態」

 ぽつりと呟いた。
 数瞬ののち、少女の衣服が弾け飛んだかと思えば、その身体が変質してゆく。
 まだ幼さを残した身体が、成熟した大人の身体へと。
 手足が伸びて、先程までは幼かった筈の胸が、大きく揺れる。
 大人の身体へと変化したその身体を、白と緑の騎士甲冑が包み込み――
 最後に、少女のオッドアイの瞳を、黒のバイザーが覆い隠した。
 かくして少女は“変身”を遂げた。
 戦う為の、任務を果たす為の姿へと。
 倒すべき敵を求めて、少女は周囲を取り巻く女へと向き直り、

「私の敵は、何処ですか」

 淡々とした口調で問うた。

「母さんが遺した“緊急転送システム”で、君を敵の元まで送り届ける」
「君はそこで、“命令”された通りに敵を叩き潰せばいい」
「私達は君を送り届ける為に、今の今までずっと身を隠して来たんだ」
「それが、母さんが望んだ事だから」

 よく済んだ女性の声が、口々に答えた。
 何人か居るようだが、皆が皆同じ声をしている為に、聞分ける事は難しい。
 ともすれば、一人しかいないのに、複数人を装っているのでは、とも思える程だ。
 されど、そこには確かに数人の……それこそ十人にも満たない程の女が居た。
 長い金髪に、すらりと伸びたスタイルの良い手足。
 赤い虹彩の瞳はまるで生気を感じさせず、気味が悪かった。
 同じ顔。同じ声。同じ特徴を持ったそれらは、母の愛の為だけに動く人形。

935 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:16:28 ID:D5cW9/Q.0
 
 先の戦いで殆どが死に絶えた彼女らも、全滅した訳ではなかった。
 最後に残された数体には、プレシアから特別な任務を預かっていたのだ。
 それは“最後の罠”を起動させる為の駒として、その瞬間が来るまで身を隠せ、という事。
 ナンバーズやリニスすらも知り得ない、間取り図からも抹消された最後の部屋に。
 ……最も、プレシアはその時が来るとは思っていなかったのだろうが。

『――まあ、あの子を投入する事は来ないでしょうね』

 ミラーワールドでの騒動が終わった時、プレシアはこう言った。
 ここで言う“あの子”とは、最悪の場合に備えたカウンターの事。
 そう。あの時はまだ、それを使うつもりは無かったのだ。
 というよりも、使う時が来て欲しくは無かった。
 ここに閉じ込めたフェイト達も、このまま二度と解放する気は無かった。
 アリシアだけを蘇らせて、残された戦力など全て放棄するつもりだったのだから。
 されど、事はプレシアの望んだ通りには進まず……。
 状況は彼女が想定していた内、最悪の方向へと傾いた。
 事実として、彼女らに与えられた指名を、彼女ら自身が果たす時が来てしまったのだ。
 だから彼女らは……フェイトらは、最後の任務を成し遂げる為に。
 碧銀の髪の少女を敵の本拠地へと転送する為に、コンソールを叩く。

「叩くなら今しかない。奴らが油断し切っている、今しか」
「急いで。もうあまり時間が無い……奴らが逃げてしまう」
「こっちは準備完了。いつでも“脱走妨害システム”は起動出来るよ」

 フェイト達は必死だった。
 今は亡き母の命令を、母への愛を、貫き通す為に。
 そして何よりも。母を殺した奴らへ、一矢報いる為に。
 これが残された最後の任務。そして、これが残された最後の感情。
 愛する母からの命令と、憎き仇敵への愛憎が、彼女らを突き動かしていた。

「よし……緊急転送システム、何時でも起動出来るよ」
「良かった、これで間に合う。後は君に、全て任せるよ」
「うん。君の転送が完了すれば、もうこの庭園からは誰も出られなくなる」
「だから、後は君が私達の想いを成し遂げて欲しいんだ」

 最後の切り札たる少女に、今にも消えそうな笑顔を向ける。
 儚げで、心は泣いている……そんな風にも見える、悲しい笑顔だった。
 されど碧銀の少女は、それを向けられたからと言って、何を感じる訳でも無く。
 逆に、ふと気になった疑問を尋ねる。

「貴女達は、どうするんですか」
「この庭園はもうすぐ崩壊する。だから、最期の瞬間まで、私達はここに居るんだ」
「理解出来ません。そんな自殺行為に、一体何の意味があるんですか」
「君が理解する必要はないよ。この意味は、君にはきっと解らないから」
「そうですか」

 それ以上の詮索はしなかった。
 最後の切り札たる彼女には、殆どの記憶が無い。
 プレシアによって記憶と感情を制御された彼女は、ただの兵器。
 裏切り者を抹殺する為に残された、最後の鬼札(ジョーカー)なのだ。
 それ故に、自分の目的と何ら関係の無いフェイトが理解不能な行動を取った所で、さほど興味は沸かない。

936 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:21:46 ID:D5cW9/Q.0
 
「転送、開始」

 一人のフェイトが、パネルを叩いた。
 同時に、騎士甲冑を纏った少女の姿が消えてゆく。
 次元間転送だった。それは、たった一つの目的を果たす為に。
 奴らがアジトとしている場所を叩く為に、碧銀の少女を送り出したのだ。
 やがてその姿が完全に見えなくなった頃には、もう一人のフェイトが別のパネルを叩いていた。

「脱走妨害プログラム、起動」

 最後の兵器は、最後の戦場へと送り出された。
 これでもう、ここに思い残す事など一つもない。
 後顧の憂い無く、もう一つのシステムを起動出来る。
 何人たりとも庭園から逃がしはしない、最後のシステムだ。
 それら二つを合わせて、プレシアは最後の罠としていたのだ。
 今頃プレシアを裏切った奴らは、システムの網に引っ掛かっている頃だろう。
 その結果を暗示する報告が、今頃プレシアの部屋のモニターに映し出されている筈だ。
 されど、そんな報告をした所でもう意味は無い。
 母の言い付けを守った娘らを褒めてくれる人は、もう何処にも居ないのだから。
 何はともあれ、これでフェイト達はもう、二度と外の世界を見る事は無くなった。
 だけど、不思議と―彼女達にとっては不思議ではないのだろうが―後悔はない。
 何より、それが怖い事だとも思わなかった。

「きっと、母さん一人だけじゃ寂しいと思うから」
「だけど、安心して。私達は、これからもずっと母さんと一緒だから」

 届かぬ愛を胸に抱き、フェイト達は笑う。
 愛する母の言い付けを、始めて成し遂げる事が出来たから。
 母が残したこの庭園で、これからもずっと母と一緒に居られるから。
 結局、何が本当に正しい事で、何が本当の愛なのかも解らないまま。
 激しい地鳴りを伴って、時の庭園の崩壊が始まった。
 母と子らを乗せた庭園の最期だった。







 リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル 第200話
 「Beautiful Amulet」







 都市型テロ「JS事件」の解決から数カ月後。
 不可解な連続失踪事件が相次いで発生していた。
 被害に遭ったのは、空のエース・高町なのはに始まる機動六課の面々。
 彼女らが、まるで神隠しにでも会ったかのように、次々と何の痕跡も残さず失踪したのだ。
 目撃者は皆無。周囲の人物に事情を訊くも、皆一様にして彼女らが失踪する前後の記憶は曖昧。
 まるで超常的な力が働いたかの様に――それは本当の意味で、「消えた」という表現が正しかった。
 
 そこへ追い打ちを掛ける様に発生したのが、JS事件の首謀者であるスカリエッティによる脱獄事件。
 投獄されていたスカリエッティ及び配下のナンバーズ達が、何者かの手引きによって脱獄したと言うのだ。
 それも、無期懲役処分を受けていたナンバーズのみならず、更生組である筈のナンバーズまで。
 当然、管理局はこの二つの事件に何らかの関連性を見出そうとするが、一向に解決の兆しは見られなかった。
 事件は何の進展も見せず、数カ月が経過して――このまま迷宮入りするかと思われたその矢先。

 ある日、ミッドチルダの辺境に、不自然な次元干渉が確認された。
 誰も近寄らない様な山奥の地に、かなりの長距離を越えて何かが転送されて来たのだ。
 正規の手続きを取って居ない以上、それが不正な形での次元間跳躍である事は一目瞭然。
 しかしながら、それに輪を掛けて不自然なのは、何の隠蔽工作も無しに堂々と跳躍して来た事。
 まるでわざと管理局に見付かる為に事に及んだのではないかと、そう思ってしまう程に。
 ともすれば、管理局に敵対心を持った何者かによる罠とも考えられる。
 だが、例えそれが罠であったとしても、看過する訳には行かない。
 管理局は、直ちに武装局員を派遣した。

937 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:27:36 ID:D5cW9/Q.0
 




 高町ヴィヴィオ。
 ミッドチルダ在住のSt.ヒルデ魔法学院、初等科4年生。
 少しだけ人とは違う生まれ方をして、少しだけ人とは違う運命を辿った少女。
 ヴィヴィオがヴィヴィオとして生きる事を許してくれた人達が居て。
 命を賭けて、ヴィヴィオに色んな事を教えてくれた人達が居て。
 今は仲良しの友達も居て、母親代わりになってくれる人も居る。
 現在はごくごく普通の子供らしい人生を歩んで居た。


 その日は、少しだけ特別な日だった。
 今日からヴィヴィオは、晴れて初等科4年生となる。
 新しい学校生活を、新しい気持ちで迎えたのだ。
 嬉しい気持ちを一杯に胸に秘めて、ヴィヴィオは走る。
 新しいクラス分けとか、今日あった出来事とか、沢山話したい事があるし。
 それに何よりも、今日は早く帰って来れば、少しだけ嬉しい事がある、らしい。
 帰宅したヴィヴィオは、期待に胸躍らせ、玄関のドアを開け放った。

「ただいま、フェイトママ!」
「おかえりーヴィヴィオ」

 優しい笑顔で出迎えてくれたのは、ヴィヴィオのもう一人の母……フェイトママだ。
 高町なのはが居ない今、母親になるのは後見人であるフェイトしか居ない。
 ヴィヴィオが帰還したと聞いて、フェイトは嫌な顔一つせずにヴィヴィオを引き取ってくれた。
 しかし、今でこそヴィヴィオの前では何時でも笑顔で居てくれるが、少し前はそうではなかった。
 数ヶ月前、ヴィヴィオが帰還したばかりの頃は、フェイトも相当落ち込んで居たのだ。
 それも当然と言える。十年間共に過ごして来た友が……沢山の人の命が散ってしまったのだから。
 人前では笑顔で居ても、一人になった時はいつも泣いていた事を、ヴィヴィオは知っている。
 そんなフェイトを、強い人だと思う。
 本当は誰よりも悲しい筈なのに。
 誰よりも泣きたい筈なのに、そんな素振りを出しはしない。
 それどころかヴィヴィオの事を、本当の娘の様に可愛がってくれる。
 ヴィヴィオは、なのはが命を賭けて救ったたった一人の娘。
 なのはがその魂を託した、言わばなのはの唯一の忘れ形見なのだ。
 となれば、フェイトも黙って居る訳には行かないと、そう思ったのだろう。
 まずフェイトは、ヴィヴィオを立派に育てようと、魔法学院に入学させてくれた。
 それから、毎朝早起きしてはお弁当を作って、笑顔でヴィヴィオを送り出してくれる。
 夜にはヴィヴィオを安心させる為、遅くなる前に仕事を切り上げて帰宅してくれる。
 と言っても、どうしても帰れない夜もあるにはあるのだが。
 本局執務官ともなれば、本当は仕事だって忙しい筈だ。
 それくらいは、ヴィヴィオにだってわかっている。
 無理はして欲しくない、とフェイト本人にも言ったのだが、フェイト曰く「これくらいは平気」との事。
 そう言われてしまえばこれ以上何も言い返す事も出来なくて。
 ヴィヴィオは、そんな優しいフェイトママの事が大好きなのであった。

「今日はお仕事大丈夫なの?」
「フェイトママ、船の整備で明日の午後までお休みなんだ。だからヴィヴィオのお祝いしようかなって」

 柔らかな笑顔を浮かべ、テーブルの上にお菓子を並べて行く。
 今日はヴィヴィオの始業式。沢山のお菓子は、4年生に進級するヴィヴィオへのお祝いだった。
 お菓子の甘い香りが鼻孔をくすぐり、今すぐに食べてしまいたい衝動に駆られる。
 だけど、まだだ。まだ、その前にすべき事がある。

「お茶いれるから、先に着替えて来るといいよ」
「うん! ありがと、フェイトママ!」

 そう。まずは着替えだ。
 家の中でまで学校の制服を着たままでは堅苦しい。
 それから手を洗って、うがいをする事も忘れてはいけない。
 お楽しみは、きちんとやる事をやってから。
 それはかつてなのはママに教えられた事でもあるのだ。
 取り急ぎ着替えを取りに行こうと駆け出した……その刹那。

938 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:32:00 ID:D5cW9/Q.0
 
 ――ピンポーン、と。
 鳴り響いたのはチャイム音。
 来客が来た事を知らせるベルの音に、二人は顔を見合わせる。
 ヴィヴィオと目が合った瞬間のフェイトは、何処か嬉しそうな表情をしていて。
 如何にヴィヴィオが子供と言えど、それくらいの表情変化はすぐに見抜く事が出来た。

「来たみたいだね。ヴィヴィオ、出てくれる?」
「……? うん、わかったー」

 釈然としないものの、どうやら待ち望んでいた来客らしい。
 心中に若干の期待を抱きながら、ヴィヴィオは玄関に向かった。
 ドアノブをがちゃりと捻って、造りの良い玄関のドアを開く。
 同時。ドアの前に居た誰かが勢いよく跳び上がり――

「――んっ!?」

 次の瞬間には、ヴィヴィオの視界は闇に覆われていた。
 動きを完全に封じられ、次いで息苦しさを感じる。
 何者かの罠か、と考えるも、すぐにその線は薄いと判断。
 何故なら……肌に感じる“それ”は、柔らかかったからだ。
 顔面に触れる感触が、どういう訳か、僅かに柔らかいのだ。
 それがどういう事なのか大体理解した次の瞬間には、

「こら、いきなり飛び付く奴があるか」
「あいたっ!」

 ヴィヴィオの視界に光が戻っていた。
 目の前で頭を押さえ蹲るのは、一人の女だった。
 特徴的な水色の髪の毛に、修道騎士見習いのシスター服。
 人懐っこい表情でヴィヴィオを見る彼女の名は、セイン。
 かつて機動六課と死闘を繰り広げた、ナンバーズの一人だ。
 そして、セインの背後に控えていた二人の事も、ヴィヴィオは良く知っている。

「セイン! それにノーヴェとウェンディも!」
「おうよ。元気でやってっか、ヴィヴィオ?」
「今日からヴィヴィオが4年生だって聞いて飛んで来たんスよ!」

 セインの背後に控えていたのは、赤い髪の毛の女二人。
 ともすれば男前とも取れる様な爽やかな笑みを向けるのはノーヴェ。
 子供みたいに無邪気な笑みを浮かべるのは、ウェンディだ。

「三人とも、いらっしゃい! わざわざヴィヴィオの為にありがとー!」

 最初は誰かと思ったが、相手が彼女らならば話は別だ。
 ヴィヴィオとノーヴェは、同じストライクアーツを極めんとする者同士。
 格闘技の練習にはいつだって付き合ってくれるし、この三カ月で色んな事を教わった。
 今やノーヴェとヴィヴィオの練習試合は、周囲の注目を集める程のレベルへと昇華しているのだ。
 ウェンディはウェンディで、ノーヴェと会うついでに、ヴィヴィオと一緒に過ごす時間も少なくない。
 ナンバーズとヴィヴィオの間には、確かに色々あったが……だからこそ、彼女らもヴィヴィオの事は可愛がってくれる。
 ウェンディもセインもノーヴェも、まるで本当の妹を可愛がるようにヴィヴィオと遊んでくれるのだ。
 そんな彼女らを好きにならない訳が無かったし、会いに来てくれたとなれば尚の事嬉しくもなる。
 そんな中で、すっくと立ち上がったセインは、苦笑いを浮かべ、言った。

「いやー、悪かったよヴィヴィオ、久々だから思わず」
「もう、セインはいつ会っても子供みたいなんだから」

 そこがセインの良い所だが、と心中で付け足す。
 そんなヴィヴィオの心境を知ってか知らずか、セインは声を荒げて言った。

「自慢じゃねーが、あたしはこいつら程精神的に大人じゃないんだからな!」
「うわぁ、それは本当に自慢じゃないっスね」
「全く……こんなのがあたしらよりも年上かと思うと涙が出て来るわ」

 ウェンディとノーヴェが、口々に告げる。
 二人とも心底あきれ果てた様な表情で……だけど、何処か楽しげだった。
 それを見ているヴィヴィオも、何だか解らないけど、楽しくて。
 次の瞬間には、三人が三人とも、子供みたいに笑っていた。

 色々あったけど、今ならば――否、今だからこそ、思う。
 こうやって、他愛も無い雑談で笑い合ったり出来る事は、幸せなんだと。
 今みたいに下らない話題で盛り上がったり、格闘技の練習に励んだり。
 帰還してからの毎日は、ヴィヴィオにとって何もかもが輝いて見える日々だった。
 それもこれも、命あっての物種。
 生きているからこそ、実感出来る幸せなのだ。

 ……しかし、その代わりに払った“代償”は大きくて。
 その事を、一日たりとも忘れた事は無いというのも、また事実なのであった。

939 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:36:07 ID:D5cW9/Q.0
 




 暗い暗い洞窟の闇の中を、一人の少女が歩む。
 碧銀の髪を揺らして歩く姿に、一切の脅えは無い。
 その姿にこそ、威風堂々という言葉は相応しかった。
 今、この空間に於いて彼女は侵入者だ。
 この先に控える裏切り者を叩き潰す事だけを行動方針に動く兵器。
 当然、彼女の侵入に対して、裏切り者のスカリエッティが何の手を打たない訳がなかった。

「         !!」

 息一つ乱さずに、跳躍した。
 その下方、先程まで少女が居た場所を、眩い閃光が駆け抜ける。
 前方に視線を戻せば、無数の閃光が自分目掛けて飛んでくるのが見えた。
 侵入者を排除しようと放たれた、刺客による砲撃だろう。
 だが、何て事はない。
 魂の籠らぬ一撃など、この身体に当たりはしない。
 無駄一つない動きで、舞って見せる。
 ぎゅおおん! と轟音を轟かせ、何発のもレーザーが少女の脇を奔り抜けた。
 数瞬ののち、遥か後方で巻き起こる魔力爆発。
 狭い洞窟内を駆け抜ける爆風は、颶風となって少女の髪を嬲る。
 燃え上る炎に照らされ靡く碧銀の髪は、絹糸の様な美しさを秘めていて。
 美しい少女の容姿には、傷一つ見受けられない。
 それを確認するや、洞窟の奥から一人の少女が飛び出した。
 ボードに乗った少女は、凄まじい速度で狭い洞窟内を駆け巡る。
 少女もそれを視界に捉えて、頭の中で計算を立てる。
 今から数秒の後には、奴が自分と接触する頃だろう。
 ならば、ランデブーの瞬間に、真正面から迎え撃つまで。
 腰を軽く落とし、構えを取った――その刹那。 

「今だ!」

 第三者の声が、背後から少女の耳朶を打つ。
 振り向こうとしたその時には既に、この身体から自由が奪われていた。
 自分を羽交い締めにする水色の髪の女と、バイザー越しに目が合った。
 それは、勝利を確信した者の目付きで。
 何処かから飛び出して来たこの女が動きを封じ、その隙に戦いを終わらせる。
 そういう戦術を仕掛けて来るつもりなのだろうが……下らない。
 これで勝てると思っていたのなら、実に下らないと思う。
 彼女がそう思った、次の瞬間には既に、身体が動いていた。
 非力な女の腕を振り払い、

「なっ!?」

 上部へ向かって放り投げた。
 予想だにしない行動だっただろう。
 だが悲しいかな、その程度の腕力で覇王の進行を妨げるのは不可能だった。
 仰天した様子で空を舞う女は、そのまま真っ直ぐに落下。
 こうしている間にも、前方からは赤髪の女が拘束で迫り来る。
 赤髪と接触するまで、推定残り時間は5秒といった所か。
 ならば5秒で十分だ。それは彼女にとって、あまりにも簡単過ぎる問題だった。
 そう判断するや否や、その場で右脚を振り上げ――跳躍した。

「いいっ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは水色の髪の女。
 何がどうなったのかすら解らなかっただろう。
 次の瞬間には、真っ直ぐに振り上げた足が、女の腹を蹴り上げていた。
 凄まじい衝撃が、自分の脚からビリビリと伝わって来る。
 その感触が、相手を破壊したのだという感覚を確信へと変えてゆく。
 女の身体がくの字に折れ曲がって、蹴った箇所からは嫌な音が聞こえた。
 機械が軋み、壊れる様な――ともすれば、骨が折れた音にも聞こえるかも知れない。
 嫌な破壊音に次いで、声にならない嗚咽が聞こえた。
 女はそのまま天井に激突し、真っ逆さまに落下。
 その様を碌に確認もせずに、少女は一歩後方へと跳び退った。

「ちょっ……セイン!?」

 同時、突貫してきた赤髪が急停止した。
 真上から落下してきた女の身体が、ボードの動きを掣肘したからだ。
 どさりと音を立てて落下したこの女、名はセインというらしい。
 最も、敗者の名前に興味など持つ筈もなく、すぐに頭の隅へと追いやられたが。
 不自然に折れ曲がったセインの身体を見たボードの女が、一瞬身体を強張らせる。
 眼前に広がる狩る者と狩られる者の構図。
 本能的な恐怖が背筋を駆け抜けたのだろう。
 次はお前だと言わんばかりに、

940 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:39:36 ID:D5cW9/Q.0
 
「       ッ!!!」

 碧銀の少女は息を一つ吐き出して、大地を蹴った。
 赤髪の眼前まで飛び上がり、長い脚を振り上げる。
 反射的にボードでガードの姿勢を作るが、そんな物は問題にもならない。
 その程度の玩具でこの蹴りが防げると思ったら大間違いだ。
 振り抜いた脚は周囲の大気を寸断して、傲然たる勢いでボードを叩き折った。
 火花と共に強烈な破壊音が鳴り響き。
 次の瞬間には、

「――グフ、ァ……!?」

 赤髪の顔面を、少女の脚が蹴り飛ばしていた。
 真っ赤な血液を吐き出して、呻きと共に後方へと吹っ飛び。
 そのまま洞窟の壁に激突、地べたに転がるボードの破片の元へと崩れ落ちた。
 ……が、どうやらまだ完全には意識を刈り取れてはいない様子だった。
 咄嗟に掲げたボードによるガードが、存外ダメージを和らげてくれたらしい。
 だが、意識を失わなかったからと言って、助かった事には決してならない。
 寧ろ、今の一撃で気を失えなかった事は不運でしかないのだった。
 バイザー越しに赤髪を見下ろし、トドメを刺そうと一歩を踏み出した、その時だった。

「らぁぁぁああぁぁああぁぁああああああああッ!!!」

 耳を劈く様な怒号。
 反響するタービンの回転音。
 彼方から走り抜けて来たもう一人の女が、拳を振り上げ跳び上がる。
 型は良い。気迫も十分。格闘家としては、十分過ぎる程の逸材と見た。
 ならば、確かめてみたい。こいつがどれ程の力を持っているのかを。
 自分の拳とこいつの拳、どちらの方が上なのかを。

 何も思い出せない筈の心は、しかし目の前の女との決戦を望んで居た。
 ともすれば、それは心と言うよりも、彼女自身の本能なのかも知れない。
 嗚呼、結局、本当の所は自分にも解らないのだ。
 だけど、ただ一つだけ、本能が覚えている事があるとすれば。
 それは、戦えば戦う程に、この身体が強さを求めるという事。
 自分は、この身体は、一体何処まで行けるのか。
 眼前の相手よりも――誰よりも強く在れるのか、と。

「ぐ……っ!」

 女の拳を腕の甲で受け止める。
 ここへ来て初めて漏らした呻き声。
 ぎしっ、と。音を立てて、骨が軋む。
 だが、これで終わりはしない。
 拳を受け止めた腕を振り払い、同時に右脚を振り上げた。
 がきん! と金属音が鳴り響いて、蹴り脚は女の脚と激突。
 相手もまた、この蹴り脚を受け止める為に左足を掲げたのだ。
 所謂、カットという奴だ。格闘戦に於ける、初歩的な防御方。
 お互いがお互いの身体を弾いて、共に数メートルの距離を開いて対峙する。

「テメエ、よくもあたしの姉妹を!」

 金色の瞳からは確かな憎しみが感じられた。
 女は拳を引いて、次の一撃に備える。
 ならばとばかりに、こちらも再び構えを取った。
 この身体に眠る“彼”の記憶を再現するように。
 ベルカの天地に覇を成すとまで云われた構えを、この身体で再現する。
 刹那、少女の脳裏に疑念が過った。

 自分は今、何をしているのだろう、と。
 これは何のための戦いで、誰を守る為の戦いだったか、と。
 自分が今しようとしている事は、本当に“彼”が望む事なのか。
 彼と私が望んだ■■流は。
 ■■の悲願は、本当にこれで成し遂げられるのか。
 そんな疑念を振り払ってくれるのは、対峙する女の絶叫だった。

「オォッォォォオオオオオォォォオオォオォォォオオォッ!!!」

 脚のタービンを唸らせて、拳を振り上げ大地を蹴り上げる。
 一足跳びに少女の眼前まで肉薄した女は、全力で拳を振り抜いた。
 だけど、その攻撃は何故か……曇っているように思えた。
 自分の拳と同じで、何処か迷いがあるような。
 だが、今は一先ず考える事をやめよう。
 今は只、目の前の戦いに集中すべきだ。
 腰を落として、ステップを踏み込み。
 ひゅん、と風が切れる音が聞こえた。
 凄まじいまでの速度で振り抜かれた拳は、しかし命中せず。
 風の音と共に、少女の周囲の風を断ち切った。
 技量としては見事の一言に尽きる。
 だが――届かない。
 これでは、こんな拳では、届かないのだ。
 赤髪の女の胴体まで上体を下げた少女は、相手の顔をちらと見遣る。
 背後で燃え盛る爆炎の所為か、燃える様な赤の髪は、余計に赤く染まって見えた。

941 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:41:56 ID:D5cW9/Q.0
 
「              ッ!!」

 足腰を踏ん張り、この身体に眠る力を練り上げる。
 白亜の騎士甲冑に身を包んだ少女が、拳を握り締めた。
 一合で決める。こいつに使ってやる時間は、勿体ないからだ。
 相手が上体を捻り、その一撃に対処をしようとするが――もう遅い。

「ぐっ――ぅ……!」

 どすん! と、心地の悪い、それでいて豪快な音が響き渡った。
 目にも止まらぬ速度で、少女の拳が相手の胴体を抉ったのだ。
 紺色のスーツ越しに、拳は相手の腹筋へと捻り込まれ、そのまま内臓を破壊せん勢いで減り込む。
 全ては一瞬だった。
 次の瞬間には、相手の身体は洞窟の壁に叩き付けられ、そのまま崩れ落ちる。
 口元から血液だとか胃液だとかを吐きだしながら、意識を失った少女の瞳からは光も失われる。
 白目を剥いて倒れる姿は、ナンバーズきっての攻撃手・ノーヴェにしては、あまりにもあっけない敗北であった。

「貴方がもし自我を保っていれば、もっと強かったのでしょうか」

 碧銀の髪を揺らし、少女は物言わぬノーヴェに吐き捨てる様に言った。
 ノーヴェの拳は、素人がそうおいそれと繰り出せる代物ではなかった。
 そのテクニック、速度、切れ味、どれをとっても格闘家としては一級品。
 なのに、何故こうも簡単に敗れたのか。
 それは、単に拳に「魂」が乗って居ないからだ。
 それが一体何故なのか、なんて事には全く興味を抱かない。
 向かってくるならば倒す。
 自我がないなら、楽に潰せる。
 その分、事がスムーズに進められる。
 少女にとっては、その程度の認識でしかなかった。

 不意に振り向けば、そこに横たわるは、三人の身体。
 水色の女はセイン。胴体を“壊した”のだ。修理を受けない限り、動く事は不可能。
 今し方倒した格闘家はノーヴェ。問題無く、完全なるKOだ。此方も同じ理由で動けまい。
 最後に残った女は、ウェンディ。意識こそ保ってはいるが、この程度の相手ならば問題無い。
 向かってくるなら他と同じ様に撃破するのみ。自分にとって取るに足らない弱者だった。
 故に踵を返し、洞窟の更に奥へと進もうとした――その時。

「待つっス……! ドクターの元へ行かせる訳には……!」

 女はそれでも声を荒げた。
 だけど、耳を傾けてやる気は無い。
 こんな所でこんな奴を相手にするのは、時間の無駄だ。
 第一、これ以上こんな場所で道草を食うのは、彼女の使命感が許さなかった。
 この心に刻み付けられたのは、「裏切り者を叩き潰せ」という揺るぎない使命。
 この身体が動くのは、それを果たさんとする使命感故。
 だからこそ、これは最後の警告だった。

「貴女は私の標的ではありません。それでも邪魔をするというのなら、次は徹底的に破壊しますが」

 バイザー越しにちらと一瞥する。
 ウェンディは、動かなくなったノーヴェとセインを眇め見て――。
 最早それ以上は、何も言おうとはしなかった。
 ただ何も言わず、反抗的な視線で自分を睨み付けるばかり。
 恐怖心に脅かされた心が、ウェンディにそれ以上の言葉を塞がせたのだろう。
 無理もない。ウェンディとて既にそれなりのダメージを負っている状態なのだ。
 その上で、姉妹二人の完全なる敗北を見せ付けられたのだ。
 いくら頑丈な心だって、折れてしまうのも仕方のない事だった。
 
「それでは」

 だが、それでいい。
 これこの手を以上煩わせないで欲しかったから。
 最早誰に刻まれたのかも解らぬ使命を果たす為。
 白亜と深緑の少女は洞窟の最深部へと進む。

942 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:44:52 ID:D5cW9/Q.0
 




 その日の晩、ヴィヴィオの進級祝いは無事執り行われた。
 テーブルの上に無数に並ぶのは、綺麗に料理を平らげられた痕跡。
 料理のソースやケーキのホイップが僅かに付着した大量の皿。
 それらを眺め、満腹感に浸りながらヴィヴィオが告げる。

「今日は皆、私の為にありがとう」
「本当は他の皆ももっと呼びたかったんだけどね」

 苦笑いしながらそう返すのは、フェイトだ。
 結局他に進級を祝ってくれたのは、ナンバーズの三人だけだった。
 だけど、ヴィヴィオはこれでも十分だと思っている。
 セインが作ってくれた料理はどれも美味しかった。
 ノーヴェと共に、格闘技について語り合った時間は、心が熱くなった。
 場の空気を盛り上げてくれたウェンディのお陰で、常に笑顔を絶やす事も無かった。
 自分の事を本当に思ってくれている彼女らだけでも、ヴィヴィオにとってはこれ以上ない幸せだったのだ。

「まあ、なんだ」

 ジュースの容器に突き刺したストローから口を離し、ノーヴェが口を開く。

「あたしらとヴィヴィオの間には確かに色々あったけどよ
 今ではあたしも、お前の事は妹みたいに思ってるから、さ」

 ぽん、と。
 ノーヴェの手がヴィヴィオの頭の上に置かれた。
 その手から伝わって来るぬくもりは、どこか懐かしくて。
 遠い昔、大切な人に頭を撫でて貰った時の事を思い出して。
 この小さな胸が、少しだけ締め付けらる様な気がした。

「あたしらに頼りたい時は、いつでも頼ってくれよ、ヴィヴィオ」

 何処か照れ臭そうにノーヴェは笑う。
 目線を逸らしているのは、やはり直接こんな事を言うのは柄ではないからだろうか。
 確かにヴィヴィオは多くのものを喪った。
 だけど、代わりに得たものも多い。
 血こそ繋がっていないものの、本当の姉の様に接してくれる人が居る。
 ノーヴェだけじゃない。セインやウェンディ、フェイトだってそうだ。
 彼女らもまた、ヴィヴィオと同じように大切な人を喪ったから。
 だから殊更、彼女らもヴィヴィオを他人とは思えないのだろう。

「ありがと、ノーヴェ」

 だけど、だからこそ。
 その事を考えれば素直には喜べなかった。
 忘れる事など出来ない出来事が、影をちらつかせる。
 結果、図らずも何処か虚ろな笑顔を浮かべてしまっていたようで。
 只でさえ赤面していたノーヴェも、それ以上何も言わなくなってしまって。
 この場の空気が一転、少しだけしんみりとしてしまう。

「あ、ごめん……皆、折角盛り上がってたのに」
「いいっスよ、ヴィヴィオ。あたし達だって、気持ちは解るっス」
「一応あたしらも、ヴィヴィオとは似た様な境遇にあった訳だしなー」

 ウェンディに、セインが続ける。
 ナンバーズもまた、被害者と言えば被害者なのであった。
 ヴィヴィオも事のあらましは全て聞いた。
 ナンバーズの身に何が起こったのかも、知っている。
 更生組である筈の彼女らが何故再び悪事に手を染めてしまったのかも。
 悪の科学者の尖兵として戦った彼女を、武力で以て止めてくれた人物が居る事も。
 ……結局の所、どうしてそうなったのか、とか。そういう裏手の事情は解らず終いだが。
 かろうじて、彼女らの身に起こった出来事だけは知っていたのだった。

「その、4年前にノーヴェ達を止めてくれた人はどんな人だったの?」

 不意に、疑問を口にした。
 詰まってしまった会話の流れを再び繋ぐべく。
 それは同時に、気になって居た事でもある問い。
 どんな人間が、どんな想いを持って、ノーヴェ達ナンバーズを止めたのか。
 それは正直な所、ヴィヴィオ自身も気になる話なのであった。

「さあ、結局あいつも保護された後すぐ出て行っちまったらしいからな」
「でも、聞いた話じゃ彼女も洗脳されてたらしいっスね」
「短期間だけど、洗脳解けるまでは管理局でリハビリしてたらしいけどなー」
「え、ちょっと待って、洗脳って……?」

 三人の言葉に、疑問で答える。
 ノーヴェ達を救ってくれた英雄だと思っていたその人は、洗脳されていた。
 そんな事実は初耳だし、どういう状況なのか、訳も解らなかった。
 そして、ヴィヴィオの疑問に答えたのは、

943 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:50:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「調書だと、プレシア母さんによる洗脳の可能性が高いんだって」

 フェイトだった。
 食器を片づける手を止めて、悄然として俯く。 
 プレシアの起こした事件は、フェイトにとっても消えない傷だった。
 例え事件が終わっても、フェイトの中でそれが解決する事は無いからだ。
 そもそも元を正せば、十年前、自分がプレシアを救えなかったが故に起こった事件とも言えるのだから。
 フェイトはそれを背負って行くしかないし、だからこそ今こうして前向きに生きているのだろう。
 子供なりにそれが解って居るからこそ、ヴィヴィオもこれ以上プレシアを憎もうとはしない。
 あの戦いで散った最愛の母だって、ヴィヴィオが彼女を憎み続ける事は望まないだろう。
 フェイトが背負った過去と戦い続けている様に、自分も背負った命の分まで生きなければならない。
 憎む方が圧倒的に簡単なのだから、自分はそうではない未来を歩んで行かねばならない。
 本当に難しいのは、憎しみや過去と向かい合ってどう生きて行くか、だった。
 だからヴィヴィオも、フェイトに必要以上の同情はせずに話を続ける。

「プレシアママがどうしてナンバーズを?」
「多分、スカリエッティがプレシア母さんを裏切ったから、だと思う」
「……ま、そのお陰であたし達は今こうしてここに居られるんだけどな」

 ノーヴェの言う通りだった。
 事実として、この事件の解決に最も尽力したのは、その少女だ。
 プレシアに洗脳されていたとはいえ、彼女が行動を起こしたからこその結果。
 出来るなら、今はもう何処にいるのかも解らないその少女に会ってみたい、と。
 彼女も武人であるのなら、一度ヴィヴィオもお手合わせを願いたい、と。
 そんな事を考え、物思いに耽ったヴィヴィオは、つい黙り込んでしまう。
 各々思う事があったのか、数瞬の沈黙が流れた後、

「ま、まぁまぁ、折角の進級祝いなんだから、難しい話は置いといて」

 それを破ったのは、やはりこの場での最年長たるフェイトであった。
 最後の食器を片づけ終えたフェイトが、本来のこの場に似つかわしい明るい声色で以て告げる。

「ヴィヴィオももう4年生だよね?」
「そーですが?」
「この4年間、色々あったみたいで……魔法の基礎も大分出来てきた。
 だからそろそろ、自分の愛機(デバイス)を持ってもいいんじゃないかと思って」
「ほ、ほんとっっ!?」

 それは思いもよらぬ僥倖。
 ヴィヴィオが所持しているのは、マッハキャリバーのみだ。
 だけれどそれは、元々スバルの為に組まれたデバイスであって、ヴィヴィオの物では無い。
 帰還するまでの4年間を、ずっとゆりかごで共に過ごして来たとは言え、その事実は変わらない。
 だから、マッハキャリバーに魔法の練習に付き合って貰う事はあっても、それが自分の愛機だとは言えなかったのだ。
 だが、そんなヴィヴィオにも、ようやく愛機と呼べるデバイスが与えられる。
 ともすれば、ヴィヴィオの瞳が輝かない訳が無かった。

「実は私が今日、マリーさんから受け取って来ました」

 そう言って、フェイトが近くの戸棚から小箱を取り出した。
 ヴィヴィオの手と比較すれば、少し大きいくらいのサイズの箱。
 待機状態のバルディッシュやマッハキャリバーを入れるなら、大きすぎるくらいの箱だった。
 中には一体どんなデバイスが入って居るのか。
 そんな期待を胸に、箱を開ける。
 しかし。

「……うさぎ?」

 中に入って居たのは、うさぎのぬいぐるみだった。
 かつてヴィヴィオが大切にしていたうさぎのぬいぐるみに、良く似ている。
 だけど、似ている様で違う。あのぬいぐるみとは決定的に違う、何か。
 そう。言うなれば、それはまるで「生きているようなぬいぐるみ」と表現するに相応しい。
 まるで的を射ていない表現だが、これがただの布と綿の塊でない事だけは、感覚的に解る。
 そんな不思議なぬいぐるみが、次の瞬間には――

「えっ!?」

 ふわりと浮かび上がり。
 ヴィヴィオの眼前で、びしっ! と手を上げた。
 それはまるでヴィヴィオに挨拶をしているかのようで。
 愛らしいうさぎのぬいぐるみは、明確な意思を持っていたのだ。
 これがヴィヴィオにとっての初めての愛機との出会いとなるのであった。

944 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:56:29 ID:D5cW9/Q.0
 




「やれやれ、こちらの手駒も随分と削られてしまった様だねぇ」

 白衣を着たスカリエッティが、一人ごちる。
 憂いの籠った声色は、しかし笑顔で以て紡がれた。
 その表情をにやりと歪めて、金色の瞳でモニターを見る。
 そこに映るのは、悠然と歩を進める碧銀の少女。
 既に迎撃に向かったセインも、ノーヴェも、ウェンディも……最早使い物にならない。
 彼女らは、あろう事か三人掛かりで徒手空拳の女一人にすら勝つ事が出来なかった。
 圧倒的な力量差の前に、見事に三人揃って撃破せしめられたのだ。

「まさか彼女がこうまで粘るとは。いやはや、大魔道師と呼ばれるだけの事はある。
 これでナンバーズの残存兵力もたったの一人になってしまったよ」

 胸中でプレシアを思い描き、笑う。
 No.1、No.2、No.7、No.8、No.12は時の庭園へ出向中。
 最新の連絡で、現在こちらへ帰還する為に脱出艇を発進させたとの話は聞いている。
 されど、遠く離れた異世界からこのミッドチルダへ帰還するとなると、否応なしに時間も掛かる。
 故に現状では役立たずだ。今まさにここに乗り込まんとしている敵への対抗戦力にはなり得ない。

 では他のナンバーズはどうか。
 まず、No.4、No.5、No.10の三人はプレシアのデスゲームにて死亡。
 彼女らはプレシアの技術を使用し、それぞれこの世界の別々の時間軸から呼び出した。
 これは純粋に、タイムパラドックスを利用した技術に、スカリエッティ自身も興味があったからだ。
 実験の一環と参加者の確保を兼ねて、自らの戦力たるナンバーズをデスゲームに参加させた。

 次に、No.6、No.9、No.11の三人。
 彼女らは、今し方現れた侵入者によって叩き潰されたばかりだ。
 では、何故更生組に分類されていた筈の彼女ら三人が再びナンバーズの兵士に戻ったのか。
 簡単な話だ。コンシデレーション・コンソールを使用し、強制的に洗脳状態に置き、脱獄させただけの事。
 結果、かつて聖王ヴィヴィオを操った装置は、三人を従わせる分には十分過ぎる効果を発揮してくれた。
 ……といっても、倒されてしまった以上、所詮は役立たずなのだが。

 これらは全て、スカリエッティにとっては実験、というよりゲームでしかなかった。
 だけれど、如何にゲームと言えど流石に戦力をここまで潰されてしまった事に関しては予想外。
 時の庭園に向かわせた五人にはプレシアの戦力を完全に破壊しろと命じたし、それは確かに実行された筈。
 実質的に戦場となるのは時の庭園だし、戦闘能力だって申し分のないナンバーズを、五人も送ったのだ。
 確実に勝てるだけの戦力を寄越して、綿密に立てられたプレシアの殺害計画。
 それがよもやしくじるなどとは夢にも思うまい。
 全てはスカリエッティの思惑通りに進んでいたと、そう思っていたのだから。

 なのに、まさかプレシアがあんな隠し玉を持っていたなどと、誰が想像出来ようか。
 ナンバーズ三人を潰した侵入者は、スカリエッティの知るどの世界の住人とも合致しない。
 かといって、デスゲームの終了時点から突然現れた第三者とも考え難い。
 スカリエッティの裏切りから間髪入れず、これだけスムーズにこの場所まで辿り着いたのだ。
 恐らく最初からこの場所へ転送される事も、プレシアの計画の内に入って居たのだろう。
 言わば彼女はスカリエッティの一人勝ちを防ぐためだけに用意されたプレシアの最後の駒。
 その為だけに最初から用意され、その時が来るまで眠らされていた哀れな駒。
 それが今こうして、自分の命を狩り取ろうと迫っているのだ。

「もうウーノ達も帰っては来ないだろうなぁ」

 不敵な笑みと共に告げる。
 以上の事から考えるに、プレシアは相当自分を警戒していたのだろう。
 殺される事自体は防げなかったとは言え、その後の罠ならいくらでも仕掛けられる。
 プレシアはスカリエッティの裏切りまで考えてあの少女を送り込んだとするなら――
 脱出に使われるであろう脱出艇……或いは、時の庭園の周囲の空間にも、罠が仕掛けられている可能性が高い。
 ならばもう、成す術はないのだろう。あれだけ求めたアルハザードの技術も手に入らないかもしれない。
 どうしたものか、と考える。
 と、そんな時であった。

945 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:00:01 ID:D5cW9/Q.0
 
 どごんっ! と、響き渡る轟音。
 スカリエッティの後方のドアが、軋みを上げる。
 洞窟内に造られたラボが僅かに振動し、ぱらぱらと砂埃が落下する。
 もう一撃、ドアに打撃が加えられて、今度はドア全体が大きく振動した。
 大きく変形したドアを見れば、そう長くは持たないという事もわかる。

「どうやら来たようだね」

 不敵に笑ったスカリエッティは、手元のコンソールを叩く。
 細く長い指が軽快なステップを刻み、キーを打ち込んで行く。
 これは最後のゲームを盛り上げる為の、最期のスパイスだ。
 そうだ。これこそ、命を賭けたデスゲームの最後を飾るに相応しい。

「私はタダでは終わらんよ」

 まだだ。まだまだ、お楽しみはこれからだ。
 プレシアとの主催陣営ゲームは、ここからが最後の駆け引き。

「はてさて――」

 最後に勝つのはプレシア側か、スカリエッティ側か。
 ドアを完全にブチ抜かれた事による轟音がスカリエッティの耳朶を叩いた。 
 それはまるで、最後のゲームの始まりを告げるゴングのようで。





 場所は変わって、市民公園内の公共魔法練習場。
 その名の通り、魔法の練習をする為に用意された大きなグラウンドだ。
 高町なのはが暮らしていた世界の常識で言い表すならば、サッカーのスタジアムに近い。
 眩くライトアップされたスタジアムの周囲は緑豊かな公園に囲まれて居て、非常に開放的な印象を受ける。
 そんなスタジアムのど真ん中、ライトアップの中心地で、構えを取る少女が二人。
 一人は三角のベルカ式魔法陣を足場に描いた少女――高町ヴィヴィオ。
 もう一人は、濃紺のバリアジャケットに身を包んだ少女――ノーヴェ・ナカジマ。
 お互いがお互いを視界に捉えて、不敵な笑みを交わす。
 先程行われた進級祝いにて、ヴィヴィオは新たなデバイスを受け取った。
 自分専用のデバイス……それは、ヴィヴィオ自身もずっと待ち望んでいた事だ。
 それ故、やはり今すぐにでも使いたいと思ってしまうのも、仕方の無い事と言える。
 しかも、今日はヴィヴィオの師匠たるノーヴェも同席しているのだ。
 なればこそ、これを機会にやる事はたった一つだ。

「準備はいいか、ヴィヴィオ?」
「うんっ! お手柔らかにお願いします」

 ノーヴェの問いに、一礼で返す。
 最早難しい説明などは不要だろう。
 今から始まるのは、デバイスの起動テスト……という名目の、練習試合。
 ヴィヴィオが尊敬し、師と仰ぐノーヴェが初陣の相手であるならば、不足もない。
 たっ、たっ、と地面を蹴ってステップを刻みながら、ノーヴェが問う。

「そういや新しいデバイスの名前はもう決まってるのか?」
「えへへ、実は名前も愛称ももう決まってるんだ」

 問いに答え、目の前に浮かぶ“うさぎのぬいぐるみ”に微笑みかける。
 ただのぬいぐるみと侮る無かれ。このうさぎはただのぬいぐるみではない。
 その本体はうさぎの中身、ヴィヴィオに合わせて造られた宝石状のデバイス。
 それを、ヴィヴィオと馴染みの深い形である“うさぎのぬいぐるみ”で偽装したもの。
 早い話が、うさぎのぬいぐるみの姿をした、最新式の高性能デバイスなのだ。
 そして、そんな素晴らしいデバイスを貰ったからには、強くならない訳にも行かない。
 ヴィヴィオの想いを汲んでくれたフェイトや、マリーに応える為にも。
 そして何よりも――最愛の母の想いに応える為にも。

「見ててね、なのはママ。わたしは強くなるから……
 なのはママから貰ったもの、今度は全部守り通すから」

 誰にともなく呟いた言葉は、今でも胸の中で生き続ける最愛の母へ向けて。
 あの日の戦いで確かにヴィヴィオは一度リンカーコアを失った。
 だけど、今この身体には、確かに聖王の力を引き出す為の魔力が満ちている。
 その理由は誰にもわからないが――しかし、思い当たる節ならある。
 最後の戦いで――あの黄金の敵との戦いで、ヴィヴィオは再び力を求めた。
 始めて自分の意思で戦いたいと願い、そして自らその肉体にレリックを埋め込んだ。
 その結果ヴィヴィオが得たのは、カテゴリーキングを撃破するだけの膨大な魔力。
 しかしそれは、戦いが終わっても消える事は無く。
 レリックが消滅して、相当の年月が経過した今でも、健在であった。
 あの戦いから四年間、毎日を共に過ごして来たマッハキャリバーこう言った。
 あれから長い時間を掛けて、レリック自身がヴィヴィオの身体に溶け込んだのではないか、と。
 難しい話は良く解らないが、レリックが無くとも魔力を行使出来る以上、その可能性が高いのだと。

946 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:11:59 ID:D5cW9/Q.0
 
 ――だけど、ヴィヴィオはそれだけではないと思う。
 上手く説明が付けられない事実に、説明を付けるたった一つの心当たりがある。
 あの日“強くなりたい”と願ったヴィヴィオをここまで導いたのは、ジュエルシードの魔法の力だ。
 他ならぬヴィヴィオ自身が“強くなりたい”と願ったから……
 その強い想いに惹かれて、ジュエルシードは姿を現したのだ、と。
 愛する母達の姿を借りたジュエルシードは、確かにあの時ヴィヴィオにそう言った。
 そして、ヴィヴィオが彼女らに求めたのは“なのはママと暮らしたこの世界”への帰還。
 生きて帰って、60人の参加者達が生きた証を立てる為に。
 60人の命を背負って、今度は皆を守れる強い人間になる為に。
 そんな想いに、副次的にではあるが、ジュエルシードが応えてくれたのではないか。
 レリックがこの身体に溶け込み、もう一度ヴィヴィオに力を与えてくれたのは、そういう事なのではないか。
 根拠は何もないけれど、ヴィヴィオは心の何処かでそう信じていた。
 というよりも、そう信じていたかった……と言った方が正しいか。
 それはジュエルシードが、愛する母の姿をしていたからかもしれない。
 結局の所、本当の事は誰にも解らない。
 だけど、今は別に、それでも構わない。

 自分自身の願いに嘘を吐く事にならない様に。
 自分で決めた自分の道を、自分自身の力で進んで行ける様に。
 ヴィヴィオはこの四年間、一日たりとも休む事無く、修練を続けた。
 マッハキャリバーと共に、スバルが積んだというトレーニングを日々繰り返し。
 たった一人でも、孤独にも負けず、辛い訓練に耐え続けてきたのだ。
 鍛錬を積めば積む程、身体に魔力が戻って行くのを感じながら。
 そしてその成果を、自分の拳で以て確かめる事が出来る。
 そうだ。今からここで、見せつけるのだ!

947 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:14:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「あの人に届かせよう。わたしの……わたし達の力を」

 初めて手にした自分の力に呼び掛ける様に。
 それは自分だけの為に造られた、自分だけの愛機(デバイス)。
 眼前で不敵に笑うノーヴェに微笑みで返し、ヴィヴィオは天高くその手を掲げた。
 まるでヴィヴィオに応えるように、うさぎの姿をした愛機がふわりと眼前へ浮かび上がる。

「マスター認証、高町ヴィヴィオ」

 ヴィヴィオの足元に光が灯った。
 三角系を主体とした魔法陣は、ヴィヴィオの術式を現したもの。
 ベルカ主体の、ミッド混合ハイブリッド。格闘流派はストライクアーツ。
 魔法陣の輝きに伴って、うさぎの愛機がヴィヴィオの眼前へと浮かび上がる。

「わたしの愛機(デバイス)に個体名称を登録――
 ――愛称(マスコットネーム)は、クリス」

 ヴィヴィオの為だけに造られたハイブリッドインテリジェントデバイス。
 幼い頃、大切にしていたうさぎのぬいぐるみを元に造られたデバイスの愛称は、クリス。
 しかし、それは所詮は愛称に過ぎない。
 ヴィヴィオがこの愛機に与えた本当の名前は、別にあるのだから。
 クリスと呼ばれたうさぎが、自分の本当の名を呼ばれる瞬間を、今か今かと待ち構える。

「正式名称は――」

 それは、ずっと前から決めていたたった一つの名前。
 母の想いを受け継ぎ、母の想いを守り抜く為に。
 今ここに、不屈の心(レイジング・ハート)を受け継いだ新たなデバイスが誕生する。
 ヴィヴィオの、清く神聖なる魂を体現する、その愛機の名前は。

「――セイクリッド・ハート!」

 呼ばれたうさぎが、びしっ!と片手を振り上げた。
 一生のパートナーとなるヴィヴィオに応える為に。
 これからヴィヴィオと共に、高みを目指して行く為に。
 期待の眼差しで見詰めるノーヴェをよそに、ヴィヴィオは眼前のうさぎを掴み――

「行くよ、クリス!
 セイクリッド・ハート! セーーーット・アーーーーップ!!!」

 刹那、眩い光がヴィヴィオの飲み込んだ。
 魔法陣の輝きによって、ヴィヴィオの衣服が弾け飛び。
 次いで、まだ幼いヴィヴィオの身体が急速に成長してゆく。
 身長が、手足が、幼なかった胸が――大人のそれと等しく変わる。
 プラチナブロンドの髪は青のリボンで纏め、母と同じサイドポニーに。
 かつての聖王の姿をそのまま模した様なそれは、まさしくカテゴリーキングとの戦いに挑んだ時の姿。
 これがヴィヴィオが望んだ、全てを守り抜く強さを体現する為に必要な力。
 光が収まった時、そこに居るのは“大人モード”として生まれ変わった、かつての聖王であった。

948 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:23:12 ID:D5cW9/Q.0
 




 歩き続けた少女は、決戦の場所へと辿りついた。
 ここに、自分が倒すべき敵が居る。
 ここで、自分は自分の存在意義を果たすのだ。
 その為に、最後の障壁となった眼前の扉を、破壊する。
 少女が繰り出したのは、力の限り打ち出されたキック。
 その速度、まさしく弾丸の如く。
 暴力的な威力で打ち出されたキックが、鉄のドアを大きく凹ませる。
 二撃目で凹みは更に大きくなって、ドアを支える基部が軋みを上げる。
 三撃目で目の前のドアは完全に破損。大きな音を立てて吹っ飛んだ。

「やあ、よく来たね」

 扉の先で待ち受けていたのは、白衣の男だった。
 紫色の髪の毛に、金色の瞳。厭らしく吊り上がった口元。
 不快感さえ伴うその不遜な態度。
 最早間違いない。こいつが標的のスカリエッティだ。
 標的を視界に捉えた少女は、一歩を踏み出し、周囲をぐるりと見渡す。
 本来ならば薄暗い筈の洞窟も、この部屋だけはその限りでは無かった。
 大量に設置されたモニター類と、無数のランプが少女を照らす。

 言うなればここは、純粋な研究室(ラボ)。
 そんな印象を抱かせるこの場所だが、しかしこれからここは戦場となる。
 戦う為に作られた筈では無いこの研究室で、これから自分は破壊の限りを尽くすのだ。
 今し方自分が破壊した扉を踏み躙って、歩を進める。
 そんな彼女を見たスカリエッティは、にやりと笑い、

「不躾な来客だ。名前くらい名乗ったらどうかね?」

 一歩も退かず、誰何した。
 両手を広げて問う姿には、余裕すら感じ取れる。
 これから自分はこいつを叩き潰すのだから、名前くらい名乗ってやってもいいだろう。
 それが彼女なりの礼儀だし、それくらいは構わない。
 寧ろ武人の情けだとも思えた。

「覇王流(カイザーアーツ)正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせて頂いています」
「これはこれは、エンシェントベルカの覇王が態々こんな所まで何をしに来たのかなぁ」
「今更知れた事を。私は貴方を排除する為にここまで――」
「――それは本当に君自身が望む目的かね?」
「なに……?」

 言葉を遮り、問いを被される。
 どういう訳か、その質問に応える事は出来なかった。
 スカリエッティの打倒。これは本当に、自分が心の底から望んだ事なのか。
 もしかしたら、誰かに植え付けられた偽りの使命感なのではないか。
 そんな疑念が浮かんでは、定められた使命感がそれを押し潰す。

949 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:23:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「私は」

 何故か……なんて、そんな事は関係ない。
 自分はただ、この男を潰せばいい。それだけだ。
 そうしなければ、自分はこの呪いからは解放されない。
 真の自由を得る為にも、自分は戦わなければならないのだ。
 だから、私は何としてもやらなければならない。
 嗚呼そうだ、惑わされてはいけない。
 その為に私はここに来たのだ。
 その為に私はここに居るのだ。
 ならば、やる事は一つ!

「これで、終わらせます!」

 これ以上の問答などは必要ない。
 これ以上、面倒事について考えるのも、煩わしい。
 標的の頭蓋を吹き飛ばさんと、ゆらりと構えを取った――その刹那。
 ひゅん、と。大気が振動して、風を切り裂く音が聞こえた。
 覇王がその本能で感じ取ったのは、急迫して来る圧倒的な殺気。
 条件反射で、覇王もまた腕を振り抜き、風を切り裂く事で応える。
 覇王の拳によって切り裂かれた大気が、風の刃となって襲撃者を迎撃した。

「――ッ!!」

 寸での所で覇王の一撃を回避し、その場に着地したのは一人の女戦士。
 紫紺の髪はショートカット。黄金の虹彩は、男勝りな鋭い目付きで以て覇王を睨む。
 両腕と両足から紫紺のエネルギー翼を生やしたそいつは、ナンバーズ最後の兵士。
 最高の指揮官であると同時に、最強の戦闘能力を有した戦士。
 その名は――

「最後に残ったナンバーズ、トーレだ。
 彼女は今まで君が戦って来たナンバーズとは違うよ」

 No.3、トーレ。
 スカリエッティの説明は、成程的を射ている。
 確かに目の前のトーレから感じる気迫は、今まで戦った三人とは段違いだ。
 今まで戦った三人は、対峙した所でそこに本物の魂などは感じなかった。
 だが、目の前のこいつは違う。
 自分の意思でこの場に立ち、自分の魂を賭けて覇王を討たんとしている。
 ジリジリと……大気を通して、まるで肌を焦がす様な殺気を感じるのだ。

「成程、確かに今までの三人とは違って、彼女の瞳には魂があります」
「嗚呼、やはり君には解るか。流石カイザーアーツの覇王を名乗るだけの事はある。
 君が見抜いた通り、トーレだけは最初から自分の意思で私に忠誠を誓ってくれているよ。
 だが、それを見抜いた所で、君がトーレに勝てるとは到底思えないのだがね」

 スカリエッティの言葉を引き継ぐように、トーレが言う。

「貴様もまた、ノーヴェ達と同じだ。魂の無い拳が私に届くと思うな」
「何を――ッ!」

 言葉を言い終える間もなく、その身に感じる強烈な衝撃。
 視界からトーレの姿が掻き消えた、とか、そういう事を感知する暇は無かった。
 油断した一瞬の隙に、気付けば強烈な膝打ちが覇王の叩いていた。
 反射的に腕でガードの姿勢を作れたのは、せめてもの幸いか。
 跳び膝蹴りを受けた覇王は――

950 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:29:41 ID:D5cW9/Q.0
 




 見上げれば、空の上には大きく輝く二つの月。
 その更に向こうで煌めくのは、儚い煌めきを放つ無数の惑星。
 肉眼でも確認出来る通り、ミッドチルダから見える星空は非常に美しい。
 この星自体が、宇宙に輝く他の惑星と距離的に近い位置にあるからだ。
 そんな事実を知ってか知らずか、ヴィヴィオは不意に呟いた。

「星空、綺麗だね」

 グラウンドに寝そべりながら、瞳を輝かせる。
 練習試合はもう終わって、今は二人揃って休憩中だ。
 ノーヴェとの組み手はそれなりにハードで、暫くは手足が動きそうな気がしない。
 一方で、ノーヴェの方も相当疲労したらしく、ヴィヴィオの横で寝そべっているのだが。
 二人揃って力が抜けた様に身体を大の字に広げ、満点の星空を瞳に映す。

「この辺は丘になってるからな。空に近いんだよ」
「そうなんだ……じゃあ、星空が見たいなら絶好の場所なんだね」
「まあ、もう少し田舎を探せば、もっと綺麗なトコもあるんだけどな」

 現実味を帯びたノーヴェの言葉に、思わず苦笑いする。
 確かに、この辺はミッドチルダでも割と都会な方だ。
 空気だって特別綺麗な訳ではないし、街自体が非常に明るい。
 それも手伝って、確かに星空は田舎よりは見えないかも知れない。

「だけど、なのはママはこの街で、この空を見てたんだよね」
「まぁ、そうなるな」
「この空を、なのはママは好きだったんだよね」
「娘のお前がそう言うからには、そうだったんだろうな」
「えへへ……この景色をなのはママも見てたんだって思うと、何だか嬉しくなっちゃうな」

 今見ている景色は、母が見ていたものと同じ景色。
 寝そべったまま、紅と翠の双眸にこの美しい星空を焼き付ける。
 そうしていると、うさぎのクリスもまた、ヴィヴィオに習ってじっと星空を見上げるのだ。
 生まれたばかりのクリスはまだ知らぬ事だが、ヴィヴィオが大好きなママは、この空を愛していた。
 自分の翼で、まるで自分の庭とでも言わんばかりにこの空を飛び回った。
 事実、空でのなのはは無敵と云われていたし、ヴィヴィオだってそう思う。
 この大空を飛び回るなのはママは誰よりも強くて、カッコ良かったのだ。
 あの純白の勇姿は、今でも変わらず、まるで昨日の事の様に思い出せる。

「こうして綺麗な星空を眺めてると、なのはママが空を好きだったっていうのも納得出来るな」
「そりゃあ、空のエースって呼ばれてたくらいだからな。やっぱ空には人一倍思い入れがあったんじゃねーかな」
「うん、わたしもそう思うよ」

 なのはがどんな想いで空を飛んでいたのかは、今となってはもう誰にも解らない。
 だけど、そこに並々ならぬ思い入れがあったのだと言う事は、容易に想像出来る。
 人間と言う生き物は、情熱がなければ生きてはいけない。
 何かを極めんとする人にとって、情熱とは絶対に欠かせない要素の一つだからだ。
 魔法に対して、空に対して。誰にも負けない情熱があったからこそ、なのはは強くあれた。
 そんな強く、気高い母を、ヴィヴィオは誰よりも何よりもカッコ良かったと、今でも断言出来る。
 だからこそ――ヴィヴィオもこの空に、一つの目標を掲げる事が出来るのだ。

951 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:30:15 ID:D5cW9/Q.0
 
「わたしもね、この空は好き。強くなろうって思えるから」

 空に向かって、右手を伸ばす。
 こうして掌を突き出せば、星空にも届きそうな気がして。
 そんなヴィヴィオを見たノーヴェが、ふっ、と微笑んだ。

「お前の母さんみたく、か?」
「うんっ!」

 満面の笑みで首肯する。
 今でも大好きな、固い絆で結ばれた母。
 きっと一生変わる事の無い、一番大好きな人。
 彼女の存在自体が。そして、彼女の娘で居られる事自体が、ヴィヴィオにとっての誇りなのだ。
 母の様に強くなると言う目標を持てる事も、いつかは母を越えるという野心を持てる事も。
 そのどれもが、今のヴィヴィオをヴィヴィオたらしめる誇りと自信たり得るのだ。
 だから、これだけは胸を張って言える。

「わたしは、なのはママの娘なんだ」

 例えもう二度と会う事叶わなくとも。
 例え幾星霜の月日が流れて、母の年齢を越えたとしても。

「わたしが大人になっても、それだけは絶対に変わらないから」

 だからこそ、ヴィヴィオの胸中には一つの決心がある。
 未来という時間は、これから自分の手でいくらでも変えてゆく事が出来る。
 だけど、記憶という時間は……掛け替えの無い想い出は、絶対に変わらない。
 なればこそ、大好きななのはママとの想い出を。
 心の中で響き続ける、誰よりも優しかったママの声を。
 覚えてるままずっと、未来の果てまで連れて行くのだ、と。

「なのはママの娘だって事、えへんと胸を張れる様に……強くなるんだ、これからも」
「んー……その心掛けは立派だが、ちょーっと生意気だな?」
「にゃっ!?」

 こつん、と額に小さな痛みを感じた。
 犯人は言うまでもなく、いつの間にか起き上がって居たノーヴェだ。
 年下の妹をからかう様な笑みで、右の拳で作った拳骨を見せる。
 先程の練習試合では相当な力を感じた拳が、今はこんなにもか弱く見えるのが不思議だった。
 ようやく動く様になった―まだ痛む―身体を起こして、ノーヴェを見上げる。

「もう、いきなり何するのー!?」
「ったく、強くなりたいからって初めての練習試合でここまでやる奴があるかってんだ」
「それはそうだけどー……うぅ、せっかくいい事言ったと思ったのにぃ〜……!」
「まずは自分の体力やペース配分を把握しろ。いい事言うのはそれからだ」
「にゃぅぅ、ごめんなさーい……」

 確かにノーヴェの言う通りだった。
 強くなりたいのはいい事だが、だからと言って無理をしては本末転倒。
 本当の強者は、自分の体調や体力を常に把握して戦うものだ。
 しゅんとして俯くヴィヴィオの頭に、ぽふっ、とノーヴェの手が乗せられた。

「わかればよろしい。そんじゃ、帰るか」

 にかっと微笑むノーヴェ。
 ヴィヴィオもまた、柔らかな笑みを浮かべて大きく首肯する。
 そういえば、家を出る時にもフェイトママと約束したのだ。
 練習するのはいいが、あまり遅くならない様に、と。
 付き添いの保護者たるノーヴェの顔に泥を塗らない為にも、約束は守らねばならない。
 人との約束は守る。大好きななのはママの娘で居続けたいなら、それを無下にする訳にも行かない。
 そんな思いを胸に帰路に着いたヴィヴィオを、相棒たるうさぎはそっと見守るのだった。

952 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:38:12 ID:D5cW9/Q.0
 




 広いラボとは言え、彼女ら二人による戦場としては些か狭く感じられる。
 びゅおん、と風が唸る音は、しかし第三者にとっては耳を劈かれる程の高音であった。
 トーレが紫の閃光となって駆け抜ければ、覇王が床を蹴って、縦横無尽に跳び回る。
 二人が動く度に研究室に設置された備品が破壊されてゆき、戦闘の傷跡が刻まれてゆく。
 研究品は地べたへぶち撒けられ、ガラス類は音を立てて割れ、照明は破裂して無くなる。
 これで何度目の接触になるだろうか。
 大股で飛び跳ねた覇王と、音速を越えたトーレが接触した。
 どごんっ! という不吉な音と共に、覇王の腹部に強烈な一撃が叩き込まれる。
 それが蹴りか、拳か、はたまたそれ以外の何かか、なんて事は解りはしない。
 何の加速手段も持たない覇王では、トーレ相手にはハンデが大きすぎる。

「はっ……はぁっ……はぁ――」

 息も絶え絶えに、覇王がフラ付く脚で床を踏み締める。
 頭部に装着していた漆黒のバイザーはとうに破壊された。
 騎士甲冑は腹部から大きく裂け。
 スカートやソックスは切り傷だらけ。
 手甲はひび割れ、腕だって切り傷だらけだ。
 白い素肌をあちこち露出させるも、それは赤い血液によって汚れて見える。
 肩口から滴り落ちる血液を手で押えながら、覇王は揺れる視界で前を見据える。
 蒼と紺のオッドアイが、紫の閃光を捉えた――

「ハ――っ、ぐぅ!」

 紫の閃光に向けて、覇王の拳を叩き込んだ。
 同時に閃光は掻き消えて、拳に鋭い痛みが走る。
 今の一撃で、右腕に装着していた手甲がばらばらに砕けた。
 かつん、と音を立てて落下した手甲だったものなど意にも介さず、方向転換。
 180度身体を回転させ、両腕でガードの姿勢を作る。

「――ッ!」

 感じたのは衝撃。
 鋭いのか鈍いのか、今はもう解らない痛みを両腕に感じ。
 気付いた時には自分の身体は大きく後方へと吹き飛ばされていた。
 がしゃん! とけたたましい音を響かせて、覇王の身体が後方のデスクに叩き付けられた。
 何に使うのかも良く解らない研究資料が散らばって、覇王の眼前で舞う。
 眼前の紙切れを振り払い、覇王はそれでももう一度立ち上がった。

「どうやらそれなりの根性はあるようだねぇ、覇王」

 嘲笑う様なスカリエッティの声が聞こえた。
 蒼と紺の双眸(オッドアイ)に白衣の男を捉えて、しかし今はトーレの襲撃に備え、拳を握り締める。
 戦えば戦う程、攻撃を受ければ受ける程、戦いという行為そのものに没頭してゆくのが解る。
 しかし、これで良く解った。どうやら自分は、こういう人種らしい。
 戦いの中でしか自分を見出せない、どうしようもない戦闘狂。
 戦えば戦う程、使命感よりも自分自身の本能が暴れ出す。
 靄が掛かって居た感覚は、今では随分と敏感に感じる。
 そうだ。これが……これこそが、本当の覇王の戦い。
 忘れようもない、この感情こそが、本当の自分なのだ!

「――ツァッ!」

 左脚を軸に、振り上げたのは覇王によるハイキック。
 右足の甲が紫の閃光を捉えたかと思えば、覇王のブーツはボロボロに引き裂かれていた。
 右足のソックスは最早細切れとなって消え、白く細長い脚を守るものは何もない。
 血まみれになった右脚が床を踏み締めるよりも先に、覇王の身体に激痛が走る。
 腹部に酷く重たい一撃を受けて、それを痛みと捉える頃には自分の身体は床を転がって居た。
 くの字に折れ曲がった身体は、何度か床にたたき付けられて、止まる。

953 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:41:23 ID:D5cW9/Q.0
 
 左脚を軸に、振り上げたのは覇王によるハイキック。
 右足の甲が紫の閃光を捉えたかと思えば、覇王のブーツはボロボロに引き裂かれていた。
 右足のソックスは最早細切れとなって消え、白く細長い脚を守るものは何もない。
 血まみれになった右脚が床を踏み締めるよりも先に、覇王の身体に激痛が走る。
 腹部に酷く重たい一撃を受けて、それを痛みと捉える頃には自分の身体は床を転がって居た。
 くの字に折れ曲がった身体は、何度か床にたたき付けられて、止まる。
 
「これは面白いなぁ。少しずつトーレの動きに追い付いているようだが、もうボロボロじゃないか」

 スカリエッティの笑い声。
 耳障りな笑いを聞き流して、それでも覇王は立ち上がる。
 普通なら到底立ち上がれない程のダメージを受けて、それでも。
 やがて白衣の標的を守る様に、トーレがしゅたっと着地した。
 それも余裕の態度で、で。ナンバーズ最強と謳われた面目躍如であろう。
 しかし、それでも覇王は砕けない。覇王の意思は砕かれない。
 濃紺のナンバーズスーツをギラつく双眸で睨み付け、不敵に構えて見せる。

「……どうやら、まだ何か秘策でもあるようだね」
「いえ、そんなものはありません」
「ほう、ならば諦めでもしたのかね」
「御冗談を。覇王の悲願を成し遂げるまで、私は諦める訳には行きません」
「成程、覇王は単なる戦闘狂(バトルマニア)か」

 違いない。
 戦闘の中で、こんなにボロボロにされてすら、楽しいと思える自分が居る。
 これは誰に植え付けられた感情でも無い。自分自身の、自分だけの確固たる意志だ。
 目の前にこれだけ強い敵がいるのだから、自分には覇王の力を見せつける義務がある。
 この程度の相手に、覇王がただやられるだけであって良い訳がないのだ。
 そうだ。覇王は、ベルカ最強の王でなければならないのだから――!

「私は貴女を倒し、証明しなければならない」

 覇王が最強である事を。
 覇王に負けなどありえぬ事を。
 そうだ。自分はその為に生まれて来たのだから!

「それが、あの人と、私の悲願――!」

 嗚呼、今ようやく解った。
 これこそが、自分の望みなのだ。
 本能が求めて止まない、この身体に刻まれた記憶。
 この悲しい記憶は、覇王の悲願を成し遂げんと、燻っているのだ。
 なれば、どうしてこんな所で負けていられようか。
 そうだ。自分はここで立ち止まる訳にはいかないのだ。
 自分が自分である為に、見失った自分を取り戻すために!

「そうだ、だから、わたしは!」

 蒼と紺のオッドアイを、カッと見開いた。
 ゆらりと構えをとり、ボロボロになった拳をトーレへと向ける。
 ここからが本当の戦いだ。ここからが、本当の自分だ。
 そう言わんばかりに、大きく息を吸い込んで、

「アインハルト・ストラトス――参ります!」

 高らかにその真名を宣言した。
 アインハルト・ストラトスとは、覇王の記憶を受け継ぎし者。
 覇王の悲願をその拳に秘めて、揺るがぬ最強を追い求める少女。
 その拳を握り締め、紫の閃光となったトーレの襲撃に備える。
 強烈なまでの殺気が急迫して来るのが、加速能力の無い自分にも解る。
 そこに拳を突き入れて――だけどそれは、すぐに痛みへと変わった。

「――ぐぅっ!?」

 一瞬の出来事だ。
 拳が閃光を捉えたかと思った矢先、感じた衝撃は痛みとなって全身を駆け巡る。
 緑と白の胸部に強烈な打撃を叩き込まれて、見に纏っていた騎士甲冑が破れ裂ける。
 かろうじて見えてはいけない箇所は露出していないものの、それでも随分と露出の多い姿になってしまった。
 胸も、腹も、手も、脚も、そのあちこちから赤の血に彩られた生肌を晒して。
 だけど、今度は倒れる事無く、折れてしまいそうな華奢な脚で、床を踏み締め。

954 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:46:18 ID:D5cW9/Q.0
 
「…………?」

 流石にスカリエッティも不自然に感じたのだろう。
 眉根をぴくりとひそませて、えも言われぬ不快感に、焦慮の色を浮かばせる。
 そんなスカリエッティを見るや、アインハルトはまたも不敵に瞳をギラつかせ。
 スカリエッティの傍に着地したトーレを鋭く睨み付け、

「貴女の拳法、見切らせて頂きました――!」

 ぐっ、と拳を握り締め、そうのたまう。
 音速で動ける者と、常人の速度でしか動けぬ者。
 その二人がぶつかりあって、後者が勝てる訳などない。
 あの博士だってそう思ったからこそ、トーレを最後の切り札としたのだろう。
 実際、かつて一度だけ敗れたのも、同じく音速で動ける魔道師が相手であったからだ。
 何の加速力も持たないアインハルトに、勝利する道理などあり得ない。
 ――筈だった。

「貴様……言うに事欠いて“見切った”だと? その程度の速度で、私をナメているのか」

 トーレが、苛立ちの視線をぶつける。
 だれど、そんな苛立ちなどは意に介さず。
 意識を集中させて、構えを取る。
 再びトーレが音速を越えた時こそが、勝負だ。
 周囲の殺気全てに意識を尖らせて――トーレの姿が、掻き消えた。
 ――今だ!

「勝負ッ!」

 高らかに宣言し、拳を突き出す。
 最早何度目になるかも解らない両者の激突。
 音速を越えたトーレと、アインハルトの拳が接触した。
 めき、と……耳朶を打つのは、何かが壊れる際の破損音。
 アインハルトの表情に、僅かな余裕が浮かんだ。

「な……にぃッ!?」

 アインハルトの両手が、トーレの両の拳を握り締める。
 刹那、トーレの両腕に装着されていた手甲が粉々に砕けて、地へと落ちてゆく。
 エネルギー翼を展開する為に使用していた手甲が、今完全に破壊されたのだ。
 光の翼を失ったトーレに、これ以上の音速稼働は不可能――!

「ハァッ!」

 アインハルトの掌が、トーレの両手を叩き落した。
 未だ瞠目したままのトーレの顔面を、覇王の拳が強打する。
 初めての反撃。初めての、確かなダメージを伴った反撃。
 鮮血を吐き出したトーレが、数歩後じさる。

955 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:51:38 ID:D5cW9/Q.0
 
「貴様ッ……最初からこれを!」
「ええ、砕かせて頂きました。貴女の加速の原動力――!」

 アインハルトは、最初からこれを狙っていたのだ。
 音速で動くトーレに打撃を叩き込まれるだけに見えて、実はそうではなかった。
 少しずつ、少しずつ、その動きはトーレに追い付く様になってゆき。
 加速の原動力が、全身に装着された光の翼なのだと気付いてからは、早かった。
 敵が攻撃の為に切迫する一瞬ごとに、少しずつ覇王の拳で打撃を与え。
 ついに今、この瞬間、トーレのインパルスブレードをこの拳で砕いたのだ。

「貴様ァッ……!!」

 しかし、それでもトーレの速度は常人を遥かに超えていた。
 尋常ならざる速度で飛び込んで来たトーレが、その拳を突き出す。
 それに対しアインハルトもまた拳で返し――拳と拳が激突した。
 トーレが次の行動を起こす前に、アインハルトがもう一方の手でトーレの拳を叩き落す。
 しかし、流石にそう上手くは行かぬもの。

「――ツッ!!」

 それは果たして、どちらが上げた声なのか。
 トーレの顔面をアインハルトの拳が殴りつけた。
 アインハルトの腹部にトーレのアッパーが叩き込まれた。
 二人の拳はほぼ同時。二人揃って後方へと跳び退り、それでも構えて立って見せる。

「「ハッ!」」

 二人が大地を蹴ったのもまた、ほぼ同時であった。
 再び急迫した二人は、凄まじい速度で拳の応酬を繰り返す。
 攻める為、守る為、受け流す為。目にも止まらぬ速度で二人の拳がぶつかり合う。
 しかし、お互いに少しずつ打撃がヒットしているのもまた、疑いようのない事実。
 先に力尽きた方が負ける。そんな消耗戦が延々と続いて――やはり変化は、唐突に訪れる。

「――っ!?」

 戦場に、ぱきっ、と響く破壊音。
 小さな音に始まった破壊音は、やがて大きな音へと変わってゆき。
 次の瞬間には、トーレの太腿に装着されて居たインパルスブレードが砕け落ちた。
 床に当たってかつん、と音を立てるインパルスブレードなど意に介さず、アインハルトは攻撃を続ける。
 二人の攻撃は最早並の人間では着いて行けぬレベルだ。
 故にアインハルト以外の誰もが気付かなかった。
 打撃の応酬の中で、少しずつ残ったインパルスブレードにもダメージが蓄積されていた事を。
 そして、それに気付いたアインハルトが、少しずつ打撃を突き入れ、これを破壊した事を。
 両の脚の機動力を大幅に奪われたトーレの動きが、一瞬とは言え鈍った。
 好機だ。アインハルトの裏拳が、拳の弾幕を掻い潜って、トーレの顔面を強打した。
 鼻孔から血を垂らして、トーレが大きく後ろに倒れ込む。
 アインハルトもまた、一歩引いて、ゆらりと構えを取り直した。
 むくりと起き上がったトーレが、恨めしげにアインハルトを睨み付ける。

「貴様、私のスピードに着いて来るとは――!」
「言った筈です、貴女の拳は既に見切ったと!」

 お互いに間合いを取り合い――同時に駆け出す。
 再び肉薄し、しかし今度は先程までとは違う。
 最早トーレがアインハルトの拳に完璧に対応し切る事は無く。
 動きの鈍ったトーレでは、繰り出した拳の半分近くを防ぎ切れない。
 打ち漏らしたアインハルトの拳はトーレの身体を打撃し、その度にダメージが蓄積されてゆく。
 寧ろ、ここまでやって立って居られるだけでも、相当な精神力を持っていると言える方だった。
 トーレの血とアインハルトの血が絡み合って、最早お互いの拳に着いた血はどちらのものなのかもわからない。
 血で血を洗うこんな戦いに終止符を打たんと動いたのはアインハルトだった。

「ハッ!」
「――!?」

 トーレが拳に気を取られ、全てのガードを一点に集中させた。
 好機再び。これを隙と見たアインハルトは、トーレの身長程まで跳躍し。
 空中から振り下ろす、強烈な回し蹴りが、トーレの頭部を抉らん勢いで叩き付けられた。
 今の一撃で、トーレの身体がぴくりと痙攣したかと思えば、そのまま宙へと浮かぶ。
 未だ奴に意識があるのかどうかは解らない。だけど、勝負を決めるなら今だ。

956 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:55:51 ID:D5cW9/Q.0
 
 最早ボロボロになったブーツで、床を踏み締める。
 ギャリギャリ、とブーツと床が擦れる音が響いて。
 拳を構え、一気に倒れ込もうとするトーレの懐に飛び込んだ。
 この戦いに終止符を打つに相応しい、現状における最大威力の必殺技。
 古代ベルカの覇王の影をこの身に重ねて、アインハルトは跳んだ。
 そして――!!

 ――断 空 覇 王 拳 !

 歯を食いしばり、心中で裂帛の絶叫を迸らせる。
 ここに輝く無敵の拳。目に物見せるは覇王流。
 これこそが、最強にして最大の最終奥義だ!

「カッ――ハァッ!」

 白目を剥いたトーレが、血液やら胃液やらを含んだ体液を吐き出した。
 どごぉんっ!! と言う壮絶な音と共に、アインハルトの拳がトーレの腹部を抉ったのだ。
 空気を寸断し、相手を確実に仕留めるだけの威力を持った覇王の最終必殺技。
 それをまともに受けたトーレは、これ以上ぴくりとも動かず地面へと落下していった。

「はぁ……はっ……はぁっ……はぁ……!」

 瞬間、どっと疲労が押し寄せる。
 今まで蓄積されて居たダメージが、大挙して押し寄せて来る。
 状況を一言で言うなら、立って居るのもやっと、と言った所か。
 全身ボロボロに敗れ壊れた騎士甲冑を、赤黒い血で汚して、がくりと膝を下ろす。
 血に膝をついて、全身に感じる寒気を振り払う様に、蒼と紺の双眸で前を見据える。
 そんなアインハルトの耳朶を打ったのは。

「いやぁ、強い強い。まさかここまでやるとは思わなかったよ」

 ぱち、ぱち、ぱち、と。
 手を叩きながら、歩を進めるのは当初の標的、スカリエッティだ。
 最後の切り札たるトーレが敗れたというのに、その表情には一切の陰りがない。
 まるでまだまだ隠し玉はありますよ、とでも言いたげに――悠然と歩を進める。
 アインハルトは憮然とした態度で、それでも再び立ち上がった。

「しかし、残念ながら君のファイナルゲームはまだまだこれからだ」
「何……を――」
「そう驚くこともあるまい。私が何もせずに終わる男に見えるのかね?
 いやしかし、君がここまで強かったのは私にとってもある意味僥倖だよ。
 もしもトーレが勝って居たら、折角用意した最後のゲームが無駄になってしまう所だったからね」

 負け惜しみ、という訳でもなさそうだった。
 最早立つ事すらもままならぬアインハルトに対してゲームとは、如何なる了見か。
 とはいえ、まだスカリエッティを叩き潰すだけの力くらいは残っている筈だ。
 体中から力を振り絞れば、目の前の博士を血祭りに上げるくらいは出来よう。
 ずん、と脚を踏み出し、下手を起こされる前にとスカリエッティへと歩み寄る。

「おっと、安心してくれたまえよ。私にこれ以上戦うつもりはないさ
 デスゲームの主催陣営対決においては、どうやら私の負けのようだ。それは認めよう」

 極めて愉快そうに笑いながら、

「しかし、私一人で終わる訳じゃあない。君に最後のゲームに参加する資格を与えようと思う」

 手元のコンソールを叩いた。
 既にセッティングは完了していたらしい。
 ボタンひとつで、異変は起こった。

957 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:03:54 ID:D5cW9/Q.0
 
『自爆装置作動。10分以内に退去して下さい。繰り返します――』

 最初は、まるで意味が解らなかった。
 突如として鳴り響いた警報と、今も成り続ける警告音声。
 赤いアラートランプに照らされたアインハルトは、碧銀の髪を揺らして、白衣の男に視線を向ける。
 瞠目だ。何が起こったのか、何を考えているのか、さっぱり解らない、と。
 そんな思いを、未だ幼さの残った表情で訴えかける。

「おや、何を驚いているのかね。君はプレシアの最後の駒だろう?
 つまり、君が死んだ時点で私もプレシアもゲームオーバー……そういう事だ」
「理解、出来ません……」
「ならば些か解り易くしてみよう。私はここで君に殺される。
 だが、どうせ死ぬなら、君を道連れに逝く。どうだね、解りやすいだろう?」
「理解……出来ません……」

 ここで、自分は死ぬのか?
 そんな事、容認できる訳がない。
 自分にはまだ、覇王の悲願を成し遂げると言う大義名分が残っているのだ。
 それまで死ぬ訳には行かないし、戦いに勝ったのに死ぬとあらば尚更理解出来ない。

「だが、ゲームである以上はフェアでなければいけない。君にはまだ最後のチャンスがある」
「チャン、ス……?」
「ああそうだ。10分……いや、9分程度か、残された時間はまだあるのだよ?」

 次の瞬間には、アインハルトは踵を返していた。
 身体は重たい。動かせば激痛に肉が張り裂けてしまいそうになる。
 だけど、それでも、ここで死ぬのだけは、絶対に御免だ。
 どうせあの馬鹿男は、スカリエッティは放っておいても死ぬ。
 ならば、自分は生への道に向かって、最期まで足掻いてみせる。
 先程自分が蹴破ったドアを大股で跳び越して、アインハルトは真っ直ぐに走り始めた。

958 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:04:33 ID:D5cW9/Q.0
 




 赤のランプに照らされながら、狂気の科学者は嗤う。
 最後のゲームは、彼の興味をそそる最高のシチュエーションだ。
 戦いには勝ったと言うのに、敵と一緒に心中しなければならない。
 これ程までに覇王に屈辱を与えられる遊戯が、他にあるだろうか。
 それは性格の歪んだスカリエッティらしい、悪質な趣向だった。

「尤も、君は彼女の事などどうでも良いんだろうがね……プレシア」

 くつくつと笑い、スカリエッティが一人ごちる。
 最後のゲームとは即ち、残り時間でアインハルトが脱出出来るかどうか、だ。
 しかし、このアジトの構造を考えるなら、手負いの彼女が10分足らずで脱出する等不可能。
 仮に手負いでなかったにしろ、10分では外まで脱出出来るかどうかも解らない。
 先程自分はこう言った。「ゲームはフェアでなければいけない」と。
 しかし、実質的にこれは先の見えたワンサイドゲームだ。
 そこにフェアという言葉など皆無。
 所詮は建前に過ぎない。

 だが、それは所詮悪足掻きだ。
 自分にも嫌という程解って居る。
 しかし、結果だけで見れば、プレシア側もスカリエッティ側も残存兵力は0。
 最後の切り札として送り込んで来たアインハルトが死んだ時点で、プレシアの駒は無くなる。
 自分が死んだ時点でこちらの駒も無くなるが、なに、別に構う事は無い。
 最後のゲームで、最期のどんでん返しが出来たと思うだけ、良しとしようではないか。

 爆発の瞬間が、刻一刻と迫る。
 このラボを中心に、全ての証拠を隠滅する為に用意された起爆装置だ。
 爆発すれば、ここに至るまでの洞窟も完全に崩れ去り、アインハルトは生き埋め。
 晴れて証拠は完全消滅、残った兵力も一層出来て、デスゲームは完全なる終焉を迎える。

「思えば長かったなぁ……」

 一人感傷に浸る。
 デスゲームにこぎつけるまで、スカリエッティもプレシアも、かなりの苦労を要した。
 全ての参加者を集める為に干渉した次元・時空は実に20を越える。
 プレシアは余裕綽々の態度で貫いた様だが、実際はそうではない。
 いかにプレシアと言えども、それに掛かった時間と苦労は莫大なもの。
 彼女と手を組んだあの日、企画段階から数えれば今この瞬間は四年目となる。
 と言っても、この世界でスカリエッティが脱獄したのは数ヶ月前、という事になっているのだが。
 実際の所、スカリエッティは脱獄してから四年間の間、別の時空でプレシアと共に計画を練っていたのだ。
 このアジトは、デスゲームの開催に合わせて、兼ねてから想定していた「乗っ取り計画」の為に、この世界にこしらえたもの。
 どうやらこのアジトの存在も、最初からプレシア側には筒抜けであったようだが。
 何はともあれ、四年間虎視眈眈と目論み続け、ようやく開催出来たデスゲーム。
 それが今、こうして完全に終わるというのは、非常に感慨深い。
 それも一重に、アルハザードへの果てなき欲望があったらばこそだ。
 アルハザードの技術が欲しいと、ただその一点だけでスカリエッティはここまで粘り続けて来たのだから。
 だけど、ここまで来れば最早そんな事はどうでもいい。
 どうせ自分はここで死ぬのだ。
 ならばせめて、最後くらいは悪の科学者らしく。
 そう思って笑おうとするも。

「嗚呼、欲しかったなぁ……アルハザードの遺産」

 だけど、やはり欲望は消しきれるものではない。
 死を覚悟した所で、あれ程までに渇望した欲が消える訳も無く。
 最期の瞬間まで、乾いた笑みを漏らし――アジトの爆発が始まった。

959 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:16:45 ID:D5cW9/Q.0
 




 自分は誰だ。
 名前は、アインハルト・ストラトス。
 覇王の身体に、碧銀の髪、蒼と紺のオッドアイ。
 聖王と対となる、古代ベルカに覇を成した列強の王。

 自分は、何の為に戦っていた。
 スカリエッティの抹殺? 否、違う。
 そんな事は本当は、どうだって良かった筈だ。
 自分はただ、届かなかった覇王の拳を、その悲願を。
 今度こそ、現代で叶える為に生れて来た。
 覇王の悲願は、今だってこの胸で息づいているのだ。
 自問自答の末に、ようやく一つの答えが見つかった気がする。

 嗚呼、これで、自分は少しだけ楽になれるのではなかろうか。
 身体はまるで鉛になったみたいに重くて、まるで人形になったみたいに力が入らない。
 だけど、生きている。自分はまだ、この世界で生きているのだ。
 風の音を感じる事も出来るし、五感だって生きている。
 自分の血の匂いを嗅覚で捉え、生を実感する。
 アインハルトは、まだ重たい瞼を薄らと開いた。

 見渡す限り、緑の大地だった。
 木々は鬱蒼と生い茂り、野生動物達は野を駆け回る。
 トーレとの激戦など嘘の様に。それはあまりに自然豊かで、平和な光景だった。
 気付けば自分の「武装形態」も解除され、身体は元の子供の姿に戻って居る。
 身体の至るところから血を流し、白いブラウスも赤く汚れてしまっていた。
 だけど、生を実感する今、この瞬間だけは、先程の戦闘を忘れられる。
 先程までの戦闘など、最早完全に過去の出来事の様に感じられた。

「ここは……私は一体」
「あら、気がついた?」

 見知らぬ人の声だった。
 振り向けば、そこに居るのは管理局員らしき人物。
 管理局に知り合いなど居ないし、それが誰かなど知る筈もない。
 だけど、その人は自分に優しく微笑みかけてくれた。
 風に靡くオレンジの髪を押えながら、周囲の武装局員達に指示を出す。
 未だに何が起こったのかも解らず瞠目するばかりの自分に、管理局員の女が告げる。

「どうやらここが脱獄したスカリエッティのアジトの様ね」
「スカリ、エッティ……そうだ、スカリエッティはどうなって……」
「この爆発じゃ、もう助からないでしょうね……残念だけど」

 瞬間、肩の荷が降りた気がした。
 何はともあれ、これで自分は任務を果たした。
 誰に植え付けられた任務なのかも、今はまだ解らないが。
 少なくとも、これでスカリエッティ討伐の任務に縛られる事はなくなるだろう。
 だが、ここで一つ、小さな疑問が残る。

「私は、どうして助かったのでしょうか……?」
「アジトに向かう途中の洞窟で貴女を保護したのよ。
 最初は目を疑ったわ……こんなにボロボロになって……」
「……貴女が、助けてくれたんですか?」
「まあ、そうなるわね。もう間に合わないかもって思ったけど、何とか助けられた様で、安心したわ」
「何故、見ず知らずの私の為に……」

 理解出来ない、とばかりに告げた。
 あの状況、既に爆発寸前だった筈だ。
 きっと無理をして助けてくれたのだろう。
 どんな手段を使ったのかは知らないが、それでも、見ず知らずの自分の為にそこまでする人が居る。
 その事実自体がまだ幼いアインハルトにはまだ理解出来なかったし、腑に落ちない点でもあった。
 アインハルトの問いに、女は一瞬躊躇う様な素振りを見せて、

「今頃何処行ってんのかは知らないけど、あいつなら倒れてる人を見捨てはしないと思って、ね」
「あいつ……?」
「あぁ、いいの。こっちの話」
「そう、ですか」

 余計に訳が解らなかった。
 だけど、それ以上訊くのは野暮な気がして、口を閉ざす。
 誰かは知らないが、この女局員にも、何か訳があるらしかった。
 そうこうしていると、女局員は別の局員に呼ばれ、アインハルトの視界から居なくなった。
 ようやく一人になって、考える。

 自分は今まで、ずっと何をしていたのだろうか、と。
 長い間、何か悪い夢でも見せられていたような気がする。
 だけど、今はどういう訳か、その夢からも解放されて――
 これからは自由に、自分の力で未来を歩んで行ける。
 そんな気がする。

「覇王の悲願を、成し遂げる為に――」

 未だ痛む拳を掲げ、グッ、と握り締めた。
 これが自分の進む道だと、宣言する様に。

960 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:23:14 ID:D5cW9/Q.0
 




 ヴィヴィオとノーヴェは、夜の街を闊歩する。
 他愛もない雑談を繰り広げながら、ヴィヴィオの家に帰る為に。
 ヴィヴィオは思う。ノーヴェは本当はとても優しいお姉さんなのだ、と。
 男勝りな口調で、時には厳しい時もあるけれど、正しく自分を導いてくれる。
 そんな彼女が、今日一日ヴィヴィオの為に付き合ってくれた事。
 それから、こんなに疲れるまで練習に付き合ってくれた事。
 それら全てに感謝の気持ちを込めて、ヴィヴィオは一礼した。

「今日は色々ありがとうね、ノーヴェ」
「ああ、まあ気にすんな。練習試合ならまたいつでも相手になってやるぜ」

 外灯に照らされた遊歩道を歩きながら、二人は笑みを交わす。

「うんっ、わたしはもっともっと強くなるから――これからもよろしくね」
「そんな事は改まって言われるまでもねーよ」

 両手を後頭部で組んで、へっ、と笑いながら言う。
 聞けばノーヴェもまた、遥か高みを目指す為の、修行の途中なのだとか。
 ヴィヴィオの師匠代わりを勤めてはいるが、彼女自身もまだまだ強くなりたいとの事。
 そんな相手だからこそ、共に上を目指す気持ちが解り合えるからこそ。
 この人となら、一緒に高みを目指していきたい、と思えたのかもしれない。
 ともあれ、ヴィヴィオは決めたのだ。
 強くなる。もっともっと、何処までも強くなる、と。
 それがなのはママの言った、ヴィヴィオが自分で決めた“やりたい事”。
 それを貫かんとする限り、なのはママはきっと天国でも笑ってくれる筈だ。
 それは非常に嬉しい事である。
 なのはママが喜んでくれると思えば、頑張ろうと思えて来る。
 だけど、それは他人から見れば些か不自然にも見えるかもしれない。
 何故なら――

「なあヴィヴィオ、一つ訊いていいか」
「うん、なあに?」
「あのさ、無理は、してないよな?」
「え?」

 小首を傾げるヴィヴィオに、ノーヴェは一瞬躊躇う素振りを見せた。
 その瞬間に、何となくではあるが、ノーヴェの言わんとする事が解った気がした。

「その……こんな事言うのは何だが、大好きなママが死んだってのに、全く泣かないしさ」
「…………」
「あっ、いやっ……その、悪いとかって言ってんじゃないんだ! ただ、寂しくないのかなって思ってさ……」

 慌てて両手を振って否定を表明する。
 解って居る。ノーヴェが言いたい事は、解って居るのだ。
 彼女はヴィヴィオを責めようとしている訳ではない。
 ただ単に、本当に心配してくれているのだ。
 出来るだけ平静を保って答える。

「んー、寂しくないって言ったら嘘になるけど」

 だけど、

「もう、決めたんだ。わたしは泣かないって」
「何でだよ……泣きたい時は、泣いたっていいじゃんか」
「わたしはもう、ゆりかごの中で、沢山泣いて来たから」

 実際、この四年間、寂しさに涙する事もあった。
 それは事実だし、今だってなのはママに会いたいと思う時はある。
 ヴィヴィオはこんな子に育ったんだよって、笑顔で報告したいと思う時もある。
 だけど、それは出来ないし、それをすれば、なのはママは果たして笑顔で迎えてくれるだろうか。
 きっと誰よりも強かったあの人は、ヴィヴィオが後ろを振り返る事など望まないのではないだろうか。
 だからこそ、こうしてたまに心の中で大好きなママの事を思い浮かべ、ヴィヴィオはひたすらに前へ進んで行く。
 それだけで十分だ。それだけで、なのはママは喜んでくれる。
 何よりも、そうする事が一番の親孝行の様に思えたから。

961 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:27:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「けど、よ……それじゃ寂しいじゃねーかよ」
「うーん、確かに寂しい事かもしれないけど」

 ノーヴェの表情を見れば、何処か辛そうであった。
 かぶりを振って、ヴィヴィオの代わりに歯噛みする。
 この瞬間、この人は本当に心から優しい人なのだな、と思った。
 ヴィヴィオの為にここまで心配してくれて、ここまで辛そうな表情をしてくれる。
 そんな表情を見ていると、不謹慎だろうか、何処か心が温まる気がして。

「けどね、わたしはなのはママに約束したんだ。
 もう泣かないって、強くなって、自分で決めた自分の道を進むんだって」

 それが何度も誓った、母との約束。
 そして、何よりも、ヴィヴィオ自身が決めた事。

「それにね、もしもわたしがいつまでも泣いていたら、なのはママは安心して眠れなくなっちゃうから」

 ……これは、ヴィヴィオがまだ幼かった頃の話だ。
 母の愛に飢えていたヴィヴィオは、夜泣きばかりしていた。
 皆が寝静まった時間になっても、ヴィヴィオだけは寂しさのあまり泣いていた。
 そんな時、優しいなのはママは、いつだってヴィヴィオに付き添ってくれた。
 ヴィヴィオが安心して眠るまで、ずっと抱きしめて頭を撫でてくれた。
 本当は朝早くから仕事だってあったのに。寝不足で辛かった筈なのに。
 あの人は、自分の睡眠時間を削ってでも、ヴィヴィオの為に尽くしてくれたのだ。
 だから、ヴィヴィオが夜泣きをしていたら、なのはママは眠れなくなる。
 だけど、もうこれ以上、ヴィヴィオがあの人の眠りを妨げる事は無い。
 きっと今頃は、なのはママは安心して眠ってくれている筈だと、思う。
 と、そこまで沈思した所で、気付く。
 隣から聞こえる、啜り泣く声に。

「――って!! なんでノーヴェが泣いてるの!?」
「ば、馬鹿野郎、泣いてなんか……ねぇよ!」
「もう、涙拭いてから言いなよー……」

 可愛らしい小さな鞄からハンカチを取り出して、差し出す。
 ノーヴェはそれをひったくる様にして、自分の涙を拭った。
 そんな姿を見て、ヴィヴィオはつい微笑んでしまうのだった。






 なのはママ、わたしの周りには、こんなにいい人が沢山います。
 みんなみんな、わたしの事を心配してくれて、良くしてくれます。
 だからヴィヴィオは今、とっても幸せです。
 なのはママに貰ったものは、今も全部この胸で生き続けているから。
 それを受け継いで、ヴィヴィオはこれから、自分の力で歩いて行くから。
 だからなのはママは、安心して眠っていていいんだよ。

962 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:32:48 ID:D5cW9/Q.0
 




 こうして、一つの物語は幕を閉じる。
 運命の悪戯から、殺し合わされた60の命。
 そんな中で、生き残ったのは、たった一つの幼い命。
 だけど、たった一人でも生き残りが居る以上、物語は終わらない。
 あの戦いを経て生還したヴィヴィオには、無限の未来が待ち受けているのだから。
 

 そう。
 高町なのはに“これから”を託された少女の物語は。
 彼女の人生に大きな影響を与える、本当の物語は。
 これから始まるのだ。


 高町ヴィヴィオが進む、未来へと続く道のり。
 その先に待ち受けているのは、絶対に出会う事の裂けられぬ運命。
 ヴィヴィオが、更なる高みを目指さんとする切欠と成り得る人物は、唐突に訪れる。

 ノーヴェと共に帰路についていたヴィヴィオの前に現れたのは、一人の少女。
 白と翠の騎士甲冑を纏った少女が、目の前の外灯の上に、ぽつんと佇んでいたのだ。
 絹糸の様に美しい―まるでヴィヴィオの金髪と対を成す様な―碧銀の髪は、夜の風に吹かれて靡く。
 蒼と紺の瞳は、ヴィヴィオと同じ……されど、虹彩の違うオッドアイ。
 その視線は、まるで彼女の背後で輝く二つの月の様に美しく。
 二色の月の如く煌めく瞳は、じっとヴィヴィオを見据えていた。
 春の風に吹かれて散った新緑の葉が、二人の間を駆け抜ける。
 あまりにも静寂で、静謐過ぎる時間が流れて――ヴィヴィオは、彼女の姿に心を奪われた。
 それが何故なのかは、結局の所、誰にも解りはしない。
 カッコいいとか、美しいとか、筆舌に尽くし難い様々な感情が駆け廻って。
 紅と翠のオッドアイと、蒼と紺のオッドアイ。
 二人の視線が交差する。

「聖王オリヴィエ……いえ、高町ヴィヴィオさんとお見受けします」
「は、はいっ!」

 思わず敬語が口を突いて出てしまう。
 彼女との出会いは、それ程までに刺激的で。
 右隣に居たノーヴェが、今どんな表情をしているかとか――
 そんな事は簡単に頭の片隅からも消し飛んでしまう程であった。

「私の目的は只一つ。貴女に、確かめさせて頂きたい事があります」

 淡々と語るその口調。
 一語一句聞き逃さずに、耳を傾ける。
 透き通る様な美しい声が、ヴィヴィオの耳に吸い込まれてゆき。
 何を言われて居るのかを理解するよりも早く、彼女がヴィヴィオの眼前へと飛び降りた。
 まるでその、尋常ならざるスタイルの良さを見せつけるかの様に。
 長く美しい脚で、すたっ、とコンクリートを踏み締めて。
 胸の前に拳を当てて、彼女は言った。

「私の名前はハイディ・E・S・イングヴァルト……いえ、アインハルト・ストラトス。
 覇王の拳と聖王の拳、果たしてどちらの方が強いのか……です」

 覇王の名前は、アインハルト・ストラトス。
 碧銀の髪を揺らし、何処か憂いを帯びた口調でそう告げた。
 それは果たして、運命か、必然か。
 ここに出会ってしまった二人の少女。
 それは、古代の王の運命を背負いし少女達。

 二人がこれから、どんな物語を刻んで行くのか。
 それは誰にも解らない。未来は誰にも見えはしないのだから。
 だけど、こうして新たな物語は紡がれて行く。
 それだけは疑いようの無い確固たる事実。

 終わらない明日は、これからも続いていく。
 これはそんな物語の、ほんの序章に過ぎないのだ。

963 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:42:05 ID:D5cW9/Q.0
長い間本当にありがとうございました。
エピローグはこれにて投下終了です。

私自身、様々な思いが混濁しておりまして、もう何と言えばいいのか……という感じです。
何はともあれ、企画段階から数えて4年間続いたこのロワ企画も、これにて終了。
物語のラストを飾るに相応しい「第200話・エピローグ」を任された事は、自分にとっても誇りです。
今でもあれだけ盛り上がった最終話の後を引き継ぐのが自分なんかで良かったのか、
あれだけ盛り上がったロワ企画の最後を飾るのが自分でいいのか、
若干の不安はありますけれど、それでもここまで作品を書かせて下さった皆様には感謝してもしきれないくらいでございます。
これにて生還者のエピローグ、主催陣営の物語にも決着がついて、この企画は一旦終了?という形になるかと思います。
まだ各世界のエピローグが残されているのかどうかは自分にも解りませんが、
まだ続くようなら、自分も最後まで付き合いたいと思っておりますので、皆さまあと少しですが宜しくお願いします。

それから、覇王断空拳はこちらのミスです。推敲した筈が、しょうもないミスを……
3カ月近く待たせてしまったのは非常に申し訳ありませんが、実は何度も書いては消して、
という作業を繰り返して来た為に、もしもカット部分を全部入れたらこれの二倍くらいの長さになっていたかと思います。
ヴィヴィオの進級パーティの描写や、ヴィヴィオVSノーヴェの描写など……まあ、蛇足かと思い省いた訳ですが。

それでは、あとがきもこの辺にしておいて。
皆さま、長い間お付き合い頂き本当にありがとうございました。
書き手の皆さま、読み手の皆さま、これを読んで下さっている全員の力が合わさって、
この企画は完結できたのだと思っております。それでは、また機会があれば宜しくお願いします。

964StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 15:47:24 ID:B.BCZI7kO
投下乙です!
長い間、本当にお疲れ様でした!
最後に相応しい、最高のエピローグです!
本当にありがとうございました!

965StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 15:51:07 ID:NHOSq.i.0
投下お疲れ様です。
今まで本当にご苦労様でした。

966StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 16:35:05 ID:tuIeZVhw0
投下乙です。
なのロワ完全決着!!
でも、ヴィヴィオの物語はVivid的な方向に進むと……

その中でもスカ達の準備期間の4年間が企画期間の4年間と合致させた言葉が感慨深いなぁ……。

あと、個人的にトーレ戦で服がボロボロになるあの人(ネタバレ回避の為伏せる)の姿を考えると劣情催す人がいそうな……(←誰か吹っ飛ばせ)
しかし全200話、更に50話刻みの回は全て単独話(今回も参加者からの登場者はヴィヴィオだけ)、偶然にしては奇跡的な感じがする。
まだ補完出来そうな部分はある気もするけど、何となく蛇足な感じもするしやりだしたらキリがなさそうなのでこれで終わりでもOKだなぁ。

なにはともあれ、エピローグ担当の◆gFOqjEuBs6氏、◆Vj6e1anjAc氏等々多くの書き手、企画を支えてくれた読み手の皆様お疲れ様でした、そして本当にありがとうございました。

967StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 16:38:02 ID:QR21lJpI0
投下乙です!
今まで4年間、本当にお疲れ様です!
そしてありがとうございました!

968StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 23:44:31 ID:0I6dQF5Y0
投下乙です
さまざまな思い出を胸に秘めて未来に向かって行くか
ロワでの出来事を糧にしてvividよりも少しヴィヴィオたくましくなった気がする
あとこの話限定でアインハルトマジ裏主人公状態w

そして皆さん今までありがとう&お疲れ様でした!

>>966
>まだ補完出来そうな部分はある気もするけど、何となく蛇足な感じもするしやりだしたらキリがなさそうなのでこれで終わりでもOKだなぁ。
俺も同意見だな
だけどもしも書きたければ外伝扱いにした方がいいと思う
『なのはロワ』の物語はこれで〆にした方が綺麗だし、それにもしも他の世界のその後を書きたい場合そのクロス書き手に一言言うべきだし、
それでもし連絡が付かなくても外伝にすればある程度体裁も整うかと

969 ◆jiPkKgmerY:2011/05/14(土) 23:57:08 ID:9tz52Wzc0
久し振りに見たら完結してたー!
合計200話にも至る作品を書き上げた書き手の皆さま方、そして四年間なのロワを読み続けてくれた読み手の皆さま方、本当にお疲れ様でした。

中盤から全くロワに参加できず申し訳ないの一言です。もっと力添えできたらと悔しさが残るのも、正直なところです。
なのロワは書いていてとても楽しいロワの一つでした。SSの書き手として、学ばせて貰えたことも非常に多かったロワです。
今更ながら本当に完結おめでとうございます!そして、ありがとうございました!

……ああ、リリカルTRIGUNも完結させたいなあ。

970StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 21:06:53 ID:drRSzQvAC
よんだけどあまりにもはキャラ崩壊しすぎだな、特にはやてが
今までヴォルケンが廻り合って来た最後の主なのに
stsで自分はグレアムとか様々な人の犠牲などの上に建っているという事に負い目を感じているなど基本的なことがなさすぎて

971StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 21:16:04 ID:7Au3vuFw0
ここのはやてはStrikerS終わってからのSS出典だからな
そのヴォルケンがあんな状態じゃなあ
基本的に切羽詰まって手段選んでいられないって感じだから

972StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 22:43:04 ID:naSvjkEYC
それにしても…んーやっぱり最早別人としか感じなかった、全部
だからなんか熱い展開があってもなんだかな・・・って思う
茶番劇に

公式じゃない、所詮SSになにいってんだ?って感じだけど・・・

973StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 22:53:14 ID:7Au3vuFw0
『魔法少女リリカルなのはFINAL WARS』は読んだんだよな?
それでそう感じたのなら肌が合わなかったのかな

974StrikerS名無しX:2011/06/11(土) 03:12:09 ID:gqaQDMDE0
結構改心するフラグはあった気がするけどな
見事にへし折り続けて暴走したもんだ

しかし個人的には、はやての足掻き続ける様な生き方は
このクロスの見所の一つだったと思ってる

975StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 01:41:58 ID:HRuNvtGE0
あのはやてを原作はやてが見てたら…と考えるだけでも興奮する俺はドSw

976StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 09:18:01 ID:y6s0U52o0
軽くショック受けそうだな
いや、寧ろ少し思うところあるのかな

977StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 11:58:41 ID:9ozd7FHA0
WARSはやては原作はやてと大きく違うが変化の原因である家族への愛とか思い当たる部分があるからな
もっとも、はやて本人よりその周りの知人友人の方がショックデカそうw

978StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 13:48:01 ID:y6s0U52o0
ヴォルケンリッターとかすごい責任感じそう

979StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 17:11:37 ID:gVwnH5Dc0
それを想像するだけでワクワクする俺はドSw
セフィロスとかは自分の神聖な存在を穢された感じかな?

980StrikerS名無しX:2011/06/21(火) 20:26:20 ID:3y42jEsU0
そりゃあ満足した状態から参戦させられたからなw

981StrikerS名無しX:2011/06/24(金) 10:59:32 ID:kCUGNouU0
ここも残りレス数20切ったか
雑談は「雑談スレ」でいいとして、残りのエピローグ(あるのかどうか知らないけど)は「仮投下・修正用スレ」でいいか

982StrikerS名無しX:2011/06/24(金) 12:41:51 ID:.yyagUkYO
それで良さそうだな

983StrikerS名無しX:2011/06/28(火) 03:18:23 ID:H4vg29fI0
>978
劇中の夢に出てきたヴォルケンズの表情は、概ねそんな意味だったんだろーな・・・

984StrikerS名無しX:2011/08/05(金) 18:27:56 ID:wdu7lTuQ0
久々に覗いてみて思ったけど
ViVidで「なのはとの戦いで聖王の鎧は無くなった」っていう台詞があったな…二次創作の弊害がまた一つw
まあでも今のヴィヴィオの魔力ってStSの聖王の時のまんまだから別に設定変えなくてもいいかも知れない

985StrikerS名無しX:2011/08/08(月) 21:34:29 ID:BjgOHI2g0
うん、それが判明した時マジで焦ったw

986StrikerS名無しX:2011/09/13(火) 21:32:54 ID:pruAto6E0
連載ものの怖いところだね

987StrikerS名無しX:2011/09/29(木) 09:11:49 ID:N63UKaFc0
あと実は「ヴィヴィオは格闘には向いていない」とかもな

988StrikerS名無しX:2011/10/05(水) 18:35:40 ID:vhyGa4BM0
やっばい、79話〜82話の鬱展開で心が折れそうだ。
一気に3人もマーダー化して、こっからどうなるんだ。

989StrikerS名無しX:2011/10/05(水) 22:08:40 ID:UMuQTKng0
079 月蝕 ◆9L.gxDzakI セフィロス、八神はやて(A's)、アンジール・ヒューレー
080 阿修羅姫 ◆HlLdWe.oBM フェイト・T・ハラオウン(A's)、新庄・運切
081 Amazing Grace(The Chains are Gone)(前編)(後編) ◆Qpd0JbP8YI L、ザフィーラ、アレックス、柊かがみ
082 Deathscythe ◆9L.gxDzakI キング、天道総司、キャロ・ル・ルシエ

この辺か
確かにセフィロス、フェイト、キャロと立て続けに覚醒しちゃったんだなあ

でも鬱展開的観点からすればここよりも後半に……

990StrikerS名無しX:2011/11/02(水) 15:56:12 ID:lYa..Qqk0
ですよね

991StrikerS名無しX:2011/12/01(木) 11:02:07 ID:tenpVYmY0
やっぱり放送越えるとマーダーって増えるんだな

992StrikerS名無しX:2011/12/31(土) 09:35:37 ID:7AX.oOPk0
死亡者と関係ある奴は特にな

993少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

994StrikerS名無しX:2011/12/31(土) 23:34:20 ID:oNcCUbFUO
なのはロワ完結の記念すべき年もあと少しか

995StrikerS名無しX:2012/01/03(火) 17:23:19 ID:zrkZR8NQ0
あけおめ

996StrikerS名無しX:2012/01/13(金) 02:02:24 ID:3ekYBKwQ0
次スレはよ

997StrikerS名無しX:2012/01/16(月) 10:46:23 ID:TNKH0el20
次スレは>>981にあるように雑談は「雑談スレ」で、残りのエピローグ(あるのかどうか知らないけど)は「仮投下・修正用スレ」でいいだろう
もう完結しているんだから

998StrikerS名無しX:2012/01/17(火) 09:34:50 ID:1O4vRLg60
去年の今頃は最終決戦一歩手前か

999StrikerS名無しX:2012/01/18(水) 08:54:42 ID:XyWptDvA0
雑談→雑談スレ ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1241963749/

残りのエピローグ→仮投下・修正用スレ ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1241966311/

1000StrikerS名無しX:2012/01/18(水) 08:55:32 ID:XyWptDvA0
>>1000ならリリカルなのはシリーズをこれからもよろしく




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