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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

45BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:48:39 ID:tXZnpddQ0
.
 ――ばぁん。

 銃声が鳴り響いたのは、ちょうどこの瞬間だった。
(!?)
 何が起こったのかなど理解できない。
 唐突に銃声が轟いて、唐突にアーカードが血を噴き出したのだ。それだけで理解しろというのが無理な話だ。
 だが混乱した彼女の思考は、次の瞬間にはクリアになっていた。
 続いてその血肉をぶち抜いたのが、見覚えのあるアンカーだったからだ。
(金居が戻ってきたんか!)
 螺旋を描き真紅にまみれるのは、あの優男に渡されたイカリクラッシャー。
 胡散臭い男ではあった。そう簡単に信用していい相手でないことは分かっていた。
 だが今この瞬間においては、まさに天恵と言っていい最高の援軍だ。
 鉄塊が飛んでくると同時に、驚愕と共に振り返るアーカード。
 今だ。
 今こそが絶好のタイミングだ。
 待ちぼうけるしかなかった機会が、今人の手によってこじ開けられた。
「――鋼の軛ィッ!!」
 力の名を、口にする。
 ありったけの魔力を注ぎ込み、白銀の聖杭を形成する。
 生み出せたのはたった1つ。だがこの際、それだけだって十分だ。
 狙うは未だ健在のもう片方の腕。
 潰された右腕とは反対側にぶら下がっている、左腕の方を狙う。
 杭は過たず命中した。
 銀の光は赤い袖を捕らえ、アーカードを縫いつけることに成功した。
 これで両腕が潰された。ヴィータが飛び込んだとしても、反撃を受けることはない。
 作戦成功だ。
 今こそこの好機を逃すことなく、最後の一撃を打ち込む時だ。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」

 以上が吸血鬼の両腕を潰し、騎士に千載一遇の好機をもたらした事象の顛末である。



 こくり、と声に頷き返す。
 サファイアの色に燃える瞳を、吸血鬼の方へと向け直す。
 いけ好かない八神はやての偽者野郎に、まだどんな奴なのかもよく分からないコートの男。
 それでも今この瞬間は、決して訪れないかもしれなかったチャンスを、必死でこじ開けてくれた者達だ。
 どんなに忌々しかったとしても、殺させたくなんてない命だ。
 分かるか、吸血鬼アーカード。
 触れるもの全てを拒絶し暴力を振るい、闘争と死を撒き散らす化け物よ。
 これが自分達人間の力。
 お前がひたすら渇望していた、尊厳ある人間とやらの力だ。
 同じ目的を果たすためなら、手を取り合って結束を結び、共に困難に立ち向かう力だ。
 孤高を気取り、差しのべられた手を払いのけ、目に映る全てを虐殺するだけのお前には、人間は絶対に負けはしない。
 1人1人は弱くたっていい。1人でお前に勝てなくたって構わない。
 弱い人間は弱いなりに、互いに手を繋ぎ合って、何度蹴散らされても立ち上がってやる。
 それで最後に立っているのがこちらなら、自分達人間の勝利なのだから。

46BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:49:12 ID:tXZnpddQ0
《ヴィータ、デバイスのフルドライブを使え! カートリッジ・ロードは一発だ!》
「おう! そっちこそ最大火力で頼むぞ……この一撃で、絶対に野郎をぶっ潰すんだ!!」
 叫びと共に、カートリッジを起動。
 がしゃん、とコッキング音が鳴り響く。しゅう、と排気煙が噴出する。
 鋼の豪槍の出力効率を、一気に最大レベルまでアップ。
 デバイス自体に変化はない。グラーフアイゼンのギガントのように、外見が変わるわけではない。
 それでも、その中身は本物だ。
 身体にかかる負担こそ増えたが、その分五体に漲るエネルギーは、十二分に増強された。
 ぼう、と穂先に火が灯る。
 烈火の剣精の火力の全てが、騎士の槍を紅蓮に染める。
 煌々と燃え盛る黄金の輝き。
 視界を揺らめかせる熱風と陽炎。
 まだだ、まだ足りない。
 もっとだ、もっと。
 もっと輝け。
 もっと煌け。
 もっと熱く、燃え上がれ。
 どうせ先の長くない命だ。朽ち果てる寸前まで痛めつけられた身体だ。
 この命の灯火が燃え尽きたっていい。命の燃料全てを焼き尽くしたっていい。
 再生すらも追いつかない、一撃必滅の灼熱の業火を、奴の心臓に叩き込んでやる。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
 構えを取った。
 腰を据えた。
 十二分に呼吸を整え、突撃の準備を整えた。
 全身からほとばしる灼熱の魔力が、もうもうと真紅の蒸気を立ち上らせる。
 槍の穂先に集められた炎が、爛々と燃え盛り大気を焼き焦がす。
 その姿、まさに灼熱真紅。
 その力、まさに爆熱真紅。
 紅の鉄騎の命の炎、今まさに全力全開極まれり。
「たぁッ!」
 がんっ、と勢いよく大地を蹴った。
 びゅん、と勢いよく飛び立った。
 地面スレスレの低空飛行。ほとんどホバリングの高度での高速機動。
 それは西洋の不死鳥か。
 はたまた東洋の鳳凰か。
 空気を切り裂き焼き尽くし、一陣の熱風が駆け抜ける。
 灼熱の爪を携えて、爆熱の翼を羽ばたかせ、小さき騎士が疾駆する。
 目の奥に浮かび上がるのは、既に逝ってしまった仲間の姿。
 守護騎士ヴォルケンリッターの中でも、最も高い技量を有した、4人を束ねる烈火の将。
 炎の魔剣レヴァンティンを振るい、灼熱業火の剣術を繰り出し、数多の敵を蹴散らした猛者だ。
 悪いな、シグナム。
 今となってはこの声も、あの世のお前には届かないんだろうが。
 オリジナルにゃ到底及ばない、馬鹿にしてるような技術だろうが。
 それでもせめてもの験担ぎだ。
 今はその名前だけでも、ちょっとだけあたしに貸してもらう。



「紫電――――――一閃ッ!!」


.

47BRAVE PHOENIX ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:49:42 ID:tXZnpddQ0
 大地を滑るように駆け抜けた。
 力の名前を雄叫びに乗せた。
 それは烈火の将シグナムが、最も信頼した必殺技。
 魔力変換資質を持った騎士の、基礎にして奥義と称される戦闘技能。
 この手に握るのは槍型デバイスで、技術もにわか仕込みだが。
 その穂先を燃やす炎も、自前じゃなく他人の借り物だが。
 今はせめてその名と共に、お前の力を貸してほしい。
 そしてシグナムだけでなく、みんなの力も貸してほしい。
 救えなかった命達よ。守れなかった命達よ。
 今はこの紅の鉄騎の、たった1つのわがままを貫くために、みんなの力を貸してくれ――!
「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!!!」
 咆哮が上がる。
 崩壊が鳴る。
 びりびりと大気を揺さぶる唸りと共に、ガラスの砕かれたような音が響く。
 やはり恐るべきはアーカード。
 あるいはその軛に込められた魔力が、ほんの少しばかり足りなかったのか。
 盾の守護獣の拘束をも破壊し、たっぷり溜められた手刀の一撃が、弾丸のごとく迫ってくる。
 ずぱ、と空を裂く音が聞こえた。
 どっ、と血の散る音が聞こえた。
 みちみちと肉をぶち抜いて、ばきばきと骨をぶち砕く音を、耳ではなく肌で感じていた。
《ヴィ……ヴィータッ!》
「まだ、まだあァァァァ……ッ!」
 そうだ、まだだ。
 この程度で歩みを止めてたまるものか。
 まだ直撃を食らっただけだぞ。
 腹をぶち抜かれてすぐだぞ。
 まだほんの少しだけ命は保つ。この程度では即死に至りはしない。
 ならば、こんなものに構ってられるか。
 こんな負傷ごときで止まってられるか。
 なおも飛行魔法を加速させた。
 伝説のフェニックスの翼を羽ばたかせた。
 腹に突き刺さった吸血鬼の剛腕を、根元まで食い込ませるようにして。
 ぐちゃぐちゃと血肉を引き裂かれる不快感にも、おくびも怯むさまを見せぬまま。
「ぶゥち抜けええええぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェェェェ―――――――――ッッッ!!!」
 遂に繰り出された一撃は、吸血鬼アーカードの左胸を、寸分の狂いなく貫き通した。

48わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:50:37 ID:tXZnpddQ0
 そうか、これが死だったか。
 ごふ、と口元から血を垂らしながら、最強の吸血鬼は認識する。
 薄ぼんやりと遠ざかる意識の中で、自らの身体へと意識を向けた。

 命が遠ざかっていく。
 身体の中に抱え込んだ、やかましいほどの命の声が、次々と口を噤んでいく。
 あれはかつての十字軍。あれはインドかどこかの兵士だったか。
 今息絶えていったのは、南米のホテルを襲った兵士達。
 ああ、ちょうど今消えていったのは、トバルカイン・アルハンブラとかいった、トランプ使いの伊達男か。
 嫌になるほど味わってきた、五感の喪失感と共に。
 長らくろくに味わってこなかった、第六感や意識そのものさえも、ゆっくりと喪失していく感触。
 これが、死か。
 これが死というものだったか。
 かつてまだ人であった時、あれほどに怖れ拒絶した死。
 かつて伯爵を名乗っていた時、胸に杭を突き立てられ、擬似的に味わったかりそめの死。
 そして今、この身体に、今度こそ本当の死を感じている。
 ああ、そうか。
 こんなものが死だったのか。
 こんなにも静かで穏やかなものを、かつての私は怖れていたのか。

 諦めが人を殺す。
 人間に死を与えるものは、絶対的な力でもなければ、圧倒的な悪意でもない。
 力や悪意に立ち向かうのをやめ、諦め抵抗を捨てた時点で、ようやく人間の敗北は確定する。
 だが、裏を返せば、諦めない限りは人間は無敵だ。
 たとえみっともなく逃げおおせたとしても、たとえ恥を忍んで頭を下げたとしても。
 生き延びてまた立ち向かおうとする限り、人の可能性は無限大だ。
 化物達(フリークス)よりも遥かに弱く、遥かに短命であるからこそ。
 限りある短い生命に、生きた証を残さんと、化物以上に懸命になれるからこそ。
 人とはどこまでも愛おしく、果てしなく高潔で、何物にも代えがたい強さを持った生命たり得るのだ。

「チッ……結局、相討ちか……」

 故に誇るがいい、紅の鉄騎よ。
 小さくも雄々しき心を抱いた、誇り高き守護騎士(ヴォルケンリッター)よ。
 お前は今まさに成し得たのだ。
 人の尊厳とたくましさを、その身をもって証明したのだ。
 力及ばず朽ち果てた、真紅の竜を操りし少年ですらも。
 化物じみた力を持ちながら、しかしどこまでも人であった神父ですらも。
 人であることに耐えかねて、化物へと化生した剣士ですらも、お前の領域までは至れなかった。
 お前は今まさに私を倒した。
 このあまりにも死ににくい化物の、夢の狭間を終わらせたのだ。

49わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:51:45 ID:tXZnpddQ0
 
「アーカード……てめぇは……本当にこれで、死ぬんだよな……?」

 どうか誇ってほしい。
 自分は人間だったのだと。
 その意志で化物を打ち倒し、人間の尊厳を証明したのだと。
 それが何よりの弔いだ。
 そうであれば、お前の踏み台になったこの私も、幾分かは報われるというものだ。

「ああ」

 そう。
 もう、これでおしまいだ。
 本当に私はこれで死ぬ。
 永らく渇望していた死を、今度こそ本当に迎えることができる。
 改めて思い起こしてみれば、あまりに長すぎるものではあったが、それなりに楽しい人生だった。
 何人もの狗や人間や化物が、私を殺さんと立ち向かってきた。
 ギリギリの命のせめぎ合いが、その度に私の生涯に充足を与えてくれた。
 もちろん、心残りがないわけではない。
 主インテグラの最期の命令(ラスト・オーダー)を果たせず、中途で投げ出してしまったこと。
 アンデルセンやセフィロスの仇を見つけ出し、この手で殺すことができなかったこと。
 狂った少佐の率いる最後の大隊(Lazte Battalion)に、今度こそ引導を渡してやることができなかったこと。
 だが残念ながら、それはもはやどうしようもないことだ。
 それを叶える力も時間も、今の私には残されていない。
 ないものねだりをしたところで、できないことはできないのだ。
 私は人間に対峙された、哀れな人間なのだから。

「これで、本当に――――――」

 ふと、視線を傾け空を仰ぐ。
 ああ、今夜は満月だったのか。今更になって気がついた。
 なるほど、こんな戦場には似つかわしくない、黒く澄み渡ったいい夜空だ。
 二日も満月が続くというのに、妙な違和感を覚えはしたが、それは無粋というものだろう。
 こんなに月が明るくて、こんなに星が眩いのだ。
 本当に、いい夜だと思う。
 静かで、美しくて、いい夜だ。
 こんな夜なのだから。

「――――――さよならだ」

 まぁ――死にたくもなるさ。



【アーカード@NANOSING 死亡確認】


.

50わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:53:02 ID:tXZnpddQ0


 めらめらと燃え盛る炎が、アーカードの死体を焦がしていく。
 あの忌々しいくらいに死ににくかった化け物が、再生もへったくれもないままに、静かに灰へと変わっていく。
 ああ、本当にやったんだ。
 本当にこの手で、こいつを倒すことができたんだ。
 人間、やればできるもんなんだな。まぁ、厳密にゃあたしは人間じゃねえんだけど。

《ヴィータ! おいヴィータ、しっかりしろよっ!》

 頭の中で響くアギトの声が、今はぼんやりとしか聞こえない。
 本格的にやばいんだな、これ。
 もう、ほとんど意識が保ててねぇんだ。
 無理もねぇだろうな。いくら闇の書のプログラムっつったって、基本的には人体の再現なんだ。
 そりゃあこんだけの血を喪って、脊髄も筋肉もメタメタに潰されたら、生きてなんていられないだろうさ。

「悪ぃ、な……最後の最後で……ドジ、っちまった……」

 これは嘘だ。
 こんなのは、ドジでも何でもなかった。
 どの道死因が変わるだけだ。ここまで痛めつけられた身体だったら、そのうち衰弱死してただろうさ。
 それにアギトが気付けなかったのは、多分、初めてのユニゾンだったからなんだろう。
 ま、それはそれでよかったかもしれねぇな。余計な気遣いや負い目を、あいつにさせねぇで済んだわけだから。

《畜生……なんで、なんでこうなっちまうんだよぉ……っ!》

 なんだ、こいつ泣いてるのか。
 あたしなんかが死にそうになってるのを、悲しいって思ってくれてるのか。
 不謹慎かもしれねぇけど、なんかちょっと、嬉しいもんだな。
 もう随分長いこと生きてきたけど、誰かに泣くほど心配されたのなんて、これが初めてかもしれねぇから。
 人殺しだの辻斬りだのやってきた気味悪い兵器が、こうして誰かに人間として、死ぬのを悲しんでもらえてるんだから。

「……なぁ……はやて……」

 嬉しいついでに、もう1つだけわがままを言わせてほしい。
 声をかける相手は、あのいけ好かない偽はやてだ。

「ヴィヴィオ、って娘……なんだけどな……そいつ……助けて、やって、ほしいんだ……
 あたしが……守る、って……助けてやるって……約束……した、から……」

 本当は、あまり頼みたくなんてない。
 あいつがいい奴かどうかはまだ分からないし、何より自分の引き受けた仕事を、他人に押しつけたくなんてない。
 でも、そいつはもう無理な話だ。
 あたしはこのままここで死ぬ。
 ギルモンとの約束は、もう二度とあたしの手では果たせねぇ。
 そのままあたしの命と一緒に、ヴィヴィオを助けるって約束も消えちまうよかは、誰かが引き受けてくれた方がよっぽどいい。

51わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:55:18 ID:tXZnpddQ0
 
「……分かった。約束する」

 ともあれ、これでもう用事は全部済んだ。
 生きているうちに言っておきたいことは、これで全部言い終わった。
 あとはゆっくりと、自分が死んでいくのを待つだけだ。

 ああ……にしても、これでホントに終わりなんだな。
 闇の書の主の守護騎士として、何百年も続けてきた戦いも、これで終わっちまうんだな。
 何もかもが、必ずしも満足だったってわけじゃない。
 まだまだはやてとしたいことはたくさんあった。
 行きたい場所もたくさんあったし、食べたいものもたくさんあった。
 そうでなくても、はやての足を、この手で治してやりたかった。
 でも、ごめんな。
 あたしはここまでみたいなんだ。
 もうあたしは、はやてと一緒に生きられない。
 大好きなはやての力になることも、足を治してやることもできない。
 駄目な子だよな。ごめん、叱ってくれてもいい。
 無理に欲張っちまったから、結局こんな道しか選べなかった。
 身に余る結果を求めたから、自分を犠牲にすることしかできなかった。

 でも、はやて。
 許してくれるなら、せめて1つだけ言わせて。

 あたしは確かに、何もかも全部満足したわけじゃない。
 この世に未練はまだまだあったし、本当なら死にたくなんてなかったって思ってる。

 でもさ。

 はやてと一緒に生きてる間は、本当に楽しかったんだ。
 戦うことだけしてきたあたし達が知らなかったことを、はやてはたくさん教えてくれた。
 嬉しい時には笑うことも、笑えるくらい嬉しいことが、この世界にたくさんあることも。
 あたし達ははやてに会えたから、人間みたいに生きることができたんだ。
 あたしははやてに会えたから、人間みたいに死ぬことができたんだ。

 だから、さ。

「……ありがとな……」

 あたしはホントのホントに――――――幸せだったんだよ。



【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's 死亡確認】


.

52わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:56:09 ID:tXZnpddQ0


「使えそうなものは、この首輪だけか」
 感情の希薄なクールな声で、金居がぼそりと呟いている。
 左手に握られているものは、あの吸血鬼の背中に背負われていた、すっかり炭化したデイパック。
 ああまで焼けてしまったのだ。アグモンなる者の首輪以外は、残らず全滅してしまったらしい。
「そっちはどうだ?」
 正宗を拾い上げながら、金居がはやてへと問いかける。
 逆に彼女の左手には、ヴィータが投げ捨てたデイパックが握られていた。
「ああ……ちゃんとご褒美とやらが入っとったわ」
 緩んだ鞄の口に突っ込んだ右手が、その中に入っていたものを取り出す。
 禍々しい意匠の刻み込まれた、異様な風体の短剣だ。
 魔獣の爪のような刃が、何故か3枚重なって生えている。
 色々と探ってみると、何か仕掛けでもあったのだろうか、じゃきんと刃が広がった。
 左右に展開された刃と、上を向いたままの刃。
 三つ又の歪な切っ先のシルエットは、子供が遊ぶ風車を彷彿とさせる。
 更に中を探ってみると、これと同じものがもう1つあった。どうやら2本1対の双剣だったらしい。
「……ヴィータのことは、残念だが」
 ぴくり、と。
 金居の口にした名前に、微かに肩が強張った。
「それでも、俺達に立ち止まっている時間はない。行くぞ。お前に調べてもらいたいことがある」
 冷たく事務的に言い放つと、踵を返して歩いていく。
 かつかつと遠ざかる靴音に、はやてもまた、屈んだ姿勢から立ち上がって続いた。
 そうだ。
 ヴィータは死んだ。
 あのアーカードと刺し違えて、そのまま炎の中で死んでいった。
 最期の瞬間、彼女は自分に、ヴィヴィオを助けてほしいと言った。
 あの時は「はやてらしさ」を装うために、一応返事をしておいたが、さて、一体どうしたものだろうか。
 一方アギトはデイパックの中で、しくしくと涙を流している。
 一番近くにいたというのに、守ることができなかったのだ。確かに無念ではあるだろう。
 それでも彼女は戦いの時、確かに啖呵を切ったのだ。
 あのゼスト・グランガイツが望むのなら、自分も戦ってやる、と。
 今はまだ泣かせておけばいい。役に立ってほしい時には、必ず役立ってくれるはずだ。
(それよりも……問題はヴィータやな)
 半ば炭と化した死体へと、視線を向ける。
 確かにアーカードを倒すことはできた。しかしそれと引き換えに、得難い駒を喪ってしまったのだ。
 蓋を開けて見てみれば、大失態と言っていい結果である。
 鉄槌の騎士が死亡したということは、これで異世界のヴォルケンリッターが、残らず全滅してしまったということになる。
 あれほど便利で扱いやすい駒は、もう手に入ることはなくなってしまった。
 これから先のプランにも、あるいは大幅に支障を来たすかもしれない。

53わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:56:41 ID:tXZnpddQ0
(そう、それだけなんや)
 それだけのはずだ。
 駒を失っただけなのだ。
 戦略上困難になるだけで、さして感傷を覚えるには至らないはずだ。
 それなのに。
(何で、こないな気分になる)
 この胸に込み上げる不快感は何だ。
 この胸を締め付ける寂寥感は何だ。
 一体自分はどうしたというのだ。
 あんなもの、家族の皮を被った偽物が、勝手に戦って死んだだけではないか。
 そもそも偽りのヴォルケンリッターの死など、シャマルを切り捨てた時に経験していたではないか。
 あの時は屁でもなかったというのに、何故この期に及んで同情したがる。
 今更いい子ちゃんぶろうとするな。情に左右されて目的を見失うな。
 しっかりしろ。
 らしくないぞ、八神はやて。
 クアットロの言葉がそんなに堪えたのか。
 ヴィータの姿にそんなに胸を打たれたのか。
 感傷になんて浸ってどうする。こんなにも簡単に情けに流されてどうする。
 ぺちぺち、と頬を両手で叩きながら、視線をヴィータの亡骸から背けた。
 その姿から逃げるようにして。
 その想いを封じるようにして。
 元の毅然とした表情を作り直し、はやては金居の後に続いていった。
(そういえば、あの銃……)
 と、その時。
 不意に違和感を覚え、立ち止まる。
(あんなもん……あいつの持ち物にあったか……?)

54わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:57:13 ID:tXZnpddQ0
【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
    首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.……ヴィータ……
 2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 5.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 6.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 7.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
 8.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 9.金居はどこであの拳銃(=デザートイーグル)を手に入れたのか?
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.畜生……
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

55わがまま ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:57:46 ID:tXZnpddQ0
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 2.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 3.はやてと共に地上本部跡地へ向かい、転移魔法陣を調べる。
 4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

【全体の備考】
※E-5にアーカードとヴィータの死体と、アーカードのデイパックが放置されています。
 デイパックは焼け焦げており、中に入っていた支給品は、ボーナス支給品ごと全滅しました。
※フィールド中では、何故か2晩連続で満月が出ているようです。


【デザートイーグル@オリジナル】
金居のデイパックに転送されたボーナス支給品。
現実に存在する銃で、50口径弾を発射することができる、世界最強の威力を持った拳銃。
ただしそれ故に相当な重量とサイズを有しており、反動も大きく、使い勝手は悪い。

【虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる】
ヴィータのデイパックに転送されたボーナス支給品。
謎の少年・カイトが用いていた双剣。
普段は禍々しい鉈のような形をしているが、戦闘時には刃を展開し、風車のような三つ又の形状に変形する。

56 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/10(土) 18:59:05 ID:tXZnpddQ0
投下終了。矛盾などありましたら、ご指摘お願いします。
今回のタイトルの元ネタは、以下の通りです。

燃える紅:「仮面ライダー響鬼」二十四之巻
BRAVE PHOENIX:「魔法少女リリカルなのはA's」挿入歌
わがまま:「とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱」収録シナリオ・「魔法少女リリカルなのは」第13話サブタイトル

……いや、最近響鬼見始めまして、紅に一目惚れしちまったもので(ぉ

57リリカル名無しA's:2010/04/10(土) 19:22:00 ID:aNwzWSzg0
投下乙です。

遂に強敵アーカード落つ!
ヴィータとアギトのユニゾン通称ヴィータ紅、そして金居とはやてのサポートでやっと倒せる程の強敵だった……ヴィータもやりきっただろう……。

ちょっと待て、確かアーカードは対主催で対主催のヴィータも退場……しまいにゃ残ったのは火種の宝庫黒はやてとステルス金居……アレ、なんか対主催涙目じゃね?(いや、どう考えてもアーカード対主催やったって火種だらけだけどさぁ)

58リリカル名無しA's:2010/04/10(土) 22:25:20 ID:VlTRsk.k0
投下乙です

正直、ここでアーカードが脱落するとは思わなかった!
だが熱い、熱かったぞヴィータ!

確かに火種満載のアーカードが生きてるのも不都合だがヴィータも退場で残ったのはこの二人かよ…

59リリカル名無しA's:2010/04/11(日) 18:09:58 ID:RdPwctXY0
投下乙です。
いやぁ熱い! とにかく熱い!
こんなに熱い展開は久しぶりじゃ無かろうか。
結果的にヴィータは死んでしまったけど、最後の最後まで格好良かった。
対するアーカードもようやく人間に殺される事が出来て、満足げ。
アーカードもヴィータも、最後の言葉は本当に良かったと思う。
そしてはやてもはやてでヴィータの死には何か思う事がある様子。
最近は少しずつはやても変わって来たかな? って気はするけどどうなんだろう。
うん、何はともあれGJでした!

60リリカル名無しA's:2010/04/11(日) 22:47:28 ID:VANQX.Ak0
投下乙です
これぞ熱血!ヴィータとアギトのシンクロとか、なんという燃え展開!
そして仲間と力を合わせて強敵アーカードを倒す!しかも相討ちとか…
ヴィータお疲れ様、旦那もこの最期は本望だろう…

と、一見燃え展開みたいだけど、一歩引いて見てみると
対主催のアーカードとヴィータが誤解が発端で戦い始めて共倒れ
しかも生き残った二人は主催と通じるステルスと、冷酷な狸
さらに協力したのも自分の都合からという腹黒模様

ホント何も考えないで読んだら普通に燃え展開なのになw

61 ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:17:00 ID:/eJ4eeQc0
ユーノ・スクライア分投下します

62Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:22:00 ID:/eJ4eeQc0





『放送は僕――オットーが担当させていただきました。』





淡々とした声による放送が終わった――
西の空を見ると赤い夕日が沈んでいくのが見える――
東の空を見ると赤い満月が昇っていくのが見える――
そして周囲を闇が空気を染めていく――
それに呼応するかの様に――





彼の心も暗い闇に沈んでいく様だった――





『マスター――』





声を発したのは『人』ではない――フェイト・T・ハラオウンのデバイス閃光の戦斧バルディッシュ――
『彼』は自身のマスターであるフェイトの死を悼んでいた――

ショックがないと言えば嘘になる――
出来れば無事に再会したかった――
だが、それは最早叶わぬ事だ――

この場にいた2人のフェイトが自分の世界及び時間軸のフェイトである保証はない――
無事に元の世界に戻る事さえ出来れば無事に再会出来る可能性は十分にある――
その可能性はブレンヒルトと出会った時から推測出来ていた事だ――



しかし――そんな推測に意味は無い――



如何なる世界、如何なる時間軸であろうとも自分のマスターである事に変わりは無いのだから――
彼女の喪失が大きな空虚を生む事に変わりはない――



彼女がこの場でどの様に行動し死に至ったのか――それを知る手段はない――
例えば、誰かを守るか助ける為に強敵と戦い散っていったのか――
親友である高町なのはを生き返らせる為に修羅の道を行き朽ち果てていったのか――
もしかすると一瞬の不注意で死に至った可能性だってある――



だが――1つだけ確かな事がある――



フェイトは死の瞬間まで誰かの為に戦っていたという事だ――



それが誰なのかはわからない――
プレシアの願いを叶える為かも知れない――
なのはやアリサ・バニングスを生き返らせる為かも知れない――
プレシア・テスタロッサの真意を確かめるとともに殺し合いを止めて多くの人を救う為かもしれない――
そして――娘を助ける為かも知れない――





バルディッシュは願う――





フェイトの最期が誰かの助けとなった事を――無為に終わる事の無い事を――

63Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:25:00 ID:/eJ4eeQc0





 ここまで思考しバルディッシュはある違和感を覚えた――





『Mr.ユーノ――?』




 先程からユーノ・スクライアは淡々と名簿と地図を眺めている――
 呼ばれた人数は19人と非常に多い、それだけではなくユーノが気に掛けていた少女達や数多くの仲間達の名前が呼ばれていた――
 だが、ユーノは呼ばれた瞬間こそ驚いていたもののその後は冷静に名簿と地図をチェックしていた――
 彼はショックを受けていないのか――いや、彼の性格を考えるならばショックを受けないわけがない――
 では、何故彼はその素振りを見せずにいるのだろうか?
 彼は何を考えているのだろうか――





 そしてその口がゆっくりと開かれる――





「バルディッシュ――確か君は僕から見て4年後の未来から連れて来られたんだよね――」
『Yes――』
「だったら――教えてくれないか――君の世界で起こった事を――」





 その声は――何処か淡々としていた――





 ここにいるユーノ・スクライアはバルディッシュのいた世界のユーノ・スクライアとは別人だ。
 但し、その差異はLの存在の有無と約4年の時間軸の違いぐらいだったが――

 ちなみに言えばその事自体はブレンヒルトと行動を共にしていた時点で把握していた。
 しかし、ユーノ自身は世界が違う事については別段気にしていなかった事もあり深く切り込んだりはしなかった――
 つまりユーノの世界から見て4年後に起こるであろう機動六課設立やJS事件に関して殆ど全て聞いていなかったのだ――

 情報が大きな武器になるのは無限書庫の司書長をしているユーノ自身がよく理解している。
 参加者の中に機動六課やJS事件の関係者が数多くいるならばその情報は得るべきなのは誰にだって理解出来る。
 仮にその情報を知っていればもっと違った推測だって出来た筈である――

 つまりここに至ってそれを知らない・知ろうとしなかった事は完全な悪手でしかない――

 そういう余力が無かった――いや、明日香との遭遇後、温泉で休息を長い間取っていたし、
 ブレンヒルトと行動を共にしていた間も休息していたのが多かった為、その時にバルディッシュから確認する事は出来たはずだ――

 何故、ユーノはその事を知ろうとしなかったのだろうか――?





「そのJS事件で僕は――なのはの――」
『Ms.なのはの?』
「――いや、何でもないよ――それにしてもあのティアナが機動六課に入っていたなんてね。そういえばなのはも彼女の事を気にしていたっけ――」
『意外ですね、Ms.チンクやMs.ルーテシアの事を知らなかった貴方がMs.ティアナの事は知っていたとは』
「ああ、話を聞いて思い出したよ――彼女、少し前に僕の世界で起こったある殺人事件で協力してくれたんだ――さてと」




 と、バルディッシュからJS事件に関する事を聞き終えたユーノは名簿を手に取り、





「バルディッシュ――今までの放送は全て覚えているね」
『Yes――』
「だったら――今から、僕は今も生き残っている参加者の名前を読み上げるから合っているか確認してくれる?
 アーカード、相川始、アレックス、アンジール・ヒューレー――」
 ユーノの口から現在も生存している参加者の名前が五十音順に次々読み上げられる――
「――ヒビノ・ミライに片方のはやて――そして僕の計19人――何処か間違っているかな?」
『――いえ、漏らしも間違いもありません。その19人で間違いありません』
「わかったよ」

64Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:26:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ――これからどうするつもりですか?』
 バルディッシュは地図を見ているユーノに問う。ユーノ自身の様子を見る限り基本的な方針は変わっていない事だけは間違いない。
 しかし、具体的な行動については全く不明瞭である。
「そうだね――実はまだ決めていない。僕が市街地に向かおうとしたのはルーテシアや明日香を止める為だったけど――」
『両名とも先の放送で呼ばれています』
「うん、残念だけど最早説得は不可能になった」
 ユーノが市街地に向かっていたのは一時期行動を共にしていたが殺し合いに乗り市街地に向かったであろう天上院明日香とルーテシア・アルピーノを説得する為である。
 しかし、先の放送で名前が呼ばれた以上、両名は死亡した事が確定した為それは不可能となった。

「だけど――実の所行動を決めかねている理由はそれだけじゃないんだ。
 僕がブレンヒルトに話した脱出の手段については覚えているね、
 でも、正直な所現状のままだと厳しいかもしれない。
 いや、当初のプランはほぼ潰れたと考えて良いと思う――」
 ユーノは眼鏡に手を当てながら口を開く――
「幾つか理由はあるよ――」

 ユーノがブレンヒルトに話した脱出のプランを簡単に振り返ろう。
 次元干渉型の結晶体であるジュエルシードの力を解放し意図的に次元震を引き起こしこのフィールドを覆う結界を破壊するというものだ。
 仮に破壊に失敗したとしてもその反応を時空管理局が捕捉する事によりデスゲームは破綻するという寸法だ。
 その一方で首輪解除の手段をLが模索するというプランだ。

「まず、当初必要だった仲間が既に死亡している事――」
 先のプランの問題点としてジュエルシードの力を制御出来るのかという問題がある。
 ユーノ自身も自分1人では難しいと考えており、補助系の魔法に長けているシャマルかザフィーラが必要だと考え合流を考えていた。
 しかし、2回目の放送でザフィーラ、先の放送でシャマルの名前が呼ばれた――彼等の力を借りる事は不可能となった。
 また、先の放送でLの死亡が伝えられている――故に、首輪解除をLに頼る事も出来なくなった。





『確かにMs.シャマル達の損失により難しくなりました――ですが、制御ならばMs.なのは達でも可能では――
 首輪の解除にしてもMr.ユーノの手元にも首輪がある以上、Mr.ユーノがそちらも進めていけば――』

「そうだね――
 実はさっき生存者を確認したのはジュエルシードの制御や首輪の解析が出来そうな人を割り出す為というのもあったんだ――
 でもね――僕が潰れたと考えている理由は他にもあるんだ――
 僕がこのプランをブレンヒルトに話した時――彼女が何て言ったか覚えているかい?」

 前述のプラン――ジュエルシードを利用する事を彼女に話した際、彼女は3つの問題を指摘していた。
 1つ――ゲームの盤台を崩しかねない物を主催者であるプレシアが支給するとは思えない問題
 2つ――ジュエルシードの解放して自分達は無事で済むのかという問題
 3つ――フィールドとは別に首輪をどうするのかという問題
 その内、一番最初の問題であるジュエルシードに関してはルーテシアに支給されている事実があった。
 故にユーノもブレンヒルトもそれ以上この問題については考えていなかったが――

「だけど――その前提が間違っていた可能性が高いんだ――」

 そもそもジュエルシードが支給されていた理由に際し、ユーノはこう考えていた。
 ジュエルシードを使えば高確率で暴走を引き起こし所持者はモンスターとなり――参加者間に戦闘を引き起こし殺し合いを促進させる――
 故に、ジュエルシードは複数支給されている可能性もあると――

 そして、その仮説が正しい事はユーノ自身が身を以て体験した――
 明日香がジュエルシードの力を使い夜天の書の力を解放したのを目の当たりにしたのだ――
 一見するとその仮説は正しいと誰もが考える――

65Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:27:00 ID:/eJ4eeQc0





『それの何処が間違っているのですか、Ms.明日香の力はMr.ユーノが身を以て体験した筈です』
「あれから今までずっと考えていたんだ、ジュエルシードの力は本当にあの程度なのかという事をね――
 そして気付いたんだ――あの程度がジュエルシードの全力じゃない事をね――」

 ユーノは語る――なのはとフェイトが出会う前、街に現れた巨大な大樹の怪物の話を――
 それはジュエルシードの力によって生み出された怪物――そしてそれを生み出したのは少年だったのだ――
 ジュエルシードは強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、一番強い力を発揮する――
 だが、生み出した少年はジュエルシードの事など何も知らない、発動させたとしてもその願いは恐らくささやかなものだっただろう――
 つまり――最初から強い願いを込めて意図的に発動させたならば、当時のなのはでは対処しきれない程の怪物になっていた可能性はあったという事だ――

 ここで明日香がジュエルシードの力を引き出した時の事を思い出して欲しい。
 明日香は既にジュエルシードがどういう物かについて大まかに説明を受けていた。
 彼女がそれを発動したのは強い衝動に押されてというのもあっただろうが、おおむね意図的と考えて良い――

『今更な話ですが彼女は何故ジュエルシードを発動したのでしょうか――?』
「それについてはある程度推測出来るよ――そう、僕が刺されてから彼女がどうしていたのかを含めてね――」

 ルーテシアがユーノを刺した時、明日香はその場所にいた――
 突然のルーテシアの凶行を目の当たりにし、一般人である明日香が恐怖を感じるのは想像に難くない――
 あの現場を見れば大抵は『ルーテシアがユーノを刺殺し、次は自分を襲う』と考えるだろう――
 故に明日香はその場から逃げ出した――

「その時にルーテシアの持っていたデイパックを持ち去った。いや、奪ったんだろうね――」
『成る程、そのデイパックの中にジュエルシードと夜天の書が入っていたと――』
「ルーテシアに持たせた筈のそれを明日香が持っていたからそれはほぼ間違いないよ」
『すみませんMr.ユーノ、あの現場を見ていた筈でしたがその事に気付けませんでした――』
「仕方ないよ、事態が事態だったからね」

 そして逃げ出した明日香はどのルートを通ったのかこそ不明だが十中八九海鳴温泉にたどり着き暫しその場所で身を休めていたのだろう。
 だが、彼女の心中にはルーテシアに対する恐怖が強く刻み込まれた可能性が高い。
 そして、次に襲われた時に対処する為にジュエルシードをと夜天の書を使おうかと考えていたのだろう――

『しかし、Mr.ユーノが襲われてから彼女との再会まで6時間あった筈――
 何故、彼女はそれまでジュエルシードを使わなかったのでしょうか?』
「それは勿論、その危険性を理解していたからだよ。それについてはしっかり説明しておいたからね――
 でも、ある2つの出来事が彼女のタガを外してしまい――衝動的に発動させてしまった――
 1つが死んだはずの僕が姿を現した事――」

 仮に目の前に死んだはずの人間が現れたらどう思うだろうか――
 子供染みた理論ではあるが、恐らく死者の国へ連れて行くと考えてもおかしくはない――
 つまり、自分を殺す為に現れたのだろうと――恐怖が刻み込まれている彼女がそれを考えてもおかしくはない――
 故に、自らの身を守る為に――

『ですが放送さえ聞けばMr.ユーノの生存は確認出来る筈では?』
「簡単な事だよ、既に明日香の中では僕の名前が呼ばれるのが確定していた――
 そして、その部分を聞き逃していたとしたら――僕の名前は呼ばれたものとして補完する筈――」
『その可能性はありますが彼女は大事な放送を聞き逃す様な人物なのでしょうか?』
「行動を共にしていたのは短い間だけど、少なくとも彼女はそんな不用意な人間じゃない。
 頭に入らなかったんだ――多分、その前後で彼女の大切な人物の名前が呼ばれたんだと思う。
 その時の放送で順番的に僕のすぐ近くになるのは遊城十代――恐らく彼の死のショックでその前後が頭に入らなかったんだ――
 同時にそれがもう1つの理由――」

 大切な仲間である十代の死亡、その直後で死亡したはずのユーノとの遭遇――
 それでなくても強い恐慌状態に陥っていた彼女に冷静な判断を求める事は不可能――
 理性や良心は完全に駆逐され、恐怖を振り払う為に触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったのだろう――
 その願いは自分を傷付ける物を全て駆逐する――その為の力を手に入れる事――

66Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:28:00 ID:/eJ4eeQc0





『成る程――それで、結局の所Ms.明日香の状態の何が問題なんですか? あの力はほぼ確実にジュエルシードによるもの――十分に実証されている筈では――』
「――本当にそう考えているのかい? もし、彼女が本当にルーテシア達を殺す為の力を欲してジュエルシードを発動させたならば――
 あの時の大樹以上の怪物が生み出されないとおかしい筈なんだ――」

 ユーノの推測が正しいならばその時の明日香の願いはあの時の少年の比では無いのは明白――
 あの時の規模は海鳴市を覆うものであった――それを踏まえるならば制限の存在を加味したとしても――

 発動したその力によってあの一帯は完全に崩壊していなければおかしい事になる――

 だが、現実として強い力とはいえ常人の手に負える範囲でしか力は発動していなかった――
 確かにB-7の中央部を崩壊させたが同じB-7にある海鳴温泉にはその力は届かず無事そのもの――
 それが意味する事は――

「恐らく支給されているジュエルシードには何かしらの細工が施されている、
 その出力は本来より大幅に抑えられていると考えて間違いないよ――」
『成る程、つまり意図的にジュエルシードを発動させたとしてもフィールドを破壊する事は無いという事ですか』
「うん、まさしくブレンヒルトが口にした通りだったんだ――プレシアが何の対策も無しにジュエルシードを支給する筈がないってね――
 僕達はそれにもっと早く気付くべきだったんだ――」
『もっと早く気付けた筈という言い方ですね――』
「そもそもジュエルシードは誰に支給されていたのか――そしてその人物の近くに誰がいたのか――」

 ジュエルシードは誰に支給されていたのか、その人物はルーテシアだ――
 同時にその近くにはジュエルシードについて熟知しているユーノがいた――夜天の書を支給された上でだ。

『偶然じゃないでしょうか?』
「さっきも聞いたけど、ルーテシアは母親を目覚めさせる為にスカリエッティに協力していたんだよね?」
『ええ、ですがJS事件は既に解――』
「僕と同じ――例えばJS事件解決前に連れて来られていたとしたら――」

 ルーテシアがJS事件前から連れて来られている場合、彼女はどのように行動するだろうか?
 恐らく母親を目覚めさせる為に行動を起こす。
 最初の放送で伝えられた優勝者への御褒美、それを聞いた瞬間どう考えるだろうか?
 優勝さえすれば母親を目覚めさせる事が出来るのではないかと考えるだろう。
 ルーテシアがユーノを刺したのは放送直後、タイミング的に合致する――

67Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:29:00 ID:/eJ4eeQc0

 つまり、遅くても最初の放送が終わった時点でルーテシアが殺し合いに乗る事は確定事項だったのだ。
 そして、ルーテシアにジュエルシードと夜天の書を使わせ参加者を皆殺しにさせる算段だった可能性が高い――

 筋書きとしてはこうだ――
 ルーテシアとユーノを何とかして出会わせ彼女の近くにジュエルシードと夜天の書があるという状況を作り出す。
 勿論、スタート地点を近くにするだけでは不完全、しかしある一計を案じる事でで高確率で出会う状況を作り出した。
 それはルーテシアのスタート地点を川の上にする事、これによりルーテシアはスタート早々川に落ちる事になる。
 その後近くにいたユーノを駆けつけさせ彼女を保護させるという流れだ。
 2人は予定通りに互いに情報交換及び支給品の確認も行う――この時、ユーノにジュエルシードと夜天の書について説明させる事も予定通り。
 そして、ルーテシアが殺し合いに乗ったタイミングで彼女にユーノを殺させ、2人分の支給品を全て総取りさせ――
 後はジュエルシードの力で夜天の書を使い全ての参加者を一網打尽にさせると――

『確かにその仮説はあり得ますが、それならば最初から彼女に夜天の書とジュエルシードの両方を支給させれば良かったのでは?』
「駄目なんだ――最初から両方を支給するぐらいに優遇したら流石に気付かれる可能性が出てくる。
 だからといって、近くに僕がいなければ夜天の書とジュエルシードの情報を得る事は出来ない。
 だからこそ、ジュエルシードをルーテシアに、夜天の書を僕に支給したと思う」
『そう簡単に上手くいくでしょうか? 実際それらはMs.明日香の手に渡ったわけですし――』

 バルディッシュの指摘はもっともである。ルーテシアが殺し合いに乗るタイミングは最初の放送の後、
 つまり、その瞬間までルーテシアが無事でいなければ策は成り立たない。
 だが、ユーノに言わせればそれは大きな問題ではない――
 仮にルーテシアが最初の放送の前に退場したとしても、その場合は高確率でユーノも退場している。
 つまり、その下手人の手に夜天の書とジュエルシードが渡る可能性が高いという事だ。下手人がその力を発動すれば何の問題もない。
 同じ理由で明日香の手に渡る事も想定済みだったのだろう。その2つのロストロギアを手にした者がその力を発動すれば良いわけだから――
 また、これらの事が想定外の事態により起こらなくても別段問題はない。何しろ、これは殺し合いを促進させる為の策の1つでしかない。
 1つ策が潰れた程度で状況が大きく変わる程、脆弱な構造にはなっていないという事だ――

「前置きが長くなったね――
 僕が言いたいのは要するに最初からルーテシアにジュエルシードと夜天の書を組み合わせて使わせるつもりだったって事――」
『そんな事をすれば、Ms.明日香の時以上の事が起こりますね』
「当然プレシアがそれに対する対策を怠るわけがない、そうさせる様し向けているから当然の事――
 そう、これはもっと早く僕がルーテシアがどういう人物かがわかっていればわかった事だったんだ――」
『しかしMr.ユーノが連れて来られたタイミングはJS事件より前――わからなくても仕方が――』
「でも、JS事件の事を知っているバルディッシュと合流したのは半日も前の事だ――
 その時にちゃんと僕が知ろうとすればもっと早く――ブレンヒルトが生きている時に自分のプランの欠陥に気付けた筈だったんだ――」



 悪いのは自分――ユーノの言動からそう言っている様に感じ取れた――

68Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:30:00 ID:zxT8wbUA0





『仮にジュエルシードや夜天の書に細工が施されていたとしても、その細工を処理すれば可能では無いでしょうか――』
「細工を処理――いや、それはそれで危険――まあいいや、確かにそうかも知れないけど――
 実はもう1つあるんだ、それでもこのプランでは難しいという理由がね――」
 そう言いながらユーノは周囲を見渡す――
『周囲に人の反応はありませんが――』
「空を見て――」
 空を見上げるとそこは雲一つ無く、日が沈んだ事もあり星が瞬いている――そして東側を見ると赤みのかかった満月が浮かび上がっている――
『この空がどうかしましたか?』
「18時間以上経ってもずっと晴れ渡り雲一つ見えない空――
 ミッドチルダでも地球でも見た事の無い星の形――
 そして、1日経過しても欠ける事のない月――
 そのどれをとっても現実的には有り得ない現象――
 それだけじゃない――
 あるラインを越えたら反対側にループする不可思議な現象――
 魔法の発動を阻害する何かの存在――
 6年前と殆ど同じだった海鳴温泉――
 更に翠屋や地上本部、機動六課隊舎といった施設の配置――
 つまり――この空間は何から何まで異常だということさ――」
『異常――確かにそれは感じていましたが――』
「それ自体は僕も最初に気付いてはいたよ――恐らくプレシアがこのデスゲームを行う為に作り出した空間と考えて良いと思う――」
 ユーノが口にするのはこの空間の異常性――
 制限やループの発生は言うに及ばず、永久に晴れ続ける空や未知の夜空に欠ける事のない月、そして自分達の知る施設の存在――
 何れも現実的には有り得ない事だ――
 これについてユーノは超巨大な結界を構築した上でその中に擬似的な戦闘フィールドを構築したのだと考えたのだ――
 なお、これ自体は最初からある程度推測出来ていた事ではある――
『その空間を破壊する為にジュエルシードを使う――という話だったのでは?』
「その前に――これだけの結界を構築するのにどれぐらいの手間と魔力が必要かわかるかい?」
『シミュレータだとしても相当な労力が必要です――もしこれが現実に行われているならば――その労力は想像を絶すると考えて良いでしょうね――』
「そう、これをプレシア1人で行うのは非現実的過ぎる。協力者自体はいるみたいだけど――」
 勿論、先の放送を担当したのがスカリエッティの戦闘機人の1人オットーという時点で何れかの平行世界のスカリエッティ達が協力している事は推測出来る――しかし、
『この規模ならば何処かの世界のスカリエッティとその仲間達が協力しても難しい――』
「それに、プレシアクラスの魔導師が何人か集まっても難しいと思う――」
『プレシアクラスの魔導師、それを何人も集めるのも至難――』
「つまり――この空間を作り出しているのはプレシア達の構築した『装置』だと思う――」
 ユーノの推測――それはこの空間を作り上げているのはプレシア及びその仲間達が用意した『装置』によるものだと考えたのだ。
 『装置』さえ上手く機能すれば後は『装置』が正常に働く様に監視を怠らなければ最小限の労力で済むという事だ――
『しかしその『装置』があるとしても大規模である事は確実――そんな『装置』を用意する事は可能なんでしょうか?』
「うん、ロストロギア級の道具を幾つか用意――いや、それ自体は恐らく僕達の知る物でも十分構築は可能だよ――」
『我々の知る物――それはもしや――』

「バルディッシュの想像通りだよ――夜天の書とジュエルシード――その2つ、もしくは準じるものがあればこの舞台を作り出す事は可能――」

69Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:31:00 ID:/eJ4eeQc0

 夜天の書は一時期数多の世界を滅ぼした『闇の書』と呼ばれる非常に危険なロストロギアであった――
 だが、その本質自体は魔導師の技術を蒐集し研究を行う為に作られた収拾蓄積型の巨大ストレージデバイスでしかない――
 『闇の書』へと変貌したのも結局の所、元々あった機能が変化したものでしかない――
 故に――夜天の書を端的に言えば最高級のストレージデバイスよりも数十段優秀なストレージデバイスと考えて良い事になる――
 ストレージデバイスはバルディッシュ等に代表されるインテリジェントデバイスと違い自らの意志を持たないデバイスだ――
 自らの意志を持たないとはいえストレージデバイスがインテリジェントデバイスより劣るという事ではない――
 勿論デバイス自体がサポートする事が無い為、魔法の発動の全てを使い手自身が決定しなければならないという弱点はある――
 反面人工知能を搭載していない事から、その分処理速度は数段速い――
 つまり――優秀な使い手ならば高速かつ確実に魔法を発動出来る――条件さえ揃えばインテリジェントデバイス使い以上と言っても良いだろう――
 勿論、人工知能を搭載しない為術者の成長による能力向上はあっても、元々の性能以上の力を引き出す事は出来ないという弱点はあるが――
 要するに――優秀なストレージデバイスの演算能力は非常に高いという事だ――

 ジュエルシードは前述の通り通り次元干渉型エネルギー結晶体である。
 暴走した場合は周囲の動植物を取り込み大惨事を引き起こす事は言うに及ばず、単体でも次元震を引き起こす程の非常に危険なロストロギアだ。
 何しろ、1個の全威力の何万分の1の力程度で小規模次元震を引き起こすのだ。そのフルパワーがどれぐらいなのかは想像を絶するものなのは理解できるだろう。
 だが、扱いこそ非常に危険ではあったがその本質は莫大なエネルギーを有する結晶体でしかない。例えて言えば米粒大で1年分のエネルギーをまかなえる夢の超物質的な物という事だ。
 つまり――ジュエルシードも暴走さえ起きなければ只の魔力タンクでしか無いという事だ――

 では、夜天の書とジュエルシードでどのようにしてフィールドを作り出すのだろうか?
 まず、フィールドを作り出す魔法の術式そのものはプレシアが予め用意したものと考えて良いだろう。
 仮にアルハザードに到達しその地の技術を手に入れたならば、必要な術式を組み上げる事はそれ程難しくはないだろう――
 問題となるのは維持と制御を行う為の手段とそれらに必要な莫大な魔力エネルギーだが――
 いかにプレシアが優秀な魔導師であっても単独でそれを賄うのは不可能ではあったし、プレシアクラスの魔導師が何十人いても難しい事に違いはないだろう。
 そう――その為に夜天の書とジュエルシードを利用したという事だ――
 夜天の書を維持と制御を行う為の装置代わりにし――
 ジュエルシードをフィールドを維持し続けるだけの魔力の供給源として――

『プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は9個、それだけあれば――』
「違うよバルディッシュ――見落としていないかい、彼女は異なる平行世界を行き来出来る事を――
 プレシアがその気になれば無数の平行世界から好きなだけジュエルシードを集める事が出来る筈――
 100個でも1000個でもね――
 勿論、これは極端な話――でもね、プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は多めに考えておいた方が良い――
 ここまで言えば何故僕の言ったプランが使えないのかわかるよね?」
『ジュエルシード1個や2個程度の魔力の総量ではエネルギーが足りない、そういう事ですね』
「そう、残念だけどこれは完全に僕の見極めが甘すぎたと言わざるを得ない――
 いや、本当はブレンヒルトに指摘された時点で気付くべきだったんだ――」

70Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:32:00 ID:/eJ4eeQc0

『そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、
 あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。』

 ――あの時ブレンヒルトはこう言っていた――だが、ユーノは実際に支給されたという事実だけでその指摘を遮った――
 そして、ルーテシアを説得しジュエルシードさえ取り戻せればそれで何とかなると考えていた――
 だが、それがそもそもの間違いだったのだ――
 支給されるはずのない物が支給される理由、それを考えなければならなかったのだ――
 そう、ジュエルシードと夜天の書だけでは不可能――その結論にもっと早く気付かなければならなかったのだ――

 勿論、ジュエルシードと夜天の書の力でフィールドが構築されているのはユーノの推測でしかない。全く別のロストロギアを使っている可能性は大いにありうる――
 だが、如何なる方法であったとしても結論そのものは変わらない――
 手段そのものはジュエルシードと夜天の書を使ったものに置き換える事が出来る――
 ジュエルシード1個や2個分のエネルギー総量では足りないという結論に変わりはないのだ――





『ですがそれだけの大規模魔術であれば管理局が察知すると思いますが?』

 確かにこのフィールドに関し、内部からの破壊は現状困難だと考えて良い。
 しかし外部からはどうなのだろうか? あれだけの大規模魔術であれば管理局がその反応を捉える可能性が出てくる。
 フィールド構築に必要な魔力が大きくなれば大きくなる程比例して察知される可能性が高くなるのは誰でも理解出来る。
 勿論、それをカムフラージュする為の結界は当然施しているだろう。
 だが、膨大な魔力を隠す為に膨大な魔力を消費する――ある意味本末転倒だ、隠すのにも限界が出てくるのは明白――
 管理局に察知される事に関する対策は考えていないのだろうか?

「察知される事も織り込み済みだとしたら?」
『どういう意味です?』
「これだけの規模を探知したとして――すぐに管理局が駆けつける事が出来ると思うかい?」

 管理局が異常を察知した場合どのように動くだろうか――
 まずはその反応を確かめ規模を確かめる――
 そしてその規模に応じて部隊を編成し鎮圧に向かう――
 だが、あれだけの膨大な力を発するロストロギアの反応場所を鎮圧する為に必要な戦力を集めるのには時間が掛かるだろう――
 勿論、火急であれば時間は短縮出来るだろう――
 しかし膨大な力の反応だけではそこまで迅速には動けない――慎重に行動する可能性が高く、実際に介入するまでには大分時間がかかるだろう――
 当然の事だが、生半可な戦力では返り討ちに遭う。戦力の無駄が出来ない以上、確実に鎮圧する為に時間を掛けてでも戦力を集める筈だ――

「察知したタイミング次第だけど――急いで鎮圧できるほどの戦力を確保出来ても――実際に介入するのは2,3日ぐらい先だと思う――」
『察知されない様にカムフラージュし、同時にその場所が介入しにくい場所にあるならば実際に踏み込むのはそれだけ遅れると――』
「つまり――結局の所、その間で全ての決着を着ければ何の問題もないんだ。
 これまで3回の放送があったけど、何れもデスゲームに貢献した参加者には御褒美の話が出ていたよね」

 前述の通り、最初の放送では優勝者への御褒美を、
 2回目の放送ではキルスコアを上げた参加者に対するボーナスの検討の話を、
 そして先の放送ではこの後キルスコアを伸ばした参加者には追加支給品を与えるという話を、
 何れにしても殺し合いを促進させるものであるのは誰の目にも理解出来るだろう――
 だが、何故ここまで殺し合いを促進させる必要があるのだろうか?
 禁止エリアのルール等だけでも十分デスゲームを行う事が出来、遅くても6日目には決着が着く。
 しかし、促進させるという事はそれだけでは遅すぎるという事を意味する――
 つまり――

71Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:33:00 ID:/eJ4eeQc0

「最初からこのデスゲームにはタイムリミットがあったんだ。
 管理局が介入してくるタイミングまでに全ての決着を着ける――
 そして、フィールドを覆う結界もその期間だけ維持出来れば十分だって事――
 その時間は管理局の動きや現状までの死亡者の数を踏まえて考え――
 約48時間――それがこのデスゲームの制限時間――」
『管理局が駆けつけるまでの時間としてはあまりにも短すぎます――それで、その制限時間を超過した場合はどうなりますか?』
「それに関してはまだわからない――フィールドを覆う結界魔法が解除される可能性は高いだろうけど――
 その内部にいる僕達が無事である保証は無い――」
『しかし、デスゲームが失敗した場合、プレシアはどうするでしょうか?』
「平行世界を渡る術を得ているのならば必要な道具だけを持って逃げれば済む話だね。
 そして条件を少しだけ変えて全く同じデスゲームを行う――
 でも、この可能性は低いと思う――」

 ユーノはプレシアが失敗した際にデスゲームをやり直す可能性は0ではないが低いと考えていた。
 確かに平行世界を行き来する術が無い限りプレシアを追う事は不可能だ。
 だが、このデスゲームを行う為に恐らくプレシアは数え切れないくらい数多くの平行世界に干渉をかけただろう――
 幾ら現状の時空管理局に平行世界を行き来する術を持っていなくてもそれだけ干渉をかければ何れは平行世界を行き来する者が現れる可能性が出てくる。
 そしてひと度その者が現れれば他の世界にもその手段が伝えられる――それにより管理局もその手段を手に入れるだろう――
 いや、今この瞬間にもその手段を得た者がプレシアを追っている可能性がある――
 今回は大丈夫であっても繰り返す内にリスクは大幅に高まるという事だ――

 故に――プレシアにとっては是が非でも今回でデスゲームを成功させに行く筈なのだ――
 プレシアがその対策を行っている可能性はある――が、仮にそうだとしてもリスクを最小限に抑える為に今回で決着を着けようとする事に変わりはないだろう――

「だから、やり直しが出来るとしてもプレシアは絶対に今回のデスゲームを成功させようと動く筈だ――
 そして、僕達にとっても今回だけがチャンスなんだ――
 プレシアは馬鹿じゃない――次行う時にリスクが大きいとわかっているならば、次は絶対に失敗しない様に今回以上に厳重な対策を施すはず――
 それこそ今度こそ止める事は不可能なぐらいにね――その為に、きっとまた多くの人を犠牲にする筈だ――
 それを止める為には――今回プレシアを止めなきゃならないんだ――僕が――





 僕が――止めなきゃならないんだ――」

72Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:39:00 ID:/eJ4eeQc0










『ところで――具体的な行動については何も決まっていないとのことですが――』
「いや、一応幾つかは考えているよ――」

 今後の行動方針は幾つか浮かんでいる。

 まず、当初の予定通り結界を破る手段の模索――前述のプランがほぼ潰れたとはいえ、諦めたわけではない。
 まだ見落としている何かがあるかも知れない、それを見つける為にも今後もジュエルシードや夜天の書等ロストロギアを集めていった方が良いだろう――

 次に首輪の解除――元々Lが行う筈だったそれをユーノが行うのだ。
 幸か不幸かユーノの手元には首輪が1つある。このまま工場かスカリエッティのアジトに向かい解析を行うのも1つの手だ――

 他に仲間達との合流もある、その為には人が集まっているであろう市街地やホテル・アグスタといった施設に向かう必要があるだろう――

「だけど、幾つか懸念があるんだ、まずはこれ」
 と、後方にある車庫を指す。残り人数が15人以下にならなければ開かない筈の車庫である。
『残り人数は19人――後4人死亡すれば開かれる筈ですね』
「そう、勿論放送を聞かない限り正確な人数は把握出来ない。でも、逆を言えば放送を聞けば人数は把握出来るという事なんだ――」
『恐らく次の放送で4人呼ばれる可能性が高い――つまり』
「次の放送直後、ここに向かう参加者が現れるという事だね
 立て札そのものはもう読めない様になっている、だけどその前に誰かが読んでいる可能性は十分にあるよ――
 その人物が殺し合いを止めようとしているなら良いんだけど――もしも逆だったら――」

 車庫内にある『何か』――それが何かは現状不明ではあるが、15人以下と指定している以上状況を変える物である可能性は高い――
 殺し合いを止めようとする者が手にすれば脱出の切り札もしくは抑止力と成り――
 優勝を目指す者が手にすれば他の参加者を一網打尽に出来るバランスブレイカーに成る――
 そして残り人数は19人――
 今現在も参加者が減少している事を踏まえるならばその封印が解かれるまで後僅かであり、既に解かれている可能性もある――
 その扉が開かれる瞬間は確実に迫っているのだ――

「出来れば僕達が手に入れたい所だけど、正確な死者の人数を把握出来ない以上手を出せるのは早くて次の放送後――」

 故に、確実に中身を手に入れるならば次の放送の時にもこの場所にいる必要がある――
 6時間で戻って来なければならない以上、この場合は行動範囲が大幅に絞られる事になる――

「でも――それでなくてもこの12時間は殆ど行動出来ていない――これ以上のんびりしている時間はない――」
『しかし、この中身を殺し合いに乗った者に奪われるのは避けたい所――』
「判断に迷うのが本音だね――だけど、気になるのは他にもあるんだ――」





 ここでユーノは今更ながらにチンクの考えていたプランを語る――
 ユーノがルーテシアと行動を共にしていた時にチンクと明日香と合流していた際に彼女が行おうとしていたプランだ――
 とはいえ、あの時は『脱出の為にレリック、聖王の器を見つけ出す』というあまりにも断片的な事しか語られておらず、
 またこの時のユーノはチンク達を別の意味での誤解や、ある意味ではオイシイオモイをしていた為、その事について深く考えてはいなかった――
 故に、この瞬間までその事を語らなかったのだ――

『レリック、聖王の器――チンクが考えていたのは――』
「そう――さっきJS事件の事を聞いたお陰で僕もチンクが何を狙っていたのかがわかったよ。
 彼女はゆりかごを起動して脱出に使うつもりだったんだ――
 だけど――そのプランも正直厳しいと思う――」

 ユーノがチンクのプランでは無理だと判断した理由――
 1つはレリックと聖王のゆりかごに何かしらの細工が施されている可能性だ――やはり、ジュエルシードと同様、殺し合いに使いやすく、脱出には使用出来ない様に細工されていると考えて良い。
 もう1つはゆりかごで結界を破る程の出力を引き出せるという確証が無いという事だ――

73Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:42:00 ID:/eJ4eeQc0





「とはいえ、話を聞いた所レリックにしてもゆりかごにしても放ってはおけないね――」
『ゆりかごに向かうという選択も視野に入れるという事ですね――レリックの方は――』
「確かあの時は病院に反応があったらしいけど、流石にもう持ち出されている可能性が高いから――何処にあるかは正直わからないよ――」
『この地に幾つあるかはわかりませんが放置は出来ませんね――』
「それに、明日香の持っていた夜天の書とジュエルシードも――」

 前述の通り、現状ジュエルシードと夜天の書では脱出は不可能と判断している。
 だが、仮に制限されていてもその力が驚異的である事に全く変わりはない。
 決して放置して良い代物ではないのだ。

『Ms.明日香は死亡したという話ですが――』
「裏を返せば、明日香を殺した人物が今ジュエルシードと夜天の書を持っているという事だよ――同時にその実力はあの状態の明日香以上――」
『更にジュエルシードと夜天の書が加わるならば――厄介な事になります――』
「出来れば、なのはかはやてが手に入れてくれれば良いけど――」
『その場合、Ms.なのはかMs.はやてがMs.明日香を殺したという事になるのですが――』
「いや、そういう意味じゃないから。だけど――実の所、それについて気になる事があるんだよね――」
『まだ何か――』
「明日香はあの時、何を願ったのか――僕達を皆殺しにする事が目的ならばその為に必要なのは――」
『力――』
「うん――きっと明日香は力を求めたと思う――それで――
 決して触れては成らない領域に手を出したのかも知れない――
 バルディッシュ――あの時の明日香の姿覚えているよね――」
『ええ、忘れやしません。あの姿は色こそ違うものの騎士甲冑自体はリインフォースのものと殆ど同じ――声も何処か似ていました――』
「声に関しては只の偶然だと思うけど――そもそもバリアジャケットは使用者のイメージによるものになる筈――
 例えば僕がレイジングハートを使ったからといって僕がなのはのジャケットを身につける筈はないし、
 ブレンヒルトのジャケットもフェイトのものにはならなかったよね――」
『Ms.ブレンヒルトがマスターのバリアジャケット身に着けたら自分は彼女に蹴り壊されていましたよ――特にソニックフォームの状態のものは――』
「だから――明日香が夜天の書を使ったからといってリインフォースの騎士甲冑を身に着けるなんてまず起こらない筈なんだ――」
『ジュエルシードの力によるものでしょうか――』
「じゃあ、ジュエルシードは何処からリインフォースの騎士甲冑を持ち出しているの?」
『夜天の書――いえ、幾らリインフォースの力を受け継いだとはいえ、あれ自体は管制人格や人工知能を有していない筈――』
「そう、普通に考えるなら明日香のイメージが優先されるべきなんだ。多分、白い色が彼女のイメージだよ――どうして白なのかはわからないけど――」
『まさか――』

74Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:47:00 ID:/eJ4eeQc0

「そう――ジュエルシードが明日香に力を与える為に夜天の書を闇の書の頃に戻して――いや、改変した可能性があるんだ――」
『言葉を返すようですが、ジュエルシード1個分の魔力分でなおかつ制限のある状況だから対処は可能だと口にしたのはMr.ユーノですよ?
 大体、細工を施されていると先程話したばかりではないですか――』
「うん――正直な所、これは考えられる最悪の仮説で僕自身それが起こる可能性は非常に低いとは思っている――
 妄想と言っても良い――
 でもね――
 仮に、明日香の願いに答えてジュエルシードがその力の全てを使って夜天の書を改変したとしたら――
 改変された夜天の書がジュエルシードに施された細工や制限を全て解いたとしたら――
 そしてそれらから解放されたジュエルシードが更なる力を夜天の書に与えたら――」
『可能性が低いとはいえ0ではないのが恐ろしいですね――』
「それだけじゃない、明日香は力を求めていた――
 もし、改変された夜天の書が明日香の願いに答えて周囲にある力を全て蒐集したとしたら――」
『かつての闇の書以上の脅威となりますが――本気でそれが起こると思っているのですか?』
「言ったはずだよ、妄想といっても良いって――」
『しかしMs.明日香は既に死亡しています――』
「だけど、その瞬間まではずっと明日香は持っていた。
 既に修復不能なまでに改変された可能性はあるし、ジュエルシードの力が今現在も改変し続けている可能性も否定出来ない――
 それに、もし次の持ち主がその力を不用意に使えば――」
『しかし、流石に最悪の事態となる前にプレシアが対処すると推測出来ますが――』
「うん、多分その事態に関しては想定済みだと思うし、仮に起こったとしても対処の用意はあると思う。
 さっきも言ったけど、ジュエルシードと夜天の書を同時に使わせる事は視野に入れていただろうからね――」


『――しかし、こうやって話してみるとこちらが何を考えても

 『プレシアは全てお見通しです、対策済みです、無駄です』

 という結論に陥ってしまうのですが。先程から全てこの結論に帰結していますよ』


「うん、正直な所、どんな異常事態が起こっても

 『プレシアならば対処出来ます』

 というオチになってしまうんだよね――」


『ですが――何にせよ夜天の書とジュエルシードも放置できませんね――』
「出来れば今誰が持っているのかだけでもわかれば良いけど――」

75Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:48:00 ID:/eJ4eeQc0





 と言いながらユーノは地図と名簿を眺める。次の行動を思案しているのは見て取れる。


 だが――バルディッシュにしてみればそれが明らかに奇妙であった――


 そして――







『Mr.ユーノ――貴方は何を考えているのですか――?』



 遂に、バルディッシュはユーノに彼の真意を問いかけたのだ――



「何って、これからどうするかについてだけ――」
『そういう意味ではありません、貴方が真剣に今後を考えているのは理解出来ます――しかし――
 何時もの貴方らしくありません――』



 その問いに対し、



「何時もの僕らしくない――それはどういう意味――?」
『先程の放送で、貴方が行動を共にしていたMs.ルーテシア、Ms.明日香、Ms.チンクの名前が呼ばれました――
 マスターやMs.シャマルの名前も――
 そして――貴方が信頼しているMr.Lの名前も――
 大切な仲間の名前が数多く呼ばれました――
 只のデバイスでしかない私でもマスターの死にショックが無いと言えば嘘になります――
 ですが貴方は――それに対しあまりにも淡々としています――
 先程の放送ではMs.ブレンヒルト達の死に対し悲しみを見せていたのに対し――
 今回はその様な様子が殆ど見られません――
 何時もの貴方からは考えられないという事ですよ――』





「バルディッシュ――君こそ妙に饒舌だね――何時もの君からは考えられないよ――」
『自分でもそう思います――もしかしたら、Ms.ブレンヒルトの影響かも知れません――』
「ブレンヒルトのお陰か――確かにそうかもね――」
『それで――貴方の方はどうなのですか――』





 何時ものバルディッシュならば気付いても指摘しなかっただろう。
 前述の通りインテリジェントデバイスはストレージデバイスと違い人工知能を有している。
 人工知能を有しているからこそ、インテリジェントデバイスは学習し――成長すると言っても良い。
 もしかすると――ブレンヒルトと行動した事によりバルディッシュは成長したのかもしれない。
 その成長がユーノの異変を指摘させたのだろう――

76Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:49:00 ID:/eJ4eeQc0





「――悲しいに決まっているよ――


 悲しくないわけなんて無いじゃないか――」





 その声は酷く震えていた――





「今すぐにでも大声を挙げて泣きたいよ――」





 その表情は今にも泣き出しそうであった――





「だけど――僕には足を止める事も、逃げる事も許されない――
 こうしている間にも誰かが殺されているかもしれないんだ――」





『それは理解出来ます――ですが――』





 ユーノの言葉は一見正しい――
 泣いている暇があるなら出来る事をやるのは当然の事だ――
 だが――何かがおかしい――
 ユーノの言葉はまるで――





『別にMr.ユーノがそこまで気負う事では無いのではないでしょうか?
 Ms.なのはやMs.はやてもこのデスゲームを止めようとしている筈です。
 もう少し彼女達を頼っても――』





「違うんだ――違うんだよバルディッシュ――
 僕は気付いたんだ――いや、最初から気付かなきゃいけなかった事なんだ――
 僕が原因なんだ――



 僕が――全ての原因だったんだ――」





 このデスゲームを行っている人物はプレシア・テスタロッサである。
 勿論、現時点で彼女が本物かどうかは不明であるし、彼女が黒幕とは言い切れない。
 だが――表に出ているのは確かに彼女だ。
 つまり、真贋はともかくとして彼女の存在が大きなウェイトを占めている事に変わりはない。
 そして――彼女の存在を考えるのならば――
 PT事件――プレシア・テスタロッサ事件を無視する事は決して出来ないのはおわかりだろう。

 PT事件の概要そのものはプレシアがジュエルシードを違法に使った事による次元災害未遂事件。
 その彼女の為にジュエルシードを集めていたフェイト・テスタロッサは重要参考人として罪に問われた。
 その罪は幽閉数百年以上の重罪。
 実際はリンディ・ハラオウン達の弁護やフェイト自身が管理局の嘱託魔導師となった事で実刑ではなく保護処分になったが――
 どちらにしてもそれは決して小さい罪ではない事はおわかりだろう。

 だが――そもそもの前提として――


 プレシア・テスタロッサがジュエルシードに手を出そうとしなければ――PT事件は起こらなかったのではなかろうか――?

77Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:50:00 ID:/eJ4eeQc0





「そう――プレシアがフェイトにジュエルシードを集めさせなければ――
 ジュエルシードがなのはの世界に散らばったりしなければ――


 いや――僕の一族が――僕がジュエルシードを見つけたりしなければ――


 PT事件は起こらなかったんだ!」





 そもそもジュエルシードはある遺跡から発掘された物でそれが輸送中の事故でなのは達の世界にばらまかれた。
 そして、発掘をしたのはスクライア一族で――現場指揮を執っていたのは当時9歳のユーノだった。


 言い換えればこういうことだ――


 PT事件の切欠を作ったのはユーノ・スクライアだと――


 つまり――このデスゲームの原因はユーノという事である。
 少々飛躍しすぎていると思う方もいるだろう。
 だが、IFの話に意味が無いとしてもユーノ達がジュエルシードを発掘したのが全ての始まりだという事は確かな話である――





『しかしスクライア一族はジュエルシードを発掘しただけ――Mr.ユーノには罪は――
 それに、Mr.ユーノが発掘しなくても誰かが発掘したでしょうし、プレシアが自力で見つけ出していた可能性も――』
「それだけじゃ無いんだ――気付いているかい――
 参加者の殆どはそれぞれの平行世界のなのは達、もしくは彼女達の仲間や関係者だという事に――」
『確かに参加者の多くはMs.なのはやマスターの仲間達や関係者でしたし、
 Ms.ブレンヒルトも彼女の世界のマスター達を知っていました。
 確かMr.キースレッドもMs.ルーテシアを知っていた様ですが――』
「そしてLも僕の世界のはやて達が保護した――
 明日香に関してはわからないけど、彼女もなのは達を知っている可能性は高いと思う――」
『マスター達の関係者が連れてこられているとしてそれがMr.ユーノと何の関係があるのですか?』
「大ありなんだ――その全ての始まりは何処にあるのか――
 PT事件――それが全ての始まりだったんだ。


 僕が――ジュエルシード集めになのはを巻き込んだりしなければ――
 なのはをこの道に引きずり込む事もなかったんだ――
 それさえなければ――ブレンヒルトやL――明日香達をこのデスゲームに巻き込む事は無かった筈なんだ!
 ジュエルシードを早く集めなきゃと焦ってなのは達に助けを求めたりしなきゃ良かったんだ――


 最初から僕1人でやろうとせず管理局に助けを求めれば良かったんだ――
 僕が――僕が――
 僕がみんなを巻き込んだんだ!!


 僕がなのはやフェイト、はやて達にブレンヒルトやL、明日香やルーテシアを!!
 そして僕の知らないなのは達の仲間を!!





 みんなを殺したんだ!! 僕が――!!」

78Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:52:00 ID:/eJ4eeQc0







 それに気付いたのは何時だったのだろうか?
 いや――もしかしたら最初から気付いていたのかも知れない――
 ずっとそれについて向き合おうとしていなかっただけなのかも知れない舵手奪取
 早々にルーテシアと出会ったから彼女を守る事を優先し――
 彼女達と別れた後はずっとブレンヒルトが傍にいた――
 仲間がいたからその事と向き合うのを先送りにしていたのかも知れない――
 向き合う切欠となったのは明日香がジュエルシードを発動し牙を向けた時――
 その対策を考える為にユーノはPT事件の事を思い返していた――
 そう――その時には全ての切欠が自分という事に薄々気付いていた――
 だが――その時のユーノは敢えてそうは考えないことにしていた――
 仮になのは達にそれを言った所で――
 『それはユーノ君のせいじゃないよ』――そう答えるのは容易に想像出来た――
 だからこそ、過去を悔やむよりも先の事を考える事にしたのだ――
 何よりも優先すべきはルーテシアと明日香の説得――
 それを考えるべきだと自分に言い聞かせ続けたのだろう――
 しかし――先の放送であまりにも多くの人が死んだ事が伝えられた――
 ルーテシアや明日香、フェイトやシャマルにL――
 彼女達の死がユーノに重くのしかかる――
 全ての切欠が自分にあると気付いた以上――
 その重圧は――15歳の少年には重過ぎたのだ――
 何よりも重いのは――誰もユーノを罪に問えない事だ――
 ユーノがした事は結局の所、ジュエルシードを見つけた事とジュエルシードを集める為になのはに助けを求めた事――
 それはなのは以外の誰であっても『ユーノのせいではない』と答えるだろう――





 では――決して問われる事の無い罪を犯した者は――





 一体、誰が裁き――赦すのだろうか――?





 何時しかユーノの目には涙が溢れ――その声には強い感情が込められていた――





「だから僕に止まる事は許されない――
 死んでいった皆の為にも――いや、このデスゲームに巻き込んでしまった全ての人の為にも――
 僕は――絶対にプレシアを止めなければならないんだ――
 それは全ての切欠になった僕がやらなければならない事なんだ――」





 そういう事だったのだ。
 ブレンヒルト達の死を気にしていないわけでも悲しんでいないわけでもなかった。
 むしろその逆――ユーノは彼女達の死に強いショックを受けていた。
 そして、その元凶が自分にあると気付いているからこそ――
 何としてでもプレシアを止める為に淡々と前に進もうとしたのか――
 深い悲しみを心の奥底に抑え込んだ上で――

 『ユーノが悪いわけではない』、『ユーノ1人の行動で全ての人間の運命が決まるなどおこがましいにも程がある』等という慰めが出来ないわけではない――
 しかし、それでは意味はない――ユーノの行動が全ての切欠というのは確かな事実なのだから――
 故に――ユーノがジュエルシードを見つけなければPT事件は起こらず、
 なのは達も魔法と関わることなく彼女達がこの殺し合いに巻き込まれ死ぬ事も無かったというのは正しい――

79Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:53:00 ID:/eJ4eeQc0





 だが――バルディッシュはそれを全て認めるわけにはいかない――





『Mr.ユーノ――貴方は大事な事を忘れていますよ――』
「――何を?」
『確かに貴方がジュエルシードを発掘しなければPT事件も起こらず、Ms.なのはも魔法と関わる事は無かったでしょう。
 きっとMs.ブレンヒルト達も殺し合いに巻き込まれる事は無かったでしょう――』
「そうだよ――」
『ですが――それがあったからこそマスターとMs.なのはは出会えた――
 そして、マスターとMs.なのはは友達になれたのですよ――』
「それは――」
『それだけではありません――闇の書事件――
 あの場にいた仲間が1人でも欠けていればMs.なのは達の街は滅び去り――
 闇の書は再び転生を繰り返し悲劇を繰り返していたかもしれません――
 つまり――Ms.なのはがいなければそうなっていたという事――
 そして――Ms.なのは達がその後管理局に入ったからこそ救えた多くの人々がいます――
 それは全て――貴方とMs.なのはの出会いが始まりでは無いのですか?』
「バルディッシュ――」
『同時に――それぞれの平行世界でもその出会いがあったからこそブレンヒルト達がマスター達と出会えた――
 Mr.ユーノ――貴方は彼女達の出会いまでも否定するというのですか――
 少なくても――Ms.ブレンヒルト達はマスター達と出会えた事を否定したりはしないでしょう――
 確かに――貴方の行動が多くの人々を死なせる結果を引き起こしたかも知れません――
 ですが――貴方の行動のお陰で多くの人々を出会わせそして救った結果もある事を忘れてはいけません――』



 ユーノの行動の全てが悪い方向に働いたわけではない――
 もし、なのはが魔法と関わる事がなければフェイトと出会う事も無く、フェイトはプレシアの人形として使い捨てられていただろう――
 なのは達がいなければ闇の書はなのは達の世界を滅ぼし再び転生を繰り返す、封印出来たとしてもはやて達を救う事は出来なかっただろう――
 そして彼女達がいなければ彼女達によって救われる多くの命が失われていた――JS事件の結末も最悪の結果を迎えていたかも知れない――
 同時に――ユーノとなのはの出会いが無ければそれぞれの世界でなのは達がブレンヒルト達と出会う事も無かっただろう――





『貴方が――いるからですよ――貴方がいるから全てが始まった――』







「そうだね――ありがとうバルディッシュ――僕が間違っていたよ――」





 そこには――ほんの少し笑みを浮かべる若き司書長がいた――

80Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:54:00 ID:/eJ4eeQc0










『と、実際の所状況は何も変わっていませんが――』
「とりあえず、僕を除いた18人の内で誰が味方かを整理しないと――」

 その内、相川始、アーカード、アレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、エネル、
 金居、キング、天道総司、柊かがみ、ヒビノ・ミライの計12人とは出会っていない為、敵か味方かすら不明瞭。

 残り6人の内、なのは、はやて、ヴィータはユーノも知る信頼出来る人物だ。
 ヴィータ辺りは片方のはやてを生き返らせる為殺し合いに乗る可能性は0では無いものの、魔法に関する分野でこの3人は信頼に値すると言って良いだろう。
「特にはやてだったら万が一夜天の書に異変が起こっても対処出来る可能性が高いし、3人の中で一番ジュエルシードに対する対処も出来ると思う」

 次にスバル・ナカジマ――
「確か、空港火災でなのはが助けた子だよね」
『ええ――あの立て札を破壊したのは彼女の可能性が高いでしょう――』
 車庫前にあった立て札は原型を留めない程粉々に砕かれていた。
 殺し合いに乗った参加者が読む事を避ける為に行ったのは明白ではあるが、普通に考えて原型を留めない程粉々にするのは手間が掛かる。
「だけど彼女の能力を使えば――それは容易だと――」
 しかし、スバルには振動破砕という対人対物に対し驚異的な力を発揮するISがある。直接触れなくても相当な威力を発揮するそれならばここまでの破壊は可能ということだ。
『それとは別にしても、JS事件後から連れて来られているならばMs.なのはやMs.はやてに負けるとも劣らない実力を持っています――』
「問題はギンガ達が死んだ事で殺し合いに乗る可能性が0じゃないという事だね――」
『Exactly――彼女は強いからその可能性は低いとは思いますが――』
 味方ならば頼もしい――が、敵に回って欲しくないのが彼女であった――

81Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:55:00 ID:/eJ4eeQc0

 そしてクアットロ――
「彼女の事は確かチンクも話していたよ――確か彼女の姉だったね――」
『その通りです――が、彼女は一番の危険人物です』
 JS事件において、スカリエッティの戦闘機人の半数以上は更正プログラムを受け管理局に協力する選択を選んでいる。
 だが、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの4名はその選択を選ばず収監されている。
 とはいえ、ウーノの場合はスカリエッティに従う以外の生きる理由を持たないものだったし、
 トーレとセッテは共に敗者としての矜持によるものであった――
 が、クアットロはそもそも人間達に譲歩するという発想が無いという事によるものだった。
 同時に、JS事件においてもスカリエッティ達が次々捕まった状況でも冷徹にその場から撤退するという行動を取った。
 つまり――彼女の性格上、他者を助ける為に戦うという事がまず有り得ないのだ。
 仮にチンクやディエチが死んでも彼女にとっては手駒を失った程度の事でしか無いだろう。
「ということは、当然なのは達は彼女に対して警戒しているって事だよね」
『ええ、JS事件を知っている者ならば皆――』
「そして、彼女は頭が切れる反面、直接的な戦闘力はそれ程高くない」
『能力さえわかっているならばMr.ユーノでも対処は可能です』
「だったら彼女と接触してみる価値はあるね」
『Ms.チンクの事が気に掛かるなら止めておくべきです、彼女の死に気を止める様な人物では――』
「だからだよ、彼女が此方に協力してくれる可能性は――高いよ」
 客観的に考えればクアットロは誰もが警戒すべき人物である。
 だが、参加者に管理局の人間が数多いならば彼等を通じてクアットロに対する警戒を強める者は多くなる。
 クアットロを保護しようとする者は彼女と同じ側にいるチンクやディエチ、そしてルーテシアぐらいのものだろう。
 つまり、最初からクアットロには敵が多いという状況ということだ。
 更に彼女自身の戦闘能力はさほど高くはない――ISのシルバーカーテンにより翻弄される可能性は高いが、身体能力は普通の人間より強い程度――
 能力にさえ気を付ければ対処は十分可能だ。故に彼女単独で勝ち残るのは非常に厳しいという事になる。
 同時に――頭の回る彼女であれば早々にその事実に気が付くはずだ。
 ならば彼女はどう動くだろうか、集団に入り込もうとする筈だろう。
 かといって人知れず他者を殺したり集団を瓦解させたりはまずしない、
 そういう事が出来るのは他者に知られないという前提が必要だからだ。
 他者から警戒されている状況でそれを行えば真っ先に疑わせすぐさま窮地に陥ってしまう、
 その事が理解出来ない彼女ではない、孤立する危険性のある愚行を考え無しにするのはまず有り得ない。
 そして残り人数は19人、ここまで状況が熾烈ならば彼女自身是が非でも自身の味方――手駒を確保しようと躍起になるだろう。
 故に――彼女自身不本意ながらも、管理局に協力する事も辞さない可能性は高いという事だ。
『成る程――しかし、先の放送で主催者側にスカリエッティがいる事はほぼ確実。彼等が彼女に参加者を殺す役割を与えているという可能性はあるのでは?』
 バルディッシュの仮説はクアットロが主催者側の人物という事だ。
 ユーノの見立てではチンクは主催者側にスカリエッティがいる事を知らなかったが、クアットロまでそうである保証はない。
 主催者側にいるスカリエッティ達がクアットロに参加者を殺す役割を与えた可能性はある――
「0では無いけど――その可能性は低いよ」
 しかし、ユーノはそれを否定する。
 その理由は至極単純、クアットロにその役割を与える旨みが殆ど無いからだ。
 彼女にその役割を与えようが与えまいが、周囲の警戒が強い事に変わりがない。
 状況的には圧倒的に不利なのだ――せいぜい支給品を若干優遇させる程度の事しか出来ないだろう。
 また、それ以前に彼女は性格的にも能力的にも最前線での戦いには全く向いていない。
 彼女は命が懸かった状況ならば逃走を選択するはず――
 故に彼女にその役割を与える事が不自然なのだ。
 それならば最初からクアットロを参加させずトーレかセッテを参加させてその役割を与えれば良いし、
 もしくはチンクかディエチにその役割を与えれば良かっただろう。
 故に――クアットロが主催者側の人間という可能性は低いという事だ。
「勿論、警戒すべき人物なのは否定しないよ――でも、それは他の皆にも同じ事が言えるよね」
『Yes――』

82Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:56:00 ID:/eJ4eeQc0

「むしろ――僕としては、彼女の知恵を借りれるならば借りたいと思うんだ。
 さっきも言ったけど恐らく生半可な作戦はほぼ確実にプレシアに読まれている――
 首輪の解除にしても単純にそれを行えるかは正直微妙――」
『その通りですね――その為に危険人物である彼女の力も借りたいと?』

「多分――L自身も首輪解除の為に戦っていた――
 でも――そのLもプレシアの前には為す術無く散っていった――
 Lは本当に優秀だよ――この地にいる誰よりも優秀な探偵だ――
 残念だけど――僕ではLを越える事は決して出来ない――
 いや――きっとそれは他の誰にも無理な事だと思う――
 でも――一人では越える事が出来なくても――

 二人なら――Lに並べる、二人なら――Lを越せる

 僕はそう思っているよ――だから、仲間達の力を集める事が出来れば――」

『Mr.Lが敗れたプレシアに――勝つ事が出来るというわけですね』
「その通り――だからまずは仲間達と何とかして合流しないとならないんだ。なのはやはやて達とね――」


 その瞳には明らかな強い決意が込められていた――
 同時に――先程までに見られた追いつめられている様子は既に無い――


「――ただ、何処に向かうかはまだ決まってないんだよね――どうしたら良いだろう?」
『禁止エリアを踏まえるならば、市街地方面から此方に向かう参加者が現れる可能性は高いでしょうが――』
 今回禁止エリアに指定された1つの場所が地上本部のあるE-5、既に隣接するE-6も禁止エリアになっており市街地から離れる参加者は出てくるだろう。
「この配置だと、ゆりかごに意識を向けさせようという感じもあるね」
 さらにH-6とI-7が指定された――既にH-4が禁止エリアとなり西側が海に囲まれている事を踏まえ、ループを使わない限り移動ルートは大幅に絞られる。
 つまり、そこからゆりかごを意識させる狙いも十分にあるという事だ。
「多分、なのは達もゆりかごの事には気付くはず――そうだゆりかごと言えば――」



 それは、先程はどうしても聞けなかった事――



「バルディッシュ――そのJS事件で僕はなのはの――力になれたかい――?」



『ええ、自分の世界のMr.ユーノは――Ms.なのはやマスター達の力になれましたよ――』
「そうか――」
『詳しい事を話しますか?』
「いや、それだけで十分だよ――」





 自分がなのは達の力になれた――それがわかっただけでも少年の心は十分に満たされていた――

83Lを継ぐ者/あなたがいるから ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 17:57:00 ID:/eJ4eeQc0





『Mr.ユーノ、確かまだ1人残っていましたね』
「ヴィヴィオ――確かJS事件でなのは達が保護した女の子だったね」
『ええ、聖王の器でもあり、ゆりかごを動かす鍵でした』
「彼女も探さないといけないね」
『お願いします――きっとマスターも『ヴィヴィオを助けてあげて』と願っている筈です』
「フェイトの声が聞こえて来そうだよ――でも、僕彼女の事を全く知らないんだよね」










『確か、声がMr.ユーノと似ています』
「僕は男だよ」
『しかし似ています』
「全然ヒントになっていないよ――」





【1日目 夜】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.何処へ向かおうかな?
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除。
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

84 ◆7pf62HiyTE:2010/04/16(金) 18:02:00 ID:/eJ4eeQc0
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>62-71が前編『Lを継ぐ者/Sink』(約28KB)で、
>>72-83が後編『Lを継ぐ者/あなたがいるから』(約28KB)です。

今回のサブタイトルの元ネタは
『Lを継ぐ者』……『デスノート:リライト2 Lを継ぐ者』(TVアニメ版総集編)〔注.本ロワのLはアニメ版ではなく実写版出典〕
『Sink』……『金田一少年の事件簿』ED『Sink』
『あなたがいるから』……『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』主題歌『あなたがいるから』
以上、3つを『仮面ライダーW』風のサブタイトルにしました〔注.なお、『仮面ライダーW』に英語のサブタイトルはありませんが、元ネタの都合上そうせざるを得なかった(だって、金田一の曲名で手頃なの無かったんだよ!)〕

というわけでサブタイトルだけで日本を代表する探偵大集合させてしまいました。しかも都合がよい事(偶然です)に今夜は『名探偵コナン 漆黒の追跡者』放送日&明日は『名探偵コナン 天空の難破船』上映開始日、今夜は探偵祭り♪

リリカル全然関係ねぇお……

85リリカル名無しA's:2010/04/16(金) 20:54:42 ID:E5q./8iY0
投下乙です
まさかユーノでここまで濃い考察話になるとは想像もしなかったぞ
これは予想外
そうか…良くも悪くもユーノの一族から始まってたのか
言われて気が付いたよ

86リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 11:11:44 ID:7Nhuzm920
投下乙です
ユーノ君カッコいいな
そうだな、ユーノ君がいたからみんなの出会いがあったんだよな(バルディッシュナイスフォロー!)
1期の頃から一人で背負いこもうとするきらいがあったけど、よかったよかった
ああ、声が似ているも何も中の人g(ry

87リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 13:57:28 ID:8WgSGZyk0
投下乙です
ようやくユーノが濃い考察をした!w
今まで散々だったからなぁ……
ともあれ今後ユーノがどう活躍するのか楽しみです。
無事他の対主催と合流できるか……距離的にはホテルが近いけど……?

88リリカル名無しA's:2010/04/17(土) 21:31:35 ID:pMGUTQ06O
投下乙です
ユーノがカッコイイ!!今までルーテシアの裸体を観察したり胸に挟まれたりチンクの大事な部分を見たりブレンヒルトのパンツを何度も拝んだりサービスシーンを披露していたりしたのが嘘のようなカッコ良さだ!!
ユーノの今後の活躍が楽しみです。クアットロと組むことは叶うのだろうか…?

89リリカル名無しA's:2010/04/19(月) 22:55:41 ID:jXDmTmyk0
―― 使いすぎじゃね
読んでて気持ち悪くなる

90 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:34:18 ID:FwLcIe6A0
リインフォース、アルフ、リニス、ウーノ分を投下します

91暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:36:22 ID:FwLcIe6A0
 ほの暗い闇の中を蠢く、微かな金属音が2つ。
 さながら小さなネズミのように、屋根裏を這いずり回るのは、1人の融合騎と1匹の使い魔。
 眼下の廊下から漏れ出している、ぼんやりとした電灯の光だけが、この闇の中の光源だった。
《しかしまぁ、ホントに入り組んだ構造になったもんだよ》
 額に皺を寄せながら、使い魔アルフが念話でぼやく。
 肉声での会話をシャットアウトしたのは、盗聴の危険性を考慮した結果だ。
 下の廊下には、ところどころに監視カメラが配置されている。であれば姿のみならず、声まで盗み聞きされる可能性も否定できない。
《やはり、元の時の庭園とは違うのか?》
《そりゃあ、元は別荘施設だったからね。こんな研究室みたいな作りにはなってなかったさ》
 先を行く融合騎リインフォースの問いかけに、答えた。
 かつてのプレシアの研究施設であった時の庭園だが、元々は居住スペースとして設計されたものを、研究用に改築したに過ぎない。
 デバイスルームや研究室こそあれど、それも必要最低限のものであり、あくまでオプションでしかなかった。
 だが今彼女らが潜入しているこの場所は、ただの別荘にしてはいやに複雑な構造になっている。
 廊下にいくつもの扉が並ぶその様は、むしろ時空管理局本局や、大型の研究所を彷彿とさせた。
 無機的かつ平面な壁の様子は、まるで病院の廊下のようで、生活感が感じられない。
《でも、それ以上に分からないのはこの世界そのものだよ。結局、ここは一体どこなんだ?》
 奇妙なのは時の庭園の構造だけではなかった。
 それ以上に不可解なのは、この世界だ。
 転移魔法の着地点は時の庭園のすぐ傍だったが、その周囲を見渡すだけでも、その異質さは見て取れる。
 辺りに散乱する遺跡らしき構造物は、どれもこれも見覚えのないものばかり。
 空気に漂う匂いからは、文明はおろか、自然の気配すら感じられなかった。
 既に滅亡した次元世界だということなのだろうか。
 転移座標から正体を勘ぐろうにも、提示されたのは未知の座標。つまり、まったくのお手上げだった。
《恐らくは――アルハザード》
 ぽつり、と。
 呟くように響く、リインフォースの念話。
「!」
 がん、と。
 返ってきたのは言葉ではなく。
 天井裏の低い天井に、盛大に頭をぶつけた音だった。
《アルハザード、って……そんな馬鹿な。本当に、現存していたっていうのかい……?》
 痛む頭を抑えながら、震える声でアルフが尋ねた。
 それが本当だというのなら、大問題だ。
 アルハザードといえば、幾多の伝承の中で語り継がれる、超古代文明世界の名前である。
 その歴史は古代ベルカよりも更に昔に遡り、その上その古代ベルカよりも、更に優れた技術力を有していた世界だ。
 未だ発見もされておらず、そのあまりにも現実離れした名声から、存在そのものを疑われた、まさに魔法の理想郷。
 そしてプレシアの娘・フェイトの使い魔であったアルフには、更にそれ以上に重要な意味を持つ名前でもある。
 アルハザードは、プレシアが実娘アリシアを復活させる技術を求め、ジュエルシードによって渡航を図った目的地でもあるのだ。
 そしてその桃源郷が、今まさに彼女らのいるこの場所だとするのなら。
 あのプレシア・テスタロッサは、虚数空間の漂流の末に、本当に目的地にたどり着いたということになるではないか。
《そうなのだろうな。この地の空気には覚えがある……そしてそれは、かつてのベルカの地のそれとも違う匂いだ》
《空気に覚えがある?》
《そもそも古代ベルカの魔法技術は、アルハザードとの交流によって発展したものだからな》
 だとするなら、それも真実なのだろう。
 リインフォースがいうには、現代においてロストロギアと呼ばれているベルカの遺産は、
 より優れた技術力を有した、アルハザードからの技術提供によって誕生したものなのだという。
 つまりアルハザードとは、この夜天の書の管制人格にとっては、第二の故郷にも等しい場所ということなのだ。
 そのリインフォースが、この地に漂う魔力の気配に、ベルカのそれとも異なる懐かしさを覚えている。
 ならば真実、この場所は、あの御伽噺の理想郷ということに他ならない。

92 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:39:12 ID:FwLcIe6A0
《……仮にここがそうだとすると、なおさら分からなくなるね……目的地にたどり着いたっていうのなら、何であいつはあんなことを?》
 思い返されるのは、一ヶ月弱ほど前の地獄の光景だ。
 転移魔法を行使し地球を発つ前、彼女らの暮らしていた海鳴市は、プレシアの軍勢の手によって壊滅した。
 未知の技術を取り込んだ大軍団を前に、迎撃に出た魔導師達は、1人残らず返り討ちにあったのだ。
 アルフの元の主人であるフェイトも、そのフェイトやリインフォースを救ったなのはも、あの凄惨な虐殺の果てに死亡している。
 今こうしてリインフォースについているアルフもまた、血と炎の最中で死にかけたのだ。
《プレシア・テスタロッサの目的は、娘アリシアの蘇生……だったな》
《あいつにとってはそれが全てで、他のことなんてどうでもいい、って感じだった。
 その目的を果たす手段を手に入れたのなら、今更他の世界に攻め込む理由も……フェイト達が殺される理由も、ないはずなんだ》
 不可解な点は、そこだった。
 かつてプレシアが事を起こしたのは、アルハザードへの到達という、唯一無二の目的のために他ならない。
 そしてその目的が達成された今だからこそ、あの襲撃の動機が分からなくなる。
 望みは全てアルハザードで叶うというのに、何故彼女は、わざわざ他の世界への遠征を実行したのか。
 管理局に察知されるリスクを冒してまで、今さらよそにかかわる理由など、プレシアにはないのではないのか。
《……何にせよ、調べてみる必要がありそうだな》
 がたん、と。
 念話に合わせ、前方から音が聞こえてくる。
 アルフがそちらの方を向けば、これまで以上に強い光が、眼下の廊下から差し込んでいた。
 金網状のカバーをリインフォースが外したらしい。
《そこに端末がある。幸い、監視カメラもない。この城の中枢へのハッキングを試してみる》
《ハッキング、って……あんた、できるのかい?》
《言っただろう?》
 ふわり、と闇に揺れる銀髪。
 くるり、とこちらを向く真紅の瞳。
 穴へと身を乗り出すような姿勢から、リインフォースがアルフの方へと首を向ける。
《このアルハザードは、私の第二の故郷だと》



 セキュリティを解析。
 ファイアウォールの構造を理解。システムの穴を探索し、突破。
 転送される情報を取捨選択。余剰プログラムを受け流し、必要と思しき情報を取得。
 頭部のメイン回路へと流れ込んでくるのは、複雑な数列で構成された構造式。
 それらを1つ1つ読み解いていき、サイバーデータの深淵へと泳いでいく。
 目を閉じたリインフォースの右手は、廊下に設置されていたコンピューターへとかざされていた。
 手のひらに浮かぶ銀の光は、ベルカ式の三角魔法陣。
 今まさに黒衣のユニゾンデバイスは、この時の庭園のサーバーへの不正アクセスの真っ最中だった。
《ホントにやってのけるとはね》
 感心したようなアルフの念話が、頭の片隅に響いている。
 彼女はリインフォースの傍らに立ち、敵の襲来を察知すべく、警戒態勢を保っていた。
 こうして無防備な姿を晒し、ハッキングに没頭することができるのも、彼女が見張ってくれているおかげだ。
 この狼の命を拾ったのが、人道的のみならず戦力的にも正解であったことを、改めて理解させられる。
《間もなくメインサーバーに到達できる》
 いよいよ大詰めに近づいたと、口にした。
 彼女がこのハッキングを為しえたのは、他ならぬその出自のおかげであった。
 大規模な魔法文明を誇っていたアルハザードでは、この手のデータも魔法術式で構成・管理されている。
 ミッド式でもベルカ式でもない、言うなればアルハザード式だ。並の魔導師や騎士では、解析することすら敵わないだろう。
 しかしこの場にいるのは並の騎士ではない。
 古代ベルカ最大級のロストロギアの1つ・夜天の魔導書の管制人格だ。
 アルハザードの恩恵を最大限に蓄えただけに、アルハザード式の術式にも、ある程度の心得を有している。
 加えてその身はデバイスである。プログラムの解析や操作には、生身の人間よりも長けていた。
 おまけに彼女のスペックは、そんじょそこらのデバイスの比ではない。
 幾多の魔術を蒐集・処理することを義務付けられ、それ相応の演算能力を与えられた、言うなれば史上最高峰のスーパーコンピューターだ。
 この手の作業に関しては、唯一にして最強の専門家と言えるだろう。

93暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:40:33 ID:FwLcIe6A0
《侵入成功。これは、爆発物の制御システム?》
 メインサーバーへと到達。
 そしていの一番に上げたのは、怪訝な響きを伴う声だった。
 最初に目に留まったデータは、何らかの爆弾の起爆システムを管理するためのものだ。
 質量兵器の管理システムとは、この場には余りにも似つかわしくない。
 魔術の理想郷たるアルハザードらしくもないし、アリシアを蘇生させたがっているプレシアらしくもなかった。
《次は……名簿か?》
 故に次に開示されたデータに、あっさりと意識の矛先を向ける。
 そして今度は深く興味を示し、廊下の端末に映像を映した。
 かつかつと歩みの音が聞こえる。それに気付いたアルフが、モニターを覗き込んだのだろう。
《高町なのはに、フェイト・テスタロッサ……プレシアが殺して回った人間の目録とか?》
《いや、それにしては妙だ。ユーノ・スクライアが生存扱いになっている》
 表示されたのは五十音順に並べられた、合計60人の名の連なる名簿。
 そしてその名前のすぐ横に、「生存」ないし「死亡」のいずれかが追記されていた。
 これも一見しただけでは、意味の理解に苦しむものだ。
 なのはやフェイト、ヴォルンケンリッターらが死亡しているのだから、
 アルフが言うように、既にプレシアが殺した者と、これから殺す者の一覧表にも見える。
 だがそれでは、ユーノが生存にカテゴリされている理由が分からない。彼もまた海鳴の戦闘で、間違いなく死亡したはずだ。
 加えてなのは、フェイト、はやての3人の名前が、それぞれ2つずつ用意されているのも気になる。
 フェイトは両方死亡だったが、なのはとはやては片方ずつ死んでいた。
 これは一体何を示すものなのだろうか。他のデータと比較してみれば、何か分かるかもしれない。
 更なる解析を進めようとした矢先、
《待った》
 アルフに、制止の声をかけられた。
《臭いと音が近づいてきてる。監視がこっちに向かってるみたいだ》
 その言葉にコンピューターへのアクセスを解き、瞼を持ち上げ瞳を見せる。
 赤い双眸の先の使い魔は、耳と鼻をひくつかせていた。
 イヌ科の嗅覚と聴覚を信頼するなら、まだ若干の余裕はあるはず。
 しかしそれも、この場から天井裏へ戻るのに利用した方が有意義だ。
 よってここは素直に従い、元の屋根裏へと飛行する。
 監視の目が近づく前に、極力音を立てぬよう留意して、金網状の蓋を戻した。
《あの卵メカか》
 ややあって、眼下に現れた機影。
 その楕円形のフォルムを見据え、忌々しげにアルフが呟く。
 あれは海鳴の戦闘にも顔を見せていた、正体不明のロボット兵器だ。
 魔力を通さない特殊なフィールドによって、なのは達ミッド式の魔導師は、大いに苦戦を強いられていた。
《……そういえば、何故監視が配置されているんだ?》
 ふと。
 疑問に思い、それを思念の声に乗せる。
《何故って?》
《よく考えてもみれば、ここは秘境中の秘境のはずだ。外部からの侵入者に気を配る必要は、皆無と言ってもいいと思うのだが》
 それが疑念の正体だった。
 ここは失われた地、アルハザード。
 管理局150年の歴史をもってしても、未だ現存を確認できず、半ば御伽噺扱いさえされている場所である。
 こんな所に侵入できる人間など、普通はいないと考える方が自然だ。
 であれば、申し訳程度の監視カメラはまだしも、わざわざ制御の手間を割いてまで、あのロボットを配備する理由が見つからない。
 あるいは、
《……既に見つかっているのか?》
 こちらの侵入を察知し、その捕縛のために放ったというのなら、話は別だが。

94暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:41:51 ID:FwLcIe6A0


(ガジェットドローンが配備されている……?)
 モニターに映された自律兵器を、使い魔リニスは怪訝な顔つきをして見つめていた。
 事が起きたのは、間もなく夜も更け始めようかといった頃。
 ちょうど転送魔法陣の移動について、モニターの映像ログを漁って調べていた時のことだ。
 デスゲームの参加者達の認識に沿うならば、
 吸血鬼アーカードの遺体が燃え尽き、八神はやてが従者のデイパックを回収した前後といったところか。
 地上本部の崩壊に伴い魔法陣が一旦消滅し、直後に地下に出現したことは、映像から確認することができた。
 誰が何をしてそうなったのかを調べようとしたのだが、
 転送魔法陣に関するデータにはプロテクトがかけられており、リニスの権限では閲覧できない。
 それでより上位の管理権限を持つ存在――プレシアが一枚噛んでいる疑いは固まったが、しかしそれ以上のことはもう分からない。
 ここまでかと落胆していた時に、ふと何の気なしに庭園内の監視カメラへ視線を飛ばすと、そこに映っていたのはガジェットドローン。
 このような経緯を経て、現在に至るというわけだ。
(プレシアが私を監視しているのかしら?)
 最初に考慮した可能性は、それだ。
 オットーの起用といい今回の件といい、どうにも自分は、プレシアに疑われているような気がする。
 とはいえ翻意を抱えているのは間違いないので、弁明のしようがないのが現実だ。
 そしてだからこそこの行動が、自分を警戒しているから、という風に結論づけることもたやすい。
 妙な行動を起こした時に、即座に始末できるように、各所にガジェットを配置したのではということだ。
(でも、それなら精神リンクを繋ぎ直せばいい)
 しかしよくよく考えてみれば、その可能性は薄いかもしれない。
 何せ、リニスはプレシアの使い魔なのだ。
 互いの行動を察知できる、精神リンクという手段を使えば、従者の謀反は主君に筒抜けになる。
 ならばわざわざ監視員を増やす必要はない。むしろ視覚のみに頼るのは、より不確かな手段と言っていい。
(なら、ナンバーズ達に何かが?)
 それなら監視の対象は自分ではなく、あの機械仕掛けの傭兵達だろうか。
 なるほど確かに、客観的な目で見れば、連中も自分と同程度にはいかがわしい。
 何せ“提供者”からしてああなのだ。その面の皮の下で何を考えているのか、分かったものではない。
 それこそこうして味方を装い、信用させたところを裏切って、アルハザードの技術をかすめ取ろうとしても不自然は――
「……?」
 と。
 その時。
 ぴぴぴぴ、と耳を打つ音があった。
 不意に鼓膜に飛び込んできたのは、コンピューターから響く電子音。
 それもこれはアラートだ。何かシステムのトラブルでもあったのだろうか。
 警告を示すアイコンを選択し、報告バルーンを展開する。
 そこに記載されていたのは。
「……っ!」
 不正アクセスの報告だった。
「侵入者っ!?」
 くわ、と瞳が見開かれる。
 さぁ、と顔色が蒼白となった。
 血の気は見る間に引いていき、顔中から嫌な汗が流れた。
 不正アクセスとはすなわちハッキングだ。
 こちらのコンピューターの所在が割れたということは、その時点で外部に居場所を察知されたことを意味する。
 加えてハッキングに利用した端末は、この庭園の廊下のコンピューターだ。
 外部からどころではない、内部からの不正アクセス。
 すなわちそれは、下手人であるハッカーが、ここに侵入を果たしていることに他ならない。

95暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:43:09 ID:FwLcIe6A0
「くっ!」
 逸る気持ちを抑えながら。
 しかし目に見えた狼狽と共に。
 リニスは制御コンピューターを操作し、全監視カメラの映像を展開する。
 ゲームのフィールドなど後回しだ。外界に構っている暇などないのだ。
 すぐさま庭園内の映像が、ばあっとモニターを埋め尽くす。
「何故だ……何故気付けなかったッ!?」
 右を見ては、左を見て。
 上を見ては、下を見て。
 忙しなく視線を泳がせながら、苛立ちも露わな声を上げる。
 そうだ。
 何故こんな単純な理屈に気付かなかった。
 気付こうと思えば、気付けるはずだったのだ。
 そもそも監視というものは、味方を対象にした概念ではない。外敵が領地に侵入するのを防ぐため、というのが大前提だ。
 それこそ普通に考えれば、味方よりも敵の方に目を向けて当然なはずだった。
 このアルハザードは誰も特定できない、などという言い訳は、今となっては通用しない。
 現に混沌の神を名乗るカオスなる者が、この殺し合いに一度介入しているのだから。
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 過去を悔やむ暇があったら、それを現在の行動に回すべきだ。
 いかにゲームに反対しているとはいえ、プレシアを傷つけるつもりはリニスには毛頭ない。
 故にこうして、プレシアを害するであろう者を、血眼になって探すのも当然の帰結。
 敵はまだこの施設内にいるはずだ。ならば、何としても見つけ出さなければ。
 いや、その前に警報か。庭園の他の人間達にも、警報ベルでこの非常事態を――
「……けい、ほう――?」
 はっ、として。
 警報装置に伸ばした手を、止める。
 焦りも悔やみも苛立ちも、すぅっと遠のいていくのが分かった。
 狼狽に開かれていた瞳が、それとは異なる感情によって、再び丸くなっていく。
 茫然自失とした表情を浮かべながら、やがてコンソールからも手を離した。
 そう、それだ。
 外敵の可能性を排除したのは、それが原因だったのだ。
 そもそもあのガジェットドローンは、プレシアの手によって放たれた可能性が高い。
 そしてもし仮にプレシアが敵の存在を認知し、その対策としてガジェットを配備したというのなら、
 この場の全員に注意を促すためにも、警報ベルを鳴らして然るべきはずなのだ。
 しかし、この現状はどうだ。
 今この時の庭園の中では、物音1つとして鳴っておらず、非常灯の光っている形跡もない。
 故にリニスはほとんど無意識に、敵襲の可能性を否定して、味方を疑いにかかったのだ。
 だが、これが本当に、敵に対する警戒態勢だとしたら。
 敵襲を理解していながら、警報を鳴らさなかったとしたら。
「私は……プレシアに見捨てられたの……?」
 仮にこの非常事態を、“全員”に通達する気がなかったとするなら。
 思い当たる節はいくつかあった。
 側近であるはずの自分を差し置いてまで、余所者に放送という大役を任せたこと。
 本来なら自分が管理するであろうボーナス支給品システムに、アクセス権限を設けたこと。
 転移魔法陣の移動を、こちらに相談することなく強行したこと。
 そして、その魔法陣のデータの閲覧が不可能だったこと。
 のろまな手つきでコンソールを弄れば、他にも様々な動作が、アクセス権限によって制限されていた。
 それこそ、これまでなら問題なく実行できたような、首輪の制御システムへのアクセスさえも、だ。
「私にできることは……もう、何もない……?」
 無力感が、声に滲んだ。
 虚脱感が、顔に浮かんだ。
 これまで有していたアクセス権限の、その大半が凍結された。
 それが意味することは、プレシアが自分を必要としなくなったということ。
 お前はもう当てにしていないから、非常事態を伝えるつもりもない、と、暗に示しているということだ。
 そしてそれは、自分が殺し合いのフィールドに働きかけることが、事実上全くの不可能となったということを意味している。
 そのくせモニターの監視機能は、未だ使用可能ときている。
 これはなんという皮肉だ。
 なんと陰惨で痛烈な三行半だ。
「指をくわえて見ていろと……そう言いたいのですか、プレシア……?」

96暗躍のR/全て遠き理想郷 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:43:56 ID:FwLcIe6A0


「さすがにプレシア・テスタロッサの使い魔……全くの馬鹿というわけではない、か」
 ぽつり、と呟く女の声。
 落ち着いた大人の女性といった声音の主は、黄金色に輝く双眸を、手元のモニターへと向けていた。
 そこに映し出されているのは、かの猫の使い魔リニスの姿。
 己の無力と絶望を噛み締め、呆然とした表情で、1人うなだれる無様な姿だ。
 とはいえ自力でそこまでたどり着けたというのは、さすがは大魔導師の眷属といったところか。
(深刻に捉えすぎてるような気がしないでもないけど、まぁいいお灸にはなったんじゃないかしら)
 リニスの推測通り、彼女は業を煮やしたプレシアの手によって、自らの管理権限を剥奪されていた。
 それまで担当していた職務の数々は、このモニターを見やる女を含んだ、戦闘機人達に分配されている。
 最初はプレシアも、外様に権力を与えていいものか少々迷ったようだが、
 組織のけじめを保つためにも、結局はこうしてリニスへの懲罰を優先したのだ。
 唯一使い魔の認識に間違いがあるとするなら、
 これはあくまで力差を明確に示すための、一時的な罰則に過ぎないということか。
 プレシアが言うには、あくまで第四回放送までの間頭を冷やさせるためのもので、
 それで効果が見られたのなら――余計な行動を取る気が失せたようなら、厳重注意の後に権限を元に戻すつもりだという。
 それにああも深刻なショックを受けているのは、やはりやましい意思があったということなのだろうか。
(さて……問題は彼女よりも、侵入者の方ね)
 思考の矛先を切り替え、監視カメラの映像をシャットアウト。
 その手元に映るモニターへと、ガジェットドローンの制御プログラムを呼び出す。
 リニスの読み通り、この女は――いいや他の戦闘機人もまた、侵入者の存在を認知していた。
 それこそ唯一彼女だけが、蚊帳の外へとはじき出されていたということだ。
(マリアージュはすぐに実戦投入可能だけど、今はまだ必要でもないか)
 視線のみを傍らに流し、内心で呟く。
 その目線の先に存在するのは、ガレアの王と称された少女。
 小柄な身体を薄物に包み、オレンジ色の髪を垂らした、古代ベルカの冥府の炎王――イクスヴェリアだ。
 洗脳プログラムの調整も、指揮権の剥奪も完了している。
 ひとたび彼女を目覚めさせれば、屍の兵士マリアージュは、即座にこの女の下僕となり、彼女の指示するままに働くだろう。
 しかし、今はまだその必要はない。
 所詮ガレアの冥王は、もしもの時の備えでしかない。
 高すぎる攻撃力と自爆能力を有した屍兵では、無用に建物を傷つけてしまう可能性もあるだろう。
 故に、今はまだ必要がない。
 今はガジェット達で用済みだ。
「頼むわよ、ガジェット達。私達のために邪魔者を見つけ出してちょうだい」
 プレシアのために、とは言い切らなかった。
 私達のために、とあえてぼかした。
 女の指がしなやかに踊る。心無き魔導師殺し達へとタクトを振る。
 機械人形のコンダクター――戦闘機人ナンバーⅠ・ウーノは、静かに蜘蛛の糸を張り巡らせていた。


【備考】
※リインフォースとアルフが、「首輪爆破の制御プログラム」「名簿」の二種のデータの存在を確認しました。
※リインフォースによる不正アクセスが、リニスに察知されました。
※第四回放送までの間、リニスのアクセス権限が大幅に制限されるようになりました。
 監視映像の閲覧以外の、ほとんどの権限が凍結されています。
 リインフォースとアルフの侵入も、リニスにのみ通達されていないようです。
※時の庭園内部に、ガジェットドローンⅠ型が複数配備されました。管制はウーノが行っているようです。

97 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:45:34 ID:FwLcIe6A0
投下終了。
今回分でリイン達とリニスを会わせようかとも思ったのですが、残り人数16人とまだまだギリギリ時期尚早だと思ったので、今はこのへんで。

98 ◆Vj6e1anjAc:2010/04/20(火) 08:48:06 ID:FwLcIe6A0
おっとと、いきなり誤字発見。

今はガジェット達で用済みだ。→今はガジェット達で様子見だ。

99少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

100リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 17:15:28 ID:OnNgqnOE0
投下乙です。
そうか、リイン&アルフはまだロワやっている事すら知らないのか(当然平行世界の存在も)。でも、もう発見されているからなぁ……オワタ。
流石にリニスは手を出せなくなったか(厳重注意だろうけど、実質ほぼアウトだからなぁ)……だが、見ているだけしか出来ないという事は……逆を言えば見る事は出来るって事だからなぁ……
だが……ウーノの口ぶりから察するに純粋にプレシアに従順というわけでは無いのが気になるが……(次の話でプレシアによって退場というオチもあるわけだが。)

しかし、これ本編扱いなのか? それとも外伝扱いなのか? どっちにすべきだろう……自分は本編でも良い様な気もするが……(でも、本当にあまり大きな動きのない外部話でもあるわけだしなぁ……)判断に迷う

101リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:14:03 ID:fbjZHEMg0
更に本編に絡む可能性を含むから本編扱いでいいと思うぞ

102リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:23:22 ID:fbjZHEMg0
改めて投下乙
そうか、二人は知らないのか。でもこれは想像も出来ないだろうな…知ったら知ったで…
リニアは絶望してるみたいだがロワでは見ることも重要だぞ。状況が変化したら或いは…
ウーノはやっぱり裏があるみたいだがこれはやっぱり…
これからどうなるかが物凄く気になるわw

103リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 19:24:03 ID:fM4/b7IkO
投下乙です
リニス、お灸をすえられたか
リイン達はどう動くのか…

個人的な意見としては外伝・本編両方扱いでいいかと
既に本編である前の放送に出てるんだし、登場話が本編なのに登場後ずっと外伝ってのもどうかと思うし
前の外伝話は別に無くてもいい話だったから本編扱いはされていないけど、リイン達はロワ完結に向けてこれからも絡んで来るだろうし

104リリカル名無しA's:2010/04/20(火) 21:31:58 ID:urpKK1/Y0
投下乙です
リニスは条件付きだが実質打つ手なしか
そういえば目から鱗だがリインとアルフはロワのこと知らないのか
確かに納得

自分としては外伝扱いにした方が無難かと
けじめつけておかないとロワ本編が薄れかねないから

105 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:24:46 ID:Zke0Tok.0
それでは、予約分の投下を開始します。

106強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:26:08 ID:Zke0Tok.0
 この短時間の内に、彼はヴィヴィオに会って、帰って来た。
 天道が齎したその情報は、なのはにとっては重要な意味を持っていた。
 何せこの半日以上、片時も忘れはしなかった大切な一人娘に会って来たと言うのだ。
 そんな一大ニュースを聞いて、なのはが慌てない筈は無かった。

「あ、会ったって……!? 何処で!? ヴィヴィオは無事なんですか!?」
「ああ、とりあえずは無事だ」
「とりあえずって……!」

 天道は飄々とした態度を崩さない。
 しかし、それは逆になのはを安心させる事となった。
 これ程までに落ち着き払っているからには、ヴィヴィオの身は安全なのだろう。
 冷静極まりない天道の視線に見据えられて、なのはも黙らざるを得なくなった。

「――すみません……少し、取り乱してました」
「無理もない、気にするな」
「それで……天道さんは、今まで何処で、何をしていたんですか?」

 まずはそこから話を聞かなくてはならない。
 それから天道が話してくれた話は、先程商店街で大混乱を招いたカードデッキに深く関わる話だった。
 コップの水面から、ミラーモンスターに引きずり込まれたのはなのはも既知の事。
 会場中から集められ、ミラーワールドに集められた参加者は、主犯者も含めて十数人居たと言う。
 そして、肝心の主犯者というのが、先程も話した浅倉威という男。根っからの危険人物らしい。
 浅倉はプレシアが最初に行った見せしめと同じ要領で、二人の若い男女の命を簡単に奪った。
 それを受けてか、集められた参加者のほぼ全員が殺し合いに乗り、戦いを始めたと言うのだ。
 そんな中、天道は自分のライダーシステムであるカブトの奪還に成功。
 カブトとして、戦いに乗った他のライダーと戦おうとした、その時。
 乱入して来たのは、金髪をサイドポニーに束ねた、オッドアイの少女。
 それを聞いた時点で、なのはには大方の予想が出来ていた。
 天道は対話を試みたらしいが、金髪の少女――ヴィヴィオは一向に応じなかった。
 というよりも、ヴィヴィオには言葉すら通用しなかったらしい。
 ただただ“なのはママを傷つけた者を殺す”事だけを戦いの理由にしていたのだ。
 結局何の進展も得られず、突如現れた不死鳥によって自分は元の場所へと連れ戻された。
 それが天道の身に起こった全てであった。

「ミラーワールドの中で、そんな事が……ヴィヴィオ、またあの姿になっちゃったんだ……」
「また……だと?」
「あ、はい……」
「なら今度はこっちから質問だ。幼い子供の筈のヴィヴィオが、何故大人になって戦っていた?」
「それは……」

 今度は、天道からの質問だった。
 ここまで情報を教えてくれた天道に、何も教えない訳には行かない。
 天道のお陰でヴィヴィオの安否も確認出来た事だし、何よりも自分の娘が天道に迷惑を掛けたのだ。
 故に、ヴィヴィオの身に起こった事情を秘匿する理由などは皆無。
 だからなのはは、重い口を開いて説明を始めた。

 そんな二人の耳朶を第三回目の放送の音が叩いたのは、話し始めてから暫く経ってからの事だった。

107強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:26:57 ID:Zke0Tok.0





 ソルジャーの持てる全力。
 それは並みの参加者のそれとは比べ物にすらならない、比類なき力。
 体力面に於いても、持久力に於いても。
 あらゆる面に於いて、ソルジャーは優れている。
 それら全てを出し尽くして、市街地を掛ける。
 目的は、只一つ。

「何処だ……チンク! クアットロ!」

 守るべき、大切な家族を保護する為。
 その為に、戦士は駆ける。





 現在位置は、差し込む光も薄れ始めた、薄暗い喫茶店――翠屋。
 今現在彼女を照らす光源は、傾き始めた太陽による僅かな光のみだった。
 誰も居ない喫茶店。横たわる首無しの惨殺死体。垂れ流しになった体液に、立ち込める異臭。
 そんな場所にたった一人佇む彼女の姿は、ともすれば“異様”とも取れるものだった。

(これでよし……と)

 片手にはキッチンから持ち出した大きめの出刃包丁。
 片手には目の前に転がる死体から剥ぎ取った首輪が一つ。
 首輪の裏には、「シャマル」という名前が刻まれていた。
 クアットロがこの翠屋に訪れたのは、これで二度目になる。
 一度目は、八神はやてとシャマルと共に。
 二度目は、死んでしまったシャマルの首輪を回収する為に。

(想像はしていましたけど、やはり死体から外しただけでは首輪は爆発しない、と……)

 心の中で呟きながら、首輪を無事回収出来た事に安堵。
 死体から首輪を外しても爆発しない――これに当たって、考えられる理由は二つ。
 一つは、首輪自身に装着者の生死を認識する能力がある、という可能性。
 一つは、主催側が常に見張っていて、危険と思った時点で爆発する、という可能性。
 何とかして解除するのであれば、機械的な前者の方が都合がいいが。

(……ま、これに関しては、もう少し下調べが必要ですわね)

 何の情報も持たない今、これについて思考しても進展は無い。
 状況を進展させる為には、首輪を解析するだけの設備が整った施設へ向かう必要がある。
 そして、首輪を解析する事が可能なラボとして思い当たるのは、二つ。
 片方は、自分達ナンバーズを生み出したスカリエッティのアジト。
 もう一つは、仮面ライダーを生み出したスマートブレイン本社ビル。
 この二つの施設ならば、首輪を解析するくらいの設備は整っているだろう。

108強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:27:39 ID:Zke0Tok.0

(最も、プレシアが何も対策を講じて居ないとは考えにくいですけど)

 もしも自分が主催側であれば、首輪を解除させるだけの施設なんて態々設置してやる程優しくは無い。
 仮に解除できたとしても、先程考えた通り、会場毎捨てられてしまえばそれでお終いだ。
 故に、迂闊に首輪を解除する様な馬鹿を野放しにする訳には行かない。
 そんな馬鹿は始末するなり自分の管理下に置くなりする必要性がある。
 そして、管理した上で必要となるのが、確実に勝利を収めるだけの戦力と、確実に首輪を解除する為の頭脳。
 後者については他ならぬ自分自身の存在を勘定に入れれば、頭脳としては既に大きな戦力を持っている事になる。
 それらを揃えて、失敗が許されない完璧なタイミングで首輪を解除しなければならないのだ。
 状況は、当初クアットロが想像していた以上に不利。

(不本意ですけど、このゲームからの脱出はもう、私個人の問題では無いという事ですね)

 自分一人ではどうしようもない。
 かといって、自分を警戒している参加者だって多いであろうこの状況下で、下手な演技は逆効果。
 これはあの無能な夜天の主の例から考えても、既に実証された事実だ。
 出来もしない演技に掛けて、窮地に立たされるのは御免被りたい。
 不本意この上無い事だが、ゲームから脱出するまでは、小競り合いをしている場合では無いのだ。
 管理局員や他の世界の勢力と手を組んででも、確実にこのゲームから脱出したいところだ。

(まず、アンジール様は何としてでも味方に付けるとして……でもでも、もうゲーム開始から随分と時間も経ってますしぃ……
 純粋な対主催勢力ってあとどのくらい居るんでしょう……下手をすれば、もう皆死んでしまったって可能性も……)

 無きにしもあらずだった。
 そもそも、殺し合いに乗らず、皆と一緒に戦う……なんて甘ちゃんはこのゲームでは生き残れない。
 シャマルだってそうだ。その甘さ故に、信じて居た主からボロ雑巾の様に捨てられ、死んでいった。
 生き残っているとしたら、純粋にゲームに乗った参加者と、戦えるだけの力を持った対主催勢力のみ。
 現在誰が生き残っているのか、性格な情報が欲しい。
 その為には、6時から始まる放送を確実に聞きたい所だが――

 『こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。 』

 おりしも、放送が始まった。
 まずはこの放送を聞いて、残った戦力について考える必要がある。
 ――のだが、それ以前に引っ掛かる事が一つあった。

(え……この声って、まさか……というかやはり……)

 一応、考えてはいた。
 もしかすれば、自分達の創造主であるジェイル・スカリエッティも関わって居るのではないかと。
 クアットロが尊敬する数少ない人物の一人――スカリエッティならばやりかねない、と
 例え自分の手駒だとしても、他の平行世界に存在するクアットロならば容赦なく斬り捨てるだろう。
 そして、淡々と放送を読み上げる声の主は、まさしくスカリエッティの手駒の一人であった。

109強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:28:12 ID:Zke0Tok.0





 まるで早送りの映像でも見ているかのように、街の景色は流れて行く。
 それも全ては、アンジールの人並み外れた走力が成せる業だった。
 アンジールはまだ知らない。
 守るべき、家族の死を。
 斃すべき、友の死を。

「放送――もう6時かッ!」

 耳朶を打ったのは、6時間毎の定時放送。
 自分の周囲で起きている事実など知る訳も無く。
 何も知らないアンジールへと、残酷な運命は付き付けられた。





 6時の放送が終わってから、経過した時間は既に一時間弱。
 たった二人しかいない事務所は今、深い悲しみに包まれていた。
 悲しみの原因は最早語るまでも無く、先程行われた放送だ。

 先程まで共に行動していたペンウッドとC.C.は死んだ。
 誤解を解かねばならない筈だった騎士、ゼストも死んだ。
 大切な教え子であるキャロも、まだ幼いルーテシアも死んだ。
 10年間という長い時間を共に過ごしてきたシャマルも、フェイトも死んだ。
 亡くなってしまった命はもう戻っては来ない。
 皆なのはにとっては大切な人間だった。
 いくら精神が強いとは言え、それに耐えて平静を保てる程、なのはの精神は頑丈では無かった。 
 そして、それが解っているからこそ、天道も下手に声を掛けはしなかった。
 天道にしても、守るべき命を19人も殺されて、全く意気消沈していないと言えば嘘になる。
 例え見ず知らずの人間であっても、罪の無い人が死んで行くのは天道の意思に反する。
 ここまでの自分は、余りに無力過ぎた。
 自分がもっとまともに戦えて居れば、救えた命もあった筈なのだ。 
 デスゲームが始まってからの戦いを振り返れば、そう思うのも仕方が無い。

(それにしても……ヴィヴィオ、か)

 不意に、思い出す。
 今回の放送では、その名が呼ばれる事は無かった。
 戦闘の意思を見せなかったとは言え、カブト相手にあれだけの戦闘力を発揮したのだ。
 そう簡単に他の参加者に殺されてしまう心配は無いだろう。
 というよりも、逆に他の参加者を殺してしまうのではないかと言う懸念すらある。

(そうなる前に、ヴィヴィオを止めたいが)

 ヴィヴィオに関する話は、大体高町なのはから聞いている。
 なのはが初めてヴィヴィオに出会ってから現在に至るまで、あらゆる話を、だ。
 始めは本当に甘えん坊で、一度なのはから離れるとなれば、大泣きは避けられなかった事。
 その度に宥めるのが大変で、それでもなのははヴィヴィオの仮初の母親として接した事。
 やがて正式になのはがヴィヴィオを引き取る事が決まって、晴れて本当の母親になれた事。
 これから本当の家族としての時間を一緒に過ごして行こうと、この親子の未来は輝いていた事。
 それらの話を天道に聞かせる時、なのはは何時になく饒舌で、楽しそうな顔をしていた。
 そんななのはの顔を見れば、どんな思いで母親としてヴィヴィオを世話していたのか等、すぐに解った。

110強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:28:59 ID:Zke0Tok.0

 天道から言わせれば、高町なのはという人間は、間違いなくヴィヴィオの母親だ。
 この親子の間に、血の繋がりだ聖王のクローンだなんて事は一切関係無い。
 揺るぎ無い絆で結ばれた二人は、誰が何と言おうと間違いなく家族なのだ。
 だからこそ、それは天道に決意をさせる十分な理由となり得た。

(もう一度、高町が楽しそうに笑う顔が見たくなった)

 絶対に、もう一度ヴィヴィオとなのはを再会させる。
 そして皆で揃ってプレシアを打破し、このゲームから脱出する。
 その時にはきっと、なのはは再び笑顔を取り戻してくれるだろう。
 彼女ならば、多くの仲間を失ってしまった悲しみを乗り越えられる筈だと、信じて居る。
 だから、もうこれ以上は誰も死なせない。
 生き残った全員の命を救った上で、何としてもこの親子を守り抜いて見せる。
 それが、天道の決めた新たな方針だった。





 守る為に、殺す。
 大切な者を守る為なら、それ以外の命など取るに足らない。
 かつてのアンジールならば、そんな考えは持たなかっただろう。
 だが今は違う。違ってしまった。
 守るべき者を知った時、人は変わるのだ。
 
「また俺は、守れなかったのか」

 そして、守るべき者まで失ってしまったと知った時――





 既に日が落ちた市街地を進む影があった。
 否、それは正確には影と言える物では無い。
 他者からすれば、影すら見えない不可視の物質。
 戦闘機人ナンバーズが4番目――クアットロ。

(頼もしいのはいいんですけど……少し速すぎじゃありません事?)

 クアットロは、心中で思う。
 先程翠屋の中で、自分は確かに見た。
 偽りの兄妹、戦闘機人・アンジールの姿を。
 その桁違いの走力で、市街地を駆け抜けて行く勇姿を。
 戦闘能力はセフィロスにも追随するトップクラス。
 走力・体力・持久力。共に化け物染みたレベル。
 頼もしいったりゃありゃしない。
 ――追い付くことが出来れば、の話だが。

(もう、一体全体この数分間でどれだけ先へ行ったって言いますの……!?)

 事実としてクアットロは、アンジールに追い付けずに居た。
 そもそも前線に出る事のないクアットロが、クラス1stの走力に追い付く事自体が難しい事なのだが。
 それでも、折角見付けた千載一遇のチャンス。
 みすみす逃すわけにはいかない。

(そう……セフィロスは死んだ様ですけど、まだ他の脅威が残っている事に変わりはありませんから)

111強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:29:30 ID:Zke0Tok.0

 セフィロスクラスに対応出来るだけの戦力を味方に付けて置くに越したことは無い。
 あれだけの戦力を持った者が味方に居れば、それだけで戦略の幅は広がるのだ。
 故に、何としてもアンジールを見逃す訳には行かないのだ。
 何としてもアンジールを取り込まねばならない。

(それにしても……はやてさんは一体どんな手を使ったんでしょう。
 まさかあの状況から、セフィロスだけを殺して生き残るなんて……)

 クアットロの知る限り、八神はやては何の道具も持ち合わせては居なかった。
 だとすれば、考えられる方法は絞られてくる。
 他の参加者と合流し、助けて貰ったか、何らかの方法で油断させ、不意を打ったか。
 まぁ、普通に考えたら前者の方がよっぽど現実的だが。

(だとすれば、少々やっかいですわねぇ)

 はやてには少々、余計な事を言い過ぎた。
 自分の悪行を広められてしまっては、余計に動きにくくなると言う物。

 ――否、自分はあの無能な部隊長と違って、まだ人殺しをしてはいない。
 どうせ最初から自分は警戒されているのだ。素直に信じてくれる御人好しなんてそうは居ないだろう。
 それなら、まだいくらでもやり様はある。
 何せ端から日和見に傾く腹積りだったのだ。
「様子見の為の嘘でした、ごめんなさい。もう嘘は付きません」と行っておけば、後は機転を利かせればどうとでもなる。
 故にはやてに関しての問題はそこまで大きな問題とは言えない。
 何せ既にギルモンやシャマルを殺しているはやての方が、状況は圧倒的に不利なのだから。

(で、主催側にはやはりドクターが絡んで居たようですけど……)

 自分を参加させている事から考えるに、「スカリエッティに頼ってゲームからの脱出」は絶望的だろう。
 ゲームから脱出させる為には、“この世界のスカリエッティ”すらも欺かなければならない。
 だが、それに関してはもう悩む必要も無い。
 スカリエッティだって平行世界の自分をこうも簡単に斬り捨てたのだ。
 自分だってそんなスカリエッティに忠義を尽くす義理は無い。
 クアットロが唯一使えるのは、クアットロが居た世界のスカリエッティなのだから。

(故に、この世界のドクターは敵……ま、これに関しては考えるまでもありませんね)

 その判断は、至って単純なもの。
 問題はそれよりも、どうやってスカリエッティを出し抜くか、だ。
 別の世界とは言え、相手はあのスカリエッティなのだ。
 生半可な計画では容易く見抜かれてしまうだろう。
 何とか仲間を集めて、上手くシルバーカーテンと組み合わせて首輪を解除する。
 シルバーカーテンの能力は絞られているとはいえ、頭脳戦に於いてこれ程に心強い物は無い。
 必ずやこの能力は役に立つ。それだけの確信がある。
 だから、今は焦らず仲間を集めるのだ。

112強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:30:03 ID:Zke0Tok.0





 失った者は、この場に残った家族。
 失った者は、この場に残った親友。
 出来る事ならば、家族を傷つけた友は、この手で倒してやりたかった。
 それが友、セフィロスに出来るせめてもの手向けだった。
 だが、それももう出来ない。
 そして何よりも。

「チンク……」

 守るべき者を失った時、人はやはり変わる。
 もうアンジールに、精神的な余裕など残されている筈も無かった。
 守護の対象は、クアットロ一人に絞られた。
 クアットロを守り抜く為ならば、何だってする。
 妹を守る為ならば、他の全員を殺すことも厭わない。
 アンジールは再び、アスファルトを蹴った。
 友と家族の死を、その剣に背負って。





 小さな非常灯に照らされた事務所内。
 音一つ無い、静かな世界だった。
 否、正確には全くの無音では無い。
 声にもならない嗚咽。
 絞り出す様な泣き声。
 それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。
 年配者なのに、自分に頼りっぱなしで、戦力としては数えられなかった。
 だけどその半面、彼は誰よりも気高い勇気を持った男だった。
 自分の命を投げ出してまで、なのはを救ってくれたのだ。
 そんな事、簡単に出来る事じゃない。
 C.C.はC.C.で、基本無表情で、何を考えているのか解らなかった。
 だけど、殺し合いに反発していたのは間違いない事実。
 ルルーシュという人物と再会する為に、共に闘う筈だった。
 だけど、C.C.も、ルルーシュも、死んでしまった。
 もう、二人が再会する事は無くなってしまったのだ。

(キャロ……騎士ゼスト……)

 キャロはまだ10歳の女の子で、なのはの教え子だった。
 こんな殺し合いに参加させられて良い訳が無い、将来有望な子供だったのだ。
 それも、なのはが一から魔法のいろはを教えた少女が、こんな下らない戦いで死んでしまった。
 エリオも、ティアナも、キャロも、皆死んでいく。
 ゼストだって、キャロ以上に頼もしいストライカー級魔道師だったのに。
 これからゼストと合流して、誤解を解かねばならないと思っていたのに。
 それも果たすことなく、その命は再び散ってしまった。

(シャマルさん……フェイトちゃん……!)

113強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:30:40 ID:Zke0Tok.0

 何よりもなのはの胸を締め付けるのは、10年来の仲間の死。
 二人とも、この10年間をずっと共に過ごしてきたのだ。
 闇の書事件以来、心強い味方として御世話になっていたシャマルさん。
 辛い時も、楽しい時も、共に数多の戦場を駆け抜けて来たフェイトちゃん。
 特にフェイトの死は、ここへ来てから二度目になる。
 幾ら心を鋼鉄で武装しようにも、耐えられる訳が無かった。

 泣くだけ泣いて、顔を上げた。
 時計を見れば、既に放送から一時間弱が経過していた。
 背後に人の気配を感じ振り向けば、そこに居るのは天道総司。
 この人はまた、自分に気を遣ってくれたのだ。
 一時間近く泣いている間、何も言わずに休ませてくれたのだ。

「ごめんなさい……もう大丈夫です」
「そうか」

 涙を拭って、立ち上がる。
 これ以上、ここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 フェイトだって、死んだ皆だって、きっとここでなのはに挫けて欲しくは無い筈。
 彼女らが成せなかった事を、自分が成し遂げて見せる。
 散って行った皆の意思を継いで、このゲームを破綻させて見せる。
 決意を新たに、天道に向き直った

「ならば、今すぐゆりかごへ向かうぞ」
「え……?」
「何だ、聞こえなかったのか。ゆりかごへ向かうと言っているんだ」
「い、いや……そうじゃなくって、どうして」
「愚問だな。逆にお前がゆりかごへ向かわない理由があるなら聞かせてみろ」

 なるほど、そういうことか。
 天道は、ヴィヴィオを救うつもりで居るのだ。
 だから、聖王と関わりの深いゆりかごへ向かうと言い出した。
 他にヒントが無い以上、ヴィヴィオの手掛かりはゆりかごにしか無いのだ。

「でも、他の皆だって助けなきゃならないのに」
「無理をするな。お前だって本当は一番に助けたいんじゃないのか?」
「……はい。たった一人の、娘ですから」
「それでいい。もしもお前が娘よりも他の参加者を優先していれば、俺はお前に失望していた」

 なのはは思う。
 天道総司という人間は、一見クールに見えて、実は人間臭い。
 金居曰く“正義の味方”という建前の元で戦う男という事だが、それは間違いだ。
 この男は正義だとか、英雄的行為だとか、そんな物に縛られてはいない。
 ただ自分の信じる正義に従って、守りたい道を貫き通す。
 ある意味では、どんな英雄よりも信用出来るタイプだ。

「でも、ゼロはどうするんですか?」
「下らん……奴はキングだ。これ以上奴のお遊びに付きやってやれる程、俺達は暇人でも御人好しでも無い」

 天道が、さもつまらなさそうに言ってのけた。
 なのはも薄々は感づいて居たが、確かにゼロはキングの可能性が高い。
 ペンウッドとC.C.の二人は死んだのに、キングだけは死んでいないのだ。
 それだけでキングを犯人だと決めつけるのはどうかと思うが、もう一つ、犯人をキングだと断定させる理由があった。
 それは、口で嘘を吐く事は出来ても、どうしたって隠し切れはしない物――瞳に宿る光だ。
 キングの瞳に宿った邪気は相当な物だったし、それに気付けないなのはでも無い。
 恐らく、ゼロはキングで間違いないだろう。
 故に、これ以上ここに留まる理由も無い。
 二人はすぐに行動を開始した。

114強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:31:19 ID:Zke0Tok.0





 最早、言葉は必要ない。
 目の前に敵が居るならば、それを駆逐する。
 アンジールの視界に映っているのは、確か管理局のスーパーエース。
 管理局であるなら敵だ。我ら家族の敵だ。
 相手が敵ならば、持てる全力を尽くして叩き潰すまで。
 例え夢も誇りも失ったとしても、最後に残ったものだけは失いたく無いから。
 家族を守る為。そんな大義名分を盾に、八つ当たりにも似た襲撃を開始した。





 放送を聞き終えたヒビノ・ミライは、たった一人市街地を歩いていた。
 その表情は、暗い。ミライの周囲を覆う夜の闇よりも暗い。
 理由は単純明快、先刻行われた放送。
 死んでしまった参加者の人数は、19人。
 前回の放送の比では無い。
 余りに多すぎる。

(こうしている間にも、19人も死んでしまうなんて……)

 その中には、先程目の前で殺されたあの人も含まれているのだろう。
 19人も名前を読み上げられれば、その中の一人を特定するのは難しい事だが。
 そして何よりも、ミライを最も悔やませるのは、その中で呼ばれた一人の名前。

(万丈目君……)

 万丈目準。
 ミライと行動を共にする、おジャマイエローの相棒。
 おジャマイエローが再会を望む、最愛のパートナー。
 絶対に再び合わせると約束したのに、それを果たす事無く、その命は奪われてしまった。
 これでは、おジャマイエローに合わせる顔が無いと言う物。
 幸か不幸か、おジャマイエローはデイバッグに引きこもっていた為に、この放送を聞いてはいない。
 このまま言わなければ、万丈目の死を知らずに済むかもしれないが……

(……いや、そんな訳には行かない)

 脳裏に過った考えを振り払う様に、ミライは首を振るった。
 確かに知ることが無ければおジャマイエローが悲しむことは無いだろう。
 だが、それは間違っている。
 本当の事を言わずに方便の嘘を吐いた所で、それはその場凌ぎでしか無いのだ。
 いつか知ってしまうなら、正直に話すべきだ。
 だが、ミライはそれでも悩む。

(一体、どんな顔をして伝えればいいんだ)

 守ると約束して、守れなかった。
 何も出来る事無く、目の前の男を死なせてしまったばかりか、約束の一つも守れない。
 こんな事で、何が光の国の戦士だ。何がウルトラマンメビウスだ。
 瞳を食いしばって、自分の無力に打ちひしがれる。
 どうしてこんなにも守れないのだろうか、と。
 そんな時だった。

115強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:31:50 ID:Zke0Tok.0

 ――キィン。

 微かに聞こえた、金属と金属のぶつかり合う音。
 全ての思考を一時的にかなぐり捨てて、ミライは顔を上げた。
 これは恐らく、と言うよりも間違いなく、戦闘音だ。
 金属と金属がぶつかり合う、戦闘による効果音。
 誰かがこの近くで、戦っているのだ。

(音は……ここから近い!)

 今ならばまだ間に合う。
 この戦闘を止めるのだ。
 今度こそ、守って見せる。
 その為に、ミライは駆け出した。

116強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:35:22 ID:Zke0Tok.0
 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

117強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:36:34 ID:Zke0Tok.0
 



 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う……家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

「そんな鎧で、ソルジャーに勝てると思うなよ」
「俺の事よりも、自分の心配をするんだな」
「何だと」
「お前こそ、そんなナマクラで俺の命を奪えるとは思わない事だ」
「……随分と、ナメられたものだな」

 バスターソードを握る手に、自然と力が込められる。
 この男は父から受け継いだ誇りをナマクラと言った。
 アンジールの夢を、アンジールの誇りを、ナマクラと言った。
 最早この不遜な男との戦闘はどうあっても免れない。
 二人の戦闘の火蓋は、ここに斬って落とされた。

118夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:39:38 ID:Zke0Tok.0
>>116はミスです。このレスから後半になります。

///////////////////////////////////////////////


(どっちも凄い……全くの互角だ)

 高町なのはが、心中でぽつりと呟いた。
 大剣を操る戦士・アンジールと、最強の仮面ライダー・カブト。
 二人の戦いは、熾烈を極めて居た。
 アンジールが大剣を振るえば、カブトが斧で受け止める。
 カブトが斧を翻せば、アンジールの大剣が弾き返す。
 それらを、一般人では感知出来ぬ程のスピードで何度も何度も繰り返す。
 お互いに決定打となる一撃を与えられぬまま、そんな攻防が繰り返されていた。

「どうした。我武者羅に剣を振るうだけでは、この俺には敵わんぞ」
「うおおおおおおおおおおッ!!」
「やれやれ。完全に頭に血が昇ってる」

 高速で刃と刃を交えながら、カブトの仮面の下からため息が漏れた。
 アンジールが振り下ろした大剣を、今度は受け流さずに、回避した。
 その腕に自分の腕を組み、アンジールの動きを封じた上で、カブトがアンジールの顔を覗き込んだ。
 無機質な仮面の、青い視線。激情に身を任せた、青い視線。
 二つの視線が交差する。

「おばあちゃんが言っていた。男はクールであるべき……沸騰したお湯は、蒸発するだけだ。ってな」
「何ィッ!?」
「答えろ。お前の家族は、本当にお前が殺し合いに乗ることを望んでいるのか?」
「俺もあの子らも兵士だ! 殺す事にはもう慣れた!」

 それは、既に何度も口にした言葉であった。
 一度目はヴァッシュに。二度目ははやてに。
 スカリエッティの元で育てられた彼女らならば、なるほど確かに殺しに躊躇いは無いだろう。
 だが、アンジールの返答は、天道にとってはどうにも腑に落ちない返答であった。

「ほう、それは可笑しな話だな。殺すことには慣れた筈のお前が、その剣には迷いを乗せている」
「何を――!」
「お前はどうしようも無い奴だが、平気で人を殺せるような奴じゃないって事だ」

 果たして、カブトの言う事は正しかった。
 しかし、それは以前までのアンジールならば、の話だ。
 かつてのアンジールならば、より多くの人々の為に。人々の命を救う為に。
 そんな目的の為に戦っていた事だろう。
 だが、それはもう過去の話。

「お前に何が解る! お前に俺の気持ちが解るのか!
 大切な家族を、友を失った俺の気持ちが解るのかッ!」
「解るさ。俺にだって」
「黙れぇぇッ!!」

 もう一度カブトと刃を交えれば、アンジールは後方へと跳び退った。
 ほんのひと跳びで、カブトの攻撃が届かない距離まで後退する脚力は、まさに驚異。
 しかし、カブトに驚く暇など与えられはしなかった。

119夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:40:35 ID:Zke0Tok.0

「ほう」

 心を埋め尽くす激情を体現するかの様に、アンジールの身体に変化が起こった。
 右の背中から、まるで蝶がその羽で蛹の殻を破るよう――
 現れたのは、天使の羽と見まごうばかりの、純白の片翼。

「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 怒号と共に、その翼を羽ばたかせた。
 たった一度の羽ばたきで生み出されるのは、弾丸をも超える超加速。
 重厚な鎧を着込んだカブトに、そんな加速を受け止められる筈が無かった。
 刹那、叩き込まれたのは化け物染みた怪力によって振り下ろされた大剣による一撃。
 咄嗟の判断で、というよりも反射的に、斧を構えたカブトの腕を弾いて、大剣がカブトの胸部装甲を裂いた。
 どすんっ! と大きな音を立てて、組み伏せられたカブトの身体が、周囲のアスファルトと共に地面へと陥没した。
 こうなってしまっては、如何に強かろうが、もうどうしようも無い。
 カブトの身体を踏み締めて、アンジールが叫んだ。

「俺の、勝ちだッ!」

 結果は、アンジールの勝ち。カブトの負け。
 ソルジャーの、それも“1st”を相手に、カブトは良く戦った。
 確かに手強い相手ではあったが、悲しいかなカブトの力はアンジールには届かなかったのだ。
 ともあれこれで、妹たちにとっての脅威を一つ、排除する事が出来た。
 次は、そうだな。この男と一緒に居た高町なのはをどうするか。
 何せ高町なのはは管理局のエース・オブ・エースだ。
 戦力で言うなら、かなりものである事は間違いない。
 しかし、それについて考える時間が訪れる事は無かった。
 さて、どうするか――と考え始めようとしたアンジールの現実は、覆されたのだ。

「甘いな」
「な――ッ」

 声が聞こえた。
 どこから聞こえた?
 アンジールの、真下からだ。

 ――CAST OFF――

 電子音が響いた。
 それからアンジールは、ようやく理解した。
 自分が切り裂いたのは、カブト本体では無い。
 自分が切り裂いたのは、カブトが着込んだ重厚な装甲に過ぎない、と。
 片翼の突進力と、ソルジャーの怪力を以て放たれた一撃を食い止めるとは、何たる装甲か。
 その装甲が、アンジールの眼下、カブトの身体から剥離しはじめた。
 何が起こるのかと理解するよりも先に、アンジールはバスターソードを引き抜こうとした。
 されど、もう遅い。

120夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:41:17 ID:Zke0Tok.0

「く……ッ!!」

 カブトの身を包んでいた装甲が、弾け飛んだ。
 拡散する装甲が生み出したのは、驚異的な加速力。
 バスターソードが食い込んだままの胸部装甲が、カブトから離れる。
 カブトの頭部や腕を守っていた装甲が、アンジールの身体を直撃する。
 押し出される様に、アンジールの身体は後方へと吹っ飛ばされた。
 されど、アンジールもさるもの。
 むざむざアスファルトに叩きつけられまいと、空中で純白の片翼を羽ばたかせた。
 アンジールの身体は空中で一回転を加えて、減速。アスファルトへの着地、成功。
 バスターソードを振り抜いて、食い込んだままの装甲を投げ捨てた。

 ――CHANGE BEETLE――

 見れば、先程までの無骨な銀とは違う、赤の戦士がそこに居た。
 メタリックレッドのスリムな装甲。輝きを放つ青い複眼。マスクの中央の一本角。
 なるほど、確かにカブトムシは夜になってから行動を開始する。
 まさにカブトを名乗るに相応しい、と皮肉を込めた印象を抱いた。
 昼間まで寝たり、まともに戦えなかった天道の事を考えれば、あながちカブトムシという比喩も間違ってはいないのかも知れない。
 何故なら雑木林に住む昆虫のカブトムシもまた、昼間は土の中や木の皮の裏で眠っているのだから。
 まあ、そんな話はどうでもいい。

「それが本当の姿か」
「それはこっちの台詞だ」

 見下ろすアンジールに、カブトが崩れぬ余裕と共に投げ返した。
 純白の片翼を羽ばたかせ、宙に浮かぶアンジール・ヒューレー。
 赤い装甲を煌めかせ、ライダーフォームへの変身を遂げたカブト。
 二人の姿は、揃って先程までとは違っていた。


 カブトの装甲に身を包んだ天道は、思う。
 この男、殺す事に慣れたなどと言ってはいるが、それは正確ではない。
 もしもこれだけの実力を持った男が最初から殺すつもりで挑んでいたなら、マスクドフォームのままで戦っている余裕など無い。
 相手の力量を図る為にあえて様子見をした、と言えば聞こえはいいが、それはそれで不自然だ。
 どうせ殺すつもりなのであれば、最初から片翼を解放して、最初の一撃で仕留めればいいだけの話。
 片翼を最初から解放しなかった理由として、油断していた、というのも考えられるが、やはりそれも無いだろう。
 この男は、激情に身を任せて我武者羅に剣を叩き付けて来た。
 そんな“キレた”奴ならば、尚更最初から一撃で終わらせに掛っていた方が合理的だ。

(恐らくこいつは、放送で家族の名前を呼ばれているな)

 それが、天道が思い至った結論であった。
 家族の名前が放送で呼ばれたからこそ、これだけキレているのだろう。
 大方他の参加者を皆殺しにして、死んでしまった家族を生き返らせようとか、そんな事を考えているのだろう。
 もしもそうだとしたら、こいつには手の付けようがない。
 家族を失ってしまった者の行動は、ある意味天道が一番理解出来て居る。

「なるほどな。参加者を殺して勝ち残れば、死んでしまった者を生き返らせる事が出来るとでも思っているのか」
「それだけじゃない。最後に残った“妹”を守る為にも――他の誰も、あの子には近づけさせん!」
「妹、だと……?」

 仮面の下で、表情を歪める。
 何たる皮肉であろうか、目の前の男が守ろうとしていたのは、妹だという。
 あろうことか、こいつが戦う理由は、天道が戦う理由と同じ。妹を守る為。
 天道は心の奥底で、怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。
 その気持ちが何なのか、すぐには理解出来なかった。

121夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:42:07 ID:Zke0Tok.0
 
「ハッ!」
「チッ」

 カブトの狼狽を知ってか知らずか、先に打って出たのはアンジール。
 再び先程と同じ要領で加速を得て、カブトへと突貫したのだ。
 流石に装甲が無くなった今、正面から攻撃を受け止めるのは拙い。
 横方向へと跳び退りながら、滑らす様にカブトクナイガンを大剣にぶつける。
 突進の威力をそのまま受け流して、体勢を立て直す。
 お互いに万全の状態で得物を構え。

「「ハッ!!」」

 二人の掛け声が、揃った。
 アスファルトを蹴って、駆け出したカブト。
 片翼を羽ばたかせて、加速するアンジール。
 きぃん! と、甲高い金属音を打ち鳴らして、二人の刃が激突した。
 正面からの激突によって発生したのは、二人を襲う衝撃。
 二人の身体は、正反対の方向へとふっ飛ばされた。
 しかし、二人は超人である。
 みすみすコンクリートに身体を打ち付けはしない。

「ハッ」
「フンッ」

 呼吸音と共に、二人が蹴ったのはビルの壁。
 それぞれ向かい合ったビルのコンクリの壁を蹴って、再び跳躍。
 そのままの加速を殺す事無く、二人の身体は再び舞い上がった。
 今度は、空中。

「「ハァッ!」」

 イオンビームを纏った刃が、誇りの象徴たるバスターソードと激突した。
 されど、この戦いは互角では無い。
 空中戦闘に於いては、翼を持ったアンジールの方が圧倒的に有利。
 激突したクナイガンを弾き返し、アンジールは再び翼を羽ばたかせた。
 空中での推進力を失ったカブトに、これ以上の攻撃は不可能。
 それを理解した上での、大剣での追撃。

 ――CLOCK UP――

 バスターソードによる追撃の一太刀は、しかしカブトには当たらなかった。
 大剣の刃がカブトに激突する瞬間に、カブトは腰を叩いたのだ。
 ZECTが開発したマスクドライダーに標準装備された、クロックアップシステム。
 使用者を、通常の時間軸から空間ごと切り取る事で得られる、光速に近い超加速。
 クロックアップが相手では、例えアンジールと言えど太刀打ち出来る訳が無かった。
 この瞬間からは、カブトのみに感知出来る世界。
 
 突き出されたバスターソードの刃を掴んだ。
 そのまま腕に力を込めて、自分の身体を持ち上げる。
 ひらりと翻った身体で、バスターソードの上に爪先で着地した。
 次に右脚を踏み出して、アンジールの肩を踏み締め、跳躍。
 後方の雑居ビルへと跳び、その壁を蹴って、再びアンジールへと加速した。

122夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:42:48 ID:Zke0Tok.0
 
 ――CLOCK OVER――

 しかし、カブトの思い通りには行かない。
 カブトの攻撃がアンジールに届く前に、クロックアップが切れたのだ。
 クロックアップ中に飛び蹴りを当てる戦法、失敗か。
 否、まだ失敗した訳ではない。クロックアップによるアドバンテージは大きい。
 アンジールが感知するよりも速く、キックを当ててしまえばいいだけだ。
 されど、戦いとはやはり思い描いた通りにはならないもの。

「――後ろかッ!」

 アンジールが、片翼を羽ばたかせて、方向転換をした。
 何と言う反射神経だ。この男は、クロックアップによる連携攻撃に生身で着いて来たのだ。
 ライダーやワームですら、これ程の反射神経を持った者はそうはいまい。
 アンジールは、その化け物染みた反射神経を以て、バスターソードを構えた。
 横幅の広いバスターソードを盾代わりに、カブトのキックを受け止めようと言うのだ。
 されど、カブトのキック力は7トン。当然、受け止め切る事など、出来る訳も無く。
 アンジールの身体は、後方へとふっ飛ばされた。


 スーパーの屋上に着地したアンジールは、バスターソードを杖代わりに立ち上がった。
 足場に突き立てたバスターソードの柄を握り締め、アンジールは思う。
 クラス1stのソルジャーと何度もかち合って、未だお互いに決定打無し。
 この男は強い。文句なしに強いと認めざるを得ない。
 何せ、クラス1stの自分と渡り合えるだけの力を持っているのだ。
 強い。文句なしに強い。
 戦闘におけるセンスは自分と同等か、それ以上だろう。
 もしもこんな戦士が神羅に居たならば、さぞかし立派なソルジャーになれた事だろう。

「強いな。大口を叩くだけの事はある」
「当然だ。何てったって、“俺が最強”なんだからな」
「ならば、尚更だ。“最強”のお前を倒せば、妹の安全はより保証できる」
「お前には無理だ」

 その身体能力を以て、カブトが屋上まで駆け上がって来た。
 俺が最強、と言う言葉を強調して、不遜な態度を崩す事無くうそぶいた。
 だが、最強を自負するからには、この男の戦い方は少し甘すぎる。

「お前の攻撃には、殺意が無い……本気で戦う気は無いのか」
「馬鹿馬鹿しい。俺は最初から本気だ。
 最も、あの生け好かない女に従って誰かを殺すつもりは毛頭ないがな」

 なるほど、この男は殺し合いに乗ってはいない。
 不思議な男だ。ヴァッシュとはまた違って意味で、だ。
 剣を交えたからこそ解る、一種の信頼にも似た感情を、抱き始めて居た。
 これから妹以外の全員を殺して回らねばならないというのに、自分は何をしてるんだと、自嘲した。
 そうだ。死んでしまったチンクとディエチの分まで、俺はクアットロを守らねばならない。
 放送を読み上げた人物もまた掛け替えのない家族の一人だが、そんな事は後で考えれば良いだけの話。
 今考えるべきは、クアットロを守る事だけだ。
 その為にも、この男を叩き潰してでも前に進まねばならないのだ。

123夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:43:20 ID:Zke0Tok.0
 
「殺す前に聞いておこう。お前の名前は?」
「俺は天の道を往き、総てを司る男――天道、総司」
「そうか。俺はソルジャー・クラス1st――アンジール・ヒューレー」

 二人は再び、剣を構えた。
 これで、思い残す事は何もないだろう。
 戦士として戦い、戦士として葬ってやるまでだ。
 魔晄の輝きを宿したその瞳に、再び殺意が込められた。

「ハァッ!」

 アンジールはその片翼を羽ばたかせ、カブトへと突貫した。
 振り下ろす大剣を、しかしカブトは難なく回避する。
 そのままカブトの横を通過したアンジールは、振り向き様に片手を翳した。
 刹那、アンジールの手から灼熱の業火が放たれた。
 マテリアルパワーの一つ、ソルジャーが使う“魔法”。

「チッ」
「ハァァァァァッ!!」

 仮面の下で、舌を鳴らしながら地面を転がって回避した。
 しかし、ファイガは容赦なくカブトの周囲を焼き尽くす。
 火球の直撃を避けた所で、周囲の炎による熱がカブトを蝕む事に変わりは無い。
 炎を振り払う様に足掻くカブトに、アンジールは大剣を構え再び突貫した。

 戦力を見誤ったのはアンジールであった。
 マスクドライダーの装甲は、炎に焙られた程度で傷つきはしない。
 それどころか、内部の装着者には熱は全く届かない。
 ただ反射的に腕を振り払ったのを、アンジールは炎による攻撃が利いていると勘違いしたのだ。
 きぃん! と、甲高い金属音が鳴り響いた。
 アンジールの大剣を、カブトクナイガンが受け止めたのだ。
 そのまま大剣の刀身を滑らす様に、クナイガンを振り抜いた。
 切先が胸元を切り裂く前に、アンジールが上体を後方へと逸らす。
 追撃の右回し蹴りを放てば、左腕の厚い筋肉で受け止められた。
 マスクドライダーの蹴りを生身の筋肉で受け止めるなど、考えられない。
 しかし、驚愕の暇など与えられる筈も無く、アンジールはその手で受け止めた脚を弾いた。
 体勢を崩した一瞬の隙に、再び大剣を振り下ろされる。

「プットオン」

 ――PUT ON――

 咄嗟の判断だった。
 アンジールの大剣がカブトに届くよりも先に、重厚な装甲がカブトに装着されていく。
 先程アンジールの一撃を受け切ったマスクドアーマーが、再びカブトの身を包んだのだ。
 腕を交差させ、その装甲でバスターソードによる一撃を受け止める。
 ずどぉん! と、轟音を響かせて、カブトの身体と共に、コンクリートの地面が崩壊した。

124夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:43:54 ID:Zke0Tok.0
 
「……全く、大した馬鹿力だ」

 抱いた感想をそのまま口にした。
 アンジールの怪力が、屋上のコンクリートの耐久力を増していたのだ。
 だが、この程度の事で驚きはしない。
 何せ先程の一撃で既に身を以て体感しているのだから。
 アンジールの大剣に押し切られる様に、カブトの身体が階下へと落下する。
 そしてそれは、カブトの思惑通り。

「この室内では、貴様の翼も役には立つまい」

 スーパーの中には、沢山の商品棚が並んでいた。
 それはアンジールにとっては障害物となり、その動きは封じられる。
 やがて屋上の炎は、天井に空いた穴からスーパーの内部へと侵食。
 スーパー内は燃え盛る炎に包まれて、より一層身動きが取れなくなった。

「チッ……こんな事で、俺を止められると思うな!」

 それでも、アンジールは翼を羽ばたかせた。
 並んだ商品棚を吹き飛ばし、薙ぎ飛ばし、カブトへと迫る。
 しかし、やはり外で戦った時程の加速は生み出せない。
 アンジールの動きは、マスクドフォームのカブトでも捕捉出来た。
 再び甲高い金属音を鳴らして、二人の刃が激突する。

「――ブリザガ!」
「何……ッ!?」

 激突した瞬間に、呪文を唱えた。
 それはアンジールが最も得意とするマテリアルパワーであった。
 クナイガンを構えたカブトを、凄まじい冷気が襲う。
 カブトの上半身が氷漬けになって、後方へと吹っ飛んだ。
 氷の塊となったカブトは、スーパーの壁に叩き付けられて、そのまま壁ごと凍結。
 あとは氷のオブジェと化したカブトを、この大剣で一刀両断するのみだ。

「これで、終わりだァァッ!!」

 身動き一つ取れなくなったカブトに、アンジールが迫る。
 大剣を突き立てるように、突貫する。
 このまま壁ごとカブトを突き刺して、その命を刈り取る。
 これは、妹達を守る為の大きな一歩である。
 夢も誇りも、何もかも投げ捨てて、アンジールは大剣を突き立てた。

「だから言っただろう。お前は甘いと」
「な……ッ」

 カブトの右手が、僅かに動いた。それは大きな誤算だった。
 マテリアルパワーを相殺するのもまた、マテリアルパワーだ。
 氷漬けになったカブトの身体を、先刻自分が放ったファイガの炎が、僅かに溶かしていた。
 といっても、燃え移った炎で溶ける氷などほんの僅かだ。
 しかし、右腕がほんの少しでも動かす事が出来れば、それで十分。

 ――CAST OFF――

 氷漬けになった装甲が、弾け飛んだ。
 ほんの一瞬の動作で、全てのアドバンテージが帳消しにされたのだ。
 しかし、加速を加えたアンジールの身体はもう止まらない。
 弾け飛ぶマスクドアーマーの攻撃を受けながら、アンジールはカブトへと迫った。
 それをカブトは寸での所で回避。脇腹を掠めた大剣は、スーパーの壁に突き刺さった。
 たったの一撃でスーパーの壁は貫通し、周囲の壁に亀裂が走る。

125夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:44:24 ID:Zke0Tok.0
 
「アンジールとか言ったな。お前は確かに強い」
「天、道ォォォ……ッ!!」
「だが、過去現在未来、全ての時代に於いて最強を誇る俺には敵わん」

 アンジールの身体を、カブトが抱きしめた。
 小さな動きで、力のベクトルを別の方向へと変える柔の技。
 それはカブトが最も得意とする戦術――カウンター。
 アンジールの身体を、亀裂の入ったコンクリートの壁に投げ飛ばした。
 バスターソードが壁に突き刺さって、壁に亀裂が走る。これに一秒。
 カブトがアンジールの身体を掴んで、その勢いを受け流す。これに一秒。
 壁が轟音と共に崩れ去り、アンジールの身体が夜の闇へと投げ出される。これに三秒。

 僅か五秒で、戦況は一変した。
 力で押し切る剛のアンジールと、力を受け流す柔のカブト。
 お互いの実力は拮抗していたが、結果はカブトの勝ちに終わった。
 アンジールは、焦り過ぎたのだ。

 ――ONE,TWO,THREE――

 ベルトを素早く三度叩き、眼下のアンジールへ右脚を向ける。
 電子音と共に、タキオン粒子によって加速された稲妻が、カブトの身体を駆け巡る。
 古今東西、仮面ライダーの必殺技と言えばこれに決まっている。
 どんな悪であろうと、この必殺技の前には屈せざるを得ない。
 全身を迸った稲妻が、右脚に集束されて行く。

「ライダーキック!」

 仮面ライダーカブトの全身全霊を掛けた、最強の必殺技。
 全力で放てば、対象を原子崩壊させる程の威力を秘めた絶大な一撃。
 しかし、アンジールを殺すつもりは無い。
 これ程の実力を持つアンジールであれば、咄嗟にバスターソードで受け止めるだろう。
 突き出した右脚に、重力による加速が加わる。
 これで確実に、勝負は決した。





 爆発音が鳴り響く。
 空中で発生した爆発と、爆煙の中から弾き出されたのは、赤の装甲。
 果たして、一瞬の呻き声の後、アスファルトに叩き付けられたのはカブトであった。
 落下を続けるアンジールは、何とかアスファルトに激突する前に、その片翼で体勢を立て直したのだ。
 一体どういう事だ、とアンジールは思う。
 つい一瞬前までは、カブトからの一撃を受けて、自分はこの戦いに負けると思っていた。
 だけど、結果はカブトが空中で爆発。そのまま落下する、という形で終わってしまった。
 原因は解らないが、とにかく自分のチャンスという事に変わりは無い。

「どうやら、天は俺に味方したようだな」

 不敵に口元を吊り上げて、アンジールは立ち上がった。
 空中でその身体を爆ぜさせ、体勢を崩したカブトは重力に引かれるままに落下した。
 天の道を往く者が、天に見放されるとは何たる皮肉であろうか。
 これで、今度こそ自分はこの戦いの勝者となる事が出来る。
 バスターソードを振り上げ、横たわるカブトへと振り下ろそうとした、その時であった。

126夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:45:00 ID:Zke0Tok.0
 
「痛……ッ!」

 V字型の光が、大剣を握るアンジールの手元で爆ぜた。
 予期せぬダメージに、バスターソードを取り落としてしまう。
 右手を押さえながら、光が飛んで来た方向に視線を向ける。
 カブトもまた、ゆっくりと起き上がり、アンジールと同じ方向へ視線を向けた。

「もう止めるんだ! これ以上戦いを続けるというのなら、僕が相手をする!」

 そこに顕在していたのは、銀と赤の戦士であった。
 胸元には青く光り輝く水晶体。銀色の身体に、燃える炎の様な赤を走らせたボディ。
 二つの銀色の目が、カブトとアンジールを鋭く睨んでいた。

「なるほどな」

 カブトがぽつりと呟いた。
 あの銀と赤の戦士を見た時、天道は全てを理解した。
 ライダーキックの邪魔をしたのは、十中八九間違いなくあの戦士だ。
 どういった思惑があるのかはわからないが、この男はカブトとアンジールの両者に攻撃を仕掛けて来た。
 それはつまり、自分達二人に対して敵対心があるという事だろうか。
 と、考えたが、天道はすぐにその考えを振り払った。
 自分達を殺すつもりの相手が、先程のような台詞を吐くとは思えない。
 しかし、出会ったばかりの相手をすぐに信用する天道ではない。
 もしかすると、罠という可能性もあるのだ。
 どうしたものかと思考するカブトの耳朶を叩いたのは、なのはの声だった。

「大丈夫ですか、天道さん!」
「……高町か」

 その言葉を聞いた相手が、ぴくりと反応した。
 なのはの姿に反応したのか。それとも高町、という言葉に反応したのか。
 どちらにせよ、もっと情報を集める必要がありそうだ。





 ミライが駆け付けた時、既にスーパーは炎上していた。
 屋上からはごうごうと真っ赤な炎が立ち上り、夜の闇を照らしていた。
 一体どうなっているんだ、なんて考える前に、再び轟音が鳴り響いた。
 それはスーパーの壁が、何者かによってブチ抜かれた音であった。

「まだ、間に合う!」

 再びミライは走り出した。
 一つ角を曲がれば、目の前で繰り広げられて居たのは、壮絶な戦い。
 赤い装甲を纏った戦士が、落下を続ける翼を持った人間へと、その脚を向けていた。
 その脚に輝くのは、迸る稲妻。どう見たってあれを受けて只で済む訳は無かった。

「メビウゥゥゥゥゥスッ!!!」

 左手に装着したメビウスブレスに触れ、その名を叫んだ。
 先程の変身から、一時間弱。問題無く変身できるかどうか不安ではあったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
 問題無くミライの身体は、∞の光に包まれ、ウルトラマンメビウスへの変身が完了した。
 矢継ぎ早に右腕でメビウスブレスに収まった宝玉をスライドさせ、両腕を頭の上に掲げる。
 ∞の光を収束させる両腕を、眼前で十字にクロスさせた。

127夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:45:53 ID:Zke0Tok.0
 皮肉にも、古今東西仮面ライダーの必殺技と定められた攻撃を打ち破るのは、これまた古今東西ウルトラマンの必殺技とされる攻撃であった。
 大量のスペシウムを含んだ光線が、カブト目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。
 果たして、殺さない程度に威力を絞って放たれたメビュームシュートは、カブトを直撃した。
 スペシウムによる爆発が生じた後、カブトの身体はアスファルトに引かれる様に落下。
 それから、目の前で未だ戦闘を続けようとする翼の男の戦力を、メビュームスラッシュで奪った。

 そうして、現在に至る。
 目の前に現れたのは、十代後半くらいの茶髪の少女であった。
 だけど、その声には確かな聞き覚えがある。その声を、ミライが忘れる訳が無かった。
 何よりも、その瞳も、髪の色も、その立ち居振る舞いも、ミライが知る女の子に酷似していたのだ。
 そして極めつけは、赤の装甲の男から放たれた「高町」という言葉。
 最早間違いない。この女の子は、きっと未来の「高町なのは」の姿なのだろう。
 だが、もしそうならば一体この状況は何なんだろう。
 赤の装甲の男は、なのはの味方で……だとするならば、悪人はこの翼の戦士だろうか?
 何にせよ話をしない事には、状況が解らない。
 だからメビウスは、高町なのはと思しき少女に、恐る恐る話しかけた。

「なのは、ちゃん……」
「貴方は、銀色の……鬼……?」
「へ?」

 果たして、帰って来たのはそんな訳の解らない言葉であった。


【1日目 夜】
【現在地 D-2 スーパー前】

【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、変身中(メビウス)
【装備】メビウスブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは、ナイトブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは
【道具】支給品一式、『コンファインベント』@仮面ライダーリリカル龍騎、ブリッツキャリバー@魔法妖怪リリカル殺生丸
    『おジャマイエロー』&『おジャマブラック』&『おジャマグリーン』@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:仲間と力を合わせて殺し合いを止める。
 0.これ以上誰も殺させたくない。誰にも悲しい涙を流させたくない。
 1.赤い装甲の男(カブト)、翼の男(アンジール)、高町なのはから話を聞いて状況を整理したい。
 2.銀髪の男(=セフィロス)からはやてを守る。
 3.一刻も早く他の参加者と合流して、殺し合いを止める策を考える。
 4.助けを求める全ての参加者を助ける。
 5.なのは、ユーノ、はやて、と合流したい。
 6.ヴィータが心配。
 7.カードデッキを見付けた場合はそのモンスターを撃破する。
 8.変身制限などもう少し正確な制限を把握したい(が、これを優先するつもりはない)。
 9.ゼロ(キング)、アグモンを襲った大男(弁慶)、赤いコートの男(アーカード)、紫髪の少女(かがみ)を乗っ取った敵(バクラ)やその他の未知の敵たちを警戒。
 10.自分の為に他の人間の命を奪う者達に対する怒り。
 11.ブリッツキャリバーを高町なのはに渡し、ゼストの最期を伝える。
 12.おジャマイエローに万丈目の死を伝えなければならないが……。
【備考】
※メビウスブレスは没収不可だったので、その分、ランダム支給品から引かれています。
※制限に気が付きました。また再変身可能までの時間については最低1時間以上、長くても約2時間置けば再変身可能という所まで把握しました。
※デジタルワールドについて説明を受けましたが、説明したのがアグモンなので完璧には理解していません。
※おジャマイエローから彼の世界の概要や彼の知り合いについて聞きました。但し、レイと明日香の事を話したかどうかは不明です(2人が参加している事をおジャマイエローが把握していない為)。
※参加者は異なる並行世界及び異なる時間軸から連れて来られた可能性がある事に気付きました。またなのは達が10年後の姿(sts)になっている可能性に気付きました。
※スーパーにかがみが来ていたことに気付きました。
 また、少なくとももう1人立ち寄っており、その人間が殺し合いに乗っている可能性は低いと思っています。
※第2回放送を聞き逃しました、おジャマイエローから禁止エリアとブレンヒルト、弁慶、万丈目、十代の生死は聞きましたがそれ以外は把握していません。またおジャマイエローもそれ以上の事は把握していません。
 おジャマブラック、おジャマグリーンが放送内容をどれくらい把握しているかは不明です。
※ナイトブレスを手に入れた事で、メビウスブレイブへの強化変身が可能になりました。
※黒マントの男=ゼロ(キング)を倒したと思っています。

128夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:46:23 ID:Zke0Tok.0
 
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、混乱、焦り、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、セフィロスへの殺意
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、チンクの眼帯
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:クアットロを守る。
 1.クアットロを守る為に、参加者を皆殺しにしたいが……
 2.イフリートを召喚した奴には必ず借りを返す。
 3.ヴァッシュと再び出会ったら……
 4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。。
※レイジングハートは参加者の言動に違和感を覚えています。
※グラーフアイゼンははやて(A's)の姿に違和感を覚えています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※天道とヴァッシュの事はある程度信頼しています。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※混乱している為に自分の気持ちを整理出来ていません。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、疲労(中)、変身中(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.アンジールを改心させる。
 2.目の前の赤と銀の戦士(メビウス)の思惑を確かめる。
 3.高町と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを救出、何としても親子二人を再会させる。
 4.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 5.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 6.キングは信用できない。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件とJS事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※なのはとヴィヴィオの間の出来事をだいたい把握しました。
※アンジールは根は殺し合いをする様な奴ではないと判断しています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

129夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:46:55 ID:Zke0Tok.0
 
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.出来れば銀色の鬼(メビウス)と片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
 2.天道と共にゆりかごに向かい、ヴィヴィオを探し出して救出する。
 3.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 4.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※ゼロの正体はキングだと思っています。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.まずは現状確認。
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、(フェイト、もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、(シャマル)、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、(キャロ)、(ギンガ)、ヴィヴィオ、(ペンウッド)、天道、(弁慶)、(ゼスト)、(インテグラル)、(C.C.)、(ルルーシュ)、(カレン)、(シャーリー)
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、(浅倉)、相川始、エネル、キング
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)
 それ以外:(チンク)・(ディエチ)・(ルーテシア)、紫髪の女子高校生、(ギルモン・アグモン)

130夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:47:25 ID:Zke0Tok.0
 


 雑居ビルの物陰に身体を隠しながら、一同の行動を見守る女が一人。
 二つ括りの茶髪に、若さを感じさせる学生服――クアットロだ。
 何とか走って追い付いたものの、スーパーは既に戦場と化していた。
 まず間違いなく、アンジールが喧嘩を売ったのだろう。
 あちゃあ、手遅れだったか、と額を軽く叩いた。

「いや、でも……まだやり様はありますわ」

 見たところ、あの赤の仮面ライダーは高町なのはの味方らしい。
 この場に高町なのはが居てくれるというのは、何気に非常に美味しい。
 何せ高町なのはの戦力は、魔道師としてはほぼ最強クラス。
 おまけに、クアットロの記憶が正しければ、アンジールはレイジングハートを持っている筈だ。
 上手くアンジールを説得し、高町なのはを味方に付けることが出来れば……。
 それから、セフィロスに対抗できるアンジールと、そのアンジールを追い込んだ仮面ライダー……。
 全員を味方につける事が出来れば、これだけでも戦力としては申し分無い。

「それから、あの銀色の……どうやらアレも殺し合いには乗って居ないように見えますけど……」

 次にクアットロの視線が捉えたのは、ウルトラマンメビウス。
 奴は、赤の仮面ライダーの攻撃を中断させ、トドメを刺そうとするアンジールを制した。
 それでも追撃する様子が見られない事から、どうやら本当に戦いを止めさせたかったように見える。
 となれば、自分の行動一つで、上手く立ち回れば彼ら全員を味方に付ける事だって不可能ではない筈だ。

「ここが正念場ですわよ、クアットロ……上手くいけば、この場の全員を仲間に出来る!」

 自分に言い聞かせるように、頬をぱちぱちと叩いた。
 それからクアットロは、雑居ビルの物陰から躍り出た。
 最早クアットロに、彼らを一方的に利用しようなんて気はない。
 ただゲームから脱出する為に、一時的にでも手を組む為に。
 自分の考えを伝え、ゲーム脱出の為に行動する仲間を作る為に。
 クアットロは、4人の元へと向かった。

131夢と誇りをとりもどせ ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:47:57 ID:Zke0Tok.0
 

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、左腕負傷(簡単な処置済み)、脇腹に掠り傷、眼鏡無し、髪を下ろしている、キャロへの恐怖と屈辱、焦燥
【装備】私立風芽丘学園の制服@魔法少女リリカルなのは、ウォルターの手袋@NANOSING、ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、クアットロの眼鏡、大量の小麦粉、セフィロスのメモ、血塗れの包丁@L change the world after story、はやてとかがみのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式×2、スモーカー大佐のジャケット@小話メドレー、主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)、カリムの教会服とパンティー@リリカルニコラス
【道具②】支給品一式、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪(シャマル)
【思考】
 基本:例え管理局と協力する羽目になったとしてもこの場から脱出する。
 1.アンジールを説得して味方に付けた上で、残りの三人も味方に付ける。
 2.自分の考察を話した上で、ゲームから脱出する為に協力して貰う。
 3.条件(プレシアに対抗できるだけの戦力+首輪・制限の解除手段+プレシアの元へ行く手段)が揃わない限り首輪の解除は実行しないし、誰にもさせない。
 4.デルタギアの各ツールを携帯電話、デジカメ、銃として利用出来るかを確かめたい、変身ツールとしてチンクかタイプゼロに使わせても大丈夫だろうか?
 5.首輪や聖王の器を確保したいが……(後回しでも良い)。
【備考】
※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
※下手な演技をするよりも、ゲームから脱出するまでは生き残る事を優先。
※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めていません)。
※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません。
※この殺し合いがデス・デュエルと似たもので、殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。
※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています。
※地上本部地下、アパートにあるパソコンに気づいていません。
※制限を大体把握しました。制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
※主催者の中にスカリエッティや邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています。
※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
※キャロは味方に引き込めないと思っています。
※キングのデイパックの中身は全てはやて(StS)のデイパックに移してあり、キングのデイパックははやて(StS)のデイパックに入っています。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※主催側に居るナンバーズ及びスカリエッティは敵として割り切りました。一切の情はありません。


【全体の備考】
※スーパー内で激しい火災が発生しています。このままではいずれ焼け落ちます。

132 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 17:53:45 ID:Zke0Tok.0
投下終了です。
4月に入って中々時間が取れず、数行書いては保存、中断。
また数行書いては保存、中断、という作業を繰り返していた所為か、
一つの作品内でシーンごとに文章が違っている所が多々あるかもしれません。
作品としては、主に後半の流れを変更し、わかりにくいかもしれませんが戦闘描写は殆ど書き直しております。
これで変身制限やその他諸々の条件はクリアした、筈……。

タイトル元ネタは、仮面ライダーWから、
第15話「Fの残光/強盗ライダー」
第16話「の残光/相棒をとりもどせ」
の二作です。ファングが登場した回です。
それでは、何か問題などありましたら報告よろしくお願いします。

133リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 19:16:13 ID:jDZOkcYI0
投下乙です

いやあ、放送後はどうなるかと思いましたがやっぱりすんなりとは行かなかったか
アンジールと天道の信念をぶつけ合ったバトルがいいw
さて、ミライも来たけど逆にややこしくなりそうだw
そしてそれをまとめようとするクワットロとかなんなんだよwww

134リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 19:48:05 ID:BGkiLX8E0
投下乙です

修正前と違い戦いの最中にミライが介入して中断か……
クアットロもまだ介入前だし……
うーん、修正前だったら比較的簡単に団結出来そうだけどこの展開だと難しいなぁ。

しかし冗談とか抜きにしてクアットロの思考そのものは黒っぽいのにグループを団結させようってまさしく対主催の思考なのは本当に何なんだ?
しかも、キャラ崩壊ではなく純粋(?)に対主催寄りというなのは(というかクアットロ)FANから考えたらまず有り得ない状況でって当に何なんだよ。どうしてこうなった……

ところで、1点だけ指摘……というより些細な質問ですが、
名前欄を見たところ今回の修正版のサブタイには修正前にあった『Aの残光』が無くなっているんですが、
今回のサブタイは『Aの残光/強襲ソルジャー』&『Aの残光/夢と誇りをとりもどせ』となるんですか、それとも『Aの残光』はカットして『強襲ソルジャー』&『夢と誇りをとりもどせ』となるんですか……元ネタ的に前者(Aの残光付き)だと思いますが……。

135 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/28(水) 21:44:33 ID:Zke0Tok.0
しまった……完全に見落していました。
ご指摘ありがとうございます。仰る通り、サブタイトルは「Aの残光」です。

また、色々と思うところがあるので、収録する際は細かな文章の修正をした上で、後日自分でしておこうと思います。

136リリカル名無しA's:2010/04/28(水) 23:49:56 ID:lxlMKWRI0
投下乙です
前回と違ってミライの介入で決着付かずか
そういえばミライってアグモンを襲った危険人物銀色の鬼容疑が掛かっていたんだっけw
それにしても仮面ライダーとウルトラマンが揃い踏みとか豪華だなw

少し気になった点
>>112の以下の部分

それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 なのはの心中で、死んでしまった者への
 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。

『なのはの心中で、死んでしまった者への』の後がないようなきがするんですが、気のせいでしょうか

137 ◆gFOqjEuBs6:2010/04/29(木) 00:47:45 ID:zbs9bIg60
おぉっと……またしてもミスが……。
多分あれですね、何度も中断して書き始めて、の作業を繰り返してる内に、
中断した所の続きを書くのを忘れてそのまま続きを書き始めたんだと思います。

収録時には、
>>なのはの心中で、死んでしまった者への
の一文を削除しようと思います。その一文無くても大丈夫そうなので。
ご指摘ありがとうございます。引き続き、誤字や脱字があれば、報告お願いします。

138 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:07:23 ID:EoGhWHlU0
遅くなって申し訳ありませんでした
これより本投下を開始ます

139 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:08:00 ID:EoGhWHlU0
デスゲームの会場も再び夜となり、日が沈む事で満月が煌々と輝く天に対して、血で血を争う地には暗い影が広がっていた。
そんな闇の時間へと移行した会場の東方に位置するホテル・アグスタから少し離れた林の中。
月の光さえ満足に通らない林の中で一層暗く影を漂わせている場所があった。
そこには一人の男が木に腕を付いて荒く息を吐いていた。
そして、その男――闇の狩人ジョーカーである相川始は悩んでいた。

(……俺は何がしたいんだ?)

きっかけは先程おこなわれた3回目の定時放送。
なぜか放送の主はプレシアではなかったが、今の始にはどうでもよかった。
それ以上に始は放送を聞いた自分の心境に戸惑っていた。
参加者をミラーワールドに引きずり込み、二人の生贄を無残に殺して新たな殺し合いを目論んだ狂人、浅倉威。
彼の死に僅かな安堵を。
ギンガが気にかけていて、川岸に追い詰めたが突然の禍々しさのせいで殺せなかった少女、キャロ・ル・ルシエ。
まだ一度も会った事はなかったが、天音の友人だったかもしれない少女、フェイト・T・ハラオウン。
彼女達の死にはいささかの哀悼を。
放送を聞き終えた時、それぞれ異なった感情をいつのまにか抱いている自分に気付いたのだ。

そして、その感情は気のせいか前回の放送よりも強い感情のように思えた。

(……俺はジョーカーだぞ!?)

最初はここにいる全員を殺して栗原親子の元へ帰る事が唯一の目的だった。
だからこそ出会った参加者を次々と襲い続けていた。
だがあの神を自称するエネルという参加者の存在を知った時、始の中でこのバトルファイトに対して拭いきれない疑念が生じた。
いや、それがそもそも間違いだったのか。
これはバトルファイトの延長ではなく、ただプレシアが引き起こしたイレギュラーな事態。
それなら別にここで優勝しようがどうしようが、本来のバトルファイトに影響はないのではないか。
本当はそれを口実に目を背けようとしていただけではないのか。

(それがどうした! もう俺は……)

だが今の始は傍目からそれとなく分かるほどとても危うい状態だ。
ミラーワールドでのジョーカー化はこちらに戻った事で解決したが、もしもあのまま戦い続けていれば今の始はいなくなっていただろう。
それほどまでにジョーカー化の欲求を抑えるのが苦しくなっているのだ。
今も放送を聞いただけで胸の奥で先程の感情とは別にどす黒い感情が蠢いている。

だが本来なら1日も経たないうちにここまでジョーカー化の欲求が強まるのは異常だった。
どうやらここに来てから感情の揺れ幅が大きくなりやすい気もする。
それはもしかして殺し合いを促進するためにプレシアが仕掛けた細工か、あるいは――。

(とにかく今は誰にも会わない方がいい)

だが今の始にとって真相は二の次。
こうしているのも全ては今この状態で誰かに会えば自分を抑えきれるか自信がなかったからだ。
だから一度ホテルから離れて心を静めているのだ。


だが、そんな状態だからこそ始は気づく事ができなかった。


「――――ッ!?」

自らに迫り来る鋼鉄の脅威に――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、苦悩、ジョーカー化への欲求徐々に増大
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 0.――――。
 1.生きる為に戦う?
 2.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたスバルや他の2人(なのは、はやて)が少し気になる(ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない)。彼女達に会ったら……?
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

140 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:08:30 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


ホテル・アグスタ1階ロビー。
そこは一廉のホテルに相応しくソファーが備え付けられ、荘厳な意匠が凝らされた柱が視界を妨げない程度に立てられた空間。
本来なら来客を穏やかに迎え入れるはずの玄関だが、残念ながら今ロビーにいる二人は真逆の雰囲気を纏っていた。

「もうすぐ放送か……今度もまた……」

死者と禁止エリアを告げる定期放送まであと数分。
緊張した空気が漂う薄暗いロビーに1組の赤い服を身に付けた男女、金髪トンガリ頭に真紅のコートのヴァッシュ・ザ・スタンピードと紫髪サイドポニーに真紅のセーターの柊かがみはいた。
だが放送を待っているはずの二人の様子は少し違っていた。
ロビーに漂う空気と同じように暗くなり気味のヴァッシュとは対照的にかがみの心中は穏やかではなかった。

(浅倉の奴、絶対私が殺してやるんだから!!!)

自らの片割れとも言うべき双子の妹である柊つかさを目の前で殺された今のかがみの心中にあるのは『復讐』の二文字のみ。
今も目を閉じれば鮮明に思い出してしまう。
メタルゲラスに両足をつかまれて傷つきながらも必死に助けを求めていたつかさ。
その目の前で何もできずにただつさかが真っ二つに引き裂かれて殺される様を見ているしかできなかった自分。
それが罪とばかりにつかさだったものから降り注ぐつかさの体液。
あの凄惨という言葉が生ぬるいほどの光景は生涯忘れる事はないだろう。
残念ながら今はまともに戦う術がないので大人しくしているが、そうでなければ今頃憎き仇を探し回っていたに違いない。

(それにしてもさっきまでのこいつ誰かに似ていたような……ああ、騒がしいところがゆいさんに似ているのね)

かがみはソファーに座って顔を落としているヴァッシュの様子を見ながら一人で納得していた。

成実ゆい。
かがみの親友である泉こなたの従姉であり、後輩の小早川ゆたかの実姉に当たる。
苗字が違うのは既婚者だからである。
いつも騒がしくテンションが高い人だが、そういうところがどこかヴァッシュと似ているのだ。

(どこにでもいるのね、こういう人って。そういえばこなたは今どこで何しているのかしら……)

141 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:09:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


整然と立ち並ぶ林の中で綺麗にホテルまで続いている不自然な一本道。
その道が不自然に思えるのはそこだけ何か得体のしれない力で消されたかのようになっているからだろう。
道と林の境界付近の木々は揃いも揃って普通ではありえないほど綺麗な切断面があったので尚更だった。
そんな不自然な道に最大限の注意を払って進む二人の青髪の少女、背が高く短髪なスバル・ナカジマと背が低く長髪な泉こなたがいた。

「スバル、やっぱりあの天使さんも参加者なのかな?」
「…………」
「ん? スバル?」
「あ、ああ、たぶんそうじゃないかな……」

スバルはホテル・アグスタの屋上に降り立った天使の姿から一人の人物を連想していた。
少し遠目ではあったが、あの時見えた天使は金髪で赤いコートを纏っていた気がする。
それによって連想する人物はヴァッシュ・ザ・スタンピード。
チンク曰く、危険人物。
もし本当ならこれからスバル達の向かう先は安全ではなく、危険な場所である可能性が極めて高い。
そのホテルにこなたを連れて向かう事にスバルは若干危惧を抱いていた。
戦場になるかもしれない場所にこなたを連れて行って、こなたまで危険な目に遭わせるのではないかと。
幸いな事に天使を発見した時の位置関係からこなたはスバルの影に隠れていた形になっていた。
だからこなたを待たせて一人で行けば共倒れの危険性はなくなる。
しかも道すがらクロスミラージュの状態を念入りに調べていたリインからは芳しくない診断結果を聞いていた。
曰く、基礎構造部分に致命的な破損があり、専門の場所で修理すれば修復できるかもしれないが、今のままだと自動修復もままならず、もし万が一この状態で使用すればそれがクロスミラージュの最期になるだろうと。
つまり今のスバルの力は相変わらず満足に発揮できない状態だ。
スバルとこなたが調べた範囲でデュエルアカデミアに気になる物はなかった事はすでにお互い確認済みだったが、あそこにはまだ幾つか荷物が放置したままだ。
ホテルは後回しにして一度をデュエルアカデミア跡地に戻るという選択肢もありだ。
だがそんなスバルの弱気な心の内を察したのかこなたは声をかけてきた。

「大丈夫だよ」
「え?」
「自分の身は自分で守るからさ。スバルは自分がするべき事をすればいいと思うよ」

こなたの言葉は弱気になりかけていたスバルを落ち着かせるものだった。
これではどちらがしっかりしているの分かったものではない。

「……うん!」

迷いは晴れた。


     ▼     ▼     ▼


そして運命の悪戯と共に出会いはいつも突然に。

「かがみさん!?」
「ス、スバルッ……ヴァッシュ、あ、あいつが私を! いや、た、助けて!!!」
「――ッ、こんな時に!」

そして銃声と共に別れもまた唐突に。

142 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:09:32 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


一瞬にして先程よりさらに緊迫した空気が漂い始めたロビー。
その緊張した空間のソファーや柱を挟んでスバルとヴァッシュは膠着状態にあった。

(一応念のためと言ってこなたを待たせておいて正解だった。まさかかがみさんがいて、その上危険人物のヴァッシュと手を組んでいたなんて……)

いつかは再び対峙しなければいけないと思っていたが、さすがにこの状況下では厳しすぎた。
危険人物二人が手を組んで、話し合う暇もないまま銃撃されるこの状況ではいくらスバルでもこなたを守りきる自信はない。
今まで別行動で良い経験がなかったが、今回に限っては安全確認のために一人で先に入って正解と言えよう。

(でもいつまでもこのままの状態が続くのは好ましくない。どこかで隙を見て一度戻った方がいいかな)

ヴァッシュが放った初撃はギリギリ避けられたが、あの早撃ちを見る限り相当銃の扱いに長けているようだ。
今のように距離が開いた状態で銃を持った相手に対して接近戦が得意なスバルは圧倒的に不利だ。
決着を焦ればまず間違いなくスバルに勝機はなく、ゆえにここは一度戦線離脱した方がいいとスバルは考え始めたのだ。

スバルが離脱の隙を窺っていた時を同じくして、ヴァッシュもまた転機を窺っていた。

(かがみさんには避難してもらったから、あとはスバルを抑えるだけか)

既に保護対象であるかがみには念のため装甲車の鍵を渡して地下の駐車場に避難してもらっておいた。
あそこに駐車してあった装甲車の中なら万が一の事態でも安全だと考えたからだ。

(威嚇のつもりだったけど、あの初撃を避けた動作は大したものだな。でも怪我していたみたいだからなんとかなるかな)

あとはタイミングを見計らって相手を制圧するだけ。

だが突然の邂逅に対処するあまりスバルもヴァッシュも大事な事を忘れていた。

そしてそれを思いださせるかのように時計の針は12と6を指す。

『こんばんは。これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います』

二人の膠着状態を破るかの如く無慈悲な放送は始まった。

143 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:10:02 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


新庄・運切の訃報――それはヴァッシュにとってまさしく青天の霹靂だった。

その知らせを聞いた瞬間、ヴァッシュの頭は真っ白になった。
新庄・運切という少年はヴァッシュにとって少し特別な存在だった。
出会いは大した事ない普通なものだった。
傷心の内に沈んでいた自分の前に現われてまず初めにこの身体を心配してくれた。
始まりは本当に何でもない事だった。
ただその気遣いがとても嬉しかった。
それからしばらく黙って隣に座っていてくれた。
もしかしたら死なせてしまうかもしれないと言ったのに、それでも放っておけないと言って一緒にいてくれた。

それが少し心地よかった。

そんな新庄君だからこそ自分を死なせないために無謀とも言える提案をやってのけたのだ。
このままではいつか自分が思いつめて死んでしまうと気付いたから。
多大な危険と隣り合わせだったが、それなりの算段はあった。
新庄君からの提案だったとはいえエネルは自分の力に恐怖を覚えていたはずだ。
実際新庄君が止めなければエネルの死は確実だったので、一見無謀にも見えたが効果は絶大に思えた。
だから新庄君の身は自分が生きている間は大丈夫だと思い込んでいた。

だがそんなある意味楽観的な考えはあっけなく砕かれてしまった。

「……ぁ……ぅあ」

誰のせいだ?
誰のせいでもない。
全ては自分のせいだ。
自分の甘い考えが新庄運切という一つの命が散る原因となった。
少なくともヴァッシュ自身はこの時そう思っていた。

そして、無意識の内に心に広がる罪の意識はヴァッシュをさらに苛むのであった。

「……っ……え?」

不意に失意に沈みこむヴァッシュの上に影が差した。
誰かがヴァッシュの前に立ったせいで人影が光を遮ったのだ。
当然誰が立っているのか確認するために顔を上げないといけないのだが、なぜかそれは躊躇われた。
不思議とスバルではない確信があったので急がなくてもいいが、そういう問題ではない気がする。
ここで顔を上げたら取り返しの付かない事になってしまうような、そんな気がしたのだ。
だがいつまでもこうしているわけにもいかない。
意を決して気力を奮い立たせたヴァッシュが顔を上げると、一人の男と目が合った。

「――ナ、ナイブズッ!?」

ヴァッシュの目の前に立っていたのは死んだはずの兄――ミリオンズ・ナイブズであった。
だが次の瞬間、ヴァッシュはさらに驚く事になる。
いつのまにか自分の周りには人だかりができているのだ。
そしてよく見るとその人々には見覚えがあった。
ミリオンズ・ナイブズ、新庄・運切、フェイト・T・ハラオウン、アンジール・ヒューレー、エネル、それに今まで出会った人々――

――そして、あの忌まわしき事件で消え去ったジェライの人々もそこにいた。

そしてその全員が黙ってヴァッシュを見ていた。
ただ静かに見つめていた。

皆の瞳にはただヴァッシュの姿が映るのみ。

「……っ……止めてくれよ」

そして、その瞳の重さにヴァッシュは――。

144 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/14(金) 01:10:42 ID:EoGhWHlU0


     ▼     ▼     ▼


「浅倉の奴、なに勝手に死んでいるのよ! あいつは、私の手で殺さないといけないのよ! つかさを殺しておいて、あいつ……!!」

何台もの車が駐車されている照明も疎らな地下駐車場。
その中にかがみの乗っている装甲車はあった。
ヴァッシュに言われた通り安全のためにここに来たが、黙って待つ気はなかった。
その理由は先程から上の方から響いてくる不気味な振動。
どうやら激しい戦闘が始まっているらしく、さらに徐々に駐車場の天井にヒビが走り始めていた。
どちらが勝つにせよこのままここにいれば生き埋めになるのは必定。
なんとしても一刻も早くここから脱出する必要があった。
キャロが死んだせいかバクラが静かだったので、とりあえず一人でなんとかするしかなかった。

「でも万丈目はいい気味ね。きっと私を殺そうとした報いよ」

憎き相手の死を知って悦になりながらかがみは必死に最低限の運転技術を覚えていた。
実際歩いた方が早いかもしれないが、この装甲車の頑丈さを考えればここで最低限の運転をできるようになっておくほうが後々便利だ。
それにこの装甲車にも他の車と同様に取扱書が付いていたし、実際の運転なら親やゆいなどと見る機会も何回かあった。
さらにAT車なので発進の方法は意外と簡単だったので、発進の仕方はギリギリ理解できた。

「えっと、まずはエンジンを掛けて、ギアは……確かここで……それでアクセルをおおおおお!!!」

ついに小気味いいエンジン音と共に無骨な装甲車は走り始めた。
ただしかがみがアクセルペダルを一気に踏み込んだためいきなりトップスピードで発進するはめになったが。
だが車線上に出口があったのですぐに外に出る事が出来て結果的に良かったとも言える。
さらに幸運だったのは装甲車がAT車であった事だ。
もしAT車ではなくMT車だったらその場でエンストを起こして立ち往生する羽目に陥っていた。

ただそんな事情を他所に当のかがみは初めて運転する車のスピードに少しばかり面食らっていた。

「うそ、ちょっと、早すぎ――って!?」

ふと前を見ると、車線上に誰かが飛び出してきた。
それは数時間前に仮面ライダーと怪物に変身して浅倉と戦っていた奴だった。
ひどく苦しそうにしていてこちらに気付いていないようだったが、それを見てもかがみは車を止める気はなかった。
むしろ――。

「轢いちゃえ」

――そのまま速度を緩めず、クラックションも鳴らさず、その勢いのまま突き進んだ。
先程の放送でこれからは参加者を殺せばボーナスの支給品が手に入ると明かされたのだ。
いまさらかがみが人殺しを躊躇う理由はどこにもなかった。


ドン!!!!!




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