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【場】砂浜

1ZAKI:2015/01/01(木) 00:41:57

倉庫街の西、H湖の入口にほど近い砂浜地帯。
以前殺人事件が起きた『いわくつきの場所』だが、今は落ち着きを取り戻している。
シーズン中には海の家が栄え、沖では沈没船が静かに時を過ごす。
治安は悪くもなく、ランニングにやってくる一般人も多く見られるが、
『歩くスイカ』や『突然変異クラゲ』、『人を操る影』など不思議な情報も多く、
『黄金町のミステリースポット』と化しているきらいもある。


―┘          ┌┘
―┐ H湖     ┌┘   ┌┐   住  宅  街   
  │      ┌┘   .┌ ..│...      ‖
   ┐     │    ┌ ┌┘       ‖←メインストリート
   │    │   ┌  │         ‖
    ┐   │  ┌  ┌..       黄金原駅
     │  └─┘┌―      ┏ ━■■━ ━ ━
  ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛    ‖←ネオンストリート
       │      └―┐黄金港.. 繁 華 街  
       └┐   ┌――┘       倉庫街
 ─────┘   └◎―――――――――――

198穂村公康『フー・シュニッケンズ』:2015/04/07(火) 23:53:23


          『ホォォォ〜〜…』

『ホワタァー!』       ビシィッ

                           『アチョーッ!!』  シュバァッ

「…羨ましいなお前。暇そうで」

ジークンドーの鍛錬に励む人型――『フー・シュニッケンズ』。
そんな彼になど構いもせずにボロボロの文庫本を読んでる。

199穂村公康『フー・シュニッケンズ』:2015/04/08(水) 10:03:00
>>198


200ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/25(土) 01:03:11


  「はーっ」

                       キィキィキィ

      ざぱーん ・・・


                「釣れねー」


  穏やかな波が打つ防波堤に、一人の少年が腰掛けている。
  髪はオレンジ、瞳は緑。肌は白く、目鼻立ちは日本人離れしている。
  というか外国人だ。


             ちゃぷちゃぷ


    「ウーン 餌が悪いのか?」


  水面に垂らした釣竿。
  その糸の先には、一昔前に流行った棒付きキャンディーが結ばれている…。

201スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/25(土) 01:09:45
>>200

   「そりゃあよォーー
    飴で魚はふつう、釣れねーぜ。」

そんな声がダビデの耳に聞こえるだろう。
声の主は、緑髪ツンツンヘアーで赤い眼鏡を掛けたパンクな野郎だ。

         チャプ……

そいつも、釣り糸を垂らしているぞ……

「マッ、絶対とは言わねえけどな……
 魚にも、カワリモンがいるかもだしな。」

と言って、にやりと笑った。

202ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/25(土) 01:14:21
>>201

    「マジィ?」

                   チャプッ

  眉を傾げ、釣竿を引き上げた。


     「魚の気持ちになって考えたんだけどなーッ…」
     「『もし僕が魚なら』。一発で食いつくんだけど」


        ヒョイ
            ぱくっ

   「しょっぺェーッ!」


  少しオツムの足りない少年のようだ。
  話しかけられたのをイイことに、スミシーの隣ににじり寄ってくる。


   「アンタは餌、どうしてるんだ?」

  スミシーの垂らす釣り糸の先を覗き込む…

203スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/25(土) 01:30:35
>>202

「確かにアメはウメェぜ。
 けどよォ――
         魚はアメなんて知らねえぜ!」


にやりと笑った。

「しかも、野郎どもは意外に警戒心強いからな〜ッ
                警戒されにくいのは……」

                      ウネ ウネ


意外ッ!それは『アオイソメ』!
気持ち悪い虫だが、魚にとってはうまそうに見えるのか?

「生きて、動いてるやつだぜッ! 食いついてくるのはよォ〜〜!!

 ……まっ、俺も『スマホ』で調べただけだけどな。
 アメよりはこっちがいいぜ、きっと。見た目はキショイが。」


そう言いつつ、キショイ虫がうねうねしている『餌箱』を差し出す。

204ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/25(土) 10:34:03
>>203

                      ウネ ウネ
    うにょうにょ


   「うげェーッ… ホントにそんなの食べるの?
    エイリアンの子どもみてーな見た目だぜ…」


  とは言いつつも、躊躇わずに一匹を引っ掴む。
  男の子らしい怖いもの知らずだ。


    「確かに魚の方の好物は調べてなかったな…
     僕がピーマン嫌いでも、ピーマン好きな人もいるもんな」

       「それと同じか」


  納得したように数度うなずき、再び海に釣竿を垂らす。


    ヒュン
                ぽちょ


    「そんでもって、アンタがくれた餌の代わりに…
     僕の餌をアンタにプレゼント・フォー・ユー!」


  スミシーに向け、棒付きのキャンディーを差し出す。
  交換っこ、ということらしい。

  海を思わせる、濃淡二色の包み紙…
  チュッペチョップスの『ホタテ味』だ。
  嫌がらせではなく、善意のつもりで差し出しているようだが…

205スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/25(土) 15:10:59
>>204

「けど、魚だってよく見てみたらケッコー不気味な見た目だぜ。」

「何考えてんのか分かんねえ、目とか口とかよォー……」


     ウニュ

         ウニュ

「マッ、何考えてんのかわかんねー奴らなりに、いろいろ好みもあんだろうなァー」
「エビ食うやつもいるそーだぜ。」


      ……

      ……

(中々来ねえな……いや、釣りは忍耐だぜ。耐え忍ばねえとな……)


「……ん?」
「お、サンキュ……って、な、なんだこりゃあ……!?」

(ま、まさか餌にするってんで、海の幸をチョイスしたのか? 中々考えてんだな……)

「……にしたって!  見たことも聞いたこともねえフレーバーだぜ、こいつは。」

      「……ウメェのかなァ〜ッ? ちと興味はあるぜ。」

とりあえず包装紙を開けて、食べてみようか……

206ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/25(土) 17:31:41
>>205


   「アーッ、分かる。魚もキモいぜ。僕、焼き魚がダメなんだ。
    味はイケるけど、焼けた目玉がこっち見てて寒気するんだよぉ〜」

     「あと骨がジャマ」  「やっぱ肉だよなァー、時代は」


  スミシーは包装紙を剥がし、琥珀色のキャンディーを口に含んだ。


      レロレロ・・・
                レロォ〜


  ・・・・・・。

  海水を思わせる僅かな『塩気』と、貝柱の濃厚な『旨み』…
  それを凝縮したような味だ。
  舐めれば舐めるほどあふれ出てくるッ! こいつぁ酒が進むだろう。
  ……キャンディにする意味はあるのか?

     ピロン、と実績解除の音がした気がする。
      海限定のアイテムイベントだったのかもしれない。


  「普段エビを食ってるようなヤツはサァー、さすがに釣れねェよなー」
   「この辺って何が釣れるんだろ?」


  ダビデの方の竿にも、当たりの気配はピクりともない。
  ぼんやりと、揺れる糸の先を眺めながら、誰にともなく言う。

207スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/25(土) 19:26:14
>>206

「オレはべつにヘーキだが、気持ちはちょっとだけ分かるぜ。」

     ベロ


      「……」
      (う、ウゲ。無駄にリアルな味しやがって……)

口に広がる帆立味!
リアルにしても限度がある……ここまでとは。


      ピロン!

(まさか山とか川のバージョンもあるんじゃあ、ねえよなァ〜)

アウトドアが嫌になりそうな実績システムだ……

(いや、分かってて食えばけっこーイケる……のか?)


「さあなァー……たまには、虫食いたくなってくれりゃあいいんだが。」

   ……
      ……

         ……

「色々釣れるはず……だぜ。名前は分かんねえが。」
「お魚図鑑の一冊でも買っとくと便利なのかなァ〜」

(……ちと、眠くなってきやがったぜ。)

いまだ、糸は揺れない。

208ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/25(土) 23:50:37
>>207

  「チュッペチョップスの海鮮シリーズ、美味いは美味いけど
   しょっぱいのをずっと舐めてると、スゲー喉渇くんだよなァー」

     パキリッ!
                  グビッ  グビッ


  懐から缶ペットを取り出し、封を開け、喉を鳴らして飲む。

  彼のもう片方の手に握られているのは『いくら味』だ。
  どうやらシリーズものとして定着しているらしい…
  この分じゃあ『山の幸バージョン』も、無い話じゃあないだろう。


       ゆら・・・
                      ゆら・・・


  二人分の釣り糸が、波間に合わせて同時に動く。



   「……魚は『海の生き物』だよなー」


  ふと、ダビデがそんなことをつぶやいた。


   「そして僕たちは『陸の生き物』だ」

   「魚は陸じゃあ生きられないし、僕たちも海じゃあ生きられない」

   「でも、僕たちは『海の生き物』を食べる。
    魚も、ミミズとかそーゆー陸の虫でも食べちまう」

   「おかしな話だぜー」

   「お互い、自分が住んでいる場所の外側でも生きられるように…
    魚なら陸で、僕たちなら海で、それぞれ生きられるようになればサァー…
    もっと簡単に、食べ物が手に入るのに、って思うぜ。効率悪くない?」


  独り言のように続けるが…
  どうやら、スミシーに宛てての言葉のようだ。

  スミシーの眠気や、釣果はあまり気にしていない。
  かなり話好きの少年のようだ。釣りよりも、スミシーに話しかけたいらしい。

209スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/26(日) 00:10:26
>>208

「……おんなじ、ショッぺえ食べ物飴でもよォ。」
「『山』の『梅干し飴』は、けっこう自然に売ってるよな。」

         「ブランドまであったりよォ〜」


     グビ…

「何の差だろーなァ……」

逆側に置いていた、スポドリのペットボトルを取って飲む。


ゆら・・・                      ゆら・・・

        ウトウト…


              「……」


「……ン!?
      あ、ああ……まぁ、海の生き物っていや、魚だな。」

川魚とかもいるが、そーいう話じゃないのはスミシーにもわかる。


「……」
「そりゃあ……なんつーかよォ、『逆』じゃあーねえか?」

       「海のもんを食うのに、何で海で生きられねーのか、じゃなくてよぉ。
        海で生きられねーのに海のものだって食っちまうし」 
       
        スミシーは釣り糸を眺める。
        「そのための道具までよぉ……」


「みてえな。自分で言っててよくわかんねーけどさ。」

そう言って笑った。

210ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/26(日) 00:24:45
>>209


  「ああ、梅は『山』だなぁ。果物系は『山』だ。てか『森』?」

   海にいながら山の話に花を咲かせる。


    「あー……『逆』かぁ。
     外の世界にあるモン食ってる方が変だな」  「確かに」


        ウト・・・



  「……外側の世界に行くのってサー」

    「陸から海でも、母国から海外でも、地球から宇宙でも……」

       「怖くねーのかなー… 特にそこのモンを食ってさ…」


  スミシーの眠気が移ったのか、今度はダビデがうつらうつらと船を漕ぐ。


   「宇宙人って食えるのかな……」


  前髪で隠れてはいるが…
  目は半開きだ。
  手には竿がかろうじて握られているが、もう少しで離してしまいそうだ。

211スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/26(日) 00:58:58
>>210

「だなあ。梅とか、木に成ってるやつらは山のイメージだぜ。
 あと、キノコもな。」

          「森は……イチゴとか、小さめの果物は森かなァ?」


それでもって、たけのこは、里だ。

                           ユラァ・・・
……それにしたって、釣れやしない。
今日は駄目な日か?

「なんだって食わねーと生き残れねー。
 意味わかんねえ物でも食うしかねえ。
 ……って必死こいて食ったもんが案外うまくて、今に伝わってる
                      なんて話は聞いたことあるぜ。」


スミシーは自分のメンタリティが、そーいう『開拓者』から離れたものと知っている。
昔だったら死んでただろうか? それとも毒食わずにすんで、助かったか?

「……タコみてーなのは食えるかもな。」

        ……その時。
                                  『ピク』

動いた。わずかにだが……『ダビデの竿が動いた』ぞ……

212ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/26(日) 01:27:19
>>211

   「ムァ… ンまー キノコは『山』だな…」

  たけのこも『里』だな…


    「ふぁ……」

                                   『ピク』
      「う、うぉっ!?」


  あくびが出かかったその瞬間、揺れる釣り竿!
  ほぼ反射で手を引き、釣り針を食いこませる!


    「来たぜタダ飯ィー!」
       「ここで会ったが百年目!!」

  最近覚えた変な日本語を交えつつ…

  魚との駆け引きだ…
  糸がけっして切れないように、だが魚を逃がさないように、
  適度な緊張を保ちながら糸を引き、或いは緩め、体力を奪う!


    「そこの、えーと、ニーチャン!」 「網取って、網!」

  どうやら、手伝わせる気が満々のようだ…

213スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/26(日) 01:38:34
>>212

「そーいう話で行くとよォー、やっぱ毒キノコを最初に食ったやつは気の毒だったと思……」

      「ン?」

         「ぉっ!? 掛かった……のかッ!」


      ガタッ!

思わずスタンダップするスミシー!
自身の竿は一旦引き上げて、ダビデに加勢する気満々だ!

「慎重にだぜ! やはり魚ってやつは警戒心がつえー」

      「まして今まさに釣られそうってんならよォ〜ッ!」


         グォォーーーーーーン!!

魚に引かれ、振り回される糸と竿!
逆に竿に引かれて弱りゆく魚!


「網ッ! よし、網だぜ!」

         「ここで逃がしちゃあ男の名折れだぜ!」

スミシーは素早く網を取って、掬い上げる準備だ!

(……にしても、タダ飯? 適当に言ってるだけか? それとも、ウチがビンボーなのか……?)

214ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/26(日) 23:18:22
>>213


         グォォーーーーーーン!!


  「むぐッ! こ、コイツ……」

   暴れる魚!
   だがその力は徐々に弱まってゆく…

 「サンキュー! よし、仕上げだ!」

    水面に近付いてくる魚影…
    スミシーが寄せた網に近付いた瞬間、一気に引き上げる!


              ざっぱぁぁあ・・・


    「トッタドーーーー!!!」


  雄叫びを上げる… これも必要なものだ。
  ターザンする時に「アーアアー」って言うくらい必要だ。

  さて、釣れたのは…?

215スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/26(日) 23:40:48
>>214

              ざっぱぁぁあ・・・


   「こっ」   
                   「こいつはッ!?」

                                   ピチッ

  ピチッ
        「まさかァァ〜〜〜〜ッ」
 
                    ピチチ!

スミシーはやけに驚いているが、別にたいした魚ではない。
種類は? って言われてパッと出てくる感じでもない……

            「魚……だなぁ。
             こう、魚らしい魚っていうかよォ〜〜」
 
  ピチッ        ピチピチ
にぶい光沢をもつぬめるグレーのウロコ。
無感情そうな目。パタパタ動くひれ……たしかに『魚』ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。


「……食えそうでは、あるな。」

                      ピチッ……

大きさもそんないうほどでかくも小さくもない。
食べるって意味では、ちょうどいいかもしれない……?

216ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/27(月) 21:31:38
>>215


   「ト、トッタドー…」
                      ぴちぴち

 特に大物というワケではなく、がっかりするほど小物ではない。
 ダビデのリアクションも若干迷いがちだ…


   「ウーン… 大きめなら半分にして、
    手伝ってくれたニイチャンにもあげようと思ったが…」

   「これなら半分にする必要もねーぜ。ハイ」
                              「あげる」


 釣り糸を手繰り、魚をスミシーに差し出している…。

217スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/27(月) 23:00:02
>>216

差し出された魚に気づき、ダビデの顔と魚の間で視線を動かす。
 
「俺に? そりゃ、ちと悪ィ気がするぜ。オメーが食うんじゃねえのか?」

                「俺としては、見返りは求めてねーっつーか……よォ?」

協力はしたが、あくまで善意のつもりだったのだ。
少しばかり、受け取りをためらうが……
「だが、くれるってんなら、もらうもんだよな。
             ありがとよ、エート……」

結局、受け取ることにした。

そういえば、名前を聞いていなかった、と気づいた。
自分だって名乗ってないんだし、当然といえば当然だが。

218ダビデ『シェルフ・ライフ・アンリミテッド』:2015/04/27(月) 23:47:26
>>217


   「ダビデだぜ」 「D-a-v-i-d で、ダビデ」
                             ぴちぴち


 本来なら『デヴィッド』とも読みそうなスペルだ。


   「魚が釣れたより、ニーチャンと話してたことが面白かったからな」
   「魚はあげるよォ」 「ニーチャンの餌で釣った魚だ」

       ひゅっ

 そう言うと、ダビデは釣り糸を竿に絡ませ、踵を返した。


   「僕にはコレがあるしな」 「チュッペチョップス」

      ペリペリ

   「たこ焼き味だぜ」   レローン


 キャンディーを咥え、遠ざかる。そろそろ帰るつもりだ。

219スミシー『ザ・ウィズ』:2015/04/28(火) 00:17:06
>>218

「ダビデ……か。
           『イカす』名前だぜ。」
    
                             ぴちぴち

魚をクーラーボックスに入れた。

「自己紹介を返すが、俺の名は『喜屋武 角』」
「スミシー、って呼んでくれ。」

「俺としてもよォー、マジに楽しかったぜ。今日の釣りは。」

スミシーは歯を見せて笑う。
そして自身の釣竿に再び向かい合う。

「今度はよォ、飯でも食いながらしゃべろうぜ。
                    ……またな、ダビデ。」

ダビデの背中を見送る。もちろん……オゴるつもりだ。
押しつけとかではなく、『しゃべりの礼』として。

220ココロ『RLP』:2015/05/18(月) 23:31:58

                 ――砂浜 


  (……なんで私こんなところにいるのかしら。
          ……学校だってまともに通えない。私、本格的に駄目になってるのね……)


ココロは……再確認していた。
そしてこのままではいけないとも、思う。そう、このままではだめなのだ。


(……でも、変われるきっかけなんかないわ。
 サナトリウム……とかいうのも、結局見つからないし……)

(ま、ま、まさかあの子に騙されてる……?
      い、いいえ、そんなわけないわ。ありえないわ、騙すなんて。
                わ……私の心の汚さ並にありえないことよ……)

鬱々としたオーラを放ちながら、何をするでもなく座っている。
……あまりにも無意味な自分に気づき、演奏を始める……それだって無意味なことかもしれない。
 
 
         +.:♭*♪.♪*
       .♪*     +.:♭*♪.♪*
   :♯゚♪。            ♭*♪.♪*
*:.♪.:。.                    *:.♪.:。.*:.♪.:。.*:.♪.:。.
゚                                  +.:♭*♪.♪*

221癒美『ハーモニー』:2015/05/18(月) 23:46:40
>>220

    ザァン……
            ザァン……

波の音と、ココロの『RLP』から奏でられるピアノの音。
前者は誰にでも聞こえるが、後者は『スタンド使い』にしか聞こえない。
だが、『スタンド使い』であれば、ココロの『RLP』の『音色』と『波音』が合わさって――


     「わぁ〜、ラッキー。砂浜ライブゥ〜〜」

ココロの横、すこし離れたところからのんびりとした声が聞こえた。
さくりさくりと砂を踏みながら、彼女はココロへと近づいていく。

「ピアノ綺麗ぇ〜〜……」

にこにこと穏やかに顔を緩ませながら、一定の距離は空けつつココロへ覗き込もうとする。
ピンク色の少しパーマがかったセミロングの髪に、ガーリィな春ファッションの服を纏い、
いかにも人畜無害そうな様相の女性だ。

222ココロ『RLP』:2015/05/18(月) 23:59:59
>>221

            ビクッ……

(す、スタンド使い……だわ。何がどうあっても……
 …………別に驚くことでもないような気もしてきたわね。たくさんいるもの……)


そして、別段スタンド使い=怖いってわけでもない。
もちろんだが逆もない。

               ――ココロは演奏を続ける。
                    白く細い指の動きに伴って、淡い光を灯す 半透明の鍵盤。


   「……」
 
                   ……チラ

     (よ、よかった……平和そうな人……け、けど、人は見かけによらないというわ。
                  ……今までだって、普通そうな人が悪かったり、悪そうな人がいい人だったり……)

     (そもそも、わ、私が勝手に判断するのがおこがましいのよ。か、会話するのよ……)

  「あ、ありがとうございます……」

ココロはぱちぱちと、緑の、やや吊り上がった目を瞬かせながら、礼を言った。
……海風に揺れるハーフアップの髪は茶色。首にはスチームパンクっぽいヘッドホン。

223癒美『ハーモニー』:2015/05/19(火) 00:15:30
>>222

「えへ、お姉さん可愛いね〜〜。
 ピアノすごい上手だし、かんぺき人間?ですね〜」

ココロの隣に腰を下ろし、ココロの『RLP』を眺める彼女。
光を放つ鍵盤だとか、半透明だとか、そういったことは彼女は一切気にしたふうはなく。

「ピアノもキレイだねぇ。邪魔しちゃってごめんね〜、曲はわからなかったけどすごくよかったよぉ〜〜」

「ね。続き、聴かせてもらってもいいかな?」

へにゃっとした笑顔でココロへ催促する。
イヤミだとか、悪意だとか……そういったものはまったく持ち合わせになさそうな、
悪く言ってしまえば頭の悪そうな人種だ。だが、頭が悪い分、感情表現も素直に行う。
彼女は『ココロの演奏』を聴きたがっている。

224ココロ『RLP』:2015/05/19(火) 00:32:47
>>223

「そ、そんな……かんぺき、だなんて。
          わ、わ、私は……私なんか……違うの。」

小さく頭を横に振る。
……お世辞と受け取っているが、それでもなかなか照れる文句だ。

――なんて。不相応な。
ココロはそういう風にも、思った。
「で、でも…………ありがとう。
 ……き、聞いてくれる人がいると、なんだか、嬉しいし……邪魔なんかじゃあ、ないわ。」

ココロとしては、これは本音だった。
裏表のなさそうな人は安心だし、演奏を聴いてもらうのは、褒めてもらうのは嬉しい。

  
           「……続けるわね。」


         _,.、.-―-.、., ♪ 
       、-''´       `'-.、,_
―--:‐''^ ´   ♪
                             ♪                  _,.、.-―-.、.,
                                            、-''´       `'-.、,_ 
                                       ―--:‐''^ ´

あくまで即興で、それほど素晴らしい曲ではないが――ココロは春をイメージした。
そして、目の前の女性から、芽吹くような……暖かいイメージを。

                    (あ、あくまでイメージよイメージ。)

225癒美『ハーモニー』:2015/05/19(火) 00:57:36
>>224

波の音は変わらず響き渡る。
太陽の柔らかな光が砂浜を包み込み、辺りを穏やかな空気が漂う。

『春』をイメージした即興の演奏。女性の印象も加味して、ふんわりと奏でられる音符たち。
香る、新緑の匂い。芽吹きだす、春の訪れ。和やかに風に靡く、緑一色の草原。
音楽は時として脳裏に映像を生み出すこともある。
ココロは逆に、春のそういった要素をイメージして、演奏した。

女性はただ目を瞑って、ココロの奏でる即興曲を愉しむ。
彼女の膝から4センチほどの『小人』が飛び降り、『四つ葉のクローバー』の傘でふわりと滞空し、
砂浜へと着地した。そして『小人』が両手で砂浜を撫でると、

   ピョコッ  ピョコピョコピョコッ

砂浜のそこら中にちいさな『野花』が咲き始める。
『春紫苑』。ちいさい純白の花びらと、豊かに緑の葉を付けるのが特徴の多年草。
それらが二人を包み込むように、砂浜の一面を覆い始めた。

226ココロ『RLP』:2015/05/19(火) 01:14:40
>>225


                       (……うふふ、なんだか、可愛いスタンドだわ……)

必要以上に狼狽しないのは慣れか、音の海に心を沈めるゆえか。
ともかく、四葉の傘を持ったそれは、とてもメルヘンで、ファンシーで。

               ♭*♪.♪*
       +.:♭*♪.♪*
   :♯゚♪。        
*:.♪.:。.                
    *:.♪.:。.*:.
          ♪.:。.*:.♪.:。. 
                  +.:♭*♪.♪*  +.:♭*♪.♪*
       .                               ♪*     

   ピョコッ  ピョコピョコピョコッ


        「……あら……」

                          (お花、が――?)

ココロは――その光景に心打たれた。
春紫苑の花畑。目の前の女性の……いや、無粋だ。音に浸ればいい……

(……な、なんて。うふふ。
 そこまで出来ちゃいないわ、私……ど、どうしましょう。あっ演奏は続けるわ、あたりまえだけど……)

ちら、ちらと小人に視線。

227癒美『ハーモニー』:2015/05/19(火) 01:31:33
>>226

    ←コクリ      コクリ→


メトロノームのように、ゆったりと左右に揺れる女性。
ココロはそうではないが、彼女は音楽に浸っている様子だ。

ぴょんとジャンプしたかと思うと、『四つ葉のクローバー』の傘に上昇気流でも発生しているのか、飛行する。
そして手近な『春紫苑』の上に着地し、花びらの上に腰掛けた。
『小人』は何をするわけでもなく、ただ左右へ揺れる。
彼女が揺れる方向に合わせて、共に曲を楽しんでいる。

    ←コクリ      コクリ→
    ←コクリ      コクリ→

ココロが彼女から受け取った、『春』というイメージ……それは『正解』のようだった。

228ココロ『RLP』:2015/05/19(火) 09:14:23

>>227

こくり、こくりと左右に揺れる、二人の観客。
思わず、ココロの強張りも綻ぶ。自然な笑顔になる。

  (お花の妖精……って感じだわ。
   この人と同じで、なんというか、平和だわ。 安心……する、かも……)

改めて、演奏に集中する。
……このシチュエーションは、ココロにとって好ましかった。平和で、穏やかな演奏会。


                  ――束の間の安息。

                          . . : :♪
.                         . : ∮ :
           . . . .          . : : : :
         . . : : : : :|ヽ: . .     . : : :#: :
       . : : r‐┐ : C|: : : : . . . :c/⌒: : :
     . : : : d d : : :   : :♭: : : :
   . :c/⌒: : : :        : : :
. : :♪: : : :
 : : :


(……久しぶりかもしれないわ。こんなに、心のもやがないのって……
                 うふふ、い、いいわよね、たまには、こんな風に……)

ピアノに没頭することは――大きくも、小さくも、ココロを平静にさせてくれる。
今だけは、自責も、自己嫌悪も、悩みも、焦りも、恐怖もなく、ただ、音を奏でるココロに……

              (そうよ、今だけは……)

229癒美『ハーモニー』:2015/05/19(火) 21:19:45
>>228

砂浜の演奏会は続く。
一定のリズムで打ち寄せる波と、没頭したココロの素晴らしいピアノ演奏。
そして、弓川 癒美の『小人』によって芽吹いた春紫苑の花畑によって、
――『ハーモニー』が、今ここに生まれていた。

ココロの中から不安感が取り除かれたことによって、殊更、調和は安心感を生み出す。
安心感が生まれた結果、どうなるか。

「……すー」

ココロが隣に目を向ければ、彼女は無防備に寝ていることが窺えるだろう。
スタンドも消えている。本気の昼寝だ。

230ココロ『RLP』:2015/05/19(火) 23:05:33
>>229

音と、空間と、奏者と聴衆で、完成した『ハーモニー』……

   「……?」

                     ――に、混ざる安らかな寝息。


「あ、あら……寝てしまったのね……」


(ど、ど、どうしましょう。
 ……ね、寝てる……のを放置して帰るわけには……)

          (か、風邪ひいちゃうかもだわ……悪い人に酷い目に合わされるかも……けれど、お、起こすのも、何だか、悪いような……)

            〜〜♪
              〜〜♪♪

……子守唄代わりではないが、とりあえず穏やかに、演奏を続けておく。

(どうしましょうどうしましょう……や、やっぱり寝かしたままはマズいわ……)

鞄の中に入れているブランケット(楽譜柄だ。)を思い出したが、演奏中に手は使えない。
おそるおそる、自由な首を傾けて――

                 『こつ』

軽く頭をぶつけてみる。もしこれで起きなければ、起きるまで弾き続けるのもやむなし……

231癒美『ハーモニー』:2015/05/19(火) 23:16:21
>>230

                 『こつ』

ココロは彼女の肩に軽く頭をぶつけ、起こそうと試みる。(こころだけにね)

だが……

「ん……ふすー」
            『ことん』

……逆に、ココロの頭の上に……頭を預けてきた。
電車の中でカップルがよくやってるようなアレだ。相互に頭を預けてるような、ああいう感じ。
恐らく、ここで頭を引っこ抜こうとすると彼女はバランスを崩し……ココロの膝元に真っ逆さま、だろう。
ココロ、大ピンチ!どうする!?

232ココロ『RLP』:2015/05/19(火) 23:29:34
>>231

            『ことん』


              「えっ……!?」

     (なッ、んな、な……)

                   (こ、この状況……って……
                               は、はたから見たら、すごく恥ずかしい……
                                    ……わ、私だって電車で見かけたら、恥ずかしくなる、わ……)

                 テレテレ
 「ど、ど、どうしましょう。
       どうしましょう、どうしましょう……!?」


思わず声に出たが――どうしようもない。
自分が羞恥に耐えれば、この女性が頭をしこたま打たずに済むのだから……


   :♯゚♪。        
*:.♪.:。.                
    *:.♪.:。.*:.
          ♪.:。.*:.♪.:。. 
                  +.:♭*♪.
「…………お、お姉さん……お姉さん……(小声)」

                         :.♪.:。.*:.
                             ♪.:。.*:.♪.:。. 
                                   +.:♭*♪.

とはいえ、いつまでもこのままというわけにも。
演奏はそのまま、ひそひそ声で女性に呼びかけ続ける……

233癒美『ハーモニー』:2015/05/20(水) 00:00:33
>>232

ココロは小声で囁きつつ、演奏を続ける。
弾む旋律に、ココロのハスキーボイスが合わさり……

「ぐう……」

起きない!起きないぞ!
いや、それどころか……

        ス ・ ・ ・

ココロの腰に片手を回し、抱きついてくる!
ヤバいッ!さっきより更に恥ずかしい状況ッ!

……ココロは失念していた。
『子守唄』はどうやって歌うのかを。
ココロは気づいた。
ピアノの優しい音色と合わさって、無意識に『お姉さん』と呼ぶ声がリズムに合わせていたことを。
そして、ココロは理解するだろう。
自身のピアノが、『人を無防備にさせるほど安心できるもの』だということを。

234ココロ『RLP』:2015/05/20(水) 00:24:40
>>233

        ス ・ ・ ・

  「ひ、ひぃい……」

           (どうしましょうどうしましょうどうしましょう……!
                    わ、私、なんでこんなことになってるのかしら……!?)

まさかこんな展開になるとは……
これもまた、ロマンチックな『ハーモニー』がなせる技なのか? 自分のピアノの力もあるなら嬉しいやら何やら……
 
               さっき『電車の中のカップル』が例えに上がったが――
               気分的には『怖くて叫べない痴漢被害者』のが近い!


(そ、それはさすがに失礼すぎるわ私ったら……そ、そうよ、怖いとかじゃあないの……
                し、しあわせそうに、寝ているだけなんだし……これだって、私のせいみたいなものだし……)

そう、それほど怖いってわけじゃあない。
害はなさそうだし……だが、なんかこう、困るのだ!

しかし乱暴に叩き起こすのも気が引ける……もっとヤバ気な男とかならそうするのだが!
                                この女性、無害ゆえに――危険!

(や、やっぱり……起きるまで頑張るしかないわ……)

心を半端に許してしまっているココロがいる!
叩き起こすのはなんだかかわいそう……と思ってしまうココロが!

                                              *:.♪.:。.                
                                                 *:.♪.:。.*:.
                                                       ♪.:。.*:.♪.:。. 
        「お姉さん……お、起きて、起きてちょうだい……」

                     「……起きて……も、も、もう朝……もう終点……よ。
                                そろそろ起きなきゃだめだわ……駄目よ……」    
    
*:.♪.:。.                
    *:.♪.:。.*:.
          ♪.:。.*:.♪.:。. 

なるべく演奏からリズムを外して、体を使って軽く揺さぶりながら声をかけ続ける……

235癒美『ハーモニー』:2015/05/20(水) 00:30:30
>>234

「ん……」

ココロの工夫によって、なんとか半目を開ける女性。
もうひと押し、彼女を起こすために……

>          「……起きて……も、も、もう朝……もう終点……よ。

「終点ッ!?」
         ガ バ ァ ッ!

跳ね起きる女性。作戦成功だ。
ココロは身体を軽く揺さぶっていたおかげで、彼女が跳ね起きた時に肩で頭をガツンとかちあげられる、ということもなかった。

「えっ、今何時……あれ、砂浜?あれ、え?」

困惑する女性。寝ぼけているようだ。

236ココロ『RLP』:2015/05/20(水) 00:51:51
>>235

「……ご、ごっ、ごめんなさい。意地悪な事を言ってしまって……
 終点じゃなくて、ここは砂浜なの。じ、時間はまだお昼すぎなの……ごめんなさい。」

         「……」

             「そ、その……ごめんなさい。
                起こさない方が、よ、よ、よかった……かしら……」

とはいえ、状況が状況だったし、ココロは『起こさない方が危ない』と思う。
……だから起こしてもいい、とは限らないにせよ。


                  ザザ ー  ン

                              ザァーン

流石に――演奏は止めた。申し訳ない気持ちだし、いったん止めたのだ。
波の音だけが二人の間に響く……

        「……」

      (き、気……気まずい……けれど仕方ないことだわ……私が起こしたんだもの……
                いつも私は思い込みで行動してしまうのよ……だ、誰が起こせって言ったの?
                     そもそも、起きるまで待とうとか思ってたのは私なのに、全然待たなかったわ……)

すっかり起こして悪かった的ネガティヴ循環にとらわれつつあるココロ……

237癒美『ハーモニー』:2015/05/20(水) 01:08:22
>>236

ココロの話を聞き、ぽやっとしてた眼が徐々に定まり始める。
そして数瞬の沈黙が流れ――

    「ほんっっっっっっ
        っっっっっっとうに、ごめんなさい!!」

「せっかくピアノ弾いててくれたのに、寝ちゃってた……」

ココロがこの言葉にリアクションを返すよりも早く、しょぼくれる女性。
矢継ぎ早に、謝罪を繰り返す。

「いきなり横から聞きに来たのに、聞いてる途中に寝ちゃうとか!
 すっごい失礼だよね!?ごめんなさい!申し訳ありませんでしたー!」

「『ピアノの演奏』がすっごく良くて!なんだか気が緩んじゃって、ほら、春の陽気で!
 ほんとう、本当ごめんね?ああもうバカぁ〜〜」

頭を抱え込み、反省している様子を見せる。
彼女の中では、ココロとは逆に『寝てしまって悪かった』という気持ちでいっぱいらしい。

238ココロ『RLP』:2015/05/20(水) 01:29:43
>>237

(お、お、怒られる? あきれられる? ……し、仕方ないわよ。私が悪いんだもの……!)

             「えっ」

                    「あ、い、いいえ、そんな……」


「そんな……い、いいの、いいのよ、謝ったりしなくて。
 わ……私は、聴きに来てくれたってだけで……す、すごく、嬉しいし……」

予想外の展開に、面食らうココロだが――その言葉は。

            「……うふふ。
             よ、良かったって言ってもらえるのは、もっと、もっと嬉しいわ。ありがとう。」

とてもうれしいし、失礼なんて思わない。
そもそもさっきの演奏は、ココロの趣味のようなもので。聴衆がいるのがありがたくても、いなくて嫌ではない。

「……だ、だ、だから、謝らないで……」

まして、眠りの理由に、自分のピアノの『安心感』があるのなら――責める理由は皆無だ。
嬉しくて、ちょっと困ったけど、結果はオーライ……なのだ。

239癒美『ハーモニー』:2015/05/20(水) 01:41:04
>>238

「ううっ……完璧、完璧に良い人……」

ココロの対応に、じわじわと涙まで出てくる始末。
目をごしごしこすって涙を消しながら、改めてココロに目を向ける女性。

「ねぇ、私は『弓川 癒美(ユミカワ ユミ)』って言うの。
 『ともだち』になろ!ね!」

ココロの手を取って、笑顔を向ける。
彼女の頭上には先ほどの『小人』が立ち、うんうんと頷いている。
周囲には『春紫苑』が風に揺られ、砂浜を緑に染めている。
(先ほど彼女は「砂浜?」と言っていたが、野花がどこに生えているのか、という情報フィードバックのことだろうか)

「わたし、もっとあなたのピアノ聴きたい!
 音楽のことぜんぜんわかんないけど、いいかな?」

小首を傾げながら、ココロへとお願いする癒美。

240ココロ『RLP』:2015/05/20(水) 01:57:13
>>239

「ち、ちっ……違うわ。私は……完璧にいい人なんかじゃあないわ。
 むしろ、すごく……駄目で、自分本位な……そんな女なの……」

      「そ、それでも――」

              「それでも、とっ……友達になって……くれるの……?」

ココロは、俯きがちにそういった。
自分への自信のなさが、春の明るさに照らされ、浮彫りにされそうな――そんな気持ち。

「あっ私は……ココロ。
 水溜 意(みずたまり こころ)……よ。」

「わ、私のピアノなんて、へっ、へ、減るものでもないし……むしろ、聴いてくれる人がいたら、すごく嬉しいのよ。
 だから……ええ、音楽に詳しいかなんて、全然、関係ないことなのよ……だ、だから。」

              「……だから、私は、私は。
                       友達に……なりたいわ。」

けれど、自分の意思くらいは、ちゃんと言いたくて、言い切った。
癒美の顔を見て、反応を待つ。

241癒美『ハーモニー』:2015/05/21(木) 00:46:01
>>240

「ふふっ、じゃあ私たち友達ね!」

きゅっとココロの手を両手で覆い、花のような笑顔をココロへ見せる癒美。
ココロの手に伝わる、じんわりとした心地良いあたたかさ。

「ココロちゃん、これからよろしくね?」

一陣の風が吹き、『春紫苑』が賑やかに風に揺られる。
春は出会いの季節。友だちが増える季節なのだ。

242ココロ『RLP』:2015/05/21(木) 00:53:59
>>242

「……〜〜っ……」

           ジワ……

                   「……ええ! こちらこそ、よろしく。癒美ちゃん。」

ココロは花のように、満面の笑みで応えた。
そう、春は出会いの季節。ココロにも、よき出会いがたくさん、訪れる季節……

           (そうなれば、いいのだけれど……)

……不安は春風に乗せて、どこかに行かせてしまいたいものだ。
ともかく、今日は……いい一日だ。

243ココロ『RLP』:2015/05/23(土) 00:37:51
                          ――砂浜  

サンダル履きの足先を、寄せては返す波が濡らす。
海風が茶色の髪を揺らす。緑の瞳は海の向こうを見る。

「……ふう……」

そんなココロは今、ほんのりと上機嫌だ。

        ……もっとも他人の不機嫌とそう変わらないようなオーラだが。
           まあ、見る人が見ればわかる程度には、上機嫌なのだ。


            (……で、でも、嫌な気分よりは良い気分の方が、良いに決まってるわ。
             ……そういえば、この上機嫌を私だけで独占するのもなんだかケチだわね……)


                          . . : :♪
.                         . : ∮ :
           . . . .          . : : : :
         . . : : : : :|ヽ: . .     . : : :#: :
       . : : r‐┐ : C|: : : : . . . :c/⌒: : :
     . : : : d d : : :   : :♭: : : :
   . :c/⌒: : : :        : : :
. : :♪: : : :
 : : :

それを演奏に――RLPのメロディに乗せて、海に向けて。

244鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/23(土) 01:29:03
砂浜にもう一人人影があった。
和服に身を包んだ背の低い少年だ。
和傘で日を避け、手に風呂敷を持っている。
ざくざくと草履で砂浜を歩いている。足取りは軽い。機嫌がいいのだろう。

「暑いけど、エエ天気やし、良しとせんとねぇ。」

鈴元はどこからか綺麗なメロディが聞こえることに気付いた。
一般人には聞こえない音だが鈴元はその音を聞くことが出来る。
彼がスタンド使いだからだ。

「え?んー?ピアノ?」

音のするほうに人影がある。

(どんな人が弾いてるんやろぉ。)

見に行ってみよう。
肩まで伸びた黒い癖毛を揺らし、鈴元は演奏者へと近づいていく。

「お上手ですねぇ。」

245ココロ『RLP』:2015/05/23(土) 01:48:45
>>244

演奏者は――茶髪をハーフアップにした女性、いや、少女だった。

            鈴元より一回りか二回り、高い背丈。細身だが、女性的な体つき。
            クリーム色のサマーセーターに、もえぎ色のフレアスカート。

「……え、あ……」

彼女は――ココロは、声に振り向いた。
黒っぽい緑の瞳を灯す目が、少しつり目気味の――美人、と言って差し支えなかった。

            ……首にかけたスチームパンク調のヘッドホンは、あるいはミスマッチに映るか。
               あるいは。

「き、聞こえる……し、見、見えるのよね、私の『RLP』……が……
               ……あ、ありがとう、褒めてくれて……う、嬉しいわ。」

微笑む彼女の、その手元――色とりどりのポップな指輪に彩られた白く長い指。
それが絶え間なく叩き、音を奏でる、『鍵盤』のビジョンの方が、気になるか。

「お……お散歩? そ、それとも、釣り、とか……?
      邪魔だったらすぐどくわ、ごめんなさい……」

やけに卑屈というか、ネガティヴなオーラが、気になるか。

246鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/23(土) 02:10:25
>>245

「……」

少女の姿を確認すると、鈴元は息を呑んだ。

(べっぴんさんやぁ。)

色々あって女性と話す機会が増え、女性慣れもしてきたかと思ったが
完全というわけでも無いのかもしれない。
ヘッドホンは鈴元にとって美しさの一部になり、違和感を感じさせる物品ではなかった。

>「き、聞こえる……し、見、見えるのよね、私の『RLP』……が……
               ……あ、ありがとう、褒めてくれて……う、嬉しいわ。」

「『RLP』?そういう名前なんですかぁ。ちゅうか、お礼言われる事してへんよぉ。事実やし。」

にこりと笑って話す。
ふと、ココロの手元に鍵盤を見つけた。
光る鍵盤だろうか。

(手ぇも鍵盤も綺麗やなぁ。エエなぁ。)

>「お……お散歩? そ、それとも、釣り、とか……?
      邪魔だったらすぐどくわ、ごめんなさい……」

「まぁ、散歩?ですねぇ。あぁ邪魔やないですよ。」

やわらかくココロに話す。
相手の目を見てゆっくりと話す。

「あの、もっと聞かせてもらえへんやろか。その、素敵やから。」

247ココロ『RLP』:2015/05/23(土) 02:52:22
>>246

「じ、事実……って、う、うふふ。
      ひ、人を褒めるのが上手なのね……そ、そう、この鍵盤が『RLP』……よ。」

半透明の鍵盤……だ。
ココロの指が、それを叩くとき――淡く、やわらかい色の光を灯す。

             (べ、べた褒め……お、お世辞――とかじゃないわよね、ええ。
              私ったら、な、何も疑う理由なんて、ないのよ。意味もなく疑うのは最低だわ……)

         アセ……

 (ま、真っ直ぐな目だわ……!)

初対面にいきなり目を見られるのは少し焦るが……そう、目で見て話すのは大切なのだ。

       「すぅ……」    ハァーー

小さく息を吸い吐きする……

「……ありがとう。それじゃあ……続ける、わ。」

そして、演奏を続けるのだ。 
           ∧                                  
          γ   `ヽ
         <  ♪  >
           ゝ   _ノ  ∧
            ∨  <♪>
                 ∨
                        ∧
                      <♪>
                        ∨

先ほどよりも、アップテンポな――即興のメロディー。褒められて気分がいいのもある。
あるいは、元から気分がいいのも、多分に。

248鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/23(土) 03:18:27
>>247

「思うた事、言うただけですから。」

「『RLP』鍵盤のスタンド。綺麗やわぁ。」

(あんさんも、て言うのははずいわなぁ。)

砂浜に腰を下ろし、演奏を聴く。

演奏するココロの姿を鈴元はしっかりと見ていた。
というより見とれていたのかもしれない。目を離せなかったのだ。

(凄い集中してはるわ。)

和傘をココロの方に傾け、日陰に入れる。
別に意識したわけではない。自然とそうしていたのだ。

(やっぱり練習してんねやろなぁ。)

静かにただ曲を聴いていた。

249ココロ『RLP』:2015/05/23(土) 15:45:47
>>248

(あ、か、傘……すごく、よく気が利く人なんだわ……わ、私とは大違いね。
                 ……ここで会う人って、すごくいい人ばっかりな気がするわね……)


                          ――7分ほど、演奏は続いた。


          _,.、.-―-.、., ♪
       、-''´        `'-.、,_
―--:‐''^ ´   ♪
                             ♪                 _,.、.-―-.、.,
                                            、-''´         `'-.、,_ 
                                       ―--:‐''^ ´


               ダァーーーン  ……

                          『ピタ』


          「……ふぅ……」


――指の動きが止まって。
                 ……それから鈴元を、見て。

    「え、ええと、その……」

                 「あ、ありがとう。
                  そ、その、傘……そ、それに、ちゃんと、聴いてくれて……」

             『ニコ……』

柔らかく微笑む。どこか不安げな色こそ、しみついたように残っているが……

「すごく、嬉しい……わ。
 誰かに聴いていてもらうって、とても素晴らしいことだから……!」

静かに、最後まで……確かに自分の演奏を聞いていてくれていた。
それは、演奏者として、とても誇らしいことだった。

                   「……あ、ご、ごめんなさい、なんだか興奮して……」

すぐに、高揚感が表情から引いていった。

250鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/23(土) 22:31:52
>>249

「傘ぁ?あ。別にエエんですよぉ。素敵な演奏でしたわぁ。」

片手で傘の柄を叩き拍手の代わりをする。
風呂敷は膝の上だ。

ニコッと相手に微笑み返す。

(なんや元気ない笑顔やなぁ。)

店や家で多くの人と話すが
彼女のような笑顔をするものは見たことがなく、珍しい表情だとも思う。

「別に、気にすることやあれへんよぉ。そんだけ真剣で真摯に向き合っとる、エエ事ですぅ。」

自分が演奏のリクエストをした、というのもあるが
最高の演奏を適当な姿勢では聴く気にはなれなかったのだ。

「センセの演奏みたいやったなぁ。ピアノ、始めて長い?」

技術は時間と密度で作られる。
少なくとも鈴元はそう思っている。良い演奏は長い時間、濃い密度の練習から生まれると考える。
どちらか一方だけでも十分上手くはなる、とも思うがベストなのは長く濃い練習とも考えている。
ココロの演奏はそういう質の高さを感じたのだ。

「あ、エエ演奏聴かしてもろたし、お礼せんとなぁ。」

思い出したように風呂敷を砂浜に下ろし、片手で風呂敷を解いていく。
プラスチック製のタッパーが現れた。
上に爪楊枝が入った三つほどある。

「ウチの家、和菓子屋でねぇ。新商品出す前に試食させてもらえるんやわぁ。」

「どない?味も質も保証しますわぁ。」

251ココロ『RLP』:2015/05/23(土) 23:50:31
>>250

「あ、あ、あ……
      あ、ありがとう……」

               テレテレ
                      (べ、ベタほめ過ぎて怖いわ……う、裏があるんじゃあ……?
                       ……ほ、ほ、褒められてるのに文句なんて、私も偉くなったものね…………)


ココロという人間は面倒で、自意識過剰なのだ。
ガンガン褒められるのはいいのだが……なんともこう、むず痒い。

                          ……意識はしてないが、異性だからというのも裏を感じる一因だ。

「あ、ええ……もう、10年すこしになるかしら……
      ……ずっと、ピアノだけは……続けているの。けど、せ、先生なんて……照れるわ。」

先生――というのは事実なのだが、あえてそれを言うことはしない。
それを誇らしく思っているのも、事実だが……

       「?」

              「お、お礼――って。
                  そんな、わ、わ、悪いわ。勝手に演奏してたのに、私……」

(そ、そ……それに、食べ物だわ。し、知らない人の手作りスイーツよ……
                        ……で、でも、食べなきゃ疑ってることばれちゃうわ……)

                   (そ、そしたら、きっとひどい目にあわされるに違いないわ……こ、ここは海。
                    死体の捨て場所には、も……もってこい……ひ、ひぃ……も、妄想にしたって失礼すぎるわよ……)

「わ、和菓子……」      「な、な、何かしら……かしわもち……ご、5月だし?」

などと言いつつ、とりあえず何なのかを確認はしてみるココロ。
さすがに断るにせよ、まったく取り合わないのは失礼では――と考えたのだ。

252鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 00:09:51
>>251

「10年?へぇ。長いことやってはりますねぇ。」

(僕いつから和菓子の修行してたっけ?)

張り合うつもりは無いが自分に長い間やっていることはなにかと考える。
家のことしか出てこないことに少し残念な気持ちになった。

「エエんよぉ。ホンマにお礼の気持ちやし。
        
              ……毒とか入ってへんでぇ?」

毒の有無は彼がよく言う冗談だ。
毒など入っていようものなら彼は死ぬだろうし
犯人はその菓子を作った身内の誰かということになる。
よしんば入っていたとしても死ぬことは無いレベルだろう。

「ん?せやねぇ。開けたら分かるわぁ。」

ゆっくりとタッパーのふたを外す。

中に入っていたのは三角形のういろうであった。
白いものと緑のものが二つずつ。
その内二つ(白緑ともに一つずつ)は上に細かく切られた小豆が乗っている。

「水無月と普通のういろう。どうですぅ?毒が心配やったら僕が先食べますけど?」

ニヤリと笑い相手に聞いてみる。

253ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 00:44:06
>>252

「ええ、け、けど……長いだけで……」

             「……」

                    「い、いいえ。ごめんなさい。ええ、長いのよ……」

自虐も過ぎると嫌味になる。
ココロも、本気で『長いだけ』などと思っているわけではない……

「ど、ど、どッ……そ、そんな、そんなこと……!」

           (み、見透かされて――)

たまらなく申し訳なく――そして、いたたまれなくなった、が……

                パカッ


        「こ、これっ……」

                          「……う、ういろうっ……!」

         パアァ……!(光が差すSE。)

タッパーの中に鎮座する、四つの三角形。
ココロはそいつを知っている……『ういろう』だ! 小豆が乗ってるのは『水無月』!

(な、何で……ど、どうしましょう、どうしましょう……!?
            ど、毒……なんて入ってないわよね!? は、は、入ってたらこんなこと言わないわよね……!)

「い、いいいえっ……いただくわ。」

楊枝で緑の『ういろう』を突き刺し、左手を受け皿にして口へ運ぶ……
その目はいつになく、輝いていた。

254鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 01:13:38
>>253

(別にそんな意味でいうたんやないんやけど……)

これ以上の問答は無用と思い、口出さない。
相手の発言を遮ってまで持ち上げるのはいやらしい。

> 「……う、ういろうっ……!」

「いや、ういろう好きなん?」

顔を見れば好きかどうかは分かるが一応聞いてみる。
話の広がりがあればいいなぐらいの気持ちだ。

>「い、いいいえっ……いただくわ。」

「はい。おあがりやす。」

緑はおそらく抹茶が練りこまれているだろう。
鈴元は白の水無月を食べる。

(おいし。お兄ちゃんどんどん美味しいの作るようになるなぁ。)

兄の腕前上達を感じる。
店を継ぐのだから気合が入っているのだろう。

(そんな子供みたいな目ぇせんでも逃げへんで。)

くすりと笑ってしまう。
不快なことをしたかと相手の顔色を伺う。
水無月はまだ口の中だ。

255ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 01:30:17
>>254

             モッチャ
       
                     モッチャ

餅。ようかん。ゼリー。
違う。ういろうだ……ういろうの、独特の食感だ。歯にねばりつくような!


    モッチャ……
 
                   ゴクン

       「美味しい……」
「え、ええ……大好きなの。ういろう。」

                    「食感が……味も、好きだけれど……」

       パク

二口目をかじった。
……しばらく、無言でういろうを食べ続ける……
         
                       モチャ……

                                     「……んぐっ……!?」

(の、の、喉に……のどに詰まった……わ!!)

肩にかけたカバンから水筒を取り出そうともがく……

256鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 01:47:40
>>255

「変な感じしますよねぇ。」

食感のことだ。
他意はない。

>「……んぐっ……!?」

(どないしはったんやろ。)

(あ、喉つまらせてはる?)

こんな所で窒息死されるのはよくない。
警察の処理だとか色々面倒だし、なにより好意に甘えて死なれるのは嫌だ。

(カバンの中、に水筒とか入ってはるんやろか。)

初対面の相手のカバンを触るのは気がひけるが
人命救助のためなら許してもらえるはずだ。
もし人に見られたくないものを見てしまった場合は、責任を取ろう。

相手のカバンをまさぐり水筒を取り出せたら渡そう。

257ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 02:04:27
>>256

           ガサゴソ

カバンを漁る鈴元。

                ……水筒はすぐ見つかった。
                   ステンレスの魔法瓶で、淡い黄緑色。

「……!」  コクコク

目元に涙を溜めつつ、受け取るココロ。

          キュ  キュ ……

                     ごく   ごく    ごく

蓋を開け、喉に流し込む……あまりお上品ではないが、命の瀬戸際。

      「げほっ」

                 「げほ……っ!」


      「ごっ、ご……ごめんなさっ……」

                                「ゲホッッ」

……助かったようだ。
余計なものも、見ずに済んだ。……裁縫箱? らしきものがあったくらいだ。

「……ごめんなさい……よ、よく噛まなかったの……そ、それで……
                     う……ういろうは、何も悪くないわ、す、すごく、おいしくて……」

ういろうの弁護を始めるココロ……

258鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 02:17:03
>>257

「大丈夫ぅ?ホンマ、びっくりしたぁ。」

ういろう窒息事件で鈴眼に抗議の電話がかかることは防がれた。
そしてういろうで死ぬというなんともいえない死も防がれた。
ほっとして気が抜ける。

>ういろうの弁護

「え?あぁ、よう噛まんとねぇ……ふふっ。や、おいしい言うてもらうんは嬉しいねんけど……ふふふ。」

何を言うかと思えばういろうの弁護だ。
なんとなくシュールさを感じ、思わずふきだしてしまう。
ういろうは腹内におさまっている。口から出たりはしない。

「ういろうも、あんさんも悪ぅないやろぉ……ふふっふふふ。」

若干ツボに入ったのかもしれない。
口を押さえて静かに笑っている。

259ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 02:35:18
>>258

「ご、ごめんなさい……びっくりさせてしまって……」

                       「な、情けないわ……私……」
ばつが悪そうに俯くココロ。
                         ――水筒からは紅茶のような香りがする。


(わ、笑われているわ……あ、あたりまえよね、ええ。
 ういろうで死にかけるなんて……で、でも本当に危なかったのは事実だし……)

「……あ、ありがとう。
      ……そ、そうね、別に私も悪くはない……わね、ええ。」

                    「……あ、貴方には、迷惑をかけてしまったけれど……」

やはりばつが悪そうに、楊枝を白の水無月に刺す。
……食べるつもりのようだ。

「あ、ご、ごめんなさい。
 今度は詰めないようにするわね……」
                             (わ、笑いすぎじゃあないの……?)

260ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 02:43:38
>>259(訂正)
水無月の色:白→緑

261鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 03:01:11
>>259-260

「や、エエんよぉ。人命救助は、迷惑やないですから……ふふっ」

なかなか笑いが止まらない。
時折深呼吸しているが、なかなか収まってくれないようだ。

「すんません。あぁ、次どうぞ……」

やっと収まってきた。
大きく息を吸い、吐く。

「ホンマにすんません。なんや、あんさんがういろうの弁護するとは思わんくて。」

不快にさせたかと思い弁解する。
笑った表情が張り付いたままだが…

「なんちゅうか驚いて……ピアノ上手やしモデルさんみたいな人が、ういろうの弁護て……」

「あんさんエエなぁ。おもろいわぁ。あ、エエ意味やで?」

一応注釈しておく。
人間として面白いと純粋に思う。
魅力的といってもいいが、恥ずかしいのだろう。
食べかけだった白い水無月を手に取り口に入れた。

262ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 03:16:59
>>261

「ありがとう……い、い、いただきます……っ。」

           モチャ
                モチャ
                     モチャ……

先ほどより噛む回数を増やしたココロ。

                     (さすがに二回は笑い話にもならないわ……)


   ……ゴクン

その甲斐あって、問題なく食べ進める。

(う、ういろうの弁護……?? な、何を……あっ、さ、さっきのこと?
                    ……た、確かにういろうを弁護したわね、私……)

「も、モデルだなんて……あ、あまりほめ過ぎないでちょうだい……」

照れるが、まあ、言われたことはある。
……二口目をかじる。

                     ……モチャ モチャ

(……それにしても家が和菓子屋っていいわね……毎日ういろうが食べられるの……?
                     ……べ、べつにそういうわけではないわよね。それに毎日はさすがに飽きるし……)

263鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 03:38:58
>>262

「ほめ過ぎですかぁ?なんやすんません。」

もそもそと水無月を食べ終わる。
ういろうが残った。

「これ、貰いますねぇ。」

白いういろうを楊枝にさし、食べる。
ゆっくりと味わうようにかみ締める。

「外で和菓子食べるんもエエなぁ。普段は余りモンをもろてるし。
                 まぁ、余りモンも普通のヤツと変わらんねんけど。」

(モデルさんねぇ。あ、ミスコンに参加してもろたら盛り上がるやろか。)

部長から参加者の勧誘を頼まれていたのを思い出す。
別に目に付いた女性を全員勧誘して来いとまでは言われていない。
集めなくてもペナルティはないだろうし、急ぐこともない。
色々と考えているうちに二口三口と進んでいき
気がつけば自分の分は消えてなくなっていた。
手を合わせる。

「ごちそうさまでした。」

「どうです?美味しかったやろか?」

264ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 13:55:54
>>263

「あ、謝るようなことじゃあ、ないの……ご、ごめんなさい。」

           モチャ
                    モチャ

        ……ゴクン

「……あ、ええ。どうぞ。
 ……わ、私のじゃあないもの。ええ。」       「……そうね、なんだかピクニックみたいで……楽しいわ。」

                 (……や、やっぱり余り物をもらえるのね……け、けど、けどよ?
                  ……私がそんな立場なら、きっと食べ過ぎて太ってしまうわ……この人は自制が効くのね……)

どうでもいいことを考えるココロ……
いやココロ自身には死活問題なのか? 太ることは……

              モチャ

                モチャ

                       ゴク ゴク

水無月と水筒の中身は、順調に消費されていき……

「……ごちそうさまでした。
 ええ、すごく、すごく……おいしかったわ。ほ、本当に……よかったのかしら、こんなものをいただいて……」

自分の演奏につりあっていただろうか?
いや、決して演奏を必要以上に卑下するつもりはなく――それだけ美味しかったのだ。

265鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 14:27:39
>>264

「外で食べるとお茶会みたいやなぁ。」

うんうんと相槌をうつ。
ココロの考えに感づきもせず。和菓子をほお張る。
実に幸せそうな顔だ。本当に好きなのだろう。

>「……ごちそうさまでした。
 ええ、すごく、すごく……おいしかったわ。ほ、本当に……よかったのかしら、こんなものをいただいて……」

「きれぇな演奏聞かしてもろたし。そのお礼。エエお菓子はエエ人が食べたらエエんよぉ。」

(そのエエ人に、僕が入ってるとはおもわんけどね。)

懐から名刺サイズの紙を取り出す。
そこには彼の店について書かれている。
相手のほうから読めるようにして手渡す。

「これ、ウチんとこの店の住所。
 六月入ったらういろうも水無月も置きますから、ごひいきにぃ。」

砂浜で三つ指をついて礼をする。
彼女の演奏に、そして和菓子をほめてもらったことへの礼。
『鈴眼』という店の看板を背負う一員としての礼。

(礼儀正しい人やわぁ。育ちがエエんやろか。ピアノっていうんもお嬢様っぽい?そうでもないかな?
こういう人もミスコンに必要かなぁ。 ちょっと相談してみよかな。)

聞いてみるだけならタダだ。
参加するのもタダだが……

「ところで、モノは相談何やけどぉ。」

「ミスコンとか興味ありますぅ?」

266ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 14:55:58
>>265

(……あ、そ、そうね。お茶会の方が合ってるわね。
      ……ピ、ピクニックだなんて、気取ってると思われたかしら……)

ピクニックというには『洋』が足りないか。

「あ、え、ええ……それなら、よかったのだけれど……
          ……あっ、ありがとう。きっと今度、買いに行くわ。贔屓にするわ!」

名詞を受け取り、熱っぽく言った。
ココロが今まで愛食してきたのはDIONモールの菓子売り場の品だし、満足してたが――

              (こ……これからはもう、きっと満足できない。
                  私、ここのういろうでしか満足出来ない体にされたんだわ……!)

                             ――『鈴眼』のを食べて、味に目覚めたのだ。

「本当に……贔屓にするわ、だ、だから、そ、その……
          ……あ、あまり、そんな、か、かしこまらないでちょうだい……」

とはいえ三つ指つかれるのはさすがに恥ずかしいし、申し訳ないし、いたたまれない。
慌てて制止するココロ。

        「そ、相談? 何かしら、私にできることなら――」

                            「……み、ミスコンっ!?
                             ミスコンってあの……みんなの前で水着とかで出てくるやつ……?」

なにやら妙な理解があるようだ……

267鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 15:17:58
>>266

「よろしゅうお願いします。」

声色から相手の気持ちを感じた。
どうやら満足してくれているようだ。

「あんさんがピアノ褒めてもろたら嬉しいんと一緒ですよぉ。
               ウチらは店の味を褒めてもろたら嬉しいんですぅ。」

何代も続いた店の味に誇りがある。
自分が作ったわけではないが、自分のことのように嬉しいのだ。
美味しい菓子を出してこその和菓子屋。
味を褒められることは最高の報酬である。

>ミスコンってあの……みんなの前で水着とかで出てくるやつ……?

「み、水着ぃ?」   「着たいんやったらエエんとちゃいますぅ?スタイルええし。」

チラシ(下記)を取り出し、見せる。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/netgame/9003/1395590726/581-582

「ウチも協賛しとってねぇ、商品券一万円分のを出してんのよぉ。」

協賛については運営への協賛希望の書類を出した事実のみ知っているので
細やかな部分は違っているかもしれないが、おおまかにはあっているだろう。

ミスコンのルールは見てのとおりだ。

「どないやろぉ?」

268ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 21:56:25
>>267

「……! そう、よね。
        自分が本気でしていることを、褒められたら……嬉しいのは、ふつうだわ。」

(……だ、だからって三つ指までつくのは普通じゃあないような……
              ……い、いいえよしましょう、私の勝手な決めつけで人を傷つけるのは良くないわ。)

多少の疑問は残しつつ、ココロは納得した。
……まあ、それはともかく――だ。

          「ち、違ッ……」

                         「き、き、着たいとかじゃあないわ。違うのよ。
                          ち、ち、チラシを読んだ方が早いわよね、ええ、読むわ、ええ。」

渡された『ミスコン』のチラシを読む……
そして、商品券1万円というのも、ずいぶんと魅力的な話だが……


          「えッ、あっ……」

          「ど、ないって……わ、私、こういうのは……そ、その……」


まず、大勢の前に出るってことが苦手だ――いや、苦手に『なった』のだ、ごく最近に。 
でなくとも、こういうイベントは何というか……

                               (……け、けど……けどよ? もし、もし断ったら……
                                            ……で、でも、この人は悪い人じゃない……みたいだし……)

揺れ動くココロの心。
あと一押し――だが、押し込む方向を間違えれば、転落するだろう。

269鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/24(日) 22:46:01
>>268

>「ど、ないって……わ、私、こういうのは……そ、その……」

「苦手、やった?」

バツが悪そうな顔で頭をかく。
そういう反応は予測できなかった、わけではない。
皆が皆ミスコン参加に能動的だとは思っていない。
最近はうまく行き過ぎていたのだ。

(まぁ、そういう時もあるわなぁ。)

「や、別に無理にとは言わんよ。僕にそんな権限ないしねぇ。」

少し沈黙して鈴元は口を開いた。
相手の目を見て、柔らかな表情で話す。
威圧せぬよう、貴重な茶器を扱うように優しく話す。

「あんさんはきれぇやし、エエとこイケるって思ったんよ。」

「ピアノ弾いてる時、ういろう食べてる時の顔も魅力的でエエ顔しとったしねぇ。」

「でも、あんさんがエエっちゅんやったら、エエんよ。」

ゆっくり、一言ずつ、確かめるように言う。
面と向かってこんなことを言っているのが恥ずかしくなってくる。
耳は赤い。じきに顔も赤くなるだろう。

「でも、でもやでぇ?もしほんのちょっとでも出てみたいって思うんやったら僕は嬉しい。」

「もしミスコンでピアノ弾いてる凛々しいあんさんがおったら
 慌ててういろうの弁護するかいらしいあんさんがおったら

 それはエエ事やなって、思ったんよ。」

そういうと、また黙り込んだ。
自分の言いたいことは言い切っただろうか、と自問する。
相手を不快にしてないか、と自問する。
はぁ、と一息ついた。波の音が二人を包んでいた。

「なんか、すんません。無理にとは言わんっちゅうたのに。まぁ、好きにしてくれたらエエよ。」

270ココロ『RLP』:2015/05/24(日) 23:45:02
>>269

                     ザザァーー

                         ……ザザ ァーーン 


        「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


                    アセ    アセ


   「わ、わたっ」

             ワナワナ

                   「私……で、出……出る……わ。」

           「あ、貴方がそこまで言ってくれているのだもの……」

ココロは――鈴元の熱の入った文句に『ノセられ』ていた。
                         断るわけにはいかない……奇妙な使命感もあった。

                   「で、で、出るわ……ミスコンに……」

                              「わ……私が……」」
               
  (こ、この人に従う義理なんて一つもない……け、けれど、私を誘ってくれているんだわ。こんな私を。
               ……な、なにか変われるきっかけが欲しいって、思っていたのも私だわ…………!)

恐らく明日の朝には後悔で悶絶するだろう――そういう予感もないではなかったが。
とにかく、今重要なのは――ココロがOKを出したことではないだろうか。

                                 ……あるいは、錯乱しているからノーカン、というのもあるが。

271鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/25(月) 00:03:49
>>270

>「で、で、出るわ……ミスコンに……」

「ホンマにぃ?」

徐々に顔に喜びの色が現れる。
無邪気な少年の笑顔だ。
先ほどまで和菓子屋の看板を背負った礼をした男とは思えぬ
子供っぽさを感じるかもしれない。

「あぁぁ。嬉しい、ホンマに?夢やないんよなぁ?」

気分が高揚してきたのかどくどくと心臓の動きを感じる。
意味も無く笑い声を上げたくもなる。

「あ、指きりしよ。」

ずいっと右手の小指を突き出す。
白い指がココロの目の前に差し出される。

「約束。僕とあんさんの約束。ミスコン出るってここに誓って。」

「大丈夫。変なことはせんよ。ちょっと口約束するだけやから。」

もちろん、この指きりに応じる必要などない。
小指を逆に曲げるのもアリかもしれない。
自由にするといい。

272ココロ『RLP』:2015/05/25(月) 00:20:54
>>271

         「ゆ、指切り……」

(そ、それって、私が、こ、この人と……?
           そ、そんな。は、恥ずかし……がるようなことでは、ないけれど、でも……)


やけに緊張した面持ちで――小さな花の指輪を嵌めた小指を差し出す。

                  「すぅー……」

                  「はぁー……」


そして。

                      『キュ』

                           ……絡める。

「指切りげんまん。
         ……ウソついたらはりせんぼん のーます……よ、よね……」

    「こういうこと、しないと……」

                    「わ、わ、私、逃げてしまいそう、だから。」

そう言って、ココロは二度ほど頷いた。

                           水溜 意→『ミスコン』参加。

273鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/25(月) 00:40:52
>>272

(そない難儀なモンでもない思うけど、まぁエエやろぉ。)

指きりに特別な思い入れはない。
初対面の女性と指きりというのはかなり特殊シチュエーションだと思われるかもしれないが
約束以外に他意はない。

「おおきに。ホンマにおおきに。」

何度か礼をする鈴元。
もう元通りの顔とテンションだ。
クールダウンは早いのかもしれない。

「やっぱりイヤとかなったり
    ミスコンの時ピアノ使いたいとかあったら、言うてくださいね。」

「さっきの名刺に電話番号載ってますから『涼につなげ』って店にいうたら繋がりますぅ。」

冗談っぽく告げ、タッパーを片付ける。
風呂敷に全て包まれた。

「六月入ってからういろう売りますからね。他にも和菓子欲しなったら来て下さい。」

「ところで、あんさんの名前、聞いてへんかったね。
                     
 僕は鈴元 涼。あんさんは?」

名前を尋ねる、お互い名前も知らないのも何だろう。

「あ、演奏会とかしてる?」

ついでに尋ねておこう。
彼女のピアノ演奏は彼の好みだったようだ。

274ココロ『RLP』:2015/05/25(月) 00:53:13

>>273

「私は……ココロ。水溜 ココロ……よ。
         ……え、演奏会というか、発表会……コンクールとかは、たまに。」

ココロはまだ、プロではない。
将来、そうなるのか――も、分からない。

              このミスコンは、低迷・停滞するココロに、何か――影響をおよぼすだろうか。
              それはいいものだろうか。わるいものだろうか……

「それじゃ、私……そろそろ、行くわ。
 また、何かあったら……ええ、名刺、よね。連絡するわ……ええ。」

初めより、少し緊張した面持ちで、ココロはしかし笑みを浮かべた。

         「あっ、も、もちろん……ういろうも、買いに行くわ。
                         きっと、きっと買いに行くから……またね、鈴元くん。」

そう言い残して、ココロは、その場を去ることにした。
引き止めなければ、そのまま、砂浜から去っていく……

275ココロ『RLP』:2015/05/25(月) 00:53:48
>>274(メール欄)

276鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2015/05/25(月) 01:01:13
>>274-275

「へぇ。もしあったら言うてくださいねぇ。絶対行きますから。」

店番はどうするつもりなのか。
今の彼にとってそれはどうでもいいことなのかもしれない。
最高の演奏のほうが退屈な店番より良いのは確かなのだから。

「ごひいきに。ココロさん。」

去る彼女の背中を見送る。
会ってどれくらいたったのだろう。分からない。
幸福な時間の密度は濃い。もしかしたらこれまでのやりとりはとても短いものだったのかもしれない。

「僕もきれぇなんやろかな。」

『ザ・ギャザリング』を発現し、風呂敷を振らせる。
桜の花びらが風に乗り舞っていく。

「きれぇな人にはきれぇな花ぁ送らんとねぇ。」

けらけらと一人で笑った。
帰りたくなったら勝手に帰るだろう。
桜の花びらが潮風と踊っていた。

277葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/25(月) 01:45:18

              ――砂浜 ……厳密には、その付近の道。
     
         シャーーーーッ
 
     
  「……」

       (これは爽快…………
               ……走るのと違って、うるさいの居ないし……)

赤いロードバイクで駆け抜ける、赤髪片目隠れ少女。
後頭部のでかい黒い蝙蝠みたいなリボンが、風に揺れる……


                     ガッ

         段差に引っかかって
 
                             『ドガシャーーッ』

     「ぅぅぐぐ……」

         
         派手にこけた。
         ……だいぶ慣れては、きたのだが。

278東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/25(月) 22:10:14
>>277
> 
>                             『ドガシャーーッ』


「…なんの音じゃ?」

派手な音を耳にして、砂浜の方から学生服姿の少年が一人やってきた。
そして地面に倒れた少女を見て、次に近くにある横倒しのロードバイクを見る。
なるほど、状況は把握できた。

(やらかしたのう…)

少女の近くへと歩き出し、屈んで声をかける。

「おいあんた。大丈夫か?」

279葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/25(月) 22:45:16
>>278

黒い、マントのようにした布にくるまったその出で立ち。
……そこから覗く膝が、大きく擦り剥けていた。

            「ぃ、痛い、です……」

                   「けど」

                      「……多分、大丈夫……です……」

      『ノロ ノロ』

もごもごと言いつつ、ややもたつきながら立ち上がる。
痛みに小さく顔をしかめるが、骨とかそういう痛みではない……大丈夫だ。

 
           『ガシャ』


倒れていたロードバイクも、ゆっくりと立ち上がらせる。

「……す、すみません。
 面倒をかけてしまったようで……」

……漫画なら、汗のエフェクトが飛び出しているだろう。
恐縮そうに、少し俯く。

280東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/25(月) 23:15:56
>>279

(…ぶち変わっとるのう。都会モンは自転車漕ぐ時にこんなマントみたいなもんを羽織るんか?)

その服装をやや奇妙に思いながらも、外套の一種なのだろうと納得した。
擦り剥けた少女の膝を見て、目を細める。大事ではないが、出血はしているようだ。
応急手当てはした方がいいだろう。

「・・・・・」
「ここでじっとしてろ。今救急箱持ってきてやるから」

少女の大丈夫という言葉も、面倒をかけたという謝罪も聞かずに、それだけ言う。
そして『H湖』の方を向くと、『ザイオン・トレイン』を発現。
獣並の敏捷性でそちらへと走り、すぐに少女の視界から消え去るだろう。

(センパイは容易くスタンドを使うなと言っとったが…人助けならええじゃろう)

281葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/25(月) 23:30:16
>>280

            「あ、ぁ、いえ、そんな――」

           

      「……!!」

    (あれ、って……
          そうだ。絶対……『スタンド』……だ!!)

膝を押さえ、茫然と、獣のように――あるいは風のように去る男を見ていた。
そして、思い出したかのように……


                        『ズギュン!』

                     ≪……お嬢様、お怪我をなさったようで。
                          だから言ったのです、自転車は危ないと。≫

   「……結果論、だよ……
          ……引っ込んで。」

                     ≪……畏まりました。しかしくれぐれも――≫

傍らに現れる、傘を人型にしたような、異形のヴィジョン。
……すぐに、消えた。

東雲が戻ってくるタイミング次第では、その現場に立ち会うことになる。

282東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/25(月) 23:45:34
>>281

幸い、近くにある港に知り合いが来ていた。快く貸してもらった救急箱を持ち、来た道を帰る。
『スタンド』を使えば敏捷性は上がるが、体力までもが増えるわけではない。
少し息を切れさせながら、元の場所へと戻りーーー。

「…?」

一瞬。ほんの一瞬だが、少女の傍に人影のようなものが見えた気がする。気のせいだろうか?
いや、疑問は残るが、とりあえずは彼女に持ってきたものを渡さなければ。
ゆっくりと速度を落としつつ、『ザイオン・トレイン』を解除。

「…っふぅ………あったぞ」

救急箱を丸ごと手渡して、そして自分の額の汗を頭に巻きつけたバンダナで拭う。

283葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/25(月) 23:57:55
>>282


霞すら残さず消える――スタンドとはそういうものだから。
そこには少女が立っているだけだ。

                  ……救急箱を受け取る。

「あ、あの……ぁ、ありがとう……ございます。
           ええと……その、ほんとに……た、助かり、ます。」

            『パカ』

そして、道の端に座って、開く。
……が、穂風は無知だ。ここからどうすればよいのか。

(しょ、消毒……かな……きっと……)

                  チラ   チラ

少年に少し目配せしてから、らしいものを探してみる。
液体で、容器に入っている……ような印象だが、あるだろうか?

284東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 00:29:05
>>283

>「あ、あの……ぁ、ありがとう……ございます。
>           ええと……その、ほんとに……た、助かり、ます。」


「あぁ…勝手にやったことだ、気にすんな」「この辺はそんなに舗装されてねぇんだ、あんま飛ばすなよ」

真顔で頷く。その日に焼けた肌と、180cmほどある身長も相まって、なかなかに迫力がある。

「…ん?」

目配せをされて、眉をひそめる。必要なものがなかっただろうか?
ずかずかと歩み寄って、救急箱の中を見るーーーと。

「…あるじゃねーか、消毒液」

塗り付けるタイプのそれを手にとって、少女に見せる。

285葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 00:42:51
>>284

「は……は、はい。
      そ、その……ええとぉ……き、気を付け、ます。」

               『シュン』

その太陽の様な迫力に、湿っぽい穂風はますます俯き、もごもごとした口調で言う。
……そして。

           「あっ」

   「す、すみません。
       それ、ですよね。……あ、あの、使います。」

そう言うと、少年から消毒液を受け取り、蓋を開け――

     
         『ベチャ』

                『ベチャ』

 
      「ッッッ―――ぐぐぐ……」

              「い」

                      「ぃたぁぁ……!」

          ジタ    バタ

……思いっきり塗りたくり、痛みに悶絶する。
切り刻まれたり、刺青を入れたりしたが、ああいうのとは別種の痛みだ、これは。

286東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 00:58:31
>>285

>      「ッッッ―――ぐぐぐ……」

>              「い」

>                      「ぃたぁぁ……!」

「そういうもんだから仕方ねぇな。痛みを教訓にして次同じことをしねーよう、みんな気を付けんだ」

痛がる少女に対して、腕を組んで頷く。
少々不慣れな手つきなのが気にはなるが、無事応急手当てはできている。
まさか、一度も自分で怪我の手当てをしたことがないわけではあるまい。

「あんた、年はいくつだ?」

287葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 01:06:21
>>286

         「は、はい……」

                 「します……教訓、に……」

     『ジン   ジン』


繰り返し頷きつつ、消毒液を箱に戻す。
……次は、なんだったか。

        (……あ、ばんそうこう……だっけ。
                 それとも、ええと……)

            探そうとしたところで――

「……え?」    
  
          顔を上げて。
      
                「あ、年……ええと、15……です。
                   ええと、その、どうか……しましたか?」

15さい。実際妥当か、背丈はもう少し上に見えるくらいだ。
そのわりにはずいぶん、いろいろと、たどたどしいが……

288東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 01:24:25
>>287

「同い年か、一個下か。俺は高校一年生の16だ」
「いや、手つきがドンくさいんで見た目より子供なんじゃねーかと思ってな」

オブラートに包むことなく、ストレートに質問の理由を話す。
言った後で、内容が少し酷かったと思ったのか、弁明を加えた。

「…まぁ、ゆっくり丁寧にやるのはいい事だけどよ」

救急箱の中から、次に使うと思われるガーゼと包帯を手に取り、少女の横に置く。

「慣れてねーのか?今まであまり運動とかしたことがねーとかか?」

289葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 01:37:58
>>288

             「あ、う……」

 「す、すみません。
  ……ど、どんくさい、ですか……でも、15……なんです。」

……弁明もあって、さほど落ち込みはしなかった。
包帯を手に取り、くるくると、ゆっくり、ほどいていく……

            「あ、はい、あまり……スポーツ、とかは。
             救急箱、も……その。使ったことが、ない……です。」

その言葉を裏付けるように、かなり雑に包帯をちぎる。

         『ギュウゥゥ』

 
       ジ
          ワ
             ァ

      「……」

ガーゼを、患部に押し当てた。
……血の赤が、ゆっくりと滲み出す。穂風の髪と似た色の。

「……あの、貴方は……なにか、運動、とか……?
        その、すごく、日焼け、してる……から。」

対照的に、穂風の肌は白い。
だから、赤は良く目立つ。

290東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 01:49:30
>>289

「…スポーツをあまりやらねーってのは分かるが、救急箱も使ったことがねーってのは驚きだな」
「今までよっぽど運が良かったか、…はたまた箱入り娘だったか?」

15歳まで生きてきて、救急箱がお目にかかる機会のない人間が、はたして何人いるだろうか。
ともかく、目の前のこの少女はその貴重な中の一人ということらしい。
少女の肌の白さは、あまり日に焼ける機会のない人間のそれだ。
あるいは、よっぽどの運動嫌いか。

「運動っつーか、父親の手伝いをしている。親父が漁師なんだ」
「ちなみにその救急箱も、親父の知り合いの漁師さんが貸してくれたんだぜ」

291葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 02:10:25
>>290

             「あ、ええと……」

             「その……『箱入り』、でした。
                   でも、もう……違うんです。だから……」

穂風は自信ありげに言った。
己を守る/閉じ込めていた壁は、もうない。

「……挑戦、してるんです。
 いろんな、新しい……たのしい、こと……知りたい、から。」

そういうと、視線を赤い、ロードバイクに向ける。
これも――一つの、巣立ちの象徴。


        「『漁師さん』」

  「あの、お魚……獲る人の、漁師さん、ですか?
                  ……すごい。初めて、会いました……えへ。」


厳密には漁師の息子――なのだろうが。
「あ、あの……テレビで、見たんです。
           ……漁師さんって、お魚、船の上で……食べるって、ほんとですか?」

妙な質問をぶつけた。
その目は不必要に期待に輝いていた……

292葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 02:12:23
>>291(追記)

             ……そして、それはいいのだが、治療の手が止まっている。

           ジワ

                 ジワ

ガーゼには無意味に血が広がる。
ちぎった包帯は、片手に持ったままだ。

293東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 02:36:08
>>291-292

「…へぇ。自立したってことか。そいつは立派じゃねーか」

初めて見る、少女の自信が感じられる言葉にこちらも思わず微笑む。
かつては過保護な環境にいたようだが、自らの意思でその環境に甘んじることなく
抜け出すことを選んだ。これが立派でなくて、なんと言えよう。
いささかこの少女を過小評価していたようだ。

「何にでも挑戦するってのはいい事だな…人間は経験によって成長するって親父も言ってたぜ」

>  「あの、お魚……獲る人の、漁師さん、ですか?
>                  ……すごい。初めて、会いました……えへ。」



「…別にすごくなんかねーぞ。今まで救急箱に接することのなかったお嬢の方がよっぽど珍しい」

少しからかうような口調で言いつつ、姿勢を屈めて千切った包帯を手に取った。

「こりゃ短ぇな」

ガーゼをぎゅっと膝に押し当てつつ、巻かれた状態の包帯をぐるぐると巻きつける。
そして適度なところで長さを切ると、サージカルテープと呼ばれる道具でそれを固定した。

「船の上で飯を食うのは、主に『遠洋漁業』の連中だな。二、三ヶ月から長いと
 一年ぐらいは基本的に船の上で生活する。当然魚だけだと栄養が偏るんで、
 現代なら他のもんも食うけどな。昔はそれが原因で病気にもなったらしい」
「ウチは『沿岸漁業』っつー近場で漁をするやり方だからあんま食わねーぞ。
 漁ってきた後に、たまに港で軽く調理して食うぐらいだな」

「…こんな所か?少し動いてみろよ」

294葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 02:55:18
>>293

           「自立……」

今まで、幾人かに、その大切さを説かれた。

今。穂風には家がある。
一人で生きている。    ……足りないピースは、ひとつ。


             (お金、稼がなきゃ……自立じゃ、ないよね。)


                 「……はい。ありがとう……ございます。」

「そ、それでですね、きゅ、救急箱はっ。
      今日経験したから……もう大丈夫、です。」

からかわれたことに、少し憤慨するように。
……そして、包帯を巻かれる。

                   『ぐるぐる』

「……全然、足りなかったですね、さっきのじゃ……」

その間、漁師の話を聞く。

      「い、一年……」

                     「すごく……たいへん、なんですね。
                      テレビでは、楽しそうなだけ、だったけれど……」
遠洋と、沿岸。漁師といっても、いろいろあることを、知った。
さすがにそこまでは体験するのは難しそうだが……
      「……ありがとう、ございます。
           これなら、きっと…………よい、しょ……」

                            『ス……』

ゆっくりと、立ち上がる穂風。
痛みがまるっきり消えたなんてことはないが――心なしか、ましになった気がした。

295東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 03:07:36
>>294

「やり甲斐はあるが…まぁ楽しいだけの仕事なんてねーからな。金を稼ぐってのは楽じゃねぇよ」
「その内バイトとかするようになったら分かるかもな。今はアパートとかで一人暮らししながら、学校に通ってんのか?」

時間に余裕を持てる大学生ならともかく、高校生でそれにバイトを加えるとなると大変だろう。
流石に家出でもなければ、親とて多少の仕送りはしてくれるのだろうが。

「…大丈夫そうだな」

無事に立ち上がる少女を見て、頷く。

「気ぃ付けて帰れよ」「俺は東雲 忍(しののめ しのぶ)。あんたは?」

296葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2015/05/26(火) 03:36:07
>>295

「! ……そう、ですよね。
     …………はい、今は……アパートで、一人暮らし……です。」


      (そっか)

                (『学校』に……行かなきゃ……
                             ……いけないんだ。)

穂風は目の前にある課題が、思った以上に大きな積乱雲なのだと気づいた。
家出して、家を得て、次は――学校か、仕事か。


「……はい、大丈夫です。
 ええと、気を付けます。」

                   「あっ――名前、ですか。
                            私は……葉鳥 穂風(はとり ほふり)……です。」

「その、あの、いろいろ……ありがとうございました。
 ええと、救急箱、貸してくれた人、にも……お礼を、その……お、お願い出来たら。」

そういうと、穂風はロードバイクに手をかけ、押していく。
……さすがに、帰りは乗る気にはなれなかった。

「あの、ええと……また。また、どこかで……!」

そうして、穂風は、その場を去ったのだ。

297東雲 忍『ザイオン・トレイン』:2015/05/26(火) 11:41:03
>>296

「律儀なヤツだな。あぁ、伝えとくぞ」「じゃあまたな、葉鳥」

軽く手を振り、ロードバイクを手で押して去っていく葉鳥の背中を見送る。
少々気弱で世間知らずのようだが、しかしそれを上回る行動力と、好奇心がある。
有り体に言って、東雲忍はそういった尊敬できる人間が好きだ。

「………」「じゃが女ん一人暮らしか…物騒なことに巻き込まれんとええんじゃが」

以前病院で会った一人の女性を思い出す。彼女もまた、何らかの事故に巻き込まれて負傷していた。
この町は一見平和なようで、その中に何が潜んでいるか分からない。
わざわざ危険な事に首を突っ込むほど愚かではないが、
少しばかり、そういった事について探ってみたい気分になった。


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