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【大正冒険奇譚TRPGその6】
1
:
名無しさん
:2013/09/02(月) 21:38:31
ジャンル:和風ファンタジー
コンセプト:時代、新旧、東西、科学と魔法の境目を冒険しよう
期間(目安):クエスト制
GM:あり
決定リール:原則なし。話の展開を早めたい時などは相談の上で
○日ルール:あり(4日)
版権・越境:なし
敵役参加:あり(事前に相談して下さったら嬉しいです)
避難所の有無:あり
備考:科学も魔法も、剣も銃も、東洋も西洋も、人も妖魔も、基本なんでもあり
でもあまりに近代的だったりするのは勘弁よ
81
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:43:54
>「あんたがそそのかした男からの伝言だよ。"仕事を下りる"――ってさ。
おや?なんだい、その顔は?私達が無事に帰って来たことが、そんなに意想外だったかい?」
冬宇子の皮肉に、フーは何も言葉を返さない。
返答しようがしまいが、自分の一挙一動が彼女の苛立ちを招くに違いない。
だったら、余計な事を口走らぬように心がけた方が、まだマシと言うものだ。
彼はそう考えていた。
冬宇子はこれまでの返答を纏めると、懐から折り畳んだ紙を取り出した。
フーの眼の前に広げられたそれは、今いるこの都市の地図だった。
>「国防機密のど真ん中に触れる地図だが、堅いことは言いっこ無しだ。
だいたい、私が、"これ"を持ち出したこたァ、あんた、もう知ってる筈さね。
「……これが、どうかしたのかい?」
>見てみなよ、この一帯……×印――兵の派遣を取り止めた拠点が、四箇所あるだろ?
同じく、そのあたりにゃ難民のための避難所も設置されてなかった。
まるで、この一帯への人の出入りを、意図的に避けているようにも見えるじゃないか。
地図の片端を手に取り、目を凝らす。
確かに、この寺院とその周辺には、本来為されるべき派兵が行われていなかった。
>フー・リュウ…あんた、随分と軍にも顔が利くようだが、
軍が敷いたこの空白地帯についても、何か、心当たりがあるんじゃないのかい?」
「……なんだ、これは。俺は知らないぞ。こんな事……誰が、なんで……」
フーの表情には狼狽が色濃く浮かび上がっていた。
この派兵の取り止めは、つまりその一帯の住民を見捨てる事と同義だ。
彼自身も不死の法の為に呪災を起こし、多くの人を死なせているが――決して意図しての事ではない。
だが、これは違う。明らかに意図して民を見殺しにしている。
その事にフーは、心から衝撃を受けているようだった。
>「日本の嘆願所に、遺跡保護なんて名目の依頼を出したのも、あんたの差し金なのかい?」
「いや……違う。俺じゃない。……分からないよ、本当だ」
>「さてと、もう一つ……これだけは、どうしたって聞かなきゃねえ!
言っておくが、私だって術士の端くれ。無理に口を割らせる法なら心得てるよ。
私らの側は七人……これだけの数を向こうに回しては、流石の宮廷道士様とて、そう簡単に抵抗できまい?」
抵抗などするつもりはない。
その気があるなら、もっと距離がある時に事を起こしていた。
フーはここから逃げる訳にも、分の悪い勝負で殺される訳にもいかない。
そうなれば結界が維持出来ず、今ここにいる避難民達全員が死ぬ事になる。
自分が全ての発端だとしても、いや、だからこそ、彼らを見捨てる事がフーには出来なかった。
82
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:44:14
>「―――何故あの詰所で、私達を始末しようとしたのさ?
不意をついて殺す機会なら、最初から、いくらもあった筈だ。
いつ、何の切っ掛けで、私らが邪魔になったのか、さァ、答えて貰おうか?」
「……フェイもジンも、余計な事を教えすぎたんだよ。
俺が不死の研究をしている……それだけなら、国家機密には違いないけど、良かったんだ。
だけど、不死の研究をしている奴がいて、この辺りには昔から不死の王の伝承があって、
それで呪災が起きていたら……原因が何なのか、誰だって予想が付く。
……今思えば、焦り過ぎだったな。交渉材料として、手札を切らせておけばよかったよ」
だが、冒険者達が自分の非道に目を瞑ってくれたとは限らない。
実際、マリーなどは間違いなく糾弾――或いは断罪に走っていただろう。
そう考えればやはり、始末する他に手はなかった。
>「あんたが、私達の"始末"を依頼した結界師――あの男は、
マリー達の命を狙ったジャンって奴と同じ、亡国士団って部隊の人間なんだとさ。
あんたは、それを――あの男の所属を知ってて利用したのかい?」
「……?そりゃ、知っていたよ。でなきゃ交換条件なんて出せない。彼らが帰投を命じられたのは……
恐らく、王に約定を守るつもりなんてなかったからなんだろうけど、それを利用させてもらったんだ」
今ひとつ、気の抜けた答えだった。
返答を誤れば命にさえ関わる――その事はフーにもよく理解出来ている筈なのにだ。
恐らく確彼自身にも自覚はないが、確証のない確信を基に喋っているからだろう。
それくらいしか考えられない、で思考が完結しているのだ。
>「協力者はいない――って言葉、ありゃ本当かい?
いや、別に、この期に及んで疑ってる訳じゃあないが、陰謀の影に女あり、なんて言うしね。
まァ、協力者なんて類の者じゃあないのかもしれないが、
あんたが後生大事にしてるっていう幼馴染――…の、絵姿に、是非、私もお目に掛かりたいもんだね。」
「……だから君を、始末しておきたかったんだ。君は勘が良くて……性格が悪い」
背中に括りつけていた巻物の紐を解きながら、フーはそう言った。
静かに、沈んだ語調――心の底に深く沈めた失望の表面を突かれたような声色だった。
フーが絵巻を広げて見せる。
ただ墨で描かれているとは思えないほど瑞々しく、生命の波動さえ感じられる、明朗で闊達そうな女性の姿絵。
だが眼と感覚を凝らしてみれば分かるだろう。
その絵は脈を打ち、また墨に見える画材は紙の中を、小川のように絶えず循環しているようだった。
「確かに……彼女もまるで関係がない訳じゃない。君が知りたいのなら、話しておこうか……。
……彼女は、釘・留(ディン・リウ)。知っての通り俺の幼馴染で……俺と同じ宮中呪医。
そして……不死の法の研究を命じられた術師の一人だ」
「彼女は金行を得手としていた。……特に金行の不変性や、
金から転じて刃の持つ、深く突き刺さるという概念を、術として扱う事に。
概念に釘の姿を与え、何かを突き刺し、留める……心身の状態のような形のないものでも、そうする事が出来た」
「……この世の全ては、五行の輪……大きな循環の中にある。それは人間も例外じゃない。
死ねば魂は陽気として天へ、魄は陰気として肉体と共に地へ帰る。
だけど彼女は……自分の術なら、肉体と魂魄を、この世界に対して平行に、『今』のまま固定出来ないかと考えたんだ」
「そして試した。自分の体で……」
フーの言葉がそこで一度途切れた。
何処か顔色が悪いように見える――『その時』の事を思い出してしまったのだろう。
83
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:44:37
――施術を終えて、彼女はまず試しに自分の腕を切ったらしい。
そしてその傷は、時が巻き戻るかのように消えた――だが実験は失敗だった。
彼女はこの世の大いなる流れ――言わば理に睨まれてしまったのだ。
輪から外れたものを引き戻すべく、彼女は存在そのものを細切れに引き裂かれ、融かされて、世界の循環に流されてしまった。
「この絵は……五行の輪に溶けてしまった彼女を、俺が掻き集めて、封じた物さ。
フェイの爺さんに手を貸してもらってね、この絵は一つの閉じた世界になってる。
絶えず世界中に拡散しようとしている彼女の存在を、無理矢理この中に閉じ込めたんだ」
その流体が墨のように黒く見えるのは、
無数の色、存在――五行に満遍なく融けてしまった彼女を強引に一箇所に纏めているからだ。
絶えず絵が循環しているのは、拡散の方向性を逸らし続けているが故。
もし彼女に何かしらの意思があったとしても、絵から出た瞬間、
彼女は再び、一滴の墨を湖に落としたかのように存在を消滅させられてしまうだろう。
フーは何も言わないが、彼が何としても不死の法を見つけ出そうとしたのは、王だけではなく、彼女の為でもあったのだろう。
彼女はまだ生きている。ただ世界の法則に睨まれたばかりに、肉体や精神の形――存在を保てなくなっているだけだ。
真の不死の法ならば、この世の理すら抑え付けられる筈だ。
その術理を解明すれば、彼女を助けられるかもしれない。
かもしれない、だ。それでも、やるしかなかった。
「……その女が協力者じゃねえって事はよく分かった」
不意に、生還屋が口を挟んだ。
「けどな……んなこたぁ、どうでもいいんだよ」
生還屋の右手が作務衣の懐に潜る。
「違え、知らねえ、俺じゃねえ、いねえ……ってよぉ。
それで「はいそうですか」って訳にはいかねえんだよ。それくらい分かんだろ?」
取り出されたのは匕首――動死体共相手にはまるで用無しだったが、人間相手になら話は別だ。
切先がフーを睨む。
「オメエ一人がやったってんじゃあ説明のつかねえ事がいくつもあるよなぁ。
言えよ。誰を庇ってやがんだ?
……その間抜けな女の絵をもう一度引き裂いてやれば、喋る気になるかよ?え?」
生還屋とフー・リュウ、両者の間に流れる空気の質が、明らかに一変した。
フーは瞬時に一歩飛び退き、絵巻を背に隠す。右腕は僅かに曲げられて、既に袖の内にあった。
生還屋も重心を落とし、右足を半歩後ろに下げる。いつでも跳びかかり、フーとの距離を詰められる構えだ。
だが――正直な所、生還屋は困惑していた。
彼には類稀な勘の良さがある。その勘が、何も告げてこない。
彼は嘘を吐いていないのか――しかしそれでは説明が付かない事がある。
84
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:44:54
「……もしかして」
張り詰めた空気の中で、あかねがポツリと呟いた。そして続ける。
「フーはんはメインやないんとちゃう?」
「……何言ってんだ?オメェ」
生還屋が不可解な表情で彼女を振り返った。
目つきは剣呑――阿呆らしい戯言に付き合ってる気分ではないと語っている。
「あー、えっと、なんて言えばええんかな……」
その雰囲気にやや気圧されたのか、まごつきながら、あかねは言葉を探す。
「……だから、こう……協力者やったんは、フーはんの方やった……とか……ないかな?」
自信無さげな、あかねの言葉。
「意味が分かんねえ事を……いや、ちょっと待て」
生還屋は呆れたように溜息を吐き――しかし、思い直したように思案を始めた。
――確かに今回の件は、フーが主体になって起きたにしては無駄が多い。
わざわざ知人を巻き込むような形で避難場所の空白地域を作る必要はない。
いや、それ以前に彼の独断で出来るような事でもない。亡国士団の帰投にしてもそうだ。
ならば一体誰が主犯なら、全ての出来事に利益が生じるのか――
「……おい、疑って悪かったな。どうやらお前は黒幕じゃなくて、マヌケだったらしい。
話はもういいぜ。その代わり……そろそろ最初の約束を果たしてくれよ」
唐突な話題の転換――フーは理解が追い付かずに、怪訝そうな表情を浮かべた。
「まさか忘れた訳じゃねえだろうな。……王様に会わせてくれって言ってんだよ」
85
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:45:27
――生還屋の頼みは特に支障なく聞き入れられた。
拒否権などフーにとっては無いようなものだったし、
結界の維持はジンの代わりに、彼が寄越した埋伏拳が行える。
土行は元々、要石のように『土地を保護する』という性質がある。
また水を堰き止め、吸収する性質も、水行の応用で生み出された結界の維持には効果的だ。
それでも無人には違いないが、埋伏拳の子鬼達曰く――
『ジンガ本気デ三発ブチ込ンデ、クタバラネー奴ガイルッテ?
ソリャ、ムシロ見テミテーナ。連レテキテクレヨ』
――との事だった。
ともあれ君達は、寺院を出て暫く歩く事になる。
王宮に着いてからは日本への依頼が本当にあったのかを確認、武器の一時預かり、
その間に諸々の手続きが裏で行われたりと、煩わしく時間はかかったが滞りはなく――君達は清王との謁見が許可された。
謁見の間への道には、両脇に背の低い石柱が並んでいた。
石柱の頂上部には陰陽五行の象徴、五芒星が刻まれている。
ある柱はそこに炎が灯り、また別の柱の上には方位磁針のように緩やかに回転する刃が浮かんでいた。
水、木、土を掲げる石柱も同じようにある。
五行との感応を測る事で、敵意や武器の存在を感知する機構だ。
王への敵意があれば炎がそれに感応して燃え盛り、
凶器を隠していれば刃がそれを持つ者を刺し示す――と言った具合だ。
無事に大廊下を抜けると、謁見の間へ繋がる扉が独りでに開き――
「――や。や。よく来てくれたね。どうもありがとう。
なんか色々大変だったみたいだけど、怪我はなさそうで良かったよ、ホント」
王座に座したその男は、どうにも覇気に欠けて見える人物だった。
体は大柄、着衣も紅と金を基調とした豪奢な物で、薄金色の頭髪と、
部分部分を見る分には如何にもそれらしい風体をしている。
なのに雰囲気だけが、不釣り合いなほどに柔和だった。
「フーちゃんも、最近どう?捗ってる?ほら、アレ……研究の方さ」
和やかな笑顔はそのままに問いかけ――フーは答えられない。
「……なんか、胡散くさない?あの王様」
あかねが小さく零した。
フーがぎょっとして目を剥いたが、王には聞こえていない様子だった。
「んー……もしかしてちょっと残念な感じ?ま、仕方ないよね。
今ボク達、研究どころじゃないもんねえ」
「あ、でもお客様にはそんな事関係ないからね。
誠心誠意おもてなしするつもりでいるから心配しないでね。
……もっとも」
「その前に面白い土産物を披露したくて仕方ないって顔した人が、いるみたいだけど。
うん、いいよいいよ。ホラ、ボク王様だからさ。そういうのは慣れてるから」
王が薄っすらと笑みを浮かべる。
唇と双眸が描く曲線には、和やかさとはまた違う雰囲気が宿っていた。
その視線が生還屋に向けられる。
86
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:45:49
「……ちょっと違うな。お披露目したいのは土産話だ」
「へえ、そうなの。でもそういうのも慣れっこだよ。
皆、ボクに自分がどれだけ凄い事をしたのか知って欲しいみたいでね。
でも最近は……あまり聞いてないなぁ、そういう話。だから聞かせてよ。すごく楽しみだ」
王の浮かべる笑みに喜色が浮かぶ。
生還屋も呼応するように、挑発的に笑った。
「――この呪災。アンタ起きるのが分かってて、それを待ってたろ」
そして切り出す。
「ちょ……!生還屋はん、そんな口の利き方……」
「んー、いいのいいの。気にしないよ。ボクが聞きたいって言ったんだからねー」
慌てふためくあかねを、王は和やかに宥める。
「無礼講って事か?そりゃいいぜ、話しやすい」
「……で、どうしてそう思ったんだい?」
「あぁ?街中に避難所を用意したのはアンタだろ?
少なくともアンタの許可なしに、首都の兵を勝手に動かして、
ついでに前線に送り出すなんて真似が出来る奴がいるとは思えねえ」
「……あぁ、そうだったそうだった。実はとある筋から情報があってね。
万一に備えて準備をしておいたんだ。すっかり忘れてたよ」
「へえ……じゃあ、このアホの周りにゃ避難所を設置しなかったのも、アンタの指示って事だよな」
生還屋がフーを顎で示して、問うた。
「設置されてなかった……?いや……ボクは知らないなぁ。
だってそんな事をする意味、動機がないだろ。指揮系統の間ら辺で、誰かが余計な事をしたに違いないよ。
フーちゃんは……今ちょっと難しい研究をしててね。彼に先を越されたくない人は大勢いる筈だよ」
楽しんで、試すような口調。
「まるで上手く行ってねえ不老不死の実験だろ?
……あぁ違った。まるで上手く行ってねえどころか、
大失敗をやらかした女の幼馴染の実験だったか?邪魔するまでもねえよな」
「……フーちゃん、喋っちゃったのかい?参ったなぁ…………まぁいっか。
えっと……確かにフーちゃんの実験は進んでなかったらしいけど、
だからってボクが彼んちの周りを動死体だらけにする理由は……」
「あるさ。戦力と、足止めだろ?多分アンタ……コイツの企みが失敗する事も、分かってたんだ。
だから戦力が欲しかった。呪いの冷気の中でも三日三晩はしゃぎ回れるような奴らがな。
このアホが避難民の保護で手一杯になって、命を奪う相手がみぃんな動死体になっちまえば、
フェイは教え子、えーと……ジンだったか?ソイツは妻と娘。そいつらは死ぬ。
復讐っつー動機を与えて、二人を自分の手元に呼び戻せる。遺跡の攻略に踏み出せる……筈だった、だろ?」
清王は言葉を発さず、ただ柔らかに微笑んでいた。
生還屋はそのまま語り続ける。
87
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:46:16
「つまり……不死の王についても、アンタは知ってた事になるだろうな。
亡国士団を呼び戻したのもアンタだ。
連中が何かの間違いで不老不死を手にしちまったら……そりゃあ面倒な事になるもんなぁ。
他にも色んな事が、アンタの仕業って事なら説明が付く。試しに何か、聞いてくれてもいいんだぜ?」
答えはない――だが不意に音が響いた。
拍手の音だ。
「凄い凄い。君の言う通りだよ。君達みたいな人材を気軽に寄越してくるだなんて、日本が羨ましいなあ」
王の表情は変わらない。声色も、所作も、何も変わっていない。
極めて自然で、寸分違わぬ笑顔のまま――酷く不自然に、柔和な雰囲気だけが消えていた。
「……人が何人も死んでるんやで!アンタん国の人や!なのにそんな言い方!」
だが、あかねには、その事に気付けなかった。
人の、それも自国民の死をまるで気にもしていない素振りに動揺して、彼女は叫ぶ。
「……じゃあ、なんだい」
王の顔から、笑顔が消えた。
冷徹な気配を緩和していた物が無くなって、その落差が悪寒となり、あかねを襲った。
「深刻な反応をして欲しいのかい?だったらお望み通り……君達はここから帰せないな」
その言葉と同時に、君達の周囲に十を超える刃と、それを構えた黒衣の兵士が現れた。
厳密には――彼らはずっとそこにいたのだ。
水行を身に纏う事で気配を極限まで殺し、待機していた。
そして今、明確な殺意を抱いた為、水行による気配の相殺が失われ――
「……なんて、冗談だよ。ね?ボクがいかにもそれっぽい態度をしてたら、皆肩が凝っちゃうでしょ?
これくらいの方がいいんだよ。誰にとってもね」
「こうなる事も分かってましたってか?……張り合いがねえな、つまんねえ」
生還屋がそう吐き捨てる。
王は気にした様子もなく、再び笑顔を浮かべた。柔和な雰囲気も元通りだ。
冒険者達を囲んでいた兵士達は、君達が気がついた時には既に見えなくなっているだろう。
88
:
◇u0B9N1GAnE
:2013/09/02(月) 22:46:41
「ま……今のは面白い話を聞かせてもらったお礼さ。
ボクは日本とは仲良くしたいと思ってるんだ。君達に危害を加えたりはしない。
それに……君達の仕事は、これから始まる訳だしね」
「あ、そうそう。君達の土産話、とても良く出来ていたけど、少し添削が必要かな。
まず、勘違いされてたら嫌だから言っておくけど、君達の飛行機が墜落したのはボクのせいじゃないよ。想定外だ。
運が無いんだねえ君達……。まぁおかげ様で、ボクも馬と車……じゃなくて、飛車と角?を取り戻せず仕舞いだけど」
「それと、日本はこの事をちゃんと知ってるよ。
貴重な呪具が多く保管されているだろう遺跡があるから、人手が欲しい。呪具は山分け。
そう依頼したんだ。……言いたい事は何となく分かるけど、それは黙っていて欲しいなあ」
「あと、民が死んでるって君は言ったけど……死んだのは極一部だ。
知っての通り、大概の場所には呪災対策を講じておいた。都外も例外じゃない」
「……まぁ、民以外なら確かに大勢死んでる。厄介な北の連中は、特にだ。
亡国士団もほぼ全滅。これで戦争は終わりだ。もう清に歯向かう力を持った国は残ってない。
呪災に先手を打てたのはボクらだけだからね。
これから先、この大陸で、戦争で人が死ぬ事はない。……当分の間はね。
総合的に見れば……案外ボクは大勢の命を救ったのかもしれないよ?」
「んー……あと、何か質問ある?言いたい事でもいいよ?」
にこやかに、王は君達に問いかける。
「え、えと……じゃあ、ウチら、亡国士団のジャンって人と会ったん……やけど……
あの人最後に、不老不死の事を日本人の女の人に聞いたって……。
王様なら……その女の人の事も、何か……」
あかねは取るべき態度を決めかねているようで、ひどく歯切れ悪くそう尋ねた。
対して王は――黙っていた。非の打ち所のない笑顔も、柔和な雰囲気も、忘れてしまったようだった。
完全に素の状態で、何かを考え込んでいる。
「……いや、ちょっと分からないかな。それ以外は?何かない?」
ようやく発した言葉は素っ気なく、彼は笑顔を浮かべ直そうともしなかった。
日本人の女性――その件について、これ以上の追求を喜びそうな雰囲気でない事だけは、確かだった。
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