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【大正冒険奇譚TRPGその6】

83◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:44:37
――施術を終えて、彼女はまず試しに自分の腕を切ったらしい。
そしてその傷は、時が巻き戻るかのように消えた――だが実験は失敗だった。
彼女はこの世の大いなる流れ――言わば理に睨まれてしまったのだ。
輪から外れたものを引き戻すべく、彼女は存在そのものを細切れに引き裂かれ、融かされて、世界の循環に流されてしまった。

「この絵は……五行の輪に溶けてしまった彼女を、俺が掻き集めて、封じた物さ。
 フェイの爺さんに手を貸してもらってね、この絵は一つの閉じた世界になってる。
 絶えず世界中に拡散しようとしている彼女の存在を、無理矢理この中に閉じ込めたんだ」

その流体が墨のように黒く見えるのは、
無数の色、存在――五行に満遍なく融けてしまった彼女を強引に一箇所に纏めているからだ。
絶えず絵が循環しているのは、拡散の方向性を逸らし続けているが故。

もし彼女に何かしらの意思があったとしても、絵から出た瞬間、
彼女は再び、一滴の墨を湖に落としたかのように存在を消滅させられてしまうだろう。

フーは何も言わないが、彼が何としても不死の法を見つけ出そうとしたのは、王だけではなく、彼女の為でもあったのだろう。
彼女はまだ生きている。ただ世界の法則に睨まれたばかりに、肉体や精神の形――存在を保てなくなっているだけだ。
真の不死の法ならば、この世の理すら抑え付けられる筈だ。
その術理を解明すれば、彼女を助けられるかもしれない。
かもしれない、だ。それでも、やるしかなかった。

「……その女が協力者じゃねえって事はよく分かった」

不意に、生還屋が口を挟んだ。

「けどな……んなこたぁ、どうでもいいんだよ」

生還屋の右手が作務衣の懐に潜る。

「違え、知らねえ、俺じゃねえ、いねえ……ってよぉ。
 それで「はいそうですか」って訳にはいかねえんだよ。それくらい分かんだろ?」

取り出されたのは匕首――動死体共相手にはまるで用無しだったが、人間相手になら話は別だ。
切先がフーを睨む。

「オメエ一人がやったってんじゃあ説明のつかねえ事がいくつもあるよなぁ。
 言えよ。誰を庇ってやがんだ?
 ……その間抜けな女の絵をもう一度引き裂いてやれば、喋る気になるかよ?え?」

生還屋とフー・リュウ、両者の間に流れる空気の質が、明らかに一変した。
フーは瞬時に一歩飛び退き、絵巻を背に隠す。右腕は僅かに曲げられて、既に袖の内にあった。
生還屋も重心を落とし、右足を半歩後ろに下げる。いつでも跳びかかり、フーとの距離を詰められる構えだ。

だが――正直な所、生還屋は困惑していた。
彼には類稀な勘の良さがある。その勘が、何も告げてこない。
彼は嘘を吐いていないのか――しかしそれでは説明が付かない事がある。


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