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Desperado Chariots

229 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:11:20 ID:Y6pO/fks0
(#^ω^)「親父なら仕事でいねえ筈だお!!どうやって入ったんだお!!」

('A`)「そらぁお前、玄関からでしょうよ」


そう言ってi-ringから見せびらかしたのは内藤家のセキュリティ・コードが記されたホログラム。一昔前の言い方をするなら、所謂『合鍵』であった
文彦がアメリカかぶれだったら思わず『ジーザス……』と呟いてしまうところであった


(;^ω^)「ジーザス……」


アメリカかぶれだった。だからそんなポンポン膨らんでるし顎もダルンダルンなの??????形から肥満大国に入るタイプ??????資本主義が生んだ豚じゃん


(#^ω^)「い、いや!!親父なんて関係ねえお!!僕はチャリオッツを辞めたし、復帰するつもりもねえお!!帰れお!!じゃないと……」

('A`)「『じゃないと』、なんだ?」

(;^ω^)「っ……」


文彦は言葉に詰まった。目の前の男がドアを拳で突き破った危険人物でなくとも、家宅に侵入した不審者に抵抗出来る者は少ない
それも、一歩踏み出せば手すら届く範囲内だ。i-ringの緊急通報機能を使うよりも先に危害を与えるなど造作もないだろう
力づくで追い出すなんて以ての外だ。紙袋の中身が何なのか知る由もないが、例え文彦が武器を持っていたとしても徳雄には敵わない
チェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまってしまった。文彦の膝(爆発はしない)は恐怖でゲラゲラと笑いだした


文彦の膝「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!こいつぁ傑作だァ!!!!!!!!!!!!」


何が傑作なのだろうか?ブサイクの顔?正直言って徳雄の顔はそう神様が左手で描いたみたいってこと!?


('A`)「そう緊張すんなよ。取って食いやしねえって。コレステロール値高そうだし」


そんな彼を余所に、不審者は結構な無茶を要求する。誰だって自分以外誰もいない自宅で


『君は、普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね?ひとつ……それをわたしにみせてくれるとうれしいのだが』


と言って髪から肉の芽を飛ばしてくる変態に話しかけられたらアヴドゥルさんだってウオオオ言うて窓からグワガシャアッって飛び出して迷路のようなスークで追走から逃れようとするのだから

230 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:13:20 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……帰る気はねえのかお?」

('A`)「残念ながらな。いや、そうでもねえか?ほれ」


そう言って差し出した紙袋を受け取った文彦は、恐る恐る中身を確かめた
女性の左手とか入ってたらどうしよう。お尻拭いてもらって幸せな気持ちになるしかないのかな?だいぶ冷静さを欠いていたが、土産の内容を理解すると


(;^ω゚ )「な……これ……?」


驚きと共に、脳の奥から幸福になれる汁がジワリと漏れ出した


('A`)「社長が持ってけってうるさくてな。なんでも、我が社とタイアップした限定商品らしいぜ。知らんけど」


三十センチ大のボックスに描かれているのは『推し』の顔。ポリスチレン製のショー・ウィンドウの中では、和装姿の女性キャラが抹茶と団子を乗せた盆を持ってウインクを放っている
大人気ヴァーチャル・アイドル『皆鳴 ミセリ』と、参羽鴉グループの経営する高級茶房『天華』とのコラボレーションフィギュアであった


(;^ω゚ )「な……え……は……?」

('A`)「それ十万くらいするらしいぜ?」

(; ゚ω゚ )「ええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」

231 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:14:01 ID:Y6pO/fks0
マリィのSRが二枚と半分買える値段である(2022年の相場)。それもオタクにぶっ刺さる限定商品。加えて、販売前である
ミセリの情報は欠かさず追っていたデブオタクすら知らなかった、寝耳に水どころかスピリタス流し込まれたかのような手土産だ
文彦自身を狙い撃ちした賄賂だ。袖の下だ。黄金色の饅頭だ。どう考えたって甘い罠でしかない。頭の中では警鐘が鳴り響く
十万なんてするような品物、受け取れるはずがない。受け取ったら最後、骨の髄までしゃぶられるのは目に見えている。目の前のブサイクを従えるボスは、それくらいやりかねないのではないか?
返すべきだ。そもそも、推しのグッズ購入はファンの義務であって、それでミセリたゃが美味しいご飯食べてくれるのが一番の幸せで、商品が届けば僕も幸せになれる。Win-Winでなければならない
タダで推しを迎え入れるなんて彼女への冒涜で、志同じくするミンミン民(皆鳴ミセリのファンの総称)への裏切りに他ならない。返せ、返せ、返せ!!


( ^ω^)「あ……ありがとござぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっす!!!!!!!!!!」


身体と欲望は正直だった。だって向こうが勝手に押し付けてきたんだし?据え膳食わねば武士の恥とも言うし?僕は仕方なく受け取っただけで別に裏切りとかじゃないし?
ツラツラと自分自身への言い訳を並べているが、結局は欲に負けたクズデブだった。それでもいいじゃない。人間はみんなクズだもの。この世に天使はミセリたゃしかいない。ミセリしか勝たん


( ^ω^)「お茶でも……飲んでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「お、おう……」


徳雄はオタクの変わり身の早さに圧倒されながら、作戦の第一段階をクリアした事に小さく安堵のため息を漏らした
それと同時に、信念も意志もクソ弱いこのオタクデブを仲間に引き入れていいものかと、靄のような不安も湧いて出るのだった

232 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:17:28 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



自主的なやる気の奮起を促す為に、まずは文彦と親密になる必要がある。人付き合いが得意ではない徳雄は、不本意ながら頼れる年長者に案を求めた
数日もせず返ってきたのは、インテリアとして飾るには少々憚られる、やけに露出の多い和装に身を包む美少女フィギュアだった


('A`)(金のねえオタクの学生は、餌を前にしたら意志が弱くなる……オッサン共の言った通りだな)

( ^ω^)「粗茶ですお」

('A`)「ああ……どうも」


にしても、この様変わりようには少々どころか多大な気持ち悪さを禁じ得ない
一応、予習として『皆鳴 ミセリ』の動画アーカイブをある程度漁ってみたが、癪に障る媚びた声色で当たり障りのない雑談を垂れ流したり
ホラーゲーム配信では、鼓膜が劈くほど喚き散らしてロクに前へ進まない、フラストレーションの溜まる映像が二時間弱ほど続いてるだけで、特に深く突き刺さっていくようなコンテンツにはとても思えなかった
それでも、動画サイトのチャンネル登録者数や再生数は日本有数で、数多くのメディアミックス展開を繰り広げている人気ヴァーチャル・アイドルの一角ではあるらしい
結局、徳雄が若干の睡眠時間を犠牲にして得られた情報は、『オタクのツボはわからん』という事だけであった


('A`)「あの……ミセリだっけ?」


だが会話のきっかけにとして使える。茶を啜って準備を整えた徳雄はおずおずと切り出した


( ^ω^)「はい!!セミ系ヴァーチャルアイドルの皆鳴ミセリたゃですお!!!!!!」

('A`)「セミ系……?」


徳雄は知らなかった。オタクに推しの話をさせるという行為の恐ろしさを
そして思い知った。オタクという人種が持つ熱意と知識、聞き手側への一切の配慮が無い怒涛の会話量を

233 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:18:08 ID:Y6pO/fks0



( ^ω^)「孵化後のセミの寿命は七日!!だけどうっかり七百年生きちゃったセミが人の姿を成したのがミセリたゃですお!!彼女はセミ特有の声量を活かしてアイドルとして活動してますお!!だけどただ五月蠅いってだけじゃなくて面白さも兼ねてるのがミセリたゃの魅力で大体のミンミン民ならまずレトロゲームの金字塔バイオハザードシリーズの絶叫実況を勧めるんですが僕のオススメは何と言っても野生のセミとの合唱ASMR!!真夏の公園で配信した伝説の回なんですがマジでセミの声が五月蠅くてミセリたゃの声が何一つ聞こえないんですお!!これで炎天下の中ヨ時間配信してたんですお!!伝説ですおねあれは!!おっと、ええ、言いたいことはわかりますお!!上級者過ぎてついていけないって顔してますおね?そうですね入門ならまず歌ってみたを触ってみたらどうでしょうかお?21世紀のJ-POP中心にカバーソングを精力的に配信してるので古いアニソン好きなら確実にぶっ刺さりますお!!セミっていうイメージから音痴だと思われがちですがとんでもない!!鼓膜から胸にすっ……と通り抜けるような透き通る歌声に心が震える事間違いなしですお!!僕が好きなのはやっぱり21世紀の陰キャ共を夢中にさせた美少女RPGの主題歌『Lost Princess』!!これをトソンちゃんと歌ったデュエット動画は二千万再生を叩き出し……あ、トソンちゃんっていうのは暴走ドライバー系ヴァーチャルアイドルで、週に二回は交通事故を起こしていることから交通ルール注意喚起動画や勉強動画を主に配信してる配信者で、仲良しのミセリたゃとは少なくても月に一回はコラボ動画を出しているんですお!!『百合営業きっしょ』とかほざくカスは死ねお!!コラボ動画のオススメは勿論まだあって、チャリオッツ大会の同時視聴動画なんかも人気ですお!!コラボ動画はやっぱりオフの酒飲み配信がてぇてぇの極みでして酔ってぽわぽわになったミセリたゃがトソンちゃんに甘えるのを聞いてるだけで『ああ壁になりてぇ……』ってなるんすお!!わかりますかお!!もう辛抱堪らんって感じじゃないですかお!?」




ここまで聞いて徳雄はこう返した


(;'A`)「お、おう」

234 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:19:16 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「わかって……くれますかお?」

(;'A`)「あ、ああ……」


カルト宗教の勧誘が下手くそな人ってこんな感じなんだろうなってのはわかった(上手い奴は外堀から埋める)。もし文彦がその手の野郎なら鼻と指の骨を折った後、口にちょうどいいサイズの石か折った鉛筆を入れて顎を下から殴り上げて終わりだが、彼との関係構築はここがスタートラインだ
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。盛岡のアドバイスに従い、徳雄は皆鳴ミセリという活路から己の土俵に引き摺り込む算段を企てた
誤算だったのは、徳雄が想定していた『共有』が、遥かに規模の大きな情報量だったという事。この言葉には『共感』と『肯定』の意味も含まれている
情報を飲み込んだ上で理解し、『わかる?』と問われたのならば『わかる』と返さねばならない。これはオタクに限らず、どのような人種との会話でも必須の基本的なテクニックだ


(;'A`)「か、可愛い……よな……うん」


しかしこれまでの人生の中でオタクと関わった事も、ましてやアニメや漫画、ゲームすらほとんど触れてこなかった徳雄にとっては未知の領域だった
なので、癇癪持ちでどこに地雷が埋まっているかわからない文彦を相手に、探り探りかつ慎重に親睦を深めていかねばならない
ぎこちなく言葉を返しながら、もっと勉強しておけば良かったと後悔をした。だが、内心一杯一杯な徳雄とは裏腹に


( ^ω^)「ですおね〜!!やっぱキャラデザから神ってるっていうか……あ、キャラデザを担当したママはあの有名絵師で……」


文彦はまたもや徳雄の返事の数十倍の文章量を早口に乗せてイキイキと語り始めた。前回の薄暗い陰はなく、年相応に明るく気持ち悪いオタクデブと言った様相であった


(;'A`)「ようよう待てよ待てよ。そんないっぺんに来られても理解できねえって」

(;^ω^)「お……す、すみませんお。ミセリたゃのことになるとつい熱くなっちゃって……」

(;'A`)「いや、謝る必要はねーんだがよ……」


気持ち悪いが、同時に少し羨ましくもあった。『自分が胸張ってのめり込めるものなんて無いからな』と
喧嘩は楽しい。だが、暴力など褒められる行為じゃない。自転車だって、一度は降りた身だ
そもそも、『あいつ』が関わってなければ、あいつが別の競技をやっていれば、ペダル漕いで山登りなんてしなかった
趣味と呼べる趣味なんて、今まで作ったことがなかった。正直、あまり興味も無いし唆られる要素も無いが


(;'A`)「もう一回、ゆっくり教えてくれよ。どの動画から見るのがいいんだ?」

( ^ω^)「おっ!!そうですねまずはやっぱり」※クソオタク早口

(;'A`)「ゆっくり頼む」


これを機に、新しい世界に踏み込むのもいいかもしれないと思うのであった

235 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:24:54 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(ヽ'A`)「ソロソロカエルネ……」

(;^ω^)そ「えー!!ここからがいいところなんですお!!」

(ヽ'A`)「アシタオシゴトダカラ……」


凄まじいミセリの供給量を長時間詰め込まれたブサイクは、帰るタイミングをようやく掴めた
なんか聞いてる内に興味とか湧いてくるかなって思っていたが、ゼロに何を掛けてもゼロなのである。何が新しい世界だぶち殺すぞカス


( ^ω^)「あ……そう言えば、ご用件があったんじゃないんですかお……?」


流石にこのまま帰すのは気が引けたのか、おずおずと用件を聞いてきたが、今の徳雄は本題に入る気力すら尽きていた


(ヽ'A`)「マタコンドネ……」

( ^ω^)「あ、はい……」

(ヽ'A`)「ジャマタ……」

( ^ω^)「はい、また……」


這う這うの体で内藤宅を後にした徳雄は、頭の中でキンキンと鳴り響くヴァーチャル・アイドルの声に悩まされながら、i-ringから連絡を入れた
暫く歩き、待ち合わせ場所であるコンビニに到着すると、さっきまで散々画面の中で騒ぎまくってたセミ畜生が描かれたノボリが立てられていた


:(ヽ'A`):「ァ……ウワァ……」


何の変哲もないただのタイアップキャンペーンだったが、情報を詰め込まれすぎて幻覚と勘違いした徳雄はその場で腰を抜かした
道行く人やコンビニの利用者が『なんやこいつ顔キッショ』と訝し気な目で見て来たが、手を差し伸べようとする者は一人もいなかった。世間はブサイクに厳しいだけでなく、ヤク中みたいな挙動を取る奴に近づこうとはしないのである

236 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:25:43 ID:Y6pO/fks0
(;´・_ゝ・`)「徳雄くん!?どうしたんだい!?」

:(ヽ'A`):「キンニクタカラサン……」

(;´・_ゝ・`)「え?なんて?」


それから十分ほど経過し、迎えに上がった盛岡が駆け寄るまで徳雄はノボリの前で動けずにいた
『これがあの悪鬼の姿か?』と、たった一日でここまで憔悴したブサイクの姿に、盛岡は戦慄を覚えた。内藤 文彦は徳雄以上に、厄介な相手であると


(;´・_ゝ・`)「とにかく、ここは目立つ。さぁ、車に乗って」

:(ヽ'A`):「ハァイ……」

(;´・_ゝ・`)「声ちっさ」


徳雄に肩を貸して後部座席へと座らせた盛岡は、本八へ連絡を入れようかほんの一瞬だけ迷ったが


『(´^ω^`)「え!!!!!!!!???????ブサイク死にかけてんの!!!!!!!!????????見てえ!!!!!!!!!連れて来いよ!!!!!!!!!!!」』


と返ってくるのが目に見えていたので、今日はこのまま自宅へと帰す事にした


(ヽ'A`)「好きの共有って難しいんすね……」

(;´・_ゝ・`)「僕だって想定外だよ。まさかキミがここまで追い込まるなんてね」

(ヽ'A`)「止まんねえんすよ……ずっと喋ってるんすよ……どの動画が良いとかライブのコールがどうのこうのとか……」

(;´・_ゝ・`)「耐えられそうかい?」


忍耐力の限界もあるが、何より『時間』という制約がある。大晦日まで半年と少ししか残っていない
文彦を含む三人がそれなりの力量を持っていたとしても、それを一纏めにする為の訓練は必要不可欠なのだ。猶予は多いに越したことは無い
徳雄が『出来ない』と判断を下したのならば、早急に次の手を打たねばならない。意固地になってズルズルと引き延ばされるより、スパッと切り替えた方が良い

237 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:28:00 ID:Y6pO/fks0
(ヽ'A`)「人間、そう簡単に潰れやしませんよ……」

(´・_ゝ・`)「その考えは身を滅ぼすよ」

(ヽ'A`)「テメーのことはテメーが一番よくわかってんでね……それに、たった一日でアンタらに泣きつくのも癪じゃないっすか……」

(´・_ゝ・`)「逞しいね。だけど、目的を忘れちゃいけない。あのクズだって、そりゃ多少は煽るだろうけど、非難はしないさ」

(ヽ'A`)「それが我慢ならねえっつってんすよ……」


『良くないな』と、盛岡は危惧した。頑固な人間が破滅するパターンに似通っている
確かに徳雄の言う通り、たった一日で見限るのも考えものだ。しかしこうも言い換えられる。『もう一日経った』のだと
彼に任せたのは本八と自身とは言え、この有様を目の当たりにしてしまうと多少の不安も湧いて出てしまう。しかしバックミラー越しに


(ヽ'A`)「余計な心配も手出しもしないでくださいよ……元より、こちとらトコトンまで追い込まないとマジになれねえタチでね……」

(´・_ゝ・`)「……」


悪い癖だ。全て自分で何とかしようとして、他人を信じることが出来ない。能力にそれほど差がない本八との決定的な違いが『そこ』なのだ
文彦獲得の為に必要なのは、心配ではない。上部が責任を持った上で部下に託す『経営者視点』だ
進捗状況や成果を受け取り、その都度アドバイスやバックアップを行う。焦らず、長い目で見て、攻略の手助けをせねばならない


(´・_ゝ・`)「わかった。本当に限界なら早めに言ってくれ。クズが気に食わないなら半殺しにしても構わない」

(ヽ'A`)「言われんでもそうしますよ……ところでデミさん」

(´・_ゝ・`)「なんだい?」

(ヽ'A`)「近い内に、ミセリなんちゃらのイベントなんかありますかね?」

238 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:29:17 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「……」


攻略の糸口として皆鳴ミセリの情報を予め調べた限り、直近でイベントを行うといったスケジュールは見当たらなかったが、こう言う時こそ彼らが持つ最大の武器が活かされる


(´・_ゝ・`)「ねじ込もう。いつがいい?」


今も昔も、世の中は『金』で動いているのだから


(ヽ'A`)「その辺も含めて今から打ち合わせがしたいんで、本社の方に寄ってもらっていいっすか……?」

(´・_ゝ・`)「大丈夫かい?」

(ヽ'A`)「あのクソ野郎が気に食わねえ態度取ろうもんなら、話が出来る程度に痛めつけるまでですよ……」


『話は終わりだ』と手を振った徳雄は、そのままシートにもたれ掛かって目を閉じた
盛岡は交差点で大きくUターンを行い、本社へ向けて車を走らせる。頭の中では既に、予算の算盤勘定と獲得に到る最短スケジュールを組み立てていた

239 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:30:26 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^ω^)「やったわこれ……」


十万するフィギュアを前に、文彦は頭を抱えていた。いやこんなもんあからさまな餌に決まってんだろバカ!!ぽっちゃり系!!うっかりアメリカかぶれ!!
幾ら自分を罵倒しようとも、覆水盆に返らず。受け取ったことを口実にチャリオッツへの復帰を迫ってくるに違いない
早急に返そう。そしてもう二度と関わるなとキッパリ突っぱねよう。あの界隈に、もう自分の居場所は無いのだから


( ^ω^)「……」

( ^ω^)「めっちゃ出来ええわ……」


返却するまで記憶と網膜に焼き付くまで眺めるくらいは良いじゃないか。だって押し付けられたんだもの


('A`)「文彦くーん」ガチャ

(;^ω^)そ「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!???????」


ノックも無しに突然訪れた望まぬ客に、文彦は椅子から転げ落ちた。デブのデカい尻に日々虐げられている可哀想な椅子からだ。前世でどんな業を犯したらこんな酷い目に遭わねばならぬのだろう


(;^ω^)「い、いいいいい……インターホンくらい鳴らすお!!アンタいつも唐突すぎるんだお!!」

('A`)「今日はウチの会社とのコラボで店頭に飾る皆鳴ミセリの等身大パネル(非売品)を持ってきたんだけど」

( ^ω^)「ここを自分ちだと思って寛いでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」


即堕ちだった。人は推しを前にすると自制心が狂うのである。キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンのライブで興奮の余り失神するファンと一緒だった
ウキウキとお茶を淹れに行った文彦に、徳雄は「よくもまぁここまで他人に気を許すものだ」と、ブサイクで呆れた表情を浮かべた

240 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:31:00 ID:Y6pO/fks0
その後は、前と同じパターン


( ^ω^)「ベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラ!!!!!!!!!!!!!!」


妖怪人間の名前を連呼しているのではない。皆鳴ミセリの推しポイントを描写するのが面倒なので省略しているだけだ。早く人間並みの一般体重に戻れたら良いのになデブ


(ヽ'A`)「わかるー」


言ってる内容の十分の一も理解出来ず、共感も出来ないまま、徳雄はその日もただ憔悴させられただけだった
ブサイクな顔面が幸いして、顔に出た疲労感は、まだ年若い文彦には読み取れなかった


( ^ω^)ノシ「いつでも遊びにきてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」

(ヽ'A`)「ウン……」


豪華な土産と推し語りにすっかり気を良くした文彦は、徳雄が訪れた理由を尋ねることも忘れ、その日はにこやかに見送ったのだが


( ^ω^)「バカタレ…………」


後になって着々と懐柔され始めている事に気づき、深く後悔するのだった

241 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:37:08 ID:Y6pO/fks0
しかし人間、労なく甘い蜜にありつけた時、怪しいと思えど簡単に手放すことは出来ない。世に蔓延る詐欺という犯罪がどれだけ長い年月をかけても撲滅できないのがその証明と言える
その根底には、嘘によって築き上げられた虚偽の信頼感と、『自分だけは大丈夫』といった、根拠のない自信が存在するからだ。悪意で食ってる犯罪者に言わしてみれば、そう言った人種を総じて『カモ』と呼ぶ


( ^ω^)「……」


内藤文彦も多分に漏れず、ミセリ依存に苛まれ、欲望に支配され始めたカモであり、チャリオッツ復帰を迫られ続けている苛立ちと危機感を


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ( ^ω^) 貰えるもん貰ってから断ればいいや!!!!!!!!! < ドッコイショオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


楽観で塗り潰す、典型的な詐欺被害者の道を辿っているのであった

242 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:10 ID:Y6pO/fks0
そんなカス野郎に対して、本八陣営は大々的な一手を即座に打った。それが―――――


『皆鳴ミセリ×天華コラボ記念 ゲリラライブ』である


発表から三日後の週末に開催し、チケットは『完全先着順』という余りに性急かつ無謀な内容。案の定販売サイトは鯖落ちし、炎上するかに思えた
だが、主催があの参羽鴉グループ。そう、一族代々頭可笑しいドクズで有名な大潮家である。民衆は揃ってこう思った


「まぁクズやしな……」と


そしてヴァーチャルタレントという文化が誕生してから、歴代のレジェンドが起こした奇行、奇イベントの数々。それは皆鳴ミセリとその運営も例に漏れず。鍛え上げられたミンミン民は揃ってこう思った


「まぁミセリやしな……」と


こうして、世が世なら普通に大炎上するであろうイベントは、特に波風立たずに無事開催に到った。うーん平和平和!!!!!!!!!現実の人間もこれくらい寛容だったらいいのにな


当然、一ミンミン民である文彦にもその一報は即座に届いた。ほぼ反射的にチケットサイトを開き、脂ぎった図体からは想像も出来ないほど俊敏に支払いフォームへ各情報を入力し
購入確定のアイコンを爪の付いてるソーセージでタップしようとした時になってようやく我に返った。このイベントが、何の為に行われるのかに気づいたのだ


(;^ω^)「……」


他でもない、『自分』の為だけに開かれるライブであろうことに
それを自覚した瞬間、文彦は初めて『血の気が引く』という感覚を体験した。テーブルを濡らすほどの脂もとい冷や汗が流れ出るのも、この時が初めてだった
全身凶器顔面便器のチビブサイクが高価なフィギュアを持ってきた時に気付くべきだったのだ。彼らは、自分を手に入れる為には『ここまでやる』だけの権力と財力、そして狂気を持ち得ているのだと


(;^ω^)「に……」


『逃げなくては』。ブルブルと震える豚よりも肥えた豚足もとい脚を何とか踏ん張り、デスクチェアを体重という拷問から解放させたその時

243 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:56 ID:Y6pO/fks0



<文彦くーん



(; ゚ω゚ )「」



悪魔が呼ぶ声が、文彦のハツもとい心臓を鋭く穿った


ドアだ|A`)「今日はさぁ、とっても良いもの持ってきたんだけど……」


(; ゚ω゚ )「お……おお……」


ドアだ|'A`)「お気に召して貰えるかなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」


文彦はほんの数秒間、中腰のままであったが、ソトモモもとい尻を再び可哀想な椅子へと崩れるように落とした。腰を抜かしたのではなく単純に膝が少しの負荷にすら耐えられなかったからだった
徳雄が持ってきた『良いもの』の内容など、聞かずとも察せられた。そして、自分はそれに抗うことなど出来ないことも


:(; ゚ω゚ ):「は……はわわ……」


('A`)「……」


('A`;)「ん、なん?なんか憑いてたりする?」


文彦が余りにも戦々恐々とするので、徳雄は思わず背後を振り返った

244 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:40:25 ID:Y6pO/fks0



 バッタリサン
 
川д川('A`;)




(゚A`;)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!????????オバケだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


川;д川そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????ブサイクだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


(;^ω^)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!????????お母ちゃんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」




お母ちゃんだった

245 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:41:55 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(´・ω・`)「よう、どうだった?」


事務仕事を片付けに職場へと戻ると、バックヤードでは本八が団子をアテに茶を啜っていた
最高責任者にこうも頻繁に来訪されては、店長も堪ったものでは無いだろうな。徳雄は若干の同情を荷物と共にロッカーへと仕舞いこんだ


('A`)「多少渋られたが、思わぬ援護射撃があってな。予定通り連れ出せそうだ」

(´・ω・`)「援護射撃?」

('A`)「ママだよ」

(´^ω^`)「人妻かァ……」ニチャァ……


やっぱぶっ殺した方が世の為人の為文彦の為になるんじゃないか。徳雄は真剣に消す方向で考えを進めた


('A`)「そっちは?」

(´・ω・`)「順調よ。隣のロッカー開けてみろ」

('A`)「隣?」


隣接する店長のロッカーを開いた瞬間、徳雄の頭二つ分大きく、長い『荷物』が倒れ込んで来る
ズタ袋に包まれたその荷物は、殺虫剤をかけられた芋虫のように激しく身悶えし、くぐもった悲鳴を上げている
徳雄はそれをゆっくりと床へと降ろすと、眉間を抑えて大きくため息を吐いた


(;'A`)「この手しか知らねえのかアンタは……」

(´^ω^`)「だって楽なんだもん☆」


あたしさくらんぼとでも歌いだしそうなノリの軽さだった

246 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:43:57 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「そら俺だって最初は穏便に済まそうと思ってたよ?でもこいつクソヤンキーだからめんどくせえ絡みされてさぁ」

(;'A`)「わかったもういい」


『荷物』の頭に被さる袋を剥ぎ取り、次いで口を塞ぐガムテープを遠慮なく剥がす


(=#゚д )「ッ……おいゴラテメェふざけてんじゃねえぞ!!」


部屋の明かりに目を眩ませながらも、拉致されたヤンキーは威勢よく啖呵を切る
低くドスのある声色であったが、徳雄は眉すら動かさずに見下し、本八はザコが粋がってる姿を見て笑った


(=#゚д゚)「俺を誰だと思ってやがる!!蟒蛇の新進気鋭……」


そんな威勢も、目が慣れるにつれて尻つぼみになっていく


(=#゚д゚)「プロ……ジョッキー……」


('A`)「少し見ねえ間に大層な御身分になってるようで何よりですよ」


彼と対面するのは、徳雄が最も荒んでいた中学生以来だった。二つ年上の先輩で、地元でも札付きのワルとして有名だった男だ
『親友』ほどでは無いが美形の類で、右頬に走る二本の傷跡が猫の髭を思わせることから、『片髭の虎猫』と呼ばれていたのを覚えている
だが、徳雄の顔を見た瞬間、怒りに吼える『虎』の部分は鳴りを潜め、自身より強く大きな存在に怯える『猫』の側面が強制的に引き出されていく


:(=;゚д゚):「う……宇都宮……さん……」


震える唇からやっとの思いで絞り出せたのは、敬称を付け加えた小さく醜い『トラウマ』の名前であった

247 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:45:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「どうも、貴虎(たかとら)先輩」


『高城 貴虎』。かつての顔馴染みが『蟒蛇』のメンバーリストに入っていたのは、本八陣営にとっては僥倖の一言に尽きる
文彦の脱退と入れ替わるように加入した彼は、新入り故に組織に馴染みが浅く、そして深い事情を知る由もない。だが、藪蛇との『接触』を図るきっかけとしてはこれ以上ない逸材だった
不可解な敗北を喫した『蟲毒』で、文彦と組んでいたかつてのチームメンバーを呼び出し、再起を促す機会を作り出そうというのが、徳雄の立てた作戦だったが―――――


(;'A`)(なーんで強硬手段しか出来ねえんだこのオッサンはホンマ……)


問題は作戦内容ではなく、交渉の為に派遣を依頼した『キャプテン』にあった。徳雄は間違いなく、確実に、なんなら誓約書も書かせた上で


『事を荒げず穏便に交渉のテーブルを用意すること』


と、本八と約束を交わした筈だった。だが蓋を開けてみれば、交渉など出来そうにない最悪の再会
到底、協力など求められそうにないシチュエーションからのスタートだった。どう考えても頼む相手が悪かった。ハゲはミセリ関連で忙しくて手が回らなかった


('A`)「いやぁ、新進気鋭の?プロジョッキー?流石は片髭の虎猫さんだ。同校出身として俺も鼻が高いですよ」

:(=;゚д゚):「なんっ……にゃ、何が目的だ!!おm、アンタ、こんなこと許されると思ってんのか!?」


('A )「……」


:(=;゚д゚):「ヒッ……」


立ち上がってデスクチェアを引き寄せ、背もたれを抱くようにドカリと座る。しばし無言で高城を見下し、圧力をかけた
本来ならば、ちゃんとした席を構えた上で頭を下げて『お願い』する立場だった。だがクズの起こした拉致のお陰で、穏便なプランを取れなくなった
部分的な拘束の解放から現れた高城の人間性は、中学の頃から変わりない不良気質。言い換えるなら、『下手に出ればつけあがるタイプ』
此方に非があるなら猶更だ。学生時代に植え付けられた恐怖の恨みを晴らさんと、正義と正当性を盾に反撃をされてしまえば、今後の活動の支障に成り兼ねない


('A`)「誰が、何を、許さないって?」


ならばいっそのこと、とことんまで『悪役』を演じきった方がマシ。徳雄が僅かな時間で出した回答は、荒んでいた学生時代への『回帰』であった

248 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:46:06 ID:Y6pO/fks0
:(=;゚д゚):「ア……エト……ソノ……」


忙しなく視線を泳がせ、今にも失禁と共に号泣をかましそうなほどに怯える高城を前に、百戦錬磨クズの本八も口角が僅かに引き攣る
『一体、過去にどんな仕打ちを与えればこれほどまで恐怖するようになるのか』。財力や口車とは一味違う、『暴力』という直球の支配手段が成しえる業であった
だが、人は脅かせば素直に要求を飲むほど簡単には出来ていない。鞭を与えたならば次は『飴』。緩急をつけて揺さぶりを掛けるのが大人のやり方だ


(´・ω・`)「徳雄、引っ込んでろ」

('A`)「誰に向かって偉そうな口利いてんだオッサン」

(´・ω・`)「新入社員だ。テメーこそ立場を弁えろブサイクが」


徳雄が本八へと目線を向けると、『後は任せろ』と言わんばかりの冗談まじりのウインクを投げられた。そう、落第忍者。打ち返されたよ肘鉄砲


('A`)「……チッ」


本八の老獪さは嫌と言うほど経験している。自分が高城を脅すのも計算の上で拉致したのだろう
まんまと利用されたという不愉快さはあったが、頼んだのは此方から。文句を言えた立場ではない
デスクチェアから立ち上がり、わざと大きな音を立てながら元の場所へと乱暴に戻し、徳雄はバックヤードから隣接する厨房へと移った


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「」


('A`)「あ」


そして出た先で死にそうな顔してる店長とばったり出くわすのであった

249 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:47:01 ID:Y6pO/fks0
暫くして


(´^ω^`)「話ついたわ!!!!!!!!!!!やっぱり金なんだよなぁ!!!!!!!!!!!」


ゴキゲンな表情をした本八がクズ丸出しの発言をしながら厨房へと現れる


('A`)「あのカスは?」

(´・ω・`)「帰した」

('A`)「テメーの足でか?」

(´・ω・`)「丁重に送り出したよ」


「何が丁重だよ」とボヤく徳雄を余所に、本八は自らの手で茶を淹れ直し、作り置きの団子串を一つ手に取った


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あのそれ商品……」

(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????????????」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「アッスナンデモナイッス」


長い物には巻かれるタイプの店長はそそくさとホールへと退散する。言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンって感じだった


('A`)「……それで?」

(´・ω・`)「お望み通り、『会場』に足を運んでくれるそうだ。お駄賃程度のはした金でな」

('A`)「そりゃ結構だが、まさか口約束で済ましたとか抜かさねえよな?」

(´・ω・`)「違えた時にゃ今度こそオメーに任せるよ。あのアンちゃんに何したのかは知らねえがな」

('A`)「気になるなら再現してやろうか?」

(´・ω・`)「ふざけんな死ね」

250 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:55:35 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「さて、後は決行を待つばかりだが……」


食べ終えた団子の串を指で弾いてゴミ箱へと捨て、本八はいつになく真剣な表情を徳雄へと向けた


(´・ω・`)「オメーの作戦であのボーヤは奮い立ちそうか?」

('A`)「知らねえよ」

(#´゚ω゚`)「こんだけ時間と金掛けてんだから出来るって言えやブサイク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

('A`)「うるせっ」


文彦との交流の中で、徳雄は一度もチャリオッツの話題を口にしていない
『デブはチャリオッツへの想いは断ち切れていない』。本八はこう言ったが、チャリオッツを始めたばかりの自分が、『そこ』を攻めるには少々パンチが足りないと考えた
だからこその『策』ではあるが、もしも文彦が救いようのないほどの腑抜けであるならば通用しない。自信を持って『出来る』と言えるはずもなかった


('A`)「俺は神様みてーに万能じゃねえんだ。無責任なこたぁ言えねえよ。それに任したのはアンタらだ。どう転ぼうと文句は言わせねえ」

(#´^ω^`)「ブスの癖に正論を言うな!!!!!!!!!!!!」

('A`)「なんなのお前。それに、幾らゲームの腕が上手かろうとよ……」


三位一体のチーム戦。メンバーに妥協したくないのはチャリオッツに疎い徳雄も同じ気持ちだ。だが、スキルよりも優先すべき事項が伴っていなければ


('A`)「お膳立てされて尚も腰抜けのままなら、迎え入れない方がマシだ。そうだろ?」


『相手をぶち殺す』という闘争心が伴っていなければ、居ないのと同じなのだから

251 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:58:33 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



そして迎えたライブ当日―――――




会場にはチケット争奪戦を勝ち抜いたオタクブス共が所狭しと集まっていた
しかしブスと言えども洗練されたミンミン民(ミセリファン総称)。地下で眠る蛹が如く、彼らの女王がステージ上で羽を広げるまで、込み上げるオタクパワーを抑え込みながら黙しての待機
その熱気、口を閉ざした程度で止まる物ではない。すし詰めのライブハウスの中は、荒い鼻息とオタク臭でムンムンのムンであった


そんな中、唯一ミセリに微塵の興味も無い2121年度日本ベスト・オブ・ブスは既にグロッキー状態に陥っていた


('A`)「……」


まだ初夏とはギリギリ言えない時期であるが、生き物が密集することで籠る湿り気を帯びた室温と、生臭みを含む汗臭が、徳雄の辛抱強さを激しく削っていく
2121年帰りたいオブザイヤーを全身から放ちながら、徳雄は外へ連れ出した引きこもりデブを横目でチラリを覗った


( ^ω^)「ハァ……ハァ……」

('A`)「……」


凄く見苦しかったんで目を逸らして逆隣を見た


ブス「ハァ……ハァ……」


('A`)「……」


もうずっと足下だけ見てようと思った

252 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:00:48 ID:Y6pO/fks0
照明が消えゆくと共にポップなBGMがフェードアウトしていく。徳雄以外のオタクブス共の視線が、円状のステージへと注がれる
スピーカーからは一足早い蝉の鳴き声。天井スクリーンには濁った臭い空気には似つかわないカラッと晴れた青空が広がる


「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!」


え!!!!!!?????ウサミンのコール!!!!!!!?????しかし百年も前のアイドルゲームの一キャラクターなんて今の時代のオタクは知らなかった
前列から聞こえてきたコールを皮切りに、オタクブス共は夏の蝉が如くの大合唱を始める


(#^ω^)「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!!」

('A`)「……」


徳雄はなんだか悲しくなってちょっとだけ泣きそうだった

253 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:02:45 ID:Y6pO/fks0
コールに合わせるように、ステージ下から迫り上がるようにホログラムCGが映し出されていく


ミセ*゚ー゚)リ「……」


(;'A`)「ヒィッ……」


ちょっとトラウマになった徳雄が小さく上げた悲鳴は、オタクブス共のコールに飲み込まれた
やがて全身が投影されたミセリは、右拳を勢い良く、高く掲げる。訓練されたミンミン民は、寸分の狂いも無く口を閉ざした
再び訪れた静寂。ミセリは客席に広がるブス共へ花咲くように笑いかけると、やたら露出の多い胸部を大きく膨らまし―――――


ミセ*゚ー゚)リ「七日で恋などーーーーーー!!!!????」


コールを求め、ミンミン民はそれにーーーーーーー


「「「「出来やしなーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」」」」


一糸狂わぬレスポンスを返した


('A`)「??????」


徳雄は何が起こってるのか全然わからんかった

254 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:03:59 ID:Y6pO/fks0
ミセ*゚ー゚)リ「ミンミンミーセリ♪年中無休で大声量!!セミ系Vアイドルの皆鳴ミセリでーす!!」


<オンギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!!!


え!!!!!!!?????コンコンきーつね!!!!!!?????しかしミセリの所属はホロのライブではないのである
ここで一般男性ブサイクはある事に気づく。『セミって鳴くのオスだけじゃね??????』と
しかしミンミン民にとってミセリの性別など取るに足らぬ些事。口に出して問い質した所で『興奮する』と返されるまで
推しとは絶対的な崇拝対象であり正義。中の人のスキャンダルが公にされない限り、オスだろうがメスだろうが『推す』事に変わりないのだ


ミセ*゚ー゚)リ「ミンミン民のみんなーーーーーーーーーー!!!!!!今日は急な開催なのに集まってくれてありがとーーーーーーーーー!!!!!!!!」


<ミセリーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

<ミセリうおーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

<ミッ、ミッ、ミミミミィィィイイイイイイーーーーーーーー!!!!!!!!


( ;ω;)「ミセリィィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!ブヒッ、ブヒヒィーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

ブス「ミセリママーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!オギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


('A`)「……」


ママなわけないのである。産声を上げるのをやめろ
隣のブスを産んだ母親が泣くような光景に徳雄の頭はどうにかなりそうだった


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ早速一曲目いっくよー!!『Cicada Dream』!!!!」


曲の開始に合わせてオタクブス共の着てる臭い服がミセリのイメージカラーである緑に発光し出した辺りで、徳雄は考えるのをやめた

255 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:05:44 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



今回も大盛況で幕を閉じたミセリのゲリラライブ。興奮冷めやらぬと言った様子で物販に並ぶオタクブスの列を横目に


('A`)「……」


ブサイクは自販機で購入したミセリコラボデザインのエナドリを手に憔悴しきっていた
ライブどころか大多数の人間が集まり盛り上がるイベントなどまともに参加したことのない人生だったのだ
それがパリピカスだろうとオタクブスだろうと、徳雄にとって大きな違いは彼らの顔面と体臭以外特に無い
飛び跳ね、喚き、歓喜に震える人間の群。その流れに乗れず過ごした二時間という長い時は、パワハラを耐え忍んできたあの日々を遥かに凌駕するほどの苦痛であった


('A`)「しんど……」


ホログラムヴィジョンの光源と鼓膜を大きく揺らし続けた立体音響
そしてキンキンと響く媚びた女の声色に、逐一盛り上がるオタクブス共の鳴き声。頭にズッシリと疲れがのし掛かる
それでも徳雄はカフェインの経口摂取でそれを紛らわせながら、文彦の動向を注意深く監視していた
作戦はここからが本番である。筋書きとしては、ライブハウスと隣接する、チャリオッツがプレイ可能なゲームセンターに『偶然』訪れた蟒蛇の面々が、同じく『偶然』ライブに訪れていた文彦と接触
どのような反応を起こすかは不明瞭だが、場合によってはこちらから因縁を吹っ掛けチャリオッツでの決着を要望する
向こうはプロの集団。負ける筈のない勝負には当然乗っかるだろう。もしそうでなくても、喧嘩など幾らでも売りようがある


('A`)「……」


『協力者』が指示通りに動いているのは、盛岡からの連絡で確認済みだ。だが接触の細かいタイミングまでは合わせられない
兎にも角にも久々の、『競技』と名のつく殺り甲斐のある喧嘩。その時を今か今かと待ち侘びているその時


「あの、失礼仕るが……」


('A`)「あ?」


予期せぬ出来事と遭遇した

256 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:07:54 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「ふっ、ふみっ、ふみ文彦氏のご友人でござろうか?」

('A`)「……あー」


聞き取りづらい早口に鼻につく古風な話し方。ミセリの横幅が二倍ほどに引き伸ばされた、着用者の正気を疑うキャラクターシャツ
額に絶えず汗が滲むニキビ面。丸っこい鼻の上に鎮座するメガネは、呼吸の度に白く曇っては晴れるを繰り返す
ミセリの限定グッズが詰まった紙袋を両手に携えているのを見るに、どうやら文彦よりも早く用事を済ませたのだろう
失礼な物言いになるが、チャリオッツのプロプレイヤーには天地がひっくり返っても見えないオタクブスが話しかけてきた


('A`)「友人……まぁ、はい、そうですね。貴方は?」

(;@з@)「あっ、申し遅れたでござる。拙者、文彦氏の学友にしてミンミン民の同志、『木本 王太郎』(きもと おうたろう)でござる。気さくに『キング』と呼んでもらってもよろしいですぞ?」メガネクイッ


お決まりの自己紹介なのだろうか。キング(オタクブス)はニチャと粘着質なキメ顔をする ※キメェ顔
普段なら『そうですか、では』と冷たくあしらってしまうだろうが、文彦の学友という肩書きがそれを思い留まらせた
文彦は引きこもりである。しかし、学内ではちゃんと趣味を共有できる友人もいた。使い方によっては、文彦のチャリオッツ復帰への大きなアドバンテージとなる


('A`)「宇都宮 徳雄です。文彦くんとは共通の趣味で仲良くなりまして」


『どの口が』と徳雄は内心自嘲した。同時に、盛岡の言葉も思い返される
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。ミセリのライブが行われた後なら、その一歩は大きな歩幅となる


(;@з@)「おお!!やはりお主もミンミン民でござったか!!宇都宮氏は我々と同じく重度のミンミン中毒者であることなど、このキングの目にはお見通しですぞ!!!!」

('A`)「ところで木本さん」


『節穴かよ』という言葉をすんでのところで飲み込み、オタクブス特有の早口語りが始まるよりも先に先手を打った

257 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:10:15 ID:Y6pO/fks0
('A`)「今日は文彦くんと会う約束を?」

(;@з@)「いえいえ、全くの偶然でござるよ。しかし文彦氏がこのゲリライベントを見逃す筈がないと踏んでおりました。拙者も幸運に恵まれ席を取れたので、ひょっとしたらと思って軽く見回ったのであります」

('A`)「仲が良いんですね」

(;@з@)「そりゃあ勿論、ミンミン民は志同じくする同士!!中でも文彦氏とは盃を交わした兄弟分と言っても過言ではござらん!!」

('A`)「ですが、彼は最近……」


と、文彦の近況を切り出した途端、木本は真剣な眼差しでズイと顔を寄せた。酷い体臭が徳雄を襲う。カードゲームショップみたいな臭いだった


(;'A`)「なん、な、なんすか?」

(;@з@)「文彦氏とは『あの日』以来、連絡が取れず仕舞いでありました。足繁く自宅へと通いましたが、今日の今日まで会えた試しはござらなかった」

(;'A`)「はぁ……それで?」

(;@з@)「宇都宮氏をミンミン民の同士と見込んで、恥を忍んでお頼み申し上げたい。どうか文彦氏を、チャリオッツの世界へと連れ戻す手伝いをしてもらえませぬか?」

258 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:11:54 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「はっ?ちょ、ちょっと待て」


友人である筈の文彦を差し置いて、真っ先に『友人の友人』である徳雄に声を掛けた理由が判明したが、それにしては『出来過ぎている』
『クズの差し金か?』と考えたものの、アレはここまで回りくどい手段を使わないだろう
文彦の両親か猫山が手を回したのだろうか?だとしても、徳雄の周りにはまずいない真っ当な常識人が、連絡を怠るとは考え辛い


(;'A`)「お前、それ……」


混乱した徳雄の頭が導き出した返答は


(;'A`)「誰かに指示でもされたのか?」


我ながら素っ頓狂だなと呆れるものだった


(#@з@)「し、指示!?失敬な!!キングたる者、誰に指図されずとも、友の助けになるのは当然でござる!!」

(;'A`)そ「っ……!!」


そして、プンプンと汚らしく憤慨する木本を見て、『当然の反応か』と反省した
ここ暫く、陰謀と策略にまみれた日々を送っていたからか、人の『真心』というものを忘れてしまっていた
陳腐な言葉は好きではないが、ここまでくると『運命』とやらの存在を信じざるを得ない
それも腹立たしいことに、徳雄にとっては苦痛しか生まなかった『ミセリ』という存在のお陰だった
この時ばかりは、あの虫けらの化身が女神に思えてしまった。崇拝こそしないが、徳雄は内心で感謝を告げた


(;'A`)「木本!!」

(;@з@)そ「お、おお!?な、なん、拙者が何か!?」


この出会いを活用しない手はない。手早く事情を説明しようとしたその時、徳雄のi-ringの通知音が、彼の興奮を鎮めた


(;'A`)「ッ!!」


地理情報と一緒に、簡潔なテキストメッセージが一文添えられている。『出会った。急げ』。徳雄が木本と会話している少しの内に、作戦は本番に入っていた
既に物販の待機列に文彦の姿は無い。間の悪さに思わず舌打ちをし、ゴツゴツと親指の関節で額を叩いて切り替えた

259 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「お前、時間あるか?」

(;@з@)そ「う、打ち上げにござるか!?ちょ、ちょっと待って下され。母上に連絡を……」

('A`)「後にしろ。着いてこい」

(;@з@)「え、ええ〜……同じタイプのオタクだと思っていた人が豹変してタイプ:ワイルドになった件について……」


そう、いつの間にかタイプ:ワイルドなのである。なんかボソボソうるさい木本を半ば強引に連れ出し、地理情報に示された場所を足早に目指す
マップのポインターは予定通り会場横のゲームセンターに刺されている。歩いて向かってもさほど時間は掛からない。つまり、文彦の過去を深く聞き出す猶予もない
しかし、木本の登場は元々想定外の出来事。文彦の蟒蛇脱退の真相は、この先にいる連中に直接訊けば良いだけの話


(;@з@)「宇都宮氏!!狭い日本そんなに急いでどこに行くのでござるか!?」

('A`)「喧嘩を売りに」

(;@з@)そ「なぬーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?????せ、せせせ、拙者、暴力など振るったことはござらんぞ!!!!!????」

('A`)「だろうな」

(;@з@)「そ、それに!!失礼ながら宇都宮氏も強そうには見えませぬ!!再考を進言いたしますぞ!!」

('A`)「あのデブを助けてえんじゃねえのか?」


徳雄は足を止め、彼へと向き直る。大きなロスタイムだが、木本の存在は文彦の強い後押しになると確信している以上、得られるリターンは大きい


('A`)「お前は言ったな?『文彦をチャリオッツの世界へ連れ戻す手伝いをして欲しい』と。俺の目的も同じだ。奴には、俺の目標をぶっ殺す為の露払いをして貰いたい」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?お主、何をするつもりでござるか……?」

('A`)「これから向かう場所に、蟒蛇の連中がいる。俺が文彦に絡むように仕組んだ」

(;@з@)そ「は?え?な、なな、なんてことを……」

('A`)「言葉で立ち直れねえってのは、俺より付き合いの長ぇお前も分かってるはずだ。トラウマの乗り越え方は人それぞれだが、俺は『ブチのめす』のが一番手っ取り早いと思う」

(;@з@)「ま、まさか……け、喧嘩というのは……」


察した木本は震える指先で、喧嘩の舞台となるゲームセンターを指さした

260 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:29 ID:Y6pO/fks0



(;@з@)「プロ団体『蟒蛇』と、チャリオッツで対戦するということでござるか!?」




血の気が引いた木本へ、徳雄は不敵な笑みを返す




('∀`)「そのまさかよ」




木本はここに来てようやく、自分の目は節穴だと気付いたのであった

261 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:15:49 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「わ、我々の他に助っ人を呼んでおられるのでござるか?」

('A`)「いいや?俺とお前だけ」

(;@з@)そ「無理無理無理無理!!蟒蛇は国内トップクラスのアタッカー集団ですぞ!?開始数秒もせずスクラップになるなど火を見るよりも明らか!!下手すると文彦氏は二度と立ち直れませぬ!!ここは穏便に連れ戻し、力強く説得を……」

('A`)「木本」


僅かに放たれた殺気が、木本より小さく醜い徳雄の姿を『鬼』のように恐ろしいモノに見せた
それと同調するように、混乱と焦りも一気に引いていく。彼の頭に、徳雄の言葉が入り込む隙間が出来た


('A`)「出会って間もねえ俺を信じろってのも無理な話なのは重々承知してる。無茶を頼んで済まないとも思っている」

(;@з@)「……」

('A`)「だが俺だけじゃ、文彦を連れ戻す自信がない。俺も最近、たった一人のダチに救われたクチだ。お前はお前が思っている以上に、あいつを助けられる力がある」

(;@з@)「せ、拙者が……?」

('A`)「俺も最善を尽くそう。だからここは一つ、お前の『男気』を貸してはくれねえか?」


宇都宮 徳雄は人生の半分を暴力で過ごしてきた男である。時には他人の手を借りて、大規模な喧嘩を楽しんだ事もあった
そんな連中を説き伏せる時の常套句として有効だったのが、『男気』という言葉だった。徳雄にとっては二字熟語以上の意味を持たないその言葉は


(;@з@)「わ、わかり申した!!この木本王太郎、一世一代の大喧嘩に助太刀致す!!」


『フィクション』を嗜む者にとっては、絶大な効力を発揮したのだ


('A`)「助かるよ」


『扱い易くて』と無言で付け足し、まんまと発破に掛けられた木本を引き連れ再びゲームセンターを目指す
他人を意のままに操るのは、何にも代え難い快楽だ。邪悪に引き上がった口角は、熱に当てられた木本の目には映らなかった

262 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:17:19 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^^)「オタクくんさぁ、別に取って食おうってんじゃねーんだから逃げなくてもいいじゃんwwwww」

(; ω )「お、す、すいません……」

(  ゚∀゚ )「チームメイトだったんだからよぉ!!挨拶の一つくらいすんのが筋ってもんじゃねーの!?」


ゲームセンター横の自動販売機が立ち並ぶエリア。絶妙に人目を避けられる場所で、文彦は複数人に絡まれていた
『蟒蛇』らしき連中は、どれもチャリオッツのプロ集団なだけあって体躯が良く、そして周りを威嚇するかのような派手な髪色やピアスが、道行く人々の足を早まらせた
そんな中、落ち着きなく周囲を見回す男が一人。それは徳雄にとっては見知った顔で、この計画の仕掛け人として利用している者であった


(=;゚д゚)そ 「ッ!?」


高城 貴虎の視線が徳雄を捉えた瞬間、顔色が一気に青ざめる。徳雄は人差し指を唇の前に立て、『余計な事を抜かすな』と釘を刺した
文彦に絡むその他五人は、如何にもなヤンキーのようで、狙い通り小馬鹿にするような言動を繰り出していた。好都合だった


('A`)「手筈通りに行くぞ木本。ビビらずにガツンとブチかませ」

(;@з@)「りょ、了解したであります!!お、おい!!お前ら!!」


制止の声にビクリと肩を弾ませた蟒蛇は、その声の主を確認した途端、元のニヤケ面に戻った
傍から見ればオタクブスが二人現れただけ。彼らにとっては見下す対象が増えただけだ


:(=;゚д゚): 「……」


仲間内の一人が必死に身体の震えを必死で抑えようとしているのにも気づかなかった

263 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:19:49 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「き、木本くん……と」


ほんの少しだけ、文彦の表情に安堵の色が見えた。それは木本の登場よりも、その隣にいるヤベー奴の存在からであった


( ^^)「おっ、ヒーローくんとうじょーwwwwww良かったな内藤wwwww」

(  ゚∀゚ )「つーか何勘違いしてんのか知らねーけどよぉ、俺ら元チームメイトと親睦を深めてただけだべ?」


('A`)(あーあー……)


取り囲んで交流もクソもあるものか。これまたいじめっ子の常套句。猫山から『素行が悪い』と聞いていたが、ここまでコテコテとは
徳雄は失笑を抑え込みながら、蟒蛇のメンバーのとある『共通点』に気が付いた。高城を始め、全員が美男子の類なのだ


('A`)(なるほど……)


何となく、文彦が蟒蛇を脱退させられた理由がわかったような気がした


(#@з@)「ふ、ふみ、ふみ文彦氏を解放するであります!!彼はミンミン民の同士!!貴様ら如きが愚弄していい者ではござらんぞ!!」

「くはっwwwwそうなんだwwwww『ふみふみひこ』くんwwwwww」

(;^ω )「は、ははは……」


文彦は同調するように笑いながら、媚びた目つきで徳雄に助けを求めた


('A`)「……」


当初の作戦では、木本の役回りは徳雄が行う手筈であった。徳雄の外面である『醜い弱者』を利用して、相手に挑戦を受けさせるよう誘導するつもりであった
人は自分より弱い者からの挑戦であるなら、胸を貸す想いで。もしくは、『虐げて楽しむ為』に、快く引き受ける。
人気ゲームのプロ集団と比べ、ただの一介のオタクでは、社会的ヒエラルキーに大きな差がある。その為のきっかけを作るために、滑稽な抵抗を演じる筈だった
だが、友の為に必死に勇気を振り絞る者と、ただ黙して強者に縋る者を見て、思ってしまったのだ。『アホくさい』と


(#@з@)「な、なにゅが可笑しい!!」


怒りが先走り舌が回らない木本に対してドッと笑い声が沸き上がる。彼の健気な友情と勇気すら、連中にとっては嘲笑の種にしかならない
ミセリグッズが詰まった紙袋を持つ木本の手が、怒りでブルブルと震え出した

264 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:21:00 ID:Y6pO/fks0
(#@з@)「文彦氏!!このような低俗な輩に付き合う必要などござらん!!早くここから立ち去りましょうぞ!!」

(;^ω^)「あ……」


頭に血が昇って作戦内容を忘れたのか、輪の中で小さく縮こまる文彦を連れ出さんと力強く詰め寄ったが


(  ゚∀゚ )「低俗ってなんだよオイ」

(;@з@)そ「うっ!?」


金髪坊主頭の側面にハートラインの剃りこみを入れた男が、強く身体を突き飛ばす
木本の手から離れた紙袋が、地面を滑って中身を曝け出した


(  ゚∀゚ )「お前らみたいなキモオタがアニメの女でシコってる間、俺らプロは鎬削ってファンを盛り上げてんだよ。偉そうに説教できる立場か?あ?」

( ^^)「あー、これこれ。ミセリだっけ?内藤も好きって言ってたよっ……」


(;@з@)「や……」

(; ω )そ「……ッ!!」


( ^^)「なぁッ!!」


彼らの偶像を足蹴にしようと、優男が大きく脚を上げる。そして―――――




('A`)「……」




靴底は、小さく醜い男が差し出した、足の甲で受け止められた

265 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:23:16 ID:Y6pO/fks0
(;^^)そ「なっ……!?」


踏み込みによって多少沈んだものの、徳雄の足はミセリグッズの頭上でピタリと止まった
そこから軽く蹴り上げると、優男はもんどりを打って尻もちを突く。蟒蛇は驚嘆の声を上げ、身構えた


(;@з@)「???????」

('A`)「……」


(#^^)「な……なんだテメエ!?」


恥をかかされた優男には見向きもせず、徳雄は散らばったミセリグッズを丁寧に袋へと仕舞い、倒れた木本に手を貸して立ち上がらせる


('A`)「平気か?」

(;@з@)「あ、あり、ありが?」

('A`)「大丈夫そうだな」


何を見てそう思ったのか。徳雄は紙袋を木本へと返し、蟒蛇と文彦へと向き直る


('A`)「人の趣味にケチつけるのは勝手だが、足蹴にするのは良くねえな。兄さん方」

( #゚∀゚ )「何かっこつけてんだ殺すぞゴルァ!!!!!」


胸倉を掴み上げ恫喝する金髪坊主に、徳雄は声一つ震わせずこう返す


('A`)「落ち着けよ。こんな往来で暴力沙汰起こすつもりか?鎬削ってファンを喜ばせるプロのプライドはそんなに安いか?」

( #゚∀゚ )「こいつッ……!!」


人目に付きづらいと言っても、商業施設の真横である。喧嘩の一つでも起これば通報する者も出てくるだろう
しかし、『ザコ』にやり込められた屈辱と、それに伴う怒りは、発散の機会を求めて胸中で沸き立った

266 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:24:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「わかるよお兄さん。オタクくんにいい様にやられて悔しいんだよな?一発ぶん殴ってスッキリしてえんだよな?」

( #゚∀゚ )「一発で済むと思ってんのか……?」

「なぁ、ちょっと落ち着けって……ほっとけばいいじゃねえかそんな奴ら……」

(#^^)「蟒蛇が無礼られたまま黙ってろってのか!?ああ!?」


冷静なメンバーもいるようだが、優男の一喝で口を閉ざした。どうやら、この二人がグループのリーダー格らしい
看板の威光を借りるのはさぞかし心地よいのだろう。汚名を被るのがどうにも我慢ならないように見えた


('A`)「そんなら、ちょうどいい決着の付け方があるじゃねえか」

( #゚∀゚ )「あ!?」

('A`)「『プロゲーマー』なんだろ?」


親指で示す先には、ゲームセンターの野外広告スクリーンに映る、爆炎をバッグに戦場を駆ける『自転戦車』
金髪は暫くポカンと呆けた後、徳雄の行動の意味を飲み込むと、額の青筋をもう一本増やし


( #゚∀゚ )「ふざけてんじゃねえぞッ!!!!!!!!!」


徳雄の頬に拳を浴びせた

267 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:25:46 ID:Y6pO/fks0
('A )「っ……」

(;@з@)「宇都宮氏!!」

「何考えてんだやり過ぎだ馬鹿!!」


怒りに任せもう一撃喰らわせようとした金髪を、仲間が羽交い絞めにして引き剥がす


( #゚∀゚ )「なんで俺らプロがお前らみたいなザコ相手にしなきゃならねえんだよ!!勝負になると思ってんのか!?あ!?」

( ^^)「もういいわ殺そうぜこいつら」

「やめろって!!蕗也さんにバレたら今度こそ追い出されんぞ!!」

「お前らはサッサと消えろ!!」


怒りを全面に露わにする金髪とは対照的に、冷たい真顔へと変化した優男が、仲間の制止を振り切って徳雄の胸倉を掴み路地裏へと引き込もうとする


('A`)「……」

(;^^)「あ、あれ?」


ただし、優男よりも頭一つ低く醜い男は、その場から一歩も動かなかった。優男は二度、三度と力を込めて引っ張るが、下手なパントマイムが繰り広げられるだけだ

268 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:27:05 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?」


異様な光景に、オタクもヤンキーも困惑を浮かべる。ただ一人、徳雄の過去を知る者だけは


:(=;゚д゚) :「……」


血が滲むほど親指を噛み締め、治まる所を知らない震えを止めようとしていた
そして鉄の味が広がる口内の奥、誰にも聞こえない声量でひっそりと呟いた


『始まった』と


('A`)「俺は、別に」


抑揚無く淡々と、感情も熱も無い静かな声は、『この場の誰一人としての口答えを許さない』と圧を放つ
一番興奮していた金髪が、荒い息を唾液と共に嚥下したのを見計らって、徳雄は言葉を続けた


('A`)「ヒト気のねえ場所でフクロにされても構わねえがぁー……あー、非力で陰湿なオタクなもんで、SNSで陰口溢すくらいが精いっぱいだな」


トン、と優男の胸を人差し指で突く。胸倉から手がこと切れるかのように離れ、押されるがままに後ずさった


('A`)「ああでも、アンタらデカデカと公言してたよな?蟒蛇だ、プロだの。俺ぁ、あんまチャリオッツの事ぁ知らねえんだけどよ。『ジャイアンツ』や『タイガース』みたいなもんだよな?」

('A`)「良いねえ紙面が盛り上がりそうだ。俺の名前は隅っこで構わねえから、一面はアンタらがデカデカと飾れよ。頭も丸めてサッパリするチャンスだぜ?」

269 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:28:31 ID:Y6pO/fks0
トン、トンと立て続けに胸を突く。後ずさりを続ける優男の足は、仲間の身体にぶつかって止まった
何てこともない脅しだった。蟒蛇は元々『ワル』を売りにしている。妬みによる事実無根の悪質なデマなどネット上に幾らでも転がっている
ネームバリューも何も無いブサイクが一人、SNSで被害を報告しようとも、熱心な『ファン』によるありがたい援護で掻き消えてしまう
そんな堅固な後ろ盾が、この男の前では急に頼りのない紙切れに思えてきたのだ


(;^^)「……」


怒りとはまた違う、有無をも言わさぬ静かな迫力に飲まれた優男は、目の前の妙で醜い小男から目を逸らせ無かった
しかし、間もなく我に返り始める。『何故ここまで怯まなければならないのか』と
芝居がかった台詞で怯ませているだけだ。今までおちょくってきた、何にも成れない有象無象の弱者共が取らなかった行動に少し驚いただけだ
化けの皮を剥がしてしまえばこれまで通りのザコなのだからと


(#^^)「やってやるよ……」


再燃した怒りは、プロプレイヤーの矜持を激しく燃やし尽くした。あるのは『叩き潰す』という殺意だけ
元より、彼らが背負う看板は撤退を許さない。『蟒蛇』は、戦いを挑む者を全て呑み込む自転戦車界の破壊王でなければならない
老若男女、プロアマ、オタクだろうと見境なく、容赦なく。恐れ多くあらねばならない


('A`)「賢明な判断だな」


徳雄の言葉とは裏腹に、彼らは賢明から程遠い状態にあった。爛々と据わった目は、生きるか死ぬかの瀬戸際で狩りを行う獣の様であった
宇都宮 徳雄は人生の半分を喧嘩で過ごした男である。長年の経験から、この手の連中の心理状態は手に取るように理解出来た

『我慢ならない』

見下していた者に見下され、馬鹿にしてた者に馬鹿にされ、支配していた者に支配される
立場が逆転する事に対して恐れを抱き、目の前の敵を排除しようと心理が働く
これまでの人生で、劣位の立場にいる時間が少ない者ほど、侮辱は的面の効果を発揮した
宇都宮 徳雄は自身の容姿から、物心ついた時より『底辺』と見做され人生を歩んできた。その最大の強みは


('A`)「『対戦よろしくお願いします』」


『無価値』であること。そしてそれは敵を作るのに最も適した立場であった

270 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:30:29 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



チャリオッツの筐体の前では、人だかりが出来上がっていた
『蟒蛇』が一般人、それも『スポーツ』から程遠い風貌のオタクを相手にすると聞き、ある者は推しチームのプレイを見学に、ある者は時間潰しに
また、ある者は一方的に蹂躙される弱者の哀れな姿を笑いに。誰もが軽い気持ちで集まっていた


(  ゚∀゚ )「ハンデはいるか?」

('A`)「欲しいならくれてやるよ。なんなら目を瞑ってやろうか?」


身の丈に合わない大きな口に、観衆から「おお」と、嘲笑混じりの感嘆が上がる。録画まで始める者もいた


( #゚∀゚ )「なら全力で殺してやるよ。こっちはフルパで行く。お前から売った喧嘩だ。卑怯だなんて言わせねえからな」

('A`)「それで足りんのか?大した自信だな」


飄々と軽口を返す徳雄に、青筋を浮かべながら威嚇のように歯を剥き出して嗤う
チャリオッツは自らの土俵。相手は名も知れないただの『カモ』だ。後悔するのは時間の問題だと


(;^ω )「……」


( ^^)「ふ・み・ひ・こ・くぅ〜ん」


青白い顔でミセリの紙袋の取っ手を両手でギュウと握りしめる文彦に、優男がおちゃらけた調子で肩に腕を回す
木本が咄嗟に引き剥がそうと動いたが、徳雄が腕を掴み引き留めた

271 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:31:15 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「宇都宮氏、あれは見過ごせませんぞ!!」

('A`)「良いんだほっとけ。それよりお前、『キャプテン』の経験はあるか?」

(;@з@)「ご、ございませぬ。それに、拙者のようなズブのふくよか素人を乗せるくらいなら、キャプテン不在の2名で走った方が幾分勝機があるかと」

('A`)「……」


『ふくよかで済むレベルかよ』という言葉は、すんでの所で飲み込んだ


('A`)「わかった。他にアドバイスは?」

(;@з@)「短期決戦、これに尽きるでしょうな。それと、文彦氏が得意とする6shooterはご存知の通り固定砲で射程距離も短い。照準は宇都宮氏の手腕に掛かっていると心得るでござる」

('A`)「つまりどうすりゃいいんだ?」

(;@з@)「『目の前』に相手がいる場面を作り出すのでござるよ。照準が合いさえすれば、文彦氏は敵が誰であろうと反撃の余地を与えず屠るであります」

('A`)「なるほど、了解した」


優男が文彦から離れ、ニヤニヤと徳雄を嘲笑いながら金髪と同じ筐体へと乗り込む


(=゚д゚) 「……」


影の協力者は乗り込む間際、徳雄にチラと目配せし


(=#゚д゚) 「……殺してやる」


過去の怨恨をこの場で晴らそうと、堂々の宣戦布告を放った

272 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:32:26 ID:Y6pO/fks0
('A`)「……」


『堪らない』。身も心もズタズタにした筈の喧嘩相手が、舞台を変えただけで二度も牙を剥いてくれる
それをもう一度へし折る機会が巡っただけでも、彼を巻き込んだ甲斐はあった


('A`)「オラ行くぞ」

(;^ω )「い、嫌だお」

('A`)「間違えた。『行け』」


蟒蛇が乗り込んだのを確認し、徳雄は文彦の首根を引っ掴んで筐体の中へと蹴り入れる。前列の観衆は、その乱暴で容赦無い扱いに、ピタリと嗤うのをやめた


(;@з@)「宇都宮氏!!」

('A`)「木本、世話になったな。万が一ってことがあるから、お前は先に……」


(;@з@)「『本気で勝つ気』で居られますか!?」


助言でも、応援でも無く、木本は真っ直ぐに徳雄へ問うた。自らの湿気で曇るメガネの奥、瞳に力強い決意の光が灯る
徳雄は直感的に、彼が何らかの手を打とうと考えていると悟った。その為に、『2対1』の不利な戦いに勝利する必要があることも
『万が一』、そう言った。だが、元より敗北を勘定に入れた喧嘩を起こすはずもない。徳雄の返答は


('A`)「当然」


二文字。此方も揺るぎない決意の表れであった

273 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:33:52 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「左様でござるか。なら拙者も、拙者に出来る戦いをするでござる」

('A`)「頼もしいな。煮え切らねえデブにお前の爪の垢を煎じて飲ませてえよ」

(;@з@)「こんな血の沸る戦い、挑まねばオタクの名折れでありますからな!!奴らに、本気を出した『ミンミン民』の恐ろしさ、思い知らせてやるであります!!」


最後に、木本は直立不動の敬礼を贈る。仰々しい行動に、観衆からはまた笑いが起こったが、黙らせるのも馬鹿らしくなる程に、徳雄の目には誇り高く映った


(;@з@)「ご武運を!!」

('A`)「ありがとよ」


感謝と共にサムズアップを返し、徳雄は筐体へと乗り込み扉を閉める
ゲームセンター内で渦巻いていた喧騒と電子音はピタリと止み、球体の中では二人の息遣いだけが聴こえた

274 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:34:52 ID:Y6pO/fks0
(;^ω )「帰りますお」

('A`)「帰さねえよ」

(; ω )「帰る」

('A`)「ダメ」


( ;ω;)「帰るっつってんだお!!!!!!!!これ以上僕を虐めてどうするつもりなんだお!!!!!!!!」


オウオウと両手で顔を覆い大号泣を始めてしまった文彦に、徳雄は大きな溜息を吐く。そして胸倉を掴み上げ、叩きこむようにガンナーの席へと座らせた


('A`)「今から送るプリセットデータを入力して機体をセットアップしろ」

( ;ω;)「ああああああああああああああ!!!!!!帰る、帰るうううううううううううううう!!!!!!」


まだ子供とは言え、十六にもなる男は三歳児のように駄々をこねる。淡く光るドームスクリーン内に、酷く耳障りな泣き声が響いた
徳雄はそんな哀れで情けない文彦を前に、怒鳴りも諭しもしなかった。ただ両手を広げ勢いよく―――――


( ;ω;)そ「ヒッ!!!!」


『叩き鳴らした』。狭い球体の中で乱反射した破裂音が、頬をぶったかのような錯覚を起こさせる
文彦を痛みを伴わないショックで黙らせた徳雄は、調子を崩さず淡々と語り掛ける

275 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:03 ID:Y6pO/fks0
('A`)「あのクソザコに何言われたかは大体の見当がつく。いじめっ子の手口なんざ訊くまでもねえよ。だがな」


座席の背もたれにドンと肘を突き、徳雄は顔を文彦にグイと寄せた


('A )「連中の何倍も恐ろしい仕打ちを、今すぐ与えてやってもいいんだぞ?」


『ミシ』と軋んだ背もたれの音に、文彦の心臓は縮み上がった
美味しい土産を受け取って、ズルズルと関係を引き延ばしたツケが、今まさに巡って来たのだと、余りに遅い後悔をした
文彦がかつてのチームメンバーに囁かれた甘言は、『わざと負けたら見逃すどころか、蟒蛇に戻れるように口を利いてやってもいい』
完全な口約束で、守られる保証などこれっぽっちも無い。仮に指示通り負けたとしても、それをネタに徳雄共々嘲笑われるだけだろう
だが、馬鹿にされるだけで済むなら耐え忍んでおしまいだ。これまで通り、いや、これまで以上に、チャリオッツから離れて自宅という砦に籠る日々に戻れる


(; ゚ω゚ )「」


涙は血の気とパニックと共にサァと引いていく。誰にも聞こえない、誰にも見られない密室の中で、『殺人鬼』と閉じ込められたようなどうしようもない恐怖が襲う
これまでの付き合いで、文彦は徳雄の身の上も、足繁く通うワケも、全くと言っていいほど訊かなかった。それでも、これだけは理解できる


('A`)「どうすんだ?え?」


遊び半分でからかってくる蟒蛇や、学校の連中とは比較にならないほどに、目の前の男は『凶悪』なのだと

276 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:58 ID:Y6pO/fks0
(; ゚ω゚ )「やり……ます……」


拒否権など最初から与えられていなかった。目的を達成しなければ、彼は『恐ろしい仕打ち』を何の躊躇いもなく行使するのだろう
自身の過去も、蟒蛇を脱退したワケも、引きこもっている理由も、癒えずにいる心の傷も、その全てを自力で乗り越えようともしない自己嫌悪すら
文彦に関するありとあらゆる『言い訳』が、徳雄には『関係がない』のだ。優しさを持って悩みに寄り添い牛歩の速度で問題解決に臨むよりも


対象を『恐怖』で支配して、意のままに操る方が手っ取り早いのだから


('A`)「助かるよ」


『これまで』そうしてきたように、『これから』もそうしたまで。徳雄は文彦の肩を労うように軽く叩くと、ジョッキーの操縦席に乗り込んだ


(;^ω^)「フッ、フゥッ、あの、そっ、それで……?」

('A`)「ちょっと待て……送った」


文彦のi-ringに、チャリオッツ用のカスタマイズデータが受信される。文彦はホログラムとして掌に投影し、スクリーンへ向けて押し出した
四角い光体がスクリーンに吸い込まれていくと、立体音響スピーカーからドンと腹に響く砲撃音と共に、『Chariots』とタイトルロゴが映し出された
奥から湧きあがった爆炎がそれを飲み込み、晴れていくと共に『ガレージ』の内装へと変化していく。スクリーンの上部に表示された『60』の数字は、戦闘開始までの残り時間だった
チャリオッツはアーケード主体のゲームであり、回転率を損なわない為に敢えて余裕のない準備時間を設けている。チャリオッツを始めてプレイする者は、『オススメカスタマイズ』に表示された機体を使ってゲームを行う
常連プレイヤーとなれば、60秒以内にカスタマイズを完了させる者もいるが、専用のアプリを使って予め機体のプリセットを済ませておくのが大半だ

277 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:37:24 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「これ……」


チャリオッツは細かな追加装備を除いて、主に五つのカスタマイズ要素がある
防御性能を担う前・後・側の装甲。厚ければその分砲撃への耐性が上がるが、重量負荷も増加する
走行の面ではタイヤ。ステージ毎に変化する路面に合わせ、ある者はオールラウンドに。もしくは、ジョッキーの脚質に合わせて付け替える
チームによって最も色濃く特徴が現れるのは、最もオーソドックスな攻撃である『主砲』。爆発、貫通といった破壊目的の砲弾を放つ火力自慢の大砲や
手数で攻め落とす連射力に優れた機関砲。長距離からの狙撃が可能な長砲身タイプ。はたまた、妨害トラップを放ち相手の足止めを目的としたトリッキーな代物まで多種多様だ


('A`)「気に食わなければ好きに替えろ」

(;^ω^)「いや……」


前面には『チャージング・グリル』。車体から伸びる二枚のブレードの先端を合わせ、山型に取りつけた装甲だ
正面から衝突した際、敵の車体を抉り、側面へと突き飛ばす効力を持つ。また、傾斜装甲となっている為、砲弾によるダメージ分散にも繋がる

重厚な前面装甲に対し、側・後は共に『クリアボディ』という、防御力を犠牲に大幅な見晴らしと軽量化を得られる透明板となっていた
チームの『眼』となるキャプテンの不在を補う為の仕様だが、ゲーム用語で言う所の『紙装甲』であり、一発でも喰らえば即致命傷へと到ってしまう

タイヤは悪路特化のニードルスパイクが付いた『ヘッジホッグ』。荒野、砂漠、氷路では抜群の安定性を誇る反面、舗装された路面では最悪の乗り心地を車内へと届ける荒くれ者だ

278 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:38:52 ID:Y6pO/fks0
そして言うまでも無く、鎮座するのは回転式シリンダー搭載シングルアクション。連射速度は使い手次第、唯一無二の主砲――――


(;^ω^)「6shooter……」


ガンマンの誇りを体現したかのように、堂々の佇まいを魅せる文彦の『愛銃』だった



('A`)「時間ねえぞ」

(;^ω^)そ「あっ、も、問題ありませんお!!」


残り時間が二十を切った辺りで徳雄は痺れを切らした。呆けていた文彦は、慌てて銃座の正面に設置された『グリップ』を手に取り、トリガーを引く
スクリーンに『完了』と文字が浮かぶと、座席からシートベルトが自動で巻かれ、しっかりと固定された。ジョッキーである徳雄には、高所作業で使うような『ハーネス』が巻き付く
筐体照明が暗転し、立体映像がカスタム通りの車内風景を映し出す。ナノマシンで構成されたグリップが細かな砂を流すように変形し、六連シリンダーと『撃鉄』を作り出した
回転砲塔式の主砲なら、グリップを傾けた方向へと銃座及び車長席が回転する仕組みだが、6shooterはグリップ、銃口、銃座、車長席は常に正面を向くように固定されている

279 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:39:46 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……このカスタムは?」

('A`)「クズが組んだ」


文句の付け所は見当たらない。元より、『二人』でプレイすることを想定していたのだろう。大人がこぞってこの場を仕組んだことに愚痴の一つも溢したかったが
バケモノよりも恐れ多い男に口答えするほどの胆力は、残念ながら持ち合わせていなかった
そんな文彦の心情を察してか、徳雄は肩越しにチラと文彦を窺う。最早、一挙手一投足が怖くて堪らなかった


('A`)「悪いと思ってるよ」

(;^ω^)「え……?」


意外にも、徳雄が口にしたのは謝罪に近いものだった


('A`)「だけど時間が無くてよ。暴力と脅ししか能のねえ俺には、こんなブサイクなやり方しか思いつかなかったんだ」

(;^ω^)「お……」


座席が振動し、車体が『スターティングゲート』へと運ばれていく。天井からガンナー用のスコープゴーグルがゆっくりと降りてきて、文彦の頭上で止まった


('A`)「終わったら、気が済むまで土下座でも何でもするよ」


後悔に苛まれているのだろうか。俯き、背中を丸める姿が急にしおらしく、小さく見えた
『もっと話し合うべきだったんだ』。文彦は今の事態が、一方的なコミュニケーションしか行わなかった自分にも非があると自覚した
他の何よりを差し置いてもミセリ語りが重要なのは確かだが、合間にちょこちょこと互いの妥協案を探っていけば、彼が心を痛める必要も無かったのだろう

280 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:40:52 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「いえ……此方こそ、申し訳ないですお」


冷静さを取り戻した文彦の謝罪を背中に受けた徳雄はこう思った


('A`)(チョロいわ)


DV被害者が加害者から離れられない理由の一つに、『飴と鞭』による心理支配がある
暴力、暴言を繰り出す一方、僅かな優しさや弱さを見せることで、『あの人にも善良な面がある』と錯覚させ、マインドコントロールを施すのだ
強烈な『鞭』で叩きのめされた文彦に、自責の念に駆られる『弱い部分』を曝け出せば、向こうは勝手に『ある筈もない非』に囚われる
そこから先は、『自分を苦しめてまで僕にやり直す機会をくれた彼』に対する恩義に報いようと奮起する、健気な少年の出来上がりだ
『良心の呵責』。自らを省みる善き心は、皮肉にも『悪き者』にとっては都合の良い方向に働くこともある


('∀`)(愉しいなァ、オッサン方よ)


言葉巧みに人を操るのは、暴力と同じくらい面白い。心身共に『鬼』になり果てた男の笑顔を、文彦が見ることは無かった

281 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:42:03 ID:Y6pO/fks0
モード、『バトル・ロワイアル』
ステージ、『スモールフィールド』
制限時間、『600秒』
勝利条件、『敵陣営の殲滅』

前方スクリーンがゲーム内容を伝えると、一際大きな揺れと共に『ゲート前』へと到着する
鋼鉄製の扉の上部には、三つの丸いレースシグナル。その左端が赤く灯った


('A`)「お前、『勝ち馬』に乗ったことはあるか?」


続いて、真ん中が


(;^ω^)「え?ぽ、ポニーならあるお」


最後に右端が


('A`)「なら愉しんでいけや」


それら全てが一斉に『緑』へと光り―――――


('A`)「そいつの『乗り心地』ってやつを!!」


ゲートが開くと同時にペダルを強く踏み込んだ

282 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:43:04 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



チャリオッツの観戦モニター前には、続々と観客が集まってくる。店員ですら、職務を放棄して見物に訪れていた。その少し後方、自販機が並ぶ休憩コーナーで


(´・ω・`)「始まったな」


後方腕組み玄人面チャリオッツおじさんがi-ringの映像共有アプリで視聴していた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「キャプテン抜きでは、少々荷が重そうですねぇ」

(´・ω・`)「そうかぁ?」


本八は蟒蛇陣営のプレイヤー情報をタップし、ホログラムファイルを親指と人差し指で拡大する
チャリオッツはそれぞれチーム名と機体名を個々に設定できるが、彼らに関してはどちらも『蟒蛇』の後に『七番隊』『五番隊』と番号が振られているだけであった


(´・ω・`)「蟒蛇は実力主義の縦社会。プロに入っても団体内でトップ3のチームにならねえと『個性』すら認められねえ。連番隊ってこたぁ二軍、三軍もいいとこだ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「腐っても鯛っていうじゃないですかぁ?相応の実力があるのは確かです。軽い気持ちで勝てる相手じゃありませんよ」

(´・ω・`)「これがレース・ルールだったらな」

(´・_ゝ・`)「誰と喋ってんだお前」

(´・ω・`)「あれ?」

   ?      え?誰ぇ……?

i!iiリ゚ ヮ゚ノル (・ω・`;)「え?」

           誰なの!?恐いよォ!!


(#´゚ω゚`)「誰だテメー!!!!!!!!!!!!!!!!あっちにいけ!!!!!!!!!!!!!!!」


若くて可愛いチャンネーは突き出されてどっか行った

283 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:44:38 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「ここまでは徳雄くんの計画通りですね」

(´・ω・`)「いや、多分『計画以上』だぜ?」


盛岡に手渡された炭酸飲料をグビと飲み、『ライブハウス』方向を親指で差す。木本が向かった先でもあった


(´・ω・`)「勝敗次第だが、面白ぇもんが見れそうだ」

(´・_ゝ・`)「手助けは?」

(´・ω・`)「いらねえんじゃねえの」


『では』と一言断りを入れ、盛岡も席に着きコーヒーを傾ける。本八は『勝敗次第』と言ったが、微塵も『負ける』ビジョンが見えなかった
蟒蛇に挑む二人を知らない観客とは違い、本八と盛岡は知っている。『宇都宮 徳雄』が、最も実力を発揮する場を
スピーカーから『ドン』と轟音が響き、それに勝るとも劣らない驚愕の声が上がった。本八は、特に驚きもせずククと笑う


(´^ω^`)「あいつ、マジで良い性格してやがるぜ」


文彦の勧誘を徳雄に指示した際、『土俵に引きずり込んでみろ』と言った覚えがある。徳雄にとっての土俵は『喧嘩』であり、即ち『暴力』である
暴力とは相手の身体や尊厳を『破壊』する為に行使されるものであり、銃火器や格闘を伴う『対戦ゲーム』には切っても切れない要素だ
蟒蛇の持ち味が活かされるのは、速さを競うレースではなく、相手をありとあらゆる手段で攻撃し、破壊するバトル・ロワイアル。言わば彼らは、チャリオッツを使った『喧嘩自慢』なのだ


(´^ω^`)「自分の土俵を、『相手』に用意させるなんてな」


『喧嘩』と名の付くものであるならば、経験が浅かろうが徳雄の土俵に他ならない
バトル・ロワイアルは、『どちらの暴力がより強いか』を競い合うルールなのだから
本八と盛岡は、『宇都宮 徳雄』を知っている。それ故に、何方が泡を食う羽目になるかも知っていた


映像に目をやる。開始三十秒と少し、蟒蛇五番隊の車両が横転していた

284 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:45:28 ID:Y6pO/fks0
話は今朝まで遡る


('A`)「始めから飛ばしていいのか?」

(´・ω・`)「ああ」


徳雄が文彦とライブ会場に足を運ぶ直前、盛岡の運転する車内では簡単な作戦会議が行われていた


(´・ω・`)「レースルールならジョッキーのペース配分に気を配らなきゃならねえ。だが勝利条件が敵部隊の殲滅であるBRルールなら、最初っから全力ブッパも立派な戦略と成る」

(´・ω・`)「それと、世界中からプレイヤーを募って100チームが対戦するオンラインマッチとは違って、今回は店内マッチの小規模な戦いとなるだろう。つまり自ずと、ステージの広さも縮小される」

('A`)「決着が早くつく分、ジョッキーは存分に体力が使えるってことか」

(´・ω・`)「そうだ。BRルールはフィールドが狭ければ狭いほど、ジョッキーの『機動力』が勝敗を左右する」


優位ポジションでの潜伏、狙撃、強襲。言わば『静』の作戦を可能にするには、敵の目を掻い潜りながら目的地まで移動する『時間』を要する
フィールドが狭くなればその分、敵との距離が近くなり、会敵までの猶予は減る。待ち伏せて襲うリスクも高まる


('A`)「先に見つけてズドンがテッパンか」


相手より早く見つけ、相手より早く撃ち、相手の砲弾より早く避ける。スピード命のどつき合いこそ、小規模BRルールの醍醐味なのだ


(´・ω・`)「小規模故にもう一つ、存分に使える『HP』がある」

('A`)「答え言っちゃってんなそれ。チャリオッツ本体の『耐久値』か」

(´^ω^`)「オイオイ参っちゃうなぁ!!!!!!!!!!その程度で物知り博士気取りか!!!!????????小学生でも知ってんぞ!!!!!!!!!!!!クソザコ顔面!!!!!!!!」


盛岡が咄嗟に車窓をブラインドモードに切り替えたので、大企業社長の顔面に裏拳がめり込むシーンは見られずに済んだ

285 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:47:43 ID:Y6pO/fks0
(´メ)(メ`)「車体データを送るから、デブに入力させろ」

('A`)「どうも。早急に死ね」


本八から送られたプリセットデータを簡単に確認し、チャリオッツ初心者の徳雄は自分なりの試合運びを考えてみる
狭いフィールドと少ない敵。体力と耐久値を存分に使えて、機動力がモノを言う。この条件下を当てはめて考えれば考えるほど、単純な展開にしかならない


('A`)「……俺は今まで通りで良いってことか」


早急に求めていた答えを導き出した徳雄へ、クズは痛みの呻きと笑いを同時に発した


(´メ)(メ`)「フグゥ、気に入ると思うぜ。『チャリオッツ』っつーゲームがよ」


徳雄はこう返した


('A`)「何がフグだ」


何がフグなんでしょうね……

286 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:48:31 ID:Y6pO/fks0
『スモールコロシアム』。NPCやトラップの妨害は無く、遮蔽物として所々に積み上げた土嚢と、塹壕が掘られている
シンプルな作りだが、その分プレイヤーの技量が問われるステージであり、横やりのないタイマン勝負での使用率が高い

BRルールは初期スポーン地点はそれぞれランダムであり、先手を打つ為にいち早く相手を発見する必要がある
現状、キャプテンという目が無い以上、どうしても索敵の面で劣る。そこで徳雄はまず『目立つ』ことを目的に、スタートダッシュを全力で決めた
敵を見つけるのが困難ならば、敵に見つけて貰えばいい。右側面からの砲撃が、此方に居場所を教えてくれた
砲弾は車体後部を大きく逸れて着弾。後輪が僅か跳ね上がるが、画面上の耐久値を示すバーが僅かに減っただけで、走行に問題は無い
すぐさまハンドルを切り、硝煙を上げる敵車体を視界に入れる。銀と黒を基調としたパイソン柄の車体ペイントに、大きく『五』と記されている
照準を向けられたにも関わらず、彼らは回避行動を取らずに砲口の角度を調整した。二の矢で早々に勝負を決める腹積もりのようだった


蟒蛇五番隊の誤算、一つ目は


('∀`)「ハハッ」


次弾を、『真正面』から撃ったこと。『チャージング・グリル』の傾斜が、四分の一ほどの耐久値と引き換えに砲撃を明後日の方向へと弾き飛ばす


('∀`)「脚がお留守だぜ」


もう一つは、『そのまま突っ込んできた』ことである

287 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:07:27 ID:Y6pO/fks0
砲撃、アビリティ、NPCの他に、チャリオッツ同士の『接触』もダメージソースとして挙げられる。相手を妨害しようと体当たりをすると、双方の耐久値が減少するのだ
しかし『チャージング・グリル』のように『体当たり』自体を目的とした装甲を備えている場合、与ダメージは上昇し、被ダメージは抑えられる
破壊が主体のアタッカー集団『蟒蛇』の選手あるならば、そうでなくても、わざわざ解説せずとも知り得る情報である


『定石』


戦略、戦術、数多く。しかし、どのスポーツにおいても『基礎』となる動きは等しい。チャリオッツにおいては、初心者はまず『生存』を優先せよと教えを受ける
レースであるならば、敵を討たずとも一番にゴールをすれば勝利であり、BRルールなら、最後まで生き残れば勝利となる
プロである蟒蛇も多分に漏れず、最も勝率を損なわない『基礎』を忠実に守っていた。だからこそ、無意識下では『先入観』に捕らわれていた


『自爆するような真似はしないだろう』と


(;^^)「回h」


先入観が油断を産み、キャプテンの回避指示を


( ;゚∀゚ )「!?」


ジョッキーの脚に込める力を


『コンマ数秒』遅らせた

288 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:08:03 ID:Y6pO/fks0




(#'∀`)「そらよォッ!!!!!!!!!!」



『合掌造り』のブレードが五番隊の正面装甲を抉ると同時に、双方に大きな衝撃が襲う


(#'∀`)「ハハハハァ!!!!!」


『ヘッジホッグ』のニードルスパイクが地面を強く噛んでスリップを防ぎ、更に前へと押し出していく
グリルの傾斜に沿って五番隊の片輪を持ち上げ、そのまま力技で股下を通り抜けていく。『片足立ち』となった車体は、姿勢を戻すことなく―――――


(#'∀`)「ワンダウンだ、ザコ助ェ!!!!!!!!」


土煙を上げながら、彼らに向かって『腹』を見せた

289 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:09:04 ID:Y6pO/fks0
(; ゚ω゚ )「」


文彦は『宇都宮 徳雄』を深く知ろうとしなかった。彼が何の為にチャリオッツを始め、ジャパンカップに挑もうとしているのかも訊かなかった
バイク乗りがジョッキーに転向し、その過酷さを思い知って早々に挫折する者など掃いて捨てるほど存在する
このブサイクもその一人と成るのだろう。そうタカを括っていた文彦の認識は、この『三十秒』で覆された
特等席で『勝ち馬』を試乗した彼は、自らを満たす『快感』に困惑した。それは決して褒められるものではなく、世間一般では非難されるべき行為


('∀`)「愉しいなぁ、文彦ォ!!」


圧倒的な力を振るい、他者を蹴落とす甘美な加虐である


(; ゚ω゚ )「あ、そ、その」

(;'A`)そ「おっと!!」


11時の方向から飛来した砲弾が、チャージング・グリルのブレードを一枚撃ち抜く
車内まで貫通はしなかったものの、ジョッキー席の左半分が露わになる。徳雄は右ハンドルのシフトレバーを『R』へと切り替え、土嚢まで後退した

290 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:09:53 ID:Y6pO/fks0
(;^^)「いいぞ七番隊!!まずは俺らを起こせ!!」


助太刀に安堵の表情を浮かべた優男が、ハッチから身を乗り出して車体を叩き救援を要請する
『七』の数字が刻まれた車体は徳雄達へ追撃を行わず、先輩の指示に従って真っすぐに


(;^^)「ハハッ、いいぞ!!さっきは油断したがこれで形勢……」


速度を上げながら『真っすぐ』に向かって行き、そして―――――


(;^^)そ「てめえ何の真n」


五番隊の『腹』へと勢いよく突っ込み、塹壕の中へと叩き落とした


('A`)「……」


土嚢の影から味方討ちの現場を目撃した徳雄は、『次』に備えて息を整えることに注力する
画面左端のプレイログに『藪蛇五番隊、走行不能』と記され、残りチーム数が『2』へと減少した


(;^ω^)「ど、どうしたんでしょうかお?」

('A`)「さぁな……眠れるネコでも」



「宇都宮ァ!!!!!!!!!!」



('∀`)「起こしちゃったんじゃねえの?」

291 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:10:35 ID:Y6pO/fks0
画面端にワイプが表示され、怒気に溢れる高城の顔が映し出される


('A`)「どうした?気でも狂ったか?」

(=#゚д゚) 「……タイマンだ」


静かだが力ある一言は、文彦の耳にもハッキリ届いた。だが、『挑戦状』を叩きつけられた本人は、お道化た様子で耳に手を添えてこう返した


('∀`)「あ?なんだって?声が小さくて聞こえねーんだけど?」

(;^ω^)「ちょっとアンタ……」


(=#゚д゚) 「タイマンっつってんだ宇都宮ァ!!!!!!!!」


文彦は彼らの因縁を知る由もない。だがこれだけはハッキリわかった


(;^ω^)(絶対このブサイクが悪ぃお……)


('∀`)「いい歳してヤンキー漫画の読み過ぎかよ高城パイセン。お仲間と一緒にお手々繋いで挑んでくりゃ良かったのによ」

(#=゚д゚) 「うるせぇ!!!!!これは俺個人の問題で、俺にだけケリをつける権利がある!!!!!誰だろうと横槍は入れさせねえ!!!!!」

('∀`)「これまで相手してやった連中の中で、ワンワンと吠えてくる野郎が一番チョロかったぜ?ザコなんてどいつもおんなじだ。矜持以外に張れるもんがねえからな」


(;^ω^)(うわぁ……)


着々と負けフラグが積み上がっているようで気が気で無かった

292 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:11:35 ID:Y6pO/fks0
(=#゚д゚) 「無礼てんじゃねえぞ!!!!!末席だろうと俺ァ『蟒蛇』だ!!!!!てめえなんかにチャリオッツの勝ちまで譲る気はねえ!!!!!!」

('∀`)「先輩方であの体たらくじゃあ、アンタの底も知れるってモンだがなぁ」


徳雄は軽口を返しながら、iーringで現在時刻を確認する。筐体に乗り込んで大体五分ほどが経過していた。木本がどれほどの規模の仕掛けを施すかは知らないが、もう少し稼いでも損はない
本来の目的である文彦の意欲回復も成し遂げなければならない。『次』の算段は決まった。先ずはプライドの奪還に燃える高城の誘導からだ


('∀`)「再会した日はガッカリしたぜぇ!?相変わらず口だけはデカいザコ猫のままだった!!中学の時は楽しかったよなぁ!!小便撒き散らして俺に許しを乞うアンタの姿は、今思い出しても笑えるぜ!!」

('∀`)「喧嘩は弱ぇ度胸もねえ!!そんでやっとこさ見つかった仕返しが『ゲーム』たぁ、情けねえにも程がある!!」

('∀`)「出来んのかよお前に!?さっきまで後ろでガタガタ震えてた小便たれのクソザコが、タイマン勝負で俺に勝てると本気で思ってんのか!?ええ!?」


奇しくも、本来無関係の高城と文彦は立場が似ていた


(=#゚д゚) 「黙れ黙れ黙れェッ!!この界隈にてめえなんかの居場所はねえとッ!!」

(=#゚д゚) 「この俺が本当にッ!!矜持以外に張れるもんがねえかを!!!!今から思い知らせてやらァ!!!!!!!!!」


それは二人が『尊厳』を踏み躙られた者同士だということだ

293 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:13:37 ID:Y6pO/fks0
('A`)「だってよ」


映像通信が遮断され、身を隠す土嚢の一部が砲撃で弾け飛ぶ。徳雄はさして慌てもせず、文彦へと振り返った


(;^ω^)「だ、だってよって……」

('A`)「聞いてなかったのか?奴は今から、これまで培った全てを使ってテメーをボロクソにした相手にリベンジを果たそうとしてんだ」

(;^ω^)「そ……それが?」

('A`)「『お前』はどうすんだ?」


二発目で、土嚢の半分が消し飛ぶ。流石にマズいと、徳雄はペダルを踏み込んだ
先ほど横転させた『五番隊』は、ビギナーズラックで討ったと言っていい。復讐心を煽りに煽った七番隊を相手に、同じ手は使えない
つまり、この状態で勝つには此方も耐久値に依存しない反撃を行わねばならない。アビリティを扱えるキャプテンがいない今、残った手段は『砲撃』に限られている



「来いよ宇都宮ァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」



('A`)「やなこったっと……!!」


猛烈な勢いで迫る七番隊を背に、徳雄は逃げに徹した。頼りの前面装甲は半壊、側後装甲は一発でも喰らえば即大破は免れない
尚且つ、怒り昂るジョッキーを除いた二人のチームメイトは、比較的冷静な精神状態だ。少しでも気を抜けば、五番隊と同じ末路を辿るのは避けられない
綱渡りの逃走の中、文彦の説得に使える時間は僅かだ。一から十まで説き伏せる必要は無いものの、徳雄の心には少々の焦りが芽生え始める


(;'A`)「お前が蟒蛇に何されたかなんて、俺らにとっちゃどうでもいいし、聞いたところでどうしようもねえ……っぶねッ!!」


車体の左上部を砲弾が掠め、薄氷に石を投げ入れたかのように『クリアボディ』に皹が走る
互いの距離感は二百メートルそこそこ。重量差から徐々に引き離してはいるが、射程範囲からは逃れられそうになかった

294 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:14:45 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「重要なのは、お前は連中を『どうしたいか』だ!!」

(;^ω^)「!!」


正面に土嚢が迫る。右にフェイントを入れて、進路を前に戻す。つられた砲弾が、地面を深く抉った
土嚢を残ったブレードで押しのけ、砲撃の影響で土煙が上がった右方向へと舵を切る。『ヘッジホッグ』の踏ん張りが災いし、車体は慣性に従って左に傾いた


(#'A`)「クソがッ!!」


ペダルの踏み込みと同時に重心を右へと寄せて修正し、視界が悪いうちに塹壕へと潜り込んで急停止する


(;'A`)「ハァッ、ハァッ……クソ、まだ慣れねえな……」


バイクレースでは『砲弾』など襲って来ない。VRゲームは非現実が売りだが、やり慣れていない者には未知のプレッシャーを与える


(;'A`)「猫山さん言ってたぜ?『贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二』だと」

(;^ω^)「……」

(;'A`)「お前の手に握ってるモンは、この車体に乗っかってる砲は、そんでこのゲームは、自分の才能で合法的に相手をぶん殴れるモンじゃねえのか?」


「どうした宇都宮!!逃げ腰かァ!?デカい口叩いてんのはどっちだ!?あァ!?」


タイヤが土を蹴る音が近い。煙に撒くのは成功したが、見つかるのは時間の問題だ


(;'∀`)「ああ、悪ぃ悪ぃ。今更説くまでもねえよなこんなしょうもねえこと。お前はその快感を既に知ってるんだからよ」

(; ω )「……」


徳雄が五番隊を横転させた時の快感に、文彦はどこか懐かしさを覚えていた
それは自らの砲撃で、相手からキルを奪った瞬間と酷似していたからだ

295 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:16:22 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……宇都宮さんは」

('A`)「なんだ?」

(; ω )「どうして、チャリオッツを始めようと思ったんですかお……?」


質問をした本人は、その答えを思い出せなかった。プロになるもっともっと以前、初めてガンナーの席に座った時の気持ちを忘れていた
徳雄は20代前半だ。若いとはいえ、ジョッキーを始めるには少し遅いとも言える年齢。何故、この時になってチャリオッツを、日本最高峰の大会を制しようと思ったのか


('A`)「知れたこと」


徳雄の答えは、文彦の初心と全く一緒だった


('∀`)「愉しいからよ」



(; ω )そ「ッ!!」




.

296 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:17:09 ID:Y6pO/fks0
ただし


('∀`)「調子乗った連中を蹴落とすのがな」

(;^ω^)「ええ……」


余計な一文が追加されてなければの話だが

297 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:18:48 ID:Y6pO/fks0
('∀`)「愉しい愉しい愉しい!!愉しくて仕方がねえ!!こんな世界があるんなら、我慢なんてせずにサッサと始めりゃあ良かった!!」


狂ったかのように嗤い始めた徳雄は、車体を急発進させる。すぐ側まで迫っていた七番隊が、反射的に砲撃する
今度は右側面の装甲に命中し、柔いクリアボディがパンと弾けた。耐久値のバーがゴッソリと減り、黄色に変化する


('∀`)「自分が強いと思っている奴を半殺しにするのが愉しい!!自分が優れていると思っている奴を貶めるのが愉しい!!神に感謝したことだってあるぜ!?俺を腐った見た目と性格にしてくれてどうもありがとうとな!!」

(;^ω^)そ「い、イかれてんのかお!?」

('∀`)「俺の唯一のダチはな!!強いし優れてるし見た目もハンサム!!その癖一度も驕ったことのねえ非の打ち所がない完璧野郎だ!!そんな最高の男を、チャリオッツの大舞台でぶっ殺してぇ!!!!!!そりゃあ最高に気持ちが良いだろうぜ!!!!!!」


コンプレックスの裏返しだろうか。それにしては、心底愉しそうに話すではないか
きっかけはそうであったかも知れない。だが、この極地に到るまで徹底的に暴力を突き詰めたのだ
だからこそ強く、だからこそ恐ろしく、だからこそ『憧れてしまうほどにかっこいい』


:(;^ω^):


身震いが起きた。脳天から背筋に痺れが奔り、グリップを持つ手に力が籠る
この男に比べれば、蟒蛇の持つヒール性などお子様のごっこ遊びだ。目を背けたくなるほどの醜悪な『凶悪』に文彦は魅入られてしまった


('∀`)「文彦、お前は――――」


遂に砲撃が足下で弾けた。視界がブレるほどの衝撃が車体を転がし、スクリーン映像と筐体内部は縦横無尽に掻き回される
耐久値は風前の灯火だ。運良く車体が起き上がったとしても、ジャッジは走行不能の判断を下すだろう

文彦は、ゲーム内の挙動と連動して上下左右と目まぐるしく稼動するコクピットの中で、スコープゴーグルを掴んで顔に添えた

七番隊からは、紙装甲の車体が吹き飛ぶ無様な様が見えているのだろう。一度も砲口を向けられずに、完全勝利を成し遂げたと勝ち誇っているのだろう
耐久値は風前の灯火だ。だが、ゼロでは無い。僅かでも復帰の余力が残っていれば、試合終了のホイッスルは鳴らない

298 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:19:18 ID:Y6pO/fks0



( ^ω[◎]


スコープからは、洗濯機の中に放り込まれたかのように残像を伴って移り行く車外映像が覗えるだけだ
遠心力と重力によって座席から転がり落ちないよう、シートベルトが贅肉をキツく締め上げる。戦場でしか味わえない圧迫感に、気も引き締まった
七番隊が放ったのは火力重視の榴弾。貫通弾に比べて、被弾時には大きく車体が揺れ動く。軽車両なら紙細工のように宙へ舞うことだってある。今の状況は良い見本だ


恐らくは、出来る限り痛めつけた上で報復を叶えたいが故のチョイスなのだろう。文彦にとっては非常に好都合だった

299 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:20:42 ID:Y6pO/fks0
( ^ω[◎]


6shooterは固定砲であり、『前』にしか飛ばない不器用な代物だ。照準を合わせるのはジョッキーとキャプテンの仕事であり、ガンナーはただ撃鉄を起こしてトリガーを引くだけの単純な作業に終始する
『ヘッジホッグ』は高すぎるグリップ性能故にドリフトを用いた方向転換に向いていない。徳雄には『問題ない』と言ったが、踏ん張りを得る為に旋回能力を犠牲にするカスタムは文彦の『得意』と相性が悪かった


( ^ω[◎]「スゥ……」


内藤 文彦は、自分と同じく不器用な6shooterが好きだった。現在のチャリオッツ環境には見向きもされない『ネタ砲』だとしても
この『相棒』を扱うのに関して、自分の右に出る者はいない。今でもそう思っているし、プロの世界でも通じると信じていた


( ^ω[◎]「……」


『6shooterは時代遅れだ。此方の指定する砲に替えたまえ』


蟒蛇の監督兼オーナーの言う事も最もだったかもしれない


『俺らが必死こいて照準合わせても、手柄持ってくのはあのデブだぜ?やってられるかよ』


わざと聞こえるような陰口も、当然かもしれない


『 (  Д )「ここにお前の未来は無い」 』


憧れの最上位に君臨する者から突き放されるのも、納得出来るかもしれない


( ^ω[◎]「……」


自らを否定されたようで、腐りに腐った挙句、『幼稚な嘘を吐いて大会を放棄する』のも、仕方がないのかもしれない―――――

300 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:21:10 ID:Y6pO/fks0






(# ゚ω[◎] そ ん な ワ ケ が あ る か ! ! ! ! ! ! !






.

301 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:21:59 ID:Y6pO/fks0
時代遅れ?だからどうした
手柄を持ってく?それがガンナーの仕事だ
未来は無い?あるに決まっている


誰よりも『相棒』を愛する自分が、『相棒』を扱うのを放棄してどうする!!


誰になんと言われようと、自分の『誇り』に替えは無い
回転式シリンダー搭載シングルアクション。連射速度は使い手次第、ガンナーの成長に必ず応えてくれる唯一無二の主砲




『6shooter』こそが




(# ゚ω[◎]「最強なんだおッッッ!!!!!!!!!!!



.

302 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:24:54 ID:Y6pO/fks0
砲撃で宙に舞った軽車両は、激しい回転によって身体の向きを『前』から『後ろ』へと移す
走行不能ギリギリのピンチに訪れた一瞬のワンチャンス。悠長に狙いを澄ます余裕はない。『文彦以外のガンナー』ならばの話だが
6shooterは『真正面』にしか撃てない不器用な主砲だ。逆に言い換えるなら、どんな状況でも必ず『真正面』に発射できるという信頼感があると言う事

その使い手も、照準合わせをジョッキーとキャプテンに任せ、撃鉄を起こしてトリガーを引くことしか出来ない
逆に言い換えるなら、『撃鉄を起こしてトリガーを引くこと』に関しては、他の追随を許さぬと言う事

照準器の枠端に五番隊の車体が入る。撃鉄は既に起きていた。蟒蛇は戦闘特化のプロ集団。装甲も厚く、一撃では破壊しきれない
装甲の破壊に『二発』。コクピットにトドメの『一発』を撃ち込まねばならない。『落下と回転が伴う車体からの砲撃で』だ


『何も問題無かった』


例え相手が回避行動を行おうと、『アビリティ』で煙に撒こうと、ほんの一瞬だけ照準が合えば、その二つの勝利条件を満たすことが出来る


スコープ内の十字ラインの交差点と車体が重なった瞬間―――――


(# ゚ω[◎]「ッ!!!!!!!!!!」


頭より先に、指は動いた


『フェザータッチ』。触れただけで撃鉄が作動するほどに『軽い』トリガーが、一撃目の号令を下す
一仕事を追え、『寝た』撃鉄を人差し指ですぐさま起こす。重ねるように二撃目を放った
休む暇を与えず、人差し指に追随してやって来た中指で起こす。三撃目。勢い余った薬指が、ダメ押しの四撃目を呼び出す

303 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:25:28 ID:Y6pO/fks0
('A`)


先日、猫山に見せて貰った文彦のプレイ動画に、徳雄はピンと来なかった。『現実味が無かった』とも言えるかもしれない
実際に彼を乗せ、彼の射撃を目の当たりにして、腹の底から響く『6shooter』の咆哮を食らって初めて


('∀`)「こいつぁ……」


『親友』以外にも凄い男がいるのだと知ったのだった

304 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:26:11 ID:Y6pO/fks0
(=#゚д゚) 「勝」


砲撃で吹き飛んだ『宇都宮の車両』を見て、勝利を確信した高城は勝鬨を上げる所だった
前面装甲の覗き窓から差し込んだ閃光が、『爆破』によるものと勘違いを起こす程度には舞い上がっていた


(=#゚д゚) 「っ」


カメラのフラッシュを浴びた時がそうであるように、眩んだ目が視力を取り戻すのに時間は掛からなかった
その間に、前面装甲が吹き飛び、コクピット内部への直接ダメージを伝える大きな衝撃が座席を揺らした。頭の中が白く染まる


(=;゚д゚) 「っ……た」


揺さぶられた脳と視界に若干の吐き気を催しながら、高城は前へと向き直る
憎き相手を叩きのめして浮かれた脳内は、一転して最悪の想像を掻き立てた


『Lose』


敗北を伝える英単語が、青白い文字で映し出される。座席がゆっくりと定位置へと戻り、安全ロックを掛けて稼動を停止させた
身体からハーネスが外され、『さぁ次だ』と追い出さんばかりに筐体は扉を開く。『現実』からは、観衆のどよめきと『五番隊』の怒号が遠慮なしに入り込んでくる


(=;゚д゚) 「あっ……ぐ、ぐぅ……!!」


スクリーンに映るリザルトを、何度見返しても同じだった。ラストキルのリプレイは、爆発でも何でもなく『吹っ飛んだ車両からの四連射』だった


(=#゚д ) 「く……ぐ……!!」




「クソがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




.

305 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:27:44 ID:Y6pO/fks0
(;^ω゚ )「ふーっ、ふーっ……」


グリップを握る手、撃鉄を起こした指が小刻みに震える。脳からジワリと溢れ出た『物質』を、瞼をギュッと瞑って堪能した
チャリオッツから離れて数か月。夢にまで見たこの『瞬間』。何度味わっても飽きが来ない、『勝者』の気持ち良さ
取るに足らない自分が、英雄にでもなったかのような多幸をもたらす優越感に、しばし酔いしれた


('A`)「やるじゃねーか」

(;^ω^)そ「いって!!」


パンと肩を叩かれて、ようやく酔いから醒めた文彦は、『その後』の対応について全く何も考えていないと気づく
筐体の外では、内輪もめによる怒りの声が響く。出て行けば矛先は此方にも向くのだろう


(;^ω^)「どどど、どう、どうしどうしよう……」

('A`)「堂々と出て行きゃいいんだよ」


徳雄は掌を扉へと差し伸べ、『お先にどうぞ』と促す。顔面は変わらずブサイクだったが、その姿はどこか―――――




(,,^Д^)




彼とは似ても似つかない、優しい従兄と重なって見えた

306 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:28:08 ID:Y6pO/fks0




(;^ω^)「……」




いや、無いわ。それは無いわ。普通に最悪のシンクロだわ。ギコ兄ぃにすっごい失礼だわ
早々に忘れようと心に決め、文彦は居心地と気色の悪い筐体から逃げるように抜け出した

307 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:29:10 ID:Y6pO/fks0
( #゚∀゚ )「この恥さらしのクソルーキーが!!!!!」

(= д )「……」


(;^ω^)そ「うおっ」


出迎えたのは歓声ではなく、観衆の視線を意に介さない『敗者』の責任の押し付けだった
高城は金髪に胸倉を掴まれるままに、ガクリと項垂れて此方へと見向きもしない。文彦に気付いた優男が、勇み足で近づいてきた


(#^^)「てめえやっただろ!?」

(;^ω^)「えっ、なん、何?何をですかお?」

(#^^)「『チート』だよチート!!じゃなきゃクソチビにあんな馬力だせるワケねーだろ!!」


胸倉を掴み上げられ、顔に飛沫を飛ばされながら、ありもしない『不正』を糾弾される
試合開始前は萎縮して口答えも出来ない存在だったが、今となってはなんだか滑稽に見えて


( ^ω^)・'.。゜「ブフッwwwwwwwwwww」


我慢できずに噴き出してしまった


(#^^)「てんめぇ……おちょくるのもいい加減にしろやァッ!!!!!!」


優男が拳を振り上げ、観客は思わず息を飲む。徳雄はよっこいしょと筐体から出た所で、暴行を止めようと思えば止めれたが


('A`)(まぁ一発くらいなら耐えるだろ……デブだし……)


と、メタボの防御力に任せようと静観した
シャンクスも勝利も敗北も知り逃げ回って涙を流して男は一人前になる泣いたっていいんだ乗り越えろって言ってたし

308 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:29:43 ID:Y6pO/fks0





「せーのォッ!!!!!!!!!」




(;^^)そ「ッ!?」


彼らを取り囲む観客の背後から、突如として気合の入った雄叫びが放たれたが


(メ) ゚ω゚ )・'.。゜「シャトルッ!?」


別に拳は止まらなくて普通に殴られた

309 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:31:20 ID:Y6pO/fks0
「「「「「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」」」」


:(メ) ゚ω゚ ):「痛……?」


え!!!!!!!!!!!!!!???????????????????ウサミンコール!!!!!!!!!!!???????????
デレマスのサービスは2023年3月30日に終了しているのである。文彦にとって、ミンミン民にとっては、ミセリのコールとして馴染み深いものだ
それが、自身の名に変わって繰り返されている。二度、三度と続けて。彼らの『推し』に贈る時に負けないほどの声量で


('A`)「へぇ……」


声量、熱量、そして異臭に圧されて観客は道を開ける。コール集団の先頭には、水でも被ったのではないかと見紛うほどに汗を掻いたオタクデブ


(;@з@)「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」


ライブ会場から『同士』を率いて現れた彼の姿は、見苦しくも『王』の風格を纏っていた


(;@з@)「文彦氏!!!!!!!!!天晴れな腕前にございましたぞぉぉぉ!!!!!!!!!」

:(メ) ゚ω゚ ):「木本くん……」


「やりますねぇ!!!!!!!!」

「この連射速度……VIPクオリティ!!!!!!!!!!」

「ニュータイプは伊達じゃない!!!!!!」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」


拍手と共に次々と称賛の言葉が贈られる。呆気に取られた観客たちも、一人二人と拍手を始め―――――


(;^^)「っ……」

( ;゚∀゚ )「……」


瞬く間に『万雷』となり、ゲームセンター内を大きく振るわせた

310 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:32:20 ID:Y6pO/fks0
木本が言った『オタクの恐ろしさ』の本質は団結力にある
数多くのイベント、ライブを渡り歩いたミンミン民は、例え顔見知りで無くとも共通の一体感を持つ
一糸乱れぬコールや、スタッフの指示に従い物販の列に並ぶ統率。打ち合わせなどしなくとも、無言の連携が取れる猛者達なのだ
その上、活躍を魅せたのは推し同じくするミンミン民。そして彼らとは対極を成す存在である不良プロチームが叩きのめされたとくれば


「引っ込め負け犬ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「メシウマァァァァーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwww」

「アホくさやめたらプロ選手」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwww」


ここぞとばかりに総攻撃を行うのは至極当然の話であった


('∀`)「あっはっはっはっはっは」


これもまた、集団による暴力に他ならない。滅多に見れないオタクブス共の口撃に、内外共にウルトラブサイクは手を叩いて喜んだ


:(メ) ゚ω゚ ):「???????」


笑ってないで早く助けて欲しかった

311 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:33:25 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「テメェら仕組んでやがったな!?」


蟒蛇はプロだ。どうしても、無名の連中に負けたと認められないのだろう
金髪は高城を突き飛ばし、徳雄へと詰め寄った


('∀`)「は?何が?」

( ;゚∀゚ )「すっとぼけんじゃねえ!!チート使って俺らを貶め、オタク共に盛り上げさせて恥かかせようって魂胆だったんだろ!?」

('∀`)「あはははははは!!!!!随分都合の良いオツムしてんだな!!」

( ;゚∀゚ )「テメェ!!!!!」


胸倉に伸びた腕を、今度ばかりは好き勝手させずに掴んで止める。小さな徳雄は大柄の金髪の身体に覆い隠され、観客からは『凄まれている』ようにしか見えなかった


( ;゚∀゚ )「あっ、ぐ……?」


実際には


('A`)「いい加減にしとこうぜお兄さん」


金髪の手首が押し潰れるほどの握力で掴まれ、動けずにいるだけだった

312 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:34:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「退き際もわからねえか?押し問答で俺らが折れても、蟒蛇の評判が今以上に下がるだけで何の得もねえぞ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「そうだそうだー」

('A`)「それでも納得いかねえってんなら、ゲームでも喧嘩でも付き合ってやるよ。ただし、さっきみてーに生温い扱いはしてやらねえ。次は初っ端から文彦がブッ放すぜ?勝てる自信があんのか?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「やれやれー」

( ;゚∀゚ )「タダで済むと思ってんのかよ……!!」

('A`)「脅すのは自信の無さの表れだぜ?テメーらより番付が下の高城の方がよっぽど気合い入ってたよ。それとも……」


手首の骨身が軋むほどの圧力に、金髪は耐えきれず低い悲鳴を上げた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「わぁー、すっごい痛そう」

('A`)「『喧嘩』で白黒着けるか?いいぜ大歓迎だ。俺ぁそっちの方が愉しめるからなぁ。オラ、大怪我する前に早くどうするか決めろよ。ええ?プロのお兄さんよ」

313 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:35:58 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「ぐあ……」


恵まれた体躯に恵まれた容姿。彼は生まれた時から『敵』に出会ったことの無い人間だった
学生時代は気の合う仲間と我が物顔で教室を支配し、気弱な生徒を捕まえては雑用を押し付け。気に食わない者には腕っ節を見せつけて黙らせた
自らの力では敵わないと悟った者には媚び諂って上手く取り入り、美味しい蜜を吸ってきた。暴力と世渡りをバランスよく使い、肩で風を切って人生を歩んできた男だった


('∀`)


彼は初めて『見誤った』。取るに足らない生意気なチビのブサイクだと思っていた男は、人生の殆どを『敵』だけを相手にして生きてきた男だった
『獏良 良樹』と出会うまでは気の合う仲間など作れず、何かにつけて容姿をバカにされ、理不尽を振るわれた
清潔を保っているにも関わらず、汚物が如き扱いをされた。気に食わないという理由だけで集団に囲われ嬲られた
例え自らの力では敵わない相手だったとしても、時間を掛けてそれら全てを一個人の暴力で捩じ伏せ、一切合切を支配した


( ;゚∀゚ )「ヒッ……」


歩んだ人生の『難易度』が、圧倒的に違う。金髪は今になってようやく、『宇都宮 徳雄』という格上を相手にしていると肌感覚で理解した


( ;゚∀゚ )「わ、悪かった!!悪かったよぉ!!頼む、俺の負けだぁ!!」


膝を折って声を震わせ、小さく醜い男に懇願するみっともない姿が、公衆の面前に晒されたが、金髪にはもう体面を気にする余裕は残ってなかった
心底つまらなそうに大きな溜息を吐いた徳雄は、金髪の手首を投げ捨てるように解放する


('A`)「ガッカリだよ」


抵抗の意志すら消えた金髪は、徳雄にとって既に価値の無いタダのザコであった

314 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:37:04 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「す、すまなかった!!もうアンタには関わらねえよ!!」

('A`)「先に撤回することがあるんじゃねえのか?」

( ;゚∀゚ )「ア、アンタの実力は本物だ!!負けを、負けを認める!!」

('A`)「他には?」

( ;゚∀゚ )「ほ、他!?」

('A`)「ハァー……」


(;@з@)「ぬ?」


顎でクイと指す先には、彼らが小馬鹿にした『キモオタ』こと、敗北感を徹底的に押し付ける為に画作した『王』の姿があった


( ;゚∀゚ )「へ……?」


金髪はポカンと口を開けた。徳雄が求めている行為が何なのか解らなかったからだ
数秒経ってようやく意味を理解した金髪は、今以上にサァと顔を青ざめさせた

315 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:38:37 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「あ、あの……」

('A`)「何?」

( ;゚∀゚ )「勘弁、してくんねっすか……?お、俺にも、面目ってもんが」


グチャグチャと女々しい言い訳を聞き終える前に、徳雄は金髪の襟首を掴み上げ、木本の足下まで引き摺り出した
蟒蛇の仲間は目の前の非現実的な光景に、文彦に迫っていた優男ですら、止めることも出来ずに呆然と突っ立っているだけだった


('A`)「はい」

(  ;∀; )「勘弁してください……勘弁してください……」


遂にさめざめと泣き始めた金髪に、徳雄は続け様にこう放った


('A`)「『はい』」

(  ;∀; )「ッ……」


『事を済ますまで解放しない』。その意志を、たった二文字で伝え終える
この瞬間、徳雄への恐怖が面目を上回った。木本へと向き直り、額を床へと叩きつけ


(  ;∀; )「すいませんでした!!すいませんでした!!」


嗚咽混じりで謝罪した


(;@з@)そ「お゛!? お゛ぉ゛!?」


ビックリして下痢便漏れる時と同じ声が出た

316 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:39:46 ID:Y6pO/fks0
('A`)「何がすまなかったんだよ?」

(  ;∀; )「ヒグッ……ヒグッ……」

('A`)「なぁオイ、何に対して謝ってんのかって聞いてんだよ」


こんなんもうパワハラなのである。長い間それに耐え続けた男は、その手口も良く勉強していた


(  ;∀; )「キモオタとバカにしてすいませんでした……!!」

('A`)「他には?」

(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!もういいでござるよ!!!!!なんかこっちが居た堪れないでござる!!!!!」

('A`)「でもこいつ、オメーに謝るのを『面目が』どうのこうの言って一回拒否しようとしたんだぜ?」

(;@з@)「そんなの別に気にしないでござるよ!!ささ、金髪氏。顔を上げてくだされ。昨日の敵は今日の友と言うでありましょう。お互い、笑って忘れようではございませぬか」


性格と顔面が最悪のドブサイクと比べて本当に出来たオタクブスだった。土下座する金髪に手を差し伸べ、傲慢を許す光景に観客一同は二度目の拍手を贈り始める


(  ;∀; )


しかし、この期に及んで


(  ;∀; )「……ソがよ」


金髪は情け深い木本の慈悲すらも受け付けなかった

317 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:42:07 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「金髪氏?」


格上に叩きのめされるよりも、『格下』に許されるのが我慢ならない。チンケなプライドだけが残っていた
勝てると思っていた勝負に負け、口でも力でも完膚なきまでに叩きのめされ、公衆の面前で恥を晒した
惨めな男の知性は、怒りと恥辱で幼稚になっていく。後先は考えられず、只々『八つ当たりの矛先』を求めた


(  ;∀; )「うわあああああああああああああ!!!!!!」


『どうせ恥を拭えないなら、目の前のオタクだけでも道連れにしてやる』
土下座の姿勢から勢いよく立ち上がった金髪は、腰の入っていない拳を放った


('A`)「ハァ……」


到達前に止めるのは容易い。文彦と違って一目置けるオタクブスにこれ以上迷惑を掛けるのは忍びなかった
引導を渡そうと拳を固めたが、彼よりも先に、観衆を割って現れた誰かが




(#^Д^)「このバカ野郎がァッ!!!!!!!!」




金髪の脇腹を盛大に蹴り飛ばした

318 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:42:49 ID:Y6pO/fks0
(;  ∀  )・'.。゜「カッ……!!」


大柄な身体が一瞬、宙に浮くほどの強烈な蹴りに、僅かな肺の空気と胃液を吐き出す
徳雄は『愉しみ』を横取りした乱入者に一つ文句でもくれてやろうと口を開いたが、蟒蛇を含むこの場の全員の空気が変わったのを感じて飲み込んだ


(;^^)「ふ……蕗也さん……!!」

('A`)「ん……?」


ゲームセンター前での一悶着で、蟒蛇のメンバーの一人がその名前を言っていたのを思い出す
乱入者の正体を知らないのは、チャリオッツ界隈に疎い徳雄だけであった


(#^Д^)「一般人相手に迷惑かけやがってクソバカ共が!!お前らそんなにご立派な存在か!?アァ!?」

(;^^)「い、いやでも蕗也さん……因縁着けて来たのは向こうからで……」

(#^Д^)「だからって馬鹿正直に喧嘩を買ってんじゃねえ!!ガキじゃねえんだぞ!!」


乱暴な口調に反して、仰ることは至極真っ当である。乱入者は蟒蛇メンバーの頭を一発ずつ殴り、金髪を除く全員を横一列に並べさせ


(;^Д^)「お騒がせして申し訳ございませんでした!!!!!」


この場の全員に向けて、深く頭を下げたのであった

319 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:43:49 ID:Y6pO/fks0
('A`)「誰だよ……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「知らないですかぁ?彼こそがトップアタッカーチームの最頂点、チームランク一位『バジリスク』のキャプテンである『宝木 蕗也』さんですよ」

('A`)「へぇ……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「男性ファッション誌『タフガイ』の専属モデルで、チャリオッツプレイヤー投票でも常に上位をキープする人気者!!ヤンチャなのは見ての通りですが、決して堅気には手を出さない任侠の男でもあるんです」

('A`)「へぇ……」


(;'A`)そ「アンタも誰!!!!!?????」


若くて可愛いチャンネーは解説だけしてどっか行った


(;^Д^)「キミ、怪我はないか?ウチの者がすまなかった。こいつらは俺がキツく叱っておく」

(;@з@)「お、お気になさらず……」

(;^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。申し訳ない」

('A`)「ああ、いや……俺は別に」


『随分と、思っていた印象と違うな』。毒気を抜かれた徳雄は、バツが悪そうに頭を掻いた
しかし、宝木以外の蟒蛇メンバーの、文彦に対する扱いを見れば、外面だけ繕っている可能性も捨てきれない
恐らく文彦が蟒蛇を抜ける理由も知っているのだろうが、無関係の人間が数多く存在するこの場で聞き出すのも忍びなかった


(;^Д^)「……文彦」


(;^ω^)そ「お……お久しぶり、ですお……」


蚊帳の外だった文彦は、気まずそうに一礼をする。戦々恐々なのは目に見えてわかるが、どこか罪悪感を抱いているようにも見えた

320 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:45:59 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「悪かったな……今後一切、お前に近づかないように言い聞かす。許してやれとは言えないが、どうか溜飲を下げて欲しい」

(;^ω^)「だ、大丈夫ですお……」


('A`)「……」


目を合わせず、行き場のない両手をモジモジと組み合わせる。その様は、まるで悪戯がバレる寸前の子どもそのものだった
文彦の態度を見て、徳雄は一つの仮説を立てる。『蟲毒でのトリガー不具合は、本当に文彦の虚言だったのでは無いか』と
どうしてそんな嘘を吐く必要があったのかは定かで無いが、迷惑をかけた自覚が無ければこれほど都合が悪そうにはしないのではないか?
この際、一切合切を吐き出して貰おうではないか。徳雄は即席で一計を案じた


('A`)「文彦、お前も言う事あるんじゃねえのか?」

(;^ω^)そ「え!?ななななな、何をだお!?」

('A`)「すっとぼけんじゃねえよネタは上がってんだ」


勿論、嘘である。だが、徳雄のバックについている人物が、その嘘に説得力を含ませる


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`) 金持ってるクズ!!!!!!!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


そう、皆さまご存じ、金を持ってるクズである。一学生の身元を調べ上げるなど造作もないと考えるだろう


('A`)「お前もそこで転がってるバカみてーにみっともねえ野郎になりたかねえだろ?きっちりケジメつけとけや」

(;^ω^)「……」

321 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:46:37 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「文彦……?」


ガクガクと膝を震わせ始めた文彦に、宝木は首を傾げる。若くて可愛いチャンネーはi-ringのメモアプリを起動した


( ;ω;)「すんませんでしたお!!!!!!!」

(;^Д^)そ「文彦!?」

(;@з@)そ「文彦氏!?」


突然の土下座に、宝木も木本も驚きを露わにする。徳雄は自身の仮説が当たっていたのを確信した


( ;ω;)「ヒグッ、こ、蟲毒での不具合は、僕の嘘だったんです!!ぼ、僕のわが、わがままで!!蟒蛇に泥を塗って、すいませんでした!!!!!」


人々は揃って口を閉ざす。ピコピコと明るい電子音が、随分と場違いなBGMを奏でていた
堂々のカミングアウトを放った文彦は、鼻を啜りながら『すいません、すいません』と繰り返す


( ^Д^)「……文彦、良く……」


やがて、宝木が文彦の前でしゃがみ込み、肩に手を置いた


( ^Д^)「良く……謝ってくれたな」

( ;ω;)「すいません……すいません……」

( ^Д^)「良いんだ。気にするな」

322 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:47:16 ID:Y6pO/fks0
謝罪と、宥恕。ドラマのワンシーンにもなりそうな、感動的な場面に


(;@з@)「ふ゛み゛ひ゛こ゛し゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」

「これが……VIPヌクモリティ!!!!!!」

「#用意したティッシュで涙を拭いた」

「イイハナシダナー」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」


オタクブス集団は汚く泣いた。だが、この男だけは


('A`)「……?」


宝木の口元に浮かんだ、慈悲や友愛由来ではない笑みを見逃さなかった徳雄だけは、蟒蛇の頂点に立つ男の底知れなさを感じ取った

323 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:48:13 ID:Y6pO/fks0
泣きじゃくる文彦をしばらく慰めた後、宝木は徳雄へと向き直った
粗相を起こしたチームメイトへ向けていたドスの強さは無く、温和で優し気な表情で手を差し出す


( ^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。それと、文彦を支えてくれてありがとう」

('A`)「……ああ」


握手を返し、これにて手打ち。大団円で締めくくりに差し掛かっていた


(;^Д^)「っ!?」


しかし、徳雄の疑問はまだ解消されていなかった。宝木が逃げ出せぬよう、右手を強く握りしめ、手前へグッと引き込む


('A`)「可笑しな話だなぁ。蟒蛇の兄さんよ」


そして、声を潜めて語り掛ける。残る疑問の答えを知る者にしか聞こえないように


('A`)「わざわざデカい大会で、下らねえ嘘吐いてまでプロの看板に泥を塗った野郎だぜ?俺ァ、奴がそこまでしなきゃならねえ理由が気になってしょうがねえんだ」

(;^Д^)「……思うところが、あったんじゃないか?俺は済んだ話を、掘り返す真似はしたくないんだが」

('A`)「随分と人が出来てらぁな。だったらどうして、文彦が愚行を犯す前に真摯に向き合ってやらなかった?心境の変化でもあったのかよ?」

(;^Д^)「何が言いたい……?」


結果だけ見れば、蟲毒での文彦の発言は嘘であり、責任は彼にあると言った蟒蛇陣営は間違ったことを言っていない
問題はそこに到った『経緯』だ。咄嗟の思い付きで糞を漏らす人間がいないように、ワケも無く嘘を吐く理由も無い
だとすれば、結局のところ文彦の愚行の原因は、所属していた組織にあるのではないか?


('A`)「『あいつに何しやがった』?」


回答次第では、頭を下げるのは文彦ではなく『お前』になる。脅しを込めて、宝木の右手を更に強く握りしめた

324 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:48:39 ID:Y6pO/fks0





( ^Д )「……」





('A`)「!!」


表情こそ変えなかったが、握力の『応戦』に打って出た宝木に、徳雄は少々面食らった
焦りを見せていた表情は、先ほどの柔らかなものへと変化していたが、能面のような無機質さを感じ取れる
得体の知れない男は、抱きしめるように徳雄の耳元へと顔を近づける


( ^Д )「俺はお前と『同類』さ。宇都宮 徳雄」

('A`)「……」


質問の答えになっていない。だが、徳雄にはそれで十分だった


('A`)「そうか」


互いに背を二回叩き、あたかも友好を深め合ったかのような演出を行い、互いの『拘束』を解く
振り向きざまに徳雄へ笑みを投げかけた宝木は、今度は木本を始めとしたオタク軍団へと謝罪と感謝を伝えに行く


('A`)「……」


何が『同類』なものか


('A`)「回りくどい野郎だ……」


此方は敵を作るのに、面倒な手段など必要としないのだから

325 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:50:00 ID:Y6pO/fks0
(#∵)「とても警備員だ!!!!!!!!!!!!!!!暴力があったと聞きつけて参上した!!!!!!!!!!」

(#∴)「とても暴力を振るった野郎はどいつだ!!!!!!!!!!とても丁寧にぶっ殺してやる!!!!!!!!!!」


('A`)「っとぉ……」


そこに、群衆を掻き分けて警備員が現れる。流石に騒ぎが大きくなり過ぎた。捕まるのは面倒だと思案していると


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「あ!!!!!!!!!!!あそこにチンチン丸出しのおじさんが!!!!!!!!!」


若くて可愛いチャンネーが明後日の方向を指さして叫んだ


(#∵)「とてもわいせつだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#∴)「とても汚いモノを切り取って野郎の口に詰め込んでやる!!!!!!!!!!!!!!」


暴力よりチンチンの方がとてもヤバいと判断した警備員は、すぐさま対象を移し替える


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「どうぞ」

(;'A`)「ああ……どうも」


一体誰なんだろうかこのチャンネーは。とは言え、ありがたい援護射撃だった
文彦の腕を掴み、木本にアイコンタクトを送ってすぐさまこの場を離れることにした


( ;ω;)「うおおおおおん!!!!!宝木さん!!!!!!!」


しかし、デブはその場から動くのを拒否した
徳雄は今からでもどこかで試合を見てたクズにチンチンを丸出しにして貰って時間を稼ぐように仕向けようか迷った

326 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:51:44 ID:Y6pO/fks0





( ;ω;)「僕、チャリオッツに戻りますお!!!!!!」





それは、文彦に関わる全員が待ち望んでいた言葉だった

327 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:52:15 ID:Y6pO/fks0
( ^Д^)「……ああ!!」


『これで奴の思い通りか』。徳雄はどうにも、掌の上で転がされた気がして癪に障った
だが、ようやく目的が達成されたのに変わりない。軽く会釈をすると、力ずくで肉塊を引っ張り、群衆の中へと紛れていく
『神業』を目の当たりにした観客も文彦には好意的のようで、皆口々に激励の言葉を掛けつつ、それとなく二人の姿を警備員の目から庇った


( ;ω;)「オーイオイオイ……!!!!!!」

(;'A`)「しっかり歩けよ……クソ、めんどくせえ!!もしもしデミさん!?車回してくれ!!」


《了解》


i-ringで連絡を済ませ、ゲームセンターを出た瞬間、高級車が目の前でピタリと止まった
仕事の早さに舌を巻きつつ、後部座席に泣き虫デブを押し込む。続いて


(;@з@)「ハァ、ハァ……宇都宮氏!!文彦氏!!」

(;'A`)「オメーも乗れ!!」

(;@з@)そ「うわなにをするやめ!!!!!!!!!!!」


後を追って来た木本も流れで押し込み、自身は助手席に素早く乗り込んだ


(;'A`)「ッハァーーーーーーーーーーーーーー……」

(´・_ゝ・`)「お疲れ様」

(;'A`)「どもっす……」


(´・ω・`)「なぁオイ」

328 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:52:44 ID:Y6pO/fks0




(´・ω・(( ;ω;(;@з@)「何!?どなた!?拙者をどこに連れて行くのでござるか!?」




(´・ω・`)「死にそうなんだが?」


続けざまに臭いデブ二匹をギチギチに詰め込まれた本八は、前部座席を恨めしそうに睨んだ


('A`)「別に構わねえけど?」

(´・_ゝ・`)「文句あるなら降りろ」

(#´^ω^`)「俺さぁ!!!!!!!!!!上司!!!!!!!!!経営者なんだけど!!!!!??????」


盛岡は無言で車を出した

329 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:53:12 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^ω^)「今日の疲れが、すっかりとれましたお」

(´・_ゝ・`)「うん」


三ツ星レストランではない。参羽鴉グループが経営する宿泊施設『めいじ館』の一室である
いつもなら徳雄が勤務する『OHANAMI』へ直行する流れだが、ライブとチャリオッツ直後の汗臭い三人を飲食店に連れて行くのはマズいと判断し
入浴と食事が出来るこの場所へと足を運んだのだった


(´^ω^`)「いやぁオメエ中々根性のあるオタクだな!!ウチで働かねえか!?」

(;@з@)「せ、折角のお誘いでござるが、一応アプリの開発で生活できる目途は立っておりますので」

(´^ω^`)「クソがよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!!!!この御仁何者でござるか!!!!!!!!!!????????」

('A`)「クズ」

(´^ω^`)「死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

('A`)「な?」

(;@з@)「はぁ……なるほど……」

(´・ω・`)「なるほどじゃないが??????」

330 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:54:08 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「しかし、想定以上に大事になったね。見なよ。SNSでは既にトレンド入りしてる」


あの場にいた観衆の誰かが、録画した試合映像をアップしたらしく、SNS上では瞬く間に拡散していた


(´・ω・`)「それだけじゃねえ。既に記事まで上がってんぞ」

('A`)「記事?」

(´・ω・`)「『名も無きジョッキーと、元蟒蛇のルーキーガンナー。プロチームを返り討ち。大型ルーキー誕生か』だと」


にわかには信じられず、徳雄も自身のi-ringでニュースサイトを調べてみる。すぐさま、本八の言ったタイトル記事がヒットした
内容も嫌に具体的で、試合後の金髪とのやり取りすら事細やかに記載されている。まるで、この記事を書いた記者がその場に居合わせたかのようだった


(;'A`)「……」


【 i!iiリ゚ ヮ゚ノルv 】


そういやなんか居た気がする。なんかヤジ飛ばしてたような気がする


(´^ω^`)「有名人だな!!!!!!!!!」

(;'A`)「いやぁ……まぁ……うん……」


注目に慣れていない徳雄は、少々気恥ずかしかった

331 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:55:08 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「して、この集まりは一体?」

(´・_ゝ・`)「文彦くんをチャリオッツに復帰させようの会って所かな……社長」

(´・ω・`)「おお。ほれデブ」


契約書とペンを差し出し、サイン欄を指で叩く。文彦は緊張した面持ちで姿勢を正した


(;^ω^)「お……」

(´・ω・`)「もう引き返せねえぞ。お前らは二軍とはいえプロチームの一角を落とした。ここまで大々的に報じられりゃあ、超新星である『ハヤテ』と並んだも同然だ」

('A`)「……」

(´・ω・`)「『勝ち馬』の乗り心地はどうだったよ?これでもまだ、今年のジャパンカップ制覇は無理だと思うか?」


爆発的な加速力。真正面から砲撃されても怯まぬ胆力。小さい身体からは想像もできない膂力に、話術による心理戦。蟒蛇など取るに足らぬと思えるほどの、凶悪な暴れ馬だった
かれこれ十年近くチャリオッツをプレイしてきたが、今日の一戦ほど心ときめいた瞬間は無かった。『人馬一体』。銃座に座る自身ですらも、勝ち馬の一部と思えるほどに

332 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:55:35 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「……」


『ジャパンカップ制覇』。誰もが夢見る、日本最強の称号。文彦も例外ではない
勝ち馬に当てられ再燃した意欲が、万人が『無謀』とあざけ嗤う行為に挑もうとしている
浮足立った今だけの興奮なのかもしれない。一日も経てば後悔に苛まれるのかもしれない。だが、恐らくは


( ^ω^)「……」



こんなチャンスは二度と来ない



( ^ω^)「無理だお」

(#´^ω^`)「殺ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


本八が花瓶を握ると同時に、文彦はペンを取って自らの名前を書き込んだ


( ^ω^)「『とびきり上等なガンナー』がいない限りは」


今度こそ、『相棒』に顔向けできる自分になる為に――――――

333 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:56:26 ID:Y6pO/fks0






(#´^ω^`)三三つ)メ ゚ω^)・'.。゜「えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!??????????????」




(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」




腰の入った左ストレートだった

334 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:56:50 ID:Y6pO/fks0
(#´゚ω゚`)「散々金と手間かけさせやがって調子乗ってんじゃねえぞオタクデブが……」


ほぼ私怨だった


('A`)「幾ら掛かったんです?」

(´・_ゝ・`)「割と。まぁ、そこそこの金額は回収出来るからトントンだと思うけどね」

(メ)#^ω^)「いてーおクズ!!!!!!!!!!!大人が子供に暴力振るってんじゃねえお!!!!!!!!」

(#´゚ω゚`)「るせーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!オタクデブは成人男性としてカウントしていいって法律で決まってんだよ!!!!!!!!!!!!!」


2121年現在、そのような横暴な法は残念ながら成立していない。ギャイギャイと掴み合いを始めた二人を、木本が宥めた


(;@з@)「ま、まぁまぁ二人とも……どのような経緯で知り合ったのか存じませぬが、雨降って地固まると言うでござろう。文彦氏の新たな門出を祝おうではござらんか」

(メ);^ω^)「お……キングがそう言うな」

335 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:57:25 ID:Y6pO/fks0





(#´^ω^`)三三つ)メ ゚ω^)・'.。゜「らあああああああああああああああああああああああああああああ絶対殺すこのクズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」




もう収拾がつかなかった

336 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:58:04 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「放っといていいよ。年甲斐もなくはしゃいんでんだよあのクズ」


ジャパンカップ『予選』まで、六か月弱


(;@з@)「な、なんて傍迷惑なはしゃぎ方……と、所で、拙者は何のためにここに?」


親友を殺す為に蘇った『鬼』と


('A`)「いやなんか……巻き込みてえなって」

(´・_ゝ・`)「そうだね。度胸も統率力もあるし、なにより善良だ。ここでお別れは余りに惜しい。キミ、サポーターにならない?給料弾むよ」

(;@з@)「サポーターってお金貰ってやるものではないのでは……?」


相棒の価値を証明する為に再起した『ガンマン』が


(メ)#^ω^)「ミセリに貢献できたんだから名誉ある金の使い方だろうがお!!!!!!!そもそも何でもかんでも金で解決できると思ってるオッサンの方が悪いんじゃねーかお!!!!!!}


悪役に憧れ続けた『夢追い人』の下に集った


(#´゚ω゚`)「何でもかんでも金で解決してきたからなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!貧乏人にはわかんねえかザコがよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


三十二年という年月を経て

337 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:58:36 ID:Y6pO/fks0





『ならず者たちの自転戦車』が始まったのであった―――――




.

338 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:59:12 ID:Y6pO/fks0





第一幕 【結成】




    完



.

339名無しさん:2022/09/10(土) 00:00:15 ID:Q6j9TZaA0
乙!!!!!!!!!!

340 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/10(土) 00:09:28 ID:Nb/YQeI.0
次回予告


(´^ω^`)「ジョッキー、ガンナー確保!!!!!!!!!ついでにサポーターも手に入った!!!!!!!!ブスばっかだな!!!!!!!目が腐るわ!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「いよいよ本格始動ですね」

(´・ω・`)「は?」

(´・_ゝ・`)「え?」

(´・ω・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……わっかんねぇかなぁ……」


(´^ω^`)「わかんねえか!!!!!!!!!!!!!!!ハゲだから!!!!!!!!!!!!!ギャハハ!!!!!!!!!!」


(´・_ゝ・`)「」


(´メ)ω(メ`)「ブサイクとデブの実力を底上げする『トレーナー』がいねえだろうがすぐ暴力を振るうなハゲ」

(´・_ゝ・`)「まぁ……確かに。アテは?」

(´メ)ω(メ`)「アンラ・マンユの元キャプテン」

(´・_ゝ・`)「は?面識は?」

(´メ)ω(メ`)「俺には金がある!!!!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)「待て、流石に考え直せ」

(´メ)ω(メ`)「次回、『Desperado Chariots』第六話。『憧れを訪ねて』。そんじゃ、行ってきまーーーーーーーーー!!!!!!!カチコミカチコミ申す!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)そ「待てって言ってんだろクズコラ!!!!!!!!!!!!」

341 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/10(土) 00:12:25 ID:Nb/YQeI.0
終わりですお疲れさまでした

今まで書いたブサイクの中で一番悪いブサイクが出来て楽しかったです

342名無しさん:2022/09/10(土) 00:20:18 ID:Q.y7/dRg0
乙!!!!!!!!!!!!!!!
久しぶりの更新助かる!!!!!!!!!!

343名無しさん:2022/09/10(土) 01:18:17 ID:Yd62V6Wc0
乙!!一気読みしたッ!!やっぱりアンタは天才だぜ!!

344名無しさん:2022/09/10(土) 01:44:01 ID:MkS0xpo.0
乙!!!!相変わらず超面白え!!!

345名無しさん:2022/09/10(土) 14:48:12 ID:VYmClhq60
復活だぁーーーーーーーーー!!!!!!

346名無しさん:2022/09/18(日) 17:59:44 ID:6oDxSUMM0
乙!!!!!!!
怯えて笑ってスカッとした!!!!!!!!!!!!!!
次回はもうちょい早めに頼むよ。首を長くして待ってたんだ

347名無しさん:2023/01/04(水) 14:57:20 ID:t7cW21JQ0
六話は今夜投下します

348 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:32:12 ID:9tcidWTk0
『ジャパンカップ』

大晦日に開催される年に一度の日本最大のチャリオッツイベント
その歴史は四十年と古く、TV視聴率は紅白歌合戦を差し置いて脅威の40%台を記録する
十一月に行われる予選ではプロ、アマ問わず三万を超えるチームが参加。激戦を勝ち抜いた18チームだけが本戦への進出が叶う
優勝した暁に得られるものは、賞金ニ億円と日本最強の称号。加えて、世界最強への
天分の才能、血が滲むような努力、そして幸運。全てを揃えてようやくか細い栄光への道が開けるのだ


そう、『血が滲むような努力』である


(; ω )「ブヒー!!!!!!!ブヒー!!!!!!!」

(´゚ω゚`)「寝てんじゃねえぞ豚ァ!!!!!!!!!!!!!!勝つ気ねえのかゴラァ!!!!!!!!!!!!」


ガンナーであろうとも体重90キロのオタクデブが乗ってるチームなど門前払いも良いところなのだ

349 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:32:59 ID:9tcidWTk0





第六話


『憧れを訪ねて』




.

350 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:38:02 ID:9tcidWTk0
一日の摂取カロリーが増えた昨今、メタボリック人口の増加と並んで『ダイエット』は発展を遂げた
低カロリーで満腹感を得られる食品や、内脂肪を減らす医薬品。医療技術を駆使しての減量など
だがしかし、どれだけ小手先に頼ろうとも、結局は一つの結論に至る


『運動』こそ、もっとも効果的に痩せられるダイエット方法であると


(´・_ゝ・`)(酷いな……)


参羽鴉が保有する社員向けスポーツジムの床で寝っ転がる豚をボロクソに罵倒するクズの横暴さではなく、これまで『運動』に関わってこなかったオタクデブの体力の無さに盛岡は苦言を呈した
22世紀現在、学生の登校は義務化されていない。それに伴い、必須科目では無くなった授業が存在する。『体育』である
部活動に参加していない生徒にとって、唯一義務的に運動をする機会であったが、登校の自由化によって年々参加人数が減少し、子どもの運動不足は社会問題となった
VR技術を使った体育を取り行う学校もあるが、運動場、体育館といった広々とした場所で行う運動と比べると消費カロリー量に大きな差が生じる
満足に身体を動かしたい者は部活動に参加するが、元から運動が苦手な者は益々スポーツから遠退いてしまっているのだ。文彦もその一人であった。とは言え


(´・_ゝ・`)(いい歳したオッサンとの併走で先に若者がバテるとはなぁ……)


実際に目の当たりにして、ここまで深刻な運動不足とは思いもよらなかったが
文彦がチームに加入して既に二週間が経過し、季節は既に七月に入った。無謀は承知だが、予選開始まで出来る限り絞らねばならないと言うのに


(´・_ゝ・`)(それに比べて……)


クズとブタが走っていたランニングマシーンから少し離れた区画にはエアロバイクが並んでいる。その一角で


(;'A`)「フッ、フッ……」


盛岡一行がジムを訪れる前から淡々と走行距離を稼ぐ汗まみれドブサイクの姿があった


(;@з@)「フンフンフンフン!!!!!!!」

( ゚∋゚)「いいよぉ!!!!!!!!キミ、いいよぉ!!!!!!!ハムストリングス悲鳴あげてるよぉ!!!!!!!!!」

(;@з@)「フヒッ!!光栄であります!!」


そしてなんか文彦の家にいたんでついでに連れてきたキングが、胸筋を狂喜乱舞させるトレーナーに応援されながらスクワットを繰り返してた
彼の名前は九十九 闘隆(つくも とうる)。全日本ボディビル選手権三年連続チャンピョンにして料理系配信者としても人気の敏腕マッスルトレーナー。魅惑の唇九十九 闘隆と言えば、筋肉界隈で知らない者はいない



うーん、ナイスバルク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

351 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:39:03 ID:9tcidWTk0
(; ω )「み、水…………」

(#´゚ω゚`)「ケンシロウ気取りかアアーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!???????オメーみてーな豚にリンが水差し出すと思うなよ!!!!!!!豚は豚小屋に行け!!!!!!!!」


一方動けないタイプの貧弱オタクデブはハート様扱いされていた。いでえよーーーーーーーーーーー!!!!!!!
満身創痍感をを演出しているが、走った距離はまだ1キロにも達していない。よほど甘やかされて育ったのか、我慢と意志の弱さが露呈していた
とは言え、鞭だけで家畜を動かすのも酷と言うもの。飴とのバランスも考えなければならない。盛岡はボトルを手に文彦へと近づいた


(´・_ゝ・`)「ほら、水だよ」

(; ω )「コ、コーラですかお……?」

(´・_ゝ・`)「……」


コーラの海に沈めて殺そうかと思った


(´・_ゝ・`)「いや、真水」

(; ω )「ハァ……そうすか……ま、いいすけど……」

(´・_ゝ・`)「なんでお前が譲歩してやった感出してんだよ」


流石にキャラが崩れたが、髪型は崩れなかった。そう、元から崩れるほど髪が残ってないのである

352 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:43:07 ID:9tcidWTk0
(; ω )「ンゴッ、ンゴッ、ンゴッ!!!!!!」


うわ!!!!!ビックリした!!!!!!豚かと思った!!!!!!
驚く事に豚ではなく豚に似ている人間である。大して発汗していない分際で飲む水の量だけは一丁前だった


(;^ω^)「ふぅーい……今日はこの辺で勘弁しといてやるお。そんじゃ、ミセリの配信あるんで」

(#´゚ω゚`)「殺すぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅ!!!!!!!!!!!!」


やばいクレーマーのSUSURUの一面が出た。怒りの余り卓上調味料を全部倒してしまうかもしれない


( ^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー……体育会系ノリキッツ……今までメンバーが集まらないワケだお」


盛岡は本八が衝動的に振り上げたダンベルを掴んで止めた


(´・_ゝ・`)「気持ちは痛いほどわかりますが落ち着いてください。これまでの投資を不意にする気ですか?」

(´゚ω゚`)「今まで色んなクソ野郎を見てきたが、こんだけ我慢ならねえガキは初めてだ……」


『相当だな』と、盛岡はこめかみを掻いた。多少の生意気なら可愛げとして処理できるくらいの器量はあるものの
行動に熱意を感じられず文句だけ言い続ける『あまえんぼう』は、本八が最も嫌悪する人種なのだ。何がやーのだお前を殺ーのしてやろうかって感じ


(´・_ゝ・`)「文彦くん。ほら、配信ならここでも観れる。ウォーキングでもいいから、まずは三十分だけ続けてみないか?」

( ^ω^)「いやもう脇腹が痛いんだお。無理は身体に悪いって知らない?激務で髪が消失した例が目の前にいるからわかんだおね。そういうの」


今度は盛岡が振り上げたダンベルを本八が止めた


(#´・_ゝ・`)「おう離せや本八!!!!!!!!このガキに大人の厳しさ教えてやんだからよ!!!!!!!!」

(;´・ω・`)「数秒前に言ってたこと忘れたのかオメー!!そんだけキレられたら逆に冷静になるわ!!ちょっと頭冷やしに行こうぜ!!な!?」

353 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:44:37 ID:9tcidWTk0
ギャーギャーとハゲ散らかす盛岡を引きずり、ジムのエントランスへと向かう
途中、若い女性トレーナーに指示を出して文彦の面倒を見るように伝えた
快諾した彼女が文彦に近づくと、先ほどまでのだらけ振りが嘘のようにキビキビと運動を再開しだした


(´・ω・`)「わかりやすいガキ……」


本八はウォーターサーバーから二杯分の水を取り、一つを盛岡に差し出した


(´・_ゝ・`)「ハァ……あのデブ、向こうでもあの調子だったからハブられたんじゃないんですかね?」

(´・ω・`)「かもな。木本はドのつくお人好しだからアレとして、あんだけよろしくねえ性格してたら嫌われもすらぁな」


他人のことをとやかく言えるほど出来た性格ではない二人だが、仮にも大企業の社長とその腹心である。人付き合いの一つや二つ、軽くこなせて当たり前なのだ
文彦に関して抱える問題は、肥満並びに痩せる気の無さ。そして『リスペクト』の欠如である
彼らが求めたチームメンバー条件の一つとして、『本八の立場に物怖じしない者』があったが、それは好き勝手に振る舞って良いという話では無い
チームプレイを構築するのには互いの尊重が不可欠だ。本八自身、徳雄と文彦のことは外見、内面共にクソの極みと捉えているが、彼らの才能には一目置いているし、彼ら無くしてジャパンカップ制覇は不可能とも考えている
イカレの暴力中毒者である徳雄ですら、他者を尊重し、認めるだけの人格は備わっている。こちらから突かなければ、暴言も拳も振るいはしないだろう


(´・_ゝ・`)「無礼られてますね完全に」

(´・ω・`)「だよなぁ……」


本八には社会的地位と資産がある
徳雄には培った膂力と胆力がある

だが、最年少の文彦にはあって二人には足りないものが一つだけ存在する。チャリオッツの経験だ
プロとして認められるほどの腕前に絶対の自信を持つ文彦は、それ相応の傲慢も身に付いている
複数人、あるいは集団の中で『一人だけ特別に優れている者』がいるならば、自ら舵取りを行おうとするのは自明の理だ
文彦は契約時、こう言った。『とびきり優秀なガンナーがいなければ、ジャパンカップなど勝てやしない』
今このチームは、元プロだった自分がいて初めて成り立っている。カーストの最上位に君臨している
スポーツやゲームの玄人が持つ優越感が、文彦とかいうカスに余裕と怠惰を与えていた

354 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:46:38 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「どうしましょうか。何なら、一度猫山さんに相談するのもアリかと」

(´・ω・`)「奴は身内に甘ぇよ。よしんば言って聞かせても、サラッと流されて終わるだろうよ」

(´・_ゝ・`)「ではいっぺんシメますか?」

(´・ω・`)「お前も相当キてんな……」


幸いな事に、文彦は豚カスとは言えまだ子どもである。ここからの軌道修正は、頭が凝り固まった大人より容易いだろう
しかし考え方が染まりやすいのも子どもの特徴だ。下手に諭せば、更に捻じ曲がった方向へと進む可能性もある
最良なのは、文彦が目指すべき対象を用意してやることだ。チャリオッツに精通し、実績を収めた指導者であるならば、オタクデブも聴く耳を持つだろう


(´・ω・`)「それに、不安なのは文彦だけじゃねえ。あのブサイクもだ」

(´・_ゝ・`)「そうですね……」


怠惰な文彦とは正反対の、ストイックが服を着たブサイクである徳雄。彼の問題点は、その『ストイックさ』にあった


(´・ω・`)「よぉニイちゃん。そこでチャリ漕いでるブサイク、いつからトレーニングしてる?」


呼び止められた職員は、的確ではあるが随分な物言いに眉を顰めたものの、経営者相手に苦言を呈するほどの度胸は無かったようで


「ええと……エアロバイクの彼ですか?そう言えば、朝からずっといますね」


と、素直に答えて足早に去っていった


(´・ω・`)「あいっつはホントによぉ……」


現時刻は夕方の五時。本八が文彦らを連れてやって来たのが一時間ほど前
ジムはフルタイムで営業しているが、甘めに見積もっても凡そ八時間はトレーニングしている事となる

355 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:48:12 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「相変わらずのオーバーワークですね」

(´・ω・`)「とことん追い込む気だろうよ。本番までまだ半年もあるってのに」


以前にもオーバーワークを指摘し、トレーニング量を減らせと命じたが、徳雄はこう返した


('A`)「俺のことは俺が一番わかってる。それに、文彦の体重を言い訳に負けるなんて無様は晒したくねえ」

('A`)「あのデブだって本番はちゃんと仕事はするだろうよ。食うなり寝るなり好きにさせたらいいじゃねえか。その分、俺が引っ張れば問題はねえよ」





(´・ω・`)「頼りになって何よりだが、それまでに潰れちまっちゃクソの役にも立たねえってのによ……」

(´・_ゝ・`)「彼も彼で人の忠告を聞きませんからね」


徳雄は確かに頼りになる男だ。しかしそれは彼が歩んできた孤独な人生から成り立つものであり
逆を返せば『他人を頼ることに慣れていない』『他人に期待しない』表れとも言える
自らの負担が増える事に苦言を呈さないのは美徳の一つだろう。だが、心身の耐久力にも限りがあるが故に、決して利点であるとは言い切れない
許容値を超え続ければ、いずれどこかにガタが来る。強靭が自慢の徳雄であっても例外ではない
何より、ジョッキーはチャリオッツに置いて最も過酷なポジションだ。キャプテンとガンナーはその負担を軽くする義務がある
もっと我を、『要望』を出して然るべきなのだ。課題を挙げ、計画、実行、評価、改善のサイクルを経て、より強いチームへと成長する為に


(´・ω・`)「どうしたもんかね……」


本八は天を仰いだ。怠慢と勤勉。相対する問題点の解決は、仲間集めほど単純には済まない
金に物を言わせるにしても、徳雄には加虐以外の欲は無く、文彦は要求がエスカレートしていくのが目に見えている
人の意識を根本から変えるには、教え導き、自らの気づきを誘発させなければならない。それは年長者の役割であったが困った事に―――――


(´・ω・`)「俺らじゃ無理だ」


彼らは『経営者』だった

356 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:50:41 ID:9tcidWTk0
『仕事』に携わる社員らの教育であるならば、幾らでも指導のしようがある。会社の存続、社員の生活に直結する、生きるに置いて必要不可欠な『労働』であるからだ
だが、ジャパンカップへの挑戦は、『別に挑まなくとも生きていける』二次的なものであり、多大な賞金も栄誉も、『それが無いと生きていけない』ものではない
『生きる為に必要不可欠な行為』では無いからこそ、更に深い情熱と勝利への執念が求められるのだ
そして二人には、それらを奮起させるほどの『専門的指導力』と『経験値』が足りていない
本八は契約こそ結んだ雇用主であるが、チームメイトとしては同じ立ち位置で、まだ何も成し遂げていない挑戦者だ。徳雄と文彦を説得しようにも、馬耳東風で終わるだろう
餅は餅屋。やはりチャリオッツに置いて実績を挙げた人物こそ、彼らの指導者に相応しいと到ったのだ


(´・ω・`)「コーチが必要だ」

(´・_ゝ・`)「……では」


盛岡はi-ringからリストを立ち上げ、本八へと送信する


(´・_ゝ・`)「幾つか見繕っておきました」

(´^ω^`)「仕事が早いねえ」


ホログラムを立ち上げ、スワイプして流し見する。新進気鋭の育成所から、幾度もビックタイトルを獲得するチームを生み出した歴戦の老コーチまで。目移りするようなラインナップが揃っている
本八はリストを上から下まで全て確認し、もう一往復目を通して結論を出した


(´^ω^`)「無理」

(´・_ゝ・`)「でしょうね」


新進気鋭とは言え、育成所が短期間でジャパンカップを制覇できるチームを育て上げられるワケがなく
老コーチのスパルタを履き違えた指導には文彦は耐えられない上、カビ臭い頑固な気質は攻撃的な徳雄とは絶対的に合わない
その他もパッとしない実績や、当たり障りの無い指導法など、本八の眼鏡に適う指導者は見つからなかった


(´・_ゝ・`)「また人材探しですか……」

(´^ω^`)「なんでこんな苦労しなきゃなんねえんだオラ腹立ってきたゾ」


一難去って何とやら。本八は地球育ちのサイヤ人の一面を見せつけながら、空になった紙コップをクズ入れへとスラムダンクした
そう、99年前の12月3日に公開したアニメ映画である。当時、劇場に足を運んだファンは口を揃えてこう言ったという


「もう無理、限界」と

357 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:52:20 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「……」


『それにしちゃ余裕があるな』。本八の態度には焦燥を感じられず、『想定通り』と言いたげだった
チャリオッツのコーチとしての能力こそないが、他人の能力を計ることに関しては一流の経営者
自分が手を回さずとも、最初からアテはあったのだろう。余計な仕事させやがって殺すぞと思った


(´・_ゝ・`)「殺すぞ……」

(;´・ω・`)「え……?」

(´・_ゝ・`)「ああいや、死n……失礼しました」

(;´・ω・`)「お前今死ねって言い掛けた?」

(´・_ゝ・`)「耳腐ってんのか死ね」


謂れのない暴言が本八を襲った


(´・ω・`)「言いたいことはわかるぜ。『アテがあんなら最初から言えや』だろ?」


本八の看破に、盛岡は素直にこう返した


(´・_ゝ・`)「気持ち悪……」

(´・ω・`)「なんだハゲコラテメェオイ」


通りすがりの攻めの反対は受けと答えるタイプの女性職員は二人のやり取りを見て


「てぇてぇ……」


思わず死語を呟いた。正気か?クズとハゲだぞ?

358 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:53:55 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「とにかく、この件は俺に任せろ。お前は出来るだけガキどものサポートをしてくれ」

(´・_ゝ・`)「体良く面倒を押し付けやがってよぉ」

「あの……」


声を掛けて来たのは、先ほどの男性職員だった


「彼、上がるみたいですけど……」

(´・ω・`)「おん?」


シャワーと着替えを終えた徳雄が更衣室から覚束ない足取りで現れる
ハードなトレーニングで表情は焦燥し切っていたが、目の奥のギラつきだけはより一層激しさを増していた


(;'A )「……」


二人の存在にすら気づかないのか、挨拶どころか会釈すら交わさず、出口へと向かっていく
「やれやれ」と、早速の『面倒』を引き止めようとした盛岡を、本八が手で制した


(´・_ゝ・`)「どうしました?」

(´・ω・`)「シッ」


動かぬ唇の僅かに開いた隙間から、小さな呟きが漏れている

359 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:54:57 ID:9tcidWTk0




(;'A )「足りねえ……もっと……出し切らねえと……」




(;´・ω・`)「……」

(;´・_ゝ・`)「……」


二人は戦慄を覚えた。徳雄の自罰的なストイックさもそうだが、何より『獏良 良樹』に対する固執に
徳雄が再戦を誓った時に、彼に対して『ぶっ殺してやる』と言った。それは不良が脅し文句に使うような軽々しさではなく


『競技』という凶器で殺害するという、本気の宣言だったのだ


(;´・_ゝ・`)「……アレを矯正出来るんですか?」


友情と呼ぶには重過ぎる、恋慕すら凌駕する執着。本八の『アテ』が相手する狂気を前に、盛岡の不安は増した


(;´・ω・`)「まぁ……どうにかするしかあるめえよ」


徳雄は自動ドアを抜け、更なる肉体の酷使の為にランニングを始めた
遠ざかっていく後ろ姿を、二人はただ眺めることしか出来なかった―――――

360 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:56:21 ID:9tcidWTk0
―――――
―――



宇都宮 徳雄に甘酸っぱい青春の記憶は無いが、『出待ち』の経験は数多くある。その殆どが、報復の為に人員をかき集めた不良の類だった
荒んでいた中学時代は喜んで相手をしてやったが、スポーツに打ち込んだ高校時代にはなるべく避けて通っていた


('A`)「……」


それ故、今回のケースは初となる


( ^Д^)「やっ」


喧嘩も恨みも売った覚えのない宝木が、自宅のアパート前で待機していたのは


('A`)「はぁ……こんちわ」


『獏良には足下にも及ばないが、絵になる男だな』。なんてぼんやりと思いながら、高級ミニバンの車窓から顔を覗かせる宝木に気の抜けた返事を返す
やや訝しげな徳雄に対し、宝木は朗らかに笑いかけ、『乗ってくれ』と言いたげに首を傾けた


( ^Д^)「食事でもどうかな?」

('A`)「……口説く相手、間違えてんじゃねーすか?」


軟派な誘い文句に嫌味を返したが、宝木の瞳は真っ直ぐに徳雄を捉え、「お前で間違いない」と伝えてくる
チャリオッツでは高名なヒールチームと聞いていたが、憧れのスーパーヒーローを前にした子どものような無邪気な視線に、徳雄の毒気は抜かれた


('A`)「ちょっと待ってて貰っても?」

( ^Д^)「構わないよ」


足早に自宅へと戻り、スポーツウェアを選択カゴへ投げ捨てて汗を拭き、干しっぱなしの服を取って着替える
冷蔵庫から飲料水のボトルを取り出して半分ほど飲み干し、必要最低限の荷物だけ纏めて出ようとした辺りで


('A`)「……」


念の為、盛岡にメッセージを送っておいた

361 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:58:03 ID:9tcidWTk0
('A`)「お待たせしました」

( ^Д^)「早いね。それじゃあ乗ってくれ」


助手席のドアを開け、先に後部座席を確認する


('A`)「……あの子は?」


車内にはもう一人、連れ合いが乗っていた。蹲るように座席の上に足を乗せ、此方には一瞥もくれず携帯ゲーム機に熱中する


(-_-)「……」


中学生くらいの子どもの姿


( ^Д^)「ああ、ウチのガンナーだ。守(まもる)、挨拶を」

(-_-)「……っす」


微塵の興味も無いのだろう。一瞬だけ徳雄に目をやり、消え入りそうな声で挨拶らしきものを放った

362 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 20:58:38 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「悪いね。人見知りなもので」

('A`)「別に構わねっすけど……」


無礼な態度よりも、守というチームメンバーの性格が気に掛かった
徳雄と文彦が相手した二軍連中は、総じて殴り甲斐のある粗暴な不良だったが、守には微塵もそのような気配を感じられない
文彦のようなクソカスオタクデブであろうとも、活躍し続けられる環境ではあったのだろう


('A`)「そんで……」


文彦を追い出したのに深い意味はあるのか?その答えを聴けるだけでも、損はないだろう
助手席に乗り込んだ徳雄は、座り心地の良いシートに身を深く沈めて腕を組んだ


('A`)「何を食わせてくれるんすかね?」


宝木は悪戯っぽく笑い掛けると


( ^Д^)「『精のつくもの』さ」


意味深なヒントを返した

363 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:09:12 ID:9tcidWTk0
三十分ほど車を走らせた先に辿り着いた繁華街。その裏通りに、宝木行きつけの店がひっそりと佇んでいた


「喰いねぇ……」


コンクリート張りの、お世辞にもオシャレとは言えない無骨な飲食店
北極熊は無理でも、月の輪熊くらいならくらいならこの拳で十分よと言いそうな店主が持ってきた大皿には―――――


(;'A`)「ええ……」


ぶつ切りにした長細いホースのような『肉』の揚げ物がたんまりと盛られている
その頂点には、大口を開いてこんがりきつね色に揚がった『蛇』の頭が鎮座している


( ^Д^)「戴こうか。ここの蛇料理は絶品なんだ。ああ、頭は食べるんじゃないぞ。それは飾りだから」


宝木は躊躇いなく一つ手掴みで取り、筋肉質な身に齧り付く。守もそれに続き、小動物のようにチビチビと食べ始めた
複数人相手でも一切怯まない徳雄も、流石に口に蛇を入れるのは初めてで、中々手が伸びずにいた


(;'A`)「アンタら、蟒蛇って名前のチームなのに蛇食うんすね……」

( ^Д^)「ハハ、ウチはメンバー同士で地位を喰い合うチームだぜ?仲間の肉は大好物さ。さ、キミも遠慮せず」


スタメン争いのようなものだろうか。恐らく彼も、仲間を喰って喰って喰いまくって頂点捕食者になったのだろう
少しばかり羨ましくなる環境だ。宝木を倣って、徳雄も意を決して蛇の肉に齧り付いた

364 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:10:44 ID:9tcidWTk0
(;'A`)「喰いづら……」


脂を感じられない、鶏に似た肉質は、引っ張ると繊維に沿って縦に避けていく
臭みは無く、唐揚げと同じく食欲をそそる生姜とニンニクの香りが口内から鼻へと抜けていった
抵抗はあったものの、一度口にすれば案外あっさりと解消され、小骨の多さに四苦八苦しながらも一本目を完食した


( ^Д^)「イケルだろ?」

('A`)「まぁ……悪くはねえす」


不味くはないが、普通に鶏の唐揚げの方が美味いし食べ易い。物珍しさこそ満たせたが、頻繁に食べたいかと訊かれれば、首を傾げざるを得ない
それでも徳雄の答えに気を良くしたのか、宝木は店主に追加のオーダーを頼んだ


( ^Д^)「酒はイケるクチかな?」

('A`)「いや、あんまり……」

( ^Д^)「すみませーん!!生き血のワイン割り二つ!!」

('A`)「話聞いてる???????」

365 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:12:19 ID:9tcidWTk0
「呑みねぇ……」


水と空気が違うのでデカくなったっぽい店主は、ショットグラスになみなみと注がれた赤い液体を二つ運んできた


「マムシの血だ……キくぜこいつぁ……」

('A`)「困るわぁ……」


正直な感想だった


( ^Д^)「蛇の血の栄養価は高い。滋養強壮や食欲不振、胃の不調なんかに効くそうだ。ま、天然のアミノバイタルってとこかな」


『それって別に生き血じゃなくてて養命酒でも良くね?』とは、流石に店主の前では言えず
ウキウキとした様子で手渡された生き血を丁重に断る機会も逃してしまった


( ^Д^)「乾杯」

(;'A`)「か、乾杯……」


なんでこんな罰ゲームみたいなことさせられてんだろう。徳雄は溢れそうになった文句を、血と共に一息で飲み込んだ


('A`)「ん……?」


ワインで割っているからだろうか。血特有の鉄臭さやクセは無く、スルリと喉を通っていく
キョトンと醜く目を丸くさせる徳雄に、店主はガハハと豪快に笑った


「ニイちゃんよ!!今夜の息子は暴れん坊だぜぇ!!チン棒だけにつってな!!ガハハ!!」

('A`)「……」


いい歳したオッサンってみんなアレになんのかなって思った

366 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:14:58 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「フフ、泣く子も黙る『鬼迫』も、案外普通の男なんだな」

('A`)「……」


ゲームセンターで初めて出会った時、宝木は自分の素性を知っている素振りを見せた
別に隠し立てているわけではないが、武勇伝として大層に語っているわけでもない
彼は自分の事を、『お前と同類』と言った。徳雄自身、宝木の性格や過去を知っているわけではないので、否定も肯定も出来ない
一つだけ確かにあるのは、出会って間もない他人に内情を見透かされている不快感だけだ


('A`)「……『お友達になってくれ』だなんて、サムい話をしにわざわざ席を設けたんじゃねえんだろ」


唐突な誘いも、ゲテモノ料理も、見ようによっては主導権を握る為の手段として捉えられる
徳雄は蛇の唐揚げを一つ摘み上げ、今度は骨ごとバリバリ噛み砕いた


('A`)「サッサと本題に入っちゃくれねえか?ニヤケ面のニイちゃんと無愛想なガキに囲まれちゃ、こっちも居心地が悪いんでな」


臨戦態勢に入った徳雄を見て、宝木は恐れと喜びが入り混じった身震いをした
守はそんな先輩の姿に、聴こえるか聴こえないかの声量で「キモ……」と正直な感想を述べた


( ^Д^)「文彦は良いチームに拾って貰ったようだ。これこそ、俺が望んでいた展開だよ」

('A`)「……あいつとヤりてえってだけか?」

( ^Д^)「それもある」


宝木はリキッドタイプのニコチンレスタバコを取り出すと、深く水蒸気を吸って吐き出した
唐揚げの油とスパイスの香りに混じって、ミント特有の清涼感ある白い靄が鼻に付き、徳雄は眉間に皺を寄せる

367 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:16:06 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「文彦は扱い難いだろう?」

('A`)「……さぁな。アレを欲しがってたオッサン連中は、苦労してそうだが」

( ^Д^)「手厚く面倒を見てもらってるようで何よりだ」


文彦が痩せようが痩せまいが徳雄にとって大した問題ではない。自分の仕事はどんなハンデを背負おうが獏良に勝つの一点だけであり
その為に過剰なまでの鍛錬を積んでいるに過ぎない。文彦に期待しているのは、『その他』のつゆ払いだけで、仕事さえこなしてくれれば後は好きにして構わなかった


( ^Д^)「文彦に限った話じゃないが、プロに入った時点で満足するプレイヤーも数多い。先日、キミらが相手した馬鹿どもが最たる例だ。あの程度の連中なら、幾らでも腐ってしまって構わないが……」

( ^Д^)「文彦は別だ。キミもその目で見ただろう?世界規模で見ても、6shooterのポテンシャルをあそこまで引き出せるガンナーは数少ない。大袈裟に言ってしまえば、『神童』とも呼べる才能の持ち主だ」

(-_-)「あんなの……大したこと、無い……」


対抗意識からか、守は今日一番のハッキリした声量で文彦を否定した

368 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:19:12 ID:9tcidWTk0
('A`)「だったらセンパイがキッチリ指導してやりゃあよかったんじゃねえのか?」

( ^Д^)「……俺はね、才能を持つ者が更に強くなる条件は二つに分類されてると考えてる」


一つ、と親指を立て、そのまま守を差した


( ^Д^)「向上心を持つ才能を、恵まれた環境下で手厚く育て上げるか」


二つ、と人差し指を立てた


( ^Д^)「怠慢な者を谷底へと突き落とし、死に物狂いで這い上がるのを待つか。文彦はこっちに属していると思ったんだ」

('A`)「ほぉ〜?」


まるで思いやりから文彦を突き放したかの物言いに、徳雄は戯けた様子で感嘆を返した
随分と無責任な話ではないか。憧れと夢を抱いてプロ入りした新参を、『そっちの方が良いから』という個人的主観だけで追い出したのだから


('A`)「他力本願も良いとこだぜ?文彦がそのまま腐っちまう可能性だってあったろうによ」

( ^Д^)「『そうはならなかった』だろう?」


結果論を、さも当然かのように言い放った宝木に、徳男の神経が僅かに逆立った
ご都合良く文彦を拾って貰って、目論見通りに事が進んでいるのはさぞかし気分が良いのだろう。運命に愛されてると言わんばかりの態度が癪に触った


('A`)「何様のつもりだ?」


宝木は噴き出し、盛大に声を上げて笑った


( ^Д^)「キミの口からそのような言葉が出るとは驚きだ!!とっくの昔に理解しているものだと思ってたのだがね!!」

('A`)「……何をだ?」

( ^Д^)「『俺たち』をさ」

369 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:21:11 ID:9tcidWTk0
ピタリと笑いを止めた宝木は、身を乗り出して向かいの席に座る徳雄へと迫る
爛々と輝く瞳が、興奮の余り小刻みに動いている。対して徳雄は、挑み返すように眼光を強めた


( ^Д^)「俺はこれでもプロチーム『蟒蛇』の玉座に座る国内屈指のキャプテンだ強いんだよ!!強ければ多少の粗相も我儘も許されるのが『スポーツ業界』なんだ。納得いかないかい?だが歴史が証明してるだろう?かわいがりの過ぎる横暴な横綱が角界から追い出されないように!!女遊びが過ぎた野球選手がスキャンダルの翌日でもホームランを打ったように!!卑下た挑発を繰り返すボクサーがベルトを巻いたように!!『強さ』と『人気』があれば大衆は寛容になる!!ああ勿論!!度が過ぎれば干されもするだろうだが『そうはなっていない』!!誰が杞憂している?文彦というポッと出の選手が、短期間で問題を起こし脱退したのを!!誰も騒ぎ立てやしなかったし、時間が経てば忘れられていただろう『そうはなっていない』!!大衆はヒーローを愛し、運命に愛されているからヒーローと成る!!強さってのはそういう、我儘を通すだけの力を持っているんだキミにも覚えはあるだろう宇都宮 徳雄!!!!」


息を吐かずに捲し立てられた持論。冗談の類ではないのは、狂気を渦巻く目の色が証明している
いつか見た、本八のそれと良く似ている狂気の色だった。なんでも自分の思い通りに人生が進むと本気で思い込んでいる、全能感に染まった色だった


('A`)「一緒にしないで貰いたいね。俺ぁアンタと違ってなんてこたぁないタダの小市民で、そこまでおめでたく自惚れたオツムはしてねえよ」

( ^Д^)「いいや身に覚えがある筈だ惚けようったってそうはいかない。キミには『補導歴』が無い。そうだろう?」

('A`)「……」


確かに、暴力を糧に生きていた小中学時代、徳雄は一度も警察の世話になった事はない
それどころか、『大人は誰も徳雄が加害者である』とは見抜けなかった
小さく醜い容姿が、いじめられっ子を彷彿とさせるからだろうか。誰一人として徳雄を咎めず、それどころか憐憫の目すら向けられた事すらある


('A`)「それが何か?」


おくびには出さなかったが、徳雄の背に僅かな冷や汗が流れた。それは『同類の指摘』から出たものではなく
徳雄の『経歴』を事細やかに知る宝木の不気味さによるものだった

370 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:22:09 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「その時のキミにはあった筈だいいや確かにあった!!神が描いた極上のシナリオを賜った優越感全能感が!!それが今のキミを作り出したんだそう!!誰にも靡かず誰にも愛されず、そして誰もが恐れる『鬼』、宇都宮徳雄を!!自覚のある無しに関わらず、俺たちみたいな人種はいるんだ確かに今!!ここにいるんだよ!!『運命に背中を押されている者』が!!」


('A`)「……」


『付き合ってられない』。徳雄は視線を切ると、油で汚れた指と口元をおしぼりで拭った


('A`)「くっだらねえ与太話を、くっせえ芝居でくっちゃべりたいが為に、わざわざ不味い飯に連れて来たのか?」

( ^Д^)「いいや?本題はこっちだ」


宝木は徳雄の顎を掴み、力づくで再び視線を合わせた


( ^Д^)「どうか文彦をよろしく頼むよ。今よりもっと大きく肥えた才能に、大舞台で平らげるに相応しい『ご馳走』にしてやってくれ」


徳雄の目に映ったのは、鎌首擡げて獲物を待つ、舌なめずりした『蛇』の姿
目指すはゴールという到達点では無く、殲滅を目的とした超攻撃型プロ集団。そのトップに君臨する男の、底なしの『食欲』を見た

371 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:22:40 ID:9tcidWTk0
('A`)「……」


徳雄は、鼻から深く長い溜息を吐くと


(;^Д^)そ「ムゴッ!?」


その『蛇』の口を塞ぐように顎を鷲掴みにした

372 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:23:36 ID:9tcidWTk0
('A`)「知ったこっちゃねえよてめえの性癖なんざ」


宝木の手は徳雄の顎から放れ、口元に食い込む右手を引き剥がそうと掴む
骨が軋みそうなほどの強い圧迫感。自己陶酔に浸った目の色は一瞬にして焦りと恐怖へと変化する
身体のバランスが崩れ、咄嗟に手をテーブルへと突いて支える。料理の乗った皿が跳ね、クロスを汚した


('A`)「おまんまを他人に用意させるボクちゃんの言う事なんざ誰が聴く耳持つかよ。運命だのなんだのとお綺麗な言葉で飾ろうが、結局テメーはオタクデブにすら正面切って喧嘩を売れねえタダの腰抜けだ。ガッカリさせてくれるじゃねえか?なぁ、蟒蛇のオウサマよ」


チャリオッツが上手かろうと強かろうと、結局はその界隈に限られた人気と支持でしかない。宝木はそこを見誤った
宇都宮 徳雄にチャリオッツへの思い入れなど、ましてやプロ選手への尊敬や憧れなど微塵も存在せず
ただ『親友』が関わっていたから、親友と雌雄を決する場であったから、本八の誘いに乗ったに過ぎない
本人がその口で言った通り、チャリオッツに限っては知名度も実績も宝木の足下にも及ばないタダの小市民。だからこそ―――――


('A`)「タマナシ野郎が思い上がってんじゃあねえぞ」


親友以外の『その他』など、ハナから眼中に無かった

373 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:25:05 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「ゴッ……ガッ……」

('A`)「俺の貴重な時間を無駄にさせてくれたな?この落とし前どう着けるんだ?ん?」


徳雄の手首に爪が食い込むほど強く抵抗するが、万力で固定されたかのように、顎を掴む手は解けない
顔は血が昇って赤く染まり、血走った目が天井に剥く。脚はパニックからか力が上手く入らず、膝が崩れ落ちた
いよいよ骨身が軋みを上げ、焦りは最高潮に達する。テーブルを支えていた手は、バランスよりも脱出を優先し、『ある物』を急いで探り始めた


(#^Д^)「ッ!!」


銀に光る、四つ股のフォーク。鋭利に尖る矛先を、徳雄の顔面目掛けて振り上げられた瞬間―――――


('A`)「!?」


テーブル上の料理が、徳雄の右肩の方角から飛来した『ボール』によって弾け飛んだ
意識外からのアクションによって、徳雄は咄嗟に顎から手を放す。少し遅れて振り下ろされたフォークが、カツンと力なくテーブルに突き立てられた


(-_-)「そこまで」


これまで静観を保っていた守が、制止を告げた。特に慌てた様子も無く、手持ち無沙汰を解消するかのように、三センチ大の『スーパーボール』を、テーブル上で跳ねさせている
奇しくも、料理に突っ込んだボールと同じ種類の物だった


(-_-)「あんまり白熱すると、取り返しのつかない事態になるよ……」

(;^Д^)「ハァ……ハァ……」

('A`)「……」


守は向かって左前の席に座っている。彼女はその位置から、恐らくボールを『反射』させて料理皿へと投げ込んだのだろう
理屈を説くのは簡単だが、素人が狙って出来るほど簡単な技では無い。文彦とは違う、『向上心のある才能』。チャリオッツトップクラスガンナーの実力の片鱗を見た

374 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:25:41 ID:9tcidWTk0
('A`)「……気は済んだな?俺は帰るぜ。相棒の嬢ちゃんに礼はしとくんだな」


何はともあれ、今の一発で完全にシラけてしまった徳雄は、i-ringのクレジット機能を使って店に適当な額の支払いを済まし、席を立った


('A`)「送り出しも結構だ。楽しい時間をどうもありがとう。文彦には宜しく言っとくよ。それじゃあ、これで」

(;^Д^)「……」


饒舌だった口から別れの挨拶は無く、宝木はフォークを突き立てたまま、ただ項垂れていた
彼が今、抱いているであろう敗北感や嫌悪感。その全てが徳雄にとってどうでもよく


('A`)「口直しにカレーでも食いに行くか……」


店を出た頃には既に、好物の事しか頭に無かった

375 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:26:46 ID:9tcidWTk0
('A`)「ん?」


i-ringの振動が着信を告げる。これまでほとんど通話をしたことがない徳雄にとって、あまり慣れない機能だった
相手は盛岡で、そう言えば家を出る時にメッセージだけ送っていたっけなと思い出す


('A`)「もしもしデミさん?」

《ああ、徳雄くん。連絡が遅れて済まないね。クソガk文彦くん達を送ってたもんで》

('A`)「いや、構いませんよ。此方もちょうど終わったとこなんで」

《……まさかとは思うが、派手に喧嘩などしてないだろうね?》


自分では無く、『相手』に対しての心配を孕んだ声色に、徳雄は思わず噴き出した


('A`)「美味しいディナーを頂いただけっす」

《何かの隠語かい?》

('A`)「俺ぁどんだけ信用が無いんですかね?」


売られた喧嘩は漏れなく買うが、喧嘩の安売りなどしない。徳雄は少々心外であった


《まぁ、大事なければいいさ。それより、何故キミをご指名だったのかな?》

('A`)「……」


記憶を探っても、とんと心当たりが無い。しかし、宝木は最初に会った時から何故か自分に対してシンパシーを感じている口振りだった
かつて呼ばれていた『鬼』という忌み名にしても、喧嘩に明け暮れた過去にしても、彼は徳雄の事を良く知り過ぎている
ストーカーに狙われた気持ちとは、恐らくこのようなものなのだろう。徳雄は改めて、宝木に得体の知れない気持ち悪さを覚えた


('A`)「『文彦をよろしく頼む』だそうですよ」


だが、それを盛岡に伝えるまでも無かった。危害を与えられたのなら話は別だが、不愉快なだけなら忘れてしまっても問題無いと判断した
盛岡も、徳雄の言葉に疑問を抱かず、「そうかい」とだけ応え、それ以上の言及は無かった

376 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:27:46 ID:9tcidWTk0
《もう帰宅したのかい?》

('A`)「これから飯食って帰るとこっす」

《足りなかったのかい?何にせよ、気をつけて帰りなさい。それと、しっかり休むようにね》

('A`)「わかってますよ。そんじゃ、失礼します」


通話を切った後、徳雄は自分の顔が綻んでいるのに気づいた
気遣いの言葉を掛けられるなど、長らく無かったからだ


('A`)「……疲れてんな」


中年ハゲの言葉が、不覚にも染み入ってしまうとは。相当参っているに違いない
徳雄は盛岡の言う通り、今日はゆっくりと休むことにしたのであった

377 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:28:17 ID:9tcidWTk0




















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378 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:28:59 ID:9tcidWTk0
(-_-)「早く帰りたい」


樋木 守(ひのき まもる)は帰りたかった。のめり込んでるネットゲームのレイドバトルイベントに忙しかったからだ
本来ならば今日も一日中、上位10位以内のプレイヤーが貰える限定アイテム目指して周回している筈だった
そんな中、気持ち悪いリーダーにアポも無しに突然自宅から連れ出され、よく知らない男と美味しくない蛇料理を食べさせられたのだから堪ったものではなかった


(;^Д^)「フ、フフ……見たかあの迫力あの威圧感……宇都宮 徳雄は耄碌したどころか、ますます磨きが掛かってる……」

(-_-)「帰りたい」


クソどうでも良かったし、なんなら宇都宮さんもかなり迷惑だっただろうなと同情するレベルで気持ち悪かった


(;^Д^)「アレが、アレが俺が憧れた最も恐ろしい『ヒール』だ!!わ、わかるか守!?蟒蛇のトップである俺など歯牙にも掛けず、ゴミでも見るような目で見下す、『無頼漢』の体現者!!ああ……まさか、まさか文彦が彼と組んでくれるだなんて……!!」


恍惚とした表情を両手で覆い、天井を仰ぐ。守はとにかく気持ち悪いし早く帰りたかったが、なんか付き合ってやらないと満足しなさそうなので渋々


(-_-)「ハァ……昔の知り合い?」


と、軽く踏み入れてやった


( ^Д^)「俺がまだチンケなゴロツキのパシリだった頃、彼一人に十三人が病院送りにされたんだ。俺は直接対峙したワケじゃないが、物陰で見ていたよ。彼の、情けも容赦もない嵐のような暴力を!!」

(-_-)「へぇそうなんだ」


男ってホントバカって感じだった


( ^Д^)「恐ろしかった。だが同時に強烈な憧れも抱いたよ。あれほど身勝手に振る舞えたなら、男の頂点に君臨したも同然だとね」

(-_-)「……」


男ってホント子どもよねって感じだった


( ^Д^)「歳を重ねるにつれ、彼の武勇は鳴りを潜めた。高校生になってスポーツに打ち込んでると耳に挟んだ時は心底失望したよ。しかも、しかもだ!!彼はヒルクライムの大会で、『他人を案じて失格』となった!!あり得ない光景だったよ!!俺が知ってる宇都宮 徳雄ならば、轢き殺してでも勝ちに行っただろうね!!」

(-_-)「へぇー」


厄介オタク丸出しの言動に、ますます宝木の株が下がった

379 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:30:57 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「だが今日で確信したよ。彼は変わったんじゃない『変われない』んだ!!どれだけ歳を重ねようと、結局は孤独で凶暴な一匹狼……いや、孤高の『鬼』なのだと!!ああ、神様……感謝するッ!!俺に、彼へ挑む機会を!!チャリオッツの舞台で叩き潰すチャンスを与えてくれたのを!!」

(-_-)「店長さんタクシー呼んでください」


まだ掛かりそうだなって思った


( ^Д^)「ああ……今日は最高の一日だ……」


絶頂の余韻を味わうようにしばし恍惚とし、その後、『ああ』と思い出して後方へと顔を向けた


( ^Д^)「おい帰ったぞ!!そろそろ顔を見せたらどうなんだ!?」


宝木が店の奥へと乱暴に呼びかけると、顔中が青や紫のアザで染まる高城がゆっくり現れる
『負け犬』が良く似合う見窄らしい姿に、宝木は『愉悦』を喉奥で鳴らした


(=゚д゚) 「……」

( ^Д^)「懐かしい光景だったでしょう『高城先輩』。あの日の喧嘩は、俺が心酔していた対象が貴方から彼に変わった記念日だ!!貴方が彼と再会し、しかも名前を覚えられていたと聞いた日は嫉妬で眠れやしませんでしたよ!!」

(=゚д゚) 「っ……」


かつての『先輩』は、奥歯を痛むほど噛み締めた。学生時代に顎で使っていたパシリは今やプロチームの頂点で、ルーキーである自分には口答えも出来ない存在だ
屈辱と悔しさが滲み出る高城に、宝木は歌でも歌い出しそうなほど上機嫌に話しかける。それが余計に癪に障った

380 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:32:11 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「さて、此処に赴いた理由をお聞かせ願おうか?」

(=゚д゚) 「……『バジリスク』のジョッキーの座、貰い受けようかと」


宝木は鼻で笑うと、食べ終えた蛇の残骸を高城の顔に投げつけた


( ^Д^)「お願いに来たのか?宇都宮徳雄の情報提供と、先日のプレーに免じて『降格処分』は免じてやっただろう?これ以上を俺に望むのは、幾ら何でもツラの皮が厚過ぎるぜ先輩?」

(#=゚д゚) 「……誰がお前なんかに……!!」

( ^Д^)「あ!?なんだって!?」


喉の奥から搾り出すような声を、仰々しい大声と態度で掻き消した
守は最悪な空気をこれ以上吸いたく無くて、タクシーまだ来ないのかなぁって思った


(=゚д゚) 「『決意表明』です」

( ^Д^)「へぇ?具体的には?」

(=゚д゚) 「年度末の『ジャパンカップ』。その予選までに、貴方のご期待を越えるほどの実力で、バジリスクの『心臓』の座に着きます」


高城が抱く徳雄への感情は、宝木とは全く別の性質だ。強く深い『怨恨』。一度ならず二度、三度と、辛酸を舐めさせられた怨みが、性根の底にまで染まっている
それもまた、行動への強い『原動力』となる。宝木は感心したように腕を組み、頷いて見せた


( ^Д^)「良いだろう『三ヶ月』だ。今から三ヶ月後の登用テストで、お前の実力を示して見せろ」

(=゚д゚) 「必ず」

( ^Д^)「但し、合格しなければ今度は除籍処分だ。昔馴染みと言えど、今度は情状酌量の余地は与えない」

(=゚д゚) 「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

( ^Д^)「ハハ、期待せずに待っていますよ。高城『先輩』」


嫌味ったらしく強調された『先輩』に、高城は無言で頭を下げた
しかし視線は宝木に向けられたまま、射殺そうとせんばかりに怒りと憎しみを送りつけていた

381 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:33:02 ID:9tcidWTk0
(#=゚д゚) 「では、失礼します」


高城は足早にその場を去り、乱暴に扉を開けて出て行った


「守ちゃん、タクシー来たぜぇ……」


夜叉猿に指喰われたり腸出されたりしてそうな店長が、待ち侘びた迎えの到着を告げると


(-_-)「じゃあ僕も帰る……」


めっちゃテキパキと帰り支度を済ませて出て行った


( ^Д^)「ツレないな。せっかくライバルになるだろう偉大なお方と会わせてやったってのに」

「オメエそんなんだから彼女出来ねえんだぜぇ……」


呆れた店長が放った軽口が、その日一番宝木に刺さったのであった

382 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:34:16 ID:9tcidWTk0
―――――
―――



大潮 本八は大企業の社長らしく肥えた舌を持つグルメ家だ。創業以来変わらぬ味の一串80円のみたらし団子がこの世で一番美味い食べ物なのは変わりないが
有り余る財力を使い、この世のありとあらゆる美食美酒を堪能してきた。唯一無理だったのが女体盛りという文化だった。だってチンポクズでも無理なもんは無理やもん衛生的にカスだろアレって感じだった


(´^ω^`)「今日は、此処だ!!」


チートデイが強さの秘訣。今日も祝勝をかねてとびきり美味いものを食べに行くでお馴染みのボディビルダー。筋肉の化身(マッスルリバース)こと天王寺美貴久の一面を見せながら、クズの食指が選んだ店は


隠れ家的名店、江戸前寿司『くおうち』である


(´^ω^`)「いらっしゃっせー!!」

( ゚д゚ )そ「いらっ……え!?」


引き戸を開けると同時に先制アイサツ。店員の出鼻を挫くのはクズの流儀であり、特に何の意味もない

383 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:35:26 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「ど、どうぞ」

(´・ω・`)「はい」


店内はカウンター六席のみ。無駄に目力の強く掘りの深い皺顔の大将が一人で切り盛りしているのが見てとれた。オオカミ城の可能性がある
閉店に近い時間だからか、客は本八一人だった。勧められるがままに奥の席へと座り、熱々のおしぼりを受け取る


(´^ω^`)「っかー!!」


オッサンなんで顔拭くのは予定調和だった


( ゚д゚ )「何にしましょう?」

(´・ω・`)「とりあえずビールと……そうだな、ここは大将のお任せで」

( ゚д゚ )「はいよっ!!」


お通しと共に提供されたキンキンに冷えた瓶ビールと、凍ったグラス。高い酒なんて浴びるほど呑んだがやっぱり―――――


(´^ω^`)「くぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!うんめえーーーーーーーーー!!!!!!!」


一杯目のビールに敵うものは無かった

384 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:36:20 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「お仕事終わりですか?」


手際良く魚に包丁を入れながら、大将は気さくに話しかけてくる
閉店間際の一人客など、本来煩わしい存在だろうに、一片たりともそれを匂わせない辺り、仕事人としてのプライドと自信、そして客への感謝と歓迎を表している
飲食店を経営する者として、尊敬に値する職人だった


(´・ω・`)「ええ。少々難儀な仲間に手を焼かれまして」

( ゚д゚ )「心労をご察しします。はい、こちら旬のイサキの握りです」


カウンター越しから二つ並んで寿司下駄に置かれた光り物の握り。一つ手に取って醤油をチョンと付け、口へと運ぶと


(´・ω・`)「う〜ん……」


思わず唸りが出るほどの新鮮さと味が口から鼻へと抜けていく


(´・ω・`)「旨いですね」

( ゚д゚ )「ハハ。イサキも冥利に尽きるお言葉ですよ」

385 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:38:13 ID:9tcidWTk0
本心からの味の感想に気を良くしたのか、大将は次々と寿司を握っていく
同じく旬の車海老に、酢締めのキスの握り。芽ねぎの握りで口内をさっぱりとさせたところで、箸休めの茶碗蒸し
本八も酒が進むにつれよく口が回るようになってくると、自身も同じく飲食店経営者である身の上を吐露。同業者としての悩みや喜びを共有し、会話に華が咲いた


( ゚д゚ )「やはり寄る年波には勝てなくて、仕入れを業者に依頼するようにしたんですがこれがまぁー良い仕事してくれましてね。私がやってた時より良いネタを選んでくれるんですよ。こんな事ならもっと早いうちに頼んでおくべきでしたね」

(´・ω・`)「確かに、ここまで上等なネタはよっぽどの店じゃないとお目に掛かれないですね。しかし、葛藤もあったのではないですか?これは偏見かもしれませんが、職人はこだわりが強いと思っていましたが」

( ゚д゚ )「いやぁ、お師匠がその手の人間でね。激務が祟って早くに亡くなったんです。ですが、昔と比べて寿司職人の伝統や気質は随分と柔軟になりました。ネタどころか握ったシャリすら外注する店も少なく無いんです」

(´・ω・`)「時代ですね。俺達が常識と捉えていた考え方や仕組みは、若ぇモンがドンドン効率的に作り変えて行く。かつての俺らがそうだったように」

( ゚д゚ )「何を仰る。お客さんはまだまだ『作り変えて行く側』でしょう。はい、テキサス・ブロンコロールお待ち!!」

(´・ω・`)「なんかテリーマン宿してそうな寿司来た」


ネタには魚ではなく牛ひき肉、みじん切りにした玉ねぎとピクルスを酢飯で巻き、海苔の代わりとしてスライスチーズが使われている
早い話がチーズバーガーの具を巻き寿司にした一品だった。これまで普通の寿司だけ出て来たのにいきなりイロモノが出てきて本八は眉毛ハゲそうだった


(´・ω・`)「でも美味いんだよなぁ」

( ゚д゚ )「五割の確率で怒られますがね」

(´・ω・`)「出すのやめな???????????」

386 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:39:07 ID:9tcidWTk0
冗談のような寿司を挟みながら、定番のネタが次々と握られていく。本八も二本目のビールを注文し、顔に赤みが差し始めた


(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!大将も一杯どうでぇ!!!!奢らせてくれや!!!!!」

( ゚д゚ )「宜しいんで?」

(´^ω^`)「アンタが構わねえんなら幾らでも飲んでくれ!!」


大将はチラリと時間を確かめ、今日はこれ以上の客は来ないと判断したのか、そそくさと暖簾を下ろしに向かった


(´^ω^`)「……」


(´^ω^`)(よし)


『乗った』。釣り針にバシッと魚が掛かったような手ごたえを感じた。個人経営の飲食店、多少の『緩さ』がある
元より、この店の大将は閉店後に常連と飲むことがあるのは事前調査で確認済み
短時間の話術で『取り入れば』、このように人払いと交渉の場の用意を同時に行える

387 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:40:28 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「そんじゃ、失礼して」

(´^ω^`)「ほれほれぇ!!」


隣に座った大将のグラスに酌をする。白くきめ細かな泡が立つ黄金色の酒を、その日の労を洗い流すように豪快に喉を鳴らして飲み込んだ


(*゚д゚ )「っかぁー!!この為に生きてんだよなぁ!!」

(´^ω^`)「マジそれー!!そらもう一杯!!」


一杯目は景気づけ。二杯目は語らいの燃料として。本八の狙い通り、今度は味わうようにビールを飲む


(´^ω^`)「いやしかし、良い店を見つけられたぜ!!大将はいつから握ってんでぇ!?」

( ゚д゚ )「店を構えたのは二十年前だ。娘が産まれた年に一年発起してな」


互いに砕けた口調となり、本八は更に踏み込んでいく


(´・ω・`)「それまでは師匠の店で握ってたのかい?」

( ゚д゚ )「いや、色んな店を点々と渡り歩いていた。俺は他の職人と比べて、修行開始が遅くてな。とにかく早く一人前になる為に必死だったよ」

(´・ω・`)「するってぇと……歳にして二十後半辺りかい?」

( ゚д゚ )「鋭いな。二十六の頃に、さっき言ったお師匠の店に弟子入りしたんだ」

(´・ω・`)「脱サラ?」

( ゚д゚ )「……そんなとこだな」

388 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:41:39 ID:9tcidWTk0
大将は言葉を濁し、グラスに半分残ったビールを更にもう半分減らす


( ゚д゚ )「お師匠……叔父は厳しい人でな。何度も頭を下げに行ったよ。その度にこう言うんだ。『今まで遊んでいたようなガキに、寿司を握れるか!!』とな。根負けして俺を迎え入れてくれた後も、毎日のように怒鳴り散らされていた」

(´・ω・`)「脱サラなら、遊んじゃいねえのでは?それとも、叔父さんは寿司職人以外は仕事じゃねえと考えてるタイプだったのか?」

( ゚д゚ )「あー……何と言うか……人によっては、遊んでるようにしか見えない仕事だったもんで」

(´^ω^`)「おぉ!!納得したぜ!!大将もしかして、配信者かプロゲーマーだったりしたのか!?」

(;゚д゚ )「お客さん、探偵も兼業しているのか?さっきから的確に言い当ててくるな」

(´^ω^`)「俺そういうのすっきやねん!!結構有名だったんじゃねえの!?」

(;゚д゚ )「いやいやとんでもない!!少しの間頑張ってみたが、鳴かず飛ばずで終わったよ」

389 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:42:51 ID:9tcidWTk0





(´^ω^`)「そんなワケねえよな?」




.

390 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:43:33 ID:9tcidWTk0
突然の否定に、大将の身体はピキリと強張る。リセットされた思考が、疑心と共に本八の『仕込み』を読み解き始めた
酒を飲まされてから、過去を掘り下げるように会話を誘導されている。その節々で、歳や過去の職種を大まかながら言い当てている
そこから導き出される『答え』に気付いた時には、既に手遅れだった


(´^ω^`)「2089年。第十二回チャリオッツジャパンカップ。初の連覇が懸かった『トップ・ギア』は、無名のチームによって夢を断たれた」


(;゚д゚ )「……」


(´^ω^`)「トップ・ギアに『悪夢』を見せるほどの実力を持ちながら、たった一度の参戦でチャリオッツ界から姿を消した『幻のヒール』」




(´・ω・`)「鳴かず飛ばずとは言わせねえぞ?『アンラ・マンユ』のキャプテン『ヤクシャ』こと、三浦 紘一(みうら こういち)さんよ」




彼は、気前が良く親しみ易いこの客は、消したいほどの過去を辿ってやって来た者なのだと―――――

391 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:44:47 ID:9tcidWTk0
(;゚д゚ )「な……」


『何の話だ?』と、惚けようとして、無駄な足掻きになるだろうと頭を振った。下手な芝居で追い返せるような相手ではないと悟ったのだ
勢いづける為に、グラスに残ったビールを一口で飲み干す。仕事終わりの美酒だった筈だが、瞬く間に『苦汁』となって胃に落ちた


( ゚д゚ )「……どうやって探り当てた?『アンラ・マンユ』は全員がマスク・プレイヤーだった。これまで正体を暴かれたことは無かった」


『マスク・プレイヤー』。覆面プロレスラーのように、覆面を被ってチャリオッツをプレイするチームの総称だ
キャラクターを立たせる要素としては勿論、プライベートに干渉させない為の措置として正体を隠す者も少なくない


(´・ω・`)「これでも金持ってる方でね。割と早い段階で正体は掴めてたよ」


そう言って差し出されたビール瓶に、三浦は首を振って拒絶をする。今は気持ちよく酔える気分ではなかった


( ゚д゚ )「何が目的だ?」

(´・ω・`)「俺らのコーチをお願いしたい」


互いに老練。無駄なやり取りなどせず単刀直入に言葉を交わす。三浦は疲れと頭痛を誤魔化すように目尻を摘み揉んだ


( ゚д゚ )「ここは寿司屋だ他を当たれ」

(´・ω・`)「他じゃ無理だ。今年のジャパンカップに間に合わない」

( ゚д゚ )「何故だ?」


説明が無くとも、三浦の『何故』には複数の意味を孕んでいるのが分かった。本八は順に訳を話す


(´・ω・`)「時間が無い、ジャパンカップ優勝経験の持つ指導者が欲しい、俺がアンラ・マンユのファンだから。以上の理由からアンタしか該当者がいない」

( ゚д゚ )「……最後に関しては、光栄と言っておこう」

(´・ω・`)「後でサインください」


マジなのかふざけてるのか分からなかった

392 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:48:01 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「しかし最初のは解せないな。ジャパンカップは一年に一度、大晦日に開催される人気行事だ。何も今年じゃ無くても良いだろうに」

(´・ω・`)「いいや、今年でないといけない。トップ・ギアの三連覇が懸かった今年でないといけないんだ」


ジャパンカップ過去四十三回の歴史の中で、『三連覇』は前人未到の偉業とされている
そこに王手を掛けたのが、トップ・ギア所属のマスク・プレイヤーチーム『クワイエット』である
『今年でないといけない』と言った男の狙いは、ファンならば誰もが夢にまで見る歴史的快挙の阻止


もう一度トップ・ギアに『悪夢』を見せるのが目的なのだ


( ゚д゚ )「……」


『寝言をほざくな』。そう切って捨てられなかったのは、客商売で磨いた慧眼が、目の前の男が『ガチ』なのだと見抜いてしまったからだ
不幸なことに、三浦は真面目であった。相手が気に食わなければ、深く慮ずに罵り喧嘩腰になる『江戸っ子』に似つかわしくない寿司職人だった


( ゚д゚ )「何故だ?」


今度は、たった一つの意味しか持たない『何故』。どうしても阻止しなければいけない理由があるのかと問うた


(´・ω・`)「アンタが見た景色が見たい。それだけよ」


(;-д- )「っ……」


『単純』が故に、拒絶が効かない。この身勝手を押し通す客には、やると言ったらやる『スゴ味』があった。徐倫の可能性がある
ギュウと瞑った瞼の裏では、本八が望む『かつて見た景色』が鮮明に映し出される。当時、禁じ手と呼ばれたアビリティを使ってまで掴んだ勝利だった
その先に待っていたのは、数万を超える観客からの失望と罵声。偉業を阻んだ代償は、若き日の彼らには耐え難い苦痛であり、チャリオッツの表舞台から姿を消すには、十二分の理由であった

393 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:49:45 ID:9tcidWTk0
(;゚д゚ )「……そんな良いものでは無いさ」

(´・ω・`)「そうか?俺の目には最高の景色に映った」


忌々しい記憶も、見る者によって価値を変える。本八もまた、幼心に味わったあの瞬間を、昨日のように思い出せた


(´・ω・`)「ファイナル・ステージ、『スローン・オブ・バレー』。2000メートルの直線コース。アンタは接触したトップ・ギアの車体を、当時調整ミスのアビリティと呼ばれた『ショット・パージ』で攻撃した」


チャリオッツの装甲は、ダメージ蓄積量やジョッキーの負担軽減を鑑みて、キャプテンの裁量で外すことが出来る
外した装甲は当然ステージに残り、後続の妨害としても活用可能である
『ショット・パージ』は、文字通り装甲の一斉解除に『散弾』のような威力を付加したアビリティであり、実装当時は軽車両を軽く吹き飛ばせる威力を誇っていた
当然、装甲を全て解除するのだから防御力は格段に落ちる。しかしそのデメリットすら、『ラストスパート』における妨害と速度の向上という大き過ぎるメリットに比肩出来るものではなかった
ともすれば『チート』とも呼ばれかねない壊れアビリティ。強すぎる力は、万人にとって忌み嫌われる存在となった
その暗黙の共通認識は、プロプレイヤー間にも浸透しており、ファンからの批判を恐れて使用するチームはほとんどいなかった


(´・ω・`)「あの一撃は車体の破壊にまで到らなかったが、ジョッキーへ揺さぶりを掛けるには十分だった。トップ・ギアはラストスパートの速度が伸びず、寸での所でアンタらに玉座を譲った」

(;゚д゚ )「……」

(´・ω・`)「『禁忌』と呼ばれたアビリティ。だが公式がその口で禁止を告げたわけじゃない。ガキの俺にだってわかるぜ。あれは堂々たる勝利だった」

(;゚д゚ )「……世間はそう認めたワケじゃない」

(´・ω・`)「……アンタら、名前の割に繊細だったんだな」

394 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:51:04 ID:9tcidWTk0
(#゚д゚ )「何がわかるッ!!!!!」


ドンとカウンターに拳が振り下ろされ、ビール瓶が怯えるように震えた。万人から悪意を向けられた者にしか理解出来ない心傷は、三十二年の月日をもってしても癒されはしなかった


(#゚д゚ )「俺たちは正々堂々戦って、祝福されるべき勝利を手にした!!手にした筈だった!!ああ、馬鹿馬鹿しいと今でも思うさ!!『強いアビリティを最高のタイミングで使用しただけ』で、何故あれほど責められねばならないんだとな!!」

(#゚д゚ )「程なくして理解したよ『それがチャリオッツの世界』なのだと!!結局は人の数が物を言うんだ!!例え白でも奴らが黒と言えば、そう染まってしまうんだと!!」

(´・ω・`)「でも『勝っただろう』」

(#゚д゚ )「あの勝利に誰が価値を見出したと言うんだ!!」

(´・ω・`)「なんだ、アンタ目が悪いのか?」



(´・ω・`)「ここに一人いるだろうが」

(;゚д゚ )そ「ッ!?」



三浦は、心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥る。過去の闇に囚われて、目の前のファンを名乗る男の姿が見えていなかった

395 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:52:01 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「非難だけじゃなかった筈だぜ。当時のトップ・ギアは、アンタの判断に賞賛を贈り、誹謗中傷を行うファンに苦言を呈した。俺のように心動かされた人間だって少なく無い」

(´・ω・`)「正真正銘、『強い』プレイヤーだったからこそ、俺はアンタに指導を頼みたいんだ」


あの日、称号よりも賞金よりも欲しかったものが、三十二年の時を越えて今、名も知らぬファンから与えられた


間違いではないと、お前の強さは本物であったと、ただ『認めて欲しかった』


( ゚д゚ )「……」


カウンターに振り下ろした拳は、知らぬ間に解けていた。あの日のトラウマが癒えたワケではないが少なからず


( ゚д゚ )(参ったなぁ……)


気持ちが軽くなったのは事実だった

396 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 21:58:43 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……幾つか問いたい。お前さんは日本中の嫌われ者になる覚悟はあるのか?」

(´・ω・`)「それが目的だ。最強のチームの三連覇を阻み、日本中に吠え面かかせてぇんだよ」


『ロクでもない動機だ』。呆れつつも、自分が蒔いた種を前に苦笑いをする他なかった


( ゚д゚ )「チームメイトは承知の上か?」

(´・ω・`)「無論。ガンナーのデブガキは華々しい復帰を目指して。ジョッキーのイカレ野郎はそもそもトップ・ギアなんて眼中にねえ」

( ゚д゚ )「強いのか?」

(´・ω・`)「どっちも才能の塊だ。だが両者とも問題がある。デブは『そいつ』に胡座を掻いてるし、イカレはその逆で『足りない』とオーバーワークを繰り返している」

( ゚д゚ )「お前さんは?キャプテンとして彼らを御せるほどの実力はあるのか?」

(´・ω・`)「俺ァほとんど未経験よ。あるのは金と、三十年以上待ち望んでいた夢への渇望だけだ」


クセのある二人と、降り積もった夢への狂気を抱く男。三浦は白髪混じりの顎髭を摩りながら、不覚にもこう思ってしまった


( ゚д゚ )「『面白い』」

397 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:00:01 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「そろそろ良い返事を聞かせて貰いたいね」


自分にしては珍しく、『真摯』だけで挑んだ交渉。陥落は目前だ。だが三浦が放った次の言葉に、その確信はいとも簡単に瓦解する


( ゚д゚ )「残念だが、私は面倒を見れない」


(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」


それは、それは


(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」


大きく、大きく、店の外まで響き渡る悲痛な叫びだった


(;´゚ω゚`)そ「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」


しつこかった

398 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:00:51 ID:9tcidWTk0
川;゚ -゚)そ「お父さん!?」


クソうるせえクズの叫び声を聞いたのか、引き戸を勢いよく開けて黒髪の若い美女が店内に飛び込んでくる。父親譲りの目力の強さが、近寄り難い魅力を強調していた


(´・ω・`)「あ、お邪魔してます」

川;゚ -゚)「え、あ、はい……」


何事も無かったかのように挨拶するクズに拍子抜けしたのか、ポカンと口を開けて会釈を返す


( ゚д゚ )「娘の空流(くうる)だ。おかえり」

川;゚ -゚)「た、ただいま……何かあったの?」

( ゚д゚ )「いや、何でもないよ。済まないが、帰りはもう少し遅くなる。夕食は裏に用意してあるから、食べて待ってなさい」

川;゚ -゚)「わ、わかった……」


空流と呼ばれた娘は、本八に訝しげな視線を送りながら再び会釈をして厨房裏へと向かっていく
彼女が姿を消して少し待ってから、本八は会話を再開した


(;´゚ω゚`)「可笑しいじゃん今の絶対『オッケーグーグル』って流れだったじゃん!!!!!!!!」


<ご用件を、お伺いします


i-ringが反応した


( ゚д゚ )「話は最後まで聞け。私よりも適任がいるんだ。彼に任せた方がきっと上手くいく」


<話は最後まで聞け の 検索結果を表示します


I-ringがブラウザホログラムを映し出した


(;´゚ω゚`)「いやでもだってさぁ!!!!!!」


本八は鬱陶しそうにそれを消しながら尚も食い下がった

399 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:02:32 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「聞くが、二人は学生か?」

(;´゚ω゚`)「デブガキは引きこもりの高校生だがイカレブサイクはウチの社員だよ!!!!!それよりなんでやってくれないの!!!!?!!!やってやってやってよぉ!!!!!!!」


本八は駄々を捏ねながらビール瓶を手に取り、残りを一気にラッパ飲みした


(´・ω・`)「それがどうした?」スン

(;゚д゚ )そ「うおお急に落ち着くな気持ち悪い!!」


緩急つけた情緒の狂い方にビビり散らかしながら、三浦は話を続けた


( ゚д゚ )「いいか、ジャパンカップまで時間が無い。お前さんの目的は、トレーニングの見直しと、更なる実力の向上だろう?だったら短期集中で臨んだ方が良い。一カ月ほどまとまった時間を用意できるのがベストだ」

( ゚д゚ )「私は見ての通り働いている身だ。つきっきりで面倒は見きれない。だったらいっそのこと、『専門家』に任せるべきだ」

(;´・ω・`)「オイ俺ァその『専門家』とやらにゃ荷が重ぇと思ったからわざわざアンタを訪ねたんだ……」

( ゚д゚ )「私の推薦でもか?」


自信に溢れた物言いに、本八は珍しく言葉に詰まる
憧れの人物が認める『指導者』。興味がないと言えば嘘になる


(´^ω^`)「その言い方はズルいぜ」


結局、本八は折れた

400 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:04:05 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「二人のデータはあるか?」

(´・ω・`)「録画を送る。必要ならスリーサイズも用意するが」

( ゚д゚ )「それはいらん」


マジで世界で一番無駄なクソゴミ情報だった。本八から送られたのは、先日の蟒蛇とのプレイ映像


( ゚д゚ )「なるほど、彼らか」

(´・ω・`)「ご存知で」

( ゚д゚ )「ニュースサイトでチラリと目にしただけだ。詳細は知らん。ライターの過大評価の可能性だってある」

(´・ω・`)「それは得と御覧じろとしか言えねえなぁ」


自信に溢れた本八に微笑を溢しつつ、三浦は手癖で鼻髭を摩りながら、見極めるように映像を眺めた
試合開始直後、徳雄の力ある体当たりが、蟒蛇六番隊の車体を横転させる


( ゚д゚ )「……突発力は十分、だが粗が目立つ」

(´・ω・`)「ジョッキーの宇都宮はチャリオッツ未経験者だ。だが身体は仕上がってる。攻撃主体の走りなら見ての通り蟒蛇にも劣らねえ」

( ゚д゚ )「ビギナーズラックで勝ち上がれるほど、ジャパンカップは甘くない。その認識は今のうちに改めろ」


本八は肩をすくめ、再び映像へと戻る。六番隊が仲間割れで撃破され、一騎討ちに持ち込まれる

401 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:07:18 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……」

(´・ω・`)「……」


追い込まれるブスとデブ。七番隊の砲撃で宙を舞う


(;゚д゚ )そ「ッ!!」


瞬きほどのワンチャンス。6shooterが四連撃の火を噴いた
七番隊の車両はど真ん中を撃ち抜かれ大破。程なくして試合終了のコールが鳴り、映像は途切れた


(;゚д゚ )「……凄いな」


ジャパンカップの頂に立った男ですら、認めざるを得ない『神業』。ボソリと呟いた感嘆に、本八は満足気に鼻息を吐いた


(´^ω^`)「ガンナーの内藤はね、痩せる気無いんすわ」

(;゚д゚ )「ああ……それは……『大問題』だな……」


戦略の都合上、装甲やアイテムには妥協が出来ない点も出て来る
だがプレイヤー自身の体重であるならば、ゲームシステムに影響を及ぼさず負担軽減が可能となる
事実、ジョッキー以外の搭乗者をウエイトの軽い女性で占めるプロチームも存在する。それ程に、『重い』というのはネックになり得るのだ


( ゚д゚ )「……素質は、間違いなくあるな」

(´・ω・`)「当然だよ」

( ゚д゚ )「……」


三浦はコツコツと指でカウンターを叩き、頭の中で鍛錬ひ必要な勘定を弾き出す
一人は未経験、一人は早急なダイエットが必要。『彼』に任せると言った自分の判断には間違いない
『一カ月』。この期間を乗り越えられるのならば、彼らは間違いなく今年のダーク・ホースと成るだろう


それには一つ、本八に確かめねばならない点があった

402 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:08:44 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「彼らは」

(´・ω・`)「うん」


『彼』の訓練は本来、有望な若者を更に『ふるい』に掛ける為の試練だ
海兵隊の志願者のように、途中でリタイアする者も数多い。だからこそ、ここで確認せねばならない


( ゚д゚ )「地獄を乗り越えられる精神力があるか?」


何が無くとも、心は強くあらねばならない。それは訓練に耐え得る力でもあり、勝利への意志であり


事を成し遂げた後に訪れるであろう『悪意』を跳ね除けられる強さでもあった


(´・ω・`)「宇都宮は問題ねえ。自分から喜んで地獄に足を踏み入れる奴だ。だが……」


懸念はやはり、あまえんぼうデブである。軽い運動ですら音を上げるようなカスオタクにとっては、地獄の業火はさぞかし熱いだろう
それでも乗り越えてくれねばならない。文彦はまだ子どもだが、既に『大人』への準備期間に入っている
例えどんな責苦に遭おうとも、乗り越えられる強さを身に付けて貰わねばならない。それが人生を生き抜く力にも繋がるのだから


(´・ω・`)「……確かに内藤は未熟モンだ。その分、伸び代があるとも言える。俺はあいつの成長を信じるしかねえ」


不安材料は残るが、結局はやるしか無い。やらねば、彼らは偉業阻止へのスタートラインにすら立てやしない

403 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:10:15 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「……あい分かった」


大化けの可能性が少しでもあるのなら、地獄への挑戦に損は無い。三浦は二人を束ねるキャプテンの『信頼』に賭けると決めた


( ゚д゚ )「手配しておこう。其方は……そうだな、最低でも八月は丸々抑えておけ」

(´・ω・`)「恩に着ます」


深々と下げられた頭に、三浦は『やめてくれ』と制止する


( ゚д゚ )「礼など必要ない。私はただ仲介するだけで、キミ達の面倒を直接見るわけじゃないからな。それに……」

(´・ω・`)「それに?」

( ゚д゚ )「私には、『クワイエット』が負ける姿を想像できない。だから、激励と『仕返し』を込めてこう言ってやろう」


三浦は空のグラスを本八へと掲げ、不敵に口角を上げた


( ゚д゚ )「精々頑張れ、チャレンジャー」

:(;´・ω・`):「ッ!!」


本八は思わず身震いをした。子どもの頃からの憧れの存在が認める、日本最強のチーム。それに挑むという実感が、全身を駆け巡った


(´^ω^`)「上等だよ」


残り半年という僅かな期間がもどかしくなるほどに、楽しい時間へとなる。そんな確信も引き連れて

404 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:11:17 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「本戦でキミらの姿を目にするのを、愉しみにしているよ。ところで……」


話はまとまったが、二人にとって肝心な情報が共有されていなかった


( ゚д゚ )「今更だが、名前と連絡先を教えて貰ってもいいか?」


気が急いて、うっかり自己紹介もまだだったと思い出す。本八は額をペシンと叩くと


(´^ω^`)「アッチャー!!イッケネ!!俺としたことが!!」

(´・ω・`)「申し遅れました。私、参羽鴉グループ代表取締の『大潮 本八』と申します」


ビッグネームと共に、背筋をピンと伸ばして名刺を差し出したのであった


(;゚д゚ )「は……?」


これまで話してた相手の社会的地位の高さに、一介の寿司職人が暫く呆然としたのは、言うまでもなかった

405 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:13:19 ID:9tcidWTk0
―――――
―――



数日後、徳雄が勤務するOHANAMIにて


(´^ω^`)「合宿をすんぞ!!!!!!!!!!!!」


夏合宿の実施を関係者に伝えた


('A`)「はぁ……合宿」

( ^ω^)「団子美味しいお!!!!!団子美味しいお!!!!!!」


店長の榊原は思った。『いつもいつもここでミーティングすんのやめてくんねえかな』と


(;@з@)「随分性急な話でありますな。しかし合宿!!スポ根には欠かせないビッグイベントであります!!」


店長の榊原は思った。『ブスばっか増えてるな』と

406 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:15:03 ID:9tcidWTk0
('A`)「いつから始めんのか知らねえけど、夏は稼ぎ時じゃねーか。長い期間店を空けてらんねーぞ店長アレなんだから」

;;;;|;,'っノVi ,ココつ「宇都宮???????」

('A`)「あ、すいません店長。店長がコレだぞ?」


榊原は泣いた。お前目ぇどこ?????????


(´・ω・`)「オメー何の為にここの人手増やしたと思ってんだ。なぁ!!莉花ちゃん!!」


<はいはーい


⌒*リ´・-・リ 「お呼びですか?」


名前を呼ばれて飛び出てパタパタと可愛らしい急足で現れたのは、つい先日配属となった『高梨 莉花』(たかなし りか)であり、徳雄が教育係として指導している新人だった


(´^ω^`)「どうでぇこいつの指導はよ!!セクハラされたらすぐ俺に言うんだぞ!!ぶっ殺してやるから!!」

⌒*リ;´^-^リ 「アハハ……良くして貰ってますよ」

(´・ω・`)「そんなワケなくない?????なんか弱みでも握られた?????話聞くよ今晩食事でもどう?????」


ハゲの拳がクズおじさんの顔面にめり込んだ


(´・_ゝ・`)「申し訳ない。良く教育しておくから」

(´メ)ω(メ`)「今のは俺が悪かったけど暴力はもっと悪いだろハゲ死ね」

⌒*リ;´・-・リ 「その人本当に社長ですか?????」


累計で千回くらい聞かれた質問だが、残念ながら社長であった

407 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:17:40 ID:9tcidWTk0
('A`)「その合宿期間ってどれくらいだよ」


茶番に付き合ってられないと、テーブルに肘を突いてぶっきらぼうに言い放つ
その間デブはずっと団子を豚のように醜く貪ってた。千尋もほっといて帰るレベルだった


(´・ω・`)「八月」

('A`)「お盆期間か?」

(´・ω・`)「いや一カ月全部」

(;'A`)「ちょっと待てふざけんなオイ」


実に長すぎた、余りにも長すぎたってなるレベルの長期合宿期間だった。裏切りクソ眉毛の可能性がある


(;'A`)「一カ月も無給で居ろってか!?」

(´・_ゝ・`)「いや僕も流石に長いと進言したんだけどね。チャリオッツ優勝経験者お墨付きの指導者が居るって聞かないもんだからさ」

(;'A`)「だからって社会人を一カ月丸々スポーツ合宿に費やす経営者がいるかよ!!!!!!!学生の夏休みじゃねーんだぞ!!!!!!」


ご尤もである


(´^ω^`)「大丈夫だよな榊原!?」

;;;;|;,'っノVi ,ココつ「え?い、いや、困……」

(´・ω・`)「大 丈 夫 だ よ な ?」

;;;;|;,'っノVi ,ココつ「店は俺に任せて頑張って来い宇都宮!!!!!!」

(#'A`)「屈してんじゃねえプライドねえのか!!!!!!!」


社長から脅されクソ恐い部下に怒られ榊原はもう嗚咽出る寸前だった。お前口どこ????????

408 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:18:46 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「一応、今回の合宿は社長命令だからね。給料は発生するし出張手当も出す。この店も余所からヘルプを送るから人手の心配もしなくていいよ」


至れり尽くせりだった。そこまで言われちゃ真面目なブサイクも溜飲を下げる他なく


(;'A`)「ああもう……わーったよ……」


納得いかない点もあったが、一先ず了承した


(´・_ゝ・`)「文彦くんも良いね?」

( ^ω^)「お??????何が??????」

(´・_ゝ・`)「だから、八月中は合宿に参加するって事」

( ^ω^)「一泊二日?」

(´・_ゝ・`)「耳に脂肪つまってんのかデブ。一カ月っつっただろ」

409 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:19:14 ID:9tcidWTk0





( ^ω^)




.

410 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:20:14 ID:9tcidWTk0




(# ゚ω゚ )「良いわけねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだろハゲ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




大絶叫だった

411 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:22:07 ID:9tcidWTk0
(# ゚ω゚ )「は!!!!!!??????八月!!!!!!!!???????全部!!!!!!!!!!?????????」

(;'A`)「おいどうした文彦?なんでそんな狼狽えてんだ?」

(;@з@)「宇都宮氏。これには海溝より深いワケがあるのでござる」

(;'A`)「なんだ?試験か何かか?」




(# ゚ω゚ )「ミセリのサマーフェスに行けねーーーーーーーーーーーーーーーーーだろが!!!!!!!!!!!!なんでそんなクソ合宿に参加しねーといけねーーーーーーーーーんだお!!!!!!!!!!!」




('A`)「ええ……」


干上がりかけの水たまりくらい浅い理由だった


(´・ω・`)「先月行ったじゃねーか……」

(# ゚ω゚ )「こっちはマジガチのビッグイベントなんだお!!ライブ、ゲーム実況、他社Vアイドルとのバラエティ企画!!三日かけて行われるミセリの祭典!!折角チケット抽選戦争に勝ち抜いたってのに余計なことすんなお!!!!!!!!!」


幾らなんでもキレすぎだろと、顔に似合わずオタク文化に疎い徳雄は思ったが
各々の予定も確認せず急に『来月丸々合宿期間なwwwwwwwwwwwwww』とかほざくクズが十割悪いんで特に止めはしなかった


('A`)「お茶うま……」


そもそも文彦のミセリ狂いに関わるのが面倒だった

412 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:23:57 ID:9tcidWTk0
(;@з@)「大潮殿、この沙汰は余りにも酷でござる。なんとかその三日間だけでもご都合つけてやっては戴けませぬか?」

(´・ω・`)「まぁ……出来るっちゃ出来るんだけどよ……場所が場所だから行き帰り合わせて四日か五日みねえといけねえ」

( ^ω^)「なぁんだ!!初めからそう言ってくれお!!」

(´・ω・`)「……」

(;^ω^)「え?何その無言?まさか面倒だから嫌とは言わないおね?こっちは頼まれてチームに参加してやってる身なんだから、当然だおね?」

;;;;|,'っノVi ,ココつ「宇都宮、このデブと組んで本当に大丈夫か?」

('A`)「え?あ、はい。本人がこう言ってんだから大丈夫なんじゃないですか?自分でダイエットもするでしょうし、合宿に参加しなかった分もキッチリ埋め合わせするでしょう」

( ^ω^)「いやー!!とっくんはわかってるお!!そうそう!!ボクはやれば出来る子だって昔から評判なんだから!!」


今までやってねえクズの言い分だった。榊原は『ダメじゃん』と思った


(´・ω・`)「そう、だな……」


本八はしばし考える『フリ』をした。元よりデブの都合の為に合宿を中断させる気は無い
一分一秒でも長く地獄の業火で心身共にまとわりつく脂肪を焼き尽くさねばならないのだ
だが合宿開始までもうしばらく時間がある。文彦の要求を使わない手は無い


(´・ω・`)「合宿開始までに、俺らが要求するメニューを真面目にこなせば、考えてやらんでもない」

( ^ω^)「考えてやらんでもない?ハァー、無礼られたもんだお。その口でハッキリ、『ミセリのフェスに行っても良い』と言ってくれないと飲めねえお」


ヤクザなら今すぐ撃ち殺してる所だった


(´・ω・`)「わーったよミセリでもセセリでも好きにすりゃあいいじゃねーか」

( ^ω^)「初めからそう言えお全く……これだからクズは……」


ぶつくさ言いながらも、文彦も合宿参加の意向を固めた。そしてこのデブがいるだけで場の空気は最悪になるのだった

413 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:25:45 ID:9tcidWTk0
('A`)「そんで……俺らは一カ月間、どこに閉じ込められるんですかね?」


顔面が最悪の男は、空気など気にせず詳細を訊く。本八は一斉送信で合宿場及び二人の指導者に当たる人物のデータを送った


(´・ω・`)「結構評判の良いトレーニングセンターでな。夏から秋にかけての予約は速攻で埋まっちまうらしい。なんでも、ここで出る飯は絶品らしいぞ」


⌒*リ´・-・リ「……ん?」


( ^ω^)「ほほう、絶品……」

('A`)「しかし物騒な名前の場所にあるんだな……」


⌒*リ´・-・リ「んん?」


(´・_ゝ・`)「廃校を改築した宿泊施設らしくてね。泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」


⌒*リ´・-・リ「んー?」


(´・ω・`)「さっきからどうした莉花ちゃん?」


高梨は、まるで『聞き覚えがある』と言わんばかりに首を傾げる。評判が良いのだから、ある程度の知名度はあって然るべきだろう
しかしそれにしては、妙に『引っかかる』感じがした。ただの宿泊施設に、ここまで妙な反応を示すものだろうかと

414 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:27:03 ID:9tcidWTk0
⌒*リ´・-・リ「それってもしかして……鬼……?」

('A`)「え?」

(´・ω・`)「お前じゃねえ座ってろ。ああ、『鬼ヶ村トレーニングセンター ねぐら』だけど?」



⌒*リ;´・Д・リそ「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」



(;´゚ω゚`)「俺なんか気に障ることしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!????????????」



思わず土下座一歩手前の姿勢になるほどの大絶叫があった。この店うるせえなさっきから

415 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:28:19 ID:9tcidWTk0
(;´・_ゝ・`)「ど、どうしたんだい?ここに何かあるのかい?」

⌒*リ;´・-・リ「え、いや、ごめんなさい!!そうじゃないんです!!ただ……」


わたわたと両手を振って釈明のボディランゲージをした後、照れくさそうに笑いながら頬を掻いた





⌒*リ´^-^リ「私、そこの方々に助けられたんです」





.

416 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:29:02 ID:9tcidWTk0









一カ月くらい後―――――









.

417 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:30:36 ID:9tcidWTk0
('A`)「……」

( ^ω^)「……」


ド山奥のくたびれたバス停に、ブサイクとデブは置き去りにされていた
かれこれ一時間は待っているが、一向に迎えは来ない。これってレベル500くらいのパワハラじゃね?徳雄は店長のパワハラが生温く感じるほどの理不尽さに襲われていた


( ^ω^)「……お菓子、食べるかお?」

('A`)「おお……」


文彦は運動の甲斐あってか、この一カ月人生で最も頑張ってクズとハゲのトレーニングメニューをこなした
何度も挫けそうになったが、その度に崇拝するミセリという偉大な存在と、ついでに親友の励ましもあってか、なんと二キロの減量に成功した。カスなりに頑張ってた


( ^ω^)「……」

('A`)「……」


都会の喧騒から解き放たれた大自然。風に揺られる木々の音と蝉の声。時折鳥や獣の鳴き声が聞こえる中
文彦が持ってきたスナック菓子の咀嚼音が、やけに虚しく響いた


( ^ω^)「……とっくんはさぁ」

('A`)「とっくんやめろ」

( ^ω^)「好きな娘って、おる?」

('A`)「修学旅行……行ったことねぇけど、夜中のノリやめろ」


なんか合宿開始ってのもあってテンションバグってた

418 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:34:28 ID:9tcidWTk0
<ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


地獄みたいな待ち時間の終わりを告げる、SNSの政治アカウントのように主張の強いエンジン音が道の奥から聞こえてくる
二人は『やっとか』と顔を見合わせ、腰かけていたベンチから尻を上げた


(#^ω^)「全く、客を待たせるなんてなってないお!!一言文句言ってやるお!!」

('A`)「やめとけって……」


現れたのは、今時珍しいガソリン車のオンボロマイクロバス。今にも自壊しそうな有様に、二人の不安は増した
本当に評判の良い宿泊施設なのだろうか?基本的にクズを信用してない二人は訝しんだ
バスは譲り車線で大きくUターンすると、来た方向へと頭を向けてバス停へと停車する。澄んだ空気はあっという間に排気ガスに犯された
乗り降り口のドアが、『ガガ』と嫌な音を立てたが、僅かに痙攣しただけで歓迎の口を開こうとはしない。物持ちが良いのも考え物だった
間も無くして、内側から『ガン!!』と強い衝撃が響き、思い出したかのようにドアは開く。早速文彦が文句を言おうと勇み足で乗り込もうとしたが―――――


(#^ω^)「ちょっと待た……」


(,,゚-゚)「股……?」


中から現れた中学生ほどのショートボブの可愛い女の子に、出鼻を挫かれた


( ^ω^)+「待ってなんていませんお。こんにちわ麗しいお嬢さん。僕は内藤 文彦と申しますお。これからお世話になりますお」キリッキリキリッキリキリィキリト

(;'A`)「……」


わかりやすい色ボケのクソオタクデブだった


(,,゚-゚)「そうなんだ。僕は『儀社(よしもり) しずく』。よろしく」


デブの滑稽でキザったらしい挨拶を素っ気なく返し、視線を徳雄へと向けた


(,,゚-゚)「そっちは?」

(;'A`)「あ、ああ……宇都宮 徳雄だ」


不意を突かれたのは徳雄も同じだった。誰だって汚い箱の中から急に美少女が出てきたら驚くのだから無理はない。舌切り雀のつづらの可能性があった

419 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:35:23 ID:9tcidWTk0
(,,゚-゚)「うん、間違いないね。鬼ヶ村へようこそ。『ねぐら』に案内するよ。さぁ乗って」

( ^ω^)+「お邪魔しますお。いやぁ、素敵なお乗り物ですね!!貫禄があって惚れ惚れしますお!!」


なんかゴチャゴチャ言いながら、文彦はスキップせんばかりの足取りで乗車する。幸先は明るそうだなと、徳雄は内心皮肉った


(;'A`)「っとぉ、なんだ?止まってんじゃねえ早く奥に行けよ」


だが、軽い足取りは急にピタリと止まった。続いて乗車した徳雄は、デブの汚い汁が染み込んだ背中に顔面を突っ込むところだった。臭い


(;^ω^)「こ、こ……こんにちわ」


ダイエット中とはいえ、文彦の骨身にまとわりつく脂肪が徳雄の視界を阻む。埒が明かないと判断し、嫌々文彦の肉を奥へ押し込んだ。手が臭くなった


(;'A`)「ったく、何をしてんだ……」

420 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:36:02 ID:9tcidWTk0





「よう、会いたかったぜ」




.

421 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:40:13 ID:9tcidWTk0
(;'A゚)「ッ!!」


運転席に座る、これから指導を賜る人物を目の当たりにし、徳雄は文彦の様変わりに納得した
太い鋼線を何重にも束ねたような腕に、刃すら弾いてしまいそうな太い首。広い肩幅と広背筋は、座席の背もたれに収まっていない
『筋肉』。人が持つ最もシンプルな力の象徴であり、誰もが鍛えれば身につけられる、神が与えし平等の代物
ただ彼に到っては、その神が贔屓をしたのではないかと疑うほどの、圧倒的な筋肉量を誇っていた


『デカい』


生意気な文彦が、初見で怯えるのも無理は無かった。『鬼』と呼ばれる徳雄ですら、尻込みをせざるを得ない『迫力』があった
例え自分が十人いても、彼には手も足も出ないだろう。徳雄の胸中では、畏れと共に『期待』が膨れ上がった


(;'∀`)「俺もっすよ……」


彼ならば、自分が幾ら鍛えても到達できない『未知の領域』へと、導いてくれるだろうと

422 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:42:01 ID:9tcidWTk0



(´・_・`)「お前らの指導を受け持つ、『小練 詩音』だ。これから一カ月、みっちりと面倒を見てやる」



『鬼ヶ村トレーニングセンター ねぐら』代表の『小練 詩音』(こねり しおん)は、声高々に


(´・_・`)「ここは現世の地獄谷。魑魅魍魎たる浮世の住処。人ならざる『鬼』へと到る修練場――――』

(´・_・`)「『ようこそ鬼ヶ村へ』」



夏合宿開始を宣言したのであった

423 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:45:20 ID:9tcidWTk0
次回予告



(´・ω・`)「あいつらちゃんとやれっかなぁ」

(´・_ゝ・`)「徳雄くんはともかく、文彦くんは不安ですね。一皮剥けて帰ってくるのを期待しましょう」

(´・ω・`)「まぁあいつ分かり易いからな……都合よく可愛い女の子がいたら張り切ると思うが」

(´・_ゝ・`)「そんなラノベみたいな話があるワケないでしょう」

<いますよ?

(´゚ω゚`)そ「え!!!!!!!!!!!????????????いるの莉花ちゃん!!!!!!!!!?????????」

<しずくちゃんって子と銀さんって女性がいます。銀さんなんてビックリするほど美人さんでした

(´^ω^`)「おっほぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!そいつぁグヘヘご挨拶してえなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

<雪女と妖狐のハーフなんですって

(´^ω^`)「ん??????????????????????????????????????」

(´・_ゝ・`)「ラノベみたいな話だなぁ」

<ホントなんですって

(´^ω^`)「その……なんだ……大丈夫か本当に……?」

(´・_ゝ・`)「ハハ。でも、夢のある話じゃないですか。ファンタジーは意外とすぐ傍にあるってのは」

<ホントなんです!!!!!!!

(´・ω・`)「はいはいホントホント。サンタさんもいるし妖怪乳首相撲もいるよな」

(´・_ゝ・`)「サンタはともかくなんだ妖怪乳首相撲って」

<もぉー!!

(´・ω・`)「次回、『Desperado Chariots』第七話。『Welcome To The Demon Village.』。知らない?古い文献にあったんだぜ?周囲を強制的な催眠状態にして乳首相撲を強要するハレンチ妖怪」

(´・_ゝ・`)「知るワケねーだろ……」

424 ◆L6OaR8HKlk:2023/01/04(水) 22:50:26 ID:9tcidWTk0
合宿編始まります。シュート二万本です。よろしくお願いします

425名無しさん:2023/01/04(水) 23:43:23 ID:w4D8UsCU0
おつおつ

426名無しさん:2023/01/05(木) 00:42:05 ID:p9AMkUlk0
オツ

427名無しさん:2023/01/05(木) 19:17:31 ID:e8kIS4Bo0
乙!
ここでようやくDVの(´・_・`)が合流か熱いな!!
リリちゃん元気そうで良かった!!

428名無しさん:2023/01/06(金) 19:08:46 ID:kr8MbjTI0
おつ
タカラさんキモすぎてわろた

429名無しさん:2023/01/24(火) 17:46:24 ID:GUA.83n60
乙です

430名無しさん:2023/02/10(金) 07:57:08 ID:5DpRFud.0
更新乙です
スターシステムいいゾ〜

431 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:22:50 ID:0tGXVO1.0
『地獄』。信仰が異なる宗教に置いても、基本的に内容が類似する死後の世界
悪き魂を持つ者は、生前に犯した罪を贖う為に責苦を受ける
命の果てに辿り着く恐れ大き場所。しかし恐ろしさに反して、現世に置いては様々な比喩として軽々しく使われている

それは学校、職場などの社会環境であったり
それは家族、友人、恋人、同僚などの人間関係であったり
それは台風や地震、水害などの災害に遭った地域であったり
それは会話が続かなかったりジョークが滑ったりした場の空気であったり
それは受験や就職が上手くいかなかったなどの人生の岐路であったり

自ら命を絶つほどの苦しみから、取るに足らない些事に至るまで。人の営みには百人百様の身近な『地獄』がある


では、内藤 文彦にとっての地獄は何か?


それはミセリのイベントチケット争奪戦に負けた時であり
それは蟒蛇にいた頃に押し付けられた自身と相棒の否定の日々であり
それは自分と同類だと思っていた親友が女の子と遊びに行っていたのを目の当たりにした瞬間であり
それはプロ脱退後に学校内で浴びせられた嘲笑と罵声であり


多分に漏れず、彼には彼なりの『地獄』があった



そして新たに

432 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:24:15 ID:0tGXVO1.0
「腕上げろ水飛沫足りてねえぞ!!!!!!どんなにキツくても笑顔忘れんじゃねえ!!!!!!!」


「「「「「ウーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」」」」」


(; ω )「ヒィー……ヒィー……」


『鬼ヶ村スポーツセンター ねぐら』のプールにて、『男子』シンクロナイズドスイミング部の練習を横目に、延々と水中ウォーキングを続けている今の状況が新たな『地獄』として追加された


(; ω )「話とっ……違うお……」


嫉妬で歯軋りしてしまいそうなほどのイケメンシンクロ部の活気ある掛け声に混ざった怨嗟の呟きは、忌々しい『コーチ』の地獄耳にしっかり届いており


(´・_・`)「勝手に勘違いしたのはオメーだバカタレ」


プールサイドの監視台の上から、メガホン越しに呆れた一言を喝がわりに放たれたのであった

433 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:25:19 ID:0tGXVO1.0



第七話


『Welcome To The Demon Village.』



.

434 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:26:19 ID:0tGXVO1.0
三日前


( ^ω^)+「初めまして。内藤 文彦と申しますお。これから一カ月、よろしくお願いしますお」キリッキリキリキッッッッッッッリィーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!


ビックリするほど作られた声色と今まで見た事ないレベルの90角度最敬礼。色ボケデブの渾身の挨拶は


イ从゚ -゚ノi、「あらそう。よろしく」


職員らしき銀髪美女に一瞥もされずにサラッと受け流された


( ^ω^)「いやぁ、素晴らしい施設ですねここは!!この校舎も趣があって、職員さんも華やかですお!!一層、合宿に気合が入るってもんですお!!」

イ从゚ -゚ノi、「早く連れてってくんない?私、忙しいんだけど」


邪険にも程があった


(´・_・`)「ワリ。ほれ行くぞ」

(;^ω^)そ「ああ!!せめてお名前だけでも!!」


乳首が敏感で身長195センチの筋肉男は、往生際の悪いデブの襟を掴んで事務室から引き剥がす
掌にジワと染み渡る豚の汚い汁。乳首は大いに顔を顰めた

435 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:27:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「しずく、拭くもんあるか?」

(,,゚-゚)「無い」


渋々、ズボンで拭いた


(;'A`)「このバカ。着いて早々に仕事の邪魔してんじゃねえよ」

( ^ω^)「ハァー、とっくんはわかってないお。女を落とすコツは押して押して押しまくる事だって父ちゃん言ってたんだお。それに、こうも言うおね?嫌よ嫌よも好きの内って」


派手にやらかす前にシメといた方が良いのかもしれない。徳雄は早い目に内藤(父)に許可を得ようと決意した


(´・_・`)「面白えガキだな。そんで?これまでの成果は?」


( ^ω^)「」


文彦は黙った

436 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:28:57 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「本当に面白いなお前……」

(;'A`)「申し訳ないっす」

(´・_・`)「いやいや、楽しくなりそうで結構だよ」


威圧感のある見た目に反し、柔らかな物腰の男だった。思いつく比較対象の中ではグネグネ物腰だった。ラバーメン(ゴム人間)の可能性がある
ここ最近はクズやらデブやらストーカー気質の気持ち悪い男やらとの関わりが多かった徳雄の胸中に、謎の安心感が湧き上がる


(´・_・`)「ゆっくり案内してやりてえのは山々なんだがな、この後も結構立て込んでんだ。とりあえず今日は長旅で疲れてるだろうし、休んでくれや」

('A`)「わかりました」


徳雄としては、すぐにでも鍛錬を始めたい所だったが
これから一月もの間を過ごす場所だ。施設を見て回るのも悪くないと割り切り、素直に従った


(´・_・`)「ほれ、お前らの部屋の鍵。施設案内図と注意事項は部屋に置いてあるから確認しとけ。夕飯は19時だ。質問はあるか?」

( ^ω^)「事務員さんとはどういうご関係ですかお?」

(´・_・`)「同僚。他には?」

( ^ω^)「事務員さんの好きなタイp('A`)「ありませんありがとうございます」

(´・_・`)「五時間くらい息しなくても生きていられる奴」

('A`)「答えんでいいです」

( ^ω^)「」


文彦は息を止めた

437 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:29:47 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ハハッ、おもろ。じゃあ俺は仕事に戻る。後でな」


割と悪質な冗談を抜かし、乳首は軽く手を振って立ち去った


(,,゚-゚)「……」


『しずく』と名乗った少女は、その場に残された男二人を、小汚いものでも見るような目で一瞥した後、雛鳥のように彼の後を追う
曲がり角で姿が見えなくなった辺りで、文彦は『ぶはぁ』と臭い息を吐き出した


(;^ω^)「ふぅーい……しずくちゃん今、僕の方見てたおね?」

('A`)「ああ……」

( ^ω^)「っかーーーーーーーーー!!!!!参ったお!!!!!これはもしかして嫉妬ですかァ〜〜〜〜〜??????しずくちゃんと事務員さん、
どっちも甲乙付け難いお〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

('A`)「そうだな……」


『部屋を別々にしてもらってよかった』。徳雄は一人で盛り上がる文彦を適当にあしらい、宛がわれた部屋の鍵を開けた

438 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:31:17 ID:0tGXVO1.0
('A`)「フゥー……」


荷物を下ろし、ようやく一息つけるとベッドに腰掛けようとしたものの
汗で汚れた身体を綺麗に敷かれたシーツの上に乗せるのは忍びなく思えてしまい、一先ず着替えを行った
身体をボディシートで拭き、新しいTシャツに袖を通し、外気を入れるために窓を開けた
山風がぶわっと室内に吹き込み、澄んだ空気が肺を満たす。これから始まるこの場所での一ヶ月に、高揚感を禁じ得なかった


('A`)「さて、と……」


ヌルい水が残ったボトルを手に、徳雄は一人掛けのテーブルに置かれた施設案内図を確認した


('A`)「ランドリーはっと……」


食堂、浴場、医務室、洗面所にお目当てのランドリー。レクレーションルームやシアタールーム。自動販売機に授乳室
体育館と隣接してプールやジムまで完備されている。辺鄙な場所にある宿泊施設にしては、設備が充実していた
評判通りのトレーニングセンターではあるらしい。しかし、規模の割に職員が極端に少ないのが気になった

439 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:34:05 ID:0tGXVO1.0
('A`)「で……」


裏面には『ねぐら』での注意事項。朝昼晩の食事時間から始まり、飲酒、喫煙に関する注意喚起。BBQや花火を行う場合、事前予約が必要等
水を飲みつつ、順に読み進めていく。『浴室の覗きをした場合、直ちに警察へと通報する』という警告文は、しっかり文彦に叩き込まねばならないと思った


('A`)「職員居住区は緊急時を除いて立ち入り禁止……肝試しを行う場合は規定のルートを通る事……三階への立ち入り禁止……ん?」


普段なら読み飛ばすような、些細な表記間違いだった。徳雄は窓辺から首を出し、階上を見上げてみる


('A`)「……」


この客室は『二階』であり、それ以上の階は無かった筈だ。疲れからくる記憶違いの類ではない事を、容赦なく肌に突き刺さる太陽光が証明している
『間違い』。果たして、本当にそうだろうか。二階と表記したかったのであれば、この階に客室を置きはしない
ありもしない階への、立ち入り禁止をわざわざ明記する必要はあるのか?徳雄は先月耳にした盛岡の言葉を思い出した


「泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」


('A`)「はぁ〜……」


『まさかな』。古めかしい外観に、ありもしない想像を掻き立てられているだけだろう
そう結論付けて、徳雄は注意書きをテーブルへと投げ置いた

440 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:35:28 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



それはさて置き


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ。沢山食べてねぇ」

( ^ω^)+「勿論ですお。お姉さんが作ったご飯なら、一俵でも二俵でも平らげてしまいますお」


銀髪の事務員とはまた正反対の、フワフワした雰囲気の可愛らしい調理員が作った夕食を頂き


('A`)「クッソ美味かったな……」

( ^ω^)「豚になっちまうお……」

('A`)「……」

( ^ω^)「今『既に豚だろ』って思った?」

('A`)「え?いや別に。お前が思ってるほど俺はお前に興味無いし」

( ^ω^)「は???????誰も興味持ってくれなんて頼んでないですけど??????」


誰も得しない入浴シーンを差し込み


( ^ω^)「一緒にミセリの配信見ない?」

('A`)「見ない。寝る」


初日は、特に大きな出来事も無く床に就いた

441 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:36:13 ID:0tGXVO1.0





(-A-)「……」


日付が更新されるまでを『初日』とするならば、特に大きな出来事は無かった




.

442 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:37:27 ID:0tGXVO1.0
(-A-)「……」


午前2時。草木も眠るウシミツ・アワー。徳雄も例外では無かった
日中は茹だるような暑さだったが、山中の夜は打って変わって肌寒い程に冷え込む
真夏にしてはやや厚めの掛け布団が、熟睡を保つ温かな繭として機能していた


(-A`)「……ん」


長旅の疲れと、布団の温もり。朝までぐっすりと眠れる条件が揃っているにも関わらず、目覚めてしまったのは
決して尿意や悪夢からでは無かった。ただ何となく、外気に触れる顔の産毛が、僅かに揺れるのを感じ取ったからだ
瞼の帳を開き、違和感の正体を確かめるべく焦点を徐々に合わせていく。そこには


(´・_・`)「……」

(;'A`)そ「うっ、お」


傍らに立つ身長二メートル近い乳首が敏感な大男の姿があった


(;'A`)「なん……な、ん……何してんすか……?」


徳雄はこの時、男女問わず夜這いの危機が訪れると無意識に布団を胸元に引き寄せるのだと知った

443 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:38:34 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「完璧に気配消してたのに気づくとはやるなお前」

(;'A`)「いや……なん……文彦がなんかしました?」

(´・_・`)「いいや?豚みたいに寝てる」

(;'A`)「じゃあ何なんすか……?」

(´・_・`)「日が回ったら明日は今日だ。地獄の合宿スタートだぜ」


なんかピンキー&ブレインみたいな事言い出した


(´・_・`)「一分で着替えな。出掛けるぜ」

(;'A`)「はぁ……どこ行くんすか?」

(´・_・`)「山」


端的にそう言い残すと、小練は足音一つ立てずに部屋を出た
狐につままれたような寝起きだったが、徳雄は訓練兵のようにすぐさま着替えに取り掛かった

444 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 18:40:49 ID:0tGXVO1.0




( ‐ω‐)「フゴーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!フゴーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



「起きろ。起きろコラ豚」


ゴンゴンと遠慮なく頭を小突かれ、豚が目を覚ます


( うω‐)「何だおクソ……」

(´・_・`)「クソとはご挨拶だな?ええ?」

(;^ω^)そ「うわぁ!?」


眼前にニュッと突き出された知り合って間もない男の顔に、豚は遠慮なく悲鳴を上げて飛び起きる
そして、間も無くして自身が置かれている状況を察した


(;^ω^)「え!?外!?薄暗!!さっむ!?何!?」

(´・_・`)「見てみぃ文彦。夜が明ける」


小練が指差す先には、山間から盛岡の頭頂部のように輝かしい太陽が覗く
思わずおてての皺と皺を合わせて幸せしそうな光景だったが、一つだけ見過ごせない点があった


(;^ω^)そ「いや高ッ!!!!????え!!!!????山の上かおここ!!!!!????」

(´・_・`)「お前担いで登っといた」

(;^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー!!!!!??????」

445名無しさん:2023/05/05(金) 20:07:06 ID:UbyMOIpU0
wktk

446 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:12:03 ID:0tGXVO1.0
理不尽と不可解でその場に蹲って頭を抱える傍らで、文彦を担いで山登りをしていた小練に着いてきた徳雄が


(;'A`)「……」


登頂の疲れを少しでも癒しながら、『超人』との格差に愕然としていた
道のりは決して険しいものでは無かった。標高は700メートルと低く、歩行距離も8キロ程度。通ってきたのは整備されたハイキングコースだ
しかし読んで字の如く『登山』である。登るという行為には、必ず『重力』という枷がのし掛かる
それを小練は、丸々と醜く肥え太った豚を背に担ぎながら、ランニングの速度で登って行ったのだ
何の負荷も背負ってない徳雄ですら、食らいつくのに精一杯だった


(´・_・`)「サッサと準備運動しろ。それとバナナを食え」

(;^ω^)「え?バナナは当然貰いますけど、何されるんですかお?」

(´・_・`)「登ったら降りるに決まってんだろ」

(;^ω^)「え……も、勿論、ゴンドラですおね?」

(´・_・`)「寝ぼけてんのか豚?いいか、ハッキリ言っとくぞ」

447 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:12:48 ID:0tGXVO1.0



(´・_・`)「三浦さんから請け負った以上、俺は全力を持ってお前らを一人前の戦士に鍛え上げる。手心なんて期待すんじゃねえぞ。そして覚悟しろ」


(;'A`)「……」

(;^ω^)「……」


(´・_・`)「お前らは、人生で一番過酷な一カ月を過ごすってことを」


差し込む朝日によって作り出された『鬼』の陰が二人を覆う
徳雄はその姿に己が目指すべき到達点を見た。文彦は『今すぐ帰らなきゃ』と絶望した

448 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:13:42 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「あの……」

(´・_・`)「おめえの家族親族友人、まとめて全員元気だ。俺がバスを出さねえ限り帰れねえ。徒歩で逃げ出そうなんて思うな。昼なら熱中症、夜なら遭難でおっ死ぬぞ」


テレパシストかと疑うほど完膚なきまでに逃げ出す口実を潰され、文彦は真夏の太陽が逃げ出すほどの寒気に襲われる
美女を目の当たりにして浮かれた昨日は何処へやらといった様相に、徳雄は慰めるかのようの肩に手を置いた


(;^ω^)「とっくん……」

('A`)「とっととバナナ食って準備運動しろ」

(;^ω^)「アッハイ」


当然、ブサイクがそんな気の使い方を、ましてや空気読めない甘やかされクソオタクデブ如きにする筈も無かった


(´・_・`)「さて……」


文彦がダラダラと準備をする間、小練はi-ringのタイマー機能を操作する
現在時刻が朝の四時五十分。そこから二時間と十分後の七時にアラームをセットした

449 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:14:45 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「五時にスタートだ。で、二時間以内に宿舎を目指す。間に合わなかったら朝飯が……」

(;^ω^)「朝ごはん抜き!!!!!!?????し、死んじまうお!!!!!!!!」

(´・_・`)「お前ネズミか何か?????心配しなくても飯は三食出すよ。ただ、間に合わなかったらクッッッッッッッッッッッッッッッソ味気のない完全食になるだけだ」


そう、皆さんご存知22世紀のバランス栄養食『一本だいぶ満足バー』なのである。開発にアサヒグループ食品は関わっていない
一日に必要な栄養素のキッカリ三分の一を摂取できるが、なんかもう渇いた粘土食ってんじゃねえのかってくらいクッッッッッッッッッッソ味気ない夢のディストピア飯なのだ
余談だが、これを口にした食品グループ経営者のクズは側近のハゲにこう問いたという

「これ作った奴、美味え飯に親でも殺されたんか???????」



450 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:17:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ちなみに今日はグリコが握った鶏そぼろ卵黄おにぎりが出ます」

( ^ω^)+「グズグズしてる時間も惜しい。早く出発しましょう」

(;'A`)「……」


出会って一日も経ってないのに、既に豚の扱い方をマスターしていた。恐らく以前は養豚場で働いていたのだろう


(´・_・`)「張り切るのは大いに結構だが怪我だけは十分に……」

(#^ω^)「うおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!ご飯お姉さんご飯お姉さんーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


食欲と性欲に支配された豚は、珍しく勢いよく登山路を駆け降り始めた


(´・_・`)「気をつけろよー……」


<ドゥワァセンナナヒャクゥ!!!!!!!!!!!!


(´・_・`)「なんて言ってっかわっかんねーわ。徳雄、いけるか?」

('A`)「いつでも」

(´・_・`)「文彦は……」


豚は二十メートル降ったあたりで膝に手をついて息切れを起こしていた


(´・_・`)「とにかく、お前には二日に一回のペースでこの朝練をやって貰う。メインとなるのはむしろ今から行うトレーニングだ」

('A`)「その心は?」

(´・_・`)「『目』を養う。頑張って着いてこい」


言うが早いか、小練は巨体に見合わぬ身軽さで登山路を駆け降り始める
後に続き降り始めた徳雄は、程なくして『目』の真意を理解した

451 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:18:09 ID:0tGXVO1.0
(;'A`)「っ……」


土、砂利、泥、石、あるいは石段や丸太階段。自然な環境を極力壊さずに構成された登山路は、徒歩はまだしも『駆ける』のには向いていない
その上、登りとは違い今度は『降りる』のだ。重力は勢いと速度を加速させ、危険度も増す
危険度が増すと、自ずと人は『ブレーキ』を踏むものだ。しかしそれでは前を行く師の背中には到底追いつけない
では、小練はどのようにして危険な速度で登山路を駆け降りているのか?


(;'A`)(踏ん張りが効く箇所を連続して見極めて降りて行ってんだ)


かの源義経が一ノ谷で見せた奇策、『鵯越の逆落とし」が如く、連続して踏み込みが可能な最適解のルートを瞬時に判断して降っている
『チャリオッツ』に関しても、多くは悪路を走行する。どこを走れば体力の消耗を抑えられるか、敵を迂回できるか。その判断力を養うトレーニングなのだ


(;'∀`)「ハハッ!!」


豚は既に置き去りに、師はどんどんと遠ざかる。その狭間で、徳雄の期待は膨れ上がるばかりだ
『人生で最も過酷な一ヶ月』。始まりとしては、上々の滑り出しを感じ取っていた

452 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:18:46 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(; ω )「ブヒー!!ブヒー!!」

(´・_・`)「ナイス根性。アスファルトに咲く花かと思った」


後でわかった事だが、二時間という制限時間はかなり甘く見積ってくれていたらしく
最近ちょこっと運動するようになった程度の豚であろうとも、朝食開始ギリッッッッッッギリにはなんとか滑り込みで間に合った


(; ω )「もっ……動けっ……」

(´・_・`)「今の苦痛をよく覚えとけ文彦。そんで、最終日に同じ事を、今度は登りからやって貰う」

(; ω )「はっ、ハァア!?」

(´^_^`)「出来る出来る!!だって男の子だもん!!よく頑張った!!メシにしようぜ!!」

453 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:19:18 ID:0tGXVO1.0
『ねぐら』の朝は、その名前とは裏腹に早い。全国から集まったスポーツ強豪校の部員達は、今朝の徳雄と文彦程では無いが、朝食前に一汗流す
一般的に、傷ついた筋肉を修復及び増幅させるには運動の45分以内に食事を取るのが良いとされている。言わば朝練は肉体作りのゴールデンタイムへの下準備だ
『食無くして筋肉無し』。ボディビルダー『天王寺 美貴久』の言葉である


(;^ω^)「ハムッ!!!!!!!ハフハフ!!!!!!!!!!!!ハフ!!!!!!!!!!!!」


決して豚がこれ以上肥える為の食事では無いのだ


('A`)「……」


文彦より先にゴールし、既に食事を済ませた徳雄は豚の餌やりには目もくれず、厨房で忙しなく働く小練を眺めていた


(´・_・`)「忙し過ぎてイソギンチャクになったわね」


何言ってんだこいつ。ド深夜から二人に付き合い、かなりの運動量をこなしていた筈だが、その働きぶりに一切の気怠さを感じない
ダラダラと洗い物をしている『しずく』という小娘は大きな欠伸で寝不足をアピールしているにも関わらずだ


('A`)「……食ったら九時からトレーニングだってよ」

( ^ω^)「は????????今日はもう一歩も動けませんけど?????????」

('A`)「そうかい」


豚がサボろうが何しようが徳雄には関係無く、グラスに残った麦茶を一気に飲み干して先に席を立った
今は一分一秒でも惜しい。仕事を肩代わりして貰ってまで得たこの期間を無駄には出来なかった

454 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:20:53 ID:0tGXVO1.0
朝食を終えた後、訪れたのはミーティングで使われる空き教室。久方ぶりに着いた学習机に、徳雄は懐かしさを。文彦は居心地の悪さを覚えた
教材の電子化が進んでからは、今や殆ど見られない年季の入った黒板に、朝の一仕事を終えたばかりの小練が二人の名前を書き込んでいく


(´・_・`)「何事も闇雲にやっても上手くいかねえよなぁ。と言うわけで、まずは理想を言語化してみようか」

('A`)「理想ですか」

( ^ω^)「楽に痩せたいですお」

(´・_・`)「そりゃいいな。短期間で楽して効果的に痩せられるダイエット方法があるなら今すぐ教えてくれや」


豚は鳴き止んだ


('A`)「理想……」

(´・_・`)「あーあー難しく考えんじゃねえ。とりあえず何でも言ってけ。計画ってのはまずザッと意見を上げてから精査してまとめていくもんだ」

( ^ω^)「勝ちまくってモテまくりたいですお」

('A`)「そんないい加減な……」

(´・_・`)「それでいい」


黒板に刻まれた『文彦』の名前の下に、雑誌の胡散臭い広告の売り文句が新たに書き込まれる


(´・_・`)「文彦がリードだ。ジョッキーのパイセンは?」

('A`)「あー……」


徳雄はチャリオッツを初めてまだ半年と経っていない。先々月に文彦と共に蟒蛇の下っ端を撃破したが、本来の
勝利条件である『ゴール』への到達は未達成のままだ


('A`)「ゴールする」

(´・_・`)「はいゴール。続けてドンドン言ってけ。どんなしょうもないことでも構わねえ」


言葉通り、小練は二人の理想を一言一句漏らさずに黒板へと書き込んでいく

455 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:21:30 ID:0tGXVO1.0
徳雄

・ゴールする
・押し負けない
・回避出来るようになる
・感情のコントロール
・キャプテン、ガンナーからの指示の理解を早める
・照準合わせ
・ステージ構成の把握
・各路面への適応力
・自分に合った車体カスタマイズ
・ラストスパート


文彦

・勝ちまくりモテまくり
・活躍による配信チャンネルの登録者数激増
・彼女が欲しい
・お金が欲しい
・彼女が五人くらい欲しい
・蟒蛇の下位メンバー程度のザコをイキらせないようにしたい
・バジリスクの撃破
・クズに靴舐めさせたい

456 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:22:06 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「こんなとこか」


ある程度出揃った所で、今度は『課題』と書き込んだ


(´・_・`)「では次に、これらの理想を達成するにはどうすれば良いかを考えよう」

( ^ω^)「僕のありのままの魅力にみんなが気づく」

(´・_・`)「そうか。例えば文彦、太っててだらしなく、化粧もスキンケアもせず肌や髪が荒れまくった女性が無条件でモテると思うか?」

( ^ω^)「そんなのモテるワケないおwwwwwwwww」

(´・_・`)「なんだ、自分のことをよくわかってるじゃねーか」


豚は鳴き止んだ


('A`)「これも直感で答えて良いんすか?」

(´・_・`)「勿論。具体案はその後だな」

('A`)「っつーと……」

457 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:22:34 ID:0tGXVO1.0
徳雄

・ゴールする→最後まで走り切る体力作り
・押し負けない→相手のチャージを耐える筋力作り
・回避出来るようになる→砲撃への対処法を学ぶ
・感情のコントロール→冷静さの維持と熱くなるタイミングの見極め
・キャプテン、ガンナーからの指示の理解を早める→作戦と各要望への理解
・照準合わせ→操縦能力向上
・ステージ構成の把握→ゲームへの理解
・各路面への適応力→同上
・自分に合った車体カスタマイズ→キャプテン、ガンナーに要相談
・ラストスパート→体力及び根性の向上


文彦

・勝ちまくりモテまくり→ガンナーとしての華々しい活躍による知名度の向上
・活躍による配信チャンネルの登録者数激増→同上
・彼女が欲しい→個人配信者とのオフに参加
・お金が欲しい→各大会の賞金と配信の収入
・彼女が五人くらい欲しい→とにかく欲しい
・蟒蛇の下位メンバー程度のザコをイキらせないようにしたい→格の違いを理解らせる
・バジリスクの撃破→キャプテンとガンナーの能力は把握済みなので、相対した場合の優位条件を如何に揃えるかが鍵となる。ゲーム中に遭遇した場合、相手が此方を無視するのはあり得ないので、蟒蛇の方針を逆手に取った作戦と立ち回りを考案する
・クズに靴舐めさせたい→ジャパンカップで優勝したらやらせる



(´・_・`)「いい感じじゃね?」

(;'A`)「そっすかね……?」

458 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:24:13 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「ここまで書き出せば、合宿期間中にどんな訓練をすれば効果が発揮出来るかも見えてくる。徳雄は体力と肉体作りと並行してチャリオッツというゲームへの『慣れ』が必要だよな」

('A`)「そうっすね……やっぱ、妨害があるレースってのは思い通りにいかないもんですし」

(´・_・`)「妨害の回避は何もジョッキーだけの仕事じゃねえが、脚がしっかりしてりゃ『頭脳』も『武器』も能力を活かせる幅が広がる。これはジョッキーに乗っかるガンナーにも言えることだ」


文彦がギクリと肩を弾ませた


(´・_・`)「ジョッキーへの負担軽減。特に固定砲を使ってるガンナーは、ジョッキーの操縦能力に多く依存している。才能だけでどうにかなる舞台じゃねえのは、ちゃんとわかってるよな?」

(;^ω^)「う……」

(´・_・`)「お前が痩せれば徳雄の継続走行距離は伸び、その分お前の活躍の場は広がる。そして勝ちまくれてモテて彼女が五人できて配信での広告収入もガッポガッポ入る。え?????痩せるだけで人生バラ色に??????生きるのって恐ろしくチョロいなオイ」

(;^ω^)「で、でも……」

(´・_・`)「文彦よ、誰も彼もがチャンスを与えられるワケじゃねえ。テメーで重い腰上げられる奴なんて一握りだ。恵まれてんだぜお前?人様の金で自分を変える機会を与えられたんだからな」


小練はチョークを放り投げ、教卓を静かに、だが力強く拳で叩いた


(´・_・`)「勝ちまくってモテまくる人生、送ってみたくはねえか?」

(;^ω^)「……送りたい、ですお」

(#´・_・`)「声が小さぁい!!!!!!!」

(#^ω^)「勝ちまくりモテまくり金稼ぎまくりで週七で女を取っ替え引っ替えしてミセリの中の人とゆくゆくは配信でコラボしてそれがきっかけでお付き合いに発展して他のミンミン民にバレないような交際をしたいですお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#´・_・`)「誰がそこまで望めっつった欲深デブ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(;^ω^)そ「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!???????」


流石に見過ごせないレベルの欲望があった

459 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:26:47 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「と言うわけで、それぞれの指針が見えたな」


徳雄は最近不本意ながら身近に存在する情緒不安定なクズと小練を重ね合わせてしまい内心申し訳なくなった


(´・_・`)「後はジャパンカップまでの具体的な目標を一定の期間ごとに設定し、その間に行うべきトレーニングスケジュールを立てる。最後に実行だ」

('A`)「以外と細かく組み立てるんすね」

(´・_・`)「最悪なのは明確な目標も立てずに無茶なトレーニングして身体をぶっ壊すことだからな」


今度は徳雄が気まずそうに頬を掻いた


(´・_・`)「そして目標を立てることで、達成の喜びを知れる。成長に努力が必要なのは当然だが、脳内麻薬というご褒美は継続への促進剤となる」

( ^ω^)「でもそれじゃあ、達成出来なかった場合にやる気を失くすんじゃ無いんですかお?」

(´・_・`)「ある偉大なレスラーはこう言った。『やる前に負けること考えるバカがいるかよ』と」


燃える闘魂、『アントニオ猪木』の言葉である。オッサン版ダージリンの格言紹介コーナーに、文彦は思わず豚尻の穴を引き締めた


(´・_・`)「出来る出来ねえもテメーの匙加減だ。今しがた掲げた理想も、結局その程度だったってこったろ。世間は負け豚を慰めてくれるほど優しくはねえぞ文彦」

(;^ω^)「は、はいお!!」

('A`)「……」


『上手いものだ』と徳雄は感心した。自らの口でなりたい理想を語らせ、やらない理由を無くして腹を決めさせた
外部の指導者というのも、あの文彦が素直に従う要因の一つではあろうが、金と暴力に物を言わせて従わせるどっかのクズとは大違いだった

460 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:27:24 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「何せ目標は、国内の最強格が集うジャパンカップだ。優勝しちまえばお前らの人生に一生モノの箔が付く。気合い入れて励めよ」

(;^ω^)「はいお!!!!!」

('A`)「っす」

(´・_・`)「そんじゃあ早速、トレーニングに移るか。文彦、水着は持って来たな?」

(;^ω^)「持って来てませんお!!!!!!!」

(´・_・`)「ええ……」

('A`)「いやすいません。俺も聞いてないっすそれ」

(´・_・`)「マァ〜……?」


どうにも締まらないミーティングであった

461 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:28:09 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(;´・_・`)「あーもーやだ!!!!!!!!!なんでそんなブクブクブクブク太ってんだお前!!!!!!!!」

(;^ω^)「ご、ご飯が美味しいから……」


レンタル水着を着用した文彦を見た第一声であった。XLサイズトランクスタイプ水着のゴム紐の上には、汚い皮袋に詰まった臭っせえ脂肪がだらしなく乗っかっている
およそ隆起という単語が似つかわしくない上半身。赤子に母乳もやれないクソオタク雄の分際で、おっぱいだけは豊満であった
人間、一晩で急に165センチの細マッチョになって角界入りの夢を奪われたりはしないのだ。食って寝て動かなければ醜く太っていく一方なのだ


(´・_・`)「お前に必要なのは、運動する習慣だ」

(;^ω^)「やだー……」

(´・_・`)「やだじゃない。毎日適度に運動してりゃ多少間食しても体型は維持できるんだ。そして毎日過剰に運動すれば俺みたいなワガママボディになる」


愛のままに我儘に僕は君だけを傷つけないって感じのマッスルボディだった。太陽が凍りついても僕と君だけは消えない可能性があった


(;^ω^)「今から何するんですかお?」

(´・_・`)「何っておめえ水着でプールっつったらやる事は一つだろ」

(;^ω^)「僕、泳げないですお」

(´・_・`)「そこまで求めてねえよ。今からやるのは水中ウォーキングだ」

462 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:29:04 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(;´・_・`)「あーもーやだ!!!!!!!!!なんでそんなブクブクブクブク太ってんだお前!!!!!!!!」

(;^ω^)「ご、ご飯が美味しいから……」


レンタル水着を着用した文彦を見た第一声であった。XLサイズトランクスタイプ水着のゴム紐の上には、汚い皮袋に詰まった臭っせえ脂肪がだらしなく乗っかっている
およそ隆起という単語が似つかわしくない上半身。赤子に母乳もやれないクソオタク雄の分際で、おっぱいだけは豊満であった
人間、一晩で急に165センチの細マッチョになって角界入りの夢を奪われたりはしないのだ。食って寝て動かなければ醜く太っていく一方なのだ


(´・_・`)「お前に必要なのは、運動する習慣だ」

(;^ω^)「やだー……」

(´・_・`)「やだじゃない。毎日適度に運動してりゃ多少間食しても体型は維持できるんだ。そして毎日過剰に運動すれば俺みたいなワガママボディになる」


愛のままに我儘に僕は君だけを傷つけないって感じのマッスルボディだった。太陽が凍りついても僕と君だけは消えない可能性があった


(;^ω^)「今から何するんですかお?」

(´・_・`)「何っておめえ水着でプールっつったらやる事は一つだろ」

(;^ω^)「僕、泳げないですお」

(´・_・`)「そこまで求めてねえよ。今からやるのは水中ウォーキングだ」

463 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:31:38 ID:0tGXVO1.0
『水中ウォーキング』。読んで字の如く、プール内で行うウォーキングである
水中でのトレーニングは浮力による足腰への負担軽減と、水の抵抗力による効果的な筋肉への負荷が期待出来る
陸上で行うウォーキングと比べて、消費カロリーは1.5倍とその差は歴然だ
その上、今は真夏である。直射日光こそ防ぐ手立てはないが、外気温より低いプール内では熱中症のリスクもある程度は抑えられる


(´・_・`)「とは言え、プールの中でも汗はかく。定期的に水分は補給しろ」

( ^ω^)「コーラでも構いませんかお?」

(´・_・`)「それはマジのアスリートが炭酸抜いて飲むもんだデブ」


構うわけ無かった


準備運動の後、デブはしずしずと入水


( ^ω^)「気持ち良いお!!!!!!!!!!!!」


真夏、照りつける太陽の下。キラキラと輝く水面に汚いデブ
大金を積まれてもグラビアにしたくない絵面がそこにはあった


(´・_・`)「よーし、先ずは向こう岸まで腕を大きく振りながら一往復だ」

( ^ω^)「はいお!!」


ザバ、ザバと水を掻き分け、文彦はゆっくりと25メートルプールを歩き出す


(;^ω^)「おっ……?」


言うまでも無いが、液体には質量が存在する。運動を行えば、当然ながら身体に抵抗力の負荷が掛かる
それは水に触れる面積が大きければ大きいほど作用する。競泳アスリートはその負荷を無くすため、体毛、産毛に到るまで徹底的に剃り落とすらしい
恰幅の広い文彦であるなら尚のこと。運動による負荷は、一般的な体格の者よりも高い

464 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:32:30 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「ハァッ、ハァッ……」

(´・_・`)「どうだよ?」

(;^ω^)「まぁまぁしんどいですお……」


言われた通り一往復しただけ。それもたった50メートルを歩いただけである
しかし文彦の息は既に上がり、足腰には確かな乳酸の溜まりを感じていた


(´・_・`)「続けられそうか?」

(;^ω^)「もう上がりたいですお」

(´・_・`)「ピラニアぶち込むか?」

(;^ω^)「ええいチクショウ歩けば良いんだろ歩けば!!!!!!!!」



( ^ω^)豚は歩くようです



(´・_・`)「ゆっくりでもいい。だが、速度は落とすな。五十分歩いて十五分休憩。今日は朝から運動したし、2セットでいい。終わったらちょうど昼飯時だろ」

(;^ω^)そ「二時間も運動!!!!????死んじまうお!!!!!!!」

(´・_・`)「死なねーよ人間って割と頑丈に出来てんだよ。ああ、休憩の時はめんどくさくても身体は拭けよ。寒かったら更衣室にファンヒーターもある。絶対に身体を冷やすなよ」

(;^ω^)「クソ!!!!!!思いやりと優しさでサボる気をどんどん奪っていきやがるお!!!!!!クズとハゲなら速攻逃げ出したのに!!!!!!」


こいつ普段どんな環境にいるんだろうかと小練は疑問に思った

465 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:35:09 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「じゃあ俺、仕事と徳雄の面倒あるから頑張れよ」


これでも宿泊施設の管理人。多忙の身である。文彦を一人プールに残し、徳雄の様子を見に戻る
文彦はしばらく息が整うのを待ち、再び向こう岸を見据えて歩き始めた


(;^ω^)「勝ちまくり、モテまくり……!!」


決して褒められた動機ではない。文彦の頭には、ジョッキーの負担を減らす為だのと言った、他者への配慮など盛岡の毛程も存在しない
『己の為』。勝利も恋人も手にして、学生ヒエラルキーの頂点に立ちたいという幼稚で浅ましい欲望だけが動力源だった


「彼女!!彼女!!でっけえおっぱいで可愛い彼女!!」


(´・_・`)「……」


姿を消したフリをしてコッソリと様子を伺っていた小練は、気合いの入った掛け声を聞いて、今度こそプールを後にする
やる気が入る動機に、貴賤など無い。あの野郎はきっとこの夏で、人生を変えるだろうと確信しながら―――――


(´・_・`)「……」


モテるかどうかはまた別の話である―――――

466 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:36:15 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(;'A`)「ハァッ、ハァッ、ゼハァ!!」


チャリオッツは、基本的にアーケード主体の展開をしている。筐体の価格が高額であり、一般家庭では設置に要するスペースが確保出来ないからである
しかし、それぞれのポジションの操縦席を別個にする事で、価格と必要スペースを抑える家庭用筐体も販売されている
それでも他の家庭用ゲーム機とは比べ物にならないほど手が出しにくい代物であり、よほど金と自宅の広さに余裕がある一般人しか購入しない
では何故、採算が取れなさそうな家庭用筐体を供給しているのか。需要は個人ではなく、『法人』にあるからだ
プロチームやチャリオッツスクールなど、限りあるスペースで多人数の訓練、指導を行う営利団体が主なターゲット層となる


(´・_・`)「調子は?」

(;'A`)「見ての通りっすよ……」


宿舎の地下、ジョッキー用のバイク筐体が三つ並んだ、『チャリオッツ専用トレーニングルーム』で、徳雄は滝のような汗を流しながらVRゴーグルを外した
観賞用モニターにはゲームオーバー画面に『10th』と順位が映し出されている


(´・_・`)「おー、上等上等。ガンナー、ジョッキー抜き、負荷マシマシでこれなら見込みあるぜ」

(;'A`)「CPU相手のトレーニングモードでも?」

(´・_・`)「そう卑下するな。特訓は始まったばっかじゃねーか」

467 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:41:40 ID:0tGXVO1.0
『習うより慣れよ』。遊びであれ仕事であれ、上達への一番の近道は徹底的な反復作業に尽きる
初心者である徳雄が、プロチームひしめくジャパンカップを勝ち抜くには、少しでも多くの経験が必要であった
当面の課題は、『順位問わず1ゲームをゴールしてクリア』。ペース配分と路面状況、妨害による車体の挙動を身体に染み込ませる訓練である


(;'A`)「ハァッ、フゥー……よし」

(´・_・`)「よしじゃねえキッチリ休めや」

(;'A`)「感覚が抜けねえ内に続けてえんすよ」

(´・_・`)「んなもんちょっとくらい時間空けたって抜けやしねえよ。初日からぶっ倒れるまで飛ばす気か?」


小練はi-ringのリモコンアプリで先程の試合のリプレイを再生する


(´・_・`)「闇雲にやったって意味ねえっつっただろ。休んでる間に反省点を洗い出して次に活かせ。見てもわかんなかったら第三者のアドバイスも聞き入れろ。最初はここだ」


一時停止。第一ステージの先行争いに加わるシーンだ


(´・_・`)「最軽量級NPC『ラビット』のスタートダッシュに釣られちまってる。短距離レースならまだしも、本番と同じ五構成のステージでハナから飛ばしてどうする。ちゃんと相手の脚質とカスタム構成を見極めろ」


チャリオッツのタンククラスは、主に『動物』の名前で分類分けされる

最軽重量で火力、耐久共に最低クラスだがスピードに長ける『ラビット』
最重量で鈍足だが、高火力高耐久を誇る『タートル』
際立った特色は無いが、短、中、長と適正距離を問わないオールラウンダー『ホース』
力強いチャージングによる攻撃、競り合いを得意とする『バッファロー』など

特徴が変われば当然、レース展開や対峙した際の対応も変わってくる
映像で真っ先に飛び出した『ラビット』であるならば、真っ先にリードを広げるのを得意とするが、その分大きく体力を使う上、ステージ毎のトラップや敵対NPCとの遭遇率も上がる
攻撃手段があるならば、追いついて撃破も可能であるだろうが、スタート直後から競り合って先頭争いをするメリットは低い

468 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:44:53 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「初心者が引っ掛かりがちなミスリードだ。上手いラビット乗りなら緩急を駆使したペース配分で後続の体力を奪ってくる。『最初の一ステージなんざくれてやる』くらいの心持でいろ」

(;'A`)「ハァッ……っす……」

(´・_・`)「続けるぞ。次は……」


試合の振り返りをしながら、小練は徳雄が今しがた出した『十位』という順位に舌を巻いていた
徳雄含む『18組』の、本番を想定したレース。しかも対戦相手に選んだのは、ただのNPCではない
『ゴールデンラビット』『キャッスルタートル』『ダークホース』『レイジングバッファロー』と言った、最高レベルで周りを固めていたのだ
当然、名だたるプロチームには足下にも及ばないが、チャリオッツを初めて数ヶ月の、それも『二枚落ち』のジョッキーが易々とゴール出来る難易度では無い
NPC同士の潰し合いや、運が絡むのも確かだが、この試合で『ゴール』が出来た時点で、アマチュアではトップクラスの実力はある


(´・_・`)「……」


初心者である徳雄が、十位の快挙を成し遂げた理由。リザルト画面にヒントが残されていた
徳雄が今試合で撃破した車体の数は『3』。およそ六分の一を、チャージングだけで破壊している
二枚落ちの重量軽減を補う為の重装甲。『タートル』レベルにまで重くしているにせよ、砲撃不可能の車体にしては破格のキルレートであった

469 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:46:26 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「お前、勝ち方の理想は?」

(;'A`)「え……そりゃ、一位獲ることっすかね……」

(´・_・`)「そうか……」


正直な所、徳雄の脚質は明らかに撃破主体の『バッファロー』向きだ。そこに文彦の砲撃術とキャプテンのアシストが加われば、蟒蛇に匹敵するレベルの超攻撃型チームが完成する
映像を見ても、明らかに不要な体当たりを行い、余計な時間と体力のロスを生み出している場面が多く目につく
ただし、ヒットさせた攻撃はほとんどがクリティカルだった。しばしばチャリオッツは格闘ゲームと例えられるが、この辺りは生来の膂力とセンスが関わっているのだろう
伸ばすべきは、ゴールまで走り切るレース技術ではなく、全員を倒し切る攻撃技術の方だ。勝利条件をラスト・ワンに限定したトレーニングを行えば、更に伸びる可能性がある


(´・_・`)「どうしても、ゴールで勝ちたいか?」

(;'A`)「『ゴールで勝たなきゃやる意味がねえんすよ』」


その一言で、小練は余計な進言を慎んだ。彼がそうしたいのであれば、勝ちたい方法で勝たせるのが指導者の務めであるからだ


(´・_・`)「なら次からは、相手との接触を避けてゴールしろ。恐らくそれで順位は落ちるが、体力の消耗は今より抑えられるはずだ」

(;'A`)「了解っす。続けても?」

(´・_・`)「あと二十分は休め。それと、ゲーム設定を少し弄る。一試合終わったら必ずリプレイを見返すように」


ステージ数を三に減らし、対戦相手をラビットとホースに限定する。高火力の砲撃やチャージングの頻度を減らし『競争』に重点を置く
過重量というハンデを背負いつつ、決着が早いレース展開について行くこと。これでペース配分を身につけさせるのだ


(´・_・`)「慣れない内は順位に拘るな。最終ステージで『一番近くにいる奴』には勝てるよう意識しろ。そいつが前にいるなら追いつけるように。後ろにいるなら逃げ切れるようにな。それでスパートのタイミングを掴めるようになる」

(;'A`)「負けるの前提で試合しろってのも、もどかしくて酷なオーダーっすね……」

(´・_・`)「今はトライアンドエラーを重ねる時期だ。本番で勝つ為と割り切れ。安定して上位に入れるようになれば難易度を上げてやる」


我ながら無茶な要望だと、小練は自らに呆れた。『これまで面倒見てきた連中』にも同じトレーニングを課した事こそあるが、フルメンバーかつカスタムも最適化された車体で、ここまで過酷にはしなかった
徳雄の持つストイックさと、チャリオッツへの『無知』につけ込んだトレーニング。文彦までとは言わないが、文句の一つは二つ溢すものかと予想したが


(;'A`)「……」


小練の目に映る徳雄は、より深い『地獄』を追い求めているように見えた

470 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:48:20 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「……」


ジャパンカップを勝つ事で得られるリターンを口にした欲深デブとは違い、徳雄の目標は『勝利』や、『勝利に繋がる数多の要素』だった
明言こそ避けてはいるが、徳雄が長きに渡ってコンプレックスを抱き続けていた親友の話は既に『依頼主』の口から聞いている
青春の置き土産か、深く刻まれた心傷か。はたまた、それすらも超越した感情か


(´・_・`)(面白えなぁ……)


今や誰もが熱狂するアイドルグループの、センターの座に着く美男子『獏良 良樹』
彼の持つ魔性に最も魅了されているのは、往年のファンでもガチ恋勢でも崇拝者でも狂信者でも無い


(;'A`)「ふぅーっ……」


『スター』に唯一土をつけた、醜く小さい無名の男なのだろう


(´・_・`)「……」


『見届けたい』。狂おしいほどの執着に囚われたこの男が、ジャパンカップで真の目的を果たす瞬間を
その為にも、絶対に怪我など起こさせてはならない。慎重に、大事に。かつ『壊れないギリギリのライン』の地獄を与え続けねばならない


(´・_・`)「……」


小練はコッソリと、ステージ毎に配置される敵対NPCのレベルを最大まで上げた
己の無力を知って、奮起する者など一握りだ。その中でも稀に、ごく稀に存在するのが、打ちのめされた数の倍以上に伸びる者だ
大衆はそれを『天才』などと呼ばない。人の枠組を超えた者を、嫉妬と羨望を混えてこう呼ぶのだ

471 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:48:56 ID:0tGXVO1.0





(;'A`) 『鬼才』と




.

472 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:51:00 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



午前の鍛錬が終わり、昼食時。締切ギリギリの時間に食堂を訪れた徳雄は、トレーを手に文彦のいる席へと向かった


(; ω )「」死ゾ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ゲンナリの絶傑だった。恐らくシャドバに実装されてもコモン以下のゴミカードであろう。買取??????出すべきはショップじゃなくて廃紙業者では???????だって臭うもんそのブタカード


('A`)「生きてっか?」

(; ω )「」


返事がないただの腐肉のようだ。え!!!!!????ただでさえ臭いのに更に臭くなるんですか!!!!!!?????
開始一日でグロッキーなのも如何なものかと徳雄は考えたが、既に食べ終えた昼食の食器が残っているのを見て、まぁ大丈夫かと結論付けた


('A`)「昼からは?」

(; ω )「」


グダッと机に突っ伏して何も話そうとしない。徳雄も口数が少ない男だが、会話に対して無視を決め込むほど失礼では無い
少しばかりの苛立ちを、嫌味に変えて返してやろうかと企んだが、ヒスを起こされるのも面倒だと思い止まり、煮魚に箸を入れた

473 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:52:59 ID:0tGXVO1.0
('A`)「……」


『勝てない』。考えないようにしていても、どうしても頭を過ぎる
ただし、先程まで競い合っていたCPU相手ではなく、最終目標である『獏良』に対してだ


('A`)(違うんだよなぁ……)


操縦技術が乏しいのは重々承知してるし、小練の指導も理に適っている。『上達』は間違いなくするだろう
だが、徳雄には大きなブランクと、獏良とは比べるまでもないほどに経験が足りない
元より才能の塊で、努力を惜しまぬ彼だ。宣戦布告をしたあの日から、向こうも此方を倒す為に鍛錬を積んでいるに違いない
鍛え上げても鍛え上げても、埋め難い『差』。焦燥は収まるばかりか、日に日に増していく


('A`)(武器が欲しい)


目の前で死んでるデブですら、『早撃ち』という天賦の技がある。相対した敵を瞬く間に撃ち抜く、正に必殺技だ
漫画やアニメに興味は無く、影響されたことなどないが、これさえ出せれば絶対に勝てる都合の良い『必殺技』を欲してしまうのは、男に産まれた宿命なのかも知れない


「美味しくなぁい?」


('A`)「っ……」


徳雄を思考の沼から引き上げたのは、耳触りの良いほんわかとした女性の声だった
ハッと顔を上げると、割烹着姿の女性が、不満気な表情で窺っていた

474 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:55:22 ID:0tGXVO1.0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あらぁ、ごめんなさい。お箸、進んでないようだったから」

(;'A`)「あ、ああ……そn( ^ω^)「ええ!!!!!!!!!とても美味しかったですお!!!!!!!こんな美女が作ってくださった食事を前に箸を止めるなんて失礼極まりない非モテ行為に他なりません!!!!!!!僕がこのブサイクの分も責任を持って食べて差し上げm」


急に元気になった色ボケクソオタク童貞汚ブタ悪臭デブに強めのデコピンを放つ


:(; ω ):「あっ……がぁ……!!」


真芯に響く痛みに、首根っこ掴まれた悟飯みたいに呻いた


(;'A`)「失礼、考えごとしてたもんで」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「本当に?食欲無いとかじゃなぁい?」

(;'A`)「ええ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それなら、良いんだけどぉ」


ニコと微笑みを浮かべた調理員の女性は、渦巻模様の三角頭巾を外して、丁寧に折り畳んでポケットに納めた
解き放たれた薄桃色の髪が、ウェーブにそって波紋のようなグラデーションを広げている。それはまるで貝殻のカーテンが靡いているようで、徳雄は山中にも関わらず海を連想してしまった
女性は文彦の隣の椅子を引き、断り無しに着席する。文彦はビクリと身体を弾ませたが、童貞特有のの緊張からか、いつもの如くウザ絡みしなかった。何なんこのブタオタク


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ」

(;'A`)「あ、はい……」


徳雄が食堂に訪れた時には、十三時前というギリギリの時間だったのもあり、既に利用客は疎らだった
昼の仕事は済んだと見ていいのか。まさか話しかけてくるのはまだしも、食べる様を観察されるとは思いもしなかった
徳雄は自身の醜さを自覚しているし、異性との縁など幼少期で既に諦めている。文彦のように美女を前にはしゃぐなどみっともない真似もしないが


(;'A`)「……」


頬杖ついてご機嫌な表情でジッと見つめられると、不快とまで言わないが、どうにも落ち着かない
頼みの綱であるデブも突っ伏したまま荒く呼吸するだけで役立たずだ。そもそもチャリオッツ以外で人の役に立ったことある???????

475 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:58:19 ID:0tGXVO1.0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「……私、邪魔?」

(;'A`)「うわぁ〜……」


うわぁ〜だった。徳雄は異性に興味も関心も無いので普通の男性なら慌てて取り繕うであろう試すような声色に素直なうわぁ〜を放った。そう、バチクソめんどくさいのである


ヽiリ,うヮ゚ノi「酷い!!酷いわ!!私はただ、キミが美味しく食べてくれる所を間近で見たいだけなのに!!」

(;'A`)「知ら〜ん……」

(#^ω^)「謝れお!!!!!!!顔もブサければ性格もブサイクで救いようがねえお!!!!!!!お姉さん!!!!!!こんなクソ野朗放っておいて僕が昼食の感想をこと細やかにお話して差し上げますお!!!!!!!」


徳雄はもう一度同じ箇所に、今度は本気のデコピンを放った


(; ω )「エンッ!!!!!!!」


文彦は大きく仰け反り、背もたれにぐだんと身を預け動かなくなった。黙っていればただの臭いデブなので意識があるより遥かにマシだった


('A`)「申し訳ないんですが、そうまじまじと見られると食うのに集中出来ないんで……」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「じゃあ食べさせてあげる!!」

(;'A`)「そう言うサービスも結構なんで……」

ヽiリ,,゚q゚ノi「ハァハァ食べるとこハァハァ見せてぇ〜!!生き甲斐なんだからぁ〜!!ハァハァ!!!!!」

(;'A`)「う、うわぁ〜……」


『変態とはいえ殴ったら流石にマズイかな……』。合宿二日目で暴力沙汰、それも女性従業員を殴るワケにもいかず
徳雄に出来るのは『勘弁して欲しい』とブサイクな顔を顰めるだけだった。顰めた方がまだマシな顔面だった

476 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 20:59:06 ID:0tGXVO1.0
めんどくささに耐えきれず、トレーを手に自室に逃げようとした矢先


(´・_・`)「邪魔すんな」

ヽiリ;, q ノiそ「ごあっは!?」


女性の脳天へ、瓦五億枚くらい割れそうな遠慮の無い手刀が振り落とされた。瓦一枚の厚みを1cmとして五億枚だと5000kmある。地球の半分くらい割れる。弱体化したアラレちゃんの可能性があった
額がテーブルを強く打ち、食堂中に響く鈍い音。疎らに残っていた利用客の誰かが、『えっぐ……』と絶句した


(´・_・`)「悪ぃな。料理の腕と引き換えに客が食ってるところを見ると興奮する性癖持ちになった変態なんだ」

(;'A`)「ああ……大変すね……」


徳雄は普段一緒に働いてる上司や同僚やアルバイトが相当まともな部類に入るのだと思い知った


(´・_・`)「食ったら暫く休めよ。こいつどうした?」


(; ω )「」


('A`)「さぁ?疲れたんじゃないっすか?」

(´・_・`)「ほーん。そんじゃ、ごゆっくり」


小練が突っ伏した女性の襟首を雑に掴んで引き摺っていく様を見送り、徳雄はようやく昼食にありつけたのだった

477 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:09:12 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



築二百年の日本家屋。団子一本で財を築いた参羽鴉創立者『大潮 凡吉』の遺産の一つである
およそ600坪の敷地内には、趣を感じる茶室や離れが設けてあり、中庭には美しい箒目の枯山水と、季節毎に色を変えるサクラやモミジ、イチョウの木が立ち並ぶ
重厚な石蔵には、諸方より取り揃えた玉石混交の骨董品が、日の目を避けて眠っている
余談だが、大潮家で最も価値があったとされる日本刀が、初代の逝去の同日に紛失し、今現在も見つかっていない
と、ここまでは歴代の大潮一族が作り替えず遺した区画であり、増改築を繰り返していく内に新たな建築物が新築されては取り潰されて行った

二代目頭首『大潮 百太郎』(ももたろう)は自身の功績を称えた等身大の純金の像を
三代目『大潮 波穂』(なみほ)その像を鋳潰して売却し、ボウリング場とプライベートシネマを
四代目にして本八の父『大潮 左今』(さこん)は、老朽化した施設を合意の下で解体し、高級車のカーガレージと酒蔵を
そして五代目である本八は、父の海外移住と共に移送され、がらんどうとなったガレージを、今まさにチャリオッツ専用トレーニングルームに作り替えている最中であった


(´・ω・`)「結構良い値段したな……」


購入したのは、家庭用ではなく『業務用筐体』。およそ四メートルにも及ぶ巨大な球体だ
運転席はカスタムに合わせたホログラムビジョンで表現され、没入的なゲーム体験を味わえる
極め付けは磁力を用いたリアルアクションシステム。右左折時の方向転換は勿論、重力加速度、飛翔時の浮遊感やサスペンションの軋み
路面に応じた運転席の振動に加え砲撃及び被弾時の衝撃や車体の横転に到るまで、ゲーム内で生じるありとあらゆる現象が、運転席の挙動としてリアルタイムで反映されるのだ
希望小売価格は二億円と、大潮家ほどの大富豪でもおいそれとは支払えない金額だが、型落ちの中古筐体であるならば一億、安ければ一千万ほどで手に入れられる
当然、メンテナンス費用は別途で掛かるものの、業務用筐体の個人入手は中古での購入が望ましいのである


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「500万かぁ……」


結構良い値段どころの話では無かった。中古の高級車買えるくらいだった。中古の高級車が買えない可能性すらある
京都にある骨董品店『大桜堂』で購入した物だが、余りに安すぎてジャンク品どころか等身大のプラモデルでは無いかと疑った程だ
店主の背と髪が長く、和装の似合う京美人に『これマジで動くんか?それと今晩暇?湯豆腐食べに行かない?』と二、三度詰め寄ったが
ケタケタと笑いながら『ちょっと曰く付きやっただけで中身はなぁんも問題あらへんよ』と返されただけだった。食事には付き合ってくれなかった

478 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:10:29 ID:0tGXVO1.0
(´・ω・`)「安かろう悪かろうとはよく言うが……」


破格なだけあって、動作確認無しの現金一括購入しか認められず、金をドブに捨てる気持ちで購入したが
外観に目立った傷は無く、起動もスムーズに行われ、リアルアクションシステムのテストプレイも問題無い
ウイルスが混入してる可能性も考慮し、管理業者に再三チェックしてもらったが、『綺麗なもんです』の一言で片付いた
管理番号から流通履歴を遡ってもみたが、店頭で使われたテスター品であり、新型の発売と共に廃棄が決定された事がわかっただけで、その後どう言う経緯で大桜堂の軒先に並んだのかは定かでは無かった
念には念を入れてメーカーにも問い合わせしたが、当時の担当者は既に退職しており、詳しい経緯は答えられないとの事
ただ、大桜堂は先んじて中古販売の許可を貰っていたらしく、問題なく動くのならば使用して良いらしい
ただし、メーカー保証は効かず、故障や事故が起こっても自己責任でお願いしますと釘を刺された


(´^ω^`)「まぁええわい!!動くんやったらなんでも!!」


『曰く付き』という物騒な単語を都合良く忘れ去り、本八は意気揚々と私物となった筐体に乗り込んだ


(´・ω・`)「さーてと……」


とは言え、購入したのは中古の型落ち品。バージョンの更新もしておらず、出来る事と言えば試運転とトレーニング含めたソロプレイモードのみ
実際にオンライン対戦をするには、最新のバージョンが搭載されている筐体があるゲームセンターやコロッセオに足を運ばねばならない
しかし、本八からすれば『それだけ出来れば上等』だった。目的はゲームプレイでは無く、カスタマイズの噛み合いと、それに伴う運転席の挙動のテストなのだから


(´・ω・`)「とりあえず、デブに合わせたカスタマイズから色々試してみっか……」


本八のポジションは『キャプテン』。求められる仕事は戦略及び戦況把握に加えて、各ポジションのサポートである
車体のカスタマイズを始め、アビリティセットやアイテム購入、それらを使うタイミング
『脚』と『腕』を活かすも殺すも、『頭脳』次第。高ランクになればなるほど、大将の重要度は増す


(´・ω・`)「『クイックリロード』に『オートエイム』……」


試しに、装填速度を50%向上させるアビリティと、自動エイムを搭載してテストを行う
白タイルで構成された無機質なトレーニング用ステージに、半透明のタンク型ターゲットを、前方左右に一台ずつ配置

479 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:11:41 ID:0tGXVO1.0
(´・ω・`)「プレイ」


合図と共に、車体は真っ直ぐ走り出す。身体に感じるGと振動。リアルアクションシステムにやはり問題は無い


(´・ω・`)「おっと」


主砲、『6shooter』の射程に入った瞬間、ハンドルを急に切ったかのように右のターゲットへ向けて方向転換。そのまま『タン、タン、タン』とリズムよく三発発射し、撃ち抜いた


(´・ω・`)「タイム!!」


逆方向へと首を振る前に、本八はサッサとテストプレイを切り上げる。やはり固定砲塔とオートエイムの相性は最悪な上


(´・ω・`)「っかー……遅すぎ」


体型と性格はクソクソクソのクソのくっせえデブオタクだが、抜群の反射神経と精密射撃を誇る文彦にとって、オートエイムの速度は遅過ぎる


(´・ω・`)「これならむしろ多少無茶しても……」


『試行錯誤』。ジョッキーとガンナーの合宿期間中、キャプテンである本八の課題がこれだ
莫大なアビリティとアイテムの中で、最適化したカスタムを見つける事。気が遠くなりそうな根気のいる作業をひたすら孤独に繰り返す


(´^ω^`)「楽しい時間の始まりだァ!!!!!!!ガーーーーーーーーッハッハッハ!!!!!!!!」


『なんて事は無かった』。チームメイトが見つからなかった三十と余年に比べれば、余りにも短く、贅沢な時間であった

480 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:14:29 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



合宿三日目


( ^ω^)「ふんふんふーん♪」


昨日は語尾が『だお』から『帰りたい』に変わるほど消耗していた文彦が、どういうワケか朝からゴキのゲンだった


('A`)「調子良さそうだな」

( ^ω^)「とっくん!!おはようだお!!」


元気に挨拶まで返す程だ。昨日の朝なんて推しを殺されたかのような憎しみの籠った目で睨まれただけだと言うのに
『毎日こんなんだったらまだ可愛げの一欠片くらいあるだろうになぁ』。儘ならない人の心に、徳雄は小さく溜息を吐いた


( ^ω^)「聞いてくれお!!実は今日、シンクロナイズドスイミング部の団体客が来るんだお!!」

('A`)「へぇ」

( ^ω^)「今までずっと一人で歩いて限界だったけど、今日から華やかになるお!!ひたむきに努力する僕を見てワ、ワンチャンあるかもしれんおグフフフフフ」


徳雄はグフフフフフと笑い鳴く豚を初めて見た。サーカスの前座くらいにはなりそうだなぁと思った


('A`)「なぁそれ」

( ^ω^)「なんだお?羨ましいのかお?っかー!!ごめん!!とっくんは今日も一人で寂しくチャリ漕いでてくれお!!」

('A`)「……」


『女子シンクロ部なのか?』と訊こうとしたが、調子乗った文彦の言う通り徳雄には関わりない場所での団体客であるのは確かなので
大いに期待を裏切られるのを願いつつ、『なんでもねえよ』と会話を打ち切った



そして話は>>432レス目に戻るのである

481 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:14:55 ID:0tGXVO1.0
(; ω )「ブヒー!!ブヒー!!」


「ナイスガッツ!!」

「偉いぞデブちん!!」

「お前ら!!彼を見習ってもう一丁舞うぞ!!」


「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!」」」」」


逞しき漢(オトコ)人魚達が、一切の脂肪を感じさせないしなやかな肉体を、輝く水面へと投じる
文彦にとっては徳雄の顔面くらい見たくない光景であった。朝は元気いっぱいだった小さな小さな、そりゃあもう小さなムスコも今や見る陰もない。陰茎だけに


(´・_・`)「ほれ、水分補給しろ」

(; ω )「くたばれ」

(´・_・`)「最近のガキは口が悪ぃな。彼らを見習って爽やかに生きたらどうだ」

(; ω )「イケメンリア充くたばれ」


嫉妬に塗れた人間ってここまで卑屈になるのかと、小練はなんだか文彦が肥った哀しい生き物に見えてきた

482 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:17:17 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)(しかし……)


『よくやってる方』ではある。数日経ってもモチベーションが失くなる様子も無いし、消費カロリーも緩やかではあるが右肩上がりで増えている
褒めてやりたい所だが、文彦は恐らく一ミリも喜ばないのだろう。『同居人』に代弁して貰ってもいいが、気遣いの出来ない二人と変態が一匹だ。下手に拗れてしまう危険がある
その上、文彦にとっては酷な話も一つ。このまま続けていても、どこかで『頭打ち』が来るのだ


(´・_・`)「もう一時間、追い込んでいくぞ」

( ^ω^)「は?無理。動けない。競走馬だって一レース終えたらゆっくり休ませるお。そんな事もわからないのに指導者やってんの?ハァー、やめたらこの仕事?」

(´・_・`)「そうだな。明日は終日休みにしようかと思ったんだが、お前がそう言うなら今日は切り上げて続きは明日に回すか」

( ^ω^)「とまぁ、凡人ならこう言うでしょうね。ま、僕は元気と才能に満ち溢れた天才なんであと一時間くらい余裕ですけど」


毎日こんな可愛げの無いクソガキを相手してる徳雄が不憫でならなかった


( ^ω^)「っしゃあ!!休みって聞いた途端、やる気と希望がムンムン湧いて来たお!!」

(´・_・`)「あー、待て待て」


マジでサッサと終わらせたいんだろうなと感じる程に嫌そうな顔を向けた文彦に、小練は一枚のTシャツを投げ渡した


(´・_・`)「それ着ろ」

(;^ω^)「え?どうしてだお?もしかして、僕の透け乳首が見たいってコト!?幻滅しました実家に帰らせて頂きます」

(´・_・`)「乳首千切るぞ」


文彦は汚ねえ乳首を手ブラで隠した。お見苦しい物を見せてしまい大変申し訳ございません


(´・_・`)「いいからそれ着て歩いてみろ」

(;^ω^)「何だお注文の多い……偉そうに……美女と美少女侍らせやがって……クソがよ……」

(´・_・`)「……」


小練は『一発くらい全力で殴っても許されるんじゃないか』と思えてきた

483 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:18:20 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「おっほ、新感覚……」


『服を着て水に入る』。ウェットスーツやラッシュガードはともかく、普段着のまま泳ぐというのは、余程切羽詰まった状況下か青春映画に脳を焼かれた学生しか行わないだろう
そもそも、何故泳ぐのには『裸』が適しているか。それは前述の通り『水の抵抗力』が関係する


(;^ω^)「っ、ふっ……」


肌の表面積よりも広く、ウエットスーツのように身体に密着しない布製品は、より多くの抵抗力を受けやすい
その上、水を吸った分重さが生じ、クロールやバタフライのフォームの妨げとなる
水難事故に遭った際、もがけばもがく程に体力を大きく消耗し、溺れてしまう要因の一つである
尚、有事の際は慌てずに『背面で静かに浮く』事で、衣服内の空気が抜けずに浮き輪の役割を果たす為、一概に悪条件とは言い切れない


(;^ω^)「んぐぐ……キチィお……!!」

(´・_・`)「せやろがい」

(;^ω^)「僕に何の恨みがあってこんな仕打ちを……?」

(´・_・`)「さっき吐いた暴言思い返してみ??????」


思わず本音が出た

484 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:21:04 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「同じ事を続けてても何処かしらで効力は横ばいになる。これから三日ごとに一枚ずつ、着るもんを増やしていくぞ」

(;^ω^)「お、溺れ死んじまうお!!!!!!!!」

(´・_・`)「面倒見てくれる優しいお兄様方が側にいるだろうが」


「お任せください!!我々、海上保安官志望も多いので!!」

「速攻で助けてやるぜ!!」

「人工呼吸も任せろ!!」


「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!」」」」」


逞しい上に心優しく頼もしい漢人魚達。輝く笑顔は真夏の太陽に匹敵するほどだ


(#^ω^)「チッ……脳筋低知能のクソ共がよ……」


文彦は意地でも世話になってやんねぇと心に誓った。同じ人間なのにこの差はなんだと言うのだろうか
かたやイケメン海上保安官候補のシンクロナイズドスイミング選手。そしてかたや性格ゴミクズの豚オタクだ。神は残酷ではなかろうか?文彦作った時なんか嫌なことあった?話聞こか?つかLINEやってる?


(;´・_・`)「……」


イケメンを妬んで憎んだところで別にお前がモテるワケじゃないと正論で聡そうかと考えたが、『豚の耳に念仏か』とすぐさま諦めたのだった

485 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:23:33 ID:0tGXVO1.0
(,,゚-゚)「せんせー」

( ^ω^)「!!」


豚は正論に聞く耳を持たないが、女の子の声にはいち早く反応する。背筋は瞬く間にピンと伸び、歩幅は広がった


( ^ω^)+「ほっ、はっ!!ヌルいですお!!まだまだやれますよ僕ぁ!!」

(´・_・`)「じゃあもう二時間追加するか。どうした?」

(,,゚-゚)「なんかねぇ、昨日来たサッカー部団体いるじゃん。そいつらとブサイクが揉めてる」

(;´・_・`)「ハァ〜?」

( ^ω^)+「ハッハッハ!!そんなもん放っといて大丈夫ですおしずくさん!!ブサイクなら三秒以内にボコボコにしてグラウンドに埋めてますお!!全くこれだから暴力に抵抗のない野蛮人は困る!!男は優しさ!!!!!そう!!!!!僕のように一度も拳を振るった事のない男こそ、真に愛されるべき者とは思いませんかお!!!!!?????」


儀社は人間なので豚語がわからなかった


(;´・_・`)「どこで?」

(,,゚-゚)「地下階段の踊り場。なんか絡まれてた」

(;´・_・`)「あー……悪さするなら人気のねえそこだろうなぁ……わかった。すぐ向かう。その間コレの面倒見てくれるか?」

(,,゚-゚)「……?」

(;´・_・`)「ああもういい。戻っていい」


『マジで何言ってんのかわかんない』という表情に、小練は早々に監視役を置くのを諦めた

486 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:24:36 ID:0tGXVO1.0

(´・_・`)「ちょいと外すが、しっかりやれよ」

( ^ω^)+「この僕がしっかりしていない時がありました?バッチリ仕上げときますよハッハッハ!!」


露骨な態度の豹変に、苦笑いも浮かばなかった


(;´・_・`)「オイ」

(,,゚-゚)「えー……」

(;´・_・`)「いいから」


『サービスしとけ』と暗に伝え、儀杜はしぶしぶと、嫌々ながら、最悪なまでに本意では無く、駅前に吐き捨てられ悪臭を放つゲロを見るような目と、何一つ感情の入っていない機械的な声で


(,,゚-゚)「ガンバッテー」


と、無感情の応援を放った


(#^ω^)+「ウオオオオオオオオ!!!!!!気合いが入りまくりましたお!!!!!!!見ててくださいしずくさん!!!!!!!貴女の為にきっと!!!!!!僕は生まれ変わりますおーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


それでも童貞オタクデブには絶大な効力だったようで、通常の二倍速で水中を歩き進めた


(,,゚-゚)「もう二度としないから」

(;´・_・`)「ああ……」


何もしてないのにここまで異性に嫌がられるのも、ある種の才能なのかもしれない
文彦に若干の同情をしながら、小練は急ぎ足で件の現場へと向かった

487 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:28:57 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(;´・_・`)「徳雄!!」


小練たちが駆けつけた頃には、既にサッカー部の姿は無く


('A`)「ああ、小練さん。どうしたんです?」


頬に青痣を作り、壁にもたれ掛かる徳雄だけが残されていた


(;´・_・`)「誰にやられた!?」

('A`)「言えません」

(;´・_・`)そ「ハァ!?」

('A`)「大ごとにもしないでください。それより今、時間あります?ちょっと見てもらいたくて」


ダメージを一切感じさせない足取りで立ち上がり、トレーニングルームへと向かっていく
複数人から暴行を受けた後にはとても見えない。小練と儀社は顔を見合わせた


(;´・_・`)「しずく、『人間の仕業』か?」

(,,゚-゚)「間違いないよ。ほら、ここに悪さの跡が残ってる」


床にはリキッドタバコの空カプセルが捨てられている。真面目かつ成人済みの徳雄なら、隠れてコソコソと吸いはしないだろう
その上、不良の二、三人程度で遅れを取るようなタマでは無い。文彦や依頼主から聞いた話では、むしろ喜々として相手を痛めつけるタイプの人間だ


(;´・_・`)「大ごとにすんなっつってもな……」


管理人という立場上、ルールを破った利用客を野放しにするわけにも行かない
しかし今の徳雄は、『何かを掴んだ』と言いたげな態度だった。沙汰を下すのは、それを目の当たりにしてからでも遅くはないだろう


(´・_・`)「後でシメればいいか……」

(,,゚-゚)「悪いとこ出てるよ先生」

488 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:30:28 ID:0tGXVO1.0
二人がトレーニングルームに入室すると、既に徳雄はセッティングを済ませていた


('A`)「この三日間の成績っす。どう思いますか?」


モニターに夥しい数の戦績が表示される。順位は多少上がったものの、トップスリーにランクインしている試合は無い


(´・_・`)「頑張ってるなって感じ」

('∀`)「ハハ、努力賞もいいとこっすよね」


たかが三日だ。『男子三日会わざれば』とは良く言うが、短時間で劇的に成長する者などフィクションの中だけの出来事である
例え徳雄が今の騒動で『何か』を掴んだとしても、目を剥くほどの変化は無いのだろう


('A`)「この一レース、ちょっと見といてください」

(´・_・`)「ああ……構わねえが……」


小練は別に、初心者である徳雄を甘く見ているワケではない。期待をしていないのは、これまでの『統計』から基づく認識なだけだ
素質があり、根性があり、向上心がある。この場合で鍛錬を行った者は、皆等しく培った努力の数だけ、地道に上達していった
その積み重ねあってこそ、数多の尊敬と栄冠を勝ち取るチャリオッツプレイヤーとして成り立つものなのだ

しかし小練は知らなかった


(;'∀`)「ハァーッ、ハァーッ……」


『暴力』を行使する時のみ発揮される、徳雄のポテンシャルを知らなかった

489 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:32:08 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「……」


『1st 6kill』


それは、小練が見た中で最も信じがたいスコアだった
これまでのセオリーも指示も、何もかもを無視した、無茶苦茶な走り
前を走るラビットを撥ね飛ばし、側面のホースを殴り飛ばし、砲火に曝されようと、眼前の敵を踏み荒らした
破壊に次ぐ破壊を、これでもかと堪能した後、当初の目標である『ゴールでの勝利』を達成した
ステージに残ったのは、へしゃげて横たわる屍と、怯えているかのように後を追う僅かな対戦相手だけだった


(;'∀`)「ハァーッ、なんっ、か、ずっと、ゲホッ、ここに、来る前から……」


息絶え絶えに。だが、これまでにない満足感を見せながら、徳雄はハンドルに両肘をついてもたれ掛かった


(;'∀`)「なんか足んねえって……ハァ、思ってたんす……申し訳ねえけど……小練、さんの、メニューも……『こんなもんか』って、思ってました……」

(´・_・`)「……これまで手ぇ抜いて走ってたってわけじゃねえよな?」

(;'∀`)「勿論すよ……」

(´・_・`)「ふむ……」


小練は、徳雄が掴んだ何かの見当は付いていた。『スイッチ』である
『ルーティン』とも呼ばれるそれは、特定の動作を繰り出すことで集中力を呼び起こし、パフォーマンスの向上へと繋げるのだ
某メジャーリーガーがバッターボックスに立った際、袖を捲るように、人それぞれに『スイッチ』の作法がある

それは音楽であったり、ミントガムであったり、アロマであったり
気合いを入れ直す為に頬を叩いてみたり、仕事の前に缶コーヒーを飲んだり

チャリオッツのプロプレイヤーの中には、仮面を被って別人になりきる事で、緊張とプレッシャーから解き放たれる者もいる


徳雄の場合は、『被虐』であった

490 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:34:05 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「蟒蛇と揉めた時……一回殴られてんすよね……そん時、めちゃくちゃ力入って……今みてーに、思いっきりやれたんすよ……結果として、文彦に、華を持たせたんすけど……多分、俺一人で全部やれました……」

(´・_・`)「……そんで?」

(;'∀`)「『この感覚』さえモノに出来れば、俺は今度こそあいつを殺せる。これが俺の必殺技なんす。だから小練さん、お目溢し願えませんか?」


これまで徳雄が歩んだであろう、『虐げられ、虐げ返した人生』に、小練は憐れまずにはいられなかった
学校で大人がしたり顔で説く道徳など、目の前にいる『虐めやすい者』に何の救済も与えない

攻撃に対する最高の抵抗は、防御では無い。受けた痛みを上回る『反撃』なのだ

小さく醜い男は、幼き頃からそれを頭では無く身体で理解し、実践した。その生き方が、歪んだスイッチを作り出したのだろう
小練は無責任かつ頭ごなしに、徳雄の生き方を間違っているなど説くつもりは無かった。右の頬を殴られたのなら、前歯の一、二本へし折って然るべきなのだ
むしろ、よくぞ今まで腐らず、突っ張って生きてこれたなと褒めてやりたいくらいだった


その上で、彼はこう返した


(´・_・`)「アホかオメー」


.

491 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:35:17 ID:0tGXVO1.0
(;'∀`)「ハハ……やっぱ、ダメっすよね……」

(´・_・`)「ちょっと考えたらわかるだろ。お前、一試合毎に一発ぶん殴られるつもりか?」


これまで通用したやり方が、これからも通じるとは思えない。リング上で行う格闘技ならいざ知らず、チャリオッツはあくまで『eスポーツ』なのだ


(´・_・`)「確かにお前のポテンシャルは凄まじいよ。だが、本番は長丁場になる。最初に一回スイッチ入れて、それがゴールまで続く保証はねえだろ。必殺技ならもっとシャープに、そして頻繁に使えるように『入れ方』を更新すべきだ」

(´・_・`)「それに俺はお前らの先生でもあるが、ここの『管理人』でもある。そりゃ、どっか他所でやってくれんなら口出しなんてしねーが、他にも利用客がいるんだ。キッチリ取り締まらねーと示しがつかねーだろうが」

(;'∀`)「返す言葉もねえ……」

(´・_・`)「しずく、クソガキの顔覚えてるか?」

(,,゚-゚)「え?」


儀社は爪見てたんで話を全然聞いてなかった。微塵も興味が無かった


(,,゚-゚)「あ、サッカー部?知らないよ別に興味ないし」

(´・_・`)「オーケーお前に期待した俺がバカだった。徳雄」

('A`)「俺にチクりみてーな真似しろっつーんですか?」

(;´・_・`)「もぉ〜……プライド高い〜……」


管理職はツラいよだった

492 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:37:01 ID:0tGXVO1.0
(;´・_・`)「あーもー……とりあえず、今回は注意喚起だけで済ます。次はちゃんと逃げるかシメるかしろよ……」

('A`)「シメて良いんすか?」

(;´・_・`)「暴力抜きでな……」

('A`)「了解っす」


儀社は「なんか可笑しいこと言ってない?」と思ったが、ブサイクが何しようが興味がないので爪を見るのに戻った
ネイルをやってみたはいい物の、やっぱベタベタのベタになって気になるのだ。今夜あたり同居人の姉代わりに直して貰おうと思った


(´・_・`)「さて……」


『物足りない』。不満があるならすぐに解消するに尽きる。レース感覚を掴む為のNPCとの模擬戦だったが、徳雄の『感覚』を刺激するには少々役不足だったらしい


(´・_・`)「トレーニングのレベルを前倒しにする」


本当ならば合宿の終盤、総仕上げの『試練』として経験させようとしていた強豪との練習試合
ある程度の練度を貯めて挑んで貰おうと考えていたが、もはや徳雄は『初心者』で片付けられるレベルを当に越えている
時間は有限なのだ。程度が知れたなら、より効果的な訓練を積ませるべきだ

493 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:38:51 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「言っとくが、これまでのクソザコ共とはワケが違うぞ」


チャリオッツのトレーニングモードには、AI学習による『プレイヤー再現機能』が搭載されている
挙動、エイム、攻撃、ペース配分、アビリティの発動タイミングやスパートの入れどころまで
メモリー内に保存された選手データをNPCとして反映し、より高いレベルの練習相手として利用出来る
引退した元プロプレイヤーの中には、後輩の育成の為、あるいは最後の一稼ぎ目的で自身のデータを配布する者もいる


(´・_・`)「これからお前が相手にするのは、かつてのレジェンドだ」

('A`)「……」


『一進不退』、『スリップ・バナナ』、『ドルバッキー』、『ff(フォルティッシモ)』、『4分33秒』


('A`)(何これ……)


こんなんバァー挙げられても徳雄には何のこっちゃヨイヨイセブンだった
そう、皆さんご存知、歴代のチャリオッツタイトル獲得チーム名なのである。2122年のナウなヤングの間では常識なのである。もしかして2122年の人間じゃ無いんですか?百年も時代遅れで恥ずかしくないの?


('A`)「ん……?」


その中に一つ、見覚えのある名前があった


『アンラ・マンユ』


('A`)「オッサンの推しチームも入ってんすか」

(´・_・`)「そうだ。お前らをここへ推薦した三浦さんが所属していたチームだな」


チームデータはまだまだアップロードされていく。カウンターが丁度100を表示した辺りで、エントリータブを押した


(´・_・`)「総勢100チームのデータだ。これを一試合毎に17チーム、ランダムに選出する」

('A`)「ランダム?」

(´・_・`)「同じ相手とばっかやって変なクセつけたくねーだろ。AIは『基本に忠実』がウリだが、『応用』は効かねえ。細かいフェイントや余計な遊びも入れたりしねえから、本番で引っ掛かる可能性も出てくる。せめて組み合わせで変化はつけとかねえとな」

('A`)「良いっすね。より楽しめそうだ」

(´・_・`)「だと良いがな……」

494 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:39:44 ID:0tGXVO1.0
難易度が上がっても目標は依然変わらない。レースの勘を掴み、順位に関わらずゴールを目指す
また新たに、被虐以外でのスイッチの取得も追加された


(´・_・`)「一騒動あったが、自分の武器を明確に自覚できたのは大きな進歩だ。その調子で励めよ」

('A`)「はい。ありがとうございます」


感情が込められていない形式的な感謝に、小練は苦笑いを浮かべる他なかった
誰しも認められるのは嬉しく喜ばしいものだが、徳雄はその辺の感受性が著しく低く見える


(´・_・`)(まぁ……ええか……)


徳雄は勝利への渇望と、暴力と破壊の快感を知っている。他人から与えられるモノではなく、自ら勝ち取るモノへの執着心がある
自己完結で済むモチベーションは、孤独で過酷な訓練への耐久力だ


('A`)「っし……そんじゃ、やってみます」


徳雄は殴打によって出来た青痣に触れ、サドルに跨った
痛みと屈辱が全身に行き渡り、疲労した身体に新たな活力が漲る


('∀`)「へへ……」


今の自分が、自分の武器が、かつてのレジェンドにどれほど通用するのか
仮に全く歯が立たなくても構わない。まだまだ『伸び代』があるという事だからだ
高鳴る鼓動に共振するかのように、スタートのシグナルが鳴った―――――

495 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:42:31 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



(#^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!うっぜえうっぜえうっぜえお!!!!!!!」


マジで三時間歩かされて文彦は疲労と怒りでAdoになっっていた。ねぇアンタわかっちゃいない可能性がある
『叫ぶだけの元気ある分際で何キレてんのこの豚?死ねよ』と思われそうではあるが、こう見えて産まれたての汚豚のように脚ガクガクなのである


(#^ω^)「ったく、みんな僕を蔑ろにし過ぎじゃないかお?こんなに頑張ってんだから、労いのご褒美があって然るべきだと思うお」


デカい独り言であった。そもそも、労いの言葉はシンクロナイズドイケメン軍団に発狂するほど浴びせられたし、小練からもガッツを褒められているにも関わらず
しかし豚が欲しいのは黄色い声援。女性からの甘やかし。そして関係&ラッキースケベなのである。野郎の言葉なんてただの不愉快なノイズでしか無く、それが更に苛立ちを助長させていた


(#^ω^)「っかーーーーーーー!!!!!!とっととミセリのサマーフェスの日になってくんねーーーーーーかなーーーーーーーー!!!!!!二度と帰ってこねえおこんなクソ合宿!!!!!!!!」


声はデカいが這う這うの体である。せめてもの気休めは、明日はオフだと言うことだ
気分を切り替えようと、休みの予定を脳内で組み立てる。食堂で一日中調理員さんを眺めるのも良いし、しずくさんや事務員さんにミセリの魅力を説くのも良い
ブヒヒと気持ち悪くて臭い笑いをしながら、ボロボロの身体を引き摺って食堂へと向かう

496 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:43:28 ID:0tGXVO1.0
その道中である


( ^ω^)「お……?」


廊下の先に、小汚い誰かが倒れているではないか


(;^ω^)そ「うわ、めんっ……」


本音が出た。国産の豚らしい事なかれ主義であった
しかしこのまま見過ごすのも文彦の心に後味の悪いものを残す。クッソ嫌々ながら、様子を見に近づいた


(;^ω^)「あ、あのー……大丈……」


( A )「」死ゾ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


(;^ω^)そ「うわブッッッッッッッッッッッサ!!!!!!?????とっくん?」


見覚えのあるブサイクが、醜い顔面に痣を作って倒れているではないか
『ほな放っといて大丈夫か』と一瞬思ったが、まぁまぁ事件の香りがせんでもないので一応揺すって反応を確かめた


( ^ω^)「おーい、ブサ」


お茶みたいに呼びかけた

497 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:45:14 ID:0tGXVO1.0
('A`)「ん……おお、文彦か」


ブサイクの自覚があるのか、徳雄は何事も無かったかのように上半身を起こす


( ^ω^)「寝てたのかお?」

('A`)「そうらしい。ちょっと手ぇ貸してくれるか?」


自力で立ち上がるのも困難なのか、徳雄にしては珍しく助けを求めた
文彦はそれに応え、両手で腕を掴み立ち上がらせる。放した後に汚いモノでも触ったかのようにしつこく手を服で拭ったのは無意識の行動であった


( ^ω^)「喧嘩したんだって?」

('A`)「してねえよ一方的に殴られただけだ」

( ^ω^)「ほぉーん。遂にとっくんも非暴力に目覚めたのかお」

('A`)「世話になってる身だしな。TPOくらい弁えらぁ」


口より手が出る野蛮人が珍しいと思ったが、顔に見合わずクレバーな面もあるのを知っている
今回も例に漏れずキッチリ報復するのだろう。つくづく、恐れ多くブサイクな男である


( ^ω^)「僕に迷惑だけはかけないで欲しいお」

('A`)「あー、善処するよ」


気の抜けた返事に苦言の一つでも返そうとした時、背後から『ダン、ダン』と大きな足音が反響し


(;'A`)そ「ウッ!?」


背中に飛び蹴りを喰らった徳雄がつんのめり、顔面で廊下を滑った。ブサイクを擦り付けられた廊下が不憫である

498 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:47:35 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)そ「ブスーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

(;TДT)「哀しい……」

(;^ω^)そ「えっ誰!!!!!!??????」


徳雄の二回りは大きいであろう人物が、文彦の首に腕を回し、締まらない程度にロックした


(;TДT)「『密告』はこの世で最も卑屈で卑怯な『罪』(ギルティ)……そうは思わぬか?贅を尽くした肉体の持ち主よ」


『なんか濃いの来たな』。恐らくこの男が徳雄と揉めた人物なのだろうが、いい歳してキャラがアレなんで思ったより冷静だった


(;^ω^)「はぁ……そっすね」

彡 l v lミ「なんだぁ!?!!!????望火(のぞか)さんの言うことが間違ってるってかぁ〜!!!!!?????」

( l v l) 「オイオイ僕ちゃんよぉ!!!!!!!誰を前にしてんのかわかってんのかぁ〜!!!!!?????」


その後ろから、太鼓持ちであろうザコチンピラ感丸出しの双子がひょっこりと顔を出す。宮下 聡の可能性があった


(;^ω^)「そ、そう言われましても……」

(;TДT)「やめぬか……贅肉よ、彼奴は我らの『罪深き深煙の休息』を覗き見ただけに飽き足らず、その行いを『管理者』に密告した罪人なのだ……然るべき罰を与えてやるのが『救済』に繋がるとは思わぬか?」


「もう何言ってるのかわっかんねーよこの悲鳴嶼さんのなり損ない」とお考えの読者諸兄の為に翻訳すると

『隠れてタバコ吸ってたのをチクっただろテメーブサイクが殺すぞ』

である。言うわけないだろうそんなこと!!!!!!!!!!!!みんなの岩柱が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

499 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:50:46 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「その……今からあのブサイクをボコボコにするって事ですかお?」

(#TДT)「『救済』だッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(;^ω^)「はぁ……そっすか……」


余りに不憫でそんなに怯えなかった。彼が蹴飛ばしたのは、疲れてようがブサイクの形をした『鬼』である


('A )「ってぇ……」


むしろ、鬼がTPOを弁えなくなる方が恐ろしかった


(;^ω^)「あ、あのぉ……不躾ながら申し上げますお」

(;TДT)「殊勝な豚よ、申すが良い」

(;^ω^)「早く謝った方が宜しいかと……あのバケモノみたいなザコ顔面でも一応!!一応話が通じる方の人間ですので、誠心誠意の謝罪をすれば骨の一本程度で済ませるはずですお……」

(#TДT)「我があのブサイク如きに遅れを取ると申すか!!!!!!!!!!!!??????????」

(;^ω^)「え?はい」


正直は美徳だ。だが口は災いの元ともいう。文彦は頭愉快な偽岩柱に突き飛ばされ、双子に両脇を羽交い締めにされた

500 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:53:02 ID:0tGXVO1.0

(#TДT)「そこで見ておくと良い!!愚かな惰豚よ!!あの醜き小さな罪人に然るべき報いを受けさせた後は貴様の番だ!!!!!!」

彡 l v lミ「へへっ、死んだぜお前ら〜!!何てったってサッカーの名門、樹恵努学園(中高一貫)の守護神、『山の望火』さんを本気で怒らせちまったんだからなぁ〜!!」

( l v l) 「無事に家に帰れると思うんじゃあねえぞ〜!!合宿が終わるまで俺らの憂さ晴らしに付き合って貰うんだからなぁ〜!!」

(;^ω^)「はぁ………………そうなんすか………………」


この塩対応である。文彦自身、こんなに危機感を覚えないのは初めてでびっくらこいていた。くら寿司の可能性がある
徳雄はと言うと、うつ伏せに倒れたまま動こうとはしない。山のなんとかさんはフンと鼻を鳴らして近づいていく


(;TДT)「身の程を知るが良い!!!!!!!」


高く右足を上げ、先ほどの飛び蹴りで背中についた足跡に、重ねるようにストンピングを放つ


(;^ω^)「あーあ……」


目を背けるまでも無かった。きっと大した驚きも無いのだろう
『身の程』を思い知らされるのは、恐らく尊大不遜な大男の方であろうと、確信までしていた

501 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:54:19 ID:0tGXVO1.0





〜見つめる割愛〜
https://www.youtube.com/watch?v=gwQ3tu7pfGo




.

502 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:56:24 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すいませんでした!!すいませんでした!!」

彡; l v lミ「勘弁してください大会があるんです!!」

(;l v l) 「スポーツ推薦も懸かってるんです!!」


一分も経たぬ内に、立場は逆転していた。某動画サイトなら赤文字でなんかいっぱいコメントがつく光景だった


( ^ω^)「ナイスTPO」

('A`)「どうもありがとう。スッキリしねえよ」


ストンピングを背中の押し上げで跳ね返した後、尻餅をついた山の望火さん(笑)の側頭部に向けて後ろ回し蹴りを放ち、小指の先ほどの近さで寸止めした徳雄は、欲求不満とでも言いたげに鼻を鳴らした
無様を晒すアホの三人組だが、蟒蛇とは違って『格の違い』を理解してからの土下座は早かった。三下のムーブではあるが、防衛反応の観点から見れば利口であった


('A`)「小練さんに、暴力はやめとけって言われてたからな」

( ^ω^)「そう……ん???????」


『確かに怪我はさせてないが、命に関わるレベルの蹴りは寸止めであっても立派な暴力では??????』
思わず理性と道徳がツッコミそうになったが、別に自分に危害が及んだわけでは無いのですぐさま頭から掻き消えた

503 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:56:54 ID:0tGXVO1.0
(;TДT)「すんません……しゅ、周囲の期待が、プレッシャーになっ、なってて……イライラしてタバコに手ぇ出しちまって……」

('A`)「訊いてもいねえのに俺らに関係ねえことベラベラ喋んな」


真っ先に保身に走る変わり身の早さに、唾を吐き捨てるかの如く制止する。自分が不利な立場になると言い訳を重ねる頭の悪い連中は不愉快極まりなく
いつもなら口が利けなくなるまで痛めつけるのだが、今回ばかりは辛うじてTPOと師への義理が勝った


('A`)「俺は何もチクってねえし、小練さんも誰がヤニ吸ったかなんて把握してねえ。テメーの人生設計が大切なら、ザコらしく身の丈に合った生き方したらどうだよ」

彡;l v lミ「仰る通りです!!サーセン!!」

(;l v l) 「頭に乗ってました!!態度を改めます!!」

('A`)「わかったらさっさと消えろ。今度小練さんに迷惑掛けたら、二度と球蹴り出来ねえ身体にしてやる」

( ^ω^)「僕は????????」


三馬鹿は弾けるように立ち上がると、元来た道を一目散に逃げて行く。徳雄は名残惜しそうに見送った

504 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:58:04 ID:0tGXVO1.0
('A`)「割と便利な連中だったんだけどなぁ……」

(;^ω^)「とっくん、いくらクズでも人間サンドバッグはマズいお。そんなんやるのデッカード・ショウくらいだお」

('A`)「誰?」


ワイルド・スピード ジェットブレイクは未履修だった


( ^ω^)「先生に報告しなくて良いのかお?追い出した方が(僕の)身の為だお」

('A`)「いいよ別に……タバコくらい可愛いもんだろ……」

(;^ω^)「このヤンキーホンマ……」

('A`)「オメーも悪さする時は、他人の目に付かないとこでやるこったな」

(;^ω^)「しねーお人聞きの悪い!!」


あっけらかんと食堂へ向かう徳雄だったが、文彦は不安気に三人が去った方を振り返った
『これで終われば良いけど』。虐げられる立場だった文彦は、ああいう人種のしつこさもよく知っていた


('A`)「食堂閉まんぞー」

(;^ω^)「おっ、そりゃいかんお!!」


無力な文彦は、早く彼らがここから出ていってくれることを祈る他なかった

505 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 21:59:03 ID:0tGXVO1.0
―――――
―――



一日休みを挟み、鍛錬が再開される


(;'A`)「フッ、フッ……」

(´・_・`)「うんうん」


日が増すごとに、負荷も増やし


(;^ω^)「マジですかお!?僕もミンミン民ですお!!」

「おっ、同志だったか!!どうだい、今夜の配信を一緒に見ようじゃないか!!なぁ、みんな!!」

「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」

(´・_・`)「うんうん」


合宿の成果は、着々と身についていった


そんな矢先である

506 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:01:33 ID:0tGXVO1.0
( ^ω^)「いやぁ、話せばわかるんだおね!!人って見かけによらないお!!」

(;'A`)「そりゃ、良かったな……」


暫くの間、共にプールで鍛錬したイケメン人魚達とすっかり仲良くなった文彦を余所に、徳雄の顔はいつも以上に酷かった


( ^ω^)「とっくん?ウンコでも我慢してるのかお?」

(;'A`)「ああ……いや……ちょっと今朝から……」


言い終わらぬ内に、徳雄は倒れるように食堂机に突っ伏した


(;^ω^)「ちょ、とっくん!?」

(;´・_・`)「どうしたァ!!」

(;^ω^)そ「うわ速ァ!?せ、先生!!とっくんがブサイク拗らせてぶっ倒れたお!!」

(;´・_・`)「ブサイクは健康状態に影響しねえよ!!医務室に運ぶ!!着いてこいデブ!!」

(;^ω^)「はいですお!!とっくん、顔が酷い!!でも大丈夫!!ブサイクは命に関わらないらしいお!!」


文彦もだいぶ混乱していた

507 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:04:34 ID:0tGXVO1.0
イ从゚ -゚ノi、「疲労と軽い脱水症状ね」


保健医の資格も持っているのか、小練に呼び出され自動診察機を扱って診断した事務員は、落ち着いた様子で診断結果を告げた


イ从゚ -゚ノi、「熱も無いし虫刺されの跡も見当たらないから、感染症じゃない。腸の動きも穏やかだから食あたりでも無さそうだし、脈も呼吸も正常値」

(´・_・`)「『アレ』は?」

イ从゚ -゚ノi、「『アレ』でもない」

(;^ω^)「そ、想像妊娠ですかお?」

(´・_・`)「落ち着け」

(;'A`)「終わったんなら練習に戻っていいすか……?」


診察を終えた徳雄は、寝かされたベッドから立ちあがろうと上半身を起こす


(´・_・`)「今日は休め」

(;'A`)「休みなら二日前に取りましたよ……」

(´・_・`)「二度も言わすな」


有無をも言わせぬ静かな迫力に、文彦は思わず小さな悲鳴を上げた。漏らす寸前だった
尚も食い下がろうと徳雄は口を開き掛けたが、観念して再びベッドに身を預けた

508 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:05:19 ID:0tGXVO1.0
(´・_・`)「よし。銀、少しの間頼めるか?」

イ从゚ -゚ノi、「はいはい。仕事に戻んなさい」

( ^ω^)「あの!!ボボボボ僕も今日はとっくんに付きっきりで看病しますお!!ほら、大親友の僕がいないと心細いと思うので!!」

(´・_・`)「オメーは元気いっぱい高校鉄拳伝タフやろがい。行くぞオラ」

(;^ω^)そ「ああ!!下心とか無いのに!!医務室で事務員さんに悩み相談とかしてもらいたいとか一切考えてないのに!!友情なのに!!」

イ从゚ -゚ノi、「早く出てって」

('A`)「早よ行け」


四面楚歌だった

509 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:05:46 ID:0tGXVO1.0
小練はうるさい豚を片腕で担ぎ上げ、医務室を後にする
引き戸が閉まり、室内には豚の鳴き声と利用客の喧騒が静かに響いた


('A`)「……みっともねえ」

イ从゚ -゚ノi、「そう思うんなら、明日から身の程に合った鍛錬をする事ね」


冷たく言い放たれた言葉は、つい先日に徳雄が三人組に吐き捨てた啖呵に良く似ており


('A`)「反省しますよ……」

イ从゚ -゚ノi、「そう。素直で結構」


図らずも、自分を見つめ直す良い機会となった

510 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:09:16 ID:0tGXVO1.0
一方で


( ^ω^)「やれやれ、ブスも倒れる事あるんだおね。鍛え方が足りんと思わんですか奥さん」


自分を一向に顧みない性格デブは昼からの運動を再開する為プールへと向かっていた
徳雄の過労は一日の回復量を上回る運動量が原因なのだが、他人を下げる事に余念がない豚は当然そこまで頭が回らない。脳の代わりに脂肪が詰まっていた


( ^ω^)「おっと、忘れ物したお」


防水仕様のワイヤレスイヤホンを取りに回れ右をして部屋に戻る。辛い運動もミセリの配信アーカイブを聴きながらだと割と耐えられると気づいたのは四日目からであった
文彦がここまでの合宿で、着々と『運動する習慣』が身に付いていた。スポーツとは一重に勝負を通じた交流やプレイ中のストレス解消だけが楽しみでは無く、疲労を癒す行程へのスパイスとなる
水分が喉を通る快感。舌に染み入る食事の旨み。泥のように溶けて味わう睡眠の心地良さ
これを一度でも経験してしまえば、怠惰な豚も自主的に動くのである


( ^ω^)「♪〜」


加えて、過酷な鍛錬に『あの徳雄』よりも耐えきっているという優越感。文彦は自分が一回りも二回りも強い存在になっているという陶酔に浸っていた


それ故に


(;TДT)「豚よ……」

(;^ω^)そ「うわ出た!!!!!!!!!!!!」


『あの徳雄が過労で休んでいる』という、危機的状況に気づくのが遅れてしまった

511 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:10:54 ID:0tGXVO1.0
彡 l v lミ「ヘイヘイ豚ちゃ〜ん!!ゴキゲンじゃないのぉ〜!!」

( l v l) 「豚ケツ振ってどこ行くんでちゅかぁ〜?」


徳雄に理解らせられて以降、姿を見る度にそそくさと逃げていた三人組が、ここぞとばかりに文彦を取り囲んだ


(;^ω^)「なっ、なな、何の用だお!!僕に手ぇ出したら大親友のとっくんが黙っちゃいないお!!」


ブスの威を借る豚。しかし三人組はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた


(;TДT)「フン、あの醜き小鬼が消耗していることは承知済みよ。弱った化け物など恐るるに足りぬわ」

(;^ω^)「ち……ちっせえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!名門校ってこんな小物が仕切ってんのかお!?お里が知れるお!!」


臆病な文彦ですら馬鹿に出来るレベルの三下ムーブである


彡 l v lミ「おうおう、言ってくれるじゃあないの豚ちゃんが……よっ!!」

(;^ω^)そ「危なっ!!」


顔目掛けて放たれた軽いパンチを、身を引いて避ける


彡 l v lミ「ほぉん?身軽じゃないの」

(;^ω^)「僕も今ビックリしてるお」


運動の成果か。それとも修羅場を目の当たりにし続け手に入れた胆力か
反撃こそ気が引けるものの、悪意ある暴力を回避できる程度の身軽さを手に入れていた
そう、これが俗に言う『身体が軽い……こんな気持ち初めて……もう何も怖くない!!』である。目覚めた心は走り出したのである(未来を描くため)

512 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:12:13 ID:0tGXVO1.0
しかし、多勢に無勢であった


(;TДT)「破ッ!!」

(;^ω^)そ「うわ何をするモガガ!!!!!」


背後から羽交い締めにされ、助けを呼べないように口を塞がれる。豚の汚い汁が手に着くのもお構い無しだった


(;^ω^)「モガガモガモガガモガモガッガ!!!!!!!!!!!!エロ同人モガガガ!!!!!!!」


不思議なことに何て言っているのか理解出来る筈である。どのエロ同人作者かにも寄るが、少なくともイチャラブでは無いことは確かだった


(;TДT)「恨みは無いが、やられっぱなしは性に合わないのでな……連れて行くぞ」

彡 l v lミ「ヘイ、アニキ!!ヘヘッ、良い場所に連れてってやるよ豚ちゃあ〜ん!!」

( l v l) 「誰にも見つからずに忘れ去られちゃうかもなぁ〜!!」

(;^ω^)「モガガ!!!!!?????」


ズルズルと引き摺られながら、文彦は『良い場所』とやらへ連れて行かれる
昼間にも関わらず、『誰ともすれ違わず、誰にも目撃されない』事態と、こんな時に限ってダウンしているブサイクを怨みながら

513 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:13:10 ID:0tGXVO1.0
(;^ω^)「モガー!!モガー!!!!」


拉致という未曾有の危機でパニックに陥り、文彦は二つの異変に気づかなかった
一つは、三人組の瞳孔が、日が高いにも関わらず収縮していた事


もう一つは、二階建ての校舎には絶対に無いであろう





『三階へ向かう階段を昇っている事』だった




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514 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:15:17 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』

































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515 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:20:33 ID:0tGXVO1.0
次回、『Desperado Chariots』
















https://www.youtube.com/watch?v=H4dGpz6cnHo
















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516 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:21:58 ID:0tGXVO1.0







イ从゚ -゚ノi、「あっ、ヤバ」

('A`)「?」

イ从゚ -゚ノi、「席を外すわ。そこを動かないで」


事務員は微睡みの最中にあった徳雄に釘を刺し、i-ringで小練に連絡を取りながら慌しく退室する
徳雄は掛け布団を退けベッドから立ち上がる。まだフラつくものの、体調は多少回復した


('A`)「ボヤでもあったのかね……」


冷蔵庫を失敬して、スポーツドリンクを口にする。少し外の空気を吸いたくなり、窓辺へと移動しカーテンを開けた


('A`)「よっ……?」


クレセントを解除しようとした手は、偶然目に入った『有り得ない光景』によって止まる


(;'A`)「え???????」


ちょうど宿舎の辺りであろうか。外壁にポッカリと黒い大穴が開き、そこから見覚えのある少年と、先日灸を据えたばかりの問題児たちが


(;'A`)そ「えええええええええ!!!!!??????」


『階段を昇るかのように』、空中浮遊を行っていた

517 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:22:51 ID:0tGXVO1.0
(;うA`)「うん!!!!???あれ!!!!!????」


目を擦ろうとも、その異常な光景は消えて無くならず


(;'A`)「痛でででででで!!!!!!」


頬を抓ると、しっかり痛い


(;'A`)「なん……?????」


当の本人達は、確かな足取りで宙を歩む。三人組が強引に文彦を連れているのを見るに、恐らくは自分が倒れたのを察して報復に出たと見ていい
そこまでは理解出来る。しかし彼らに超能力が備わっているなど想像も出来ない
三人組も文彦も、自身が置かれている異変など気にも留めず、そこに『階段があって当たり前』のように、歩く速度で空へと昇っていく


(;'A`)そ「なんっ……!?」


目の乾きに耐え切れず、無意識に行った瞬き。その僅かな視線の隙を突き、四人は消え去っていた

518 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:23:28 ID:0tGXVO1.0
(;'A`)「夢か……?」


外壁の穴も、最初から無かったかのように塞がっている。グラウンドでは、少年野球チームが活発に声を出しながらノック練習を受けていた
複数人が通り抜けられるほどの穴だ。外からでも、外の方が、AI生成された画像のようにトンチキな光景に気づく筈


(;'A`)「そうだ、連絡……!!」


i-ringで文彦との通話を試みる。無機質なコール音が二度、三度と繰り返される中、徳雄は壁のL字フックに紐を通して掛けられている『施設案内図』が目についた


(;'A`)「……」


初日に流し見した後、一度も手に取らなかったそれに、答えは載っていた
裏面の『注意事項』。朝昼晩の食事時間から始まり、飲酒、喫煙に関する注意喚起。BBQや花火を行う場合、事前予約が必要等―――――


(;'A`)「『三階』」



『三階への立ち入り禁止』



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519 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:24:04 ID:0tGXVO1.0
徳雄は再び盛岡の言葉を思い出していた


「泊まる場所なんかおどろおどろしくて雰囲気あるよ」


虚しく響くコール音は十回目に到達すると、呼びかけを諦め、プツリと途切れたのであった

520 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:25:28 ID:0tGXVO1.0
次回、『The Demon Village.』







『狭間 “In The Backrooms.”』





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521 ◆L6OaR8HKlk:2023/05/05(金) 22:27:03 ID:0tGXVO1.0
終わりですお疲れさまでした

次の話は鬼ヶ村スレにて投下します
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1634993171/1-100

522名無しさん:2023/05/05(金) 23:47:43 ID:UbyMOIpU0
乙!読み応えがありすぎる
文彦がちょっと成長したの感動した

523名無しさん:2023/05/06(土) 15:55:30 ID:nhTmZYLM0
乙です

524名無しさん:2023/05/06(土) 19:36:53 ID:21L3yE8s0
乙!豚に対する当たり強くない?豚だから仕方ねえかガハハハ

525名無しさん:2023/05/07(日) 13:48:28 ID:S01Oemjw0
>>305

526名無しさん:2023/05/11(木) 23:48:47 ID:5cFmQsUM0
おもしれぇ
突然怪奇現象始まってドクオたちがどう巻き込まれるのか全く予想つかん

527名無しさん:2023/05/28(日) 08:47:44 ID:XzCV3zas0
小練さん有能すぎんか?さぞ名のあるトレーナーと見受けられるが山奥に隠れるような暮らし、今回の怪現象と関係ありそう
あと久々に銀のAA見れて懐かしさが押し寄せてきた。正◯ヒーローの作者今何やってんだろ

528 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 12:51:13 ID:xsbgfEYE0
できた

529名無しさん:2025/01/05(日) 15:44:15 ID:4d2Sqhos0
待ってる

530 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:42:51 ID:xsbgfEYE0
前回までのあらすじ


なんか色々あって『ねぐら』からクソヤバい場所に連れてかれちゃったけど帰って来れた。その間一年半くらい経った(体感)
文彦はアホにアホを重ねてるオタクデブなんで何も覚えてなかった。良かったね。何も良くねえよバックルームくらい一人でどうにかしろデブ臭ぇんだよ



(ゝ^ω^)



('A`)「お前……」

(ゝ^ω^)「あんだお」

('A`)「痩せ……いや、やつれたな……」

(ゝ^ω^)「うるせえ」

('A`)「やさぐれてもいるな……」



(ゝ´・_・`)



('A`)「あの……」

(ゝ´・_・`)「あんだお」

('A`)「小練さんもド疲れてません?」

(ゝ´・_・`)「うるせえ」

('A`)「……」


徳雄はめんどくさくなって訊くのをやめた

531 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:44:03 ID:xsbgfEYE0
第八話



『男子、一月会わざれば』



.

532 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:46:17 ID:xsbgfEYE0
徳雄が倒れてから五日が経過した。計画にない休息というタイムロスは、図らずも『オーバーワーク』という問題点を自覚する良いきっかけとなった
しかしここに来て文彦のモチベーションが著しく減少する出来事があった


(ゝ^ω^)「もう嫌」

ミセリのサマーフェス当日、文彦は『ねぐら』に残っていた。案の定というか想定の範囲内と言うべきか、彼の望みは叶えられなかったのだ
当然、運動が身に入るわけもなく、合宿を終えて帰宅した男子アーティスティックスイミング部員がいないガランとしたプールで、水面に沈んだ豚面を向けながらダラダラと歩いていた


('A`)「……小練さん」

(ゝ´・_・`)「あんだお」

('A`)「いつまでやつれてんすか……本当に大潮のクズから何の連絡も?」

(ゝ´・_・`)「少なくとも、フェスの為に一旦帰せとは聞いてな……お前の上司だよな?????」

('A`)「にしたってこれは……」


運動をより効果的に行うにあたって必要なのは、鍛える部位への『意識』だ。筋トレに球技のフォーム。有酸素運動も例外ではない
今の文彦が行なっているのは、服を着てプールに浸かってるだけの、運動とは呼べない時間の無駄な浪費である
本八も文彦の不貞腐れ易い性格は理解している筈だ。用意周到な彼が何の手も打っていないとは考えづらいが、それにしてはアクションが遅いように感じた


(ゝ´・_・`)「感情の起伏が激しめのガキは、別のきっかけでガツンと再燃することもあるからな。オメーらの大将もそれはちゃんと理解してるだろう」

('A`)「だといいんすがね……」

533 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:47:11 ID:xsbgfEYE0
『別のきっかけ』。文彦にとっては言うまでもなく『推し』に関する事だろう。フェスに行けなかった代わりにまたもやグッズやら何やらを用意するのだろうか
しかし、同じ手が何度も続くとは思えない。文彦ほど面の皮が厚いV豚なら、それを受け取った上で更なる無茶な要求をするのは目に見えている
そもそも、悪いのは個人の予定を無視してスケジュールを組んだ本八なのだ。身銭を切ろうが腹を切ろうが、応えて然るべきではあるのだが、それはあくまでも『賠償』として受け取られる
『ガツン』とやる気が上がるかと問えば、文彦はきっとこう答えるだろう。「え??????約束を破ったのは向こうなのになんで僕がこれ以上頑張らないといけないんですか??????」と。心底憎たらしいオタクデブである


(ゝ´・_・`)「俺ァそろそろ行くから、サボらねえよう見ててくれ」

('A`)「あんな状態なら見てても見てなくても一緒でしょうよ」

(ゝ´・_・`)「それもそうだな。水泳を楽しめ」


軽く手を振ってプールサイドから去った小練からは深刻さは微塵も感じられなかった


('A`)(何考えてんだかね、あのオッサンも)


かく言う徳雄自身、文彦のモチベーションを回復させる手段も策も持ち合わせてはいない。慰めの言葉など掛けたところで、汚豚の耳に念仏なのは明白だ
それに、今し方小練が迎えに行った『客人』が、文彦の再起を促す何かを持ってきてくれるかもしれない
どのみち、合宿も後半に差し掛かりつつある今、他人の面倒を見ている暇は無いのだ。徳雄は水中ゴーグル装着すると、頭からプールへと飛び込んだ

534 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:47:44 ID:xsbgfEYE0
午前の運動を終え、食堂に向かう道すがら、事務室から聞き覚えのある独特のオタク早口が聞こえてきた
ノックしてから顔を覗かせると、先程到着したばかりであろう二人が、旅行鞄を足下に置いてアイスコーヒーを頂いている所であった


(;@з@)「おお、宇都宮氏ではござらんか!!」

⌒*リ´・-・リ 「ご無沙汰してます。宇都宮さん」


『木本 王太郎』と『高梨 莉花』。二人がねぐら訪れると小練から知らされたのは、徳雄が倒れた当日の夜のことだ
木本は夏休みが始まって早々に、アプリ開発会社のインターンに参加しており、高梨は先日まで徳雄が抜けた穴を埋める為に労働に勤しんでいた
インターン終了と高梨の休暇が重なったタイミングで、二人は応援を兼ねて遊びに訪れたのだ


⌒*リ´・-・リ 「倒れたと聞きましたが、大丈夫なんですか?」

('A`)「問題ねぇっすよ。職場はどうです?」

⌒*リ;´・-・リ 「あ、あはは〜……社長さんが毎日ヘルプに入ってて、店長が死にそうになってる以外は順調ですよ」

('A`)「あのパワハラクズはホンマ………」


パワハラを自分から受け続けてきた男は面構えが違った

535 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:49:04 ID:xsbgfEYE0


イ从゚ -゚ノi、「……」


('A`)「おっと……」

イ从゚ -゚ノi、「何が?」

('A`)「いえ、なんでも」


いつも通りの仏頂面で、コーヒーに意味わからん量のガムシロを注ぎ込む氷の事務員の姿に姿勢を正す
見た目の通り、騒がしいのは好まなさそうな彼女が、来客を自身の仕事場へ招き入れているのが少々意外だった


('A`)「そのー、木本?盛り上がってたようだが……」


見た目はともかく、あの性格ゴミカスの文彦を親友と呼ぶほど人の出来た木本だが、彼は残念ながらオタクである
もしかして、銀が微塵も興味のない『皆鳴ミセリ』の話題を一方的にワッと浴びせているのではないかと、徳雄は内心気が気でなかった


(;@з@)「いやー、銀女史が読まれていたSF小説が拙者の愛読書でしてな。つい熱く語ってしまったでござる」


銀の事務机の上には、今時珍しいハードカバーの紙書籍が置いてある
無重力空間に浮く宇宙飛行士の絵に、表紙の三分の一を埋め尽くす大きさで『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とタイトルが記されていた
神が書いたSF小説である。これを一度でも読んでしまうと、普通の本では満足できない身体になってしまう


イ从゚ -゚ノi、「柄にもなく盛り上がっちゃったわ」

(;'A`)「アッエッ、そうなんすか……」

イ从゚ -゚ノi、「何?」

(;'A`)「あっなんでもないっす」


共通の話題があったとはいえ、彼女から『盛り上がった』という言葉を引き出した木本に対して、動揺が抑えきれなかった

536 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:49:58 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「それはそうとお前……?」


文彦の処遇について、本八から言伝がないか訊こうとしたその時、背後から妙な気配を感じて振り返る。そこには


扉だ|^ω^)


(;'A`)そ「うおっ」


今にも人を刺しそうな目で親友を睨め付ける話題の引き出しがミセリしかない非モテキモオタクデブの姿があった


扉だ|^ω^)「なんであいつだけ……いつもいつも……僕の方が……チクショウ……」


(;@з@)「ふ、文彦氏?どうなされたのでござるか?」

扉だ|#;ω;)「うっせーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!オタクが!!!!!!!!バーカバーカ!!!!!!!!!リア充爆発しろ!!!!!!!!」


在らん限りのクソしょうもない捨て台詞を吐いて、負け豚オタクデブは去っていった。リア充爆発しろは令和の世でも既に死語である

537 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:50:52 ID:xsbgfEYE0
(;@з@)そ「り、リア充!?文彦氏、待ってくだされ!!」


人が良すぎる木本も、普通なら縁切って然るべきゴミカスを追って事務室を飛び出した
退室する際、一度室内へと向き直り、『失礼しました』と一礼して静かに扉を閉めていく所作に育ちの良さを感じた。一人っ子の甘やかされオタクデブも見習えばいいのに


(;'A`)「チームメイトがすみません……」

イ从゚ -゚ノi、「構わないわよ。どうせ今月だけの付き合いだし、我慢してあげる」

⌒*リ;´・-・リ 「銀さん」


あまりの間の悪さに、徳雄は内心ため息を吐いた。素っ気なく接され続けている事務員が、今日訪れたばかりの親友とは会話を弾ませているのを目の当たりにしたのだ
不貞腐れ易い上に嫉妬深い救いようのないキショ豚の事だ。楽しみにしていたイベントには行けない上にこの仕打ちとでも捉えているに違いない。徳雄はこの時点で、文彦の夏合宿はこれ以上続けられないのではないかと諦めに入っていた


(;'A`)「ハァ……高梨さん。クズはどうしてます?」

⌒*リ;´・-・リ 「しゃ、社長ですよ宇都宮さん。特に普段と変わりない……そう言えば、チャリオッツの古い業務用筐体を購入したそうです」

(;'A`)「あんなデカいもん置く場所……あるんだろうな……」


環境こそ着々と整えているようだが、文彦との口約束を放棄しているのが腑に落ちない
本八は良くも悪くも手加減をしない男だ。自身や文彦の獲得に、犯罪スレスレの行為をしてまで臨んだのだ
そこまでして手に入れたガンナーを裏切るような真似をするだろうか?ましてや、長年メンバーに恵まれなかった男が

538 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:52:19 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」


徳雄は今朝の小練との会話を思い出した。『別のきっかけで再燃することもある』
もしや、狙っているのは『それ』では無いだろうか。だとすると、一向に連絡がつかないのにも納得がいく


('A`)「ほっとくか……」

⌒*リ´・-・リ 「え、いいんですか?」

('A`)「木本に任せた方が楽なんで。それじゃ、失礼しました」


それならば、気を揉むだけ損だと割り切り、徳雄は事務所を後にした


/ ゚、。 /「あ、こんにちわ」

('A`)「こんちわ」


入れ違いで高身長和装美女が入っていったが、ここ最近毎日見かけるので特に気にならなかった

539 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:53:14 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】


⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」

/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」

⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」

/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」

イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」

540 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:54:09 ID:xsbgfEYE0
【アメイジング・ブス(驚異的ブス)と入れ違いで入ってきた高身長和装美女に度肝抜かれる高梨の図】


⌒*リ;´・-・リ そ「ぎえー!!」

/ ゚、。 /「ぎえーて何なん?」

⌒*リ´・-・リ 「これは良い意味のぎえーなんで!!」

/ ゚、。 /「またおもろいお友達やなぁ」

イ从゚ -゚ノi、「でしょう?」

541 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:54:42 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



('A`)「……」

(,,゚-゚)「あれ?最近ずっと一人だね」

('A`)「ん?ああ……文彦なら視聴覚室だ」

(,,゚-゚)「いや、会いたいわけなくない?」

(;'A`)「何がそんな嫌なんだよ……」


木本らが訪れて三日が経ち、ミセリサマーフェスも最終日となった
文彦と木本は、この三日間午後から夜に掛けて開催される推しの祭典に集中するため、半日を視聴覚室で過ごしている
その間、全くと言っていいほど二人の顔を見ていない。別に特段仲が良いわけではないので、徳雄としても落ち着いて過ごせて快適であった
彼もこの日は休養日であり、静けさと涼を求めて図書室で模擬戦の振り返りを行っていた所
暇を持て余した儀杜が、向かいの席に着き話しかけてきた。身長にそう差が無いからか、同年代と思われているらしい


(,,゚-゚)「休みの日までチャリオッツ漬け?他に趣味ないの?」

('A`)「躾のなってねえガキが来たら知らせてくれ」

(,,゚-゚)「終わってんね、性格」

('A`)「よく言われる」


飄々と軽口を返しながら、徳雄は映像と共にプロチーム相手の鍛錬を振り返る
最初の二日は試合にもならなかった。元々、『二枚落ち』の不利な条件でのゲームである。捕捉されてしまえば逃げる間も無く砲撃を喰らって終了した
そこで思い切って、『ラビット』の戦法を取ることにした。スタートダッシュで砲撃の射程圏外まで逃げ切る先行策である
結果として、『対戦相手』からダウンを取られる回数は減ったが、今度はステージギミックやエネミーに足を取られた
敵対CPUとの遭遇はランダムではあるが、先頭ともなると、見つかる確率は大きく上がる。だからこそ愚鈍な『タートル』戦法にも一定の勝率がある
次はその『亀』を見習って、後方から一気に捲る戦法を取ってみたが、これが致命的に性に合わない

542 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:55:40 ID:xsbgfEYE0
何故タートルは重装甲であるか。スピードと引き換えに破壊のリスクを負ったラビットとは正反対で、安定感に重きを置いているからだ
車輌破壊によるリタイアのリスクを減らし、最後まで生き延びてゴールする。生存力を高める為の『甲羅』なのだ
つまり、殴られようが蹴られようが多少の『辛抱』を求められる。生来、攻撃的な性格である徳雄にとって、『反撃しない』という選択は耐え難いものであった
その上、妨害は何も前を行く車輌だけに向けられる物では無い。後続に追い抜かれない為の装備も当然用意しているものだ
ステージギミックに足を取られる代わりに、今度は相手チームの『尻』から放たれるトラップに走行の邪魔をされた
此方はランダムなんてものじゃなく、後ろにつけば確定で放たれるものだ。当然、タートルは前からの妨害も見越した装備で備えておく必要がある

結論として、人員と装備に乏しい身一つの今、敵チームと競り合いながら、エネミーの遭遇率を分散する方法が一番マシであると到った
事実、上記二つの戦法よりも、オーソドックスな『ホース』、攻撃主体の『バッファロー』の使用率は飛び抜けて高い。レースとバトルの二つの要素を有するチャリオッツにとっての基礎であるからだ
徳雄としても、バチバチの鍔迫り合いは大歓迎であるし、素人が下手に奇を衒うよりも、基本を忠実に遂行する方が勝算があると踏んでいた

と、ここで問題は回帰する。『車輌破壊によるゲームオーバー』。結局、この敗因の解決には到らないのである
『人が居ない』『反撃出来ない』と理由を並べるのは簡単だが、それでは辺境くんだりまで出向いた意味が無くなる。そこで徳雄は思い切って考えを切り替えた
これまでのゲームログを洗いざらい振り返り、破壊に到るまでの敵車輌の挙動の理解に時間を費やしたのである
総勢100のプロチームデータ。一見気が遠くなるような作業であるが、攻撃には一定のパターンが存在する筈である
例えるなら、野球選手の挙動は人によってフォームが異なるが、『振りかぶって投げる』『バットを振って打つ』といった挙動自体は共通している
つまり、『攻撃に到るまでの予備動作』を見極めさえすれば、被弾率を抑えられるのでは無いかと考えたのだ


('A`)「……」


この事を小練に相談した所、彼は疲弊した様子で「どうとも言えない」と難色を示した
ログの振り返りは経験値として糧になる。ただ、相手はあくまでAIである。以前にも小練が言ったように、AIは基本に忠実だが『遊び』がない
射程内に車輌が収まればAIは自動的に発砲するが、生のプレイヤーには常に『撃つ』『撃たない』の二択があり、行動タイミングに制限はない
頭と身体に『相手は必ず撃ってくる』という認識を刷り込ませるのは、『フェイント』という戦術への致命的な弱点となる危険がある
更に前提として、敵チームの挙動把握は『ジョッキー』よりも視野の広い『キャプテン』の仕事であるとも指摘を受けた
一人プレイの為に運転席の視野を広げている現在はともかく、本番では第二、第三の目を積んでいる。この場合、ジョッキーの視界確保よりも、装甲を厚くさせた方が生存率が高まる

ご尤もである。勝負に固執して負担を増やしてしまえば、合宿で得られる成果も減ってしまう。徳雄の目的は『チャリオッツへの慣れ』なのだ
そこで小練が提案したのは、攻撃パターンの把握では無く、『撃たれる前』と『撃たれた後』の対処法の会得だった
攻撃手段こそ千差万別あれども、被弾する側の対応はある程度に限定される。撃たれる前なら『躱す』か『逸らす』か。撃たれた後は『逃げる』か『耐える』か
この場合ジョッキーに必要なのは、司令塔であるキャプテンの指示を介さない『瞬間的な判断力』だ。それには、『車輌感覚』を養う必要がある
車を運転する際、フロントの位置はどこか。サイドミラーの死角はどれほどか。ブレーキを踏んでから停車するまでの距離はどれほどか
運転手が皆、愛車のスペックを正確に把握しているわけではない。だがこれらは全て『感覚』として身に付いている。そうでなければ、街を行く車体には痛ましい擦り傷で溢れている

徳雄の大きな課題である『運転に慣れる』。訓練のレベルを上げた事で、次の目標が浮き彫りになった
敵の撃破を目的とした『攻めの走り』から、自らの生存時間を伸ばす『守りの走り』の体得に、ここ数日を費やしていた。首尾はと言うと―――――

543 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 16:58:21 ID:xsbgfEYE0
('A`)「……」

('A`)=3「ふーっ……」

(,,゚-゚)「行き詰まってんの?」

('A`)「いいや、順調だ」


拍子抜けするほど着実に、生存時間は伸びていた。単純にチャリオッツというゲームに慣れ始めたのもあるが
合宿が開始してから二日置きに行なっている『山降り』による反射的なルート判断能力が身に付いているのが大きな理由だ
無造作に点在する『障害物』は、何も走行の妨げの為だけに置かれているものではない。言い換えれば、砲弾から身を守る『遮蔽物』だ
出来るだけ射線上に身を晒さぬよう、岩場や建築物へ『ハイド』する。FPSシューターさながらの走法が、最も生存時間を稼げた

順調だ。しかし、こうも思う。「これで勝てるのか?」と
八月も半ばで、予選までは三ヶ月を切ったにも関わらず、自分は今だに『基本のき』で足踏みしている
面にこそ出さないが、じくじくと湧き出す焦りに悩まされている。その影には、いつも自分の前を行く親友の背中があった


('A`)「フゥ……」

(,,゚-゚)「あれ?もういいの?」

('A`)「ああ……」


見返したところでさっぱり頭に入らない映像を打ち切り、凝り固まった眉間を指で揉みほぐす
時間は惜しいが、オーバーワークを反省したばかりだ。休息に努めようとするものの、気持ちばかりが逸って落ち着けない
気分転換をしようにも、CGの女にお熱のオタクデブとは違って無趣味であった。何が楽しくて生きとんねんこの生き方ブス


('A`)「なんか……」

(,,゚-゚)「なんか?」

('A`)「……仕事ねえか?」

(,,;゚-゚)「ええ……この期に及んで働く気……?」


生来のストイック。ワーカーホリック化するのは自明の理である
儀杜は、何かとイキリ散らかす身の程知らずのオタクデブとは別種の薄気味悪さを感じた

544 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:00:05 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「あのさぁ、ずっと思ってたんだけど生きるの下手すぎない?」

('A`)「む……」


儀杜の歳は確か14か15。片手以上の歳の差がある小娘に生き方を問われるとは情けのない話である
事実、指摘されれば言い返せないくらいには不器用であるという自覚はある。手本を探そうにも、身近には悪例しかいないのだ


(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????」


うわ出てくんな生き様クズ


(,,゚-゚)「何の為にここに来たのさ?一ヶ月もウジウジ悩む為?」

('A`)「そんなわけねえだろ……」

(,,゚-゚)「だったらもっと先生を頼ったら?」

('A`)「何言ってやがる。これ以上頼れるかよ」


小練の激務は目に見えている。施設運営に加えて、『別の業務』もこなしているのも薄々勘付いてはいた
そんな彼にこれ以上の負担を強いるわけにはいかない。それは徳雄よりも身近にいる儀杜の方がずっと理解している筈だ


(,,゚-゚)「使い潰したらいいよ」

(;'A`)「ええ…………」


ただこの少女、身内にすんごい厳しかったのである

545 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:01:10 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「たっけー金払ってやってんのにこの程度かよって言ってやればいいじゃん」

(;'A`)「充分だよ。これ以上望めるか」

(,,゚-゚)「それだよ。生き方が下手ってのはさ」


徳雄の鼻先に、ビシリと人差し指が向けられる


(,,゚-゚)「『望んで然るべき』だよ。じゃなきゃ、欲しい物は手に入らない。サンタさんだって手紙を貰わないとプレゼントの用意のしようがないんだから」

(;'A`)「ううむ……」

(,,゚-゚)「アプローチを変えようか?宇都宮くんの欲しい物って何?」

(;'A`)「欲しい物……」


暫く頭を捻って考えてみる。合宿二日目に立てた目標で、まだ達成されていないのは何か
まず思い浮かんだのは、目下特訓中の『守る走り』。回避と受け身の会得だ


(;'A`)「技術……いや、違うな」


それは手段であって『目的』ではない。では『ジャパンカップ制覇』か?それもあくまで『舞台』であって、徳雄の目指す所ではない


('A`)「……」


『親友に勝つ』。それも、大舞台で凄惨に、心に深く苦痛を刻み込むような勝ち方で
自らの『得意』ではなく、彼方の『得意』で上から捻じ伏せるような、『鬼』に相応しい勝ち方で

546 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:02:02 ID:xsbgfEYE0
('A`)「なるほど」


『初志貫徹』。驚くほどストンと腑に落ちた徳雄は、ゆっくりと席を立った


('A`)「仰る通りだ。そもそも、遠慮なんて性に合わねえ。ちょっくら文句言ってくる」

(,,゚-゚)「ボロクソにしてやんなよ」


『生き方上手』は悪戯っぽくニヤリと笑った。釣られて口角を上げた徳雄は、一つのセリフを返した


('∀`)「終わってんな、性格」

(,,゚-゚)「よく言われる」


儀杜は気を悪くする様子もなく、肩をすくめたのであった

547 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:03:08 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・_・`)「……」

《どうだい先生?これが必要最低限の構築だ》


小練は厨房にて、僅かな休憩時間を使って『宿題』を見ていた
それを課したのは、この場にいない残り一人のメンバー。徳雄と文彦を合宿へ送り出した依頼主である本八だ


(´・_・`)「率直に申し上げますと」

《おお!!言ってくれ言ってくれ!!》

(´・_・`)「『死ぬ気か?』ってのが第一印象ですね」


i-ringのスピーカーから下品な笑い声が響き、小練は思わず眉間に皺を寄せた。苦手なタイプであった
躾のなっていないデブガキはまだ可愛げがあるものだが、大人となると笑って見過ごせない。金払いが良くとも、人の好き嫌いまで割り切れはしなかった


(´・_・`)「ですが、現状では特に口出すような箇所は無い。言うまでもなく無いですが、先ずは試運転ですね」

《先生は聞き分けが良いなぁ!!三浦の大将は頭抱えてたぜ!!》

チャリオッツの操縦は、主にジョッキーが担うものだが、その他のポジションも関与が出来る
ガンナーは言わずもがな砲塔の回転だ。だが文彦の愛砲『6shooter』は固定砲であり、操縦に影響を及ぼさない
キャプテンは『アビリティ』の種類によって、任意のタイミングで操縦に手出し出来る。これは『アイテム』や『トレジャー』とは違い、クールタイムありのスキルで、ゲームが始まれば切り替えは出来ない
チャリオッツの個性は、『アビリティ』で決まると言っても過言ではない。かつて三浦 紘一が所属していた『アンラ・マンユ』では、一発限りの超強力アビリティ『ショットパージ』を使用した
アビリティを操縦の一環として組み込むか、アンラ・マンユのように一発逆転の切り札として温存するか。こういった『構築』も、チャリオッツの醍醐味の一つだ

では、一体何が問題なのか?

ゲームの歴史の上、プレイアブル・キャラや装備品、魔法やスキルにカード。『プレイヤー』に関わる全てに『アタリ』と『ハズレ』が在った
チャリオッツも例外ではなく、特に『主砲』と『アビリティ』は顕著に表れる
現在の6shooterの立ち位置を見ればわかりやすい。固定砲かつ射程は短く、唯一の取り柄である連射力もガンナーの技量次第。余程のこだわりがなければ、クセが無い強力な主砲を選ぶ者が多くを占める
だが、これでも操縦、延いては『車輌の動きと連動するコクピット内の挙動』に影響を及ぼすアビリティと比べれば、マシな部類である

問題は、本八が選んだ『アビリティ』にあったのだ

548 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:04:14 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「よく三浦さんが許しましたね」

《デブのスペックを最大限に活かすなら『これ』しかねえってのは共通認識だったんでな。アンタもそうだろ?先生?》

(´・_・`)「異論はありませんよ。それに、最終的に決めるのは皆さんだ」


このチームで最も価値のあるメンバーは、間違いなく文彦だ。本八が提出したのは『ガンナー優先』の構築だった
小練も実際に文彦のプレイログを確認したが、ガンナーの腕だけは国内屈指の実力と言い切れる
その実力を如何なく発揮する為には、三位一体となって『6shooterという固定砲と向き合わねばならない』
即ち、他の主砲ならば発生しない負担が、キャプテンとジョッキーにのし掛かるのだ
僅かな期間だが、所属していたプロチーム『蟒蛇』で、他のチームメンバーとそりが合わなかったのも頷ける。蟒蛇でなくとも、持て余すチームは多いことだろう

それを承知で、本八は思い切った選択をした

文彦の武器は、6shooterの性能を最大にまで発揮した『連射力』と
どのような状況下であっても、『照準』が合った瞬間に撃ち抜く『速射力』
優先されるのは当然、速射の方である。だが、これを発揮するには車体の方向転換が必要不可欠だ
徳雄もチャリオッツの経験を着実に積んではいるが、来るXデーまでに完璧なサポートまで修得するのは難しいだろう
ならばいっそ、照準合わせを『キャプテン』だけが担えばいいと、本八は結論づけたのである


(´・_・`)(にしても、マジで使う気かね。コレを)


『エイム合わせ』のアビリティは数多く存在する。最も代表的なのは、初心者向けアビリティの『オートエイム』だ
敵がいる方向へ自動で砲身を向け、仰角の調整まで行ってくれる。これは回転砲塔だけでなく、6shooterのような固定砲でも適応される
しかしこの場合、オートエイム発動時に『ジョッキーがハンドルを向けている方角』より、『敵がいる方角』が優先され、勝手に方向転換を行う。バグと見紛うレベルで相性が悪い
これはオートエイムだけに限らず、エイム合わせアビリティほぼ全般に言えることだ。もっとインチキくさいアビリティもあるにはあるが、強力になればなるほどクールタイムを要する

本八の要求は、多少無茶な挙動でも、手早く手軽に、ジョッキーの邪魔をしないアビリティだった
数えきれないほどの試行錯誤の末、本八の眼鏡にかなうアビリティが、『たった一つだけ』あった
膨大なアビリティ・カタログの片隅にひっそりと眠っていたそれには、幾つかの蔑称が付けられている
曰く、『開発者の悪ふざけ』。曰く、『プレイヤー殺しアビリティ』。曰く、『世界最悪のコーヒーカップ』。曰く、『チャリオッツの悪意』
強力過ぎるが故に忌避された『ショットパージ』とは、全く別の理由で使われない『ハズレ中のハズレ』アビリティ



その名も、『スピンミキサー』


.

549 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:05:19 ID:xsbgfEYE0
効果は、『車体を高速回転させる』だけ。搭載コストもクールタイムも軽く、何度でも使いまわせるシンプルなアビリティだ
これがテレビゲームであったなら、何人かの使い手もいただろう。だが、ゲーム内の車体の挙動と、プレイヤーが乗り込むコクピットの動きが連動するチャリオッツに置いては、実際に『予備動作無しで操縦席が回転する』のだ
この連動が、アビリティ発動時に様々な弊害を生み出した。言わずもがな、回転による酔いだ。スピンミキサー発表当初は、怖いもの見たさで使ってみたプレイヤーは総じて吐き気に襲われた
また、ジョッキーとキャプテンの意思疎通が不十分だと、発動後に進行方向を見失い、タイムロスやコースアウトへと繋がった

そもそも、スピンミキサーは接近した敵車両を回転で弾き飛ばす『変則チャージ』を想定して開発されたアビリティだが
通常のチャージとは異なり、砲身や車輪といった比較的デリケートな部分への衝突も充分にあり得る
また、装甲も軽量だと、一回の使用で容易く破損してしまう。本来の用途で運用する場合、それ相応の重装甲をカスタムしなければならない
装甲を重くすれば、当然速度も落ちる。チャリオッツレースに置いて、『足の遅い亀にわざわざ当たりにいく』メリットは皆無に等しい
バトルロワイヤルでは、チャージ主体の近距離車両で使用するチームも僅かに見受けられたが、どれもパッとした成績を残した記録はない

そんな誰もが見向きもしないハズレアビリティに、本八は目をつけた

ご察しの通り、スピンミキサーの挙動を回転砲塔の代わりとして利用するのである
実装当初、この無謀を試みた者も少なからず存在した。しかしそもそもの話、砲撃とは精密さを要する
『戦車』の撃ち合いなら尚更だ。目押しの当てずっぽうか、装甲の薄い箇所へ狙いすまして撃ち込む一撃か。どちらが有効かなど問うまでもない
だがこれが、『内藤 文彦』と『6shooter』であるならば、話は変わってくる
極めて優れた動体視力と、最速の主砲を組み合わせることで、スピンミキサーは『二つ』の持ち味を発揮する

『車両の回転を利用した最速エイム』と、『複数同時砲撃』である

前者は言わずもがなである。文彦は『吹き飛んだ車両から相手チームを撃破』した実績がある。それに比べたら、アビリティの挙動など止まって見えるようなものだろう
もう一つは、6shooterが六発まで連続発射出来る性能に因るものだ。射程圏内で複数のチームと競り合っていた場合、自車両を中心に『全方位』へ即座に砲撃を与えられる
連射力に回転を加えることで、『一対多』のシチュエーションにも対応が可能になるのである。当然、敵対CPUであるエネミー相手にも通用する

スピンミキサーは固定砲のデメリットを打ち消し、文彦の才能をフルに発揮できるアビリティだ。小練も三浦も、そこに異論は無い
しかしながら、『シナジー』が生まれた所で、『乗り心地の悪さ』という致命的なデメリットまで相殺されるわけではない。三浦が頭を抱えたのはそれが理由だった

550 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:06:22 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「もしも徳雄か文彦が異論を唱えた場合、再考はされますか?」

《あたぼうよ。候補は他にもあるからな。だが、色々試して『これ』が一番だったってのは覆らねえ》

(´・_・`)「ふむ……」


だとすると、二人はこの編成を高い確率で引き受ける。文彦は6shooterの使い手として、確固たる自信とプライドがある
それを存分に振るえる機会。文彦流に言い換えるなら、『国内最高峰ガンナーである自分が華々しく活躍するチャンス』を、乗り心地の悪さ程度でみすみす逃しはしない
徳雄は元より、文句を垂れはしないだろう。『それ』が最も勝利に貢献するのであれば、淡々と受け入れる。そういう人種だ


(´・_・`)(いや……)


『淡々』ではなく、『喜々として』が正しい。勝利もそうだが、何より『破壊と暴力』に飢えた男だ
そんな『騎手』には、従順な優駿よりも凶暴なじゃじゃ馬がお似合いではないだろうか


(´・_・`)(シナジーねぇ……)


深く読み解いていけば、スピンミキサーはこのチームに『しっくりくる』感じがする。なんとなく、上手く機能しそうな気がする
ただ、やはり懸念は本番まで時間がないと言うことだ。急ぎ対策と訓練を行わねばならない
合宿後半の為に出した本八への宿題だったが、課題はより大きくなって小練へと帰ってきた。思わず、天井を仰いで大きく唸る
思いがけず舞い込んできた『本業』との兼ね合いもあってか、ここ数日まともに眠れていない。体力なら世界中の誰よりも自信があるが、強靭な金属だって疲労で折れるものだ
おかげで大好きな『メタル・スマッシュ』の試合中継が見られない日々が続いている。推し選手であるドラム・ドクの復帰試合は、アーカイブで楽しむことになりそうだ

551 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:07:48 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「わかりました。頂いた構築は、合宿後半の訓練に活用させて頂きます。他に慣れさせておきたいアビリティがあれば、都度ご連絡ください」

《おう、よろしく頼まぁ。ガキ共の様子はどうよ?》

(´・_・`)「ご想像通りですよ。徳雄は真面目で鍛え甲斐のある奴で、文彦は……まぁ、『素直な』子どもですので」


小練は、徳雄と文彦に嘘を吐いていた。文彦がミセリのサマーフェスの為に一時帰宅したいという旨は聞いていたのだ
当然、本八は一日どころか一分一秒たりとも、文彦を帰す気はなかった。となると、甘やかされて育った一人っ子のクソガキの機嫌を損ねない別の『ご褒美』が必要だった。手間のかかるオタクデブだった
本八はいっぺん女を味わせたらCGの女なんて見向きもせんようになるんちゃうかと、本気でねぐらに送り込むつもりだった。プロは金さえ受け取ればどんな汚いブタ男も満足させるのだ。文彦だろうとギリ許容範囲だろう
当たり前だが、盛岡と小練はこれを断固として却下。文彦は高校生である上、ねぐらは休憩可能ホテルではない。他の利用者もいる中で、『デリバリー』なんて到底許可出来なかった。赤ちゃんを極めた男、権田原組長ならワンチャン呼んでもかまへんかもしれへん
『アンダーマイニング効果』もある。そもそも、文彦はサマーフェスという『特別な体験』を求めている。それを越えるとなると、生半可な代物では却って不満を煽る

ここに来て、ようやくチャリオッツの女神が本八に微笑んだ

二つの僥倖に恵まれた。一つは、小練が皆鳴ミセリと交友関係にあった事。これは厄介オタクデブの文彦に伝えると確実に面倒になる為、徹底して伏せられた。クリスマス数日前に体調不良で配信を休む理由などしつこく訊かれるハメになる
幸いな事に、一番口を滑らせそうな儀杜も、肥えた臭いイキった非モテオタクデブとは極力関わろうとしなかったので、話題にすらならなかった
二つ目は、ミセリが『ある重大な情報』を半年ほど前にうっかりポロリしていた事だ。これにより、本八サイドは莫大な調査費用を節約出来た
それが今日、ミセリサマーフェスで発表される。これを聞いた本八は、文彦のダイエット意欲が加速度的に上昇するのを確信した

その事を今まで報告しなかったのにも理由はある。合宿前に知らせるのと、実際にミセリ本人の口から発表するのでは、本人、いや本豚への突き刺さり具合が全く異なる
よしんば本八の口から直接伝えたとしても、やる気の持続力は長くは保たない。サマーフェスの参加も諦めたりはしないだろう
では、会場で直接知るのが、文彦にとってベストな選択ではないか?これも必ずしもそうとは言い切れない

552 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:08:40 ID:xsbgfEYE0
<ブヒィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


厨房にまで響き渡る豚の鳴き声。小練は、搬入業者が間違えて豚肉を生きたまま届けたのかなと思った
それ以外だと、ねぐらで豚に該当する生き物は一匹しかいない。豚は興奮を抑えきれないのか、汚い鳴き声を上げながら廊下をドタバタと豚足で走る


<ふ、文彦殿ーーーーーーーーー!!!!!!!まだサマーフェスは終わってませんぞーーーーーーーーーー!!!!!!

<ブヒィッ、ブヒヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


《あいつか?》

(´・_・`)「そのようで」


小練は監視カメラアプリ立ち上げ、廊下の映像を映し出す。案の定、興奮した豚が二郎ラーメンの具みたいな腕を振り回しながら廊下を駆け巡っていた
すれ違った女性利用者は、その余りの見苦しさと喧しさに心底迷惑そうな目を向ける。そんな彼女達に、後を追う木本が申し訳なさそうに頭を下げた
途中、何もない空間にも頭を下げていたが、ねぐらでは日常茶飯事なんで特に異常はなかった


(´・_・`)「プールに向かってますね。狙い通りに奮起してますよ」

《良いねえオタクってのは情熱的で。やる気も出した所だし、更にビシバシ絞ってくれや》

(´・_・`)「承りました」

553 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:09:42 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると


('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」


徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した


('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」

(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」

('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」

(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」


文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ


('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」

(´・_・`)「偶然偶然」

554 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:10:18 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると


('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」


徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した


('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」

(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」

('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」

(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」


文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ


('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」

(´・_・`)「偶然偶然」

555 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:11:13 ID:xsbgfEYE0
小練は「さて」とウィンドウ表示を切り替え、徳雄に先程受け取った本八の構築を見せる


(´・_・`)「不服ってツラで入って来たな。喜べ。ここからが地獄の本番だぜルーキー」

('A`)「……お見通しっすか。これは?」

(´・_・`)「お前らのボスから受け取った、チャリオッツ車両の構築データ。明日からこいつを組み込んで訓練してもらう。それと、文彦にも参加させる」

('A`)「けど小練さん。俺はまだ今の条件で一位を獲れていない」

(´・_・`)「一朝一夕で獲れるわけねーだろ。AIでもレジェンド級のプロチーム達だ。今のチャンピオンチームのジョッキーだって苦戦するだろうぜ」

('A`)「あの条件下で勝つのが目標じゃないんすか?」

(´・_・`)「それに越したこたぁねえが、まず最初に『困難』を教えたかった」


「その上で」と前置きし、小練は言葉を続ける


(´・_・`)「『ガンナー』を乗せて走った時、そいつがジョッキーにとってどれだけありがたい存在かを、頭と身体に叩き込め。文彦は性格こそ終わってるが、ガンナーとしては一線級だ。太っているのを除けばな」

('A`)「わかってますよ」

(´・_・`)「いいや、理解が足りてない。だからお前は今まで文彦に『相談』すらしていない。チャリオッツは三位一体となって行うゲームだ。テメーにばかり向き合ってねえで、そろそろ仲間を知るこったな」

('A`)「……」

556 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:11:50 ID:xsbgfEYE0
思えば、文彦と出会ってからの数ヶ月、合同でチャリオッツの練習した覚えがない
なんでだろうと振り返ってみると、ほとんどの日数を文彦のダイエットに費やしていたからだった


('A`)「多分それ俺の……」

(´・_・`)「え?」

('A`)「いや……なんでもないっす」


既に過ぎた事なので、徳雄は早々に切り替えた


('A`)「間に合いますかね」

(´・_・`)「不安か?」

('A`)「そりゃあね。全員揃って練習出来んのも三ヶ月ちょいしかねえんだ。焦りもしますよ」

(´・_・`)「そうか。なら、明日にでも確かめてみるか?」

('A`)「確かめる?」


小練はニヤリと笑った。奇しくも、先程向けられた儀杜からの笑みと良く似ていた


(´・_・`)「まさか、ウチにある設備があんなチャチなもんだけたぁ思ってねえだろうな?」

557 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:12:35 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



翌日


(;'A`)「ええ……」

(´・_・`)「おったまげるだろ?」


ねぐらから十分ほど歩いた場所にある比較的新しい体育館。その中には、四メートルを超す『球体』が収まっていた
言わずもがな、チャリオッツの『業務用筐体』である。室内は排熱を促す為に温度管理もされており、山奥とは思えないほど設備が整っていた
合宿後半から始まる特訓に興味を惹かれ着いて来た木本と高梨も、徳雄と同じくポカンと筐体を見上げていた


⌒*リ;´・-・リ 「これ……幾らします?」

(´・_・`)「え?知らん」

⌒*リ;´・-・リ 「ええー……」


唯一、昨日から人が変わり、やる気に満ち溢れた文彦だけは、落ち着いた様子で筐体に乗り込む。それを見た徳雄も後に続いた


( ^ω^)「……」

('A`)「ゲーセンにあるのと……全く変わんねえな」

( ^ω^)「型はちょっと古いけど、バージョンは最新。オンラインプレイも可能だお」

('A`)「ってこたぁつまり……」

( ^ω^)「この場で『対人戦』が出来るお」

558 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:20:49 ID:xsbgfEYE0
『対人戦』。その言葉に、徳雄の心は踊った。彼もまた文彦と同じく、チャリオッツで勝つ快感を味わった者
CPUとの対戦では得られない、『生のプレイヤー』を下した時の優越感。ゲームを趣味とする者ならば、誰もが渇望する瞬間である


('A`)「そいつぁ……」

( ^ω^)「なんかおかしくないかお?」


一人盛り上がる徳雄を他所に、文彦は冷たく言い放った


('A`)「何が?」

( ^ω^)「スポーツ目的の利用者が多い宿泊施設とは言え、『こんなもの』まで常備してる所、他に無いお」

('A`)「そりゃ……」


言われてみれば異質である。業務用筐体を使ってガッツリとチャリオッツが出来るとあれば、『ウリ』として宣伝されて然るべきだ
しかしこの場所は、母屋から見えづらい位置にあるばかりか、看板の一つも立っていなかった。初日に確認した設備案内図にも、筐体がある事など一つも書いていない
つまりここは、『一般の利用客には解放されていない設備』なのだ。文彦は楽観的甘ったれクソオタクデブの分際で一丁前に訝しんだ


( ^ω^)「となると、本来ここは『誰か専用』の設備である可能性があるお」

('A`)「誰かって……」

( ^ω^)「最もあり得るのが、どこかのプロチーム。それも、太いスポンサーが付いてる所だお」

('A`)「その……つまりー……どこかのプロチームの『秘密の特訓場』を使わせて貰ってるってことか?」

( ^ω^)「僕はそう思うお」

559 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:22:03 ID:xsbgfEYE0
徳雄は暫し、『ううむ』と腕を組んで唸り


('A`)「別に不都合は無くね?向こうが良いっつってんならありがたく使わせて貰おうや」


特に気にすることはないと結論を出した


(#^ω^)「そういう問題じゃないんだお!!」

(;'A`)そ「うおっ」


文彦にしては珍しいシリアスな雰囲気に、百戦錬磨の鬼も怯む。昨日、小練が言ったようにチャリオッツに関しては文彦に一日の長がある
素人に毛が生えた程度の自分には到底想像の及ばない問題があるのではないか?徳雄は思わず縮こまり、声を顰めた


(;'A`)「じゃ、じゃあ……何がマズいんだ?」

(#^ω^)「決まってるお……」


(#^ω^)「どこの馬の骨ともしらないイキリプレイヤーがしずくちゃんと銀さんをてごm('A`)「小練さーん。早速始めてーんすけどー」


聞くだけ損した

560 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:22:56 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた


(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」

( ^ω^)「ランクとルールは?」

(´・_・`)「マスターで4ステージレース」

( ^ω^)「把握したお」

('A`)「木本、解説頼む」

(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」

('A`)「そいつぁご機嫌だな」

(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」

561 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:24:45 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた


(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」

( ^ω^)「ランクとルールは?」

(´・_・`)「マスターで4ステージレース」

( ^ω^)「把握したお」

('A`)「木本、解説頼む」

(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」

('A`)「そいつぁご機嫌だな」

(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」

562 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:26:46 ID:xsbgfEYE0
小練は説明をしながらも、淡々と筐体にプレイ設定を組み込んでいく


(´・_・`)「言わば、今から行うゲームは『試金石』だ。アマチュアトップレベルを難なくクリアして、初めて頂点へのスタートラインに立てる」


言い換えるなら、『これをクリア出来ない程度では、ジャパンカップなど夢にまた夢』ということ
言わずもがな、キャプテン不在の『一枚抜き』である。これは『アビリティ』『アイテム』『トレジャー』の使用不可に加えて、何より重要な『広い視野』の制限を課せられる縛りプレイだ


(´・_・`)「アシストは必要か?」


チャリオッツのオンラインプレイでは、プレイ人数が揃わなくてもゲームが楽しめるようにAIプレイヤーの搭乗も可能である
人間ほど的確な判断を下せるわけではないが、上記のアシストがあるだけでも快適度は天地の差だ。となれば当然


('A`)「いらねえっす」

(´・_・`)「だよなぁ」


頷くはずがなかった


(´・_・`)「文彦はどうだ?」

( ^ω^)「え?とっくんはともかく僕にキャプテンが必要に見えますかお?マスター帯wwwwwwwww如きでwwwwwwwww」

(´・_・`)「よし、でけぇ口に見合った成績を期待するぞ」

( ^ω^)「見といてくださいよwwwwwwwwwなんなら、オーディエンス増やしても構いませんお?しずくちゃんとか銀さんとか」

(´・_・`)「あの二人クソほどお前に興味ねえから来ねえよ」

( ^ω^)「え……?」

⌒*リ;´・-・リ 「言い方!!」

563 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:27:10 ID:xsbgfEYE0



( ^ω^)「……」



( ^ω^)「じゃあ、僕の華々しい活躍を見せれば一気に意中のお相手になっちゃうってコト……?」



(´・_・`)「すげーな無敵かオメー」

('A`)「一々相手しないでいいっすから」

564 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:29:09 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「ッシャア!!足引っ張るんじゃねえおとっくん!!」


文彦は数回の屈伸をして、指先をほぐし意気揚々と筐体に乗り込む
数ヶ月前とは心構えが違うからか、その姿が徳雄の目にはやけに軽快に見えた


('A`)「何かアドバイスは?」

(´・_・`)「楽しめ」

('A`)「了解」


徳雄もまた、足取り軽く乗り込むと、筐体の扉がゆっくりと閉まる
残された三人の視線は、プレイ内容を表示するディスプレイへと向けられた


(´・_・`)「うん……じゃあ俺仕事に戻るから」

⌒*リ;´・-・リ そ「え!?見ていかれないのですか?」

(´・_・`)「この後団体の受け入れがあんだわ。それに、見なくても結果は知れてる」

⌒*リ;´・-・リ 「え……それってどういう……」

(´・_・`)「教え甲斐のねえ生徒だってこった。終わったらまた呼んでくれや」


小練は大きな欠伸を一つ吐き出し、ゆったりとした足取りで母屋へと戻っていく
含みのある物言いに、残された二人は不安気に顔を見合わせる。そうとも知らず、モニターの中では勢いよくゲートが開き、球体は激しく回転し始めた―――――

565 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:30:09 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



⌒*リ;´・-・リ 「……」

(;@з@)「……」


『教え甲斐がない』とはどういう意味か?人によっては幾つかの解釈に分けられるだろう
馬に念仏を聴かせるように、教えても学ぼうとしない不真面目さ。はたまた、1を教えれば10を理解する賢明さ
それとも、逆に先人へ教えを説こうとするような見当違いの図々しさか


(;'A`)「ハァ……ハァ……」

( ^ω^)「とっくん……」


(´・_・`)「な?面白くねえ」


スクリーンに映る準備は、堂々の『1st』
教え甲斐のない生徒が、ズル無し真剣一発勝負で掴んだ、初めての一着であった


⌒*リ;´・-・リ 「いやエグ……って、教え甲斐が無いってのは!?」

(´・_・`)「あー?徳雄は来た時から既に身体は仕上がってたし、文彦もチャリオッツに関しちゃ言うことねーだろ。俺ぁ内心ガッカリしてたんだぜ?いじめ甲斐のねえ連中が来ちまったって」

⌒*リ;´・-・リそ 「高評価故の失望!?」

(´・_・`)「ほらよく言うじゃん?出来ない子ほど可愛いって。だからしずくは可愛い」

⌒*リ;´・-・リ 「それ絶対しずくちゃんの前で言わないでくださいね!?」

566 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:31:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「それで……」


高梨から連絡を受けてダラダラと戻ってきた小練の前では、息を切らして正座する徳雄と、それを仁王立ちで見下す文彦の姿
ゲームが終わって間もないのは見て取れるが、今の位置関係は普段の二人を知ってる者からすれば奇妙極まりない


(´・_・`)「早速ダメ出しか?」


小練はこの構図も、ある程度は予想していた


( ^ω^)「あの、さぁ」

(;'A`)「はい…………」


(#^ω^)「もう一回言うけどスタートダッシュから走り過ぎどう考えてもとっくんの脚質はラビット向きじゃないお今までの特訓でその自覚もないのかお?まぁそれはいいお問題はその後だお遠ぉーくの相手にまで過敏に反応してちょこちょこちょこちょこハンドル動かしやがってよ幾ら戦車だからといっても有効射程ってもんがあんだお撃たれたところで当たりゃしねえんだよ小心者のザコがよ!!確かに蛇行運転ってのは回避の基本テクだけど意味ない所でジグザグやっても体力の無駄そう無駄!!そんで遮蔽物を積極的に使うのはいいおでも車体が全然隠れない壁選んでも意味ねえだろブス!!遮蔽ってのは防弾だけじゃなくて車体を隠して見失わせる事にも意味はあるんだおその場にある一番使える壁を即座に見抜くのもジョッキーには必要不可欠なスキルだおわかってんのかアメイジングブス!!それとこれレースルールって理解してるかお?なんかチャンスあったらバカスカ当たりに行ってるけどへばった相手にまで喧嘩売る必要は全っっっっっっっっっっっっっっっっっっっったくこれっっっっっっっっっっっぽっっっっっっっっちもねーーーーーーーーーーーーんだおアレか?蟒蛇の時の成功体験が忘れらんなくて死体蹴りに興じてるんですか?っかーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!顔もブサけりゃ性格も腐ったドブみたいだお臭っっっっっっ!!!!!!!!そういう無駄に積み重ねで体力使って終盤のスパートが伸びなかったんだおとっくんはクソ呑気にやったー初勝利だーとか思ってんだろうけどハナ差の勝利なんて勝った内に入んねーんだおましてやプロ不在の素人に毛が生えた程度のマスター帯で辛勝とか僕のキャリアにクソみたいな戦績が付いてしまったおあのさぁとっくんいや時間をドブに捨てた顔面ドブスくんはさぁ本当にジャパンカップ勝つ気ありますか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????????」


(;'A`)「はい…………」


(;@з@)「文彦氏!!手心!!」

(;´・_・`)「……」


高梨がエグいとドン引きした理由がそこにあった

567 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:32:05 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ;´・-・リ 「小練さん、早く助けてあげてくださいよ。宇都宮先輩があれだけ萎縮するの相当ですよ。普段は社長に平然と手を上げるような方なんですから」

(;´・_・`)「そ……それはそれで大問題じゃねえの?」


しかし、このほぼ罵倒目的のダメ出しも、小練の狙いであった


(´・_・`)「はいはいそこまで!!振り返りだ!!」

(#^ω^)「あ??????」

(;´・_・`)「殺気立ち過ぎだろ……」

(;@з@)「申し訳ござらん。昨日から文彦氏の情熱はフルスロットルで留まるところを知らぬのでござる」


情熱も結構だが脂肪を燃やして欲しいものである


(´・_・`)「どーれ……」


小練はリプレイデータを五倍速で見返しながら、気になったシーンをキャプチャーしていく
その間、高梨と木本の応援組は落ち込む徳雄を励まし、怒り立つ文彦を宥めたりと八面六臂の大活躍を見せた


(;´・_・`)「……」


なんかこっ酷く負けた後みたいな光景だった

568 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:34:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「先ずは初勝利おめでとう。文彦は不満げだが、一枚落ちというデカいハンデを背負ってこの結果は上々だ」

( ^ω^)「……ま、それは評価してやるお。仕方なく」

(;'A`)「アリガトウゴザイマス…………」

⌒*リ;´・-・リ 「声ちっさ!!」

(;@з@)「胸張っていいんでござるよ宇都宮氏!!」


励ましを他所に、小練は「残念ながら」と続ける。徳雄の肩がビクリと跳ねた


(´・_・`)「癪に触るが、文彦の指摘は概ね当て嵌まってる。大雑把に言えば『無駄』が多い。今回はアマチュア戦だったが、プロは一瞬の隙を余裕でぶち抜いてくる連中だ。このままだと、予選は抜けられても本戦は1ステージも突破出来んだろう」

( ^ω^)「ハァーーーーーーーーーー……甘く見てんすよねぇ、チャリオッツを。これだから甘い見積もりでジャパンカップ優勝とか目標立てた素人はさぁ」

⌒*リ;´・-・リ 「……」


高梨は、儀杜らがどうしてあそこまで文彦を毛嫌いするのかを、なんとなく察せた


(´・_・`)「素人ね。本当にそうか?」

( ^ω^)「お……?」


(´・_・`)「身体が仕上がっていたとは言え、チャリオッツを初めて数ヶ月。合宿に到ってはたったの二週間足らずだ。その僅かな期間だけで、徳雄は『マスター帯』で通用するレベルにまで成長している」

(´・_・`)「これは既に、素人から脱していると捉えて良いんじゃないか?」


徳雄の成長にはからくりがあった。合宿中は二枚落ちの状態で、最高クラスのCPUやプロチームのゴーストと渡り合ってきた
そんな過酷な環境下から、マスターランク帯の対人戦へに挑戦。一見、難易度に差は無いように見えるが
最高ランクとは言え、プレイチームは玉石混交である。AIとは言え国内最高峰プロチームと比べれば、文彦の言う通り『素人に毛が生えた程度』と呼んで差し支えない
プロに匹敵するレベルのアマチュアも当然存在するが、それもマスター帯の上澄みであり、おいそれとマッチングするようなものでもない
結果、今回のオンラインプレイは、徳雄にとっては比較的難易度が低いものだったのだ

569 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:36:35 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「時間をドブに捨てたと言ったがな、徳雄の大まかな課題はなんだった?」

( ^ω^)「チャリオッツに慣れる、だお」

(´・_・`)「で、お前から見て今のプレイはどうだった?」


文彦は不満気に唇を尖らせながらも、先ほどより怒気を潜めて答えた


( ^ω^)「チッ……『ダメ出し出来るレベル』にまでは、成長してると認めてやってもいいお……クソが……」

(;'A`)「文彦……」

(#^ω^)「あ???????」


すぐさま元の剣幕に戻り、徳雄は小さく縮こまった


(´・_・`)「そうだ。つまり、チャリオッツの『いろは』はクリアしたと見ていい。ここからは磨き上げる期間だ。その為に文彦、お前の力がいる」

( ^ω^)=3「フゥー、やれやれ。その理由をこの凡骨に教えてやってくださいよ」


クソほど調子に乗ってた。キモ豚もおだてりゃ木に登るとは正にこの事である


(´・_・`)「元プロ選手の観点を活かす。今のダメ出しを食らったら嫌でもわかるだろうが、文彦は改善点の抽出に優れてる。オメーが見る影もなくボロクソにされて何も言い返せないのがその証拠だ」

(;'A`)「その通りっす…………」


もう半泣きだった

570 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:37:36 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「裏を返せば、文彦が文句の一つすら言わなくなれば、ジョッキーとしての腕前は『プロ級』だ。そうだよな?文彦」

( ^ω^)「ま、とっくん、いや、マスター帯程度で手こずる程度のクソザコブサイクにそれを成し遂げられたらの話、で・す・け・ど・ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っと」


調子と脂が乗り過ぎてクソデブを高く買ってる小練と木本も流石に顔を顰めた


(´・_・`)「それとだな、お前らの大将は文彦を攻撃の要として運用するそうだ。昨日受け取った車両構築を送る。確認しろ」


小練は二人それぞれに本八の『仮組み』データを転送する。それを見た文彦はブヒと鼻を鳴らした


( ^ω^)「『スピンミキサー』かお。クズにしちゃ思い切ったチョイスじゃねーか」

⌒*リ´・-・リ 「ねぇ人のこと見下すのカッコ悪いからやめな?」

(;^ω^)「あっ、すっ、すみません……」

⌒*リ´・-・リ 「謝るの私じゃないよね?」

(;^ω^)「ご、ごめんだおとっくん……」

(;'A`)「い、いいよ……」


大人の女性のマジトーンに、野郎四人の肝がガチガチに冷えたのであった

571 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:39:28 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ´・-・リ 「失礼しました。続きをどうぞ」

(;´・_・`)「お、おう……み、見ての通り、スピンミキサーは車両を高速回転させるアビリティだ。ぶっちゃけ、ジョッキーにとってメリットはほぼ無い。砲塔の無い固定砲で素早く照準を合わせる為に使用する代物だな」

(;@з@)「となれば、宇都宮氏と大潮氏は、ガンナーである文彦氏と息を合わせる必要が出てきますな」

(´・_・`)「そうだ。6shooterの特性上、ガンナーは独立して砲撃は出来ない。ジョッキーの操縦技術で補う場面もあれば、スピンミキサー込みでエイムを合わせる場面も出てくる」

(;'A`)「するってーと、『チャリオッツ慣れ』を、ガンナーである文彦込みで次の段階へと進めるって事っすね」

(´・_・`)「その通りだ。ところで徳雄、ガンナーを乗せて試合した感想はどうだ?」

('A`)「……」


徳雄はリザルトとリプレイを映すモニターに目をやる。初めての対人戦レースで掴んだ『1st』は、今までのやり方で手に入る物ではなかった


('A`)「……文彦と出会う前、オッサンが言ってたんすよ。『脚』と『オツム』しか揃ってねえ現状じゃ、実戦訓練も儘ならねえって」

(;^ω^)「お……」

('A`)「実際、そん時の戦績は散々だった。でも、さっきの試合は『オツム』が無くても成り立ってた。照準だってまともに合わせてねえのに」

(´・_・`)「そりゃ、どうしてだろうな?」

('A`)「簡単な話だった。主砲は単に攻撃手段ってだけじゃなく、『牽制』の役割も担っている。だからこのレースの最後、俺は先頭を維持してハナ差で勝てた」


銃を突きつけられた時、人は思わず両手を上げて無抵抗になるが、それに『弾が込められていない』と知られれば、脅しの効力を失う
文彦はこの試合、何度か発砲した。命中せずとも、発砲することで相手に『脅威』を認識させられる
破壊されない為に慎重に動くようになり、備えるようになる。言い換えれば、『引け腰』になるということ
妨害の無いレースであるならば、スパートを邪魔される事はない。だがチャリオッツは違う。砲撃という脅威への『警戒』は、大いに脚を引っ張るのだ


('A`)「小練さんの言ってた事、よく理解出来ましたよ」

(´・_・`)「フン、首尾は上々だな」

572 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:40:27 ID:xsbgfEYE0
面白く無さげに鼻を鳴らした小練は、場を切り替えるように手を叩いた


(´・_・`)「合宿後半戦は、これまでの練習メニュー+業務用筐体での実戦を行う!!ハードになるが気合い入れろよガキ共!!」

('A`)「臨むところっすよ」


小練の激励に徳雄は勿論


(#^ω^)「やってやるお!!ミセリに認知されてオフコラボする為に!!そしてついでにジャパンカップ優勝の為に!!」


目的が明後日の方向へ大きくズレを起こした文彦も、豚鼻息荒く応えたのであった

573 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:44:10 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・ω・`)「……」

(´・_ゝ・`)「……」


徳雄が勤務している参羽鴉グループ飲食店『OHANAMI』の休憩室にて、二人の視線はホログラムディスプレイに釘付けだった
それは緊急で行われた記者会見であり、長机には徳雄、文彦とそれぞれ関わり深い人物が着席していた


『この度、ハヤテのチャリオッツジャパンカップ参加にあたり、年内の芸能活動縮小のご報告をさせて頂きます』


スーツに身を包んだ猫山 義古が、決意を漲らせた面持ちで立ち上がり発表すると、記者のどよめきとフラッシュの羽ばたきが辺りに満ちた
猫田は暫く、会場が落ち着くのを待ってから、予めまとめてきた原稿に目を落とす
両隣には、メンバーの高岡波音。そして、徳雄の親友にして『標的』である獏良 良樹の姿があった


(´・ω・`)「奴らもとうとう宣戦布告か。引く手数多の大人気アイドル様が、良くスケジュールを合わせたもんだ」

(´・_ゝ・`)「それが、我々と会う以前から計画的に進められていたようです。ここ半年ほどのライブ活動や俳優業は極端に少ない。あまり時間を食わない収録やミニイベントで回してたみたいです」

(´・ω・`)「勝良祭もその一環か。規模は大きめとはいえ、ローカルな祭だからな。ちょうど良かったのかもしれねえ」

574 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:45:43 ID:xsbgfEYE0
『ジャパンカップの目標は?』

『無論、優勝のみです』


若い記者の質問に、猫山は毅然と返答する。画面越しでもわかるくらい、会場の熱気が伝わってくる
今や日本を代表するイケメンアイドルグループの、『最も過酷なeスポーツ』グランプリ参戦
日本中の興味を表すように、ネットニュースの記事数は瞬く間に膨れ上がっていく


『それはつまり、『クワイエット』の三連覇を阻むという事ですが、自信の程は?』

『小心者の僕以外は、勝つ気満々です』


ドッと笑い声が上がった

575 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:46:35 ID:xsbgfEYE0
『冗談はさておき、クワイエットの連覇阻止は、今年出場する全てのチームの悲願でしょう。僭越ながら、彼らを代表してクワイエットに宣言致します』

『首を洗って待っていろ、と』


笑いは瞬く間に感嘆へと変わる。最年長リーダーなだけあって、話術の緩急の付け方が絶妙だった
性格、人柄、ルックス共に厄介オタクデブと血が繋がっているとは思えない。アレは一族の負の遺伝子を一身に引き受けて誕生した哀れな醜い豚なんじゃないかと本八は訝しんだ


(´・_ゝ・`)「大きく出ましたね」

(´・ω・`)「上の指示なんじゃねえの?猫山は謙虚な野郎だった。本心じゃ胸を借りるつもりで挑むってとこだろ」

(´・_ゝ・`)「しかし、他二人はそうでもなさそうですね」


『ガンナーの高岡さん。ジャパンカップへの想いをお聞かせ願えますか?』

『えー?オレは正直、二人ほど経験も熱意もあるわけじゃないんだけどさぁ〜』


猫山は渋い顔を、獏良は呆れたように苦笑いを浮かべた


『でもよ、やるからには全力を尽くすぜ!!オレァ負けんのが大っ嫌いだからな!!クワイエットだかクインテットだか知らねえけど、全員ぶっ潰してやらぁ!!』


(´・ω・`)「アツいねぇ。女にモテんのも頷けるぜ」

(´・_ゝ・`)「それに、ガンナーとしての腕も確かのようですね。愛砲は『2hand』。二箇所の同時攻撃が可能の変則主砲です」

(´・ω・`)「上下に重なった二つの砲を、それぞれ別の方向へと向けて発射出来る代物か。あの嬢ちゃん、単純そうに見えて器用なモン使うじゃねーか」

576 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:49:32 ID:xsbgfEYE0
『ジョッキーの獏良さんに質問です。ズバリ、ジャパンカップ参戦候補の中で最も注目しているチームは?』

『……』

『……あの、獏良さん?』


獏良はすぐには答えず、カメラの向こう側を見透かすようにジッと見つめる
それはまるで、『今、自分を見ているであろう誰か』に向けて挑発をしているかのようであった


『ふふ、ごめんなさい。本番までのお楽しみってことで』


獏良は口元に人差し指を立て、質問した記者にウインクを放つ
『魔性』という言葉が似合うイケメン仕草である。とてもゲロ以下顔面の腐れ暴力ブサイクの親友とは思えなかった


(´^ω^`)「煽るねぇ〜。ブサイクの野郎、これを見たらきっと燃え上がるぜ」

(´・_ゝ・`)「思いがけない燃料投下ですね」


(´・ω・`)「ま、ブスに限った話じゃなさそうだがな」


チャリオッツのプレイ人口が多いとはいえ、ジャパンカップ参戦の報告を大々的にするチームは滅多にいない
時折、ハヤテのような芸能人が番組の一環として発表することもあるが、その殆どが予選の高い壁を越えられずに消えていく
だが、ハヤテには『実績』があった。昨年十月に行われた配信者最強決定戦『ライバーズ・ライバルズ』にて、ジャパンカップ常連のプロチーム『NOOD(ノード)』を下し、優勝を果たしている
その勝利は素人目から見ても偶然の賜物では決して無く、確固たる実力を万人へと示したのだ
勢いづいたハヤテはその後も大小問わずチャリオッツの大会へと参戦し、全て勝利を飾っている。デビュー以来無敗という称号を抱えたまま、ジャパンカップへと挑むのだ


(´・ω・`)「これで、今年のジャパンカップは二つの伝説が鬩ぎ合う形になった」


最強王者、『クワイエット』のジャパンカップ三連覇か
新進気鋭、『ハヤテ』の無敗優勝か


(´^ω^`)「ぶっ壊し甲斐のある舞台じゃねえか!!ガハハ!!」

(´・_ゝ・`)「ええ、そのようで」


この二つの偉業を阻むのも、また『偉業』である
二人は、彼らと同じく挑もうとせん年末の大舞台に、これまでにない大きな嵐を予感した

577 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:50:19 ID:xsbgfEYE0
斯くして、ハヤテの参戦発表は



( ,,^Д^)「……」

(-_-)「どうしたの?」

( ,,^Д^)「こいつが……」



日本中に犇めく数多の強豪たちの


  _
(  ∀ )「おいおい、これって完全に俺のこと言ってやがんな」



胸中に抑え込んでいた野望の炎を



ζ( ー *ζ「お姉ちゃん。図らずも、アイドル頂上決戦になりそうだね」



『大炎』へと昇華させたのであった



(  _ゝ )「は?ミセ×トソこそ正義だが?」

( <_  )「トソ×ミセだろ殺すぞカス」

578 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:50:43 ID:xsbgfEYE0
だが、残念なことに



(;'A`)「ハァッ、ハァッ!!」

(# ゚ω゚ )「スピンにハンドル持っていかれてんじゃねえお!!回転が止まったらキチッと固定して真っすぐ走るんだお!!ちょっとブレただけで後隙狩られるお!!」

(;'A`)「はい!!スワセン!!」




『ハヤテ』が送った果たし状は、山奥で更に過酷な修練に励む二人には届かなかった

579 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:53:43 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



♪Gonna Fly Now
 https://www.youtube.com/watch?v=LOyHMftfbGA


木本と高梨が帰宅し、合宿も残すところ一週間となった。追い込みの時期である



(;'A`)「有効射程!!遮蔽意識!!」



午前中は、それぞれ合宿前半と同じトレーニングメニューをこなす。徳雄は、文彦のアドバイス(ほぼ罵倒)を意識してプロチームのゴーストデータとの対戦である
文彦の無遠慮な改善点の指摘は、徳雄が会得しようとしている『守りの走り』への明確な指針となり、今となっては漠然とした焦りも消え失せた
未だゴール出来た試しは無いが、日に日に到達地点は伸びていく。その度に徳雄は、かつて学生時代に味わった成長の悦びを噛み締めていた



(;^ω^)「フーッ、フーッ!!」



文彦の水中ウォーキングも、上下共に着衣した状態で行われた。五十分のウォーキングを、十五分ずつ休憩を挟んで3セット
始まった当初は毎日のように文句を溢していた文彦も、推しに認知されるという大いなる目標を得たことで、歯を食いしばって励むようになった


(´・_・`)「トラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーインハーーーーーーーーーーーードナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


その間、小練は指導しつつすっごく歌った

580 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:55:13 ID:xsbgfEYE0
午後からは実機を使った訓練である。これは主に、徳雄の操縦技術のチェックと、スピンミキサーへの慣れが目的だ


(#^ω^)「正面から左右45°まではジョッキーの操縦で照準を合わすんだお!!ピッタリ止めなくてもいいけど、絶対に砲口が相手を捉えるようにするんだお!!」

(;'A`)「はい!!!!!!!!!!!!!!!」


徳雄は真面目な男である。暴力に躊躇いこそないが、自分に非がある分には、豚の言う事すらも素直に聞く
固定砲の不便さに文句を溢さず、頭上から怒鳴りつけるチームメイトに逆らわず、指摘されればすぐさま修正を行う
文彦と反りが合わなかった蟒蛇のメンバーとの違いは、『己は取るに足らない素人である』という謙虚な姿勢。その姿勢こそが、徳雄の目覚ましい成長の後押しとなっていた


(#^ω^)「オッケエナイスゥ!!!!!!!!!今の感覚忘れんじゃねーお!!!!!!!!!」

(;'A`)「はい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


文彦もまた、徳雄の成長に伴い、態度を変えていく。最初こそダメ出し(罵倒)が殆どを占めていたが、思い通りの動きをすればすかさず褒めた
これはかつてチャリオッツを始めたての頃、キャプテンの位置から教示してくれた従兄の名残であった。最も、彼は罵倒など一度もしなかったが
悪しきは叱咤し、良ければ褒める。このメリハリを、性格ゴミクソッタレデブが弁えていたのは、小練にとっても嬉しい誤算だった


(´・_・`)「イッツソォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーード!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


そら歌も指導もめっちゃ盛り上がった

581 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:56:02 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「トライーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(#^ω^)「気が散るお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(;´・_・`)「アッハイ」


豚が初めて正論をかました記念すべき瞬間であった

582 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:57:14 ID:xsbgfEYE0
休養日も、車両構築やアビリティについて話し合った


( ^ω^)「アビリティは1〜3までのコストがあって、最大で『5コスト』まで積み込めるお。コストが低ければ短いCTで使いまわせるけど効果は小さく、逆に高ければ絶大な効果の代償に多くのCTを要するお」

('A`)「スピンミキサーのコストが『1』ってことは、残り全部を1コスで埋めたりも出来んのか」

( ^ω^)「そういうチームも無くはないけど、ゴッチャになるから推奨されてないお。大抵はバランスの良い『122編成』か『113編成』に分けられるお」

('A`)「違いは?」

( ^ω^)「122編成は生存重視型だお。ミドルコストのアビリティで道中のステージギミック攻略に重きを置いてるお。初心者から上級者まで、万人に好まれる編成だお」

( ^ω^)「113編成はスパート重視型。終盤に高コストアビリティで勝負を決めるガチガチの上級者編成だお。道中の障害を低コスアビリティだけで突破する実力あっての編成とも言えるお」

('A`)「なるほどなぁ」

( ^ω^)「どのチームも一つは『固定アビリティ』があるけど、残りは自由枠として大会ごとに組み替えたりするお。そうしないと、毎回手の内を明かしながらプレイすることになるから不利なんだお」

('A`)「ってなると、ここでも初参加の俺達が有利な条件になるのか」

( ^ω^)「そうだお。固定枠も自由枠も明かされてないチームは、有名な強豪と比べて底が知れないダークホースになり得るんだお」


スピンミキサーを軸にして、他アビリティと組み合わせたシナジー考察
文彦にとってはやり慣れた作戦会議だったが、チャリオッツを始めて間もない徳雄にとっては


('A`)「おもしれえな……」


プレイする以外でのゲームの面白さに触れる新鮮な体験となった

583 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:58:10 ID:xsbgfEYE0
そうして、あっという間に時は過ぎ、迎えた八月三十日―――――


(´・_・`)「……」


翌日には帰宅する為、今日が実質の合宿最終日である。小練はいつも通りの四時に起床し、手早く身支度を整えた
繁忙期ピークの八月であるが、盆を過ぎれば客足は徐々に落ち着きを見せる。終盤には学校の新学期再開間近ということもあり、賑やかだった宿舎がシーズンオフの静けさを取り戻すのも珍しくはない
来月の半ばには例年通り『得意先』が利用しに来るが、今月最後の客は徳雄と文彦を残すのみとなった

水とシリアルバーだけの簡単な朝食を済ませると、登山口に続く玄関へと足早に向かう。そこには既に


('A`)「おはようございます」

( ^ω^)「おっせーお」


小練よりも早く集合した二人が、準備運動に勤しんでいた


(´・_・`)「やる気は十分のようだな」


合宿の総決算が、人知れず始まった

584 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:59:12 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「文彦。初日の苦痛、忘れてねえよな?」

( ^ω^)「ハッハッハッ、先生。僕を見くびって貰っちゃ困るお」


文彦はその場で軽く足踏みをする。自前のジャージの腹回りには幾分か余裕が出来ており、文彦は生まれて初めて『紐』を結んでいた


( ^ω^)「鍛えに鍛え抜いた僕の足腰、見せてやりますお」

(´・_・`)「期待してるぞ。徳雄、先に行け」

('A`)「了解っす。文彦、後でな」


徳雄にとっては、山登りは二日置きのルーティンワークだった。最後の一回を噛み締めるように、ゆったりと駆け出す


(´・_・`)「速度は気にするな。肝心なのはやり遂げることだ。出来るな?」

( ^ω^)「はいですお!!」

(´・_・`)「良い返事だ。そんじゃあ、出発するぞ」


歩み始めた文彦のペースに合わせて、小練は後ろをついていく。標高およそ700メートル。登り降り合わせて往復で8キロ前後の道のりだ
小練や徳雄にとっては、身体を温める程度のアップに過ぎないが、運動慣れしていない者なら翌日の筋肉痛は免れない


(;^ω^)「フッ、フッ……」


早くも汗ばみ始めているが、呼吸は一定で刻まれ、足取りもしっかりしている。水中ウォーキングの成果は、文彦が言った通り『足腰』に表れていた

585 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:00:13 ID:xsbgfEYE0
格闘技にせよ球技にせよ、スポーツの要は下半身にある。ダイエットに効果的な『有酸素運動』にも、足腰は重要な役割を持つ
ダイエット初心者が陥りがちなのが、『三日坊主』だ。それは運動の辛さも勿論関わってくるが、急な運動によって関節を痛めるのも原因の一つである
回復をを待っている間に運動が億劫になり、ダイエットが続かないという悪循環へと陥ってしまうのだ


(´・_・`)「……」


文彦は、グダグダ言いつつもサボる事なく最終日を迎えた。しかし、ダイエットが今日で終わるワケではない。本番の大晦日まで継続しなければならないのだ
水中ウォーキングの目的は、『劇的なダイエット』ではなく、『土台』作り。しっかりした足腰で、挫けることなく運動を楽しめるように
口だけではなく、自らの足で理想を追い求められるように。いつか望みを叶えられるように。小練なりの後押しを込めた鍛錬だった


(;^ω^)「フッ、フッ……先生……」

(´・_・`)「あんだ?」

(;^ω^)「打ち上げは、盛大に頼みますお」


一皮剥けて逞しくなった生徒の姿を真っ先に拝められるのは、指導者としての喜びの一つである


(´・_・`)「抜かせクソガキ。精々ぶっ倒れるんじゃねえぞ」

(;^ω^)「なんのこれしきですお!!」


初日の山頂で泣き言を溢していた文彦は、誰の手も借りず自分の力で八キロの山道を踏破したのであった―――――

586 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:00:58 ID:xsbgfEYE0
山頂にて



(#^ω^)「ドラゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



(´・_・`)「お前ロッキー4観た????????」

587 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:03:02 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・_・`)「総仕上げだ。お前ら二人でプロチームのゴーストデータと対戦して、ベストスコアを叩き出せ」


チャリオッツ実機を使った最終試験。総勢17チームのプロとの模擬戦である


('A`)「マスター帯じゃないんすか?」

(´・_・`)「オメーどっちがしんどいよ?」

('A`)「全然ゴーストデータっすね。狩られる速度がダンチっすよ」

(´・_・`)「そういうこった。これまでと違うのは、俺がキャプテンとして乗り込む。指示はしねえが、任意のタイミングでスピンミキサーは使ってやる」

( ^ω^)「本番環境に近い状況でやれるってことかお。とっくんこれワンチャンあるで」

('A`)「ワンチャンじゃ困んだよ」


指の骨をパキと鳴らすと、徳雄は真っ先に筐体へと乗り込んだ


('A`)「圧勝で締めようぜ」

( ^ω^)「抜かせ素人。精々ぶっ倒れるんじゃねえお」

(´・_・`)「オイ」


予想外のタイミングで辱められた

588 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:03:48 ID:xsbgfEYE0
ゲーム設定は本番と同じ4ステージ。小練の重量分の装甲は軽減された為、練習時より耐久値は下がる


('A`)「フゥー……」

( ^ω^)「とっくん」


ハンドルを握り、緊張を深い息と共に吐きだした徳雄へ、銃座から声が掛けられる


( ^ω^)「今日はミスろうがポカろうが気に食わなかろうが何も言わないお。好きにブチかませばいいお」

('A`)「いいのか?」

( ^ω^)「そろそろ僕も、『勝ち馬』が恋しくなってきたんだお」


徳雄は合宿の大半を、『守りの走り』の習得に努めた。しかし、本来得意とするのは『攻めの走り』である
ねぐらでプレイする最後のゲームを、小練は『総仕上げ』と呼んだ。ジョッキーたる徳雄に求められるのは生来の凶暴性と、ここで培ったチャリオッツの技術
その二つをブレンドして初めて、ジョッキーの『持ち味』が生まれる。徳雄は背後に控える『二人の師匠』に、親指を立てた


('A`)「舌噛むんじゃねえぞ」


スタートシグナルが鳴る。ゲート解放と共に、徳雄はペダルに力を込めた

589 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:05:05 ID:xsbgfEYE0
(;´・_・`)そ「うおっほ!!」


小練が徳雄の走りを体感するのは今日が初めてである。鍛え上げられた体幹と、フルハーネスによる補助があるとはいえ、荒っぽいスタートダッシュに思わず腰を落とした
抑え込んでいた攻めっ気の解放。少々先走り過ぎかと思いきや、速度自体は抑え目だった。攻撃方法は『チャージ』だけではないのを、キチンと理解している証明だ


(#^ω[◎]「敵位置10、2!!射程圏内!!先生!!10撃破後にスピン!!」

(´・_・`)「はいよ!!」


徳雄は取舵を切り、左斜め前方の車体へと砲口を向ける


(#^ω[◎]「今!!」


文彦は『発射前』に合図を出した。小練が合図を聞いてアビリティの実行に移るまでの一秒にも満たない時の中で、『四連射』を放つ


(;´・_・`)「マジかッ……!!」


アビリティ、『スピンミキサー』の発動。車体は右回転を行う。120°でピタリと止められるような器用なアビリティではない
視界がぐるりと回って、2時方向に位置する敵車体も、残像を伴って通過しようとする。文彦にとっては、『止まって見えた』


(#^ω[◎]「っし!!」


残り二連射を叩きこみ、車体は360°回って12時の方向へと向き直る
6shooterに撃ち抜かれ、宙を舞った二つの車体は、ほぼ同時に地へと落ちた
完全な破壊こそ出来なかったが、足を止めるには十二分の半壊状態である。もし本番であるならば、勝利は奇跡が起きない限り絶望的な状態と言えた


(;'A`)「ッ、ラァ!!」


慣性に引っ張られないようハンドルを引き戻し、ひっくり返る二車両の間を走り抜けた


(;´・_・`)「たまげたな……」


僅か1ステージ目で2ヒットである。精密な早撃ちもそうだが、驚くべきは『弾の配分』である
左の車両は右と比べて、厚く装甲を載せていたのだ。文彦は有効打に必要なダメージ量を瞬時に見抜き、実践した
今の一瞬だけで、文彦がどれだけ6shooterと向き合って来たのかがよくわかる。この才能をみすみす逃したプロ団体がいるなど、信じられない程だった

590 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:06:49 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「だが……」


これがマスター帯なら難なく走り抜けていただろう。相手は『プロ』である
重装甲の車体からは黒く濃い『靄』が立ち上り、もう一方の車両からは激しい火花が飛び散り始めた


(´・_・`)「カウンターアビリティ『呪怨』に、耐久値が半分以下になると一定時間バフが乗る『フラッシュポイント』。薮を突いて蛇を起こしちまったな」


チャリオッツの『悪霊』と、導火線に火についた『爆弾』が、徳雄達の背中を同時に追い駆ける
本来、小練のいるキャプテンが他のポジションに警告せねばならない立場だが、今はあくまでスピンミキサーを使うだけの助っ人である


(´・_・`)「呪怨の『悪霊』に捕まりゃ車両重量を一定時間三割り増し。フラッシュポイントはそれこそ絡みつくネズミ花火みてーに食いついてくる。さぁ、どうする?」


(;'A`)「フッ、フッ……」


文彦のアドバイスの一つに、『サイドミラーの常時確認』がある。自動車の運転にも言えるが、後方にも気を配らねばならない
ミラーには、猛追する黒い影と尻に火がついたような車両の姿が写っている。このまま体力を温存して走っていては直に追い付かれるのは目に見えていた


(;'A`)「文彦!!」

(;^ω^)「残り15秒!!」


6shooterの弱点は固定砲だけではない。六発分の再装填に、30秒もの時間を要する。早撃ち、配分共に申し分無かったが、『反撃』を考慮せず撃ち尽くしたのは迂闊であった
比較対象として、単発の高火力主砲の装填速度が平均10秒前後。軽火力なら3秒を下回る。この余りにも長すぎるリロードタイムは、ガンナー界隈から6shooterという選択肢を除外するのには十分な理由となった

591 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:09:27 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「く……!!」


牽制砲撃で放たれた砲弾が側面装甲を掠め、再びミラーに目を向ける。靄よりも車両の方が速度は早く、次第に近づいてくる
全力で逃げ切ってもいいが、猛追がどれほどの時間続くかわからぬ以上、鬼ごっこに余計な体力を使えない


(;'A`)「だったら……!!」


車両の位置を敵車両正面へと移動させ、ブレーキを握る。急停車した車体の尻に、『爆弾』は容赦なく噛み付いた


(;'A`)「スピン全開!!」

(´・_・`)「正解っ……!!」


スピンミキサーのCTは6shooterのリロードタイムを大きく下回る。問題なく使用可能だった
車両はすぐさま回転し、衝突により半壊した後部装甲ごと接触した敵車両を弾き飛ばす。飛ばした先には、遅れて追いついた『怨霊』の姿


(´・_・`)「フゥー!!お見事!!」


怨霊は突如飛んできた見当違いの『憑き先』へと吸い込まれる。アビリティによって勢い付いていた車両も、三割増の重量は無視出来ない
徳雄は回転の終了を待たずにペダルを踏み込み、機を逃すことなく距離を離す。ミラー越しに、小さくなっていく敵車両。火花は既に消えていた

592 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:10:15 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「ナイスプレイだお!!」

(;'∀`)「お粗末さん!!」


視界のブレを気合いで抑え込む。平然としている文彦は最初からスピンミキサーへの『耐性』があった
三半規管は訓練によって鍛えられる箇所である。目が回る原因は、身体の回転に対して視界のブレを無くそうとする『眼振』という作用によるものである
ぐるぐると回った後にピタリと止まっても、しばらく視界が動き続けているのは、視界は静止したという脳の処理と眼球の動きにラグが発生する為に起こる現象だ
つまりこのラグさえ無くせば、眼振の発生は抑えられ、方向感覚に影響することなくプレイを続行出来る。フィギュアスケーターが激しいスピンを繰り出した後に平然と競技を続けられるのも、日常的な訓練の賜物である
文彦は訓練をしたわけではないが、チャリオッツプレイヤーとして激しくブレる視界の中で正確な早撃ちを行ってきた
『見て』から『撃つ』までの脳の処理速度は群を抜いており、これは眼振の抑え込みにも絶大な効力を発揮した。ここでも、文彦の天性の才が光ったのである


(;'∀`)「理屈はわかるけどよっ……」


徳雄には築き上げた強靭なフィジカルがあったが、特別な才を持たぬ男だった
こればかりは回数をこなさねば身につかない。幾つか目が回らない『コツ』も教わったが、それでも多少マシ程度だ
今のは後隙も狩られずに済んだが、本番ではどう転ぶかわからない。合宿期間中に解決できなかった大きな課題が残った


(´・_・`)「……」


小練は徳雄のフォローを大きく評価した。合宿前半では、力任せに突っ込んで体力と耐久値を大きく削る荒々しさが目立っていたが
追走する車両の装填の隙を突いた接近と、アビリティのパワーを使った撃退。この一月で、徳雄は着実にジョッキーのテクニックを身につけている
文彦に関しても、まだ改善の余地があるのを知れたのも良かった。自身の才能と6shooterの性能に、若干だが信を置きすぎている
今のようにジョッキーとキャプテンのフォローで立て直せなくもないが、自分の尻は自分で拭けるに越したことは無い


(´・_・`)「……」


まだまだ面倒を見てやりたいが、彼らには彼らの、ねぐらにはねぐらの日常があり、残念ながら交わることは無い


(´・_・`)「さぁさぁもっと気合入れて行け!!最後に俺を仰天させてみろや!!」


悪路でがたつく車上で、小練は一足早く訪れた寂しさを鼓舞でかき消した

593 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:11:07 ID:xsbgfEYE0
続く第二、第三ステージも、ステージギミックに救われつつ辛くも突破。車両耐久値は残り三割程度で、最終ステージへと突入した
二チームの先行を許しているが、リードはさほど取られてはいない。残った脚次第だが、勝ちの目は残っている。しかし――――


(;'A゚)「ハァッ!!ハァッ!!」


肝心の『脚』は、誰の目に見ても限界を迎えていた


(;^ω^)「射程圏……いや」


砲撃による妨害も可能だが、今の徳雄は砲撃により生じる衝撃でバランスを崩しかねない。終盤で一度崩れたジョッキーが立ち直るのは困難であると、経験者たる文彦は理解していた
チャリオッツが世界一過酷なeスポーツたる由縁がここにある。『プロ』とも呼ばれる実力者同士の対戦は、より高い次元の技術と、限界以上の体力を要する
ましてや、今の相手は人ではなく『AI』である。判断力や戦術の応用こそ人より一歩劣るが、『疲れ』を知らない。即ち、体力切れによる『諦め』も無い


(;'A゚)「ハァッ!!ハァッ!!」


『気力』が尽きれば、勝敗は決する。チャリオッツこそ初めて間もないが、かつて身を置いていた勝負の世界と共通する事実
徐々に距離を離される先行車両の姿は、気力だけで前に進む徳雄の心に容赦なく斧を入れていった


(´・_・`)「……徳雄ォ!!」

(;'A゚)そ「ッ!!」


小練が筐体に乗り込んだのは、合宿の成果を確かめる他にもう一つ理由があった。ジョッキーの『必殺技』。その伝授の為に、キャプテンの座に座らねばならなかった
特別な技能も、専用のアビリティも、アイテムもトレジャーも用いない。必要なのは強靭な心と身体だけ。幸いにも、徳雄には二つとも備わっていた

594 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:13:44 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「弾も万策も尽きようが、お前さえ諦めなけりゃ勝負はわからねえ!!最後にチームの希望となるのは、チャリオッツの『原動力』たるジョッキーの、最も重要な役割だ!!」

(;'A゚)「ハァッ、お、応ッ!!」


キャプテンの『操作盤』には、アビリティ、アイテム、トレジャーの使用パネルの他に、各装甲及び主砲のパージパネルがある
必要に応じて装甲を外し、車両の軽量化や後続の妨害として使用する。小練は、無事な装甲をギリギリまで残していた
通常、スパート時にはこれらを全て排除する。最終ステージともなれば、砲撃によるダメージケアよりもゴールによる勝利が優先される為だ
足枷を外すことで、変速ギアの無いチャリオッツで唯一の『ギアチェンジ』が可能となる。キャプテン不在の練習を続けた徳雄にとって、初めて体験する『基礎テクニック』だった



(´・_・`)「お前の野望に役立てやがれ!!これが最後に贈る……」


(#´・_・`)「俺からの餞別だァ!!!!!!!」



全装甲と主砲の一斉パージ。重量から解き放たれた足裏のペダルが、嘘のように軽くなる



('A゚)「」



この瞬間、重さに耐え忍んできた肉体は『錯覚』を起こす。疲労で限界を迎えようとしていた筈が、負荷が軽くなったことで『まだいける』と認識するのだ
同時に、苦痛から解き放たれた頭からも脳内麻薬が弾け出る。この二つの作用が、徳雄の身体の『ギア』をトップへと切り替えた

595 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:14:59 ID:xsbgfEYE0




(#'A゚)「ガァアアアアアアアアアアアアア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」




(;^ω^)そ「う、おっ!?」


仰け反るほどの急加速。前方車両との距離はみるみるうちに縮まっていく
徳雄に満ちる『解放感』は、内に抑えていた暴力性を曝け出す。これが最後、ここが勝負所。残った全てを脚に込めて加速する


(;´・_・`)「ハハ!!すげえなオイ!!」


小練には、徳雄は必ずこの必殺技を一発でモノにするだろうという期待があった。そして彼は今、『期待以上』の暴力的スパートを見せた
それはまさに、万人が今年のジャパンカップに望む『三連覇の偉業』を、『無敗優勝の夢』を、無慈悲に叩き潰す『鬼の走り』だった


(;^ω^)「残り、一つ!!」


猛烈な勢いで追い上げ、二番手に躍り出る。ゴールラインは目視圏内。先頭車両との距離も瞬く間に縮まっていく


(#'A゚)「アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


トップスピードは維持したまま、先頭車両の背を追い抜こうとしたその時―――――

596 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:16:34 ID:xsbgfEYE0
(;^ω゚ )そ「しまっ……!!」


文彦だけが、瞬時に先頭車両の違和感に気付いた。『装甲を全て残していた』のである
スパートの際、装甲は足枷となる。後続が主砲を棄てて追い上げてきたのなら、猶更残しておく必要は無くなる
『終盤で勝負を決める、装甲を利用したアビリティ』。今となっては遺物にも等しいが、かつて『禁忌』とされるほどの高威力を誇った切り札がある


(;^ω゚ )「『ショットパーj


先頭に最も接近した瞬間、装甲が一斉に『手榴弾』のように弾ける。鋼鉄の礫は身軽になった自車両を容赦なく食い破り、操縦席は横転する


(;'A゚)そ「ぐっ……!!」

(;^ω^)そ「ッ……」


残った耐久値は蝋燭の灯火を吹き消すかのように呆気なく尽き、ディスプレイ上に『BREAK』と映し出される
呆然とする二人に見向きもせず、『アンラ・マンユ』のゴーストは、悠々とゴールラインを切った


(;'A゚)「……」

(;^ω^)「……」


暫し、起こった現実を受け入れられずにいたが


(;'A゚)・'.。゜「ガホッ!!ゲホッ!!ゼハァーッ、ゼハァーッ!!」


魔法が切れた徳雄の息が再び荒れだしたところで、ようやく『負けた』という実感に襲われたのであった

597 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:17:27 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・_・`)「文彦、先に降りろ。運び出す」

(;^ω^)「お……お願いしますお」


小練は慰めも励ましもせず、淡々とやるべきことをこなす。徳雄は自分の足で筐体を出るどころか、ハーネスを外すことも出来ないほど消耗していた
そんな相方を不安気に振り返りつつ、文彦は一足先に筐体を降りる。すると、ゆっくりとしたわざとらしい拍手が彼を出迎えた



_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`)「負け犬ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄



ドクズである


( ^ω^)「……」

(´^ω^`)そ「あれ!!!!!!!!!!?????????思ってた反応と違う!!!!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)「でしょうよ……」


その隣には、腹心であるハゲの姿もある。今の文彦には、オッサン共との再会に嫌悪を示す気力も無かった

598 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:18:16 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「迎えに来たのかお……今更」

(´・ω・`)「いんや?短い夏休みってやつさ。働きづめだったからよ」


クズにしては珍しく、飲み物とタオルを自ら手渡す。拒否する意味もないと、文彦は素直に受け取った
本八は、文彦がミセリフェスの約束を反故にされて見苦しく喚くと予想していたが、今の敗北は推しに会えなかった事すら凌駕するほど堪えたらしい
やがて、筐体から小練に支えられて徳雄も出てくる。彼もまた、ねぐらに来訪した二人の姿に大したリアクションもせず、息を切らすだけだった


(´・_・`)「酸素だ。吸え」

(;'A`)「ハァー、ハァー……」


手渡された携帯酸素を吸うが、染み入る感覚は皆無だった。最後の最後で、師に報いる機会を逃してしまったのだ。不甲斐なさが胸を締め付けた


( ^ω^)「……ごめん。もっと早く気付くべきだったお」

(;'A`)「ングッ、ハァー、ハァー……」


文彦の謝罪に言葉では返せず、徳雄はただ首を振るだけだった。落ち込む二人の姿を、クズはなんと―――――



(´^ω^`)「めっちゃ落ち込んでてウケる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」



指さして笑った

599 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:19:18 ID:xsbgfEYE0
(#^ω^)「何が可笑しいんだお!!」

(´・ω・`)「可笑しいだろ。これ練習だぜ?負けも失敗もして当たり前だろうが。お前ら毎度毎度落ち込む気か?感受性が豊かで羨ましいな。クソみてえな恋愛リアリティ番組でも泣けるんじゃねえの?」


文彦は激昂したが、本八の煽りに何も言い返せなかった。『ぐうの音も出ないほどの正論』だったからだ


(´・ω・`)「途中からだが、合宿の成果はしかと見せて貰った。お前らを喜ばすようなことなんざ口が裂けても言いたかねえが、正直たまげたぜ」

(;'A`)「ハァー、ハァー……」

(´^ω^`)「まぁ最後に残った相手がアンラ・マンユだったら仕方ねえよ!!アレね、俺の推しなんすよwwwwwwwww」


およそ一ヶ月ぶりに湧き出すクズへの殺意に、徳雄は不覚にも懐かしさを感じてしまった


(´・ω・`)「失敗や敗北にしょげるなたぁ言わねえよ。ただ、成し遂げた事にも目を向けろ。そら見ろよ、今の試合」


本八は観客用ディスプレイを指す。二人が到達した地点が、赤い点滅として示されている
二人は負けた。それは覆しようのない事実だ。だが―――――


(´・ω・`)「お前らは、強豪の亡霊相手にここまで立ち回ったんじゃねえか」


プロチームを相手にゴール寸前まで到達したのも、紛れもなく二人が『成し遂げた事実』であった

600 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:20:40 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「フゥー…………慰めのつもりか?」

( ^ω^)「アンタに言われなくてもわかってるお」


いつもの調子を取り戻した二人に向かって、本八は鼻を鳴らす


(´・ω・`)「当然!!本番でこんなポカやらかしやがったらタダじゃおかねえ!!だが今日は、合宿をやり遂げた事に免じて目を瞑ってやらぁ!!」


本八は最後に「薄汚ねえガキ共が」と余計な一言を付け足し、その場を後にする
二人は珍しく励ましてくれたのかなと懐柔されかけたが、その一言で吹き飛んだ。そして後で埋めると決めた


(´・_ゝ・`)「ああ見えて、相当嬉しいんだよ。許してやってくれとは言わないが、半殺し程度に収めてやってくれ」


ハゲも励ませや


('A`)「ハン……あのクズの援助あっての合宿でしたからね。今回だけは見逃してやりますよ」

(;´・_・`)「上司だよな?」


高梨の再就職は本当に上手くいったのか不安になった


(´・_ゝ・`)「さて、今日は我々の休みでもあるんだけど、二人を労いに来たんだ。小練さんにも協力してもらってね」

( ^ω^)「え!!!!!??????お触りOKのコンパニオンのおねーちゃんが!!!!!!?????」

(´・_ゝ・`)「そんなわけねーだろバブル期のオッサンかテメーは」


そんなわけなかった

601 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:21:32 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ〜」

( *^ω^)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


コンパニオンこそ呼ばれなかったが、本八の差し入れであるアンドロイドケータリングサービスと、性癖を犠牲にとんでもない料理の腕を持つ調理師による盛大な打ち上げが開催された


(;'A`)「つか……やり過ぎじゃねっすか……?」

(´・_・`)「俺もこの規模の差し入れは初めてだよ……」


ねぐらの食堂ではマグロ解体ショーに握りたての寿司、揚げたて天ぷらに焼きたてステーキと、ホテルビュッフェさながらのご馳走が立ち並ぶ
クズハゲブスデブの四人とねぐら従業員四人、それとここ最近頻繁に見る高身長和装美女ともう一人足して計十人だけのささやかな……結構おるやんけ。とは言え、個人で行う規模のパーティーでは無かった


/ ゚、。 /「今日何のお祭り?」

イ从゚ -゚ノi、「何のお祭りなんでしょうね……」

602 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:22:21 ID:xsbgfEYE0
(´・ω・`)「あれーーーーーーーーーー????????大桜堂の??????????」

/ ゚、。 /「あら社長さん!!奇遇やわぁ!!」

イ从゚ -゚ノi、「知り合い?」

/ ゚、。 /「ほら、例のチャリオッツ筐体。アレ買うてくれたお客なんよぉ」

(´^ω^`)「ここで会ったのも何かの縁だし後日しっぽり食事d / ゚、。 /「いやや」うほー京都人らしからぬ直球拒否効く〜」

イ从;゚ -゚ノi、「詩音!!鈴アレ売っちゃったって!!」

(;´・_・`)そ「ハァ!?捨てろっつったろ!!中に何詰まってたのか忘れたのか!?」

(´・ω・`)「『詰まってた』???????????????????」

/ ゚、。 /「綺麗にしたし憑きもんも落ちたんやから勿体無いやないの」

(´・ω・`)「え……恐……」


めちゃくちゃ裏がありそうだが、もう一カ月近く乗り回してるので既に手遅れだった

603 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:24:22 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)<ドリュリュリュリュリュリュズゴオオオオオオオオオオオオシュボボボボボ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「ほらもっと食べて食べて♪」

( ^ω^)<カーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ジュッポジュッポジュッポォォォォォォジュルルルルルルルルルルジュッジュジュウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!レロレロレロレロ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


今日ばかりは無礼講と、小練と本八から許可が出たので、文彦はここぞとばかりに飯を食いまくった。豚のカービィである
徳雄はと言うと、体力を使い切ったことであまり食が進まず、一人離れた場所で飲み物を傾けながらしみじみとねぐらでの生活を振り返っていた


('A`)「……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「名残惜しいですか?」

('A`)「そりゃあ、まぁ……だけど、ずっと居るわけにもいかねえし」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「『素晴らしい時はやがて去り行き、今は別れを惜しみながら』ですねぇ」

('A`)「ハハ、そんな大層なもんでも……」



(;'A`)そ「アンタ誰!!!!!!!!!!!!!????????????」



ここでようやく徳雄は尻を浮き上がらせた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁ、久しぶりにご飯食べに来たらめっちゃ豪勢で驚いちゃいましたよぉ。寿司アンドロイドマジ???????どうなってんですこれ???????」


脂滴るようなトロマグロ・スシ。神出鬼没のチャンネーは一度に二つ食べた


i!iiリ゚ 〜゚ノル「ふぉふぉふぉんふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ?んほほふぉふぉ?」

(;'A`)「飲み込んでから喋……いや、アンタ前にどこかで……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「ングッ、その節はどーも。いい試合、見させて頂きましたぁ」

604 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:26:09 ID:xsbgfEYE0
およそ二か月前。ゲームセンターで騒ぎになった時、助け舟を寄越した女性だった
あの日と同じく、親しい間柄の友人のような馴れ馴れしさで近づき、ヌルリと会話を滑り込ませてきた
何より恐ろしいのは、『この場にいる全員が、女の存在に対して何の反応も示していない』。得体の知れない不気味さに、徳雄は思わず生唾を飲み込んだ


(;'A`)「幽霊か妖怪の類か?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノルそ「わぁ、鋭い!!実はぬらりひょんの孫なんですよ!!」

(;'A`)「何かのタイトルっぽい出生だな。俺に用か?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「用があるのはもう少し先かもしれませんねぇ。ワタクシ、こういうモノです」


差し出された名刺には、『フリージャーナリスト 青葉 青花』と、職業と名前らしき文字列が記されていた


(;'A`)「あおば……あおばな?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「読みにくいですよねぇ。読み方は『あおば せいか』と申します」

(;'A`)「ああ……そんで、ジャーナリストってこたぁ……」


マスコミに良い思い出があると答える者は少ない。彼らは多くの場合、『不幸』や『訃報』、または『不祥事』などを好む
徳雄も過去に獏良絡みのコメントを頂戴しようと目論むジャーナリストに自宅周辺をうろつかれたことがある。悪評こそ広められなかったが、あの粘り腰にはうんざりしたものだ


(;'A`)「オッサンのスキャンダルでも訊きに来たのか?言っとくが、記事にしようがどうせ金の力でねじ伏せられるぞ?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「承知してますよぉ。大潮一族がどれだけ同僚を泣かせたかご存じですか?」

(;'A`)「いやそんなあるの?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「親の代から数えたら広辞苑が出来ますよ」

(;'A`)「うわ……クソの一族……」


でもこういうのが政治とか牛耳るんだろうなと思った

605 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:28:48 ID:xsbgfEYE0
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「まぁ今日はご挨拶だけで。いずれお話を伺うこともあるでしょう」

(;'A`)「はぁ……」


青葉は空になった皿を手に立ち上がり、軽く会釈をした


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「ジャパンカップ、期待してますよぉ。『流星』と『鬼追』の直接対決を」

(;'A`)「は……?ちょっと待て!!」


意味深に言い残して去ろうとした彼女を止めようと立ち上がるが、瞬きの間に霞のように消えていた
見回して探したが、その姿はどこにもない。狐につままれたような気分で、徳雄は力なく席に戻った


(;'A`)「どこ行きやがった……」


残された名刺だけが、彼女が確かにここに居たという証明だった


(,,゚-゚)「探しても無駄だよ」

(;'A`)そ「うおっ!?」


またもや音もなく近づいていた少女に、再び尻を浮かす。鳴らないんですかって?尻が勝手に鳴るわけねえだろ頭可笑しいんじゃねえのお前


(;'A`)「お前、知ってんのか?」


脂が滴るようなトロマグロ・スシ。儀杜は、一度に一つ食べた


(,,゚〜゚)「ふぉんふぉふぉんふぉんふぉふぉおふぉふぉ。ふぉうふぉうふぉ」

(;'A`)「食ってから喋れ」

606 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:29:58 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「ングッ、図々しく人の家に上がってはプライバシーを根掘り葉掘り聞いてくるクソ女」

(;'A`)「怖っ……めちゃくちゃ言うじゃん……」

(,,゚-゚)「人の触れられたくない所を無遠慮に抉ってくる奴なんて好きになれるわけなくない?先生は甘いから好き勝手させてるけどさぁ」

(;'A`)「ああ……まぁ……」


『今お前そういう奴が出した金で飯食ってるけど』とは言わなかった


(,,゚-゚)「アレの正体が知りたかったら、チャリオッツ関係の記事を読めばわかるよ。興味あればだけどね」

('A`)「……」


まさかと思い、小っ恥ずかしくてロクに読んでないゲーセン時の記事を検索する
確認すべきは中身ではなく、記事を書いた『記者』の名前。予想通り、文末に『青葉 青花』と名前が記されていた


('A`)「なるほどね……」

(,,゚-゚)「気をつけた方がいいよ。良いも悪いも全部記事にされるから。特に『お友達』は口が軽そうだし」

(;'A`)「肝に銘じておくよ……」

607 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:30:44 ID:xsbgfEYE0
('A`)「それよりお前、どうして気にかけてくれたんだ?」

(,,゚-゚)「んー?」

('A`)「ここに来た当初は歓迎されてねえようだったからよ」

(,,゚-゚)「野暮だね」

('A`)「理由のない善意は信用しないタチでね」

(,,゚-゚)「ふぅん。まぁ、強いて言うなら、友達がお世話になってるお礼ってとこかな」

('A`)「高梨さんか」


高梨は以前ねぐらに助けられたと言っていたが、具体的な話までは聞かなかった
彼女が何に巻き込まれて、どう救われたのかは、特異な能などもたない徳雄には想像もつかないが
少なくとも、徳雄が知る今の彼女とねぐらとの良好な関係を見るに、ハッピーエンドを迎えられたのだけは察せられる


('A`)「前言撤回するわ」

(,,゚-゚)「何が?」

('A`)「俺と違って、良い人間だよオメーは」


友を想い、他者を思いやる人間の性格が『終わっている』筈がない。徳雄は珍しく素直な気持ちを吐露したが


(,,;゚-゚)「え……気持ち悪……」

('∀`)「ハハ、このクソガキが」


『思っていたほど上等な人間では無かった』儀杜には届かなかった

608 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:31:19 ID:xsbgfEYE0
宴会は夜を通して行われ、ねぐらの灯は夜明けまで尽きることは無かった


(´;ω;`)「ダッwwwwwwwwwwwwwwwwハッハッハッハwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwチンポwwwwwwwwwwwwwww」

i!iiリ; ヮ;ノル「ヒッwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwチンwwwwwwwwwwwwチンポwwwwwwwwwwwwwwww」

(´;_ゝ;`)「アアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!アアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

イ从゚∀゚ノi、「アッwwwwwwwwwwwwwwハッハッハwwwwwwwwwwwww見て詩音wwwwwwwwでっかいバーコードwwwwwwwwwww」

/ ;、. /「なんぼなんwwwwwwwwwwwwwwwオッサンなんぼなんwwwwwwwwwwwwwww」

(  ゚ω゚ )<ウオ……シュ……ゴポォ……マウスウォッシング……

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「まだいける♪まだいける♪」


そう、地獄絵図であった


(,,;゚-゚)「どうすんのこれ」

(;´・_・`)「どうすんだろうな……」

(;'A`)「……」


後に、ねぐら史上最も混沌とした宴会として長らく語り継がれる一夜であった

609 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:36:58 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・ω・`)「いやぁ、お騒がせして申し訳ない」

(;´・_・`)「ええ……まぁ……そうですね……」


たった数時間眠っただけですっかり素面に戻った本八が深々と頭を下げる。酒に溺れてチンポチンポと騒いでいたオッサンと同一人物とは思えなかった


(´・_ゝ・`)「ケータリングの撤収、終わりました。いつでも出れますよ」

(;´・_・`)「ああ……はい……」


同じく盛岡も、シャキッとした顔つきで手早く片付けを済ませていた。ケータリングサービスは、校庭を傍若無人に占拠する参羽鴉所有のオート操縦ヘリに納まっている
始めて目の当たりにする規模の移動手段に、小練は『金ってのは誰を好むのかわからん』と困惑を隠しきれなかった


(  ゚ω゚ )「ウプ……リバウンド王桜木……」

(;'A`)「意味ちげえだろ」


はちきれんばかりに飯を食わされた文彦と、その豚の荷物も肩代わりして連れ添う徳雄も宿舎から現れる
徳雄は一度、名残惜しそうに宿舎を振り返り、礼をするように会釈をした


(´・_・`)「忘れもんねえか?」

(  ゚ω゚ )「オヨメサン……」

(´・_・`)「寝ぼけてんのか???????」


豚は寝言を鳴いた

610 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:38:06 ID:xsbgfEYE0
('A`)「小練さん」

(´・_・`)「おう、他の連中が見送りに来なくてすまねえな」


正午を回っても夢から醒めない女性陣に、小練は小さく溜息を吐く。徳雄は気にせず「よろしくお伝えください」と返したが、豚は露骨に残念がった


(  ゚ω゚ )「ジャパンカップ……ミ……ウッ……」

(;´・_・`)「お前この後ヘリ乗って帰るんだけどいけそう???????」


約束されたオチはすぐそこまで迫っていた


(´・_・`)「文彦、帰った後も運動続けろよ。たまにはサボってもいいが、理想の実現は継続した先にしか待ってない。しっかりやれ」

(  ゚ω゚ )「フゥ……ブィ、ブヒッ……ブヒッ!!」

(´・_・`)「よし」


良くなかった。この時、文彦はゲロを抑えるので精いっぱいで話を湾曲していた


【(´・_・`)「ジャパンカップを優勝したら、三人を嫁にくれてやる。しっかりやれ」】


(  ゚ω゚ )そ「!!!!!!!!!!!!!!」


耳腐ってんのか?

611 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:39:47 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「徳雄」

('A`)「はい」


二人は暫く見つめ合った後、固く握手を交わした
無言の中に込められた感謝と期待は、言葉にするまでもなく互いに伝わっていた


(´・_・`)「元気でな」

('A`)「小練さんも」


短く別れを告げ、四人はヘリへと乗り込む。ローターが回り、小練は巻き上がる砂埃に目を細めた


(´・_ゝ・`)「飛ぶよ」


操縦席に座る盛岡の合図と共に、機体はゆっくりと浮かび上がる。徳雄と文彦は、窓越しから徐々に遠ざかる『ねぐら』を眺めていた


('A`)「……おい、文彦」

(  ゚ω゚ )「ブヒ?」


徳雄が宿舎の職員居住区の方向を指す。そこには



(,,~-~)ノシ

イ从~ -~ノi、 zzz……

ヽiリ,,~ヮ~ノiノシ



窓辺からねぐらの三人娘が、半分眠ったままの見送りをしていた


('∀`)「ハハ……大方、ヘリの音がうるさくて起きちまったってとこか」

(  ゚ω゚ )「お……」

('∀`)「文彦?」

612 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:40:45 ID:xsbgfEYE0
<オロロロロロロロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!!!!!!!!!

<うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおやりやがったこいつ!!!!!!!!!!!

<くっっっっっっっっっっせえええええええええええええええええ!!!!!!!!!おいもう捨てようぜ!!!!!!!!

<アンドロイドだけは死守しろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!



(;´・_・`)「あーあー……」



約束されたオチが炸裂するヘリを眩しそうに見上げながら、小練もまた名残惜しそうに手を振った
暑さがしぶとく残る八月三十一日。徳雄と文彦の、少し奇怪な夏合宿は終わりを迎えたのであった―――――

613 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:42:06 ID:xsbgfEYE0
次回予告



(´^ω^`)「普通に最悪の締めだったな。一カ月振りにぶっ殺そうかと思ったぜ」

(;´・_ゝ・`)「本人だけの非ではないと思いますけどね……」

(´・ω・`)「それはそうと、いよいよ予選が目前に迫ったな。決めなきゃいけねえことが山積みだ」

(´・_ゝ・`)「エントリーにはチーム名が必要ですからね。候補はあるんですか?」

(´^ω^`)「そらぁもうおめえセンス爆発のチーム名が頭ん中にあるぜ!!『ゴロゴロ』だ!!」

(´・_ゝ・`)「は?」

(´^ω^`)「暗雲の到来を告げる音をそのままチーム名にしたのさ!!悪党にはピッタリの名前だろ!!」

(´・_ゝ・`)「終わってる」

(´^ω^`)「終わってないよ」

(´・_ゝ・`)「黙れクズが!!頭腐ってんのかチンカス野郎!!チーム名は二人の意見も聞いた上で決定しましょう」

(´・ω・`)「あいつらにまともなネーミングセンスがあると思うか?」

(´・_ゝ・`)「お前よりマシだろ。次回、『Desperado Chariots』第九話。『予選へ向けて』」

(´・ω・`)「俺……あいつらより酷いの……?」

(´・_ゝ・`)「ああいえ、それは蓋を開けてみない事にはどうにも言えませんが」

(´;ω;`)「オロロロローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!プライドが著しく傷ついたよーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「泣くなよ……気持ち悪ぃ……」

614 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:42:29 ID:xsbgfEYE0






























.

615 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:43:54 ID:xsbgfEYE0
九月中旬、ねぐらにて


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「こんちわー」

イ从゚ -゚ノi、「あら珍しい。正面玄関から来るなんてね」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「オフィシャルの仕事ですからねぇ。今回はコソコソする必要はありませんから」

イ从゚ -゚ノi、「いつもその調子なら、しずくも少しは警戒を解くんじゃない?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「なーんであんな嫌われてるんですかねえ?」

イ从゚ -゚ノi、「自分の胸に訊いてみたら……」


青葉は首に掛けた一眼レフを下ろし、事務室備え付けのコーヒーメーカーにポーションを差し込む
勝手知ったる振舞いに、銀は手元の小説から目を離さずに「私のも」と催促した


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「しっかし、どういう風の吹き回しだったんですかぁ?」

イ从゚ -゚ノi、「何がよ?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「あの『二人」ですよぉ。ねぐらは既に専属契約してらっしゃるじゃないですか」


銀の机にアイスコーヒーと、ガムシロップが五つ置かれる。彼女はそれを残らずグラスに注ぎ込み、ストローでかき混ぜた


イ从゚ -゚ノi、「場所の提供だけで、指導までは含まれてはいないからね。あいつが誰の面倒見ようと勝手でしょう?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「にしたって、『我々』と無関係の人間を指導するとは思ってませんでしたよ。見込みがあったってことですかぁ?」

616 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:45:15 ID:xsbgfEYE0
イ从゚ -゚ノi、「あのね」


青葉はマグカップに口を付け、思わず目を剥いた。『唇が貼り付くほど』、キンキンに冷えていたからだ


イ从゚ -゚ノi、「アンタは自分の仕事だけやってりゃいいの。私らの腹を探ろうってんなら、力づくでも追い出すわよ」


銀の指先が、マグカップから青葉へと向いた。表情こそ本から離れていなかったが、凍てつくような視線だけは青葉を射抜いていた


i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「あはは〜、失敬失敬。職業病ですかねぇ」

イ从゚ -゚ノi、「馬鹿を治す病院でも探したらどう?」

i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「そ、そうします。おっと!!」


外から微かなエンジン音が耳に届き、青葉はマグカップを置いてカメラを手に取る


i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「お仕事の時間です!!それじゃ、失礼しましたぁ!!」


そして、ふざけた敬礼を残してそそくさと事務室を後にするのであった


イ从゚ -゚ノi、「ハァ……アレより、ボウヤの方がマシだったかしら……」


残暑を感じさせない程に肌寒くなった事務所の中、ボソリと独り言ちて甘ったるいアイスコーヒーを啜ったのであった

617 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:47:29 ID:xsbgfEYE0
ねぐらでは数年前から『固定客』が付いている。チャリオッツ関連の設備は比較的最近設置された物で、本来なら一般に開放はされない
使用するにはまず、ねぐら管理人である小練ではなく、持ち主である『固定客』へ許可を貰わねばならないのだ
しかし今日まで、外部客から設備の使用許可の申請は一度もない。そもそも、ねぐらにチャリオッツ設備が置いてあることは秘匿とされているのだ
では何故、徳雄と文彦は使用できたのか。それは真っ先に本八が『固定客』へと掛け合った為である。そして、豊富な資金源と諜報力を持つ本八自身すら


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「来た来た♪」


『固定客』へ掛け合うまで、『ねぐらを利用するプロチーム』の存在を知らなかったのである


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「こんちわ!!」

(,,゚-゚)「うわ……」


校庭に停まったバスから、真っ先に降りた儀杜に愛想を振りまくが、返って来たのは露骨に嫌そうな表情
小さな前座を大して気にせず、続き降り立って来る利用者へ挨拶と共にシャッターを切る
晴天のように明るく振舞う青葉とは裏腹に、出てくる者は皆、まるでこれから戦地にでも赴くかのように固く緊張した面持ちであった


最後に、運転手である小練を残して降りてきた『三名』を除いて、だが


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「どもども恐縮ですぅ!!今回の密着取材を担当します青葉 青花です!!早速一言お願いします!!」


三名は、答えることなく無言で宿舎へと向かう。ほぼ専属と言っていいほど取材をしてきた青葉であるが、彼らはどの記者に対しても一貫してこの態度であった

618 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:49:46 ID:xsbgfEYE0
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁ、相変わらずかっこいいですねぇ」


青葉は一つも堪えた様子もなく、後ろ姿へシャッターを切る。そこに、バスのエンジンを切った小練も降り立った


(´・_・`)「見習いてえよ。お前のその無神経さ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「宜しければ爪の垢でも差し上げましょうか?」

(´・_・`)「今は結構」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁしかし、小練先生も人が悪い」

(´・_・`)「あ?」


青葉はカメラを降ろすと、グリンと首を捻って小練の顔を覗き込んだ



i!iiリ゚ ヮ゚ノル「『トップ・ギア専属合宿場』の主でありながら、余所のチームの指導もするなんて、浮気性も良い所ですよ」



腹の奥底を見透かさんと、クレバスの底のように黒く沈んだ眼に深く覗かれるが、小練はなんてことない様にフンと鼻を鳴らした


(´・_・`)「知るかよ。こっちは商売でやってんだ。浮気もクソもあるか」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「おやおや、薄情なことで」


いつもと同じく揺さぶりが通用しないと確認すると、青葉は肩をすかせて踵を返した

619 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:50:18 ID:xsbgfEYE0





i!iiリ゚ ヮ゚ノル「それじゃあ、間近でたっ〜ぷり堪能させて貰いましょうかね。トップ・ギア歴代最強チーム、『クワイエット』を」





.

620 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:53:13 ID:xsbgfEYE0
終わりです。お疲れ様でした

豚が変な所に拉致されたせいで一年半も更新が空きました

621名無しさん:2025/01/05(日) 21:43:17 ID:c9wCR5.U0
ずっと待ってた乙!めちゃ面白かった!

622名無しさん:2025/01/06(月) 08:33:53 ID:iI9Lsz4E0
あんたの新作をずっと待ってたんだよ!!!

623名無しさん:2025/01/06(月) 20:29:23 ID:zmyWV4ZA0
おつ!待ってた!
正直あっちの話はよくわからなかったからこっちの更新お願いします!!

624名無しさん:2025/01/08(水) 00:08:36 ID:760aWHQU0
乙!ハイカロリーなストーリー!最高やで!!第9話も待ち遠しいで!!

625名無しさん:2025/02/03(月) 00:10:34 ID:VsPa/Dk20
やっと続きが読めたぜ!!!!
裏の話もこっちの話も面白かった!!!!
9話も楽しみに待ってる!!!!!

626 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:25:44 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「いい天気だな」

(´・_ゝ・`)「……」


車のフロントガラスから覗く空は、陽の光を遮る分厚く黒い雲に覆われており
雨こそ降ってはいないが、時折遠くから『ゴロゴロ』と雷の唸り声が聞こえてくる
世界の終わりを感じさせるような天候を、本八は昔から『良い天気』と呼んだ


(´・_ゝ・`)「そうですね」


雷雨降り注ぐ悪天候ではなく、あくまでも『曇天』が、彼好みの空模様
盛岡は出会って間もない学生時代、本八にそのワケを訊いた事があった



(´ ω `)「『デカくて、黒くて、恐ぇからだ』」



目にしたものが畏怖し、嫌悪し、身構える。最も身近で、分かりやすい『予兆のシンボル』
彼が好んだのは、災い『そのもの』ではなく、災いから連想する『不吉なイメージ』の方だった
『一目置く』という慣用句があるが、何も優秀な者だけに対して使われるわけではない
身震いするような『恐ろしい存在』もまた、人智を超える強大な力を秘めているのだから

出会ってから二十年以上経った今でも、本八は『黒い雲』に心を奪われたままなのだ


(´・_ゝ・`)「……」


だからと言って、『ゴロゴロ』とかいうクソダサいチーム名を容認するわけにはいかなかった

627 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:26:15 ID:iz.ZN/1Y0
第八話



『予選へ向けて』



.

628 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:27:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「ひでえ空模様っすね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「こりゃ今日は閑古鳥が鳴くな」


徳雄が勤務する参羽鴉グループの茶房『OHANAMI』店舗では、顔面崩壊組の二人が取り留めのない会話をしながら開店準備を進めていた
デジタル化社会と言えども、御足労頂く必要がある飲食サービス業は、大なり小なり天候で売上が左右される
嵐がそこまで迫っていて、お友達とお茶をしようとする命知らずはごく少数だろう
徳雄が勤務するOHANAMIも、今日ばかりはバイトを休ませ、店長である榊原と2オペで回す運びとなった。接客業にあるまじき顔面土砂崩れコンビである。この店潰れるんとちゃうんか?


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「暇な内に出来ることやっとくかぁ〜……」


とは言え、雇われの身には気楽な一日となるのは目に見えていた。客が来ようと来なかろうと給与は支給されるのだ
根が真面目で真摯に仕事へ向き合う徳雄も、緊張感のある空模様とは裏腹に、少しだけ気を抜かして業務に取り組んでいた


('A`)「お……?」


それ故に、営業開始前に鳴ったドアベルの音色に面食らってしまう
この悪天候である。開店前と言えども店先で待たしては何が起こるかわからない。足早く対応に向かうとそこには


(´^ω^`)「精を出せ!!!!!!!!!!!!」


雷に打たれて死んでも一向に構わないゴミカスのツラがあった


('A`)「塩持ってくるわ」

(´^ω^`)「雇い主追い払おうとすんな」

629 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:29:14 ID:iz.ZN/1Y0
黒雲はついに豪雨と雷を、存分に下界へと吐き散らかし始める
厳かな店内BGMも、時折けたたましく鳴り響く雷鳴によって遮られた。そんな中


('A`)「そんで……」


小上がりの長机に六つの湯呑を並べた徳雄は、テーブル席の椅子を引き寄せて着席する。揃いたるは


(´・ω・`)

(´・_ゝ・`)


本八、盛岡のオッサン組


⌒*リ;´・-・リ

(;@з@)


高梨、木本の合宿応援組


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ


顔面パズル


(; ω )





といった、いつもの面子であった

630 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:31:24 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「今日は何の集まりだ?」

(´・ω・`)「仕事の話でこのウルトラ役立たずのクソオタクデブを同席させると思うのか?ちょっとは頭使えよ」

('A`)「俺らは勤務時間中だっつの」

(´・_ゝ・`)「すまないね。全員揃って集まれる機会も中々無いもんで」


確かに、合宿を終えて一週間ほど経ったが、いまだに合同練習を行えていない
贅沢に時間を使えた夏の期間とは違い、秋が訪れればそれぞれの仕事や学業が待っている。本八はそのスケジュール調整に少しの時間を要求した


(´・ω・`)「この天気だ。客も来ねえだろうよ。榊原、今日は貸切ってことにしちまえ。利用料は払う」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「わ、わかりました。暖簾下ろしてきます」

('A`)「木本と高梨さんはどうして?」

⌒*リ;´=-=リ 「社長さん達が急に迎えに来て説明も無いままここに……時間外手当出すって事しか聞かされて無いです」

(;@з@)「拙者も同じく。そもそも、社員ではござらぬぞ」

(´^ω^`)「俺らチームじゃん!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「あのなぁ……」


従業員とオタクである。職権濫用も甚だしかった

631 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:34:48 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「あながち無関係でもないよ。これから練習の関係上、徳雄くんのシフトは不規則になるからね。大会まで、榊原くんと高梨さんにはサポートを頼みたいんだ」

(´・ω・`)「バイトもこの一夏で精鋭になるまで育成したからな。仕事に関しちゃ何の憂いもねえよ」

('A`)「手厚いこって……」


合宿で不在だった一カ月、なんと社長直々にヘルプに入っていたと聞いている。暇なん?
職場復帰時の店長の顔面ときたら、安堵と解放感で逆に整っていたのだ。どのような『育成』をしていたのか、想像に難く無い


('A`)「すみません高梨さん。面倒をかけます」

⌒*リ;´・-・リ 「いえいえ!!乗り掛かった船ですし、私も出来る限り応援しますよ!!」

(´^ω^`)「時間外手当!!!!!!!!!!!!!!」

⌒*リ;´・-・リ 「社長さんもこう仰ってますんで」


深々と頭を下げた徳雄に、高梨は慌てた様子で両手を振った
徳雄は彼女や木本のような善い人間が本八のようなクズに良いように扱われる世の中は間違っていると、危うく義憤に駆られてぶっ殺しそうになった


(´・ω・`)「王太郎にはデ・ブ・の・面・倒!!!!!!!!!!と、車体構築や有力候補チームの情報収集に力を貸して貰いたい。豚のお世話に一番慣れてるからな」

(;@з@)「はぁ……微力ではありますが、お力添えになれるなら幸いにござる」

(´^ω^`)「ぬぅん!!!!!!!時間外手当ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(;@з@)「金で何でも解決出来ると思ったら大間違いですぞ!!!!!!!!」


オタク・正論パンチが出た

632 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:35:34 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「文彦は……」


(; ω )「」


静かで大変結構だが、不気味なほどにグロッキーだった。しかし、顔色が悪いわけではなく、単純な疲労の蓄積に見えた


('A`)「夜ふかしでもしたのか?」

(; ω )「お姉ちゃんが……」

('A`)「は?」

(;@з@)「ダイエットは順調のようでござるな」

(´^ω^`)「小練の先生様様だぜ」

('A`)「は???????」


全くもって意味不明だった

633 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:37:19 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「まぁそれは後で説明……豚なんてどうでもいいか。とにかく、残り二ヶ月は計画的に行くぞ。合同練習日及びミーティングのスケジュールだ。全員目を通しておけ」


それぞれのi-ringに転送されたスケジュール表を確認する。合同練習は火、木と土日祝
平日は19時から21時まで。土日は9時から12時。二時間の昼休憩を挟んで14時から17時
これは学生である文彦の生活スケジュールに合わせてあった。不登校とは言え、授業はリモートで受けている為だ
『まるで部活動だな』と、徳雄は高校時代、親友と過ごした二年と半年を懐かしんだ


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お待たせいたしました……」


榊原はおずおずと、団子が乗った大皿を手に戻ってくる


(´^ω^`)「気が利くじゃねえか榊原ァーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「ヒエッ!?恐れ入ります!!」

('A`)「なんで叫ぶ」

(´・_ゝ・`)「榊原くんも確認してくれ。前々から相談していた通り、徳雄くんは年始まで土日祝はシフトに入れない」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あっはい、問題ないです」

('A`)「こういうのってまず本人に話通すと思うんすけど」


これまでの強引なやり方よりだいぶマシで麻痺していたが、承諾無しに勝手に話を進めるのも社会人的に相当アレであった

634 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:38:40 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「肉体トレーニングに関しては、お前は自分の裁量で取り組め。小練先生の下で学んだ事を無碍にするような真似すんじゃねえぞ」

('A`)「言われるまでもねえよ」

(´・ω・`)「夏前は言ってもわかんなかったから小練先生に預けたんだが????????????????????」


ブスは黙った


(´・ω・`)「ゴミ人間が!!あと日曜午後はジムトレーナーとの面談とマッサージを受けてもらう。連絡先も送っとくから身体に異変があるようならすぐに相談しろ」


チャリオッツに置ける『アスリート』の部分を担う徳雄が本番までに最も忌避しなければならないのが『怪我』である
ゲーム理解、技術の取得、スタミナの強化を差し置いても、まずは身体のケアを最優先に置く。これは小練からの師事でもあり、本八が前々から危惧していたリスクでもあった


('A`)「はぁ……了解……」


その自覚が無く、これまで向こう見ずに無茶なトレーニングをした過去
ポーカーブサフェイスに努めてはいるが、自覚後は恥ずかしくて堪らなかった


(´・ω・`)「担当は九十九トレーナーだ。トレーニングメニューは俺と彼に共有するように。何を主体に鍛えるつもりだ?」

('A`)「水泳による全身運動。筋トレは現状維持程度に留める」

(´・ω・`)「少しはマシなオツムになったようで安心したよ」

('A`)「お陰さんでな。クソ野郎」


とてもじゃないが、チームメイトとは思えない殺伐としたやり取りに、盛岡を除くサポーター達は喉を鳴らした

635 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:40:30 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「それでは、ジャパンカップについての説明に移ろうか。デミー頼む」

(´・_ゝ・`)「はい」


張り詰めた緊張感など物ともせず、加齢臭共は粛々と会議を進行する
盛岡はi-ringのOfficeアプリを立ち上げ、壁へと投影。本日からジャパンカップまでのスケジュール表が映し出さた


(´・_ゝ・`)「予選は11月から、各土日祝を使って開催される。参加チームは6ブロックに分けられ、それぞれ3チームが決勝に進出できる」

(´・_ゝ・`)「去年の参加数を例にすれば、1ブロックあたり凡そ5000チーム。それを18チーム毎に分けて勝ち抜き戦を行なっていく」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「こうして見るとめちゃくちゃ多いよな……」

⌒*リ´・-・リ 「これって一斉に行われるワケじゃないんですよね?」

(´・_ゝ・`)「当然、各ブロック毎に週替わりで開催されるよ。それに、全国のチャリオッツ施設を全て予選の為に回すから、最寄りから参加出来るんだ」

('A`)「オンラインって事っすか?」

(´・_ゝ・`)「その通り。予選は通常のプレイと同じような感覚で行えるはずだよ」

636 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:42:04 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「ブロックに地区は関係あるんすか?」

(´・ω・`)「オンラインっつったろ。全国どこでもリアルタイムで対戦が行えるってのに、わざわざ地方で分ける必要があるか?」

('A`)「それも……そうか」

(´・_ゝ・`)「話を戻すよ。予選は最大で三回戦まで行われる。一、二回戦は上位2チームまでが通過し、三回戦では上位3チームが決勝に進出する」

('A`)「えーと、つまり……」

(;@з@)「5000を18で割るとおよそ277試合。勝ち抜け出来るのは二位まででござるから、ここで556チームまで絞られるであります」

('A`)「おお、結構ガッツリいくな……て事は、二回戦終了時で大体60チームが残るのか」

(;@з@)「三回戦は残った全チームによるレース、あるいはバトロワで、上位3チームを決めるのでござる」

(;'A`)「そんな規模のゲームもあるんだな……」

(´・ω・`)「大会限定だがな。通常プレイなら最大で36チームだ」

637 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:45:05 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「それで、予選のルールは?」

(´・_ゝ・`)「数が数だからね。チャリオッツ黎明期は4、5ステージのレースもやってたみたいだけど、一回戦はショートコースで手早く振いにかけてるよ」

('A`)「それだと、ラビット有利になるんじゃねっすか?」

(´・ω・`)「レースかバトロワかは開始直前になるまでわかんねえ。この辺りは運も絡むだろうな」

(´・_ゝ・`)「バトロワルールだと、ステージが狭くなるんだ。本来、時間経過と共に行動可能範囲を狭めていくものだけど、これも回転数を意識して短時間で終わるようにしている。二回戦からステージのボリュームは増えるよ」


軽装甲で先行策に特化したラビットタイプは、走行距離が短くなればなるほど有利となる
しかしその反面、勝利条件が『ラスト・ワン』に限られるバトロワルールの場合、その軽装甲が仇となる
ラビットと対極に位置する『タートル』ならば、これと真反対の相性となる
ジャパンカップは長距離レースのグランプリだ。『蠱毒』のようなバトロワルール大会とは違い、走行と攻撃の『総合力』が求められる
上記二つの要素に加え、望むルールを掴む『ツキ』を持つ強豪だけが、本戦へと駒を進められるのだ

638 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:47:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「となると、本戦は必然的にオーソドックス寄りの『ホース』『バッファロー』が多くなるのか」

(´・ω・`)「狩りする『兎』もいりゃ、走れる『亀』もいる。その考えはチャリオッツを甘く見過ぎだルーキー」


ジャパンカップはプロアマ混合の大会であるが、やはりプロチームの決勝進出率は段違いに高い
とりわけ、プロ団体の中でもジャパンカップ常連ともなれば、看板を背負っているにも等しい
高いプライドと、それに比例する高い実力は、ルール不利程度の小石に躓くようなものでは無かった


(´・_ゝ・`)「三回戦は木本くんも言った通り、残ったチームで大規模なゲームを行い、上位3チームが決勝進出を獲得する。レースにせよバトロワにせよ、最大規模のステージで行われる。長丁場は必至だね」

('A`)「少なくとも、本戦出場18チーム中、2チームとはここで顔見知りになるってワケだ」

(´・ω・`)「この予選三回戦で気をつけなきゃならねえことがある」

('A`)「なんだ?特殊ルールでもあんのか?」

(´・ω・`)「『チーミング』だよ」


ソロプレイ前提の対戦ゲームで、複数人が結託してゲームを有利に運ぶ行為を『チーミング』と呼ぶ
デジタルゲームに限らず、麻雀やカードなどのアナログボードゲームでも『イカサマ』に該当する行為だが、チャリオッツに置いては線引きが曖昧である
例えば、利害一致による『一時的な共闘』は黙認されているが、特定のチームを最後まで援護し、勝利に貢献する所謂『キャリー行為』については禁止とされている
しかし、どこまでが共闘でどこからがキャリーであるかは、AIと公認レフェリーによるジャッジに委ねられており、反則スレスレのグレーなチーミングは後を絶たない

639 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:49:29 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「勝ち上がっていく度に、同じプロ団体のチームがマッチングする確率も上がるからな。有力候補をそれとなく援護して名を挙げようと目論む中堅プロ団体は少なくねえよ」

(;@з@)「過去には、あの最古にして最強のプロ団体『トップ・ギア』のチームも、チーミングギリギリのプレイをしていた例もありますぞ」

('A`)「プライドがお高いこって」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「それって失格になったりしないんですか?流石に露骨過ぎるんじゃ……」

(´・ω・`)「別につきっきりで介護する必要はねえんだよ。ある程度目星をつけたチームを徹底的にマークするだけでも、どえれえ援護になるんだからな。それに、必ずしも同じプロ団体だけがチーミングに加担するワケじゃねえ」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ど、どういう事ですか?」

(´・ω・`)「そもそも、十数年前から対策の一環として『同団体から出場できるのは3チームのみ』という大会ルールが課せられたんだ。表面上はチーミングが減ったかに見えたが……」

('A`)「擬態する連中が増えた、か?」

(´・ω・`)「その通りだ。名が知られてない下部団体や、プロ候補生で構成されたチームを送り込む所は少なくねえ。兇弾しようにも、上手いこと隠蔽されててな。ネットじゃ荒れる話題一位の問題だよ」

⌒*リ;´・-・リ 「それなら、尚更問題解決の手立てを講じるべきなんじゃ……」

(´・ω・`)「それはそうなんだがな。さっき榊原が言ったように、露骨であればあるほど、そのプロ団体は立場を失うってこったよ」

640 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:52:19 ID:iz.ZN/1Y0
個人で行うゲームならいざ知らず、ジャパンカップほどの大規模な大会になると、予選であれ多くの大衆の目が向けられる
高い実力を認められた『プロ』には面目があり、それをプレイで丸潰しするわけにはいかない
ましてや『チーミング』などと言った卑怯極まりない行為など以ての外である


(´・ω・`)「プロってのはスポンサーがいてナンボだからな。衆目環視の中でズルがバレた日にゃ、干されるのは目に見えてる」

('A`)「裏を返せば、『観客にすら気づかせないほど、イカサマに長けてる連中』がいるかもしれねえってことか?」

(´・ω・`)「その通りだ。王太郎、対策はあるか?」

(;@з@)そ「えっ!?あ、ええと……そうですな。そもそも、大潮氏のチームは無名でござる故、プロ団体にマークされる可能性は低いと思いますぞ」

(´・ω・`)「そうだな」

(;@з@)「その上で対策を講じるのであれば……ううむ、やはり目立たないのが一番手っ取り早いと思いますぞ。レースにせよバトロワにせよ、『キル数』は勝利条件ではござらん故」


レースなら先着、バトロワなら『生存』が勝利条件となる。チャリオッツにおける攻撃はあくまでも障害の排除及び撃退の手段であり、必ず達成しなければならない要素ではない
目立つ行為は控え、接敵を避け、隠密を基本としたゲーム運びを行う。考えうる中で、真っ先に行き着く作戦である


(´・ω・`)「徳雄、どうだ?」

('A`)「同意しかねる」


しかし、徳雄は別の観点から対策を考えていた

641 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:53:43 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「何故ですかな?」

('A`)「もっと手っ取り早い方法があるからだ。皆殺しにすればいい」

⌒*リ;´・-・リ 「それだと更にマークが強くなるんじゃ……」

('A`)「半端にやればそうでしょうね。ですが、徹底的に叩けば『避けるようになる』んすよ」


本八は喉奥で面白げにクツクツと笑って団子に手を伸ばした


(´^ω^`)「やっぱ喧嘩慣れしてる奴ァ、理解が早ぇな」


『クワイエット』や『バジリスク』といった、ジャパンカップ常連が難なく決勝進出が出来るのは、多少の妨害など物ともしない高い実力があるからだ
そもそも、衆目環視の前で出来る妨害には限度があり、そもそもの頭数も三回戦まで残っているか怪しい
決勝進出は上位三組以内に入れば良い。限られたリソースを使うなら、より『蹴落としやすい所』に注ぎ込むべきなのだ

642 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:56:31 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「文彦の射撃スキルと『スピンミキサー』の組み合わせは、一対多でこそ最大の効力を発揮する。もしバトロワルールで三回戦を迎えたのなら、出し惜しみせず殺し尽くすべきってのが俺の見解かな」

(;@з@)「うむむ……一理ありますが、ジョッキーたる徳雄氏のスタミナも考慮すべきではござらんか?」

('A`)「ま、それは今、考えることじゃねえ。とにかく、『そういうこともある』ってのは頭に入れたよ」


徳雄は話を切り上げつつも、予選三回戦の懸念は『避けては通れないもの』であると認識していた
本八はクズであるが、先見の明がある男だ。無視できるような些細な脅威であるなら、わざわざ口に出しはしない
そもそも、此方は『元プロ』だった文彦を、ひいては『6shooter』という象徴的なリボルバー砲を抱えているのだ。プロチームには及ばないものの、アマチュアの中では悪目立ちする部類に入るだろう


('A`)(つまり、暗に『備えろ』と伝えたかったワケか)


夏合宿を終え、チャリオッツ選手としての実力は目に見えて上がった。しかしそれを周りに公言した所で、プロの威光を得られるはずも無い
決勝までに相見える対戦チームは、プロアマ問わず日本一の栄冠を狙う強豪達だ。これからどう足掻こうとも、ぽっと出のチームなど見くびられるのは目に見えている
徳雄のやり方は口で言うのは簡単ではあるが、たったの『一試合』で並み居る相手チームを理解らせねばならないのだ


('∀`)(愉しみだ)


そしてそれは、徳雄が最も得意とする事であった

643 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:00:41 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「それでは、予選突破後のスケジュールに移るよ」


決勝戦は12月31日の大晦日だが、開催までの期間中に関連イベントに参加しなければならない
11月末から広報の為の撮影に参加。メディアの注目度によっては、雑誌やテレビ、ネット配信の取材にも応じる必要がある
決勝戦の一週間前には大会に関する説明会と記者会見に参加。その後は運営主催の立食パーティーにて対戦チームとの顔合わせがある
前日の30日には会場近くのホテルへと赴き、21時から翌朝まで指定された客室にて待機を命じられる

ここまで説明を受けた徳雄の表情は、先ほどとは打って変わって


(;'A`)「だっっっっっっっっっっっっる……」


死ぬほどめんどくさそうだった

644 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:04:22 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ボスが悪い意味、いや最悪な意味で知名度が高いから、取材機会は結構多いと思うよ。ただ、全て受ける必要は無いから断ってくれて構わない。どうせ全部コレが引き受ける」

(´^ω^`)「おお!!!!!!!!クソほど荒らしたらぁ!!!!!!!!!」

(;'A`)「よくそれで経営が務まるな……まぁ、そうしてくれると助かるが……」

⌒*リ´・-・リ 「クワイエットみたく顔を隠してみるのはどうですか?」

(´・ω・`)「蟒蛇との一件でツラが割れてっからな。下手に隠しても面倒事が増えるだけだ」

('A`)「想像はつくな……」

(;@з@)「文彦氏は?」

(´・_ゝ・`)「ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに受けさせねえよ?」

(´・ω・`)「こういうガキが一番メディアに出しちゃいけねえだろ」


木本は親友への信頼の無さに何か言い返そうとしたものの、反論の余地が全く無かった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「従業員が出場するとなると、この店にも注目が集まるのでは?その場合の対応はどうすればいいのでしょうか?」

(´・_ゝ・`)「うーん、徳雄くんには出来る限り裏方に回って貰おう。よしんばパパラッチや迷惑系配信者のような連中が出てきたんなら、金と権力の出番だ」

(´^ω^`)「一族揃って路頭に迷わすぞーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

⌒*リ;´・-・リ 「そんな邪悪の宣言あります??????」

('A`)「ああ……そうか、そう来る可能性も……」

⌒*リ´・-・リ 「え?何か気になることでも?」

('A`)「いえ、個人的な都合なんで」


徳雄の『個人的な都合』により、OHANAMIは一時的な危機を迎えるのだが、それはまた別の話であった

645 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:09:57 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ま、軽く説明はしたけど、結局は予選突破しないと発生しない面倒だから、みんな心構えだけしておいてほしい。此方も営業に差し障るような問題は、優先して解決するようにするよ」

(´・ω・`)「予選突破は確定だが????????」

(´・_ゝ・`)「そうですか。では、続いて本戦について説明するよ」


ジャパンカップ本戦は4〜5ステージを走り抜くサバイバルレース戦であり、走行距離は120〜160kmである
一般のアーケードプレイの平均距離が20kmほど。長距離のレースを行う際は、筐体の貸切予約をしなければならない
実在のレースと比較対象に挙げると、世界最高峰のロードレース『ツール・ド・フランス』の一日の走行距離は200km。これを四時間程度で走り抜く
一見、短い距離のように思えるが、チャリオッツにおいては路面状況の極端な変化と、相手チームやNPCの妨害がある為、長丁場になるケースが多い
車速は一般的なロードバイクよりも速めに設定されているが、これらは現実のロードレースを遥かに凌ぐ過酷さの要因となっている


('A`)「ステージ数によって距離が異なるんすか?」

(´・_ゝ・`)「ステージ数よりコース距離が影響してくるかな。ショート、ミドル、ロングコースがどれくらい割合で配置されているかによるね」

(´^ω^`)「5ステージ全部ロングコースだった時は傑作だったな!!決着と初日の出が同時だったんだぜ!!」

(;'A`)「何時間走らせんだよ……」

(;@з@)「『サンライトの夜明け』でござるな。チャリオッツ史に語り継がれる伝説の一つでござる」


ドーハの悲劇とかそんな感じのやつがチャリオッツにもあった

646 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:10:59 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「そこまで極端なのは流石に無いと思うけど、ここ数年は4ステが続いていたから、そろそろ5ステージになるかもね」

('A`)「それっていつ頃わかるんすか?」

(´・_ゝ・`)「一週間前に公式発表される。記者会見と同じタイミングだね」

('A`)「それだと体力方面は打つ手がなさそうっすね……」

⌒*リ´・-・リ 「どっちが好都合なんですか?」

(´・ω・`)「作戦によるな。ステージが一つ増えるってことは、『ショップ』の使用機会と『トレジャー』の獲得チャンスが一つ増えるってこった」

(;@з@)「チャリオッツの基本戦術四種の他に、アイテムで立ち回る『ドラキャット』がいるでござる。そういうチームにとっては少々有利でありますな」

⌒*リ´・-・リ 「ドラ猫?」

(;@з@)「国民的アニメから着想を得ておりますぞ」

⌒*リ;´・-・リ 「ああ、猫型ロボットからなんだ……」

647 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:14:31 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「だがまぁ、キャットに限らず、アイテムはどのチームも使うからな。観客ウケも考慮すりゃ5ステージの方が盛り上がるだろうよ」

('A`)「逆に4ステだと、フィジカルがある方が有利なのか?」

(´・ω・`)「距離による。逃げに振り切ったゴリゴリのラビットなら、誰にも捕まらず一位って例もなくは無い」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「NOOD(ノード)が一度それで優勝しましたよね?」

(´・ω・`)「ありゃマッチング運も絡んだがな。今の有力チームが台頭する前だったし」

('A`)「ノード?」

(´・ω・`)「日本で一番有名なラビットチームだよ。正式名称は『ネイキッド・オッキイ・オッパイ・ダイスキー』だ」

('A`)「は?」

(´・ω・`)「そういう名前のチームがマジで居るんだよ拳を握んな」

(´・_ゝ・`)「メディアだと略されてNOODと表記されるんだ」

('A`)「なんでその名前が通ったんだよ……」

(´^ω^`)「マn(´・_ゝ・`)「殺すぞ」なんでもない」


安定のチンポクズであった

648 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:16:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「っつっても、逃げ切り勝ちはめちゃくちゃに運が絡む。コース距離や路面状況、NPCとの遭遇率が噛み合いに噛み合って初めて達成される勝利だ。放っといても自滅する方が多い」

(;@з@)「所謂、『ロマン勝ち』ですな。しかし目を惹く分、大逃げのチームには固定ファンも多いでござる」

('A`)「博打戦法か。好かねえな」

(´・ω・`)「まとめると、ステージ数による有利不利は、よほど極端じゃ無い限り影響を及ぼさねえってこった」

(´・_ゝ・`)「車体構築や戦術についても、尖らせるより『丸く』した方が無難かな。最も、文彦くんがいるだけで、尖らせる他ないんだけどね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「このデブ、そんなに扱いづらいのか?」

('A`)「どうっすかね。俺は文彦としか組んでねえから、比べられねっす」

(´・ω・`)「それで良い。初心者ってのは刷り込みがし易いのが一番の利点だ。下手に齧ってっと制約が多すぎて不満が募る。才能だけはあったデブが蟒蛇でやってけなかった一因だろうな」


旋回性能を持つ主砲に慣れ親しんだ者にとって、『固定砲』の運用はこれまでの定石をひっくり返すほどの操縦技術を要求される
蟒蛇にも腕利のジョッキーは数多く在籍していたが、その殆どが固定砲の扱いに精通していなかった
対し、徳雄はロードバイクの経験こそあれど、チャリオッツに関しては全くの未経験者である
言わば、何物にも染まっていない『下地』の状態であり、『文彦専属機』として作り上げるにはうってつけの人材であった


(´・ω・`)「まぁ……素行と性格が原因の大半を占めてんだろうが……」


とは言え、文彦自身が謙虚で協力的で好印象で肥っておらず社交的でかつ臭いオタクでなければ、古巣で幾らでも日の目を浴びる機会はあった筈である


(; ω )「うーんうーん……」


性格がゴミカスが故に招いた事態である。悔い改めろや

649 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:22:06 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「予選突破から本番までに必要な準備と対策は、ステージよりも参戦チームの情報収集が要になるだろうな。王太郎、お前ならどう進める?」

(;@з@)「ふむ……拙者ならまず参戦チームの実績をザッと洗いますな。獲得タイトルだけでも、そのチームが何を得意としているかが見えてくるでござる」

(;@з@)「極端な例だと、蟒蛇はバトロワルールが得意。先ほど挙げられたNOODなら、短距離のスプリント戦の勝率が抜群に高い。これだけでも、取れる対策はいくつか考えつきますぞ」

('A`)「個々に対策を講じるってことか?本戦は17チームが相手なんだろ?間に合わねえんじゃねえの?」

(;@з@)「別に全てにおいてガッチガチの対策を取る必要はござらん。例えばNOODであれば、スピード重視故に、装甲と火力を限界まで削っておられる。つまり、撃破される心配はほぼ無いに等しいでありますぞ」

⌒*リ´・-・リ 「でも、火力は無いと言ってもアイテムとかで対抗されるんじゃないの?」

(;@з@)「それは先ほど大潮氏が仰ったように、どのチームにも言えることで対策の重要度を左右する要素ではござらん。そこで次に調べるべき点は、『生存率』でござる。宇都宮氏、何故だかわかりますかな?」

('A`)「えーと……終盤になるにつれ、生き残ってるチームとかち合う可能性が高くなるから、か?」

(;@з@)「ご名答でござる。チャリオッツのコースは、ステージが進むにつれて竜頭蛇尾となっていくでござる。レースを進めるにつれ、おのずとマッチする相手というのは絞られるでござる」

(´・ω・`)「『クワイエット』『バジリスク』は、ほぼ確実として……『SASUGA×FAMILY』『パーダラ・ブギ』『A to Z』あたりは固いだろうな」

(;@з@)「ここで実績の話に戻るでござる。終盤まで生き残る地力があるチームは、フィニッシャーに繋がる行動が読みやすいのでござる。大会によって変えてくることも多いでござるが、過去のデータからある程度の傾向は見て取れますぞ」

('A`)「なるほどな……傾向が見て取れりゃ、対策もしやすいと」


合宿の総まとめとして挑んだラストゲーム。記憶に新しい敗北を思い返す
限界超えのラストスパート。最後の一車両に王手をかけた瞬間、『ショット・パージ』というアビリティによって惜敗を喫した
『既知』と『無知』では、埋め難い大きな溝がある。これは徳雄が夏に得た収穫の一つであった

650 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:23:06 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「こんなところでいかがでござるか大潮氏?」

(´・ω・`)「上等だよ。早速で悪いが、有力候補チームの調査を頼めるか?十月後半までには用意して欲しい」

(;@з@)「お安い御用でござる」


ホンマに優秀なオタクだった


(´・ω・`)「再三言うが、車体構築やアビリティについては今後の練習で煮詰めていく。意見や要望は思いつく限り全て共有しろ」

('A`)「わかった」

(´・_ゝ・`)「お店の営業に関する事は僕の方に連絡してくれ。本戦後の事も備えとく必要がありそうだしね」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「は、はい。了解です」

(´・_ゝ・`)「さて、今日の本題はここからなんだが……」

⌒*リ;´・-・リ そ「むぐ!?」


話が終わったと油断していた高梨は、口に含んだ団子を思わず喉に詰まらせそうになった


(;´・_ゝ・`)「ああ、すまない。楽にしてくれていいよ。此方の我儘に付き合わせているんだからね」

⌒*リ;´・-・リ 「でも時間外手当貰ってるんで……」

(;´・_ゝ・`)「クズが勝手にやってる事なんだから、もっと要求してもいいんだよ」

('A`)「こんなん利用するだけしてから見捨てればいいんすから」

(´^ω^`)「もしかして俺のこと何言っても傷つかない唐変木だと思ってる???????」

('A`)「できる限り苦しみ抜いて死ねばいいのにと思ってる」

(´^ω^`)「お前その覚悟あんだな??????????お??????????」

651 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:23:52 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「実は早急に決めなければならない事があってね。今から皆でチーム名を考えてもらう」

('A`)「チーム名だぁ?何でそんなもん今日中に?」

(´・ω・`)「ジャパンカップのエントリーに必要なんだよ。締切が迫ってんだ」

('A`)「んなもんそっちで適当に決めとけや……」


本八以外のメンバーが、徳雄へ信じられないものを見る目を向けた。アメイジング・ブスだからかな?


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お前マジで言ってる?」

⌒*リ;´・-・リ 「関わっとかないと後で絶対後悔しますって!!」

(;@з@)「左様ですぞ宇都宮氏。チーム名は最も重要な象徴でござる。決して軽んじてはいけませぬぞ」

(;'A`)「お、おう……」


非難轟々だった


(´^ω^`)「ブスもこう言ってる事だしさぁ!!俺の考えたチーム名でいいだろ!!」

(´・_ゝ・`)「良いわけねーだろ殺すぞドブクズ」

(;'A`)「そんな酷ぇの?」

(;@з@)「さ、さしあたり、大潮氏のチーム名を聞かせて頂いてよろしいか?」

(´^ω^`)「おお!!よく聞きやがれ俺が長年温めてきた乾坤一擲のチーム名!!」

652 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:25:44 ID:iz.ZN/1Y0



_人人人人人人人人_
> 【ゴロゴロ】 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄



ホログラムと共に発表された乾坤一擲のチーム名に


('A`)「何これ」


ブスは理解が追いつかず


(´・_ゝ・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


ハゲはクソデカ溜息を吐き


(;@з@)「……」

⌒*リ;´・-・リ 「……」


木本と高梨は絶句し


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「えーっと……」


榊原は何とかフォローを絞り出そうと頭をフル回転させ


( ^ω^)「ダッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッサ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!やっぱ人間性がゴミのガキジジイはネーミングセンスも終わってんすねぇwwwwwwwwwよくこのクソダサゴミチーム名をドヤ顔発表できたもんだおwwwwwwwwww僕なら恥ずかしくて死んじゃうおーーーーーーーーーーーーんwwwwwwwwww」


豚性がゴミのデブはここぞとばかりに鳴き叫いた

653 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:26:25 ID:iz.ZN/1Y0



三日);^ω゚ )<ギャャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!????????



(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


全力で投げつけられた湯呑により、再び豚は沈黙した


(´・ω・`)「殺すわ……」

(´・_ゝ・`)「気持ちは痛いほどわかりますが、来年まで堪えていただけませんか?」

(;'A`)「……」


あの物腰柔らかで聡明かつ良心的な従兄と、お人好しかつ社交的な親友がいて何故、こんな残念で醜悪な臭い豚が出来上がったのか。徳雄は常々疑問に感じていた

654 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:27:00 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「とまぁ、ご覧の有り様さ。これでもクズに一任できるかい徳雄くん?」

('A`)「俺が間違ってました」

(´・ω・`)「なんだァ……てめぇ……」 ☆クズ、キレた!!

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「そ、その、モチーフとかって、お聞かせ願えますか?」

(´^ω^`)「よぉ聞いた榊原!!!!!!!!!!こらぁアレよ!!!!!!!!雷雲が鳴らす稲妻の音をそのまま名前にしたんだ!!!!!!!!不穏だろ!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「は、はい!!仰る通りでございます!!」

⌒*リ;´・-・リ 「店長」

('A`)「もっと他にあんだろ……」

655 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:28:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「そういう事で、皆の知恵を拝借したいのさ。少なくとも、これ以上酷い名前にはならないだろうし、気軽に考えてくれよ」

⌒*リ;´・-・リ 「うーん、そう言われてもなぁ……」

(;@з@)「責任重大でござるな……」

(´・_ゝ・`)「難しく考えなくていいよ。社長のモチーフをもっと別の言い回しにするとか、三人のイメージをそのまま言語化するとか。直感で発表してくれて構わない。挙げられた中で一番いいものを多数決で決めようか」

(;'A`)「あー、マジか……名前、名前ね……」


盛岡はホワイトボードアプリに切り替え、『思いついた人は挙手を』と発言を促す。すぐさま二人が勢いよく手を挙げた


(´^ω^`)ノ「はいはいはいはいはい!!!!!!!!!!!!!!!!」

( ^ω^)ノ「はいはいはいはいはい!!!!!!!!!!!!!!!!」


クズと豚である


(#´・_ゝ・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


地球が割れるほどクッッッッッッッッッッッソデッッッッッッッッッッッッカ溜息が出た

656 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:30:51 ID:iz.ZN/1Y0
( ^ω^)「お望み通りすぐに挙手してやったのにその態度はなんだお?黙ってチームのエースたる僕の案を採用すりゃいいんだお」

(´・ω・`)「『ゴロゴロ』を採用してりゃこんな気苦労背負わんでも良かったんだよ。テメーで撒いた種だろ?キレんのはお門違いじゃないですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????????」

(#´ ゚_ゝ゚ `)「このクソカス共がぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

(;@з@)「盛岡氏!!店内でござる!!店内でござる!!」

(;'A`)「デミさん落ち着けって!!後で半殺しにしとくから!!」

(;@з@)「宇都宮氏?????????????」


暴力に一切の躊躇いが無い徳雄が羽交い絞めにして止めるほどのマジギレである。エコーズACT3の妨害でスイッチ押せなかった吉良吉影くらい叫んでた


(#´ ゚_ゝ゚ `)「早く言えやゴミ共……どうせ採用されねえカスネームをよ……」

( ^ω^)「そんなんわからんくない????????多数決って言ったのもう忘れたのかお?????記憶容量がダチョウクラスじゃねーかおwwwwwwwww早いのは生え際の後退だけでいいっつーのwwwwwwwwwwwwwwwww」

(´・ω・`)「あのさぁ、仕事に私情持ち込むのやめてくんねえかなぁ。キミ社会人何年目?いつまで経っても成長できねんならそう言ってくれや。優しくしてやるからよ」

('A`)「もうやっちゃっていいすわ」

(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!!!!!???????」


徳雄は怒れるハゲを解き放った

657 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:31:23 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「さて、仕切りなおそうか」

(´メ)ω(メ`)「はい」

( メ)ω(メ)「はいですお」


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「……」


榊原は真に従うべき相手は誰かを今になってようやく理解したのだった

658 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:32:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ゴミカス共以外に案がある者は?」

⌒*リ´・-・リ 「それなんですけど盛岡さん。参考にしたいですし、一度お二人の案も聞いてみたいんですが」

(;@з@)「そうでござるな。それに一方的に爪はじきにすれば、後々軋轢が生じるもの。満場一致で納得できるチーム名を、皆で考えましょうぞ」

(;´・_ゝ・`)「うむむ……」


年下の方が大人の対応をしているではないか。盛岡はクズと豚のダブルカスにつられて頭に血が昇った自分を大いに恥じた


(;´・_ゝ・`)「わかったよ……二人に免じて、聞くだけ聞いてやるよ」

(´メ)ω(メ`)「年下に諭されんのダッッッッッッッッッッッサ。面目丸潰れじゃねーか。スルースキル無い奴はこれだから困るわ」

( メ)ω(メ)「上から目線なのが気に食わないお。何を譲歩してやってる感出してんだお?身の程を弁えたらどうなんすかwwwwwwwwww」

(´・_ゝ・`)「榊原くん、悪いけど台所から一番デカい刃物持って来てくれるかい?」

(´メ)ω(メ`)「まぁ幾つになっても恥を知って成長するのは立派だよな。俺も学ばせて貰ったわ」

( メ)ω(メ)「許し合うってのは人間という知的生命体にだけが出来る崇高な行為と思うんですお。ここは一つ、水に流しませんか?きっと更により良い関係を築けますから」

(;'A`)「……」


救えねえなって思った

659 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:35:09 ID:iz.ZN/1Y0
(´^ω^`) チーム名フルコースメニュー

・前菜(オードブル)  大鳴
・スープ 団子三男子(だんごさんだんご)
・魚料理 仏千切(ぶっちぎり)
・肉料理 暗黒喰(あんこくう)
・主菜(メイン) ゴロゴロ
・サラダ ネオトマト
・デザート 蝗害
・ドリンク 大潮光輪隊


( ^ω^) チーム名フルコースメニュー

・前菜(オードブル) ミセリ爆走夢歌
・スープ ミンミンドライブ
・魚料理 エターナル・ミセリ・ラヴァーズ
・肉料理 BOON
・主菜(メイン) Revolver SIX
・サラダ ネオトマト
・デザート 文彦の6shooter ch
・ドリンク Magnum Knight


('A`)「じゃあネオトマトで決定ってことで」

(´・ω・`)「いやいやいやいや」

( ^ω^)「いやいやいやいや」

('A`)「だったらふざけてんじゃねえよ殺すぞ」

660 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:36:54 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「よくもまぁ……こんなに思いつくもんだ。参考になるかい?」

⌒*リ´・-・リ 「いやぁ…………」


いやぁだった


('A`)「いんじゃねっすか?」 ※どうでも

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「おいおい投げやりになるなよ」

(´・_ゝ・`)「パッと見ただけでも、それぞれに良い点と悪い点があるのがわかるよね。木本くん、答えてみるかい?」

('A`)「めっちゃ木本に振るじゃん」

(;@з@)「ええと、そうですな……大潮氏はモチーフがわかりやすく、洒落が利いておられますな。特に和菓子モチーフの名は面白い試みでござる」

(´^ω^`)「だっるぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


クズは調子に乗った


(;@з@)「しかし、ワードセンスが前時代的でござる。洒落は利いておられるが、ウケは悪いでしょうぞ」

(´・ω・`) スン……

( ^ω^)「ブフォwwwwwwwwwwwwwwwwwwww化石みてーなネーミングセンスだってことだおwwwwwwwwww名前の節々から加齢臭がするおwwwwwwwwww臭っ!!!!!!!目に沁みるおーーーーーーーーんwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


クズは静かになって豚が嗤った

661 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:37:47 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「文彦氏は英語を使ったスタイリッシュな名前が目を惹きますぞ。洋楽のタイトルのようでカッコいいでござるな」

( ^ω^)「っかーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!僕のオシャレセンスが出ちゃったおーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


豚が煽られて木に登った


(;@з@)「ですが、余りにも『我』が前に出過ぎでござる……日本は出る杭を打つ国民性。一人だけをフューチャーした名前は、アンチの温床になりかねませんぞ」

( ^ω^) スン……

(´^ω^`)「モテねえ理由が詰まってんなぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!あ、どうせ家畜だから早々に去勢されるか!!!!!!!!!どっちにせよモテる意味もなかったな!!!!!!!!!!!!良かったなぁデブ!!!!!!!!!モテなくて!!!!!!!!!!!!」


豚が静かになってクズが騒いだ

662 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:38:47 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「うん、概ね僕と同意見だね。以上を踏まえて、考えてみてくれ」

('A`)「あー、その、無難なので良いって事すか?」

(´・_ゝ・`)「それが一番丸いだろうね」

('A`)「だったら参羽鴉で良いと思うんすけど。ちょうど三人だし」

(´・_ゝ・`)「宣伝になっちゃうからね……参羽鴉グループがスポンサーのプロ団体ならまだしも、今回は完全に社長の個人チームだから……」

(´^ω^`)「だから燃えるんだルォォ?????????」

('A`)「ドクセッ」

(´^ω^`)「お前めんどくせえっつったか???????」

⌒*リ´・-・リ 「英語の方がカッコいいかな?」

(;@з@)「うーん……ですが、漢字のカッコよさも捨てがたいでござるな……」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「雷……雲……うーん」

663 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:39:59 ID:iz.ZN/1Y0
各々、頭を捻らせること数十分。ホワイトボードアプリには、チーム名候補がズラリとならんだ


・MAD RAVEN
・ドゥルガー
・ファイヤーワークス
・御華見衆
・ALL HOPE IS GONE
・KILL them ALL
・Believer
・アウトサイダー
・Mess
・ワードレス
・Black Sheep
・3 dot
・モースト・デンジャラス・トリオ
・ザ・マシンガンズ
・ジョン・ドゥズ
・ゴッドセレクテッド
・ヘル・ミッショネルズ
・超人血盟軍


('A`)「思いつくもんだな……」

( ^ω^)「キン肉マンのコンビ名挙げ始めた段階で止めとくべきだったのでは?」

(;@з@)「楽しくなって来ちゃった故、致し方なかったでござる」


22世紀でもキン肉マンは大人気であった


(´・ω・`)「しかし、なんで一番最初に思いついたのがモースト・デンジャラス・コンビだったんだ?」

⌒*リ´・-・リ 「へへ、推しなもんで……」


火付け役は高梨であった。彼女はウルフマン推しである。四十年近くフェイバリットが合掌ひねりだった超人である
そしてジェロニモも推しであった。四十年近くフェイバリットが雄叫びだった超人である
彼女の友人であり、徳雄と文彦の指導者でもある敏感乳首こと小練 詩音は、そんな彼女のオタク趣味についてこう語っている


「めっちゃ早口やったわ」と

664 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:41:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「店長も結構挙げましたよね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「つっても、洋楽のタイトルをパクっただけなんだけどな」

( ^ω^)「スタンドですかお?」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「スタンドだったら『THEMATTEKUDASAI』って言うっつーの」

(´・ω・`)「もっとあるだろ他に」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「え……チョコレイト・ディスコですか?」

(´・ω・`)「もっとあるだろ他に」


22世紀でもジョジョは大人気だった。もっとあるだろ他に


(´・_ゝ・`)「では、一度振いにかけようか」

⌒*リ´・-・リ そ「第21回超人オリンピック ザ・ビックファイト予選一回戦超人ふるい落とし……!?」

(;´・_ゝ・`)「オタクが増えた……」


オタクは何にでも関連付けるのであった

665 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:42:20 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「何か方法あんすか?」

(´・_ゝ・`)「特別な事はしないよ。チャリオッツのチーム登録フォームに全部ぶち込むだけさ。重複があれば弾かれる」

('A`)「ほーん」


盛岡はチャリオッツオフィシャルサイトを立ち上げると、挙げられた候補をまとめてフォームへと入力する
するとすぐさま、登録可能な名前が反映された


・Black Sheep


('A`)「……これだけすか?」

(´・_ゝ・`)「みたいだね」

⌒*リ´・-・リ 「これって確か……」


その場の視線が、名前の発案者へと一斉に注がれる


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ウッソだろオイ」


当の本人は、信じられないと言った面持ちで口角を痙攣させた

666 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:43:24 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「榊原ァ……」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「もも、申し訳ございません!!お気に召さないのであれば……」

(´・ω・`)「名前の由来を聞かせろや」


榊原は息を飲んだ。口調こそぶっきらぼうだが声色は穏やか。しかし眼光は、研いだばかりの刃物のように鋭い
おふざけ無しで真剣に本質を見極めようとする姿勢。榊原だけでなく、この場にいる者の背筋は自然と正された


('A`)「お茶うま……」

( ^ω^)「団子うま……」


正せや

667 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:47:28 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ええと、その…………」


店の外では、雷雨が勢いを増し、耳を塞ぎたくなるようなけたたましい雷鳴と閃光を振り撒いている
榊原は暫く口籠もっていたが、観念して言葉を紡ぎ始めた


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ふ……古い洋楽のタイトルから拝借したもんですが、この名前だけには幾つか意味があります」

(´・ω・`)「ほう」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「か、海外では『黒い羊』は厄介者や異端者のスラングとして使われています。羊ってのは白毛が基本で、その群れに一つ黒いのが混じってれば、わ、悪目立ちするからです」

(´・ω・`)「……それで?」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「で、ですが見方を変えれば、黒い羊ってのは、集団に染まらない、特出した存在とも言えます。言わば、『只者じゃない』って事です」

('A`)(めっちゃ考えとる)

( ^ω^)(めっちゃ考えとる)

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「社長の、も、求めているヒールイメージに近いと考えました……それと」

(´・ω・`)「それと?」

668 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:48:13 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「見た目が『雷雲』に、一番近い動物なんじゃないか、と……」

(´-ω-`)「榊原ァ…………」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「ヒィッ!?も、申し訳ございません!!浅はかでした!!すいません!!」



(´-ω-`)「『気に入った』」



|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「へ……?」

(´・ω・`)「デミ―」

(´・_ゝ・`)「承知しました」


全員の了承を得ないまま、盛岡はチーム名『Black Sheep』を登録した
しかしそこに異議を唱える者は、一人だけであった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「待ってください!!そんな簡単に……」

(´・ω・`)「いや、これがいい。『しっくりくる』。お前らはどうだ?」

('A`)「落とし所としては申し分ねえんじゃねえの。オッサンの要望にも応えて、尚且つ字面が良い」

( ^ω^)「ま、僕の次の次くらいにセンスがあると認めてやってもいいお」


なんだこの豚

669 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:49:11 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「い……良いんですか?俺なんかが思いついた名前で……」

(´・ω・`)「重要なのはフィーリングだ。それに、言った筈だぜ?『俺らはチーム』だってな」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ッ……!!」

(´^ω^`)「誇れや榊原ァ!!!!!!!お前が名付けたチームは、チャリオッツ界の伝説になるんだからなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「は、はいッ!!」

('A`)「……」


このクズがどうして経営者として成り立っているのか。邪悪なやり口の一端を垣間見た気がしたが
『まぁ本人が喜んでるならどうでも良いか……』と、徳雄は胸の内に仕舞うことにした


(;^ω^)「カルトってこういう手口……」

('A`)「口に出すなや」


あの文彦ですら引いてた

670 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:50:39 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「エントリー完了です。これで後には引けませんよ」

(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!!!聞いたかガキ共!!!!!!!恥を晒すような真似は出来なくなったってこった!!!!!!!」

('A`)「だとよ文彦……」

( ^ω^)「僕の足を引っ張んじゃねーおオッサン」

('A`)「俺の足も引っ張んじゃねーぞ」

(´^ω^`)「何このガキ共?」


友情も絆もない三人組の、今は誰も知らない『悪名』の誕生を呪うかのように、雷鳴が鳴り響く
本八の耳にはそれが、祝福のラッパの音に聴こえたのであった

671 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:56:32 ID:iz.ZN/1Y0
―――――
―――



Dorothy - Black Sheep
https://www.youtube.com/watch?v=5zBUlhcRyWw


(´・ω・`)「始めるぞ」


合同練習では、主に本八が所有する中古のチャリオッツ筐体にて構築探求の為の反復プレイを行なった。実戦は週に二日、みっちりと行う
秋になってようやく合流したキャプテンの本八は、操縦と砲撃に関して言及することはせず、夏の間に培った二人のプレイに自身が合わせる方法を選択
アビリティも、キャプテンが主体となる強力なフェイバリットでは無く、二人の動きのサポートとなる物を探す事にした
文彦の射撃力に徳雄の凶暴性は、手を加えるまでもなく強力な武器である。一発逆転の切り札を使うよりも、少しでも長く双方の実力が発揮できる方が強いと考えたのだ


(´・ω・`)「クイックリロードは重いか?」

( ^ω^)「3コスは重いお。リロ速を一時的に上げるならアイテムでも互換できるから、車体の軌道補助に振った方がいいお」


あの犬猿ならぬ豚猿(とんえん)の仲である本八と文彦が、チャリオッツに関しては建設的に会話していた


(´・ω・`)「悪路の時はブレーキ気ぃ使え!!ひっくり返んぞ!!」

(;'A`)「わり」


舵を握る徳雄には、夏合宿の走行データを参考に、苦手な路面を繰り返し走行させた。ジョッキーの能力は、車体構築に大いに関係する
得意を伸ばす尖ったカスタムか、苦手を補う丸いカスタムか。どちらが活きるかは、乗り手によって違ってくる
徳雄がこれまで操縦した車体は、あくまでトレーニングの為に負荷を増したものである。つまり、ここからはジョッキーとしての適性を見極め、最適解を見つけ出す時間であった

672 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:59:44 ID:iz.ZN/1Y0
また、各々の体力強化及びダイエットも継続


<がんばれ♡がんばれ♡


(;*^ω^)「ハァハァ!!!!!!!ブヒッ!!ブフヒッ!!」

(;ФωФ)「My Son……」


文彦は、自宅で行えるエクササイズプログラムを、朝と夜に一時間ずつ行なった。気持ち悪っ
美少女トレーナーと一緒に楽しく運動が出来る『あねトレ 〜おうちであまあまエクササイズ〜』である。オタクは二次元のエロを絡ませないと運動ができない可哀想な生き物なのだ
これは文彦の運動へのモチベーション維持の為、敏感乳首こと小練 詩音が本八へと提案したゲームアプリである。むせ返るほどのオタク臭いタイトルとは裏腹に、非常に優れたトレーニングメニューが組まれている
これがV豚非モテキモオタの文彦の下半身に大ヒットし、消費カロリーごとに解放されるスケベなご褒美要素も相まって、合宿時とは比べ物にならないほど運動にやる気を漲らせていた。股間も漲らせていた
因みに、初回のチームミーティング時にグロッキーだったのは、夜通しでこれをプレイした後、何がとは言わんが五回も慰めていたからである。ガンナーとしての才能は、ひょっとしたら神様がこの気持ち悪い豚へ与えた哀れみなのかもしれなかった


(;ФωФ)「Jesus……」


この見苦しい息子の姿に、父の内藤 六馬は孫の顔を拝むのを早々に諦めたという。賢明な判断である
少子化は刻一刻と国力を蝕んでいくのであった

673 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:01:29 ID:LC2pQRFM0
(;'A`)「ハァッ!!ハァッ!!」


徳雄はメイントレーニングに水泳をチョイスした。全身運動によるスタミナ強化と、本番までの怪我リスク軽減の為である
加えて、合宿中に文彦が行っていた着衣水泳によって水の抵抗力を高め、より効率的に身体を苛め抜いた


( ゚∋゚)「あと二往復!!ペース落とすんじゃあないぞ!!」

(;'A`)「はい!!」


もう一つの狙いは、心肺機能の強化である。ラストスパート時に限らず、全力疾走を求められる場面はレース中に多々発生する
妨害やコースによって、ペースに急激な緩急をつけねばならないのだ。これはロードレースには無かった要素である
体力はどれほどあっても余りはしない。最後の最後に脚が止まるなんて事態は避けねばならぬのだ


(;´゚ω゚`)「セックスも全身運動!!!!!セックスも全身運動!!!!!!」

(#゚∋゚)「誰がチンポ動かせと言ったァ!?黙って脚だけ動かせチンポクズがァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


ついでに、豚ほどでは無いが、少しでもジョッキーへの負担を減らす為に本八も初夏からダイエットを続けている
本人は泳げない為、ビート板を使ったバタ足である。股間に団子をあしらった水着がとても見苦しかった。どうして団子に血管を走らせているのだろうか?沖縄の国際通りの土産屋で買ったのだろうか?


(;´゚ω゚`)「スケベで痩せさせてぇな!!スケベで痩せさせてぇな!!」

(;'A`)「ハァーーーーー………」


非常に気が散ったので次から時間をズラそうと思った

674 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:02:52 ID:LC2pQRFM0
(;@з@)「速報にござる!!バジリスクの新ジョッキーが決まったでござるよ!!」

(´・_ゝ・`)「この一週間のチャリオッツ関連の記事まとめです。ご査収ください」

(´^ω^`)「そこら置いとけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


情報収集は、盛岡と木本が担当。秘書の手腕が存分に発揮された
木本もまた、学生インターンという名目で参羽鴉の社長オフィスに常駐。近頃は何でか知らんが業務にも参加するようになった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「オメー、単位大丈夫かよ」

(;@з@)「オフィスからリモートで授業を受けさせられていますからな……」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ほぼ囲い込みじゃねーか……」


一ヶ月後、何でか知らんけど木本の企画が採用され、後に莫大なヒットとなるのだが、それはまた別の話である


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お前もっと才能を活かせる所に行った方がいいって」

(;@з@)「す、好きでやってることでござるから……」


文彦とかいうゴミカスの豚とは比べ物にならない程のハイスペ男子であった

675 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:04:01 ID:LC2pQRFM0
徳雄の業務に関しては


「オーダーは俺が取りに行ってきます!!」

「海外のお客様は私に任せてくださいデース!!」

「お手洗い、ピッカピカにしときましたよ!!」


(;'A`)「お、おう」


夏の間に本八が直々に仕込んだ精鋭バイト達により、大幅な負担軽減となった。金剛ちゃんおる?


(;'A`)「あの……夏の間、何をされたんすか?」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「聞くな。思い出したくない」

⌒*リ;´・-・リ 「アハハ……大変でしたねえ……」


徳雄は上司と同僚の反応である程度察したのであった

676 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:04:43 ID:LC2pQRFM0



こうして、あっという間に


二ヶ月の準備期間は過ぎていき―――――




677 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:07:02 ID:LC2pQRFM0
―――――
―――



11月某日、とある放送局にて


(,;゚Д゚)「フゥー……」


ラジオの収録を終えた猫山 義古(よしふる)は、休憩所のベンチでコーヒーを手に、落ち着きなく膝を揺すった
『ハヤテ』が早々にジャパンカップ本戦出場を決めてからというもの、メディアでは三連覇が掛かった王者『クワイエット』以上に注目を集めている
トップアイドルである猫山は、芸能人らしい自信に満ち溢れた振る舞いはするが、内面は繊細な男である。年末の大舞台を前に、プレッシャーで押しつぶされそうな毎日を過ごしていた
それに加えて、この日は彼を浮足立たせるもう一つのイベントが開催されていた。アイドルとしての仕事ではなく、『彼の身内』に関する出来事であった


(,;゚Д゚)「そろそろだよな……」


チラリと時計を確認し、この日何度目かわからない嫌な緊張が胸から湧き上がる。啜ったコーヒーも、今日ばかりは味がしなかった


从 ゚∀从「ギコにぃ〜」

(,;゚Д゚)そ「あひっ!?」


背後から覆いかぶさるように抱き着いてきた妹分に、情けない悲鳴を上げる始末だ
ハヤテの紅一点であり、チャリオッツではガンナーを担当する高岡 波音(なみね)は、彼の肩に顎を乗せてケタケタと笑った

678 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:09:42 ID:LC2pQRFM0
(,;゚Д゚)「波音か。驚かすなよ……」

从 ゚∀从「へへ、なーにソワソワしてんだよ」

(,;゚Д゚)「今日はEブロック予選だからな……結果待ちだよ」

从 ゚∀从「あー、ブンちんの」


あだ名呼びは、彼女なりの友好の印である。猫山の従弟である臭い豚に嫌悪感を示さない、かなり珍しい、母親を除いて唯一の、今世紀最大の謎と奇跡と言っても過言ではないタイプの女性であった。狂っているのは彼女であって、世の女性は間違いなく正常である


从 ゚∀从「モラっちも気が気じゃなさそうだったよなー」

(,,゚Д゚)「そうだな……」


身内である文彦の実力こそ熟知しているが、あの滅茶苦茶な社長がジョッキーとして起用した徳雄の実力は未知数だ
獏良がライバルとして認める唯一の男であり、初対面時から只者ではない風格を醸し出していた人物だが、チャリオッツに関しては素人と聞いている
半年足らずで、取るに足る実力まで成長したのか?そもそも、あの人格破綻者が率いるチームが成り立つのか?
余りにも多い不安要素にハヤテの男衆は、自分たちが挑んだ予選以上の緊張を強いられていた


(,;゚Д゚)「これでコケてしまえば、文彦は更なる自信喪失に陥るだろうからな……なんとか勝って欲しいよ」

从 ゚∀从「まー、いざとなったらシャッチョさんが袖の下で何とかするんじゃねーの?」

(,;゚Д゚)「そこまで酷くは……」


正直、やりかねないと思ってしまい否定出来なかった。日頃の行いや。悔い改めろドクズ

679 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:14:52 ID:LC2pQRFM0
从 ゚∀从「んー」


高岡は猫山の首に腕を回し、i-ringでジャパンカップ予選の検索を掛けた


从 ゚∀从「なんてチーム名だっけ?」

(,;゚Д゚)「待て、心の準備をさせてくれ」

从 ゚∀从「そんなんいつまで経ってもできねえくせに。思い出した。Black Sheepだったっけ。なんで羊?」


続けてチーム名で検索を掛け、結果を猫山の眼前へと投影させる
お目当てのBlack Sheepの名前が映し出され、その隣には『2nd Round』と記されている事から、二回戦の真っ最中であるとわかった


从 ゚∀从「あら、もう二回戦まで進んでんじゃん。順番最初の方だったっぽい」

(,;゚Д゚)「ほ、本当か!?」


今回のジャパンカップ参加数は過去最高の36216チーム。それを六分割しても1ブロックあたり6036チームと膨大である
それ故に、1回戦はとにかく回転数を稼ぐ為に短時間で決着がつくルールが設定されている。凡そのプレイ時間は長くても10分程度である
早々に一回戦を突破したチームは、数時間の待機の後、その日の内に二回戦へと突入する


从 ゚∀从「まー、ジャパンカップは間口が広過ぎて冷やかしで参戦するチームも多いからなー。一回戦くれー余裕で突破してもらわねーと」

680 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:16:09 ID:LC2pQRFM0
ジャパンカップの参加条件は、公式大会の中でも緩い部類に入る
『プロアマ問わず、日本国民であるならば誰にでも栄光を手にするチャンスを与える』という理念の下に開催されているのが大きな理由だからだ
従って、エントリー締め切り前日に結成した急造チームであろうと、参加費用を支払った日本国民であるならば予選に参加できる
この懐の深さが、三万超えの参加数に起因するのだが、その大多数は所謂『カジュアル勢』で占められている
本気で日本一を狙うチームにとっては、よほどマッチ運が悪く無い限り、一回戦は通過出来て当たり前の薄い壁なのだ


(,,゚Д゚)「確かにな……二回戦から一気にレベルが上がる。プロとマッチするのも珍しくはないが……」


アマチュアの鬼門は二回戦である。玉石混合の一回戦を突破したチームが待ち受けているのは、実力が拮抗した日本上位ランカーと、『職業としてゲーマーを名乗るプロチーム』である
チャリオッツは、メジャーな他スポーツと違い、プロアマ混合の大会が幾つか存在するが、基本的にアマチュアとマッチすることは稀である
ここで初めてプロと対峙するアマチュアは、『チャリオッツで飯を食っている者』との格差を初めて痛感する
マスター帯上位勢が手も足も出せずに敗退し、日本一の夢を諦める者も数多い
『誰でも挑戦が出来る』大会が、『誰にでも甘いワケではない』と思い知るのが、この二回戦なのだ


从 ゚∀从「まず間違いなくクジ運は悪ぃーな。今年のEブロックは魔境過ぎる」

(,;゚Д゚)「あああああ…………」

从 ゚∀从「あ、ごめ。忘れてた?」


各ブロックへの組み分けは公正に抽選で決められるが、結果は必ずしも『公平』にはならない
今年の予選最終Eブロックには、多くの有力候補チームが揃っていた
筆頭として挙がるのが、最強王者『クワイエット』と、ラスト・ワンの申し子『バジリスク』
続けて、『Anker Take』『青春真っ只中!!』『VIP Library』『DDDD』『北猛那』といった錚々たる出場常連チームが軒を連ねる
まさに魔境と呼ぶに相応しい大激戦区。ジャパンカップ初挑戦である文彦達のチームにとっては、過剰なまでの洗礼である

681 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:17:22 ID:LC2pQRFM0
(,;゚Д゚)「時期尚早だったかもしれない……というか、そもそも人のことを拉致するような狂人に文彦を預けたのが間違いだったんだ……」

从 ゚∀从「そう悲観すんなってまだわかん……終わった?」

(,;゚Д゚)そ「終わったハァ――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!???????????????」

从;゚∀从そ「ちょっ、声でかいって!!!!!!!!」


高岡は反射的に裏声で悲鳴を上げた猫山の頸動脈をキュッと絞め、事なきを得た


(,, Д )「」


事なきを得た


从;゚∀从「やっべ……落ちちゃった……」


高岡は白目を剥いたザコの猫山をそっとベンチへと寝かせ、改めて予選の情報へと向き直る
Black Sheepの隣に表示されていた『2nd Round』の表記は、『待機中』へと切り替わっている
結果の反映に少々時間が必要らしい。この短く長い時間にヤキモキせずにすんだギコにぃは幸運だと、高岡は自身の過失をプラスに捉えることにした


「ヨシさん!!波音!!」


慌ただしく駆け寄る足音に、波音は映像から顔を上げる。見慣れた国宝級の美男子が、息を切らせて現れた

682 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:20:29 ID:LC2pQRFM0
(;・∀・)「ハァッ、ハァ……」

从 ゚∀从「モラっちどした?トイレ長かったけど、もしかして漏らっちしちゃった?」

(;・∀・)「それやめてって言ったよね……まぁいいや……実は、コッソリ予選の配信を見てたんだけど……」

从 ゚∀从「仕事は?」

(;・∀・)「ディレクターさんにお願いしたら長めの休憩くれたよ」

从 ゚∀从「顔面の悪用やめろってギコにぃに言われてるだろ。そんで、なーにをそんなに慌ててんの?」


獏良は勿体つけるように、息を整えながら汗が滲んだ額を拭う。しかし悪い知らせでは無いのは、目の輝きと上がった口角が物語っている
隠し事が出来ない不器用さもまた、ルックスから齎される絶大な人気に更に拍車をかけている。つくづく愛される為に産まれた野郎だなと呆れながら視線を画面へと戻すと


从 ゚∀从「……ってんな」


Black Sheepの二回戦突破を報せる『3nd Round』の表示へと切り替わっていた。猫山と同じく、文彦のチームを気に掛けていた獏良も報告に来たのだろう
初出場で二回戦突破は、アマチュアなら快挙である。とは言っても、『二回戦』だ。通過点を勝った程度にしては、ギコにぃじゃあるまいし少々オーバーな喜びように見えた

683 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:21:20 ID:LC2pQRFM0
(* ・∀・)「凄いんだよ!!徳雄のチーム!!」

从 ゚∀从「何がよ?」

(* ・∀・)「これ!!」


鼻息荒く、高岡の端末画面を横から割り込むように操作する


从;゚∀从そ「怖い怖い近い近い!!バズるかあるいは炎上する!!!!!!!!」

(’e’)「え?炎上?」

从;゚∀从そ「うわバケモノ!!!!!!!?????なんだマネージャーか」


炎上と聞いて馳せ参じたハヤテのマネージャー上手 聖夜は今日も心に深い傷を負った。今夜は新進気鋭の若手女優と四十代ベテラン子持ち俳優の二股不倫スキャンダルでメシを掻っ込むことに決めた

684 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:22:03 ID:LC2pQRFM0
(* ・∀・)「見てこれ!!上手さんも!!何でヨシさん寝てんの?仕事は?」

从 ゚∀从「オメーが言えた…………」


高岡と、覗き込んだ上手が絶句する。獏良が表示したのは、『二回戦のリザルト』である
今回はレースルールだったようで、堂々の二位に『Black Sheep』の名が誇らしげに鎮座している
当然、突破したのだから一位か二位にいて然るべきである。彼女達が言葉を失ったのは、順位ではなく


从;゚∀从「キル数8……?」


屠った首級の数と


(;’e’)「『DDDD』、『北猛那』、『青春真っ只中!!』……『厄姫連合』に『Good Bad Normal』……ほとんどプロじゃねーか!!」


その『質』である

685 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:24:25 ID:LC2pQRFM0
(;’e’)「待てよオイ!!確かにクワイエットやらバジリスクやらオメーらと比べりゃ取るに足らねぇ連中だとしても、チャリオッツプレイヤーなら一度は名前を聞いたことのあるチームばかりじゃねえか!!」

从;゚∀从「……」


無敗のハヤテですら、予選ではプロチームとの接触を極力避けた
幸いにも、全てのゲームが獏良の脚が活きるレースルールだった事もあり、特に大きな衝突も無く予選を通過した
だがBlack Sheepは『この逆をいった』。レースルールでこれ程のキル数を稼げるチームは、バジリスクの他には数えるほどしか居ない
1つや2つなら、偶然の産物であると信じ込ませる事も出来ただろう。しかし、誤魔化すには余りにも強大な戦果だった


(* ・∀・)「間に合ったんだ!!彼らは半年足らずで、『刺客』になるまで仕上げたんだ!!」


冷たい汗が頬を伝う二人を差し置いて、獏良は今にも飛び上がりそうな程に弾んだ声を上げた


(* ・∀・)「『僕ら』と大舞台で戦うに相応しい、最強の『ライバル』に!!」


从;゚∀从「ハ、ハハ……」


高岡の口からは、無意識のうちに渇いた笑いが漏れ出した
それは『ライバル』の大戦果への感心でも、ましてやマネージャーの呆けた顔面が滑稽だからでもなく



(* ・∀・)



子どものようにはしゃぐ仲間の目が、まるで断頭の刃を振り下ろす直前かのように据わっていたからであった

686 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:25:43 ID:LC2pQRFM0
次回予告



(´^ω^`)「ぶち殺しまくって三回戦突入だ!!暴力は気分がいい!!!!!!最高や!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「しかし、次戦は彼らとの対決を避けられませんよ。クワイエットにバジリスク。他にも日本屈指の強豪チームがわんさか」

(´^ω^`)「なぁに!!上位3チームに入りゃいいんだから余裕よ余裕!!」

(´・_ゝ・`)「クワイエットとバジリスクがその内の2席を確実に獲ると見越して、残る1席の争奪戦になるでしょうね。つまり、誰が集中して狙われるか。下半身にあるオツムでもご理解できますか?」

(´^ω^`)「わからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(´^ω^`)



(´^ω^`)「俺らやん」

(´・_ゝ・`)「そうだぞ」

(´^ω^`)「次回、『Desperado Chariots』第十話。『Kill Them All』」

(´・_ゝ・`)「どうすんだこれ」

(´^ω^`)「どうすんだろうね……」

687 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:56:48 ID:LC2pQRFM0


オマケ


名前候補内訳


(;@з@)

・MAD RAVEN→狂ったカラス
・ドゥルガー→ヒンドゥー教の女神。『近づきがたい者』を意味する
・ファイヤーワークス→花火


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ

・ALL HOPE IS GONE→Slipknotから
・KILL them ALL→皆殺し
・Believer→Imagine Dragonsから
・Black Sheep→Dorothyから


('A`)

・アウトサイダー→はみ出し者
・Mess→混乱


⌒*リ´・-・リ

・ワードレス→今NIKKEでイベントやってるから
・3 dot→https://boonnovel2020.fc2.net/blog-entry-59.html
・御華見衆→闇を切り裂き いざ咲き誇らんから
・モースト・デンジャラス・トリオ
 夢の超人タッグ編においてブロッケンJr.とウルフマンによって結成されたタッグ
 当初はバッファローマンとモンゴルマンの2000万パワーズとの対戦を控えていたが、乱入してきた完璧超人のタッグ殺人遊戯コンビのツープラトン地獄のネジ回しによって退場を余儀なくされる

688 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:58:26 ID:LC2pQRFM0
オタクたちの悪ふざけ

・ザ・マシンガンズ
 言わずと知れたキン肉マンとテリーマンによる超人タッグトーナメント優勝タッグ
 初出はアメリカ遠征編での宇宙一凶悪コンビとの対戦であり、義足となったテリーの初試合でもあった
 フェイバリットは言わずと知れたツープラトン最強技マッスルドッキングである

・ジョン・ドウズ
 完璧超人始祖編にて、バッファローマンとスプリングマンのタッグ『ディアボロズ』と対戦したグリムリパーとターボメンの即席タッグ
 今冬にアニメ放送をしていたので記憶に新しいキン肉マンファンも多いと思う。余談であるがグリムリパーの作画気合入りすぎててビビった
 
・ゴッドセレクテッド
 推し

・ヘル・ミッショネルズ
 超人タッグ編にてネプチューンマンとビッグ・ザ・武道の完璧超人コンビ
 マスク狩超人でもあり、マグネットパワーを使用したクロスボンバーやマスク・ジ・エンドといった強力なフェイバリットを駆使する
 でもスグルが強いのとテリーマンが生きてる甲斐がねえんだよって言ったんで負けた
 
・超人血盟軍
 キン肉星王位争奪編にて、キン肉マンソルジャーが率いるブロッケンJr.、バッファローマン、アシュラマン、ザ・ニンジャで構成された超人チーム
 『なんという冷静で的確な判断力なんだ!!』や『超人血盟軍Lの陣形!!』はあまりにも有名。クズとブスとデブが名乗っていいもんじゃない。身の程を弁えろや

689 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:59:50 ID:LC2pQRFM0
終わりですお疲れさまでした

タブレットのでっけえ画面でNIKKEやるといいですよ

690名無しさん:2025/05/07(水) 11:00:27 ID:KzR2bVqI0
はい

691名無しさん:2025/05/09(金) 15:19:15 ID:Nl3wrRh20
更新乙

692名無しさん:2025/05/11(日) 16:16:49 ID:aZxJcZbs0
今回も面白かったです!

693名無しさん:2025/05/13(火) 16:26:47 ID:ZRljv24Q0
最高!

694名無しさん:2025/05/21(水) 20:13:55 ID:8rC7EXiM0
乙乙
この令和の時代に未だに更新してくれる貴方に感謝だよ
チーム名カッコ良くて好き
後、個人的に>>229の文彦の膝「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!こいつぁ傑作だァ!!!!!!!!!!!!」
が死ぬほど笑って大変だった

695名無しさん:2025/06/10(火) 21:41:54 ID:UORnHA7.0
おつ
予選試合がダイジェストで飛ばされちまった…試合描写を楽しみにしてたもんだから焦らされる
何気に木本の働きが縁の下の力持ちじゃない?情報収集は重要そうだし

696名無しさん:2025/06/22(日) 01:04:30 ID:kIuf.8260
乙!

>从;゚∀从そ「うわバケモノ!!!!!!!?????なんだマネージャーか」

ここひどすぎて笑った
ブーンの修行のキモさが吹っ飛んだ

697 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:08:41 ID:pdeLbfIc0
Black Sheepが予選二回戦を圧勝するに到るまでの最大の課題は、『戦術』であった

装甲と主砲を最低限に抑え序盤から圧倒的なリードを稼ぐ韋駄天『ラビット』
加重と引き換えに重装甲高火力を誇る不沈艦『タートル』
猛烈なチャージングと砲撃で一切合切を薙ぎ倒す攻撃主体の『バッファロー』
生存重視で攻守共にバランスが取れたオーソドックスな『ホース』

どの戦術を取るかは、走行の要であるジョッキーの脚質に合わせられる場合が多い

大潮 本八、小練 詩音、そして三浦 紘一
三人の識者による宇都宮 徳雄への評価は、『バッファロータイプ』であると一致していた
小柄な体格から繰り出されるとは思えない強烈な突進は、二軍であれどプロ選手が『チート』の使用を疑う程であり
一度スイッチが入れば、目に付くもの全てを破壊する生来の凶暴性を持ち合わせている
合宿で徳雄のプレイを目の当たりにした小練は、その最大の武器を『抑え込む』よう指導した
どれほど凄いプロ選手であろうと、体力は有限である。徳雄の爆発力は継続させるものではなく、オンオフのコントロールをするべきであると
徳雄はそれに倣い、合宿期間中は得意とする『攻めの走り』よりも、走行距離を伸ばす為の『守りの走り』の会得を目標に訓練を行った

しかし、合宿後にキャプテンの視点から彼の走りを体感した本八は、小練の師事に疑問を抱く
彼の指導は間違ってはいない。だが、『特別危機感を覚えるほどではない』と感じたからである
特に指示せず自由に破壊させても、ゲーム終了後に疲弊した様子も無く、連戦してもパフォーマンスに大きな影響は出ていない
体力の向上もあるだろうが、一、二ヶ月程度で劇的に上昇するわけではない。小練と本八の間で、認識の齟齬が生じていた


( ゚д゚ )「恐らく、ガンナーの有無によるものだろうな」


齟齬は、かつて日本一を獲ったトッププレイヤーがアッサリと解消した

698 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:11:54 ID:pdeLbfIc0
徳雄はゲーム理解の為、合宿前半はジョッキーのみのソロプレイに徹した。小練が彼の叩き出したキルスコアを目の当たりにしたのは、そのタイミングである
つまり、車体による『チャージング』だけで敵車両を破壊していた。CPU相手とは言え、フルパーティーである相手に単騎で挑むのは狂気の沙汰ではあったが、徳雄はそれを成し遂げてしまった
特殊条件下での成功体験は、真っ当なジョッキーとしての成長の妨げになる。そう危惧した小練は、その場では苦言を呈した

何故ならチャリオッツは、本来『三人一組』で行う競技だからである


( ゚д゚ )「言うまでもないが、チャージングによる撃破と、砲撃、アビリティも組み合わせた撃破ではジョッキーの負担に天と地ほどの差がある。稀にチャージングのみ使用するチームもいるが、相応のカスタマイズは施されているものだ」

(´・ω・`)「つまり小練先生の懸念は、徳雄単体でしか見てねえから起こった『杞憂』だったってのか?」

( ゚д゚ )「実際にプレイを目の当たりにしたわけではないから何とも言えんが、彼が徳雄くんに危うさを感じたのは確かだろう。お前さんも少なからず、思う所はあったのだろう?」

(´・ω・`)「まぁな。だからこそ拍子抜けしてんだ。『ここまで上手くいく』とはな」


本八の頭を悩ましているのは、徳雄と文彦の組み合わせが『完成している』点にあった
固定砲の弱点を、車体を高速回転させるアビリティ『スピンミキサー』で補うだけで、舌を巻くほどのシナジーを発揮したのは嬉しい誤算だったが、その完成度が他のアビリティを『蛇足』にしてしまう
残り4コストを使わないという選択肢はありえない。しかし、『あれば便利』程度のアビリティで妥協したくない
予選まで残り二週間に迫った所で、本八はいても立ってもいられず、『伝説』へと助言を求めに、彼が経営する寿司屋へと出向いたのだった


( ゚д゚ )「贅沢な悩みだな。多くのチームは不足を補う為に工夫をするが、お前さんは才能を潰さない為に工夫をせねばならないとは」

(´・ω・`)「だから難しい。単に弱点を補うだけなら、スピンミキサーのように明確な答えは出やすい。だが、元々の強みを更に発揮させるとなると、沢の多さに迷っちまう」

( ゚д゚ )「まさか弱音とはな。初めてこの店に足を踏み入れた日からは考えられん」

(´・ω・`)「何か誤解されているようだが、俺だって人の子だよ。弱りもすりゃ愚痴も吐く。金と暴力で解決出来ねえ問題が苦手でな」

(; ゚д゚ )「少しは真っ当な人間味があると思えば……」


クズは弱っててもクズだった

699 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:13:08 ID:pdeLbfIc0
( ゚д゚ )「キャプテン主体のアビリティを使う気は無いのか?」

(´・ω・`)「ねえな。これでもチャリオッツファンの端くれだが、プレイ歴は浅い。今さら手に馴染むフェイバリットアビリティなんざ見つけてる余裕はねえ」

( ゚д゚ )「謙虚な男だな……トップを狙うチームは、どのポジションも少なからずエゴが強いものだが」

(´・ω・`)「俺は主役になりたいんじゃねえ。最高の特等席で最高の景色が見てえだけの観客だ。そういうのは若い二人に譲ってやるよ。デブなんか我欲の塊だしな」

( ゚д゚ )「……」


三浦は内心で前言を撤回した。チャリオッツプレイヤーなら誰もが望む日本一の頂
その座に興味はなく、ただ『景色が見たい』というだけでジャパンカップに挑むのだ。これ以上の贅沢があろうか、と


( ゚д゚ )「私はとんでもない化け物を生み出してしまったようだ」

(´・ω・`)「娘さんそんな風に言うの良くなくない???????そこに愛はあるんか??????」

( ゚д゚ )「オメーだよボケナス」

700 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:14:27 ID:pdeLbfIc0
(´・ω・`)「大将、どうにか出来ねえか?」

( ゚д゚ )「そうだな……」


チームの強みを損わず、コスト分に見合った働きをするアビリティ
言われてみれば、両の手では収まらないほどの候補がある。6shooterの弱みは固定砲だけではない。6発分の装填にかかる時間や短い射程もネックとなる
だがこれを解決する気であるなら、選択肢は明確で、本八もわざわざ相談に訪れたりもしないだろう。これらの弱点は、技量で補えるレベルにまで到達していると見ていい
それでもネックであることには変わりない。相手は日本屈指の強豪たち。実力が拮抗しているのならば、勝負の別れ目は些細なきっかけだ
装填速度がほんの少し遅かった。有効射程まで僅かに届かなかった。チャリオッツに限らず全ての競技において、敗者を敗者たらしめた残酷な誤差がある
残念ながら、どれほどの強豪でも全ての懸念を解消するのは不可能であり、都合の良いアビリティも存在しない


( ゚д゚ )「これは真に受けずに聞いて貰いたいのだが」

(´・ω・`)「お?」


だがあえて、あえて万能のアビリティを挙げるとするならば
『対価と引き換えにあらゆる局面に応えてくれるアビリティ』があるとするならば―――――

701 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:16:01 ID:pdeLbfIc0





( ゚д゚ )「『闇市』を積むのも、一つの手かもしれないな」





.

702 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:16:58 ID:pdeLbfIc0



第十話



『Kill Them All』



.

703 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:19:05 ID:pdeLbfIc0
スーパー銭湯ごっつ熱い湯 食事処『稲葉郷』にて


( ,,^Д^)「古い手を使うね」

(-_-)「わかったの?」

( ,,^Д^)「わかったと言うより、それしか考えられないってとこかな」


Eブロック二回戦を終え一汗流した『バジリスク』の宝木 蕗也は、同ブロックで破格の戦果を挙げたBlack Sheepのリプレイアーカイブを二回ほど見直し、一つの結論に到った
決め手は、『アイテム使用率の高さ』である。Black Sheepは1ステージにつき、およそ3〜4回アイテムを使用していたのだ


( ,,^Д^)「『ブラックマーケット』を搭載してるね。じゃないと説明がつかない」

(-_-)「闇市?あれを実戦で使う人いたんだ……」


『ブラックマーケット』。アイテム購入が出来る『ショップ』機能を、随時利用出来る3コストアビリティである
ゲーム内通貨である『G(ゴールド)』は、スタート時に一律で500G配布され、ステージクリア時、もしくはNPC、敵チーム撃破時に付与される
ショップではGを消費し、装甲の修繕や補強、強力な特殊砲弾、使い切りアイテムの購入の他、不要なアイテム、トレジャーを売却し、Gの入手と荷重の軽減を行える

ショップが利用出来る機会は四つ。一つはゲーム開始直前の『スタンバイショップ』
二つ目は、順位に関わらずステージクリアのタイミングで利用出来る『ピットインショップ』
ここまでは、全チームが利用出来る常設ショップである

三つ目は、コース内稀に出現する『隠しショップ』。これはトレジャーの一種であり、運良く見つけたチームは強力なアイテムを格安で手に入れられる
そして最後の四つ目が、件の『ブラックマーケット』である。『闇市』とも称されるこのアビリティは、好きなタイミングでアイテムを購入出来る利便性があるが、通常のショップと比べて5割増しという暴利な値段設定がなされている

704 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:20:51 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「Black Sheepは1ステージ目で既に四回もアイテムを使用している。スタンバイショップで四つ買い揃えるには、最初に配られる500Gじゃ少し足りないかな」

(-_-)「足りない分は敵チームの撃破ボーナスで稼いで、ブラックマーケットで買ったってこと?」

( ,,^Д^)「恐らくね。倒した相手のボックスから奪った線も考えられるが、敗退の危機に面してる中でアイテムを温存するようなボンクラは二回戦にはいないだろう」

(-_-)「でも、割りのいいショップじゃないんでしょ?ナーフ食らってから全く使われなくなったんじゃないの?」

( ,,^Д^)「調整前の割増は2.5割。これでも割高だったが、2コスアビリティの『荒稼ぎ』との組み合わせによる戦術が流行した」


『荒稼ぎ』は、付与されたGに10%のボーナスを加算するパッシブアビリティである
ブラックマーケットで購入したアイテムでNPCを狩り、得たGでまたアイテムを購入するというサイクルシステムが流行した時期があった
この戦術の大きな利点は、ブラックマーケットでの出費より、NPC狩りによる収入が僅かに上回っていた事である
そもそも、車輌には主砲という攻撃手段が備わっている為、必ずしもアイテムを使わなければならないわけではない
稼ぎの大きなボス級NPCに、潤沢なアイテムを使用して比較的容易に倒し、更にブラックマーケットでアイテムを買い込むというサイクルが、あろうことかプロを始めとした最高ランク帯で流行したのだ


( ,,^Д^)「どうしてだと思う?」

(-_-)「先立つものが必要だからでしょ。自力でNPCを倒せる能力がなければ、Gを効率よく稼げないんだし」


NPCの撃破は勝利の必須条件ではない。それがどれだけ弱かろうと、リスクであり障害である。難なく乗り越えられる自信が無ければ、避けて通るのが無難だ
安定してNPCを養分として取り込める実力があって初めて、カラス戦術のサイクルは機能する
運営も、チャリオッツのバトル要素を盛り上げようと鳴き物入りで実装したアビリティだったが―――――


( ,,^Д^)「その年のジャパンカップ、総勢18チーム中、実に15チームが同じアビリティとカスタムだったのさ」

(-_-)「対戦ゲーの常だね……」


『荒稼ぎ』と『ブラックマーケット』。そしてNPCを狩るのに最適化された車輌カスタム。違うのは車輌のカラーリングのみ
相手チームそっちのけでNPCを狩り、どれだけアイテムを溜め込めるかの競技と化したのだ
案の定、チャリオッツ界隈は荒れに荒れ、危惧した運営は年明け早々にナーフを発表
荒稼ぎはボーナスを5%に減らされ、ブラックマーケットは5割の値上げが課された

705 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:23:19 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「収支のバランスが見直され、NPCを狩るだけでは赤字に。ようやく闇市ブームは終焉を迎えた。この戦術は、卑しくNPCを漁る姿から、皮肉を込めて『カラス』と呼ばれたのさ」

(-_-)「カス……」

( ,,^Д^)「え?」

(-_-)「え?」


シンプル悪口が出た


(-_-)「でもカス」

( ,,^Д^)「おおっと、もう取り繕うのもやめたのかい?」

(-_-)「Black Sheepは1コストのスピンミキサーを積んでるよね?荒稼ぎ無しでブラックマーケットが運用できるの?」

( ,,^Д^)「相当カツカツだと思うよ。これだけ相手チームを屠ってもトントンなんじゃないかな」

(-_-)「そこまでして使う意味ある?」

( ,,^Д^)「あるとも。ブラックマーケットが何故流行ったと思う?」

(-_-)「え……ショップを介さずアイテムが買えたのと、荒稼ぎとのシナジーがあったのと……」

( ,,^Д^)「視点を変えて考えてごらん?」

(-_-)「……」


『バジリスク』のガンナーである柊木 守は、勿体振るキャプテンに苛立ちながらも思考を巡らせてみる
カラス戦術は、走行補助や強力なフェイバリットアビリティを犠牲にしてアイテム購入だけに特化している
今も使い手が一定数いる『ドラキャット』も同じくアイテム特化型だが、此方は入手したアイテムを強く使うことに重きを置いている為、アビリティ編成は異なるものとなる

では何故、カラス戦術はブラックマーケットだけに重点を置いたのか?

706 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:24:37 ID:pdeLbfIc0
(-_-)「……あ」


柊木は凝り固まった頭が、一気に解ける気持ちがした。カスは『視点を変えて』と言ったのだ着目すべきは『便利な携帯型ショップ』ではなく、『アビリティ』しての側面である
アイテムは入手するだけではなく、使用して初めて真価を発揮する。『アイテム使用までをブラックマーケットの効果として捉えるのならば』


(-_-)「『Gさえ支払えるなら、抜群の汎用性を持つアビリティとして機能する』から……?」

( ,,^Д^)「正解」

707 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:26:01 ID:pdeLbfIc0
チャリオッツは、各々が考える最強のアビリティ編成を『5コスト』の制限内で組み合わさねばならないが
ブラックマーケットは、『アイテム』によってコスト制限の枠を越えた活躍が出来るのだ。この唯一無二の汎用性こそ、カラス戦術が流行した一番の理由である
しかし、これはあくまで『理論値』である。結局のところ、継続的にGを稼がないことにはブラックマーケットは機能せず、3コストを無駄に潰すだけの置き物と化すのだ
だからこそ、『荒稼ぎ』と組み合わせて資金の枯渇を防ぐ必要があるのだが、Black Sheepは既に1コストアビリティ『スピンミキサー』を積んでいる。これが意味するのは―――――


(-_-)「Black Sheepは、必要最低限しかブラックマーケットを使っていない……ってこと?」

( ,,^Д^)「そうなるね」


カラス戦術が流行した理由の一つに、対抗手段が『ミラー戦術』しか無かったのが挙げられる
千差万別の手を使うカラス戦術に対して優位に立てる『メタ構築』が見つからなかったのである
言わば、アイテムの爆買いはミラー環境ならではの現象であると言える。では、カラス戦術がナーフによって制限された現環境ならどうなるか


( ,,^Д^)「相手がアイテムの物量を押し付けて来ないなら、闇市で一つか二つアイテムを買えればこと足りる。バカの一つ覚えみたくGを稼ぐ必要もない。実力が拮抗してるなら、ほんの少しの後押しさえあれば優位に立てるんだからね」

(-_-)「でも、わざわざ『ショップを介さないと意味を成さない』ブラックマーケットを使う理由にはならないんじゃない?他にも強力なアビリティは山ほどあるのに」


ブラックマーケットは抜群の汎用性を誇るが、効果の発動に到るまでには
ショップを開き、アイテムを選択し、支払いを済ませ、到着を待つ。以上の手順を踏まねばならない
接敵する前に予め購入を済ませておく手もあるが、即時発動のアビリティとは違い、手間であることには変わりない
これらのテンポロスは、トップランク帯でのゲームにおいては致命的な欠点となる。プロチーム相手なら猶更だ。宝木は至極真っ当な柊木の疑問に、心底嬉しそうに破顔した


( ,,^Д^)「全く、キミとの会話は楽しくて仕方ないよ」

(-_-)「キモ」


ノータイム悪口が出た

708 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:27:43 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「守の言う通り、他のアビリティの方が何倍も使い勝手がいい。ブラックマーケットが廃れたのは、発動までのテンポの悪さも原因なんだ。カラス戦術はそれを補うための買い占めでもあった」

( ,,^Д^)「ここでおさらいだ。カラス戦術はどの層で流行した?」

(-_-)「爆買いする為に安定してGを稼げるトップランク帯……」

( ,,^Д^)「つまり?」


柊木は苦々しい表情を浮かべた


(-_-)「『強力なアビリティに頼る必要のない、プレイヤースキルの高い層』」

( ,,^Д^)「その通り!!」


興奮した宝木は手を叩いて喜び、銭湯の利用客の迷惑そうな視線が二人が座るテーブルに突き刺さる
柊木は眉間を寄せて無言の批難を向けるが、宝木は周囲の目を気にすることなく捲し立てる


( ,,^Д^)「アビリティという魔法に頼らず、『腕』と『脚』に絶対の自信を持つチームだからこそ、致命的な欠点を持つブラックマーケットの恩恵に預かれるのさ」

(-_-)「……それは、鼻につくね」

( ,,^Д^)「だろう?文彦の新しいキャプテンは、よほどの『食わせ者』だ」


Black Sheepの分析を行い、宝木の結論と一致したプロチームは、揃って同じ感想を抱く事となる
『舐められている』。ジャパンカップという大舞台で、今や誰も見向きしないアビリティを抱えて挑まれている
競合相手の実力を安く見積らねば出来ない決断は、そのまま『挑発』として捉えられる。例えそれが意図したモノでは無いにしても、『生意気でデカい口を叩くポッと出の新人』というイメージは避けられない

709 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:29:33 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「この一戦は彼らからジャパンカップに対する『宣戦布告』さ。僕らバジリスクや『クワイエット』がいるブロックで、チャリオッツに精通した強豪にしか伝わらない方法を取るとは恐れ入るじゃないか」

(-_-)「応えるの?」


蟒蛇はラスト・ワン主義の超攻撃型プロ集団。売られた喧嘩は常に買う。明日行われる大規模な予選三回戦で、やろうと思えば早々に決着をつけられる
徳雄に執着する気持ち悪いキャプテンと、『憎悪を隠そうともしない新しいジョッキー』とは違い、フラットな柊木は『その方が都合が良い』と考えた
Black Sheepの宣戦布告が、彼らの思惑以上に広まっているならば、明日は本戦以上の激戦を強いられる筈である。その機に乗ずれば、ライバル候補を楽に蹴落とせるのだ


( ,,^Д^)「どうしようか」


それがわからぬ蟒蛇のトップでは無いが、宝木は戯けた様子で含み笑うだけだった


(-_-)「ハァ……好きにすれば?」


早々に説得を諦めた柊木は、ソフトクリームが溶けた甘いソーダを啜った

710 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:45:43 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



翌日、ジャパンカップEブロック三回戦。勝ち残った75チームの中から3チームが選出される
注目はやはり、三連覇という前人未踏の偉業に挑む絶対王者『クワイエット』と
昨年、惜しくもクワイエットの逃げ切りを許し、二位の座に沈んだ『バジリスク』である。そしてもう1チーム―――――


「先日の二回戦、2位通過でありながら驚くべき撃破数を挙げた『Black Sheep』。こちらなんと、あの参羽鴉グループの代表取締役である『大塩 本八』氏がキャプテンを務めております。西田さん、和菓子業界の大御所の参戦、どう思われますか?」

「いやぁ〜、ね。恐らく、今後公にされるであろう不祥事のね、目眩しなんじゃないかと勘繰っちゃいますよね。彼ね、私生活ではしょうもないこといっぱいやらかしてますからね。でも美味しいですよね参羽鴉のお団子ね。うん。あそこ、食品に関してはどこよりも信頼できますからね」


テーブルの中央で浮かぶホログラムビジョン。その片隅で実況のアナウンサーと解説の年配男性が、肩を並べて三回戦に挑む有力チームの簡単な紹介をしていた
今回が初のジャパンカップである無名のBlack Sheepだが、二回戦の活躍に加えて、悪名高き著名人がキャプテンともなると、否が応でも注目度は高まる
実際、SNSの急上昇トレンドにはBlack Sleepの名前が記されている。内訳の半分は活躍への驚きであり、もう半分は根拠のない八百長疑惑と誹謗中傷だった


(^e^)「ギャハハハハハハ!!人柄がクソだとネットも荒れるなぁ〜!!!!!!!!」

从 ゚∀从「今度鏡買ってやるよマネージャー」


ハヤテのメンバーは、Eブロックの行末を見届ける為に事務所の一室を貸し切って観戦の場を設けた
当初は芸能活動縮小に否定的だった上層部も、ジャパンカップ出場が決定した今では全面協力の構えを見せている
芸能人のジャパンカップ優勝は、事務所に『メジャーリーガー』が所属するも同義なのだ

711 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:49:38 ID:pdeLbfIc0
(,,;゚Д゚)「目立ちすぎだ……どうするんだ今日マジでよ……」

( ・∀・)「文彦くんはなんて?」

(,,;゚Д゚)「『バチクソに喧嘩売ったからえらいこっちゃやでホンマ』と言っていた。大潮さんが採用したアビリティが、『わかる人にはわかる挑発』になっているらしい」

从 ゚∀从「ブンちゃんいつから関西人になったの?」

( ・∀・)「アビリティが挑発に?」

(’e’)「闇市だろ。そりゃ癪に障るわな。古参だと猶更だ」


ハヤテの面々は丸くした目を、この場の顔面偏差値の著しい低下を招いている人物へと向けた


(;・∀・)「わかるんですか?」

(’e’)「なんでわかんねんだよ現役だろオメーら。あからさまにアイテム使用率がバグってんだろが。その場で都度買い足してんだよ」

(,,;゚Д゚)「闇市……あっ、『ブラックマーケット』!!カラス戦術か!!」

从 ゚∀从「何それ?」

(,,;゚Д゚)「大昔に流行ったアイテム戦術さ。チャリオッツ黎明期、腕に覚えのある上位ランカー達の間で流行したんだ。ナーフを受けてからは急速に廃れたそうだが」

(’e’)「『高コストアビリティを使うまでもねえ』っていう意思表示だな。憎たらしいことに、口だけじゃねえってのは撃破数で証明してる。今日は荒れそうだぜ」

从 ゚∀从「へー、詳しいじゃん」

( ・∀・)「上手さん完全にやってたでしょ。なんで教えてくれなかったんですか?」

(’e’)「なんで教えなきゃならないんですか?」

( ・∀・)「意地悪だなぁ」

712 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:51:39 ID:pdeLbfIc0
「さて、運命のEブロック最終戦。モード選択に移ります」


レースかバトロワかの決定は、ゲーム開始直前にクジで決められる。車輛に関しては、予選が終わるまでカスタム不可とされている為、ルールに合わせることはできない
つまりBlack Sheepは、二回戦と同じく『ブラックマーケット』を積んだ状態で三回戦に臨まねばならない


从 ゚∀从「どっちが好都合なんだ?」

(,,゚Д゚)「当然レースだ。勝利条件が上位三位入賞なんだからな。向かう先は敵ではなく、『ゴール』だ。二回戦であれだけキルを稼げたのも、相手の意識がゴールに向いていたから先手を取れたというのもあるだろうしな」

(’e’)「フラグ立ったな」


「決まりました!!『バトル・ロワイヤル』!!最後まで生き残った3チームが、年末の大舞台へと駒を進めます!!」


猫山は顔を両手で覆った


(’e’)「や っ た ぜ」

(,,∩Д∩)「終わった」

(;・∀・)「早いよ」

从 ゚∀从「まだ始まってもねーよ」

713 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:53:02 ID:pdeLbfIc0
「さて、改めてジャパンカップEブロック三回戦の詳細をお伝えします。バトル・ロワイヤルモード、ステージ『円落街』。路面『インターロック』。面積はおよそ32平方キロメートル。NPC出現率は『低設定』。参加総数75チーム。スタンバイタイミングでのカスタマイズは不可となっております」


( ・∀・)「ステージは悪くないね」


チャリオッツのステージには、それぞれバックストーリーが存在する。今回ピックアップされた『円落街』は、天空に浮かぶ滅んだ魔術都市という設定だ
プレイヤー達は、時間経過と共に外周から崩れ落ちていくステージの中で、互いに競い合いながら中央の安全圏を目指して進んでいく
煉瓦造りの廃墟の中には、迎撃用の防衛装置が各所に設置され、かつて街を護っていた『ゴーレム』や『ガーゴイル』が行手を阻む


(’e’)「レンガ路ならまだマシな方だろうな。建物の遮蔽も多いし、ハイドしながらじっくり進行するのが丸い」

从 ゚∀从「こういうのって速攻で真ん中陣取るのもアリだと思うんだけど、どうなん?」

(,,゚Д゚)「18チームだけならそれも手だろうが、これほどの規模だと八方から囲まれて袋叩きがオチだ」


『PUBG』や『Apex Legends』を代表とするバトル・ロワイヤルゲームは、上空から任意のタイミングでステージ入場を行う
チャリオッツも偉大なる先人に倣い、輸送機からパラシュート投下によって降り立つ
この時、最端から縮小に追われつつ接敵を避けて中央の安全圏を目指すか
逆にあえて早々に中央付近に降り立ち、敵チームと有利なポジションを奪い合うかで戦略が分かれる


(,,゚Д゚)「ステージ縮小に合わせてじっくりと中央まで進み、ギリギリまで競合を潰し合わせ、最後に漁夫の利を掻っ攫う……これがバトロワにおける常套手段だ。余程の戦闘狂でなければ、蟒蛇だって初手中央は避ける」

从 ゚∀从「『レッドシューズ』とか『センチピード』とか?」

(,,゚Д゚)「その通りだ。本戦でかち合いたく無いイカれた連中だな」


どちらも蟒蛇に負けじとも劣らない攻撃特化チームである
ラスト・ワンによる『勝利』を目的とする蟒蛇とは違い、彼らは勝敗を問わず『破壊』を楽しむ享楽主義者として恐れられている
タチの悪いチームではあるが実力は本物で、どちらもジャパンカップ本戦出場が決定している


从 ゚∀从「なぁギコにぃ、あのオッサンがそんな大人しくすると思う?」

( ・∀・)「考え難いね」

(’e’)「全部フラグになるからもう喋んなお前」


(,うД゚)「そこまで言うこと無いじゃん……」


繊細な猫山は全否定されなんかもう泣きそうだった

714 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:54:47 ID:pdeLbfIc0
(,,゚Д゚)「いやだが考えてもみろ。ジャパンカップ予選三回戦は、国内最大規模のゲームだ。残り3チームになるまで延々と戦い続けるなんて現実味がなさ過ぎる」

(’e’)「まぁ、言われてみりゃあな。初っ端から全勢力が一塊になるわけでも無し。宇都宮が幾らバケモンでも、息が続かねえだろ」

( ・∀・)「フフフ……果たして本当にそうかな?」

(’e’)「オメーは宇都宮の何なの?」


「さぁEブロック最終戦、全国のチャンピオン候補達が続々と操縦席へと乗り込みます。この75チーム中、たった3チームだけが、栄光への乗車券を手にすることが出来るのです」

「悔いの無いね、試合にしてほしいもんですね。うん」

「ライブ映像は見下ろし型の『フィールドカメラ』と、1プレイヤー集中型の『フォーカスカメラ』の切り替えが可能です。お好み、戦況に合わせてご視聴ください」


『フィールドカメラ』は、マップ全体図を俯瞰で撮影し、ゲームの流れを観戦するモードである
チームはそれぞれ番号を振ってある為、誰が何処で何をしているかも把握し易い
『フォーカスカメラ』は、指定した1チームをTPS形式で集中して撮影するモード
車体の挙動や砲撃、アビリティ使用タイミングなど、プレイスタイルを間近で堪能できる他、推しチームの応援にも用いられる


从 ゚∀从「ブラシ何番?」

( ・∀・)「ブラシて。18番だね」


試合状況を映すメインビジョンの隣には、参戦チーム一覧と生存数を示す『75』の数字が表示されている
撃破された場合、すぐさまチーム名が一覧から削除され、数字が一つ減る。制限時間は設けられていないが、ステージの縮小と残りチーム数が試合経過の目安となる

715 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:57:02 ID:pdeLbfIc0
(,,゚Д゚)「クワイエットが21、バジリスクが53……他にめぼしいチームは……」

(’e’)「ブラシと同じ枠組みで一位通過の『Anker Take』が17。他にEブロックで有力候補と言えば……35番『VIP Library』、45番『CHERRY CHASER』、2番『泥男(でぃもん)』、70番『マッハブロー』、55番『天炎BOYZ(あまえんボーイズ)』……三回戦はどこも激戦必至だが、Eブロックはキリがねえな」

(,,゚Д゚)「今年は偏りましたね。お陰で我々は辛うじて一位通過出来ましたが」

从 ゚∀从「運も実力の内ってな」

( ・∀・)「ヨシさん、これってやっぱり……」


猫山は渋い表情を浮かべる。3つしかない出場の座を賭けた75組のバトルロワイヤル
その内2つに、Eブロック二大チームと言っても過言ではない『クワイエット』と『バジリスク』が座るとすれば
残り一つを奪い合う壮絶な死闘となるのは想像に難くない。ましてや死ねば終わりのバトルロワイヤル
『格上とわかっている相手にわざわざ挑むメリットなど一切無い』のだ


(,,゚Д゚)「Black Sheepは二回戦で自分の首を二度も締めている。一つはアビリティによる無言の挑発。もう一つは戦果を『挙げ過ぎた』事だ」

( ・∀・)「無名の新人があれだけ大暴れすれば、自ずと警戒度は上がる。残り一つの席の座も危うくなる、と」

(,,゚Д゚)「危険因子が紛れ込んだとなれば、従来のパワーバランスでゲーム仕切り直す為に、初っ端から結託して襲いかかってくるかもしれない。『出る杭は打て』とな」

(’e’)「奴らの昨日の行動が、他の連中に『チーミング』させる大義名分を作っちまったってこったな。ま、自業自得だ」

( ・∀・)「フフフ……果たしてh(’e’)「うるせえ」


(´・∀・)


从 ゚∀从「けど、あのオッサンが『そこ』まで考えが及ばねえことってあるか?当の本人が一番わかってんじゃねえの?」

(,,;゚Д゚)「それもそうなんだが、自己顕示欲を満たす為というのも否定出来ないんだよな……考えがあっての行動であって欲しいが……」

716 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:02:49 ID:pdeLbfIc0
「今、最後のチームが乗り込みました!!年末の大舞台への切符を手にする運命の第三回戦。抱くのは夢かそれとも野望か。自転戦車を乗せた輸送機が……今飛び立ちました!!」


(,,゚Д゚)「始まったか……」


円落街より更に上空から、巨大な輸送機がフィールドを縦断するルートで飛行する
早い者は開始直後には空挺戦車よろしくパラシュート降下を始めているがーーーーー


「22番『拳応』、63番『コタツとキング』、44番『七大生徒会』、序盤から続々と投下を始めております。続けて……」


(’e’)「少ないな……」


ステージ端から中央へとゆっくり進んでいく安全策は、練度を問わず生存率を高める有効手段だ
バトルロワイヤルの勝敗は撃破数ではなく『生存』である。コソコソと逃げ隠れして卑怯と呼ばれる筋合いは無い
むしろ『正攻法』であるのだが、今回に限ってその作戦に則るチームは少なかった

717 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:03:33 ID:pdeLbfIc0
( ・∀・)「でも有力チームばかりですね。挑発に乗らなかったと見るべきでしょうか?」

(’e’)「だろうな。しかし……」


『Black Sheep』、『クワイエット』、『バジリスク』は未だ輸送機の席に腰を埋めたままである


(,,;゚Д゚)「なっオイ……なん……ええ?マジで言ってる?あっヤバい息ができコヒュー、コヒュー」

从 ゚∀从「早いって」

(’e’)「オメーらの予選三回戦の時より限界じゃねーか」


Black Sheepの挑発に彼らが乗ったとするならば、本戦進出の道を断ち切る『対の鉞』に他ならない
同じEブロックである以上、突如現れた危険因子は彼らの立場を脅かす存在でもある。放っておくメリットは無い


(’e’)「国内2トップに袋叩きに合うんなら光栄だろ。後で慰めてやりゃあいいんだよ」

(,,;゚Д゚)「上手さん……」

(’e’)「俺は……」


(^e^)「クソほどコキ下すがなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ギャーーーーーーーーーーーーーーーハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」


作中三大ゴミカスの一角を成す男がここにいた

718 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:04:24 ID:pdeLbfIc0
从 ゚∀从「だから気が早いって。袋叩きに遭うと決まったわけじゃ……」

( ・∀・)「降りた!!」


実況のトーンが二つ上がる


「ここで降りた18番『Black Sheep』!!おおっとこれは!?21番『クワイエット』と53番『バジリスク』も続けて降下!!Eブロックのダークホースを早々に潰すつもりかーッ!!」

「残りも次々と降りていってますね。うん。これは短期決戦にね、なりそうですね」


(,,;゚Д゚)そ「アアアアアアアアアアア!!!!!!?????」

(^e^)「逝ったああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


高岡は『この部屋防音で良かった』と思った


从 ゚∀从「中央ルートっぽい?」

( ・∀・)「そう……いや、どうだろ」


半数以上がBlack Sheepに続いて降下を始めたが、クワイエットとバジリスクの存在に気付いたのか、散り散りに落ちていく


从 ゚∀从「意外と……落ち着いた立ち上がりになりそうじゃね?」


結果、中央付近に降り立つチームは、両手で数えられる程度まで減った

719 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:05:12 ID:pdeLbfIc0
( ・∀・)「大潮さんが『挑発』したのは、文彦くんの言動から間違い無いとして、彼の思惑通りの展開なのかな?」

(,,゚Д゚)「むぅ……もし彼がカラス戦術をなぞっているなら、まずはGを稼ぐ必要がある。となると、NPCかプレイヤーを撃破しなければならない。アイテムを購入出来ねば、ブラックマーケットはコストを食うだけの邪魔モノだ」

从 ゚∀从「じゃあよ、初動さえ抑えちまえば楽勝ってことか?」

(,,゚Д゚)「研究不足のチームはそう考えるだろうな」


『考えが浅い』と遠回しに指摘された高岡は、あからさまに不貞腐れる
猫山はそんな可愛げのある後輩の頭を、宥めるようにポンポンと撫でた。ファンが見たら発狂の末に尊死する光景である。なんだ尊死って。気持ち悪いな


(,,゚Д゚)「まぁ古い戦術だから知らないのも無理はない。カラス戦術の使い手はどれも地力が高かった。つまり、アビリティに頼らずとも強かったんだ」

从 ゚∀从「てことは、Gを稼ぐ為に挑発したってのか?」


高岡はイケメンの頭ポンポンに一切響いた様子もなく、ウザそうに払い退けた。従弟の豚とは違ってぞんざいに扱われた経験が少ない猫山はちょっとだけ傷ついた


( ・∀・)「カラス戦術だって見抜いたチームがわざわざ餌になろうとするかな?ちょっとわかんなくなってきたぞ」

(’e’)「……なぁ、そんなに大勢『気づいた』と思うか?」


上手の一言に、ハヤテの面々が顔を見合わせる。年長者でありチームのブレインである猫山ですら、指摘されて初めて『ブラックマーケット』を使っていると気づいたのだ


(’e’)「カラス戦術は、お前ら現役が産まれる前に流行したアンティークだ。プロでも知らねえ奴がいても不思議じゃあねえよ。それを、『挑発』に用いたってんならよ」



「Black Sheep、クワイエット、バジリスク、ほぼ同時に着陸!!開始1分弱で互いに射程圏内だ!!」



(’e’)「『チャリオッツに深く精通しているチーム』に向けたもんなんじゃねえのか?」

720 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:24:46 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



『円落街』の中心には、街全体を浮かべる『魔力石』を納める石造りの神殿が聳え立つ。序盤でこの場所に降り立ったチームは、暫くの間は滑落によるゲームオーバーの心配はない
神殿から半径およそ200メートルまでが『安全地帯』であり、足場の崩壊は境界線に達した時点で一旦ストップする
この段階で複数のチームが生き残っていた場合、1秒毎に1メートルずつ安全地帯の足場が崩れていき、最後には車輛一台分の広さの魔力石だけが残る
勝利するにはゲーム終了までに相手チームを全て倒すか、魔力石に陣取って崩壊から身を守るかの二通りに分けられる


(´・_ゝ・`)「乗ってきたか」

(;@з@)「因縁あるバジリスクはともかく、クワイエットまで釣れるとは……拙者、気が気ではござりませんぞ」


Black Sheepの参謀達も、予選三回戦をオフィスから固唾を飲んで見守っていた


「Black Sheep、クワイエット、バジリスク、ほぼ同時に着陸!!開始1分弱で互いに射程圏内だ!!」


実況のアナウンサーの鼻息が早くも荒くなる。彼が一呼吸置く間もなく、三つのチームは砲口を向け合った
スピンミキサーと6Shooterによる反射的な砲撃に長けたBlack Sheepが真っ先に王者へと標準を合わせ
貫通力と精密性に優れ、チーム名の由来でもある無音の弩砲『バリスタ』を使うクワイエットが、バトルロワイアルにおいて最も脅威となる大蛇に鏃を向け
指定した回数分『跳弾』するまで炸裂しない、弾力がある榴弾を扱える主砲『仏の顔』を搭載したバジリスクが、黒き獲物に牙を剥く


「撃ったァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!Eブロック予選最終戦の火蓋は、王者と大蛇と曲者が切って落としたァ!!!!!!!!!」


『ほぼ同時』に放たれたそれぞれの砲弾は、名刺交換のように互いの装甲を殴り付けた


(´・_ゝ・`)「曲者とは、言い得て妙だね」

(;@з@)「とんでもない博打を打っておられますからな……」

721 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:25:27 ID:pdeLbfIc0
予選開始一週間前。各ブロックの振り分けが発表された時、本八と文彦は珍しく意見を一致させた
『バジリスクがいる以上、レース、バトルロワイヤル問わず終盤は絶対にバトルで決着がつく』
レースの勝利条件は本来ならばゴールに一着で到着する事だが、予選三回戦は3組のチームが勝者となる
従って、バジリスクが終盤にバトルを仕掛けた場合、ゴールするよりも先に残り3組になる方が早いと踏んだ


( A )「バジリスクを差し置いて3組先着する可能性は?」

(  ω )「バジリスクのジャパンカップ出場回数を見てから物言えお。そんなヘマを蟒蛇のネームドチームがするわけねーだろ少しは考えてから発言しろよブス。ったくこれだから素人は困るんだお。会話のレベルについて来れないなら静かにしてもらっていいすか?」

( A )「」


<うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!捥げるおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!


(´ ω `)「予選のキモはバジリスクとクワイエットが同じブロックに振り分けられたって所だ。両者が三回戦でぶつかるのは、ほぼ確定と見ていい」

(´ ω `)「となると、クワイエットはバジリスクのスタイルに同調した方が手っ取り早いと判断するだろう。ゴールを妨害されて共倒れになるより、その他を一掃した方が楽で確実とな」

( A )「バジリスクを高く見積もり過ぎじゃねーのか?三回戦は75チームも参加するんだぜ?それをたった1チームで制圧出来るってのか?」

(´ ω `)「『あのアビリティ』ならそれが出来ちまうんだよ。豚が6shooterの性能をフルに引き出せるように、その道の『代表格』ってのがゴロゴロいやがんだ。チャリオッツをちょっと齧った程度のニワカが知ったかぶって俺様に意見してんじゃねーぞブス。半年ROMれやカス」

( A )「」


<ぐわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!増えるうううううううううううううう!!!!!!!!!!!!

722 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:26:35 ID:pdeLbfIc0
ライバル関係であるクワイエットとバジリスクだが、本線より一足先に相見える三回戦はあくまで『通過点』であり、真の決着の場ではない
お互いに予選通過を目的とするならば、利害の一致からの共闘もあり得ない話ではない
そしてバジリスクがいる以上、どのようなルールであれ最終的に潰し合いに発展するのは明確だった


(´ ω `)「ここに、『相乗り』させてもらえねえかなって考えたんだよ」


本八の狙いは、三回戦に置ける『クワイエット・バジリスク・Black Sheepによる共闘』であった


その為に必要なパーツが幾つかあった


(´ ω `)「まずは実力を示さねえことには始まらねえ。『振るい』が終わった二回戦で、圧倒的な戦果を挙げる」


両チームに引けを取らない、実力の誇示


(´ ω `)「そして挑発。こいつは三浦の大将の入れ知恵と、チャリオッツの黒歴史を拝借しよう」


『カラス戦術』を用いた無言の挑発


(´ ω `)「最後は運も絡むが……『その他』の下心を擽るとっておきの甘い餌」


『番狂せ』を匂わせる千載一遇のチャンスシーン


(´ ω `)「この三つが上手くかみ合えば、予選への切符は俺らが独占したも同然よ」

723 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:27:49 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「傲慢の極みだね……」


本八がしている事は、『ジャパンカップ初参戦のペーペーが、国内最強クラスと同列である』と吹聴しているようなものだ
九月の半ばに木本が言ったように、この国は『出る杭は打つ国民性』。我が強ければそれだけ顰蹙を買う。ましてや、予選ともなれば格好の獲物だ
実力のある新入りが決勝に出場したいのならば、出来る限り目立たず穏便に、収まるべき椅子に静かに着席すればいい。それが正攻法というものだろう

残念ながら、正攻法は『大潮 本八』のやり方とはマッチしなかった


本八は金や権力、時には暴力すら存分に駆使して欲しい物を手にした後は、恥ずかし気も無く公衆に見せびらかす、クソガキがそのまま大人になったような救いようのない下品な人間である
強いて本八とクソガキの差を挙げるとするならば、手にしたモノは本人にとって、そして他人にとって真に価値があるモノという点だ
誰もが一目見て驚嘆し、羨望し、嫉妬する。その価値があって初めて、本八にとっての『自慢』と成り得る
この予選三回戦は、本八なりの宣戦布告であると同時に、『自慢』を披露する場でもあるのだ

そして彼の『自慢』もまた、お行儀良くゲームが出来るような連中では無かった


「Black Sheepがクワイエットに猛然と迫る!!6shooter有効射程……撃たない!!まさか!?肉弾戦か!?」

「クワイエットは至近距離もね、もの凄く強いですからね。策が無ければ自殺ですねこれはね」

「しかしこれを見逃す蟒蛇ではない!!バジリスクの毒牙が羊の腹を目掛けて襲い来るーーーーーーーーーッ!!」


(;@з@)「宇都宮氏、掛かっておられるのではござらぬか!?クワイエットは『至近距離』こそ避けるべき相手とお忘れなのでは!?」

724 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:29:21 ID:pdeLbfIc0
クワイエットの真骨頂は、遠距離から放たれる無音の射撃ではなく、互いのキャプテンの表情が窺えるほどの『至近距離戦闘』であるとされている
そのワケは、側部装甲に配置されている『四本の太いチューブ』にある
左右に二本ずつ、折り畳まれた状態で装着されている直径30センチほどの太さのそれは、展開時には先端に四つの鉤爪が付いた長さ6メートルの『触手』として機能する
クワイエットのキャプテンは、自らの頭部を隠すマスク兼『ヘッドギア』から脳波を読み取らせて操作し
自転戦車でありながら、『殴る』『掴む』『投げる』『剥がす』といった、動物的なアクションを可能とする
側部装甲兼3コストアビリティとして機能する四本の手足は、某有名アメコミヒーローの名物ヴィランから捩って、『D-Oct』と名付けられた


(´・_ゝ・`)「関係ないだろうね」


D-Octは収納時には装甲として、展開時には手足として機能する。しかしその間、車体側部は薄い鉄板に覆われるだけで防御機能は損なわれる
通常、よほど接近されなければ展開する事はなく、装甲としても至って平凡な耐久値しか持たない。肝心の操作難易度も、開発者本人ですら至難と呼ぶ程に高い
砲撃という遠距離攻撃手段が標準装備であるチャリオッツにおいて、高々6メートルしかない腕は取るに足らず、装甲としても秀でてはいない。装着するにしてもアビリティコストまで要求されるのが致命的であった
D-Octもまた、少々物珍しいだけの失敗装備として、ストレージの奥深くでひっそりと眠る運命を辿ろうとしていた

『王者がその手を取るまで』は


「王者クワイエット!!早々に剛腕を広げる!!バジリスクは間に合わないか!?」


クワイエットは車体を鋭く45度切り返し、迫り来るBlack Sheepと真っ向から対面する。D-Octの展開時に防御力が下がると言っても、あくまで側面だけである
しかし前面装甲も、衝突に対して強固とは言えない円錐型の『ペンシルチェスト』。正面からの砲撃を外側へ逸らす事には長けているが、チャージ前提の重厚装甲には弱い
Black Sheep最大の武器は、文彦と6shooterによる精密かつ刹那の連射。そしてそれを支えるジョッキーの強靭な足腰から繰り出される突進
強力なアビリティを積むまでも無いと結論付けるほどに凶悪な、大潮 本八の『自慢』。まともに受ければ王者とて無傷では済まない

725 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:30:19 ID:pdeLbfIc0
「受け……」


爪を広げたD-Octを突き出し、ドッシリと構えるクワイエット。Black Sheepは速度を落とさず突っ込んでいく
四つの触手はBlack Sheepの車体を正方形の四点で受け止め、蛇腹の腕を曲げて衝撃を吸収する。車体は大きく後退したが、装甲に大きなダメージは生じなかった


「止めたァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!柔が剛を制する!!王者クワイエットの技が光るーーーーーーーーー!!!!!!!」

「何度見てもね、惚れ惚れしますね。D-Octの強みとは言え、中々真似できませんね」


D-Octの耐久値は装甲としては平凡だが、『キャプテンが操作できる車輌装備』としてはトップクラスである
また、鋼鉄製でありながらしなやかな蛇腹のアームは、衝撃を受け止めるクッションとしても機能する
人の『腕』から放たれる攻撃が多種多様であるように、D-Octもまた、盾のみならず『刀』にも『槍』にも『薙刀』にも『槌』にも変化する
その特性は『鋼鉄』の硬度を持つ生物の『筋肉』。訓練次第ではヒトかそれ以上の動物的な瞬発力も発揮出来る
柔と剛、矛と盾を併せ持つ変幻自在の鉄腕。これこそ、クワイエットを王者たらしめる最大の武器であった


(;@з@)「何故撃たぬのでござるか文彦氏!!!???」


木本が声を荒げる。Black Sheepが誇る『最大の武器』は、ファーストショット以降放たれてはいない
6shooterは低火力、短射程、キモオタの臭い豚というハンデと引き換えに、青天井な連射力を秘めた主砲である
『連射してナンボ』の武器を、互いのキャプテンの顔が見えるほど近い至近距離で、未だ発砲されない。木本の脳裏に、文彦が蟒蛇を、チャリオッツを辞めるきっかけとなった試合が過ぎる


(´・_ゝ・`)「木本くん」


しかし同じく傍観者である盛岡は、全てお見通しと言わんばかりに落ち着いた様子で話しかけた


(´・_ゝ・`)「推しである皆鳴ミセリを目の前にしたら、キミはどんな反応をする?」

(;@з@)「え?そ、そりゃあ……舞い上がって昇天して……いや、まさか盛岡氏……」

(´・_ゝ・`)「そのまさかさ。現チャリオッツ王者を前にして、『はしゃいでんだよ』。あのクズは」

726 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:31:32 ID:pdeLbfIc0
日本の頂を狙う挑戦者であり、そして互いに競い合うライバルであると同時に、クワイエットはチャリオッツプレイヤーにとっては神にも等しい存在である
その神が、自身の贈った『挑戦状』を受け取っただけでなく、胸まで貸してくれているのだ。ファンにとっては、垂涎モノのご褒美であった


「大潮選手何故かめちゃくちゃ嬉しそうだ!?ファン心理か!?アイドルとの握手会とでも思っているのかーーーーーーー!?」

「僕もね、シュガー&スパイスのね、握手会行った時あんな感じにね、なりますねうん」


(´・_ゝ・`)「娘も好きなんだよねシュガー&スパイス。彼女達もジャパンカップにも出場するし」

(;@з@)そ「言ってる場合ではござらんのでは!?確かに最高のファンサかも知れませぬが、クワイエットの間合いでガッチリロックアップされたも同然なのですぞ!!」


ロックアップとは、両者ががっぷりと組み合う状態を指すプロレス用語であり、猿渡哲也氏のプロレス漫画のタイトルである
通常、チャリオッツにおいて鍔迫り合いの状況など、『よほど頭キマったチーム同士』でしか発生しないものだが、今回は本八による(あるいは文彦も)、一方的なファン交流イベントとして出来上がってしまっている
クワイエットにとっては全人未踏の三連覇が懸かった大事な一戦。厄介ファンに付き合っている暇はない
何より、バトルロワイヤルに限れば王者を凌ぐ蟒蛇の牙が、間近まで迫っている


(;@з@)そ「ヒィ!?」


バジリスクはジョッキーの世代交代に伴い、前面装甲もチャージ重視に置き換えた
両サイドのフロントを根元に、バンパーを防護するように半周。先端は槍のように真っ直ぐ突き出された二本の太い『角』
突き刺し、抉ることを目的とした、残虐かつ悪辣なそれの名は、悪魔を意味する『ディアボロス』である


(;@з@)「バジリスクはBlack Sheepと同様に『撃って殴れる』実力者!!新たなジョッキーは荒削りですが突進力は宇都宮氏をも凌ぎますぞ!!クワイエットに雁字搦めにされてる今、横っ腹に突き刺されば敗北は必至にござる!!」

(´・_ゝ・`)「優秀な解説だなぁ」


国内No.1とNo.2に板挟みにされている絶体絶命の状況に、盛岡は冷めたお茶を淹れなおした
本八は確かに浮かれたミーハーのゴミクズである。しかし、猛者の放つ威光に目を眩ませるほど幼稚ではない


「土手っ腹にバジリスクの毒牙が迫る!!Black Sheepここまでかーーーーーーーーーーッ!!!!!?????」

727 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:33:48 ID:pdeLbfIc0
クワイエットの『矢』がつがれ、鏃がBlack Sheepの眼前へと向けられる。放たれれば一撃貫通は免れない
射線から逃れようにも、D-Octの拘束を振り解かねばならない。これはクワイエットのような『腕』という抵抗手段の無い車体にとっては至難の技である
人同士の取っ組み合いで例えるなら、掴まれた側が身体の押し引きだけで逃れようとするものだ。掴んでいる側は当然、放さないように追随する
離脱の為に必要な動作は、『腕』自体にダメージ与えて彼方から手放すようにするか、あるいは瞬発的な動きで振り払うかである
『自転車』を始め『乗り物全般』において、動物的な瞬発力を発揮するのは至難である。その殆どは、効率的な車輪運動を実現するため段階的に加速する設計がされているからだ
では、Black Sheepは成す術なく額を貫かれ、横っ腹を串刺しにされてしまうのだろうか?
Desperado Chariotsは十話にして、選択肢をミスったギャルゲーのように呆気なく最終回を迎えてしまうのだろうか?否―――――


「前門の王者、側面の蛇!!Black Sheep万事休……いや、アレはーーーーーーーーッ!!!!!!!」


Black Sheepの車体が高速回転。四点を捉えていた爪は、弾けるように振り解かれる
同時に発射された矢は、6shooterの砲身を僅かに削り逸れていく
D-Octからの離脱と射線切りと並行して、側面から迫るバジリスクに標準を合わせ


「Black Sheepここでフルバースト!!しかし!?」


残り五発を全弾発射。元チームメイトだった文彦の才能を知るバジリスクはこれを読んでいたのか、ハンドルを切って回避
Black Sheepは回転が収まるのを待たず、ガムシャラにその場から離れる。戦況はこれでまた平衡に戻った


「バジリスク躱すーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!Black Sheepも絶体絶命の状況から逃れた!!」

「ヒリつく騙し討ちですね。これね、普通の胆力じゃできませんね」


(;@з@)そ「うおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!惜しいでござる!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「いや、かなり余裕を持って避けてるよ」


盛岡の言う通り、バジリスクは早い段階で首を振っていたが、それでも観る者に『惜しい』と思わせるほどにギリギリの回避であった

728 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:35:38 ID:pdeLbfIc0
(;@з@)「『当たらなければ、どうという事はない』でござるか?」

(´・_ゝ・`)「そうだね……バジリスクは予め文彦くんの実力を把握してる分、警戒の度合いも段違いだ。二回戦までは初見殺しが通用してたけど、これからはそうはいかないだろうね」


砲塔の回転よりも遥かに早く、車体ごと砲口を向けられるのだ。相手からすれば不意打ちに等しい、言わば『未知の挙動』
『予測可能回避不可能』というネットスラングにあるように、スピンミキサーによる高速エイムは予測だけで回避できるような代物ではない
求められるのはジョッキーの直感力。ある種、未来視にも等しい『避け勘』を培わねばならない


(´・_ゝ・`)「流石、国内二位の実力と言ったところかな。それに……」


バジリスクのキャプテンである『宝木 蕗也』は新たなジョッキーに、徳雄の過去に関わりある人物を指名した
プロ選手でありながら、三対一、それも相手はキャプテン落ちという圧倒的な戦力差で臨みながら、公衆の面前で屈辱的な敗北を喫した、ネットニュースにすら上がった半年前の一戦
Black Sheep結成前から『擬似的な6shooter+スピンミキサー』の砲撃を、その身と頭に刻み込まれた唯一の対戦相手


(´・_ゝ・`)「『腐っても鯛』、か」


バジリスクの新ジョッキー『高城 貴虎』。対文彦攻略の要として、これ以上無い人材であった

729 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:37:33 ID:pdeLbfIc0
(;@з@)「半年の間で見違えたのは、宇都宮氏だけでは無いのでござるな……」

(´・_ゝ・`)「ドン底から這い上がった人物は例外なく強くなるものだ。それを見越した采配だとすると、宝木選手はかなりの切れ者だよ」


事実、文彦との対戦前の高城は、蟒蛇所属でありながらパッとした成績を残してはいなかった
アマチュアより才能はあったのだろうが、プロの世界では掃いて捨てるほどでしかなく、そのまま埋もれていくだけの選手だった筈が
『あの日』をきっかけに弾みをつけ、今や突進力と回避力を併せ持つ、蟒蛇筆頭チームの一員である
バジリスクは彼の採用によって、因縁にせよ技術面にせよ、Black Sheepにとって最も手強い相手と成ったのだ


(;@з@)「文字通り、藪を突いて蛇を出してしまったわけですな」

(´・_ゝ・`)「上手いねぇ。座布団一枚」


盛岡は木本という善性とコミュ力に溢れた有能との束の間のストレスフリーな会話に人知れず癒された

730 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:38:35 ID:pdeLbfIc0
「さぁ仕切り直しですEブロック予選最終戦。Black Sheepは距離を取りながらリロードに移っております」

「長いリロードタイムはね、6shooterの弱点でもありますね。うん。しかし……えー……内藤選手、凄まじい早撃ちですね」

「この隙をどう凌ぐかが、チームの力量を……おっと!?」


Black Sheepの進路を妨害するかのように地面が爆ぜる。クワイエットとバジリスクを警戒して少し離れた場所に降り立った他チームが、この機を逃さんと砲撃を開始した


「Black Sheepへ集中砲火!!休む暇は与えられません!!」


(´・_ゝ・`)「どのチームかな?」

(;@з@)「59番『歩苦歩苦』、8番『インビジブル』、31番『三木ONE』にござる!!」


Black Sheepに向かって正面、変形機能を持つ『歩苦歩苦』。右側面に光学迷彩装甲によるステルス戦法を得意とする『インビジブル』
そして左方に車体を黒と赤のカラーリングで二分し、砲塔に二つの円形レーダーを耳のように搭載した、何がとは言わんがミッキーマウスを彷彿とさせる『三木ONE』が待ち構えている
尚、2121年現在、黒赤カラーのミッキーはパブリックドメイン化している為、杞憂は不要である


(;@з@)「クワイエットはっ……!!」


クワイエットは背を見せたBlack Sheepを深く追うことはしなかった
この場に置いて最も警戒しなければならない脅威が、すぐ側で鎌首を擡げているのだ。これを無視して羊を追えるほど、大蛇は優しくはない
それはバジリスクにも言える事であり、この二大チームはBlack Sheepの離脱によって膠着を余儀なくされた


(;@з@)「よし!!」

(´・_ゝ・`)「後門の虎は避けられたか……」


共闘の可能性は万が一であったが、二人はひとまず胸を撫で下ろす。最悪の状況は免れた
1対3の戦況ではあるが、クワイエットかバジリスクのどちらかと対峙するよりは遥かにマシなのだ
Black Sheepは脇目も振らず、正面の歩苦歩苦へと突っ込んで行く。無勢に置いても一切の躊躇いも見せなかった


(´・_ゝ・`)「キマってんね。合宿の成果か」


『歩苦歩苦』は某機動戦士をイメージした白、青、赤のカラーリングが特徴のアマチュアチームである
主砲も長射程高威力を誇る『ビームキャノン』を搭載しており、その弾道はショッキングピンクの閃光を描く
先ほどBlack Sheepを狙った砲撃に、そこまで目を惹くものは無かった

731 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:40:09 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「撃ち損ねているね。チャンスだ」

(;@з@)「しかし、食らえば一撃死でござるよ」

(´・_ゝ・`)「さっき言ってたろ?『当たらなければどうと言うことは無い』って」


ビームキャノンは高威力を誇る反面、再装填に時間が掛かる主砲である為、牽制として気安く使うにはリスクがある
このような主砲は、長距離からのスナイプで仕留める『ワンショットワンキル』を主として立ち回らねばならない。相手の砲撃が届く場所にいる時点で、その強みを殺してしまっているのだ

そしてもう一つ、ビームキャノンには致命的な弱点がある。砲弾が光を放つ『光線』であることだ


「歩苦歩苦、向かってくるBlack Sheepへ発射!!しかしこれを難なく避ける!!」


ビームキャノンは発射時、砲身の奥からせり上がるように発光するという特徴がある。マズルフラッシュのような瞬間的なものではなく、『動作の溜め』に近い挙動だ。正面から対峙した場合、発射タイミングが他の主砲よりも掴みやすくなる
原作再現としてのこだわりであったが、こと実用においては『あからさま過ぎる予備動作』として大いに足を引っ張る要素なのだ


(;@з@)「あっ……」


流れ弾は後方のクワイエットとバジリスクの間を通り抜け、更に奥の一際大きな建造物を貫く
瓦礫と共に建物内に眠っていたであろう書物の紙吹雪が舞い上がり、そこに身を潜めていた複数のチームが慌てて飛び出した
睨み合いから解かれた二強は、標的を移し替えてそれぞれ撃破へと向かう―――――


(;@з@)「『違う』!!!!」


否、狙いは『いつでも殺せるような雑兵』ではなく、紙吹雪と共に舞った『一つの書物』


(;@з@)「『トレジャー』でござる!!!!!!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)「オイオイマジか……」

732 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:41:26 ID:pdeLbfIc0
『トレジャー』。ステージ内に点在する超強力なアイテム。ボス級エネミーから確定でドロップする物もあれば、建造物や洞窟、宝箱の中でひっそりと眠っている物もある
入手難易度によってグレードや効力に差はあるが、優位に立つために是が非でも手に入れたい強力な代物である。それが今、クワイエットとバジリスクの手が届きそうな場所で、光輪を纏いはためいている


「早々に現れた円落街のトレジャーの一つ『魔導書アーウィン』!!強力な召喚獣を一定時間使役出来る効果を持っています!!心強い味方!!是非とも手にしたいところ!!」

「下手なボスクラスエネミーより厄介な相手となりますね。何といってもね、倒した所で得るものはありませんからね」

「クワイエットかバジリスク!!どちらかが手にすれば均衡が崩れるのは必須!!しかし届くか間に合うか!?」


(´・_ゝ・`)「いや、こっち見てる場合じゃないよね」


盛岡は少しの狼狽こそ見せたが、国内二強と数多の強豪たちによるトレジャー争奪戦からBlack Sheepへと視点を戻す


(;@з@)「そ、そうでござったな」


木本も『絶対面白い所でござるよ!?』という言葉を辛うじて飲み込んだ

733 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:42:56 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「おっと、少し目を離した隙に……」


Black Sheepはワイヤーを使い、歩苦歩苦を引き摺り回している最中であった
固定砲である6shooterの照準を素早く合わせる手段である1コストアビリティ『スピンミキサー』
抜群の汎用性でサポートが可能な3コストアビリティ『ブラックマーケット』
そして残りを、『副砲』兼1コストアビリティ『ハープーン』で埋めた
ワイヤーを結びつけた銛の発射とウィンチによる巻取りが可能で、射程はおよそ10メートルと短いが
取り付け位置を自由に決められるのと、広い視界を持つキャプテンが発射を担うという利点を持ち
尚且つ1コストという手軽さもあって、使い勝手の良い装備として広く重宝されている
これをリアに取り付け、牽引能力を獲得。『押す力』であるチャージの他に『引く力』も扱えるようになった


(´・_ゝ・`)「それにしても……」


牽引に求められるのは足腰の『粘り強さ』。水泳を中心としたスタミナトレーニングに注力した徳雄には、それを引き出すインナーマッスルが十分に備わっていた
そこに着目したBlack Sheepの参謀、木本が提案した『ハープーン』は、ブスの持ち味を存分に活かせる最後の1ピースとして収まったのだ


(´・_ゝ・`)「すごいね」

(;@з@)「はぁ…………」


そう、罪人を市中で見せしめにするべく引き摺り回すかの如く―――――


(;@з@)そ「いやここまでするとは想定してはござらんよ!!!!!!!!???????」

734 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:44:46 ID:pdeLbfIc0
幾ら徳雄がブスの化け物と言っても、フルパーティの車体を縦横無尽に振り回すのは無理がある
木本も、ハープーンはあくまで後続の走行妨害や装甲の一部分を引き剥がすといった補助的な役割担うものとして提案したのだが


(´・_ゝ・`)「いやでも、ハンマーみたく振り回してるけど……」


Black Sheepは孤を描くように走行し、繋がれた歩苦歩苦は廃墟を巻き込みながら振り回されている
その様を、キャプテンの本八はハッチにしがみつきながらゲラゲラ嗤った。人が苦しむ様を娯楽として楽しめるタイプのクズである。こういうクズはインターネットに広く棲息しているので特段珍しくは無かった


(;@з@)「幾らハープーンのワイヤーが強靭といえども、耐荷重というものがあるでござる!!いえ、それより先に装甲が剥がれるのが先……」

(´・_ゝ・`)「ならカラクリがあるね」

(;@з@)「待てよ……歩苦歩苦の主力アビリティは確か……『ムーングラビティ』!!車体に掛かる重力を一時的に6分の1まで軽減する能力!!それを発動しているならあれだけ振り回されるのも説明が付きますぞ!!」

(´・_ゝ・`)「しかし見ての通り、今の状況下での重力軽減は歩苦歩苦にとって悪手でしかない」

(;@з@)「となれば、アイテムによってアビリティを強制的に発動させられたのでござろう。該当するのは恐らく……『暴発剤』にござる」


『暴発剤』。キャプテンがハッチから投擲して使用する手榴弾型アイテムである。これを浴びせられた車体は、最も重たいコストのアビリティを一回限り強制的に発動させられる
妨害系のアイテムとしてシンプルかつ優秀な性能ではあるが、接近しなければ届かない点や、暴発したアビリティに巻き込まれて自滅するリスクがある為、使い所は限られる


(;@з@)「運動補助系アビリティへの効果は的面でござるな」

(´・_ゝ・`)「さぁ、ここからどう返すか……」

735 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:46:05 ID:pdeLbfIc0
歩苦歩苦は遅きに失した。ハープーンに捕えられた時点で、すぐさま装甲を捨てて離脱するべきであった
『振り回される』という未経験の攻撃に、冷静さを欠いた歩苦歩苦のキャプテンはようやく判断の遅れに気づき、反射的にハープーンが突き刺さった装甲部位をパージする


(´・_ゝ・`)「あーあ……」


解放はされたものの、今度は地面を転げ回るハメになる。ムーングラビティの効力も切れ、石畳と装甲の摩擦で火花を散らしながら建造物へと突っ込んだ
瓦礫と土埃に埋もれた車体は横転し、土手っ腹を曝け出している。そこにトドメと言わんばかりに6shooterの砲撃が一発撃ち込まれた


(;@з@)「よし!!ファースト……」


「ファーストキルはなんとVIP Library!!泥男を堕としトレジャー獲得!!二強を出し抜いた!!」


(;@з@)そ「ああ〜!!惜しかった〜!!」

(´・_ゝ・`)「一歩出し抜かれたか。しかし、『競うのは早さじゃあない』」

(;@з@)「そ、その通りでござる!!」


歩苦歩苦の流れ弾が口火を切ったトレジャー争奪戦の盛り上がりと比べ、Black Sheep側の戦況は目立つものでは無かった
ダークホース扱いと言えども、優勝候補の二強と比べれば霞む存在で、実況の目が向いていたのも正直な話『オマケ扱い』に寄る所が大きい


(´・_ゝ・`)「さて、乗ってくれるかな……」


本八の策は、ここからが本番であった

736 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:47:16 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



一方その頃。徳雄、文彦の両名と馴染み深い彼らもまた、Eブロックの行末を観戦していた


「バジリスク、VIP Libraryを撃破ァァァ!!同時に、クワイエットも召喚竜『ジャバウォック』を撃退!!早い、早過ぎる!!これが国内二強の実力かァァァ!!!!!」


(,,゚-゚)「すげー」

(´・_・`)「バジリスクが一枚上手だったな。面倒をクワイエットに押し付けた」


鬼ヶ村スポーツセンターねぐらのオーナーにして、二人の世話を焼いた教官。そして作中一の敏感乳首を持つ薄顔マッチョ『小練 詩音』と、ゲロゲロに甘やかされたが故にデロデロの自己肯定感の塊と化したメスガキ『儀杜 しずく』である
現在、彼らはEブロック最終戦を三画面展開で眺めていた。一つはフィールドカメラで全体の戦況を。残りはそれぞれクワイエットとBlack Sheepのフォーカスカメラである


(´・_・`)「そんでこっちも……」


Black Sheepも実況のマークから外されたものの、歩苦歩苦撃破後に結託した三木ONE、インビジブルも立て続けに撃破。現在、キル数トップである


(´・_・`)「見事なもんだな」

737 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:48:40 ID:pdeLbfIc0
(,,゚-゚)「宇都宮くんのチームは元から攻撃力はあったんでしょ?」

(´・_・`)「それに加え、キャプテンのアシストも光ってる。あのやり方はカラス戦術の『源流』だ」

(,,゚-゚)「源流?」

(´・_・`)「今でこそカラス戦術は蔑称として知られてるが、『Three Robbers』っつーチームが考案した『ワタリガラス戦術』が元となってる。彼らもバトロワで鳴らした猛者でな。NPCには目もくれず、次から次へとプレイヤーを撃破していく様からそう呼ばれるようになった」

(,,゚-゚)「カラス戦術って、アイテムを買い溜めするやり方って言ってたよね?荒稼ぎ無しでどうにかなったの?」

(´・_・`)「言わずもがな、ザコNPCよりプレイヤーを狩る方がGの稼ぎはデカい。1チームにつき1アイテムだけ使用するなら、プレイヤーキルだけでギリギリ賄えんだよ。Three Robbersのキャプテンは、その時々に応じて最適格なアイテムを見極める選択眼に優れてた。荒稼ぎの枠を他のアビリティで埋めることで戦術の幅を広げていたんだ」

(,,゚-゚)「それって有名な話なの?」

(´・_・`)「いいや。当時は『蠱毒』のようなバトロワの大型大会が無かったのもあり、Three Robbersは日の目を見ずにひっそりと引退した。カラス戦術の由来も、環境が荒れたことで歪んだ形で後世に伝わっちまった。俺もこの話は三浦さんから聞いて初めて知ったからな」

(,,゚-゚)「じゃあ三浦のおっちゃんの差金かな」

(´・_・`)「だろうな。普通に考えて辿り着ける答えじゃあねえ。あのオッサン、よっぽど大潮の旦那を気に入ってんだろうよ」

(,,゚-゚)「変わってんね」

(´・_・`)「そうだね」

738 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:49:57 ID:pdeLbfIc0
(´・_・`)「しかしわっかんねえな……」


二回戦の戦果とカラス戦術による挑発を小練も見抜いてはいたが、真意までは未だ計りかねていた
予選の段階でクワイエット、バジリスクを堕とす腹積りであったなら、最序盤の誘い込みとカラス戦術は相性が悪い
ブラックマーケットは資金が尽きない限り汎用性を発揮する息の長いアビリティだが、瞬発火力に置いては劣る。短期決戦を挑む気であるなら、悠長に小銭を稼いでいる暇はない
アイテムの買い込み目的で大勢を誘い出す算段だったのなら、序盤での接触は避けたい二強を呼び出すのは逆効果だ。現に中途半端な数が安全地帯周辺へと散り散りになっている
そもそも、今のBlack Sheepの実力なら、セオリー通り過疎地からじっくりと安全地帯を目指すやり方でも危なげなく予選を突破出来る筈である


(´・_・`)「んー……」


単純に目立ちたいからという理由も、本八の人物像を鑑みればあり得なくはない。一見くだらなく思えるが、実力の誇示は立派な戦術の一つである
クワイエットやバジリスクが真っ先に狙われないのと同じく、周りに脅威であると知らしめることで、競合相手から狙われる確率を減らせるのだ
だがBlack Sheepは実績のないルーキーだ。幾ら実力を見せつけようとも、彼らに並び立てるほどの迫力を放つのは難しい
むしろ危機感を煽り、要注意チームとして早々に処理すべきと判断され、狙われるリスクが増すこともある


(´・_・`)「いや、そもそも『目立たない』方が無理か……?」

(,,゚-゚)「また一人でブツブツ言ってる……」


6shooterという主砲は、性能を象徴する回転式弾倉を搭載した特徴的なビジュアルである
特徴的であるとは即ち、長所短所が一目でわかるという事。対処照準合わせの難易度はアビリティでカバーしたが、『有効射程』までは補えない
『射程で勝るのならば、手の届かぬ範囲から狙撃すればいい』。6shooterより射程の長い主砲など、数えれば切りがない。ほとんどのチームは、Black Sheepに対して埋め難いアドバンテージを握っているのだ
選手の能力はさて置き、車体の見た目から侮られると最初から理解していたBlack Sheepは、思い切って実力を誇示する方向へと舵を切ったのではないか。ここから導き出される答えは―――――


(;´・_・`)「まさかあいつら、舐められるのが我慢ならねえから見せつけたんじゃねえだろうな……?」

(,,゚-゚)「そんなガキみたいな理由ある?」

(;´・_・`)「少なくとも、あの中の一人はやりかねねえだろ」

(,,゚-゚)「あー……」


ブスのことである。ヤンキーはメンツにこだわるクソしょうもない生き物なのだ

739 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:50:42 ID:pdeLbfIc0
(,,゚-゚)「あ、また狙われだした」

(;´・_・`)「お、おお……」


Black Sheepへの『ヘイト』は鎮まることなく、二強と離れたことで散り散りになっていた他チームがこれ幸いと集い始めていた
ジャパンカップのルールはソロプレイ前提だが、利害一致による一時的な共闘は暗黙の了解とされている。よほど悪質で無い限り、咎められる事はない
既に三チームも下したBlack Sheepは、『私刑』の大義名分として通用するほど充分な脅威なのだ


(,,゚-゚)「ひーふーみー……うわ、完全に囲い込みじゃん」

(´・_・`)「……」


マップ上では、Black Sheepを取り囲むように複数のマーカーが動いている。建物の影や入り組んだ路の中など、すぐさま距離を詰められないような位置に陣取り始めた
姿を見せれば速攻で狩られるのは、先程の『デモンストレーション』で明らかとなっている。ワタリガラスに吹く追い風を阻む包囲網が出来上がりつつあった
と、ここで小練はクワイエットとバジリスク側の戦況にも緩やかだが動きがあるのに気づく。Black Sheepと同じく、彼らにも『囲い』が出来つつあった
この状況を訝しんだ彼は、少しの時間を分析に費やし、そして―――――


(;´・_・`)そ「あいつらマジかよ!!」

(,,゚-゚)そ「え!?何が!?」


Black Sheepの狙いに気付き、思わず大声を張り上げた

740 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:51:42 ID:pdeLbfIc0
歩苦歩苦の流れ弾が引鉄となり起こったトレジャー争奪戦。ジャパンカップ出場経験もある強豪VIP Libraryが、果敢にも二強に挑み返り討ちに遭った
だが、その無念を晴らさんと続々と各チームが集まっている。VIP Libraryの散華は決して無駄ではなく、挑戦者達に火を着けたのだ


「これは……ある意味、想定内の事態ではありますね」

「はい。強豪を蹴落とすならね、大勢が共闘出来る予選が一番成功確率が高いですからね。結果論ですが、密集が予想される地点に降り立ったのは不味かったですね」


実況解説の言う通り、格上に対して最も高い勝算を叩き出すなら予選で袋叩きがベストだろう。この予選三回戦は、一時的共闘という形で集団戦に持ち込める唯一の機会だ
これまで今回の状況が発生しなかったのは、競合チームが二強との接触に強い危機意識を抱いていたのと、密集地帯を避けるというセオリーがあったからである。もしも二強が過疎地帯からスタートしていたなら、まず発生しなかった状況なのだ
トレジャーの出現こそ偶然の産物だろうが、Black Sheepは『二強をまとめて密集地へ誘い込む』事に成功している。この段階で、『多数の囲い込みによる一網打尽』を想定させるシチュエーションを用意出来たのだ
何より、VIP Libraryよりも先んじて挑んだのは彼らである。一連のやり取り自体は、Black Sheepとクワイエットをよく知る小練にとっては『小手調べ』程度にしか見えなかったが
現役のプレイヤー達にとっては、『ポッと出のルーキーが、前年度の覇者と準覇者と対峙して生き残る』という快挙として映っている筈だ


(;´・_・`)「Black Sheepが生き残った時点で、クワイエットとバジリスクのイメージは『格落ち』したんだ。『俺らでもやれるんじゃねえか』と欲が出る程度にまでな」

(,,゚-゚)「でも実際に実力が劣ったわけじゃないよね?」

(;´・_・`)「たりめーだ。あん中にはコテンパンにされた連中もワンサカいるだろうよ。だが現に、戦況は二強とBlack Sheep撃破に動き出している。そういう『流れ』が出来ちまってるんだ」


恐らくは、彼らへの挑戦に内心警鐘を鳴らしているプレイヤーもいる事だろう。しかし、川の流れに逆らうのが困難であるのと同じく、一方向を向いた集団心理に抗うのもまた困難である
しかも、『全くの無謀』でないのも強く作用している。勝敗を左右する最も原始的な要素は、結局の所『数』なのだ。彼らはこの局面で、それを思い出した
その上、二強のどちらかを撃破したなら、本戦出場を逃してもお釣りが出る程の大金星である。知名度の向上に、これほどお誂え向きな獲物はそういない
魔境とも称されるEブロックが、大勢が手を組むことで早い者勝ちのボーナスブロックへと転じたのだ


(;´・_・`)「Black Sheepの狙いは、『1対1対1対その他』の構図に持ち込むことだったんだ」

(,,゚-゚)「待ってよ。それってドチャクソ不利じゃない?」

(;´・_・`)「勿論だ。『単体のまま』ならまず勝ち目はない。幾らクワイエットやバジリスクが化け物でもな。だが、この不利な状況を緩和できる、最も手っ取り早い方法がある」


「これは……嘘でしょう、我々は夢でも見ているのでしょうか!?あのクワイエットとバジリスクが!!宿敵である彼らが!!『背中を預け合っている』ッ!!」


(;´・_・`)「『一時的な共闘』だ」

741 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:53:01 ID:pdeLbfIc0
彼らが取ったのは合理的判断である。観客にしてみても、ライバル同士の共闘はボルテージが跳ね上がる最高のシチュエーションだ。だが当人達にとっては不本意であるに違いない。誘いに乗らなければこのような危機的状況に陥らなかったのだから
しかし、それぞれの聡明なキャプテンがこの展開を予測出来なかったとも考えづらい。こうなると理解した上で誘いに乗ったか。あるいは、日本一の頂を目指すライバル達の、内に燻る熱い野望を見くびったかの二択である
そして恐るべくは、本戦出場安全圏内にいた彼らを一転して窮地にまで追いやった大潮 本八の策と、『トレジャー出現』という火に注ぐ油を見事に掘り当てた強運だ


(,,゚-゚)「結局クワイエットとバジリスクを陥れただけで、Black Sheepに得はないんじゃないの?やる意味あった?」

(;´・_・`)「何言ってんだ。あいつらにだけ特大のメリットがあんだろうが。これで『国内No.1とNo.2から狙われることはなくなった』んだからよ。少なくとも、今はな」


彼らを陥れた張本人であるが、同じく窮地の立場にある。生き残る為に少しでも人手が欲しい状況で、憤りのままに潰しに走るのは合理的とは言えない。断腸の思いで受け入れる他ないのだ


(;´・_・`)「やるとするなら数が減った終盤、梯子外すみたく唐突に襲ってくる筈だ。だが、Black Sheepがそれをしないという保証もねえ。各々が眉間に銃を突きつけながら共闘するようなもんだ。しかも、この場合最も不利になるのは『クワイエット』だ」

(,,゚-゚)「なんで?」

(;´・_・`)「『強化手段が乏しい』。レースモードならステージクリア時のショップで安全に補給したり、NPCや他チームの撃破でアイテムを得られる事もあるが、今回はバトロワ。それも息つく暇もないであろうラッシュが予想される。敵の死体を漁ってる暇なんてねえんだ」


アイテムの入手は主にショップでの購入、NPC撃破時に確率でドロップ、撃破した車体から奪うという三つの方法がある
今回のバトルは参加数が多いことから、NPCの出現率は低く設定されている為、ドロップでの入手は望み薄だ
また、ショップに関してもステージ内の『隠しショップ』を見つけない限り購入は出来ない
プレイヤー撃破時にGこそ自動で支給されるが、アイテムに関しては撃破した車体に近づきBOXウィンドウを開く必要がある。大勢から襲われる中で、悠長に漁る暇など無いのだ


(;´・_・`)「Black Sheepは言わずもがな、ブラックマーケットで状況を選ばずショップを利用出来る。バジリスクもクワイエットと同じくアイテムの補給こそ出来ないが、『あのアビリティ』はキルを取れば取るほど強く使える蓄積型だ。あの三チームの中で、ただ消耗を強いられるのはクワイエットだけなんだ」

(,,゚-゚)「最後の狙い目を『移した』の?」

(;´・_・`)「そうだ。大潮の旦那は、終盤のリスクケアまで勘定に入れてたのさ」


怨みを買う首謀者でありながら、損する役回りは他所へと押し付ける。クズの体現者たる男、大潮 本八らしい悪どい手口である

742 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:55:19 ID:pdeLbfIc0
「Black Sheepに動きがありました!!煙幕です!!逃げの一手を打つ気でしょうか!!」


ブラックマーケットで買い込んだであろうアイテム、『スモークグレネード』の煙幕がBlack Sheepの車体を覆い隠す
包囲網を形成していた競合チームが、牽制の為に砲撃を放つ。側面装甲に被弾したのか、大きな火花が弾けたものの、致命的なダメージには至らなかったようで、フォーカス画面から口汚い罵倒が聞こえた
続け様にもう一つスモークグレネードが炸裂する。安全圏を中心に、色濃い煙が辺りに充満した
クワイエット、バジリスクはすぐさま車体を方向転換させ、煙の中へと飛び込み姿を隠す。彼らの背中を追うように砲弾が撃ち込まれるが、此方は空を切るに終わった
追撃はされず、示し合わせたように包囲網は縮まっていく。一時の静けさが訪れた


「煙が晴れるのを待って、一斉射で仕留める算段でしょうか。一方的な展開になりそうですね」

「そうとも限らないですね。少なくとも、三組にとって最悪の展開にはなってませんね」

「と、仰られますと?」

「一斉に飛び掛かられたらひとたまりもね、ありませんからね」


(,,゚-゚)「そうなの?」

(´・_・`)「ああ。煙に巻いたのが功を奏したな」


ゲームであれ何であれ、複数人から敵意を向けられるのは相当なストレスであり、戦わずして戦意を喪失させるのに最も効率的な手段である
一方で『数の優位』を握る側は、見えている勝ち目に戦意が大幅に上昇し、気も大きくなる。精神的余裕はリラックスに繋がり、パフォーマンスを引き出す助けにもなるだろう
しかし勘違いしてはならないのは、予選三回戦に置いて『集団の強み』が万全に発揮できるわけではないという事である


(´・_・`)「二強とBlack Sheep撃破の流れになった所で、結局個人戦であることにゃ変わりねえ。裏切りの可能性は全チームにある。なんせ、椅子は三つしか用意されてねえんだからな」

(,,゚-゚)「そんな上手くいかないってこと?」

(´・_・`)「集団を『組織』として機能させるには、指揮官の役立が不可欠だ。だが指揮を執り行うには主従関係や明確な役割をハッキリさせないとならない。対等な立場で一時的に手を組んでいる中、一人だけ偉そうに指図する奴が出てきたらどう思う?」

(,,゚-゚)「ぶっ殺す」

(´・_・`)「え、嘘……そんな嫌?ともあれ指示に従ったら自分だけ損をするかもしれない、騙されるかもしれないという疑念は常について回る。競い合う相手である以上、避けては通れないもんだ」

743 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:56:16 ID:pdeLbfIc0
全員が蹴落とし合うライバルであることが、集団の強みである『結束』を形成できない原因となっている
この点に関して言えば、逆境の立場にある三組に分がある。現状打破の為に手を組む必要があるのは共通しているからだ
もしも彼らが、終盤まで誰一人裏切ることなく試合を終えたとしても、それぞれが決勝の椅子に収まるだけで損をする者はいない
しかしそれ以外のチームは、三組を排除し終えた後にもゲームは続く。予選三回戦の勝利条件は、撃破した数や質ではなく『生存』だ
結託もあくまで、勝率が極めて高い脅威を排除して、椅子を空ける為の行動に過ぎない。目的は、『その椅子に座ること』なのだから


(´・_・`)「三組にとって最悪の展開は、解説が言ったように全員が後先考えずにガムシャラに突っ込んでくることだった。指揮の必要もなく、シンプルに物量差で押し潰されるほど怖いもんはない。だがこれも煙幕で出鼻を挫かれた。『様子見』という余地を与えられたことで、揃いも揃ってバカになり損ねてやがる」

(,,゚-゚)「これも計算のう……」

(´^_^`)「当たりまえだぜッ!!このJOJOはなにからなにまで計算づくだぜーッ!!」(ほんとはちがうけどカーズがくやしがるならこういってやるぜ。ケッ!!)


二世紀前の漫画の場面が出た


「ですが、突っ込みたくない気持ちもね、わからなくないですね。あの煙の中にいるのは三頭の虎ですからね」

「安全圏から砲撃で仕留めたいという気持ちがあるわけですね」

「はい。そう易々とね、やられるようなチームじゃないですからね」

「さぁ、煙が晴れようとしています。誰が先に……おっと!?」


(,,゚-゚)「出た!!」


膠着を解いたのは、三組からであった。先頭をBlack Sheep、その後をクワイエットとバジリスクが横並びで追走する
三角形のフォーメーションで、より多くの敵が集まっていた『Black Sheep側』の集団へ向かって突撃する


「Black Sheepが先陣を切る!!二強を差し置いて今回初参戦のルーキーが!!『俺が主役だ』と言わんばかりに突っ込んで行くーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」


(´^_^`)「ハハ!!違いねえ!!」

744 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:11:14 ID:pdeLbfIc0
Black Sheepは前面装甲に『ゴートヘッド』を採用した。砲弾を弾き易い頭蓋骨のような丸みと、軽量クラスでありながら高い硬度を誇る攻防一体の鎧である
中、低威力の砲撃なら数発喰らっても影響は少ないが、先のビームキャノンのような大型砲の一撃には心許なく、防ぐにはアイテムやアビリティによる補強が必須となる
長所はあるがなんて事のないありふれた装甲で、これを一撃で貫ける大型主砲もまた、ありふれている
元より足りない物を補い続けるのがワタリガラス戦術。しかしBlack Sheepは直前にスモークグレネードを二つ購入している。闇市場を賑わせる資金は、とっくに底を尽きていた

その代わりを、後ろの二車輌が担った


「クワイエット、バジリスクの同時発砲!!9番男魂魂(だんこんこん)大破!!25番エスパーク撃破!!」


バジリスクの主砲から放たれた砲弾は、二度の跳弾の後に男魂魂の左側面に直撃し、破裂する
辛うじて撃破は免れたものの、装甲とキャタピラに重大なダメージが残り、戦闘継続は困難となった
クワイエットの矢は真っ直ぐ飛翔し、今まさに放たれようとしていたエスパークの砲口へと吸い込まれるように飛び込んでいく
砲身が鏃に沿って花が咲くように裂けていき、矢に先端が砲弾の雷管と接触し内部で暴発。爆発と共に砲塔が吹っ飛び、走行不能となった


「高火力を誇る2チームが瞬殺!!だが弾幕は避けられない!!どうする気だーーーーーーー!!!!!!!!?????」


二強が撃破したのは、その集団の中で最高の火力を持つ2チームである。言わば、『必要最低限の削り』であり、後の対処は各々の手腕に委ねられる
前後方から三組へ向けて疎に砲弾が発射される。共闘する意識こそ同じだが、息を合わせて一斉射とはいかなかった
それでも十分に脅威だが、着弾までそれぞれにラグがある。百戦錬磨の二強にとって、やり過ごすのは容易かった


「クワイエット!!物ともしない!!降り注ぐ砲弾を四つ脚で捌くーーーーーーーーーーーッ!!」


クワイエットは四脚装甲『D-Oct』を展開し、飛来する砲弾をパンチングの要領で弾いていく
耐久値は平凡なD-Octだが、『装甲』である事に代わりない。中でも先端の四つ爪は、握りしめることで強度を増し、中威力程度の砲撃なら受け流せる


(´・_・`)「いつ見ても凄まじいな」


しかし、音速を越える砲弾を『殴り弾く』など、普通に考えれば現実的ではない。闇雲に振り回せば万に一つの確率で弾けるだろうが、クワイエットは飛来する砲弾を一つ一つ確実に防いでいる
チートの使用を疑うほどの神業は、キャプテンの長いプレイ歴によって培われた『当て勘』によるものだ
敵対車輛の位置や砲撃距離から割り出される着弾のタイミングや位置を、大体の感覚で捉えて爪を『置き』に行く。彼女はこれを四脚全て同時に操作して防いでいる
無論、D-Octの耐久値は徐々に削られる上、一撃の威力が大きな砲撃には一溜りもない。バジリスクのような跳弾による変速軌道を描く砲弾や、Black Sheepのような超高速連射は被弾する事もある

それでも、この唯一無二の防御術はクワイエットが絶対王者たる所以であった

745 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:13:20 ID:pdeLbfIc0
「そしてバジリスク!!『ウルトラファントム』を発動!!砲弾は虚しく空を切るーーーーーーーーーーッ!!」


2コストアビリティ『ウルトラファントム』。0.3秒間だけ車体を透過させる回避アビリティ
砲弾は当然のこと、進路場の障害物をすり抜けて通過する事が出来る。言わば、『無敵』の状態になれる
発動タイミングはシビアであり、90秒という長いCTを要する為、使いこなすのは至難だが、ランク上位勢の中では一定数の使い手がいるトップTierアビリティである
バジリスクは回避行動を取ることなく、着弾ギリギリのタイミングでウルトラファントムを発動し、弾幕を無傷で潜り抜けた
発動が早くても遅くても完全な回避は不可能で、これもまた長いプレイ歴によって培われた『見切り』の能力による賜物であった


「そしてBlack Sheepは……こ、これはーーーーーーーーーッ!!!!!!?????」


文彦こそ二強に引けを取らない『射撃』という類希なる能力を有しているが、これまでメンバーに恵まれなかったキャプテンである本八のプレイ歴は浅く、ジョッキーの徳雄に到っては半年程度である
膂力、攻撃性こそ特出しているが、応用的な技術は身に付いておらず、またアビリティも強力とは言いがたい


「躱しながら突っ込んでいく!!多少の被弾を物ともせず、弾幕の嵐の中を突っ切っていくーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」


あるのは基礎的な操縦技術と、『やられたら殺してでもやり返す』という病的なまでの意地である


(;´・_・`)「あいつスイッチ……」


「衝突ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!55番天炎BOYZ、大きく吹っ飛ばされるーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


(,,゚-゚)「すげー」

(;´・_・`)「うーわやってるわ…………」


集団の懐に入ったのは、六連射が可能な近距離最速の獰猛な獣である。6shooterの射程に入りさえすれば、一方的に殴られるだけだった黒羊は一変して『鬼』と化す
それだけに止まらず、後からはクワイエットとバジリスクが追いついてくるのだ。初撃で仕留め損ねたツケが何倍にもなって跳ね返ってくるに等しい
ゲームを支配する大潮 本八は、被弾して凹みが目立つ装甲の上で、生来の性悪さを感じさせる下劣な笑い声をあげた。そして―――――

746 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:13:53 ID:pdeLbfIc0




(#´^ω^`)「皆 殺 し だ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」




これから起こす惨劇を、声高らかに宣言したのだった

747 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:14:40 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



同時刻、鮨屋『くおうち』にて


@#_、_@
 (  ノ`)「終いだね。消しとくれ」

( ゚д゚ )「いいのか?まだわからんぞ」

@#_、_@
 (  ノ`)「時間の無駄さね。既に場が『呑まれちまってる』よ。多少は保つかと思ったが、とんだ期待外れさ」

( ゚д゚ )「相変わらず手厳しいな、千母(ちほ)」


窮屈そうにカウンターに座る、身の丈2メートルを越すパンチパーマ・マダムは、脂の滴るようなトロ・マグロスシを一度に二つ食べた


@#_、_@
 (  ノ`)「アンタのお気に入りのボウヤだけが、大局を見据えたゲームプランを企てていた。クワイエットもバジリスクも、まんまとしてやられたね」

( ゚д゚ )「私はあまり褒められたものじゃないと思うがな。彼らもその気になれば、初対面で狩ることも出来ただろう」

@#_、_@
 (  ノ`)「本当にそう思うのかい?」


三浦が浮かべた苦笑いの返答に、彼女は剛気にガハハと笑った


@#_、_@
 (  ノ`)「相変わらず嘘のつけない野郎だね。仮面を被ってた頃が懐かしいよ。しっかし、アンタがそこまで肩を持つたぁ意外だね」

( ゚д゚ )「『我々』のファンと言われちゃあな……多少の情も湧いてくるもんさ」

@#_、_@
 (  ノ`)「ハハハ!!そりゃ、大衆に嫌われた甲斐があったってもんだよ!!」

748 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:17:10 ID:pdeLbfIc0
三浦が淹れなおした熱い茶を、喉を鳴らして飲み干した千母は、湯呑が叩き割れんほど強く叩きつけた

@#_、_@
 (  ノ`)「嫌になるねえ、新時代!!ロートルは忘れ去られ、新たな勇士が時代を築く!!逃れられない新陳代謝さ!!」

( ゚д゚ )「よく言うよ。四十年近く現役を続けている『生きる伝説』と呼ばれるお前が」


『SASUGA×FAMILY』のジョッキーにして、元『アンラ・マンユ』メンバーである流石 千母は、猛獣が震え上がるほど獰猛な笑みを浮かべた

@#_、_@
 (  ノ`)「私はね、勘違いした若造共に身の程を理解らせるのが生き甲斐なのさ。この身体が朽ち果てるまで、チャリオッツから降りる気は無いよ」

( ゚д゚ )「いい趣味していらっしゃるな……」


かつての戦友の悪癖に溜息が漏れるが、年々落ちていく彼女の戦績を思うと、半ば意地もあるのだろうと察せられた
チームを解散してそれぞれ別の道を歩み、結婚して子どもが産まれ、人生の折り返しを過ぎて尚、千母だけがチャリオッツの第一線へと喰らいついている
稀有な女性ジョッキーでありながら、男性顔負けの体躯を活かした古強者。彼女の挑戦は、誰しも逃れることのできない『老い』への挑戦なのだ

@#_、_@
 (  ノ`)「長居しちまったね。ごっそさん」

( ゚д゚ )「まいど。ご家族にもよろしくな」


電子決済で会計を済ませた彼女は、ビニール風呂敷に包まれた家族への手土産を取って席を立つ。去り際に一度だけ振り返って、こう訊いた

@#_、_@
 (  ノ`)「紘一。『トップ・ギア外部顧問』のアンタから見て、次のジャパンカップはどこが勝つと思う?」

( ゚д゚ )「クワイエットだ。それがどうした?」


淀みのない即答に、今年度ジャパンカップ本戦出場チームのジョッキーはギラリと眼光を光らせた

@#_、_@
 (  ノ`)「楽しみにしてると、伝えとくれ」

( ゚д゚ )「ああ」

749 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:19:01 ID:pdeLbfIc0
三浦は軽く洗い物と、『夜の貸し切り営業』に向けた簡単な仕込みを済ませた後、再びホログラムビジョンを起動させた
千母が去ってから二十分ほど経過しただろうか。映像内では既にゲームは終了し、ハイライトシーンと共にEブロック突破チームの名が映し出されていた


( ゚д゚ )「『期待外れ』ね……」


目の肥えた千母が、早々に見切りをつけた気持ちもわからなくはない。Eブロックの前評判は、そう簡単に覆るものではないのだから
だが三浦は、徳雄、文彦に修行の場を与え、本八に『ワタリガラス』というアンティーク戦術へ繋がる助言をした張本人は、彼女とは真逆の感想を抱いていた


( ゚д゚ )「たった半年でここまでとはな……『期待以上』だ」


クワイエット、バジリスクと並ぶもう一つの名前。彼の胸中には誤魔化しきれない歓心と、少しの後悔が湧き上がった


( ゚д゚ )「Black Sheep……なるほどな」


『暗雲』を形容する名を背負った連中が、かつての自分を深く抉ったあの景色が見たいと宣った不躾な男が、かつての自分と同じ舞台に立つ
紛れもなく自身が導いてしまったダークホースは、大晦日の戦場を荒しまわる『災害』を思わせる程に成長してしまったのだ


( ゚д゚ )「これは、楽しみだな」


クワイエットの偉業を阻む存在を招き入れた後悔以上に、『チャリオッツファン』としての興奮は膨れ上がっていく一方だった
かつてないほどの激戦を目の当たりに出来るだろうという期待に、三浦は思わず顔を綻ばせてしまう


( ゚д゚ )「おっと、まずいまずい」


強敵の出現に喜んでいては、外部顧問として示しがつかない。一先ず気持ちを切り替えて、『クワイエット予選突破祝勝会』に向けた準備に取り掛かるのであった

750 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:19:47 ID:pdeLbfIc0
かくして、魔と称されたEブロック予選は幕を閉じ


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ハーッハ!!お客さん!!あれね、俺が名付けたチームなんすよ!!」

爪*'ー`)「え!!!!!????アレは私の教え子とダチが所属してるチームなのだが!!!!!!????」

⌒*リ*´・-・リ 「もしもし、しずくちゃん?観てた?勝ったよ!!」


たった三席の出場枠は


(,,゚-゚)「観てた観てた。先生もご満悦だよ。事件解決した後のぬ〜べ〜みたいになってる」

(´^_^`)「よーし、ラーメンでも食いに行くかーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


大衆の期待を裏切ることなく、クワイエットとバジリスクが


(;@з@)「フゥー、気が気ではござらんかった……」

(´・_ゝ・`)「ハハ、本戦が思いやられるね」


そしてBlack Sheepという『異物』も同じく、その席に着いた


(* ФωФ)「母さん!!文彦がやったぞーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

川*д川「今夜はあの子の大好物、トンカツのバター漬けよーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

751 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:20:27 ID:pdeLbfIc0
彼らの予選での活躍は、メディアでも大々的に取り上げられ


i!iiリ゚ ヮ゚ノル ♪〜


あのハヤテの話題を一時的に霞ませるほどの騒ぎにまで発展した


(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおおん!!!!!!うおおおおおおおおおおおん!!!!!!文彦ぉ!!お前は俺の誇りだァ!!!!!!」

(’e’)「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカス」

从;゚∀从「ちょ……落ち着けって……こんな両極端の反応になることある?なぁ、モラっち……」


( ・∀・)「ウフフフフフフフ」


从;゚∀从そ「うおお!!お前が一番キメェーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

752 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:25:33 ID:pdeLbfIc0
数日後、第四十四回ジャパンカップ予選の全日程が終了した


 Aブロック出場チーム

・ネイキッド・オッキイ・オッパイ・ダイスキー
・レッドシューズ
・バーダラ・ブギ

 Bブロック出場チーム

・ハヤテ
・ムシキング
・SUPER VOYAGER

 Cブロック出場チーム

・SASUGA×FAMILY
・朧
・センチピード

 Dブロック出場チーム

・シュガー&スパイス
・トリプルスレット
・禁愚堕霧(キングダム)

 Eブロック

・クワイエット
・バジリスク
・Black Sheep

 Fブロック

・OVER ZENITH
・Thunder Bird Rider
・A to Z


参加総数36216チームから勝ち抜いた、日本のTOP18チームが出揃ったのだ
本八がジャパンカップ制覇を志して三十二年。仲間に恵まれず、指を咥えて眺めるしかなかった夢の舞台まで



残り一か月半にまで迫っていた



.

753 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:27:24 ID:pdeLbfIc0
次回予告


(´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」

(´・_ゝ・`)「黙れゴミカス!!いよいよ本番が近づいて来ましたが、その前に一仕事ですね」

(´^ω^`)「取材に記者会見とやること目白押しだ!!おい!!あの豚は絶対にメディアに露出させるなよ!!炎上待ったなしだ!!」

(´・_ゝ・`)「実は、予選が終わってすぐに配信活動を始めてしまったようです」

(;´^ω^`)「終わった……………………」

(´・_ゝ・`)「登録者数と再生数は、どちらも片手で数えられるほどではありますが」

(´^ω^`)「ギャハハハハハハ!!!!!!!!誰もオタクのキモ豚になんざ興味ないってのが数字で表れてんなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「マジで仲悪いなお前ら」

(´^ω^`)「ジャパンカップの醍醐味はゲームだけじゃねえ!!バチバチのトラッシュトークバトルも見物なんだよなぁ!!」

(´・_ゝ・`)「徳雄くんに到っては獏良くんとの決着、そして高城選手との因縁がありますからね」

(´^ω^`)「くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!血が見てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「どこで争わせようとしてんだよ」

(´^ω^`)「次回、『Desperado Chariots』第十一話!!『フェイス・オフ』!!」

(´・_ゝ・`)「大晦日まで、何事も無ければいいですね」

(´^ω^`)「無理じゃね?」

754 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:46:22 ID:pdeLbfIc0
オマケ

チーム名由来集

・Anker Take
( ^ω^)はあらゆるチート使いと戦うようです
モララーが嫌

・青春真っ只中!!
('A`)は青春真っ只中です
オタクブスが急に美少女と同棲するのが嫌

・VIP Library
ζ(゚ー゚*ζあな素晴らしや生きた本のようです
ニュッくんの煮え切らない態度が嫌

・DDDD
/*゚、。 /だし!だし!ダイオードだし!のようです
こさえたガキを他人に預けてる分際で殴られたから殴り返したジョルジュとかいうカスが死ぬほど嫌い
こんなクソ野郎口から内臓出るまで蹴り飛ばして然るべきだろ何一発貰っただけでダウンしとんねん刺し違えてもぶっ殺すくらいの気概見せんかい

・北猛那
( ´∀`)ぼくはモナー
女が軒並み嫌だしデブは嫌通り越して最悪

・厄姫連合
lw´‐ _‐ノv厄姫様は別に不幸では無いようです
読んだことない

・Good Bad Normal
よい('A`)わるい( ゚∀゚)ふつうの( ^ω^)のようです
顔は悪いんじゃないですかね?

・歩苦歩苦
会員制おさんぽクラブ「歩苦歩苦(ほくほく)」のようです
レストランが最悪

・インビジブル
( ^ω^)は見えない敵と戦うようです。
"無貌の怪物(インヴィジブル・ステルス)"が嫌

・三木一
( ・∀・) ミッキ一マウスの力を借りて戦うようです
ディズニーネタを使ったら消されるみたいな風潮が嫌
蒸気船ウィリーはパブリックドメイン化したんだから今後はガタガタ抜かすなよ

755 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:50:10 ID:pdeLbfIc0
・CHERRY CHASER
童貞鬼ごっこのようです
原作は追われる側じゃねえかって思ったけどめんどいからこのままいった

・泥男
泥男はいないようです
沼男おるやんけ。タイトル詐欺か?人を舐め腐るのも大概にせえよ

・マッハブロー
音速パンチのようです
ブスとデブに彼女いたり恋の予感がするのが嫌

・天炎BOYZ
(´・ω・`)しょぼんはあまえんぼうのようです
子どもが酷い目に遭うのが嫌

・拳応
( ^ω^)が拳の王となるようです
幼稚園児の割に語彙が達者

・コタツとキング
( ^ω^)(´・ω・`)('A`)こたつ話のようです
ブスがなよなよしてて嫌

・七大生徒会
( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです
デブの分際で十字架の首飾りしてるのが嫌

・Three Robbers
何がとは言わんがそういう話があった

・男魂魂
(*‘ω‘ *) < 男根根
男根は流石にチャリオッツ運営も許さなかった

・エスパーク
川 ゚ -゚)エスパークーのようです
エスパークスってなんだよ結局

756 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:52:25 ID:pdeLbfIc0
終わりですお疲れさまでした
本戦出場チーム名の由来は後日発表します

今日NIKKEのアップデートしたらロビー画面からソラが消えました

757名無しさん:2025/07/19(土) 17:48:38 ID:dHVtCBt20
おつ!

758名無しさん:2025/07/19(土) 21:00:46 ID:yv3TNJwI0
ワクワクしてきた おつ
誤爆といいチーム名由来集といい色んなとこに喧嘩売りまくるのも草


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