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Desperado Chariots
129
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:07:30 ID:EXmg5ZGs0
『勝良祭』。毎年春に行われるこのお祭りは、なんか……勝利の……こう……昔色々あって英雄が?なんか死んだけど勝ったんで?その為の奉納?みたいな?わかんねえよ七年前に書いた設定なんて覚えてるわけねえだろカス
神輿がイキリ倒すだんじり祭のような側面も持ちながら、近年はサブカルイベントとしても発展し、会場は陽キャカス陰キャカスが入り乱れるカス人間のごった煮と化していた
そんな最中、市内で最高級を誇る『松千代グランドスゴイホテル』の屋上へたどり着いたクズとハゲとブサイク、そして生き残った屈強な面々五名
ブサイクは周囲への被害、そして顔面を見せつけられる事による不快感を考慮しズタ袋が被せられ、両の手は背中に回してロープで縛り付けていた
(´・_ゝ・`)「直に目が覚めるはずです。慎重に運んでください」
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!」」」」」
(´・ω・`)「先生、首尾は?」
ヘリポートへと降り立った本八はi-Ringから稲荷に連絡を取ると、すぐさま返事が返ってくる
《上々です。獏良くんを含めた四名を確保しました》
(´・ω・`)「え?」
《メンバーの猫山さんと高岡さん、そして彼らのマネージャーを拘束済みです》
(´・ω・`)「先生よ、ブサイクとそいつらじゃ社会的地位が天とウンコほどの差があるの分かってる?」
《何を仰るか。私は分け隔てなく教育を施す立場にあるのです。決してこの方が早いとか戴いた予算を面白おかしい方に使っちゃお☆とか考えた上での行動では断じてありません》
(´^ω^`)「なら良し!!!!!!!!!」
クズ同士の詩があった―――――
奇妙な友情があった―――――
130
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:07:56 ID:EXmg5ZGs0
(´・ω・`)「いやぁ……」
本八は通信を切断すると、恐れ入ったと額を叩く
(´^ω^`)「教員生命懸けてんねぇ!!!!!」
(´・_ゝ・`)「抑え込んでいたエゴが類友との出会いで解放された感はありますけどね」
(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!!!捕まったらどうしようか」
(´・_ゝ・`)「お高い保釈金払えばいいでしょうよ。さ、参りましょう。正念場ですよ」
屋上を吹き抜ける春一番が、盛岡の荒野に細々と生え立つ死にかけの頭髪を激しく嬲る
踊り狂う毛が、祭りよりも熱い、一世一代の交渉を本八に予感させかけたがーーーーーーー
(´^ω^`)・'.。゜「ブブホゥwwwwwwwwwwwwwwww」
(´・_ゝ・`)「今どこ見て笑った?」
(´^ω^`)「え?お前の頭wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
面白さが勝った
131
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:17:39 ID:EXmg5ZGs0
―――――
―――
―
『松千代グランドスゴイホテル』、一泊うん十万の最上級スイートルーム
その扉の前では、マホメド・アライでも泊ってんのかレベルの厳重な警備が敷かれていた
そしてこれは全然関係の無いどうでもいい話だが、このホテルはよく『松千代グランドスコイホテル』と間違われるのであった。ごっちゃんである
五人家族全員寝れんじゃねえかくらいの大きさがあるキングサイズのベッドに仰向けになりながら、「ここで何人の花嫁があの天井を見上げたのだろうか」などとベン・ウェイドみたいなことを考えていた。肥えたな、ラッセル・クロウ
そして少し離れた先には、四人の男女が目隠しをされ、椅子に縛り付けられている。その周りでは、十人くらいの屈強な面々が片目も離さず監視している。普通におしっこ漏らしちゃうよね
从 ∀从「……なぁギコにぃ、このドッキリ長くね?」
アイドルグループ『ハヤテ』の紅一点、高岡 波音(なみね)はさして緊張もせず、膝を開いたり閉じたりを繰り返す
170センチという高身長に加え、中性的なルックスとハスキーなボイスから繰り出される男勝りな口調。ガチ恋勢の女性ファンは全国に数十万に及ぶという。ハインくんしか勝たん
(,, Д )「ドッキリって言うな。使えなくなるだろ」
『ハヤテ』のリーダーにしてメンバー最年長。猫山 義古(よしふる)は小さな声で返事をした
業界屈指の肉体派アイドルで、アクション映画にも多数出演。肉食獣を思わせるワイルドな風貌は、数十万のガチ恋勢男性ファンを虜にする。抱いて……強く……
(; ∀ )「いやいやこれガチ誘拐でしょ!!マネージャーさんめちゃくちゃ怯えてるじゃん!!」
『ハヤテ』のセンター。獏良 良樹はドッキリと信じて疑わない二人とは違って、内心は混乱と恐怖に染まっていた
『芸能界顔が良い男性タレントランキング』では大差をつけてブッチギリ一位のイケメンであり、顔の良さだけで国民栄誉賞を授与されそうになったことがある。そう、何を隠そうその頃の内閣総理大臣が彼のガチ恋勢だったのである。その後無事失脚した。良かった良かった
勿論、人気を裏付けるのはルックスの良さだけではない。配信業の一環として始めたチャリオッツで、トップチームを破る凄まじい『豪脚』を見せつけたことで、これまで三次元のアイドルに興味を持たなかった層からの支持をも集めたのだ
歌って、踊って、『走れる』アイドル。チャリオッツ界で今、最も注目されているのが『ハヤテの獏良』なのであった
:(; e ):「わぁ……ぁ……」
そしてこのガタガタ震えながらちいかわみたいに泣くクソブサイクが、ハヤテのマネージャーである上手 聖夜(かみて せいや)である。誕生日は勿論、12月25日だ
昔から顔面にコンプレックスを持ち、幼い頃からアイドルや俳優が浮気、不祥事でどん底に堕ちるスキャンダルを見るのが好きな歪んだ性格であり、マネージャー業を勤めているのも間近で美男美女の不幸を味わえるからという顔面以上に醜い理由からであった
しかし仕事に手を抜くことはせず、人気絶頂のハヤテが活躍できるのも単に彼の献身的なサポートあってのこそで、『性格やべえな』とは思われつつも、信を置ける仕事仲間だった
:(; e ):「俺だけは助けろーーーーーーーーーーーー!!!!!!俺だけは助けろーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
信を置ける仕事仲間だった
132
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:18:24 ID:EXmg5ZGs0
「「「「「「「「「「ウッスウッス……ウッスウッス……」」」」」」」」」」
金で雇われた屈強な面々は創作だと確実に最初にぶっ殺されるような命乞いをするマネージャーを優しく宥める。そう、趣味は子猫の動画を見ながらの筋トレ。今回の収益は保護猫の活動団体へと全額寄付。猫を愛する心優しき筋肉たちであった
(; ∀ )「稲荷先生、目的はなんですか!?僕ら、もうすぐライブがあるんです!!ファンの皆様を待たせるわけにはいかないんだ!!」
爪'ー`)「すぐに済みますよ。それまで、ご辛抱ください」
ドア<ピンポン!!!!!!!!!
从 ∀从そ「チャイムの主張強っ」
爪'ー`)「役者は揃ったようですね」
屈強な面々の内の一人がドアスコープを覗き、仲間を確認して扉を開ける。雪崩れ込んでくる新たな人員に、ハヤテは緊張で生唾を飲み込んだ
:(; e ):「うわーーーーーーーーーーー!!!!!!もうダメだーーーーーーーーー!!!!!!せめて溜め込んでるスキャンダルを使い切って美男美女集う芸能界をボロクソにしてから死にたかったよーーーーーーーー!!!!!!!」
爪;'ー`)「ええ……貴方、本当にアイドル事務所の社員ですか……?」
どう考えても週間文春の記者の方が向いていた
(´・_ゝ・`)「お待たせして申し訳ありません。存外、手こずりまして」
爪'ー`)「いえいえ、想定の範囲内ですよ。おや、社長さん。手酷くやられたようですね」
(´メ)ω(メ`)「冗談の通じねえハゲが癇癪を起こしてな」
(´・_ゝ・`)「誰が人語を喋って良いっつっったよ。オラッ!!」
(;´メ)ω(メ`)・'.。゜「タイシンッ!!!!!!!!!!!」
腹に突き刺さるボディブロー。どう見てもヤのつく人のかわいがりである
133
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:20:36 ID:EXmg5ZGs0
「「「「「ウーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!」」」」」
そうこうしている内に徳雄も同じく椅子に縛り付けられ、会談の準備は整った
稲荷は期待と緊張で胸一杯に空気を取り込み、ゆっくりと吐き出す。そして屈強な面々へと目配せをして、目隠しを取るように指示した
(;・∀・)「うう……一体、な……」
瞼の裏側の闇が晴れ、差し込む光に目を眩ませた獏良は
(;・∀・)「あ……?」
拘束されている男の姿を見て、眩しさなど忘れ去ったかのように目をかっ開き、固まった
从 ゚∀从「うわ!!すっげーブサイク!!マネージャーよりブサイク!!」
(,;゚Д゚)「コラ!!!!!!失礼だろ!!!!!」
(^e^)「ギャーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!やっっっっべ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!俺なら自殺しちゃうくらいのブサイクじゃねーか!!!!!かぁいそ!!!!!ギャハハハハハハ!!!!!!!」
(,;゚Д゚)「上手さん!!!!!」
リーダーの気苦労が知れた
(´・ω・`)「目くそが鼻くそを笑う現場初めて見た」
(’e’#)「ハァ!?んだテメ……え?大潮、社長……?」
(´^ω^`)「俺のこと知ってんのかよブサイク!!!!!!何も嬉しくねえなぁ!!!!!ええ!!!!!!」
(^e^;)「と、当然ですよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!今や和菓子業界では知らぬ者はいない風雲児!!『OHANAMI』の売り上げはあのスターバックスさえも凌ぐと言われている超超巨大企業の社長様でござんしょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!あっ、ウチのタレントのCM起用ですか?勿論、他の何よりも優先してお受けさせて戴きます〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
(´^ω^`)「靴舐めろっつったら舐めそうだなお前」
(,,゚Д゚)「すみませんg(’e’#)「大枚叩いてくれるスポンサー様に口答えしてんじゃねえクソイケメンがぶち殺すぞ!!!!!!!」もうやだこのマネージャー」
从 ゚∀从「で、その超超巨大企業のシャッチョサンが何の真似だよ。ギコにぃとモラっちのケツでも狙いにきたのかい?」
(´^ω^`)「エッチな子だなぁええ!!!!!?????余計なこと抜かすオメーの口からファックしてやろうか?」
从 ゚∀从「助けてー犯されるー」
(´・_ゝ・`)「肝が据わってますねえ……」
134
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:24:14 ID:EXmg5ZGs0
(#・∀・)「説明してください!!!!!!!!」
室内が震える程の絶叫は、呼び水のように静けさを齎す。屈強な面々は涙目になった
彼が求めた『説明』。盛岡がそれに応じようとしたその時―――――
(#'A`)「ッ!!!!!」
『拘束』されていた筈の徳雄が椅子から飛び出し
(;´゚ω゚`)そ「ぐえーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
本八を押し倒した
屈強な面々「「「「「ウッス!!!!!!?????」」」」」
(#'A`)「動くんじゃねえ!!!!!喉元掻っ捌くぞ!!!!!」
引き剥がそうとした屈強な面々は、彼の手の内にある『凶器』を見て足を止めた
練り切りやきんとんを味わう為の菓子楊枝、『黒文字』。本来ならば人体やロープなど切れぬ筈のそれが、本八の喉元に添えられていた
135
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:24:59 ID:EXmg5ZGs0
(;´^ω^`)「おいおいすげーなお前。そんなもん隠し持ってたのかよ」
(#'A`)「こういう事もあろうかとな……店のモンを失敬して、削って『刃入れ』しといたんだよ……ロープ切るのでだいぶ消耗したが、アンタ一人ぶっ殺す程度ならまだ使えらぁ」
(;´^ω^`)「そうかよ次からミサミサが着せられてた拘束着を用意するわ。ほっぺにチューしてあげるからとかほざきやがったらぶっ殺す」
(;´・_ゝ・`)「落ち着くんだ宇都宮くん!!そんなクズを殺しても世界がまた一つ平和になるだけで君自身は何も得しないぞ!!」
爪'ー`)「貴方、本当に秘書ですか?」
(#'A`)「俺に指図出来る立場か!?ええ!?こないだの憂さ晴らしにしちゃあ大掛かりじゃあねえか!!このツケ今すぐ支払うか!?あァ!?」
(^e^)「よし!!!!!同じブサイクのよしみだ!!!!!!俺だけは助けろ!!!!!!!」
(#'A`)「次ふざけたこと抜かしたら両目くり抜いてここから突き落とすぞカス野郎!!!!!」
(’e’) スンッ……
上手は少し漏らした
136
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:26:44 ID:EXmg5ZGs0
(#'A`)「俺の手元が狂っちまわねえ内にサッサとそいつら追い出せや。仕事があんだろ?」
(;・∀・)「徳……」
(#'A`)「早く!!!!!!!」
旧友の言葉と姿に目もくれず、ハヤテのメンバーの解放を要求する
盛岡は屈強な面々に向かって頷くと、彼らは手早く拘束の解除に務めた
(’e’)「よし!!!!!!我々は急いで退散しよう!!!!!さぁ、お客様が待っているぞ!!!!!えーと、なんだっけなキミ?まぁクソブサイクでいいや。ご苦労クソブサイクくん!!!!!キミがこの場のクソ野朗共を皆殺しにしても我々は一向に構わん!!!!!存分にぶち殺したまえ!!!!!!」
(#'A`)「言われねえでもそうするよ……」
爪'ー`)「良い性格してますねぇ貴方」
(,;゚Д゚)「クソ、話にならん!!宇都宮といったな!?早まるんじゃあないぞ!!これ以上は看過できない事態になる!!」
(#'A`)「上等だよこいつらが先に売った喧嘩だ……きっちりカタにはめてやらぁ……」
(,;゚Д゚)「く……」
『かくなる上は』と、力づくで徳雄を引き剥がそうとした猫山の肩を掴んで止め、代わりに一歩踏み出したのは
( ・∀・)「……久しぶり」
他の誰でもない、唯一無二の友人であった
137
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:27:27 ID:EXmg5ZGs0
(#'A`)「…………」
(´^ω^`)「どうした?感動の再会だぜ?応えてやったらどうや?」※ミファファソソソラララの音階
(#'A`)「……てめぇはどこまで……クソッ」
見下されながら、勝ち誇った顔で見上げる本八の顔面に、徳雄はどうしても拳を振り下ろせなかった
『生き方』を変えようと決意したきっかけが、徳雄の背後に控えていたからだ。
組み伏せて尚、『掌の上』。この場に連れて来られた時点で、喧嘩の負けは決定付けられていた
('A`)「……巻き込んで、すまん」
徳雄は振り返る事なく、まずは一言謝罪する。ここぞとばかりに喚き散らそうとした上手の口を、猫山と高岡が塞いだ
('A`)「仕事……あんだろ。早く行けよ」
( ・∀・)「いや……もうちょっと時間あるからさ」
('A`)「そうか……」
( ・∀・)「……あの、大潮さん」
(´^ω^`)「え!!!!!????俺!!!!!????」
( ・∀・)「どうして、僕らをこの場に集めたんでしょうか?納得のいくご説明を願えますか?」
('A`)「獏良やめろ。聞くな」
( ・∀・)「いいや、納得は全てに優先する。答えが得られるまで僕はここから去るつもりはないよ」
138
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:28:12 ID:EXmg5ZGs0
(’e’;)「えーーーーーーーーーー!!!!!????いいじゃんもう出ようぜこんなカス集団に囲まれてたら俺の品行方正な人格が狂っちまうよムググ!!!!!!」
从 ゚∀从「ギコにぃ、一発殴っといた方がいいか?」
(,,゚Д゚)「やむを得ん」
从 ゚∀从「オラッ!!!!!!静かにしてろ!!!!!」ドグォ!!!!!!!!!!!!
(;e;)「ピギィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
(;・∀・)「お……お願い出来ますか?」
(´^ω^`)「愉快なマネージャーだな!!!!!!俺ならすぐクビ切るぞ」
(´・_ゝ・`)「オメーも似たような生き物だよクズ」
139
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:29:32 ID:EXmg5ZGs0
(´・ω・`)「ここからはガチでいくぞ。宇都宮、それと獏良。チャリオッツの舞台でケリ着けるつもりはねえか?」
( ・∀・)「!!」
(;-A-)「っ……」
目を見開いた獏良に対して、徳雄は深く目を瞑った。予想した最悪の言葉が、そっくりそのまま放たれたのだ
('A`)「何度も言わすな。俺はチャリオッツなんてやらねえ」
(´・ω・`)「そうかい。お前が二つ返事で引き受けてくれりゃあ、こうしてお友達を巻き込まねえで済んだんだがよ」
(#'A`)「勝手抜かしてんじゃねえ!!!!!!正気かてめえ!!!!!!」
(´^ω^`)「見てわかんねえか?勿論イカレてる!!欲しいもんを手に入れる為なら何だって使うさ!!金も人も!!感情も古傷も友情も!!何だってだ!!ハハハ、ハハァーハハハ!!!!!!」
(#'A`)「この、野郎……!!」
徳雄は深く後悔をした。自身が雇用主へと掛けた迷惑や、従業員としての義理。その全てを放棄してでも『逃げる』べきだった
あの日、本八が見せつけた大人としての貫禄。厳かな眩しさで見落としていたゲスな本性が、今まさに剥き出しとなっていた
140
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:30:10 ID:EXmg5ZGs0
(#'A`)「獏良!!こんなクソ野郎の言いなりになんてなる必要はねえ!!とっととここから出ていけ!!」
(;・∀・)「……」
(#'A`)「獏良!!」
退室を強く求める徳雄に対して、本八陣営は静かに動く。盛岡は唯一の出入り口である扉を開き、屈強な面々に道を開けるように指示した
(´・_ゝ・`)「お帰りはご自由です。通報なさっても結構。話を続けたいのであれば、もう暫くご辛抱願います」
(’e’#)「タダで済むと思うなよハゲ!!!!!!テメーら全員オマワリに引き渡して豚箱で臭いメシ食ってもらうからなぁ!!それじゃあ、お先に失礼!!!!!!!!」
盛岡は『やっぱこいつだけ殺しとくか』と、ウェルカムドリンクのシャンパンの瓶を握りしめた時、大きな一呼吸を置いて、力強い声が響いた
( ・∀・)「マネージャーさん、ごめんなさい。もう少しだけ、お時間頂けませんか?」
本八、盛岡、そして稲荷は、ハヤテのメンバーには見えぬように小さくガッツポーズを取る
獏良の意思は、彼らが思い描いていたシナリオ通りに動いたのだ
上手は部屋から一歩踏み出した先でピタリと止まり、心底辟易した表情で振り返った
(’e’)「顔に養分使い果たして頭可笑しくなったのかよ?『ハヤテ』が拉致られたんだぜ?世間を揺るがす大事件だ。今頃現場でスタッフも大慌てだろうよ。警察も動いてるはずだ」
(´・_ゝ・`)「ああ、ご心配なく。VIP市警は買収済みですので」
(’e’)「そこのブサイクの言う通り、こんな金で何でも解決出来ると思い込んでるカス共の言うことなんざ聞く必要はねえよなぁ?」
(´^ω^`)「まぁ実際解決してきましたからね!!!!!!!!お前も金さえあればそのクソみたいな顔面作り替えられたのにな」
(;e;)「ヒグッ……がえ、がえろうよ……もうやだよ……」
从;゚∀从「いい大人が泣くなよ……」
(,;=Д=)「あー、全くどいつもこいつも……良樹、早々に済ませろ」
( ・∀・)「はい、ありがとうございます。義古さん」
141
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:31:20 ID:EXmg5ZGs0
( -∀・)「さて……フゥ」
小さくため息を吐き、『何から切り出そうか』と軽く頭を掻いて悩んだ末に出た言葉は
( ・∀・)「元気そうで何よりだよ。ほんと、退学してから一向に音沙汰なかったからさ。キミのご両親も心配してたんだよ?」
当たり障りのない世間話からだった
('A`)「……悪かった」
( ・∀・)「いいんだ。こうしてまた会えて、嬉しく思うよ」
('A`)「……俺は」
(´-ω-`)「……」
本八は静かに目を閉じた。徳雄にのし掛かられている今、どうしたって目線は彼の顔へと向いてしまう
男であるならば、誰にだって見られたくないものだからだ。古傷と対峙する、悲痛な表情など
己の欲望一つで、徳雄の心痛を抉った分際ではあったが、その程度の思慮は持ち合わせていた
('A`)「こんな形で、会いたくなかったよ」
( ・∀・)「ハハッ、それもそうだね……でさ」
('A`)「やめろ。再三言わすな。このクズの言いなりになんてなる必要はない」
( ・∀・)「いいや、ハッキリ言わせてもらう」
( ・∀・)「チャリオッツをやるんだ。徳雄」
.
142
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:32:06 ID:EXmg5ZGs0
(;'A`)「っ……」
徳雄が拒みに拒み続けたその言葉は、過去とは無関係である本八から放たれるよりも遥かに深く、深く
(;'A`)「……ダメだ」
彼の真芯へと突き刺さった
( ・∀・)「どうして?」
(;'A`)「……」
( ・∀・)「さっき言ったよね?納得は全てに優先するって。僕の頑固さは知ってるだろう?答えてもらうまで、それこそファンの皆さんをお待たせしてでも、僕はここを断固として動かないよ」
从 ゚∀从「オラッ」
(;e;)「ピギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
なんか喚く前に先に殴られた上手。「もう追い出した方がいいんじゃないか」という指摘も、今は野暮な気がして誰も言えなかった
(; A )「……」
( ・∀・)「徳雄」
(; A )「……今更、どのツラさげてお前と競えっつーんだよ」
( ・∀・)「ツラ?」
本八は「そのブサイクなツラをさげたらええやないか」というクソ煽りを辛うじて飲み込んだ
( ・∀・)「まだ気にしてるのかい?」
(; A )「そりゃそうだろ……」
( ・∀・)「あのさぁ……」
(# A )「『殺す気』で走った!!!!!!!」
突如放たれた慟哭で、獏良を始めとした全員の肩が跳ね上がる。屈強な面々の一人は遂に泣き始め、周りが「大丈夫よ」と宥め始める
143
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:33:42 ID:EXmg5ZGs0
(# A )「お前と……お前とスポーツに出会って!!誰彼構わず噛み付いていた生き方を変えようと思った!!バカにする奴や不愉快な連中をぶん殴って黙らせるクソみたいな生き方をだ!!」
(# A )「お前と一緒に走ってたあの頃、確かに変わっていく実感があった!!鍛錬や競技を通じて、暴力じゃ得られねえ充実した毎日を送れた!!だけどな、俺ぁ最後の最後に、お前を殺す気で追い詰めた!!」
(# A )「何が違う!?相手をぶん殴って屈服させるやり口と!!あの後、そこの校長先生も含めてみんな口々に慰めてくれたさ!!『お前は悪くねえ』ってな!!だが世間様はちゃんとわかってた!!俺はお前に、事故で死なせちまっても構わねえから『勝ちたかった』!!」
爪'ー`)「……」
(# A )「情けねえよな俺は何も変わっちゃいなかった!!今だってそうさ!!鬱憤晴らす為ならこの社長様をぶっ殺してムショに入っても構わねえって考えちまってる!!この場の誰よりもクソ野郎だ!!そんな俺に、再びお前と競う資格なんて……」
( ・∀・)「おい」
思わず、目を逸らしてしまいそうなほど、『バキッ』と、肉と骨を叩く音が響く
『殴られた』側は本八から離れ、頬を抑えながら驚愕に目を丸くさせる。一方、殴った側は
(#・∀・)「フーッ、フーッ……」
殴った手を、怒りで血が滲み出るほど握りしめて、血走った目で徳雄を見下ろしていた
144
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:34:22 ID:EXmg5ZGs0
(;'A`)「つっ……」
(#・∀・)「お前……僕をバカにしてんのか……?」
(;'A`)「違っ……!!」
(#・∀・)「何が違うんだ!?言ってみろよ!!お前は僕を『本気出さなくても勝てる相手』と甘く見積もってたのか!?」
(;'A`)「そんなワケ……」
(#・∀・)「確かに何もわかってないクソ野郎だよお前は!!」
徳雄の胸ぐらを掴み上げ立たせると、もう一度頬っつらに拳を浴びせる。歓声を上げようとした上手の腹を高岡も殴った
<ピギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
(#・∀・)「『競技者』なら、誰だって殺す気の気概で舞台に上がっているんだ!!それで相手が下手をこいても、反則でもない限り責任は『負けた側』にある!!思いあがってんじゃねえぞ!!」
(;'A`)「……」
(#・∀・)「ッ……クソッ、クソッ!!」
再び拳を振り上げた獏良は、自らの腹へと、徳雄に浴びせた分の拳を力いっぱい叩きつける
(#・∀・)「最悪の気分だよ!!吐きそうだ!!」
本八は「そらそんだけ自分で腹殴ったらそうなるわな」という茶化しをマジ限界ギリギリで飲み込んだ
(#・∀・)「この言葉を、『あの直後』に伝えなかった自分に腹が立つ!!長いことキミを苦しめていた自分が嫌で嫌で堪らない!!『悔しかった』んだよ!!キミの本気を乗り越えられなかった、自分自身の不甲斐なさが!!だから居なくなったのを良い事に今の今まで放置してた!!この場にいる誰よりも最低のクソ野郎はキミじゃあない!!この僕だ!!」
('A`)「……」
(#・∀・)「だから……だから今一度!!恥を忍んで僕は望むよ!!確かに無茶苦茶な再会で、頭の整理もついていない!!だけど、大潮さんや校長先生が与えてくれたチャンスを不意にはしない!!」
145
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:35:09 ID:EXmg5ZGs0
(#・∀・)「僕とチャリオッツの舞台で戦え!!!!!!宇都宮 徳雄!!!!!!」
.
146
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:35:46 ID:EXmg5ZGs0
勢いそのまま、叩きつけられた『宣戦布告』。互いの本心をぶつけ合った末に訪れた、短く、長い静寂
徳雄は目を閉じて、獏良の荒い息遣いに耳を傾けていた。ジワと目元に湧き上がった熱を、必死に抑え込みながら
('A`)「……」
やがて、のそりと立ち上がると、切った唇から垂れた血を親指で拭って擦り消した
なんとも強引な交渉劇。不思議なことに、彼の中に長年巣食っていた『罪悪感』は、最初から無かったかのように消え去っていた
代わりに燃え上がっていくのは、『戦い』への意欲。目の前にいる、誰よりも熱く燃え上がる『流れ星』への再挑戦
('A`)「……イカレてんな」
誰も彼もが、狂っていた。戦力を得る為に強引な手段に出た本八も、二人の再戦を見る為にこの場を整えたであろう稲荷も
被害者にも関わらず、彼らに同調してもう一度戦えと吼える親友も。そして―――――
('A`)「いいぜ、わかった」
たった十分足らずで、『鬼』を取り戻す自分自身も
('A`)「吐いた唾は、飲めねえぞ獏良」
ポケットに手を突っ込んで、獏良へと対峙する。頭ひとつ大きな彼に、徳雄は全盛期の『メンチ』を切った
('A`)「今度こそ、キッチリお前をぶっ殺してやるよ」
この宣言に、獏良は怯むことなくこう返す
( ・∀・)「やってみろ。逃げ切ってみせるさ」
と
147
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:36:27 ID:EXmg5ZGs0
互いにしばし睨み合ったあと、フッと吹き出し笑いと共に目線を切り
( ・∀・)「健闘を」
('A`)「ああ、誓い合おう」
数年振りの、友情の握手を交わした
148
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:37:30 ID:EXmg5ZGs0
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`)「いやーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!良かった良かったーーーーーーーーーー!!!!!!これにて一件落着!!!!!!手間掛けさせやがってクソボケ共がーーーーーーーーーー!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
稲荷とかちょっと泣きそうになってたのにこのクズはすぐ台無しにした
149
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:39:21 ID:EXmg5ZGs0
从;゚∀从「マジかこのオッサン」
(,;゚Д゚)「余韻も味わわせてくれないのか……」
ハヤテのメンバーもドンの引きだった
(’e’)「青春ごっこは終わったか?じゃあ出るぞ。VIP市警がダメなら警視庁の方に直接通報すればパクられるだろ」
爪;'ー`)「貴方、今の光景を見てなんとも思わないんですか?」
(’e’)「あー、吐き気がするねオウェッ!!!!!!どこの馬の骨か知らねーけど、こちとらチャリオッツ界に颯爽と現われた超新星『ハヤテ』だぜ?ぽっと出の急増チームに勝てるワケねーだろ身の程を知れやカス」
(´・_ゝ・`)「よいしょっ」
盛岡がシャンペェンの瓶を叩き割って先端を向けると、上手はそれ以上何も言わなくなった
やると言ったら殺るという本気の凄みがあった―――――。ヤクザな脅しがあった―――――
(´^ω^`)「そんじゃあ気が変わらない内に契約書にサインしてくれたまえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!あっ、待遇は以前より少し上げてやったからな!!嬉しいなっ!!ブサイク!!」
('A`)「……」
(´^ω^`)「早くしろやーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!もったいぶってんじゃねえぞノロマーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
('A`)「別に」
(´^ω^`)「え???????」
150
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:40:15 ID:EXmg5ZGs0
('A`)「俺はアンタのチームじゃなきゃダメってワケじゃねーから」
.
151
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:40:39 ID:EXmg5ZGs0
(´^ω^`)
(´^ω^`)(´^ω^`)(´^ω^`)
(´^ω^`)(´^ω^`)(´^ω^`)
(´^ω^`)(´^ω^`)(´^ω^`)
.
152
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:41:13 ID:EXmg5ZGs0
(´・ω・`)
(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)
(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)
(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)
.
153
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:42:11 ID:EXmg5ZGs0
(´゚ω゚`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!???????ふざけんじゃねえぞクソボケブサイク童貞が!!!!!!!!!」
('A`)「むしろここまでやらかしといて『はい、サインします』って思う思考回路がどうかしてる」
(´・_ゝ・`)「ご尤も」
(´゚ω゚`)「お前らの為を思ってだるォォ!!!!!?????じゃなきゃこんな方法取るかよ!!!!!」
('A`)「いや欲しいもんの為なら云々言ってたじゃねえか。微塵もそんなこと思ってねえだろ」
(´゚ω゚`)「あたりめーだボケカス!!!!!!!!お前らの友情ごっこなんてどうでもええのんじゃあ!!!!!!」
(;・∀・)「大潮さんとはどういう経緯で?」
('A`)「バイト先の経営者」
(;・∀・)「そりゃ……災難だね」
('A`)「全くだ……ハァー……」
徳雄はギャーギャーうるせえ本八にツカツカと歩み寄ると
(´゚ω゚`)・'.。゜「ドトウ!!!!!!!」
鼻っ面に良いのを一発お見舞いした
154
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:43:07 ID:EXmg5ZGs0
('A`)「俺は優しいからな。こいつでチャラにしてやる」
(;´゚ω゚`)「ふはへんはへめぇ……?」※ふざけんなてめぇ
本八の鼻からダラダラと流れる鼻血を親指にベッタリと塗りつけると、契約書へと『血印』を押した
(´・ω・`)「ほまへ……」※お前
('A`)「やり方には多少どころじゃねえ不満があるが、アンタのお陰で吹っ切れるキッカケが出来たのも確かだ。今からチームを探すのも面倒くせえし、待遇も悪かねえ。飼われてやるよ」
(´・ω・`)「……」
(´^ω^`)「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」
今度こそ、本八を含む首謀者三人は、しっかりと両腕でガッツポーズを取った
155
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:45:14 ID:EXmg5ZGs0
(´^ω^`)「やったやったやった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!」
四十過ぎたオッサンが床にゴロンゴロンと大喜びする様はとても見苦しく
(;'A`)「うわ……」
徳雄は思わず血印を押したばかりの契約書を破り捨てそうになった
爪*'ー`)「いやぁ、ハッハッハ!!今日は良い日だ!!これほど嬉しいことも久々ですな!!」
(´^ω^`)「だっるぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
<ワーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!!チンポ!!!!!!!!!!!!
<ガーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハ!!!!!!!!!チンポ!!!!!!!!!!
(;・∀・)「あの、それで……具体的には、いつ頃対戦出来ますか?」
(´^ω^`)「ああ!!年末!!!!!!!!!!」
(;・∀・)「えっ?」
从 ゚∀从「え?」
(,;゚Д゚)「えっ?」
('e')「えっ?」
爪'ー`)「えっ?」
屈強な面々「「「「「えっ??????????????????」」」」」
(´‐_ゝ‐`)「……」
('A`)「?」
盛岡と徳雄を除く全員が、素っ頓狂な声を上げる。年末に行われるチャリオッツレースと言えば、思いつくのは一つしかなかった
国内最大級、参加条件はプロアマ問わず。最も『強く、速いチーム』を決める、日の本の名を冠した大会―――――
156
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:45:43 ID:EXmg5ZGs0
(´^ω^`)「『ジャパンカップ』だ!!!!!!!!!!!!!」
.
157
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:47:26 ID:EXmg5ZGs0
チャリオッツに関わる者なら、誰しもがその名を耳にし、憧れを抱いた
数多くの挑戦を受け入れ、数多くの夢が散っていき、たった一握りの勝者だけが『日本最強』の栄冠を手にした
(;・∀・)「それは……あの……」
『ハヤテ』も、チームとしては新参であるが、確かな実績を築いている。参加資格は十分にあったし、上位に食い込む自負も抱いていた
だが、たった今『ジョッキー』を見つけたチームが、チームとして体を成しているかどうかも怪しい彼らが、残り一年も無い時間で『ジャパンカップ』に挑むというのは
(^e^)「無理に決まってんだろヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!身の程を知れっつーーーーーーーーーーーーーーーーーーの!!!!!!!!!!!!ギャハハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
ハッキリ言って、『無謀』と言わざるを得なかった
('A`)「……」
上手の嘲笑が響く室内で、いまいち事の重大さが解かっていない徳雄だけが
('A`)「とりあえず……職場戻っていいか?」
バイト先の心配をしたのであった
158
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:49:13 ID:EXmg5ZGs0
次回予告
(´^ω^`)「いやぁ、ようやくジョッキーが決まって良かった良かった!!!!!!!!一安心!!!!!!!!安心過ぎて安心院になったわ」
(´・_ゝ・`)「安堵している暇はありませんよ。次は『ガンナー』です」
(´^ω^`)「わぁってるわぁってる!!大丈夫だアテはある!!」
(´・_ゝ・`)「と言うと?」
(´・ω・`)「猫山のあんちゃんのいとこが、元ガンナーだってよ」
(´・_ゝ・`)「意外な伝手ですね。しかし『元』というのが気になります」
(´・ω・`)「どうにも、所属してたチームで一悶着あったみてえでな。今となっちゃ立派な引きこもりだとよ」
(´・_ゝ・`)「引きこもりは立派とは言えないのでは?」
(´^ω^`)「というワケでおめえら!!!!!!!!引き続き出番だ!!!!!!!!よろしく頼むぜ!!!!!!!!」
屈強な面々「「「「「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
(´・_ゝ・`)「力業以外の方法をまず試せよ。普通は最終手段なんだよ」
(´^ω^`)「次回、『Desperado Chariots』第四話。『鬼に司令塔、残りは金棒』。ぜってぇ見てくれよな!!!!!!」
屈強な面々「「「「「ヨロシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!!」」」」」
159
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/08/12(木) 13:56:23 ID:EXmg5ZGs0
三話終わりですラーメン食べてきます
160
:
名無しさん
:2021/08/12(木) 14:01:38 ID:SvDB3RvQ0
otsu
161
:
名無しさん
:2021/08/12(木) 14:04:15 ID:1MoQMPwI0
輸送中のドクオ静かにしてたから諦めたのかと思ったら熊眠らせるレベルの麻酔打たれてて笑った
乙!
162
:
名無しさん
:2021/08/12(木) 14:12:25 ID:dGuzqacE0
あっちい、まだ競技始まってないんだが?
乙
163
:
名無しさん
:2021/08/12(木) 15:16:57 ID:zY/XwgVw0
いやほんとにメンバー集めの時点でこの熱さはやべえよ 乙
164
:
名無しさん
:2021/08/31(火) 00:00:43 ID:eUdQB1t20
セリフの勢いで笑ってしまうw
続き楽しみにしてます!
165
:
名無しさん
:2021/08/31(火) 13:18:04 ID:SyrcMsNc0
デスチャリ
166
:
名無しさん
:2021/09/07(火) 20:43:01 ID:8HNQpbD60
面白い
練習無しでメンバー集まった瞬間ジャパンカップ始まりそうな勢い
167
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:09:39 ID:BqAN.9rU0
(;'A`)「ハァッ!!ハァッ!!」
分厚い鋼鉄の胎内で、宇都宮 徳雄はペダルを漕いでいた
目あき窓から見える風景は、殺風景な荒野。時折、腹の底まで響くような砲撃音と砂柱が立ち昇る
「おいもっと飛ばせ!!死ぬぞ!!」
(;'A`)「簡単にっ……言ってくれるじゃねえか!!」
速度計は60キロを指している。それでも足りないと、頭上から鞭を振う『キャプテン』に、『ジョッキー』は汗飛沫と共に毒を返した
「五時の方角から砲撃!!衝撃に備えろ!!」
(;'A`)「んなろっ……!?」
発砲音から少しの間もなく、右尻をガツンと殴られたような衝撃で身体が浮き上がり、ペダルから足を滑らせる
立て続けに、背後から二発、三発と衝撃。せめて座席からは投げ出されないようにと必死にハンドルにしがみつく
苛烈な攻めから逃れようと、再びペダルに足を掛けるが、チェーンが切れたかのように『空回った』
「あーあー……」
落胆の声と共に、灰色の胎内は黒一色に染まる。その後、目の前に赤文字で『GAME OVER』と文字が浮き上がった
(;'A`)「ハァーッ、ハァーッ……」
チャリオッツ初挑戦。かつて『鬼迫』と恐れられた男のスコアは
(;'A`)「クソが……」
全4ステージ中、『2ステージ』で幕を下ろした
168
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:13:33 ID:BqAN.9rU0
第四話
『鬼に司令塔、残りは金棒』
.
169
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:17:02 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「お疲れ様でした」
三メートル大の球状コクピットから降りた徳雄と本八を、スポーツドリンクとタオルを手にした盛岡が出迎える
チャリオッツ専用ゲームセンター『コロッセオ』に入店した時は、やや過剰に効いた空調に肌を摩ったが、今となっては生き返るような心地の涼しさを感じられる
(´・_ゝ・`)「ガンナー無しの軽装備車体。それに加えて初挑戦にしては、上々の戦績かと」
(;'A`)「慰めをどーも」
ベンチにドカリと腰を下ろすと、受け取ったスポーツドリンクをガブリと飲み込んでタオルで夥しく流れる汗を拭った
鍛錬を続けていたとは言え、ロードバイクとは余りにも毛色が違う競技。思っていた以上の苦戦を強いられ、久々に辛酸を味わう羽目になった
フォローを入れる盛岡に対して、徳雄と共に『キャプテン』として搭乗した本八は、溢れ出る不満を全面に押し出していた
(´・ω・`)「ザッコ……」
(#'A`)「よくこんなクズと長いこと付き合えますねデミさん」
(´・_ゝ・`)「ああ、程々に(毎日)暴力を振るうのが長続きのコツだ」
脛を狙って放たれた蹴りをヒョイと躱した本八は、表情をいつものクソ腹立つ笑顔に変えた
(´^ω^`)「これでわかったろ!!ロードちょっと齧った程度じゃチャリオッツは出来ねえっつった意味!!」
('A`)「あー、お陰さんでな」
チャリオッツは三人一組のチームで戦車を模したペダル式駆動車を操作し、複数の異なる環境のステージをクリアしながらゴールを目指すVRレースゲームだ
実際に今、プレイしたのはオーソドックスな1㎞×4ステージのレース。使用した車体スペックは四輪駆動のオフロード仕様タイヤと、現状最も軽い砲塔である5.56㎜軽機関銃
その他のオプションは抜きにした上で、『ガンナー』抜きで実際にプレイを行った結果が第2ステージでのゲームオーバーである
『習うより慣れよ』。チャリオッツの名前こそ知っていたが、他は何もわからなかった徳雄には、この競技のイロハを説くよりも実際に経験させた方が覚えが早いという考えからであった
本八の狙い通り、徳雄は一度のプレイである程度の理解を深めたようで、ロードとの違いを幾つか挙げ始めた
170
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:20:54 ID:BqAN.9rU0
('A`)「最初に気になったのは四輪であることだ。操縦席こそバイクのそれだが、挙動は自動車に近い」
チャリオッツの操縦は、ジョッキーのハンドル操作と重心移動で行う。概ね自転車と似たような方法だが、二輪と四輪では重力の掛かり方や挙動に違いがある
車体の大きさにも差がある為、車幅の感覚を身につけて運転を行わねばならない。事実、第1ステージのジャングル地帯では、四度ほど木に車体をぶつけてつんのめってしまったのだ
('A`)「変速が無いシングルスピードなのも気になった点だな。今回は坂路にぶち当たんなかったが、平地ばかりのステージでもねえんだろ?」
(´・ω・`)「ああ、坂路もねえこたねえが、お前が攻めてた峠ほどキツイもんはねえな。チャリオッツの稼働初期はギアが搭載されてたんだが、プレイヤーの間口を広げるために取っ払ったらしい」
チャリオッツに置いて坂路のステージは限りなく少ない。そもそもに置いて装備装甲、及び『搭乗員』という負荷が予め乗っかっている為だ
ここに『登坂』という負担を加えてしまうと、ゲームとしての体を成さないほどの過酷さとなってしまい、結果として競技人口の減少へと繋がる
あくまでも『eスポーツ』、あくまでも『ゲーム』。その根底は『遊び』であり、多くの人々が楽しめることを前提とした上で調整が行われている。変速の排除もその一つだ
('A`)「チャリさえ乗れりゃ、誰でもジョッキーってか」
(´・ω・`)「そうだな。立ちコケなんかもねえし、チャリどころか三輪車乗れるんならジョッキーはこなせる。なんせペダルを漕げば安定して進むんだからな」
('A`)「ケッ、よく言うぜ」
単純な話、『進むだけ』なら、本八の言った通り誰にでもジョッキーというポジションは務まる
だが『戦車』という性質が、ゲームとしての面白みと『制限』を作り出していた
('A`)「ジョッキーの視野は前、それも目開き窓から見える範囲しか与えられねえ。後ろを確認しようにも見えるのはガンナーの股座だって言うじゃねえか」
チャリオッツの操縦席は三段構造になっている
上段は『キャプテン』。車内上部のハッチから身を出し、外部情報を視認し全体へと共有、及び指揮を執る
中段は『ガンナー』。キャプテンの指示、もしくはスコープを覗いて敵を暴き出し、グリップとトリガーを用いて砲弾を放つ
上記二段を背に最下段で脚を使うのが『ジョッキー』。自転車競技とは違い、周囲は装甲の壁で囲まれている
限られた視界の中で自らの目と『キャプテンの目』を頼りに道を切り開かねばならない
171
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:23:36 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「視界は車体のカスタムである程度は確保出来る。それでも足りない視界を補う為に、俺ら『キャプテン』がいるんだ」
('A`)「ハンッ、役に立つかどうかも疑問だがな」
(´^ω^`)「言うねえザコが!!!!!ぶち殺すぞクソガキ!!!!!!!!!!」
('A`)「口だけは達者で結構だな。そんなんだからオッサンになるまで仲間集めが上手くいかなかったんじゃねえのか?」
(´;ω;`)「なんでそんな酷い事言うの……?」
(´・_ゝ・`)「周知の事実だからでは?」
(#´゚ω゚`)「だぁってろハゲが!!!!!!!!!」
二回り近く年下のブサイクなガキに言い負かされて、大企業の社長のプライドはズタボロボンボンだった
('A`)「それと、アレだな……やっぱ『妨害』があるってのはやり難い」
そして何より決定的な違いは、『攻撃有り』というゲーム性だ。チャリオッツは相手を蹴落としながらゴールを目指すゲームだが
『最後の1チーム』として残った場合も勝利条件として認められるバトル・ロワイアルの要素も含む。この勝利方法をチャリオッツでは『ラスト・ワン』と呼ぶ
先を目指すか、相手を倒すか。この駆け引きも、チャリオッツの醍醐味の一つであり、厳格なルールがあるスポーツとの差異であった
172
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:27:08 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「単純な砲撃だけじゃねーぞ。今やったのはシンプルルールで、本番は更に複雑になる」
('A`)「まだなんかあんのかよ……」
(´・ω・`)「ああ、『アビリティ』『アイテム』『トレジャー』だ」
『アビリティ』。キャプテンが任意のタイミングで使えるスキルの総称だ
分かり易い例だと、装甲を強化や装填速度の向上等、レースを優位に進める為の装備の一種である
強力なアビリティほど使用回数の制限や長いクールタイムが設定され、簡易なモノは短時間で何度でも使い回せる
勿論、単純に強ければ良いと言うモノではなく、ジョッキーやガンナーの性質、車体のカスタムを理解した上で、最も使い勝手の良いアビリティを吟味しなければならない
『アイテム』。スタート時とステージクリア毎に『ショップ』を使って購入出来る使い切りの装備だ
ショップでは、ステージクリア時の順位ボーナス。もしくは他チームやNPCの撃破時に得られる購入ポイントを使って、装甲の回復や砲弾の補充を行い
次ステージ、あるいは敵チームへの対処を行う為に多種多様のアイテムを購入し、備える必要がある
購入制限は無いものの、『貨物』が増えた分の重量はジョッキーへとのし掛かる。残りの体力と相談して、速やかに買い物を終えねばならない
また、例外としてレース最中でもショップを利用できるアビリティも存在する
『トレジャー』。購入ポイントとは別に、各ステージの『ボス』に相当する敵対NPCを撃破すると得られるレアアイテムである
ショップで購入出来る代物とは大きく異なり、それぞれが一発逆転の可能性を秘めた『チートアイテム』。勝利を物にするならば必ず手にしておきたい垂涎モノの『お宝』だ
ただし、得る為に必要な労力は、下手をすると敵チームを撃破するよりも遥かに求められる。欲を掻いて返り討ちに遭うなど、チャリオッツにおいては日常茶飯事だ
万が一ボスを撃破出来たとしても、今度は『漁夫の利』を狙った敵チームに呆気なく倒される場合もある
リスクを危惧してスルーするか、リターンを狙って挑戦するか。トレジャーの争奪もまた、チャリオッツに無くてはならない要素だった
ここまで饒舌にベラベラと説明をした本八に対して、徳雄はクソめんどくさそうにこう返した
('A`)「クソめんどくせえ……」
と
173
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:30:18 ID:BqAN.9rU0
('A`)「もうなんか……殴り倒して勝ちくらいのシンプルな感じかと思ってたのに……」
(´・_ゝ・`)「ヤンキー気質が抜けきってないね」
('A`)「そら中学卒業まで喧嘩に明け暮れりゃこうもなりますよ」
(´・ω・`)「いいや、お前の認識は間違ってねえ。相手を撃破しても勝ちなんだ。実際、大きな大会でゴールせずとも優勝したチームもいる」
('A`)「オッサン、なんか勘違いしてるみてーだから改めて言ってやるが俺は……」
徳雄の言葉を、本八は掌を突き出し遮った
(´・ω・`)「わーってる。お友達とはレースで競って勝ちてえってのもな。だが、降り掛かる火の粉を振り払えねえ今、俺達は『ハヤテ』と同じ土俵に立てやしねえんだ」
('A`)「……つまり?」
(´・ω・`)「『脚』と『オツム』しか揃ってねえ現状じゃ、実戦訓練も儘ならねえってこったよ」
174
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:30:43 ID:BqAN.9rU0
('A`)「……デミさんじゃダメなのかよ?」
(´・ω・`)「こいつゲーム全般ザコでハゲだから無理」
盛岡は本八の顔面に膝を叩き込んでから、何事も無いかのように
(´・_ゝ・`)「VR酔いが酷いんだよ」
と、自身がチャリオッツをプレイ出来ない理由を話した
('A`)「はぁ……で、アテはあるんすか?」
(´・_ゝ・`)「あるよ、勿論。意外なツテでね」
('A`)「ツテ?」
(´・_ゝ・`)「ああ。今からそのツテに会いに行こう」
175
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:32:06 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――
―
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「……」
この一か月、榊原 入鹿(いるか)は激動の日々を送っていた。社長直々によるハラスメントの告発に、気弱なアルバイトの急変
社長と秘書を含めた屈強な面々と急変したアルバイトの店内での抗争。その後、新たな屈強な面々による店内清掃及び改装
その同日にアルバイトは正式な『社員』として迎えられ、榊原は改めて教育係として任命された
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「……」
自身に科せられた処罰は三ケ月の減給のみで済んだ。これは虐めていたアルバイトが『自分にも責任がある』という理由で減刑を求めた結果らしい
榊原は今度こそ心と勤務態度を改め、元アルバイトに謝罪。これからは一人前の従業員を目指し『新入社員』と共に邁進しようと心に決めた矢先のことだった
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お待たせ致しました。抹茶と練切のセットでございます」
(,,゚Д゚)「はい、ありがとうございます」
店内でただ一人、座敷に陣取る『猫山 義古』へと、出来る限り丁重に茶をお出しする
社長による急な貸し切りと、今や国内で知らぬ者はいないであろう大人気アイドルユニットのリーダーの来店は
短期間で数多くの修羅場に巻き込まれた榊原であっても、不安と緊張で膝の震えが止まらなかった
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ごにゅっ、ごゆっくり……」
深々と一礼をした猫山は、茶碗の抹茶を音を立てず啜る。舌にジワリと広がる茶の苦みと深い旨みにほぅと息を吐き、花を象った練切に黒文字を差し込む
きめ細かな白あんを口に含むと、苦みに慣れた舌を主張しすぎない甘さが優しく包み込む。思わず、視覚を遮断して深く頷いてしまうほどの心地よさへと沈み込んだ
(,,^Д^)「美味しいです。とても」
|;;;;|*,'っノVi ,ココつ「はっ、はひぃ!!ありがとうございます!!」
猫山はまた一人の男の『雌』を呼び覚ましてしまったのであった
176
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:33:11 ID:BqAN.9rU0
(,,-Д-)(落ち着くな……)
久々のオフ。何かと姦しいメンバーやマネージャーから離れ、茶と和菓子に舌鼓を打つ。替えたばかりであろう畳の芳しい香りは、激務で疲弊した心を安らげた
好奇心旺盛で活発な高岡や、熱い主人公気質の獏良。人の不幸の為には労力を厭わない上手とは違い、穏やかで優しい性格の猫山にとって至福のひと時であった
(´^ω^`)「よぉ楽しんでるか猫山のあんちゃん!!!!!!!!!!!!!!!遅れてすまねえなオイ!!!!!!!!!!!!!」ドバァン!!!!!!!!!!
(,;-Д-)「……」
ただ、その休息も長くは続かなかった。ほぼ蹴破るように入店した本八は、ガハハと下品に笑いながら猫山へと近づく
後から、申し訳なさそうに眦を下げた盛岡と、無愛想でブサイクな顔面の徳雄が入店する。鼓膜に響く低い笑い声に眉間を抑えながら、猫山は小さく呟いた
(,;-Д-)「短い休息だった……」
(´^ω^`)「え???????????なんて????????????」
(,;゚Д゚)「いえ、何でも。此度は私から申し出たにも関わらず、このような場を設けてくださりありがとうございます」
立ち上がって挨拶をしようとした猫山を手で制し、本八に続いて盛岡と徳雄も席に着いた
(´^ω^`)「かまへんかまへん!!榊原!!人数分の茶と団子!!はよ用意せんかいゴルァ!!!!!!!!!」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「はっ、はい!!今すぐ!!」
詳しい話を聞かされていない榊原でも、この会談が重要だということは分かる。社長がワンオペを指示したのもバイトからの情報漏洩を防ぐ為だろう
慌ただしい店長を見かねてか、『新入社員』は下ろしたばかりの腰を上げた
('A`)「手伝うっすよ店長」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「いいよ座ってな!!大事な話なんだろ!!」
('A`)「……すんません、お願いします」
177
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:35:09 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「変わるもんだねぇ……」
(,,゚Д゚)「はい?」
(´・ω・`)「いや、こっちの話だ。早速だが、聞かせてくれや。『ガンナー』を紹介してくれるっつー話をよ」
猫山から連絡が入ったのは、勝良祭の翌日だった。『昨日はバタバタとして話せなかったが、手の空いたガンナーを紹介したい。宜しければ、日を改めてお会い出来ないだろうか』と
(,,゚Д゚)「はい。私のいとこなんですが、つい最近プロチームを脱退しまして。腕は確かなので其方のチームで使って頂ければと。詳細は此方です」
猫山のi-ringから、それぞれに『いとこ』のデータが送られる。ホログラムで映し出されたのは、まだ幼げの残る男子の姿
『( ^ω^)v』
『内藤 文彦』。朗らかな表情に、発育の良さを思わせるふくよかな恰幅。齢は十六の男子高校生。通う学校も、特筆すべき点の無い普通の高校
ドクズ極まりない本八や、容赦なく暴力を振るう徳雄と比べれば、なんてことの無い平凡な少年だった
(´・ω・`)「ふっっっっっと」
('A`)「クソザコデブオタクくんじゃん」
(´・_ゝ・`)「人を見たら悪口から入るのやめろロクデナシ共」
(,;゚Д゚)「いえまぁ……お気になさらず……」
(´・ω・`)「今ですらブサイクの若造に手を焼かされてんのに、その上デブガキの面倒まで見ろっつーのかよ」
('A`)「クズのオタク中年一人だけでもストレスフルなのに、その上オタクデブまで乗せて走んなきゃならねえのかよ」
本八と徳雄は胸倉を掴み合ったが、盛岡は無視して話を進めた
(´・_ゝ・`)「随分とお若いですが、プロに所属していたのなら実力は確かなのでしょうね」
(,,゚Д゚)「ええ。僅か三か月ですが、『蟒蛇』に所属していました。プロテストは一位通過です」
(´・_ゝ・`)「実績は?」
(,,゚Д゚)「秋に行われたバトル・ロワイヤルモードのチャリオッツ大会『蟲毒』の出場、その一回限りです」
178
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:36:51 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「一回限り、ですか……」
やはり引っかかるのは、余りに短いプロ期間だ。スポーツ、eスポーツに関わらず、プロへの入団は狭き登竜門
ましてや、チームに所属したばかりなら『これからだ』という意気込みで取り組む筈。それを短期間で脱退するということは
(´・_ゝ・`)「……チームに問題が?」
(,;-Д゚)「そうですね……私からは『恐らくは』としか言えません。あまり素行の良い団体ではありませんので」
(´・ω・`)「蟒蛇って言やぁ……」
『ゴール』ではなく『ラスト・ワン』での勝利を目的とするプロ団体『蟒蛇』
そのこだわりは徹底されており、例え目と鼻の先にゴールがあろうとも、踵を返して背後の敵チームの撃破を優先する
こと『攻撃』に関しては、猫山が率いる『ハヤテ』を遥かに凌ぐ実力を持つアタッカー集団なのだ
ここまで早口で説明した本八を見て徳雄は
('A`)「オタクって知識開示する時は決まって早口になるよな」
と、オタクが閉口するキラーワードを放った
(´・ω・`)「人気と実力を兼ね備え、サポーターやファンの層も厚い。だが、オフェンス主体の気質からか、暴言や煽りが多く炎上沙汰はしょっちゅうだ。最古にして最強のチーム『トップ・ギア』や、猫山のあんちゃん率いる『ハヤテ』が王道ベビーフェイスだとするならば、『蟒蛇』はヒールだな」
('A`)「へぇ。そんじゃあイジメにでも遭ったんじゃねーの?そういうツラしてるぜこいつ」
(´・_ゝ・`)「もう少し言葉を選べよ」
(,,゚Д゚)「いや、伯父から聞いた話では『蠱毒』までそのような素振りは無かった。俺も幾度か連絡を取ったが、毎日が楽しいと言っていたよ。その言葉に偽りはないと思う」
(´・ω・`)「そんじゃあやっぱターニングポイントは『蠱毒』か。試合映像は?」
(,,゚Д゚)「あります。映し出しましょう」
179
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:38:15 ID:BqAN.9rU0
i-ringからホロスクリーンを空中に投影し、件の試合映像が流し出される
チャリオッツの『バトルロワイヤルモード』は、円状のステージで行われ、時間経過毎に縮小していくエリア内で最後の1チームになるまで対戦する
長期戦になりがちなレースモードと比べ、プレイ時間は短く、試合の回転数も早い。野良ゲームとしても人気の高いモードだ
(,,゚Д゚)「大蛇のロゴが付いた戦車が蟒蛇です」
戦車に齧り付き、邪悪にニヤつく大きな蛇。相手を丸飲みにする姿が、『蟒蛇』の名を表している
通常の戦車には存在しない、六連回転式『シリンダー』が搭載された特殊砲を見て本八は感心したように『ほう』と声を上げた
(´・ω・`)「『6shooter』か。渋いもん使ってんな」
('A`)「あのマグナムみてーな砲か?」
(´・ω・`)「ああ。通常砲なら一発撃つ毎に再装填を行う必要があるが、こいつは六発連続でブチ込める。ガンナーの腕次第じゃ西部劇のガンマンさながらの早撃ちも可能だ」
('A`)「めちゃくちゃつえーじゃねーかそんなもん」
(´・ω・`)「勿論、デメリットもデカい。六発撃ち切ったらその分再装填に時間を使うし、射程距離も短い上に威力も命中精度も高くはねえ。近距離なら無類の強さを誇るが、中距離は不安が残り長距離は絶望的。そんな武器だ」
('A`)「ピーキーだなオイ」
《さぁ注目のチーム『蟒蛇』!!バトル・ロワイヤルは正に主戦場でしょう!!新たに加入したガンナー『内藤 文彦』選手の活躍にも期待出来ますね!!》
実況に耳を傾け、一同は閉口して映像を眺める。ステージは廃墟の市街地。蟒蛇の戦車は荒れたアスファルトを駆けながら、指定エリアを目指す
すると、向かって斜め右から砲撃、地面へと着弾する。右車輪が一瞬浮かび、すぐに沈んで車体を揺らした
前輪は右に向き、発砲した敵戦車へと照準を合わせて走り出す。撃った側は再装填の為か、後退しながらビルの陰に車体を潜ませようとした
(´・ω・`)「遅い。射程圏内だ」
しかし、隠れるよりも先に蟒蛇が『6shooter』の射程距離内に相手を収める。威力が低くとも6発という連射力が売りの大砲だ
このまま連続して撃ち込めば、1キルは確実。そう思った矢先、異変は起きた
180
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:39:26 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「は?」
『撃たない』。何かを警戒してか、撃鉄が下される気配はない。しかし罠の可能性があるのなら、キャプテンの指示の元、全体へと共有されている筈だ
だがハッチから身体を出すキャプテンは足下のガンナーに困惑と怒りを交えて怒鳴りつけており、ブレーキは踏まれず間合いを縮めている
導き出される結論は、『ガンナーが独断で引き鉄を引かない』。ようやく異変に気づいたジョッキーが、ハンドルを切り射線から逃れようとしたがーーーーー
('A`)「あっ」
相手の再装填が済み、すぐさま発砲。砲弾は車体の『脇腹』へと突き刺さり、呆気なく横転した
《あーーーーーーっと!!まさかの事態だ!!悪名高い『蟒蛇』が開始五分足らずで討ち取られたーーーーーーーーーッ!!!!!!!》
実況の叫び声と共に、参戦リストボードから『蟒蛇』の名前が削除される。試合時間、『4分18秒』。まだ一度目のエリア縮小が始まったばかりの出来事であった
181
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:41:16 ID:BqAN.9rU0
(,,゚Д゚)「……以上です」
スクリーンを閉じ、やや消沈した声色で終了を告げる。いとことしても、あまり気分の良い映像では無いのだろう
ましてや『デビュー戦』。実況の言った通り、多くの期待を寄せられた上での参戦だった筈だ
(´・ω・`)「……上がったか?」
期待は重圧の裏返しだ。緊張で身体が強張り、撃つべきタイミングを逃したのではないか
本八が立てた推測を、猫山は首を振って否定した。代わりに差し出された『謎』の答えは、事態を更に混迷させるものだった
(,,゚Д゚)「『トリガーがロックされていた』そうです」
(´・ω・`)「何……?」
『ロック』。ゲームが開始されるまで、悪戯防止の為にトリガーやペダルは固定されている
実際に始まれば、問題なく動くように設定されているが、稼働初期にはロックされたままという不具合も多々あった
現在も部品の経年劣化や整備不良などで起こる不具合だが、公式の大会で起こった前例は今の所一つも『無かった』
(´・_ゝ・`)「でしたら、運営から必ずアナウンスがされる筈です」
(,,゚Д゚)「……」
本来、大会で不具合などあってはならないものであり、被害を被ったチームは大会運営に対して謝罪とやり直しを求める権利がある
それはどの大会に置いても参加登録書に明記されている項目であり、一大プロ団体である蟒蛇全体が声を上げて抗議を行うべきだ
それが、『誰も声を上げないどころか、運営すら口を閉ざしている』。明らかに『異常』と呼べる事態であった
(,,゚Д゚)「チャリオッツ公式にも大会運営にも問い合わせましたが、答えは決まって『異常無し』でした」
(´・_ゝ・`)「それについて蟒蛇はなんと?」
(,,゚Д゚)「……選手本人の緊張による錯乱であり、それ以上でも以下でもない。内藤選手の大会参加は時期尚早であり、今後の課題としていきたい。と」
182
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:43:23 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「それは……」
(,,゚Д゚)「ええ。責任は文彦一人に科せられました。程なくして、蟒蛇を脱退。大きな大会でしたから、メディアにも広く取り上げられてしまいました。それ以降、学校にも行けず、部屋に引きこもっているそうです」
('A`)「仮にもチームメイトだってのに、庇いだてもしねえのか。チャリオッツってのはあったけえスポーツだな」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「お待たせしました。お団子セットでございます」
('A`)「店長タイミング」
(´^ω^`)「おお来た来た!!これこれぇ!!世界で一番美味え食いもんよ!!ガハハ!!!!!」
マジ空気読めないタイミングで訪れた団子を頬張った本八は、渋い顔を崩さない猫山へ行儀悪く串先を突きつけた
(´・ω・`)「そのお坊ちゃんがどんな理由で引き鉄を引かなかったのかはこの際どうでもいい。裏で潜んでる陰謀にも興味ねえし、蟒蛇がどれほどのクソ団体かも関係ねえ」
('A`)「このオッサンホンマ……」
(´・ω・`)「黙れ拗らせブサイク。肝心なのは、俺のお眼鏡に適う実力があるかどうかだ。知っての通り、俺は引きこもり専用のカウンセラーじゃねえ。要求する基準をクリアしてなければ、ご親族の問題は引き続きお前らで解決していく事になる」
(,,゚Д゚)「存じ上げております」
突き放すような物言いに、猫山は強い口調で返した。そこには、必ずお気に召すだろうという、強い自信が込められていた
(,,゚Д゚)「贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二と言っても過言ではございません。本来の力をお見せしましょう」
183
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:44:04 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「それは……」
(,,゚Д゚)「ええ。責任は文彦一人に科せられました。程なくして、蟒蛇を脱退。大きな大会でしたから、メディアにも広く取り上げられてしまいました。それ以降、学校にも行けず、部屋に引きこもっているそうです」
('A`)「仮にもチームメイトだってのに、庇いだてもしねえのか。チャリオッツってのはあったけえスポーツだな」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「お待たせしました。お団子セットでございます」
('A`)「店長タイミング」
(´^ω^`)「おお来た来た!!これこれぇ!!世界で一番美味え食いもんよ!!ガハハ!!!!!」
マジ空気読めないタイミングで訪れた団子を頬張った本八は、渋い顔を崩さない猫山へ行儀悪く串先を突きつけた
(´・ω・`)「そのお坊ちゃんがどんな理由で引き鉄を引かなかったのかはこの際どうでもいい。裏で潜んでる陰謀にも興味ねえし、蟒蛇がどれほどのクソ団体かも関係ねえ」
('A`)「このオッサンホンマ……」
(´・ω・`)「黙れ拗らせブサイク。肝心なのは、俺のお眼鏡に適う実力があるかどうかだ。知っての通り、俺は引きこもり専用のカウンセラーじゃねえ。要求する基準をクリアしてなければ、ご親族の問題は引き続きお前らで解決していく事になる」
(,,゚Д゚)「存じ上げております」
突き放すような物言いに、猫山は強い口調で返した。そこには、必ずお気に召すだろうという、強い自信が込められていた
(,,゚Д゚)「贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二と言っても過言ではございません。本来の力をお見せしましょう」
184
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:44:34 ID:BqAN.9rU0
猫山のi-ringから新たなホログラム映像が映し出される。一本道を真っ直ぐに進むチャリオッツの車体
砲は先ほどと同じく『6shooter』。ただ、ハッチから顔を覗かせているのは猫山本人だった
(,,゚Д゚)「5年前の映像です。文彦は11歳でした」
(´・_ゝ・`)「小学生ですか」
小学生のチャリオッツプレイヤーも数多い。12歳以下の選手が競い合う『金の卵杯』という大会も開催されている
五歳で年齢制限のない大会に出場した歴代最年少のキャプテンもいるほどだ。11歳という歳若さは、チャリオッツを知ってる者にとっては特に珍しくもなかった
(´・ω・`)「……」
やがて、道を挟んで向かい合う、二重丸の的が二つ見えた
(´・ω・`)「ほぉー……」
『6shooter』は固定砲、駆逐戦車と同じく『ヤークトパンツァー』であり、回転する砲塔は無い
射線を変える為には車体ごと旋回させねばならず、車体横にいる敵への即応は難しい
実際の戦場ならば、陣地防御や待ち伏せとして運用されるヤークトパンツァーであるが、これはゲームである『チャリオッツ』
(´^ω^`)「クク……」
『面白えもんが見れそうだ』。本八の期待は、裏切られることなく実現される事となる
185
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:45:07 ID:BqAN.9rU0
的まで十メートル地点。猛烈なスピードで進んでいた車体は、急ブレーキと共に右に旋回。タイヤは滑り、スピンを始める
射線が右側の的へと重なった瞬間、『6shooter』は砲音と共に口から閃光を放つ。瞬きすら憚られる速度で、的の上半分が吹き飛んだ
(;´゚ω゚`)そ「!!」
(,,゚Д゚)「まだです」
声を上げようとした本八を猫山が制する間に、回転を続ける車体は次の獲物を『左的』に定める。続け様に発砲
左の的も後を追い、電子の金属片と化して標的の役目を終える。車体はややぐらつきながらも進路を正面へと修正し、再びスピードを乗せて走り出した
映像の中の若き猫山は、興奮と喜びが入り混じった表情で足下のいとこへと賞賛の言葉をかける。車体の背が遠ざかっていく最中に、再生は終わった
(;´゚ω゚`)「……」
本八は、若干11歳が今しがた魅せた『御業』に身震いを起こす。手から団子の残った串が滑り落ち、ペチャリと蜜を跳ばした
一方、チャリオッツに精通していない徳雄は、「おー」と間抜けな声と共に力ない拍手を贈った
('A`)「すげーな」
(;´゚ω゚`)「バカおめえすげえなんてもんじゃねえぞ……」
('A`)「は?」
(#´゚ω゚`)「何もわからねえのかバカが!!!!!!!ブサイク!!!!!!節穴野郎!!!!!!いいか、今のはな!!!!!!!」
186
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:45:41 ID:BqAN.9rU0
(#´゚ω゚`)「一つの的につき『三点バースト』!!!!!!それも停止せずに的確にぶち抜いてんだよ!!!!!!」
.
187
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:48:15 ID:BqAN.9rU0
(,,゚Д゚)「その通りです」
猫山は映像を巻き戻し、発砲から的の破壊までのシーンをスローで再生する
徳雄の耳には、『一発分』にしか聞こえなかった砲音だったが、砲口からは連続して『三発』の砲弾が放たれている
砲弾は若干のラグこそ生じているものの、一つ残らず的の中心部へと吸い込まれるように衝突。三回分の衝撃に耐え切れず、千切れ飛んだ
左の的も同じく、一発分の砲音で三発を連射。これも寸分違わず的を撃ち抜き、破壊した
(#´゚ω゚`)「射線が的と重なる一瞬でエイム合わせて早撃ちしてんだ!!それも動きながら、視野も限られた車内でよぉ!!嘘だろオイこんな才能を放ったらかしにしてんのかよチャリオッツ界隈は!!」
('A`)「へぇ……」
(#´゚ω゚`)「獏良以外興味ねえのかテメェは!!!!!!!!??????」
('A`)「うん」
(´・_ゝ・`)「因みに、タイムなど計っていますか?」
(,,゚Д゚)「これまでの最高記録が0.1秒以下です。公式には記録されていませんがね」
(#´゚ω゚`)「ボブ・マンデンかよ!!!!!!!」
('A`)「いやもう誰……?」
188
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:53:44 ID:BqAN.9rU0
(#´゚ω゚`)「いいか!!!!!????6shooterは唯一無二のシングルアクション式トリガーシステム!!!!発砲する為には撃鉄を起こす+トリガーを引くの2つのアクションを要する!!!!!」
(#´゚ω゚`)「それを0.1秒未満で行うって事はだ!!!!!!!6shooterのポテンシャルである連射速力を最高値で叩き出してんだよ!!!!!!それもエイムを損なわずだ!!!!!!!」
('A`)「あーもーわーったようっせえな。結論だけ先に出せよ。迎えるのか?迎えねえのか?」
(#´゚ω゚`)「言うまでもあるかブサイク!!!!!!!!!猫山ァ!!!!!!その引きこもりオタクデブの所に案内しろ!!!!!!!!今すぐ!!!!!!ナウ!!!!!!」
(,;゚Д゚)「ちょ……ちょっと待ってください。先に連絡して都合がつくかどうかだけ確認してきます」
(#´゚ω゚`)「金なら幾らでも出す!!!!!!!!!!!!金なら幾らでも出す!!!!!!!!」
<金なら幾らでも出すからーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
そう、第一話ラストの再現であった
189
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:54:47 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――
―
〜二時間後〜
(#´゚ω゚`)「大阪や!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!」ドドンドドンドンドン!!!!!!!!
(,,゚Д゚)「ちょっ……やめてください!!」
(#´゚ω゚`)「やかましいはよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!」ドンドンドンドン!!!!!!!!!
内藤 文彦の実家へ訪れた本八一行は、チャイムを無視して扉をバンババ叩き恫喝
道中でスカウトからガサ入れへと目的が変換されたんじゃないかと疑るほどの剣幕だった。アホなんで致し方なかった
盛岡が警察への対応策と保釈金の勘定を始めた時、家内から返事が返ってくる
<なんやぁお前ェ!!!!!!!ふざけてんじゃねえぞこの野郎!!!!!!!!
ひょっとしてVReスポーツ物からアウトレイジに変わった?って感じの怒声だった
(#´゚ω゚`)「てめえがふざけてんじゃねえ開けろっつってんだろゴルァ!!!!!!!令状あるんやぞゴルァ!!!!!!!」
<関係あるかぁボゲェ!!!!!!!入れるもんなら入って来いやゴルァ!!!!!!!
(#´゚ω゚`)「うるせえはよ開けろゴルァ!!!!!!!!!!」
<開けるかボゲェ!!!!!!!!!
190
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:55:22 ID:BqAN.9rU0
('A`)「もしかしてどっかの組に属してらっしゃる?」
(,,゚Д゚)「いいや。だが六馬(ろくま)伯父さんは建設業者でな。少々、気性が荒いんだ」
('A`)「少々どころじゃねーっすけど?アレ本業レベルなんすけど」
(,,゚Д゚)「その……何度か権利関係で揉めて反社とバチバチにやり合ったことは……ある……」
('A`)「楽しそうっすね」
(´・_ゝ・`)「飢えてるねー……これじゃ埒が明かない。徳雄くん」
('A`)「うっす。死ねオラ!!!!!!!!」
(;´゚ω゚`)・'.。゜「シチー!!!!!!!!!!!!」
背後から脇腹に突き刺さる鋭いボディフック。本八は静かに膝を着き、横たわった
191
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:55:59 ID:BqAN.9rU0
(´・_ゝ・`)「お騒がせして申し訳ありません。文彦くんの件で参りました盛岡と申します。このクズがひと暴れした後で大変恐縮ではございますが、お話を聞かせて頂けませんでしょうか?」
<ああ、義古の!!これは失礼致しました!!
情緒やべえなと思いつつ、暫く待っていると
(;ФωФ)「お待たせ致しました。内藤 六馬と申します」
浅黒い日焼け肌と、『どけ!!俺はお父ちゃんだぞ!!』とだけプリントされたクソTシャツがパツンパツンになるほどの肉体を持つ中年男性が扉を開けた
(;ФωФ)「どうぞお上がりください」
(´・_ゝ・`)「はい。失礼致します」
('A`)「お邪魔しまsあっなんか踏んだ邪魔だなこれ死ねよクズ」ドゴォ!!!!!!!
<ぐえーーーーーーーー!!!!!!!!
(;ФωФ)そ「い、行き倒れ!?この方も介抱しなければ!!義古!!手伝いなさい!!」
(,;゚Д゚)「あ、ああ……」
凄く良い人だった
192
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:56:42 ID:BqAN.9rU0
( ФωФ)「どうぞ、お寛ぎください。コーヒーで宜しいでしょうか?」
(´・_ゝ・`)「はい。お気遣いありがとうございます」
徳雄は用意された座布団に脚を崩して座り、軽くリビングを見回す
くたびれたソファーには脱ぎっぱなしの衣服が掛けられ、ダイニングキッチンのカウンターにはインスタント食品と酒瓶が並び、目に悪い色合いを生み出している
リビングの窓からは雑草が伸びっぱなしの庭が見え、朽ち果てた犬小屋がポツンと鎮座し、廃屋のようなもの悲しさを演出していた
(´・_ゝ・`)「徳雄くん」
('A`)「おっと、失礼」
行儀の悪い行いを窘められ、徳雄は背筋を正した。やがて、人数分のカップが置かれ、家主も席に着く
コーヒーの香りを鼻にして、ダウンしていた本八もムクリと起き上がった
(;ФωФ)「おお、ご無事のようで何よりです」
(´・ω・`)「ご無事じゃねえよ脇腹クッソ痛えわ。あ、これ我が社のお饅頭です皆さんでどうぞ」
( ФωФ)「これはこれはご丁寧に。頂戴致します」
手土産を渡すと、本八は先ほどまでのマル暴振りとは打って変わり、背筋を伸ばして正座した
193
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:57:26 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「参羽鴉グループ代表取締役、大潮 本八です。この度は息子さんを我がチャリオッツチームに引き入れたく参った次第です」
(;ФωФ)「社長さんでありましたか。愚息の為、遠路遥々ご足労頂き感謝申し上げます」
(´・ω・`)「早速、文彦くんご本人と面会したいのですが……彼の部屋は二階ですか?」
(;ФωФ)「はい。ですが、何分頑固で臆病な息子でして、すんなりと出てくれるかどうか……」
(´・ω・`)「結構。此方から参ります。デミー、あれを」
(´・_ゝ・`)「はい。どうぞ、お納めください」
階段へと向かう本八を引き留めようとした内藤を遮るように、盛岡は胸ポケットからクレジットコードが記載されたカードを一枚差し出した
桁にして七桁。札束一つ分の電子通貨を前に、内藤は慌てて掌を向け拒否をした
(;ФωФ)そ「しまってください!!お金など受け取れません!!」
(´・_ゝ・`)「いえ、受け取らざるを得なくなります」
(;ФωФ)「は……?」
(´・_ゝ・`)「リフォーム代金としては心許ないですが、『扉一枚分』ならおつりも出るでしょう」
ここで、内藤は電子マネーを差し出した『意味』を理解した。これは賄賂でも契約の前金でもなく
<大阪や!!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!
『息子の部屋の修繕費』であると
194
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 20:58:22 ID:BqAN.9rU0
(;ФωФ)そ「うおおおおおおおおそういう事かよ!!!!!!!!待て待て待てーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
(,;゚Д゚)「大潮さん無茶はやめてください!!」
親族がバタバタと二階で暴れん坊ガサ入れ将軍する本八を止めに行くのを余所に、盛岡は落ち着いた様子で熱いコーヒーを啜った
('A`)「アンタら、いつもこんな手段で人集めしてんすか?」
(´・_ゝ・`)「心外だな。僕はフォローをしているだけで、主犯は全部あのクズだよ」
('A`)「共犯の時点で言い逃れ出来ねーっすよ?」
<やめんかいこのボゲェ!!!!!!!!!!!
<やかましいはよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!
<二人とも落ち着いてくれ!!文彦が怯える!!!!
(´・_ゝ・`)「確かに強引が過ぎるよね。人は煽るわ暴力も辞さないわ、挙句の果てには金と権力を振りかざして、人の心の柔い所を面白半分に抉り回すわ」
('A`)「人の形をしたクソじゃん……」
(´・_ゝ・`)「それでも、奴はとことん気に入った人材を確実に手に入れてきた。ここにいるマヌケ二人が良い例さ」
コーヒーではなく、記憶の苦みに盛岡は渋い顔を浮かべる。そんな『被害者』の姿を見て、徳雄は呆れたように笑った
まんまとしてやられた側としては、あの奇行も作戦の一つなんだろうなと、妙に腑に落ちている自分もいたからだ
('A`)「心中、お察しします」
(´・_ゝ・`)「いやいや、僕はキミよかまだマシだったよ。家族には絶縁を突き付けられたけどね」
(;'A`)「……」
コーヒーを飲み終えた盛岡は、カップを置くと「よっこらせ」と立ち上がり、騒がしい二階の騒動を収めるためにゆっくりと向かい始めた
「アンタが一番のイカレだわ」。思わず徳雄が呟いてしまった一言に返事こそしなかったが、鼻で笑って肩をすくめて見せた
195
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:00:20 ID:BqAN.9rU0
まぁそれはそれとして
(#´゚ω゚`)「開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(#ФωФ)「扉から離れんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおおおお手が付けらんねえええええええええええええ!!!!!!!」
文彦の部屋の前では発狂した野郎三人による地獄絵図が広がっていた。フロア盛り上がってんな
<うっせえお!!!!!!!!!! ※うるさすぎてAdoになった
扉の向こう側から、何かを投げつけた音と共に絶叫が返ってくる。普通ここで一瞬静かになるところだが
(#´゚ω゚`)「何がうるさいじゃゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(#ФωФ)「お前がうるさいんじゃボゲェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!離れんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!」
(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!」
全然静かにならなかった。そう、ガサ入れはビビった方の負け。大阪府警の迫力はヤクザをも凌ぐのであった
(;´・_ゝ・`)「うわめんどくさ……僕らだけ先に帰る?」
('A`)「アンタの上司だろ早く何とかしろよ」
196
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:01:07 ID:BqAN.9rU0
(,,;Д;)「も゛う゛や゛め゛て゛よ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!」
反抗期の息子と父親の喧嘩を見てパニックになる母親みたいになるイケメンアイドルの姿。映像は高く売れそうだった
(´・_ゝ・`)「さて、徳雄くん。この場を収めてみるかい?」
(;'A`)「俺ぇ……?まぁ、やるだけやってみるっすけど……」
徳雄は頭を掻きながら、とりあえず猫山をスッと脇に避け
('A`)「ッスゥーーーーーーー……」
(#´゚ω゚`)「大阪や!!!!!!!!!!はよ開けんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(#ФωФ)「何が大阪や!!!!!!!!!!!はよどかんかいゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!」
(#゚A )「ど け」
ご自慢の殺気を放ち
(;´゚ω゚`)そ「ヒンッ」
(;ФωФ)そ「ヒャンッ」
うるせえオッサン共を黙らせた
:(;´・_ゝ・`):「うおお……」
この場で一番カタギから遠い若者がそこにいたのであった
197
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:02:08 ID:BqAN.9rU0
('A`)「……」
(;´・ω・`)「……」
(;ФωФ)「……」
(#゚A )「耳 が 腐 っ て ん の か ?」
(;´゚ω゚`)そ「スッマセ!!!!!!!!!!!!!」※すいません
(;ФωФ)そ「ドキャッス!!!!!!!!!!」※どきます
扉の前からサッと身を引いた二人に変わって、徳雄が前に立つ。拳を軽く握ると、扉を『コン、コン』と叩く
<うっせえうっせえうっせえお!!!!!!!!!!! ※実は中にいるのはAdoなんじゃない?
それはノックというよりも、『扉の材質を確かめている』ように見えた
('A`)「内藤さん。この部屋、鍵掛かってんすよね?電子ロックっすか?」
(;ФωФ)「いや、そんな大したものじゃない。旧式の円筒錠……ボタンを押して施錠するタイプだ。解錠は内ノブを回せばいい」
('A`)「ふぅん……鍵穴は、パテか何かで塞がれてんな」
(;ФωФ)「ま、待ちなさい。先に何をするつもりか言ってくれないか?」
('A`)「え?いや、時間無いんで引きずり出そうと思って」
(;ФωФ)「で、出来れば穏便に済ませて貰えないだろうか?」
('A`)「こちとら元より悠長に構えるつもりはねえんすよ。見ての通り、引きこもりのカウンセラーじゃねえもんで。あ、ちゃんと金は受け取ってくださいね。まぁ、大工さんなら修理もお手のもんでしょうけど」
198
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:02:42 ID:BqAN.9rU0
今度はギチと音が聴こえるほど、握力の限り拳を握りしめる。内藤にとっては頭二つも小さな若者だったが
(;ФωФ)「っ……」
その小さな肉体は、拳を構える様は、建物を破壊する『重機』を思わせる迫力を放っていた
('A`)「一、二ぃの……」
素振りをしながらリズムを作り、そこから―――――
(#'A゚)「シッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
息を素早く吐き出す。脚、腰、肩を経由した力が、『破壊力』に昇華して拳から放たれ―――――
<わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!????????
ドアノブの真横を粉砕した
(;ФωФ)「」
ポカンと呆ける内藤の肩にポンと手を置いた本八は
(´^ω^`)「あれね、俺がスカウトしたんすよwwwwwwwww」
自慢げに親指で自身を指さした
199
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:03:30 ID:BqAN.9rU0
('A`)「この辺かな……?」
扉に出来上がった拳一つ分の穴に腕を突っ込み、内側からドアノブを回して解錠する
(´・_ゝ・`)「手慣れてるね」
('A`)「喧嘩相手をこうして追い詰めたことあるんで。はい、御開帳っと」
なんでこいつ格闘技せずにチャリ乗ってんだろうという疑問はさておき、一行はようやく引きこもりの部屋へと足を踏み入れた
若干の汗の臭いが混じった生温く湿り気のある濁った空気が真っ先に出迎え、肌と鼻に不快感をもたらす
壁一面に貼り付けられた人気バーチャルアイドル『皆鳴(みなみ) ミセリ』のデジタルポスターが、一定の周期で踊ったりウインクしたりを繰り返している
床は足の踏み場が無いほど、インスタント食品やお菓子、清涼飲料のゴミや衣服、雑誌が散乱しているが、皆鳴 ミセリのフィギュアを飾った棚だけは埃一つない
PCデスクに浮かぶホログラムスクリーンには、彼女の配信アーカイブ映像が流れていた。その傍らで―――――
(; ω )「キュウ」
当の本人は驚きの余り、死んだ蛙のようにひっくり返って気を失っていた
200
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:04:35 ID:BqAN.9rU0
('A`)「うわっ、オタクの部屋……アンモニア水あります?」
(;ФωФ)「な、何に使う気だ?」
('A`)「嗅がせたら一発で起きるんで」
(;ФωФ)そ「手慣れ過ぎだろ!!義古!!こいつどこの組から連れて来たんだ!?」
('A`)「カタギですけど?」
(,,;Д;)「知らねえよ……獏良のダチだよ……」
(´・ω・`)「ちょうど持ってたわ」
('A`)「何で持ってんだよ気持ち悪ぃ。まぁいいわ、早く寄越せよクズ」
(#´^ω^`)「死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
顔面に向かって投げつけられたアンモニア水の瓶を片手で難なく受け取ると、ティッシュを数枚引きぬいて少量染み込ませる
それを、覆い打ちのように顔面に掛けて少し待つ。すると
(; ゚ω゚ )そ「オウェッ!!!!!!!!!!!!!!!!くっっっっっせ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アンモニアの激臭で粘膜が刺激され、思いの外力強く目を覚ました ※絶対に真似しないでください
('A`)「おはよう」
(; ゚ω゚ )「ゲッホアッ!!!!????オウェッ!!!!!!!!!!!!」
知らない人が部屋に上がっている事よりも、鼻の痛みの方が深刻であった
201
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:05:24 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――
―
(#^ω^)「うっせえうっせえうっせえお!!!!!!!!!!!!!帰れ!!!!!!!!!親父!!!!!!!!!塩撒けお!!!!!!!!!!!」
そう、これが噂のうるさすぎてAdoになったわである。運転中に踊聴いてたらクラクションの音が入っててビックリした
(;ФωФ)「ふ、文彦……わざわざ出向いてくださったんだから、少しくらい考えても……」
(#^ω^)「だからって部屋のドア壊していいわけじゃないお!!!!!!!!!!!」
ご尤も過ぎてもっともっとタケモットでお馴染みのタケモトピアノになったのであった。電話して頂戴である
文彦を無理やり、もうほぼ凌辱じゃんみたいなやり方でリビングに引きずり出したはいいが、高待遇の契約を提示しても『帰れ』の一点張りであった
(´^ω^`)「いけずせんといてぇや文彦ちゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!ワイとチャリオッツやろうや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
(#^ω^)「僕はもうチャリオッツなんてやらないんだお!!!!!!!!これからは配信業で食っていくんだお!!!!!!!!」
(´^ω^`)「たまにはすんなり人集めしたいわぁ……」
(´・_ゝ・`)「拒否から入られると厄介ですよねぇ……」
('A`)「だからって拉致までするか?ねぇ、猫山さん」
(,;゚Д゚)「同意はするが人ん家のドア殴り壊したキミが言えた義理じゃないぞ」
内藤(父)は思った。『こりゃ早いとこ帰した方が身のためだわ』と
202
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:07:56 ID:BqAN.9rU0
(,;゚Д-)「コホン……まぁ、少々不安になるのも分かるが、彼らは『ジャパンカップ』の制覇を目標に掲げるチームだ」
(#^ω^)「それとドアの破壊に何の関係があるんだお!!」
(,;゚Д゚)「それはやり過ぎだと思うが……」
('A`)「ごめ」
(,;゚Д゚)「とにかく、お前をこのまま腐らせて置くわけにはいかない。ここはいとこの顔を立てると思って、まずは『仮契約』という形からでも力を貸してやってはくれないか?」
(#^ω^)「……チッ」
落ち着きなく貧乏ゆすりをしながら、参羽鴉のメンバーを見定めるように睨め付ける。一方本八は貧乏ゆすりと共に揺れる顎の贅肉を見て笑った
(#^ω^)「……誰が出るんだお」
(´^ω^`)「俺がキャプテンの大潮 本八様だお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!だおだお!!!!!!!!!!!!!」
盛岡の肘が鼻っ面に突き刺さり、本八は静かになった
('A`)「俺がジョッキーの宇都宮 徳雄だ。チャリオッツの経験はねえが、元チャリ乗りだった」
(#^ω^)「ふぅん……それで、残り七か月強で、ジャパンカップ制覇?」
(´メ)ω(メ`)「できらぁ!!!!!!!!!!」
またうるさなった
203
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:09:35 ID:BqAN.9rU0
(#^ω^)「チャリオッツを無礼んじゃねえお!!!!!!!!!!!!!!」
テーブルに拳が振り下ろされ、カップが一斉に驚き跳ねる。ここは普通シンと静まり返る所だが
(#´゚ω゚`)「無礼てねえわバカ野郎俺の二分の一も生きていねえクソガキの分際でわかったようなクチ利いてんじゃねえぞゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
本八はノータイムで怒号を返し、文彦のよれよれトレーナーの胸倉を掴もうと手を伸ばす。流石に手は不味いと、徳雄は手首を掴み止め
('A`)「静かにして」
(#´゚ω゚`)そ「ターボ!!!!!!!!!!!!!???????????」
そのまま肩の関節を極めてテーブルに組み伏せた。この間、僅か二秒である
('A`)「坊主」
(;^ω^)そ「な、なんだお!!やんのかお!?」
('A`)「いや、やんねえけど……だってお前弱そうだし……そりゃ、殴り甲斐はありそうだけど、面白くはねえだろうから……」
(´・_ゝ・`)「どういう判断基準で生きてんだお前」
(;ФωФ)「もう帰ってくれねえかなぁ……」
('A`)「さっき言った通り、俺ぁチャリオッツに関しちゃからきしでね。ジャパンカップってのも、どう凄ぇのかいまいちわかってねえ。このオッサンも喚き散らすばかりでその辺の説明はしてくれねえからな」
(´・ω・`)「だって勝てばいいだけじゃん痛たたたた折れるっつーかもう折れてない?すっごい痛いわこれ」
猫山は深く後悔した。「人選ミスったわ」と
204
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:11:16 ID:BqAN.9rU0
('A`)「だからその口で、教えちゃくんねえか?ジャパンカップとやらがどれだけ高ぇ壁なのかってのを」
(; ω )「……」
思わぬ形で訪れた静寂。文彦は、しばし下唇を噛み締め、下ろした拳をゆっくりと引いた
(; ω )「……十一月、二回に分けて行われる予選。プロアマ問わず、参加するチームは三万を超えるお。その中から、わずか十八チームだけが、年末の本選に出場出来るお」
(; ω )「確立にして0.0006%以下って言えば、これがどれだけ絶望的な数字かよくわかるお?この狭すぎる出場権も、ほぼ有名チームが掻っ攫っていくお」
(; ω )「文字通り『三万が一』、出場が叶ったとしても、対戦相手は『連続出場』が当然の強豪と、それすらも容赦なく飲み込む敵対NPCだお」
「お前大晦日って言ったけど本番は一か月前から始まるじゃねーか先に言えそういうのは」の意味を込め、徳雄は肩の関節をキツめに締め上げた。ブチ折れる一歩手前である
(; ω )「口では何とでも言える。けど、現実は有言実行を叶えてくれるほど甘くはない。僕は『負け戦』に付き合うなんて御免だお」
『チャリオッツ』を知っているからこそ、僅かな時でもプロプレイヤーであったからこそ、その厳しさは身に染みて理解している
そして、プロとしての道が閉ざされた今となっては、万人が『無謀』とあざけ嗤う行為に挑戦するほどの熱意は無い
改めてお引き取り願おうと顔を上げた文彦は、その『無謀』に挑もうとする者達の表情を見てしまった
('A`)「へぇ……」
一方は、別に大したこと無さそうに
(´^ω^`)「クク……」
もう一方は、『だからこそ面白い』とでも言いたげに
205
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:12:09 ID:BqAN.9rU0
(;^ω^)「なっ……話、聞いてたかお!?」
('A`)「どうせ一位しか狙ってねえから確率とか参加人数の話されてもピンとこねえ」
(´^ω^`)「ハハァ!!その通り!!おいそろそろ放せよお行儀良くするから」
『新入社員』の拘束から解放された『社長』は、肩を解すようにグルンと回す。これまでジャパンカップの詳細を徳雄に伝えなかったのは、『こうなる』ことが見えていたからだ
どれだけ狭き門か、どれだけ過酷かを説こうとも、彼に見えているのは『獏良 良樹に勝つ』の一点のみ。その他である29998のチームなど元から眼中に無いのだから
(´・ω・`)「おめえの言い分も理解できるぜデブガキ。だがよ、29999の軍勢を1チームで相手するわけじゃねえ。多少のチーミングはあるだろうが、『周りは全部敵』なのはプロもアマも変わんねえだろうが」
ここで大げさに、「ああ!!違う違う」と頭を振り、本八本来のペースを整えていく
(´・ω・`)「有名な分、虎視眈々と下剋上を狙う連中からのマークだってキツくならぁな。アマが本選に出場できる最大の狙い目が、『ノーマーク』って所だ」
(´^ω^`)「おめえ、体感したくはねえか?即席の無名チームが、日本最高峰の大会で優勝する瞬間を。どんな極上の女を抱くよりも、遥かにぶっ飛ぶ快感を得られるぜ?」
(;^ω^)「ッ……い、いや……それでも」
(´^ω^`)「おお、おお!!わーってるわーってる!!それでも狭き門なのに変わりはねえ!!だからこそ、究極の『質』を揃える必要がある!!」
徳雄の背中をバンと強く叩く。反射的に顔面へ肘を入れようとしたが、盛岡のアイコンタクトによって寸前で思いとどまった ※後でやる
(´^ω^`)「ここにいるブサイクはな!!『ハヤテ』の獏良 良樹が宣戦布告した最大のライバルだ!!その素質は誰よりも『超新星』の一人が認め、そして恐れている!!こいつは『鬼』だってな!!」
(´^ω^`)「だが舞台は『自転戦車』!!!!!未経験のぺーぺーには荷が重い戦場だ!!!!!脚が速いだけじゃ勝ち残れないのは百も承知!!!!!」
背中を叩いた手を高々と掲げ、振り下ろし、宙で止める。テーブル越しに差し出された手に、文彦は困惑した表情を浮かべた
(´^ω^`)「脚を使う『鬼』に、頭使う『司令塔』!!残りは邪魔者を蹴散らす『金棒』だけだ!!内藤 文彦よ!!!!!お前の腕に惚れた!!」
206
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:14:21 ID:BqAN.9rU0
(´^ω^`)「俺と、俺達とチャリオッツをや――――――
最高のタイミングで放たれた口説き文句は
(# ω )「……ッ!!」
差し出した手を力強く叩きはらう音と痛みに遮られた
207
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:15:03 ID:BqAN.9rU0
(# ω )「……帰ってくれお」
(,;゚Д゚)「文彦……」
(# ω )「帰れッ!!!!!!!!!!!」
とりあえず徳雄は激昂したクズが暴力振るわないように暴力を振るう心構えをしといた
(´・ω・`)「……」
(´・_ゝ・`)「……そうですね。今日の所は、お暇致しましょう」
徳雄の心配を余所に、本八は珍しく極めて冷静に、盛岡へ目配せをして撤収の指示を伝える
盛岡を皮切りにそそくさと立ち上がると、本八は内藤に向かって一礼した
(´・ω・`)「お騒がせして大変申し訳ございませんでした。また後日、改めてお伺い致します」
(;ФωФ)「え……また来るの……?」
もう勘弁して欲しかった
('A`)「……」
(; ω )「……」
文彦は下を向き、苛つきと不安で親指の爪を噛み始めた。惨めな姿を一瞥した徳雄は、いつも通りの冷めた表情だったが
('A`)「……」
無意識の内に眉間に皺が寄っているのに気づき、指で揉み解しながら玄関へと向かう
他人の家特有の落ち着かない匂いから抜け出し、外の空気を胸一杯に吸って気持ちをリセットさせた
『あれが、俺が駄々を捏ねていた姿だったか』。得も言われぬ気色の悪さと気恥ずかしさは、多少解消された気がした
208
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:17:25 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「どうした大将?あの僕ちゃんの姿が少し前のお前と被って見えたか?」
('A`)「アンタはホントによぉ……」
クズはクズなんで他人の痛いところをほじくり回すのが大好きだった
(,;゚Д゚)「待ってくれ!!」
(#´゚ω゚`)「待つーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
(,;゚Д゚)そ「待っ……待つのか!!一々騒がないと意思疎通出来ないのか!?」
(´・_ゝ・`)「ああ、猫山さん。力になれず申し訳ありません」
(,;゚Д゚)「いえ、全然諦めてないのは目に見えてわかるので謝る必要は……それより、これからどうするつもりですか?」
(´・ω・`)「ああ、続けるよ。何なら拉致も視野に入れてる」
(,;゚Д゚)そ「入れんな!!!!!!とんでもねえなアンタ!!!!!!!」
(´^ω^`)「ガハハ!!!!!!冗談冗談マイケル・B・ジョーダン!!!!!!!」
そう、クリード 〜チャンプを継ぐ男〜であった
(´・ω・`)「心配しねえでもあいつはチャリオッツの未練を捨て切れてねえよ。手荒な真似しねえでもいずれ落ちる」
(,;゚Д゚)「どうしてそう言い切れる?」
(´・ω・`)「あいつが『チャリオッツプレイヤー』だったからだ」
209
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:19:17 ID:BqAN.9rU0
要領を得ない答えに、猫山は首を傾げる。本八は近くに停めている車へと向かいながら、指で拳銃の形を作った
(´・ω・`)「『ガンナー』ってのはな、チャリオッツで一番気持ちの良いポジションだ。トリガーを引いて相手をキルする瞬間ってのは、誰しも脳汁が出る『成功体験』。抜け出そうと思って簡単に抜け出せるもんじゃねえよ」
古くから数多くのゲーマーが、寝食すら疎かにしてオンラインゲームにのめり込むのは単に『快感』を手にする為であり
『ビデオゲーム』という文化が誕生してから『依存症』という社会現象にまで発展するほど、その依存性は極めて高い
(´・ω・`)「生粋のガンナーなら尚更だ。それも、6shooterなんてトリッキーなモン使ってたなら、こだわりも矜持も人一倍あった筈。それを証明する物も部屋に残ってた」
今度はi-ringから、先ほど踏み入れた文彦の汚い部屋の画像を浮かび上がらせる
「隠し撮りしたのか!?」という猫山の苦言を、指を立てて黙らせた。そのまま、PCデスクに乗っている『ある物』を指差した
(,;゚Д゚)「あ……」
(´・ω・`)「未練がないのなら、『連想させるもの』を手近に置いとかねえよなぁ?」
西部開拓時代に活躍した名銃。『平和を作るもの』の通称を持つ、回転式拳銃
『コルト・シングル・アクション・アーミー』のモデルガンが横たわっていた
(,;゚Д゚)「気づかなかった……」
(´・ω・`)「オメーもキャプテンなら周囲に気を配るこったな。ま、大船に乗ったつもりでドンと構えとけよ。いとこの社会復帰は俺らが成し遂げてやっからよ」
パーキングに到着し、後部座席に乗り込む。猫山とはここでお別れだった
(,;゚Д゚)「船底に穴が開いていないことを祈るよ」
(´^ω^`)「馬鹿言うんじゃねえ俺ァバトルシップ・ヤマトよ!!!!!!!!!」
真っ二つになって沈んだ戦艦である。猫山の不安は余計に増したのであった
210
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:21:32 ID:BqAN.9rU0
(´^ω^`)「じゃあな!!紹介ありがとよ!!デブガキによろしく伝えとけーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
走り去る車を見送った猫山は、しばしその場で立ち尽くす。今日一日の出来事は、間違いなくいとこに変化をもたらしたが
(,;゚Д゚)「判断誤ったかもしれないな……」
それが『良い方向』に働くとは到底思えず、反って悪化させてしまったのではと自責の念に駆られてしまう
しかし本八には、一髪即発の状況から『宇都宮 徳雄』の獲得に到った実績と、僅かな判断材料から文彦の心境を読み取った洞察力が備わっている
『彼にはこの盤上をひっくり返せる術があるのだろう』。猫山は一先ず、都合よく自分を納得させることにした
(,;゚Д゚)「もう少し行儀が良ければ、これほど心配にはならないってのに……」
肩にずっしりと圧し掛かる疲れを感じながら、猫山は内藤宅への帰路に就く
ここまでの行程と比べて歩みが遅いのは、叔父への上手い言い訳を考える時間が欲しかったからだ
(,;゚Д゚)「あー、クソ……」
結論から言うと、この後メチャクチャ文句を言われたのであった
211
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:23:38 ID:BqAN.9rU0
―――――
―――
―
(´・ω・`)「女でも用意するか……」
(;'A`)「ええ……」
(´・ω・`)「親子共々、性の悦びに浸らせたら一発で落ちるだろ」
(;'A`)「嫌すぎる……」
(´・_ゝ・`)「社長、倫理的に問題になる方法は後々禍根を生み出します。あまり褒められた策ではないですね」
帰りの車内では、どう考えてもダメそうな作戦会議が繰り広げられていた
(´・_ゝ・`)「アンダーマイニング効果を御存じないワケじゃないでしょう?目先の報酬で釣るより、自らやる気になってくれた方が熱意も長続きします」
('A`)「なんすかそれ?」
(´・_ゝ・`)「心理効果さ。物でやる気を引き出しても、いざそれが無くなれば、同じくやる気も失せる」
('A`)「あー、テストで百点取って親からゲームソフト買って貰っても、その次のテストで何も無ければ勉強する気失くすやつっすか」
(´・_ゝ・`)「そう。だから自発的にやる気を出して貰う方がいいんだ。幸いにも、文彦くんには取っ掛かりがある。そこを攻めれば加入してくれるんだろうけど……」
(´・ω・`)「めんどくせえなぁ……」
212
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:24:29 ID:BqAN.9rU0
文彦がチャリオッツから身を引く一因となった『蟒蛇』。この辺りの調査を進めた上で、加入への糸口を掴まねばならない
問題は、蟒蛇側がそれを望み、協力してくれるかどうかだ。徳雄の場合は、獏良が再戦を望んだからこそ、スムーズな契約へと移れたが
猫山からの話と、文彦の拒絶を見る限り、円満な脱退とは言い難い。協力を申し出ても、話が余計に拗れる可能性が高い
(´・ω・`)「蟒蛇の本部に殴りこんでもまともに取り合ってくれるか疑問だし、内情を知る関係者を探して聞き出すのも手間だな……」
(´・_ゝ・`)「徳雄くんの時のようにはいかないでしょうね。稲荷先生ほどチョロ……快い協力者もそういないですし」
(;'A`)「あの場に校長先生がいたのはそういう……あの狐ジジイがよ……っつーか、アンタら一々回りくどいんだよ」
二人は『おや?』と、助手席に座る小男に目を向ける。視線が集中した徳雄は、やや戸惑いながらも言葉を続けた
(;'A`)「本人の事情は本人に訊けばいいじゃねえか。どうせあいつは自宅から一歩も動かねえ引きこもりだろ?根負けするまで通いつめれば、いずれ口を割るんじゃねえのか?」
(´・ω・`)「……」
(´・_ゝ・`)「……」
(;'A`)「な、なんで黙る?」
長い間、相手の退路を断ってから本番に挑むのを得意としていた彼らにとって、徳雄の提言は目から鱗だった
頑固な相手を篭絡させる為に粘り強く通いつめる。交渉術の基本だが、それ故に根気を求められる長期戦となる
これまで最大の武器を用意して、短期間で目標を仕留めてきた。しかしここに来て、徳雄の鶴の一声で、二人は初心に返った
(´・ω・`)「『急がば回れ』か」
(´・_ゝ・`)「悪くない」
(;'A`)「は?え?」
213
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:25:34 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「よし、この件お前に預けた」
(;'A`)「は?マジ?自分で言ってなんだが、アレのいとこである猫山さんだってその辺の事情聞き出せてないんだぜ?」
(´・_ゝ・`)「だからだよ。彼は甘いし、その上親族だ。何かと言い難いことだってあるさ」
思いもよらぬ無茶振りに、徳雄は額を拳で叩いて唸る。つまり二人は、『強引な手段を用いてでも、文彦に取り入って来い』と求めている
元より人付き合いが得意ではない彼にとっては、部屋のドアを殴り壊すよりも難しい注文だった
(;'A`)「出来っかな……」
(´・_ゝ・`)「歳が近い分、僕らより成功率は高い。どうせチームメイトになる子だ。親睦を深めるついでだと思ってさ」
(´・ω・`)「遊ぶ為の時間と金は幾らでも用意してやる。接待の練習も兼ねて挑戦してこい」
(;'A`)「マジかよ……オタクって何して遊ぶんだ?」
(´・ω・`)「そらお前……なぁ?」
(´・_ゝ・`)「エッチな漫画買いに行ったり……とか?」
(´・ω・`)「コンカフェで高ぇオムライス食ってメイドと写真撮ったり……?」
(´・_ゝ・`)「缶バッヂジャラジャラ付けた服着て街を闊歩したり……?」
(´・ω・`)「臭ぇカードゲームショップでカードゲームに興じたり……?」
(;'A`)「偏見入ってねえか?」
偏見なのである
214
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:26:51 ID:BqAN.9rU0
(´・ω・`)「別に方法は指定しないから好きにやれ。お前の土俵に引きずり込む方が楽だってんならそっちでも良い」
(;'A`)「俺の土俵か……」
しばし自分を省みて、土俵とは何かを探し始める。正直なところ、徳雄は多趣味な人間では無かった
幼少期から中学までは、容姿や身長をバカにする者を暴力で黙らせ続けてきた
高校に入ってからは、親友兼ライバルの出会いによってスポーツに打ち込んだ
社会人になってからは、自身を律するために理不尽に身を置き続けた
(;'A`)「う〜ん……」
どれもピンとは来ない。『今からそいつを殴りに行こうか』なんて誘いに乗るなんて思えないし
かと言って『スポーツで気持ち良く汗を流す』タイプには到底見えない。文彦の身体にでっぷりと乗った脂肪がその証明だ
『パワハラ社会見学』なんて以ての外だ。そもそも、徳雄自身好き好んで耐え忍んでいたワケではない。もしも今、榊原から同じ仕打ちを受ければすぐさま半殺しにするだろう
(´・_ゝ・`)「『好き』の共有は仲良くなる為の第一歩だよ徳雄くん。何か無いかい?漫画でも音楽でも」
(;'A`)「いやぁ、とんと見つかんねえっすね。その手の類のもんは手ぇ出さねえっすし」
(;´・_ゝ・`)「修行僧かいキミは……何して暇潰してたんだ?」
(;'A`)「そりゃあ、もっぱら喧嘩……」
ここでハッと気づく。変えたくても変えられなかった、産まれながらの『喧嘩屋気質』
相手とバチバチに睨み合い、拳に物を言わせて屈服させた瞬間のドス黒い快感と自己陶酔
あの感覚は恐らく、先ほど本八が猫山へと説いた『ガンナーが得られる成功体験』と同じものでは無いだろうかと
その矛先が憎い相手なら、気持ちの良さも一入だ。復讐は何も生まぬと知った顔で言う者もいるが、それは違う
『胸がすくような爽快感』は、間違いなく得られるのだから
215
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 21:27:56 ID:BqAN.9rU0
(;'∀`)「ハハ……やれそうだぜ」
文彦を土俵へと引きずり込むプランが、着々と構築される。立ち会う側も面白い、最高の『果たし状』になる予感が、徳雄の口から笑いを溢した
(´^ω^`)「おいデミー、こいつぁ……」
(´・_ゝ・`)「ええ、良い悪党になれそうですね」
タダでさえ顔面と肉体と性格がヤベーのに、更にオツムの方までヤベー方向に加速させちまったオッサン二人は、表面上では大物を装ったが
内心は『死人出さねえだろうなこいつ』と、莫大な不安を抱える羽目になったのであった
216
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 22:00:43 ID:BqAN.9rU0
次回予告
(´・ω・`)「金と時間を与えたのは良いが、悠長に構えてられるほど時間ねえんだよな。あのブサイクちゃんとやれっかな?」
(´・_ゝ・`)「我々も手助けしたので、今のところは順調のようですよ。なんでも、外に連れ出すことには成功したんだとか」
(´^ω^`)「おっ!!やるねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!ブサイクとデブの非モテ同士、気が合うんじゃねえかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」
(´・_ゝ・`)「最底辺のクズに比べれば相当まともですけどね」
(´^ω^`)「殺すぞハゲ。って、今から蟒蛇のメンバーと接触するだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」
(´・_ゝ・`)「おや、思い切りましたね」
(;´^ω^`)「こうしちゃいられねえ!!!!!!今すぐポリに手ぇ回せ!!!!!!最悪の場合死人が出るぞ!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「流石に殺人まで見逃すほどこの国の警察は腐っちゃいねーよ。それに、徳雄くんは他人の喧嘩に介入するような男じゃありません」
(´・ω・`)「っつーことは?」
(´・_ゝ・`)「文彦くんを、『土俵』に上げる為でしょう。見に行きませんか?腰抜けが『男』になる瞬間を」
(´^ω^`)「そいつぁ最高のショーじゃあねえか!!こうしちゃいられねえぜ!!」
(´・_ゝ・`)「次回、『Desperado Chariots』第五話。『撃鉄を起こせ!!』」
(´^ω^`)「他人の喧嘩を安全圏から見るのは楽しいからなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「そういう所がクズだっつってんだよクズ」
217
:
名無しさん
:2021/09/12(日) 22:13:52 ID:5/g3MsPA0
激重の中投下乙
支援したら邪魔かと思ってリロードしまくりながら追ってた
仲間になる瞬間が楽しみ
218
:
名無しさん
:2021/09/12(日) 22:25:11 ID:7nm2WVt60
乙 相変わらずの激アツ展開続きが楽しみすぎるぜ
219
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/09/12(日) 22:31:33 ID:BqAN.9rU0
終わりです。お疲れさまでした
今回登場した6shooterという砲なんですが、Coyote Kissesの『Six Shooter』という曲が元ネタとなってます。かっこいいですね。デブの分際で
220
:
名無しさん
:2021/09/21(火) 22:05:18 ID:3e.Af0Vg0
乙!激アツすぎてたまらん…徳雄がどう陥落させるか楽しみすぎる
221
:
名無しさん
:2022/02/05(土) 15:51:30 ID:9UtTu2CI0
面白い。待ってるぜ
222
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 19:25:04 ID:.SPGic020
このままだと絶対スプラテーンやるので今日五話を投下します
でもみんなスプラテーンやってるから読まれないんじゃないか???????じゃあいいか投下しなくて
223
:
名無しさん
:2022/09/09(金) 19:55:06 ID:6Bc9X3Ic0
しろ
224
:
名無しさん
:2022/09/09(金) 19:55:38 ID:YTQPeMls0
俺はスプラトゥーンやってないから最新話読みたいな!!
225
:
名無しさん
:2022/09/09(金) 20:24:20 ID:.zfB1B3w0
ずっと待ってたぞ!!
226
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 21:04:25 ID:Y6pO/fks0
下心が無いと言えば嘘になる。人気者になりたかった。女性にモテたかった。決して褒められた動機じゃないが、非難される謂れも無い
だが、根底にあったのはやっぱり憧れだった。『蟒蛇』。バトル・ロワイヤルルールでは敵なしとも言われる戦闘のプロ集団
相手を容赦なく追い詰め、破壊し、『ラスト・ワン』のみの勝利を目的とする美学もまた、男心に突き刺さった
「キミの腕に惚れた!!」
唯一誇れる射撃の腕は、プロテストの審査員を務めたトレーナーに大きく買われた。憧れの団体で、プロとして華々しい活躍が出来る筈だった
誰よりも頼れる『相棒』と一緒に―――――
.
227
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 21:05:20 ID:Y6pO/fks0
第五話
『撃鉄を起こせ!!』
.
228
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 21:06:43 ID:Y6pO/fks0
(;‐ω‐)「……」
<文彦くーん、あーそーぼー
内藤 文彦は世間で言う所の『引きこもり』である。だからと言って日々を怠惰に過ごしているワケではない。学生という身分ではあるが、22世紀現在では登校は義務化されていない
リモートで授業に参加し、オンラインテストでは小言を言われない程度の成績を収め、卒業に問題ない単位は十分に取得している
昨晩も遅くまで、お気に入りのバーチャル・アイドルの歌ってみたを聴きながら課題を消化していたのだ。つまりは、寝不足だ
(;‐ω‐)「……」
<文彦くーん、あーそーぼー
にもかかわらず、修理されたばかりのドアの向こう側では、『ドアを壊した奴』の声が聴こえる。あれ?まだ悪夢見てんのかな?文彦は毛布で頭まですっぽり覆って、早く目覚めるように念じた
しかし寝ても覚めても……いやもう覚めてんだけど、ドアを壊したブサイクの声は消えることがない。嘘じゃん……親父がまた招き入れたって……コト!?ワァ……ワ……
(;‐ω‐)「……」
<いち、にぃの……
(#^ω^)「やめるお!!!!!!!!!!どんだけ家壊したら気が済むんだお!!!!!!!!!!!!」
耐え切れず部屋から飛び出すと、紙袋を手に腕を組み、廊下の壁際にもたれ掛かって待ち構えていたヤバい男が
('∀`)「なんだよ。やっぱいるじゃねえか」
長い付き合いの友人でも訪ねたかのように、気さくに笑いかけたのであった
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