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1 ◆f9klpsMBjM:2021/03/23(火) 13:24:05 ID:JC05D13o0
美!!!

71名無しさん:2021/04/04(日) 21:55:29 ID:wy4i2d9M0

('、`*川 私には、まだやるべきことがある

ノパ⊿゚) ……わかった

('、`*川 あなたとは、また会うことになるかもね

ノパ⊿゚) あたしはここに居るよ。毎日



あたしは彼女の目を見て、敢えてそう言った。
彼女が何者なのか、そんなのは知ったことじゃなかった。
少し話してみて気付いたことだが、友人に誘われた、というのも多分嘘だ。

彼女とはいつか再会すると確信していた。
そして、その時...会うのはきっとここではない。

72名無しさん:2021/04/04(日) 21:55:58 ID:wy4i2d9M0

('、`*川 近いうちに、ここは潰れるわ

ノパ⊿゚) え?

('、`*川 さっきひとつ、嘘をついた

('、`*川 …私の名前は翠じゃなくて、辺尼

('、`*川 私がここにいるのは、正義のため

ノパ⊿゚;) !

ノパ⊿゚;) それって……

('、`*川 …せいぜい、気を付けることね

('、`*川 いつかまた話しましょう

73名無しさん:2021/04/04(日) 21:58:50 ID:wy4i2d9M0

……




車内





( `ー´)辺尼。大丈夫だったか?

('、`*川 はい。部屋に一人居ましたが、意識がないうちに証拠は押さえました

( ;`ー´)人が居たのか……危ないところだったな

( `ー´)ひとまず今日はここまでだ。後日また違う奴らに任せよう

('、`*川 そうですね




('、`*川 (仕事に私情は禁物、なのに...)

('、`*川 (何言ってるんだろ私)

74名無しさん:2021/04/04(日) 21:59:36 ID:wy4i2d9M0









捻野と辺尼の潜入から約一週間。
非記の「家」は壊滅した。










.

75名無しさん:2021/04/04(日) 22:00:29 ID:wy4i2d9M0


(´・_ゝ・`) 今回の逮捕人数は8人。うち5人が売人だった

(´・_ゝ・`) しかし...「家」を所有していた非記という男は未だ消息が掴めていない

(´・_ゝ・`) こちらについては今他の者が追っているところだ。とにかく、皆ご苦労だった


(´・_ゝ・`) 辺尼と捻野は後で話がある。連絡は以上、解散!

76名無しさん:2021/04/04(日) 22:01:59 ID:wy4i2d9M0



(´・_ゝ・`) 辺尼

('、`*川 はい

(´・_ゝ・`) ひとつ、気になってることがあってね

(´・_ゝ・`) 君の写真に写ってるこの赤髪の女についてなんだけど

('、`*川 …ああ

(´・_ゝ・`) 彼女とは話したかい

('、`*川 はい、少しだけ。脾都と名乗っていました

(´・_ゝ・`) そうか...いや、彼女について調べさせていたんだが、どうやら非記とも親しいようだ

(´・_ゝ・`) 君には、彼女と再度接触してほしい。翠、だっけ?彼女にはそう言ってるんだろう

('、`*川 …はい

('、`*川 つまり、彼女達から非記に関する情報を引き出すと

(´・_ゝ・`) そういうことだ。必要とあらば聴取に同行してもらってもいいから

('、`*川 了解しました

77名無しさん:2021/04/04(日) 22:03:21 ID:wy4i2d9M0

('、`*川 …あの、先輩

(´・_ゝ・`) なんだい?

('、`*川 個人的な話で恐縮なんですけど、脾都と話した内容で少し


………


(´・_ゝ・`) ...へぇ

('、`*川 どう考えればいいか、分からないんです。あんな会話、初めてでしたから

(´・_ゝ・`)

('、`*川 ...件の薬とは何なのでしょう

(´-_ゝ-`)

78名無しさん:2021/04/04(日) 22:06:06 ID:wy4i2d9M0



  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....



カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....


.

79名無しさん:2021/04/04(日) 22:07:50 ID:wy4i2d9M0


(´・_ゝ・`) 私見だがね、結局のところ、それは彼らなりの言葉で装飾された、薬物への逃避行動だ



(´・_ゝ・`) 僕にはそうとしか思えない。専門家でもないから

('、`*川 ...そう、ですか。そうですよね

(´・_ゝ・`) 確かに今回のケースは特殊だが、しかし薬物を使用するというのはそういうことだよ

(´・_ゝ・`) 「美」というのも...聞こえはいいが恐らくは仲間内での共同幻想の世界の類だろうね

('、`*川 ...はい

(´・_ゝ・`) 辺尼。先輩である僕から忠告しておくけど、深追いは禁物だよ

(´・_ゝ・`) 輩の考えてることに付き合うと、こちらの調子まで狂ってきてしまう。彼らは人間だが、それ以前に犯罪者で、僕らはそれを取り締まる役割を担ってる

('、`*川 先輩は、過去に何か

(´・_ゝ・`) ああ。そういう時期もあった。彼らが更生してまともな生活に戻ることは正直、ほとんどないからさ

(´・_ゝ・`) やるせない仕事だと思ってた。原因を考えたかった。でも、結局どうにもならない

(´・_ゝ・`) 辺尼。僕たちにできることはないんだ。考え込むな

('、`*川 ...はい

(´・_ゝ・`) もう時間も遅いし、今日はもう帰れ。気を付けろよ

('、`*川 お疲れ様です



(´・_ゝ・`) あ、

(´・_ゝ・`) ...迷惑じゃなけりゃ、送ってくよ

('、`*川 ...いえ、私は大丈夫です。ありがとうございます

80名無しさん:2021/04/04(日) 22:09:01 ID:wy4i2d9M0



通り過ぎる、轟音。
辺尼は闇に包まれた高架下を歩きながら、自宅へと向かっていた。
彼女は、得体の知れない不安に襲われていた。
その原因は、脾都との会話か、先刻の手視の言葉か。
何もわからぬまま、ただ立つ地をじわじわと崩されていくような感覚。



「美」とは幻想。
「美」は毒。
「美」は依存。
「美」すなわち破滅。



ならば、美を失うとどうなる?

深追いするな、できることはないと手視は言っていた。
彼女に受け入れ難い言葉だった。

81名無しさん:2021/04/04(日) 22:10:20 ID:wy4i2d9M0

辺尼が考えていることは、水路の中にあった。
水路が塞がれてしまえば、彼女が何者であるか、何故生きているか、全てわからなくなる。
或いは、とうに流れは絶たれているのかもしれない。
それに気付いてしまうのが、彼女には甚だ不穏に思えるのだった。



彼女は、鞄からインジェクターを取り出した。
あの日、密かに持ち帰り誰にも伝えていないものだ。

('、`;川 (…何、考えてるの)

我に帰り、鞄に急いで戻す。
誰か見てはいまいか、彼女が辺りを見回すと、






いた。






.

82名無しさん:2021/04/04(日) 22:11:27 ID:wy4i2d9M0


辺尼は気付いた。
後方15mほど先、電柱の影で誰かが見ている。




('、`;川 ひッ.......




気付いた時には足が動き始めていた。
彼女は自宅より数ブロック先まで歩き、そこで角を曲がり、それから可能な限りの速さで自宅まで走った。


('、` ;川 はぁっ....はぁっ....!

('、`;川 (何なのよあの男.....!?私を見てた.....!)


玄関の鍵を閉め、チェーンを乱雑にかけると逃げるようにリビングルームまで走る。
電気を点けると、部屋一面の植物が彼女を迎えた。

何故かはわからない。普段は彼女を慰めていたそれらが、
非常に不穏な雰囲気を湛えていた。

83名無しさん:2021/04/04(日) 22:12:28 ID:wy4i2d9M0





ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と音をたてて、開けっ放しの窓から風が入り込んだ。
カーテンが揺れる。
窓の外は真っ暗だった。壁に、真っ黒な四角が張り付いているようだった。





.

84名無しさん:2021/04/04(日) 22:13:50 ID:wy4i2d9M0
-









                  アマ
               「クソ女....」










.

85名無しさん:2021/04/04(日) 22:14:18 ID:wy4i2d9M0
四,了

86名無しさん:2021/04/04(日) 22:35:03 ID:Um/UfDp.0
乙。。。

87名無しさん:2021/04/07(水) 00:55:57 ID:Gr4TwS5Q0
きてた乙

88名無しさん:2021/04/08(木) 09:59:15 ID:L5sUrxV.0
暫くは脾都と辺尼のパートを交互に進めていきます
今日か近日に五を投下します

89名無しさん:2021/04/08(木) 18:45:20 ID:L5sUrxV.0
今夜投下します

90名無しさん:2021/04/08(木) 19:23:50 ID:QHexV.s60


91名無しさん:2021/04/08(木) 19:30:17 ID:wVprUr520
わくわく

92名無しさん:2021/04/08(木) 19:52:04 ID:L5sUrxV.0


どす黒い雲、地平線は真朱に染まっている。
暖かい雨がシャワーみたいに降り注ぐ。
ずぶ濡れのあたし、診競、独生、その他大勢。


日の当たらない道。
誰かがひとり、ふたり、幽霊のように現れては、消えていった。


今日は埋め尽くさんばかりの幽霊たちがここにいて、彼を見下ろしている。
暖かい雨が、彼にも降り注ぐ。





ノハ ⊿ ) ミセ ー )リ ( A ) ( ) ( ) ( ) 从 ∀从(* ー )(  ω )( )





幽霊たちは何も言わない。
永遠のように長い時が流れた。







.

93名無しさん:2021/04/08(木) 19:53:03 ID:L5sUrxV.0






               (゜_゜)













.

94名無しさん:2021/04/08(木) 19:54:14 ID:L5sUrxV.0






非記が死んだ。








.

95名無しさん:2021/04/08(木) 19:55:15 ID:L5sUrxV.0







                美







.

96名無しさん:2021/04/08(木) 19:57:59 ID:L5sUrxV.0

死体は、独生の知り合いに預けられた。

そのあと...色々あったけど、殆ど覚えていない。
気付けば夜になっていて、あたしが知ってる人、知らない人、10人以上が独生の住処に集まった。


深く深く、重く重く垂れ込めた闇が、あたしたちを包んでいた。
最初に口を開いたのは、四威だった。


ジッ.....

シュー....

  
(*゚ー゚) ここは電気が通ってないから...蝋燭しかなくてごめん

(*゚ー゚) みんな、今日は集まってくれてありがとう

(*゚ー゚) ....これからのことを話し合わなきゃ


(*゚ー゚) でしょ、独生...


( A )...俺が見つけた時、非記はまだ生きてた

( A ) けど、間に合わなかった。もう少し俺が早く行ってれば

(*゚ー゚) …独生は、何も悪くないよ

( A ) ...

( A ) ...俺がしっかりしてなきゃ、ダメだよな

97名無しさん:2021/04/08(木) 19:58:55 ID:L5sUrxV.0

ミセ ー )リ フルフル

(;*゚ー゚) 姉さん


ミセ ー )リ

ミセ ー )リ なんで...非記は死んだの

('A`)

('A`) 「家」がやられて、非記だけが逃げた。殺されたんだ

('A`) そうとしか考えられねえ

ミセ ー )リ


ノパ⊿゚) 殺されたって...誰に

('A`) ...組織の人間に

('A`) 非記はそいつらと取引してた。多分、口封じで...

ノパ⊿゚)

98名無しさん:2021/04/08(木) 20:00:10 ID:L5sUrxV.0

( ‘∀‘)許せねえ...そいつは、俺が殺す

( ´ー`) バカ。あいつらと関わったらおしまいだよ

(# ‘∀‘)

( ´ー`)

(# ‘∀‘)...ひよってんじゃねえよ

( ´ー`) ひよってるのはお前だろ

('A`) おい、やめろ。仲間が死んだんだぞ

(# ‘∀‘)く...

( ´ー`) ...。

('A`) 臥名。頭を冷やせ。捻余の言ってることは正しい



( A ) 俺だってあいつらが憎いさ。だけど...



( A ) ...俺たちは弱すぎる

99名無しさん:2021/04/08(木) 20:02:03 ID:L5sUrxV.0


さっきからずっとだ。みっちゃんが震えている。
繋いでいる彼女の手は、いつになく冷たい。

明確な恐怖。
彼女はこの世界の悪全てに目を見開いているから。
それで、目を背けることを、知らないんだ。


ノパ⊿゚) 大丈夫?

ミセ ー )リ フルフル

ノパ⊿゚) 外、行く?


ミセ ー )リ ..私は大丈夫、だから

ノパ⊿゚) ...無理してる

ミセ ー )リ フルフル

ノパ⊿゚) ...っ

ギュッ



('A`) 診競、大丈夫か

ノパ⊿ミセ ー )リ いいの...続けて



('A`) ...わかった

100名無しさん:2021/04/08(木) 20:02:30 ID:L5sUrxV.0

('A`) これから先だけど...

('A`) 捻余...どう思う?

( ´ー`) 手視が動き始めてるって噂だよ。非記を追って

('A`) !

('A`) もうじき、俺らのことも勘付かれるか...

( ´ー`) 非記の死体、隠してよかったのかよ。いっそ警察に見付けさせて組織に注意を向けさせたほうが

('A`) それは考えた

('A`) だけど、俺たちの手で弔いたいんだ

('A`) 非記は大切な存在だった...俺たちに居場所と、生きる希望をくれた

( ‘∀‘)...同意だ。警察にやるなんて、あんまりだろ

( ‘∀‘)だが。このまま何もしないってのも、俺は納得できない

101名無しさん:2021/04/08(木) 20:03:45 ID:L5sUrxV.0


ノパ⊿゚)セ ー )リ...なんとかしないと、あたしらも危ない、よね


('A`) ...そうだな


( ´ー`) 「家」がなくなって、非記も死んだ。俺の仲間も捕まった

( ´ー`) このまま警察が俺たちのことを嗅ぎつけたら、最悪...全員ムショ行きだよ

(*゚ー゚) ....っ

('A`) ...わかってる

( ‘∀‘)捻余。例の組織はどうするんだ

( ´ー`) 俺ら何の関係もないだろ?ほっとけよ


(*゚ー゚)

102名無しさん:2021/04/08(木) 20:04:18 ID:L5sUrxV.0

(*゚ー゚) もうこれ以上誰かが居なくなるのは、いや

(*゚ー゚) 皆で一緒に逃げよう

('A`) ...ああ

('A`) 俺と、捻余は残るよ

(*゚ー゚) なんで

('A`) やるべきことがある。皆を守るためにな

('A`) 捕まるとしたら....俺らで十分だ

('A`) 脾都、診競、四威、臥名、播院、文...皆、俺が助ける

( ‘∀‘)俺も残らせてくれ

( ´ー`) ...無駄に捕まるだけだよ

( ‘∀‘)...いい。何か役に立てれば、それでいい

( ´ー`) 役に立たないまま捕まるんだよ。よくねーよ

('A`) いいんだ捻余。わかった

('A`) 一週間。時間をくれ。またここに集まって、三人以外は奏柵から出られるようにしておく

('A`) ...脾都と診競は後で少し話がある。皆、今日はありがとう

103名無しさん:2021/04/08(木) 20:06:01 ID:L5sUrxV.0
独生がそう言ってから、不思議と、場の糸が切れたようになった。
蝋燭が生み出した、微かな灯りから、人が一人、二人、減っていく。
皆、生きているのに、死んだように静かに...音もなく闇に消えた。

あたしは震える診競を抱きしめながら、その様子を見ていた。
場を包む残酷な静謐に、彼女の息が弱々しく混ざっていく。



(*゚ー゚) ...ねぇ。独生、私も居ていい?

(*゚ー゚) 姉さんが心配で

('A`) ...ああ。大丈夫だ。お前も関係ある話だ

('A`) 診競...大丈夫か

ミセ ー )リ ...少し。落ち着いてきた

ミセ ー )リ ごめん...いつも...

('A`) 気にすんな

('A`) ...話っていうのは

104名無しさん:2021/04/08(木) 20:06:52 ID:L5sUrxV.0
('A`) 播院のことについてだ

(*゚ー゚) !

('A`) 俺は、もうお前らと会えなくなるかもしれねえ...だから、奏柵から移動する前に、伝えておきたい

('A`) 播院を頼む

ノパ⊿゚) 播院って、さっき居たあの子のこと

('A`) ああ。あと、一緒にいたやつは文だ




从 ∀从 ω )

播院は、さっき大柄の男の隣に居た、あたしと同じ赤髪の美人だった。
顔は青白く、痩せすぎた印象も受けた。
二人は一言も喋らなかった。



('A`) ...今日は無理だが、近い日に播院も、文も呼んで話をしよう

('A`) 四威も、来てくれるか?

(*゚ー゚) ...うん

('A`) ありがとう

105名無しさん:2021/04/08(木) 20:08:49 ID:L5sUrxV.0

('A`) んで...大丈夫か。診競も、脾都も

ノパ⊿゚) ...みっちゃんが

ミセ ー )リ フルフル

('A`) ....っ

ノパ⊿゚) 宮殿、見たことあるでしょ

('A`) ...ああ

ノパ⊿゚) もう...随分変わって...「近く」なったんだ

( A )




( A ) ...クソ。どうしたらいいんだよ

( A ) 診競が背負ってるのは大きすぎて、俺には何もできない....



ミセ ー )リ ...ありがとう

106名無しさん:2021/04/08(木) 20:09:35 ID:L5sUrxV.0

ミセ ー )リ 非記に会わせてほしい

ミセ ー )リ 私は、救い出せなかった

( A )

ミセ ー )リ 私は、彼の絶望をどうにもできなかった

ミセ ー )リ 自分の美でさえ、上手く操れない

ノパ⊿゚) ...でも、みっちゃんは多くの人を救ったでしょ

ノパ⊿゚) 四威だって、独生だって、皆あなたを尊敬してるよ

ミセ ー )リ ...ダメだよ

ミセ ー )リ 私は...









.

107名無しさん:2021/04/08(木) 20:12:26 ID:L5sUrxV.0


ミセ ー )リ 私は...今まで全部やってきたこと、後悔するのが怖いの

ミセ ∀ )リ だって...それじゃぁただの、クズでしょ....?

ミセ ∀ )リ 私は世界を信じなきゃ、美を信じなきゃ。そうじゃないとドロドロのクズに

ノパ⊿゚)


あたしは、この時最も彼女に言うべきだったことを、言い損なった。
あたしは、臆病だった。
こんなこと言ったって、絶対に彼女を救えない、なんて思って。
頭に浮かんだけど、すぐにどっか消えた。



皆、臆病だ。しょうがないよね。
だってあたしたちには、なんにもないんだ。





.

108名無しさん:2021/04/08(木) 20:13:16 ID:L5sUrxV.0

(;'A`) ...そんな

(*゚ー゚) ...姉さんは、凄いよ

(*゚ー゚) でも...背負い込み過ぎてる

ミセ ー )リ

(*゚ー゚) 非記さんだって...きっとあなたにそんなこと、願ってない

ミセ ー )リ 四威は黙っててよ。一緒に暮らしたこともないのに

(*゚ー゚) ....っ

(*゚ー゚) なんで、姉さんは私に何も教えてくれないの

ミセ ー )リ

(*゚ー゚) なんで、いつも黙るの

ノパ⊿゚) 四威ちゃん

ミセ ー )リ ...ごめん。分からない

ミセ ー )リ 頭が、まとまらない...本当にごめん

109名無しさん:2021/04/08(木) 20:14:27 ID:L5sUrxV.0

ミセ ー )リ ....。


('A`) ...わかった。非記のとこに案内するよ

ミセ ー )リ ...ありがとう

ノパ⊿゚) あたしも行っていい

('A`) もちろんだ。四威も、付いてやってくれ

(*゚ー゚) ...うん














.

110名無しさん:2021/04/08(木) 20:15:30 ID:L5sUrxV.0






















.

111名無しさん:2021/04/08(木) 20:16:20 ID:L5sUrxV.0



非記と出会ったのは、7年前になる。
焼けつくように暑い日。VIPの路上。
彼はあたしより5つ上だった。幼くして既に売人だった。

彼の瞳には何の光もなかった。

...あたしは彼と出会う前の記憶を、何一つ思い出せない。





(-_-) ...どうしたの。こんなとこで




ノパ⊿゚)

(-_-) ...歳は?

ノパ⊿゚) ...13

(-_-) ...他に誰か、いるのかい

ノパ⊿゚) わからない

(-_-) 思い出せないのか

112名無しさん:2021/04/08(木) 20:17:19 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) あなたは、誰?

(-_-) 僕は非記。君は

ノパ⊿゚) あたしは....

ノパ⊿゚) ...脾都

(-_-) 脾都か。よろしくね


(-_-) ついてくるかい?

ノパ⊿゚) ...うん



そのまま、彼がVIPに持っていた「家」に招待された。
記憶もなく、あてもないあたしはそこに住み着くようになった。


荒れ果てた小屋だった。
酷く暑くて、一日中視界が白くぼやけてた。

あたしと同い年にして、薬物中毒でガリガリの子、幻覚を見てうわごとを言ってる子、
虚空を見つめながら一日中床に寝っ転がってる子...色んな子と出会った。




あぁ、あたしは、終着駅に来たんだ。

そう思った。

113名無しさん:2021/04/08(木) 20:18:11 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) 非記は、どうしてこんなことを

(-_-) ...生きるため。って言ったら簡単だけど

(-_-) それだと、耐えられないから

(-_-) 生きがいだと、思うようにした

ノパ⊿゚) 生きがい...

(-_-) うん。僕と同じ境遇の子に...偽りでもいい。幸せを与えるのが、僕の生きがいだ

ノパ⊿゚)


(-_-) ああ、そうだ。新しい薬があるんだ

(-_-) ...君も使うかい?

ノパ⊿゚)

114名無しさん:2021/04/08(木) 20:19:37 ID:L5sUrxV.0



あたしの初めては、彼に見守られてだった。
どうしてかな...あたしは誰でもない。と思ってたのに、
行ってる時だけはそのことが愛おしかった。





ノパ⊿゚) はっ.....


(-_-) おかえり

ノパ⊿゚) なんだ、これ...

(-_-) 君の世界だよ

ノパ⊿゚) あたしの...世界

(-_-) この薬には禁断症状がない。…君にはこれが必要だと、思ったんだ


ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) ...ありがとう

115名無しさん:2021/04/08(木) 20:20:27 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) 非記は使わないの

(-_-) ...僕はいいんだ


ノパ⊿゚) あたし、非記が何を見るのか、興味あるよ

(-_-) ...。

ノパ⊿゚) いやなの?

(-_-) 僕は...薬は使わない。そう決めてるんだ


ノパ⊿゚) ....どうして



(-_-) ねえ

(-_-) この世界に生まれた僕らは、いつまで生きると思う?

ノパ⊿゚) ...わかんない

(-_-) 明日には死んでるかもしれない。ひょっとしたら何十年も生きるかも

(-_-) ...だけど、それに何の違いがある?


ノパ⊿゚)




(-_-) 僕は何もいらない。どうせ全部、無になるから






-

116名無しさん:2021/04/08(木) 20:21:42 ID:L5sUrxV.0





1年後、診競と四威がやってきた。四威は「家」に住むことはなかった。彼女は、いつも診競と距離があった。

あたしたち3人は、ご飯を食べるのも、寝る時も常に一緒だった。
ただ取引する時、あたしたちは隠れるように言われていた。
彼なりの優しさだと思う。

あたしたちはしばしば、死んだ子たちを「家」の裏庭に埋めた。
最初は悲しかった。目の前が暗くなって、心臓がバクバクした。
だけど途中から何も思わなくなった。それから、何人埋めたか数えるのをやめた。







.

117名無しさん:2021/04/08(木) 20:22:37 ID:L5sUrxV.0


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)(-_-) .....。

ミセ*゚ー゚)リ ...ねぇ。非記は、あの子たちを何故放っておくの

(-_-) ...彼らが望んだものを与えたんだ


(-_-) ...それに、生きながらえたって



ミセ*゚ー゚)リ ...そんなことないよ

ミセ*゚ー゚)リ 何もなくても、私たちには美がある

(-_-) 死んだら全部おしまいだよ


ミセ*゚ー゚)リ ...ううん。美は消えない。絶対に


(-_-) ....。

118名無しさん:2021/04/08(木) 20:23:19 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) ねえ

ノパ⊿゚) どうして、非記はあたしたちの面倒を見てくれるの

(-_-) ...他の子と同じように

(-_-) 皆が求めるものを、僕は与えてるだけだ


ノパ⊿゚) あたしが何を求めてるのか、わかるのね


(-_-) ...ああ

(-_-) 全部、わかるよ



ミセ*゚ー゚)リ ...あの子たちを、地獄から救い出すことはできないのかな

ノパ⊿゚) みっちゃん

(-_-) ....救い出すって、何だい?

ミセ*゚ー゚)リ それは...

(-_-) 救いって、何?

ミセ*゚ー゚)リ ....

ミセ*゚ー゚)リ 答えは私の中にも、きっと、誰の心の中にもある


ミセ*゚ー゚)リ 私は非記にそれを教えてもらったんだよ。だから、私が今度は救う番だと、思う

(-_-)

(-_-) ...それが、君が求めることなんだね

119名無しさん:2021/04/08(木) 20:24:10 ID:L5sUrxV.0



ある嵐の夜。非記はあたしたちを起こして、奏柵に移ると告げた。
彼の友人が手配したトラックの荷台で、あたし、診競、四威、他の子は一週間近く、過ごした。

途中で、子どもたちは一人、二人と死んでいった。
ある子は薬物の打ち過ぎで、ある子は川に飛び込んで、ある子は衰弱して死んだ。

その度、診競と四威は涙を流した。
あたしは、泣けなかった。

奏柵に着く頃には、4人だけが残った。



.

120名無しさん:2021/04/08(木) 20:26:02 ID:L5sUrxV.0



奏柵に着いた日の夜のことだった。
四人で荷台に仰向けに寝っ転がり、星を見ていた。


(*-ー-) スースー

四威は疲れてしまったのか、もう既に眠っていた。

非記が珍しく、あたしたちに話しかけてきた。

(-_-) ...ねえ

ノパ⊿゚) 何?非記

(-_-) 不思議なんだけど...


(-_-) さっきから、ずっと音がするんだ

ミセ*゚ー゚)リ ...音?

(-_-) 聴こえないかい?


ノパ⊿゚)ミセ*゚ー゚)リ ...うん


(-_-) これは...なんだろう


(-_-) あ、これは....賛美歌か....

(-_-) 遠くから、賛美歌が聴こえてくるよ、はは....


あたしたちにとって、彼が初めて笑う瞬間だった。
喜びでも、悲しみでもない。どこまでも皮肉めいた笑い。
だけどその笑顔を、あたしは忘れることができなかった。

その夜は、都会とは思えないほど星が綺麗だった。
彼は両手を大きく広げて、そのまま眠った。

.

121名無しさん:2021/04/08(木) 20:26:53 ID:L5sUrxV.0
-










                (-_-)











.

122名無しさん:2021/04/08(木) 20:27:46 ID:L5sUrxV.0

ミセ ;ー; )リ うぅっ....えっぐ...

ミセ ;ー; )リ ひき...ごめん...ぅ...っ


(* ー ) ……非記さん




黒い地下室。
診競の嗚咽だけが静かに響き渡る。

棺に収められた非記。
もう生の色を僅かとも残していない状態。


しずかだ

しずかだ


ノハ ⊿ ) ...ねえ

ノハ ⊿ ) 非記は、あの夜、何を聴いたの?

('A`) ....。

ノハ ⊿ ) 聴かせてよ。皆に

ノハ ⊿ ) なんとかいってよ....非記....

123名無しさん:2021/04/08(木) 20:29:06 ID:L5sUrxV.0

ミセ つー)リ

ミセ ー )リ









ミセ ー )リ 遠くで、歌が....聴こえる


(*゚ー゚) ...ほんとだ

('A`) これは...


ノハ ⊿ )

124名無しさん:2021/04/08(木) 20:29:57 ID:L5sUrxV.0
-





.....ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ




     ....ィィィ
                   ....ァァァァァァァ




        ...ェェェェェェェェ






.

125名無しさん:2021/04/08(木) 20:30:37 ID:L5sUrxV.0
-







それは、どこまでも静謐な歌声だった。
どこからともなく、果てしない遠方から聴こえてくる
もう何を言ってるのかも分からない、ぼんやりとした賛美歌。






.

126名無しさん:2021/04/08(木) 20:31:21 ID:L5sUrxV.0
-







.....ロァァァァァァァ




     ....ィィィィィス
                   ....ゥゥゥゥゥ




        ...ェェェェェ







.

127名無しさん:2021/04/08(木) 20:32:14 ID:L5sUrxV.0


その時、あたしにはわかった。

歌声に溶かされた時間が、澄んだ流れになって

地下室から流れ落ちていく。

ずっと下、光のない場所をずっとずっと、降っていき...

はじまりもなく、おわりもない場所に合流した。



大きな時間。
この世界を世界たらしめている存在。
幾千年もの間、あたしたちに子供を残させ、この世界に生き続けさせている存在。



非記の時間が、そこに辿り着いたんだ。



.

128名無しさん:2021/04/08(木) 20:33:05 ID:L5sUrxV.0






(-_-)


ノハ;⊿;)





.

129名無しさん:2021/04/08(木) 20:33:44 ID:L5sUrxV.0










これが、あの夜あなたが聴いた声なんだね。
非記....。








.

130名無しさん:2021/04/08(木) 20:34:18 ID:L5sUrxV.0













.

131名無しさん:2021/04/08(木) 20:34:58 ID:L5sUrxV.0

…その夜、あたしたちは独生の住処で夜を明かした。


ノパ⊿゚) ...みっちゃん

ミセ*゚ー゚)リ ...なに?ひーと

ノパ⊿゚) ...辺尼って子と、会おうと思う

ミセ*゚ー゚)リ 誰...?


ノパ⊿゚) ...あたしを助けて、非記を殺した子

ミセ*゚ー゚)リ ...!


ミセ*゚ー゚)リ 皆には...言ったの

ノパ⊿゚) ...ううん。まだ

ノパ⊿゚) 昨日、道端で彼女に会ってさ。その時は断ったんだ

ノパ⊿゚) だけど、「私は待ってる。いつでもおいで」って...

ミセ*゚ー゚)リ

ノパ⊿゚) でも、彼女の心は、なんにもない

ノパ⊿゚) かわいそうだ..

132名無しさん:2021/04/08(木) 20:35:41 ID:L5sUrxV.0


ノパ⊿゚) 辺尼は敵だし...皆に危険が及ぶことも、わかってる

ノパ⊿゚) だけど...それ以上に、彼女は救いを求めてるんだと思う

ノパ⊿゚) 自覚すらない苦しみから、ね

ミセ*゚ー゚)リ 救い

ノパ⊿゚) うん


ミセ*゚ー゚)リ ...私も、行っていい?

ノパ⊿゚)

ノパ⊿゚) ...今のみっちゃんには、辛い時間になるよ

ミセ*゚ー゚)リ ...わかってる。けど

ミセ*゚ー゚)リ このままじゃ全部壊れる。もうそれは変えられない。きっと


ミセ*゚ー゚)リ 私は、それをただ待ちたくはないの

133名無しさん:2021/04/08(木) 20:38:08 ID:L5sUrxV.0

ノパ⊿゚) ねぇ...

ノパ⊿゚) 少し前に、あたしが言ったこと覚えてる?

ノパ⊿゚) 全てが終わってから、それからがあたしの仕事だ。って

ミセ*゚ー゚)リ ...うん

ノパ⊿゚) 今のみっちゃんには受け入れられないかも、しれないけど...

ノパ⊿゚) やっぱり、美はひとつじゃないよ

ミセ ー )リ ...そうかもしれない

ノパ⊿゚)


ミセ ー )リ でも、そこに私がいる資格はない

ミセ ー )リ 全部が壊れた時...美がなくなった時...私は誰でもなくなる。国籍も、性別も、
顔も、全部わからなくなる

ミセ ー )リ 誰でもない放浪者になって、どこに居着く権利もなくなるの

ノパ⊿゚) ...どうして


ノパ⊿゚) あたしを見てよ

134名無しさん:2021/04/08(木) 20:39:01 ID:L5sUrxV.0
ノパ⊿゚) みっちゃんは、一人じゃないよ

ノパ⊿゚) あたしここに居るよ...見てよ

ミセ*゚ー゚)リ ...ごめん

ミセ*゚ー゚)リ 脾都

ノパ⊿゚)

ミセ*゚ー゚)リ いつか...脾都の中に行きたい

ノパ⊿゚) ...うん

ノパ⊿゚) いつか、ね

ノパ⊿゚) 全部終わったら、行こう

ミセ*゚ー゚)リ …約束だよ






.

135名無しさん:2021/04/08(木) 20:40:59 ID:L5sUrxV.0



翌朝。

あたしたちは、奏柵の中央公園の広場に来た。
辺尼に会うために。


日が少し高くなってきていた。
朝の光で青く澄んだ広場には、壮麗な噴水が鎮座している。
人は少なく、無数の鳩が広場に集っていた。



辺尼は噴水の前にあるベンチに1人、座ってあたしたちを待っていた。
あの時と同じ黒いコート。

あたしたちが近付くと、鳩が一斉に飛んでいった。


('、`*川 …来たのね


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)


('、`*川 そこにいるのは...診競ね

('、`*川 必ず来ると思ってた





ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 辺尼


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 非記は死んだ。もういないよ








.

136名無しさん:2021/04/08(木) 20:41:28 ID:L5sUrxV.0
五,了

137名無しさん:2021/04/08(木) 20:42:40 ID:L5sUrxV.0
今後は辺尼、播院に関わるエピソードを中心に進めていきます

138名無しさん:2021/04/08(木) 20:46:50 ID:QHexV.s60
乙です

139名無しさん:2021/04/09(金) 09:44:42 ID:vUUCfGD60
乙!

140名無しさん:2021/04/10(土) 22:07:42 ID:GNcSB1hE0
相変わらず独特だな....乙

141名無しさん:2021/04/11(日) 23:22:36 ID:SSUxwDII0
数分後に投下します

142名無しさん:2021/04/11(日) 23:37:13 ID:SSUxwDII0




その日の朝。ベッドの上で、辺尼は己の過ちを悔いていた。

手視からの命令は、「脾都と接触し非記の情報を引き出すこと」
「可能であれば脾都と関わりのある人間を全員調べ上げること」。

しかし、これには当然の前提が存在する。
辺尼が「翠」であること。正体が向こうに知られていないこと。

自ら素性を明かした彼女は、生身の「辺尼」として、脾都にぶつかる他なかった。

これが...手視が忠告していたことだったのだ、と
彼女は痛感していた。


( 、 *川


しかし事態はそれだけには収まらなかった。
一週間前に彼女が見た不審な男もそうだ。以降、彼女の家のポストに悪質な悪戯が始まった。
部屋を荒らされた形跡もあった。警察に相談もした。取り合ってはもらえなかった。

頼れる者はいなかった。
思えば、生来彼女は孤独だった。

手視に相談しようとした。しかし、
あの夜...「送っていくよ」と言った彼の顔が脳裏に過った。

辺尼はあの表情に、何か気味の悪いものを感じていた。
彼を信用できなかった。
捻野や、ほかの同僚たちにも相談することができなかった。
あの不審な男が、手視か、同僚のうちの誰かかもしれないと思ったからだ。

143名無しさん:2021/04/11(日) 23:46:20 ID:SSUxwDII0


そもそも、彼女は何かを根本的に見失ってしまったように感じていた。
いつから見失ったのか。それすら定かではない。
この仕事に就いてからのような気もするし、もっと遥か昔、子供の時からのような気もする。




( 、 *川 …どうして

数週間前までは何ともなかったはずだろう。そう考えるたび不安で胸が一杯になる。
理由も分からない、己ではどうすることもできない、不穏な感情がじわじわと自身を包んでいくのを感じていた。


もし。あの日持ち帰ったインジェクターを使えば。打てば。
何かが分かるだろうか。見失った物を見つけられるだろうか。

...と、ここまでの思考を、彼女はここ数日、数百数千と繰り返していた。




アラームが再び鳴った。
辺尼は重たい頭を持ち上げる。

144名無しさん:2021/04/11(日) 23:49:26 ID:SSUxwDII0



('、`*川 (この状態じゃ...仕事を遂行するのも厳しい...なのに)

('、`*川 (私は脾都と直接ぶつからなきゃ、いけない...)

('、`*川 (それに、私がしたこと、インジェクターを持ち帰ったことは言い訳できない....)



彼女は瀬戸際に立たされていた。
私情を優先し、職責を踏みにじるか。償いを以って社会生活へと復帰するべきか。
しかしこの時を逃せば、見失ったものは永遠に見つからないと、半ば恐怖を伴い確信していた。

彼女は脾都の言った言葉を思い返す。

「あなたは何のために生きているの」。


('、`*川 (...家も金も、未来も...なんにもないあなたが)

( 、 *川 (どうしてあんなこと、言えるの.....)



( 、 *川 (なぜ、私の方が答えが出ないのよ....)

145名無しさん:2021/04/11(日) 23:50:03 ID:SSUxwDII0


正義。
彼女がこの仕事に就いた時に抱いていた想いだ。今では、全く色を失い、ガラクタ同然と化していた。

食欲が全く湧かなかったため、辺尼はコップ一杯の水を飲み干した。
多肉にも水をやり、支度を進める。

部屋を覆い尽くす植物は、もはや彼女を慰めはしない。
例えれば、それらは不気味な触手を伸ばし、どこか恐ろしい場所へ手招いているような――また彼女の心の暗部で芽を出した邪悪のような――存在だった。

辺尼は最後に窓を閉め切った。
あの男が怖かった。





.

146名無しさん:2021/04/11(日) 23:50:35 ID:SSUxwDII0







                美







.

147名無しさん:2021/04/11(日) 23:51:45 ID:SSUxwDII0




辺尼は、脾都を待っていた。
一度中央公園で声をかけたことがある。脾都は辺尼の顔を見ると、恋人らしき女の方へ走り去っていった。
調査を続けるうちに、女の名を診競ということが分かった。


辺尼はその日以来、午前中は公園で脾都を待つことにした。
そう遠くない日に彼女達はやって来る。そう直感していたからだ。

合理的な理由などない。ただどういうわけか、辺尼が一心に脾都を求め、
脾都が彼女に引き寄せられているのだ。


('、`*川 (...脾都)

148名無しさん:2021/04/11(日) 23:52:15 ID:SSUxwDII0


1時間半ほど過ぎた頃、脾都と診競が広場に現れた。



('、`*川 …来たのね


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚)


('、`*川 そこにいるのは...診競ね

('、`*川 必ず来ると思ってた


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 辺尼


ミセ*゚ー゚)リノパ⊿゚) 非記は死んだ。もういないよ

149名無しさん:2021/04/11(日) 23:53:42 ID:SSUxwDII0


('、`*川 …そう

ノパ⊿゚) あなたが聞きたかったのはそれでしょ?

('、`*川 ...。


ノパ⊿゚) そうでしょ

('、`*川 そうよ

('、`*川 誰に殺された?

ノパ⊿゚) ...非記と取引してた組織、ってのに

('、`*川 分かったわ

('、`*川 教えてくれてありがとう


ノパ⊿゚) はい。これでおしまい、かな?


('、`*川


ノパ⊿゚) ...あなたの仕事はこれで終わり。でも、本当は話したいことがあるんじゃないの

150名無しさん:2021/04/11(日) 23:54:11 ID:SSUxwDII0
('、`*川 私のこと、恨んでる?

ノパ⊿゚) あたしは恨んでないよ。でも、仲間は恨んでる

ノパ⊿゚) あなたは知らないだろうけど、彼は凄く大切な人だったから

ノパ⊿゚) ...正直、非記にあなたと話したの、言わなきゃよかったって後悔してるよ

('、`*川 ...そう

('、`*川 ...皆に、ごめんなさい。って伝えてくれるかしら

ノパ⊿゚) わかった

ミセ*゚ー゚)リ ...辺尼は、どうして謝るの?

ミセ*゚ー゚)リ 私達を捕まえるのが、あなたの仕事なのに


('、`*川 ...っ


('、`*川 ...分からないの

151名無しさん:2021/04/11(日) 23:56:09 ID:SSUxwDII0
('、`*川 分からない。あなた達がしていることが


ノパ⊿゚) ...あたし達は、美に誠実でいようとしてるだけ

ノパ⊿゚) あなた達は、それが違法だから追いかける


('、`*川 美なんて...

( 、 *川 美なんて信じない。それはただの...


ミセ*゚ー゚)リ ...美は、あなたの中にあるものだよ

ミセ*゚ー゚)リ あなただけが持っていて、他に何か持っていても、持ってなくても、変わらずあるもの




ノパ⊿゚) ねえ

ノパ⊿゚) ...あたしには分かるよ

ノパ⊿゚) 辺尼。あなたは助けて欲しいんでしょ



( 、 *川 


( 、 *川 ...助けてほしい?

( 、 *川 笑わせないでよ...

152名無しさん:2021/04/11(日) 23:57:01 ID:SSUxwDII0
( 、 *川 あなたみたいに、何もない、かわいそうな子を助けるのが私の仕事なの

( ∀ *川 助けてほしいのはそっちでしょ?薬に逃げてるのがその証拠...


ノパ⊿゚)


( ∀ ;川



( 、 ;川



( 、 ;川 ...何、その目は


ノパ⊿゚) 辺尼、


( 、 ;川 やめて

( 、 ;川 そんな、憐れむような目で見ないで

153名無しさん:2021/04/11(日) 23:57:49 ID:SSUxwDII0



ノパ⊿゚) あなた達がしてくれたことなんて、あった?

ノパ⊿゚) 捕まえて、クソみたいな部屋に閉じ込めて、刑期が終わったら解放して、また捕まえて....

ノパ⊿゚) ...おまけに、あたしの親友を殺した

ミセ*゚ー゚)リ ...ひーと

ノハ ⊿ ) みっちゃんは黙ってて。別に怒ってない

ノハ ⊿ ) フー



ノパ⊿゚) ...それに、どうしてあの時あたしを逃したの?

( 、 ;川 ...それは、

ノパ⊿゚) 助けてほしかったんでしょ?

( 、 ;川 ....

154名無しさん:2021/04/11(日) 23:58:36 ID:SSUxwDII0
( 、 ;川 あなたたちに...何ができるっていうの

ノパ⊿゚) あたしは

ノパ⊿゚) あなたがして欲しいことなら、なんでもする

( 、 ;川 っ....

ノパ⊿゚) あの日、インジェクターを持ち帰ったよね

ノパ⊿゚) 鞄じゃなくて、懐に入れたの見た

ノパ⊿゚) それで、どうするつもりだったの?


( 、 ;川 


ノパ⊿゚) ...無理にとは言わないよ。「犯罪」だもんね

ノパ⊿゚) でも...美は。薬とは別物だよ

155名無しさん:2021/04/11(日) 23:59:08 ID:SSUxwDII0

...暫し、沈黙が流れた。
辺尼の肌を、冷たい汗が流れていく。


信じようか?


とうに一線など越えていた。
辺尼は考えないようにしていた。脾都と話してどうなる?
およそ、行き着く先など分かるはずだった。つまり、彼女と共に薬を打ち、「行く」ということ。

常識的に考えれば、このような馬鹿げた話はあり得なかった。
美など...ただの幻想だ。心身を蝕む毒だ。破滅への案内人だ。

しかし、彼女は脾都の話に強く引き寄せられていた。
脾都なら、この理由の分からない苦しみの手がかりを教えてくれる。そうとしか思えなくなっていた。

今、彼女は選択を強いられていた。

彼女らを警察に引き渡し、良識ある生活に戻るのか。
自身の全てを投げ打ってでも、彼女についていくのか。

156名無しさん:2021/04/12(月) 00:00:20 ID:hxc6LL6o0


( 、 *川



('、`*川

('、`*川 私が、持ち帰った?冗談でしょ

('、`*川 ...あなたの助けなんて必要ない

ノパ⊿゚)


('、`*川 あの時は、私がどうかしてたのよ

('、`*川 今、はっきり分かったわ。私は美なんていらない、助けなんて求めてない

ノパ⊿゚) ...そう



ノパ⊿゚) ...これ。あたしの携帯番号。いつでも電話かけて

ミセ*゚ー゚)リ いいの、脾都

ノパ⊿゚) うん。大丈夫

157名無しさん:2021/04/12(月) 00:01:05 ID:hxc6LL6o0
('、`;川 どうして


ノパ⊿゚) 分かるよ。あなたが嘘ついてることくらい


('、`;川 ....!

('、`;川 後悔するわよ

ノパ⊿゚) ...しないよ

ノパ⊿゚) きっとまた会う




不意に、辺尼の後方で噴水が高く水を打ち上げた。
2時間おきに10分ほど続く水のオブジェクトであった。

太陽の光を浴び、銀色の礫が一面に降り注ぐ。
広場の拡声器から幽玄なる弦楽が流れ出し、それが空気をゆっくりと旋回させ、
情緒は青く沈澱した。

158名無しさん:2021/04/12(月) 00:01:50 ID:hxc6LL6o0





(´・_ゝ・`) それで、どうだった

('、`*川 はい

('、`*川 非記は死んだようです

('、`*川 組織の犯行説が濃厚かと


(´・_ゝ・`) やはりか。特に驚きもないな

('、`*川 そうですね

(´・_ゝ・`) 脾都の繋がりは分かったか?

('、`*川 ええ。大体のところは

('、`*川 彼女は診競という女といつも行動を共にしています。非記の家がなくなった後は、独生という男の所に行き来しているようです

(´・_ゝ・`) 独生か。取調で聞いたな、その名は

(´・_ゝ・`) ということは、売人の捻余、臥名も居るのかい

('、`*川 はい

159名無しさん:2021/04/12(月) 00:04:37 ID:hxc6LL6o0

('、`*川 独生達の住処も突き止めました

(´・_ゝ・`) そうか...


(´・_ゝ・`) 辺尼

(´・_ゝ・`) 顔色が悪いが

('、`*川 ...何でもありません。私は大丈夫です


(´・_ゝ・`)


(´^_ゝ^`) そう


('、`;川






(´・_ゝ・`) 入れ込むなと言ったよな

('、`;川 は...?

(´・_ゝ・`) ...なんでお前の名前が向こうに知れてるんだ?

('、`;川 ッ!

(´・_ゝ・`) さっき、取調でお前の名前が出たんで驚いたよ

(´・_ゝ・`) うっかり実名を喋ってしまった、なんて言い訳をするつもりか?

160名無しさん:2021/04/12(月) 00:05:26 ID:hxc6LL6o0

( 、 ;川 そ、それは...

(´・_ゝ・`) 何を話した?


( 、 ;川 潜入捜査の時、同室になった脾都に私の名前と、捜査が入ることを、伝えました

( 、 ;川 全ては、私の個人的な理由によるものです

( 、 ;川 ...申し訳、ございませんッ!


(´・_ゝ・`) それだけか?

( 、 ;川

( 、 ;川 はい。それ以外は、何も



(´・_ゝ・`)

( 、 ;川

161名無しさん:2021/04/12(月) 00:05:55 ID:hxc6LL6o0

(´・_ゝ・`) 辺尼


(´・_ゝ・`) お前がしたことは、重大な職務規律違反だ

(´・_ゝ・`) ...潜入に行かせたのは、女のお前なら、勘付かれる可能性が低くなると、思ってだ

(´・_ゝ・`) 結果、非記を逃し、手がかりを潰した。当然僕にも責任はある。

( 、 ;川 ...如何なる処罰もお受けします

(´・_ゝ・`)


(´-_ゝ-`)

162名無しさん:2021/04/12(月) 00:06:27 ID:hxc6LL6o0


(´・_ゝ・`) 次はない。次、何かしたらお前はクビだ


( 、 ;川 ...はい

(´・_ゝ・`) 分かってるな、辺尼。僕らには守るべき家族と社会がある。あんな退廃的な反社連中とつるむなど

(´・_ゝ・`) 言語道断だよ

( 、 ;川 はい



(´・_ゝ・`) 今日はもう帰っていい。頭を冷やせ

( 、 ;川 ...失礼いたします

163名無しさん:2021/04/12(月) 00:07:31 ID:hxc6LL6o0

ガチャ




( 、 ;川 スーー


( 、 *川 ハーーー



( 、 *川 (また、嘘をついた)

( 、 *川 (...手視への恐怖が遠のくと、不思議と何の罪悪感も湧いてこない)

( 、 *川 (最低。私は最低な人間だ..)





( `ー´)よう

('、`*川 !

( `ー´)話聞いたぜ。辺尼

164名無しさん:2021/04/12(月) 00:08:22 ID:hxc6LL6o0

('、`*川 ...申し訳ありません

( `ー´)もうどうにもならんだろ。出視が責任を取ってくれるそうだ

('、`*川 ...はい

( `ー´)何か、悩みがあるんじゃねーの

('、`*川 ...。

( `ー´)


('、`*川 彼女らのことが、知りたかったんです...ただ、それだけです

( `ー´)...あそう

( `ー´)手視も言ってたと思うけど、深入りするなよ

('、`*川 はい

( `ー´)あいつらは犯罪者。俺らは取締官。割り切らねえと、やってけないって

('、`*川 はい

165名無しさん:2021/04/12(月) 00:09:35 ID:hxc6LL6o0



( `ー´)まぁ、いいや。辺尼、これから食事でも行かないか?

('、`*川

('、`*川 食事...ですか

( `ー´)最近お前、色々溜め込んでるんだろ。出してけって



そう言って捻野は携帯を取り出し、レストランを検索し始める。
その時、画面上から通知が表示された。それを一瞥した捻野は電源を切り、辺尼に向き直った。

( `ー´)...スマン、別件が入っちまった。また今度な

('、`*川 はい




送信主の名前に「性奴2号」とあったことを、辺尼は見逃さなかった。





.

166名無しさん:2021/04/12(月) 00:10:28 ID:hxc6LL6o0





彼女は極めて平静を装い、廊下で彼と別れた。


( 、 ;川 フルフル

庁舎を出て、夜の道を歩き始めた瞬間、彼女は全身の震えを抑えられなかった。
叫び出しそうになるのを、必死で堪えた。





.

167名無しさん:2021/04/12(月) 00:11:09 ID:hxc6LL6o0
カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....


カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ..... パラ......

   ポシャ..... チチ....

カチ......
                      ポシャ....

       チチ......
                 パラ.....




  カチ.....

168名無しさん:2021/04/12(月) 00:11:55 ID:hxc6LL6o0




それから、時間の感覚が飛んだ。
気付けば、辺尼はいつもの高架下に立っていた。

( 、 ;川


振り向く。電柱の影に、男の姿はない。
半ば走るようにして、家へと急いだ。




.

169名無しさん:2021/04/12(月) 00:13:00 ID:hxc6LL6o0





街灯は少なく、道は真っ暗だ。
彼女は全身を何かに見つめられているような気がして、夢中で走った。

角。ひとつ、ふたつ、曲がって行く。
遠くに彼女のアパートが見えてくる。
がらんとしたコインパーキングの横を過ぎる。
アパートに辿り着く。
2階への階段を登る。



-

170名無しさん:2021/04/12(月) 00:14:05 ID:hxc6LL6o0




玄関を開く。
息を殺す。電気を点ける。
何者かの気配がしないか、確認する。

彼女は恐る恐る、自室の扉を開いた。





部屋は、いつも通り夥しい数の、禍々しい多肉に囲まれていた。
彼女は、非常に何か、嫌なものが己の肉の中を駆け巡るのを感じた。
内側から何か壊れていく感覚がした。

彼女に帰る場所など、どこにもなかった。



.


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