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艦娘がいない鎮守府のようです

1 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:31:48 ID:62pQqJ3.0



―――貴方の手で、彼女達に幸せを与えて欲しい―――



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2 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:32:20 ID:62pQqJ3.0





原作『艦隊これくしょん〜艦これ〜』





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3 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:34:34 ID:62pQqJ3.0
「……」


文章の最後を締めくくる『。』を付け、エンターキーを叩いて処理を済ませる
テキストファイルをUSBメモリーに保存し、PCの電源を落として抜き取った


「往かれるのですか?」


既に人が出払ったこの場所で、女の子の声が聞こえた
神出鬼没の、私の友人だ。両手に白猫を携え、帽子の初心者マークとおさげが特徴的な少女


「ああ、手筈通りに頼む」


メモリーを彼女に渡し、デスクの横に立てかけていた『矛』を手にする
これを振るうのも、今夜が最後だ。恐らくは、私は海の底に沈む


「……逃げるという選択肢も、あるはずですが」


その言葉を聞いて、軽く笑った。普段は無機質な性格である彼女が、人を案じたのだ


「アンタ、言ったよな?『奴ら』を一匹残らずぶち殺さないと、この戦争は終わらないと……ゴホッ」


咳を手で抑える。青白い蛍光色の『血』が付着しているのを見て、顔を顰めた
私は徐々に『人間』では無くなっている。徐々に、奴らの『眷属』となっている


「なら、俺もその内の一匹だ。バケモノに成り果てる前に、人として死にてえ」

「……あいつらには、嫌な想いをさせちまうがな」

4 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:35:12 ID:62pQqJ3.0




『大ブン動会!〜2016年紅白〜』



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5 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:36:13 ID:62pQqJ3.0
心残りは、家族にも等しい『人ならざる娘達』
別れ際、涙でグチャグチャになった顔で私に抱きつき、放そうとしなかった『あいつら』が目に浮かぶ


「呆れた人です。貴方は」

「人類を救うために現れた彼女達の為に、自らの身を犠牲にして救うだなんて」

「本末転倒も良いとこですよ」


人類にとって、彼女達は救世主だ。その存在を救うなど、おこがましいとでも言いたいのだろうか
だが、救世主である以上に、人と変わらぬ心を持つ『生物』なのだ


「ヒーローを救うバケモンがいてもいいだろ?」


冗談めかしてこう返した。自分のことを『人間』とは言わなかった
万が一死に損なった場合、私は人類、そして彼女達にとって最も凶悪な敵に成り得るかもしれないからだ


「だから……後はあいつらと、アンタに託す」


先に倒れた私の戦友や、その家族
戦火によって犠牲となった民衆
志半ばで死に逝く私の、『悲願』


「『平和な海』って奴を」


そして、叶うのならば


「あいつらの幸せを」


言葉にするのは簡単だ。だが、為しえるには余りにも厳しく、困難な道を通らねばならない
並の信念では、押し通せない願いである

6 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:36:49 ID:62pQqJ3.0



原案『( ^ω^)ひたすら嘘予告をしていくようです』から

『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』



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7 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:37:43 ID:62pQqJ3.0
「この二つを成し遂げられる『男』に、そのメモリーを渡してくれ」


今一度、念を押して伝える


「難しいご注文を」


ため息混じりに呟いた彼女に、笑いかけながら『そう思うよ』と同意する
いつ現れるのかも、どこにいるのかもわからない。だが


「男は本来、戦う生き物だ。平和な時代がそれを忘れさせたが」

「思い出す奴もいる筈だ。かつての『俺達』がそうだったように」

「『自らが矢面に立つ』事を厭わない、『漢』が」


話を締めくくるかのように、警報が鳴り響く
どうやら、終わりの時間が訪れたようだ


「残念です、とても。貴方は良き話相手であり、良き友人でした」

「貴方こそがこの戦争を終わらせてくれると、楽しみにしていたのですが」


矛を肩に担ぎ、女の子の頭を軽く二度叩く
出会った頃は人の身など微塵も案じない、AIのような彼女だったが、変わったものだ


「ああ、それは次の世代に任せる」

「……世話になったな」


短い別れの挨拶を済ませ、ドアノブに手を掛けた

8 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:38:21 ID:62pQqJ3.0
「さよなら、『提督』」




「じゃあな、『エラーさん』」





これが、私が交わした最後の会話となった

9 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:38:57 ID:62pQqJ3.0




『艦隊これくしょん三周年記念作品』



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10 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:39:27 ID:62pQqJ3.0



























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11 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:40:32 ID:62pQqJ3.0
♪母港
https://www.youtube.com/watch?v=EGgK8GZS8Sg



『深海棲艦』とかいう、なんか機械とバケモノのハイブリットみたいな生き物が
制海権を根こそぎ奪ってから、多分二十年くらい経った。多分

それと同時期に現れた、なんか別世界の軍艦?の生まれ変わり的な?可愛い女の子集団『艦娘』
『艤装』と呼ばれるなんかこう背負う感じのデカイ装備を扱う彼女たちは
なんかよくわからんバケモノに対抗できる、人類に与えられた唯一無二の戦力だった

ただ、あくまで彼女たちは『兵力』であり、指揮は人間が執らねばならない。なんでか知らんけど
指揮官は、海軍のなんかお偉いさん?の総称である『提督』と呼ばれて
こう……難しい試験とか厳しい訓練とかを乗り越えた人間だけに与えられる、名誉ある役職らしい


いや別に名誉とかどうでもいいんだけど、重要なのはここから
提督ってのは、なんと無条件で艦娘に好かれるらしい。個人差はあるけど、大体そうだって近所のまさしが言ってた
こんな小さな女の子から、パツキンボインのお姉さんまで、選り取りみどりだ
バレンタインも、クリスマスも、ひと夏のアバンチュールも、クッソ可愛い艦娘たちと夢のような時間を過ごせる
それを目当てに、提督になる奴も多いんだとか。上手く行けばおセッk何でもない

そう、つまり何が言いたいのかっつーと

ブサm顔面が個性的なのが魅力の俺でも
ラノベのようなハーレムが築けると言うワケだ。ToLOVEるだ。俺はリトになる


その筈だったんだが

12 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:41:02 ID:62pQqJ3.0




『作:◆HS4z8y6JHc』



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13 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:41:47 ID:62pQqJ3.0
('A`)「どうしてこうなったかねぇ……」


提督の俺と


( ^ω^)「うまっ……ポッキーうまっ……」


整備士のデブ


(´・ω・`)「ほんまや……ポッキーうまっ……海を見ながら食うポッキーうますぎ……」


そして料理人のオッサン


('A`)「ポッキーうま……」


以上が、我が鎮守府のメンバー
艦娘どころか、女っ気の欠片もない


そう、ここは―――――

14 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:42:24 ID:62pQqJ3.0



『艦娘がいない鎮守府のようです』


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15 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:43:41 ID:62pQqJ3.0
遡ること三日前


('A`)「ここか……」


暑苦しい軍帽を脱ぎ、目の前の年季の入った建物を見上げる
大本営から車で半日、ド田舎にある廃村を再開発して設置された艦娘出撃施設

通称、『鎮守府』


('A`)「しっかし……古いな……」


海沿いにある廃校を再利用した鎮守府は、赤煉瓦の重厚な……と言うよりは
オバケか何かでも出そうな、古く頼りない雰囲気に満ちていた

しかし、廃村があった場所をまるごと取り囲む、二階建てほどの高さがある鉄筋コンクリートの壁が
ここが海軍の重要施設だという事実と緊張、そして閉塞感をひしひしと放っていた

まぁ、住めば都だ。寝て起きられるなら上等上等
今日からここが俺の家だ。荷物を背負い直し、引き戸から中へ入った


('A`)「従業員と初期艦娘はもう着いてるって聞いたんだが……」


俺をここまで送ってくれた海軍のオッサンは道々でそう説明してくれたが
出迎えどころか、人の気配も無い。足音と床の軋みがやたら大きく響く

16 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:56:20 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」


そうこう歩き回るうちに、廃校内で迷子になってしまった
クソド田舎にあるくせに、何か知らんが無駄に広い
建材が新しい場所がいくつかある所を見ると、増改築を繰り返しているらしい
トイレはパナソニックのアラウーノだった。変なところに金掛けてんなオイ

しばらく彷徨っていると、やったら凝ったトレーニングマシンと、気合の入ったリングが中央に設置されてるジムも発見した
何ここ?ファイトクラブか何か?艦娘ファイトクラブ?体の自由が利かない状態でテクニシャンと戦わされるの?


('A`)「クリムゾン……」


「そこは前任者のお気に入りでしてね」


(;'A`)そ「クリムゾンが!!!!????」


不意に、背後から女の子の声がして振り返る


(;'A`)「クリム……誰もいねえ!!!!!」


声がしたにも関わらず、俺の後ろにも、出入り口付近にも、そして廊下にも誰もいなかった
しかし微かにだが、リズミカルな鈴の音が聞こえ、ここに誰かがいる事を伝えてくれた


(;'A`)「待ってくれ!!」


一度置いた荷物を持ち上げるのももどかしく、手ぶらのままその鈴の音を追った

17 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:57:11 ID:62pQqJ3.0
廊下に出て、左右を確認。右の曲がり角を、『白い尻尾』が通り過ぎる
あれは猫だろうか?だとしたら、声の正体はその飼い主か


(;'A`)「なんだってこんな……まさか」


そうだ、きっとこれは初期艦娘の『電』ちゃんのサプライズなんだ
俺という提督の着任を、あの良い娘オーラ全開の幼女が、可愛らしい方法で祝ってくれるに違いない


(*'A`)「いやぁ〜、着任早々こんな思いして大丈夫かなぁ〜」


心が弾む。三次元のクソ女共に蔑ろにされてきた25年の人生
初めてのリア充体験。心と同時に脚も弾む
スキップ気味で後を追って行くと、『バタン』とドアの閉まる音が聞こえた


(*'A`)「ここかぁ〜?」


『司令室』の名札が付いている部屋の前
どうやら、迷いに迷っていた俺を見かねて案内してくれたらしい


(*'A`)「よ、よし……」

('A`)+ キリッ


顔を引き締め、深呼吸一回
第一印象は大切だ。威厳のあるところを見せ、頼れる男アピールをせねば

18 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 15:59:19 ID:62pQqJ3.0
('A`)「失礼する!!本日より貴艦らの指揮に……」


張り切って出した大声は、室内の光景を目の当たりにして尻すぼみに小さくなった
そこに居るはずの、少し自信なさげで可愛らしい初期艦娘の姿は無く、代わりに


( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」


応接用ソファーに寝っころがり、漫画を読んでいる二人の男がいるだけであった


('A`)「……」


何このクリスマスプレゼントを開けたら中にぎっしりドリル詰まってた時みてーながっかり感


( ^ω^)「あっ、アンタが提督かお?」

('A`)「えっ?うん」


右側のソファーで寝ていたデブが、キン肉マン(16)をテーブルに置き、立ち上がり敬礼をする


( ^ω^)「艤装整備士の明石ホライゾンだお。気軽にブーンって呼んでくれお」

('A`)「お、おう……」


朗らかな表情をしたデブだ。歳は多分、俺と同じくらいだろう
つーか今の俺の階級が少佐とは言え、一介の整備士であるこいつのフランクさは何?こわい
ちょっとプライドの高い奴なら、キレてる案件だよこれ?


(´・ω・`)「間宮ショボン、コックだ。シクヨロ」


その向かいのソファーでキン肉マン(19)を読んでいる、二回り年上くらいのオッサンに関しては、起き上がりもしねえ
従業員ってこんな……何なの?海軍何考えてこいつ雇ったの?バカじゃねーの?

19 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:00:01 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「……」

(´・ω・`)「それで」

(;'A`)そ「うっ、え?何?」

(´・ω・`)「アンタの名前は?」

(;'A`)「あっ、ああ……今日付で本鎮守府に配属された東郷ドクオ……なんだが」


ここでようやく、俺が一番気になっていたことを質問した


(;'A`)「艦娘は?」


返答は


( ^ω^)「いや……自分、整備士なんで……」

(´・ω・`)「俺コックなんだけど」


('A`)「……」

('A`)「ええー……」


どうにも的を射ていないモノであった

20 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:01:24 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「あのさぁ、今さっきここに女の子が来たはずなんだが……」

( ^ω^)「女の子?ここには僕らしかいねーお」

(;'A`)「は?いやでもさっき確かに……」

(´・ω・`)「幽霊でも見たんじゃねーのか?ここは曰くつきの場所だって聞くしな」

(;'A`)「俺が来る前に、ドア開いただろ?気付かなかったのか?」

( ^ω^)「僕らずっと漫画読んでたから、一時間くらいは廊下に出て無いお」

(´・ω・`)「なんだが知らねーけど、漫画と映画とアニメだけは揃ってんだよなここ」

(;'A`)「えー……」


鎮守府って、どこもこんな感じなん?ユルい、爺ちゃんのパンツのゴムくらいユルい
いくらド田舎とは言え、艦娘が出撃する重要施設だよ?大丈夫なのここ?
いやいや、そうじゃない。最も重要なのは……」


(;'A`)「だから!!電ちゃんはいないのか!?初期艦娘として配属された筈なんだよ!!」


( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」


(;'A`)「な、何だよ……?」


二人は、神妙な顔を見合わせた後
ブーンがデスクの方へ歩き、引き出しから手紙を取り出した

21 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:02:15 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「手紙預かってるお。どうぞ」

(;'A`)「あ、どうも」


糊付けもされていない、簡素な封筒の中身を取り出す
たった一枚の手紙には、女の子らしい丸っこい文字で一文



『顔が生理的に無理なのです。ナスと同じくらい無理なのです。電』



と、書かれていた


('A`)「……」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「やっぱ女ってクソだな」

('A`)「練炭って、置いてるかな?」

( ^ω^)「気持ちは分かるが早まるなお」


なるほど、早い話が
俺の個性的な顔面の魅力に耐えられなくなり、逃げたっつーことか。ハハッ、死にてえ


('A`)「縄くらいならあるだろ……」

( ^ω^)「待てって」

22 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:03:19 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「艤装だけは届いてるんだけど、肝心の『電』本人がいないんだお」

(´・ω・`)「俺らも大本営に連絡したんだが、まともに取り扱ってくれなかった。ご愁傷様」

('A`)「何それ……軍ってもっと……こう、逃げたら重い罰とかあるんじゃないの?」

( ^ω^)「お咎め無しらしいお」

('A`)「へぇー……睡眠薬ある?」

( ^ω^)「不憫すぎて掛ける言葉が見つからない」

('A`)「っつーか、艦娘無しでどうやって海域の警護しろっつーんだよ」

(´・ω・`)「あ?お前知らないのか?この辺りの海域は前任者が一掃して深海棲艦はいねえんだよ」

('A`)「聞いてないんだけど……じゃあ、俺がここにいる意味って何?」

(´・ω・`)「左遷?」

(;'A`)「俺、新米提督だよ!?ナンデ!?」

(´・ω・`)「顔面がブサイクだからだろ」

('A`)「軍施設なら拳銃くらいあるよな?」

( ^ω^)「泣きっ面に蜂」

(´・ω・`)「いやいや、真面目な話だよ。提督って艦娘の士気向上の為にある程度の顔面偏差値が必要なんだろ?」

(´・ω・`)「よくその顔で提督になれたな。すごいすごい」

(うA`)「顔、顔、顔ってよぉ……」

( ^ω^)「おうやめたれや」

23 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:04:31 ID:62pQqJ3.0
間宮の言う事は正しい。艦娘は恋愛に対する関心が大きいと聞く
そんな中で活動する提督という人間は、最も近い異性だ
彼女達だって、恋をするならイケメンの方がいいだろう

海軍本部から公言されてはいないが、顔面偏差値は選考の一つと噂されている


(うA`)「俺は体力テストでトップだったから、多分それで……」

( ^ω^)「ブサメンのハンデを乗り越えて提督になったって事かお!!それって凄いお!!」

(うA∩)「うああああああああああああああああ!!!!!!」


トドメを刺された


(;^ω^)「あっ、ごめ。そんなつもりじゃ……」

(´・ω・`)「あーあー、泣ーかした泣ーかした」

( ^ω^)「いや八割方アンタの所為だお」

(うA∩)「うええええええええええ!!!!お家帰るうううううううう!!!!!」

(´・ω・`)「今日からここがお前の家だ!!よろしく!!!!」

(うA∩)「お母ちゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

(;^ω^)「ちょ、泣くなお……良い大人が……」

('A`)「うん」

(;^ω^)そ「うわぁ!!急に泣き止むなお気持ち悪い!!」

('A`)「立ち直りの早さと前向きさだけが取り得だから」

:( A ):「取り得……だから……ウッ……」

(´・ω・`)「まだ引き摺ってんじゃねーか」

24 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:06:02 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「説明を要求します」


作戦指令室にて、俺は本部と通信連絡を取っていた。割と強い口調で
だってそうだろ?聞いてた話と全然違うんだから。俺じゃなかったら殺してたよ?いやほんとマジで


『キミの指揮下に居たく無いという艦娘が多数でね。これでは戦力にならないと思い其方の鎮守府を担当してもらうこととなった』


('A`)「担当して貰うことになったじゃねーよクソが」


『なんだね?』


('A`)「なんでもありません。しかし、兵力が居ない中では近海警備も出来やしませんが」


『必要ない。そこは既に深海棲艦から解放された海域だ。監視だけしてくれればいい』


('A`)「しかし、万一に備えて艦娘の配備を」


『検討する。話は以上かね?諸々の説明は書類にて確認してくれ』


これ絶対検討しねーよ。頼みごとが検討されて為しえた事実なんてこれまでねーよ


('A`)「もう一つ、ここは曰くつきの鎮守府と聞きましたが?」


『それが?』


('A`)「それがって……いえ、何でもありません」


やっぱ俺でも殺しちまうわこれ。車裂きで殺すわ

25 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:07:26 ID:62pQqJ3.0
『それでは、貴官の活躍に期待する』


それだけ言い残して、通信は切れた


('A`)「……」

('A`)「なーにが、『活躍を期待する』だよクソが。テメーの小せえマラで喉詰まらせて死ね」


途中、ポロッと本音が漏れてしまったが、聞かれなくて良かった
上官に暴言を吐いた罪で軍法会議とか洒落にならん。どうせならぶっ殺してから死刑になりたい


('A`)「ハァー……ヘコむわー……」


薄々察してはいたが、まさか顔面が個性的なだけでここまで酷い扱いを受けるとは思わなかった
第一印象は大切だが、それだけで人間性が計れるか?ブサイクでもかっこいい奴なんていっぱいいるぞ?


('A`)「仕事は近海域のレーダー及び肉眼による監視。その為、艦娘の配備は無し、人員も必要最低限か……」


虚しい。何のために俺はあれだけ苦しい訓練を乗り越え、猛勉強をしたのだろうか
作戦指令室の重たい扉を開き、意気消沈しながら廊下に出た

26 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:08:59 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しっかし、参ったなこりゃ……」


懐中電灯で足下を照らしながら、やや遠い食堂へと歩く
艦娘、とりわけ『初期艦娘』は提督にとって重要な存在となる

新規着任した提督は、戦闘及び『建造』で艦娘を増やしながら、海域を解放していかなければならない
艦娘の入手方法は大きく分けて二つだ。工廠で造るか、戦闘後に『ドロップ』した艦娘を持ち帰るか

工廠とは、艦娘が産まれる母体の役割を果たす施設だ
『建造ドック』と呼ばれる、二メートルほどの大きなブラックボックスに
艦娘専用である特殊な四つの資材、それと、卵子の働きを持つと言われている『開発資材』とやらを投入する
すると、早くても二十分、遅くても八時間で、新しい艦娘を手にすることが出来るのだ

しかし、この作業は人間だけではこなす事が出来ず、艦娘の手助けが必要不可欠なのだ
ここの工廠をちょろっと弄くってみたが、やはりウンともスンとも言わなかった。結論、この方法で艦娘は手に入らない


そしてもう一つの『ドロップ』。艦娘の手で深海棲艦を撃破した場合
稀に、それが『艦娘』として生まれ変わる。どういうワケかは知らないが
研究家の間では、『深海棲艦と艦娘は表裏一体の存在』だとか、『弾薬に含まれるほにゃららが深海棲艦を艦娘に造り変えた』だとか囁かれているが
詳しいことは知らん。ともかく、『深海棲艦を撃破』する必要があるってワケだ

これも無論、俺たちには不可能だ。奴らを倒してくれる艦娘はいない上に、深海棲艦すら現れないんだからな


('A`)「ハーレム、夢に潰えたり……」


足取りが重くなる。これからしばらく野郎三人のテラスハウスかよ。ハハッ


('A`)「死にてぇ……」

27 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:09:57 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



(´・ω・`)「よーう、どうだった?」


ただっ広い食堂、間宮が料理を運びながら聞いてきた


('A`)「やっぱ艦娘の配備はしねーんだとよ。監視だけだから必要ねえって言われて」

(´・ω・`)「なんだそりゃ。随分と見下された采配だな」

('A`)「全くだ。ハァァー……これから先、男三人のだけの共同生活か……」


言葉にするだけでむさ苦しさで胸が詰まる


( ^ω^)「まーまー、監視だけの楽な仕事で給料貰えるんだから。前向きに考えるお」

('A`)「金を使える場所はねーんだけどな」


一番近い街まで、車で三時間掛かる
勿論、外出には許可が必要だし、そもそも車がねえ。送迎は本部が行う。それも申請が必要だ


(´・ω・`)「食料、嗜好品は月一の配給だってな。だけど、今の状況でも充分過ぎる量があるぞ」

( ^ω^)「マ?」

(´・ω・`)「マ。多分三ヶ月くらい腹いっぱい食っても大丈夫」

( ^ω^)「最高かよ」

(´・ω・`)「タバコもたんまり」

( ^ω^)「天国かよ」

('A`)「呑気だなお前ら」

28 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:10:52 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「考え様だよ考え様、上司のお咎め無しで好き放題だ。後、ここの厨房かまどだった。ほれ飯」

( ^ω^)そ「お米が立ってる!!」

('A`)「いや、一応俺がお前らの上司なんだけどね?」

(´・ω・`)「そういうのいいから」

( ^ω^)「マジ萎えるわ」

('A`)「俺は上司として威張り散らすことさえも出来ないのか」

( ^ω^)「威張り散らしたらアレだお?なんか、こう、三人しかいないのに空気悪くなったら」

( ^ω^)「居辛くなると思うお。廊下ですれ違う度に、舌打ちとかするけどいいのかお?」

('A`)「わかった、わかったから恐い想像させるのやめて」

(´・ω・`)「まぁ、これから何するにしても腹ごしらえだ。食え食え」


山盛りのメシに鳥の竜田揚げ、中華風野菜炒めに卵スープがテーブルに置かれる
どれもこれも美味そうだ。訓練校の学食はどうにも味気なかったからな


(* ^ω^)「ひゃっほう!!いただきますお!!」

(´・ω・`)「いただきますっと」

('A`)「……」


二人がガツガツと飯を掻き込むのを見て、俺の腹の虫も鳴き声を上げて急かした
そういや、ここに来てから何も口にしていなかったな


('A`)「……いただきます」


('A`)「うめえ!!!!!!!!!!!」

29 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:12:25 ID:62pQqJ3.0
食後、コーヒーを飲みながら改めて自己紹介をする流れになった
喫煙者の明石と間宮は美味そうにタバコを吹かす。くせえんだよ


('A`)「えー、では俺から」

(´・ω・`)y-~「ええぞええぞ!!」

( ^ω^)y-~「一発芸やれお!!」

('A`)「新歓かよ。東郷ドクオ、階級は少尉だ。一発芸やります」

( ^ω^)y-~「やんのかお」

('A`)「細かすぎて伝わらないモノマネシリーズ。映画『暴走特急』から。トイレに現れた敵を女の色気で油断させて一瞬でぶっ殺した後のケイシー・ライバックの一言」

('A`)「おっぱいには気をつけろよ」CV.大塚明夫

(´・ω・`)y-~「……」

( ^ω^)y-~「……」

('A`)「なんか言えよ」

( ^ω^)y-~「ドックンはどうして提督になったんだお?」

('A`)「ええ……いきなり馴れ馴れしい……いいけど……」

('A`)「理由なんてお前、そんなもん艦娘とイチャコラ出来る以外にあるか?」

(´・ω・`)y-~「……低俗だな。お前」

('A`)「いや実際、訓練校でもそんな奴ばっかだったよ」

( ^ω^)y-~「ゲス野郎かお」

('A`)「ごめんね!!!!」

( ^ω^)y-~「反省しろお」

('A`)「うわなんか風当たりがキツい」

30 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:13:30 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「確認するが、本当に何かやらかしてここに来たんじゃないのか?」

('A`)「教官を何回がぶん殴りそうになったこと以外潔白だよ」

( ^ω^)y-~「問題児じゃねーかお」

('A`)「でもなんでそんなしつこく確認するんだよ」

(´・ω・`)y-~「俺らは問題起こしてここに送られたからなぁ」

( ^ω^)y-~「ハハッ、ワロス」

(;'A`)「それでよく俺のことゲス野郎だの問題児だの呼んでくれたなお前ら?そういや、曰くについて本部は答えてくれなかったんだが」

('A`)「なんかあんの?ここ」

(´・ω・`)y-~「後で話してやるよ。ほれ、次ブーン」

( ^ω^)y-~「明石ホライゾン、渾名はブーンだお。艤装の整備が仕事だお」

('A`)「何の問題起こしてここに?」

( ^ω^)y-~「艤装を魔改造して工廠吹っ飛ばした」

(;'A`)「お前それ軍法会議モンじゃねーか!!!!」

( ^ω^)y-~「うん、その結果がこれ」

(;'A`)「死刑にならなかっただけマシだな……つーか俺はどうしてここに送られたん……?」

( ^ω^)y-~「ドンマイ☆」

('A`)「うるせえ反省しろ」

( ^ω^)y-~「嫌どす」

('A`)「死刑になっちまえ」

31 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:15:36 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「最後は俺だな。間宮ショボン、飯炊き当番だ。ショボンでいいぞ」

('A`)「しょぼくれ眉毛はどんな事件起こしたんだ?」

(´・ω・`)y-~「ぶっ殺すぞブサメン」

('A`)「あ?」

(´・ω・`)y-~「お?」

( ^ω^)y-~「出会って半日も経ってないのに仲のよろしいことで」

(´・ω・`)y-~「俺は、アレだ。前の鎮守府で提督のオキニの艦娘寝取った」

(;'A`)「は?」

(´・ω・`)y-~「愛宕とかいう重巡洋艦娘だったな。下の毛がすげー濃いの」

( ^ω^)y-~「下もパツキンだったのかお?」

(´・ω・`)y-~「うん」

(;'A`)「それマj……いや、それはまた今度じっくり聞くとして」

(;'A`)「アンタもすげーことやらかしてんな……」

(´・ω・`)y-~「いや、問題はそこから」

(;'A`)「そこから?」

(´・ω・`)y-~「マジギレして軍刀で斬りかかってきた提督も掘った」

(;'A`)「ブーン、逃げよう!!」

(;^ω^)「僕らの処女が危ねえお!!」

(´・ω・`)y-~「俺にだって抱く男を選ぶ権利くらいあらぁ」

32 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:16:18 ID:62pQqJ3.0
(;'A`)「片やマッドエンジニア、方や両刀料理人……まともなのは俺だけか」

(´・ω・`)「顔面がまともじゃねえけどな」

('A`)「あ?」

(´・ω・`)「お?」

( ^ω^)「もう付き合っちゃえおお前ら」

('A`)「で……」


不安ばかりが募る自己紹介も追え、いよいよこの鎮守府の曰くについて聞く
ブーンもこの場所については詳しくないらしく、ただの左遷だと思っているそうだ


(´・ω・`)「あー、俺も前の鎮守府で小耳に挟んだだけで、詳しくは無いんだが」シュボッ

(´・ω・`)y-~「ここは傷害事件や命令無視をした艦娘が送られる流刑地だったらしい」

( ^ω^)「流刑地?」シュボッ

(´・ω・`)y-~「後、提督もな。上官ぶん殴ったりした奴とか」

('A`)「早かれ遅かれここに来る運命だったか……」

( ^ω^)y-~「お前性格に難あるお。で、曰くってのはそれだけかお?」

(´・ω・`)y-~「いや、曰くってのはここから」

33 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:17:29 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)y-~「着任した提督や艦娘が、悉く不審死を遂げたらしい」

(;'A`)「えっ……?」


ショボンはタバコ一服、一呼吸置いた
何この場所?ホラー映画の舞台にでもなったの?


(´・ω・`)y-~「オカルトか、それとも海軍の闇の部分か……どちらにせよ、役立たずを処理する場所として機能してたそうだ」

( ^ω^)y-~「艦娘の幽霊とか出そうだお。やったじゃんドクオ、イチャコラ出来るお」

(;'A`)「生きてるのでお願いしたい……待てよ、前任はここの海域一層したんだよな?」

(;'A`)「脛に傷のある艦娘を、難ありの提督が指揮してそれほどの大戦果を出せるのか?」

(´・ω・`)y-~「いやそれがお前、すげー強……やっべ、緘口令敷かれてたんだった」

( ^ω^)y-~「緘口令?」

(´・ω・`)y-~「うーん……ドクオが上に報告しないんなら話してやってもいいんだが」

(;'A`)「いやいやお前、ここまで話しといてやっぱ言えないですとか生殺しだろ。黙っといてやるから続き頼むよ」

(´・ω・`)y-~「話が分かるな。前の提督もお前くらい心が広かったらなぁ」

('A`)「いや、流石に女寝取られたら俺だってキレるよ?」

( ^ω^)y-~「掘られるお?」

('A`)「オッサン程度ならボコボコに出来るから問題ねえよ」

( ^ω^)y-~「つえー……」

(´・ω・`)y-~「続き、話すぞ」

34 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:19:01 ID:62pQqJ3.0
灰皿代わりの空き缶に灰を落とし、ショボンは前任の話を続けた


(´・ω・`)y-~「問題児の寄せ集めを、問題児が指揮する……それにも関わらず、すげー強かった」

(´・ω・`)y-~「艦隊戦も然ることながら、格闘、剣術、矛術による白兵戦までこなし、降伏の意思を示す深海棲艦でさえ容赦なくぶち殺す……」

(´・ω・`)y-~「その戦いぶりから、『なんとかかんとかちんちんまんまん鎮守府』と呼ばれてたそうだ」

(;'A`)「肝心な所曖昧じゃねーか!!」

(´・ω・`)y-~「又聞きだからなぁ。だが、その目覚しい活躍の裏で、結構な悪事も働いていたらしい。艤装を外した艦娘を奴隷として売ったり……」

(´・ω・`)y-~「薬漬けにしてアレしたりコレしたりとまぁ、様々な悪事が本部にバレた結果……軍法会議に掛けられて処刑されましたとさ」


最後に、『おしまい』と付けたし、ショボンは短くなったタバコを缶の中に放り込む
『ジュッ』と短く音を立て消えたそれが、さながら前任提督の有様のように思えた


(;'A`)「そんなクソ野郎だったのか……」

(´・ω・`)「さぁな、あくまで噂だ。真相を知ってる奴なんざ、海軍上層部でも一握りだろうよ」

( ^ω^)y-~「そいつに比べたら俺らのしでかした事の罪の軽さたるや」

(´・ω・`)「ホントだよ。こんなブサイクと一つ屋根の下にさせられて……」

('A`)「いやそれ俺のセリフだからな?」

35 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:20:17 ID:62pQqJ3.0
('A`)「しかし、そんなことがあったのか……」


口を噤むと、聞こえてくるのは蛍光灯の音と羽虫の鳴き声
外には街灯すらなく、窓から見える海には、まるで飲み込まれそうな暗闇が広がっている

人里離れた場所での、怪奇で猟奇的な噂に溢れた鎮守府。そう考えると、背筋がゾッと凍った


(;'A`)「とんでもねえ場所に、送られちまったんだな俺ら……」

( ^ω^)y-~「僕らは自業自得だから、割り切れるけどNE!!」

('A`)「あ、自分が悪いって自覚はあるんだ」

( ^ω^)y-~「もっとこっそりやればよかったお」

('A`)「やっぱ反省はしてねえのな……」

(´・ω・`)「俺は納得してねーよ。もっとここに送られるべき野郎は大勢いるぜ?」

( ^ω^)y-~「お?」

('A`)「……?」


ほんの、ほんの僅かだが、ショボンの目つきが険しくなる
無意識にだろうか、机の上に置かれている拳は固く握られていて
何か、嫌な過去を思い出したかのように見えた


(´・ω・`)「……うん?あっ、ああ、なんでもねえよ」


俺ら二人の視線に気付いたオッサンは、パッと表情を戻し、立ち上がる


(´・ω・`)「じゃあ、俺は疲れたから先に休ませて貰うぜ。朝飯は……一応、7時半ってことにしとくか」


それだけ言うと、食堂を後にした

36 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:21:03 ID:62pQqJ3.0
('A`)「……」

( ^ω^)y-~「……」


顔を見合わせ、しばらく黙っていたが
フィルター際までタバコを吸ったブーンが、缶の中に吸殻を捨てたのを皮切りに話を切り出した


( ^ω^)「……オッサンだから、多分、色々見てきたんだと思うお」

('A`)「何を」

( ^ω^)「『人』って奴だお」


『人』。確かに、俺が産まれる前から世界を見たオッサンは、俺より見聞が広いだろう
しかし、ブーンが言った『人』という言葉に、妙な引っかかりを感じだ


( ^ω^)「ドクオは……どんな提督になるつもりだったんだお?」

('A`)「えっ?」


唐突な質問に、俺は言葉を詰まらせる
『どんな提督』?そりゃ、下心がねえと言ったら嘘になるが……


('A`)「……」


『艦隊を勝利に導く為?』『艦娘を無事に帰還させる為?』『犠牲を厭わず敵を殲滅する為?』
考え付く何もかもが、ありきたりだ。安っぽい


( ^ω^)「実はちょっと、安心したんだお。僕は」


返答を待たず、ブーンは話を続けた


('A`)「安心、だと?」

37 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:22:21 ID:62pQqJ3.0
( ^ω^)「ここは深海棲艦の居ない海、平和な海」

( ^ω^)「艦娘が配備される必要の無い、海だお」

( ^ω^)「艦娘が……」


(;'A`)「……」


朗らかな表情は変わらない。にも関わらず、突き刺さるようなこの悲痛は何だ?
こいつは、オッサンは、何を見たのだろうか?聞きたい、知りたい……だが


『その領域』は、俺が踏み込んで良いモノなのか?


( ^ω^)「おっお。面倒が少ないってだけの理由だお。そんな深刻な顔すんなお」

(;'A`)「ッ……」


ブーンに言われて、俺は初めて眉間に皺を寄せていることに気がついた


( ^ω^)「お前も疲れてんだお。サッサと寝るに限るお」

(;'A`)「ああ……そうだな」


指で目頭を解すと、ドッと瞼が重くなった
確かに長距離移動をしてからの、この現状だ。肉体、精神共に疲労が溜まっている


( ^ω^)「明日の朝ごはん、楽しみだおね」


そう言って笑うブーンからはもう、先ほどの悲痛は感じられなかった

38 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:23:54 ID:62pQqJ3.0
―――――
―――



('A`)「……」


('A`)「平和だねぇ……」


穏やかな波の音、森の木々のざわめき、ウミネコの鳴く声
見張り台からの見る景色は、空より濃い海の青
時折、白いうねりを立たせながら広がっている


('A`)「こちらドクオ、レーダーどうだ?どーぞ」

『異常なしだお。どーぞ』

('A`)「知ってた」

『艤装弄りに戻っていいかお?』

('A`)「お好きにどーぞ……オーバー」


俺の一日の仕事は、肉眼及び双眼鏡による近海の監視
時折、鎮守府内にあるレーダーに何か映らないかを確認し、また監視に戻る

そして一日が終われば、本部に通信連絡をする

『本日も異常なし』と

39 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:24:50 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「おーい、生きてるかー?」


余りの穏やかさに、ついうたた寝をしていたら
下から、オッサンの呼ぶ声が聞こえ覗き込む


('A`)「退屈で死にそうだぜー。次はラジオでも持ち込むかなー」

(´・ω・`)「おやつ食わねーかー」

('A`)「食うー」


塗装が所々剥がれた梯子を降り、コンクリートで埋め立てられた港湾に立つ
その一部分は、海上に面した坂道になっており、レールが敷かれている
海に出る艦娘は、カタパルトのようにそこから射出され、出撃するそうだ


( ^ω^)「おやつと聞いて」

(´・ω・`)「お前、食いモンのことになると機敏だな」

( ^ω^)「よせやい」

('A`)「まぁ、数少ない楽しみだしなぁ……」


実際、この場所は娯楽が少ない
全く無い、と言うわけでは無い。どういうことかは知らないが、映画と漫画だけはやたら揃っていた
後、スポーツ用具とかも結構ある。バトミントンとかしてはいい汗掻いて虚しさに襲われる

40 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:25:54 ID:62pQqJ3.0
(´・ω・`)「ポッキーうっま……うま……」

( ^ω^)「ポッキーうっめ……ありえん……」

('A`)「ポッキー……美味……」


ショボンのオッサンは、こうしておやつを作ったり
その日の献立を考えては、仕込みをしたりと、のんびり料理を作っている

ブーンは、電の艤装を弄繰り回して遊んでいた
頻繁に甲高い金属を打つ音が聞こえてくるのがとても恐い。また工廠を吹っ飛ばすんじゃねえかってヒヤヒヤしてる


('A`)「……」


とまぁ、これが俺が着任してからの三日間だ
要は、欠伸が出るほど平和で、死にそうなほど暇で、白目剥くほどやることが無い
『忙殺』という言葉があるが、退屈でも人は死ぬんじゃねえのかって思うような毎日だった


('A`)「……ダメだよな、こんなんじゃ」

( ^ω^)「は?ポッキー美味いだろ?」

(´・ω・`)「なんや?ナッツ入りが良かったんか?」

( ^ω^)「僕は抹茶の、こうなんか太い奴が良いお」

(´・ω・`)「あれはポッキーと呼んで良いのだろうか……ポキッって言うより最早『ボキッ』……そう、ボッk('A`)「そうじゃねーよバカかよテメーら」

41 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:27:29 ID:62pQqJ3.0
('A`)「考えてもみろ。一日を退廃的に過ごして、飯食って寝る。こんなの、『生きてる』って言えるか?」


変わり映えしない景色に、変わり映えしない日常。心がゆっくりと腐っていくような心地がする
俺はとにかく、この状況を少しでも変えたかった。習慣でも、環境でも、何だって良い
幸いにも、ここでもっとも地位のある人間は俺だった。行動を咎める上官はいない


('A`)「やるぞ」

(´・ω・`)「あ?何を?」

('A`)「春の鎮守府一斉、模様替え大掃除大会だ!!!!!!」

( ^ω^)「大会……?」

(´・ω・`)「大会……?」

('A`)「なんだ文句あんのか?やるか?お?」


先ずはこの鎮守府に蔓延する、暗いイメージを払拭する為に
大改造鎮守府ビフォーアフターと行こうじゃあねえか



♪Bruno Mars - Runaway Baby
https://www.youtube.com/watch?v=6Ww-8jvxT5Q



( ^ω^)「木材、釘、それにペンキ。倉庫に置いてあった物持って来たお」

('A`)「よし、ブーンは建物でガタの来てる箇所の修繕に当たってくれ」

( ^ω^)「まかせろ」

(´・ω・`)「鎌に高枝切りバサミ、それと脚立だ」

('A`)「建物に巻き付いているツタを取り除いて、伸び放題の植木の形を整えてくれ。得意だろ?なんか植物の心読めそうだし」

(´・ω・`)「それは別作品の話で、俺は庭師じゃなくて料理人だ。まぁ、やるだけやってみるがよ」

42 ◆HS4z8y6JHc:2016/04/03(日) 16:28:42 ID:62pQqJ3.0
('A`)「さて、俺はひび割れた壁の修繕だ」


練ったコンクリートをひびに沿って塗り、金ごてで綺麗に整える
多少不恰好だが、そのままにしておくよりマシだろう

もしも、この場所に艦娘が来るようなことがあれば
オバケ屋敷でお出迎えなんて、不恰好だし不気味に思うだろう。実際俺は思ったし
例えこの場所が、問題児達の流刑地だったとしても、暖かく迎え入れられるようにしておきたい


('A`)「Run run runaway, runaway baby♪Before I put my spell on you♪」


内地にいた頃にはダリィと思うだろう作業も、ここでは楽しくて仕方が無い
ウミネコと、波と、木々のざわめきに加えて、金づちに鋏を動かす音
なんでもない作業音が、変化のもたらす音楽に聞こえてくる


( ^ω^)「うーん……老朽化は進んでるけど、所々修理もされてるお」トンテンカントンテンカン


(´・ω・`)oVo「……」チョキチョキ

(´・ω・`)oVo「ふむ……」

(´・ω・`)つ8<「……」

(´・ω・`)つ8<「なんだ……しっくり来るな……」


日が暮れるまで作業して、風呂入って飯食って寝て
起きて飯食って、作業して、たまに遊び、休んで、作業する
その合間に、全く変化の無い海を監視、レーダーで確認、一日の最後に報告
そんな日常が、しばらく続いた


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