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もしも加賀楓と横山玲奈がふたり旅をしたらありがちなこと

1名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:39:14
動物は現れ、やがて絶滅する。
植物は絨毯のように地表を覆っては枯れ、また豊かに茂る。
生命は広がり、縮み、ときどき生き残りのサイクルから落っこちる。

だが地球は残っていた。
動植物がその上にあふれても、洪水や地震や疫病や地殻変動、大災害の犠牲になっても、惑星はまわり続ける。

ひどい雨だ。
加賀楓と横山玲奈は競技場にいた。
誰かが――さもなければ何かが――ウイニングランをしてから、ずいぶん長い時間が経っているのは明白だ。
生き延びることだけが優先されるこの時代に、たくさんの時間と努力を馬鹿げた競技に打ちこむ人間はいない。

この競技場を走ったのが意味もなくぐるぐる走る馬か、愚かな犬か、それとも車の体裁を整えたエンジンか、
そんなことは楓と玲奈にはどうでもよかった。
問題なのは、この場所が悪天候をしのぐ仮の宿になってくれることだ。

ふたりが見つけた屋根はとりたてて大きくはなかったが、まだちゃんと雨を防いでくれた。
建物が許すかぎり悪天候から離れて中に入ると玲奈は満足して周囲を見まわした。
「ひと晩キャンプするのにもってこいの場所みたいだよ」
ちらっと磁石を見てぱちんと蓋を閉めた。

楓は油断せず周囲を警戒していた。
仮の宿には好都合な建物だった。
ふたりが雨をしのいでいる場所の前方は広々としている。
何かが近づいてくれば、かなり遠くからでも分かる。

玲奈はジャンプスーツの前を開けて、内側に手を入れた。
おもむろに脇の下を掻きはじめた。「さっき蚊に刺されたみたい」
玲奈がスーツから手を出して指の臭いを嗅ぐと、楓は不快感をあらわにした。
「よしなさいよ。行儀が悪い」

ふんと鼻を鳴らして玲奈が言った。
「“料理”するから燃やせるものを探してよ」
楓は土砂降りの雨を示した。「どうせならステーキも注文したら?」
「観客席の下ならほとんど壊れてないみたいだもの。乾いてるところもあるはずだよ」玲奈が答えた。

楓が皮肉っぽく笑った。
顔面の左側にぎざぎざした傷痕があるため、剣呑で威圧的に見えはするものの楓は玲奈には優しい。
雨はやみはじめていた。楓は目を上げた。
夜空に星がきらめきはじめている。

2名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:40:21
何年も前に使われなくなった競争路には、ほとんど何も残っていなかった。
“食べられる”ごみはとっくの昔に犬や猫、ハトやカラス、ネズミや虫たちがきれいにしてしまった。

楓はビールの缶を見つけた。中身は蒸発している。
この楕円形の施設が、かつては大勢の人間が野次を飛ばし、歓声を送る気楽な人々を収容していたとは。
楓は大きく息をついた。いまのここは自然が支配している。

玲奈の予想は正しかった。
壊れずに残っている張り出し屋根の下は乾いていた。
楓は手すりから杭まで木材でできている物を片っ端から引き剥がした。

焚き火用の木切れを抱えて戻ると、玲奈がてきぱきとフクロウを解体していた。
楓は間に合わせの“いろり”を作り、すぐに小さな火を起こした。
玲奈がふたつかみ分の肉を手渡す。

あまり食欲をそそらないかたまりをあぶりはじめる。
肉は火の上でジュウジュウと焼けた。

「マスタードは切れちゃったから、夕食は素材の味を楽しんで」
玲奈は口の端をわずかに持ち上げた。
「そりゃどうも」楓もにやっと笑った。

荒廃した文明の名残である建物の下で、赤橙色の炎がちらつく。
楓がもう1本薪を足すと炎が踊った。
火は人間の敵にもなるが友にもなる。
マシュマロとかソーセージなんかあれば最高なのに。
楓は棒を使って燃えさしをかき回した。

「かえでー、寝ていいよ。わたし見張りやるから」
楓はぴったりしたレザーの上着を剥がすように脱ぎ、肩に羽織った。
その両脇にはシグザウエルの自動拳銃が吊るしてある。

招かれるの待たずに玲奈の隣に移動した。
寄り添い、頭を胸にあずけると静かに笑った。
「おやすみ――」楓はあっという間に寝息をたてはじめた。

3名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:41:25
夜明けの最初の光が見えてくる。
座ったまま眠っている楓が苦しそうに頭を振り、低いうめき声をもらした。

玲奈は楓の眠りを妨げないように気をつけながら、そっと楓を崩れかけた壁にもたれさせた。
そのまま楓を起こさず、薄暗がりを歩いていった。

1日のうちでいちばん好きなのが日の出だった。
太陽がまだ完全に地平線から昇る前の世界はいつも清々しい。
伸ばした手のすぐ先に、可能性が待っている、そんな気がした。

この時間だけは常につきまとう死を忘れられる。
荒廃した土地を眺めながらも、だんだん慣れてきた。
生き延びるためにしなければならないことに慣れる。

そうする必要があるからだ。他の選択肢はない。
玲奈の大切な“ひととき”はいつも玲奈が願うほど長くは続いてくれなかった。

反射光が見えた。
玲奈自身がスナイパーなので、遠くの高みでスコープがぎらりと光るのを目にしたとき、
恐ろしいことが起ころうとしているのを察知した。

シューターのスコープが顔の表情を判別できるほど強力である場合に備えて、気楽な雰囲気を絶やさないようにした。
建物の中に駆け戻りたい気持ちを抑えこみながら、さりげなく歩き終えた。
馬鹿げているという思いがあったが、この時代は誰もが誰かの照準線に入っている。
玲奈は両肩に手をかけて、わが身を抱きしめた。

楓は目覚めていた。
携行食でのんびりと朝飯の支度をしている。
駆け寄ってくる玲奈を見て、しかめ面になった。
「どうしたの?何かあった?」

楓は急いで周囲を見まわした。玲奈もそれに倣う。
だが、いくら周りを見ても何もない。
一瞬後、玲奈の恐怖の源が空から降ってきた。

4名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 11:48:54
男がふたり、陰から飛び出してきて同時に発砲した。
楓と玲奈は間一髪で横手へ飛んで、浴びせられた銃撃をよけた。
薄暗がりの中に見える男たちの目は、無感動で、爬虫類を思わせた。

玲奈は腿のホルスターから拳銃を抜き出し、迫ってくる男を狙って撃つ。
1発が男の腹部を引き裂いて、ひざまずかせた。
「ちくしょう!撃たれた!」男が苦悶にうめいた。

両脇のホルスターのストラップを解いた楓は小走りに駆け出す。
仲間が危機に瀕していることにあわてふためいているもうひとりの男にやすやすと近づいた。
銃弾が男の両目の間に命中して、後頭部を吹っ飛ばした。

玲奈に撃たれた男は、痛みのあまり動くこともできなかった。
血が奔流のように噴き出している。
ひどく黒っぽい血であることが薄明かりでも見てとれた。

玲奈は銃口を向けながら冷たく告げた。
「肝臓だね。10分くらいで死ぬ」
男を仰向けに転がして、持っていた拳銃を拾い上げた。

「仲間は?他に何人いるの?」玲奈が訊いた。
こんな小娘に撃ち倒されたことが信じられないというように男は嫌悪の目で玲奈を見上げた。
そして答えぬままに脱糞しながら絶命した。

外へ足を向けた楓は湾曲した鉄塔へ近づいた。
半分壊れたその塔の交差支柱の角度を選びながらテナガザルのように登りはじめる。
周辺を偵察した楓はするすると地面に戻ると玲奈を眺めた。

すべての要素を考え合わせれば、そうひどい銃撃戦ではなかったような気もした。
武器と食糧が調達できたし、この場所を離れるという物理的指示に役立つ物が手に入った。

男たちが使っていたバイクだ。
カワサキの中国製コピー商品でサスペンションはスケートボード用のポンコツだが、エンジンにはちゃんと馬力があった。

荷物をまとめた楓と玲奈はバイクにまたがった。
楓がエンジンを噴かすと、後部座席の玲奈は楓の腰にしがみついた。
「つかまってなさいよ」
錆びついたバイクが後輪を左右に振り動かして砂利を跳ね散らす。

風をまともに顔に食らいながら、楓と玲奈はガタガタと揺れるバイクで走りはじめた。

5名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 13:18:22
古い道路には、バイクのエンジン音の他には何の音もしなかった。
爆撃を受けて崩れた建物と、錆びついた車の残骸の上に伸びる並木。
道路脇にまっすぐ並んで伸びる幹のシルエットが空にくっきり浮かんでいる。

楓はいったんスピードをゆるめてから、後ろの玲奈をびびらせて起こすためだけに急にスピードを上げた。
「ななな!!」玲奈の悲鳴はぶるぶると振動した。

ガソリンスタンドが視界に入ってきた。
あれが蜃気楼だとしたら、ずいぶん頑丈な蜃気楼だ。
かなりの荒廃ぶりはまるで竜巻にやられたようだった。

速度を落としてガソリンスタンドへと入る道に近づきながら、楓は玲奈を振り向いた。
「誰もいないみたいだけど、どう思う?」

目を細めて建物を見ていた玲奈が言った。
「うん。誰もいないみたい。あそこに残っている物を回収するぐらいの“時間の余裕”はあるよ」

狭苦しい壁のくぼみには尿と腐ったレモンのような臭いが漂っている。
オレンジよりも小さいネズミが暗がりをちょろちょろと横切った。

楓は馴染みのある感覚――暴力が目前に迫っているぞくぞくする感覚――にうなじを刺激された。
自分はこれを楽しみ過ぎているのだろうかと考えた。
世界にいきなり平和が出現したらどうすればいいのか、楓にはまったく分からない。
どのみち、そんなことは起こりそうにもないのだが。

予想は裏切られた。ひとりの男が拳銃を手にして立っていた。
額には玉の汗が浮かんでいる。「動くな。武器を捨てて出ていけ」
反射的に楓も玲奈も拳銃を抜いて構えた。

「あんたが捨てなさい。2対1。勝ち目はない」楓が落ち着いた声で告げた。
その年配の男は、銃口を向けながら拳銃を握り直した。
掌の汗をジーンズで拭う。やがて諦めたように拳銃を手放した。

「“強盗”じゃないの。ガソリンがあればもらいたい。食糧と交換でいいわ」玲奈が言った。
年配の男は目を丸くした。
「…分別を働かせる若者を見るのは久しぶりのことだ」

6名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 20:31:10
年配の男はバイクを満タンにしてくれただけでなく、楓と玲奈にリンゴをくれた。
この時代、リンゴを食べられることは滅多にない。
食糧や衣服、医療品やその他の必需品はどうにかこうにか供給されている。
だが、新鮮な果物のような贅沢品はまったく流通しない。

そのリンゴは近くの果樹園で収穫されたと男は説明した。
半分野生に戻り、大きくなり過ぎてはいるが、そこの果樹はまだ季節が来ると果実をもたらしてくれるという。
少数の市民がそれを注意深く収穫するのだ。

リンゴを味わいながら楓は男に礼を言った。
玲奈は実をきれいにかじり終えて、芯をしゃぶっている。
楓はまた一口リンゴをかじり、残りを玲奈に渡してやった。

楓は頭に浮かぶままを口にした。
「どうしてこんな親切を?」楓は男の薄くなった頭髪と白くなった髭を見ながら尋ねた。

「人生はな、そのときそのときを生きるんだ。そして次々に選択する。それが人間ってもんだ」
男の答えは楓を戸惑わせた。
信頼と親切、ごく当たり前の人間性かもしれないが、楓の記憶からは長らく消えてしまっていた。

男は自分の上唇を持ち上げ、出血している歯茎を楓と玲奈に見せた。
「癌に冒されている…。もう長くは生きられん。放射能の影響だろうな」
男は乾いた苦い声で笑った。

「あんたらはあの野蛮人どもとは違うな?もちろんどこの誰で、ここで何をしてるのか、どうやってまだ走れるバイクを調達したのか分からんが」
男はふたりを見て、うなずき、ぱちんと指を鳴らした。

「どうしてこの店がまだ建ってると思う?」男が荒らされた店の中を示した。
楓と玲奈は顔を見合わせてから首を振った。
「おとなしくしてるからだ。できるだけ目立たないよう静かにしてる」男が静かに答えた。

「必要な物があれば持っていけ」男が励ますように笑った。
「どこへ行くのか知らんが長旅なんだろう?」

楓も玲奈も驚いた。この絶望的な世界でも親切な人はいる。
この人なら地獄で炎にあぶられていても、温かくて気持ちがいいと笑うのではないか。

楓と玲奈はふたたびポンコツバイクにまたがって走りはじめた。
トランスミッションが炎を噴き上げそうな不快な音を発している。
ふたりはガタガタと揺れながら宵闇が迫りはじめた夕暮れの空を見上げた。

7名無し募集中。。。:2017/08/21(月) 21:44:35
隻眼の女がリンゴをかじっている。
高い位置でポニーテールにまとめられた長い髪が小さく風に揺れていた。

すらりと背が高く、余分な肉のない風貌は飢えかけたジャッカルを思わせた。
牧野真莉愛は考え深い顔でリンゴの芯を見つめた。
放棄されたガソリンスタンドは蒸し暑さのせいか汚物が溢れた便所のように臭い。

そんな好ましくない場所でリンゴを食べられるとは。
片手の小皿程度の小食で1日をしのぐ日々を過ごす身としては久しぶりの贅沢だ。

おこぼれを欲しがっているのかカラスが飛んできた。
癪に障る騒々しい鳴き声で騒ぎ、糞を落としてきた。

真莉愛が芯を放り投げると、それをくわえて飛び去った。
見える方の目でカラスを追い、太陽を見上げた。
網膜が日射しに焼かれる感覚が生じる。
真莉愛は額に片手をかざしてカラスを撃ち落とした。

荒れ果てたガソリンスタンドに背を向けて、真莉愛は道路の土とたわむれる。
バイクのタイヤ痕からいくつかのことが推測できた。
バイクにふたりの人間が乗っていたことは間違いない。
そして後部座席の人間が運転者にしっかりとしがみついていたことだろう。
なぜなら相当な速度でミサイルさながらに飛び出しているからだ。

日光浴をするようにガソリンスタンドの正面に椅子を置いて座っている年配の男が真莉愛を見ていた。
あんぐり口を開け、自分が聞いている言葉を信じまいとしている顔だ。

年配の男の禿げた額にひとつ、弾丸の射入口ができていた。
壁に大脳皮質を飛び散らせ、癌ではなく鉛玉によってあの世へ送られた男がだらりと椅子から崩れ落ちた。

真莉愛はもうもうと砂塵を舞い上げて走るバイクを頭に思い浮かべた。
それほど遠くにいるとは思えない。
ジープのギアをバックに入れ、駐車場の坂道を離れる。
ギアをドライブに入れた真莉愛はアクセルペダルを踏みながらつぶやいた。
「必ず見つけるよ…かえでぃー」

8名無し募集中。。。:2017/08/21(月) 22:24:37
まーちゃんとまりあの小説の人かな?

くっころくっころ

9名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 07:50:11
また楽しみが増えた

10名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 13:37:09
更新お待ちしています

11名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 13:36:36
ふたりを乗せたバイクは山の斜面を登る急勾配のつづら折りを突き進んでいた。
鬱蒼とした松林を見ながら尾根に沿ってひた走る。

平原が見えてきた。昇りはじめた曙光に目を奪われる。
赤く、やがてオレンジ色に照らされ、茶系の色調の目録のように染め分けられていく。
荘厳な風景に楓はバイクを停めて、玲奈を振り返った。

「きれいだね」「うん」
玲奈は疲れた顔で、髪は乱れていたが背中に感じるその身体は柔らかく温かかった。
楓はまたアクセルグリップをまわしてもっと先を目指す。

やがて路傍の林が藪に変わり、次いで草地に変わって湖のほとりに出た。
あまり湖らしい湖ではない。
大きな楕円形の水溜まりがもっと大きな平原の真ん中にどんと置かれたような感じだ。

それでもやはり湖ではある。
身体も服も臭いはじめている。ふたりは洗濯と水浴びのために湖畔から汀にバイクを走らせた。

ふたりとも素っ裸になるのは危険なので先に玲奈が服を脱ぎ捨てた。
じゃばじゃばと水を浴びる玲奈を見ながら、楓は服を洗ってやった。

服を干した楓が顔を上げて、玲奈の視線に気づく。
「かえでーも脱いでよ。一緒に水遊びしようよ、ね?」
「危ないから」楓が言う。
「誰もいないし、来ないよ。ほらあ」
「危ないから」楓が繰り返す。

「じゃあ、ご自由に」玲奈がけらけらと笑いながら楓を引っ張って水に引き入れた。
「わあ」服を着たまま水に転げた楓は浮かんでこない。

「…かえでー?…」
近寄った玲奈が楓に足をすくわれて尻餅をついた。
「…やったなあ!」「そっちこそ!」
手と足を使って、ばしゃばしゃと飛沫を相手に浴びせる。
楓は服を脱ぎながら、湖面に小さな白波を立て、玲奈を抱き寄せた。

ふたりの顔は、唇が触れ合いそうなほど近づく。
玲奈は楓の手を取って胸の膨らみにあてがった。
楓が上体を屈めてそっと唇を重ねると、玲奈は楓の背中を、尻を、脚を撫でさすった。

12名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 14:01:33
くっころくっころ

13名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 15:26:22
眠気を誘う夏の空には綿のような雲が浮かんでいる。
洗濯した服が乾くのを待ちながら、楓はバイクのエンジンのボルトを点検した。

ふと視線を上げると、バックミラーに映った自分の顔にある傷痕が目に入った。
顔の左頬にある突っ張って半透明になった皮膚。

逃亡者になったときに負った不快な爪痕だ。
傷は――玲奈には正直に打ち明けていないが――まだ痛み、楓を絶えず責めた。
大勢が死んだのに、おまえだけは生き残った、と。

数時間の睡眠をむさぼっていた玲奈がもぞもぞと現に戻った。
そよ風が松葉を揺らしている。
玲奈は楓に歩み寄った。

「これからどこに行くの?」
本気で訊きたいわけではなく、ただの好奇心で玲奈は訊いた。
本気でなくて幸い。
楓は「さあ」と答える。

楓にもあてはないのだ。ただバイクを走らせること以外、何も心づもりはない。
口には出さなかったが、玲奈と一緒にいることを楽しんでいるだけだ。

眠りから覚めたばかりの玲奈は機嫌が悪い。
見たくもない映像がまぶたに焼きついている。
それは楓にも理解できる。この世界で生きている人間はみんな、似たような映像がまぶたにたくさん焼きついているからだ。

ふたりで湖のほとりを散策した。
窪地に立つ古い農家が見つかった。壊れ果てた鶏舎らしき小屋の跡もある。
「食糧はまだあるから、しばらくここにいようか」
楓が提案する。妥当な策だろう。玲奈は承諾してうなずいた。

何日か過ぎたある晩、楓と玲奈は小屋の中に横たわって、コオロギの鳴き声と、お互いの息づかいに耳を澄ましていた。
細長い銀色の月が出ている。

ふたりの生活は心地よい日課の枠に収まってきた。
自分たちがどれほど疲れ、すり減っていたか、まったく自覚がなかったが、
気の向くままに食べ、眠り、散歩する暮らしは楽しかった。

遠くに野犬の群れが長短さまざまに咆哮していた。
同時に何かが咳きこむようなエンジン音が近づいてくる。
まっすぐ坂道を下ってくるジープに、楓も玲奈も気がつかなかった。

14名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 16:03:04
ラブシーンは長めで頼む

15名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 16:57:09
ブラシーン?

16名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 17:27:55
真莉愛はタオルで両手を拭い、汚い布に真っ赤な筋を残した。
男がうつ伏せに倒れて目を見開いている。
真莉愛にいきなりナイフで切りつけられた瞬間に浮かべていた表情のままだ。

ぱっくり開いた傷から流れ出た血が黒く溜まっている。
生気を失った目には脂ぎった蝿が寄ってきて、卵を産みつける場所を取り合っていた。

男たちは3人組だった。密売を生業にしている図に乗った若者たちだ。
そうした組織の底辺に属する人間の多くが陥る過ちだった。
親玉が尊敬を得ていることを理由に、手下である自分たちも尊敬されて当然と思い違いをしている。

真莉愛はその密売組織の名を耳にしたこともなかった。
だが、若者たちはそれさえ口にすれば相手を震え上がらせることができると確信しているようだった。

おとなしくしろと、真莉愛に向かって若者たちがその名をわめいたとき、
真莉愛はただ笑ってリーダーらしき男の喉を切り裂いた。
あとのふたりは1秒もかからず撃ち殺された。

ナイフの刃が鈍っている。安物はたやすく研げ、たやすく鈍った。
ジープの助手席に座りこんだ真莉愛は平らな砂岩でナイフを研ぎ直した。

地面から揺らめく熱気が血の臭気を運んでくる。
ナイフで指先を切ってしまい、血がにじんだ。
真莉愛はダッシュボードを開けてごそごそと引っかきまわした。

少し探すと絆創膏が見つかった。
白い毛に黒い鼻のご機嫌な笑みを浮かべた犬のマンガが描かれている。
このキャラクターの名前は何だったっけ?
真莉愛は子ども用の絆創膏を丁寧に指先に貼った。

真莉愛は転がっている死体を一顧だにせず、役に立ちそうな荷物をぞんざいにジープの後ろに放り投げた。
真莉愛は深く息を吸い、考えをまとめようとした。

追跡を開始してから、ろくすっぽ寝ていない。
ぐっすり眠るのは死んでからでもできちゃいまりあ。
真莉愛は自分を励ましながらジープに乗りこんだ。「どこなの…かえでぃー」

17名無し募集中。。。:2017/09/02(土) 23:17:25
更新を超待ってる

18名無し募集中。。。:2017/09/03(日) 00:45:24
くっころくっころ

19名無し募集中。。。:2017/09/06(水) 07:25:48
続きが気になるところ
引き込まれる文章がすごいね
更新待ってるよ

20名無し募集中。。。:2017/09/13(水) 14:17:58
おお!こんな素敵なスレがあったなんて!もしかしてサバゲースレの続きなのかな?

加賀楓「サバゲーがしたい」
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1495541504/

続きが気になる!

21名無し募集中。。。:2017/09/14(木) 13:55:52
覚えていてくれる人がいたなんてうれしいです
そうですサバゲースレのものをちょっと練り直したSSです


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