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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot

1 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:30:51 ID:ytUFOiFEO

 

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621執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 11:56:58 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「は、はは…私、正義のジャーナリスト出来てるじゃん……」

塗炭壁のサイコロめいた貸倉庫が、碁盤の目のように並ぶニューソク第三埠頭の倉庫街。
貸倉庫と貸倉庫の間、ドラム缶の陰に屈みこんで、辺りの様子を窺う。
ややあって、控えめなエンジン音と共に、リーガリーの青いボディが倉庫街にゆっくりと滑りこんできた。

「それじゃあ、俺はここいらで」

「やっこさん方は何時頃御到着で?」

「今日はモーター・フィストの開幕戦だ。それからディナーやらを済ませて、八時くらいだろうよ」

「……今季はどこが来ると思う?」

「マクレーンの奴が前シーズンみたいにぶちかましてくれれば、ボーンズが行けるだろうがなあ……」

「エクストか」

「ああ。あいつが居るから、ホーネスツってのもあるかもしれねえぞ?」

「はっ!どうだかね!」

世間話の声と共に、二人分の足音が寂れた倉庫街に虚ろに響き渡る。
息を殺し、ドラム缶とドラム缶の間から覗いていれば、与太者達は丁度向かい側の貸倉庫の中に入って行く。
青のリーガリーも、それを見届けると、早々にその場から走り去った。

622執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 11:57:48 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「……」

完全に人の気配が消えたのを確認して、そっと立ち上がる。
腕時計で確認した今の時刻は、午後五時を十分過ぎた所。
与太者達の話を信じるなら、三時間の猶予がある事となる。

だからと言って、呑気に構えているような余裕など無い。

倉庫の中に彼らの仲間が居るのかどうかは知らない。
知らないが、こちらがたった一人であるという事実だけは変わりようが無い。
サイバネティクスで武装した与太者達を相手に、女の細腕一つで立ち回らなければならないのだ。
加えて、あの子達を無事に助け出す、というのが難度を更に高くしている。

たった一つの失敗が、全ての破滅につながり兼ねない。

背中の毛穴に怖気が立つのが分かった。

o川;゚ー゚)o「――“きゅう子”、お願い」
 _,,,_
/::o・ァ「ァィァィー!」

何は無くとも、先ずは情報だ。
都合がいい事に、ここから見える倉庫の二階の窓の桟の下の塗炭が緩んでおり、丁度隙間が開いている。
ドラム缶の陰にしゃがんだままで、“きゅう子”を件の貸倉庫へ偵察に向かわせた。

623執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 11:58:31 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「――ふぅ」

桜色の小鳥を見送ると、ドラム缶に背を預けて束の間私は目を閉じる。
ここまでの追跡の間は、無我夢中で意識する暇も無かったが、一人になった瞬間、途方も無い不安と恐怖が腹の底から湧きあがってきた。

o川;゚ー゚)o「……大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせて肩を抱く。
それでも身体の震えは止まらない。
何なんだ。一体私は何なんだ。

こんな事でビクつくぐらいなら、どうしてここまであのパンクス達を追ってきた?

――結局の所、ただ、現実逃避がしたかっただけなんじゃないのか。

“彼”に会う事に怯えている自分を忘れたくて。
安っぽい義侠心を振りかざして、弱者の為だとか、正義の為だとか、そんな事を言っている自分に、ただ、酔いたかっただけなんじゃないのか。

o川; へ )o「うぅ…ぅぅ…」

止めろ。止めろ。止めろ。
今、そんな事を考えて、何になる。
下らない自己嫌悪で、自分を追い詰めて、それで何になる。
自分を責める事なら、あの子達を救い出した後で、幾らでも出来る。
今はただ、目の前の事に集中しろ。

624執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 11:59:23 ID:FzV8uf/k0
 _,,,_
/::o・ァ「タラィ…マー……」

何の得にもならない思考を遮るよう、“きゅう子”が戻ってくる。
途切れがちになった電子音声は、この子の残りバッテリーが少ない事を意味していた。
 _,,,_
/::o・ァ「モ…ダメ…ゲンカィ……」

生憎、休日と言う事でバッテリーを持ってこなかったのが裏目に出た。
よろけるようにして膝の上に着地した“きゅう子”の首筋に、直ぐ様結線ケーブルを繋いで映像と音声を吸い出す。
ハンディカメラにデータの転送が終わった所で、“きゅう子”は眠るようにしてLEDの瞳を閉じた。

o川*゚ー゚)o「よく頑張ったね…今日はゆっくりお休み」

動かなくなったその頭をそっと一撫ですると、ベルトポーチの隣にぶら下がった“寝袋”の中にそっと収める。
いよいよこれで、本当に独りぼっちだ。

o川;゚ー゚)o「……」

再び湧きおこってくる恐怖と不安を必死で押さえこみ、両の頬を力強く叩く。
怖がるのも、自己嫌悪をするのも、今は、後回しだ。
   _,
o川*゚д゚)o「ビビってんじゃあないわよ、キュート…あんたがやるんだから…他の誰でもない、あんたが……!」

ハンディカメラの内臓プロジェクタで、立体ホロを立ち上げる。
あらゆる角度から撮影された画像が紙芝居めいて次々と流れ過ぎた後、それから組み立てられた、倉庫内の予測見取り図が浮かび上がった。
私には勿体ないくらいに優秀なAIだ。

625執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:00:34 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「――さて、作戦タイムね」

倉庫の作りは至ってシンプルで、メインとなる大きな箱の後ろに、三つの個室が接続されたような作り。
ドラム缶や木箱が雑然と散らばるだけの、その大きな箱とも呼べるメインガレージの中央に、
一つのずた袋を囲むよう、先の二人の与太者達が椅子を引いて座っているようだった。

貸し倉庫への侵入経路は四つ。
先に与太者達が使った、正面シャッターの脇のアルミドア。
もう三つは建物の裏側、メインガレージへ繋がる三つの個室それぞれについた窓だ。

油断しきっているのか、はたまたこのビズ自体に大した熱意が無いのか、与太者達は倉庫の戸締りに手を抜いている。

それこそが、私の付け入るべき隙だ。

o川;゚ー゚)o「……やってやるわよ」

生唾を飲み込み、立ち上がる。
エア・ボードの板を掴む手に、力を込めた。

626執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:02:01 ID:FzV8uf/k0

#track-11


――回って、回って、回って、回り続ける私の頭、大混乱。
貴方が、貴方が、貴方が、来てから回りっぱなしの私の頭、どうにかしてよ、この混乱。

ヘッドスピン・キルミー。
早く止めてよ、この回転。
ヘッドスピン・キルミー。
静めてよ、この想い。
ヘッドスピン・キルミー。
そう、そうね貴方のその手で殺して。

o川*‐ -)o「……」

両耳を埋め尽くす音の洪水。
絨毯爆撃のようなドラムと、狂気のようなギターサウンド。鳥の悪魔が上げる断末魔のような、女性グロウル。
最大ボリュームで小型ヘッドホンから流れ込んでくる、「ヘッドスピン・キルミー」のサウンドは、矢張り私には少しばかり理解しがたい。

だが今は、この轟音も、心臓の鼓動を誤魔化すにはちょうどいい。

o川*゚ -゚)o「――さて、行きますか」

627執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:02:54 ID:FzV8uf/k0
精神集中を終えた後のサムライめかして両目を開けると、私は窓の下にしゃがみ込み、短距離走者のように、クラウチングポーズを取る。

最後に一度、深呼吸。

“ヘッドスピン・キルミー 止めてよ、この鼓動”

サビの歌い出しと同時、私はバネに弾かれるピンボールのようにしてスタートダッシュを切る。

瞬間、閑散とした倉庫街に、大音量のヘビーメタルサウンドが響き渡った。

「うおっ!な、なんだ何だ!?」

僅かに開いた窓の隙間から、倉庫内の与太者達が泡を食ったような声が微かに聞えて来る。
背中にそれを聴きながら、私は倉庫の壁に沿ってスプリントすると、隣の窓の下で急ブレーキをかけた。

o川;゚ー゚)o「間にあって――!」

仕掛けは至って単純、小学生でも思いつく。
窓と、窓のサッシの間に、携帯音楽プレイヤーを挟み、小型ヘッドホンを接続して大音量で音楽を流す。
小型ヘッドホンをしたままの私が走りだした事で、配線が引っ張られて携帯音楽プレイヤーから抜ける。
スプリントを切りつつ、突然流れ出したメタルサウンドで室内の与太者達を陽動して、隣の個室の窓から中に侵入。

あとはそのままメインガレージへと抜け、中の子供を救出。
シャッター脇のドアから飛び出し、予め入口の前に待機浮遊させたエア・ボードで、夜の街へととんずら。

単純故に、一つのミスも許されないプランだった。

628執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:04:17 ID:FzV8uf/k0
「くそったれが!何なんだよこの喧しいのはよぉ!」

「チンドン屋でも来てるってえのかあ?ああ!?」

隣の個室で、壁を蹴飛ばす音が聞こえる。
シュールさんとフォックスさんが神曲と崇めた例の曲は、散々な言われようだ。

窓枠を飛び越えた私は、段ボールがうずたかく積まれた個室の中をコンマ二秒で横断し、ドアを開ける。
メインガレージの中央。
パイプ椅子から腰を浮かし掛けた、サイバネ義眼のパンクスと目があった。

(*く*#)「なんだてめっ――」

灰色に濁ったその瞳から直ぐに目を逸らし、彼の足元に転がるずた袋を見る。
大きさは米袋程。眠らされているのか、ぐったりとしてピクリとも動かない。
乙女の細腕で、これを抱えて逃げなければならない。
相当に、骨の折れる仕事だ。

o川#゚口゚)o「わあああああ!」

我武者羅に叫び、サイバネ義眼の男へと走り出す。
突然の事に、男の反応が遅れる。

チャンス。

だるだるに伸びたニット帽を脱いで、男の頭にすっぽりとかぶせ、首まで引き降ろした。

629執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:05:12 ID:FzV8uf/k0
( く #)「ンガッ!?ガガッ!?ウゴッ!?」

一瞬にして視界を奪われた男が、両腕を滅茶苦茶に振り回す。
サイバネ義眼を相手に、こんなのは一瞬の時間稼ぎにしかならない。

だが、その一瞬が重要なのだ。それこそが、生死を分ける。
その為なら、お気に入りのニット帽も涙を飲んでくれてやる。

「おい、なんだ!?何があった!?」

個室の奥から、もう一人のパンクスの声。
時間が無い。
米俵程もあるずた袋を、渾身の力で抱えあげ、再び走り出す。

シャッター脇のドアまで、目測九メートル。
歩数にして、約八歩。
抱えたずた袋が重い。
重いが、構っていられない。

(*く*#)「こぉおのクソアマァッ!舐めやがってぇえ!」

サイバネ義眼の男が、転がっていた鉄パイプを拾い上げ、後ろに迫る。

(,#゚J゚)「おい、てめえ!何してんだこコラァ!」

個室から飛び出してきたもう一人が、右のサイバネ義手から突出式ブレードの刃を生やす。

o川#゚口゚)o「私だって!私だってええええええ!」

ドアまで、残り一歩。
迫る足音。背後で震える空気。ノブに手を伸ばす。今、掴んだ。捻ろ。

630執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:06:30 ID:FzV8uf/k0
(゚Ё゚ )「何だか知らんが、とっ捕まえてバラしゃあいいんだな?」

筋肉と鉄板装甲で覆われた太腕が、伸びて来る。
サイバネ義腕に掛れば、私の身体など、プラスチックの玩具にも等しい。
殺される。抵抗も出来ずに、殺される。

(゚Ё゚ )「へへへっ、しみったれた仕事だと思ってたが、こいつぁ願ってもねえアクシデントだぜ」

o川;゚ロ゚)o「イヤ…イヤ……」

(゚Ё゚ )「どうせなら、バラすまえに一発お楽しみ、ってのもいいかもなあ?」

錆の浮いた鉄板装甲の中で、パンクスの濁った瞳が下卑た色を浮かべる。

(゚Ё゚ )「よぉし、子猫ちゃん。大人しくしててくれよぉ…手元が狂っちまうからなあ…!」

o川;゚д゚)o「イ、イヤ……」

涙が、ジワリと滲む。
結局、何も出来ないのか。
矜持も無い、正義も無い、下卑た暴力によって、私は殺されるというのか。
蹂躙され、凌辱され、使い捨てのセクサロイドのように、路上に放り捨てられるというのか。

o川; д )o「うっ――うぅ――」

ふざけるな。
そんな、馬鹿げた最期など、あってたまるか。

631執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:07:13 ID:FzV8uf/k0
o川#゚口゚)o「うわあああああ!」

背中に手を伸ばし、バックの中の“それ”を掴む。

ふざけるな。
このまま抵抗もせず、されるがままに殺されてやるほど、安い命じゃない。

o川#゚д゚)o「あんたら何かに!殺されてたまるかあああああ!」

バックから引き抜いた“それ”を巨漢に付きつけ、私はそのスイッチを押す。
瞬間、眩いばかりの閃光が迸った。

(゚Ё゚; )「ぬぉっ――!?」

狙ってやった事では無かった。
破れかぶれだった。やけっぱちだった。
それでも、こんな所で何もしないで殺されるなんてまっぴらだった。
その気持ちが、天にでも通じたのだろうか。

経年劣化で、内部の回路がおかしくなっていたのだろう。
二十年もの歳月を玩具店のショーウィンドウの中で過ごした「とらぺぞ☆ヘドロ」のステッキは、
突如として入れらたスイッチに驚き、通常の何十倍という光を、まさしくアニメ内のそれのようにして、放った。

(゚Ё゚; )「くそっ!なんだこの光は!」

スタングレネードの爆発が如き閃光に目を覆う巨漢の手から、ピクシーⅡの桜色のボディが滑り落ちる。
即座にそれを拾ってスイッチを入れると、巨漢がたじろいで出来たドアの隙間に、私は滑りこんだ。
本能というか、予感のようなものがあったため、発光の瞬間に目を閉じている事が出来たのが幸いだった。

632執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:08:00 ID:FzV8uf/k0
o川;゚ー゚)o「はあ…!はあ…!私だって…!私だって…!」

ガレージを脱し、ずた袋を抱えたまま、エア・ボードを目線の先に放って浮かべ、それに飛び乗る。
許容重量を僅かに逸脱した事で、桜色の板ががくがくと揺れるが、構ってなどいられない。
フットペダルを蹴飛ばしギアを最大まで上げると、夜の帳の下りた倉庫街へと飛び出した。

「クッソがああ!待てやこらああああ!」

「ざっけんな!ぶっ殺してやる!ぜってえぶっ殺してやる!」

虚しく響く怒声を背後に、エア・ボードはどんどん加速して行く。
秋の日は短い。午後六時を前にして、既に港湾部は闇の中。
このまま適当に街中を駆けまわり、頃合いを見てどこかに身を隠せば、パンクス達をまくのは難しいことではない。

o川;゚ー゚)o「やった…私、やったんだ……」

掌に滲んでいた汗が、じわりと引いて行く。
アドレナリンで白熱していた頭が、徐々に冷めて行く。
換わりに、腹の底から、言いようも無い達成感とも喜びともつかぬ、激しい感情がせり上がってきた。

o川*;ー;)o「やってやったんだ…私…!」

溢れ出たのは、涙だった。
夜のしじまに、視界がぼやけるが、気にはならなかった。
身体全体がじわりと痺れるような感覚も、今は、許容出来た。

633執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:09:10 ID:FzV8uf/k0
だから、ヘッドライトの明かりが突如として闇を切り裂いた瞬間、私は反応できなかった。

o川*;д;)o「っ――!?」

上体が仰け反る。バランスが崩れる。ぐらり、とエア・ボードが傾ぐ。
成す術も無く、私の身体がアスファルトを転がる。
パアーン、という強烈なクラクションの音。
ぎゃりぎゃりという、タイヤの摩擦音。
地を這う私の目の前で、横腹を見せて小型装甲バンが止まった。

「いたぞ、こいつだ!」

バンのドアがスライドし、堰を切るようにしてアロハシャツの集団が降りて来る。
手に手に、ジャックナイフや特殊警棒、サブマシンガンを握った彼らは、私を取り囲むとそれぞれの手の得物を足元の私に向けた。

「乳臭えガキの分際で、俺らを舐め腐りやがって……」

「こんなアマ一人に舐められるたあ、アイツらもヤキが回ったかねえ」

o川*;д;)o「そん――な――」

この短時間で、仲間を呼ばれたと言うのか。
そんな事が、あのようなゴロツキ達に出来ると言うのか。
あんな、油断しきって倉庫の戸締りにも手を抜く様なゴロツキ達に――。

――いや、違う。油断しきっていたのは、私だ。
あんなゴロツキ達など、とタカを括っていたから、こうして彼らが本気になった瞬間、足元をすくわれたのだ。

最後の最後で、私は自分に負けたのだ。

634執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:10:00 ID:FzV8uf/k0
「こりゃあよぉ、ちぃっと俺らのメンツ的にも…なあ?」

「ヤキ入れだけじゃ、済ませれねえわなあ…?」

「へへへへ…嬢ちゃん、おめえもさあ、分かってんだろ?お?」

「へっへっへっへっへっへ……」

o川*;д;)o「あっ――あっ――」

下卑た笑いが伝播して、包囲の輪が一歩狭まる。
魔法のステッキのスイッチを入れてみるが、反応は無い。
エア・ボードから転がった時に挫いたのか、足がずきずきと痛む。
包囲網を形成する人数は、全部で八人。
どう足掻いた所で、私一人すら逃げられるようなものではない。
痛みよりも、それよりも、恐怖で足が動かない事には、どうしようもない。

o川*;д;)o「ぅぅああ……」

「おいおい、泣いちゃったよぉこの子!カーワイイー!ヒュー!」

「誰に泣かされちゃったんでちゅかー?お兄さんに教えてごらーん?」

「ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

怖い。情けない。こんなのって、ない。
必死に虚勢を張って、無い知恵を振り絞ってここまでやってみたが、最後の最後で私はどうしようもないくらいに無力だ。
ペンは銃より強し?笑わせる。ペンが銃よりも強いのは、あくまでも弾丸が届かない範囲での話だ。
こうやって、安全地帯から引きずり出されれば、小さくなって震えることしかできない。
そう、そうだ。最後は何時だって、暴力が全てを終わらせるんだ。

635執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:10:48 ID:FzV8uf/k0
「さあて、それじゃあ順番決めっかあ。俺が最初で良いよな?」

「ああ?何言ってんだテメエ。こないだ俺に負けた10万、まだ払ってねえだろうが。
 見逃してやるからここは俺に譲れよ」

「ヘイ。ヘイヘイヘイ、ちょっと待ちな。この中で誰が一番年長だと思っている?
 てめえら、年功序列って言葉を知らないのか?」

「知るかよ。何時まで経ってもパシられてるだけのクズなだけだろうが」

「おうおうおう、醜くも争っちゃってまあまあまあ。こういうのは早い者勝ちだろうが」

言い争うパンクス。その環から外れた一人の手が、私の方へと伸びて来る。

o川*;д;)o「ヤッ……!」

身を捩って避けようとするが、後ろ髪を掴まれ、そのまま引きずり倒される。

「ヘヘヘ、そいじゃあお先に〜」

無遠慮な指先が、チューブトップの裾に掛る。
生理的な嫌悪感に、吐き気がこみあげて来る。
服が捲りあげられる。夜風が素肌に触れる。
男の指先が、下着のホックに伸びる。

私は目を閉じ、思考を止めた。
ただ、ただ、それが終わる瞬間だけを待った。

その時、風が、夜を切り裂いた。

636執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:11:46 ID:FzV8uf/k0
「――ぎゃあああああああ!?」

つんざくような男の絶叫。
私は目を開ける。

从 ∀从「――」

目の前を、黒と銀の風が駆け抜けた。

「い、いきなりなんだコイツァ!?」

「クソっ!クソッ!クソッ!死ね!死ね!死ねえ!」

「うおおおおお!?」

混乱するゴロツキ達。
倉庫街に響き渡る虚しい銃声。
それら全てを、侮蔑し、嘲笑うよう、大鎌を握った黒銀の影が、ゴロツキ達の間を舞う。

「あ、相手はたった一人だ!囲め!囲め!」

「畜生!畜生ぉぉお!」

夜闇を照らす、マズルフラッシュ。
怒号と、それをかき消す連射音。
靡く銀の髪、駆け抜ける黒い影、ひるがえる大鎌の刃。
それは、まさに一瞬の事だった。

637執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:12:39 ID:FzV8uf/k0
「がっ――あぁ――」

「う――そ――だろ――」

私が気付いた時には、ゴロツキ達はその全員が身体中から血を流して倒れ伏しており、辺りには静寂だけが残っていた。

o川;゚д゚)o「……」

暫く、その光景を呆然と見つめていた私は、初めは何が起こったのか分からなかった。
漸くにして、頭が思考能力を取り戻すと、私は慌てて先の黒い影を探して辺りを見渡した。
そして、見つけた。

o川;゚ー゚)o「あれは――」

遥か遠く、日本海を望む物資搬入用クレーンの上。
暗黒の海と、雲の切れ間から覗く三日月を背負って立つ、二つの影。

(  ') 从从 ゚)

もっとよく見ようと目を凝らした所で、月明かりを雲が遮る。
再び闇に塗り込められた視界では、確かめようも無い。

o川* - )o「ど――」

思わず呟きかけたその時、足元のずた袋が動く気配がした。

638執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:13:29 ID:FzV8uf/k0
「う、うーん……」

幼さのある声に、はっとして周囲を見渡す。
血の池地獄と化したこの光景は、彼女には刺激が強すぎるだろう。

o川*゚ー゚)o「ひとまず、何処かに移動しないと……」

乱れた衣服を整え、ずた袋にくるまれたままの少女を抱き上げる。
ここまで来る途中は気付かなかったが、その重さは矢張り私一人が持ち上げるには中々にしんどいものだった。
それはそのまま、人一人の命の重みのように思えた。

o川*゚ー゚)o「……有難う」

束の間、私はその感触を確かめるよう、ずた袋越しに彼女を抱きしめる。
十月の夜の肌寒い空気の中で、その体温は確かに私を温めてくれた。

639執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:14:24 ID:FzV8uf/k0

Epilogue


――目を覚ました少女を家まで送り届けてから、自分のマンションまで戻ってくると、時計の針は既に深夜を回っていた。
結局、最後の最後であんな大イベントがあったせいで、逆に疲れる休日となってしまった。

o川*゚ー゚)o「……ふぅ。ていうか、やっぱ最近の小学生って頭いいのね」

自分が誘拐されかけた、なんて事実をそのまま伝えるのはあまり宜しくないと思い、
適当な嘘で誤魔化そうと思ったが、これがこれで中々骨が折れた。
何とか、公園のベンチで眠っていた所を保護した、という事で納得はしてくれたみたいだが、
一歩間違えれば、私が通報されていたかもしれない。
恐るべし、現代っ子。

o川*゚ー゚)o「……ふふっ」

それでも、何だかんだで可愛い所もある。
自分の首から下がっていたチョーカーが無くなっている事に気付いた時の少女の顔と、
私のポケットからそれが出て来た時の顔は、年相応の少女のそれだった。

彼女自身がはっきりとそう言った訳ではないが、恐らくはあの朝一緒に隣を歩いていた少年から貰ったものなのだろう。
チョーカーを握り締めながらお礼を言ってくる少女の笑顔は、ただ、それだけで、
こんな風な休日があっても悪くない、と思わせるだけのものがあった。

640執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:15:15 ID:FzV8uf/k0
o川*´〜`)o「んあー、疲れたー」

……ともあれ、身体の方の疲れはしっかりと残っている。
メールチェックの後、シャワーを浴びて、今日は早々にベッドにダイブしよう。
そう思って、情報端末(ターミナル)のスイッチをつけると、ホロ・ブラウザの隅で手紙のアイコンがぴっこりと点滅していた。

o川*゚ー゚)o「あ、シュールさんからメールだ。珍しいこともあるなー」

今日の事で、何かあったのかな、と思いつつメールを開く。
件名の無いメールには、短いセンテンスと、音楽データが一つ添付されているだけだった。

o川*゚ー゚)o「悪夢の終局、或いは黄金の夜明け……?」

なんだそりゃ。
ウィルスとかじゃないよね?いや、まさか。知り合いにウィルス送りつける人とか、前代未聞だ。

クエスチョンマークを浮かべつつもクリックする。
聴き覚えのある女性ボーカルが、しっとりとした歌声で唄い始めた。

o川*゚ー゚)o「んん……?」

誰だっけ、この声…と思考を巡らせる事、約一分。
サビの前の、しゃくりあげるような独特のアクセントに、それを思い出す。

o川*゚ー゚)o「……もしかして、パペットマスター?」

ヘッドスピン・キルミーでは、野獣のようなグロウルだったせいで、直ぐには分からなかった。
そう言えば、シュールさんとはパペットマスターの話題で盛り上がった(シュールさんだけが)んだっけ。

641執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:16:00 ID:FzV8uf/k0
o川*゚ー゚)o「へえ…でも、こんなしっとりとした曲も歌うんだ。意外」

うねるようなギターサウンドや、機関銃のようなドラムの代わりに聞こえて来るのは、
か細くも優しいピアノの旋律と、女性ボーカルの切なげな声の二つ。

“夢を見ていた。長く、怖い夢を。

目覚めたら貴方が隣に居て、大丈夫だよと、怖くないよと手を握ってくれる。

そんな夜明けを、黄金の夜明けを

夢見て、今日は、眠りにつこう”

メールを最後までスクロールさせると、大量の改行の後、シュールさんのコメントがちょろっと載っていた。

「私のような玄人にとってはギャグみたいな曲だけど、キュンキュンにはこれくらいがちょうどいいと思った次第でござそうろう。ニンニン」

o川*゚ー゚)o「ぴーえす、今度ライブに連れて行ってあげよう。そこで、本物のメタルがどういったものかを教えてやる。ファッキューガバメンツ……はぁ」

それは是非とも止めて欲しい、と返事を打ちそうになって、ホログラフ・キーボードを叩く指を止める。
少し考えてから、「楽しみにしてます」とだけ書いて、送信した。
ブラウザの中で、デフォルメされた山羊さんがポストに向かって走って行く様を見ながら、ベッドの上にどっかと倒れ込む。
瞼を閉じると、私はさっき聴いたばかりのサビを口の中で繰り返した。

642執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:17:16 ID:FzV8uf/k0
o川*- -)o「“そんな夜明けを、黄金の夜明けを、夢見て、今日は眠りにつこう”――」

シュールさんはギャグと言ったけれど、こういう曲もあってもいいもと思う。
そんな事をぼんやりと考えているうちに、眠気がやってきた。

“そんな夜明けを

黄金の夜明けを

そんな夜明けを

黄金の夜明けを”

立ちあげっぱなしのターミナルから流れる曲の最期を聴きながら、私は眠りについた。

643執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:18:22 ID:FzV8uf/k0
 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女

           =Яeboot=
 

         「10月はため息の国」

 
          /// the end ///

644名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 12:22:02 ID:Wurda7Iw0
来てた!
乙!乙!

645名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 12:22:34 ID:FDqb./EQ0


646執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 12:43:37 ID:FzV8uf/k0
■親愛なる読者のみなさんへ■夏祭り■オジギ■

以上で、今回のエピソードはおわりとなります。

今回のエピソードは、サマーソニックなんとかで、皆さんから募集したプロットの中からアイデアを頂き、執筆担当者がスシを摘まみながら書きあげたエピソードとなります。

それについて、執筆担当者と構成担当者からコメントを預かってきていますので、アフタージフェスティボとしてここに決断的に掲載する。

「ドーモ。先ずは、皆さん、今回のマツリに関して沢山のプロットの応募、大変有難うございました。
 魅力的なプロットの数々の中から、どれか一つを選び取るのは実にハードだった。今回はキュートの休日、というテーマの下、一つ書かせて頂く事になったわけだが、いかがだっただろうか?
 このエピソードは、実際キュートの休日を謳ってはいるが、複数のプロットの集合体めいたストラクチュアでもある。
 今までその内面を描かれてこなかったキュートというキャラクターの一人称で書きだす、という試みは、
 始めは困難を極めるかと思われたが、書いてみると実にしっくりと来た。
 尚、今回のエピソードはЯebootと言う事で、無印の一連のエピソード群よりも、時系列を後にするエピソードの一つとなっている。
 これから無印が完結する間は、このようにЯebootと無印のエピソードを交互に投稿する事となるが、
 基本的にЯebootのエピソード掲載順は、無印が完結するまでは時系列が前後するような事もあるだろう。
 何故ならクールでパンクだからだ。わかるね?
 兎に角、皆さんが楽しんでくれれば、と言う事を我々は常に祈っています。そしてまた、執筆チームも楽しむ事を我々は忘れない。それがDIYの一側面だからだ。
 それではまた、次回の投稿でお会いしましょう。オタッシャデー!」

いじょうです。

次回の投稿はわからないが二週間後とかをよていしています。

次はまた一転、無印のエピソードとなるでしょう。マッチャを啜っておまちください。

改めまして、沢山のごおうぼありがとうございました。

647名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 12:46:54 ID:r.I51NoM0

ニダーはしぃのパシリか?
キューちゃんもニダーもかわいいな

648名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 15:43:46 ID:DGDNg8vA0
ドクオがハードボイルドすぐる乙

649執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/01(月) 17:37:35 ID:r6qJPzkoO
(親愛なる読者のみなさんへ;巡回作業の最中で、我々は今回のエピソードにおいて重大なレス番号の抜け落ちを確認しました。これは数時間後に修正される予定です。
なお、担当責任者は今回の事を重く受け止め、自らオハギ断ちをすることを決定しました。わたしは彼女の判断を支持したい)

650名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 18:10:53 ID:YkMrKW6E0

面白かった!続き待ってる

651名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 18:39:19 ID:XnBWD5dY0

きゅーちや

652執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/02(火) 01:18:24 ID:m8Bg0Vls0
■修正箇所とは■ミッシングリンク■

>>629>>630の間のレスポンスンーが欠落だ。
次の一レスはその間に本来挟まっているべきレスポンスンーである。

653>>629、コレ、>>630 ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/02(火) 01:19:34 ID:m8Bg0Vls0
「――おいおい、なんだこの騒ぎは」

捻ろ。

o川;゚д゚)o「あっ――」

私がドアノブを捻る前に、外側からドアが開かれた。

(゜Ё゜ )「暇だったから様子を見に来てみりゃあ……。
      これまた可愛らしいお客さんが来てたもんだ」

目の前に、動力パイプを頭に這わせた例のパンクスが立っていた。

(,#゚J゚)「そいつを捕まえろ!そのアマ、俺達の商品をギるつもりだ!」

(*く*#)「いいやぶっ殺せ!このクソアマ、俺をコケにしやがって!」

背後で、パンクス達が叫ぶ。

(゚Ё゚ )「んん〜?」

目の前の巨漢が、嗜虐的な目で見降ろしてくる。

o川;゚ロ゚)o「あ…あ…あ……」

動力パイプのパンクスの手には、桜色のエア・ボード。
二メートルにも届くその巨躯が、目の前のドアを塞ぐ。
逃げ道は、無い。

654執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/02(火) 01:20:48 ID:m8Bg0Vls0

■以上です■決断的に訂正■サケ■外して保持■倫理観■

655執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/02(火) 06:11:24 ID:m8Bg0Vls0
■関連書籍■ワッザ■ http://www.amazon.co.jp/%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%81%8B%E3%82%8F%E3%81%84%E3%81%84%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3-1-%E3%82%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9-%CE%B1%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A9/dp/4041203007/ref=tag_stp_s2_edpp_url

656名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 13:01:02 ID:CieLDYRI0
それは「ちょっとかわいい」だけどハインちゃんは「すっごくかわいい」だから大丈夫だと思います!

657名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 00:07:11 ID:Tc7EK3320
アイアンメイデン流行クル――――!?

658名も無きAAのようです:2012/10/14(日) 04:59:11 ID:BJCpBkscO
今来た
作者生きてた!よかった!
また鋼鉄処女が読めるのが心の底から嬉しい

659名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 11:25:30 ID:PDxx3hY60
続きまだー(屮゚Д゚)屮 カモーン

660執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/17(水) 17:26:03 ID:P7PNF8UQO
■お知らせ■闘争■決断的な■

親愛なる読者のみなさんへ

現在我々の執筆アジトでは、NTT代理店との熾烈な光回線戦争の真っ最中にあり、マザーUNIXがインタアーネッツに接続出来ない状態にあります。

我々執筆チームも全力でNTT代理店との抗争にあたっていますが、奴らはのらりくらりと責任問題を受け流すゲリラ戦術のエキスパートであり、これを駆逐しきるにはまだ少し時間が掛かりそうです。

もっかのところインタアーネッツの復旧見通しはいまだたっておらず、いつ頃になったら投稿出来るかさだかでない。読者のみなさんにはもうしばらくご迷惑をお掛けするかもしれませんがお許しください。

だが我々は必ず勝って帰るぞ。なぜならパンクでありレベリオンだからだ。

661名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 17:28:57 ID:HE0QxJ1Q0
要するに支払いが滞ったわけかww

662名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 17:29:07 ID:qjHnZHhg0
待ってる!

663名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 17:39:54 ID:TFKOcRc20
ワロタwwwwがんばwwww

664名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 18:23:51 ID:L61RoCfUO
ニンスレっぽいしゃべり方だな
復活楽しみだぜ

665名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 19:24:00 ID:8RfsNKOY0
がんばれーwww

666名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 19:29:52 ID:jaHB1kJs0
代理店通すと色々めんどくさそうだな
頑張れ

667名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 01:19:52 ID:CgGdvzEI0
回線は復活したかな…?待ってる

668執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/10/30(火) 21:31:39 ID:/hZEfKJIO
■続報■戦闘的行動■おオマミ■しよう■

親愛なる読者のみなさんへ

我々は一週間程前にNTT代理店にスパイエージェントウーを送り込んだところ「一週間から十日程でログイン用IDとパスワードウーが発行されるのではないか」との事だった。

既に一週間は経過しているので、残り四日程の間に何か動きがあるのではないか?と我々執筆チームは睨んでおります。

なお、原稿の方は待ちきれない執筆担当者の手によって書き上がったものがマザーUNIXとUSBメモリー端子の中に保存されている。

インタアーネッツに接続されていない状態だと作業効率がアッパー・イールかと思われたが、このことに関して因果関係は見られないと執筆担当者は言っています。

今回のエピソードは恐らくは中編規模のものとなるでしょう。備えよう。

最後に、最近はハッカー・クランの活動も盛んなので、みなさんも頭にアルミホイルをまくなどしてクラッキングから身を守りましょう。セルフディフェンスメント重点しよう。

669名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 21:56:54 ID:zFAeZAto0
さあこの期間に書き溜め放題だ

670名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 22:11:32 ID:iDCZ84zQ0
備えよう

671名も無きAAのようです:2012/10/30(火) 22:16:05 ID:0SmKHPYo0
期待

672名も無きAAのようです:2012/11/04(日) 19:23:24 ID:lF8RX.4g0

 

 

                【IRON MAIDEN】

 

 
.

673執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:26:30 ID:lF8RX.4g0

 

“Du

du hast

du hast mich

du hast mich gefragt

du hast mich gefragt, und ich hab nichts gesagt“

 

……Du hast/Rammstein

674執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:27:35 ID:lF8RX.4g0

 

 

         从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

           Disc12.禁じられた遊び

 

 
.

675執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:28:33 ID:lF8RX.4g0

Prologue


――走る。走る。走る。
泥水を蹴立てて、潤滑油を撒き散らして、土砂降りの中を、目指す場所すら分からず、ただ、駆ける。

「死なせない…何があっても、貴様だけは死なせない……」

背後で響く、追いたてるような銃声。
アスファルトを抉る、爆炎の咆哮。
腕の中で、小さくなっていく鼓動。

「ハハ…流石に、今回ばかりは…ちょっと無理かもね……」

端から血を流す唇が作った、弱弱しい笑み。
目を閉じ、耳をふさぎ、それら全てから逃げるように、ただ、ただ、走る。

口だけが、意味の無い言葉を紡ぎ続けた。

「貴様は死なせない。絶対に、私が守る」

絶対に。縋るように、もう一度繰り返す。
まるでそれだけしか無いように、我武者羅に繰り返す。

676執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:29:24 ID:lF8RX.4g0
「ねえ、聞いて。――大事なことだ」

腕の中で紡がれようとする言葉。

「本当に、救いようのない人生だったけど――君と一緒に馬鹿どもを嘲笑うのは面白かった」

聞きたくない、別れの言葉。

「命令だよ、01舊ホ紆1ケ鼇011」

従いたくない、最後の命令(コード)。

「君は、生きろ」

轟音と共に、地面が炸裂する。
爆炎に弄られた身が、宙を舞う。
抱きしめた鼓動が、腕から離れる。

厭だ。

厭だ。

――厭だ。

「010l鐚ス畆11キ耆01010唹11rqk兪10」

エメラルドのノイズが、濁流となって全てを飲み込んだ。

677執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:30:40 ID:lF8RX.4g0

Track-α


――左手にべっとりとした湿り気を感じて、慌ててそれにかぶりつく。
口の中にキャラメルの仄かな甘みが広がり、俺は僅かに顔をしかめた。

('A`)「これはちょいとばかし甘過ぎるな」

从 ゚∀从「この空気がか?」

冬の朝のように凍える声が、横合いから掛けられる。
振り返れば、そこに銀髪赤眼、ゴスロリワンピースの相棒が、買い物袋を両手にぶら下げて立っていた。

从 ゚∀从「貴様がよく時間を浪費しているアダルトソフトウェアではよくあるシチュエーションだろう?何が気に食わない?」

何時もの仏頂面で、微粒子レベルの感情もこもらない声音で語りかけて来る彼女の名前はハインリッヒ。
特A級護衛専任ガイノイド、通称を「アイアンメイデン」。
一体でニホン軍の一個小隊にも匹敵する戦闘力を誇り、自己発想許容型AIの搭載により、人間に限りなく近づいた、いわばロボット。

血も涙も無い毒舌少女は、秋も深まってきたと言う事で、何時ものゴシックロリータワンピースの上から、同色のケープを羽織り、
華奢なお御脚には黒のタイツとロングブーツをはいていた。

678執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:32:08 ID:lF8RX.4g0
('A`)「ちげえよ、これだよ、これ」

秋ファッションの彼女に向けて、手の中のそれを突き出して見せる。
茶色い雪だるまのような二段重ねのアイスは、一段目が生チョコレート、二段目がキャラメル味。
お洒落な感じの四角いコーンの縁には、溶けかかった一段目のチョコレートが垂れて来ていた。

('A`)「ハードボルイドな俺には、この甘さはちょっとばかりキツイぜ」

从 ゚∀从「普段からニコチンばかり摂取しているからだ癌細胞。
     煙草を止めてみろ。そうすれば、貴様の灰色の食生活にも一片の色どりが添えられるというものだ」

('A`)「あのさ、それよく聞くけどさ――煙草止めれば、食べ物が美味しくなるってやつ?その通りだと思うよ。全くもってその通り。
    だけどさ、喫煙者にとっては食後の一服、というものもそれに代え難い美味さがあるわけなんですよ」

从 ゚∀从「煙草をやめれば、それにオプションで健康的な肉体、がついてくるが?」

('A`)「健康!ハッ!キミ、誰にモノを言っているのか分かる?このドクオ様に、健康について巧拙たれちゃうの?」

やだー!超うけるんですけどー!健康とか健全とかマジうけるんですけどー!

('A`)「健康なんてクソッ喰らえだね!肺がんで死ぬその日まで、俺は煙草を吸う事を止めない!」

「ぷーくすくすくー」と笑ってやると、ハインリッヒはその白磁の顔に胡乱な表情を浮かべた。

从 ゚∀从「矢張り貴様の脳核にはメモリを増設する必要性があるな。盲腸炎の時の苦しみを忘れたと言うのか?
     床の上をのたうつ生体廃棄物を抱えて、病院まで運んだのは誰だか知っているか?
     肺がんの痛みは、あんなものではないぞ」

679執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:33:28 ID:lF8RX.4g0
ぎくっ。

从 ゚∀从「まあ?貴様が既に自分が肺がんになった事を見越して、私の次の管理者を用意してある、というのならば?
     私としても貴様が何処で野たれ死のうが一向に構わないが。
     入院費、葬式代、全て揃えてくれていれば、肺がんだろうがクラミジアだろうが、好きなように死んでくれ」

(;'A`)「……おい、ちょっとそういう愛の無い事言うのはやめてくれませんか。本気で寂しくなっちゃうだろうが」

从 ゚∀从「どうした?自分が如何に社会的に不要な存在か知ってしまってショックを受けたか?
      心配するな、ドクオ。貴様が居なくても、世界は何時も通り回り続けるぞ。安心して、心おきなく死んでくれ」

(;'A`)「止めて…せめて、“私にはご主人様が居ないと駄目なんでぷー!”ぐらい言って!」

从 ゚∀从「貴様が居なくなったとしても、貴様の生きた証が消える事は無い。私の中の貴様の記憶を、増設メモリに移し替えて闇市に流すのだ。
     そうすれば、貴様は生き続ける事が出来る。――中古ソフトウェアショップの棚の隅でな」

(;>'A`)>「止めろ…止めろ…止めろぉお!ドラック&ドロップで俺を消し去るなぁあ!」

頭を抱えてアイデンティティの崩壊に耐える俺を、鋼鉄の処女は嗜虐的な笑みで見下す。
最近気付いたが、こいつは銃弾飛び交う鉄火場の中でも似たような顔をしている。
戦略的排除目標を撃つのと、俺の硝子のようなまっさらな心を打ち砕くのは、彼女にとって同じように愉悦の対象なのだろうか。

だとしたら、更に俺のアイデンティティがやばい。

680執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:34:34 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……反省したか?」

('A;)「……うん」

从 ゚∀从「これからは健康にも気をつけると約束するか?」

('A;)「……うん」

从 ゚∀从「……ならば良し。飴をくれてやろう」

('A;)「……有難う」

ころころ。

从 ゚∀从「……美味しいか?」

('A;)「……うん。でもちょっと苦いや」

从 ゚∀从「それが人生の味だ」

……俺達は、何でも屋。
気になるあの子への代理告白から、企業機密の強奪まで、報酬次第で何でもやってのける、地域密着型のダ―クヒーロー。
端的に言えば、金の亡者。
人の生のほろ苦さを痛感した俺は、口直しにと手元のダブルアイスを一舐めする。

('A`)「……やっぱり、甘すぎるな」

从 ゚∀从「何だ?この空気がか?貴様がよく時間を浪費しているアダルトソフトウェアではよくあるシチュエーションだろう?何が気に食わない?」

681執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:36:03 ID:lF8RX.4g0
('A`)「おいちょっと会話がルー……」

……プしてんぞ、と言いかけた俺の背後から、慌ただしい足音が近づいてくる。
勤めてそれを無視しようとしたが、残念なことに向こうはそれを許してくれなかった。

「ねえねえどっくーん!どっくんってばー!」

弾けるパッションの黄色い声に、痛み出した頭を押さえつつ振り向く。
家族連れやカップルで賑わう大型ショッピングモールの回廊を、俺に向かって一直線に走ってくると、
彼女は両手にぶら下げた布切れを突き出し、藪から棒に言った。

o川*゚ー゚)o「ねえねえどっくん!どっち!?」

ピンクのキャミソールに、デニム地のジャケットと同じくデニム地のタイトなスカートを穿いたその格好は、
如何にも「休日のショッピングを楽しむ女子大生」と言った所。

浅く被った白と青のしましまのニット帽の下で、桃のような頬を仄かに上気させ、自信満々な顔をしているキュートに、
俺はため息が出るのを禁じ得なかった。

('A`)「いや、どっちってお前――」

目の前に突き出された、ひらひらした布切れから目を逸らす。
右手にはパレオのついた青いビキニ。左手にはピンクとイエローのボーダー柄のセパレート水着。
殊更に深いため息をついてみせたが、彼女は俺の表情もお構いなしに、両手の水着をもう一度突き出した。

o川*゚ー゚)o「どっちが似合うと思う!?」

('A`)「いや、だから君さ――」

o川*>ー<)o「それとも着てみないと分からないとか?やだー!どっくんのえっちー!」

(#'A`)「て、てめえ……」

682執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:37:19 ID:lF8RX.4g0
総天然色ハイテンションできゃいのきゃいのと騒ぐキュートに仄かな殺意を覚えて拳を握る。

从 ゚ー从「……」

隣の相棒は、そんな俺の様子を、督促状を付きつけられた負債者を見下すような表情で観ていた。
なんでこいつ、こういう時だけは楽しそうなの。やっぱり今度、電脳核をいじり直す必要があるよね。

o川*゚ー゚)o「あ、あとねー、ワンピースのやつもあったんだけどねー、
ちょっと似合うかどうか自信無かったから持ってこなかったの。……そっちも見たい?」

(#'A`)「いらんわ!」

o川*゚ぺ)o「えー。じゃあ、こっちのどっちか決めてよー」

(#'A`)「だーかーらー!そういうこと言ってるんじゃないの!」

どうにも調子を崩される。
悔しいが、ハインリッヒの言った通り、こういうのはあまり得意じゃない。

(#'A`)「いいか?今日は、そんなちゃらちゃらした買い物をする為に来たんじゃないの!
    大体水着って何だ!何時着るんだそんなもん!」

o川*゚ぺ)o「えー、向こうに海って無いっけ?」

(#'A`)「ツクバに海なんかあるか!良いから戻して来なさい!」

めっ!と言って怖い顔をすると、キュートはぶうたれながらも、しぶしぶと言った様子で、
人混みの向こう、服屋のテナントの中へと戻って行く。
本当に彼女は、今日の買い物の意味を理解しているのだろうか。甚だ疑問だった。

683執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:38:27 ID:lF8RX.4g0
('A`)「やれやれだ……」

ため息一つ、ベンチに腰掛ける。
祝日ということで、ニューソク駅前の「PINK」は人でごった返している。
同心円状の回廊にずらりと並んだ服屋やレコードショップ、ファストフード店のテナントの間に溢れかえるのは、
幸せそうな顔をしたカップルや家族連れ、流行りのPSYストリート風ファッションに身を包んだ若者たちなど、
凡そ俺のような人間の底辺とは縁遠い存在ばかり。

ショッピングカートを押し、手に手に風船やらブティックの袋などを持った彼らは、遠目から見るだけでも気遅れを感じぜずには居られない。

('A`)「……日陰者には辛い場所だぜ」

( ´ω`)「まったくだお……」

('A`)「ていうかなんでこいつらこんな幸せそうな顔してるの?何なの?毎日がエブリデーなの?」

( ´ω`)「それを言うなら毎日がエブリデーだお」

('A`)「いや、それ変わって無いから」

( ´ω`)「あ、その通りだったお。こいつは失敬」

('A`)「どっ!わっはっはっはっはっは」

( ´ω`)「……」

('A`)「……」

おい。ちょっと待て。

684執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:39:54 ID:lF8RX.4g0
(;^ω^)「って、なんでドクオがこんな所に居るんだお!」

('A`)「それはこっちの台詞だっつーの」

自然な体で俺の独り言に割り込んできたのは、俺以上に日陰の臭いのキツイ塩豚であった。

('A`)「え、お前も外出とかすんの?何時日光を克服したの?目ん玉焼かれたりしてない?」

(;^ω^)「僕は吸血鬼か深海魚かお……」

('A`)「いや、だって……ねえ?」

塩豚改めブーン、事内藤ホライズンの姿を今一度、頭からつま先までなぞる。
何時も着ている黒地のパーカーは洗濯されたのか毛玉一つ見当たらず、下にはおろしたてのワーカーパンツを穿いている。
センスの面から言えば相変わらずだが、全体的に小奇麗に纏まったやつの佇まいは、
情報端末(ターミナル)に四六時中齧りついている社会不適合者のそれからは大分乖離していた。

(;^ω^)「まあ、確かに自分でも出無精で引きこもりである所は否定しないけど……」

('A`)「だろ?何ならジャックインしたまんま現実に戻ってこないまである」

(;^ω^)「……反論したくても出来ないのが悔しい所だお」

('A`)「電脳もほどほどにしとけよ」

(;^ω^)「間違った事は何も言われてないのに、お前に言われると素直に頷けないのが不思議だお……」

685執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:41:24 ID:lF8RX.4g0
('A`)「――で、何でまたお前みたいな社会の落伍者が、こんな人生大好きっ子達の溜まり場に?」

(;^ω^)「いや、まあ、僕自身はどうでもよかったんだお?ただ、その――」

('A`)「?」

言い淀むブーン。
俺がそれに怪訝な顔を返すと、奴の背後にぬっと立つ影があった。

lw´‐ _‐ノv「私だ」

('A`)「あんたか……」

横に広いブーンの身体の影から出て来たシュールさんは、ストライプ柄のキャスケット帽子にモザイク模様のストールとカーディガン、といった出で立ちだ。
かの引きこもりの同類だと言うのに、そこそこのファッションセンスを有していたり、
この塩豚をニューソクくんだりまで連れて来るバイタリティと言い、シュールさんに限らず、
同じオタクでも女の子の方が男子よりも社会性が高いのは何故なのだろうか。
男子は死ぬまで子供だとよく聞くが、もしかしたらそこに真実が隠されているのかもしれない。

('A`)「何でぇ、女連れかよ……チッ」

(;^ω^)「いやいや、別にそういうんじゃないお!ただ、ホント、なんて言うか――」

lw´‐ _‐ノv「ねえダーリン♪次はあたし、オサレな喫茶店でハニードーナッツが食べたいな♪」

('A`)「蜂の巣になってしまえ」

(;^ω^)「いや、だからこれは違うんだって!ただ、服を!僕の服を買いに来ただけだってば!
      ほら、僕って出無精だから!買い出し!買い出しだお!そう!」

686執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:42:34 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「世間一般にはそれをデートと呼ぶんじゃないのか?」

(;^ω^)「ハ、ハインちゃんまで……」

的確な所で会話に混ざってくる冷血の処女。
デートだろうがデートじゃなかろうが、ネタに出来るのならばいじるのが、
高校時代にいじりのドクオと呼ばれた俺のポリシーなので、取り合えずこの場はいじり倒す。慈悲は無い。

从 ゚∀从「貴様は愚息でもいじっていろ」

('A`)「仮にも女の子の格好してる子がそゆ事言っちゃめっ!て教えたでしょ!めっ!」

おい何だこのロボ娘。てっきり俺の味方だと思ったら全方位無差別攻撃かよ。
お前はウォーモンガーか。識別信号を見極めろ。

o川*゚ー゚)o「ぐそく?なになに?どっくん、サムライにジョブチェンジしたの?」

俺の背後から上がった黄色い声に、ブーンの目が剣呑な目を帯びる。
よりによって、最悪のタイミングで最悪の伏兵が戻ってきた。

( ^ω^)「ドクオくん、お兄さんちょっとお話があります」

('A`)「ちょっと待て。俺達は一度、冷静になって話しあうべきだと思う」

(#^ω^)「人の事を散々煽っておいて、自分こそこんな可愛い女の子と!」

('A`)「違うよ、全然違うよ。デートとかじゃないよ」

(#^ω^)「うるさいお!童貞!インポ!知らない間にこんな可愛い子を捕まえて!
       何処のセクサロイド店で売ってるんですか!」

('A`)「おい言葉に気をつけろよドサンピン」

687執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:43:51 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「せくさ…?何?ダイエットサプリメント?」

怒りに任せてセクシャルハラスメントを口にするブーンに、俺の後ろでキュートは首を傾げる。
彼女の愚鈍さに、今は少しばかり救われたようだった。

(;^ω^)「――全く、僕の事を茶化す権利なんて、自分だってないんじゃないかお」

('A`)「いや、だから別にお前が思ってるようなもんじゃないんだって」

援護射撃を求めて振り返れば、キュートは塩豚とシュールさんを見て首を傾げている。

o川*゚ー゚)o「ねえ、どっくん、この人達は?」

そう言えば、俺とハインリッヒ以外にとっては皆が皆、初対面と言う事になるのだろう。
キュートにはブーンとシュールさんを、二人にはキュートの事を手短に紹介する。
その様を横合いから見ていたハインリッヒが、「これが世に言うダブルデートというものだな」とこぼしたので、視線で牽制すると嗜虐的な笑みを返された。何処までも主を見下したガイノイドだ。

o川*゚ー゚)o「どうも、日頃よりどっくんがお世話になっております。
こんな人ですけど、これからも仲良くしてあげて下さいね」

全員の紹介が済んだ所で、キュートが二人にぺこりと頭を下げる。
どうしてこの子はそんないけしゃあしゃあと妙に近しい挨拶をするの?会ってまだひと月と経って無いよね?

( ^ω^)「おっおっ。こちらこそ、こんな童貞を腐らせたような友人ですが、どうか見捨てないでやって下さいお」

('A`)「だーかーらー、そういうんじゃないの。分かる?お二人さん?ビジネス。これ、ビジネスね?ドゥーユーアンダスタン?」

688名も無きAAのようです:2012/11/04(日) 19:44:49 ID:YTDcaU8g0
きたか…!!
  ^‐‐‐^
  ( ゚ д ゚ ) ガタッ
  /   ヾ
_L| / ̄ ̄ ̄/_


689執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:45:01 ID:lF8RX.4g0
いい加減に面倒くさくなってきた俺は、溜息と共に言葉を吐く。

('A`)「俺達が今日ここに来てるのは、お仕事の一環なの。デートとか、そう言った浮ついたものじゃないの」

o川;゚д゚)o「ええ!?デートじゃなかったの!?」

何やらキュートが阿呆みたいに口を開けているが、相手にするのが面倒なのでノータリンはこの際無視する。

( ^ω^)「仕事の一環で、PINKで女の子とショッピングかお?」

('A`)「護衛の仕事で、ちょっと遠出する事になったんだよ。今日は、その準備で入用なものを買い出しにきてるってわけ」

( ^ω^)「遠出?こないだアラブに行って来たと思ったら、今度は何処だお?」

('A`)「ツクバ」

俺の短い返答に、ブーンは僅かに眉を上げた後、その弛んだ頬を気持ち引き締める。

( ^ω^)「――ツクバ、かお」

何やら含みのあるような口調で呟くように反芻すると、ブーンは束の間考えた後に俺の瞳を真正面から覗きこんで言った。

( ^ω^)「僕も、連れて行ってくれないかお?」

('A`)「いや、駄目だろ」

(;^ω^)「って即答かお!」

かと思ったら、売れない芸人みたいな合いの手を入れて来た。
忙しい塩豚だ。

690執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:46:14 ID:lF8RX.4g0
(;^ω^)「キュートちゃんもついて行くんだったら、僕も助手とか言って付いて行っても問題ないんじゃないかお?」

('A`)「お前みたいな脂ぎった顔の仔豚が助手じゃ俺も箔がつかないだろうが」

(#^ω^)「てめえ、言うに事欠いて……」

('A`)「それに、これはクライアントの指定でもあるんだ」

怒りに豚面を赤く染めたブーンが、「はえ?」と間抜けな顔をする。
どういう事なのかと説明を求める台詞が出る前に、俺は先回りで口を開いた。

('A`)「電脳上で依頼を受けた時からの指定なんだ。俺とハインと、それからキュート。この三人に、仕事を頼みたいって、名指しでな」

(;^ω^)「いや、ドクオとハインちゃんは分かるとしても……キュートちゃんを名指しで?」

o川*゚ー゚)o「いえーす、あいあむっ」

塩豚の訝しげな視線を受けて、全力馬鹿がむんっと得意気に大きめの胸を張る。
頭からっぽのこいつは何も疑問に思って無いようだが、ブーンが抱いているであろう疑問は、恐らくは俺も抱いているものと同じものだ。

(;^ω^)「一応聞くけど、キュートちゃんってあのしみったれた何でも屋の社員だっけ?」

('A`)「んなわけあるか。ていうかしみったれた、は余計だろうが」

(;^ω^)「じゃあ、なんでドクオとセットで名指しされるんだお?」

691執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:47:40 ID:lF8RX.4g0
('A`)「……それは、俺も知らん」

仕事の依頼は、一通のメールによるものだった。
ある朝、事務所据え置きの情報端末(ターミナル)に届いたそのメールには、
護衛を頼みたい事、ツクバでの仕事になること、高すぎず低すぎない報酬のこと、
そして俺達三人を指定する旨の事だけが、至って簡素に綴られていた。

他には、何も無い。

“タナカ”を名乗る依頼人は、具体的な依頼内容も、どうして俺達を指名したのかの理由を記すような事も、何もしていなかった。

(;^ω^)「はあ?何だお、その胡散臭さの塊みたいな依頼は」

俺の説明を聞き終えたブーンは、開口一番に奇声を上げると、信じられないモノをみるような目で俺を見る。

(;^ω^)「いや、どう考えてもそれ、碌な依頼じゃないお」

ブーンの目は、「むしろそれは“依頼”じゃない可能性の方が高い」と言いたそうだった。

('A`)「勿論、俺だってそれくらい見りゃわかるさ。百歩譲った所で、これが罠である可能性は否定しきれない」

(;^ω^)「八割方罠みたいなもんだお!なんでそんな依頼――」

('A`)「――だが、逆に罠だとしたら、あまりにも稚拙な罠だ」

(;^ω^)「おっ……」

692執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:49:09 ID:lF8RX.4g0
そこが、俺には引っかかっていた。
本当に俺達を陥れようとしている人物が、あんな警戒してくれと言わんばかりの、胡散臭さ丸出しのメールを寄越すだろうか。

仮に、この“タナカ”という人物が、俺達三人を呼び出して殺したいとしよう。
それならば、俺とキュートに個別に偽の依頼を送りつけ、集まった所で狙撃手なりなんなりをつかって始末すればいい。
わざわざ、「俺に」、「俺、ハインリッヒ、キュートの三人」を名指しで指名する依頼のメールを送りつけて猜疑心を煽るなど、プロのすることじゃない。

何か、他の意図があるように思えた。

('A`)「……仮に、罠じゃないとして、だ。この“タナカ”ってやつは、何故俺とハインリッヒの他に、キュートを名指ししてきた?」

o川*゚ー゚)o「ほえ?」

自分の名前を呼ばれた事で、キュートがチュッパチョップスを舐めながらこちらを振り返る。
サクランボ味のキャンディーをシマリスのようにして頬張る、この総天然色阿呆娘と俺達は、先日のムズリーマでの一件以前の接点は皆無だ。
単純な推論で行けば、そのムズリーマ行での何かしらが、今回のこの名指しに関わっていると思えるが……。

('A`)「渡辺、なのか……?」

ムズリーマで俺達が出会った事。
ウヒッブ派。その頭目、歯車の王。その彼の最期。

そして、思い出したくも無い、あの再会。

693執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:50:20 ID:lF8RX.4g0
('A`)「……」

(;^ω^)「……ドクオ?」

('A`)「ん?ああ、いや、何でも無い」

( ^ω^)「おぉ?」

o川*゚ー゚)o「……」

……何れにしろ、こちらの動向を知られているという以上、この“タナカ”という人物が厄介な相手である事に変わりは無い。
むしろ、あのメールは何処かの間抜けが俺達を始末する為に送ってきたものだと考える方が、随分と気が楽だ。

('A`)「この“タナカ”が何者なのか、何の目的で俺達を呼び出したいのかは知らない。
   知らないが、先にお前が言った罠よりも、遥かに碌でも無い事が起きるのは確かだろうな」

それでも、そのまま無視してしまうには、あまりにも寝覚めが悪い。
結局の所、確かめられずには居られない。
それが罠だとしても、この依頼を断る事は出来なかった。

……故に、向こうで何が起きてもいいようにとの、準備を整える為の今日のこの買い物行な訳だが。

('A`)「どっかの馬鹿は、やれアイスだ、やれ水着だと随分とはしゃいでらっしゃるご様子だったが」

o川*゚ 3゚)o〜♪「ひゅーひゅー」

俺の湿度満点の視線に、キュートは時代錯誤も甚だしく、空々しい口笛を吹く。
そろそろこのリアクションも古典芸能に分類されても良い頃合いだと思います。

694執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 19:51:54 ID:lF8RX.4g0
o川#゚ー゚)o「ていうかー、どっくんこそ、PINKに来て何を準備するってーの?
      ここショッピングモールだよ?てっぽーとか、ぼーだんべすととか、売ってると思ってるわけ?」

lw´‐ _‐ノv「そーだそーだー!」

何故か水を得た魚のようにして追従するシュールさんと共に、キュートは「言ってやったぜ」みたいな顔をする。
これだから素人は分かっちゃいない。銃と防弾ベストだけが、鉄火場を生き残る全てだと思っていやがる。

('A`)「そんなんだからキミは甘いんだよ。本当の戦場ってやつを知らねえネンネちゃんが、知ったふうな口を聞いて貰っちゃ困るね」

o川#゚ぺ)o「かっちーん。……じゃあ、何買ったのさー」

('A`)「ふんっ、いいだろう。この際だからキミにも、戦場を生き抜くための知恵ってやつを教えてやるよ」

言いながら、俺は足元に置いた買い物袋から“それ”を取り出し、キュートの目の前に突き出す。
ふくれっ面から一転、キュートの顔に訝しげな表情が浮かんだ。

o川*゚ー゚)o「……何それ」

('A`)「見ての通り、テディベアだ」

俺は両手でテディの両脇を握ってその茶色い腕をふにふにと動かす。
動作に合わせて、「こんにちは!僕テディ!」と声音を変える腹話術も披露してやる。
キュートの顔が、苛立ちを孕んでひきつった。

695名も無きAAのようです:2012/11/04(日) 20:15:00 ID:lBlipISw0
執筆チーム!

696執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:16:13 ID:lF8RX.4g0
o川#゚ー゚)o「……で?」

('A`)「“僕、熊のテディ!好物はサフランの蜜と不労所得だよ!”――ん?」

o川#゚ー゚)o「“ん?”じゃないっ!それで、そのテディベアが、戦場を生き抜くのにどう役に立つのか、ちゃんと説明してくれるんだよね?」

('A`)「立たないよ」

o川#゚ー゚)o「は?」

('A`)「役に立たない」

o川#゚ー゚)o「……ごめんね、どっくん、良く聞こえなかった。もう一回言ってみて?」

('A`)「舞い飛ぶ銃弾の中で、こんな綿袋なんかあった所で何の役にも立たないよ」

瞬間、両脇をリボンで括ったキュートの頭が、ぼんっと音を立てて噴火した。

o川#゚д゚)o「人が!下手に出てれば!つけ上がって!あんたはー!」

「むきー!」とかなんとか言いながら、両手を振り回して怒り心頭を表現するキュート。
本当にこういう怒り方する人、初めて見た。漫画とかだと笑えるけど、現実に見ると鳥肌ものだな。無論、悪い意味で。

('A`)「おい馬鹿やめろ。確かにこの子は何の役にも立たないが、それでも抱きしめる事が出来る。
    この子を抱きしめていれば、たとえ鉄火場の中で孤立無援だとしても、心安らかに居られる。それは素晴らしいことだと思わないか?」

o川#`へ´)o「その子を抱いたままミンチになっちゃえばいいんだっ!」

697執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:17:25 ID:lF8RX.4g0
「ふんっだ!」と言ってそっぽを向くキュート嬢に、俺は肩を竦めて苦笑する。
テディを買った理由は他にあるが、こう面白いリアクションを返してくれると矢張りからかってみて正解だった。
今時、この手の戯言にいちいち真面目になって取り合ってくれる女の子は貴重だ。レッドデータアニマルズで保護されるまである。

(;^ω^)「……アホくさ」

俺達のやり取りを見守っていたブーンが、うんざりした顔でぼそりと呟く。
確かに阿呆の極みではあるが、これが俺流コミュニケイションである。つまり俺は阿呆の極み。

('A`)「いやほら、からかい甲斐がある子が居るとつい、ほら」

いぢめじゃないよ?スキンシップだよ?

( ^ω^)「……好きな子に意地悪する小学生かお」

('A`)「は?ふざけた事言ってるとぶん殴るよ?」

両の拳をぽきりぽきりと鳴らす俺に、塩豚はため息交じりに苦笑を洩らす。
その視線が、ぷんすかぷん、とそっぽを向くキュートに注がれた後、再び俺へと戻ってくれば、
そこには何時もよりも少しばかり引き締まった表情がにわかに浮かんでいた。

( ^ω^)「――それにしても、ツクバ、かお」

ポツリ、と一種未練を織り交ぜたような呟きが、俺の足元に落ちる。

矢張り、こいつにとって、ツクバという地名は気になるのだろう。

698執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:18:34 ID:lF8RX.4g0
かつて、「電子の海を泳ぐ街」の件で、俺達が辿りついた構造体。
ツクバ学術研究都市の中枢データバンクと、そこに表れた仮面のアバター、「ジョーカー」。
ツクバ軌道エレベーター跡に、ジョーカーの正体に迫る何かしらがあるのではないか、と奴は思っているのだろう。

( ^ω^)「……うーん、困ったお。あそこはネットが繋がっていないから、ドロイドを同行させるってわけにも――」

ぶつぶつと呟きながら、ブーンは何やら考え込むように腕組みをする。
やがて、何かを思いついたように顔を上げると、尻ポケットに手を突っ込んで桜色の小さな何かを取り出した。

( ^ω^)「これを、僕の代わりに連れて行ってくれお」

掌に乗せられた、桜色のそれは、プラスチック樹脂製の小鳥型ペットロイドのようだ。

('A`)「これは……?」

o川*゚∀゚)o「キャー!カワイイー!」

俺が尋ね返すよりも前に、横合いから覗きこんできたキュートが、弾けるような奇声を上げて、俺の掌の中から小鳥型ペットロイドを奪い去る。

699執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:19:41 ID:lF8RX.4g0
o川*>∀<)o「やだー!何これー!超可愛いんですけどー!きゃー!きゃー!」

(;^ω^)「おっ、おぉ……?」

自らの掌の中で矯めつ眇めつ、指でつついたりしては、かしましい悲鳴を上げるキュートに、ブーンは泡を食ったような顔で俺に視線で助けを求める。
この手のきゃいのきゃいのしたテンションは、矢張りこいつにはキツイのだろうが、俺もこれで完全に慣れたわけでは無い。SOSを出されても困る。

('A`)「おい……」

o川*>д<)o「んもー!何これー!何でこんなに可愛いのー!?なになに!?ブーンさん、何これー!?」

(;^ω^)「ひゅふっ!?」

パッション全開で体当たりするかのように詰め寄ってくるキュートに、ブーンの口から名状し難い声音が漏れる。

lw´‐ _‐ノv「むっ……」

傍らでその様子を見ていたシュールさんが、糸のように細い目を僅かに見開いた。
俺は、心の中で短く十字を切った。

(;^ω^)「え、ええとこれは、その、ペットロイドの形をした、スパイウェアで……」

o川*゚ー゚)o「うん!うん!」

(;^ω^)「その、ハイレゾカメラとか、一定の周波数を拾って録音したり…えっとその……」

口の中で、もごもごと説明になっていない説明をするブーン。
きゃぴきゃぴした女子を前にどもるその姿は、哀れな童貞以外の何物でも無かった。

700執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:20:33 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「電子の王かっこ笑い」

ここぞとばかりに、冷笑を浮かべるハインリッヒ。

lw´‐ _‐ノv「電子の王かっこ暗黒微笑」

その横で、ライスチョコレートを頬張りながら、二人の様子を眺めるシュールさん。
気のせいか、米粒型のチョコレートを噛み砕くその音が、妙に暴力的だった。

(;^ω^)「つまり、その、えっと、その子が録画、録音したモノを、後で僕に見せて欲しいと、そういうことですお……はい」

o川*>∀<)o「じゃあじゃあ!この子は私が持って行って良いんですね!?」

電子の童貞と元気印フリージャーナリストの会話は、驚くほどに噛み合っていない。
良い機会だから、この童貞も少し女の子の恐怖というものに慣れておくべきである。

(;^ω^)「ドクオ!ドクオー!」

心の中で南無阿弥陀仏と唱えてから視線を逸らす。
皆の話しの輪から離れた位置で、こちらを見ていた鋼鉄の処女と目があった。

从 ゚∀从「……賑やかだな」

('A`)「ああ、喧しくてかなわんね」

適当な返事を返して、俺はベンチに再び腰かける。
その横に並ぶように、ハインリッヒもまた、しゃなりと腰を下ろした。
少し離れた場所では、未だにブーンとキュート、シュールさんの三人がきゃいのきゃいのと騒いでいる。
俺達は、その様子をぼんやりと眺めた。

701執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:21:18 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……本当に、随分と賑やかになった」

先の言葉を、ハインリッヒは繰り返す。
何時もの鉄面皮が、今は少しばかり緩んでいるようだった。

从 ゚∀从「五年前、私が貴様に拾われた時は、貴様と私の二人きりだったのにな」

('A`)「いや、あの塩豚も居ただろう」

从 -∀从「……」

俺の指摘に、ハインリッヒは「そうじゃない」とでも言うように、ゆっくりと首を振る。
やんわりと目を閉じたその横顔に、何時から彼女はこんな表情をデコードするようになったのだろうか、と思った。

('A`)「……で、それがどうかしたのか?」

从 ゚ー从「いや…何でもない」

思わせぶりに微笑を浮かべるも束の間、彼女は直ぐに何時もの仏頂面に戻ると話題を切り替えた。

从 ゚∀从「それより、件の依頼だが……」

語尾を濁らせた彼女の横顔は、「本当に引き受けて良かったのか?」と俺に問い掛ける。
何を今更、という表情で俺がそれに答えると、彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

702名も無きAAのようです:2012/11/04(日) 20:22:07 ID:eb4cGbXQ0
>>697
依頼にテディベアと言ったら
宝石とか貴重品とか

703執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:22:30 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「あのような騙す気すらも無い文面である以上、罠も何もあったものではないが……。
     私達を“誘っている”事に関しては間違いないだろう。努々、油断せぬ事だ」

('A`)「へいへい…わぁってるよ。どうせなら、俺に言うよりもあっちの頭パープリンちゃんに言い聞かせてやった方が良くないか?」

向こうで黄色い悲鳴を上げているキュート嬢を顎で示す。
 _,,,_
/::o・ァ「キューチャン!キューチャン!」

o川*>∀<)o「キィィィャアアアア!シャァアベッタアアアアアア!」

(;^ω^)lw´‐ _‐ノv「……」

ハインリッヒはそれに一度視線を動かすと、再び俺の方にその真っ赤な双眸を戻し、その白磁の美貌に憮然とした表情を浮かべた。

从 ゚∀从「……あくまでも、私の役目は貴様の命を守ることだ。彼女の命を守るのは、貴様の領分では?」

つっけんどんにそう言うハインリッヒに、俺は後ろ頭をかく。
何時も冷淡で温度の籠らない声音ではあるのが、このように突き放した物言いをする彼女は少しばかり珍しかった。

('A`)「はは、この自堕落駄目人間に、随分とハードルの高い事を仰る」

从 ゚∀从「ハードルを蹴り倒してでも良いから、貴様はそろそろその“自堕落駄目人間”という己が己に貼り付けたレッテルを克服すべきだ」

('A`)「そろそろ、って言うか何時も言われてるよね?」

自分で言っていて、「いや、それは俺の台詞じゃないでしょ」と異を唱える。
脳内閣僚達の異議あり、という指先が俺を糾弾する幻聴が聞こえたような気がした。

704名も無きAAのようです:2012/11/04(日) 20:23:01 ID:eb4cGbXQ0
>>697
依頼にテディベアと言ったら
宝石とか

705執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:24:55 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「……兎に角、だ。私としては、貴様がキュート女史の護衛を通して彼女と心を通わせ、
     何やかんやのすったもんだがあったのち、最後は恋仲になってくれれば何も言う事は無い」

(;'A`)「はあ?」

从 ゚∀从「恋人でも出来れば、貴様のその救いようのない屑思考も幾分かの改善が見られる、
     と踏んでの私の希望だ。別に恋人が出来るのなら、キュート嬢で無くても問題ない。
     ただ、この場合では彼女が最も手ごろかつ、妥当と判断しての先の発言だ」

('A`)「キミは俺のカーチャンかよ……」

从 ゚∀从「恋は良いぞ。愛する人の為だから、と自分を騙していればどんな嫌な事も我慢できる。
     時たま湧いてくる、何のために自分は生きているのか、という疑問も“愛の為”で全て解決するので思考する必要性も無い。
     貴様のようなペシミストをこじらせた怠惰な人間の底辺には実にうってつけの合法ドラッグだ」

('A`)「今のキミの台詞を中学校のホームルームで言ったとしたら、思春期真っ盛りの少年少女達は100パーセント碌な大人にならないぞ……」

从 ゚∀从「そんな訳で、貴様は彼女と恋に落ちてみるつもりはないか?
そうしてくれれば私も、貴様の保護者としての懸念事項のうち2割ほどが解決するのだが」

('A`)「それでも2割かよ……」

从 ゚∀从「それで、どうなのだ?」

ハインリッヒの妙に鬼気迫る視線の追及に、俺は深々とため息をつく。
塩豚と言い、この鋼鉄の保母と言い、どうしてこうも俺の周りの人間はこうも軽々しく、恋だの愛だのと囃し立てるのだろうか。
男と女が居れば、恋しか無い、というその思考回路は短絡的かつ極端かと。

706執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:26:16 ID:lF8RX.4g0
('A`)「ていうか、さっきから散々っぱら俺と彼女がくっつく事を前提で話を進めているけど、
   キュートの方が俺の事をどう思っているかなんて分からないだろうが」

もしかしたら、あんな風に接してくるけれど、本当は同じ空気も吸いたくないとか思っているかもしれないし。
……ヤバイ、考えただけで嗚咽しそう。

('A`)「向こうの気持ちを無視するのは…その…良くないだろ」

言っていて、自分でも随分と紳士的で欺瞞に満ちた言葉だな、と思った。
咄嗟に口をついて出た一般論ではあるが、それを言葉にする俺の舌は、そんなものを微塵も信じていない。

从 ゚∀从「そんな貴様に朗報だ。人間が人間に好意を抱く要因の一つに、自分に好意的な感情を寄せている人物には自分も好意を抱きやすい、というものがある」

そんな俺の心の内を代弁でもするかのように、ハインリッヒは言葉を連ねて行く。

从 ゚∀从「好感度がマイナスへ傾いていない今なら、貴様がそれとなく好意的な態度を見せていれば、それらしく恋仲に発展できる。
     むしろ、世間で恋だとか言われているものの大半はそうやって進展して行く」

ガイノイドが恋を語る、と言えばそれは世にも奇妙な光景であろう。響き的には、ロマンチックですらある。
だが、ハインリッヒは、あくまでも鋼鉄の処女らしく、冷たく、無慈悲に、外科医の解剖メスのようにして、「恋」という事象を解剖して行く。

707執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:27:24 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「第一が、好意などと言う感情そのものは思い込みで作られる。
      好きになろう、と自身で思いこむ事で無理矢理に好意を生み出すことすら可能だ。
      無論、どうしても受け付けられない相手、というのもいるが、それは例外とする」

('A`)「……」

从 ゚∀从「つまり、生理的に受け付けられない相手でない限り、恋愛感情というものはどのような相手にでも起こり得る。
     彼は私の特別な人だとか、彼女は唯一の愛すべき人だとか、そう言ったものはまやかしに過ぎない」

('A`)「……だから、こんな俺でもチャンスがあると?」

从 ゚∀从「そう言う事だ」

('A`)「酷く遠まわしでネガティブなフォローを有難うよ」

お陰で、ますます恋なんてする気がなくなったがな、と口の中だけで呟く。

从 ゚∀从「大いに恋をしろ、青少年。そして大いに生殖行為に励み、現代の少子化問題に一石を――」

間違った方向に愛を解き始めた鋼鉄の伝道師の詭弁を聞き流しながら、俺は胸ポケットの中の煙草を無意識にまさぐる。
唯一特別な恋などあり得ないのだと、ハインリッヒは語った。
俺も、それについては同意出来る。同意できるが、一方で「それは本当なのか?」と疑問と反抗を唱える自分が居るのも事実だった。

……いや。恐らく、それは疑問では無く、願望でもあるのだろう。
特別な恋が存在して欲しい、という稚気染みた、俺の願望なのだろう。
そんなものは存在しない、と頭では分かっていても、それが存在して欲しいと願う。多分、そう言う事だ。

708執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:28:43 ID:lF8RX.4g0
恋をしろ。
しようと思えば、俺達は誰とだって恋に落ちる事が出来る。
顔が好みだから、だとか、彼は優しいから、だとか、適当な理由と理屈で定義付ければ、恋など容易い。
鋼鉄の処女は言う。だから恋をしろと。

それは、何時もの下にもつかない戯言なのかもしれない。故に、いちいち真に受けて考え込んでいる俺は阿呆の極みなのかもしれない。

だが果たして、「恋」というものは他人から言われて、或いは自分から「しよう」と思ってするものなのだろうか?
それはなんだか、自然では無いような気がする。それは、違うのではないのか、と思う。

('A`)「……」

何れにしろ、恋をしろと言われた所で、俺にそんなつもりは毛頭ない。
そのような、甘ったるい幻想に肩まで浸かれるほど、俺は綺麗に生きて来れていないのだから。

“あなたが愛しているのは、肩書き。私の“恋人”という肩書だけ”

('A`)「――クソったれた野郎だ」

从 ゚∀从「?」

思わず呟いた言葉を、耳ざとく拾ったハインリッヒが、白い鉄面皮にクエスチョンマークを浮かべてこちらを見る。

709執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:29:37 ID:lF8RX.4g0
从 ゚∀从「何だ、藪から棒に自己批判か?くどいぞ。今更貴様自身が主張せずとも、
     貴様がヒトデナシの屑である事は周知の事実だ」

('A`)「全く持ってその通りだぜ」

それに適当な返事を返して、ベンチから立ち上がる。

从 ゚∀从「何処へ行く?」

('A`)「喫煙室だよ。恋とか愛とか、歳甲斐も無く甘ったるい事言ってたら、胸やけがして来ちまった」

从 ゚∀从「おい、先の話をもう忘れたのか?肺がんは盲腸の――」

('A`)「分かってるよ。分かってますとも」

今は、目の前の事を考えるだけで、俺には精一杯だった。

710執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:30:35 ID:lF8RX.4g0

  ※ ※ ※ ※


――明かりの抑えられた執務室の中には、既に先客が居た。

∫ノイ゚ー゚)ン「――あら、お姉さま方、ご機嫌麗しゅう。……随分と、遅れた御到着ですわね」

立体ホログラフの天球儀が放つ淡い燐光の中で、その横顔が獰猛な嘲弄を浮かべる。
プラネタリウムのように薄ら暗い執務室に一歩踏み込めば、もう一人の妹もその後に続いた。

∫ノイ゚ー゚)ン「矢張り、チルドレンのアインとツヴァイともなれば、お忙しいのでしょうね」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」ζ(゚ー゚*ζ

安すぎて構うのも馬鹿らしいノインの挑発を、私達は無言で受け流す。
束の間、九番目の妹は私達を睨みつけるようにすると、

∫ノイ゚⊿゚)ン「――フンッ」

と鼻を鳴らして前へ向き直った。
世界広しと言えど、私達程仲の悪い“姉妹”も居たものではないだろう、と乾いた皮肉が思い浮かんで、直ぐに消えた。

「――揃ったようだな」

重々しくもしわがれた声と共に、天球儀の向こう側で人が動く気配がする。
執務机の上に両肘をつき、虚ろな瞳でこちらを見つめるその人物の言葉に、室内の空気が一度ほど下がったような錯覚を覚えた。

711執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:31:34 ID:lF8RX.4g0
「さあ、私の可愛い子供達、もう少しこっちへ寄っておくれ。ここからでは、お前たちの可愛い顔が良く見えないのだ」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

咳き込むようなその声に、私とデレの二人は、一瞬、顔を見合わせる。

∫ノイ゚⊿゚)ン「――はっ」

その横で、ノインが何のためらいも無く一歩前に踏み出した事で、私達も遅れてそれに倣った。

∫ノイ゚⊿゚)ン「……これで宜しいでしょうか?」

「おぉ…おぉ…可愛い可愛い、私の子供達……」

執務机の向こうの闇から、皺だらけの細い腕が震えながら伸びて来る。
幽鬼のようなその骨と皮だけの手を握り、ノインは私と瓜二つの顔に痛ましそうな表情を浮かべた。

∫ノイ゚⊿゚)ン「おいたわしい事ですわ、お父様……」

「おぉ…おぉ…私の事を気遣ってくれるとは、お前は本当に優しい子だね、ノイン……」

∫ノイ゚⊿゚)ン「いいえ、娘として当然の事ですわ…ああ、代われるのならば、私が代わって差し上げたいのに……」

骨と血管の浮いたその手に頬ずりをする彼女に、私は若干の気遅れのようなものを感じる。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

それは、隣のデレも同じようだった。

712執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:32:52 ID:lF8RX.4g0
∫ノイ-⊿-)ン「嗚呼、さぞかしお辛かろうことでしょうね…心が休まる事も無いのでしょうね……」

∫ノイ゚⊿゚)ン「私も、早く、総統閣下をお連れして、お父様を御安心させて差し上げたいのですが……」

芝居なのか本心なのかも分からない仰々しい口調で、ノインは言う。
横目で私達を睨む彼女の声音は、言外に私達を糾弾していた。

「そう…今日、お前達をここに呼んだのは、その事なのだよ……」

闇の中で、一度咳き込む音がして、その皺の寄った顔が立体ホログラフの光の中に浮かびあがる。

(ヽФωФ)「再びの回収任務、今度はノイン、お前に任せようと思うのだよ……」

ブラウナウバイオニクス社、現会長。
そして、“私達の父親”でもあるロマネスク・オンデンブルグは、サレコウベめいて落ち窪んだ眼窩の中で、その目だけを偏執的に輝かせていた。

∫ノイ゚ー゚)ン「……」

ζ(゚- ゚*ζ「……」

勝ち誇った顔を浮かべるノインとは対照的に、デレの表情は芳しくない。
先日のムズリーマでの失敗からこっち、彼女が苛立っていたのは誰が見ても明らかだった。
それが今、“お父様”の口から直接、「お前は役に立たない」と言われたのだ。
尚且つ、後任を任されたのは、あのノインと来た。チルドレンの中でも、
それなりの腕前を自負していたであろう彼女にとっては、相当に悔しい事だろう。

713執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:34:50 ID:lF8RX.4g0
(ヽФωФ)「……未だ、総統閣下は憎き渡辺の手の中だ。
       加えて、あのCIAのエージェント共も、先日VIP入りを果たしたという報告が上がっている。くれぐれも、油断せぬよう……」

∫ノイ゚ー゚)ン「御心配なさらないでくださいませ…お父様から頂いた、わたくしのこの力があれば、
      ワタナベなど恐るるに足りませんわ。勿論、CIAというのも同様に――」

(ヽФωФ)「その自信が、私には心配なのだよ、ノイン。お前はとても優秀な子だ。
       だからこそ、その自信が仇となるようなことがあれば……」

∫ノイ゚ー゚)ン「勿体ないお言葉、恐悦至極にございます…お父様の期待を裏切らないよう、全身全霊をかけてこの任に当たらせてもらいますわ」

最後の方の言葉を、私達をちらりと見ながら言い終えると、ノインは一礼して執務室を後にする。
その後ろ姿を表情の窺えない目で見送ってから、“お父様”はゆっくりと瞬きをした後、私達を見上げた。

(ヽФωФ)「……それで、お前たちを呼んだ理由だが――ゲホゲホッ!」

そこで言葉を切ると、老人は一度激しく咳き込む。

ζ(゚ー゚;ζ「!」

慌ててデレがそれを気遣ったが、“お父様”はそれを制して、机上のトランキライザーを自らの首筋のジャックに突き立てた。
ガラスシリンダーの中の緑色のアンプルが注入されるに従い、老人の表情から苦悶の波が徐々に引いて行く。

714執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:36:21 ID:lF8RX.4g0
ξ゚⊿゚)ξ「……」

ζ(゚ー゚;ζ「お父様……」

(;ヽФωФ)「――忌々しい事よ。天下のブラウナウバイオニクス社の会長が、このザマだ。これ以上の皮肉もあるまいよ……」

自嘲気味に言って、“お父様”は空になったトランキライザーを床に放る。
数年前、始めに「ヴォルフの尻尾」がアーネンエルベの本土ラボから盗み出された時からこっち、
今まで精強な実業家然としていた佇まいが、まるで嘘だったかのように、私達の“お父様”は老けこんでしまった。

如何なバイオテクノロジーの粋を集めようと、「老い」だけはどうしようもなかったのか。
忌むべきニホンの象徴であるとして、義体化を意地になって拒み続けた彼は、二次大戦直後より生きる御年200歳に迫る化け物だ。
今までは、投薬強化と異常なまでの執念によってだましだましでやってきたのが、
長らく夢見て来た「千年帝国」を目前にして奪い去られたという事実によって、その仮面も剥ぎ取られた形となったのだろう。

ζ(゚ー゚;ζ「……」

哀れには思うが、私は隣のデレのような表情を作る事は出来ない。
それがどうしてなのかは、自分でも分からない。

ξ゚−゚)ξ「……」

――分からないし、考えたくも無かった。

(ヽФωФ)「それで、お前達を呼んだ理由なのだがな……」

とつとつと語られて行く新たな任務の内容を遠耳に聴きながら、私は頭上に輝く立体ホログラフの天球儀を目だけで見る。
紛いモノの星々の海の中で、オービタルコロニーを示す黄色い光点が、弱々しく光っていた。

715執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:40:52 ID:lF8RX.4g0
ξ゚⊿゚)ξ「……」

寿命の近付いたホタルのようなその光を、治ったばかりの左目でじっと見つめながら、
私の思考は太陽が照りつける熱砂の国の、砂の中へと沈んでいく。

ヴォルフの尻尾回収という、“お父様”直々の任務。
初めて肩を並べた自分の姉妹。“髑髏と骨”の介入。そして、血で錆ついた“彼ら”との再会。

燃え盛る格納庫。
狂ったように笑っていた、かつての親友。

……何故、あの子があの場に居たのか、本当の所は分からない。
憶測で言えば、彼女が“髑髏と骨”の構成員であったからなのだろう。
あの日、突然私の前から姿を消したのも、彼女がCIAの尖兵であったから、と考えればつじつまも合う。

六年前のあの日から、一切の連絡が取れない状態だったから、あの日、再び彼女を目にするまで、すっかり忘れていた。いや、忘れようとしていた。

当時の私は、何も告げずに姿を消した彼女に、自分が捨てられたのだ、と思っていた。
それが耐えられなくて、いっそ忘れてしまおうと、意識していた。

今、彼女は再びこの災厄の街、VIPに戻ってきている。
私達の倒すべき敵として。
私がそれに対して、何か出来る事は無い。彼女の相手をするのは、私では無くノインだ。

気にはなる。再び彼女の前に立って、もう一度言葉を交わしたいとも思う。
だが同時に、変わってしまったあの子を前にして、何を言ったらいいのか分からない、という気持ちもある。
結局の所、二回目の回収任務に選ばれなくて、良かったのかもしれない。

そう思うのは、逃げだろうか。

716執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:44:12 ID:lF8RX.4g0
ξ - )ξ「……」

あの時、ツーに向かって振り下ろされた対装甲用ブレードを、私は撃った。
――あの男そのものではなく、“奴が握る大剣の方”を。

私には分からなかった。
私を裏切り、殺そうとまでしたあの男。
かつて訳も分からない私に、ドア越しに鉛玉を叩きこんだあの男を。

どうして、殺せない。

忘れたのか、あの理不尽を。
忘れたのか、あの憎悪を。
理由も分からず、銃を突きつけられ、唐突に殺意を向けられたあの恐怖を。

いいや、忘れることなど出来ようか。
忘れたくても、忘れることなど出来ない。それなのに――。

ζ(゚ー゚*ζ「――お姉さま?」

横合いから掛けられた声に、思考を中断する。
見れば、“お父様”は話しを終えたようで、目線だけで私達に退室を促していた。

ξ゚⊿゚)ξ「――失礼しました」

軽く会釈をして、私達二人は執務室を後にする。
マホガニーのドアを閉めた所で、デレの訝しげな顔が横合いから私の顔を覗いた。

717執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:45:06 ID:lF8RX.4g0
ζ(゚ー゚*ζ「お姉さま、どうなされました?御気分が優れないのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ、そう言うわけでは……」

ζ(゚ー゚*ζ「なんでしたら、今回の任務は私にお任せになって、お姉さまはご療養なさられても……」

気遣わしげな表情を浮かべるデレの、私にそっくりなその顔を横目でちらりと窺う。
そのような建前を言ってまで、前回の失点を取り戻したいのだろうか。そうまでして、“お父様”の点数稼ぎをして、何になるのだろうか。

いや、彼女やノインは“チルドレン”だ。
“お父様”の側に常に仕えている以上、私と違って未来がある。
必死になって点数を稼ぎ、“お父様”に気に入られることこそ、彼女達にとって一番重要なことなのだ。

では、私は。
失敗作の私は。――“お父様”の側に仕えられない私は、何故ここに居る?

ξ ⊿ )ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉さま?」

ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、何でもありません。御心配をおかけしました。ブリーフィングは、移動しながらにしましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「……了解しました」

まだ何か言いたそうな妹の脇を抜け、エレベーターチューブに乗り込む。
脳核回線で受け取ったミッションデータを左目(ホルスの目)の網膜ディスプレイに映しだしながら、私は余計な思考を頭から締めだした。
今は、目の前の事だけに集中しよう。そう、思うことにした。

718執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:46:11 ID:lF8RX.4g0

  ※ ※ ※ ※

――ニューハネダ・エアラインで一時間。ツクバ・ネオポートでリニアに乗り変えて三十分。
先だってのムズリーマ行よろしく、地元のレンタカーショップで格安ジープを借りてから更に三時間。
獣道と山道の区別がつかなくなった道を、二年前の脳核マップアプリだけを頼りに進めば、その禁断の地が見えて来る。
 _,,,_
/::o・ァ「チュクバ!チュクバ!ゴトーチャクー!」

o川*゚д゚)o「うわぁ……」

ピンク色の鳥型ペットロイドの甲高い鳴き声に、屋根の無いジープの後部座席でキュートが立ち上がる。

o川*゚ー゚)o「見て!見て!どっくん!あの樹!すっごいおっきいよ!」

長旅の疲れと、車酔いのダブルパンチで、紙のように真っ白な顔していたのは何処へやら。
俺が座る運転席の頭をガクガクと揺らして、キュートは修学旅行で初めてヤクシマを訪れた中学生のようにはしゃぐ。

立ち枯れた木々と岩々が転がるだけの、荒涼とした山肌を登りつめた先。
幾つ目か忘れた山の頂から見降ろせば、そこには溢れんばかりの樹木に覆われた、旧世代の街並みが広がっていた。

o川*゚ー゚)o「ここが、ツクバ学術研究都市……」

('A`)「“跡”、な」

719執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:47:44 ID:lF8RX.4g0
サバイバル・ベストの胸ポケットからジッポとマルボロを取り出しつつ、キュートの言葉尻を補足する。
万年酸性雨地帯に入る前の最期の一服を堪能した後、運転を再開。
崩れやすい下り坂を、徐行運転でしずしずと下っていく。

たっぷり二十分ばかりをかけて坂を下り終えた辺りで、分水嶺を越えた事を意味する酸性雨が車体を濡らし、
俺達は蔦と木々の根に浸食された廃墟の入り口に辿りついた。

('A`)「相変わらず辛気臭えとこだぜ」

从 ゚∀从「貴様の顔面に比べたら、こちらの方が風情がある分遥かにマシだろう」

('A`)「まあ、ユネスコ様が世界遺産にするって頑張ってるくらいだからな」

从 ゚∀从「最も、貴様の顔面の造形も、奇抜さで行けば、文化遺産くらいにはなりそうではあるが」

('A`)「やかましいわ」

何時も通りな相棒の減らず口に閉口しつつ、俺は対汚染コートのフードを被ると、緑灰の壮大な廃墟群を見渡す。
倒壊しかかったビルやガソリンスタンド、家々や諸々の建築物の骸の上を這うのは、異常繁殖した名も知らぬ植物の深緑。
ツクバ軌道エレベーター倒壊事故により、地下ラボラトリーから流出したのはK-2バクテリアだけでは無かったようだ。

バイオハザードからこっち手つかずの被災地は、事故から半年ほどで今のような緑の王国へと変容を遂げたのは、何らかの薬物による植物のミューテーションによるものだろう。

かつてニホンの頭脳、文明の頂点と謳われた科学の都が、今は緑生い茂る植物の楽園と化しているのは、そこはかとなく皮肉が利いていると言えなくもない。

720執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/11/04(日) 20:49:25 ID:lF8RX.4g0
o川*゚ー゚)o「あ!どっくん見て見て!シカ!シカが居るよ!」

頓狂な声を上げるキュートの指さす先。
突然変異によって酸性雨耐性を得た蔓草に塗れた民家の戸口。
彼女の言葉通り、一匹の小鹿が、飛び石の根元に生えた灰茶色の茸に鼻先を押しつけている。

o川*゚ー゚)o「野生種かな?だとしたら初めて見るかもー!」

新しい玩具を見つけた小童よろしく、目をキラキラさせてキュートはハンディカメラのスイッチを入れると、ジープからひらりと飛び降りる。
電脳技術の曙以前より続く怒涛の環境破壊により、純粋なる野生動物の姿を見かける事は珍しい。
それは、かように文明の及ばぬ地域であっても例外では無く、例えそれが在野の動物であったとしても、
大抵が汚染の余波をくって体器官の何処かしらに変異をきたしているものが殆どだ。

ニーソクの空を舞い飛ぶ鴉の殆どは脚が三本だし、ニューソクで問題になっている野良猫なども、
口が耳まで裂けていたり、目玉が七つあったりする。

今、俺達の目の前で茸をつついている小鹿は、そのような電脳時代の野生動物特有の変異が一切見当たらない。
茶色の滑らかな毛皮も、見事なものだ。

('A`)「こんな廃墟で、ペットロイドも居たわけじゃあるまいし……」

廃屋の頭越しには、前にも一度拝んだ、軌道エレベーターの超越的質量が、倒れた世界樹の如く横たわる姿が遠目にも見える。
以前にブーンとここを訪れたルートとは、反対方向のルートからここに来たわけだが、以前は小鹿などは見かけなかった気がする。
それとも俺の見落としだろうか。


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