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異伝スレッド
1
:
カラシュ・セヴェリン
:2016/01/30(土) 02:46:54
やど箱に関する異伝を投稿するスレッドです。
世界観気にしない:)
2
:
名無しさん
:2016/01/30(土) 02:47:28
荒廃した大地。
黒く汚れ枯れた木々の林に、ぬかるんだ地面。無数の底無し沼が視界に広がる。
道など無い。硬い長靴を履いていても、女は注意して歩かなければならなかった。
「……」
彼女は景色を見やる。ここは戦場跡。十数万の死者を出した地獄の跡。
今となっては信じられないが、ここには一月前までレンスベルクという街があったのだ。
戦争による極めて大規模な準備砲撃は、土壌を含むありとあらゆるものを破壊してしまった。戦車ですら通行不能な底無し沼には無数の兵士達が沈んでいる。
「……!」
泥に埋もれた兵士の遺体を踏みつけて、彼女の顔は引きつり、そして物憂げな表情で懐から芥子の花を一輪取り出し、死者に手向けた。
彼女の名はジャスリー・クラルヴェルン。
夢と幻と運命を操る強大なる夢魔の王であり、世界を渡ることのできる力を持つ存在/Planeswalkerである。
彼女は数多の世界を巡り、今ヤーディシアの地を訪れていた。
長い永い時を生きてきた彼女に、旅の目的は既に失われている。使命も責務も、自らのルーツも忘却の彼方。
そんな彼女がこの世界でつい先日まで行っていたものは、従軍看護婦。彼女がこの世界に顕現した翌日にはヴォスメール会議は雲行きが怪しくなり、そして血に餓えた指導者たちは自らの利権と野心を持って世界大戦を勃発させた。
彼女は阿片の守護者であり、無からモルヒネを生み出す魔法の力を有していた。この世界の標準以上の医学的な知識も。だから彼女は孤立し包囲されたレンスベルクの市民たちを、そして立て籠もるカラシュ・セヴェリンの兵士たちを看病し、慰め、安らかなる死を提供した。
彼女は彼らと同じく食糧難に喘ぎ、間断なく降り注ぐ砲弾に恐怖し、毒ガスの放射時にはガスマスクを被り地下で震えていた。
やがて彼女は放棄された戦車を見つけて、その上に腰掛ける。鞄から水筒を取り出して、生温い紅茶を一啜り。女の身で不整地を何時間も歩くのは骨の折れること。
レンスベルクは陥ちた。もはやほとんど残っていなかったカラシュ軍の最後の抵抗を乗り越え、ブランデーの兵士たちが市内に突入し、そして殺戮が始まる。市外に逃げようとした兵士や市民たちは、待ち構えていたルーンラント軍に射殺されていった。
「……また生き残ったのは私だけ」
彼女は周囲の人間の運命を徹底的に歪めてしまう。彼女が足を踏み入れた世界では戦乱が始まり、その周囲には恐怖と絶望が溢れかえる。その絶望を喰らうのが夢魔という魔物。
「さようなら。ヤーディシア。そして親愛なるレンスベルク」
彼女は目を閉じて魔法の呪文を唱え、そして目を開く。死と鉄と泥と毒の世界は、たったそれだけで一面の花畑に姿を変えていた。小鳥が歌う在りし日のレンスベルクの光景。彼女はそれをみてよしとして、次の世界へとプレインズウォークした。
3
:
立憲王政アーカルソン=リペルニア
:2016/02/13(土) 22:11:59
立憲王政アーカルソン=リペルニアの中興の祖、アン5世。
そのパトロンである悪魔アンゼロットは、しかしこの日、合同立憲王政の所領ではないとある場所にいた。
「ルーンラントに帰属が戻ってよかったですね」
アンゼロットの従者である(とミリティー本人は認識している)ミリティーは、押し黙るアンゼロットを心配して話しかける。アンゼロットはそれを聞き、ふむ、というように答える。
「そうですね。ブランデーではアーカルソン国籍のパスポートは通用しませんから」
レンスベルク。わずかな期間に三度所属を変えた街。戦乱の中で砲撃と化学兵器とによって荒廃させられた都。
この世界の住民には、ちょうど我々にとってのパッシェンデールのようなものとして記憶されることになるだろう。
〈ザザ…ザザザ……わたくし、アン5世は、諸勢力の均衡ならびに諸国民の権利および正統性の擁護者として、四重帝国が潰えた今、ヤーディシア大陸の情勢について…〉
ちょうど正午。昼のニュース放送が始まる。アンゼロットの懐にあるラジオはアーカルソン=リペルニア女王アン5世の演説を流しはじめた。
演説の内容は今後の大陸の国際秩序に関するもの。フォロノワ帝国が瓦解し、ただ一人戦争に関与せずに平和を保った合同立憲王政は、戦うことなくしてこの大戦の勝者となった。ゆえに、それを語る責務がある。
この後、アン5世が玉座にある数十年の間、合同立憲王政は大洋の支配者、覇権国家として栄華を極め、大陸は彼女の巧妙な勢力均衡政策により仮初めの平和を保つのだ。
しかし彼女が崩御して後、アトリオン側の王国とヤーディシア大陸側の所領は王位継承法の違いによって分裂し、それによって合同立憲王政は大陸を調停する力を失い、そして四重帝国の瓦礫の中から生まれた新しい国々が再び戦乱へと走っていくことになる。
そういったこの後の合同立憲王政、そしてこの世界の運命というものは、アンゼロットにとってはもう知っていることで、この世界の住民にとっては、もちろんまだ分からないことだ。
今は、この世界の住民は、大戦が終わりついに真の平和が訪れたと祝福していることだろう。
それはさておき(この世界の住民にとってはさておかれては困ることだろうが)、レンスベルク近郊の完全なる荒原を二人は歩く。
「マスター、これ、ですかね」
そこにはもとは戦車だったものが転がっている。その中の一つに、アンゼロットとミリティーは注目した。
「ああ、これですね」
「…彼女は、ここで何を思ったでしょうか」
「さて、私には分かりません。もし分かったとしたら、私は彼女にとって必要のない存在だったでしょう」
「…そういう言い回しはマスターらしいですね」
「月光花」
アンゼロットはそのまま古式ゆかしき魔法を発動する。もしそこに第三者がいれば、真昼にも関わらず、一瞬月が輝いたかのような錯覚を受けただろう。その月の輝きは結実して、一輪の花が現れる。
「…紫露草」
「平安あれ。我らに永遠の安息あれ、そして永遠の光あれ」
「「Requiem æternam dona eis, domine, et lux perpetua luceat eis.」」
「…さ、戻りましょうか」
「はい、マスター」
二人が戻る先は、スタックバラの王宮、ではない。
このゲームは終わった。
彼女たちは、またいつものように次の世界へ向かって旅立つのだ。
4
:
ルーンラント公国植民地領
:2016/05/09(月) 19:57:58
クロヴス王国軍は敗れた。
クロヴス王国軍はルーンラント公国植民地防衛義勇軍が毒ガスで大量殺戮を働いたファタハを奪回するため、ファタハ共和国軍残党と合流し、戦車80輌を含む一個旅団の大軍勢で進撃した。
イーゼンステイン王国軍の特殊部隊も含まれ、植民地義勇軍との会戦で1個師団を粉砕した。イーゼンステイン王国から、王女グリムゲルデまで御出座しになり、大勝利を飾った緒戦だった。敵は皆殺しにした。
泣き叫んで命乞いする畜生共など惨たらしく殺した。
だが、公国正規軍が出てくると途端に旗色は悪くなった。
イーゼンステイン王国軍から供与されたT-26S戦車では、M4中戦車を撃破出来ず、逆にM4中戦車は射程内ならあらゆる距離、角度からT-26を撃破で来た。おまけに対空火器の不足するクロヴス王国軍は空襲に対応できず、一方的に殺戮された。
戦いは結局クロヴス王国軍が惨敗した。
敗残兵はちりじりになって逃げたが、大半は殺された。幸福なものたちが、他国の人々に救われて命を長らえた。
イーゼンステインの王女、戦乙女グリムゲルデも供とはぐれてしまった。
誉れ高き王女は平素な熱帯服を身にまとい、羽根飾りのついた熱帯帽を被り、レイピア一振りを携えて騎乗し、味方を探していた。王女が身に着けるには安物の服であったが、それでも覆い隠せぬほどの高貴な雰囲気をまとっていた。
この高貴な雰囲気の為か、敵中で騎乗していたためか、誉れ高い王女は敵に見つかってしまった。
「そこの騎乗した奴とまれ、誰何?」
王女が声のする方を見ると、不幸なことにルーンラント公国軍の義勇軍6名余りがこちらに銃を向けている。
(正規軍ならよかったけれど。ごろつき共か、運がないわね…)
「イーゼンステイン王国第7王女、グリムゲルデ・ヴァルキューレ・エルディンガ・ヴォルズンガ・アイゼンシュタインである。無礼者、銃口を下ろしなさい」
生れながらの高貴な血筋の王女が言葉を発すると、無意識に彼らは銃を下げた。
「大変失礼を致しました。高貴な王女様。」
義勇兵は跪いて頭を垂れる。
「よい。任務ご苦労である。お前達はルーンラント公国植民地防衛義勇軍ものでああろう。」
「は、はい。左様で…じゃない!敵の大将じゃないか!」
跪いていた義勇兵たちは慌てて立ち上がり、銃をむける
「王女様、あんたは捕虜になるんだ。俺たちの言う事を聞いてもらうぞ」
「報奨金もたんまり頂けそうだな」
「せっかくだ、高貴なお姫様とイッパツやってみたかったんだ。相手してもらおう」
「すごい美人じゃないか!」
義勇兵は怪しからぬことを口にしている。
続く
5
:
ルーンラント公国植民地領
:2016/05/09(月) 19:59:07
(所詮は下賤な連中か…)
「お前達は、スシの国のヘンタイコミックのように私を征服できるとでも思っているのか?」
気高い王女は呆れたように呟く
「当然だ。おれたちは当然○付けおじさんだ。覚悟するんだな」
義勇兵の一人がガチャガチャとズボンを下して王女のもとに近づいてゆく。
(救いようがないな…)
「おい危ないぞ」「フラグだ」「援護しろ」
義勇兵たちは一人の義勇兵に警戒を促す。
「馬を下りな。可愛がってやる」
王女は黙って馬をおりた。そのとき素早く抜刀し、兵士の一物を切り落とした。
「粗末なものを出しっぱなしにするものではないわ」
「!?!?、ギャアー」
「うるさいよ」
悲鳴を上げる義勇兵の首にレイピアを突き刺し、首を半分に切り裂いた。
首を割かれた男の腰からナイフを抜くと、義勇兵たちに向かって投擲、
一人の義勇兵の眉間に深々とナイフは突き刺さり、義勇兵は絶命する。
すぐさま義勇兵たちは王女に向かって発砲するが、首を切り裂かれた義勇兵が盾になり王女を仕留められない。王女が駆け出し、跳躍する。
その距離十数メートル!とても人間の飛べる距離ではない。
王女は義勇兵たちの懐に飛び込んだのだ。
一人の義勇兵の首にレイピアを突き刺し、その銃剣が着剣された銃を奪い取ると、投げやりの要領で放り投げ、もう一人の義勇兵の心臓を刺し貫いてしまう。
王女は一瞬にして5人の義勇兵を屠ってしまった。残された義勇兵は
「ヴァルキューレ」
とつぶやくと、腰に下げた手斧を取り出し、構える
「地獄の魔女め、実在したとは…!」
「多少心得があるのかしら?」
義勇兵と戦乙女は10度剣戟を交えた。この義勇兵はこれまでこの恐ろしい悪魔が屠ってきたどの義勇兵よりも手強かった。だが、戦いの末義勇兵の内腿は切り裂かれ、大量の血を流して膝をついた。
それでも、この義勇兵はかすり傷ではあったが、この地獄の使途に手傷を負わせていた。
「ふぅ…名前を聞いておきましょうか」
「……フランツ」
「そう、フォロノワ系ね…。貴方はヴァルハラの客人に相応しいわ」
「……そうかい」
「ヴァルハラでまた会いましょう。フランツ」
戦乙女はレイピアでフランツという名の義勇兵の心臓を刺し貫いた。
後に、義勇兵の死体が5体、植民地義勇軍によって発見された。
だが発見された死体の中に、フランツのものはなかった。
終り
6
:
ブバスティ首長国
:2016/05/15(日) 01:23:19
「戦争ね」
「うん戦争だね」
ポート・エンジェという街。
猫海を一望できる高台のカフェテラスにて、アトリオン人向けのモーニングセットのトーストを囓りながら少女が言う。
それに応えるのは猫。彼女がこの世界にPlaneswalkして出会った、人語を操る猫。
猫は転移したばかりの彼女を待ち受けており、監視の為の同行を申し出た。高位の夢魔たる彼女はあまりの申し出に面食らったが、その猫が世界の守護者の一柱であることに気が付いて、やむを得ず了承した。
「悪魔の私が言うのもなんだけど」
「うん」
「戦争、止めないの?」
「何故だい? ぼくは世界の守護者であって、人間の守護者ではないんだよ」
「…なるほど、そういうスタンスなのね」
都市崩壊、死傷者多数、カナン王国崩壊は間近というラジオのニュースを聞きながら、しかしその口調は他人事のよう。
この海の対岸では今日もレシプロの鈍重な爆撃機が爆弾を落としているのだろう。
「今日は船の手続きをして、明日海の向こうに行くわよ。この街からならカナンにもいけるでしょう」
少女は紅茶を一啜り。その渋めの味に、何故か旧い知人を思い出した。
「いいけど。営業しにいくのかい? 君のご主人様のように」
「私はジャスリー様と違ってセンチメンタルじゃないし、優しくも無いわ。やりたいことをやるの。私の真実はいつだってその時その場所で決める。ついてきなさい、メンフィス」
7
:
サフラヴィー朝ホーゼルフマーダ)
:2016/05/15(日) 02:54:35
「戦争か」
「戦争ですな」
帝都ガズヴェッッツヤーンに、戦時下の緊張感は無かった。民衆は何一つ変わらない生活を送り、宰相府は居眠りしながら戦闘の報を待ち、皇帝に至ってはその口ぶりはポロの観戦中と言ったようである。
「ときに大宰相、この金塊は?」
「カナン王が送り付けてきたという金印だそうです。曰く『神に平伏す者』と・・・」
「ふーん」
さして興味が無いといったように手元の鑑を眺めた皇帝は、思いついたように短刀を取り出すと、面を丁寧に掘り始めた。
「ほう、これはこれは」
「『神の罰した地』。カナンが落ちたなら、後始末はこの印でも使っておれば足りるだろう。・・・しかし、刃の一掻きでこうも変わる文面を考えるとは、祭祀王とやらはよほど頭が良かっ"た"らしい」
「まことに」
「今日は気分が良い。削り屑が綺麗に纏まっておる。膜鉄に浸せば良い金属片になるだろう」
皇帝の奇怪なコレクションが増えたとき、伝令が勝利の報をもって駆け込んできた。
----------------------------------
ミドラーシュが燃えている。
その禍々しい炎は、帝国議会で「ともあれカナンは滅ぶべきである」と演説をぶち、この戦争の火付け人となった将軍でさえも涙を流すほど、美しかった。
帝国宗教局が「絶対悪の権化」とこき下ろした壮麗な都は、建設からわずか数年で世界から消え去ったのである。
戦争の後始末は、最後の抵抗を見せるゲリラの完全鎮圧を待たずに始まった。
旧ミドラーシュへ海水を運ぶタンク車が行き来する街道の脇にパシャ(将軍)のひときわ大きな天幕が立っている。その主が留守になっている天幕の中では、ひっきりなしに祭祀王の処遇を尋ねてくるヤディック人たちの前で泡を吹く本国官僚たちの姿があった。
翌日、カナン首脳に対する戦争裁判が開催された。
高位のカナン人たちは持てるすべてを失い、身一つで国外へと追放された。
その一方で、祭祀王シモンと宰相アルミシュトラ・カーンには、鋼のごとくメッキされた一片の金属片が下賜された。ヤディック群衆付きである。
復讐の鬼達が”柔過ぎず、鋭すぎない”凶器を手に入れ、父母兄弟の敵を目の前に転がした時、彼らをどのように扱ったかは記録されなかった。
以来、在りし日の両頭を目撃する者は、ついに現れなかった。
8
:
自治北域ヴァルシャウ
:2016/05/15(日) 05:28:51
「カナン王国が陥落しました。これで大陸南方におけるサフラヴィー朝の覇権が確定します」
情勢を報告した外交官が退出した後、会議室に降りる沈黙。
瞑目し、座して黙す4人。4人はヴァルシャウの航路図を描く者。立法、行政、司法の三権を司り、この三権を調整する者。
その中にあって、アミーカ・ヴィシンスキーは冷静さを失わなかった。
「仮に。ヴァルシャウが再び、独立を脅かされることがあっても、私達は耐え忍べばいい。屈辱に塗れても、ヴァルシャウの根を絶やさないことが私達の使命。
そうでしょう? イェジ・グンドラフ主席行政官」
「その通りだが、一度勝ち取った独立を捨てるのか。戦いもせずに」
「そうは言っていない。ヴァルシャウの根を根こそぎ刈られてはいけないということ。私達には、英雄が不在なのだから」
英雄。独立戦争の英雄であるリトヴィノフ・シンウェルの両名を、未だにヴァルシャウは忘れられずにいた。
ヴァルシャウに再び試練が訪れた時、英雄は再び現れるだろう――そんな幻想を、民衆は未だに抱いている。
それでは駄目だというのに。英雄に頼らずとも、民衆の手によって国を護らなければならないというのに。
それは、この場の四人全てが理解していること。
だがそれでも、民衆だけで国を護るにはヴァルシャウという国は弱すぎた。
都市を除いて荒れるに任せた国土、脆弱な防衛体制、未成熟な産業。
どれ一つとっても、ヤーディシアの列強植民地には劣っているのだ。これでは戦いようがない。
だからこそ――今は、英雄の登場を、待っている。
「英雄、か。英雄が顕れないなら、いっそ呼び出すか、あるいは、作り出してはどうだ」
そう語るのはユゼフ・ナストゥラ――英雄の称号は授からずとも英雄を支えた一人。
「どういうこと?」
「別の世界から呼ぶのさ。英雄をな。ヴィヤウィの民は、それでヤーディシアを追われたんだろう? 悪魔――異界人を呼び込んだことで」
「――そうね。けど、それには――」
「数百、数千万人の生贄を捧げなければならない。なら、戦争するしかあるまい」
9
:
ブバスティ首長国
:2016/05/18(水) 20:21:01
ブバスティ首長国。首都トンカ(都市21)。王宮。
砂漠の都市だというのに、王宮は建築工学、熱工学の粋を結集し、大理石でできた廊下はひんやりとして過ごしやすい。
廊下を歩く少女。黙って歩いていれば可憐な女学生の様にも見える。
「猫!」
彼女が叫ぶ。
(にゃーん!)
廊下で涼しげに寝ている猫が鳴く。
「猫猫!」
(にゃーん!)(にゃーん!)
廊下で涼しげに寝ている猫達が鳴く。
「猫猫猫!」
(にゃーん!)(にゃーん!)(にゃーん!)
廊下で涼しげに寝ている猫達が集まってくる。
「ここを天国とするわ」
「随分お手頃な天国だね」
彼女の手に持つバスケットから喋る猫が顔を出し、呆れたように喋る。
「蛇のうごめく王宮より良いでしょう」
「蛇は嫌いなのかい?」
「仮想敵ね。それにしても、良いの? 思いっきり干渉しちゃったけど」
「僕からすればサーバーが落ちなければ、国がいくら滅びてもかまわないのさ」
「サーバー?」
「君より高次元の話さ」
「そう。じゃあ低次元の私は乗りかかった船だし、プライムミニスターのArt全開でこの国にふんぞり返らせて貰うわ。首相閣下とお呼びなさい」
「Art。興味深いね。他にも凄い能力があるのかい?」
「私の残るArtはサモン・ブラックナイトと、コロクロ3。種族能力ではドリームクラフト、イリュージョン、マニピュレート・フェイトね」
「コロクロ3?」
「私が悪魔たる由縁よ」
10
:
ルーンラント公国(ルーンラント公国植民地領
:2016/05/18(水) 21:36:43
ルーンラント公国首都レクスヴェコニア、議会の方では、相変わらず民衆による反議会デモが繰り返されている。民衆の不満は頂点に達しているのだ。だがその一方で王宮の周辺には戦車部隊が展開し、陸軍部隊が王宮を守衛しているので、その周囲は静けさを保っている。
「スリーズル様。御答えをお聞かせ願いたく存じます」
公国軍の将軍は、王宮の尤も豪華な一室で寛ぐ女公の前に跪く。
「私は民主主義が最も望ましいと考えますが…」
女公の顔は、悩ましげだ。
「その民主主義はいまや汚職にまみれ、腐敗し、日々民衆が不満の声をあげています。各地でストライキは続発し、公国の経済は混乱しています。」
「…」
「公国はもはや議会を取り除かなければ、存続は立ち行きません。スリーズル様。いいえ、戦乙女(ヴァルキューレ)シュペルシュロイデリン。貴方の権威を以てこの国を統治して頂くほかに公国が存続する道はありません」
「私に民主主義の破壊者になれというのですね?私にそのような不名誉とその責任を負えというのですね?そしてあなた達軍人は責任を逃れて、議会と政府に代わって権力をほしいままにする…と?」
「……そのような…」
「では、私が親政を行うからには、公国軍隊は権力の座から遠ざけます。今よりも。貴方たちは政治にかかわることはできなくなる。私の僕となって戦いでの名誉の他に得るものは何一つなくなる。宜しいですね?」
「…………………………結構で御座います」
「宜しい。では、あなた達の計画に乗りましょう。クーデタなど、好ましくありませんが…」
「ありがたく存じます。既に政府を動かし、王政サンマルコと植民地の安全保障条約を締結いたしました。あとはリーゼンバウムの不干渉を獲得できれば、クーデタを実行できます。」
「すっかり、仲が悪くなってしまいましたね。あの国とは…」
11
:
リーゼンバウム
:2016/05/20(金) 05:54:39
これはリーゼンバウムの政・軍・財界重鎮が出席する御前会議の一コマである。
リーゼンバウムに君臨する侯爵は自分の居城で開かれている会議である知らせを聞いた。
「ルーンラントで政変の兆し?」
「なんでも軍良識派が公女の勅令をもって議会を制圧するとのことです」
「我が国だとできない芸当だなぁ」
侯爵がそうつぶやくと毒舌で有名な参謀長が発言する。
「しかし隣国の関係が悪化している国に漏れてる時点でもうダメだろ」
「ちがう、彼らから言ってきたのさ 何もしないでくれって」
ルーンラントとつながりのある政府高官が説明すると
「あのゴロツキ門閥貴族の残りカスが消えてくれるのはありがたいが」
「スズメを駆除して害虫が大量発生する可能性もあるしなにか彼らに釘を刺す方法はないものか」
「あるわよ釘」
「「「「えっ?」」」」
会議参加の紅一点であり侯爵の姪であるウルリカ=アーデルハイト リーバウム銀行総裁が発言した。
「糞議員共とその支持母体企業幹部の裏名義人・資産額リストと高級軍人とその裏名義の名簿をわたすのよ
”反乱を暗に支持するが何かしでかした時はただじゃすまない”というメッセージになるわ」
「こないだの銀行法改正で引揚げられたんじゃないのかい?」
侯爵が姪に疑問をぶつけると少しずつ下がってきた眼鏡を掛け直しながら総裁は叔父に応えた。
「あれは囮、本当の目的は裏名義の彼らがばれてないと信じきってる口座を探すことよ」
「顧客情報の流出は感心しないな」
銀行屋ではない参謀長が銀行屋の護るべき規則の違反を暗に質すと
「ちがうわ 隣国犯罪者資産の情報提供よ、次の政権でのね。 後者は顧客情報の確認かしら」
「では,政変を認め、そのしるしにリストの提出でよろしいか」
御前会議の議長である宰相が採決をとると全会一致で可決された。
12
:
ルーンラント公国(ルーンラント公国植民地領
:2016/05/31(火) 19:30:20
大地は焼けただれ、人は焼け溶けている。人だったものが、ふらふらと歩いている。ライフルで撃ち抜かれ、地面に倒れ、そこに転がる死体と見分けがつかなくなる。今のはリーゼンバウム人か、ルーンラント人か、そんなものはわからない。
ケロイドでからだも顔も爛れたルーンラント兵が、狂ったように、リーゼンバウムの少女だったものを犯している。かれは果てる前に死ぬ。
焼けただれ、渇きで水を求めた人々が川に集まり、そこで死んだ。
細菌兵器と危険な毒ガスが用いられ、空気は汚染されている。まだリーゼンバウムにもルーンラントにもABC防護装置が供えられた兵器は無かった。
ヴァルキューレが死んだ大地に立っていた。
「ごきげんよう、シュペルシュロイデリン」
ヴァルキューレの背後から、馬に跨ったヴァルキューレが声をかけた。
「ごきげんよう、ヘルムヴィーゲ」
振り返ったワルキューレは挨拶を返した。美しい髪の女。
「これがあなたの臨んだ戦争?」
穏やかな表情の美女は、毒ガスマスクさえつけていない。
「まさか、この戦争を望んだのはリーゼンバウムの侯爵家。私は彼らの臨むとおりにしただけよ?」
「そう、ヴァルハラに行くべきアインヘリャルはこの戦争にいるかしら?」
立っている女はうなずく
「どのような戦争にも、必ず…」
「そう…では、私は探しに行こうかしら」
「さようなら、ヘルムヴィーゲ、私は女公として、軍隊の指揮を執りにもどります」
「さようならシュペルシュロイデリン、また、御会いしましょう。」
2人のヴァルキューレは、それぞれの方角に去っていった。
あとにはただ、死んだ大地だけが残された。
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