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2
:
名無しさん
:2016/01/30(土) 02:47:28
荒廃した大地。
黒く汚れ枯れた木々の林に、ぬかるんだ地面。無数の底無し沼が視界に広がる。
道など無い。硬い長靴を履いていても、女は注意して歩かなければならなかった。
「……」
彼女は景色を見やる。ここは戦場跡。十数万の死者を出した地獄の跡。
今となっては信じられないが、ここには一月前までレンスベルクという街があったのだ。
戦争による極めて大規模な準備砲撃は、土壌を含むありとあらゆるものを破壊してしまった。戦車ですら通行不能な底無し沼には無数の兵士達が沈んでいる。
「……!」
泥に埋もれた兵士の遺体を踏みつけて、彼女の顔は引きつり、そして物憂げな表情で懐から芥子の花を一輪取り出し、死者に手向けた。
彼女の名はジャスリー・クラルヴェルン。
夢と幻と運命を操る強大なる夢魔の王であり、世界を渡ることのできる力を持つ存在/Planeswalkerである。
彼女は数多の世界を巡り、今ヤーディシアの地を訪れていた。
長い永い時を生きてきた彼女に、旅の目的は既に失われている。使命も責務も、自らのルーツも忘却の彼方。
そんな彼女がこの世界でつい先日まで行っていたものは、従軍看護婦。彼女がこの世界に顕現した翌日にはヴォスメール会議は雲行きが怪しくなり、そして血に餓えた指導者たちは自らの利権と野心を持って世界大戦を勃発させた。
彼女は阿片の守護者であり、無からモルヒネを生み出す魔法の力を有していた。この世界の標準以上の医学的な知識も。だから彼女は孤立し包囲されたレンスベルクの市民たちを、そして立て籠もるカラシュ・セヴェリンの兵士たちを看病し、慰め、安らかなる死を提供した。
彼女は彼らと同じく食糧難に喘ぎ、間断なく降り注ぐ砲弾に恐怖し、毒ガスの放射時にはガスマスクを被り地下で震えていた。
やがて彼女は放棄された戦車を見つけて、その上に腰掛ける。鞄から水筒を取り出して、生温い紅茶を一啜り。女の身で不整地を何時間も歩くのは骨の折れること。
レンスベルクは陥ちた。もはやほとんど残っていなかったカラシュ軍の最後の抵抗を乗り越え、ブランデーの兵士たちが市内に突入し、そして殺戮が始まる。市外に逃げようとした兵士や市民たちは、待ち構えていたルーンラント軍に射殺されていった。
「……また生き残ったのは私だけ」
彼女は周囲の人間の運命を徹底的に歪めてしまう。彼女が足を踏み入れた世界では戦乱が始まり、その周囲には恐怖と絶望が溢れかえる。その絶望を喰らうのが夢魔という魔物。
「さようなら。ヤーディシア。そして親愛なるレンスベルク」
彼女は目を閉じて魔法の呪文を唱え、そして目を開く。死と鉄と泥と毒の世界は、たったそれだけで一面の花畑に姿を変えていた。小鳥が歌う在りし日のレンスベルクの光景。彼女はそれをみてよしとして、次の世界へとプレインズウォークした。
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