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異伝スレッド

7サフラヴィー朝ホーゼルフマーダ):2016/05/15(日) 02:54:35
「戦争か」
「戦争ですな」
帝都ガズヴェッッツヤーンに、戦時下の緊張感は無かった。民衆は何一つ変わらない生活を送り、宰相府は居眠りしながら戦闘の報を待ち、皇帝に至ってはその口ぶりはポロの観戦中と言ったようである。

「ときに大宰相、この金塊は?」
「カナン王が送り付けてきたという金印だそうです。曰く『神に平伏す者』と・・・」
「ふーん」
さして興味が無いといったように手元の鑑を眺めた皇帝は、思いついたように短刀を取り出すと、面を丁寧に掘り始めた。
「ほう、これはこれは」
「『神の罰した地』。カナンが落ちたなら、後始末はこの印でも使っておれば足りるだろう。・・・しかし、刃の一掻きでこうも変わる文面を考えるとは、祭祀王とやらはよほど頭が良かっ"た"らしい」
「まことに」
「今日は気分が良い。削り屑が綺麗に纏まっておる。膜鉄に浸せば良い金属片になるだろう」
皇帝の奇怪なコレクションが増えたとき、伝令が勝利の報をもって駆け込んできた。

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ミドラーシュが燃えている。
その禍々しい炎は、帝国議会で「ともあれカナンは滅ぶべきである」と演説をぶち、この戦争の火付け人となった将軍でさえも涙を流すほど、美しかった。
帝国宗教局が「絶対悪の権化」とこき下ろした壮麗な都は、建設からわずか数年で世界から消え去ったのである。

戦争の後始末は、最後の抵抗を見せるゲリラの完全鎮圧を待たずに始まった。
旧ミドラーシュへ海水を運ぶタンク車が行き来する街道の脇にパシャ(将軍)のひときわ大きな天幕が立っている。その主が留守になっている天幕の中では、ひっきりなしに祭祀王の処遇を尋ねてくるヤディック人たちの前で泡を吹く本国官僚たちの姿があった。

翌日、カナン首脳に対する戦争裁判が開催された。
高位のカナン人たちは持てるすべてを失い、身一つで国外へと追放された。
その一方で、祭祀王シモンと宰相アルミシュトラ・カーンには、鋼のごとくメッキされた一片の金属片が下賜された。ヤディック群衆付きである。
復讐の鬼達が”柔過ぎず、鋭すぎない”凶器を手に入れ、父母兄弟の敵を目の前に転がした時、彼らをどのように扱ったかは記録されなかった。
以来、在りし日の両頭を目撃する者は、ついに現れなかった。


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