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クリフトとアリーナへの想いは Vol.1

1管理人★:2015/04/05(日) 00:08:03 ID:???
クリアリの話題を扱うための待避所です。
ほのぼのから悲恋物まで、あらゆるクリアリの行く末を語り合っていきましょう!
職人さんによるSS投稿、常時募集!

【投稿内容に関するお願い】
・原作や投下された作品など他人の作品を悪く言うのは控えてください。小説版も含めて。
・趣向の合わない作品やレスはスルーしましょう。
・個人のサイトやサークルなどを特定する投稿(画像などへのリンク含む)はご遠慮下さい。
・読む人を選ぶ作品(死ネタ、悲恋、鬱ネタ等)を投下する時には、先に注意書きをお願いします。
・性描写を含むもの、あるいはグロネタ801ネタ百合ネタ等は、相応の場所でお願いします。


    ,. --、
    | |田|| 姫様、お気をつけて
     |__,|_||     __△__ 
     L..、_,i    ヽ___/
 . 。ぐ/|.゚.ー゚ノゝ   / ,ノノハ)) クリフトがいるから
   `K~キチス  (9ノ ノ(,゚.ヮ゚ノi. 大丈夫よ!
    ∪i÷-|j @〃とヾ二)つ
    Li_,_/」   ん'vく/___iゝ
     し'`J      じ'i_ノ

クリフトとアリーナへの想いは@wiki(携帯可)
ttp://www13.atwiki.jp/kuriari/
 ※wikiに掲載されたくない場合は、作品を投下する際にお申し出ください。

465愛とは 1/6:2017/05/02(火) 09:20:38 ID:H2xJnYGs
「……愛ですよ、愛。愛っていいなあ……」
「え?」

「ねえクリフト、それってどういう意味?」
「え?」

今までずっと黙っていたクリフトがやっと口にした独り言……私は思わず聞いてしまった。


世界樹の花のチカラでロザリーがよみがえった。
ロザリーは私たちに何度もお礼をいったあとピサロの所へ連れてってほしいってお願いしてきたの。
もしピサロを止められなかったら私たちの手で亡き者にしてほしいって。
ピサロの野望を止めなければ世界が滅んでしまうからって……。
どのみちピサロとは戦わなければいけないと思ってた。だから今、改めて向かうことになった。

ピサロの所に行くと決まってから急ごうと言ったきり誰もなんにも言わなかった。ロザリーも黙ってる。
私もなんにも言葉が見つからなかった。クリフトもさっきまでずっと黙ってたの。

ロザリーは生き返った。でも、ソロやマーニャ、ミネアは……

――ロザリーを、よみがえらせる…?――

――俺さ、村のみんなが生き返るかもって思ったとき、少しでもざまあみろって思ったんだ――
――俺、極悪人になっちまったのかなあ…っ――

――父さんが帰ってくるなんて考えもしなかった。夢を見させてくれただけでじゅーぶんよ――
――ありがとう、アリーナさん――

――ねえ、クリフトはどう思うの?――
――私は……――

――世界樹の花のチカラを世界のために使うとは…?――

何も言葉が見つからない。

ホイミンは生きてたの。ライアンにホイミンの言葉を伝えたときすっごくびっくりして捜そうとして。
旅の途中で生き返らせられないくらい傷ついたからだで死なせてしまったのだって教えてくれたの。
けどホイミンは生きてた。人間の姿になって。だからホイミンのお墓には行ってない。

466愛とは 2/6:2017/05/02(火) 09:26:56 ID:H2xJnYGs
みんながずっと黙ってたから私はなんだかたまらなく寂しくなってて、
ふとクリフトがつぶやいた独り言を聞き逃したくなかったの。愛って聞こえた。

「愛ってどういうこと?」
「それは…」

クリフトは口ごもって視線をあちこちさせる。周りを気にしてるのかな。
けど私はクリフトが何か言ってくれるまでじっと待った。

「ここではちょっと……また落ち着いたときでよろしいでしょうか」
「……うん……」

少ししてこっちを見たクリフトはすっごく真剣な顔してて、私は返事しかできなかった。
でもよくある「なんでもありません」とも言わなかった。言わないでくれた。ちゃんと教えてくれるんだ……。
はやく落ち着いたときにならないかな。


ルーラであちこち飛び回ってきたから戦いの準備を整えたあと小休止をとることになった。
私はさっそくクリフトに聞く。
クリフトも気にしてくれてたみたいで散歩といって馬車から少し離れたところで教えてくれた。

「この奇跡は、たくさんの方の愛が織り重なって生まれたものだと感じたのです」
「愛が織り重なって…?」
「はい」

クリフトは遠くのほうを見ながら言葉を続けた。

「ソロさんの村の人たちも、マーニャさんやミネアさんのお父上も、よみがえらせることができなかった……」
「…………」
「そんなつらい中で、敵であるデスピサロの大切な人を……ロザリーさんをよみがえらせようとしてくれた」
「……」
「よみがえった」
「…………」

ソロ……マーニャ、ミネア……
マーニャとミネアは大丈夫っていってすっきりした笑顔を見せてくれた。けどソロは……
ソロはきっとまだ……

467愛とは 3/6:2017/05/02(火) 09:31:38 ID:H2xJnYGs
「そしてロザリーさんも……本当は、すぐそこにいるアドンさんやスライムと話したかったでしょうに、
世界のため、大切な人であるピサロさんを亡き者にしてでも止めようとしてくれています……」
「…………」

ロザリー……
ピサロの話をしてたときふと塔のほうを見た、けどすぐ視線を戻してお急ぎください、お願いしますっていったの。
あれはやっぱりアドンやスライムのこと気にしてたんだ。クリフトもそう感じたのね。

「何より、姫さまが……」
「え?私?」
「はい」

クリフトが私をまっすぐ見た。私は思わず下を見る。

「アドンさんもピサロさんも、戦って、倒して、平和を取り戻す方法もあったと思います。
そんな中、戦わなくていい方法を姫さまが懸命に探そうとしてくださったから、そのように縁が巡り……」
「……」

――皆さんの愛が織り重なって、この奇跡は生まれたのだと思います――

「きっと皆さん、思うことはたくさんあると思います。
ですが、自分以外の誰かを大切にできるというこの行為は、まぎれもなく愛だと私は思います」
「…………」

自分以外の誰かを大切にできる……

「自分は幸せになれないのに…?」
「…………」

思わず顔を上げて聞いちゃった。少し驚いた顔するクリフト。
けどすごく優しい顔して言葉を返した。とても静かな声で。

――自分が幸せかどうかと、人を大切に思う気持ちは、本来関係はないのだと思います――

「ですから、私はまだ……」
「わかんない」
「姫さま…」
「やだよ…」
「……」
「ソロもマーニャもミネアも、あんなに喜んでたのに、嬉しそうだったのに…っ」

468愛とは 4/6:2017/05/02(火) 09:36:08 ID:H2xJnYGs
――よかったね、ソロ…――
――これで村の人たちを生き返らせられるんじゃないかな?――
――よかったね、マーニャ、ミネア――
――これでお父さまを生き返らせられるんじゃないかな?――
――村のみんなを…シンシアを…?――
――父さんを…?――

――何で…?――

――みんな生き返ったらよかったのに…っ!――

「やだよ…」
「姫さま…」
「みんなで幸せになりたいよ…っ」
「…………」

自分がはんぶん泣きそうになってるのがわかって思わず下を向いちゃった。
クリフト、きっと言葉に困ってる。こんな話がしたいんじゃなかったのにな……。

「……それこそ、愛ですね」
「え?」
「ああ、姫さま…」

――私は、そんなあなたこそ……――

クリフトの声がとてもか細くて、震えてる気がして、思わず顔を上げちゃった。
クリフト、目がうるんでる…?
私はもうはんぶんどころか涙があふれちゃってたけどクリフトもはんぶん泣きそうになってるの…?

「…………」
「……」

クリフトはなんにもいわない。私も言葉が浮かばなくてただただクリフトを見てた。
そしたらクリフトが私に手を伸ばしてきたの。でもそのまま。宙ぶらりんの手。

「…………」
「…………」
「ひ、姫さまっ」
「え。だってなんとなく」

クリフトの宙ぶらりんの手が気になって思わずぎゅってつかんじゃった。びっくりするクリフト。

469愛とは 5/6:2017/05/02(火) 09:41:07 ID:H2xJnYGs
「クリフト、手ちょっと冷たいわ」

私は両手でクリフトの手をぎゅってした。私の手はわりといつでもあったかいのよね。

「っ…」

クリフトが少し手を引いて私に寄った。でもやっぱりそのまま。宙ぶらりんな体勢。
私の肩の上に顔があるから今どんな顔してるのかわからない。
なんだろう。たまにあるのよね。いきなりぎゅってしてきたり寄ってきたりするクリフト。
なんでだろう。

「……申し訳、ありません」
「え?あ、待って。離れなくていいから」
「ひ、姫さまっ」
「謝らなくていいから」

クリフトがまた離れようとしたからなんとなく私からぎゅってしちゃった。腰に手を回してみる。

「なんかいっつも謝って離れようとするけど気にしなくていいんだからね」
「いえ、あの…」

クリフトが遠くのほうをしきりに見る。あ、馬車のほう?私も思わず手を離す。ふたりでパッ。
馬車のほうを改めて見る。マーニャとミネアが向こう向いてなんか話してるみたい。えーと。

「それにしても世界樹の花ってすごいわね!」

私はなんとなく話題を変えてみた。なんだろう。よくわかんない。

「けど、これで次に花が咲くのは千年後か……。気が遠くなりそうだわ」

なんとなく思ったまんま口にしてみたらクリフトもそうですねって笑ってくれた。なんだろう。わかんない。


小休止を終えてみんな集まった。さっきまでのピリピリした空気がちょっとだけ和んだ気がする。

「早まってデスピサロを倒しに行かずよかったのかもしれませんな」
「え?」
「このライアン、これから何が起こるか久々に楽しみですぞ」

470愛とは 6/6:2017/05/02(火) 09:46:32 ID:H2xJnYGs
ライアンは私に目配せしてソロの肩をぽんと叩いた。なんだよって顔するソロ。
ライアン……今回のことずっと反対だったのかなって思ってたのに、そんなこと言ってくれるんだ。

「まったく、運命とはまことにおもしろいものですな。
こうして人とエルフが手を取りひとつの場所を目指す……。フムフム」

ブライも言葉を続ける。
ライアンもじいも、今回のこと前向きに考えてくれてるんだ……
なんだか一気にやる気が出てきた。

「デスピサロのもとへ……。気を引きしめて行かなくちゃ」

ミネアが手をぎゅってする。
そっか、ピサロとはやっぱり戦いになるかもしれないんだから、気を引きしめて……
そうよね。
今まで何度も見てきたピサロの夢にはロザリーはいなかった。けど今はロザリーがいる。
だからきっと、戦いになったとしてもあの夢のとおりにはならない、そんな気がする。
私はロザリーを見た。
ロザリー……思いつめたような覚悟を決めたような、かたい顔してる。
私は思わずソロも見た。
ソロは一呼吸ついてみんなを見渡す。私とも目が合った。

「よし、行こう」

ソロの声。すっごくはっきりした声。マーニャやミネアみたいにソロも少しだけすっきりした顔してるように見えた。

471名無しさん:2017/05/05(金) 02:47:56 ID:wn8nzTSY
乙です
早まって無理に距離を縮めようとせず、ストーリーの中で少しずつ積み重ねるのが好印象です
私が書いたらクリアリのためにストーリーがかき乱されて収集がつかなくなるかも

472従者:2017/05/08(月) 08:51:10 ID:Ll6Ce2ng
乙ありがとうございます。
クリアリのためのストーリーが描ける方をずっとずっと羨んでいますが
ストーリー中に点在するクリアリを拾っていくといったこの作風も
受け入れていただけるスレで本当に感謝です。

今さらですが前回の補足を。短編集「知られざる伝説」にて
ホイミンはライアンと旅を続ける中で敵のメラミを受け焼けただれた姿で死んでしまい
ライアンに埋葬されています。その後魂はマスタードラゴンと思われる老人に会い
良心を試されはねのけた結果詩人の体に入ることで詩人としてよみがえることになります。
という設定を入れています。いつかライアンと再会してほしいと願いつつ。

クリアリ以外の要素も色濃くなってきてしまい恐縮ですが6章続きを参ります。

473従者の心主知らず 奇跡 1/5:2017/05/08(月) 08:57:50 ID:Ll6Ce2ng
「…ロ…ザ……。……ロ…ロザリー……」

――ルビーの涙がデスピサロの進化の秘法を打ち消していく!――

さっきまで巨大な怪物の姿をしていたピサロがゆっくり魔族の姿に戻っていった。
まるであのときの夢のよう……けど夢とはちがう、これは現実。

「…………!」
「ピサロさま!!」

ロザリーがピサロに駆け寄る。手の届くそばまで寄ってピサロを見つめた。
ピサロも最初うつろな目をしてたけどロザリーに気づいたのかゆっくり視線を落とした。
たぶんロザリーを見てる。見ようとしてる。

「やはり愛です!愛のちからはなににも勝るのです!」

ふいに聞こえたクリフトの声。

「なんかクリフト、やけにうれしそうね」
「これが喜ばずにいられますか!」

クリフトは本当にうれしそうだった。独り言はまだ続いてる。

「信じていれば……愛をつらぬけば……私だっていつかきっと……」

――……を幸せに……!――

クリフトは両手をぎゅってしてる。最後なんていったのかわからなかった。
愛……でも、そっか。夢では怪物の姿のデスピサロと戦わなければならなかった。
たぶん、殺さなければならなかった……。
けどそうはなっていないのだから、これはきっとうれしいことなんだ。そういうことなんだ。
まだ実感がわかない。なんだか頭がはたらかない。
いつもみたいにそれどういうことってクリフトに聞く元気が今はなかった。

「ルビーの涙に進化の秘法を打ち消すちからがあったなんて……。
こんなこときっとお父さんも知らなかったに違いないわ」

ふとミネアがつぶやいたのも聞こえた。奇跡が起こったのはルビーの涙のちから?

「ロザリー……。ロザリーなのか?」
「はい…!」
「…………。ならば、ここは死の国なのか……?」

474従者の心主知らず 奇跡 2/5:2017/05/08(月) 09:02:21 ID:Ll6Ce2ng
ピサロはさっきよりはしっかりした顔であたりをゆっくり見渡してる。

「いえ。ソロさんたちが世界樹の花でわたしに再び生命を与えてくださったのです」

ピサロはおどろいてロザリーを見た。

「そして信じがたいのですが……わたしをさらったのは魔族にあやつられた人々かと……」

ロザリーは小さくつけ加える。

「世界樹の花……魔族にあやつられた……?」
「はい……」

ピサロはしばらくなにか考えてたみたいだけどゆっくり私たちを……ソロを見た。
ソロもピサロを見てる。しばらくの間ふたりはじっと見つめ合ってた。

「……人間たちよ。
おもしろくはないがお前たちに礼を言わねばならんようだな。
お前たちはロザリーとこのわたしの命の恩人だ。素直に感謝しよう」

ピサロはロザリーをそっとどかして私たちに頭を下げた。

「人間こそ真の敵と思っていた……長年…………だが…………わたしは……」

ピサロは独り言のようにつぶやいた。言葉が途切れ途切れでうまく聞き取れない。
なんていってるんだろう。やっぱり頭がはたらかない。

「ピサロさま!デスピサロさまっ!!」

どこか遠くで声がした。

「アンドレアル」

空から大きな竜が舞い降りてきた。あれ?あの竜、どこかで見たことあるような……?

「生きていたか」

あ、結界を守っていた竜だわ!起きちゃったのね。

「……ロザリー、さま?」
「?……どこかで、お会いしたことがありましたでしょうか……」
「……これは……」

475従者の心主知らず 奇跡 3/5:2017/05/08(月) 09:06:38 ID:Ll6Ce2ng
竜はピサロを見る。

「見てのとおり、ロザリーはよみがえった。そこにいる人間たちの手によってな……」
「!……」

竜はおどろいて私たちを見た。

「アンドレアル、この者たちには手を出すな。地上への進撃も一時中断する。
他の者たちへ通達せよ。また追って指示を出す。それまでここで待機せよとな」
「…………」

「ピサロさまは、どちらへ……」
「…………」

「逆賊が出た」
「!……」
「いったん身辺整理をする」
「…………」

「…………はっ」

竜は翼をとじて低姿勢をとった。戦いに、ならない?戦闘態勢をといたってこと…?
竜は低姿勢のままじっとしてる。
戦わなくて、いいんだ。前みたいに殺し合わなくていいんだ…!
よかった……。
私は思わず竜に声をかけてしまった。

「あなた、アンドレアルってお名前なのね」

竜はびっくりしてこっちを見る。でもそのままの姿勢でいてくれた。

「ごめんなさい、あとの4にんは助けられなかったの。どこかに消えてしまったままで……」
「…………」

「いや、あれは幻術……」
「え?」
「まて、それ以前になぜ助けようなどと……」
「…………」

「わかんない」
「……」
「わかんないけど、どうしてもあなたたちに死んでほしくなかったの」
「…………」

476従者の心主知らず 奇跡 4/5:2017/05/08(月) 09:11:05 ID:Ll6Ce2ng
ふとクリフトが前に進み出てアンドレアルの真下まで寄っていった。

「まだ体調が万全ではないはずです。治療をします」
「…………」

「い、いらぬいらぬ!これ以上人間のなさけは受けぬっ!」
「アンドレアル!」

私もアンドレアルのそばに駆け寄る。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!ひどいケガなんだからちゃんと手当てを受けなさい!!」
「っ……」
「すぐ済ませますから」
「…………」

クリフトも小さくつけ加える。
アンドレアルはずっと私たちをにらんでたけど結局低姿勢のまま、手当てを受けてくれた。

「気丈な娘だ…」
「当然です。私の姫さまですから」

え?

「クリフト、今なんて言ったの?」
「い、いえ、この方も姫さまのお心遣いに感謝しているとのことです」
「…………」

え、そうなの?
なんかクリフトがしゃべってたような気がしたんだけど……。

「……わたしは感謝しているなどとはひとことも言っておらんぞ……」
「黙ってください」
「…………」

「あの娘に頭が上がらんのか」
「黙れ」
「…………」

「かっかっかっ…」
「おとなしくしないと一度殺してみますよ」

ふたりは小声でぼそぼそおしゃべりしてる。なんか、なんか楽しそうじゃない。

477従者の心主知らず 奇跡 5/5:2017/05/08(月) 09:15:10 ID:Ll6Ce2ng
ソロとピサロが少しお話ししたみたい。新しい敵を目指して出発するって。
しばらくピサロも同行するんだって……。
ソロ、どんな気持ちでピサロと話したんだろう……。ソロもピサロもなんだか重苦しい顔してる。
なにかいわなくちゃ、しなくちゃって思うのに、なんにも浮かんでこないの。なんで……。
とりあえずここを出ることになった。

「アンドレアルは、ここに残るの?」
「?」
「こんな暗いとこにひとりで待ってるなんて、寂しくない…?」
「〜……っ」

「神官!はやくこの娘を連れていけっ!!」
「なによー」
「調子が狂う…っ」

「アリーナさん……」

ロザリーが寄ってきた。悲しそうな泣きそうな顔してる。

「アドンは……無事ですか?スラちゃんは……」

あ……。

「スライムは無事。でも、アドンは……」

私が戻ってくるまで待っててって言っても、キラーピアスをあずけても、アドンはうなずかなかった……。

「アドンはわかんない……」
「……そうですか……」

ロザリー……。
ロザリーは少しだけ笑った。

「ごめんなさい、いいんです。ありがとうございました」
「ロザリー……」
「先ほどピサロさまとご一緒するって言ったばかりなんです。
それなのにアドンにも会いたいなんて、わがままですものね……」
「ううん!そんなことないよ!」

私は思わず声を上げちゃった。ロザリーだってずっとがまんしてきたんだもの。
私もクリフトも知ってるもの。

「私、ソロに聞いてみる。ロザリーはピサロに言ってみて!」

478従者:2017/05/11(木) 21:07:28 ID:7O11Q12w
従者です。連続書きこみで恐縮なのですが投下できるときにさせてください。
PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、ロザリーヒル編「代わり」18シーク分いきます。
ピサロナイト「アドン」存命ルートでの6章続きとなります。(理由詳細は>>153にあります)
ところどころ伏線はまぎれていますがクリアリパートと呼べるのは13/18以降です。
ではどうぞ。

479従者の心主知らず 代わり 1/18:2017/05/11(木) 21:11:31 ID:7O11Q12w
アドンは前とおなじ場所に座ってた。肩にスライムも乗っかってる。今までとなんにも変わらない光景。
アドン……いた……いてくれた……!

「なぜ……」

アドンは驚いてロザリーを見た。私たちには目もくれずずっとロザリーを見てる。

「なぜ……どうして……ここに……」
「ソロさんたちが私を再びこの世に呼び戻してくださったのです」

ロザリーがそっとアドンに近よる。

「ご心配をおかけしましたね。ただいま戻りました。来るのが遅くなってごめんなさい……」
「…………」
「もう大丈夫ですよ、アドン……」

ロザリーはアドンをぎゅってした。すっごく優しくぎゅってした。

「……っ…っ」

アドンの目から涙がこぼれる。

「っ…ああああ…っうああぁぁあああ…っっ」

よかったね、アドン……。
でもアドンはロザリーをぎゅってしない。宙ぶらりんの手。自分の手だけぎゅってしたあとそっと床に下ろす。
アドン…?

「ぷるぷるぷるっ!!ピサロさま!もうどこにも行かないでよぉ!
ロザリーちゃんと一緒にここで平和に暮らそうよぉ!」
「…………」

スライムがピサロのまわりをぴょんぴょんはねながらお願いしてる。

「ピサロさん、複雑そうな顔してますね」

クリフトが私にそっと耳打ちする。けど私はあんまりピサロを見る気にならなくてずっとアドンを見てた。
アドンはもういちど手を上げてロザリーをそっと離す。

480従者の心主知らず 代わり 2/18:2017/05/11(木) 21:15:43 ID:7O11Q12w
優しい笑顔をしてた。アドンのあんな笑顔、初めて見た……。
でも、どうしてあんな、胸がしめつけられるような、ほんとはなにかを伝えたいみたいな、もどかしい笑顔……。
アドン…?
アドンはロザリーをどかして立ち上がった。ゆっくり私たちのほうを向く。さっきと違ってもう普通の顔してた。
姿勢を正して、胸に手を置いて、アドンは私たちに深々と頭を下げた。少しして顔を上げたアドンは私を見る。

「アドン…?」

アドンは私の前まで来て手をとった。少しだけ冷たくて、大きな手。長い指。
なんどか見て知ってるはずなのになぜかドキッとしちゃった。
その手にもうひとつの手を重ねる。私の手になにかが当たった。あ、キラーピアス。
アドン……ずっと持っててくれたんだ……。
あのときうなずかなかったけど、やっぱり私を待っててくれたのね。
アドンが私の肩に顔を寄せた。きゃっ!そのままの体勢でいる。なんか、宙ぶらりんな……なんかクリフトみたい。
なにかをささやかれるのかと思ったけどなんにも言わなかった。なんだったんだろう。
アドンはピサロの前までゆっくり進み出て片ひざをついた。

「ピサロ様……此度の失態、誠に申し訳ございませんでした……。
どうか、処罰を」

え…?
アドンはそれだけ言うと目を閉じてうつむいた。ピサロはだまってアドンを見下ろしてる。

「待って、処罰って」
「アドン…?ピサロさま…!」
「…………」

なんで……どうして……。私は身構えた。
もしピサロがアドンに何かするようなら思いっきりキックしてやる……。

「………………」

ピサロはずっと黙ったままだった。
けっこう長い時間待ったと思う。やっとピサロが口を開いた。

「お前には再びロザリーの護衛を頼むことになるだろう。そのときまで腕を磨け」
「……」
「それが処罰だ」
「!……」
「……だが、今は体をいとえ。勇気と無謀を履き違えんことだ」

481従者の心主知らず 代わり 3/18:2017/05/11(木) 21:19:36 ID:7O11Q12w
アドンは顔を上げた。ピサロはずっとアドンを見てる。
ふたりはしばらく見つめ合ってたけど、アドンが再び目を閉じて頭を下げた。

「はっ…ピサロ様…!」

よかった……。

アドンとの再会も無事できてお話も終わって、いったん街に戻ろうかってなった。
そしたらピサロがアドンともう少し話があるから先に出ていてくれって。
すぐすませるからって。
話ってなんだろう。ちょっと気になったけど私もクリフトといっしょに外に向かった。

「ロザリー、お前も席を外していてくれるか。すぐすませる。遠くには行かんようにな」
「……はい、ピサロさま」
「スライム、ロザリーのそばにいてやれ」
「ぷるぷる!はい、ピサロさま」

あ、ちょっと待って。どうしよう、この静寂の玉、アドンに返そうかな。うん、そうしよう。
で、言ってやるの。命を大事にしなさいって。
誰かのために死ぬんじゃなくて、いつでもどこでもその人といっしょに生きのこる方法を考えなさいって。
よし、そうしよう。私はくるっと向きを変えた。

「姫さま?」
「クリフトも先に行ってて。すぐ追いかけるから」
「姫さま……」

私は仕切りをそっと開けてもういちどお部屋に入った。でも少し進んで足が止まっちゃった。
なんかもうお話が始まっちゃってるみたい。どうしよう、お話を割っちゃっていいものかな。

「アドン…」
「はっ…」
「ロザリーだったのだな」
「は…?」
「お前がかつて、バトランド地方の西で人間から救ったエルフというのは」
「っ……それは……」

――その悲しみに満ちた眼が今もまぶたに焼きついていると話していたエルフは……――

「ロザリーだったのだな……」
「…………」

え、なにこの重苦しい空気。ほんとにどうしよう。

482従者の心主知らず 代わり 4/18:2017/05/11(木) 21:24:04 ID:7O11Q12w
「……申し訳、ございません…っ」
「アドン」
「は…っ」
「もうピサロナイトの名はやめ、アドンとしてロザリーを守れ。もとより、初めからそうだったはずだ」
「ピサロ様…」
「守れる者が守ればよい。彼女を幸せにしてやれる男がとなりに立てばいいのだ。その相手は、わたしでなくて構わない。
……いや、わたしでないほうがいいのかもしれん……」
「ピサロ様、なにを……そんな……」
「お前に護衛を任せてからロザリーが次第に明るくなったのだ。口数が増えてな……。お前のおかげだと確信している。
だが、名を明かさず顔も見せないと聞いて以来ずっと気にはなっていた。
お前にロザリーを紹介した時点で気づけなかったこと、こうしてゆっくり話す時間が取れなかったこと、申し訳なく思う……」
「ピサロ様……何をおっしゃるのです……!」
「……」
「このような、私ごときに……」
「改めて頼みたい。今度はわたしの代わりではなく、ともにあの娘を想うひとりの男として、守ってやってほしいのだ。
このミナレットでの護衛、今後も引き受けてくれるか?」
「………………」
「…………」
「………………」

アドンがロザリーの護衛をしてたのって、ピサロが頼んだからだったのね。

「……お引き受けいたしましょう。今度こそ、臣下としてではなく、友として、ひとりの男として……」
「……感謝する」
「…………」
「……ともに、守ろうぞ。アドン……」
「………………」

「………………はっ!」

私はふたりの会話がよくわからなかった。
そもそも幸せって、誰かにしてもらうものじゃなくて自分で手に入れるものなんじゃないかしら。
それよりもピサロがこっちに来たときに見つかっちゃうとまずいわ。いったん外に出ないと。隠れたほうがいいかしら。
ガタッ。
あ。こういうときに限っていすにぶつかっちゃうのはお約束……ふたりはそろってこっちを見た。
私、隠れ場所を探すあまりふたりの見えそうなとこにも来ちゃってたみたい。

「えっと…」

ふたりともびっくりしてる。

「ごめん。話を聞くつもりはなかったんだけど……聞いてもよくわからなかったけど……」

483従者の心主知らず 代わり 5/18:2017/05/11(木) 21:27:53 ID:7O11Q12w
ふたりとも顔に手を当てた。なんで?

「「出ていけっ!!」」
「なによー」

でもひとつだけわかったことがあるの。
男の人って、女の人を守りたがるのね。ピサロもアドンもロザリーを守りたいんだわ。
私を守りたがってるクリフトといっしょ。
これって、クリフトだからじゃなくて、男の人だから、だったんだわ。男の人の法則なのね。
あれ、でも私は男じゃないけどクリフトやみんなを守りたいわ。これは私の法則ね。

「大丈夫!安心して!私もロザリーを守るからね!」

私はにっこり笑ってみせた。

「それと思ったんだけど、幸せって、誰かにもらうものじゃなくて自分で手に入れるものなんじゃないかな?
だって、どんなに幸せを用意したってその人が幸せだって思わなくっちゃほんとの幸せにはなれないじゃない」
「…………」
「私はそう思うけどな」
「…………」
「………………」

「はっ…はは…」

え、なに?アドンが笑ってる。

「アドン」

ピサロが静かにアドンを呼んだ。

「申し訳ありません。ですが、あまりにアリーナらしくて……」
「…………」

「ふん…」

ピサロは鼻を鳴らした。

「幸せは、自分の心が決める……か?」

ピサロは私をにらみつけた。

「そう言えるのは、幸せとはなにかを知っているからだろう?」

484従者の心主知らず 代わり 6/18:2017/05/11(木) 21:31:41 ID:7O11Q12w
え?

「……」
「…………」
「…………」

ピサロは視線を切った。

「その程度の見識しか持ち合わせておらんから人間は愚かなのだ」
「なによ、どういうことよ」
「アドン」
「はっ」
「話は以上だ。ロザリーはしばしの間わたしが直接見る。今は、養生せよ……」
「……はっ」

それだけ言うとピサロは扉のほうに歩いてく。

「ちょっと、待ちなさいよっ!」

ピサロは返事もしないでそのままお部屋から出ていった。

「なんなのよ!!いーだっ!!」

いやなやつ!

「……アリーナ」
「……なによ」
「ピサロ様は、決してお前の意見を否定したわけではないからな」
「…………」

「アドンはピサロの言ったことわかるの?」
「…………」

アドンは何かを言いかけたけどやめた。何度も何度も何かを言いかけようとするけど黙る。
そしたらそのうち少しだけ上を向いた。

「知りたかったのならなぜ追わなかった。俺に用事か?」
「むーっ」

なんだかはぐらかされた気分。もういいわ。あとでピサロに思いっきり聞いてやるんだから。

485従者の心主知らず 代わり 7/18:2017/05/11(木) 21:35:16 ID:7O11Q12w
「これ、返す」
「?」

私はアドンの胸に静寂の玉を押しつけた。

「これは……」
「またロザリーの護衛をするんだから、必要になるでしょ?だから返すの」
「…………」

「いや、これはお前にやったものだ。返してもらう理由はない」
「え、いいの?」
「役には立たなかったか?」
「ううん、なんどか使ったわ。私も魔法使いになった気分だった」
「ならいいだろう。持っていけ」

アドンは静寂の玉をゆっくり押しもどして窓辺のほうへ歩いてった。

「そっか……よかった……」
「?」

私もアドンを追ってとなりに並ぶ。

「私ね、アドンがこれをくれたのは、自分がもう死ぬつもりだったからなのかなって、ちょっと不安に思ってたの」
「……」
「そうじゃなかったのよね」
「…………」

「……なぜ、不安に思うのだ……」
「え?」
「俺がどんなつもりでそれを渡そうが、お前には関係ないだろう」
「関係なくないよ!」

私は思いっきり否定しちゃった。

「だって、だって、もしあなたがもう死ぬつもりだからあげるって言ってたら、私はぜったいに受けとらなかった」
「……なぜ……」
「なぜって…」
「俺が死のうが生きようが、それこそお前には関係のないことだろう?」
「アドン……」
「違うか?」
「…………」

486従者の心主知らず 代わり 8/18:2017/05/11(木) 21:39:04 ID:7O11Q12w
アドン……。どうしてそんなこと……。

――やっぱり死ぬつもりだったの…?――

「アドン、おかしいよ……こんな会話おかしいよ……」
「…………」
「もっと自分を大事にしてよ。
誰かのために死ぬんじゃなくて、いつでもどこでもその人といっしょに生きのこる方法を考えてよ」
「……なぜ……」
「なぜって、当たり前でしょう…?」
「…………」

「……よけいな世話だな……」
「っ……」
「俺は護衛役なのだ。俺に課せられた使命はあの方をお守りすることであって、俺が生き残ることではない。
俺がどうなろうがあの方が無事でさえいてくれればいいのだ。後のことは引き継いだ者がやるだけのこと」

――ピサロナイトは私以外にも大勢いる――

「……ちがうよ。それはちがうよ……」
「何が違うというのか。使命とは命をかけるものだ。使命を果たせぬ者に生きる資格はない。
それだけの話だろう」
「……」

そこまで言ってアドンはうつむいた。

「……そうだ、俺に生きる資格はない……。
敵でない者に斬りかかり、真の敵からは守れなかった役立たずなど、本当はもう……」

――生きていてはいけなかった……――

「ちがうよ!」
「何が違う。俺はピサロ様に二度も三度も恥をかかせたのだっ」
「ちがうよ!ちがうよ…!そんなこと言わないでよ…っ」
「…………」
「使命も大事だけど、命だって大事だよ…っ!」
「………………」

487従者の心主知らず 代わり 9/18:2017/05/11(木) 21:42:47 ID:7O11Q12w
初めてアドンと会ったとき、アドンはどんなに傷ついてもいっしょうけんめいロザリーを守ろうとした。
いやだって叫んで必死にロザリーをぎゅってした。
あの姿を見たとき、敵なのになぜか死なないでほしいと思った。
ロザリーがさらわれたときも、ひどいケガしてたのに助けに行こうとして……
ソロが止めてくれて、死ぬことは守ることじゃないって、生きて、一緒にって言ってくれたとき、私の気持ちもはっきりしたの。
生きてほしい。これからも生きていてほしい。ずっといっしょに生きていきたい。心の底からそう思ったの。
その気持ちは今も変わってない。

「もっと自分を大事にしてよ…っ」
「………………」

ロザリーが死んでもういちど戦ったとき、私が戦いたくなくてアドンをぎゅってしたとき、アドンは私を斬らなかった。
本当は私たちを殺す気はなかったんだってわかった。
それは、私たちの命を大事にしてくれたからでしょう…?命の大切さを、尊さを、ほんとうは知ってるからでしょう…?

――いっしょに生きたい…!――

「……お前たちには本当に感謝している。してもしきれぬほどに……。
だが、俺がお前たちに返せるものなど何もない。頭を下げることしかできない。俺とお前たちとでは住む世界が違うのだ。
せめて俺にできることは、今度こそお前たちの手をわずらわせることなくロザリー様をお守りすること……」

――お守りして果てること……――

「……こうして話している時間すらもったいない。俺などに……」
「……」
「仲間が待っているぞ。早く行け」
「やだっ」
「……」
「仲間は今は関係ないのっ!私はアドンとお話がしたいのっ」
「…………」

あきらめない。アドンが自分から生きようって、生きたいって、そう思ってくれるまで、私はぜったいにあきらめない…!
アドンがとまどったのがわかった。私、いつの間にか泣いてたみたい……。涙がこぼれてきたのがわかった。

「なぜ……そこまで……」
「……」
「俺と話すことに、何の価値がある……」
「…………」

――使命を果たせぬ私など、死んだところで誰も見向きはしないのに……――

ぜったいにあきらめないっ。

488従者の心主知らず 代わり 10/18:2017/05/11(木) 21:49:02 ID:7O11Q12w
「ソロだってあなたのこと心配してるよ。ロザリーだって。みんなあなたのこと心配してるんだよ…?」
「………………」
「アドン…?」
「…………っ」

アドンが歯ぎしりした。すぐに向こうを向いたけど、イライラしてる…?

「ロザリー様は……あの方はただ話し相手を欲しがられただけだ。あの方の目にはピサロ様しか映っていない。
だがピサロ様もお忙しい方だ。なかなか会うことが叶わず、寂しい思いをされていたからな」
「……」
「だが、俺がピサロ様の代わりなどできるはずがないのだ。
せいぜい俺にできたことは、次にピサロ様が訪れるまでの、間に合わせ…」

アドン…声がふるえてる…?

「だから、あの方をお守りし、寂しさをいく分でもまぎらわしてさしあげられる者であれば、その相手は別に、俺でなくとも……
俺の代わりなどいくらでもいる。俺ひとりが死んだところで誰も困りはしない。すぐに忘れる。しょせん俺はその程度の存在なのだ。
だから、お前ももう、俺のことは…」
「バカ!!」
「!……」
「ロザリーのことなんにも知らないで…!
ロザリーがどれだけあなたのこと大事にしてるか、どれだけ心配してるか、なんにも知らないからそんなこと言えるのよ!」
「……」
「ずっとあなたの名前を知りたがってたのに。ずっと素顔が見たいって言ってたのに!
あなたがケガしたときずっとそばにいたのにっ!」
「っ……」
「言葉や言い方はきつくて冷たいけど、出したお茶はいりませんって言いながらも飲んでくれるし、会いに行けば必ずそこにいてくれるし、
お部屋に招けばすこしだけだけど入ってくれるし、お話だってしてくれるし、顔はだめでも手はこてを外して見せてくれるしっ」
「…………」
「ずっと鳴き声がして不思議がってたら申し訳ございませんって、あれはアイスコンドルという翼竜ですって、
今夜は満月だから気がはやっているのですって、すごーくていねいに教えてくれたんだって」
「…………」
「思いきってご飯作ってったら困りますって言いながらも全部食べてくれたって、寂しくて眠れない夜はそばにいて手を握ってくれてたって、
任務外ですって言いながらも朝までずっとそこにいてくれたんだって、ほんとはすごーく優しくていい人だって、ロザリー何回も言ってたのよ?
ずっと仲良くなりたかったって。ずっと謝りたかったって。拒否して傷つけてしまったこと、心から謝りたいんだって。
初めて感情を見せてくれたのに、名前を呼んでくれてたのに、あのときは自分のことしか考えてなかったって。今度こそちゃんと謝るんだって。
仲直りしてまたお部屋に来てもらうんだって!」

――アドン……本当に、ごめんなさい……――
――無事戻ってきたら、こうしてまたお部屋に来ていただけますか?――

やだ、また泣きそう。

489従者の心主知らず 代わり 11/18:2017/05/11(木) 21:54:05 ID:7O11Q12w
「ロザリーね、あなたの素顔を見れてソロに名前も教えてもらって、ほんとうに嬉しそうな顔してたのよ…?
ここに来る前から私を守ってくれてた人だって、森まで送ってもらったんだって、
そのあともしばらく森の中を見回ってくれてたんだって、あなたのことすごーく嬉しそうに話すの。
もしまた見かけたらすぐ教えてくださいって鳥さんたちにお願いしてたんだけど、それ以来会えなかったって。
もう会えないと思ってたって……。
だからまた会えて嬉しいって。ずっと会いたかったって。ずっとお礼がしたかったって」

――こんな素敵な方に守っていただけるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう――

「今日ここに来たのだって、ロザリーがアドンに会いたいって言ったからなのに……それなのに……っ」

やだもう、また目に涙があふれてきた。

「なんでそんなことが言えるのよ…!自分じゃなくてもいいなんて言わないでよ…っ!」
「…………」
「あなたのこと、こんなに大事に思ってるのに…っ」
「………………」

気がついたらアドンも泣いてた。目から涙があふれてる。つつっと頬を伝ってなんども落ちてた。
その涙を指ですくっておどろいたように見つめる。とまどったように視線をさまよわせる。
まるで、どうして自分が泣いてるのかわからないみたいに。なんでこんなことを言われてるのかわからないみたいに。

「アドン…?」
「…………」
「アドン…」

子どもみたいにぽろぽろ涙を流してる。いつもはそれでも強そうにしてるのに。

「え、だって……知らないわけじゃないよね……?命はみんなおんなじでひとりひとりが大事な存在なんだって。
役目のかわりはできても、人のかわりができる人なんていないんだって、それまで知らないわけじゃないよね…?」
「…………」
「そうよ、さっきあなただって、ピサロの代わりはできないって言ってたのに、どうしてあなたの代わりをできる人はいると思うの…?」
「…………」
「あなただって、あなたのことだって、ピサロとおんなじくらい大事な存在なのよ?それは、わかるわよね…?」
「…………」
「…………」
「………………」

アドンは手で顔を隠した。なんにも答えない。唇はふるえてて……。

490従者の心主知らず 代わり 12/18:2017/05/11(木) 21:57:33 ID:7O11Q12w
「アドン…」
「…………」

なんにも答えない……。
涙はぽろぽろこぼれてる。手で顔を隠してても涙までは隠せない……。

「ねえアドン……あなた今まで、大事にしてもらったこと、ないの…?」
「…………」

アドンは答えない。ただ立ちつくしてる……。

「あなたのことだって大事なんだからね」
「………………」
「私、あなたのことも守るからね」
「……………………」

アドンは手で顔を隠したまま。少しだけ息が乱れたのがわかった。

「なぜ…っ」
「……」
「なぜお前が、そんなこと……」
「…………」
「なぜ……」

消え入りそうな声。なぜって、こっちが聞きたいくらい。
どうしてそんなに大事にしてもらえなかったんだろう。どうして大事にされてるんだって、教えてもらえなかったんだろう。
これじゃあまりにアドンがかわいそう。

「……寂しい思いをしてたのは、あなたのほうだったのね……」
「…………」
「大丈夫だよ。ロザリーはあなたのことも、おんなじくらい大事に思ってるよ」
「………………」
「大丈夫だよ…。大丈夫だからね」

アドンは手で顔を隠したまま、無言で小さくうなずいた。
肩もふるえてる。子どもみたいなアドン。なんだかクリフトと重なる。やっぱり重なる。
初めて会ったときからずっと気になってたのは、どこかクリフトと似てたからなのかも……。
どうすれば泣きやんでくれるかな。笑顔になってくれるかな……。
そうだ!私はいいこと考えた。

491従者の心主知らず 代わり 13/18:2017/05/11(木) 22:01:05 ID:7O11Q12w
「ねえアドン、ケガがちゃんと治ったらさ、勝負しましょうよ!」
「……」
「今度は殺しあいじゃなくて、腕をきそって闘うの。剣とこぶし、どっちが強いか勝負しましょ?
ねえ、いいでしょ?ねっねっ」
「…………」

アドンはしばらく手で顔を隠してたけど、ふっと笑ったような気がした。

「ああ…」
「アドン…?」
「ずっと、悪い夢を見ていた……」
「……」
「最初はただの夢だと思っていたし、その結末でも構わないと思っていた……」
「……」
「いつしか、その夢はこれから起こる現実であり、俺が招いた結末なのだと思うようになった……」
「うん…」
「だから、同じ現実を迎えるのなら、直接俺が手を下して……」

――悔いのないように……――

「…………」
「だが…」
「…………」
「実際は、違ったのだな……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……これが……」

――これが、私の運命か……――

アドン…?
アドンは手を離してこっちを見た。顔はもう泣いてなかった。

「そうだな。俺もお前と闘ってみたい」
「ほんとに?」
「ああ。コンドルを一撃で倒したその実力を見せてもらおう」
「やったやった!」

アドンが笑った。前みたいに少しだけじゃなくて、ほんとに笑ってくれたの。
これがアドンのほんとの笑顔…?

492従者の心主知らず 代わり 14/18:2017/05/11(木) 22:04:33 ID:7O11Q12w
「約束よ!」
「約束だ」

アドンが笑ってる。笑ってるよ。よかった…。
よかった……。

「じゃあじゃあ、とりあえず今は休んでて!」
「?待て、お前…っ」
「よいしょっと」
「ちょ、おまっ…力っ強っ…」

私はアドンを抱き上げてベッドに寝かせた。
あわてて起きようとするアドンを押さえておふとんをととのえる。

「だ、だからなぜここに寝かすんだっ!俺の部屋は下!一階下なんだっ!!」
「いいじゃない。今までだってここで寝てたんだし」
「いいわけないだろう!…お、お前にはわからんかもしれんがな、よっ夜っ夜が困るんだっ!」
「なんで夜が困るのよ」
「聞くなっ」
「むー。じゃあ下に行く?」
「……………………」

アドンはしばらく難しい顔して黙ってたけどかけたおふとんをたぐり寄せて口もとを隠した。

「やっぱりここでいい…」
「いいんじゃない」
「〜……」

今度は目まで隠しちゃった。ヘンなの。でも少ししたら目だけ出した。

「クリフトといったか。お前の男」
「男じゃないって。私の家来なのっ。今は大切な仲間なのっ」

なんでか一気に否定しちゃった。
そうよ。そもそもアドンがヘンなこと言うから私がヘンになったんだからっ。

「ああ、そういうことか」
「どういうことよ!」

アドンは笑って私を見た。なによなによー。

493従者の心主知らず 代わり 15/18:2017/05/11(木) 22:08:04 ID:7O11Q12w
「幸せな男だな」
「なにそれ」
「少し不憫な気がしないでもないがな」
「どういうこと?」
「お前こそ早めに気づいてやれ」
「なにをっ」

アドンがくすくす笑ってる。何に気づけばいいのかぜんぜん教えてくれないし。
本人に聞いてみろですって。
っもう!クリフトがぜんぜん教えてくれないから他の人たちに教えてもらいたいのにっ!

「アリーナ」
「なによっ」
「ありがとうな」
「なにがっ……え……?」
「借りは返す」
「…………うん…………」

「やだっやっぱりいらないっ」
「?」
「借りは返さなくていいから、そのぶんロザリーと幸せになるのっ」
「……」
「ロザリーといっしょに、ずっとずっと元気に楽しくめいっぱい生きるの!」
「……」
「約束して!」
「…………」

「それはさすがに無理だ。ロザリー様にはピサロ様がいる」
「どうしてそこでピサロが出てくるのよ!ロザリーとあなたの問題なんだから、ピサロは関係ないじゃないっ」

アドンがものすごくびっくりした顔でこっちを見るの。な、なによー。

「……じゃあじゃあ、ピサロとさんにんで幸せになるのっ」
「………………」

アドンがまたおかしそうに笑った。めちゃくちゃだなって言いながら。
それからありがとうって。なんかもういちどありがとうって言われた。なんで二回言うのよ。
アドンが笑ってる。ほんとうに笑ってるよ。素敵な笑顔。もう大丈夫だよね。

――もう死のうとなんかしないよね――

494従者の心主知らず 代わり 16/18:2017/05/11(木) 22:11:47 ID:7O11Q12w
「姫さま」
「あ、クリフト」

外に出たらクリフトがいた。ずっと私を待っててくれたみたい。
思わずごめんって言おうと思ったらクリフトが深々と頭を下げたの。

「お見事でございました」

え。

「聞いてたの…?」
「申し訳ありません。ピサロさんが部屋から出てきたもので話がすんだものと思い……」
「…………」

「どこまで聞いてたの…?」
「途中で席を外しましたからすべては聞いていません」
「そう…」
「…………」

「姫さま……」
「ん?」
「私は、幸せ者です……」
「え?」

もしかして、最後まで聞いてた…?
クリフトは向こうを向きながら歩いてるから顔がしっかり見えないの。
今どんな顔をしてるの?

「姫さまと私の問題だから、他の障害も……」
「え?」

クリフトが小声でぼそぼそ言うからうまく聞き取れない。

「今なんていったの?」
「いえ、アドンさんにとってあの言葉は、他のどんな言葉よりも救われる一言だったのではないかと」
「え?どの言葉?」
「姫さま」

クリフトが笑ってこっちを見た。
その笑顔がなんだかとてもやさしくて、まぶしくて、私は思わず目をそらしちゃった。
うー、なんだかくやしい……。
あ、そうだ。そうよそうよ。今なら頭がはたらくわ。よし、まずはこっちから。

495従者の心主知らず 代わり 17/18:2017/05/11(木) 22:15:14 ID:7O11Q12w
「ねえクリフトー」
「はい、姫さま」
「ピサロがロザリーのちからで魔族に姿に戻ったとき、クリフトすごーく喜んでたわよね」
「……ああ、そうでしたね」
「あのときもなんて言ってたのか聞き取れなかったの。今ならわかるから教えてちょうだい」
「…………」

――信じていれば……愛をつらぬけば……私だっていつかきっと……――
――……を幸せに……!――

「……ええと……なんて言ってたんでしたっけ」
「えー?」

クリフトが苦笑いする。

「覚えてないの?」
「ええと、そうですね……。
愛のちからはすばらしい、なににも勝ると言っていたのは覚えています。そのあたりですか?」
「えー、私がクリフトに聞いてるのに」

クリフトは口に手を当てながら苦笑いしてる。申し訳ありませんって言いながら。っもう。
でも、そっか。クリフトでも忘れることあるのね。私なんかしょっちゅう忘れるけど。

「じゃあ思いだしたらちゃんと教えてちょうだいね」
「はい、姫さま」

あ、そうだ。クリフトの何に気づけばいいのかも教えてもらわなくっちゃ。
本人に聞いてみろっていったって……私はクリフトをじっと見る。

「?」

うーん、どうやって聞けばはぐらかさずに教えてもらえるのかしら。
今いちばんの難題だわ。

「姫さま」
「んー?」

クリフトはまた笑って私を見る。そして私もまた目をそらす。
っもう、なんで目をそらしちゃうのよ。クリフトの笑顔はずるいわ!ほんとうにくやしい……。
そしたらクリフトがふっと笑ったような気がした。

496従者の心主知らず 代わり 18/18:2017/05/11(木) 22:18:43 ID:7O11Q12w
――どこまでもお供いたします――

姿勢を正して、胸に手を置いて、クリフトはもういちど私に深々と頭を下げたの。
えっと……えっと……。
聞こうと思ってたことがみんなどこかにいっちゃって、私はただただクリフトを見てた。


「ピサロとロザリーは塔のほうで過ごすんだって」
「自宅ですものね」
「一緒に寝るんだろうなー」
「……まあそうでしょうね」
「あーあーいいわねえ恋人同士って。あたしもどっかにいい男転がってないかなー」
「姉さん……」
「なによ」

ふーん、そうなんだ。
ああ、そういえばロザリーのベッドにアドン寝かせてきちゃったんだっけ。ああ……
まあいっか。さんにんで寝ればいいのよ。私がクリフトと神父さまとさんにんで寝たみたいに。
そう、クリフト……
お供いたしますって改めて言われた。初めてじゃないはずなのにまた頭がぼーっとしてるの。
さいきんクリフトの笑顔に負けて目をそらすこと多くなってる気がする。
なんだろうな……なんでだろうな……
くやしいな……。
だから今日はこのままロザリーヒルに泊まることになってちょっとほっとしてる。
ピサロのとこに行ってからはたらかなくなっちゃったこの頭をなんとか元通りにしなくっちゃ。
ちらっとクリフトのほうを見てみる。クリフトはいすにもたれて本を読んでた。

「ねえクリフトー」
「はい、姫さま」

あ、いつものクリフトだ。うん、よし、大丈夫。

「ピサロとロザリーはロザリーのベッドで寝るのよね」
「まあ、そうでしょうね」
「あのね、あそこにアドン寝かせてきちゃったの」
「え……あ……」
「大丈夫よね。さんにんでいっしょに寝ればいいわよね」
「あのお三方が一緒に…?」
「明日さ、行きたいとこがあるんだ。ちょっと寄り道になっちまうけどいいかな」

突然ひびいたソロの声。ソロが少しだけ怖い顔してるように見えた。
ソロ…?

497従者:2017/05/11(木) 22:22:23 ID:7O11Q12w
短編集「知られざる伝説」ではアドンはピサロを「陛下」「殿下」と呼んでいますが
本編ではすべての配下たちが共通で「ピサロさま」と呼んでいるので彼も一部そちらに合わせています。
また本編ではピサロナイトは1体しかいませんがヒーローズなど他作品では複数存在していますので
解釈はそちらに合わせました。
またピサロナイトの部屋は本編ではわかりませんが塔の構造的に2階が空いているのかなと思ったもので
2階に隠し部屋的なものがあるとしました。
基本的にはPS版の世界観を優先していますがところどころアレンジまみれですどうかご容赦を……。

ありがとうございました。

498従者:2017/05/12(金) 17:32:16 ID:5EK.IaJU
まさかの三連続書きこみ本当に失礼します;
この投下でまたしばらくは文章化段階に入りお休み(時々小ネタ)しますので何とぞ……。

前回「代わり」の続き(翌朝)でロザリーヒル編最後「天然同盟」14レス分いきます。
ソロの行きたいところに寄り道する前段階で全体そこはかとなくクリアリ要素が入ってきます。
また13/14で性描写を匂わす表現あり、もし問題ありましたらお知らせください。
ではよろしくお願いします。

499従者の心主知らず 天然同盟 1/14:2017/05/12(金) 17:35:54 ID:5EK.IaJU
「ロザリーおはよー!」
「まあ、アリーナさんおはようございます!」
「……ピサロもおはよ……」
「…………」

「ピサロあっち行って!」
「いきなりなんだ」
「ロザリーと話があるの!だからあっち行って!」
「話…?」
「まあ、何のお話でしょう?」
「ふん…」

「手短にすませろ」

ピサロはすたすたとあっちに行った。よし!

「ねえロザリー、昨日はピサロとアドンとさんにんで寝たの?」
「え?あ……どうしてご存知なのですか……?」
「ふふ、そうだと思ったんだ。実はね、昨日ロザリーのベッドにアドン寝かせたの私なの」
「まあ、そうだったのですね」
「仲直りできたのよね?」

ロザリーは心から嬉しそうな笑顔で大きくうなずいた。

「またお部屋に来てくれるって、今度はかぶとを外してお茶を飲んだりお話ししたりしてくれるって約束してくれたんです。
アリーナさん、本当にありがとうございます!」
「ふふ、よかった」

ロザリーの顔がすこしだけくもった。

「……彼、私が拒否したあの日から、ずっと悪い夢にうなされていたみたいなんです。
私が改めて謝ったら泣いてしまって……私が見えていますかって、私の声が聞こえますかって、そんなこと聞くんです。
私、本当に彼を傷つけてしまったのですね……」
「ん…」
「でも、彼が起きるまえからさんにんで寝るかってピサロさまが言ってくださっていたので、一緒に寝ましょうって言うことができて……」
「……」
「本当に、よかった…」
「……うん」
「アリーナさん、アリーナさんが昨日アドンに口添えしてくださったそうじゃありませんか。本当に、本当にありがとうございますっ」
「えー私は何にもしてないわよ」

500従者の心主知らず 天然同盟 2/14:2017/05/12(金) 17:40:05 ID:5EK.IaJU
ロザリーほんとに嬉しそう。よかった。昨日アドンとお話ししてほんとうによかった……。

「ねえねえロザリー、昨日はロザリーがまんなかで寝たのよね?」
「え?あ……はい……」
「ふふ。まんなかってすごーく安心するわよね」
「……ええ、とっても安心しました。あの、でも……アリーナさんもさんにんでお休みになったことがあるのですか?」
「うん。クリフトと神父さまとさんにんで寝たことあるの」
「まあ、そうなのですね」

「ねえ、アドンのことぎゅってした?」
「え?ぎゅ?」
「うん。アドンのこと、ぎゅって抱きしめた?」
「あ……はい、実は……」
「そうなんだ!じゃあじゃあ、かたまらなかった?」
「あ……かたまりましたっ」
「やっぱり」
「もう、まだよろいを着てるのかと思うくらいカチカチにかたまって、ベッドから落ちてしまったんです」
「えーそんなにあわててたの?」
「はい…」

うーん、クリフトがベッドから落ちたことはなかったなー。

「すぐ謝ったのですけど、でも、いやではないみたいなんです…」
「うんうん」
「ピサロさまも口添えしてくださったのでまたベッドに戻ってもらったのですが、それでもまだかたまっていて……」

でもやっぱりクリフトと似てるなー。

「顔真っ赤だった?」
「んー、明かりを落としていたのでそこまではわからないのですが……あ、でも熱っぽかったかしら……。
今朝は頬をすこし赤らめていました。ベッドの中でお話ししていたときとか朝ごはんを一緒に食べていたときとか」
「うんうん」
「それなら明かりを落としたときだってきっと……んー……」

ロザリーは首をかしげながら話す。

「でも、とにかくあわてていました。私、あんなに取り乱したアドンを見たのは初めてなんです。
普段は無口で暗くて冷たくて、怖いくらいなんですから」

うん、やっぱり似てる。そっくり。

501従者の心主知らず 天然同盟 3/14:2017/05/12(金) 17:44:07 ID:5EK.IaJU
「あの、でも、どうしてそんなにアドンのこと、お詳しいのですか?」
「んーとね、実はね、クリフトと似てるとこあるなーって思って」
「クリフトさんですか?」
「うん。クリフトもね、ぎゅってするとカチカチにかたまっちゃうの。
ベッドから落ちたことはなかったけど、たぶんクリフトの場合、動けなくなるまでかたまっちゃうからなのかも。
普段はお説教とかお仕事の話とか難しいことばっか言ってるのに」
「……でも、クリフトさんはとても温和な方ではありませんか」
「私に限っては、うるさかったり厳しかったりするのっ」
「……そうなのですか。意外です……。……でも、そう考えると確かに似ていますね」
「でしょー?」

「あの……でしたら、脱力しませんでした?」
「脱力?」
「ええ、なんというか、最初はとても抵抗していたんですけど、途中から力が抜けたように言いなりになってしまうというか……」
「あるあるっ」
「ありますかっ?」
「うん。いっしょに寝るっていうとすっごくさわぐのに、いざいっしょに寝るとなると笑っちゃうくらい静かになるの」
「ああ、やっぱりあるのですね」
「あるよー」
「かと思えば、いきなり強く抱きしめてきたり、子どもみたいに甘えてきたり……しますか?」
「するよ!強引にぎゅってしてきたり、子どもみたいにずっとくっついてたりするー」
「ああ、やっぱりそうなのですね」
「そうだよ!」
「あの、あの、でしたらっ」
「うんっ」

ロザリーは両手で口もとを隠してもじもじしながら小声でつぶやいた。

「「やっ」とか「だめっ」とか「お願いですっ」とか、お…「お許しください」とか「おかしくなります」とかっ……言いました…?」
「…………」

私は今までのクリフトを振りかえる。ものすごく振りかえる。

「言ったっ!!」
「言うんですねっ!アドンだけじゃないんですねっ!!」
「うんっ!私もクリフトだけじゃないんだって安心しちゃったっ!!」

私たちはいったん深呼吸して落ちつく。

「ベッドに入るとあんなに性格の変わってしまう男の人もいるんですね」
「ほんとだよー。普段は大人ぶって難しいことばっか言ってるのに」
「言い方もきつくて冷たいのに」

502従者の心主知らず 天然同盟 4/14:2017/05/12(金) 17:47:55 ID:5EK.IaJU
私たちは顔を見合わせてふふって笑った。

「でも、私……嬉しかったんです」
「ん?」
「アドンにもう一度抱きしめてもらえたこと……。初めて抱きしめてもらったときに拒否してしまったから……。
あなたたちと初めて出会ったときにも抱きしめてくれたけど、あれはたぶん私を守ろうとしてしてくれたことだから……」
「……」
「昨日彼と再会したときに抱きしめてもらえなかったのが本当に寂しくて……
もう一度、彼に、彼のほうから、強く抱きしめてもらえたらなんて、そんなことをずっと思っていたんです」
「…………」

いちどだけ、アドンを拒否して傷つけてしまったことがあるって聞いたのはロザリーと初めて会ったとき。
ベッドのとなりに座らせてもらって、ロザリーのひざまくらで気持ちよさそうに寝てるアドンにいたずらしたときだった。
あのときは、どうして拒否しちゃったのかまでは聞かなかったの。なんだかつらそうで、聞けなかったから……
でも……

「……そっか……。拒否しちゃったのって、ぎゅってされたときだったのね……。私、今聞いちゃってよかったのかな……」
「……ええ、いいんです……。私もそこまでは話していませんでしたね。
あのときは……ただただピサロさまを引き止めたくて、ピサロさまが見えなくなるまで私を押さえているアドンが本当にいやで。
でも、今までは私が泣きやむまで押さえていて部屋にお戻りくださいって言うだけだったのに、あのときはなぜか……
私の名を呼んで、いきなり抱きしめて……私、思わず悲鳴を上げて振りはらってしまって、怖くてお部屋に逃げてしまったんです…」
「ん…」
「……でも、後になって気づいたんです。アドンが震える声で「申し訳ございません」って言ってくれてたこと……」
「……」
「泣いてた……。アドンもあのとき、泣いていたんです。私、気づかなかった……。きっと、今までも泣いてくれてた……。
思い出そうとすればするほど鮮明になっていくんです。私を押さえたあとの彼の声はいつも震えてた……。
私の知らないところで、ずっと泣いてくれてた……。今まで、どれだけ私の知らないところで泣いてくれていたのか、私……」
「……」
「あれ以来お部屋に来てくださらなくなって、手も見せてくださらなくなって……
でも、お茶は飲んでくれるしお話も普通にしてくれたから、
少しずつお詫びの気持ちを重ねていけばいつかまた元に戻れるなんて、単純に考えていて……
あんなに彼を傷つけて追い詰めてしまっていたなんて、私……」

――もう二度とあなたに触れません!触れませんから、どうか、どうかおそばにいさせてください…っ――

「……顔が見えなかったんだから気づかなくても仕方ないと思うわ。ロザリーはなんにも悪くないわよ」
「……」

――私はもう拒否しません。しませんから、どうか触れてください。抱きしめてください――
――本当にごめんなさい、アドン…っ――

「…………」

503従者の心主知らず 天然同盟 5/14:2017/05/12(金) 17:51:47 ID:5EK.IaJU
ロザリーはすこしだけ寂しそうに笑ってありがとうございますって言った。

「彼の心の傷……これで本当に癒すことができたのかしら……」
「きっとできたわよ。私と話してたときもすっごく素敵な笑顔をしてたし、あなたと話してたときだって笑ってたでしょう?」
「……ええ……」

ロザリーは遠い目をして笑ったの。

「アリーナさんもありますか?」
「え?なにが?」
「クリフトさんに抱きしめてほしいって思うこと」
「えっ?」

抱きしめてほしいって思うことー?そんないきなり言われたって。うーん。

「えーっと、私がぎゅってしたいって思うことはたまーにあるけど……ぎゅってされたいって思ったことは……ない、かなー……」
「そうなのですか?」
「うーん……ある、かなー……」
「?」

なんだか口調がカチカチになっちゃってる。なんで?

「あ。でも、ぎゅってされてすっごく安心したことはあるわ。男の人って、肩が広いじゃない。
なんだか全身包まれてる気がするのよね」
「ああ、それはありますよね」
「ねっ」

あ。ちょっと会話が途切れた。よかったー。

「私、どうしてアドンに抱きしめてほしいと思ったのかしら……。
ピサロさまに抱きしめてもらうと、ドキドキして頭が真っ白になって力が抜けて、何にもできなくなってしまうんです。
でも、アドンは……昨日、こちらに向いてほしくて最初に彼を後ろから抱きしめたのは私のほう……。
抱きしめてもらったときもドキドキしたのに、なぜか彼にもっと触れたくなって、肌を寄せて、手を伸ばして……」

ロザリーが両手で口もとを隠した。顔が赤くなってる。

「この違いは何なのかしら。昨日はどうしてあんなにアドンのこと……。
私、どうかしてしまったのかしら……」

今度は顔まで隠しちゃった。ロザリーってほんとに女の人って感じだなー。
なんだかかわいい。

504従者の心主知らず 天然同盟 6/14:2017/05/12(金) 17:55:17 ID:5EK.IaJU
「ドキドキしたのはいっしょなのね」
「……ええ……」

ロザリーは目だけ出して私のほうを見た。

「アリーナさんはどうでしたか?」
「え?」
「クリフトさんに抱きしめられたとき」
「えっ?」

またこっちに来ちゃった!

「えーっと、どうって……」
「どんな感じでした?」

わー!私はいっしょうけんめい頭の中を整理する。えーと。えーと……。

「……私も、クリフトにぎゅってされて名前呼ばれたとき、体がゾクゾクってなって、力が抜けちゃって、なんにもできなかった。
あのときはじいがお部屋に飛びこんできたからそれで終わったけど、でも、もしあのままだったら、私ヘンになってたかも……」
「変に……ですか?」
「うーーー……よくわかんないっ」

自分がなにいってるかもよくわかんない。もう頭の中がぐちゃぐちゃだわ。

「……ドキドキしましたか?」

…………。

「……うん……。すっごくドキドキしてた……」
「……私の、ピサロさまのときと同じような感じなのかしら……」
「あっでもね、あわてるクリフトをぎゅってしたいときもあるの。神父さまをぎゅってしたいときもあるの。
ロザリーは、アドンのときにそうだったのよね。
きっと、ピサロのときだってぎゅってしたいときもあるし、アドンのときだってなんにもできなくなっちゃうときだってあるんじゃないかな。
ロザリーがどうかしてるとかそんなんじゃなくて、そういうものなんだと思うわ。きっとこれ、女の人の法則なのよっ」

ロザリーはきょとんとした目で私を見た。すこしだけ目線を下げる。

「そういうものなのでしょうか……。私がおかしいのではなくて、そういうものなのでしょうか……」
「そうしとこうよ。だって、自分がおかしいなんて考えたくないじゃない。私だって、自分がおかしいなんて思わないもんっ」
「…………そうですね」
「そうよ!」

私たちは顔を見合わせてもういちどふふって笑った。

505従者の心主知らず 天然同盟 7/14:2017/05/12(金) 17:59:03 ID:5EK.IaJU
「なになに、なーにおもしろそうなこと話してるのー?」
「あ、マーニャ、ミネアも」
「……もう、姉さんったら。お話し中ごめんなさいね」
「いいよー。いっしょにお話ししよっ」

「へえー、ベッドに入ると性格が変わる男ねえー」
「ピサロさんがとなりで寝ているまえでロザリーさんと寝るなんて、抱きしめるなんて……」
「ね?おもしろいでしょ?」
「アドンさん不潔です」
「で、どうしてそんなに性格が変わっちゃうか、答えは出てるのかしら?」
「ええと、それは……」
「男の人だからよねっ!」

私は元気よく返事した。

「だってクリフトが言ってたんだもの。目の前に無防備な女の人が寝てると抱きしめたくなっちゃうんだって」
「…………」

しーん。ん?何か間違ったかな。

「あのクリフトさんが、アリーナさんにそんな話をされるなんて……」
「うん」
「クリフトさん不潔です」
「あんたねー、じゃもしあたしがクリフトなりアドンなりと一緒に寝たら、同じことすると思ってんの?」
「え?ちがうの?」
「ロザリー、あんたもそう思うの?」
「えっと……」

私とロザリーはいっしょになって首をかしげる。

「実に大変すばらしい。ねえミネア、どう思う?」
「私に振らないでよ」
「「?」」

「じゃ質問を変えるわ。まずはロザリーから」
「あ、はいっ」
「あなたの恋人はピサロよね。じゃアドンはどういう立ち位置なのかしら?ピサロとアドンとどっちのほうが好きなの?」
「姉さんっ」
「こ、恋人だなんてそんな……。ええと……でも、そ、そうですよね、私……でも、ピサロさまもアドンもとても大切な人で……
あの…………その…………どうしましょう、お答えできません……」
「どっちも好きじゃダメなの?」

506従者の心主知らず 天然同盟 8/14:2017/05/12(金) 18:02:41 ID:5EK.IaJU
なんとなく思ったまんま口にしてみたらマーニャがこっちに向いた。

「あんただって、例えばクリフトとアドンどっちが好きって言われたらどっちかになるでしょ?」
「姉さん…っ」
「うーん、私アドンのことも守るって約束したし、昨日お話ししてすっごく好きになったし、かわいいって思うとこもあるし、うーん……
どっちも好き!」
「…………」
「…………」
「でも、ピサロはちょっと……わかんないけど……でもロザリーだって、好きな人ならどっちかになんて選べないわよね?」
「……はい……」
「…………」
「…………」

「天然同盟のできあがりね。ピサロとクリフトをちょっと哀れに思うわ」
「姉さん、その台詞はアドンさんに失礼よ。それに、だからこそ惹かれるというのもあるんじゃないかしら。無垢で一途でまっすぐで。
……どうしてそんなに純真になれるのかしら……」
「こんだけ男はべらしといて無自覚なんて、妬けるわよまったく。あーもう、あたしがアドンをおいしくいただいちゃおうかしら。
普段は冷徹イケメン、ベッドの中ではヘタレM、喘ぎ方も好みだわ。クリフトのさわやかイケメンとは違った魅力ね。いじめてみたいわ」
「……姉さんと一部同意見だなんて、ちょっと鬱だわ……」
「なにそれどういうこと?」
「お薬を届けたとき私も一度アドンさんとごあいさつしましたけど、姉さんになびくタイプじゃないと思います」
「あんたねー、そこをどうなびかせるか考えるのが楽しいんでしょ?」

マーニャとミネアが私のわからないこと話してる……。

「ねえマーニャ……」
「んーなあに?」
「私、クリフトもアドンも好き。マーニャもミネアもロザリーも、今いっしょに旅してるみんなが好きなの。それって、ダメなのかな…?
だれかひとりに決めないと、いけないのかな…?」
「……アリーナさん……」
「……あーもうあたしの負け!ごめんごめん!」
「え?」
「いいのよ。みんなが好きって、すごくいいことだと思うわ。あたしだってみんなが好きよ。アリーナのことも、ロザリーのことも、大好きよ!」
「……ん……ありがとう……」
「……ありがとうございます……」
「でもね、今あたしが話してたのは、そういう好きとは別の「好き」って感情があるって話だったのよ」
「別の好き?」
「そ。他の誰よりもこの人だけって思うくらいの「好き」って感情が世の中にはあるの。そういう人はいる?って話だったのよ」

他の誰よりもこの人だけ……?

507従者の心主知らず 天然同盟 9/14:2017/05/12(金) 18:06:37 ID:5EK.IaJU
「そうなんだ。ごめんなさい、私、的外れな返事をしてたのね」
「んーいいのよ。楽しいおしゃべりの時間なんだから、気にしない気にしない」
「ん…」

別の好き……。

「ねえ、それってどんな感情なの?どうすればわかるの?」
「んーこればっかりはねえ、教えてもらってわかるもんでもないのよ。自分で感じてみるしかないわねー」
「……そっか」

別の好き……どうすれば感じられるのかな……。クリフトならわかるのかな……。

「天然同盟、確定ね」
「姉さん、ぜんぜんこりてないのね……」
「あの……アリーナさんとクリフトさんは、恋人同士なのですよね?」
「へ?」

いきなりロザリーに言われて私はすっとんきょうな声をあげちゃった。

「ちがうちがう!クリフトとは幼なじみで、家来で、今は大切な仲間なのっ」
「そうなのですか?でも、クリフトさんのこと、とてもお詳しいですよね」
「ええとそれは、幼なじみだからっ」
「そう、なのですか」
「そう!」

あーびっくりした。

「あの……恋人同士でなければ男の人といっしょに寝てはいけないとか、そういう決まり、あるのでしょうか…?」
「んー、ないんじゃないかなあ。私、お城の神父さまやサランの神父さまともいっしょに寝たことあるけどなんにも言ってなかったし」
「……そうですか……?よかった……」

「ね?天然まっしぐら」
「…………」
「それにしてもアリーナ、けっこういろんな男と寝てるのね。神父って、ちょっとすごくない?」
「その神父さんたちが不潔なだけです」
「あんたねー、不潔不潔って、あんただって恋のひとつもすれば不潔なこといっぱいしたくなるのよ?」
「なりませんよっ」
「どうだかねー」

508従者の心主知らず 天然同盟 10/14:2017/05/12(金) 18:10:08 ID:5EK.IaJU
「アドンがとても不思議がってましたよ。どうしてあんなに世話を焼いてくれたのかって」
「んーとね、初めて会ったときからクリフトと似てるとこあるなーって思って、気になっちゃったのよね」
「クリフトさん?……どうしてクリフトさんと似ていると気になるのですか?」
「え?」

あれ、なんでだろう……。

「……それですと、クリフトさんご自身のことは、一番気になるってことですか?」
「えーと、クリフトは、えーと……」

あれ、なんだろう。なんだか今、頭がまっしろになっちゃってる。

「ふふーん。天然同士の会話ってけっこうおもしろいわね。的を射てることすら無自覚なわけだし」
「おもしろがってる場合じゃ……まあ否定はしませんけど」

「えーと、えーと……」
「…………」

あ。やっと思いついた!

「ちがうの。クリフトに似てたのもあったんだけど、なんていうか、守ってあげなくちゃって思ったの。
ちょっと弱そうに見えたのね。
クリフトもよわっちいから守ってあげなくちゃって思ってて、きっとそれが重なったんだと思うわ。
だから気になったのっ」

ロザリーはきょとんとした顔でこっちを見てたけどふふって笑った。

「アリーナさんって、かわいらしいですね」
「え?なにが?」
「だって、クリフトさんの話になるといつもあわてているんですもの」
「えーそうだっけ?」

「アリーナさんは、クリフトさんと約束ごとをされることはあるのですか?」
「やくそくごと?」

「私、いつだったか、アドンにこう言われたことがあるんです。
たとえ廊下で何があっても部屋から出てこないでくださいって、ずっと隠れていてくださいって。
すぐ終わりますからって……。
ピサロさまにも隠れているようずっと言われていて……。
でも私、アドンがあなたたちと戦っていたとき、言いつけを守らないでお部屋から出てしまった……」
「……」

509従者の心主知らず 天然同盟 11/14:2017/05/12(金) 18:14:05 ID:5EK.IaJU
あのときの……。

「でも後悔はしていないんです。
もしあのとき出ていかなかったら、もしかしたら、アドンはあのまま……
あなたたちにも大きな傷を負わせてしまったかもしれないから」
「ん……」
「アドンにもピサロさまにもそのことだけはまだ言えていなくて……
言いつけを破ってしまったことは謝らないといけない、そう思ってはいるんですけど……」
「……」

「私も言いつけをやぶってお部屋にいなかったことあるよ」
「アリーナさんも…?」
「……私も姉さんの言いつけ守らなかったことありますし」
「まあ、ミネアさんも」
「いつのこと言ってんだか見当つかないわ」
「……私そんなに守ってなかったかしら」
「ま、そういうあたしなんてどんだけみんなの言いつけ守ってないんだかわからないけどねっ」
「まあ、マーニャさんもなのですか」
「自慢することじゃないでしょうに……」

みんなそうなのね。
私もクリフトが木から落ちて起きなかったときやお城の神父さまにお別れですって言われたときのことを思い出して言った。

「でも私も後悔してないわ。
もしあのときずっとお部屋にいたらクリフトは起きなかったかもしれないし
神父さまともお別れしなくちゃいけなかったかもしれないから。
神父さまが言ってたの。
自分であえてそうしようと思ってしたことはそんなに謝らなくていいって。
それよりもしてもらったことのお礼を言ったほうがずっといいって。
あのとき言いつけをやぶってもアドンはあなたのこと責めてなかったと思うの。
ピサロも責めてるの見たことないわ。
だからそのお礼を言ったらいいんじゃないかな。そのほうがロザリーも言いやすいと思うんだけど。
少なくとも私は言いやすかったわよ?」
「…………」

「はい、アリーナさんっ」

ロザリーがとっても嬉しそうに笑ったの。出かけるまえにもういちどアドンとお話ししてみますって。
お礼を言ってみますって。
なんだか私も嬉しくなっていっしょに笑った。マーニャとミネアも笑ってくれたの。みんなで笑顔になった。
きっとアドンももっと笑顔になってくれるはずだわ。

510従者の心主知らず 天然同盟 12/14:2017/05/12(金) 18:17:37 ID:5EK.IaJU
おまけ 従者同盟

ガシャァァンッ!!

「わああっ」
「クリフト…」
「え?あ、アドンさんでしたか。おはようございます。体の調子はいかがですか?」
「問題ない」
「そうですか。何よりです」
「クリフト…」
「……あのー、アドンさん、もう少し穏やかな登場はできなかったのでしょうか。
今、塔から飛び降りましたよね?あの窓、三階だったと記憶しているのですが……」
「問題ない」
「そ、そうですか」
「クリフト…」
「あー、えーと……何でしょうか…?」
「お前……アリーナとよく床を共にするそうだな」
「え?と…と?」
「……よく共寝をすると……」
「とっ…いきなり何を言い出すんですか!」
「アリーナから聞いた」
「ひめさまがっ!?」
「一つ、助力を賜りたい」
「ちょ、ちょっと待ってください!いったい何の助力ですっ?」
「アリーナは、その……積極的なのか?」
「はいっ??」
「お前に……抱きついたり、触れたり、するのか?」
「っ…っ???」
「教えてくれ…」
「……ア、アドンさん、ちょっと待ってください。いったん落ち着きましょう。ふぅ……。
話の流れがまったく見えてきません。つまり、最終的に何を知りたいのでしょうか……」
「…………」

「俺は……お、女と寝たのははじめてだからわからんのだっ女の心理というものはっ」
「なっ……わ、私だって女性の心理なんてわかりませんよっ」
「…………」

「お前も男ならさっさとアリーナに想いを告げろ!」
「人の事情も知らないでいい加減なこと言わないでください!あなたこそどうなんですっ!」
「それがわからんから聞いたんだろうが!ロザリー様はピサロ様の想い人なのだっ!」
「…………」

511従者の心主知らず 天然同盟 13/14:2017/05/12(金) 18:21:05 ID:5EK.IaJU
「女の、からだは……なぜあんなに、やわらかいのだ……」
「……それに、あたたかいですし、いい匂いもしますしね……」
「理性を保てというほうが無理だ」
「同感です」
「……いつもお前が先導しているのか?」
「?せん…?今何と言いましたか?」
「あー……エスコート?」
「……ああ……」

「……そうしたいのですが、気がつくと主導権は姫さまに握られています。
そもそも誘うのが姫さまですし」
「……そうか……。俺と同じだな……」
「…………」

「昨夜は最後までしたのですか?」
「っ…するわけないだろうっ!まだピサロ様にも許していなかったそうなのだ。それを、まさか、俺が……」
「……それはつまり、あなたの入る余地もあるということではありませんか」
「…………」

「お前はどうなのだ。アリーナとはどこまでいっているのだ」
「何もありませんよ。あったとしても、病の看病で薬を口移ししていただいたくらいです」
「……ふん、腰抜けが」
「人のこと言える立場ですか!あの方はサントハイムのお世継ぎなのです!
私は一従者にすぎないのです」
「…………」

「魔族は、血筋は優先せんぞ」
「…………」
「強い者、才ある者が上に立つのだ。いかに優れた者とて、その子孫も同じとは限らんからな。
王家だろうが平民だろうが次代を担う者の立ち位置は同じ。そうしてピサロ様は上に立たれたのだ」
「…………」
「それで成り立っている社会もある。覚えておけ」
「…………ありがとうございます」
「…………」

「これでもう発つのだろう?」
「ええ」
「お前とはまだ決着をつけていないからな、それまでは死ぬなよ」
「……姫さまを賭けてですか?」
「…………」

512従者の心主知らず 天然同盟 14/14:2017/05/12(金) 18:24:36 ID:5EK.IaJU
「違う、男の意地を賭けてだ。俺の心は常にロザリー様のものだ」
「…………」
「……まあ確かに、少しだけ揺らいだのは、事実だがな……」
「…………」

――お前の目がなければあのまま触れていた――

「アリーナあの女は無防備すぎるのだ!どこの馬の骨ともわからん男に平然と抱きつく!涙も流す!
だから」
「…………」
「お前がそばにいて、しっかり守ってやれ」
「…………はい」

「あ、クリフトー」
「アドン、そこにいたのですね」
「ウワサをすればなんとやらね」
「なんというタイミングなのかしら」
「え?」
「あ…」
「クリフトー、アドンとなに話してたのー?」
「アドン、私も少しお話ししたいことがあるのですが…」
「ほらほらナイトさん方、お姫さま方がお呼びよ」
「姉さん……」
「っ……」
「っ……」

「アドンさん、あなたはこういうとき、すぐ平常心に戻れる方ですか」
「……この上ない試練だな……。お前はどうだ」
「……この上ない試練ですね……」
「クリフトー?」
「アドン…?」
「もしもーし」
「姉さん…っ」
「…………」
「…………」

「「今行きます!」」
「おーふたりそろっていい返事」

513従者:2017/05/12(金) 18:28:09 ID:5EK.IaJU
核心をつかれてあわてたり頭が真っ白になったりするアリーナ
核心をつかれて取り乱したりしんみりしたりするクリフト
が思いつきやっと描けました…!
長きにわたりましたがピサロナイトでクリアリ(第一弾)、いかがでしたでしょうか。
サイドでピサロザ、ナイロザも進行していますがクリアリに必要な部分しか描いていないので飛んだり抜けたりしています。
流れだけはわかるようにしたつもりですが不足ありましたらどうかお知らせください。

短編集「知られざる伝説」ではロザリーはピサロを恋人と明言していますが
ヒーローズではピサロはロザリーを知り合いと濁して?いる点、
動植物や平和を愛するというエルフの性質から
互いに惹かれつつもまだ完全に恋仲には進展していない関係(ロザリーが無自覚)としてみました。
またアドンのベッドでのやりとりは完全オリジナルです。
もしイメージと違う方いましたらこの従者シリーズでだけはそんな感じでご容赦ください;

あと数投下で6章が一段落しますのでまた2章に戻ります。
サランの神父でクリアリにてアリーナがちょっとヘンになる回投下予定です気長にお待ちいただけたら嬉しいです。

長々と本当にありがとうございました。

514名無しさん:2017/05/13(土) 01:18:59 ID:JUgNQmls
乙です。
ここでアンドレアル登場ですか。
本体同然の幻影をいくらでも作れるなら各所にあっという間に伝達できるのでしょう。
飛べますし。

アドンに会いたいとロザリーからピサロに言わせるなんて、普通に考えたら地雷すぎます。
そういうところに気を回せないところにもアリーナのまっすぐな個性が見えます。

>>464
「心配してくれた」というより「スレの平穏のため空気に合わせてね」だったのかも…。
私も含め、願いをストレートに書かず丁重にオブラートに包む人は多いです。

まあこの場所は2chと違って平和です。存分にお書きください。
投稿できるときに投稿していただかないと、完結まであと何年もかかる予感が…。

515名無しさん:2017/05/14(日) 03:23:07 ID:smQogS42
区切りをつけるとはまことに乙!
果てしない長丁場でも区切りがあれば読了感を味わえるというものじゃ
その気配りには感服せざるを得ますまい

今までになく好みの分かれる作風になったのも個性というもの
色々な派生を見て新たな発見を楽しめるのも二次創作の醍醐味じゃ

投稿できるのなら惜しみなく投稿してくださればよろしかろうて
多く投下されるということは楽しみが増えることを意味するのですから

516従者:2017/05/16(火) 16:29:12 ID:Z9tHm25k
乙ありがとうございます。

>>514
はい、ここでアンドレアル登場です。その節は盛り上げていただきとても楽しかったです。
人外でいながらピサロのロザリーへの想いを理解できる彼(彼女?)ならば
クリフトのアリーナへの想いも即座に察すれる恋の上級者なのかなと考えてみました。

>アドンに会いたいとロザリーからピサロに言わせるなんて、普通に考えたら地雷すぎます。
確かにw
ソロの了承を得たあと戻ったらロザリーがまだもじもじしていたから後押ししつつ
結局二人で(というかほとんどアリーナが)ピサロに言いに行ったという光景が浮かびました。
あのセリフのあとのことは何も考えていなかったんですありがとうございます。

>「心配してくれた」というより「スレの平穏のため空気に合わせてね」だったのかも…。
でしょうね。
私も冗長でしたと伝えなるべく自重を心がけましたがたぶん今とさほど変わっていません;
ただ、当時はどちらかというとクリアリ作品そのものに目を向ける傾向があったようで、
対話スタイルに関してはその一言をいただいただけでその後叩かれたことはありませんでした。
見逃してくださった当時の皆さまにも感謝です。

>>515
ピサロナイトでクリアリ、初投下が約1年前……
読む人も大変ですよね。長々とお付き合いいただき本当にありがとうございます!
励みになります。

517従者:2017/05/16(火) 16:32:41 ID:Z9tHm25k
突然ですが私のイメージするクリアリは
アリーナの幸せを願いつつもその相手が自分だったらとも思うがゆえ嫉妬に思い悩むクリフト
クリフトが他者と息ぴったりだったり楽しげに話していたりするとなぜかもやもやするアリーナ

ピサロナイトでクリアリでいえば
アリーナはアドンに特別な感情を抱いているわけではない(言うなれば捨てられた子犬に向ける同情と似たようなもの)、
アドンもまた怪しい言動はあったが気持ちははっきりロザリーに向いていることを確認、安堵を覚えるクリフトとか

皆さんのクリアリ像はいかがでしょうか。
似たように捉えている方がいましたら嬉しく思います。

518名無しさん:2017/05/23(火) 03:54:25 ID:OK78NeRw
あの世界って、基本的には単一の宗教なんでしょうかね?
宗派すらある感じがしないんですけどね…
宗派の狭間で悩むクリフトとか悪くない気がしています

519名無しさん:2017/05/23(火) 10:50:07 ID:4LiGJ2lY
クリフトの台詞を見る限りではマスタードラゴンを信仰する一神教に見えますね。
サランやミントスでは信仰と恋愛との間で葛藤している台詞が聞けますが
レイクナバではすでに結婚している聖職者と一般人を見て神は祝福するという台詞が聞けます。
コナンベリーでも寄り添う二人を見て咎めるどころか拍車をかける台詞でした。
クリフトの中では神に仕える者でも恋愛していいのではという思いがあり
国や街によって恋愛を禁止している宗派?を見て悩むという感じはありましょうか。

520名無しさん:2017/05/29(月) 03:05:00 ID:uBeATIMs
はっきりとした宗派が出てこないんですよね。
無駄な設定を公開しちゃうとプレイヤーの気が散るからでしょう。

しかし信仰の対象であるマスタードラゴンに会っちゃうと、信仰が変質するような。
既存の宗教は竜の神様を想像によって偶像化しているはずですから。
本物を見たら「本物は違うよ」と思うのは当たり前です。
そこから宗教界で孤立するクリフトという図式もあり得るでしょう。

521名無しさん:2017/06/03(土) 19:34:06 ID:OPoRXKyY
宗教界で孤立するクリフトを見てアリーナが味方したり励ましたりするクリアリとか。

522名無しさん:2017/06/07(水) 23:51:48 ID:QizZ1VKQ
宗教に興味のないアリーナですが、だからこそ宗教界の常識に縛られないわけで、
宗教界で苦しむクリフトを支えやすいのかも知れませんね

523従者【5章:鬱注意】:2017/06/22(木) 13:34:12 ID:Z5vqYFE.
クリフトがマスタードラゴンに対して反応している台詞は見ないんですよね。
神も絶対の者ではないということを知って思い悩むクリフトを支えるアリーナというのもあるでしょうか。

PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、山奥の村編「勇者」24レス分いきます。
6章続きのソロの行きたいところに行くまえにこちらを投下しておきたいと思い割り込み失礼します。
(このまえにも投下しておきたい分があるのですがそれは2章に戻ってからで;)
時期は5章、アリーナたちがソロたちと合流して間もないころのある夜、クリアリパートは10/24以降です。
今回全体にわたり鬱展開、ソロとの抱擁シーンもあるのですがどうしても外せず、何とぞ。
投下を二つに分けようか迷ったのですが切る場所もよくわからなくなったので一気に行きます。
ではどうぞ。

524従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 1/24:2017/06/22(木) 13:38:05 ID:Z5vqYFE.
ソロは時々いなくなる。そのことに気づいたのはまだ出会ってからほんの数日。

クリフトはもう助からないかもしれない、そんな私たちを助けてくれたのがソロたちだった。
ソロもデスピサロをさがしているとわかってそれなら一緒にって旅することにしたの。
けどある夜、ソロとお話がしたくてお部屋をノックしてもソロは出なくて。
扉の鍵は開いていてソロはいなかった。
それから何度かソロのお部屋をたずねてみたんだけどいないほうが多いことに気づいて……
思いきって聞いてみたらちょっと散歩してただけだって言われたの。
でも朝早く行ってもいないときがあって……。

ソロはどこに行っているの?ちゃんと戻ってきているの?

――ちゃんと寝ているの…?――

「ソロ?」

寝る準備もととのってお手洗いもすませてお部屋に戻ろうとしたらソロが階段を下りていくのが見えた。

「どこ行くの?こんな遅くに」
「あー、ちょっと散歩」
「え…」

また散歩?また……。

「ねえ。私もいっしょに行っていい?」
「…………」

「悪いけどひとりで散歩したいんだ。大丈夫。少ししたら戻るから」

ソロは向こうを向いたまま答える。私のほうはちらっとしか見てくれない。
なんだか落ち着かない様子、まるで早くひとりにさせてくれって言ってるみたい。
ソロ……。

「そっか。気をつけてね」
「ああ」
「…………」

ソロ……。
ソロはこっちを見ないまま外に出ていってしまった。

「…………」

ソロ……。

525従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 2/24:2017/06/22(木) 13:42:17 ID:Z5vqYFE.
「………………」

………………よし!
私は思いきってソロのあとを追うことにした。ソロのことが心配だから……。
私もそのまま外に出る。
外はわりとひんやりした。でも上着を取りに戻ってる時間はないわ。ソロを見失っちゃう。
ソロがまっすぐ門を出ていくのが見えた。急ごう。
パトリシア、寝てる。私は馬車のみんなに気づかれないよう姿勢を低くして進んだ。

「姫さま」

ふと声がして振り返るとクリフトがいた。

「クリフト…」
「…………」

クリフト、すっごくかたい顔してる……。

「後をつけるのはどうかと思いますが……」

…………。

「でも……」

ソロのことが心配……。

「…………」
「…………」

私はなんにも言えなかった。クリフトもなにも言わなかった。
そしたらクリフトがゆっくり上を向いたの。

「どうしても行くとおっしゃるのでしたら……」
「……」

クリフトは視線を戻して私をまっすぐ見た。

「どうか私もお供に」
「え…?」
「早く追わないと見失ってしまいます。さあ、急ぎましょう」

クリフトは自分の首にかけていたスヌードを外してこちらをって私の首にかけてくれた。
さっきまでひんやりしていたからだが一気にあったかくなった気がした。

526従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 3/24:2017/06/22(木) 13:46:40 ID:Z5vqYFE.
「……ありがとう……」
「……いえ」

クリフトは下を向いて返事する。そのまま向こうを向いた。

「参りましょう」
「……うん!」

私はクリフトといっしょにソロのあとを追うことにした。

馬車がないせいか静かに歩いているせいか、私たちは魔物に会うことなく追いかけられた。
ソロはどんどん丘をのぼってく。
西の国に行くまえに一度ブランカ王に現状報告したいって言ったのはソロ。
私もブランカの王さまとお話ししたことある、とってもおやさしくておおらかでステキな王さま。
少しだけお父さまを思い出させる王さま……。
ソロが会いに行きたいっていうのがなんとなくわかって私も行こうってみんなに声をかけたの。
あのときはなんとも思わなかったけど、ソロには他にも用事があったのかな。
丘の上に森が広がってきた。ソロは迷うことなく入ってく。私たちも急いで追う。
森がひらけた先にぽつんと家があった。ソロはまっすぐ向かってく。あれは、ソロの家…?

「今夜はあそこで休むのでしょうか」

クリフトも気になったみたい、木のかげから少し身を乗り出してのぞいてた。

「あ、出てきたわ」

ソロは家を出てそのまままっすぐ山をのぼっていった。
足どりはゆっくりだけどいっしゅんも迷いがない。よく知ってる場所なんだ。
私たちも気づかれない距離を保ちながらあとを追った。

どれくらい山をのぼったんだろう、また森に入ってだいぶ進むとまた少し視界がひらけてきた。
道なのかよくわからないせまい谷間を抜けさらに進んだ先でソロは立ち止まる。そのまま動かない。
ここがソロの目的地…?
ソロのあとをついていかなかったらきっとたどり着けなかった。すっごく歩いた気がするもの。
私はまわりを見わたす。なんにもない。向こうに何か立ってる、あれは……木……え?壁?え…?

「ソロ…」
「!!」

ソロが驚いてこっちを見た。
私、壁に見えるものが気になってずいぶん前に進んじゃってたみたい。

「ごめん…」

527従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 4/24:2017/06/22(木) 13:50:10 ID:Z5vqYFE.
ソロの眉にしわが寄る。信じられないって顔……。

「アリーナ…」
「ごめん…っ」

ソロはゆっくり上を向いて大きくため息をついた。そのまま向こうを向く。
きっと迷惑って思ってる……。大迷惑って……
でも……

「ソロ、ここって……」
「…………」

「俺の……」
「…………」
「故郷…」

ソロは小さな声でつぶやくように言った。

――俺の故郷…――

「ソロさん…」

クリフトも私のすぐ後ろまで来ていて消え入りそうな声でしゃべった。

「なんと、言っていいか……」
「……」
「私は、魔物に襲われたという村を見るのは初めてなんです。
こんな……」
「…………」
「ソロさん…っ」
「…………」

だんだん目が慣れてきてあたりがはっきりしてきた。
なんにもない……。
なんにも……
壁のように見えたのはやっぱり壁だった。建物のあと……ボロボロの建物のあと……。
毒々しい色の沼も見えた……至るところにできてる……イヤなにおい……。
月の光に照らされぶくぶくと泡立ってるところも見えた。ここがソロの故郷だなんて……。
人がいなくなっただけのお城とはちがう……

――魔物に、デスピサロに、滅ぼされた村……――

528従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 5/24:2017/06/22(木) 13:54:14 ID:Z5vqYFE.
「…………」
「……」
「………………」

ここにたくさんの人たちが眠っているのね……。
ここに……。
そしてその人たちの魂はみんな遠いお空で、あの世で、私たちを見てる。見守ってる……。

――お母さまのように……――

「ソロ……」
「…………」

ソロはずっと向こうを向いてる。肩を落として下を向いて……。
少しだけ見えた横顔はとても寂しそうだった……。

「ねえソロ……」
「……」
「ソロがそんな顔して落ち込んでたら、死んだ村のみんなもあの世で悲しむんじゃないのかな」
「…………」

私は思ったことをそっとソロに伝えた。

「みんな、ソロにそんな顔してほしくて死んだんじゃないんじゃないのかな……」
「…………」
「姫さま…」
「だからさ……元気だそうよ……。ねっ!」
「…………」

「お前に何がわかるんだよ」
「……」
「いいこと言ったような気になってんじゃねえよ」
「っ……」

ソロの言葉が冷たく突きささる。

「ごめん…」
「………………」

「お前はいいよな」

ソロは向こうを向いたまま話す。声が少し裏返って……

529従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 6/24:2017/06/22(木) 13:58:02 ID:Z5vqYFE.
「お前んとこはまだ生きてるかもしれないんだろ?死んだって決まったわけじゃねえんだろ?」

――まだ希望があるんだろ?――

「けど、俺は……」
「…………」
「お前に俺の気持ちなんかわかりっこしねえよ!!」
「ソロさん……」

…………。

「なによ……」
「……」
「わたしだって……っ」

ソロがゆっくりこっちを向いた。私はまっすぐソロを見る。

「生きてるって信じてる。ずっと信じてるわ。
けど、信じてれば必ず生きてるって保証はないの。もしかしたら生きてないかもしれない」
「姫さま……」

声が震える…。

「わかんない……わかんないのよ!!
きっと生きてるって思えば思うほどそうじゃなかったときのことも考えちゃって不安になる…っ
頭がおかしくなりそうなの!!」
「…………」
「死んでてもいいから早く姿を見せてほしいって、なんでもいいからはやく終わってほしいってっ、
そんなとんでもないことだって考えたことあるのよっ!!」
「姫さま…っ」
「…………」

胸が苦しい。息がうまくできない。涙で前もよく見えない……。

「あなたがどれだけつらいかは私にはわからないわ。
けどあなただって、あたしがどれだけつらいかなんてわかんないわよっ!!!」
「…………」

苦しい。くるしい……。
私はいっしょうけんめいソロを見た。ソロは……おどろいたような、泣きたいような……
ソロもくるしそうな顔してた。眉にしわが寄って……
ソロ……。
ごめん、ちがう、こんなことが言いたいんじゃない。ケンカしたくて追いかけてきたわけじゃないの。

530従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 7/24:2017/06/22(木) 14:02:15 ID:Z5vqYFE.
一緒に旅する仲間ができて本当に嬉しかった。
ソロに夜はちゃんと寝てほしくて、思ったこととかつらいこととかは話してほしくて……
言葉がうまく出てこない。

「どっちのほうがつらいかなんて、そんなので勝ったってぜんぜんうれしくないじゃない…っ」
「…………」
「つらいことだけに目を向けるの、やめようよ……」
「…………」

ソロはずっと泣きそうな顔してる。開いてた口をきゅって閉じて……。
ちがう、言いたいのはこれじゃない。
仲良くなりたいの。一緒に楽しく笑っていきたいの。
クリフトを助けてくれた、デスピサロに少しでも近づかせてくれた、ほんとうにうれしかったの。
だから……
言いたいことのはんぶんも言えてる気がしない。

「いっしょにいこうよ……」

私はソロに手を伸ばした。
いいことなんにも言えてる気がしない。ソロを傷つけただけかもしれない。
けどこれが今の私のせいいっぱい……。

「いこうよ……」
「…………」
「いっしょに。おねがい……」
「………………」

ソロが私に向かってきた。思いつめたような顔……ぶたれる!私はぎゅっと目を閉じた。
そしたら少しして何かが全身にぶつかってきて……
気づいたら私はソロに抱きしめられてた。すぐ後ろにクリフトがいることもわかった。

「ソロ…?」
「ごめん…」

ソロは私を抱きしめたままつぶやくように言った。

「お前はシンシアじゃないのにな……」

シンシア…?

「まって」

ソロが私から離れようとしたから思わず声をかける。

531従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 8/24:2017/06/22(木) 14:06:08 ID:Z5vqYFE.
「離れなくていいよ…」

離れてすぐ向こうを向くソロ……私はソロを後ろからぎゅってした。

「っ……」
「ソロ、だいじょうぶだから」
「……」
「姫さま…」
「だいじょうぶだから…」
「…………」

ソロはその場に座りこんでしまった。
肩が震えてる……。
いつもキリッとしててみんなを引っぱってってくれるソロ……
でも今はなんだかとても小さく見えた。

「…………」
「……」

ソロ……。

「……ったんだ……」

少ししてソロが独り言みたいにつぶやいた。
聞き取れないくらい小さな声で。

「ソロ…?」
「俺が弱かったんだ……」
「……」
「動けなかった」
「……」
「外ではみんなが戦ってたのに……」

――シンシアだって……――

「それなのに、俺……」
「……」
「俺、みんなが殺されて静かになるまで、一歩も動けなかったんだ…っ」
「ソロ…」
「俺がただ、弱かったんだ……」
「ソロ…っ」
「う……っ」
「…………」
「……っ……」

532従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 9/24:2017/06/22(木) 14:09:56 ID:Z5vqYFE.
「勇者ってなんだよ」
「……」
「なんなんだよ…」
「ソロ…」
「ふざけんじゃねえよ……」
「……」
「いきなり……なんにも……っ」
「…………」

――今まで黙っていたがわしたち夫婦はお前の本当の親ではなかったのだ――
――魔物どものねらいはお前の命!魔物どもはお前がめざわりなのだ――
――今は逃げて……そして強くなるのだ、ソロ!わかったなっ!――
――大丈夫。あなたを殺させはしないわ――
――さようなら、ソロ……――
――デスピサロさま!勇者ソロをしとめました!――
――も、もしやあなたは勇者さま!――
――勇者さま、私たちを導いてください――
――ソロさまが世界を救ってくれる勇者さまだったとは!――

――勇者さま――

「ふざけんなよお…っ!!」
「ん……」

――みんなが俺のことを勇者だ希望だって期待してくれてた――
――俺はいつかこの村の先頭に立ってみんなを守ってく人間になるんだって思ってた――
――ずっとそう思ってた。そのためにがんばってたんだ――
――今だって、デスピサロを倒して、村に帰って、カタキは討ったよって報告して…――
――世界を救うとか地獄の帝王を倒すとか、本当はそんなこと……――

「…………」
「…………」

ソロ、震えてる……。
私はずっとソロをぎゅってしてた。ずっとソロの肩に顔を寄せてた。

――どうか震えが止まりますように――

「…………」
「…………」
「今日は俺、戻らないから」

533従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 10/24:2017/06/22(木) 14:14:11 ID:Z5vqYFE.
少しして落ち着いたのかな、ソロは立ち上がって私のほうを向いた。

「この下に木こりの家があるんだ。今日はそこで泊まるから」
「……」

さっきの家……。

「朝にはちゃんと戻ってるから」

ソロは私をまっすぐ見ながら言葉を続ける。

「大丈夫だから……」
「……うん……」

ソロはそれ以上なにも言わなかった。私も返事をしたきりなにも言えなかった。
さんにんでだまって山を下りる。さっきの家のところまで戻ってそこでソロとお別れした。
ソロは今度はちゃんとこっちを向いてくれた。気をつけろよってお見送りしてくれた。

「姫さま」

ブランカまで帰る途中クリフトが後ろから呼ぶ。

「姫さま…」

けど私はクリフトのほうを向けなかった。
たぶん涙で顔がめちゃくちゃだと思うから……。

「だいじょうぶ」

元気よくこたえたつもりなのに声が震えちゃった。もうめちゃくちゃでもいいわ。
私はクリフトのほうを向いた。いっしょうけんめい笑ってみせる。

「姫さま……」
「だいじょうぶだから」
「っ……」
「…………」

どうして……。
どうしてクリフトが泣くの……?
どうして……
クリフトは声を殺して泣いたの。手をぎゅってして……大粒の涙を流して……
クリフト……。

534従者:2017/06/22(木) 14:18:03 ID:Z5vqYFE.
すみません、今回鬱に加えて暴力、流血描写も少しだけ入っていました。
ご覧の際にはお気をつけください。注意書きが遅くなりすみませんでした。

535従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 11/24:2017/06/22(木) 14:22:28 ID:Z5vqYFE.
考えたくなかった。
お父さまが、お城のみんなが、死んで見つかったときのことなんて。
一生かけても見つからなかったときのことなんて……。
けど、時がたっていけばいくほどどうしても考えてしまうの。
もしかしたらお父さまも、大臣も、神父さまも、侍女も、料理のおばさんも、兵士たちも、みんな……
いやだ!考えたくない!!

「クリフトー……」
「はい、姫さま」
「いっしょに寝て……」
「………………」

「はい、姫さま」

クリフトは少し間を置いたけど私を見て返事してくれた。

ブランカに着いてすぐ宿屋へ。
顔を洗ったり手足をふいたりする元気はもうなくて、私はまっすぐお部屋に向かった。
クリフトも静かについてくる。
そのままクリフトをお部屋に招いた。クリフトは胸に手を置いて頭を下げたあとお部屋に入ってくれた。
わたし今、どれだけめちゃくちゃな顔してるんだろう。
気になったけど手と顔を軽くふいただけで終わりにしちゃった。
クリフトがいるからかな、なんか安心してるみたい。

「……」
「…………」

あ、クリフトがかけてくれたスヌード外さなくちゃ。

「これ、ありがとう」

スヌードをクリフトに返そうと思ったけどこれから寝るんだからクリフトも脱ぐだけよね。
私はスヌードを棚の上に置いた。パジャマのしわをととのえてクリフトに声をかける。

「クリフトも脱いで」
「…………」

クリフトは立ったまま動かない。

「クリフト?」
「……姫さま……」
「ん?」

536従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 12/24:2017/06/22(木) 14:26:49 ID:Z5vqYFE.
クリフトは口もとをきゅっと結んだ。私を見たり下を見たりしてる。
なんだろう、私はクリフトの服を脱がそうとベルトに手をかけた。

「…………」

――いけませんわ。私は神に仕える身――

クリフトが手で私を止めた。一度部屋に戻って身を清めてまいりますって。
すぐ戻りますって。
クリフトは静かに、けど急ぎ足でお部屋を出ていった。お部屋がいっしゅんしんとなる。
私もなんとなくくみ置きのお水で顔を洗ってからだをふいてみた。パジャマの埃もしっかり払う。
そしたらお部屋をノックする音がして帽子と肩のベルトだけ外したクリフトが戻ってきた。
手に持ってた帽子とベルトをゆっくり棚に置く。槍もすぐそばに立てかけて。
さっきと変わらずかたい顔してるクリフト。
私は脱がないのって聞いてまたベルトに手をかけてみたらクリフトもまた手で私を止めた。
自分で外しますっていってゆっくり服を脱ぎ始める。なんだろう。なんかヘンなの。
私も侍女に服を脱がせてもらったり着せてもらったりしたけど手で止めたことなんかなかったわ。

「…………」
「……」

そういえばクリフトといっしょに寝るの久しぶりなんだ。
クリフトが倒れたときもいっしょに寝てぎゅってしたかったんだけど私は寝相が悪いから
寝てる間に蹴ったり殴ったりしたらクリフトが死んじゃうと思って我慢してたの。
今クリフトは普通に動いてる。しゃべってる。寝たきりじゃない、熱もない、本当にもう大丈夫なんだ。
やっといっしょに寝られるのね。

「…………」
「……」

上着を脱いで白い服だけになったクリフトがゆっくりこっちを向く。
なんだか思いつめたような顔……なんだろう。さっきからなんなんだろう。

「クリフト…?」
「……姫さま……」
「ん…?」

クリフトがまた胸に手を置いた。

「私が今ここにいるのは、従者として、もしくは幼なじみとして、姫さまのお望みを叶えるためでございます。
決して、決して他意はございません」
「…………」

537従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 13/24:2017/06/22(木) 14:31:04 ID:Z5vqYFE.
クリフトは静かにしゃべった。まるで独り言みたいに。
タイってなんだろう。クリフトは何が言いたいんだろう。なんだかよくわからない。

「クリフトー」
「……はい、姫さま」
「難しいことよくわかんない」
「あ…はい…」
「クリフト、こっちに来て」
「…………」
「はやく寝よ…?」
「………………」

「はい、姫さま」

やっとクリフトがこっちに来てくれた。

ふたりでベッドに座っていっしょにお祈りする。お祈りは私たちの日課。
クリフトがちょっと離れて座るもんだから私から寄ってってくっついたままお祈りした。
姫さまは奥へっていわれて先におふとんに入る。クリフトはあっちに行っちゃった。
え、どこ行っちゃうの?燭台の前で何かしてる。あ、明かりを消すのか。
少ししてお部屋が一気にまっくらになった。
だんだん目が慣れてきてクリフトがゆっくりこっちに近づいてくるのがわかった。
私はおふとんを開けてクリフトを招く。

「はい」
「…………」

クリフトは失礼しますといっておふとんに入ってきた。ひじをついて足を伸ばす。
クリフト、おっきいな。男の人は背が高いし肩幅も広いからおっきく見える。
そういえばソロもおっきかった。ソロも男の人だものね。なんだかやっぱりくやしいな。
あ、クリフトまくら持ってこなかったんだ。あ、そっか。
クリフトがついたひじを少し伸ばしたから私はまくらを外して頭を上げた。

「…………」
「……」
「……?」
「あれ?うでまくら?」
「え?」

クリフトがまたひじを曲げちゃったから私は宙ぶらりんの頭のまま聞いた。

「あ、しないの?」
「え、あ……ど、どうぞっ」

538従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 14/24:2017/06/22(木) 14:35:45 ID:Z5vqYFE.
クリフトが慌ててうでを差し出す。
そのしぐさがなんだかこっけいで私は思わず吹きだしちゃった。
さっきまでの重苦しいクリフトがいっしゅんでどこかにいっちゃったんだもん。
やっぱりいつものクリフトだわ。

「はい」
「は……」

外したまくらをクリフトに渡して私は差し出されたうでまくらに頭を乗っけた。
うん、やっぱり思ったより寝心地悪くないわ。
クリフトもしばらく頭を上げてたけどやっとまくらにぽふって置いた。

「……」
「…………」

クリフト、またちょっと離れようとしてる……?なんだかなあ。
いっしょに寝るのイヤじゃないっていってたしクリフトからお願いしたこともあったくらいなのに。
いつも何を遠慮してるんだろう。私は思いきってぎゅってした。

「っ…姫さま……」
「こうすると安心するから」
「………………」

そしたらクリフトも空いてる手で私をぎゅって返してくれた。
なんだか全身包まれた気分。今夜はぐっすり眠れそう。

「…………」
「……」
「姫……さま……」
「んー」
「…………」
「クリフトあったかーい」
「え……」

私はもっとクリフトをぎゅってした。クリフトがちょっとびくってなる。強くしめすぎちゃったかな。
少しだけゆるめてみる。

「…………」
「……」
「…………っ」

そしたらクリフトももっとぎゅってしてきた。
ちょっと強引なカンジ……さっきのお返しかしら。

539従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 15/24:2017/06/22(木) 14:40:20 ID:Z5vqYFE.
「…………」
「…………」

そういえばソロにもぎゅってされたんだ。ソロもちょっと強引で……なんで今思い出すんだろう。
てっきりぶたれると思ってた。ソロはあのとき何を思ってたんだろう。
なんていってたっけ……お前は……そう、シンシア、お前はシンシアじゃないのにっていってた。
シンシア……

「姫さま……」
「んー」
「…………」

「姫さまは、ソロさんのことを……」
「え?」
「………………」

クリフトはその先をなかなか言わない。
もしかして私が今ソロのこと考えてたの、わかったのかな。口に出してたのかな。
私はクリフトを見た。
クリフトも私を見てたけど目が合ったしゅんかんそらしたのがわかった。

「いえ、その……」
「?」

「ソロ、だいじょうぶかな……」
「…………」

「わざわざあの家に出向いてまで泊まろうとするのですから安心できる場所なのだと思います」

きっと大丈夫ですよ、クリフトは静かにそう答えた。

「そっか。そうよね」
「………………」

クリフトの胸もとに顔をうずめる。

「っ…」

クリフトほんとにあったかい。いいにおいがする。いつものクリフトのにおい。
なんでだろう、ほんとにすっごく安心する。私はそのまま目を閉じた。

「…………」
「…………」

540従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 16/24:2017/06/22(木) 14:45:13 ID:Z5vqYFE.
私はソロのために何ができるかな。どうしたら笑ってくれるかな。
これからのことを考える。いっしょうけんめい考える。
そうすると私も元気でいられるの。
時々今までのことを思い出しちゃって落ち込むときもあるけどそんなときはクリフトが……
そう、クリフトがこうしてそばにいてくれるからなんとかやってこれたの。
クリフトのおかげ……
私、もうひとりじゃなんにもできなくなっちゃったのかな。そういうことなのかな。
くやしいな……。

「……姫さま……」
「んー……」

クリフトもひとりじゃなんにもできなくなっちゃうことあるのかな。
誰かがそばにいないとダメになっちゃうことあるのかな。
神さまとかそういう目に見えない人じゃなくて……
もしかして、私がいないとダメになっちゃうときなんてあるかな。あるのかな。
あの怖い夢じゃなくて……

「…………」
「…………」

ちょっとくらいそうであってほしいな。
私ばっかりクリフトがいなくなったらどうしようって慌てて泣き叫んでじいになだめられて、バカみたいだもの。
ちょっとくらい……

「……姫さま…?」
「…………」

あれ?今クリフトなにかいった?

「んー……」
「…………」

あれ?なにもいってないわよね?あれ…?

「…………」
「…………」

なんだか眠くなってきちゃった。ソロの村までけっこう歩いたから疲れたのかも。
もう目が開けられない。ねむい。

「…………」
「………………」

541従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 17/24:2017/06/22(木) 14:49:20 ID:Z5vqYFE.
ねむい……。

「……姫さま……」
「………………」

ねむ……。

「………………」
「…………」

…………。

「………………」
「………………」
「…………姫さま…………」

――ただあなたの望むままに――

クリフトにもういちど抱きしめられた気がした。


「ちょっとあんたたち、何やってんのよ!!」

マーニャの声が聞こえた気がしてはっとした。私、寝ちゃってた…!
クリフトは?クリフトがいない…!?
昨日ブランカに帰ってからクリフトをお部屋に招いていっしょに寝て……
クリフトが私をぎゅってしてくれたからすっごく安心できてそのまま寝ちゃったの。
クリフトは!?さっきのマーニャの声……
私は着替えもしないでお部屋を飛び出した。急いで階段をかけ下りる。

まだ時間が早いみたい、外には誰もいなかった。
クリフトとソロが門から少し出たところで向かい合ってるのが見えた。

「どうしたの!?」
「アリーナ」

マーニャが困った顔して私を見る。

「あのバカふたり、なんとかしてよ。あたしまだ寝てたいのに」

私は改めてふたりを見た。
ソロ……すっごく怖い顔してる……。
クリフト……まって、口から血がにじんてる!?
クリフト…!!

542従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 18/24:2017/06/22(木) 14:54:06 ID:Z5vqYFE.
「お前はいいよな」
「……」
「大事な大事なご主人さまがそばにいてさ」
「ソロさん…」

え…?

「回復しろよ」
「……」
「お前の得意技なんだろ?」
「…………」

「回復は、しません」
「……」
「魔法でかんたんに治せるような傷など大したことはないんです」
「…………」

――あなたは、魔法では治せない傷を……――

「負って……」
「…………」

「ムカつくんだよ…」
「……」
「そうやって……」

――誰もがみんな知っていた、一番大事なことを俺に教えてくれなかった――
――教えてくれたときにはもういなかった――
――俺の何をわかってくれてたんだよ。何を守ってくれてたんだよ…っ――

「そうやってわかったような振りされんのが一番ムカつくんだよ!!」

ソロがまたクリフトを殴った。クリフトが地面に叩きつけられる。

「ソロ!!」

止めなきゃ……早く止めなくちゃ……!!

「…………」

どうして……
どうして止めに入れないの……?
足がうまく動かない……。
クリフトは口をぬぐいながら起き上がった。

543従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 19/24:2017/06/22(木) 14:57:39 ID:Z5vqYFE.
「確かに私では、ソロさんの本当のお気持ちを察することはできません……」
「……」
「癒して、さしあげることも……」
「…………」

クリフト……。

「ですが……たとえ大切な人を失ったからといって……」
「…………」
「だからといって、誰かを傷つけていい理由にはならないんですっ!!!」

クリフトが大声で叫んだ。ソロがいっしゅんびくっとする。
私もなにかがビリッと走った。

――死ね――

「そんなことをしても、後悔しか残らないんです…っ!!」

――すべて死んでしまえ――

「残らなかったんです…っ!!」
「…………」

――まだいたのか――
――死をもって償え――

「ですから…っ!」
「……」
「ですから……っっ」
「…………」

クリフト……。
後悔しか残らなかった…?
クリフトも大切な人を失ったの…?いつのことを言っているの…?

――だれのことを、言っているの…?――

「どうか…」
「……」
「どうかあなたまで、闇にとらわれないでください…っ」
「…………」
「どうか……」
「…………」
「どうか……っっ」

544従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 20/24:2017/06/22(木) 15:02:04 ID:Z5vqYFE.
クリフトが泣いてる。すっごく泣いてるの……。
クリフト……。

「……どうかっ……っ」
「…………」
「……っ……」
「………………」

――つらいのはあなただけじゃない――

「…………っ」

――よいか、ソロ。強く正しく生きるのだぞ――
――たとえなにが起こってもな……――

「う……っ……」

ソロの顔がくずれてく。くるしそうな顔……。

――結局悪いのは、弱くてデスピサロたちに立ち向かえなかった……――
――デスピサロがねらってたのは俺だったのに…!――
――かくれろ、逃げろって言葉にかまけてほんの一歩も動かなかった……――
――結局悪いのは……――

――俺――

「ああああぁぁぁあああ……っ!」
「ソロさん…っ」
「うあああぁぁああああああ……!!」

クリフトがそっと手を伸ばす。そのままソロをやさしく包みこんだ。
ソロはクリフトの肩に顔をうずめた。ずっと声をあげて泣いてる……。
泣いてる……。
どれだけの間そうしてたんだろう、ふたりはずっと涙を流してた。

「…………」
「…………」
「もう、アリーナは泣かさねえ」
「…………」
「泣かさねえから」
「…………はい」

545従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 21/24:2017/06/22(木) 15:06:31 ID:Z5vqYFE.
ふたりが小声で何か話してる。なんていってるんだろう、聞こえなかった。
お話が終わったみたいでふたりともこっちを向いた。
すかさずマーニャがケンカは終わった?はい仲直りね、バカ同士、とふたりの肩をぽんぽん叩く。
クリフトはすみませんって謝ってたけどソロはへの字口をしてた。
マーニャ、すごいな。私、なんていえばいいかぜんぜんわからなかった。
ソロがクリフトにベホイミする。クリフトが慌ててお礼を言った。
そしたらソロはちょっとびっくりして。ふっと笑っていらねえよって。そういうのいらねえからって返した。
ソロが少しだけすっきりした顔してるように見えた。
クリフトのおかげ……?
ソロは、自分が勇者だってことに納得してないんだ。なるべくしてなったわけじゃないんだ。
いつもキリッとしてるのは、勇者だからじゃなくて、みんなに勇者だって期待されてるから……
ほんとうは無理してる……?ずっと、もやもやしてるのね……。
なんにも解決してない、なにかできたわけじゃない、けど少しだけソロのことわかった気がした。

ソロがお部屋に戻りにいったから私も着替えてくるっていって急いでお部屋に戻った。
ソロの後ろ姿を見てなにか声をかけたかったけどなんにも浮かばなかった。
私はやっぱりソロのつらさをわかることできないのかな……。
着替えて顔を洗ってお祈りしてまたお部屋を飛び出す。
クリフトはまだ下かなと思って階段を下りてったらクリフトとマーニャが玄関口でお別れしてるのが見えた。

「クリフト?」
「姫さま」

クリフトが慌てたようにこっちを向く。マーニャはもう馬車に戻っちゃったみたい。

「マーニャと何か話してたの?」
「…………」

なんだかクリフトがすごく落ち込んでるように見える……。

「クリフト…?」
「…………」
「どうかしたの…?」
「………………」

クリフトはぼんやり遠くを眺めたあとゆっくり下を向いた。
クリフト……私はクリフトが何か言ってくれるまでじっと待った。

「自分の為すことすべてが正しいとは思いませんが……」
「……」
「人の心とは、難しいものですね……」
「…………ん……」

546従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 22/24:2017/06/22(木) 15:10:40 ID:Z5vqYFE.
…………。

「クリフトー……」
「……はい、姫さま」
「さっきソロとケンカしてたとき、後悔しか残らなかったって言ってたわよね」
「…………」

私はあえて話題をそらしてみた。
マーニャと何の話をしてたのか気になるけど、なんだか聞くのはいけない気がして……
そらしちゃった。

「ああ、言ってましたっけ……」

クリフトは静かに返す。

「それ、いつの話…?クリフトの大切な人って……」
「…………」

「それは……」
「…………」

「クリフトの、お母さま…?」
「………………」

――いやだあっ!!いやだああああっ!!!――
――姫さまああああっっ!!!!――

「………………」
「…………」
「……なんと、申し上げればよいか……」

クリフトは下を見たまま答えない。
こっちのほうが聞いちゃいけない質問だったのかな……。

「いつか……いつかお話しいたします」
「…………」
「ですから今はまだ……どうか、秘密にさせていただけませんか…?」
「えー……」

秘密……。

「私の、知ってる人…?」
「…………」

547従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 23/24:2017/06/22(木) 15:14:28 ID:Z5vqYFE.
「はい、とてもよく……」
「…………」

「女の人…?」
「…………」

私はなぜか話を終わらせたくなくて、立て続けに聞いてしまった。
クリフトは黙ってる。すぐ答えない。何か考えごとしてるみたい。

「はい」

少ししてクリフトは静かに答えた。

「そう…」
「はい…」
「…………」

「いつかは教えてもらえるのね?」
「……はい」
「マーニャとなに話してたのかも教えてもらえる?」

すかさず聞くとクリフトは顔を上げて私を見た。
私も目をそらさずクリフトを見る。

「……はい」
「…………」

「わかったわ」
「……ありがとうございます」

クリフトは私に頭を下げた。胸に手を置いてまっすぐ……。
お話はそれで終わった。

私の知ってる女の人……やっぱりクリフトのお母さま?それとも……?
だれなんだろう。なんでこんなに気になるんだろう。
いつかは教えてもらえる……それはいつなんだろうな。
これから向かうのは西の国。キングなんとかっていってた。初めての場所だわ。
ライアンて人がソロをさがしているんですって。
ライアン……クリフトに言われて思い出した、エンドールの旅の扉で会った人。
あのときなぜか気になった人……また会えるんだわ。
昨日の今朝ですっきりしないけど気持ちを切り替えなくっちゃ。
ソロだってもやもやしたままがんばってる。よし、私もがんばろう!

548従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 24/24:2017/06/22(木) 15:18:21 ID:Z5vqYFE.
荷物をまとめて出かけるしたくもととのって、私たちは馬車の前に集まった。
ソロはいつもと変わらないキリッとした顔でトルネコと地図を見てる。
西の国に行くための経路を調べてるみたい。
クリフトもいつもと変わらず私の後ろに控えてた。
じいもマーニャもミネアも変わらない。昨日のことを知ってるのは私とクリフトだけなんだ。

「ヒヒン」

パトリシアが小さく鳴いたと思ったら私を見てた。なんだろう。なんていったのかな。
あ、もしかして私が昨日ソロのあと追いかけたの知ってた…?
パトリシアはそれ以上なにもいわないでまっすぐ向いちゃった。もうこっちを見てくれない。
うーん、わかんないや。
経路が決まったみたい。ここから船で大陸沿いに進みながら西の国を目指すって。
自分たちの船で旅をするなんて初めてだわ。なんだかわくわくする。
今度こそマストのてっぺんまで登るわ!前に船に乗ったときはできなかったから。
よし、目指すは西の国!

549名無しさん:2017/06/24(土) 01:35:11 ID:3t91cNaA
乙とか色々書いて投稿のボタンを押したらブラウザが落ちました。
心が折れましたが、この一言だけは書き残しておきます。

「乙です」

550名無しさん:2017/06/25(日) 15:13:18 ID:eDoZi91s
乙です。

ああいう境遇の人たちの心を私が描くと、リアルな闇を描かざるを得なくなって泥沼化します。
ミネアのようなカウンセラーがいれば解決は不可能じゃないんですが、終盤まで尾を引くこと請け合い。

一話完結で行けるのはすごいと思います。
そんなに簡単に分かり合えるわけがないだろと思っちゃいましたが、拳で語り合う男の友情ってのは存在し、
むき出しの殴り合いから心が通い合うことは割とあることだったりします。
女性的な感性に男性的感性を若干取り入れた作風なんでしょうね。

551名無しさん:2017/06/29(木) 23:32:07 ID:t5QoWJ6M
ここでも乙という言葉を贈らせていただこうかの

遠慮は要りませぬゆえどんどん投下なさればよろしいのじゃ
完結した後には心行くまで推敲した版を時系列で再投下もよろしかろう
いつになるかは知りませぬが完結を楽しみにせざるを得ますまい

552従者:2017/07/06(木) 15:05:56 ID:YWldpXWg
乙ありがとうございます。続きをすぐ投下できそうになく、今回レスだけで失礼します。
いろいろミスが……>>538の2行目、笑うときのふくは「吹く」ではなく「噴く」でしたね。
また、よく考えたら町に入るときは4人でも宿代は全員分払っている件。
あれです、パトリシア及び馬車の見守り番を夜も交代でやってるとかそんな感じで補完いただけたらと;
最後に、今回の殴り合いでソロとクリフトが分かり合えたわけではないのです。
ただ、こうした生き死にの世界で信念を持って生きている人というのは少なからず自分に恥じない生き方をしている人ではないかと。
次回の6章続きで多少は補完できるかもしれません。
>>550さんのリアルな闇も拝見したいです。そこで描かれるクリアリはどんな作風でしょうか。

553名無しさん:2017/07/11(火) 04:31:56 ID:FbyO/sGY
暑くなってきました。
皆様、熱中症にご注意ください。

クリフトもアリーナも、砂漠とかで熱中症になりかけたりしたのかも。
ブライ様は帽子を着用なさった方がよろしいかと。

554名無しさん:2017/07/12(水) 01:25:32 ID:wVnoHSRQ
仏教のお坊さんは夏でも厚着ですが、クリフトの法衣には夏服があるのかな・・・

555名無しさん:2017/07/12(水) 23:17:46 ID:tLt84B02
カトリック教会では季節や祝日によって服の色を変えるのだとか。
シスターは夏服と冬服で色が同じでも微妙に違うとか。
半袖の神父とか見たことないからもし夏服があっても生地が薄いだけなのかな。
アリーナのほうが夏は薄着になりそうだね。すでに腕まくり?してるし。

556名無しさん:2017/07/16(日) 05:00:09 ID:46Nlm8ao
熱中症対策に水分補給、これ大切!
砂漠越えに馬車が必要って何のこっちゃって思ってましたが、馬車に水を積むってことなんですかね?
半日もあれば徒歩で通過できる程度の砂漠だった気がするので、馬車なしで行ける気もするんですが…

557名無しさん:2017/07/29(土) 01:35:35 ID:vPUzXPqg
本格的に暑くなってきましたね。
皆様、食中毒にはお気を付けください。
昼に作った料理が夕方まで無事とか思わない方が良いですよ。

ドラクエ4の世界だと食べ物が腐る気はしないですね。
お弁当が永遠に腐らないんですから。
ネネさんの製造技術が優れすぎているのかも知れませんが。

558名無しさん:2017/07/29(土) 13:53:40 ID:IftSqn9I
トルネコのダンジョンでは
腐ったパンを拾って食べたら毒にあたることがあったような

559名無しさん:2017/07/29(土) 19:00:12 ID:sAkmBXTk
ややこしくなるので、そっちのダンジョンの世界には触れるのを避けましたが…。

トルネコのパンって、高温多湿+時間経過で腐るものでしたっけ?
普通のパンが腐ることはあっても、何かイベントがあって初めて腐るものだったような。
我々の考える腐敗とは別の概念な気がしますけど、どうなのでしょうね。
トルネコが腐ったパンを食べても、腹を下すかと言えばそうでもないですし。

そもそも具のないシンプルなパンが腐敗するのは難しい気も…。
カビは生えますが、よほど水分が多くないと腐敗しづらい気がします。
あの世界の腐敗って何なのでしょうね。

560名無しさん:2017/07/31(月) 00:09:37 ID:VtEboBNo
不思議なダンジョンは物理法則が違う別世界と考えた方が良いかと・・・

561名無しさん:2017/07/31(月) 06:14:22 ID:RSvK.Nw.
アリーナの手料理vs腐ったパン

562名無しさん:2017/07/31(月) 23:24:38 ID:Ep87dGgw
クッキーを作ったら黒焦げ
ケーキを作ったらめちゃくちゃ
アリーナのお茶を飲んだら昇天
失神するほど地獄の味
キアリー必須
パデキア味

アリーナの料理は色々な描かれ方をしてきました

逆に、美味しく料理するアリーナという切り口でSSがあってもいいですね
一般市民に紛れて暮らすとか、料理上達の経緯とか

563名無しさん:2017/08/18(金) 03:36:32 ID:/T/w.Bfw
関東地方では雨天続きで夏なのだか梅雨なのだか分からない今年。
家具の後ろにも風を通さないと壁一面にカビとかあり得ますのでご注意を。

ドラクエ4の世界では、雨の日は傘を使うのでしょうか。
勇者御一行様も戦闘時以外では傘を使うのでしょうか。
傘があれば相合傘もあり得ますね。
クリアリと傘…今まで見たことのない組み合わせですが案外悪くないのかも。

564名無しさん:2017/08/26(土) 14:19:56 ID:P1RPb4t6
「あー雨降ってるー。さっきまで晴れてたのに」
「姫さま、こちらをお使いください」
「え、なんで傘持ってるの?」
「先ほど鳥が低く飛んでいたもので雨になるかと思い用意を……」
「えー?なんで鳥が低く飛ぶと雨になるの?」
「雨の前は湿度が上がるので空を飛ぶ羽虫の羽根が重くなり低く飛ぶようで……」
「うん、わかったわ。行きましょう」(バサッ)
「」
「あれ、クリフトの傘はないの?」
「いえ、私はこれで充分です。両手を空けていたいもので」
「この傘けっこう大きいわ。一緒に入りましょ?」
「えっそれはその…」
「入るの!」
「は、はい。では私が傘を持ちます」
「両手を空けたいんじゃないの?」
「……持ちます!」
「ちょっとクリフト、肩が濡れてるじゃない。もっと傘をそっちにやりなさいよ」
「いえ、それでは姫さまが…」
「っもう、じゃあもっとつっくけばいいんだわ」
「あの、姫さま…!」
「こうすれば私もクリフトも濡れないわ」
「……!」
「まだ回ってないお店がたくさんあるのよね。早く回りましょう」
「……!!」
「ねえクリフト、あのお店とってもおいしい匂いがするわ。行ってみない?」
「はい!姫さま!(ああ、願わくはこの時間が少しでも長く続きますように…)」


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