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投下用SS一時置き場

1名無しさん:2006/05/10(水) 23:41:46 ID:OKj1YCQ2
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

864仄暗い井戸の底から:2006/10/02(月) 01:05:14 ID:ZkVxzoOM
(そして万一危なくなっても、井戸の出口に向けて飛びつきの杖を振るえばいい。
 呆気に取られている間に、私はのうのうと脱出できます。まさに万全)
 戦闘手段、逃走手段……全てを見直し、クリフトは心を落ち着かせる。
 リアを人質に取った時の震えは、もうなかった。
 数多の武器を手にした自信はクリフトの恐怖心を鈍らせ、戦意を高揚させていく。

「では……リアさんといいましたか。
 あなたの大事な仲間達が死んでいく様を今からとくとお見せ致しましょう」
 使える武器を懐に収めた後、ぐい、とリアを引きずり出す。
 猿轡ごしにんー、んーと抵抗をされるが、構わず隠れた家から連れ出した。

 家を出てみれば、そこで井戸をちょうど降りたところの二人の女性の姿が認められた。
 あちらもすぐにこちらの存在に気付いたようで、途端に表情を険しくしている。
(あの凶悪そうな魔物は姿が無い――となれば、あの声の方に向かいましたかな。
 ならばやりやすい。片割れのマリアには既に魔力はないし、熱血女さえ何とかすれば……)

「ようこそいらっしゃいました、お二人とも。
 アリスさん。そのお召し物はイメージチェンジですか?よく似合っておられますよ」
 言ってから気付いたが、あれはなんだろう。宿屋に見たときまではつけていなかったはずだが。
 まさかあの眼鏡の効力が私の居場所を嗅ぎつけた?だとすれば奪っておいても損はないかもしれない。
「……こんな状況でよくそんな軽口が叩けますね、クリフトさん!
 ともかくリアちゃんを放しなさい!そして大人しくお縄につきなさいっ!」
「それは無理な相談です。貴方達には、ここで死んでもらうのですから!」


 先に動いたのはクリフト。さっそく氷の刃を掲げ、高らかに攻撃宣言。
「凍えなさい!氷の刃っ!」
 刃から勢いよく冷気の風が噴出し、彼女たちに襲い掛かる。
 しかしその冷気はアリスの王者のマントにより勢いを削がれ、その冷気は二人の周囲を凍らせるに留まった。
(なんと、あんな防具があるのですか!これでは冷気の効き目は薄い――ならば)

 一方のアリスは王者のマントの性能に感心していた。
 咄嗟にマリアを庇おうと前に出たが、マントのおかげでダメージは殆どない。
 なるほど、アレンから受け取っておいて正解だったようだ。

「あれはトルネコさんの武器!さっそく使いこなしていますね」
「しかしどうしましょう?このまま冷気で間合いを取られるとまずいのでは」
 マリアの手元にはいかずちの杖がある。だが、こんな閉鎖空間で炎を起こしたらどうなるか。
 炎上した密室では余計な煙を吸い込みやすい。
 ましてここは地下。たちまち酸素は減り、呼吸は難しくなるだろう。
 また、炎が燃え広がれば逃げ道もなくなる。
 特に井戸と地上を繋ぐロープが燃えてしまえば、まさに一貫の終わりなのだ。

「ええ、そうですね。でも――」
 攻めるしかないでしょう!と言うが早いか、アリスは隼の剣を構えてクリフトに飛び掛る。
 しかしクリフトはそれを待っていたかのように不敵な笑みを浮かべ、懐から一本の杖を取り出した。
 アリスはそれを見て、先ほどリアを誘拐された際に使われた体力を奪う杖のことを思い出す。
 また力を抜かれたら敵わない、思わず足を止め、その杖の光を避わそうとし――それが仇となる。

「――えっ?」
 魔力の光が放たれたのは、アリスではなく、後方に居たマリア。
 そして振ったのはサギの杖ではなく、『飛びつきの杖』。
 マリアにいかずちの杖を構える間も与えず、クリフトは彼女の身体に氷の刃を突き立てる。
 散った血液は冷気に当てられ赤い氷となって、マリアは氷と共に倒れる。
 悲鳴を挙げる間もない、一瞬の出来事。

「マリアさんっ!」
「んんーんーっ!」
 振り返ったアリスが、瞳に涙を浮かべたリアが叫ぶ。

865仄暗い井戸の底から:2006/10/02(月) 01:05:45 ID:ZkVxzoOM
「ふむ、いけませんな……慣れない移動に、踏み込みが足りませんでしたか」

 一人ごちながらアリスと距離を取るクリフトを他所に、アリスはマリアに駆け寄る。
 しかし彼女の傷はさして深くなく、わずかに脇腹を掠るに留まっていた。
 突然倒されたために頭を打ち、気絶こそしてはいるものの、命に別状はなさそうだ。
 無事を確認し、アリスはほっと胸をなでおろす。
 切りつける体勢が不安定だったことと、彼が元々非力だったことが重なった幸運と言えるだろう。
 しかし回復が必要なのは間違いないし、何より
「……なんてことをっ!」
 傷が軽いからと言って、クリフトの行為が許されるわけではない。
 隼の剣を握りなおし、もう一度アリスが駆ける。

「おや、良いのですかな?そんなことをして」
 クリフトが再び杖を取り出す。しかし今度はアリスはその脅しに屈しない。
 体力を奪われる光を打たれようと、飛びつかれ間合いを詰められようと、この一撃で相手を無力化する!
 しかしそんな決意を嘲笑うかのように、クリフトから振るわれたのは今度は『引き寄せの杖』。
 その魔力の光はワイヤーで拘束され、身動きの取れぬリアの方向へ飛び、直撃する。

「――まさか彼女ごと、私を斬り捨てるとは仰りませんよね?アリスさん」
 リアを盾とするクリフトの前に、アリスは振り上げた隼の剣をピタリと止める。
「くっ、またしても卑怯なッ……!」
「なんとでも仰りなさい、さあ離れなさい!」
 そして今度こそ振るわれたのは『サギの杖』。
 魔力の光はアリスの体を押し飛ばし、再び死なない程度に体力を奪う。

「こんのぉ……っ、正々堂々と戦いなさい!」
「私はただ、生き残るために万策を駆使するだけですよ」
 アリスはすぐに立ち上がるが、その間にクリフトはさらにアリスとの距離をとっていた。
 そして氷の刃をリアに向けながら牽制する。
「さて。これ以上近づいたらどうなるかはお分かりですな?」


(お姉ちゃんが、やられちゃう)
 自分が人質に取られているから、アリスお姉ちゃんが動けない。
(なんとか、しなくちゃ)
 チャンスは今。神官さんが私の側を離れ、アリスお姉ちゃんを狙っている今。

 リアは考える。自分の体を拘束しているワイヤー。これがなければ、私は自分の足でこの場を逃げられる。
 そうすれば、アリスは不自由なく神官さんを追い払ってくれるだろう。
 ならばともぞもぞとワイヤーを引っ張るも、とても少女の力じゃ千切れそうなものではない。
(……あ、これなら――!)
 しかし動いたおかげか、リアはある道具の存在に気付く。
 いそいで縛ったせいか、手首の周りの自由はそれなりにあった。
 慎重にポケットから聖なる守りを取り出し、ワイヤーを少しずつ押し削る。
(お願い、切れて――!)
 もしこんな事をしているのが見つかったら、殺されてしまうかもしれない。とっても恐い。
 だけどどうしてだろう。握り締めたロトのしるしが、全身に勇気を分けてくれた気がした。


「ハッハッハ!気分はどうです?」
 リアがワイヤーと奮闘している間、クリフトはアリスを痛めつけていた。
 避ける事しか出来ないアリスに向けての、『サギの杖』の連射。
「いいわけ、ないでしょうッ……!」
 減らず口を叩いてはいるが、アリスの体は既にぼろぼろだ。
 もう何回魔力の光を浴びただろう。
 だんだんと重くなる体が追撃の回避を困難にし、雪だるま式に魔力の光を浴びていく。
「しぶといですな。心なしか、杖の効き目も悪くなってきたような……」
 しかし『絶対に死ぬことはない』ために、その魔力はいたずらに倒れない程度の体力を奪い続ける。
 それを知らないクリフトは、ただひたすらにサギの杖だけを振り続けていたのだ。

「――いいでしょう、ならば直接私の手で止めを刺してあげましょう」
 やがて痺れを切らしたクリフトは、いよいよとどめをと懐から別の杖を取り出した。

866仄暗い井戸の底から:2006/10/02(月) 01:06:24 ID:ZkVxzoOM
(マリアさんのときと、同じ?それとも別の?)
 頭で色々考えをめぐらすも、どの道体力を失った今のアリスに、その魔力の光をかわす余裕はなく。
 アリスが諦めかけたその時、突然クリフトが杖を取り落とし、前のめりにバランスを崩した。
「ぬうっ!」
 そしてアリスの耳に、聞きなれた少女の声が飛び込んでくる。
「アリスお姉ちゃんっ!」

「な、何故!私の拘束を……」
 すぐに体勢を立て直し、クリフトは背後からの衝撃――拘束を解いたリアが突き飛ばしたのだ――を睨む。
(まさかあんな子供に、あの強靭そうなワイヤーが解かれるとは!)
 リアを拘束していたワイヤーは、トルネコとゲマの戦いにおいて炎に炙られ焦げ目がつき、強度が落ちていたものだ。
 ゆえに少女の力でも、ロトのしるしの様な装飾でも、幸運にも切り解くことができたのだ。
 しかしそんな背景を知らぬクリフトは、文字通り足元を掬われた格好になったことに苛立つ。

「――ええい、こざかしいッ!」
 その感情に任せ、氷の刃を横凪ぎに振るう。
 それは今まさに逃げようと背を向けたリアを深々と切り裂いた。
「リアちゃん!」
 赤い氷を撒き散らし倒れたリアは、そのままぴくりとも動かない。
 それを見たとき、いよいよ溜まりに溜まったアリスの怒りが爆発した。

「あなたは――ッ!!」
 アリスは疲れなどまるでなかったかのように、全速力で駆ける。
 おかげでクリフトが気づいた時には、既にアリスは眼前へと迫っていた。
「ひっ!」
 アリスの怒りに満ち溢れた剣幕に思わず脅えるクリフト。
 もはやこれまでと残された『飛びつきの杖』を出口へ構える。

「逃がしませんッ!」
 アリスはすかさず自分のザックをクリフトに投げる。
 かつてバーサーカーにひのきの棒をぶち当てたように、彼女はコントロールは抜群だった。
 果たして投げられたザックはクリフトの顔面にしたたかに直撃。それは、杖の照準を狂わせるには十分だった。

「はっ……?」
 不安定なまま放たれた魔力の光は井戸の出口から大きく反れ、壁へ着弾。
 結果そのままクリフトは壁に激突し、さらに井戸水の上へ落っこちた。
 めげずに再度逃走を図ろうと出口を探そうと振り返れば、そこにはアリスがどんと立ちふさがっていた。
「許しません!」

「うああああああっ」
 殺される――クリフトは我武者羅に氷の刃を振り回す。
 しかし震えの混じったその刃はアリスに簡単に弾き飛ばされ、更に隼の風が右腕を切り裂いた。
 氷の刃はそのままクリフトの手を大きく離れ、はるか後方の水の中に音を立てて沈んでしまった。
「痛っ!」
 右腕を抑え、苦悶するクリフトをアリスはようやく捕まえた。

「小さな女の子を連れ去るだけに留まらず、あまつさえ刃を向けるなんて!あなたという人は!」
「フ、フフ……何とでも言いなさい!私は姫様を生き返らせるために、優勝しなければならないのですよ!」
 腕の痛みのせいか、追い詰められた狼狽か、クリフトの目の焦点は合っていなかった。
「ハーゴンに従っても、何もいいことなんかないはずです!
 それにトルネコさんが――貴方の事をどれだけ心配していたか、分からないんですか!?」
「知りませんよッ!私の全ては姫様の為、そのためにならなんにでも魂を売りましょう!
 仲間など要らない!他の人間の命など要らない!
 姫様のいない世界など、私にとって何の価値もないんですから!」

 全てを吐露し絶叫するクリフトに、アリスは絶句した。そして同時に理解する。
 両親の死を、呪いへ依存することで逃げようとしたレックスのように。
 仲間の死を、殺した相手を憎むことで忘れようとしたマリアのように。
 彼はただ、大切な人を失った悲しみのやり場に困っているだけなのだと。
 だとすれば彼は、純粋な「悪」ではなかったのかも知れない。……だけど。

867仄暗い井戸の底から:2006/10/02(月) 01:06:54 ID:ZkVxzoOM
「――大切な人を失ったからって、それが他の人を傷つけていい理由にはなりませんっ!!」
 マリアを、リアを、そして友を思うトルネコを傷つけたクリフトを、もはやアリスは許せなかった。

「……ええい、五月蝿いッ!離しなさい!」
 アリスの言葉を耳に入れたくないとばかり、逆にアリスを突き飛ばしたクリフトは
「姫様見ていてください!私が今、彼女に天誅を下します!」
 裂かれた右腕の痛みに顔をしかめながらも、クリフトは瞬く間に早口で言葉を紡ぐ。
「死の腕に抱かれ眠れ――悪よ滅びよ!『ザラキ』ィィッ!」
 そしてついにクリフトの口から、扱い慣れたその呪文が唱えられる。

 ――――しかし、MPが足りない。

「……あなたの魔力もまだ、回復していないでしょう?」
 アリスは静かに、そして憐れむように告げる。彼の魔力がないことは、マリアから聞いていた事だ。
「あ、あ、あ……ああああああああああっ!!」
 クリフトは今度はザックからイーグルダガーを取り出し、いよいよ半狂乱にアリスへと突撃する。
 しかしアリスは真っ直ぐ単調に突き出されたイーグルダガーを右にステップし回避。
 そのまま隼の剣を横に流し、剣道の胴打ちの要領でクリフトを一閃した。

「ぐ、あ、あっ……」
 左半身をほぼ分断され、傷口から大量に出血したまま倒れ転がるクリフト。
 悶絶していたのも束の間、ほっとしたようにどこかへと呟き始める。

「おや姫様、また壁を蹴破られたのですか?ブライさまに怒られたばかりではありませんか」
 彼の目に、この辛い現実はもう写っていなかった。
 写っているのは、かつての日常。サントハイムで愛する姫と過ごす、何気ない、でも幸せな日常。
「まったくしようがありませんなあ、今私も、貴女の所へ――」
 直後口から大量の血を吐いたクリフトは、それを最期に動かなくなった。

「……ごめんなさい」
 アリスはクリフトにただ一言だけ、そう呟いた。


「リアちゃん、遅くなってごめんなさい!今すぐ回復します!」
 戦いが終わり、静まりかえった井戸の中。倒れたリアへとアリスが駆け寄る。
 背中に開いた大きな一文字の傷。
 その傷はマリアよりもはるかに深く、流れ出た血液は既に限界を超えていた。
「私、もうだめ、みたいだから……おねえちゃんに、おねがい」
 搾り出すように言葉を出すリアは回復を断る。

「バカなこと言わないで下さい!必ず助けます!」
 しかしそれが、気休めであることは分かっていた。アリスにもまた、回復できるだけの魔力がないのだ。
 どう足掻いてもこれだけ深い傷の治療ができるわけがない。
 リアもそれを分かっているから、回復は全て傷の浅いマリアに使ってと進言しているのだ。
(それでも……助けるんですッ!)

 ルビスから加護を受けた時、私はある状況で判断を試された。
 砂漠にて遭難した兄弟。倒れて動けぬ兄。残された僅かな水は、兄を背負っては持たないかもしれず。
 ならば倒れた兄を捨て、俺は一人で行くべきなのかと問われた時、私は即答した。
 ――見捨てるな、二人で町へ向かえと。

 諦めない。
 アリスの手から、『ベホイミ』の光が放たれる。リアは驚くも、すぐにありがとうと答えた。
 例えそれが無駄なことだとしても、アリスはそうしなければ気が済まなかったから。

 結局、唱えられたのはその一度きり。やはりそれはリアの最期をほんの少し遅らせたに過ぎなかった。
 回復の光が出なくなったアリスの手は、代わりにリアの手をしっかりと握りしめて。

868仄暗い井戸の底から:2006/10/02(月) 01:07:38 ID:ZkVxzoOM
「これでまた……おにいちゃんたちに、あえるかな……」
 これが、リアの遺言となった。
 全身から力が抜けていくのを、アリスはじっと感じていた。

(きっと、会えますよ……私が、保障します)
 リアの両目を優しく閉じさせ、もう見られていないことを確認してから。
 ついにアリスの瞳から、もう堪える必要の無くなった、大粒の涙が零れ落ちた。

〜〜〜〜〜

 戦いの末に散乱した道具を拾い集めた後、アリスは意識のないマリアを抱えて井戸の中の家に入った。
 死別による精神的疲労、サギの杖の連打による肉体的疲労。アリスは既に満身創痍。
 左腕の傷もあり、さすがにマリアを背負って井戸を脱出するまでには、彼女の体力は残されていなかった。
(これじゃしばらくは、上には戻れませんね……アレンさん、ごめんなさい)
 赤鬼の討伐に向かったであろう、アレンに援護にいけないことを詫び、そして無事を願う。
 アレンだけでなく、宿に残したトルネコたちの安否も心配になる。
 しかしまずは、自分達の問題を解決するのが先。一刻も早く体力を取り戻し、地上へ戻ろう。

 マリアの呼吸は安定していて、まるで眠っているようだった。
 彼女に王者のマントを被せ、即席の毛布にする。
 アリスもそのすぐ側で、少しの休息を取ろうと座り込み、一息。


 ――頭を巡るのは、先ほど殺めてしまったクリフトのこと。
 "ゲームに乗った悪は討つ"と決め、そして彼は"ゲームに乗った悪"だった。
 仲間を何人も傷つけた悪。自分はその悪を討っただけだ。
 ……なのに、このやりきれない気持ちは。
 最期に垣間見た、彼の大切な人への想い。それがアリスの心に深く突き刺さる。

 彼だって大切な人を失わなければ、こんなゲームに呼ばれさえしなければ。
 こんなことにはならなかったはずなのに。平穏な日々を送れていたはずだったのに。
 いや、これは彼だけじゃない。
 この地に呼ばれた誰一人として殺しあう事を、人を傷つける事を、望んでなんかいなかったはずだ。
 誰もこんなところで死ぬ事を、望んでなんかいなかったはずだ。

「……こんな理不尽は、絶対に終わらせなければいけません」


 そしてアリスは一つの誓いを立てた。
 このゲームを仕組んだ元凶を――『真の悪』を、必ず倒すと。


【E-4/アリアハン城下町井戸/黎明】

【アリス@DQ3女勇者】
[状態]:HP1/8 MP0 左腕に痛み(後遺症) 疲労大
[装備]:隼の剣 インテリめがね
[道具]:支給品一式×4 風のマント ロトのしるし(聖なる守り)
    まほうのカガミ 魔物のエサ 氷の刃、イーグルダガー
    祝福サギの杖[7] 引き寄せの杖(3) 飛びつきの杖(2)
[思考]:自身とマリアの回復 『真の悪』(主催者)を倒す

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP1/5 MP僅か 服はとてもボロボロ 脇腹に切り傷(要治療) 気絶
[装備]:いかずちの杖 王者のマント
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1〜2?) ※小さなメダル 毒薬瓶 ビッグボウガン(矢 0)
    天馬の手綱 アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
[思考]:竜王(アレン)はまだ警戒

【E-4/アリアハン城下町周辺→北へ/黎明】

【アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP4/5 MP僅か
[装備]:竜神王の剣 魔封じの杖
[道具]:プラチナソード ロトの盾 折れた皆殺しの剣 ラーの鏡 首輪×2
[思考]:アトラスを倒す この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

※切れたワイヤー(焦げて強度は弱くなっている)はそのまま井戸に放置されています。

【クリフト@DQ4 死亡】
【リア@DQ2サマルトリア王女 死亡】
【残り14人】

869ただ一匹の名無しだ:2006/10/02(月) 17:18:13 ID:dQLCXTb2
乙。
杖の使用回数が誤ってないか?

870ただ一匹の名無しだ:2006/10/02(月) 20:48:10 ID:N28pHoOc
乙!ストーリーの全体的な矛盾は無いからいいんじゃないか?
詳しい感想は本スレで書くよ。

871ただ一匹の名無しだ:2006/10/02(月) 20:58:29 ID:ZkVxzoOM
作者です。
>>869
「祝福された杖は回数が減らない」とのことなので、サギの杖の回数は減らしていません。
(「グレイスカイ」で5に減っていたので、勝手ながら7に戻させて頂きました)
その他の杖の回数につきましてはミスは無いと思いますが、あるようでしたら指摘お願いします。


ではその他には問題ないという声がいくつかいただけましたので、自分で気付いた誤字や表現ミスの修正の後
もう一度推敲し、本日中に本投下しようと思います。ありがとうございました。

872ただ一匹の名無しだ:2006/10/07(土) 02:52:40 ID:X9YI/ins
呪われているのは、誰だ?

「フォルシオンを頼みます!」
へんてこな兜をいじり終ったかと思うと、トルネコは袋から幾つかの武器をとりだし、こちらに見せた。
「トロデさんも、何か使えそうな武器があれば、持っていてください。」
「わしに、のぅ」
取り出された武器は3つ。破壊の鉄球、さざなみの剣、聖なるナイフ。
さて、どれを選ぶか。時間はない。
破壊の鉄球は文句為しに強いが、鉄球の重さはトロデの手に余る。
一番手軽で扱い易い、だが威力は疑問が残る、聖なるナイフ。
魔法を弾くさざなみの剣、切れ味も悪くは無い。
 迷ったが、あるひとつのことに思い至り、ひとつ武器を取る。
「では、これをもらおうかの」
「後をお願いします」
「わかった。ワシに後は全て任せよ」
 自信たっぷりに、ひとつ頷いて見せた。
 トルネコが頷き返す。
「行って来ます。」 
 ククールのように、お互い再び会えないかしれなかったが、笑って送り出す。

 トルネコが去った後、武器を握りしめ、袋を部屋の奥へと置き、宿屋の外へ。
まだ、夜は明けない。
白馬が落ち着くように、開いている片手でその腹をなでてやる。
外では、巻き添えを食う恐れが多すぎる。
「無理やりでも、部屋に入れてやるべきかのう・・・。」
フォルシオンの手綱を取って、宿屋の近くまで導く。
 一瞬、目に光が横切る。
とっさに手綱を放し、地面に転がる。
頭上で、何かが破裂した音。
 『煙?』
あたり一面、煙が立ちこめる。
そのまま転がりながら、煙から脱出しようとする。遠くに行く、蹄の音。
「これは、これは。
おひさしぶりですな。
真に残念ながら、すぐにお別れですがね」

男が自分に向かって左手の鋭い刃物を突き出した。
咄嗟に持っている武器で受け、弾く。
どうやら、間合いが同じくらいの長さであるらしい。
金属同士の高い響き。

伏せた状態では次は避けれない。
死を感じた。例えようも無い恐怖が背中伝う。
武器を握り締める。
この武器を持っていた男の叫びが聞こえたような気がした。
『畜生・・・・・・俺は、何も・・・・・・できないで・・・・・・畜、生・・・・・・』
まだ、まだまだ死ねぬわ。
せめて、わずかばかりとも!!

顔を俯かせ、じりじりと上体を起こしながら、男のほうへ移動する。
「おやおや、降参ですかな。しかし、残念ながら、それは聞けぬのですよ!」
再び繰り出される刃。
捨て身で、至近距離から、握り締めた武器を右手で思いっきり突き出した。

負傷してないマルチェロであったなら、簡単に避けていたであろう刃は、左足を貫通した。
負傷した左目の死角には入りこんでの一撃。
「悪い子には拳骨じゃ。若干、痛いかもしれぬがな」
にやりと笑ってみせた。
「よくも!」
男は距離を取り呪文を唱え始めた。
やれやれ、短気なことだのぅ。
強力な武器を持ってこなくて正解じゃったわい。
ナイフぐらいなら、エイトよ、問題あるまい?後は任せたぞ。
「メラゾーマ!!」
それにしても、いつになったらあやつはわしを父と呼んでくれる のか の ぅ・・ ・。



「くっ。思ったよりも、目のハンデが大きい。迂闊に接近戦は、できんな」
なまじ視界が効き、右目に頼ってしまったのも原因だろう。 
回復魔法で足の負傷を癒す。
切断されなかっただけ、運が良いと思うべきだろう。
 残った目で焼けた死体を見る。
「隠しておくほうが、探しに来たヤツらを分散できるか?
まあ、念の為だ」
マルチェロは、緑の物体を引きずって、近くの家に放り込んだ。

煙から脱出して、戻ってきた白馬は、その一部始終を見ていた。

【E-4/アリアハン城下町宿屋の外/黎明】

【トルネコ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:無線インカム
[道具]:ホットストーン 
     聖なるナイフ さざなみの剣 破壊の鉄球
[思考]:皆の援護に行く クリフトをもう一度説得 
     他の参加者に危機を伝える ピサロといずれ合流

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療) HPほぼ全快 MP1/3
[装備]:折れた皆殺しの剣(呪い克服)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ  
    グスタフの弾(対戦車榴弾×1 発煙弾×1 照明弾×1)
    聖なるナイフ
[思考]:何だあれは?
    城内で休息 隙を見て宿屋を襲撃 ゲームに乗る(ただし積極的に殺しに行かない)

【トロデ@DQ8 死亡】
【残り13名】

873ただ一匹の名無しだ:2006/10/07(土) 11:14:22 ID:TRiNmRr6
崩落したアリアハン城についてノータッチなのは何故なんだぜ?
マルチェロの状態も全く変わってないし。

874ただ一匹の名無しだ:2006/10/07(土) 11:50:29 ID:ksp7RhUM
>>873さんとほぼ同文になりますが…
前話でのマルチェロの態度が全く反映されてないと思います。
アレンを警戒して宿屋襲撃を尚早と見ていたり、アトラス襲来に気付き思考欄「なんだあれは?」と困惑していたのに
それらをガン無視していきなり宿屋襲撃決行、しかもその経緯について全く描写なしというのはいくらなんでも唐突過ぎると思います。

また状態欄の更新も忘れずにお願いします。
マルチェロの状態以外にも聖なるナイフが二本に増えてたり、トロデの支給品が消えてたりとメチャクチャなので。

それらの補完がされれば大筋は問題なくなると思います。
欲を言えば、キャラが死ぬSSなのでもう少し練りこんで欲しいとは思いましたが。

875◇7SO6ndqhUM:2006/10/07(土) 13:00:53 ID:X9YI/ins
コメントありがとうございます。
トルネコ、トロデ、マルチェロの投下、撤回します。
もし投下するときは、修正&構想を練って、あらためて予約することにします。

876闇の誘い −Inter mission− 1/15:2006/10/17(火) 02:45:22 ID:lOarr2Mc
薄暗い闇の中、重厚な金属音が響き渡る。
豪奢な装飾が施された巨大な鋼鉄の扉が両側に開いていき、一人の神官を招きいれた。
扉の内は燭台に灯された僅かな明かりが、申し訳程度に空間を照らしている。
しかし外よりも微かに明度が上がったに過ぎず、部屋の様子がうっすらと視認できる程度であった。
薄明かりの中、真紅のマントをなびかせて神官はゆっくりと部屋の中央へと歩いていく。
灯火がその空間の主、玉座に着く存在をほんのりと浮かび上がらせた。
ここは謁見の間。この神殿の王というべき大神官との謁見を行う場所である。
玉座にあるは当然、悪霊の神々を司る大神官ハーゴン。
その姿を認め、悪魔神官はビロードの赤い絨毯の中央で傅いた。
「ハーゴン様、悪魔神官ネクロス、参上致しました」
その言葉に微動だにしなかったハーゴンの瞼が持ち上がった。
「来たか」
ハーゴンは身体を起こすと右手をスッと頭上に上げた。
すると周囲の燭台に次々と明かりが灯っていき、室内を橙の光で満たしていく。
「お休みのところ申し訳ありません」
「よい、報告せよ」
「はっ」
ネクロスは深く敬礼をし、報告を始める。
「刻は20時間を経過し、日の出まで4時間程となりました。
 脱出を試みる者も未だ存在するようですがそれは叶わず、現在死者は27名を数えております」
「ほう、超えたか」
報告を聞き、ニタリと口を裂く。
「聖杯を管理している悪魔神官はどうした。ここへ呼べ」
「ネメシスです、ハーゴン様」
神官の名を伝えられるが、ハーゴンは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「名などどうでもよい。早々に呼べ」
「……は。差し出がましい真似を致しました」
頭を下げ、ネクロスは思う。
(この方は……変わられた)
かつて共に竜邪神シドーを崇め、世界征服の軍を起こしたときはこうではなかった。
圧倒的な魔力とカリスマを持って12人いた邪神の使徒たる悪魔神官を従え、全世界を相手に一歩も退くことなく戦い抜いた。
そんなネクロスが尊敬してやまなかったハーゴンは今は変わってしまったと強く感じる。

877闇の誘い −Inter mission− 2/15:2006/10/17(火) 02:47:10 ID:lOarr2Mc
教団の崩壊から一年の後、下界にて隠遁していたネクロスたちの前に現れたのが蘇ったハーゴンだった。
ネクロスはその事実に歓喜し、生き残った他の信徒たちと共に再び変わらぬ忠誠を誓った。
だが……その時から微妙な違和感がついて離れない。以前のハーゴンとは何かが違う。
その正体は判らなかったがネクロスは以前のようにハーゴンを信じることが出来なくなっていた。
「では……」
「いえ、その必要はございません」
ネクロスがネメシスを呼びに行くために立ち上がろうとした時、扉の方向から艶やかな声が聞こえた。
振り向くとそこにはネクロスよりも華奢な体格の仮面の神官が立っている。
ネクロスの真紅のマントとは対照的に深蒼のマントを羽織っていた。
「ふふふ……ハーゴン様、ご機嫌麗しゅうございます。
 このネメシス、ハーゴン様に吉報を届けに参りました」
一声で女性と解る透き通った音色とともに、彼女は優雅にネクロスに並び膝を折る。
「ほう、ならば」
「はい。聖杯は満ちまして御座います」
その言葉にハーゴンの顔は歓喜に歪んだ。
「満ちたか!」
「はい、死の際に強い負の想念を生む者が当初の思惑より少なかった為、遅くなりましたが……
 贄も30名に迫り、ついに聖杯を闇の力にて満たしました」
聖杯とはいわばハーゴンが邪神復活の為に用意したエネルギータンクである。
命が消える際に生まれる恐怖、憎悪、悔恨、などの負の精神エネルギーを貯蓄する装置。
命とはもちろん生贄の儀式に参加している者たちであり、その断末魔は首輪を通して聖杯に送られるシステムとなっている。
そして貯蓄されたエネルギーは邪神復活の儀式の原動力、そして復活した邪神の活力となるのだ。
ネメシスのもたらした報に喜色満面の笑みを浮かべるハーゴンとは対照的に、
ネクロスは僅かに身を震わせ、俯いたまま地につけた右手をギュッと握り締めた。
まるで、その報告が危急の報であるかのように。
そんなネクロスの様子に気付くこともなく勢いよくハーゴンは立ち上がる。
「ハーゴン様?」
「儀式を開始する。破壊神降臨の為の扉を開くぞ」
ハーゴンはローブを翻し、ネクロスの脇を通り過ぎる。
「生贄の儀式はどうしますか?」
「当然続けろ。扉を開く寸前で術式は一旦待機状態にする。
 そして破壊神に相応しい依り代を選び出したら、そ奴に破壊神を降臨させるのだ」

878闇の誘い −Inter mission− 3/15:2006/10/17(火) 02:49:12 ID:lOarr2Mc
ククク、とハーゴンは唇の片側を吊り上げる。
「強さなどは仮初めの基準でしかない。真に必要なのは殺し合いの中、生き延びて磨かれた魂の格。
 その為に世界に強い影響力を持った者達を集めたのだからな。
 あるレベル以上の格を持った者たちの中から無作為に選出したために、取るに足りない者も
 混じってしまったようだが……まぁ今となっては関係ない」
扉を通過するところでハーゴンは足を止め、ネクロスへと振り返った。
「祈祷師どもは祭壇にて待機しているであろうな? 悪魔神官よ」
「ネクロスです、ハーゴン様」
その答えに苛つき、ハーゴンは声を荒げる。
「貴様の名前などはどうでも良い!」
「はい、祈祷師総勢7名。祭壇の間にて儀式の準備を進めましてございます」
端にいたネメシスが恭しく敬礼し報告する。
「ふん、それで良い。では後は任せたぞ、悪魔神官」
そういい残し、ハーゴンは回廊の闇の中へと姿を消した。


謁見の間からハーゴンの姿が消え、ネクロスはゆっくりと立ち上がった。
そこにネメシスが声を掛ける。
「どうしたのです、ネクロス? あなたらしくないではありませんか。
 呼び名などに拘るとは……」
「ハーゴン様は……我々を道具としか見ていない。私は役目を果たすだけの悪魔神官であり、
 決してネクロスという一個人としては見てもらえない……」
拳を握り、仮面の奥から声を絞り出す。
「それは公私の区別をつけられているのですよ。今は破壊神復活の為の重要な時。
 僅かな気の緩みが如何な破綻に繋がるとも限りません。不満には思うかも知れませんが……」
「だが以前はこうではなかった! 我々はハーゴン様を師として仰ぎ、ハーゴン様もまた
 我らを邪神の使徒として扱われた! だが今は違う、おかしいとは思わないのかネメシス!?」
腕を振り強弁するが、その様子にネメシスはゆっくりと首を振り肩を竦める。
「それでロトの末裔に敗れたことを教訓となさっているのでしょう。あなたは少し疲れているのです。
 少し落ち着いて休息を取るといいでしょう、ハーゴン様に間違いはないのですから」
そしてネメシスは仮面を外す。プラチナブロンドの髪が零れ、腰までハラリと流れ落ちた。
白い肌に透き通った碧眼を持つその美貌はまさに悪魔的な妖艶さを放っていた。

879闇の誘い −Inter mission− 4/15:2006/10/17(火) 02:51:15 ID:lOarr2Mc
「破壊神の力を持ってすれば世界の征服など児戯に等しいこと。
 我々を否定した世界が我々の手によって理想郷に変わる時も遠くはありません。
 いいえこの世界だけではない、アレフガルドも、あらゆる異世界も、全てハーゴン様のものとなる!
 そうなればハーゴン様は統一された新世界の皇帝。あなたは宰相……いえ大神官でしょうか?」
ゆっくりと歩を進め、ネクロスに近付くとその首に腕を回した。
「そしてその時はネクロス……私はあなたと共に……」
潤んだ瞳でしばし見つめた後、首元にしなだれかかる。
「本当に、そう思うかネメシス……?」
「ネクロス?」
しかしそんな彼女に返ってきたのは冷たい言葉だった。
怪訝な表情でネクロスの顔を覗き込む。
「我らは破壊神の恐ろしさを目の当たりにしたはずだ。ハーゴン神殿を崩壊させたあの恐怖を。
 同じ使徒であった仲間たちもシドーの瘴気によって喰われ、取り込まれた」
「それは……あの時はハーゴン様が既にお亡くなりになってしまったから」
「そうか? ハーゴン様なら破壊神を制御できたのか? 本当に?
 あれは、あれは我ら如きが手を出してよいものではなかったのではないか?」
「ネクロス……待ちなさいネクロス……ッッ」
次第に語気を増すネクロスに危険なものを感じ始め、彼女から血の気が引く。
「あれほどの恐怖を撒き散らかしたものでさえ、不完全な状態だというのだぞ?
 あれはその名の通り破壊の神だ。神に人間の手は届かない……。
 我らは、取り返しのつかないことをしようとしているのではないのか!? ネメシス、我らは……」
「クロード!!」

パァンッ!

空を切る音と共にネクロスの仮面が鳴る。
ネメシスの平手の衝撃で留め金がはずれ、悪魔神官を示す仮面の仮面は乾いた音を立てて地に落ちた。
驚いた顔でネメシスを見る。そこには短く刈り込まれた銀髪の実直そうな青年の姿があった。
ネメシスはブルブルと震え、泣きそうな顔で彼を見つめている。
「何を言おうとしたのです? やめなさい、それ以上はハーゴン様に報告せざるを得なくなります」
「……メリッサ」
呆然と、ただ相手の名を呟く。

880闇の誘い −Inter mission− 5/15:2006/10/17(火) 02:53:32 ID:lOarr2Mc
「本心ではないでしょう?
 あなたは不安だったのですよね? 一度ロトの末裔たちに敗れているという事実が
 この全て上手くいっている現状に不安をもたらし焦燥を駆り立てたのでしょう?
 本心で……本心で言ったわけではありませんね?」
しばらくの沈黙。そして静かにネクロスは口を開いた。
「ああ、そうだな……すまない。確かに以前、我らはアレンたちの急襲に対応できずに敗れた。
 12人いた悪魔神官も10人までもが命を落とし、ベリアルら三邪神までもが敗れた。
 生き残ったのは我ら2人と40に満たぬ僅かな信徒のみ。私は……そのことで悲観的になりすぎたのかもしれん……」
それを聞いてネメシスはホッと安堵の表情を浮かべる。
「もうわかりました。ネクロス、不安なのは解りますが今はハーゴン様に全てお任せすればいいのです。
 焦燥は人を窮地へと追い込みます……休息を取りなさい。人数も減り、盗聴の重要性は減ったでしょうし」
「すまない、ネメシス。そうさせてもらうこととしよう」
地に落ちた仮面を拾うと再び装着し、頷く。
「ええ、何なら次の放送は私が担当いたしましょうか?」
「いや、それはいい。私に与えられた任務だからな……お前も聖杯の制御で手一杯だろう」
「そうでもありませんよ、器が満ちたことで聖杯も安定したようです。
 部下の妖術師3名で充分に制御可能です。まぁ不測の事態が起こる可能性がないとは言えませんが」
「ならばそういったことが起きない為に監督するのがお前の役目だ。こちらのことは心配いらない」
そういうネクロスに思わず小さく微笑む。
「ふふ、相変わらずお堅い人……でもそれがあなたらしいところですね。少し落ち着いたようで安心しました。
 それでは私は持ち場に戻ります。あなたもゆっくりと休んで鋭気を養ってください。
 破壊神の復活の儀式に備えて……ひいては我らが理想郷の実現のためにね」
そういってネメシスは身を翻し、謁見の間を去っていった。
その後姿を見送り、ネクロスはポツリと呟く。
「我らが理想郷の為に……か。
 ネメシス……破壊神を実際に目の当たりにするまではそれも信じられたのだがな……」
そうして彼もその場を後にする。
誰もいなくなるとその空間の灯火はひとりでに消え、謁見の間は再び暗闇で閉ざされた。

881闇の誘い −Inter mission− 6/15:2006/10/17(火) 02:56:41 ID:lOarr2Mc



神殿の一角にある盗聴管理室。
そこには27名の魔術師が慣れない通信機器を使い、首輪を通して送られてくる参加者の音声情報を分析していた。
既に参加者も残り少なくなり手が空いているものもいるが、
その者たちも室外へ出ることは許されずに時折命じられる雑用などをこなしていた。
そしてその情報を取りまとめる室長を任ぜられたのは悪魔神官よりも一階級下の地獄の使い、オリシス。
信徒の中で最年少ながらも天才的な魔術の才能で地獄の使いとなった彼は、部下たちの信頼も厚かった。
「オリシス様、アリアハンのトルネコとレーベのピサロがインカムで繋がったようです。
 これで参加者の全てはアリアハンへと集結することになります」
「そうか、ようやく……ご苦労。分析を続けなさい」
「ハッ」
一人の魔術師の報告に、軽く労をねぎらいオリシスは思案に沈む。
人数は残り十数名となり、その全てが一つの場所に集結を始めた。
それはこの儀式の終わりが近いことを示している。だがその結末は――
「くそっ」
小さく舌を打ち、毒づく。状況が示す儀式の結末は彼の思惑には沿っていなかった。
オリシスは……、いや彼だけでなくこの部屋にいる全ての者はこの儀式の成功を求めていなかった。
彼らもまたネクロスと同じく、破壊神とハーゴンを以前のように信じられずにいたのだ。
だがハーゴンの闇の力に表立って逆らうことは出来ずに今はただ機会を待っている。
そのとき部屋の扉が開いた。入ってきたのは――
「ネクロス様!」
「オリシスか。どうだ、奴らは」
ネクロスの姿を認め、オリシスは敬礼し報告する。
「は、未だ首輪解除までは至らず散発的な戦闘が続いております。
 死者も増え、先ほど残存名が14となったところです」
その報を聞いてネクロスは歯噛みする。
「まだか……まだなのか、世界の英傑たちよ……」
「ネクロス様、聖杯は……」
その様子にオリシスは不安そうに尋ねる。
返ってきたのは、重い首肯だった。

882闇の誘い −Inter mission− 7/15:2006/10/17(火) 02:59:05 ID:lOarr2Mc
「満ちた。もはやシドーの復活まで猶予は幾ばくもない」
「……そうですか……時がないのであればもう、我々が決起するしか……」
意気込んで提案するオリシスにゆっくりと首を振り、ネクロスは諭すようにその肩に手を置いた。
「いや、オリシス……離れの宮にロンダルキアの麓に繋がる旅の扉を用意した。
 お前は魔術師たちを率いてそれでここを去れ」
「そんな、ネクロス様!?」
思いもしなかった言葉にオリシスは悲痛な声を上げる。
ネクロスの決意がその言葉からありありと感じ取れたからだ。
その言葉を聞きつけ、他の魔術師たちも盗聴を放ってネクロスの周囲に集まりだす。
彼らを見渡しながらネクロスは朗々と指示を出す。
「ロンダルキアを下りペルポイへと行くがいい。あそこは我ら邪神軍の脅威が消えたことで
 地上に新たな街を作り移民している最中だ。人手の必要なその時期、素性さえ知られなければ
 魔法使いの一団は好意的に受け入れられるだろう」
肩に置かれた手に自分の手を添え、オリシスは首を振る。
何かを言おうとするが、言葉にならなかった。
「我々はかつて己を認めぬ世界を呪い、邪神の下へ集った。しかしそれは間違いだったのだろう。
 世界に見切りをつけるには早すぎた。だからオリシス、お前たち、……もう一度やり直すのだ。
 もう一度……みんなと一緒に世界を受け入れられるように努力してみよう」
「ネクロス様や他の信徒はどうするのです?」
声を出せないオリシスの代わりに側にいた魔術師が問う。
「祈祷師や妖術師たちは……残念だがもう説得する間も退避させる間もあるまい。
 彼らの担当であるネメシスにその目がない以上、な。ならば私も……責任を取らねばならぬ」
「そんな……一緒に逃げましょうネクロス様! 後は時の英雄たちが何とかします!
 その布石だって打っていたじゃないですか……ここでお別れなんで嫌です!」
オリシスは仮面を外し、ネクロスに縋り付く。そこにはまだあどけない幼さを残した少年の顔があった。
長い黒髪を三つ編にして下げている様がより少年を童顔に見せている。。
「オリシス……安心しろ。残ると言っても私は死ぬつもりはない……私はただ死ぬには罪を重ねすぎた。
 償う為にも私は必ず生き残る。お前たちの住む世界を滅ぼさせぬ為にも破壊神の復活を食い止める」

883闇の誘い −Inter mission− 8/15:2006/10/17(火) 03:00:27 ID:lOarr2Mc
「私たちでは、力になれないのですか!?」
必死に食い止めようとする少年にネクロスは仮面の下で哀しそうに微笑む。
未来あるオリシスたちをこれからの惨劇に巻き込むことは絶対にできなかった。
「お前たちの力では最早どうこうできるレベルではない。私とて怪しいものだ。
 だが私一人ならどうとでも立ち回れようが、お前たちが居てはそれもままならぬ。聞き分けてくれ」
バッサリと切り捨てられ、オリシスは無念に肩を震わせる。
そして……しばしの沈黙の後、涙で濡れた頬を拭と顔を上げ、精一杯の微笑を浮かべた。
「私、待っています。ペルポイで……ネクロス様がいらっしゃるのをずっと待っていますから!」
「ああ、後で必ず行こう。さあ、行けオリシス……ハーゴン様が祭礼の間に入られた今が好機だ」
「はいっ」
ネクロスはオリシスを、魔術師たちを見渡した。
「我々はやり直せる。もう一度新たな人生を歩もう……日の当たる道を行くのだ!」

歓声が、上がった。



誰も居なくなった盗聴管理室。その椅子に座りながらネクロスはゆっくりとため息を吐いた。
「すまんな、オリシス。この地位につくまでに私は限りなく嘘をついて来た。
 そのおかげで……嘘は、上手いのだ」
自分はここで命を落とす。そんなどうしようもない確信がある。
「だが、ただでは死なぬさ」
アリアハンという名の箱庭に自ら身を落とし、勇者たちを手引きする。
おそらく露見するのに時はいらず、すぐさま自分はハーゴンによって殺されるだろう。
だが構わない。刹那でも擬似アリアハンへと入ることが出来ればネクロスに与えられた権限によって
参加者全員の首輪を無効化することができる。そうなれば自分が死すとも希望は残るのだ。
(本当ならば……彼らが自力で脱出するのを待ちたかったが、もうそれだけの時がない)
ネクロスは彼らが自力で脱出できるように、ハーゴンの目を盗んでいくつかのアイテムを支給品に
紛れ込ませていた。ハーゴンが異常な能力を発揮して他の世界から召喚した特別な武器、道具たち。
ネクロスはそれを選別して支給品にする任務を与えられたのだ。
だがさすがにハーゴンの目を何度も謀るのは容易ではなく、ネクロスが紛れ込ませることが出来たのは
ほんの僅かしかなかった。

884闇の誘い −Inter mission− 9/15:2006/10/17(火) 03:02:44 ID:lOarr2Mc
(最も、殺し合いの最中にそのようなアイテムが支給されたとてハズレと思う者が殆どであろう。
 これは私の落ち度だな……)
自嘲して立ち上がる。
おそらく数分でアリアハンへと侵入したことはネメシスに露見するであろう、だが
もしネメシスが自分を庇う為にハーゴンへの報告を躊躇えば、
参加者の首輪解除だけではなく脱出させる猶予も生まれるかもしれない。
(ふん、人の情も計算に組み込む私には地獄こそが相応しい、か)
どこで自分は間違ってしまったのだろう。
かつてムーンブルクの若き神官だったクロード。
だがその才気を古参の神官たちに妬まれ、謂れのない罪を被せられて国を追放された。
彼を陥れた神官たちも、彼を信じなかった国王も、全てが憎かった。
そして紆余曲折を経て邪神教団に入信した彼は天才的な才覚を持って短期間で悪魔神官となり、
ムーンブルク侵攻をハーゴンに進言することになる。
(私には世界を呪うことしか残されていないと思った。くだらぬ世界を滅ぼし新たな理想郷を作る。
 そのハーゴン様の思想こそ正しいと思っていた。だが……)
あの全てが絶望色で塗りつぶされた一夜。
ロトの末裔たちがどうやってか幻影を打ち破ってハーゴン神殿を急襲したあの夜。
ハーゴンは三邪神と悪魔神官を足止めに急遽シドー復活の儀式に入った。
そして、ネクロスが見たのは……次々に黒い瘴気に取り込まれて消滅する仲間の悪魔神官と
絶望的なほどの威圧感を持つ一体の化け物だった。
その姿に知性は感じられない。ただ、ただ、圧倒的な破壊の塊。
それを見てネクロスは逃げた。側に居たネメシスの手を掴み、一目散に逃げ出した。
恐怖と混乱の中、ネクロスが理解したのは「あれ」は理想郷を作るための神などではない。
ただ破壊をもたらすだけの化け物だということだった。
ハーゴンへの尊敬が薄れることはなかったが、破壊神への信仰はその時失われた。
生き残ったは悪魔神官はネクロスとネメシスの二人のみ。残った信徒も40名に満たなかった。
神殿は崩れ去り、二人は信徒を率い、下界に降りて隠遁するしかなかった。
(ハーゴン様も、我らも、全てが間違っていたのだ)
そして再び同じ間違いを繰り返そうとしている。

(全てを……清算する時がきたということか)

885闇の誘い −Inter mission− 10/15:2006/10/17(火) 03:04:50 ID:lOarr2Mc
ただ、破壊神の復活を阻止する。その為に……ネクロスが魔方陣を描こうとしたその時。

 ゾ ク

彼の全身が氷の縄で締め付けられたような錯覚に落ち入った。
ここから離れた場所で凄まじい規模の魔力が弾けたのを感じ取ったのだ。
元来、人間は魔力を感じる力に乏しい。
訓練によってその力をある程度伸ばすことは出来るが魔族と比べれば小さなものだ。
だが、それにも関わらずネクロスの神経はその魔力が発生した位置も、規模も感じることが出来た。
それほどまでに巨大な悪意。それが発生したと思われる場所は……。
「!?」
ネクロスは駆け出す。
彼が感じ取った場所は、オリシスたちが向かったはずの離宮だった。
(まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか!!?)
回廊を駆け抜け離宮に迫ったその時、彼の目前に現れたのは――

「ハ、ハーゴン様!?」

見慣れたローブを纏う大神官の姿にに思わず、足を止め……見慣れた?
いや、常に白地に黒の縁取りだった筈のローブは真っ赤に染め上げられている。
動揺激しいネクロスを見てハーゴンはニヤリと哂った。
「ククク、どうした悪魔神官? 何をそんなに驚いておる?」
震える体をどうにか意志の力で押さえつけネクロスは何とか問いを口にする。
「な、何故このような所に? 祭礼の間に向かわれた筈では?」
「何、この空間に穴が開いているのを感じたのでな。大事の前の小事だ、塞ぎに来たというわけよ。
 まぁお主等に命じても良かったのだが儀式の前に少し運動しておこうと思ってな、ククク」
絶望がネクロスの身体の中を這い回る。
嘔吐感を必死に堪えながら、ネクロスは声を絞り出した。
「な、中には……だ、誰も? 私が何人か人をやっていたので、す……が……」
「ああ……先ほどまでは居たな――だが」
ハーゴンは軽く顎を上げた。
唇を歪めて心底愉快そうに、宣告する。

886闇の誘い −Inter mission− 11/15:2006/10/17(火) 03:06:33 ID:lOarr2Mc

 ... . .
「もういない」

その時、揺れるローブに隠されて目立たなかったが、ハーゴンの手に何かが握られているのが見えた。
黒い荒縄の先にぶら下っているのは ―― 血に塗れたオリシスの生首だった。

「―――――ッッ!!」

全てを理解し、ネクロスは声にならない絶叫を上げた。
(オリシス! オリシス! 私の、私のせいか!? 私が……)
「おやおや、どうした悪魔神官? 気分が悪いなら休んだ方がいいぞ……今、私は気分がいいのでな。
 そのくらいは大目に見よう。それ、見舞いだ」
無造作に手に持つ荒縄……オリシスの三つ編を手放し、ネクロスの眼前へと生首を転がす。
ネクロスを見るそのオリシスの顔は恐怖の表情が凍てついたように張り付いていた。
「あ、あ……あああ……あああああああああああぁ!!!!」
懐から取り出した魔導師の杖を振るい、生み出された火球がハーゴンに襲い掛かる。
しかしハーゴンはそれを片手で受け止めると簡単に握りつぶしてしまった。
「どういう、ことかな? これは」
「黙れぇ!! 我らは、我らはずっと……ずっとあなたに忠誠を誓い従ってきた!!
 それなのに、何故、何故あなたは変わってしまった!? 忠誠の報いがこれかぁ!」
「おかしなことを言う奴だ、私は何も変わってなどおらん。だが、謀反を起こすというなら……」
ハーゴンの魔力が膨れ上がり、暗灰色のオーラとなって燃え上がる。
「死ぬしかないな?」
軽く腕を振ると、パグン、と果実を砕いたような音を立ててオリシスの首が破裂する。
飛散した鮮血がネクロスの仮面に飛び、涙のように零れた。

――咆哮。

己全ての魔力を解放し、全神経をハーゴンへと向けて収束させる。
「私はあなたを二度も死なせたくはなかった。だが、ここに至ってはもはや他に手段なし!
 あなたを討って破壊神復活を未然に防がせてもらう!」

887闇の誘い −Inter mission− 12/15:2006/10/17(火) 03:08:33 ID:lOarr2Mc
ネクロスは高速詠唱に入る。

――天の精霊、歌え断罪の聖歌
  ――大地の精霊、奏でよ破壊の旋律
    ――掲げられし王錫の下、王に成り代わり我は命ず

「落ちよ、万物を砕く精霊の槌!! イオナズン!!」

蒼い光がハーゴンを中心に収束し、そして次の瞬間、閃光となって回廊を破壊の力で満たした。
壁が、床が、天井が、砕け散って粉塵を撒き散らす。
爆風が収まった頃、ネクロスの目の前には中途で途切れた回廊とその先の紫や紺や白などがまだらに輝く
異様な空間が広がっていた。少し離れた場所に千切れた回廊と、それに繋がった離宮が浮遊している。
その斑の空間こそ神の目の届かぬ異空間……その異様である。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
渾身の魔力を込めた最上級爆烈呪文。悪魔神官であればその威力も伝説級、上位の魔族とも遜色はない。
倒せずともかなりのダメージは与えた筈であった。
追撃の為に必死に呼吸を整えながらネクロスは未だ粉煙収まらぬ回廊の途切れた爆心地を睨む。
濛々と煙る粉塵の中――腕が飛び出してきた。
「!?」
まるで鞭のようにしなりながら伸びた腕は意表を突かれたネクロスの顔面を鷲掴む。
「ぐぉおおお?」
そして瞬時に手繰り寄せられた先は、粉煙のなか無傷で立っているハーゴンの目前だった。
「中々の威力だ……少し惜しいな」
余裕の表情でハーゴンはネクロスを吊り上げる。
顔面を掴む腕を必死に取り外そうとするが、ハーゴンの腕はビクとも動かなかった。
(ば、馬鹿な……いかにハーゴン様であろうと今の攻撃を受けて無事でいられる筈が無い!!)
実際、如何な魔王といえどダメージを与える自信はあった。
なのに衣服に汚れの一つもつけることができないとは……。
「ククク……不思議か、自慢の呪文で傷一つつけられないのが? 闇の衣に纏う私に呪文は通じぬ」
「!!」
(や、闇の衣とは……まさか、あの……?)
その時、ハーゴンの握力に耐えかね、鋭い音を立てて仮面に亀裂が入る。

888闇の誘い −Inter mission− 13/15:2006/10/17(火) 03:09:44 ID:lOarr2Mc
「ぎゃぁあああっ!!」
仮面と共に頭蓋骨を締め付けられ、ネクロスは苦悶の叫びを上げた。
それを愉悦の表情を浮かべながら見据え、ハーゴンは哂う。
「さて、ネクロス……と言ったか?」
「な、何だと……?」
まるで初めてその名を口にしたとでもいうようなハーゴン。
そして……ネクロスは全てを悟った。

「き、キィ……貴様はいったい何者だぁああああああああっ!!?」

絶望の叫び。
彼の信奉していた大神官は変わったのではない。
最初から目の前にそんな者は居なかった。
初めから別人だったのだ。

「『ワシ』は……貴様らが崇める存在よ……」

ネクロスを締め付ける握力が更に強まり、仮面は砕け散る。
皮膚が裂け、頭蓋にヒビが入り、それでもさらに脳髄を押し潰そうと圧力は強くなる。
薄れ行く意識の中、ネクロスは祈った。
神に、ではない。

(おおお、未だ篭に囚われし勇者よ、魔王たちよ! 頼むっ!
 仇を取ってくれとは言わぬ! 言えぬ! だが、我が存在の全てを賭けて願う!)

頬骨が砕け、眼球が白濁し、鼓膜が破裂した。

(ただ討ってくれ! 世界が滅びる前にこの、この悪魔をぉおおおおおおおおおおおおおおお)

「さぁ、離宮にいた者たちは取るに足らぬ器だったが……お前ほどの魂の格ならば、
 少しは腹の足しとなろう……クク」

889闇の誘い −Inter mission− 14/15:2006/10/17(火) 03:10:55 ID:lOarr2Mc


 ―― 鍵は ―― 揃って ― いる ―― は ― ずだ ――

その思考を断末魔にネクロスの頭部はトマトのように握りつぶされた。



ネメシスが離宮へと駆けつけた時、そこには全てを終えたハーゴンが立っているだけだった。
「ハーゴン様! 一体なにごとです?」
「何、復活を間近に向かえて破壊神が寝返りをうったのよ。その程度の魔力の暴走だ」
完全に破壊された回廊を見て、ネメシスは戦慄を覚える。
(未だ復活ならない現状で、ここまでの破壊を引き起こしたというのですか!)
「心配はいらぬ。ネクロスがちゃんと己の仕事を果たしたのでな。こういったことはもう起こるまいよ」
「ネクロスが?」
それを聞いてネメシスは安堵する。
自分の説得が効いたのか、かなり張り切っているようだ。ネクロスに任せておけば心配は無いだろう。
今は少し情緒不安定なようだったが元々実力は飛び抜けているのだから。
そして遅れてハーゴンがネクロスの名を呼んだことに気付いた。
(フフフ……なんだ、結局ネクロスの杞憂でしたね。後でこのことを話して安心させてあげましょう。
 ハーゴン様はきちんと我らを見てくれているのだと)
ハーゴンの鮮血に染まったローブについてはネメシスは気にしなかった。
邪教の儀式には血を使ったものも多く、今回のそれも破壊神復活の儀式に際してのことと勝手に解釈したからである。
だからこれから儀式を執り行うハーゴンが血染めのローブを纏っていてもなんら不思議に思わなかった。
「だが、このことでネクロスは放送を任せることができなくなったのでな。次の放送はお前がやれ」
「は、はい!」
ハーゴンの声でネメシスは我に返り、慌てて敬礼をした。
(放送も出来ないほど余裕の無い任務なのね。休む間もなく大丈夫でしょうか?)
だが本当に余裕が無くなるようなら自分を頼ってくるだろう。
(ネクロスが私を頼る……ウフフ)
その場面を想像してネメシスは浮かれた。
そんな楽観的な思考を終えて身を起こすと、ハーゴンは既に回廊の奥へと姿を消すところだった。

890闇の誘い −Inter mission− 15/15:2006/10/17(火) 03:13:42 ID:lOarr2Mc
今回の魔力の暴走は肝を冷やしたが、終わってみれば何の問題もない。
ネクロスは破壊神の力を危険だと思っていたようだが、見ようによってはこれほど頼もしい力もないだろう。
(全ては上手くいっている。世界は私たちのものに……そして)
輝かしい未来を夢見て、ネメシスは足取りも軽やかに歩き出す。
まるで自らの歩く道に薔薇の花が敷き詰められているような錯覚まで覚えた。
真っ赤な道を自分は歩いている。そう、真っ赤な、真っ赤な道を……。


ハーゴンは祭礼の間に向かいながら、軽く拳を握り締めてみた。
(ふむ、この身体の中に長く居過ぎたせいか些か馴染みすぎたようだな。神の魂に影響されて身体が異形へと変質し始めておるわ)
先ほどの戦闘でネクロスを捕らえた伸腕。この身体を使い始めた時はあそこまでの能力は使えなかった。
闇の衣もそうだ。今はまだ数秒間しか維持できないが、今後その時を延ばす自信が実感としてある。
「あるいは……生贄の中から依り代を選ぶよりもこの身体の方が相応しいのかも、知れぬ」
一人ごちて軽く思案に落ちる。が、すぐに切り替えた。
「まぁよいわ。奴らが脱出してしまう事態もなくはない……その時の保険としよう」
(あのネクロスとやらが何やら仕込んでいるようだったからな)
自らの思惑とは違うがそういった事態も面白いといえば面白い。
「甦った『ワシ』の身体はさぞ腹を空かせているだろうからな……」
他の世界を喰らいに行く前に勇者や魔王どもを先に喰らうというのもいいだろう。
そう考え、ハーゴンは――
          ――ハーゴンの姿をした者は哂った。

破壊の神シドーはロトの末裔に敗れ元の世界に戻る時に、最期の力を振り絞り
ハーゴンの身体を再生させて、その中に自分の魂の一部を移した。
そうすることで彼の作り上げたこの空間においては万能に近い能力を持つことができるのだ。
そうした全ては自分の肉体を完全に復活させるため。

薄暗い回廊の中、ハーゴンの笑声と共に闇に彩られた邪神の幻影が薄く哂った様な気がした。

※盗聴をする者が居なくなりました。
※放送は次回からネメシスが担当します。
※任意爆破の可能性は消えましたが禁止エリア侵入による爆破は依然ありえます。

891 ◆jOgmbj5Stk:2006/10/17(火) 03:18:20 ID:lOarr2Mc
ロワも佳境を迎えたことで主催者側のSSを考えてみました。
コンセプトは主催勢力の全貌とその間引き。
そして支給品に脱出アイテムが混じっていることの理由付けです。

いろいろな要素を盛り込んだため、一読しただけでは解り辛い所が多々あると思います。
自分も修正の余地はありまくりだと思いますので、皆さんの意見をお聞かせください。

892ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 10:26:25 ID:U4H9xfQI
びみょ

893ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 10:51:11 ID:clqMX1Qc
修正というより単純に質問なのですが、悪魔神官が女性である必要があったでしょうか。
口調のせいか、悪魔神官(ネメシス)とサマンサやフローラがダブって見える。

894ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 11:05:16 ID:u8FLRLog
サマンサとかとダブるって……
だったらハーゴンも竜王とかとダブるよね
そもそも女である必要があるかって……男である必要もないだろ

自分の好き嫌いで物言うんじゃなくて、もっと展開とか描写にツッコミ入れなよ

895ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 11:52:04 ID:NfsjhkAs
普通に面白いと思って読んだけどなぁ。
書き手さんGJです。

896ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 21:45:28 ID:G50j6Uv2
畜生…主催者側には感情移入したくは無かったが…
ネクロスに燃えちまったじゃねぇか!!

897ただ一匹の名無しだ:2006/10/17(火) 21:58:33 ID:pqC2EnzE
投下乙。
自分はこれといって致命的な問題はないように思いました。
意思が統一されているわけではなかった主催側の描写はとてもよく描かれていたと思いますし
またロワ及び破壊神復活を快く思わないいわゆる内通者のような者がいた、ということで
やや後付けではあるものの脱出フラグに関するアイテムが支給されていたことにも説得力が出てきたと思います。
力作乙でした、本投下を楽しみにしてます。

898ただ一匹の名無しだ:2006/10/25(水) 00:54:56 ID:jFpn9NKQ
age

899 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:40:53 ID:.nWAlbdk
暁の空に怒号が響く。
有明の月は冷たい笑みを微かに湛えていた。

─いやに、静かだ。
生と死を賭けた戦いが、これから始まるというのに、嫌に心地良い。
まるで自分以外の生き物は全て死に絶えたかのようだ。
微かな風の音と、衣擦れの音。
そして、自分の胸の鼓動を除き何も聞こえない。
そう。
あのときと似ている。
今己と肩を並べ戦う竜の眼前に立ったあの瞬間に。
勇者─アレフは、自らの掌の中で昂るような剣をしっかりと握り締め、ぶるりと身震いした。

「…怖気ヅイタカ?勇者」
「まさか。…武者震い、さ。こんな奴を前にして、そうしない男がいるものか」

違いない、と喉を鳴らして小さく笑う、竜王。
彼自身もまた、嘗て無い強大な敵を前に目を輝かせる一人の男であった。

「トルネコさん、気をつけてくれ。…見かけによらず、奴は疾い」
「重々承知してますとも。二度も死に掛けましたからなぁ」

おお怖かった、とおどけて見せる。
死地の中でも挫けない彼の心は、紛れも無く戦士の心。
守る者がいる、という強さ。
彼は、世界を救った大商人であり、一家の主たる父であり。
そして彼は、隣に並ぶ勇者や竜と同じく、勇敢な一人の男であった。
皆が皆、視線を交わすこともなく、心を一つに束ねる。
そんな彼らを見据える巨人の一つ目が、紅くギラついた。

「ガアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
「グォォォォォォォォォォォン!!!」

竜は、鬼へと突進した。
二つの、巨像と見紛う程の体が轟音を立ててぶつかり合う。
一瞬の間を置いて、自分とトルネコも飛び出した。
目配せをして、自分は右、彼には左を任せる。
巨人とガッチリ組み合った竜は、圧されまいと踏ん張った。
竜の足元が沈む、なんという力だろう。
鈍く光る、やや紅く染まった金槌を、アトラスは腕の中の竜へ振り下ろさんと持ち上げる。

「どぉおおおおおっ!」
「グガァッ!?」

しかし、唸りを上げて飛来した鉄球が強かにアトラスの即頭部を打ち据える。
見当違いの方向に振り下ろされたハンマーの先端は大地を穿ち、大きな穴を生んだ。
鎖に引っ張られ、地響きにおっとっとをしながらも、トルネコは踏みとどまる。
ギロリと紅い一つ目が彼を見据えると、即座に大きな足裏が振り下ろされた。

「うひょっ!」

だが、ギリギリのところで腹の脂肪を揺らしながらも転がり避ける。
一瞬遅れて、ドスンと大地を揺るがし二つ目の大穴が空いた。

900 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:41:27 ID:.nWAlbdk
─当たらない。何故、当たらない。

巨人は焦燥の念に駆られて、追撃を加えようと空いた左腕を握り締める。
と、その左拳を竜の爪がガッキと捉えた。
ニヤリ、と竜の唇が持ち上がったような気がしたと思う間も無く、首に牙が突き立てられる。
灼熱のような痛みが首を締め付ける。
食い込んだ牙はどす黒い血液を湧かせた。

「ガアアアアァァァァ!!!!」

言葉にならない言葉を叫びつつ、竜の顎から逃れようと手足を無茶苦茶に振り回す。
そうして、竜の首を強く掴んだかと思うと、自分の首から肉片が千切れ飛び、血が吹き出るのも厭わず強引に引き剥がした。
顔を紅に染めた竜は驚きに眼を見開く。
その視線の先には、振り上げられた巨大な鈍器。
全てを打ち砕かんと、淡い暁の光を受けていた
今目の前の竜の頭蓋を砕かんと、無慈悲に唸りを上げて迫る。
だが、そのとき既に『彼』の準備は整っていた。
竜の背から、巨人の眼前へと跳躍する。

「…─はあっ!」

それは一瞬。
無骨な金属の塊と勇者が、交錯と共に火花と短い金属音を散らせた。
彼の腕に残る確かな痺れは、成功の証。
巨人は、消失した手ごたえに戸惑いを覚える。
竜はその隙を突いて、巨人を蹴飛ばし、距離を取った。
勇者も地へと降り立ち、巨人を見据える。

「…危ない真似をさせる、下手をすれば共倒れじゃないか」
「フン、貴様ノ剣ノ鋭サハ我ガ一番知ッテイル」

全て計算ずくか、と勇者は笑った。
アトラスが自らの手に視線を落とすと、そこには凶器の柄のみが残されている。
相手の凄まじい力を利用した剣技は、鮮やかに決まった。
メガトンハンマーの先端は、暫くの間宙を舞っていたかとおもうと、轟音を立て大地へと埋もれる。

「…あ、あの一瞬で打ち合わせも無しに?何という方達だ」

トルネコは、彼らが宿敵同士と先程聞いた。
だが、どうだろう。
今共に戦う彼らは、そうは見えなかった。
なんと、息の合った『仲間』なのだろう。
そういった感想しか抱けなかった。


アトラスは、役立たずとなった柄を放り投げると両拳を打ち合わせる。
ガツンと、鋼鉄を打ち合わせるかのような重厚な音が耳に届いた。
その動きには淀みが無い。
アトラスの精神テンションは、あの女戦士─アリーナとの戦いの時のように昂っていた。
真っ赤な血、鉄の匂い、荒い呼吸音。
心地よい。
実に、実に心地良い。
自分は、戦いに身を窶す鬼。
戦場が、自分の故郷だ。
ベリアル、バズズと肩を並べての戦いも愉快だったが─

「アトラス…たのしい。とっても……たのしい!!!」

胸が躍る。
戦鬼アトラスは、笑んでいた。
武器は、無くなった。
あるのは、己が両拳。
だが。
─この上ない、業物だ。

901 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:41:58 ID:.nWAlbdk
「グガアァァ!!」

拳が風を切る、爪が空を凪ぐ。
巨体と巨体のぶつかり合いが徐々に激しさを増す。
アレフの剣が、トルネコの鉄球がアトラスに迫る。
だが、文字通り鬼気迫るアトラスはそれらを蝿の子を散らすようにぶちのめす。
何度も何度も、地に伏す3人。
だが、諦めない、彼らもまた負けられない。
何故なら、男だから。
彼らは、男だから。


「グォォオ…!!!」

アトラスの拳が唸りを上げて竜王の鼻面に迫った。
だがそれは、一瞬の差で頬を掠めるに留まる。
ただ、それだけだというのに頬の肉は削がれ、血が溢れる。
竜は微かに狼狽した。
息吐く暇も無く、左腕が胴を凪ぐ。
両腕の防御で直撃は避けたが、その勢いは凄まじく竜の巨体がふわりと宙を舞った。
吹っ飛ばされた竜王アレンは、王城の瓦礫の山へと強かに叩きつけられる。

「アレンさんっ!!!」

トルネコが突進して、足元へと潜り込む。
巨人を支える足。
そこをまず崩すべく破壊の鉄球を振り回し、叩きつける。
だが、アトラスの一つ目がギラリと閃いたかと思うと鉄球をそのまま蹴り返した。
自分の武器に圧倒される結果となったトルネコは、危うく頭蓋を粉々に砕かれる所であった。
頭の上数cmを掠めた鉄球に、股を濡らしそうになる恐怖を感じる。

「だぁっ!!!」
「グ、グアアァ!!!」

先程から単独での一時離脱攻撃を敢行していたアレフであったが、その攻撃は右肩周辺を浅く切り裂くだけに留まった。
この体、全力で切り込まなければ少々の傷にしかならない。
むろん、アレフの剣が鈍ったわけではない。
この鋼をも超越した鍛えられた肉体はまさに鎧、とにかく堅いのだ。
アレフの冴え渡った剣技が尽く弾かれている。
跳躍したアレフを、何度目かの唸る拳が捉えた。

「ガァァァーッ!」
「ぐぁっ…!」

ギシギシと鎧と肉体が軋んで、呼吸が吸えなくなる。
咄嗟に勇者の盾で受け止めるものの、盾を構えた腕が千切れ飛びそうになった。
一瞬が永遠に感じられるように長く感じる。
拳がメリメリと食い込み、アレフは叩き落されて瓦礫に突っ込んだ。
轟音を立てて、ひび割れだらけの壁が崩れ落ちる。

「あ、アレフさん…!アレンさんも」
「グワオオオオオォォ!!!」

トルネコが言った途端に、城壁の破片を撒き散らしながらも竜が立ち上がる。
閉じた口の隙間から、赤い光が漏れていた。
口腔いっぱいに含んだ激しい炎がアトラスめがけ放たれる!
アトラスの巨大な目が見開かれた。
避けようにも炎はもう目の前、防ぐしかない。
アトラスが豪腕をガッキと十文字を描くように組み、防御の構えをとった。
と、そのとき胸に輝くアミュレットが、チャリ、と音を鳴らして輝く。
炎の前に立ち塞がるように、真空が唸った。
渦を描く風、バギマはアトラスを護る盾となり炎を爆散させる。

「グムッ!?」
「な、無傷ですと!?」
「……ベリアル…」

頼れる兄弟、ベリアルのことを思い出す。
─小さな火でも風を送り込めば大きく燃え上がるのだ……
アトラスは火。
ベリアルの言ったとおり!アトラスは…

902 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:42:30 ID:.nWAlbdk
「アトラスは…む、むてき!!!!」
「来ルゾ!!」
「ですがアレフさんが…」
「…大丈夫だ、俺はまだ生きてるよ」

城の瓦礫を掻き分けて、泥まみれとなったアレフが現れる。
お気に入りのマントがもうボロボロだ、とぼやく余裕すら見せた。
体中の痛みは、ベホイミで何とか治療したらしい。

「よくぞご無事で」
「ご先祖の盾のおかげかな。驚きの防御力だ」

光を尚も失わない、伝説の盾をコンコンと叩く。
この盾が無ければ、即死だっただろう。
腕の痺れを振り払い、アレフは再び剣を構える。

「…とはいえ、あいつの防御をどう打ち破るか…」
「炎デ焼クニモ、アノ風ガヤッカイダナ。ト、ナルト…」
「手は、一つしかありません、ね…アレンさん、アレフさん。作戦があります。」
「?」
「奴も同じ手をそう何度も食らうとは思いませんし…一撃に賭けます」

大通りから、アトラスがずんずんと城跡へ迫る。
考えている時間は、もうほとんど無さそうだ。

「…竜王。長い戦いだ、消耗しているだろうが何秒稼げる?」
「見クビルナ。タトエ何日デモ堪エヨウ」
「ではお願いしますよ!…来ました!」
「ブオオオォォォォォ!!!」

まさに、猪突猛進。
前傾姿勢で突っ込むその姿は、突風のようだ。
傷だらけの竜、アレンは荒れ果てた城跡の中心、勢い良くぶつかりあった。

「トルネコさん、頼んだ!」
「任せてください!」

ここでアレフが走り、トルネコは退く。
でっぷりとした体で大汗をかきながらも、大通りに面した城の入り口の跳ね橋付近に陣取った。
アレフの方はというと、竜王の背を駆け上がり、肩に乗る。
時間が無い。
手馴れた様子で呪文を手早く紡ぎ、巨人へと閃光を放つ。

「─ベギラマ!!!」
「グアッ!?」

顔面が不意打ち気味に放たれた炎の帯に包まれ、視界を塞ぐ。
風のご加護か、直撃を避けたものの炎が乱れた為にかえって周りが見えなくなった。
と、腕に伝わる竜の鱗の感触が消失する。
炎の晴れたアトラスの見たものは、竜の背中であった。

「まて!にげるな!!!」
「サア勇者ヨ、覚悟ハイイカ!?」
「いつぞやも聞いた気がするよ、その台詞…ああ、思い切りやってくれ」

トルネコの居る町側へと辿り着き振り向くや否や、アレンはアレフを上へと放り投げた!
アトラスは相手の予期せぬ行動に驚き、上を向く。
足元には気が行っていない。トルネコの読みが当たった。

「とおおおおおおっ!!!」
「グアッ!」

走るアトラスの足元を狙って破壊の鉄球が薙がれた。
見事脛を強打、アトラスはズズンと前のめりに跳ね橋へ倒れこんだ。
それに合わせるかのように、アレフは絶妙のタイミングで跳ね橋の支える鎖を断ち切った。
水音と共に鎖が堀へと引きずりこまれる。
そして、トルネコがとどめとばかりに橋の支え目掛け鉄球を直撃させた。
ぴしり。
破壊の兆が、ぴしり、ぴしりと徐々に広がる。
橋は、轟音を上げてアトラスもろとも崩落した。

903 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:43:03 ID:.nWAlbdk
「グガアアアアァァァァァッ!!?」

豪快な水飛沫と共に、アトラスが堀へと消える。
トルネコが思わず歓声を挙げ、アレンが空の勇者へと叫んだ。

「振ルエ!!!勇者!!!」

その声は確かに彼に届く。
脈動する剣からは、稲光が漏れ出す。
押さえ付けることが困難なほど、この剣は力の捌け口を求めていた。
今、限界まで凝縮された雷が剣から溢れ出した。
勇者はありったけの力をその両手に込めて、水底の巨人へと振り下ろした。

「う、おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

耳を劈く轟雷が、神の裁きと見紛う程に閃く。
ギガデインは勝利への思いを乗せて、全てを貫かんと打ち下ろされた。
水を伝わり、アトラスの全身をくまなく雷撃が駆け巡る。
熱い。
身を焦がされ、体の内までも焼かれ。
痺れ震えるその腕は空を掴み、そして動きを止めた。
水底の巨人は、それっきり沈黙する。

随分長いこと宙を舞っていたアレフは、堀へと落下することなく竜の掌に受け止められた。
荒い息を抑えることなく、大の字になる。
決死の作戦はどうやら成功したと認識するのに、しばし時間がかかった。
トルネコの方はというと、腰を抜かしてへたり込んだ。

「…ドウヤラ。ウマクイッタヨウダ」
「え、ええ…そのようですね。皆さん無事で何よりです」
「勇者。休ム暇は与エンゾ、マダヤルコトハアルダロウ」

少々乱暴にアレフを地に下ろすと、アレンはようやく姿を元に戻す。
どっと疲労が襲ったか、膝を突いて息を大きく吐いた。
アレフのほうも痛む体を奮い立たせ、とにかく立ち上がる。

「さあ、かなりの時間を食ってしまったな…キーファや、トルネコさんの仲間達が心配だ」
「ええ、今頃待ちくたびれているのでは」
「疲れているだろうが、休息は後だ。直ちに…ッ!」
「!?」

アレンが、見たことも無いような驚きの表情と共にアレフを突き飛ばす。
一体何だ?
そんな疑問を投げかける間もなく紅い風が巻き起こる。
アレンはその風に吹き飛ばされたのか、遥か宿屋の方まで吹っ飛ばされて叩きつけられた。

904 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:43:39 ID:.nWAlbdk
「…!!!ッ、りゅうおぉーーーーーーーーーー!!!!」
「そんな…まさか……!!!」


風の正体は、堀から伸びた鬼の腕。
アトラスが重い体を震える諸手で持ち上げていた。
血走った眼、焦げた巨体。
だが尚も立ち続けるその鬼は、確かに『無敵』に見えた。

「貴様ぁーーーーーッ!!!」
「アレフさん、危ない!」

ゴフー、ゴフーと荒い呼吸の赤鬼が向かう勇者に拳を振るった。
だが、それをかわす勇者の跳躍は凄まじく高く、グングン伸びて巨人の眼前へと迫った。
太陽が見える。
日の出だ。
眩い光が剣を閃かせる。
そして次の瞬間にアトラスの眼から、全ての光が失われた。

「グアアアアァッ!!!!!」
「─竜の吐息よ…この掌に宿れッ!!!」

勇者の手を焦がさんばかりに燃え盛った炎が渦を巻き、凝縮され、光り輝き、バチバチと爆ぜる。
炎は雷と呼べそうなまでの輝きを見せていた。

『ベ ギ ラ マ !!』

いかなる術者のベギラマでも聞けぬような轟音が、響いた。
その凄みは巨人の巨体を宙に舞わせ、城跡へと埋める。
後ろに倒れるように、アトラスは堀を飛び越え叩きつけられた。
その途端、もう崩れる所も無いような城跡に大穴が開いた。

「!?」
「なっ…」
「グ、グオオオオォォォォォォ・・・」

ズズン、ズズンと地を揺るがし、アトラスの巨体は地の底へと消えていく。
この城には地下があったのだろう、だがすっかり瓦礫で埋まってしまい巨人の姿を視認することはできなかった。
申し訳程度に残った一角を見渡せば、そこには鉄格子。
そして地下への階段が、見えていた。
─あそこか。

「アレンさん!しっかり!アレンさん!…あ、アレフさん!」
「トルネコさん!!!!」
「のわっ!!?」

突然の大声に驚きトルネコが飛び上がる。
アレフは竜王と彼に駆け寄って、息と声を荒げた。

「奴はまだ…生きてる。俺は奴をこれから追う、竜王を頼んだ」
「アレフさん、無茶だ!止めてください、その体で…」
「止めてくれるな。…キーファとの約束もある」

動かぬ竜王にベホイミを数回かけ、彼から借り受けたザックをその場に残してアレフは踵を返した。
トルネコは何と声をかけるべきか迷っていた。
まだ間に合う、今からでも無理に止めるべきか。
だが、できなかった。
彼の背には、『男』としての決意が示されていた。
だから、同じ男として彼には止められなかった。
止めることを、許されなかった。

「剣はまだ、借りて置く。…必ず、後で返しに戻る」

返事は無い。
だがアレフは黙って走り出した。




「…ガアァ……ガァァァア…」

眼が、眼が熱い。
灼けるようで、拭っても拭っても涙が止まらない。
実際に流れるそれは血液なのだが、見えない彼には気づく手立ても無かった。
傷だらけで、突然暗黒へ突き落とされて。
無敵のアトラスはどこへやら、今は不安でいっぱいだった。
だが、たった一つの事実がアトラスを正気に戻す。
─自分は、またも敗北したのだ。
アリーナにとどめを刺せなかったあの時と同じ悲しみが再び彼を襲う。
自分は負けた…負けたのだ。

へこたれて、蹲っていたアトラスは、狭いながらも立ち上がり再び歩んだ。

今、自分がどこにいるのかもわからない。
どこへ向かうのかもわからない。
だが。
自分はまだ、生きている。
そして、こうも自分を追い詰めた奴らもまた、生きている。
『勝利』を求めて、アトラスは再び歩き始めた。

傷だらけの鬼は、戦いから逃れることはない。

905 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:44:45 ID:.nWAlbdk


【E-4/アリアハン城下町宿屋周辺/早朝】
アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP1/6 MP1/5 気絶
[装備]:なし
[道具]:プラチナソード 折れた皆殺しの剣 ラーの鏡 マジックシールド 魔封じの杖 首輪×2
[思考]:この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

【トルネコ@DQ4】
[状態]:HP3/4
[装備]:無線インカム 破壊の鉄球
[道具]:ホットストーン 聖なるナイフ さざなみの剣
[思考]:アレンの介抱 他の参加者に危機を伝える ピサロといずれ合流

【E-4/アリアハン城下町/早朝】
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/2 MP1/2 背中に火傷(軽) 疲労 全身打撲
[装備]:竜神王の剣 ロトの盾 はやてのリング
[道具]:鉄の杖 消え去り草 ルーシアのザック(神秘のビキニ)
[思考]:アトラスを倒す ローラ姫を探し、守る このゲームを止める

【E-4/アリアハン城地下/早朝】
【アトラス@DQ2】
[状態]:HP1/4 首からの出血(中) 全身火傷 片膝負傷 眼球に傷 失明
[装備]:風のアミュレット
[道具]:支給品一式
[思考]:バズズの敵討ち アレフたちとの再戦

※アリアハン城の跳ね橋が落ちました。城跡へアリアハン側から行くには、回り込まなければなりません。
※メガトンハンマーは両断されました。
※アリアハン城地下入り口近くが崩れかかっています。まだ完全な通行止めではありません。

906 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:45:32 ID:.nWAlbdk
タイトル「暁に燃える瞳」

907ただ一匹の名無しだ:2006/11/09(木) 03:59:02 ID:HrUfJmZw
黎明から移行して間もないから、Aが恐慌して走ったら早めにP組と絡ませられると思うよ。

908 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 17:37:03 ID:.nWAlbdk
なるほど、その旨推敲してみますね

909影になる 10/12:2006/11/23(木) 22:16:41 ID:CAtTrEtI

それだけを言って彼は何事もなかったかのように回廊の奥へと向き直る。
圧迫から解放されサマンサは膝を突き、多量の脂汗を流し呼吸を荒げた。

「サ…サマンサさん? どうしたんですか!?」
「いえ……なんでもありません。少し腕が痛んだだけです」

突然うずくまった彼女を心配するフォズ。
それに小さく首を振って無理に笑みを形作る。

(甘く見ていた……彼は私を侮っていると思っていた。
 しかし、侮っていたのは私の方だということですか……)

ピサロはいつでもサマンサを縊り殺すことができる。
それだけの力があるのだ。
相手の力を再認識し、サマンサは一度息を呑んだ。

(でも、だからといって怯めない。私の決意は揺らがない。
 全ては……世界の意志。私の使命!)

アリスの為に命を捨てる覚悟はとうに出来ている。
殺せるならば殺すがいい、だがその時は――。

(アリス以外の全てが死した時です)

彼女は懐に隠していた奇跡の石を握り締めた。
迫る危機を感じてか、少しだけ力が石から流れ込んでくる。

そうだ、私は――アリスの影となる。

910影になる 11/12:2006/11/23(木) 22:17:16 ID:CAtTrEtI



アレフは駆けていた。
アトラスは吼えていた。
ピサロは構えていた。
フォズは震えていた。

そしてサマンサは――待っていた。

全てが集束する時を。


悪夢を告げる鐘が鳴る時まで、後わずか―――

【E-4/アリアハン城地下→ナジミ塔の方向へ/早朝(放送前)】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP3/5 MP1/4 背中に火傷(軽) 疲労 全身打撲
[装備]:竜神王の剣 ロトの盾 はやてのリング
[道具]:鉄の杖 消え去り草 ルーシアのザック(神秘のビキニ)
[思考]:アトラスに止めを刺す ローラ姫を探し、守る このゲームを止める

【E-4/アリアハン城地下→ナジミ塔の中間位置/早朝(放送前)】

【アトラス@DQ2】
[状態]:HP1/5 首からの出血(小) 全身火傷 片膝負傷 眼球に傷 失明 恐慌
[装備]:風のアミュレット
[道具]:支給品一式
[思考]:恐怖に駆られている 出会う全ての者を倒す

911影になる 12/12:2006/11/23(木) 22:17:51 ID:CAtTrEtI

【C-3/岬の洞窟・地下回廊ナジミの塔の近く/早朝(放送前)】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:若干の疲労 MP2/3程度
[装備]:鋼の斧 鎖鎌 闇の衣 アサシンダガー  炎の盾 無線インカム
[道具]:エルフの飲み薬(満タン) 支給品一式  首輪二個
[思考]:襲撃への応戦 ロザリーの仇討ち ハーゴンの抹殺 襲撃者には、それなりの対応をする
     サマンサに対して警戒する アリアハンへ向かうサマンサへついていく
     【シャナク】【アバカム】を利用した首輪解除方法を話し合う
     首輪解除の目処は立ったが、状況の度合いによっては参加者を減らし優勝

【フォズ@DQ7】
[状態]:健康 MP2/3
[装備]:天罰の杖
[道具]:アルスのトカゲ(レオン) 支給品一式
[思考]:これから起こる戦闘に若干の怯え ゲームには乗らない ピサロを導く

【サマンサ@DQ3女魔法使い】
[状態]:HP2/3 MP4/5 全身に裂傷・火傷(治療)左足に負傷(少し回復)左腕骨折(添え木で固定)
[装備]:奇跡の石 神鳥の杖(煤塗れ)
[道具]:支給品一式 鉄兜  ゴンの支給品一式 ルビスの守り
[思考]:フォズを利用し、ピサロを討つ 勇者の血を守る
    アリアハンに行き、とにかくアリスを守る

912 ◆w9.p2zZjpA:2006/11/23(木) 22:20:13 ID:LG.eJBlI
代理投下しましょうか?

913ただ一匹の名無しだ:2006/11/23(木) 22:25:35 ID:CAtTrEtI
ありがとうございます。
お願いします。

914ただ一匹の名無しだ:2006/11/23(木) 22:28:20 ID:LG.eJBlI
>>909-911
代理投下完了いたしました。
何か訂正点があればご指摘お願いします。

915 ◆inu/rT8YOU:2006/11/24(金) 23:41:15 ID://f634J.
アクセス規制されました。
続きを貼っていきますので、どなたか代理投下お願いします。

916 ◆w9.p2zZjpA:2006/11/24(金) 23:41:53 ID:kQ0tsSqE
サー!イエスサー!

917望むのは剣ではなく 10/17:2006/11/24(金) 23:42:13 ID://f634J.


 窓の外、丸く切り抜かれた空が徐々にその色を変えていく。
差し込んだ一筋の光がちらちらと瞼を刺激して、アリスはのろのろと顔を上げた。
だが、決して眠っていたのではない証拠に、その顔色は冴えない。
 体力や精神力を回復させるには眠るのが一番いいと分かってはいても、
上にいる仲間たちのことを思えば、おちおち眠ることも出来ない。
 耳を澄ませる。長らく続いていた地響きが聞こえないところからすると、アレンは勝ったのだろう。
相打ちになった可能性は考えないことにして、アリスは一先ず胸を撫で下ろした。
 途端、それまで忘れていた寒さが急に気になって、自分で自分を抱きしめるようにきゅっと身体を縮こまらせた。
本来の用途で使われなくなって久しいとはいえ、じめじめした空気の抜けない光の届かぬ井戸の底は、決して快適な環境とは言い難い。
あのおじさんが風邪をひかなかったのが不思議なくらいだ。
 アリスの肩にもたれ掛かるようにして眠るマリアは、まだ目を覚まさない。
足を引き寄せ、なるべく小さく身体を丸めて隣で眠る少女を抱き寄せ、王者のマントの端に包まり、
ふと思いついてザックの中からもう一枚のマントを取り出す。
薄い布地の、まるで羽根のように軽いそれは風のマント。
もう二度と覚めない眠りについた少女が、つい先ごろまで大事そうに抱えていたものだ。
アリスは迷わずそれをマリアに纏わせた。
 もし今敵が現れれば、戦わねばならないアリスの方に王者のマントは必要になるから、
このままマリアにマントを貸し与えることは出来ない。
だが同じ年頃の娘としては、もともとあちこち破れていた上、
クリフトに脇を大きく裂かれたローブ一枚のままのマリアを放っておくことなど出来なかった。
もっとも、防寒用ではないから、暖かさという点では大して変わらないのかもしれないが。

「……でも、マリアさんにマント返せて良かったですよね、リアちゃん」
 かちりと留め具を嵌めて、小さく呟く。
――出来ることなら、生きているうちに果たさせてやりたかった。

918望むのは剣ではなく 11/17:2006/11/24(金) 23:42:53 ID://f634J.
 マリアが目を覚ましたら、リアの死を伝えなければならない。
それを思うと鉛を飲み込んだように気持ちが沈み、
何も知らずに眠るマリアが痛ましく思えて、回す腕に力をこめ、そこでぴたりと動きを止めた。
 生来色素の薄いマリアの肌は、今や血の気を失って蝋のように白く、
抱き寄せた拍子に触れた頬の冷たさに、アリスは寒さとは別の理由で肌が粟立つのを感じた。
慌てて胸に耳を押し当て、弱々しいながらも途切れなく続く鼓動に僅かながら安堵を覚える。
だが、この身体の冷え方は尋常ではない。
アリス自身の手も冷え切っているにもかかわらず、握り締めた指先もまた、氷のように冷たい。
そう、氷のように。

(氷――まさか)
 マントの裾をまくり、一瞬の躊躇の後、
「ごめんなさいっ」
 ローブの破れ目に刃を当て、傷口を検めやすいように裂く。
そうして露出した裂傷に、アリスは眉を顰めた。
傷自体はそこまで深いものではない。が、その傷口には薄い氷が張り付いていた。
 この傷はクリフトの振るう氷の刃によって負わされたものだった。
吹雪を巻き起こすだけでなく、傷口を凍りつかせる力まで持っていたとは。

 幸い、というべきか、傷口が凍り付いているおかげで出血は最小限に抑えられている。
だが、このまま放置しておけば冷気はマリアの身体を蝕んでいく。

919望むのは剣ではなく 12/17:2006/11/24(金) 23:43:44 ID://f634J.
「……此処から出ないと」
 治療を施したくとも、今のアリスにはその為の魔力が残されていない。
片手で眠るマリアを抱え、家の外へ出て顔を上げる。
ロープは無事に繋がってはいるものの、
疲労の積み重なったアリスには、丸く切り抜かれた空までの距離は絶望的なまでに遠かった。
正攻法ではとても脱出出来ない、何か策を講じなければ。

 ずれた眼鏡をくいと掛け直し、ゆっくりと目を瞑る。
急激に頭の中が冷えていく感覚。次にその目を開けた時にはアリスは冷静さを取り戻していた。
辺りを見回し、転がるクリフトの遺体に目を向け、ふと思いつく。
 先程マリアを襲撃するのに彼が用いた杖。あれを使えば一瞬で上まで身体を運ぶことも可能なはず。
だが、回転数の上がった頭はすぐさまその策の穴を見つけ、却下の判を押した。
回復し切らぬ己の体力では二人分の体重を支えきれるか分からない。
その上片手に杖を、片手にマリアを抱えた状態では、上まで飛んだところで縁に捕まることも出来ない。
せめてマリアが目を覚まし、自力でアリスにしがみつけるくらいにまで回復しない限り、
この案を試すことは不可能そうだった。
 かと言って、風など絶対に起こらない井戸の中では風のマントで舞い上がることも出来ない。
自力で脱出するというプランは諦めるほかなさそうだった。

 差し込む光に手をかざす。か細い光は、だが先程よりその明るさを増している。
正確な時間は分からないが、夜明けはそう遠くない。
放送を聞けば、アリスたちの生存は外の仲間たちにも伝わり、いずれ助けが来るはずだが、
向こうにこちらの居場所が伝わっていない以上、誰も此処を見つけることが出来ない、なという悲劇も起こりうる。
 何らかの方法で、こちらの居場所を伝えなければ。

920望むのは剣ではなく 13/17:2006/11/24(金) 23:44:45 ID://f634J.
 一瞬の再思考の後、マリアが腰に吊るしたいかずちの杖が目に入る。
例えば、これを花火のように空に向けて放てば――
だが、とまたしても冷静な脳が待ったを掛ける。
 仮にアレンが首尾よくアトラスを倒していたとしても、
アリアハンには最低でももう一人、マリアとトロデの連れを殺したマーダーがいたはずだ。

――下手に自分たちの居場所を知らしめるようなことをしては、
マリアばかりか自分までが斃れることにもなりかねない――

(――そんなの)
 震える手が眼鏡の蔓へと伸びる。金属製のそれは触れるとひやりと冷たい。
妙に冷たく感じられるのは、そればかりではないのかもしれないが。

――効率を第一に考えるのならば、このまま井戸の底に潜んでいるのが一番いい――

「……っそんなの、知りません!!!」
 叩きつけた眼鏡がかつんと音を立て、床に跳ねた。
眼鏡を外した瞬間、装われた冷静さに押さえつけられていた感情が溢れ出す。

「私は……私は、勇者なんですから」
 何度も何度も母に聞かされた言葉が蘇る。
勇者は常に強くあれ。
剣をもって誰かを倒すための強さではなく、その強さで大切な人たちを守れるように、
ただ強くあれ、と。
自分の安全のために誰かを見捨てるのなんて、絶対に嫌だ。

 マリアの腰からいかずちの杖を抜き取り、空に向ける。
居場所を示すことの危険性は理解しているつもりだが、
アレンだけでなく、宿屋に残るトルネコやトロデも外に注意を払っているはず。
三人もいるのだ、そのうちの誰かが気付いてくれる公算は高い。
もしマーダーに気付かれたら、その時は自分がマリアを守ればいい。
――そのための、強さだ。

921望むのは剣ではなく 14/17:2006/11/24(金) 23:46:02 ID://f634J.
「アレンさん、トルネコさん、トロデさん……サマンサ」
 すぐ傍にいるだろう仲間と、
消息の知れない――だがきっと生きていると信じている姉のような存在の幼馴染の名を呼んで、
アリスは杖を握る手に力をこめた。

「どうか、気付いて――!」
 杖の先端から炎の帯が迸る。
それが空に吸い込まれ、消えるのを見届けて、アリスはその場に崩れ落ちた。
足下に転がる眼鏡を拾い上げ、一瞬考え込んだ末にやはりザックに放り込む。
いかづちの杖をマリアに返すとその身体を抱えなおし、王者のマントを被りぴたりと寄り添う。
 あとは、祈るほかない。

 少しでも奪われた熱を取り戻そうと、冷たいマリアの手に指を絡ませ、
アリスはただひたすらに夜明けを待った。





 炎がまるで花火のように打ち上がり、消えていくのをキーファは呆然と見つめていた。
「今のは……一体」
 無論、こんなところで花火を打ち上げる酔狂な人間などいるはずもない。
あれも呪文なのだろうが、戦闘中に打った呪文が外れたにしても、
真上に向かって打つというのはいくらなんでもおかしい。
 とすれば、あれは何かの合図かもしれない。
だが、それの打ち上がった方向はアレフたちのいる方とは明らかに異なっていた。
その他に、合図を打ち上げるような仲間がいる人物がいるとすれば。

922望むのは剣ではなく 15/17:2006/11/24(金) 23:46:44 ID://f634J.
(もしかして、リアちゃんを助けに行ったっていう)
 もっとも、アレンからその情報を聞いてから大分時間が経っている。
戦闘があったのならもう終わっている頃だろう。その後に、何か予期せぬ事態でも起こったのか。
確か、助けに向かったのは魔力が尽きかけた少女が二人。
魔力が尽きかけた、といちいち説明した以上は、二人とも何らかの呪文の使い手なのだろう。
――もしかしたら、回復呪文も。
 迷っている時間は、ない。

「……トロデさん、ちょっとだけ辛抱してくれよ!」
 ともすれば滑り落ちそうになる身体を背負い、走り出す。
小柄とはいえ、トロデも成人男子であることには変わりない。
二人分の重さをかけられた左足がずきりと痛むが、
助けられる可能性がある以上、今はそんなことを気にしているような場合ではない。

 誰かに助けられるだけではなく、助けることが出来る人になりたい。
「なりたい」のではなく、「なる」のだ。
――俺は、“守り手”なんだから。
(助けるんだ。トロデさんも、リアちゃんも、その子たちも!)

 痛む足を叱咤し、キーファはまさしく夜の終わりを駆け抜ける流星の如く、更に速度を上げた。

923望むのは剣ではなく 16/17:2006/11/24(金) 23:47:20 ID://f634J.
【E-4/アリアハン城下町教会前/早朝】

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/2 両掌に火傷 両頬、左膝下に裂傷 疲労
[装備]:メタルキングの剣 星降る腕輪
[道具]:ドラゴンの悟り 祈りの指輪
[思考]:花火の打ちあがった方(井戸方面)へ向かう
    トロデを助ける ランドの妹(リア)を助け出す 危機を参加者に伝える

【トロデ@DQ8】
[状態]:HP1/5 腹部に深い裂傷(再出血中) 頭部打撲(出血中)
    全身に軽度の切り傷(ほぼ回復) 服はボロボロ 脳震盪・気絶
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1?)
[思考]:仲間たちの無事を祈る 打倒ハーゴン



【E-4/アリアハン城下町教会前〜宿屋周辺/早朝】

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療) HPほぼ全快 MP1/3
[装備]:折れた皆殺しの剣(呪い克服)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾 発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:アトラス戦現場へ ゲームに乗る(ただし積極的に殺しに行かない)

924望むのは剣ではなく 17/17:2006/11/24(金) 23:49:08 ID://f634J.
【E-4/アリアハン城下町井戸/早朝】

【アリス@DQ3女勇者】
[状態]:HP1/7 MP0 左腕に痛み(後遺症) 疲労大
[装備]:隼の剣
[道具]:支給品一式×4 ロトのしるし(聖なる守り) まほうのカガミ 魔物のエサ 氷の刃、
    イーグルダガー 祝福サギの杖[7] 引き寄せの杖(3) 飛びつきの杖(2) インテリ眼鏡
[思考]:自身とマリアの回復 『真の悪』(主催者)を倒す

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP1/5 MP僅か 服はとてもボロボロ 脇腹に切り傷(凍傷進行中) 気絶
[装備]:いかづちの杖 風のマント
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1〜2?) ※小さなメダル 毒薬瓶 ビッグボウガン(矢 0)
    天馬の手綱 アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
[思考]:竜王(アレン)はまだ警戒

*王者のマントは二人で被っています

投下完了です、問題点などありましたら指摘お願いします。

代理投下お願いします、ご迷惑かけて申し訳ございません。

925 ◆I/xY3somzM:2006/11/28(火) 22:44:30 ID:rt.K.ISU
ttp://kasamatu.o0o0.jp/pochi/src/hajime6169.txt.html

事情でうpろだ投下。
ある書き手さんと話し合って、どっちがいいかを決めるそうです。
私は諸事情でしばらくここにこれないので、コレを見て2作品どちらを通すか決めるそうです。
おねがいしまーす。
パスはdqbr

926ただ一匹の名無しだ:2006/11/28(火) 23:40:13 ID:1ou.k8lI
乙!
サマンサ視点が続くなぁ。
致命的な欠陥はないようです。
とりあえず、別作品待ちですね。

状況欄を読み返した時、全員ずぶぬれと書いてあるのに何故か笑ってしまった^^;

927 ◆jOgmbj5Stk:2006/12/03(日) 17:11:32 ID:M2I.cAfg
ttp://kasamatu.o0o0.jp/pochi/src/hajime6424.txt.html

投下しました。評価をお願いします。
passはdqbr

928 ◆jOgmbj5Stk:2006/12/03(日) 17:37:29 ID:M2I.cAfg
状態表を修正し忘れていますね。
放置アイテムと共に投下時には修正します。

929:2006/12/03(日) 21:04:14 ID:iG2r5.ys
力作、乙です。
長文なだけに、ss1作に起伏が富んでいて面白いです。

どちらかを評価と言われても、正直、甲乙を決めかねます。
こういうコンペみたいな選び方も好きではないので余計迷ってしまいます。
強いて言えば、ss1作で可能性の制限を設けていない前作が好みなのですが、
好き嫌いで評価というのもどうかと思うので、他の人達の評価に委ねます。

930ただ一匹の名無しだ:2006/12/03(日) 21:16:40 ID:9J9L78kQ
2作品ともこれといって矛盾も無く、クオリティも高い!!
同じキャラ、同じ舞台での戦いでも、ここまで違ったスパイスの作品を楽しめるのかと
感心いたしました。

しかし、凄い個人的な好き嫌いで言ったら>>925の方がツボにハマりました。
今まで能力を持て余し気味だったピサロが『黄金の勇者〜』以来の
躍動感のある大奮闘していたので好きです。

9311:2006/12/03(日) 21:24:31 ID:iG2r5.ys
私も一読み手としてなら、>>925が読み応えがあって良いと思う。
う〜、なやみまくりw

932ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 03:03:41 ID:DlpGHc0Q
うーん、全体のデキとしては、やはりみなさんも仰ってますが甲乙つけがたい。
矛盾もなく、かち合わなければどちらもすぐに本投下できたのだろうなと思うと心が痛む。
一体どういった方法で評価だの本投下の権利だのを決めればいいのか正直困ってます。
さすがに読者の好みで決めるのは…と思いつつ自分も一言。

展開の「好み」としては、自分は>>927さんのほうが好きです。
放送後の(恐らく参加者同士としては最後となるであろう)ビッグな山場が作られたのが魅力的に思えました。
また収束に向け、重要なフラグを思い切ってばっさり切った事も思い切りがよくて好感が持てました。

それにしても、どちらでも運命の一緒なあの子はまさにお疲れ様ということで……。

933ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 03:32:01 ID:tMwdlEn.
ttp://kasamatu.o0o0.jp/pochi/src/hajime6464.htm.html

pass dqbr

二人の作品を見て、思わずインスパイしてしまいました。

どちらもgj&乙です!!

934ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 17:02:55 ID:ILdbxuMA
ストーリーで>>925、クオリティで>>927が良いですね。

個人的には本採用は>>927さんのほうがよいと思われます。
脱出の際のピサロルートの方法として上げられていたフラグを切ってしまったことには
いろいろ反発意見があるかもしれませんが
展開会議室が稼動していない現状、巻いていくのもある程度仕方ないかと。
ピサロ半マーダー化により、この先の話のフラグも増えますし
もともとピサロは残り参加者が10人程度になった場合マーダー化する方針もありましたし。

935ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 17:13:43 ID:ILdbxuMA
ついでに、多少気になったので。
>>933
参加者の首輪は100話「闇の誘い −Inter mission−」により
参加者は知りませんが、首輪解除や造反に対しての任意爆破についてはすでにその機能が停止しています。
なので、サマンサの首輪が爆破されることは無いかと
>>927
鎖鎌はもともと鎌のほうは投げずに手で持ち、分銅のほうを投げて相手を殴るか、絡ませて引き寄せ切り裂く武器ですが・・
まあ、致命的な修正点ではないと思います。

936ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 18:36:22 ID:bcCfnrq2
現実の鎖鎌はそうかも知れないがドラクエの鎖鎌は鎌を投げて攻撃することができる。
公式ガイドブックにもきちんとそう説明がなされている。多彩な攻撃が売りの武器だそうで。

937ただ一匹の名無しだ:2006/12/04(月) 23:43:37 ID:ILdbxuMA
>>936
ドラゴンクエスト4の小説では、しっかりと鎌を投げて攻撃できないって記載があるぞ。

まあ、書き手は違うし、特に気にしないのがFAだろうな

938ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 05:34:30 ID:TpURfYv2
物理的に、刃物を投げれば刺さるのは普通なんじゃないかな…

939ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 10:00:36 ID:dEkxYnzg
鎌はどうでもいいとして、どちらを本採用にするんだ?

940ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 12:25:17 ID:DQ0R.6Yg
どちらもクオリティ高いだけに難しい問題だね
自分の好みは927の方なんだけど

941ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 13:13:06 ID:kw/eo18Y
私としては>>925を推しますね。

942ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 15:53:52 ID:NHBU5Ho.
私は>>927ですね。

後半のアトラスが、かつてのアリーナとの対比になっていい感じですし
アレフとの対話もいい感じです。

また、ピサロマーダー化によって、ジゴスパークやマダンテでの偶発太陽の鏡覚醒もやりやすくなりますし

943ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 17:39:02 ID:0f/w7Xc6
ストーリーを考えると>>925かなぁ。個人的な意見だけど。

944ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 18:15:40 ID:bswZVLEo
両者ともレベル高いから好みでしか語れないのが辛いところね

>>925はピサロがサマンサを庇うという行動の説得力が弱いのが気になった
庇う理由はあるんだけど他の選択肢を視野に入れている以上、命まで賭ける理由がないといか
前回まで思いっきりサマンサを警戒して威圧いたのに何で突然庇うの? と違和感がある

もちろんこんなことはほとんど粗探しで普通なら気にしてもわざわざ言うことではないんだけど
二つの話を比較すると両者とも矛盾もないしクオリティも高いからそんな小さな違和感でも目立ってしまう

その点素直に入り込めた>>927を推したい
グッドなおねーさんが本当にグッドなのもよい

945ただ一匹の名無しだ:2006/12/05(火) 19:56:52 ID:QZNQaRsk
私は>>925が好きですね。
アレフさんがかっこよいです。

946ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 00:26:52 ID:PQuuqaWA
埒が明きませんね
既に日をまたいで票の意味なくなってますし、これでは永遠に決まらない
議論で決着つけようにもどちらも矛盾なくレベルも高いときている

これが書き手さん達がチャットで決めた方法だというのなら
もう一度チャットで話し合いの場を持ってより良い方法を模索して欲しいと思います

947ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 00:35:02 ID:zi8LZje2
このまま、感想続けても決まらないのでは。

948ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 00:39:25 ID:zi8LZje2
チャットで談合したというのなら、責任持って話し合って決着してもらう。
どちらかが破棄を名乗りでるか。
いっそ、2つ(3つ?)とも破棄して、
他の状況(第2回目の放送)を動かしてから、改めて予約して書いてもらうか。

949ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 00:43:20 ID:zi8LZje2
何の為に予約や一時投下や先着順があるのか

950ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 01:55:23 ID:f1wrFOko
とりあえず展開会議室に議題ひとつ置いてきた。
大いに話し合って本採用決定の参考にして欲しい。

951ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 07:05:41 ID:NhSG3wuw
>>925がイイって人
>>930 >>931 >>941 >>943 >>945

>>927がイイって人
>>932 >>934 >>940 >>942 >>944

ここまで交互に票が入るってのも、凄い。
いかに2作が良作だったかを思い知らされる…。
どっちかは本筋にできないんだよなあ、もったいないなあ。

まあいい加減私情が入ってきたので、会議室で今後の展開を考えつつ決めるというのは賛成。
とりあえず、自分も移動します。

952ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 07:17:43 ID:edGOmQhY
トリップみたら925氏は前前回を書いてるんだね
ならここは譲るわけにはいかないだろうか
A→B→AよりA→B→Cの方がリレーとして良いし

953ただ一匹の名無しだ:2006/12/06(水) 19:00:22 ID:jP4GMf7I
管理人さんの負担になるけど、アンケートページ作成してもらって無記名投票とかどうだろう?

954ただ一匹の名無しだ:2006/12/07(木) 00:59:14 ID:qw5u5TkY
別に管理人でなくても、誰かが作成できると思うが・・・<アンケートページ

955ただ一匹の名無しだ:2006/12/08(金) 01:49:41 ID:XIV1ZRl2
>>925    >>927    
この2作話題に関しては、会議室ヘ移動の事。

956 ◆9Hui0gMWVQ:2006/12/11(月) 20:23:50 ID:nCh3u9QY
すみません。向こうで2回目放送後の話が書きたいと言った者です。
まだ放送後でないと出しようもないのですが、一応できました。
今回がバトロワ参加初めてですので、当分間があるし、
一度こちらで見てもらった方がいいと言われましたので、僭越ながらそうさせてもらいます。

一応それまでの作品に目を通しながら考えたつもりです。
でも新参者ゆえ、勘違い、設定の食い違い、抜け落ちも少なからずあるでしょうから
改善点を言っていただければありがたいです。

957私は、誰にもなれないのなら1/21:2006/12/11(月) 20:25:20 ID:nCh3u9QY

「デス…ピサロだと?」

アレフは呻いた。その名はピサロと同じ時代、同じ世界を生きた者が聞けば
畏怖すべき魔王の名前であることがすぐにわかるが、そこまでアレフには知る由も無い。

しかし、勇者の血筋がそうさせるのか、その名前から強烈な禍々しさを彼は感じ取った。
言霊とでもいうのだろうか?
何か、敵も、味方も全てを巻き込んで根絶やしにしてしまうかのような
…その名を名乗った本人も含めてどす黒い絶望の渦へ叩き込んでしまうような
そんな不吉きわまる予感が、彼の頭をかけめぐった。
戦士としての経験が彼に告げた…こういう予感は、たいてい当たってしまうものなのだと。

(駄目だ…それは、絶対に許されないことだ!)
やめろ!アレフは叫ぼうとした。
しかし、それはすんでのところで生じた、けたたましい死神の福音によって妨げられる。
主催者の放送だ。もうそんな時間なのか?アレフははっとなった。
そうだ、この主催者の放送で、絶対に聞き落としてはならないことがある。
「追加される禁止エリアの場所」そして、「死者のリスト」だ。
この12時間のうちに命を落とした者の名前が呼ばれるのだ。

(死者の…リスト…)
自然、アレフは今自分の近くにある二つの遺体に目がいく。
聴く方がおろそかになるわけにもいかなかったから、注視したわけでもなかったが
アレフの視界にぼんやりと映る、アトラスとサマンサ。
手強い敵だった。あるいは憎むべき仇だった。
しかし今はもはや冷たい躯と化し、おそらくはこれからの放送で両者の名も呼ばれるだろう。
…もう、死者の頭数でしかないのだ。この二人も…この二人ですらも…

958私は、誰にもなれないのなら2/21:2006/12/11(月) 20:26:32 ID:nCh3u9QY

そんな短いが、深刻な思いが胸中によぎるうちに、鐘は鳴り止み、放送が始まる。
アレフは息を呑んで耳を傾けた。
彼は願った。彼の愛する人の名が決して呼ばれないことを。
彼はまた願った。それがおそらくはありえないとわかっていながらも、
この下劣なゲームの犠牲者が、自分が知っている以上にはいないことを。

…放送は終わった。きっとあっという間だっただろう。
しかし、アレフにはそれが永い時のように、終わりなき悪夢のように感じられた。
ローラの名前は、無かった。それだけが救いだった。
しかしそれ以外は彼の希望をことごとく打ち砕くものに等しかった。

「じ…13人…?」

アレフは愕然とした。まさか、それほどの命が奪われていようとは。
昨日が確か…そうだ、18人だった。
5人減った、などという考えはもちろん愚かしすぎる。
昨日は、43人いたうちの18人だ。今は25人のうちの13人だと?
過半数が命を落としたのか?勢いはむしろ増しているではないか!
大体、そこまで多数の命が奪われたということは…!

「残るは、あと私も含めて12人ということだな」

アレフは我に返って、顔を上げた。
忘れてはならないはずの、この場の最大の危険要素を、思い出して。

959私は、誰にもなれないのなら3/21:2006/12/11(月) 20:27:42 ID:nCh3u9QY

アレフとは対称的に、ピサロは死者の名前を、子どもが眠る前に数える羊のように、
あとに覚えておく必要を感じず、特に何の感慨もなく聞き流した。
知っている名前もあった。だが未練はなかった。
昨日はそうではなかった。アリーナの名を聞いて、彼の顔を影が覆ったのだ。
わずかばかりだったかもしれない、しかしその微妙な反応を、
フォズは感じ取って、涙を流した。あなたの代わりだと言って。
そんな少女を、彼は莫迦だと言ったが、同時に興味深くも思ったのだ…

昨日はそうだった。今は違う。ただただ侮蔑しか沸いてこない。
明らかにピサロの心は変節を遂げていた…!

今の放送を聞いて、ピサロは決意をさらに固くする。
頃合いかと考えた。元々生存者が10人になれば見切りをつけるつもりだったのだ。
もうあとは12人。遠からず2桁を割り込むだろう。
所詮、人間は自らが愚かな生き物でないということを証明できなかったのだ…!

(やはり、私は考えが浅かったようだな。
 そもそもが信ずるに足るような輩ではなかったのだ)

ピサロは嘲笑した。そして視線をアレフの方に移した。
あと2人で、当初の己の忍耐のボーダーとしていた10人となる。
あと2人…この男と、そしてあの娘を消せば、ちょうど10だ。
いっそ、ケリは私自らでつけるのも一興か。そんなことまで考えた。

960私は、誰にもなれないのなら4/21:2006/12/11(月) 20:28:51 ID:nCh3u9QY

「どうする…つもりだ。ここで一戦交えるのか?」

視線の先にいた男、アレフがまず先に口を開いた。

「デスピサロと言ったな?その名前にどんな意味が込められているのか知らないが、
 およそ俺たちにとってありがたいものだとは思えない。
 ならば…どうする気だ、デスピサロ。お前も、このゲームに乗るのか?
 だとすれば、邪魔であるはずの俺たちを、今、ここで消すか?」
「フ…」

いましがた発したばかりの殺気を感じ取ったというのか
アトラスを倒したことから既にわかってはいたが、戦士としてはかなり腕の利く男らしい。

「そうだ、と言えばどうする?やはりやめろとお前は言うか?」
「…それも考えたが、やめた。やってみろよ。やれるものならな…!」
「何だと?」

泰然としていたピサロの眉が釣りあがり、アレフを睨んだが、勇者はそれに動じない

「お前がかなりの腕前だということは、俺にもわかる。
 だが、今のお前はまだ傷が深い。そんな状態で俺に勝てるのか?
 勝てると思うのなら、やってみろ。相手になってやる。
 お前が、いずれは俺の大切な人まで手をかける存在に成り果ててしまうというのなら
 お前を野放しにはしておけない。今、この場で、ケリをつけてやる!」

アレフは鋭い光を瞳に宿らせて、叫んだ。拳に精一杯の力を込めて。

961私は、誰にもなれないのなら5/21:2006/12/11(月) 20:30:24 ID:nCh3u9QY

…だが、実際のところ、これはほとんど虚勢だった。
ピサロが乗ってこないことを願いつつ、
アレフはその思いを体の外へは1ミリも出さなかった。

まるきり嘘を言ったわけではない。
デスピサロという名の危険性を、アレフは少なからず感じ取っていたから
奴をこのまま見過ごしておくわけにはいかないと考えているのは事実だ。
そして、もし、ピサロがローラに危害を加えるというのなら
その時彼は是が非でも彼女を守るために戦うつもりだった。その思いも揺るがない。

だが、今は、その肝心の守るべきローラの行方が未だ掴めていない。
そしてピサロの消耗ほどではないが、あのアトラスを討ったばかりのアレフもまた
この場でまともに戦えるほどの体力が無い。
おまけに、彼の足元には、彼自身が呪文で眠らせてしまったフォズが横たわっている。
ピサロの狙いが皆殺しなら、もはやこの子を殺すことにも躊躇いをもたないだろう。
あるいはこの子を人質にして、という卑劣な手段も、今のピサロは取りかねない。
これからここで相手になってやると意気込むには、不安材料が多すぎる。

今、自分が力尽きるわけにはいかないのだ。残り生存者が少ないのなら尚更。
ここでピサロを逃がして、もし本当にローラと出くわしてしまったら、
というのが大きすぎる心配の種だが
ここまで惨劇が広がった中で、ほとんど戦闘力を持たないはずのローラが
まだ生きのびているということは、誰か心強い味方を得たからに違いないと思える。
そのローラにとっての希望が、自分でないことが甚だ残念だが、
そのままで終わらないためにも、ここで命を落とす結果になることは
断じて避けなければならなかった。

962私は、誰にもなれないのなら6/21:2006/12/11(月) 20:31:47 ID:nCh3u9QY

…と言う様な思案を、彼は少なくとも表情には微塵も見せなかった。
お互いにらみ合ったまま、しばし沈黙の対峙が続く。

「フン…」
やがて、ピサロが薄く笑った。

「確かに分が悪いな。認めたくもないが、認めよう
 私にもやらねばならないことがあるのでな。ここで共倒れは御免だ」

ピサロは先ほどサマンサの命を奪った鎖鎌を持つ手を緩めた。
そして踵を返し、アレフに背を向け、歩き出す。
その様を見て、アレフは内心胸をなでおろした。
いずれは止めなければならないが…仕方がない。今はこれでいいと、彼は思った。


それが、そもそもの間違いだった。

963私は、誰にもなれないのなら7/21:2006/12/11(月) 20:33:00 ID:nCh3u9QY

「!!」

アレフが目をむいた。一瞬、気を抜いた、そのわずかな間に、ピサロの姿を見失った。
どこに逃げた?…違う、どこから迫ってくるんだ!?
刹那ですらない、短い間隙を、アレフが表面に出してしまったわずかな油断をついて
ピサロが恐ろしい速さで肉薄してくる。その気配はする…だが、見えない!
この狭い回廊の中だというのに!?

アレフはピサロの意図を理解した。自分が試したように、奴もまた試したのだ。
だから、あえて背を向けた…!
もし本気で戦うつもりがあるのなら、あの瞬間を逃すはずがないと!
それをせず、千載一遇のチャンスをわざわざ見過ごすと言うことは
戦う意思も、力も、ないということ。それを知らしめてしまったのだ!

(しまった…!)
「終わりだ。小僧…」

ようやく敵の姿を視認した時、ピサロは彼の真上にいた。
アレフはまた遅れて思い出した。遅すぎた…奴は、闇の衣で身を覆っていたのだ。
闇の衣、といっても魔王が身につけるそれではなく、れっきとした人間用の防具。
この衣は優れた防御力に加えて、身につけることで体を闇に溶け込ませ、
敵の目を惑わすことができるという力を持つ。ましてやこんな日の光のない地下では。
だから、熟練の戦士であるアレフをもってしてもすぐに場所を特定できなかった。
完全に計算を狂わされたことを、アレフは後悔したがもう遅い。
迫るピサロの右手には、彼のもう一つの武器、アサシンダガーが握られている。
完全に暗殺者の様相を呈した魔族が、容赦なく勇者の命を狙い、
そして、ダガーを振り下ろした。




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