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投下用SS一時置き場

899 ◆I/xY3somzM:2006/11/09(木) 01:40:53 ID:.nWAlbdk
暁の空に怒号が響く。
有明の月は冷たい笑みを微かに湛えていた。

─いやに、静かだ。
生と死を賭けた戦いが、これから始まるというのに、嫌に心地良い。
まるで自分以外の生き物は全て死に絶えたかのようだ。
微かな風の音と、衣擦れの音。
そして、自分の胸の鼓動を除き何も聞こえない。
そう。
あのときと似ている。
今己と肩を並べ戦う竜の眼前に立ったあの瞬間に。
勇者─アレフは、自らの掌の中で昂るような剣をしっかりと握り締め、ぶるりと身震いした。

「…怖気ヅイタカ?勇者」
「まさか。…武者震い、さ。こんな奴を前にして、そうしない男がいるものか」

違いない、と喉を鳴らして小さく笑う、竜王。
彼自身もまた、嘗て無い強大な敵を前に目を輝かせる一人の男であった。

「トルネコさん、気をつけてくれ。…見かけによらず、奴は疾い」
「重々承知してますとも。二度も死に掛けましたからなぁ」

おお怖かった、とおどけて見せる。
死地の中でも挫けない彼の心は、紛れも無く戦士の心。
守る者がいる、という強さ。
彼は、世界を救った大商人であり、一家の主たる父であり。
そして彼は、隣に並ぶ勇者や竜と同じく、勇敢な一人の男であった。
皆が皆、視線を交わすこともなく、心を一つに束ねる。
そんな彼らを見据える巨人の一つ目が、紅くギラついた。

「ガアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
「グォォォォォォォォォォォン!!!」

竜は、鬼へと突進した。
二つの、巨像と見紛う程の体が轟音を立ててぶつかり合う。
一瞬の間を置いて、自分とトルネコも飛び出した。
目配せをして、自分は右、彼には左を任せる。
巨人とガッチリ組み合った竜は、圧されまいと踏ん張った。
竜の足元が沈む、なんという力だろう。
鈍く光る、やや紅く染まった金槌を、アトラスは腕の中の竜へ振り下ろさんと持ち上げる。

「どぉおおおおおっ!」
「グガァッ!?」

しかし、唸りを上げて飛来した鉄球が強かにアトラスの即頭部を打ち据える。
見当違いの方向に振り下ろされたハンマーの先端は大地を穿ち、大きな穴を生んだ。
鎖に引っ張られ、地響きにおっとっとをしながらも、トルネコは踏みとどまる。
ギロリと紅い一つ目が彼を見据えると、即座に大きな足裏が振り下ろされた。

「うひょっ!」

だが、ギリギリのところで腹の脂肪を揺らしながらも転がり避ける。
一瞬遅れて、ドスンと大地を揺るがし二つ目の大穴が空いた。




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