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スタンドスレ小説スレッド

433新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 09:29
モナーがリナーを透視しないのが不思議に感じr…?
…謝りますからその刃物をしまってくだs

434新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:08
>>428オマエモナー

435新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:09
>>433オマエモナー

436新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:35
>>421
俺も(´・ω・`)ノシ

437新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 11:44
>>434
>>428にオマエモナーとはどうゆう事だ説明してくれ
それとも間違えたのか?

438新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 12:47
>>437
オレモナーと言いたかったんじゃないか?
そして>>430、オレモナー

439428:2003/12/25(木) 13:40
この私の、私の一言でこのスレはある方向へ動き出した!

440434:2003/12/25(木) 17:18
(いまさら書き間違いなんていえない…)

441N2:2003/12/25(木) 17:45
「居る」の過剰変換が有るかも知れません。
お気付きの点御座いましたら突っ込みお願いします。

442N2:2003/12/25(木) 17:47
 青年の過去の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その②)

 「奴は―――生きているッ!」
 『矢の男』は、そう確信した。
 モ蔵を討ち取り、ひろゆきから矢を奪還した後、彼は腕の傷を治療してその日の内にはもう矢で4、5人は撃っていた。
 しかしその間、彼は常に形容しがたい不安に駆られていた。
 その夜、彼は再びあの町外れの倉庫へと行ってみた。
 あれからこの辺りで人の死体が見つかったという話は広まっていない。
 ということは、モ蔵の死体はまだ誰にも見つかっていない。本来ならば、そうであるはずだった。

 しかし、そこには腹に穴の開いた、夏の炎天下にさらされ腐敗し、悪臭を放つ男の死体は存在しなかった。
 彼も、昨晩の出来事は夢ではなかったのかと一瞬疑ってしまった。
 だが確かに彼はモナ蔵を「殺し」た。あのスタンドごしに伝わる生温かい血肉の感触は偽りではなかった。
 「有り得る可能性は2つ…。1つはあの後モナ蔵が何らかの能力で復活したか、あるいは初めから私は奴のスタンドの幻術にかかっていたということだ」
 しかし奴のスタンドは「サムライ・スピリット」。接近戦では恐らく右に出る者はいないだろうが、そんな能力が備わっているとはスタンドの常識上からも、またこれまでの奴のスタンドの情報を分析してみても到底考えられない。
 「となると、残るもう1つの可能性…、何者かが奴の傷を治療したということか…!!」

 本来、自分が仕留めたと思った者がその後生きていようが死んでいようが、彼にはどうでも良かった。
 彼に挑む者は、今までそのほとんどが場当たり的な危機回避、あるいは復讐心を目的としていた。
 矢で射ろうとした相手が既にスタンドを身に着けており、命の危険を察して攻撃する。
 あるいは、集団をまとめて矢の試練にかけ、その中でスタンドを発現させた者が仲間の敵を討とうと攻撃する。
 今まで彼はそんな奴らは適当に戦って殺すかやり過ごすかしてきたのだが…、決して二度と戦うことはなかった。
 しかしモ蔵は違う。
 もし彼が生きているならば、また再び自分を討たんとして探し出すだろう。
 更に運の悪いことに、自分はこれからこの町で『目的』を果たそうとしているまさにその時にモ蔵と出会ってしまった。
 この町に滞在するということは、それだけまた彼と出会いやすいということでもある。
 次に戦ったとき、果たしてまた彼に勝てるだろうか…?
 …決して無理な話ではない。
 だが、彼がその時までに更に実力を上げていたとすれば、どうなるかは分からない。

 「まずいな…、何としても手を打たねば」
 と、その瞬間、矢が何か反応を示した。
 その向こうには、一人の男が歩いていた。
 矢からはその男のスタンドの才能が、そしてそれが今の自分の救いとなるものであるということがエネルギーとして伝わってくる。
 「私の運命もまだまだ捨てたものではないらしいな…」
 彼は口元に笑みを浮かべながらそう呟くと、その男へと近寄り、そして背後から矢の狙いを定めた…。

443N2:2003/12/25(木) 17:47

 モ蔵が眼を覚ますと、時計は6時前を指していた。
 部屋の中には、青年の姿は無い。
 (例の『日課』とやらにでも出掛けたのか…)
 そう思うとモ蔵は起き上がり、寝間着から作務衣に着替えると、部屋のラジオを付けた。
 そして周波数をNHKに合わせると、ニュースを聴きながら静かに6時半を待った。


 昨晩のことだ。
 初代モナーが作った夕食はご飯・味噌汁・アジの開き・梅干と質素なものであった。
 だが、モ蔵にはむしろその方が良かった。
 碗に盛られた飯が半分ほど減った頃、突然初代モナーがモ蔵に話し掛けた。
 「ああ、そうだ、おっさんに言っておくことがあった。明日から朝オレがいなくても、別に心配しなくていいから」
 「…どういうことだ?」
 「オレ、毎朝5時頃からランニングしてるんだ」
 「ランニングに?お主が?」
 卓上に並ぶ料理に伸ばした箸を戻して、モ蔵は初代モナーに聞いた。
 「何だよ、その信じられないって言いたそうな顔はー。オレが毎朝そうして何が悪い?」
 少々不機嫌そうな顔をしながら、初代モナーは言い返した。
 「すまぬが…決してそういうことが似合うとは思えなかった」
 率直な感想を述べると、初代モナーはばつの悪そうな笑みを浮かべた。
 「ああ…まあ確かにそりゃそうだ。今までにもオレの習慣を聞いてびっくりしなかった奴の方がまれだ。
 そりゃ普段の素行だけを見てればそう考えられても仕方ないけど。
 …でもなおっさん、おっさんだって、オレのこの習慣が無かったら今頃どうなっていたか分かんねえぞ?」
 「…それは一体どういうことだ?」
 「昨日オレがおっさんを見つけたのも、あそこがオレの町内一周ランニングのルートだったからさ。
 びっくりしたぞ、ホントあの時は。今まで何年も毎日欠かさず走ってたけど、こんなことは初めてだったんだから」
 「…それもそうだな、無礼なことを言って済まなかった」
 「ん、いいよ。別に気にしてないから。それと、朝飯は部屋にあるもので適当に済ませてくれ。
 オレは行った先で食っちまうから、何か自分で勝手に作っても構わないから」
 
 
 「皆さん、おはようございまーす!!」
 (おはようございまーす!!)
 ラジオから、若い男と群集の声が響く。
 8月14日、木曜日。
 この町にやって来て今日で2日目。
 初めからそうなることは予想していたが、やはりすぐに『矢の男』と決着を付けることは出来なかった。
 では果たして、今度まみえる時には彼を討ち取ることは本当に出来るのだろうか?
 昨日戦ったとき、「暗・剣・殺」は確かに当たったはずであった。
 しかし、実際にはかわされ、結果はあのザマだ。
 それでは何故男は自分の攻撃を瞬間的に避けることが出来たのだろうか。
 自分の記憶が正しければ、以前の彼にはそんな能力は無かったはずだ。
 と言うことは成長したのか?
 …分からない。
 何度考えても頭の中では疑問が渦巻くばかりだ。
 それよりも、彼の能力を暴く前に、剣を避けられた自分の腕を恥じるべきである。
 …精進せねば。
 と、ラジオからはピアノの音が鳴り始めた。
 モ蔵は男の声に合わせて、背伸びを始めた。

444N2:2003/12/25(木) 17:49

 時計の針が9時を指しても初代モナーは帰って来なかった。
 モ蔵は、一瞬躊躇したが、こんなボロい所に盗みに入る奴もいまいと思い、部屋の鍵を掛けぬまま郊外の倉庫へと向かった。



 何の収穫も無くモ蔵がアパートへと帰ってきたのは、結局夕方の4時過ぎであった。
 カビ臭い建物の中に足を踏み入れると、自分達の部屋から見覚えの無い女が出てきた。
 もしや鍵を掛けなかったから空き巣にでも入られたのではないか。
 青年に無断で外出し、部屋の物を盗まれたとあっては一大事だ。

 「あら…?」
 「失礼だが、お主…何者だ?」
 必死に駆け寄ると、しぃ族の女はきょとんとした表情でモ蔵の顔を覗き込んだ。
 明らかに時代を間違えた服装。
 身にまとっているのは裾模様、足元は足袋と草履。
 髪は結って後ろでまとめてあり、まさに「明治・大正の女」と呼ぶに相応しい。
 だがそれでも場違いな者に見えないのは、彼女がこの服装をごく自然に着こなしているからだ。
 恐らく、平時からこの調子で過ごしているのだろう。
 歳は30代前半に見えるが、どこか落ち着きと芯の強さが感じられる、非常に日本的で美しい女性である。
 遠くから見たのでは気付かない、その内から染み出す魅力には流石に堅物のモ蔵も一瞬どぎまぎしたが、それよりも今は素性の方が問題である。
 「私…ですか?私は、この近所の者ですわ。さう言ふ貴方は、どちら樣ですか?」
 話し方さえも、美しい。小さい頃からきちんとした躾を受けていなければ、自然とこんな話し方が出来たりはしない。
 どこか呆けたように自分の顔を眺めているモ蔵に、女の不信感も少しずつ増していった。
 「ちよつと、聞いてらつしやゐますか!?」
 「…あ、ああ、申し遅れた。拙者はつい昨日からこの部屋に住まわせて貰っておる、モナ本モ蔵と申す」
 彼女の声に眼を覚まされたモ蔵は、慌てて返事をした。
 「…本當に、あの子の知り合ひでいらつしやいますの?」
 彼女の声には、明らかに自分のことを疑っている感情が見え隠れしている。気を抜きすぎた結末だ。
 焦りを感じて完全に気を取り直したモ蔵は、改まった口調で女の問いに答えた。
 「本当のことだ。そこまで疑うなら、あの男に直接聞いてみれば良い」
 言葉の中に、先程までは無かった真剣さを感じ取った女は、それ以上モ蔵に疑いを抱かなかった。
 「…そこまでな仰るなら、きつと本當の事なのでせうね。
 變に疑つてしまつて、申し譯ありませんでしたわ」
 「いや、こちらも貴女のことを疑っており、無礼な言葉を掛けてしまいました。
 本当に詫びねばならぬのは、こちらの方であります」
 女の態度に、こちらも腰を低くせずにはいられなくなった。
 だが、どうやらこの女も嘘を申しているわけではないらしい。

445N2:2003/12/25(木) 17:49

 「ところで、貴女は彼に何か用でもあるのですか?」
 「えゝ、さう/\、實は今日の御夕飯にと思つて作つた里芋の煮物がとても(゚д゚)ウマーく出來上がりましたから是非あの子にも、
 と思つて參りましたら、部屋の鍵だけ開て誰もいらつしやいませんから…」
 しまった。別にいいだろうと思って鍵を開け放しておいて失敗した。
 「…それが、実は彼が朝から出掛けてなかなか戻りませんでしたから、待っていても仕方が無いので私も鍵を掛けずに出掛けておって、
 丁度戻って来た時に貴女が部屋から出てきたものですから…」
 「あら/\、鍵も掛けずにお出掛けなさるなんて、隨分と無用心では御座いませんか」
 「…申し訳ありません。拙者の不注意でした。後で彼には詫びの言葉を入れることにします」
 本当なら鍵を残さなかった青年のことも言いたかったが、今更そんなことを言っても仕方が無い。
 モ蔵は女が自分のことを責めるだろうと思って平謝りしたが、彼女の反応は全くの予想外のものであった。
 「ウフフ、別にそんなにお堅くなられなくても良いぢやあゝりませんか。
 よく言ふでしよ、『友逹の友逹は友逹』つて。私逹もあの子を挾んだ知り合ひなんですもの、もう少し和やかにお話ししません?」
 女の方から自分に歩み寄って来てくれたお陰で、モ蔵も彼女に対して親近感を持ち始めた。
 「…では、お言葉に甘えて」
 「ほら/\、『分かりました』くらゐで構ひませんよ」
 「『分かりました』。…よろしいでしょうか?」
 「フフフ…モナ本様、でしたっけ?貴方、本當に面白い方ですわね」
 「面白い…拙者が?」
 面白い人などとこれまで呼ばれたことのなかったモ蔵は、女の思いも寄らない言葉に動揺した。
 これまで剣とスタンドの道にのみ生き、数多くの命を奪い、一方では「剣聖」と崇められながらも、また一方では「剣魔」と恐れられてきた。
 今まで、他者が自分を見る時は全て戦いにおいての面のみであり、その人間性については存在すら意識されなかった。
 「剣」そのもの。モ蔵は今まで、そういう存在だと思われてきた。そして彼自身にも。
 「えゝ、さうですわ。だつて本當にお堅い喋り方が染み付いておられて…。
 私、最初に話し掛けられた時に一體この方いつの時代からやつて來られたのかと考へてしまつたくらゐですもの」
 「それは、貴女が言えたことではありませんよ」
 あらさう言へば、女が口にすると、2人は何だかおかしくなってしまい、そのまま大笑いしてしまった。
 ここ最近心の底から笑うことの無かったモ蔵も、この時は本当に愉快な気持ちになった。
 それは単純に愉快だったからではなく、久々に人の温かみに触れたからでもあった。

 「そう言えば、貴女は先程彼のことを『あの子』と呼んでいらっしゃいましたね」
 一通り笑い終えてすっきりした後、モ蔵はふと先の女の言葉を聞いた時の疑問を思い出し、彼女にぶつけてみた。
 「ええ、こゝの初代モナー君とは昔から付き合ひが有りますの」
 「では一つお願いがあるのですが、彼のことについて色々とお聞かせ下さいませんか?」
 「あら、それはどうして?」
 「はい、実は彼が毎朝ランニングをしているという話を昨日聞いたのですが、私にはどうしてもそれが信じられなくて…。
 それだけではありません、彼も男の一人暮らしにしては割と部屋も片付いていますし、それに昨日彼が家事の分担を申し出たのですが、
 それも彼の方に大変な仕事が偏っていまして…。勿論、それだけならただの真面目な青年で片付けられるのですが、
 彼の言動があまりそういう風には見えないものですから…」
 それを聞いて、今まで明るい顔をしていた女の顔が急に厳しくなった。
 「それは、幾らなんでもモナ本樣の偏見と言ふしかありませんわ。彼は本當に心の底から正直で眞面目な子ですわ」
 突然語調を強めた女の反応に、モ蔵は深い理由を察した。
 「…しかし、私の見た限りではなかなかそういう者には見えないのが実際の所です。
 それとも、貴女が彼のことをそこまで真面目だと言い張るのには、何か理由が…」
 女の顔は、何か辛い決断をしたような表情であった。
 その顔を見て最後まで言い切れなくなったモ蔵を横目で見ると、女はしみじみと語り始めた。

446N2:2003/12/25(木) 17:50

 「…そうですわね、モナ本樣でしたらお話しゝても宜しいでせう。
 あの子の兩親と私は古くからの知り合ひでした。
 2人とも警察官で、この町の危險を守る爲にといつも危險な現場へと率先して出向くやうな人逹でした。
 2人は時として2週間以上も家を空けることもあり、あの子はその度に私の家に泊まりに來て居ました。
 私が危ないんぢやないの、あなた逹にもしもの事があつたら子供はどうするの、と言ふと、いつも決まつて
 『どんなに危險な現場であらうと、誰かゞ行かなければならないんです』と答へて居ました。
 そんな兩親をいつも見てゐたからなんでせうかね、あの子も隨分と生眞面目で融通の利かない子に育つていきましたわ。

 …でも、私の恐れてゐたことがとうたふ起こつて仕舞ひました。
 あの日、私は蟲の知らせがして、朝2人が出勤する前に會ひに行つたんです。
 2人はいつもと變はらない調子でおはやう、と答へました。
 でも私はその朝2人の後ろに黒い影が付き纒つてゐるのを感じたんです。
 そこで私は單刀直入に、あなた逹はひよつとして何か危險な事件に關はつてゐるんぢやないのと問ひました。
 2人は危險な事件に關はらない警察官などゐない、と言ひましたが、その後直ぐに、
 『若しも私逹に萬が一の事が有れば、其の時はあの子の事を頼みます』と言ひ直しました。
 それは2人の口癖でもありましたが、その時は何時にも増してその言葉が現實味を帶びて居ました。

 2人の訃報を聞いたのは、それから1月程經つてからでした。
 後で聞いた話ですが、2人は破壞活動を行ふ一團に潛入調査をして居たらしいのですが、
 正體がばれてしまひ始末されたらしかつたのです。
 2人の遺體が家に屆けられても、あの子は決して私逹の前で涙を見せることはありませんでした。
 私が泣かないの、悲しくないのと言ふと、あの子は『僕は警察官の親を持つた時點でかういふ日がいつか來るかも知れないとは思つて居ました。
 だから今こゝで泣いても仕方ない、それよりもこれからどうするかを考へなくてはいけない』と答へました。
 まだ10歳にも滿たない子供がですよ?
 きつとあの子も本當は氣の濟むまでずつと泣いてゐたかつたんでせうね。
 けれど、突然天涯孤獨の身になつてしまひ、頼れる者がほとんど居ない状態ではいつまでも悲しみに耽つてはいけない、
 自分でなんとかしなくてはと考へた…また兩親もあの子にさう育つやうに教育したんでせう。
 でも、あの子にとつての本當の辛さは、むしろこの先でした。

447N2:2003/12/25(木) 17:50

 あの子の兩親は、自分逹が死んだ時の事を考へ、彼の爲にある程度の生活費を遺して居ました。
 けれども今まで私逹が見たことも聞いたこともなひ2人の親族を名乘る心無い大人逹が、そのなけなしのお金をほとんど奪つていつてしまつたんです。
 その時は私も必死になつてそのお金の意義を主張しました、けれども彼らはどこかゝら辯護士を連れて來ると、
 難癖を付けて法律の上ではどうだかうだと言ひ張り、私逹の言ふ事には聞く耳も持つてくれはしませんでした。
 結局その大人逹はあの子からお金も、財産も、住む家さへも奪つてしまひました。
 そして更には行き場を失つたあの子をどこか遠い孤兒の施設へと入れて仕舞はうとさへしたのです。
 けれどもあの子は應じませんでした。
 大人逹が強引に連れて行かうとすると、あの子はかう言ひました。
 『僕は確かに兩親を失ひ、保護してくれる人間は誰も居なくなりました。
 だから確かに、あなた方にこれから先の僕の生活を選ばれてしまつてもそれはある意味では仕方の無い事だとは思ひます。
 けれども今の僕には、兩親が命を賭してまで守らうとしたこの町を、あなた逹の判斷で去らなくてはならないといふ現實を受け入れることが出來ません』
 それを聞いて、私もあの人逹に言つてやりましたわ。
 あなた逹はこの子から財産を全て奪つて、それだけでは飽き足らず今度は自分逹とこの子との關係を失くさうとこの町への『思ひ』さへも奪はうと言ふのですか。
 保護者がゐないと言ふなら、私が保護者にならうぢやないですか…つて。
 流石にそれを聞いてあの人逹もそれだけは勘辨してくれました。

 でもあの子は決して私逹大人の世話にならうとはしませんでした。
 それは遺産相續の件があつたからだけではなく、周圍の者逹には決して迷惑を掛けたくないといふ配慮の精神のみから來たものでした。
 私が一緒に暮らしませうと言ふと、あの子は『子供を1人抱へるだけでも小母さんの家計には大きな負擔になります、
 僕にはまだ僅かながら兩親の遺してくれた蓄へが有りますから、後は自分で何とかします』と言ひました。
 それからと言ふものはあの子は決して他人の世話にならず、いつも1人で生きて居ました。
 私の家の近所といふことでこゝに部屋を借りてからは、毎朝毎朝新聞を配逹して、牛乳を配逹して、學校が終はればバイトに明け暮れる日々…。
 そんな生活を繰り返すあの子を、確かに同情の目で見る者も少なく有りませんでしたが、けれども中には生意氣だとか、氣に食はないとかいふ者だつて居ました。
 中等部や高等部では、柄の惡い上級生や同級生は平氣でバイトをしてゐる彼を妬み、あるいは教師の中にも事情を知つてか知らずか偏見の目で見る者さへ居たと言ひます。
 決して口には出しませんでしたけど、あの子は相當酷い虐めを受けて居ました。
 いつも顏にはあざが殘って居ましたし、ずたぼろの制服で歸つてきたり、鞄を持たずに歸つてきた事さへ有りました。
 若しも私がそんな目に遭つたら、きつと自殺を考へてしまふでせう。
 …けれども、あの子はそんな酷い目に遭ひながらも、決して卑屈になつたりとか、荒れたりすることは有りませんでした。
 いつだつたか、あの子は言ひました。

448N2:2003/12/25(木) 17:50

 『小母さん、僕は小さい頃から町の爲に働く兩親の姿を見てきました。
 大人逹の中には殉職した兩親のことを惡く言ふ奴だつて居ますけど、僕は決してそんな事は無いと思ひます。
 兩親は死ぬ前にも、數多くのこの町の平和と安息を壞さんとする輩どもを潰滅してきました。
 葬儀の時も、兩親の上司は「君逹が居なかつたらこの町は今頃どうなつて居たか分からない」とまで仰つて下さいました。
 兩親が若し町の爲に命を捨てる覺悟をしてゐなければ、今の我々はこゝまで平和な生活を送れては居ないはずなのです。
 それなのに、今我々は彼らの働きによつて平和を得てゐるのに、その志半ばで倒れた兩親の事を惡く言ふ權利など我々にはあるのでせうか?
 俺は今でも兩親の事を誇りに思つて居ます。
 だから俺もいつか必ず、何かしらの形でこの町を守る仕事に就きたいと思つて居ます。』

 あの子は自分の夢を果たす爲に必死になつて勉強し、働きました。
 普通の子だつたら絶對に途中で倒れてしまふやうな、そんな過酷なスケジュールを毎日毎日こなしてきました。
 朝も早くから新聞や牛乳の配逹は勿論の事、學校が終はればすぐに仕事を2つも3つもこなして、家に歸るのはもう夜遲くになることばかりでした。
 聞くところでは工事現場とか色々氣性の荒い人逹の集まるバイトさへ經驗したと言ひますもの、少々言葉遣ひが荒くなるのも已むを得ないでせうね。
 そんな仕事をすれば身體は疲れ切つて居る筈なのに、あの子は大學に入る爲に寢る間も惜しんで勉學に勵み、
 ある時私の家に泊まつた時でさへ3時位まで起きて居ました。
 それでまた早朝から仕事が始まり、そんな日々が何日も何日も…。
 でもあの子は倒れるどころか、決して泣き言の一つさへ上げませんでした。
 でもいざ受驗といふ時になつて、どうしても上京して一人暮らしをするだけのお金が無いといふ事になつてしまひました。
 彼はまたずつと働いてゐればいつかはお金が貯まるでせうと氣樂さうには言つては居ましたが、
 彼の稼ぐお金から生活費を引いたらそれだけのお金を稼ぐのに何年かゝるのか分からないことは私逹にもはつきり分かつて居ました。
 このまゝではあの子の今までの頑張りが無駄になつてしまふ、さう思つた私は近所の人逹や彼の働き先の人逹に頼んで、募金を募りました。
 皆あの子がどれだけ苦しんでゐるのか分かつて居たんでせうか、どの方も澤山のお金を出して下さいました。
 それでそのお金を渡した時には、流石にあの子も泣いて喜んでくれました。
 それからもあの子は決して慢心することなく勉強し、それで東京ギコ大學に現役で合格して、この春卒業して戻つてきたばかりなんですわ」

449N2:2003/12/25(木) 17:51

 女の話を聞き終え、モ蔵は青年を表面的な部分だけを見て不真面目だと決め付けた自分の貧しい心を恥じた。
 女は、話の途中から感極まって涙を流していた。
 2人の間に沈黙が走る。
 モ蔵はこれまでの想像の上での青年の姿が頭の中で崩れてゆくのを感じていた。
 女は傷付きながらも弱音を吐かずに生きてきた青年の姿が走馬灯のように浮かんでいた。
 「…私がお話出來るのはこれだけですわ」
 女は気が付いたようにその静寂を破った。
 女はこれだけとは言ったが、青年はこの女が語った以上に辛い人生を歩んできていてもおかしくはない、とモ蔵は思った。
 「やはり私は彼に詫びねばなりませんね」
 「どうして?」唐突な男の言葉に女はその真意を尋ねずにはいられなかった。
 「私は先程も申しましたが、彼をその表面的な振る舞いだけできっと不真面目であるに違いない、むしろ多少の真面目そうな行いの方が
 何かの間違いだろうとまで考えてしまいました。
 しかし実際は彼は私の想像を絶する半生を歩んできていました。
 私は自分の偏見で彼の人間性を疑ってしまっていたのです。
 それを隠したままでこのままここに同居させて貰っては、それはまさしく彼に対する冒涜に等しいものです」

 モ蔵は青年と自分のこれまでの人生を重ね合わせていた。
 誰にも頼らず、自分の力だけで生きてきた日々。
 だが両者の間には決定的な違いがあった。
 自分は確かに父に痛めつけられてきたも同然ではあったが、そこには父なりの考えと愛情が感じ取れた。
 そのことが今のモ蔵の信念がこれまで折れずに保たれてきた一因であると彼は考える。
 しかし青年は、モ蔵が旅に出るよりも早くに両親を失い、更には人に頼るどころか、人から虐げられ、見下されて生きてきたのだ。
 その彼が両親の遺志をこれまで失わずにやって来れたのは、自分よりも遥かに強い精神があったからに他ならない。
 モ蔵は青年をある種の尊敬の眼差しで見るようになったと同時に、どうしても彼に詫びずにはいられなくなった。

450N2:2003/12/25(木) 17:52

 「モナ本樣のお考へは確かにごもつともですわ。…でも、出來ればそれは止めて下さいませんか?」
 モ蔵の告白に、女は意外な返事をした。
 「一体それは何故ですか?このままでは、私の気が治まりません」
 モ蔵の語調が少し強くなったのを女は感じたが、変わらず落ち着いた調子で答えた。
 「えゝ、モナ本樣の御氣持ちは私にも良く分かります。でも、正直なところを申しますと、あの子は今でも昔の事が心の傷になつて居るやうなんです。
 勿論あの子もそんな事はおくびにも出しませんけど、でも今でも昔の事は決して語らうとはしませんもの。
 …ですからモナ本樣、この事はどうか貴方の心の内にしまつて置いて、これからはさういふお氣持ちにあの子に接してやつて下さい。それで宜しいではありませんか」
 「しかし…!!」

 「おい、お前は斯くなる所で何をしたるるゝのだ」
 不意に男の低い声が割り込んできた。
 後ろを見ると、これまた明治・大正人のような格好をしたギコが廊下の端に立っていた。
 「あら、さういふあなたもどうしてこちらへ?」
 「否、散歩から歸つてきたらお前が居なかりしもの故に、きつと此方へ來てゐるならんと思ひて見に來たのだ」
 「…ださうですわ。彼れの人も本當に堪へ性のあらざる人ですわね。はい/\、其れでは今參りますわ。
 其れではモナ本樣、御機嫌やう」
 女は男の元へ行き、そのまま会釈をして2人で帰っていった。
 「…既婚者だったのか…」
 モ蔵の中では、青年の過去よりもそちらの方が驚きであった。



 青年が帰ってきたのはその日の7時過ぎであった。
 青年は昨日と変わらず、どこかとぼけた調子でモ蔵に接していた。
 モ蔵は余程頭を下げようと思ったが、それでも女の制止が頭に引っ掛かり、遂にその日は何も言わずに終わってしまった。

451N2:2003/12/25(木) 17:52

 夜道、もう明かりの付いている窓は見当たらない。
 夜空には右側が欠け始めた月が輝いている。
 道を歩く姿は無く、遥か遠くからは犬の遠吠えが響く。
 そこに遠くから響く足音。
 それは少しずつこちらへと近付いて来る。
 足音の正体は男。
 目には狂気が渦巻いていることは誰の目にも明らかである。
 「アーヒャヒャヒャヒャ!アノ男ノオ陰デ身ニ付イタ『スタンド』ッ!!マズハコノ町ヲ実験体ニシテヤルゼ!!
 アーッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

452新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 19:58
乙彼ー。

453新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:35
貼ります

454新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:35
   救い無き世界
   第三話「出会い・その2」


「『デュアルショック』!!」
 マララーのスタンドの右拳が、俺に向かって迫ってくる。
 とてつもないスピード。
 反射的に、その場から飛びのく。
 間一髪、拳は空を切った。
 俺という目標を失った右拳は、代わりに壁にそれと同じ大きさの穴を開ける。
 冗談じゃない。
 こんなパンチ、生命保険に入ってても御免被りだ。
「どうした?何をやってる。来いよ。
 使わないのか?スタンドを。」
 うるせえ。
 使えるならとっくに使っている。
 だけど、どうする。
 どうすればいい。
 さっきは何とか避けれたが、あんなパンチ何度も同じようにかわせるとは思えない。
 もし次に連続で打ってこられたら完全にお手上げだ。
 スタンドとやらを使わないと、確実に、死ぬ。
 だが、どうやって。
 俺はどうやってあの時、スタンドを使ったんだ。
 思い出せ。
 思い出すんだ。
 俺はあの時何をどうやった。
「そっちから来ないなら、こっちから行くぜぇ!!!」
 マララーがパンチを繰り出す。
 まだスタンドの出し方は全く分からない。

 奴の拳が俺の顔面に到達するまであと二十センチ。

 みぃが悲鳴を上げるのが聞こえる。
 馬鹿が。
 そんな暇があるならさっさと逃げろ。

 あと十五センチ。

 駄目だ。
 避けられない。
 死・・・・・・・・・

      ドクン

 俺の体の内側から、覚えのある鼓動が伝わった。

 あと十センチ。

      ドクン ドクン

 そうだ、思い出した。
 あの時俺は

 あと五センチ

      ドクン ドクン ドクン ドクン

 この鼓動と同調して・・・

 一センチ


 肉と肉とがぶつかったことによる衝撃音。
 奴の攻撃は、異形と化した俺の腕にしっかりと受け止めていた。

 出せた。
 これが、スタンド。

455新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:37

「・・・出しやがったな。」
 感心したようにマララーは言うと、
一旦俺から距離を取った。
「弟分達の言ってた通りだ。
 その奇妙な『腕』。
 それがお前のスタンドか。」
 違う。
 正確に言えば「俺の」ではない。
 俺の中にいる、俺とは別の「何か」の力だ。
 感覚で、それが分かる。
「しかし、妙な話だ・・・
 スタンドはスタンド使いにしか見たり、触れたり出来ない筈だ。
 にもかかわらず、あいつらはお前のその腕を『見た』という。
 これはどういう事なんだ・・・?」
 マララーはふと考え込むそぶりを見せた。
 知るか、そんな事。
 こっちが聞きたいくらいだ。
「まあ、いい。
 お前はどうせここで死ぬんだ。
 そんなことを考えることに、意味は無い。」
 マララーが俺に近寄って来た。
 俺はすぐに身構えて迎撃態勢を整える。
「もう手加減はしねえ。
 使わせてもらうぜ!!
 俺のスタンド、『デュアルショック』の能力を!!!」
 再び俺に右拳が迫ってくる。
 だが、今度はさっきみたいに怯んだりしない。
 見える。
 奴の攻撃がはっきりと。
 これもスタンドのおかげだろうか。
 これなら大丈夫だ。
 このパンチを左腕で受け止めたら、右をお返しに叩き込む。
 今の俺なら、出来る。
 来た。
 まずはこいつを左で受ける。

(!!!!!!!!!!!!!)
 その時信じられない事が起こった。
 俺の左腕が、激しい衝撃と共に奴のパンチに弾かれたのだ。
 左腕に激痛が走る。
 しかも奴の拳を受けた所だけでなく、腕全体に。
 何故だ!?
 さっき奴の攻撃を受けたとき、
 そんなにパワーの違いは感じなかった筈だ。
 奴はこれ程の力を隠していたとでもいうのか?
 いや、違う。
 今の衝撃は、単純な力だけのもののそれではない。

 そんな事を考えている間に、
 奴の返しの左が俺に襲い掛かる。
(まずい・・・・・・・!!!)
 必死にかわす。
 奴の拳が側頭部を掠った。
 大丈夫だ。
 ちょっと掠っただけで、ダメージは無い。
 すぐに、反撃を・・・

456新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:37
 次の瞬間、俺は地面と熱い口付けを交わしていた。
 あれ?
 どういうことだ?
 これはどういうことだ?
 何で俺は倒れてる?
 何してんだ。
 急いで立たなくちゃ・・・

(・・・・・・・!?)
 足に力が入らない。
 視界が波打つ。
 頭が揺れる。
 酷い吐き気がする。
 駄目だ。
 立てない。

 みぃが俺に駆け寄って来た。
 しゃがみ込み、俺に向かって必死に何か言っているが
 意識が朦朧として、全く聞き取れない。
 何やってる。
 早く逃げろ。
 さっきも同じことを考えたぞ。

 だけど、何故だ?
 何故俺は倒れている?
 さっきのパンチか?
 有り得ない。
 確かにパンチは当たりはした。
 だけど、掠っただけだ。
 それだけで、ここまでなるわけがない。
 だけど、現実に俺はここに倒れている。
 何が、何が起こった!?
 俺に一体・・・

「一体何が起こったのか分かんないって所か?
 なあ、おい。」
 マララーの声だ
 かろうじて、音が聞き取れるようになったみたいだ。
「冥途の土産に教えてやるよ。
 何故ガードした腕が簡単に弾かれたのか。
 何故掠っただけでお前が倒れたのか。」
 マララーが勝ち誇ったように喋りだした。
「俺のスタンド『デュアルショック』の能力、
 それは触れたものを高速振動させる!
 これが手品のタネだ。」
 そうか、そういうことか。
 腕全体にダメージがあったのも、
 掠っただけで倒れたのも、そのせいか。
「こういう風に自分の能力をペラペラ喋るのは、
 スタンド使いにとって最も犯してはならないミスだが、今回は別だ。
 何故なら、俺の能力を知った奴は今、ここで、
 確実に始末するからだ!」
 奴のスタンドが、俺に止めを刺すために拳を振り上げる。
 糞が。
 ここまでか・・・・・・!!

457新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:38

「止めて下さい・・・
 もう、十分でしょう・・・!!」
 みぃが、マララーの前に立ち塞がった。
 背後にスタンドを出している。
 しかし、みぃの体は恐怖からか小さく震えており、
 彼女にマララーと闘えるだけの力が無い事は端から見ても明らかだった。
「くくくく・・・はぁっはははははは!
 いや、美しい光景だねえ。
 身を挺してでも、そいつを守ろうってか。
 だけどな、下がってろ、お譲ちゃん
 お前は後だ。」
 マララーはみぃのことは完全に敵足りえるとは
 見なしていない様子だった。
 そして、ほぼ間違い無くその判断は正しい。
「出来ません・・・
 あなたみたいな人、この人には絶対に近づけさせはしません!」
 馬鹿。
 何故逃げない。
 お前がそいつに敵わないことぐらい分かるだろうが。
 自分で言ってたろ、私のスタンドには闘う力は無いと。
 なのに何故俺なんか守ろうとする。
 殺されるぞ。
「どけっつってんだよ!!!」
 案の定、ものの一撃でみぃは吹き飛ばされた。
 地面に倒れ込み、みぃは小さく苦悶の声を漏らす。
「・・・気が変わったぜ、女。
 まずてめえを、そこに転がってる男の前で、犯してやる。
 それから、ゆっくりと時間を掛けて、虐殺してやる。
 ネチネチと、てめえから殺してくれってお願いする程にな・・・」
 マララーが、みぃにゆっくりと歩み寄った。
 やめろ。
 お前の目当ては俺だろうが。
 みぃに手を出すな。
 やめろ。

     ドクン

 みぃに指一本触れてみやがれ。

      ドクン ドクン ドクン

 殺す

      ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

 殺す殺す殺す殺す壊せ殺す殺す殺す壊せ殺す殺す殺す殺す壊せ殺す

458新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:39
「そこまでだょぅ!!」
 俺の体から「何か」が溢れ出ようとしたその刹那、
 裏路地に甲高い声が響いた。
 そこに、一人の男がいた。
「なんだぁ?お前。」
 マララーは男にうざった気に声を投げかけた。
「抵抗はするだけ無駄だょぅ。
 大人しく投降するょぅ。
 そうすれば危害は加えなぃょぅ。」
 助けが来たみたいだが、
 全くあてに出来そうになかった。
 なんたって相手はスタンド使いなのだ。
 一般人にどうこう出来るとは思えない。
「それは無理な相談だなぁ。」
 マララーがぃょぅに向かってスタンドによる攻撃を繰り出した。
 拳が吸い込まれるように頭へと伸びていく。
 駄目だ、殺られる・・・・・・!!

「『ザナドゥ』!!!」

 旋風――――
 吹き抜ける烈風が、マララーの体を宙へと舞い上げた。
「触れられさえしなければ、君のスタンドは恐くなぃょぅ。」
 マララーは訳が分からないといった表情で、
 今度は重力に導かれるまま地面へと落下していく。
 見ると、ぃょぅの傍にスタンドの姿が浮き出ていた。
「ぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぅ!!!!!」
 落下してくるマララーの体に、ぃょぅは猛烈なラッシュを叩き込んだ。
 マララーに次々と拳が打ち込まれていく。
「やっだああああーーーーー!!!ばああ!!!」
 マララーは下品な悲鳴を上げて再び宙を舞い、
 今度こそ地面に叩き付けられ、
 気を失ったのかピクリとも動かなくなった。
 それにしても、今のは、何だ。
 こいつもスタンド使いなのか?
「壁に耳あり障子に目あり。
 周りに他に誰も居ないと思い込んで、
 迂闊に自分の能力を喋ったのが、君の敗因だょぅ。」
 ぃょぅが誇らしげに言った。
 言うのは勝手だが、もう当の本人には聞こえていないと思うぞ。
「さて・・・君たち、大丈夫かょぅ。」
 ぃょぅがこちらを向いた。
 大丈夫じゃない事ぐらい、見りゃ分かるだろうと思ったが、
 助けてもらった立場上、余り強くは言えない。
「悪いけど、少しそこで待っててもらうょぅ。」
 そう言うとぃょぅは携帯電話を取り出し、
 何やら電話を掛け始めた。
 そして、電話の相手に向かってこう言った。
「こちらぃょぅだょぅ。スタンド使いを『三名確保した』ょぅ。
 直ちに事後処理班をよこして欲しぃょぅ。」


 TO BE CONTINUED・・・

45917:2003/12/25(木) 23:53
      乙です
>>457あのままぃょぅが来なかった場面も見てみたいもんだ

460新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:58


461:2003/12/26(金) 00:20
>>428-429
              / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              |  ハァハァ (´Д`*)
              \_   _______________
                 | / /
                  ∨  |   そんな事を言ってると埋め…
              日 ▽ Ⅱ\  _______________
              ≡≡≡≡≡| /   ∧∧  /
<カランカラン           Ⅲ  ∩  [] ∨目  (゚Д゚,,)<  いらっしゃ…!
                           |つ∽  \_________
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                (  ゚)  (  ゚)∇
              ―(428つ―.(429つ―――
               ━┳━) ━┳━)
                 ┃      ┃



              日 ▽ Ⅱ [] Ⅲ                          ┃
              ≡≡≡≡≡≡≡≡ ∧∧                         ┃
               Ⅲ ∩ []   目  (゚Д゚;)                        ┃
                           |つ∽                          ┃
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              /´ ̄(†)ヽ   (゚  ;)∇                           ┃
              ,゙-ノノノ)))))―(429つ―――                       ┃
 ''⌒)          ノ  ル,,゚ -ノ  ━┳━)                               ┃
  ' ''') ⌒)         / くj_''(†),jつД`)┃                             ┃
≡≡≡;;;⌒)≡≡≡ん''く/_l| l|'(428つ                              ┃
     ;;;⌒) ⌒)     しヽ_) し し                              ┃

462:2003/12/26(金) 00:21
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                                                  ブゥゥゥゥン!!


              日 ▽ Ⅱ [] Ⅲ                           ┃
              ≡≡≡≡≡≡≡≡ ∧∧                          ┃
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               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                   ┃
                    /´(†) ̄ヽτ├<っ                    ┃
              ――――((((((((-、,゙ ―――ιυ─                ┃
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                 ┃('Д⊂i,(†)'_'j>  ゝ    (´⌒(´               ┃
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                   しし (_ノヽ)   (´⌒(´⌒;;            ⊂(。Д。 )┃

463:2003/12/26(金) 00:22

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          /´(†) ̄ ヽ /////
         (((((((( -、,i
          |i、゚  ゚ 从从 スタスタスタ…

※ネタです。他意は(r

464新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 00:39
>>461-463を見て
夜なのに大笑いしてしまった…
リナーハァハァ (´Д`*)で殺られましたか…

465新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 09:13
キングオブファイターズを思い出した。

466新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 10:35
モナーの脳内ウホッ!いい女ランキングが何故か知りたい…

467新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 10:46
わーいリナーにヤられたー/ヽァ/ヽァ(´д`*)

468429:2003/12/26(金) 13:40
>>428ハイイケド 
な、何故に僕までkぎにゃぁあぁぁぁぁ!

469新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 17:11
ミニスカートからすらりと伸びた綺麗な足/ヽァ/ヽァ(´д`*)

470新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 19:17
小説スレッドが違う意味で進んでる…

471430:2003/12/26(金) 20:37
まだだ、まだ漏れは殺られていない!

472新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 20:45
>>430
そんな事言っていると殺られますよ!
ひええええ〜俺は見逃してくださいいい〜!

473新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:02
……モナー君がいっぱい

474新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:09
『重複』と書かれた紙がいくつも…

475新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:35
重複の意味が分からなかった・・。

476新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:57
>>475
わからなかった‥、と言うことは
今は分かっているのだね。

477新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:00
今も分かりません・・・。

478N2:2003/12/26(金) 22:17
>>477
「欲しい物がダブっている人がいます、この世に1つしかないものなので
1人を贔屓する事が出来ませんから我慢して下さい」
の意でしょう。
欲しい物が何かは…お分かりでしょう。

479新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:21
(・∀・)ニヤニヤ

480新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:24
  ・
今年も寂しいクリスマスだった…。

481新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 23:45
『重複』はッ! このスレに居るモナーたちによってッ! 解決するッツ!

482新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 00:43
袋に詰めておきました。

      ∧_∧   ∧_∧   ∧_∧
      ( ´∀`)  ( ´∀`)  ( ´∀`)
     / ̄ ̄ ̄ヽ  / ̄ ̄ ̄ヽ  / ̄ ̄ ̄ヽ
     |      |  |      |  |      |
     ヽ    /  ヽ    /  ヽ    / 
       ̄ ̄ ̄    ̄ ̄ ̄     ̄ ̄ ̄

483N2:2003/12/27(土) 06:45

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 実に今更だけど、『アナザー・ワールド』の名前がかぶっちゃったよ・・・
\_  ___________________________
   ∨
 ∩_∩
G|___|     ΛΛ
 (;・∀・)∬ ∬ (゚Д゚) リナー葬されるぞオイ
 (__   ⊃目 目⊂ ノ
  し__)┳━┳ (_っ

|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|:;;:|Д゚;)< スイマセンスイマセンスイ(ry
|::;;|::U .:::...\______
|::;:|;;;|:::.::::::.:...
|:;::|::U.:::::.::::::::::...

484N2:2003/12/27(土) 06:46

感染拡大.com

ふと手持ちの時計を見ると、もう8時を回っていた。
相棒を見つけた時には、まさかこんな事になるだなんて予想だにしなかった。
倉庫の中での惨劇、相棒との戦い、あの『矢』を持つ男、空条モナ太郎さん、それに初めて存在を知ったギコの兄貴…。
この3,4時間の間に、何だか1年分位の驚きを受けたような感じだ。
それはともかく、オレ達は今ギコの案内で敵のアジトへ向かっている。
そこにギコの兄貴は捕らえられているというが…、オレ達…オレタチ?オレンジとカラタチの配合種…。
「ところで相棒に一つ聞きたいんだが」
「何だいギコ。今家でミカンは切らしているけど?」
「…ハァ? 何を突然ワケワカランこと言い出してんだお前は」
「…それはともかく、質問って何さ?」
「さっきお前が俺と戦った時、お前は自分や俺の身体を分解したりはしたが、何で俺のスタンドは分解しなかったんだ?
それさえしてりゃ俺がガードしても簡単に崩せるんだからとっとと決着も付いただろうに…」
「それなんだけどさ、実はクリアランス・セールが発現してすぐ、一体分解能力がどこまで使えるのか試してみたんだ。
自分の身の回りにある物は片っ端から試したし、自分の身体でも試してみた。そしたら全部上手くいったんだけど、どうしてもスタンド自身だけは無理だったんだ」
モナ太郎さんがここで口を挟んだ。
「つまりはこの世で質量のあるもの限定ということだな」
なるほど、その道のプロの言う事は説得力がある。
質量があるとかないとかで何が違うかなんて全然分かんないけど…。

「ここが、兄貴の捕まってる場所だ」
ギコがオレ達を案内したのは、人目に付かない廃ビルだった。
「確かにここなら誰かに入られる心配もないな。しかもこの雰囲気、まさしく吸血鬼が潜むには相応しいな」
辺りには街灯も無く、ただ月の光だけが頼りである。
きっと向こうはオレ達が来る事は予想しているに違いない。
一体どんなスタンド使いがどれだけ襲って来ることであろうか。
「相棒、怖気付いたのか?身体が痙攣してるぞ」
「チッチッチッ、甘いな少年。人はこれを武者震いと言うのだ」
「…要するに、怖いだけだろ」
ず、図星ッ!!
「2人とも、遊んでないで早く入るぞ」
モナ太郎さんのお叱りが飛んで来た。
…どうでもいいが、そういや何でこの人がいつの間にかリーダー格になってんだ!?
オレがリーダーになるべきなのにッ!
何故かって?だって僕は、主人公だから。
「ギコ屋、ギコ、先導を頼む。私は後ろからの攻撃に備える」
って無視かい!
てかオレ達が前かよ!!
「ちょっと空条さん、確かに俺はここの内装を承知してはいますけどね、でもこういう時こそ皆で仲良く…」
ギコも不満らしい。
「言っておくが、スタンドバトルは正々堂々と正面から挑むようなスポーツとは違う。
騙し、不意打ち、とにかく相手を倒すためには何でもあり…それがスタンド使い同士での戦いだ。
だからこそ私は、一番危険な背後を担当させてもらう」
…確かにごもっともな意見だ。
空条さんは今日初めて会ったオレ達の事をそこまで…。
「…って結局前に出たくないだけだろゴルァ!」
…それもそうだ。
tu−kaまんまと騙されるところだったじゃん!
「細かい事は気にするな…行くぞ」
「無視かい!」
「ギコ…もうここは覚悟を決めるしかないよ」
もうこの人は何言っても無理そうだ。
流石にギコももう諦めが付いたらしい、何かぶつくさ言ってはいたがオレと共に扉の前に並んだ。

485N2:2003/12/27(土) 06:46

「…それじゃ一発」
「ド派手にかますぞゴルァ!!」

「クラァッ!!」「ゴルァッ!!」
オレの蹴りとギコの正拳を受けた扉は、変形しながら吹っ飛び地に落ちても滑り続けてようやく壁にぶつかって静止した。
「…君達は、普通にドアを開けると言う事を知らないのか?」
「閉じてるドアを見つけたら」
「蹴り飛ばすのが世の情け」
「…決まった…」

「こんなに音を立てたら、中にいる者達に丸分かりだな」
…完全スルーだ。
この人、実はクールなんじゃなくて本当はただのイヤミか!?

…と、相棒が何かに気付いた。
「おい、ドアの所…よく見てみろ」
さっき吹っ飛ばしたドア…見てみると、何だか動いているようだ。
「…アサルトドアーッ!?まずい、9ディメンジョンがあッ、キマイラブレインがあ――――ッ!!」
「すいません空条さん、こいつ少し妄想癖がありましてね…。
(おいッ、相棒ッ!!ドアの下だ、下!!)
ドアの下…?
よく見ると…何かがうごめいているッ!?
「まずいッ、奴は既にキマイラブレインを召還していたのかァ―――(ドグシャア)ぐはァッ」

「…あのドアに突き飛ばされて下敷きになって意識があるとは…」
「まずいな…空条さん、こいつはちとヤバい奴が警護に就いちまってますね…」
「はッ!あ、アサルトドアーはッ?(ドガッ)ぐハっ」
「相棒、お前にはどこをどうすれは奴が融合モンスターに見えるんだ?」
…奴ってもしや、キマイラブレ…ってあれ?
よく見ると…しぃ…じゃないな、片耳が黒い。
つーことは…何者だあいつ?
「何だか知らんが、とにかくオレ達の邪魔する奴らは片っ端から分解してやるぞ、クラァッ!!」
「待て、相棒ッ!奴には接近戦はまずいッ!まずは対策を…」
「知るかッ、いくぜ、『クリアランス・セ――――ル』ッッッ!!」
「・・・ダマッテレバ カタミミダケデ スマセテオイテアゲタノニ・・・」
片耳だけで済ます…?
「オレは言われなくても全身を分解してやるぜッ!クラクラクラクラクラクラクラクラァ――――ッ!!」
「相棒ォ――――――――――――ッッッッ!!!!」

486N2:2003/12/27(土) 06:48

「『シック・ポップ・パラサイト』ッ!」
予想通り、やはりこいつもスタンド使いだったか!
「ミィッ!!」
オレのラッシュに対抗し、向こうも負けじとラッシュを放ってくる。
だが…そのパンチはオレの物に比べれば明らかにパワーでもスピードでも負けている。
向こうの全身は、あっと言う間にオレのラッシュの嵐にさらされた。
「はッ!こいつ、言うほど強くないじゃないか!」
このまま押し切って、分解し尽す!
だが…この殴られても苦痛1つ感じていなさそうな表情は何だ?
それにこのオレを嘲る様な笑みは一体…?
「ソウダヨ・・・ソウヤッテ ミィヲイクラデモ ナグッテテイイヨ・・・デモ ソレハミィノ ケイサンノウチ・・・スコシズツ スコシズツ・・・コノミィノセカイニ ヒキズリコンデアゲルヨ」
少シズつ・・・スコしズツ・・・おレモ ミぃノセカイヘ・・・

「相棒ォ――――――ッ!!」
はッ!!
オレは一体どうしていたんだ?
何だか途中から自分の意識が違う物に変化したような…
「相棒ッ、そこの鏡で自分の頭を見ろッ!!」
頭…?オレの頭が一体どうし…
「…ってな、なんじゃこりゃぁ――ッ!」
か、片耳が真っ黒にッ…!?
「奴はな、確かに純粋なスタンドの強さだったら明らかにお前の方が勝ってはいる!
だが奴の恐ろしさはそんなもんじゃない、奴のスタンドは微細なウィルスを身体に培養し、触れた者をそのウィルスに皮膚感染させ
喰らった奴は徐々に侵食されて最終的に奴と同化させられるんだァ―――ッ!!」
「ってそれスタンドの意味無いやん」
「ともかく、そこまで感染したんじゃ耳ちょん切らんと全身に転移するぞッ!」
「モウ オソイヨ・・・ソコマデカンセンシタラ アトハ ノトナレ ヤマトナレ・・・サァ、コワガラナイデ・・・コッチノセカイハ タノシイヨ・・・」
怖ッ!てかキモッ!
「そんなのッ!嫌だァ―――ッ!!『クリアランス・セール』ッ!!」
「!?何をする気だ、相棒ッ!」
「…なるほどな」
「・・・?」
「自分のッ、身体をッ!分解するゥ―――ッ!!」
オレの身体は、跡形も無く分解された。

487N2:2003/12/27(土) 06:48

「…相棒は一体何を…」
十数秒、オレが今の所分解出来る限界の時間。
急に意識が戻り、改めて自分が生きていることを認識する。
「相棒ッ、その耳はどうした、その耳は!」
ギコに言われて鏡を見ると、案の定感染は治っていた。
「・・・ソンナ バカナ・・・ミィノカンセンハ ゼッタイヨ!」
「確かにお前の感染はヤバい…ヤバ過ぎるよ…。但し、オレも馬鹿じゃあなくてね。
ウィルスの中には空気中に放出させると数秒で死んでしまうものがあると聞いたことがある。
だから、自分の身体『だけ』を分解し、ウィルスを残しておけば、もしそういうタイプのものだったら戻った時には再び感染することはないって訳さ。
…尤も、もしそのウィルスが空気中でもずっとピンピン出来るようなものだったらオレもお前の仲間入りだったんだろうけど、
ここはオレの作戦勝ちってところだな!!」
「・・・コノ コシャクナ サンリュウショウバイニンメ・・・」
「どうだ相棒、オレってやっぱ凄いだろ!」
「…それさ、お前が以前『風俗に通うんだったらやっぱりエイズには気を付けないとな!』とか言ってHIVウィルスの勉強した結果だろうが!!」
「う、うるせー!!」
「モウ ユルサナイヨ・・・コウナッタラ スタンドノウィルスダケジャナクテ ミィジシンノ ドウカノウリョクヲ カイホウシテアゲル・・・
ソウナッタラ モウブンカイシテモ タスカラナイ・・・ココマデ ミィヲオコラセタ キミタチガワルインダヨ・・・」
「おい、2人とも、とうとう向こうも本気を出しそうな雰囲気だぞ…。
ちっ、私の『スタープラモナ・ザ・2ちゃんねる』ならどうにかなりそうだが…。
ギコ屋、私がもし奴のウィルスに感染したら、その時はよろしく頼むぞ」
「で、でも奴は今度は分解じゃ治せないと…!!」
「…ならここは俺が行くぜ!」
ギコ!!
「…大丈夫なのか?奴の攻撃はもう一撃たりとも喰らう事は許されないぞ」
「大丈夫だって、へっちゃらさ!」
何てウソ臭さだ…。

488新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 19:43
気になったんだが『エンジェル・ダスト』って
漫画のシ○ィー・ハ○ターで出ていた薬物に
効果も名前も似てるきがするんだが気のせいか?

489:2003/12/27(土) 20:39
>>488
残念ながら、シテ○ー・ハン○ーの方は知りません。


エンジェル・ダスト【Angel Dust】

①『フェイス・ノー・モア』というグループが出したアルバム。

②実在するドラッグの名称。PCP(フェンサイクリディン)の数ある俗称の一つで、
 サイケデリック系(幻覚剤系)では、おそらく最強の破壊力。
 睡眠薬を投与した象とかを目覚めさせるために合成された本当の意味での"覚醒剤"で、
 これを薄めて人間に使用しようと考えたとんでもないアホにより広まった。
 その作用は酩酊から譫妄に至り、感覚麻痺や精神錯乱を引き起こす。
 トリップの時間は6時間程度で、粉状の為に用途も広い。

③ア○デル○ン神父の異名。


民明書房『よくわかるスタンド名の由来』より抜粋。

490:2003/12/27(土) 20:40
>>430
    /´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀` ) 右手出てるモナよ…
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄



430 名前: 新手のスタンド使い 投稿日: 2003/12/24(水) 23:15
絶対に着ないとか言いつつ着たうえに持ち帰ってるリナー萌え(´Д`*)



  何これ……?
    /´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀`; )
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄

491:2003/12/27(土) 20:41
    _________________
  /
  |  このチンピラが! 私をナメてんのかッ!
  |  何回埋めりゃ理解できんだコラァ!
  \
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

              /´ ̄(†)ヽ
              ,゙-ノノノ)))))        ∧_∧
 ''⌒)          ノ  ル,,゚ -ノ           (´∀` )
  ' ''') ⌒)         / くj_''(†),jつ        ( 430 .)
≡≡≡;;;⌒)≡≡≡ん''く/_l| ハゝ        | | |
     ;;;⌒) ⌒)     しヽ_)         (__.(__)



                /´ ̄(†)ヽ
               ,゙-ノノノ)))))   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               ノ∩ル,,゚ -゚ノi  < 萌えるなって言ってんのに、
              / ヽヾ_''(†)jl_∧ \__なんで萌えるんだ、この…
             ん〜''く/_l|∩Д`;)
                 (ヽ__)__)



           \ヽ
            \\ヽ/´ ̄(†)ヽ
          \ \mヽ,゙-ノノノ)))))   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          \ヽ(m\mル,,゚ -゚ノi  < ド低脳がァ――ッ!!
              /\mヽ\m\mヽ:,.,:,.:´  ・´;.>____
             ん〜m\ヽ m∩Д`∴;"')
                 (ヽ__)_,:.;∵,:,,_)


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:.☆彡//[||    」  ||] >430::::::゜:::::::
.::::: / ヘ | |  ____,ヽ | | :::::::::::.... .... ..
 /ヽ ノ    ヽ__/  ....... . .::::::  .
く  /     三三三∠⌒>:........ ..::::.....:::
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 ,_,,_|; |,_ 、 埋葬完了…
/::::::::;;::/´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀`; ) ………
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄

※あくまでネタです。
 この埋めネタを、このスレでやると迷惑なのでは…って気がする。
 かと言って、小説スレから出るのもどうかと…

492新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:53
………犠牲者が

493新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:55
小説スレの感想スレを立てればいいじゃない(マリー

494488:2003/12/27(土) 20:57
さいたま氏私の勘違いに貴重な時間を
使わせてしまってすいません

495新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:58
今<<493がいい事言った

496新手のスタンド使い:2003/12/28(日) 02:19
立ててきますがかまいませんねっ!

497丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:01



       外の世界を夢に視て 叶わぬ夢と悲しんで

       動けぬ体を嘆けども いかなる言葉も知らぬまま

       硝子の壁に爪を立て 己の指を傷付ける

       何も聞かず 何も見ず 何も食べず 何も触れず

       何も感じず 何も成さず 何もせず

498丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:02
「せー…のっ!」
 ぐっ、と両足に力を入れる。ゆっくりと、体が車イスから持ち上がった。
 私がこの診療所に来てから四日目。マルミミ君も茂名さんも、私にとても良くしてくれている。
治療も順調に進み、あとはリハビリを残すだけとなった。
抜糸も終えて、傷はよく見ないとわからないくらい小さな痕しか残っていない。
「ほら、頑張れー」
 数メートル先で、マルミミ君の呑気そうな声。
そんなことを言われても、ベッドの上で鈍った足には体を支えるだけでも結構な重労働だった。
「こっちまで来てみてー。はい、いち、にー。いち、にー」
ああもう他人事みたいに…って基本的には他人事なのか。
 考え事で集中が途切れ、右足が左足に引っかかった。
『あ』
 マルミミ君の声と私の声が綺麗にハモり、スローモーションのように私の体が倒れていく。
この部屋には倒れても大丈夫なように布団が敷かれているので、転んでも大丈夫の筈。
 さすがに、布団を敷かれた部屋に案内された時にはかなり引いたけ

ゴヅッ!!バタバタバタッ!

 一瞬の思考を止める凄い音。予想を上回る凄い衝撃。そして激痛。更に色々な物が顔に降ってきた。
「ぅあ痛ー…」
 呟いたのはマルミミ君の声。当の私は痛みで意味のある言葉を話すどころじゃない。
「〜〜〜〜〜〜ッ! !! !?」
「タンスに当たったねー。コブできてる」
 呑気そうな声。そして頭に再び激痛。
「〜〜!!!!!痛!痛!触らないで〜!!」
「あ、ごめん。かなり見事なコブだったから。氷持ってくるよ」
そう言い残して、部屋を出て行った。

499丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:04
 部屋に一人残された私は、とりあえず両手を使って身を起こす。
「痛たた…ん…?」
 頭のコブをさすっていると、フォトスタンドに入れられた一枚の写真が目に入った。
先程私の顔面に落ちてきた色々のうちの一つ。
色白の女の人と、色黒の男の人、そして小さな男の子が映っている。
抜けるように白い女の人と、真っ黒に焼けた男の人が対照的だった。
全員丸耳系のモナー族で、幸せそうに笑っている。
「おまたせー。はい、氷」
 氷嚢を持って、マルミミ君が戻ってきた。流石は病院育ちだけあって早い。
「あ、マルミミ君。これ…」
氷嚢を受け取りながら、写真を差し出す。
「ん?ああ、懐かしい物が出てきたね」
「親御さん?」
「うん。父さんが海外飛び回ってたから黒くて、んで母さんは皮膚が弱くて太陽当たれないから白いの」
マルミミ君も、日本に住んでる割に色が白い。お母さん似なのだろうか。
「今はどこの国にいるの?」
 少し躊躇い、答えが返ってきた答えに私は息を呑んだ。
「んー…多分天国」
 私の驚きに気付いたのか、慌ててフォローを入れてきた。
「いや、気にしなくていいよ。もう十年くらい前のことなんだし」
「…ごめんなさい」
「だからいいって。…もうこんな時間だね。ご飯にしようか。作っておくよ」
 あからさまに話題をそらしたのが、私にもわかった。
これ以上両親の話を続けたくないのか、そう言うとまた部屋を出て行ってしまった。
(駄目だなー…私…)
ただでさえ世話になりっぱなしなのに、これ以上迷惑かけてどうするんだろう。
 閉められたドアを眺めて、しょんぼりと下を向く。
車イスによじ登る作業が、ひどく重い。
自分がひどく、ちっぽけな存在に思えた。

500丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:06
「ご飯だよー」
 15分ほどして、マルミミ君の呑気そうな声が聞こえてきた。
「ありがと。もうお粥じゃないの?」
 マルミミ君が持っているのは、魚のフライにスープにパン。
「とっても病院らしいしみったれたメニューだけど、結構美味しいよ。調子が良くなって来たから、もう固体食でも大丈夫」
「そっか。アレはアレで美味しかったけどな」
 固体食が食べられるのは嬉しかったけど、あのお粥が食べられなくなるのは少し寂しい気がした。
そんな私の心情を察したのか、薄く微笑んで人差し指を立てた。
「あのお粥はベビーフードにも使えるからね。しぃがお母さんになれば作ってあげればいいよ。
 ベビーフードを上手く作れるお母さんの子は将来好き嫌い無く育つってさ。しぃならきっといいお母さんになれるよ」
「…ありがと」
 ちり、と胸が痛んだ。
        AA
私みたいな人間…しぃ族で、しかも戸籍のない奴が生きるためには、体でも売らなきゃのたれ死ぬしかない。
                ビッチ
どこに行こうが私みたいな淫売を好きになる奴なんているわけがないのに。
「…なれるの、かな。私なんかに」
 だけど、けれど、でもしかし、それでもほんの少しだけ―――――
「なれるよ。絶対」
ほんの少しだけ、信じてもいいと思った。
 私に向けられた、彼の優しい微笑みを。

501丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:08
 目をこらす。どんな変化も見逃すまいと。
腕の神経に精神の全てを集中する。コンマ0.001秒たりとも狂うまいと。
タイミングを計り―――――拳を、落とした。
ガッ、ガッ、ガッ。
 軽い音。拳の上に目を向けると、パチンコ台のスロットに見事なスリーセブンが揃っていた。
『五八番台、確変です』
「よし!非常―――によしっ!」
 フィーバーを讃える女性のアナウンスに、茂名がガッツポーズを作った。
ジャラジャラと音を立てて、見る見るうちに球が台に落ちてくる。
 ドル箱七杯の球を景品と交換し、両手の紙袋一杯に缶詰やら菓子やらジュースやらを詰め込んで意気揚々と店を出た。
波紋使いの動体視力と反射神経なら、フィーバーの二つや三つ簡単に叩き出すことが出来る。
 店に目を付けられるので滅多にやらないが、たまの息抜きにはちょうどいい。
「甘い物が食べたいと言っとったからの。お嬢さんも喜ぶじゃろ」
 嬉しそうに呟いて、角を曲がる。普通ならまっすぐ家に帰るところだったが、ふと思うところがあって商店街へと足を向けた。
「あらやだ!茂名さんじゃないの〜。買い物帰り?」
「えー、ま、そんなもんです」
「あらやだ!茂名さん、いつもありがとうねぇ。今夜煮物持って行くから」
「や、そりゃありがたいですな。いただきます」
「あらやだょ〜ぅ。茂名さん、アナタの薬息子の風邪にすっごく効いたょぅ」
「そりゃ良かった。お大事に」
 入って数歩も歩かない内に、近所のオバさん達に囲まれた。
「いや、あの、失礼、少し、急がんと、いかんので」
「あらやだ、ちょっとくらいいいじゃないの。ねぇ?」
「いえ、ほんとに、お構い、無くッ」
ずるずるとオバさん達の間を通り抜け、路地へと入っていく。
「あらやだ。茂名さんあんな所で何するつもりなのかしら?」
「近道じゃないの?そんなことより、後五分でタイムセールよ!」
「あらやだ!急がないと!」
数人のオバさんが訝しげに眉をひそめていたが、すぐに興味を失っていった。

502丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:11
 路地へ入ると、騒がしい商店街の空気ががらりと変わる。
そのまま奥へと進み、四日前に彼女が虐殺されていた路地へと出る。
 結局あの後虐殺されていたと思われるしぃは見つからず、昏睡状態の二人も病院からいなくなった。
警察も度重なる虐殺で人手が足りず、この事件も早いうちに忘れ去られるだろう。
                  AA
 最近はしぃやモララー族の人間のみならず、ヒッキーやさいたま等の種族も手酷い虐待を受けているという。
彼等の処理で、警察の事件処理も飽和状態にあるらしい。
「…昔は良かった…長編板もモナー板も活気が溢れて、幾多の名スレが生まれておった。
 この世界…『2ちゃんねる』が一番輝いていた時期だったように思える。
 荒らす者も虐殺する者も少なかった。マターリスレがあっても、誰も荒らそうとはしなかった。
 そして…この街ですら表通りを外れれば虐殺を受けてもおかしくはない。
 いつからだったろうかのぉ…貴様等のような者が現れ始めたのは」
 
 両手の紙袋を道の端に放り、静かに、だが威圧感を伴って振り返る。
「尾行していたのは最初から気付いておる。望み通り人気のないところに来てやったぞ?」
「チッ…気付いてやがったか…」
「生憎、な」
 路地の影から、モララー族の男達が顔を出した。
四日前に昏睡状態にしてやった、あの二人だ。
「…何故目覚めたのかは知らんが―――貴様のような奴を生かしておくわけにはいかん。今度は『永眠』してもらうぞ」
静かな殺気を込めた声で宣言し、戦闘態勢を取った。
 両足を肩幅より少し広めに広げ、均等に体重をかける。左手は拳を作り、鳩尾の前に。右手は手刀の形にして、胸の前に。
Cooooo………!
息を吸い、吐く、独特の呼吸音。呼吸法によって蓄積された生命のパワーが、緩やかに、そして徐々に早く体内を巡りだした。
チベットから伝えられた波紋法に、日本の古流武術を組み合わせた『茂名式波紋法』。
「行くぞ」
張りつめた空気が途切れ―――――二人が動いた。

503丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:15
           ∩ ∩ 
          (  ´o) Coooooo…… 
           (つ  つ
           ( )ヽヽ
              (_) (___)
  
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  能力名   ハモン・オーバードライヴ                  ┃
┃  本体名  茂名 初                                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - B    ┃  スピード - B    ┃ 射程距離 - E〜C ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - C.    ┃ 精密動作性 - B  ┃   成長性 - E.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 呼吸法によって、生命のエネルギー『波紋』を操る。            ┃
┃ 壁に張り付いたり水の上に立ったりと、結構汎用性は高い。  .   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

504新手のスタンド使い:2003/12/28(日) 23:08
新作来た!!
乙カレ様です

505N2:2003/12/29(月) 22:30

          (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
           ( HDDが逝って1作品丸々書き直すのがこんなに立ち直るのに
          O (   精神力を必要とするなんて思わなかったよ
        ο    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ∩_∩。
_ G|___|__
   ( ・∀・)
――(    )―┘、          マツデチ!!    キャッキャッ!!
‐――┐ ) )――┐         ≡≡∧,,∧   ≡≡∧ ∧
    (__ノ__ノ    . |         ≡≡ミ,,>∀<ミ ≡≡(,,・∀・)
                     ≡≡ミ_u,,uノ  ≡≡ミ_u,,uノ
                   "~"    """  :::     "~""~"
                """    :::

506N2:2003/12/29(月) 22:30

狂気の町の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その③)

暗闇に包まれた部屋の中には、壁に掛けられた時計が時を刻む音だけが響いていた。
針は3時近くを指し、男達は既に眠りに就いている。
こんな質素な部屋に似合わないはずの柱時計が存在しているのは、それは青年が手元に残しておけた数少ない両親の遺品だからだろう。
2人はただ静かに、それぞれの抱える事情の深刻さが窺えぬほど安らかな顔で眠っていた。

その静寂を破ったのは、けたたましく鳴り響くドアを叩く音であった。
何度も何度も、力強く繰り返されるその音に2人は目を覚ました。
「…何なんだ一体?こんな真夜中に人の家ののドアを叩きまくるなんて、どこのどいつだ?」
温和な青年もそのしつこさには苛立ちを隠せなかった。
それでもドアを叩く音はいつまで経っても止む気配を見せない。
青年もとうとうその音を我慢し切れなくなった。
「…おっさん、ちょっと見て来る」
そう言って起き上がろうとする青年を、モ蔵は制止した。
「待て、私が行こう」
不意な願い出に青年は少々驚いた。
「いいよおっさん、ここは俺の家だからさ、こういう問題まで別に関わらなくてもいいからさ」
「…嫌な予感がするんだ。ここは私に行かせてくれ。お前は部屋の中で万一の場合の準備をしておきなさい」
「全く、大袈裟だなぁおっさんも」
そう言いながらも、青年は部屋に置いてあった木刀を手元に置いた。
モ蔵は青年を尻目に部屋を後にし、襖を閉めると「サムライ・スピリット」を発現させた。
未だに止むことを知らないドアの音は、そこに不吉な雰囲気を漂わせていた。
モ蔵は万が一外にいる者が出会い頭に襲って来た時の事を考え、万全の姿勢で構えてからドアを勢い良く開けた。

「何者だ!!」
だがドアの外には銃口を向ける刺客も、血に飢えた猛獣も、あるいはスタンドさえもおらず、
ただしぃ族の女だけが1人、怯えたように震えながら座っているだけだった。
暗闇でその姿が最初はよく見えなかったが、すぐにそれが昼間の女であることが分かった。
「どうなさったんですか、こんな真夜中に。何か用があるならそうと言って下されば良かったのに…」
女は返事をせず、その目は全くこちらを向いてはいない。
…様子がおかしい。
「どうされたんですか、一体!!何かあったんですか!!」
モ蔵がしゃがみ女の肩を揺らすと、彼女は少しずつ目線を上げ始めた。
「モ…モナ本樣…わたし…わたし…」
「奥さん!しっかりして下さい!!何があったんですか!!」
だが女の目は少しずつ横へと逸れていった。
「あ…あ…」
モ蔵がその視線の先を見ると、1人の男が今まさに自分たちへと斬りかかろうとしていた。

507N2:2003/12/29(月) 22:31

一閃。
モ蔵の一撃により一瞬で勝負は付いた。
男が自分達を斬り付けるよりも早く、モ蔵の剣が男の首に当たった。
と言っても殺した訳ではない。
「サムライ・スピリット」はその硬度・切れ味を自在に変化させられるので、今のはさしずめ竹刀程度と言ったところか。
だが瞬間的な速度で振られた「竹刀」は、男の気を失わせるのには十分な威力であった。
「この私に不意打ちを食らわせようなど10年早い」
そう言ってモ蔵が男の顔を持ち上げると、その顔にはどこか見覚えがあった。
「この男…どこかで…?」
すると隣では、男のぐったりとした様子と死んだような顔をした女が泣き崩れていた。
「あ…あなた…あなたァ――――ッ!!」
そうであった。この男は夕方、モ蔵と立ち話をしていた女を迎えに来た彼女の夫である。
だが一体何故こんな真似をしたのかは皆目見当が付かない。
昼間の様子から見ても精神分裂症とか、情緒不安定とかには見えなかった。
「モナ本樣…あなたは…しゆ、主人を…」
と、男の行動について考えていたモ蔵に、完全に勘違いをしている女の目線が突き刺さった。
このまま夫の仇と思われていては堪らない。モ蔵はすぐに弁明をした。
「いや、奥さん落ち着いて。私は確かにご主人を攻撃はしましたが、命を奪ってはいません。
先程のは…まあ…峰打ちのようなものです。しばらく放っておけばその内目を覚ますでしょう」
その言葉を聞いて女は一瞬安堵の表情を見せたが、ところがすぐにその顔は恐怖の色で塗り潰された。
「だ…駄目です!主人が目を覺ましてはいけません!」
「奥さん、本当に一体何があったのですか?あなたがこんな深夜に我々を訪ねてきた理由、今のご主人の行動、
それが把握できなければ私としてもあなたに何をどう答えればよいか分かりません」
女はそれを告げること――と言うよりもそれを思い出すことに恐怖心を抱いているようであったが、ついに決心してモ蔵に全てを打ち明けた。

508N2:2003/12/29(月) 22:33

「…私逹が眠りに就いてゐる時の事でした。ふと家の何處からか大きな物音がしたのです。私逹はその音で目を覺ましました。
主人は『私が見て來やう』と樣子を見に行きました。ところが何時まで經つても戻つて來ないのです。私が不安に刈られてゐると、主人が戻つて來ました。
ところが樣子がをかしかつたのです。目は白目を剥き、手には疱丁を持つてゐました。そして私を見るなり…、笑ひながら私を切りつけたのです。
幸ひ疱丁は腕をかすめたゞけで濟みました。
…氣が付いたら、私は無意識の内に此處を目指して走つてゐました。何故此處を選んだのかは分かりませんが、此處だつたら助かるやうな氣がしたのです。
けれども必死になつて夜道を走つてゐると、主人の樣に疱丁を持つた人逹で一杯で、しかも遠くから澤山の笑ひ聲が響きあつて、私まで氣がをかしくなつて仕舞ひさうでした…」
女は途中で涙ぐみ始めた。夫に切りつけられ、狂人達の中を走ってきたのだ、無理もない。
「奥さん、落ち着いてください。とにかくいつまでもここにはいられません、まずはどこかへ避難…」
そう言ってモ蔵が廊下の先に目をやると、そこには10人以上の男がこちらへ向かって少しずつ少しずつ歩いて来ていた。
白目を剥き、手には包丁…アヒャ笑い…
1人残さず完全にアヒャっていた。
(参ったな…)
とその時、部屋のドアが激しい勢いで開き、青年が飛び出して来た。
「くそっ!!」
青年は飛び出すなり出てきたドアをすぐに蹴り閉じ、持っていた鍵を掛けた。
「初代モナー君!無事だつたのね、良かつた…」
女は知人の無事に安堵したが、当の本人は大量の冷や汗を流しながらモ蔵に訴えた。
「大変だおっさん!部屋にいたら包丁を持ったアヒャ達がガラスを割って乗り込んできたんだ!
とりあえず応戦したけど押さえ切れない!早くここから逃げるぞ!!」
「ああ…そうしたいのは山々なんだが…」
モ蔵の指差す先には10人以上のアヒャ達が、先程までよりも更に近くまで寄って来ていた。
「さて参ったな、部屋には入れず、廊下は塞がれた。近くには窓も無いし、一体どうしたものか…」
「…となると、どうやらこれしかないらしいな」
青年は手に持っていた木刀を掲げた。モ蔵はその意味をすぐに理解した。
「待て、お前は奥さんの護衛をしろ。私がまず先陣を切る」
「OK、それじゃおっさん、頼むぜ!」
「行くぞッ!!」
モ蔵は腰に差した刀を逆手に握ると、男達の中へ飛び込んだ。
多勢に無勢ではあったが、所詮素人集団ではモ蔵の敵ではなかった。
男達を皆気絶させ、外に飛び出すとそこはまさにアヒャの巣窟と化していた。
(これはまずいな、これら全てを相手にしたのでは到底私の体が持たない)
明らかに特異な状況はまず間違いなくスタンド攻撃によるものである。
となると、この状況を打破するためには本体を倒さなくてはならないのだが、
このような不特定多数の人間に影響を及ぼすスタンドは必ずしも現場のすぐ傍にいなくてはならない訳ではない。
むしろ、どこか遠くでこちらの様子を傍観したり、あるいは何も知らないように悠々と過ごしていることの方が多い。
確かにモ蔵1人だけだったならば本体を見つけ出すのは無理な作業ではない。
しかし今彼は自称武術が得意な青年と、戦いには全く縁の無さそうな女を同時に守らなくてはならないのだ。
果たして守り切れるか…
(…仕方ない、ここは一旦安全な場所へと逃れて、体勢を立て直してから次の作戦を考えよう)
「おいっ、まずは一度安全を確保しよう!私について来い!」
そう言ってモ蔵は走り出した。
「じゃあおばさん、俺達も行こう」
青年は恐怖心で足のすくんでいる女に促した。
「…本當に大丈夫なのかしら…?」
女はどこか不安そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だって、俺だって1日一緒に過ごして悪い人じゃなさそうだって確信があるんだからさ、さあ、行こう」
「…不安だわ」
青年の説得に女も渋々応じ、3人は出来るだけアヒャのいない、安全そうな道を選んで逃げていった。

509N2:2003/12/29(月) 22:34

モ蔵が自分達が罠にはめられたことに気が付いたのは、彼らが「茂名王グランドホテル」の前に到着した時だった。
自分達は少しでも安全な道を選ぼうと、アヒャの少ない道を選んでいった。
だが考えてみれば、その多い道と少ない道の差が余りにも激しかった。
となると、自分達は安全な道を通ったつもりで、実は追い詰められていたことになる。
(くそっ!私としたことが…)
アヒャ達は、自分達のためにヴァージンロードを築いているようであった。
間違い無く、このまま進めば自分達の負けだ。
「仕方ない、2人とも、まずは私がこの者達を殲滅する!初代モナー、お前は何としても奥さんを守るんだ!」
「分かった!」
「…應じかねますわ」
女は突然、2人の作戦に異を唱えた。
「ちょっとおばさん、何を急に…」
「見て御覽なさい、今このアヒヤ逹は都合良く逃げ道を作つてゐるではありませんか。
なのにわざ/\敵陣を崩して逃げ道を開くなんて、其方のはうが餘程危險ですわ!…私、1人で行かせて頂きますわ」
「おばさん!いい加減にしてくれ!!」
「好い加減にするのは貴方の方よ!第一つい2、3日前に出會つた人のことを其處まで信用するなんて、貴方の方が餘程どうかしてゐるわ!」
女はそう言い残して1人でホテルへと走っていった。
「ちょっと、おばさん…」
「來ないで!」
青年は今まで親しかった大人が急に自分を突き放つような発言をしたことに大きなショックを受けていた。
彼にはただ、女の姿をみていることしか出来なかった。
「おい、何をしているんだ!早く追うぞ!」
モ蔵の声にも、青年は反応し切れていないようであった。
「あ…ああ…分かったよ」
2人は女の後を追ってホテルへと潜入した。



ホテルの自動ドアは開き切っており、その中も既にアヒャで埋め尽くされていた。
しかし彼らはモ蔵達に興味を示さず、ただ階段へ続く一本道を形成していた。
後ろからは外にいたアヒャ達が迫り、地下へと続く下りの階段も同じであった。
「くそっ、面倒な真似をしてくれたものだな!」
「その事なんだけど、おっさん…」
「何だ!?」
モ蔵は完全に怒りきっており、その件についてはもう耳にしたくないと言わんばかりであった。
「そりゃ俺だっておっさんの事を完全に信用し切ったかと言えば…まだそうでもないってのが本音だ。
でも1晩一緒に過ごして、ああ、この人は良い人なんだな、って思ったんだ。
それは別に何かおっさんがしてくれたからとか、そんなんじゃなくて、何となく伝わって来ただけなんだけどさ」
「…本来なら、自分以外の人間と深く交際するなど暗殺者として失格の行為だがな」
「俺は昔色々あってさ、一時期他人が全然信用出来なかったんだ。それでどんな奴であってもいつも敵意を剥き出しにして…、
気が付いたら、俺の周りには敵しかいなくなってたんだ。けど、『どんな人でも必ず1つは良い所がある、それを信じてまずは自分から動け』って言葉を聞いて、
それで何とか今では人間不信を克服出来たんだ。そして、その言葉を掛けてくれたのは他でもない、あのおばさんなんだ」
「…確かにな、私も彼女の発言には不審な点があると思っていた。彼女には今日の夕方初めて会ったのだが、
最初でこそ怪しいと思っていたが最後には親しみを持って話をしてくれていた。それが今になって『どうかしてる』とはな…
とにかく、その理由が何であれまずは奥さんを見つけることが先決だ」
「ああ!」
2人は階段を駆け上がって行った。
途中の階へ続くドアの向こうからはどれも不気味な笑い声が響いていた。
2人は、必然的に屋上まで上らざるを得なかった。

510N2:2003/12/29(月) 22:36

「あ…あ…」
屋上まで辿り着いた女は絶望した。
屋上は、完全にアヒャで埋め尽くされていた。
「そんな…」
その大群の中から1人、異質な雰囲気を放つ者が出て来た。
「アーッヒャッヒャッヒャ、オマエハ ジブンノ『イシ』デ ココマデ タドリツイタンダヨ。
サア、オマエモ オレタチト イッショニ タノシモウジャナイカ!アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
「い…嫌ァ――――ッ!」
「奥さん!」
モ蔵達がそこへと到着した。
「ホウ…ヨウヤク シンウチノ オデマシッテ ワケカ…。オマエハナア、 アノヤヲモッタ オトコカラ ジキジキニ シマツスルヨウニ タノマレタンダゼ!」
「何だと…!?」
予期せぬ所で『矢の男』の名を聞き、モ蔵は驚愕した。
一体この男と奴とに何の関係があるというのだろうか。
「ダガナ、ソノマエニ オマエタチニハ オレニタテツクコトガ ドンナニオロカナコトカ オシエテヤルゼッ!マズハ!オレノ ノウリョクノ オソロシサヲ トクト アジワイナァッ!!」
中心核の男は、手下達に女を囲ませた。
「な、何をするの!」
「ヤレ…」
男が命じると、大群の内の1人が押さえ付けられた女に包丁を向けた。
「止めろッ!」
「おばさァ―――んッ!!」
2人の叫びも空しく、包丁は女の胸に落とされた。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!ヨクヤッタナ!ジョウデキダゾ!」
「…貴様ァァ――――!!」
青年は逆上して走り出そうとした。
「止めろ、今突っ込んでも彼女の二の舞になるだけだ!」
「…でも……!!」
「ソウダゼ、ソイツノ イウトオリダ。ソレニ オンナハ シンジャイナイゼ。ヨク ミテミナ!」
「何だって…?」
男の言う通り、確かに女は無事であった。
彼女は胸に負ったはずの傷も、出血も無く、何事も無かったかのように立ち上がった。
だが、青年が「良かった」と言葉を発する前に、2人は彼女の異変に気が付いた。
目が…白い。
口元が笑っている。
そして…手には無かったはずの包丁が…。
「貴様…おばさんに何をしたァ――ッ!!」
「ナニモカニモナイサ!コレガ オレガテニイレタ 『チョウノウリョク』ッ!コレサエアレバ、コノクソミテエナ セカイダッテ
オレノ『ラクエン』ヘト カエラレルゼェッ!
サア、アキラメナ!マズハソコノマルミミ!テメエヲコッチノセカイヘ ヒキズリコンデカラ モサシ!キサマノ クビヲ トッテヤルゼェ!
アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
「まずいことになったな…こうなったら仕方ない、多大な犠牲を払うことにはなるが…」
モ蔵がもう1本の剣を抜こうとすると、青年が言った。
「…待って下さい、おっさん。奴は今、『超能力』と言いましたね?」
「…ああ、そうだが」
「ならば任せて下さい、これからちょっと信じられないような事が起こるかも知れませんが、気にしないで下さい」
「おい、初代モナー!お前は一体何を…」
「…アヒャよ、貴様は自分の快楽の為だけにこれだけ多くの人達を傷付けた。その罪は、決して許し難いものだ」
「ユルス ヒツヨウナンテ ナイゼ!ドッチミチ テメエモ アヒャッチマウンダカラナ!アヒャヒャ!」
「…『フィーリング・メーカー』ッ!」
叫び声と共に、青年の身体からスタンドが飛び出した。
「…テメエモ オレトオナジ チカラノ モチヌシカ…」
(…なっ、まさか彼もスタンド使いだったとは…)
「ならば俺は両親の誇りに掛けて、貴様をこの手で裁いてくれる!」
アヒャは簡単に片が付くと思っていた勝負がそうでもなさそうであると知ってか不機嫌そうになったが、すぐにその顔には不気味な笑みがこぼれた。
「…ナンダカ シラネエガナァ…、ダガヨクミテミロ、テメエノマワリニャ オレノ チュウジツナ『ブカ』タチガ イルンダゼ!マサカ ソイツラヲ ヌッコロスツモリジャ ネエヨナァー?」
だが、青年はそれに怯むことなく逆に笑い返した。
「…貴様の敗因はただ1つ、俺に手の内を晒し過ぎたことだ」
「…ナンダッテ?」
「行くぞ、覚悟しな!!」

511N2:2003/12/29(月) 22:37
以上です。

512新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 00:00
乙。ひっぱらせるねぇ

513新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:45
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その①

キーン コーン カーン コーン…

授業の終わりを告げる、チャイムが鳴り響いた。
この音を聞くとやっと授業から開放された気分になる。
今は、6時間目が終わったところで、皆帰り支度を始めている。
「やっと終わった〜。疲れた〜。」
「さー部活へいくぞー!」
そんな声が至る所から聞こえてきた。
「さーてと、俺も帰ろうかなっと。」
俺はサブバックを担ぐと教室を後にした。帰宅部は楽でいい。
下駄箱の所で喫茶店「豆」にでも立ち寄ろうかなと考えていた時だった。
「お〜い。アヒャ〜!」
同じクラスの田中だ。いったい何の用だ?
「どうしたんだよ?」
「八先生が呼んでいたぞ。職員室に来いってさ。」
そう言い残すと田中は何処かへと走っていった。
(何で俺が呼び出されなきゃならないんだ?)
俺は思い当る事を考えてみた。

授業中に持ち込んだ小型テレビでいいとも見てさぼっていた。
パソコン室のパソの一台で2ちゃん見ていてブラクラ踏んで壊した。
夜の学校に侵入して打ち上げ花火をぶっ放した。
食堂の厨房にブラッドを侵入させておかずを失敬した。
などなど・・・・・。

「はあ〜とりあえず行って見ますか。」
俺はため息をつきながらつぶやいた。
          *          *          *

「おお〜よく来たな。お前の事だから来ないと思っていたぞ〜。」
職員室のドアを開けたとたん八の声が飛んできた。
机がまるで大掃除の途中のように書類やお菓子なんかが山積みされている。
自分で呼んでおいて来ないと思ったはないでしょうが。
「で、何の用ですか?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「実はお前に頼みたいことが有るんだけど。」
なんだ。てっきり説教されるのかと思ったじゃあないか。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「で、頼みって何です?」
「うちのクラスの級長いるじゃない。名前はえっとー、いいや忘れたから。とにかく女子の級長。」
おいおい、自分の受け持ちのクラスの級長の名前を忘れんなよ・・・・。
俺も忘れたが。
「ああ、あいつがどうかしたんですか?」
「最近学校に来なくなる回数が多くなってね。親にも連絡したんだけど理由が分からないって言っていた。そこでだ。
 悪いけどお前に様子を見に行ってほしいんだよ。」
「はあ!?何で俺が?」
「地図で見たらお前の家が近かったからな。んじゃ、そういうことで。」
「お前自分の生徒だろ!自分で行けよ!」
「俺が行っても理由を話してくれるとは思えないからな。だからお前に頼むんだよ。」
なるほど。たしかに八先生が頼りになるとは思えない。
授業中生徒に混じって居眠りしたり、痴漢と間違えられて危うく逮捕されかけた先生なんてコイツだけだからな。
「分かりましたよ。学校に来いって言えばいいんですね。」
「よろしくな〜。」

514新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:45
「ここか・・・。」
俺はやっとの思いで級長の家を探し当てた。
5回も道を間違えこんな住宅街で遭難するかと思ったのは内緒だ。

ピンポーン

「は〜い。どちらさまですか?」
級長の母親だろうか。
「すいませ〜ん。同じクラスのアヒャって言うんですけど。ちょっと級長居ますか?」
「あ、レモナのクラスメートね。ちょっと呼んでくるから。」
しばらくたってから扉が開いた。
「あ・・・アヒャ君。」
顔をのぞかせたのはうちのクラスの級長。名前はレモナ。
何故か知らないが少しばかりやつれて見える。
「よっ。八先生がお前の事心配してたぞ。どうしたんだよ?体の具合でも悪いのか?」
「・・・とりあえずここで話すのもなんだから私の部屋に来ない?相談したいことがあるんだ。」
え? マジ?
俺は耳を疑った。
やばいよ・・・・。俺女の子の部屋なんて入ったことねーよ。・・・どうすりゃいいんだよー。
そんな考えが頭の中を駆け巡った。
「あ、ああ。だったら遠慮なくお邪魔するぜ・・・。」
考えても仕方ない。ここは流れに任せるとしよう。

「な、なんだって〜!?ストーカー!?」
「うん。一ヶ月前からずっとつき回されているんだ・・・。」
レモナは俺にこう話してくれた。
だいたい二週間ぐらい前だろうか。レモナの下駄箱に一通の封筒が置いてあった。
最初は自分宛のラブレターかと思っていたが。家に帰って空けて見て驚いた。
そこには写真が何枚か入っていて、全部自分の姿を撮られていたという。
しかも通学途中の写真ならまだしも、授業中や食堂で食事している写真まであり、
写真の他にあった手紙には、「僕はずっと君の事を見ているからね。」
など気味の悪いことが書かれていた。
俺は実際にその封筒の中身を見せてもらった。
「ちょっと待てよオイ!こんな大事なこと何で先生や親に言わないんだよ!」
「だって・・・この手紙の裏見てよ・・。」
言われるがままに見てみると、
「注意。もし誰かに僕のことしゃべったら君の事殺しちゃうかもね。(はあと」
などと書き足されていた。
「くそっ!なんてヤローだ!とにかく安心しな。俺たちで何とかするから。」
「・・本当?」
「ああ、俺は困っている奴は放っておけない性質なんでね!」

515新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:47
翌日。

「なるほど。それが原因だったのか。」
俺は八先生とたまたま部屋に来ていたヅーに事の真相を話した。
「ひどい・・・そんな事許せないのだ!」
ヅーは級長とは結構仲がよく。彼女が学校に来る回数が減ったことを真っ先に心配していた。
「とにかく何とかしてそのストーカー野郎を気付かれる前に見つけ出さないと。奴はこの学校の中に
 何かしらの方法で潜入しているんだ。それが分かればなぁ。」
その時ふいに八先生が口を開いた。
「それだったら俺の『能力』が使えるかもしれないな・・・。」
俺とヅーは一瞬顔を見合わせた。
「せ、先生も『スタンド能力』が使えるのか!?」
「ああ、前に仕事からの帰り道『矢』みたいなもので撃たれたんだ。その時から使えるようになったかな。
 とにかく撃ってきた奴が訳の分からない奴なんだ。マントで顔と体を隠していて、しゃべり方から男と分かった。」
マントで顔と体を隠している男・・・。もしかして俺の能力を引き出してくれた『矢の男』の事じゃないか!?
アヒャはそう考えた。
「とにかく行動開始だ!」
八先生の体からスタンドのヴィジョンが飛び出た。
てんとう虫の様なすがたをしていてメカニックなデザイン。
体から突き出した六本の足には車輪のようなものが付いて、スタンドの周りを衛星らしきものが飛んでいる。
すると突然、衛星がパカッと開き、カメラのようなものが突き出た。
「じゃ、ちゃっちゃと行ってきちゃって。」
先生が指示を出すと、そいつはラジコンのような動きをして職員室から出て行った。
「さてと、何か物体が映りそうなもの無い?」
映る物・・・。
「校長の頭?」
「馬鹿かお前は。」
すかさず先生が突っ込みをいれる。
するとヅーが手鏡を持ってきた。
「他の先生が使っていたのを借りてきたのだ。これで大丈夫?」
「ああ、それで十分だ。」
手鏡を受け取ると先生が何やら細工をほどこした。
「おい。見てみろ。」
俺たちが鏡をのぞいた時、思わずあっと叫びそうになった。
鏡には学校の廊下が映っていて、そこを通る生徒達の顔や声などがはっきりと聞こえる。
「これが・・・先生の能力か。」
「そう。俺のスタンド『ワールド・イン・マイ・アイズ』は、どんな出来事も見逃さないッ!これで犯人を見つけ出す!」
やれやれ、こんな担任でも役に立つことがあるんだな・・・。
アヒャはそう思った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

516新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 20:23
乙!ですよ

517:2003/12/30(火) 21:12
 ※留守番中。
             /´ ̄(†)ヽ
            ,゙-ノノノ)))))
            ノノ)ル,,゚ -゚ノi!
       ___/,ノくj_''日と)__
      / \ (´::)     ___\
     .<\※ \______|i\___ヽ.
        ヽ\ ※ ※ ※|i i|.====B|i.ヽ < ボスケテ!!
        \`ー──-.|\.|___|__◎_|_i‐>
          ̄ ̄ ̄ ̄| .| ̄ ̄ ̄ ̄|
               \|        |〜

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その3」



          @          @          @



「神は世界と相互作用しない――」

 『蒐集者』は呟く。
「そう結論するのは、神の不在証明が破られてからではないですか?」
 局長は、そう言い放った。

「神のアリバイを問うとは、なかなかに面白い…」
 『蒐集者』ベッドから身体を起こす。
 目の前には、公安五課・スタンド対策局の局長の姿がある。
 ベッドの周囲はスーツ姿の男に取り囲まれていた。
 その数、約6人。
 スタンド対策局の局長であり、全員がスタンド使い。
「また、大勢でお越しで…」
 『蒐集者』はため息をつく。
 局長は腕を組んだ。
「このマンションは完全に包囲しています」
「それはそれは…」
 『蒐集者』はロングコートの襟を正す。
 その様子を見て、局長は言った。
「忠告ですが…寝る時は、コートなど着ないほうがいい。シワになります」
「それはどうも」
 ベッドから降りて、大きく伸びをする『蒐集者』。
 周囲を取り囲んでいる6人の顔に、緊張が走る。
 局長は左手を軽く後ろに振る。
 6人は1歩ずつ下がった。
 局長は口を開く。
「あなたは近距離パワー型のスタンド使い。能力は、無機物・有機物の区別なしに物体同士を接合させる事…」
「ああ。前の三人の死体を回収・解析しましたか…、それで?」
「あなたと相性の悪いスタンド使いを用意させてもらいました。
 こっちも公務なんで、これ以上犠牲を出すわけに行かないんですよ」
 『蒐集者』は全員の顔をゆっくりと見回した。
「外にも配置してますよ。射撃班と遠距離型スタンド使いをね」
「それは、用意のいい事ですねぇ…」
 『蒐集者』は、局長に一歩近付いた。
 2人の局員が、局長をかばうように前に出る。
「『矢の男』の能力を知っていますか?」
 『蒐集者』は局長に語りかけた。
「我が課の「鑑識」が分析しました。大体のところは分かっています」
 『蒐集者』はロングコートの形を直しながら口を開いた。
「世の中には、人智を超えたスタンド使いがいる… 今までにも、私は幾人ものスタンド使いを目にしました。
 時間を操作するスタンド、光速を越えるスピードを持つスタンド、ブラックホールを作り出すスタンド、
 反物質を精製するスタンド… もちろん、全て片付けましたが。その中でも、『矢の男』の能力は特異です。破滅的ですらある」
「だからどうしました? この国のスタンド使いは、我々公安五課が対応します。あなたに出る幕はない…」
 余裕がありすぎる。異常だ。
 ただの馬鹿か? それとも…
「私は、たまに思うんですよ。『シュレーディンガーの猫』は、いないんじゃないか、ってね…
 そう、最初から箱の中に猫などいなかった」
 局長は手で合図を出した。
 何人かが、『蒐集者』の背後に回り込む。
 その様子に構わず、『蒐集者』は語り続けた。
「あの『矢』もそうです。存在そのものが虚偽。こうなる事を見越して作成された捏造。
 にも関わらず、この世に存在してしまった…」

「攻撃!!」
 局長は叫ぶ。
 6体のスタンドの拳が、それぞれの方向から同時に『蒐集者』に放たれた。
 それを避けようともしない『蒐集者』。
 顔面、背中、腹部、後頭部、頸部2箇所に打撃を食らい、『蒐集者』の身体はひしゃげ、押し潰された。
 骨の砕ける音。捻じ切れた肉から噴き出す血。
 それでも、『蒐集者』の顔は笑っている。

518:2003/12/30(火) 21:14

「OVER KILL! 原型を留めるな…!」
 局長の命令に従って、6人のスタンド使いは高速で拳を叩き込む。
 6方向からの攻撃を食らった『蒐集者』の肉体は、地面に倒れる事もできない。
 打撃音が、徐々に濁った音に変化する。硬い部分はほぼ砕けたのだろう。
「よし! もういい!」
 局長が号令を出す。
 局員達は素早くスタンドを引っ込めた。
 びちゃり、という音。
 『蒐集者』であった肉体が、フローリングに崩れ落ちる。
 赤黒く崩れグズグズになった肉塊からは、ところどころ白いものがのぞいていた。
 
「これを見た後は、ミートソースのパスタは食べれませんね…」
 軽口を叩く局長。
 先程までの緊張を払拭し、局員の一人が笑顔で応答しようとした時…

「うわぁぁぁぁぁ!!」
 背後から悲鳴が上がる。
 全員の注意が、『蒐集者』であった肉塊に集中した。

 まるで映像を巻き戻しているように、『蒐集者』の体が再生していく。
 砕けていた骨が接合し、散乱していた血が集まり、筋肉が形成され、人としての形を取る。
 筋肉を露出させたまま、ニヤリと笑う『蒐集者』。
「随分と派手にやったものだ…」
 その声には、ゴボゴボという音が混じっている。
 『蒐集者』は、ゆっくりと立ち上がった。
 内臓や骨、血管が露出している。まるで、人体標本のような姿。
「き、吸血鬼…?」
 局員の一人が口走った。
 『蒐集者』は笑みを見せる。
 頭蓋骨に薄い筋肉が張っただけの姿で見せる笑みは、これ以上ないほど気味が悪い。
「いえいえ、違いますよ。私はれっきとした人間です」

「攻撃だ!!」
 右手を掲げて指示を出す局長。
 局員達6人は、再びスタンドを発動した。

 攻撃してどうなる? 
 局長は自問自答していた。
 あれほど攻撃したのに、完膚なきまでに肉体を破壊したのに、あのザマだ。
 奴は、ただの近距離パワー型のスタンドではない。
 物質を結合させる能力、と断定したのは早計だった。
 こちらは、奴を殺すのには圧倒的に火力が足りない。
 ならば…!
「総員、攻撃態勢を維持しつつ退避ッ!」

 局員達の意識が局長の言葉に逸れた瞬間…
 『蒐集者』は、一人の腕を掴んだ。
「な…!」
 その局員の言葉は続かない。
 一瞬で塵と化す局員の身体。
 その情景を、局長は凝視していた。
 何だ、今のは…!? スタンド能力か?
「ちィッ!!」
 局長は、出口の方へ駆け出す。

「…『アヴェ・マリア』…!!」
 『蒐集者』の体から浮かび上がる不気味な亜人型のヴィジョン。
 その全身から、炎が噴き出した。
 異常な熱に包まれる『蒐集者』の肉体。
 その狙いを出口の方向に定める。
「行きますよ…!」
 移動線上に存在する物を焼き尽くしながら、『蒐集者』の体は火球となって出口へ突っ込んだ。

「くッ!!」
 出口から廊下に飛び出そうとしていた局長は、咄嗟に真横に飛び退いた。
 轟音と共に壁が崩れ落ちる。
 その衝撃で、局長の身体は後ろに弾き飛ばされた。
 体を反転させ、壁を蹴って着地する局長。
 瓦礫と炎で、出口は埋まってしまった。
「…」 
 局長は生唾を飲み込む。
 驚くべきものを見てしまったからだ。
 『蒐集者』の高速移動に巻き込まれて、3人もの局員の身体が生命ごと焼き尽くされる姿を。

「なかなかに、いい反射神経ですね…」
 『蒐集者』が、一歩一歩こちらへ向かってくる。
 その身体は、先程よりも再生していた。
「どういう事だ? スタンド能力は一つのはず…」
 局長は、真っ直ぐに『蒐集者』を見定めた。
 背後には窓がある。ここは7階だが、そこから飛び降りるしかない…!
「一つですよ。私の能力はね…」
 そう言いながら近付いてくる『蒐集者』。
 簡単に逃がしてくれるとは思えない。

「この…野郎!!」
 『蒐集者』の背後から殴りかかる、二人の局員のスタンド。
 しかし『蒐集者』が軽く指を鳴らしただけで、二人のスタンドは本体ごとバラバラになった。
 空中で輪切りになって、ゴトゴトと床に落ちる二人の身体。

519:2003/12/30(火) 21:15

「何をした…? 貴様、どういう能力だ…?」
 後ずさる局長。
 窓まで、あと10m。
 
「貴方だけ、スタンドも見せずに逃げるつもりですか? 殉職した部下達に失礼でしょう…?」
 『蒐集者』はこちらに迫ってくる。
 もう一歩下がる局長。
「そっちこそ、失礼な言動だな。私のスタンドは、既に見せている…」
「何…?」
 『蒐集者』の頭上の天井に、8本の腕を持った女型のスタンドが張り付いていた。
 ギギギ…と顔を『蒐集者』に向ける局長のスタンド。
「喰らい尽くせ!! 『アルケルメス』!!」
 局長のスタンド、『アルケルメス』は『蒐集者』の頭上から攻撃をしかけた。

「ふん… 『アヴェ・マリア』!!」
 『蒐集者』のスタンドが、『アルケルメス』に拳を振るう。
 その攻撃は、『アルケルメス』の腹部を貫いた…はずだった。
 その瞬間、『アルケルメス』は『蒐集者』の背後へ移動した。
 いや、違う。
 局長のスタンドは動いてはいない。『蒐集者』の位置が変わったのだ。

「今のが、貴方の能力ですか…」
 ゆっくりと振り向いて、局長の顔を凝視する『蒐集者』。
 局長は、もう一歩退いた。
「確かに、貴方のスタンドの腹を貫いたはず。そのはずが… 私が後ろに立っていた。
 時間を飛ばした…? いや、それもどこか違う…」
 『蒐集者』は、顎に手を当てた。
 …今だ!!
 局長は、窓に体当たりをした。
 砕け散るガラス。
 局長の体は、窓の外へ飛び出した。
「…逃がしません」
 それを追って、『蒐集者』も窓の外へ飛び出す。
「B班!! 今だ!!」
 局長は、向かいのビルの屋上で待機していたスタンド使い達に指示を出した。
「くっ…!!」
 一直線に突っ込んでくる遠距離型スタンドの攻撃を受け、マンションの壁に叩きつけられる『蒐集者』。
「射撃班!! 撃て!!」
 向かいのビルに立っていたスーツの男が、重火器を構える。
 FIM−92スティンガー低高度地対空ミサイル・システム。
 通称、スティンガー。
 航空機、ヘリ、巡航ミサイル等の破壊を目的とした、個人携帯用の対空ミサイル兵器である。
 射撃班の男は、マンションの壁に激突した『蒐集者』めがけて、ミサイルを発射した。
 赤外線で誘導された弾頭は、『蒐集者』の身体にブチ当たる。

 轟音が響き、激しい爆発が起こった
 爆風・破片炸薬1kg分の大爆発。
 しかし、局長にそれを気にしている暇はない。
 『アルケルメス』で落下の衝撃に備えなければ…

 突然、身体が反転する。
 局長の身体が、マンションの壁に激突した。
 何が起きた…?
 局長は体を起こす。
「なっ…!!」
 局長は、マンションの壁に立っていた。
 足元には、たくさんの窓。
 視線の先には、壁のようにそびえたつ地面。

「貴方の周囲だけ、重力の方向を90度ズラしました…」
 背後から、『蒐集者』の声がした。
 スティンガーの直撃を受けたはずの『蒐集者』は、爆煙の中から姿を現す。
 今の局長と同じく、マンションの壁に垂直に立っていた。
 左腕は完全に消滅し、右腕も肘から先がない。
 胸部も腹部も無残に抉れ、頭部も半分ほどしかない。
 頭蓋からは脳漿がこぼれている。
 それでも、『蒐集者』はこちらへ歩み寄ってくる。

520:2003/12/30(火) 21:15

「貴様… 本当にスタンド使いか?」
 近付いてくる『蒐集者』に、局長は言った。
 こいつは、スタンド使いの範疇に収まる生物とは思えない。

「何度言わせるんです? 私はただの人間で、ちっぽけなスタンド使いですよ…」
 一歩一歩近付いてくる『蒐集者』。
 その体は徐々に再生していく。

「馬鹿を言うなよ… お前の耐久性は、戦車以上か?」
 スティンガーの直撃を受けて無事という事は、事実上そういう事だ。
 いや、無事とは少し異なる。確かにダメージは受けているのだ。
 だが、奴は回復してしまう。
 吸血鬼ですら、あそこまで脳が破壊されれば再生は不可能だ。
 それにも関わらず、奴はなぜ…!

「そろそろ、チェックメイトですね…」
 『蒐集者』のスタンド・『アヴェ・マリア』が、熱を放ちだした。
 高熱によって周囲が歪む。
 また、あれが来る…!
 『蒐集者』の体が火球となって、局長に突っ込んでくる。
 その攻撃が確かに局長の体に直撃した瞬間、何もなかったかのように通り過ぎた。
 やはり、局長は無事である。
「また、それですか。そんなものが、何度も通用するとでも…!」
 その刹那、『蒐集者』の頭上から何かが高速で突っ込んできた。
 上空から高熱を放ちながら突っ込んできたのは、先程の『蒐集者』そのものだった。
「これはッ…!」 
 その直撃を食らって、『蒐集者』は地面であるマンションの壁にめり込んだ。
 
 今だ…!
 局長は地面目掛けて走り出す。
 その瞬間、足元から腕が生えてきた。
 マンションの壁から唐突に生えた腕は、局長の足を掴む。
 腕は1本ではない。
 20本以上の手が壁から突き出して、局長の足を掴む。
「くっ… 『アルケルメス』!!」
 局長のスタンドは、8本の腕を振るって足を掴むコンクリートの手を破壊した。
 その間に、『蒐集者』は追いついてきた。
 『蒐集者』は口を開く。
「なるほど… 貴方の能力が分かりました。『カット&ペースト』ですね…?」
 口か喉の部分の再生が上手くいっていないらしく、少し歪んだ声だ。

 …気付かれたか。
 まあ、あそこまで能力を見せてしまえば仕方がない。
 カットだけならともかく、それをペーストしたのは本当に久し振りだ。
 そう。それだけ自分は追い詰められている。

 『蒐集者』はズレた顎の位置を直した。体はほぼ再生している。
 仕方がない。時間稼ぎと行くか…
 局長は口を開く。
「その通り。私のスタンドは、時間をカットできる。つまり、任意の時間を、我々の時間軸から切り取ることができる。
 さっきは、貴様の攻撃が私の体に当たる時間だけをカットした」
 『蒐集者』も、時間稼ぎであることに気付いているはずだ。
 それにも関わらず、大人しく聞いているという事は…
「そして切り取った時間は、貼り付ける事ができる。貴様が言った『カット&ペースト』そのものだ…」
「素晴らしい…」
 『蒐集者』は感嘆の呟きを漏らした。
「素晴らしい能力だ。その能力も、是非欲しい…!」

 ――今、こいつは何と言った?
 『その能力も、是非欲しい…!』
 そうか、こいつのスタンド能力は…

521:2003/12/30(火) 21:16

 車のクラクションがした。高速で車が近付いてくる。
 ――やっと来たか。
「ここまでだ! 私の部下が、この状況を見て呆としてるほどの役立たずだと思ったか!?」
 局長は地面目掛けて走り出した。
「局長!!」
 後部座席のドアが開く。しかし、車のスピードは落とさない。
 重力が90度傾いているこの状態で、車に飛び乗るのは多少キツいが、文句は言っていられない。
 足元の感覚が変わった。
 コンクリートの壁面が、ぐにゃりと歪む。
 足元が柔らかい。
「なんだと…!?」
 底なし沼に踏み込んだように、足がマンションの壁面に沈み込んだ。

「…最後の最後で、当てが外れましたね…!」
 『蒐集者』は素早く接近すると、『アヴェ・マリア』の腕で局長の顔面を掴んだ。

「…影響しない…」 局長は呟く。
「カットされた時間は、我々の時間軸とは異なる… そこで起きた事は、この時空に影響しない…」

「そうでしょうね…」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「だからこそ、カットされてもいいようにこの状態に持ち込ませてもらったんですよ。
 今から貴方の顔面を握り潰します。どうせ、その瞬間をカットするでしょうが… 
 その次の瞬間に、再び貴方の顔面を握り潰す。これを何度も繰り返します。あなたのスタンドパワーが尽きるまでね…」
 『蒐集者』は、局長の頭を握り潰した。

「影響しないと言ったはずだ…」
 全くの別方向から、局長の声が聞こえた。
「な…!」
 車の中。局長を迎えに来た車の中に、既に彼は乗っていた。
 同時に、『アヴェ・マリア』に顔面を掴まれていた局長の姿が蜃気楼のように消え去る。
「なるほど、そういう事か…」
 『蒐集者』は舌打ちをした。
「…自分自身をカットして、ここに貼り付けておいたんですね。
 当の貴方自身は、とっくに脱出済みという訳ですか」
 局長は『蒐集者』を一瞥した。
 猛スピードで走っている車は、すぐにその場から離れていった。


 ――自分は負けた。
 その言葉が、局長にのしかかる。
 部下をあれだけ犠牲にして、利益はほとんどなかった。
 逃げるのがやっとだとは…

 局長は、無言で車の窓ガラスを殴りつけた。
 粉末状になって砕け散るガラス。
「どうしたんです!?」
 運転席の局員が、驚きの声を上げてこちらを見た。
「…何でもありません」
 口調を戻して、局長は言った。
 何なんだ、さっきまでの必死なザマは…!
 局長は、自分自身を嫌悪する。そして心に刻んだ。

 『蒐集者』は必ず私が葬る。公安五課がこのまま引き下がりはしない…!



          @          @          @

522:2003/12/30(火) 21:16

 俺達は、つーのマンションの前に立っていた。
 なかなか高級そうなマンションだ。
「確か、ここの3階のはずだな…」
 『解読者』… いや、キバヤシは手許のメモを確認しながら言った。
「じゃあ、行くモナ」
 俺は入り口に足を踏み出す。
「待て」
 俺の背中に、キバヤシは語りかけた。
「状況を考えるに、俺は居ない方が効率が良さそうだ」
 キバヤシは、急にしおらしい事を言い出した。
 俺は慌てて弁解する。
「いや、多少デンパが入ってても、そこまで自分を卑下する事はないモナよ。
 妙な発言を抑えれば、調査とかフィールドワークとかも出来るようになるモナ…
 変なセーターを何とかすれば、怪しい雰囲気も払拭されると思うモナ」

 キバヤシは不服そうな目で俺を睨む。
「親しい人間のみの方が情報を引き出せる、という意味で言ったんだがな。俺は…」

 …しまった。
 そのまま、不機嫌な表情を崩さないキバヤシ。
「とにかく、君一人で行ってくれ。俺は外から様子を見張っている。聞く事は、最近の体調の変化についてだ」
「…体調の変化?」
 俺は首を捻る。
「『蒐集者』の部屋にあったメモに、つーの生活習慣や健康状態に関する事細かなメモがあった。
 奴は、バイオテクノロジーに精通している。また、生体兵器を研究していた機関と懇意にしていた事もある…」
 不意にキバヤシの顔がアップになった。

「俺の予想が正しければ、『蒐集者』はつーに人体実験を施している…!!」

 な、何だってー!!
 という風にあしらうには、『蒐集者』の話と符号しすぎている。
「確かに、『蒐集者』は実験をしているとか言ってたモナ!!」
 俺は声を荒げた。
「内容については、何か言っていなかったか?」
「実験体が2体いて、1体はファージの何たらが上手くいかなかったとか…
 もう1体は、素体がよかったから成功したとか…」
 俺は、『蒐集者』の話を思い出す。
「そうか…」
 キバヤシは口に手を当て、視線を泳がせた。
「何か分かったのか、キバヤシ!?」
 俺はキバヤシに言う。
「お前たち、『ファージ』とは何か知っているか?」
 俺は首を左右に振った。
 『お前たち』と呼びかけられたものの、俺一人しかいないという事はこの際無視だ。
「ファージとは… バクテリオファージの通称で、細菌に感染するウイルスの事だ。
 言わば、自然界の遺伝子組み換えだ。
 『蒐集者』はそれを利用して、人体に『何か』を適合しやすいように埋め込んだんだよ!」
「じゃあ、奴はつーの身体に…! でも、埋め込んだとは限らないんじゃ…」
「いや…」
 キバヤシは視線を落とす。
 そして、クワッと目を見開いた。
「『蒐集者』は、民衆の意思が統制された社会を作ろうとしているんだよ!!」
 キバヤシは一歩歩いて、流し目で俺の方を見た。
「考えても見ろ、その埋め込んだ『何か』が感情に影響を与えるものだとしたら…
 俺達の意思までが、埋め込んだ奴に操作される事になる!!
 こうして、奴は理想の社会を作り上げようとしているんだ…! それが…」
 キバヤシは少し間を置く。 そして、アップになった。
「全人類総洗脳計画だよ!!」
「な、何だってー!!」
 俺は驚きを隠せない… ような素振りを見せた。
「いまや地球の人口は爆発的に増え続けている。 だが、支配者層がこの技術を応用すれば…
 人口統制の」ため、群発自殺を引き起こす事が出来るんだよ!!」
 キバヤシはアップになりすぎて、目しか見えない。

523:2003/12/30(火) 21:17

「そんな… なぜそんな事が分かるんだモナ!!」
「その謎を解く鍵は…」
 キバヤシはセーターの中に手を突っ込んだ。
 そこから、ブ厚い本を取り出す。
「この『諸世紀』の中に、集団洗脳による危機を示唆する詩があるんだよ!!」
 代行者は、服の中に物をしまうのが習慣なのか?
 キバヤシは、ノストラダムスの預言書を広げた。
「第一章六十四詩だが…」

『真夜中に 彼らは 太陽を見るだろう
 半人半豚を 目にする時 
 雑音、絶叫、空の戦いが見えるだろう
 獣の語らいが 聞こえるだろう』

「彼らというのは、一般民衆を指している。太陽というのは空にあるやつだ。
 そして、この『半人半豚を 目にする時』というのは、例のファージを応用して
 脳に何かが埋め込まれるという事なんだよ!!」
「…キ、キバヤシ!!」
 特にコメントもないので、とりあえず名前を呼んでおいた。
「そして後半の詩は、人々が集団自殺に導かれる様子をあらわしている。
 つまり最初から――ノストラダムスは全てを預言していたんだよ!!」
 キバヤシばかりか、ノストラダムスの顔までアップになっている。

「時空を超えて、あなたは一体何度――――
 我々の前に立ちはだかってくるというのだ! ノストラダムス!!」

 俺は驚愕していた。
 仮説のはずが、いつしか当然のように扱われ、それを前提としたトンデモ説が構成される。
 そのトンデモ説は、さらに大きな陰謀論を導いてしまい、ノストラダムスに帰結する。
 そして、いつしかノストラダムスが当初の仮説を裏付けたと主張する循環論法。
 ――これが、キバヤシスパイラル…!!

 さて、この場に来てからもう20分も経つ。
「イッちゃってるとこ悪いけど、そろそろ中に入るモナ…」
「そうだなモナヤ。では、俺は外から見張っていよう」
 キバヤシは、その場から離れようとして、俺の方をチラリと見た。
「…セーターは脱いでおこう」
 ボソッ言い放った後、マンションの裏側の方に消えていくキバヤシ。
 変なセーターと言った事を根に持っているようだ。

524:2003/12/30(火) 21:17

 つーの部屋の前まで来た。
 レモナが先に来ているはずなので、俺の来訪も知っているだろう。
 チャイムを押した。
 ピンポーンという音が中から聞こえる。
「ハイ!?」
 乱暴に扉が開く。
 つーだ。
 何だ、元気そうではないか。
「モナー ジャネェカ!! ナニシニ キタンダ!?」
 俺の姿を見て、ただでさえ丸い目をさらに丸くするつー。
「つーちゃんが体を壊したって聞いたから、お見舞いに来たモナよ」
「ソリャ、ワザワザ ワルイナ… トリアエズ、アガレヨ、アヒャ!」
 何故か普段よりしおらしいつー。
 俺は、部屋に上がることにする。
 果たして、あのつーの部屋とはどんなんだろうか…?


「意外と普通モナね…」
 部屋の真ん中に突っ立って、俺は思わず呟いた。
 普通に女の子の部屋だ。
「そういえば、レモナは?」
「レモナ…?」
 つーはきょとんとした表情を浮かべる。
「あれ? レモナが先に来てるはずモナ?」
「ソンナネカマ、キテネーゾ?」
 おかしい。
 俺とキバヤシで話し込んでいた時間を含めれば、30分ほど前には来ているはず。
 どこかで事故にでもあったのだろうか。
 いや、あのレモナに限ってそれは…

「ソコデ スワッテテクレ。ココアデモ イレテクルワ。アヒャヒャヒャ…」
 台所に姿を消すつー。
 俺はテーブルの椅子に腰を下ろした。
 そして、周囲を見回す。
 何も異常な点はない。
 いや、あのつーが女の子っぽい部屋に住んでいる事自体が異常と言えば異常だ。
 もっと血がしたたっていたり、地雷が仕掛けられていたりするのかと思っていたが。

 …ポタリ。

 何か、水の滴るような音が聞こえた。
 本当に血でもしたたっているのか?
 いや、そんなはずはない。雨漏りでもしているのだろうか。
「アッ! オシイレノ ナカヲ ノゾクナヨ!!」
 台所から、つーの声が聞こえる。
 いくら俺が礼儀知らずでも、他人の家の押入れを覗いたりはしない。

525:2003/12/30(火) 21:18

「ホレ、ノメ。」
 しばらくして、つーが2人分のココアを運んできた。
 まさか、ヤバい薬が入ってるとかはないだろうな?
 俺は『アウト・オブ・エデン』を発動させ、構成成分を視た。
 食物繊維、ポリフェノール、ミネラル、テオブロミン、カカオFAA、IP6、ギャバ・アミノ酸…
 うん。普通の美味しそうなココアだ。
「…ナンダ?」
 つーは急に周囲を見回し始めた。
「どうしたモナ?」
「サッキ、ヘンナニオイガ… イマハ キエテルンダケドナ…」
 俺は、特に何も感じなかった。

「このココア、本当につーちゃんが淹れたモナ?」
 俺は訊ねた。
「ソウダケド… オレイガイニ ダレカ イルカ?」
 つーは怪訝そうな表情を浮かべる。
「もしかして、つーちゃんって料理とかも得意モナ?」
「マ、マア、ヒトリグラシ ダカラナ…」
 つーはそう言って黙ってしまった。
「ふうん… じゃ、頂きますモナ」
 俺はテーブルに置かれたカップを手に取ると、温かいココアを喉に流し込んだ。
 普通に美味い。

 …ポタリ。

 ん? また、さっきの音だ。

 …ズルズル…

 何かを引き摺るような音まで聞こえる。
「これは、何の音モナ?」
 俺はつーに訊ねた。
「アマモリ ジャネーカ?」
 特に気にしないつー。
 まあいい、そろそろ本題に入るか…
「つーちゃんは、ずっと風邪ひいてたモナ?」
 ココアを飲んでいたつーは目線を上げた。
「チョット タイチョウヲ クズシテテナ… モウ、ダイジョウブダ… アッヒャー!」
 こうして見る限り、つーは健康そうだ。
 念のため、『アウト・オブ・エデン』でつーの身体を視てみる。
 …とくに問題はない。異常も無さそうだ。

「!?」
 急につーが周囲をキョロキョロし始めた。
 俺は慌てて『アウト・オブ・エデン』を解除する。
「ど、どうしたモナ…?」
「ナンカ、ミラレテル カンジガシテナ…」
 不審気に、周囲を見回すつー。
 『アウト・オブ・エデン』の視線に反応した事は間違いない。
 なんて知覚力が高いんだ…
 まあ、体に異常はないことははっきりした。
 どうやら、キバヤシの杞憂だったらしい。
 ところでキバヤシは…

 ブーッ!!

 俺は飲んでいたココアを噴き出した。
 正面の窓から、キバヤシの顔が覗いている。
 さすがに代行者、完璧に気配は消えている。
 だが、ここは3階。
 マンションの壁に張り付く変態的なキバヤシの姿は、外から大いに目立つはずだ。
 ターゲットにバレなければ、何をしてもいい訳じゃないと思うが…
 キバヤシは、さっきの言葉どおりセーターは脱いでいた。
 『MMR』の文字が大きく刻印された怪しいTシャツ姿である。

「ン? ナニカイルノカ…?」
 俺の視線を追って、窓の方を見るつー。
 キバヤシの頭は素早く引っ込んだ。
「ナニモ イネージャネーカ…」
 つーは苛立たしげに言った。
「いや、今日はいい天気だなーと思ってモナ…!」
「イイテンキ ダッタラ、オマエハ ココアヲ フキダスノカ!!」
 怒られてしまった。

 …ズルズル…

 まだ、不気味な音はする。
 どうも、押入れの方から音がしているような気がするんだが…
 だが、『アウト・オブ・エデン』を使うわけにもいかない。
 つーの感受性は並外れているのだ。
 こうなったら、つーが席を外した隙にこっそり確認するしかない。

526:2003/12/30(火) 21:18

「…デ、ガッコウハ タノシイカ?」
 つーは不意に言った。
 つまり、自分がいなかった間での学校の話を聞きたいのだ。
 そこらへんが素直に言えないなんて、意外と可愛いヤツだ。
 俺は微笑んでカップをテーブルに置いた。
「つーちゃんがいなくなって、みんな意外と心配してるモナよ」
「『イガイト』ッテ ナンダ…!」
 つーは、天井から釣り下がっていた怪しげな紐を引っ張った。
 俺の足元の床がカパッと開く。
 俺は、椅子ごとその穴に落ちた。
「うわぁぁぁぁ!!」

 いつものクセで叫び声を上げてみたものの…意外と浅い。
 70cmほどの深さだ。
 流石にマンションなので、大穴を開けるには無理があったのだろう。
 それにしても、自分の部屋にまでワナを作るとは…

「あいたたた…」
 腰を強打した俺は、穴から這い出した。
 つーが紐を離すと、元通り床が閉じた。

 …あ。椅子、中だ。
 仕方ない。立ったままで我慢するか。
 ふと、つーの右手に撒いている包帯が目に入った。
「つーちゃん、怪我でもしたモナか!?」
 俺はつーに駆け寄る。
「ア、アア… ナンカ、ヒフニ ブツブツガデキテナ。スグ ナオルト オモウケド…」
「そりゃよかったモナ。何か大きい怪我でもしたと思ったモナよ!」
「ソ、ソウカ…」
 何か動揺したような様子を見せるつー。
「まったく… (多分)女の子なんだから、体を大切にしないと駄目モナよ」
「ソ、ソウカナ…」
 つーは落ち着きなく動き回っている。
「ただでさえ乱暴でオヨメの貰い手も少なそうなのに、キズモノにでもなったら…」

 ――殺気!
 つーが手許のボタンを押した。
 前方から突っ込んでくるコンペイトウ型の鉄球。
「ヤッダーバァァァァァァ…」
 直撃を受けて、吹っ飛ぶ俺の体。
 つーは、俺以外の人間をトラップに嵌めているところなど見た事がない。
 そのつーの家に、トラップが配置してあるという事は…
 …トラップは趣味だということか…!
 俺は地面に激突して、そのまま気を失った。


 目覚めた時、布団に寝かされていた。
 10分ほど気絶していたらしい。
 頭を振りながら、ゆっくりと体を起こした。
「アヒャ!ヤット オキタカ!」
 台所の方から、つーがやって来た。
 なんと、エプロンをしている。
 意外に似合っているが、その性格を考慮に入れると違和感バクハツだ。
 まあ、これ以上トラップを喰らいたくはないので、エプロン姿の感想は口にしない。
「アノクライデ キゼツスルナンテ、ヤワナ カラダダナ!アヒャ!」
「ああ、寝かせてもらったモナね… すまないモナ」
 例を言うべきかどうか微妙なところだが、とりあえず謝っておいた。
「ベツニ イーヨ。ソウダ!バンメシ クッテケ!」
 晩飯だって!?
 夕食にはまだ早いが、腹は減っている。
 俺は、その提案に甘える事にした。
 つーが何を作ってくれるのかにも興味がある。
「ナラ、デキルマデ ネテロ。ソウダ、ドラヤキ クウカ?」
「食べるモナ!」
 俺はヨダレを流して答えた。
「タヌキハ ドラヤキガ スキダカラナ、アヒャヒャ…」
 捨て台詞を残して、台所に姿を消すつー。
「モナも某猫型ロボットもタヌキじゃないモナ!」
 俺は、その背中に向かって悲痛に訴えていた。

527:2003/12/30(火) 21:19

 何だかんだ言いつつも、ドラやきは美味しかった。
 俺は布団の上に寝っ転がる。
 ふと、窓の外を見た。
 キバヤシと目が合う。気マズい事この上ない。

「フンフンフーン フフフーン♪」
 台所から、つーの鼻歌が聞こえる。『天国の階段』のメロディだ。

 …ポタリ。
 …ズルズル…

 また、例の音。
 やはり、押し入れから聞こえる。
 俺は、チラリと台所のほうを見た。
 つーは、こちらの様子を気にしてはいない。

 俺は、ゆっくりと押入れに近付いた。
 水が滴る音と引き摺るような音は徐々に大きくなる。
 間違いなく、この中からの音だ。
「…」
 生唾を飲み込む。
 変わらないつーの鼻歌。こちらの様子には気付いていない。

 俺は押入れに手をかけると、ゆっくりと開け放った。

 一面の赤。
 引き裂かれた肉体。
 手や足は、まだ原型を留めていた。
 もっとも、胴体からは引き離されていたが。
 その頭部は、こちらを向いていた。
 まるで見られる事を恥ずかしがるように、手の残骸が顔の半分を隠している。
 その、よく見知った顔を。

 ――あれはレモナだ。
 押入れの中には、手足をバラバラに引き裂かれたレモナが入っていた。
 
「うわぁぁぁぁ!!」
 俺はその場にへたり込んで、悲鳴を上げた。

 レモナの頭部が僅かに動くと、その口が開いた。
「やだ、恥ずかしい… モナーくんに、こんなみっともない姿を見せちゃうなんて…」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 俺は、さっきより大きい悲鳴を上げる。
 レモナの腕は、胴から切断されたにも関わらずズルズルと這い回っていた。
 首から垂れた血が、ポタリという音を立てて落ちる。

「モナーくん! 後ろ!!」
 レモナの頭部が、鋭い声を上げた。
 俺はゆっくりと後ろを振り向く。
 そこには、つーが無表情で立っていた。
 さっきのエプロンをしたままで…

528:2003/12/30(火) 21:19

「ミタナ…!」
 ゆっくりと、こちらへ近付いてくるつー。
「ひぃぃ…」
 腰を抜かしたまま、俺は後ずさった。
「ジャア、コレヲ ミロヨ…」
 つーは、スルスルと右手に巻かれていた包帯を外す。
 何か、湿疹のようなものができているようだが…

「それはッ!!」

 不意に窓に張り付いていたキバヤシが大声を上げた。
「!!」
 つーの視線がそちらへ向く。
「しまったバレた!!」
 キバヤシは大声で叫ぶ。

「ナンダ、オマエ…!」
 つーは呟いた。
 凶悪な視線だ。確実に、殺意がこもっている。
 こうなったら…俺は関係ないと、とぼけきってやる!!

「どうするモナー! 見つかってしまったぞ!!」
 俺の方を見て叫ぶキバヤシ。
 何でこういう時だけ本名で呼ぶ!?

「ソウカ… オマエラ、グルデ オレヲ ミハッテタンダナ…」
 つーの様子がおかしい。
 小刻みに痙攣している。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 心臓の鼓動が異常なほど早い。
 先程まで普通の人間と何ら変わりのなかったつーの肉体が、大きく変化している。
 …いや、変貌を遂げようとしているのだ。

 ――麻酔作用開始!

 その目が大きく開き、額の皮膚が裂ける。

 ――瞳孔散大! 平滑筋弛緩!

 ひび割れたように皮膚が剥がれ落ち、その下からメタリックな肌が姿を現す。

 ――皮膚を特殊なプロテクターに変える!

 鋭い爪。満ち溢れる力。
 筋組織も完全に変化している。

 ――筋肉・骨格・腱に強力なパワーを与えるッ!

 変化は収まったようだ。エプロンは破けて、形も残っていない。
 つーの体は、異形の肉体へと変貌を遂げていた。

 ――そいつに触れることは死を意味するッ!


「マズい事になったな…」
 いつの間にか、キバヤシが隣に来ている。
 いや、事態の大半はあんたのせいだ。
 とにかくこの状況を何とかしなければ、俺の命も危ういかもしれない…



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

529新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 21:45
もう何てコメントしていいか言葉が見つからないので
乙ッ!!とだけ言わせてもらいますね

530新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 22:34
喰われながら生きているレモナにワロ他。

531新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 23:28
ボスケテはすごいよマサルさんですかな?

532新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 23:58
「ボス 決して走らず急いで歩いてきて
そして早く僕らを助けて」の略

533N2:2003/12/31(水) 20:39
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534N2:2003/12/31(水) 20:40

絶対包囲.com

「よし、それじゃ行ってくるぞ!」
ギコ、本当に大丈夫なのか…?
はっきり言って、虚勢を張っているようにしか見えない。
「…モナ太郎さんッ、あいつ本当に大丈夫なんでしょうか?」
「彼もスタンドが発現してもう何日か経っているのだ、きっと彼なりに策があるのだろう」
モナ太郎さんも随分と楽観的な意見だし…当てにならない。
「でももし駄目だったとしたら…」
オレが押さえ切れない不安をぶつけると、モナ太郎さんは気まずそうに目線をオレから逸らした。
「その時は…諦めろ」
な なんだってー!(AA略)
「言っておくがなギコ屋、戦いの世界においてはいざと言う時には自分の身内さえも見捨てて生き延びなくてはならないこともある。
私としても確かに彼を易々と見捨てたくはないが、もしそれで駄目だったら我々だけでも逃げて策を練り直すしかない」
「そんな…」
そりゃ確かにこの人の言うことは正論だ。
でも…オレにそんな事が出来るのだろうか?
もしギコが危機に陥ったなら、オレがどんな行動に出るか…はっきり言って自分でも予測出来ない。
とにかく今は、ギコの無事と勝利を祈るしかない。
「ギコ、絶対負けるなよ!!」
ミィの元へと向かう相棒はオレの声を聞いて一瞬立ち止まり、( ̄ー ̄) ニヤリと笑ってこちらを振り向いた。
「OK牧場」
…古い。お前何歳だ。

「ギコクン、マズハ キミカラ ミィノナカマニ ナリタイヨウダネ」
ミィと対峙したギコを、彼女は純粋無垢な笑顔を浮かべながら嘲笑った。
顔と言ってる事のギャップが大きすぎる。やっぱり怖い。
「…誰が手前なんかと同類になりたいと思うか、ゴルァ!」
ギコも負けじと言い返す。誰だってそー思う。オレもそー思う。
「激しく同意!!」
しかし彼女は尚も言い放った。
「・・・アーア、キミモ オトナシク センノウニ カカッタママノホウガ シアワセダッタノニネ・・・。 アノカタハ コレカラ セカイサイキョウノ AAトシテ コノヨニ クンリンナサルノヨ。
ソレナノニ ヤスヤスト ギコヤニ センノウヲトカレテ、ソレデ サイゴハ ワタシノチカラデ シンジャウンダカラ」
「…言っとくがな、俺は奴を最強になんかさせるつもりはねえ!多大なる犠牲を払ってまで強さが欲しいのか!?」
「おかしいぞ!ぜったいおかしい!!」
「ツヨサトハ タタカイヲモッテ シメサレルモノ、ヘイワトハ タダイナル ギセイニヨッテ カチエラレルモノヨ」
いきなりミィが思想的な話を持ち出した。これまでが感情論だったのに、御都合主義も甚だしい。
「ふざけるな、奴は別に世界平和の為にやってるんじゃねえ、ただの自己満足の為に人を殺しているだけだ!」
「そーだそーだ!」
明らかにあの男を侮蔑した発言に一瞬ミィの表情が乱れたが、じきにもう付き合っていられないと言いたげな顔をした。
「・・・モウ キミニハ カエスコトバモ ナイワ。サア、オトナシク ミィトオナジセカイノ ジュウニンニナリナサイ! テイコウシナケレバ ラクニイケルヨ」
「やってみな、手前の攻撃は俺には通用しない!」
「ソレジャア エンリョナク・・・ ダッコ♪」
ミィは自分が飛びかかる形でギコに接近し、スタンドで抱き付こうとした。
「ギコッ!!」
だがギコは全く抵抗しようとしない。
いや、むしろ全てを受け入れようとしているようにさえ見える。
そしてとうとう彼女のスタンドはギコをその腕の中に抱き込んだ。
「サア・・・ネムリナサイ。
・・・ツカレキッタ、カラダヲォーナゲダシテ♪」
ミィは自分のセリフが某歌謡曲の一節である事に気付き、調子に乗って途中から歌い始めた。
…やっぱり古い。こいつも何歳だ。
それでも相棒は何もせず、ただじっと目をつぶっていた。
…やる気が感じられない。こいつホントに死ぬ気か!?
「コーノーマチワー、センジョオーダカラ、オトコーハミンナ、キズヲ、オッタ、センシ♪」
「ギコ、何やってんだ!お前、遂におかしくなったのかァ―――ッ!?」
しかしギコはオレの言葉にさえも全く応じようとしない。

535N2:2003/12/31(水) 20:41

だがここでモナ太郎さんがある事に気付いた。
「ギコ屋よ、ちょっと彼を見ておかしいとは思わないか?」
おかしいって言っても…全然何も変わった様子は無い。
「失礼ですけど、何にもいつもと変わった様子はありませんよ」
「…その事自体がおかしいとは思わないか?」
その事自体が、って言っても、別にギコの顔に何か付いてる訳でも…。
…ってあれ?
「そう言えば何でミィのスタンドに抱きつかれて平気なんだ!?」
ギコの耳は全くいつもと変わり無く、また変化する兆しすら見られない。
「だが一体どうして…。彼には一体まだどんな能力が備わっているというのだ?」
よく見ると、ミィの表情に余裕が無くなっている。彼女もまたこの異変に気が付いたようだ。
「ドウゾーココロノ! イタミヲー! ヌグウッッテェーチイサナコドモノ! ムカシニ! カエェッテ! アツイムネーニー! アマエェーテェー!!」
もう歌もやけくそになっている。…失礼だが、さっきまでと大して変わっていないような気もするのだが。
そうして一番を聞き終えると、ようやくギコは目を開けて喋り出した。
「…どうだ?やっぱり手前の攻撃は俺には通用しないだろ?」
そう言ってギコは、今まで見えてなかったスタンドを出した。
「『バーニング・レイン』!ゴルァ!!」
ギコのスタンドの一振りは、呆気に取られていたミィの顔面に綺麗に入った。
高速で吹っ飛ばされたミィは壁に衝突し、見事にそこには穴が開いたが、それでも彼女は瓦礫の中から這い上がってきた。
言ってる事の不気味さにも増して、このタフネスさはバイオ級の恐怖だ。
「…推進力を加えたってのにまだ立ち上がれるとは…」
ミィの顔面はモウ ミテランナイ有様だったが、少しずつ再生しているようであった。
戻る様がまたグロテスクだ。
「・・・ドウシテ? ドウシテ ミィノウィルスガ キカナイノ? ドウシテ? ダレカオシエテ・・・」
彼女は半分錯乱しているようである。
ギコはちょっと勝ち誇ったような顔をして、ミィに言い放った。
「手前はこの音に聞き覚えはあるか?」
そう言ってギコは目をつぶり深呼吸をした。
Coooooo…という呼吸音には、オレも聞き覚えがあった。
この呼吸音は…、確か倉庫で戦った時にも聞いたはずだ。
そしてモナ太郎さんも知っているのか、相当に驚いているようだった。
「馬鹿な…この呼吸はッ!じじいのッ!!」
「どうしたんですか、一体!?あの呼吸は…?」
モナ太郎さんが答える前にギコが口を挟んだ。
「これは『波紋』と言ってな…特殊な呼吸によって生み出されるエネルギーであり、その力は言うなれば太陽のエネルギー…」
ああ、何だあれが波紋か。
「ギコ、波紋の事はもうモナ太郎さんから聞いたから…」
自信満々に知識の披露をしようとしていたギコは、突然知らされた驚愕の事実に唖然とした。
「もしかして説明不要ですかーッ!?」
「YES!YES!YES!“OH MY GOD”]
「…どこかでこんな会話を聞いたような…」
モナ太郎さんはデジャヴュにでもあったかのような顔をした。
一方ギコは最初はいじけているようだったが、急に何かを思い立ったのか立ち上がった。
「…それはともかく、俺も元々はこの能力が身に付いていた訳じゃなかった。
しかし、あの男は俺に波紋の才能があると見抜き、ちょっとしたトレーニングを課した。
奴もあの時は洗脳によって俺が完全服従していたからな、吸血鬼にとっては忌むべき存在の波紋使いを自分で生み出すことにはなるが、俺が更に強力な部下となる事の方が得に思えたんだろう。
…ところが俺に取り憑かせた霊魂が出来損ないの奴で、その内俺が奴を倒して自分こそが最強になろうと目論見始めたもんだから、
それで目障りになって奴はお前に俺を始末させようとしたんだ」
「なるほどな、自分で生み出してしまった波紋使いを始末するのは危険が伴うからか」
「そして俺のスタンド『バーニング・レイン』は本来エネルギーを司る能力!波紋が無ければその捻出には相当苦労したんだろうが、
今の俺には幾らでもエネルギーを作ることは出来るぞ!」

536N2:2003/12/31(水) 20:42

再びギコは『波紋の呼吸』をした。するとみるみるうちにスタンドの手には赤い光がともり、その輝きはますます強くなっていった。
       バーニング・ショット
「喰らいなッ、『火炎弾』!!」
そうギコが叫ぶと、「バーニング・レイン」の掌からは無数の紅い色をした銃弾が放たれた。
マシンガンかのような銃撃を受けたミィは、その傷口から炎が吹き出ていた。
「さて、これだけやればいい加減くたばるはずなんだが…」
しかしそれでもミィは生きていた。
しかもその表情には余裕すら感じられる。余計不気味だ。
「ギコクン・・・ミヤブッタワ、アナタノ ケッテイテキナ ジャクテンヲ。 ワタシヲ ココマデ イタメツケタカラニハ モウユルサナイ・・・ モウトリカエシノツカナイ ハイジンニシテクレルワ!」
「何だと!?手前まだ減らず口を利くなら今度は完全に冷やし切った後に粉々に粉砕してやるぜ!」
「・・・アナタ、ドウシテ スタンドノ カタテシカ ツカワナイノ?」
その指摘にギコははっと驚いた。一体何がまずいのだろう。
「アナタノ ハモンジュツナラ タシカニ ワタシノウィルストカモ フセゲル・・・ケドソレハ コキュウダケデハ フカンゼン。
アナタハ スタンドノカタテヲ ジブンノタイナイニ イレルコトノヨッテ! ジカニ ハモンヲナガシテ ワタシノウィルスヲフセグノニ ジュウブンナハモンヲ ナガシテイルノネ!!」
…えーと、読みづらい。
「くそッ、まさかネタがばれちまうとは…」
「だからネタって何だよ!?」
「ソウトワカレバ! スタンドト ワタシジシン! ソノダブルコウゲキデ マズハアナタヲ イタメツケテアゲル! アノカタハ「バーニング・レイン」ハ スピードニトッカシタ スタンドダト オッシャッテイタワ。
タシカニ アナタハカタテデ ワタシノスタンドニハ ジュウブンタイショデキルワ。 デモテカズガフエレバ・・・ドウカシラ?」
ああもう何を言っているのやら。
と困惑するオレには全く関心を持たずにミィはスタンドと共にギコへと突っ込んだ。
「なら手前自身をぶっ潰すまでよ!」
ギコの攻撃は完全に相手の本体狙いだった。
しかし、攻撃を入れども入れども向こうは平然としている。
「ギコクン、アナタハ ホントウニ ツヨイオトコダワ・・・。ケド アイテガワルカッタワネ、 ワタシハナニヲサレテモ ゼッタイニシナナイ 『フジミキャラ』。
ワタシニハ カテナクテ トウゼンナノ。 ソレニキヅイテイナガラモ メサキノアンゼンヲモトメテ ホンタイネライスルナンテ・・・ アナタハ スタンドツカイトシテ マダマダワネ
ホントウハ コレカラ アナタノセイチョウヲ ミタカッタノダケレド・・・ アノカタニハ カンゼンニ シマツシロト イワレテイルシ、 ワタシヲココマデ キヅツケタウラミハ アナタノシヲモッテ ツグナッテモラウシカナイワ。
・・・ソロソロ オワリニシマショウ」

537N2:2003/12/31(水) 20:45

ギコが完全に無視していた「シック・ポップ・パラサイト」の一撃ががら空きの胴に入った。
ウィルスには感染せずとも、もろに喰らった攻撃は戦況を完全にミィ優勢のものとしてしまった。
ギコは血を吐きながら吹っ飛び、そのまま壁を破っても尚その勢いは収まらなかった。
すぐにプールに人が飛び込むような音がした。
「・・・オフロバマデ フキトンダヨウネ。 デモ イマノイチゲキデ モウアナタニハ タタカウヨリョクハ ノコサレテイナイ!
サア! マズハアナタヲ キノスムマデ イタメツケ、 ソシテ ジックリトジックリト ウィルスニオカシ、 ソノイシキガ ウシナワレルスンゼンデ クビヲ オトシテクレルワ!」
ギコ、絶体絶命である。
「ちっ、この距離では時を止めても彼を救えない…。ギコ屋、逃げる準備をした方が良さそうだな。さもないと全滅の可能性がある」
「そんな…! …おいッ、ミィ!お前の相手はオレがするぜ!」
戦闘に関して三流と言われるかも知れない。でもオレにはとても相棒を見捨てることなんて出来ない。
気が付いたら、口から勝手に言葉が飛び出していた。
「待て、死にたいのかッ!?」
モナ太郎さんの制止を振り切り、オレはミィ目がけて突っ走った。
しかし、彼女は全くオレには目も触れなかった。
「ワタシモ アノカタニ オツカエシテ モウ5ネン・・・ イママデ カズオオクノ シュラバヲクグリヌケ、 トキニハナカマヲ ミステサエモシタワ。
ケレド、 ソレハワタシニトッテハ ムシロセントウニオイテ ヨリテキカクナハンダンヲクダス ダイジナカテトナッタワ! アナタノ ヤスッポイチョウハツニノルホド ワタシハアマクナイワ!!」
距離の差はおよそ5m。オレのスタンドでは届かない距離だ。
「カクゴシナサイ、ギコッ! コレガ アノカタニ サカラウモノノ ケツマツヨッ!!」
スタンドのパンチが浴槽目がけて振り下ろされる。
「うおおおおォ――――ッ!!!!」
「クリアランス・セール」を全力で飛び出させる。しかし、射程が足りない。
「・・・オワッタワネ」

538N2:2003/12/31(水) 20:45

「…波紋の扱いが精密に行える者は、例えば水なんかに波紋を流して自在に形を操れるんだ」
相棒が浴槽の中から立ち上がった。その中にはまだ沢山残っているはずの湯が無い。
…否、それはギコの手の内で四角い形を帯びて存在していた。
「どおおりゃああぁ――――ッ!!」
ギコの手に持たれた水がスタンドによってミィに叩きつけようとされた。
確かに先手はミィの方であった。
しかしギコの「バーニング・レイン」はオレよりも更に数段上のスピードを誇っている。
ミィは水を真正面からぶつけられると、そのままその中へと閉じ込められた。
「・・・ゴボッ!? ガバゴボゴボゲボ!!」
「そして波紋にも通しやすい物と通しにくい物があってな、水とか油なんかは非常に伝導率が高いんだ。
例え不死身の貴様であっても水中に閉じ込められて俺の全力波紋を受けて無事でいられるかァ――ッ!?」
「ゴボゴボゴボゴボ!!!!」
        レモンイエローオーバードライブ
「喰らいなッ、『黄蘖色の波紋疾走』ッ!!」
スタンドの手から放たれた鮮やかな黄色をした波紋は、激しい放電音と共にミィを電流で包み込んだ。
「ガバ-------ッ!!!!」

数秒の後、ギコが波紋を解除すると形を失った水の中から黒焦げになったミィが力なく落ちてきた。
もう全く動く気配は無い。
「…やったのか、ギコ!!」
「いや分からん、こいつが『不死身キャラ』である以上は全く安心出来ん。だが今こいつが倒れている内に、早く兄貴を助けて目を覚ます前に逃げるぞ!」
ギコはそう言うとすぐに走り出して俺達を誘導した。
正直こいつを放置しておくのは不安極まりないが、かと言って連れて行った方が余計危ない。
オレは横たわるミィを尻目にギコを追って階段を上った。

539N2:2003/12/31(水) 20:47

廃ビルの3階。そこにギコの兄貴は捕まっていた。
俺たちがそこに着くと、その男は天井からロープで吊るされていた。
「兄貴ぃ――――ッ」
相棒ギコの姿を見たギコ兄貴は、最初はその光景が信じられないような顔をしていた。
「…お、お前は弟か!?弟なのか!!」
「兄貴、助けに来たぜ!!」
「…そうか、お兄ちゃんはお前が必ず来てくれるものだと信じていたぞ…」
…一人称が「お兄ちゃん」…。相当なブラコンと見た。
「嬉しいぜ、兄貴!俺のことを信じていてくれたなんて…」
それを平気で受け入れる相棒も然りだ。
「よし、あのミィが目を覚ます前に逃げるぜッ!!」
「あのミィって、あいつのことか?」
「…へ?」
ギコ兄貴が指差す先には、黒焦げになり立つことすらおぼつかないようだが、壁に寄り掛かりながらもまだ闘志を燃やすミィがいた。
「シツコクミィキタ━━━━━(゚∀゚;)━━━━━!!!!」
「何てこった…。これじゃあ何をやっても無駄じゃないか!!」
うろたえる俺たちの声が耳に入っていないのか、ミィは1人で喋り出した。
「・・・ニガサナイ・・・ケッシテ・・・ワタシハフジミ・・・ケッシテアナタタチニナゾ・・・」
「くそっ、こうなったら奴を分解してその隙に逃げるっきゃねぇ―――ッ!!」
「で、でもそれでもこいつが生きている限りはいつまでも追ってくるぞ!!」
「うろたえるな、弟、ギコ屋。既に決着は付いた」
「…は?」
理解不能のオレ達にギコ兄は語り始めた。
「よく見ていろ、あいつの顔を。どういう変化をするのかしっかりとその目で見届けろ」
「…?」
変化…と言ってもミィの顔は相変わらず怨念と闘志に満ちている。
…が、心なしか表情がさっきよりも穏やかなような…と思うと、みるみる無表情になっていった。
「おい、こりゃどうなってんだ!ミィ、手前一体…」
「・・・ヒガシ」
「はぁ?」
「ヒガシ・・・イカナキャ・・・ ヒガシ・・・ドコ?」
何だあれは。
あれは最早ミィとは呼べない。ミィの皮を被ったでぃだ。
「な…何なんだよこりゃ!?兄貴、一体何したんだ!?」
自分を揺さぶる弟を一見してからミィの方を向くと、ギコ兄はスタンドを発現させた。
「ってあんたまでスタンド使いかいッ!」
「私の能力『カタパルト』はスタンドによって分析した物質を材料から複製することが出来る。
今私はあのミィの脳細胞の一部から奴に気付かれぬうちに「でぃの脳細胞」を複製してそのまま埋め込んだのだ。
でぃ族の要素が少しでも加われば、しぃ族は呆気なく堕ちてゆく…。彼女は一生あのまま東を目指し続けるだろうな」
流石にちょっとやり過ぎのような気がするが…、でもこうしなけりゃオレ達が死んでいたのだ。
これが勝負の世界の掟なのだろうか。

540N2:2003/12/31(水) 20:48

モナ太郎が不審に気が付いたのは、3人が戦いを終え小休止している時であった。
蛍光灯の光が、おかしい。さっきから急に明るくなったり暗くなったりを繰り返している。
(…まさかッ!?)
3人は全く異変に気が付いていない。今から口で言っても間に合わない。
「スタープラモナ・ザ・2ちゃんねる」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ドォ――――――ン)
モナ太郎は3人をスタンドで掴むと、窓の方へと勢い良くぶん投げた。
そしてすぐに彼自身も窓へ向け駆け出し、まさに飛び込もうとしている時に時間が切れた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

4人がガラス窓を破って外へ出た次の瞬間、つい一瞬前までいた廃ビルは雷の如き電流に包まれた。
「………!!!!!!??????」
3人は時の止まる前後の状況の余り変化に全く思考がついていかなかった。
「って何じゃゴルァァ――――ッ!!」
「…なっ、これは一体…!?」
「うわああああああ!!!!」
建物は見るも無残に崩れ去っていった。
もしモナ太郎が何も気付かずにあのまま建物の中にいたら、命は無かっただろう。
着地した時には、もう廃ビルは完全に原型を留めていなかった。

541N2:2003/12/31(水) 20:49

「…酷い真似を…」
ギコは廃墟を見つめながら1人呟いていた。
ミィはあの電撃で焼失したのだろう。
確かに自分を殺そうとした相手ではあったし、あのまま生きていたとしても決して幸福な人生を歩んでいたとは思えないが、
それでもギコは突然の惨劇に憤りを感じずにいられないようであった。
ギコ兄はそんな弟を尻目に「カタパルト」をコンクリートの山に登らせていた。
「…『カタパルト』でこの瓦礫の山を視たのだが、炭素反応は確かにあるがどれも微塵に分散している。
ましてや、生体は全く存在していないな」
ミィの結末を、ギコ兄は確かなデータから証明付けた。
それをギコは、ガラスを爪で擦る音を聞くような顔で聞いていた。

でも、一体誰がこんな真似をしたというのだろう?
これが単なる事故のはずなんてない。
何者かがオレ達を始末するためにやった事に違いない。
「…モナ太郎さん、これは一体どういう事なんでしょう?」
この事態に気付いたのはモナ太郎さんだけだ。
彼に聞けば何か知っているかもしれない。
「…分からんな。ただこれがスタンド攻撃であることは間違い無いのだが…」
オレの期待も空しく、モナ太郎さんも何も知らないらしい。

542N2:2003/12/31(水) 20:50

「…そんなの、奴の仕業に決まっているさ。
…言っとくが、俺たちを今暗殺しようとしても無駄だ…止めておけ」
突然ギコは右の拳で左の掌を叩いた。
そこから高速で銃弾が飛び出す。
それは近くのビルの壁にぶつかって反射し、その先には…人!?
いや違う、あれは人ではなく、人の形をした…光?
その右手には相当な大きさの金色に光る球が乗っている。
その光る人は自分に迫る弾を左手で指さすと、バリッ!という音と共に放電してかき消した。
「やはりな、ビル1つ崩壊させる電気を使えるスタンドと言ったら、奴の部下では手前だけだ」
自分の目論見を見破られたことを知っても、そいつは余裕のある含み笑いをしながらギコを見下ろした。
「流石だよギコ。奇襲から見事に逃れた時点で作戦が失敗したことは分かっていたが、私の行動をここまで見破るとは思いもしなかった」
「作戦が失敗した…って言っときながらその手にある電気の塊は何だ?」
ってあれは電気の塊だったのか。
もしあんなもん落とされてたら真っ黒焦げじゃ済まされない。
ギコが気付いていなかったら今度こそ命が無かっただろう。
「ハハ、失礼失礼。まあ、これ以上ここに居座っていてもしょうがないから、そろそろ帰らせて貰うよ」
電気の男はそう言って手の上の光を消滅させた。
「…待て、貴様どうして自分の仲間さえも巻き添えにした?」
作戦も失敗し、いざ帰ろうとする男をギコは呼び止めた。
「…元々君の兄上は君たちを全滅させる為の囮だったのさ。本当はビルに入った途端に殺しても良かったんだけど、
そういうのは私の美学に反するんでね…。元々それはあの方直々の作戦だったんだけど、ミィの奴はそんな事も知らずに見張り役になると言い出してね、ハハ、笑っちゃうよ」
…こいつ、自分の仲間が死ぬと分かっていながら…!
「手前、分かってたんならそうだと言ってやれば良かったじゃねえか!それなのに何で見殺しに…」
怒るギコを呆れたような顔で男は見た。
「そもそもあの方はあいつを前々から鬱陶しく思われていてね、不死身の肉体に危険なウィルスのスタンド、
自分の言いなりになっている内は良いが、もし離反でもしたなら脅威になりかねないからね。
あの方をそれを前々から私に漏らしていたから、事のついでに奴を始末したって訳だ。ハハッ、哀れな女だよ。
まさか奴も自分が見捨てられる側に立つなんて思っちゃいなかっただろうに」
…こいつぁーメチャ許せんよなあー!
「おいッ、電気!お前幾ら何でもひどすぎだぞ!!」
ギコ兄はそんなオレを見て疲れたような顔をしながら言った。
「…お前はもう少し冷静になれないのか?」
「…ハアッ!?」
「奴らとて馬鹿じゃないんだ、そういう『粛清』も時として必要になるものなのだろう」
「でもッ、だからってあいつのやった事は…」
「まあ待て、私が言ったのは一般論だ。大きい組織を維持する為には時には無実の人間を始末する必要も出てくる。
…但し、こんな自分勝手な人間の我儘に付き合うような男にそんな事をする権利があるとは私は思わん」
何だ、ギコ兄も冷静な風で結構分かってるじゃん。
「だから既に鉄筋を寄せ集めて槍に作り変えた。喰らえッ!」
ギコ兄は背後に回りこませたスタンドに鉄槍を投げさせた。
だが、相手はそんな攻撃にはお構いなしであった。
「…そろそろ時間だ。いい加減スタンドを遠征させたままではあの方の電気マッサージの時間に間に合わなくなる。
今日はこの辺で帰ることにしよう」
電気の男はそう言い残すと、辺りは雷の落ちたような光に包まれた。
…見ると、もうあいつの姿は無かった。
「畜生、逃げやがったか!」
「この周辺には異常なイオンの流れは見つからない…、どうやら本当に逃げたらしい」
悔しいが、今日の所は勝負はお預けのようだ。

543N2:2003/12/31(水) 20:51



「…でも不安ですよ、あなたが帰っちゃうなんて」
アナウンスが聞こえてくる。モナ太郎さんが乗る飛行機の搭乗の時間が近いらしい。
「本当は私もまだここにいたいのだがな、私も財団の関係者である以上どうしても世界各地を回らなくてはならないのだ」
モナ太郎さんがいなくなってしまって、果たしてオレ達は大丈夫なんだろうか?
「心配すんな相棒!この人がいなくたって俺がいるじゃねえか、ゴルァ!」
「そうだ、君には心強い仲間がいるじゃないか」
…そうだ、そうだよな。
オレにはギコというこの世で最高の相棒がいるじゃないか。
こいつさえいてくれれば、どんな奴が出てきたって大丈夫…のような気がする。
「それじゃあ、元気でな。私も暇を見つけ次第なるべくこの町に来るよう心掛ける」
そう言ってモナ太郎さんは去って行った。

「よーし、ギコ!絶対にあいつらをブッ倒すぞ!!2人で頑張ろう!!」
そう意気込むオレを、ギコは不安そうな顔で見てくる。
「何だよ、いきなり怖気付いて!さっき大丈夫って言ったのはお前の方だろ?」
「…いや…さ…、何だか俺の後ろから鋭い視線が…」
後ろ…?
ギコの後ろにあるものと言ったら電柱くらいしかない。
とその陰に何かが見える。
…あ。
「…ギコ屋よ、貴様のせいで弟は危険に晒されているのだぞ…」
うわあ。黒いオーラと共に発せられる言葉には凄みがあるッ!
「だがな、弟が貴様如きにわざわざ力を貸すと言っているのだ、私もこの戦いに協力しよう…。
但しッ!それはあくまで弟に対してだ、お前にではないッ!!」
オレもそこまで邪険に扱われるとは…。
「…私はいつも最寄の電柱の陰から『お前』を暖かく見守っているぞ。
…それとギコ屋。…二度と私のことを忘れるな」
無視されたことを相当根に持っているらしい。何て陰湿な性格なんだ。
「ああ、だから友達がいないからいつまで経っても弟離れ出来ずに…」
ふと気が付くと、さっきまで近くに停めてあった自動車5,6台が無くなっていた。

「ロードローラーだッ!!
ウリイイイイヤアアアッーぶっつぶれよォォッ」
だが着地した時にはもうオレとギコは遠くを歩いていた。
「なあギコ、今日は大分遅くなっちゃったけど晩ご飯は何にする?」
「そうだな、じゃあ奮発して外食にするかゴルァ」
「よーしパパ奮発しちゃうぞー」

「弟にまでスルーされた…」
ギコ兄には夜風がより一層冷たく感じられた。

544N2:2003/12/31(水) 20:51



この町で起こるあの男の野望をめぐる戦い。
オレ達はこの戦いが奴の凶行を食い止める為のものでしかないと思っていた。
しかしそれがこの町のものだけではない、
この時はまだ存在も知らなかった町「茂名王町」で起こっている争いにまで関わっているなど、
オレ達は、いやあの男でさえも知る由は無かった。
夜空に輝く月は不気味に紅く染まっていた。
まるでこれから起こる血で血を洗うような戦いを予言するかのように。

この町に渦巻いているのは、あの男の陰謀だけではなかった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

545N2:2003/12/31(水) 20:52

                  ∩_∩
                 G|___|
                  ( ・∀・)∩
                 ⊂     ノ
                  ) _ (
                 (_) (_)

NAME 逝きのいいギコ屋(通称ギコ屋)

各地でギコを売り歩く露天商(ほとんど赤字)。
基本的に能天気な性格だが、時として深刻に物事を捉えることもある。
情に厚く、サービス精神も旺盛。
だが時にはずる賢さが働くことも…。

たまたまやって来た町で「もう1人の『矢の男』」によって刺され、
以前から才能はあったスタンド能力が開花した。
どんなに滞在期間の短い町でも恩を忘れない精神から、
「もう1人の『矢の男』」討伐に燃える。

546N2:2003/12/31(水) 20:53

                ∧ ∧  |1匹300円|
          ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
            | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||
            |____|     ||

NAME 相棒ギコ

ギコ屋に売られているギコ(見本)。
客相手にいつも商品の逝きの良さをアピールしている。
かつて一度本当に売られたことがあったが、
その売り主思いの性格に客は心打たれて返品し、以来生活を共にしている。

「もう1人の『矢の男』」によってスタンドが発現、洗脳された。
その時生来才能のあった波紋の呼吸法をマスターし、スタンドのエネルギーに活用している。
洗脳時に多くのAAを虐殺したことを心に病み、彼もまた「もう1人の『矢の男』」を討ち取ろうと意気込む。

ちなみに、一部設定では「彼と亡き妻の間には子供がいる」となっているが、
ここでは黙殺&無視している。

547N2:2003/12/31(水) 20:53

               |;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |:;;:|Д゚;)< 弟が人物紹介されてる…
               |::;;|::U .:::...\________
               |::;:|;;;|:::.::::::.:...
               |:;::|::U.:::::.::::::::::...

NAME 相棒ギコ兄貴(通称ギコ兄)

相棒ギコの兄。
ギコ屋に売られる弟をいつも暖かく電柱の陰から見守っている。
いつか弟を奪還せんと考えており、一度だけ行動に移したことがあったが
その時はギコ屋に自分が何者であるかも知られることなく撃退された。

この「番外・逝きのいいギコ屋編」では遂にギコ屋と対面するが、どうやら彼とは反りが合わない模様。
彼のスタンド「カタパルト」は使い方次第でどんな悪事でも働けるが、
彼も真面目な性格であることからそういう事は考えていないらしい。
弟がギコ屋に協力することから、彼も仕方なく力を貸すことに。

548N2:2003/12/31(水) 20:53

             /;二ヽ
              {::/;;;;;;;}:}
             /::::::ソ::::)
             |:::::ノ^ヽ::ヽ
             ノ;;;/UU;;);;;;;ゝ


NAME もう1人の『矢の男』

ある町で『矢』を使いスタンド使いを増やしている吸血鬼。
その目的は謎に包まれているが、それは彼が「最強」となることと
何かしらの関係があるらしいが…。
また彼は『矢の男』、ひろゆき、モナ太郎の存在を知っており、
彼らに対して異常な嫉妬心を抱いているようだ。

ちなみに、彼の羽織っているマントは、姿を見られないためだけでなく
日光や波紋を遮断する効果を持つ特注品である。



※★AA作成依頼専用スレッド IN モナー板〜21★
195さんにイメージ図を作成して頂きました。
また採用は致しませんでしたが194 ◆ZRX/2gAGZg さんにも作成して頂きました。
御両名に、この場を借りてお礼申し上げます。

549N2:2003/12/31(水) 20:54

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃            スタンド名:クリアランス・セール          ...┃
┃             本体名:逝きのいいギコ              ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃ 精密動作性 -C   . ┃   成長性 -A  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃殴った物質を分解するスタンド。                       ┃
┃分解といってもその形式は様々で、ガラスが割れるようにも、   ....┃
┃砂がこぼれ落ちるようにも出来る。                    .┃
┃ただし、分解出来る時間は現状ではせいぜい十数秒が限界。    ..┃
┃(今後延びる可能性あり)                          ..┃
┃またスタンドなど幽体には効き目が無い。                .┃
┃また本人の感情が余りにも高まっていたりすると、          ..┃
┃果たしていつ分解が解除されるのかは不明である。         ....┃
┃ちなみに、分解の最高レベルは原子単位までである。        ...┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

550N2:2003/12/31(水) 20:54

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名:バーニング・レイン             .┃
┃               本体名:相棒ギコ                ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃ 精密動作性 -A   ...┃   成長性 -A  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃身体のエネルギーを使い、あらゆる力に変えるスタンド。       .┃
┃基本的にはカロリーを消費して力を生み出すのだが、       .....┃
┃本体は波紋の呼吸法をマスターしており、その分のエネルギーは ..┃
┃それによって賄われている。                       ..┃
┃また力を固形化することも可能で、例えば力を銃弾にして発射し、 . ┃
┃打ち抜いた敵にその効果を与えることも出来る。          .....┃
┃扱える力の種類は多様で、火力(応用で吸熱力)・電力・風力・  .....┃
┃その他原子力なども可能。                         ┃
┃ただし、暴走時代よりも力の生産量は低下し、            ...┃
┃放射能などの強烈な放射方法も使えなくなった。           ..┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

551N2:2003/12/31(水) 20:55

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃              スタンド名:カタパルト             ...┃
┃              本体名:相棒ギコ兄貴             .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -C  ....┃   スピード -B  ....┃  射程距離 -C  ....┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B   . ..┃ 精密動作性 -A.  . .┃   成長性 -C   ..┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃物質を複製するスタンド。                           ┃
┃作るためには材料と構成のデータが必要であり、          ....┃
┃材料は分子構成が同じ、または似ている必要がある。       ....┃
┃またデータはスタンドがそのコピー元に触れて分析しなければ   ..┃
┃ならないが、一度分析したログは全てスタンドが覚えており、    ..┃
┃必要な時にいつでも使うことが出来る。                  .┃
┃複製の際に使用するデータは、細かい分子組成などは勿論の事、...┃
┃場合によっては分子の振動量(つまり温度)まで必要になる。   ....┃
┃また臓器なども作り出すことは可能であり、材料さえあれば      ...┃
┃人体を丸々製造することも出来るし、細胞も生きてはいるのだが  .┃
┃そこには意思が無く、結局は『死んだ』人間と同じである。      .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

スタンドのアイデアスレ327さんに感謝。

552N2:2003/12/31(水) 20:55

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃            スタンド名:アナザー・ワールド          ..┃
┃             本体名:もう1人の『矢の男』           .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃  精密動作性 -A  .┃  成長性 -なし    .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃時間を数秒間逆行させる能力を持つ。                  ┃
┃逆行中は彼のみがその流れに関わらず動け、その他のものは  ...┃
┃それまでと全く逆の行動を辿る。                      .┃
┃また彼自身のねじ曲げた運命は再び時が正常に流れた時に    ..┃
┃そのまま逆再生する(つまり、彼自身が攻撃しても再び時が再生  ..┃
┃した時には全く逆の動きで傷が治ってしまう)ので意味が無いが、 ..┃
┃そのねじ曲げた運命が他の物質に及ぼした物理的影響は      ┃
┃逆行中はすり抜けるが正常再生した時には効果がある         ┃
┃(つまり逆行中に銃で相手を撃てばその間はすり抜けるが、     .┃
┃再び再生した時には後ろから銃弾が当たる)。             .┃
┃ただし、余談であるが本体はこの能力には全く納得しておらず、 .....┃
┃その事がこのスタンド自体の成長の可能性を奪っている。     ...┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

553N2:2003/12/31(水) 20:56
    ∩_∩
 G|___|  ネタ被り防止のために
  ( ・∀・)

  ∧ ∧
  ( ゚Д゚)    一応今後予定のタイトルを張っとくぞゴルァ!

  |;;::|∧::::...
  |:;;:|Д゚;):::::.. それでは皆様、良いお年を…


  現在予定のタイトル(一部激しく課題)

  「ラーメン屋に食いに行こう」 「デムパ(・∀・)ハイッテル」 「バンガイ・シャイタマ」

554N2:2003/12/31(水) 20:57
以上です。長々と失礼しました。

555新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 20:58
乙ッ!!

556新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 21:18
お疲れです。「デムパ(・∀・)ハイッテル」吹いた。

557新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 23:52
今年最後の作品乙です

558:2004/01/01(木) 00:02
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・正月は静かに過ごしたい
       
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 俺は、窓を開けて朝日を眺めた。
 冷たい風が身を切る。
 それも悪くは無い。
 年号が変わってから、もう7時間ほど経過している。
 去年も何とか無事に過ごすことができた。
 もう、命があるのが不思議なくらいに。
 いい加減、『モナーの愉快な冒険』というタイトルは何とかしたいところだ。
 これっぽっちも愉快じゃない。JAROに訴えてやろうか…

 さて、今年の正月は例年とは違う。
 去年のように、家でゴロゴロするなんて勿体無い事はしない。
 振袖を着たリナーを連れて初詣に行って、ずっと一緒にいれるようにお願いして、
 帰りに手を繋いで甘いナイストークを交わし、家に帰って2人寄り添って、静かかつハァハァな正月を過ごす…
 そう思ってたのに…

「おい、窓閉めろゴルァ! 寒くてしょうがねぇ!」
「物思いに耽るモナー君も素敵だよ、ハァハァ…」
「センチメンタル タヌキ…! アヒャ!」

「なんで正月早々からお前等がいるモナァッ!!」
 俺は振り返って大声を上げた。
 大勢の知り合い共が、コタツを囲んでおせち料理をつついている。
 確かにクリスマスの時は、来年もこうして馬鹿騒ぎできれば…、みたいな事を思った。
 だが、正月くらい静かに過ごしたい。
 それ以前に、人の家のおせち料理を食うな。
 俺の分がなくなるじゃないか!!

「ちょっと兄さん… お正月くらいみんなで騒いでもいいんじゃない?」
「あの… 私、邪魔だったですか…?」
 ガナーと、その親友のしぃ妹が同時に口を開く。
「まあ、君らは別にいいモナ… でも、ギコ! しぃ!」
 俺は、コタツに入って寄り添っている2人を睨んだ。
「な、なんだゴルァ!!」
「お前等は、どっか別の場所でイチャついてろやモ゙ナァ!!」
「だって、みんなで集まった方が楽しいじゃない…」
 しぃが口を挟む。
「だからって、何でモナの家に集まってくるモナ!!」
 そして、微妙に三竦みに入っているモララー、レモナ、つーに視線を移した。
 そのバックでは、龍と虎が睨み合っている。
「新年早々、喧嘩するなら外でやれモナ! この三馬鹿がァッ!!」
「やーねー。ここはモナーくんの家なんだから、あのときのホテルみたいに炎上させたりしないわよ…」
「ソウダゼ! ショウガツ クライ、オオメニ ミロヨ!」
 口答えするレモナとつー。
「大体、オマエラは今、大変な事になってるはずモナ!! こんなとこにまでしゃしゃり出てくるなモナ!」
「まあ、そういうメタな話は置いといて…」
 レモナはまあまあ、といった風に俺をなだめた。
 俺はさらに視線を移動させる。
 お雑煮をむさぼり喰らっている三角頭が目に入った。
「おにぎりィィ!! 出番ないクセにこんな時だけ出て来るなモナ!!」
「それは違うぜ。出番がないからこそ、こういう時はすかさず出てくるんだ」
 おにぎりはキラリと歯を光らせる。
 確かに、それももっともだ。
「…でも、この場に居辛くないモナ?」
 俺はこっそり訊ねた。
 涙をこらえながら頷くおにぎり。
「みんな、知らないうちに遠い世界に行っちゃって… 俺だけヤムチャで…」
 これ以上責めるのもどうかと思ったので、彼に関してはそっとしておいてやろう。

559:2004/01/01(木) 00:03

「…私はいいのか?」
 黒豆の数を数えていたリナーが口を開いた。
「リナーは全然構わないモナよ」
「ちょっと〜! 露骨に態度違うじゃない…」
 抗議するレモナ。
「差別だ! モナー君、これは差別だ!」
 モララーまでが騒ぎ立てる。
 無視だ、無視。

 突っ込むべきヤツは、まだいる。
 さっきからカズノコばっかり食べている男だ…!
「キバヤシィ! 何でここにいるモナ!」
 キバヤシは顔を上げる。
「今年、人類が滅びるかもしれないんだよ!」
「だからどうしたァ!! 電波野郎ォォォッ!!」
 もう我慢の限界だ。
 何で、正月早々から俺ばかりこんな目に合う…!?

「やっぱり、お正月は賑やかなのがいいですね」
 特大ハンマーを抱えた女性が、おせち料理をつつきながら口を開いた。
「しぃ助教授まで何しに来てるんですかァ!!」
「いや…本部にいると、周囲がスタンド使いだらけで落ち着かないんですよ」
 涼しげに答えるしぃ助教授。
 ここも、そんなに変わらないと思うが…

「暇そうで羨ましいな、ASAは…」
 リナーは、しぃ助教授を鋭く睨んだ。
「人の家に居候している貴方にとやかく言われる筋合いはありませんよ、『異端者』…!」
 しぃ助教授はリナーを睨み返す。
 リナーは軽く笑った。
「お前もこの場に居辛くないか? 全く、いい年をして…」
 しぃ助教授のこめかみに、肉眼でも見えるくらいのブチギレマークが浮かぶ。

「貴方を有害なスタンド使いだと認定しました。その存在を抹消します…!!」
 しぃ助教授はハンマーを構えて立ち上がる。
「そこまで望むなら、お前も塵に還してやろう…!」
 リナーもバヨネットを抜いた。

「みんな、2人を止めるモナァーッ!」
 このままでは俺の家が潰れてしまう。
「まあまあ、ここは落ち着いて…」
「正月なんだから、平和的に…」
 俺達は、2人を何とかなだめた。
「まったく… なんでみんな仲良く出来ないのかしら…」
 レモナがナメた口を叩く。
「お前が言うなっ…! お前がっ…!」
 もう、なんか涙が出てきた。
 早くこいつらを追い返さないと、あのホテルの二の舞だ。

「そうだ! みんなでゲームとかしない!?」
 ガナーがロクでもない提案をした。
「萌えない妹ごときが、馬鹿な事言うな――ッ!!」
 馬鹿な妹を怒鳴りつける俺。
 すかさずガナーは、俺の顔面にアイアンクローをかました。
 頭蓋骨がミシミシとイヤな音を立てる。
「ホンマすいません。兄さん調子に乗り過ぎました…」
 素直に陳謝する妹思いな俺。
 妹が手を離すと、俺の体は床に崩れ落ちた。

560:2004/01/01(木) 00:04

「麻雀なんてどうだ?」
 おにぎりは言った。
「でも人数的に辛いんじゃない? それに、正月早々に麻雀っていうのも…」
 レモナは手をヒラヒラと振る。
「モナー ギャクタイ ゲーム ハドウダ?」
「大却下モナ。そもそも、そんなゲーム作らないで欲しいモナ…」
「お医者さんゴッコはどうだい!?」
 モララーが頬を赤く染めながら言った。
 レモナが大きく反応する。
「キャッ! じゃあ、モナーくんがお医者さんで私が患者ね! …私が医者でもいいかな?」
「…却下」
 俺はチラリとリナーの方を見た。
「みんなでノストラダムスの預言書を解読してみるというのはどうだ、モナヤ?」
「なんで正月早々にそんな事しなきゃいけないモナ…」
 ギコはポンと手を打った。
「正月らしく、羽根突きはどうだゴルァ?」
「お前、ムチャクチャ強そうだからなぁ…」
 イマイチ気乗りしない。
「じゃあ、カルタ取りなんてどう?」
 しぃ妹は言った。
「でも、この多人数でカルタはちょっと…」
 もっともな事を言うしぃ。
 確かに、この人数では混乱するだけだろう。

「では、『オメガカルタ』はいかがですか?」
 しぃ助教授が口を開く。
 なんだ、その胡散臭い名前は。
 ヤバそうな匂いがプンプンするんだが…

 しぃ助教授は指をパチンと鳴らした。
 空中から突然、丸耳が現れる。
「説明させていただきます。『オメガカルタ』とは、かってアステカ族に伝わっていたと言われている
 多人数での決闘方法です。まあ一言で言えば、一対一で行うトーナメント形式の百人一首カルタ取りなんですが…
 ややこしいルールは一切無しで、とにかく読み上げられた札を早く取った者の勝ちです」
「単純に、取った枚数が多い方が勝ち、って訳だな…!」
 ギコは言った。
「Exactry(そのとおりでございます)。なお、フライング・お手つき一回につき、ペナルティとして指一本が
 折られます。また、札を破壊する行為、及び審判への攻撃もペナルティですのでご注意を。
                               オ サ
 そして、そのトーナメントを優勝した者は一日族長となり、敗北者達は何でも言う事を聞かなければなりません」

 俺は生唾を呑んだ。何て恐ろしいルールだ…
「グッド。なかなかおもしろいゲームだ」
 おにぎりは言った。こいつ、意味が分かってんのか?
 頭の中でルールを反芻する俺。
 もし俺が勝ったら、リナーが俺の命令を何でも聞く…?
 走馬灯のように、妄想が頭の中を駆け巡った。
 ――お医者さんごっこしたり。
 ――「パンティーあげちゃうッ!」って言わせたり。
 ―― ○×△□。
「ウエヘヘヘ…」
 思わず笑いが漏れる。

「これで優勝すれば、モナー君を好きなように…」
「アヒャヒャヒャ…」
「ノストラダムス…!」
 他者も同様に、やる気マンマンのようだ。

561:2004/01/01(木) 00:04

「下らん。私はやらんぞ…」
 リナーは吐き捨てた。
 そんな…
 それでは、モナの野望は…!

「負けるのが怖いんですね?」
 しぃ助教授はニヤニヤしながら言った。
 その姿を睨みつけるリナー。
「…前言撤回だ。その薄ら笑いを消してやる」
「やってみなさい、できるものならね…」
 睨み合う2人。周囲の空気が変わる。
 もう、この2人イヤだ…

 丸耳がいいタイミングで口を挟んだ。
「まあ血の雨を降らせるのはカルタが始まってからにして、トーナメント表を作りましょう。
 札の読み上げと審判は、この私がやらせて頂きます」

 俺達は丸耳の差し出したクジを次々に引いた。
 そして、トーナメント表ができあがる。


                    ┏━ ギコ
                ┏━┫
                ┃  ┗━ モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃  ┏━ キバヤシ
            ┃  ┗━┫
        ┏━┫      ┗━ しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃      ┏━ ガナー
        ┃  ┗━━━┫
        ┃          ┗━ しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃          ┏━ リナー
        ┃  ┏━━━┫
        ┃  ┃      ┗━ おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


 俺の最初の相手は、しぃの妹か。
 それは楽勝だとして… 次の相手が、どちらに転んでもとんでもない。
 そもそも、つーとレモナがいきなり激突しているのはマズいだろう。
 それを何とか勝ち抜いたとしても、その次にはリナーが…

 なかなか、厳しい組み合わせだ。
 だが、リナーとハァハァするためには、どんな困難も乗り越えてみせる!!

 俺達は、テーブルを脇によけてカルタを並べた。
 最初の試合は、ギコVSモララーだ。
 向かい合って座る二人。

「…行くぜ!」
 モララーを真っ直ぐに見据えて、『レイラ』を発動させるギコ。
「悪いけど、僕は負けないんだからな…!」
 同じく、モララーの身体から『アナザー・ワールド・エキストラ』が浮かび上がる。
 手元でのスピードならば、完全にギコの『レイラ』が上。
 しかし、『アナザー・ワールド・エキストラ』には『次元の亀裂』をはじめ、多彩な応用が可能だ。
 この勝負、先が読めない。

「それでは参ります…」
 丸耳が、伏せていた読み札を手に取る。

 ――戦いの火蓋が今、気って落とされた…!!


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

562新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 00:32
乙っっ!!
新年早々ワロタ

563N2:2004/01/01(木) 02:42
新年初作品乙です!!
今このスレに「朝まで生テレビ」以上の熱さを感じるッ!!

564新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 11:59
明けまして乙!絶対死者出るよこのゲームw

565新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 16:49
新年の作品乙です
キバヤシまで居るとは思わなかった…

566新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:48
              ∧_∧
              (   ゚) 
             /´    `ヽ
            / /l    l\\
            / / |    |  \\
_______(_/ ヽ___○__ヽ_ ヽ__)_________
/  /  /   /  /  /  /  /  /  /  /\
  /  /   /   /  /  /  /  /  /  / ## \
../  /   /  /  /  /  /  /  /  /   ##  \
   /   /  /  /  /  /  /  /  /         \

「もう2004年か〜。」
とりあえず明けましておめでとうございます。

567新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:49
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その②



「いませんね〜。」
「ああ、全然見つからないな〜。」

今俺は先生のスタンド『ワールド・イン・マイ・アイズ』で級長に付きまとうストーカー野郎を探しているのだが、
捜索を始めて数十分。
これがいっこうに見つからない。

「あ〜あ〜何やってんだあいつ。水道の蛇口外しやがって。ずぶ濡れになってるぞ。」
鏡には水道で水を飲もうとして蛇口を外してしまい、慌てふためいている
男子生徒が映っている。
「あ、大丈夫みたい何とか元に戻せたみたい。」
「やれやれ、あいつ大目玉くらうぞ〜。」
まあ、犯人が見つからない原因の半分、いやそれ以上が俺と先生に有る訳で、
捜索をよそに生徒達のプライベートの覗き見に浸っている。
これじゃあまるで田代ではないか・・・。

しばらくして、俺は変な歌が流れているのに気が付いた。
「・・・・なんか珍妙な歌が聞こえてきません?」
先生に尋ねてみる。
「ちょっと待ってろ。集音モードに切り替えてみる。」
そう言うと先生が鏡につけたダイアルを操作した。
すると・・・・。

『あつくなぁ〜った〜♪ ぎぃ〜んのmetalic hearts〜♪
 どぉかせぇ〜んに〜♪火をつぅけぇ〜て〜ageる〜♪ 』

聞こえる聞こえる。さきほどの歌がはっきりと。
「・・・何だこの米軍の怪音波兵器を思わせるダミ声は・・・。」
「何処かで聞いたことある声だな・・・。歌の発信源は屋上からだぞ。」
スタンドを屋上へと移動させてみた。
そこに映っていたのは・・・。
「!!!テツそっくりの生活指導の先公!何やってんだこんなとこで・・。」
見ると水飲み場で自分の体を洗っていた。
「そういやあいつ自分の家の風呂壊れたって言っていたな。自分家の近くに銭湯が無いとはいえ
 まさかここを風呂場代わりにしていたとは。寒くないのか?まだ5月も終わってないというのになあ。」
「・・・・毎朝見ていて想像してたけどやっぱり毛深いっすねー。」
そのうちに干してあったズボンのポケットから何かを取り出すのが見えた。

シュッシュッ

「あ〜〜〜!あいつビンテージ物の香水なんか自分の体にふりかけてるぞ!」
「あ、あいつにそんな趣味があったとは・・・。あ、あ、あ〜〜〜股間にまで〜!」
そうやって先生と二人ではしゃいで居たら・・・。
バンッ!
机を思いっきり叩く音が聞こえた。
「いいかげんにしてよね二人とも!真面目に犯人探しするんじゃなかったの!?」
ヅーのお叱りを受けてしまった。
「「許してソーリー・・・。」」
思わず先生との台詞がハモッた。

568新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:50
んでもって真面目に捜査開始。未だに成果0。
「・・・やっぱりいねーなー。」
「級長の勘違いってことは?」
「ありえねーよ。実際に写真があったもの。」
「ならば内部の者の犯行の線は?」
「ありえないとも言い切れないね〜。」
「それじゃあ別の場所探してみるか。」
そういって先生がスタンドを移動させようとしたときだった。
「ちょっちょっと待って!今カメラに何か映った!」
ヅーが叫んだので慌てて鏡を見る。
そこには明らかに不審人物と思われる男が立っていた。
しかも、いきなり空中から現れたのだ。
瞬間移動とかそんな柔な物じゃなく、別の空間から出てきたように・・・。
「な、なんじゃこりゃああ〜!」
俺は思わず大声で叫んだ。
「静かにッ!コイツ何か独り言を言っているぞ。」
集音モードにして聞いてみることにした。

『・・・うひひ・・・今日もばれる事無く侵入できたぜぇ〜!この前いきなり『矢』みたいなものでぶっさされて
 死ぬかと思ったがこんな力が手に入るとはねぇ〜!おっと危ない危ない。俺の能力はただマントのように羽織って
 他の奴らから見えなくするだけでばれやすいからな。誰かに見つかったら元も子もない。さ、今日も僕だけのレモナちゃんを
 撮りますか。ハァハァ ア ボッキシテキチャッタ 。』

そう言い残すと男はまた消えた。
「・・・・なんてこった。」
先生が呟いた。
「どうりで見つからない訳だよ。アイツはスタンド使いで、自分の消える能力でこの校内に侵入していた
 んだ。こんな能力があったなんて知らなかったな。すげ〜な〜。」
なに覗き魔に感心しているんだこの先公は。
「とにかく奴が校内に入った今ッ!叩くのはそこしかない!」
そう言って俺が走り出した時だった。
「ちょっと待てよ。どうやって見つけ出すんだ?奴は消えているんだぞ。」
「あっ・・・・・・。」
肝心なことを考えてなかった。
どうすりゃいいんだよ〜
「ねえ、そいつだったら私の『能力』で見つけ出せるかもしれないのだ。」
おもむろにヅーが口を開いた。
「ほ、本当か!?」
「うん。ただし、この空間からまったく姿が消えていたら無理だけど。」
「よし、早く行くぞ!」
俺はヅーの手を引いて職員室を後にした。

「なあ、どうやって犯人見つけ出すんだ?」
「簡単なことなのだ。いくら姿が見えなくなっても人間の『呼吸』『心拍数』『体温』なんかは
 どうやっても隠しようが無いのだ。」
ヅーの体からスタンドが浮き出した。
青い迷彩柄のガンダムのMSみたいなスタンドだ。
スタンドの出現と同時にヅーの顔にスカウターのような物が出た。
「いくよ!『メタル・ドラゴン』!」

569新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:50
俺たちは下駄箱の近くに来た。
「時間から考えてこの付近に来ているはずだ。」
「とりあえず待ち伏せしてみるのだ。」
とにかくこの辺りに網を張る事にした。

しばらくして・・・。
「・・・・来た!」
ヅーが叫んだ。
「来たか!何処に居る!」
「佐藤君の斜め後方!今アヒャ君には目の前に5人しか居ないと思っているけど
 居るはずの無い6人目が見つかったのだ。」
ヅーが走り出したので俺も慌てて後を追う。
「位置は分かった!ならば狙うは顔面のッ正中線上ッ!」
『メタル・ドラゴン』の足が唸りをあげ、空を斬った。

メキャアアッツ!!!!
「ゴフアッ!」
――ジャストミート。
犯人の前歯が2〜3本吹き飛んだ。
と、同時に犯人自身も衝撃で壁に叩きつけられた。
「な、何でばれたんだ!?理解不能ッ!理解不能ッ!」
予想外の事態に奴はとまどっている。
「残念だったね。あいにく私も同じ能力が使えるんだ。さあ、レモナにしてきた事、
 全部償ってもらうのだ!」
「ひ、ひえええええぃ!!!」
男は慌てて逃げ出した。
「待ちな!逃がしはしないぜ!」
俺たちは後を追った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

570:2004/01/01(木) 23:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   番外・正月は静かに過ごしたい 前編」



 俺は、モララーとギコの間に所狭しと並べられた百人一首を見つめていた。

 百人一首とは、その名の通り百首の歌で構成されたカルタである。
 1235年に、藤原定家が親戚に送ったという百枚の色紙がその起源となっており、
 江戸から明治時代に、本格的に庶民の遊びとして普及し始めたようだ。

 百人一首は、一つの歌につき、読み札と取り札の二種類ずつが用意されている。
 そして読み札とは、名前の通り読み手が読み上げる札で、取り札とは競技者の前に並べられる札である。
 ここで問題になるのは、読み札と取り札で記してある歌の部分が異なるという事だ。
 例をあげてみよう。

『秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ』

 田んぼで農作業していて服が濡れて冷たかったとかいう内容の、どっかの農民が詠んだ歌である。
 『秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ』の部分が上の句、『わが衣手は 露にぬれつつ』の部分が下の句であり、
 読み札には上の句と下の句の両方が記してあるが、取り札には下の句しか記していない。
 つまり、上の句と下の句を両方暗記している者は、読み手が「秋の田の かりほの庵の…」と読んだ段階で、
 『わが衣では 露にぬれつつ』の部分が連想できるのである。
 一方、暗記していない者にとっては、下の句が読み上げられるまで、どの札を取っていいか分からない。
 これは大きなハンデである。
 つまり、歌を丸暗記している者には手が出ないという事だ。
 ちなみに、全てしぃ助教授の受け売りである。

 だが、それはあくまで一般人の話。
 俺には『アウト・オブ・エデン』がある…

「リナーは、百人一首暗記してるモナ?」
 ふと、俺はリナーに訊ねた。
「そんなもの、覚えてるわけがないだろう…」
 まあ当然か。
 もっとも、リナーの最初の相手はおにぎり。
 奴が百人一首なんて高尚な物を暗記しているとは思えない。
 純粋なスピード勝負ならば、リナーの楽勝だろう。


 第一回戦が始まろうとしていた。
 ギコは、軽く頭を下げる。
 丸耳は一枚の札を手に取ると、表側を自分の方に向けた。
 ギコとモララーの二人に、緊張が走る。

571:2004/01/01(木) 23:47

 丸耳は厳かに口を開いた。
「め――」

「ゴルァッ!!」
 
 バシィッ!!! という乾いた音とともに、ギコは右腕を一枚の札に叩きつける。
 場の全員、相対しているモララーも含めて、その一撃に呆然としていた。

「めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな――紫式部だゴルァ!」
 ギコは取った札を、自分の方向に引き寄せる。

「――ぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな…」
 丸耳は最後まで歌を読み上げた。

 何だ、今のは?
 最初の一文字を聞いただけで、札を取りやがった…!

「ムスメフサホセだよ…」
 ギコは呟く。
 娘房ホセ?

「イカサマだァッ!!」
 モララーが立ち上がって、ギコを指差す。
「審判! こいつ、イカサマをしてるッ!!」
「ほぉ… 俺が、どんなイカサマをしてるっていうんだ、ゴルァ!?」
「そっ、それは…」
 言葉に詰まるモララー。

「ギコは何をやったモナ?」
 俺は、一番知識がありそうなしぃ助教授に訊ねた。
「彼が口にしたムスメフサホセ… これは、決まり字が一字の歌の総称です」
 しぃ助教授は言った。
「どういう意味モナ?」
「百人一首で、『め』から始まる歌は一首しかありません。今彼が取った紫式部の歌です。
 同様に、『む』で始まる歌は、『むらさめの』で始まる寂蓮法師の歌しかありません。
 こんな風に、最初の一文字が一枚きりしかない歌は全部で七首あります。
 そして、その頭文字を取って『ムスメフサホセ』と呼ばれているのです」
 なるほど。
 さらにしぃ助教授は説明を続ける。
「そして決まり字というのは、どの歌か確定させる文字を言います。
 例えば、『い』で始まる歌は…
 『今こむといひしばかりに長月の有明の月をまち出つるかな』。
 『いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな』。
 『今はただおもひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな』の三首です。
 このうち、『いに』と読み上げられた段階で、『いにしえの…』の歌であることが確定します。
 同様に、『いまこ』の時点で『今こむと…』の歌、『いまは』の時点で『今はただ』の歌であると分かります。
 こんな風に、判別の確定条件にある文字を決まり字と言います」
「じゃあ、ギコはその決まり字を…」
「ほとんど暗記しているのでしょうね。こうなった以上、モララーに勝ち目はありません」
 しぃ助教授は断言した。
「私がストレートで優勝すると思っていましたが、なかなか手強そうですね…」
 何げにとんでもないことを呟くしぃ助教授。


 試合はそのまま続行された。
 丸耳は歌を読み上げる。
「かさ――」

「ゴルァッ!!」
 
 札に右手を叩きつけるギコ。
 当然ながら、モララーはピクリとも動けない。
「この…!」
 モララーはギコを睨みつける。

 ギコはそれを無視して、丸耳に訊ねた。
「審判、一つ質問だ。札を破壊する行為はペナルティと言ったが、激しい取り方をした為に札が破損した、
 っていう場合はどうなるんだ?」
「問題はありません」
 丸耳は答える。
「札を破壊する行為に対してのペナルティというのは、、残り札を全て抹消してゲームを有耶無耶にするのを禁じる
 ために作られたものです。自札になった以上は、その札に何をしても問題ありません」
「そうか…」
 ギコは再び姿勢を正すと、札の方に向き直った。

「たご――」

「ゴルァッ!!」
 
 一瞬で札を取るギコ。

「なにし――」

「ゴルァッ!!」
 
 モララーはピクリとも動けない。
 駄目だ、実力の差がはっきりしすぎている。
 茶道の師範に、表千家と裏千家の違いも分からない野球部員が挑戦するようなものだ。
 みじめすぎる…

572:2004/01/01(木) 23:47

「しの――」

「ゴルァッ!!」

 モララーは、視線を下げてうつむいている。
 戦意を喪失したようだ。

「これ――」

「ゴルァッ!!」

 ギコの所持手札50枚に対して、モララーは0枚。
 ギコがあと1枚取れば、自動的にギコの勝ちとなる。

 丸耳が、読み札に視線を落とした。
 モララーはうつむいたままだ。
 敗北を受け入れたのだろうか。
 しかし俺は、モララーの口端が僅かに歪んだのを見逃さなかった。

 歌を読み上げる丸耳。
「あはれ――」

 ギコの右肩が上がる。
 その視線は、1枚の札に集中していた。
 ギコの手が、瞬時に伸びる。

 その瞬間、モララーの身体が宙を舞った。
「強行手段だッ! 『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」

「…読めてんだよ。ゲス野郎のやる事くらいはな…!」
 ギコの手は、畳に伸びていた。
「ゴルァ――ッ!!」
 ギコは畳のへりに手をやると、思いっきり引っくり返した。

 あれは… 畳返し!!

「なッ…」
 モララーの体に畳がブチ当たる。
 その上に並んでいた札が、花びらのように宙を舞った。
「こんなもの…」
 畳を弾こうとするモララー。
 その刹那、ギコのスタンド『レイラ』の刀が、畳ごとモララーの体を貫いていた。
 それだけではない。
 空中に舞った一枚の札を、同時に刺し貫いている。
『あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな』
 丸耳が読み上げた札だ。

 丸耳は声高らかに宣言した。
「ギコ選手、51枚取得!! 彼の勝利です!!」

 ズッ…! とモララーの体から刀を引き抜く『レイラ』。
「安心しな、急所は外してある…」

 当たり前だ。俺の家で正月早々に人傷沙汰とか勘弁して欲しい。
 ともかく、ギコは準々決勝に歩を進めた。


                    ┏━○ギコ
                ┏━┛
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃  ┏━ キバヤシ
            ┃  ┗━┫
        ┏━┫      ┗━ しぃ


 第二回戦は、キバヤシVSしぃだ。

 畳を張りなおして、競技場(居間)は元通りになった。
 しぃとキバヤシは向かい合って座る。
「お、お願いします…」
 変人を相手に困惑気味にのしぃ。

573:2004/01/01(木) 23:48

 丸耳が、最初の歌を読み上げた。
「来ぬ人をまつほの浦の夕凪にやくや藻塩の身もこがれつつ…」
 必死で札を探し回るしぃ。
 キバヤシは、額に汗を浮かべて遠い目をしている。
「あっ… はい!」
 しぃは、札を取った。
 キバヤシは全くの無反応である。
 一体どうしたんだ…?

「――わかったぞ!」
 不意にキバヤシはアップになった。
「『来ぬ人』というのは、1999年に恐怖の大王が来なかったことを示しているんだよ!
 では、『来ぬ人をまつ』というのは、恐怖の大王を待っていた奴…
 ――レジデント・オブ・サン!!」
「な、何だってー!!」
「しかし、詩の後半がどうしても解読できない… 俺達は、何か重大な見落としをしているんじゃないだろうか…」

 アレな人には構わず、試合は進行していく。

「人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は…」
 丸耳が、札を読み上げた。

「はいっ!」
 札を取るしぃ。
 キバヤシは目の前の札には微塵の興味も示さない。

「そうか、そういう事か…!」
 キバヤシは顔を上げた。
「『世を思ふゆゑに物思ふ身は』という詩は、レジデント・オブ・サンの心情を表している。
 世界の事を考える故に…、そう。奴は、人類を統制する事が世界のためになると考えている…
 しかし、『物思う身は』の後が分からない… 詩がなぜ途中で切れているんだ…?
 後半を隠蔽した奴がいるという事か…!!」

 キバヤシが暴走している間にも、カルタ取りは進行している。
 しぃは、既に20枚近くの手札を所持していた。
「キバヤシ… そろそろカルタを取った方がいいモナよ…」
 俺はとりあえず忠告する。
「もう、どうでもいいんだ… そんな事は…」
 だめだ、こいつ完全にやる気が無い。

 そういう訳で、しぃが50枚先取のストレート勝ちとなった。

                    ┏━○ギコ
                ┏━┛
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┗━┓
        ┏━┫      ┗━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃      ┏━ ガナー
        ┃  ┗━━━┫
        ┃          ┗━ しぃ助教授

 そうすると、準々決勝ではギコVSしぃか…
 カップル同士の対決だろうが、ギコの圧勝で終わる事は予想できる。
 そして次の試合は、ガナーVSしぃ助教授だ。
 正直、これはヤバい。

 俺は、しぃ助教授に擦り寄った。
「あの… ウチの妹、一応一般人なんで、大きな怪我とかは勘弁してやってほしいモナ…」
「…私を何だと思ってるんです? 普通の人相手にそこまでやりゃしませんよ」
 しぃ助教授は憮然とした表情を浮かべた。
 いや、相手が普通の人だろうが、遠慮なくハンマーで叩き潰す人だと思っていた。
 俺は胸を撫で下ろす。
「それはよかったモナ。ただでさえ乱暴でオヨメの貰い手も少なそうなのに、キズモノにでもなったら…」
「ガツンとみかん!!」
 突如現れた妹の回し蹴りが、俺の後頭部を直撃する。
 気のせいか、前にもこんな事が(何度も)あったような気が…
 そして、俺は意識を失った。

574:2004/01/01(木) 23:49

「――はっ!」
 俺は目を覚ました。
 隣には、腹から血を流しているモララーが寝かされている。
 怪我人用の部屋か。
 というか、俺の家なんだけど…
 とりあえず身体を起こすと、試合場である居間に戻った。

 ちょうど、リナーとおにぎりの試合が始まるところだった。
 しぃ助教授とガナーの試合結果は!?
 俺は近くにいたギコに訊ねた。
「ん? しぃ助教授の圧勝だぞ」
 まあ、それは分かっている。
 一介の乱暴娘とASA三幹部の一人では比べるまでもないだろう。
 問題は、ガナーがどれほどの怪我を負ったかだ。
 キョロキョロする俺の目に、五体満足なガナーの姿が目に入る。
 勝負に負けた後のヤツは大概不機嫌なので、傍には寄らないでおくが…
 それにしても、無事でよかった。
 俺は、改めて胸を撫で下ろす。
 すると、トーナメントは…

                ┏━━━○ギコ
                ┃
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃          ┏━ リナー
        ┃  ┏━━━┫
        ┃  ┃      ┗━ おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ

 よく考えれば、次の試合も結構危ない。
 俺はおにぎりに擦り寄った。
「おい、棄権するモナ!」
「はぁ? 何言ってんだこの微笑みデブは…」
 俺を睨みつけるおにぎり。
 お前のために言ってるんだよ。
「いいから棄権した方がいいモナ。お前の身が危ないモナよ…!」
 おにぎりはニヤリと笑う。
「ハァ? あんなひ弱そうなネーチャンに、この俺がどうにかなるとでも?」
 いきなりおにぎりは立ち上がって、リナーを指差した。
「ヘイネーチャン! 俺が優勝した暁には、ハァハァな命令を与えてやるぜ!!」

 俺のリナーに何ぬかしやがるブッ殺すぞこの野郎!!
 と思ったが、俺の怒りは鋭い殺気の前に掻き消えた。

「――面白い事を言うな、お前…」

 突き刺されるような殺気。
 凍りつくような外気。
 リナーの方を直視できない。

 殺される殺される殺される殺される殺される。
 ――おにぎりは、リナーに、殺される。

 ギコは、殺気をモロに感じ取ったのか硬直していた。
 レモナやつー、しぃ助教授の動きも止まっている。
 ガナーやしぃ妹も、ただならぬ気配を感じたのか押し黙った。
 へらへらしているのは、おにぎりだけだ。

 止めなきゃヤバいんじゃ… 誰もがそう思っていただろう。
 だが、これは2人の戦いだ。俺達外野の出る幕は無い。

 丸耳が読み札を手に取る。
 全員が固唾を呑んで見守る中、第四試合が始まった!!

575:2004/01/01(木) 23:51



    /       ,,/
   /      r‐'"    /
  l゙      丿     ,ノ              … モナー …… モナー …
  ゙l     (     l゙  ,,-――‐- 、          こんなに突然、お別れすることになるとはね…
   `ヽ、   )     ,,-'"    `ヽ  `ヽ
     \  "   ,/       │   ヽ     君はやさしいからきっと僕のために泣くだろうけど
      ヽ !、 /          l     i      でも、悲しまないで……これはなるべくしてなったこと
      丿 ノ |      _   ヽ_    i'|       誰かが言った……我々はみな運命に選ばれた兵士……
     i´  (  ゙l        `   `' -ィ゙ |        自分の戦場から逃げだすことは許されないんだ……
     ヽ_  `i、,,,,゙l、       L    、 ,!
       `i,/  ゙''       | `''ッ‐ " /      いまこの街にある本当の危機と出逢ったとき……
          /            ''"`  _/        君のやさしさがみなの救いとなるよ………きっとだ…
       |                ー''" ヽ
        |     ヽ_            |  _,,,,,,,,_     この街で君たちと友達になれて本当に良かった……
         ヽ      ゙゙`''- 、  、    |`゙゙゛    ` ヽ    もう、行かなくちゃ…みんなによろしくね……
        |\         i  l    ,l        )
        ゙l  `''―--、 _,,ノ ,/   ,ノヽ、      /   ときどき思い出してワッショイしてくれるとうれしいな…
        ヽ 、   `"  /"  ,,/   ゙゙"'''''ー-、 (_
          ) |     ,r'ヽ   ,l゙ /゙!、       ヽ  ヽ   おにぎり ワショーイ・・・
         ( ゙i、    /  (`'''"  ゙ヘミヽ、      l゙   )          ワショーイ・・・
           ) ヽ  l   `ヽ、   ``"ヽ    ノ   ,ノ             ワショーイ・・・
          ノ   ゝ  ゙''ー-、  `ー-、   丿   (    i′

※上AAはイメージです。
 モラマタ氏、AAお借りしました。申し訳ありません。

576:2004/01/01(木) 23:51

        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


 次は、いよいよ俺の出番だ…!
 相手はしぃ妹。
 俺はしぃ妹と向き合って、座布団の上に座った。
「お願いします!」
 頭を下げるしぃ妹。俺もつられて頭を下げる。

 丸耳が、読み札の一枚を手に取った。
 『アウト・オブ・エデン』を発動させる俺。
 その札は、『ながからむ心もしらず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ』。
 えーと、みだれて… あっ、あった。

 丸耳が口を開く。
「な――」

「モナァッ!!」

 あらかじめ見つけていた札を取る俺。
 『視る』事が、『アウト・オブ・エデン』の能力。
 多少卑怯だが、勝つためには仕方が無い。

 次の札を手に取る丸耳。
 俺は札を視た。
 『音にきく高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ』…だな。
 かけじや…っと…。おっ、発見。

「お――」

「モナァッ!!」

 ギコのように、一文字でゲットする俺。
 いやぁ、スカッと爽やか!!

 げっ!
 ふと見ると、しぃ妹が泣きそうな顔になっている。
 確かに、あらかじめ読まれる札が判っているというのは、反則ギリギリかもしれない。
 最後にほんのチョッピリだけ勝つぐらいにするか。

「…」
 丸耳は、怪訝そうな顔でこちらを見ている。
 まるで、カンニングがバレたような気分になる俺。
 おもむろに丸耳は10枚ほど手札を取ると、扇状に広げた。
 これでは、どれが読み上げられるのか判らない!
 こうなったら、丸耳の視線と思考を視て…

「なげけとて月やは物を――」

 駄目だ、全然間に合わない!

「はいっ!」
 しかも、下の句を読み上げられないうちにしぃ妹が取ってしまった。
 ギコほどではないが、そこそこ暗記しているようだ。

「あらし吹く――」
 駄目だ、『アウト・オブ・エデン』の処理がまったく追いつかない。
 やはり、感受性の強い人間には『アウト・オブ・エデン』で視られている感じ、というのが分かるようだ。
 どうする? 純粋に百人一首での戦いになったら、全く暗記していない俺に勝ち目は無い。

「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の――」

「はいっ!」
 下の句を聞かないうちに取ってしまう、しぃ妹。
 こいつ、かなり強い…!

 どうする?
 このままでは、負ける。
 俺が負けてしまうと、リナーとハァハァできなくなってしまう…

『モナー… がんばれ…』

 今、リナーの声が聞こえた。
 俺は慌ててリナーの方を見る。
 みかんを食べててこっちの方なんぞ見ちゃいないが、間違いなく想いは届いた!!

577:2004/01/01(木) 23:52

「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の――」

「はいっ!」
 またしても札を取るしぃ妹。
 俺の2枚に対して、しぃ妹は20枚ほど。
 このまま、まともに戦ったところで負けは明白…!
 ならば、何を視る…?

「君がため春の野にいでて若菜つむ――」

「はいっ!」
 手札を増やすしぃ妹。
 視るものは唯一つ。
 しぃ妹の思考と視線だ…!

「世の中はつねにもがもな――」
 しぃ妹の視線が素早く移動する。
 狙っているのは、一番右端にある札だ…!

「はいっ!」
 無残にも、俺より先に容易く取ってしまうしぃ妹。
 他人の視線と思考を解析しつつ、当の本人よりも早く札を取るなんて無理だ。
 そういう技は、スピードがあってこそ可能なのを俺は実感した。

 考えろ、考えるんだ…
 どこかに勝つ手立てがあるはず…!
 そうだ! モララーのように、強行手段に出るというのはどうだ!?
 しぃ妹はしょせん一般人。
 それなりに戦ってきたこの俺の敵ではない。
 だが…
 ちらりとしぃの方を見る。
 姉の目の前で、妹を串刺しにするのもあんまりだ。
 そもそも人として、いや主人公として何か間違ってる気がする…



「もろともにあはれと思へ八重桜――」

「はいっ!」
 しぃ妹は、51枚目の札を取ってしまった。

 …俺は、早くも1試合目にして敗北してしまった。
 すまない、リナー…

 フスマが開いて、もう目を覚ましたらしいモララーが入ってきた。
 肩を落としている俺を見て、大声を上げる。
「あーっ! モナー君、負けちゃったのかい!?」
 俺は首を縦に振る。
 モララーは悲しげに視線を落とした。
「せっかく応援したのに… 僕の想い、届いたよね…?」
 あれ、お前か…
 俺は大きなタメ息をついた。
 もう、どうでもいい。
 夢破れて山河ありだ。俺もサンガとやらになろう…


        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


「モナーくん、モナーくん…」
「何モナ? モナは今からサンガになるから忙しいモナ…」
「今から私が試合するから、応援しててね!」
 …そうだ! 次はレモナVSつーだ!
 ヘコんではいられない。被害は最小限にとどめないと…

578:2004/01/01(木) 23:52

 座布団に座って、向かい合う2人。
 意外なことに、両者とも柔らかい笑顔を浮かべている。
 案外、平穏なカルタ取りになるか…!?

 固唾を呑んで見守る俺。
 ギコやしぃも不安そうだ。
 丸耳が、読み札を手に取る。

「夏の夜は――」

 2人は同時に動いた。
 つーの爪が、レモナの喉元に突きつけられれいる。
 だがレモナの左手に手首を掴まれていて、喉には届いていない。
 一方つーは、レモナによるボディへの打撃を左手で受け止めている。
 互いに右手に力を込めながら、左手で攻撃が届くのを防いでいた。
 その状態で、激しく睨みあう二人。
「あんまりナメた事しないでくれる? 私、いちおう兵器なんだからね…!」
「コッチ ノセリフダ。ブンカイ シテヤル… コノ ガラクタメ…!」
 いや、カルタ取りやれよ。

 2人は、互いの身体を弾き合って距離を取る。
 レモナは横に大きく飛び退くと、左腕から張り出した砲身を構えた。
 その際、テーブルがブチ割れてふすまが踏み壊された。
 それに並走して、何度も爪を振るうつー。
 レモナに撃つチャンスを与えない。
 畳や天井に爪痕がぁ…!
「この…!」
 レモナの右腕から、レーザーが噴き出した。
 それを剣のように扱って、つーの爪による攻撃を弾き返す。
「バルバルバルバルバルバルバルバル!!」
「こんのォ―――――ッ!!」
 激しく爪と剣を打ち合う2人。
 居間の壁をブチ壊して、2人の戦いは廊下にもつれ込む。

 レモナは、後ろに大きく飛び退いた。
 あの左腕から張り出した武器は、ある程度距離がないと使えないようだ。
 そして、つーはその特性を見抜いているのか距離を開けようとしない。
「えいっ!!」
 レモナは剣を大きく横に薙ぐ。
 つーは飛び上がると、天井を蹴ってレモナの眼前に着地した。
「バルッ!!」
 つーは左手でレモナの首を掴むと、思いっきり壁に押し付ける。
 貼ったばかりのカレンダーが、1月1日にして破れてしまった。

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル…!!」
 レモナを壁に押し付けたまま、つーは爪を何度も何度もレモナの腹に突き刺した。
 血を吐いて崩れ落ちるレモナ。
「トドメダッ!!」
 つーは、爪をレモナに振り下ろそうとする。
 地面に崩れてぐったりしているレモナは、左手をつーの腹に軽く当てた。
 左手の先端は、ガトリング・ガン状に変形している。
 独特の回転音と、飛び散る薬莢。
 つーは血を吐きながら吹き飛んで、階段に激突した。
 大きく凹む階段。手すりもヘシ折れた。
 ああ、モナの家が潰れていく…

579:2004/01/01(木) 23:53

「やってくれたわね… ホントに…」
 ユラリと立ち上がるレモナ。
「死体も拾い集められないくらい、綺麗に消してあげるんだからァッ!!」
 レモナの髪が舞い上がり、背中から何かが発射される。
 それは天井に大穴を開けて、大空高く舞い上がった。

「ヤバいぞっ! クラスター爆弾だっ!!」
 ギコの叫び声。
 親爆弾から200個以上の子爆弾が飛び出し、周囲に絨毯爆撃を食らわせるという迷惑な兵器だ。
「モララー! お願いモナッ!!」
 俺は叫んだ。
「ウホッ!! モナー君からのお願い… 『アナザー・ワールド・エキストラ』ッ!!」
 モララーの身体から、スタンドが浮かび上がる。
「『次元の亀裂』AND『対物エントロピー減少』!!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』は両手を交差させると、大きく真横に広げた。
 はるか真上で、大きな爆発音が響く。
「…これで大丈夫だよ。丸ごとブッ飛ばしてやった…!」

 ほんの真上で、何かが大爆発を起こした。
 グラグラと揺れる家。
 瓦が砕け散り、屋根の半分がぶっ飛んだ。
「ごめん… 一個残ってたみたいだ…」
 呆然とした顔で呟くモララー。
 多分俺は、もっと呆然とした顔をしているだろう。

「ザンネン ダッタナァ!ガラクタッ!!」
 その隙をついた、つーの奇襲。
 爆発に気を取られていたレモナに、避ける余裕はない。
 つーの爪は、レモナの左肩から入って右脇腹に抜けた。
 レモナの体は袈裟切りで真っ二つになり、上半身が地面に崩れ落ちる。
「アヒャヒャヒャヒャ… ヒャ!?」
 地面に転がったレモナの上半身は、右手を差し出していた。
 その右手の照準は、つーの方を向いている。
 まるでロケットパンチのように、その右手が発射された。
「グッ…」
 右手はつーの腹に命中した。
 手首から4本のアームが伸びて、つーの体を固定する。
 そして、つーの体ごと空中へ舞い上がった。まるで打ち上げ花火のように。
 屋根に大穴を開けて、はるか上空へとすっ飛んでいくレモナの右手とつー。

 上空で激しい大爆発が起きた。
 さっきのクラスター爆弾よりも高度は上なので、俺の家への被害はない。
「綺麗な花火モナ〜!」
 俺は嬌声を上げた。もうやけくそだ。

580:2004/01/01(木) 23:53

 ギコとしぃ助教授が、転がっているレモナに駆け寄った。
「オイ! 大丈夫か!?」
 レモナの上半身を揺り動かすギコ。
「動作不良60%ってとこね。システムもダウンしてないし、しばらくすれば自己補修するわ」
 レモナは、平気な顔で答える。
「じゃあ、しばらく放っておいても大丈夫ですね…」
 レモナの脇でしゃがみ込んで様子を見ていたしぃ助教授が、腰を上げた。
「やだわ〜 この程度のダメージじゃ、私は壊れないわよ…」
 アハハと笑うレモナ。
 壊れたのは俺の家だ。

 空から何かが降ってくる…!
 それは、高速で俺の眼前に落ちてきた。
「こっちも、派手にやったな…」
 ギコが呟く。
 落ちてきたのは、真っ黒に焼け焦げたつーだった。
「息は…あるようですね」
 しぃ助教授が、脈を取って言った。
 こっちも、つーの生命力ならばすぐに回復するレベルだ。

「この場合は、どうなるんだゴルァ?」
 ギコは、丸耳に訪ねた。
「この状況は、ダブルKOに該当します。公式ルールに則り、後ほどジャンケンで勝敗を決める事になります」
 丸耳は、瓦礫や屋根の破片を端にのけながら言った。
 カルタを続行できるほどには片付いたようだ。

「では、試合を再開しましょうか…」
 しぃ助教授は言った。
 次の試合は、準々決勝にあたるはず。


                ┏━━━○ギコ
                ┃
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗(ジャンケン)
                    ┗━ レモナ


 ギコVSしぃ、そして次の試合がしぃ妹VSジャンケンで勝った方だ。
 しぃは問題ないとして、しぃ妹は人外を相手にして大丈夫なんだろうか…

 ギコとしぃの戦いは、間違いなくギコが勝つだろう。
 しぃ妹も、人外相手に勝ち目はない。
 そうすると、準決勝がギコVSしぃ助教授、そしてリナーVS人外のどっちかか…
 リナーは百人一首を全く覚えていないらしいので、例え人外に勝ったとしても、
 決勝で苦戦を強いられるだろう。
 まあ、家がここまで破壊されてしまえばいっそ清々しい。
 もう好きなようにしてくれーって感じだ。

 さて、次の試合はギコVSしぃのカップル対決だ。
 俺は風通しのよくなった屋根を見上げて、再度涙を流した。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

581新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 09:31
お疲れ〜。
おにぎりついに死んだか・・・。

582新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 11:01
お疲れさまです。
モナーが一回戦で負けるとは思わなかった

583新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:20
貼ります。

584新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:20
     救い無き世界
     第4話・交錯


 マララーとの闘いが終わってからものの十分も経たないうちに、
 物々しい車が数台やって来た。
 マララーは、気絶している所を厳重に拘束された上に、
 妙な注射まで打たれて車の中へと担ぎ込まれていく。
「・・・・・・・・・」
 みぃが俺の腕に強くしがみ付いて来た。
 怖がっているのか、微かに震えている。
 無理も無い。
 俺達もあれと同じ目に会うかもしれないのだ。
 かといって逃げようにも、
 既にあたりには何人ものぃょぅの仲間らしき連中が辺りを見張っている。
 俺達はまな板の上の鯉のように、ただその場でじっとしている他なかった。

「心配しなくてもいぃょぅ。
 君達にあんな事は決してしなぃょぅ。」
 ぃょぅは俺達の不安を感じ取ったのか、
 穏やかな口調で話しかけてきた。
「申し遅れたょぅ。我々はSSS(STAND−SECURITY−SERVICE)。
まあスタンド使い専門の警察みたいなものだょぅ。
君達にはただ、少し聞きたいことがあるだけだょぅ。
 それさえ済んだら、すぐに帰してあげるょぅ。」
 そんなの怪しいもんだ。
 唯のチンピラをあそこまでするような連中前にして、
 誰がそうそう信用出来る。

「あの人は…どうなるんですか…?」
 みぃが口を開いた。
「…彼はスタンドを行使出来ないように、
 然るべき処置を行ったうえで、
 我々の監視下に置かれる事になるよう。
 それがいつまでかは、ぃょぅにも分からなぃょぅ。」
 そうかい。
 つまり場合によっては俺達もそうなるという事か。
「・・・・・・。」
 みぃが沈痛な面持ちを浮かべる。
 やっぱり、こいつは馬鹿だ。
 あいつは俺達を殺そうとしたんだぞ?
 何故そんな奴を心配するんだ。
 というより俺達もああなるかもしれないんだぞ。
 人の事より自分の心配をしてろってんだ。
「…ぃょぅもやり過ぎかもしれないと思うょぅ。
 けど、もしスタンドを悪用する奴を野放しにしていたら、
 多くの人が傷ついたり、死んだりする事になるょぅ。
 スタンドはそれほどまでに大きな力なんだょぅ。
 どうかそれだけは、分かって欲しぃょぅ。」
 ぃょぅの言葉に、みぃは黙って頷いた。

 俺は自分の腕を見つめる。
 この腕。
 人を傷つけ、殺める大きな力。
 成る程、ぃょぅの言う通りだ。
 こんな物騒な力、そこかしこで好き勝手に振るわれては、
 たまったもんじゃない。
「それじゃあそろそろ、君達に話を聞かせてもらうょぅ。」
 ぃょぅが、俺に紙とペンを渡した。

585新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:21


「……俄には信じ難い話だょぅ。」
 これまでの経緯を聞いて、
 ぃょぅは髭をさすりながら考え込んだ。
 そらそうだ。
 俺だって未だに本当かどうか信じられない。
「スタンド使いの猫又…
 自立意思を持つだけでなく、人に乗り移り使い手とするスタンド…
 スタンド使い以外にもスタンドが見える…」
 ぃょぅは何やらブツブツと言い始めた。
 何と言うか、すっかり別の世界に行ってしまっている。
「…生まれ着いての才能でも、『矢』によるものでもなく
 誕生したスタンド使い…これは、一体…」
「『矢』?
 何なのですか?それは。」
 みぃがぃょぅに尋ねた。
「…はっ!!!
 何でもない、こっちの話だょぅ。
 気にしないでくれょぅ。」
 どうやらぃょぅがこちらの世界に戻って来たようだ。
 というか、『矢』って何なんだ。
 まあ、聞いたところで教えてくれるとも思えないが。

「…それよりも、非常に言い難い事なんだけれど、
 君達を、すぐ帰す訳にはいかなくなったょぅ。
 済まないけど、これから我々と同行してもらうょぅ。」
 俺はとっさに身構えた。
 周りの男達も、それに気付いて一斉に警戒態勢を取る。
 やっぱり、そうきたか。
 さんざ旨い事言っておきながら、結局は俺達も連れ去る腹だったのだ。
「違うょぅ!!
 決して、君達に危害を加えるつもりで言ったんじゃ無いょぅ!!」
 信用できるか。
 このままむざむざと捕まりはしない。

 だけど、どうする?
 相手は俺が歯が立たなかったマララーを一蹴した奴だ。
 周りには仲間もたくさん居る。
 はっきり言って、勝ち目は無い。
 だけど、上手くいけばみぃだけなら何とか逃げ出せるかもしれない。
(馬鹿だな、俺は。)
 俺は自嘲した。
 みぃには自分の心配してろと思っていたくせに、
 俺もこんなときに人の心配か。
 まあ、いい。
 やれるだけやってや…

586新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:22

「やめなさい。」
 俺がスタンドを発動しようとしたその時、
 不意に女の声がした。
 俺はそいつの顔を見て、背筋を凍らせた。
 端整な顔立ちをしており、微笑を浮かべて俺を見ている。
 だけど、目が少しも笑っていない。
 俺は視線だけで殺されるような錯覚に陥った。
「来ていたのかょぅ。ふさしぃ。」
 ぃょぅが女の名を呼んだ。
 どうやら、知り合いらしい。
「まったく、あなたは…
 順序を考えず、いきなり本題だけズバッと言うから、
 揉め事になるんじゃない!
 少しは状況を考えなさいよ!
 こんな場面でいきなり逮捕するみたいな事言ったら、
 怖がられて当たり前でしょう!」
 ふさしぃと呼ばれた女は、溜息を吐きながら言った。
「ごめんょぅ…少し配慮が足りなかったょぅ。」
 ぃょぅはしゅんと縮こまった。

 ふさしぃはそれを確認すると、今度は俺の方に体を向けた。
「あなたも!少しは自分の体が今どういう状況にあるのか少しは自覚しなさい!
 いい?スタンドっていうのはね、銃や刀剣よりずっと危険な代物なのよ。
 あなたはそれを完全には制御出来ていない。
 いつ暴走するかも定かでない。
 これがいかに危険な事か分かってるの!?
 もしこのまま町に出て、スタンドで人を傷つけるような事にでもなったら、
 あなたはどう責任を取るつもり!?」
 ふさしぃに叱責され、俺はぐうの音も出なかった。
 俺は、俺が化物同然であることをすっかりと忘れていた。
 何時何処で誰を傷つけるのかも分からないのに、
 そのまま逃げるだと?
 何ておこがましい事を考えていたんだろうか。

 ふさしぃは、今度はみぃの方を向く。
「ごめんなさいね〜。怖かったでしょう?
 大丈夫、私達の仕事場に行って、
 簡単な研究の協力をしてもらうだけだから。
 もし変な事をする奴がいたら、
 私が即ミンチにするから、心配しないで。
 あ、そうだ!
 あなたさえ良かったら、用事が済んだ後に一緒に
 服でも買いに行きましょう!
 元が良いから、きっと何着ても似合うわよ。
 うーん、何を着せるか、今から迷うわね…」
 …差別だ、これは。

587新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:23

「…と、とにかく、我々は別に、君達を監禁したり、
 拷問したりするつもりは全く無ぃょぅ。
 ただ、でぃ君のスタンドを制御する手助けをしたり、
 猫又であるみぃ君のスタンドと我々一般人とのスタンドに
 何か違いは無いか調べたいだけだょぅ。
 君達の尊厳を踏みにじるような真似は、絶対にさせなぃょぅ。」
 ぃょぅが気を取り直して言った。
「いざとなったら、私が何とかしてあげるから、安心して。」
 ふさしぃの目に、先程俺に向けられた殺気はもう、無い。

 はっきりいって、まだ完全にこいつらの事を信用出来てはいない。
 だけど、ぃょぅの俺を見る目に、
 ふさしぃが俺を見るの目に、
 嫌な感じは全く無い。
「大丈夫…この人達、良い人です…。」
 みぃが、俺の手をそっと握る。
「…来て、くれるかょぅ。」
 俺は、小さく頷いた。


「SSSにようこそモナー。」
「貴方達がぃょぅとふさしぃの言っていたご客人ですか。」
 SSSの拠点の一つというビルに着いた俺達を、
 二人の男が出迎えた。
「紹介するょぅ。
 右が小耳モナーで、左がタカラギコ。
 ぃょぅの同僚だょぅ。」
 ぃょぅがそれぞれを紹介した。
「初めまして、歓迎しますよ。」
「自分の家と思って、くつろぐモナー。」
 二人が手を差し伸べてきた。
『でぃです。よろしくお願いします。』
 俺はメモ用紙にそう書いて、二人と握手を交わした。
「あ…あの、みぃと言います…。初めまして…」
 みぃも、たどたどしく自己紹介しながら握手する。
 何か、拍子抜けしてしまった。
 スタンド使い専門の警察というからにはどんな凄い所かと
 思っていたら、普通の会社といった感じだ。

「あら…ギコえもんは?」
 ふさしぃが尋ねるように言った。
 何だろう。他にも誰かいるのか?
「…彼は迎えには来ないそうだモナー…」
 ふいに小耳モナーの顔が暗くなる。
 他の人も全員何やら思う所でもあるのか、気まずい雰囲気が辺りに流れた。
「ま、まあ、取り敢えずお二人の部屋でも案内しましょうか。」
 タカラギコが場の空気を打ち消すように口を開いた。
「そ、そうね。
 まず今日の寝床を案内してあげなくちゃね。」
 ふさしぃも話題を変えるように喋りだした。
 俺は何が起こったのか分からなかったが、
 何やら面倒そうなので聞くのはやめておくことにした。

588新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:23


「ご苦労様。これで今日の検査は終わりだょぅ。」
 ぃょぅが俺にタオルを渡しながら言った。
 SSSに来てからはや三日。
 正直、ここで俺はどんなひどい目に会うのかと内心怯えていたが、
 実際は町に居るときよりも遥かに良いものだった。
 まあ体に変な機会をつけられた状態でスタンドを出さされたり、
 スタンドでいろんな物を殴らされたりと、
 変な検査に付き合わされはしているのだが、
 まともな食事と寝床にありつけるのはかなりありがたかった。

『色々な事をやらされたけど、
 何か分かった事はあったのですか?』
 俺はここの職員から渡されたホワイトボードにそう書いた。
「…申し訳ないけど、詳しい事はまだ分からなぃょぅ。
 だから、ぃょぅの憶測でしか話せないけど、
 それでもいいかょぅ。」
 俺は頷いた。
「分かったょぅ。
 まず君のスタンドは、今は安定状態にあると言えるょぅ。
 君から聞いた話だと、感情の昂ぶりによって
 スタンドが発動したという事だから、
 もしまた激昂するようなことがあれば、
 暴走する可能性はあるかもしれないけど、
 そうでない限りは、安全だと思うょぅ。」
 つまりは、あんまり怒ったりするなという事か。

「で、次に君のスタンドの能力だけど、
 現在の観測結果から判断すると、
 何の特殊能力も無い唯の近距離パワー型だと考えられるょぅ。
 ただ、まだ君が完全にスタンドから能力を引き出せていなくて、
 未知の能力が内に眠っている可能性も十分にあるょぅ。」
 俺はただ、うんうんと頷きながらぃょぅの話を聞く。

「最後に君のスタンドがスタンド使い以外にも見える事だけど…
 これは正直よく分からなぃょぅ。
 スタンドの中には、能力の性質上例外的に一般人にも見える
 というタイプのものが、幾つか確認されているょぅ。
 だけど、君の場合スタンドが一般人に見える必要性が無ぃょぅ。
 これは大きな謎だょぅ。
 そこでぃょぅは一つの仮説を立てたょぅ。」
 ぃょぅの話は止まらない。
 俺はぃょぅに質問した事を後悔し始めていた。
「それは君のスタンドは、君の体を媒介にして発動している
 というものだょぅ。
 つまりはスタンドを発動すると、君の体が
 半人間、半スタンドという非常に曖昧な存在になり、
 それ故スタンド使い以外にも見えるという事なんだょぅ。」

 俺は愕然とした。
 馬鹿な。
 それじゃあ、俺の体が半分乗っ取られているって事じゃないか。
 冗談じゃ無い。
「体を貰う」とはそういう事か?
 そんな事、あってたまるか…!

「もちろん、これはあくまで仮説に過ぎなぃょぅ。
 そもそも、この説だと何で直接実体化せず、
 体を媒介にするなんて回りくどい方法を取るのか分からなぃょぅ。
 この事は、すぐ忘れてくれていぃょぅ。」
 ぃょぅはそう言ったが、俺は忘れるなんて出来そうになかった。
 自分の体が別の「何か」に変わるなんて、有り得ない。
 そんなこと、信じられなかった。
 信じたく、なかった。

589新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:24


 俺はぃょぅのいる部屋を出てから、
 何気なくSSS館内を散歩していた。
 というより、さっきのぃょぅから聞かされた事が頭にちらつき、
 じっとしていたら気が滅入ってしまいそうで、
 何かしておらずにはいられなかった。
 ふと、廊下に見知った姿が目に入る。
「あ…でぃさん、お久し振りです。今晩は。」
 みぃも俺に気付いて、声をかけてきた。
 みぃは俺とは別に検査を受けていたらしく、
 ここに来てから顔を合わせる機会は無かった。
 都合三日ぶりの再会といった所だ。
『ああ。久し振り。』
 俺もホワイトボードに文字を書き、
 挨拶を返した。
「あの…もし時間があるなら、少しだけ一緒にお話してもいいですか…?」
 みぃは小さな声で俺に聞いてきた。
 何でこいつはそんな事でいちいちそんなにかしこまるのか。
『別にいいけど。』
 俺もどうせ暇だったので、付き合ってやることにする。

 俺達は、近くにあった長椅子に並んで腰を掛けた。
「あの…でぃさん。
 どこも体の調子が悪い所はないですか?
 ひどい事、されてませんか?」
 みぃが心配そうに聞いてきた。
 つくづくこいつは人の心配ばかりする奴だ。
『別に心配無い。
 それよりそっちこそ大丈夫なのか?』
 俺もみぃの事を聞き返した。
「あ、はい。大丈夫です。
 みなさんとても良い人達ばかりです。
 特にふさしぃさんには、お世話になりっぱなしで…」

 この前ぃょぅから聞いた話によると、
 みぃにセクハラ紛いの事をしようとした奴が
 何者かのしわざで病院送りにされたらしい。
 犯人は間違いなく「あの人」だ。
 みぃには、この事は黙っておくことにする。

『あのさ…みぃ。ええと、何だ、その…
 この前はありがとう…』
 いきなりの俺のお礼に、みぃが目を白黒させる。
 俺は何をやっているのか。
 こんなこと唐突に伝えたって、相手を困らせるだけだろう。
『いや、その、ナイフで刺された時とか、
 マララーにやられた時の怪我を治してもらったお礼を、
 まだ言ってなかったから…』
 俺は恥ずかしさで頭に血が昇っていくのを感じた。
 ああ、糞。
 こんなことなら、助けてもらったとき、
 すぐに礼をいっとくべきだった。
 というか別に今礼を言う必要も無かったじゃないか。
「べ、別にそんな、お礼なんて…
 私のしたことなんか、そんな大したことじゃ…」
 みぃがしどろもどろになる。
 阿呆。
 お前までそんなリアクションされたら余計に困るだろうが。

590新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:24

 俺達の間には、気まずい沈黙が流れていた。
 と、そこへ一人の男がこちらに歩いてきた。
 そいつはまるで青い狸といったような姿で、
 腹にはポケットのような物がついていた。
「お前か。ぃょぅの連れてきたでぃってのは。」
 そいつは俺を蔑んだ眼つきで一瞥した。
「まったくぃょぅの奴も困ったもんだぜ。
 こんなゴミを拾って帰ってくるんだからな。」
 明らかに敵意剥き出しである。
 こんな事を言われるのはもう慣れきっていたが、
 ただ一つ気になる事に、その口調に込められていたのは、
 町の奴らのような嘲りや蔑みではなく、
 純粋なまでの憎悪だった。

「…でぃさんに、謝って下さい…」
 みぃが、青狸の前に立ち塞がった。
「謝る?何を?」
 青狸がわざとらしく挑発する。
「…でぃさんは、あなたにゴミだなんて言われる様な人じゃありません…!」
 こいつは、馬鹿か。
 弱いくせに、何やってんだ。
 お前に何の関係がある。
「はっ!!
 何寝惚けたことをいってんだ!!
 いいか!?知らないなら教えてやる。
 でぃってのは社会の何の役にも立たないゴミ同然の生物なんだよ!!
 人様に迷惑しか掛けられねえ、便所のタンカスだ!!
 そいつがスタンドなんか使えた日にゃあ、何するか分かったもんじゃねえ。
 本来なら即処分されて当然なんだよ!!
 生かしてやってるだけありがたいと思えってんだゴルァ!!」

 廊下に乾いた音が響く。
 みぃの平手が、青狸の左頬を打ったのだ。
「―――て…」
 青狸の目に怒りの色が浮かび、
 みぃに向かって手を振り上げる。
 俺が間に割って入ろうとしたその瞬間、
 青狸の腕は後ろから伸びた手に止められた。
「やりすぎだょぅ。
 ギコえもん。」
 手の主は、ぃょぅだった。
 ギコえもんと呼ばれた青狸は舌打ちをすると、
 掴まれた腕を乱暴に振り払って不機嫌そうに廊下の向こうへと
 歩いていった。
「…済まなぃょぅ。不愉快な思いをさせて。
 けど、あいつは、ギコえもんは本当はとても良い奴なんだょぅ。
 彼を、許してやって欲しぃょぅ。
 彼に、あんなことさえ無ければ―――…」

「ぃょぅ!!
 余計な事を言うなゴルァ!!!」
 ぃょぅの言葉は、ギコえもんの怒号で阻まれた。
 許すも何も、俺はもうあんな事を言われるのに何の感慨も無い。
 それよりも、俺には無関係であるはずのみぃが怒ることが
 理解出来なかった。
 みぃの方を見てみる。
 みぃは下に俯いて肩を小さく震わせていた。
 …泣き虫め。
 俺はみぃの頭を軽く撫でた。

 余計なことばかりしやがって…
 でも…

 …でも―――

 …ありがとう。

591新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:25


 私は今町の歓楽街にある行きつけの飲み屋にいる。
 乾ききった咽に、よく冷えたビールを流し込んだ。
 ―――美味い。
「悪ぃょぅ、ギコえもん。
 今日は俺の奢りだなんて。」
 私は机の向かいに居るギコえもんに礼を言った。
「別にかまわねぇよ。さっきの詫びだ、ゴルァ。
 けどな…」
 ギコえもんが周りに視線を移す。
「俺はお前に奢ると言ったんだぞ!!
 何でこいつらまでちゃっかり付いて来てんだゴルァ!!!」
 そこにはふさしぃ、小耳モナー、タカラギコと、
 SSSスタンド制圧特務係A班の面子が勢ぞろいしていた。
 正確に言えば、私が連れて来た。
 せっかくの飲みなのだ。
 久し振りに全員揃って飲むのも悪くない。
 どうせ、ギコえもんの奢りだし。

「アハハハハ!まあ良いじゃないですか。
 なかなか皆で飲む機会もなかったんですし。」
 タカラギコが笑う。
 別に彼は笑い上戸という訳ではない。
 癖みたいなものだ。
「モナ達だけ仲間はずれなんて、良くないモナ〜。」
 小耳モナーは上着を全部脱いで、ネクタイを鉢巻にしている。
 こちらは既に出来上がりかけているようだ。
「全く、何で俺がこいつらにまで…」
 ギコえもんは憮然とした様子だった。
 まあ、決して多くない給料から今夜だけで多大に散財する訳だから、
 当たり前と言えば当たり前だが。
「そう言うなょぅ。
 けど、ふさしぃだけにでもちゃんと奢っておくべきだょぅ。
 ぃょぅはまだ君には死んで欲しくなぃょぅ。」
 私はギコえもんに言った。

 ギコえもんがふさしぃの方を向く。
 ふさしぃの艶やかな毛が逆立ち、顔には血管が浮き出ている。
「ぃょぅに感謝することね、ギコえもん。
 もしあの子に指一本でも触れてたら、あなたミンチになってるわよ。」
 その口調も表情も、穏やかそのものだ。
 しかしそこには泣く子も黙るような威圧感が漂っている。
 と、ふさしぃの持つグラスにひびが入り、
 音を立てて砕け散る。
 これは、「お前もこうなるぞ」というメッセージだ。
 周りの客が一斉に引く。
 無理も無い。
 何の変哲も無い飲み屋の中に、凶暴な獣が放たれようとしているのだ。
「あら、つい力が入り過ぎちゃったみたいね。
 ごめんあそばせ。」
 ようやくふさしぃの体から威圧感が薄れた。
 飲み屋にいる人全員が、ほっと胸を撫で下ろす。
 もともと青いギコえもんの顔が、さらに真っ青だ。
 彼は今、自分が生きているという奇跡に感謝していることだろう。
 しかし、ふさしぃはよっぽどみぃ君のことを気に入ったみたいだ。
 その辺りの理由を、今度聞いてみよう。

「それにしても非紳士的ですねえ、女性に手をあげるなんて。
 野蛮な人だとは思っていましたけれど、
 まさかここまでとは…」
 タカラギコが皮肉っぽく言った。
「全くモナ!!
 ギコえもん、最低だモナー!!」
 べろんべろんになった小耳モナーもそれに続く。
 というか、これじゃ単に酔っ払いがクダを巻いてるだけだ。
 最低なのは、君の酒癖の悪さもそうだぞ。
「うるせーなー!
 分かってるよ!私が悪う御座いました!!
 だからこうして奢ってやってるんだろうがゴルァ!!」
 ギコえもんは半ば開き直りかけている。

592新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26

「…ギコえもん。
 分かっていると思うけど、君が本当に謝るべきなのは、
 ぃょぅ達じゃなく、でぃ君と、みぃ君だょぅ。」
 私はギコえもんに釘をさすように言った。
「……」
 ギコえもんは黙ってしまった。
 彼の性格のことだ。
 自分が悪いと認めることは出来ても、
 恥ずかしがってなかなか謝ろうとはしないだろう。
 しかし、それではギコえもんは卑怯者になってしまう。
 私は、彼が卑怯者になって欲しくはない。
「ギコえもん、君が過去に受けた傷の深さは、分かっているょぅ。
 だけど、その事と彼らとは、何の関係も無ぃょぅ。
 自分が悪いと分かっているのなら、
 ちゃんと謝らなければ駄目だょぅ。」
 言ってからすぐに、私はこの言葉を口に出したことを後悔した。
「…分かってる。
 そんなこたぁ、分かってるんだ…」
 ギコえもんは痛みを噛み締めるように呟いた。

 最低だ、私は。
 あの事件で彼がどんなに他人には計り知れないほど深く傷ついたか。
 それなのに抜け抜けと「傷の深さは分かっているつもり」だと?
 何て傲慢さだ。
 私は激しい自己嫌悪に苛まれた。
「ごめんょぅ…ギコえもん。
 ぃょぅは…」
 馬鹿か。
 一体この私がどの面下げて何を彼に言えるというのだ。
「!
 いいってことよ!気にすんなって!!
 さ、しけちまったし飲み直そうぜ!!」
 私の雰囲気を察したのか、
 ギコえもんは、わざとらしい程明るく振舞った。
 それが、いっそう私の心を痛めた。

593新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26

「すみません、こういう酒の席でなんですが、
 少し仕事の話をいいですか?」
 タカラギコが、ふいに喋り出した。
「?ぃょぅは別に良いけど、皆はどうだょぅ。」
 私は他の人に意見を促した。
「私は別に構わないわよ。」
「手短にな、ゴルァ。」
 ふさしぃとギコえもんはOKみたいだ。
 小耳モナーは…
 完璧にぶっ潰れて吐瀉物の海に沈んでいるので
 放っておくことにする。

「マララーを尋問したところ、
 どうやら変な男に『矢』で撃たれた事が原因で、
 スタンド能力に目覚めたという事を聞き出せました。」
 一同がやっぱりかといった顔をする。
「…これで『矢の男』によって引き起こされたスタンド犯罪が、
 検挙出来ただけで、十一件目って事か…」
 ギコえもんが硬い表情で呟く。
「『矢』に撃たれたらしき傷が原因で人が死亡した、
 殺人事件の件数と合わせると、五十五件になります。
 尤も、表沙汰になっていない事件がどれだけあるかは
 想像もつきませんけどね。」
 タカラギコが肩をすくめた。
 数ヶ月前突如この町に出現した『矢の男』。
 その被害はゆっくりと、だが確実に増えていっている。
 必死の捜査にも関わらず、私達は『矢の男』の足取りはおろか、
 目的さえ掴めずにいた。

「…ぃょぅ、でぃ君と、みぃちゃんは、
 本当に『矢の男』とは関係がないの?」
 ふさしぃが、私に尋ねてきた。
「嘘発見器にかけての質問でそれとなく聞いてみたけど、
 彼らが嘘吐きの達人でない限り、
 『矢の男』とは無関係だょぅ。」
 私は首を振りながら答えた。
「…そう…」
 ふさしぃが残念そうに俯く。
 またもやさしたる手がかりは無しという事になる。
 辺りを思い空気が包んだ。
「…何か、嫌な予感がするわね…
 『矢の男』もそうだけど、もっと大きな別の何かが…」
 ふさしぃが心配そうに言った。
「へえ、それはどうしてですか?」
 タカラギコが、ふさしぃに聞いた。
「良い女の勘!」
 ふさしぃが即答する。
「けっ、何が良い女だ。
 この妖怪暴力女が…」
 ギコえもんが、呟いた。

 杞憂であって欲しい。
 『矢の男』だけでも手一杯なのに、
 さらに何かが起こるような事があっては、
 さらなる人々が傷つくことになる。
 だが、昔からふさしぃの『良い女の勘』とやらは良く当たるのだ。
「これから、どうなるというんだょぅ…」
 思わず弱音が漏れてしまう。
 だけど、臆するわけにはいかない。
 私は、立ち向かわねばならない。
 それが、SSSたる私の務めなのだから。

 後ろからギコえもんの豚のような悲鳴が聞こえてくる。
 どうやら今取り敢えずの問題は、
 彼をどうやって死地から生還させるかのようだ。
 思わずタカラギコと目が合う。
 私達はお互い力なく微笑んだ後、
 溜め息をついてがっくりと肩を落とした。

594新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26


 私は、夜道を行く人々を観察していた。
 そして、探していた。
 今夜の標的を。
 この『矢』で射るに相応しき者を。
 相手は、慎重に選ばなくてはならない。
 下手に撃ちまくっていては、
 後々私の邪魔になる可能性があるからだ。
 そんな自分で自分の敵をわざわざ増やすような愚行は、
 絶対に避けなければならないのだ。
 慎重になりすぎる事に、越したことはない。
 世界を憎む者を、世界に害悪を撒き散らす者を。
 そして、真の強者に成り得ない、
 矮小な心を持つ者を。
 そんな、弱き、哀れな者を。

 …居た。
 今日はあいつだ。
 私は気付かれないようにそいつの背後に回りこむと、
 弓を構え、弦を引き絞った。

595新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:27


 男は、窓から夜景を眺めていた。
 広いその部屋には何もなく、明かりもついていなかった。
 月と、町の光だけがその部屋を照らしていた。
「…どうなされました、1総統。
 何やら物思いに耽られていらっしゃるようですが。」
 名を呼ばれ、男は声をかけた相手に顔を向けた。
「失礼、気を悪くなされましたか…」
 声を掛けた男は、うやうやしくお辞儀した。
「いや、いい。
 少し町の夜景を見ていただけだ。」
 1総統と呼ばれた男は、大儀そうに返事を返した。
「ほう、夜景を、ですか。」
 もう一人の男が、相槌を打った。
「ああ、いずれこの町の灯が、
 戦火によって、もっとさらにより見違うほどに
 大きく紅く熱く猛々しく勢いよく美しくなるのかと思ったら、
 ついつい見とれてしまってね。」
 男はその目に狂気を宿し、恍惚の表情を浮かべて言った。
「成る程成る程。
 困ったものです。
 総統は本当に好きなのですねえ、
 戦争が。」
 もう一人の男の目も、既に常人のそれではない。
「何を言う。
 君だって大好きなくせに。」
 男は相手の目に己と同じ狂気を見て、睦言のように囁いた。
「これは手厳しい…
 一本取られましたな…」
 男達は微笑を浮かべた。
 にっこりという表現が正に似合うような、
 しかし途轍もなくおぞましい笑みを。

「満ちた…
 いよいよ、時は満ちた…
 再び、我々は再び帰ってきた。」
 そう言うと、視線を再び夜景へと移した。
「命令だ、梅おにぎり。
 やり方は任せる。
 狼煙をあげろ。
 幕が開いた事を、
 全ての者に知らせるのだ。」
 男は、そう言い放った。
「かしこまりました。
 すぐに手配いたします…」
 梅おにぎりは、そう言うと音もなく
 その部屋から出て行った。

 男はまた独りになると、
 最初は静かに、しかしだんだんと大きく、
 最後には狂った様に大きな声で笑った。
 実際、彼はすでに正気など失っているのだろう。
 笑い声は、その部屋の闇へと、
 そして窓の外の夜景へと、吸い込まれていった。


  TO BE CONTINUED…

596:2004/01/04(日) 22:23

「―― モナーの愉快な冒険 ――   番外・正月は静かに過ごしたい 後編」



 ギコはどっしりと座布団に座った。
 対面に座り、着物の袖をまくるしぃ。
 そして、互いに礼をした。
「お手柔らかにお願いします…」
「お前には悪いが、真剣勝負だぜゴルァ!」

 この戦いの勝敗は明らかだ。
 しぃに、勝てる見込みは全く無い。

 丸耳は、読み札を読み上げた。
「む――」

「ゴルァッ!!」

 対モララー戦のごとく、一瞬で札を取ってしまうギコ。
 しぃは全く動けない、と思ったら…
 なんと、しぃの着物の帯がほどけてしまった。
「あ…! きゃぁっ!!」
 必死で前を押さえるしぃ。

 余談だが… 着物の正しい着方として、下着は着用しないのがマナーだ。
 そして着物というものは、帯を解いてしまえば、自然にスルスルと下に流れ落ちてしまう殿方便利設計である。
 今のしぃが下着をつけているかどうかは分からないが、つまりはそういう事だ。

「な…! 見るなゴルァ!!」
 俺達の視線を遮断するように、慌ててしぃの前に立ち塞がるギコ。
「審判、タイムだタイム!」
 ギコは叫んだ。

「ギコ君、帯結ぶの手伝ってくれる?」
「おう。一重太鼓でいいな?」
 前を押さえて立ち上がるしぃ。
 ギコは軽く帯を巻くと、ゴソゴソと巻く作業をしながらしぃの周囲を回り始めた。
 帯はみるみる形になっていく。

「ギコ君、帯の結び方知ってるんだね…」
 しぃは前を真っ直ぐ向きながら呟いた。
「あ、おお…」
 胡乱な返事をするギコ。
 それも当然だろう。
 ギコは以前に自分で言っていた。
 成人式帰りの年上の女性とホテルに行った時、着付けのやり方を完全にマスターしたと…

 程無くして、帯が結び終わった。
「流石ギコ君、随分上手だね」
 にっこりと笑うしぃ。
「あ、おお…」
 ギコは、ガクガクブルブルしている。

「じゃ、再開してください」
 しぃは、丸耳に言った。
「これからギコ君とたっぷり個人的な話をしますけど、構わず続けて下さいね…」

「了解しました」
 丸耳は、読み札を取る。
「夏の夜は――」

「…ゴルァ」
 ギコはちらりとしぃの顔色を盗み見て、その札を取った。
 しぃは微動だにせず、不意に口を開いた。
「…で、何人目?」
 凍りつく俺達。
 しぃの柔和な笑顔は崩れていない。
 
「な、何がでしょうかゴルァ」
 ギコは、明らかに動揺していた。
 手の震えが肉眼でも分かる。

597:2004/01/04(日) 22:24

 そんな2人に構わず、丸耳は札を読み上げた。
「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれいづる月の影のさやけさ…」

 最後まで読み上げられてもなお、両者とも動かない。
 しぃは呟く。
「――何がって… そんなこと、聞かなきゃ分からないのかな…?」
 ギコは少し声を荒げた。
「聞かなきゃ分からない…ってお前、質問の意味が…」

 バシィッ!! と、しぃは床を叩いた。
 ビクッとするギコと俺達。
 いや、今のは札を取ったのか。
 獲得した札を、自分の手許に引き寄せるしぃ。
「――帯を結んであげた人の数、今までつきあった人の数、本当に愛した人の数、それぞれ私は何人目?」
 
 静まり返る座。
 丸耳の、読み札を読み上げる声が閑かに響く。
「世の中よ道こそなけれ思ひいる山の奥にも鹿ぞ鳴くなる」

「もちろん、本当に愛したのはお前一人に決まってるだろゴルァ…!」
 ギコは、札には目もくれず答えた。

 バシィッ!!
 再び、しぃは手を床に叩きつけた。
 …いや、札を取った。
「ギコ君がそのセリフを吐いた女の数、ってのも追加で…」
 その柔和な笑顔を崩さずに、しぃは告げた。
 ギコはかわいそうなくらいガクガクブルブルしている。

 それには一切構わず、丸耳は無機質に歌を読み上げていった。
「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは…」

「この歌の作者、ギコ君なら知ってるよね…?」
 しぃはにっこり笑って言った。
「あ、在原業平ですゴルァ…」
 ギコは縮こまって答える。
 しぃは静かに札を取った後、口を開いた。
「在原業平って、すごく遊んでる人だったみたいだね。誰かとおんなじで…」

 段々小さくなっていくギコ。哀れすぎる。
 もはや公衆辱めだ。

「あと、その語尾のゴルァって何? 反抗的な態度を表してるの? 優位性が自分にあるのを主張したいの?
 それは誰に対して? 私? 周囲の人? それとも自分自身?」
 しぃは、札を取りながら上目遣いで言った。
 
 ギコは、スッと手を上げた。
「この勝負、棄権します…」
 
「…では、勝者はしぃさんとさせて頂きます」
 丸耳はそう宣言した。
 なんと、予想に反してしぃが勝ち残ってしまった…

 しぃは、青くなってガタガタブルブルしているギコに声をかけた。
「やだなぁ、ギコ君。冗談よ、冗談…」
 ぱっと顔を上げるギコ。
「そ、そうだよなぁ… すっかり騙されちまったぜ! ハハハ…」
 ギコは引きつった顔で笑い声を上げた。
「アハハハハ…」
 つられたように、しぃも笑う。


       (  _,, -''"      ',             __.__       ____
   ハ   ( l         ',____,、      (:::} l l l ,}      /      \
   ハ   ( .',         ト───‐'      l::l ̄ ̄l     l        │
   ハ   (  .',         |              l::|二二l     |  ハ こ  .|
       ( /ィ         h         , '´ ̄ ̄ ̄`ヽ   |  ハ や │
⌒⌒⌒ヽ(⌒ヽ/ ',         l.l         ,'  r──―‐tl.   |  ハ つ │
        ̄   ',       fllJ.        { r' ー-、ノ ,r‐l    |  ! め │
            ヾ     ル'ノ |ll       ,-l l ´~~ ‐ l~`ト,.  l        |
             〉vw'レハノ   l.lll       ヽl l ',   ,_ ! ,'ノ   ヽ  ____/
             l_,,, =====、_ !'lll       .ハ. l  r'"__゙,,`l|     )ノ
          _,,ノ※※※※※`ー,,,       / lヽノ ´'ー'´ハ
       -‐'"´ ヽ※※※※※_,, -''"`''ー-、 _,へ,_', ヽ,,二,,/ .l
              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄       `''ー-、 l      ト、へ

 女の強さ、とくと見せてもらった。
 それにしても、開き直れる強さも必要だぞ、ギコ…

598:2004/01/04(日) 22:25
                        ×ギコ
               
                        ×モララー
            ┏━┓
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗(ジャンケン)
                    ┗━ レモナ


 すると、準決勝1回戦はしぃVSしぃ助教授か…
 まさか、しぃ助教授に勝ったりしないだろうな…?

 とにかく次の試合だが、つーもレモナもくたばったままじゃないか?
 しぃ助教授が、ようやく身体が繋がったレモナと真っ黒コゲのつーを競技場まで引き摺ってきた。
「ちょっと〜 まだ直りきってないんだからね…」
 レモナは文句を言っている。
 しぃ助教授は、つーの顔に往復ビンタをかました。
「ナニシヤガル!!」
 ぱっと目を覚ますつー。

「では、ジャンケンして下さい」
 ほとんど説明もなく、しぃ助教授は二人に告げた。

 睨みあうレモナとしぃ。
「ズット、テメーガ ウットーシカッタンダヨ… モナーニ ベタベタベタベタ シヤガッテ…」
「羨ましかったんなら、素直にそう言ったら?、『オレモ ベタベタ シタイゼー』ってねェ!」
「フン、メイワク ガラレテルノニ キヅキモ シネーデ… ノウナイデ ヨロシク ヤッテロ、テメーハヨォ!!」
「あんたに言われる筋合いはないわよ! つー!!」
「『サン』ヲ ツケロヨ、ネカマ ヤロォ!!」
 いい具合にヒートアップしていく2人。

「はい、ジャーンケーン…」
 音頭を取るしぃ助教授。
「ホイ!」
 という合図とともに、つーの左ストレートがレモナの右頬にブチ込まれた。
 同時に、レモナの右ストレートがつーの顔面にメリ込んでいる。

 グーであいこ… というか、クロスカウンターだ!!

 つーは、そのままスローモーションで地面に崩れ落ちた。
「あんたの敗因はたった一つよ… 『あんたは私を怒らせた』」
 ポーズをキメて勝ち誇るレモナ。

「ホントの勝因は、ダメージからの回復力の差だったんですけどね」
 しぃ助教授は冷静なツッコミを入れる。

「相手が左ストレートを打ってきたところに、タイミング良く自分の右ストレートをかぶせてクロスさせる事によって、
 通常のパンチよりも4倍の破壊力を生む… それが、クロスカウンターなんだよ!」
 以上、解説のキバヤシさんでした。

「本来あいこなんですが、この際レモナさんの勝ちにしましょう…」
 丸耳は言った。
 段々、判定もいい加減になってきているようだ。
 ともかく、次の大戦はしぃ妹VSレモナである。
 だが… 何か様子がおかしい。

「あ、大きな光がついたり消えたりしている… おーい、誰かいませんか…?」
 レモナは意味の分からない事を口走っている。
 どうしたんだ? なんか、かなりヤバそうだぞ?

「レモナの方も、無事では済まなかったみたいですね…」
 ぶっ倒れたつーを運びながら、しぃ助教授が言った。
「上半身と下半身が繋がったところに強い衝撃を与えたから、少し思考回路がイッちゃったのかもしれません。
 ちょっと前も、相当興奮していたみたいですしね…」
 おいおい。
 とりあえず、俺はレモナに話しかけた。
「レモナ! 早くしぃ妹と勝負をしないと、いつまでたっても進まないモナよ」
 レモナはぎょろりと俺の方を見る。
 明らかに焦点が合っていない。
「勝負…? 俺が勝つ方に、花京院の魂を賭けよう…」
「分かったから、とっとと座るモナ…」
 俺はレモナを抱えると、座布団のところまで運んでいった。
 レモナは対面に座るしぃ妹を見据える。
「あの… お願いします」
 少し動揺しながら頭を下げるしぃ妹。
 久々に、普通の人間の反応を見たような気がする。

599:2004/01/04(日) 22:26

「では、始めさせて頂きます…」
 丸耳は読み札を手に取った。
「わたの原漕ぎいでてみれば久方の――」

「はい!」
 やはり、上の句だけで取ってしまうしぃ妹。
 さすが俺を破った相手だぜ…!

 一方、レモナは首を360度回転させたりと、不気味な行動を取っている。
「フフフフフ名まえがほしいな『しぃ妹』じゃあ今いち呼びにくいッ!
 そうだな……『メキシコに吹く熱風!』という意味の『しぃタナ』というのはどうかな!」
 頭を回転させながら、意味不明な事を口走るレモナ。
「あの… お断りします」
 しぃ妹… いや、しぃタナは拒絶する。

「夜もすがら物思ふころは――」

「はい!」
 何気にかなりの強さを見せるしぃタナ。
 これは、ギコやしぃ助教授クラスでないと太刀打ちできないのではないか?

「巻き舌宇宙で有名な紫ミミズの剥製はハラキリ岩の上で音叉が生まばたきするといいらしいぞ。要ハサミだ。61!」
 それに対して、壊れっぱなしのレモナ。
 勝敗の行方は明らかだ。


「51枚目の札を獲得しました。しぃタナさん、準決勝進出です!」
 丸耳は告げた。


            ┏━━○しぃ
        ┏━┫
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┫
            ┗━━○しぃタナ


 いよいよ、準決勝だ。
 4人中3人がしぃ族で占められているのが不気味だが、まあいいだろう。
 心配なのは、リナーVSしぃタナだ。
 しぃタナはギコほどのスピードはないにしろ、上の句だけで札を取れる。
 百人一首を覚えていないリナーに勝ち目があるのだろうか。
 おにぎりのように、瞬殺する訳にもいかないだろう。 …たぶん。

 当然、俺はリナーに勝ってほしい。
 普段はシャイで俺に積極的になれないリナーも、これを機に、
「モナー… 実は、君が欲しいんだ…」
 とか言っちゃったりして、俺は、
「モナも、同じ気持ちモナよ…」
 と優しく告げて、アハハハハと笑いながら二人で砂浜で追いかけっこしたりしなかったり
 ということがある可能性もないとは言い切れないだろう。
 いや、大いにあるはずだと言ってくれ。
 
 などと妄想しているうちに、しぃVSしぃ助教授の戦いが始まった。
 もしかしたら、しぃがまた黒さを発揮して、番狂わせがあるかもしれない…!

「ほ――」

「はいッ!!」
 バシッ! と札を叩くしぃ助教授。
 対ガナー戦は、気絶していて見れなかったが… メチャクチャ強いじゃないか。
 スピードもギコと同レベルだ。
 さすがのしぃも、全く手が出ない。
 勝負は瞬く間にしぃ助教授の圧勝に終わった。

「ちょっと、大人げなかったですかね…?」
「いえいえ、すごかったですよ!」
 なごやかに試合後の会話をする二人。
 そして、ガッチリと握手を交わした。
 今までこういう爽やかな展開はなかったな。
 みんな、遺恨とか残し過ぎだ。


              ━━×しぃ
        ┏━┓
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┫
            ┗━━○しぃタナ


 次は、リナーVSしぃタナである。
 果たして、リナーに勝機はあるのだろうか…!

 向かい合って座る二人。
 丸耳が最初の札を読み上げた。
「この――」

 バシィッ!!
 リナーは、瞬時に左手を札に叩きつけた。
 その札は、確かに丸耳が読み上げた札だ。

「リナー、百人一首は覚えてないって言ったモナ…!」
 驚愕した俺は、リナーに訊ねた。
「あれから何戦やったと思ってるんだ? あれだけ目の前で札を読み上げられれば、馬鹿でも覚える…」
 なんと、リナーは他人の戦いを見て、全ての札を覚えてしまったらしい。

「しら――」

 バシッと取ってしまうリナー。
 こうなってしまえば、スピードで致命的に劣るしぃタナに勝ち目は無い。

「51枚先取により、リナーさんの勝ちとなります」
 結局、リナーが軽く勝利を収めた。
 そう何度も番狂わせは起きなかったようだ。
 ゲッ! すると、決勝戦は…!!


              ━━×しぃ
        ┏━┓
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┛
              ━━×しぃタナ


 しぃ助教授VSリナー…!
 ヤバい戦いになりそうだ…!!

600:2004/01/04(日) 22:26

「では決勝戦に向けて、10分間の休憩に入らせて頂きます」
 丸耳は告げた。
 弛緩した空気が場に流れる。
「リナー、強かったモナね!」
 俺はリナーの脇へ行った。
「別に…」
 無愛想に返事をするリナー。
 だが、その内面はしぃ助教授との激突に向けて昂ぶっていることは予想がつく。

「では、少し部屋に戻る…」
 そう言い残して、リナーはボロボロの居間を出て行ってしまった。
 たぶん、装備を整えに行ったのだろう。
 モナコンネンIIとか持ち出してこないだろうな…?

 一方、しぃ助教授は既に座布団の上に正座している。
 その横には、当然のようにハンマーが置いてあった。
 使う気マンマンだ…

「いよいよ決勝ね、モナーくん!」
 レモナが、不意に話しかけてきた。
「もう大丈夫モナか?」
 嬉しそうに頷くレモナ。
「もうシステムも安定したしね。あっ、つーちゃんも目覚めたみたい…」
 見れば、黒コゲのつーも座布団の上に座っている。
 つーにしてはやけに大人しい。やはりダメージが蓄積しているのだろうか。
 そして、並んでいるカルタの方に向き直るレモナ。
「さーて、どっちが勝つのかしらね〜」

 …妙だ。この態度は明らかに妙だ。
 レモナとて、自分が勝ちたかったはず。
 悔しさを微塵も見せないのはレモナのキャラクターゆえか、それとも…


 …ギシッ。 …ギシッ。 …ギシッ。
 ボロボロになった床板を踏む音。
 その足音は、ゆっくりとこの競技場に近付いてくる。

 ――来る。
 吸血鬼を殺す事のみに特化した存在、代行者。
 吸血鬼にとっての死神。
 そして、『異端者』の名を冠した女、リナーが居間に戻ってくる。
 フル装備状態なのは間違いない。
 彼女が一歩歩いただけで、廊下はギシギシと音を立てる。
 もう、この家は崩壊したも同然だ。

 フスマがゆっくりと開く。
 強い殺気を撒き散らしながら試合場に入ってくるリナー。
 彼女の手にしている武器に、驚きの視線が集中した。

 ――それは、剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
 それはまさに鉄塊であった。

 ゆっくりと、しぃ助教授の向かいまで移動するリナー。
 3mはある大剣を畳に突き立てると、座布団に座った。

「全く… ロクでもないものを持ち出してきますね…」
 しぃ助教授がため息をついた。
「お前のハンマーに対抗するため、『教会』から取り寄せた…」
 リナーはしぃ助教授を睨む。
 2人の間に火花が飛び散った。

601:2004/01/04(日) 22:27

「さて、それでは… これより、『オメガカルタ』決勝戦を開始します!」
 丸耳は高らかに宣言した。
 固唾を呑んで見守る俺達。
 リナーが勝つか、しぃ助教授が勝つか…
 両者の実力は伯仲している。予測は不可能。成り行きを見守るほかにない。

 丸耳は読み札を取った。
 そして、厳かに読み上げる。
「うか――」

 最初に、リナーが動いた。
 しぃ助教授目掛けて、大剣を大きく横に薙ぐ。
 姿勢をかがめてやり過ごすしぃ助教授。学帽の半分が吹き飛んだ。
 そのまましぃ助教授はハンマーを掴むと、低い姿勢から思いっきり振り上げる。
 それを剣で受け止めるリナー。
 重い金属同士がぶつかり合う衝撃音。
 互いの武器に力を込める2人。

「どうやら、力は互角のようですね…!」
 鍔迫り合いをしたまま、しぃ助教授は言った。
 それを聞いて笑みを浮かべるリナー。
「こういう場合、『互角だな』とか言い出した方が弱い。まして、目的をすっかり忘れるような奴はな…!」
「目的を忘れる…?」
 しぃ助教授は、瞬時にリナーの足元に目をやった。
 リナーの足は、一枚の札を踏んでいた。
 丸耳が読み上げた札だ。
 リナーは、足で札を取っていたのだ。

「くっ、そうきましたか…、卑怯な…」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
「卑怯?」
 リナーが薄く笑う。
「卑怯とは、こういう手段のことを言う…」
 リナーは、懐から何かを取り出した。
 あれは… 時限爆弾だ!!

「貴方、一体何を…!」
 流石のしぃ助教授も慌てている。
 時限爆弾は、すでに作動しているようだ。
 リナーはそれを無造作に床に置いた。
「あと1分で爆発する。だが、アナログタイマーを使った簡単な構造だ。お前なら1分あれば解除できるだろう?」
 とんでもない事を言い出すリナー。
 しぃ助教授は、リナーを睨みつけている。
「それが、本物の時限爆弾であるとは限りません。それに、貴方も爆発させる気はないでしょう?
 貴方が、ここにいるモナー君達や、近所の人達をも巻き込むとは思えません…!」
「では、そのまま放置してカルタ取りに熱中すればいい…」

「この…」
 しぃ助教授は何か言いたげに口を開いた後、爆弾の前にしゃがみ込んだ。
 たとえフェイクだと分かっていても、ASA三幹部の一人という立場がある限り、町を危険にさらす事はできない。
 テキパキと爆弾を解体するしぃ助教授。
 タイマーと起爆装置を完全に沈黙させる。
 その間に、リナーは2枚の札を手にした。

「コードを切って… これでよし!」
 言うが早いか、しぃ助教授は作業が終わるなりハンマーを手に取った。
 そのまま素早くリナーに接近すると、思いっきり振り下ろす。
 大剣を薙いで、それを弾くリナー。
「20秒もかからないとは、なかなかだな。そっち方面でもやっていけるんじゃないか?」
「あんまりナメた口を叩かないでくれませんか…! 私、そろそろブチ切れそうなんで…!」
 肩をブルブルと震わせているしぃ助教授。
 もうそろそろ、避難の頃合か?

602:2004/01/04(日) 22:27

「その割には、なぜスタンドを使わない…?」
 リナーはしぃ助教授を見据える。
「…」
 しぃ助教授は押し黙った。
「答えられないなら、私が言ってやろう。『サウンド・オブ・サイレンス』で力の方向を変えれば、
 散らしきれなかった『力』が、他の札を巻き添えにする可能性があるからだ。
 そうなれば、お前のお手付きになるんだろう…?」
 それに対して、しぃ助教授は口を開く。
「貴方も、威嚇以外で爆発物は使えませんがね…!」

「ひと――」
 札を読み上げる丸耳。

 2人は同時に動いた。
 ハンマーと大剣を激しく撃ち合う。
 互いの足を封じるために、下段への攻撃を交える2人。
 その戦いに見入っていた俺だが、ふと背後から違和感を感じた。 

 ――嫌な空気。
 妙な『敵意』が視える。
 俺は後ろを振り向いた。
 モララーと目が合う。
 奴は、口の端に笑みを浮かべていた。
 その口がゆっくりと開く。
「ねぇ、モナー君… この戦い、あの泥棒猫に勝たせる訳にはいかないんだよ…」

 …こいつ、まさか!?
 モララーは、しぃ助教授と打ち合うリナーに向けて右手を構えた。

 テメェ…!!
 モララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』の腕から、『次元の亀裂』が放たれる。
 リナーはそれに気付いたが、しぃ助教授の猛攻によりかわしきれない。

「このォッ!!」
 『アウト・オブ・エデン』を開放。
 同時に俺はリナーの真横に飛び込むと、『次元の亀裂』を破壊した。

「悪いけど… リナーには指一本触れさせないモナ…」
 バヨネットを構えて、リナーの前に立ちはだかる俺。
「なんで… なんで、そんなやつをかばうんだァッ!!」
 モララーは歯軋りをした。
 そして、『次元の亀裂』を乱発してくる。

「くっ!!」
 その場から飛び退こうとするリナー。
「気が逸れましたねッ!」
 その隙を突いて、しぃ助教授が札を取ってしまった。

「リナー! しぃ助教授との戦いに専念するモナ! モララーはモナが相手をするモナ!」
 俺は叫んだ。
「…すまない」
 そう言うと、リナーはしぃ助教授に斬りかかった。
「あっ、この…!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』でリナーに殴りかかるモララー。
「どこを見てるモナァッ!!」
 俺は、『アナザー・ワールド・エキストラ』にバヨネットで思いっきり斬りつけた。
 『アウト・オブ・エデン』は、『不可視領域に干渉』できるスタンド。
 そして、視えたものは破壊できる。
 スタンドといえど、生命エネルギーのヴィジョン。
 視えた以上、『アウト・オブ・エデン』で破壊は可能。

「そこまでして、あの泥棒猫を守るんだな…!」
 モララーは憎々しげに呟いた。
「それ以上僕の邪魔をするんなら、モナー君には多少痛い目を見てもらうよ…?」
「御託はいいから来いよ、変態野郎…」
 俺は吐き捨てた。
 モララーの顔色が変わる。
「僕が、モナー君には何もできないって思ってるんだったら… 大間違いなんだからなッ!!」
 俺の挑発に乗って、狂ったように『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振るうモララー。
 その攻撃は、直線的で読み易い。
 スタンドのスペックに頼っているだけでは、戦いには勝てないことを判っていないのだ。

603:2004/01/04(日) 22:28

 その瞬間、俺の頭上を何かが高速で通り過ぎていった。
 『それ』は、リナーの前に着地する。
 あれは… レモナ!!

「全く… みんな、考える事は同じのようねぇ」
 レモナは涼しげに言った。
「お前も、邪魔をするという訳か…!」
 リナーは大剣から左手を離すと、その手を懐に突っ込んだ。
 そして、バヨネットを取り出す。
 右手に大剣、左手にバヨネットを構えるリナー。
 いくらなんでも無茶だ。レモナとしぃ助教授の2人を同時に相手にできる訳がない。
 助けに行こうにも、俺はモララーを抑えるので精一杯だ…!

「私は、あなたの心根が気に入らないのよ…」
 レモナは、リナーの目を見据えて言った。
「…何の事だ?」
 不審気に訊ね返すリナー。
「『何くわぬ顔してとぼける…』。泥棒猫って、みんなそんな態度を取るのよねェー」
 ニヤニヤしながら言い放つレモナ。
 だが、その目はこれっぽっちも笑っていない。
「で、お前は何が言いたい…?」
 リナーは睨みをきかせた。
 おにぎりの時に匹敵する殺気だ。

「モナー君に全部押し付けて、自分は受身でいようなんて… 
 そんな、傲慢で自信過剰で狡猾で卑怯な態度が気に入らないのよ!!」
 そう叫びながら、レモナはリナーに飛び掛った。
 激しく拳を振るうレモナ。
 リナーの大剣と互角に打ち合っている。

「ほらほらァ! よそ見をしてる暇があるのかい!」
 俺の意識はモララーの方に引き戻された。
 こいつの猛攻もかなり厄介だ。
 俺は必死で『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳をかわす。
 流石に『次元の亀裂』などの技は使ってこないものの、拳の攻撃を1発でも喰らえばKOだ。
 しかし、ここでモララーをレモナに加勢させる訳にはいかない…!
 その俺の耳に、ヤツの声が届いた。

「ジャア、ソロソロ オレノ デバン ダナ…」

 しまった! まだ、こいつがいた。
 手を交差させて、爪を出すつー。
「ネカマニ スケダチ スルノハ キニ サワルガ、シカタネェ…! バルバルバルバル!!」
 つーは一直線に、レモナと激戦を繰り広げているリナーの方へ向かう。
 まずい! このままじゃ…!

 突進するつーの背後に、影が躍り出る。
「ゴルァッ!!」
 『レイラ』の刀が、つーに振り下ろされた。

「テメェッ!!」
 つーは大きく跳ぶと、ギコの方を向いて着地した。
「ナンデ ジャマ シヤガル!!」
 大声で威嚇するつー。
 ギコは、『レイラ』の刀を真っ直ぐにつーに向けた。
「気にいらねーんだよ。真剣勝負に水を差すテメーらの性根がな…」

「ギコ! サンクスモナ!!」
 俺はギコに声援を送った。
 ギコはニヤリと笑う。
「なぁに、今日はカッコ悪いとこ見せちまったからな…」

 確かに、あれはホントにカッコ悪かった。
 今さら格好つけたって挽回不能な程に。

「おい、お前ら。今すぐここから離れろ。ここは戦場になる…!」
 ギコは後ろを振り返ると、しぃ達に言った。
 しぃは頷くと、しぃタナとガナーを連れて競技場を出て行った。
 流石に避難誘導も手馴れたものだ。

「さて…」
 睨み合うギコとつー。
 ギコの正眼に対して、つーの無形。
 その刹那、両者は激突した。
「ゴルァァァァァァァ――――ッ!!」
「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル!!」
 爪と剣を打ち合う二人。
 つーに、ギコのスタンド『レイラ』は見えていない。
 ヤツは勘だけで戦っているのだ。
 ギコの洗練された動きに対して、つーは思うがままに爪を振り回すだけ。
 しかし、両者はほぼ互角に打ち合っている。

604:2004/01/04(日) 22:29

 その一方で、リナーとレモナの激突も白熱していた。
 リナーに突進するレモナ。
 まるでそれを打ち返すように、リナーは大剣を大きく振る。
 レモナは素早く大剣の上に飛び乗ると、リナーの顔面に拳での一撃を食らわそうとした。
 その腕に、リナーは左手で持っていたバヨネットを突き刺す。
「この…」
 レモナはリナーに蹴りを入れた。
 思いっきり吹っ飛んで、壁に激突するリナー。

 レモナは右腕に刺さっているバヨネットを引っこ抜くと、ボロボロの畳の上に投げ捨てた。
 その右腕からは、血がポトポトと垂れている。
 レモナはその右手をじっと見ながら、開いたり閉じたりしていた。

「右手への伝達中枢を切断した。しばらく、その手は武器としては使えない…」
 リナーは立ち上がると、レモナへ歩み寄りながら言った。
 それを睨みつけるレモナ。
「ふん、やるじゃない… 抱かれるのを待ってる女のクセにッ…!」
 リナーは落ちていた大剣を拾い上げると、上段に構えた。
「その薄汚い口を開くな。解体されたくないならな…!」

 そんな二人の様子を、じっと眺めているしぃ助教授。
 その姿からは、『やな戦いに巻き込まれちゃったなー』的な雰囲気が漂っている。

 レモナは自分の右手を肘の部分から引っこ抜くと、無造作に投げ捨てた。
 その部分から、巨大な銃口がバキバキと突き出す。
 いや、右手そのものが巨大なライフルになった、と言った方が正確だろう。
 そして、リナーを睨みつけるレモナ。
「解体されるのはあんたよ。そうなったら、モナーくんの心に爪跡くらい残せるんじゃない…?
 モナーくんの背中に爪跡を残すのは、私の役目だけどねェ!!!」
「口を開くなと言ったはずだァッ!!」
 二人は、互いに向けて突進した。
 思いっきり大剣を振り下ろすリナー。
 レモナは、銃口の部分で弾き返した。
 そして、銃口をリナーに向ける。
 あんなのを喰らったら、例えリナーでも…!

 リナーは弾かれた衝撃を殺さずに、そのまま1回転した。
 レモナは射撃体勢をとる。
 銃口から弾丸が発射されるのと、リナーの大剣が銃口に直撃するのは同時だった。
 真ん中でへし折れ、真っ二つに砕け散る剣。
 その銃口も、レモナの右腕ごと大破した。
 その衝撃で二人の体は大きく吹き飛ばされる。

「では、そろそろ行きますか…!」
 しぃ助教授は、倒れているリナーに思いっきりハンマーを振り下ろした。
「漁夫の利を狙うとは… ASAもたかが知れているな!!」
 懐からマシンガンを取り出すと、乱射するリナー。
「そんなオモチャ、効きません!」 
 しぃ助教授は、ハンマーを振るって銃弾を叩き落した。

605:2004/01/04(日) 22:29

「モナー君… 忘れていたのかい…?」
 モララーの余裕たっぷりのセリフが、俺の意識をこちらに引き戻す。
「僕が、瞬間移動を使えるってことをね…!」
 …し、しまったぁ!!

「お前も忘れてたモナ?」
「仕方ないだろぉ! 『アナザー・ワールド・エキストラ』は応用性が広すぎるんだ!」
 そう言って、モララーは姿を消した。
「あの野郎…!」
 俺は、激闘を繰り広げているしぃ助教授とリナーの方に走り寄る。

 リナーの背後に現れて、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振りかぶるモララー。
 俺は、モララー目掛けてバヨネットを投げた。
 見事にヤツの右肩に突き刺さる。

 そこへ、ぶっ倒れていたレモナが突っ込んできた。
 リナーを狙ったタックルだ。
「うおおおおおお!!」
 俺はリナーが落としたマシンガンを拾うと、レモナに向けて乱射した。
 当然ながらビクともしない。
 このままじゃ、レモナの体当たりがリナーに直撃する…!

「伏せろ! モナー!!」
 ギコの声が響いた。
 俺は素早くその場にしゃがみ込む。
 俺の目に映ったのは、つーに背負い投げを掛けるギコの姿だった。
 高速でぶっ飛んで来る、つーの身体。
 それは、そのままレモナに激突した。

「あんまり、スタンドにばかり警戒してるから、こうなるん、だよゴルァ…」
 息を切らしながら言い放つギコ。
 どうやら『レイラ』の方をオトリにして、本体が投げたらしい。

「コノヤロウ…!!」
「痛った〜い!!」
 同時に起き上がるレモナとつー。
 事態はバトルロイヤルの様相を表してきた。
 カルタなど忘却の彼方だ。
 丸耳が札を読み上げているようだが、リナーもしぃ助教授も聞きやしない。

 …キバヤシはどこだ?
 俺は周囲を見回す。
 ブチ割れたテーブルで、お雑煮を食べている姿が目に入った。
 あれは俺の夜食だが、まあいい。
 奴まで戦いに加わってきたら、本当に収拾がつかなくなる。

 しぃ助教授とリナーの戦いも、佳境に入ってきたようだ。
 二人とも疲れきっている。
「そろそろ… 限界じゃないんですか…、『異端者』…」
「強がるな… お前も、フラフラだろうが…」
 あっちの勝敗が決まるのは近そうだ。

「おい! モナー!! 加勢してくれッ!!」
 ギコの叫びが耳に入ってきた。
 見れば、つーとレモナを相手に頑張っている。
 俺はマシンガンを手に取ると、ギコに加勢した。

「僕を忘れてないかい…?」
 いきなり乱入してくるモララー。
「やかましー! 喰らいやがれッー!!」
 マシンガンの銃口をモララーに向ける。
「ちょ、ちょっと…! あの人外どもと違って、僕は生身…!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』で、必死で銃弾を弾き返すモララー。
「うるせェ――ッ!!」
 もう、この戦場に立ち入るヤツは敵だ。みんな撃ち殺す。

606:2004/01/04(日) 22:30

 いきなり、ギコの身体が飛んできた。
 俺の身体にブチ当たり、もんどりうって倒れる俺とギコ。

「サッキノ オカエシダ…アヒャ!」
 どうやら、つーが投げつけてきたようだ。
 そして、つーは転がっていたタンスを持ち上げる。
「クラエ――ッ!!」
 つーは、そのまま俺達目掛けて投げつけてきた。

 …あれが直撃したら、ヤバい!
 ギコの体を払いのけて、素早く立ち上がる俺。
 『アウト・オブ・エデン』で、その軌道を視る。
「モナァ――ッ!!」
 俺は渾身の力を込めて、投げられたタンスを弾き飛ばした。

 俺が弾き飛ばしたタンスは、なんとしぃ助教授と向き合っていたリナーの後頭部に直撃した。
「…」
 無防備な後頭部に打撃を受け、ゆっくりと倒れるリナー。そのままタンスの下敷きになる。
 さすがのしぃ助教授も呆気にとられていた。

「ああっ! やっちまった――!!」
 頭を抱える俺。

 しぃ助教授がタンスをどけて、リナーの顔を覗き込んだ。
「これは… 完全に気絶してますね。元々、フラフラでしたから…」
 そう呟くしぃ助教授。
 そう言う彼女自身もフラフラだ。

「ちょっと待て… じゃあ…」
 ヨロヨロと立ち上がるギコ。

「『オメガカルタ』の優勝を勝ち取ったのは、しぃ助教授となりました!! 彼女に一日族長の資格が与えられます!!」
 丸耳は右手を大きく掲げて宣言した。

  オ サ   オ サ   オ サ
 族長! 族長! 族長!

 アステカの民衆達も、声援に駆けつけたようだ。

 まあいい。俺はリナーを背負った。
「じゃあ、気絶してるリナーを部屋まで運んでくるモナ…」
 これで、当初の目的は達成できる。

「…うん?」
 俺の背中で声を上げるリナー。
 チッ、目を覚ましたか…
「私は、気を失っていたようだな…」
 リナーは自分の足で立つと、軽く頭を振った。
「リナーが気絶してる間に、しぃ助教授が優勝したモナ…」
 俺は、リナーに告げた。

「私は、あれで負けたとは思っていない…」
 しぃ助教授を睨みつけながら、リナーは言った。
 学帽を被り直すしぃ助教授。
「正直、決着をつけたかったんですが。これ以上モナー君の家を破壊するのも気が引けますしね…」
 何を今さら…
 もう、ここまでやられたら一緒だ。
「確かにそうだな。決着は、次の機会まで預けておくか…」
 リナーは武器を服にしまいながら言った。
 あの、ブチ折れてしまった大剣はどうするつもりだろうか…

「でも、この『オメガカルタ』の勝者は私ですよね…」
 ニヤリと笑うしぃ助教授。
 一体、どんな恐ろしい命令を…!
 しぃ助教授は、スタスタと俺の前まで歩いてきた。
 そしてにっこり笑う。
「今から、私とデートしましょうか」

 ゲッ!! それはヤバい!!
 何がヤバいって、レモナが巨大な銃口でこっちを狙っている。
 モララーは『アナザー・ワールド・エキストラ』を発動させ、右腕を差し出している。
 つーは腕を交差させ、鋭く伸びた爪を輝かせている。
 リナーはバヨネットを構え… ウホッ! それって嫉妬…!?

「フフッ、冗談ですよ…」
 パッと俺から離れるしぃ助教授。
「モナー君を狙ったら、命が幾つあっても足りませんから… ねェ?」
 しぃ助教授は、イヤな目つきでリナーを見た。
「そういう訳で、私はそろそろ帰ります」
 しぃ助教授はハンマーを抱えると、玄関跡に向かった。
 その後ろを、丸耳がついていく。

607:2004/01/04(日) 22:31

 玄関跡には、しぃやしぃタナ、ガナーの姿があった。
 静かになったから戻ってきたようだ。
 玄関跡で俺達は解散する事となった。

「ASAは『矢の男』の存在を抹消しますので、ゆめゆめ忘れないように…」
 しぃ助教授はモララーに向き直って言った。
 なんか今さらだなぁ…
「それではみなさん、よいお年を…」
 しぃ助教授は頭を下げて、俺の家を後にした。

「じゃあ、俺達もこのへんでお暇するぞゴルァ!」
 ギコとしぃ、しぃタナも帰って行く。
「じゃあモナーくん、またね〜」
「アヒャヒャ… ジャアナ!」
 みんな、それぞれの家に帰って行ってしまった。
 俺は、ボロボロに半壊した俺の家を見上げる。

「まあ、費用はASAに請求すればいいだろうが…」
 リナーは呟いた。
 ガナーはさっきからポカーンとしている。
 精神的ショックが大きすぎたんだろう…

 俺達は再び家の中に入った。
 リナーの部屋は、扉がしっかり残っている。
 俺の部屋など見るも無残なのに…

「私の部屋は、比較的被害が少ないな…」
 無表情で呟くリナー。
 と言うか、リナーの部屋に引火したら大変な事になりそうな気がする。
 家での火遊びは控えるとしよう…

 ボロボロになった居間には、遠い目をしたキバヤシの姿があった。
 俺と目を合わせて、フッと笑うキバヤシ。
「みんないなくなると、急に静かになる。それはそれで少し寂しいな…」
「うるさい帰れ」
 なんでこの家の住人みたいな口を叩いてんだ、こいつは。

 俺はキバヤシを追い出すと、居間の真ん中にテーブルを置いた。
 そして、そのテーブルを囲んで座る俺達。
 俺は口を開いた。
「なんか異常に幸先悪いスタートとなりましたが… 今年も精一杯がんばるモナー!!」
「イェー! ニコガク、イェー!」
 大はしゃぎする妹。どうやら、一連の出来事で一皮剥けたようだ。
「まあ、私もいつまでここにいるか判らないが …今年もよろしく」
 リナーは寂しい事を言った。
「リ、リ、リ、リ…」
 『リナーはずっとこの家にいてもいいモナよ。モナのお嫁さんとして…』
 そう言おうとしたが、舌がもつれて言えなかった。
 俺のヘタレさここに極まる。
 こうして、俺の… 
 いや、みんなの苦難に彩られた一年は幕を開けようとしていたのだった。



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      「モナーの愉快な冒険」
    番外・正月は静かに過ごしたい
        ―THE END−

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608新手のスタンド使い:2004/01/04(日) 23:20
本当に乙です

609新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 07:20
大作乙!
結局最後まであのまんまの呼び名だったしぃ妹と
ルーキーズネタに大爆笑した。そのセンスの良さには脱帽です。

610新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 11:45
乙!
最後におにぎりがいない・・・・。

611新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:00
貼ります。

612新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:00
     救い無き世界
     第五話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
         〜ポロリもあるよ〜 その1


 ここはSSS内にある俺に割り振られた部屋。
 俺が昼食を取って腹休めに自分の部屋で横になっていると、
 突然部屋のドアがノックされた。
 俺は「どうぞ」ということは無理なので、
 面倒だがベッドから降りてドアを開けた。
 そこには、ふさしぃの姿があった。
「やっほう、でぃ君。
 元気にしてる?」
 この人は無駄に元気が有り余っている様子だ。
 うざったいので、適当にあしらうことにする。
『まあ、普通といったところです。』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
「あらあら、『何の用だよ。うざってーなー。
 うっとおしいから適当にあしらっておくかー。』
 とでも言いたげな感じねえ。
 お邪魔だったかしら?」
 ふさしぃは笑顔のままそう言った。
 …この人はエスパーか何かか?
「ま、いいわ。
 それよりこれからみぃちゃんとデパートに買い物に行くんだけど、
 あなたも荷物持ちとして来てくれないかしら?
 もちろん、少しくらいはお礼するわよ。」
 俺は即首を横に振った。
 馬鹿馬鹿しい、何でそんなことせにゃならんのだ。
 俺がそんな人の多い所にいってみろ。
 周りの奴らがどういう反応するかぐらい分かるだろう。
『悪いけど、気が進まないので、
 他を当たってはくれませんか。』
 俺は丁重に断ろうとした。
「あらそう、残念ねえ。
 ぃょぅも一緒に行くって言ってるんだけど…」
 その時俺の背筋が一瞬で凍りついた。
 ふさしぃの握っているドアノブが、
 みるみる音を立てて握り潰されていくのだ。
 ふさしぃは相変わらず柔和な笑みを浮かべている。
 が、この時はそれが一層恐怖を駆り立てた。
 断れば、死。
 それはコーラを飲めばゲップがでるぐらいに確実ことだった。
『あ、何か俺、
 急に買い物に行きたくなってきたかなー。』
 俺はこう書く他無かった。
 今この場を人生の幕切れにする程の覚悟は、俺には無い。
「あら本当に!?
 悪いわねー。なんだか無理強いしちゃったみたいで。」
 「みたい」でなく「そのもの」だ。
 というかこれはむしろ脅迫に近い。
 だが俺には言い返すことなど出来る訳がなかった。
 『力こそ正義』、これがこの世の絶対の法理であることを
 俺は実感していた。
「あら、ドアノブが…
 全く安物は困るわねー。」
 そういうとふさしぃは、半壊したドアノブを木に生った果物のようにもぎ取り、
 地面に投げ捨てたのだった。

613新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:01
「う〜ん、どれにしようかしら。
 これ?いやでもあれも捨てがたいわね…」
「わ、私はあんまり派手なのは…」
 みぃとふさしぃが、色々と服を物色する。
 俺はぃょぅ、ふさしぃ、みぃと共に、
 町で一番大きいデパートに買い物に来ていた。
 もっともこれはふさしぃとみぃが自分達の買い物に
 俺とぃょぅを無理矢理荷物持ちとして引っ張ってきたからで、
 俺は本当はこんな場所になど来たくはなかった。
「ちょっと…あそこの…」
「しっ…指差しちゃ駄目だって…」
 すれ違う人すれ違う人が、俺に向かって奇異の視線や言葉を
 投げかけてくる。
 ぃょぅとみぃが、俺を心配そうな目で見てくる。

 やっぱり思った通りだ。
 こういうお互いが不愉快な事になると思ったから、
 俺は断ろうとしたのだ。
 ふさしぃは、一体どういうつもりで俺をこんな所に
 連れて来たのか。
「もっと胸を張りなさい、でぃ君。」
 ふさしぃが、言った。
「あなたは別に悪いことをしたり、
 人に迷惑をかけたりした訳ではないんでしょう。
 なら、あなたが周りに引け目を感じる必要なんて、
 全く無いわ。」

 …分かったような口利きやがって。
 それは強者の理屈だ。
 あんたはいいさ。
 強いんだから。
 けどな、あんたはゴミ溜めの中で、
 明日をも知れない生活をしたことがあるってのか。
 あんたは大勢の奴から殴りつけられたことがあるってのか。
 自分の無力さを呪ったことがあるのか。
 あんたに、俺の何が分かる。
 それとも、あんたが俺を助けてくれるとでも―――

 その時、凄まじい爆音と振動が俺たちを襲った。

614新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:02


 私の名は毒男。
 このデパートの警備員をしている。
 警備員暦十五年、独身である。
 もちろん童貞。
 今日もいつもと変わらない一日を漫然と浪費していた。
「ねえ、あれ買ってよー。」
「ははは、分かったよ。
 今日はお前の誕生日だもんな。
 何でも買ってやる。」
 カップルが楽しげにショッピングをしている姿が目に映る。
 こん畜生が。
 人目も憚らず、公衆の面前でイチャイチャしやがって。
 いっぺん死んできやがれ。

「ぎゃあああああああああああ!!!」
 突然場内に響き渡る絶叫。
 見ると、カップルの男の方が、腹を血まみれにして倒れていた。
「い、いやあああああああ!!!」
 女の方がそれを見て悲鳴を上げる。
 が、一人の男が女に近づくと、
 その胸に血まみれの大きいナイフを突き立てて
 その悲鳴を強制的に中断させる。
 女はしばし痙攣した後、すぐに動かなくなった。
 ざまあ見ろ、天罰だ…
 ではない。
 明らかに殺人事件である。
「お、おい!!何をやっている、貴様!!!」
 俺は職務を果たすべく、警棒を取り出し、男に近寄った。
「…ダライアス。」
 俺が男のナイフを握っている右手に警棒を振り下ろそうとした時、
 男が何かぼそりと呟いた。
「!!!!!!!」
 次の瞬間、俺の足が重力から開放されたかのように地面から離れた。
 俺は自分に何が起こっているのか、全く理解出来なかった。
 思わず手足をバタつかせる。
 すると信じられないことに、
 周りの空気がまるで水のように重く俺の体に纏わり付いてきた。
 何だ!?
 これは、これは何…

 突如俺の首筋に鋭い痛みが走る。
 次の瞬間、そこから血が噴水のように噴出した。
 しかし血は地面に落ちることなく、空中を漂う。
「は、はわわわわわわわ〜〜〜〜…」
 思わず情けない悲鳴が咽からもれた。
 同時に、私の意識が一気に遠のく。
 周りからは、耳をつんざくばかりの悲鳴と、
 断末魔の叫びが聞こえる。
 おそらく客がパニックを起こしているのだろう。
 しかし、やがてそれも聞こえなくなる。
「さあて…次は花火といこうか。」
 おびただしい数の死体の中、
 男が楽しそうに誰に言うでもなく喋りだす。
 それが、私の最後の記憶となった…

615新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:04
「!!!!!!!」
 激しい音と振動に、俺は思わず倒れこんだ。
 みぃも悲鳴を上げてその場に倒れる。
「!!何!?爆発!!?」
 ふさしぃが辺りを警戒しながら言った。
 周りを見ると、デパート内のあちこちから黒い煙が立ち込める中を、
 人々が逃げ惑っている。
「取り敢えず、早くここから避難するょぅ!!」
 ぃょぅが叫ぶ。
 俺達は無言で頷き、出口に向かって走り出した。

「えーん、えーん…痛いよぉ…痛いよぉ…!」
 俺たちが出口に近い吹き抜けのホールまで来た時、
 誰かの泣き声が耳に入ってきた。
 そちらに視線を移す。
 そこでは、小さな女の子が倒れて泣いていた。
 周りの人は、自分が逃げるのに必死で女の子に目もくれない。
「いけない!助けないと…!」
 みぃが急いで駆け寄る。
 俺達も、それに続いた。

「…駄目…左足が下敷きになってる…!」
 みぃの言葉通り、女の子の左足は完全に瓦礫の下に埋まっていた。
 瓦礫は大きく重く、普通の力では動かせそうになかった。
『どけっ!!!』
 俺はみぃを押しのけると、スタンドを発動させ、
 瓦礫を力ずくで持ち上げた。
 ふさしぃとぃょぅが、急いで女の子の足を引っ張り出す。
「……っ!!!!」
「…ぃょぅ……!」
 ふさしぃとぃょぅの顔がこわばる。
 女の子の足は、もうすでに原型を留めていなかった。
「…ひどい……」
 みぃが悲痛な声を上げる。
 足は完全に押し潰され、みぃのスタンドの力でも完全な修復は不可能なことは、
 明らかだ。
「痛いよぉ…ママ…ママぁ…ママはどこ…?」
 激しい痛みと出血のせいか、少女は意識を失いかけていた。
「まずいわ!早く外に出て医者に見せないと!!」
 ふさしぃが女の子を抱え上げた。
「わ、私が取り敢えず応急処置だけでも…!」
 みぃが女の子に触れようとする。
「駄目だょぅ!こんな危ない所にいつまでもいるわけにはいかなぃょぅ!!
 それに、ここで君まで倒れるようなことがあったら、
 どうするつもりだょぅ!!」
 ぃょぅがそれを制した
「分かりました…」
 みぃが涙をこらえて頷く。

616新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:04
 俺はふと、周囲を見回してみた。
 その時…

「・・・・・・!!!?」

 …その時、俺の目に一人の男の姿が飛び込んできた。
 そいつは、吹き抜けのホールの上の方から、
 下の惨状を見下ろしていた。
 そいつの顔には、邪悪な、満足そうな笑みが浮かんでいる。

「!!!!!!」

 俺は直感的に理解した。
 あいつがこの惨事の原因であることを。
 あいつが、それを見て笑っていることを。
 あいつが、この女の子の、足を―――…

「!!?
 でぃ君!!!
 何処へ行くつもりだょぅ!!!」
 俺は気が付くと、奴に向かって走り出していた。
 奴は奥へと姿を消す。
 逃がさない…!
 報いは、受けてもらう!!!

 後ろの方でみぃ達の俺を制止させる為の悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
 だが、そんなものはもう耳には入らなかった。
 今、俺の頭の中にあることは唯一つ、
 奴を壊すことだけだった。


  TO BE CONTINUED…

617:2004/01/05(月) 23:08

   ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ( ;´∀`)< 劇中、9月・・・
  (    )  \_____
  | | |
  (__)_)     /´ ̄(†)ヽ
            ,゙-ノノノ)))))
            ノノ)ル;゚ -゚ノi! <・・・!!
       ___/,ノくj_'',凹と)__
      / \ (´::)     ___\
     .<\※ \______|i\___ヽ.
        ヽ\ ※ ※ ※|i i|.====B|i.ヽ <エイダァァァァァ――ッ!!
        \`ー──-.|\.|___|__◎_|_i‐>
          ̄ ̄ ̄ ̄| .| ̄ ̄ ̄ ̄|
               \|        |〜

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その4」




 その姿までも変わり果ててしまったつーは、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、つーの全身から放つ殺気をとらえていた。
「ど、どうするモナ…!」
 キバヤシに向き直る俺。
「ここから逃げるか、それとも戦うか… まあ、逃がしてくれそうにないがな…」
 キバヤシは眼鏡の位置を整えた。

 仕方ない、身を守る為だ…!
 俺はバヨネットを取り出して構える。
 向かってくるなら、やるしかない!!

 キバヤシめがけて突進するつー。
 両腕から飛び出しナイフのように、刃状のものが張り出した。

「くっ…」
 バク転して飛び退くキバヤシ。
 彼がいた床に、大きな亀裂が刻み込まれる。
 キバヤシの反応があと0.1秒遅れていれば、彼は完全に真っ二つだった。

 つーは、俺とキバヤシを見比べている。
 キバヤシは、豹変したつーの姿を見据えて口を開いた。
「その外見… そのスピード… やはり、『蒐集者』に何かされたらしいな…」

 『蒐集者』は実験とか言っていたが、一体これは…
 しかし、当のつーは動かない。
 さっきから、不思議そうに俺とキバヤシの顔を見比べたままだ。

 俺は『アウト・オブ・エデン』でその思考を視る。
 かなり視えづらいが… 何か戸惑っているような感じ。
 俺は、キバヤシに視線をやった。

「ああ、判っている。 モナヤは、つーは本当に敵か…?、と思っているんだろう?」
 その通りである。
 つーは、『矢の男』や『殺人鬼』のように、人格が乗っ取られているようには見えない。
 むしろ、姿こそ違うものの内面はいつものつーである。

「だが、あの女性をバラバラにしたのは、間違いなくつーの仕業なんだよ」
 キバヤシは言い切った。
 確かにその通りだ。返す言葉もない。
 レモナの無残な姿を思い出す俺。
「だから、俺達はこいつと戦わなければならない!」
 アップになるキバヤシ。
 だが、俺はつーを傷つけたりはしたくない。それは確かだ。
 俺はキバヤシの目をまっすぐに見て言った。
「でも… つーは大切な友達モナ!」

 キバヤシはニヤリと笑う。
「甘いな、モナヤは… だが、お前のそういう所は嫌いじゃないぜ…」
 お前…、それ80年代のセリフだ。

「仕方ない。俺が汚れ役を引き受けよう…」
 キバヤシは、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ。
 その様子を凝視するつー。
 キバヤシはポケットに両手を突っ込んだまま、つーの近くへ歩み寄った。

「俺が、スタンドを使いたくない理由は2つ…。 
 1つは、余りにも凶悪で卑怯だからだ。乱用は絶対に許されない。
 もう1つは… 俺の能力を知れば、仲間から間違いなく拒絶されるからなんだよ!
 簡単に仲間を信頼してしまう、馬鹿なお前の前だからこそ使うんだぜ、モナヤ…」
 横目で俺を見るキバヤシ。
 仲間からも拒絶されるような、凶悪で卑怯な能力…?

 キバヤシはつーの目前で立ち止まると、ポケットから片手を出した。
 その手には、何かが握られている。
「人間は、火とともに言葉を武器にした…」
 キバヤシは呟く。
 手に持っているのは、何の変哲もないジッポライターだった。
 そのライターに火を付けるキバヤシ。
 それを、自らの顔の前にかざす。
「『始めに言葉ありき』… 生きている限り、ヒトは言葉と言う呪縛からは逃れられないんだよ…!」

 つーが動いた。
 腕から張り出した刃が、キバヤシの腹部に吸い込まれるように突き刺さる。
 軽い金属音を立てて地面に落ちるライター。
「え…?」
 驚いたようなキバヤシの顔。
 そのまま、キバヤシは前のめりに崩れ落ちた。

618:2004/01/05(月) 23:08

 …ちょっと待て。
 事態についていけない。
 今の状況も含めて、キバヤシの能力なのか?
 …いや。キバヤシは、どう見てもぶっ倒れている。
 それを、汚物のように見下ろすつー。
 もしかして、スタンドが不発…!?

「この… 役立たずがァッ!!」
 俺はキバヤシに駆け寄った。
 こいつ、本当にリナーと同じ代行者なのか?
 つーは、そんな俺の様子をじっと見ている。動く気配は全くない。
「おい、起きろ! キバヤシ!!」
 必死でキバヤシを揺り動かす。
「何だ、モナヤ?」
 ぱっちりと目を開けるキバヤシ。何事もなかったかのように起き上がる。
 そして、懐に手を突っ込んだ。
「たまたま、このノストラダムスの『諸世紀』を懐に入れていたから助かったようだ…」
 何から突っ込めばいいのか…

 その自慢げに掲げていた『諸世紀』を掴む、つーの手。
 『諸世紀』は、アッという間にドロドロに溶けてしまった。
「なっ! 何をするだァ――ッ!!」
 英国の片田舎の方言で怒りをあらわにするキバヤシ。
 そして懐から銃を抜き出す。
 つーは素早く飛び退いた。

「喰らえッ!!」
 何度も引き鉄を引くキバヤシ。
「バルバルバルバルバルバル!!」
 つーは両腕から突き出た刃を振り回す。
 つーの体に届く前にバラバラになる弾丸。

「まずいな… あいつに通用するような武器は持ってきていないぞ…!」
 銃を投げ捨てるキバヤシ。その額を汗が伝う。
「キバヤシのスタンドは…?」
 俺は、恐る恐る訊ねた。
「ああ、効かなかったようだ」
 そよ風のように、あっさりと答えるキバヤシ。
 何か悲しくなってきた。
 こいつのせいで窮地に追い込まれて、これっぽっちも役に立ちやしない。
 本当に代行者なのかどうか疑わしくなってきた。
 キバヤシは、俺の不審の視線を感じ取ったようだ。
「俺の能力が効かないヤツなんて初めて会ったんだよ。目の前のあいつは、人間でも吸血鬼でもない…!
 それに今の俺は、代行者である『解読者』じゃなく、MMRのキバヤシなんだ。まともに武器も持ってきていないんだよ!」
 確かに、つーの様子が尋常でないのは俺にも分かるが、それにしても情けなすぎる。

 そんな俺達の様子を眺めていたつーが、不意に動き出した。
 体が激しく発光し、周囲がスパークしている。
 あれは、電気!?
「『アウト・オブ・エデン』!!」
 危機を感じ取った俺は、スタンドを発動させてバヨネットを構える。
 同時に、つーの全身から電撃が放たれた。
 あれは… 空中放電だ!!
 『アウト・オブ・エデン』で、つーの体から放たれる稲妻が確かに視えた。

「うおおぉぉッ!!」
 電光をバヨネットで切り裂く俺。
 『電気』を破壊。
 出来るかどうか分からなかったが、何とか成功したようだ。
 だが… キバヤシはまともに喰らって、地面にぶっ倒れた。
 MMRと大きくプリントされたTシャツは焼け焦げ、全身から煙を噴き出している。
 一方、つーの動きは再び止まっていた。

「キバヤシ!!」
 俺は再びキバヤシの体を揺さぶる。
 駄目だ。 息はあるが、完全に気を失っている。
 …もういい。
 俺は、つーの方に向き直った。
 こいつのチグハグな動きの意味が、やっと分かった。
 今のつーは、『敵意』というのを敏感に感じ取っているのだ。
 キバヤシは痛めつけても、本気で俺を殺そうとはしてこない。

619:2004/01/05(月) 23:10

 つーは最初に、俺とキバヤシの顔を見比べていた。
 俺から『敵意』を感じないのを不審に思いつつ、明らかに『敵意』を振りまいているキバヤシを攻撃したのだ。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、さらにつーを分析する。

 今のつーに、視覚はないのではないか?
 対象の方向に顔は動かすものの、視線というものを全く感じない。
 いや、聴覚も嗅覚も存在していないような印象を俺は受けた。
 つーの感覚が集中している箇所を視る。
 ――額の触角か。
 つーは、全てをあの触角で感じ取れるのだ。特に『敵意』を敏感に。
 なら、あの触角をチョン切ってしまうか?
 いや、そんなことをしようものなら、俺の体はたちまちブツ切りだ。

 仕方ない。こうなったら、ナ●シカ作戦でいくか…
 俺はバヨネットを地面に投げ捨てた。
 そして、にこやかな笑みを浮かべて両手を広げる。
「大丈夫、怖くないモナ…」
 ゆっくりとつーに近付く俺。
 つーは明らかに動揺しているが、先程までの殺意は嘘のように消えている。

「ほら… 怖くないモナ…」
 俺は、優しくつーちゃんを抱きしめた。
 プルプルと震え出すつーの体。
 どうやら、俺の作戦は上手くいったようだ…

「キモチワルインダヨ、コノ タヌキガ――ッ!!」
 つーのカエル跳びアッパーが俺の顎にヒットした。
「バベーッ!!」
 俺の体はオモチャのように吹っ飛んで、そのまま地面に激突した。

「いたた…」
 ヨロけながら立ち上がる俺。
 つーは、その一瞬の間にすっかり元の姿に戻っている。
「つーちゃん!!」
 俺は、つーに駆け寄った。
 つーは首をプルプルと左右に振る。
「アタマガ ボーット スル… マタ、ヤッチマッタ ラシイナ…」
 やっちまったとは、さっきの体の変化だろうか。
「トコロデ、アレハ ダレ ナンダ?」
 ブスブスと焦げながら、口から煙を噴き出しているキバヤシを指差すつー。
「今朝会ったばかりのどこかの馬鹿モナ…」
 俺は、ため息をついた。
 つーは疑わしそうに俺の顔を見る。
 そして、怪訝そうに口を開いた。
「マア、シンジトイテヤル…」
 嘘は言っていないし、正直キバヤシとの同盟も破棄したい気分だ。


「で、さっきのアレは何モナ?」
 俺は当然の疑問を口にする。
「武装現象(アームド・フェノメノン)よ」
 その疑問にレモナは答えた。

「で、そのアームド…うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 俺は悲鳴を上げた。
 レモナは首から下がなかった。
 満面の笑みを浮かべながら、レモナの生首が宙に浮いている。
 その髪飾りが激しく回転して、ヘリコプターのようにホバリングしているのだ。

「そこまで悲鳴を上げなくても… 胴体の復旧に時間がかかりそうだから、一時的に分離しただけよ」
 嬉しそうに言うレモナ。お前はジオングか。

「それで、私は今からモナー君に悲しい告白をしなきゃいけないの…」
 目を伏せるレモナ。
「実は私、人間じゃないのよ…!」
 いや、見りゃ分かる。

「オイ、オレノ コトハ イイノカ…?」
 つーが話しに割り込んできた。
 人間離れしてるのは、どっちもいい勝負だ。
「そうね、今はつーちゃんの話だったわね…」
 レモナの首は口を開いた。
「でも、話が長くなりそうだから、少し座らない?」

620:2004/01/05(月) 23:12


 座卓の周囲に、座布団が3つ。
 俺とつーが向かい合って座る。
 レモナの首は座布団の上に着陸したようだが、茶卓に隠れてよく見えない。
 キバヤシはもちろん放置。
「まず、今のつーちゃんは『BAOH』なの…」
 レモナは口を開く。
 つーも、自分の体に関する事だけに大人しく聞いている。
 レモナの言葉に熱心に耳を傾けるつーなど、初めて見た。
 それにしても、『BAOH』って何だ?
「もう何十年も前に、ある研究組織… 『ドリル』だったっけ? そういう名前の特殊兵器開発機関が存在したの…
 そこで生み出された生物兵器が、『BAOH』なのよ」
「『BAOH』が兵器… ということは、つーちゃんが兵器になったって事モナ?」
 俺は思わず声を上げた。
「うーん、厳密に言うとそうなんだけど… 『BAOH』は兵器と言うより、人体の強化変成って言うのかしら?
 そういう技術なのよ。兵器としての性能なら、私の方が遥かに上」
 何故か誇らしげなレモナ。
「それで『BAOH』の性質なんだけど、『敵意』に敏感に反応して、その体を戦闘用に変えるの。
 それが、さっき言った武装現象(アームド・フェノメノン)よ…」
 やっぱり、『敵意』か。
 そして、さっきの豹変した姿が武装現象…!
「さっきからモニターしてたんだけど、モナーくんも武装現象の種類をいくつか見たわよね」
 腕から刃が突き出したり、体から放電したアレだな。
「まず、腕から出た刃物が、『BAOH RESKINIHARDEN SABER PHENOMENON』…通称『BRSP』ね。
 手首の皮膚を鋭く硬質化させたブレードよ」
 俺は、床にできた亀裂に目をやった。人体くらい、苦もなく寸断されるだろう。
「私がやられたのもこれよ。部屋に上がろうとした一瞬の隙に刻まれて…」
 レモナは、つーの方を睨んでいるらしい。座卓に隠れて見えないが。
「オマエガ、テキイヲ モッテタ カラダロウ…」
 つーにしては弱々しい物言いだ。
 流石に、やり過ぎたと感じているのだろうか。
「BAOH化すると、『敵意』を持ってる相手に相手に対しては抑制が効きにくくなるのよ」
 それが、俺とキバヤシの差だな。
「で、武装現象に戻るわね。分厚い本を掴んで溶かしたのが、『BAOH MELTEDIN PALM PHENOMENON』。
 通称、『BMPP』。掌から特殊な液体を分泌して、ほとんどの物質を溶解してしまうのよ。
 そして電撃を放ったのが、『BAOH BREAK DARK THUNDER PHENOMENON』。『BBDTP』ね。
 TTP合成酵素っていうのかしら? とにかく、電気ウナギと同じメカニズムらしいわ」
 ただでさえ物騒なヤツなのに、厄介な能力を持ったものだ。

「でも、なんでつーちゃんが『BAOH』になったのかは謎なのよね… 『ドリル』はもう潰れたし…
 『バカチン』とかいう所に、データや技術が流れたとは聞いたけど…」
 バカチン? 間抜けそうな名前だな…
 などとボケている場合じゃない。
 ヴァチカン… 『教会』だ!!
 『蒐集者』が言っていた、成功した実験体とは、つーの事で間違いないようだ。

621:2004/01/05(月) 23:12

 それにしても、なぜレモナがそこまで詳しいのかも気にかかる。
「なんで、レモナがそんなに『BAOH』について知ってるモナ?」
 俺は何気なく訊ねた。
 レモナが目を伏せたのが雰囲気で分かる。
「私を造った組織も、その『ドリル』なのよ…」
 何だって!?
 どうでもいいが、『バカチン』という名が思いっきり間違っていた以上、『ドリル』という名称も怪しいものだ。

 だが、まだ気になる事はある。
 『蒐集者』が実験をしている以上、『ドリル』とやらの『BAOH』は未完成だったのだろうか?
 いや、レモナは既知の技術のように語っていた。
「その、『BAOH』ってのはどうやって作るモナ?」
 俺はレモナに訊ねる。
「『BAOH』って言うのは、バオー寄生虫っていうのが宿主の脳に取り付くことによって完成するの」
「ウゲッ…! キセイチュウ!?」
 つーが声を上げる。
 確かに、気味の悪い話だ。
「でも、おかしいのよね。さっきつーちゃんの脳をスキャンしてみたんだけど…
 本来ならバオー寄生虫はもっと活発なんだけど、大人しすぎるのよ。まるで眠ってるみたいに。
 それなのに、武装現象はちゃんと発動してるし…」
 レモナは首を傾げる。
 おそらく、『蒐集者』の実験とはそこらへんだろう。
 新種の『BAOH』を研究していたとか…
 俺は、ヤツの言葉を反芻した。

 『素体が優れていたというのが最も大きな要因でしょうが、それだと汎用性に欠ける、という事にもなる』

 『素体が優れていた』… つまり、つーの頑丈な体は『BAOH』に適していたという事か。
 汎用性に欠けるというのは、限られた者、…それこそつーのように頑強な者にしか、新種の『BAOH』の
 適正がないという事というのが想像できる。

 そして、奴はその後にとんでもない事を言ったのだ。
 『何しろ量産が前提ですからね…』と。
 量産だって…!?
 つーには悪いが、こんなバケモノを量産して何をする気なんだ…?

 ふと、気になった。
 つーが俺とキバヤシの前で武装現象を発動する際、『オマエラ、グルデ オレヲ ミハッテタンダナ…』と言っていた。
 ――見張っている。
 つーは、そう感じていた。
 誰が、何の目的で見張っている…?
 いや、そんなのは自明の事だ…!

「出て来いよ。ずっと、見てたんだろう…?」
 俺は立ち上がると、窓の方に向かって言った。

 どんな手段を使っているか分からないが、窓の外のすぐ近くに奴がいる。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、それを確かに感知した。

 窓が音を立てて開く。
 普通に見れば、誰もいないのに自然に窓が開いたようにしか見えないだろう。
 ストッ、という軽い着地音。
「見つかってしまったようですね。土足で失礼…」
 その勘に触るしゃべり方。人をなめた態度。
 窓の外から、風が吹き付ける。
 その場に薄く浮き上がる青年の姿。
 それが徐々に実体化していく。
 漆黒のロングコート。柔らかな笑み。
 そして、欺瞞に満ちた存在。
 『蒐集者』が、そこに立っていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

622新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:04
貼ります。

623新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:05
      救い無き世界
      第六話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
          〜ポロリもあるよ〜 その2


 でぃ君は何やらどこかを熱心に見つめていたと思ったら、
 急にデパートの奥へと走り出した。
「!!?
 でぃ君!!!
 何処へ行くつもりだょぅ!!!」
 私は思わず声を張り上げた。
「ちょっと!!待ちなさい!!でぃ君!!!」
「でぃさん!!!」
 ふさしぃやみぃ君も彼に向かって叫ぶ。
 しかし、でぃ君はそんなものには耳も貸さないといった様子で、
 そのまま止まらずに走り去って行った。

「…ふさしぃ、みぃ君とその女の子を頼んだょぅ。」
 私は、言った。
「!ぃょぅ、あなたは!?」
 ふさしぃが、聞き返してくる。
「ぃょぅはでぃ君を連れて帰るょぅ。
 君達は早く逃げるょぅ。」
 早くしないと、女の子の命が危ない。
 ここで立ち止まっている時間は、一秒たりとも無いのだ。

「…分かったわ、お願い。」
 ふさしぃはそれを察したらしく、素直に了解した。
「わ、私も一緒に…」
「駄目だょぅ!!!」
 私はみぃ君の申し出を即座に却下した。
「君の役目は早く外に出て、
 女の子に治療を受けさせてあげる事だょぅ!!
 ついてこられても、足手まといになるだけだょぅ!!!」
 みぃ君は顔を曇らせた。
 確かに、少し言い方が悪かったかもしれない。
 だが、今は皆で楽しくお買い物といった状況では断じて、無い。
 彼女を死なせない為にも、
 厳しい言葉をぶつけてでも絶対に連れて行くことは出来なかった。

「分かりました…
 でぃさんを、お願いします…」
 みぃ君は声を押し殺して言った。
「まかせるょぅ。
 でぃ君は必ず、無事に連れて帰るょぅ。」
 彼女の為にも、何としてもでぃ君は連れて帰らねばならない。
 全く、女を泣かせるような事をするなんて、
 でぃ君も相当罪な男だ。

「…ぃょぅ…絶対、生きて帰って来るのよ…」
 ふさしぃが、私を見つめて言った。
「大丈夫、すぐに戻って来るょぅ。」
 私もこんなところで死ぬつもりはさらさら無い。
 それに、生きて帰らなければ、ふさしぃに殺されてしまう。
 おっと…これは矛盾かな。
「みぃちゃん!走るわよ!!」
「は、はい!」
 ふさしぃ達は、出口へと駆け出した。
 私はそれを確認すると、でぃ君を追う為に
 走り出した。

 何故、こんな真似をしたのか。
 彼には小一時間ほど問い詰めたい所だった。
 しかしその為には兎にも角にも彼に追いつかねばならない。
 私はデパートの中を全力で走り抜けた。

624新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:06
「でぃ君!!!
 どこだょぅ!!!」
 彼の名を大声で叫びながら、私はデパートの中を探索していた。
 私は完全に彼を見失っていた。

「でぃ君!!
 聞こえたら返事をするょぅ!!」
 しかし返事は返って来ない。
 私はかなり焦っていた。
「!!!
 これは…!?」
 でぃ君を探していると、
 床に大量の奇妙な死体が倒れているフロアを見つけた。
 死体はここに来るまでにいくらか見てきたので、
 それ自体は珍しくは無い。
 しかしこれらの死体はおかしい。
 刃物による切り傷や刺し傷、
 銛のようなものが刺さっている等、
 死因が爆発とは関係が無さそうなものばかりなのだ。

 これはどういうことなんだ?
 この混乱に乗じて、何者かが殺人を行っている?
 私は何かその場に醜悪な悪意を感じた。

「ひいっ!
 お願い、誰か助けて…!!」
 いきなりこちらに向かって一人の女性が
 何かから逃げるように走って来た。
「!?
 君、一体何が…」
 私がその女性に声をかけようとしたその瞬間、
 彼女の心臓を一本の矢みたいなものが貫いた。
「!!!!!!!」
 彼女はしばし口を金魚のようにパクパクと開閉させると、
 悲鳴も上げることなくその場に倒れ伏し、絶命した。

625新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:06

「んん〜、命中。」
 女の後ろの方から、
 まるでゴミ箱に投げたゴミが入った時のような口調で喋りながら、
 一人の眼鏡をかけた男が姿を現した。
 その手には、水中銃のようなものを持っている。
「おやおや、まだこんなとこにも生存者がいたんだ。」
 そいつは、私に向かって喋りだした。
「なあ、何人死んでた?」
 男は唐突に質問してきた。
「…どういう意味だょぅ。」
 私は男に聞き返した。
「いや、君が来る途中に何人位死体があったかってこと。
 今回僕が何人殺せたか知っときたいんでね。
 一応僕も見回ってはみたんだけど、
 見逃してるかもしれないし。」
 男は悪びれもせずに言った。

「…言いたい事はそれだけかょぅ……!!」
 私は湧き上がる怒りを抑えられそうになかった。
 こいつは、救いようの無い悪だ。
 ゲロ以下の臭いがプンプンする。
 ここまで他人に対して怒りを覚えたのは、初めてだった。

「…いつもなら私は『抵抗しなければ危害は決して加えない』
 と言うょぅ…
 しかし、お前に対しては別だょぅ…
 好きなだけ抵抗するがいぃょぅ。
 けど……」
 私は私のスタンド『ザナドゥ』を発動した。
「こちらも遠慮せず危害を加えるょぅ!!!」
 私は奴に向かって突進した。
 許さない。
 命は取らないまでも、生まれて来たことを
 後悔するような目に合わせてやる。

「『ダライアス』!!」
 男の叫びと共に、男の体がダイバースーツのようなものに包まれた。

 !!
 まさか、こいつもスタンド使いだったとは。
 しかし、構わない。
 このまま奴の頭に拳をブチ込む!!

「!!!!なっ!!?」
 その時、私の体がいきなり宙に浮かんだ。
 しかも、まるで水の中にいるみたいな感覚に襲われる。
 まさか、これが奴の『能力』か。
「くっ…『ザナドゥ』!!!」
 私はすぐに奴を「風」で吹き飛ばそうとした。

626新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:07
「んん〜?心地良いそよ風だなぁ。
 何だ?これは。」
 馬鹿な。
 全力に近い力で「突風」をぶつけたはずだ。
 何故、奴は微動だにしない!?
「…まさか……」
 考えられることは一つだった。
 空気が水の様に重くなっているせいで、
 風がまともに起こせないのだ。
「ちっ!!!」
 急いで距離を取ろうとする。
 が、地に足が着いていないうえに、周りの空気が水の様に絡み付いてきて
 素早く行動出来ない。
「逃がすかよ!!!」
 奴が私にさっきの女性を殺した凶器と思われる
 水中銃を発射してきた。
 とっさにスタンドで防御しようとする。
 しかし、動きが鈍くなっているせいで上手く防げず、
 肩や足に何発か貰ってしまった。
「がは!!」
 痛みに思わず声が漏れる。
 だが、幸いにも、急所だけは外れているようだ。

「いや〜、驚いた。
 まさかスタンド使いだったとは。」
 奴が余裕綽々といった感じで喋った。
「しかし、怖いなあ。
 『危害を加える』だなんて。
 まあ、無理っぽいけどね」
 奴が皮肉を言う。
 内心腸が煮えくり返る思いだったが、
 ここで冷静さを失う訳にはいかなかった。
 認めたくはないが、私のスタンドの奴のスタンドに対する相性は、
 致命的に悪い。
 状況は最悪と言わざるを得なかった。
 そして、おそらく奴はそれに気付いている。
 冷静に対処しなければ、即死だ。

 私は今度は奴に向かって行く。
 奴との距離を詰めねばならない。
 このまま、奴に遠間から水中銃で攻撃されては
 こちらが圧倒的に不利だ。
 これだけの『能力』。
 奴のスタンドはその『能力』の方に殆どのパワーを
 使っているはずである。
 ならば、純粋な力による接近戦ならば私にも分があるはずだ。

「そうくると思ったよ。」
 男は、私が近づこうとすると、
 素早く身を翻し見事なフォームで泳ぎ、
 瞬く間に私との距離を開けた。
「近づけば何とかなると思ったんだろうけど、
 それは無理だね。
 確かに僕のスタンド『ダライアス』は
 パワーは大した事は無い。
 けど、この空間内でのスピードは、ちょっとしたもんだよ。」
 そう言うと奴は再び私に水中銃を発射してきた。
 必死に受けようとはするが、
 やはり全ては防ぎきれない。
 体に次々と矢が突き刺さる。
 まずい。
 このままではいずれ射殺される。
 万事休すか…!

(!?でぃ君!!!)
 その時、私の視界にでぃ君の姿が飛び込んで来た。
 彼は奴の後ろから今まさに奴をスタンドで殴りつけようとしていた。
「!?」
 男が私の視線に気付き、後ろを振り返る。
 しかしでぃ君の拳は、もう奴の目前まで迫っていた。

627新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:08
 俺はさんざん走り回った末、
 ようやく男を見つけた。
 ぃょぅがそいつと戦っているみたいだ。
 男の顔はダイバースーツのようなものに隠れてよく見えない。
 だが、俺はそいつが俺の追う男であることを確信していた。
 奴から感じる腐ったような悪意。
 それが全てを物語っていた。

 俺は気付かれないように男に近づく。
 と、ある程度近づいた所で
 体が水の中に居るかの如く、宙に浮かんだ。
(!?これは、何だ?)

 しかしそんな事はすぐにどうでも良くなった。
 何でもいい。
 俺が今考えるのは、
 奴に俺のスタンドを叩き込む。
 それだけだ。

 男の注意はぃょぅに完全に向いていて、
 俺には気が付いていない様子だった。
 俺はゆっくりと、しかし確実に、泳いで距離を詰める。

 近づいた。
 今だ!!

 腕をスタンド化させ、
 そのパワーでの腕かきにより一気に距離を詰める。
 そして男に向かって腕を振りかぶる。
 俺に気が付いたのか、
 男は振り返る。
 しかし俺は構う事無く、拳を突き出していった。


  TO BE CONTINUED…

628神々の遺産を書いている人:2004/01/06(火) 18:43
突然ですが、今、私が書いている「神々の遺産」の続きを書くことを
やめます。読まれている方には大変申し訳ないのですが(読まれている人
がいるのかが疑問ですが)ご了承ください。

629アヒャ編を書いている人:2004/01/06(火) 19:23
そうですか。続編は気になってたんですけどね。
お疲れさまでした。

630N2:2004/01/06(火) 20:30
大変残念です。
今までありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

631新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 22:04
>>628
お疲れ様。

632新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:37
貼ります。

633新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:38
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その③



「くそっ!太っているくせに逃げ足だけは速いんだなあいつ!ここで逃がしたらもう
 後は無い、絶対に捕まえてやる!」

俺は先ほど犯人の顔をじっくりと見ることができた。
秋葉原でうろついていそうな典型的なデブオタだ。
体が大きく動き辛そうなのに、とにかく早い早い。
俺たちは今全力疾走で奴を追いかけている。
『廊下は走るな』の張り紙など無視だ無視。
他の生徒をほとんど力ずくで弾き飛ばしているのは少々心が痛むが。
「はあ・・・はあ・・・い、息が切れてきたのだ・・・・。
 あの男スタミナあり過ぎなのだ・・・・。」
ヅーが弱音を吐き始める。
もう何メートル走っただろうか。
そろそろ俺も息切れしてきた。
こうなったらどっちかの体力が無くなるまでだ。
 俺のスタミナが尽きるのが先か、奴の体力がなくなるのが先か…
そう考えていた時だった。
「あ〜〜〜〜〜!もう我慢の限界なのだぁ!こうなったらあの男を蜂の巣にしてやるのだぁ!」
デブオタに追いつけない憤りからかついにヅーが切れた。
「お、おい待て!時に落ち着け!」
俺は慌てて制止しようとした。
だが、手遅れだった。
その時すでに『メタル・ドラゴン』の腕に装備してあるガトリング・ガンの銃口が男に向けられていた。
「てーーーーッ!」
他の生徒も居るというのに躊躇する事なく発砲した
ズドドドドドドドドッ!!
独特の回転音と、飛び散る薬莢。
廊下の壁に何箇所も穴が開く。
周囲を覆いつくす白煙。
それに加えて窓ガラスが割れる音と悲鳴も聞こえた。
バコッ!
「馬鹿野郎ッ、何考えてんだ!他の人に当たったらどーすんだよ!?つーかほとんど
 外れているぞ!」
俺はヅーの頭をぶっ叩いて怒鳴った。
「ごめ〜ん。精密機動性が低かったの忘れていたのだ〜。」
しばらくすると白煙が薄くなってきた。
見ると男がうずくまっている。
背中には7〜8発の銃撃の跡があり、出血している。
「あ、何発か当たっている。よかった〜。何とか足止めになったのだ。結果オーライ。」
ボカッ!
「結果オーライじゃね〜!」
もう一発ぶん殴っておく。
「痛いのだ〜。」
俺とヅーの二人で漫才やっているあいだにまた男が走り始めた。
「おい、あれだけ食らっているのに走っているぞ!」
「体内の脂肪が防弾チョッキ代わりになったのかな〜?しかたない。
 もう一回・・・・。」
「だー!もう止めろ!冗談抜きで死者出るから!」
俺たちはまた走り始めた。

気が付いたときには俺たちは校庭に出ていた。
まだ昼休みなので生徒達がサッカーやドッジボールに興じている
このまま校門から出て行くつもりだろうがそうはいかない。
だが、俺の予想はあっさりと外れた。
いきなり男が右に曲がったのだ。
いったいどうしたというのだ?
男の進行方向を見た俺はハッとした。
(あそこに居るのは・・・レモナ!?)
そこには何も知らないレモナが友人と歩いていた。
しかも男の手には何処にしまってあったのか小型ナイフが握られている。
―――しまった!
この後の展開はだいたい予想がつくだろう。
ヤバイ、とにかくヤバイ。それだけは確か。
「レモナ、逃げろ!」
「え…! きゃぁっ!!」
遅かったか・・・・。

634新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:39


悪い予感は的中した。
奴はレモナを羽交い絞めにするとナイフを突きつけたのだ。
「いやあっ!放してよ!」
「う、動くなぁ!動くとこの子がどうなるか分かるよな!」
突然の出来事に周りの生徒達が一斉に男を見た。
人質をとってまで逃げようとする。
人間として最低な野郎だ。
「ちっ!流石に人質とられちゃ下手には動けないよなあ。」
「アヒャ君質問。」
その時ヅーが質問してきた。
「はいヅーちゃん。」
「何であのキモオタ野郎は普通に逃げなかったのでしょうか?
 スタミナからしてあいつの方が上なのに。」
「あのね、俺たちが他の皆に声をかけりゃぁ一発じゃん。安全に逃げるには
 人質をとれば確実。そんぐらい分かれよなぁ。」
「なるほど。スッゲー分かりやすい。」
俺たちは夫婦漫才師かよ。

「フフフ・・・お困りのようですね。」
何処から来たのかマララーの野郎が近づいてきて言った。
「ここはこの愛に燃える哀・戦士この僕にお任せを・・・。」
「黙れ、エロス。」
俺はマララーの顔を向けずにに吐き捨てた。
「それは心外だな。僕だって役に立つことがあるんだから。」
「ほう、だったらあいつを止められるのか?」
「もちろん。僕には君みたいにスタンド能力は持ってないけど、
 ヒゲ部で鍛えた技があるからね・・・。」
えっ?今なんて・・・
奴は男に向かって行った。
「く、来るなぁぁ!!」
慌ててナイフを振り回す男。
「観念しろ・・・。これで終わりだ。」
そう言うとマララーは頭の上に手をかざした。
いったい何が始まるんだ?
そしてオーバーにゆっくりと弧を描くように手を下ろし・・・

ズボンのチャックを下ろした。

「・・・何やってんだ?」
「フフフ・・・これぞセクシーコマンドー『エリーゼの憂鬱』!(略してエッちゃん)」

俺の視界からマララーが消えた。
いや、ヅーの掌打を食らって吹き飛んだ。
大丈夫か?3〜4メートルは飛んだぞ。
「ヤバイ!顔面が内出血起こして腫れている!」
「ドドリアさんみたいな顔になってるぞ!」
ダウンしたマララーに駆け寄った男子生徒が叫んでいる。
マララー・・・いや、彼は・・
脳内で何を生み出そうとしていたのだろうか。
「やっぱり奴に期待した俺が馬鹿だった・・・・。何とかして
 あの男をレモナから離さないと。」
その時背中から声がした。
「俺だったら何とかなるかも。」
「本当かブラッド!?」
「ああ、ちょっと耳かしな・・。」

俺は男にじりじりと近づいた。
「な、何だよ?何がしたい!?」
俺はにこやかな笑みを浮かべて両手を広げる。
「俺はこのとおり無防備だ。俺の話を聞け。」
「い、いやだ・・・いやだ!」
男が後ずさりする。
その時、レモナと男の間にほんの少しばかり隙ができた。
「今だ!」
俺が叫ぶと同時に地面から腕が伸びて男の顎をとらえた。
「ぐえっ!」
――やった。
俺が男に向かっている時に、ブラッドが俺の体を伝わり男に見えないように
地面に滲みこんで男を完全に射程に捕らえていたのだ。
「せいやあああああああああ!!!!!」
ラッシュの嵐が男に直撃した。
「うげふっ!」
吹っ飛ばされていく男。
地面に落ち、そのまま転がり校舎の壁にぶつかってようやく動きが止まる。
「やれやれ。これにて一件落着か・・。」

635新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:39

しばらくして・・・・。
あの男は手錠を掛けられていた。
警察の人がやってきて、あいつは刑務所にいれられる事となった。
「これでやっとレモナも安心して学校に来れるな。」
「一時はどうなる事かと思ったのだ。」
ヅーと話をしていたらレモナがやってきた。
「あ、アヒャ君。その・・・どうもありがとう。」
「気にすんなって。」
俺は声を上げて笑った。
その時だった。
「うおおおおおおお!」
男が手錠を付けたまま警官を振り切り逃げ出した。
「あいつ、まだ懲りてないのか!?」
男は必死の形相で走っていた。
「いやだ・・・・つかまりたくない・・・。何でおれが・・・。」
すると何処からか声が聞こえた。
「お前はここまで来てまだ反省していないのか?」
「はあ・・はあ・・・な、何だよ!?僕は警察に捕まる様な事はしていない!
 ただレモナタンに好きになってもらいたいだけだ!」
「なるほど・・・話しても無駄か・・・。」
不意に上方から聞こえてくる声に釣られて見上げると、天から巨大な何かが降ってきている。
「・・・・え?」
ドグシャァァ!!!!
落ちてきたのはロードローラーだった。
そして男はそれに潰された。
「うわあああああ!」
「た・・・たいへんだ!男が下敷きになったぞ!」
「いそいでどかせ!」
「救急車を呼べ!」
辺りが急に騒がしくなる。
「君たち下がって!早くどきなさい!」
アヒャ達は未だに事態が飲み込めていないようだ。
しばらくして。
「・・・だめです。死亡してます。即死です。」
「死んだ・・?」
「信じられないことですが、突然現れたロードローラーに潰されたんです。
 よける暇も無かったでしょう。」
「事故死か・・・・ヤツの最期は『事故死』・・・。」
アヒャとヅーは顔を見合わせた。
「これでいいのだ。いくら捕まったっていつか釈放されるんだから・・・。
 これが一番いいのだ。」
「そうか。あいつの死に顔でも見ておくか・・。」
「やめたほうがいい。」
何処に居たのか今度はモララーが来た。
「アレは見ないほうがいい・・・。だって人が潰れてんだよ。アレを見た後もし夕飯に
 スパゲッティーカルボナーラが出るとしたら・・・ゾッとするよ・・・。」
「あっそ。だったらやめるよ。」
俺たちは自分の教室へと戻った。

636新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:40

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.........................\     /    /....|  |__|::::::::(  ヽ::::::::::::::::::::::::;;;
..............................) ___/..........|  |.................. ⌒" `...................... 
............................... ̄..............................(__)................................................

男は、ビルの屋上から夜景を眺めていた。
月の光がその男と持っている『矢』を照らしていた。
「ここに居たのね。」
一人の少女が男に話しかけてきた。
片方の目が荒々しく縫い付けられている。
「・・・お前か。どうした。」
「どうしてあのデブオタの事殺したの?」
「アイツは野放しにはしておけない・・・また犯罪を犯しても不思議じゃなかった。
 だから殺した。」
「ふーん。」
少女は男の隣に座り込んだ。
「ねえ、いつまでその『矢』でスタンド使いを増やすつもりなの?」
「・・・俺たちに協力してくれる奴が現れるまでかな・・。」
「でもいくら能力を引き出したって仲間になってくれるとは限らないよ。
 エゴだよそれは。」
「可能性は無いとは言い切れないだろ。『奴』がこの茂名王町か隣の海宮町に居るのは確実だ。
 アイツの能力で犠牲者が増えるのはもういやなんだ・・・。俺とお前の『能力』でも
『奴』のパワーとスピードに勝てるか分からない。」
二人はしばらく黙っていた。
「アヒャ・・・・それにブラッド・レッド・スカイ・・・。アイツは面白い奴だったな。
 矢でスタンドを出したときに礼を言う奴なんて初めてだ。今度会ってみる価値は
 あるかもな・・・。案外話が早かったりして。」
男は立ち上がると少女に言った。
「これ以上居たら風邪引くから帰るぞ。」
「わかった。」
二人の姿は夜の街へと消えていった。
今宵は月が美しい。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

637新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:42
以上です。新スレテンプレの議論スレの作品紹介でN2さんが本編と
書いてくださいましたけど、この物語は番外編です。
N2さん説明遅れてすいません。

638:2004/01/06(火) 23:56

       /´ ̄(†)ヽ
      ,゙-ノノノ)))))
      ノノ)ル,,゚ -゚ノi  <・・・
     /,ノノ/+__y,,j~lつ
     ん〜l_,丿__,],/
        く_+|l_|

  グロい展開が続きますので、
  せめてアタマくらいは似合わない着物姿でも。


「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その5」



 窓から吹き込む風でロングコートがはためいた。
 学校で会った時のように、勝手に発動する『アウト・オブ・エデン』。
 やはり、真っ黒だ。
 顔も体も関係なく、何もかも真っ黒に塗りつぶされたように視える。
 奴の周囲に立ち込める『気配』も、今までに視たことがない。
 『気配』というものにも、それぞれに個性がある。
 『矢の男』の気配は、黒く立ち込めた霧のように視えた。
 周囲を覆いつくすような、息苦しい閉塞感。
 殺気を放っている時のリナーの気配は、鋭い冷気のように視える。
 周囲のもの全てを凍てつかせる極寒の刃。

 だが、この『蒐集者』の気配は全く性質が違う。
 情景が重なって視えるのだ。
 それは、夜の砂漠。そこに転がるいくつもの死体。それに内包する『生』と『死』。
 死体死体死体。全てを焼き尽くす太陽。転がる骨。人骨、死体。
 時計の音。そう。みんな死んだ。みんなみんな死んだ。
 学校の教室。廊下に山積みになった死体。
 それを、一つ一つそれぞれの席に座らせる。
 30人の死体。机に座る30人の死体。
 教会の鐘の音。時を刻み続ける時計。
「『最強』とは、どういう意味か――」
 こちらを見据えて、問いかける男。

 ―――!!
 俺は首を振る。
 精神が奴と同化しそうになった。
 ここは、確かにつーの家だ。
 この風景は何だ? 奴を見ていると、次から次へと不気味な情景が浮かんでくる…

 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「もうしばらくは経過を見たかったんですがね… 見つかってしまった以上は仕方がない…」
 両手を広げ、コートの裾をはためかせながらゆっくりと近付いてくる『蒐集者』。

 その『蒐集者』に向けて突進する影。
 つーだ。その体は、先程のように『BAOH』に豹変している。

「速い…!」
 『蒐集者』は呟いた。
 その身体に、腕から突き出した刃が突き通される。
 武装現象の一つ『BRSP』は、『蒐集者』の胸を一直線に貫いた。
「狙いも正確ですね。心臓を一撃とは…これは即死レベルだ。素晴らしい…!」
 胸部に刃を突き立てられたにも関わらず、平然と呟く『蒐集者』。
 これは… 幻か!?
 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視線を展開した。
 だが、つーの刃を胸に受けている『蒐集者』は紛う事なき実体だ。
 吸血鬼? それとも奴のスタンド能力?

 つーは刃を引き抜くと、後ろに飛び退いた。
 そのまま『蒐集者』を見据える。
「どうしました? もう来ないのですか?」
 その胸の傷は早くも塞がっていた。
 それどころか、穴の空いたコートまで元に戻っていく。
 これは一体…!?

 つーは、自らの手首から突き出した刃を不審そうに見ていた。
 そして、おもむろに刃をもう片方の腕で掴む。
 掴んだ掌から血が噴き出した。そのまま、刃を引っ張っているようだ。
 あれは、何をしているんだ?

 『蒐集者』は、腕を組んでその様子を興味深げに眺めている。
 口元に薄笑いを浮かべながら。

 つーの腕から煙が噴き出す。
 腕を溶かしているのか?
 確かレモナは、掌から特殊な液体を分泌する武装現象があると言っていた。
 さっきも、俺の目の前で分厚い本をドロドロにしたのだ。
 しかし、つーは何を考えているんだ?
 その右手はドロドロに溶けてしまったではないか。

 その右腕をかざすつー。 
 みるみる再生して、元の形に戻った。
 しかし、刃の位置が前とは違う。
 『BRSP』は5本に分かれて爪の先に存在していた。
 つーの右手は、まるで鍵爪を装着したように変化したのだ。
 その右手をじっと見ながら指を動かすつー。

「そっちの方が、あなたにとって攻撃しやすいという事ですか。
 それなりの知恵もあるようですね。いや、本能に近いのかな…?」
 その様子をじっと観察していた『蒐集者』は口を開いた。

 同様に、つーは自分の左手を溶かす。
 右手で慣れたのか、左手は一瞬で形作られた。
 両指の爪の延長に存在する10本の『BRSP』を、試すように動かすつー。
 そして、強力な殺意を『蒐集者』に向けた。

「準備万端ですね… それでは、新しい『BRSP』の威力を見せてもらいましょうか」

639:2004/01/06(火) 23:57

 真っ直ぐに『蒐集者』に飛びかかるつー。
 そして、両腕の爪を振るう。
 『蒐集者』の体は、瞬く間に寸断された。
 輪切りになった『蒐集者』の体は、血を噴き出しながらゴトゴトと地面に落ちる。

 やった…! と思ったのは、ほんの束の間だった。
 魔法のように寸断された体が繋がると、何事もなかったかのように起き上がる『蒐集者』。
 床には血の跡すら残っていない。
「鋭さも抜本的に増している。まるで小規模な進化ですね…」
 笑顔を浮かべて呟く『蒐集者』。
 こいつは、一体…!

 つーは、さらに『蒐集者』の体を斬りつけた。
 だが、その傷は瞬時に塞がってしまう。
「ハ… ハハハハハハハハ!!!」
 狂ったような笑い声を上げる『蒐集者』。
 それに構わず、つーは何度も何度も『蒐集者』の体に爪を振るった。
 しかし『蒐集者』はビクともしない。
 いや、確かに肉が裂けて血は吹き出るが、1秒もすると元に戻ってしまう。
 手足や首が切り離されても同様だ。
 つーは凄まじいスピードで『蒐集者』の体を斬り刻み続ける。
 床や天井がその風圧で崩れ、血飛沫が舞い上がった。
 だが、『蒐集者』の笑い声が止む事はない。
「素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい
 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい
 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい!! だが…」
 『蒐集者』は、つーの首を掴んで持ち上げた。
 生身の肉体で、高速で動いているつーの体を掴むなんて…!
 つーの体から炎が噴き出した。たちまち紅蓮の炎に包まれるつーの体。
「今の状態は大体分かりました。しばらく休みなさい…」
 炎に包まれて動かなくなったつーの体を、『蒐集者』は窓から外に放り出した。
 そして、奴は俺の方に向き直る。
「あれは後から回収するとして… あなたはかかって来ないんですか?」
 俺は一歩後ずさった。
 今の俺に適う相手じゃない。
 だが、こいつは俺を殺さないような予感がする。
 そこに付け込めば…

「確かに、貴方の命を奪ったりはしません。ですが、貴方の精神には死んでもらいましょう」
 『蒐集者』は、俺の心を読んだように言った。
 …やはり、考えが甘かったようだ。

「レモナ!」
 俺は『蒐集者』に目線を合わせたまま、首だけで飛んでいるレモナに呼びかけた。
「お前はここから離れるモナ!」
「イヤよ! モナーくんを放っておける訳ないでしょ!?」
「首だけで何ができるモナ!!」
 レモナの首は、押入れに転がっている体のところへ飛んでいった。
「ちょっと待ってて! 急いでシステムを復旧させるから…!」

 ちょっと待っててって言われても…
 俺はバヨネットを取り出して構えた。
 『アウト・オブ・エデン』は既に展開している。

 『蒐集者』は口を開いた。
「それにしても… 怒り狂って飛びかかってくるかと思っていたが、意外と冷静なんですね。
 それとも、まだ気付いていないのかな…?」
「何の事モナ?」
 俺は呼吸を落ち着かせて言った。
 本当に、この俺がこんな化物と戦えるのか?

 『蒐集者』はおどけた仕草を見せた。
「やれやれ… まだ気付いていなかったとは。あれだけヒントを上げたのに…ねェ?」
 こいつの言葉に耳を傾けるな。
 どうせ、こいつは適当な事しか言わない。
「察しの通り、私が研究していたのは新種の『BAOH』です。
 武装現象と、吸血鬼の特質や不死性を併せ持った究極の『BAOH』をね…」
 吸血鬼…だと!?
 こいつは、何でそんな物を…!

「そして…言ったはずですよね。実験体は2体いたと。成功した方が、外で転がっているつー。
 そして、失敗して破棄された実験体の名は… あなたのよく知っている、じぃです」
 その名を聞いて、頭が真っ白になった。
 血液が沸騰する。
 今、こいつは何と言った…?

 『蒐集者』は、薄汚い口を開いた。
「じぃは吸血鬼の特質が大きく発現してしまい、ただの吸血鬼の出来損ないになってしまった。
 故に、廃棄処分としました。まあ、実際に手を下したのは――」

 その言葉を聞く前に、俺の理性は弾け飛んだ。
「お前がァァァッ!!」
 俺は床を蹴って、そのまま壁を駆け上がった。
 そして、奴の頭上からバヨネットを振り下ろす。
「ほう…」
 『蒐集者』は袖から出したバヨネットでその攻撃を受け止めた。
 空中で体勢を整え、着地する俺。

640:2004/01/06(火) 23:57

 奴の身体から、凄まじい熱気が吹き寄せる。
「『アヴェ・マリア』…!」
 『蒐集者』の体からスタンドが浮き上がり、そこから噴き出した炎が俺に向けられた。

 ――『アウト・オブ・エデン』。
 バヨネットを軽く振って、炎を全て『破壊』する。
 
 その隙を狙って、『蒐集者』のスタンドが突っ込んできた。
 だが、『アウト・オブ・エデン』はその奇襲をも見越している。
 その拳をかわすと、無防備な『アヴェ・マリア』の顔面にバヨネットを突き立てた。

「面白い…! なかなかにやってくれますね…」
 『蒐集者』の顔面が大きく裂け、血が噴き出した。
 しかし、その顔にこびりついた笑みは消えない。

 『蒐集者』は指を鳴らした。
 俺の身体が、急に重くなる。
 まるで、全身に鉛でもつけられたように。
 いや、俺だけじゃない。
 電灯を釣っている紐が切れ、床に落ちて粉々になった。
 ビリビリと裂けるカーテン。
 俺はその重みに抗え切れず、床に片膝をついた。

 『蒐集者』はさっきの俺のように、天井を蹴って飛び掛ってくる。
 『アウト・オブ・エデン』でその動きは視えたが、体の重さのせいでかわしきれない。
 奴の攻撃が一閃した。
 着地すると、『蒐集者』はバヨネットから血を払う。
 同時に、俺の左肩から血が噴き出した。
 …この傷は、かなり深い。

 俺は立ち上がろうとした。だが、動けない。
 その重圧に抵抗する事ができない。
 ポタポタと床に落ちる俺の血。
 花瓶が倒れ、水が床を濡らす。
 テーブルの足が折れ、卓の部分が大きな落下音を立てた。

「さて…チェックメイトですね。何か言いたい事はありますか?
 これでも神に仕える身。あなたの大切な人に伝えておきますよ…」
 薄笑いを浮かべ、もう1本のバヨネットを取り出す『蒐集者』。
 両手にバヨネットを掲げて、こちらに歩み寄ってくる。
 俺はその姿を無言で睨みつけた。
「特に言い残す事はない、ということですか。慎み深い…。
 あの哀れな『異端者』に何も言う事がないとは、あなたも残酷ですねぇ…」
 …リナー?

「リナーには、手を出すな…!」
 俺は言葉を絞り出した。
 本来、『蒐集者』とリナーは『教会』の仲間であるはず。
 だが、奴が『異端者』の名を口に出す時、確かな悪意が感じられた。

「消え行く貴方の頼みでも、それは聞けませんねえ… あの女は、じきに私が葬ります」
 脳が焼け付く。
 リナーを殺すだって?
 こいつは、必ずブチ殺す…!

「バラバラだ…!」
 俺は呟いた。
「何です? 気が変わりましたか?」
 『蒐集者』はその顔を近づけてきた。
「テメェの体をバラバラにして空に撒いてやるッ!!!」
 俺は怒鳴った。
 さっきから、俺の動きを封じている重み。
『アウト・オブ・エデン』で、地面に向けて落ちていく黒い線が視える。
 これは… 重力だ!!
 『蒐集者』は高く跳んだ。
 そのまま、バヨネットで串刺しにする気だ。

「うおおぉぉぉッ!!」
 俺はバヨネットを思いきり床に突き立てた。
 ――重力を『破壊』。
 それと同時に横に飛び退く。
 目標を失った『蒐集者』の一撃が、床に突き刺さった。
 今が絶好の好機。

641:2004/01/06(火) 23:58

 俺は、床からバヨネットを引き抜こうとしていた『蒐集者』の一瞬の隙をついて、奴に突進した。
「くっ…!!」
 『蒐集者』の体が発火する。
 灼熱の炎に包まれる奴の体。
 近付いただけで、人体など炭化してしまうだろう。
 そう、普通なら。
 …だが、俺にそんな防御は通用しない。
 『アウト・オブ・エデン』の前では、炎など沈黙する。
 バヨネットを突き立てて、その炎を『破壊』した。
 あっという間に消滅する炎。
 その勢いで、『蒐集者』の体に思いっきり体当たりを食らわせた。
 そのまま、奴の喉にバヨネットを突き立てる。
「…!!」
 よろける『蒐集者』の肉体。
 刃が貫通し、剣先が首の後ろから覗く。
 タックルした勢いで、俺と『蒐集者』の体は窓に激突した。
 粉々に砕け散るガラス。
「素、晴―ッ――ァ―」
 喉からヒューヒューと空気を吹き出しながら呟く『蒐集者』。

「聞こえないな… はっきり言え…!」
 そのまま、俺と『蒐集者』の体は窓から外へ飛び出した。
 もつれあって落下する俺と『蒐集者』。
 俺は奴の喉からバヨネットを引っこ抜くと、胸に突き刺した。
 地面に到達するまで、あと2秒。
 俺は、『蒐集者』に語りかけた。
「言ったはずだ。お前は、バラバラにして空に撒くと…」

 空中で体勢を整えると、バヨネットを振るって『蒐集者』の四肢を切断した。
 そして、胸部から腹部にかけて垂直に切り下ろす。
 ぱっくりと裂ける胸腹部の筋肉。
 バヨネットを突き立てて胸骨および胸椎・肋骨を引き剥がし、空に撒いた。
 バケツから振り撒かれたかのような、おびただしい量の血液が空中に舞う。
 そのまま胸腔正中部に腕を突き入れて、胸管・気管・食道・大動脈弓・腕頭動脈・腕頭静脈・右総頚動脈・
 右鎖骨下動脈・右鎖骨下静脈・左総頚動脈・左鎖骨下動脈・左鎖骨下静脈・上大静脈・胸大動脈・内胸動脈・
 肋間動脈・肋間静脈・肋間神経・奇静脈の全てを引きちぎった。
 心臓は、左右冠状動脈を切断した後に左右心房・心室に切り分け、体外に放り出す。
 ついでに肺も引きずり出しておいた。
「―ゥ――ァ―…!!」
 ぱくぱくと口を動かす『蒐集者』。
 非常に気が散る。
「少し黙っていてくれ…」
 バヨネットを顔面に突き立て、前頭筋・後頭筋・眼輪筋・笑筋を切断した。
 これで、しばらくあの笑みは見ずに済む。
 頭蓋骨から下顎骨を引き剥がし、頭頂部を切除する。
 露出した脳を適度にスライスして、これも空に撒いた。

 地面に到達するまで、あと0.5秒ほど。
 少し急ぐ必要がある。
 横隔膜より上の部分を切断し、空っぽになった胸部を投げ捨てる。
 外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋を切り開き、腹部内臓器官を露出させた。
 胃〜十二指腸〜空腸〜回腸〜上行結腸〜横行結腸〜下行結腸〜S状結腸までを引きずり出し、細かく刻む。
 肝臓は、右葉・左葉・方形葉・尾状葉・門脈・総胆管・肝円索に至るまで丹念に破壊しておいた。
 腹大動脈・下大静脈・腹腔動脈・上腸間膜動脈・腎動脈・腎静脈・下腸間膜動脈・脾動脈・脾静脈の切断も忘れない。
 最後に腎臓を2個とも取り出し、腎盤・腎乳頭・腎錘体・腎杯・腎柱に切り分ける。

 ――解体終了。
 まだ心残りはあるが、与えられた時間ではこれが限界だ。

 私は身を翻して、路面に着地した。
 同時に、奴の体の断片や大量の血液が雨のように降り注ぐ。
 それらは路面に落ちて、湿った音を立てた。
 どうせすぐ再生するだろうが、しばらくは満足に動けはしないだろう。


 …俺は地面に片膝をついた。凄まじい頭痛。
 しかし、弱音を吐いてはいられない。
 アイツは、引っ込んでしまったようだ。
 いちいちしゃしゃり出て来やがって…!

 俺は返り血を払うと、周囲を見回した。
 辺りには、『蒐集者』の肉片が散乱していた。
 …気味が悪い事この上ない。
 ビクビクと動く『蒐集者』の肉片。
 ここまでやれば、流石に回復も遅いようだが…
 俺は頭を抑えた。体がギシギシと音を立てる。
 もう、俺の身体も限界のようだ。

642:2004/01/07(水) 00:00

 それで、今の俺に何ができる?
 おそらく、こいつにはどう足掻いても歯が立たない。
 つーは気を失っているし、レモナの体もボロボロだ。キバヤシも部屋で気絶したまま。
 かと言って、逃げたところで再生した『蒐集者』にあっという間に追いつかれる。
 『アウト・オブ・エデン』で視たところ、再生が完了するまであと30秒。
 ここまで器官の一つ一つにダメージを与えたのだから、再生したところで、しばらくは満足に動けはしないだろう。
 だが、それだけのハンデがあっても、俺に勝ち目はない。
 なら、俺にできる事はたった一つ。
 地面にバヨネットで『SOS』と大きく刻む俺。

 『蒐集者』の肉片が、一箇所に集まりだした。
「この…!!」
 重なり合う肉片にバヨネットを突き刺す。
 だが、奴の再生スピードの方が遥かに上だ。
 スタンド能力は一体につき一つのはず。
 こいつのスタンド能力は何なんだ?
 そもそも、こいつは人間なのか…?

 体組織が組み合わさり、歪な人型が組み上がる。
「ちッ…!」
 俺の振るったバヨネットは、筋肉が露出した腕に受け止められた。
 奴の蹴りが、俺の鳩尾に直撃する。
「げほっ…!」
 俺は、その場に膝をついた。
「正直、感嘆しましたよ… そこまでやるとはね…」
 喉からゴボゴボと音を立てる『蒐集者』。まるで人体標本だ。
 奴が動くたびに、体から肉片がボトボトと垂れ落ちる。
 身の毛がよだつような光景だ。

 奴の体から浮かび上がった『アヴェ・マリア』が、俺の顔面を殴りつけようとした。
「…くっ!」
 必死でかわそうとする俺。
 顔面への直撃は免れたものの、右肩にまともに喰らってしまった。
 ベキベキという音を立てて、右肩の骨が砕ける。
「うわぁぁッ!!」
 俺は肩を押さえて地面を転がった。
「それ位の痛みがどうしたんです。多分、私の方がもっと痛いんですよ?」
 腹部に腸を押し込みながら、グロテスクな笑みを見せる『蒐集者』。
 …バケモノと一緒にするな。

 『アヴェ・マリア』が、転がっている俺に拳を振り下ろした。
 とっさに左腕でガードする俺。
 だが、スタンド相手に防御なんて無駄だ。
 その一撃は左腕の骨ごと俺の肋骨をへし折った。
 …凄まじい激痛で、息ができない。
 それなのに、激しくむせてしまう。
 地面に転がりながら、ゴホゴホと血を吐く俺。

 同時に、『蒐集者』も片膝をついている。
 その右手が、根元から外れてゴトリと地に落ちた。
「本当にやってくれましたね… 器官損傷が多すぎて、再生が部分的にしか追いついていない…」
 ズレた眼球の位置を直す『蒐集者』。
「本来なら、さっきの一撃であなたの胸部ごと破壊できたはずなんですがね…
 貴方には無駄な苦痛を与えてしまったようだ…」

 …まだか?
 早く来てくれないと、俺の体がもたない。
 必ず来てくれるという保証がないのが辛いところだ…
 血を吐きながら咳き込む俺。
 呼吸音がおかしい。肺に損傷があるようだ。

「仕方がない… 意識の強い相手に、余りやりたくはありませんが…」
 『蒐集者』はため息をつく。
 そして、スタンドではなく生身の手を俺に差し伸べてきた。
 ――あれはヤバい。
 『アウト・オブ・エデン』が全力で危険を告げる。
 俺は力を振り絞って、その手にバヨネットを突き刺し、そのまま地面に縫い付けた。
 それが限界。もう、指一本動きやしない…

643:2004/01/07(水) 00:01

 『蒐集者』は、バヨネットで地面に縫い付けられた右腕を引き剥がそうとした。
 その腕は、手首からもげてしまう。
「まったく… 苦労をかけさせてくれますね…」
 奴はバヨネットを引っこ抜いて、右手を拾い上げた。
「往生際の悪い事だ… それか、何かを待っているのかな?」
 地面に転がっている俺を見下ろし、あざ笑うように言う『蒐集者』。
「そこらに転がっているつーは、あと1時間は目を覚ましません。火は『BAOH』の弱点ですからね。
 『Re-Monar』もしばらくは戦闘不能だ。完全稼動まで3時間ほどですかね…
 『解読者』は、完全に意識を失っている。代行者とはいえ、肉体の強度は普通の人間と変わりませんからね…」
 キバヤシなんぞには、ハナっから期待していない。
 俺が待っているのは…

 『蒐集者』は、先程俺が地面に刻んだ『SOS』の文字を見た。
「それとも… この冗談のようなメッセージで助けを呼ぼうとでも…?」
 俺は押し黙る。
 …図星だ。

 『蒐集者』は不快な笑い声を上げた。
「ハハハ… 雪山で遭難でもしたのですか、貴方は…!
 こんなもので助けを求めるとは、清々しいまでのアナログさだ…!」
「俺が、その文字を刻んでから、もう5分が経ってる…」
 俺は言葉を絞り出した。唇を動かすだけでも苦痛だ。

「何分経とうが、助けなんて来やしませんよ。たまたま飛行機やヘリが通りかかって、この『SOS』を発見する?
 そして、スタンド使いである私に対抗できるような助けが来る? 絶対にありえないと断言しましょう!!
 そんな偶然が起きるのなら…」
 俺は、『蒐集者』の言葉を遮った。
「俺は、偶然なんか期待するほど楽観的じゃない…
 つい最近聞いた話なんだが… 軍事目的で使われる人工衛星は、軍事気象衛星、軍事航法衛星、
 軍事通信衛星、軍事偵察衛星、早期警戒衛星、通信傍受衛星などの種類があるそうだ…。
 そして、軍事偵察衛星は2〜3mでの識別すら可能らしい… 全部、受け売りだけどな…」

 近付いてくるヘリのローター音。 
「まさか…ッ!」
 『蒐集者』は空を見上げた。

「俺は、助けなんて生易しいものは呼んでない…!
 俺が呼んだのは、お前みたいなスタンドを悪用するゲス野郎を抹殺する連中だッ!!」
 
 高速で飛来したヘリが、俺達の頭上を通過する。
 そのヘリから飛び降りる一つの影。
 …間違いない。
 その影は、巨大なハンマーを手にしていた。

「呼んだのか… ASAをッ!!」
 『蒐集者』にしては珍しく、語尾を荒げて俺を睨んだ。
 そして奴は、『アヴェ・マリア』を発動させた。
 『アヴェ・マリア』が、落下するしぃ助教授に向けて特大の火球を放つ。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授の身体から、女性型の華奢なスタンドが浮き上がった。
 その直後に、火球を食らうしぃ助教授。
 …いや、その身体にはいっさい届いていない。
 炎の塊は、しぃ助教授の身体を避けるように散っていく。
 彼女の体は、『力』の指向性を操作する防御壁、『サウンド・オブ・サイレンス』によって覆われているのだ。
 しぃ助教授のハンマーは、『蒐集者』を捉えていた。

「くッ…!」
 素早く飛び退く『蒐集者』。
 しかし、トランポリンで跳ね返るように元の位置に戻ってしまった。
 …今のも、しぃ助教授のスタンド能力だ。
 『蒐集者』の、移動する方向を180度転換させたのだ。

 『蒐集者』に、落下速度を加えたしぃ助教授の一撃が直撃した。
 そのハンマーでの渾身の一撃は、地面に大きなクレーターを形作る。
 『蒐集者』の体は完全に押し潰された。

 しぃ助教授はゆっくりとハンマーを持ち上げる。
 その下には、無残にひしゃげた死体。
 散らばった赤黒い器官の、どこが体のどの部分だったかすら判別できない。
 だが、それは今の一瞬だけだ。

644:2004/01/07(水) 00:02

「油断しちゃ駄目モナ! そいつはまだ…!」
 俺は大声を上げて忠告した。
 しぃ助教授はにっこりと微笑む。
「分かってますよ。それにしても、『蒐集者』を相手によくたった一人で戦いましたね…」

 肉塊がずるりと起き上がった。
 またもや再生する『蒐集者』の身体。
「まさか、三幹部の一人たる貴方が来るとは… 予想できませんでしたね…」
 『蒐集者』はゆっくりとしぃ助教授の方に向き直った。

 気のせいか、さっきから『蒐集者』の再生速度が上がっている感じがする。
 バラバラに解体した時は30秒ほどかかったのに、今度は3秒もかかっていない。
 それどころか、体に皮が張り、ロングコートまで再生している。

「せっかく来たはいいが… 貴方に私が殺せますか…?」
 『蒐集者』は口の端を引きつらせて、歪な笑みを浮かべた。
「私と互角には戦えても、私を殺しきる事は絶対に不可能…」
「殺しきれなくても…」
 しぃ助教授は『蒐集者』の言葉に割り込んだ。
「力技で何とかしますよ… 私達、ASA三幹部はね…!」

 ――異様な気配。
 しぃ助教授の背後に誰かいる。
 『アウト・オブ・エデン』でも、今までその存在を微塵も感じなかった。
 しかも、それが二人…!!
 俺の体は、圧倒的な存在感に気圧されていた。
 普通、強者ほどその存在を隠すものだ。
 だが、奴等は違う。その凄みを隠そうともしない。

 あれは… ニワトリ?
 腕組みをした、筋肉隆々のニワトリ。
 何を考えているのか分からない不気味な瞳。
 そして、異常なまでの暴力性が視える。

 もう一人は、女の子だ。
 何故か、一筋の涙を浮かべている。
 ゴスロリと言うのだろうか、フリルに包まれたような衣服を着用していた。
 ふわりと広がったスカートから、細い足が覗く。
 その無機質な瞳は、冷たく暗い。
 まともな感情は持ち合わせていないのではないか?
 いや、感情そのものを持っているか疑問だ。

 俺の体は、萎縮しきっていた。
 ケツの穴にツララを三本分突っ込まれたような感覚。
 足がすくむ。あれと敵対すれば、命はない。
 それを本能で実感する。
 あれが、ASA三幹部…!!

「ほう… 3人とも揃っているという事は、何か嗅ぎつけたのかな?」
 『蒐集者』はコートの襟を正しながら言った。

645:2004/01/07(水) 00:02

「貴方のスタンド、『アヴェ・マリア』の能力は調べましたよ。まさか代行者である貴方の能力が、
 データベースに登録されているとは思いませんでした…」
 そして、しぃ助教授は俺の方を見た。
「ASAのスタンド・データベースは、50年ほど前に成立しました。それ以前は、紙に記録していたんですが…
 その中に、あの『蒐集者』のスタンド能力について記された記録があったんですよ。120年前の記録の中にね…」

 120年前だって…!?
 目の前の『蒐集者』は、20歳かそこらにしか見えないが…

 しぃ助教授は、再び『蒐集者』に向き直った。
「いいえ、『アヴェ・マリア』に関してのみではありません。貴方自身についての、膨大な量のデータが存在しました。
 貴方の出生、年齢、遍歴、目的、モナー君との関係…」
「なるほど、ASAもマメな事だ」
 『蒐集者』はおどけたように肩をすくめた。
「で、三幹部総動員で私を殺しに来た、という訳ですか?」
 しぃ助教授は首を振った。
「貴方は死なないでしょう? ですが… いくら貴方とはいえ、三幹部を同時に相手にして勝ち目はない」
「つまり… 勝者なしって事ですね」
 『蒐集者』は笑みを浮かべる。

「退きなさい。モナーくんは殺させはしないし、つーを連れ去らせもしない…!」
 しぃ助教授は、『蒐集者』にハンマーを向けた。

「…いいでしょう。これ以上身体を潰されるのも勘弁願いたいですしね…」
 『蒐集者』はコートを翻した。
 その姿がたちまち希薄になる。
「今日は退いておきましょう。私も疲れた…」
 フッと消えてしまう『蒐集者』。
 
「大丈夫ですか?」
 しぃ助教授は、地面に寝転がっている俺に駆け寄ってきた。
「あいつ、スタンド能力いっぱい持ってるモナ… あんなの、反則モナ…!」
 今までの緊張感がどっと抜ける。
 しぃ助教授は首を振った。
「いいえ、彼のスタンド能力はたった一つですよ… 
 それより、大切な話があります。事態は、思ったよりもずっと切迫してるんです。
 私達ASAの本部に来て…って、モナー君!!」
 もう駄目だ。気が遠くなる…
 しぃ助教授の声が、遥か遠くに聞こえる。
 俺の意識は、深淵に落ちていった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

646新手のスタンド使い:2004/01/07(水) 00:08
クックルキターーーー
あとひとりのはAAは思い出せるけど名前忘れたなあ
おもしろかったです
キバヤシ役にたってねえなw

647丸耳作者:2004/01/07(水) 02:36
「遅いなー…おじいちゃん…ご飯も食べてないのに…」
 診療所で食器を洗いながら、マルミミがぼやいた。
『パチンコに行ってくる』と言い残したまま出て行って、もう一時間が経つ。
 いつもなら測ったように三十分で帰ってくるのだが、今日に限って随分と遅かった。
迎えに行こうにも、病み上がりのしぃを一人残したまま出て行くわけにはいかない。
「しょうがないなぁ…」
 カチャリと食器を置いて、手を拭いた。
プライバシーを侵害するようで悪いが仕方ない。
す、と体の力を抜く。息を吸い、吐き、瞼の裏にイメージが揺らめく。
 ココロ カケラ  パワー ヴィジョン
『魂の一部』、『力ある像』。
オノ                               シモベ
己が精神の奥底を映し出す『鏡』にして、最も忠実な『僕』。
「ふぅ―――――ッ…」

イメージが具象化する。
大気がざわめく。
空間が歪む。

誰が付けたのかは定かではないが、『彼等』はこう呼ばれている。
              Stand By Me
              『側に立つ者』――――――

「『ビート・トゥ・ビート』ッ!!」

             幽波絞
――――――即ち『スタンド』と。

 皮膚が泡立ち、脊髄のあたりから人形ヴィジョン―――『スタンド』が抜け出した。
「―――――何ノ御用デショウカ、御主人様?」
背後から現れたヴィジョンが、ヒラヒラした裾口を胸の前に置いて優雅に一礼した。
全体的なシルエットは人間に近いが、上半身だけで下半身が無い。
顔面は白粉を塗りたくったような白塗りで、目鼻に真っ赤なペイントが成されている。
                  ピエロ
一言で形容するのならば、『道化師』が一番近いだろう。
背中から出てきたピエロに向き直り、一言命じた。
「おじいちゃんを『探って』欲しい。頼んだよ」
「承知イタシマシタ」
再び一礼すると、観客に拍手をもとめるかのごとくヒラヒラの両手の平を目の高さまで掲げた。

648丸耳作者:2004/01/07(水) 02:37
      ビート・トゥ・ビート
マルミミと『B ・ T ・ B』の感覚がリンクする。彼の感じる『音』が、マルミミへと流れ込んでくる。

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ―――――

心臓から発する、『生命のビート』。それを感知するのが彼、B・T・Bの能力だ。
まったく離れていないところに『小柄なモナー族』が一人、これは僕。
少し離れたところに『成人のしぃ族』が一人、これはしぃ。ビートがゆっくりなのは眠っているせいだろう。
「索敵半径広げて」
「Yes…索敵半径五百メートルニ拡大シマス」
B・T・Bが両手をあげると、五百メートル以内にいる全ての心拍が流れ込んできた。
年齢、種族、性別、体型、感情―――――
心音は、考えられているよりもずっと多くの事柄を教えてくれる。
(中年のッパ族、男、小デブ、上機嫌…いいことでもあったのかな?)
(若いモナー族、男、筋肉質、ちょっとイライラ…会社で叱られた?)
(中年のあらやだ族、女、小柄、興奮と緊張…今の時間だとタイムバーゲン?)
(ギコ族としぃ族、男と女、両方若い、極度の性的興奮…うわー、日の高いうちから元気のいい―――)
「御主人様」「はっ」
B・T・Bの声で、かなりプライバシーに踏み込んでいる事に気が付いた。
(―――いけないいけないいけない悪い癖悪い癖悪い癖…)
首を振ってビートを振り払い、精度を落として種族と体型だけの鼓動を拾う。
おにぎり、1、八頭身が大勢―――――細身のモナー族、老人、波紋使い。
「いた。えーと、現在位置は…この前の路地?」
「モウ少シ詳シク調ベマスカ?」
「お願い」
B・T・Bの感覚が、茂名の鼓動に集中した。
より鮮明になった心音に、マルミミが首をかしげる。
「…この音…『緊張』と『高揚』に『憤怒』、あと『激しい運動』―――まさか…戦ってる?」
てっきりあらやだ族のオバさん達にでもつかまっていると思っていたが、そんなのどかな物ではなかった。
「『戦ってる』のは間違いない…じゃあ『誰と』?」
メイクに包まれた瞳をつぶり、ピエロが静かに手を動かした。
数秒ほどその動作を続け、目を開く。        サノバビッチ
「コノ鼓動―――先日御主人様ガ心臓ヲ停止サセタSonofaBitch共デス」
「…嘘でしょ?完全に心臓を止めてやったのに。目を覚ますなんてあり得ない―――」
「イエ、鼓動ヲヨクオ聴キ下サイ」
 言われて、スタンド越しに伝わってくる心音へと注意を向けた。
まったく同じ鼓動が、二重に伝わって来る。
 片方は肉体の鼓動。奇妙な存在感を持ちながらそれでいて希薄なもう片方のビート…
マルミミのB・T・Bと同じ、スタンドの鼓動。
スタンド使い、死の淵からの回復―――二つの事柄が、マルミミの頭から一つの答えを導き出した。
「まさか…『矢』!?」
「Yes…ソノ可能性ガ高イト」
 皆まで聴かず、壁にかけられていたジャケットを羽織る。
「助けに行く」
「承知イタシマシタ」
 メモ用紙に外出してくる旨を書き留め、しぃの寝ているベッド側に置いた。
そのまま玄関へ走り『臨時休業』の札をかけて病院のドアを閉める直前、ちら、と壁を見る。

649丸耳作者:2004/01/07(水) 02:38
金色の輝きに、稠密な彫刻を施された一本の『矢』。
      スピードモナゴン
彼の父は、SPM財団の一員だった。
外国を放浪し、様々な事を調査していたらしい。
二〇年ほど前、アメリカの女性と結婚して土産に貰ってきた物の一つだそうだ。
その四年後にマルミミが生まれ、彼等はささやかながらも幸せな生活を送っていた。
(そう、送って『いた』)
何年前だったかは思い出せない。マルミミの心が思い出すのを拒否しているのだろうが、その日起きたことに比べれば小さな事だ。
ランドセルを背負っていたと思うから…多分小学生の頃だったのだろう。
マルミミが家へ帰ってきた時、真新しい診療所は血で染まっていた。
そこにいたのはいくつかの人影。
体中を撃ち抜かれて血を含んだボロ雑巾みたいになった父。
同じくらいの銃弾を浴びて、それでも生きていた母。
マルミミの姿を見て、獲物を殺す喜びに震える何人かの虐殺者達。
虐殺者達が猟銃を構えてマルミミを狙った。
(人間が動ける状態じゃなかったのに、僕の母さんは信じられない速さで僕の前に立って頭が吹っ飛んで)
偶然なのか何かの意図があったのか、母の手から滑り落ちた金色の『矢』が、マルミミの胸に突き刺さった。
そこから先は覚えていない。ただ、診療所へ入ってきた茂名が血の海の中で気絶したマルミミを見つけたと彼には伝えられた。
警察には、何も聴かれなかった。まあ無理もないことだろう。
                              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ムクロ
何しろ診療所の中には蜂の巣になった両親と、爆散した虐殺者達の躯が転がっていたのだから。
虐殺者達は仲間割れで双方死亡と結論づけられ、マルミミはショックを和らげるためしばらく精神科へと通わされた。
マルミミが何をしたのか、茂名以外は誰も知らない。
(…いや、今はうだうだ考えてる時じゃない)
 ほんの数瞬の事だったが、過去への思いを断ち切ってドアを閉めた。
鍵を掛けると庭に止めてある自転車のペダルを蹴り、自動車に匹敵する速度で道を走る。
(間に合ってくれよ…!)

650丸耳作者:2004/01/07(水) 02:42



ばぎゃっ!


 茂名の側にあるコンクリの壁が、音を立てて砕けた。
道路に転がって避けた瞬間、首筋に鳥肌。
両手をガードに回すが、衝撃を殺しきれずに壁へと叩き付けられる。
「『スタンド』っつーんだってな。コレ…あ、見えてないか」
「テメェこの前よくもやってくれたじゃねぇか。バラバラにして糞虫のエサにしてやるよ」
(…二人の立ち振る舞いから察するに…人間形と不定形か)
 ぱらぱらと降り注ぐ破片を払い、再び構えを作った。
 茂名の目にはスタンドが見えていない。二人の本体の動きや気配、周りの物体の動きでスタンドの動きを察知しているのだ。
(じゃが…厄介じゃの)
 人間形はともかくとして、不定形のスタンドはヴィジョンが見えなくては動きが読めない。
(さて…どうする…)

 三択です。一つだけ選びなさい。
①ナイスミドルの茂名が二人ともぶっ飛ばす
②逃げるんだよォ―――ッ!
③負ける。現実は非常である。

(…逃げるか?―――いや、行けばその先で誰かが巻き添えになる。
③はハナから選ぶ気はないし―――やはり答えは…①しかないようじゃの…!)
 ととっ、と爪先で地面を蹴る。
体勢を低く沈め、人間形のスタンド使いに向けて指を弾いた。
「がっ!?」
 茂名の手元から弾き出された直径一センチ足らずの鉄球が、狙い違わず人形スタンド使いの顔にぶつけられた。
間合いの外から繰り出された予想外の攻撃に、思わず怯む。
 拳や蹴りだけが、茂名の技ではない。彼の家に伝わる武術は、戦の為に洗練されてきた実践向けの技にその神髄がある。
今のパチンコ球…『指弾』もその一つで、訓練次第では強力な武器となる。
 タイミングをずらし、不定形のスタンド使いへと指弾を撃ち込んだ。
「テメッ…!」
 反応が早い。空中で、指弾が弾かれる。
だがこれでよかった。二回も同じ手で倒せるとはハナから思っていない。
 茂名の狙いは最初から一つ。不定形のスタンドがどう動いているか判ればいい。
指弾の弾かれた位置が教えてくれる。不定形のスタンドの形を、動きを教えてくれる。
不定形さえ倒せれば、人間形とは互角。
 勝負は一瞬。波紋を流す、〇,一秒。
頭を下げる。その二ミリ上を、不定形の腕が通り過ぎた。
白髪交じりの頭髪が、数本舞った。
 目の前を襲う見えない攻撃にも茂名はまったくスピードを緩めず、瞬きすらせずに跳んだ。
踏み込みと共に、頭部へと指を広げた手を伸ばす。
 男までの距離は三メートル。到底突きが届く距離ではない。
だが、波紋法ならその距離を超えられる。
ゴギリと音を立てて関節が外れ、腕が伸びた。六〇センチほどしかなかった腕の長さが、一メートルを超えて男の顔面へ向かう。
踏み込みと合わさったその掌のスピードは、一瞬にして間合いを削り取る。
           ジャコウ
茂名式波紋法 "蛇咬"。

チベットから渡り、茂名家に代々伝わる波紋の武術。
掌が触れるまで三〇センチ。二〇センチ。一〇センチ、九センチ、八,七,六五四三―――――!

どどどっ。

「かっ…」
 背後から衝撃。背中にハンマーでも投げつけられたかのような威力に、一瞬だけ意識が遠のいた。
(いや、『痛み』なんぞはどうでもいい…!本当にまずいのは『肺への衝撃』…!『呼吸』ができない…『波紋』が練れない!)
 頭部を掴んだ掌から、波紋エネルギーが失われる。
くたりと掌が離れ、アスファルトの地面に倒れ伏した。

 答え
―――③―――え③―――――答え③―――――

651丸耳作者:2004/01/07(水) 02:43
「な…っんつー爺ィだ…腕が伸びやがった。気色悪ィ」
「感謝しとけよ。俺の能力が無かったら永眠してたぜ?」
「…貴様…!ゴホッ」
 息を吸った瞬間、喉の奥から血の味がする咳が出てきた。肋骨が何本か折れている。
「うっせー爺ィ。今の状況判ってんのか?」
 呼吸を整えようとした矢先、脇腹にケリを入れられた。
「ガッ…!」
「ああ畜生この糞爺ィこの俺をビビらせやがってこの糞耳の分際で奇形が奇形が奇形が糞耳が―――――!! !!」
 句読点をすっ飛ばしながら、一言ごとに茂名の体を蹴る、蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴る。
何回蹴られたのか判らなくなった頃、ようやく蹴りの嵐が止んだ。
「俺のスタンド…『アンダー・プレッシャー』はさ。触ったモンの質量を自由に変えられんのよ。
 例えば―――アンタの跳ばしたパチンコ球の質量を百㌔くらいにして投げ返す…とかな」
人間形のスタンド使いが静かに言った。
「さ・て・と!種明かしも気晴らしも終えたし―――――死ねコラ。『アシッドジャズ』!!」
 不定形のスタンドが茂名の真上に現れる。
押し潰されるか、握り潰されるか、それとも他の能力か―――
 目をつむりかけた瞬間、物凄い力で横から引っ張られた。
視界の端で、不定形のスタンドがアスファルトを溶解させるのが見えた。
もう一瞬遅れていたら、茂名もそうなっていただろう。
そのまま数メートル上へと持ち上げられ、ビルの壁面に着地する。
「遅いぞ…」
「アメリカンコミックス・ヒーローみたいに、『ジャジャーン!待ってましたー!!』って出てくるのが真打ちって奴だよ」
 柔和な顔。呑気そうな声。そして、丸い耳。
少年が路地の両脇にそびえるビルの窓枠に指を引っかけて、茂名を担ぎ上げている。
「…マルミミ…」
「Yes・I・a〜m.チッ!チッ!チッ!」
老人の呟きに答えるように、B・T・Bが具現化して人差し指を上下に振った。
「ビート・トゥ・ビートッ!」
「Yes!」
 マルミミの叫びに応え、B・T・Bが茂名の心臓に拳を打ち込んだ。
呼吸の出来ない茂名の代わりに、心臓のリズムを調整。
波紋の鼓動と同じリズムで折れた肋骨を修復、呼吸を回復させる。
「大丈夫?おじいちゃん」
「…うむ。助かった」
 とっ、と壁面を蹴り、男達の前に降り立つ。
マルミミが軽く腕を振ると、ジャケットの裏に吊ってあった警棒が小気味よい音と共に伸びた。
「そのピエロがテメェの『スタンド』か…?」
不定形のスタンド使いが、マルミミのB・T・Bを睨んで言った。
「そうだよ。『ビート・トゥ・ビート』と名付けてる」
「…オイ、お前はその爺ィ殺れ。俺はコイツと」
「おう」
 言葉が終わるか終わらないかのうちに、人間形のスタンド使いが茂名へと突っ込んできた。
「おじいちゃん!」
「ぐっ…!?」
  腕を交差させて拳を受け止めたが、予想以上の重さに表情を歪める。
「テメェ…質量百キログラムの拳を受け止めるとは只モンじゃねぇな?」
「何、今どき流行らん『古武術』というヤツじゃよ。…ところで参考までに聴かせてもらうが―――貴様…今まで何人殺した?」
「テメェは今まで食った飯粒の数覚えてんのか?しぃ族の命なんざそんなモンだよ」
 その言葉に、ぎり、と奥歯が鳴った。
「外道めが…!」
 マルミミの能力で応急処置が出来たとはいえ、呼吸の度に鈍い痛みが胸を刺す。
だが、負けるわけにはいかない。許すわけにはいかない。
緩やかに息を吐き、痛みを押さえつける。
「貴様には空気を吸う資格すらない…解体してやろう!」
 一声強く言い放ち、地面を蹴った。

652丸耳作者:2004/01/07(水) 02:47
           ∩ ∩ 
          (  ´o) Coooooo…… 
           (つ  つ
           ( )ヽヽ
              (_) (___)
  
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  能力名   茂名式波紋法                           ┃
┃  本体名  茂名 初                                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - B    ┃  スピード - B    ┃ 射程距離 - E〜C ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - C.    ┃ 精密動作性 - B  ┃   成長性 - E.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 呼吸法によって、生命のエネルギー『波紋』を操る。            ┃
┃ 戦国時代にチベットから伝わった波紋法に、             ┃
┃ 茂名の先祖が古流武術をかけ合わせた物。              ┃
┃ 一子相伝を守られ、現在の茂名は八代目にあたる。.          ┃
┃ 戦場で使われるバリバリの殺人武術なので、               .┃
┃ マルミミには空手に毛の生えた程度の事しか教えていない。.     ┃
┃ 壁に張り付いたり水の上に立ったりと、結構汎用性は高い。  .   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


           ∩ ∩ 
          ( ´д)      ∧_∧
          (つ  二二二つ(゚д゚; )
         /// )     ⊂   つ
          (_/ (__)     // /
                  (_(__)

        茂名式波紋法『蛇咬』

653新手のスタンド使い:2004/01/07(水) 18:23


654N2:2004/01/07(水) 22:31
乙です。

655:2004/01/09(金) 00:50

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その6」

 
「うう…」
 俺は目を覚ました。
 …ここはどこだ?
 学校の保健室?
 …いや、保健室なんかより遥かに上級なベッドに俺は寝かされていた。
 壁や床も、驚くほど綺麗だ。

「…?」
 俺は顔を上げる。
「もう、いいみたいだね!」
 俺の横には、俺と同い年くらいの元気そうな少女が椅子に座っていた。
 猫の顔を模した、妙な帽子を被っている。
「ここは、どこモナ…?」
 俺はその少女に聞いた。
「ASAの医務室ですよ!」
 元気たっぷりに答える少女。
 どうでもいいが、この娘もかなり可愛い。
 『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加…っと。

 あれ…?
 そう言えば、体が全く痛くない。
 右肩なんて、完全にベキベキだったはずなのに…
 俺は右手をグルグルと回した。
 不思議な事に、違和感は全くない。

「私の能力で治しますた」
 少女は、妙ななまりで言った。
「大変だったんですよ。折れた肋骨が肺に損傷を与えてて…」
 俗に言う、『折れた肋骨が肺に突き刺さったー!』ってやつか。
 少女は、すっくりと立ち上がって言った。
「じゃ、ついて来て下さい」
「えっ?」
 困惑する俺。
「しぃ助教授さんから、大切な話があるそうです。もう立てますよね?」
 その点は、全然問題ない。
 身体の痛みは嘘のように消えていた。
 リナーのスタンドの治癒能力は副次的なものだが、この少女のスタンド能力は、本当に『治して』しまうものらしい。
「じゃ、行きますよ」
 少女は、ドアの前に立った。
 ウィーンと左右に開く自動ドア。
 少女の後について、廊下に出る俺。
 どうやら、ここは近代的な高層ビルのようだ。
 窓から、町の風景が一望できる。
 ここは30階といったところか。
 駅前に、一夜にして巨大なビルが建ったというふざけた話を聞いたことがあったが、ASAが絡んでいたのか…

 エレベーターの前で立ち止まる少女。
 そして、くるりとこちらを振り向いた。
「三幹部の部屋は、最上階の100階にあります」
「偉い人って、最上階が好きモナね…」
 にこりと笑う少女。
「煙とハサミは高い所が好きですからね…」
 何か、とんでもない事を口走っている。

「とにかく、このビルの100階にしぃ助教授さんはいます。
 そして、10階ごとに番人がいるのです。その番人を倒さない限り、上の階には行けません」
「そんな、冗談モナ!?」
「冗談ですた。では、行きましょうか」
 エレベーターの扉が開く。
 俺と少女は、エレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターはガラス張りで、町が一目で見下ろせる。

 高速で上昇するエレベーター。
 俺は、外の風景を見上げていた。
 この町に『アルカディア』は潜んでいる。
 そして、『蒐集者』。あいつは、何なんだ…?

656:2004/01/09(金) 00:51

「100階です…」

 階数を告げる機械音声。
「私の声色ですた」
 すかさず少女は言った。
 さっきから、この少女の言動は微妙にズレている。
 可愛いが、ちょっと変わった娘だ。
 エレベーターの扉が開く。
 ダダっ広い廊下が一直線。その突き当たりに扉がある。

 少女は、その扉をノックした。
「ねここです。モナーさんを連れてきますた」
「…入りなさい」
 しぃ助教授の声。
 ねここと名乗った少女は、ドアを開けた。

 予想に反して、中は普通のオフィスだった。
 ただ、窓からの眺めは絶景だ。
 オフィス中央に来客用と思われるソファーがある。
 しぃ助教授は、重役っぽく手を後ろに組んで外を眺めていた。
 立てかけているハンマーが違和感バクハツだが。
「どうぞ、座って下さい」
 俺の姿を認めると、しぃ助教授は口を開いた。

 その言葉通り、俺はソファーに腰掛けた。
 湯気が出ている紅茶が、俺の前にあらかじめ置いてある。
 しぃ助教授は、少女の方を向いて言った。
「で、ありすはどうしてます?」
「戻ってすぐにおやすみです」
 少女は答える。
「そうですか… では、貴方は下がっていいですよ」
「分かりますた」
 少女はぺこりと一礼すると、この部屋から出て行った。

 しぃ助教授は、俺の対面に座る。
「お茶、飲んでいいですよ」
 そう言ったしぃ助教授も、自分の紅茶をすすっている。
 俺は、少女が出て行ったドアを見ながら訊ねた。
「…あの子は誰モナ?」
 しぃ助教授はニヤニヤと笑う。
「気に入ったんですか?」
「ちちち違うモナ! モナにはリナーが… いや、リナーともそんなんじゃなくて…」
 自分でも、何を言っているのか分からない。
「若いっていいですね。あの娘はねここ。三幹部の一人、ありすの補佐役です」
 『ありす』っていうのは、名前からして女の子の方だろう。
 筋肉ニワトリの名が『ありす』だったら、夢に出そうだ。
「あの娘は、ASAでも稀有な『治癒』のスタンド能力を持っています。
 ねここのおかげで、あなたは今ここでお茶を飲んでいられるんですよ」
 そりゃ有難いことだ。礼を言うため、後で電話番号でも聞いておこう。
「で、治療費は8千万円です」
 さらりと言うしぃ助教授。
 俺は紅茶を噴き出しそうになった。
「な… 金取るモナ!?」
 しぃ助教授は笑顔を見せた。
「命に比べりゃ、はした金でしょう? まあ、特別にタダにしときますけどね」
「それは助かるモナ…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 高校生のミソラで8千万はキツ過ぎる。
「で、本題といきましょう。この町に、『アルカディア』が潜んでいるのは知っていますね?」
 俺は頷いた。
「まさか、いよいよ奴が本格的に動き出したモナか…?」
 しぃ助教授は首を振った。
「いいえ、その逆です。静かすぎるんですよ、『アルカディア』は…」
 静か?
「でも、前にも吸血鬼による殺人が…」
 しぃ助教授は、俺の言葉を遮った。
「報道はされていませんが、1日に1人は血を抜かれた死体が見つかっています。
 ですが、『アルカディア』による被害は本来ならそんなモノでは済まないんですよ。
 1週間もあれば、人口5万人程度の町なんて壊滅しててもおかしくないんです。
 ですが… この町は平和そのもの。確認されている『空想具現化』の影響といったら、
 『矢の男』の出現だけなんです」
 あと、俺は殺人鬼の影とやらを見たことがあるが。
 確かに、この町に脅威が迫っていると聞かされながら1週間が経つが、特に変化はない。
「じゃあ、この町にはいないとか…?」
「それもありえません。詳しくは言えませんが、この町に潜伏しているのは確かです。
 しかし、24時間通して偵察衛星で監視していますが、その姿は捉えられない。
 ここからは推測ですが… まず、『アルカディア』には町を壊滅させる以外の目的がある。
 そして、奴はASAが所有している偵察衛星の存在を知っています」

657:2004/01/09(金) 00:52

 それは、つまり…!
「誰かが、糸を引いている…って事モナ?」
「その通りです」
 しぃ助教授が頷いた。
「そもそも、なぜ『アルカディア』はこの町に来たんでしょうか。『異端者』からは、そこら辺を聞いていますか?」
 俺は首を振った。
 リナーは、ただ『アルカディア』を追っているとしか言わなかった。
 しぃ助教授はカップをテーブルに置いた。
「『アルカディア』の本体が吸血鬼で、本体そのものは遥か昔に滅ぼされた事は聞きましたね。
 ですが、スタンドは死なずに残ってしまった。何とか捕獲したものの、ASAと『教会』の間でモメたようです…」
「『ようです…』って、しぃ助教授はその時はいなかったモナか?」
 ムッとした表情を見せるしぃ助教授。
「150年も前の話ですよ…! 私はまだ生まれてもいません!」
 身体がムズムズする。
 怒られるだろうが、気になって仕方がない。
 俺は心を決めると、その質問を口にした。
「しぃ助教授って、何歳モナ?」
「話の腰を折った上に、無礼極まりない質問ですね…! まあ、11番目の素数とだけ言っておきましょうか」
 落ち着け… 素数を数えろ…
「で、話を戻しますよ。150年前、『アルカディア』の処遇についてASAと『教会』がモメたんです。
 本来なら、スタンド関係はASAの管轄なんですが… 
 本体の吸血鬼は『教会』が抹殺した事もあって、『アルカディア』の処遇は『教会』に委ねられたんですよ。
 それから、『アルカディア』は『教会』の地下深くにずっと幽閉されていました…」

 待てよ、それじゃあ…
 しぃ助教授は、口を開いた。
「『教会』は、狩人と追っ手を同時にこの町に放ったんです…」
 この町に潜伏している『アルカディア』。
 それを追ってこの町に来たリナー。
 両者とも、『教会』が送り込んだだって…!?
「リナーが嘘をついてるとは思えないモナ…」
 俺はそれだけを言った。
「それは私も同感です。おそらく、『異端者』自身も満足な情報は持たされていない。
 だからこそ、『異端者』が先鋒に選ばれたんでしょう。『教会』の操り人形で、他の代行者との接触も少ない…」
 リナーが操り人形…?
「それは、どういう事モナ?」
 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方は、ことごとく話の腰を折ってくれますね。
 …まあいいでしょう。少し、『異端者』の話をしましょうか。
 今から3年前、ヨーロッパのある田舎町が吸血鬼に乗っ取られたんです。まあ、それ自体はよくある事なんですが…
 ゾンビの中に、生前にスタンド使いだった人がいたんで、ASAにも要請が来たんですよ。
 それで私が行ったんですが、その時に『異端者』と初めて会いました。
 彼女は… 当時から無愛想でしたね。しかも、『ASAの助けはいらない』『引っ込んでろ』の一点張り…!」

658:2004/01/09(金) 00:53

 その情景が目に浮かぶようだ。
 しぃ助教授は、その時の様子を思い出しているのか、少し不機嫌そうである。
「それで結局、私が譲歩したんです。
 たかだか15かそこらの小娘ですから、すぐに泣き言を抜かすと思っていました。
 ですが、彼女はやってのけましたよ。その時の戦い振りは、凄まじいものでした。
 いや、戦いとは言いませんね。あれは一方的な虐殺に等しい。
 人口2000人足らずの小さな町だったんですが、生者・死者を問わずに皆殺しです」
 
「生者・死者を問わず…って!」
 俺は思わず口を挟んだ。
「そうです。彼女が殲滅した者の中には、明らかにゾンビにはなっていない人間も混じっていました。
 私も憤慨して問い詰めましたよ。なんで、罪もない人間まで皆殺しにしたのか…とね」
 それに対する返答は聞くまでもない。
 しぃ助教授は口を開いた。
「『異端者』は涼しい顔で答えましたよ。『任務だから』とね…
 おそらく、彼女は『教会』が死ねと命令したら死ぬでしょう。
 あそこまでいくと、狂信と言うよりも、意思を放棄したと言ったほうが近いですね。
 その後に調べたんですが、『異端者』の出生も経歴も謎に包まれています。
 学校に通っていた記録もないし、国籍もない。
 代行者になれるほどの素質を持った人間ならば、どこかでASAの目についているはずなんですがね…」
 俺は、リナーに不信感は持ちたくない。
 いや、持つ事ができない。
 それに、意思など放棄しているようには見えないが…
「リナーは、モナの前ではそんなんじゃないモナ…」

 しぃ助教授はニヤニヤと笑った。
「そうでしょうねぇ。数日前に、久々に『異端者』と顔を合わせた時、本当に驚きましたよ。
 早朝に『異端者』からASA本部に連絡があったんです。
 『強力なスタンド使いが現れたので、支援を要請したい』とね…
 そりゃ、気が重くなりましたよ。またあの仏頂面に顔を合わせないといけないのか… なんて思いながら。
 で、いざ顔を合わせてみたら…、隣に彼氏はいるは、『異端者』って呼ぶなと言い張るは…
 恋する乙女に早変わりでしたね。…まあ、無愛想は相変わらずでしたが」

「モモモモナはかか彼氏なんて大層なものじゃないモナ!」
 俺は動揺した。
「その時はそう思ったって話ですよ。
 でも、『教会』への忠誠を生きる糧にしていた彼女が、『教会』での名前を呼ぶなとまで言ったんですから…
 下品な言い方ですが… 一体、どうやって彼女をオトしたんですか?」
 俺は、慌てまくった。
「モ、モナは特に何も…!」

 不意に、しぃ助教授は厳しい顔に変わった。
「ですが、彼女はやめておきなさい。貴方は、相当に彼女がお気に入りのようですが…
 不幸になるだけですよ。彼女も、貴方も…」
 
「何でそんな事が分かるモナ…?」
 俺はしぃ助教授を睨んだ。
「不幸になるかならないかなんて、横から言われる筋合いはないモナ!!」

 しぃ助教授はソファーから立ち上がった。
「その通りです。ですが、貴方と『異端者』が親しくなる事によって、大きな災いが振り撒かれるとしたら?
 貴方達の存在によって、多くの人が死に瀕するとしたら…?」
 俺は笑った。答えは言うまでもない。
「もしそうなったら、俺とリナーでその災いとやらを沈めるモナ」

 ため息をつくしぃ助教授。いつの間にか、その表情は柔和なものに戻っている。
「貴方の思いは分かりました。そこまで言うのなら、私は口を挟みません。
 貴方は絶対に… どんな事があっても、『異端者』を離してはいけませんよ。
 もし彼女を投げ出すようなら、私がこのハンマーで貴方を叩き潰しますからね…」
 しぃ助教授は、部屋の隅に立てかけていたハンマーを持ち上げた。
 日光が当たってキラリと光るハンマー。

「そんな事は絶対にありえないモナ。モナは、リナーを離したりはしないモナ」
 俺は断言した。
 ここまで来て、リナーとそのままお別れなんてありえない。
「若いっていいですね〜!」 
 再び、ニヤニヤするしぃ助教授。
「…っと、いつまでもこんな話をしている場合ではありませんね。話を戻しましょうか。
 え〜と、どこまで話しましたっけ…」
 突然、真横に丸耳が現れた。
「『アルカディア』を送り込んできたのも、『教会』というところです」
「あ、そうでしたね…」
 おそらく、彼がしぃ助教授の補佐役なのだろう。
 というか、補佐役の仕事ってこんなんなのか…?

659:2004/01/09(金) 00:53

 沈黙の後で、口を開くしぃ助教授。
「で、私の直感に過ぎませんが… 『異端者』は、多くを知らされていません。おそらく、彼女も利用されています」
 多分、俺もそう思う。
 しぃ助教授は話を続けた。
「それで『教会』の思惑なんですが… これが、よく分かりません。ここで『蒐集者』の存在が絡んできます」

 …『蒐集者』!
 つーとじぃを実験体にした、あの化物か…!

「彼も代行者の一人でしたが、今は『教会』から離反しています。その能力は、貴方も見ましたね…?」

 いや、見たは見たが… 再生したり燃やしたり重くしたり、いろいろありすぎだ。
「スタンド能力って、一つじゃないモナか…?」
 その質問に、しぃ助教授は答えた。
「一つですよ。『蒐集者』のスタンド『アヴェ・マリア』の能力は、特性の同化です」

 …特性の同化?
 しぃ助教授は、説明を補足した。
「平たく言えば、他者の能力を自分の物にしてしまえるって事ですよ。いや、能力に限りません。
 他の生物の特性や、無機物の特性をも自らに同化できるようです。あの再生力は、おそらく単細胞生物のものでしょうね…」
 それは、脅威の能力ではないか?
「スタンド能力でも同化できるモナか…?」
 俺は訊ねた。
「ええ。『蒐集者』は、様々な特性・性質をその身に同化させています。
 スタンド能力、その他の異能、物質の性質を問わずにね。だからこそ、『蒐集する者』なんでしょう」

 そう言えば… さっきの戦いで、倒れた俺にやろうとしていたではないか。
 あの時に俺が抵抗しなかったら、奴には便利な目がついていた訳か…
 今さらながら、俺は胸を撫で下ろした。
 その時、『意識の強い相手に、余りやりたくはありませんが…』と言っていたはず。
 俺はその事を告げた。

 口許に手をやるしぃ助教授。
「特性を自分のものにしてしまうといっても、例えばスタンド能力だけを奪い取るといった器用な事はできないようです。
 奪い取る際、いろいろと余計なものまで同化してしまうのでしょうね。
 彼の本体もスタンドも、完全に変成してしまっている。
 『蒐集者』は、余りにも色々なモノをその身に同化しすぎた。おそらく、意識なども混成しているのでしょう。
 それが、元の『蒐集者』の人格にも影響を及ぼしているようですね。人格が破綻しかけているのも、その為です…」

 俺は、『アウト・オブ・エデン』で奴の様子を視た時の事を思い出した。
「あいつは、真っ黒に塗り潰されてるように視えたモナ…」
 俺は呟いた。
 『蒐集者』は無敵なんかじゃない。そんなものじゃない。
 奴の内部は、混ざり過ぎてもうグチャグチャなんだ。
 あいつは、もう壊れている…

 しぃ助教授は口を開いた。
「では、『蒐集者』自身の話をしましょう。少し話が飛びますが、『教会』が組織として成立したのは1600年前の事です」
 俺は驚愕した。
「そんなに『教会』は古いモナか!?」
「吸血鬼は太古の昔から存在しましたからね。もちろん、スタンド使いもそうですが。
 『教会』の歴史は、吸血鬼との闘争の歴史です。当然、強い戦力が必要となります。
 常に『教会』には、その時代の最新の技術と最強の兵力が存在していました。
 もっとも、現在はかなり規模縮小していますがね」
 確か、『矢の男』との戦いに赴くヘリの中でしぃ助教授自身が言っていた。
 『教会』は、古めかしい戦い方に固執していると…

660:2004/01/09(金) 00:54

「とにかく、いつの時代でも『教会』は戦力を求めていたんです。まず、『教会』は波紋法に目をつけました。
 波紋法は『教会』の庇護を受け、その種類や用途も発展・洗練されていきました。
 しかし、それではまだ足りません。ゾンビ程度ならともかく、吸血鬼相手に波紋法のみでは荷が重い…
 吸血鬼は石仮面で簡単に仲間を増やせるのに比べ、一人前の波紋使いになるのは長く険しいですからね。
 一人の波紋戦士が、一匹の吸血鬼と互角程度では、とても間に合いません」

 俺は少し気になった。
「間に合わないって… 昔はそんなに吸血鬼が多かったモナか?」
 しぃ助教授は首を縦に振った。
「中世あたり、吸血鬼は一大勢力を築いていたようです。当時の伝承も吸血鬼に関するものが多いでしょう? 
 一人で数十匹の吸血鬼を葬るほどでないと、全ての吸血鬼を殲滅するには計算が合わなかった。
 次に『教会』が目をつけたのが、生命エネルギーのヴィジョンを自在に操る存在… スタンド使いです。
 優れたスタンド使いを養成し、対吸血鬼戦の訓練を施す… これが、代行者の始まりです」

 代行者…!
 卓越した暗殺技術と、強力なスタンドを併せ持った存在に与えられる称号。
「当時は500人近くの代行者が存在しましたが… 
 時代が進み、吸血鬼が駆逐されていくにつれ、少数精鋭のシステムへと移行していきました。
 それで、現在の代行者の数は9人に落ち着いている訳です。『蒐集者』が離反したので、正確には8人ですかね…」
 現在の代行者は8人か。
 リナーとキバヤシしか知らないが、あのキバヤシがそんな大層な人物だとは思えない。
 そういえば『守護者』って言うのも、名前だけは聞いたことがあった。
 波紋を物質に固着させる『シスタースレッジ』というスタンドで、武器の法儀式を担当しているいという…

 しぃ助教授は話を続ける。
「そんな風に、『教会』は常に強力な戦力を求めてきました。
 そして今から800年前、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトが『教会』内で発案されたんです」
 最強のスタンド使いを人工的に造る?
「でも、800年も前にそんなことが出来るはずないモナ…」
 俺の言葉を受けて、しぃ助教授が頷いた。
「そう。バイオテクノロジーどころか、遺伝子の存在なんて明らかになっていない時代です。
 『教会』は、最も原始的な手段を使ったんですよ。それこそ、完成まで何百年もかかる手段をね…」
 原始的な手段…?
 俺は首を傾げる。そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「優秀なスタンド使いを集めて、交配させたんです。
 そして、生まれた子をさらに優劣で選り分け、さらに交配を繰り返させました
 それを、何百年も繰り返す… それが、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトです」

 俺は思わず机を叩いて立ち上がった。
「馬鹿げてるモナ…! 牛や馬じゃあるまいし、そんな家畜みたいな事を…!
 それに、そんなことしたって、血が濃くなるだけで…!」

 しぃ助教授は落ち着いて言った。
「その通りです。人を人だとすら思っていない。
 強制されたのか、すすんで協力したスタンド使いがいたのかは今となっては分かりません。
 ですが、非人道的な手段であった事は確かでしょう」
 しぃ助教授は話を切って、カップを啜った。
 そして再び口を開く。
「そもそも、『最強のスタンド使い』というコンセプトが間違っていたんです。
 『最強』というのは結果であり、最初から与えられたものではないんですから…
 そのプロジェクトは、1000年単位で実行される予定でした。気の遠くなる話、では済みませんね。
 それだけ長ければ、プロジェクト実行者も30回は代替わりするでしょう。
 至福千年ともじったのか、それとも際限無く続けるつもりだったのかは分かりません。
 当然、近親相姦を繰り返し、奇形児が多く産まれました。
 近年になると、プロジェクトの継続すら困難だったようです。
 しかし、そんな腐ったプロジェクトで産まれた… いや、産まれてしまった異能者がいた。
 それが…『蒐集者』です」

 俺はため息をついた。
 嫌になる話だ。
 極端に濃くなった血統が導いた異能。
 それが、『アヴェ・マリア』と『蒐集者』。
 800年をかけて『教会』が精製した最強のスタンド使い。
 それが、あんな精神破綻者。自分を保つ事すらできやしない化物。
 無様な話だ。
 俺は机に肘をついて、頭を抱えた。

661:2004/01/09(金) 00:55

 しぃ助教授は口を開く。
「で、現在の話なんですが… 『蒐集者』は『教会』を離反したとはいえ、完全に切れたわけではないようです。
 彼が『教会』と組んで何かを画策しているのでしょうね…」
 あいつは、実験をしていると言っていたのだ。
「『蒐集者』は、究極の『BAOH』を造るって言ってたモナ」
 しぃ助教授は頷いた。
「彼は、どうやら生体兵器を重点的に研究しているようですね」
 俺はソファーから立ち上がった。
「あいつ、量産が前提とか言ってたモナ…!!」
 あんなものが一杯いたら、町が壊滅するだけじゃ済まない。

 しぃ助教授は、カップを机に置いた。
 中身はすっかり空になっている。
「『蒐集者』が何を企んでいるのかは分かりませんが、少なくとも人の世の為にならない事は確かですよね。
 奴の企ては絶対阻止です。当面、ASAは『蒐集者』を追いますが…
 貴方も、『矢の男』も、『蒐集者』に能力を奪われないようにして下さい。
 『アルカディア』探しよりも、そちらを優先する事。分かりましたね?」
 俺は頷いた。
 俺の能力ならともかく、奴が『アナザー・ワールド・エキストラ』を得たらとんでもない事になる。
「本当は貴方達も隔離したいんですが、どうせ反抗するでしょう…?」
「当たり前モナ」
 俺はきっぱりと言った。そんなのはゴメンだ。
 そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「ギコやモララー、しぃにもこの話は伝えてあります。あと、レモナとつーも無事ですよ」
 …そうか。俺は胸を撫で下ろした。

「それで、キバヤシは?」
 俺は訊ねる。
「そう言えば、モナが気絶する瞬間に、殺気を感じた気がしたモナ…」
 しぃ教授の顔が、一瞬強張った。
 まさか…!!
「…殺したモナか…?」

 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方の前では隠せませんねぇ… 欲を言えば殺しておきたかったんですが、逃げられてしまいました」
 俺は胸を撫で下ろした。あんなヤツでも、殺されたら寝覚めが悪い。
 同時に、嫌な気分になる。
 しぃ助教授は嫌いではないが、簡単に人を殺すの殺さないのという物言いは好きになれない。
「『解読者』は、『教会』や『蒐集者』に不信感を持っているようでしたがね…」
 しぃ助教授は呟いた。
 だからこそキバヤシは、『蒐集者』の周囲を探っていたのだろう。

「…まあ、話はこんなところです。あと、ここでの話は『異端者』に伝えないようにして下さい」
「えっ? リナーには黙ってろって事モナか?」
 俺は隠し事が得意ではない。
「彼女にこれらの事実を伝えれば、必ず『教会』に確認を取ろうとするでしょう。
 そうなれば、彼女の身が危ないかもしれません…」
 そう言われたら、リナーに伝える訳にはいかない。

 しぃ助教授が指を鳴らした。
 ドアが開いて、ねここが顔を出す。
「彼を家まで車で送ります。ねここ、モナー君を1階まで連れて行ってあげて下さい。私もすぐに行きますから」
「はい! じゃ、こっちへ…」
 ねここは元気よく返事をすると、俺を部屋の外へ連れ出した。
「じゃあ、戻りましょうか」
 俺達は広い廊下を進んで、エレベータに乗り込んだ。

662:2004/01/09(金) 00:55


          @          @          @



 モナーは扉から出て行った。
 部屋には、しぃ助教授と丸耳が残される。

「…甘いと思いますか?」
 しぃ助教授は呟いた。

「…はい」
 丸耳は頷く。
「…ですが、仕方ないでしょう」

 しぃ助教授はため息をついた。
「モナー君は、殺気そのものは感じたようですが、『解読者』に向けられたものと勘違いしたようですね。
 まったく、鋭いのか鈍いのか…」
 丸耳は表情を崩さずに言った。
「彼は、我々を信用しきっているんでしょう…」

 しぃ助教授は窓の傍に歩み寄ると、町の全景を見下ろした。
 そして、重い声で丸耳に訪ねた。
「…で、配備は終わりましたか?」
 その言葉を受けて、丸耳は書類を取り出す。
「はい。2コ戦車師団、2コ空挺師団、1コ政経中枢防衛師団、1コ戦略機動師団、1コ空中機動旅団、1コ重爆撃連隊、
 1コ戦術航空軍が配備完了しました。並びに、第14艦隊及び潜水艦隊が太平洋上に展開しています。
 ICBM60基の調整も終了。衛星兵器『SOL-Ⅱ』も軌道上に配置しました」
「動かす機会が無い事を期待したいですねぇ…」
 しぃ助教授はしみじみと呟いた。
「…全くです」
 丸耳は書類を仕舞い込む。

 しぃ助教授は振り返ると、丸耳の方を向いた。
「彼、『異端者』を離さないと言い切りましたね…。もう、何を言っても聞かないでしょう。
 本当なら、あの返答を聞くと同時に殺してしまうべきだったんでしょうね…」
「…殺さなかった事を、後悔しているのですか?」
 しぃ助教授の視線を受けて、丸耳は口を開いた。
「そう見えますか?」
 しぃ助教授はおどけて言う。
 丸耳は軽く微笑った。
「いいえ、殺さなかった事を喜んでいるように見えますが」

 ふと笑って、しぃ助教授は再び窓の外を見た。
「彼らが普通の男と女なら、素晴らしいハッピーエンドだったのに…
 モナー君は、どんなことがあっても『異端者』を愛し続けるのでしょうね…」
 丸耳が無表情で口を開く。
「ねここに、電話番号を聞いているようですが…」
「…若いですね…」
 しぃ助教授は、それっきり口をつぐんでしまった。



          @          @          @



 俺とねここは1階に降り立った。とても広いホールである。
 つかつかと進むねここ。俺はその後に続く。
 ブースの前を通りかかった。
 無言で頭を下げる受付嬢。ねここも黙って会釈する。
 ここだけを見ると、典型的なオフィスビルだ。
 俺とねここは、そのままビルから出た。

「もうすぐしぃ助教授さんが来ますので、少し待ってて下さい」
「分かったモナ…」
 俺は、天高くそびえ立っているビルを見上げた。
 たった1日で、どうやってこんなものを建てたのだろうか。
「これを建てたのも、誰かのスタンド能力モナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 ぷるぷると首を振るねここ。
「違います。本部のビルを、そのままこの町へ移動させたんです」
 …そんなとんでもない事をしたのも、誰かのスタンド能力だろう。

 クラクションが鳴った。
 ビルの駐車場からベンツが走ってくる。
「高級車モナね…」
「頑丈だからです。贅沢してる訳ではないのです」
 笑うねここ。
 俺達の前でベンツは停まった。
「じゃあ、乗って下さい」
 しぃ助教授が運転席から呼びかける。
 俺は、助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、またモナ…」
 ねここに別れを告げる俺。
 それを受けて、ねここは手を振った。
「じゃあ、行きますよ」
 俺の返事を聞かず、車は発進した。

663:2004/01/09(金) 00:56

 正直、俺の家はここから近いので、車で送ってもらうまでもないのだが。
 運転していたしぃ助教授が、俺にメモを渡してきた。
「私の携帯の番号です。何かあったらすぐに連絡してください。まあ、私の番号をもらっても嬉しくないでしょうけどね…!」
 俺は無言で謹んで受け取った。
 迂闊な事を言うと、どうなるか分からない。車はかなりのスピードが出ている。
 このままガードレールとクラッシュしても、助かるのはしぃ助教授だけだ。
 俺は話題を変えた。
「そう言えば、『蒐集者』はリナーを殺すって言ってたモナ…」
「しばらくは、『蒐集者』も動けないはずです。私達ASAが目を光らせているし、この国の公安五課も彼を追っています。
 彼がこの地で実験とやらを行っている以上、実験場を失う真似はしないでしょう」

 しぃ助教授は、俺の家のすぐ近くの交差点で車を停めた。
「では、私が送るのはここまでです。家まで車で乗り付けてしまえば、『異端者』にバレてしまいますからね…」
 不倫してるんじゃあるまいし…
「じゃ、無理は控えるようにして下さい。何かあったら連絡して下さいね」
「分かったモナ。今日はいいろいろありがとうモナ」
 俺は頭を下げる。
 そのまま、ベンツは走り去ってしまった。


「ただいまモナー!」
 やっと家に帰ってこれた。
 玄関先には、リナーがいた。
 俺の帰りを待っていた… 訳ではないようだ。
 これから出かけるところだったのだろう。

「ああ、お帰り」
 リナーは無愛想に言った。
 ガナーの靴が無い。まだ学校だろう。
 そういえば、カバンはつーの家に置いてきてしまったようだ。

「…?」
 リナーは、じっと俺の顔を見ていた。
 そして、俺の頭に手を差し伸べる。
 …何だ?
 リナーは、俺の頭から何かをつまみ上げた。
 そして、それをじっと見た後、無造作に握り潰した。
「…今のは何モナ?」
「極小の盗聴器だ。ここまで小型化されてるとなると、ASAの仕業だろうな…」
 そんなもの仕掛けられてたのか…
 俺は全然気がつかなかった。
 リナーは眉を吊り上げる。
「それにしても… 頭のてっぺんにこんなものを付けられて気付かないなんて、君はどれだけ鈍いんだ?
 『アウト・オブ・エデン』を持っていながら、どれだけ隙が多いんだ…」
「ごめんモナ…」
 しょんぼりする俺。
「私に謝っても仕方がない。君のために言ってるんだ」

 どうでもいいが、この家の中はすごく空気が悪くないか?
 何かとても息苦しい。
 俺は靴を脱いで、家に上がった。
「とにかく、今日は大変だったモナよ…」
「何かあったのか?」
 聞き返してくるリナー。
 しまった。ASAでの事は口止めされてたんだった。
 『蒐集者』と戦った事も伏せておくべきだよな…

「キバヤシ… 『解読者』に会ったモナよ」
 仕方ないので、当たり障りのない話題をあげる。
 しかし、リナーは顔色を変えた。
「…『解読者』に会っただと…!?」
「そんなに驚く事モナ? あいつは、ただの馬鹿変人モナよ」
 それにしても、ここは空気が悪い。リナーは平気なのか? 
 換気した方がいいような気がするが…

「ただの馬鹿なものか…! 『解読者』は、戦闘技術こそ高くはない。だが、そのスタンド能力は手に負えないんだ。
 代行者の中で一番多く吸血鬼を狩っているのは奴なんだぞ…?」
 あのキバヤシが?
 デカい口を叩いたあげく、つーにボロボロにされていたではないか。
 リナーは言葉を続けた。
「あいつの能力は、ASAから封印指定を受けているんだ。
 代行者の中でも、封印指定のスタンド能力を持っているのは『蒐集者』と『解読者』だけだ。
 『矢の男』の例を見れば分かるように、封印指定レベルのスタンド能力というのは、持っているだけで抹殺の対象になる。
 だが、ASAですら奴には手が出せなかったんだぞ!」
「そんなにキバヤシは強いモナか…?」
 俺は思わず呟いた。
「強くはない。ASAの三幹部レベルと比べたら、戦闘能力では遥かに劣る。
 だが、そもそも奴は戦う必要すらないんだ。奴の武器は言葉だからな…!」
 では、つーになす術もなくやられたのは演技?
 いや、とてもそうは見えなかった。
 …あの時のつーは『BAOH』化していた。
 聴覚も視覚も破棄して、触角からの感覚のみに頼っていたのだ。
 その『言葉』が通じなかったのではないか?

664:2004/01/09(金) 00:56

 空気の悪さに耐えられなくなった俺は、玄関のドアを開けた。
 換気しなけりゃやってられない。
 外には、キバヤシが立っていた。
 これで、空気の悪さから開放される…

「『解読者』…!!」
 リナーは驚愕の声を上げた。
 何を訳の分からない事を言ってるんだ?
 キバヤシなんていないじゃないか。

「久し振りだな、『異端者』…」
 キバヤシは、ゆっくりと玄関に踏み込んできた。
「貴様…!!」
 リナーは一歩下がる。
 それにしても、リナーは誰と話してるんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み出した。
「…近寄るな!!」
 銃を取り出して、構えるリナー。
 キバヤシはジッポライターを取り出すと、そのフタをカチッと鳴らした。

 リナーの銃が、俺の方を向いている!!
 …ちょっと待て、何で俺を狙ってるんだ?
 そうだ。こういう場合は、マガジンを抜けばいいんだ。
 キバヤシに気を取られているリナーの銃に手を伸ばし、俺はマガジンを引っこ抜いた。

 マガジンが下に落ちて、軽い音を立てた。
 …カチッ。

 俺は何をしたんだ?
 キバヤシが、リナーと向き合っていた。
 リナーが銃をキバヤシに向けたが、俺がマガジンを抜き取ってしまったんだ。
 なぜ? 銃は俺の方なんか向いていなかったじゃないか…!
 それに、空気なんて全然悪くない。俺はなんでドアを開けたんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み込んだ。
 リナーを真っ直ぐに見据えている。
「…彼から聞かせてもらったよ。君は午前6時に起床し、午前7時に朝食をとる。
 その際、モナヤのためにパンを焼き、コーヒーを淹れる。昼はちょっと分からん。モナヤは学校に行ってるからな。
 で、午後7時に夕食。それは、モナヤの妹が作る。それから部屋に戻って、武器の整備をした後に読書。
 そして、午後10時に風呂。服を脱ぐ順番から、どこから洗うのかまで聞いているが、モナヤの名誉の為に黙っておこう。
 風呂から上がった後は、午前2時まで読書。それから就寝…だ」
「貴様…!!」
 リナーが唇を噛む。
 キバヤシは両手を軽く振った。
「以上、これがスィッチだ。どれが好みかな…? と言いたい所だが、君を害しに来た訳じゃない。
 今日は、忠告をしに来たんだよ」

「忠告だと…!?」
 リナーはバヨネットを取り出した。
「そんな物騒なもの仕舞っておいた方がいい。そこにいるモナヤを切り刻むハメになるかもしれないぞ?」
 ハッとして、俺に目線をやるリナー。
 そんなリナーの様子を見て、キバヤシは口を開いた。
「では忠告だ。しばらくは大人しくしておいた方がいい。この町には、代行者が全員集まってしまった」
 リナーは驚きの表情を浮かべる。
「全員…だと!? 『アルカディア』一人に、そこまでやる必要があるのか…!?」
 キバヤシは口を開いた。
「そういう類の詮索を禁じる事も含めて、大人しくしていろと言っているんだよ。
 上からの命令なんだ。黙って聞いておいた方がいい」
「…分かった。命令には従おう」
 リナーは悔しそうに言った。

「君が素直でよかった。本音を言えば、俺もスタンド能力を使いたくなかったからな…」
 キバヤシは、ライターをポケットに仕舞った。

「キバヤシ…! モナをだましてたモナか?」
 俺は、キバヤシに言った。
「何の事だ? 君をだました事なんて一度もないぞ?」
 あっさりと答えるキバヤシ。
「だが、俺はMMRのキバヤシであると同時に『教会』の『解読者』でもある。
 それだけは覚えておいてくれないか、モナヤ…」
 キバヤシはそう言って身を翻すと、俺の家から出て行った。

「さっきのは… 一体何モナ…?」
 俺は呟いた。
 リナーはマガジンを拾い上げると、銃に詰め直す。
「君が体験したのが、『解読者』のスタンド能力だ。狡猾にやると、あんなものでは済まないがな…」
 そして、バヨネットを取り出すリナー。

「一つ聞きたいモナ…」
 リナーはバヨネットを軽く回転させた。
「何だ…?」
「なんでキバヤシがいなくなったのに、武器を取り出してるモナ?」

 にっこりと笑うリナー。
「なんで君が、私が風呂に入るときの何やらを知っているんだ…?」
 …どうしよう。
 よし、ここは有無を言わさず逆ギレだ。

「質問を質問で返すなあ――っ!!」


 まあ、なんだ。
 どうせ自分で治すハメになるのに、痛めつけるってのは…
 一生懸命穴を掘って、自分で埋めるようなもんじゃないか?
 薄れゆく意識の中で、俺はそんな事を考えていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

665新手のスタンド使い:2004/01/09(金) 01:35


666:2004/01/10(土) 01:19

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その1」

 
 キーン コーン カーン コーン…

 授業の終わりを告げる、無機質なチャイムが鳴り響いた。
 僕はノートや教科書を素早くカバンに仕舞い込む。

 ハァハァ…

 奇妙な息遣いが聞こえた。
 かなり近い。急がなければ…!
 休み時間になるといつもこうだ。
 まして、今は放課後。
 本格的に奴らが仕掛けてくる…!

 教室の戸が開いた。
 奴がヘラヘラした顔を出す。
「1さーん!」

 来たッ…!!
 その不気味な肢体。ヨダレを垂れ流すキモイ顔。ニュルニュルした動き。
 奴を構成する全てがキモイ。

「キモイヨー!」
 僕はカバンを抱えると、後ろの戸の方向へ駆け出す。
 しかし、僕が向かったはずの後ろの戸は、無情にもガラガラと開いた。
「ハアハア… こっちに来ると思ったよ…」
 奴は、そちらにも回り込んでいた。
 そう。奴は一人ではない。数えた事はないが、810人いるという話だ。

 戸は両方とも、奴らに押さえられてしまった。
 こうなれば、仕方がない。
「はぁっ!」
 僕は、前方に迫っていた奴の股下に飛び込んだ。
 奴らは体格がデカい分、敏捷性に欠ける。
 僕は奴の両足の隙間をくぐり抜けると、猛ダッシュで教室を抜け出した。
 同じクラスの女子が、何やらこっちを見てヒソヒソ話している。
 奴らのせいで、僕まで変な目で見られるのだ。
 クラスの中で僕に話しかけてくる人はいない。

「1さーん! 待ってー!」

 ゲッ、追いかけてきた…!
 僕は階段を駆け下りると、素早く靴を履き替えて校外に出た。
 

 ちらりと後ろを振り向く。
 どうやら、追ってきている気配はない。
 逃げ足の速さには自身がある。
 よく考えれば本末転倒だ。奴らのせいで足が速くなったのだから。
 僕はため息をつく。
 何で、毎日毎日こんな目に合わなきゃいけないんだ…?

 取り合えず、無事にアパートまで帰ってきた。
 僕の部屋は、このアパートの2階にある。
 ドアの鍵を開けて、奴らが来てないか入念にチェックしてから家の中に滑り込んだ。
 そして、すかさず鍵をかける。
 ふう、これで大丈夫だ…
 僕はカバンを置いて、TVをつけた。
 しばらくは一息つけるだろう。
 今日も疲れた…


 …僕は、テーブルから頭を上げた。
 テーブルに突っ伏して寝てしまったようだ。
 時刻は、ちょうど8時。
 TVからは、今日のニュースが流れていた。
 政治家が汚職で捕まったとか、どこかの国で50人近い人達が忽然と姿を消したとか…
 そう言えば、あの連続殺人事件はどうなったのだろうか?
 20人くらい連続で殺され、最後の方には吸血鬼の仕業というデマまで出る始末だ。
 さんざんマスコミで騒いだあげく、パッタリと報道されなくなってしまった。
 何か、変な圧力でもかかったんじゃないだろうな…?
 まあ、僕みたいな一般小市民にはどうでもいい話か。
 
 ピンポーン!
 呼び鈴が鳴った。
 身構える僕。
 だが、奴らはベルを鳴らして入ってきたという前例はない。
 念の為、ドアの覗き穴から覗いてみる。
 何の変哲もない宅急便のおじさんだ。
 背格好も、奴らとは違いすぎる。
「はーい」
 僕はドアを開けた。
「荷物です… よっこらしょっと!!」
 おじさんは、玄関先にその荷物を置いた。
 やけに重そうだ。何だろうか?
 とにかくハンコを渡す僕。
 手続きを済ますと、おじさんは礼をして去っていった。

 とりあえず、荷物を居間まで運び込む。
 メチャクチャに重い。中身は何なんだ?

667:2004/01/10(土) 01:20

「誰からだ…?」
 送り先の名前はない。
 もしや、奴らの新しい手段か…?
 フタを開けたら、「1さーん!」とか言いながら飛び出して来ないだろうな…?
 僕は、もしもの時のために用意しておいた金属バットを構えた。
 そして、荷物から3歩離れる。
 大きく息を吸い込むと、感情を込めずに言った。
「僕、実は8頭身の事が大好きなんだあー!」

 シーン…

 荷物からは何の反応もない。
 どうやら、奴らではないようだ。
 僕は金属バットを放り出すと、ガムテープをビリビリと剥いだ。
 そして、ゆっくりと蓋を開ける…
 
 ニュッと、箱の中から何かが突き出した。
 …顔?
 …女の子?
 そう。見知らぬ女の子が箱から出てきたのだ。
 しかも、女の子は服を着ていない。全裸だ。ハダカだ。

「…誰!?」
 僕は状況についていけない。とりあえず無難な質問が精一杯だ。
 きょとんとしていた女の子が、不意に口を開いた。
「…私の名前は簞(ばつ)なのです」
 簞? 変な名前だなぁ。

 …うわーぁっ!!
 ハ、ハダカじゃないか!!
 僕は慌てて顔を背けた。
 だってハダカなんだ。
 ちょっと待て。おかしいじゃないか。ハダカだよ?
 なんで女の子が宅配便で送られて来るんだ?
 しかも、ハダカだし。
 …エロいな。
 今だって、普通に名前を名乗ってたよ?
 それもハダカで。
 僕の脳内は、この女の子のハダカ祭りだ。

「とにかく、服を着て! 服を…」
 僕は鼻血を垂らしながら喚き立てた。

「服はないのです…」
 普通に返答する女の子。
「じゃあ、タンスの中に僕の服が入ってるから、適当に着てよ!」
「では、お借りするのです」
 後ろから、ゴソゴソいう音が聞こえてくる。
 …エロいな。

「着たのです」
 僕は、気を落ち着かせて振り返った。
 女の子は、僕のTシャツとGパンを着用している。
 当然のようにぶかぶかだ。
 …エロいな。

 とりあえず、僕は頭を抱えた。
 何から聞けばいいんだ?
「えーと… 名前は聞いたな。簞ちゃんだっけ? 何で宅配便で来たの?」
「分からないのです…」
 そうか。しかも、ハダカだしなぁ…
「何で、僕の家に?」
「それも、分からないのです… ただ、人を探しているだけなのです…」
 人探し? それで、何で僕の家に?
 うーん、困ったなぁ。

 簞ちゃんは困惑げな表情を見せた。
「ひょっとして… 私、迷惑をかけてますか…?」
「いや、そんな事はない、けど…」
 僕は言い淀んだ。
 迷惑云々より、状況が理解できないだけだ。
 ハダカだったしなぁ…
「そうですよね…」
 簞ちゃんはすっくと立ち上がった。
 そして、トタトタと玄関先に向かう。
「お邪魔してしまったのです。この服は、必ずお返しするのです。では…」

 ドアが閉まる音。
 その後に押し寄せる静寂。
 もしかして… 出て行ったのか?
 今は9時。
 連続殺人鬼はなりをひそめたものの、女の子が一人で外を歩くには遅すぎる。

 …まあ、僕が心配する筋合いじゃないか。
 迂闊に出て行って、奴らに出くわすのもゴメンだしな…
 でも、簞ちゃん、可愛かったな…
 いやいや。僕の小市民的第六感が警告している。
 関わり合いになると、絶対にロクな事にならない。
 でも、ハダカだったよな…
 いや、色事で運命変えるなんて僕のガラじゃない。
 …
 ……
 ………
 そうだ、コンビニに用があったのを忘れてた。
 あれだ。懐中電灯が壊れたんだ。急いで買いに行かないと。
 あれを今日中に買っとかないと、大変な事になるんだ。そりゃ大変だ。
 さて、急いで買いに行くとするか…

668:2004/01/10(土) 01:22

「簞ちゃーん! 簞ちゃーん!」
 夜道をさまよいながら、大声で呼びかける。
 全く… どこへ行ったんだ?
 役に立たない懐中電灯をくるくると回す僕。
 適当に町を巡っていたところで、見つかる可能性は低いだろう。
 僕は考えた。
 この町で、泊まるアテがあるとは思えないし、あったらあったで心配はないだろう。
 お金も持ってないだろうし、野宿の可能性が最も高い事は予想できる。
 さて、この辺りで野宿が出来るところといったら…
 とりあえず、公園にでも行ってみるか。

 僕は公園の前に到着した。
 さて、簞ちゃんはいるだろうか。
 よく考えれば、簞ちゃんが公園の場所を知っている可能性も少ないんじゃないか?
 結局、無駄足かもしれないな…

「きゃーっ!!」
 今のは… 悲鳴?
 しかも、簞ちゃんの声だ!!
 確かに、公園の中から声がした…!

 僕は慌てて公園へ飛び込んだ。
 腰を抜かして倒れている簞ちゃんが目に入る。
 その前には、不審な男が立っていた。
「大声を上げるから、変な奴が来てしまったではないか…
 男は余り趣味ではないが、今日もいっぱい吸ってやるとするかァァァァッ!」

 何だ?
 あの男、普通じゃない…!

「早く逃げてください!!」
 簞ちゃんは、僕に向かって叫んだ。
 もちろん、言われなくても逃げるさ。
 僕は典型的な小市民なんだから…
 ただし、簞ちゃんを連れてだ!!

 僕は簞ちゃんを素早く抱え起こすと、背中に背負って思いっきり走った。
 逃げ足だけは自信がある。
 物心ついた時から、奴らに追い回されてたんだ。
 変質者ごとき、僕の足に敵うもんか!

 公園を飛び出して、夜道を一直線に走る。
 とにかく、ここは警察だ…!
 こんな時に限って、携帯電話を置いてきてしまった。
 持っているのは、コンビニで意味もなく買った懐中電灯だけ。
「駄目です… 私を置いて逃げるのです…!」
 僕の背中で簞ちゃんが言った。
 残念ながら、太ももや胸の感触を楽しむ余裕はない。
「大丈夫さ、交番までもうすぐだ!」
 僕は走りながら言う。
「あれは、吸血鬼なのです! 警察の人では何もできないのです!」
 吸血鬼だって…!?
 吸血鬼って、人の血を吸ったり、日光で溶けたりするアレか?
 もしかして、簞ちゃんは錯乱してるのか…?
 怖い目に合ったのだ。それも仕方がないだろう。

 疾走する影。
 それは電柱を蹴って、僕の眼前に着地した。
「人間にしては、逃げ足が早いなァ?」

 …確かに、今の動きは人間にはできない。
 これはリアルだ。
 こいつは、どう考えても人間じゃない。
 夢でも見たんだろうとか、強引に自分を納得させる奴なら、ここで命を落とす。
 僕は小市民だけに、危険には敏感だ。
 こいつは、ヤバい!!

「今日はハラが減ってるんだ… 極上の女なんて、ついてるなァ、俺は…!」
 口をガパァッと開ける吸血鬼。その口から牙が覗く。
 やっぱり、人間じゃない。
 簞ちゃんの言うとおり、こいつは吸血鬼だ。
 吸血鬼が、一歩一歩こっちへ近付いてくる。
 完全にリアルなんだ。適応できないと、死んでしまう…!
 何とか、こいつから逃げないと…

「喰らえ、紫外線照射ッ!!」
 僕は叫びながら懐中電灯のスィッチを入れ、吸血鬼に浴びせかけた。
「ぬ、ぬぐわァァァッ……って、しまったァ!」
 奴が顔を逸らしてフェイクに引っ掛かってる間に、僕は吸血鬼の横を素早くすり抜ける。
「人間ごときがァ…! 一目散に逃げやがってェ!!」
 奴の叫びが聞こえてくる。
 そのまま、家に向かって駆け出した。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
 かなり引き離してやった。
 それにしても、なんでこんな夜に吸血鬼と追いかけっこやってんだ、僕は…
「大丈夫ですか?」
 背中の簞ちゃんが言った。
 僕は親指を立てる。
「足の速さには自身があるんだ。吸血鬼と比べても遜色がないことを証明したしね…」
 ようやくアパートの前まで辿り着いた。
 さて… これからどうしたらいいんだ?

「待てェェェェェッ!!」

 ゲッ!!
 吸血鬼が走ってきた。
 僕は、アパートの中に駆け込んだ。
 階段を駆け上がって、僕の部屋に飛び込む。
 そのまま後ろ手で鍵をかけた。

669:2004/01/10(土) 01:22

 僕は、簞ちゃんを下ろした。
 あの超人的な身のこなしからして、玄関のドアぐらい簡単に破れると思った方がいいだろう。
 武器を持って立ち向かうか…?
 例の金属バットが目に入る。

「開けろォォォッ!」
 ガンガンとドアを叩く音。
 ヤバい、もう来やがった…!
 よく考えたら、部屋に逃げ込んだのって、最悪の選択じゃないか?
 ドアがミシミシ言っている。
 ここは… 隠れるんだ!!
 僕は金属バットを拾い上げて、思いっきり窓に向かって投げつけた。
 ガシャーンという音とともに、粉々になる窓ガラス。
 …よし!
 僕は簞ちゃんの手を引くと、押入れに飛び込んだ。

 バキィッ!! という音を上げて、玄関のドアがブチ割れてしまった。
 ビクッとする簞ちゃん。
 しかし、音を立てたら終わりだ。
 簞ちゃんはぶるぶると震えている。
 ゆっくりと入ってくる吸血鬼。
 僕は、ふすまの穴から様子をうかがった。
 つかつかと入ってくると、割れている窓に目をやる。
「チッ… 窓から逃げたのか…」
 窓から外を見下ろして、悔しげに呟く吸血鬼。
 よし、いいぞ…

「…などと考えると思ったかァ?」
 吸血鬼はくるりとこちらを振り向いた。
 奴と目が合う。

「…!!」
 僕は、驚いてフスマの穴から目を離した。
 …気付かれた!
 しょせん小市民の僕が、吸血鬼を出し抜こうなんて無理だったのか…
 押入れなんて貧相な場所で血を吸われるなんて、小市民の僕にはピッタリかもしれない。
 簞ちゃんの震えが身体に伝わってくる。
 …温かい。
 僕は、簞ちゃんを僕の背中側にまわした。
 こうなったら、僕が盾になってやる。
 どうせ死ぬのなら、ちょっとぐらいカッコいい方がいいからな…

 吸血鬼は、押し入れの前に立った。
「さァて… もう、鬼ごっこも隠れんぼも終わりだ… 美味しい血をジュルジュル頂くとするかァ…!!」

「開けないで下さい!!」
 簞ちゃんは、大声で叫んだ。
「お願いです。どうか、このフスマは開けないで下さい…
 そして、このまま引き返してほしいのです。お願いなのです…」
 悲痛に訴えかける簞ちゃん。
 だが、泣き落としが通じる相手とは思えない…

「駄目だァ〜〜ッ!! ジュルジュル吸うまでは、帰れないなァ―――ッ!!」
 吸血鬼は奇声を上げると、一気にフスマを開けた…!!

 その瞬間、フスマに手をかけた吸血鬼の右腕が爆発した。
 僕にはそう見えた。
「な、なんだァ――ッ…!! これは波紋ッ!! オ、オレの手がァァァッ!!」
 煙を噴き出しながら溶けていく右手を押さえて、絶叫する吸血鬼。

「『シスター・スレッジ』は、既にフスマに触っていたのです… だから、開けないでって言ったのに…」
 簞ちゃんは、悲しげに言った。

 吸血鬼の溶けている部分は右手だけではない。肉体の崩壊は次々と全身に波及している。
「知っているぞォォォォッ!! お前、代行者だなァァァァァッ!! 今、やっと気付いたァァァァ!!
 もっと早く気付くべきだったんだァ……」
 喚き声を上げながら、その場に崩れ落ちる吸血鬼。
「……一目散に逃げるのは、オレの方だったのにィィィィィッ!!」
 断末魔をあげて、吸血鬼は溶けてしまった。
 塵のようになって、その場には死体の欠片すら残らない。

「ダスト・トゥ・ダスト。塵は塵に還るのです…」
 簞ちゃんは呟く。
「もう、こんな事はしたくないのです。こんな事、したくないのに…」
 そして、泣き崩れる簞ちゃん。

 僕は、吸血鬼を容易く灰にしながら、泣き続けるこの少女から目が離せなかった…



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

670N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43
椎名が会議室へやって来た時には、既に他の教員は全員着席していた。
「遅いですぞ、椎名先生。教員たるもの自分が遅刻しているようでは、生徒に示しが付かないというものですぞ!
全く、これだから新任教師というのは…」
彼女の遅刻のせいで3分近く会議が遅れた事に、中年で髭面の熊野は苛立った様子で文句を言った。
「す、すみません…」

昨日の夜、高校以来の彼氏と別れたショックから立ち直れなかったという理由は熊野には言っても理解出来ないだろうと椎名は思った。
熊野は50代前半だそうだが、独身で彼女が出来る兆しすら見えない。
いや、この歳になるとむしろ絶望的なのだろうが。
最近も、70を過ぎた両親が必死に漕ぎ着けた縁談5つを全て駄目にしたそうだ。
これらは全て、熊野の同期で老若男女、熊野1人を除いて皆から好かれているおばさん教師・森田寧々、通称モネ姐が言っていた事だ。
実はモネ姐も熊野同様独身なのだが、そこには教職に人生を懸けたワーキングウーマンの気高さが漂っており、
同じ独身でも明らかに彼女の方が格好良く、椎名や他の若い女性教師からは憧れの存在であった。

「まあさて、椎名先生が来ましたから早速今朝の会議を始めることにしましょう」
椎名が遅刻した事に大して苛立つ様子も無く、校長・初ケ谷は穏やかな表情で職員会議を始めた。
彼は俗に言う「おじいさん先生」であり、実績こそあるがその生来からの気の弱さが災いし、今この学校での発言権は
熊野に握られてしまっているのが現状であった。

毎日毎日代わり映えの無い会議にはいつも椎名は退屈していたが、今日は特に昨晩の事が忘れられず、議事そっちのけで夢想にふけっていた。

―――何で今別れなきゃならないの?そんなのって、ひどいよ…

彼は彼女の今までの人生の中で唯一の男であり、自分の中では近い将来結婚するものだと信じていた。
浮気性も無く、彼もまた自分だけをずっと見つめていてくれたと思っていたのに。

―――やっぱりモネ姐さんが言うように、「男は信用出来ないもの」なのかなあ…

自分の二倍以上生きた女性の言葉には重みだけでなく信憑性もあった。
自分の事を応援してくれていたのに、彼女には何と言えば良いのだろうか。
椎名にとっては、遅刻よりもそちらの方が深刻であった。

671N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43

「さて…、それでは最後に例の奇妙な話について話し合いましょう」
「例の奇妙な話」と聞いて、椎名の意識は空想から現実へ引き戻された。
つまらない教員生活の中で最近起こった奇妙な事件には、彼女のみならず数多くの同僚達が興味を示していた。
自分の興味のある話題だけに、彼女は聞き逃さぬよう話に集中した。

「えー皆さんご存知でしょうが、この学校で最近児童の運動能力が一時的に、しかも驚異的に向上するといった事態が起こっております。
体育の時間にクラス一番の鈍足と言われた子が突然国体級の速さで走ったり、
あるいは水泳のタイムが突然イアン・ソープを超えただとか…」
「分かりきった話は要らないわ、さっさと本題に入りましょうよ」
校長が儀礼的な事実確認を進めていくのを、30代前半の女教師、神尾純子―――何故か周囲からは「リル子」と呼ばれているが―――は
退屈で不機嫌そうな顔をして言った。
かなりの嫌味さで周囲からは嫌がられているが、何でもしつこく言い寄ってくる男の相手をするのに疲れているからだとか。
いつもはその理由をアホらしいと思う椎名も、今朝ばかりはむしろうらやましく思えた。

「…ええまあ、それで我々も当校の生徒が異常とは言え運動能力が向上する分には全く問題が無いという事で、
これまで詳細な事実確認を怠ってきたのですが、ここ数日その生徒達の親から苦情…と言うか不気味がる電話がよく入りまして、
『うちの子に何かしたんですか!?』とか『これからもずっとこうでいられる方法を教えて下さい』とかまあ色々でして、
それでとうとう教育委員会の方からお達しが来まして、事態の詳細な調査をするように、と指示されてしまいました」
哀れ校長、熊野だけでなくリル子にまでもなめられてしまった。
まあそんな事はずっと前から分かっていたのだが。

椎名は結局いつもと大して変わらぬ話題に少々がっかりした。
これが事件の真相が分かりましたとか、全国大会で優勝する生徒まで出ましたとかならよっぽど面白いのに。
尤も、後者は絶対に有り得ないというのは周知の事実であった。
今回の異常な運動能力向上は、どの場合も全くの一時的なもので終わっていた。
一番酷いケースでは、クラスで皆から除け者にされてきた子がこの一件で馬鹿みたいに足が速くなり、
とうとう県大会出場を決めたのに、その当日に急に元の速さに戻ったおかげで目も当てられない結果に終わり
結局今日まで登校拒否を続けている。

ただこの事件で1つ奇妙なのは、運動能力が上がるのはスプリントと水泳くらいで、
野球とかサッカーで腕が上がったという話は今まで1つたりとも挙がっていないことであった。
これがこの件でのキーポイントになると椎名は読んでいたが、あいにく彼女の頭は事件の真相を突き止められるだけの知能が無かった。

「それででして、今日は皆さんから何かこの件についてご存知のことがあるのではないかと思い、こういう時間を設けた訳ですが…
どなたかちょっとした事でも知っておりましたら、気兼ねなく発言して下さい」
「気兼ねなく」という言葉が明らかに嘘であることは全員が承知していた。
案の定、すぐに熊野が不平を言い出した。
「校長、恐縮ですが今日この様な時間を設けましても、何せ余りにも奇々怪々な事件でありますから誰かが何か知っていることもないでしょう。
それにほら、時間も押していますからそろそろお開きとした方が…」
言葉遣いこそ丁寧だが、結局熊野が言いたいのは「どうせ誰も何も知らないんだ、時間の無駄だからとっとと終わらせろ」ということだ。
何だかんだ偉そうな事を言って、結局は自分勝手な男である。
嫌われるのも当然だ。

「そう思うだろ、静川!!」
「…は、はいっ、そう…ですね…」
友人もいない熊野のストレスは、全てこの物静かな静川にぶつけられる。
いつもシーンとしている大人しさが、可哀想な事に熊野に言いなりにさせられる対象となる原因となってしまっている。
心無い発言が彼の本心に拠るものでないとは、(熊野以外は)全員分かっていた。

「そう言えば鳥井先生はこの事件に興味津々でいらっしゃいましたよねえ?ひょっとして、何かご存知とか…」
「苗字で呼ぶなコラァ!」
リル子が話しかけた鳥井は、何故か知らないが苗字で呼ばれるのを…と言うよりも、「鳥」と呼ばれるのを異常に嫌っている。
初めは誰彼構わず乱暴口調で反論することに周囲も腹を立てていたらしいが、最近ではもう彼の1つの個性として認められてしまっている。
だが悪いが、どう見ても鳥顔である。
以前急に姿が見えなくなったので、死んだとかいう噂が一時期流れたが、ある日何事も無かったかのように出勤してきた。
何とも不思議な男である。

672N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

ふと、椎名は以前から彼女だけが知っているある事実を思い出した。
それはもう一ヶ月近く前からこれは事件に絡んでいると睨んでいたのだが、忘れやすい彼女はいつもそれを誰かに言う前に
すぐ忘れてしまい結局今日まで過ごしてしまっていた。

「あの、すみません…」
椎名が恐縮そうに挙手すると、すぐに熊野が睨み付けた。
「何ですか、急に!もう会議を終わりにしようという時になって、何か言いたい事でも!?」
高圧的な態度は彼女に黙れと伝える無言のメッセージだった。
普通なら誰もがこんな場面では「すみません」と言って着席してしまうが、今日の椎名は違った。
「…ええ、今回の一件に関係しているのかも知れないことが1つありまして、一応この場で報告した方がいいかと…」
「関係無いんでしょう!?ならもう終わりにしましょう!全くあなたも『くまった』人ですねえ…。
ガハ…ガハハハハ…!!」

出た。熊野お決まりのオヤジギャク。
もう何度も何度も、(面白くないのに)しつこく繰り返されるギャグには全員が呆れ切っていた。
と言うより、人の事を勝手に責めておきながらギャグを言い、挙句自分で勝手に受けるなど、そちらの方が余程無礼である。
やり場の無い怒りがこみ上げてくると、モネ姐が馬鹿笑いする熊野に冷たく言い放った。
「…あなたもね」
侮蔑の込められた言葉に流石の熊野も咳払いをして黙ってしまった。
モネ姐は優しく隣に座る椎名の方を向いていった。
「(さあ、うるさいクマは黙らせといたわ。これで気にせず知ってる事を言ってちょうだい。)
椎名先生、続けて」
椎名はモネ姐に軽く会釈をして、熊野にちょっと目を向けた。
明らかに不満爆発といった感じだ。
彼女は熊野から目線を逸らすと、彼女の知っている事実を語り始めた。

「この突然の運動能力の向上が初めて確認されたのは1ヶ月前のことです。
これは1年3組――つまり私が受け持つクラスですが――の大耳萌奈美さんが水泳の授業中に突然200mを驚異的な速度で泳ぎ切ったという事件です。
それから今日までにおよそ70件以上の報告が為されていますが――実はその内40件以上は1年3組の生徒が当事者です」
今までそんな事実に気付いていなかった他の教員達は驚くと共に、事件のミステリー性が深まってむしろ面白がっていた。
しかしこんな大切な事に今まで皆気付かなかったのか?
椎名は教師と言うものの人間性を垣間見たような気がした。
「フン、面白そうじゃない…。それで?何でそんな事が分かったの?」
クールで嫌味そうな事を言っても、リル子が興味津々であることは丸分かりだった。
「はい、それで私も担任としてクラスの児童に色々と聞いて回りました。そうしたら、どの事件にも私のクラスのある生徒達が関わっていることが判明したのです」
いよいよ聴衆達の期待は高まり、ざわめきが辺りから聞こえてきた。
校長は慌てて教員達を黙らせた。
「み、皆さんお静かに。……それで、その生徒とは一体…?」
「はい、その生徒達はその大耳さんの事件が起こる前日に私のクラスに転入してきた子で、保護者と本人の強い要望で特別に同じクラスに所属することになりました。
彼らはどのケースにおいてもその運動能力が上がった児童達とその前に接触があった事が本人達の証言で分かっています」
聴衆達は再びざわめき出した。
校長も今度はそれを止めようとはしない。
ただ熊野1人だけが、腕を組んでむすっとしながら下を向いていた。
「もう、じらすわね…。それで、その子の名前は?」
「はい。その児童達の名前は…」

673N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

                         |   |      |   |
                       |       、 l ,  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                          |   - (゚∀゚) -< しゃいたまとりくす!
                       |          ' l `   \_______
        シャイタマ〜!         |   |   シャイタマ!   |   |
  \     \   ∧∧         |       ∧∧     |          ∧∧シャイタマ〜!
    \       つ゚∀゚)つ     |    |  ⊂(゚∀゚)つ  |   |      ⊂(゚∀゚⊂  /  /   /
\   \ \  <    v                                  v    > /
                      しゃいたま多すぎまとりくす〜!                  /  /
   \        \     \_______ _______/            /   /
       \  \\                 ∨                  /
シャイタマアキラメロシャイタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ  ∩_∩   シャイタマアキラメロシャタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ
  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  G|___|    ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧
 ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/  (; ・∀・)   ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/
  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧  ∧∧
 ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(  )/ヽ(  )/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/
   vv     vv    vv    vv    vv    vv    | |   | |   | |  | |  | |  | |
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                                                             ⊂⌒~⊃*。Д。)⊃←萌え死に。

674N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:45
シャイタマ小僧がやって来る! 前編

少し乾き気味の空気に炸裂音が響く。
1つ。また1つ。最後に1つ。
秋風に流されたその音は、町の住民全てに届くほどの大きさだった。

それは、今まさに始まらんとしている熾烈な戦いを知らせる祝砲であった。



「おいっ、相棒!なにのんびりしてんだよ!早く来んかい!!俺は先に行ってるぞ、ゴルァ!」
ギコがしきりに呼ぶ声が聞こえる。
「あ〜、分かったよ!」
…ったく、たまにはオレだって詩人になりたいのにさ。


「太古の昔より、オスはメスの気を引くため、熾烈な争いを繰り広げてきた。
その1つに、運動能力による優劣がある。
身体の強い奴は、それだけメスにとっては頼り甲斐があるからだ。
そしてヒトは知性的になっても、その本能を忘れなかった。
古代ギリシア人はその本能をいかんなく発揮する場所として、紀元前776年――これは学者の推定だが
オリンピック、つまりここでは古代オリンピックだな、それを設けた。
その後1169年間オリンピックは続いたが、オリンピックはその名の通りオリンピア信仰からなるものであった。
そのため392年にローマのテオドシウス帝がキリスト教をローマ帝国の国教と定めたために、
オリンピア信仰はそこで潰えてしまうこととなり、393年の第293回オリンピック競技大祭が最後のものとなってしまった。
ところが1892年、フランスのクーベルタン男爵は『ルネッサンス・オリンピック』という講演で、オリンピック復活の意志を世界に示した。
その思想は各国から賞賛され、そして1896年に記念すべき第1回近代オリンピックがギリシアで開催された。
俗に言う『ギリシアオリンピック』だ。
その後第二次大戦中は幾度か中止されることもあり、本当は1940年にも東京オリンピックは予定されていたが、
当時の世界情勢から延期という形で取り止めになってしまった。
そして戦争は終わり、1964年10月10日、記念すべきアジア初のオリンピックである『東京オリンピック』が
国立競技場で華やかに執り行われたのだ。
そもそもこの10月10日というのは、記念すべき開催式が雨であったら大変だということで、
過去の統計から晴れの確立が非常に高いことから選ばれた日であって、何の考えもなく適当に選ばれた日じゃないんだぞ!
お前達も見たことがあるだろう、カラー映像で映し出される入場行進とか、『空の五輪』とか…。
競技の方で有名なもんだったら、マラソンで円谷が銅を取ったとか、女子バレーの『東洋の魔女』とか…。
いやー、あれは見事だったな。世界最強のロシアを見事に倒した彼女達の勇士は…」

…知ったかぶりの知識披露もいいとこだ。
てかこのギコ兄、お前は一体何歳なのかと小一(ry
「…でさ、ギコ兄は結局何が言いたいのさ?」
「そう!そしてさっきも言ったが10月10日とはしっかりとした理由のある、
日本だけではない、アジア全体で記念すべき日であるはずなのだ!!
それなのに、ああそれなのに、あのオブチは何を血迷ったか『ハッピーマンデー法』なるものを提唱し、
大事な祝日の意義そのものを完全に潰してしまったのだ!!
これは過去の偉人達ばかりではない、世界史全体と古代ギリシア人に対する冒涜であって…
おいギコ屋、どこへ行くんだ。これから同士を募って『ハッピーマンデー法反対署名』を国会に突き付け、
冥土のオブチに一泡吹かせてやろうと…」
…もう付き合っていられん。



ま、ギコ兄の言うとおり何か釈然としないところもあるけれど、
結局何が言いたいかと言えば今日が「町内大運動会」である、ということだ。
正直言うと、オレも初めてこの大会の存在を知った時はビックリした。
今時こんなことを律儀にする町なんざ、今まで売り歩いた中で見たことがない。
で、今回オレ達も折角だから出場しようということになったのだ。
この商売も毎日労働とは言えるけど、まともな運動なんて何年振りだか…。
筋肉痛になったり、筋を切ったりしなきゃいいんだが。
「おいギコ屋、まだ私の話は終わってはいないぞ!」
あ、ギコ兄が追って来た。
準備運動も兼ね、オレは走って逃げた。

675N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

会場は既に人でごった返していた。
地方にしては無駄に広い運動場だが、それでも足りないと思えるくらいだ。
「おっ、やっと来たか相棒。お前は最初の競技なんだから、遅刻すんなとあれほど…、
あれ?兄貴は一緒じゃなかったのか?」
あんなのと一緒に来たら、それだけでフルマラソン3回分くらいの疲労が溜まりそうだ。
「…言っとくが、今日はなるべく会わない方がいい…。大変な目に遭うぞ…」
「…?まあいいや。そろそろ開会式が始まるから、適当に並ぶぞ」
「ああ、分かったよ」



『えー、町内の皆様、おはようございます。(住民、低い声であいさつを返す)
えー、今日はこの秋季町内大運動会も30回目という記念すべき年でありまして、
えー、そういうことで皆様にはいつもの運動不足を解消していただくべく!
えー、全力を尽くしていただきたいと…』
聞いててウザイ。「えー」が多すぎだ。
ってかオレも頭はそんなに良くないけど、何か日本語がおかしいって分かるぞ。
…この町長、頭悪いだろ?

『えー、またこの大会の開催に関しては、
えー、毎年お世話になっています町内商店街の皆様から今年も多大なる助力を頂きまして、
えー…』
よくある社交辞令。
聞いてる方にとっては一番ストレスの溜まる部分だ。
そんなもん酒の席ですませときゃいいじゃないかと問いたい。問い詰めたい。小一(ry

『平成十五年十月十三日  擬古谷町長  擬古瀬 伍琉央』
あー終わった終わった。んじゃさっさと走るとしますか…。

『(司会進行現れる)えー続きまして、県知事の茂羅様よりご挨拶を…』
な、なんだってー!
まだ続くのかよ…。

『えー続きまして、衆議院議員の左菅谷 阿仁様よりご挨拶を…』
んなもんわざわざ今日来てまですることか、仕事あんだろ!
政治家ってのはどうして無駄な選挙運動を…。

『えー続きまして、参議院議員の左菅谷 逐梼様よりご挨拶を…』
絶句失笑。

『えー続きまして、祝電披露』
これはどこかの卒業式か!!??
いい加減ディオ ブランドサマに無駄を削減してもらいたくなってきた。


『…今後の擬古谷町の発展を心よりお祈り申し上げます』
…もういいだろ?
テントの下にいるのでこれから話しそうな奴も見当たらないし…。
…あ、終わったらしい。
これでようやく…。

『えー続きまして、諸注意』
…もう…駄目…。
(ドサッ)
「…相棒…?おい、しっかりしろ、相棒!おい、誰か担架持って来い、担架!!」

676N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

額に冷たさを感じる。
失われた意識が一気に復活した。
「…ん、ここは…?」
「お、ようやく目を覚ましたか。こっちもびっくりしたぞ、お前ともあろうものが貧血で倒れるなんて…」
貧血…ああ、あのクソ長い開会式でオレは倒れたのか。
「…ってそうだ!オレの競技最初じゃんか!まさかもう…」
慌てるオレの顔を、相棒は呑気な顔で見つめた。
「大丈夫だぞ、実はあの後倒れる奴がお前以外にも続出してな、予定を変更して競技開始をちと遅らせることにしたんだ。
…ってか、お前は病み上がりで走るつもりなのかよ?」
ギコの顔はオレがまさかそうはしないだろうと思っていることを表していたが、オレは本気だ。
「もちろん初めっからそのつもりさ!何のために今日ここに来たと思ってんのさ!!」
ギコは深い溜め息を吐いてオレを見た。
「…呆れたぞ。お前のその異常な根性はどうかしてやがる…」
「ま、いいじゃないか。どうせオレも1つしか出ないんだしさ。さ!準備運動すっか!!」
オレは救護テントから出て、貧血で倒れたことも忘れて屈伸を始めた。

100m走。
それは極僅かな距離で繰り広げられる男達の全力勝負。
一瞬の手抜きすら許されない集中力と体力の競い合い。
そこにはまさに闘う者達の美学が…
『さあさあやって参りました、第30回擬古谷町秋季大・大・大運動会!!
今年も沢山の町の皆が参加してくれて、VERY VERY THANK YOU だ!
さあ猛者共!今日は己が持てる力を存分に出し切って、思いっきりはみだしてくれ、いやはみだせ!!」
…美学を解さない奴もいるし。
まあ、いっか。とにかく走る!これ。
よし、絶対1位を取ってやるぞ!
『さあさあ野郎共!ノってこいノってこい!!あらくれ共よ!気の済むまで暴れやがれ!!
あらくれワッショイ!!あらくれワッショイ!!あら(ドグシャ)グブゲェ―――ッ!!』
『…失礼致しました。んじゃ、とっとと選手の皆さん、並んで下さい』
…こういう時に限って妙に冷めた奴もいるし。

スタートラインに選手が並ぶ。
第1レースは大会の最初を飾る大事な競技だ。
この競技がうまくいかないと、大会全体がしけてしまう。
責任重大だ。くれぐれも、こけたりしないようにしないと。

「シモシモ? ミナサン ナラビマシタネ? ソレジャ イチニツイテ・・・ ヨ――――イ・・・
y=ー( ゚д゚)・∵;;ターン」

677N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:47

『さあこの秋季大運動会最初を飾る記念すべき最初のレースがスタートしました!
今大会は第30回という節目の大会だけあって、この町に縁のある多くの著名人が里帰りして参加しています。
この100m走でリードしているのは…おぉーーーっとギコ屋選手だ!
ギコ屋選手は今大会で特別に参加している、言わばゲスト!
ゲストだけあって、速い・速い・速い!!
でも彼はこの町には縁が無い・縁が無い・縁が無い!!
ただ商売してるだけ!それなのに速い!ぶっちぎりで速い!
空気も読まずに県知事を無視して突っ走る!議員君も頑張って!
しかしギコ屋速いギコ屋速い!ってか速すぎだァ―――ッ!!
…えー今ここで入った情報によると、現在男子100m走の世界最高記録は
モーリス・グリーンの記録した9秒79ですが、現在のギコ屋選手の走りはそれを遥かに超えた速さであるそうです!
頑張れギコ屋!頑張れギコ屋!
このまま世界の壁を破れぇ―――ッ!!
そして今!ギコ屋選手!
ゴ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ルッ!!!!
記録は?記録!
えー、記録は…
6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!!!!!
6秒22です!!!!
ギコ屋、せヵいぅおッ、くぁるくっ、こぉえたぁーーーー!!
ハレーギコ屋!ハレーギコ屋!

…ってギコ屋どこまで走る!?どこまで走る!?
そっちはフェンスだぞ!ギコ屋、止まらない!止まらない!
そしてフェンスを…
破ったァ――――ッ!!
どこまで走るギコ屋!お前は人間をやめたのかァ―――ッ!?』
『…それでは引き続き競技を始めます。次の選手、呆気に取られてないで早く位置について下さい』

678N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:48















…ってか、



なんじゃこりゃぁ――――――――――ッ!!!!

679N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:49

止まらない!いやむしろ止められない!
つーかこの走りは何なんだよ!?
オレこんなに速くないぞ!
6秒台っておかしいって!!
凡人の2倍速じゃないか!!

目の前に見える「50」。
オレは決死の覚悟でそれを支える支柱に飛びかかる。
慣性で腕が脱臼しそうになるが、なんとか止まることは出来た。
「おい、 ハァッ、 これは一体 ハァッ、 どういうことだよ! ハァッ、 一体何が ハァッ、 起きたんだ!?」

「ケーケケー! スゲーダロ? コレガ 俺様ノ 力サ!」

「!!!」
背後から声。
瞬間、振り向きざまに「クリアランス・セール」で裏拳を打ち込む。
…誰もいない。

「オイッ、 トロイゼ! コッチダゾ、 ケケ!!」

…まただ。
やはり背後には人影はない。

「ナンダ、 オメーハ 結構速イト 聞イテイタガ、 何テコト ナイジャネエカ!」

…小癪な。
こうなったら知能戦だ。
後ろ!
と見せかけて前!
でもなくてやっぱり後ろ!

…逃げ切れなかったな!
「クラァ!!」

「・・・ヤッパリ トレーナ テメーハ! ケケケケ!!」

拳目前の所で瞬間移動。
声の主は、今度は逃げはしない。
宙に漂う不気味な小物体は…スタンドか!

「ヤット 気付イタノカヨ! オ前 勘ガ ド鈍イゼェーッ!!」
小馬鹿にしたような口調が癪に障る。
機械的なボディーに描かれた…アヒャ…?らしき顔が喋っている。
その顔といいダサい形といいもう何から何まで相手に向かって挑発的だ。
「この異常は、やっぱりお前の仕業だな!」
オレが奴を指差しても、向こうは薄目を開けて笑ったままだった。
「・・・マ、 ソウイウコッタ。 俺様ノ 能力ハ 『暴走』。 取リ憑イタ相手ノ 肉体ヲ 暴走サセルコトガ 出来ルッテワケサ。
ケドナ、 ソレガ 分カッタトコロデ オ前ニャ 何ノ 解決策ニモ ナリャシネェ〜〜ヨ!! ケケケケケ!!」
…くそっ、だがこいつの言うとおりだ。
敵スタンドの能力が分かったところで、オレには今何の対抗策も無い。
となると、やっぱり本体を叩くしかなさそうだが…。

「オイッ、 トコロデ テメーハ 俺様ノ 本体ヲ 叩コウナンソザ 考エチャイネェーヨナァー?
残念ダガ ソイツァー無理ダゼ! 俺様ハ 『自動操縦型』ノスタンドダ! 本体ハ 今頃 遥カ遠クデ クツロイデルトコダロォーゥヨ!!」
何ッ!?そんな…それじゃ一体どうすりゃいいんだ!?
こうなりゃ、まずは何としてもギコ達と合流しなくては!

680N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

「オイオイオイ、 コンナ通行量ノ 多イ道路ヲ 本気デ 渡ル気カァーイ?」
普段だったら平気で車の隙を縫って行ける。
だが今回は…一台をかわしてもそのまま反対車線の車にぶつかってもおかしくない。
一か八か、一世一代の大勝負だ。
「行くぞッ!」
僅かな勘を頼りに、覚悟を決めて突っ走る。
スレスレのところで、2台とも回避出来た。
「ヘイヘイヘイヘイ! 随分 危ナイ真似 スンジャネーカ! 見テルコッチガ ヒヤヒヤモンダゼーェッ!?」
「…だったら、とっとと能力を解除するんだな」
こいつが喋るだけでも集中力が途切れかねない。
まずはこいつを黙らせておく必要がある。
と言っても、黙れと言って黙る奴でもないし、こうなったら…。
「『クリアランス・セール』ッ!」
自分の耳を殴り、鼓膜を分解する。
時間が来れば、またすぐ分解し直せばいい。
「オイオイオイ、 テメーハ 正気ノ沙汰ジャネーゼ! 遂ニ トチ狂ッタカ!?」
「…えー?何言ってんのか全然分かんねーよ!」
(・・・ハッ、 随分ト 考エタモンダナ、 ダガナ、 『耳』ヲ失ウッテノハ 相当ナリスクヲ ハランデンダゼ、 ケケッ・・・)

聴覚を失った以上、外界の様子は視覚に頼るしかない。
慎重に慎重を重ね、前後左右上下をしつこいほど確認し、忍び足で進んでゆく。
気が遠くなりそうだが、これしか方法は無い。

(ケケッ、ナラコッチモ 『頭脳戦』トヤラデ イカセテモライマスカ・・・)
敵スタンドはギコ屋の目を盗んで憑依を解除した。
向こうからは、自転車を漕ぐ一般人が向かってくる。
(コイツニ 憑依シテ 速度ヲ 倍増サセル!)
敵スタンドの効果に、一般人も徐々に気が付き始めた。
「…お?あれ、足が、足が止められん!」
その先には若者が1人、目の前の道路を渡ろうとしている。
「危ない!よけてくれェ―――ッ!!」
しかし、若者の耳には言葉は届かなかった。

「…はッ!」
気が付いた時には、1台の自転車がすぐ近くまで迫っていた。
「クリアランス・セール」を一瞬考えたが、反射的に身体の方が動いた。
思わず避けようと走り出すと…速くない!?
「今ダ! 再ビ ギコ屋ニ憑依! パワー全開ダァッ!」
あのいやらしい声が耳に入ると同時に、オレの身体はまた暴走を始めた。
しかも今度は、さっきよりも更に速い。
「くそッ、おいお前、やめろッ!」
「ハハッ、 ヤメロト言ワレテ ヤメル馬鹿ガイルカヨ、 ボケガァ!!」

681N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

…何キロくらい走らされただろうか。
身体は全然疲れを感じないが、精神はもう荒廃寸前だ。
急に加速が終わり、オレの身体は急停止する。
「オイ、ボケナス! チャァーント 目ノ前ニ アルモンヲ 見テミヤガレ!」
眼前には、見覚えのある「50」の看板。
…まさか。
「カァーッカッカッカ!! 見事ニ 引ッ掛カカリヤガッタゼ コイツ! テメーデテメーノ 耳ヲ潰シテオイテ 墓穴掘ッテヤンノ! カァーッカッカッカ!
・・・オイ、ボケナス! コレガ 俺ノ力サ! テメーハ一生 コウヤッテ 同ジ所ヲ 延々ト 回リ続ケンダヨ!
シッカシ テメーノ 呆気ニ トラレル顔、 マジニ マヌケダゼ! カァーッカッカッカッカッカ!!」
…の野郎。
絶対に許さん。
ここまで人を馬鹿にするとはいい度胸じゃないか。
「…いいだろう、ここまでオレをコケにするんだ、もしオレがお前の本体を見つけたなら、
容赦無くぶっ飛ばしてやるぜ!その覚悟があってオレと勝負しようってんだな!」
対する敵スタンドの表情も、やはり自信に満ちている。
「ケケッ、 ソンナノゼッテーニ 無理ナ話ダヨ! ・・・マアイイダロウ、 コノ俺ノ本体ヲ 捕マエラレタラ、 後ハ煮ルナリ焼クナリ 好キニシヤガレ!
タダシ、 ソレハ貴様ニャ デキネーガヨ! ケケケケケ!!」
「…言ったな。ならこれで勝負は成立だ。
このオレと!お前の本体との『鬼ごっこ』!今からスタートだッ!!」

682新手のスタンド使い:2004/01/10(土) 12:31
乙です。

683( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:18
此処は茂名王町。とてもマターリした町だ。
・・・だが、ソレは只の一般人の幻想に過ぎない。
現にこの街では世界中でも異例だと言うほどの殺傷事件がおきている。
だが、一般人はそんな事実知らずに、今日も平和で暮らしている
・・・・俺もそう暮らしたい物だな・・。
「ドンドンドン!!」
俺が優雅にティータイムを楽しんでいると、ドアを叩く音が聞こえる
俺は渋々とティーカップを置いて、ドアを空ける。・・まぁどうせ『アレ』だろ・・
「巨耳モナー警部!!事件ですッ!!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―

申し遅れたが、俺の名は『巨耳モナー』。IQ200(自称)の天才警部だ。
元々本庁で『特別課』と言うのに所属していて、
そこで事件を解決していく内にこんな田舎の辺境に飛ばされてしまったのだ。
畜生。あのクサレ上司どもめ。自分の地位が脅かされるのが怖いのか。
「警部。今回の事件の調書です。」
調書を手に取り一番最初に目に付いたのは白黒の写真。
そこらのグロ画像なんかにゃ負けないくらいグロい写真だ。
「・・・『心臓の中に無数の弾丸』・・?」
俺は首をかしげながら部下に聞く
「ええ。良くわからないのですが・・心臓の前に一つ銃で撃たれた穴が開いてて・・その中に銃弾がつまっていたそうです。」
・・・ハァ?
「銃弾の数は200以上。その時の銃弾は今鑑識が調べています。」
うーん・・いつもこうだ。俺達『特別課』にはこういう訳の解らない事件ばっかり来る・・
・・・・でも。大体誰がやったのかは目安がついてる・・
「『スタンド使い』・・か・・。」
俺が小さな声で呟き、残りの紅茶を一気飲みして鑑識の野郎どもが居る所へ向かった
此処で紅茶を飲んでおかないと帰って時には冷めているからだ。

684( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:19
「おい。鑑識。」
俺はドアを開けると同時に言った。全員が振り向き、すぐにこう言った
「嗚呼。巨耳モナー警部。えっと・・お探しの物はコチラですね?」
目の前に200以上の銃弾がドチャッと置かれる。コレがさっきまで心臓に入ってたかと思うと気持ち悪い。
「・・ただワンホイールショットで心臓の中に入れたか、殺した後に捜査を妨害しようとしただけなんじゃないか?」
俺はその場で思いついた憶測を言う。間違ってると解っていても言うのは警察の仕事だ。
「ソレはありえませんね。200発もワンホイールショットできる人なんて居ません。」
・・・当たり前だよな
「後者についてはただ200発の弾丸代が無駄になるだけです。弾丸は結構高いですからね。」
・・それもそうか。それだったら死体を焼くとか隠すとかもっと安い方法をするハズだ。
俺は欠伸をしながら事件現場に向かう。・・もう大体どういう事なのか見えて来てしまった。
・・そろそろもっと難しい事件がやりたい。こういう事件ばっかりだと、犯人が断定される上
その断定された犯人はトリックがどうこういうわけじゃない。単純だ・・『能力』に違いないからな。
そんな事を考えてるうちに付いた。警備君がコチラに敬礼をする
「ごくろーさんです。」
俺もとりあえず敬礼をしてちょっとした挨拶をする
中ではまだ何人かの鑑識が調査してる。・・・邪魔になるだけかな。
「・・・・此処に犯人が倒れてたのか?」
俺はそこに座り込む
「あ。巨耳モナー警部・・。はい。そこに大の字に。」
「あんがと。此処に居ても邪魔になるだけだから、帰ってるわ。んじゃ。」
・・実を言うと寒いだけなんだけどね。
俺が署までの道を歩いていると妙な人物が離しかけてきた
「・・・なぁ、アンタあの事件を捜査してんのかい?」
・・・見てたのか・・
「やめときな、あの事件に関与しない方が良い・・『死ぬ』よ・・。」
「・・無理だね。俺は警察だ。これでもプライドはある。一度関与した事件は諦められないね。」
すると、妙な人物は口をひきつらせ
「だったら・・力づくでわからせるしかないなぁ――ッ!?」
途端にソイツらは増えた。ふむふむ。さしずめ『物や人を増幅する』能力って所だな。やっぱり犯人はコイツか・・。
「そらッ!死ねェッ!!」
100人くらいの犯人君がいっせいにかかってくる。脳が俺に命令をかざす
(・・・そういえばコイツら、スミスみたいだなぁ・・。)
っておい。俺の脳はそんな事しか考えられないのか。
「URYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
彼らが俺の体を殴ろうとしたその時。俺は上体を少し右に反らした。すると、後ろの電気屋のプラズマテレビが姿を現した。
俺は不適な笑いを見せると、巨大なテレビから巨大な拳が現われ、彼らを一掃した。
犯人と思われる人物は呆然としている。
「え・・?そ・・それは・・?」
テレビから出てくる手を指差して震えている
「俺を誰だと思ってるんだ。特別課の巨耳モナー様だぜッ。」
俺は良く解らない決め台詞を言って呆然とする彼に手錠をかける。
・・ヤレヤレ。『コイツ』を使うのは避けたかったんだけどなぁ・・

←To Be Continued

685ブック:2004/01/10(土) 14:24
貼ります。
あと、いまさらですがコテハンつけます。

686ブック:2004/01/10(土) 14:27
    救い無き世界
    第七話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
        〜ポロリもあるよ〜 その3


 デパートの周りは、既に警察、消防署、救急隊、テレビ局、野次馬等、
 たくさんの人でごった返していた。

 私は先程女の子の治療の為に多量の生命エネルギーを
 消費したせいもあり、
 その喧騒に思わず倒れそうになった。

「大丈夫?みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私を倒れないように支えてくれた。

「私は大丈夫です。…でも……。」
 私は言葉を詰まらせた。

 お医者様の話では、女の子の足はもう切断するしかないとのことだった。
 私の『マザー』の力では、あの子を助けることが出来なかった。
 私は何も出来なかった。
 私には力が無かった。
 私は、私はまた…

 ポロリと涙が流れ出る。
 泣いても泣いても、とめどなく涙は溢れ続けた。

「みぃちゃん…」
 ふさしぃさんが、私を抱き締めた。
 子供をあやす様に、私の背中を軽くポンポンと叩く。

「みぃちゃん。
 あなたは良く頑張ったわ。
 もしあなたがあの子を必死に助けようとしなかったら、
 医者にかかる前にあの子は死んでいたかもしれない。
 あなたは立派に、あの子の命をすくったのよ。」
 ふさしぃさんは優しい声で私に慰めの言葉をかけてくれた。
 しかし、それでも私は自分を責めずにはいられなかった。

「違います…
 私は何も出来なかった!
 あの子を助けてあげることが出来なかった!
 私は…私にもっと力があったら…!」
 無力感と後悔で、私の心は埋め尽くされた。

「みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私から体を少し離し、
 私の顔をじっと見つめた。
「みぃちゃん。もしあなたが、
 自分のせいであの女の子が苦しむことになったと
 考えているなら、それは間違いよ。」
 ふさしぃさんはそう言った。
「いい?私達は神様なんかじゃ無い。
 だから何でも思い通りの結果を出せるとは限らない。
 それで当然なのよ。
 私達はほんのちっぽけな存在なのだから。
 それなのに、何でもかんでも自分の所為に決め付けるのは、
 美徳でも何でもない、ただの傲慢だわ。
 思い上がりもいいところよ。」
 ふさしぃさんはきっぱりと言い切った。
 その表情は、いつになく厳しいものになっている。

「でも…でも私は――」
 ふさしぃさんの言う事が正しいのは良く分かっている。
 それでも、あの子の事を考えると、
 私は涙を抑えることが出来なかった。

「…分かってる。
 あの子を助けられなかったことが、悔しいのね…」
 ふさしぃさんはそう言ってもう一度私を抱き締めてくれた。
 その口調と表情は、元の優しいものに戻っている。

687ブック:2004/01/10(土) 14:28

「さ、いつまでも泣かない。
 そんな顔で、でぃ君達をお迎えするつもり?」
「あ―――」
 そうだ。
 でぃさんに、ぃょぅさん。
 私は思わず時間を確認する。
 すでに、ぃょぅさんと別れてから二十分が経とうとしていた。
 私の顔から、さぁっと血の気が引く。

「彼らなら、心配ないわ。」
 私の顔色に気づいたのか、ふさしぃさんは私にそう言った。
「で、でも―――」
 私は不思議でならなかった。
 ふさしぃさんの顔には不安などかけらも見えない。
 なぜこの人は、こんなにも落ち着いていられるのだろう。

「大丈夫。
 なんたってあのぃょぅがついてるのよ。
 彼なら、絶対に何とかしてくれるわ。」
 ふさしぃさんは自信に満ちた表情で言った。

 ああ――そうか。
 ふさしぃさんと、ぃょぅさん、
 いいえ、たぶん小耳さんやタカラギコさんやギコえもんさん全員は
 強い信頼の絆で結ばれてるんだ。
 ちょっとやそっとの事じゃ、ビクともしない位の、確かな絆が。

 私は不安が少しずつ薄らいでいくのを感じた。
 きっと、これもふさしぃさん達の絆の力だ。

 私は、ふさしぃさんがとても羨ましかった。


     ・     ・     ・


 俺の拳が男の右胸部へと命中した。
「げぶぅ!!」
 男がくぐもった声を上げる。
 俺はさらにもう一撃を加えようとした。
「なめるなあああああああ!!」
 しかし今度はパンチをかわされてしまった。

688ブック:2004/01/10(土) 14:28

 しくじった…!
 俺は舌打ちをした。
 空気の抵抗が水のように重かったのと、
 直前で奴に気づかれて直撃だけは回避されてしまった為、
 さっきの一撃は致命傷にならなかったのだ。

「この…ビチ糞がああああ〜〜〜〜!!!」
 男が俺に水中銃を連射してきた。
 腕で防ごうとするが、
 矢は俺の腕をすり抜け、次々と体に喰らい込んだ。

 痛みに意識が遠のく。
 駄目だ、やられる!

「ぐあああ!!」
 その時男がいきなり悲鳴を上げた。
 見ると、男の左肩口に水中銃の矢が刺さっている。

 何が起こったのか分からず、俺は周囲を見回す。
 すると、ぃょぅの前に何やら小さな渦巻きが発生していた。

 そうか。
 自分に刺さった矢を、あの渦の中心部分を通過させることで、
 加速させて男に撃ち込んだのか。

 何て人だ…
 そんな事を、この状況でとっさに思いつくなんて。

「なぁめぇるぅなああああああ!!」
 男がその場から動こうとする。

(逃がすか!!)
 俺は男の左足首を掴んだ。
 その手に渾身の力を込める。
 握った部分が、ミシミシと音を立てた。

「っき、離せぇ!!」
 男が叫び、俺に至近距離から水中銃を乱射する。
 突き刺さっていく矢。
 しかし俺はひるむことなく手にさらに力を込める。

 放してたまるか。
 絶対に放さない。
 たとえ死のうとも。

 あの子の痛み…
 存分に味わえ!!

「ぎゃあああああああああ!!!!」
 骨と肉の潰れる感触。
 男の叫びが辺りに響く。

 男の足が完全に破壊されるのと、
 男の体に何本もの矢が突き刺さるのとは、
 ほぼ同時だった。

689ブック:2004/01/10(土) 14:29



 俺の足が重力に導かれるまま地面へとついた。
 体の周りを水が覆うような感覚はもう消えている。

「流石に、疲れたょぅ…
 小規模に力を一点集中させたとはいえ、
 あの空間であそこまでの風を起こすのは…」
 ぃょぅは疲労困憊といった様子で片膝をついている。

 俺はぃょぅに手を差し出した。
「済まなぃょぅ。」
 ぃょぅは俺の手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。

『肩を貸しましょうか?』
 ぃょぅにそう尋ねる。
「大丈夫だょぅ。それより…」
 ぃょぅはそう言って俺の申し出を断ると、
 男の方を指差した。

 男は、仰向けになって地面に倒れている。
 警戒しながら、俺達は男に近づいた。

「どうした、殺さないのか?」
 男が憎まれ口を叩いた。
 しかしスタンドを発動しないところを見ると、
 どうやらもう闘う力は残っていないようだ。

「まだ殺しやしなぃょぅ…
 君には今回の件で聞きたい事が山程あるょぅ。
 死んでもらうのは、それからだょぅ…」
 ぃょぅがさらりと恐ろしい言葉を口に出す。
 その顔に、いつもの人の良さげな表情は無い。

「は、ははははははははは!
 それは御免だ。」
 男はそう言うと、何やらスイッチの様な物を押した。
「!何を!?」
 ぃょぅが身構える。
「クク…あと五分で、このデパートに仕掛けられた
 残りの爆弾が全部爆発する。
 せいぜい逃げて――」

「!!!」
 その時天井がいきなり崩れた。
 俺達は何とかかわしたが、男はそのまま生き埋めになった。

「…でぃ君、急いで逃げるょぅ!」
 ぃょぅの声と共に、俺たちは急いで出口へと駆け出した。

 冗談じゃねぇ。
 こんな所であんなイカレ野郎と心中なんて、願い下げだ。



 俺達はひたすらに走った。
 さっきの戦闘のせいで、
 すぐに体が悲鳴を上げ始める。
 だが、止まる事は絶対に出来ない。
 走れなくなったら、その場所がそのまま墓場となる。

 爆発まで、あとどの位だ!?
 二分…それとも一分?

 恐怖と焦燥と生への執着とが、
 疲弊しきった肉体を突き動かした。

690ブック:2004/01/10(土) 14:30

「!!!!!!!!」
 出口に近づいて来た所で、
 ぃょぅと俺とに絶望の表情が浮かんだ。

 出口への道を、大きな瓦礫が塞いでいる。
 だが、回り道をするだけの時間は、もう無い…!

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが風で瓦礫をどかそうとする。
 しかし、さっきの闘いでの疲労と、
 あまりの瓦礫の大きさに、瓦礫はビクともしない。

(ちぃっ!)
 今度は俺が瓦礫へと拳を叩き込んだ。
 瓦礫の一部を粉砕する。
 だが、ほんの一部だ。
 道を開くには、遠く及ばない。
 もちろん、少しづつ壊していく時間など有ろうはずも無い。

 糞が…
 これまでか…!!

     ドクン

 突然の体の内からの鼓動。
 気のせいか、前よりも大きくなったように感じる。

     ドクン ドクン

(……で、…前に死……は困る。)

 !!?
 声!?
 誰だ。
 お前は誰だ!!

(お前……かげで…私…『力』……し戻……
 …れは……礼だ…受け…れ。)

     ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺の腕が、俺の意思とは無関係にスタンド化した。
 いや、それだけじゃな、
 脚まで、あの「化け物」のものになっている!


 あ アあ   あ    嗚呼 あ

 体の内側が燃える。

  あ  ああ  A  ア      阿

 視界が真っ白に  あ  なる

    ぁ    あアあ  亜  あ  a

 何も あ 考え Aあ られない  アa

   A亜あ  ぁ  嗚呼 あ     あAあア

 気 あア亜 が狂い あ阿 そ あA うだ…!!

 あ A 亜 a アぁ    あ

ああ阿あアああAああああああアああAAAA唖あああああaアあ嗚呼ああAああ亜Aa
亜ああぁあアぁAああ亞あAあ阿あああああaA阿あ亜ああ嗚呼あAAあa亜阿ああAあ
あああA亜あ亜ああああAAaあ阿あああああああああああああああああああ!!!!!

 理性が、吹っ飛んだ。
 俺は『力』に振り回されるが如く、拳を瓦礫へと突きたてた―――

691ブック:2004/01/10(土) 14:30


     ・     ・     ・


 私達は、一気にデパートの出入り口を駆け抜けた。
 そのすぐ後に、デパートから大爆発が起こる。
 野次馬が、それに合わせて悲鳴に似た歓声を上げた。

「でぃさん!!」
「ぃょぅ!!でぃ君!!」
 ふさしぃとみぃ君が、私達に駆け寄ってきた。
 みぃ君はそのままでぃ君に抱きつく。

「ぃょぅ…ご苦労様…」
 ふさしぃが私の肩に手を置いた。
 顔は笑っているが、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 …どうやら心配をかけてしまったみたいだ。
 不甲斐無い。

「危機一髪ってとこだったわね。
 まったくもう、ヒヤヒヤさせて。」
 ふさしぃが涙をごまかすように目をぬぐって言った。

「悪かったょぅ。少し立て込んでしまっていたょぅ。
 本当に、もしさっきでぃ君がいなかったら…」
 そうだ。
 でぃ君だ。
 あの時、でぃ君が瓦礫を壊してくれたおかげで…

 いや、違う。
 あれは「壊した」なんてものじゃない。
 「無くなった」のだ。
 瓦礫が、まるでそこに在った事自体が嘘のように、
 塵一つ残さず。
 あれは、あれは一体…

「!?
 でぃさん!!」
 みぃ君の叫び声。
 見ると、でぃ君がその場に倒れていた。

 急いで側へと駆ける。
 どうやら、でぃ君は気を失っているようだった。

 あの男との闘いが原因だろうか?
 それとも、さっきの―――

「…でぃ君…君は一体、何者なんだょぅ。」
 もはやでぃ君には私の声など聞こえてはいないだろう。
 しかし、それでも私は彼に向かってそう呟かずにはいられなかった。


  TO BE CONTINUED…

692302:2004/01/11(日) 01:33
スタンドアイディアスレで書いた「ファイナル・カウント・ダウン」を使った小説です。
今から貼らせていただきます…

693302:2004/01/11(日) 01:33
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・1

ウチの名前は「のー」と言います。当然やけど、あだ名やで?
関西訛りのAAで、18歳です。性別は…まぁ、つー族ですし不明で頼んますわ。

ウチは今…親友のニダやん(20歳男)と一緒に「ストリート漫才」をやってますねん。
コンビ名は「Nie da No!」っていいまして、こう書いて「ニダのー」って読むんやけど…
まぁ、大概厨房くさい名前やな…と思っとります。

で、今日も駅前で漫才を二本やって、帰る途中なんですわ。

「いやー!しっかし、ワシらも人気出てきたなぁ、のーちゃん!」
「ニダやん、可愛い女の子のファンが出来たからって…ハシャぎすぎやで?」
「なんや。妬いとるんか、のーちゃん?」
「アホぬかせ!」

ベキョッ。

「…路上でハイキックは酷いやんか…」
「いつもの事や。さ、とっとと帰って反省会やで。」

自慢&昔取った杵柄&商売道具の「ハイキック・ツッコミ」をニダやんに叩き込んで、
ウチは駅から徒歩十分の家に向かって歩き出しました。
でも、ニダやんが付いて来んのですわ。

「……のーちゃん、ちょっと待ったってや。」

694302:2004/01/11(日) 01:34
ニダやんは、(派手にダウンしたまま)路地裏を覗きこんどったんです。

「どした?首の骨がやっとイカれたか?」
「『やっと』ってなんやねん!そんな事と違うねん。あの路地…人、倒れとるで?」
「…うっわー、行き倒れっぽい服装やな…」

ニダやんが起き上がって、路地の方を目線で指しました。
ウチらの眼に入ったのは、黒マントの男がうつ伏せでグッタリしとる姿でしたわ。
暗くてよくわからへんかったんですけど、“何か”を大事そうに握り締めとったんですわ。

……まさか、それで刺されるとは知らず…ウチらは、そのオッサンに近寄ったんです。

「オッサンオッサン、飲みすぎか?行き倒れか?」
「死んどるやったら、そう言ってくれや?」
「死人が口利くかい!!」

狭かったんで、仕方なくニダやんに右フックを食らわしつつ、ウチはそのオッサンを起しました。
そうやなぁ…8頭身と同じくらいの身長(タッパ)やったな。うん。
ウチらは三頭身やし、あのデカさは8頭身やと思います。

「…クク、お人好し…だな」

そらもう低い男の声でしたわ。で、次の瞬間には…

695302:2004/01/11(日) 01:34
「…っ!?いったぁ………!!」

肩口に、オッサンの持ってた“矢”を刺されてしまったんですわ。…参りましたわ、ホンマ。

「なぁ!?オッサン、マイ・ディア・相方に何するねん!!」

青アザ作った顔で怒鳴るニダやんも、そらもう…あっという間に…

「のわー!!刺さっとる!刺さっとるってオッサン!!ニダにこの傷の謝罪と賠償を(ry」

同じ様に、矢で突き刺されてしまったんですわ。何や、ウチより余裕っぽかったんが腹立つんやけど。
でもまぁ、要求する前にニダやんはぶっ倒れてしまいましたわ…
ウチも、何やわからんまま…気が遠くなりよったんです。

「…だが、私はお前達の様な“お人好し”を探していた…“ヒーロー”は、お人好しでなければ勤まらぬ。」
「…お前達が無事に目覚めた時、それは“新しい力”の目覚めだ。その時、また会いに来る…」

…オッサンはそのまま、ウチらを残して立ち去ってしまいました。
……そしてウチとニダやんは、近場の総合病院に急患として運び込まれたんですわ……。

原因は二人して「原因不明の高熱」でした。で、とりあえず検査入院になったんやけど…

翌日、あの男が予告通り…現れたんですわ。

<TO BE CONTINUED…>

696:2004/01/11(日) 13:08

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その2」

 
「おはようなのです!」
「ああ、おはよう…」

 朝…、か…。
 僕は身体を起こした。
「あいててて…」
 素の畳の上で寝たのは、初めての経験だ。
「すみませんです…」
 簞ちゃんが、バツが悪そうに言った。
「いやいや、簞ちゃんが謝る事はないんだよ。何というか、男のケジメってやつだから…」
 …?
 男のケジメってのは、別物のような気がするな。
 とにかく、僕が普段使っている布団に簞ちゃんが寝て、僕は畳で寝たのだ。
「でも… おにーさんの顔に畳の後がついているのです…」
「人間、何でも経験だよ。畳の上で寝た事が、僕の人生に大きく作用することがあるかもしれないからね…」
 僕はそのまま学生服を羽織った。
 何か、部屋を仕切るようなものが欲しいな。
 僕はいいが、簞ちゃんの方が困るだろう。

 ちなみに、簞ちゃんは僕の事を『おにーさん』と呼んでいる。
 昨日、泣きじゃくる簞ちゃんに、僕は自分の名を名乗ったのだ。
「ぼくの名は1さんだよ」と…
 そう。僕は名前を名乗る暇さえなく、あれだけの騒動に巻き込まれたのだ。
「1さんさん…ですか?」
 簞ちゃんは顔を上げた。
「いや、さん付けはいいんだ。『1さん』で名前。
 いや、これもさん付けなのかな… でも『1』とは呼ばれたことないし…」
 何か、僕自身の存在に関する大きな問題にブチ当たってしまったようだ。

「…じゃあ、おにーさんって呼んでもいいですか?」
 お、おにーさん!?
 …エロいな。
「私は、おにーさんよりも1つ年下なのです。だから、おにーさんなのです」
「そうか…」
 何か、急に可愛い妹ができたみたいだ。
 こういうのも、悪くはないだろう。
 だが、走り回ったこともあって僕の疲れはMAXだ。
 とりあえず、細かい話は置いといて寝る事にした。
 これが、昨夜の話。
 そして朝を迎えたのだった。

697:2004/01/11(日) 13:09

 テーブルの上には、ご飯に味噌汁、焼き魚が並んでいた。
「わっ、美味しそうだなぁ… 簞ちゃん、料理上手なんだね…」
「お口に合うと嬉しいのです」
 僕は簞ちゃんが作ってくれた朝食を口に運んだ。
 …美味い。

「で、簞ちゃん。聞きたい事があるんだけど…」
 僕は話を切り出した。昨日の夜のことだ。
 この娘は、吸血鬼とやらを簡単にやっつけてしまった。
「一体、君は何者なんだい?」
 簞ちゃんは少し黙った後、話し始めた。
 本来なら、隠すはずの話だったのだろう。
 僕が、吸血鬼を目撃していなければ…

「私は、『教会』の代行者なのです」
 簞ちゃんは聞きなれない単語を口にした。
 話によれば、吸血鬼を退治する『教会』という組織があるらしい。
 簞ちゃんは、代行者と呼ばれるその組織のエリートだという。
「私は、『守護者』という称号を持っているのです…」
 簞ちゃんは少し誇らしそうに言った。
「ヴァンパイア・ハンターってとこ…?」
 僕は、自分の知っている言葉に置き換えてみる。
 簞ちゃんはうなづいた。
「そうなのです。ただし、私は吸血鬼と戦う事はほとんどないのです」
 …そうだろうな。
 昨日、吸血鬼をやっつけた時の様子は尋常じゃなかった。
 あんな化物だろうと、心優しい簞ちゃんは相手を傷つけるのが嫌なのだ。

「他の代行者のみなさんの武器を作るのが私の仕事なのです」
 簞ちゃんは言った。
 そう。この娘は、さらに僕の知らない単語を口にした。
 …スタンド。
 生命エネルギーのヴィジョンをそう呼ぶらしい。
 そして、このスタンドが使える者を『スタンド使い』と呼ぶのだという。
「私のスタンドの名は、『シスター・スレッジ』なのです。能力は、『波紋』を物質に固着させることなのです…」
 ちなみに、『波紋』とは吸血鬼の弱点らしい。
 昨日、あの吸血鬼を溶かしたやつだ。

「それで、何で僕の家に来たの?」
「迷惑だったでしょうか…」
 うつむく簞ちゃん。
「だから、違うって! 迷惑じゃないけど、気になるの!」
 僕は慌てて否定した。
「本来は、誰もいない潜伏場所に送られるはずだったのですが、手違いがあったようなのです」
 …手違い、か。
「それで、何で宅配便なんかで?」
「こっそり入国するためなのです。私達代行者が入ってくると、この国の偉い人はいい顔をしないのです」
 それって、まずいんじゃないか?
 それに、スタンド能力なんていう便利なものがあるなら、それを使ったらいいんような気がする。
 僕はその疑問を口にした。
「この国のスタンド使いの人は、スタンド能力を使った不法入国に特に警戒しているのです。
 こういうアナログな手が一番いい、と大司教様はおっしゃったのです」
 …なるほど。
 という事は、代行者という人達はみんな宅配便扱いでやってくるのだろうか。
 顔も知らない代行者の人達が、次々に小包に詰められていく情景を想像してしまった。

「それで、何でこの国へ来たんだい?」
 僕は核心に触れるような質問をした。
 簞ちゃんは少し考えた後に言った。
「人探しをしているのです」
 …人探し? 吸血鬼じゃなくて?
 簞ちゃんは口を開いた。
「私は、『異端者』という人に会わなければいけないのです」

698:2004/01/11(日) 13:10

 僕は、教室に入ると自分の席に座った。
 話の途中だったが、家を出る時間になってしまったのだ。
 簞ちゃんには、留守番を任せておいた。
 どうせ行くアテもないのだ。
 しばらく家に置いても構わないと思う。
 生活には潤いが必要だしね…

 そう言えば、今日は8頭身どもの姿を見ない。 
 あいつらの事も、簞ちゃんに説明しないといけないな。
 …奴らが僕にまとわりつくせいで、学校では友達が出来ない。
 クラスの人達には露骨に避けられている。
 毎日キモイ奴らと追いかけっこをやっているのだから、それも当然だろう。

 突然、隣の教室から爆音がした。
 僕の思考が中断される。
 グラグラと揺れる校舎。
 …またB組か。もう、いつもの事だ。
 僕はため息をついた。

 クラスメイトの話を横から聞いたのだが、B組には伝説の女ったらしがいるという。
 高校生にして美人と同棲し、なおかつ別のクラスの女子二人を周囲にはべらせている。
 B組のアイドルは彼にフラれて家出したというもっぱらの噂だ。
 さらに年上の女性に家まで高級外車で送ってもらったところも目撃され、ホモにまで思いを寄せられているという。
 彼はその幸せっぷりに、常に薄笑いを浮かべているらしい。
 また、彼の行く所には嫉妬の嵐が吹き荒れるという。
 この校舎も、彼をめぐる争いで何回も破壊されたということもあり、彼の名はもはや伝説と化している。
 まあ、僕には関係ない話だが…

 そして、放課後。
 今日は一度も8頭身達の姿を見なかった。
 どうしたんだろう?
 僕は晴れやかな気分で帰宅した。


 部屋に入ると、見慣れない物が目に入った。
 あれは… 大量の剣や銃弾!!
 その真ん中に、簞ちゃんが座っていた。

「こ、これって…!」
 僕は呟いた。
「お帰りなさいなのです」
 簞ちゃんは、僕の姿に気がつくと言った。
「ああ、ただいま… で、これは?」
 僕は部屋中を見回した。
 小型の剣から大型の剣。様々な大きさの弾丸が所狭しと並べられていた。
 それを、女性の姿をしたヴィジョンが一つずつ触っていっている。
「祝福儀礼というのです。朝も言ったとおり、武器に波紋を固着させて、吸血鬼に効くようにしているのです」
「なるほどね…」
 それにしても、これだけの武器をどこから…?

「ヴァチカンから宅急便で取り寄せたのです。
 こうしている間にも、世界のどこかで『教会』の方が吸血鬼と戦っているのです。
 武器は、常に不足しているのです…」
 なるほど、大変な仕事だなぁ…

 簞ちゃんは、こっちを見て嬉しそうに微笑んだ。
「こんなものも、届けてもらったのです…」
 ダンボールから、何かを取り出す簞ちゃん。
 あれは、僕の学校の女子の制服…!?
 一体、何に使う気なんだ?
 もしや、僕にそういうプレイを楽しんでもらうために…!!
 …エロいな。

「明日から、私も一緒に学校に連れて行ってほしいのです」
 簞ちゃんは驚くべき事を口にした。
 エエエエエエエエェェェェェェェッ!!

「…迷惑でしょうか…」
 表情を曇らせて、視線を落とす簞ちゃん。
「いや、迷惑なんかじゃ全然ないんだけど、何でまたどうして? それに、部外者は学校に入れないし…」
 簞ちゃんは、ぷるぷると首を振った。
「部外者じゃないのです。私は転校生なのです」
 えっ! もう転校手続きは済ませたって事…?
 それって、そんな早く許可が下りるもんなのか!?

「ヴァチカンを通じて、話をつけたらしいです。教育委員会じゃなく、文科省の偉い人に納得してもらったのです」
 簞ちゃんはあっさりと言った。
 うーむ。 アンタッチャブルな領域だなぁ…

 とりあえず立ちっ放しもなんなので、僕は腰を下ろした。
 周囲には、足の踏み場もないほど武器が敷き詰められている。
 カバンはどこに置こうか?

「あっ…! すぐ片付けるのです!」
 僕の様子に気付いた簞ちゃんは言った。
「あっ、いいよ。別に急がなくても…」
 僕は、さっきから黙々と作業をしている、その女性のヴィジョンを見た。
 普通の女性よりも、どことなくメカニックだ。
「で、これが簞ちゃんのスタンドってやつ?」
 僕は、何気なしに訊ねた。

 驚愕の表情を浮かべ、硬直する簞ちゃん。
「おにーさん… 私のスタンドが見えるのですか…!?」

699:2004/01/11(日) 13:11


          @          @          @



「どうぞ…」
 『蒐集者』は、ファイルを机の上に置いた。
 立派な礼服を着た初老の男性がそれを受け取って、パラパラとめくる。
「ふむ。確かに受け取った」
 ファイルを閉じて、男性は言った。

「性能は折り紙付きです。パワー、敏捷性、共に並外れている。
 環境適応力も高く、海底や宇宙空間での行動すら可能でしょうね」
 『蒐集者』は不服そうにため息をついた。
「その代わり、今の状態では素体を選びます。通常の人間に施したところで、適正は不可能でしょう」

 礼服の男性はそれを受けてうなづいた。
「了解した。うってつけの素体がいる。それにしても、君には感謝しているよ…」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「いえいえ… 私の親たる『教会』の頼みですからね。お安い御用ですよ、枢機卿」
 枢機卿と呼ばれた男性は『蒐集者』を見据えた。
「見え透いた嘘は結構だ、『蒐集者』。とりあえず、才能があると思われるスタンド使いを7人、例の場所に集めてある。
 『アヴェ・マリア』の糧にするがいい」
「それはそれは、奮発しましたね…」
「何があっても、君を敵に回すなという上からのお達しだ」
 微笑を浮かべる『蒐集者』。
「枢機卿の地位にあるあなたの、さらに上ですか… それは光栄な事だ」

「で、君はこれからどうするつもりだ?」
 枢機卿は言った。
 それに答える『蒐集者』。
「久々のヴァチカンですし、もう少しゆっくりさせてもらいましょうか… 
 と言いたいところですが、あっちで仕事があるのでね。
 今日中にはここを発ちます。まあ、しばらくは事を起こしませんよ。何事にも準備期間が必要ですからね。
 ASAや公安五課に目をつけられているのが辛いところですが…」
 枢機卿は顎に手をやった。
「ASAの介入、明らかに早いな…。奴らの『SOL-Ⅱ』、照準が法王庁に向いておる」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「本営を移動させ、三幹部を揃えたのですから、かなり本気とみて間違いありません。
 成功した方の実験体、『つー』にもASAの人間が張りついてましたよ。
 護衛じゃありません。『何かやったら、お前の大切な実験体を破壊するぞ…』という脅しでしょうね」


「史上初の『NOSFERATU-BAOH』の完成体か… 『つー』とやらは、そんなに良い素体だったのか?」
 枢機卿は、再びファイルをめくりながら言った。
 『蒐集者』は口を開く。
「素晴らしい出来栄えですね。正直、『monar』の周囲の人間を無作為に使ったのだが… 
 ここまで良い結果が出るとは予想していませんでした。やはり、素質ある人間は、素質ある人間の元に集まるものです」

「そうか…」
 枢機卿は、口に手を当てて考え込んだ。
 そして、おもむろに口を開く。
「実は、君にもう一つ頼みたい事がある」
「何です? 私に出来ることならば」
「この技術を使用する、素体の事だ…」
 枢機卿が、ファイルを右手で示した。
「素体そのものは選抜済みなのだ。おそらく…いや、絶対に『つー』とやらよりは優れている」
「ほう…」
 『蒐集者』は顎に手を当てた。
「しかし、その彼は… 我々では手に負えない。君に、その素体を説得してほしいのだ」

700:2004/01/11(日) 13:12

 『教会』の地下60m。
 そこに設置された特殊施設に、彼は幽閉されていた。
 設置されたエレベーターのみが、そこと外界を繋げる手段である。

 『蒐集者』は、エレベーターから降りた。
 その後ろから、『教会』の職員2人が続く。
 照明は薄暗い。
 廊下の四方は、結晶炭素繊維と高鋼延チタンで固められていた。
 壁の隅々を、コードが網のように這っている。
 コツコツという足音が重く響いた。

 巨大な扉に突き当たる。
 7mほどの高さで、その周囲は黄色と黒のペイントで縁取られていた。
 扉の横に設置されたコンソールパネルが、薄暗い空間に灯火を与えている。
「劣化ウラン装甲です」
 横のコンソールパネルを操作しながら、職員は言った。
 重い音を立てて、扉が左右に開く。
「奴の射程は20mです。これ以上は、私達は近づけません…」
 職員はおずおずと言った。
「分かりました。後は任せてください」
 『蒐集者』は、扉の奥に足を踏み入れる。
「どうか、お気をつけて…」
 職員は、『蒐集者』の背中に呼びかけた。

 廊下に『蒐集者』の足音が響く。
 背後から、扉が閉じる重い音がした。
 しばらく歩くと、今度は小型の扉に突き当たった。
 『蒐集者』は、コンソールパネルにあらかじめ教えられていた番号を入力する。
 音を立てて、その扉が開いた。
 その前には、また同じ扉。
「三重構造とは、厳重ですねぇ…」
 『蒐集者』は呟いた。
 そして、三番目の扉を開ける。

 今までとは打って変わって、明るい部屋。
 その部屋は、まるで子供部屋のような様相を示していた。
 …いや、実際に子供部屋なのだ。
 床には、積み木や画用紙、クレヨンが散らばっている。
 壁は、カラフルにペイントされていた。
 その壁に、プラスチック爆弾が埋め込まれているのを『蒐集者』は見逃さない。
 その量、約2トン。
 プラスチック爆弾の中に部屋を作ったようなものだ。
 何かあれば、ここは一瞬で灰塵と化す。
 これだけの設備を作ってまで、『教会』が恐れているモノ。
 真ん中にはその子供が座っていた。

 小動物のような小柄な身体。
 紫色をした不気味な肉体。
 その全身に、縦横に走る血管が浮き出ている。
 つぶらな瞳が、違和感を増大させていた。
 
「おじちゃん… 誰…?」
 子供は呟く。
「別に、名乗るほどの者ではありません…」
 『蒐集者』は、部屋に足を踏み入れた。

「…来ないで」

 グシャリ、という鈍い音が部屋に響いた。
 爆裂する『蒐集者』の頭部。
 その破壊痕は肩にまで達している。
「…」
 子供は、『蒐集者』の残骸を見つめていた。

「ほう… 大した歓迎ですね…」
 虚空に散った肉片が集まり、再び頭部が形成される。
 それを目にして、子供の態度が豹変した。
 子供は、突然はしゃぎ声を上げた。
「すごいや! もしかして、おじちゃんも『いらない子』?」

 『蒐集者』は腕を組んだ。
「『いらない』かどうかは分かりませんが… 世界にとっては、私が存在しない方が有益でしょうね。
 ただ、『子』ではない事は確かです…」

「なんだ… 違うのか…」
 がっくりと肩を落とす子供。

701:2004/01/11(日) 13:13

「では、君は『いらない子』なのですか?」
 『蒐集者』は訊ねた。
「うん… みんなが、ぼくのことを『いらない子』って言うんだよ… おかあさんも…」
 ――ぐにゅる。
 子供の頭部…頬の辺りから、女性の顔がゆっくりと突き出した。
 一見、生きているように見える。
 だが、その女性の瞳には何も映っていない。
 顎の部分までが突き出ると、女性の頭部はがっくりとうなだれた。
 髪が垂れて、顔が見えなくなる。
 間違いなく彼の母親だ。そう『蒐集者』は看破した。
 細胞組織は生きている。 …いや、生かされている。
 ただし、生きているのは体組織だけ。
 彼女はもう食われているのだ。

「おとうさんも、ぼくを『いらない子』って言った…」
 ――ぐにゅる。
 同様に、頭の先から突き出る男性の顔。

「おにぃちゃんも、いもうとも、おじぃちゃんも、おばぁちゃんも、おじさんも、おばさんも、せんせいも、
 となりのおねぇさんも、となりのおばさんも、ともだちも、ともだちのともだちも、ともだちのおかあさんも、
 ともだちのおにいさんも、ともだちのともだちのともだちも…」
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 彼の顔や身体から次々と突き出す人面。
 子供の体は、人面で埋め尽くされた。

 枢機卿は言っていた。
 『ぽろろ』。
 それが、この子供の名前。
 だが、その名を呼ぶ者はいない。
 ぽろろの周囲の人間は、全て彼によって捕食された。
 この子供は、自分が何をやったか分かっていないという。
 『死』の意味を… そして、自分が殺したという事を知らないのだ。
 なまじ、自我を持っている事がこの子供の悲劇である。
 それだけではない。
 この子供は、自分のスタンドに食われている。
 そして、スタンドを食っている。
 自らの才能に食い尽くされ、そして逆に食い尽くしている。
 ――まるでウロボロスだ。

 ぽろろは言葉を続ける。
「だから、なかよくなろうと思ったのに… ねぇ、おかあさん」
 当然ながら、女性の顔はうなだれていて返事をしない。
 ぽろろは『蒐集者』の方に視線を移した。
「ぼくが『いらない子』だから、なにも言ってくれないんだ…」

 『蒐集者』は口を開いた。
「いるかいらないかは、自分で決める事です。
 自分が『いらない子』と思うのならば、ここで膝を抱えて閉じこもっていればいい」
 ぽろろは、無言で首を左右に振った。
 突き出た顔が全て引っ込んでしまう。
 後に残ったのは、ちっぽけな子供の姿だ。
「いやだよ… 外に出たい…」

 『蒐集者』は、ぽろろの前でしゃがみ込んだ。
 目線をぽろろの高さに合わせる。
「君のスタンドに名前をあげましょう。
 ――『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』と」

702:2004/01/11(日) 13:14

 きょとんとした表情を浮かべるぽろろ。
「てんし…? ぼく、天使になんかなれないよ…?」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「もちろん、君は普通の天使ではありませんよ。人の世に地獄を築く、黙示録の天使です」
 目をぱちくりさせるぽろろ。
「もくしろく…?」

「そう、『ヨハネの黙示録』に出て来る天使とは、あなたが知っている天使とは全く異なります。
 よく誤解されていますが、天使とは人間の味方ではありません。 
 現に、『黙示録』で人類のほとんどを滅ぼすのは、天使の仕業ですよ。
 彼ら七人の天使は、神から七つのラッパを授かっています。
 そのラッパが吹き鳴らされると、破滅的な災いが起こるのです。」
 ぽろろは、『蒐集者』の言葉を反復した。
「わざわい…?」

「そうです。人々が殺し合ったり、疫病が流行したり、人類のほとんどが虐殺されたり…ですね。
 人間ばかりでなく、あらゆる動物や植物、天体…すなわち全被造物が災いに晒されるのです。
 それはまさに、人にとっては地獄以外の何者でもありません。
 だから貴方は… 地獄を築く『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』になるのです」
 目をぱちくりしているぽろろ。
 意味の大半は理解できていないのだろう。

「まあ『黙示録』自体は、どこぞのヨハネとやらが、自分の夢を書き綴っただけのつまらない文章ですがね。
 これが約2000年もの間、人類に伝え続けられた事に大きな意味があると私は思います」
 『蒐集者』は、ぽろろの瞳を見据えた。
「『黙示録』で生き残った人類の数は、僅か14万4千人。その全員が、神に選ばれた者です。
 『黙示の天使』である君には、大いなる選択権があるんですよ。
 『いらない子』と、『いる子』を選別する絶対権利がね…」
「ぼくが、えらぶ…?」
 ぽろろは、ただ『蒐集者』の言葉を繰り返した。
 それを受けて、うなづく『蒐集者』。
「手術の話は聞きましたよね。それを受けたら、君は『いらない子』ではなくなります。
 それどころか、君が『いる子』と『いらない子』を選り分けることができるようになれますよ…」

「でも、ぼく知ってるよ。その手術を受けたら、自分が自分じゃなくなっちゃうかもしれないって…
 ぼく、怖いよ…」
 ぽろろは震えて言った。
 『蒐集者』は笑顔を見せる。
「そんな事はないですよ。貴方なら大丈夫です」
「でも…」
 ぽろろは、うつむいてしまった。
 『蒐集者』は、ロングコートをはためかせて立ち上がる。
「では、こうしましょう。そこのテレビ、映りますか?」
 壁に設置されているTVを指差す『蒐集者』。
「うん。見れるよ…」
 ぽろろは答える。

「では、今から約4ヶ月半後の2月8日に、大きな花火を打ち上げます。そのTVに映るくらいのね…」
 『蒐集者』は言った。
「うそだ! ぼく知ってるよ? 花火は冬にはやらないんでしょ…?」
 ぽろろは床に転がっていた絵本を拾い上げると、ぱらぱらとめくる。
 夜空に花火が瞬いているページを開くと、『蒐集者』に見せた。
「花火は夏しかやらないって書いてるよ? それをTVでやるなんて、ぜったいに無理だよ…!」
 『蒐集者』は微笑を見せると、再びぽろろの前でしゃがみ込んだ。
「だから、これが私との約束なんです。最初に、私が約束を守って花火を上げる。君は、約束を守って手術を受ける。
 こうすれば、二人とも約束を守った事になります」

703:2004/01/11(日) 13:14

「約束、だね…!」
 ぽろろは、ぱっと明るい表情を見せた。
「ホントにTVにうつるほどの花火が上がったら、こわいけど僕も手術を受けてみるよ!
 おじちゃんが約束を守ったってことだからね!」
 『蒐集者』はうなづいた。
「私との約束、ですよ… 手術を受ければ、君も外に出れるようになる」
 ぽろろは目を輝かせた。
「そうなったら、僕は『いる子』になれるの!?」
「ええ、なれますよ。君はみんなに祝福される子になる」

「じゃあ、おかあさんもほめてくれる?」
 ――ぐにゅる。
 再び、彼の身体から母親の顔が張り出した。
 『蒐集者』は、ぽろろの無邪気な質問には答えなかった。

 手を伸ばし、ぽろろの頭を撫でる『蒐集者』。
「『いらない子』なんて、この世には存在しません。
 いかなる境遇にあろうとも、望まれない生命など存在してはならないのです。
 もし、『いらない子』なんてものが存在するならば――
 自分で、『いらない子』と思い込んでいる人間だけでしょう」
 ぽろろは、『蒐集者』の目をまっすぐに見た。

 言葉を続ける『蒐集者』。
「手術には、君の心と身体は耐えられる。それは私が保証しましょう。
 しかし、君が今まで自分のやってきた事の意味を知った時、君が自分を保てるかは分からない…」
 『蒐集者』はぽろろの顔を覗き込んだ。
「――そうなった時、私の言葉を思い出してください。
 君は、君自身を『いらない子』と決め付けた世界と戦えるだけの力を持っている。
 君こそが、『いる子』と『いらない子』を選別する地獄の天使だという事をね…」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

704( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:43
・・いつもそうだった。
親は強盗に殺され
俺は義父と義母に虐待され
学校では虐められ
教師には放置され
動物には死なれ
神には見捨てられた
・・そんな俺に物心付いたときから傍に居た『友達』・・
名前の無いソイツを俺は『ジェノサイア』と名づけた・・。

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―幸せはやって来ない①

「・・・嫌な夢見たなぁ・・」
気付いたらパソコンを付けっぱなしにして椅子に座りながら寝てる俺。
時計は4時を指し、紅茶はすっかり冷めている。
・・・意識を無くしたのが12時・・4時間も寝てたのか・・。
昨日のスタンド使い君は自白によって逮捕された。
でも、スタンド使いを法律でしばる事は難しい。ならば何で縛るのか?
・・『力』だ。弱い者を捻じ伏せるのには力だ・・。
突然パソコンのデスクトップから顔が現われる
「随分と元気が無さそうじゃないか巨耳モナークン?」
彼女が俺のスタンド。『ジェノサイア』だ。昨日の犯人を一掃したのも彼女。
能力は『画面がある所を自由自在に移動する』事。
パソコンだろうがテレビだろうが携帯電話だろうが携帯ゲーム機であろうが
画面があればそこからでることが出来る。
「・・ちょっと嫌な夢を見てな・・。ハッキリとした。鮮明で、リアルな夢。」
俺はふと天井を見上げた
「へぇ・・?じゃあ教えてよ。」
ジェノサイアに言われると俺はソレを話し出した。・・ジェノサイアは知ってる事だ・・
・・何故なら俺が今見た夢は・・・昔の思い出なのだから

705( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:44

〜8年前〜

・・俺は雨が降る外を見て、涙を流しながらトンネルに居た。
ジェノサイアが俺の携帯から出てくる
「・・・どうして?どうして何も言わずに殴られるの?」
ジェノサイアは悲しそうに俺に聞く。
話は数分前にさかのぼる。
学力はクラスTOPと頭が良かった俺は、先輩に目を付けられ、絡まれていた
「ねーねー?どうしてんな頭が良いのオォォォオーん?」
「お兄さん達にも教えてよォォォォー。お・べ・ん・きょ・う。」
「お兄さん達も勉強したいんだけどねェー。お金が無いんだよォー。貸してくれなァァーんい?」
俺はいつも友達に虐められてる時の様に無視して帰ろうとする
・・・だが、今回は勝手が違った
「・・無視してんじゃねーぞッ!このスッタコがッ!」
先輩の拳が飛ぶ。
「頭が良いからってよォ〜調子ノッってんじゃねェッ!!」
蹴りがみぞおちに入り、俺は口から血を流す
「また明日よォ〜。今日と同じ時間でこのトンネルに来てよねェ〜?」
「来なかったらどうなってるかわかってるなァッ!?」
そういい残すと、先輩達は去っていった。
そして自分は、トンネルから出て、自分の家に向かった。
「・・・・鍵がかかってる・・。」
もう慣れた。呼び鈴を押しても空けてくれない。俺はドアの前に座る
後ろからふいに誰かに抱かれた様な感じになる
・・・・ジェノサイア。
ジェノサイアは画面と接してる状態ではその画面と同じくらいの大きさになるが
画面から離れると、大きさは普通のAA一体分くらいの大きさになる。
そして、俺はジェノサイアに抱かれながら、家の外で就寝する。

706( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:45
・・翌日。俺は普通に登校する。・・机が無い。
まぁ、教師に言ってもシカトされるだけだから地べたに座るか
「コラァッ!巨耳ィッ!ブチ殺されてェのかァ!?地べたに座ってんじゃねェー!!」
・・どうしろと言うのだ。俺はとりあえずシカトする。
―下校時間。もちろん俺は先輩達の待ち合わせ場所のトンネルは通らない。回り道して家へ帰る。
が、珍しく鍵がかかってない。とりあえず家に入ると、義母が俺を俺の部屋に投げ入れ、ドアの鍵を閉めた
――先輩だ。
金を出すのを拒否したら俺はフクロダタキにされた。
問題無い。金を出すくらいなら痛みに耐えた方がマシだ。
しかし、今回ばかりは勝手が違った。先輩の手に何かがぼやけて見える
・・・刃物。包丁だ。
「金を出してくれないならよぉ〜。殺して保険金をもらうしかねぇよなァ〜?もう親御さんからの許可も貰ってるんだぜェ〜ッ?」
・・・!!
俺に、新しい感情が生まれた。一つは『驚き』そして、もう一つは
・・・・・・・・・・・『恐怖』
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
先輩は本気だった。俺の心臓近くにナイフがもってかれる
「それじゃあ。お楽しみとまいりましょうかァ?」
先輩達が盛り上がる。・・・殺される。
そう思った瞬間。ふいにテレビから大きな拳が現われ、先輩をふっとばしてった。
ジェノサイアだ。
先輩達は驚き、慌てふためき、そこから逃げて行った。
俺は、その日。かなり久しぶりに『泣いた』。何故かはわからない。
ただ。涙が止まるのを待つだけだった。
翌日から俺は『悪魔』と呼ばれ、同級生や教師にも恐怖されていた。
・・不思議と心地よい。何か嫌味を言われるなら、避けられ、無視された方が良いからだ。

・・此処で俺の目が覚めた。
ジェノサイアはソレを聞いて何か思い出したのか悲しそうな顔をしている
・・場の空気が重い。この場合ギャグでも言ってみようか。
だが、失敗するともっと重くなる。こんな時巨耳家にはある秘策がある
――逃げるんじゃよォー。
俺はその場をごまかして散歩にでかけた
気付くとあの時のトンネルの前に居た。
そして、それと同時に驚きが俺を支配した。
   『奴』 が目の前に居る。』って所か
「よぉ・・。巨耳モナー君?お久しぶりだねぇ・・。『8年ぶりい?」

←To Be Continued

707( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:46
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。

 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)先輩(がんたれモナー)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院遅れとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。

708新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:13
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その①


海宮町繁華街。
空はそりゃもう嘘みたいに真っ青だ。快晴だ。
雲一つとして見当たりはしない。
そこの交差点で一組の男女が信号待ちをしていた。
男は黒いフードの付いた服を着ていて顔が見えない。
(サンデーの某格闘漫画に出てきたハーミ○トみたいな奴と思っていただこうッ!)
女のほうは 見た目は16歳程度でセミロングの灰色の髪をしている。
なぜか右の目が荒々しく縫い付けられていて、かなり痛々しい。
ウォークマンで音楽を聴いていて、目を閉じて足でリズムをとっている。
二人ともこの人ごみの中でもかなり目立つ。
男は女に話しかけた。
「どうやら見失ったようだな・・・・・。」
「・・・・」
女からの返事はない。
「俺が迂闊だった。よりによってあんな『能力』を引き出すなんて。」
「・・・・」
「とにかくアイツを捕らえなくては。これ以上被害者が出るのは御免だ・・。」
「・・・・」
「・・・おい・・おいッ! 聴いてんのか!?」
「zzz・・ZZzzz・・・」
「・・・寝てんじゃあねェェーッ!! 何やってんだお前はー!」
男が女のヘッドホンを外して怒鳴った。
「zz・・・ん、んあ?・・ああ・・・おはよう」
トロンとした目を擦りながら女が起きた。
「何が『おはよう』だよ!こんな所で寝るな!」
「いや・・・なんかこの陽気の中、音楽にノッていたら気持ちが良くてついウトウトと・・。」
「まったく・・・。もっとシャキっとしとけよなぁ〜シャキっと!」
「オ、オッス!」
「ホラ、信号変わったからいくぞ。」
男が歩き出したので、女は慌てて後を追いかけた。

709新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


みなさん、ご機嫌いかがですか?
…誰に言ってるかなんて聞かないでほしいのだ。あたしだってわかんないんだから。
まぁいいや。あたしは…あたしの名は杏子。皆から『ヅー』って呼ばれている。
王牙高校の一年生で家が喫茶店を営んでいる。
今日は週末で学校が休みなので店の手伝いをやらされている。
店には同じクラスのアヒャ、ツー、シーンの三人が来ていた。
本名は亜日野、津田、清水と言うんだけどほとんどニックネームで呼んでいる。
そしてその三人は何やら討論しているご様子。

「俺はランララランランランだと思うんだけどね」
「でも俺の耳にはランラララランランランって聴こえるんだよな」
「僕はランラン、ランララランランランって聞こえるな。」

ここはいつから2丁目になったのかしら。
なにかと思いつつ事情を聞いてみると、
なんでもナウシカのあのテーマ曲はなんて歌ってるのかみんなで話し合ってるんだとか。

「お〜アヒャ君じゃないか!」
出た。トラブルメーカーうちの父さん。
「あ、おやっさん!」
「いつも来てくれてありがとうね〜!今丁度新メニュー開発として新しいドリンク作っていたんだけど飲む?」
「飲む飲む!」

・・・さようなら。
私は心の中でそう呟いた。
何しろうちの父さんの作るオリジナルドリンクは、『当たり』の場合もあるが、大半の場合は『はずれ』なのだ。
何度か試しに飲んでみたが・・・素人にはおすすめできない。

「チャオ!みんな元気してるゥー?」
来た。見せる暴力野郎マララー。
今日も男根の帽子が眩しい。
「ん、アヒャ君。それは何?」
「ああ、おやっさんの特製ドリンクさ。まだ飲んでないけど一口飲む?」
「もちのロンさ!」
そういってアヒャ君からグラスを受け取るとマララーはドリンクを喉に流し込んだ。

「・・・・」
急に無口になるマララー。
ガシャアアン!
音を立てて地面に落ちたグラスが割れた。
と、同時にマララーが地面に倒れた。
やっぱり『はずれ』だったか。

「お、おい!大丈夫か!?しっかり!」
ツーが慌てて駆け寄る。
見ると手足は痙攣していて白目を剥いていた。
「う〜む。ハバネロの分量を間違えたか?」
父さんが顎を撫でながら呟いた。

おい、何を入れたんだ何を。

710新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


仕事もひと段落ついたので皆とアイスティーを飲みながら雑談をする。
マララーは邪魔になるので店の隅に放置しておいた。
「そういえばさ、さっきここに来るとき生の事故現場見れたぞ。」
おもむろにアヒャが口を開く。
「何ッ!?」
するとツーがいきなり立ち上がった。
リアクション大袈裟すぎ。
「何処だ!何処で見た!?」
そういえばツーは祭りや事件なんかが好きだったな・・・。
「ああ、この近くに社宅があるじゃん。そこに大型ダンプカーが突っ込んだらしいぜ。
 けっこうボロかったから少しばかし衝撃で壁が崩れてたぞ。」
「そうか!ならば俺は行くぞ!祭り好きの血が騒いでしょうがねぇぜ!」

バン!

ドアを思いっきり開けてツーは走っていった。
「逝ってらっしゃ〜い。」
私達は彼を止めることはできなかった。
          *          *          *

「ひゃあ〜、凄いね〜。」
「あれだけの大きさのダンプが衝突したんだ。死者が出ていないのが幸いだ。」
その事故現場にあの二人はいた。
警察、消防署、救急隊、野次馬等が騒がしい。
原因はダンプカーのタイヤがパンク。スリップしてぶつかったらしい。
「あ!テレビ局の車が来たよ!せっかくだから写ろう!」
「・・・やめておけ。恥をかくぞ。」
二人が現場から立ち去ろうとした時だった。
「急げ!子供が一人瓦礫の下敷きになっているぞ!」
それを聞いて男が立ち止まる。
「・・・どうしたの?」
「・・決まっているだろ。ちょっとした人助けだ。」
影に隠れて分からないが、男は少し笑った気がした。

711新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14

「うわーん!痛いよぉー!」
二人が人混みの近くに行くと、子供の泣き声が聞こえてきた。
声から男の子と分かる。
隣では母親らしき女性が泣き崩れている。
「すいません。ちょっと通りますよ。」
二人は野次馬をかき分けて声のする方へ近づいた。

「なんだ君達は!早く離れて!」
案の定、警官に制止される。
と、同時に彼の喉にサバイバルナイフが突きつけられた。

「・・・・邪魔しないでくれる?あの子を助けるんだから。」
女が警官を睨んだ。
殺気を帯びた眼差しに流石に警官は後ずさりした。

近くで見ると男の子は両足とも瓦礫に埋まっていた。
這い出そうと試した結果できてしまった擦り傷が腕にできている。
周りでは大人が数人瓦礫をどかそうとするが、なかなか持ち上がらない。
その時、男の子の顔に影が落ちた。
「…大丈夫。すぐに助けてあげるから泣くな。」
男は子供に優しく語りかけた。
「ちょっと待ってな。今すぐどかすから。」
男から半透明のヴィジョンが飛び出した。
人の形をしているスタンドだ。
「じっとしてな。」
スタンドが地面に触れた。

ボゴオオッ!

衝撃音と共に子供の足の上の圧迫感がふいに消えた
驚いて足を見ると足を潰していた瓦礫が吹き飛ばされている。
そして足の横にはさっきまでは無かった石の柱が何本か突き出ていた。
驚きのあまり、男の子は足の痛みを忘れていた。
「ひどいな・・・。両足とも折れている。」
「直せそう?」
「ああ、この程度だったらな。」
男のスタンドが子供の足に触れると同時に、一瞬足が細かな粒子になって飛び散った。

「・・・よし。これでいいだろ。さ、行こうか。」
男と女は、呆気に取られている周りの人々を尻目にその場を立ち去った。
二人の後ろでは、両足とも元の状態に戻った少年が何が起きたか分からないまま立っていた。

712新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:16

「もう凄いのなんのって!そいつ名前も名乗らずに去っていったんだから!もうシビレたね。」

事故現場を見てきたツーが興奮交じりで皆に自分の見たことを話している。
男が少年を助けたとき、丁度ツーが現場に居合わせたのだ。
「ふーん。で、どんな奴だったの?」
シーンが尋ねる。
「えーっと、確かフードを被っていて顔は見えなかったけど・・・。」

その時店の扉が開いた。
「あ!あいつだ!」
中に入ってきた人を見てツーが叫んだ。
アヒャ達は一斉に扉の方を見た。
そこにいたのは紛れも無いあの二人だった。


  /└────────┬┐
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713ブック:2004/01/12(月) 00:56
      救い無き世界
      第八話・幕間 〜危険牌は通らない〜


「―――「○○デパート爆破テロ事件」の事件での被害者は、
 死者五十六名、重軽傷者二百三十一名、行方不明者四十八名と、
 甚大な数に昇っており、
 事件から一夜明けた今現在もなお、負傷者、行方不明者の
 捜索が続けられています。
 専門家の意見では今回の―――」
 ニュースキャスターが、四角い画面の中で喋っている。
 俺はSSS内にある医務室のベッドに、ぃょぅと並んで横たわりながら、
 テレビから放送されているニュースを見ていた。

「現場のズザギコさー…」
 ピッ
「…病院はどこも事件の被害者でいっぱいで…」
 ピッ
「…やはりこの国は自衛隊をもっと強化…」
 ピッ

 どこのチャンネルを見ても、やっているのは同じニュースばかりである。
 まあ、あれだけの事があったのだから、
 当然と言えば当然であるが。
 我ながら、よく生きて帰ってこれたものだ。

「でぃ君、傷はもう大丈夫なのかょぅ。」
 隣からぃょぅが話しかけてきた。
『もう、平気です。』
 ホワイトボードにそう書く。
 俺の怪我は、みぃのおかげで既に完治しかけていた。
 ぃょぅも、おそらくほとんど治っているはずである。

「でぃ君、あの時の事、何か思い出せたかょぅ。」
 ぃょぅの問いに、俺は黙って首を横に振った。
 あの時、瓦礫に道を塞がれて立ち往生していた時、
 俺は俺の内の『何か』に呼ばれて…
 そして、気付いたときには、瓦礫は跡形も無く消えていた。
 あれが俺のスタンドの『力』…?

 いや、違う。
 あんなものじゃない。
 たぶん、瓦礫を消し去るなんてほんの一端に過ぎない。
 何故か、そう確信することが出来る。
 あいつは、俺の中にいるあいつは、一体何なんだ…

「そうかょぅ…
 何か思い出せたら、些細なことでいいから教えてくれょぅ。」
 ぃょぅの言葉が俺を現実へと引き戻した。
 もし、俺が今さっき考えた事をぃょぅに伝えたら、
 ぃょぅは、そしてぃょぅの仲間達は俺をどうするだろうか。
 俺を一生監獄の中に閉じ込めるだろうか。
 それとも殺すのだろうか。
 漠然とした不安が、俺を襲った。

714ブック:2004/01/12(月) 00:57

「お邪魔するわよ。」
 不意に部屋のドアが開けられ、ふさしぃとみぃが部屋に入って来た。
 俺とぃょぅは、ベッドから体を起こす。
「お見舞いに来たわ。お二人とも、具合はどう?」
 果物の詰め合わせの籠を近くの机に置きながら、ふさしぃが尋ねてきた。
「ぃょぅは大丈夫だょぅ。
 今日にでも、復帰出来るょぅ。
 それもこれも、みぃ君のおかげだょぅ。」
「そ、そんな。
 私は大したことなんか何も…」
 ぃょぅの言葉に、みぃが恥ずかしがって縮こまる。
「でぃ君は、どう?」
 ふさしぃが俺にそう聞いてきた。
『はい。もうすっかり治りました。』
 俺はそう答えた。
「そう、なら大丈夫ね。」
 そう言ってふさしぃは微笑むと―――


 首から上が吹っ飛ぶような衝撃。
 ふさしぃの平手が、俺の顔面を正確に捉えた。
 俺はそのあまりの威力にベッドから転げ落ちる。
「でぃさんっ!!」
 みぃが俺に駆け寄り、体を抱える。
 あまりの平手の速さに、
 俺は一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

「馬鹿…っ!
 自分がどれだけ他人に心配をかけたか、分かってるの!?」
 ふさしぃが怒った。
 ある程度覚悟はしていたが、やっぱりか。
 まあ、しょうがない。
 あんな所で、勝手な行動をとって、皆に迷惑をかけたのだ。
 しかも迷惑をかけたのが俺みたいなでぃなら、
 余計に腹も立つだろうさ。
 所詮俺は―――

 次の瞬間、俺は目を見開いた。
 ふさしぃの目に、光るものを見つけたからだ。

 俺は、困惑した。
 何で、この人は泣いてるんだ?
 俺を怒るのは分かる。
 だけど、なんで泣く必要がある?
 いや、そもそも俺みたいなのが死のうが生きようが、
 この人には何も関係無いんだから、怒る必要すら無い。
 なのに、何でこの人は俺の事で、怒ったり泣いたりするんだ?

 ふと隣のみぃを見る。
 みぃも、泣いていた。
 分からない。
 なんでふさしぃも、こいつも、
 そんなに俺なんかに構う。
 両親だって、俺を見捨てたっていうのに…

 打たれた頬が酷く痛む。
 だけど、俺の胸の辺りは何故かそれよりもずっと痛かった。

715ブック:2004/01/12(月) 00:57


     ・     ・     ・


 私はふさしぃとタカラギコ、そしてギコえもんを相手に闘っていた。
 私は先程タカラギコから深手を負っており、
 おそらくこの四人の中では最も不利な状況にあると言える。
 それにも関わらず、彼らには油断の色はかけらも見られない。
(相手は百戦錬磨の兵ぞろい。
 簡単に勝てるとは思ってはいなかったけれど、
 まさかここまで追い込まれる事になるとはょぅ…)
 そして今、私は絶体絶命の窮地に立たされていた。
 三人は、私に止めの一太刀を浴びせようと身構えている。

 だが、同時に今は最大のチャンスでもあった。
 リスクは高い。
 しかし、これさえうまく行けば、大逆転が可能である。
 どうせこのままではじわじわとやられるだけである。
 やるしか…無い!

 私は最後の賭けに出ることを決心した。

 いくぞ!これが私の最後の手だ、喰らえ!!!


「リーーーーチ!!」
 私は牌を横に倒し、場に千点棒を置いた。
 私達は、SSS内の私達の職場となる部屋で、麻雀をしていた。
 誤解のないように言っておくが、もちろん勤務時間外である。

 チャッ、タン
 チャッ、タン
 チャッ、タン

 三人は案牌のみを切り出す。
 だが、問題は無い。
 この流れなら、間違いなく一発で上がり牌を引いてくる…!

「ツモっ!!!」

 一二三(12399)12233 ツモ1
 一…マンズ (1)…ピンズ 1…ソーズ

 リーチ一発ツモ純チャン一盃口ピンフ
 倍満できっちり逆転トップである。

「ちっ!!」
 ギコえもんが卓へと八千点を投げつけた。
 オーラス親っかぶりで最下位転落したからである。
 気の毒ではあるが仕方が無い。
 これが真剣勝負の世界だ。
「それじゃあ次の半荘といきますか。アハハ。」
 タカラギコが金を支払いながら言った。
 しかしその笑い声とは裏腹に、笑顔の裏には殺気にも似た
 気迫が見え隠れしている。

 そして次の半荘が開始された。
 レートは千点=千円。
 一瞬の気の緩みが致命傷となる。

716ブック:2004/01/12(月) 00:58

「…でぃ君に悪いことしてしまったかしら。」
 ふさしぃが(9)を切りなが言った。
「今日のビンタのことかょぅ?」
 私は白を切った。
「ポン。」
 タカラギコが白を鳴いた。
 捨て牌からしてマンズの混一?

「それもあるけど、違うの。でぃ君をデパートに連れて行ったこと。」
 ふさしぃは發を切る。
「ポン。」
 タカラギコがそれも鳴いた。
 ヤバイ。
 まさか大三元か!?

「あの事件に巻き込まれたのは、
 別に君の所為じゃ無いょぅ。
 不可抗力だょぅ。」
 私は牌をツモった。
 あろうことか中。
 これだけは死んでも切れない。
 私は仕方なくタカラギコの安牌である(7)を切る。

「ううん、違うの。
 私は、彼に自分がでぃであるなんて下らない事なんかで、
 他人から逃げるように生きて欲しくなかった。
 だから、あえてデパートに一緒に買い物に連れて行ったの。
 けど…」
 ふさしぃが、(4)を切った。
「けど…それは私の一方的なエゴの押し付けで、
 ただでぃ君を傷つけただけかもしれない…」
 ふさしぃが表情を暗くする。

「…心配ないと思うょぅ。
 でぃ君はきっとふさしぃの事を、
 分ってくれている筈だょぅ。」
 私はそう言った。
 そして、そうあって欲しいと願った。
「…だと、良いんだけどね。」
 ふさしぃは溜息をつく。
「大丈夫。
 悪い奴なら、みぃ君があそこまで懐いたりしないょぅ。」
 私はそう言って、2を切った。

「御無礼ロンです。満貫。」

 一一三三三22 白白白 發發發  ロン2

 …大三元はブラフだったか。
 私はしぶしぶ八千点を支払う。

「そのでぃ君なんですけどね、どうするんです?」
 タカラギコが点棒を受け取りながら言った。
「?どうって?」
 ふさしぃが尋ねた。
「彼の処遇ですよ。
 ぃょぅから聞いた話しか情報はありませんが、
 相当の能力と言えるでしょう。
 今も密かに監視はさせてますが、
 何か起こる前に、何らかの手を打っておくべきだと思うんですけどね。」
 タカラギコはそう答えた。
 私とふさしぃは、顔を曇らせた。

717ブック:2004/01/12(月) 00:58

 私は、そしておそらくふさしぃも、このことは
 努めて考えないようにしていた。
 だが、そうもいかない。
 彼の『力』は放置するにはあまりに物騒すぎる。
 最悪の場合、「処分」される事も有り得るだろう。

「けっ、だからでぃなんかさっさと始末するに限―――」
 ギコえもんは悪態をつこうとして、止めた。
 ふさしぃと、私の刺すような視線に気付いたからだ。
「…悪い。言い過ぎたゴルァ。」
 いつもならばふさしぃは即座にギコえもんを殺している
 はずである。
 だが、ふさしぃはそれをしなかった。
 ふさしぃも、ギコえもんの過去を知っているからだ。

「ま、この話はもうここら辺で止めときましょう。
 最終的にどうするかは、上が決めることです。」
 タカラギコはそう言って軽く伸びをした。
 我々対スタンド制圧特務係も、立場的には相当上に位置してはいる。
 が、流石に今回のことは我々だけでは決められない。
 しかし、それでも私は…

「…最悪の場合はあらゆる手段を使ってでも何とかする
 といった顔ですね、お二方。」
 タカラギコは私とふさしぃを見やった。
「全く、信じられませんね。
 自分の立場が悪くなるのは火を見るより明らかじゃないですか。
 会ったばかりの、音楽の好みすら知らない相手に
 そこまで入れ込むとは。」
 タカラギコはやれやれと言ったように肩をすくめた。
「でも、あなた方のそういう所、嫌いじゃありませんよ。」
 タカラギコはそう言って白を切った。
「それロンだょぅ。跳ね満。」

 (123456789)西西白白  ロン白

「…前言撤回。ぃょぅさんは好きになれそうに無いですね。」
「さっきのお返しだょぅ。」
 私とタカラギコとの間に、火花が散った。

718ブック:2004/01/12(月) 00:59

「そんなことより、結局あのデパート事件の犯人の
 スタンド使いは何だったんだゴルァ。」
 ギコえもんが口を開いた。
「残念だけど、分からないょぅ…
 済まなぃょぅ。
 生け捕りに出来なくて…」
 私は面目無い気持ちでいっぱいだった。
「まあ、仕方ありませんよ。状況が状況でしたから。
 犯人がスタンド使いと分かっただけでも見っけものです。
 その点では、でぃ君に感謝しないといけませんね。」
 タカラギコはそう言った。
「…いずれにせよ、早く背後を突き止める必要があるわね。」
 ふさしぃが深刻な顔をで呟いた。

「お、ツモだょぅ。
 1000・2000.ラストだょぅ。」
 再び私のトップでその半荘は終わった。
「か〜〜〜っ、うっそだろう。
 馬鹿ヅキじゃねえか、ぃょぅ。」
 ギコえもんが半分キレかけている。
 そろそろパンクといった所か。
「しかたないわね、次の半荘を…」
 ふさしぃがそう言いかけたところへ、
 いきなり小耳モナーが割り込んで口を挟んだ。
「さっきからじっとしてたら、皆酷いモナーーー!
 モナばかり仲間外れにして、モナも麻雀打ちたいモナー!!」
 後ろで観戦してばかりでは、さすがに退屈だったようだ。
 というか、さっきまでその存在をすっかりと忘れてしまっていた。
(ごめんょぅ。小耳モナー。)
 心の中で、小耳モナーに謝罪した。

「それじゃあ、ぃょぅと交替するょぅ。」
 私は小耳モナーに席を譲った。
 これ以上勝っては、命を狙われる可能性がある。
「わーい。勝って勝って勝ちまくるモナ〜〜!」
 小耳モナーは無邪気にはしゃいだ。

「ロン!跳ね満だゴルァ!!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわ。」

「御無礼ロンです。
 親の倍満。トビましたね。」
「うやうやうやうやうやうやうやうやうやうやうや。」

 小耳モナーはあっという間にトバされた。
 何て弱いのだ。

「も、もう止めるモナー!!」
 小耳モナーが叫んだ。
 しかし、ふさしぃが小耳モナーを睨みつけて、
 抜けるのを許さない。

「さあ、どうしたの?
 まだ一度トバされただけよ。
 かかって来なさい。」
 ふさしぃが凄む。
「リーチ棒を出しなさい。
 鳴いて流れを変化させて。
 大物手を構築して立ち上がるのよ。
 役満をツモって反撃なさい。
 さあ夜はこれからよ。
 お楽しみはこれからよ。
 早く!
 早く早く!
 早く早く早く!」

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
 小耳モナーが憐れな悲鳴を上げた。
 お終いだ。
 彼はもうお終いだ。
 彼は一騎当千の猛者が集う戦場に丸腰のまま放り出された
 赤子も同然。
 彼の末路はもはや唯一つ。
 搾取されつくし、
 無様に屍をそこにさらすのみ。
 私は小耳モナーに黙祷を捧げた。

719ブック:2004/01/12(月) 00:59


     ・    ・    ・


「アサピーが戻らなかったそうだな、梅おにぎり。」
 男が梅おにぎりに語りかけた。
「申し訳ございません…
 この責任は、必ず…」
 梅おにぎりは深々と頭を下げた。
「いや、いいんだ。
 狼煙は仔細なく上がったのだから。
 何ら問題は無い。」
 男は満足そうに言った。
「しかし…やはり動きましたか、SSSが。」
 梅おにぎりは顔を強ばらせた。
「構わぬ。
 むしろ歓迎したい位だ。
 邪魔者は多ければ多いほど面白い…」
 男が心底愉快そうに呟いた。
「さて…彼らはどこまで私を楽しませてくれるのかな?」


   TO BE CONTINUED…

720N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:40

   /;二ヽ
   {::/;;;;;;;}:}   私をズラして掲載し、10日以上も放置するとは              ∩_∩     ドウモスミマセン
  /::::::ソ::::)     いい度胸だな、N2…                           |___|F ヾ  スミマセンスミマセン
  |:::::ノ^ヽ::ヽ                                             (´Д`;)、      コノトオリデス
  ノ;;;/UU;;);;;;;ゝ.                                              ノノZ乙

721N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:41

シャイタマ小僧がやって来る! 後編

「ナンド ヤッタッテ 無駄ナンダゼ! カカカ!!」

…やはり正攻法では何度やっても駄目だった。
どんなにどんなに気を付けても、こいつはどこかでオレの隙を見付けては、
オレをこの「50」へと帰してしまう。

「オ前ハ 一生 俺ノ本体ヲ 見付ケラレナイバカリカ ココデ 不様ニモ 野垂レ死ニスルニ 決マッテンダ!
イイ加減 諦メテ ココデ 餓死デモスンノヲ 大人シク 待ッテヤガレヨ!!
俺様ダッテ 暇ジャネーンダヨ!!」

時計はもう11時を回った。
皆がオレのことを探しているかも知れないが、そんなのを待ってはいられない。
…ならば。


「・・・何シテンダ テメーハ? ヤッパリ トチ狂ッタカ?」
じっと時計を見つめるオレに、奴はまた難癖を付け始めた。
「…お前、オレがただの馬鹿だと思ってるのか?」
「ソリャオメー、 始メッカラ 分カリ切ッテイルジャ・・・」
酷い話だ。
ま、たかが遠隔操作型スタンドごときの考えにゃオレの策は見破れないか。

「じゃあお前は、オレが何も分からない迷子同然とでも思ってるのか?」
奴は当然の如く即答した。
「アッタリメージャネーカ! ンナモン サッキノ 馬鹿カドウカノ 質問ヨリモ 明ラカ・・・」
オレは続ける。
「今日は晴天…綺麗な秋晴れが広がっている。空にはさんさんと輝く太陽の光を遮るものは何も無い」
「・・・?」
何が何だか分かっていないらしい。
敵にさえも親切なオレは更に続けて差し上げる。
「そこの電柱を見ると、ここの番地は『南町』となっている…。オレ達が運動会をしていた運動場は町内の中央に位置しているから、
つまり大体北の方角に進めば帰れるということだ。
…お前、太陽とアナログ時計で方角を知る方法を知らないのか?」

「・・・???」
これでも分からないようだ。
本体はよっぽどの無知なのか。
敵にさえも寛大なるオレはその広き御心で丁寧に御説明なさる。
「確か太陽は一時間に約15度移動するはずだ。180÷12だからな。
そして時計の短針は一時間に360÷12…つまり30度動く。
と言うことは、時計の短針を太陽に向けると、そこと12時の方向の丁度真ん中が南ってことになる。
ってことは、その反対のこっちに直進すれば運動場に着けるってことさ!」
流石オレ。ナイス説明だ。
無駄に知識を披露するギコ兄とは訳が違う。

722N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:42

「・・・オメー、 ヤッパリ 馬鹿ダロ?」
って何でさ!!
「コノ 一本道ガ ドッチノ方角ニ 延ビテッカ 分カンネーノカ!? オメーノ目ニハ ココニ広ガル ブロック塀ガ 見エナイノカ!?」
…まあ、確かにごもっともだ。
「ソレデモ テメーガ 突ッ走ルッテンナラヨー・・・、 俺ハ容赦無ク テメーヲ コノ塀ニ 衝突サセテ 一気ニ アノ世ヘ 送ッテヤルゼ!!」
「…好きにしてな」

こいつの警告など関係ない。
無視して俺は塀向けて走り出す。
「餓死ガ嫌デ 激突死ヲ選ブノカ・・・ ソレナラ 手間ガ 掛カラネーデ 丁度イイゼ!!
ホラヨ! コンクリニ 血ノ海ヲ 作ッテナ!!」
予想通り、加速が始まる。
だが、始めっからこんなものは気にしていない。

「…さっきっから思ってたんだけどさ〜」
「アア!?」
「お前、オレのスタンドの事をちゃんと予習したのか?」
「・・・ンナモン スル訳ネーダロ! ソンナ事シナクテモ テメーニャ 楽勝ダカラヨ・・・」
どうやらこいつ、戦闘者としては三流らしいな。
オレが言えた話じゃないけど。

「『クリアランス・セール』!!」
壁激突寸前でスタンドのラッシュを打ち込む。
同時に細切れ状になって楽に通り抜けられるようになったコンクリート。

庭の植え込みの木も分解する。
木はそのまま倒れて屋根瓦を破壊したが…、ま、不可抗力と言う事で。

民家の壁もそのまま分解。
さっきから完全には分解していないので、こういう硬い物はくぐる時に身体に当たって痛いが、
そんな悠長にやってる暇も無いので、これは仕方ないか。

食堂で昼ご飯をとっている一家。
ちょっと痛いかも知れないが、食事ごと巻き添えにテーブルも、そして家族も分解。
上半身だけ宙に浮くおじいちゃんの驚いた顔がシュールだ。

「・・・テメー、 ヤッパリ トチ狂ッタダロ!? コンナ 突然ニ 民間人ヲ 巻キ添エニシヤガルナンテヨー!!」
こいつにだけは、そんな事は言われたくない。
オレも流石に突然偽善ぶる態度は頭に来た。
「だったらよ…、始めっからこんなざけた真似すんじゃねえ!クラァ!!」
本当は、オレだってこんな事したくはない。
出来ることなら、普通に道を通って運動場まで帰りたさ。
…けど、こいつがそれを許さない。
こいつはどんな手を使ってでもオレを帰さないつもりだ。
…たとえ無関係な人を殺してでも。
ならオレは、必要最小限の損害に留めながら、市民の皆さんに迷惑をかけてでも帰らなくてはならない。

723N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「・・・ウザッテー野郎ダ、 コウナッタラ 意地デモ 苦シミヲ伴ウ 死ニ方ヲ サセテヤル!」
次の瞬間、地を蹴ったオレの足が浮いた。
瞬間的にオレの脚力を強化し、大ジャンプさせたのか。
その先には、電線。
無論、分解する。
何世帯停電になるかな…。
そのまま何事も無く着地。まだ止まらない。

「・・・ナラヨー、 今度ハ コレデ ドウダッ!!」
車道に平行に近い角度で突入したオレに、小刻みに暴走をオン・オフにする。
突入してくる車・車・車。
こうなったらオレもヤケだ。
「クラクラクラクラクラクラクラクラァッ!!」
次から次へとやって来る車を片っ端から分解。
…高級車とか、ボンネットが凹んでいたりしなきゃいいが。

「・・・チクショー、 コイツ、 正気ジャネエ・・・」
正気じゃないのはどっちだ。
…と、遠くにあの運動場が見えてくる。
もう一息だ!!





「遅レタゼ! 呼ンダカ!?」





明らかに今までのものとは違う、しかしどこか似ている機械的なガラガラ声。
そこには、『暴走スタンド』が2体存在していた。

「畜生! オセーンダヨ コノノロマ! オ陰デ 今ヤバイトコマデ 行ッチマッタジャネーカ!!」
「悪リー悪リー、 チト オメーガ ドコニインノカ 分カンナクッテヨ・・・ マ、 来タダケ 有リ難イト 思イナ!!」

…これは一体。
何故同じスタンドが2体も…!?

「オイ! テメーハ 俺ノコトヲ 戦闘ニ関シテ ド素人ト 思ッタカモ知レネーガ、 ソリャ テメ-ノ方ダゼ!!」
「似通ッタ 信条トカ思想トカ・・・ ソウイウモンヲ 共通シテ 持ッテイル奴ラニャ 同ジスタンドガ 発現スルコトダッテ アンダヨ!
ソウ! 俺達ミタイニナ!」

…なんて骨体!!
確かにそう言われれば分からないでもないが、でもまさかこいつが2体もいるなんて考えもしなかった。
じゃあ、こいつまで協力したら……オレ、一体どうなるんだ?

724N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「コウナンダヨ! ホラッ!」
激!加速!!
「んなああああああああああああああああ!!!!」
加速度がさっきまでの比ではない!
こりゃ時速100キロくらい出てるんじゃないのか!?
ってか冷静にんなこと考えていられん!!

運動場がッ!目前にッ!
な、何としても止まらなくては!!
おおーっと、目の前に再び『50』が!!
こうなったら、意地でも飛びついて止まってやる!!
「クラァッ!!」



ボキッ……



折れた…。

「カーカカカ! 暴走シテンノハ オメーノ足ダケジャネエ! 握力モ何モカモ、全身ナンダヨ!!」
奴の言葉さえももう耳に入らない!!
ってかまだ止まらん!

725N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

『さあこの運動会の目玉競技、団体リレーがいよいよスタートです。
………始まりました、スタートしてすぐ、赤がダッシュを決めて周りとの差を付けた!
負けじと負う、青・黄色・緑・白!
…っとお、ここで何者かがこの会場に乱入してきた!!
何だあれは!?何だあれは!?
あれは……ギコ屋だァ――――ッ!!
ってか今までどこほっつき歩いてたんだ!皆心配したんだぞ!
それでもギコ屋、先程から更にスピードアップして走る!走る!
そしてコースに乱入!おおーっと、その先には白の選手が!
危ない白!よけろ白!
しかし……蹴散らされたァ―――ッ!!
ギコ屋止まらない!ああ緑も!黄色も!青さえも!!
残ったのは赤!頑張れ赤!逃げ切れ赤!
しかし……吹っ飛ばされたァ―――!!
ギコ屋まだ走る!ギコ屋まだ走る!
そしてコーナーを曲がらず、まだ直進!そっちにはまたフェンスがあるぞ!
ギコ屋やっぱり止まらない!やっぱり止まらない!
そしてフェンスを…
今度は飛び越えたァ―――ッ!!
ってか高すぎだ!遠すぎだ!!
走り高跳びも幅跳びも世界記録を更新する気かギコ屋!
お前は北京原人かァ―――ッ!?』
『…選手の皆さん、んなとこで突っ伏してないでとっとと競技を再開して下さい』

726N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:44

…もう何キロ運動場から離れたんだ!?
依然止まる気配すらしない!ってか疲れない!!
もう勘弁してくれよォ―――ッ!

「マダダ、終ワランヨ」
「ソロソロ 時間ナンダガナ・・・」



「ヘイ! ヤット見付ケタゼ! オメーラ シッカリ ヤッテンノカ?」
…三体目?
「イイ加減ニシロ! テメー 遅刻シスギナンダヨ、 コノウスラボケナスガ!!」
「マア待テ、文句・苦情ハ後ニシロ。 マズハ アノ『矢』ヲ持ツオ方カラ 真ッ先ニ 始末スルヨウ 言ワレタ コノギコ屋ヲ ヌッコロス・・・ダロ?」

『矢』を持つお方…だって!?
「おいお前ら、あの男と何の関係があるんだ!」
だがオレの質問を聞いても、こいつらは何も答えようとはしない。
「死ニユク テメーニャ、 言ウ価値ナシ!」
「マサシク『逝ッテヨシ』ダナ!」
「カカカカカ!」
くそっ、やはりあいつの部下か…。

「ンジャ ソロソロ イクカヨ・・・」
「俺達ノ MAX暴走ノ 恐ロシサ・・・」
「トクト 味ワウンダナ! 冥土ノ土産ニ 喰ラットケ!!」

『Hail to SAITAMA!!』

悶絶。
苦悩。
思考停止。
無我境地突入。

野原。
河川敷。
鉄道。
彼方物体発見。
…新幹線?

…嫌予感。

加速。
加速。
加速。
音速突入。
停止兆無。

走・走・走・走・走。
線路向突進。
予感成現実。
無策。無術。無勝目。

………危険!!!!


「・・・ソロソロ 準備スンゾ!」
「『セーノ』デ 一気ニ イクカラナ!」
「イクゾ・・・・・・・・・セーノッ!!」



一気に解放される肉体。
新幹線は今まさにオレの肉体を木っ端微塵にしようとしている。
「クリアランス・セール」で攻撃を仕掛けたが、もう間に合わない。
最後に耳に入ったのは、奴らの勝ち誇ったような高笑い声であった。

727N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:45

「ヤッタッ!」
「勝ッタッ!!」
「シトメタッ!!」
三者はお互いの顔を見合わせながら勝利の余韻に浸っていた。
「遂ニ 俺達モ 人ヲ殺セタゼ、カカカカカ!!」
「『山椒ハ 小粒デモ ピリリト辛イ』ッテノハヨー 俺達ノタメニアル 言葉ジャネエカ? カカカカカ!!」
だがうかれる二者はじきにある異変に気付いた。
1人の様子がおかしい。
線路を見つめたまま、じっと固まっている。
「オイ、オメーモ ナンカ言エヨ!!」
「ソウダゼ! ・・・マサカ 人殺シノ道ヲ 歩ミ始メタコトガ ソンナニ嫌ダトカ 言イテエノカ!? ダトシタラ ブッ飛バスゾ!」
しかし、沈黙の理由はそこにはなかった。
「・・・ギコ屋ノ 死体ハ ドコダ?」
完全に自分達が勝ったものだと思っていた残りの二人も、事態の異常性に不安を抱き始めた。
「待テ、 奴ノ能力ハ 『分解』ダッタハズ! モシカシタラヨ、 ソレデ ヤリスゴシタトカ・・・」
1人の言葉に、残りの者も段々と不安を感じ始めた。
「ソウダゼ、奴ダッタラ 新幹線ガ 通ッテル間ニ 分解ヲ 解除シテ ソノママ 逃ゲルコトダッテ 出来ルハズダ!」
「・・・ドウスンダヨ、ソレジャ?」
答えは1つしかなかった。

擬古谷第一小学校、校庭。
そこには3人の少年が、何かを待つようにして木陰に腰掛けていた。
ふと、彼らの目に期待していたものがやって来る。
「ヤッテ来タミタイダ!」
上空から校庭向け降下するスタンド達。
3人はそこへと走り出す。

少年達は、嬉しそうに彼らのスタンドに質問した。
「ソレデ? チャント ギコ屋ハ シトメラレタノ?」
だが、スタンドの表情は暗い。
「・・・ソレガマスター、 作戦通リ 奴ヲ 新幹線ノ目前マデ 誘導ハシタンデスワ。
トコロガドッコイ、 ソレカラ 奴ノ姿ガ 消エチマイマシテ、 ヒョットシタラ ソノママ 新幹線ニ乗ッテ 逃ゲタンジャナイカトイウ 結論ニ至ッテ・・・
ソレデ 指示ヲ 仰ギニ来タンスワ」
報告を受け、1人の少年は激怒した。
「何ダト!? コノ、 役立タズメ! オ前達ハ 何ノタメニ ソンナ能力ヲ 持ッテルト 思ッテルンダ!」
スタンド達が一斉に下を向く。
すかさず、宙に浮く少年が右側の少年の怒りを抑えた。
「マアマア待チナヨ。 ・・・ジャアオ前達ハ 引キ続キギコ屋ヲ ソノ場所ヲ中心ニシテ 探スコト! 分カッタ?」
その言葉を聞き、スタンド達は少し元気を取り戻したようであった。

「落チ着キナヨ、ミギ。 マダ 始マッタ バカリジャナイカ。 イズレ ギコ屋モ 再ビコノ町ニ 姿ヲ見セルサ。
ソノ時ニ モウ一度 アイツヲ 殺シナオセバイイ・・・ダロ?」
宙に浮く少年は左側を向く少年を見た。
その少年も右側の少年に語り出す。
「ソウダヨ、 アンマリ 短気ナノハ スタンド使イニトッテハ 不利ダッテ、 アノオジチャンモ 言ッテタダロ?
大丈夫、 次ハ絶対ニ・・・」
だが、右側の少年の怒りは収まらない。
そして我慢ならなくなったのか、突然火山の噴火の如く怒鳴り始めた。
「・・・オ前達ハ ノー天気スギルンダ! イイカ、 僕達ハ 暗殺ニ 失敗シタンダゾ!?
下手スレバ 僕達ダッテ 始末サレルカモ 知レナインダ! ・・・ソレナノニ オ前達ハ マダアイツラヲ 擁護スルノカ!!
アソコデ 命令ヲ受ケテモ ボサット 突ッ立ッテルアイツラヲ!!」
2人が右側の少年が指差す方を見ると、なるほど3体のスタンドがまだそこにいた。
「オイ、 オ前達、 命令ヲ受ケニ 来タンダロ? 早ク行カナイト、 マタミギガ キレチャウゾ」
だがスタンド達は動かない。
…いや、むしろ反応しない。動けない。

「オイッ、 ドウシタンダ 一体・・・」
左側の少年が近寄ろうとすると、スタンド達の肉体は突然異様な変形を始めた。
そして、その変形が限界まで達した時、スタンド達は爆竹の如く炸裂し―――
消滅する幽体の中から実体の『破片』が飛び出し、集合し―――
そしてそれは、ギコ屋になった。

728N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「・・・!!!!」
「オマエハッ! 逃ゲタハズノッ!」
お約束通り、オレは親指を立てた右手を振りながら「チッ♪ チッ♪」と口を鳴らす。
「ギコ屋!!」

「YES I AM!」

「全く、ホント人をなめた真似をしてくれたな、お前達はァ―――ッ!
さんざ人を挑発した挙句、オレを新幹線に衝突させようとするなんて、子供の策とは思えないぞ…。
まあ、オレが急にいなくなったことで慌てたスタンド達が本体の居場所まで帰らずあそこに居座ってたら
オレの分解も時間切れになってただろうけど、ここはオレの作戦勝ちで決まりってところか」
やはり子供、いや子供でなくてもこうなったら動揺しない訳がない。
全身は痙攣し、中には腰を抜かした奴までいる。
「・・・デ、デモ! オ前ノ能力ハ 『分解』ノハズ! ナラ ドウヤッテ・・・!!」
釈然としないのか、子供達が問う。
本当はここまで馬鹿にされたら何も答えず問答無用で分解したいところだが、
ここはオレの聖母にも匹敵する海よりも深き慈愛でその答えを教えて進ぜよう。
「今まではただ分解して元に戻る…それだけだった。
でもオレは考えたんだ、分解して原子レベルまで小さくすれば、その間は形は自由に出来るんじゃないかって…」
こいつらはまたまた分かっていないらしい。
子供だからか、これじゃあスタンドの理解力が足らなかったのも無理はない。
                  ・ ・
「つまり分解中にオレの体を紙状にして3つに分け、そのスタンドの中に潜伏した。
これでかさ張らずに楽々入っていられるって訳さ!」

「・・・ア、ソウ」
って何じゃその冷めた返事は!
…まあ、それはともかく。
「いずれにせよこの『鬼ごっこ』、オレの勝ちで決まりらしいな。さ!諦めろ」
オレが近寄ると、少年達は観念したのか立ち上がってオレに手を差し伸べた。
そしてオレが捕まえようとすると…。
「馬鹿ガ! 最後ノ最後ニ 油断シタナ、 コノオヤジ!!」
お、オヤジだって!?失礼な、オレはそんなに歳食ってないぞ!
「サッキ スタンドガ 破裂シテモ コッチガ 無事ダッタノヲ 忘レタノカ?」
あ、そう言えば。
「シカモ 僕達ノ スタンドハ 『自動操縦型』! パワーナンゾ イクラデモ 持ッテルンダ!
更ニ 僕達ノ場合ハ、 破壊サレタクライジャ 死ニハシナイノサ!!」
おいおいおい、それじゃ…。

「自分達ノ身体ヲ『暴走』サセルッ!」
「アバヨ、駄目オヤジ!!」
「次ハ 絶対ニ オ前ヲ 仕留メテヤル! 覚悟シテイロ!!」

…言ったはずだ。
オレの勝ちは決まったはずだと…。
「お前達、やっぱり予習足りないだろ?」
理由が分からず、当惑する子供達の顔。
「ナ・・・何デ!!」
別にもう慈悲も慈愛も関係ない。
最後はただ負けゆく奴らに最後の精神的追い討ちを掛けるためだけだ。
「こんな至近距離で、たとえ暴走しようが『クリアランス・セール』のスピードから逃れられるか、ってこと」

729N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「ハッピー・マ『クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァ―――ッ!!』」
ラッシュを食らって吹っ飛んでいく子供達。
もう彼らは逃げられない。
それにも気付かず起き上がろうとする3人。
「見ロ、都合良ク 奴カラ 離レラレタゾ!」
「今ノ内ダ! 逃ゲロ!!」
…本当は完膚無きまで叩きのめしたかったんだが、やっぱり相手が子供じゃあな…。
それにあくまでこれは『鬼ごっこ』。最後はやはり捕まえて締めなくてはならない。
「だから手加減しつつ手足だけを狙って叩いたんだ…寛大な慈悲に感謝しろよ。
『Crumble(解体されてな)』」

たちまち達磨と化す少年達。
最早逃げる術は皆無。
「そして…つーかまーえたー!!
あー終わった終わった、こんなハードな鬼ごっこは生まれて初めてだぞ!!」
少年達にはオレの言葉は聞こえていなかった。
完全に負けを認めた表情。
しかも今度は諦めがついているようだ。

3人の身体から飛び出す幽霊。
…やはり、相棒同様悪霊によって操られていたのか。
道理で凶悪すぎると思った。
でも、どこかその表情が清々しいのは気のせいだろうか。

「今回ハ 完敗ダ!」
「チックショー、 勝ッタト 思ッタノニヨー・・・」
「オイ、 今度 マタ 再戦スルゾ!!」
オレには最後に彼らの声が聞こえたような気がした。
だが…誰がやるか!!



「しかし困ったな…、問題はこの子達を家まで送らなきゃいけないことだ。
『クリアランス・セール』で果たして運び切れるかどうか…。
親はどこのどいつなんだよ、全く…!

…てかそう言えば…、
ここ…どこ?」

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

730N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 14:06
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名:ハッピー・マンデーズ            ┃
┃               本体名:シャイタマー                 .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -E   ...┃   スピード -A   ┃  射程距離 -A   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃  精密動作性 -D  .┃   成長性 -B  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃取り憑いた相手の肉体を『暴走』させる自動操縦型スタンド。      ┃
┃本体は3人のシャイタマーで、それぞれが同じ能力のスタンドを持ち  ...┃
┃(厳密に言うと、ヴィジョンについている顔はそれぞれの本体の  ....┃
┃顔であるので、全く同じスタンドではないが)、               .┃
┃取り憑いた数に比例して暴走の度合いも変化する。         ..┃
┃暴走している者は自分の運動を自分で制御出来なくなるが、    .┃
┃その間自身の体力を消耗することは一切無く、全てスタンドの     .┃
┃パワーによって運動エネルギーは賄われる。               .┃
┃ちなみに本体にも憑依可能であり、またスタンドが破壊されても   .┃
┃本体にはダメージは無く、すぐに再生可能。               ..┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

731丸耳作者:2004/01/12(月) 21:28
乙と言わせて頂こうッ。

732アヒャ作者:2004/01/12(月) 22:04
こちらからも乙!
N2さんの作品を参考に自分もがんばろう。

733302:2004/01/12(月) 22:16
N2さん乙です!

今夜辺り、やっと第2話できそうです。

734新手のスタンド使い:2004/01/12(月) 23:08
>>733
ガンガレー

735N2:2004/01/13(火) 00:24
>>733
頑張ってください。オイラも出来る限りガンガリマス。

皆様もどうもです。

736302:2004/01/13(火) 00:59
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・2


「まったく、検査入院やなんてツイとらんなぁ〜」
「悲観すなや、のーちゃん。お陰様で休みが出来たんやし」

ここは、某大学病院の病室。ウチとニダやんが高熱で運び込まれて1日過ぎましてん。
不思議な事に検査した結果…「高熱」はあっても「怪我」は無い…っちゅう事ですねん。

…おかしな話やで。ウチらは確かに、あの黒マントの八頭身に「矢」で刺されたはずや…
それなのに、怪我は全く無い…でも、高熱はある…それに、何や…誰かに見られてる気がするんやわ。

「のーちゃーん。」
「ん?」
「そっちに新聞あるやん?ちょっと、取ったって?」

さっきまで読んでた新聞を持って、ウチはニダやんに渡す為にカーテンを

「これで…ええ……よ、な?」

「ああ…あり……がと…さん…」

開けた瞬間……ウチらは絶句しましてん……

737302:2004/01/13(火) 00:59
『………』

(ゴゴゴゴゴゴゴ……)

ニダやんの後ろに…何や、変な男がおったんです。
両腕が、ツタのようなのが何十本もある…変な香具師が……
ニダやんも、ウチも…鳩が豆鉄砲を食らった顔してましたわ……

そんで

「「何やそれぇぇぇ!!!」」

お互い指差しあって絶叫して

「「はぁ!?何をゆーてん…」」

お互い振り返って

「「何やこれぇぇぇぇ!!!」」

お互い、後ろを見てまた絶叫しましてん…

『………』

ニダやんだけやない、ウチにもその「変なの」がおったんですわ…
ウチのは、妙にメカニカルで…額に「10」とデジタル数字があったのを、覚えてますわ。


「……病室で騒ぐのは、感心しないな」

低い声がしましたわ。ごく、最近聞いた声ですわ……

「あ、エライスイマセンなぁ、ホンマ!いやいや、ついビックリってコラァ!!」

点滴を引き千切り黒マントの男に近寄っていきましてん。

「おうおうおう!!あんさん、よーこんなとこに顔を出せたもんやな!!」
「うるさいと言っている。…やはり、お前達は“素質”があったか」
「ここで会ったが100年目やでぇぇ―――!!謝罪とぉ!!賠償をぉ!!要k(ry」

ニダやんが五月蝿いので、スリーパーをキュッとキメて…ウチは黒マントの男…
いや、「八頭身フーン」に尋ねましてん。

「…素質?この……後ろの人の事か?」
「ああ、それはスタンド能力。…矢で射抜かれた者に、発現する具現化された精神の像だ。」
「……精神の…像?」
「俺では説明が下手でな…まぁ、座れ。それと、そこのエラ張った香具師を起せ。」

738302:2004/01/13(火) 01:00
言われるがままに、ウチは八頭身フーンのスタンドや色んな事を説明してもらいましてん…

今、矢は二本ある事……スタンドを悪用させ、日本を混沌に落とそうとしている組織「ZERO」が居る事…
そして、ウチらを対「ZERO」組織にスカウトに来た事…

「……正直、ウチらがアンタらを信用するだけの“証拠”があれへん」
「…ワイもや。確かに!ワイらにそのスタンドっちゅーのが発現したのは認めるわ。」

いきなりの事でパニックになりそうやった頭を、無理矢理働かせて出た答えを告げましたわ。
八頭身フーンは…微動だに、せーへんかったんです。

「……マズイな。屋上に移動するぞ。」
「「ハァ?」」
「…俺のスタンドが鳴いている…“ZERO”だ!ZEROのスタンド使いが、お前達を狙っているっ!!」


……。


「「何でやねーんっ!!」」

二人でツッコんでもフーンは意に介さず…
そのまま、抱き上げられてウチらは屋上へと逃げ込んだんですわ……

739302:2004/01/13(火) 01:01
「……な、何でウチらがいきなり襲われなあかんねん!」
「ZEROの目的は“スタンド悪用での秩序破壊”だ。お前らを強制的にスカウトに来た…と言った所か。」
「だ、だ、だったらぁ!!こんな狭いとこに逃げんでもええやんかぁ!!」
「…お前達に、スタンドの使い方を教えるためだ。もし、我々の組織に入らずとも…いつかは襲われる。
ならば、早い内にスタンドを使いこなせるようにならなければ…待っているのは死だ。」

屋上の扉が、砕ける音が会話を遮りましてん。
其処には、確実に…フーンが言う所の「スタンド使い」がおったんですわ……

「…フーンよぉ…ゲヒュ…舐めた真似してくれんじゃんよぉ…ゲヒュヒュ…俺らの新人掻っ攫う気かぁ?」

気色悪い笑いを浮かべた男が…一歩ずつ、近寄って来たんですわ…。
ウチは、ただの漫才師見習いやけど…わかりましてん。…こいつは、最っ低最悪のクズいうんが…。

「……丸モラか。末端とは言えスタンド使いがわざわざ……必死だなw」
「な、何を挑発してんねん!!うわっ!来るぅ!!あんさんのスタンドで何とかしてーや!!」
「 断 る 」
「はぁ!?」
「お前達だけでやってみろ。集中し、怖れず…スタンドと心を通わせれば、出来るっ!!」
「何じゃそりゃあ!!」

ニダやんの抗議にも、判定は覆らず…ウチは、ニダやんの肩に手を置いて

「……やるで、ニダやん。ここで殺されたら、M1に出る夢も断たれてまうわ。…集中するんや…」
「……あーもう!!わーったわ!!浪花のど根性、見せたるわぁぁ!!」

「…ゲーヒュッヒュ…!!なりたてのスタンド使い二人ぃ?俺様の“狂気”に勝てるかぁ?!」

「………(そうか……お前の名前はそういうんか……)………」
「………(頼むで…ワイはのーちゃんと、未来を生きたいんや…!!)………」

「……!…出るかっ!」


「うおおお!!いくでぇ!!シー・アネモネぇ!!」
「…ファイナル・カウント・ダウンッ!!……さぁ、ウチらが相手やぁ!!」

<To Be Continued>

740N2:2004/01/13(火) 18:05
乙ですわ。関西弁 (・∀・)イイ!!

741新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その3」



          @          @          @



 フサギコは、机の上に広げた世界地図を眺めていた。
 雨が窓を叩いて、煩雑な音を立てる。
「国防の基本方針…」
 フサギコは呟いた。
 ここは、彼の自宅である。
 今日は、一歩も家を出ていない。
 ASA… あの恥知らずなスタンド使いの集団が、洋上に艦隊を展開したという。
「直接及び間接の侵略を未然に防止…」
 太平洋の真ん中にチェックを入れる。
 雨の勢いは増す一方だ。

 先日、防衛庁長官からの電話があった。
 ASAとは既に密約済みだという。
「ちゃんと、話はついている」
 長官はそう言っていた。
 …何が、話はついているだ。
 政治家ごときがしゃしゃり出てくるな…!

「防衛戦争の定義は…?」
 フサギコは、東京の位置にバツ印を付ける。
「専守防衛…!」
 ペンを床に投げ捨てるフサギコ。

「この国に武器を持って踏み込むという事が… どういう事が分かっているな、ASA!」
 フサギコは叫ぶと、電話の受話器を持ち上げた。
 そして、素早くボタンを押す。
「もしもし、フサギコだ。極秘裏に、陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長の3人を私の家に呼んでくれ。
 内局には勘付かれるな…」



          @          @          @


 
「おはようなのです!」
「おはよう、簞ちゃん」

 うん、快適な目覚め。
 やっぱり、女の子に起こしてもらうというのは新鮮だ。
 僕は、布団から体を起こした。
 美味そうな朝食の匂いがする。
 まるで、新婚みたいだな…

 流石にいつまでも畳には寝てられないので、昨日新しい布団を買った。
 簞ちゃん用の布団である。
 つまり、簞ちゃんはしばらく僕の家で暮らすという事だ。
 乗りかかった船というか、何とやらだ。

742新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

 簞ちゃんは、もうすでに制服に着替えている。
 今日から、一緒に学校に通うのだ。
 …って、何の為?
 この町には人を探しに来たんだよな。
 もしかして、僕と一緒に学校に行きたいとか?

「簞ちゃん、何しに学校に通うの?」
 僕は、テーブルの向かいに座って朝食を食べている簞ちゃんに話しかけた。
「聞いた話なのですが… 私が探している人と関係の深い人が、おにーさんの学校に通っているらしいのです。
 だから、その人に会って話を聞くのです」
「ホントにそれだけ…?」
 僕は、簞ちゃんの顔をじっと見た。
「おにーさんに隠し事はできないのです…
 私が探している『異端者』のターゲットが、学校に潜んでいるという話なのです。
 だから、学校を重点的に調べてみたいのです」
「その為に、わざわざ転校か…」
 代行者って大変な職業なんだな。
 簞ちゃんは笑った。
「催眠をちゃんと習っておけば、転校の手続きとかをしなくてもよかったのです…」
「催眠って、あなたはだんだん眠くなる…ってやつ?」
「眠らせちゃ駄目なのです。暗示を与えて、記憶をなくしたりすり替えたりするのです。
 代行者になる人は、みんなやり方を習っているのですが、私は苦手なのです。
 …と言うか、実際に催眠が使える人は代行者の中にもほとんどいないのです」
「みんな習ってるって…学校みたいに?」
 僕は訊ねた。
「代行者になるための厳しいカリキュラムがあって、任務を遂行する上で必要となる技術を叩き込まれるのです。
 催眠もその一つで、どこかに潜入する時などに、覚えておくと便利なのです。
 代行者の中には、この催眠技術をスタンド能力にまで昇華させた人もいるのです」
「スタンドに昇華って?」
 簞ちゃんは言った。
「スタンド能力は、その人の嗜好や性格が反映される事が多いのです。
 …おにーさんのスタンドの能力が気になるのです」

 …そう。僕には、簞ちゃんのスタンドが見えてしまった。
 実は、スタンドはスタンド使いにしか見えないのだという。
 だから、簞ちゃんのスタンドが見えた以上、僕もスタンド使いだったという事になる。
 しかし、僕はそんなもの出せない。
 どうやら簞ちゃんの話では、僕は潜在的なスタンド使いというやつで、まだヴィジョンは形成できないらしい。
 『自分の身を守ろうとする』とか『怒りをぶつける』という気持ちになればいいらしいが…

「スタンド…ねぇ。便利な能力だったらいいな…」
 僕は呟いた。
 あの8頭身を何とかできる能力だったらいいんだけどなぁ。

 そうだ、一つ注意しておかないと…
「簞ちゃん、もしかして、学校に武器を持っていくの?」
 簞ちゃんは答えた。
「持っていくのです。でも、武器には見えないので大丈夫なのです」
 そりゃよかった。
 銃とか剣とかを学校に持ち込まれたら、エラい騒ぎになるだろう。
 でも、少し興味が湧いた。
 武器には見えない武器ってどんなんだ?
「簞ちゃん、その武器っての見せてほしいな…」
「どうぞなのです」
 簞ちゃんは、メジャーのような物を僕に手渡した。
「わっ、触って危なくない?」
「波紋を流していないから、大丈夫なのです」
「メジャーみたいだね…」
 僕は呟いた。
 掌に収まるくらいの四角いケースに、引っ張れば伸びるワイヤーが収納されている。
 真ん中の突起を押すと、たちまちワイヤーはケースの中に戻っていった。
「構造は、ほとんどメジャーと同じなのです」
 簞ちゃんは言った。
 メジャーと違う点は、そのワイヤーが5本もついているという事である。
「私は非力だから、剣は重くて持てないのです」
 簞ちゃんは恥ずかしそうに言った。
 なるほど、これなら軽そうだ。
 もう一つ、同じ物を取り出す簞ちゃん。
「これを両手に持って、ワイヤーの部分に波紋を流すのです。波紋の収束作用を利用しますので、スパスパ切れるのです。
 でも、あまり使いたくはないのです…」
 そうだろうなぁ。
 簞ちゃんは、他者を傷付けるのがよほど嫌らしい。

 僕は朝食を食べ終えた。
 そろそろ登校の時間だな。
「私は、最初に職員室に行かないといけないので、少し遅めに出るのです」
 簞ちゃんは洗い物を片付けながら言った。
 なんだ、今日は一緒に登校できないのか…
「じゃあ、先に行ってるよ」
 僕は家を出た。

743新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:41

 教室に入って、いつものように席に座る。
 …変だ。
 絶対変だ。
 一昨日から、8頭身どもの姿をさっぱり見ない。
 そう、簞ちゃんが家に来てからだ。
 何か企んでいるのだろうか…
 いたらいたでキモイけど、いなかったらいなかったでキモイ。
 ほんと、キモイ奴等だ…

 ガラガラと戸を開けて、先生が入ってきた。
「急ですが、このクラスに転校生が編入します…」
 おっ、来た来た。
「イギリスからの帰国子女です。じゃ、入って」
 先生の言葉と共に、扉が開いた。
 てくてくと入ってくる簞ちゃん。
 それにしても、イギリス? またでっちあげたもんだなぁ。 
「簞なのです。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる簞ちゃん。

「可愛い…」
「帰国子女!?」
 ヒソヒソと囁き声が教室中で巻き起こる。
「じゃあ、そこの空いている席に座ってもらえるかな…」
 先生が指差した先には、当たり前のように空席があった。
 これも学校の七不思議。
 簞ちゃんはその席に腰を下ろした。
 座る時に、僕にふと視線を合わせて微笑んだ。
「えー、では出席を取ります…」
 HRはそのまま進行していった。
 すぐに1時間目が始まる。


 はやる心に流されるように、1限の授業は終わりを告げた。
 簞ちゃんが、僕の机の横に立つ。
「それにしても… クラスまで一緒なんだね。年は違うのに、変な感じだなぁ…」
 僕は頭を掻いた。
「『異端者』について知っている人と同学年の方がいいと思ったのです」
 でも、考えてみれば妙な話だ。
 『異端者』という名前からして、簞ちゃんと同じ代行者だろう。
 そうすると、『教会』の同僚にあたるはずである。
 『教会』は『異端者』の居場所を知らないのか?
 まあ、『異端者』なんて名前をつけられるくらいだから、『教会』を裏切ったのかもしれないな。
 僕は、それらの疑問を簞ちゃんに訊ねた。
「分からないのです… まあ、『教会』の秘密主義は今に始まった訳ではないのです。
 現に代行者同士でも、誰がどの任務を扱っているのかは分からないのです。
 それに、この任務に与えられた期間は半年と長過ぎるのです。多分、いろいろ込み入った事情があるのです」
「ふーん。で、その『異端者』ってどんな人なの?」
「ものすごく強い人なのです。直接戦闘のエキスパートで、全身に武器を隠し持っているのです。
 吸血鬼を物凄く嫌悪している人で、吸血鬼の殲滅数も、代行者の中で2番目なのです。
 1番の人はちょっとズルをしてますので、実質最も吸血鬼をやっつけている人と言っても差し支えないのです」
 僕は、ゴリラのようなムキムキのオッサンを想像した。
「重火器や兵器にも通じていて、現行兵器のほとんどのマニュアルが頭に入っているとも言われているのです。
 吸血鬼の間でも恐れられていて、『十字の死神』や『塵の鬼神』などと呼ばれているのです」
 顔面に十字の刺青を入れて、「HAHAHAHAHA!!」と笑いながらマシンガンを連射するオッサンが僕の脳内で暴れている。
 まあ、それくらいでないと吸血鬼とは戦えないのかもしれないな…
「とんでもない人を探してるんだね… で、その『異端者』について知っている人は、何て名前だい?」
 簞ちゃんは口を開いた。
「モナーさんと言うのです」

 …モナー?
 それって、B組の有名な女たらしじゃないか?
「次の休み時間、その人と会ってみるつもりなのです」
 僕の脳裏に、爽やかハンサムボーイ(モナー想像図)が簞ちゃんの肩に腕を回す情景が浮かんだ。
「ダ、ダメだ! そんな奴と一人で会ったら、簞ちゃんが食べられちゃうよ!!」
「…私、食べられてしまうのですか?」
 少し怯えた表情を見せる簞ちゃん。
「いや、詩的表現なんだけど… とにかく、簞ちゃんが一人でそいつと会うのは危険だよ」
 僕は少し考えた。
 そんな野獣の前に、簞ちゃんの清らかな身を晒す訳にはいかない。
「…だから、僕が一人で会ってみる」

 簞ちゃんはうなづいた。
「…じゃあ、そうしてもらうのです」
 自分で提案したものの、少し不安になってくる。
「まあ、簞ちゃんが一人で会った方が情報は引き出せるんだろうけど…」
「任務には半年も期間があるのです。多少マターリしても大丈夫なのです」
 そう言われればそうだな。
 今回失敗しても、あと半年あればいくらでもチャンスはある。
 2限開始のチャイムが鳴った。続きは2限後だ。

744新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:42

 2限終了。
 簞ちゃんは、授業が終わるとすぐに僕の所まで来た。
 こんな事ばかりしていて、簞ちゃんはクラスに馴染めるのだろうか。
 僕がいるから、クラスのみんなが近付いて来ないも同然である。
 まあ、簞ちゃんは学校生活を楽しむのが目的ではないだろうが、せっかくだしね。
「じゃあ、モナーさんに話を聞くのは、おにーさんにお任せするのです」
 僕の心を知ってか知らずか、簞ちゃんは言った。
 僕は席から立ち上がる。
「…おっと、話を聞くとき、簞ちゃんの事はどこまで話してもいいの?」
「別に、全部しゃべっても構わないのです」
「えっ! そうなの?」
 本当にいいのか?
 いろいろ、マズイと思うんだけど…
「関係ない人なら、どうせ信じないのです」
 確かにそうだな。
 僕自身、実際に吸血鬼やスタンドを目撃していなければ、とても信じられないだろう。
 でも、モナーが何も知らなかった場合、アレな人扱いされるのはイヤだなぁ…
「じゃ、行ってくるよ…」
 簞ちゃんに手を振ると、僕は教室を出た。

 B組の教室に入る。当然だが、教室内にはたくさんの生徒がいた。
 さて、誰がモナーだろう…?
 僕は教室中を見回した。
 …あれか?
 見るからにモテオーラを放っている男子生徒が目についた。
 机の上に座って、女の子と何やら会話を交わしている。
 多分、彼がモナーだな。
 ちょっと怖そうな人なので、話しかけるのは気が引ける。
 だが、このまま逃げ帰るわけにはいかない。
 僕は、彼の肩をつついた。
「あの…すみません…」
「何だゴルァ!」
 彼は、こっちに振り返った。
「えーと、君がモナー君?」
 僕はおずおずと訊ねる。
 彼は、ハァ? と言いたげな表情を浮かべた。
「いや、俺はギコだ。モナーなら… ほら、あそこだ」
 ギコと名乗った生徒が指差した先には、机に突っ伏して眠るタヌキの姿があった。
「えっ…あれが?」
 さすがに当惑した。
 伝説の女ったらしじゃなかったのか?
「あれが? って言われてもなぁ、しぃ…」
「うん。あれがモナー君だよ」
 ギコと話していた女子生徒が言った。
 どうやら、間違いないらしい。

 僕は2人に例を言うと、モナーの机に近付いた。
「あの…モナー君?」
 僕は呼びかけた。
 しかし、彼は机に突っ伏したままで反応はない。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけど…!」
 僕は彼の体を揺すった。
「ウフフ…リナー…ウフフフ…」
 駄目だ。寝言を言ってるよ。
「起きてー! おーい!」
 ゆさゆさと彼の体を揺さぶる。
「おい、そんなんじゃコイツは起きやしねぇぞ!」
 さっきのギコが横から入ってきた。
「コイツを起こすには…こうやるんだよ!!」
 ギコは、モナーの頭にかかと落しを叩き込んだ。
「ギャー!」
 飛び起きるモナー。
 ギコは無言で去って行った。意外と、いい人なのかもしれない。

「い、痛いモナ…」
 頭をさすりながら呟くモナー。
 やはり、伝説の女ったらしには見えない。
 やっぱり、ものすごいテクを持ってるんだろうか。いろいろな…
「ん? 君は誰モナ?」
 モナーはようやく僕に気付いた。
「僕は、A組の1さんって言うんだけど…」
 とりあえず自己紹介からだ。
「は、はぁ…」
 戸惑うモナー。
 どうしよう。何て聞こう。
 単刀直入にいってみるか。
「…『異端者』って知ってるかい?」
 モナーは細い目をカッと見開いた。
「…知らないモナ」
 今の反応はただごとじゃない。
 やっぱり、彼は何か知っている。

745新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

「…で、『異端者』って何モナ? なんでモナに聞いてくるモナ?」
 モナーは逆に質問を投げかけてきた。
 一応、許可はもらっている。
 僕は、簞ちゃんが家に来た事、吸血鬼の事、スタンドの事を全て話した。
 もちろん、考えなしの行為ではない。
 ちゃんと反応を観察する事は忘れない。
 吸血鬼の話でもスタンドの話でも、彼は特に驚いた素振りを見せなかった。
 こんな話、普通の人が聞いたら一笑に付すだけだというのに。
 やはり、彼は何かを知っている。

 話が一通り終わると、モナーは口を開いた。
「その簞ちゃんが探している『異端者』に心当たりはないモナ。でも、簞ちゃんに会ってみたいモナ」
 モナーは困った事を言い出した。
 女ったらしの血がうずいたのか、それとも何か企んでいるのか…?
 もっとも、簞ちゃんは吸血鬼を一瞬で灰にしたのだ。
 このタヌキに大した事ができるとは思えない。
「分かった。すぐ連れてくるよ」
 僕はそう言ってB組の教室を出た。


 簞ちゃんを連れて、B組の教室に戻ってくる。
「簞なのです…」
 モナーに頭を下げる簞ちゃん。
「モナはモナーモナ」
 そう言いながら、モナーはじっと簞ちゃんを見つめている。
 何か、妙な感じだ。
 鋭い視線。
 先程までのマヌケなしゃべり方が嘘のようである。
 まるで、全てを見通すような眼…
「『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加モナね…」
 何を言っとるんだこのタヌキは…

「本当に、『異端者』を知らないのですか…?」
 簞ちゃんは訊ねる。
「知らないモナよ。それより、よく吸血鬼なんかと戦えるモナね…」
 モナーは言った。
「色々訓練したのです」
 それに答える簞ちゃん。
 何か、僕はどうでもいい人みたいだ。
「…この町はどうモナか?」
「かなりの数の吸血鬼が潜んでいるようなのです。でも、なぜか大人しいのです」
 簞ちゃんはモナーの瞳を見据えて言った。
「まあ、代行者がこれだけ町に集まれば、大人しくなるモナね…」
 そう言って、モナーは慌てて口を押さえた。
 今、確かに代行者が町に集まっていると言った。
「…とにかく、モナは何も知らないモナ。さてと、もう一眠りするモナ」
 モナーはいきなり机に突っ伏した。
 明らかに、拒絶の態度だ。
 これ以上話しかけても、無視されるだけだろう。
 仕方ない、今日は諦めるか…
 僕は簞ちゃんと目を合わせてうなづいた。
 簞ちゃんを先頭に、教室を出ようとする僕達。
 しかしモナーは、突っ伏した姿勢のままで、僕の制服の裾を掴んだ。
 それに気付かず、簞ちゃんは教室から出て行ってしまう。

「な…何…?」
 僕はモナーに言った。
 モナーは手を離すと、机から頭を起こした。
「さっきの話だけど… 簞ちゃんと会った日、1さんは簞ちゃんに自分の年齢を教えたモナ?」
 いきなり何を言い出すんだ?
「教えてないけど。名前を名乗るのも遅れたからね」
「でも、『私は、おにーさんよりも1つ年下なのです』って言ったモナね…」
 …!!
 そうだ。確かにそう言った。
 簞ちゃんは、偶然僕の家に着いたはず。
 それなのに、僕の年齢を知っていた…!

746新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

 呆然とする僕を見ていたモナーが口を開いた。
「偶然は信用しない方がいいモナ。その偶然も、たぶん仕組まれたものモナ」
 仕組まれただって…? 一体、誰に…?
 その時、僕は気付いた。
 さっきモナーが、代行者が町に集まっていると言った。
 あれは、口を滑らせたんじゃない。
 僕達の… いや、簞ちゃんの反応を見るためにわざと言ったんだ。
 そして、簞ちゃんは特に反応しなかった。その事を知っていたのだろう。
 だとしたら、妙な話だ。
 今日の朝、簞ちゃんは、代行者は誰がどの任務を扱っているのか分からないと言っていた。
 決定的な矛盾とまではいかないが、どこか収まりの悪い話だ。

「…でも、僕は簞ちゃんを信じたいんだ」
 僕は、自分に言い聞かせるように呟く。
「その気持ちはよく分かるモナ」
 モナーは意外にも同意してくれた。
「簞ちゃん自身、『教会』に騙されている可能性も高いと思うモナ」
 …なるほど。
 僕もそんな気がするな。
「そういう事モナ。今度こそ本当に寝るモナ…」
 そう言って、モナーは机に突っ伏してしまう。
 僕は、自分の教室に戻った。

 自分の席につくと、簞ちゃんが話しかけてきた。
「…何かあったのですか?」
「いや、別に…」
 僕は答えた。
「で、簞ちゃん的には、モナーはどうだった?」
 とりあえず話を変えた。
 視線を落とす簞ちゃん。
「あの人は、とても怖い人なのです…」
 そうかなぁ。
 簞ちゃんは怖がりだな。
「あの人の言動は、鈍さと鋭さが表裏一体なのです。それと、あの眼。何人もの人間の死を見てきた眼なのです。
 あんな目をした人間が、あんなに普通に振る舞えるはずがないのです。
 多分モナーさんは、人を殺した事があると思うのです…」
 ええっ!?
 いくらなんでもそれは…
「彼は、相反するものをたくさん抱えているのです。生と死。罪と赦。善と悪。
 あの少し呑気すぎる振る舞いも、彼自身の防御機構に過ぎないと思うのです。
 あんな状態になっても、通常の精神を保っているのが、私は怖くて仕方がないのです」
 簞ちゃんはそう言って黙ってしまった。
 ただのタヌキでない事は分かったが、そこまでのヤツなのか…?

 3時間目が始まった。
 授業中も、僕はずっとモナーの事を考えていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

747302:2004/01/14(水) 02:01
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・3


「ゲヒュ…♪なーかなか、いいスタンド持ってるじゃんよゥ…!」

ウチらの敵…丸耳モララーは、“素手のまま”こっちへと近寄ってきましてん。
こいつらが…日本の秩序を壊そうとしてる……!!

「……ああ、言いそびれてたんだがな。そいつは、日本町(ひのもとちょう)を本拠地にしたストリートギャングだ。」
「え?…日本町って、茂名王町から一駅隣りの?」
「ああ。」
「………」

……なんか、急に体の力抜けましたわ……要するにDQN同士の縄張り争いやないかい!!

「だが、スタンドなんか使われたら一般人に迷惑だ。だから、我々はこいつらを取り締まる自警団ってわけだ。」
「……なんか、微妙にモチベーション下がるわあ……」
「…そう言うなや、ニダやん…なんとなくやけど、コイツ間違いなく人殺しとる…!」

…そう、ウチが感じた悪寒…それは。

「ヒトコロシにしか、出せないオーラって…あってよぉ〜…ゲヒュ…♪」

「…やっぱ、殺すにはよぉ〜、ちょーっとだけ狂気が必要なんでよぉ〜♪」

「……“マッド・ブラスト”…つまり、俺のスタンドでよぉ〜…殺しちゃってるわけよぉ。」

いつの間にか、丸モラの背後に「イカレた男の像」が浮かんどったんです。
右腕がバズーカ砲みたくなっとって、左腕は注射器状でしてん。

748302:2004/01/14(水) 02:02
「…ヤバイっ!!あっちもスタンド出してきおった!!…いくでぇ、F・C・Dぃ!!!」
「シー・アネモネぇ!!あのスタンドの腕を絡め取るんやぁ!!」

ウチがスタンドとダッシュで突っ込む両横を、ニダやんのスタンドの“無数の触手”がうねりながら突っ込んでいったんや。
ファイナル・カウント・ダウンは遠距離攻撃には向かない…逆にニダやんはある程度射程が長い…
なんていうんか、長年相方やってるとわかるもんですわ。

「せいやぁっ!!!」
(ブオン!!)
あかんっ!!慣れてないせいか知らんけど、遅いし非力ぃ!!

「ゲヒュヒュ…♪パワーもスピードもイマイチ…いや、イマサンかぁ?てめぇのスタンドはよぉっ!!」
(バキャッ!!)
バズーカ砲を振り回してきおった!!何とかガードは出来た…それに…!!
「くぅっ!!…今や、ニダやん!!!」
「はいなぁ!!シー・アネモネっ!!薙ぎ払うんやぁ!!」
ウチの背を踏み台に、ニダやんのスタンドの触手が丸モラの背を薙ぎ払った!!ナイスや、ニダやん!!

(ベシイッ!!)

「チィ…喰らっちまったかぁ…!」

ジリ…ジリと後退りする丸モラの表情が、なんとなくやけど笑っとったんです…
言いようのない、悪寒…それと、予感が…ウチの背筋を走り抜ける…!!

「ゲヒュ…♪ゲヒュヒュヒュヒュ!!!ゲヒュアアアアア――――――!!!!!」

「ニダやん!!深追いすなっ!!何か来るでぇ――!!」
「のーちゃん、心配すなぁ!!ワイのシー・アネモネは遠くからでも攻撃出来るっ!!
奴は、このまま近寄る事すら出来ずっ!!ザ・エンドやぁ!!シバキあげたらああああぁぁぁっ!!!」

それを言うなら「ジ・エンド」やろがぁっ!!とツッコむ暇もなく……


( D O O O N N ! ! ! )

749302:2004/01/14(水) 02:02
「カハッ……な、何や……っ…!?」

異常な爆発音と、炸裂音…ニダやんのスタンドの肩が抉れ、フィードバック現象でニダやん自身の肩も抉れてましてん…!!
何や、これはっ!?まさか……まさかっ!?

「そう…察しがいいね、ツー族のお兄さん…いや、お姉さんかな?」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

「狂気って言うのは、エネルギー……抑えきれぬ、精神エネルギーの暴走だと僕は考える……」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

白煙の向こうに、今までとは別人のような丸モラが居ましてん……しかも…。
スタンドの“右腕のバズーカをこちらに構えて”…そして、“左手の注射針を丸モラ自身の頭に突き刺した”姿で……!!

「僕の“マッド・ブラスト”は……“狂気を吸い上げて”…それを“弾丸にして打ち出す”……つまり」

( ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … ! ! ! )

「僕の方が……ゲヒュ♪……より、遠くから攻撃出来るんだよ、このヘボどもがぁぁぁ!!ゲヒュヒャハアッ…!!」

再び、奴の顔が狂気に歪んでいくのが見えましてん。それも、さっきよりも更にイカレた顔に……!

「…キチガイに刃物(スタンド)やな。お前、本気で腐っとる。……ウチの癪に障るわ、ホンマ……っ!!」

今、決めた。ZEROがこんなんしかおれへんなら、ウチがぶっ潰す。ヘタすりゃ、ウチらのファンまで怪我してまう…!!
ウチの中の“正義感”が!!“倫理観”がっ!!「コイツを許すな」って、叫んどるんやぁ!!!

『……認証ヲ。カウントダウン認証ヲ、マスター。マスター。MASTER……!』
「っ!!?」
(ゴゴゴゴゴ……)

聞こえた。スタンドの声、F・C・Dがウチに何かを伝えようとしとる……!!

<To Be Continued>

750302:2004/01/14(水) 02:02
人物&スタンド紹介(スタンドの詳細はこの話が終わってから…)

本体名:のーちゃん
スタンド名:ファイナル・カウント・ダウン(F・C・D)
詳細
茂名王町の隣町、日本町(ひのもとちょう)に住む18歳の専門学生。
“ニダやん”と漫才コンビを組む大のお笑い好き。
正義感が強く妥協を好まない性格で、モットーは「人に優しく、自分に厳しく」
ひょんな事からストリートギャング集団「ZERO」と「自警団」のスタンドを使った抗争に巻き込まれてしまう。

本体名:ニダやん
スタンド名:シー・アネモネ
詳細
日本町に住む20歳の大学生。韓国人っぽい顔だが、関西人である。
“のーちゃん”と漫才コンビを組み、お笑い界を覇権する夢を持っている。
どちらかといえば、「面倒はキライ」だが、親友“のーちゃん”を守る事には苦労を厭わない。
“ZERO・自警団抗争”も、のーちゃんに付いていくように足を踏み入れていく。

本体名:八頭身フーン
スタンド名:(不明)
詳細
“日本町特別自警団”の幹部連の一人。実際は元DQNの23歳。
自分達がDQNから足を洗った後、表裏問わず秩序を乱しまくる“ZERO”を潰すと決意。
警察へと“ZERO”メンバーを引き渡す事を条件に、多少の不法行為を不問にしてもらっている。
その為か、割と無茶をする。

本体名:丸耳モララー(丸モラ)
スタンド名:マッド・ブラスト
詳細
“ZERO”の末端メンバー。ただし、スタンド使いなので下っ端の中では割とエライ。
普段は何処にでもいる若者だが、破壊行為・犯罪行為を行う姿はまさに「狂人」。
矢を持ってうろつくフーンの始末&自警団側スタンド使いの引き抜きを行っていた。

751新手のスタンド使い:2004/01/14(水) 18:44
乙です

752ブック:2004/01/15(木) 00:59
     救い無き世界
     第八話・美女?と野獣


 仕事も終わり、家へと愛車を走らせる。
 沈んでいく夕日がとても綺麗で溜息が出そう。

 おっと、紹介が遅れたね。
 僕の名前は小耳モナー。
 可愛いくってドジでお茶目なSSS一のアイドルさ。
 最近の悩みは、麻雀で同僚の皆から根こそぎ金を巻き上げられたせいで、
 財布の中身がすっからかんって事かな。
 でも、健気な小耳たんは挫けない!
 不幸で貧乏なのも、萌えるアイドルとして人気を得るのに必要だもの。
 これ位の試練、ガッツで乗り切ってやる!

「…人気はいらないからお金が欲しいモナ〜。」
 目から自然と涙が溢れる。
 素寒貧になってから早三日、
 あれから、僕は水しか胃の中に入れていない。
 次の給料日まではまだ半月近くある。

「…いっそ、この車を質に入れ…」
 僕はそう言いかけて慌てて頭を振った。
 絶対駄目だ。
 せっかくローンを組んでまで買ったばかりなのに、
 そんな事出来るもんか。
「でも、明日からどうやって暮らせばいいモナ…」
 考える度、気持ちが益々沈んでいく。
 皆に金を貸してくれと言ったって、
 どうせ法外な利息をふっかけてくるに決まっている。
 特にタカラギコあたりにそんな話を持ちかけたら、
 気づかないうちに変な契約書にサインさせられてそうだ。

 赤信号にかかったので、僕は車を停車させた。
 ふと窓の外の景色を除いてみる。
 すると、通りで募金活動をしている少年少女の姿が目に入った。
 どうやら、先の「デパート爆破事件」の被害者支援の為の募金のようだ。
 そういえば、あの事件の被害者救済の為に
 どこぞの宗教系列の慈善団体とかが積極的に義援活動をしているとか
 ニュースでやってたから、あれもその一環だろうか。
「そこの子供達〜、モナも今恵まれてないモナよ〜…」
 何というか、不謹慎なのは承知の上だが僕にも少しくらい恵んで欲しいものだ。

753ブック:2004/01/15(木) 01:00


 信号が青に変わり、僕は車を走らせる。
 すると、いきなり後ろから車が僕の車を追い抜き、
 すれ違いざまに窓から手を出し僕の車の車体を触ってきた。
「?変わった悪戯モナー。」
 こんな事で怒るのも馬鹿らしいので、僕はあまり気に止めなかった。

 次の瞬間、いきなり僕の車が反対車線へと飛び出した。
「!!!?なっ!?」
 慌ててハンドルを切る。
 しかしハンドルを切れども車は構わず動き続けた。
 とっさにブレーキを踏む。
 だが、速度は遅くなったものの車は動くのを止めない。

 と、信じられない光景が僕の目に飛び込んだ。
 一台の車が、僕の車目掛けて避けようともせず突っ込んで来るのだ。
 急いでそこから逃げようとアクセルを踏んだ。
 が、スピードを出した瞬間僕の車はその車に引き寄せられるように
 接近していった。

 そんな馬鹿な。
 あの車とは逆の方向にハンドルを切っているはずなのに、
 何故車は逆に近づこうとするのだ!?

「うわあああああああああああああああああ!!!」
 金属と金属がぶつかり、砕け、ひしゃげる音が響き渡った。
 衝突により大破して、僕と相手の車はようやく停止した。
 体中が痛む。
 しかし、幸いにも骨折などはしていないようだ。
 僕は、体を引きずりながら取り敢えず車を降りた。

「!これは!?」
 僕は自分の目を疑った。
 一度だけ、僕は交通事故が起こった瞬間というものを
 目撃したことがある。
 その時は、現場のあちこちに車の破片やら何やらが散乱していたはずだ。
 だが、何だ「これ」は。
 辺りにはガラス片一つ転がっていない。
 いや、違う。
 そもそも車同士が「吸い付いているかのように密着している」のだ。

「うう…」
 相手の車の中からの呻き声に、僕ははっと我に返った。
(そうだ、向こうの人は無事なのか?)
 急いで車相手の人の車のドアをこじ開け、安否を確認する。
 …一応息はあるみたいだが、気を失っているようだ。
 早く、救急車を…

「うわああああああああああああ!!!!!」
「きゃああああああああああああ!!!!!」
 その時、周りから幾つもの絶叫と衝突音とがあがった。
 周りを見回す。
 そこでは僕の時と同じように、何台もの車がお互いに
 引き寄せ合うかのように、接触事故を起こしていた。
 中には、人と車とがぶつかるようなものもあった。
 さっきまでの何気ない日常の風景が、一瞬にして地獄絵図と化す。

 警察と救急車に連絡を済ませた僕は、
 何がおこているのか調べる為に、次々と事故が起こった方向へと走った。
(何だっていうんだモナ…
 まさか、スタンド能力!?)
 僕の頭に、先日の「デパート爆破テロ事件」の事がよぎった。
 ぃょぅの話だと、あの事件の犯人はスタンド使いだったらしいが、
 まさか、これもそうなのか―――?

754ブック:2004/01/15(木) 01:01


 交差点の中央に、そいつは居た。
 全身を黒いタイツのようなもので包み、
 その顔の中心部にはぽっかりと穴が開いている。
 そいつの傍らには、フルフェイスメットをかぶった男の像があった。
 その右手にはN、左手にはSの文字が大きく張り付いている。

「よい子の諸君!
 天災は忘れたころにやって来るというが、
 天災みたいな最悪な出来事は無理やりにでも早く忘れたいものだよな!
 そう、例えば実の妹に妹系エロ同人誌を見つかるとかな!」
 男は誰に言うでもなく一人で何やらわけの分からない事を
 大声で喋りだした。

 間違いない。
 あいつは、スタンド使いだ。
 そして原理は分からないが、十中八九この惨事は
 あいつが引き起こした事だ。
 感覚で分かる。
 あいつはこの事態を楽しんでいる。
 一つの罪悪感さえ持つ事無く…!

 僕は応援を呼ぶために携帯電話を取り出して
 僕の所属するSSSスタンド制圧特務係へと連絡を入れた。
 ワンコールですぐに電話が繋がる。
「もしもし、どうしました?
 小耳さん。」
 声からするとどうやらタカラギコのようだ。
「大変モナ!
 今、四丁目のパチンコ屋の近くの交差点で、
 恐ろしい事が起こってるモナ!
 相手はスタンド使いモナ!
 すぐに応援を――」
 そう言いかけた所で、いきなり携帯電話を持っている手を
 後ろから掴まれた。
 突然の出来事に、思わず携帯電話が手から落ちる。
 見ると、交差点の男とは対照的に、
 今度は全身白タイツに包み、背中から羽を生やした男が、
 彼のスタンドらしき物の腕で、僕の腕を掴んでいた。
 その顔には、五芒星が描かれている。
「もしもし?小耳さん?もしもー…」
 そこで携帯電話は男の足に踏み砕かれ、
 その機能を停止した。
 今日は何て日だ。
 車だけでなく、携帯電話まで壊れるとは。
 いや、そんな事を考えている場合じゃない。

755ブック:2004/01/15(木) 01:01

「…お前今、『スタンド』と言ったな。
 そして、『応援をよこせ』とも言いかけた。
 お前、もしかしてSSSの一員か?」
 男が僕に喋りかけてきた。
「だったら……どうしたモナ!」
 柄にもなく声を荒げて威嚇する。
 ここで、気持ちで負けるわけにはいかない。
「なら丁度良い。お前には、SSSについて色々と喋ってもらう。」
 男は淡々とした声で話しかけた。
「そんなの…お断りモナあぁ!!」
 僕は自分のスタンドを発動させた。
「行け!『ファング・オブ・アルナム』!!」
 大きな黒い狼がそこに姿を現す。
 喰らえ、これが僕のスタンドだ!

「くっ!」
 白づくめの男は僕から手を離し、急いで距離を取った。
 だが少し遅い。
 『ファング・オブ・アルナム』の爪は男の右腕を捉え、
 男の服と腕の肉をごっそりと奪い取る。
 今だ。
 男が怯んだ隙に、応援が来るまで逃げる。
 男の相手は、『ファング・オブ・アルナム』に任せればいい。
 急いで逃げ―――

「うあああああああああ!!!」
 僕は痛みに叫び声を上げた。
 振り返って逃げようとした瞬間、
 地面の石につっかけて転びそうになり左手を着いた。
 だが…それだけで腕が「折れた」のだ。
 何故!?
 いわゆる骨粗鬆症ってやつか?
 いや、僕は毎朝たっぷりと牛乳を飲んでいる。
 多分そんな事は有り得ない。
 だが、現実にちょっと腕を着いただけで腕が折れたのだ。
 これは一体どういうことだ。
 まさか、これが奴のスタンド能力!?

「今お前は、何故あんな事で骨が折れたのか考えている。」
 男が腕から血を流しながら僕に近づいて来た。
 『ファング・オブ・アルナム』のビジョンは消えている。
 まずい、さっきので集中力を切らしてしまったか…!

「『ファング・オブ・アルナ…』!」
「させるかよ!」
 僕がスタンドを再び発動させようとした瞬間、
 男が僕の脚を踏みつけた。
 そしてそれだけでまた脚の骨が折れる。
「ぎゃああああああ!!!」
 本日二回目の悲鳴。
 やっぱりだ。
 いくらなんでもこんなに簡単に骨が折れるのは「おかしい」。
 分かったぞ、こいつの『能力』は…
 モノを「脆くする」能力…!!
「流石にもう気づいているだろう。
 察しの通り、俺のスタンド、『スペランカー』の能力は、
 『触れたモノを脆くする』能力!
 そして、さっきお前には十分に触らせてもらった。
 もう、お前はロクに逃げる事も出来ない。
 チェックメイトってやつだ。」
 男が勝ち誇ったように俺を見下す。
 やばい。
 悔しいが男の言う通りだ。
 僕がスタンドを出そうとしても、その前に男は僕に攻撃を入れるだろう。
 そして、男が軽く当てるだけで、僕は致命傷を負う。

756ブック:2004/01/15(木) 01:02

「どうした、ペンタゴン。
 何をして遊んでるんだ?」
 …状況は益々最悪な方向に傾いた。
 黒タイツの男が、こちらにやって来たのだ。
 これで二対一。
 万が一にも、僕に勝ち目は無い。
「おお、ブラックホール。
 いや何聞いてくれ。
 たった今SSSの一味を捕獲したところだ。」
 白タイツが誇らしげ喋る。
「おお、それは大手柄じゃないか!
 これで我ら『四次元殺法コンビ』の株も、
 大幅急上昇といったものだな。」
 黒タイツも嬉しそうな声で話す。
 何を勝手な事を。
 お前らの出世のネタになるなんて、願い下げだ。

「さて、君には可及的速やかにSSSについて吐いて貰いたいのだが。
 いちいち君を人気の無い所へ運んで拷問するのは
 我々も出来れば面倒くさいので避けたい。」
 白タイツが僕の方を向いて言った。
「…糞でも喰らいやがれ、だモナー。」
 僕がそう言うと、白タイツは僕の折れていない方の脚を踏んだ。
 骨がまるで発泡スチロールのように折れる。
「ひいいいいいいいいいい!!!」
 本日三回目の悲鳴。
 だが、死んでもこいつらの言いなりになんかなるものか。
 下種な裏切り者になる位なら、死んだほうがマシだ。

「では仕方が無い。
 君を連れ去って思いつく限りの拷問をさせてもらおう。」
 男が僕に手を伸ばした。
 もうお終いだ。
 小耳モナー二十三歳。
 恋人も出来ないままこの世を去ります…

757ブック:2004/01/15(木) 01:02


「『キングスナイト』!!」
 僕が覚悟を決めたその時、
 覚えの有る声が聞こえると共に、
 男達が僕の近くから飛びのいた。

 間に合った。
 ようやく来てくれたのか、応援が。
 声の方を向く。
 そこには、美しい艶やかな毛並みを持った女性が、
 黄金の騎士を従えて、優雅に佇んでいた。

「…遅いモナ…ふさしぃ…」
 僕は咽から声を絞り出して、彼女の名を呼んだ。
「御免なさい。
 でも、ヒロインは遅れてやって来るものよ。」
 ふさしぃはそう言って僕に軽くウインクを投げかけた。
「さて…貴方達、ここまでやって、
 よもや五体満足で帰れるとは思っていないでしょうね。」
 ふさしぃがスタンドの剣先を男たちに向けてかざした。

「いったん離れるぞ、ペンタゴン!」
「応!」
 男達は一瞬の互いに顔を見合わせると、
 すぐに振り返って逃げ始めた。
「!待ちなさい!!」
 ふさしぃは白黒の男達を追いかけようとした。
 が、僕を気にして追うのを止めようとする。

「僕の事は気にせず行くモナー!
 ふさしぃ!!」
 僕はありったけの力で叫んだ。
「モナは大丈夫モナ!
 心配してる暇があるなら、すぐに追いかけるモナー!
 あいつらは、前の『デパート爆破テロ事件』の犯人の
 関係者である可能性が高いモナ!
 逃がしちゃ、駄目モナー!!」
 逃がしてはならない。
 絶対にならない。
 こんな事をする奴らを、野放しにする事は、許されない!
「分かったわ…小耳。
 行ってくるわね…!」
 ふさしぃも今何を優先すべきか理解したようだ。
 その目に迷いの色は欠片も、無い。
「さっき白タイツの男の『服の切れ端』と、『肉』を
 少し頂いたモナ。
 僕も『これ』を使ってすぐに『ファング・オブ・アルナム』に
 援護させるモナー。」
 ふさしぃはそれを聞くと、一度頷いてすぐに白黒コンビを追い始めた。

「さて…モナも自分の仕事に取り掛かるモナー…」
 僕はふさしぃを見送り、『ファング・オブ・アルナム』を発動させた。
「『アルナム』。こいつを追跡して、やっつけるモナー。」
 僕はそう言って『ファング・オブ・アルナム』に
 白タイツの服と肉の切れ端を差し出した。


   TO BE CONTINUED…

758:2004/01/15(木) 23:22

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その4」



 僕は、食堂から戻ってきた。
 簞ちゃんは、教室でクラスの女の子とパンを食べていた。
 どうやら僅かな間に、大分クラスに打ち解けているようだ。

 僕はため息をつきながら席に着いた。
 簞ちゃんの為を考えるなら、あんまり僕がベタベタしない方がいいんだろうけど…
 でも、ちょっと寂しいな。
 そんな事を考えていたら、予鈴が鳴った。
 次は世界史の授業だ。
 最近赴任してきた世界史の先生は、最初はイケ好かなかった。
 なんか爽やかだし、この季節なのにロングコート着てくるし…
 見た目も若く、最初は教育実習生と見誤ったほどだ。
 また、そのルックスから女子には大人気のようだ。
 でも、なかなか面白い話をしてくれるので、今ではそれなりに気に入っている。


 五限開始のチャイムが鳴った。
 みんなが席につき始める。
 ガラガラと戸を開けて、先生が入ってきた。
「きりーつ、れーい!」
 日直が号令をかける。
 だが、起立も礼もしない人が目についた。
 …簞ちゃんだ。
 簞ちゃんは、呆然とした表情で固まっていた。

 全員が着席する。
 先生は、簞ちゃんの方を見て微笑んだ。
「まさか、君が来ているとはね…」
「…」
 これまで見た事もないような表情で、先生を睨む簞ちゃん。
 この二人、知り合いなのか?

「そう睨まないで下さいよ。私は別に何もしません…」
 先生は両手を広げた。
 ロングコートがはためく。
「あなたの言う事は、信用できないのです」
 簞ちゃんは厳しく言った。
 クラスの全員が仰天して注目している。
 一体、なんなんだ?
 この二人、知り合いなのか?

「ところで、私は昨日までちょっとヨーロッパに行っていたんですよ」
 先生は全員に向き直ると、教卓に手を突いて話し出した。
「で、知り合いの神父さんに会ったんですが…
 最近、神父の間に小児愛好者が増えているのが問題になっているらしいですね。
 それの対策に、神学校ってありますよね。神父になりたい人達が通うところです。
 そこに精神科医を派遣して、カウンセリングを行っているそうです。
 何か悲しくなりませんか? 神に仕える者が精神科にカウンセリングとはね…」
 先生は笑って言った。
 確かに、もっともな話だ。
 懺悔を聞くべき神父が精神科医にカウンセリングなんて、ギャグにもならない。

「さて、では授業を始めましょうか。
 11世紀末から13世紀にかけて、西ヨーロッパのキリスト教徒が聖地エルサレムを奪回すべく、
 数次にわたって行った十字軍の遠征については、前回に説明しましたね」
 僕は慌てて教科書を開けた。
 とは言っても、この先生は余り教科書に沿った授業をやらない。
 だが、この学校は特に進学校ではないのと、その教科書に沿わない授業が面白いので、文句を言う人は少ない。
「…ですが、みなさんは同じ頃にもう一つの十字軍があったことをご存じでしょうか。
 十字軍がイスラム教という異教との戦いで東方へ進出して行くものであったのに対して、
 こちらはキリスト教世界内部での異端とされた者との戦いで、南フランスが舞台になったのです。
 これをアルビジョワ十字軍といいます」
 それにしても、キリスト教内部の異端との戦いで、軍隊を差し向けるもんなのか?
 異教徒に対して激しく弾圧をしたのは知っていたけど…

「アルビジョワ十字軍とは、アルビジョワ派を討伐するために派遣された十字軍という意味です。
 ではアルビジョワ派とは何かと言うと、一般的にはカタリ派と呼ばれ、組織を持った始めての異端です。
 この新種の異端は独自の典礼と禁欲を掲げて、フランス、スペイン、イタリア、ドイツに蔓延しました。
 フランス南部のラングドックに根をおろしたカタリ派は、この地からローマカトリックの教権支配を駆逐してしまいます。
 そうして、ローマカトリック教会にとってカタリ派は最大の脅威になりました」
 組織を持った異端…か。
 僕はふと簞ちゃんを見た。
 まだ先生を睨みつけている。この2人の関係は一体…?

759:2004/01/15(木) 23:23

 先生は授業を続ける。
「そして、カタリ派の支持者による教皇特使暗殺をもって、
 インノケンティウス三世はカタリ派を撲滅する十字軍の派遣を決定します。
 こうして1209年7月、30万というアルビジョワ十字軍の兵士が、ラングドックをめざし進撃しました。
 そしてベジェという町で、同市の司教を通じて、市内に立てこもるカタリ派を引き渡すよう勧告します。
 それを住民が拒否したため、十字軍は大虐殺を始めました。
 ベジエの全住民はカタリ派であろうとなかろうと、守るはずのカトリック信者や女子供まですべて殺害されました。
 その数、約3万人。そして略奪・放火が行われ、町は二日間にわたって燃え続けたと言われています」
 十字軍による大虐殺か…
 キリスト教って愛に満ちてるんじゃなかったのかなぁ。
 やっぱり、宗教ってのはいろいろ大変そうだ。

「殺戮の途中、異端と救出すべきカトリック信者とをどうやって判別すればよいかを問う騎士がいました。
 その問いに、十字軍の指導者の一人であったシトー院長アルノー・アマルリックはこう答えたそうです。
 『みんな殺せ。その判別はあの世で神様がなしたもうであろう』
 そして1229年、パリ和約で南部制圧が完了し…」

「それを、あなた方は再びこの町でやろうと言うのですか…!?」
 簞ちゃんは机を叩いて立ち上がった。
 教室中の注目が集まる。
 一体どうしたんだ?
 僕は簞ちゃんを見つめながら唖然とした。

 簞ちゃんは、先生を睨みつけたまま口を開いた。
「カトリックの異端問題も、三位一体説など純教義的な範囲で収まっていたときは、
 論争を通じての勝利者側による異端者の破門で済むことだったのです。
 十字軍遠征が始まってから生じた異端者が、カトリックの組織そのものをターゲットにするようになったのは…
 …あなた方の無軌道な弾圧の代償なのです!
 結局、アルビジョア十字軍から『異端審問』という名の新たな十字軍が生まれたのです!」
 簞ちゃんは厳しく言い放った。

 静まり返る教室。
 先生は、簞ちゃんと目を合わせると言った。
「宗派である限り、教義的純粋性と組織的統一性を保つために異端者を排除するのは当然です。
 ローマカトリックも、成立から教義論争が何度も繰り返されたし、異端の教義を唱える者は破門というかたちで排除してきました。
 ローマ法皇庁は、政治的機能と宗教的機能を同時に志向した組織ですから、異端者の存在にはより過敏にならざるを得ません。
 異端者は、信仰的異物という存在にとどまらず、国家を転覆する革命家となる可能性が高いからです」

 簞ちゃんはそれに厳しく反論する。
「それは詭弁なのです。十字軍というのは、神の名を騙った略奪・殺戮行為としかとらえようがないのです。
 異教徒を殺せば天国に行けるという認識と、異教徒から解放するという情熱が相まって生まれた最悪の狂騒なのです。
 それをこの町で繰り返そうとしているあなた達は、東方正教会との分裂やホロコーストから一体何を学んだのです!!」

「何も学ぶ必要はありません。歴史は勝者のものですからね…」
 先生は、微笑を浮かべて言った。
 …禍々しい笑みだ。

「勝者が敗者を裁く欺瞞を仮に認めたとしても…
 異端であることが罪と言うならば、あなた達が千数百年に渡り周囲の民に強いてきた行いは――
 ――罪ではないと言うのですか!!」
 激昂する簞ちゃん。
 僕は、こんなに激しい口調で話す簞ちゃんを見た事がない。

「罪なものか。――あれは正義だ」
 先生は薄ら笑いを浮かべて言った。

 その瞬間、簞ちゃんは両手を広げて高く跳んだ。
「正義という言葉の裏で、どれだけの屍を転がせば気が済むのです!」
 シュル… という音がする。
 空中で、簞ちゃんは両手を素早く動かした。
 胸の前で両手を交差させる。
 教卓に2箇所のラインが入り、そこからバラバラになった。
 わずかに、ワイヤーらしきものが光を受けて反射する。
 あれは… 波紋の収束作用で物質を切断するという、簞ちゃんの武器だ。

760:2004/01/15(木) 23:25

 先生は二本の大型のナイフのようなもので、ワイヤーを受け止めていた。
 大型ナイフにはワイヤーが巻き付いている。
 簞ちゃんは、先生の目の前に着地した。

 先生が持っていたナイフの刀身が、バラバラになって床に落ちた。
 柄だけになった大型ナイフを床に投げ捨てる先生。
「何を憤慨する事があるのです。
 ローマカトリックは絶対の正義であり、『教会』は神罰の地上代行者であるはずでしょう?」

「その絶対の正義とやらが、歴史において何の力になったのです…?」
 簞ちゃんは、先生を睨みつけて言った。
「インノケンティウス三世やパウルス四世の布告と、ナチスのニュールンベルグ法との類似は見紛いようもないのです。
 最下級民、大地の汚染者、神殺害の犯罪種族として、家屋、土地の没収、強制移住、強制抑留、そして大量抹殺…
 ファシズムによる民族圧迫を黙認する習慣は、1932年にピウス十二世が就任した時に始まっていたのです。
 1942年、カンタベリー大司教が彼自らとイングランド国教会、および非国教会派を代表して
 ナチスのユダヤ人大量虐殺を告発した時も、聖ペテロの後継者たちは沈黙したままだったのです…」

 先生は可笑しそうに簞ちゃんを見ている。
 再び口を開く簞ちゃん。
「ヒトラーには、世界でただ一人、その証言を恐れる人間がいたのです。
 何故なら、彼の軍隊には数多くのカトリックがいたから…
 だが唯一であるこの人間が口を開くことは、遂になかったのです。
 第二次大戦中、ワルシャワにおけるポーランド人の絶望的な反乱を指揮した指導者の一人は、
 全世界の指導者たちの沈黙を嘆いてこう叫んだのです。
 『世界は沈黙している。世界は知っている。世界が知らないということは不可能である。
  それでも世界は沈黙している。ヴァチカンの神の代理人は沈黙している』…
 あなた達は、正義でも神の代理でもない…、ただの独善者です!
 自分が『悪』だと気付いていない、もっともドス黒い『悪』なのです!」
 簞ちゃんの左手が上がった。
 先生に向かって煌くワイヤー。
 しかし、先生はそれを素手で受け止めた。
 簞ちゃんの両手から伸びたワイヤーが、先生の突き出した右手で握り止められている。
 それは、まるであや取りの糸のようだ。
 ワイヤーがキリキリと音を立てた。
「そうであったとしても、貴方も共犯だ。『教会』に所属している以上はね…」
 先生は勝ち誇ったように言った。

 簞ちゃんはワイヤーを引く。
 しかし、先生は握り止めたまま動かない。ワイヤーを握った手から、血がポタポタと床に落ちる。
「私は、吸血鬼から人々を守る事においてのみ『教会』に協力します。
 もしあなた達が、この町を… いや、この国を焦土に変えようとするなら、
 私はそれを絶対に許さないのです…!!」

 二人の様子を見つめながら、呆然としている僕達。
 ふと、先生は固まっている僕たちを見た。
 そして、ロングコートの中から何かを取り出す。
 あれは…ライター!?

「おにーさん、見てはいけないのです!!」
 簞ちゃんの叫び声。
 僕は、慌てて目を閉じた。

761:2004/01/15(木) 23:26

「――私は、この時間、ずっと居眠りをしていました―― はい、復唱を…」
 訴えかけるような先生の声。
「…私は、この時間、ずっと居眠りをしていました…」
 僕以外のみんなが、声を揃えて言った。
 これは、もしかして催眠術というヤツか?
 代行者はみんなやり方を習うと簞ちゃんが言っていた。
 と言う事は、やっぱりこいつも代行者なのか?

「まったく… 私は、学校では騒ぎなど起こしたくないというのに…」
 先生は呟いている。
 それにつられて、僕は目を開けた。
 バラバラになった教卓が炎上してチリになるのが目に入る。
「それに、しばらくは何も起きませんよ…」
「あなたの言動は、信じられないのです!」
 簞ちゃんは先生を睨みつけている。
 他のみんなは、机に突っ伏して居眠りをしていた。

 そこで、五限終了のチャイムが鳴った。
「じゃあ私はこれで。あなたも学校に通っているのなら、もう少し適応した方が良い。
 授業中に暴れ回るなどもっての他だ。学生は学生らしく、ですよ…」
 そう言って、先生は教室から出て行った。
 簞ちゃんはその後姿を睨みつけ、ワイヤーを引っ込めると自分の席に戻っていった。

「ふわ〜ぁ… よく寝たなあ…」
 みんなが次々と起き始める。
 僕は自分の席を立つと、簞ちゃんの席まで行った。
「…一体、どうしたんだい?」
 僕は恐る恐る訊ねた。
「あの人は、物凄く悪い人なのです。だから、私もちょっと怒っちゃったのです…」
 簞ちゃんは申し訳無さそうに言った。
 これ以上、問い詰めるのも気が引ける。

「…少し調べる事ができたので、私は早退するのです」
 簞ちゃんは席を立った。
「あ、うん…。気をつけてね」
 何に気をつけるべきなのか分からないが、とりあえずそう言った。
「じゃあ、また家でなのです」
 簞ちゃんは、カバンを持って教室を出て行った。
 6限開始のチャイムが鳴る。

 6限の間もずっと、先生と簞ちゃんの言い争いの事を考えていた。
 簞ちゃんの様子も尋常じゃなかったが、その時の話も気になる。
 理解できない事も多かったが、『教会』がこの町で虐殺をやろうとしているように受け取れた。
 モナーも、簞ちゃんは『教会』に騙されている可能性が高いと言っていた。
 一体、『教会』っていうのは何を企んでいるんだ…?
 そんな事を考えていたら、いつの間にか6限は終わっていた。
 …家に帰るか。
 いろんな不安を抱えながら、僕は帰宅の途についた。



          @          @          @



 フサギコの自宅で、4人の人間が居間のテーブルを囲んで座っていた。
「これではまるで、私服での幕僚会議だな…」
 海上幕僚長は冗談めかして言った。

「さて… 知っての通り、ASAが我が国に『戦力』を持ち込んだ」
 フサギコは立ち上がって言った。
「そこで、諸君の考えを伺いたい」

 航空幕僚長がまず口を開いた。
「政府とは、話がついていると聞いたがな…」
「役人や政治家は、スタンド使い共の危険性をこれっぽっちも理解していない」
 フサギコは吐き捨てる。
「そんな密約など、俺は認めんよ」

「するとあんたは、ASAを外部からの侵攻と思ってる訳だ…」
 航空幕僚長は、フサギコに言を横目で睨んだ。
「当然だ」
 間を置かずフサギコは断言する。

「伝家の宝刀を抜くのか? 自衛権の行使を…」
 陸上幕僚長が口を開いた。
「無理に決まってるだろう! 長官も首相もASAには及び腰だ。世論だって許すはずがあるまい!」
 航空幕僚長は大声を上げる。
「そう興奮しなさんな。なにをカリカリしている? 雨の中、こんな用件で集められたのが気に入らんのか?
 それとも… 行使したくてもできないからか?」
 落ち着いた声でそれを諌める海上幕僚長。
「自国を蹂躙されて喜ぶ自衛官など、この世に存在しない… そして、私も自衛官だ」
 航空幕僚長は、腕組みをしたまま椅子にもたれて呟いた。

「で、君はどうなんだ?」
 フサギコは海上幕僚長に聞いた。
「自衛とは、外国からの急迫または現実の不正な侵害に対して、国家が自国を防衛するためにやむをえず行う
 一定の実力行使である… 今動かずして、いつ自衛権を行使すると言うんだ?」
「君は?」
 陸上幕僚長に視線を送るフサギコ。
「所詮、我らは違憲の軍隊… ならば、職務を全うするだけだ」
 陸上幕僚長は言った。

「全員一致だな。以上、我々『居間の内閣』は集団的自衛権を行使するに至った、と…」
 海上幕僚長はそう言って笑った。

762:2004/01/15(木) 23:27

「で、どうやってそれを上に認めさせるかだな…」
 航空幕僚長は再び腕を組む。
「私達制服組は、首相官邸にも入れてもらえんぞ」
 陸上幕僚長はため息をついた。
 フサギコは口を開く。
「そんなもの、強引にやるに決まってる。国会審議など邪魔なだけだ…!」

 三人の幕僚長は唖然とした。
「国会審議も無しで、首相決定も無く… それで、隊を動かそうとあんたは言うのか…!?」
 航空幕僚長が言葉を放った。
 フサギコは口を開く。
「俺は… 百年、二百年先のこの国の事を考えている。ファシズムと言われようが、軍の専横と言われようが構わん。
 悪鬼として歴史に名を残す覚悟は出来てる。
 だが… この国の為を思えばスタンド使いなど危険なだけだ。
 我が国の平和を願うなら、奴等は絶対に排除しなきゃならないんだよ!!」

 三人の幕僚は黙り込んだ。
「我らが独断で動くとなれば、事実上のクーデターだな。我々は全員内乱罪で死刑だ」
 航空幕僚長は腕を組んだまま口を開く。
「それだけじゃない。刑法93条の私戦予備・陰謀罪にも引っ掛かるぞ?」
 口に手を当てる陸上幕僚長。
「自首した場合、刑は免除だよ」
 海上幕僚長は笑って言った。

「ところがな、そう勝算がない話じゃないんだ。これを見てもらいたい…」
 フサギコは、一本のビデオテープをデッキに突っ込んだ。
 そして、再生ボタンを押す。

「これは…」
 陸上幕僚長は思わず呟いた。
 画面に戦闘ヘリが映っている。
 それを見て、陸上幕僚長はフサギコに視線をやった。
「RAH−66か? 米陸軍でも、配備は早くて2006年のはず…」
 フサギコがそれを受けて口を開く。
「ASA所有のヘリだ。9月19日、ASAは事もあろうに市街戦をやらかした」
「ほう、初耳だな…」
 海上幕僚長が画面を覗き込む。
 フサギコは忌々しそうに言った。
「情報が統制されてたからな。知っているのは次官より上のクラスと、公安五課だけだ」
「私は知っていたぞ。帳尻を合わせられたからな…」
 航空幕僚長は憎々しげに言った。
「おっと、そう言やそうだったか…」
 この事件は、一般には自衛隊機の墜落という事で処理されている。
 そのせいで、航空自衛隊はいわれのない避難を受けたのだ。

 画面には、戦闘ヘリの姿があった。
 撮った人間が下手なのか、手ブレがもろに伝わっている。
 そして、ヘリに対峙するように立っている不気味な男。
 夜なのではっきりとは顔が見えない。
「こいつは…?」
「通称、『矢の男』。スタンド使いだ」
 フサギコは答えた。
 幕僚長三人は、画面に見入っている。

763:2004/01/15(木) 23:27

 ヘリから、次々とミサイルが発射された。
 それらの発射物は、男に向かって飛来する。
 カメラワークが男の方に寄った。
 男に直撃するミサイル。
 爆音が割れて、不快な音が流れた。
 画面はもうもうと舞い上がった白煙で包まれる。
「これは…本当に我が国での出来事なのか?」
 陸上幕僚長の問いに、フサギコは無言で頷いた。

 数十秒ほど経って、じょじょに煙が薄くなっていく。
「そんな、馬鹿な…」
 航空幕僚長は思わず呟いた。
 男は、そのままの姿で立っていたのだ。
 周囲は炎上している。
 しかし、彼の体には損傷は全くない。
 ほんの少し、口の端が持ち上がったように見えた。
 …笑った?
 だが、映像が鮮明ではないせいで確認はできない。
 そこで映像は途切れた。
 画面に映る砂嵐を、三人は呆然と見つめていた。

「公安五課が押収した証拠映像だ。この後、ヘリは撃墜される」
 フサギコは言った。
「ヘルファイアの直撃を喰らって無傷…?」
 航空幕僚長はフサギコに視線を送った。
「いや、公安五課の分析によると、直撃はしていないらしい。
 『矢の男』の身体に当たる前に、ミサイルのほとんどが消失している。
 逸れて爆発したミサイルからの爆風すら、『矢の男』の身体に当たってはいない」
 そう言いながら、フサギコは視線を落として腕を組んだ。
「消した…? ミサイルも、爆風も…?」
 信じられない、といった表情で呟く海上幕僚長。

「だが、最も重要な点は、このビデオが存在する事だ」
 フサギコは言った。
「このビデオの存在は、我々にとって大きな武器になる。
 前半部だけを流せば、『軍事組織ASAによる民間人攻撃の瞬間』。
 フルに流せば、『これがスタンド使いだ! 政府が隠すその恐るべき力』。
 …ちょっとイマイチだな。
 まあ、見出しはマスコミが考えてくれるだろ。とにかく、世論はこっちに傾く」
 フサギコはビデオを片付けると、ソファーに腰を下ろした。

「フルに流すのはまずくないか? 下手すりゃ、魔女狩りの再来だ」
 海上幕僚長は言った。
「確かにそうだが… 治安維持の為には、この国からスタンド使いを完全に追放するのも有効ではないか?」
 航空幕僚長が口を開く。

「ビデオの前半部だけで喧伝すれば、世論は動かせる。
 国際法上も問題ないどころか、人道的にも問題があるとみなされるだろう。つまり――」
 フサギコはそこで言葉を切った。
「――専守防衛を行使できる」

 その言葉が響き渡った。
 一座は静寂に包まれる。
 しばしの間の後、フサギコは口を開いた。
「後半を見せるのはそれからだ。あくまで段階的に… だな。
 数による優位が戦闘での優位とは必ずしも一致しせず、多くの情報とメディアを制した者が勝利を収める。
 とりあえず、先程のビデオの前半と… 吸血鬼殺人についてマスコミにリークしよう」

764:2004/01/15(木) 23:28

「吸血鬼殺人?」
 航空幕僚長が聞き返す。
「ASAが情報を統制している機密だ。この町で、吸血鬼によるとしか思えない殺人事件が継続して起きている。
 その犠牲者の数はすでに20人にも達するという…」
 フサギコは答えた。
「なるほど。スタンド使いの存在が大きく世に出れば、その事件と結び付けて考える連中も出て来るだろう。
 そうなれば… 世論はますます我々に優位に傾くな」
 陸上幕僚長が言った。

「…ASAの大量派兵による米軍の対応は?」
 フサギコが、航空幕僚長に尋ねた。
「三沢や厚木、沖縄基地は、P−3C対潜哨戒機が昼夜問わずパトロール中だ」
 航空幕僚長は腕を組んで答えた。
「洋上では、第七艦隊が動いている。横須賀の司令部は大慌てだ。第三艦隊もパールハーバーで常備出撃可能」
 海上幕僚長は可笑しそうに言う。
 フサギコは口の端を持ち上げて笑った。
「無論、彼等にも協力してもらおう。我が国は、ASAの侵攻を受けている。
 アメリカには、安保条約を守ってもらわなくてはな…」

 しばしの沈黙の後、フサギコは海上幕僚長の方を向いて口を開いた。
「では、横須賀の第1護衛隊、佐世保の第2護衛隊をしばらく動かしてくれないか? ASAの艦隊への牽制でいい」
「了解…!」
 海上幕僚長は敬礼のポーズを取った。
 陸上幕僚長が口を開く。
「じゃあ私は、練馬の第1師団にハッパでもかけておこう。
 それと… 極秘裏に、東千歳の第7機甲師団を関東に移動させる」
 それに続いて、航空幕僚長が言った。
「まあ、ウチは常時警戒態勢だがな… より一層の警戒に当たろう」
 フサギコは再び海上幕僚長を見る。
「あと… 海中への威嚇も必要だな。ASAの潜水部隊の艦種は分かるか?」
 海上幕僚長は腕を組んで答える。
「セヴェロドヴィンスク級SSN(攻撃原潜)が3艦に、ボレイ級のSSBN(戦略原潜)が2艦ですな。
 ASAはよっぽど最新技術が好きと見える…」
 フサギコは立ち上がった。
「で… それだけの潜水艦を相手に、月単位での長期に渡って牽制を続行できるだけの人物が海自にはいるか?」
 海上幕僚長は笑顔を見せる。
「海上自衛隊の対潜技術は世界一だ。その中でも、一番優秀なヤツを派遣しよう」

 フサギコは窓の外を見た。
 雨はすっかり止んだようだ。
 表情を緩めて、ため息をつくフサギコ
「粗暴だの何だのと周囲から言われ続けて… 気がついたら、この俺が統合幕僚会議議長だ。
 そして、この国を戦渦に巻き込もうとしている。だが、俺はそれを正義として疑わない…」

「いや、決して疑ってはならん。正義という御旗を失えば、我々は単なる国賊だ」
 真面目な顔で言う海上幕僚長。
 それを受けて航空幕僚長が呟いた。
「我々は、まともな死に方はできんだろうな…」

765:2004/01/15(木) 23:28

 押し黙る4人。
「…で、勝算は?」
 航空幕僚長は訊ねた。
「勝算のない戦をやる軍人などおらん。そうなれば、もはや軍人ではない。
 最新のテクノロジーなど、奴等には過ぎたオモチャだ」
 フサギコは、つかつかと窓の方に歩み寄る。 
「恐れるべきは、スタンドのみという事だな…」
 そう呟きながら、海上幕僚長はテーブルに肘を着く。
 フサギコは窓の傍に立って息巻いた。
「例え人間単位で強力な力を持とうが、今は戦国時代ではない。歩兵が闊歩する戦争は過去の遺物だ。
 近代兵器の前では、スタンドなど何の役にも立たん事を教えてやる…!」

「スタンド使いか… 考えれば悲惨なものだな。
 なまじ異能を持ってしまったばっかりに、社会から排斥されようとしている…」
 陸上幕僚長は呟いた。

 …ガチャリ。
 突然に響く、玄関のドアが開く音。
 一座に緊張が走った。
「ああ、大丈夫だ。あれはウチのせがれだな。学校から帰ってきたんだろう」
 フサギコは言った。
 一同は胸を撫で下ろす。
「密室会談は、小心者には向かんな…」
 そう言って、海上幕僚長は笑った。
「俺達は、政治家にはなれんという事だな」
 フサギコもそう言って笑う。
 陸上幕僚長と航空幕僚長も笑みを見せた。

「ただいまだ、ゴルァ!」
 ドスドスと廊下を歩く音が近付いてくる。
「あれ、オヤジいるのか? 仕事は…?」
 豪快に居間に入ってくるフサギコの息子。
 そして、驚いた顔で一同を見回す。
「あ、…こりゃ失礼しました。来客中でしたか… でも、靴の数が… アレ?」
 彼は首をかしげる。

「おぅ、ギコ君。私の事を覚えているか…?」
 海上幕僚長は笑みを浮かべて言った。
「えーと… すいません。どちら様でしょうか…」
 かしこまるギコ。
「君がほんの小さい頃に、会った事があるんだが… そうか、小さかったもんな…」
 海上幕僚長はしみじみと言った。
「なかなか見込みがありそうだね。いい自衛官になりそうだ」
 陸上幕僚長は、ギコの瞳を真っ直ぐに見て頷いた。
「な… こいつは自衛官にはならんぞ!」
「な… オレは自衛隊には入りませんよ!」
 二人揃って同音異句に声を上げる親子。

「剣道の県大会で、いい成績を残しているようだね。君の父上がよく自慢しているよ」
 航空幕僚長が口を開く。
「今度、手合わせ願おうかな。私も二段を持っている」
「あ、是非お相手させて頂きます」
 ギコはかしこまって頭を下げた。
「別に自慢はしていないぞ!」
 フサギコは脇で文句をつけている。

「さて、話もまとまったところだし… そろそろお暇させてもらうよ」
 三人はソファーから立ち上がった。
「おう、帰りに気をつけろよ」
 フサギコは目配せしながら言う。
「君も自重しろ。無理はするなよ…」
 そう言って三人は、居間から出て行った。
 フサギコは見送りには出なかった。

 居間は、ギコとフサギコの二人だけになる。
「俺、邪魔だった?」
 ギコは言った。
「いや、ちょうど話は終わったとこだ」
 フサギコはソファーに腰を下ろした。

「客が来るんなら、あらかじめ言ってくれたらいいのに… なんか威圧感がハンパじゃない人達だったな」
 ギコは冷蔵庫を漁りながら言った。
「そこそこ偉い連中だからな。まあ、俺ほどじゃないが…」
 ソファーの上でふんぞり返るフサギコ。

「馬鹿か、オヤジ…」
 ギコは呆れてため息をついた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

766丸耳作者:2004/01/16(金) 00:08
新作乙!と言わせて頂きます。ペース早いなー。

767302:2004/01/16(金) 21:51
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・4

『MASTER…カウントダウン・承認ヲ……!!』
「承認…っ!?ど、どうやって…!」

突然聞こえたスタンドの呼び声に、ノーは浮き足立った。
丸耳モララーが、狂気を“吸い上げて”いるのに気付かず…

「ゲヒュヒュヒュヒュ!!!よそ見は死!死!死ぃ―――っ!!!!マァーッド!!ブラストォォォ!!!」

(D O O O O N N ! ! ! ! )

爆発。
足元のコンクリートが溶けた…一体どれだけの狂気のエネルギーを打ち込んでいるのか、わからない。
これを直撃すれば、大怪我大火傷じゃすまないだろう。
ニダーは未だにフラフラしている、ノー自身はスタンドの言葉の意図を飲み込めない。
八頭身フーンは静観…そして、丸耳モララーは再び狂気を充填している…

「か、カウントダウン…?ど、どうすればええの?」
『簡単ナコトデス、MASTER…“カウントダウン・開始”…ソウ言ウダケデス、ソレダケデス』
「それを言うと、どうなるんよ?わからへんのに、使うほど無茶できんよ…!?」
『今カラ、10分ダケノ間…私ノ“POWER”ガ上昇シマス。最後ノ一分間ハ、最高ノ“POWER”ヲ得レマス。』
「わ、わかった…とにかく、10分だけ強くなるんやな!?」

768302:2004/01/16(金) 21:52
「スタンドとおおぉぉ!!相談してる暇がぁぁ!!テメーにあんのかぁぁぁ!!?ゲヒュヒュヒュヒャアア――!!!!」
「な、なんや…!?し、しまった……!!!」

ノーに向かって飛んでくる、“マッド・ブラスト”の狂気弾…

「(あかん!殺られる!!!間違いなくっ!!)」

(Z D O O O N N N ! ! ! ! )

弾丸は、ノーに達する前に爆発した。
白煙の中から現れたのは、全身で狂気弾を防いだニダーとシー・アネモネの姿だった。

「…い……ったぁ……。流石に……これはキツイわ……ゲホッ……」
「に、ニダやんっ!!なんで……!?」
ノーの問いに、ニダーは“いつもの”笑顔でこう言った。
「…こ、ここで……相方守れんよーな奴が、他に何できる…?」
「……っ!」

「オイオイオイ…うつくしー、友情ごっこ……だーっいっきらーい!!ゲヒュヒャハーッ!!」
丸耳モララーの目は既に…オーバードラッグになった男と、同じ様な目をしていた。
一歩ずつ、近寄る。確実に射撃を当てるために。

「(さぁ…これで、こいつらもオシマイだァ…“ヘッド”にゃ、自警の新人ぶっ殺したって言えばOKだァ…!!)」

「……カウントダウン・発動…!」
ノーの声が、冷たく…響く。

『OK,MASTER…LET ME FINAL COUNT DOOOWN!!』

769302:2004/01/16(金) 21:52
ガチイィッ!!

額の数字が、一秒ずつ減っていく…『<09:57>』

「…お前はクズや。……狂って、殺して、反省などしない…!お前はぁ!お天道様が許してもぉ!!ウチが絶対許さん!!」
「(ケッ…吠えてろ、負け犬ぅ…どーせどーせ、テメーのスピードなんざ…)」

バキャッ!!

「がはっ……!(な、何だ…さっきよりスピードとパワーが上がってやがる……!!)」
「…残り、8分50秒…残りの時間は、お前の反省の時間や。」
「ち、チイイイィィッ!!(クソッ、この威力は半端じゃねえ…もし、これ以上パワーが上がったら…!)」

「テメエエエ!!近寄るんじゃネエエエエ!!!!」
バックステップで、ノーから距離を取り…スタンドの銃を構えて
「マッド・ブラストォォォッ!!!乱れ撃ちダァァァ!!!奴を近寄らせるんじゃネエエエエ!!!」

(DONN!!DONN!!DONN!!!)

「くっ…流石に、使い慣れとる…スタンドを……」

『<08:03>』

770302:2004/01/16(金) 21:53
(DONN!!DONN!!!DONNN!!)

後ろを振り向いた。屋上の金網フェンスは既に狂気弾で破られている。
「仕方ない…退くも地獄、進むも地獄…なら、ウチは!!“進む地獄”を選ぶっ!!」
「ファイナル・カウント・ダウン!!強行突破や!!!」
『OK,MASTER……!GO!GO!GO!』

狂気弾の暴風雨を潜り抜け、丸耳へと接近していくノー…だが、敵も然る者…

「近寄るなぁ!!テメーの大事な親友君がどうなっても…いいんだなぁああ!?」
そう叫んだ丸耳が踏みつけ…スタンドの銃口を向けていた先には…
「…す、すまん……のーちゃん…!」
傷つき、逃げ送れたニダーが居た。
「……どこまで卑怯なんや…お前はぁぁぁ!!!」
怒りに任せて、突進しようとした次の瞬間…

(DOON!!)

ノーの足元に、狂気弾が打ち込まれる。一歩も近づけさせない、そう主張するように。
「近寄るな…って、俺は言ったんだぜぇ…!?テメーの耳は“でぃ”と同じで使い物になんねーかぁぁ!?」
「……くっ……!!」
最悪の状況に陥ってしまった。丸耳モララーとの距離は5m…
それを残し、ノーは一歩も動けなくなってしまった。
「(奴を倒すより先に、ニダーを安全な場所に移すべきやった…クソ…ウチの甘さが憎いっ…!)」
「のーちゃん…何を迷っとる!ワイの事は気にするなぁ!!コイツにぶちかましたれぇぇ!!」
「…そんなん、できんよ…ニダやんっ……!」
「ああ!出来ないよなぁ!!お前ら“大親友”だもんなぁぁぁ!!ゲヒュハヒャハハハハハ!!!!」

時間は止まらない…ファイナル・カウント・ダウンのカウンターは確実に減りつづける……

『<05:22>』

<TO BE CONTINUED>

771新手のスタンド使い:2004/01/17(土) 18:49
乙。

772丸耳作者:2004/01/17(土) 19:03
「爺ィの心配してる暇はねぇぞ〜♪」
 不定形のスタンド使いが、挑発するように踵を打ち鳴らした。
「お前の『スタンド』…弱っちいだろ?」
「…何でそう思う?」
「長年虐殺やってるからな。面構え見れば判るのよ。
 『お前は絶対俺には勝てません。 汚らしく命乞いしながらブッッッッッ殺されて絶望の中で死んでいきます』ってなぁ!」
男の挑発にも、マルミミは動じない。警棒を中段に構えて、静かに応える。
「うん…確かにお前の言うことは的を射ているよ。僕の『ビート・トゥ・ビート』は、決して強いスタンドじゃない。
 無尽蔵にラッシュが出来るような『スタミナ』があるってわけでもないし、地球の裏側まで行けるような『射程距離』も、
 相対速度百キロ以上で走ってくるトラックを受け止められるような『パワー』もない。
 『能力』にしたって『鼓動の探知』以外は大したことは出来ないし、これ以上大きな成長もしないと思う。
 けど…僕は負けない。弱いヤツが判るだって?馬鹿が。一番弱いのは…お前だよ」
マルミミの切り返しに、青筋が男の額にびきりと走る。
男の体にまとわりついていた不定形のスタンドが、触手となってマルミミへと撃ち出された。
だがマルミミは眉一つ動かすことなく、半歩右に動くだけで触手をかわす。
 男の眉がしかめられ、再び触手が撃ち出された。
視認できるギリギリの速度で次々と襲い来る触手を、むしろゆっくりとした動作で避け、あるいは手元の警棒で受け流しながら距離を詰めていく。
「―――物事って言うのは『短所』が即ち『長所』になる。たとえ一メートルぐらいしか離れられなくても」
 また一歩、足を進めた。近付くたびに攻撃が激化しているというのに、涼しい顔でかわし続ける。 
「たとえ四歳児程度のパワーしかなくても。たとえ並の人間以下のスタミナしかなくても。
 僕には今お前の攻撃をかわしてるような『精密な分析』と―――」
踏み出した足が、頭の中で引いた『一メートル』のラインを超えた刹那、瞬時にビート・トゥ・ビートが具現化する。
「誰にも負けない『スピード』がある」

773丸耳作者:2004/01/17(土) 19:05

―――――1997年、アメリカ・フロリダ州のとある少年が、公園で友達と遊んでいた。
彼等がキャッチボールに興じていると、受け取り損なった少年の胸に軟式のボールがポンとぶつかった。
それだけなら、何のことはない遊びの中の一場面だろう。
ボールを拾い上げ、再びキャッチボールを続けると誰もが思うだろう。
                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 だが、その少年はいきなり苦しみだして数時間後に死亡した。
国内ではあまり知られていないが、この現象は『心臓震盪』と呼ばれている。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・
 心臓の『鼓動』。その僅かな隙間に、ボールの衝撃が偶然入り込んだのだ。
それが引き起こされるのには『パワー』も『スタミナ』も要らない。
ほんの僅かな衝撃を数発、絶妙のタイミングで入れればいい。
                             B ・ T ・ C
 それが、マルミミの編み出したスタンド攻撃『ビート・トゥ・クール』
スタンドを触手に変えたせいで、男の防御は穴だらけになっている。
B・T・Bの拳を阻む鎧はもはや無く、スタンドを引き戻すにも遅すぎた。

                      クゥゥ――ゥゥゥルッッ
「刻むぞ静寂のビート」「凍テツクホドニCoooooooooolllll!」


 マルミミの呟きにB・T・Bの声が重なり、閃光のラッシュが打ち込まれた。
男は反応すら出来なかった。B・T・Bの感覚を通して、急速に弱まる鼓動が伝わって――――――

774丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:07
(―――来ない!?)
 鼓動に変化がない。不定形のスタンドが再び動きを取り戻す。
「ッ戻れB・T・Bッ!」
 B・T・Bがマルミミの体内へと吸い込まれ、慌てて後ろへと飛び退いた。
「…ッチ」
 男が小さく舌を鳴らした。
数メートル後方に着地したマルミミが、再び構えをとる。背筋に冷たい汗が流れたのがわかった。
「服の中に『スタンド』を潜ませていたのか…」
 朝っぱらから虐殺などやっているから頭のネジがすっ飛んだ電波かと思っていたが、間違いだったようだ。
先を見通して布石を打っておくなど、ゆんゆん脳で出来ることではない。
(待てよ…ってことはまさか…素面で虐殺やってるって事!?)
 恐ろしい考えが頭に浮かんだ。狂気にも犯されないまま、正気の状態で虐殺を行う。
それがどんなに異常なことか。この男の中では、殺人が食事や睡眠と等列に考えられている―――!
 マルミミの戦慄を知ってか知らずか、男が更に言葉を続ける。
「俺の『アシッドジャズ』はあらゆる衝撃を吸収して、拡散させる。 ただでさえ弱っちいテメェの攻撃なんざ消えちまうのさ」
言葉の端々から余裕を漂わせ、挑発するようにスタンドの鎧を見せつけた。
      ビート・トゥ・クール
(マズいな…『B・T・C』は精密な動きが要求される…あんなグネグネしたモノ越しじゃあ上手く衝撃が伝わらない)
「さあまだテメェは策があるのか?無いよなぁ?その弱っちいスタンドで醜く抵抗してこの俺に絶望の表情見せながら死んでけ!」
まとわりついた不定形のスタンドが再び蠢く。今度の形は、ぬらぬらと光る巨大な腕。
「スゲェよなぁ、コイツは。コイツを使えば何が起こったのかすら判らないうちに虐殺されていくんだぜ?
 楽しいよなぁ面白いよなぁ最高だよなぁ!んでテメェもそんなカンジに苦しめ絶望しろ虐殺されろ!」
異様なまでのハイテンションに、マルミミが顔をしかめた。
「…『絶望しろ』?やだね。もう一つだけ僕のB・T・Bには『策』がある」
「何?」
 訝る男をよそに、B・T・Bがマルミミの体内に入ってしまった。

775丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:09
                                    ・ ・ ・ ・ ・ ・
「オイオイオイオイ、ひょっとしてその『策』っつーのはまさか降参することか?
言っとくが、泣いて土下座しても俺は許してやんねぇぞ? まぁ・それならそれで命乞いしてるテメェを思ッッッッ糞!」
男が構える。蠢く腕が抜き手の形を作り、引き絞られる弓の如く力を溜める。
「ブッ・殺・す!」
 今まで見た中で最も重い、最も早い男の一撃。
それを見据えて、口の中だけで小さく呟いた。
「刻むぞ灼熱のビート」
 体内のB・T・Bがそれに続ける。
「焼キ尽クスホドニHeat!」
  〇,一秒にも満たない時間が幾分にも感じられる。
  心臓が高鳴り、耳の中でごうごうと血流の音が聞こえる。
  右手の警棒を握り締める。体の重みが消失する。
  マルミミの中の、もう一つの鼓動が目を覚ます。
  その快感はまるで千年の獄から解き放たれた虜囚の如く。
  迫り来るスタンドすらも、快楽の一つでしかないと思えるほどに。
    B ・ T ・ H
「『ビート・トゥ・ヒィィィ―――――――――ト』ッ!!」

 マルミミの腕が霞み、襲い来る拳を警棒で打ち据えた。
「が…ッ!?」
 男の腕に、拳の受けた衝撃が伝わってくる。
生身でスタンドを打ちのめしたその力とスピードに、男の目が驚愕に見開かれた。

776丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:13
 ウ リ ャ ァ ァ ァァァ
「URYAAAAAAA―――――――――ッッッッッ !! !! !!」
 甲高い声で一声叫び、地面を蹴った。
ハリウッドのワイヤーアクションの如く、数メートルほどの高さまで跳躍する。
そのまま壁を蹴り、路地の両脇にそびえる廃ビルの間をゴムボールのように反射しながら男へと向かった。
「アシッドジャズ!」
 男の体から、再び不定形のスタンドが滲み出て、男の体を被う。
だが、スピードの乗ったマルミミの一撃は不定形のスタンドを超えていた。
衝撃をガードの向こうの本体にまで浸透させて、男の体が吹き飛ばされる。
 勢いのままに廃ビルの壁を突き破り、中へと転落した。
粉塵の立ちこめる廃ビル内に、マルミミの声が響き渡る。
  ビート・トゥ・ビート
「僕のB・T・Bは『鼓動』のスタンド…自分自身の鼓動が操れないとでも思ったのかい?」
「オイ…嘘だろ…?」
―――考えてなかった訳じゃない。あのスタンドを自分に叩き込むって事は、ある程度予測してた。
  だが、アレは間違いなく常識を外れてる。
  虐殺やってた俺だからわかる。人間の体はどれだけの力を加えれば壊れるか。
  どれだけの力に耐えられるか。だけど、アイツの動きはまるで違う。
「あんな動きが出来るわけがねぇ…鍛えてどうこうとかじゃねぇ…物理的に限界の筈なのに!テメェは何で動けるんだよ!!」

777丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:14
               ・ ・ ・ ・ ・
「限界…そうだな。僕が普通の人間ならな」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
 いつの間にやら、マルミミの爪先が細かいタップを刻んでいる。
「『吸血鬼』というのを知っているかい?」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
 言葉の合間にも、一定の間隔でビートが響く。
「古代アステカで、『石仮面』っていう物が発掘された。そいつを使って、人間をやめた人間」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「人の血を啜り、日光で気化する化け物…おとぎ話かもしれない。だけど、僕の母親は」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「『太陽アレルギー』とかで決して外に出なかった」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「診療所の輸血パックが、いつも減っていた」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「そして僕も、『B・T・H』を使っている間は太陽の光で肌が灼け…」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「本能的な『渇き』に襲われる事がある。…まぁ、信じようが信じまいがどっちでもいいさ」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「この際そんなことはどうでもいい。それよりも重要な事は、お前等が母さんを殺したこと」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「父さんは母さんを愛してた。それをお前等みたいな虐殺者達が壊したんだ」
たんっ!
 爪先が一際高く地面を叩いた。刻まれていたビートが途切れ、静寂が訪れる。
「そしてお前等はまたそんな悲しみを増やそうとしてる」
 気が付けば、もうマルミミの姿は男の目前にあった。
先程のような穏和な表情は掻き消え、血の色をした瞳の奥に深い憎悪が燃えている。
「―――アシッドジャz」
 ウ リ ャ ァ
「URYAA!」
 スタンドを具現化させる時間すら与えず、マルミミの警棒が男の両肘に食い込んだ。
関節が潰れる音。もう虐殺はおろか、ナイフとフォークも持てないだろう。

778丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:16
「がっ…あぁぁあっ!!」
「殺された側の痛み、残された家族の心、その友人達の気持ち。お前にそれが理解できるのか…!?」
 冷たく熱い、憎悪の瞳。その視線にあてられて、男の体が恐怖にすくみ上がる。
「あっ…いっ、ひあっ…すいませんでしたっ…!もう…虐殺も…!しません…っ!」
 がたがたと震えながら、折れた腕を地面につける。
「私の負けです!改心します悔い改めます悪いことしてました靴もなめます!」
 本当にペロペロ靴をなめだした。靴が汚れるじゃないか。
「いくら殴ってもいい!ブッてもいい!蹴ってもいい!だから命だけは許してくださいっ!」

ごぐゅっ!

 無言のまま、今度は膝を砕く。
「があああっぁあっ!! !! !! !!」
「その両手足の痛みで、シュシュの…あの路地裏で虐待されてたしぃの痛みは支払ったことにしてやる」
そのままB・T・Hを解除し、男に背を向けた。
「だからもう、僕の前にその顔を見せ…!」

ばがっ。

 唐突に、何の前触れもなく地面が割れた。
踏みしめるべき床が無くなり、浮遊感が体を包む。
「―――――ッ!!」
 上の方から、狂ったような哄笑が響き渡った。
「ヒッヒヒッヒヒヒャァアハハハハッハ!! !!馬ァ―――鹿ァッ!どうだァ!『アシッドジャズ』の強酸の粘液は!
 じわじわジワジワテメェの足下を浸食させた!」
マルミミの体が自由落下を始めようとする中、不定形のスタンドが闇の中でぬるりと光った。
反応する間もなく、ぐわっと不定形に飲み込まれる。酸に浸食され、体中の皮膚がぶすぶすと焦げ始めた。

779丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:20
B・T・Bを具現化させようとするが、ガッチリとスタンド自体が捉えられている。
 下の方で、警棒が落ちる音が聞こえた。いつの間にか落としていたらしい。
「ぐっ…!」
「どうだ?どうだ?どうだ!?自分の優位が一瞬でひっくり返される気分は!
 このまま溶かされたいか?それともグジャグヂャのジャムにされてぇか!?
 …いや決めた!タダじゃ殺さねぇ!ゆっくりゆっくりゆっくり溶かして苦しめながら握りツブしてやる!! !! !!」
逆さ吊りにされてスタンドも出せず、体中の皮膚は炎症を起こしている。
 挙げ句の果てに身動き一つとれない状況だが、マルミミの表情に恐怖はない。
「…っんだァ?テメェ…虚勢張ってんじゃねぇよ」
 顔面に酸をかけられた。まだあどけなさを残すマルミミの顔に、無惨な火傷の後が刻まれる。
「っぐぁ…!」
「スタンドも!武器も!テメェの身を守る物なんざ一ッッッッッッつも無ぇんだよ!」
口の端から涎を飛ばす男に向けて、苦痛に耐えながら声を振り絞る。
         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「…お前は…もっとも愚かな選択をした…」
「ああ?」
 耳を澄ませてようやく聞こえる程度の小さな声で、ぼそぼそと呟き続ける。
「『僕に嘘は通じない。僕がお前の便所コオロギの糞にも劣る『心』を見抜けないとでも思ったのかい?』
 ―――――僕はお前に四日前、そう言ったはずだ。
 お前が『改心する』と言ったとき…それが『本心からいった言葉』だったらその折れた手足を治してやった…
 『その場を誤魔化す嘘』だったなら…まぁ救急車くらいは呼んでやった……そして―――――」
一呼吸の間をおいて、再び言葉を紡ぎ出す。  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「―――『不意打ち』をしようとしたら―――――もっとも惨たらしく殺してやった」

780丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:21


ばずっ。


 言葉が終わるのとほぼ同時。何の前触れもなく、男の腕が爆発した。
損傷がスタンドへフィードバックし、マルミミを拘束していたスタンドも弾け飛ぶ。
「…!…!?…な…!…?」
 マルミミの体が宙づりの状態から解き放たれ、くるりと一回転して綺麗なフォームで着地した。
「骨が折れてもお前のような不定形のスタンドなら影響は少ない。その上遠隔操作もできるのか…
 いや、油断してたよ。でも、流石に腕をぶっ飛ばされちゃあ動くのは無理だろう?」

ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――

 B・T・Bが具現化し、再び廃ビル内でタップが始まった。
具現化したそのピエロは、右手首から先が無くなっている。           サ・ノ・バ・ビ――――ッチ
「先程殴ッタ時、貴様ノ心臓ニ私ノ右腕ヲ埋メコンダ。イツマデ『加速』ニ耐エキレルカナ?Son・of・a・Biiiiitcccch」
 マルミミに行うように精密でも、複雑でもない操作。乱暴に、単純に、只々鼓動を『加速』させていく。

ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――

「あっ…ああぁっ…!」
 体が熱い。爆散した左手から、ぶしゅぶしゅと血が吹き出てくる。


ととんっ、ととんっ、とたんとたとたとたたたたタタタタ―――――

どくんっ、どくんっ、どぐんどぐどぐどどどどどドドドド―――――

781丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:23
「……………!!」
 ようやく男は、マルミミの奏でるタップの意味に気が付いた。
マルミミの爪先が奏でるリズムと、増幅された己の心音が重なっている。
「聴コエテイルカ?コレガオ前自身ノ『絶望ノビート』…」
「命…だけ…は…!お願いだ……!!」
「許しはお前が殺した被虐者たちに乞え。僕は最初からお前なんか許す気は―――」

ばすっ。

 加速されたビートに耐えきれず、今度は左腕が爆散した。
「無いのさ」
「あ、ぁあ、やめ、やめ゛―――――」
 眼球の毛細血管が破れ、血の涙を流しながら懇願する男に向けて、冷ややかに言う。
「僕は四日前に一回、お前に『警告』した。そしてさっきが『二回目』…『三度目』は無い。
 僕は仏でも聖人君子でもないからね。しかし…『自分の優位がひっくり返される気分』か…」
「例エテ言ウナラ…一分シカ潜レナイ男ガギリギリマデ潜リ、空気ヲ吸オウトシタソノ瞬間、『グイッ』ト足ヲ掴マレテ、水中ニ戻サレル…ソンナモノカ?」
「ん、なかなかいい例えだね」
「恐レ入リマス。…ダガシカシ…」
 背を向けて返り血が掛からない距離まで離れたところで、壁にもたれて座り込んだ。

「たの゙む゙…ゆ゙ る゙ じ」


ばっ。


 同時に、加速されたビートに耐えきれなかった男の体が爆散する。
ちょうど、マルミミの両親を殺した虐殺者達のように。
「オ前ノ場合―――全然カワイソートハ思ワン」
 物言わぬ躯に向けて、B・T・Bが言い放つ。
「…やれやれ…倒せたのはいいけど…とてもおじいちゃんを助けられるような状態じゃないね…」
 爆散した死体を前に、荒い息を吐いた。満身創痍の上に、B・T・Hの反動で既に疲労は限界に近い。
「No.問題ハアリマセン。茂名様ナラバ、キット生キテオラレルデショウ」
「そっか…じゃ、ちょっと…寝る…よ…」
 ようやくそれだけ絞り出して、マルミミはくたりと意識を失った。

782丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:28

          __
         /    \
        |/\__\
       ○  ( ★∀T)    サ・ノ・バ・ビ――――ッチ
         _ )8888888( _  Son・of・a・Biiiiitcccch…
        |♪(  ⌒Y⌒ )♪|
         |ヾ' \   /|'ヘ  ,、ヘ !ヽ_て
         (ミゞル゙ \/  ヾハソヾリ _()―' そ
          ̄ ソ       ̄ ̄`ソ   て

          ∩_∩
         (∀`  )
         Σ⊂    )
          人 ヽノ
         (__(__)


           __ 
          /    \ 
         |/\__\
         ○  ( ★Д)
             )88888( ─=_─三⌒)
          .  (  |♪|─ 三_─{⌒)
             \ ヽ= ̄─_三{⌒)
              \/ 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名  ビート・トゥ・ビート(B・T・B)                    ┃ 
┃  本体名  マルミミ                                ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃   .パワー - E .   ┃  スピード - A  .  ┃ 射程距離 - E(1m) .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - D   .┃ 精密動作性 -. A   ┃  成長性 - D.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 周囲の人間の鼓動を感知する。パワーは全くないが、          ┃
┃ 鼓動のリズムで嘘を見抜いたり、索敵などに使用できる。.      ┃
┃ 鼓動を感知できるのは半径一キロまで。                 ┃
┃ 近づけば近付くほど正確に感知できる。                    ┃
┃ 唯一の攻撃法『ビート・トゥ・クール』(B・T・C)は、           ┃ 
┃ 正確に心臓を殴りつける事で『心臓震盪』を引き起こす。.      ┃
┃ 拳自体の威力は幼稚園児並だが、相手は『心臓震盪』         ┃
┃ によって心臓が強制的に停止させられる。                  ┃
┃ 『生命のビート』自体を止める事ができるので.               ┃
┃ スタンドにも有効だが、機械形・不定形などの、             ┃
┃ 心臓の存在しないタイプには効かない。                  ┃
┃ マルミミの鼓動がエネルギー源となっている。             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

783丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:29

       -二三_∩
     ー二三( `Д´)    ウリャァァァ―――――――――
    ―=二三三  ⊃  「URYAAAA――――――――ッ !! !!」
   一二≡≡三  ノ
  ―===二三__)

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名  ビート・トゥ・ヒート (B・T・H)                 ┃ 
┃  本体名  マルミミ                                ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃  パワー - B    ┃  スピード - A    ┃ 射程距離 -E(0m). ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - E   .┃ 精密動作性 - C  ┃  成長性 - A    ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃自分自身の鼓動を変化させ、吸血鬼の                 ┃
┃パワーとスピードを引き出す。                          ┃
┃鼓動を変化させない限り、本体は普通の人間と変わらない。     ┃
┃(太陽も平気だし、血も吸わなくて良い)                      ┃
┃スタンドは本体の中にいるので、 発動中はスタンドが出せない 。.  ┃
┃本体への負担が大きいため、長期発動・連続発動は不可能。    ┃
┃鍛えれば強くなる年齢なので、成長性は高い。                ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

784新手のスタンド使い:2004/01/17(土) 19:33
乙!

785:2004/01/17(土) 22:10

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その5」



          @          @          @



 港で、でぃはじっと海を見ていた。
「ヒガシ…」
 そう呟くでぃの眼前には、母なる海が広がっている。
 そのまま1時間ほど立ち尽くすでぃ。

「オイオイオイ、なんだ? このクソ猫は〜?」

 不意に、背後から声がした。
 ゆっくりと振り向くでぃ。
 そこには、学生服を着た三人の不良が立っていた。
「こんな汚いクソ猫、焼いちまった方がいいんじゃないのか、あァ?」
 三人はでぃを取り囲む。
「『汚物は焼却だ〜!』っていう格言もあるしなァ、ヒャハハハハ…」
 リーダー格の男は下卑た笑い声を上げた。
「…」
 でぃはその三人をじっと見ている。

「ウダラ、何ニヤついてんがァ――ッ!」
 リーダーは、でぃの顔面を平手で叩いた。
 その勢いで地面に倒れ込むでぃ。
「ナンデ、コンナコト スルノ…?」
 でぃは地面に這ったまま言った。
「テメーがゴミムシだからだよスッタコが!! 薄汚ねぇヤツをブッ殺したって文句いうヤツはいねーさ!
 この世は弱肉強食だから、弱っちぃヤツは何されても文句言えねーんだよッ!!」
 リーダーは大声で叫んだ。

「…いい事言うな。弱い奴は何されても文句は言えない、か…」
 不良たちの背後から声がした。
「誰だ、テメーはッ!!」
 三人は振り返る。
 そこには、ギコが立っていた。

「オイオイオイ、何を…」
 不良の一人が、ギコの胸倉を掴もうと近付いて…
 腹を押さえて崩れ落ちた。
 ギコは足元の不良を見下ろして、ため息をつく。
「自分から俺の間合いに近寄ってくるなんざ… お前等、まともに喧嘩した事ないだろ?」

「この野郎!」
 不良二人が一斉に飛び掛った。
 ギコは不良の拳をなんなくかわすと、二人の頭を掴んで打ち付けた。
「ぐえっ!!」
 悲鳴を上げて倒れる二人。

「な、何すんだテメェ・・・」
 リーダーがフラフラと起き上がりながら言った。
「ん? 弱い奴は何されても文句は言えないんじゃなかったか?」
 ギコはそう言って笑う。

 リーダーは胸の内ポケットに手を突っ込んだ。
「これ喰らっても笑ってられッかな…?」
 取り出したのは、1mはある伸縮式の警棒だった。
「出た! モル田さんの「殺人警棒」!!
 ドス持ったチンピラ五人… こいつで半殺しにしたのは有名な話だぜ!」
 倒れている不良は解説した。

「武器を使うからには… これは戦いだと見なしていいんだな?」
 ギコはリーダーを睨みつけた。
「…ひっ!!」
 リーダーはその迫力に気圧される。
「俺は、武器を持ってかかってくる相手は、どんなに小物だろうと容赦しないが…
 …本当にいいんだな?」

 リーダーは顔中から脂汗を垂らしている。
 ――絶対負ける、勝てっこない!
 そう悟るリーダー。
「きょ、今日のところはこのくらいで勘弁しといてやるぜ!!」
 リーダーは警棒を放り出すと、一目散に駆け出した。
「ま、ま、待って〜!」
 不良二人が後に続く。

786:2004/01/17(土) 22:10

「アリガトウ…」
 でぃは言った。
 浮浪者だろうが… 意外に年を取ってるんだな。
 でぃを間近に見て、ギコは思った。
「いいって事よ。熱心に眺めてたようだけど、海が好きなのか?」
 ギコは訊ねた。
「ムカシ、ハタライテタカラ…」
 でぃは先程のように海を眺めて呟いた。
「ふーん、漁師か何かか?」
 ギコの言葉にでぃは頷いた。
「かっては海の男、って訳だな。今度は絡まれるなよ。じゃあな」
 ギコは、そのまま立ち去ってしまった。

 しばらく、でぃは海を眺めていた。
「ヒガシ…」
 再びでぃは呟く。

「イテテテ… テメー、よくもやってくれたな…」
 背後から、聞いた声がした。
 ゆっくりと振り向くでぃ。
 そこには、先程の三人の不良が立っていた。
 その表情は怒りで歪んでいる。
「テメーのせいで、アザができたじゃねーか!!」
「三倍にして… いや、百億万倍にして返してやるぜ…ヒヒヒ」

 その背後から、音もなく現れる男達。
「こ、今度は何だ…! ギャッ!!」
 不良達は、突然現れた男達に押さえ込まれた。
 地面に頭を押し付けられ、腕を逆方向にねじられた不良達が、うめき声を上げる。
 そのまま、不良達はどこかへ連れて行かれた。

 男達がでぃの前に並ぶ。
 その中から、水兵のような制服を着こなした男が前に出た。
 男は敬礼のポーズを取る。
「お迎えに上がりました、でぃ一等海佐!」

 でぃはその男をじっと見た。
「…ドコ?」

「…東です。太平洋に展開する予定です」
 男は口を開く。
「ASAの組織的領海侵犯に対して、威嚇措置をとります。
 奴等の原潜を向こうに回して戦える潜水艦乗りは、我が国ではでぃ一佐だけでしょう?」

787:2004/01/17(土) 22:11

          @          @          @



 僕のアパートの前に、一台の車が停まっていた。
「邪魔だな…」
 僕はそう呟きながら、横を通り抜けようとする。
 運転席に座っていた男がこちらを見た。
「君が1さんかね?」
 ウィンドウを開けて、男は言った。
「あ、そうですけど…」
 僕はとりあえず返事をする。
 誰だ? 全く会った事がない人だ。
 助手席にも人が座っている。
 何か爽やかなヤツだ。
 目がキラキラしていて、口許には微笑を湛えている。
 僕には、二人とも心当たりは無かった。

「え〜と、どちら様でしょうか?」
 僕は訊ねる。
「言葉を慎みたまえ! 君はラピュタ王の前にいるのだ!」
 何か分からないが、運転席の男に理不尽に怒られてしまった。
「す、すみません…」
 揉め事はゴメンなので、僕は頭を下げておく。
「ふむ、君は素直だな。自己紹介といこうか。おっと、君の事はすでに知っているので省略したまえ。
 私は『暗殺者』、横の彼は『狩猟者』だ」
 『暗殺者』、『狩猟者』…?
 名前からして、代行者なのは間違いない。
「ぼくはきれいなジャイアン」
 助手席の人が口を開いた。
 簞ちゃんの代行者のとしての名が『守護者』なのと同じく、この「きれいなジャイアン」と名乗る爽やかな男の
代行者名が『狩猟者』なのだろう。
 おそらく、運転席の方に座っている男の本名も別にあると思われる。
 それにしても、『暗殺者』なんて物騒な名前だなぁ…
 当の『暗殺者』が口を開いた。
「今、君の部屋で『守護者』と『支配者』が話をしているよ」
 …簞ちゃんが?
 僕は、とりあえず部屋に戻る事にした。


 テーブルを挟んで、簞ちゃんと『支配者』と思われる男は座っていた。
 その男は、上下とも真っ黒のスーツを着込んで、サングラスをかけている。
 マフィアかスパイかシークレット・サービスにしか見えない。
 その格好は怪しさの極みである。
 その『支配者』は、立ち尽くす僕の姿を見て言った。
「ここの家主か? 座りたまえ。やましい話はしてはおらんよ」
「は、はぁ…」
 僕は簞ちゃんの横に腰を下ろす。

「まあ、話は以下の通りだ。しばらくは動かない方がいい。諦めろ」
 『支配者』は言った。
 どうやら、話のほとんどはもう終わったらしい。
「分かりました…」
 簞ちゃんは頷く。
「この家にでも待機しておけ。君の任務は、私達の任務とは異なるからな」
 そして、『支配者』は僕の方を見た。
「そういう訳で、しばらくの間、彼女を泊めてやってはくれないか?」
 僕は最初からそのつもりだ。
「は、はい…」
 僕は頷く。
「じゃあ、これを受け取れ」
 『支配者』は封筒を差し出した。
 僕は戸惑いながらそれを受け取る。
「…!!」
 中には、万札がぎっしりと入っていた。

「彼女の事は、もちろん他言無用だ」
 『支配者』は僕を見据えながら言った。
 簞ちゃんの許しがあったとはいえ、すでにモナーに喋ってしまっている。
 まあいいか。彼も一般人とは言い難いし。
「話は以上だ。じゃあ、諦めろ」
 『支配者』は腰を上げた。
 何を諦めればいいのかは分からない。
「任務、がんばって下さいなのです」
 簞ちゃんは言った。
 『支配者』は、そのまま部屋を出て行く。
 ドアを閉める音が、アパートの一室に響いた。

788:2004/01/17(土) 22:11

「あ、怪しい人だったね…」
 簞ちゃんと二人きりになった僕は呟いた。
「代行者というのは、みんな個性的な人達ばかりなのです」
 簞ちゃんは言う。
「で、何の話? 言えない話なら別にいいけど…」
「そんな事はないのです」
 簞ちゃんは首を振った。
「『支配者』さんの話ですと、何やら上の方の事情が変わってきたらしいのです。しばらくは待機という命令なのです」
「つまり、『異端者』と会うっていう命令は中止?」
「中止ではなく、待機なのです」
 中止になった訳ではないのか。

「『支配者』ってのは、『教会』で一番偉い人なの?」
 僕は訊ねた。
「違うのです。代行者の名前というのは、スタンド能力・『教会』内での立場・本人の意向などを考慮して
 付けられるのです。9人の代行者の中で、身分の高低はありません」
 なるほど。ついでだから、僕は気になっていた疑問を解消する事にした。
「『教会』ってのは、一般的な教会やキリスト教とどう関係があるの?」
 簞ちゃんは口を開いた。
「イタリアのローマ市内に、ヴァチカン市国という都市国家があります。
 これは、ローマ教皇を元首とした、ローマカトリック教会の正当な総本山なのです」
 そう言えば、世界で最も小さい国として聞いた事がある。
「そして、ヴァチカン市国に存在する組織はローマ教皇庁と呼ばれているのです。
 トップがもちろんローマ教皇で、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、神学生と続くのです。
 ちなみに教皇は一人ですが、枢機卿に任命されている方は百人を超えます。
 この国で、一般の教会を預かっている方はほとんど司祭ですね。
 『教会』というのは、このローマ教皇庁に属する機関の一つなのです。
 その仕事は、言うまでもなく吸血鬼退治なのです」
 なかなかややこしいな。
 つまり、『教会』はローマ教会の内部組織なわけか。
「『教会』の直接指揮権は、ある枢機卿が持っていますが、最高決定権は教皇にあります。
 その下に、実行部隊として私達代行者が存在します。代行者は幹部でも何でもなく、指揮権もありません。
 だから、戦闘力のみに特化した変人が多いのです」
 変人って… 簞ちゃん何気に口が悪い。

「うん、大体分かったよ」
 僕は床に寝転がった。
「とりあえず、簞ちゃんはこれからどうするの?」
 簞ちゃんは口を開く。
「しばらく待機という事で、この家にご厄介になりたいのですが… 構いませんか?」
「お金も受け取っちゃったからね。別に構わないよ」
 僕はなるべく感情を込めずに言った」
「じゃあ、これからもよろしくお願いしますなのです…」
 簞ちゃんはぺこりと頭を下げた。
 寝転がっていると、頭がボーッとしてきた。
 今日もいろいろあって疲れているのだろう。


 …僕は目を覚ました。
 寝転がってから、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
 周囲は暗い。
 僕は体を起こすと、電気をつけた。
 簞ちゃんは、テーブルに突っ伏して眠っていた。
「風邪引くよ…」
 僕は、簞ちゃんに布団をかける。
 時計を見ると、なんと午後9時。
 我ながら、よく寝たな…
 腹が鳴った。夕食を食べていないのだから当然だろう。
 コンビニで弁当でも買いに行くか…
 僕は簞ちゃんを起こさないように、ゆっくりと部屋を出た。

789:2004/01/17(土) 22:12

 コンビニで僕と簞ちゃんの分の弁当を買って、家路を急いだ。
 夜道を歩いていると、吸血鬼に追い回されたあの夜を思い出す。
 …何か嫌な予感がした。
 僕は歩を進める。
 街灯の下に、何かが転がっているのが目に入った。
 あれは… 死体?
 いや、泥酔しているだけか?
 確認しないと、警察に通報も出来ない。
 …死体だったらやだなぁ。
 早くなる心臓の鼓動を抑えて、僕は近寄った。

 女性だった。
 その目は、虚空を見ている。
 首筋から血を流していた。
 それ以外の外傷はないが、間違いなく死んでいる。

 …えらいモン見つけちゃったなぁ。
 こんな時間に外出するんじゃなかった。
 僕は、携帯を取り出した。

 ――背筋がゾッとした。
 何かがいる。
 ここから離れないと…!!

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 僕は悲鳴を上げて、無我夢中で駆け出した。
 背筋がゾクゾクする。
 あのままあの場にいたら、間違いなく命を落としていただろう。
 一目散に夜道を疾走する僕。
 その僕の目の前に、不気味な奴が立っていた。
 あれは…!?

 そいつは僕と目を合わせて言った。
「ちょうどいい、腹が減ってたところだ… SYAAAA!!」
 間違いない。こいつ、吸血鬼だ。
 たぶん、さっきの女性をやったのも…
 そいつは、こっちに疾走してくる。
「ひ、ヒィィィィ!!」
 僕は身を翻すと、そいつから逃げ出した。
 だが、前に会った吸血鬼よりも遥かに足が早い。
 あっという間に、僕は首根っこを掴まれた。

「観念しろ、人間…」
 そのまま、吸血鬼は片手で僕の体を持ち上げる。
「うわぁぁぁぁ!!」
 僕は足をバタつかせた。
 しかし、当たり前だが効果が無い。
 僕の首を掴んでいる吸血鬼の手が、首筋にめり込んだ。
 強烈な痛み。
 こうやって、僕の血を吸い取る気だ…!

 そうだ、思い出した。
 僕はスタンド使いなんだ。
 簞ちゃんに、スタンドの出し方も教えてもらった。
 『自分の身を守ろうとする』とか『怒りをぶつける』という気持ちを強く持てば、スタンドが発動するはず。
 強く心で念じる僕。
「出て来い、僕のスタンド!!」
 僕は思いっきり叫び声を上げた。

「スタンドだと…?」
 吸血鬼は手を離した。
 僕の体が地面に落ちる。
 しかし、スタンドは現れない。
 地面に転がっている僕を見て、吸血鬼は口を開いた。
「私にはスタンドが見えないが、その恐ろしさは知っている。ハッタリのつもりなのか知らんが…
 お前が本当にスタンド使いならば、私など軽く撃退されているだろう。 …なァ?」

 そう言いながら、吸血鬼は手を伸ばしてきた。
 やっぱり、僕はスタンド使いなんかじゃない。
 ただ関わってしまっただけで、僕自身ただの小市民に過ぎなかったんだ…

 その瞬間、吸血鬼の背後に影が翻った。
 そして、吸血鬼の胸から刃が突き出す。
「な… が…!!」
 刺された部分が気化している。
 まるで、簞ちゃんに倒された吸血鬼にように…
 吸血鬼は、その刃を掴もうとした。

 ズドドドド…
 肉を刻む音と共に、その吸血鬼の体はハリネズミのようになった。
 体中に大型の刃物を打ち込まれ、50本近い刃を全身から生やす吸血鬼。
 その一つ一つが、吸血鬼の身を焼く。
「GYAAAAA!! こんなァァァ…」
 吸血鬼は、そのままチリになった。

「Dust to Dust, Ash to Ash… 土は土に、灰は灰に、塵たる貴様は塵に還れ…」
 …女性の声?

 その影は、確かに女性だった。
 暗いので、顔は見えない。
 吸血鬼よりも遥かに小柄である。
 服に刻印された十字が目に入った。
 頭に被っている帽子のようなものにも、十字が刻まれている。

 強打した腰を押さえて、僕は立ち上がった。
「あの…」
 僕は女性に語りかけようとした。
 その女性は僕を一瞥すると、漆黒の闇の中に消えて行った。
 僕は、呆然としてそのまま立ち尽くしていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

790:2004/01/18(日) 00:36
登場人物が大体出揃ったので、登場人物紹介です。
とんでもない人数ですが、あとは減るだけなので大丈夫でしょう。

791:2004/01/18(日) 00:37
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――モナーとゆかいな仲間達――

 モナーの仲間や友人、家族など。
 否応無しに事件に巻き込まれていくゆかいな人達。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モナー :この話の主人公。男や人外に超モテモテの17歳。
     食べる事と寝る事が趣味。性格は穏やかだが、時々荒れる。
     別人格が存在し、6歳より前の記憶がない。
     彼の『脳内ウホッ! いい女ランキング』には数々の女性がランキングされている。

     スタンド:『アウト・オブ・エデン』
     目に見えないものを『視る』ことができ、視えたものは破壊できる。
     ヴィジョンを持たないスタンド。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ギコ :モナーのクラスメイトで、サッカー部に所属する武道マニア。
     スポーツ万能で頭も良く、英語もペラペラ。
     女の子にモテモテだが、フェミニストな一面がたたって女に弱い。
     しぃと付き合う前はかなり遊んでいたらしいが…
     自衛官の父を持つ。

     スタンド:『レイラ』
     日本刀を所持した女性型スタンド。
     近距離パワー型で、特に能力は持たない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モララー:モナーのクラスメイト。モナーに思いを寄せるホモ。
      未成年にも関わらずBARに通っている。
      一時期『矢の男』だったが、克服したらしい。

     スタンド名 『アナザー・ワールド・エキストラ』
     近距離パワー型。
     量子力学的現象を顕在化させる。
     その応用方は数多く、成長性は並外れて高い。
     『次元の亀裂』:次元に亀裂を作り出し、巻き込んだ物を破壊する。
     『対物エントロピー減少』:爆発等、拡散するタイプの攻撃を中和して消し去る。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ   :モナーのクラスメイトで、普段は大人しく心優しい優等生。
      ギコとつきあっていて、完全に尻に敷いている。実は漫画好き。
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おにぎり:出番がない。久々の登場で昇天。
      その亡骸はしぃ助教授が回収していったようだ。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

792:2004/01/18(日) 00:38
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
レモナ :最終兵器。モナーに思いを寄せているが、積極的なアタックは実を結びそうにない。
      『ドレス』の技術で開発されたらしい。
      現在は『ドレス』は解体され、その技術は『教会』に流れた。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
つー  :性別不明のいたずらっ子だが、『BAOH』に改造された。
      これも『ドレス』の技術によるものだが、本人はあまり気にしていない。
      モナーに意地悪するのは愛ゆえか?
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じぃ  :モナーのクラスメイトであり、クラスのアイドル。
     密かに、モナーに思いを寄せていたが…
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ガナー :モナーと一つ違いの萌えない妹で、年相応の普通の女の子。
      しぃタナとはクラスメイトであり親友。
      居候しているリナーを「お義姉さん」として慕っている。
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しぃタナ :しぃの妹で、しぃタナは暴走レモナによるあだ名。
      しぃに比べて活発。姉妹仲は悪くない。

793:2004/01/18(日) 00:38
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――ASA――

 Anti-Stand Associationの略で、人に仇を為すスタンド使いを抹殺する組織。
 国際的に活躍し、各国政府の要請で出動する。
 組織としては私立財団に近いが、スタンド使いに対抗する組織の中で、最も強力かつ武闘派。
 『ASA三幹部』と呼ばれる三人の意向によって組織の意向が決定される。
 その構成員はほとんどがスタンド使いであり、多くの兵器を保有している。
 現在、本部をモナー達の住む町に移動させた。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ助教授:ASA三幹部の一人。年齢に触れる事は大いなるタブー
       助教授と名乗ってはいるが、どこかの大学に属しているのかは不明。
       経歴詐称の可能性もあが、追求する者はいない。
       理知的で温和に見えるが、怒らせると危ない。怒りの導火線もかなり短い。

       スタンド:『セブンス・ヘブン』
       近距離パワー型と思わせておいて、実は遠距離型。
       パワーはとんどなく、遠距離型にもかかわらず視聴覚を持たない。
       「力」の指向性を操ることができる能力を持つ。
       この能力を本体の周囲の空間に使うと、物理的な攻撃が当たらなくなる。
       この鉄壁の防御を、『サウンド・オブ・サイレンス』と呼称する。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ありす:ASA三幹部の一人。ゴスロリに身を包んだ女の子。
     よく「サムイ…」と呟いていて、得体が知れない。
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クックル:ASA三幹部の一人。筋肉に覆われたニワトリ。
      ちなみにASAは三幹部の会議制であるが、クックルとありすは運営に興味を
      示さないため、しぃ助教授の独断状態である。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
丸耳  :しぃ助教授の補佐。おそらく20代後半。
      主人の暴走を止めるのが主な仕事。
      雑事を黙々とこなす大人な組織人。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ねここ :ありすの補佐。猫の顔を模した帽子をかぶった女の子。
      その言動はどこか変わっている。
      ありすとは、友人のように付き合っているらしい。

      スタンド:不明
      ASAでも稀有な、治療の能力を持つらしい。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
+激しく忍者+:クックルの補佐。作品内には未登場。
          クックルのストレス解消的存在。

794:2004/01/18(日) 00:39
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――『教会』――

 ローマ教会の内部組織で、吸血鬼殲滅を主な任務とする機関。
 唯一の吸血鬼殲滅機関と言っても過言ではないほど強大である。
 代行者と呼ばれる対吸血鬼のエキスパートを世界中に派遣し、吸血鬼に対抗している。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
リナー :『教会』の代行者で、称号は『異端者』。
      見た目は17歳程度だが、正確な年齢は不明。
      現在、モナーの家に居候中で、隠し事が多い武器・兵器マニア。

      スタンド:『エンジェル・ダスト』
     体内にのみ展開できるスタンドで、液体の「流れ」をコントロールできる。
     手で触れれば、他人の自然治癒力を促進させる事もできる。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
簞(ばつ):『教会』の代行者で、称号は『守護者』。
       現在は1さんの家に居候している。
       そのスタンド能力から、武器の法儀式処理を一手に任されている。

       スタンド:『シスター・スレッジ』
       人間よりも多量の波紋を練る事ができるスタンド。
       物質に波紋を固着させる事も可能。
       パワーはないに等しいので、戦闘時は波紋を流したワイヤーを使う。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『解読者』:『教会』の代行者で、本名はキバヤシ。
       代行者の中で、吸血鬼の殲滅数は一番多い。
       『教会』の仕事以外ではスタンドは使いたがらず、それには理由があるようだ。
       モナーをMMRに引き込み、『蒐集者』を調べている。

       スタンド:不明
       催眠術を基盤とした能力だが、詳細不明。
       ASAから封印指定を受けている。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『調停者』:『教会』の代行者。
       ハンサムの範疇に入るが、果てしなく濃い顔をしている。
       普段はツナギを着てベンチに座っている。
       特技は『エリーゼの憂鬱』。

795:2004/01/18(日) 00:40
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『破壊者』:『教会』の代行者。
       ピエロのような格好をしている。
       常に「お前ら、表へ出ろ」と口走り、周囲を威嚇している。
       前任の『破壊者』にコンプレックスを持っているらしい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『狩猟者』:『教会』の代行者で、「きれいなジャイアン」と自らを呼称している。
       爽やかな雰囲気と、素敵な瞳を持つ。
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『暗殺者』:『教会』の代行者。
       自称ラピュタ王。尊大な振る舞いだが、どことなく間が抜けている。
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『支配者』:『教会』の代行者。
       上下とも真っ黒なスーツを愛用しており、サングラスは決して外さない。
       「諦めろ」が口癖。
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『蒐集者』:『教会』の元代行者。
       爽やかな青年の外見をしていて、夏でも黒のロングコートを愛用している。
       いろいろな場所に顔を出しては、不審な行動をとっている。
       『教会』から離反しているようだが、称号は使い続けている。

       スタンド名:『アヴェ・マリア』
       対象を取り込んで同化できる。
       同化には、生物、無生物を問わない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ぽろろ:『NOSFERATU-BAOH』の実験体候補。
     『教会』の地下深くに軟禁されている。
     自らのスタンドを喰らい、スタンドに喰らわれている。

     スタンド:『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』
     能力不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――警視庁警備局公安五課――

 通称、スタンド犯罪対策局。
 増加を続けるスタンド犯罪に対抗して設立された部署。
 スタンド使いが多く所属する。

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局長   :公安五課(スタンド犯罪対策局)の局長。
       スタンド関連では、この国で一番偉い人らしい。

       スタンド:『アルケルメス』
       時間を「カット&ペースト」する能力。
       時間を切り取ったり、切り取った時間を貼り付けたりできる。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

796:2004/01/18(日) 00:41
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――自衛隊――

 内閣総理大臣を最高指揮監督者とする国防のための軍事組織。
 防衛庁長官が自衛隊の隊務を統括する。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
フサギコ:統合幕僚会議議長。自衛官の最上位に就いている。
      粗暴で口が悪いにもかかわらず、多くの部下から慕われている。
      その危険性から、スタンド使いを嫌悪している。
      局長とは古くからの付き合いだが、仲は決して良くない。
      ギコの父親。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
でぃ :海上自衛隊の一等海佐。
    高い操艦技術を持っているらしい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――その他――

 その他の人達。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
1さん :モナーと同じ学校に通う17歳。
     簞ちゃんとの出会いから、大きな運命の流れに引き込まれていく。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『アルカディア』:独立した意思を持ったスタンドで、本体だった吸血鬼はすでに死亡している。
          現在はモナーの住んでいる町に潜伏している。

          スタンド名:『アルカディア』
          他者の「望み」や「願い」を実現させることで糧を得る。
          基本的には個人の願いなどは扱わず、噂規模に発達した
          「無意識の願望」を具現化させる。
          スタンド単体の時は、噂を顕実化する能力のみだが、
          仮の本体を得た時は、完全な『空想具現化』が可能となる。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
殺人鬼:モナーの別人格で、高い知能と戦闘能力を持つ。
     また、『アウト・オブ・エデン』の能力をモナー以上に引き出せる。
     たまに出てきてモナーを手助けするが、善意ではない事は明らかである。
     『教会』との繋がりがあるようだが…
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モナソン・モナップス:海外視察に来ていた上院議員。
             出て来るたびに、お供のボディーガードと共にヒドイ目に遭う。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

797新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 01:04
おおー
激しく忍者も一応いるのか
調停者、エリーゼの憂鬱ってあれか?セク○ーコ○ンドーか?
支配者のAAがわかんねー
登場人物紹介わかりやすくていい

798ぽろろ作者:2004/01/18(日) 01:14
       , --- 、_                 
      /ミミミヾヾヽ、_           
   ∠ヾヾヾヾヾヾjj┴彡ニヽ
  / , -ー‐'"´´´    ヾ.三ヽ
  ,' /            ヾ三ヽ
  j |             / }ミ i
  | |              / /ミ  !
  } | r、          l ゙iミ __」
  |]ムヽ、_    __∠二、__,ィ|/ ィ }
  |    ̄`ミl==r'´     / |lぅ lj 私を忘れてもらっては困るな…
  「!ヽ、_____j ヽ、_  -'  レ'r'/  アンダーソン君
   `!     j  ヽ        j_ノ
   ',    ヽァ_ '┘     ,i
    ヽ  ___'...__   i   ハ__
     ヽ ゙二二 `  ,' // 八  
      ヽ        /'´   / ヽ       
      |ヽ、__, '´ /   /   \ 
スミス登場はマトリクースヲタの俺としては嬉しい限り。期待してます。

799ぽろろ作者:2004/01/18(日) 01:15
すみません…感想スレに書くはずが間違って本スレに誤爆しました。
本当に申し訳御座いません。

800SS書き:2004/01/18(日) 04:07
はじめまして。本編のアイデアが思いついたのですが
AAの技術がないのでSS(ショート・ショート)を書いてみました。
『アンチ・クライスト・スーパースター』を使うギコの話です。
かなり短くてボロもあるでしょうが見逃してください。

801SS書き:2004/01/18(日) 04:08
音の戦い −テイク・マイ・ブレス・アウェイ−

「あなたの声を聞かせてください。」
 ギコとしぃが2人で街中を歩いていると突然見知らぬ男に声をかけられた。どうやら何かのアンケートをとっているようだ。
「忙しいからまた今度だゴルァ」
 と、ギコはその男をあしらってその場をやり過ごした。
「なんのアンケートだったのかしら」
「何かは知らねーけど、アンケートに見せかけてものを売りつけるマルチ商法もあるから気をつけないとな。ま、暇なときなら話を聞くだけ聞いて最後に『逝ってよし』って言ってやるんだけどよ」
「・・・・・・それってかなりの暇人のやることよね」
 そんな会話をするギコとしぃの後姿を見送っていた男がぼそりとつぶやいた。
「いいや、確かに聞かせてもらったぜ。お前の『声』をよ」

 男は漫画喫茶に入って時間を潰していた。そして考え事をしていた。

 犯罪捜査において指紋と同じ様に犯人特定の決め手となるものに『声紋』がある。
 声紋は指紋同様ひとりひとり異なるものだ。
 自分のスタンド『テイク・マイ・ブレス・アウェイ』はその声を追跡する遠隔自動操縦のスタンド。
 自分が聞いた声の持ち主をどこまで追いかけていき、スライム状の体でターゲットの口と鼻をふさぎ窒息させる。
 一度声を聞けばターゲットが黙っていてもその『呼吸音』を頼りに攻撃する。
 声を武器とするギコのスタンドにとっては最高に相性が悪い。
しかも遠隔自動操縦のためダメージフィードバックはない。
ターゲットの声を聞くときがもっとも危険だがそれは乗り切った。
もはや自分に負けはありえない。

 「僕のしぃタンに手を出す糞ギコはヌッ頃す」
 男は叫んでいた。

802SS書き:2004/01/18(日) 04:08
・・・・・・遅い。
遅すぎる。あれからもう2時間はたっている。しかしテイク・マイ・ブレス・アウェイは一向に戻ってくる様子はない。スタンドに何が起きているかが分からないのは遠隔自動操縦のスタンドの弱点だ。
「二人は公園の方に向かっていたな」
ギコが自分のスタンドを使うために人の少ないことへと移動したとすれば、あそこが戦いの舞台になっているはずだ。
「・・・・・・行ってみるか」

 公園に着いた男が見たものはベンチに座っているしぃとそのスタンド。そしてそのスタンドに纏わりつく自分のスタンド。
「な?」
 男が事態を理解できないでいるとギコの声が聞こえてきた。
「その様子からするとお前が本体だな。さっきのアンケートの男か。お前のスタンドにはよぉー、正直焦ったぜ。叩いても叫んでもまったくダメージがないからな。でも声を追ってくるだけのスタンドだって分かれば対処法はあったぜ。」
 声はしぃの方から聞こえてくるがギコの姿はない。
「オレのスタンドと相性がいいと思っていたのかもしれないが、調べるならオレのスタンドだけじゃ足りなかったみたいだぜ。オレと一緒にいるのが誰かも知らないといけなかった」
 いや、しぃタンのことはもっと調べていましたけど。と、男は思っていた。
「しぃの『ザード・エクスト・ボーイ』は『盗聴器になる光弾』を発射できるスタンドだ。スタンド本体には当然その『盗聴した音』を聞く『スピーカー』がある。へそみたいに見えるのがそれだ。オレは盗聴器に向かって小声でしゃべり、ザード・エクスト・ボーイから出る音量をあげた。それでお前のスタンドはそのスピーカーから出る音に纏わりついているってわけだ。お前のスタンドはしぃのスタンドと最っ高に相性が悪かったな。」
 ギコの声が後ろからも聞こえてきた。
「確か声が聞きたいといっていたな。思いっきり聞かせてやるぜ。」

「逝ってよし!」

 ステレオで音を叩き込まれた男はその場に倒れた。
 ちなみに男が倒れながら思ったことは、『しぃタン(のスタンド)に2時間もくっついてたのに何も感じことができないなんて、遠隔自動操縦のスタンドなんて大っキライだー』ということだった。
「終わったみたいね。」
 耳栓をはずしながらしぃが言った。
「ギコ君の攻撃、スタンドには効かなくても本体には有功だったみたいね。」
「おう。それにしても今回は助かったぜ。なんか礼をしないとな。昼飯でも・・・・・・」
「お礼なんていいよ。どうしてもって言うなら欲しかったアクセサリーがあるんだけど、そんな高価なものいいからね。」
「やれやれ。(マルチ商法のほうがマシだったかな)」

END

803SS書き:2004/01/18(日) 04:10
スタンド名:テイク・マイ・ブレス・アウェイ
本体:変態モララー

パワー‐E スピード‐A 射程距離‐A
持続力‐A 精密動作性‐D 成長性‐D

本体が聞いた声の持ち主を追っていく遠隔自動操縦のスタンド。
スライム状のスタンドであり認識した声の持ち主ものに引っ付いて窒息させる。
一度声を聞いたらターゲットがしゃべらなくてもその呼吸音を頼りに追跡&攻撃できる。
スタンドにカメラや発信機を持たせてターゲットに攻撃せず見張り続けることも可能。
電話やテープレコーダーなどの『機械を通した声』を識別でき、攻撃しない。

804( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:23
てきとーなあらすじ

巨耳モナーが寝てたら昔の夢を見てソレを話しながら思い出のトンネルにきたら
何か良くわからないけど目つきの鋭い人がいた。って感じ。
どうしても粗筋が知りたいって人は>>704-706を見t うわ。なんだおまえやめr

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―幸せはやって来ない②

・・・聞き覚えのある声・・
                 『先輩』だ。

「うっ・・わぁあああああああぁぁあああああぁあぁぁッァァッ!!!」
今まで出さずに溜まった悲鳴が一気に外に出てきた。
少年期から青年期にかけて、『喜怒哀楽』。全てを体の中にためてきた。
それのリミッターを外された感じ。
「クク・・やっぱり怖いかよォ・・殺されそうになったんだもんなァー?
 でもよォ・・この怖さは俺だって味わったんだぜェ・・?」
がんたれモナー(先輩)は怒りか、それともその時の恐怖を思い出しているのかわからないが震えていた
「いきなりよォ・・ふっとばされてよォ・・タンスの角に頭ぶつけてよォ・・
  頭の中が真っ白になってよォ・・『嗚呼。俺此処で死ぬのかなぁ』って思ってよォォォオオォォ・・」
この震えは100%純な『怒り』だ。恐怖は感じない。今、彼の脳が彼に命令してる事は一つ
『自らのスタンドで、巨耳モナーをふっとばす』事のみ。
「それで俺はよォ・・俺はある『男』にすれ違いざまに矢を刺された・・そして、お前と同じ『能力』を手に入れたんだよォォォオオッォオ!!!」
突然轟音をたてながら地面のコンクリートが捲れ上がるり、巨耳モナーの右耳をかする
「今のはわざと外した・・次は外さないぞ・・こらァッ!!」
震えが止まらない
声が出ない
足が立たない
目が開けられない
脳が命令を下さない
(どうする・・・・そうだ!!)
矢張り目には目を。恐怖で考え付かなかったが良く考えればソレしかない。
ジェノサイアを呼ぶのだ。よし来い!ジェノサイア!!
・・・・応答が無い。
ジェノサイアは一人歩き型のスタンド。本体の意思で呼ぶことは出来なかった。
いやしかし、普段は俺を気遣ってノートパソコンの画面の中にいてくれたはず。
何故居ない?いや、どこに居る?
そんな事を考える内に数分前の『大いなる過ち』に気付いた。
・・・・そうだ。俺はお茶を濁してジェノサイア置いていったんだった。
ヤバい。アイツはもう臨戦態勢だ。どうしよう。逃げるか?
いや、しかしさっきの床を避けきれる自信はないし、吹っ飛ばすなんてもっての他だ。
まずい。もうくる。あと2m、1m30、1m、30・・・・
俺はもう願うしかないとノートパソコンをしっかりと握りながら構え、神に祈った
『ジェノサイア・・来てくれ!!』と。
その瞬間。轟音がトンネル内に響く。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

805( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:24
「・・奇跡は起きないから奇跡・・。誰が言ったんだろうねぇ?」
砂煙の中から人の声がする
「なァッ・・!?」
『馬鹿なァッ』って言いたそうな馬鹿面でコッチをにらんできた。
・・生きてた。間一髪ジェノサイアがかけつけてくれた。
「ば・・馬鹿なァッ!?」
お。予感的中。
「ったく・・もうちょっと早くこれなかったのかねぇ?」
「あっ。何よその態度。せっかく来てあげたってのにねぇ。もしこなかったらアンタペシャンコだったのよ!?」
さっきまで切なくなってたのが嘘みたいに怒るジェノサイア
ガンたれモナーはその様子をポカンと見てる
「今回は電気街とかの戦闘とは違うぞ。お前が攻撃できるのは真正面。ノートパソコンだけだ。
 しかも『壊されたら終り』だぞ。わかってるな?」
「もちろん!」
「それじゃあ行くぞ!ガンたれモナーァッ!」
コッチもっさきまで震えてたのが嘘のようだ
「認めねぇ・・認めねぇぞ・・コラァァァアアアァァアァァァッ―――!!!!」
トンネルの両壁のコンクリがはがれ向かってくる。更に天井からもオマケつきだ。
おっと。コレはピンチだ。
この速度とジェノサイアの力を考えてみると、破壊できるのは一方のみ。
ジェノサイアは画面から両手を出すとラッシュができて、複数敵を相手に出来るのだが
その力は画面から片手を出してストレートパンチ一発だした時の2分の1。
しかし片手のストレートパンチは単数敵しか相手に出来ない上、隙が多い。
とか考えてる内にもう目の前。
ヤバい。と思った瞬間。俺の首ねっこが誰かにつかまれ、外に放りだされる
そして俺の首をひっぱった男は黒い球状の物を投げる。
ソレを見たガンたれモナーは顔を青くしてトンネルから飛び出る
すると次の瞬間洞窟が一瞬で潰れた。
「あ・・ああ・・ネクロマララー・・さ・・ま・・。」
酷くおびえている様子でがんたれモナーが言う。・・ん?ネクロマララー?どこかで聞いた事あるような・・
「やぁ。がんたれモナー。ごきげんよう。今日は一つ質問があるんだ。」
と。ネクロマララーがにこやかな顔で聞く。結構爽やかだ。
「え・・いえ・・えっと・・その・・あの・・・」
既に汗だく。顔は真っ青。ションベンまでチビっている。
「ま。私はどうでもいいんですけどね。」

806( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:25
ガンたれモナーがホッ。と一息つく。そこまで怯える様な人じゃ無いと思うんだが・・
「ですが、私達の神はソレを許しません。」
次の瞬間で叫びをあげる間もなくガンたれモナーはミートソースになっていた。
何が起こった?整理できない。ただわかる事。ソレは
『助けてもらったがコイツは殺人犯だと言う事』。
ネクロマララーと呼ばれる人物は去ろうとする
「おい!待ちやがれ!!」
俺が呼ぶと、ネクロマララーは振り返り
「アナタ、警察さんですよね?」
と一言言い放った
「あ、ああ・・。」
?別に制服着てないのに何でわかったんだろ。
「ならば私はアナタと闘う事になるでしょう。」
いや、もう殺した時点で闘うのは決定してるし。
「私はある『組織』の最上級幹部にして最強参謀です。鑑識かどこかに言って『ネクロマララー』という人物を知 ら な い か
 と聞いてごらんなさい。きっと驚くべき事実を聞く事でしょう・・。」
その言い方で驚かれる。とかそういうオチだったらぬッ殺してやる。
「ま。どうでもいいんですけどね。」
またこのシメ方かこの野郎。
とか思ってるうちにネクロマララーはまた歩き出した
「あっ!おいっ!待てよ!コラ!」
・・・・・夕暮れに静寂が響き、すっごい切ない感じになる。
気付けばネクロマララーは消えていた。・・・何者なんだろう。
俺は暫く呆然と立ち尽くした後、電話を取り出した。
「はい。もしもし。茂名王署鑑識課ですが。」
「もしもし。俺だ。」
「あ。巨耳さん?今忙しいんですが、何の用ですか?」
いや。それお前遠まわしに『邪魔だから切れ』って言ってるのか
「あのな・・コホン。『ネクロマララー』という人物を知 ら な い か」
ネクロマララーの言ったとおり、鑑識の野郎は静まった。
コレで本当に言い方で驚かれるっていうオチだったらマジでヌッ殺してやるあの野郎・・

←To Be Continued

807( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:27
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

808新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 15:04
乙です

809新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:12


喉痛いのにハバネロチップスイッキ食いした。
死ぬかと思った。

合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その②


男と女はカウンター席にドカッと腰を下ろした。
男の服装はここでもやっぱり目立つ。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「・・・俺はコーヒーを。」
「あ、私はアイスミルクティーで。」
注文を終えると女はMDの電源を入れた。

タン、タタン、タタタタン、タン、タン――――

リズムに合わせて女はテーブルを指で叩き始める。
たぶん彼女の癖なのだろう。

「へぇ〜、あの人か〜。」
「顔を隠しているのが渋いねぇ〜。」
「隣に居る女の子は誰なんだ?」
「多分あの人の知り合いじゃないか?」

アヒャ達は男に視線を送りながらヒソヒソ声で喋っている。
ハバネロジュースから生還したマララーも一緒だ。

ふいに男がアヒャ達の方を向いた。
自分の事を話していたのを気がついたようだ。
「・・・・そこの君達。何を話しているんだ?」
「あっ、いや・・・その・・・え〜っと。」
思いもよらない出来事に慌てるアヒャ。
すると男がアヒャに近づいてこう言った。
「お前・・・久しぶりだな。」
「・・・え?」
アヒャはポカンと口を開けている。
無理も無い。見ず知らずの男に久しぶりと言われたら誰だって驚くだろう。
隣に居たツー達も例外ではない。
「ふっ、分からないのは無理も無いか。君のスタンド能力を引き出した日も今日のように
 顔を隠していたのだからな。」
スタンド能力を引き出した日?
アヒャは自分の記憶をたどってみた。

【アヒャの脳内コンピューターを覗いてみよう!】

「近所の川に落ちた」「カラオケで騒いだ」「通信簿オール3」
「どうする、アイフル」「ジョジョ中古でイッキ買い」「お隣さんが破産宣告」

(いや、これは違う。どの日もあの男に会ってない。)

*あの日の未来がフラッシュバック*

             i r-ー-┬-‐、i
              | |,,_   _,{|
  )'ーーノ(       N| "゚'` {"゚`lリ      |ー‐''"l
 / や  |       ト.i   ,__''_  !       l や ヽ
 l   ら  i´      i/ l\ ー .イ|_     /  ら  /
 |  な  l  トー-ヽ⌒          \  |  な |
 |  い   |/     | l ||        ll   ヽl  い |
 | か   |       | l |        ll     l  か  |
 |   !!  |     / | | |        ´|| ,   |  !! |
ノー‐---、,|    / │l、l         |レ' ,   ノハ、_ノヽ
 /        / ノ⌒ヾ、  ヽ    ノハ,      |
,/      ,イーf'´ /´  \ | ,/´ |ヽl      |
     /-ト、| ┼―- 、_ヽメr' , -=l''"ハ    |
   ,/   | ヽ  \  _,ノーf' ´  ノノ  ヽ   
、_    _ ‐''l  `ー‐―''" ⌒'ー--‐'´`ヽ、_   _,ノ 

(うわあっ!!な、何なんだ今のは?)

「蟹しゃぶ事件」「お前ら表へでろ。」「兄貴が筋肉痛」
「父ちゃんVs銀行強盗」「買い物帰りに矢に射抜かれる」

(・・・・ん?)

「買い物帰りに矢に射抜かれる」

          キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!

                    ∧_∧
                   (  ∀ ) カシャカシャカシャーン

                  /´     `ヽ
                  | |     | |



「旦那〜!ひっさしぶり〜。元気してった〜?」
「思い出したようだな。どうだ、スタンドのほうは?」
「旦那の言うとおり活用させてもらってますよ〜。」
「お、おい。この人知り合いなのか?」
ツーが訊ねた。
「ああ、この人が俺のスタンド能力を引き出してくれた矢の旦那さ。まさかまた会えるとは。」
アヒャは矢の男に再び会えた事を心の底から喜んでいた。
「どうしたんだ?そんなに嬉しそうな顔して?」
「だって旦那にスタンド出してもらったお礼がまだ済んでなかったんっすよ〜。もう一度会えたら
 何か出来ないかと思っていたんですよ。」
「・・ふっ、お前は本当に面白い奴だな。」
アヒャは矢の男の隣に座った。

810新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:13

「・・・おい、フィルター破れてんじゃないか?
 コーヒー豆がカップの中にいっぱい入ってるぞ?」
「ん、ああゴメンゴメン。ちょっとした果肉入りだと思って」
「うまいことを言うな。」
男は浮いているコーヒー豆をスプーンで掬うと砂糖とミルクを入れた。
「それにしても綺麗ですねー。旦那の持っている矢は。」
アヒャは男の持っていた矢を見せてもらっていた。
かなり古びた雰囲気があるが、サイズも外見も基本的にごく普通の矢。
『矢尻』部分には昆虫のような形の飾りが付いている。
「父さんと母さんが近所の骨董品屋で買ってきた物だ。・・・今は形見の品だけど。」
「あ!す、すんません!辛いこと思い出させたみたいで・・・。」
「いいんだ両親が居なくても祖父がいるから。」
「その隣に居るのは妹さん?」
男の隣の居眠りしている女の子を指差す。
「ああ、コイツは『同じ目的』で一緒になった俺の連れだ。」
「『同じ目的』?」
アヒャが訊ねた。
「俺たちは『顔面に十字の傷がある男』を捜しているんだ。」
「ソイツが何かしたんですか?」
すると男は女を見て言った。
「・・・コイツの母親と俺の兄弟を殺した・・・。」
男はコーヒーを一口飲むと話し始めた。
「俺がまだ中学一年の時だったかな・・・。その時俺には妹と兄が居たんだ。
 俺たち兄弟は3人ともスタンド使いだった。もちろんこの矢のおかげでな。
 ある日買い物に出て行った兄貴と妹がいつまで経っても帰ってこなかった。
 しばらくして家に病院から連絡が来た。その時妹は死亡、兄貴は危篤状態だった。
 急いで病院に駆けつけたら兄貴も妹も傷だらけになっていて、妹の死体には首筋に二つの穴が開いていた。
 兄貴は『顔面に十字の傷のある男』が犯人であること、そいつも俺たちと同じスタンド使いだと言うこと、
 それを言い残すと息を引き取った。」

男の話にアヒャ達はただ黙って聞く事しか出来なかった。

「隣にいるコイツも母親を奴に殺されている。」
再度男が女を見る。
「しかも厄介な事に奴は吸血鬼なんだ。」
「吸血鬼!?」
「知らないのか?『石仮面』という物をかぶって不老不死になった化け物だ。
 太陽の光に弱く、人の血を飲まないと生きていけない。
 倒す方法は頭を完全に潰すか日光に当てるかの二つだけだ。」
 
ゴクリと唾を飲み込むアヒャ。
「でも何でそいつが吸血鬼って分かったんですか?」
「さっき話した俺の妹の首筋の二つの穴。吸血鬼に血を吸われるとあんあふうな傷ができるんだ。」
「へぇ〜。」
「俺たちは今まで奴に対抗できるスタンド使いを探すためにこの矢を使ってスタンド使いを
 増やしていたんだ。これ以上奴の被害者が出るのは御免だからな。」
「そうか、俺もその一人に選ばれたって訳ですか。」

すると男が話を切り替えた。

「だが、今非常に面倒なな事がある。」
「何ですか?」
「厄介な奴をスタンド使いにしてしまったんだ。既にそいつは4人も襲っている。
 今はそいつを探しているんだ。」
「な、なんだってー!」
「しかももっと厄介な事に・・・。」
男はしばらく押し黙った。
「スタンド使いが『カラス』なんだ。」
「か、カラスー!?」
男は詳細を話し始めた。

811新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:13

数日前。

男は一人の若者をスタンド使いにしようとしていた。
「あいつはこの矢が選んだ・・・。どんなスタンドが出るのやら・・・。」
男は矢を放った。と、同時に
「お、百円み〜っけ!」
ひょい
スカッ!
矢は若者の頭上5cmを越えた。
「な、なにぃ〜〜〜!?」
矢はそのまま飛んでいって・・・・。
ヒュウウウン・・・・。ズシャアァ!!
「ギャァッ!」
丁度塀にとまっていたカラスに刺さってしまった。
「・・・アチャー(ノ∀`)」
するとカラスは自分で矢を引き抜くと男に襲いかかった!
バシュウッ!
ドスウッ!
高速で何かが飛んできて男の足に刺さった。
「うおっ!こ、これがあいつの能力か!?」
カラスは男に一撃食らわすと空へと消えて行った・・・・。

「・・・・と言う訳だ。」
「はい質問。」
「なんだ、アヒャ君。」
「確かに厄介なのは分かったのですが、どうやって見つけるんですか?」
「その心配は無い。昨日見つけて捕まえられなかったものの、カラーボールをぶつけて赤く染めてやったから。」
 
なんて事を・・。

「もう一つ、奴の声に特徴がある。普通のカラスと奴の声は違うんだ。矢で射られたせいかもしれないが。」
「なるほど。」
「悪いが君も探すのを手伝ってくれないか?」
男が尋ねる。
「あたりまえですよ!」
「そうか。」

こうして俺たちのカラス大捜査が幕を開けた。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

812( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:15
ハァ・・ハァ・・ハァ・・
お・・俺は・・もうこんな所・・帰りませんZO!!
こ・・こんな所・・ぢ・・ぢごくDA!!
「何処に行くんだい?」
「ヒィッ!?あ・・・あ・・」
「大丈夫。恐れる事は無い」
「寧ろ此処から逃げることが恐れることになる。」
「う・・嘘DA!!騙されませんZO!!」
「そう・・残念・・それじゃあお逃げ・・地の果てまでお逃げ・・。」
「そ・・そうさせてもら・・あ・・あれ?」
「おや、君の心はまだ此処に居たいみたいだね。ほら。もう一度やりなおそう・・ねぇ・・?」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―赤毛の『ムック』

俺は何とか警察署に戻り鑑識に『ネクロマララー』の情報をもらい、自室でティータイムを過ごし、
『ネクロマララー』という男の情報ファイルを眺めていた。
何より安心したことはたった一つだった。・・『俺がアッチの人なんて思われなかったこと』。
矢張りこのネクロマララーという単語で驚いただけだったみたいだ。
しかし、ファイルをもらって俺も驚いた。何より薄すぎる。
こんなんじゃ何の手がかりにもならん。どうしよう。
「・・『アレ』をやるか」
そう言うと俺はいきなりソファーに寝っ転がり足をソファーと直角にピシッとあげ、手の力だけで体を浮かし、目線はなるべく足を見る

      |
  ○__|
   /

こんな感じ。俺はコレを『神待ち』と称している。
現にこのポーズで今まで宿題の超難問も解いたし迷宮入り事件も解き明かした。
「・・・そうだ!!!」
そら見ろ。言い案が浮かんできた。
「『彼』に協力を求めよう!」
『彼』とは『山本悪司』という男。何をしたのかしらないが
自衛隊とFBI400人異常に囲まれて無傷で全員吹っ飛ばし、警察から恐れられた男。
・・・・コレはスタンド能力に違いない、それも超強力な。
しかもその『彼』は大阪一帯を仕切っている。
きっと部下もかなり居るだろう。そんな人を味方につければ犯罪者一人見つけるのは造作ないだろう。
・・・・しかし彼の住所なんて知らない。
それに大阪まで飛ぶのなんて面倒くさすぎる。どうしたものか。
大体楽して調べたいから俺は鑑識からこのファイルをもらったんだ。
それなのに大阪まで行ったら意味が・・・・。
いや、しかし『神待ち』が与えてくれた結果だ。
この結果を信じずして俺は何を信じるのか。
よし、飛ぼう。大阪に。
(費用はもちろん署に出してもらうとしてェー)

813( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:16
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「と、いうわけでやって参りました『茂名田空港』!!!」
どうせ署から金が出てるんだからリッチに行かないとね。
「・・随分展開すっ飛ばして来たね・・。」
ジェノサイアが携帯から出てきてゴチャゴチャ言ってるが無視だ。俺に起承転結なんて存在しない。
神待ちで得た結果は絶対だ。案が出たら即実行。それが神待ちだ。
「・・・でも怖いことが一つあるんだよな。」
「へ?」
「飛行機の中で『敵』が襲ってくることだ。」
「・・・敵?」
「言ってただろ?ネクロマララーはある組織に居る。だったら部下が居るはずだし
 アイツは『闘うことになる』って言ってた。正体を探ってる俺に刺客を差し向けるのは当たり前だ。」
「・・そうか・・。旅客機の中じゃ民間人を巻き込んじゃうからね・・・。」
「そう。まぁ・・
       こうやって 陸地で 襲ってくる分には いいんだけど・・・な!!」

後方に居た人物に巨耳モナーの回し蹴りがHITし、吹っ飛んでいく。
「アタタタタタ・・地球のAAのくせNI・・やってくれますNAッ!!!」
吹っ飛んで行った毛むくじゃらの男はすぐ起き上がった。馬鹿な。確実にこめかみ辺りに当てたのに
「・・あれが『敵』?」
「どうやらそうみたいだな。でも、随分気持ち悪い事は確かだ。」
そう。なんかモジャモジャしててそのモジャモジャの体毛(?)の中から鋭い眼光が覗いている
「ンッフフフフフ・・気持ち悪いからと言ってなめてはいけませんZO!!!」
毛むくじゃら男はいっきに吹っ飛んでくる。並みの速さじゃない。スタンド能力か?
コスモパワーマックス    スーパームックキャノン
「宇宙力全開ィィッ!!超ムック砲ッ!!」
毛むくじゃら野郎のストレートパンチが俺のみぞおちを狙う。何とかガード出来たが、ガードした手に激痛が走る
「その様子ゥ。相当聞いておりますNAァッ!!。やはり地球のAAじゃ私には勝てませんZO!!」
ムカツク決めポーズをしてくる。
「クッ・・ソッ・・テメェ・・何者だ?」                                 コスモ
「気になりますかNEェッ!!私はアナタ達が調べようとしている『組織』の幹部にして最強の宇宙AA!!『ムック』でありますZO!!」
「・・『宇宙AA』・・?」
「そうなのでSUゥッ!偉大なる宇宙AAには地球AAじゃ勝ち目はないのですZO!!!」
わけのわからないことを抜かしやがるなさっきから・・
「やっぱり『組織』の事がバレるとマズいのか。」
「アナタは警察だから更にNE。だからこの私が直々にィッボレンプサパラァッ!?」
ノートパソコンからジェノサイアの不意打ちパンチがムックのみぞおちに入る
「戦闘中喋ってるとした噛むぞ。」
「KUUUUUuuuu・・・やってくれますNAァ・・」
・・やはりあの『体毛』・・凄い防御力だな・・ジェノサイアのストレートパンチが無力に等しくなってやがる・・
「許しませんZOォッ!!宇宙力超全開ィィィィィィッ!!真・超ムック砲改ッ!!」
無茶苦茶なネーミングセンスだとツッコむ間もなく吹っ飛んできやがった
「まずはそのノートパソコンからァッ!!」
「何ィッ!?」
バキィッ!

814( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:16
ああッ!俺のノートパソコンが!!高かったのに・・じゃなくて
まずいッ!これじゃジェノサイアの攻撃ができない!何か大型画面を・・
「おっと、逃がしはしませんZOォッ!ムックバーストォッ!」
ムックのラッシュが俺の胴体めがけて飛ぶ。肋骨が折れたかどうかはわからんが、ヒビは確実に入ってる。
「駄目押しの・・ムックアッパァッ!」
普通だが今まで一番普通のネーミングかもしれない。
とか考えてるうちに俺は吹っ飛んでいた
畜生、目の前が回りやがる。なんちゅう攻撃力だ。『宇宙AA』ってのも頷ける。
「フフフフフ・・本気を出せばこんなもんなのでSUゥッ!無駄に軍曹に指導されてきたわけじゃないのですZOォッ!!」
『宇宙一!』と言わんばかりにマッスルポーズをとる。やる事成す事イライラする野郎だ。
「I am 宇宙一!!HAHAHAHA!!」
ほら見ろ。意味はわからんが言った。
「さて・・それじゃあトドメをさしましょうかね・・『必殺、超旋回ムックギロチンⅡ』をお見舞いしましょうか・・。
そんな変な技で死んだら末代まで笑われてしまう!!畜生!体が動かねぇ!!
ノートパソコンは全壊しちまってジェノサイアは出せない・・携帯の画面じゃ倒せない・・
辺りに大きな画面は・・無い。・・・・絶体絶命か・・畜生・・。
「Fuuuuuu・・・Cooooooo・・・Suuuuuu・・・・・」
何やら深呼吸みたいなのを繰り返す。バラバラだから『呼吸法』とかじゃ無いみたいだけど。
「大宇宙神力完全再現!!ひっさァァァつゥッ!超旋回竜巻ムックギロチンⅢ!!!」
技の名前変わってるし
とか思ってるうちにムックの体が竜巻にかわり向かって来る
「この竜巻に巻き込まれたら最後、出てきたときは挽き肉ですZOォッ!!」
嫌なたとえしやがる。ふと目に入ったのはお土産屋さんの万年筆。
ギャギャギャギャギャギャギャ!!
凄い勢いで竜巻に飲み込まれたかと思ったらインクとなんか良くわからない千切りキャベツの様な物が出てきた
100%死ぬ。ヤバイ。
「そォーれェッ!あと5秒で巻き込まれますぞォッ!」
5・・
「4ッ!」
3・・
「2ィッ!」
1・・
一瞬会った事無いおじいちゃんの顔が見えたかと思ったら銃声のような音が鳴り響いた。
凄い轟音だ。鼓膜が破けるくらいの。
目を開けるとソコには腰を抜かしているムックと全身武器に包まれた少女が立っていた。
おっ。なんか可愛い。しかも制服じゃないかァ。
目に入った瞬間俺の萌えポイントにストレートで突っ込んできやがった。
「な・・なんDA!?お前HAァッ!?」
そうそう。誰よ君は。
「くっくっく。私の名前は、岳画殺。殺すと書いてさつと読む。」

←To Be Continued

815( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:17
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


 彡. (・) (・) ミ
 彡       ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 スタンド能力は『花を咲かす』こと。意味は無い。ただ↑の台詞も伊達では無く格闘能力はズバ抜け。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・謎の少女。全身が武器。巨耳モナーを助けた。


  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 :::::::::ミ :::::::)???(?)

・『組織』の幹部。『2匹で1匹』がモットーらしい
 心の隙間に入り込んだり煽ったりするのがとてつもなく上手い洗脳のスペシャリスト。
 ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

816302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:35
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・5

『<02:56>』
ファイナル・カウント・ダウンの秒読みは三分を切った。
丸耳モナーにニダーが捕らえられて2分半…完全な硬直状態が続いている。
ノーと丸耳モララーの距離は約5m。今のF・C・Dなら、一跳躍で詰める事が出来るだろう。
しかし、動けない。原因は二つある。
1つ…ニダーが人質にされている事。
丸耳モララーの性格ならば、一歩近づけば迷わずマッド・ブラストの狂気弾をニダーに打ち込むだろう。
遠距離からでも威力の高い狂気弾を至近距離から喰らえば…間違いなくニダーは死ぬだろう。
2つ…丸耳モララーが狂気の充填を“2分30秒”続けているという事実だ。
今まで、狂気弾の充填は長くても10秒前後…だが、それでもバズーカ砲のような威力だった。
おそらく今発射されれば“波動砲”並の威力になっているのは間違いない。
マッド・ブラストの左手の注射針が波打っている。
「(一体…奴はどれほどの“狂気”を持っとるんや……!!)」
「ゲヒュ……いい感じだぜぇ〜……こーんなに、狂気溜めたのは初めてだぜぇ……」
「……クソ……」
ノーは舌打ちをする…ニダーさえ助け出せば、すぐにでも丸耳モララーを叩き潰せるのに。
『<02:20>』
「……のーちゃん。もうええ、早くコイツをブッ潰してくれ!!」
その声に思わずノーはニダーの目を見た。
「な、何言ってるんよ!!ウチがニダやん見捨てれる訳ないやんか!!」
「ええねんって!!コイツは許しちゃいかんやろ!?」
「そ、そりゃそうやけど!!でも…!!」
「だから!!ワシの事は気にしないでくれっ!!」
「…わかった…でも言うと思ったか!?相方見捨てる漫才師がどこにおるんよ!?」
「U-t○rnとかア○マル梯団とかビ○るとかフォークダンs」
「実例を出すなぁぁぁ!!!」

817302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:35
「……てめえら、俺の事無視してんじゃねえ!!あーそうかよ!!わかったよぉぉ!!」
マッド・ブラストの注射針が抜かれた…激怒する丸耳モララーの目の焦点は既に合っていない…
「てめぇら仲良くヌッ殺してやんよー!!!マーッド…!!」
「…さて、コントはこんくらいにしとこうや。ニダやん。」
「そやね。」
そう言って笑うニダーとノー…丸耳モララーの動きは、銃口を構えたまま止まった……!
「!?…う、うごかねえ……!てめぇぇ!!何をしやがった!?」
「後ろ見てみろや」
「な…ぁっ……!?」

『WEEEEE…Mr.ニダヤン…指定通リノ行動ヲ完了シマスタ…』
『ギュエエエエエエ!!!!離セ、クソボケガァァァァ!!!!』

シー・アネモネの触手が、マッド・ブラストの両腕、両足…それだけではなく、丸耳モララーの両手両足を絡めとっていた。
「…ワシのシー・アネモネは賢い。『ワシとのーちゃんが一芝居打つ間にこいつら動けなくしてくれ』って言ったら…」
ニダーが起き上がり、動けない丸耳モララーを指差し…
「ご覧の通りや。コントに必要な演技力…見習いとは言え、イカレたお前さんを騙くらかすには充分だったみたいやな。」
「ち……畜生……!!」
スウ…とノーが前に出た……スタンドのカウントは…

『<00:55>』

818302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:36

「……お前にとって、地獄に等しい50秒を与えてやるわ……覚悟しいや!?」
「シー・アネモネ!そいつらをのーちゃんに向かって突き飛ばせっ!!」
ドンッ…!
「うあああ!!や、やめええええてぇぇぇ!!!」

ゴオオオオっ……!!!!

「はああああああああっっ!!!!!!」
ドゴッ!!バキイッ!!ガッ!!グシャアッ!!ドガァッ!!!

正拳突き、廻し蹴り、肘鉄、膝蹴り、右ストレート…
ありとあらゆる打撃技がスタンドを介して丸耳モララーへと打ち込まれていく
「破嗚呼嗚呼嗚呼っ!!!!せいやああああっ!!!!」
ドゴオオオオっ!!!!
「げひゅ……ああ……」
爆発音を伴って、打ち込まれた正拳突きは丸耳モララーを吹き飛ばした。
「往生せいやっ!!」
『タイムアウト…マタ会イマショウ…MASTER…』

スタンドのヴィジョンが消える。
「(…そうか、カウンターが0になると消えるんか…)」
「う…ぐぇぇ……たす、たすけて……」
丸耳モララーが縋りついたのは、空を見上げて煙草を吸っていた八頭身フーンだった。
「…さて、助けてやるもやらないも…お前が俺の質問に答えるかどうかに掛かっている。」
フーンは腰を下ろし、丸耳モララーの目を睨みつけた。
「お前らのボスは誰だ?ZEROについて洗い浚い吐いてもらう…」
「…あ、ああ……話す、話すから…」

819302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:37
「…メッチャ尋問しとるよ…」
「怖い兄さんって感じや……ん?こんな時期にトンボか?」
ニダーが空を見上げた。つられてノーも見上げる…
「…しかし…」
そして、二人は同様に口をだらしなく開いて
「…トンボにしては…」
その…
「「でかいわぁぁ!!!」」
1m以上はあるトンボを見送る。
耳障りな羽音を立てて、八頭身フーンへと向かっていく!
「危ないっ!!フーンさんっ!!!でかいトンボが!!」
ノーの叫びに身構えるフーン…だが
「う、うああああああ!!!ま、まってくれ俺はぁぁ!!」
トンボは“丸耳モララー”へと向かって飛んできたのだ。
一目散に逃げ出す丸モラを追いかけていくトンボ、そのスピードは恐ろしい速さだった。
満身創痍の丸モラを一瞬のうちに捕らえて…

「うああああああっ嫌だ嫌だぁぁぁ!!!」

(DGOOOOOOONNNN!!!!!)

爆ぜた。トンボと、丸耳モララーが。

「まさかあのトンボはっ…!ちいっ!」
舌打ちをするフーン…そして、ただ呆然と「爆死ショー」を見つめていたノーとニダー……

「…フーンさん、今の…」
「ああ。間違いなくスタンドだ…。それも、“ZEROがZEROを始末する”為の…な」
「…仲間割れ…って事?」
「いや……恐らく口封じだ。」
そして、しばらくの沈黙……それを破ったのは、フーンの言葉だった。

「…今から、お前達を“自警団本部”に連れて行く。これは強制だ」

『丸耳モララー:トンボ型スタンドの攻撃を受け再起不能(リタイア)』
『ニダー:重傷を負うも、脅威の回復力を見せ活動再開。自警団本部へ』
『ノー:無傷に近い軽傷。八頭身フーンに連れられ、自警団本部へ』
『八頭身フーン:爆風により、軽度の火傷。ニダー・ノーを連れ自警団本部へ』
<TO BE CONTINUED>

820302@スタンド紹介 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:37
スタンド名:ファイナルカウントダウン
本体名:のーちゃん
破壊力:A〜D スピード:A〜D 射程距離:D
持続力:E 精密動作性:A〜D 成長性:C

人型のヴィジョンを持つスタンド。近距離パワータイプ。
額に「10」の数字が刻まれている。
「カウントダウン開始」と叫ぶ事で数字が一分ごとに減っていく。
数字が減るごとにパワーが増していき、最後の一分には凄まじいパワーを得る事が出来る。
しかし、カウントが0になると同時にスタンドは強制的に停止。
再度使用可能になるまで1時間かかる。
もちろんカウントダウン能力を使用しなくても戦闘は可能。
ただし、能力のフルパワーの三分の一程度の出力になる。


スタンド名:シー・アネモネ
本体名:ニダー
破壊力:C スピード:C 射程距離:C
持続力:B 精密動作性:A 成長性:D

人型のヴィジョンを持つ直接攻撃系スタンド。
両腕が無数の触手になっており、それを鞭して攻撃する。
かなり精密な動作が可能であり、相手をマリオネットの様に操る事も可能。
スタンド自体に意志があり、本体とはかなり心を通わせている。
本体の命令次第で、単独行動する事も出来る。


スタンド名:マッド・ブラスト
本体名:丸耳モララー
破壊力:A スピード:B 射程距離:B
持続力:C 精密動作性:E 成長性:E

左手が注射針、右手が砲身になっている人型スタンド。
本体の狂気を注射針で吸い上げ、弾丸に加工して放つ。
威力、弾速共に強力ではあるが本体が狂乱状態なので命中率が悪い。
謎のトンボ型スタンドによる攻撃を受け、本体の爆死と同時に消滅。

821ブック:2004/01/19(月) 21:52
    救い無き世界
    第十話・美女?と野獣 〜その2〜


 三分ほど追いかけたところで、私は白黒の二人組みに追いついた。
 いや、正確に言えば追いついたのではなく、
 二人が待ち伏せしている所に到着したのだ。
「ようこそ、ミセス。歓迎しますよ。」
 白タイツの男、ペンタゴンといったかしら…が、私に話しかけてきた。
 言葉使いこそ丁寧だが、声色は私を完全に見下しきっている。
 不愉快極まりない。
 ミンチにしてやる。
「出来ればミセスでなくて、レディと言って欲しいわね。」
 私はわざとおどけた感じで言った。
「くく、個人的な見解を述べさせて戴きますが、
 鏡か何かを買われたほうがよろしいのでは?」

 …決めた。
 ミンチにして卵とパン粉と玉葱の微塵切りを混ぜて
 よく捏ねて平たく伸ばしてこんがりジューシーに焼きあげて
 デミグラスソースをかけて人参とポテトを付け合せて
 犬畜生どもに喰わせてそいつらの糞としてひり出させてやる。

「勇敢な人だ。一人で追いかけてくるなんて。
 いや、まだ他のお仲間さん達は来ていないのかな?」
 今度は黒タイツが口を開く。
 その通りだ。
 たまたま私は近くにいたからすぐ小耳モナーの所へ駆けつける事が
 出来たが、他の仲間達もそうとは限らない。
 ましてや、道路はあの有様。
 ここで、すぐに仲間達がズバッと参上することを期待するのは、
 いささか楽観的過ぎるだろう。
「悪いが、他の奴が来る前に、速攻でお前を始末させてもらう。
 あの小耳はすでに満身創痍で、ここに来ることは出来ない。
 つまり今は一対二の状況、そちらが圧倒的に不利だ。」
 黒タイツが自身満々に喋る。
「何を偉そうに。
 そんな事にこの私が気づいていないとでも思ったのかしら。
 あなた達の下らない企みなど最初からお見通しだわ。」
 私はお返しにと相手よりさらに高慢な態度で言った。

「くっ、いつまでそんな態度をとっていられるかなぁ!」
 白タイツと黒タイツが同時に私へと踊りかかる。
 だが、何のことは無い。
 小耳モナーはたしか白タイツの男の服を『使う』と言った。
 ならば私は黒タイツの攻撃だけを防ぐ事に専念すればいい。
 そろそろよ。
 そろそろ『あの子』が来るはず。
 私の背後に強い気配を感じる。
 来た、『あの子』が来た。
 私は迫ってきた黒タイツのスタンドの腕を『キングスナイト』で
 防いだ。
 それにより生まれた隙を突いて、白タイツが畳み掛けようとする。
 白タイツの拳が今まさに私に―――

822ブック:2004/01/19(月) 21:53


「があああああああああああ!!」
 白タイツが、黒き疾風の突撃を受けて大きく吹っ飛ばされた。
「!?ペンタゴン!!」
 私に攻撃を止められた黒タイツが思わず仲間に声をかける。
 一瞬の隙。
 逃さず『キングスナイト』の一閃を黒タイツに見舞う。
「くぁ!!」
 私の『キングスナイト』の白刃は、男の左の二の腕あたりを切り裂いた。
 とっさに避けられたせいで、致命傷にはならなかったみたいだ。
 だけど、「十分」。
 傷さえつけられればそれで「十分」。

「ば、馬鹿な。こいつは、この狼は、あいつの…!」
 白タイツがよろめきながら立ち上がった。
「こいつは、あの小耳のスタンドだ!!」
 男達が、食い入るように小耳モナーのスタンド
 『ファング・オブ・アルナム』を見つめた。

「ふさしぃの姐さん。このアルナム、小耳の親分の命を受け、
 助太刀に馳せ参じましたぜ。」
 『ファング・オブ・アルナム』が私へと語りかける。
 いつもながら、喋り方が独特だ。
 時代劇か何かじゃあるまいし。
「あのね、『アルナム』。その姐さんって呼び方は止めなさいって
 いつも言ってるでしょ。」
 私は溜息を吐きながら言った。
 まあ、言ったところで止めるとは思えないけれど。
 何度この台詞を言ったことか。

「遠隔操作型、それか自動操縦型か。」
 黒タイツが呟く。
 流石に小耳モナーのスタンドのタイプに気づいたみたいだ。
 正解は自動操縦型なのだけれど、
 わざわざそれを教えてやる程、私はお人好しではない。

「あてが外れたわね。
 援軍がすぐに到着してしまって。」
 私は相手の神経を逆撫でするような声で言った。

「ペンタゴン!この女は任せろ!!
 お前はさっきの場所に戻って直接本体を叩け!
 あれだけの怪我だ。まだそう遠くには行ってないはずだ!!」
 黒タイツが叫んだ。
「分かった、ブラックホール!」
 白タイツがそれを受けて小耳の場所へと疾走する。

「『アルナム』!あいつは頼んだわよ!!」
 私も負けじと声を張り上げる。
「合点だ!!」
 そう言うと『ファング・オブ・アルナム』はすぐさま
 白タイツを追いかけた。

823ブック:2004/01/19(月) 21:53


 一人と一匹は、私と黒タイツを残してその場を去って行った。
「さあて、始めましょうかしら。一対一の決闘ってやつを。」
 私は『キングスナイト』に剣を構えさせる。
「…いい気になるなよ、女。
 さっき俺が貴様にさわった時点で、お前はもうわがスタンド
 『メット・マグ』の能力に侵されているのだぞ…」
 黒タイツは不気味な笑みを浮かべた。
「あらそう。でも私はには別に何も変わった様子は無いけど。」
 言われた所で、私の体には別にこれといった異常は見当たらない。
 一体、やつの言う『能力』とは何なのだろうか。

「これが答えだ!喰らえ!!」
 男はいきなり懐から拳銃を取り出すと、
 私に向かって一発発砲してきた。
 だが、私のスタンドは近距離パワー型。
 こんな銃弾など物の数では無い。
 軽々と剣で銃弾を弾き返す。
「大口きって、蓋を開けたらこれっぽっち?」
 私は肩を透かされた気分だった。
 まさかこんなものが『能力』だとでも言うのだろうか。
 だが奇妙な事に、男はそれでも笑みを崩さない。
 その自信は一体どこから来る―――

「!!!」
 私はすんでの所で襲い掛かる弾丸を防御した。

 弾丸!?
 何故!?
 奴は一発しか発砲していないはず。
 なら何故発射音も無しに銃弾が!?

 しかし、驚いている暇は私には無かった。
 何と、弾いたはずの弾丸が再び私に向かってくる。

「くっ!!」
 もう一度弾き返す。
 しかし、結果は同じ。
 弾丸は意思をもっているかの如く、私に向かって突っ込んでくる。

「無駄だ。
 勢いが無くなるまで、銃弾は何度でもお前に襲い掛かる。」
 黒タイツが言った。
 成る程、いい事を聞いた。
 それなら――

「はぁ!!」
 弾丸を地面へと叩き落す。
 弾丸は地中に埋まって、今度こそ動きを停止した。

「ほう、考えたな。
 なら…これならどうだぁ!!」
 黒タイツは今度は連続で何発も拳銃を発射してきた。
 まずい。
 これでは捌き切れない!

 何発かはさっきの様に地面へと叩き落す。
 しかし、叩き落し損ねた何発かは再び軌道を変え、
 弾くのがやっとだった弾丸と共に私を襲う。

「ああ!!!」
 三発の銃弾が、私の左脚と左肩と右腕の肉に喰らいこんだ。
 その衝撃で体が地面へと倒れる。

「くっくっく、どうだ?
 この『メット・マグ』の『能力』の恐ろしさは。
 もっとも、こんなもの『能力』の応用の一つに過ぎないがな…」
 黒タイツは含み笑いをすると、
 弾丸のリロードを始めた。

 何?
 この男の『能力』は一体何?
 弾丸操作!?
 いや、多分違う。
 そんなものではない。
 あの男はこれも『能力』の応用の一つに過ぎないと言った。
 それは、一体…

 その時、地面に埋まっていた弾丸の一つが、
 地面から飛び出して私にくっついた。
 !?これは―――…

824ブック:2004/01/19(月) 21:54

「!!!!!!!」
 そうか、分かった。
 分かったわ。
 あの黒タイツの『能力』が。

「女、何がおかしい?」
 私の顔に思わず浮かんだ笑みに、男が気づいたらしい。
 私に訝しげな声をかける。

「分かったわ…あなたの『能力』が!」
 私は黒タイツの顔を正面から見据えて言った。
「だからどうした。
 例え俺のスタンドの『能力』に気づいたとて、
 お前の圧倒的不利に変わりは無い。」
 黒タイツはそう言って私に銃を向けた。
「一つ忠告してあげるわ…『能力』に侵されているのは、
 私だけじゃない。あなたもそうよ。
 私がさっきあなたにつけた傷を見てみなさい。」
 私の言葉につられて、黒タイツは思わず自分の左腕を見た。

「!!?な、何じゃこりゃあああああああああ!!!?」
 黒タイツは絶叫した。
 無理も無い。
 あの自分の「腕の有様」を見れば。
「な、何で、何で傷がここまで!!」
 黒タイツの左腕の二の腕についた、ほんの小さな『剣』による斬り傷は、
 すでに大きく深くなり、肘の辺りまで達しようとしていた。
 それにしても、こんなになるまで気づかないとは、
 鈍感にも程がある。

「『キングスナイト』!!」
 そのチャンスを私は逃さない。
 一気に間合いを詰め、剣を振るう。
 流石に黒タイツもそれに気づいて避けようとする。
 しかし、私の『キングスナイト』の剣は、
 黒タイツにこそ当たらなかったものの、
 黒タイツの持つ拳銃を捉え、両断した。

「ああ…ってええええええ!!!」
 男が言葉にならない奇声をあげる。
 しかし、その目からは闘争意欲は失われていない。
 手負いの獣…
 戦場で一番厄介な手合いだ。
 武器の一つは破壊できたが、油断は出来ない。

「来なさい。まだこれからよ。」
 私は『キングスナイト』の剣の切っ先を男に向けて言い放った。



  TO BE CONTINUED…

825新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 17:02
 気がついたら1384㌔バイト。ホットゾヌだとスゲー重い。

    次スレ

 立 て な い か ?

826新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 20:28
立・て・て&hearts;

827新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 21:46
ウホッ イイ次スレ

828新手のスタンド使い:2004/01/22(木) 23:39
スタンド紹介他等はカッコ内。

さ氏
>>3-5 >>6-8 >>9-10 >>11-14 >>16-18 >>19-22 >>24-29 >>30-32 >>33-36 >>38-43 >>66-69 >>90-93
>>118-125 >>133-136 >>152-156 >>179-184 >>194-203 >>209-213 >>231-234 >>235-242
>>250-260 >>279-286(>>287) (>>291-293) >>339-343 >>347-351 >>517-528 >>617-622 >>638-645
>>655-664 >>666-669 >>696-703 >>741-746 >>758-765 >>785-789(>>791-796)

番外
>>394-411 >>558-561 >>570-580 >>596-607

AA&小ネタ >>15 >>23 >>37 >>159 >>312 >>316-317 >>319 >>347 >>355-356 >>461-463 >>489-491

N2氏
>>46-49 >>50-53 >>54-58 >>59-62(>>63) >>73-76 >>77-80 >>81-87(>>88) >>111-117 >>175-177(>>178)
>>361-372 >>442-451 >>484-487 >>506-510 >>534-544(>>545-552) >>670-673 >>674-681 >>721-729(>>730)

AA&小ネタ >>110 >>360 >>483 >>505 >>533 >>553 >>673 >>720

合言葉はwell kill them!(98氏)
>>98-100(>>101) (←修正版 >>185-187) >>145>>147 >>161>>164-165 >>205-208 >>244-246>>266-270(>>271)
>>304-306(>>307) >>320-323(>>324-325) >>387>>389-390 >>417-419 >>513-515 >>567-569 >>633-637
>>708-712 >>809-811

AA >>272 >>566

丸耳達のビート氏
>>137-140 >>216-221(>>222-223) >>497-502(>>503) >>647-651(>>652) >>772-781(>>782-783)

ブック氏
>>328-335 >>374-380 >>454-458 >>584-595 >>612-616 >>623-627 >>686-691 >>713-719 >>752-757 >>821-824

( (´∀` )  )氏
>>683-684 >>704-706(>>707) >>804-806(>>807) >>812-814(>>815)

302氏
>>693-695 >>736-739 >>747-749(>>750) >>767-770 >>816-819(>>820)

SS書き氏
>>801-802(>>803)

キャットフード氏
>>189-192

829新手のスタンド使い:2004/01/23(金) 05:51


830N2:2004/01/31(土) 22:11

□『スタンド小説スレッド1ページ』作品紹介

◎本編

.      /
   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇かつて『矢の男』と親交のあったモナ本モ蔵。
男の素性に薄々感付きながらも何も出来なかった
自分を責めるモ蔵は、男を討つべく茂名王町へと乗り込む。
成り行きで青年・初代モナーと共同生活を営むこととなったモ蔵であったが、
そんな2人の元へと『矢の男』の刺客が差し向けられる!

 モナ本モ蔵と『矢』の男 その①──>>46-49
.                その②──>>50-53
.                その③──>>54-58
.                その④──>>59-63

 クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その①――>>175-178
..                           その②――>>442-451
..                           その③――>>505-510


◎番外編(茂名王町内)

   ∧_∧
  (  ゚∀゚ )
合言葉はWe'll kill them!  (作者:アヒャ作者)
◇『矢』を持つ謎の青年によって「レッド・ブラッド・スカイ」を発現させたアヒャ。
彼はその能力を活かして様々な(悪)事を成し遂げるが、
その青年との再会によって、次第に彼とその仲間達は
青年らと強大なる『邪悪』との抗争に巻き込まれてゆく…。
…のだが、本人はむしろその状況を楽しんでいる様子。

 アヒャと矢の男──>>98-101 (修正版 >>185-187)

 Runner 前編──>>145>>174
.      後編──>>161>>164-165

 オヤジ狩りに行こう。 その1――>>205-208
..              その2――>>244-246>>266-272

 ウワアアンはトイレに嫌われる その1――>>304-307
                      その2――>>320-325

 王牙高校の人々 前編――>>387>>389-390
..           後編――>>417-419

 姿の見えない変質者その①――>>513-515
.               その②――>>566-569
.               その③――>>633-636

 空からの狂気その①――>>708-712
          その②――>>809-811


   ∩_∩    ∩_∩
  (´ー`)  ( ´∀`)
丸耳達のビート  (作者:丸耳作者)
◇小さな診療所を営む波紋使い・茂名 初とその孫・マルミミ。
茂名の波紋とマルミミのスタンドによって今まで数多くの者の命を救ってきた2人だったが、
あるしぃ族の女を救ったことから2人は彼女を虐待した男達と戦うことになる。
最愛の家族を奪った者達と同じ悪を、初とマルミミの正義が裁く!

 第1話──>>137-140
 第2話――>>216-223
 第3話――>>497-503
 第4話――>>647-652
 第5話――>>772-783


   / ̄ ) ( ̄\
  (  ( ´∀`)  )
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―  (作者:( (´∀` )  ) )
◇茂名王町に左遷させられた元警視庁特別課の刑事・巨耳モナーは
辛い過去を抱えながらも日々スタンドが引き起こす事件に立ち向かっていた。
ふとした事で謎の組織の存在を知った彼は、壊滅せんと一人立ち上がる。
そして組織のスタンド使いと戦い窮地に陥った彼の前に、謎の兵器少女が現れた!?

 プロローグ――>>683-684
 幸せはやって来ない①――>>704-707
               ②――>>804-807

 赤毛の『ムック』――>>812-815

831N2:2004/01/31(土) 22:12

◎番外編(茂名王町外)

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧  |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇彼らは夜逃げが年中行事の露天商。
ある日ギコ屋は『もう一人の矢の男』に襲われ、相棒ギコをさらわれた上に洗脳させられてしまう。
彼は大切な相棒を救うべく戦うが、それが彼らの滞在する町「擬古谷町」と
「茂名王町」とをまたぐ陰謀に巻き込まれる発端となるとは知る由も無かった…。
彼らを待ち受けるものは下らないオチか、それとも…。

 アナザーワールド・アナザーマインド その①──>>73-76
                        その②──>>77-80

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①──>>81-88
                    その②──>>110-117
 Rising・Sun――>>360-372
 感染拡大.com――>>483-487
 絶対包囲.com――>>533-553

 シャイタマ小僧がやって来る! 前編――>>670-681
..                  後編――>>720-730


   ∧∧   ∧_∧
  ( *゚A゚)  <丶`∀´>
スロウテンポ・ウォー  (作者:302)
◇日本町に住む漫才コンビ、のーちゃんとニダやんは、
『矢』に刺されたことでスタンドが発現、同時に検査入院する羽目になる。
ところがそこで八頭身フーンと出会ったことによって、
2人はストリートギャング集団「ZERO」と「自警団」の抗争に巻き込まれることに…。

 イソギンチャクと最後の秒読み・1――>>693-695
.                    2――>>736-739
.                    3――>>747-750
.                    4――>>767-770
.                    5――>>816-820

832N2:2004/01/31(土) 22:13

◎完全番外編

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さいたま)

◇何も知らぬまま、普通の学生として普通の生活を送っていたモナー。
しかし、謎の行き倒れの女・リナーを助けた日から、彼の日常は狂い始める。
殺人鬼・アルカディア・吸血鬼・『教会』・『代行者』・ヴァチカン・ASA・警視庁公安五課・自衛隊・『蒐集者』…
それぞれがそれぞれの野望を抱き、モナー達はそのうねりに巻き込まれてゆく。
そして無情にも崩れ去る日常の中から、浮かび上がる真実。
彼が「楽園の外側」に見い出すものとは。

プロローグ・〜モナーの夏〜
 9月15日・その1──>>3-5
.        その2──>>6-8
.        その3──>>9-10
.        その4──>>11-14

 9月15日〜9月16日──>>16-18

 9月16日・その1──>>19-22
.        その2──>>24-29

 9月17日・その1──>>30-32
.        その2──>>33-36
.        その3──>>38-43
.        その4──>>66-69
.        その5──>>90-93

「モナーの愉快な冒険」
 影・その1──>>118-125
.   その2──>>133-136
.   その3──>>152-156
.   その4──>>179-184
.   その5──>>194-203
.   その6──>>209-213
.   その7──>>231-234
.   その8──>>235-242
.   その9──>>250-260
.   その10──>>279-287

 人物紹介・その1――>>291-293

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その1──>>339-343
.                   その2──>>347-351

 番外・ラブホテルへ行こう!――>>394-411

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その3──>>517-528

 番外・正月は静かに過ごしたい――>>558-561
                  前編――>>570-580
                  後編――>>596-607

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その4――>>617-621
.                   その5――>>638-645
.                   その6――>>655-664

 ぼくの名は1さん・その1――>>666-669
...           その2――>>696-703
...           その3――>>741-746
...           その4――>>758-765
...           その5――>>785-789

 人物紹介・その2――>>791-796

 AA&小ネタ >>15 >>23 >>37 >>159 >>312 >>316-317 >>355-356 >>461-463 >>489-491


.  ∧_,,,.
  (#゚;;-゚)
救い無き世界  (作者:ブック)
◇謂れの無い虐待を日々受け続けるでぃは、ある日突然仮の本体を求め彷徨う
謎のスタンドに身体を半分乗っ取られてしまう。
『矢』を介せずに発現した彼のスタンドをSSSと名乗る組織は自分達の監視下に置くが、
その彼らと町で暗躍するスタンド使い集団との争いに彼は巻き込まれてゆくこととなる…。

 第一話「終わりの始まり」――>>328-335
 第二話「出会い・その一」――>>374-380
 第三話「出会い・その2」――>>454-458
 第4話・交錯――>>584-595
 第五話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
 〜ポロリもあるよ〜 その1――>>612-616
.              その2――>>623-627
.              その3――>>686-691
 第八話・幕間 〜危険牌は通らない〜――>>713-719
 第九話・美女?と野獣〜その1〜――>>752-757
               〜その2〜――>>821-824


◎SS

音の戦い −テイク・マイ・ブレス・アウェイ−
                 (作者:SS書き)――>>801-803
◇激しいしぃ萌えに駆られる変態モララーは、ギコの手から彼女を奪おうと
「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」でギコを討ち取ろうとする。
絶対に負けない、と意気込む変態モララーであったが…。


※敬称略

8333−2:2004/08/08(日) 22:51
スロウテンポ・ウォー

「パニックファイトカーニバル」act.2

いくつもの鉄柱、そして壁や床一面の金属…
「ノーちゃん、気をつけな…あのニヤニヤした男、金属操作のスタンド使いだって前話したよな?
ここは奴にとって一番能力を発揮できる場所だぜ…360度、金属だらけだ」
珍しく、Dが警戒を促す。だが、それ以上に不気味なのは“かおりん”という少女だった。

黄色い人型のスタンドヴィジョン。そして、右手には巨大な槌が握られている。
あの槌が、何らかの能力を持っている事を、二人は漠然と察知していた。
それ以外、特徴らしき物がなかったので。

「あはは…“フェスタ”…貴方の能力が気になって仕方ないみたいですよ?」
その空気を察知したタカラギコが言った。
かおりんもまた、笑った。
「じゃあ、見せてあげましょうよー♪」
暢気な言葉だった。

「せーの……っ!!」
一気に前へと進み、かおりんが二人との距離を詰める。
Dは横に飛び退いて、距離を取った。
ノーは、スタンドヴィジョンを前に出し…迎撃を計る。
「エイッ!!」
振り下ろされたイエロー・パニック・タイムの槌はノーの目の前で地面を砕いた。
紙一重で、初撃を避けたノーがかおりんの横っ面に一撃を入れようとその瞬間

「うわぁああ!!」
ダメージを受けたのは、ノーの方だった。
吹き飛ばされ、スタンドヴィジョンも消えた。
「ノーちゃん!大丈夫か!!」
Dが駆け寄る。ノーの全身に、まるで散弾銃で撃たれたような痣が幾つも浮いていた。
内出血をしているようにも見える。

834新手のスタンド使い:2004/10/12(火) 17:05
ダレモイナイ・・・ヌルポスルナライマノウチ

835新手のスタンド使い:2004/10/12(火) 18:22
もなーのちんちんぬるぬるぽ!!!

836新手のスタンド使い:2005/02/02(水) 17:56:21
愚痴スレがだんだん影の権力を持ってきているような気がしてならない訳だが
どう思う?

837新手のスタンド使い:2005/02/04(金) 23:41:28

こんなところでそんなこと言われても……


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