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スタンドスレ小説スレッド

444N2:2003/12/25(木) 17:49

 時計の針が9時を指しても初代モナーは帰って来なかった。
 モ蔵は、一瞬躊躇したが、こんなボロい所に盗みに入る奴もいまいと思い、部屋の鍵を掛けぬまま郊外の倉庫へと向かった。



 何の収穫も無くモ蔵がアパートへと帰ってきたのは、結局夕方の4時過ぎであった。
 カビ臭い建物の中に足を踏み入れると、自分達の部屋から見覚えの無い女が出てきた。
 もしや鍵を掛けなかったから空き巣にでも入られたのではないか。
 青年に無断で外出し、部屋の物を盗まれたとあっては一大事だ。

 「あら…?」
 「失礼だが、お主…何者だ?」
 必死に駆け寄ると、しぃ族の女はきょとんとした表情でモ蔵の顔を覗き込んだ。
 明らかに時代を間違えた服装。
 身にまとっているのは裾模様、足元は足袋と草履。
 髪は結って後ろでまとめてあり、まさに「明治・大正の女」と呼ぶに相応しい。
 だがそれでも場違いな者に見えないのは、彼女がこの服装をごく自然に着こなしているからだ。
 恐らく、平時からこの調子で過ごしているのだろう。
 歳は30代前半に見えるが、どこか落ち着きと芯の強さが感じられる、非常に日本的で美しい女性である。
 遠くから見たのでは気付かない、その内から染み出す魅力には流石に堅物のモ蔵も一瞬どぎまぎしたが、それよりも今は素性の方が問題である。
 「私…ですか?私は、この近所の者ですわ。さう言ふ貴方は、どちら樣ですか?」
 話し方さえも、美しい。小さい頃からきちんとした躾を受けていなければ、自然とこんな話し方が出来たりはしない。
 どこか呆けたように自分の顔を眺めているモ蔵に、女の不信感も少しずつ増していった。
 「ちよつと、聞いてらつしやゐますか!?」
 「…あ、ああ、申し遅れた。拙者はつい昨日からこの部屋に住まわせて貰っておる、モナ本モ蔵と申す」
 彼女の声に眼を覚まされたモ蔵は、慌てて返事をした。
 「…本當に、あの子の知り合ひでいらつしやいますの?」
 彼女の声には、明らかに自分のことを疑っている感情が見え隠れしている。気を抜きすぎた結末だ。
 焦りを感じて完全に気を取り直したモ蔵は、改まった口調で女の問いに答えた。
 「本当のことだ。そこまで疑うなら、あの男に直接聞いてみれば良い」
 言葉の中に、先程までは無かった真剣さを感じ取った女は、それ以上モ蔵に疑いを抱かなかった。
 「…そこまでな仰るなら、きつと本當の事なのでせうね。
 變に疑つてしまつて、申し譯ありませんでしたわ」
 「いや、こちらも貴女のことを疑っており、無礼な言葉を掛けてしまいました。
 本当に詫びねばならぬのは、こちらの方であります」
 女の態度に、こちらも腰を低くせずにはいられなくなった。
 だが、どうやらこの女も嘘を申しているわけではないらしい。


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