したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

スタンドスレ小説スレッド

1新手のスタンド使い:2003/11/08(土) 01:58
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

279:2003/12/11(木) 22:21

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その10」


 半刻余りで、リナーは説明を終えた。
 リナー自身のこと。
 吸血鬼のこと。
 スタンド使いのこと。
 『アルカディア』のこと。
 『教会』のこと。
 ASAのこと。
 ただ、連続殺人の犯人がもう一人の俺であった事と、俺がじぃを殺した事は伏せていた。

「じぃは完全に吸血鬼になった為、『教会』が葬った」
 リナーは、皆にはそう説明した。
 しぃが泣き崩れる。
 そう言えば、しぃとじぃは親友だった。
 ギコとモララーもうつむいている。
 クラスメイトが死んだ。しかも、吸血鬼となって…
 彼らも、この非現実に足を踏み込んだのだ。
 俺は… 眩暈がした。胸の傷も痛い。
 じぃを思い出すたびに、俺はこの苦しみに襲われる。
 突然、ギコは顔を上げて叫んだ。
「何で、そんな事になったんだ…! アイツは、普通に生きていたはずだろうが!」
 かなり憤慨しているようだ。
 リナーは冷ややかに答える。
「原因は不明だ。だが、彼女は吸血鬼としては不可解な点が多かった。
 日光が平気だった代わりに、吸血鬼としての能力は著しく低い」
「んな事、どうだっていいんだよ!!」
 ギコは叫びながら立ち上がり…
「…悪い、あんたに言っても仕方なかったな…」
 冷静になって座った。
「それも、『アルカディア』って奴がやったっていう可能性は?」
 黙って腕を組んでいたモララーが言った。
 リナーが首を振る。
「分からん。だが、彼女を吸血鬼化したところで、『アルカディア』に得することもないだろうし…
 そんな個人単位の噂が『アルカディア』の耳に届くほどに流れたとも思えん」
 『じぃは吸血鬼の出来損ない』。
 そんな噂、当然だが耳にしたこともない。
 女同士の確執は大きいと耳にするが、そういう噂を立てたりするものだろうか?
 ふと、泣いているしぃに視線をやった。
 彼女の悲しみは本物である。
 黒い嘆きの感情が、視ようとしなくても伝わってくる。

「で、その『アルカディア』ってやつが、俺達の学校に潜伏してるかもしれないんだな?」
 ギコが、今度は幾分落ち着いたように言った。
「ああ…」
 リナーは力無く頷く。
「だが、さっき説明したとおり、ある吸血鬼の言葉からの類推だが…」
 いまいち、リナーも自信が持てないようだ。

『奴の居場所なんて、能力の性質を考えれば明らかじゃないか?
 「空想具現化」の力が存分に振るえる場所さ…!』

 あの吸血鬼は確かにそう言っていた。
「ふざけた話だな…!」
 ギコは再び憤慨しだした。
「俺達の町を、何だと思ってんだ…! アルカディア(理想郷)だと…、ふざけやがって!!」
 そして、立ち上がった。
「俺は手伝うぜ! 吸血鬼? 殺人鬼? 『矢の男』? そんな奴ら、関係ねぇ!!
 この町の誇りは、この町に住んでいる俺たちが守る!!」
 一気にまくし立てたギコに続いて、モララーが口を開いた。
「まあ、『矢の男』だった僕が言うのも何だけど…
 ここは、僕達の生まれ育った町なんだ。そんな危ない奴、放ってはおけないね…」
 どうやら、二人ともやる気のようだ。
「あの… 私も…!」
 しぃが声を上げた。もう泣き止んでいるようだ。
「学校とか道とかで怪しい人を見たら、すぐみんなに伝えるようにする…!」
「ああ、頼んだぜ。でも、絶対に危ない事はするなよな…」
 ギコは優しく言った。

280:2003/12/11(木) 22:22

「よく言うモナね。あんな夜中に二人で外をウロついてて。お熱いのは結構だけど…」
 俺は笑って言った。
 その俺の首に、日本刀が突きつけられている。
「すいません。もう言いません。このスタンドを引っ込めて下さいモナ…」
 着物を着た女性のヴィジョンは、刀を鞘に納めた。
 そして、ギコのもとへ戻っていく。
「そう言えば、スタンドに名前はつけたの?」
 モララーが訊ねた。
「ああ。これしかない、って名前があるぜ…」
 ギコは、少し言葉を置いた。

「『レイラ』だ…!」

 スタンドが女性型だけに、女の名前なのだろうか。
「由来は?」
 モララーが聞いた。
 ギコは、待ってましたとばかりに立ち上がる。
「デレク&ザ・ドミノスの名曲だ。デュアン・オールマンのギターのイントロがもう最高にカッコいいんだ。
 まあ、彼はバイクで事故って24歳で死んだんだがな…
 とにかくこの曲は、言わば『男の叫び』だ。親友をとるか、愛してしまった女をとるか、
 その苦痛、葛藤、悩みと言った感情が痛いほど伝わってくる激しい歌い方が最高に勃起モンで…」
「しぃちゃん。アレ、何とかしてほしいモナ」
 俺はしぃにこっそりと伝える。
 しぃは頷いて言った。
「それで、ギコ君なら親友をとるの? 愛してしまった女をとるの?」
 にっこり微笑むしぃ。
「おぉ!? あ… うう…」
 ギコはたちまち黙ってしまった。
 さすがだ。

「ところで、『矢』の事なんだけど…」
 モララーが口を開いた。
「そう言えば、あの『矢』はどこへ行ったモナ?」
 確かリナーがC4を仕掛けて、爆発に巻き込まれたはず…
「僕が持ってるよ」
 モララーは、見せびらかすように『矢』を取り出した。
 あの爆発でも無傷なんて、どれだけ頑丈な『矢』なんだ。
 もっとも、それはモララー自身にも言えたことだが。
「それは、どうするつもりだ?」
 リナーが訊ねる。
「嫌じゃないなら、君に預かっててもらいたいんだけどね。
 『矢の男』にとっては命より大切なんだろうけど、僕にとってはただの骨董品だ」
 モララーは嫌そうに言った。
 正直、見たくもないのだろう。
「分かった。私が保管しておこう。無駄にスタンド使いを増やすこの『矢』は危険すぎるからな…」
 リナーは『矢』を受け取ると、服の中にしまった。
 いつも思うのだが、あの服はどういう仕組みになっているのだろうが。
 是非、脱がしてみたいところだ。いや、変な意味じゃなく。

281:2003/12/11(木) 22:22

「最後に… 一つ、聞きたい事がある」
 ギコは、真剣な目でリナーを見据えて言った。
「何だ…?」
 リナーもギコの目を見返した。
 それを受け、ギコは口を開く。
「しぃ助教授と戦ってた時に使ってた銃、ひょっとしてCz75の初期型じゃないか…?」
 リナーの目が一瞬輝いたように見えた。
 懐にから銃を取り出すと、無言でギコに投げ渡す。
 それを一目見て、ギコは嬌声を上げた。
「ウオー! やっぱりそうだ!! この、まるで手に吸い付くようなグリップ…!」
 いきなり、俺の方を見るギコ。
「いいか、モナー。このCz75はな、チェコスロバキアの国営銃器工場が開発した9mm自動拳銃だ。
 その命中精度の高さもさる事ながら、人間工学を考慮したグリップは『まるで手に吸い付くよう』と評され、
 世界有数の名銃と称されたんだよ…!」
「そ、そうモナか…」
 俺は呆気に取られていた。
 リナーの同類がこんな身近なところにいたとは…
「銃とは、テクノロジーの産物でありながら芸術品だ。優れた銃というのは、洗練された機能美と様式美を併せ持っている」
 リナーは腕を組んで言った。
「あんた…話が分かるな…!」
 ギコは嬉しそうに言った。 「他には…! 持ってたら、見せてほしいんだが…」
「これなんかどうだ?」
 リナーはスカートから拳銃を取り出した。
 そして、ギコに渡したCz75とやらと交換する。
「おお! ザウエルP220!! しかも、自衛隊モデル!!」
 ギコは大はしゃぎしている。
 しぃとモララーも、口をポカーンと開けて固まっていた。
「そ、それもスゴいモナか…?」
 突っ込み役は俺しかいないようだ。
「スイスのシグ社とドイツのザウエル社が共同開発した軍・警察向けの自動拳銃だ。
 SEALで使用されるほど性能がいい。多くの特殊部隊でも扱っている逸品だ。
 改良型のP226は、『X−FI●E』のモ●ダー捜査官が使ってたので有名だな」
「変り種だと、これなんかどうだ?」
 リナーはさらにサブマシンガンを取り出した。
 あれは確か、車が『矢の男』に追われていた時、俺が迎撃に使用した銃だ。
「それも、有名な銃モナか?」
「何言ってんだ、ゴルァ! このP90は『拳銃弾より貫通力に優れ、突撃銃より取り回しの良い銃』っていうアメリカ陸軍の
 ニーズに応えてFN社が開発した名銃だぞ!!」
「そ、そうモナか…」
 俺はただ圧倒された。ギコの話はまだ続く。
「P90は専用に開発された新型弾を採用してる。この弾は、ライフル弾を小型化した様な鋭利な形状をしてるから
 貫通力に優れ、なおかつストッピングパワーにも優れてるんだ」
「欠点は、弾丸が高いということだな…」
 リナーは口を挟んだ。
 今の言葉は、何も考えずに撃ちまくった俺に対する当てつけだろうか。
「じゃあ、デザートイーグルなんてどうだ?」
 リナーは背中からバカでかい拳銃を取り出した。
「重っ! しかも、50AE弾モデル!!」
 それを受け取って大はしゃぎするギコ。
「1発だけなら撃ってもいいぞ」
 リナーは恐ろしい事を言い出した。
「ええっ! 本当か!!」
 ギコはガラガラと窓を開けると、空に向かってブッ放した。
 耳をつんざくような銃声。
「片腕で撃ったから肩が外れちまったよ! 最高だぜゴルァ!!」
 片腕をプラプラさせながらはしゃぐギコ。
 もう、こいつらにはついていけない。

「ところで、君は刀には興味があるか?」
 リナーは話を変えた…のか?
「そりゃもう。俺は剣士だぜ!?」
 ギコは銃をリナーに返しながら言った。
「じゃあ、これを君にやろう」
 リナーは、鞘に納まった一本の日本刀を差し出す。
「『一本』って何だ!! 刀は、『一振り』って数えるんだよゴルァ!!」
 ギコは、とうとう俺のモノローグにまで文句をつけ始めた。
 そして、厳かに受け取るギコ。
 軽く一礼して、刀を鞘から抜いた。何と言うか、刀を見る目がヤヴァイ。
「どうだ? 四つ胴の最上大業物だ」
 リナーは誇らしげに言った。
「本当に… もらってもよろしいのでしょうか…」
 なぜかギコは敬語だ。それに答えて無言で頷くリナー。

282:2003/12/11(木) 22:23

「おいモナー見てみろよ、この美しさを…」
 ひとしきりリナーに礼を言った後、ギコは言った。
 俺は、仕方なく刀身に顔を近づける。
「何すんだ、ゴルァ!!」
 いきなり、ギコのスタンド『レイラ』に棟打ちをかまされた。
 今のは罠か。
 見ろと言われたから見ただけなのに…
「刀身に息をかけるんじゃねえよ!!」
 ギコは大声を上げた。殴った理由はそれだったらしい。
「武士が刀を見る時、口に紙をくわえるだろ。あれは、刀身に息がかからないようにするためだ!!」
「それはごめんモナ…」
 俺はなぜか謝った。
「それにしても、いい刀だな… 四つ胴ともなると、輝きが違う…」
 ギコはうっとりと言った。
 そして、俺の方をチラリと見る。
「『四つ胴』というのは、切れ味を示す単位みたいなもんだ…」
 えー! 聞いてないのに、しゃべりだしたー!!
「まあ、死体を四つ重ねて真っ二つにできるって事だな。試し切りの指針でもある。
 最高記録は『七つ胴』なんだが、ここまで来ると使い手の腕の方が問われてくるな。
 もちろん現在は、そんな死体で試し切りなんてできないが…」
 ギコは刀身を見てニヤリと笑った。
 もしこの町に辻斬り事件が起きたら、犯人は間違いなくこいつだ。
 ふと見ると、モララーとしぃはすでに床に転がって眠っていた。
 よほど疲れていたのだろう。
 俺も、この2人につきあっていると無駄に疲れる。
 ふと時計を見る。もう、朝の6時だ。
 結局、一晩中起きていたことになる。
 そのまま身体を横たえた。
 たちまち、意識が遠のいていく。
 そして、俺は眠りに落ちていった。
 夢か現か、ギコの嬌声と銃声が遠くから何度も聞こえてきた…

283:2003/12/11(木) 22:24

 目が覚めた。
 何故か、自分の部屋のベッドで寝ていた。
 無意識に移動したのか、リナーに運んでもらったのか。
 俺は身体を動かそうとした。
「ウボァー!!」
 雷に打たれたように、全身に激痛が走る。
 昨日あれだけのダメージを受けたのだ。
 リナーに治療してもらったものの、肉体にかなりの負担がかかっているのだろう。
 時計を見ると、午後1時。
 あれから、7時間近く寝ていたことになる。
 まあ、今日は日曜日。特に問題は無い。
 そう言えば、ギコやしぃはどうしたんだろう。
 俺はフラフラと起き上がると、居間へ向かった。

 居間には、ガナーとしぃがいた。
 二人は、『ぷよぷよ』などという懐かしいゲームをやっている。
「あ、お邪魔してます!」
 しぃは、俺に気付くとペコリと頭を下げた。
 ああ。彼女はしぃじゃなくて、しぃの妹だ。
 ガナーと仲が良く、たまに家に遊びに来ている。
「ああ、いらっしゃいモナ」
 俺は居間を見回しながら言った。
 どうやら、ギコ、モララー、しぃは3人とも家に帰ったようだ。
 俺は欠伸をして目をこすった。
「兄さん… いくら日曜だからって、寝過ぎじゃないの?」
 うるさい。お前の誇るべきお兄様は馬鹿な友人のために夜の町を疾走していたのだ。
「リナーは?」
 俺は訊ねた。
「はあ… 起きるなりそれですか。お熱いですね…
 なんか『昨日の夜は久し振りに疲れた』って言って、部屋で寝てるみたいだけど…」
「リナーって誰?」
 しぃ妹は興味津々でガナーに訊ねた。
「ああ。兄さんの彼女で、今この家に住んでる人」
 ガナーはとんでもない回答をする。
 当然のごとく俺は慌てた。
「ちちち違うモナ!」
 ニヤけながら否定する俺。
「はー、そーですか…」
 その様子を見て、しぃ妹もニヤニヤしている。
 そして、思い出したように言った。
「そう言えば、お姉ちゃんも今日は朝帰りだったなぁ…
 帰ってくるなり、すぐ寝ちゃって… ギコさんと、どこで何やってきたんだか…」
 やはり、みんな疲れているのだろう。
 まあ、当然か。
 俺ももう少し眠ることにした。
 居間から出ようとする俺の背中に、ガナーは語りかけた。
「ところで兄さん。昨日の明け方、花火してる人いなかった? うるさくて目が覚めちゃった…」
「ああ、馬鹿はほっとくモナ」
 俺は部屋に戻ると、再び床についた。
 そう、夕食まで一眠りする予定だった。
 だが、思った以上に俺の身体は睡眠を欲していたのだろう。
 次に目を覚ましたのは、なんと月曜の朝だった。

284:2003/12/11(木) 22:24

          @          @          @


 静かな夜の繁華街を2人の男が歩いていた。
 一人は作業服のようなツナギ。ハンサムの部類に入るのだろうが、異常なほど濃い顔をしている。
 もう一人は、ピエロのような奇抜な服装をしていた。服の赤と黄色のコーディネートが目に優しくない。
 また、真っ赤なアフロも不気味だ。
「平和だねェ…」
 ツナギの男は周囲を見回して言った。
「この町に吸血鬼が集まってるなんて、嘘みたいだ……な!」
「…」
 ピエロの扮装をした男の返事はない。
「まあ、昨日はあれだけの騒ぎがあったからな。人影もまばらか…」
「…」
 ピエロは横目で睨んだ。
「愛想ないねェ、『破壊者』さんよ。もうちょっとコミニュケーションを取ろうって気はないかい?
 男は度胸! 何でも試してみるのさ」
「黙ってろ、『調停者』」
 『破壊者』と呼ばれたピエロの男は、不機嫌そうに呟いた。
「やれやれ、つれないねぇ…」
 『調停者』と呼ばれたツナギの男は、軽く肩をすくめる。
「それにしても…最後に戦った場所は、ここからはるか遠い。よし、いい事思いついた。そこらの車に乗せてもらおうぜ」
「…そうしよう」
 『破壊者』も異論はなかったようだ。
「よしきた!」
 『調停者』は再び周囲を見回した。
 新車と思しきリムジンが目に止まる。
「ウホッ! いい外車…」
 『調停者』はそのリムジンに近付いていった。『破壊者』が後に続く。
 そして、『調停者』はリムジンの後部座席のドアを開けた。
「あの、そこの貴方… 何をしておられるのです…?」
 ガタイのいい男が、『調停者』の肩に優しく手を置いた。
「この車は、モナソン・モナップス上院議員の所有物です。そちら様にもいろいろ事情がおありでしょうが…」
 『調停者』の肩に手を置いた男は、顔に似合わず丁寧な口調でそう言った。
 見れば、右腕にギプスをはめている。
「いいのかい? 俺の肩に手なんか置いて…
 俺はノンケだってかまわず食っちまうような男なんだぜ…!」
「で、ですが…」
 男はなおも食い下がる。
 『破壊者』はその男の腕を掴むと、時計回りにねじった。
 バキバキと音を立てて砕ける男の骨。
「おおお、おどお……ぢゃ………ん」
 呻きながら、男はその場に崩れ落ちた。
「おお、ありがとさん」
 『調停者』と『破壊者』はそのまま後部座席に乗り込んだ。
 そこには初老の紳士が座っていた。何故か前歯が二本ほど欠けている。
「お前ら、表へ出ろ」
 『破壊者』は、紳士に向かって言った。
「おいおい、外へ出してどうするんだい」
 『調停者』が口を挟む。
「いい事思いついた。お前、運転しろ」
「はいィ! どこへなりとも、運転させて頂きマスゥ…!!」
 紳士は敬礼のポーズを取ると、運転席へ飛び乗った。
「このまま真っ直ぐだ。しっかり運転してくんな…」
 リムジンは、2人を乗せて走り出した。

285:2003/12/11(木) 22:25

「…この辺でいい」
 『破壊者』は車を止めた。
 2人は車から降りる。
「ウホッ! 大した有様だねェ…」
 『調停者』は思わず声を上げた。
 周囲のアスファルトは剥がれ、土が剥き出しになっている。
 ところどころにクレーターができ、木は一本残らずなぎ倒されていた。
「これだけ派手にやったんなら、『矢』もブッつぶれたんじゃないか?」
 『調停者』が周囲を見回す。
 『破壊者』が周りを調べようとした時、僅かな違和感を感じた。
 微かな空気の淀み。
 近くに、誰かがいる。
「――お前ら、表へ出ろ」
 『破壊者』は夜の闇に呼びかけた。
 闇から、青年が姿を現す。その青年は親しげに二人に声をかけた。
「久し振りですね。こんな極東で顔を合わすなんて、奇遇なこともあるものだ…」
 十字架が刻印された季節外れのロングコートに、『破壊者』は見覚えがあった。
「お前、『蒐集者』か…!」
 青年は笑みを浮かべる。
「ここには、もう何も残っていませんよ。『矢の男』もここで潰えた。あの『矢』も、『異端者』達が持ち去ったようです」
「チッ… あの女か…!」
 『破壊者』は舌打ちして呟いた。
「それより、あんたは何してるんだい?」
 『調停者』が言った。
「私ですか?」
 青年は可笑しそうに言った。
「『教会』を離反したあんたが、こんな辺境の国で何をしてるのか、って事さ」
 『調停者』の語気が荒くなる。
 それとは裏腹に、青年は微笑を浮かべた。
「…実験ですよ。この国は、私の実験場ですから」

「Dr.モローを気取ってるって訳かい…」
 『調停者』は鼻で笑う。 「でも、あんたにしゃしゃり出られると困るんだ…!」
 青年は軽く肩をすくめた。
「確かに私は『教会』から離れた身でが、完全に切れてしまった訳でもありませんよ。
 私の行っている『実験』は、『教会』にとっても有益だ。
 だからこそ、この国での私の行動がヴァチカンに黙認されてるんですよ」
 この男なら、黙認されようがされまいが関係なく『実験』とやらを行うだろう。
 『破壊者』はそう考えていた。
「さらに言うなら、この国のスタンド対策局の相手をしているのも私です。
 私の存在のおかげで、対策局の注意があなた達に向かないのをお忘れなく」
「ハッ!」
 『調停者』は再び鼻で笑った。
「色男さんよ。そういう、あんたの鼻につくところが気に入らないんだ。
 このままじゃおさまりがつかないんだよな…」
 『調停者』は一歩前に出た。
「やめとけ」
 『破壊者』は、『調停者』の肩を掴む。
「お前は知らんだろうが、こいつには誰も勝てん」
 『調停者』は振り向いて言った。
「でも、俺とアンタの二人がかりなら…」
「誰にも勝てんと言った。例えASAの三幹部と言えども、あいつを殺す事は絶対にできない」
 青年は二人の会話を楽しそうに聞いている。
 『調停者』はなおも言った。
「でも、『蒐集者』ってのは、吸血鬼の殲滅数は9人の代行者の中でも最下位だったじゃないか?」
 『破壊者』は首を振る。
「我々代行者の存在というのは、法王庁という組織内の暗部だ。その代行者の中のさらに暗部に関わった奴が、
 あの『蒐集者』だ。迂闊に触れると火傷じゃ済まん」
 普段無口のはずの『破壊者』が、やけに饒舌だ。
 それだけ、『蒐集者』と向かい合うというのは異常事態なのだろうか。
「分かった。そんなに言うならやめとくよ。俺はな…」
 『調停者』はようやく折れた。
「そう、かっては私達は仲間でした。穏便に行きましょう…」
 その言葉が、さらに『調停者』を苛つかせる。

286:2003/12/11(木) 22:25

「本来なら、今日辺りにあんたが『矢の男』を倒す予定だったんじゃないか?」
 話が途切れた隙を見て、『破壊者』はそう言った。
「その通りです。ですが、『異端者』とその一派が頑張ったおかげで、私の出番がなくなってしまった。
 まあ、それはそれで面白い。明日にでも、彼らと接触するとしましょうか。『矢の男』の力も、是非欲しいですしね…」
 青年は楽しそうに言った。
「そういう訳で、あなた達が上から指示されている『矢』の回収の任務は反故にして結構です。
 『教会』には私から話をつけますから。あなた達は当初通り、この町の吸血鬼殲滅に精を出して下さい」
「チッ!」
 『調停者』は、わざと青年に聞こえるように舌打ちした。

「最後に聞きたいんだが…」
 『破壊者』は口を開いた。 「あんたの最終目的は何だ?」
 少し考えて、青年は答えた。
「真実の探求ってとこですか…」
「真実?」
 『調停者』は聞き返す。
「『神は死んだ』んですが、その行く末を確かめたくてね…」
 青年は、代行者にとっての禁忌を口にした。
「それは、哲学者かぶれの言葉か? それとも、文字通りにとっていいのか?」
 『破壊者』は問い詰める。
「おっと、失言でした。あなた達は、カタチだけは聖職者でしたね」
 青年は笑顔を崩さずに言った。

 ―――この笑顔は作り物だ。 
 そう直感しつつ、『破壊者』は言った。
「お前は、神になるつもりなのか…?」
 首を振る青年。
「そんなものになる気はありませんよ。殺されるだけですからね」
 『破壊者』も、『調停者』も黙ってしまった。
 その言動は、明らかに狂気の色を帯びている。

 青年、いや『蒐集者』は両手を大きく広げた。
 ロングコートが風で大きくはためく。
「素晴らしくないですか? 被創世者が創世者を抹消する妙味。
 その存在領域を区切られ区切られ区切られ、ガリレオにダーウィンにフロイトに区切られ
 宇宙の中心の座を失い非直系という孤独に追いやり個々の支配という手綱さえ外され
 ホーキングにハートレに区切られ区切られ区切られ区切られ
 特異点を持たない『無境界宇宙』の存在で神はとうとう宇宙開闢の瞬間からも追いやられた。
 そう、『神は死んだ』。『ラプラスの悪魔』と共に神は死んだ。
 アルベルト・アインシュタインですら神を守れなかった。
 決定論に生きる神は、サイコロ遊びをしない亡霊だ!!
 おお、父よ。幾ら願えども、汝の御名すら崇められない!!
 残ったのは人間だけ …笑えるでしょう。今、神の名を口にするのは背信者のみ。
 なら、最後まで見届けるべきじゃないですか?
 『エデンの庭』を出てしまった人間が何を目にするのか。
 この胡乱な世界は、悪魔も神も介在しない世界はどこへ行くのかを…
 過程そのものが妙味。故に私は『蒐集』します。
 磐石をもって神にあらず、輪廻をもって神となす。
 そう、この国の神話にもありましたね。
 私は、認めませんがね…
 アハハハハ ハ ハ  ハ   ハ――――」

 狂ったように笑い続ける『蒐集者』
 ああ、この男は壊れているのか…
 『破壊者』はそう考えていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板