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持ち帰ったキャラで雑談 その二
552
:
ニューアース戦線異状あり
:2010/04/04(日) 18:59:04 ID:yCCO/INw0
惑星ニューアース…新たな第二の地球。
メタリオン星系内で見つかったこの新たな惑星は、
このニューアースを一番最初に見つけたグラディウスの領地となる。
そののち銀河帝国が同惑星の監視目的を理由としていろんな場所に基地を建造した。
これによりニューアースでの治安は格段にあがり、賊が現れることもなくなった。
そんな折、オーストラリアのグラディウス軍キャンベラ基地からの連絡が突如途絶える。
近くのシドニー基地からキャンベラ基地へ向かった偵察部隊はキャンベラ基地にたどり着いた。
そこで彼らが見たものはマルセル・ブリュノー基地司令官が同胞に同胞を殺すことを命じている場面だった。
そしてただちにシドニー基地司令官、ジャック・ブールジェに対し連絡を入れた。
『ブリュノー基地指令、謀反の疑いあり』、と―。
553
:
悪夢と空
:2010/04/23(金) 15:10:50 ID:9xAUmk0wO
鉄の臭いを孕んだ熱い風が髪を揺らす。
燃える音に首をそちらに巡らせれば、黒く焼かれていくモノと目があった。
ああこれは夢なんだと、動かない体を何とか動かしながら、立ち上がる。
動くものは、もうなかった。
相も変わらず、嫌な夢だ。
机から上半身を引き剥がしながら、後ろへと伸びる。
午後の睡魔に負け、そのまま机に突っ伏したせいか、体があちこち痛んだ。
それでも夢が見せた光景が胸のなかでドロリとした嫌なモノへ変わるよりは幾分マシだった。
戦争に行った兵士が何度も見ると言われる戦場の悪夢も丁度こんな感じなのかもしれない。
そんな考えに被りを振ると鞄の中へ手早くノートをしまい、席を立つ。
ふと窓から見上げた空は、アサヒの心のようにどんよりとした色をしていた。
554
:
はいたいロジーナさん
:2010/05/04(火) 10:29:33 ID:CZlxNRik0
とあるひょんなことで沖縄にしばらく滞在することになったロジーナさん
最初は嫌がっていたが暖かい気候と泡盛のおかげでそんな憂鬱気分もどこかへ消えていた。
そこへエリが仕事がてらロジーナのとこへやってきた…
エリ「はいたい!よおロジーナ 近所で噂になってたぜ
お前昨日近所の人と飲み比べやって勝ったんだってな
でさ、中身が残ってる三合瓶が欲しいんだが…」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私が三合瓶程度の残してると思う?
私のことは結構知ってるでしょエリ?」
エリ「じゃあさ!三合瓶はいらんよ 一升瓶をくれ」
エリは怒ったロジーナに追い出され、また次の日にやってくることにした。
エリ「はいたい!やあロジーナ!昨日は悪かったな
さっきロジーナを嫁にもらいたいと思ってる人が歩いていたぞ」
ロジーナ「あらあらエリ、どうしたの 私がそれを受けると思う?
しかもその人知ってるし…子供のくせにませてるわねぇ」
エリ「じゃあ二十歳三十路すぎて白髪になってきたらいいのか?」
エリは『私は百合よ!』と怒ったロジーナに追い出され、
そしてそのまま沖縄を後にした…
555
:
五年の月日
:2010/05/07(金) 05:31:33 ID:UMut5za.0
深夜、誰も居ないはずの台所
夜の誰もかもが寝静まった時間に似つかわしくない音が響いていた
湯の沸く音、焜炉の火の音、何かを切る音…
そしてそれらは少しの時間の後、ぴたりと止まった
「今日の夜食はもうこれでいいや」
手元に簡単ながらも食欲をそそられそうなペペロンチーノを手にしているのはこの家の主、如月ダーク
…尤も、今の彼はダークという呼び名を変えたいと思っているのだが…
どうやら小腹が空いたのか、夜食を作っていたようだ。
(夜食にペペロンチーノを自作するとか言うのもちょっとあれかもだが自分にとってはいつものことであるby中の人)
そして冷蔵庫の中から瓶を一本取り出し、静まりかえった食卓に座る
夜遅くに、一人で、静かに食べる
これは彼のささやかな楽しみである
自作のパスタを味わいながら、冷蔵庫の中から取ってきた瓶を見る
・・・どうして、この家にはこういうものが多いんだろう
そう思いながら瓶の蓋を開け、中の液体をグラスにわずかに注ぐ
グラスの4分の1ほど注ぎ、一呼吸おいてから一気に飲み干す
…口の中にツン、とくる何か
昔ほどではないが、どうしても好きにはなれない感覚
「えっ」
ふと声がした方を向くと、そこにはエリアの姿が
「ちょ、だーく?」
普段から顔を合わせ、親しくしているはずの彼女が物珍しげな顔でこちらを見ている
「えっと、それって・・・」
まぁ、驚くのも無理はない
だって、今ちょうど口にしているのは…
「お酒、だよね?」
そう、酒だからだ。
「まぁ、そろそろ自分もあれだしな。 最低でも嗜む程度には飲んでおこうと思って。」
口直しに水を飲みつつ、酒に関しての言い訳をする
まぁ、酒飲んで言い訳するというのはこの二人にとってはとても珍しい光景ではあるが…
「あれって?」
「…もうすぐ、自分の誕生日だよな?」
ダークの誕生日は5月8日、最早明日が誕生日である(これを書いている時点で)
「うん、でもそれが・・・、あっ」
「5年って、早いな」
5年、それはダークとエリアが出会ってからのおおよその年月である
実際にはヶ月単位での誤差はあるがそこは気にしないでおくことにする
「うん、そだね。 もう・・・そんなに経つんだね」
少しの間沈黙が続く。
「ねぇ、ダーク」
「・・・何?」
「これからも、好きで居てくれる?」
「…うん。」
「・・・ん、ありがと。」
たった、これだけのやり取り。
それだけでも、二人には十分だった。
「ん・・・っ」
突然、本当に突然、ダークはエリアを抱きしめた。
「え、ちょっと、ダーク?」
「えと、酔ったかも…」
「酔ってないくせに」
「ばれたか」
どちらから、というわけでもないが二人して笑い出す。
「もう、ダークったら嘘が下手すぎ!」
「ごめんごめん」
「もう・・・、今日だけよ?」
「いいの?」
「嘘、やっぱダメ」
「何だよそれ」
「あはは…っ」
「はは…っ」
長いようで短かった年月、だが彼らの終点はまだまだ遠い
これから二人がどうなるのかは、運命すら知らない…
556
:
一線
:2010/05/18(火) 20:02:56 ID:04/tEyAAO
長らく開かれなかった扉は、半ば開いた所で蝶番から外れるという形で自らの役目を放棄した。
溜め息を手に残った扉と共に乱暴に室内へと倒すと、黴と埃の臭いが舞い上がった。
典型的な古い空き家の臭いなのかもしれないと足を踏み出しかけ、つと床を見下ろす。
倒れた扉に不満を言うかのように、床がミシミシと声をあげていた。
失敗したと頭を振り、フワリと地面から浮き上がった。
昔、とある富豪の一家が召し使いを巻き込んで心中をしたらしい。
原因は本人達が居ない今となっては知る術もない。
ただ、一家と召し使いは今も家にとどまり続け、入り込む全ても喰い散らかした。
面白半分で入る者に家に残る物品を頂こうとする盗人、或いはどこぞの教会から送り込まれた神父。
ほとんどが翌朝には家の前で屍を晒し、命からがら逃げた者も無惨な最後をとげた。
依頼主は、そんな者達の遺族の一人だった。
557
:
一線
:2010/05/18(火) 20:30:38 ID:04/tEyAAO
フワフワと廊下を進み、かつての応接間とおぼしき部屋へと踏み込む。
盗人が持ち出そうとしたのか、値打ちのありそうな物がどす黒く変色した床に転がっていた。
黴が生え、書いてある内容すら判別出来ない本が並ぶ本棚を一瞥し―妙なものを見つける。
およそこの場所には不釣り合いの真新しい背表紙をした本が変色したそれらの間に収まっていた。
好奇心は猫を殺す。そんな言葉を思い浮かべながら、どのみち読んでも読まなくともここに住み着くモノは姿を見せるだろうからいっそ読んでしまおうかと足で本棚を横へ蹴った。
ぐらりと押し潰すように倒れてくる本棚を避けることなく、じっと見上げ―
真下に散らばった本の残骸と元本棚に溜め息を付き、面倒そうに本棚に隠れていた場所を見た。
人を壁際に立たせ、潰せばこうなると言わんばかりのものがそこにあった。
それらがうめき声をあげながら、壁から手を伸ばす様に冷ややかな視線を投げ、廊下へと戻る扉へと進んだ。
故人は家に憑いたものを祓う為に赴き、非業の最期をとげたらしい。
依頼内容はその故人の遺品を回収する事だった。
558
:
一線
:2010/05/21(金) 18:47:04 ID:TrGldRnwO
まただ。
廊下の向こう側からこちらを伺う気配に背を向け、気付いた素振りを見せずに辺りを見た。
後から侵入をした者か。それとも、この家に憑いたモノか。
いずれにしろ、こちらに好意的な存在ではないだろう。
無関心を装いながら、手近な扉へ手をかけた。
扉の向こうには年頃の少女が好みそうな家具で揃えられた一室だった。
タンスの上にはむくむくとしたぬいぐるみが、ベッドの枕元には小さなオルゴールが置かれていた。
妙な違和感を覚えながら、ふと板が打ち付けられた窓へ目が向く。
…おかしい。この家の窓は外側から封じられている。だが、この部屋は中から板が打ち付けられている。
嫌な予感を感じながら、不釣り合いなその窓の下で何かが光る。
いぶかしみながら、それに近付き、手を―
「―っ!」
ベッドの下から何かが足に絡み付き、バランスを崩した弾みに肩を強かにぶつけた。
手だ。暗がりへ引き込もうとする小さな手がそれに見合わない力で足を掴んでいた。
引き込まれればどうなるかは、想像はしなかった。
死んでやるつもりは、毛頭ない。
559
:
一線
:2010/05/27(木) 19:58:37 ID:0TdFPlesO
袖に仕込んでいたナイフを床に突き立て、空いた片手でポーチからまさぐり掴んだ物をベッドへ投げつけた。
球状のそれがベッドの下へとバウンドし…激しい閃光が辺りを照らし出す。
目を閉じてもなお目がくらむ程のそれに怯んだか、足を掴んでいた手が弛む。
そのチャンスを逃す訳もなく、動かせる片足で床を蹴り、跳ねる様に窓側へと飛ぶ。
背中を壁に押し付け、残っていたもう一本のナイフを構える。
「………」
光が収まる頃には室内の様子は他となんら変わらない、廃屋の一室へ変わっていた。
息を付き、床に突き立てたナイフを引き抜き、袖の中へと収める。
(そういえば、さっきの…)
何かを踏んでいる感触に足を上げると、鎖の千切れたロケットが転がっていた。
間違いない。これが依頼者の探していた遺品だろう。
ようやくそれを拾い上げ、後は帰るのみとなった時だった。
560
:
一線
:2010/05/27(木) 20:18:25 ID:0TdFPlesO
ペタリ…ペタリ…
廊下を何かがゆっくりと這ってくる様な物音が耳に届く。
閉じられた扉越しに聞こえる音は確実にこちらに近付いてきている様で、思わず扉からあとずさる。
このまま強行突破、は賢い選択ではない。ナイフ二本で抵抗するにしてもたかが知れている。
窓や壁を壊す事も恐らく不可能に近いだろう。
万事休すと天を仰いでみようか。
自虐的な笑みを浮かべながら、上を見上げると―
「と…と…うぅん、何か違うわな」
頭を掻きながらうめく彼女にゼロツーは興味も持った素振りを見せずにぼんやりとしていた。
「適当で良くはないのか?」
「とは言っても…なんというか、どうにかいい感じに終わらす事が出来ないのよ。
いや、さ、『任務は無事遂行されました』って書けばよかったんだろうけど」
今後の事例のためにも読み物的に残しときたいしぃ、と紙から目を動かさない彼女にゼロツーは大きく息をついた。
「…この話はフィクションだから不死かそれに近いモノ以外は真似はするなーでいいと思うがな」
一人うめく彼女を置いて、彼は目を閉じた。
561
:
危機
:2010/05/29(土) 11:23:36 ID:D.1NQMFg0
メタリオン星系に浮かぶ蒼い惑星グラディウス。
少し前に皇帝ラーズ72世が自ら退位し、その後継としてラーズ73世が即位したばかりだった。
ラーズ73世になってから退位したラーズ72世が国防省に移籍し、
ビックバイパーT-302B(Bomber)の製作、そして兵器擬人化勢の増強に力を入れることになる。
そして目覚ましい発展を遂げている新興国バクテリアン帝国―。
かつてはグラディウスの敵であったが今では和解したという歴史を持つ。
農業と工業、二つの顔を持つ惑星で建艦技術に関してはメタリオン一だとも言われている。
また兵器擬人化勢が国民の三割を占めているため、有事の際には強い国だともいわれている。
だが今までに製造されていた洗練されしきった宇宙戦艦は手を加える余裕がなく、
新しく新造されている艦はその全てが今まであった型のであった。
そんなある日、メタリオン星系外から全長15kmを超えるとてつもない大きさの宇宙戦艦がやってきた。
グラディウス軍はすぐに国中に警報を発令し、一般人には外出禁止令が出された。
同時に数千機ものビックバイパーがグラディウス中の飛行場から飛び立った。
そしてグラディウス空軍基地本部からその戦艦に対し警告が送られた。
―すぐさま引き返されたし、さもなくば攻撃を辞さん―と。
バクテリアンも同様のようで、何回もその謎の戦艦に警告を送っていた。
だが返事は無かった。反応もなかった。ただ進むだけだった。
そしてバクテリアン帝国大統領ブリュンヒルデによって、攻撃命令が下された。
―我等の地に無断で入ってきた者に制裁を加えよ―と。
ラーズ73世も攻撃命令を下し、巨大戦艦への攻撃を開始した。
だがいくら攻撃をしても反撃をする様子がない。
そこで擬人化勢に頼んでもらい『入口』を作ってもらったのだ。
そしてグラディウス、バクテリアン両国の合同調査団を乗せた輸送艦が
その『入口』の中に入ろうとしたその時、戦艦から赤いレーザーが全方位に向けて放たれる。
赤いレーザーは輸送艦やビックバイパー、コアを貫通し、破壊していく。
その時、初めて戦艦側から初めて通信が送られて来た。
―我らはヴォリスキー宇宙帝国、グラディウスとバクテリアンの民よ
我等の支配下にはいるか、我等に焦土とされるか撰ぶがよい―と。
562
:
頼もしきもの共
:2010/07/03(土) 23:27:17 ID:B4wirlRUO
彼が入口をくぐった時には行き届いている筈の冷気は店内に集まった人々の熱気に押され、既に部屋の隅で縮こまっている様だった。
所々で響く乾杯の声とゴブレットの打ち鳴らされる音が陽気な男達が奏でる音楽と混ざり合う中へと分け入り、辺りを見回す。
それに気付いたのか、人だかりから手が生える。
人々に詫びを入れながら、そちらに向かえば、黒い長髪の女が並々とトランプを手ににんまりと笑っていた。
「フルハウス」
パサリとテーブルに役を晒し、男達が落胆の声を上げるなか、彼への挨拶のつもりか、ゴブレットを掲げる。
「意外に早かったわね」
「どなたかが早く来いと仰っていましたからね」
「おやまぁ」
笑いを堪える様に酒をあおる。
「酷い輩が居るものね」
一息に中身を干すと、女は意地悪そうな笑みを彼へと向けてきた。
「えぇ、えぇ、全くです。その方がもう少し自重してくだされば、私も楽になれますよ」
運ばれてきたギジュー・シチューに悶絶する同僚に心の中でエールを送りながら、言葉に多少の嫌味を込める。
それに女が顔を押さえて笑う。あのゲテモノを頼んだのは貴女ですか。
頭痛を覚えながら、手近な席に腰を下ろせば、酒の注がれたゴブレットを差し出される。
それを差し出す女は彼に受け取る様に顎を動かす。
断わりきれずにそれを受け取ると女は空になった自分のへと酒を満たし、声を上げる。
「私の愛すべきクソッタレ共!今夜は私の奢りだ!ぶっ倒れるまで付いてこい!」
ヤジやら口笛やら飛び交う中で呆れた様に息をつき、席から立ち上がる。
こうなればヤケだ。明日も非番だ、今夜はとことん飲んでやろうではないか。
「我等が帝国の繁栄に!」
『我等の麗しき黒い月に!』
『乾杯!』
女の音頭にゴブレットは打ち鳴らされ、場は最早どうしようもない程に崩れていく。
呆れながら、ノドへと流し込んだ酒はどこか心地良さを誘っていた。
563
:
通話
:2010/08/21(土) 00:18:12 ID:HCSgDpJIO
着信を告げる音が静まり返った木々の間に谺する。
モニターに写し出された名前を一瞥し、通話ボタンを押す。
『もしもし?今何処に居るのよ?』
「空の下の何処かよ」
『……、質問を変えるわ、日本国内なの?それとも海外?』
「世界の星空が綺麗な場所よ」
電話の主がつく溜め息を聞きながら、細長く煙を空へと吐き出す。
煙の向こう側では細かく砕けたガラスの様に淡い光が瞬いていた。
「ここはいいわよ、人間も居ない、車も居ない、なんてったって」
通話口に煙を吐きかけながら、にやりと笑う。
「存分に煙草が吸える」
匂いが届く訳でもないが―恐らく嫌味だ、電話の向こうで咳払いを一つして、相手が話し出す。
『たまには連絡するか、顔見せに帰ってきなさい』
「近々ね。じゃ、切るわ」
『ちょっとまだ話h』
―相変わらずの心配性。
今頃憤慨しているだろう電話の主を思い浮かべながら、新しい煙草に火を付け、空へと吐き出す。
どんなに遠くへ行こうと、胸の奥で燻るモノはいまだにヒトを許すなと囁き、再び暴れ回る事もあるだろう。
もしかすると、また正義の味方に追われる事になるかもしれない。
それでも、あの連中は戸口を開けて、帰りを待っていてくれるだろう。
家族という、奇妙な集まりのもとに。
(本当に、馬鹿でおめでたい連中よ)
煙に隠れたドロシーの横顔には、けれど、安堵した様な笑みが浮かんでいた。
帰りを待っててくれる場所があるって安心するよね
564
:
ある酔った男の話
:2010/09/11(土) 17:03:56 ID:KsLUGMwwO
―切り裂き公って知ってるか?…、まぁ有名だし、そりゃ知ってるよな
話ってのはその切り裂き公の話なんだ
…おいおい、別に危なくなんてないぞ?第一随分と昔の話だ
…ほら、ストリートギャングがここらへんでゴタゴタしてただろ?
丁度その頃に切り裂き公がこの街に来ててさ、その中の弱小グループに手を貸す事になった訳よ
…色々あったんだよ、とりあえずまずは話させろって
ところでお前、トリッキーリッパーって奴の噂、覚えてるか?
この街を縄張りとしてた連続殺人鬼で街を荒らす奴らには容赦しないって、ほら、あったじゃねぇか?
丁度グループ同士の衝突が激化した頃にそいつが現れたって話題になってさ、仲間の仇討ちだって血気盛んな連中が向かってたらしいんだけど
誰一人として倒せる奴なんか居なかったんだ
で、その内警察も本気で動こうって時にプッツリ噂聞かなくなったろ?
…実はな、殺ったのは切り裂き公なんだよ
ああそうさ、もう20年も経ったんだ
だからこいつを酒に酔った男の戯言だと思って聞き流してくれて構わない
ただ……、ただ俺はもうこいつを話さずにはいられないんだ
あの日、目に焼き付いたままの―
565
:
名無しさん
:2010/09/19(日) 22:45:10 ID:h70EqLmo0
ふっと眩暈を覚えて早苗は眉をしかめた。
軽くこめかみを抑えて頭を左右に振る。
と。
「……………………」
彼女をじっと見つめる少女の姿があった。
年の頃は5歳ほど。腰のあたりまで伸びた長い黒髪を無造作に垂らしている。その大きな瞳はまばたきすることなく早苗を見据えていて、何故だろう、まったく表情を浮かべていないのに今にも泣きそうに見えた。
その光景に、早苗は違和感を覚える。
連続しているはずの時間が、ある時を境に断絶してしまったような。
あたかも旧式のフィルムのある部分と部分を切って繋ぎ合せたような、そんな不連続感。
――だが、
「……あす、み?」
早苗は、無意識に少女の名をつぶやいていた。
そこでようやく彼女は気づいた。
――これは、夢なのだと。
「……………………」
じっと早苗を見つめる少女の瞳。その無言の瞳に見つめられ、早苗は動くことが出来ない。
何が出来るのか。
あるいは、何がしたいのか。
だが、その均衡はふいに崩れた。
「……だっこー」
手を伸ばす。早苗の方へと。
一瞬、その言葉の意味が理解できずに唖然とする。
それを少女は拒絶と受け取ったようで、
「…………だっこ」
同じ言葉を繰り返しながらも腕は下がり、肩を落としている。
早苗は、ほとんど反射的に動いていた。
「大丈夫ですよ」
抱きしめる。
「私が、あなたの傍にいますから」
少女の顔は見えない。
だが、目をまんまるくしている姿は容易に想像がつく。
早苗の胸の中でもぞもぞと動いた少女は、
「……………………ん」
小さく、そう鳴いた。
それは新たな夢が始まる瞬間。
566
:
切り裂き公、街に立つ
:2011/04/22(金) 14:21:48 ID:VJLRBwS60
ガタン、と音を立てて停止した鉄の車が駅の中へ人々を吐いていく。
足早に流れていく人の中に彼女はいた。
若い女だった。腰まで伸びた黒髪を背中に流し、きれいに整った顔立ちの彼女は至極のんびりとした歩調で足を進めていた。
迷惑そうに彼女を避けていく他人の顔などどこ吹く風といった具合に。
彼らのうちで果たして知るものは居るのだろうか。彼女がこの星系を統べる皇帝の娘である事を。
辺境の地で切り裂き公と呼ばれ、恐れられるヤラ=ピエット、その人である事を。
白昼堂々と人を殺したにも関わらず、未だ身元も顔すらも割れていない殺人鬼が居る。
そんな話を耳にしたのはどこであっただろうか?
駐留する軍関係者であるとも、流れの暗殺者だとも囁かれるそれの話に妙な興味を覚えた彼女は準備もそこそこに
住み慣れた家をいつものように飛び出し―義母の小言を背に受けながら、遠く離れたこの地へ降り立った。
(しかし、ほんとに居るのかね、私以外にそんな奴)
人混みの中でさえ殺して見せたその腕前もさることながら、大勢の他人の目が合ったにも関わらず姿をくらませた芸当は賞賛に値する。
人間であるならば、だが。
…最も町に流れる噂など大体は余計な尾ひれが付いている。もしかしなくとも噂のいくつかは誇張でしかない事が多い。
けれどそれらを事実と照らし合わせてから初めてようやく事の真相にたどり着く…面倒な作業だが、楽しみのためなら多少の労力は惜しまない。
(まるで恋する乙女ね)
居るかも分からない相手に恋い焦がれ、その姿を求めて彷徨う自身の姿は彼女を知る者にはさぞかし奇妙だろう。
それでも―ヤラ自身が半信半疑であるにもかかわらず―妙な予感があった。
この街で必ず会える、と。
そうしてしばらく辺りを歩き回り、出口から差し込む夕日に目を細める。
人の往来が絶えない通りは見た限りでは抗争とは無縁の場所に思えたが、武装した警官らしき者達がそこかしこに立っており、
鋭い視線を辺りに投げかけていた。
およそ不釣り合いなその光景を横目に流しながら、鈍色の建物の間へと足を進める。
まずはどこかに宿を探そう。点り始めた煌びやかな広告の光に目を細めながら、夜の街を行く。
抗争が起きるまで、ひいては例の殺人鬼が現れるのを待つための拠点にお誂え向きな、人目に付かない場所に。
酒と煙草の匂いが辺りに濃くなり始めた頃、ようやく彼女の足が止まる。
「…おやまぁ」
道路を挟んだ向かい側で燃え上がる車から男が這い出していた。
息も絶え絶えといった具合の彼の周りを他の男達が取り囲み、手にした銃を彼の頭に突き付けた。
(おお、リボルバー。もうここらではとっくの昔に絶滅したと思ってたけど、いいね、まだ使ってるマニアが居たのね)
男の手の中に握られた古めかしい骨董品にヤラが若干の興奮を覚えていると、男達の視線が向けられる。
とても友好的とは言い難いそれに彼女の中で何かがざわめく。
―ああ、これは襲われる。この状況を見て大人しく帰される訳がない。だから、
男の一人が小型のブラスターを手に、ヤラの方へと歩みを進めてくる。
男は思いもよらないだろう。目の前の女が動けない理由が恐怖ではなく、獲物を待ち構えている為だということを。
男の仲間は知らないだろう。この後、自分達がどのような末路をたどるのかを。
―だから、これは
ヤラの眉間に銃口を向けた男の顔が僅かに歪む。
―正当防衛。
瞳を爛々と輝かせて笑う彼女に不信感を覚えていたであろう男が仲間の方へ振り返ろうとした。
…ふと、男の瞳が妙なものを映し出す。彼自身の、天地が逆さまになった体。
何故こんなものが、と言いたげな目を見開いたまま、鈍い音を立てて、首が道路をはねる。
その奇妙な音に男達が振り返り、変わり果てた仲間の姿に誰しもが動きを止める。
男の血を手にしたナイフから滴らせながら、呆然とする男達を吹き上がる赤い飛沫越しに見つめる。
さぁ、狩りの時間だ。
567
:
すき
:2011/05/15(日) 01:10:29 ID:LM8ZkY1I0
おねえちゃん、私の好きだった人
今は違うの?
良く分かんなくなっちゃった
ふぅん
そういう貴女は?居るの?
うん
ふぅん
誰か聞かないんだ
聞いてどうするの?
公平感が出ます、素敵
うわぁい
うわぁい
公平なんて存在しないのだよ明智君
なんだと、おのれ謀ったなピエットめ
誰それ
おかーさんの友達
ふぅん
変な人なの、おかーさんとはまた違うとこが
貴女のおかーさんも変だね
うん、変だよ、主に頭
目、開けたまま寝てるし
おとーさんもすごいんだよ
そーなのかー
貴女は食べられる人類?
いいえ、できそこないです
わーい、仲間だー
貴女もできそこないなの?
おういえす
自分でできそこないとか言っちゃだめだって言われなかった?
おまえもなー
なにそれ
突っ込みです、えっへん
「妹が貴女の娘と訳の分からない会話しているのですが…ああ、寝てらっしゃるのね、目を開けたままだなんて器用ですね」
568
:
東風谷早苗の今日の絶対許早苗
:2012/04/22(日) 22:54:14 ID:3risYo.M0
今日は「天子とブロントさんのモンハン生活」という動画を見て一日を過ごしてしまいました。
モンスターハンターおもしろそうですね。
この動画を見て心からそう思いました。
創作動画とは思えないくらい感動的なお話で、特に終盤の盛り上がりではセルフエコノミーで視界がぼやけるというアクシデントも発生です。
ちなみに動画の中の私はスラックス最強説を唱えながら主人公の座を獲得しようとする2P扱いですが、ちょっとあんまりじゃないですかねこれ。
それはともかく、涙を拭いながら最終回前半を見終えて、後半を開いたんですよ。
そうしたら、
「やっと終わったのかよ。はいはい乙乙」
感動的なお話の中に冷めたコメント混ぜられたら興醒めしちゃうでしょう!!
台無しじゃないですか!!
流れてた涙がひっこんじゃいましたよ!!
絶対に許しませんよ、絶対に!
569
:
東風谷早苗の今日の絶対許早苗
:2012/04/25(水) 00:17:55 ID:HxUkoyEY0
今日も一日おつかれさまでした、「私は2Pじゃありません」早苗です。
一時期は毎日のようにログインしていたネトゲも、今はまったくプレイしていません。
というのも、私を誘ってくださった一番仲の良かった方がインしなくなってしまいまして。
理由も言わずに突然音沙汰がなくなったので、最初の頃はひょっとして体を壊したのかな、それともネット環境が不調で繋げなくなったのかな、と思っていたのですが。
それが1ヶ月も続けば、やっぱり飽きたのかな、という考えにも至りました。
数日前、その方から久しぶりに連絡がありました。
今はまったく別のネトゲを楽しくプレイしているそうです。
…………
ええ、わかってましたよ!! わかってましたとも!!
けどそうならそうと、もっと早く言ってくださいよ!!
1ヶ月も忠犬ハチ公みたいに待ち続けた私は、完全に可哀想な子じゃないですか!!
怒り半分、呆れ半分でインしなくなった理由を聞いたら、「インする人が減ってつまらなくなったから」って、それは取り残された私の台詞ですよ!!
絶対に許しませんよ、絶対に!
570
:
心太
:2012/04/30(月) 20:34:44 ID:Msuf7ve60
ある日のことです。
その日の夕食には、心太が添え物として並んでいました。
いえ、某るろうに剣客の子供の頃の名前ではないです。『ところてん』です。
つるつるっとしていて、三杯酢をかけて食べるとすごく美味しいあれのことです。
とにかくあれを食べている時に、
「…………東風谷さん」
ふいに西園さんがこちらを向いてぽつりと声をかけてきました。
食事中に彼女が突然話しかけてくるなんてそうそうないので、私はちょっとびっくりしながら「どうかしました、西園さん?」と問いかけました。
ちなみに彼女の左隣では地獄烏がゆでたまごを両手で掴んでがじがじと噛んでいます。すごく満ち足りた顔をしながら食べているのでおそらくご満悦なんだと思いますが、あれって共食いにはならないんでしょうか。
ともかく、問いかけられた西園さんはしばらくじっとこちらを見つめてから、
「……心太を凍らせたことは、おありですか?」
そう言いました。
私は首を傾げました。質問の内容に、というより、このタイミングで何故それを質問してくるのかがわかりませんでした。
ちなみに彼女の右隣では女僧侶が「らめええええ、こんな太いの入れたらこわれりゅうううう!!」と無表情で叫びながらバナナをくわえています。あ、顔を真っ赤にした天人に緋想の剣で殴られました。
「ありま、せんけど」
私の答えに、またしばらく西園さんはじっとこちらを見たまま黙り込みました。
ちなみに私の左隣では黒髪のちっちゃな女の子が手で心太を掴もうとして力を入れすぎて握りつぶしています。「おー」と言いながら目をまんまるにしていますが、心太もはやぐちゃぐちゃでほとんど原型を留めていません。
「心太って、ほとんど水分で出来ていますよね」
またぽつりと、西園さんが語り始めます。
「ええ」
「だから、凍らせてしまうと心太を構成する水分も凍ってしまうんです」
「そう……でしょうね」
「水分が凍ると、どうなりますか?」
「……膨張しますね」
「そう、膨張するんです」
つ、と冷や汗が流れました。あれ、なんだろうこの汗。
「膨張した水分は、心太の組織を破壊してしまいます。そのため、一度凍らせた後に解凍しても、心太はもう元には戻りません」
「………………」
「人間に例えると、内臓が一気に膨張して破裂したような感じでしょうか」
かたんっ、とどこかで箸が落ちる音がしました。
見ると、テーブルの一番端にいた機械好きの少女が顔を真っ青にして心太を凝視しています。
「解凍した後の心太はぺらぺらで、中の水分はすべて流れ落ち、わずかに残った組織の残骸が死に絶えたミミズのように……」
そこまで言ってから、
「心太、美味しいですね」
つるつる、と西園さんが心太を口に含みました。
結局、その日の夕食では心太が大量に余ってしまいました。
571
:
名無しさん
:2012/06/13(水) 16:49:59 ID:5mna.40QO
(ああいけない、やってしまった)
猟奇殺人現場と化した路地を一望し、深く息を付く。
敵をなぶり殺すのは悪い癖だ。悪いことにここは人が居ない辺境の惑星ではない。
辺りに立ち込める血の臭いが表の通りに流れるのにはそう時間はかからないだろう。
凶器は鋭利な刃物、現場に残った靴のサイズは…と様々な分析が成されるも、犯人に結び付くものは発見出来ず、迷宮入り。
唯一の目撃者も消えてしまえば、彼女にとって不利な物はなくなる。理想的だ。
(それじゃあさっさとご退場願いましょうかね)
そう思い、振り返りかけたヤラの視界に鋭利な刃物が映る。
「 」
言葉を発する間もなく、目を抉ろうとするそれをなんとか弾き飛ばし、後ろへと距離を開ける。
舌打ちをしながら、自分の背後を取っていた人物を見つめる。
深くかぶった帽子に体のラインを隠すような大きめのコート、男とも女とも取れる曖昧な身長。
(よもや人間如きに背後を取られるとは!)
ぎりりと奥歯を噛みながら、怒りに顔を歪ませる。
相手はそんな彼女の様子を気にした様子もなく、コートの袖からナイフを覗かせている。
(次に近付いた時に武器を奪って殺してやる!)
次に来るであろう、攻撃に備えて身構えた、その時だった。
「か…は…!?」
口から空気の漏れる音と共に熱い物が上がってくる。背後の壁から自分を貫いた黒い槍を信じられない眼差しで見下ろし、相手に視線を向ける。
相手の口許に浮かんだ笑みに小さく毒づきながら、ヤラは意識を手放した。
572
:
名無しさん
:2012/08/21(火) 18:06:49 ID:Y8ST66t.0
背中に走った鈍い痛みにヤラは思わず呻き声を上げた。
サイレンや人々のざわめきが嫌に大きく聞こえる。辺りも驚くほど暗い。
「なんだ、生きてたのか半人前」
低い男の声に慌てて体を起こしかけて、体を突き抜ける痛みにうめき声を上げ、再び地面に倒れ伏した。
「こっぴどくやられたな」
まるでからかうかのような声色をヤラに投げかけながら、男は路地の方へと視線を戻した。
なんとか上半身を起こして視線を向けると、これでもかと集まった警官と鑑識とおぼしき者達が
せわしなく路地を行き来する様がそこにあった。
「お前が解体した死体は欠損が酷くない場所を繋げておいた。
相変わらず解体が好きなようだな、いっそ肉屋にでもなったらどうだ?」
どこか馬鹿にするような様子に余計な事をするなと鋭い視線を投げつけるも、男はくくっと笑うだけだった。
この男が脅しに怯む事も相手にする事もないのはヤラ自身が十分承知していた。
「…何も出来なかった」
相手に一太刀も浴びせる事がないまま、無残に負けた。
この男がこの場に現れなかったら、彼女は間違いなく命を落としていただろう。
「次は殺す」
怒りと苛立ちに顔を歪めるヤラに気付いたのか、男がつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「諦めろ、お前には無理だ」
「必ず、殺してやる」
全く聞くそぶりを見せない彼女に男は呆れたように頭を振り、路地の闇へと姿を消していった。
「必ず、必ず…殺してやる」
路地の向こうでは、相変わらず大勢の野次馬で溢れかえっていた。
人混みに紛れながら、黄色いテープで仕切られた路地へ目をやる。
相変わらず大勢の警官―鑑識も居るだろうが、区別が付かなかった―達が犯人逮捕のために情報を探す姿が見えた。
(見つかる訳がない)
徒労に終わるであろう彼らの苦労を胸中で嘲る。
犯人はそもそも人ではない…もっとも彼らはそうだと知らない訳だが、
仮に何か証拠が挙がるとしてもそれらが彼らを犯人へと導く事はないだろう。
まるで遠い昔に狂気に駆られた人間が紡ぎ出したおとぎ話が現実となった様な、そんな気味の悪い事件として
人々の記憶から姿を消す事になるだろう。
(実際オカルト系団体が彼らの奉る神の仕業だとか騒いでいるらしいからね)
街頭で神による粛正が近いと語る男の横を通り過ぎながら、当てもなく歩みを進める。
「お前らが語る神なんて、いやしない」
ぽつりとこぼれ落ちた呟きは雑踏に紛れ、誰の耳にも届くことはなかった。
573
:
ある兵士の話
:2012/08/21(火) 19:18:53 ID:Y8ST66t.0
その時に俺さ、他のグループの連中に因縁付けられて、ぼこられてたんだわ。
…若気の至りって奴さ、あの頃は周りに不満だらけだったんだ。
で、そいつを俺たちが変えてやろうって思ってたんだけど、現実は甘くはなかったんだよな。
んで、そこで颯爽と来たのが我らが切り裂き公様って訳さ。
けど、あんときゃおっそろしく機嫌悪くて、「あ、話しかけたら首が飛ぶな」って具合にすげぇ顔してたんだよね。
ま、おかげであの時の俺はカツアゲされずに済んだし、何かよく分からないうちに力貸してくれる事になったんだわ。
今でも不思議に思うよ、あんときどうしてあの人があんなちんけなバーに来たのかさ
574
:
雪中1
:2012/09/18(火) 23:44:02 ID:pS0e5Gp20
季節外れの銀色の雪に覆われた大地はまるで生命の訪れを永遠に拒むようであった。
そんな場所とはまるで無縁であるような女性が一人、
そのやや硬い雪の中を足を取られぬように足跡を残しながら歩いて行く。
脚は膝ほどの深さまで沈み、歩くだけでも相当な重労働だ。
言うまでも無いが彼女は観光目的、避暑地目当てにここまで来たのではない。
過去の争いのけじめ(とはいっても彼女自身のけじめではないが)をつけに来たようなものである。
彼女の名前はフィオリーナ・ジェルミ。国連軍の特殊部隊の一員である。
当初はこんなに雪深いところまで来るつもりはなかったのだが、
反乱軍に誘われるようにして本来人の訪れるはずの無いここまで来てしまった。
引き返すにしても来る時につり橋を自らのミスで壊してしまい、自力で戻れなくなってしまったのである。
空は曇り、さらに雪が降り積もりそうな様相を呈している。
一歩一歩前に進むが周りの景色は雪一色、
目印になるようなものは何も無く全く進んでいる感じはしない。
その間にも着こんできた防寒着などまるで意味がないように体温を取られていく。
メガネは数分で曇り数歩歩くごとに吹かねば前がまともに見えない。
「全く、あれほど叫ばれていた温暖化とは一体何だったのか」、
フィオは出撃前まで見ていたドキュメンタリー番組の内容を思い出しながら一歩ずつ前へ進んでいく。
先ほど救難信号は出したのだが、ともすると吹雪さえ吹きかねない土地である。
救助は天候が回復するのは明日以降なのは確実、
最悪の場合この先吹雪が続き行方不明扱いにされてまう恐れさえあった。
しかしこれ以上歩いてもただ無駄に体力を消耗するだけ、
そう考えた彼女はもしもの時にと渡された携帯用スコップをリュックサックの中から取り出し、
日本人の女性軍曹、相川留美に教えてもらったかまくらという雪窟を作ることにした。
この地において雪窟を作るのはなんら難しいことではなかった。
入り口だけ階段状に深く掘り、あとはそこから中をかきだすようにして掘るだけ。
これで簡単に雪窟ができてしまうのだから。
雪窟の中は外にいるよりはまだいい程度の温度ではあったが、
フィオにはこれが今までの苦行よりははるかにマシに思え、天国に思えた。
リュックから固形燃料を取りだして使い、雪窟を溶かさぬ程度の弱い火で雪を溶かし温かいお湯を飲む。
体が温かくなったフィオは今までの過労からか、猛烈な睡魔に襲われる。
フィオは襲ってくる睡魔に逆らうことはせず、そのまま寝袋に入って明日まで寝てしまうことにした。
575
:
汝は反逆者なりや?
:2012/12/23(日) 12:00:40 ID:58bpE.IY0
「プレーシデンテ!早朝からすいません!いいニュースと悪いニュースが一つずつ!
まずは悪いニュースから、КГБとCIAから指導を受けた政権転覆を目論む反逆者があの小さな街の住人の中にいたことです!
そして昨日の夜にその反逆者がその町の人間を一人殺してしまったようです!これは非常にゆゆしき事態ですプレシデンテ!
そして次にいいニュースを!反逆者が逃げ込んだ街は小規模で見つけるのは一か月もあれば容易だということです!」
朝からひょうきんな男の秘書の声が島の中心に位置する総統府の中にこだまする。
軍服を着てひげをたっぷりと蓄えた、いかついサングラスをかけたプレシデンテはこう命令した。
「なら、炙り出してやろうじゃないか 秘密警察に命じてその街の住人が選んだ『他称反逆者』を一日一人ずつ殺すんだ そうすれば…」
プレシデンテの『粋な提案』に秘書は笑いながら「それはいいアイディアです!見世物にもなりますしね!早速実行いたしましょう!」
そうしてとてつもなく酷く、くだらない反逆者炙り出し作戦が始まるのであった。
街の住人は、数人のただの農家の人間を除けばとても独特で面白い職―というよりは、趣味?―に就いていた。
まずはこの街に反逆者がいると密告した秘密警察の人間―公衆電話からの連絡だったので誰かは知らないが―、
次に預言者気取り、医者気取りのまじない師―これも誰かは知らない―、
そしてマタギをやって暮らしている人間―無論、誰かは知らないし知っているわけがない―、
さらには自分を救世主だと信じて疑わない狂信者―だから誰が誰だかわからないんだってば!―、
最後に反逆者2人―わかったら苦労はしない―である。
派遣された秘密警察の男が集まった街の住人の前でこう言い放った。
「夕暮れまでに反逆者と思しき人物を一人ここまで連れてこい そいつを殺す」
こうして街の住人達も反逆者探しに躍起になるのだが…さあ、誰が反逆者かな?
576
:
新任大使狂想曲
:2013/08/02(金) 00:19:11 ID:dsbRSvqI0
グラディウス格納庫横の擬人化できるビックバイパー達の住まう擬人化寮は新たな任務とその人選により混乱に陥っていた。
そしてその彼女達を混乱に突き落とした任務と人選は以下のようなものであった。
『長らく空席になっていたグラディウスの駐バクテリアン大使であるが、新任大使の選定が決まったので以下を報告す
エルミニア・バイパーを新任大使とし、ミルシェ・バイパー、ルジェナ・バイパーの両名を新任大使の補佐とする。』
外交に詳しくない彼女達でも今までの歴史や他の惑星の事象から大使が非常に大きな意味を持つことぐらいは知っていたのである。
ゆえに前皇帝ラーズ72世が暫くの大使代理となっていたときは皆安心していたのだが、
そのラーズ72世が現皇帝のラーズ73世と結託し新任大使を決めたのである。
これを聞いた時、政治を知らぬ彼女ら擬人化ビックバイパー達は恐れおののいた。
ラーズ72世は前任大使で現バクテリアン皇帝ファノリオスの皇后の一人となっているセイディー・バイパーを任命した時、
『今回から大使は擬人化ビックバイパーが歴任することになる』と明言してしまっていたからである。
つまり今回の新任大使もビックバイパーから選ばれるということはもはや確定であり、それがさらに彼女らを不安にさせていた。
新任大使の発表後は言わずもがなといった状態で、選ばれた3人はまさに絶望の淵に立たされているといった感じであった。
それに加えて今回選ばれたエルミニアらをさらに絶望の淵にたたき落としたのは謎の新要職の新設であった。
新設された要職は、まずは文字通り大使について外交の補佐を担当する外交補佐官。
これには外交経験も多く擬人化ビックバイパーの長として彼女らに気軽にアドバイスもできるビックバイパー現族長、
アストリッド・バイパーが着任し、これはバクテリアンへ派遣されるエルミニアらを喜ばせた。
次にビーコンMk.2の建造から始まったグラディウス、バクテリアン両国の技術交流と、
その技術発展のための懸け橋となるため、技術面での外交を担当する要職が設立された。
それが科学技術庁出張官であったが、これには彼女らをバクテリアン送りにした張本人ラーズ72世が着任。
これにはアストリッドの現地外交補佐官着任でぬか喜びしていた彼女らを不安にさせた。
さらにもう一つ別に新設された要職によって彼女らの心の中での今回の事態はより複雑を極めて行った。
それがグラディウスないしその友好国にあるバクテリアンが有事の際、外交の席に着く特別時軍事顧問の存在であった。
これには現バクテリアン皇帝であるファノリオス、フォイヴォス兄弟とも親戚として繋がりの深い、
現グラディウス陸軍元帥ブラン・ホルテンが兼任するという形で着任に至った。
これはただ、新たな親戚にあまり会えないブラン・ホルテン元帥のために作られた、いわば名誉職に近い物であった。
しかし表立って名誉職というわけにもいかず、またビックバイパー達にもその事実は隠されていたために、
エルミニアらが得意としている軍事にも政治的な対応しなければならなくなったということを嫌でも感じさせ
それがエルミニアらの心中を極めて複雑で難解なものにしていた。
かくしてエルミニアらは、バクテリアン行きのシャトルの中で大使就任の際の文言を考えながら、
これから始まるであろう艱難辛苦に一優するばかりであった。
577
:
名無しさん
:2013/10/18(金) 22:59:29 ID:2gkjndHQO
ヤラ:弁解を聞こうか
…前のPCに入ってました、ラストまで書けてたんだよ
ヤラ:なら何故投稿してないのかしら?ん〜?
は、ひっ、あの、今年は暑かったじゃん?
ヤラ:暑かったねぇ、あんまり暑かったからいつもより仕事がとーっても捗ったよ
…それただの八つ当たりじゃ
ヤラ:あ゛あ゛っ?
すいません!PCご臨終で全部消し飛びました!バックアップも忘れてました!
ヤラ:…素直でよろしい、でもちょっとムカついたんであんたシメるわ
え、ちょ、話がちぎゃあああ
578
:
もう1つのFirst Order 1/2
:2017/05/27(土) 20:01:53 ID:nA56LhoE0
遠い昔、遥か彼方の銀河系で……
「エドゥアール皇帝誕生!帝国は新体制へ!」
漆黒の闇と粒ほどの光が浮かぶ宇宙空間を音もなく、流線型をした銀色のクルーザーが進んでいく。
その中で一人の老人がホロネットのニュースを眺めていた。最も、中身よりはジャーナリストに目が行っているようであるが。
「統合軍の台頭の責任を取る形で退位した皇帝に代わってエドゥアール副帝が即位したのだ。軍に求心力がある強力なリーダーなのだ。
ちなみに私のおじさんでもあるのだー」
長く美しい緑色の髪に赤と青のオッドアイを双眸に宿した長身の女性がその整った容姿に似合わぬ独特の口調で新皇帝の特徴と今後の方針を
解説、あるいは予想していた。その仕草の1つ1つに彼は温かい視線とうなずきを送っている。
ふと、部屋のエアロックが外れ、金髪長身の女性が入ってきた。亜人だろうか、その耳は顔の横ではなく頭の上に付いていた。
「騒動の渦中の人物がここでのんびりしているだなんて、視聴者の何人が知っているんだろうね?」
「良いだろう、孫娘の成長を見るくらい」
女性がため息を漏らし、視線を下へと向ける。
老人はちらりと視線を送っただけで、またホロネットのキャスターに見入っていた。
キャスターはニトラ。若いながらもバクテリアン帝国のジャーナリストとして活躍し、看板番組も持つ有名人である。
バクテリアン帝国副帝の姫として生まれながら、行政や軍の怠慢に容赦なくメスを入れる筋金入りのリベラリストである。
老人は退位した銀河帝国皇帝・ファーマス1世その人である。彼はある失態から失脚し、息子に帝位を譲り渡した。
金髪の女性は八雲 藍。皇帝の側室の一人で、その正体は別の銀河系から来た妖怪・九尾の狐である。
「アテが外れたよ、九尾の狐に魅入られながら失脚するなんて」
「外れた方が市民達の為じゃないかね」
「まあ、私が国を傾けるまでもなく傾いたけれどね」
「それは耳が痛いな」
銀河帝国はシーヴ1世パルパティーンにより成立し、銀河大戦とファーマス1世の簒奪、ユージャン=ヴォング大戦という戦争と政争の歴史を刻みつつも
ホイルス銀河系を代表する政府及び国家として勢威を増していた。軍事力で圧制を敷いていた初代皇帝と違い、軍人上がりの先代皇帝は新共和国やチス・アセンダンシー、
バクリアン帝国と協力し、緩やかな連帯の下に銀河を治めていた。
パルパティーン皇帝のやり方は野蛮であったかもしれない。しかし、敵と味方をはっきりさせることができた。
ファーマス皇帝のやり方は理想的であったが、ついていけない者達を内部の敵へと変質させた。それこそが彼の政治的キャリアにとどめを刺したのである。
統合軍とは、各国の軍隊が集まって組織された集団である。
バクテリアン帝国が治めるテスラ系銀河を脅かす、シェブール王国に対し結成された。
しかし、3つ問題があった。1つはそれぞれの指揮系統から離脱して集合したものであるということ。
もう1つはその最高司令官にファーマス皇帝の側室であるシュヴェルトライテが就いたということであった。
そして最後の問題は、シェブール王国が降伏した後その大半を不法に占拠し、独立した勢力となったことであった。
579
:
もう1つのFirst Order 2/2
:2017/05/27(土) 20:02:38 ID:nA56LhoE0
シュヴェルトライテは平和の恩恵よりも戦場の狂気に身を委ねることを元々好んでいた人物である。
先代皇帝がパルパティーン死後の混乱を収め、未知の脅威と戦っていた間は重宝された。
しかし、先に見ていたものがお互いに違うことに気付かなかった、あるいは気付かないふりをしていたのだった。
先代皇帝はもたらされる平和によって、旧共和国の最盛期のような自由で豊かな社会を望んだ。
シュヴェルトライテは平和は次の戦争の為の準備期間程度にしか考えていなかった。
シュヴェルトライテは不満を感じていた。あまりにも危機感が無さすぎる、と。
皇帝であり、夫でもある彼は腐敗しきった取り巻き達の言いなりになり、色欲に溺れている。
シュヴェルトライテは飢えを感じていた。あまりにもこの世界は退屈である、と。
戦意を掻き立てる炎、闘争心を煽る硝煙の匂い、緊張感と高揚感をもたらす兵士達の怒声が彼女には必要であった。
だが、彼女を取り巻く世界はあまりにも静かで、清潔で、安全で……生の実感を認識することは困難であった。
「こんな世界はいらない」
戦いを取り上げられた彼女は自分を守る為に自ら戦いの幕を上げた。
今までの児戯に等しい突発的なものではなく、永遠に戦いを楽しむ為に。
願わくはその最中で、戦塵に塗れて斃れることができるようにと願って。
「一体、何が不満なのか」
皇帝も居並ぶ高官達も首をかしげていた。
半世紀に渡って皆が求めていたものがようやく手に入ったのに。
三度に渡る戦争で銀河系は荒廃し切ったが、ユージャン=ヴォングの生命工学とどんなところでも開拓するデス達の組み合わせは、
難民と化した人々に新しい故郷を与え、停滞と閉塞感に悩まされていた生き残った人々に希望と未来を与えた。
再び、銀河系が活力に満ちた時代がやってきたのである。その矢先に皇后の一人が行動を起こした。
軍人は戦いに生きることもあるかもしれない生き方である。しかしながら、必ずしも好戦的ではない。
皇帝は彼が帝位を簒奪する契機となった敗戦を経験していただけになおさらそうであった。
戦わずに済むのであればそうしたい、というのが彼の生き方であり、指導者となっていく彼の子息達にもそう教えていた。
願わくば次の世代は戦争を、そして荒廃を知らない人々になって欲しいと願って。
「皇帝は老いた」
ダーラ大提督とファズマ将軍をはじめとする人々は考えが違った。
パルパティーンの帝国の最盛期を理想とする彼女達は今の皇帝と取り巻き達は柔弱であり、それは老いによるものと決めてかかっていた。
最盛期の頃とほぼ指導者達は変わっていないにもかかわらず、帝国は大きくそのあり方を変えていた。敵であった反乱同盟軍のように。
元老院を復活させ、禁じていた宗教を復活させ、再び銀行家や大企業が経済を牛耳るようになっていた。
軍人は帝国のヒエラルキーの中で一番高い位置を占めていた。しかし、今は宮廷もその外も政治家や科学者、銀行家が幅を利かせていた。
皇帝は神に赦しを求め、科学者達は政治顧問として好き勝手な政治を行い、政治家達は総督達に自らの決定を追認させ、官僚達は民間とパーティに明け暮れていた。
「唯一の法、唯一の思想が銀河を一つにする……」この言葉で幕を開けた帝国は完全に変貌してしまっていた。
「ならば新しい帝国をシュヴェルトライテ陛下の下で」
彼女達は各国の戦友達を同志にし始めた。自分達が選ばれた階級であり、世界を導く存在だと信じて。
シェブール動乱が国王・フェリペの退位をもって幕が引かれた数年後、ファーマス皇帝を退位に追い込んだ統合軍戦争が幕を開ける。
餓えた狼の群れが満ち足りた羊達を恐怖に陥れようとしていた……。
父から衣鉢を受け継いだ3人の皇帝、退位に追い込まれた皇帝、市民を守ると誓いを立てていた人々、自分達のコミュニティを守る為に立ち上がる人々……。
もう1つのSTAR WARSはまだ終わらない。
580
:
楽園・エルルーン1138 1/2
:2017/06/06(火) 16:37:18 ID:dADaGbOE0
―――エルルーン1138 未知領域 ホイルス銀河
「ふぬっ!」
安全用ヘルメットにツナギを着た少女がその小さな身体に似合わぬ大きな斧を振り下ろすと、繊維が千切れていく音を立てて
巨木がゆっくりと倒れて行く。完全にそれが地面に横たわるとたちまち似たような恰好をした少女達が現れて斧や鋸で解体し、
装軌式のトラックに積み込んで行く。彼女達の目の前には鬱蒼とした森林が広がり、その後ろには切り株が点在し、
遠くでは切り株を掘り起こし、その後をトラクターが耕して農場へと変えて行く風景があった。
エルルーン1138はつい最近デスの探検家によって発見された惑星であるが、元々何もない荒涼とした惑星であった。
しかし、その存在が知れ渡るとすぐさま彼女達はユージャン=ヴォングの生命工学を利用し、テラフォーミングを行った。
数か月で惑星は大気を形成し、主だった大陸は森林に埋もれた。そして彼女達は惑星に降り立ち開拓を開始したのである。
―――デス・タウン エルルーン1138
夜の帳が降りると、彼女達は自分達の集落へと戻る。入植当初は掘っ立て小屋しかなかった集落も不断の努力により、
様々な施設が立ち並び、「田舎町」と呼べる程度には発展していた。
集落の中心にはコンビニがあり、カンティーナや宇宙港、ホロネットの送受施設が建設され、掘っ立て小屋も徐々に
アパートへと変わり始めていた。
行き交う人々もデス達だけではなく、人間やウーキー、スクイブ、チスといったエイリアンも街の住民となりつつあった。
ここ数週間のニュースと言えば、ニモイディアンの銀行家が入植したことだろう。強欲で抜け目のない彼らが来たということは、
銀河系の基準から言って、有望な惑星であると言えた。
「うぬー、今日もいい仕事したのだー。マスター、いつものー」
「はーい」
そう言ってカンティーナの席に着いたのは美しい緑色の髪をショートボブにした長身の成体デスであった。
彼女の名前はアビガイーレ、製造されてからバクテリアン宇宙軍の空母デスのOSとして4年間勤務した後除隊し、
大学に6年間通って通信工学と法学及びパントラン文学を学び、ギリギリの成績で卒業した。
卒業後のプランはデスらしく何も考えていなかったが、友人がエルルーン1138に入植していたため、後を追って住み着く。
その頃、エルルーン1138は食糧に関して自給自足ができるようになり、社会的分業が見られる時期となった。
デス達は「タウン」という行政単位を非常に重要視する。銀河政治にはごく僅かな例外を除いて関心を示さないが、
自分達の身の回りについては自治的な傾向を強く示す。そしてタウン行政に必要な役職を任命し始めたのであった。
すなわち、町長、判事、保安官、民兵隊長、郵便局長である。
エルルーン1138には当時200人のデスと48人のウーキーが入植していたが、大学を出ていたのは3人のデスと10人のウーキーだけであった。
そして、郵便事業に関係のありそうな学位を持っていたのはアビガイーレだけであった。彼女はなんとなく引っ越した惑星で突然重要なポストについたのである。
人口300人に満たない惑星における郵便局長の仕事はなかなか多忙である。
古代から連綿と続くやり方―――フリムジに直筆でしたためた手紙を回収して、100パーセク離れた帝国領のはずれの郵便局まで運び、
反対側に70パーセク離れた共和国領のはずれの郵便局まで運ぶこともあれば、ホロネット通信施設の維持管理も行う。
今日もホロネット送受機の不具合を修理してきたところであり、このカンティーナのテレビで流されている野球のメタリオン・シリーズも彼女の働きにより
始球式に間に合ったのである。
「できたのだー」
「わーい」
マスターが頭に料理を載せて運び、飲み物を置いた後に湯気の立ち上るジェノベーゼとソーセージを並べる。
アビガイーレは毎晩、カンティーナでブリシュト・ジュースと共にこれを楽しんでいた。
そしてこれは全てこの惑星の大地で収穫されたものであった。
581
:
楽園・エルルーン1138 2/2
:2017/06/06(火) 16:37:51 ID:dADaGbOE0
「やあ、局長」
「むぬ?ぬー!」
口いっぱいにパスタを頬張っている彼女に隣に腰かけてきたエイリアンが挨拶する。
青い肌に燃え上がるような赤い瞳を持った男はエンジニアのアルテンシナイであった。
閉鎖的なことで知られるチス達だが、何故かデスの入植地ではよく見かけられる。チス・アセンダンシーが彼女らを注意深く監視しているのか、
もっと友好的な理由かは定かではないが、デス一族と同盟を組んでいるとされるエイリアンのリストの筆頭に来る存在である。
飲み込めないままアビガイーレはルテンスに挨拶を返す。彼女はシステム的な不具合に対応することはできるが、メカニカルな不具合は彼に頼る外無い。
彼はチス・アセンダンシーにおいて最高の機械工学を学んだ上で外の世界へと旅立ち、ここにたどり着いたのであった。
「この前のケーブルの件だが、0.9×2Pの規格ではもう古いと思う。他のは手に入らないのかな?」
「それは私も思うんだけどねー、ヘンキョーじゃモノがあるだけありがたいのだー」
「それはそうなのだが、セブリ高地の冬季における雪害に耐え切れないぞ」
「まー、ここがもーちょい発展したらコマース・ギルドやヴァリー様のボーエキセンダンが立ち寄るのだ。そしたら色々買えるのだ、おでんとか」
「君は結局そこなのだな」
「うむ!デスのソウル・フードなのだ!」
チスが肩をすくめる一方で、目を閉じて右手を口元にあてて宙を仰ぐデス。最後に屋台のおでんをつまんだのはいつのことだっただろうか。
最近できたコンビニで調達は容易になったが、それまでは祖国から大事に運んできた冷凍食品のおでんが頼りだっただけにデスの彼女にとっては
この惑星の生活は過酷なものであった。
「ところで今度入植してた集落への延線の話だが―――」
彼が新しく話題を切り開こうとして目の前が暗転した。次に目を覚ましたのは焼け焦げた臭いの中であり、煤だらけの顔をしたアビガイーレの今にも
泣き出しそうな顔があった。そして全身に痛みがある。
「よ、よかったのだー!」
「い、一体これは……?」
はっきりしない視界の中でまず確認したのは自分の身体だった。あちこち切ったり打ったりして出血及び内出血があるが、致命傷では無いように思われた。
次に見えたものは先程まで居たカンティーナの無残な瓦礫の山であった。マスターが料理中にメタリオン・シリーズら夢中になりすぎて爆発事故を起こしたのだろうか。
最後に見えたのは装甲ブーツを履いた兵士であった。
「我々は統合軍・第20軍団の先遣隊である、私は第21戦闘団長にしてこの地区占領行政管理者のクルッツェン大佐だ。現在、この惑星は統合軍の支配下にある。
喜びたまえ、君達は新世界創成の労働部門における尖兵としての役割と名誉を与えられたのだ」
装甲ブーツを履き、全身をグレーのアーマーで覆った兵士達の奥で装甲車輌から身を乗り出した司令官が演説をしている。
広場に住民が集められているようだが、全てでは無いようだ。破壊された家の下から助けを求める声が聞こえたり、遠くの方で悲鳴や銃声が聞こえていた。
何が起きたかを全て知ることは難しいが、市民達は1つのことを共有していた。
楽園は失われたのだと。
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