レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。
●事情によりこちらでSSを投下するスレ 2●
-
プロバイダー規制や本スレの空気などでSSを投下できない人が、
本スレの代わりにこっちでSSを投下するスレ。
ごあー。
-
・ツン100%ツンデレ
私には、クラスでたった一人、苦手な人物がいる。
別府タカシ君という、男子生徒だ。
「よう。おはよう、椎水さん」
朝のホームルーム前、登校してきた彼と教室の入り際に行き会い、声を掛けられた。
しかし私は、そのまま答えることなく、彼に視線も合わせずに席に着いてしまう。
後ろで、彼と一緒にいた友人の男子生徒の声が聞こえた。
「あらら。椎水にまたシカトされてんのかよ。つか別府もよく声掛けるよな。完全に嫌
われてるってのによ」
その質問に、彼は気にしてない風に答えた。
「まあ、挨拶くらいはな。向こうが返事するしないは関係ないって。こっちの気の持ち
ようだからさ」
「へえ。立派なやっちゃな」
その言葉を聞いて、私の胸が少し、ジン、と痛んだ。違う、と心の中で小さく呟く。
別に別府君の事が嫌いな訳じゃない。ただ、何故か私は、彼と真正面に向き合うと、息
苦しくて仕方がないのだ。声を聞くだけでも、心臓がキュッと窄まるような、そんな感
覚を覚えてしまう。ただおはようって返すだけなら出来なくもない。だけど、挨拶を返
すと、そのまま会話が始まってしまうそうで怖いのだ。だから私は、今朝も、そして明
日からも、彼の挨拶を無視し続けて終わってしまうのだろう。
そんな私だから、一度席が隣になった時は大変だった。気軽に周囲と挨拶を交わす彼。
私は、机に肘を付き、手を組んでその上に額を置き、俯いて黙っていた。どうか、別府
君に声を掛けられませんようにと願いながら。
「椎水さんも、宜しくな」
-
願いは叶わず、私の頭上から声が降り注ぐ。その途端、体がビクッと反応した。しか
し、私は彼の方を向かなかった。視線が合えば、きっと体が痺れてしまうに違いない。
だから私は、いつものように完全に彼を無視してしまった。少しの間、別府君が返事を
待つ気配が感じられたが、最初から諦めていたのか、すぐに他の人の所に行ってしまった。
――たかが挨拶くらいなのに……ダメだな私は……
結果として、苦い思いだけが心の中に残るのだった。
しかし、いかに避けようとも同じクラスである以上、会話をしなければならない事を
言うのは多々あるわけで、別府君と席が隣同士だった頃、こんな事もあった。
「あれ……おかしい。ないな……?」
英語の教科書が、机の中にも鞄にも見当たらない。確かに昨夜、勉強をした後ちゃん
と仕舞ったはずなのに。そう思って鞄の中をもう一度見返すと、今日は授業がないはず
の物理の教科書が入っている。
――うわ。英語の教科書と間違えちゃったんだ。昨日、眠かったからなぁ……
毎日教科書を持って帰っていると、たまにこういう事がある。鞄を閉めて机の横に引っ
掛け、さてどうしようかと考え始めた瞬間、横から声がした。
「椎水さん。教科書忘れたの?」
私が必死になって探しているのを横目で見ていたのか、別府君が勘良く聞いてくる。
声を掛けられた事に心臓がビックリしてドキドキし、緊張で全身が硬くなる。しかし、
こういう時は無視するとなまじっか相手の興味を引いてしまいかねないので、私は早口
で答えた。
『忘れた訳じゃないわよ。間違えて違う教科書を持って来ちゃっただけ。いいから構わないで』
感情を抑えてピシャリと言い切る。無論、顔は彼の方なんて見れない。私はこれで会
話を打ち切ったつもりだったが、別府君は、私にとってはとんでもない申し出をして来た。
「なら、俺の教科書貸すよ。ほら」
驚いて私は、反射的に別府君の方を見てしまった。穏やかな顔で教科書を差し出す彼
の姿を見て、それだけで何だか体温が1℃上昇し、心が息苦しくなる。私は慌てて視線を戻した。
-
『別府君はどうするのよ。なしで授業を受けるつもり?』
「ん、ああ。俺は何とかなるからさ。気にしないでいいよ」
その言葉に私はすぐにピンと来た。英語の授業は苦手なのか、別府君はその大半を寝
て過ごしているのを、私は知っていたから。
『寝るから、必要ないって事?』
即座にそう問うと、ちょっと気まずいようなそんな答えが返って来た。
「いやあ。まあ、そうっちゃそうなんだけど……」
『お断りだわ』
別府君の言葉に割って入って、私は言った。そして、彼が何か言う前に言葉を続ける。
『別府君が寝てようが何しようが私の知った事じゃないけど、サボりの片棒を担ぐよう
な真似はしたくないもの』
「いや。別にそんなつもりで言ったんじゃなくて――」
別府君が慌てて弁解するが、最後まで聞かずに私は一蹴した。
『どういうつもりかは知らないけど、結果的にそうとも取れるでしょ』
その言葉に、少し迷ってから、納得の行かない感じで別府君は同意の言葉を口にする。
「まあ、そう言われればそうなるけどさ……」
私は彼にはそれ以上話し掛けず、前に座るクラスメイトに声を掛ける。
『英子ちゃん』
『何? かなちゃん』
隣の男の子と今日は誰が差されるかで熱心に議論していた彼女は、幸いにもこっちに
は注意を払っていなかった。
『悪いけど、教科書……貸してくれないかな? 間違って家に置いて来ちゃったみたいでさ』
彼女は一瞬、私と別府君を見比べたが、逡巡は僅かで、すぐに頷いた。
『いいよ。あたしは戸成君に見せて貰うから』
私が何故か別府君を避けている事は、もう、クラスの女子は大体みんな知っているか
ら話はスムーズだった。
『ありがとう。今度何かお礼するね』
『いいよ別にこれくらい。戸成君。それじゃ悪いけど宜しく』
彼女から教科書を受け取ると、私はそれ以上別府君の方を見る事無く、素知らぬ振り
で教科書を広げたりするのだった。
-
また、こういう事もあった。たまたま偶然、私と別府君の委員が被ってしまったのである。
『体育委員? 何で私がそんなのに選ばれたのよ』
熱を出して休んだ翌日、学校に来て私はいきなり、友人からそんな報告を受けた。
『新学期早々、しかも委員を決める日に休むアンタが悪い。体育委員なんて、一番めん
どくさいんだから、余るに決まってるでしょうに』
『それにしたって、何で運動オンチの私なんかに……』
『別に体育倉庫の片付けとか、グラウンド整備とか、運動の出来る出来ないは関係ない
し。本当はクラス委員長にって話もあったけど、先生がそういうのは欠席者はダメって
言うからそうなったのよ。どっちが良かった?』
『う…… まあ、体育委員の方が、まだマシかな?』
委員長ともなると、集会時やロングホームルームでのクラスのまとめ役や会議の出席
など、仕事は多岐に渡る。はっきり言って各教科やその他雑用の委員などとは比較にな
らない仕事の多さだ。
『でもまあ、かなみにとってはそうも言ってられないかな』
思わせぶりな彼女の言葉に、私は眉を顰めた。
『ちょっと待って。それ、どういう事?』
すると彼女は、私の耳に唇を近付けて、声を潜めて言った。
『男子の体育委員がね。別府君なの』
それを聞いた途端、私の全身が一瞬、鋼のように硬直した。わずかにビクン、と体が跳ねる。
『何でまた、そんな事になったのよ』
心の中の動揺を覆い隠し、努めて冷静に私は聞き返す。
『普通にクジ引きで負けたのよ。どう? 委員長の方が良かったって思ったりする?』
ちょっと意地悪な質問を彼女はぶつけてきた。私は心を落ち着かせようと小さくため
息を吐いて、首を左右に振る。
『別に。どうでもいいわ』
『ありゃ? もうちょっと嫌がるかな、とも思ったのに』
何か少し残念そうな友人を見据えて、私はつまらなそうな態度を取る。
『係わらなければいいだけでしょ? 仕事なんて任期中にそうある訳でもないし、それ
だって、何も協力して仕事しなきゃいけない訳でもないんだし。それくらいなら我慢出
来るわよ』
-
『まーね。しかし何だってかなみは別府君をそんなに嫌うかなあ。あたしには理解出来んわ』
『人それぞれよ。そんな事は』
本当は私だって、嫌ってる訳じゃない。そう内心では思いつつも、一言、私はこう答
えたのだった。
実際には、口で言ったほど上手くは出来なかった。伝達事項なんかで、どうしても言
葉を交わさなければいけない事があったから。その時は、淡々と必要事項だけを伝えて、
私の方から会話を打ち切ってしまう。その度、何故か心の中に苦い想いが広がるのを、
私は認めざるを得なかった。それでも、どうにかこうにかやって来たが、ついに、そう
も言ってられない時が来てしまった。
それは、体育倉庫の整理を委員全員でやった時の事。同じクラスだから、当然私と別
府君は近い位置で仕事をする事になる。こういうのが私は凄く嫌だった。何故なら、他
の人たちは男女でも割合仲良くやってたりするのに、私たちは一切会話が無かったから。
非常に気まずいし、かといって会話が出来る訳でもないし。そんな悶々とした状況のま
ま、私は一つの問題に直面していた。
――これ、どうしようかな……?
私の前に置かれたのは、ダンボールに詰められた、古い野球のミットやらマスクだっ
た。まだ使えるからという理由で、倉庫の上に仕舞っておくよう言われたのだが、どう
せ使いもせずにいつか捨てる事になるのに、とうんざりする思いで見つめる。軽く持っ
てみた。持ち上がらないほどじゃないけど、重い。
――でも、仕舞うのは上の方なのよね。
周りを見ると、大体重い物は男子が片付けている。私も、別府君に一声掛ければいい
だけなのだけど、それが出来ないから困っているのだ。まあ、頼めない以上仕方が無い
と諦め私はグッと段ボール箱を持ち上げた。
その瞬間だった。
『きゃっ!?』
小さく悲鳴を上げてしまった。バランスを崩し、後ろに倒れそうになる。その瞬間、
肩と背中を背後から支えられた。
「あぶねっ!!」
-
その声に、私は首を捻って後ろを見た。倒れそうになった私を支えてくれたのは別府
君だった。
「大丈夫か? 一度、それを降ろして」
『う……うん……』
支えられている事に安堵感を感じつつ、私は荷物を下に降ろした。その途端、支えて
くれた別府君の手が私から離れた。
「全く。女の子なんだからさ。無理しないで、重い物は俺に頼めば良かったのに」
別段、咎めた口調では無かった。しかし私は、荷物を上の棚に収める彼の背中に向け
て、つっけんどんに答えた。
『今度からそうするわ。ありがとう』
そう言って、彼に背を向け、倉庫整理の仕事に戻ろうとした。その背後から、別府君
の声がした。
「あの……椎水さんさ……」
『何? さっさと作業に戻らないと、サボってるって怒られるわよ』
バッサリと切り捨てるような口調で聞き返しつつ、私はさっさと片付けに戻る。少し
の間を置いてから、別府君が言葉を続けた。
「あのさ…… 俺、何か気に食わない事とかしたかな?」
その質問で、彼が何を聞きたいのか、私には大体理解出来た。しかし私は、ワザとし
らばっくれるような問い返し方をする。
『何で……そんな事を聞くの?』
「何でって…… 椎水さん、俺の事を嫌ってるみたいだからさ。もし原因があるなら、
教えて貰いたいと思って」
『それを聞いてどうするの? 直せば好かれるとか思ってる?』
反射的に思った事を口に出してから、私は非常に嫌な言い方だと自己嫌悪に陥る。さ
すがに気になって、肩越しに振り返って彼の顔を窺う。予想通り、困ったような傷つい
たような顔をしていた。彼は小さく首を振ってから、決然とした口調で言った。
「まさか。そこまで上手く行くなんて思ってないさ。ただ、理由も分からずに嫌われる
のって、気になるじゃん。だからさ。せめて、気に食わない理由だけでも知れたらいい
なって。もしかしたら、他の女子にも不快な思いさせてるかも知れないし」
-
私との仲は改善しなくても、欠点を知り、それを直したいという気持ちは立派だと思
う。私なんて、自分で理解している欠点ですら認めたくないというのに。
しかし、彼に対する答えを、私は持ち合わせていなかった。何故なら、嫌う理由なん
てどこにもないから。彼を避けているのは、偏に私が臆病だからに他ならない。だから
私は、ある意味正直に、こう答えた。
『別に、理由なんて無いわ。だって、嫌ってはいないもの』
ちょっと驚いたような顔を、別府君はした。ずっと嫌われてると思ってる人から意外
な事を言われれば、それも当然だろう。
「なら、何で……」
自分を避けるのか。そう聞きたかったのだろうが、私は彼に言葉を被せるように言葉
を続けた。
『単純に、貴方の事が苦手なだけなの。向かい合ってるだけでも、おかしくなりそうな
くらいに。だから、貴方に原因なんて無いわ。あるのは私の方』
「そっか……分かったよ。生理的に、って事か……じゃあ、ま、仕方……ないよな……」
そう答えた時の彼の顔が辛そうで、私は顔を背けてしまった。
私は嘘を言った訳じゃない。ただ、誤解させるように言っただけなのだ。だって、彼
を目の前にして私の体がおかしくなる原因が、恋心からだなんて、言える訳無いもの。
こんな欠点だらけのつまらない女の事で、彼には悩んで欲しくないもの。それなのに、
結果的には彼を酷く傷付けただけだった。彼の顔に浮かんだ表情を思い浮かべるだけで、
私の心もズタズタになりそうな程に、酷く痛みを覚えるのだった。
終わり
ここまで避けさせると萌えは無くて、ただ辛いというか、痛いだけだなあと実感。
|
|
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板