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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

167板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』:2016/06/09(木) 02:03:10
>>166

       「光栄だ」

私も演奏してみたい、なんて言われてしまえば、こんなにも嬉しいことは無い。
思わず高笑いしたくなる衝動を、グッと堪えて胸の『炉』にくべる。


     「OK――――」


あとは言葉はいらない。
音楽好きが楽器を持って集まれば、やることはひとつだ。


             「――――行くぞ」


          スゥッ――


『ウィズイン・サイレンス』に口を当て、息を吸い込む。
板踏甲賀にとって音楽は―――‐『全て』だ。
その世界には『音楽』しかない。
そう信じているが故に、コミュニケーションも……やはり、また。


        /二二二二7
        //___.//                               f二)
        / ―――‐ /                                 || l
        //     //                                ||ノ〉
   , -‐-v./  , -‐-v./                Vk、                レ
  《   .ノ  《   .ノ                  Vト、` ー 、
    ̄      ̄                    Vk `ー、 i
                                Vk   l/
                                Vk
                               〆 .〉
                              /   ノ
            《 ヽ___          ゝ- ´
             _ ̄ ̄ ̄| |
            《 ヽ__| |
              ̄ ̄ ̄ ̄

   〃`:
                                    丶_ノ ー、
                                      \.  ト.
                                       \.! !
                                         ヾ|


――――音は鋭く、情熱的に。
最初から手加減も遠慮もなしのフルスロットルだ。

168ココロ『RLP』:2016/06/09(木) 02:14:50
>>167

「――――ええ!」

ココロにとって音楽は全てではない。
けれど――何より。

   ス

        スス

何より、自信を持って出来ることだから。
何より、誰かに好きになってもらえることだから。

       
:♯゚♪。           
  +.:♭*
     ♪.♪*
       .♪*     +.:♭*♪.♪*
         ♭*♪.♪*     *:.♪.:。.  
                         *:.♪.:。.*:.♪.:。.*:.♪.:。.
     
音を紡いでいく。

『板踏』の演奏に合わせるように。
幻の音が、炎のように情熱的な音を、補う。        


        +.:♭*♪.♪*             *:.♪.:。.*:.♪.:。.
       .♪*     +.:♭*♪.♪*   +.:♭*♪.♪*  
   :♯゚♪。            ♭*♪.♪*
*:.♪.:。.                    
゚                         


(…………楽しい! 楽しいわ!
 『RLP』――誰かと一緒に、演奏するのは!)

ココロは笑みを浮かべて――ただ音に向かい、音を躍らせる。

169板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』:2016/06/09(木) 02:28:54
>>168

    (いい――――いいぞ!)

        (ハッハァ! 楽しい! 楽しいな水溜ココロ!)

湧き上がる歓喜。
それすらも炉にくべて燃料にして。

板踏の音楽の原動力は、その情熱。
燃え盛る炎のように、薪と風を送り込むほど熱量を上げる音楽。
鉄をも溶かす『蹈鞴製鉄』のように、際限なくその火力は上がっていく。

      (なら、こいつはどうだ――――!)

                          ∧
                        <♪>
                          ∨
       ∧
     γ   `ヽ
    <  ♪  >        ∧
      ゝ   _ノ  ∧     <♪>
       ∨  <♪>     ∨
            ∨

                      ∧
                    γ   `ヽ
                   <  ♪  >
    ∧                ゝ   _ノ
   <♪>               ∨
    ∨

挑むように、転調。
音はさらに激しく。
炉の熱量が上がっていく。どこまでも、どこまでも。

170ココロ『RLP』:2016/06/09(木) 02:35:26
>>169

心の水底から――音が沸き上がる。
迷いがちな言葉より雄弁に、指は、ピアノは語る。

湖畔の水面を撫でた指先。
そのまま――音に流し込む。

(板踏さん――なんて『熱い』音色!
 でも私は……張り合ったりは、しないわ。)

もっと目立とうとか――抜き去ってやろうとか。
そういうのじゃあ、ない。

これは、『セッション』。
音と音の調和。水が炎を消すことはない。


          _,.、.-―-.、., ♪
       、-''´       `'-.、,_
―--:‐''^ ´   ♪
                             ♪                 _,.、.-―-.、.,
                                            、-''´       `'-.、,_
                                       ―--:‐''^ ´



      (……合わせるって、言ったもの。)

むしろ、水に反射して、炎の揺らめきは妖しく灯る。
熱暴走なんて、起こさせない。

              (どこまでだって……!)

音と音の調和――どこまでも、どこまでも、保って行く。

171板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』:2016/06/09(木) 02:48:59
>>170

ついてこれるか―――――音に乗せたメッセージ。
帰って来たのは、やはり音に乗ったメッセージ。

炎は湖面を照らし、湖面は炎を映して輝く。
相互に互いを引き立てる、音と音のコミュニケーション。

    (ああ、楽しいな! 本当に!)

               (これならいつまでもやれそうだ!)

       (ああ、いつまでだって続けてたいさ!)

玉のように噴き出す汗。
僅かな時間のはずなのに、もう何時間も演奏を続けているような気すらしてくる。
つまり――――

         (だが――――ああ! クソッ!)

――――その体力は、有限で。
音は徐々に熱量を抑え、ゆっくりと……『デクレッシェンド』で消えていく。
炎は小さく、しかし最後までその輝きを誇示しながら……


                           . . : :♪
.                         . : ∮ :
           . . . .          . : : : :
         . . : : : : :|ヽ: . .     . : : :#: :
       . : : r‐┐ : C|: : : : . . . :c/⌒: : :
     . : : : d d : : :   : :♭: : : :
   . :c/⌒: : : :        : : :
. : :♪: : : :
 : : :


――――演奏を、終えた。

             「―――――ぷはっ!」

                      ドサッ

たまらず、板踏は大の字になって地面に寝転がる。

172ココロ『RLP』:2016/06/09(木) 03:07:02
>>171

スタンドは精神(ココロ)の表現だ。
この音楽も――精神(ココロ)の表現だ。

全身全霊の演奏は――そう、だからこそ。

「…………!」

                           . . : :♪
.                         . : ∮ :
           . . . .          . : : : :
         . . : : : : :|ヽ: . .     . : : :#: :
       . : : r‐┐ : C|: : : : . . . :c/⌒: : :
     . : : : d d : : :   : :♭: : : :
   . :c/⌒: : : :        : : :
. : :♪: : : :
 : : :

(そろそろ……終わるのね!
 分かっているわ、最後まで合わせる――)


       ジャァ――z____ン


                 ・・・・永くは続かない。


「…………」

「………………はぁぁぁ。」

         シュ― ン

『RLP』が解除され――じきに、余韻も溶けていく。
寝転がったりはしないけれど、心地よい達成感に満たされる。

173板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』:2016/06/09(木) 03:21:14
>>172

呼気は荒く、汗は止まらず。
しかしそれが、たまらなく気持ちいい。
湖畔の涼しい風が頬を撫でていく。

……しばらくそうして休んでから、むくりと上体を起こした。

     「――――――『板踏甲賀』だ」

ニィと微笑んで、手を差し出す。
もう、そこに身を焦がすほどの熱は無い。
既に互いの名は知っている。
それでも――――改めて名乗らずにはいられなかった。
そういう衝動だけが胸の内にあった。

言いたいことは、既に。
音に乗せて交わした。ありったけの全てを。
余計な言葉を吐こうという気には、まったくなれなかった。

174ココロ『RLP』:2016/06/09(木) 03:31:03
>>173

    ス

差し出された手を、軽く握る。
そして。

「……」

「私は……『水溜 意(みずたまり こころ)』よ。」

       ニコ…

『板踏甲賀』個人に名乗るのは――初めてだ。
それはきっと、大きな意味があること。

    ヒュ
       オ
         オ

いつも通りの湖畔の水面。
涼しい風が吹く。

今日もまた、ココロの『絆』が――ここで、紡がれた。

175藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/26(日) 23:59:26
音が聞こえる。
音色が聞こえる。
旋律が聞こえる。
湖畔の傍から聞こえる。

バイオリンの音が聞こえる。

「……」

演奏を終える。
浮かない表情だ。

176ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 00:03:53
>>175

「…………」

    〜♪

          「……?」

音色が聞こえた――気がした。
既に止んでいた。

自然公園には散歩をしに来た。
気のせいだとしても、帰るわけではない。

     スタ
           スタ

そして――歩く先にいる『藤心』の姿が、ココロの視界に入った。

(……あ……き、気のせいじゃなかったわ。
 バイオリン……かしら、あの人が演奏していたのね。)

        ジ…

        (あ、あまりじろじろ見ては失礼かしら……?)

と、思い直すものの、もう十分じろじろ見ていた。
視線に気づくかもしれないし――そうでなくても、距離的に近い。

177藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/27(月) 00:11:00
>>176

散歩をしに来たココロ。
音色に足を止める。
長く黒い髪。尻にかかりそうなほどだ。
その女性がまたバイオリンをひこうと構える。
が、そこでココロと目が合った。

「あ……」

びくりと大きく体を震わせる。
視線を外し、きょろきょろと辺りを見回している。
すると、近くにあったバイオリンのケースに手を伸ばした。

178ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 00:23:33
>>177

(あんなに長いと、
 手入れが大変そうね……)

(……いえ、だから何ってことはないのだけれど。)

湖畔の緩やかな風。
長い髪に視線を取られ――目が合った。

  「あっ」
 
     ビクッ

(こ、怖がられているわ……
 ど、どうしましょう、不審者だと思われた……?)

      (嫌な思いをさせてしまったかしら……?)

目を逸らす。
ココロはあまり強い気質ではない。  

「こ、こんにちは……
 ごめんなさい、じろじろ見て。」

「その、バイオリンが聞こえたから、気になって……」

とはいえ、話すことは出来る。
ここで逃げれば、本格的に不審者だ。
もし自分がそういうことをやられたら怖い。

      「……れ、レッスンをしているんですか?」

それに――楽器を、音楽をしている相手に興味があるのは本当だ。

179藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/27(月) 00:44:58
>>178

「ヴァイオリン……」

女の動きがぴたりと止まる。
が、ほんのちょっぴり震えているのだろうか。
髪の毛が揺れ、ケースを掴めないでいる。

「レ……レッスンでは……ないわ……」

「ひいていた……だけ…………それだけ……ほんとうよ?」

ぽつり、ぽつりと語る。
やはり視線は合わせない。

「私は……なにも……」

180ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 00:58:54
>>179

「あ……そ、そうなんですか。
 ご……ごめんなさい、早とちりでした……」

ココロは深追いしない。
そういうのはお互いよくない。

(ど、どうしたのかしら……
 そんなに、こ、怖がられているの?)

     (私そんなに怪しい……?
      そ、それとも体調が悪いのかしら?)

  ソロ…

ほんの少しだけ、脚を前に動かす。
懸念はあるが、話しやすいようにも歩み寄る。

「あ……え、ええと……
 私も、ピアノをしているから……」

     「気になっただけで……
      それだけ……興味本位で。」

あくまで、恐る恐るだ。
ココロは傷つけたくないし、その逆も恐れる。

「別に何をしようとかじゃあないんです……
 ごめんなさい、向こうに行った方がいいかしら……?」

「そ、それとも……何か他に出来ることとか……
 いえ、私がそれを出来るかは、分からないけれど……」
  
一応、尋ねてみる。拒まれたなら、実際にそうするだろう。

181藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/27(月) 01:12:21
>>180

俯いたまま動かない女。
外界から身を守るように黒い髪が顔に影を作る。

「いいの……あなた、悪くないわ……」

「! ……そう……ピアノ……いいわねぇ……」

やっと目を合わせてくれたらしい。
しかしその眼は前髪に隠れている。
口元が少し緩んでいるらしいことは分かる程度だ。

「いいわ……ここは……私のものじゃ……ない……し」

「私……なにも、いらない……なにもなにも……」

「……あなた、お名前は?」

182ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 01:25:04
>>181

「え、ええ! 良いですよね。
 私も……弦楽器は詳しくないけれど……
 でも、ヴァイオリンの音って、なんだか落ち着いて。」

吊気味の目を、ぱちぱちと開閉する。

(よ、よかった……音楽が好きなんだわ。
 それに、私が怖がられてるわけじゃないのね。)

内心胸をなでおろす。
それに、話が合うかもしれない。嬉しい。

しかし。

(……じゃあ、何があったのかしら。
 私が踏み込んで良い事じゃ……ないわよね。)

眼の前の奏者の様子は、いかにもおかしい。
それはココロにも分かるし、心配でもある。

なにも、いらない。
その心の内は分からないが――

「あ……ありがとう。
 わ、私、ココロ……『水溜 意』です。」

               「貴女は……?」

名前を教え、聞く。
いきなり踏み込みすぎていくのは、不作法に違いない。

183藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/27(月) 01:35:25
>>182

「……そう……そうよ……そうよね……」

肯定。
不安そうな様子もない。
正解の話題、なのかも。

「ココロ……? みずたまり……ここ……ろ……」

名前の復唱。
噛みしめる様に心の名前を呼ぶ。
何度も何度も。それから黙って少し髪を揺らし、口をまた開く。

「あなたも……ココロ、なの……ね……」

「私も……ココロ」

「藤心……舞……ふじ……ごころ……」

184ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 01:44:56
>>183

「あっ……そ、そうなんですか。
 ココロ繋がり……なんだか、奇遇ですね。」

     「だって、楽器も……
       音楽も好きですし……」

          「いえその、勝手な、
            シンパシーなのだけれど……」

恐る恐るではあるが――ココロは言葉を紡ぐ。
シンパシー。それがココロの感情なのかもしれない。

(この人も……私と同じ……
 いえ、同じというのは決めつけだけれど……)

(気が……弱い人なのかもしれないわ。
 もしかしたらというだけの……
 私の、勝手な考えに過ぎないけれど……)

それはつまり、おかしい人じゃあないってことだ。
まだ何も、分からない程度の繋がりだけれど。

「あ、あの……」

「ヴァイオリン……よかったら。
 もう一度、聞かせてもらっていいかしら……?」

――音楽。

そこに糸を見いだせたのは、光明だ。
音楽という『絆』は、言葉を超える事が出来る。

185藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/27(月) 23:34:51
>>184

「……シンパシー……?」

「そう……」

ぎゅっと胸の前でバイオリンを抱きしめる。
少しうつむきがちな視線。
それが何を意味するかは藤心だけが知っている。

「聞きたいの……? ヴァイオリン……」

「あなたが望むなら……いいわ……」

ゆっくりと、藤心はバイオリンを引く準備を始める。
長い黒髪を片側に寄せ、細い方にバイオリンを乗せる。
古めかしくも手入れされたバイオリン。
すぐにでも引ける状態になっている。

「……すぅ」

一度大きく吸い、吐いた。
演奏が始まる。

ttps://www.youtube.com/watch?v=GKn6-Wp3XJM

186ココロ『RLP』:2016/06/27(月) 23:40:07
>>185

(少し変なことを言ってしまったかしら……
 でも、確かにこの気持ちはシンパシーだわ……)

       (責任を持たなきゃ、自分の言葉よ。)


藤心のリアクションの意味は――察せない。
悪い反応ではないと、ココロは祈りたい。

「ええ……お願いします。
 お礼が出来るわけでも、ないけれど……」

      ス

小さく、しかし確かに頷くココロ。
耳に少しかかった髪をどかす。

そして――

「……」

      スー

           ハー

落ち着いて、演奏を――聴く。

    (カノン――)

          (……綺麗な音色。)

終わるまで、余計な口は叩かない。
目を薄く閉じ、聞き入る。そして終わったなら、小さく拍手をするだろう。

187藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/28(火) 00:03:35
>>186

藤心は非情におどおどしている。
それは人に会ったときにそうだし、普段から周りを伺っていた。
その割に外界からの刺激に弱い。人に合えば驚いてしまう。
しかし、バイオリンを引く彼女はひどく穏やかだった。
病的なまでに白い指が音を紡ぎだす。
ほんの少しの刺激で壊れてしまいそうなほど儚い雰囲気を纏ってはいるが
落ち着き、集中し、無心にバイオリンを引く姿はそんな印象を消し去ってしまうかもしれない。

「ありがとう」

拍手に対し、ぺこりと頭を下げた。

「優しいのね……」

「あなた……音楽……好き……?」

188ココロ『RLP』:2016/06/28(火) 00:14:16
>>187

ココロは演奏時の藤心に共感を抱く。
演奏は心を落ち着けてくれる。
演奏している自分は誇る事が出来る。

何もかも同じでは、ないだろう。
あくまで――親しめる物を感じる。

「こちらこそ……
 ありがとうございました。」

   ペコ

小さく返礼する。
シンパシーを抜きにして、良い演奏だった。

「い、いいえ。私はそんな……
 あっ、いえ、音楽は好きです。」

そして、頷く。
ココロの魂には『鍵盤』がある。音色がある。

「ずっと……ピアノは、私、してきましたから。
 ごめんなさい、ここでは弾けないけれど……」

(『RLP』は……聴こえない、わよね。
 決めつけてかかるのは良くないけれど……)

              (…………でも。)

しかし、それは幻の音色をのみ奏でる。
今、ここで出したところで、意味はない――はずだ。

189藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/28(火) 00:35:37
>>188

「……私も……好きよ」

ぼそぼそと小さな声で呟く。
聞き洩らしてしまいそうな声で話す。

「あなたの……弾く……ピアノ……」

「聞いて……みたい……けれど」

方法がない。
気軽に持ち運びできるようなものではない。
それは藤心も分かっていた。
しかし、相手の演奏を聴きたいという心は変わらない。

「……残念、ね……とてもとても……でも……それでも……いいわ」

「しょうがないもの……ね」

190ココロ『RLP』:2016/06/28(火) 00:45:27
>>189

「あ……ご……
 ごめんなさい……」

「ここにピアノがあれば……あれば……」

しょうがない。
しょうがないことだ。

(だけれど……『試す』のは……
 わ、私が、不審だと思われるくらいだわ。)

      (……良くないことは。)

   ピク

指輪に飾られた白い指が、僅かに動く。
ピアノの運指――

「……ふ、藤心さん。」

    ♪

       「…………『聴こえますか』?」

  ♪

      ♪


僅かな動作でも、ココロが望めば『それ』は奏でる。
指先に浮かび上がる、透明な鍵盤――『RLP』。

     (もし? き、聴こえなかったら、その時は……
       いいえ、悪い方ばかりに考えてもしょうがないわ。)

                  ――幻想の音が湖面に踊る。

191藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/28(火) 01:01:49
>>190

「いいわ……誰が……ううん……」

「……私の……わがまま……」

自戒するように呟く。
視線をそらし、一人また殻にこもる。
拒絶というよりは相手を自分に触れさせないための。

「……?」

ぱっと藤心の顔が上がる。
虚空を見つめる瞳。
音の鳴る方向を探し、見つけ出す。
視線の先に美しき鍵盤。

「……きれい……とてもとても……きれい……ね」

仕組みも何もわからない。
しかしそこに音があることが素晴らしい。

「素敵……」

192ココロ『RLP』:2016/06/28(火) 01:10:31
>>191

「わ、私のこれも、私のわがまま……」

        「だけれど」

   ポロ
        ン ♪


「――よ、良かった。
 演奏……聴かせ、られます。」

    「……ありがとうございます。
     私の『RLP』を、褒めてくれて。」

  ス―

      ハ―


「弾きます。」

深呼吸は余計な心を洗うための合図。
演奏に、心から指先を通じ鍵盤に音を――感覚に、没入する。


弾く曲は決めている。
技術勝負とか、そういうつもりはない。



          _,.、.-―-.、., ♪
       、-''´       `'-.、,_
―--:‐''^ ´   ♪
                             ♪                 _,.、.-―-.、.,
                                            、-''´       `'-.、,_
                                       ―--:‐''^ ´


一番得意な曲を――『絆』を紡ぐための、曲を。
ttps://www.youtube.com/watch?v=0siIoIWd62c

193藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/28(火) 01:19:26
>>192

「不思議……」

藤心の知識にこのようなピアノの形はない。
そしてこういうピアノを演奏するということも、ない。
未知。全くの未知足り得る。しかし満ち足りている。

「すごいわ……あなた……」

「昔……教えて……もらった……」

「演奏は……心も……癖も……人も……出るって……」

演奏が終われば小さな弱弱しい拍手と共にそんな言葉を贈る。

「あなた……やっぱり、優しい……の……かも」

194ココロ『RLP』:2016/06/28(火) 01:53:14
>>193

ココロは『RLP』について多くは語らない。
スタンドは――知っていると思っている。

それに、これは演奏が出来るのだ。
今はそれだけで良い。
演奏が止まれば、鍵盤も消える。

「あ……ありがとうございました。聴いてくれて。」

   「ごめんなさい、その……
    驚かせてしまいました……?」

拍手の音は、耳に心地いい。
ヴァイオリンの音ほどではないけれど。

「……」

昔、大切な友達に教えられた。

     キュ

スタンドは心の鏡――
美しいスタンドの持ち主には、美しい心が少しはある、と。

その言葉はココロを何度も励ました。

「……わ、私……嬉しい、藤心さん。
 そんな風に、言って貰えて……本当に。」

「『RLP』を……演奏を、褒められるのは……嬉しくて。」

              ニコ…

         「ありがとうございます。」

面と向かってこれほど褒められるのは、誇らしく、照れる。
決して初めての経験ではないけれど、藤心の言葉は初めてだ。

195藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/28(火) 23:23:02
>>194

「少し……だけ……」

驚いていたらしい。
その割にはこれといった反応を示していたわけでもなさそうだが。

「いいの……私は……別に……」

感謝の言葉を述べるココロに藤心はそう返す。
黒い長髪で自らを覆い、その視線を地面に注いでいる。

「……少し……困ってしまうわ……」

「そんなに……いいえ……いいの……」

196ココロ『RLP』:2016/06/29(水) 01:08:53
>>195

「あ……ご、ごめんなさい。
 私ったら、少し大げさでした……?」

         ビク

少しだけ申し訳ない気がした。
けれど、感謝の気持ちは本心だし――

「でも……」

「本当に、嬉しかったから……」

あんまり謝り過ぎても、余計困らせてしまうだろう。
自分なら、きっと困る……気がする。

        チラ

「……あ……」

      「私、そろそろ……
        行こうかと思います。」

時計が目に入って、時間が気になった。

「も、もしよかったら……また、会えたら嬉しいです。」

それも素直な気持ちだった。
この湖畔に来れば、会えるような気もした。

197藤心 舞『ラヴィンチェインズ』:2016/06/29(水) 23:35:56
>>196

「いえ……いいの……私も……嬉しい……」

ケースにバイオリンをしまう藤心。
パチンパチンとケースを閉じる。
それからほうと一息ついた。

「そう……行くのね」

「会えるわ……きっときっと……」

ココロに視線を合わせてそう返す。
その顔はほんの少しだけ、笑んでいたのかもしれない。

「さようなら……」

198ココロ『RLP』:2016/06/29(水) 23:39:48
>>197

「ええ……さようなら、藤心さん。」

      ペコ…

小さく頭を下げて、自然公園を去る。

     「……また。」

その表情は、笑みだった。
ヴァイオリンの音色が、絆の糸を出会わせた。

そして――ピアノの音色が、それを紡いだ。  

     (素敵な演奏だったわ。
       ……きっと、会える。
        私もそう思っているわ……)

奇妙な、確信めいた思いと共に、ココロは帰路を歩いていく。

199稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/09(土) 01:18:51

恋姫はインドア派だ。
アイドルとしてもそういうことになっている。
異論は認める――と恋姫は思わない。
そこになんら異論をはさむ余地はない。

……だが、たまには散歩もする。

   ザッ

「あっつ……」

まだ朝。
それでも、暑い。
主に、髪を納めた帽子の中。
それから、汗で滑る眼鏡も嫌だ。

      くしゃ


「うわ……」

セミの抜け殻を踏んでしまった。
たまには散歩もするが……帰りたくなってきた。

200遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/15(金) 21:24:48
>>199


   ザァァァァ    ピチピチ   ピチピチ…

木々は風に揺れ、自然のみの囁きを織りなす。
 木漏れ日の隙間から、微かに小鳥が謡うのが聞こえた。

空に一羽、小さな影が太陽の下を通過する。アレは……ひばりだろうか

 『思いはひばりの如く軽やかに夜明けの空を飛び回るものは幸いなり』

 その鳥を見ながら、黄色を基調としたレースのワンピースを身に着けている
ピンク色の長髪の女性が、鳥の横切った空を仰ぎつつ呟く。

 『人生を超越しつつ飛び回り物言わぬ花々の言葉を解するものは幸いなり』
 
 クルッ

 その女性は、貴方のほうへ振り向く。

……穏やかな顔つきをした、少し妖美な雰囲気が彼女を取り巻いている。

 「あら こんにちは。そちらも森林浴ですか?」

 話しかけてきた……悪意はなさそうだ。

201稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/15(金) 23:30:25
>>200

   スッ

足を上げて、足元の抜け殻を見る。
見事につぶれていた。
生きてるのじゃなくてよかった。

    ビクッ

……突如話しかけられ、
小さい背がやや跳ねる。

     「えひっ……」

「まあ……そんなとこかな……
 『モンスター探し』では、ない……」

      クル

冗談とともに振り返った。

(うおっ……ピンク髪……
 コスプレかなんかか……?)

「あー、僕森林浴は初心者なんだけど、
 この暑いのに……ガチ勢は癒されるの……?」
 
          ジリ

    ジリ

空には素敵な光景が広がっている。
だが、舗装された地面は地獄の暑さだ。

恋姫は元から八の字気味な眉をさらに曲げつつ、うだる。

202遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/15(金) 23:49:06
>>201

クスッ
 
 「『モンスター探し』なんて、洒落た言い方ね。
『追う怪物に 追われる怪物  学ばない人々に 繰り返す歴史
過去の被害者さえ 未来は加害者 』ってね。
……あぁ、あなたの中のモンスター、と言う詩の引用よ」

 「癒される……そうね」

うーん、と伸びをして。その女性は木々を見つめ。少ししてから
口の弧を上げるだけの微笑を向け、言葉を向けた。

 「そうね、私は癒されると思うわよ。
周りが苦しくて、気に食わない所も目に付くでしょうけど。それでも
空を見れば、一点の染みのない青空でしょう? あぁ、雲が掛かっていたら
そうじゃないじゃないって言う、揚げ足は抜きにしてね」

 軽くルージュを引いた唇に、指を添え。クスリとその女性は
貴方に対し茶目っ気を含め、告げた。

 稗田の視点が、髪のほうに向いてるのに気づいたのか。その
ピンク色の長髪をサラッと掻き揚げながら、気負う事なく答えた。

「あぁ、この髪の色が気になる? まぁ派手だと思うわ、けどちょっとした事情があってね。
元々、『私』の地毛は落ち着いた金色なのよ。でも、ピンクも良いと思うわよ。
花でもカーネーションは落ち着く色合いじゃない」

 貴方と多少のお喋りを楽しむ猶予は、目の前の彼女にはあるようだ。

203稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/16(土) 00:04:18
>>202

「……何それ怖いな。
 別に……洒落てるとかじゃあないし。」

      「……ゲームの話だから。」

    スッ

・・・・視線を少し上げる。

地面を見ていると余計暑いから。
帽子のおかげで、上からの暑さは、少しマシ。

「流石ガチ勢だ……
 僕にはとてもできない……えひ。」

     ミーン  ミーン

      ジジジジ

「空見てもめっちゃあつい……
 まあでも……セミの抜け殻よりは癒されるな。」

それから――

「えひ、カーネーションか……
 落ち着くってか、ひらひらなイメージ……」

無意識に、髪を見ていた事に気づく。

「……バンドマンか何か……?
 コスプレ……ってわけじゃなさそうだが……」

恋姫自身の目も、桜色をしている。
暑さのあまり細まり、満開の夏桜とはいかないが。

204遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/16(土) 00:34:46
>>203

「『バンドマン』……あぁ、そうね。そう言う見方もあるのよね。
次から、この髪の色を誰かが気にしたら、そう言う風な肩書だって言おうかしら。
 もっとも、私は楽器は弾くより聞くほうが好みなんですけどね。
ショパンとか、モーツアルトとか」

 長髪のピンクの髪の先を弄り、少しだけ思案した顔つきで
稗田の質問に対し、その女性は回答を探す様子を見せる。

 「そうねぇ 謂わば……こんな言い方も奇妙だけど。『擬態』と
言うべきなのかしらねぇ」

 フッ

 女性は、僅かに馬鹿にするわけでもない。だが何処となく
何かに対し一笑するかのような微笑みを作り上げ、そう告げた。

 「保護色、って言う言葉があるでしょう? 
外敵から身を守る為、または狩猟の為に身を隠す為、とか。
 まぁ、私の場合。前者の意味を兼ねた意味合いでのピンク色が、その
保護色に鳴り得る訳よ。この髪の色だと、そんなにお近づきになりたいと
思える物好きな方って少ないでしょう? そう言う理由かしらね」

 私、余り人付き合いを好まないのよ。と、余り人好きとは言えない台詞を
人好きのする笑い方を交えて女性は言い切った。
 何と言うか、気持ちの良い女性だ……気弱、とか。ネガティブと言うものに
縁が少ないようだと。少し話を交えただけでも、そう言う性格なのが見て取れた。

「貴方は、その『バンドマン』なのかしらね? 御免なさいね
私、芸能界とかそう言った風聞に余り価値を見出さなくてね。
 貴方が高名な人だとしたら気を悪くさせてしまったかしら」

 そう大人びた様子で、稗田の職を聞く。

205稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/16(土) 00:48:33
>>204

「クラシックってやつなのかな……?
 えひ、BGMでしか聞いたことないかも……」

ゲームの、という意味だ。
実際にはCMとかで耳にする機会もある?
……どちらにせよ、意識してはない。

それから。

「擬態ぃ……?」

(なんだこいつ……
 厨二入ってんのか……?)

「まあ……うん。一理あるかな……
 絶対エンカしに行かない見た目だ……」

        「……えひ。」

言葉選びが引っかかったけれど、
まあ、恋姫も人の事は言えない立場。

「いや……僕は……
 もっと俗っぽいやつだよ……」

「そんなスーパーレアキャラでもない……」

えひ、と笑った。
レアくらいかな……と内心思う。

「にしても……あー。
 揚げ足取っちゃうけど……」

少しだけ、躊躇ってから。

「……人付き合い苦手なら、何で僕に声かけたの?」

       「コミュ力の経験値稼ぎ……とか?
         えひ、僕も大した経験値持ってないよ……」

206遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/16(土) 18:37:51
>>205

>コミュ力の経験値稼ぎ……とか?

 パンッ 「冴えてるわねー。ご名答っ
こんな成りでも、話が弾むのなら、お茶の一杯を楽しむ
相手には十分でしょう? 誰かと気さくに、見知らぬ相手でも
引かせず、お茶の御相手…そう出来るのも才能の一種だと思うわ」

 軽い手拍子を一度打ち、女性は笑みを見せて喋る。

「自分の悪いと思える部分は、他人から見るとそんなに悪く思えないけど。
それでも直したほうがいい部分は直すべきよね。
 『私』が『わたし』で悪い部分は、私は誰かとお喋りするのが好きだけど
だけどわたしは人と付き合うのが臆病なのよ。ねぇ、滑稽でしょう?」

 そう、女性は唇に指を添え小さく弾けるように笑う。
不思議な内容だ……だが、冗談なのか本気なのかは判別がつかない。

 一頻り笑うと、女性は気分良さそうに伸びを一度して呟く。

「あー、お喋りって本当楽しい。けど、ずっとは無理ね 悲しい事に」

 それは独り言めいていて、少し寂しそうである。
だが、すぐに笑顔を見せ稗田へ尋ねた。

「それで。Ex(経験値)の少ないそちらは、Ex(急行列車)に乗る程
お忙しくなければ、少し名前をお伺いしてもよろしいかしら」

 軽いジョークを交え、女性は貴方に名前を聞く…。

207稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/16(土) 23:31:47
>>206

手拍子に視線を動かしつつ。

「えひ、正解しちゃったぁ……
 豪華景品は期待して良い……?」

     「才能ね……
       まあ……でも……」

実際、話が出来ている。
初対面でも、だ――イージーな行為ではない。

「……」

「滑稽ってことも……
 ないんじゃないの……
 別に、常識的に考えても……」

短く返した。

「……」

笑みは浮かべづらかった。
その理由は自分自身意識してはいない。

「後ろから、炎の壁が迫ってくる……?
 じゃないだろうけど、えひ……制限時間はあるよな。」

腕時計を見た。
それから。

「……稗田。稗田……恋姫。
 わるいメタルスライムじゃないよ……」

                 「……お前、は?」

208遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/17(日) 00:01:32
>>207

 >稗田……恋姫

稗田の返事に、大きくゆっくりと頷きを示し女性は朗らかな笑み浮かべた。

「良い名前ねぇ。私、日本人の、ワビサビのある名前って好きよ。
私?
 私は……  ――『レミ』 そう、呼んでくれれば良いわ。稗田さん」

 互いに名乗りを示す。通りすがりに咲かしたお喋りとしては
他人から知人にランクは上がる。中々のベターな関係の築き方、と思って良い。

 そして、腕時計を見た彼女を見て。空気を読んだのだろう、抑揚をつけて告げる。

「あらまぁ、こんな時間ね。お喋りは楽しいけど、時間があっと言う間に過ぎてしまう。
まるで白昼夢のように……
『不思議の国にまどろみて 日々のまにまに夢を見る 逝く夏のように夢を見る』
……ってね。それじゃあ、また何処かで会いましょう稗田さん。
願わくば、次に会う時はお茶でも一杯互いに振る舞いながら、お話ししたいわね」

 そう、一つの木陰に腰を下ろしつつ。彼女……『レミ』は貴方へと
手をゆっくりと降り、別れを告げる。

 その顔つきは晴れやかであり、貴方との次の来訪を幾分かは
本当に期待してるように思えた……。

209稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/17(日) 00:14:00
>>208

「…………?
 レミ……ね、んじゃそう呼ぶ。」

外国人なのか?
と、思ったがそれはまあ、今は良い。

「……次あった時には、な。」

暑さも忘れて話し込んでいた。
不思議な時間だった――ように思う。

「えひ……時間制限がバグってたみたい。
 まだ何分かしか、喋ってないつもりだったが……」

小さく、陰気な笑みを浮かべた。
快い種類の笑みだった。

「経験値貯めて待ってるよ……
 今度は絶対暑くないステージで会おうな……」

     「んじゃ……
      恋姫は にげだした!」

    クルッ

          「……なんてな、えひ……」

     トコ   トコ

ほんの小さく手を振り、その場を去っていく。
次に会う時は――今日の事を忘れてはいないだろう。

210遊部『フラジール・デイズ』:2016/07/17(日) 22:23:39
>>209

 「えぇ! それじゃあね稗田さん。貴方と『私』が
もう一度お喋り出来るの、楽しみにしてるわっ」

 ゆっくりと、伸ばされた手は振られ……貴方の姿が消えるまで
『レミ』は手を振り続け、見送る。

 「……」

 そして、稗田が消えると共に彼女は笑みを保ち再度木々を見上げる。

   ……ザッ

だが、そんな彼女に十秒足らずで、近づく足音が一つ。

 
            ゴ     ゴ       ゴ
              ゴ       ゴ     ゴ……。

     『……試運転としては、どんな調子だい?』

 その人影は、青年ような声色で『レミ』に語り掛ける。驚く事なく
微笑みを張り付けたまま彼女は振り向く事もせず告げる。

 「そうねっ。中々好調ではないのかしら? けれど、残念ね。
あの娘、とっても気立てが良さそうな娘だったのに。私がこんな
継ぎ接ぎの存在だって知ったら、がっかりするじゃないの?」

 『それも、必要な事だ。僕等にとって、そして彼女にとって……
道のりは険しく長くも、手順を踏んでいかなければならない。
 レミ……それは、君も分かっている筈だ。
        ――全ては 玲美の為なんだから』

      ゴ     ゴ   ゴ
        ゴ     ゴ     ゴ
                   ゴ   ゴ……

 「フフッ。貴方も中々屈折してるわねぇ? もう少し柔軟に
ストイックに気持ちのままに生きてみたら? ねぇ ――」


                 『……解除』

 
 『……レミの役柄は、上々だ。けど、まだ場数を慣れさせないと。
待っててくれ……玲美。僕が   きっと……』

 ピンク髪をした、華奢なワンピースを纏った女性がいる。

 その女性は、何処か思いつめた横顔と共に、低い男性のような
声を発しつつ森を後にした……。

211稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/26(火) 23:13:28

    ウロ

         ウロ


帽子を被って日よけして。
スポーツドリンクも持参した。

「……」

   スッ   スッ

スマートフォンをしきりに動かす。
自然風景の撮影? 否。

   ミーン
       ミンミン

            ミーーーーーーーン!

「……」

(夏特有のBGMいらない……
 音量調整も出来ないクソゲーだ……)

イヤホンでもつけて歩けばいいか――
しかし今は、音楽で充電を減らす暇などないのだ。

恋姫はスマホの画面越しに、電子の世界のモンスターを探しているから……

212雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/29(金) 00:40:25
>>211

「ふん、ふん、ふふん」

電子の世界のモンスターではなく
現実の世界の人間が現れた。
ただし野性の存在ではない。

「ふん、ふふん」

コインを投げ上げる。
数枚のコインがきらきらと陽の光を反射する。

「はい」

ぱっと、宙にある数枚のコインを一度にキャッチした。

「ん?」

気づいたようだ。

213稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/29(金) 01:13:44
>>212

(……なんだあいつ……
 『ジャグリングジャグラー』か? えひ。)

       チラ…

少しだけ視線を遣った。
が、モンスターではない。

画面は向けないまま――――

「……」

      ビクッ

・・・どうやら目が合ってしまったらしい。
だからと言って、勝負が始まるわけではないが。

「……なんだよ。」

「おひねりとかは……
 コインいっこもないからな……」

      ジリ

恋姫はやや眉の八の字をより深める。
これはすわ、大道芸人か――という警戒である。

214雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/29(金) 01:34:58
>>213

「いえ。コインもおひねりも必要はありませんよ?」

「私、暇を持て余しただけなので」

黒い髪、黒い瞳。
だが、その瞳は黒すぎる。おそらくカラーコンタクトだろう。
薄手のカーディガンを羽織り、ズボンをはいている。
服はゆったりとしたサイズのものを着ている。
髪には前髪を分けるために四つ葉の装飾のヘアピン。

「あぁ、警戒なさらず。私、雑賀華(さいか はな)と申します」

「サイカでも、ハナでもお好きなように」

手のコインをカーディガンのポケットに突っ込む。
握り込んだ拳をポケットから出して、開いて見せた。
その手には一輪の花。

「いります?」

215稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/29(金) 22:56:50
>>214

「あっそ……じゃあいいか……」

   フン

鼻を小さく鳴らして、スマホを持つ手を下ろす。

恋姫は桜色の瞳を細めた。
そこに、突然一輪の花が映りこんだ。

       ビク…

「花とか。えひ。キザすぎるぜ……乙女ゲーかよ。
 そういうのはさ……ほら、事務所通してくれなきゃ……」

       「このご時世だし……
         警戒しちゃうかな……」

ダウナーな語調で、恋姫は拒否した。
もちろん手品には少しだけ、目を丸くしたが――

「……」

それを口に出しはしない。

「なあ、その花……いつでも仕込んでるの……?」

              「常備アイテムなの……?」

・・・何となく気になって、そんなことを聞いてみるのだった。

216雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/29(金) 23:32:45
>>215

「事務所、ですか……」

「弱りました。どこに電話をすべきなのか、見当が付きませんので」

「それに、警戒もごもっとも」

また、ポケットに手を突っ込んで花を戻す。
俯きながら上目づかいでその眼を見る。
そして、顔に微笑みが浮かぶ。

「常備? 常備、ですか?」

「どうでしょう? 確かに、持ち歩くことは多いですが毎日ではないですし」

「準☆常備、ですかね」

217稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/29(金) 23:42:06
>>216

「……冗談で、言ったんだぜ。
 こういうの、言わせんなよな恥ずかしい……」

「まあ……冗談でも、
 受け取りはしないけど……」

それについては気持ちの問題だ。
黄色い声を上げるような、がらでもない。

「……えひ。なんだよ、そのテンション……?」

『☆』。

「この暑いのに……」

何だかわからないが、
……☆が見えた気がする。気のせいか?

「スター性に全振りしてるのか…………
 じゃあ……他にも何か……仕込んでるの?」

        「マジシャンなの……?
          それとも怪盗か……えひ。」

それほど長話をするつもりもなかったし……
別に、マジックが好きというわけでもないけれど。

・・・・話の掴み、という意味では、花は実を結んだのか。

218雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/30(土) 00:11:52
>>217

「そうですか。それはますます残念」

「? テンション、ですか? いたって平常、ですが」

うそぶく。
大げさに両手を挙げて見せて。
ちょっと姿勢が☆っぽい。

「スター性なんて、仕込んでおりませんよ」

けらけらと雑賀が笑う。
そして、ズボンの裾をめくり、偽物らしいナイフを取り出す。
ズボンの後ろポケットからはカード。

「色々仕込んでますけど」

「色々な場所に。でも、マジシャンではありませんよ?」

「手品が趣味なだけです。えぇ、それだけですよ」

219稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/30(土) 00:20:18
>>218

「えひ……ハイテンションに見えるけど……」

「まあ……そう思うなら……
 お前の中ではそうなんだろうぜ……」

      『☆』。

ワザとではないのか……?
そうは思えないので、陰気な笑みを浮かべた。

「……」

  ビク

そしてナイフに多少驚く――

「……えひ。」

「装備が趣味全開すぎる……」

が、次々出てくる手品っぽいアイテム。
趣味とは言うが、これは驚く。

「さっきの……あの、コイン。
 あれもなんか、手品の奴なの……?」

「別にそこまで興味あるとかじゃ……ないんだけど。」

ややわざとらしい口調で否定を付け加えつつ、聞いてみるのだった。

220雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/30(土) 00:44:57
>>219

「どうでしょう。私自身、私を理解しているわけではないので」

「そういうものかと」

似たように笑って見せる。
といっても、物まねのセンスはない様だ。

「偽物ですよ」

刃を押すとかしゅっと持ち手の中に刃が沈む。
やはり偽物。
いや、本物を持ち歩いていた方が不味いのだが。

「コイン、ですか?」

「あれは種も仕掛けもないものですよ」

「手品でも使いますがね」

くるくるとナイフをまわす。

221稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/30(土) 00:57:07
>>220

ものまねとは分からなかった。
本物ほど陰気ではないなら、いいことだ。

「えひ……まあ……
 現実にステータス画面は無いし……」

「自分を理解とか、難しすぎ……えひ。
 自分探しの旅は超大作RPGだよ……」

恋姫はもっと陰気に笑って、言った。
それから。

「まあ……そりゃそうだ……」

と、ナイフを見て呟いた。
本物のナイフのはずがない。

「ふうん……」

    ジ…

「えひ……TECのステータス高そう。
 それこそステータス見なきゃ、解らないけど……」

      「サブクラスは大道芸人……?」

それはさりげないが、見事な気がした。
ナイフを回す動きを、猫のように、なんとなく目で追う。

222雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/30(土) 01:19:09
>>221

「スマホゲームの次はRPGですか」

「ゲーム、お好きなんです?」

あまり陰気な気配のない人間だった。
しかし陽気という訳でもなさそうではある。
相手の方を見ているが、どこか別の所を見ているような気もする。

「テクニックは重要ですよ。手品に置いて。いえ、人生において」

「芸を支えるものは人生を支えるものです」

「大道芸人よりは吟遊詩人や遊び人でありたいですね」

手の甲も使ってナイフが回転する。
くるくるくるくる。
ふわりとナイフが宙を舞う。
ナイフが雑賀の胸の辺りまで落ちてくる。
雑賀は両腕を胸の前で交差するように振る。
そして、手のひらを向けて両手を上げる。
ナイフはなかった。

「あなたのサブクラスはトレーナーでしょうか?」

「電子の海にモンスターを探す、一流トレーナー」

223稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/30(土) 01:40:48
>>222

「ゲームは大好きだよ……
 嫌いならこんな事言わないぜ……えひ。」

視線に違和感を多少感じた――
が、それを形には出来なかった。

恋姫はナイフを見る。
見ていると、消えた。

「おぉ〜〜……」

   パチ  パチ…

やや湿った、うるさくない拍手。

「えひ、吟遊詩人か…… 
 確かに詩的な言い方する……」

芸は人生を支える。
何となく、恋姫はそれを実感できている。

「僕は……メインクラスがゲーマーかな……?」

       「別にトレーナーだけじゃないし。
         サブクラスは……隠し職業。えひ。」

別にどうしても隠す物、でもないけれど、自分から言うほどでもない。
恋姫は暗く、悪戯っぽい表情を見せて。

「…………詳しいのか? ゲームとか。」

今の物言いに、若干の『理解』を感じた気がするから、だ。

224雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/30(土) 23:37:16
>>223

「なるほど。いかにも現代人的……いえ、そうでもないですかね」

腕を組み、うんうんとうなずく。

「隠し職業? それはそれは、少し気になりますね」

「かなり気になります」

小首をかしげる。
それから腕を下す。
だらりとカーディガンの袖が手のほとんどを隠す。

「ゲームです? いえいえ、詳しいというほどでは」

「人並み、でしょうか。なにをもって人並みとするかは不明ですが」

「しかし、ゲームの知識はあります」

ポケットからスマホを取り出し、指し示す。
カバーのつけられていない白いスマホだ。

「先ほどやられていたものがどういう類のものかは分かりますよ」

225稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/30(土) 23:59:01
>>224

「……お前だって現代っ子だろ。
 常識的に考えて……違うのかよ。」

      エヒ

「なんか違うなら面白いけど……
 それこそ、ゲームみたいに……
 いや……どっちかと言うと、ラノベ感か。」

などと、1人で何か納得したように言う恋姫。
その表情は笑みだが、暗い。

「隠しは隠し……えひ。
 フラグが立ってないから、教えない……」

そして、一応のヒミツってものも、暗く隠す。
それはたぶんきっと、単なる雑談の延長のようなものだった。

「……分かるのか。
 えひ、まあ……あれは、な。
 リア充でもわかるくらい、人気だし……」

           チラ

下げていた画面を、上げた。
伏せがちだった目が、少し大きく広がる。

        「……レアなのキタコレ。」

   ソワ

何か、良い物があった――というのは、いらない説明かもしれない。

226雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/31(日) 00:22:49
>>225

「確かに、私もそうでした」

はっとしてみせる。
しかし、どこか嘘っぽい顔だ。

「しかし私がもしもなにか特殊な事情を持っているなら、現代人ではないでしょうね」

「自分のことを理解できていないので可能性はあります」

今度は真面目に頷いて見せる。
ころころと表情の変わる奴だった。

「おっとそれは残念、でもないですかね」

「隠し事を暴かれるのは手品の天敵」

「私が暴く側に回るのはまずいでしょう」

手品師を気取る雑賀。
しかし、たしかに手品をしている側からすれば死活問題。
その恐怖を雑賀は知っている。

「おぉ、レア。それは素晴らしい。じつにじつに」

「私の手品でも、電子データは取り出せませんから。えぇえぇ」

「おめでとうございます」

227稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/07/31(日) 00:37:41
>>226

「……えひ、なんだそりゃ。
 自分探しRPG、レベル1って感じ……」

      エヒ

くすくすと笑う。
真面目な顔、ウソっぽい顔。

悪意のある嘘は大嫌いだが、それは感じなかった。
あるいは巧妙に隠されていたのかもしれないけれど。

「僕のは手品じゃないけど……
 まあいいや、詮索されるのもだし……」

         「それに……」

   ソワ

      ソワ

画面に視線を向ける恋姫。
このゲームでは……レアは出て終わりじゃない。

『捕まえなくては』――!

「えひ、タネ明かしする時間もないし……
 ありがとな……んじゃ、早速捕まえに行くから……
 こればっかりは……消えたら、ポケットから出たりしないし。」

       「……あ、僕……『稗田』。
        えひ、苗字くらい教えてやんよ。んじゃ、おつ〜」

   トコ

        トコ

そうして、恋姫は雑賀の前から歩き去った。
電子の世界を追い求めたから、だが――現実の繋がりも、出来たかもしれない。

228雑賀 華『イッツ・ショウ・タイム』:2016/07/31(日) 00:45:37
>>227

「さようなら、稗田さん」

ぺこりと頭を下げた。
そして、ぱっと袖からナイフが飛び出る。
しっかりとそれを手で握った雑賀。
ナイフをまたズボンの裾の方へと戻す。

「綺麗な方でした……そしてとても不思議な……」

「おっと、悪い癖」

「……少々、どうしたものでしょうか……はぁ……」

コインを取り出し、コイントス。

「どちらでも。たまにはおしとやかでありたいものですが……」

雑賀はコインを掴んだ。
その結果と、それからどうなったのかは雑賀だけがしっている。

229小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/15(木) 23:08:56

ある晴れた日の昼下がり、湖の手前にある木陰に、一つの人影が腰を下ろした。
洋装の喪服姿と、それに合わせたような黒のキャペリンハットを身に着けた、黒衣の女だ。
涼しい風が吹いているせいか、まだ残暑が残るこの時期にしては、今日は比較的過ごしやすい一日と言える。

     パカッ

おもむろに、ハンドバックの中から小振りのランチボックスを取り出し、その蓋を開ける。
中に詰められているのは、手作りのサンドイッチだった。
表面を軽くトーストしたパンにマーマレードを塗り、たっぷりのパセリと、薄く切ったハムを挟んである。
やや奇妙な取り合わせだが、これが好物なのだ。
一口齧ると、ハムの塩気とマーマレードの甘みとパセリのほろ苦さが一つとなり、口の中に広がった。
目を閉じて、それを静かに味わう。

――そう……。彼も、この味が好きだった……。

ふと、そんな思いが胸の奥を掠め、誰ともなしに薄っすらと微笑んだ。

230稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 00:16:16
>>229

「…………あ」

       ザ

やや俯きがちに歩いていた。
やや遠くから、その女性を見た。

その黒い装いには、見覚えがあったからだ――場所含め。

「……」

(何笑ってんだ……?
 思い出し笑いかな……)

     (女子力高そうな物持ってんな)

ランチボックスと、手に持ったサンドイッチが目に入る。
女子力に、基準値の低い目を細めつつ。

(まあ……別に、邪魔するわけじゃ、ないし……)

        (背景の村人Aみたく……
         通り過ぎさせてもらおうかな……)

木陰の前を、通り過ぎる。
別に、気づかれなくても、良いし。

気づかれたとしても、それはそれで、別に良いから。

231小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/18(日) 00:48:31
>>230

目の前を通り過ぎていく見覚えのある少女。
それに気付いていないのか、やや俯いた状態で、沈黙を守っている。

       スッ

やがて、おもむろに顔を上げる。
そして、立ち去りかけている少女の背中に声をかけた。

   「――こんにちは」

少女に呼びかける声は柔らかい響きを持っていた。
その口元には、穏やかな微笑をたたえている。

   「お久しぶりね。稗田さん」


少女の特徴のある桜色の瞳は、強く印象に残っていた。
そういえば、以前に彼女と出会った場所も、ここだった。
思いがけず、また会えたことは、嬉しいことだった。

232稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 01:02:52
>>231

「ん…………」

    ピタ

  クル

        「……よう」
  
恋姫は、掛けられた声に、振り向いた。
同じような――しかしもっと陰気な微笑を浮かべて。

「えひ、久しぶり……
 ここでよくエンカするな……」

        ニタ

「あー、小石川……さん。」

あまり、人に敬称はつけないのだが、
何となく釣られて――さん、と付け足した。

       ヒョイ

やや離れた位置の、木陰に腰掛ける。

「何してんの……
 女子力のトレーニング……?」

「えひ、飲み物がココナツウォーターとかなら完璧だぜ」

女子力という言葉は何となく湧いただけだが、言ってみた。

233小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/18(日) 01:34:44
>>232

   「覚えていてくれてありがとう……」

傍らに腰を下ろした少女に、まず感謝の言葉を述べる。

   「――そうかも、しれないわね」

そう言って、くすりと笑う。
やや悪戯っぽさを感じさせる、ほんの少し明るい笑い。
真夏の太陽とまではいかなくても、雪が降り止んだ晴れた冬の日のような笑いだった。

   「もし良かったら、食べてみてもらえないかしら。
    味を見て欲しいの。口に合えばいいんだけど……」

おもむろに、手の中にあるランチボックスを差し出した。
そこには手頃なサイズに切られたサンドイッチが幾つか入っている。
少なくとも、見た目は綺麗に整っているようだ。

   「――ラベンダーティーならあるわ。
    これを飲むと、気持ちが落ち着くから……」

バッグの中から小型の水筒を取り出して、そう付け加えた。

234稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 01:45:58
>>233

「えひ。昔のゲームじゃないし……
 セーブデータは簡単には消えない……」

           「……」

    ス

座る位置を少しずらした。
小石川のランチボックスに、手が届く、ように。

「味見ぃ……?」

    ニタ

提案に少し笑みを深めて。

「まあ……んじゃ、貰おうかな。
 砂糖と塩、間違えるようには見えないし」

(今日はオフだし……貢物、とかじゃないしな……)

多分、おいしいだろう。
見た目もそんな感じがする――ひと切れ、取った。

「ラベンダーティー……
 えひ、なんか……しゃれおつぅ」 

           「……いただきます」

     モッ

小さな口を開いて、静かに、手のひと切れにかじりついた。

235小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/18(日) 02:08:27
>>234

   「――どうかしら……?」

恋姫がサンドイッチを口にしたのを確認して、静かに尋ねる。
どちらかというと、あまり一般的ではない取り合わせなだけに、口に合うか少々不安もあった。
ハムとパセリとマーマレードのサンドイッチ――少し変わった味がするかもしれない。
一口食べれば、塩気と甘みとほろ苦さが一つになり、口の中に広がるだろう。

   「私は、この味が好きなの……。
   色んな味が一度に感じられるから。それに――」

一度言葉を切り、そして再び口を開く。

   「私が愛していた人も、この味が好きだったから……」

それは、まるで遠い過去を振り返るような口調だった。
しかし、実際には、それほど昔のことでもないのだ。
未だ心の中に強く残る傷が、そのことを裏付けている。

   「――お茶をどうぞ」

恋姫が食べ終わるのを見届けてから、水筒のカップにラベンダーティーを注いで差し出す。
季節に合わせているらしく、よく冷えているようだ。

236稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 02:19:03
>>235

          モッ

    モッ…


        ゴクン

「……食べた事無い味だぜ」

飲み込んでから、恋姫は短く、そういった。

(ハム……と、マーマレードと。
 この苦いのなんだ……パセリか?)

口の中に残る味。
不思議な――重なり合う味だ。

「けっこう美味しい……かな」

          ・・・悪くはない。

「……」

「…………ん、ありがと」

重なるのは味だけでなく、思い出も――なのかもしれない。
恋姫はやや重い物を感じつつ、カップを受け取り、口をつけた。

            クィ

                「えひ、つめた……」

237小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/18(日) 02:47:29
>>236

   「――そう……。良かった」

胸をなで下ろし、微笑みを浮かべる。

   「少し冷やしすぎたかしら。ごめんなさいね」

そう言って、軽く頭を下げる。
やがて、緩やかな風が、二人の間を通り過ぎていく。
少しの沈黙が流れ、ややあって、静かに声をかける。

   「――今、私はこの町で叶えたいと思っている目標があるの……。
   稗田さんにも、あるのかしら?」

何か含みのある口調だ。
もしかすると、『Veraison』のことを言っているのかもしれない。
この町に住んでいる住人なら、その存在を聞くこともあるだろう。
実際、その通りなのだ。
つい最近、星見街道を歩いている最中に、ふと小耳に挟んでいた。

   「お互いに、叶えられるといいわね……」

そう言って、恋姫の方に向き直り、ふわりと笑った。

238稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 03:03:23
>>237

「今日は……まだ、暑いし……」

          「美味しいよ」
 
   ク

喉を小さく鳴らして、カップ一杯飲み干した。
緩やかな風も、快さを後押しする。

「目標か……
 ……えひ。唐突だな」

      「…………あるよ」

知られていても。
・・・いなくても、同じこと。

「叶っても、エンディングじゃないから……」

         「早く、叶えたいな……えひ」

陰気に笑った。

それ以上何かをつけたすことはない。
穏やかな沈黙か――あるいは、小石川が何かを返すか。

少し、この、快い時間に……身を任せてみたいのかもしれない。

239小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/09/18(日) 03:25:16
>>238

   「挫けそうになった時、稗田さんのことを思い出したかったから、かしら」

自分の心に問いかけるように胸に手を当て、ぽつりぽつりと話し出す。

   「もし――私が挫けそうになった時に、
   自分と同じように頑張っている人がいることを思い出せたら、
   それが支えになってくれると思えたから……」

自分にとっては、それが文字通りの意味で命綱となってくれるかもしれない。

   「だから、稗田さんには、これからも進んでいって欲しいと思うわ。
    勝手な考えかもしれないけど……」

   「私も、頑張るわ……。
    自分にできる限り……。精一杯……」

   「だから稗田さんも、何かあったら、
   私のことを思い出して少しでも励みにしてもらえれば嬉しいわ……」

その後は、何も言わなかった。
後に残るのは、似て非なる二人の人間と、静かに流れ行く時間だけだ――。

240稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2016/09/18(日) 04:52:03
>>239


「…………ん」

         コク

恋姫は――小さく頷いた。

思い出したい――という言葉に?
励みにして欲しい――という言葉に?

あるいは両方かもしれない。
恋姫は、人に希望を与える存在――アイドルだから。
支えとなる人の存在というのは、誰にとっても嬉しいから。

「………………」

            「えひ」


それから、最後に、こらえきれないように少し笑って。

                ・・・時間は、静かに流れていく。

241小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/10/15(土) 22:47:42
――AM9:00――

いつ来ても、この場所は居心地が良い。
湖の周りを散策しながら、改めてそう思う。

この町で暮らし始めてから、できる限り多くの場所に足を運ぶようにしているが、
ここには特に惹かれるものを感じていた。
樹木の香りや枝葉の揺れる音に囲まれていると、
自然と心が落ち着き、穏やかな気分になれるからだ。
ここにいれば、胸の奥にあり、時折表に出てきては心を悩ます『誘惑の囁き』を、
一時だけ忘れることができる。

この自然公園は、いわば心の安息所のような場所だった。
しかし、この町のいい所は、ここだけではない。
今日は、一日かけて、町を回ってみるつもりなのだ。
深呼吸して森の空気を味わい、しばしの森林浴を楽しんだ後で、次の場所へ向かって歩き出した。

242神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/18(日) 00:40:43
ある日の夕暮れ。
人もほとんどいないような時間。
シーズンならバーベキューを楽しむ人たちでいっぱいになっているはずの場所にそいつはいた。

『よき体を作るものは』

「いいトレーニング」

『そして?』

「食事」

燃える火。
そしてその火に焼かれる多くの肉。
たった一人でバーベキュー、ではない。
その傍らには赤褐色の人型ヴィジョン。スタンドが一体。

しかしこの二人、肉の焼き加減を見守っているわけではない。

『そこ、またズレたぞ!』

「……」

ダンスを踊っていた。

243小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 00:09:34
>>242

人気もほとんどなくなり、穏やかな時間が流れているその場所に、もう一つの人影があった。
洋装の喪服を身に纏い、その上からやや色味の違う黒いコートを羽織り、黒い帽子を被っている。
ふと、夕方の自然公園を少し歩いてみたくなり、散歩に出てきた途中なのだ。
不意に、その足が止まり、ある一点に視線が集中した。

  ――……?

男性の傍らに、見慣れない『誰か』がいる。
その姿に興味をそそられ、そこに立ち尽くしたまま、目の前の光景を見つめる。
無意識の内に、静かに見守るような形になっていた。

244神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 00:24:27
>>243

『ここの振り付けは、こうだ! こう!』

「大将?」

『どうした?』

「確かに、僕普段使わない動きをトレーニングに入れたいなーって言ったよ?」

『あぁ』

「でも恋ダンスは違うくない?」

切れのいい動きで踊る人型。
本体らしい男は困った様子で頭を掻いている。

「肉焦げちゃうよ」

『よし、いったん休憩だな』

焼けた肉を紙皿の上に乗せる男。
そこで、あなたと目が合った。

「わ、人がいる」

245小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 00:46:36
>>244

  「こんにちは」

挨拶と共に深く頭を下げた。
肌の色は新雪のように白い。
身に着けている衣服の色のせいで、それが余計に際立っている。

  「ごめんなさい。失礼とは思ったのですけど――」

  「その――少し気になってしまったものですから……」

そう言って、申し訳なさそうに顔を伏せる。
見つめていたことに気付かれたという気恥ずかしさのせいか、頬には若干の赤みが差していた。
まもなく気を取り直して、再び顔を上げた時には、頬の色は元に戻っていた。

  「何かスポーツをなさってるんですか?」

穏やかな、しかしどこか陰のある微笑みを浮かべて、そう尋ねた。

246神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 00:55:38
>>245

「あぁ、どうも。こんにちは」

頭を下げる男。
黒と金がまじりあった長髪を一つ結びにしている。
服もまた黒と金がまじりあうジャージだ。
その上にジャンバーを羽織っていた。

「気にすることじゃないよ」

『うむ。その通りだ』

にこりと笑って言う言葉を隣の人型が後押しする。

「スポーツっていうか、ダンス?」

『いや、これもプロレスだ。プロレスである。プロレスだろう』

「うん。ちょっと黙ってくれないかなぁ」

『なっ……』

247小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 01:21:40
>>246

  「お気遣いありがとうございます」

まず男性を見て、それから人型の方へ視線を移す。
線の細い自分とは対称的に、筋骨隆々とした姿からは、生命力に溢れている印象を受ける。
おそらくは本体であろう男性を反映しているのだろうと思えた。
『彼』が何者なのかは、最初に見た時から。おおよそ理解はしていた。
それでも、珍しいことには変わりがない。
今までに、自分のもの以外のスタンドを見たことは少なかった。

  「プロレス……ですか?そう――プロレスをされてるんですね……」

人型の言葉を受けて、小さく頷き、何気なく呟いた。
スタンドはスタンドを使う者にしか感じ取れない。
目の前にいる男性――神原が、そのことを知っていたとしたら、
この喪服の女もスタンド使いだということが分かるだろう。

248神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 01:28:27
>>247

「そう。僕はレスラーなんだ」

『そして俺がトレーナーだ』

「ん?」

肉を噛みしめながら小首をかしげる。
しばしの思案。

「大将が見えるの?」

『師匠と呼べ』

「師匠、ああもういいや。君もそういう人?」

そういう人。
つまりはスタンド使いであるのだろうか。
男は念のために確認した。

249小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 01:50:59
>>248

  「はい」

投げかけられた質問に対し、特に隠すこともなく、呆気ない程に素直に肯定した。
敵対的なスタンド使いに出会ったことがないため、警戒心が薄いというのもある。
元々の性格として、嘘をつくことを好まないからというのも理由の一つだ。
何よりも、この男性が悪い人には見えなかったからというのが、一番の理由だった。

  「私も同じものを持っています」
  
  「そちらのトレーナーさんのようにお話はできませんが……」

  「見せていただいたお返しに――私も少しお見せします」

利き手である左手を持ち上げ、軽く握る。
すると、その手の中に一振りの『ナイフ』が出現した。
その後ゆっくりと手を開くと、『ナイフ』の像は徐々に薄れ、最後には霧のように掻き消えた。

250神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 02:00:17
>>249

「わぁ、ナイフか」

『俺とは違うタイプのスタンド』

男自身もあまり自分のもの以外を見たことがないのだろう。
素直に驚いた声をだす。

「ナイフかぁ。使いどころありそうだなぁ」

「料理するときとか……あ」

「食べる?」

バーベキューの網を指さし問うた。

251小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 23:09:20
>>250

  「誘って下さってありがとうございます――」

  「では……お言葉に甘えて、少しだけお邪魔させていただきます」

少し考えてから、そう答えた。
見知らぬ男性とバーベキューをするというのは、傍から見ると奇妙な光景だろう。
しかし、自分と同じような人間と出会えたことは嬉しいことであり、もう少し話をしてみたかった。
こうして町の中でスタンド使いに出会うことはあまりない。

もしかすると、自分でも気付かない間に出会っているのかもしれないが……。

  「こちらには、よく来られるんですか?」

252神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 23:39:25
>>251

「好きなだけ食べてね。お酒が好きならそれもあるよ」

こんと足で蹴った先には箱型のカバン。
その中に酒もあるのだろう。

「はい。紙皿と割りばし」

『しっかり食ってトレーニングッ。それすなわち肉体増強の道なり』

肉を焼き、野菜も焼く。
次々と肉をひっくり返し、紙皿の上にのせていく。

「こっち、か。トレーニングできるならどこにでも。面白いもの、刺激のあるものがあるならどこにでもいる」

「巡業中はいろんなところ行くけど、コッチでの試合も結構あるから」

253小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 00:03:39
>>252

  「どうもありがとうございます」

左手で割り箸を、右手で紙皿を受け取る。
両方の薬指にある結婚指輪が、夕日を受けて小さく光っていた。

  「お酒は嫌いではありません」

  「ですけど――今日の所は、お気持ちだけいただいておきます」

そう言いながら、先程からの陰を帯びた表情で、穏やかに口元を綻ばせた。
アルコールは必要な時だけ摂ることにしている。
幸いなことに、今はその時ではなかった。

  「色々な場所へ行かれてるんですね」

  「私は存じ上げない世界ですけど……」

  「もし、この町で試合をされるのなら、私も一度拝見させていただきたいです」

254神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/21(水) 00:41:54
>>253

「そう。残念だなぁおいしいのに」

おかまいなしに男はカバンから酒瓶を取り出す。
ブランデーであった。コップに注ぐとそれを一気にあおる。

「うん。ぜひ来てね」

「マスメディアが盛り上げてくれる分僕らも頑張るからね」

「今は休みの期間だからチケット持ってないけど」

「あ、神原幸輔(かんばる こうすけ)の名前があるポスターがあったらその団体のチケットを買うといい」

「僕が出てるからね」

255小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 01:13:13
>>254

  「神原さん――ですね。分かりました。その際は是非……」

ちょうどいい焼き具合になった肉と野菜を網から拾い上げ、口の中に入れる。

  「おいしいです」

素直に感じたままを口にし、柔らかい笑みを浮かべた
野外でバーベキューというのはあまり馴染みがないため、自分にとっては新鮮な経験だった。
なによりも、自分と同じような人間――スタンド使いと会話していることで、
心の触れ合いを感じていることが大きいのかもしれない。

  「私は何も差し上げるものがないのですけど……」

  「今日ここで出会った記念に、せめて名前をお教えしておきます」

  「私は小石川――小石川文子といいます」

そう言って、再び微笑んでみせた。

256神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/21(水) 22:17:48
>>255

「それはよかったよ。いいお肉かったからね」

「おかげで素寒貧だけど」

『レスラーは男を売るのだ。即ち見栄の商売なりッ!』

「うん。師匠はお金払わないもんねぇ」

また酒をのむ。
今度は瓶から直接ラッパ飲みだ。

「小石川さんかぁ。よろしくね」

『さぁ、幸輔踊るぞッ』

「え? ほんと?」

二人はまた踊り始める。
それは先ほどよりちょっぴりうまい踊りだった。

257小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 23:42:05
>>256

息の合った二人のやりとりを見て、自然と口元が緩む。
同時に、ほんの少しの寂しさが胸の内をよぎった。
いつでも誰かが傍らにいてくれる。
かつては自分のそばにも、そんな人がいた。
幸せだった時のことを思い出して、その顔に浮かんだ陰の濃さが、不意に増す。

  「――ふふッ」

しかし、再び目の前で踊り始めた二人の姿で、その暗さも打ち消されてしまった。
つられたように、自身も小さく笑う。
先程よりも、少し明るい微笑み。
それが彼らによってもたらされたものであることは言うまでもない。
しばらくの間、自分に明るさをくれた二人を、優しい視線で見守り続けていた。

258常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/02(木) 01:22:45
相変わらず主人は見つからず。
近辺にいるとされる『大柄で声の大きい変態女装不審者』の足取りも掴めず。
仕方がないので社会奉仕をするのだ。

  カラン  ガサガサ

「ポイ捨て厳禁の看板のそばなのに汚すぎます!!!!!!!」

     バサリ 

「うわあああああああエロ本ですよ!!!!!破廉恥!!!!」

259烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/03(金) 22:27:22
>>258
(……)
そんな時、たまたま通りかかった一人の少女

(な、なんか変なの見つけちゃったぁあああ!?)
思わず声が出そうになるくらい異様な出で立ちの…?
とにかくよくわからないがうるさい人の姿を見かけた

(まさかアレが、いま噂の…『大柄で声の大きい変態女装不審者』!?)
もし違ったら失礼だなーと思いつつも
改めてその姿をじっくり見てみるのであった

260常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/03(金) 23:00:04
>>259
君が公園で偶然発見してしまったその不審者疑惑の珍獣は、
『メイド服』を着用している20代くらいの体格のいい男であった。

『執事服』ではないのだ。『メイド服』だ。
男が膝ほどの丈のワンピースとフリルの装飾のエプロンを着ている。
なるほど異様な出で立ちである。

  「しかも!!!!5冊も!!!!」
   「虫が!!!!!!湧いてます!!!!!きったないですよ!!!!!!」

トングと町指定のゴミ袋を手に、どうやら『ゴミ』拾いなんかをしている様子だ。

    ギ ョロ

   顔を向けてきた。左目に眼帯をしている。かなり不機嫌そうな表情。
   …という訳で、君と男の視線が合ったぞ。

261烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/03(金) 23:12:21
>>260
(うわー、でっかい声でゴミ拾いしてるよー…
 一見すれば……ボランティア活動だけど)
そして、その体格のいい男の格好を見れば
まさにメイド服である

(…なんだか、噂のそれとかなり合致するんだけど…)
どうしようかどうしようかと思っていると

「むぅっ!?」
顔をこっちに向けてきて、ゾワッとした表情になる

「あ、えーっと…
 何をして…らっしゃるのでしょう…?」
思わず敬語で震えた声で話しかける

(だだだ、大丈夫…
 いざという時にはスタンドを使えばなんとかなる…
 変質者とかそういうのなんて怖くない…!多分……)

262常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/03(金) 23:21:49
>>261
「『奉仕活動』です」
即答された。

 バサバサ
    ガサガサ

男は小汚い18禁雑誌をゴミ袋に放り込むと…

 「……」
 「………何か捨てるなら…」

ゴミ袋を前に突き付けながら烏丸にノシノシと接近!

263烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/03(金) 23:25:43
>>262
「えーっと…つまりボランティア?」
と、彼の様子を見ながら答える。

(別に悪いことはしてなさそうだけど…)
若干警戒心を薄めようとしたが、そんな時、

「え、え!?」
のっしのっしと接近してくるメイド服の男!
ゴミ袋を持ってくるが

「い、いえまだ何も捨ててはいませんが!」
と、ふと思い出した

「あ、そう言えば…
 ゴミは持ってましたが…」
コンポタの空き缶を持っていたことを思い出し、
軽くその手を上げた

「えっと、もちろん…
 ゴミ箱に捨てますとも……」

264常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/03(金) 23:39:26
>>263
「でしたらこの袋にどうぞ」
「この辺りはゴミ箱が少ないので、探すのも一苦労ですから」

「…どうぞ!」

 男は表情を緩めると、ゴミ袋の口を開けて見せた。


「……そいうえば、俺の顔に『何か』ついてますか?」
「…身だしなみが崩れていましたか?」

君の不審げな態度に不思議そうにしている。

265烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/03(金) 23:45:37
>>264
「えーっと、はいどうも…」
割りと普通そうな人だなーとか思いながら
ゴミ袋の中にコンポタの空き缶を

(…投げ込んだら怒りそうかも…)
と考えて投げずに
そーっと入れた。表情はまだ固い

相変わらず不審者かもみたいな目線は消えないでいるが…
「え、えーっと…?なにか…ですか?」
と言われて少し悩む

「うーん…いや、身だしなみは崩れていないというか…
 その…その格好はなんでしてるんです?」
思い切って、そのメイド服に目線を向けた。
気になってしょうがなくなってきたのである。

266常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/03(金) 23:57:34
>>265
「はいはい、ありがとうございます」
「清掃のご協力に感謝します!」

そ〜〜〜っと投げ入れられた空き缶は何事もなくゴミ袋に落ちた。



「えッ『なんで』って」
「それは俺が…」

「………『メイド』だからです!!!!!」

満面の笑み。
これに納得するか答えになっていないと感じるかは君次第。

267烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/04(土) 00:03:58
>>266
「あー、そのどうもです…
 私もゴミまみれなのはやっぱり苦手ですから…」
と言って頭を下げる、
さて、どうしてメイドを着ているのか、と聞いてみれば…


「は、はぁ…メイドだからですか…
 しかし…」
ちょっと冷や汗を垂らしながら聞いてみる

「男性で奉仕活動と言えば…
 なんだか執事っぽい服を連想するんですが…
 メイド服…なんですか?」
なおも疑問は続く
果たしてどんな返答が来るのだろうか

268常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/04(土) 00:26:18
>>267
「ですね!!!!汚いより綺麗な方が良いです!!!」


君が追って質問をすると
「うえ〜〜〜っ 初対面の人に言うのは恥ずかしいですよォ」

    モジ 
        モジ

「エエト……恩人というか、『憧れたひと』が、その…『メイド』だったんです」
「だから、俺も…その、メイドに……」

  「うははははははッ やだあ やっぱり恥ずかしいですよォ〜〜〜!!!!!」

はにかみながらそう答えた。
なんだかんだ羞恥という感情は持ち合わせている事が判明した。

269烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/04(土) 00:32:03
>>268
「ええそれはもう!
 いろんなことは綺麗が一番です」
なんとなく意気投合したような気がした

「ん、ふんふん……


 まぁ…恥ずかしかったんで…


 あ、いやその……」
一瞬すごく意外そうに
失礼なセリフを言ってしまいそうになった

「あこがれの人…ですかー。
 ということはあなたにとってのヒーローみたいな人ってことですねー…
 ん、どんな人なんです?
 その……色々と教えてもらったとか?」
またメイド服を見る。
コレもそうなんだろうかとか思ってたり

270常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/04(土) 01:13:16
>>269
「色々とスゴイ方でしたが…
 …そうですね、『愛』をもって仕事の出来る方でした。」

「おれはその『愛』に救われて」
「あのひとを『師匠』として多くを学ばせて頂きました。
 ……師匠の元で学んだおかげで、今の俺があります!!!!」


だそうだ。
学ばない方が良かったんじゃないか、とは言わないでくれ(懇願)。

 「服ですか?」
 「合うサイズがなかったので、自分で型をとって縫製したんですよ!!」
 「優れた弟子ではありませんでしたが、『裁縫』については師匠もよく誉めておられました!」
 「イイ感じでしょう!」


フリルふりふり、リボンがピラピラしたそのファンシーなメイド服は男の手によるものらしい。
師匠の話と裁縫の話、どちらも男は誇らしげに話した。

271烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/04(土) 01:24:19
>>270
「むー……いろんなことを学んだんですねー…
 …良いことを色々と…」
どんなことを学んだんだろうか…
と思いつつ改めて衣装を見る

「はぁー、それは自作なんですかー。
 すごくいい出来じゃないですか…
 うむむ……ここまで上手くは出来ない…」
改めて見てみてば
まるで店売りのようなとても良い出来の一品だ。

「…確かに、そういう系のスキルはかなり高いみたいですねー。
 その師匠って人は今どこにいるんでしょうねー?」
ちょっと気になって聞いてみることにした。

272常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/04(土) 01:41:31
確かにメイド服としては出来も良くカワイイ。
ただどんなに贔屓目に見てもサイズと着用者は『異常』であるのが玉に瑕か。


「所在、ですか……」
「師匠は『流浪のメイド』で…あっ俺もなんですけどね」

 「ひとりの主人を持たず、いろんな場所を転々としながら、
  いろんな場所でメイドのスキルを活かして働くんです」
 「なおかつ師匠は『極秘任務』とかにも携わっていると聞くので……場所は、ちょっと」


 「でも俺の連絡先なら明かせますよ!!!!」

 ┌――――――――――――――――┐
  ☆・゚:*:゚ヽ                *:・'゚☆  
          常原 ヤマト 

        家政婦やります
 
    電話番号 XXX-XXXX-XXXX
   E-mail *******************.com
 
 └――――――――――――――――┘

名刺を渡してきた。どうやら『常原』というらしい。

273烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/04(土) 12:41:05
>>272
「流浪のメイド……?
 それってアルバイト…
 とかじゃなくて……?」
流れ者と聞くとなんだかかっこいい響きを感じるが、
レイはまさか現実に居るとは…と考える。
表情もキョトン顔である。

「極秘任務…
 もしかして裏で変身ヒーローだとか…?
 なーんてコトは流石にないかな…」
と軽く笑ってから、その名刺を見る

「あ、これはどうも…
 常原ヤマト…さんですね。
 わざわざすいません…」
名刺をじっと見つめてみる。

「そういう仕事なんですか…
 ん、あー、名刺もらったので私も…」
名刺は持たないが、ひとまず挨拶しようと考えた

「えー、私は烏丸レイです。
 まぁ、単なる学生をやってますー。」
と言って頭を下げた

274常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/04(土) 23:02:28
>>273
「アルバイト…とも言えなくもないです
 俺はいま勤め先がないので『無職』ですから」
「溢れ出る『奉仕』の気持ちを抑えきれずに、社会奉仕をしているワケです」

「変身ヒロインとかは俺も嫌いじゃないですよ!妹がよく見ていました!」

頭を搔きながら答える。なんだか後ろめたそうである。


「学生さんでしたか!!この辺なら…『清月学園』の生徒さんですかね。
 面倒でも勉強は頑張ってくださいね!」


君が自己紹介をすれば、笑いながら素直に励ましてくれた。

275烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/05(日) 00:14:24
>>274
「ふむー…
 やっぱり自分を売り込んだりするんでしょうかねー、奉仕活動をするときは…」
と、不思議そうな顔をする

「へー!私も変身ヒロイン大好きです!
 ○リキュアとかそういうのですよねー!
 私、特撮とはまた違うかっこよさがあると思うんですよねーあれ!」
彼女は特撮関連であれば色々大好きである
そういうこともあってか、変身ヒロインものの作品は同じく大好きなのだった

そんなわけで随分と興奮して答えている。
「…と、どうしたんですか?」
ふと、落ち着いて彼の後ろめたそうな顔を見た

「あ、はい。
 勉強はまぁ、人並みにはできるように頑張ってます。
 安定が重要ですからねー」

276常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/05(日) 19:18:42
>>275
「口ぶりからするにヒーローものがお好きなのですね」
「弟が、変身グッズとか、そういうので遊んでいました気がします」


「ああいえ、俺自身が不甲斐なくて」
「メイドのくせして特定の誰かにご奉仕できず…
 地域の安全のため不審者を探せど、尻尾も掴めず…」

 「いえ、掃除とて大事な仕事なんですけどね」

彼自身、ロックなナリに反して、悩みなども抱えているようだ。
見た目ではわからない、心情は普通な所もあるのである。


   「…いけない、仕事を放棄して歓談にふけってしまいました」
   「そろそろ職務に戻らせていただきます」

277烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/05(日) 20:08:04
>>276
「ん、あーそれはもちろん!
 私も変身グッズ的なものはよく買ってもらったりしてましたねー」
そう言って嬉しそうに何度も頭を縦に振る。
心底楽しそうな感じがする。

「…そんなことはないと思いますけどねー。
 見ている限り、結構真剣に
 作業をしていたようですし…」
と、励ますように答えるが
(…不審者って言うと…
 やっぱり…)
改めて彼の姿を軽く見回した。

「あ、忙しかったですか…
 私も結構話続けちゃいましたねー……」
と、頭を軽く下げた

278常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/05(日) 22:38:06
>>277
「こちらこそ、引き留めてしまって」
「俺、気が休まりました。こういう何気ない会話って、いいですね!!」


「では俺はこれで!!」
「掃除洗濯料理にお困りの時、また『不審者』を見かけたときは、先ほどの連絡先にどうぞ!!!」
「……いえ、不審者を見つけたらまずは警察に通報、ですからね!!!」

たぶん君の『不審者』に関する予想は正しいだろう……通報する?

279烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/05(日) 23:09:57
>>278
「ああ、そうですねー…
 なんだかこっちも…話してるだけで楽しいですよ」
と言って頷く


「あー、その…検討しておきますね…あーその…
 不審者って言うと…」
そう言って彼の姿をじっと見る

「…もうちょっと声が小さいほうが
 不審者が現れにくくなる…かもしれないです。
 何故かそう思います」
と、彼の姿を見て答える。

(むむう…結構いい人そうだから
 なんだか言い出しづらい…すごく……)

280常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/02/05(日) 23:35:46
>>279
「?」
「えっと、そうですか………!声を…小さく……!!ですね……!」

声量が落ちた。『!』の数もなんだか減る。
君が話して分かった通り常原は、内面は比較的善良な男。
この人の良さゆえに、未だポリ公のお世話になっていないのかもしれない。

「…では…行きますね……!
 公園が…汚いと…!!困る方も……いますから!!!」

ゴミ袋を揺らしながら、常原は公園の奥へと歩き出した。


  「ではまた!!烏丸様!!!!!」

けっきょく大きな声で別れの挨拶をしている。

281烏丸 レイ『グレゴール・ザムザ』:2017/02/06(月) 01:05:24
>>280
「んー、そのくらいがいいですね。はい」
そう言ってうなずき

「あ、でっかい声……
 っと、またどこかであいましょうねー!」
若干大きな声にビビりつつも
彼を見送っていった

「変質者かー…
 悪いことはしてないんだけど…
 なんと言えばいいのかなー…」
ヤマトの様子をちょっと困ったように見送ってから
彼女も公園をあとにした

282ジェイク『一般人』:2017/02/22(水) 23:39:50
夜の湖畔。
その傍で座っているものがいる。
赤い長髪、赤く長いヒゲ。
まだ少し肌寒い夜にも関わらず半袖のシャツ。
オレンジの光が輝くランタンが足元に置かれ、ずた袋も傍に置いてある。
目深に被った帽子がランタンの上に落ちた。

「……」

男は、下を向いたままランタンを取らなかった。
目を閉じている。

283小林『リヴィング・イン・モーメント』:2017/02/25(土) 23:57:40
>>282

 ザッ……

 シャリ シャリカリカリ クリ シャッ カリカリシャリ シャリカリカリ クリ シャッ カリカリカリカリガリ…………

「月光は何も語らずとも、あの森にひっそりと佇む水の冷たさは変わる事ない
よって 闇夜の語る名もなき音もまた 月夜と同じ美しさを秘めてるのだろう」

 シャリ シャリカリカリ クリ シャッ カリカリカリカリ シャ シャ シャリシャリ

「だが、月は其の輝きの中に隠すように。触れる事の出来ない窪みをもって
僕らの軌跡の中に作り上げたような傷痕がある。それは…… おや?」

 中肉中背の、清月の学生服のブレザーを軽く着崩した若者が
ペンを走らせながら、執筆と朗読を交えて歩いていた。貴方へと気づく

 「……大丈夫ですか? 何処か具合でも悪ければ人を呼びましょうか」

 暫し様子を見るようにしてから。
貴方の姿勢から、そう身を案じるようにして声をかけた。

284ジェイク『一般人』:2017/02/26(日) 00:05:07
>>283

声に反応して男が目を開く。
静かに帽子を手に取って頭の上に持っていく。

「必要はない」

「……何をいている」

男は静かに言った。

285<削除>:<削除>
<削除>

286小林『リヴィング・イン・モーメント』:2017/02/26(日) 19:00:02
>>284

 >何をしている

青年と思える年若い顔に、歳月を幾分経たかのような古びた光を黒い瞳へと
宿した私は、貴方の言葉に少しだけ目を閉じて言葉を吟味して、そして手を動かす。

 カリシャリ クリ シャ カリカリカリ

「天光は鈍く二人の間を交差する中、問われた枠組みはそっと静けさの中を通り過ぎた」

 「……私が何をしてるかと言えば、文を 冊子の中を飾るに相応しい言葉を
捜しに夜更けの中を探索しに参った次第で……謂わば。
 小説を作るにあたっての気紛れな散歩ですよ」

 シュゥ ゥ……

 夜が髪を梳かす それはやや乱暴であって また優しい

 「此処の辺りの風は、冷たく それでいて木々を吹きすさぶ中に
想像と創造をつかさどっている。
 私はこの湖畔が好きです。このような常闇も、夜明けも 
燦と明るい日中もね。……貴方は此処で何を?」

 自身を一介の名もない小説家と称する若者は、柔らかな闇夜と同じほどの
温度を伴った目線で、帽子を被る彼へと言葉を投げかけた。

287ジェイク『一般人』:2017/02/26(日) 23:35:25
>>286

「そうか」

そういうとまた目を閉じる。
ただ静かに座っている。

「黙とうだ」

「魂が震えている」

何をと問い返され男は答えた。
目は閉じたまま、その体は石のように動かない。

288<削除>:<削除>
<削除>

289小林『リヴィング・イン・モーメント』:2017/02/27(月) 00:02:46
>>287

 更に若者は、筆を滑らせる。

 カリカリカリ シャッ カリカリカリ キュ

 「木枯らしの中で、余多の安らぎの喧騒が耳打ちながら……」

 そこで、筆を止め。男に再度視線を向ける。

 「何へ、と訊くのは無粋ですかね?」

「ですが、私は貴方が只たんに狂人のように野晒しに此処で佇んでるようには見えません」

 「宜しければ、貴方の胸の内に秘める。その心情を教えてくれませんか?」

 小林には、ジェイクの石のような無機質さの中に確かなるものを
肌に脈動のようにして感じ得た。

 それを『文章』にしたい。そう願望を抱き、彼へと尋ねる

290ジェイク『一般人』:2017/02/27(月) 00:29:46
>>289

「聞いてなんとする」

「俺の空間を踏み荒らすか?」

目を開き、相手を見る。
特に興味もなさそうな目線だ。

291小林『リヴィング・イン・モーメント』:2017/02/27(月) 19:41:17
>>290

>俺の空間を踏み荒らすか?

 「お気を悪くされたのなら、謝罪します。
物書き故の、性分のようなものでして。
 誰かの明確な意思や情熱を秘めた科白は、生きてる言葉です。
私は、生きてる言葉を包み込んだ墨として、まっさらな無地へ埋め
息衝いた本へ変えたい……まぁ、そう言う俗な欲から来る行為です」

 ペンを若者は仕舞い込む。そして、踝を返すのを見ると来た道を引き返すのだろう。

「貴方の様子を見るに、反響するのは鉛色で余り澄ますような時でないんでしょう。
また、日を改めて私の望む答えを頂けたら、と所望します。
 ……名前は小林と言います。宜しければそちらの名前をお伺いしていいですか?」

 これ以上暇はしないと暗に告げ、小林は名乗って彼へと尋ねた。

292ジェイク『一般人』:2017/02/28(火) 00:04:26
>>291

「謝罪は必要ない」

「作家はみな勝手な人間だ。物語を書き、その結末がどれだけ悲惨であってもけろりとした顔でいる」

「人魚姫の結末に涙した少女に救いの手は差し伸べない」

ランタンを持ち上げる。
そしてしばらくいじった後、中の火を息で消してしまった。

「お前の望む答えをか……」

「……」

「ケイディだ」

男はただそうとだけ答えた。

293小林『リヴィング・イン・モーメント』:2017/02/28(火) 22:06:42
>>292

 「では、また何時か月夜でなくとも。
お会い出来る事を望みます ケイディ」



 ……

 
 シャリカリカリ クリ シャッ カリカリ カリカリカリカリ シャ キュリキュリ シュッ…

 「硝子の涙を透かす中に映える現世に 天の架け橋を渡すかのような
山谷を駆け抜けた一番風の音を感じ起こすように あの胸に秘める熱を私は欲するのだ」

 「……うん、良い文字が書き起こせそうだ。
しかしケイディ ケイディ……こう言う事を呟くのは如何だと思うが
名と姿に少し一致しないような気がしたな」

 別離を果たす後に、青年は嘯く。僅かに見える月光を少し仰ぎ見たあと
闇夜を伴として、あるべき場所へ あるべき場所へとと追い風にせかされるまま。

294伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/20(木) 23:29:40
「はぁ……」
湖畔のほとりで、やや憂鬱そうな様子で
一人の少女が湖を覗き込んでいる。

光が反射して鮮明にその顔が映る。

「第二の人生…
 なーんて、どうすりゃいいんスかね……」
自分の頬をぱちぱち叩く。

まるで漂白剤を頭からかぶったかのように
自分の姿は全身蒼白だ。

自分の体に「黒」という色は殆ど全く見られない。
過去の自分の姿を思い起こして

「とりあえず……
 学校に行って大丈夫なのかなぁー……」
自分の制服も色落ちしたかのような雰囲気である。

命を落としたショックよりも
これからどうすりゃいいのか、そんな思いで彼女は悩んでいるのであった。

295小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/21(金) 23:57:36
>>294

人影もまばらな、静かな湖畔のほとり。
そして、湖の傍で思い悩む全身に白みを帯びた少女。
そこから少し離れた所に、一人の女が座っていた。

年の頃は二十台後半。
すらりとした細身の体型で、女性にしては背が高い。
楚々とした喪服に身を包み、つばの広い黒い帽子を被っている。

少女とは対照的に、その姿には『黒』が際立っていた。
ただ、左腕にはギプスが付けられ、三角巾で腕が吊られている。
そのため、そこだけは『白』が目立っていた。

  ――……『第二の人生』?

少女の発した言葉が耳に入り、不思議に思った。
年若い少女が口にする言葉にしては不釣合いだ。
まるで、既に『第一の人生』が終わっているかのような……。
そんなことを考えながら、つい少女の方を見つめてしまっていた。
もしかすると、こちらの視線に気付かれるしれない。

296伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/22(土) 10:23:31
>>295
「とりあえず染めてみるかなぁー…」
などと悩みながら、湖に映る自分の姿をずっと見ていたが、

「おや…
 誰かに見られている気配がスるっス…」
ハッとして、顔を上げる。
蘇ったから感覚が鋭敏になっているのかは定かではないが
とにかく、じっと見られているような感覚を覚えたのである。

(いやー、この格好は目立ってしょうがないスからねー…
 興味津々なヒトもいるのかも……)
と、周囲を見渡していると

「…おんなじ白いのが…!」
と、文子の腕を保護しているギプスを指差して驚いている。
この時同時に二人の目があった。

彼女、梨央奈の姿は
『真っ白』という言葉がふさわしいくらい
全身白ずくめであった。
かなり特異なのは、文字通り
肌から髪の毛、僅かな濃淡で判別できるものの
眼球まで、まさしく『全身が』白ずくめなことであった。

297小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/22(土) 21:40:51
>>296

  「――あ……ごめんなさい……。つい、見つめてしまって……。   
   気に障ったのなら謝ります」

少女に近寄っていき、頭を深く下げて謝罪する。
自分の骨折した左腕に対して、少女は驚いているようだ。
どちらかというと、ギプスよりも『色』に反応しているのが気にかかったが……。

実際の所は、こちらの方が内心よほど驚いていた。
ただし、表情には出さないようにしている。
あからさまに驚いた顔をしてしまっては相手に失礼だ。

けれども――確かに不思議な姿だとは思う。
肌が色白だというなら分かる。
自分も肌の色は白い方だ。

しかし、ここまで全身が真っ白というのは見たことがない。
そういえば『アルビノ』という言葉を聞いたことがある。
遺伝子や色素の問題で身体全体が白くなるらしい。
もしかすると、彼女もそうなのだろうか?

  「……隣に座っても構いませんか?」

了承が得られたなら、彼女の隣に静かに腰を下ろす。

298伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/22(土) 22:14:36
>>297
「えーあ、気にしないデも大丈夫スからー…
 白いのが見えてちょっとびっくりしただけっスー」
と、随分と元気そうに答える。
そういう自分なんて真っ白なのにだ。

「あ、隣デスか?
 私は別に構わないスけど……」
不思議そうにしながらも返す。

「あー、えっと…
 怪我大丈夫スかね…?」
ギプスとかが気になってしょうがないようだ。

299小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/22(土) 22:53:10
>>298

  「ありがとうございます」

お礼を言って梨央奈の隣に座る。
その顔に浮かぶのは柔らかい微笑み。
しかし、どこか陰のある微笑だった。

  「これは――道で転んで、手をついた拍子に腕を折ってしまったんです」

これは嘘だ。
実際は、ある事件に巻き込まれて負った怪我だった。
とはいえ、初めて会った人にする話でもないと判断した。

  「全治一ヶ月だそうですけど……。
   でも、もうすぐ治りますから大丈夫です」

これは本当だった。
あれから、もうすぐ一月が経過する。
もうじきギプスも外れるだろう。

ギプスが付いているのは左腕。
それを目で追っていたなら、左手の薬指に指輪がはまっているのが見えたかもしれない。
位置を考えれば、それが何か分かるだろう。

  ――『白』が気になるのかしら……。

この少女の真っ白な姿と関係しているのだろうか?
確かに、気にかかることではあった。
しかし、それを直接尋ねてもいいものかどうか……。
そんな時、二人の間を一匹の蝶が横切った。
その色は――『白』だ。

300伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/22(土) 23:24:41
>>299
「まぁー、誰かがいると
 なぜだかちょっとだけ安心してたりスるんス…」
何か不安だったのかもしれない。
自分の姿を見てもあんまり動揺してなさそうなのが
安心したのだろうか

「へー、それは大変スね…
 でも大変なことにはならなくて何よりデスよー」
骨折で済むならまだいいなーなどと考えながら、
そのギプスをじっと見る。

と、そこに横切るのは一匹の『白』い蝶
「んぁ!?何時の間に……ん?」
ひどく驚いた様子で蝶の姿をじっと見る。
なんだか妙なことを口走っているようにみえる

「…何だただの蝶だった……
 はぁびっくりした…」
(…無意識に能力を使ったのかと思ってしまった…)
白い蝶、白い生物に妙に反応するようになった
そんな自分を思い返しているようだ。

文子から見るとそれはどう映るのだろうか……

301小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/22(土) 23:54:27
>>300

梨央奈から見ると動揺していないように見えたかもしれない。
しかし、実際には少なからず動揺はしていた。
それを表に出していなかったというだけのことだ。

けれども、今は既に落ち着きを取り戻していた。
それなりに人生経験を積んでいるがゆえだった。
それでも、目の前の少女のような姿をした人間には出会ったことがない。

  「――『何時の間に』……?」

梨央奈の反応を見て、小さく呟く。
ただの蝶に対する反応にしては大げさだった。
蝶が苦手という感じでもない。

今までのことから考えると、やはり『白』に反応しているのだろう。
なぜ彼女は『白』に過剰な反応を示すのだろうか?
それが気にかかる。

  「あの――失礼ですけれど、高校生の方ですか?
   それとも中学生でしょうか……?」

気にはなるが――いきなり訊くのは躊躇われた。
まずは答えやすい所を尋ねた方がいいだろう。
そう思い、とりあえず無難な質問をしてみることにした。

302伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 00:12:00
>>301
「ん…ん?」
ちょっと何かつぶやいたらしい文子のことを軽く見つめる。
(もしかして、変に思われてる…?)
なんだか心配そうである。

「あ、在学はってことっスね?」
と、話題が変わったのに安堵している。

「あー、一応中学生デス…
 確か中学3年位スかねー
 14、うん、14歳スからねー」
そう言ってウンウン頷く。

「と、そういうあんた…じゃなくて、
 あなたはどのくらいの学年なんスかね?」

303小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/23(日) 00:47:46
>>302

  「ふふッ――」

梨央奈の質問を聞いて、帽子の陰で思わずクスリと笑う。
まさか今になって、そんな質問をされるとは思わなかった。
なぜなら、自分が学生だったのは昔の話なのだから。

  「ごめんなさい、笑ってしまって。
   あんまりにも意外だったものだから」

  「もう学校は卒業しているの。
   今は28歳。ちょうど、あなたの『倍』ね」

やや砕けた言い方で訂正するが、特に気を悪くした様子はない。
若く見てもらえたと解釈すれば悪い気はしなかった。

  ――それにしても……。

『一応』、『確か』という言い方が妙に引っかかる気がした。
自分のことを話している割には、妙に客観的な印象だ。
まるで、『本当にそうだったか』確認しながら話しているような……。

  「私は、よくここへ散歩に来ているの。今日も、ね……」

  「――あなたは?」

そういえば、彼女は何かしら思い悩んでいた様子だった。
『第二の人生』という言葉のこともある。
この真っ白な少女が抱えているのは、何かとても大きな悩みであることが察せられた。

304伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 01:00:51
>>303
「あ、そうだったんデスか?
 じゃあチョー後輩じゃないスか!
 びっくりしたなー!みえないっス!」
取り繕うように慌てた様子で答える。
ちょっと失礼だったかなと思っているんだろうか


「へー、じゃ先輩はココの常連なんスねー!
 私?あー私は……」
と言って少し湖を覗き込んでいた。

「まーその、色々と
 今後の進路についてかんがえて…おりましてスねー…」
ちょっと悩んだ表情をしている。

305小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/23(日) 01:24:52
>>304

  「進路……。学校のこと?」

中学三年生で進路といえば、まず思いつくのは進学のことだ。
それは自分にも経験がある。
しかし、彼女の様子を見ていると、単に進学で悩んでいるとも思えなかった。

もっと何か別のことのような気がする。
それが何かまでは分からないが……。
彼女の真っ白な姿のことも含めると、少なくとも普通の悩みではなさそうに思えた。

  「もし――嫌じゃなければだけど……。
   良かったら、聞かせてもらえないかしら……」

  「ほんの少しだけでも、あなたの手助けができるかもしれないから」

  「もちろん、無理にとは言わないけれど……」

そう言って、慎重に話を切り出す。
梨央奈の素性が気にならないと言えば嘘になる。
だけど今はそれよりも、目の前で悩んでいる少女の苦しみを、
少しでも軽くしてあげたいという気持ちの方が強かった。

306伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 01:36:47
>>305
「あー、まぁそっちでもありまスがねー…
 もっとこう……大きな…」
と探るように答えるが…
暫く考える。

「ん…そうスか?
 言ってもいいスけど…
 信じられない話だと思うっスよ?」
と言ってからしばらく考え…
口を開いた。

「まぁその…
 あれはちょうど一昨日くらい…」
と言って彼女は語りだした。

いつもの学校の帰り
普段通りの帰り道だったのだが

その日、一台の車が信号を無視して高速で
横断歩道を渡る自分に接近して……

「…ココで記憶が途切れたんスよねー…
 それで…気がついたらこんな感じに…」
と言って自分を指差した。

(えーっと…
 此処から先は…)
「なんて言ったかなー…
 そうそう『音仙』!
 悩みを聞いてくれるっていう噂があった
 あの人のところに行ったんス!」

307小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/23(日) 08:36:41
>>306

  「……」

真剣な表情で、黙って梨央奈の話に耳を傾ける。
その内容は、確かに信じられないくらい不思議で奇妙なものだった。
普通なら、とても信じられなかったかもしれない。

しかし、自分は信じる気になれた。
奇妙な現象を現実に起こし得る可能性に心当たりがあったからだ。
そうした類の能力は自分の中にも存在している。

  「――『音仙』。そう、あなたも……」

思い出すように、ぽつりと静かに言った。
自分も、そこへ行ったことがある。
梨央奈と同じように、胸の内にある悩みを聞いてもらうためだった。

その結果、自分の中に眠っていた異能の存在を知らされることになった。
おそらくは梨央奈も同じなのだろうと思った。
そう思うと、なんとなく彼女に対して親近感を覚えた。

  「それで――その後はどうしたの?」

穏やかな口調で先を促す。
今この時――湖の水面に映っているのは、
漂白されたかのように真っ白な少女と、喪服と黒い帽子を身に纏った黒尽くめの女。
対照的な白と黒のコントラストが、そこにあった。

308伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 11:16:15
>>307
「はぁーえっと…
 その後はどうしたんだっけな…」
と、少し考えるが…
文子の『音仙』を知るらしき発言に耳を傾ける。

「知ってるんスか?
 それじゃぁー…
 先輩も何か相談を…?」
と興味津々に彼女の言葉を聞いている。
そういえば自分はそれで自分の能力を自覚したのだった、と思い出し、

「あー、あの人の言うことにゃーね…
 私は一度死んで生き返った…とか言う話らしいんス…
 そして何か…『能力』?そういうものを持っていると
 教えてもらったんスよね…」
ふう、とため息を付いて顔を上げる。

「試しに出してみたらまさしくその通りの『モノ』が
 現れたんで信じるしかなかったっスねー…
 それで今後どうしようかな〜とお悩み中なんスね……」
と、湖に映るのは黒と白の2つの姿。
対極の色であった。

309小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/23(日) 18:47:50
>>308

  「……ええ。
   私も相談に行ったことがあるわ。
   今のあなたと同じように『進路』についての相談を……」

やや曖昧な返事を返しながら、視線を手元に落とす。
右手の薬指には、左手の薬指と同じ指輪がはまっている。
左手の指輪は自分のもの、右手の指輪は夫の形見だった。

生きるべきか死ぬべきか。
それが自分の抱えている悩みだ。
今も消えてはいないし、おそらく生涯に渡って消えることはないだろう。

夫が死んだ時、後を追って命を絶つつもりでいた。
しかし、彼は『自分の分まで生きてくれ』と言い残した。
だから、死にたいという衝動を抑えて生きてきた。

しかし、いつまで抑えていられるか不安を感じていた。
自分の中にある死を望む気持ちが高まっていくことが怖かった。
『音仙』に行ったのは、ちょうどそんな時だったと思う。

  「――『死んだ』……?」

梨央奈の言葉に、今までとは少し違う反応を見せる。
哀れみの中に、ほんの少しの羨みが混じっているような、複雑なニュアンスがあった。
そんなことを思ってはいけないと思いながらも、それを止めることができなかった。

ともかく――梨央奈が言った『第二の人生』という言葉の意味が、これで分かった。
事故で命を落としながらも、彼女は新たな姿で蘇った。
それはつまり、梨央奈自身が生きることを強く望んでいたということだろう。

なんという偶然だろうか――。
生きることを願いながら死んでしまった彼女と、死ぬことを望みながら生きている自分が、
こうして同じ場所にいる。
そのことに対して、奇妙な縁を感じていた。

  「私は、あなたのように死んで生き返るという経験をしたことがないから……。
   だから、そういう時にどうすればいいか――
   その助言をしてあげることは、とても難しいことかもしれないわ……」

     スッ・・・・・・

そう言いながら、おもむろに左手を開く。
その中には何もない。
ただ空っぽの手があるだけだ。

  「でも……私もあなたと『同じもの』を持っているの」

唐突に、左手の中に一本の『ナイフ』が現れ、次の瞬間には幻のように消えてしまった。
多くの人間には見えないが、梨央奈には見えたはずだ。
形は違えど、彼女が持つ『能力』と同質のものなのだから。

  「だから――もし良かったら、お友達になってもらえないかしら……?
   私にできることは、それくらいだから……」

梨央奈の悩みは特異かつ深刻であり、簡単に解決できるものではないだろう。
けれど、同じ『能力』を持つ者が近くにいれば、少しは心強いかもしれない。
そう考えた上での提案だった。

310伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 21:01:03
>>309
「へー…
 やっぱあそこは人生相談…みたいなところなんスねー・・・」
と感心するように答える。

「あはは、そのー…
 びっくりしちゃったっスかねー?
 自分もわけわかんなかったんスけどね…はぁ」
そう言ってまたため息を付いた。
見れば彼女も、文子も
互いに悩みを持つかのような表情に見えた。

「まぁ、そんな体験できる人なんて
 めったにいないスからねー…
 助言は無理かも…デス」
と、空っぽの手があるのみの
文子の手を見る。

「ん…なにか…」
と思ってじっと手のひらを見ていると
突然ナイフが現れ、消える。
「うおっ!
 これってあれっスか?!
不思議な力ってやつ!」
やけに興奮した様子で答えている。

「あーえっと…いいっス!
 おんなじ能力なんて私にとって
 とても嬉しいことスよ!!」
とても嬉しそうに彼女のお友達になってほしいという
提案に笑顔で答えた。

311小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/23(日) 22:06:27
>>310

  「――ありがとう」

そう言って微笑を浮かべる。
少しでも梨央奈の悩みを軽くすることができたなら幸いだ。
自分にとっても、同じような能力を持つ友人が増えるのは嬉しい。

自分自身の悩みが何なのかは――今は黙っておくことにした。
相手のことを聞いておいて自分のことは話さないのは失礼かもしれない。
ただ、今はやめておこうと思った。

別に秘密にしているわけではない。
ただ、梨央奈は彼女自身のことについて悩んでいる最中だ。
今話したとしても、余計に混乱させてしまうだろう。

  「私の名前は小石川……。小石川文子よ」

  「あなたは?」

自分の名前を名乗り、同時に少女の名前を尋ねる。
友達になった記念といったところだ。

312伊須河 梨央奈『ウィッシュフル・シンフル』:2017/04/23(日) 23:54:18
>>311
「はぁー、こちらこそっスねー。
 能力を持ってる人が一人じゃない…
 って思うとなんだかやってけそうだなーと
 思えてきましたス!」
と、ニカニカと笑ってみせる。
友人というのは素晴らしいもんだなーと考えていた。
今の友人のことをきにしながらもそう思った。

「あー、文子先輩どうもよろしくっス!
あーえっとうちの名前は伊須河…伊須河梨央奈(いすかわれおな)ともうしまスっス!
 こ、これからよろしくっす!」
そう言って深々と頭を下げた。
まるで舎弟みたいである。

313小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/04/24(月) 00:46:36
>>312

  「そう――良かったわ。少しでも力になれたなら、私も嬉しいから……」

屈託なく笑う梨央奈を見て、こちらも微笑んでみせる。
誰かが救われるのを見るのは好きだ。
自分も希望を失わずに生きていこうと思えるから。

  「こちらこそ。どうぞ、よろしく」

大げさな梨央奈の様子を見て、思わずクスリと笑う。
そして、こちらも頭を下げる。
年の離れた友人が、これで一人増えた。

それからしばらくの間、梨央奈と二人で色々なことを話し合った。
大体は客観的に見れば他愛のない内容だった。
けれど、少なくとも自分にとっては、とても有意義な時間を過ごすことが出来た。

その後、梨央奈と別れ、帰っていく彼女を見送った。
やがて、自分も湖畔から立ち去っていく。
湖面から白と黒の人影は消え去り、透明な水をたたえた湖だけが後に残された――。

314斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/26(土) 01:31:03
――星見町 自然公園 森林区域 川のほとり

ジッ ザザ……
『星見町レイディオ、11時になりました
 ……今日も素晴らしい  ……日差しが……』
ザッ…

木々の木漏れ日を顔に受けながら
川のせせらぎと木の葉の風に揺れる音を子守歌に
15メートル以上の樹上でマフラーを首に巻いた少年が
ラジオをから流れる音楽を聞きながら寝そべっている

枝葉の隙間にはバスケット、小型ラジオ、そして長い鎖が巻き付いていた。

鎖は約15メートル程で、そのまま幹に垂れ下がり
それを使って登ったのだろうと推測はできる。

「こんなにいい天気何だから表に出なさい、かあ…ふぁー…。」

寝ぼけ眼に一つ欠伸をして目を擦る。

「『お弁当』は嬉しいけど、そうそう見つからない物なあー
『秘密基地』でグッスリするのは悪い事でしょぉーかっ」

バスケットは中身のおかげで生き物のように温かい

ただ、中に何が入っているかは少年にもわからないので
12時を待って食べるのを楽しみにしているのだ

「ニョホホホ …この笑い方も面白いなあ。」

そんなのんびりとした笑顔に陽光がちらついていた。

315??『?????・???』:2017/08/26(土) 20:26:56
>>314


   ……!  ……ッ  ガサッ   ザッ

 斑鳩が、穏やかな風に頬をくすぐられて正午を待ちわびていた時。
唐突に、その大樹の下から声が聞こえて来た。

 ……女性の、か細い哀願するような声と。
そして、それを罵る中世的な声だ。

 『ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……』

 「……ッ       ……!」

何度も、泣いて謝罪する女性の声が下から聞こえてくる。
 それに対して、相手は何度も強く命令口調で何か告げている……が
この高度だと、風向きもあいまって余り良く聞こえない。

 このまま、無視しても複数の人物達は貴方に意識を向ける事なく
通り過ぎていくかも知れないが……。

316斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/26(土) 21:48:23
>>315
「んん、何か煩いな…?」

――ラジオから流れている曲から意識を逸らして体を起こし
樹下を覗くと罵りと泣く女性が目に入る

(え、ええーっ…人が寝てる下で …そうか僕は気づかれてないのか!
人間注意しないと上なんて見ない物なあーっ)

眼は寝ぼけから覚醒し、表情が苦笑いに変わる
だが口角はこの奇妙な出会いに引きつっていた

(……理由は解らないけど叱られているのかな?
泣くほど謝らせるってのもやり過ぎだよなあ…ど、どうしよう)

(ここで『無視』するのは簡単だ、気づかれてないんだから寝てればいいんだし
……でもそんな事したら安眠できないんだよなあ、僕の心に良くない物を残すじゃないか!)

無意識に右手首の腕時計に触る、『迷った時』の彼の癖だ
――数秒の思考の後に軽く首を振った

(――取り合えず声を掛けてみるかな、『事情』は知らないけど
『同じ立場』だったら僕だって少しは『助け』が欲しいものな。)

――樹上から乗り出した体に『大量の鎖』が巻き付き始める
半透明の鎖……『スタンド』だ
そして右手首から延ばした鎖を右手に巻き付けて切り離す。

(『ロスト・アイデンティティ』切り離した鎖は実体化してるから音もなる
これを手に巻き付けて木の幹を叩いて音を出せば気づかれるかな、ついでに少し声大きくしとこ)

「あのー…(樹木を)ノックしてもしもーし、其処の人 そう、そこで怒ってる人!」

「事情は知りませんし、個人の主義や主張は勝手」

  「でもそれを僕の下で出して
  公然と『女の子』を泣かせるほど謝らせるのもどうかと思うんですけどね、僕は」

「――具体的に言うと、やめていただけませんか?彼女、謝ってるじゃあないですか。」

そう言いながら斑鳩は僅かに微笑んだ
(…アトツイデニアンミンボウガイ!)

317??『?????・???』:2017/08/26(土) 22:15:13
>>316

 貴方は、鎖……『ロスト・アイデンティ』を出して
大樹の腹へと軽く叩きつけて音を鳴らす。

 安眠妨害への文句、そして普通の人として兼ね備えている親切心で。

 
見下ろした先にいるのは……大体、同じ背丈で中肉中背の男女? らしき二人だ。
一人は、泣いて膝を抱えて頭を下げている。病院服らしいものを身に着けている。

対して……もう一人はレインコートらしきものを身に着け、片手には……破片だ。

廃材などの、鋭いガラスの破片らしきものを薄い布で巻いた簡易な刃物を。何かしら
謝罪してる少女らしき人物に向けている。それは、傍から見て危うい光景だ。

レインコートの、向かいの少女を傷つけてる人物は。貴方の声のするほうに顔を向ける
深くフードを被ってるために表情は伺い知れない。

 ……二ィ

 しかし、何処か貴方を見て哂ったようにも見えなくもなかった。


 「……そっちには」

 ガンッ  アッ ィ……

 「関係ない」
 
 ガンッ  ヤメ……

 「ことさ」

 ガンッッ  イタイ

 少女らしき人物の髪を掴んで、貴方の丁度真下の木へと。その頭を複数回
返答と共に叩きつける。乱暴にされてる少女は、か細く制止をあげてる。

 「……これは お仕置きなんだよ。無関係の子猿には……どうでも良い事だろ?
家庭の事情って奴さぁ   」

 ヒヒヒヒ

 
 ……コートの人物は、愉快そうに貴方へ告げる。

318斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/26(土) 23:05:35
>>317
「あ、あ……」

(ぼ、僕は何でこの木を秘密基地にしちゃったんだ?
何でここに出かけようなんて思ったんだ? 何故気づいて起きてしまったんだ?
どうしてこの人達はこんな所でこんな事しているんだ…?)

――後悔に指先と喉が震える

(どうして『首を突っ込んじゃった』んだ僕はァーッ!!?)

汗が頬を伝う、夏の暑さのせいでは無かった、『恐怖』のせいだった

(どう見ても危ない人じゃあないか、覗かなきゃよかったあじゃないか!
こんな事だから僕はいつも『期末テスト』で赤点ギリギリなんだよなぁーッ!
『後悔』と『恐怖』がムンムンと湧いてきたじゃあないか!)

左手をまた無意識に右手首の『時計』に持っていく

チャリ…

左手に巻き付けた鎖のミサンガが動揺に揺れる

(や……やめよう、人の『家庭の問題』なんだ 謝って寝なおそう、『ラジオ』を全開にすればいい
30分耐えればいいだけさ、僕がこんな怖い人と関わる必要ないじゃないか)

(第一、これが『家庭の問題』なら僕が関わったところで
見えないところでまたやらされるだけじゃあないか『無駄』じゃあないか
無駄にカッコつける奴の方が『馬鹿』なんだ……)

掌が汗ににじむ

(こんなの警察がやる事じゃあない……か……)

「……ご、ごめ」

手には鋭利な刃物、家庭の事情、女の子の悲鳴 
確かに逃げるには十分だ それを誰が責めると言うんだ?
これを責めるなら『クラスでいじめを知らない、知っていても無視する人』まで悪になるじゃあないか。
誰も責めない、それをすれば自分も『悪』になるから。

――ところで、『私達』の時は誰か助けたのか?

「……や……」



 「やめろって言っただろうがあーッ!
 その『女の子』を傷つけるのは今すぐやめろぉーッ!」

  「アンタが気づく前に『写真』を取ったし『録音』もしてるんだからな!
  さもないと……さもないと『警察』に突き出すぞ!」

「アンタ、それでもいいのかッ!」

震える声を張り上げながら、斑鳩は同じように震える指先で『フードの男』を指さした。

(――全部嘘でたらめの上に何を何で言ってるんだ僕の口はぁーっ!!?
謝るんじゃあなかったのかぁー!?
でも頼むからこれで止まって下さぃぃーっフードの人ぉぉぉ!)

319??『?????・???』:2017/08/26(土) 23:50:53
>>318

>さもないと……さもないと『警察』に突き出すぞ!

>アンタ、それでもいいのかッ

 「……はは、ははは」

「俺を? 俺を警察に突き出すってか? 水面に浮かぶ月を切るって言うのか?
ははっ、出来ない 出来やしない。
 こいつが泣いてるのを止める事も、俺を警察に突き出す事も。
何一つ 解決なんてしやしないさ。
 だが、それでも俺には出来る事がある。なぁ? 
俺はこの子に罰を与える事が出来る。それが、俺の宿命さ
 肌を切り裂いて、爪を剥いて、髪の毛を引き抜いて泣き喚いてでも
止めて と言っても、ちゃーんと罰を遂行させる。それが俺だよ」

 フードの人物に、動揺した様子は見受けられない。
だが、しかしながら返答は返される。まるで、何かのお芝居のように
饒舌に貴方に喋りかける。

 「……さぁ、次は……爪切りだ」

   「いやぁ。。爪切りはいや  いやぁ…」

 少女へと、そのコートの人物は手首を掴み爪の付け根にガラスの先端を当てる。

震え声で、少女はいやいやと首を振り、制止の声をあげる。
 だが、そんな言葉が聞こえないように。じょじょに、ガラスの刃は
少女の爪と指の肉の間に入り込もうとしている……。

320斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/27(日) 00:18:58
>>319

――駄目だ

(と、止まる様子がない!それどころか爪切りィ〜!?
『硝子』で『爪』を『えぐる』って事なのかぁ!?
想像だけでも震えるほど怖いッ!)

現在地は樹上15メートル!
人間が無事に降りられるのは5メートルが限度!
でも……でも減速していたら『間に合わないかもしれない』!
この『事実』を前にもはや斑鳩に『違和感』を感じる脳の隙間は無かったッ!

(ガラスのナイフだ!…ナイフを動かされる前に蹴り飛ばせばいい!
でもそこまでの時間稼ぎが……僕に……でき……)

「やめろぉーッ!『ロスト・アイデンティティ』!」

(畜生ーッ、これで怪我したら誰を怨めばいいんだーッ!)

枝に巻き付いた鎖を右腕で掴みながら落下していく
その最中に左腕を『振りながら手首から伸びている鎖を切り離してナイフの持ち手めがけて投擲する』

そして両足の鎖を解除し、『自分の足で地上から3メートル地点で両足と右腕で減速し』
『影の両足でナイフを蹴り飛ばす』

そして4本の足で着地後に2人の間に割り込んでフードの男の手首を抑えにかかるだろう。

321遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/27(日) 22:19:47
>>320(昨日は寝落ち失礼しました)

 
>やめろぉーッ!『ロスト・アイデンティティ』

 シュォォオ!!    バシッッ!!

 「おぅ……?」

 さながらスパイダーマンのように、斑鳩は颯爽と鎖を操り
鞭の如く振った銀色の線流は、そのフードの人物のガラスの刃の先を持つ手へ
見事に命中し 弾き飛ばした!!

 その硬直の隙をつき、スタンドの四肢を扱い十五メートルの高度からの
落下に対する衝撃も、鎖を利用していた事も相まって足が少し痺れるものの
見事に、その手首をキリキリと強く拘束出来る。そして……

   ――バサッ


 「――へぇ 子猿と思いきや、何処ぞの蜘蛛男の真似事かよ?
随分とユニークな力を使うじゃねぇか」

 お    『女だ』!!

 中性的な声であったが、そのフードの取り払われた顔は正しく女性の顔立ち。
だが、その眼光や歪んだ口元は。女性らしくない残忍な男性の表情の面影もちらついてる。

 「だが、お前……俺の間合いに入るって事は
それだけ  ――俺の牙が手に届くって事だぜぇ?」

   ビュンッ

 『女』は、斑鳩へと。掴まれてる方とは別の手をポケットに入れたかと思うと
弾き飛ばすように、小瓶を顔目がけて投げた!

322斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/27(日) 23:59:24
>>321(おきになさらず)

「――あれっ、えっ 女のひ」

ガシャアン!

鎖の音と同時に小瓶が落ちる
斑鳩の全身に巻き付かれた『ロスト・アイデンティティ』の鎖は頭部にも健在であった
ダメージはほぼ無いが、無論本人が驚かないかどうかとは別である
おまけに彼は相手が(中身は兎も角)女性だとは思ってなかったのだ

「いたぁぁぁあああ……くないっ!」

驚愕と同時に手首への拘束は緩む
――そして数秒すれば彼の思考にも『余白』が生まれる

「ッ違う!貴女 僕の『鎖』はともかく『手足』が見えてるな!『新手のスタンド使い』か!」

(――でも、この感覚は何だ?『懐かしい』? いや、僕は初めて会う筈だ……)

(でも不味いぞ…もしこの人が『スタンド』で僕を攻撃してきたら…!
じょ、女性相手に手を挙げるのかぁ〜ッ? いやもう既に挙げてるのか…
『バスケット』と『ラジオ』は悲しいけど諦めて逃げるしかないッ!)

323遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/28(月) 00:12:29
>>322

 「女?  あぁ、そうだな。この体の、この姿なりは
間違う事なき 女さっ」

 「だが、それだからどうだって言うんだ?
いまさらフェミニストを気取るかっ? ――不愉快なんだよ
 見てくれだけで、侮られるのも 逆に畏まれるのも
俺は、俺なんだぜ。……なぁ」

  ブンッ!

 フードの女は、斑鳩の『ロスト・アイデンティティ』に向かって蹴りを放つ。

 普通なら、スタンドに対し生身の人間が蹴りを加えても。透過するだけだが……

「俺が 『スタンド使い』だってぇ〜〜〜?

違うね

 俺は『悪霊』さ。複数の一人 ただし 俺の名を覚えていいのは 一人だけさ」

324斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/28(月) 00:56:48
>>323

(ま、不味い…足の方の鎖はさっき『解除して』『影の足』にしちゃったんだった!)
(『影』で防御しても『ダメージ』は僕に来るんだよなぁーッ!
蹴りだと倒れこんでも避けられない……)

「……なら上だッ!」

――斑鳩の両腕の鎖が崩れ落ちる、それと同時に重なるような影の腕がフードの女性の肩を掴み
それを起点として『4本の足』で『跳躍』する…『二倍の脚力』で飛んだ身体が、
丁度フードの女性の上で逆立ちをしようとしていた。

――うまくいけば という前提だが、無論手首を緩くとはいえ掴んだままなので 
このまま背後から『腕関節を決められる』…が

(……駄目だ拘束としては荒すぎるし、かけていい技じゃない!)

  「よく聞きますけどねそういう理屈!」

「でも『見た目』っていうのは『中身』の上澄みの部分って考え方も…有るッ!」

チッ チッ チッ……

325遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/28(月) 19:01:48
>>324(申し訳ありません。本日この1レスのみになります)

 >でも『見た目』っていうのは『中身』の上澄みの部分って考え方も…有るッ!

「ほほぅ! 『メラビアンの法則』かいぃ!! おたく、面白い事を唱えるねぇ!」

『ロスト・アイデンティ』は優秀なスタンドだ。影の足は、普通の脚力の倍以上の
跳躍力を生み出し フードを着る危険な女の蹴りを回避して、頭上を取る。

 「おおぅ! 本当身軽だねーっ。俺にも頂戴よ、その鎖
もっと上手く操ってやるのになー はははははッ!!」

  ……シクシク

 女は楽し気だ。崩れ落ちるように座り込んでる、家族 と言われた少女の
ほうは俯いて泣いている。いまだに顔をあげたりはしない。
 そして、フードの女と違い。少女のほうは病院服を身に纏っている。

 「こいつは病院帰りでねぇ。そんで、俺も同じく病院帰り。
さぁて、なぞなぞなーに。病院から帰って来た俺達ふたり、なーにを
ポケットに入れてますかー? ――これだぁ!」

 ビュッッ!   ピシャァ!!

 フードの女は、懐に手を伸ばすと。頭上をとる貴方目がけて……『輸血パック』だ!
予め、切れ込みを入れてたのか。投げた拍子と勢いで、それは貴方の目と鼻の先で
真っ赤な波紋が飛んでくる! 

 「さぁさぁ次は、どう防いでみるんだよー 似非蜘蛛男さんよー!! 
あはははははははは!!!」

326斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/28(月) 23:46:42
>>325
「ぶっ……!」

物を投げられた事により反射的に目をつぶる
しかし、視界がふさがれたことには変わりが無い

(ゆ、輸血パック…『血液』ッ!?『鎖』で『液体』は防げない…)

――チッ チッ チッ

(こ、ここまでされるともう手段を選べない……のかぁー!)

――影の両腕は未だ『フードの少女』の肩を掴んでいる
その状態で背後に着地し、『背負い投げ』をしたら?

「悪いけど、ちゃんと『受け身』取ってくださいよぉー!」

4本の足が地面を捉え、影の両腕が力任せに遠くへ投げ飛ばそうとする
パワーは人間並程度だが……

「『ロスト・アイデンティティ』!、頭部の『鎖』も解除する!」

投げ飛ばそうとした瞬間に頭部の『鎖』も解除され
『影の頭』がズレるように現れる、斑鳩の目が見えていなくても
影の頭部の眼は泣いている少女を捉え、其方に斑鳩は駆け出し

「失礼お嬢さん!アーンド……逃げるんだよおぉーっ!」

――4本の腕で抱え上げて走り出そうとした!

(この人も戦うと元気になるタイプとみた、じゃあ相手にしていられるかー!
今はここを離れるのが先決だ!)

327遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/29(火) 21:18:37
>>326

>悪いけど、ちゃんと『受け身』取ってくださいよぉー!

パワーは人並みと言えど……影の手を使えば、飛距離は上がる!

 「ふわっ!?」

 女は投げ飛ばされる。茂みの奥へと消える。その間に、泣きじゃくり
顔を伏せる少女を、見事に貴方は抱きかかえてフードの女と逆方向に進めた!
 少女は、少し驚いた声を上げ硬直するが。貴方の行動に拒絶する事は無く
大人しく抱えられている。

「おい 待てよ似非蜘蛛男よー! 逃げずに遊べよぉ!!」

そう、貴方を呼び止める声が背中に張り付いてくるのを聞こえながら
100m程走り……唐突に、体に付着した血液が『消失』した。
 どうやら、その血はスタンドで出来たものだったようだ。

泣いている少女は、髪の毛の先端がピンクっぽい栗毛の子だ。
 
 「ぅ ぅ えぅ ひぐっ いぅ……あ あり  がとう。
た  たすけ……て くれて」

 双子なのだろうか? フードの女に随分顔つきが似ていた。
もっとも、涙を流し嗚咽とひゃっくりを上げる様子は。フードの残忍な
女とは全く真逆の雰囲気を醸し出している……。病院服のタグには『遊部』とある。

328斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/29(火) 23:13:14
>>327

>おい 待てよ似非蜘蛛男よー! 逃げずに遊べよぉ!!

「誰が蜘蛛じゃーッ!精々手足が8つなのと鎖を伸ばせるだけだろうが!
あと女性だろうと男性だろうと人を殴るのとか御免です、さよならグッバイ!」

ズダダダダダダッ

(……あれっ?もしかして僕かなり蜘蛛なのでは?)

――血濡れの顔を振りながら影の頭部で視界を確保しつつ森林の中を『走りながら跳躍して』逃げ回る

(いやいや今考えるのはそこじゃないそこじゃない『今の僕の恰好』だ。)

傍目今の斑鳩は『顔面にべっとりと血が付いていて』
『拘束具の少女を抱きかかえて運んでいる』
『軽業等の運動で汗をかいた男』である。

(――役満!不審者の数え役満だよこれ!
お巡りさんに助けを求めたらそのまま僕がお巡りさんに連行間違いないよこれ!)

3択―ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムの翔は突如完璧なアイデアがひらめく
答え②メイドさんがきて助けてくれる
答え③かわせない。現実は非情である。

選びたいのは2……いやなんだこの選択肢メイドって何?
洋館なら兎も角森林に居たら不審者その3だよコレ、前門の不審者後門の不審者だよ。
却下で!

3…絶対選びたくない、もし捕まったらお爺ちゃんとお祖母ちゃんにまであらぬ噂がかかってひぇぇぇぇ
却下で!!

1…やっぱこれしかないな、これが血なら水で何とか洗い落とせば…幸い自然公園なんだし
水場とかは困らない筈!よし、そうと決まればこの僕の目が……

「あれっ、血が落ちてる……?」

顔をぺたぺたと触るとどこも濡れていない
「これで不審者扱いは逃れる…かもだけど、如何いう事なんだ? 夢じゃあないもんな……」

影の頭で後方を確認しつつ、追ってこないと解れば歩みを止めて息を整える
(これ以上追ってこなくてよかったな…下手したら『ターザン』しないといけない所だった)

チッ チッ チッ……

>ぅ ぅ えぅ ひぐっ いぅ……あ あり  がとう。
た  たすけ……て くれて

「…あっ、起きたぁー? ごめんね急に抱きかかえちゃって……ハンカチいる?」

懐から影の腕でシルクのハンカチを取り出して差し出す
何とか顔を笑顔にするように努めながら、ゆっくりと彼女を降ろそうとした。

「僕 斑鳩、斑鳩 翔 空は飛べないけどね……
君の名前、教えてくれると嬉しいな。」

(『遊部』……この子…そっくりだなさっきの子と…『姉妹』?
『スタンド』は見えてたけど…参ったなあ『家庭の問題』か
見えてる割には出さなかったのも気になるし……。)

――右手首の腕時計を弄りながら

329遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/30(水) 19:29:45
>>328


>僕 斑鳩、斑鳩 翔 空は飛べないけどね……
君の名前、教えてくれると嬉しいな

 「……えぅ ひぐっ、い い 斑鳩 さん……
わ 私の いぐっ うっ  な 名前……」

      ポロポロポロ

少女は丸い透明な大小ばらばらな球を地面へと落としながら
不規則にしゃっくりを繰り返し、呟く。

 「な  なまぇ   わ  『わからない』
わたし  だ  だれ?   
 ぅぅぅ゛ な なんにも  『わからない』
わからない よぉぉ゛  うっ  えぅ゛」

 少女は泣きじゃくる。

   ……パサッ

 激しく泣く、少女の検査衣に。元々入れていたらしい
何やら『メモ用紙』らしいものが零れ落ちた。

 この子の苗字は恐らく『遊部』である。検査衣からも
恐らく『城址学区』の『総合病院』の患者である事も理解出来る。

 だが、それより更に。この娘の『真実』を知りたければ
メモ用紙を開く事で、僅かなりでも情報を知れるはずだ。

330斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/30(水) 22:40:38
>>329

「そっか、解らないかあ……
まあまあそんなに泣かないでさ……僕もショックだけど」
――取り出したハンカチでそっと目元を拭こうとしつつ思索にふける

(名前が「わからない」?…目に見えてるし衣服にも書いてあるけど
本当に知らないみたいに言うんだな ……拘束服なんて見覚え……有るけど。)

少年は目線を合わせるためにしゃがみ込み
笑顔で話しかけ続ける

「ほら、女の子に泣き顔なんて似合わないんだから……って僕の家のじいちゃん言ってたし。
落ち着いてゆっくりお話ししよう。」

(不味いなあ…僕『転校生』なんだからここの地理に明るくないのが裏目に出たか?
……あっ『スマートフォン』!……家に忘れてたんだった。ここらの地図入ってるのアレだよなぁーッ!
こういう時に僕の『スタンド』って役に立たねえ!)

「どうしよっかな、安全な場所まで君を連れていきたいけど……?何だろうコレ、紙切れ?」

(――この子には悪い気がするけど見せてもらおうかな、もしかしたら
『安全な場所』か……あるといいなぁー。)


足元に落ちた紙切れを拾い上げて開こうとする
赤いマフラーが八月の風に揺れていた

(そういやあの子も『スタンド使い』の筈なのに…ビジョンの無いスタンド?
それとも、『もう見えてた』のかな?……うーん)

331遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/31(木) 19:15:24
>>330(次レスで〆させて頂きたいと思います)


 「ぅう えぐっ は、はい。斑鳩おにーさん」

 貴方の、献身的で朗らかな態度は。彼女の焦燥を幾らか減らしたらしい。
まだ嗚咽は残るものの、幾らか受け答えは出来ている。
   
 そして、貴方は紙片を開く……。

 カサッ


 『 これを読んでる―――(文字が潰れている)へ

きっと 何が起きてるのか分からず途方にくれているでしょう。
ひとまずは、清月館に向かってください。寝床はこちらで用意出来ています

 ――(黒く塗りつぶされてる)は閉じ込めています   

  ですが支配権は未だあちらにあります  そう長くは保ちません

貴方の事を愛しています

どうか 安らかな永久の眠りが 貴方に訪れん事を      』


   ……

       ……

    ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


 「…………」

 何時の間にか、少女の嗚咽としゃっくりは止まっていた。

紙片を覗く、貴方に強い視線が突き刺さる感覚が起きる。
泣きじゃくっていた『遊部』の方向からだ。

332斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/31(木) 21:29:38
(おにーさん、か 僕に妹がいればこんな感じなの…?)

(……所々読めないけど、これ 妙だな)

思考の癖として顎を触る だんだん泣き声が遠くに聞こえるように

(これは多分この子に宛てた手紙何だろうけど…)
(清月館に向かえ?病院の拘束服を着てるのに?)
(『閉じ込めてある』……ふつう使わない言葉だよな)
(支配権…?何の支配権だ?)
(愛しています…保護者からの手紙なのか?)
(一番奇妙なのは…『安らかな永久の眠りが 貴方に訪れん事を』
娘に使う表現じゃないよな?まるで……死人とか……もっと別の)

閉じ込める 支配権 悪霊 家庭の問題 拘束服 病院

        「――まさか」

 頬を伝って汗が流れる……暑さが原因ではない

    「まさか、あのフードの少女!まさか!」

 (見えないスタンドではなく!自身を『悪霊』と言った!)

         (……僕の『スタンド』が纏う形だったのでピンと来なかったが)

  (もし僕に発現していたのが『人型のスタンド』だったらどう表現した!?)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

  ――視線を感じる 突き刺さるような視線を少女の方から

 「ま、まさか……『この女の子』! いや…『この女の子達』なのか!?」

   嗚咽としゃっくりが聞こえていない……?

バッ!

――メモ用紙から顔をあげて視線の方を見る。
腕時計の秒針が斑鳩の焦燥と共に未だに音を立てている

333遊部『フラジール・デイズ』:2017/08/31(木) 21:47:06
>>332(長らくのお付き合い 有難うございました)





''' ゙  ,,,,,,,,,,,   :::::    .:::''         ゙''-
  三,, - 'i': : : : :゙:'ヽ. ::   :::'' ,, -'':゙:゙:゙゙:':'ヽ-,, 彡
   'ヽ, |': :(●): :| 'ヽ:::  .::'.'/ |: :(●): :| ゙''-,,,,
 -=-,,,丶|,,: :'''': :,,リ,-,,,|::::  ://.,,,,,,,|: : :''''' : リ/゙-ヾ
゙・ ''゙゙, -・-゙'''''''''゙-=≡_丶 '''',ヾミミ゙゙''''__-'''_彡ヾ''''
'' ,  ゙                   ̄   ゙゙



  
 ……こいつは         『消す』べきか?

 ……いや      『感じる』

   ―――これは  『異なる道へと旅する自分』だ。

…………ならば       辿るべき   下すべき事は分かりきっている


  
――――――――――――――・・・


『斑鳩』は、一瞬だが 確かに見た。

 少女とは思えぬ、眼光。それがエックス線のように貴方の内側まで
通り抜けるように 見透かすように貴方へと向けられていたのを。


 「……うぅ」

   ドサッ

 少女は倒れる。貴方は、この『遊部』が気絶したのを視認する。
打って変わって、倒れ込んだ少女の顔は年相応の 泣き疲れた顔だ。

 紙に書かれた場所に送り届ける事が必要かどうかは分からない。

ただ、この少女は……何処か人と異なる事だけは。はっきりと貴方には理解出来る。

334斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/09/01(金) 01:52:22
>>333
(――何だ今の眼、僕の中を見たような
この胸の中をかきむしるような感覚……)

 「――もしかしたら、君が僕に運んできてくれるかもしれないな……人の出会いか
   偶々偶然の積み重ねかもしれないけど、人間はそれを『運命』って言うんだろ。」

寝顔の涙跡をそっとハンカチで拭いて仕舞い込み
そのまま斑鳩は聞こえる筈もない独り言を言い続ける。

「『心を治せる』もしくは『時間を巻き戻す』……いない筈はない
そう子供のように無邪気に信じているんだ、僕は 僕だけは」 

拘束服に書かれている名前を一瞥する
…その瞳は笑ってはいない。

  「遊部ちゃんか、『君達』とは今度ちゃんと…『友達』になりたいな ゆっくりと…お話して。
   お互いを『尊重』しなくっちゃあな……君は『異常』ではない、きっと『私』と同じだろう?」

――解離性同一性障害
(おそらくは、それに関連するスタンド 自動操縦型か……)

   (精神の形状は似ている筈だが『役の分離』と『鎖の枷』……私とは真逆だな。)

そこまで言って深呼吸すると顔に間抜けな印象を与える笑顔を戻す
……頬を指でかきながら

「実際かなり怖いんだけど僕も人の事言えないし……まあ、それはそれとして」



 「寝顔は可愛い女の子なんだから放置は男の子としてできるわけないよなぁ〜ッ!
  幸い場所は解るし、抱えて清月館に行ってみるかぁ……。」オマワリサンニアイマセンヨウニ!

少女を起こさないように抱え上げて清月館に歩みを進める。
――ところで何か忘れていないだろうか?

  (……はっ、僕の晩御飯のバスケット&ラジオ! 何処だぁぁぁッ〜!!?)



                             ……to be continued?

335神『フライト800』:2017/09/15(金) 00:47:12
「……」

「ふむ」

和服の男が一人。
ベンチに座っている。
膝の上には金魚鉢があるが中に金魚はいない。
いくつかビー玉が入っている。

「この色味、美しさをなんという」

「難しい問題だなぁ」

336神『フライト800』:2017/09/23(土) 00:22:18
>>335
答えは出ず。

「帰ろ」

337水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/10/29(日) 22:31:51

   「ぎぃや“あぁぁ〜〜〜〜!!!!!!!!」

ベンチに腰掛ける眼鏡の女。
横持ちしたスマホ、この世のものとは思えない絶叫。

「い、一万円でき、来てしまったッ。
 今回の『ガチャ』の目玉の『英霊』……
 フヒッ、フヒヒヒヒッ!!
 こりゃあ笑いが止まりませんなッ!ヒヒ。
 …さ、さっそくスクショを取って(カシャ)画像をツイッターに」

即座にスマホを縦に持ち替え、
バックグラウンドで起動していたSNSアプリを起動、
投稿画面を開きスクショ画像を張り付ける。

「――待って。
 たかだが1万で引いたって面白くないし、
 そうだッ!せっかくだし1万じゃなく10万『課金』したって『嘘松』して、
 うんうんッ!!そっちの方が絶対面白い!!」

 『10万円ぶち込んだ結果、無事お迎え。
  これで給料日までもやし生活。助けてクレメンス』
 
「…っとよぉ〜しッ!投稿!!!!
 こぉ〜りゃあ、いっぱい『いいね』が来るぞ。
 フヒッ、フヒヒヒッ、ウヒヒヒヒヒヒッ!!!」

338夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/30(月) 00:04:45
>>337

「ふぅぅぅぅぅ〜ん……」

いつのまにか隣に誰かが座っていたことに気付くかもしれない。
サングラスをかけた少女だ。
一体いつから隣にいたのだろうか。
それは分からない。
確かなことは、眼前で繰り広げられる奇行に対し、
まるで子供が珍しい生き物でも見つけた時のような視線を向けているということだ。

「――たのしそーだね」

339水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/10/30(月) 20:38:13
>>338

ブッ ブッ

持っているスマホがバイブする。
SNSアプリの新着通知だ。

      「お!!!」

「『足利ルシファー』さん、『気象予報士』さんから
 早速おめでとうのリプライが来ましたなぁ〜〜!デュヒッ!
 すぐに返信したら暇人って思われてしまうし……、
 
 事前に描いていた『ノーメディシン・ノーポイズン』な、
 ソシャゲの『4コマ』漫画を、お迎え記念と称してうpしてぇ、
 その際にリプライ返せば、更に『いいね』と『リツイート』がドンッ!!
 フヒヒヒッ!!こりゃあ、今夜は『いいね』の通知に震えて眠れ――


            >「ふぅぅぅぅぅ〜ん……」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッ!!!!!!!!」

刃牙に金的を食らった時のシコルスキーのような絶句の表情。
声にならない叫びを上げ、咄嗟にスマホの画面を伏せる。
そして酸欠の金魚のように口をパクパクさせながら、
恐る恐る隣に腰掛ける夢見ヶ崎の方へ顔を向ける。


「こ、こ、こ、こんにちはっ!!!
 いやァ!別に楽しそう、じゃあないよッ!
 こんばんはッ!あ、あれ?お、おはようございますっ?
 ええッと!今何時だっけ?てか!!あんた誰!!!」

340夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/30(月) 23:10:35
>>339

「そう?なんか超たのしそーに見えたんだけどなあ」

「あ、こんにちは」

「んー?今は午後四時すぎ」

水瀬とは対照的に、至って平静な様子で挨拶し、時間を確認する。
この辺で何か面白いものはないかと思い、近くを歩いていたのが数分前。
響き渡る奇声を聞きつけ、好奇心をくすぐられた私は危険を顧みず現場に急行した!
そして、そこで調査員は衝撃の光景を目撃する!!
次週を見逃すな!!!
そんな感じで水瀬の姿を発見し、隣に座って今に至るのだ。

「私?私は通りすがりのアリス」

もちろん本名じゃない。
自分で自分につけたニックネームだ。
私は生まれつき目が見えなかった。
でも、最近になって見えるようになった。
そんな私にとって、この世界はまるで不思議の国みたいに映る。
だから、私はアリス。

「別に何ってわけでもないんだけど、ちょっと散歩してたんだ」

「何か変わったことでもないかなぁと思って――」

「そんな感じかなぁ」

そう言いながら、視線は水瀬に向けられている。
なぜかって?
そりゃあ珍しいヒトを見つけたからに決まってる。

341水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/10/30(月) 23:25:03
>>340
「ブフォッ!」

予想の斜め上の返答に思わず吹き出す。
此方の容貌はむっちりめのアラサーメガネだ。
それ以上に特筆すべき点はない。

「こいつ何言ってんだ……。
 え、ちょ、こいつ何言ってんだ!!!
 通りすがりのアリスって、何なん…?
 もしかして『オフ会』の待ち合わせでもしてらっしゃるんですか!?
 こんな人気もクソもない自然公園で!? フヒヘッ…」

アリスと名乗る女に、怪訝な目を向けながら。

「えっと、その、だな、
 休みの日に散歩してて、休憩ついでに『ソシャゲ』をやっていただけですって。
 ホラ、今流行ってるじゃん。
 別に怪しい事はやってねってッ!と、通りすがりのアリスさん…?」

342夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/30(月) 23:59:13
>>341

「『アリス』でよし」

「それか『明日美』でもいいよ」

「『夢見ヶ崎明日美』っていうのがフルネームね」

喋りながら、それとなく水瀬を観察する。
なるほど、とりあえず見た目は奇妙なところはない。
ゲームしてたっていうのも本当だろうし、別に突っ込むところじゃない。
でも、ゲームしてる人間みんなが、家の外で大声で叫んでるわけはない。
しかも、あんな聞いたこともないような妙ちくりんな叫び声で。
このヒトに対して、好奇心が刺激されるのを感じる。

「そーだよね。やってることはぜんぜん怪しくないよ。これっぽっちもね」

「ところで、お姉さん――」

「ゲームする時、いつもあんなデカい声で叫んでんの?」

こちらの年齢は十台半ば。
高校生のようだ。
頭にはリボンのようにスカーフを巻いている。
爪には、カラフルなネイルアートの付け爪が見えた。
掛けているサングラスの色はそんなに濃くない。
よって、レンズの奥の黒目がちの瞳が透けて見えている。

343水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/10/31(火) 00:20:35
>>342

「『明日美』で行きましょうッ!
 あんたを『アリス』って『HN』で呼ぶと、
 必然的に私も『鬼龍院”ベルフェゴール”颯樹』ッて
 名乗らなきゃいけないからなァ!うんッ!ウヒヒヒッ!」

上擦った、下卑た印象を与える笑い声を漏らす。


             「いやッ!」

「だってッ!『シモ・ヘイヘ』よッ!!
 周りの『フォロワー』が、5万、10万とか課金しても
 出ない『シモ・ヘイヘ』を1万でお迎えできたんだって!
 そりゃあ、一目も憚らず半狂乱でござろうよッ!!
 周りの雑魚どもに自慢して、『イキリ』たいっすわァ〜〜」

どうにも要領を得ない説明だが、
どうやら『当たり』を引けたらしい。


「ッて!!!『高校生』ッ!?
 わ、若ッ!うわ!まぶしいッ!!
 随分と『キラキラ』な恰好してるけどぉ…、
 うわあ、頭に『リボン』、うらやましい」

344夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/31(火) 00:49:17
>>343

「ながっ」

告げられたHNに対して、極めてシンプルな感想を漏らす。

「長いから『ベル姉』って呼んでいい?」

「それか、教えてくれるんなら、HNじゃない方でもいいんだけど」

そして、ある意味で専門的な説明に耳を傾ける。

「ふむふむ」

「なるほどね、なっとくなっとく」

「分かる分かる、うんうん」

うなづきながら同意の意思を示す。
『ソシャゲ』はちょっとやっただけなので、本当はあんまり分かってない。
だって、それ以外に興味の対象になるものが多すぎるから。
まあ、当たりが出たら嬉しいってのは理解できるし。
懸賞とか福引とか宝くじとかと似たようなもんでしょ、たぶん。

「ありがと」

その表情に、邪気の感じられない屈託のない笑いが浮かぶ。

「なんていうか、色んな色が好きだから」

「色がたくさんあるといいなって思ってさ」

345水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/01(水) 19:29:47
>>344

「ベ、『ベル姉』……。
 ふふふッ、懐かしいなぁぁ。
 『獅子損損ポジャパン』ちゃんにも、
 昔そんな風に呼ばれてたなぁ…。

 『mixi』時代にファンですってメールくれて…、
 そこから『オフ会』で意気投合して、
 絵や同人のイロハを教えてあげて一緒に『イベント』行って…」

             「楽しかったなぁ」

――ダンッ!

顔をくしゃりと歪め、
腰掛けているベンチの背もたれを拳で叩く。

「なのに、あのクソオタク女!
 絵を覚えてチヤホヤされ初めた途端に、
 私の『ツイッター』と『pixiv』のフォロー外しやがってッ!
 今期の流行りものをいっちょかみするわっ!
 大手には尻尾をきゃんきゃん振るわっ!
 私の絵をまんまトレスして、私より『いいね』を貰うわっ!
 ふざけんじゃねェーッつの!!!私は踏台かっ!?なァ!!!!」

「毎日、毎日スパム報告して、
 この間、とうとう『凍結』に追い込んでやったわッ!
 ざまあみろだよッ!…フヒ、フヒッ オエッフヒヒィ」

ドンッ  ドンッ  ドンッ

横に座る夢見ヶ崎の事などお構いなしに、
ベンチを小刻みに叩き、気味の悪い笑みを浮かべる。
だが、直に表情を戻し――

     ミナセ  ルミコ
「本名は『水瀬 留美子』って言います。
 水曜日の『水』に浅瀬の『瀬』、『留』まる『美』しい『子』。
 『ベル姉』でも『水瀬』でも『留美子さん』でも好きに呼んでよ。
 あんたと同じで『色々』な『色』があるのよ私にも」

346夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/01(水) 21:47:24
>>345

再び暴れ始める水瀬に文句を言うわけでもなだめるでもなく、ただじっと見つめる。
その様子をよく観察するためだ。
目が見えなかった自分にとって、見たことのないものというのは人よりも多い。
どんなものであれ、それが見たことがないものであれば興味を引かれる対象になる。
今、隣にいる水瀬留美子も例外ではない。

「イイ名前じゃん」

「じゃ、ミナセさん」

ホントはもっとひねった名前で呼んでみたかったけど仕方なく妥協した。
またボーソーされたら困るし。
ベツに私はいいけど、周囲への配慮というヤツだ。

「なんつーかさ――」

「ウチらって、わりと似てるとこある気がするかも」

「たまたま隣に座っただけのヒトに、こんなこと言うのもヘンな話だけど」

「ま、気にしないで」

「なんとなくそう思っただけだから」

その言葉には二つの意味が含まれていた。
一つは人間としてという意味。
ほんの少し会話しただけの知人ですらない相手だが、
心の奥底に横たわる闇とその中で輝きを放つ一筋の光が感じられた。
もう一つはスタンド使いなのではないかという感覚だ。
この水瀬留美子という女性から漂う『奇妙な雰囲気』に、
どことなく『非日常の力』の匂いを感じ取った。
もちろん、これはただの勘でしかないし、確かめるつもりもない。
なんの根拠もなく何となくそう思ったことを口にしただけのことだ。

347水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/01(水) 22:23:48
>>346

  「似てる?」

  「アタイとあんたが?」

  「フヒッ」

目を細め、意味深な事を口にする『星見ヶ崎』に
「何言ってんだこいつ」って視線を向ける。
その傍らに――

               『パミィーッ』
     ズギュン

子供程の背丈の人型スタンドを発現する。
スタンドは濁水で人を象ったような容貌をしており、
その臀部にはドラゴンボールで『セル』が生やしていたものに
酷似した全長1m程の『尻尾』が生えており、所在なさげに宙で畝っている。

「アタイって言っちゃったけど、
 今時アタイはねーよな。ヒヒヒ。

 アタシがあんたみたいな二次元美少女とそっくりだってなら
 めっちゃ張り切ってコスプレして『インスタ』しまくるっての」

348夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/01(水) 23:26:52
>>347

            チチチチチ……

木立の向こうで鳥が鳴く。
なんてことのない穏やかな日常の風景。
そんな中に出現した非日常の異形。

「いいや、そうでもないね」

「今、思ったわ――」

「私のカンも捨てたもんじゃないってさ」

水瀬留美子に向けていた視線が、その傍らに発現した『ブラックボトム・ストンプ』に移る。
サングラスの奥の瞳を細めて、その特徴的な姿を観察する。
そして――。

  『 L(エル) 』 『 I(アイ) 』 『 G(ジー) 』 『 H(エイチ) 』 『 T(ティー) 』

水瀬の隣に座る夢見ヶ崎の更に隣に、人型のスタンドが姿を現した。
男とも女ともつかない無機質な声で、傷のついたレコードのように、
途切れ途切れに『一つの単語』を呟いている。
その両目は閉じられており、両手には『医療用メス』を思わせる形状の鋭利な爪が伸びていた。

「――どうよ」

「『似てる』でしょ」

片手を軽く上げると同時に、人型スタンドも同じ動作で片手を上げる。
付け爪のある指とメス状の鋭い爪のある指が重なる。

「顔をウリにできるほどイケてるとは思ったことなかったなぁ」

「自分の顔、見たことなかったから」

349水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/01(水) 23:38:33
>>348


「…」


   「ああ〜ッ」  

夢見ヶ崎の傍らに現れた『医療従事者』を思わせる人型と、
そして自らの分身を見比べ、
少しの間を置き、思わず口をあんぐりと開く。


            「”?!”」
「ぎィえッ!
 私だけに目覚めたものだと思ってたのにッ!
 朝起きて、とうとう『中二病』拗らせて幻覚見始めたと思って、
 30年生きてきて、すげー勢いでやべー焦ったのにッ!」

          「て、てか!!」

「あ、あんた、それッ!ペル、
 フヒッ!ゴホンッ!あんたも、ペペペペ!
           ――『ペルソナ』ぁぁ!?」

350夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/02(木) 00:07:16
>>349

「え?寝言は寝てから言うもんでしょ?」

水瀬に対して辛辣な突っ込みを入れる。
そう言いながらも、彼女の反応には新鮮さを感じた。
今まで会ったことがあるスタンド使いなんて、まだちょっとしかいないけど。

「ベツに誰がどう呼ぼうがジユーだと思うけど――」

「持ってるヒトの間じゃ、『スタンド』っていうらしいよ」

「『これ』とか『それ』とか」

『ブラックボトム・ストンプ』と『ドクター・ブラインド』を交互に指差す。

「名前を教えたんだし、ついでだから『そっち』の名前も教えてよ」

「私のは『ドクター・ブラインド』」

「サイコーにクールでマジ超イケてる私のバディ」

351水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/02(木) 00:21:31
>>350

「ンゴ」


辛辣な突っ込みを受け、
思わず変な声を漏らした。


「『ス』『タ』『ン』『ド』――。
         へ、へぇ〜…」

「そういう『ルール』が既にあるって事は、
 もしかしてクソみたいに人気のない『地下アイドル』のライブに
 足繁く通うオタクの常連客連中程度には、
 その、『スタンド使い』っていうのがいるのかな…」


            『パミッ!パミッ!』

死にかけのセミの様な呻き声を漏らす、
自身の醜悪な一面を顕在化した自分自身と、
夢見ヶ原の『スタンド』を見比べると、ため息を漏らす。

「これは、なんだっけ。
 ああ、そうだ。『ブラックボトム・スタンプ』って名前。
 まだ、どうにも名前がパッと出てこないんだけど」

「やっぱ明日美氏の『スタンド』の方が、格好いいわね。
 『トレード』機能とか実装されてないのかしら」

352夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/02(木) 00:43:00
>>351

「まあ、私とミナセさんだけじゃないことは確かねー」

「私も何人か会ったことあるし」

「もうすぐメジャーデビューするインディーズバンドの取り巻きくらいの数はいるんじゃない、たぶん」

なんとなくだが、この町だけでも探せば結構いるだろうと思う。
私が持ってるんだから、他のヒトだって持ってるでしょ。
夢見ヶ崎はそんな風に考えている。

「そお?」

「私は結構かわいいと思う」

「この尻尾とかチャーミングだし」

興味深そうに、『ブラックボトム・ストンプ』の尻尾を眺める。
純粋な人型である自分のスタンドにはないものだ。
どのような機能を果たしているのだろうかと好奇心が湧く。

353水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/02(木) 23:00:37
>>352

「メジャーデビュー間近のインディーズって
 億が一、売れた場合にも『方向性』が違うって、
 その世界にどっぷり浸かってる、
 バカで無駄に歳食った古参のバンギャが発狂する奴じゃねーのぉ!

 『みかたん@3日目C-21』さんも、
 カラオケで『嘘』と『モノクロのキス』を歌われると、
 そのオタク女をブチ殺したくなるって言ってたわ」


   ウネッ ウネッ

           スッ

夢見ヶ崎の視線が『ブラックボトム・ストンプ』の『尻尾』に、
注がれている事に気付き、その動きをすっと止めさせる。

「「『切り札』は先に見せるな」
 って私の『初恋の人』がドヤ顔で語ってた フヒッ。
 ん、ん〜ッ、と言っても何が出来るか、って私が知らないんだけど」

354夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/02(木) 23:35:06
>>353

「どーでもいいんだけどさ、『数』の話をしてるんじゃなかったの?」

「ま、とにかく分かりにくいけど結構たくさんいるってことだよ」

「たまたま隣に座ったウチらが持ってるみたいにね」

ふと『ブラックボトム・ストンプ』の尻尾が止まる。
それを見て、クスッと笑った。
ほんの少し、いたずらっぽい笑み。

「それってさ――」

「『そこ』に秘密があるって考えていいんだよねえ?」

「ただのカンだけど」

     スッ

『ドクター・ブラインド』が、手術前の執刀医のように両手を掲げる。
両手にあるのはメスではなく爪だ。
これは逆に『ブラックボトム・ストンプ』にはない部分だろう。

「まあ、私のも似たようなもんかもね」

「別に、『ここ』に秘密があるとは言ってないけどさ」

そう言って軽く笑う。

「何ができるか知っとくと普段の生活で役に立つかもよ」

「私もちょくちょく使ってるし」

355水瀬 留美子『ブラックボトム・ストンプ』:2017/11/03(金) 11:14:15
>>354

 「フヒヒッ」


「そうね、造形は必然性。
 ゲームのボスってやたら触手を生やしたり、
 別に飛びもしないのに背中に何枚も翼を生やしたり、
 そういう機能美と造形美を両立できていないものが、大嫌いッ!

 『ブラックボトム・ストンプ』が私の頭の中の友達だっていうなら、
 この『尻尾』にも何かしら意味がある筈。明日美氏の『爪』と同様にね
 ――まッ!いいでしょう!!」

腕時計で時刻を確認すると、
ベンチから立ち上がる。

「帰ろうッ。
 これから無数の『いいね』と『リツイート』が、
 私の『承認欲求』を満たそうと油田の様に噴流するのフヒヒッ」

356夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/03(金) 21:23:24
>>355

「んじゃ、ばいばい」

「またどっかでばったり会うこともあるかもね」

「スタンドを持ってるヒト同士は会いやすいんだってさ」

ひらひらと手を振って水瀬を見送る。
もし会ったら、その時は『ミッちゃん』ってよぼっかな。
それとも『ルーミン』の方がいい?
またなんかのスイッチ入っちゃうかもしれないけど。
ま、その時はその時ってことで。

「――私って、好奇心が強いから」

一人になり、ぽつりと呟く。

「次は、その『秘密』も見せてもらおっかな」

「『アリス』の名にかけて――ってね」

森の近くに出かけたアリスは、一人の変わった女の人と出会いました。
その人とお喋りしたアリスは、自分とその人が似ていることを知りました。
なぜなら、その女の人は、長い尻尾を持つ『友達』を連れていたからです。

今日のお話はここまで。
次のお話は、また今度――。

357石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/04(土) 23:27:16
スィ〜
   スィ〜
      スィ〜

秋深い10月の湖水を、男子が背泳ぎで泳いでいる。

『寒中水泳』だ!

「フィ〜やっぱり、水はいい……俺の頭をクールにしてくれる。」

358石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/04(土) 23:27:34
age

359硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 20:33:10
>>357
「やはり、『ポッポー』は良いな。
まさか『ドクターイエロー』を見えるとは、僥倖だ」

伸びっぱなしの金髪に耳にピアスをびっしりとつけた男子高校生が、
樹木に腰を預け、手にしたデジカメの画面を覗き込んで、
撮影した写真を吟味してる。

「見れば幸せに」
「…」「!!」

そこでこの11月の寒空の下、
寒中水泳をしている男子中学生の存在に気付いた。

360石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/05(日) 20:55:23
>>359
「むっ、盗撮の気配……!」
盗撮の気配を感じた。

「ならばやることは一つ……!」



シンクロッ!

 ヾ/       ズッ
~~~|~~~
 ●┘


ナイズドッ!

 ヾ●/       ザッ
~~~~/~~~
 ┘|


スイミングッ!

  V
●■\    ザパァッ!
    ヾ
~~~~~~~~~

とりあえず技術美を見せつけた。

361硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 21:10:29
>>360
だが金髪の男子高校生は、既にデジカメを降ろし、
無表情のまま石動のシンクロを眺めていた。


「今は『11月』だ。
 学校側が危険だからという理由で運動会で組み体操を行わないこのご時勢に、
 自主的に寒中水泳を行っているとは。
 ひょっとして、君は気が狂っているのかい」

「それともこの近くにスパルタな『フリースクール』でもあるのかい」

362石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/05(日) 21:17:37
>>361
ザパッザパッ……声をかけると泳いで近づいてきた。

「ハハッ、気が狂ってるはひでぇなぁ……」

「俺は水が好き。それだけさ。季節なんて関係ないね。」

「まぁ、ちょっとした『能力』で、寒さとか通じねーってのはある、が。」

363硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 21:30:53
>>362
「それはやせ我慢じゃあないのかい。
 もしくは、『気』ではなく『交感神経』が狂ってるか、だ。
 一度お医者さんに行って、診察してもらうといい」

「なあに」「恥かしいかもしれないが、
      行っておいて損はない筈だ」


バリッ 「…」 ボリッ 「…」 ボリッ 「…」 ボリィッ!


学生カバンにデジカメを仕舞い、
代わりに真空パックに包装された沢庵の1本漬けを取り出し、
包装を剥がすと、水上がりの石動を眺めながら無言で、
スナック菓子感覚で漬物を食べ始める。

「君はひょっとして水泳部か何かなのかい。
 練習したいのなら、あっちの方に冬季も開放している温水プールがあったが。
 そこじゃあ駄目なのかい」「あ」

「もしかして、『温水』は温いから『水』じゃあなく『湯』って、
 自分ルールだったりするのかな」

364石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/05(日) 21:50:45
>>363
「『お医者さん』ねぇ……」

「まぁ、医者というか、『ある所』で心の声を聴いてもらってからなんだが、深くは突っ込んでくれるなよ。
 ポケモンの『海パンやろう』みてーなもんだ。」

「お、いいね、その沢庵。自家製?」

「泳いだら腹が減ったな……ちょっと荷物取ってくるか。」

ブゥン……海パン少年の傍らに人魚型のスタンドが浮かび上がる。

    人魚型のスタンド『オオオッ……』

365硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 21:59:32
>>364
「近所のスーパーで買ってきた
 『ボリッ』もの『バリッ』だ『ボリッ』が『バリ』」

         >『オオオッ……』

石動の傍らに発露した人魚型のスタンドを一瞥、
特に表情を変える事はない。

「君は荷物を取る為だけに、
 その、ス……なんだっけ。まあ、いいか。
 その『アレ』を使うのかい。随分と物臭なんだな。
 朝、お母さんに起こして貰っておいて、
 「ババア!なんでもっと早く起こさなかったんだよ!」っと逆ギレするタイプと見た」

366石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/05(日) 22:17:44
>>365
「キレねー、って。
 うちの母ちゃん、いつもニコニコしてるけど怒るとコエーからな」

「ったく、君の中で俺はどんだけ『狂犬』なんだよ……。」

「荷物は盗まれねーよーに、『上』に置いてあるのさ。」

    人魚型のスタンド『オオオッ……』

    人魚型のスタンドが一泣きすると『涙の泡』が飛び、樹上に向かい……

    バキン! …… ドサッ!

    カバンが落ちてきた。

「な?」

367硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 22:30:26
>>366
「な?」

スタンドを使い、木の上の荷物を取る石動。
そんな彼の挙動を眺め、鼻の頭に指を添え、考え込む仕草をする。
(既に漬物は食べ終えた)


               「!!」

               「わかった。
                成る程、理解できた」

「君はもしかして――『中二病』ってやつかい?
普段から、例えば学校の教室でもこれ見よがしに『それ』をそんな風に使ってるのかい。
俺は、『それ』が見えるし使えるから『そんな風』に『アレ』したい気持ちはわかるが、
『それ』が見えない同級生からしたら、
君はかなりの『奇行種』に思われてしまうんじゃあないかな」

368石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/05(日) 22:38:24
>>367
「中二病の奇行種って……
 面と向かって言うことか、それ……
 せめてマイペースとかそういう、さぁ……」

「はぁ……」

「ミニ羊羹食べる?」

モキュモキュ……カバンからミニ羊羹を取り出して、食べている。

369硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/05(日) 23:02:03
>>368
「俺の町内では寝転びながらスマホで『youtube』を観る感覚で、
『それ』を使う人をマイペースと形容した実例はないんだ。
俺はスマホも持ってないし、パソコンも人差し指で打つレベルだから、
人に頼まなければyoutubeを観れないがね」

カバンを漁り和菓子をたべる石動を眺める。
差し出されたのならば丁重にお断りする。

「しょっぱい物を食べたし、甘い物も欲しい。
甘いものを食べたし、しょっぱい物も欲しい。
ってなるから、遠慮しておくよ」
「しかし」「アレだな」

「『マイメン』の『斑鳩』の『翔』ちゃんに初めて遭った時も、
彼の持っていたアメリカンドッグを勧められたよ。
純粋な『好意』からくれたってのはわかってるんだが、
ひょっとして俺は『物乞い』か何かに見えるのかい」

370石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2017/11/06(月) 18:30:39
>>369
「よくわからんが考えすぎじゃないかな。そんなに深い意味はないと思うぜ。」

「それじゃ俺は着替えてくるんで、チョイとおさらばな。」
スササと茂みに隠れていった。

「覗くなよ。」

371硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/11/06(月) 23:14:32
>>970
「覗かないさ。
 覗きはバレた時に最高に恰好が悪いじゃあないか」

  カパッ

手首に巻いた時計で時刻を確認する。
そろそろ帰らなければいけない時間だ。

「それじゃあ、俺は行くさ。
 しかし、君といい翔ちゃんと良い、
 『それ』を持っている人達は随分と『個性的』だ。
 俺なんかより、ずっと。ずっと」

茂みで着替える石動に言葉をかけ、
帰路へとついた。

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373有栖川 絢子『ワールド・ウィズアウト・ヒーローズ』:2017/11/27(月) 21:58:26
ある日の夕方。
自然公園の木製のベンチに、紺色のセーラー服を来た一人の少女が座っていた。

「……」

髪は前下がりのボブカットで、良く見れば微かに茶色がかかっている。
首からは黒いヘッドホンをかけ手には参考書を持ち、
それを無感情な瞳で読み解き続けていた。


「……そう簡単には、変わらないか」

参考書を読みながら突く溜息。

『力』を得てから数日がった。
それからという物、彼女は下校時刻から塾へ行くまでの間
こうして外を徘徊している。

『何か』が変わる事、或いは起こる事を望んで。

それでもいつも手放す事の無かった『参考書』と『ヘッドホン』は持ち歩いている。
彼女自身も、結局何も変わらずに生活しているのだ。


彼女が望む『ラスボス』への道はまだまだ遠いらしい。

374有栖川 絢子『ワールド・ウィズアウト・ヒーローズ』:2017/11/27(月) 23:04:25
「今日はこれぐらいかな」

参考書を学生鞄に仕舞い、木製のベンチから立つ。

「やっぱり、『力』をもっと積極的に使う必要があるのかしらね」

『レプラコーン』を使えばちょっとした騒ぎくらいは起こせるだろう。

そうすれば、『何か』は起こるか。

「……ま、もう少し気長に待ってみましょうか!」

少しだけ楽しげに笑うと、去っていく。

375花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/08(金) 23:16:52

これといった目的もなく、ただ何の気なしに自然公園へやって来た。
湖の側まで歩き、どさりと胡坐をかく。
やや気だるげな視線が、静かな湖面に注がれる。

「――湖の近くで『水死』を味わう」

誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
周囲に人気はない。
いつの間にか、その手の中にリボルバー拳銃が握られている。
自身のスタンドである『スウィート・ダーウィン』だ。
腕を上げ、銃口を自分のこめかみに突きつける。

「それもオツなもんかもしれねえな」

躊躇することなく引き金を引き絞り、発砲する。
銃声と共に、一発の弾丸が発射された。
当然の帰結として、それは自分の頭に撃ち込まれる。

「う、ぐ――」

「ぐ、がが……!」

「が……あッ……!!」

水没による窒息死を再現した『偽死弾』。
その効果により、まるで本当に溺れているかのように、酸素を求めてもがき苦しむ。
もちろん本当に溺れているわけではないが、本人にとっては実際に溺れているのと同じことだ。
深く暗い水底に引きずり込まれ、確実に死が間近に迫る。
そして、死ぬ直前で能力は解除され、死の幻は跡形もなく消え失せた。

「……かぁ――ッ」

強い酒を一気に呷った時のような声を上げ、草の上に寝転がる。
俺は酒よりも、こいつの方が好きだ。
酒は止められても、『スリル』を味わうのは止められそうにない。

「――たまんねえぜ」

未だ手の中にある『スウィート・ダーウィン』を眺める。
こいつが与えてくれる刺激は、どんな女よりも『スウィート(素敵)』だ。
やがて、一呼吸と共に、『スウィート・ダーウィン』を解除する。

376稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/14(木) 23:19:04
>>375

白い肌、青い眼鏡、桜色の目。
それ以外は長い髪含め、黒ばかりの――
西洋人形のような顔つきの少女、稗田恋姫。

「うわっ…………」

が、離れたところでそれを見ていた――――
といっても、『水死』から、『蘇るまで』であり、
銃のスタンドの『能力』にまでは気づけない。

(あれ……スタンド使いか?
 何してんだ…………『酔っ払い』か?)

          ジト

(ゲームオーバー感あるな……ちかよらんとこ)

             ザッ
                  ザッ

こういう場合よくある事だが、
相手は見られている事に気付いているものだ。

・・・恋姫は『ヒく』あまりそういう可能性に行きついていないが。

377花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/15(金) 00:26:36
>>376

「いや、違うな――」

「俺は酔っ払いじゃあねえぜ」

ゆっくりとした動きで、草の上から体を起こす。
まるで少女の心を読んだかのような言葉と共に。
実際は単なる当てずっぽうだが。

「半分は正解だな」

「だが、酔ってるってのは酒に――じゃあねえ」

「もっと別のもんさ」

見てた、か。
まあ、だからどうってこともないんだが。
こんな場所で『死んでる』俺が悪いんだからな。

「――分かるか?」

だが、少しばかり興味が湧いた。
『あれ』を見て驚きはしても、さほど動揺はしていない少女に対してだ。
単なるカンだが、ひょっとすると――ひょっとするかもな。

378稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/15(金) 01:22:03
>>377

           ビクッ

「っ…………!?
 えひ……なに、電波でも受信してた?」

思わず背が跳ねた。
流石にこうなれば知らんぷりもしづらい。

恋姫は足を止めて、言葉を返す。

「……それともぉ、『3D酔い』とか……?」

(……やばい、スルー安定だったかも。
 でも、急に話しかけられたら……
 反応するだろ、常識的に考えて……)

               タジ

不気味だと思った――少し退き気味に話す。
もしかすると本当にアブないかもしれないから。

「僕……あー、『PSY』とか『霊感』とかないから、
 全然わかんないんだけど……答えはくれるの?」

      「……『拳で教えてやるぜ』とかはNGで」

   ズ
      ズ

傍らには――――『青い焔』に包まれた、
ペスト医師のようなのヴィジョンが浮かぶ。

異様な状況に、警戒している……冬の風が汗を冷やす。

379花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/15(金) 01:59:51
>>378

「なるほどな」

特に警戒している様子もなく、少女の傍らに出現したスタンドを見やる。
やはり俺と同じように、持ってる奴だったらしいな。
そして、人型――この前に見たのと似たタイプか。

「――拳で教えるか。ハハハ、そいつは面白いな」

「それなら――『銃で教える』ってのはどうだい?」

上体だけを起こした姿勢のまま、手の中に『リボルバー拳銃』のスタンドが発現する。
ただ出しただけであり、銃口は向けていない。
しかし、それでも緊迫した空気が流れているのを肌で感じる。

同時に、今にも争いが起こりそうな強い緊張感を感じる。
『スリル』――俺にとっては心地良い感覚だ。
しかし、このまま続けていたら、マジのやり合いが始まっちまいそうだ。

「いや、すまん」

「冗談だ。危害を加えるつもりはねえよ」

「勘弁してくれ」

争いになる前に『スウィート・ダーウィン』を消して謝罪の言葉を口にする。
両手を上に上げるジェスチャーをして見せながら。
敵意がないことを示すためだが、どう受け取るかは相手次第だ。

「いきなり呼び止めて悪かったな」

そう言って、再び草原に寝転がる。
先程の『答え』を言わないまま――。
勿論、わざとだ。

380稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/15(金) 22:26:52
>>379

「…………やっぱスタンド使いかよぉ」

「くそ、ヤル気満々じゃん……
 でも……銃じゃ僕には勝てないぜ……
 僕は『シューティングゲーマー』だからな」

               キュイィィィィ

(最悪だ……とりあえず逃げるべきだ、
 だけど……『銃』背中向けるのは――――)

     ィィィン ・ ・ ・

一度はスタンドの両手に『青白い光球』が浮かんだ。
それが萎むように消えていったのは、銃が消えたから。

             「…………えひ」

「悪い冗談だぜ……『暴れてた』のも冗談?
 心が読めるのも……? どこまでマジなの……」

陰気だが、緩んだ笑みを浮かべた。
スタンドは解除しないが、両手を下げる。

そして本体も、小さな歩幅で数歩歩み寄る。
警戒は解けないけど、今すぐ逃げ去るような気分でもない。

381花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/15(金) 23:40:13
>>380

「ハハハ――」

「両手を頭の上に乗せて地面に膝をついた方が良かったか?」

「『フリーズ』って言われた時には、そうするのがお決まりだからな」

寝転んだまま、軽い調子で言葉を返す。
しかし、今の言葉――ヴィジョンは違えど、俺と同じように飛び道具が使えるのか?
察するに、あの『光球』が『銃弾』代わりなんだろう。
同じ飛び道具を使うスタンド使いとしては、どんな物か見てみたい気はするな。
だがまあ、今は止めておくか。

「何も心が読めるわけじゃねえさ。
 ただ、俺がアンタの立場だったら、『酔っ払いか?』って考えるだろうなって思っただけだ」

「それから、別に暴れてたわけでもねえな。正確に言うと、もがいてたんだ」

「あとちょっとで『死ぬ一歩手前』でな」
 
「デッドラインギリギリの『スリル』を味わってたのさ」

「――それが、さっきの答えだ」

少女の動きに大きな反応を示すことなく、淡々とした口調で語る。
相手はスタンドを出していて、自分は出していないという状況だが、特に警戒はしていない。
こちらから手出ししない限り、向こうから仕掛けてくることもないだろう。
この少女は、攻撃される前から攻撃してくるタイプには見えない。
そうでなければ、とっくに攻撃されている筈だ。

382稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/16(土) 00:17:13
>>381

「…………えひ。
 戦争ゲームじゃないんだから」

そこまで大袈裟なポーズはいらないし、
スタンド使いならポーズじゃ判断出来ない。
なんにせよ、戦わずに済んでよかった。
戦争ゲームじゃないんだから。

「……頭脳派っぽいこと言ってる。
 というか……『ギャンブラー』系?」

分析力はすごい。
しかし言ってる事はもっと、すごい。

「スリル……『VRの高所体験』とか好きそう。
 一回やったけど、ほんとに落ちるかと思ったぜ。
 足元が床だってわかってても……まじで怖い」

        チラ

           「……そういう『能力』?」

向けられていた銃に視線を遣る。
『死にかけるスリル』を体験するにはお誂え向きの形。

「それとも……えひ、銃だから……
 『1人ロシアンルーレット』でもしてたか?」

    「もしそうなら超ハード超えてルナティックぅ……」

383花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/16(土) 00:49:18
>>382

「ああ、ギャンブルは嫌いじゃねえな」

「『スリル』が味わえるものは大歓迎だ」

「ついでに言うと――『これ』も好きだ」

ゴソゴソとポケットを漁り、小箱を取り出す。
遠目からだとタバコの箱にも見えるが、実際はキャラメルの箱だ。

「こう見えても甘党なんでね」

そう言って一粒のキャラメルを取り出して、口の中に放り込む。

「そういう能力かどうか――そいつは想像に任せるぜ」

「ただ、俺にとっちゃあ『うってつけ』の能力だってことは間違いないな」

これじゃあ答えを言ってるようなもんか。
まあ、ここまで話せば薄々は気付かれてるだろう。
どっちにしても似たようなもんだ。

「ハハハ、『一人ロシアンルーレット』か。
 『何発目で死ぬか』予想してみるってのも面白いかもな」

「だが、マジで死んじまったら意味がねえ。
 死んだら二度と『スリル』を味わえなくなる」

「俺は『自殺志願者』じゃねえからな」

自分でもイカれてるという自覚はある。
だからといって、『自覚があるから自分はマトモだ』とも思わないが。

384稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/16(土) 01:26:43
>>383

「…………まあ、僕も能力ネタバレする気はないから。
 そこんとこは『おあいこ』ってことでひとつ…………」

想像はつかないでもないし。
当たってても外れてても、それこそ命に別状はない。

「頭使うと甘い物欲しくなるって言うし、
 マンガの頭脳派って甘党な印象あるよ……」

「あと、サイコキャラとかも……?」

小さく首をかしげて、陰気な笑みを深めた。

自分は甘い物はそんなに好きでもない。
もちろん、嫌いじゃない甘い物もいくらかはあるけど。

「まあ……お前はサイコとかじゃないみたいだけど。
 スタンド使いってやべーやつも結構いるから……安心したぜ」

「これ、『デレ』とかじゃないから、勘違いしないでよね……えひ」

                 トコ  トコ

話しやすいように、もう数歩だけ近付いた。
話せる相手だと思ったし、『話して面白くない』相手でもないと思ったから。

                 ・・・『仲良くなれそう』、とかではない。

385花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/16(土) 01:52:04
>>384

「ハハハ」

「そりゃあ、こんなスタンドが現れるくらいだからな。
 どっかイカれてるのは確かだろうよ」
 
「だが、自分が見境なしのサイコ野郎だとは思わねえさ」

「――アンタもヤバい奴じゃあないようだな」

少女の方を見て口元を歪めて笑う。
まあ、俺みたいなのと一緒にされちゃあ不愉快かもしれないが。

「能力は明かさないが、名前くらいは教えられるぜ」

「俺は花菱蓮華だ。仲間内からは蓮華って呼ばれてるが、好きに呼んでくれ」

「――アンタは?言いたくなけりゃ言わなくても構わないがな」

少し前に出会ったスタンド使いは『アンジェ』と言った。
その前は『フラン』とかいう奴にも会ったな。
まさか今度は『エリザベス』なんてことはねえだろうが。

386稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/16(土) 02:22:56
>>385

「僕も……中二病なのかもしれんけど、
 自分が『サイコ』だとは思った事ないかな……」

             ボウ…

傍らのスタンドが揺らいで消えた。
ペスト医師の仮面。青い焔。

スタンドが『人格』にかかわるなら、
年相応に『患ってる』面はあるに違いない。

「僕も……まあ、名前くらいならいいか。
 稗田(ひえだ)。 ……恋姫(れんひめ)。
 呼び捨てでいいぜ……敬語とかめんどいし」

だが――――自分のスタンドは好きだ。
それは見た目も、能力も。己の半身。

「……慣れてるっぽけど、上級者な感じなの?
 スタンド……なんか、えひ、『こういうやり取り』も」

          「漫画っぽいよね。今更だけど……」

さすがに恋姫にとってスタンドはもう非日常じゃないが、
目の前の男――蓮華も慣れた様子に見えて、気になった。

この町はスタンド使いが多い。いつ頃からでも不思議はないけど。

387花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/16(土) 02:48:46
>>386

「いや、そうでもねえさ」

「俺がスタンドを持つようになったのは最近になってからだ」

「恋姫がそうじゃないなら、俺の方が『この手の経験』は少ないだろうな」

風が吹き、燃えるような赤い髪が左右に揺れる。
その様は、炎が揺らめいているようにも見える。
内に存在する強い意志――危険なスリルを求める心を象徴するような色だ。

「自分の能力を自覚した時、不思議と納得がいった」

「道理で俺はおかしい訳だ――ってな」

「そして、俺が持ってるんなら他にも持ってる奴がいるだろうと思った」

「実際、こうして目の前にもいる訳だしな」

「慣れてるわけじゃあない。ただ、ある物を受け入れてるってだけの事さ」

あるものをあるがまま受け入れる。
それが自分のスタンスであり、スタンドに対してもそれは同様だ。
もっとも、スタンドが奇妙なものだと思わないわけではないが。

388稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/16(土) 03:10:12
>>387

「僕は……まあ、一応それなりに。
 最近ってわけじゃないかな……」

     「……『中級者』ってとこ」

風は恋姫の髪も揺らした。
黒い、人形のような髪だが、
黒は象徴するものが多すぎた。

そのどれだけが恋姫なのかは分からず、
瞳の桜色も今は、ただその色で灯っている。

「えひ……でも、人生はお前のが、
 プレイ時間長そうだし……そこの差かな」

自分は――――落ち着けなかった。

有体に言えば酔っていたのだろう。
自分に眠っていた力に。あるいは『肯定感』に。
それを醒ましたのは大きな経験ではなく、小さな積み重ね。

「ある物を受け入れるって、結構むずいし……」
 
いろんなものが目の前にはあるとして。
どこまでが自分の物かは、なかなか分からないものだ。

・・・呟いた恋姫は、少し下がった。話が止んだ、気がしたから。

389花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2017/12/16(土) 03:28:37
>>388

「まあ、大方そんな所だろうな」

「俺も、そう長く生きてるわけじゃねえから、あんまり偉そうな事は言えないが」

「スタンド使いとしては恋姫の方がキャリアが長いんなら、ここは引き分けって事にしとくか?」

冗談めかしてニヤリと笑う。
そして、不意に少女から視線を外し、湖の方を見やった。
少女が来る前と同じように、そのまま湖面を見つめる。

「――そういえば、ここを通り過ぎる所だったよな」

ふと思い出したように、ぽつりと呟く。

「調子に乗って、つい長く引き止めちまった」

「無駄話に付き合ってくれてありがとよ」

挨拶らしき言葉を口にし、軽く片手を振ってみせる。
このまま通り過ぎて問題なさそうだ。

390稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/12/16(土) 14:16:49
>>389

      「……ああ、うん」

「引き分けだな。えひ。再戦もいいけど」

    ニタ

「そろそろ行こうと思ってたとこだった……
 『リベンジマッチ』は、また今度にしよう」

暗い喜びの笑みが浮かんだ。
明るい笑みじゃないが、嫌な気分ではない。

「えひ…………止まったのは僕だし。
 無駄話にしてはけっこうおもしろかったぜ」

              トコ
                トコ

               「んじゃ、また……」

 ヒラ

小さく手を振り、あらためて――――その場を通り過ぎた。

391夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/06(火) 19:48:11

湖の畔に立つ大きな樹の根元に、誰かが座り込んでいる。
ブラウスとジャンパースカートの『アリス風ファッション』に身を包んだ少女だ。
頭に巻いたリボン代わりのスカーフと、カラフルなネイル、ブルーのサングラスがパンキッシュな雰囲気を漂わせる。

「数日前から、この近辺で目撃されたらしい未知の生物――『星見UMA』。
 その姿は目撃者によって様々であり、突然変異とも宇宙から来た生命体とも言われている」

「それを探し始めて、既に一週間……。
 また今日も収穫なしか……」
 
「くそ!!諦めないぞ!!
 見つけるまで粘ってやる!!!」

持参した双眼鏡を構えて、公園内の隅々にまで視線を走らせる。
何か変わったものはないだろうか。
内心、それを期待しているのだ。
今は、とにかく手がかりが欲しい。
それが謎に包まれた『星見UMA』発見への第一歩だ。

実際は単なるガセネタなのだが、本人は当然それを知る由もない。

392七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/11(日) 02:24:55
>>391

湖畔公園が特別好きだってこともないのだが、
ヒマな日に散歩に来るならここは都合がいい。

         ザッ
              ザッ

「?」

「お〜〜〜い・・・」

何してるのかな、と聞こうとしたけど、
そんなの必要ないくらいその少女は雄弁だった。

だから余計に興味がわいた。

         「にゃは」

「『待ちぼうけ』の歌って聴いたことある?
 まあ、ここに切り株はないわけだけど……
 止まってていい方向になるとは思えないよね。
 『探す』なら『脚』! ってのはもう終わった後〜?」

雪国のような服装の、金髪の女はそう捲し立てた。
猫のような顔は笑み一色で、寒さに僅かに朱が差していた。

「まだなら一緒にどう? アタシもUMAに興味あるよ」

             「キミと遊ぶのにもね。にゃは」

393夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/11(日) 19:39:44
>>392

「おっ」

「おっ、おっ?」

「――見つけた!!」

双眼鏡を構えたまま立ち上がり、声が聞こえた方向へ歩き出す。
進行方向には、たった今この場に現れた金髪の女の姿がある。
そのまま歩みを止めずに、前進を続けていく。

「長年に渡る調査の結果、ついに我々は謎に包まれた『星見UMA』と遭遇を果たしました!!
 ふむふむ、腕が二本で足が二本、頭があって胴体があって、まるでニンゲンみたいな……。
  
        ――ん?」

ぴたりと動きを止めると、ゆっくりと双眼鏡を下ろし、肉眼で相手の姿を確認する。
そして先程までとは一転して沈黙し、双眼鏡から手を離す。
紐で首からぶら下がっている双眼鏡が、胸元で音もなく揺れている。

「――って、おい!それ、人間じゃん!
 つまり、巷で噂の『UMA』の正体は、実は人間だった……!?
 いや、そんな夢のない話じゃ視聴者は納得させられないぞ!!」

今の気持ちを一通り喋ると、この謎の女に改めて向き直る。
謎の生物ではないが、謎の人物ではある。
心の奥にある好奇心がツンツン刺激されるのを感じる。

「そうだ!捜査の基本は脚にある!まだ私が駆け出しのデカだった頃、先輩刑事に教わった!!
 えーと、それでなんだっけ?ちょっと待って、のど渇いた」

肩に掛けている小さな鞄から小型のペットボトルを取り出してキャップを開ける。
中身はホットのレモンティーだ。
温かい液体が喉を通り、冷えた身体と渇いた身体を潤す。

「くっはー、ゴゾーロップに染み渡るぜ。
 で――今、ちょっと疲れたから休憩してたの!
 この一週間、ここら辺を歩き回ってるんだから」

「ところで誰だっけ?どっかで会ったことがあるような、ないような……。
 いや、やっぱりない?」

394七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/12(月) 00:43:28
>>393

「…………ウケる!」

女は破顔した。

          ニィ

「デジャヴってやつじゃあないかな?
 それとも、前世からの縁があるのかも。
 きっとキミは魔法の国のお姫様だったんだ。
 アタシはしがない吟遊詩人。身分違いの恋に苦しむ!」

            「キャー」

大袈裟な身振りで、羊のような手袋で顔を隠す。
すぐに手を下すと、ふざけた笑みを浮かべていた。

言葉にはからかうような響きがあったが、
どこまでが真剣で、どこまでが冗談なのか。

初対面ではあった。
だが、特に遠慮する気はなかった。

「あっそうだそうだ!アタシが『星見UMA』で〜
 人間の姿に擬態してるってのはどう?
 前に会った時は、ネコかイヌだったかな……」

両手を顔の横で、爪を構えるようなポーズ。
動物の真似なのだろう。手袋でよく分からないが。

            「なんちゃってね!」

「キミと会うのは初めてだよォ。多分だけどね。
 未知との遭遇って意味では、お互いUMAだよね〜」

そう言うと、木の下まで足を進めて、木肌に背を預けた。

395夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/12(月) 13:43:04
>>394

「ほうほう――」

「そうか!私は『ジュリエット』だったのか!
 ん?『ジュリエッタ』だっけ?いや、やっぱり『ジュリエット』?
 違うね!私は『アリス』だ!!」

「なるほど!ヘンシンするから見る人によって姿が変わる!
 道理で、あなたによく似た『猫』を見たことがあるわけだ!
 よし、謎は解けた!!ここで一旦CM入ります!」

矢継ぎ早に喋り続け、ようやく言葉を止める。
ノリのいい相手だと、こっちのお喋りにもハリが出る。
ついでに、私が年を取った後のお肌にもハリが出ると更に良し。

「あなたが『UMA』なら私も『UMA』。
 そう!実は私も『UMA』だった!
 何を隠そう、前に会った時は『白ウサギ』だったのだよ!」

さっき見せられたのと同じように、動物か何かのポーズを取る。
両手の爪には、色とりどりのネイルアートが施された長い付け爪が目立つ。
見た感じは、あまりウサギの爪らしくはない。

「はぁ――」

やがて、小さくため息をついて再び木の根元に座り込み、幹にもたれる。
青いレンズ越しの視線は、穏やかな湖面に向けられた。
水上をぷかぷかと漂う一本の小枝を、静かに見つめる。

「本当はいないのかなぁ、『星見UMA』」

「探しても、それっぽいの見当たらないし」

「ガセネタ掴まされちゃったかな」

今までの勢いとは打って変わって、ぽつりぽつりと呟くように語る。
その口調には、どこかセンチメンタルな響きがあった。
視線の先で、湖に舞い降りた一羽の小鳥が、小枝に止まる。

「でもさ、もしまだ私の見たことのない変わったものが近くにいるんだったら、すごく見たいって思うんだよね」

「だって、私は『アリス』だから」

396七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/12(月) 16:06:15
>>395

「んん〜、そういうことかもね〜」

笑顔だが、淡白な調子だった。

「ね、ね、手、寒くない?
 アタシは超寒いんだけど」

「冬ってフンイキは好きなんだけど、
 この寒さはいつになっても慣れないよね」

それから、彩られた爪に視線を走らせ、
座り込んだそれを追うように、自分もしゃがんだ。

「だからUMAも冬眠してるんじゃない?
 にゃは。チュパカブラとか、ネッシーとか、
 UMAってさァ、『変温動物』感半端ないじゃん」

それから白い息を吐いて、なんとなく小鳥を見た。

「それに、UMAである事がアイデンティティだろうし〜」

         「人前に出てくる事ってないのかもネ」

  クス

悪戯な笑みを浮かべて、
それから夢見ヶ崎に向き直る。

「でも、UMAは『不思議の国』のオバケとは違う。
 ネ。『未確認生物』だから。モンスターじゃないでしょ?
 今も毎年1万くらい、新しい生き物が見つかってるんだし」

「星見UMAってあだ名だったやつも、いつか見つかるカモね。
 それを見つけるのは〜、目の前のキミだ! ……なんちゃってね!」

なんちゃって。ともう一度付け加えたが、その声色に茶化す風はあまりなかった。
冗談の色は有ったので、まるきり真剣に『新発見』にこだわってもいないのだろうけど。

397夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/12(月) 20:13:59
>>396

「寒くないわけがない!でも私は手袋をしない!なぜなら爪が隠れるから!
 それが私にとっては寒さよりも重要!だから、私は寒さを我慢する代わりにポリシーを選ぶ!」

「でも風邪は引きたくないから、寒さ対策はしてるけど。
 ホラ、コレ。ポケットにカイロ入れてるから、時々手を入れておけばあったまれる」

そう言いながら、両方のポケットからカイロを取り出して見せる。
すぐにそれをポケットに戻し、同時に両手をポケットに突っ込んだ。
やはり寒かったらしい。

「わかるわかる。私も冬が似合う女って、よく言われるし。頭の中で」

小鳥は、ごく普通の姿をしていた。
変わった色をしているとか、変わった形をしているということはない。
よくある光景だ。

「そっかそっか、そうカモ。あ、あれってカモ?
 なわけねーか」

調子を取り戻した様子で、うんうんと頷きながら、小鳥を指差して適当なことを言う。
その時、木の上で小さな音がしたのが聞こえたかもしれない。
何か小さな動物が枝を揺らしたような音。

398七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/12(月) 22:57:58
>>397

「う〜ん、確かに凝ってるネイルだもんね。
 冬だからって隠すのはもったいないかァ、
 毛皮が無くて寒がる権利があるのが人間だもの」

       「にゃは」

              ガサ
                   ガサ

「どれどれ、アタシ鳥博士だから。
 あれは……『サンダーバード』の雛!
 北米のUMAで〜、雷を起こすんだって」

「って、UMAの話はもういいや。
 スズメも過大評価されちゃ困っちゃうよね〜」

           「いやオジロだったかな」

腕を伸ばし、カメラのよう手窓を除き込む。
品評もどこ吹く風、小鳥は小枝の上を歩く。

「鳥は良いよねェ、羽毛あるし。
 それに、空も飛べちゃうでしょ?
 アタシも羽毛布団着て出かけた〜い」

     ズギュン

「ムダな毛が全部羽毛になったらいいのにね〜」

            「冬限定!」

背中から浮き上がるように、『天使』の像が発現する。
それ――『アクトレス』はそのまま木の上へと視線と、腕を伸ばす。

399夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/13(火) 00:27:41
>>398

    コツッ

「――あたっ」

不意に、頭上から何かが落下し、軽い音を立てて頭に当たった。
地面に落ちたのは、何の変哲もない松ぼっくりだった。
何の気なしにそれに視線を向け、手を伸ばして拾い上げる。
ゆえに、『アクトレス』の発現には気付かなかった。
『天使』の像が、木上に腕を伸ばす。

    ガサリ

枝の揺れる音と共に、何かが飛んだ。
哺乳類だ。
毛むくじゃらの小さな生き物。
接近する『アクトレス』の腕から逃れて、少し離れた地面に着地する。
『アクトレス』が見えていたわけではなく、たまたまジャンプするタイミングが合っていたということらしい。

    キョロ キョロ

それは一言で言えば小型の『猿』だった。
世界で二番目に小さい猿である『ピグミーマーモセット』だ。
最近ではペットとして飼育もされている。
とはいえ、あまり一般的ではないし、自然公園で見かける生き物でもないだろう。
『UMA』ではないが、UMAと誤認された可能性はあるかもしれない。

「――へえ……」

顔を上げると、ようやく『アクトレス』に気付き、そちらを見る。
サングラスの奥の瞳が、好奇心の光できらりと輝く。
初めて目にするスタンド――これは、ある意味UMAと同じくらい珍しいものではなかろうか?

「……ジャングルの奥地に潜入した我々は……危険と隣り合わせの冒険の末に……
 人類史上初めて……幻の『星見UMA』と対面を果たすことに成功しました……!!」

続いてピグミーマーモセットに視線を移し、相手を刺激しないように小声で感想を述べる。
だったら最初から喋らなければいいんじゃないかという考えは念頭になかった。
地面に降りたピグミーマーモセットは、その場から動かず、フランの方に注意を向けている。

400七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/13(火) 01:32:29
>>399

「この……『小さいサル』!
 図鑑かテレビで見たような気がする。
 なるほどね、これが『星見UMA』の正体」

囁くような声で笑っていた。

逃げ出したペットか、
捨てられてしまったのか。

「んん〜、見てみてこの顔。
 この爪で引っ掻かれれば、
 われわれの喉笛は紙切れ同然!」

「あわや放送事故! 我々に明日はあるのか!?」

そしてこの場で真に『未確認』なのは誰なのか。

             ガサ  ガサ

少しずつ動く『ピグミーマーモセット』を視線で追う。

「なんちゃってね〜」

「この手のお話のオチはやっぱり、鉄板ってことで〜
 『逃げられてしまったがこれからも追跡を続けます』?」

      「それとも今回で最終回にしちゃう〜?」

――『アクトレス』はフランの背後に立っている。
その白磁は『彫像』や『マネキン』にも似ていて、
この止まらない女の様子とは離れたものだった。

401夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/13(火) 17:14:12
>>400

「こういうのって何て言うんだっけ?えーと、あれだあれ。
 そうそう――『天使』ってやつ。
 今、あなたの後ろに立っているのを見た、私の感想」

『天使のような彫像』と気まぐれな猫のような雰囲気の女。
一見するとメージが近いようには思えない。
スタンドというのは精神の才能だと、自分は聞いている。
彼女からこれが出てきたということに興味を引かれる。
彼女とスタンドの繋がりはどこにあるのだろうかと思えるから。

「それと、これ何だっけなぁ?サル?
 あぁ、それそれ。サルってこんな見た目してるんだった」

納得したように、ポンと手を叩く。
これまで目の見えない生活を送ってきた身。
見たものの名前と外見が頭の中で一致しにくいということが、未だによくある。

「へっへっへ、こりゃあツイてるな。
 こいつの毛皮は、いい値で売れるんだぜ。
 今夜は久しぶりに上等の酒にありつけそうだ」

密猟者か何かになりきって、冗談交じりに低い声を作りながら、自身の背後にスタンドを発現させる。
『医療従事者』のような雰囲気を持つ盲目の人型スタンド――『ドクター・ブラインド』。
本体との外見上の共通点は、あまり見られない。
共通している部分と言えば、爪くらいだ。
しかし、装飾用である本体の爪とは違い、スタンドの爪はメスのような形状であり、『実用向き』だ。

『 L 』 『 I 』 『 G 』 『 H 』 『 T 』

……何か喋っている。
だが、その口調は機械的で、言葉を発しているからといって独自の自我があるわけではない。
しいていうなら、本体自身の心の代弁なのだろう。

「ふっふー、せっかく珍しい動物と出会えたんだし、ここでお別れするのは惜しいなぁ。
 それに、飼われてたのがいきなり自然で生きていけるとも思えないし」

毛皮に埋もれていて見えにくかったが、小猿は首輪をしているようだ。
フランの考え通りだということだろう。
そして、明日美は自分の手の中にある松ぼっくりを、『ドクター・ブラインド』に渡した。

「ニンゲンの都合で連れて来られたんなら、最後までニンゲンが責任もつってことで。
 とりあえず保護しよっかなぁって私は思ってる」

「注意を引くから、その間にカクホしてもらえないかなぁ。
 私が捕まえたいのはヤマヤマなんだけど、私のは爪が『コレ』だし。
 うっかりして傷つけちゃうかもしれないから」

402七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/13(火) 18:33:43
>>401

           アクトレス
「わぁお! キミも天使様が見えるんだね〜。
 そういう人がそこそこいるってことは知ってる」

「でも、このサルよりは珍しくないでしょ!」

             ヒュン

「確かにサルって感じの野性味はない。
 けど、一番近い動物はな〜〜〜にって、
 街頭アンケートしたらきっと『サル』だよォ」

『アクトレス』に明確な『顔立ち』は無いが、
その視線は『ドクター・ブラインド』を一瞥し、
すぐにピグミーマーモセットの方へと向いた。

天使は語らない――――フランチェスカとは『対照』だ。

     キキッ

冗談に反応でもしたのか、野性的なカンなのか。
小さく鳴いた小さすぎる猿を、相貌が捉えている。

「そだね〜、やれやれ! 結局一番恐ろしいのは、
 UMAなんかじゃなくて人間のエゴなのだ! ってね」

       「にゃは」

「そういうオチはイマドキ陳腐だけど、
 エゴは悪い事ばかりじゃないからね〜
 保護しちゃおう。アタシはそれが良いと思うんだ」

                  パチッ

ウィンクを飛ばし、スタンドをしゃがみ込ませた。
草や土を動かし、勘づかれるようなことが無いように。静かに。

403夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/13(火) 21:41:08
>>402

「よし、それじゃ――」

そう言いかけて、ふと湖の方を見やる。
相変わらず、水面には小枝が浮かんでいて、その上に小鳥もとまり続けている。
何も変化はない。

(?今、なんか『音』がしたような……?ま、いっか)

「――じゃ、マンジョウイッチってことで」

松ぼっくりを持たせた『ドクター・ブラインド』を移動させる。
移動先は、ピグミーマーモセットの後方。
そこからピグミーちゃんの足元に向かって、恋人にフェザータッチするみたいに優しい手つきで、松ぼっくりを軽く転がす。

                コロロロロ……

          「 ? 」

結論から言うと、ピグミーマーモセットは、それに興味を持ったらしい。
小さく首を傾けて、一瞬そちらに注意を向けた。
必然的に、松ぼっくり以外のものに対する注意は削がれることになるだろう。
その間に、向こうの『天使』がアクションを起こしてくれたらいいなという考えだ。
もちろん、任せきりにするつもりはなく、もし逃げられそうになった場合は『ドクター・ブラインド』も突っ込む気でいるが。

404七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/13(火) 23:15:07
>>403

             ス

『ピグミーマーモセット』・・・体重は成体で『100g』。

      『トン』

『アクトレス』の指先が、繊細にその背に触れる。
能力は重量の減少。その結果は――『浮遊』。
1秒間に『1000g』を奪い去る天使の指先は、
問答無用で、逃げる隙もなくその身を空へ誘う。

「小さくてすばしっこいとさ〜、力加減が難しーよね。
 だからこうする。『天使様』の能力……」

           「詳しくは企業秘密だけど、ネ」

浮き上がったその身体であれば、
逃げようと走り回るそれよりも、
ずっと簡単に手の平で覆える。

『アクトレス』から受け取ったりとか、
そういううかつな真似はしない。離さない。

軽量化は――――あくまで一旦だが、解除しておく。

「このコ、どうする〜?
 網とかカゴとかあればいいけど、
 キミが持ってる『ハコ』って水筒くらい」

浮ついた笑みを浮かべて、
不安げに身じろぎする子猿を見た。

「それじゃ、家に帰るまでに紅茶味になっちゃうよね」

                     「にゃは」

405夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/14(水) 15:03:47
>>404

「ほうほう――」

眼前で行われる『天使』の技を興味深そうに観察する。
浮かばせる能力――そう考えれば『天使』というのも納得できる。
いつかは、その全貌も見てみたい。

「お見事!さすがはアスミくんだ。ん?アスミって誰だよ!
 そう、それが私の名前だ!覚えておいてくれたまえ」

捕まったピグミーマーモセットは、最初の内はもがいていた。
しかし、単純な方法では抜け出せそうにないと分かると、動きを止めて大人しくなった。
ひょっとすると、隙を窺うつもりなのかもしれない。

「――お?」

地面に手を伸ばし、小さな小猿よりももっと小さな首輪を拾い上げる。
ピグミーマーモセットが暴れた時に外れて落ちたらしい。
裏側を見ると、電話番号が書いてあった。

「ふっふっふっ、『小猿の紅茶煮ハニーマスタードソース・シャンピニオン添え』。
 よし、今夜のメニューはこれで決まりだ」

アクトレスに捕まったピグミーマーモセットを見て、あまり笑えない冗談を飛ばす。
言葉が分かるはずはないが、不穏な気配を悟ったのか、小猿は身を竦ませて震えている。
ちょっと脅かしすぎたみたい。
『ジチョー』しよう。
ところで、『ジチョー』ってなんだっけ?

「とりあえず、この中に入れとこう。
 あと、首輪の裏に電話番号が書いてあったから、ちょっと掛けてみる。
 あとは頼んだ!」

そう言って肩に掛けていた鞄を外し、口を開けて『アクトレス』の足元に置いた。
自分はスマホで電話を掛け始める。
そして、通話はすぐに繋がった。

「あ、もしもし???」

406七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/14(水) 19:39:54
>>405

「アタシはフランだよ〜。
 フランダースの犬のフラン。
 フランスパンのフランでもいいけど」

               ボフッ

天使の手がカバンの中に小猿を運ぶ。
隙を見ているのかもしれないが――
本体の手ですぐにチャックを閉めてしまう。

とはいえ、密封するのもどうかと思うし、
スタンドの手はカバンの中に入れたまま。

「にゃは、それじゃお願いしようかな〜
 捨てたんならこっちのものだし、
 涙ながらに生き別れってことなら、
 感動の再会を演出出来ちゃうかもね」

      グイ

「サルくんはもうちょっと大人しくしてて。
 動けば動くほどおいしそうに見えちゃうからさ・・・」

               ニヤ

しっかり捕まえて――――逃がさない。

電話にも耳を傾ける。
べつに、ある程度『どうなってもいい』けど、
いい方向に変わるならそれが一番良いことだ。

      プルルルルル
 
             『―――――もしもし?』

(※通話先の設定など決まってるようでしたら、
   そちらのロールもお任せしたいと思っています)

407<削除>:<削除>
<削除>

408夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/14(水) 20:29:48
>>406

「ふむふむ、覚えたぞ。
 フラミンゴのフランでもいい?って、それだと『フラン』にならないじゃん!
 フランケンシュタインのフラン。よし、これなら『フラン』になるぞ!
 よろしく、フランちゃん!」

通話が繋がるまでの間に、相変わらずの冗談を口走る。
視界の端でピグミーマーモセットの確保を確認し、話し始めた。

「あのー、公園で『サル』拾ったんですけどー。お宅の?」

    ピッ

スピーカーのスイッチを入れる。
これで会話の内容はフランにも聞こえることになる。

『――えっ!!それってピンクの首輪付けてるピグミーマーモセットですか!?』

声は若い女だった。
どうやら飼い主のようだ。

「ピグ……?まぁ、たぶん。じゃなきゃ電話掛けられないでしょ」

『あああああ!!今どこですか?自然公園?すぐ行きます!!!』

そこで電話は切れた。
あの様子だと、捨てられたわけではないらしい。

    ピッ

通話終了ボタンを押して、フランに向き直る。

「……ってことで、すぐ来るんだってさ、フランちゃん。
 チッ、これで今夜も、いつもの安酒をチビチビやることになっちまったぜー」

ふざけた感じの口調だった。
でも、顔は笑っていて、どこか嬉しそうだった。

409七海 フランチェスカ『アクトレス』:2018/02/15(木) 00:24:46
>>408

「――べつにフランさんでも、
 フラン様でも、フランでも、
 呼び方は何でもいいけどね〜」

「これにて『一件落着』! かな?
 お礼をたんまり貰えるかも!
 今夜はそれでパーティナイト!
 にゃは、それってまさに『皮算用』だし……
 『笑顔が報酬』なんてセリフも悪くないよね」

嬉し気なのは同じだった。
あるいは楽し気か、どちらでもいい。

明るさに違いがあっても、共有できるのは同じだ。

             クル

「そろそろ行こうと思ってたけど、
 すぐ来るなら待っておくのが人情ってやつだね」

             「どんなヒトが来るかな」

    「いない人のうわさ話なんて悪趣味か!」

その場でくるりとターンして、
待ち人に想像を巡らせる。

答え合わせがされるまでは――――ここにいよう。
この時間は楽しいものだし、もう少しは止まっていてもいい。

410夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/15(木) 17:49:17
>>409

「ウワサ話ってのは人がいないところでするもんだぜ!」

「だから、問題ナシ!」

       ――数分後――

「――おおおおおおおお!!!」

彼方から、一人の若い女がやって来た。
物凄い勢いで、こっちに向かって走ってくる。
特徴を一言で言うと、『ピンク』だった。
頭の先からつま先まで全身が『ピンク』という乙女チックを突き詰めたようなファッション。
まじりっけなし『ピンク率100%』のいでたちは、ある意味『UMA的』だった。

「『キウイ』ちゃぁぁぁぁぁん!!!」

         モゾ

その声に反応して、ピグミーマーモセットが鞄の隙間から這い出てきた。
怯えているという感じではなかった。
そのままトコトコとピンクの女に近寄っていき、肩に飛び乗った。

「はッ!あなた達が『キウイちゃん』を見つけてくれた人達ねッ!
 突然いなくなっちゃって、ずっと探してたの!
 どうもありがとうありがとうありがとう!」

ピンク女は片手にケージを下げていた。
ピグミーマーモセットの『キウイ』は、自分からその中へ入っていく。
これで事件は解決だろう。

「はッ!お礼をしなくてはッ!そうだッ!
 これを差し上げるわッ!」

ピンク女は、目にも留まらぬ速さでチケットを二枚差出し、手渡してきた。
最近話題になっている高級スイーツショップのケーキバイキング無料招待券だ。
パーティーナイトとまではいかなくとも、ティーパーティーはできるかもしれない。

「んじゃ、遠慮なく。さて、帰るかぁ。
 ん?そういえば、私なにしにここに来てたんだっけ?
 食材の調達ゲホゲホいや何でもないなんでもない」

「――フランちゃんさぁ、今度これ一緒に行かない?
 店の商品全部食べつくそうぜ!」

帰りながら、チケットを見せつつフランに声を掛ける。
ついでに、今まで出しっぱなしだった『ドクター・ブラインド』を解除する。
その時、何か忘れているような気がしたが、そのまま忘れた。

     ――ある日の自然公園で起こった、特に大きくもない些細な小事件は、こうして終幕を迎える……。

411夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/02/17(土) 16:41:46
>>410

                ゴポッ

三人が立ち去ってから少しして、湖の表面が俄かに波打った。
小枝が揺れ、その上で羽を休めていたオジロが、慌てたように空へ飛び立つ。
やがて、何か大きな影のようなものが、水面近くまで浮かび上がってくる。

      ザ バ ァ ッ

そして――水を掻き分けるようにして、水中から何かが現れた。
それが生物なのか、それとも単なる漂着物なのか。
確かなことは、その正体は誰にも分からないということだけだ。

ある日の静かな湖畔で起きた、ささやかな小事件。
その最後を、この言葉で締めくくろう。

『今回は逃げられてしまったが、我々は今後も追跡を続行する』――と!!!


          『 星見UMAを探そう 』 → 完

412霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/07(水) 23:59:01

昔古い知り合いに『自然が好きなんでしょ』と言われたが、
それは肯定でもあり、否定でもある。まあ自然は好きだけど、
この時間の自然公園は――なんというか、食傷を感じるから。

            カァーーー

                 カァーーー

「帰るのはカラスが鳴いたらだっけ。
 カエルだっけか。そっちのが語呂いいし
 まー、カエルじゃこの時期帰れねーわね」

   チチチ

「鳴かなきゃ帰れねーってわけじゃねえけどさ。
 冗談みたいなもんよ。いや、ユーモアって感じ?」

      「どっちも大して変わんねーわね、それも」

湖沿いの散歩道を歩いていると、そんなことを想う。
実際、そろそろ帰ってもいいころだ。夜は冷え込むし。

ただまあ別に数分数十分じゃあ大して変わらないし、
例えばこの『燐光を纏う独り言の多い少女』に興味を示した、
特異な奴がいるなら――そいつと話して帰るくらいの時間はある。

413美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/13(火) 21:25:29
>>412

やがて、向こう側から一つの人影が近付いて来た。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーというアメリカンカジュアルファッションの女だ。
不意に少女の前で立ち止まり、その傍らの燐光を見つめる。

「蛍じゃなさそうね。今の時期じゃないわ」

「それに、蛍じゃ話し相手にはなれないでしょうし」

今この時間、自然公園を散歩しようと思った理由は特になかった。
でも、それも悪いものじゃなさそうだ。
『妖精とお喋りする少女』なんて珍しい場面にお目にかかれるんだから。

414霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/13(火) 21:43:16
>>413

向こう側からくる人影と、三つ四つとすれ違った後の事だった。
自然に立ち止まって、燐光は肩に止まる。止まり木のように。

「蛍相手に独り言してるいてー女かもしれねーわよ。
 ま、妖精と喋ってんのも大概『ファンシー』すぎるか」

               チチチチ

「んで、そういうあんたは話し相手になってくれんの?」

「べつに催促するわけじゃーねえけど」

       チチチ

通行人などそもそも疎らだが、その声を聞いて振り向く者は女以外にはいなかった。
スタンド使いにのみ聞こえる声。直感的にそれが分かる――同じ『使い手』ならば。

415美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/13(火) 22:46:48
>>414

「それはそれで珍しいわね。関わりたいかどうかは別として」

「もし相手が幻聴とお話してるような人間なら、黙って通り過ぎるのが普通だと思うわ」

「でも――あなたはそうじゃないみたいね」

妖精を肩に乗せた少女と相対する女の肩には、機械仕掛けの小鳥が止まっていた。
全体的に丸みを帯びた特徴的なフォルム。
『コマドリ』だ。

「たまたま出会った相手だからこそ話せることってあるものね」

「旅の恥は掻き捨てっていうやつよ。お互いに旅って程じゃないでしょうけど」

「それに、あなたの妖精は何だか私のと似てる気がするし」

   ザッ

軽やかに笑いながら、名も知らない少女に歩み寄る。
帽子の下で、ショートボブの茶髪が小さく揺れる。
全体的にボーイッシュな服装の中で、唇に塗られた艶やかなルージュが女らしさを際立たせている。

416霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/13(火) 23:08:57
>>415

「すすんでオカシな奴だと思われたかねーからね。
 声が聴こえんのは、『分かる奴』だけにしてんですのよ」

「そーいうやつと喋んのは、結構悪くねー」

統計とかを取ってるわけでもないし、そんな趣味もないが、
スタンド使いと呼ばれる人間には面白い者が多い気がする。

「あ? 鳥? まー、似てなくもないけど。
 スズメ……じゃなくて、コマドリか。
 別に鳥に詳しいってわけでもねーけどさ」

            チチチ

アオスジアゲハのようなリボンと、カラスアゲハ風のポンチョが風に揺れる。
それに挟まれ微動だにしない、切り揃えた黒い前髪、鋭い目つき、化粧っけの薄い顔。

「それで、何の話をするってーのよ。
 夕食の献立? シゴトの愚痴? それとも、
 昨日見た夢の話? なんでもいいんだけど」

歩み寄る女に対し、自然に少しだけ退がるが、距離は元より近い。

「あんたには『話したい事』がある、そーいう言い方よね」

たまたま出会った相手、旅の恥。
話し相手を求めているのはまあ自分もなのだが、
相手もそうなのかもしれない――そう思ったのだ。

417美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/13(火) 23:59:16
>>416

「まあ、あなたのと違ってお話してくれるわけじゃないけどね」

「お喋りするのは私の方だから」

年の頃は24、5歳程度だろうか。
年齢もあるだろうが、少女とは対照的にメイクは入念だ。
目元にはアイシャドウが引かれ、頬にはチークも塗られている。
ただ、水商売という雰囲気でもない。
そのことは、極めてラフな印象のファッションが証明している。

「いいわね、そういうの。
 献立っていうのも地味だし、いきなり愚痴なんて聞かされても困るでしょ。
 今日のトークテーマは『最近見た夢』なんてどうかしら」

「私が見た最近見た夢は――『アイドル』になってる夢かな。
 ステージの上で歌って踊って人気者って感じ」

なんでもないような口調で、そんなことを話す。
実際、これは単なる夢の話だ。

             リアル
しかし、十年近く前は現実だった。
本当にアイドルとして活動していたし、結構な人気もあった。
しかし、それにサヨナラした今となっては夢でしかない。

世間からは完全に忘れ去られ、その筋のマニアでもなければ知る者はいない。
それに対しては色々と想いはあったが、今は今の自分に納得している。

「まあ、夢の中なんだし、なんでもアリよね」

そう言うと、足元の小石を拾って水面に向けて投じる。
小石は五回ほど水面を跳ねた後で、水中に沈んでいった。
その光景に、なんとなく過去の自分自身が重なって見えた気がした。

418霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/14(水) 00:47:31
>>417

   チチチ

「静かでいいじゃねーの。
 うるさいのが嫌、って訳じゃないけど」

      チチチチ

霞森の顔は年齢を読ませない。
10代には思えるが、若い輝きには無縁で、
枯れた印象があった。老けてるわけではないが。         

「夢? ま、初対面だものね。
 身の上話なんかよりは、
 ずっと親しみやすい話題だわ」

       チチチ

なんでもいいとは言ったが、
面白い話題であればより良い。
他人の夢の話はつまらないなんて言うが、
そういう捉えどころのない話は嫌いじゃない。

「ふーん、あたしにはわからねー世界だけど、
 なりたがるヤツが多いってのは理解出来るわ。
 文字通り『夢見る舞台』ってェーところかしらね」

水面を跳ねる石を目で追ったが、
沈むのを見届けて顔を上げた。

「ああ、あたしも夢で歌手になってた事があるわね」
 
     チチチ

      「あたしは、夢見てるってわけじゃねーけど。 
       まー、その辺はまさに何でもアリってとこか」

軽い口調だった。霞森は確かにそこにあった現実を知らない。

419美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/14(水) 01:13:07
>>418

「そんなところね。まあ、どこかしらに繋がりみたいなものはあるのかもしれないけど」

「夢っていうのは本人の無意識が関わっているって言うじゃない」

少女と同じように何気ない調子で言葉を返す。
自分の場合は、過去の栄光を忘れきれないからだろう。
だから、時々そういう夢を見ているのだ。
今までも、そしてこれからも。
その辺りは自分でも受け入れている。

「ところで――その子が何て言ってるのか聞きたいわ」

ちらりと燐光に視線を向ける。
少女が何か言うたびに話しているように見えた。
それが気にならないと言えばウソになるだろう。

「妖精は一体どんな話をしてくれるのかしらね?」

自分がやってるラジオ番組のトークのネタになるかもしれない。
もっとも、妖精とお話したなんて話は使えないけど。
ただ、全く使えないってわけでもない。
ちょっとだけ置き換えればいいんだから。
たとえば、従兄弟の子供と話したとか。

420霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/14(水) 01:48:17
>>419

「こいつが? 最近よくそれを頼まれるわ。
 別に大しておもしれ―ことは言ってねえけど、
 ま、妖精みたいなのが喋ってんのは面白いか」

            チチチ

「ちなみにこいつは『Q-TIP』。
 そう呼んでやると良いわ。
 こいつは私にそう名乗ってるし、
 今名前を教えろって頼まれたから」

「本当はあんたにも聞こえるように喋れるけど、
 なんつーか人見知り? ってやつらしいのよね」

羽音を鳴らす燐光を見ていると、
その中にいる『妖精』と目が合った。

       チチチ

なにか『思考が波立つ』ような感覚がある。
それが、具体性を帯びる事はないのだが。

「あんたの鳥は――って、
 名乗ったりはしないのか。
 でも名前はあるんでしょ?
 何にだって名前はあるんだから」

  チチチ

「ああ、『Q-TIP』もそいつの事を知りたがってるわ。
 好奇心がつえーのよ。『名前が知りたい』って言ってる」

421美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/14(水) 02:08:02
>>420

「『Q-TIP』――洒落た名前じゃない。よろしくね」

ふと奇妙な感覚を覚え、頭の中に疑問が浮かぶ。
しかし、それが何なのかは分からない。
目の前の妖精――『Q-TIP』に原因があることは間違いないのだが。
けれど、敵意がありそうな様子でもない。
だから今は気にしないことにした。

「この子の名前は『プラン9・チャンネル7』。
 まあ、好きなように呼んでもらっていいわ。 
 『プラン9』でも『チャンネル7』でもね」

『小鳥』は微動だにしない。
囀ることもなく、ただ肩に止まり続けている。
『Q-TIP』とは対照的だ。

「――そして、私の名前は美作くるみ。
 『ラジオDJ』やってるの」

「せっかくだから、これを渡しておくわ。
 番組の宣伝も兼ねてね」

差し出されたのは一枚の名刺だ。
所属する放送局や担当する番組について記されている。
番組名の下に、今さっき告げた名前が併記してあった。

422霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/14(水) 02:31:34
>>421
       チチチ

「『こちらこそよろしく』ってさ」

「ま、あんま似合わねーんだけどね。
 そんなロマンチックなもんでもねーし」

     チチチ

「って言うと、あたしの名前をこいつは茶化すの。
 ちょうど良いから自己紹介を返しとくけど、
 あたしの名前は『霞森 水晶(かすみもり すいしょう)』」

茶化し合える仲、だなんて美化する気はないけど。
まあ悪い仲じゃあない。打算が無い関係じゃないが、
なんだかんだ行動を共にしている――『悪友』なのだ。

「ラジオ? へえ、夢とそう離れちゃいねーのね。
 あんたが言った通り『繋がり』はあるってことか」
 
   ス

「これで『ミマサカ』って読むのね。
 覚えやすくていいわ、良い名前」

「電波がわりーとこに住んでるんで、
 聴けるかどうかはわかんねーけどさ。
 なんかの縁だしこれは無くさないようにしとくわ」

名刺を懐に入れ、薄い表情で笑った。
ポンチョが捲れた時、その中に燐光が3、4、と見えた。
黒い布地に輝くそれらは星空のようでもあったけれど、
日が沈み、覗きつつある夜空に比べれば歪な輝きだった。

423美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/03/14(水) 03:05:46
>>422

「へえ、水晶なんて洒落てるじゃない。イケてる名前だと思うわ」

そのまま芸名としても使えそう。
なんてことを、ふと思った。
まあ、彼女はアイドルなんて興味はなさそうだけど。

「毎回テーマを決めてリスナーからのメッセージを募集してるの。
 この町のニュースとかイベント情報なんかも取り上げてるわ。
 それから、私のフリートークとかゲストと喋ったりね」

「新旧洋邦問わず曲のリクエストも受け付けてるから、もし聴けたらヨロシク頼むわ」

少女の薄い笑いに対し、こちらは軽やかに笑い返す。
その時、夜空の星のように輝く燐光が目に入った。
おもむろに空を見上げ、やや目を細める。

「暗くなってきたわね」

「名残惜しいけど、そろそろお暇することにするわ。夜道での女の一人歩きは物騒だっていうし」

「それじゃあね、水晶さん。それから『Q-TIP』も」

肩に止まっていた『小鳥』のヴィジョンが消える。
そして、ゆっくりと歩き始め、その場を離れていく。

(そう離れちゃいない、か)

(今の私だって、そう捨てたもんでもないわよね)

少女の発した言葉を思い出し、立ち去りながら人知れず小さく笑った。

424霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/14(水) 03:47:08
>>423

    チチチチ

「そう? そりゃ嬉しいわね。
 つけた親に感謝ってやつだわ。
 ま、そ―いう柄でもないんだけどさ」

「たまには柄じゃない事をするのもアリか。
 ラジオ聴いてみるってのもね。
 気が向いて、電波が通りゃだけど」

          チチチ
  
         「ああ、もう夜か。
           あたしも帰らねーと」

空を見上げるでもなく、そう呟いて、踵を返した。

「今時夜でも明るいけどさ、
 この辺は電灯も少ねーものね」

         「――――んじゃ」

燐光は消えないまま、自然公園の奥へと遠ざかっていく。

425霞森 水晶『Q-TIP』:2018/03/14(水) 03:47:40
>>424(目欄忘れ)

426小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/02(土) 22:00:46

ふとした瞬間、胸の奥がざわめき出すことがある。
そんな時は、庭で育てているラベンダーの香りが気持ちを落ち着けてくれる。
それでも治まらない時は、こうして森を散歩することにしている。

自然の中を歩いている内に、少しずつ心に穏やかさが戻ってきてくれる。
でも、時にはそれでも足りないこともある。
心に芽生えた思いは次第に強くなり、いずれは私の心を完全に埋め尽くす程に大きくなってしまう。

  「――……」

そんな時、私は自分の身体に傷をつける。
そうすれば、この気持ちを抑えられるから。
喪服の袖を捲り上げて露になった腕に、いつも持ち歩いている果物ナイフの刃を押し当てる。

  「……ッ……!」

おもむろに刃を引くと、裂けた肌から一筋の血が流れる。
肌を伝って滴り落ちる赤い雫が、この乱れた心を静めてくれる。
ゆっくりと深呼吸すると、徐々に気持ちが落ち着いてくる。

  「――あっ……」

ぼんやりしていたせいで指先が滑り、思わずナイフを取り落としてしまった。
血は、まだ流れ続けている。
いつもより、少し深く切りすぎてしまったのかもしれない。

   ――止血……しないと……。

半ば夢見るような曖昧な意識の中で、どうにかそのことを思い出す。
木の根元には、バッグが置いてあった。
その中に入れてある包帯を取り出そうと、緩慢な動作で身体の向きを変え、ゆるゆると腕を伸ばす。

427杉夜 京氏『DED』:2018/06/03(日) 19:28:16
>>426

 ――だりぃ

日勤 日勤 日勤 日勤 夜勤 夜勤 

……そのローテーションの繰り返しだ。好きでもねぇ仕事を
繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して、んでもって
気のきかねぇ年下の上司が鬼の首をとったように、人のミスを
延々と言い続ける毎日。

 ガリガリガリ……。

頭を掻きむしりつつ歩く。休む暇なく動いてる所為か、熱っぽい脳と
痛む目頭、万力をゆっくり押し付けられたかのような米神。

 (……苛々するなぁ、全部ぶっ壊せれば良いんだがなぁ)

目に付く木々をぶっ倒す事が出来る力は手に入れた。だが、へし折った
ところで俺の中に何か残るのだろう?
 気に食わないバイトの上を殴り殺す事はできる。だが、それをした
所で俺の人生の先がクソである事実は変わらないし、変えれない。

 「……んぁ?」

ふと、緩慢に地面を見つめながら歩き。何気なく顔を上げる。
 目に見えるのは……果物ナイフを持つ女、肌から流れた血……。

「何やってんだ、あんた……」

 思わず声をかけたが、直ぐに後悔も湧いてきた。
どうみたって、正気の行動とは思えねぇ。見た瞬間に背を向けて別の
道へと何事もなく向かったほうが良かったとも思えて来た。

428小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/03(日) 20:46:30
>>427

――木々の中に立っていたのは、黒い女だった。
洋装の喪服を身につけ、つばの広い黒の帽子を被っている。
声を掛けられたことに気付いていないのか、自傷を行った直後の状態のまま佇んでいる。


不意に、遠くの方で誰かの声が聞こえたような気がした。
しかし、少しの間、声を掛けられたことには気付かなかった。
やがて、意識が少しずつ明確になる。
緩やかに、視線が声の方を向いた。
先程の声が自分に対して向けられたものであることを理解し、軽く目を伏せる。

  「――いえ……」

投げ掛けられた言葉が、自分の行為に対するものであることは分かった
ただ、突然のことで、何を言えばいいのかが分からなかった。
その結果、口をついて出たのは、これといった意味のない言葉だった。

  「何でも……ありません……」

何かを言うべきなのだろうか。
そう思っていても、相応しい言葉が見つからず、か細い声で呟くように言う。
そして、地面に腕を伸ばして、今しがた落とした果物ナイフを拾い上げた。

自傷の止血をするよりも、まず刃物をしまってしまわなくてはいけない。
自分にとって必要なものでも、人前で見せておくようなものではない。
片手に握っていた鞘の中に、果物ナイフの刃を収める。

まだ止血はしていない。
血は流れ続けている。
細く赤い筋が、色の白い腕を伝って滴り落ちている。

429杉夜 京氏『DED』:2018/06/03(日) 22:52:00
>>428

「何でもねぇって、いや……」

あるだろう、と言いかけるが。表立って、そう告げて余計に
話をややこしくするのもどうかと思えた。
 何より、この様子を第三者が見たら。最悪、自分が女性に
何か襲い掛かるような、そんな場面に見えない事もない。
 華奢な女性と、徹夜明けで目の下に隈のある大柄な男なら
どう考えても後者の犯罪者度合いに軍配があがる。

「あぁ……うん、何でもないんならな」

 「…………」

それ以上、どう言葉を紡ぐべきか皆目見当もつかなかった。

「……あんた、何しに此処に来てんの?」

 重苦しい空気に耐えかねて、また結局いらぬ言葉が口から飛び出て来た。

430小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 19:58:47
>>429

森の中で向かい合う見ず知らずの男女。
お互いの間に、長いようで短い沈黙が流れる。
木々の間を風が通り抜け、枝葉が微かに揺れる音がする。

  「すみません……少し失礼します」

一言言ってからバッグの中に果物ナイフをしまい、代わりに包帯を取り出す。
ついさっき自分で裂いた腕の傷に、慣れた手つきで包帯を巻いていく。
手早く止血を終えて捲っていた袖を下ろし、目の前の男性に向き直る。

  「――私は……『散歩』です……」

  「この場所を歩いていると、気持ちが落ち着くので……」

それは本当だった。
事実、ここに来たのは乱れた心を落ち着かせるためだった。
しかし、今日はそれだけでは足りなかった。
普段と比べて、胸の奥に感じるざわめきが大きかった。
だから、この果物ナイフに――『鎮静剤』に頼らなくてはいけなかった。

  「……あなたは?」

ややあって、自分がされたのと同じ質問を返した。
同時に、男性の纏う雰囲気に意識が向けられる。
何かとても疲れているように見え、自然と表情が心配を含んだものに変わる。

431杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 20:19:46
>>430

 「散歩 ……ねぇ。まぁ、この時節は散歩日和、だよな……」

女性が、いやに包帯を巻くのが上手な事など特に気に掛けない事にした。
 所詮、他人だ。俺にとっても、彼女にとって余計な深入りは何も有益にならない。

そして、返された言葉に数秒程、頭に空白が出来た。
 ゆっくりと、何を尋ねられたのか脳に染みこむ。何をしに此処に来たか。

「……あぁ、家に、変える所だな。早く帰らないと」

「お袋が、待ってるんだ。ヘルパーも、俺が帰らないと別の場所に
行けないだろうし、早く帰らないと延滞料金が発生するし
……そうだ、早く帰らないと」

そうだ、俺は家に帰るために歩いているんだ。
 俺の事なんて、もう分からない人のために。
そして、明日も早く仕事に出ないと。稼がないと。
 多分、朝も お袋の奇声染みた声に起こされて、飯を作って。
オムツを、取り換えて。そうだ、その為に……。

「…………」

 俯いた顔をあげる時。目は無意識に果物ナイフに注がれた。

真っ赤な血  それを見ると、狂ったように喚きながら爪を突き立てて
肌が裂かれ、それを抑え込みつつ着替えをする自分の姿が思い起こされる。

 「…………何でだろうなぁ」

「…………はぁ」

 理不尽だと思い続けて来た。最初は怒りだって湧きあがってた筈だ。
下火はあり、何時だって遣る瀬無い苛立ちはある。
 けど、それを誰かや何かにぶつけるのは筋違いであるのも知ってる。

 「…………なぁ」

「腕って切り裂くと、あんたにとって幸せなのか?」

432小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 21:52:28
>>431

淡々と紡がれる言葉に黙って耳を傾ける。
その内容から、おぼろげに彼の辛さが察せられた。
しかし、何も言わなかった。
安易に慰めを掛けることは失礼に当たると考えたからだ。
その代わり、瞳に映る気遣いの色が、やや濃くなった。

  「――……」

それは、自分にとって非常に難しい質問だった。
すぐに答えることはできず、顔を俯かせて深く考える。
やがて面を上げ、静かに口を開く。

  「いいえ……」

幸せかと言われると、そうではないと思う。
なぜなら、自分が本当にしたいのは、自分の身体を傷つけることではないのだから。
私が心から望んでいるのは、この命を断ち切ってしまうこと。

だけど、私には、それが許されていない。
だから、私は自分の身体に傷をつけている。
甘美な死の誘惑に負けてしまいそうな心を抑えるために。

  「あの……」

  「この近くに……お住まいですか?」

433杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 22:26:06
>>432

 「…………あぁ?」

「近く? ん…………あぁ、こっから森を抜けて十五分ほど
歩いて行けば、な。……けど、なんで そんな事聞くんだ?」

「それを聞いて、あんた俺になにかしてくれんのか?
それとも、これ以上 俺になにかしようって事か?」

 ガリガリガリガリ

 苛つきが収まらない。痒む後頭部の辺りを鬱血しそうに
なるほどに爪をたてつつ掻きながら、声色は刺々しくなっていく。

「疲れてんだよ……本当に、疲れてんだ。寝る暇もないぐらい
倉庫の整理やら、書類の抜けの訂正とかしたり。運搬やったりとさ。
 頑張ってんだよ、頑張ってんのに何かミスして。それに延々と無能だの
根性が足りないだの、お前何年この仕事つとめてるんだの……人が下手に
出てりゃ言いたい放題に言いやがって。
 なのに、何だって見ず知らずの奴に俺の事詮索されなくちゃいけないんだ?
俺、そんなに不審人物か? 俺は責められるような奴か?? なぁ???」

 ガリガリガリガリ……ッ  スゥ― ハァ……ッ

 「いや……うん、あんたの事を責めてるわけじゃないんだ。
お、俺は……落ち着いてるんだ、うん」

 瞼が痙攣する。目の裏が赤く点滅する。

434小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/04(月) 23:05:08
>>433

叩きつけるような勢いで矢継ぎ早に発せられる言葉の数々。
それを聞いて、ひどく胸が痛んだ。
非難されたことに対してではなく、彼にそんな言葉を言わせてしまったことに対して、
後悔の念が込み上げてくる。

  「……お気を悪くさせてしまったことを謝ります」

  「あなたを不愉快な気持ちにさせてしまい、申し訳ありませんでした……」

  「どうか――お許し下さい」

謝罪の言葉と共に、その場で深々と頭を下げる。

  「――私も……あまり遠くないところに住んでいるのです」

  「先程、帰るところだとおっしゃられていたので……」

  「近くまで……ご一緒できればと……」

  「……ご迷惑でしたでしょうか?」

自分が助けになってあげられるなどと大きなことは言えない。
でも、ほんの少しでも彼の痛みを和らげたいと思っていた。
自分が彼の言葉を聞くことで、僅かでも彼の気が楽になればと考えていた。

それに、彼の体調も気掛かりだった。
彼の疲れようを見ていると、途中で倒れてしまうということも絶対にないとは言えない。
かといって、あまり踏み込みすぎるのは却って気を遣わせてしまう。
だから、家まででなくてもいい。
その近くまででいいから、彼が無事に帰り着くのを見届けたかった。

435杉夜 京氏『DED』:2018/06/04(月) 23:19:22
>>434(切りが良いので、ここら辺で〆たいと思います。
お付き合い有難う御座いました)

 俺は膿みたいだと、喋りながら思う。
圧し潰しても、薄汚れた汚らしいものばかりしか出ない。残るのは
鼻水みたいな色合いと、血が混ざりあった残骸だけだ。

 「いや、いや……気持ちは、有難いけど 結構だ。
あんた、見ず知らずの奴にさ。女だろ? お節介をやくと
絶対に痛い目にあうって。関わらないべきなんだからな」

 軽く手を上げて、どの口が吐くんだと思える言葉を告げる。

 善意だけの発言だとわかるからこそ、自分の存在がいやに
薄汚く、それでいて惨めである事が再三と自覚出来ていた。

 そんな相手を見続けると、否応なしに自分自身が愚図だと言う事が
わかってしまうが為に、遮二無二この場から去りたいと言う感情のみが襲う。

 「あんた……あんたも、自分を傷つけるような真似は止めたほうがいい」

 「じゃ じゃあ……」

 そこまでが限界だった。背を向けて一気に走る
早く帰るんだ。あの、もはや自分自身も、俺もわからない母親の元へ。
 そう言えば、もう二日は便が出てない。浣腸液は買い置きしてただろうか?
支払いも滞っている。暴れた所為で壊れた窓も早く修理しないと

 それから、後は 後は 後は 後は。

……俺は、これから何度 やり残した事と処理を考え続けるんだろう。

振り返って、あの女性が見えなくなった事に安堵しつつ。果物ナイフと
 腕に走る赤い雫が脳裏にこびり付いた。

 「……楽になりたいなぁ」

「何時になったら……楽になれるんだろうなぁ」

436斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/19(火) 23:18:08
――夏の陽気、じっとりとした湿気が汗ばんだ肌にシャツを貼りつかせ
温い風が通るのを頬に感じられる、雨の匂いは土から乾燥して別れを告げ
蝉の鳴き声はいよいよ持って唸る自販機とタッグを組んで静寂にジャブをかましている。

そして木々の木漏れ日がちらちらと、緑の塗装が剥げかけたベンチに座る首に赤いスカーフを巻いた少年と
隣で丸くなっている赤い首輪を付けた黒猫一匹の顔に降り注いでいた。

「解ってるよクロ『善意』なのはさ、だからこうして散歩にも付き合ってるじゃないか。」

少年の方が渋い顔をしながら何処か尖った口調で喋りながら、公園内を見回している
手首に付けた古めかしい腕時計のゼンマイを巻きながら
――猫の方は……何故か得意げに目を細めているように見える、気がする。

「でも仕方ないだろ?朝起きて顔の傍に『鯉』が有ったら誰だって驚くよ
……魚の『鯉』だぜ?君の頑張りはまさしく『スタ……跡』みたいだけど
むしろマーライオンにならなかったのを褒められたい所だぜ、僕。」

必至に喉から上がる酸っぱさは塞いだが、その後僕が騒いだので勿論お世話になっている叔母に見つかる
結果は僕の不機嫌な様で察してほしいが、この『同居人』は理由なくこういう事はしない奴だ。

「そりゃあ……落ち込んでたさ、父の日に白い薔薇を
母の日にカーネーションを渡すのに、何故か『病室』に行かなくちゃ行けないんだからな。」

病院は嫌いだ、むしろ好きな奴がいるのか疑わしい所だ
健康な筈の自分まで病気の気分になってしまうのが本当に僕は嫌だ
叶うなら僕も全部投げ出してすぐさまお世話になりたい所だ、病名:ファザマザコン。

「――でもさ。」

すっかり温くなった瓶コーラを飲み、一息つく
残念ながら、現実問題困っていても『誰か』はやってくれない
一緒に怒られた猫の散歩一つも、僕がやらなくてはいけない、だから。

「『再確認』だよクロ、解る?『目標の再確認』どんなに辛くても、『人生の目標』があるならそれに進む為に。」

(その為なら過去をほじくり返して、悪戯に傷つくのにも意味が有る。 ……と僕は思ってる
じゃなきゃやってるのはただのマゾヒスト君だ、ゲップを一つ。)

「『きっと明日は、今日よりいい日』さ、だからこうして君の散歩ついでに……探しているんだ
『父と母を治せるスタンド使い』をね。」

僕は元気をプラスチックボトルの切れかけマヨネーズみたいに振り絞り、顔をくしゃくしゃに歪めて笑い猫を撫でる
猫は解っているのかいないのか、目を細めて欠伸を一つ――信じられなくても、信じなくてはいけない。

(……でも 人がいる箇所を探すべきだった気がするな、彼の散歩ついでだから仕方ないけれど。)

ゼンマイを巻きなおした腕に巻き付く『膨大かつ半透明の鎖』が、常人に聞こえない音を立てて揺れた。

437小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/19(火) 23:52:35
>>436

空から降り注ぐ日の光は、すっかり初夏の色味を帯びている。
それが、不意に生じた影によって遮られた。
ベンチに座る少年の頭上から、何かが降ってきたのだ。
つばの広い黒い帽子が、綺麗に少年の頭に覆い被さっている。
その直後、足音と共に、少年の背後から穏やかな声が聞こえた。

  「――そこの方……すみません」

  「急に帽子が飛ばされてしまったもので……」

振り返れば、そこに喪服を着た女が立っていた。
ややあって、申し訳なさそうな表情で、丁寧に頭を下げる。
被っていた帽子が飛ばされ、それが少年の頭上に降りてきたらしかった。

  「――……」

腕に巻き付いた鎖――無意識の内に、そこに目がいってしまう。
しかし、それについて言い及ぶことはしなかった。
ただ、その様子を見れば、同じ力を持つ者であることが少年には分かるだろう。

438斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/20(水) 01:15:34
>>437

「――?あっ……と」

背後からかけられた優しげな声に、僕は驚きを隠せない
急いで立ち上がって一礼する、だいぶ間抜けな姿。

しかたない、頭が二つあっても目が後ろを向いているわけじゃないんだから。
それよりは笑顔で対応する事と、帽子を返す事だ。

「いえ、風のせいですから仕方ありませんよ な、クロ。」

――猫はそっぽを向いて欠伸を一つ、そうだな君はあの家で僕の先輩かつ空気を読まずに吸う奴だ。
彼女に視線を戻し、肩を竦めて苦笑いをしてみせる、そして頭から取って相手の眼を見ながら彼女の黒い帽子を両手で差し出す
……同時に『鎖』が揺れて音を鳴らす。

「はいどうぞ、お返しします。葬式帰りでこの時期の日差しは辛いでしょうから。」

完璧だ、2つの疑問以外は
探偵でもあるまいし放置すればいいのに。

(そうだ、喪服なんだから葬式の帰り……で、あれ?公園に寄り道をするんだろうか?
お祖母ちゃんは葬式時にしてはいけないと言う人だけど……それに。)

帽子の影が無い穏やかで憂いを帯びた顔、僅かにそよぐ風で揺れる、長い髪をうなじの部分でまとめたアップヘア
初夏の木漏れ日の下で見える……『眼の動き』

(視線が帽子から腕に来て一瞬止まった、この人は『鎖』が『見えている』
 ――『新手のスタンド使い』だ!やった!)

心の中で手を叩いて喜ぶ、目的に近づけるのだから表情にも隠しようがない
クロの奴が招いたと言われても今なら僕は信じ込むだろう。

「あの、聞いていいのならお尋ねしたいのです…が…」

笑顔のままに
すぐに聞こうとして僕は言葉に詰まって目線を泳がせた、『罪悪感』で

――もっと言うと、自分の事しか考えてなかった僕は
口に出した後にようやく『喪服を着た相手の事』に脳が回った。

(……いや、でも遠慮しないと、だって相手は親しい人が無くなって辛い時かもしれないのに。
それに何を聞くって言うんだ?スタンド?経緯?聞きたい事は山ほどある
でも、そんなに人にずけずけと聞くのはいい事か?違う、悪い事だ、やめよう。)

「――貴方は、貴方の『力』を知っていますか?僕と『同じ人』。」

……『同じ人』がスタンド使いだと解るだろうか?
それともしらばっくれるだろうか、何方でも構わな……くはない、必要がある
でも『僕』はどっちつかずだ、迷っている。

(けれど声を優しく感じた理由は解った、顔の憂いと影がまるで西洋人形のようで、この人まるで死んでるみたいなんだ。)

439小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/20(水) 18:27:53
>>438

思わず腕の鎖に向いてしまった視線を、再び帽子に戻す。
それから、改めて少年の顔と向き合った。
少年を見つめる表情には、陰を帯びたような微笑みがある。

  「……ありがとうございます」

そっと両手を伸ばして帽子を受け取り、元通りに被り直した。
左手の薬指には、飾り気のないシンプルな銀の指輪が光っている。
それと全く同じデザインの指輪が、右手の薬指にも嵌っていた。

  「はい……なんでしょうか?」

投げかけられた質問が途中で途切れるのを聞いて、
生じた間を埋めるように言葉を発する。
それは、質問をされることに対する肯定の意思表示。
そうすることで少年の背中を押し、彼が質問しやすくするために。

  「――私は……特別に優れた人間ではありません」

  「私にできることは、決して多くありませんから……」

静かに言葉を紡ぎながら、穏やかに微笑する。
柔らかく、人当たりの良い微笑み。
しかし、それは太陽のような笑顔とは違っていた。
どこか月の光にも似た憂いを含んだ微笑。
日差しを遮る黒い帽子の下に、それが存在している。

  「ですが――私は、私の力を知っています」

その声と同時に、左手の中に一振りのナイフが現れる。
質問の答えとしては、こうすることが一番だと考えたからだった。
ただ、これを見せることには抵抗もあった。

自身のスタンドを見られることに対してではなく、この凶器を思わせるヴィジョンが、
少年に不快感を与えてしまうのではないかという不安だった。
少し前、ここで自傷の最中に出会った見ず知らずの男性の姿が頭に浮かぶ。
あの時も、自分の不用意な発言のせいで、
彼に不愉快な思いをさせてしまっていた。

自分の行動が原因で、人の心を傷付けてしまうかもしれない。
内心では、そのような結果になってしまうことが怖いとも思っていた。
しかし、何か理由がありそうな少年の助けになりたいという気持ちの方が、
今は強かった。

440斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/20(水) 23:21:43
女性の左手に一振りのナイフ、本来なら警察物だろう……ただしそれが『器物型スタンド』なら話は別だ
『スタンド』は僕が纏う『鎖』のように周囲の一般人には見えない。

それに、自慢ではないけど僕にとっては驚く光景じゃない、奇妙だが少し見慣れた光景だ。

「――まずは質問に答えてくださって、有難う御座います。」

彼女の『スタンド』を見て『何でも無いよ』と言う風に受け流し、微笑む
返答へのお礼を言う、左手を首元に、安心するために無意識に『短くなった母のマフラー』を触る。

(嫌いだ、つまらない、押し殺す、もどかしい、でも必要だ。)

――左手を戻す、楽な姿勢に。
今すぐにでも質問攻めにしたい、でもそれはいけない事だ
頭の中が蝉の鳴き声と思考で酷く騒がしい、汗が頬を伝っている気もする。

「自己紹介が遅れました
 僕の名前は斑鳩、『斑鳩 翔』貴方は『短剣』なんですね……えっと。」

言外に後押しはしてくれているのかもしれない
それでもやっぱり言葉に詰まるのは『鎖』のせいだろうか。
――スタンドは使う人間の『精神』だと言う、その姿形も似るだろう。

「……あ、座りませんか?僕とお話を続けてくれるなら、ですけど。」

名前を聞きながらベンチに座る事を促してその間に考えよう
夏の暑さと歓喜に茹だったこの時の僕の考えだ。

隣の猫(クロ)は退く気が無いので、僕は立ったままだが仕方ない
それに、あまり良くない質問をこれからしなきゃいけない。

(落ち着いて……する事は1.僕の両親を治せる能力かを聞く。2.他のスタンド使いを聞く。
 ――ぼかして聞かないといけないかな、何て言おうか。)

……夏の日差しが差し込む中、木漏れ日が差すベンチの上で猫が貴方の事を見つめる
目の前の少年は一つ深呼吸をした。

441小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/21(木) 00:31:17
>>440

この少年には、どこか思いつめたところがあるような気がした。
もちろん、それは単に自分がそう思っているだけかもしれない。
ただ、少年の真剣な態度からは、思い過ごすだと言い切れない何かを感じていた。

  「私は……小石川文子です」

  「――はじめまして……」

少年の内面にある葛藤を察して、自身の名前を告げた。
そして、また軽く頭を下げる。
その間も、表情は穏やかなままだった。

  「ご一緒にお話ができるなら……私は嬉しく思います」

  「一人で歩いていて、少し寂しさを感じていたところだったので……」

そう言って、口元に柔和な微笑を浮かべる。
それは、偽りのない本心からの言葉だった。
普段、自分は静かな場所を好んでいる。
でも、時々どうしようもなく物寂しくなることがあり、
そんな時は無性に誰かと話をしたくなる。
今も、ちょうどそんな気持ちだったのだ。

  「――お気遣い、ありがとうございます」

  「よろしければ……私は、こちらに座らせていただけませんか?」

お礼を言ってから、ベンチが設置された歩道から少し外れた芝生に立つ。
新緑の上に白いハンカチを敷いて、そこに腰を下ろした。
今の少年の様子を見ていると、立ったまま話し続けるのは辛そうに思えた。
自分は、どちらかというと暑さには強い方なので、熱気をそれほど厳しく感じない。
だから、一人しかベンチに座れないのなら、彼が座る方がいいと考えたのだ。

  「どうぞ、ご遠慮なく――」

  「私にできることは多くありませんが……できる範囲で、お答えします」

木漏れ日の下で、少年に向けて微笑む。
左手には、まだ『ナイフ』が握られている。
それを消さないのは、そうした方が少年の希望に沿えると思ったからだ。

442斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/21(木) 02:41:10
>>441

「有難う、小石川さん。」

笑顔のままに感謝を言う斑鳩の眼には、小石川の両指の結婚指輪が嫌でも視界にちらついた
力を持てばそれを狙う人間は少なからずいるのだ、平穏を望むならば持たないほうが良い
――故に斑鳩には『ナプキンを取った理由』が何処か想像がついた気までしてきた。

(喪服、結婚指輪、前に会ったスタンド使いは両目のせいなのか感覚に関するスタンドだった。
彼女がスタンドのナイフを持っていて、僕に親身に話を聞く理由……)

「――スタンドには固有の『能力』が有ります、貴方もご存知の通り
僕が知りたいのは、貴方の『能力』が誰かを治せる類かという事なのです。」

真っすぐと相手の眼を見て答える、小石川文子の憂いを湛える瞳を見て
その奥に死を垣間見ている気すらしてくる、彼女が共感したのは僕と同じような目に合っているからだ
――『呪われている』過去か、人か、頭の片隅にそんな言葉がよぎる。

(何を馬鹿な……僕の想像のし過ぎだ、それとも僕の『スタンド』のせいなのか。
 こんな事を表情にだけは出したくない、笑顔のままでいないと。)

指を折り、拳を作り、また開く

合間に夏の喧騒と、遠くで子供の元気な声が聞こえる数人で遊んでいるのだろう
それらが耳に入らず、彼女が芝生に座っても気に出来ない程には焦っている

数度繰り返して続けて、やっと口を開く。

「代わりに僕の『スタンド』を知りたいと言うなら教えます
 ……それでも聞きたいのです。」

(……そして可能なら、僕の両親を治して貰いたい
我ながら砂漠で砂金粒を探すような賭けだが、これ以上に確率の高いギャンブルが無いから仕方ない。)

443小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/21(木) 20:17:33
>>442

人知れず悩む少年の姿を見つめる瞳に、気遣いの色が浮かぶ。
しかし、今は気軽に声を掛けるべきではないと判断した。
黙って少年の言葉に耳を傾け、やがて小さく頷いた。

  「……よく分かりました」

短く答えてから、おもむろに左手を軽く持ち上げる。
そして、何気ない動作で右手の親指を切り落とした。
普通なら指は地面に落下し、切り口から滴る鮮血が芝生を赤く染めているだろう。

  「『スーサイド・ライフ』――」

しかし、実際には、そのどちらも起きてはいなかった。
血は一滴も流れておらず、切断された指は重力に逆らうように宙に浮かんでいる。
自身の表情にも、痛みを感じている様子は全く見られない。

  「私は、そう呼んでいます」

不意に、手中からナイフが消える。
それと同時に、浮遊していた指が灰のように崩れ去った。
欠けていた親指が、徐々に元通り再生していく。

  「……私にできることは、これだけです」

  「――ごめんなさい……」

謝罪の言葉と共に、静かに目を伏せる。
『スーサイド・ライフ』に、誰かを癒す力はない。
考えてみれば、それは当然のことかもしれない。

自らの命を絶つことを望む衝動と、それに抗い生きようとする意思。
その相反する葛藤の狭間から、『スーサイド・ライフ』は生まれた。
人を治すことのできる力など、持てるはずがない。

少年のスタンドのことを聞き出そうという意思はなかった。
質問されたとはいえ、こちらの能力を教えたのは、あくまで自分の意思だ。
だから、引き換えに少年の能力を教えて欲しいという気持ちは持っていなかった。

444斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/21(木) 23:28:46
僕は正直な所、自分で頼んでおいて予想外に動揺していた
何せ目の前の優しそうな女性がいきなり自傷行為をするのだ。

……素直に見せて貰えるとも思っていなかったし
何よりギャップのせいで悲惨かつショッキング&ヘビーだ。

「……ええっ!?」

それでも目は釘付けになる、なにせ斬られた指が『宙に浮いている』のだ
そして一滴の血も流れず、『スーサイド・ライフ』を消すと共に灰の如く崩れ消え去る

「『スーサイド・ライフ』……。」

(器物型のスタンド、能力は切断部位の空中浮遊と操作かな、分離して動かしたりできそうだ
でも、残念ながら治す能力では無かった……。)

一瞬眼前に眩暈を覚え、視界が暗転しかけるが、すぐに失望を振り払うかのように顔を振る

(……大丈夫、僕は大丈夫 勝手に期待して勝手に失望してるだけさ
もう10回は繰り返しているんだ、人間慣れる生き物だからね!)

「――あ、いえ 謝らないでください
もう何回も繰り返した事ですし、貴方に非が有る事では有りませんから。」

事実、この人に非があるわけでは無いのだ
もし有る等と言えば、僕は生まれつきの肌色等で差別する連中と同じになってしまう
両親にも顔向け出来ない、どれも嫌だ、故に頭を下げさせてはいけない。

「そんなに深く頭を下げられたら、なんだか僕は申し訳なくなってしまいます。
僕は大丈夫ですよ、教えて頂いて有難う御座いました。」

そう言いながら朗らかに笑顔で返す
この人に暗い顔を向けてはいけない気さえするのだ。

「自分の都合なのに親切に答えて頂いて、それで暗い顔をさせては
 僕の両親にも、祖父母にも顔向けできませんから。」

445小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/22(金) 00:21:44
>>444

謝らないで欲しいという言葉を聞いて、また頭を下げそうになるが、
途中で思い止まった。
これは自分の悪い癖なのかもしれない。
良かれと思ったことでも、相手を不快にしてしまう時もあるのだから。

  「――はい……」

頭を下げる代わりに微笑を送る。
自分が笑うことで、この少年が笑ってくれるのなら、
それが一番いいと思った。
思いつめた様子の彼に、気を遣わせては申し訳ない。

  「お差し支えなければ……連絡先を教えていただけませんか?」

自分には人を治せる力はない。
それでも、できることがある。
ほんのわずかな助けかもしれないけれど。

  「もし……治せる方を見つけたら――」

彼が治せるスタンド使いを捜し求める理由は知らない。
だけど、きっと大切な誰かを治したいのだろう。
その気持ちには、大きな共感を覚えた。

  「その時は、お知らせします」

もし自分と少年の立場が同じだとしたら、私も同じ行動を選ぶだろう。
私にも、大切な人がいた。
『生きて欲しい』という彼の最後の言葉を守るために、
私は今を生きている。

  「私にできるのは、それくらいですから……」

だからこそ、この少年の助けになりたいと思った。
自分と少年に似ている部分があると感じられるから。
心の中で思いを重ねながら、穏やかな微笑みと共に言葉を告げた。

446斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/22(金) 03:17:14
小石川文子は笑顔を見せた
そして協力を言い出している。

(……いいのだろうか。)

やめておくべきではないだろうか
『溺れる者は藁をもつかむ』という言葉が有る。

僕は今溺れている、掴んでいる『スタンド』すら不確かな物だ。
……それに巻き込む?

この人を傷つけてでも手を払うべきだ
既に傷ついている筈なのに、あまりに『献身的』過ぎる。

僕はあまりに必死に見えたかもしれない
それでも理由すら聞かずに小石川文子は言うのだ。
「助けてあげたい」と。

僕の求めは、この人を潰す事になる可能性が無いと言えるのか
そして潰した時に僕がその責任を取れるかと言われれば、否だ。

(僕は責任を取れない、受けるべきではない。)


頭を下げて、申し訳なさそうに断りを……

「――有難う御座います小石川さん、何から何まで。」

「『これが僕の連絡先です』……何故だかやっと笑顔が見れた気がしますね。」

そう言いながらにこやかにスマートフォンを取り出して、番号を相手に見せる。

――いいや、もう決めた事だ、もう一度息がしたいだけだ
弱い僕はその為なら何でもする、でなければ僕は死んでいる
携帯を差し出す時に斑鳩の『鎖』が、消えた瞬間にまた少し音を鳴らす。

「…でもこれでは助けて貰うばかりで、…そう、何か僕に手伝えることは有りませんか?
『帽子を拾う以外』で。」

それを後から付け足すように口から絞り出すのが
僕の『りょうしん』の精一杯だった。

447小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/06/22(金) 18:53:26
>>446

何事もないように言葉を返す少年の瞳を、ただ静かに見つめる。
鎖の少年――斑鳩翔が、何を考えているかは分からない。
人の考えていることが分からないのは当然だ。

  「――……」

しかし、その様子から心の機微を感じ取ることはできる。
おそらくは彼も、こちらの機微を感じ取れるのと同じように。
それは、どこか共通点のようなものがあるせいかもしれない。

  「……ありがとうございました」

見せてもらった番号を自分の携帯電話に打ち込み、謝辞を述べる。
それ以外、少年の心に踏み込むような言葉は口にしない。
その後で、今度は自分の番号を少年に見せた。

  「――私の連絡先です」

  「何かお聞きになりたいことがあれば……」

判断する権利は、この少年にある。
もし拒否されたとしたら、素直に引っ込めるつもりでいた。
やり取りを済ませてから少年の申し出を聞き、俯いて少し考える。

  「……では、何かお話をしていただけないでしょうか?」

  「斑鳩さんのことや、この町のこと……何でも構いません」

  「今は、一人でいることが寂しい気分なので……」

顔を上げて、少年の問い掛けに応じる。
嘘ではなかった。
最初に彼の話を聞こうと決めたのも、それが理由だったのだから。

空の上には、抜けるような初夏の晴天が広がる。
その下に生じた木陰の中に、二人の輪郭が浮かび上がっている。
子供達が遊ぶ声と虫の音が、遠くに聞こえた――。

448斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/06/23(土) 05:17:52
蝉が騒ぎ、遠間で子供が屈託なく笑う
ある夏の一日に出会った人は影のある女性だった

「――はい。」

その表情は何処か寂しそうに憂いを湛えていたけれど
同時に優しさに溢れていたのだと

「喜んで、それなら最近のこの町で出会った――……」

この奇妙な出会いと関係に
僕は感謝し、何時かの希望を手放さないように祈るのだ。

この冒険の無事を。

449今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 17:41:49

夕暮れの湖畔にいた。ピクニックの帰りだった。
友達は塾で先に帰って、レジャーシートや食べ残しを片付けていた。
人気の動画配信者がゴミ拾いをしていて、それに少し影響されて、
自分が出したごみ以外でも触って平気そうなものは拾ったりしていた。

        『イイ心ガケ デス。先生ハ感心シテイマスヨ』

「先生も片付け手伝ってくれればよかったのに」

        『先生ハ 食ベタリ 飲ンダリ シテマセンノデ』
        『自分ノゴミハ 自分デ 処理シマショウ』

「まあ、わかってますけど。試しに言ってみただけです」
「猫の手も借りたいというやつでして」「先生は猫じゃないけど」

「それじゃ、帰りましょうか。でも、まだ明るいですね。もう夏ですねえ」

           『明ルクテモ 夜ハ 夜デスカラ』『不審者ガ出マスヨ』

最後にシートを包んでカバンに詰めて、水筒の残りを飲み干した。
その時ふと顔を上げて、本当に不審者がいたら嫌だなと思って周りを見渡した。

450美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 19:26:36
>>449

向けた視線の先に、一つの人影があった。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーでコーディネートした、
メンズライクな『アメカジファッション』の女だ。
何かを探しているらしく、森の方に双眼鏡を向けている。

「――しまった。見失っちゃったなぁ……」

やがて双眼鏡を下ろし、辺りを見渡す。
移動する目線が、少女の傍らに佇む人型スタンドに向けられた。
その様子から、『コール・イット・ラヴ』が見えていることが分かるだろう。

「……ん」

バードウォッチングの途中、先程まで見ていたメジロを探していた。
メジロを見失った代わりに、思いがけずスタンドを見つけてしまった。
一応、自分以外のスタンドを見たことはある。
ただ、いきなりスタンドに出会うという経験をしたことはない。
さて、どうするべきだろうか。

(とりあえず――挨拶するのが良さそうね)

「こんにちは。それとも、この時間だと『こんばんは』かしら?」

「この辺は『ちょっとしたアウトドア』をやるには良い場所よね」

明るい口調で気さくに声を掛ける。
そして、少女のいる方向へ歩いていこう。
警戒されるってことも考えられなくはないから、少しずつ近付いていく。

451今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 20:23:55
>>450

「え? あ、私ですか」「えーと」
「こんにちは、で良いと思います。夜って気がしませんし」

いきなり話しかけてきたのは驚いたけど、なんだかカッコいい人だ。
こういうの『アメカジ』って言うんだよね。私じゃ似合わないかも。

              『…………』

「そうですね、湖もありますし」「場所も広いですし」
「ちょっと虫が多いのが困りますけど」「アウトドアならフツーかも」

先生は私の少し前に出ている。警戒してるのかな。
見えてないと思うから良いけど、不審者扱いしてると思われるかも。 

「お姉さんもアウトドアですか? 双眼鏡持ってますし」
「当ててみます」「……フツーに考えたら、『バードウォッチング』とか?」   

なんで話しかけて来たのかは分からないけど、ちょっと会話を広げてみる。
無視して帰るほど疲れてないし、もう少しこの湖畔にいたい気持ちもあった。

452美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 21:15:49
>>451

少女とスタンドの少し手前で立ち止まる。
スタンドが前に出ているということは警戒されているのかもしれない。
声を掛けてはいるが、こちらとしても不安を与えたくはなかった。

「当たり。『メジロ』を見てたんだけど、見失っちゃってね」

「目の周りに白い輪がある小鳥よ。綺麗な声で囀るの」

『チャンネル7』に自我はない。
そして、自分が見たスタンドも自我は持っていなかった。
だから、少女のスタンドに自我があるという考えは頭になかった。

「『あなた達』は――『ピクニック』ってところかしら?」

ちらりと横目で『コール・イット・ラヴ』に視線を向ける。
それから『プラン9・チャンネル7』を発現した。
マイクとスピーカーを備えた『機械仕掛けの駒鳥』が、肩に止まっている。

「――あら?こんな所にも『小鳥』がいたわ。なぁんてね」

少女にクスリと笑いかける。
これで警戒が緩んでくれたらいいんだけど。
さて、どうかしらね。

453今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 22:22:20
>>452

「へえ、私鳥って詳しくないですけど、メジロは聞いた事あります」
「『ピチュチュチュチュ』みたいに鳴くんですよね」「違ったかな」

本物を見たとか、そういう記憶はないけどテレビで聞いた気がする。
それにしても、バードウォッチングなんて文化的な趣味だと思う。

「達? まあさっきまでは4人いましたけど」
「そうでしたよ。良い天気で、ピクニック日和でした」
「サンドイッチとか交換したりして……」

          『今泉サン コノ人ニハ 見エテマスヨ』

「……ああっ。そういう『貴方達』だったんですか」
「ほんとだ、『鳥』――――そういう『スタンド』もあるんですね!」
  
          『〝人型〟ダケデハナイ トハ 思ッテマシタガ』
          『〝動物〟モ イルンデスネ』『新発見デス』

先生から指摘されて、気づいた。肩の上の鳥を見てもっとはっきりわかった。
スタンド使い。フツーじゃないけど、フツーに町中にいる。ちょっと変わった存在。

「それにしても、かなり好きなんですか? 鳥」

見た目がどういう意味なのかは分からないけど、趣味が鳥でスタンドも鳥だとそんな気はする。

454美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/28(木) 23:20:55
>>453

「アハハハ。驚かせちゃったみたいで、なんだかごめんね。
 その――『あなたの』が出てるから、それが気になって」

そこまで言ったところで、
少女とスタンドが別々に喋っていることに気付いた。
まるで、そこに二人の人物がいるかのようだ。
その様子から、『コール・イット・ラヴ』が自我を持っているらしいと察した。

「そう聞くと、『人型』が多いのかしら?
 私は、こういう人の形をしているスタンドは初めて見たわね」

「最初に見たのは『妖精』で、その次に見たのは『ピストル』だったわ」

喋っている途中で思い出したことがある。
そういえば、この場所で最初に見かけた妖精のスタンドも、
自我を持っているようだった。
多分、この少女のスタンドも同じようなタイプなんだろう。

「一緒にお話ができるっていうのは、私が見た『妖精』と似てるわね。
 私の『小鳥』は囀ってくれないから、ちょっと羨ましいな」

「鳥は好きなんだけど、バードウォッチングを始めたのは割と最近なの。
 この子は、こんな形してるけどね」

肩に乗る小鳥に目をやる。
『機械仕掛けの駒鳥』は動くことも鳴くこともない。
まるで小さなオブジェのように佇んでいる。

「『趣味』でもあるし『仕事』でもあるって感じかな。
 なにせ私自身が鳥みたいなものだから。
 鳥は囀る。そして、私も囀ってる。『電波の止まり木の上』でね」

『プラン9・チャンネル7』のマイクとスピーカー。
それらが、私の仕事場であるラジオ局を思い起こさせる。
私にとっては、とても馴染み深いものだ。

455今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/28(木) 23:55:25
>>454

「いえいえ、私の方こそ驚かせちゃったみたいで」
「私の方というか」「先生が勝手に出たんですけども」

        『モウソロソロ 帰ル時間デスノデ』

「なんだか、目覚ましのアラームみたいですねえ」

        『アラームトハ 違イマスヨ』
        『鳴ルマデニ 帰ルノガ一番デスカラ』

            『……トモカク 驚カセタヨウデ』
               『ドウモ スミマセン デシタ』

               ペコリ

先生が頭を下げる。やっぱり、礼儀正しいと思う。
それがフツーなのかな? そうでもないような気もする。

「それにしても、妖精にピストルですか……」
「そうなると、私やユメミンみたいに人型が珍しいのかな」
「私以外で、勝手にしゃべるって人も見たことないですし」

        『…………』

「フツーじゃないのかもしれませんねえ」

        『コレダケ 不思議ナ 存在ナンデスカラ』
        『コレ トイウ 〝基準〟ハ 無イト思イマスヨ』
        『〝先生〟ガ言ウノモ ナンデスガ』

「そうかな、それならいいんですけど」

肩の鳥を見る。機械みたいで、生きている鳥とは全然印象が違う。
部屋に飾ってたらお洒落な感じだ。こういうのどこかに売ってないかな。

「貴女自身が? えーと、声がキレイって話でしょうか?」
「電波の止まり木……ってことは、実は『ユーチューバー』だったり?」
「あっ。それとも、どこかの地方局のアナウンサーさんとか?」

よくわからないけど良い声だと思うし、そういうお仕事をしてる人なのかな。
フツーの人とはちょっと違う感じがする。そう思ってるからそう感じるだけかも。

456美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/29(金) 00:48:17
>>455

「あら、これはご丁寧に。
 私の方こそ、いきなり話しかけちゃってごめんなさい。
 警戒させちゃったでしょ?」

『先生』と呼ばれるスタンドにつられて、お辞儀を返す。
実際に警戒していたかは分からないが、そんな雰囲気も感じた。
もしかしたら、私の勘違いかもしれないけど。

「あ、ひょっとして私のこと怪しい人だと思ったんじゃないの〜?
 なぁんてね。アハハハ」

「突然知らない相手に声を掛けられたら何かと思うわよねぇ。
 相手が男の人だったら『ナンパかな?』って思っちゃうわ。
 内心ちょっとされてみたいなぁ――っていうのは冗談だけど」

サバサバした調子の明るい声で話し、そして笑う。
よく通る澄んだ声だった。
『ボイストレーニング』とか、
そういった専門的な訓練を積んでいることを思わせる声色だ。

「そうね、『人の数だけ個性がある』って言うし。
 『スタンド使いの数だけスタンドがある』っていうのも、
 あながち間違いじゃないかもね」

自分のスタンドと少女のスタンドを見比べてみて思う。
外見も中身も全く違う。
それは、私と彼女との違いでもあるのだろう。

「惜しいんだけど、ちょっと違うわね。
 かなりイイ線いってるんだけど」

ポケットから名刺入れを取り出す。
そこから一枚の名刺を取り出して、少女に差し出す。

「これが私の『正体』よ。大したもんじゃないけどね」

『放送局名』や『放送時間』、『連絡先』といった情報と一緒に、
以下のように記されている。

『――あなたの傍に電気カナリアの囀りを――

    【 Electric Canary Garden 】

          パーソナリティー:美作くるみ』

番組名の下には、
『電源コードの付いた丸みのある小鳥』のイラストが添えられていた。
『電気カナリア』という名前も小さく書かれている。
それが番組のイメージキャラクターだった。

「よければ、あなたのお名前も教えてくれる?
 『先生』を連れたお嬢さん。
 それと、『先生』の名前もね」

457今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/29(金) 01:45:58
>>456

「先生は心配性なんですよ」

           『〝先生〟デスノデ』
           『少シ 警戒シマシマイマシタ』
           『杞憂ダッタヨウデ スミマセン』

「私からもごめんなさい、こういう先生でして」

        ヘヘ

「私は怪しいとか思ってなかったですから」
「フツーに、オシャレな人だな〜ってくらいで」

なんて調子のいいことを言ったりもする。
実際、知らない人がみんな怪しいなんてことない。
いきなり話しかけてくる知らない人は……
驚きはするけど、怪しいとはちょっと違うかも。

「うーん、そういうものかもしれませんねえ」
「っと、名刺ですか」「私持ってなくて」「名刺入れも」
「あとで財布にでも入れときますね、どれどれ……」

名刺を眺める。放送局、ってことはアナウンサー?
でも聞いたことのないチャンネル。もしかしてこれって。

「えーと、ラジオのパーソナリティーさん!」
「って呼び方でいいんでしたっけ」「『DJさん』?」
「わーっ、有名人に会っちゃった……」

           イマイズミ ミライ
「あっ、私ですか。『今泉 未来』です!」
「一応、清月学園に通ってまして」「高1です」
 
                コール・イット・ラヴ
           『〝世界はそれを愛と呼ぶ〟』
           『呼ビ方ハ オ任セシマスガ』
           『〝先生〟デモ 名前デモ アダ名デモ』

自己紹介を返す。ラジオの人って、フツーじゃない。
私は、フツーでいいんだけど、ちょっとだけ憧れる気もする。

458美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/29(金) 20:36:49
>>457

「アハハ、そこまで有名って程でもないわ。
 まぁ、なんというか、そこそこね」

番組の公式サイトに顔は載っている。
だから、それを見た人は知ってるし、見ていない人は知らない。
大体そんな程度だ。

「私はパーソナリティーって名乗ってるけど、どっちでもいいわよ。
 ただし、私はターンテーブルは扱わないけどね」

「『クラブのDJ』じゃないから」

冗談交じりに言って、軽く笑う。
そして、考えるように顎に手を添える。
思考の糸に触れたのは清月学園という部分だ。

「清月――この前、ラジオで話した子も清月生だったわ。
 その子は高二だったかしら。
 やっぱり、この辺は清月生が多いのね」

「未来さんね。
 それから、そちらが『コール・イット・ラヴ』――素敵な名前ね」

「私の名前は――そこに書いてある通りね。
 代わりに、この子の名前を教えてあげるわ」

「『プラン9・チャンネル7』――それが、この『小鳥』の名前よ」

相変わらず小鳥は鳴き声を上げず、身動ぎ一つしていない。
流暢に言葉を話す『コール・イット・ラヴ』とは対照的だ。

459今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/29(金) 23:10:07
>>458

「そうなんですか? じゃあパーソナリティさんで」
「DJってもうちょっとワルそうなイメージですし」
「ちょっと偏見かな……」

           『偏見デスヨ』

「偏見ですか、それはごめんなさいですね」
「悪いというか、パリピって感じ?」

悪口とかじゃなくてイメージの話だ。
悪いのがダメだとは思わないし。私は悪くなる気はないけど。

「このあたりはまあ、清月小中の校区ですから」
「公立に行ってる子もいますけど」「ま〜少ないです」
「高2って事はセンパイですね、もしかしたら知り合いかも」

ラジオ好きな知り合いもいたような気はする。誰だったかな。
今までそんなに興味のあるジャンルじゃなかったから聞き流してたかも。

           『オ褒メノ 言葉 感謝シマス』
           『貴女モ 綺麗ナ名前ヲ シテイラッシャル』

「へえ、『プラン9・チャンネル7』さんですか!」
「なんだか賢そうな名前ですねえ」「宇宙っぽいというか」
「それにしても静かですね。って、喋らせてないならフツーなのか」

動かず、喋る事もない鳥のヴィジョンを少し眺める。
人のスタンドをゆっくり見るのはドクター以外だと初めてかも。

「ちなみに、くるみさんは『和国』さんのところで貰ったんですか?」
「あ、スタンドの話です」「私はそうなんですけど」「他にもあるみたいで」

460美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 00:23:23
>>459

「宇宙、ねえ。そんな風に思ったことはなかったけど、
 言われてみると、そんな気がしてきたわ」

「新しい発見ね。ありがとう」

そして、聞き覚えのない単語が耳に飛び込んだ。

「――『和国』?いえ、違うわ。
 そんな場所もあるのね。私は『音仙』という所だったわ」

「他にも同じような場所があるなんて考えたこともなかったわ。
 『コール・イット・ラヴ』は、そこで生まれたというわけね」

「私としては、この手の話がラジオで使えないのが惜しいわねぇ。
 内容は、すっごく面白い話なんだけど。
 残念ながらトークのネタにはできないわね、アッハハハ」

「実を言うとね、今は静かだけど、この子もお喋りできるのよ。
 見せましょうか?」

そう言って、不意にスマホを取り出す。

「あ、ごめんね。ちょっといいかしら?」

「もしもし?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、教えてくれる?」

少女に断ってから、スマホを口元に持っていき、
まるで電話の向こうの誰かと通話しているかのように声を発する。
だけど、実際は違う。
『小鳥』の背中にあるマイクが、私の声をキャッチして、スマホに送る。

「ええとね――今、『何が見える』?」

ごく何気ない口調で、簡単な質問を投げ掛ける。
それに対応して、『小鳥』の口にあるスピーカーから、
『読み上げソフト』のような機械的な音声で、質問の答えが返ってくる。

『シゼンコウエン ガ ミエマス。
 チカク ニハ ショウジョ ガ ヒトリ タッテイマス。
 ショウジョ ノ トナリ ニハ スタンド ガ イルヨウデス』

その姿は、まるで『小鳥』が喋っているように見えた。
しかし、本当に喋っているのは、手に持っているスマホだった。
擬似的な『自立意思』と『視聴覚』を与えられたスマホの声が、
『小鳥』のスピーカーから出力されているという仕組みだ。

461今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/30(土) 01:32:36
>>460

「いえいえ、どういたしまして」
「うーん、くるみさんも『音仙』ですか」
「私も『和国』しかないと思ってたんですけどね」
「前に友達に聞いて、『音仙』って人もいるって聞きました」

一度探してみたが、それらしい店は見つからなかった。
二人も同じ名前を挙げるって事はこの町にあるんだろうけど。

「確かに、フツーの人に話しても『作り話』だと思われそうですもんねえ」
「え、喋れるんですか」「あーでも、友達のスタンドも少し喋ってましたね」

などと言いつつ様子を見守っていると、小鳥がしゃべりだした。
スマホを使って自分のスタンドと話す、そういうのもあるんだ。

「へーっ」

               『先生ト今泉サンノ コトデスネ』

「なんだか『音声案内』みたいですね」
「見た目が機械ですし、意外とかではないですけど」
「スマホで連絡できるスタンドって、ちょっと新しいですね」

遠くにあるものを見て来てもらったりも出来るのかな。
見た目が鳥だし、もしかしたら飛んだりもできるのかな。

スタンドはフツーじゃないから、いくらでも想像出来る。
フツーなことのほうが想像するのって難しいのかも。

「そうだ、私も『プラン9』さんと話したりとかって出来ます?」

462美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 21:38:38
>>461

「『音声案内』ねえ。それは的確な表現ね」

「ほら、口の中にスピーカーが見えるでしょ?
 ここから声が出てるってわけなの」

「背中にあるのはマイクよ。
 これが私の声を拾ってるの」

「実を言うと、このスマホを通して喋ってるわけじゃないのよ。
 『今、何が聞こえる?』」

スマホを下ろして、再び質問する。
それに対して、また答えが返ってきた。

『カゼ デ クサバナ ガ ユレル オト ガ キコエマス。
 トオク デハ トリ ガ ナイテイマス』

その場にしゃがんで、揺れる草葉を軽く撫でる。
そして、すぐに立ち上がった。

「――こんな風に、ね。
 でも、このスマホが全然関係ないわけじゃないのよ。
 これがあるから、今『プラン9』はお喋りできてるの」

                        フ ァ ン
『プラン・チャンネル7』は音響機器を『支持者』に変える能力。
音響機器がなければ、それこそオブジェと変わらない。

「お話できれば楽しかったんだけど、
 『プラン9』は私の声にしか反応しないのよ」

「未来さんの『コール・イット・ラヴ』みたいに自分から喋ることもないしね。
 質問に答えるのが専門だから」

「『コール・イット・ラヴ』は何か……あら?」

言葉を途中で止めて、指先に視線を向ける。
さっき葉に触れた時に切れたらしく、指の腹に小さな傷ができていた。

463今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/06/30(土) 22:51:08
>>462

「へー、流石ラジオのパーソナリティさんですねえ」
「質問に答える専門っていうのも、なんとなくラジオ番組みたいです」

ラジオ番組に詳しいわけじゃないけど、イメージとして。
聞いてる人……リスナーがハガキを送ってそれに答えるイメージがある。

「その点、先生はそんなに――」

      シュルルルル

         『"補修"ヲ 開始シマス』

「あっ、始まっちゃった」「指、切ってたんです? 大丈夫ですか?」
「えーっと、先生はですね、『傷』とか『壊れたもの』を直して回るんです」
「直そうとする基準はよく分からないところもあったりするんですけど」

先生の手で、有無を言わせずマスキングテープが巻かれていく。
剥がせば元どおり。フツーじゃない。けれど、もう驚きはしない力。

「そういうちょっとした傷なら、すぐに直してくれちゃいます」

            『……治スカラトイッテ、怪我ヲシテイイワケデハ ナイデスガ』
            『モシ 怪我ヲセザルヲ 得ナイナラ 先生ガ治シマス』

「頼もしいです、先生」「私も怪我する気は無いですよ」
「……っと、そろそろ流石に行かなきゃですかね」

            『ツイ 話シ込ンデ シマイマシタネ』

「楽しかったので、仕方ないですよ」
「くるみさん、今日はありがとうございました!」
「偶然だったけど……話せて楽しかったです」

荷物をまとめて、そろそろここを離れる準備をしておく。
話すのは楽しいけど、そろそろ暗くなり始めてる気もするし。

464美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/06/30(土) 23:45:06
>>463

「へえ!すごい!」

一瞬で元通りになった指を見つめて、感嘆の声を上げた。
やはりというか、自分とは全く違ったタイプのスタンドのようだ。

「うっかり怪我をしたり物が壊れることって、
 普段の生活でも結構あるものね。
 随分と実用的で羨ましいな」

「それについて、もう少しお話を伺いたいところだけど――
 今日はそろそろお開きの時間みたいね」

キャップのつばを持ち上げて、沈む夕日に視線を向ける。
暗くなってきたし、私も帰ることにしよう。

「こちらこそ、ありがとう。未来さんと話せて楽しかったわ」

「『音仙』で聞いたんだけど、スタンドを持っている人同士は、
 引き合う性質があるそうよ。
 もしかすると、またどこかで会うこともあるかもね」

「それじゃ、未来さん――」 「それから『コール・イット・ラヴ』にも――」

      「――『See You Again!!』」

笑顔で片手を軽く振り、別れの言葉を送る。
そして『プラン9・チャンネル7』を肩に乗せて駐車場の方に歩いていこう。
そこに愛車のスクーターを停めてあるのだ。

他のスタンド使いと出会うことは、自分のプラスにしていきたい。
ただ、トークのネタに使えないのが残念だけど――。
だけど、自分と同じような人と出会えたことで、
明日も頑張ろうって思えるのは良いことよね、きっと。

465今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/07/01(日) 01:10:55
>>464

「便利遣いするなって、先生は言うんですけどね」

          『必要ノナイ時ニ 乱用スベキデハ ナイデス』

「減るものじゃないんだし、とは思うんだけど」
「先生がそう言うなら、まあ」
「確かに、自由に使えたら物を壊しやすくなっちゃいそうですし」

先生の直す力はどこまでできるのか分からない。
だから、自由に使えたらどこまででもやってしまう気がする。

・・・そんなに欲が深いってつもりじゃないけど。フツーだけど。

「引き合う、ですか? 磁石みたいに」
「何だかロマンチックな話ですねえ」
「でも、信じてみたいです。また会いたいですし」

            『エエ ゼヒ マタ』

「くるみさん、さようなら〜」
「今度はラジオのお話とか聞かせてくださいね!」

             ブン  ブン

「………………」

大きめに手を振って、学校から帰る道のりに戻る。

ここから歩き出す前にスマホを取り出して、『美作』って調べて、
ようやくそれが『ミマサカ』と読むと知って、少し安心したのは内緒。

466ココロ『RLP』:2018/07/21(土) 05:14:31

湖畔公園――――この季節に長居するのは流石に堪えるけど、
冷房がガンガンに掛かった家でピアノを教えている時間と同じくらい、
ここで過ごす時間は良いものだ。水は冷たいし……冷たいし……

          ……水はまあ、冷たいけども。

(あ、暑いわ……! 水は冷たくっても頭が暑いわ…………
 夏ってそういう季節だもの、し、仕方ないけど……
 日よけの帽子をかぶってるのに、まだ暑いなんて…………
 こ、木陰に入っても、暑いものは暑いし……って、
 な、なんだか、木陰が悪いみたいな言い方だけど……
 違うわよ、木陰は私の避暑の為にあるんじゃないし…………)

             (…………)

      (い、いくらなんでも……猛暑すぎるわ…‥……!
        ゆ、油断していた私が悪いとはいえ…………!
         も……もう少し、手心とか……な、無いわよね)

  キュルキュル

         キュポン

「ふぅ…………」

(それでも……す……スポーツドリンクをたくさん入れてきてよかったわね……
 いつもの調子で、少し濃く淹れたミルクティーなんかにしてたら、今頃…………
 や、やめましょう。ふ、不謹慎だわ……こんな妄想。でも私が今その暑さに直面しているし)

(も、妄想というより……私、暑さでやられているんじゃ……!?)

足を水に着け、水筒を傾ける。
もちろん水に入っていいエリアでやっている。
そういうので怒られるのは嫌だし、迷惑だからだ。

(は……早く帰りましょう、こんな日は早く帰って長めにお稽古をする方が良いわ。
 そうよ、そうしましょう。仮に倒れたりしたらどれだけの人に迷惑が……
 め、迷惑どころか…………た、助けられる前提で考えてるけど…………だ、だめよ無駄に重く考えちゃ)

それにしても暑すぎる季節。ココロとしても茹だる頭でネガティブが加速する。
早く帰ろう、その一心で湖から足を上げて、靴を履きなおした。さあ早く帰ろう。

・・・そこでふと気付くが、そういえばずっと周りを見ていなかった。近くに誰かいたりするだろうか?

467『ニュー・エクリプス』:2018/07/21(土) 22:38:39
>>466

 「あ」

    「つ」

       「いっ」

           「スッーーーー!!!」


 『あついー(スッーー)!!!』

 「なんて暑さだ! シャツから下まで、もうびっしょびしょ!
何だろうねっ、地球温暖化って言うのを今まさに味わってるよ
ムーさん、のんちゃん! 暑い暑い暑いー あーーっ(´Д⊂ヽ」

 「し ん と う め っ き ゃ く……」

「うわぁ!? む ムーさんが白目向いて棒立ちになってる!?
ムーさんっ、しっかりして頂戴! サッちゃん水 水っ!!」

 「ぬうおおおおおおぉぉぉ!!!! 了解っスーーー
権三郎!! レスキューエクリプス、出動っスーーーーー!!」

 『パァァァウゥゥンンッ〜〜!!!』


 何だか、貴方の温度をさらに上昇しそうな騒がしい
学生服四人+犬一匹が通りかかって来た。ドドドドド!!! と言う
激しい足音と共に、ココロの直ぐ傍をテンション高い少女と犬が
水に突撃してくる。

「んっ(`・ω・´) あぁ、こんにちわっス!!
ちょっと水を分けてもらうっス!!!」

「(;^ω^) パウッ!!!」

 挨拶もそこそこに、鞄に入っていたらしいプラスチックのタライから
水をすくって、またドドドドド!!! と三人のほうへ戻る!!

 「そぉぉぉおおおおおいいいいっっ!!!」

               パシャ―ンっっ!!!


 「……はっ!? 私は一体今まで何を……」

 「棒立ちになってたよ……(´・ω・`)」

 「……とても綺麗は花畑が見えていた」

 「こわっ!?Σ」

 四人は、騒ぎつつ貴方へと近づいてくる。清月の制服だとわかった。

468ココロ『RLP』:2018/07/21(土) 23:52:43
>>467

「ひ、ひぃっ……!?」

          ドサッ

思わず立ちかけていた足を崩し、軽いしりもちを着く。

(なっ、なにっ……人!? み、水がこっちにも……!
 つ、冷たいわ……暑いから、あ、ありがたいのかも……?
 な、なんて。遊園地の水を撒くショーじゃないのよ……!?
 ……い、いくら暑いとはいえ……いいえ、)

       (……で、でも、涼もうとしたんでしょうし、
         暑さで大変な事になってたみたいだし……
          せ、責められるはずないわ。少し濡れたぐらいで)

突然横に4人も飛び込んでいくと、
当然水は撥ねるわけで、結構濡れた。

「えっ、こ、こんにちは……!?
 お、お水は私のじゃないし、
 別に、す、好きにしてちょうだい……」

とはいえ涼しさを感じない事もないし、
暑さの限界での奇行だ、悪いとは言えない。

(あっ、戻って来たわ……って、この制服……清月だわ。
 私と同じ学年じゃなさそうだけれど……1年生かしら?)

「……だっ……だ、大丈夫かしら?
 相当……暑さに、ま、参っていたようだけれど……」

(なんだか失礼な言い方になってしまった気がするわね……)

「わ、私も、相当参ってるから……湖は、冷たくていいわよね」

内心気を遣いつつ、近付いて来る四人組に先んじて声を掛ける。
この状況で、黙って待っていると『怒ってる』と思われそうな気もするから。

469『ニュー・エクリプス』:2018/07/22(日) 19:30:59
>>468

城生「こんにちはー。暑いねぇ、本当に……今年は猛暑で倒れてる人も
続出してますもんねー」

ムーさん「私もほぼ 倒れかけました」

エッ子「ムーさんが、未だやばそうΣ さぁ、早くアレを引き揚げるのだ佐生隊長!」

朝山「了解っス! 権三郎!! 一緒にアレを引き揚げるっスーーー!!」

権三郎「パァーゥッ!」

 動きが忙しい四人と一匹だ。貴方に挨拶もそこそこに、湖畔公園の水の張る
片隅に手を伸ばして、何やら長い紐らしきものをずるずる引っ張り……っ。

 『出たー(っス)!!!』

 出たのは、瑞々しく実がとても詰まってそうなスイカだっ!!

城生「今日は凄く暑くなるって言うから、此処で冷やしておいて正解だったねー」

朝山「ふっふっ、我が悪の名案は常に天気の先読みをするんっスよ! と言うわけで
さっそくスイカを食べるっス!! スイカ割りっス!!」

エッ子「うおおおぉぉぉ〜! スイカ割り〜っ!」

 やんややんやとスイカ割りが目の前で始まろうとしている。
そんな騒がしい集団から、長身の女の子は長めの棒を出して貴方に近寄る。

ムーさん「……んっ」

 棒を差し出してきた……スイカ割りを一緒にしようと誘ってるのか……?

470ココロ『RLP』:2018/07/23(月) 00:22:27
>>469

「た、倒れなくって本当に良かったわ……
 あ、お水……じゃなくてスポーツドリンクだけど、
 水分補給も大切らしいから、わ……私の飲みさしでよかったら」

           「って」

「す…………スイカ………………!?」

(わ、私が座っていた横で……スイカが冷やされていたの!?
 ど、どうしましょう、蹴っちゃったりしてなかったかしら……)

水筒を差し出そうとしていたところ、
いきなり出てきたスイカに困惑した。
しかし、差し出されたそれで意味を悟った。

「えっ……………!?」

そして、さらに困惑した。

(ま、まさか……私も混ぜてくれようとしているのかしら……!?
 なっ……なんてコミュニケーション能力が高いのかしら……
 正直、も……もう帰りたいというか……暑いし、あまり外に長居したくないのだけれど……)

スイカ割りといえば涼しそうだが、
猛暑具合にはなんの変わりもない。
熱中症には『涼しげ』では勝てないのだ。

(で、でも……断って帰っても、ピアノの練習を少し長くするだけだし……
 いえ、それも大事なことだけれど……そのために、折角誘ってくれたのを……)

「こ……これ、私が持っていいの? 貴女達の役目じゃあなくて……いいのかしら」

それにしてもスイカ割りは割るのが楽しいと思っていた。
まさか見ず知らずの自分に割らせるとは……これもコミュ力なのか?

(ど、どうしましょう……もし私が割るんだとしたら、責任重大よ……!?
 間違えて湖に転落したりしたら……そ、されはある意味ウケそうだけど……
 でも私、そんな若手の芸人さんみたいな体の張り方をするべきなのかしら……?
 ……と、というか、割るのは目隠しをしてだから……
 いえ、まさかそんな事しないはず、信じるのよ、疑うのは失礼すぎるわ……)

棒を受け取ってしまったものの、ここからどうするべきなのか逡巡する。

(ま、待たせてたりするのかしら、私……この暑い中……でもこれは、い、いきなり過ぎるわ……!)

471『ニュー・エクリプス』:2018/07/23(月) 08:41:20
>>470

 これ、私が持っていいの?

エッ子「細かいことは きにしなーっい!!ヽ(^。^)ノ」

城生「楽しい事はみんなでしたほうが良いですから。
あ、何か急用があってご迷惑とかなら やめますけど」

 スイカの下に、いそいそとシートを設置しつつココロに返答する
学生ら二人。残る二人は近くにまわり。

 ムーさん「さぁ、少女よ……めぐるめぐスイカ割りの世界へと
いざなわれるのだぁ……ぬんっ」 ペトッ

 貴方の背後に回り、目隠しを自分の両手で行った。密着してる所為か
暑苦しく目元に湿り気が増し、それでいて微妙な双丘が背中にあたる。


朝山「ソーレっ 前、前 前に行くっスー! 構えて構えてっ!」

権三郎「パウッ パウッ パーウッッ!」

振れー 触れーっと、もう一人の少女も団扇を振りつつ周囲の熱気を
拡散させながら応援モードに入ってる。犬も応援してくれているようだ

472ココロ『RLP』:2018/07/23(月) 17:25:09
>>471

「い、いえ……急用とかは無いわ。
 迷惑なんかでもないし……むしろありがとうよ。
 や、やりましょう。上手くできるかは自信がないけれど……」

(こ、こうまで言われて参加しないなんて失礼すぎるわ)

             シュル

「あっ、ご、ごめんなさいね、着けさせちゃって」

(め、目隠しが暑いわね……)

密着はそんなに気にならないが、暑苦しい。
早急にスイカを叩き割り、清涼感に包まれたい。

(こ……心なしか犬も応援してくれている気がするわ。
 別に、特に犬が好きというわけではないけど……
 それにしても、この中の誰かの飼い犬なのかしら……)

      (こんなに暑いのに散歩なんて大変よね……)

わりと利口な犬だし、しつけがいいのだろうか。
ともかく棒を両手でしっかり持って、言葉通り動く。

       フラ
             フラ

「……ま、まだ? もうちょっと前かしら……?」

(湖に落ちるような方向じゃないし、大丈夫……よね?
 いえ、落ちそうならさすがに声を掛けたりしてくれるはず)

                (し……信じているわよ……!)

473『ニュー・エクリプス』:2018/07/23(月) 23:47:25
>>472

 あぁ……ココロ ココロよ。君はムーさんが
何か黒っぽい布とかで目隠しをしたと思い込んでいる。

 だが、違う。……ムーさんんは『ただの両手』で君の
目元を覆っているのだ。凄く この暑さでべとっとした手だ。
余計に君の暑苦しさを引き立てている。

城生「あっ 棒が右に寄りすぎ― もうちょっと左ー!」

エッ子「そのまま前だー! そんでもって左に左、もうちょっと左
んでもって斜め四十五度に棒を構えて〜!」

朝山「思いっきりズドンっと振り下ろすっスー!」
権三郎「パゥー!」

 約一名、わかり難い指令があったものの。スイカの位置を
教えてくれてはいる。さぁ フィニッシュだ!!

474ココロ『RLP』:2018/07/24(火) 00:43:18
>>473

「……………??」

(あ、あら……なんで目隠しされたのに、
 まだ背中にくっついてるのかしら……って、
 も、もしかして、目隠しが布じゃなくて……手!?)

     (そ、そうだわ! 妙に暑いと思ったら……
       ど、どうすればいいの……あ、歩きづらいし……)

            (でも、ぬ、布が無くてもスイカを割りたいという、
              この人たちの気持ちに私は答えてあげるべきよ)

     フラ
              フラ

(…………こ、答えてあげるべきよね。
 そうよ、きっとそう……別に悪い事とか、
 嫌な事をされているというわけではないわ……)

(嫌と言えば……う、後ろの子、熱中症になりかけてた子よね?
 大丈夫なのかしら、こんな暑いことして……い、嫌じゃないかしら?)

あまりの急な事態にやや混乱はしているものの、
言われるがまま歩いていく……分かりやすい指示だ。

(犬も何か指示をしてくれてるのかしら……
 い、いえ、犬に気を取られ過ぎては駄目よ、
 彼女たちの大事な仲間なんでしょうけれど、
 スイカ割りをする上では……犬は関係ないわ)

        「こっ……」

                  「ここっ……ね!」

     ブン!

ココロは気が小さいが体は大きいので、威力は問題ないはずだ!

475『ニュー・エクリプス』:2018/07/24(火) 18:18:31
>>474

 ムーさんが何故、適当に鞄を漁れば目隠しになる布はきっと
見つかるだろうに、ソレをしない事。
それは真夏の太陽が醸し出した悪戯心なのかも知れない。
 もしくは、単に暑すぎてダル過ぎて面倒だったからも知れない。

まぁ、十中八九後者で。殆ど意味のなさない行動だから気にしなくていい。

 犬の言ってる意味についても考えつつ、貴方は三人と一匹の声援と
指示に従い、憑依した幽霊のように、べったりくっ付くムーさんと
共に歩きつつ、棒を振りかぶる!!

       ――パコンッッ!!

     『割れたーーーー(っス/パーァ ウン)っ!!!!』


 暑い日差しの下、湖畔公園に女の子達の歓声が轟いた。


     ・ ・ ・ ・


 シャリシャリ

 「美味しいねぇー」

 「冷えてるっスねぇ〜」

 「極楽だ」

 「あーまーいーぞ!」

 スイカを割ったら、当然割れたスイカを食べ始めるタイムだ!
ベンチに座って仲良くスイカを食べ始める。飼い犬も、スイカの切れ端を
美味しそうにモグモグしている。

 あと、ココロの分も当然用意している。何か振る雑談がなければ
きっと、このまま仲良くスイカを食べ終わった後に別れるだろう……。

476ココロ『RLP』:2018/07/24(火) 21:47:26
>>475

        パ

               コン!


棒を振り抜いた感覚が、空を切らなくて本当によかった。
そして――――このスイカを叩き割った感覚の、なんと爽快な事。

「やっ、やった…………やったわ!」

         (夏にみんなスイカ割をしたがる理由……
           こ……こういうことだったのね!
            今日知るとは思ってなかったけど)

     ・ ・ ・ ・

       ・ ・ ・ ・

「こんな季節でも、水だけでここまで冷えるのね」

              「なんだか不思議だわ」

        シャリシャリ

「あっ、きょ、今日はありがとう、私のことも混ぜてくれて……」

       「スイカまで貰ってしまって……本当に、嬉しいわ」

お礼を言うばかりではつまらないだろうし、
雑談をする事もあったかもしれないが、
なにせこの暑さ、そして倒れかけた者もいる。

(あまり長く引き止めるのも良くないわね……
 スイカで体が冷えている内に、涼しい所に帰りましょう)

            (この子達も暑いのは同じでしょうし……)

ココロ的にもやっぱり暑いものは暑いので、食べ終えたら家に帰ろう。
ひと夏の思い出と言うには小規模だが、なんだか忘れられない日にはなりそうだ。

477『ニュー・エクリプス』:2018/07/25(水) 15:39:03
>>476

 「そんじゃー バイバーイ!」

「あっ 名前を聞くの忘れちゃったねぇ」

 「なーにっ! また今度会えるっスよ!」 『パーウッ!』

「まぁ、適当にぶらついていればな」

 夏は始まったばかりだ!
ニュー・エクリプスの悪の進撃もまだまだ開始したばかりなのだ!!

 「うおおおぉぉぉ!! 真夏に出来る事を全部やりきるっスぅぅうう!」

燦燦と輝く太陽に負けず劣らず! 悪の首領は暴れ(遊び)まくるのだ!!!

478夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/05(水) 20:34:12

「ない――」

      ササッ
          ササッ

           「ない――」

                ササッ
                    ササッ

                      「ない――」

『パンキッシュなアリス風ファッション』の少女が、地面に屈み込んで、
手探りで『何か』を探していた。
少し離れた所には『ブルーのサングラス』が落ちている。
手を伸ばしても届かない距離だが、その位置は『視界の外』ではない。

今から約一分前――大型犬と、それを散歩させている子供が、
不意に背後から駆けてきた。
咄嗟に避けることはできたのだが、問題は『その後』だ。
バランスを崩してスッ転び、同時にサングラスが外れてしまった。
強い光を遮るサングラスなしでは、自分の視力は皆無に近い。
だから、今こうして手探りでサングラスを探しているというワケだ。

479冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/05(水) 23:07:26
>>478

「探し物はこれかな?」

そういって、サングラスを拾って目の前まで持ってくる。
耳に黒いリングのピアス。
右手の人差し指と左手の中指に銀のリング。

「明日美、だよね?」

「どうしたの。大丈夫? 元気?」

480夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/05(水) 23:46:39
>>479

「ほほう――」

「そのこえはレーゼーくんじゃないかね??」

反射的に、声の聞こえた方向を振り返る。
その視線が、声の主の方へ向けられている。
しかし、実際には彼の姿は見えていない。

「あー、そうそう。コレコレ。コレをさがしてたんだ」

「サンキュー!!」

手を伸ばしてサングラスに触れる。
指先の感覚で、それが探していたものだと分かった。
感謝の言葉を述べて、それを受け取ろうとする。

「ん??ゲンキだよ。ゲンキゲンキ。いつもとおんなじ」

「ちがいがあるとしたら、ソレがあるかないかってコトくらい」

サングラスを指差しながら、黒目がちの瞳で、そう告げる。
その瞳には、どことなく光が欠けているように見える。
サングラスがない状態だと、それがはっきりと分かる。

481冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 00:01:44
>>480

「そ。冷泉君だよ。冷泉咲ちゃんだ」

にっこり笑ってみせる。
多分相手は見えてないんだろうなと思いつつも。

「じゃあこれで元通りだ」

相手が触れたのを確認して手を離す。
目を丸くして彼女の顔の前で手を振ってみる。
ちょっとした確認作業だ。

「これかけたら見えんだよね?」

「割れたりしてない?」

482夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 00:21:54
>>481

「そういうコト――」

「コレさえあれば、コーディネートはパーフェクト」

受け取ったサングラスを元通りかけ直す。
すぐには視力は戻らない。
徐々に、目の前に世界が戻ってくる。

「やっぱコレがないとね」

「なんといっても、このファッションのポイントだから」

「そのピアスとリングみたいにね」

冗談を言いつつ、同じように笑う。
目の前で振られる手に反応して視線が動いた。
確かに、それが見えている。

「レンズにキズは――ついてないね。
 このサングラス、けっこうイイやつだからさ」

「だから、ひざしがつよいひでも、バッチリみえるってワケ」

483冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 00:46:22
>>482

「パーフェクト、素晴らしい」

「んー……確かにこれはポイント、というか僕の好み」

ピアスを指でつまむ。
黒と銀のリングが並びあう。
幼い十六歳の少年が多少大人びて見えた。

「へぇ……僕はサングラス使わないからわかんないけど、色々あるんだねぇ」

未知との遭遇だ。
未知、というと少し大げさかもしれないが意味合い的にはそんな感じだ。
冷泉咲の視力は悪くない。
メガネにも縁はなかった。

「今日は散歩? それともサングラスを探しに?」

484夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 01:14:25
>>483

「きょうはね――ちょっとした『ぼうけん』だよ」

「まだみたことのないモノをさがしに、ともいうかな??」

パンパンと軽く手の汚れを払う。
そして、少年の顔を見つめる。
今は、しっかりと彼の顔が見えている。

「それで、いまはレーゼーくんをみつけたトコ」

「レーゼーくんは??さんぽ??」

「せっかくあったんだし、ちょっといっしょにあるかない??
 ほら、このヘンはさんぽコースだし。
 さっきはイヌとコドモが、バババッとココをはしってった」

そう言いながら、片方の手を横にサッと素早く動かして見せる。
そんな感じだったというジェスチャーだ。
それから、頭の中で一つ思い出した。

「あ――」

「そういえばさ、『おねえさん』はゲンキにしてる??」

一度、電話を通して話したことがある。
独特な雰囲気のある特徴的な人だった。
だから、そのことはよく覚えていた。

485冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 01:40:27
>>484

「冒険……?」

「明日美ってアグレッシブだね。結構」

手の汚れを払っているのを見て、他に汚れている場所がないか探してみる。
見つけたとして気安く触れないとは思うが。
勿論、相手に気を遣うという意味で。
相手は年頃の乙女であった。

「冷泉君は散歩ー。一人ぼっちで家にいるのも寂しいから出てきたの」

「だから一緒に歩くよ」

「……犬ね。なるほどね」

彼女の言葉一つ一つに反応を返す。
合いの手という奴か。
相槌という奴だろう。

「お姉さんは元気。ただ最近会ってない。部屋こもりっぱ」

「だから、遊んでくれる人いない」

486夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 02:04:09
>>485

青いジャンパースカートに土が付いているのが見えた。
少年の視線を見て、その汚れに気付いて払い落とす。
リボンのように頭に巻いているスカーフが風を受けて揺れた。

「ありがと――」

「わたしはさ、いつかセカイのゼンブをみてみたいとおもってるんだ」

「――だって、わたしは『アリス』だから」

「いまは、このマチのゼンブをみるのが、とりあえずのもくひょう」

肩を並べて歩きながら、自分の夢を語る。
突拍子もない目標だが、簡単に叶ってしまっては面白くない。
自分にとっては、それは一生かけても叶えたい夢だった。
ライフワークと呼んでもいいかもしれない。
要は、そういう生き方をしたいということだ。

「こもりっきりかぁ〜〜〜。なんかのジッケンとかケンキュウとか??」

「じゃ、わたしとあそぼうよ」

「んー」

「『かくれんぼ』しない??わたしがオニやるから。
 じつは、わたしとくいなんだ〜〜〜」

487冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 02:37:37
>>486

「世界の全部か……いいじゃん」

「この街だけでもかなりかかりそうだけど」

一生の内、自分は本当にこの街のすべてを知れるのだろうか。
それくらいなら出来てしまいそうな気がするが、本当に可能なんだろうか。
それよりも広い世界のすべてを知るというのは、壮大だ。

「……多分ね」

少し間があって、冷泉は答えた。
正直、彼女と会えていない理由は本人にも分からない。
ただ、何の返答もなくなったのが唯一の事実だ。

「かくれんぼ? いいよ」

488夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 17:54:22
>>487

「……ふ〜〜〜ん」

彼のお姉さんと前に話した時は、色々と言われた。
難しいことは分からなかったが、
彼女の心中には複雑なものがある様子だった。
ひょっとすると、その辺りに原因があるのかもしれないとも思った。
しかし、今は黙っておくことにした。
あまり気軽に踏み込むようなことでもない気がしたからだ。

「よし!!じゃ、かくれてよ。
 はんいは、だいたいこのまわりにしよう。フィーリングでいいから」

「いまから10――いや、やっぱ15かぞえるから、そのあいだにね」

自然公園という場所だけに、隠れられる場所は幾らでもあるだろう。
自分は、少年に背中を向けて目を閉じる。
そして、数を数え始めた。

「いーち、にーい、さーん……」

口で言いながら、同時に両手の指も折っている。
その調子で15秒ほど数え続ける。
それが終わったら、目を開けて振り向こう。

489冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/06(木) 22:14:41
>>488

「はーい、隠れまーす」

冷泉咲はそれ以上彼の隣人の話はしなかった。
特に聞かれもしなかったし、特にしたい話でもなかったからだ。

「んー……」

(時間かかっちゃうな)

背の低めの木に近づいた。
登れるかと思ったが、時間的に厳しそうだ。
陰に隠れよう。

490夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/06(木) 23:45:13
>>489

「……じゅうさーん、じゅうよーん、じゅうごぉ〜〜〜」

15秒を数え終えてから、ゆっくりと振り返る。
少年の姿は見当たらない。
かくれんぼなのだから当然だ。

「――よし!!じゃ、さがすよー!!」

しかし、立っている場所からは動かない。
その代わりに、自身の傍らに『ドクター・ブラインド』を発現する。
メスのような爪を持つ盲目のスタンドが、夢見ヶ崎の隣に立つ。

「むむむ……むむむむむむ……むむむむむむむむむ……」

両手の人差し指を左右のこめかみに当て、目を閉じて意識を集中する。
といっても、この仕草はほとんど見せかけだけのものだ。
ポーズを取りつつ、『超人的聴覚』を使って、冷泉少年の音を探る。
呼吸する音や、微かな衣擦れの音などを掴む。
街中と違って雑音が少ないので、聴き取りやすいだろう。

491冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 00:35:10
>>490

発現したスタンド。
その力は超常的なそれに相応しい。
冷泉咲はその存在に気付けていない。
自分から見えるということは相手から見えるという事である。
木に背中を預けてじっとしている。

「ふぅ……」

規則正しい呼吸。
木と服がすれる音。
後ろに上げた木に靴が当たる音。
普通なら気付けないほどの音だが、それを捉えることが出来るのがスタンドだ。

492夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 00:56:59
>>491

「ほうほう――」

微かな音を『超聴覚』が捉えた。
少年の発する、ほんの僅かな音。
それが、彼の居場所を教えてくれる。

「なるほどなるほど――」

『ドクター・ブラインド』を解除する。
そして、木陰に向かって歩いていく。
その歩みに迷いはなく、一直線だ。

「――みーつけた!!」

淀みなく木の裏側に回り、冷泉少年の姿を視認する。
人を探すのなら得意分野だ。
音を立てず匂いもしないので、落としたサングラスを探すのは苦労するが。

493冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 01:17:26
>>492

「えー!」

見つけられて少年は目を丸くした。
丸い目がさらに真ん丸だ。

「おかしいよ。だって、見えないところにいたのに……」

不満気な様子だ。
納得はしていない。

「……むぅ」

494夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 01:44:49
>>493

「ふふ〜〜〜ん」

驚かせたことに気を良くし、自慢げに笑う。
どうやら、少し調子に乗ったらしい。
その勢いで、もう一つ披露することにした。

「とくいだからさー、こういうの」

「たとえば――」

冷泉少年が自分と同じ力の持ち主であることも知らず、
再び『ドクター・ブラインド』を発現させる。
そして、周囲の音に耳を澄ます。
小さな音が聴こえた。
それは鳥の羽音だ。
木立の中から、こちらに向かって飛んでくる鳥の羽音が微かに聴き取れた。

「トリが、にわ。おおきいのとちいさいの。もうすぐ、あのヘンからでてくる」

宣言通り、大きさの異なる二羽の鳥達が、二人の頭上を通過していった。
それを指差し、堂々と胸を張る。
当然、スタンドを見られることなど考えていない。

「ほら――ね??」

495冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 02:05:40
>>494

「!」

突然のスタンドに少年が表情をこわばらせる。
直感的に理解できた。
そして、それが正解であることを少女が自分自身で証明する。

「確かに……二羽……」

少年の眉間にしわが寄った。
同時に背後に『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が現れる。
球体についたアームと手。
五本指が少女の頬をつねろうと動く。

「インチキだ。明日美そういうのはよくない……!」

少年が指を差す。
まるで自身のスタンドにターゲットを教えるように。

496夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/07(金) 02:24:19
>>495

「でしょ??ちゃんと、にわ――え??」

二本のアームを備えた球体を目の当たりにして、両目を見開く。
それは予想外の光景だった。
調子に乗ったツケと呼んでもいいかもしれない。

「あ……」

「あ、あっはっはっ〜〜〜」

「はは、は……」

少年の迫力に押されて、思わず苦笑いする。
そして、無意識に後ずさろうとした。
しかし、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が動く方が速かった。

「――むぎゅッ」

よって、そのまま頬をつねられてしまった。
ズルをしたバチが当たったというところだろう。
両手を動かしてジタバタしているが、実質ほぼ無抵抗だ。

497冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/07(金) 22:58:49
>>496

「騙されたっていうより、騙したうえで詰めが甘いのはかなり減点だよ明日美」

「むっとした。怒ってはないけどむっとした」

より眉間のしわが深くなっている。
本人曰く怒ってはいないらしいが、不機嫌ではあった。

「なので、赤面の刑だ」

ぐにぐにと『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が頬を動かす。
つねるというよりは強く押して揉んでいるような感覚だ。

「血行を良くしてやる。覚悟したまえ」

498夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 00:11:38
>>497

「いやいや〜〜〜ベツにだますつもりはなくって……」

「むぐッ」

「カンペキじゃないのは、まぁ『アイキョウ』があるってコトで……」

「むぐぐッ」

「なんていうか……ちょっとしたオチャメだから、ね??」

「むぐぐぐッ」

言い訳している口を、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』に封じられる。
そして、なすがままにされる。
口では弁解しているが、ズルをしたという負い目は一応あった。
なので、本格的な抵抗はしていない。
『ドクター・ブラインド』も、ただ後ろに突っ立っているだけだ。

「だからさぁ――」

「むぐぐぐぐッ」

「そろそろ――」

「むぐぐぐぐぐッ」

「ゆるしてくれない??」

「むぐぐぐぐぐぐ〜〜〜ッ」

やがて、両方の頬が赤みを帯びてきた。
といっても、別に照れているワケではない。
手荒なマッサージを受けて、血の巡りが十分に良くなったせいだろう。

499冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 00:38:22
>>498

「うんうん。そういう気持ちになるよね、分かるー」

スマホを立ち上げる。
画面をスライドしてアプリを選択する。

「許すよ。もう顔真っ赤で見てらんないし」

「じゃあ、はいチーズ」

スマホの内カメラを起動して自撮りをする。
『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の手がそれっぽい笑顔を浮かべさせようと動いた。

「解放」

手が離れた。

500冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 00:39:15
>>499

自分と彼女がフレームに収まるように自撮りする。

501夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 01:06:44
>>499

「あっはっはっはっ〜〜〜。そうなんだよね〜〜〜。
 なにせ、そういうトシゴロだからさぁ〜〜〜」

「――むぐぅッ」

二本のアームによって、明るい笑顔が形作られる。
そして、撮影が行われた。
スタンドである『ザ・ケミカル・ブラザーズ』が写ることはない。
だから、夢見ヶ崎が自分で笑っているように見えるだろう。
その隣には、仕掛け人の少年が一緒に写っている。

「あ〜〜〜あぁ〜〜〜」

「ねぇねぇ、ちょっとカオがちっちゃくなったんじゃない??」

「なんとなくスリムになったようなカンジするんだけど、どう??」

両手で頬を包み込むようにしながら、そんなことを言っている。
実際には、ちょっと膨れているかもしれない。
そうであったとしても、少しすれば元に戻るだろう。

「あ――」

「わたしのはさ、『ドクター・ブラインド』っていうんだ」

「――レーゼーくんのは??」

物珍しそうな視線を向けながら、アームを持つ球体を指差す。
今まで見たことのない形だ。
それだけが理由ではないが、大いに興味があった。

502冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 02:37:18
>>501

「ちっちゃくはなってない」

「なってないよ」

ずばっと言ってのけた。
言い切ってしまった。

「これは『ザ・ケミカル・ブラザーズ』」

「たった一人で兄弟なんだ」

くるくるとその場で回転する。
ロボットアニメのキャラクターのような動きだ。

「そういうもの」

503夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/08(土) 02:57:39
>>502

「そうかなぁ〜〜〜??」

「いやいや、これはきっと『かくど』のモンダイだ」

「たとえば、ななめのアングルからみると、ほそくみえるとか……??」

適当な理屈を並べて、顔を左右に動かしてみる。
もちろん変化はないが、今はそれよりも気になることがあった。
言うまでもなく、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の存在だ。

「ふんふん――」

「ところで、なにか『とくぎ』があるんじゃない??
 『ザ・ケミカル・ブラザーズ』だけのさ」

「アリスのブンセキリョクで、いまからソレをあててあげるよ」

興味深げな様子で、回転の動作をじっと見つめる。
機械的なヴィジョンのスタンドだ。
一体どんな能力を持っているのだろうか。

「ふぅ〜〜〜む……」

「――わかった!!」

「いまはガッタイしてるジョウタイで、ブンリして『フタツ』になるんだ!!
 だから、『ブラザーズ』!!」

504冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/08(土) 23:40:09
>>503

「『ザ・ケミカル・ブラザーズ』」

「まぁ、特技はあるよ」

少年の体の上をすべるようにスタンドが動く。

「分離はしない。くっつくのさ」

「化学でつながった兄弟なんだ」

505夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 00:03:34
>>504

「ふぅん??」

瞳を輝かせ、『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の動きに目を凝らす。
何かを期待しているような視線だ。
その視線が、球体から少年に移っていく。

「とくぎがあるんなら、ソレみたいな〜〜〜。
 みてみたいな〜〜〜。
 みせてもらえたらウレシーなぁ〜〜〜」

「わたしのも、さっきちょこっとみせたしさぁ〜〜〜」

「――ダメ??」

冷泉少年は、この街に住んでいる。
つまり、彼のスタンドも街の一部と言える。
だから、『ザ・ケミカル・ブラザース』の特技も見てみたいのだ。

506冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 01:01:14
>>505

「しょうがないなぁ……」

「ちょっと人のいないところに行こうか。これは目立つから」

そういって木の枝を折って人気のない方に歩いていく。

「僕の『ザ・ケミカル・ブラザーズ』は二つを一つにする」

「まずはこれだ」

右のアームで木の枝を掴ませる。

「1、2、3……完了」

次に取り出したのはライター。
火をつける。

「今度は左」

左の手が火に触れる。

507夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 01:23:33
>>506

「いいねいいね〜〜〜。そうそう、そうこなくっちゃ。
 レーゼーくんなら、そういってくれるとおもってたよ〜〜〜」

調子のいいセリフを言いながら少年についていく。
目立つということは、きっと派手なのだろう。
心の中で、ひそかに期待を強める。

「ふたつをひとつに……??」

「『えだ』と『ひ』でしょ??それで『カガク』……。
 えーと……えだがもえる??」

「――っていうのは、いくらなんでもアタリマエすぎるか……。
 もしコレをあてたら、いっとうのハワイりょこういけるなー」

それくらい難しいという意味だ。
頭をひねって考えてみるが、どうにも想像がつかない。
何が起きるのかを見届けるため、
しっかりと『ザ・ケミカル・ブラザーズ』を見据える。

508冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 01:38:14
>>507

「3秒」

指で作られた三。
同時に手が火から離れた。

「あぁ君はハワイに行けるよ。ただし、今すぐではないけど」

認識は完了した。
『ザ・ケミカル・ブラザーズ』の姿が変化する。
体、足と部位が生まれてくる。
それが完成したらしい時には、アームがついていた球体の部分は胸に格納されてしまった。
2mほどのあまりにも大きなモノ。
どうやら実体化しているらしい。
右腕は木で出来ており、左腕は火で出来ている。

「『ザ・ケミカル・ブラザーズ』これが化学の子だよ」

509夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 02:02:07
>>508

「えっ??ホントに??」

そう言っている間に、目の前で変化が始まる。
まるっきり予想外の光景だった。
出現した巨体を目の当たりにして、思わず両目を大きく見開く。

「す……」

「――スゲェ〜〜〜ッ!!デケェ〜〜〜ッ!!」

その両腕に木と火を宿した化学の子を見上げる。
サングラスの奥の瞳が、星のようにキラキラと輝いている。
下ろされた視線は、右腕と左腕を交互に見比べる。

「スゴいスゴい!!
 これだけでもじゅうぶんスゴいんだけど……。
 ほかにも、なんかヒミツがありそうだよねぇ〜〜〜。
 とくに、そのウデにさぁ〜〜〜」

510冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/09/09(日) 02:37:39
>>509

「そりゃこんだけ大きければ目立つさ」

「そして、いかにもって感じの腕だろ?」

能力の発動過程からして腕にキーがあるのは確かだ。

「本来二つの腕は反応しあわない」

ガンガンと腕をぶつけ合うが燃え移ることは無い。
体も木と火が混じったようだが燃えはしない。

「だけど、このゴーレムの終わり3秒は違う」

解除するとゴーレムが解けていく。
その瞬間、片腕の火が木の腕に燃え移った。

「たった3秒の化学実験だ」

規定通り、3秒間のうちにゴーレムは消えていった。

511夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/09/09(日) 17:28:34
>>510

「ふんふん――」

「ほーうほーう――」

「おぉぉ〜〜〜ッ!!」

いちいち頷きながら、少年が行う実験の経過を見守る。
最後に大きな歓声を上げ、両手をパチパチ叩く。
とりあえず満足したようだ。

「ソレ、『ゴーレム』っていうんだ。
 いやぁ〜〜〜きょうはイイものがみられたなぁ〜〜〜うんうん」

「オマケにハワイにもいけるし、いうことなし!!
 レーゼーくん、いっしょにいく??」

いや、それはダメか。
彼の隣人と話す時、また何か言われそうだ。
まだ一度も見たことがない未知の存在。
しばらく部屋に篭りきりらしいが、いつか会ってみたい。
ひとまず、それは頭の隅っこに置いといて――。

「まぁ、ハワイには、ちかいうちにいくとして……。
 なんか、ほかのアソビしない??
 レーゼーくんがとくいなヤツでいいよ」

今は、今の出会いを楽しむことに専念する。
――森の中で『アリス』は『ゴーレム』を見た。
その新たな一ページを、『光の国のアリス』の物語に書き加えよう。

512一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 19:54:33
――秋の風が吹いている。

「……夏も終わってしまった。僕の中学最後の夏……
これから僕はどうする……?どうしたいんだろう」

 自然公園の片隅、湖のほとりに少年が腰掛けている。掌サイズのメモ帳を片手に、
自分に問いかけるように、あるいはここにはいない誰かに語りかけるように、
中空に目をやり、やや芝居がかった台詞回しで言葉をぽつぽつと紡いでいる。

「未来の全てが輝かしいものだなんて幻想はいわない。でも、
自分の進む先はきっと素晴らしいと思っている……都合のいい話だけど、
そうしないと不安で仕方がないんだ。それに」

            ズ ギ ャ ン ッ

「君と一緒なら、きっと大丈夫だって、不思議とそう思えるんだ。
そうでしょ、僕の『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』」

 見える者は見えるだろう。
少年の目線の先に、半透明のビジョン――『スタンド』が現れている。

 ちなみに見えない者には「なんかブツブツ独り言呟いてるやべーやつ」
に見えるだろうが、まあ、しょうがないね。

513花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 21:38:26
>>512

(――あン?なんだァ、ありゃあ?)

その光景を遠くから見かけた時、最初はそう思った。
ぼちぼち涼しくなってきたってのに、頭が残暑でやられちまってんのかってな。
だが、興味が湧いて近寄ってみると『人型スタンド』の姿が目に入った。

(ははァ、なるほどなァ……)

    ザッ

「青春してんなァ。ちっとばかし羨ましいぜ」

「――隣、いいかい?」

気安い調子で声を掛けると、返事を待たずに隣に腰を下ろす。
レザーファッションで固めた二十台半ばの男だ。
ウルフカットにした髪を真っ赤に染めている。

「さっき『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』ってフレーズが聞こえてよ。
 そいつは、あんたの好きなバンドの名前か何かか?」

ここに来る途中で、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』は遠目から見えていた。
しかし、そちらには視線を向けず、正面の湖を見つめたまま問い掛ける。
いきなり明かしちまうってのも面白味が足りねえ。
相手が、どんな奴かも分からねえしな。
まずは軽く探りを入れさせてもらうぜ。

514一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 22:22:02
>>513

「……はっ」
「隣ですか? えっと、どうぞ……」

『花菱』に声を掛けられて、我に返ったように返事をする少年。
さっきの発言からしても『中学生』なのだろうが、
歳相応の幼さを残した顔立ちで、体格はやや小柄だ。

「……ええと、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』は……
バンドの名前、とかじゃあ無いんです」
「ううん……なんて言うか、上手く言えないんですけど、
僕の中にある『特別な存在』の……その名前なんです」

探りを入れる『花菱』の思惑を知ってか知らずか、
慎重に考えながら、しかし誤魔化しはせずに答えを返していく。

「…………」
チラッ

喋りつつ、ちらっと『花菱』の派手なヘアスタイルに目を留め、
思い付いたように言葉を継ぎ足す。

「あの、ところで……ちょっと聞いても良いですか?」
「『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』って聞いて、
そこで『バンドの名前』か、って思うのは
もしかして、貴方がバンド活動してたりするから……だったりしますか?」

515花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 22:58:29
>>514

「いやァ、オレはマトモに楽器を扱ったこともねェな。
 バンド活動とは、生まれてこの方ご縁がない身さ。
 こんな外見だがよ」

否定の言葉と共に、笑いながら片手を軽く振った。
言われてみれば、そう思われても不思議ではないかもしれない。
今言ったように、もちろん実際は違うが。

「まァ、しがない『スタントマン』だ。
 こんな頭で良いのかって思うかもしれねえが、
 仕事中はヘルメットやらカツラやら被るからな。
 だから、それほど問題にはならねえのさ」

(……『素直』だなァ。どうやら悪い奴じゃあねえらしい)

少年の受け答えを見て、そう感じた。
万が一『マジにヤバイ奴』だったら、
見えてることを明かした時に厄介なことになりかねないからよォ。
しかし、この様子なら大丈夫そうだな。

「――で、『特別な存在の名前』ねェ……。
 なるほどなァ。それなら、オレにも分かるぜ」

そう言って、視線を『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』に向ける。

「『スウィート・ダーウィン』ってのが、『オレの中にある奴』の名前さ」

516一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/16(日) 23:18:08
>>515

「えっ、『スタントマン』……そうだったんですか!」
「いや、その、ごめんなさい。正直なところ、その髪型を見て『バンドマン』の方かな、
と思ったんです」

誤解したことを申し訳なさそうに、ぺこっと頭を下げる。

「『スウィート・ダーウィン』? あッ、もしかして……!」

『花菱』の言葉にちょっと戸惑った後、自分の『スタンド』を見る彼の視線に
気付いたように声をあげ、立ち上がる。

   パサッ

その弾みに、手に持った大学ノートを取り落とす少年。開いたページには、
何やら細々とした文章が書き込まれている。

「貴方には『見える』んですね、僕の『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が!
驚きました……家族にも友達にも、彼は『見え』なかったのに」
「初めてです。えっと、『見えて』いるんですよね……?」

念を押すように確認する少年。傍らの『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が、
ひらひらと『花菱』に手を振る。

517花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/16(日) 23:47:09
>>516

「ハハハ、なァに構わねえさ。
 『バンドマン』と『スタントマン』か。響きはちっとばかり似てるな」

反射的に、地面に落ちたノートに目を向けた。
他人のものを見て喜ぶ趣味はねえが、これはまぁちょっとした事故って奴だ。
全然興味がないかっていうと、まぁ多少はあるけどな。

「あぁ、しっかり『見えてる』ぜ。『鍵』と『鍵穴』か。
 なかなかイカしたデザインじゃねェか」

『ステイル・トゥ・ヘブン』の腕を見て、感想を漏らした。
スタンドが手を振るのに合わせて、それを追うように視線も動く。
間違いなく『見えている』ことが分かるだろう。

「もっとも、『オレの』とは大分『形』が違ってるがよ。
 オレとあんたが違うように、『人それぞれ』ってことなんだろうな。
 だからこそ面白いと、オレは思うぜ」

    スゥゥゥ……

そう言って、おもむろに片手を持ち上げる。
意識を集中すると、そこに『精神の象徴』が姿を現していく。
それは、一丁の『リボルバー拳銃』だった。

    ドギュンッ!

「これが『スウィート・ダーウィン』――『オレの中にある特別な奴』さ」

518一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 00:14:34
>>517

地面に落ちたノートに目を向けると、細々と書かれた文章が、『脚本』の体裁を
とっていることが分かる。何かの『演劇』だろうか?

「あっ、ありがとうございますッ!
この『鍵穴』と『鍵』の意匠、僕、大好きなんです……なんと言うか、
『未来』への象徴、みたいな感じがして。だから、いいデザインだ、って
言ってくれたこと、嬉しいんです」

笑顔を浮かべて、そう『花菱』の言葉に応える。心底『嬉しそう』だ。
そして『スタンド』――『スウィート・ダーウィン』を発現する『花菱』の様子を、
落としたノートを拾うこともせずにじっと見守る。

「うわッ!?」

    ドテッ!

「……失礼しました。えっと、それ、『拳銃』ですよね?
それが――貴方の『スウィート・ダーウィン』、特別な力なんですね」

パッ パッ

 『花菱』の掌中に現れた『リボルバー』のビジョンに、びっくりした様子で
尻餅をついた。暫くして立ち上がり、気恥ずかしそうに、服についた草葉を払うと、
二人の『スタンド』のビジョンをしげしげと見比べながら口を開く。

「本当に……僕のとは形も、何もかも違うみたい……一人一人違う形と
性質を持っているもの、なんでしょうか」
「……だとしたら、ひょっとして……貴方の『スウィート・ダーウィン』、
特別な『特徴』みたいなものを持っていたりしませんか?」

519花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 00:39:45
>>518

(……『演劇部』か何かか?いや、そうとは限らねえか。
 ついさっき、オレも『外見』で間違われたばっかりだしなァ)

とりあえずノートからは視線を外した。
あんまりジロジロ見てんのも悪いしな。
それよりも、今は『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が気になった。

「あぁ、『拳銃』でも『ピストル』でも『リボルバー』でもいいぜ。
 ここの『トリガー』を引くと、銃口から『タマ』が出る。
 オレは触ったことはねえが、『本物』と同じようにな」

物騒なヴィジョンだが、『本物の弾』は一発だけだ。
残りの五発は『偽りの死』をもたらす『偽死弾』。
それが、『スウィート・ダーウィン』の『能力』だ。

「『特徴』か――あるぜ。
 折角だし、ご披露したいところだが……
 この場で『ブッ放す』のは、それこそ物騒だからなァ。
 『あんたの』を見せてくれたら考えるが……」

思案顔で『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』に目をやる。
物騒だというのは本当だが、実際はそれだけではなかった。
少年の『スタンド』が持つであろう『能力』に興味を引かれたからだ。

520一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 01:14:58
>>519

「やっぱり!一人に一つの『外見』、そして『特徴』……『これ』には
そういう性質――いや、現象としてのルールがあるんですね……」
「あれ、ノート……あっ」

感心しながら、何か書き込もうとして……思い出したようにノートを拾い上げる。
立ち上がった拍子に取り落としたことを忘れるほど、『スタンド』に『興味』があったようだ。

「ううん、確かに……『拳銃』ですからね。何となく、特徴も『物騒』な予感があります」
「僕の『特徴』ですか?ええっと、お見せするのは構わないです。
『力』を使うのに、周りに配慮できる貴方は(見た目は怖いけど)……
『悪い人』とは思えないです。ただ、ちょっと準備がいるので――」

ビッ

そう言いながら、さっき尻餅をついた『地面』に、『スタンド』が指を突き立てる。
『鍵』のかたちをした指先が地面に触れ――

 ズ ォ オ ォ オ ォ オ

そこに、『A4サイズ』の『扉』が現れる。もっとも、本物の『扉』というわけではなく、
明らかに『イメージの扉』であることが、スタンド使いである『花菱』には分かるはずだ。

「ええと、ご覧の通り、『扉』です。これを設置することが『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
『特徴』……でも、『扉』だけじゃあ、どこにも繋がらないですから、これはまだ
『途中』なんです」

521花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 01:42:54
>>520

「そうみてェだな。もっとも、オレもそれほど詳しい訳じゃねェが……。
 今までオレが見かけたことがあるのは、
 あんたの『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』みたいな奴だったぜ」

(えらく『スタンド』に関心があるらしいなァ……。
 この感じだとスタンド使いになったのは『最近』ってとこか……)

「ハハハ、そいつはどうも。
 さァてと――それじゃあ『特等席』で鑑賞させてもらうとするか」

『スウィート・ダーウィン』を手の中で弄びながら、
『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の動きに注目する。
『鍵』と『鍵穴』の意匠を備えたスタンドだ。
『扉を』生み出すというのは理に適っているように感じられた。

「ははァ、なァるほどな。
 『扉』が出てきたってことは……
 それが『どこかに繋がる』って考えるのが自然だよなァ。
 ここから、更に何かが起きるって訳かい?」

『扉』を眺めて、顎に手を当てながら自身の考えを呟く。
それが当たっているかは分からない。
何しろ『スタンド』というのは、常識では計れない存在だからだ。

522一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 02:03:23
>>521
          、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「そう――扉はどこかに繋がらなければならないんです」

ビッ

ノートのページを一枚破り、それを『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
素早く精密な動きで『紙飛行機』のかたちに折り、それを右手で持って
左手で翼に触れる。すると――

 ポ ゥ

翼の表面に『鍵穴』の意匠が浮かびあがり、それと同時に左手の
『鍵穴』の意匠が消える。そしてその紙飛行機を、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』が
ふわり、と投げる。

「そして、その『行き先』はッ」

紙飛行機はふわふわと漂い、やがて地面に、翼を上にしてぱさりと落ちる。
それを待ち、『扉』に手を押し当て、押し開けるように『進む』と――

『ガチャ』

ふ、と少年の姿が掻き消え、

         グニャア…ッ

地に落ちた『紙飛行機』の翼の『鍵穴』から、彼の姿が現れる。

「……と、こんな風に、『扉』は『鍵穴』に通じているんです。
一度通り抜けると、扉は消えて、鍵穴も『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の
手に戻って来てしまうんですけどね」

523花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 02:49:06
>>522

「――うおッ!?」

眼前で発揮された『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』の『能力』に、
思わず目を見張る。
目の前で繰り広げられた一連の流れは、まるで『イリュージョン』だ。
『どこかに繋がる』と予想はしていたものの、
実際に自分の目で見ると驚きを隠せない。

「『扉は繋がらなければならない』……か。
 『納得』したぜ。良いものを拝ませてくれて、ありがとよ」

口元を緩ませてニヤッと笑い、それから少し考え込む。
『能力』を見せてもらったからには、
こっちも披露するのが『フェア』ってもんだろう。
今オレが悩んでいるのは『どう見せるか』についてだ。

「さて――と……。
 『今度はオレの番』ってことになるんだが、どうしたもんかな……。
 『見せること自体』は、別に何も難しくはねェんだが……」

『スウィート・ダーウィン』の『能力』は、
『能力を受けた人間』にしか感じ取れない。
一番『分かりやすい』のは『目の前にいる少年を撃つ』ことだ。
しかし、いくら『偽り』とはいえ、
出会ったばかりの相手に『死』を体感させるというのはどうか――。

「突然だが、お前さん――『スリル』は好きかい?オレは大好きでよ。
 『病み付き』と言ってもいいくらいになァ」

      ――スゥッ……

『スウィート・ダーウィン』を握っている腕を、静かに持ち上げる。
そして、その銃口を自身の『こめかみ』に突き付けた。

「特に『死ぬ一歩手前』くらいの『スリル』が『大好物』だな。
 『デッドラインギリギリのスリル』って奴に目がねェのさ。
 『スタントマン』なんてやってんのも、それが大きな理由って訳さ」

          ガァァァァァ――ンッ!!

次の瞬間、空気を引き裂くような『銃声』が轟いた。
といっても、『スタンド使い』以外には聞こえない音だ。
『スタンドを持つ者』には、『本物の銃声』と同じように聞こえただろう。

「――が……ぎッ……!!」

着弾の直後、その場に膝をつき、前のめりに地面に倒れ込む。
顔面は蒼白の様相を呈しており、
苦悶の声を上げながらもがき苦しむ姿は演技にしてはリアル過ぎる。
あたかも、本当に『瀕死状態』のようだ。

524一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 03:07:10
>>523

「あはは……まあ、ちょっと『演技過剰』だった気もしますけど、
楽しんでいただけたなら幸いです」
「それじゃ、今度は僕が『特等席』で拝見する番ですね」

ぺこり、と一礼して、その場に腰掛ける。
何が起こるんだろう、とワクワクしていたのはいいのだが……

「って、えっ……!?」

突然『拳銃』を自分自身のこめかみに突きつけた『花菱』の行動に、
思わず立ち上がってしまった。またもや、ノートが地面に転がる。

          ガァァァァァ――ンッ!!

「うっ……ま、まるで本当に『火薬』が炸裂するような音……銃撃なんて
経験したことはないけど……昔『花火』の暴発に遭ったときのような……」
「って、わあァ――――ッ! なッ、何をしてるんですかッ!?」

耳をつんざく『銃声』!思わず耳を抑えて呟くが、直後に倒れ伏す
『花菱』を目にして、「それどころじゃない」とばかりに駆け寄り、
抱え起こそうとしながら呼びかける。

「し、しっかりして下さい! 『自分』を撃つなんて……!」

525花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 03:39:53
>>524

「うぐッ……ぐッ……がッ……!!」

地面の上に仰向けに転がり、空いている方の手を天に向けて伸ばす。
その手から徐々に力が失われていく。
やがて、力なく腕が地面に落ちる。
苦悶の声も聞こえなくなっている。
瞳から光が消え失せていき、そのまま動かなくなった……。

     ――ガバッ!

「――ハハハハハッ!!これだぜ、これ!!
 心の奥にガツンとくる『死と隣り合わせ』の『スリル』!!
 全く、いつやっても『こいつ』は『最高』に『スウィート』だ!!
 ハハハハハッ!!」

きっかり『四秒間』が経過し、不意に勢いよく上半身を起こして高笑いする。
先程までの姿が嘘のようだ。
もっとも、『偽りの死』ではあっても『演技』ではないのだが。

「――っと、つい一人で盛り上がっちまった。
 驚かせてすまねェな。いや、別に騙した訳じゃねェんだ。
 傍目から見たら分からねェと思うが、これが『能力』だ。
 『死因』を『再現』する――それが『スウィート・ダーウィン』の力ってことさ」

「さっきは『窒息死』を再現したんだ。
 ちょうど目の前に『湖』があるしよ。
 『湖の前』で『溺れ死んでみる』のも一興だと思ってな」

平静を取り戻し、自身の『能力』について説明する。
これで納得してもらえるかどうかは分からないが、
『出会ったばかりの少年を撃つ』よりはマシだろうと判断した。
目の前で『死んでみせる』というのも、心臓には良くないとは思うが。

526一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 05:52:46
>>525

「ちょ、ちょっとしっかり……ああ、そんなッ!」

明らかに『絶息』せんとする『花菱』の様子に、
がくりと膝を地面につけて衝撃を受けた……のも束の間。

「え、ええ? 今度は『生き返った』……ッ!?」

平然と起き上がる彼の姿に、二度目のびっくりである。
二度目だというのに出力の落ちない驚愕を見せつつ、
彼の説明を真剣な様子で聞く。

「……なるほど……『死因』を再現する、死を演じる
『銃弾』……それが『スウィート・ダーウィン』なんですね。
先ほどの貴方の様子、『演技』にしてはあまりにも
『真に迫り』過ぎていたと思います。本当に
『死に』かけたようにしか見えなかった……」
「僕とは全く違う『力』の性質……とても面白いです」

『花菱』の説明を、少し考えて噛み砕きつつ、
それを彼に確認するように喋る。

「……今日は、とてもいい経験が出来た、そう思っています。
貴方に会えて良かったです」

そう言うと、すっくと立ち上がって声色を正し、続ける。

「僕は『一色』……『一色直(いっしき すなお)』」
「この町の学校に通っています。
色々と教えてくれたこと、ありがとうございましたッ」

びしっと頭を下げて、感謝の意を示す。

527花菱蓮華『スウィート・ダーウィン』:2018/09/17(月) 22:53:26
>>526

「ま、そういうこったな。分かってくれたようで何よりだ。
 一人でバカみてェに転げ回ってるだけだと思われたら、
 どうしようかと思ったぜ」

「『死を演じる銃弾』とは、なかなかシャレた言い回しじゃあねェか。
 ハハハハ、気に入ったぜ。
 『瀕死の演技』だけなら、アカデミー賞も取れるかもなァ」

『スウィート・ダーウィン』を解除し、両手で服の汚れを適当に払う。
そして、少年と同じように立ち上がった。
感謝の意を示す少年に、軽く笑った後で言葉を返す。

「ハハハ――なァに、いいってことよ。
 同じ『スタンド使い』のよしみってことでな。
 オレの方こそ、滅多に見られねェようなもんを見せてくれてありがとよ」

「しかし――お前さんを見てると『名は体を表す』って言葉を思い出すなァ。
 道理で『素直』な訳だ。
 その名前を付けた親御さんは、かなり良いセンスしてると思うぜ」

「オレは『花菱蓮華』って名さ。
 またどっかで会ったら、その時はよろしくな。
 聞いた話じゃあ『スタンド使い』ってのは『惹かれ合う』もんらしいから、
 偶然出くわすこともあるかもしれねェな」

「そんじゃあ、オレはちっとそこらをブラブラしてくるとするぜ。
 またな、『一色』ィ」

ヒラヒラと片手を振って少年に別れを告げ、歩き出した。
こういうことがあるんなら、たまの散歩も悪くねェ。
『スタンド使い』と出会うのは『刺激』になる。
そういう意味じゃあ、オレにとっても『プラス』って訳だ。
『死ぬ一歩手前のスリル』程じゃあなくってもなァ。

528一色 直『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』:2018/09/17(月) 23:54:15
>>527

「『花菱』……『花菱蓮華』さん」

その名前を、しっかりと記憶に刻むように繰り返した。

「本当にありがとうございました……貴方の言うように
『惹かれあう』のであれば、いつかまた会えるでしょう」
「その時を、楽しみにしています……それでは!」

そう言って『花菱』をその姿が見えなくなるまで見送り、
その場に腰掛けて落としたノートを拾い、開く。

「……スゴい体験が出来たぞ……それに『スタンド使い』
って最後に『花菱』さんが言ってたけど、それが
きっとこの『力』の呼び名なんだ……!」
「忘れないうちに今日のことをしっかり書き残さなくちゃ」

   カリカリカリカリ…  パタン

そう言いながら手早くメモを取り、すっくと立ち上がる。

「やっぱり、君と行く道は『良いところ』に続きそうだ。
そうだよね、『ステイルウェイ・トゥ・ヘブン』」

傍らの『スタンド』に一言かけて、足早に公園から出て行く少年。
その行く先に何があるのかは、まだ誰も知らない。

529美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/10/06(土) 20:05:28

「まったく――ウッカリ『なくす』なんて私のドジにも困ったもんよねえ」

双眼鏡を持った一人の若い女が歩いている。
ラフなアメカジスタイルでコーディネートした服装が特徴だ。
その肩には『機械仕掛けの小鳥』が乗っていた。

「ねぇ、今どこにいるの?」

『シゼンコウエン ノ ナカ デス。
 ソラ ト キギ ト トリ ガ ミエマス』

「いや、それは分かってるんだけど……。参ったなぁ。
 私も探すから、もし誰かに取られるとかしたら教えて」

女は肩の上の『小鳥』と喋っている。
それから双眼鏡を構える。
その状態のまま、グルッと体を一回りさせる。

「こうやって見渡してみると見つかったり――
 なぁんて都合のいい話がある訳ないわよねぇ」

530美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/10/13(土) 17:29:37
>>529

「そうだ――『音』は?何か聞こえない?」

「『アシオト』 ガ キコエマス。
 ソシテ クルミサン ノ 『コエ』 ガ キコエマス」

「……なるほどね。
 思ったよりも近い位置にあった訳だ。方向は?」

「ゲンザイチ カラ 『ホクセイ』デス」

「そこから北西方向に私がいるって事は、私から見ると南東って事よね。
 待ってて。今から迎えに行くわ」

肩の上の『小鳥』と会話しながら、森の中へ歩き出す。
程なくして、なくした『スマホ』を見つける事ができた。
それからしばらくバードウォッチングを続けた後、自然公園を立ち去っていく。



【撤退】

531三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/10/28(日) 22:15:14

秋――それは紅葉の季節。
鮮やかに色づいた木立の中に、一つの人影が見える。

        ザッ

「――……」

背は高くない。
小学生か中学生というところだが、どちらかは見分けにくい。
顔立ちは中性的だ。
見ようによって、少年にも見えるし少女にも見える。
これも判別しづらい。
ブレザーとスラックスといういでたちだが、制服ではないようだ。

        スッ

その場に屈んで、足元から一枚の落ち葉を拾い上げる。
赤く色づいた紅葉を手に取って、近くで眺める。
その綺麗な色合いに思わず見惚れていた。

(――キレイだなぁ……)

(僕が死ぬ時も、こんなにキレイに死ねたらいいなぁ……)

(でも――死にたくないなぁ……)

手にした紅葉を見つめて、ぼんやりと物思いに耽る。

532三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/11/01(木) 18:06:45
>>531

しばし紅葉狩りを楽しんだ後、その人影は姿を消した。

533スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/19(水) 03:12:34

    ズギュン!

「『ティーンエイジ・ワイルドライフ』ッ」

          (違う)

   パッ

            ズギュン!

「『ティーンエイジ』ッ!」

          「『ワイルドライフ』ッ!」

               (これも違う)

    パッ

そいつが何をしているかと言えば、
スタンドを出したり消したりしていた。

        ズギュン!

「――――『ティーンエイジ・ワイルドライフ』」

(これもなんか違う。
 ワイルドライフだもん。
 しかもティーンエイジ。
 しっとりした感じではない。
 ……疲れてきた。
 スタンドって疲れるんだな)

            パッ

「……」

           ガサゴソ

かと思えば座り込んで、カバンから弁当箱を出す。
こういう奇行はけっこう目立つので、誰か見ているかもしれない。

534三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/21(金) 01:25:41
>>533

   《………………》

もしかすると、木立の中から視線を感じるかもしれません。
フードを目深に被り、肩にシャベルを担いだスタンドが幽鬼のように佇んでいます。
一言で表現するなら、『墓堀人』というところでしょうか。

         スッ――

スタンドが、担いでいたシャベルを地面に下ろしました。
剣先型になっているシャベルの頭部が、鈍く光っています。
『恐竜の牙』程ではないですが、使い方によっては武器にもなるでしょうか。

               ペコリ……

ふと、スタンドは頭を下げました。
どうやら挨拶のようです。
敵意とか、そういうものはなさそうに見えますが。

535スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/21(金) 22:30:29
>>534

「ん、誰か見てるでしょ?
 人の飯をじろじろ見るのは、
 混ぜて欲しいやつか、
 盗ろうとしてるやつかって、
 相場が決まってるらしいぜ」

「――――って、何こいつ」

         スッ

「もしやオバケかな?」

スズは立ち上がった。
ダボついた服を着た、
細長い体つきで、
目の細い少女だった。

「『ティーンエイジ・ワイルドライフ』」

「……の、知り合い?
 なんていないよな。
 生き物じゃないもん」

        ザッ

    「ん」

         ザッ

「アタマ下げるとかけっこう礼儀あるじゃん。
 じゃあ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』!」

          「も、頭下げさせるよ」

   ガグッ

幽鬼とは真逆の荒々しさで、
噛みつくように恐竜人が首を垂れる。

「なんか用? いっとくけどおにぎり一つすらあげないぜ」

スズ自身はというと、弁当を片手にそれを眺めていた。

536三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/21(金) 23:17:58
>>535

《…………こんにちは》

スタンドが喋りました。
頭巾の陰に隠れているので、表情はよく見えません。
そもそも、表情があるのかは微妙なところですが。

《たまたま歩いてきたら、同じような人がおられたので、つい見てしまいました》

《ごめんなさい》

《人様のお弁当に手をつける気はないです》

        トスッ

林から出た幽鬼は、適当な樹の根元に腰を下ろしました。
その傍らにシャベルを立てかけています。

《『ティーンエイジ・ワイルドライフ』とおっしゃるんですか》

《はじめまして》

《『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』と申します》

恐竜人を眺めて、墓堀人は名前を名乗りました。
本体らしき人間は、近くにはいないようです。

537スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/21(金) 23:53:57
>>536

「へぇ、常識外れな存在なのに、
 常識度は素晴らしいみたいだ。
 たくあんくらいならあげてもいいね。
 それに『同じような人』だって?
 『ティーンエイジ・ワイルドライフ』とは、
 まるっきり似てないが……存在の話」

「つまりこいつは、『スタンド』だ」

        スッ

饒舌な独り言のようにスズは語り、

「……」

「『ティーンエイジ・ワイルドライフ』」

         「は口を利かない」

「だから、こいつに『自己紹介』は無い」

それからぽつぽつと返答を返した。

「だけど」

「人間の自分は『斑尾スズ』で、
 こいつは『ティーンエイジ・ワイルドライフ』」

「それは、ちゃんと口にすべき事だな」

得心したように頷く。
変わり者、なのかもしれない。

        キョロ

              キョロ

「…………『人間』はいないのかい?」

そして、少し考えてからシンプルに聴いた。
合わせて腰を下ろすわけでなく、見下ろす形で。

538三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/22(土) 00:24:28
>>537

《『たくあん』》

《嬉しいですけど、この口では食べられないので》

《『斑尾スズ』さん》

《はじめまして》

幽鬼は小さく礼をします。
見下ろされていても、それを気にした様子はなさそうです。

《『人間』は――ちょっと遠いところにいます》

《今、歩いてきてます》

そう言って、頭巾の下の目を林の方へ向けます。
徐々に、軽い足音が聞こえてきました。

     ザッ……

「……はじめまして」

「『三枝千草』と申します」

      ペコッ

木立から現れた人間が、先程の幽鬼のようにお辞儀をしました。
小柄で、キッチリしたブレザーとスラックスを着ています。
中性的な容姿と高い声のせいで、少年か少女かは分かりません。
子供なのは確かですが、年齢もハッキリはしていません。
一番可能性が高いのは中学生くらいでしょうか。

「『同じような人』を見かけたのは初めてです」

「あの…………」

「たくあん、僕は食べられます」

539スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/22(土) 01:39:23
>>538

「今のはいわゆる、独り言だね。
 たくあんを本当にあげるとは、
 こいつには一言も言っていない。
 もっとも、これも独り言だけど」

「……」

     ザッ

       ザッ

年の頃は、互いにそう離れてはいない。
少女は冷涼な雰囲気を纏っており、
長身と相まって年齢を掴みづらくしている。

「スズも、初めてだ」

「いるとは思ってたけど」 

「…………・『三枝千草』」

「やる」

          スッ

そして、はしで摘まんだたくあんを差し出した。

「『食べられる』ということは、
 欲しいという事だと理解するぜ。
 そして欲しがった以上は、
 こいつは食べなければならない。
 このたくあんは中々うまいもんだが、
 たくあんだけで食べるのはどうなんだろうね」

    スゥーッ・・・

           「食べるといい。その口で」

540三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/22(土) 02:07:36
>>539

「――――いただきます」

       パクッ

言われるがままに口を開けて、差し出されたたくあんを食べました。
口の中で咀嚼します。
味が染みてます。

          ゴクン

「おいしかったです」

「ご馳走様でした」

       ペコリ

スズさんにお礼を言います。
でも、お返しできるものが何もないです。
その時、ふと思いつきました。

   「『イッツ・ナウ』」
              「『オア・ネヴァー』」

スタンドの名前を呟くと、墓堀人が動き出しました。
手前の地面を、シャベルで掘っていきます。

     ザック ザック
              ザック ザック

「まず穴を掘ります」

          ポイッ

     「埋めます」

胸ポケットから抜いた万年筆を穴の中に落とします。
その上から土をかけて、埋め直していきます。
やがて、完全に穴は埋まりました。

         「掘り起こします」

     ザック ザック
              ザック ザック

そして、穴を埋めた場所から離れたところを掘り返します。
すると、さっき埋めた万年筆が出てきました。
それを穴から取り出して、手で軽く土を払います。

「たくあんのお礼です」

「楽しんでもらえたら嬉しいです」

541スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/22(土) 02:23:23
>>540

「うさぎに餌をやってる気分だよ。
 ザリガニ釣りの気分でもいいな。
 人間にこういうことをするのは、
 スズとしては初めてなわけだ」

「……」

       スッ

「おいしかったなら良かった。
 なにせあと3切れ、残ってるから」

はしを引っ込めて、ケースにしまう。
そして穴を掘って埋めるのを見ていた。

「……ちょっと手品みたいだ。
 それが『能力』というやつかな?
 けっこう楽しいよ。なにせ初めてだもの」

「ああ」

「初めての事は楽しい物だ」

不思議な現象だと、声に実感があった。
スズもまた『スタンド使い』ではあるが、
能力というのはあまりに一つ一つ違う。

「『ティーンエイジ・ワイルドライフ』」

            ズズ

「こいつは『キバ』が武器だよ」

開かせた口には、ナイフのような牙が並んでいた。

「……」
 
「それ位は口にすべきだと思ったわけだ。
 たくわんのお返しが能力だなんて、
 いくらなんでもお釣りが必要だから。
 特に『平等』を重んじてはいないけど、
 『義』ってやつに、反する気がするからさ」
 
          「このキバを見るのは楽しい?」

542三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/22(土) 02:46:40
>>541

「大丈夫です。僕も『全部』は披露してないです」

残っていた穴を埋めておきます。
それから、『仮死状態』になっていた万年筆を胸のポケットに戻します。
物が物なので、ほとんど変わっていないですが。

「キバ――――ですか」

「とても強そうです」

『ティーンエイジ・ワイルドライフ』の牙を、まじまじと見つめます。
『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』は遠くまで行ける代わりに力は弱いです。
だから、余計に注意を引かれてしまいます。

「楽しいです」

「固い肉も食べやすそうです」

そして、視線を動かしてスズさんの方を向きます。

「『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』は『妖甘さん』に出してもらいました」

「スズさんも『妖甘さん』に会ったんですか?」

『同じような人』なら、出所も同じかもしれません。
そんなことを思ったので、スズさんに尋ねてみました。

543スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/22(土) 03:23:19
>>542

「なら、たくあんでよかったか」

       ク ク ク

「だけど」

「もう見せてしまったもの、な。
 見せた物をなかった事にはしない」

           ガチンッ

「というか出来ないけど」

音を立てて牙が閉じる。
空気が噛み潰される。
味はしないのだろうが、
まるで捕食するかのように。

「『妖甘』? ……ちがうね、それは。
 スズが会ったのは『道具屋』と言った」

「……」

「『ティーンエイジ・ワイルドライフ』は、
 そこで肉を食べたら目覚めた『力』だ。
 固い肉だった。味付けは良かったけど。
 ただ、多分肉を食べたからじゃあなくッて、
 肉って『品』を選んだのが原因だろうな。
 そういう風な事を聴いたような気がする」

         スゥーッ

息を吸い込む。
独り言ではなく語り掛けるとき、
スズはそのような姿勢をする。

「与える側が『複数人』いるなら、
 受け取る側は、もっといると思う」

「……そうなると、あまり見せびらかすのは不味いな、これは」

544三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2018/12/22(土) 03:51:07
>>543

「『道具屋さん』ですか。『妖甘さん』みたいな人が他にもいるんですね」

「初めて知りました」

自分のことを思い出します。
『妖甘さん』に会った時のことです。
そのことは、よく覚えています。

「僕は『絵』を描いてもらいました」

「『根で棺桶を包む花畑』――それが僕の絵だと」

「そしたら目覚めたみたいです」

幽鬼のような墓堀人が僕の隣に立ちます。
二つの視線が、息を吸い込むスズさんを少し不思議そうに見ています。

「そうですね…………」

もしかすると、中には危険な人もいるかもしれません。
運が悪いと、それが原因で死んでしまうかもしれません。
それは怖いし、とても嫌です。
もし惨い死に方をしたらと思うと、恐ろしいです。
まだ『一番素晴らしい死に方』を見つけられてないのに、そんな目には遭いたくないです。

「じゃあ、このことは僕とスズさんの秘密にしましょう」

「僕は誰にも言いませんから」

言うと同時に、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』を解除します。

「僕はこれで」

「スズさん、楽しかったです。ありがとうございます」

「またどこかで会えたら嬉しいです」

「失礼します」

         ペコリ

別れの挨拶をして、また歩いていきます。
たくあんのお礼のお釣りに力を少しだけ教えてくれたスズさんは良い人です。
こういう人に出会っていけば、『素晴らしい死に方』が見つかるかもしれません。

545スズ『ティーンエイジ・ワイルドライフ』:2018/12/22(土) 04:02:30
>>544

「『絵』……あまりにも違うな。
 『与える手段』も能力と同じで千差万別、か」

         バシュン

『ティーンエイジ・ワイルドライフ』は、
閉じた牙から広がるように消えていく。

「ああ、秘密にするのが良いだろう。
 能力の事も――――持ってること自体も、
 スズがここで掛け声の練習をしていたのも、
 今から、こいつしか知らない事になった」

         フリ
             フリ

袖で隠れた手を振る。

「お礼はいらない。
 もう『等価』だからな」

「だけど」

「口にした方がいいか……楽しかった。じゃあな」

   ザ ッ

         「……」

そうしてそいつは元の位置に戻って、
また弁当の残りを食べ始めたのだった。

546草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/22(土) 22:54:48
バチ
バチ

パチッ

「ンン…すっげー煙い」「生木は煙いな」「生木だもんな」

寒い時期で人もあまり来ない、湖畔の『キャンプ場』。
夏はバーベキューだとかで盛り上がるわけだが、寒いのでみんなワザワザ外で遊んだりとかはしない。
なので、一人で焚き火をしたりとかして遊ぶにはモノスゴくうってつけの時期ってわけだ。

547薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/23(日) 00:53:19
>>546

「あら、先客がいた」

         スタ

    スタ

「お邪魔じゃなければ話しかけるけど、
 それって何かを焼いてたりするの?
 私、キャンプって詳しくなくってさあ」

確かに草摺に話しかけているようだった。
白い髪と赤い目が異様な少女だった。

「それとも、それはそーいう遊び?」

「春になったら家族で来ようと思っててね。
 もしよかったら、教えてくれないかしら」

言葉通り、アウトドア大好きって風ではない。
あまり動きやすくも無さそうな黒いダッフルコートが揺れる。

548草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/23(日) 08:39:43
>>547
「ゲッホっ」「うん?」

話しかけられているのに気付いてそちらを見る。
白い髪と赤い目に少し驚くが、自身も金髪でピアスだ。そーいうオシャレもあるよな。

「これからテント張って、何か食べるもん作って、寝るだけっていう遊びッスよぉ」

アウトドア派だ。
焚き火はいま、火が大きくなり始めたところ。
傍らには大量の薪と、煤けた飯盒と、重そうな鉄の鍋が置いてある。

「春、あったかいし良いッスねェ」「人も多くなるし」「でも虫も出てくるからねェ」

薪を折っては火にくべながら応えを返す。柄のわるそーな見た目だが人当たりは良さそうだ。

549薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/23(日) 23:02:19
>>548

「ふぅん、そういう感じなのね。
 それってけっこう楽しそうじゃん。
 やる事に『ゆとり』があるっていうかさ」

「『スローライフ』って感じなのかな。
 『やらなきゃいけない』遊びじゃなくて、
 『やりたいことをやる』遊びっていうのかな」

飯盒や鍋などキャンプ道具に、
それなりの好奇の視線を向ける。

「ああ、虫は嫌ねぇ。
 地面が冷たいのと、
 どっちが嫌かって話だけど」

               スッ

「あったかいのと混んでないの、
 どっちが『良いか』って方が前向きか。
 冬に来るってのもありかもしれないわね」

屈んで、地面に手を付ける。
すぐに離して白い息を吹きかけた。

「その口ぶりだと、結構ベテラン?」

「もしよかったら、だけどさあ。
 もうちょっと色々教えて欲しいな。
 お勧めのキャンプ料理とか。どう?」

その姿勢のまま、見上げる形で問いかける。
兎のような見た目に反し、弾むというより落ち着いた声色で。

550草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/24(月) 15:55:43
>>549
「『ベテラン』ってこともねーッスけどぉ」

初心者のようなぎこちなさは無いが、ベテランのような無駄の無い動きでもない。
厚手のシートを焚き火の前に敷いては道具を並べ、火加減から料理までそこに座って行えるように整え、
「あっ」と気付いて小さな折りたたみの椅子を開いて『薬師丸』に寄越す。
支柱を一本立ててテントを広げ、六ヶ所ペグダウンすれば完成だ・・・あとは火の前に座ってぼけーっとしているだけだ・・・

「料理スか」「米たくだけでも楽しいッスけどねェ。でも最近ハマってんのは鍋ッスねェ」
「安物だけどこーいう『ダッチオーブン』ってんですけどこの鉄の鍋がね。煮炊きがスッゲーウマく出来るんよね」

微妙にオタクっぽい早口になってきた。

551薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/24(月) 22:35:03
>>550

「あら、どうも。気が利くのねぇ〜え」

              カチャ
                   ストン

椅子に座って、膝に肘をつく。
頬杖をつくような姿勢で見守る。

「へえ、そうなの? じゃあ、奥が深い遊びなのね。
 素人目には、けっこう手際が良さそうに見えたからさ」

(見てても上手いのか下手なのかわかんないけど、
 まあ、本人がそういうのならそういう事にしとくべきね)

素人目にはぎこちなさが無いだけで十分。
しかし恐らくもっと上手い人間もいるのなら、
そこを下手におだてるつもりもないのだった。

「鍋、良いわね。え、なに、『ダッチオーブン』?
 ……あ、料理名じゃなくて鍋の名前なの。
 へ〜、じゃあ、今日もその鍋で何か作るんだ?」

鉄鍋に視線を向ける。。
普通の鉄鍋と違うのだろうか?
そもそも普通の鉄鍋も、そう詳しくない。

「当てて良い? ……カレーライス!」

「当てずっぽうだけどね。
 私、結構運が良い方だからさ、
 もしかしたら当たってたりしない?」

知っている鍋を使う料理を挙げただけだと思われる。

552草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/24(月) 23:53:23
>>551
蓋まで鉄で出来ている、重そうな鍋だ。
それを焚き火にかけ、蓋の上にも炭を置いていく。『ダッチオーブン』ならではの調理法だ・・・

「オーブンってだけあって下からも上からも加熱可能っつーワケでね、蓋も重いしけっこー密閉性あって『圧力鍋』みてーに」
「でも今日はライスは無いけど、カレーは良い線いってるッスね。や、カレールー使ってないけど、中身はスパイス効かせた鳥の蒸し焼きでね」
「かなりウマいはず」「で、ビールもあるしね」

出来上がりまで時間はかかるようだ。
口調は早口だが動きはのんびりと、ヤカンだとか小さな鉄板だとかを焚き火にかけていく。

553薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 01:01:48
>>552

(すっごい熱弁……よっぽど好きなのね。
 にしてもビール? ハタチ超えてるのかな。
 まあ、超えてなくても別にいいんだけど)

車に乗るわけでもないのだろうし、
まるきり子供にも見えない。自己責任でいい。

「ああ、それでオーブンっていうんだ。
 なるほどね、ちょっと合点がいった。
 鍋なのにオーブン? って思ってたのよ」

感心したような顔で、焚き火を見つめる。
炎を見るのが趣味という訳でなくても、
なんとなく見ていたい惹きつける物がある。

「あら、外しちゃったか。ざ〜んねん。
 でも、鍋で鳥の蒸し焼きってのは良いね。
 キャンプっぽいっていうかさ……
 家庭料理とは違う感じが良いと思うわけ」

「こういう遊びってさあ、多分だけど、
 そういう『それっぽさ』が大事なのよね」

凝った調理法ではなく、豪快な蒸し焼き。
あるいは最新の器具ではなく鉄の鍋と飯盒。
家があるのに外で寝るという遊びには、
そーいうのが大事なのだろうと、なんとなく思う。

554草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/25(火) 22:03:47
>>553
「そーそー」「そーなんスよねェ〜」
「違う感じとかそれっぽさとか、何かそーいう『感じ』がねー」「いいんよ」

いくらでも便利で簡単にできるのだ。
別に蒸し焼きしたいなら良い圧力鍋と良いガスコンロなりIHヒーターなりでよほどウマいのができるだろう。
失敗もないし。清潔だし。楽だ。

「『あえて』!『あえて』焦げるかもしれねーってちょっと気にしながらやるのが『良い』んスよなぁ〜ッ」

「・・・」
「・・・」
「・・・ゴホン」

「まーこういう遊びッスよ」「ウン」

熱く語っているうちにもう出来上がりだ。蓋を持ち上げれば肉と香辛料の混ざったにおいが流れてくる。

「今日のもウマくいった」「へっへ」「もし良かったら一口たべます?」「これフォーク。今水で洗ったからキレーッスよ」

気さくに勧める。
もはや友達気分だ。親友だったのかもしれないな・・・

555薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 22:46:51
>>554

「『既製品』のステキな洋服と、
 『手縫い』のセーターだと、
 違う魅力があるっていうかさ」

「なんとゆーかそんな感じだよね。
 『洗練』されてないからこそ、っていうか」

裁縫好きから妙な例えになったが、
要は草摺と同じ考え、『そういうこと』だ。

薬師丸はてまひまってものを礼賛しないが、
てまひまが生む『雑味』は確かに楽しめる。

「なんとなくわかって来た。
 キャンプって遊びの入り口が」

「ん、貰っていいの?」

食べ物はありがたい。

「それじゃ、遠慮なくもらっちゃおうかな。
 実はそれ見ててけっこーお腹空いて来てたの」

               「ありがとね」

フォークを受け取り、小さめの一口をむしろう。

「あのさ、貰うばかりじゃ私の『良心』がうずく。
 今はあんまりいいもの持ってないけどね、
 何かきっとお返しするから……ぜひ覚えといて」

食事を共にすればそれはもう、知った仲。そうだ、親友でもいい。
だが、そのためには『お返し』の約束が必要だ。薬師丸はそういう『線』を愛する。

556草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/25(火) 23:06:56
>>555
「へっへっへ」

同意の笑みだ。口一杯に肉をほおばっているのでマトモに喋れないということもある。

「へっへ」「むぐ」

ビールで流し込んだ。おいしい!

「草摺十三(くさずり じゅうざ)」「ッス」「同じ鍋のメシ食った仲ってことで」

町中にある小さいが老舗の『造園屋』の屋号と苗字が同じである。
薬師丸は気付かなくても良いしこの先まったく知らなくても構わない。

「でもお礼ーとかお返しーとか気にしねーッスよ」「俺は」
「あんたさんの気が済むならいーし覚えとくけど、あ、水コレ。はい」「辛いっしょ」

557薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/25(火) 23:18:14
>>556

「『薬師丸 幸(やくしまる さち)』」

「好きに呼んでくれていーよ。
 薬師丸でも、幸でも。
 なにせ『同じ鍋のメシ』だからね」

薬師丸はまっとうな『市民生活』と縁が薄く、
造園という立派な仕事の屋号にもまた縁薄い。

     モグ

「! ……ありがと、やっぱあんた気が利く。
 辛いねこれ。でも、それが『良い』。今日は寒いし」

        ゴクゴク

受け取った水を飲み、笑みを浮かべる。
それでも、確かな縁がここにある。

「お返しは、ま、私の自己満足だからさ。
 こう見えて『人を幸せにする』のが生業でね。
 あ、変な宗教とか、悪徳商法じゃないけど」

                ス

「『幸せ』が欲しくなったらこの番号に電話してちょーだい」

それに自分の満足を上乗せするのは、
幸運を売る少女としての『サガ』のようなもの。

兎の絵が描かれたポップな『名刺』を、そっと差し出した。

558草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/27(木) 00:31:02
>>557
(さっちゃんだな)

造園屋の息子は名刺を受け取る。
自分のは無いので渡せない。軽く詫びる。

「『幸せ』ッスか〜」

怪しむとかではなく単純に『よくわからない』って声だ。

「まーこうやって」「遊んでたら友達が増えていくのが今は『幸せ』ッスからねェ」「へっへ」

その意味では充分『生業』とやらは果たせているというわけだ。
日も落ちかけ、薪を放り込んで火を大きくした。

559薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/27(木) 01:10:58
>>558

名刺を返されないのは普通だ。
ビジネスではないのだから。
詫びには気にしないで、と一言返した。

「そ? 嬉しい事言ってくれちゃって」

    ニコ

「じゃ、改めて言うけどさ。
 今日から私たちは友達。
 よろしくね、ジューザくん」

「私も、友達が増えて嬉しい」

満面の笑みを浮かべて、そう宣言する。
言葉にするなんて無粋かもしれないけど、
言葉にするから確かなものになる気もする。

「っと、ちょっと暗くなって来た。
 私、家族を待たせてるから……そろそろ帰るね」

「チキンとお水、ご馳走様」

          ザッ

「ね、なんとなく、また会う気がする。それじゃあね」

完全に暗くなる前に、帰路につくことにした。
もし何か言葉があれば、それを聞いて、答えて帰ることにしたのだ。

560草摺十三『ブレーキング・ポイント』:2018/12/28(金) 22:00:05
>>559
「『なんとなく』、俺もそんな気がするッスねェ」
「へっへ。じゃあ。気ィつけて」

友達が増えることは良いことだ。
一人で遊ぶのも友達と遊ぶのもとても楽しい。
遊び始めたときに仲良くなって、その余韻のまま遊べるのは最高に良い。

「♪」

    パチ ッ

鼻歌混じりに薪をくべ、寒くて長くて、楽しい夜を待つとする。

561薬師丸 幸『レディ・リン』:2018/12/28(金) 22:15:48
>>560

「寒くなるから、あんたも気を付けて。
 寒いのも楽しいのかもしれないけど、ね」

         スタ
            スタ

それだけ返して、去っていった。

『スタンド使い』として『惹かれ合う』時も、
いずれ来るかもしれないが――――

少なくともはじまりは異能など関係のないただの友達だ。

562鉄 夕立『シヴァルリー』:2018/12/30(日) 20:20:54
「・・・・・・・・・・」

『ブン』『ブン』

日も沈みかけた夕暮れ。公園の片隅で、一人の学生服の少年が素振りをしていた。
その手は竹刀を握り、頭上に掲げ。そして正面、次は手元まで振り下ろす。
同時にすり足で前へと進み、そして下がる。それをひたすら繰り返している。

563鉄 夕立『シヴァルリー』:2018/12/31(月) 22:32:47
>>562

『ブゥン』『ピタリ』

「・・・千五百」

間に休憩を挟み、300×5セットを振り終える。
ゆっくり呼吸を整えると、竹刀から鍔を外し、まとめて竹刀袋に入れた。
そして身体が冷えない内にマフラーと上着を羽織って、スマホの画面を見る。

「年越しそばを食べたら・・・初詣か」

家族への連絡を入れると、鉄は帰途に着いた。

564<削除>:<削除>
<削除>

565鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 22:46:25
既に夜の帳が下りた公園、その端にある雑木林。
学生服姿の少年が、大きな黒い革製の袋を背負って入り口に立っていた。

「・・・・・・・・」『キョロキョロ』

辺りを見回した後、こっそりと目の前の林の中に入っていく。
いかにも怪しげな姿だった。

566???:2019/01/25(金) 23:12:58
>>565

……シュピッ !!

背後の暗闇から『何か』が『鉄』の足元目がけて、投げつけられた!

「青少年がこんな夜中に、怪しい荷物……怪しいですね。」

少女の声が響いた。

567鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 23:23:23
>>566

『ビクッ』

「・・・・・なッ!?」

実際に後ろめたいことでもあったのだろう。
少年はたじろぎながら、飛んできた何かの正体を確かめる。

「何者だッ!」

どこにいるかも分からない声の主に、そう訊ねながら。

568松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/25(金) 23:36:14
>>567
地面に刺さった飛んできたモノを確かめる……

  これは……!
    これは……!!
      これは……!!!
        『メガネ』 だ。MEGANEだ。英語で言うとGlasses。

「私の『メガネ』は非行行為を見逃さない。」
メガネをクイッと整えながら、14歳ぐらいの黒髪メガネ制服少女が闇の中から現れた。

「何者かと問われれば……」

「清月学園中等部2年 風紀委員 松尾 八葉(まつお やつば)!」

「夜の風紀の乱れに即参上!」
少女が参上した。

569鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/25(金) 23:52:38
>>568

「─────」

(メガネ?)
(いや、何故メガネを?そもそも投げつけるものではないはずだろう?)

『ゴシゴシ』

目をこすってみたが、やはり飛来物はメガネにしか見えなかった。
これは自分にこそメガネが必要なのではないか?暗闇でよく見えていないのかもしれない。
だが、近づいてみてもそれはメガネだった。鉄は困惑した。

「…こんばんは」
「オレは清月学園高等部二年生、鉄夕立(くろがね ゆうだち)だ」
「ええと…松尾さん、よろしく」

「その…何故、メガネを投げたんだ?」

色々と気になるところはあったが、まず先にツッコミたいところを訊ねてみた。
ひょっとしたら、お互いに何か勘違いをしてるのかもしれない。

570松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 00:08:03
>>569
「なぜ、メガネを投げたか?」

「いい質問です。
 夜中に風紀パトロールをしていたら、
 怪しい人影が見えたので、手近にあったメガネを投擲したまでです。」

「鉄さんは高等部2年生ですか、先輩にあたるわけですね。」

「風紀委員としてお尋ねしますが、鉄さんこそ、この夜中にそのような出で立ちでどこへ向かわれるのでしょうか?」

「特にその『黒い袋』!怪しすぎます!」
ビシッと袋を指さす。

571鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 00:26:55
>>570

「・・・・・・・・・・」

ダメだ、説明を聞いても全く分からなかった。
いや、ほとんど成り行きは分かったのだが、怪しい人影を見つけたのでメガネを投げた、この部分が全く分からなかった。
ひょっとして、どこかの家系にはメガネを暗器として扱う技術もあるのだろうか?
いや、とりあえずそうしておこう。この部分に突っ込んでも理解できる気がしない。

「あぁ、これか」「今日は自主練に来たんだよ」
「オレは『剣道部』だから」

確かに鉄が背負っていたのは、普段防具を入れておく『防具袋』だ。
しかし、疑問が残る。剣道の練習に来たならば、何故『竹刀袋』はないのか?

「夜間に出歩いたのは申し訳ないな…今度からはもう少し早めにしておくよ」

(中学生でよかった…緊張せずに済むからな)(流石に苦手なタイプだったら、隠し切れなかったかもしれない)

572松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 00:35:59
>>571
「むむむ、防具袋。
 確かに一見おかしくなく見えますが……ズバリ言いましょう。」

「『防具』だけで練習をするのですか?
 素振りなどの練習ならむしろ、『竹刀』だけでよいのでは?」

「と、このように、私の『メガネ』は不正を見逃さないのです。」
メガネの奥から不審な視線を向けている。

573鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 00:55:06
>>572
>「『防具』だけで練習をするのですか?
> 素振りなどの練習ならむしろ、『竹刀』だけでよいのでは?」

『ギクリ』

(い…意外と鋭いぞ、この子ッ!)
(参った…一般人に話しても分かり辛いだろうし…頭のおかしい人間だと思われてしまうな)

「そ…そうだな、うっかり忘れてしまったみたいだ」「ははは」
「それではオレは帰るとするよ」「練習しようにも『竹刀』を忘れてしまったからな」

『クルリ』

そういって鉄は松尾に対して背中を向ける。隙だらけだ、『防具袋』に手を伸ばせば簡単に届きそうである。

574松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 01:04:06
>>573
「むむむ……怪しいです。」

「風紀の乱れは、心の乱れ!」

「風紀クロスチョップ!」

松尾の背中の防具袋目掛けて、軽いクロスチョップでとびつき、引っ張ってみる。

「持ち物検査の型!」

575鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 01:12:17
>>574

『グラァッ』

「なっ?!」「意外と破天荒なタイプだなキミはッ!」

松尾に飛びつかれ、バランスを崩した鉄は、思わず『防具袋』を手放した。
すぐにそれは地面に落ちて音を立てつつ中身の一部を散らばらせる。

『ガシャアン』

「・・・・・・・・・・」

それは、『刃物』だった。防具袋からこぼれたのは、『錐』と『ペティナイフ』。
その他にも、『包丁』などの雑多な刃物が防具袋の中にゴチャゴチャ詰められている。

『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』

「見て…しまったか…」

鉄の刃先のように斜めになったシャープな前髪の下で、鋭い目が松尾を見下ろしている。

576松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 01:30:49
>>575
「は、刃物!? 大量の……!?」

「これは……強盗ですか!?殺人ですか!?それとも両方……!?」

「ああ、これはまさか『好奇心は風紀委員を殺す』のことわざにのっとり、私をも……!?」

   『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』 

バッと後ろに下がり、顔の『メガネ』を外す。

   『┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨』 

「粛清の時です………!」
『メガネ』で覆われていた表情が消え、鋭い視線が鉄へと向けられ……

「『ターゲット・プラクティス』!」
真黒な忍装束のスタンドがその傍らに立った!

577鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 01:44:43
>>576

>「ああ、これはまさか『好奇心は風紀委員を殺す』のことわざにのっとり、私をも……!?」

「いや、そんなピンポイントな諺ないだろ」

ツッコミつつも、溜め息をつく。時間がかかるが、なんとか説明して理解してもらうしかない。
下がりながらメガネを外す松尾に対して、鉄は地面に落ちた『ペティナイフ』を拾った。

(伊達メガネだったのか…)
「驚かせてすまないな…だが、これにはちゃんとした理由が─────」

そして、鉄は目を見開いた。
松尾の傍らに立つ、忍び装束の『スタンド』を見て。

「まさか、キミも…『スタンド使い』ッ!」「…だがこれは手間が省けたかな」

逆手に握った『ペティナイフ』。それを松尾に見せると、鉄はおもむろに自らの喉へ突き刺すッ!

『ヒュンッ』

『トスッ』

───だが、鮮血は出なかった。勢いは十分、そして今もその刃先は首に触れているというのに。

578松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 09:01:21
>>577
「あっ……自殺はいけません!自殺は!」
『ペティナイフ』を喉に突き立てようとした鉄に言葉を投げかける。

「……あれ?」
……が、刺さらないのを見て疑問と困惑の表情を浮かべる。

「まさか、この刃物たちは……」
足元に転がっている『錐』を手にして、その切っ先を指先でツンツンしてみる。

「偽物?作り物?なまくら?」

579鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 19:53:18
>>578

「いや、それらは『本物』だよ」「たった今『なまくら』にしたんだ」
「オレの『シヴァルリー』で」

ペティナイフを握る鉄の手に重なって見えるのは、金属製の籠手を身につけたような人型の腕。
『ターゲット・プラクティス』と同じ─────『スタンド』だ。
錐を拾い上げる松尾に対し、今度は左手を向けた鉄。右手と同じくヴィジョンが発現し。

『ズキュウンッ!』

その錐から、同じ形だが幽体のようなものが鉄の『スタンド』へと飛んでいき、吸い込まれる。
その後ならば松尾が切っ先に指を当てても、傷どころか痛みすら感じないだろう。
あたかも皮膚が頑丈になったようだが、金属による冷たい感触は変わらない。

「『斬撃を統制する能力』」
「オレが殺傷力を奪った刃は、誰であれ何であれ傷付けることはできない」
「そういう能力なんだ…キミも別の能力を持ってるように、オレはこういうことができる」

580松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 20:22:13
>>579
  ツンツン……

「キレテナーイ……」
『錐』をツンツンしながらそんなことを呟く。

「なるほど。もしかして『その能力』を訓練しに出歩いていたわけですか?」

581鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 20:43:20
>>580

「その通り」「自主練は自主練でも、『スタンド』のってことさ」
「…まぁ、人間みたいに筋力や技術が鍛えられるわけじゃあないだろうが」
「扱いに慣れておくという点では、間違いではない…と思いたいな」

歯切れの悪い言葉を使う。
そもそも目覚めてから日が浅い自分には、どうすれば『スタンド使い』として強くなれるか分からない。
『剣道』と練習方法はまるで違うのだろう。
それでもじっとなにかを待つよりは、動いた方がマシだと思っている。

「この前会った人も『スタンド使い』でね」
「その人がふと、『スタンド』の危険性を示唆したんだ」
「平石さん…その人は恐らく危ない人でないけれど、他に危険な『スタンド使い』がいないとも限らない」
「人を守れるくらいには、強くなっておきたいからな」

他にも散らばった刃物を、『防具袋』の中にしまい込んでいく。

「松尾さんは?目覚めてから結構経つ…所謂ベテランなのか?」

582松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 21:24:51
>>581
「なるほど、それは……お邪魔をしてしまいましたね。」
『メガネ』をかけ直す。

「片付けるのを手伝わせてください。」
散らばった刃物を『防具袋』に片付けていく。

「私も……まだ目覚めたばかりですよ。
 スタンドと言う『コレ』も『風紀を守る役に立つ』くらいにしか考えてなくて……。」

「しっかりしているんですね、鉄さんは。」

「もし、また何か『修行』をしたかったりしたら、声をかけてくださいよ。
 なにしろ、この『ターゲット・プラクティス』は『身代わりの術』の使い手でして……
 訓練などにピッタリなスタンドなんですよ。」

自らの傍らのスタンド、『ターゲット・プラクティス』を見ながら鉄に話しかける。

583鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 21:43:39
>>582

「いや、そもそも怪しい行動をしていたのはオレだからな」
「松尾さんは間違っちゃいないよ…『風紀委員』として正しい行動をした」
「洞察力と行動力は特にスゴいと思う」

こちらの行動の矛盾点を突いた点や、本当に危険物の入った袋を叩き落とした点は見事だ。
中学生といえど流石は風紀委員といったところか。学園の中の治安については安心してもいいかもしれない。
もっともメガネの投擲は未だに謎のままだが。

「ありがとう、怪我をしないように気をつけて」「それじゃあお互い『ルーキー』だな」

共に拾い集めてくれる松尾に対して、礼を述べる鉄。

「いやいや、まだまだオレは未熟者だよ」
「人と争うのが苦手なんだ…他校ならまだしも、同じ部活の仲間と試合をするのとか、…特にね」
「いざという時には、この能力で人を斬らなければならないのか」「そういう事を考えると…手が震えるよ」

わずかに、自嘲するような笑みを浮かべる。
そして刃物を全て『防具袋』にしまい終えると、それを改めて担いだ。
改めて、黒髪の少女へと向き直る。

「だから、松尾さんのありがたい提案はオレに『覚悟』ができてからかな」
「それにしても『変わり身』か…」「カッコいいな」「まるで『忍者』みたいだ」

584松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 21:53:21
>>583
「忍者みたい……ふふふ、それは秘密です。にんっ。」
不思議な印を組みながら答える。

「もし、よかったら、連絡先を交換しませんか?
 これ、私のLINEです。」
スマホのQRコード画面を見せる。

「『覚悟』をお待ちしてます。にんっ。」

585鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/26(土) 22:19:22
>>584

「え」「いや、まさか」「本当に…?!」

言われてみれば、あのメガネ投擲はあたかも『苦無』のようだった。
もし本当なら、これは『スタンド』よりもちょっと感動するかもしれない。
思わず目をキラキラさせていると、少女から連絡先の交換の申し出があった。

「こちらこそ、喜んで」「何か困った時は力になる、遠慮なく呼んでくれ」

こちらもスマホを取り出し、コードを読み取った。
やがて彼女のスマホに『信玄餅』のLineアイコンと、『鉄 夕立』という名前が表示されるだろう。

「それじゃあオレは少し『特訓』していくから」「『スタンド』があるとはいえ、松尾さんも帰り道には気をつけて」「おやすみ」

そういって、雑木林へと歩みを進める鉄─────その姿が消える前に、足を止めて振り返った。

「そうだ」「オレもある意味そういう能力だから、説得力がないかもしれないが…」
「『切断系』のスタンド能力がいたら、警戒した方がいいかもしれない」
「それじゃあ」

そう言い残すと、鉄は再び闇の中へと歩みを進めていった。

586松尾 八葉『ターゲット・プラクティス』:2019/01/26(土) 22:30:40
>>585
「はいっ、鉄さんもお気をつけて!」

「おやすみなさい!」
足早に立ち去って行った。

587成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 18:20:11
「この時間ならだれもいないだろう」

あの不思議な人からもらった『モノディ』という能力…『スタンド』とか言ってたかな
とにかくオレの隣にコイツが現れるようになって数日が経った。
1度だけコイツが本当に人に見えないか試すために宅配の人から物を受け取るとき
この『モノディ』を出したまま受け取ってみたが本当に見えないらしく特に反応はなかった。

だが目覚めさせてくれたあの人の言葉からまだ出会っていないが
きっと同じ『スタンド使い』が身近にいるという確信からそれ以降は
極力人前に出さず、今のように公園の人気のない場所で能力を確認するようにしていた。

「そもそも人気の多い場所は苦手だしな。」「落ち着きたい時には今度からここに来るのもいいかもな」

一通りできることを確認し終えてベンチに寝そべりながら呑気にもそう考えていた

588名無しは星を見ていたい:2019/01/30(水) 22:06:58
>>587

 
 ザァァァ――   カツ コツ カツ コツ

?「……」

風が吹く 何者かの足音が横たわる君の耳元へ到来が近い事を報せる。

カツ コツ カツ 『シュン』  ……ドサッ

だが、唐突にその足音が途絶え そして、『直ぐ隣』に何者かが座るのを聞いた。


   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ・・・

?「……簡潔に聞こう」

?「君はどちらだろう。運命が見えるとして、ソレが全て崩壊と
理解しても立ち向かう事を選ぶ勇者か。
或いは無情を知り、膝をつき立ち止まる凡夫か?」

何者かが君に問いかけている……。

589成田 静也『モノディ』:2019/01/30(水) 23:46:00
>>588

ドドドドドド…

自分の心音が太鼓のように大きく聞こえ、全身に冷や汗が出るのが分かる。
前までであればただのよくいる変人奇人としてやり過ごしたであろうが
先日の不可思議な出来事からかこの何者が只者ではないと察し
何者かとも聞くことが出来ず、逃げようにも足が動かない。
そして何よりも問いに答えなければならない本能が告げている。

ふとさっきのスタンドの試運転を思い出す。
能力によって一時的にとはいえ声を失った鳥、殴ったことで砕けた石、
そしてその力に感じた少しの不安。

答えれば何か変わるかもしれない…

「オレは…何者にもオレの平穏を侵されたくない…」

「一度前に進んだ以上、勝手に止まることはできない」

「オレが勇者かは知らないが前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない」

震える唇で絞り出したような声で答えた

590遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 00:05:17
>>589

>前に立ちふさがるならばそれに立ち向かわなければならない

「ならば、君は『立ち向かう』者だな。
そして、私の力に怯えながらも確固とした意志を持ち合わせてるのならば
『力』を宿してるのだろう ―受け取ってくれ」 ピッ

成田へと、フードとコートで全身を覆う怪しい人物は一つの
名刺を投げるように受け渡す……『アリーナ』と言う
どうやらスタンドの闘技者を応募する事柄が記されたものだ。

「運命は生きとし生けるものに呪縛のように纏わりついている」

「君の力はそれを振り払う刃か? または鎖の音を癒す楽器となるか」

「答えずとも良い……所詮わたしは奏者と共に手を叩けども
直接鍵盤を弾く資格を持ち合わせてないのだから」

「幽鬼には所詮眺める事しか出来ない……霞の中で風を感ずるのみだ」

意味を掴むのが難しい呟きを淡々と続けている。
どうやら、君がスタンド使いであるならアリーナの闘技者へ
勧誘してるようではある。

591成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 00:23:36
>>590

目の前の相手はおそらくオレが初めて会う、しかも熟練のスタンド使いなのだろう。

オレは震える指で名刺を拾い、響くように聞こえる言葉をなんとか理解し、
相手の発するスゴ味という奴だろうか
それに負けないため遊部に質問を投げかけた。

「オレの名は成田…成田 静也だ…最後にアンタの名前を良ければ教えてくれないか?」

2日、3日前に力を手に入れたオレには情けないことにこれが精一杯だった。

592遊部『フラジール・デイズ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>591(お付き合い有難う御座いました。ここら辺で〆ます)

>名前を良ければ教えてくれないか?

「『フラジール』 それが水面に映る名であり
喜劇的なマリオネットの呼称だ」

「全ての巡り会わせに意味はある 決して無為にはならない
例え傍目には価値の無いよう見えて因果は纏わりついている」

「いずれ君も理解するだろう 先に待ち受ける溪谷と言う名の
試練を登り詰めた時に 私が唱えた意味合いをな」

「また会おう 成田 静也」

   ――スゥ

フートを纏った怪しげなスタンド使いは貴方の視界から消えた。
瞬間移動でもするかのように、瞬く間に。

彼? 彼女?が何者であり、何を目指すのか……それは再びの
邂逅がいずれあった時に判明するのかも知れない。

593成田 静也『モノディ』:2019/01/31(木) 22:46:12
>>592(こちらこそここまでお付き合いありがとうございました。
またの機会を楽しみにしています。)

>『フラジール』

「『フラジール』…ありがとう覚えたよその名前…」

彼(?)彼女(?)が去ってからもしばらく冷や汗が止まらなかった
そして頭の中で「なぜ自分がスタンド使いだと分かった?」
「もしかして『あの人』と会ってスタンドに目覚めた所を見らえていたのか?」と様々なことが駆け巡った。

ただ…

「助かった…多分…」

「アレはヤバかった…スタンド使いはみんなあんな風なのか?」

やっと安堵の言葉を吐き出すことができ落ち着くことができた。

そして改めてもらった名刺を見る。
そこには何かのマークと住所、時間が書かれていた。

「アリーナか…スタンド使いの闘技場って言っていたな」

きっと『モノディ』よりも強力なスタンドもいるのだろう
そして顔もわからないソイツらともいつかは…
昔のようにただ怒りに任せて力を振るってはいけない
今のように力に怯えていてもいけない…
身を守るためにも『今を変えるためにも』もっと強くならねば

とりあえず今日は家に帰ることにしよう。
今日は色々とありすぎた。

594三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/15(金) 21:13:54

(この辺りで、ちょっと練習しましょう)

人気のない森の中をスタンドが歩いています。
フードを目深に被り、肩にシャベルを担いだ墓堀人のヴィジョンです。
見える人なら見えたかもしれません。

(でも、スタンドの練習って何をすればいいんでしょうか?)

595空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/15(金) 23:45:46
>>594

「(うーむ、この辺トイレあったかな……)」

 ガササ


草叢を抜けて足を踏み出したところで、
『それ』と真正面から出くわした。


   バッタリ


「あっ、これは失礼……」
「…………」
「…………」 チラ

「…………」 チラ(二度見)


「ぎ、ぎゃぁああアアアア──────ッ!?」

いい歳こいた眼鏡のおじさんが腰を抜かして
草叢にデーンとハデに尻もちをつく。
スタンド使いらしいがあんまりこの手の遭遇に
慣れてないらしかった。

「で、ででてでででで……」
「何者!?」

596三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 00:30:51
>>595

(あっ――)

と思った時には、もう遭遇していました。
驚かせてしまったみたいです。
どうしましょうか。

《大丈夫ですか?》

墓堀人のような人型スタンドが喋っています。
どうしようかと考えて、とりあえず空いている片手を差し出しました。
本体らしき人影は近くにはいません。

《『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――》

             《と申します》

       ペコリ

やっぱり最初は挨拶でしょうか。
そう思ったので、お辞儀をしておきました。
『見える人』に出会ったのは、これで二度目です。

597空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:53:32
>>596

「うぉっ!」

ドキビク──っ

差し出された手にいっしゅん後ずさりしかけるが、
労わりに満ちた声を聞き、目の前の掌と顔貌を交互に見つめる。

「あ、……これはどうも……」

(優しい声がこの場合
逆にギャップ効果で怖い気もするが)
手をとって立ち上がった。
オソルオソル……

尻についた葉や草きれを手で払い、
体裁を取り戻す息継ぎのような咳をする。


「コホン。あー、その、なんだ……。
失礼な姿を見せてしまったな……」

「しかし……その……君は一体なんなんだ?
『ナウ・オア・ネヴァー』……
わたしのような『取り憑いた者』はいないのか?」

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 00:57:57
>>597(訂正)

「(なんか混乱しているのか
よく意味がわからん質問をしてしまったな……)」

「君が『取り憑いた者』はそばにいないのか?
を聞きたかったんだ……」

599三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 01:18:06
>>597

おじさんの手を取ったスタンドが、その手を引っ張り上げました。
ですが、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』のパワーは人並み以下です。
そのことを忘れていたので、軽くよろめいてしまいました。

《いえ、こちらこそごめんなさい》

《驚かせてしまって、すみませんでした》

      ペコリ

《『取り憑いた』――ですか……》

きっと本体のことだと思いました。
『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』は力が弱い代わりに遠くまで行けます。
今、千草は少し離れたところで操作しているのです。

《今、向こうの方にいますが――》

《……ご案内しましょうか?》

幽鬼のようなスタンドが、木立の奥を指差します。
それから、おじさんを振り返りました。
フードの奥の両目が、おじさんを見つめています。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 01:36:47
>>599

「だ、大丈夫か君……?」

 ワタワタ

慌てて手を引いてバランスをとる。

自分から手を差しだしておきながら
よろける姿はコミカルというか
もりもり親近感湧いてくるが……。

「(あんまり動き慣れてないのか?)」

『彼』(『彼女』?)が指差した
木立に目を向ける。

「向こうの方って……」
目を細めてみる。
「……どこまで遠くにいるんだ?
そこまで案内してくれるなら」

幽鬼のような瞳と目が合う。
かそけき揺らめきの渦に
全身が吸い込まれていってしまいそうで
思わずササっと目を逸らしてしまった。

「つ、ついていってみるが……頼めるか?」

601三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 05:47:20
>>600

《――そんなに遠くじゃありません》

     ザッ

《この先を、ちょっと行ったところです》

おじさんの前に立って、木立の中を歩き出します。
千草までの距離は大体15メートルです。
森の中なので足元は舗装されていませんが、そんなに時間はかかりません。

《ここで少し動かす練習をしていました》

《まだ慣れていないので》

《でも、何を練習したらいいのか、よく分かりません》

《だから、今は『練習の練習』をしています》

歩いている最中に、スタンドが話しかけてきます。
幽鬼のような外見に反して、本体は結構人懐っこい性格のようです。
また、その口ぶりに、どことなく幼い雰囲気が感じられるかもしれません。

《――スタンドのことは、お詳しいですか?》

602空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 08:45:11
>>601

  ザスザスザス


草叢を踏み払いながら奇妙な背中についていく。
『不気味さ』と『あどけなさ』の二世帯同居だ……。
わたしの方は『警戒』と『好奇心』がまだ相半ば。


梢の彼方に、この森林行を俯瞰して見ている
もう一人の自分の姿を浮かべた。
そいつに『大丈夫か?』と呟かせる。

 『このまま黄泉の国に連れて行かれたりしない?』
 『急に振り向いてこれはお前の墓穴だァ────ッ 
  とか言われない?』
 『でも相手は子ども?』
 『ならもし万が一襲われても……』などなど。

わたしはしばしばこうやって心の安定を図る
(精神の息継ぎだ)。


「…………」
「『スタンド』というのか、この『亡霊』どもは」
「…………」
「わたしにはその程度の知識しかない。
 『亡霊』に『名前』と独自の『ルール』があることを
 知ったのもつい最近だ」

言葉を吟味するような短い沈黙を挟みつつ、
あどけない質問者に返答する。

「しかしどうやら君も似たようなものらしいな。
 初心者ふたりが出会っちまったというわけだ」
「…………と、ずいぶん歩いた気がするが」

周囲の木立をキョロキョロ見回して人影を探す。

603三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 18:47:46
>>602

      ザッ ザッ

《じゃあ『同じクラス』ですね》

《よろしくお願いします》

《あ――》

       ピタリ

突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。
ここは森の中心近くです。
一番深いところと呼んでもいいかもしれません。

《言いにくいんですが、いいですか》

《お話に夢中になりすぎて――》

「――少し通り過ぎてしまいました」

おじさんの背後に立つ木の裏手から、高い声と一緒に小柄な人影が出てきました。
12歳くらいでしょうか。
緩やかな巻き毛と、クルリとカールした長い睫毛が特徴です。
格好はブレザーですが、制服ではないようです。
『これから発表会にでも行くような格好』と言うのが分かりやすいかもしれません。

604空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 20:22:47
>>603

>       ピタリ

>突然スタンドが立ち止まり、グルッと振り向きました。

「ピャッ」

ストローでも咥えてました?
ってぐらい細く弱々しい息が唇の隙間から漏れた。
高価そうなジャケットの両肩が緊張で跳ねあがる。

       うめ
「(──やはり埋殺る気かッ!?)」

両手を顔の前にシャっと構え、
カマキリのごとき闘法(ファイティングポーズ)を見せる。
精一杯の抵抗というか威嚇のつもりか?
プルプル震えて明らかに付け焼き刃なのはバレバレだ。
しかし──


>「――少し通り過ぎてしまいました」


背後からの幼気な声に振り返り、愛らしい子どもの姿を認めた。
フゥーッと安堵のため息をつき、
一瞬おくれて気恥ずかしそうに両手を下ろす。
このおじさん、見てくれだけは立派な仕立てのスーツ姿なのだが……


「…………」「コホン」
「君がその『亡霊』……いや、
 『スタンド』の本体か?」

改めて目の前の子どもの姿を見据える。

「幼そう、とは思っていたが……」
「まさか……小学生……か?」

驚きのためか数回、吐息を飲むように言葉がつっかえる。
そこには驚き以外の感情もいくらか混じっているようだった。

605三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 21:09:44
>>604

「――いいえ、違います」

「小学生じゃありませんよ」

      スタ スタ

おじさんに近付きながら、そんな風に返します。
少しムキになっているように見えるかもしれません。
自分でも、ちょっと気にしていることなのです。

「『中学一年生』です」

「早生まれなので、平均より成長が遅れてますけど……」

「小学生じゃありません」

客観的に見ると、ほとんど差はないと思います。
でも、千草にとっては大事なことなのです。
だから、しっかりと主張しておきます。

「――こんにちは」

      ペコリ

「『三つの枝に千の草』と書いて、『三枝千草(さえぐさちぐさ)』といいます」

まずは挨拶しましょう。
『立派な人』になるための基本です。
まだまだ未熟者なので、おじさんの内心には気付けていません。

      ザスッ

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』がシャベルを下ろしました。
地面に突き立てたシャベルの握りに両手を添えて、亡霊のように佇んでいます。
本体の子供は、今その隣に立っています。

「――おじさんのお名前は、何とおっしゃるんですか?」

606空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 22:06:35
>>605

「あっ、ああ……それは失礼した」

  ペッコォー

こちらは相手がどうも気にしてるらしい
繊細な部分の泡立ちに気づけた(大人の面目躍如だ)。
我に返ったように口を閉じ、あわてて軽く頭をさげる。

ふたまわり近く歳の離れた相手に
チト情けない振る舞いに映るだろうか?
しかし男なら、たとえ相手が子どもだろうと
レディに『敬意』は必要だ……。

「(あ、いや待て……
  果たしてこの子は『レディ』……でいいのか?)」

  チラミ

判別の難しい年頃だし、何より『そこ』も
この子が気にしてる繊細な部分かもしれない。
視線を走らせ、その佇まいや服装をもっと深く精査する。


「わたしは
 空織 清次(くおり きよつぐ)」

「君は『仕立て屋』……って知ってるか?
 まあカンタンに言えば『洋服屋のおじさん』だ」

『元』だが、と口の中でこっそり付けたす。

「ところで、君はさっき『練習』と言っていたが……
 その亡霊──『スタンド』を操って、
 何かするつもりなのか?」

小峰のごとく直立する『墓掘り人』を
指差しながら訊ねる。

607三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/16(土) 23:14:10
>>606

「空織さんというお名前なんですね」

「はじめまして、空織さん」

      ペコリ

体格は華奢で、顔立ちは繊細な作りです。
女の子と言われれば女の子に見えるし、男の子と言われれば男の子に見えます。
つまり、服を着ている限りは分かりそうにありません。

「――似合いますか?」

視線に気付いて、その場で軽く姿勢を正しました。
金釦のブレザーとボタンダウンシャツに、ネクタイも締めています。
下はシンプルなスラックスでした。

「『従兄弟のお下がり』ですけど、気に入ってます」

この服装は、元々は従兄弟のために用意されたものだったようです。
仕立て屋さんの空織さんなら、それが男の子用らしいことは分かると思います。
ですが『お下がり』なので、やっぱり性別の決め手にはなりません。

「えっと……」

「スタンドを使って具体的に何かしたいとか、そういうのはまだ分かりません」

「でも――いつか叶えたい『夢』はあります」

「その実現のために、『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』が役立てばいいなと思います」

「だから、この力でできることを色々と試してみたいのです」

608空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/16(土) 23:57:31
>>607

「あ、ああ……とても似合っているよ」

「君みたいな年頃で、フックのないフォーマルを
 『着せられる』感なく着こなすのは
 実に難しいことだ」

「だがその服は、君にとてもフィットしている。
 それはたんに君の見た目のことを言ってるんじゃあない。
 その服が似合うのは、
 君の『精神性』に正しく寄り添っているからだ」

などと小難しいことをペラペラまくしたてるが、
その心中では荒波が立っていた。

「(いや分からんッ! どっちだ!?
  男か女か!?)」

   ゴゴゴゴゴ

「(この空織、『仕立物師』として
  それなりに『着振る舞い』の眼は
  磨いてきたつもりだったが……
  今回はマジで分からんッ。
  空織、お手上げ!)」


 ゴソゴソ
(懐を漁る)

「…………君、良かったら『飴』いるか?」

ふたごの天使が描かれた『いちごミルク味』と
恐竜の描かれた『コーラ味』を差し出す。
どっちを取るかを見るのだ……(意味あるのか?)

「『夢』……?」
「……その『スタンド』を活かせる、か?」
「気になるが……それって、わたしが聴いて
 いいものか?」

ふつうに年相応の子どもに対する気遣いとして訊ねる。

609三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 00:38:51
>>608

「そう言っていただけると嬉しいです」

     ペコリ

たぶん褒められたのだろうと思ったので、軽く頭を下げます。
内容は半分くらいしか分かっていませんでしたが。
そして、それとなく探りを入れられていることにも気付きません。

「――くれるんですか?いただきます」

      スッ

二つを見比べて、特に迷うこともなく『いちごミルク味』を手に取りました。
『炭酸』の味は苦手なのです。
単純に、それだけの理由でした。

「この力が活かせるかどうかは……分かりません」

「でも、『妖甘さん』が――
 『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』を目覚めさせてくれた人ですけど、
 『恐怖を乗り越えて成長することを祈っておく』と言ってくれたので」

「だから、この力が『夢』を叶える助けになってくれたらって……」

「――そう思ってます」

      ニコリ

そう言って、無邪気な笑顔を向けます。
屈託のない子供らしい笑いです。
それから、もらった飴を包装から取り出して、口の中に放り込みました。

「空織さんにも『夢』がありますか?」

「もしあったなら――それを聞かせてくださったなら、話してもいいですよ」

「いわゆる『秘密の共有』です」

610空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 01:29:12
>>609

「(ノータイムでいちごミルク!
  だが実は『飴』の二択は『フェイント』だ……)」

  見るのは飴を受け取るときの千草の『指先』!
 実は『指』というのは『性差』が出やすい部分なのだ。
 (たとえば男性ホルモンの『テストステロン』は、
  『薬指』の長さに影響を与える)──

 そうして手の表象に現れる
 微小な『男女のちがい』をッ!
 飴を選んだこの一瞬!
 この仕立物師としての『熟練の眼』で
 逃さず見極めてやるッ!

 ※ なお精密動作性:C(人間並)


……冗談はさておき。

「たいした子だな……」

千草の独白に腕を組んで唸る。
12才に感服させられる34才のおじさんの図。

「わたしが君ぐらいの歳のころって、たぶん
『ニガテな野菜を克服できるか』とかで
 悩んでるレベルだったと思うが……
『恐怖を乗り越えて成長』という言葉に
 真正面から向き合っているとはな」

「(だが一方で気になる言葉も聞いたぞ……『妖甘』?
『目覚めさせる奴』がまだいるのか? こんな子どもを?)」


「『夢』──わたしの?」
「あ、あるにはあるが……」

『秘密の共有』というあどけない約束、
だが心の荒んだアル中の男にはあまりにも眩しい……!

「そ、それは……」「…………」
「わかった、教えよう」
「君が聞いてもつまらんことだと思うが……」

「『もう一度この町で、自分の店を持ちたい』……」
「…………」
「な、なにをマジになってるんだわたしは……」
「コホン。き、君のを聞かせてくれるか?」

611三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 03:59:16
>>610

空織さんの視線の先にあったのは、細長い指でした。
それが決め手になるのかどうかは分かりません。
本人は何も気付くことなく、口の中で飴を転がしています。

「お店……『洋服屋さん』ですか?」

「目指す形がしっかりしていて、とても立派な『夢』だと思います」

「その『夢』が叶ったら――空織さんのお店に行ってみたいです」

『千草の夢』は、まだ形が曖昧です。
だから、余計にしっかりしていると感じるんだと思います。
早く目標のヴィジョンを確かなものにしたいですが、難しいです。

「笑わないで下さいね」

「――『立派な人になること』です」

「『たくさんの人から尊敬されるような立派な人になる』――それが『夢』です」

『千草の夢』は、『素晴らしい死に方をすること』です。
そして、そのためには『立派な人になること』が必要だと思っています。
だから、『立派な人になること』は『夢』というよりは『夢の夢』です。
それを言わなかったのは、空織さんとまた会いたいと思うからです。
いつかまた出会った時に、それを話せれば嬉しいです。

「空織さん、良かったら連絡先を交換してくれませんか?」

「『スタンドの仲間』で『初心者の仲間』で『叶えたい夢を持っている仲間』で――」

「その……『友達』になって欲しいです」

ブレザーのポケットから、
手帳型のレザーケースに入ったスマートフォンを取り出します。
それから、空織さんを見上げました。
シャベルを携えた『墓堀人』は、本体の隣で頭を垂れています。

612空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:39:56
>>611

「……笑わんよ」
「『立派な人になる』というのは十二分に立派な夢だ」

「だが生涯持ちつづけるには
 すこしばかり危うい夢ではあるな……」

その夢は価値判断を他者に依存している。
自我を確立すればいずれ脱皮する、『さなぎの夢』だと
空織は思った。


気になったのは彼女の精神性の方だ。
彼女の心は妙に『達観』しすぎている……
一体なにを見て育てば、ちっぽけな子どもが
こんな精神性に(『スタンド』に)たどり着く?

この子は心身に皺ひとつない高潔な両親から
たっぷりとした愛を受けて育ったのだろうか?
何一つ黒点のない『白』に囲まれた世界にいるのだろうか?
それとも……

かつて出来損ないながら親だった身として、
わたしは妙な心配をしてしまっている。
梢の向こうでわたしを俯瞰するもう1人の自分が
『身勝手な想像だ』とささやいた。


「……わたしの名刺を渡しておこう。
 『困ったこと』や『相談したいこと』があったら
 連絡してくれ。
 『スタンド』に限らずな」

「ほんとうは、
 大人が子どもと個人的に連絡先を交換するのは
 あんまり良くないことなんだが……」

「…………………
 まあ、『友達』ということならいいだろう。
 (いやホントはよくない)」

携帯番号と名前が書かれた名刺を渡し、
すこしためらったが千草の番号を受けとる。

「君が望むなら、
 その名刺は君の両親に見せてもいい。
 理由はどうとでもなるし、わたしもその方が安心できる」

と、妙にそわそわしだす空織。

「………………
 ところで、少しばかり友人の君に訊ねたいんだが」

「…………………………
 この辺にトイレってあるかな?」

613空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/17(日) 06:56:01
>>612(訂正)

>気になったのは彼女の精神性の方だ。
>彼女の心は妙に『達観』しすぎている……

× 彼女 → ◯ この子

614三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/02/17(日) 22:53:32
>>612

未熟者の千草には、空織さんが心配してくれていることは気付きませんでした。
もし気付いていたなら、きっとお礼を言ったでしょう。
それができなかったのは、とても残念なことだと思います。

「……そうですね」

「難しいと思います」

空織さんに向かって、ニコリと笑ってみせます。
でも、上手くできたかどうかは分かりません。
口の中で、『でも』と小さく付け加えました。

「――ありがとうございます」

       ペコリ

名刺をもらう機会なんてないので、なんだか緊張します。
でも、少しだけ大人になれたような気分も感じました。
だから、なんとなく誇らしげな表情になっていたのだと思います。

「『トイレ』――ですか」

      ザック ザック

「少し待っていてもらえますか?」

「――今、『用意』します」

至って真面目な顔で、空織さんに呟きます。
同時に、『墓堀人』がシャベルで地面に穴を掘り始めました。
ほんの少しして、その動きが唐突に止まります。

      クスクス

「『冗談』です」

「ビックリしましたか?」

        ズズゥゥゥ……

表情を子供っぽい笑い顔に変えて、空織さんに言いました。
『墓堀人』がシャベルを肩に担ぎ直すと、穴が消えて地面が元通りになりました。
『墓堀人』は千草に重なり、その姿が溶けるように消えていきます。

「あっちです」

「この辺りで練習しているので、どこに何があるか知ってるんです」

一角を指差して、空織さんを案内して歩き出します。
これも立派な人になるための――『素晴らしい死に方』をするための一歩です。
まだまだ道のりは長くて遠いですが、一つずつの行いを積み重ねていけば、
いつか叶えられると信じています。

615空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/18(月) 00:58:03
>>614

「えっ、いやそれは待…………」


「…………………………………
 …………………………………」


「……………………生まれて初めての経験だ、
 『ハカホリニンジョーク』を食らったのは」

「もしわたしが自分の店を手に入れたら、
 君にはトイレ工事をさせてやるからな」


年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべる千草に向け、
座り目で抗議の視線を送る。
たっぷり数秒ジトーっと睨んだあと、
こらえきれず吹き出すみたいに笑った。
目を糸みたいに細めて微笑む。


「おっと、今度はちゃんと案内してくれるのか?

 それは『落とし穴に』とかじゃないだろうな?
 なんてな、冗談だ。
 フフ。ありがとう……」

千草を追って足を踏み出しながら、
肩越しに地面を振り返る。

   チラ

「(穴が一瞬で消えている。
  これがこの子のスタンド……か)」

「(この無言の墓掘り人は、いったい
  この子のどんな心を表象しているのだろう?

  ………だがそれを知るには、今はまだ……)」


首を振り、前方に向き直ろうと顔を上げたとき、
わたしはわたしの肩に誰かの手が
乗せられていることに気づいてハッと息を呑む。

それはさっきまで
梢の向こうでわたしを俯瞰して見ていた
もう1人のわたしの手だった。

わたしの耳元に顔を寄せて彼はささやく。

  『おまえの娘が生きていれば
   この子ぐらいになっていたかもな』

 『この子に娘の姿を重ねているのか?』

     『なんてみじめな贖罪だ──』


わたしは彼を睨みつける。
我を忘れて彼と目を合わせる。
だがそこにいたのはもう1人のわたしではなかった。

空転する糸車を腹腑に埋めたわたしの『スタンド』。
娘を失ったわたしの前にあらわれた『亡霊』。
物言わぬ虚ろな瞳でわたしを見つめている。

「『エラッタ・スティグマ』………」

消えろと強く念じると、
糸車のカラカラという空っぽな残響だけを残して、
虚ろな亡霊は宙空に解けて消える。


わたしは何事もなかったかのように前を向き、
小さな案内人の背を追いかけた。

616高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 00:29:32
夜の自然公園に人影が一つ。
動きやすそうな格好をした女性。
癖のある髪を一本に結び、どこか暗い印象のある人だった。
ペットボトルを片手に彼女は公園にいた。

「……」

わずかな明かりの下、女性は踊っていた。
ペットボトルをマイクに見立て、音は出さずに口を動かしながら踊っている。

「……!」

ステップを誤り、重心が崩れる。
踏ん張らずにそのまま彼女は地面に体を預けた。

617薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 01:20:52
>>616

「…………」

    ピ ピ

       ガコン

自販機でジュースを買いながら、それを見ていた。
今は仕事帰りで、入れたコインと押したボタンは妹の分だ。
自分のジュースは――――

  チリン

         『ピピピピピピピピ』

今から『ルーレット』が当たるのでそれで買う。

(ダンスか何かやってるのかな。
 駅前で踊ってるヤンキーみたいな?
 こけたのかそういう振り付けなのか、
 よくわかんないけど……真剣そうだし)

    『アタリ! モウイッポン エランデネ!』

(邪魔はしないでおこうかな)

              ピ

                    ガコン

邪魔はしないが、普段静かな自販機がうるさい夜だ。
それに、白い髪と赤い目――――薬師丸の姿は目立つ。

618高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 02:28:09
>>617

「ふぅ……ふぅ……」

呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
右足を上げて、何度か地面を踏みしめる。
地団駄というよりもそれは、足に力を入れるためにやっているような動きだった。
靴から覗くものは靴下と黒いサポーターである。

「……ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

少しふらつきながら地面を踏みしめ、顔を動かす。
その目線は薬師丸に向けられた。

(……見られたかな)

(不味いかな。一応、新曲だしなぁ……)

俯き気味で陰気な顔のまま、薬師丸を見ている。

619薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 03:38:04
>>618

「あ〜」

(ジロジロ見てるって思われたかな。
 まあ、実際ジロジロ見てたようなもんよね)

視線があった。

「ごめんごめん。つい見入っちゃった。
 ふだん、ダンスってあんまり見ないからさ」

      ガコッ  ガコン

ジュースを二本取り出して――
それを小脇に抱えて、少しだけ近づく。

「それにしても……こんな時間に練習?
 秘密トレーニングってやつなのかしら。
 私はスポーツとかしないほうだから、
 あんまり詳しくはないし……
 追求とか、そういうのするつもりもないけど」

「この水いる? 『偶然』当たっちゃったんだけどさ」

無視して立ち去ることも出来たけれど、
追いかけてきて絡まれたりしても良くない。
穏便に立ち去るためにはむしろ会話がいると思う。

だから、自分用の水だったが、小さく掲げてみせた。

620高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 04:11:06
>>619

「あぅ……やっぱり見てたんですか……」

(あ、ちが、もっと……)

思わず一歩下がってしまう。
不意に下げた右足。
ビクリと背中が跳ねて、少しを食いしばる。
深呼吸。
顔を上げる。
逆ハの字だった眉が横になり、目が少し大きく開かれた。

「ダンスは苦手でね。こうせねばならない身の上なんだ」

しゃんとした雰囲気を出そうとしているらしいがまだ少し目が震えている。

「貰えるのなら、頂きたいが」

「ありがたい」

すでに手に持ったペットボトルは空。
握りしめたからかベコベコにへこんでいる。

621薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 21:17:15
>>620

「あげるよ、減るもんじゃないしさ。
 あ、一応言っとくけど、なんの味もない水だよ」

「最近は透明な紅茶とか流行ってるから一応ね」

軽く放り投げようとしたが……

「…………はい、あげる」

目の動きに何かを感じてやめた。
もう少しだけ歩み寄って、ゆっくり手渡す。

「苦手なのにやらなきゃいけないのね。
 大変ねぇ〜え。お仕事か何かでやってるの?」

「踊る仕事ってあんまり思い付かないけどさ」

近づいて見える薬師丸の顔は、高宮より一回り幼い。
不相応な毛皮の黒コートや真っ白な髪も、どこか現実味を欠いていた。

622高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 21:50:13
>>621

「お気遣いどうも」

受け取り、水を飲む。
乾いた体に潤いが流れ込んでいくのがわかる。

「……仕事だから、これは時間外労働」

「アイドルだよ。頭に地下とつくアンダーグラウンドなやつだ」

ゆっくりと息を吐いて、また言葉を出す。

「そういう君はどうかな?」

623薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/01(金) 22:38:29
>>622

「ああ……えーと、地下アイドルってやつ。
 星見横丁とかでビラ配ったりしてるよね。
 私の知り合いにそういうの好きなヒトいるわ」

それが高宮の事務所かは知らない。
もらったビラをしっかり読んだこともないし。

「ともかく、スターの卵ってわけね」

笑みを浮かべる。

「私は――『幸せ』を売ってるの。
 それが私の仕事よ。あ、勘違いされそうだけど、
 ハッピーじゃなくてラッキーの方が本業だから」

「怪しいクスリとかは警戒しなくていいよ」

それはそれで得体が知れないわけだが、
少なくとも妙な売人というわけではないらしい。

「何も法に触れるような事は、してないからね」

水から妙な味がしたとか、そういう事もなかった。

624高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/01(金) 22:49:10
>>623

「もしかしたらその人と会ってるかもね」

(分からないけど)

また水を飲もうと口をつける。
が、勢いを間違えたのか口の端から飲みきれなかった水がこぼれ落ちた。

(またか)

手の甲で水を拭った。

「スターの卵か。そうだね、早くオーバーグラウンドに打ち上げて衛星みたいになりたいものだ」

暗い笑みを返した。

「幸せか……」

眉がハの字に曲がる。
伏し目がちに視線が動く。
迷い。
先程までの雰囲気が収まり、憂い雰囲気が増していく。

「いくらで売ってくれますか……?」

625薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 04:32:10
>>624

「どうだろ。まっ、とにかく詳しくないからさ。
 詳しくないなりに、あんたに幸がある事を祈るわ」

「私はそれの専門家だからさ」

薬師丸はアイドルというものはよく知らないが、
こんな夜にまで一人で練習に励んでいるあたり、
恐らくは『本気』で・・・理想はまだ先なのだろう。
言葉ではあまり深くは突っ込まずにおくことにした。

「――――あら、興味ある?」

        リィーーー ・・・ ン

《『害』も『戦意』ないよ。見えてるなら、ね》

      「『幸運』ってさ。形の無い物だし、
       『実演販売』ってことにしてるの」

それは『こころ』 に直接響くような鈴の音。
空気を揺らす、振動としての音ではない。

「で、初回はその実演込みで千円って感じね。
 ほら、期待はずれって事もあるだろうしさ。
 千円くらいなら『募金』した気持ちになるでしょ」

少女の背後に浮かび上がる、人型のヴィジョン。
白い毛皮を纏い、兎の耳を生やした『スタンド』。

――特に何か構えたりするでもなく、背後にいるだけだ。

626高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 12:28:04
>>625

「専門家……」

馴染みがない。

「……分かりました」

ポケットに入れられた財布から千円札を一枚取り出す。
祈るように少し震える手が突き出される。

「見えてますけど……」

627薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 22:01:44
>>626

         ピラッ

「はい、まいどあり。千円確かに受け取ったよ。」

スタンドの手がお札を受け取り、
軽く弾いて枚数を確認してから懐へ。

「見えてるんだ、お仲間なのね。
 それだったら話が早くて助かるわ」

         リン

その手が今度は、高宮の手に触れようとする。
触れれば小さな金色の『鈴』が生まれるだろう。

「お代の分はしっかり説明させてもらうね」

薬師丸はと言うと、それを見ながら微笑を浮かべた。

「ハッピーじゃなくてラッキーって言ったけど、
 要するに・・・私の『レディ・リン』は、
 運勢ってやつを前借り出来るのよね。
 今コイントスを絶対に当てられる代わり、
 あとで絶対に外しちゃうようになるわけ」

「そういうとプラマイゼロに聞こえるけど、
 外すって分かってるコイントスだからね。
 そこに大金を賭けたりはしないでしょ?
 借りた分返さなきゃいけないって分かってれば、
 備える事は出来る…………だから商売になるの」

長口上を終えると、スタンドが一歩引く。
鈴を付け終えたにせよ、そうでないにせよ、だ。

「それで、どう? 何か『運を天に任せたい』ものってある?
 今日じゃなくってまた明日、ってことでも私はいいよ。
 来週のくじ引きで、とか言われるとちょっと困っちゃうけど」

「もし決められないなら、商売だからね。私の方では実演しやすい店は当たり付けてるの。
 それで良ければ案内するけど……一応、あんたの運を使うわけだからね。好きに決めていーよ」

628高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/02(土) 22:36:26
>>627

手に着いた鈴をじっと見つめる。
これがラッキー。

「明後日の……」

「明後日のライブの……成功を……」

小さく、そう呟いた。

629薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/02(土) 23:16:41
>>628

「分かった、明後日ね。明後日の……何時?
 良いタイミングで幸運を入れるために、
 私もその場にいないといけないからさ。
 あと……反動の不幸に、対処するためにもね」

        『リ″ン』

薬師丸の耳に付いた『錆びた鈴』が、風に揺れる。

「あ、入場料とかあるならそこは自腹きるよ。
 初回だし、ライブっていうのも興味あるしね」

明らかに危険な響きだったが、
薬師丸自身に焦りなどは感じられない。

この現象には『慣れている』――という風に。

「それとも……幸運、今ここで使う?
 ライブに効くかは保証出来ないけど、
 ライブの事しか考えてないなら大丈夫かも。
 それに、『不幸』はこの場で処理できる」

「私はどっちでもいーけど……どうする?」

悪戯っぽい笑みを浮かべた。
薬師丸にとっては、本当にどちらでもいいのだろう。

630高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 00:18:22
>>629

「不幸は慣れてますから……」

どうしようもないほどに彼女の目は暗かった。
おそらくこの場にある闇よりも深く、暗い。

「十五時……です。チェキ会もあるけど、ライブだけで……」

「これ……インビ……」

インビテーションチケット。
招待券とも言われるものだ。
無料で入れるだろう。

「ぼくはちゃんとライブが終われればそれでいいんです」

631薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 00:52:31
>>630

「そ、私とおんなじね」

        ニコ…

赤い瞳を作るガラスレンズの奥――――
薬師丸の本当の目を知る者は、多くはない。

ただ、そのレンズに写る高宮の目が、
どうしようもなく暗いのは薬師丸の目にも確かだ。

「それじゃ、しっかりやらせてもらうよ。
 少なくとも、そのライブが終わるまではね」

    ズギュン

「15時から空けとくから。
 『レディ・リン』はちゃんと運命を変えるからね」

        スゥッ

          「あと、連絡先交換しとこう。
            もしものこともあるだろうし」

招待券を受け取り、代わりにスマートフォンを取り出す。
『仕事』に手ぬかりはしない。そうでないと生きていけないから。

632高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 01:12:20
>>631

「分かりました」

スマートフォンをズボンのポケットから取り出す。
カバーをしているが、傷だらけだ。

「………仕事用とかじゃないので」

(ぼくにとって最も大きな幸運が訪れるのなら)

(それはあの人たちと同じ事務所に入って、同じステージに立つこと)

633薬師丸 幸『レディ・リン』:2019/03/03(日) 01:36:54
>>632

薬師丸のスマホカバーは白いが、
目立った汚れなどはないようだった。

「私のは、仕事用だけど……
 プライベートで掛けてくれてもいいよ。
 同じ『スタンド使い』同士でもあるし」

         スッ

「少なくとも今だけは『仲間』だからね」

友達とか、同志とか、そういうのじゃあない。
客と商売人であり……夢を追う彼女の『仲間』だ。
 
「それじゃ、私は今夜は帰るから……
 今つけた鈴は勝手に消えるから安心して。
 本番の明後日に、また付け直したげるからさ」

         「じゃ、またね」

明後日に向けて、今夜から早めに寝る事にしよう。
特別に止められないなら、そのままこの場を立ち去る。

運命を味方に付けたライブが成功したかどうかは――また、別の話だろう。

634高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/03(日) 02:28:43
>>633

「仲間、ですか……?」

それを彼女がどういう意味で言ったのか分からない。
自分がどれぐらいの重み言葉を返したのかは分からない。

「さようなら」

別れを告げて、またダンスを続ける。
まだ理想の未来には遠い。

635高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/12(火) 23:55:17
「ら、ら、ら」

夜の自然公園に人の影。
何かを歌いながら躍るように動く。
しかしそれはダンスではない。
頼りのない灯の下で、時に遅く、時に早く。
見える者には見える物がある。
彼女が持っているもの、それは鎖鎌だ。
左手に鎌を持ち、右手に鎖と分銅。
鎖を回すと手から離れた分銅が回る。
まるでカウボーイのようにそれを飛ばして、また手元に引いて戻す。

「ら、ら、ら」

636美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/13(水) 23:16:57
>>635

時を同じくして、公園内を一人の女が通りがかった。
ラフなスタジャンのポケットに両手を突っ込んで歩いている。
人影に気付いてキャップのツバを持ち上げ、闇夜に目を凝らした。

(あれは――ダンスの練習かしら)

最初に見た時は、そう思った。
だから、少し離れた場所で立ち止まって様子を眺めていた。
でも、どうやら違っていたようだ。

「ステージで使う小道具――」

「――じゃなさそうね」

その視線は、鎖鎌に注がれている。
自身のスタンド――『プラン9』には身を守れるような力はない。
このまま何事もなかったかのように立ち去るべきか、内心で迷っていた。

637高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 01:54:38
>>636

鎖鎌の女はジャージを着ている。
所々擦れたような傷がある。

「ら、ら、あれ……ん、ら、ら……」

何かが気に食わなかったのか歌いながら小首を傾げる。
ぐらりと、途中で彼女の体がブレる。
靴紐を踏んでしまったらしい。
歌に気を取られた彼女は体勢を崩しーーー

「ひぅ……!」

コントロールをしくじった分銅が顔面に迫る。
何とかかわした頃には、体はバランスを失い完全に転んでしまった。

「あ……」

背後の街頭に鎖が絡まり、分銅が倒れた彼女の足に命中した。

(ついてない……)

自分の顔の傍の地面に突き刺さった鎌を見て一人溜息をつく。

638美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/14(木) 14:10:12
>>637

歌と踊り。
それは、私の中にある過去の記憶を思い起こさせた。
忘れる事の出来ない輝かしい栄光。

(『まだまだこれから』って感じなのかしらね、彼女)

その姿に、かつての自分自身が重なる。
大きなステージを控えて、厳しいレッスンに明け暮れていた日々を思い出す。
だから、迷いながらも立ち去らずに見続けていたのかもしれない。

(あららら……――)

その物騒なヴィジョンが見えたことで、ほんの少し警戒していた。
しかし、どうやら危険と呼べるものはなさそうだ。
むしろ、今の彼女は助けが必要なのかもしれない。

      スタ スタ スタ

「――立てる?」

近くまで歩み寄り、片手を伸ばす。
その身体を引っ張り上げて、元通りに立ち上がらせようという意図だ。
彼女が、この手を掴んでくれたらの話だけど。

639高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/14(木) 19:53:18
>>638

「……はぁ」

落ち込んだ気分のままため息をつくと鎖鎌がぱっと消えてしまった。
この世に存在するものでありながら、通常の物質とは違うもの。
スタンドの鎖鎌。

「え……?」

声の方に振り返って、息を呑む。
わたわたと一人で慌てだし、ズボンで手を拭いてから両手でしっかりと手を掴んだ。
が、立ち上がろうとはしなかった。

「み、美作くるみさん、ですよね……!?」

「なん、な、なんで、なんでこんな所に……!」

「あわ、あぅ、あ」

なにか言おうとしているらしいが上手く言葉が出ないらしい。

640美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/15(金) 17:37:59
>>639

「えっと――」

「ええ、確かに私は『美作くるみ』ね」

「ちょっと考え事をしながら歩いていたら、地面に倒れ込んだのが見えたものだから」

返ってきたのは、思いもよらない反応だった。
どうやら、彼女を立ち上がらせようという試みは成功しなかったみたい。
それなら、私の方が目線を下げる事にするわ。

「あの、もしかしてだけど――」

「前に、どこかでお会いした事があったかしら?」

「もし忘れてしまっていたなら、ごめんなさい」

こちらからも両手を出して、彼女の手を握り返す。
精一杯の誠意の印だ。
同時に、その場に屈み込んで視線の高さを均等にした。

(まさか、ねえ)

(『昔の私』を覚えてくれているのかもしれない――)

(そんな風に思っちゃうのは、きっと私の自意識過剰よね)

641高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/15(金) 23:29:05
>>640

「あ、ありますけど……お話したのは今日が初めてで……!」

精一杯に話す。

「綺麗な歌声にずっと、ずっと憧れててぇ……」

ぽろぽろと目から滴が零れた。

「うれしい……」

まっすぐだった背中が丸まって、そのまま俯いてしまった。

642美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 13:57:49
>>641

「……あの」

一瞬、どう言葉をかければいいのか分からなかった。
彼女の真摯な様子に胸を打たれたからだ。
それは自分にとって驚きでもあり、喜びでもあった。

「――ありがとう……」

「私の事を覚えていてくれて」

「本当にありがとう」

もしかすると、もっと気の利いた台詞を言うべきだったかもしれない。
でも今の私には、これしか言えなかった。
他の言葉が思い浮かばなかった。

「あなたも『同じ分野』だと思っていいのよね?」

「違ってたら恥ずかしいけど」

穏やかに笑いかけながら、彼女の背中を軽くさする。
それから、街灯の傍にあるベンチに視線を向けた。
ずっと地面に座ったままという訳にもいかないだろう。

「とりあえず、立ちましょうか?」

「座るなら、そこのベンチの方が良いと思うから」

「その前に、まず立ち上がらなきゃね」

彼女が立ち上がろうとするなら、その手を引いて手伝う事にしよう。
自分も、かつては彼女と同じ志を抱いていた。
それが消えてしまった後も、こうして誰かの記憶に残れるというのは有り難い事だ。

643高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 18:26:36
>>642

「はい……そうです……」

「私は地下アイドルですけど……」

美作の声にこくこくと頷いて立ち上がる。
泣いているうちに落ち着いてきたようだ。

「すいません……ありがとうございます」

644美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/16(土) 19:55:19
>>643

「良いのよ。気にしないで」

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」

「教えてもらっても平気かしら?アイドルさん」

彼女が立ち上がったのを見届けてから、握っていた手を離す。
話しながらベンチの方へ歩いていく。
そのまま、そこに腰を下ろした。

「あなたと話していると、何だかノスタルジーに浸りたくなっちゃうわ」

「私は、今はラジオパーソナリティーをやってるの」

「良かったら、そっちの方も覚えておいてくれると嬉しいな」

645高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/16(土) 23:35:17
>>644

「ぼくは高宮と言います……」

ベンチに座り、小さな声でそう言った。
膝の上に置いた手を見つめている。

「聞いてます、ラジオも毎週……」

「お電話はしたことないですけど」

646美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 00:00:18
>>645

「高宮さん、ね――良く覚えておくわ」

「ありがとう。そう言ってもらえると、とっても嬉しい」

「気が向いたら掛けてきて。いつでも待ってるから」

      フフ

話を続けながら、膝の上に置かれた手を見やる。
それから、辺りを照らす街灯を見上げた。
柔らかい光が、その横顔を浮かび上がらせている。

「ちょっと見えたんだけど、さっきは練習の最中だったのかしら?」

「こういう公共の場で練習するのって、私も結構やっていたわ」

「程良い緊張感があって、それが適度に気を引き締めてくれるのよね」

647高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 00:24:36
>>646

「……はい、その時が来たら」

何か言いにくそうに手をもぞもぞと動かしていた。
明かりの下で高宮は暗い顔をしている。

「練習と、実験を兼ねて……」

648美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 00:57:30
>>647

「『実験』」

「それって――」

   フッ

その言葉に何かを感じ取った。
一つの考えが脳裏を過ぎる。
自分の肩の上を指差すと、そこに『機械仕掛けの小鳥』が現れた。

「『これ』の事かしら」

「私達の共通点は一つじゃないみたいね」

あまり見せるものじゃないが、似通った部分を持つ彼女なら、それも悪くない気がする。
何となく不思議な縁だと思った。
やがて、ある思い付きが頭に浮かぶ。

「そうだ――」

「もし良かったら、ここで少し『練習の成果』を見せてもらえない?」

「せっかくのライブの観客が、引退した私だけなのは申し訳ないんだけど」

「少しでも高宮さんの力になれたら嬉しいから」

「そう考えるのは、私の我侭かしら?」

649高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 01:10:25
>>648

横目で美作に発現するそれを認識する。
ぎょっとした雰囲気で目が開かれた。
驚きと同時にその力の形に感心する。

「成果をですか……」

「大丈夫ですけど……いいんですか?」

酷く申し訳なさそうで憂い顔をしていた。

「ぼくので、本当に」

「美作さんからすれば素人同然だと思いますけど」

650美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 01:29:41
>>649

「――もちろんよ」

軽く頷き、口元を綻ばせて座り直す。
機械の小鳥は微動だにしない。
肩の上で、小さなオブジェのように佇んでいる。

「今、あなたは『アイドル』で私は『観客』なんだから」

「是非、見せて欲しいわ」

その目は、真っ直ぐに高宮の瞳を見つめている。
憂いを含んだ顔とは対照的に、その表情は明るい。
ただ明るいのではなく、どこか真剣さを帯びたものでもあった。

「――ダメかしら?」

651高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 02:36:45
>>650

「……やる以上は全力ですよ」

上目遣い気味に見るその目に迷いはない。
目の奥に宿るものは炎ではなく覚悟だ。
ハの字の眉が平行になり、彼女の持つ空気感が変化していく。
ベンチから立ち上がったころには、気弱そうな女性の姿はなかった。

「鎖鎌は危ないから使わないよ。あくまで今のぼくはアイドル、だからね」

伸びた背筋。
はっきりとした言葉。
髪をいったん解いて結び直す。

「『どこにも行けやしないさ 分かっているだろう?』」

「『逃げ場所も行き場所もとうに見えないだろう?』」

「『罵倒など所詮、心の波動 なのに揺れる心の湖面よ』」

「『生き抜くモメント 生むのは君だけなのに また弱気になる』」

気弱な線の細い声から一転、低く力強い声だった。
ステップの一つ一つが流れるように繋がっていき、公園の地面に模様のような足跡を残す。

「『全て投げ捨てて 壁を 越えて』」

652美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 03:13:17
>>651

雰囲気の変化を受けて、ほんの僅かに両目を見開く。
眼前で繰り広げられる本気のパフォーマンス。
今の自分は観客として、それに対して全力で向かい合う。

(何かしら……)

(こうしていると胸の奥がチリチリして来るわ)

(あなたみたいに熱く燃えていた頃を思い出して、ね……)

歌を口ずさみ、舞い踊る姿。
その凛とした姿に、記憶の中の自分が重なる。
見ている内に、心の深い部分が強く刺激されるのが分かった。

(高宮さん――)

(あなたなら、きっと大丈夫よ)

(私は、そう思うわ)

彼女の発声や身のこなしからは、アイドルを名乗るだけの実力を感じる。
それに見合うだけのプライドも持っている。
だから、彼女は彼女自身が思っている以上に強い人なのだろうと思えた。

653高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 03:59:01
>>652

「『誇れ胸を張ろう またここで会おう 諦めないのなら』」

「『夢が己に変わるから』」

歌と踊りが終わり、最後のポーズで止まる。
指先まで力のこもった姿勢。
しばらく、そのままで動かない。

(久しぶりだな、ミスも何もない、完璧なパフォーマンス)

ベンチに座る彼女に向き合って、頭を下げる。
これで終わりだ。

「あ、ありがとうございます」

少し気の弱い自分に戻りそうになる。
ハの字になりそうな眉をなんとか持ち直して、憧れと向き合った。

654美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 04:26:51
>>653

     パチパチパチパチパチ

演技の終わりまで見届けてから、惜しみない拍手を送る。
アイドル――それは彼女にとっての今であり、自分にとっての過去だ。
方向は真逆だが、それでも根幹には通じ合う部分も存在する。

「アイドルって、見る人に元気を与える職業だと思うの」

「今のパフォーマンスを見て、私もパワーを分けて貰えたわ」

「高宮さん――だから、あなたはアイドルよ」

おもむろにベンチから立ち上がる。
数歩ほど歩み寄り、彼女の両肩に手を置いた。
その表情には、ここまでで一番の笑顔が浮かんでいた。

「私も負けてられないって気分にさせられるわ」

「同じエンターテイナーとして、っていう意味だけどね」

「これからも、お互いに切磋琢磨していきましょう」

        フフッ

今の自分はアイドルではなくパーソナリティー。
新しい生き方を、これからも貫く。
その後押しとなる力を分け与えて貰えたような気がした。

655高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 14:27:56
>>654

「ぼくが……アイドル……」

自分の理想と現実の中にあって、どうにもならぬ気持ちというのがある。
高宮にとって気の重くなる毎日の事がこの一瞬で努力の日々に昇華される。

「はい、お互いに」

「今度はここじゃなくて、現場で会えるように」

客と演者ではなく、演者同士として。
そして、舞台を降りれば人間同士として。

「頑張ります」

656美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 22:18:48
>>655

「自信に裏打ちされている貴女は輝いてる」

「貴女には、これからも輝いていて欲しいわ」

「――私の分までね」

私は輝きを失った過去の星。
かつての栄光を夢見る事も、時にはある。
だけど、少しでも誰かの支えになれるのなら――今の私も、そんなに悪いものじゃないわよね。

「そうね」

「いつかゲストに来て貰えたら嬉しいな」

「――なんてね」

クスッ

「ええ、私も頑張るわ」

明るい微笑を浮かべながら、彼女の前に片手を差し出す。
この出会いの締め括りとして、最後に握手を交わしたかった。
これは、いつの日か共通の場所で再会したいという気持ちの表れでもあった。

「――いつか何処かで、またお会いしましょう」

657高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/18(月) 01:13:07
>>656

「……私の分までなんて、言わないで下さい……」

「今でも美作さんは輝いてますから……」

場所こそ変われど、輝く星に変わりわない。
嘘偽りのない言葉で返す。

「ゲストになった時はよろしくお願いします。ぼくはもっといいアイドルになりますから」

「またどこかで」

優しく、しかし確かに手を握った。

658美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/18(月) 19:33:21
>>657

真摯な言葉を受け取って、静かに息を呑んだ。
私は輝きを失ったんじゃなく、以前とは異なる種類の輝きを纏っている。
その意味を噛み締めて、緩やかに口元を綻ばせた。

「アハハ、そうね」

「――ありがとう」

言われてみれば、その通りだった。
忘れていた訳じゃない。
ただ、改めて再認識させて貰えたのは確かだ。

「私も、その時までに腕を上げておくわ」

「『See You Again』」

似通った点を持つ二人の間で、穏やかに握手が交わされる。
それぞれの場所で輝く二つの星の交わり。
夜空に瞬く星々が、その光景を優しく見守っていた。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/22(金) 21:36:21

   ザック ザック
             ザック ザック

そろそろ辺りが暗くなり始めた時間のことでした。
林の奥から規則的な音が聞こえます。
地面を掘っている音のようです。

   ザック ザック
             ザック ザック

近付いたら、地面に穴が開いているのが見えると思います。
かなり大きな穴です。
人一人は十分に入れるくらいでしょうか。

   ザック ザック
             ザック ザック

穴を掘っているのは、『シャベル』を持った『墓堀人』です。
目深に被ったフードの奥で二つの目が光っています。
近くには人の姿はありません。

    ピタリ

         《――――…………》

ふと、『墓堀人』が動きを止めました。
何かの気配を感じたような気がしたからです。
でも、もしかすると気のせいかもしれません。

660三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/25(月) 20:45:44

        ザクッ
              ――――フッ

穴から出てきた『墓堀人』が、穴の手前の地面にシャベルを突き立てました。
次の瞬間には、穴は消えてなくなっていました。
それを確かめた『墓堀人』は、シャベルを肩に担いで歩き去っていきました。

661夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/07(日) 00:25:48

「――――『パーティーかいじょう』はココだな…………」

          ザッ

ピクニックの用意をして、自然公園にやって来た。
『春の一大イベント』である『花見』に興じるためだ!!
しかし――――。

「ヒトがおおい!!おおすぎるぞ!!」

桜は『満開』で、天気は『快晴』だ。
おまけに今日は『週末』と来ている。
桜の花が咲き誇るこの場所に、人が集まらないワケがなかった。

「サクラくらいであつまってくるなんて、みんなケッコーヒマなんだな〜〜〜」

      キョロ
           キョロ

自分のことを棚に上げて、周囲を見渡す。
空いている場所を探しているのだが、大抵の場所は埋まっていた。
特に、『桜の真下』は人が多い。

「マズいな……。『ベストスポット』は、スデにヤツらのテに……!!
 ムッ!?アレは……!!むこうのほうにスペースがあいているぞ!!
 いそがねば!!ヤツらにおさえられるマエに、『あのポイント』をカクホする!!」

        ダダダダダッ

巧みな動きで人々の合間を縫って、全力ダッシュで駆け抜けていく。
速やかに目的地に到着し、背中に背負っていたリュックを下ろす。
『ウサギ』の形のアニマルリュックだ。

         バサァッ

「――――『カクホ』!!」

リュックからレジャーシートを出して広げ、素早く地面に敷く。
その上に腰を下ろして、ランチとして準備してきたサンドイッチを取り出した。
なお他の場所は大体埋まっているが、この辺りはまだ多少の空きがあるようだ。

662夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/14(日) 16:33:45
>>661

「ソレにしても――――」

リュックを枕代わりに、レジャーシートに寝転がる。
頭の上には、溢れそうな程に咲き乱れる桜の花。
サングラス越に、その光景に見入る。
その時、やや強めの風が吹き抜けていった。
枝が揺れて花びらが散り、薄桃色の花吹雪となって舞い落ちる。

「――――キレイだな」

こんなキレイなモノを見られなかったなんて、ジンセー損してたな。
だからこそ、これから今までの分を取り戻さなきゃ。
ジンセーは短いんだ。
その間に、たくさんのモノを見ないといけない。
セカイには、もっとスゴいモノやキレイなモノやフシギなモノがいっぱいあるハズ。
それをゼンブ見てみたい。
『セカイのゼンブ』を見るのが、わたしのユメだから。

「おん??」

気付けば、ケッコー時間が経っていたようだ。
ぼちぼち日が傾きだして、ヒトも徐々に少なくなっている。
起き上がり、片付けを済ませてから、近くに立つ桜の樹を見上げる。

「――――んじゃッ!!」

桜の樹に向かい合い、片手を上げて別れの挨拶を送る。
そして、軽快な足取りで歩き出す。
こうして『アリス』は、次の冒険に向かうのだ。

663今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 00:45:58

        ザ ァァァ ァ ァ ァ  ァ …… 

「うわ〜っ」

暑いから油断してたけど、梅雨なんだった。
傘は、ちゃんと持ってきておくべきだったな。

「先生、傘になりそうなもの作れたりしないんですか?」
「こう、テープで布を貼り付けたりして・・・」

      『先生ハ ソウイウ〝能力〟デハ ナイデスヨ』

「わかってますけど〜」「ああ」
「木の下で雨宿りって漫画とかで見ますけど、やっぱり濡れちゃいますねえ」

「・・・早く止まないかなあ」

このあたりで雨宿りができるのは、ここしかないから、出るにも出られないんだよね。

664小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 01:31:46
>>663

そいつは傘をさしていなかった。
黒い髪も、服も、全てが雨ざらしになっていた。
それでも走ることは無く、焦った雰囲気もなく、小鍛治明は歩いていた。
ゆっくりと、晴れと変わら無いテンポで歩いていた。

「……」

同じ木の下に入ってきた。
ぼんやりと髪を手ですく。

「いい雨ね」

そうとだけ呟いた。

665今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 20:41:32
>>664

「え?」「あ、はいっ、そうですねえ」
「『梅雨』っぽい感じの雨ですねっ」

         ザ ァ ァ ・・・

湿っぽい雨で、あんまりよくはないけど。
この人は……雨が好きなのかな?

「いきなり降ってきたし」
「すごい勢いで降ってるし」

「……」
「あのーっ、びしょ濡れですけどっ」
「タオルとか、使います?」

濡れてるの気にならないのかな。雨が好きだから?

666小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:08:35
>>665

「いいわ、別に」

タオルはいらないらしい。
彼女が髪をかきあげると額に髪が張り付いていた。
濡れているものの、雨ざらしの子犬のような風情はなかった。
シャワーでも浴びたあとのようだ。
黒い彼女の髪が艶やかなひとつの塊になっていた。

「雨宿り?」

667今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 22:41:55
>>666

「あ、そうですか……冷たくないんです?」
「まー拭いてもキリないといえば、ないですけど」

この人は、雨に濡れてもいい人なのかも。
私にはわからないけど、そういう自信がありそうだ。

そういえば、先生は引っ込んでいた。
人が来たからかもしれない。

「そうですね、傘忘れちゃいまして」
「屋根があるところも、ないですし」        
「予報も、たしか晴れでしたし」 

「えーと」
「あなたも雨宿りですかっ?」

そうじゃなきゃここには来ないとは思うけど。
もしかして、私に用事とかだったらってこともある。確認はしておく。

668小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:52:09
>>667

「別にそういうのは気にしないわ」

ぱてぱたと雫が服から滑り落ちた。
彼女の肌は元から白いらしく、血色の程はわからないらしい。

「雨宿りよ。人と待ち合わせたのだけれど」

「この天気だと厳しそうね」

669今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 00:09:57
>>668

「待ち合わせですか〜っ」
「災難ですねえ・・・」

     ザ ァァァ ァ ァ ・ ・ ・

雨は、とてもじゃないけど止みそうにもない。
私はもう用事とか終わってて、まだマシだったのかも。

「これ……止みそうにないですもんねえ」

「ちなみに」
「どこに行く予定だったんです?」

670小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 01:11:37
>>669

「どこに行く……そうねぇ」

「山、かしら?」

ぼうっと遠くに視線を投げてそんなことを言った。
確かにそちらには山がある。
だが車で行った方がいいような遠い所だ。

「彼が来て欲しいって言ったのだけれど」

「この天気だとそんなに早くは来れないかもね」

671今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 02:00:34
>>670

「山……」「えーと」

「この辺で山ってありましたっけ」
「……あっちの方だったかな?」

この人が見てる方を見たら、あった。
でも、あんなところにある山行くのに、なんでここいるんだろ?

まあフツーに家がこの辺だから、とかなのかな。

「ここ、自然公園から車で行くんです?」
「って言っても、止んでしばらくしないと山は危ないですか」

672小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 02:38:03
>>671

「車というか、なんというか」

一瞬視線を外す。
答えにちょうどいい言葉を頭の中で探す。
が、結局途中で諦めてしまった。

「そうね、山道がぬかるんでると崩れる可能性もあるし、良くはないわね」

「……私の話ばかりしても良くないわね」

「あなたは何かをする途中? それとも、し終わったのかしら?」

673今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 03:00:30
>>672(小鍛治)

「えーっと? バスとか?」
「まあいっか」

「え、私ですか? 大した用ではないですけども」
「友達とちょっと買い物してきた帰りでして〜」

カバンをちょっとだけ開けて、見せる。
買ったのはアクセサリーとか。

別に見せていいものしかないから、いいよね。

「だから、し終わった方ですねっ」
「・・・後なら降っていいわけじゃないですけどっ」

「スカイモールまで行ってたんです」
「その時、傘も買っておいたらよかったな・・・」

折り畳み傘は通学カバンに入れっぱなしだし。
もう一つくらい買っておいた方が便利な気はするんだよね。

674小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 15:32:56
>>673

カバンに視線を向ける。
覗き込むようにして見ないのは自分の体から落ちる雫が入らないようにするためだ。

「仕方ないわ。予報は晴れだったんですもの」

「傘が必要だなんて誰も思わないわ」

雨はまだ降り続けている。

「備えあればと言うけれどね」

「本当に備えておけることなんて少ないのよ」

675今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 22:47:47
>>674

「そうですよね、それがフツーですよねっ」
「全部に備えるなんて、無理ですよね」

       ザ ァ ァ ァ ・・・

「雨……全然緩くならないですねえ」

もう濡れてもいいから帰ろうかな。
夜まで止まなかったら、どうしようかな。

「そういえば」

「お名前、聞いてませんでしたっけ?」
「あっ」「私、『今泉 未来(イマイズミ ミライ)』って言います」

676小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 23:53:35
>>675

「小鍛冶明」

「小さな鍛冶屋は明るいで小鍛冶明」

微笑みながら、話した。
冷たい印象の目元が少しだけ和らいだ気がした。

「どこかで会った気もするけれど」

「よろしくね、今泉さん」

677今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 00:10:12
>>676

「小鍛治、さん……小鍛治明さん」「あれ?」

聞いたことあるような。
……どこでだっけ?

「どうでしたっけ……言われてみれば」
「会ったこと、あったかも」

「・・・」「どうでしたっけ」

何となく会ったような……気はする。
あっ。……そうだ。

「あっ」

他にびっくりすることがありすぎて、忘れてた。

「あ〜〜〜っあの、ほら、白い街で!」
「これ見せたら小鍛治さんも思い出すかな」

「――――『先生』」

           『今泉サン』

           『……貴女ハ、〝小鍛治〟サンデスネ』

    コール・イット・ラヴ
「ほら、私の『先生』」

「あの時は、あまりゆっくりお話しできませんでしたよねっ」

                   「状況が状況でしたし」

678小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 00:46:46
>>677

「あぁ、やっぱり……」

「お久しぶりね」

軽く、頭を下げた。

「状況が状況でしたものね」

「あれから状況はどう?」

679今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 01:41:48
>>678

「すみません、顔見ただけで思い出せなくって」
「あの後ですか……特に変わりはないですね」

「うーん」
「いやまあ、少しはありますけども」

ほんとに、派手な話とかないんだよね。
引っ越そうとしてるとか、私事というか。
そもそも家の話もしたことないヒトだし。

「何かスタンド絡みの事件とか」
「そういうのもないですし」
「あは、それは無くてフツーですけどっ」

フツーな事しかない。いいことだけど。

「小鍛治さんは……」
「特にお変わりとか、なさそうですかね」

見た目とかはあんまり変わってない。
元気じゃなさそうとか、そういう感じでもないし。

「いや、変わる前をほとんど知らないんですけども〜っ」

「ほんと、出会いがフツーじゃなさすぎましたもんねえ」

680小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 02:37:57
>>679

「そんなものよ」

「そんなに目立つこともしてなかったし」

気付かないのも仕方がないと小鍜治が言う。
事実がどうであったかはその目で見た人のみが知る。

「……そうね、変わらないわね」

「普通じゃない出会い、そうね。確かに普通じゃなかったわ」

白い指が唇に触れて、思案顔。
ほんの少しの間があったが概ね言った通りなのだろう。

「普段なら、変わる前を知らないなら今から知ればいいじゃないの、なんて言うんだけど」

また、髪を撫でる。
降りてきた髪が指の股に入り、ゆっくりと持ち上げられる。
生え際の辺りまで手の底が上がる。
上目遣いをするような形で、口元を緩めて言葉を吐き出す。
真っ白な肌と真っ黒な髪、ほのかに感じる血の色の赤みがコントラストになっていた。

「どうかしら、今泉さん?」

681今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 03:11:16
>>680

「私もあんまり目立ってなかったですしねえ」
「目立ちたかったわけでもないですけど」

小鍛治さんも私のこと忘れてたっぽいし。
でも、あれは仕方ないと思うんだよね。

芽足さん、個性すごいし。
カレンさんとかタマキさんも濃かったし。
小鍛治さんと一緒にいた人も和服だったし。

私と小鍛治さんは、『スタンド使い』だけど『フツーなほう』だったんだよ。

「そうですねっ」
「自己紹介だけじゃ、分かんない事もありますし」

「……」

なんだか『色気』っていうのがある人だ。
私あんまり、たぶん、そういうのないんだよね。
そういうのもやっぱり、よくわかんないしさ。

「今からお互いのこと、知りましょっか小鍛治さん!」
「とりあえず……」

   ゴソッ

「『連絡先』とかからでも!」
「何か『変わった』りしたら連絡できますし〜」

682小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 12:07:52
>>681

「そう、じゃあそうしようかしら」

小鍜治もスマホを取りだした。
カバーも何も無い、むき身のそれ。

「じゃあ何か変わったことがあれば」

「それこそ、前見たいことがあればよろしくね」

683今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 20:27:42
>>682

あ、スマホにカバー付けてないんだ。
私のは……白いカバーにマステを巻いてる。
カバー無しで持ちにくくないのかな。滑らない?
無しが普通だと、むしろ付いてる方が邪魔なのかな。

「スマホ、カバーとか付けない派なんですね」
「えーと」「じゃあQRで……」

「……よしっ」

「これでいつでも連絡できますねっ」

      『〝異常〟ハ ナイニ コシタコトハ ナイデスガ』
      『モシ ソノヨウナコトニナレバ、ヨロシクオ願イシマス』

          ペコーッ

先生が頭を下げてた。

「私からもよろしくお願いしますっ」
「おかしなことじゃなくて、フツーのことでも」
「何かあったら、連絡してきてくださいね!」

だから、私も小さく下げておいた。

それから、スマホをカバンにしまった。
雨は相変わらず、止みそうにないけど・・・どうやって帰ろうかなあ。

684小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 23:45:43
>>683

「これでいいのよ、人間じゃないんだから着飾らなくても」

「作ってる人だってカバーをつける前提でデザインしているわけでもないでしょう?」

そういう理論らしい。
そして、頭を下げた『先生』に礼を返す。
不思議な光景だった。

「ええ、連絡させてもらうわ」

そう言葉を返し、空を見上げる。
まだ雲は重い。
だけれど構わず一歩を踏み出した。

「仕方ないわね」

また雨模様の中に自分を放り投げる。

685今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/16(日) 08:38:29
>>684

「…………なんだか、かっこいいですねっ」

「私はそれでも、飾らせちゃいますけど」
「人間じゃなくっても」「おしゃれな方がいいかなって」

人間は、着飾るものだもんね。
それがフツーだしそうするべきだ。
でも、人気じゃなくても着飾ることは出来る。

「あっ」

「……はいっ、連絡待ってますね!」
「小鍛治さん、それじゃあまたっ」

         『風邪ニハ オ気ヲツケテ』
         『サヨウナラ、小鍛治サン』

そうだった、この人は濡れても平気なんだ。
いや……平気とは違うのかもしれない。
雨で濡れるのも、きっとカバーを付けないのと同じ。
そういう『前提』だって、受け入れられる人なんだ。

         『今泉サン、帰リマスカ?』

「いやー、私はもうちょっとだけ、待ってみます」
「小鍛治さんみたいに、かっこよくはないから」

木の下から、その後ろ姿が遠ざかるのを見送る。
私が帰るのは、それから1時間くらいしてからになった。

686小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/17(月) 04:04:07
>>685

「なんてことないわ」

「私はこれを飾らないだけだもの」

黒のスマートホンを黒いままにして使う女が言った。

「ええ、さようなら」

「またいつかね」

雨の中を歩いていく。
不意に着信が入って、通話と書かれた画面をタッチする。

「もしもし、カレンさん?」

「ええ、問題ないわ。これも仕事みたいなものだしね」

687ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/20(木) 22:33:51

青々とした芝生の上に、花柄のワンピースを着た少女がいた。
年の頃は、小学校に上がったくらいだろうか。
彼女の足元には、小さな黒い塊があった。

「よーし、あっちまで先についた方が勝ちだからねー」

少女が元気よく声を発し、足元の塊が動く。
それは一匹の『チワワ』だった。
『スムースコート』と呼ばれる短毛種で、毛の色は黒一色だ。

「――スタートッ!」

パッ

少女の合図で、一人と一匹は同時に走り出す。
犬の方が速いと思われたが、実際のスピードは似たようなものだった。
正確には、チワワが少女に合わせて速度を落としているらしい。

タンッ

「ゴールッ!」

少女とチワワは、一本の樹の前で足を止める。
少女は腰を下ろし、チワワが隣に座った。
チワワの首輪には『DEAN』という名前が入っていた――。

688音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/21(金) 22:26:03
>>687

       キキキィィー

「おぉー、微笑ましいものだな」

ポロシャツに七分丈パンツというスポーツウェア姿で、
ロードバイクを乗っていると、思わずブレーキを掛けた。

    「(何かの拍子にビックリして、
      急に走り出したら危ないからな……。

      どーれ、ちょっと様子を見てみようかね)」

少し離れたサイクリングロードの路肩で、
飼い犬とかけっこをする少女を見守っている。

689ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/21(金) 23:24:38
>>688

「アハッ、一緒だねー」

「ね、ディーン。ヨシエ、前より速くなったかなー?」

少女は、横に座るチワワに話しかけている。
チワワの目線は少女に向けられていた。
まるで彼女の話を聞いているようにして。

「もう一回やろうよ!今度は勝つからねー!」

少女は立ち上がり、そのまま走り出した。
視線はチワワに注がれており、前を見ていない。
早い話が、余所見をしていたのだった。

バッ

「――わッ」

前方を見ていたチワワが駆け出し、少女の前に飛び出した。
そして、停まっていたロードバイクと少女の中間辺りで立ち止まった。
ぶつかるのを阻止しようとしたらしい。

「あ、ごめんなさい……」

ペコッ

そう言って、少女は頭を下げる。
チワワは少女の無事を確かめるように彼女を見上げてから、男に視線を向けた。
元々超小型犬だが、大柄な男が近くにいると、少女といるよりも更に小柄に見える。

690音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/21(金) 23:37:05
>>689
「賢いワンちゃんだ」

     「君がぶつかる前に、
      ちゃんと教えてくれたんだね」

傍に樹立するケヤキにロードバイクを立て掛ける。
新品の『U字ロック』がハンドルの中央に引っ掛けられている。

     「気にすることはないさ。
      お兄さんも、君とワンちゃんが転ばないか、
      よぉぉ〜〜〜く、見てただけだからね。うん」

ウェーブ掛かった黒髪に鳶色の瞳、潔く割れたケツアゴ。
スポーツウェアから伸びる四肢は、樹皮のように逞しい。

     「気にせず、元気に遊んでおいて。
      だけど、こっちの『道路』の方は危ないから、
      なるべく、……そうだな。向こうの『丘』の方で遊ぶといい」

公園とはいえ、『サイクリングロード』の方は、自転車やランナーも通る。
広場の中央に位置する、小さく盛り上がった『丘』を指差した。

腰を落とし、視線を少女に合わせながら、朗らかに話をする。
走り寄ってきた『チワワ』を無造作に撫でながら、柔らかく口角を上げた。

691ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 00:07:13
>>690

(……デカい人間だな)

それが俺――『ディーン』から見た第一印象だった。
サイズとしては、今まで見てきた中で一番かもしれない。
少なくとも、直接お目にかかった中ではそうだろう。

「…………」

普通、ガタイが良いものほど力が強いというのが『自然の法則』だ。
それに従えば、この男も相当なものなんだろうな。
だが、俺にとっての問題は、どちらかといえば『内面』の方だ。

「はーい!今度からは、あっちの方で遊ぶねー!」

軽く見た限りでは、『そっちの方』も問題はなさそうだ。
そう考えながら、俺は男に撫でられていた。
気持ち良いものは気持ち良い――これもまた『自然の法則』というヤツだ。

チラッ

「変わった自転車ですねー。見たことない!
カッコいいねー、ディーン?」

少女はロードバイクが珍しいらしく、そちらに視線を向けた。
彼女に名前を呼ばれたチワワも、同じ方向を向く。

692音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/22(土) 00:19:51
>>691

     ワシ ワシ ワシ ワシ ッ

喉下や耳の後ろ、脇腹を丹念に揉み摩っていく。
十指が代わる代わる『ディーン』の身体を圧し解していく。

   「お目が高いね、お嬢ちゃん。

    故郷のフランスから運んできたんだ。
    オーダーメイドだからね、世界に一つきりなんだよ」

頑強さとしなやかさを兼ねた、優美なフレームが陽光を照り返す。
それを語る口振りは何処か愛しげに。

   「この子は『ディーン』っていうのかい。
    ……おっと、『首輪』にも書いてあるね。

    私は『音無ピエール』だ。
    この国じゃあ、カタカナの名前は珍しいからね。
    少数派同士、仲よくしような。ディーン、よしよしっ」

    ウシ ウシ ウリ ウリ

子犬を撫でる感触にすっかりハマってしまい、中々離そうとしない。

693ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 00:53:55
>>692

「『オーダーメイド』?それって、ヨシエも聞いたことあるよー!
えっと――『特別』なんだよねー!」

ヨシエは自転車を見ながら、そんな事を言っている。
言われてみると、いかにも速そうな印象を感じるのは確かだ。
いつかテレビで見た『野性の豹』のような、それに近い雰囲気を感じた。

「ピエールさんって、フランスの人なのー?
フランスって、どんなところー?」

ヨシエは自転車から視線を外し、男――『ピエール』に問いかける。
ところで、そろそろ俺から手を離してもらえると有り難い所だ。
撫でられるのは悪くないが、限度ってものがあるからな。

クーン

ここは、ヨシエに手を貸してもらう事にしよう。
『ワン・フォー・ホープ』を使うという訳にもいかないからな。
そう思って、俺は軽く鼻を鳴らした。

「?ディーン、ヨシエはここだよー?」

俺の意図を読み取ってくれたか定かじゃないが、ヨシエは俺を呼んでくれた。
これで、ピエールが俺を解放してくれるんじゃないかと期待した訳だ。

694音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/22(土) 01:16:30
>>694
「今は色々と騒がしくなってしまったが、
 私にとっては『ステキ』な故郷だよ」

     「この『ロードバイク』が唯一の『名残』だけどね。
      そういう意味でも、この自転車は『特別』なんだ」

『ヨシエ』の呼びかけに任せるように、
『ディーン』をワシャワシャする手を離す。

     「おっと、君の友達をすっかり引き留めてしまったね。
      小さいけれど意外としっかりした身体だ。毛並もサッパリしてるし」

     「ついつい、長く遊んでしまったよ」

爪の間に残った短毛を払い落しながら、
『ロードバイク』のハンドルを掴むと、己の身傍に引き寄せる。

     「それじゃあ、日が暮れる前に帰るんだよ」

     「『H湖』を照らす『夕焼け』はキレイだけど、
      見惚れていたら、真っ暗になっちゃうからね」

『ヨシエ』に優しく忠告すると、長い脚を蹴り上げてサドルに跨った。

695ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 01:38:25
>>694

「その自転車は、ピエールのお兄さんの『大事なもの』なんだねー」

「それって――ヨシエとディーンみたい!」

「だって、ディーンは『特別』で『一番大事な友達』だから!」

ヨシエは、どこまでも明るい笑顔でピエールに言った。
俺にとっても、ヨシエは特別な存在だ。
少し違うのは、ヨシエが俺の『守るべき存在』だって所だろう。
もっとも、さっきは俺の方がヨシエに助けてもらった訳だが、
何はともあれ、ようやく解放してくれたのは素直に有り難かった。

「ありがとー、ピエールのお兄さん!ディーンも、きっと喜んでたと思うよ!」

まぁ、撫でられるのは嫌いじゃない。
特に手荒でもなかったしな。
ほどほどにしておいてくれると、もっと良いんだが。

ワンッ

俺は一声鳴いた。
今度はヨシエに対してではなく、ピエールに向かって――だ。
ちょっとした別れの挨拶ってヤツさ。

「バイバーイ!ピエールのお兄さーん!」

ヨシエはピエールに手を振って、また歩き出した。
行き先は『丘』の方だ。
斜面は転びやすいから、注意しておかないとな。

696鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/19(金) 22:42:21
『H湖』を一望できるベンチに腰掛けている、学生服の少年。傍らには、『竹刀袋』がかけられている。
特に何をするでもなく、ぼおっと静かな湖を見つめていた。

(…何だかこうして日常に帰ってくると、一月ほど前に命を懸けたやり取りをしていたのが…ウソみたいだな)

「・・・・・・・・・・」


>私に言わせれば、あんたは危なっかしいんだよ。
>一見すると、『生真面目なヤツ』って印象だったが………決定的なところが、危なっかしい。
>『危険』だ。


(塞川さんの通りだと思う。…思ったより、自分は人を傷付ける事に対して『抵抗』がなかったな)
(このまま日常から、段々と離れていくことになるんだろうか)

697一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 01:41:21
>>696
これほど思索に耽るのに適した場所はないだろう。
そう、湖面を揺るがす者が現れなければ…

「噛みつき亀! 『インダルジェンス』ッッ!」
「良い感じに捕獲して! お小遣い!」

涼しく刺すような玲瓏とした風貌のあどけない少年が騒いでいる。
傍らに発現した近距離パワー型と思わしきスタンドが日光浴中の
亀を網で的確に捕獲している。

「ルンバとマスミも逮捕されたし、当面は夏休みを満喫!」

S県警に押し買い詐欺集団が逮捕された話を知っていれば、
『班目倫巴』と『神原真純』の名前である事に気づくだろう。

698鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 03:50:38
>>697

湖面を騒がす水音に、そちらの方へと視線を向けた。

「・・・・・ッ?!」

驚いた。あの少年、『スタンド使い』か。
しかも無警戒にスタンドを出している。少年故に無鉄砲なのか、あるいは、逆なのか───?
『スタンド』に亀を取らせているようだ。恐らく、危険な子ではないだろう。

彼が口にした『犯罪者』の名前も気になるが、ひとまず話しかけてみよう。
立ち上がり、竹刀袋を肩にかける。そうして湖の方へと近付いた。

「こんにちは」「その亀には、『自由研究』にでも協力してもらうのかい?」

699一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 08:05:00
>>698
声を掛けられた少年は不思議そうに振り返る。
捕まえた亀が口を開くも強引にスタンドが指で閉じる。

「違いますよ。近所の中華亭で買い取ってもらうんです。
 売るも良し、自分で食べるも良し」

「お兄さんは駆除のバイトに雇われた大学生さんでしょうか?」

淡い青色に微かなエメラルドの反射が混じる瞳で鉄を見つめる。
竹刀袋に視線を移して小首を傾げた。

「いや、指導役の人が見当たらないし、部活帰りに奇妙な子供が
 居たから話し掛けてみたってところですね」

小学生の癖に可愛い気というものがない。
逆に観察されてるように感じるかもしれない。

700鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 21:09:48
>>699

「買い取ってもらう…?食べられるのか?カミツキガメって」
「確か、危険な外来生物で駆除の対象になってるんだったか…エラいな、君は」

幼いのに勤労とは、と口にしようとして止める。
恐らく五歳以上年齢が離れているとはいえ、あまり子供扱いをするものではない。
こんな利発そうな子なら尚更だ。

「ああ、オレは─────」

>「いや、指導役の人が見当たらないし、部活帰りに奇妙な子供が
> 居たから話し掛けてみたってところですね」

「…おや」

自分が答える前に答えられ、思わず驚く。それも、極めて正解に近い答えだ。
利発そうどころか、かなり聡明だ。子供にされた名探偵が現実にいたら、こんな風なのだろうか?

「その通りだ。まぁあえて付け加えるなら、その奇妙な行動に『スタンド』を使っていたから、かな」

鉄は微笑みながら、傍らに己のスタンド、『シヴァルリー』を発現する。騎士のような姿の人型スタンドだ。
そして鉄も、刃先のような前髪の下、灰色の瞳でその小学生を見つめ返した。

「オレは清月学園高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)だ」「スタンドは『シヴァルリー』」
「君の名は?」

701一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 21:51:43
>>700
「内臓を傷つけないように解体すると美味しいです。
 未知なる寄生虫を持つ場合もあるので油断ならない子達ですよ」

「おおっ、意外とスタンド使いって多いんですね。
 この王道な感じのスタンド! 凄く真っ当で嬉しいです」

騎士の姿をしたスタンドに目を輝かせる。
今の今まで変り種のヴィジョンしか見た事がなかったから新鮮だ。

「私は一抹貞世です。中学一年生になったばかりです
 よろしくお願いしますね? 先輩?」

年上っぽいので彼を先輩と呼ぶことにしよう。
それにしても本当に真っ当なスタンド使いだ。
短期間に薄汚いクズを見過ぎたせいで彼の爽やかな雰囲気が心地良い。

「シルバ…『シヴァルリー』ですか。見た目的に近接パワー型。
 竹刀袋を持ち歩いてるから武器に関連するタイプでしょうか?」

「しかし、本当に王道な見た目で素敵です…」

702鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 22:21:45
>>701

「そうなのか…君は博識だな」「『中華料理屋』か。今度食べてみるとしよう」

亀の肉は食べたことはなかったが、美味なら食べてみたい。ましてや害を及ぼす生物となれば、一石二鳥だろう。
頷きながら、自分も湖面へと近付いていく。『カミツキガメ』を探してみよう。

「あぁ、よろしく一抹くん」
「そうだな…少なくとも会った限りでは、一学年に一人はいてもおかしくなさそうだったな」
「中学一年生では、今のところ一抹くんしか知らないけれど」

同じ学年には三枝さんがいたが、彼女はスタンド使いではないだろう。…恐らく。

「そこまで褒められると照れるな…」

もちろん悪い気はしないが。

「しかし、君のスタンドも中々カッコいいと思うよ」
「ああ、『シヴァルリー』は刃物を能力のキーとするタイプだ」
「君のスタンドはどういう能力なんだ?」

703一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 23:09:15
>>702
湖面に近寄ると器用に泳ぐ亀が数匹ばかり見えた。
侵略的外来種ワースト100に指定された凶悪な生物だけあって
漁師も駆除に駆り出されるという。

「私の『インダルジェンス』は無痛と鎮静が能力。
 敵の口を割らせるなら鎮静。戦闘は強く当たって砕けろで…」

「お陰で毎回、現地の同行者に命を救われる始末。
 最近は『通り魔』が色々とやらかしてるようですし、
 私達も気をつけないと」

未だに夢の中には残党が潜み、現実では『通り魔』が暗躍。
『通り魔』もスタンド使いではないかと疑ってしまう。

「鉄先輩はスタンド使いとの戦闘経験は…?
 私のスタンドを見て怯える感じがしなかった」

「とても強いのか、既に怯える域を通り過ぎたか。
 ちょっと気になります」

704鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 23:51:01
>>703

「なるほど、こいつが…」

見様見真似で、自分も『シヴァルリー』でカミツキガメを捕まえる。
思ったより素早い動作に驚くが、注意をこちらに向けつつ背後からスタンドを回せばそう難しくはなかった。
『シヴァルリー』の精密動作性もあるのかもしれない。
とりあえず、これは一抹くんへ渡すとしよう。

「『無痛』と『鎮静』」「優しいようで、恐ろしくもある…面白い能力だな」
「それは一抹くんの性格と関係があるのか?」

少し笑いながら、冗談めかして訊ねてみる。


>「お陰で毎回、現地の同行者に命を救われる始末。
> 最近は『通り魔』が色々とやらかしてるようですし、
> 私達も気をつけないと」

「…そうだな。もし『通り魔』がスタンド使いなら、対抗できるのはスタンド使いだけだしな」

『通り魔』。その単語を聞いた瞬間、細めの鉄の目が更に鋭くなる。

「いいや、スタンドでの戦闘経験はたった一度だけだ。それもつい最近だな」
「『インダルジェンス』を見ても恐れなかったのは…君が『危険な子』そうじゃなかったからだ」
「まぁ、ただの勘だけど」

「…ところで一抹くんは、さっき『詐欺集団』の犯人の名前を叫んでいなかったか?」
「事件に巻き込まれてしまったとか?」

705一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/21(日) 10:55:23
>>704
『シヴァルリー』の手から逃れようと足掻く亀。
同種の鼻先をも食い千切る恐ろしい気性の荒さだ。

「噛みつき亀は苛々すると同種の手だろうが鼻だろうが
 噛み千切ろうとするんです。『痛み』が存在するから」

「自分の生い立ちが分かって、取り巻くものを憎み続けて。
 私は人の醜さを消し去りたかった。だから、こんなに分かりやすい」

『インダルジェンス』が亀に触れた途端に亀の抵抗が止まった。
分かりやすく亀の恐怖と怒りを『鎮静化』して見せたのだ。

「こう見えてもやる時はやる派なんですよ?
 ニュースを見るにルンバは生きてるようですが」

「彼等は人の夢に不法侵入して夢の主を殺して歩くスタンド使いの
 集まり。自分たちに都合の良い世界を作り移住する気でしたよ」

マイルドに説明したつもりだが連中のクズさは衰えない。
清々しいまでのクズさに行動力が加わり碌でもない。

「また、あの二人と戦っても勝てる気がしません。
 あの連中のスタンド能力はヤバいですよ…」

706鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/21(日) 22:03:31
>>705

>「噛みつき亀は苛々すると同種の手だろうが鼻だろうが
> 噛み千切ろうとするんです。『痛み』が存在するから」
>「自分の生い立ちが分かって、取り巻くものを憎み続けて。
> 私は人の醜さを消し去りたかった。だから、こんなに分かりやすい」

「…すまない。気安く訊ねていい話題じゃあなかったな」

中学一年生という若さでありながら、彼のこれまでの人生は、決して楽しいものだけではなかったようだ。
もし、彼が自分と同じように『スタンド』を求めたのだとしたら。
そこも自分と同じように、常ならざる理由があったのだろう。
『インダルジェンス』の能力により、『鎮静化』された亀を見て、思う。
あるいは一抹くんも、同じように安らぎを求めているのだろうか。

「『捕縛』向きの能力だな」「人を深く傷付けることなく終わらせることもできる、いい『スタンド』だ」

『鎮静化』したカメを置き、『二匹目』以降を探していく。要するに彼のお手伝いだ。

「ああ、侮っているように聞こえたならすまない」
「いきなり見境なく人を襲うような『通り魔』には見えなかった、そんな意味だ」
「君の戦闘能力を疑っているわけじゃあない───」

むしろ、その後の話を聞けば彼の経験のほどが分かった。既に命を懸けたやり取りを、最低でも一度終えたということだ。
そしてあの『詐欺集団』が、実際にはより危険な犯罪者であったことも。

「…そういう『スタンド』もあるのか」「危険だな」
「しかし表向きはあの罪状なら、恐らく『死刑』にはならない」
「『スタンド使い』はそういった所が面倒だ」

基本的にはありとあらゆる状況で、『スタンド』は発現することができる。
例え両手を手錠で拘束されてもだ。そして、『スタンド』は一般人の目には映らない。
率直に言って、可能ならばその両名は始末しておきたい。

707一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/22(月) 01:46:28
>>706
『鎮静化』を受けた亀は抵抗もせずバケツに放り込まれる。
恐怖や怒りを抑圧して安息を得た先に存在するのは安心ではなく、
隷属や感性の緩やかな死だろう。

「いえいえ、既に『過去』で苦しむ段階は終わりました。
 『過去』を捨て去って都合良く人の居場所を横取り
 しようとする反面教師でしたからね、ルンバは…」

「それと連中は四人組なんですが最後のリーダー格に負けちゃった
 んですよ。夢の世界に詳しくスタンドも精神干渉が得意そうな男に」

「……あっ、無事に出所して来たら報復に来るかもしれませんね。
 二人揃って対人特化で片方が毒物散布を得意とする奴です。
 一緒に戦った方が居なければ毒殺行きでしたよ」

既に『解呪』されたルンバが夢に現れる事もないだろう。
次に会うとしたら現実で報復に現れた時だ。マスミ付きで…

「鉄先輩はどのような案件に巻き込まれましたか?
 近接戦闘が得意そうな先輩なら搦手以外は何とかなりそう」

亀とて恐怖の感情を有するのだろう。
二人で世間話をしてる間に亀たちは散開していく。

708鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/22(月) 22:13:48
>>707

「成る程」「戦いを糧に『過去』を乗り越えたってことか?」

人間万事塞翁が馬とは言うが、確かに敵を通して自分を見つめる機会もある。
自分が戦った『加佐見』は悪人ではあったが、特別な人間ではなかった。
誰にでも、ああなってしまう可能性がある。『悪』というのは特殊なものではない。
自分にも、戒める必要があると感じた。もっとも、目的に対して避けて通れないのであれば、『悪』もやむを得ないが。

「最後の一人とやらが、夢の世界に関する『スタンド使い』なのだろうか」
「何にせよ、もしそういった危険があれば『加勢』に向かうさ。連絡してくれ」

スマホを取り出す。そいつらが危険だというのも勿論だが、何より一抹くんの身が危ないのだろう。
こんな子供が理不尽に命を奪われるなど、あってはならない。

「オレかい?」
「『警察』の依頼を仲介してもらって、『窃盗犯』探しに協力したんだ」
「犯人からの反撃にあったけど、こちらは『二人』だったし無事に捕まえられたよ」
「オレの『シヴァルリー』よりも速度が上だった…なかなか手強かったよ」

もう亀を捕まえるのは難しいか。また今度ここに来た時に、駆除の手伝いをしておこう。

709一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/23(火) 00:12:21
>>708
「やっぱり背中を守ってくれる方が居ると心強いです。
 お役に立てるか怪しいものですが口を割らせるなら『鎮静』ですよ」

「『シヴァルリー』よりスピードが格上で窃盗向きのスタンド。
 痕跡を残さず本体はコソコソ隠れて戦うタイプでしょうか?」

「追いつめられても二人相手に抵抗可能な戦闘力と手数。
 条件付きのヴィジョン発現でスペックが変わる群像型かな?
 発現に制約を有するスタンドは厄介っぽいですから」

『インダルジェンス』の手の甲から『慈悲の刃』を発現する。
武器をトリガーに能力が発動する『シヴァルリー』の助けとなるかもしれない。

「こっちが『無痛』の斬撃を伴う力。最後の〆に丁度良い隠し札。
 初戦で使った相手にも、ルンバにもよく刺さりました」

「連絡交換! 前に夢の中で失敗したから再チャレンジです!」

スマホを取り出して連絡先を交換する。ライ…アレも便利なものだ。
能力の相性は分からないが非常に真っ当で爽やかな先輩である。
宗像さんと両親しか登録先のない連絡リストが埋まる喜びに目を輝かせる。

「しかし、ルンバとマスミも生き続ける事で変わるかもしれません。
 生きる事に『痛み』は付き物。罪を抱えたまま『無限地獄』を歩む
 知り合いも居ますし、延々と『痛み』を味わうのもまた罰となりましょう」

「さてと、あまり長く話してると亀がストレスで共食いを始めるので帰る事に
 します。それに『インダルジェンス』が微成長するようですから寄らないと…」

710鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/23(火) 00:35:13
>>709

「ご名答。『FAX』をキーワードとすることで、遠隔ながら近接パワー型並のスペックを発揮するタイプだ」
「紙を媒介としてヴィジョンを形成するタイプだった。『打撃』の類はカウンターでしか当たらない、厄介なタイプだ」
「もっとも、オレともう一人の仲間と相性は悪くなかったが」

『シヴァルリー』の斬撃、『クリスタライズド・ディスペア』のガラス化はどちらも有効打となった。
しかし、一抹くんは本当に聡明だ。言の葉の僅かな情報から正確な考察を作り上げる。
もし共闘する機会があったなら、頼りになるだろう。…できれば子供を戦闘に巻き込みたくはないが。
─────だが、しかし。

「…君との相性は、極めて良いみたいだな」
「オレの『シヴァルリー』、能力は『斬撃の統制』」「視認した『刃物』の切れ味を奪い、扱う」「例えば、こんな風に」

『インダルジェンス』が発現した『慈悲の刃』、その殺傷力を奪い。
同じように、『シヴァルリー』の手の甲から『慈悲の刃』を発現してみせる。
能力はすぐに解除するが。
もちろん奪っている間は『インダルジェンス』からその部分の能力は失われるが、
奪う際の引き寄せ、あるいは解除時の引き戻しの刃にも『能力』は乗る。
『死角』から飛来する『無痛』の刃。強力な武器だろう。

「…かもしれないな。本当に。改心してくれるなら、それに越した事はない」

互いの連絡先を登録し、スマホをしまう。
何事もないのが一番いい。深く反省して、二度と私利私欲のために『スタンド』を使わないのなら、それでいい。
…そう上手くはいかないことの方が多いだろうが。

「…成長?『スタンド』も、人間のように成長することがあるんだな…」
「了解、気をつけて」

頷き、そういえばと最後に一言付け加える。

「ああ、そうだ。三枝千草さんを知ってるかな?」
「君と同い年で、君と同じようにいい子なんだ。もし出会ったら、仲良くなれると思う」

711一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/23(火) 01:48:23
>>710
紙を媒体にヴィジョン形成を行う上に近接パワー型に匹敵するスタンド。
打撃が通じないとなれば、濡らすか焼くかの選択肢しかない。
生半な傷では紙の補充によりヴィジョンの復元も可能だろう。

「タフな癖に並の近接パワー型のヴィジョンで打撃を受けつけない。
 ただし、射程距離の問題がある。紙も尽きれば追加しなきゃいけない」

「馬鹿正直に付き合ってやる必要もない。逃げながら本体を探せばいい。
 一度でも能力が判明したら対策されて終わり」

「それは敵も分かっている筈だから逃げられない密室、または
 自分のよく知る建物内でスプリンクラーと燃える物を片付けてしまう。
 よく勝てましたね。無限湧きほど恐ろしいものはないです」

マスミとルンバも徹底的に勝率を上げる状況を作り上げていた。
だが、肝心なところで『本気』を出す致命的なミスを犯した。
無敵のバシリスクも小林さんの手で窒息死する始末。
スタンド使い同士の殺し合いは最後まで結果は分からない。

「相性が良いと同時に私の天敵みたいなスタンド能力。
 刃が要となるスタンド泣かせですよ」

「えっ、私と同い年のスタンド使いが存在するんですか!?
 動物のスタンド使いも存在するし意外と多いものですね。
 仲良くは、うん、どうにかなりますよ。たぶん。きっと!」

暴れ始めた亀を『鎮静化』してバケツを手にする。
『音仙』の住まいに向かう前に軽く稼いで土産を買うとしよう。

「あぁ、でも、きっと世の中には地獄すら生温いクズが潜んでいる筈です。
 人に『痛み』を与える事が生き甲斐のような邪悪が」

「そのような者は殺すしかありません。それには人の理屈は通じませんよ
 見逃すのは手を貸すようなもの。出会ったら責任をもって仕留めなければ…」

「取り逃がした間抜けの戯言ですよ。気にしないでくださいね。
 普通に生きてたら絶対に出会わない類の輩です。では、お元気で!」

712鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/23(火) 02:12:17
>>711

「いや、『スタンド使い』じゃあないんだが…」
「…というか、動物の『スタンド使い』もいるのか?」「人間に対して友好的ならありがたいが」

思ったよりスタンド使いのバリエーションは広いらしい。
一体どの程度の知能を有する動物なら、『スタンド』を持てるのだろうか?
もし、小型の動物や昆虫のまでもが『スタンド』を持てるとしたら。
…あまり想像したくはない。そんな存在が人を容易く殺せる力を持つ可能性は。

>「あぁ、でも、きっと世の中には地獄すら生温いクズが潜んでいる筈です。
> 人に『痛み』を与える事が生き甲斐のような邪悪が」
>「そのような者は殺すしかありません。それには人の理屈は通じませんよ
> 見逃すのは手を貸すようなもの。出会ったら責任をもって仕留めなければ…」

「その意見には概ね同意だが、あまり自分を責めすぎないようにな」
「そこでやられてしまうよりは、生きて帰ってきた方が次に繋がる」
「もしまた戦う機会があれば、今度仕留めよう。それまで腕を鍛えればいいさ」
「それじゃあ、また」

カミツキガメを連れて行く一抹くんに、手を振って別れを告げる。

あんな子ですら、非日常にも身を置いている。進んで鉄火場へ飛び込んで行きたいかと言われれば
確実に否定するが、子供が傷付けられるのを見過ごすことはできない。やはり、覚悟を決める必要がある。

(…その内、これも必要なくなってしまうかもな)

肩にかけた竹刀袋をチラリと一瞥し、自分も帰途へと付く。
さて、次はどこで『通り魔』の情報を得るとしようか。

713ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/24(水) 21:22:43

俺は一人で――いや、『一匹』で走っていた。
遊んでいる最中に、ヨシエが急に具合を悪くしてしまったからだ。
おそらく、この暑さのせいだろう。

(…………俺の責任だ)

一緒にいながら、事前に防げなかった。
だが、今から助ける事は出来る。
そのために、俺は走っていた。

      シュルルルルル

首輪に結ばれた『リボンタイ』が、独りでに解けていく。
『光の紐』――『ワン・フォー・ホープ』を発現した。
先端にある『手』の中には、銀色の硬貨が握られている。

    チャリッ
          ピッ
               ガコンッ

ヨシエの小遣いである五百円玉を『自販機』に投入し、ボタンを押す。
こういう場面に出くわす度に、便利なものだと改めて思う。
『自販機』もだし、『スタンド』もだ。

(さて――急いで戻らないとな……)

水のペットボトルに『ワン・フォー・ホープ』を巻き付かせ、取り出す。
『何か』を忘れているような気はしたが――俺は無視して走り始めた。
事実、俺は『釣銭』を自販機に残したままだった。

714朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 19:17:04
>>713

「んおっ! こりゃーめっずらしい光景っス!
権三郎! お仲間のワン君が自販機から飲み物買ってるっス!
賢いワンちゃんも居たもんっスね〜!!」

権三郎『パウッ!(すごいねっ!)』

今日も今日とて権三郎と悪の首領の日課としての体力錬成!!
お散歩けん悪のランニングっス!!!

けど、賢いワン君だけど釣り銭をとらないでいっちゃってるっス!
なんか急いでるっぽいけど、これじゃー損する事になるっス!!!

「お〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!! お金を忘れてるっスよーーーーー!!!」

権三郎『パゥーーーーーー!!!(待ってーーーー!!!)』


 急いで追いかけるっス!!!!!

715ディーン『ワン・フォーホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/25(木) 21:28:28
>>714

後ろから、犬と人間の声が重なって聞こえた。
こういう取り合わせは、この辺じゃあ珍しくない。
もっとも、犬も人間も俺の知ってるヤツじゃなさそうだが。

(何か聞こえたが……今は急いでるんだ。悪いな。後にしてくれ)

俺は、そのまま走り続けた。
そう時間は掛からず、正面にヨシエの姿が見えてくる。
今、ヨシエは木陰で休んでいた。

「――あっ、ディーン」

       トスッ

俺は、ペットボトルをヨシエの足元に置いた。
そして、『ワン・フォー・ホープ』をヨシエに接続する。
これで俺とヨシエは、『種族の壁』を越えて会話が出来るようになる。

《具合はどうだ?水を持ってきたぞ》

「ありがとー。ヨシエは平気だよー」

ヨシエは水を飲んでいて、俺はそれを見守っている。
そういえば、さっき『何か』…………。
そう思って、俺は後ろを振り返った。

716朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 22:00:06
>>715

「うおぉぉぉ!! 中々早いっス!! 権三郎!! 私達も
負けないっス!! いざ!!! パワフル全開っスぅぅうううう!!!!!」

権三郎『(`・ω・´) パァァァウウゥゥゥ!!!』

ドタドタドタ!!!

ワンコ目がけて全力疾走っス!! そうすると、一人の女の子が見えたっス!

日射病だったりしたら大変っスけど、お水を普通に飲んでるようだし
どうやら、そこまで深刻そうじゃないっス!!

「こんにちわっス!! そこのワンちゃんが自販機の
お釣りを忘れてたっスよ!!」 スッ!!

「自分、朝山 佐生っス!! 十四歳で清月学園の中学二年生っス!!!」シャキーン!

権三郎『パウッ パゥパウッ!(僕っ 権三郎っ!)』シュタッ!

権三郎も前足上げて決めポーズ! 自分も一緒に悪の決めポーズ!!

「お近づきの印に、塩ラムネもあげちゃうっス! 暑さは油断大敵!
ナトリウムもちゃんと摂るっス!!」 シャキーン スッ!!

権三郎と私用に、真夏は何時も携行している塩ラムネをちょっと分けてあげるっス!!

717朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 22:06:45

あ! 権三郎のは塩無添加のおやつっス! それを少女の
ワンちゃん(ディーン)に分けてあげるっス!

718ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/25(木) 22:44:07
>>716
>>717

《あ、ああ……》

今まで出会った中では、あまり見ないタイプの人間だった。
どうやら、犬の方も似たような性格のようだ。
『犬は飼い主に似る』って言葉があるらしいが、まさにソレだな。

「そうなんだー、ありがとう!朝山のお姉さん!権三郎さん!
 ヨシエはヨシエだよー。嬉野好恵!」

ヨシエは、俺が忘れてきた釣銭を受け取った。
『ワン・フォー・ホープ』と接続した人間は、『犬語』が分かる。
だから、ヨシエは佐生と権三郎の二人に――いや、一人と一匹に話し掛けている。

《わざわざ悪かったな。俺はディーンと呼ばれてる。アンタも、そう呼んでくれ》

一方、俺は『権三郎』だけに話し掛けた。
『ワン・フォー・ホープ』は実体化している。
だから、それが見えたからといってスタンド使いかどうかは判別出来ない。
それに何より、俺は『犬』だからな。
『犬』が『犬』と会話をするのは、『犬』が『人』と会話をするより自然な事だ。

「ありがとー!」

ヨシエは佐生に礼を言ってラムネをもらっている。
俺も、犬用のオヤツを分けられた。
これはまだ食った事がない。

《アンタの飼い主に『ありがとう』、と言っておいてくれ。
 いや――それは無理な話だったな……。アンタが『人間語』を喋れるっていうなら別だが》

俺は、権三郎にそう言った。
『ワン・フォー・ホープ』のようなスタンドでもない限り、犬と人間が会話するのは不可能だ。
だがまぁ――――たとえ『言葉』が通じなくても、『心』が伝わる事はある。

719朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 23:15:44
>>718

「おーー!!  ヨシエちゃんはとっても元気が良いっス!
けども! まだまだ私には及ばないっス!! 私のパワフルさは
星見町!! いや日本一かも知れないと言われた事もあるっスからね!」フンッ!

「佐生ねーちゃんと気軽に呼んで構わないっス! 特別っスよ!!」

クルクルッ! シュタッ シャキーン!!


>アンタの飼い主に『ありがとう』、と言っておいてくれ。
 いや――それは無理な話だったな……。アンタが『人間語』を喋れるっていうなら別だが

『・・・おや、可笑しな事をおっしゃる。死するまで寄り添え合える存在ならば例え獣の身形で
あろうとも通じえあえるものでなかろうか? ディーン殿』 パゥ・・・ワフッ

そう短く犬語で伝えると、上目遣いで主人の朝山を権三郎は見上げて特に言葉を載せない
パウッ! と言う一声を発した。

朝山「ぉ? おー!! こっちのワンちゃんと、もう友達になれたっスか?
さーすが権三郎っス!! 私に似て友達作りのプロフェッショナルっス!!
おやつのお礼なら気にしなくて良いっス! その代わり!! 権三郎の
友達になってくれたら嬉しいっス!」 ナデナデナデ!!

『・・・な』

ディーンと一緒に揉みくちゃに撫でられつつも、穏やかな同意の眼差しを
権三郎はディーンに向ける。

720ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/26(金) 00:16:42
>>719

《悪いが、俺は『リアリスト』でね。
 言葉が通じないから伝えたくても伝えられない事もある》

《俺は『もみくちゃにして欲しい』とは思ってないからな。
 言葉が伝わるなら、どんなボディランゲージを使うよりも穏便に解決できる問題だ》

激しく撫でられながら、権三郎と佐生を見つめる。

《だがまぁ――》

《『言葉が通じなくても伝わる事がある』のは同意見だ》

   フッ――――

俺は軽く笑った。
そして、権三郎と佐生から離れて背を向ける。

《ヨシエ、俺は走って少し疲れた》

《少しの間、あっちで休憩させてくれ》

俺はヨシエに言って、少し離れた木陰まで歩いていく。
『ワン・フォー・ホープ』が解除され、元通りの『リボンタイ』として首輪に結ばれた。
黒単色――『ブラックソリッド』の短毛で覆われた後ろ姿が遠ざかる。

「分かったー。じゃあー、あっちで見ててねー」

ヨシエは、俺に手を振った。
俺は、尻尾を軽く振って、それに答えた。

「――えっとー、ヨシエとお話してくれますかー?お散歩してたんですよねー?」

「近くに住んでるんですかー?ヨシエはー、けっこう近くですよー!」

『犬』と話すばかりじゃあなく、『人』と話す時間。
ヨシエには、こういう時間も必要だろう。
『たまには』――――な。

721斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/19(月) 23:21:00
――それが なんでもない事のように
マリーゴールドの花束を 湖畔に放り投げた。

病院に行ったところで 愛する人達になんて声をかけたらいいのか
わからなかった から。



『遠州灘』にほど近い『H湖』のほとりには
海への視界を遮るほどの樹木が、同様に海からのべたつく潮風も遮る

夏の日差しも木の葉に遮られ
水辺で有る事が熱気をも奪う、ここは 避暑地としては中々の物だ

 「それでも、夏の氷菓子は格別だね。」

森と水場特有の匂いが、ないまぜになって鼻をくすぐるなか
『斑鳩』は 新しいアイスキャンディーを頬張りながら

カーボン製の青い釣竿を放る、鏡のような湖畔に
まっかな浮きが漂いはじめた。

今日の空模様と同じく、真っ青なクーラーボックスには
幸福な胃袋のように アイスとドリンクが詰め込まれていて

その上で 同じ色の鳥のぬいぐるみをのっけた 古ぼけたラジオが
電波を拾って 洋楽のひとつを流している。

……傍には靴下を履いたような猫が、今日の晩ごはんを期待してか
気怠そうに尾をゆらしながら丸まっていた。

722宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/21(水) 20:25:50
>>721

釣り道具を持った男が近付いて来た。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
そう遠くない場所で立ち止まって同じように釣竿を振る。

「アビシニアンではないな」

視界に入った猫を見下ろして呟いた。
過去の一件から猫を見るとアビシニアンという単語が頭に浮かぶ。
その名前が記憶の片隅に残っている。

「――全く違う」

専門家ではないがアビシニアンとは別物である事は分かる。
仮に同じ種類だったとしても奴である筈は無い。
今頃は何処かで少なくとも生きているだろう。

723斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/22(木) 20:37:12
>>722


宗像征爾に見下ろされた猫は、彼に一瞬だけ目を向けると、興味のなさそうなフリをして丸まった
ただ、その瞬間 少しだけ猫の口角が上がったように見えた。


――僕が彼を見た第一印象はこうだった。

(随分とガタイのいい人だなあ)

その壮年の男性は、斑鳩よりも一回りは上の背をしていて
作業服を着た上からでも 解る程度には鍛え上げられた身体をしていた。

(でも、作業服? ここの管理人……ではないよな 服が違うし。)

あまりじろじろと見るのも失礼だろう、そう考え、視線を戻す
しかし、釣り等と言う 待ち時間を楽しむような事をしていると、どうにも妙な方に考えがいく。

赤い浮きがぷかぷかと湖面を漂う最中

――彼を見て、斑鳩は1人の女性を思い出していた
夏に会った、何処か あの景色にはちぐはぐな印象を受けた、喪服を着た女性。

 (あの人は、大切な人を失っていたんだった。)

猫がひとつ 欠伸をして起き上がる。

 (……まさかな、僕の考えすぎだとも。)
 (でも愛犬を失った傷心を釣りで癒してるとかだったら、傷つけたりとかしたくないなあ……そっとしておこう。)

ふと思い出し、勝手についてきた雑種の猫に話しかける

 「君も邪魔するなよ、スリープ……」

 「あれ?『スリープ・トゥギャザー』?何処行った?」

困惑しつつも周囲を見渡して、驚愕と呆れに斑鳩は固まった
壮年の男、『宗像征爾』の背後に、いつの間にかこっそりとあの猫が忍び寄り、魚を釣る為の餌を貪り食う為に探している。

 意地の悪い笑みを湛えながら。

724宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/22(木) 22:03:13
>>723

猫を見て思い出したのは奴を殺し損ねた事だった。
その考えは間も無く霧散する。
既に過去の一部だ。

「君は俺より経験が有りそうだな」

釣り糸を垂らしながら少年に声を掛ける。
特に含みの無い口調だ。
視線は湖面に向いていた。

「俺は一匹も釣れた事が無い」

釣りを始めたのは最近の事だった。
これといった理由は無い。
釣具も借り物だ。

「何かコツがあれば教えてくれないか」

男は移動した猫に気付いていない。
そもそも注意を払ってさえいないだろう。
見つからない限り何をしようと自由だ。

725斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/22(木) 23:40:16
>>724

宗像に話しかけられて、少年は周囲を見渡す
勿論周りには斑鳩以外に当てはまる人物はいなさそうだ。

 「……あっ、僕?」

間抜けな声が出た。

(やばい。)
(あの剃刀のような眼ならサックリやりかねない。)
(口調が優しい所が、むしろ怖い。)

彼の背後で餌を盗もうとしている猫に、可愛げはまったくない
ましてやスタンド使いの猫である、ついた知恵を、いかに腹を満たすかに使う猫である

だが、ここで見捨てるのも後味が悪かった
なにせここで捨て置いたら、後日、東京湾に猫入りコンクリが浮かびかねない(と、彼は思っている)のだ。

(何とかして、猫の事をバレる事無く、こちら側に引きずり戻さねば……!)
(彼が、湖面をまだ!見ている内に!)

斑鳩は額から汗が流れないように祈った。
割と真剣に神様にお祈りした。

そして何とか上ずらないように舌を回し始めた。


 「そうだな、僕の爺さんの受け売りで良いなら話せるよ」
 「でも、人の事を『あんた』って呼ぶのは気が引ける、年上なら尚更。」

(考えろ……何とか考え出さなくては。)

 「名前を聞いていいかい?」
 「僕は斑鳩だ、斑鳩 翔。 ……空は飛べないけど。」

……ウキは未だに魚1つかかる気配がない。

726宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/23(金) 17:20:31
>>725

少年が何を考えているか分かる筈も無い。
その逆も同じ事だろう。
お互い様だ。

「空を飛べないのか?」

相変わらず魚は食い付かない。
腕が悪いのか道具が悪いのか。
あるいは両方という可能性もある。

「――俺も飛べない」

水面に浮かぶ枝から鳥が飛び立つ光景を目にした。
飛べない鳥は存在するが空を飛べる人間は滅多に見かけない。
少なくとも常識の範囲内の話だが。

「宗像征爾――」

主に意識を向けているのは湖と少年だ。
今は振り返る必要も無かった。
猫が餌を盗もうと思えば何の支障も無い。

「そういう名だ」

湖面から少年に視線を移す。
挨拶する時ぐらいは顔を合わせるべきだろうという考えがあった。
最低限の礼儀という奴だ。

727斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/23(金) 19:54:35
>>726

「むなかたさん、だね 宜しく。」

宗像の礼節に対して礼を返し、竿を右手に持ち替え、湖面に向き直る
斑鳩はそのまま背後に視線が行かない事を祈るしかない。

(釣りの事で、尚且つ即座に効果があるアドバイスと言えば、アレくらいか
 上手くいけば、彼はその場からは動かないし、湖面にも視線を集中させられる。)

心の中で深呼吸を一つ。
友人に話しかけるような気楽さで舌を回すべきだ。

「それじゃ、僕の爺さんから聞いた話だけど」
「普通の池なら、魚が隠れる事が出来る水草の周りを狙うらしい、でも」

手近な葉の一枚を千切って、池に投げ込む
ふらふらと空中を漂いながら、湖面に着水した葉っぱはそのまま……

漂わずに、一直線に流れていく
方向は【遠州灘】の方角だ。

「この池は、海に向かって行く 『流れ込み』 がある」
「水が混ぜられて、酸素や、餌になる虫とかが多い場所、魚もそこに集まる。」

斑鳩の視線がチラリと宗像の背後を見た
その後すぐに視線を戻す

汗は夏だからと言い訳もつくが
焦りに口調を変えないように努めるのは骨が折れる。

「後は、針を垂らせばいい 魚が待ち伏せしていた『餌の一つ』みたいに、だ」

 ゴホン ゴホン

「『馬鹿な魚が勝ち誇ったように食らいついた時、既にソイツは儂が釣り上げている』」

態と喉を抑え、しわがれた様な老人の話し方をする
おそらく彼の祖父の真似なのだろう。

「そうやって、魚を騙すのが楽しいんだって、捻くれた爺さんだと思うけど。」
「……でも、一番は待つのを楽しむ事だと思うな!うん!」

最後の言葉は斑鳩にとっては事実だが
同時に嘘も混じっていた。

(……そうじゃないと、『猫がスリしようとしてる背後』とかに、注意とか行くかもしれないからね!)
(後少しだけそのまま見ててくれよ、僕の『スタンド』の準備が完了するまでは。)

クーラーボックスの上、ラジオが一つの放送を終え、別の洋楽をかけ始める、そして

宗像の視界外、斑鳩少年の左腕には『半透明の鎖』が巻き付き
その掌には直径9cm、鎖を結合して作られた、銀色に鈍く輝く『スタンドの鉄球』が、僅かに造形を変えながら出番を待っていた。

728宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/23(金) 21:49:51
>>727

助言を受けて水中に沈んだ釣り糸を引き上げる。
当然のように当たりは来て無い。
それを確かめてから竿を軽く振り被った。

「分かり易い説明で助かる」

再び仕掛けを投じたのは先程とは違う位置だ。
後は同じようにしていれば良い。
掛からなければ何か他の要因があるのだろう。

「俺が釣れたら君の爺さんに礼を言っておいてくれ」

視線の方向は変わらない。
陽光を照り返す湖に注がれている。
そこから動いたとしても大きく逸れる事は無い。

「釣れなければ餌が悪いのかもしれないな」

依然として猫の動きは自由だ。
鎖のスタンドも確認は出来ていない。
それに気付くとすれば何かが起きた後になる。

729斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/23(金) 23:27:36
>>728

 「それは……どうも、爺さんも喜びますよ。」

(こういう人を騙してるのは気が引けるなあ……けど。)

 「幸運を」

猫を捕まえる準備は整った、後はチャンスだけだ
そしてそれは来た 湖面に浮かぶウキが沈んだ、宗像の竿に魚が食いついたのだ。

針の先にあるものが鮎か鱒かハゼか、はたまた根がかりかは知らないが

 (――きたッ!)

宗像が自らの浮きに目を奪われた瞬間に、行動を起こす。
回転、投擲、分離。

左手から遠心力で音もなく放たれた鉄球は、中にある5mの鎖を、引きずり出しながら猫に向かって飛翔し
同時に、鉄球は分割し、ボーラのようになって猫の腹に巻き付き、再結合してそれを引っ張る。


 だが、そう上手くはいかなかった
 人生とは失敗の連続である。


ボーラは、猫の胴体には確かに絡みついた
結合も出来た、無事に引っ張りもした。

そして猫、『スリープ・トゥギャザー』は引っ張られた瞬間
手近にある物に、反射的に『爪を出してしがみつこうとした』

具体的に言うと宗像の靴に。

畳をかぎ爪で引っ掻くような
特徴的な破壊音と同時に、靴のかかとに亀裂が走った。


同時に、鎖が巻き付いた胴体を中心に、『猫の下半身が分離して』斑鳩に向かって飛んできた。
――飛び蹴りの態勢で。

 「ぶっ!?」

 直撃。

頬に肉球の跡を付けて、斑鳩がひっくり返ったのと、
猫が前足だけで「ザマーミロ」とでも言うかのように顔を洗い出すのは、ほぼ同時だった。

730宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 00:04:01
>>729

セーフティーブーツの踵に爪痕が走った。
その音を聞いて自分の足元に視線を向ける。
自然な流れとして両方の目が猫の姿を捉えた。

「さっきの奴らしいな」

餌として持参した魚肉ソーセージを狙っていたか。
どうでも良い事だ。
そいつがスタンド使いという事実に比べれば取るに足らない。

「――大丈夫か」

続いて少年の方へ視線を動かして言葉を投げ掛ける。
一撃を食らったようだが重傷を負わされたようには見えない。
少なくとも救急車を呼ぶ必要は無さそうだ。

「スタンド使いの猫――」

引いている竿を無視して再び猫を正面から見据える。
また出くわす事になるとは思いもしなかった。
だが考えてみれば意外な話でも無い。

「ここにもいたか」

スタンド使いの人間は数多く存在する。
猫であっても例外にはならないだろう。
複数いるのは当然の事だ。

731斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 00:49:57
>>730

「この糞猫が……!」

悪態と共に咳込み、すぐに立ち上がって衣服を払う
ダメージは無いが、スカーフに土片が付かないかだけが心配だ

腕時計にも傷が無い事を確認して安堵し、彼に言うべき事が有る。

「すいません、その猫のコンクリ詰めだけは、どうかご勘弁を!
 ちょっとお腹減ってるだけなんです!靴の方は弁償を……できたらいいなあ。」

情けないが安易に責任が取れるわけでも無い以上、迂闊に発言するのは無責任である
そんな自分の焦りとは裏腹に、猫の方は宗像の足元で呑気に顔を洗っている

そして猫の下半身が『瞬間移動』して上半身にくっついた
切断面はもうどこにも見えない。

「……違うんです、それはマジックです、人体切断に類する感じの。」

自分で言っておいて何だが大分苦しいと思う
小学生すら騙せるか疑わしい。

「早く戻れ『スリープ・トゥギャザー』!」
「お前の……えーと……『スタンド』?」

靴下を履いているような柄をしたその猫は
傍目にはまったく他の猫と変わらない

指を鼻の前に差し出せば、反射的に嗅ぐ猫である。
ただし『体をバラバラにして瞬間移動できる』という点を除けば、だが。

「……もしや」
「宗像さん、『新手のスタンド使い』?」

宗像の発言にようやく思考が追い付き
斑鳩は一歩距離を取った。

猫は宗像に視線を合わせた後、鼻をひくひくさせ
目を輝かせている、当然諦めていない。

732宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 01:20:58
>>731

魚肉ソーセージの束から一つ取り出してフィルムを剥がす。
それを丸ごと猫の足元に放った。
何処にでも売っている何の変哲も無い代物だ。

「弁償する必要は無い」

一連の行動を済ませた後で思い出したように竿を引き上げる。
針の先に魚はいない。
上げるのが遅かったせいで餌だけ取られたようだ。

「傷が一つ増えただけだ」

仕掛けを確認してから少年に向き直った。
視線は鎖のスタンドに向けられてる。
それが見えている事は明らかだ。

「ああ――」

スタンド使いの猫とスタンド使いの人間か。
それ自体は別に不思議な事でも無い。
両方と同時に遭遇する機会は多くないだろうが。

「そういう事になるな」

距離を置いた少年に変わらない口調で言葉を返す。
その場からは動かない。
動く理由が無いからだ。

733斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 19:00:57
>>732

足元に放られた それ に視線を移すと
ピンクの鼻を引くつかせながら近寄り
靴下のような前足で、器用に引き寄せて齧りつく。

(なんと言うか、一度や二度ではなさそうだな)

そんな猫と彼の様子を見ながらそんな事を考えた
彼の冷めた態度に起因している事も大きいのだろうが
妙に落ち着いているように見える

 「ああ、良かった……それはどうも。」

これなら猫は放っておいていい。

そう判断すると『鎖』を消し、再び放ってった釣竿を持ち上げる
斑鳩の竿の先にも餌は無い、クーラーボックスから取り出して粘土のような餌を引っかけ、放る

 「けどまさか、隣の人が偶々、同じとは……」

 「探すと見つからない物なのになあ。」

(しかし、この落ち着き用はそれ以上と言うべきか
 この人は何度遭遇して、何回戦っているのだ?そして……)

口から出そうになった疑問を飲み込んだ
何人殺しているのだ?等と、聞けるわけもないし
聞いても何も意味が無いだろう。

734宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 21:30:51
>>733

針に餌を付け直して水面に投じる。
猫は好きにさせておく。
悪知恵が働くようだが今は放置しても問題は無いと判断した。

「俺も驚いた」

スタンド使いはスタンド使いと遭遇しやすいらしい。
だが日常的に出くわす存在でもない。
ここで出会った事に驚きがあったのは確かだ。

「隣の人間が偶然スタンド使いだった――か」

不意に硯研一郎の事を思い出した。
斑鳩と硯が同じぐらいの年齢に見えるからだろう。
硯もスタンド使いであり俺は彼と敵対した経験がある。

「――次に出会う時は敵同士かもしれないな」

変化の無いウキを眺めながら呟く。
あくまでも可能性の一つに過ぎない話だ。
しかし可能性は常に存在する。

735斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 23:23:14
>>734

クーラーボックスから餌ついでに
アイスキャンディーと瓶入りコーラを取り出し
コーラの蓋を齧って飛ばす。

 「……あんまり、ぞっとしない話だな」

敵同士というのは、有り得ない事では無い
斑鳩の目的を妨害するか、両親を馬鹿にされれば
斑鳩は嫌でも自分から仕掛ける他は無い。

 「傷つくのも、傷つけられるのも好きではないし
  見知った人間なら尚更に。」

かつて共に戦った硯という男を思い出す
自分とは正反対の彼、あれから如何しているのだろうか
まだこの町の何処かで、不良相手に大立ち回りをしているのだろうか

勿論、斑鳩はその彼が、隣の宗像と敵対した事など知らない。

 「――じゃあ、次が味方だという事を祈っておこうかな、祈りは誰の邪魔にもならないし。」

猫はひとしきり食べ終わったらまた眠くなったのか
クーラーボックスの日陰でまた丸まり出した。

……ラジオからは相変わらず、古い洋楽が流れ
ウキは鏡のような湖面に沈む様子すらない。

736宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/25(日) 00:28:10
>>735

俺と斑鳩が敵同士になる可能性は極めて低いだろう。
硯と出会った時も同じように考えていた。
だが実際は敵対する事になった。

「同感だな」

大きな憎しみは相応の諍いを呼ぶ。
それが無かったとしても立場や価値観の違いで争いは起きる。
あの時も状況は似たようなものだった。

「気分の良い事じゃない」

それは紛れも無い事実だ。
だが各々に譲歩出来ない理由があれば話は違う。
それぞれの目的を達成する事を最優先に考えなければならなくなる。

「いや――」

釣竿を握ったまま自身のスタンドを傍らに発現する。
人型のスタンドだ。
ノコギリザメの意匠が施された右腕からは1m程のノコギリが伸びていた。

「俺は君のスタンドを見たが君は俺のスタンドを見ていない」

仮に敵対する事があったとして相手のスタンドを見ている方が幾らか有利になる。
その考えに従うと今は俺の方に多少の利点が存在する事になるだろう。
互いに相手のスタンドを見た事があれば情報の差は縮まる。

「――これで公平だ」

それだけ言ってスタンドを解除する。
実際に争いが始まれば相手を気に掛ける余裕は無い。
だから今の内に胸の痞えを取り除いておきたかった。

737斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/25(日) 01:41:03
>>736

左腕に『ノコギリザメ』の意匠を持つ
人型の近距離パワー型スタンド、『アヴィーチー』

斑鳩はそのスタンドを見た時
意図がまるで読めなかった

彼も争いを嫌悪し、それでもいずれ敵対するのなら
それは本来秘匿されるべき物だったからだ

見せた所で抑止にはならず
何の利益も無いのだから。

ただ、彼の、『公平』という言葉に
心の中で すとん と音がして、納得がいった。

 「――ああ」

人が言葉で伝えられるものは5%にすら満たないという
だが彼の行為と言動で、ほんの僅かにでも解った気になれたかもしれない。

 「……宗像さん、その生真面目さで苦労しますよ、絶対。」

苦笑交じりに、笑いながら斑鳩はそう零した
例え自らにとって不利益でも、筋を通すその真面目さが

敬愛する父を思い出す様で、嫌いではなかったから。

738宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/25(日) 02:10:35
>>737

敵になる事は望まないが万一という事もある。
いざという時に躊躇わないようにしておくという考えもあった。
その機会が訪れないのが最良である事は言うまでもないが。

「これでも俺は義理堅い主義だ」

受けたものは返す事にしている。
それが恩であれ仇であれ差別は無い。
俺は必ず返す。

「――君にも礼を言わなければならないな」

竿を握る手に力が入る。
沈んだウキの周辺の湖面に波紋が生じる。
どうやら獲物が掛かったようだ。

「助言を与えてくれた事に感謝する」

言葉と同時に水中から仕掛けを引き上げる。
針の先には一匹の鮎が食い付いていた。
そこそこの大きさだ。

739斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/25(日) 04:42:04
>>738

この出会いで一番良かったのは、彼の『スタンド』がどう見ても
『両親の精神を回復できるスタンド』では無いと言う事だ。

 「どういたしまして。」

……これで、『僕達』に後悔はない 『両親』 の為に
彼と戦う事が有っても、善悪関係なく、何の後悔も、ためらいもなく殺せる。

覚悟が有るかは、殺した後に解るだろう。

 「――初の釣果、おめでとう。」

透明な氷片を入れたような瞳で彼を見る

感謝の言葉を、どちらにどういう意味で言ったかは
僕自身にも解らなかった。

釣り針の先にかかった鮎の鱗が、夏の陽光を反射して煌めく

水音とラジオの音楽がない交ぜになり、仄かに潮の香りが漂い始めた
8月の終わりに近い、ある夏の休日の事だった。

740鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/09(月) 22:03:25
夜の公園。その敷地の中で奥側に位置する、静かに佇む木々の群れ。
そこに一人の学生服の少年が立っていた。
既に辺りは暗くなっているが、スマホの明かりを胸ポケットから付けて視界を確保している。

「・・・・・」

『シュッ!』

手にした何かを、5mほど離れた所にある木に向かって投げているようだ。
ただ、もしそれを近くで見る人がいれば気付いたかもしれない。少年の手は投擲物を持ってはいるが、動かずにそれが放たれている事に。

741比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 20:55:53
>>740

「――あれは……?」

モノトーンのストライプスーツとフェドーラ帽を身に纏った男が、公園内を歩いていた。
仕事を終えた後の軽い気分転換のつもりで立ち寄ったのだ。
ふと視線を向けると、木々の間から光が漏れているのが見える。

(さて……『君子危うきに近寄らず』、『触らぬ神に祟りなし』とは言いますが……)

そのまま通り過ぎても良かったが、少し興味が湧いた。
そこにいるのは誰で、何をしているのか。
だから、確かめてみる事にした。

(とはいえ――絶対に『危険』がないとも言い切れません)

    シュンッ

手の中に五枚の『カード』――『オルタネイティヴ4』を発現する。
もう片方の手で一枚を抜き取ると、『カード』は『白い兵士』に変わった。
胸に刻まれたスートは『スペード』だ。

(念の為に、遠くから確認させてもらいますよ)

林に背を向けた本体は、近くに設置されてあるベンチに腰を下ろす。
同時に、『兵士』が光の方へ進んでいく。
その先で見つけたのは、制服姿の少年だった。

(これは少々意外ですね。見た所、素行の悪いタイプでもなさそうですが……)

何かを投げているようだが、何を投げているだろうか?
それを見極めるために、彼の手元を注視していた。
そうすると、妙な事に気が付いた。

(――手が動いていない?これは、ますます『奇妙』ですね……)

物陰に隠した『兵士』の視界で、少年の行動を観察する。
手を動かさずに物を投げる事など、普通は出来ない。
そう、『普通』なら――。

742鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 21:27:23
>>741

『オルタネイティブ4』───発現した『スタンド』に偵察をさせ、少年の行動を伺う。
彼が手にし、また木に向かって投げつけていたのはどうやら『ダーツ』のようだ。
手が加えられているのか、木の表面に突き刺さる程度には鋭くなっている。

『ズキュウン!』 『シュッ!』

少年は、またもや鋭い軌道でダーツを投擲する。そして比留間は気付いただろう。
彼がダーツを所持している手、そこから幽体離脱かのように『騎士』のような腕が浮き上がり、
少年の手からダーツを抜き取り、代わりに木へ目掛けて投げつけているのだ。
間違いなく、『スタンド』だろう。

743比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 22:28:34
>>742

(――なるほど。大体は分かりました)

夜中に人目につきにくい場所で、『スタンド』を使ってダーツを投げている。
これらから導き出されるのは、訓練をしているらしいという結論だ。
『力』を手に入れた人間なら、確かに練習は必要だ。

(しかし、『改造ダーツ』とは……。随分と物騒な小道具ですね)

ただ練習するためだけに、そんな物を用意したのだろうか?
自分が同じ立場だったとすれば、もっと身近な物で済ませる。
もっとも、何かしら『明確な目的』があるなら話は違ってくるが。

(単なる当て推量ですが――彼には何か目的があるのかもしれませんね……)

これで『誰が何をしているのか』という疑問は解決した。
このまま帰っても良かったのだが、少々惜しいような気もする。
自分と同じような力を持つ人間に出会った経験は少ない。
他のスタンドに関する知識も、十分とは言えない。
ここで『情報』を得ておくのは悪い事ではないだろう。

              ガサッ

(……おっと)

よく見ておこうと『兵士』を動かした拍子に、草が揺れる小さな音がした。
決して大きな音ではないが、人気のない林の中では目立ってしまう。
『兵士』は隠れているので見られないとは思うが、出てしまった音までは隠せない。

744鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 22:51:52
>>743

>              ガサッ

「ッ?!」

「・・・・・・・・・・」

突然の草の揺れる音に反応して 、そちらを振り向く。
しかし、特に何か変わったものは見えない。
ただの風や小動物ならいいが、万が一そうでなかった場合少々面倒な事になる。
一応言い訳は用意してある、このまま大事はされたくない。
念のため『シヴァルリー』を前に発現しながら音の方へと近寄っていく。
一般人なら見えはしない、特に警戒させることはないだろう。

745比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 23:23:42
>>744

『騎士』のスタンドを正面に立たせ、音の方へ近付いていく。
少なくとも人間ではないだろう。
そこは人間が身を隠せるような場所ではなかったからだ。
風や小動物の可能性はある。
あるいは、『別の何か』か。

(やはり気付かれましたか……。ですが――)

――――シュンッ

見つかってしまえば厄介な事になりかねない。
彼が危険な人物でなかったとしても、『隠れて見ていた』というのは攻撃される理由に成り得る。
そうなる前に『兵士』を解除する。
解除された『兵士』は『カード』に戻り、再び手の中に戻ってきた。
彼が辺りの物陰を探したとしても、そこにスタンドが潜んでいた証拠は何も残らないだろう。

(……私も、まだまだ訓練が足りませんね)

音に近付いた時、林の向こう側に設置されているベンチが見えた。
そこには一人の男が座っている。
背中を向けているため、どんな人物かは定かではない。
しかし、鉄が林に入った時には誰もいなかったはずだ。
その後で来た事は間違いない。

746鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 23:55:35
>>745


『コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛』


「・・・・・」

『ガサッ』

「・・・・・何もない、か」

少し神経質過ぎたか。流石にこのスペースに人間が隠れられるはずもない。
そして人間だとしたら、瞬間移動でもなければ見つかるはずだ。
もしそれが人間ならば、だが。あるいは人間だが、超能力を持っていれば話は別だ。

「・・・・・あの人は」

自分の記憶が正しければ、先程はいなかったはずだ。
これはただの偶然かもしれない。しかし、丁度休憩するのもいいと思っていた所だ。
木に突き刺さったダーツを回収すると、ポケットに入れてスマホの明かりを消してベンチの方へと歩いていく。

「こんばんは」「隣に座らせて頂いても、よろしいですか?」

747比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 00:29:32
>>746

ベンチに歩いていくと、やがて男の顔が見えた。
年齢は三十台前半といった所だろう。
優男風の顔立ちだ。

「――ええ、構いませんよ。どうぞ、ご遠慮なく」

         ――――フッ

あくまで自然な態度を装い、少年の言葉に応じる。
そして彼が近付く前に、手元にある『オルタネイティヴ4』を解除した。
これで完全に証拠は消せるはずだ。

「この辺りを散歩するのが趣味でしてね。よく来るんですよ。
 明るい内に訪れるのも良いですが、夜は夜で違った趣がある」

「静かで――それでいて少しばかり非日常的で……。
 特に考えが纏まらない時は、こうした場所で思索に耽る事にしているんです」

何気ない調子で滑らかに口を開く。
ただし、これは『嘘』だ。
そういう趣味がある訳ではなく、たまたま気が向いたから来ただけに過ぎない。
自分の趣味は、『嘘をつく事』だ。
実害を及ぼさない『小さな嘘』をつく事が、自分にとって何よりの楽しみと言える。

「失礼ですが、あなたは何を?学生の方のようですが……」

「――ああ、いえ。他意はありませんよ」

『名目上』の自分の目的を語った上で、続けて相手に話を振る。
さっき目撃した光景に関して、より詳しい事情を知りたいからだ。
もっとも、彼が素直に事実を話してくれるとは思っていない。
何しろ、人目につかない場所を選んで投擲練習をしていたくらいだ。
だから、まず彼の返し方を見てから次の言葉を考えるつもりだった。

748鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 00:39:23
>>747

「ありがとうございます」ペコリ

一礼をして、隣に座る。同時に『シヴァルリー』を解除。
決して警戒を解いたわけではないが、同時にもし相手が『スタンド使い』なら、相手にいらぬ警戒をさせるかもしれない。
そして仮に彼が『スタンド使い』なら、あの場面は見られていると考えていいだろう。
いきなり『スタンド』を発現した男に声をかけられて、全く動揺がないのは流石に不自然だ。
とはいえ、一般人である可能性が一番高い。取り越し苦労ならそれでいい。


>「静かで――それでいて少しばかり非日常的で……。
> 特に考えが纏まらない時は、こうした場所で思索に耽る事にしているんです」

「確かに、住宅街や繁華街とは違ってこういった場所には独特の静けさがありますね」
「オレもあなたと同じく、集中したい時などはよくここを訪れています」

「特に、少し『特訓』などをしたい時には」
「家の中でやるよりも、やはり外の方が身体も動かしやすいですし」
「申し遅れました。オレは鉄 夕立、清月学園高等部二年生。剣道部に所属しています」

749比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 01:11:54
>>748

「あなたは真面目な方ですね。とても礼儀正しく、誠実な印象を受ける。
 初めて会った私が言うのも変な話ですが、そういった姿勢は見習いたいものです」

そう思ったのは本当だった。
『近頃の若者は』などという言葉があるが、彼には当てはまらないようだ。
そんな鉄に嘘を言った事に対して『罪悪感』を覚えた。
だが、同時に『心地良さ』も感じる。
これこそが、自分が『嘘』をつく理由なのだ。

「ご丁寧な挨拶、恐縮です。
 私は比留間彦夫という者で、『司法書士』をさせて頂いております」

これは嘘ではない。
名前や職業を偽るのは、自分にとっても相手にとっても実害に繋がる可能性が出てくる。
そして、教えたとしても不利益にはならないだろう。

「『剣道部』――では、今夜も『特訓』のために来ておられた訳でしょうか?
 見た所、『竹刀』などは持っていらっしゃらないようですが……。
 失礼、どうも『剣道』というと『竹刀』のイメージが強いもので」

鉄の周りを軽く見回してから、そう尋ねる。
自分が見た限りでは、剣道に関する道具などは持っていなかったようだった。
もちろん、あれが剣道の特訓ではない事は分かっていたが。

750鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 01:28:17
>>749

「ありがとうございます。…ですが、自分はまだまだ若輩者で」
「正しくあるというのは難しいことだというのを、この前も痛感したばかりです」

いざとなれば、力尽くでも一般人から『霧絵』から情報を得ようとした。
『通り魔』を追うため、あるいは同じような犯人を捕まえる為にどうしても必要ならば、正しくない事も行うつもりだ。
ただ、そのハードルは低くてはならない。限界まで、諦めてはいけない。
それを止めてくれた『立石』さんには、改めて感謝しかない。

「『比留間』さん、ですね。よろしくお願いします」

再度、一礼。この人は自分を褒めてくれたが、比留間さんこそ礼儀正しいと思う。
それも自分とは違って、柔軟な印象を受ける。『司法書士』には法に関する書類を作成する仕事という
大雑把な認識しかないが、それでいてこうも人当たりに優れているとは。
それとも仕事関係なく、比留間さんの生まれながらの人格かもしれないが。

「・・・・・・・・」
「はい、今夜は道具を持ってきていません。というのも、今日は『剣道』の特訓ではなかったので」
「もちろん竹刀がなくても身体を鍛えることはできますが」
「…コレ、ですね」

そう言って胸ポケットからダーツの羽を見せる。
誤魔化すことはできたが、この人からは誠実な印象を受ける。
なるべく嘘はつきたくないし、悪意のない相手に、上手に嘘を付く自信もない。
もちろん、何故ここでと質問が来るかもしれない。さて、その場合はなんと答えたものか。

751比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 02:04:36
>>750

「それは――『ダーツ』……ですか?
 確かに『剣道』に『矢』は使いませんね。『弓道』なら分かりますが。
 鉄さんは、ダーツがご趣味で?」

見せられたダーツの羽を見て、意外そうな表情を見せる。
既に見ていたので、これは演技だ。
さっき見た時は、本当に意外ではあったが。
ポケットから出して見せないのは、先端を鋭く尖らせてあるからだろう。
その事は確認済みなので、こちらから突っ込むつもりもない。

「自然公園でダーツというのも珍しいですが、目新しい新鮮さがありますね。
 気分が変わって、良い投げ方のコツが掴めるかもしれませんし」

「何年か前に、私も少しばかり挑戦した事がありますが、さっぱり上達しませんでした。
 きっと投げ方が悪いんでしょうね。
 鉄さんのように外で投げてみたら、良い練習になったかもしれませんね」

『ダーツを嗜んだ経験』というささやかな嘘を織り交ぜ、鉄の言葉に応じる。
彼が話しているのは、確かに事実だ。
ダーツの練習をしていたのは紛れもなく真実なのだから。

「鉄さんは、いつ頃からダーツをなさっているのでしょうか?
 私なんかは、『屋内』でしかした事がありませんからね。
 『屋外』で練習とは、かなり気合いが入っているように見受けられましたので」

「――もし何かコツなどあれば、ご教授願えませんか?
 やはり『手首』の動きでしょうかねえ」

片手を上げて、軽くダーツを投げる真似をして見せる。
あまり踏み込みすぎると、逆にこちらの首を絞めかねない。
突っ込む場所を慎重に吟味し、必要ならば何時でも引く心構えをしながら問い掛ける。

752鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 21:44:52
>>751

「──────────」

「『今日から』、ですね」

「今のところ趣味ではありませんが…これを機に、案外ハマるかもしれません」

あからさまに不自然だと我ながら思う返答をしつつ。静かに比留間さんの瞳を覗く。
これ以上の説明をするなら、自然と『スタンド』の話題に踏み込むことになる。
だから、その前に確認しておきたい。果たして、この人は『一般人』なのか?

『剣道部』が特訓をしていると聞き、『竹刀』の有無を訊ねる。それは不自然ではない。
が、中にはどこか見えない所に置いているのか。あるいは筋トレの類なのか。
そう納得してそれ以上訊ねない可能性もある。あえて、それを訊いたのは、既に見ていたからなのでは?
だから、ここで分水嶺を作る。

「ですから、オレにはとても比留間さんに教えられることなどありません」
「・・・・・」「ただ一つ言えるなら」
「『超能力』があるならば、あるいは」

さて、どう出るか。一笑に付すか、更に質問を重ねてくるか。あるいは───。

753比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 22:54:52
>>752

「ああ、そうですか。いや、失礼しました」

軽く微笑して、事も無げに返す。
今日から始めたなら、なおさら屋内でやるだろう。
第一印象でもそうだったが、あまり嘘をつくのが得意なタイプではないと感じた。

「『超能力』…………ですか?つまり、透視とか念力といったような類の?
 それとも、それくらい凄い特技という意味の比喩表現でしょうか?」

驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる。
いきなり超能力と言われた場合の一般人のそれだ。
それから少し考え込んでいたが――。

「――ええ、『ありますよ』。良ければ、お見せしましょうか?」

そう言って、懐から封筒を取り出す。
何の変哲もない『茶封筒』だ。
その中に入っていた『三枚のカード』を、ベンチの座面に並べる。

「この中から一枚選んで、その上にこの『マッチ箱』を置いて下さい。
 少しお時間を頂けるなら、私の『予知能力』をご覧に入れましょう」

『赤』、『白』、『青』の三枚のカードが並べられている。
そして、鉄に『マッチ箱』を差し出す。
後は、彼に選んでもらうだけだ。

754鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 23:07:58
>>753

反応を見た雰囲気は、限りなく『シロ』に近い。
これでもし比留間さんが『クロ』ならば、相当に嘘が上手い人間なのだろう。
そして嘘を付くにはそれなりに理由があるはずで、その内容次第ではこちらも警戒すべきだ。
とはいえ、単に『スタンド使い』を危険だとみなし、あまり関わり合いたくないだけの可能性もあるが。

>「――ええ、『ありますよ』。良ければ、お見せしましょうか?」

「…是非」コクリ

頷き、次の動作を待つ。
果たして彼がスタンド使いなら、一体どんなスタンドを出してくるのか。
懐に手を伸ばした。『道具型』ということか?
しかし、そこに出されたのは一般的な茶封筒だ。これが比留間さんの『超能力』だというのだろうか。

「…『手品』ですか?」

トランプとは違うような、謎のカードが中から出てきた。その上に『マッチ箱』を置いてみてほしいと彼は言う。
それはあたかも手品のようだ。

「失礼ながら、『マッチ箱』の中身を改めさせて頂いても?」

755比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 23:27:29
>>754

スタンドの能力は多種多様だ。
あるいは、『カード』に関するような能力もあるのかもしれない。
事実、鉄の目の前にいる男が『それ』なのだから。

「ええ、もちろん。確かめて頂いた方が、当てた時の効果が大きいですからね」

『マッチ箱』は、ごく普通の品物のようだった。
中には当然のように『マッチ』が入っている。
そして、それ以外は何も入っていない。
変わっている事と言えば、『トランプ』を思わせる絵柄であるという事くらいだ。
どうやら外国のものらしい。

「――確認が済みましたら、お願いします」

ふと、スカイモールで出会った女性を思い出した。
彼女にも、同じような事をして見せたからだ。
塞川という名前だった。
彼女も『スタンド使い』だった。
そして――『自分』も。

756鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 23:39:36
>>755

一通り改めた後、『マッチ箱』を青いカードの上に置いた。
どうやら何の変哲もないマッチ箱のようだ。───少なくとも確認できる限りは。
『スタンド能力』ならば、仕込みは容易い。誰にも確認できないようなものも。
つまり、『シロ』かを確認するのにここで色々と調べるのは無意味だということだ。

「タネも仕掛けもないようですね」

ひとまずそう口にして、比留間さんの出方を伺う。
この人の動きには、一つ一つ卒がない。だからこそ、逆に疑ってしまうのだろうか。

757比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 23:56:17
>>756

『手品』には当然『タネ』がある。
それは『スタンド』も同じだ。
違う点があるとすれば、より『仕込み』が容易いという点だろう。

「ありがとうございます。なるほど、『青』ですか……」

「実を申しますと、鉄さんが『青』を選ぶ事は最初から分かっていました。
 その証拠をお見せしましょう」

「では、『青のカード』を裏返して下さい。『そこ』に書いておきましたよ」

納得した様子で小さく頷くと、そのように言葉を続けた。
鉄が『青のカード』を裏返したなら、そこに書いてある文字が目に入るだろう。
そこには、次のように記されていた。
『あなたは青のカードを選ぶ』――と。
一見すると、あたかも『予知能力』のように見える。

「これが、私の『超能力』です。お気に召して頂けましたか?」

758鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 00:02:20
>>757

「・・・・・なるほど」

「ちなみに、当然他のカードには描かれていないのでしょうか」

念の為、『赤』と『白』のカードもめくって確かめる。
これで同じことが書かれていたら、流石に子供騙しが過ぎるだろうが。
さて、どうだろうか?

759比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/12(木) 00:31:58
>>758

赤と白のカードを裏返すが、何も書かれていない。
明らかに『無地』だ。
しかし、鉄の考え自体は正しかった。

「鉄さん、あなたは『目の付け所』が良い。ですが、ちょっと違うんですよ。
 『他の二枚にも書いてある』というのは、いささか分かり易さが過ぎますからね」

「ですから――多少の『工夫』をしてあります」

マッチ箱を手に取り、スライドさせる。
そして、『蓋の裏側』を鉄の方に見せる。
そこには、『あなたは赤のカードを選ぶ』と記されている。

「もし『赤のカード』を選んでいたら、『これ』を見るように言うつもりでした。
 『白のカード』なら、『封筒を裏返して欲しい』と言えば『的中』です」

そう言って、茶封筒を裏返す。
言葉通り、『あなたは白のカードを選ぶ』と書いてあった。
つまり、どれが選ばれても百パーセントの確率で当たるという事だ。

「全ての可能性に備えて、事前に答えを用意しておいたという訳です。
 この場合、選択肢は『三つ』しか有り得ないので、準備は難しくありません。
 ただし、『メッセージは一つしか存在しない』と思ってもらわなくてはいけませんからね。
 ですから、別々の場所に用意するのですよ」

「――納得して頂けましたか?」

無論、これは単なる『手品』だ。
『オルタネイティヴ4』は使っていないし、当然『スタンド』とは何の関係もない。
つまり――シラを切りとおす事にしたという事だ。
明かしても良かったのだが、今は止めておくことにした。
塞川の時のように、相手が感付いた場合は明かした方が安全だろうが、
そうでなければ今は必要はないと判断した。

760鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 00:55:33
>>759

「…ふむ」

『無地』のカード、やはり何らかの仕込みがあるのだろうか?常より更に目を細め、カードを街灯に照らしてみる。
だが、疑う自分を前に比留間さんが種明かしをしてくれた。
成る程、仕組みは単純だが人間の思考を上手く利用している。記してある場所がバラバラならば、疑われにくい。

「仕掛けがあったのは『カード』だけではない、という事ですね」「やられました」

両手を挙げ、降参の意思を伝える。
だが、この経験は価値があった。疑うなら、更に一歩引いて考えてみる事が重要だと。
この場合、文字が書かれているのはカードに限らないといった視点だ。
いい勉強になった、流石は大人の男性ということか。

「ありがとうございました」

「ただその『超能力』だと、ダーツには用いるのは難しそうですね」
「例えば、もし精密な動きの出来る『念動力』なら」
「ダーツの技術も上達が早いかもしれません」

胸元から二本のダーツを取り出し、一本を宙に投げる。
真上に飛んだそれは、すぐに真下へと落ちていき─────。

『ピタリ』

自分の腕の上に発現した、『シヴァルリー』の腕で保持されたもう一本のダーツ。
その穂先と、先に投げて落ちてきた穂先が綺麗に重なる。そしてズレて落ちる前に、鉄本体が二本のダーツを回収した。

761比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/12(木) 01:23:21
>>760

「これは……!いや、驚きました。
 流石は『剣道部員』――といった所でしょうか?」

「その『技術』も素晴らしいですが、見事な『集中力』です。
 やはり、『精神面』での鍛錬も積んでおられるんでしょうね」

「いや、全く驚嘆の一言です。大人しく兜を脱ぎますよ」

       パチパチパチ

目の前で披露された『技』に対して、賞賛の拍手を送る。
林の中でも見たが、優れた『精密性』を備えているようだ。
これならば、ダーツを正確に命中させられるのも当然だろう。

「素晴らしいものを見せて頂きました。お会い出来て良かった。
 実に有意義な時間を過ごせましたからね」

本当に有意義だった。
『スタンド』について情報を得られたのだから。
それが第一だが、それだけではない。
鉄は優れた人間性を持つ好青年のように感じた。
そういった人物と言葉を交わす機会は、『スタンド』とは関係なく意義があるものだ。

「さて、このまま散らかしておく訳にはいきませんね」

封筒をカードに収めてマッチ箱を片付ける。
それから、胸ポケットから鎖付きの懐中時計を取り出して時間を確認した。
ベンチから立ち上がり、鉄に向き直る。

「私は、お先に失礼します。鉄さん、ありがとうございました。
 もし機会があれば、またお目に掛かりましょう」

「――それでは」

一礼し、背中を向けて歩いていく。
やはり『スタンド』を知るには、より多くの『スタンド使い』と出会う必要があるのかもしれない。
胸中で思いを巡らせながら、その場を後にする――。

762鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 21:53:19
>>761

「・・・・・ありがとうございます」

しばしの沈黙の後、二本のダーツを胸ポケットに入れながら、軽く頭を下げる。
今、落ちてくる矢に対して『シヴァルリー』が対の矢を合わせたのを見たのだろうか?
例えば彼が一般人だとして、宙に浮くダーツに対して見えてはいたが目の錯覚だと思ったのか。
それともハッキリ見たが、自分をうさん臭いと思い始め、適当に付き合う事にしたのか。
それともやはり『スタンド使い』で─────全てを理解した上で、あえて口にしているのか。

「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました。佐久間さんのような大人とお話をできるのは、貴重な経験です」

これに関しては嘘偽りない。少なくとも、腹芸に関しては彼に勝てる気は全くしない。
色々と探りを入れてみたが、それで理解したのは、彼がその気になれば自分が情報を得られる事はないだろうという事実だ。
それでも『シヴァルリー』の精密動作性を見せたのは、手品の種明かしをした佐久間さんへの公正さ故だ。
仮に彼の言葉にいくつか嘘があったとしても、あの仕掛けだけは本当だろう。
ならば、こちらも見せるものは見せる。…もっとも、やはり一般人でただの取り越し苦労の可能性も大いにあるが。

「ありがとうございました、佐久間さん。またお会いしましょう」

立ち上がり、去りゆく佐久間さんへと向けて一礼。
その背中が見えなくなるまで待ち、ふぅ、と息を吐く。あまりこういった事は慣れない。

「・・・・・・・・・・」


>>     「いる……」
>>
>>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>>                                   . .
>>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


音無さんの言葉を思い出しつつ。
できればあの人はそういう人でないことを願いながら、自分も公園を後にした。

763ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/24(木) 22:24:47

「行くよー」

          ポーンッ

「――ワウッ」

               ポーンッ

芝生の上で、一人の少女と一匹のチワワがボールで遊んでいた。
一つのボールを落とさないように交互に打ち合っている。
少女は両手を使い、チワワは頭で器用に打っていた。

764鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 00:31:03
>>763

「…おや」

そこへ、竹刀袋を肩にかけた一人の少年が通りがかった。『清月学園高等部』の制服を身につけている。

(犬はペットの中でも知性が高いと聞くけれど、まさかあんな事まで出来るとは)

感心するように、足を止めて二人のボール遊びを眺めている。

765ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 00:55:39
>>764

「――――あっ」

        トンッ
             トンッ トンッ
                     コロコロコロコロコロ…………

何度目かの打ち合いの時、少女がボールを受け損なった。
地面に落ちたボールが、そのまま転がっていく。
黒毛のチワワが顔を向け、ボールの行方を目で追いかけていた。

「すいませーんっ」

ややあって、少女が少年に声を掛けた。
ボールが彼の足元に転がってくる。
チワワは、ボールから少年に視線を移したように見えた。

766鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 01:06:13
>>765

「はい、どうぞ」

ボールを手に取り、笑顔で少女へと渡す。小学生だろう。
妹にもこんな風小さくて可愛い頃があったな、と少し懐かしくなる。

「二人とも、ボールを扱うのが上手だな」「特に君のワンちゃんは」

767ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 01:20:20
>>766

「ありがとー」

「あっ」

「ありがとーございますー」

お礼を丁寧に言い直し、少女がボールを受け取る。
少女は、かなり小柄な背丈だった。
まだ小学校一年生くらいだろう。

「うん!『ディーン』はー、とっても賢いからー!」

チワワは少女の横に来ていた。
やや使い込まれた首輪には、『DEAN』という名前が書かれている。
その首輪に、真新しい『リボンタイ』が結んであった。

768鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 01:28:25
>>767

「礼儀正しい子だな、君は」

どこか誇らしげにチワワ、『ディーン』の事を語る少女に微笑ましくなる。
本当に家族のように思っているのだろう。

「オレは清月学園の高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言うんだ」
「よろしく、ディーン。それと君も」

まずはしゃがみ込み、傍らに寄ってきたディーンに挨拶する。
何となく、手を伸ばしてみよう。流石に犬と握手ができるとは思ってないが、何かしら触れ合えるかもしれない。

769ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 01:50:08
>>768

少女は全体的に小奇麗な身なりだった。
それなりに裕福な家の子供らしい。
犬の事を語る少女の口ぶりには、強い『親愛』が感じられる。

「はじめましてー、夕立のお兄さん!」

「ヨシエは『嬉野好恵』っていいまーす。一年生です!」

鉄に応じて、ヨシエが元気よく挨拶を返す。
一方、ディーンは黙って鉄の顔を見ていた。
その次に、差し出された手を見た。

(…………)

差し出された手を見て、俺は少し考えた。
思うに、ここには『二つの選択肢』があるだろう。
つまり、『何かリアクションする』か『無視する』かだ。

(まぁ、そこまで深く考える事もないか……)

考えた結果、俺は『前者』を選ぶ事にした。
別に大した理由はないが、要するに『消去法』ってヤツさ。
無視する方を選んだとして、
『マイナス』になる事はあっても『プラス』にはならない。

        ポンッ

かくして、俺は『ユウダチ』の手に『自分の手』を重ねた。
いや、この表現は違ったな。
正確に言うと『前足』だ。

770鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 02:03:57
>>769

「おお…」

差し出された手に同じく手(正確には前足だか)を重ねられたのを見て、驚きつつ、軽く前足を握った。
いや、そういえば犬には『お手』というのがあったはずだ。自分はペットを飼った事はないので分からないが。
つまりこれは握手ではなく、躾けられた芸の一種なのだろう。
いや、だとしても初めて会った人間に対して同じように出来るのは賢いのだろうが。

「好恵ちゃんか。よろしく」

続いて、好恵ちゃんにも手を差し出す。

「好恵ちゃんは、ディーンと暮らして長いのかい?」

ディーンはいくつくらいなのだろう。犬を飼った経験がないので、見た目から年齢を図ることはできない。

771ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 02:31:15
>>770

    ギュッ

前足を握られ、『握手』のような形になった。
人間式の挨拶だが、友好的なのは悪い事じゃない。
少なくとも、敵意を向けられたりするよりは遥かにマシだ。

「――よろしくお願いしまーす」

ヨシエがユウダチと握手する。
俺は、その光景を横で眺めていた。
ユウダチは危険なヤツではなさそうに見えた。
『この前の事』もあるから、その辺りは気を遣う必要がある。
確か、『鎖の男』もユウダチと似たような年頃だったハズだ。

「んーとねー」

「『一年ちょっと』かなー」

「『友達になって一年の記念』に、ヨシエがプレゼントしたんだよー」

そう言って、ヨシエは俺の首輪に結んである『リボンタイ』を指差した。
この首輪は、前の飼い主だった女が、名前と一緒に俺に与えたものだ。
あいつは俺を捨てたが、俺はあいつに与えられたものを捨てていない。
考えてみれば妙な話かもしれない。
あるいは、どうでもいい事かもしれないが。

「今、2歳なんだってー」

少女が鉄に言う。
誰かから聞いたような言い方だった。

772鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 02:47:09
>>771

「そうか。じゃあディーンにとっては、もう好恵ちゃんと一緒にいる時間の方が長いんだ」
「ディーンにとっても、君は大切な家族なんだろうな」
「うん、可愛いリボンだ」

恐らく、彼(名前から男性と判断しよう)も同様に思っているような気がする。
先程のボールのやり取りも含め、人生の半分以上を過ごしたとなると、あれだけ息が合っているのも頷ける。
そう言えば、小型犬は二歳になる前には既に成犬、つまり人間で換算すると二十歳以上と聞いた事がある。
そうなると、彼は自分より先輩となるのだろうか。
まぁ仮にそうだとしても、この可愛らしい二人が触れ合っている姿は、何とも心が癒される光景だ。

(・・・・・ん?)

好恵ちゃんの言い方に、何とも微妙な違和感を覚えた。本人がそう確信しているのではなく、誰かから聞いたような風だ。
子供だし、そういう事もあるのかもしれないが。一応訊ねてみよう。

「お母さんか、お父さんがそう言ってたのか?」

773ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 03:05:24
>>772

小型犬の二歳というのは、既に大人の範疇だ。
人間の年齢で言うと23か24か。
おそらく、その辺りだろう。

「えっとねー」

「――『ディーン』から聞いたんだよー」

ヨシエは、ごくごく何気ない口調で、そう言った。
しかし、彼女は幼い子供だ。
本人が『そう思っているだけ』かもしれない。

(…………)

俺は、少しだけ不安を感じた。
ヨシエは、まだ小さい。
だから時々、言わなくていい事も喋ってしまう。
もっとも、『俺から聞いた』なんて話を真に受ける人間はいないだろう。
そう、『普通は』いないはずだ。

774鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 03:15:32
>>773

>「――『ディーン』から聞いたんだよー」

「・・・・・」「そうなのか」

じっと好恵ちゃんの目を見ながら、小さく頷いた。
ふざけているようにも、ウソをついているようにも見えない。
もちろん子供の感受性の豊かさは知っているし、動物と話せたと思う子もいるだろう。
しかし『喜んでいる』『悲しんでいる』ならともかく、具体的に年齢を聞くなど出来るのだろうか?
例えば、ディーンに対して手当たり次第に年齢を訊ねて、首を縦に振るか否か。
いや、これはこれで異常だろう。人間の言葉を理解するなど、あまりに知力が高過ぎる。

動物が言っていたという言葉を信じる人間など、『普通は』いない。
ただこの鉄夕立は、生真面目で、そして何より『スタンド使い』だった。


「…好恵ちゃん。話は変わるけれど、君は人に見えないものが見えたり、
 身の回りで不思議な出来事が起きたりしたことはあるか?」

ひょっとしてこの子は、『スタンド使い』ではないか?それも、生まれながらの。
『音仙』さんに、そういう人間もいるのだと聞いた。その能力で動物の声を聞けるのかもしれない。
もしだとしたなら、そして仮に『スタンド』の知識がないのなら、教えておく必要がある。
何より、身を守る術を知らなくては。

775ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 17:29:18
>>774

「――んー……?」

返ってきたのは『微妙』な反応だった。
はっきり『ある』とも『ない』とも言っていない。
かといって、ごまかしているようには見えなかった。

「『それ』って、どんなのですかー?」

無邪気に話すヨシエを見守りながら、俺は考えていた。
ユウダチが口にしたのは、おそらく『スタンド』に関する事だろう。
ひょっとすると、ユウダチは『スタンド使い』かもしれない。
そうなると話は少々違ってくる。
こちらとしても慎重にならざるを得ない。

(場合によっては『対処』する必要が出てくる――か)

『ワン・フォー・ホープ』を使うには『紐』が必要だが、そこは問題ない。
この首輪の『リボンタイ』が、その役割を果たしてくれる。
もちろん、使わないで済むなら、それに越した事はないが。

(まずは様子を見させてもらおう。
 どういう理由で聞いてきたか……分からないからな……)

776鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 21:39:41
>>775

>「『それ』って、どんなのですかー?」

「…例えば、こういうのとか」

人差指で右隣を示しながら、自分の真横に『シヴァルリー』を発現。
騎士のような見た目をした、人型のスタンドだ。
姿も大きく、装いも優しいとは言えないため、女の子に見せるのは少々躊躇われたが。
いや、そもそも見えないならそれに越したことはない。

「何か見えたり、感じたりするものはあるかい?」

777ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 22:31:53
>>776

「――――?」

少女は人差し指の先を見つめた。
そして、首を傾げた。
『何も見えていない』ようだ。
その割には、先程の質問に対しては曖昧な答え方だった。
どちらとも解釈できるようにも見えるが、
彼女に『シヴァルリー』が『見えていない』のは間違いなさそうだ。

(……やはり『スタンド使い』か)

『人型』を見たのは、これで『四度目』だった。
スタンドには、この手のタイプが多いのかもしれないな。
もっとも、単に『人間だから』とも考えられる。
たとえば、本体が犬なら『犬型』になる方が自然なんだろう。
少なくとも俺は違うが。

          キョロ キョロ

ヨシエは周りを見始めた。
何か見えるものがないか探しているらしい。
彼女の足元で、チワワは『シヴァルリー』の方向を見ていた。

778鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 23:46:23
>>777

(見えていない…か。杞憂だったな)

安心したように息を吐く。
『スタンド使い』でないのであれば、自ら危険に飛び込むような事にもなるまい。
最も、何かに襲われた時に身を守る術もないということだが…その場合は、自分のような物が出向けばいい。

「ごめん、何でもない。オレの勘違いだったみたいだ、気にしないでくれ」

軽く頭を下げて、謝罪する。
恐らく、彼女にはディーンの言葉が聞こえるような気がするのだろう。
子供の時には、そういう思い込みもあってもおかしくない。

「君はディーンとお話することができるんだね」「他にはどんな事を話すんだ?」

779ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 00:02:38
>>778

「えっとー」

「『今日あった事』とかー」

「『明日したい事』とかー!」

ヨシエは、ただ無邪気に語る。
彼女は『スタンド使い』ではない。
『スタンド』でもない限り、犬と会話をする事など出来ないだろう。
だから、『話をした』というのは彼女の思い込みに過ぎない。
そう考えるのは、極めて自然な事だと言える。

(一見、『危険なヤツ』には見えないが……)

(……質問してきた意図が分からないからな)

俺はユウダチを見上げる。
さっきから気になっていた事が一つある。
肩に掛けているモノの正体が何かって事だ。

     ジッ

似たような事は、ヨシエも考えていたらしい。
話すのを中断して、ユウダチの肩に視線を向けた。
俺にとってもヨシエにとっても、あまり馴染みのない代物だ。

780鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 00:09:19
>>779

「そうか。人間ともお喋りできるほど賢かったんだな、ディーンは」

そう言って、何となく好恵ちゃんの頭を撫でる。
いつか大きくなるにつれ、彼女も知るようになるのだろうか。
いや、母親の知り合いのお婆さんも、あたかも自分の子供のように愛猫を語っていた。
言葉は通じなくとも、長年共に過ごすと意志の疎通はできるのかもしれない。


>     ジッ


「…ん」「ああ、これか?」「好恵ちゃんは『剣道』って聞いた事はあるかな?」
「オレはその武道をやってるんだよ」

そう言って、袋の中から竹刀と鍔を取り出して、付けて見せる。好恵ちゃんの手の届く範囲だ。

「今日ここに来たのも、これを使って素振りをしようとしてたんだ」

781ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 00:30:02
>>780

ヨシエは大人しく頭を撫でられていた。
ヨシエの両親は家にいない事が多く、ヨシエは寂しさを抱えている。
だから、こうして『人』と関わるのが嬉しいのかもしれないな。

「知ってるー!」

取り出された竹刀を見て、ヨシエがはしゃいだように言う。
知ってるとは言うものの、実際に見た事はないはずだ。
俺も実物を見るのは初めてだった。

      ソッ

ヨシエは手を伸ばして、竹刀に軽く触れた。
これが包丁やナイフなら止めている所だ。
だが、これは刃物じゃないから、触ったとしても危険はないだろう。

「どんな風にやるんですかー?」

そう言ってから、ヨシエが少し離れた。
やって見せてもらおうとしているのだろう。
実演があるかどうか分からないが、俺も後ろに下がった。

782鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 00:39:26
>>781

「おや、知ってるのか。あまり小学校でやる機会はないはずだけど」
「好恵ちゃんは物知りなんだな。賢いのはディーンだけじゃなかったか」

どうやるのか、と訊ねられ、頷いて立ち上がる。
そして竹刀を正面に構え、両足を前後に分けた。一番基本的な『中段』の構えだ。

「戦う時は、防具って言って全身に痛くないような服を着てるんだけど」
「その中で、四つ相手に攻撃を当てていい場所があるんだ。相手より先に、上手くこっちが当てられれば勝ち」

一応ルールを説明しながら、素早く竹刀を振り被り、正面に下ろす。

「『面』」

同じように振り被り、今度は左下方に下ろす。

「『小手』」

三度目は、左から右へと薙ぎ払うように。

「『胴』」

四度目は、構えたまま歩みを進め、一気に竹刀を突き出す。

「『突き』」

「…こんな感じかな?」

783名無しは星を見ていたい:2019/10/26(土) 00:57:57
>>782

「――――『テレビ』で見たから!」

ああ、それは俺も見たような気がする。
あれは何だったか。
確か、どこかの『学校』が映っていた覚えがあった。

「わー!かっこいいー!」

      パチパチパチ

ヨシエが小さな手で拍手を送った。
これは、純粋に見栄えの良さに対する賛辞だろう。
俺が考えていたのは別の事だった。

(ムダがない『シャープ』な動きだな。素人が見ても、そう思う)

ユウダチという男は運動神経が良いらしい。
それだけではなく、鍛えられている事も窺える。
敵には回さない方が良さそうだ。
その予定がないのは幸いだろう。
あの頑強そうな『スタンド』と合わせて、そう思う。

784鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 01:33:48
>>783

竹刀を脇に納めて、頭を下げた。
少し照れ臭くもあるが、褒められるのは多少なりともやはり嬉しさがある。

「ありがとう。…まぁオレはこの通り、少し腕が立つんだ」
「だから、好恵ちゃんも何かあったら、すぐに周りの人に助けを呼ぶんだよ」
「夜が近付いてきたら、あまり外には出かけないようにな」

そう言って、立ち上がる。

「それじゃあ、オレは少し離れた所で素振りしているから」

流石にこの二人の側で素振りをしていたら、第三者から見れば不審者の極みだ。
通報されたくはない。

785ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 01:49:25
>>784

「うん、わかりましたー!」

ヨシエは砕けた口調と丁寧な言葉が入り混じった返事を返す。
今までの様子から判断すると、ユウダチは危険な人物ではないようだ。
ひとまず、俺はそのような結論を出した。

(ヨシエに質問してきた理由は単に心配しただけか?)

(……それなら良いんだがな)

「――――続きやろー!」

      ポーン

考え事をしている最中、ヨシエが再びボールを投げた。
そのせいで、俺は疑問を頭の片隅に追いやらなければならなくなった。
ヨシエを一人にする訳にはいかないからだ。

            ポーン

素振りをする少年の向こう側で、少女と犬がボール遊びに興じている。
至って平和な光景だ。
おそらく、誰が見ても同じように思っただろう。

786鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 02:09:00
>>785

『ヒュンッ』『ヒュンッ』

竹刀が風を切る音を聞きながら、視界の端で二人(正確には一人と一匹だが)が楽しんでいる。
しかし改めてその様子を見ても、本当にディーンは賢い犬だ。
ボールを口に咥える犬は何度も見たことがあるが、ああやって即座に返せる犬は初めて見た。
インスタグラム、というのに撮影した動画を上げたらパズル?のではないだろうか。

「・・・・・・・・・・」

犬と人間を分けるのは、生物の中における分類だろうか。だとしたなら、猿と人間は知能の違いが決定的な差だろうか。
それならば、猿はひょっとして『スタンド使い』たり得るのか?
だが、世の中には普通の猿より賢いかもしれない生き物もいる。それらも『スタンド使い』になる可能性があるのか?
仮にそれらが全て是とすれば、あるいはあの『ディーン』も?

(…考え過ぎだな。それこそ、好恵ちゃんが『スタンド使い』だというよりも、有り得ない)

今度『音仙』さんの所を訪れた時は、一応そういった存在があり得るのか、訊いてみよう。
ただ、万が一にも『ディーン』がスタンド使いならば、きっと好恵ちゃんを様々な危機から守ってくれるだろう。
まるで『騎士』のように。それは子供向けの物語のようで、そうだとしたら、とても素敵だなと思った。

787ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/05(火) 00:09:56

林の奥に、一人の女がいる。
逆巻いた前髪を持つ長髪の女だ。
白、青、紫のグラデーションという目立つ髪色をしている。
それ以上に目立つのは、その『格好』だった。
背中に天使の羽を思わせる『羽衣』を持ち、
両腕は『羽毛』で覆われ、踵には『蹴爪』が見える。

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

女が『鳥のような声』を出す。
すると、付近の木々に留まっていた野鳥達が集まってきた。
その一群を前に、女が『鳥用フード』の袋を開ける。

「ご苦労様でした。今日の分の『報酬』をお渡し致しますわ」

「おっと……」

「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

(この姿でいると、時々『本来の自分』を忘れてしまう……。
 『知性の弊害』というのも、時にはあるものですわね)

         パッ パッ パッ

『同族達』に『契約分の報酬』を支払いながら、そんな事を考える。
彼女の名は『ハーピー』。
『鳥人を模したコスチューム』を身に纏い、
『鳥とコミュニケーションする技能』を駆使して、
街で『パフォーマンス』を披露している素性不明のパフォーマー。
だが、それは人間社会に溶け込むための『仮の姿』だ。
彼女の正体は、『ハゴロモセキセイインコ』の『ブリタニカ』である。

788ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/13(水) 20:43:36
>>787

やがて野鳥の群れは飛び去り、同時に女も姿を消していた。
一羽のインコが舞い上がり、常緑針葉樹林の奥へ飛んでいく。
目指す先は、一本の樹だ。
地上から大きく離れた高さの位置に、針金で固定された『巣箱』がある。
こうして、インコは『隠れ家』の一つに戻っていった。

789斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/14(木) 23:37:58
裏山の木々が色づき始める頃、ふと見れば足元に枯葉が散らばる物で
秋と言うものは足早に過ぎ去っていくのだなあと、考えさせられるもので。


赤いスカーフにライダーズジャケット、つやの無い黒い頭髪は軍人風に短く刈り込まれていた
僕、斑鳩翔は散らばった落ち葉を蹴り集めていた


自然公園で紅葉狩りというのも季節感が有っていい事だ……が、本題はそれではない
目的は、右手に掴んだ茶色の紙袋の中身にある。

 「――このくらいで、いいか。」

何事にもやるべき時と場所がある物だ
例えば『落ち葉の拾える公園』で『秋にしか出来ない事』とか。

   ガサゴソ

               ポイ ポイ

コンクリートブロックで作られた、使われてないキャンプ場のかまどに
大量の落ち葉と共に、銀紙を巻いた包みを放り込む、紙袋の中に入っていたBB弾が数個、あたりに散らばった

 「〜♪」

紙袋をねじってライターを取り出し、着火して落ち葉の底にねじ込む
白煙が落ち葉の隙間から上がるのを見れば
どこからともなく取り出した『ロスト・アイデンティティ製:金属の棒』でつつきながら、後は待つだけだ。

 「寒い季節に、死ぬほどホクホクなさつまいも」
 
 「『焼き芋』って、こういう時に食べる物だよなァ――ッ」

おっとでき上がりを想像して、口内がよだれで一杯に
はやくできないかな、焼き芋。

790ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/15(金) 00:39:09
>>789

ザッ ザッ ザッ

向こうの方から、一人の『女』が歩いてきた。
白と青と紫で構成されたトリコロールカラーの長髪。
背中に備わる『羽』と両腕を覆う『羽毛』、踵に生えた『蹴爪』。

「――――なるほど」

その時、彼女にとっての『問題』は一つであった。
すなわち、『隠れ家』と同じエリアで『火が焚かれている』という事実だ。
これは『調査』する必要がある。
『隠れ家』は街の中に複数あるため、
最悪『放棄』する形になっても困る事はないのだが、
そうならないのが最善であるのは言うまでもない。
真相を確認すべく、こうして歩いてきていたのであった。

791斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/16(土) 14:56:58
>>790

 「〜♪」

 「いたっ」

何事かと腹部を見れば、何故か『スタンド』が発現して僕のお腹をつねっている

 「? ……??」

彼の事だ、嫌がらせかとも思ったが

 「あ」

気が付かない内に女性が1人、此方に歩いてきている
参った、赤の他人でもこういう所を見られるのは少し恥ずかしい

 「……こんにちは!」

挨拶の基本は元気よく笑顔でする事にある。

792ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/16(土) 20:07:03
>>791

「こんにちは」

「どうもどうも」

    ザッ ザッ ザッ

少しずつ近付いていく。
そこで、彼が『林檎をくれた少年』である事に気付いた。
珍しい偶然もあるものだ。

「『芋』ですか」

「それは『サツマイモ』ですね」

この時期になると、『人間』は芋を食べたくなるらしい。
街を歩くと、この頃は目にする機会が多い。
『ポテト』という別の名称も多く用いられるようだ。

           ザッ

「そのために『火』を起こしていらっしゃった訳ですか。なるほど」

「――――納得致しました」

そうであれば、そこまで問題にする事でもなかろう。
せっかくなので、見せてもらう事にする。
適当な場所に座って、少年の作業を見つめる。

793斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/17(日) 01:07:13
>>792

(奇麗な髪をした人だなぁ)

 「ええ、こういう季節でないと、できませんからね。」

白、青、紫

山の色合いよりも色鮮やかな、かつ美しい頭髪は僕の眼を引いた
お陰で彼女が多少……奇妙な服装でも、少しだけ気にはしなかった

服装と言う点では、僕の通う学校の学生寮には、不審なメイドが出るという噂である
感覚がマヒしているのかもしれない、驚いてはいられぬ、いられぬのだ。

 「――何方から来たんです?」

そんな質問が微笑む僕の口から出たのは
どうにも彼女の佇まいと言語のちぐはぐさ故である

外国人……と言うには日本語が流暢で
日本人……と言うには文字通り、毛色が違う。

僕の行いをマジマジと観察する姿は
知性は高くても季節柄の事を知らないように思える。

 (……何処から来たのか見当もつかないな。)

794ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/17(日) 01:26:26
>>793

「『あちらから』ですが」

言いながら、今来た方向を指差す。
そちらには森があった。
『どこの出身か』という答え方ではない。

「――――というような事をお聞きではないのでしょう?」

「その答えは『秘密』です」

ダークブルーの瞳が少年を見つめ、
口元にミステリアスな笑みが浮かぶ。
笑うというのは、本来の自分にはできない芸当だ。
『表情筋』は『飛行』に不要であるために退化しているからだ。

「失礼致しました。私は『ハーピー』」と申します。
 『ストリートパフォーマンス』を生業とする者でございますわ」

    スッ

芝居がかった身振りで、恭しく頭を下げる。
この奇妙な格好も、『パフォーマンスの一環』なのかもしれない。
そうだとすれば、むしろ『自然ないでたち』と呼べるだろう。

795斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/17(日) 22:31:42
>>794

(レス遅れ申し訳ございません)

 「――『ハーピー』?」

芝居がかった動作も、こういう人がすると嫌味にすらならない物かと驚ける
間抜けに聞き返した僕の脳みそがハーピーについて考え……

 (…………。)

――記憶の引き出しが錆び付いていたのでスマホに頼ることにした
文明の利器万歳。


魔物の一種。 ギリシア神話に登場する怪物
主に腕が鳥の羽になっており下半身も鳥の様になっている女性を指して使われる


 「成程」

さて、改めて女性を見てみれば、背中に備わる『羽』と両腕を覆う『羽毛』
確かにハーピーと言って差し支えない風体である、これは人目を引くに違いない
『ストリートパフォーマンス』……きっといい噂になるのだろう。

 「ご丁寧にどうも、僕の名は『斑鳩』」

 「『学生』な物で、『ストリートパフォーマンス』みたいな事は言えないのが悔やまれるなァ」

枯葉の中に、スタンド製トングっぽい棒を突き刺すと
先端にアルミホイルの包みを挟んで引きずり出す、僕のスタンドはこういう時に便利だ。

 「あちっ あち」

なお、熱までは管轄外である、人様の前でこれがスタンドですとバラすわけにもいかない
厚手の手袋で掴んで慎重に銀紙を剥いて、半分に割る。

黄金色のしっとりとした山脈のような断面が
湯気を立たせながら香ばしくも甘い香りを放ち、周囲の紅葉によく映える
人を引き付けてやまないものは、こういう物である。

 「一人で食べるのも寂しいもので、お一つ要ります?『ハーピー』さん。」

そう言いながら、僕は片方を差し出した。

796ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/17(日) 23:11:01
>>795
【お気になさらず】

「せっかくのお誘いを断るのも失礼ですわね。頂きましょう」

羽毛に覆われた手を伸ばし、芋を受け取る。
『本体』が食べる訳ではないが、この仮初の体にも『味覚』はある。
味わう事くらいは出来るだろう。

「――――そうそう、あと『もう一人』お呼び致しましょうか」

「 『♪』 」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

    バササッ

近くの木々に向かって、『鳥のような声』を発する。
その呼び掛けに応じて、一羽のカラスが飛んできた。
そして、『ハーピー』の肩に着地する。

「まだ熱いかもしれませんわ。注意して下さいね」

焼き芋の欠片を掌に載せて、カラスに差し出す。
この時は、うっかり『人語』で話してしまったために伝わらなかったが。
少し観察してから、カラスは芋の欠片を嘴で摘み上げた。

「このように――――
 『鳥とコミュニケーションするパフォーマンス』を披露しております」

カラスは肩の上で大人しくしている。
『野鳥』とは思えない程に。
かといって、事前に飼い慣らした鳥でもなさそうだ。

797斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/19(火) 20:11:34
>>796

目の前で起こった事に目を丸くする

 「……やあ、凄いな」

まるで何でもない事のように、彼女は鳥と会話しているように見える
バードコールと言う道具を使ったのかと思ったが、手元にそう言うのも見えない。

 「『猫』や『梟』に芸を仕込んでいるのは、昔、両親と見た事がある」

 「でも、それはあくまで屋内で……貴女みたいな事はしなかった。」

どうやったのかは解らないが、解らないからパフォーマンスなのだ
彼女の実力は確かであると、それを証明してみせた、疑うのも野暮だろう。

 「――鳥と話せるんです? 例えそうだとしても、貴女の場合、驚く事じゃなさそうだ。」

良い物を見れたと思いながら、右手に持ったものを口元に運び……

 「あつっ ほふっ」

舌を火傷しかけた、瑞々しい甘さが口内に広がるが
注意力散漫である。

798ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/19(火) 21:22:26
>>797

焼き芋を口にすると、スタンドを通して『熱』と『甘さ』を感じた。
本体は、外部の寒さを完全にシャットアウトする空間内にいるのだ。
『ハロー・ストレンジャー』だけが、『中と外』を繋いでいる。

「ええ、話せます。私は『ハーピー』ですからね」

「人と鳥の『バイリンガル』ですわ」

妙な理屈だったが、それが理由のようだ。
人と鳥の中間の存在であるから話せるという事なのか。
これも『パフォーマンス』の一部なのかもしれない。

「ああ、良い事を思い付きました。
 何か『彼』にお聞きになりたい事はおありですか?」

「焼き芋のお礼に、私が『通訳』致します」

もっとも、『鳥の言葉』が分かるのは自分だけなので、
証明しようがないのが事実だ。
だから、これは実際のパフォーマンスでは余りしない。
逆に言うと、こういう場だからこそ出来るとも言える。

799斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/19(火) 23:55:54
>>798

 「『通訳』。」

……さて、困った。
またとない機会ではあるのだが、急に来られると大して思い浮かばない

 「えっと……」

ディズニープリンセスに憧れる少女なら、眼を宝石の如く輝かせて即答するのだろうが
こうして悩むのは、自分が貧困な発想の人間だと言う事か
言葉に詰まって芋を一口齧る、甘い。

 「――『心を治せる人間』」

芋の甘さで舌を滑らせる
そんな人間が何処にいる物かと言いたいが、何故か此処にいるのだ
 
 「いや、違う…えっと……」

内心慌てて別の台詞を探す
とはいえ普段話せない相手に何を聞くべきなのか?

 「アレです、明日の天気とか? ……って解らないか」

 「うーん……すいません、ちょっと思いつきませんね。」

 「それに、お礼を期待して渡したわけでは無いので お気持ちだけで結構ですよ、ハーピーさん。」

笑顔でそう帰すと芋をパクつく

人から信頼を得るには? まず笑顔でいる事だ
では人を騙すには? ……まず笑顔でいる事だ。

800ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/20(水) 00:27:32
>>799

「では、尋ねてみましょう……。ご存知ですか?」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

『人語』と『鳥語』でカラスに呼び掛ける。
一口に『鳥』と言っても、人間と同じように『個人差』がある。
賢い者もいれば、そうでない者もいるのだ。
もちろん、『ブリタニカ』は前者である。
何故なら、そう自負しているからだ。

「ええ、なるほど――――」

「『朝、公園のハトにパン屑をやってる婆さんなら知ってる』と」

つまり、『知らない』という事だ。
当然だろう。
これも、『ハーピー』の独り言と言われてしまえば、それまでだが。

「申し訳ございませんね」

『笑顔』は効果的だ。
少なくとも、『人』に対しては。
『ブリタニカ』は『人』ではなかった。

(誤魔化すのが下手ですね。なぜ隠すのです?
 知られてはならない『秘密』があるとでも?)

(――――それなら『私と同じ』ですわね)

この身は脆い。
ゆえに、『正体』は秘匿せねばならない。
ストリートパフォーマーとしての名前と姿は、そのための隠れ蓑。

「さて、私は『仕事』に向かう事に致します。
 斑鳩様、また何処かでお会い致しましょう」

「では、失礼を」

大きな動作で別れの挨拶を告げ、肩にカラスを乗せたまま歩いていく。
『食い扶持』を得るために、仕事はしなければならない。
そして、己の『知性』を追求するためにも。



【これにて落ちます。交流に感謝を。お疲れ様でした】

801美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/11/30(土) 21:01:22

静寂に包まれた夜中の自然公園。
その一角に設置された東屋の中に、誰かが座っていた。
ラフなアメカジファッションに身を包んだ女だ。

「あはっ――――」

「……ちょ〜っとだけ飲み過ぎちゃったかなぁ〜」

「気持ち良いぃ〜……」

「――――あははっ」

頬に赤みが差しているのは化粧のせいではない。
明らかに『酔っている』のが分かる。
何処かの店で一杯やってきた帰りのようだ。

「何かぁ〜眠くなってきちゃったなぁ〜」

「ふあぁ〜」

    ドサッ

欠伸を一つして、そのまま無防備に横たわる。
今の季節だと『凍死』も有り得るかもしれない。
まともな思考が働いていないため、本人の頭の中には、
そのような考えは全くなかった。

802宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 17:39:23
>>801


(うげ、)


 口には出さずに悪態をついたのは、見知らぬ女性に対してではない。

 彼女が身を横たえた東屋―――に、『擬態』した巨大な『怪物』。
 それが、『グロテスキュアリー』を通じて得られる宍戸 獅堂の視界だ。

(あのサイズじゃ、睨んで脅してもビビんねえんだよな……)

 『怪物』に気付かなければ、素通りしていただろう。
 寒空の下、顔も知らない他人を放置することには、然程抵抗はない。
 それで彼女が風邪を引こうが、浮浪者や暴漢に襲われようが、
 気の毒には思うけれど、気に病むことはないというのが、自分の線引きだ。

 が、『怪物』がそこにいるとなれば、話は違う。


    ザッ ザッ ザッ・・・


 ため息を吐いて、女性の陰に歩み寄る。
 スマホ(これは『怪物』ではない)のライトを、眩しすぎないように顔に当てる。


「もしもーし」「大丈夫ですか」

 先ずは声をかけて様子見だ。

 目を開けるなら、学生服を着崩した不健康そうな少年が、
 陰気な表情で美作を覗き込んでいることに気付くだろう。

「襲われますよ、マジで」

 何に、というのはボカしておこう。

803美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/02(月) 19:37:39
>>802

擬態した『怪物』を目撃出来るのは、この世で宍戸だけだ。
他の者には、決して認識する事の出来ない存在。
そして、それは『この女』にとっても例外ではない。

「……ん〜?なぁにぃ〜?」

顔に向けられた光に反応して、うっすらと目蓋が開かれた。
やがて緩慢な動作で身体を起こし、数回瞬きする。
その両目が、制服姿の少年を捉えた。

「『襲われる』って誰によぉ?」

「だぁ〜れもいないじゃないのぉ〜」

「あ!分かったぁ!」

「君……私の事、襲うつもりなんでしょ?」

「ダメよぉ、君とは出会ったばっかりなんだから……」

眼前の少年に向かって、見当違いの説教を始めた。
アルコールで麻痺した脳では、まともな思考など望むべくもない。
どうやら、すっかり勘違いされてしまったようだ。

804宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 21:48:34
>>803


(こ、コイツ……!!)


 不健康そうな少年の陰気な表情が、いっそう翳る。


「……、違います」
「酒臭い人、あんまり好みじゃないんで……」

 容疑については、ちょっと強めに否定しておこう。
 アルコールの匂いに顔を顰めながら、周囲を見回す。

「……だが、そーゆー女が『都合いい』っていう輩もいる。
 浮浪者や卑劣漢、野犬にとっちゃ、格好の獲物だったろうな」


 そして、当然『怪物』にとっても。


「財布は無事ですか? スマホや免許証は?
 まさか『無い』とは思うけど、体におかしなところは?」

 さて、酔いを醒ますには、ビビらせ……
 もとい、ショック療法が一番だ。

 手頃なサイズの『怪物』が、都合よく徘徊してはいないものか。

805美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/02(月) 22:34:07
>>804

「なぁにぃ〜?私に『魅力』が足りないっていうのぉ〜?」

「――――『上等』じゃない」

    ガバッ
         ツカ ツカ ツカ

不意に立ち上がり、東屋を出て少年に近付く。
目が据わっている。
宍戸の言葉で、妙な『スイッチ』が入ってしまったようだ。

       「『この私』に――」

        「『魅力』が――」

       「『足りない』ですって?」

           バッ

着ていた上着――スタジャンを勢いよく脱ぎ去る。
ちなみに、これは『怪物』ではなかった。
下に着ているのは、胸元の緩いタンクトップだった。

    カサッ

その時、草の上で『白い紙』が微かな音を立てた。
コンビニの『レシート』のようだ。
スタジャンを脱いだ時に、ポケットから落ちたらしい。
宍戸には、その正体が分かった。
『怪物』だ。

806宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 23:59:46
>>805

(マジかよ)

 マジかよ。

「お、襲われる……! 俺の方が……!!」

 妙な迫力に後ずさる。

「クソッ……間抜けな『餌』は俺だったか……!
 弱っているフリをして、『擬傷』みてーなモンだったとは……」

「服を脱ぐなッ 服を―――――っ!!!
 俺がマジにヤベー暴漢だったらどうするつもりだ お前ェ――ッ!」

 青少年の正しき反応として、緩い胸元に目が向くのは当然のことだ。

 それはそれとして、女性が自ら『怪物』の足元から脱出したのもイイ。
 解決まで、あと『一歩』といったところか。


(だが、この酔っ払いを落ち着かせて、この場を収めるために
 無理やり『魅力的』だって認めさせられるのはかなり癪だ……!
 こちとら『怪物』から助け出してやった『恩人』だってのに……!)


    カサッ


「――――――!!」

 緑色の眼球、すなわち『グロテスキュアリー』が発現。

 『レシート』に『擬態』していた『怪物』の正体を暴く。
 そのまま地面を這って女性の足元へ向かわせ、
 思いっきり体を打ちつけさせる(破ス精BBE with 手加減)。

 気付けの一発、といったところだろうか。

807美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/03(火) 00:36:23
>>806

果たして、本当に『襲う』つもりなのだろうか。
女の真意は不明だ。
そして、彼女は更に言葉を続ける。

「とくと見せてあげるわ。私の『魅力』を」

    ズイ

「私の『声』を。私の『喉』を」

           ズイ

「『カナリア』と呼ばれた私の『歌唱力』をね」

                  ズイ

脱いだスタジャンを腰に括り付け、少しずつ宍戸に迫る。
上着を脱いだのは、単なる『景気付け』だったらしい。
しかし、客観的に見てどう映るかは分からない。

「あー…………コホン」

喉の調子を整えるために、軽く咳払いをした。
その瞬間、『擬態』を解かれた『怪物』が突進する。
『怪物』の体当たりは、スニーカーを履いた女の足に命中した。

    ドンッ!

          グラッ

              「――――っと?」

予想外の一撃を受けて、女の身体が傾く。
元が酔った状態だったため、その足元は平時よりも不安定だった。
姿勢の安定が崩れ、女の身体が後ろ向きに倒れていく……。

         ――――ゴッ

『鈍い音』がした。
どうなったかは一目瞭然だった。
間違っても死んではいないし、大きな怪我も負っていない。
しかし、『何事もなし』とはいかなかったようだ。
後頭部を打ったせいで、完全に気を失っている。

…………一応は『解決』と言えるだろうか?

808宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/03(火) 07:21:03
>>807

「……は? 歌?」

 『怪物』から視線を戻したときには、既に遅かった。


         ――――ゴッ


 驚かすついでに、痛覚で気付けする程度の心算だったが……
 思いの外、暴威を振るった『怪物』によって女性は気絶してしまった。

「…………」

「一先ず落ち着いたが……『早とちり』だったかもな」

 独り立ち尽くす少年は、地を這う『レシート』を睨みつける。

「……ここまでやれ、とは言ってねえ」「が、」
「これは俺の『ミス』だな……」

 やはり、『怪物』は埒外の存在だ。
 視線で脅して、恐怖で支配することはできても、
 意を汲ませて服従させる、というのは難しいらしい。

「『お前』を責め立ててやりたいが……クソ。
 言葉足らずだったのは俺の方だ。
 いやそもそも、言葉も通じてんのかもだしな……」

「引っ越して間もないってのに、ツイてねー……はぁ」

 東屋の『怪物』が妙な気を起こさないように牽制しつつ、
 救急車を電話で呼ぶ、くらいの責任は取る。
 サイレンの音が聞こえたら、そっとその場を去ろう。

809今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/21(土) 01:51:22

「よいしょっ」

      バサリ

私は制服の上に羽織ったコートを直した。

寒いよね。
フツーに寒い。みんな寒いと思う。
だから今の季節、ここには人がいないんだ。

「……」

天体観測。
ロマンチックな趣味とかじゃないよ。
課題なんだよね、学校の。
今はまだ、ぎりぎり補導されない時間だ。

              ドサ


カバンを置いて空を見た。
星はまばらに出ていて、その並びが何の形なのかは、まだ覚えていない。

810斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/22(日) 15:57:59
>>809

 「冬のお空に天体観測、ロマンチックだよね」

間延びした声、或いはからかうような声が、透き通るような冬空に通る
イヤホンを外しながら語りかけたのは、その子が見知った気がする顔だったからだ。

 「今泉さんって、そういう素敵な趣味をお持ちだったの?」

赤いスカーフ、黒いジャケット

僕達の服装は夏でも冬でもあまり変わり映えはしない、特にスカーフの部分は
精々ジャケットの襟元にファーがついてたり、袖先のデザイン違うなあ、くらいのもんだ。

 「――やあ」

なんでもない事のように僕は少し離れた木の根元に佇んでいる
移動方法?少し恥ずかしいんで聞かれない限りは秘密だ。

811今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/22(日) 23:11:41
>>810

           クルッ

人に会うかも、って思ってたわけじゃなかった。
でも、人がいてもおかしくはないと思っていた。
それでよかったと思う。急にびっくりせずに済んで。

「わっ」

「イカルガ先輩! 奇遇ですね〜っ」

      ニコ

「音楽室で会って以来ですよね!」

私は笑った。
それから、空を一度見て、先輩を見る。
ユメミンとデート行ったんだよね。
それから会うのは、確か初めてだ。

「趣味だったらよかったんですけども」
「『課題』なんです」「天体観測」
「星座を見つけて来いって!」

「あは。多分、先生の趣味なんですよね〜」

手元の『星座早見表』を先輩に見せる。
・・・先輩は何しに来たんだろ?

「イカルガ先輩はお散歩ですか? それとも、先輩も星を?」

812斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/22(日) 23:51:42
>>811

 「まずは驚かせて悪いね」

笑顔を返し、傍まで歩み寄る
何やら意外な反応が返ってきた、こういうの多いな僕。

 「ご存じの通り、今日は散歩ついでにここまで来ました、君の先輩の斑鳩翔、だよ。
 呼び方はいーくんでも翔ちゃんでも可。」

手元の正座早見表に目を向ける
 
 「冬の夜空で星座探しかあ、まあ、確かに月見とか音楽聞いてる時意外じゃ
 こういう時くらいじゃないとマジマジとは見ないけど、趣味で立たされると……音楽?」

苦笑しながらも唐突に出てきた台詞に、困惑と共に首をかしげる
さて、僕の腕前では『猫ふんじゃった』が『猫ひいちゃった』になる悲しい悲しい腕前なのだが、
音楽の授業でも見られたのだろうか?少し恥ずかしい

 「まあ初対面……ではないかな、ユメミンって多分、夢見ヶ崎だろ?
 彼女に『僕や彼女と同じ』だと話を聞いてたんだよ、『特別な力』があるってね」

無論、この同じというのは出身校だとか、住所ではない
『スタンド使い』という意味である、僕の学校には嫌に多いのだ、メイドとかメイドとか。

 「あ、この事については彼女を責めないでほしい
 僕が知ったのは完璧に僕の事情であって、彼女の口が軽いというわけでは無いんだ。」

そこまで言って、ふと何かに思い至り、苦虫をかみつぶしたような面持ちで顔を覆う
まさか、というのは常に最悪の形で来るものだ、僕の短い人生経験の、数少ない教訓。

 「……ところで、その 急に気になってきたんだけど ユメミン僕の事なんか言ってた?」

813今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/23(月) 03:52:15
>>812

「いえいえ、こちらこそ驚いちゃいましてすみません」
「知り合い……それも、先輩に会うとは思ってなくって」

             ニコ…

「適当にネットとかで、調べようかと思ったんですけどねえ。星の画像」
「誘った友達はそうするって言ってたし」

「でも先輩の言う通り、こういう時くらいしかしっかり星って見ないですし」
「しっかり見るなら、ここが良いスポットなのかな〜って」

笑ったまま、傍に来た先輩を見る。

「あ。名前はイカルガ先輩って呼びますねっ」
「先輩にくんとかちゃん付けって、フツーじゃない感じだし」

イカルガ先輩。
前に会ったのは『音楽室』で、ピアノを弾いてくれた。
それと、ユメミンとデートに行って、『バラ』をプレゼントした人。

・・・なんだろう。確かにキザ、かも。
というか、『クール』な感じが無い?
音楽室で会った時、こんな感じだっけ?

「はい、ユメミンは私の友達で、あす……夢見ヶ崎さんですね!」

「いやぁ〜、別に責めたりしませんよ」
「隠しといてとかユメミンに言ってないし」
「もちろん、聞いた先輩のことを責めたりもしませんしっ」

音楽室で会った時より前に、ユメミンから話したのかな。
でも音楽室で会った時は私のこと知ってる風だっけ?
うーん、そう言われれば知った上で話してたような気もしてきたけど。

「んん・・・? まあいいや、それよりですねっ」

イカルガ先輩には、なんというか違和感がある・・・けど、置いておいて。

「聞きましたよ〜っ。デートしたお話、いろいろ」
「安心してください! ユメミン、楽しかったって言ってましたよ〜」
「他にもいろいろ・・・フツーに、悪いようには言ってなかったです」

これはほんと。『謎でキョーミがある』とも言ってたけど。

「あとはですね、『不思議なものを探してるから見かけたら教えて』って!」
「ユメミンはですねえ、不思議なものをいっつも追いかけてるんですよっ」
「お店とか」「食べ物とか」「いろいろ……」

「もし何かあったら、よかったら教えたげてくださいね!」
「それこそ、あの音楽室みたいな・・・」

ユメミンに言っといてって頼まれたことは言えたし、それはよかった。

「ちなみに・・・・・・・・・その〜。イカルガ先輩的には、ユメミンってけっこう、タイプだったりとかっ?」

これは別に頼まれてないんだけどね。こういうのはフツー、気になるものだと思うんだ。

814斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/23(月) 22:24:31
>>813

 「だよねぇー 言っちゃうよね!」

僕は努めて軽い口調で笑う
最近のくしゃみの理由が、寒さだけでは無いと解った瞬間だ

 「いやあ、僕でも話のネタにするけど 当事者になると凄い恥ずかしいねコレ!
 時計仕掛けのオレンジの如く踊りたくなるよ。」


 「それで、タイプかどうか? それは……」

貯めて貯めて、シーッと人差し指を立てて、密やかに

 「ナイショ。」

   ニッ

 「君から伝わると解ったら、下手な事言えないからねー、同じ轍は踏まない先輩だよ。」

照れ笑いと共に肩を竦める
素面で言うのは少し無理だ、それこそスパイディみたいに軽口を叩かないと。

 「……」

でも、やはり気になる事が有る
自分が忘れているだけかと思ったが、やはりそれは『記憶にない』。

 「んーー……ねえ、今泉ちゃん」

心底不思議な事だ、故にそれを問う必要が出てくる
寒さで僅かに紅潮する頬を、指で掻きながら

 「――『不思議な音楽室』って何の事?」


 「まあその……僕の記憶力は、クラスメイトの勉強会が必要な時点でお察しという前提なんだけども
 その、思い出せなくって。」

815今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/23(月) 23:37:06
>>814

「あはは、恥ずかしいと踊っちゃうんです?」
「そういう映画なのかな」
「見たことないんですよね〜、『時計仕掛けのオレンジ』」

昔いろんな映画見たりはしたんだけどね。
その映画は見たことないから先輩のジョークなのか分からない。

「内緒、ですか〜」
「フツーに残念ですっ」

     ニコ

そんなに残念とかじゃないけどね。
フツーに言ってくれた方がびっくりするかも。

でも、それより。

「いやあ、やっぱり先輩は甘くないですね〜。・・・? えっ?」

「?」「やだなあ……イカルガ先輩、あの『音楽室』ですよ!」
「『雨の日にのみ現れる、もう一つの音楽室』のお話」
「私が普通の音楽室と間違えて入っちゃって」
「先輩がそこで『ジムノペディ』を弾いてくれて」

「というか、どういう部屋なのか自体先輩が教えて」「くれたのに」「……」

――――――――――――――――――――――――――――――
そういえば、ショウくんってココロをなおすスタンドをさがしてるんだって
――――――――――――――――――――――――――――――

「……」

先輩の『こころ』は、私にもユメミンにも分からない所がある。
そして先輩、自身にも。『自分のこころが分からない』・・・それは。

「あれ、もしかして、私の勘違いとか、記憶違いとか、人違いとか」「そーいう話、ですかね」

816斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/24(火) 01:39:25
>>815

時計仕掛けのオレンジ、それは最後に拍手の中で、笑顔で終わる話だ。
こう説明するとまるでハッピーエンド、ただしそれはえげつなく、その終わりに至る過程は更にむごい。

 「―――― ッ」

頭を抑える、寒さで頭痛でもしているのだろう
目の前の女の子は、僕の知らない音楽室の話をしている
『始めて会った女の子が。』

 「ああ、いや……」

眩暈がする、なぜだろう、とても気分が悪い
最近夢見が悪いせいだろうか、そんなこと誰にも話せないけれど。

 「いや、そうだな 『思い出した』……よ。」

しっかりしろ斑鳩、オマエは彼女の先輩だ
心配をかけさせるのは『良い子』ではない、そうだろ?

 「安心してくれ、『俺』の可愛い後輩、『勘違い』でも、『人違い』でも、ましてや『記憶違い』でもない。」

顔色を解らぬように戻す、『嘘はついていない』
ただ、靴下が見つからないと思ったら、別の棚にしまってあっただけだ。

 「気に入ったのなら、また弾いてやるよ ……今度はユメミンも連れてこようぜ、きっと大喜びさ。」

俺にだけわかる雨の匂いがする
ニヤリと犬歯が覗くように口角を吊り上げ笑う、吐きそうだ。

 「――どうした?そんな顔して」
 「寒いなら、アツアツの飲み物でもいるか?奢るぞ。」

817今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/24(火) 23:14:22
>>816

『私』『僕』『俺』――――私が知ってるだけで3つだ。
イカルガ先輩は自分のことをいろんな呼び方をする。
それに、なんというか、たぶん、『こころ』も違っている気がする。

「あはは」

フツーなら、『演技』だと思う。でも。
演技だとしたらそれは、すごすぎる。
こころが、1つは元からある。そこに2つ作らなきゃいけない。
ゼロから1つ作るのだってすごくむずかしいのにね。

「イカルガ先輩……」

        ニコ…

「忘れっぽいんですねっ」
「あの演奏、とっても素敵でした。私の好きな曲だし」
「またいつか聴かせてください」「音楽室じゃなくっても」

「いつか、今度は三人で遊びましょうよ」

だからきっと、『イカルガ先輩』は本当に、『3つ』あるんだ。
何でかは分からないし、聞かなきゃいけないとも思わない。
イカルガ先輩が言わないのに、私が聞いちゃいけないと思う。

「え、いいんですかっ? お言葉に甘えちゃおうかな〜」
「向こうに自販機あったかな」

「ちなみにイカルガ先輩は、紅茶とコーヒーならどっち派ですっ?」

それが、『こころを直したい理由』なのかもしれないし・・・私と先生には直せない。

818斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/25(水) 00:52:58
>>817

 (いやあ、誤魔化せてねえなあコレ、まさか『アイツ』の方が出て来てたとは流石に想定外の右斜め上だ。
 女の笑顔を硬くさせるのは、流石に本意じゃねえんだが。)

このお嬢ちゃんも、音楽室……なんとも悪いタイミングで遭遇したもんだ
正直困るだろうに、とは思う、多分 俺はエスパーでないんで人の心は読めないからな

 「そりゃあ勿論、紅茶さ、子供みたいな感想だと思うが
 元が苦行僧の眠気覚ましなんだぜ?あんな見た目が泥で、毒入りの如く苦いのは飲み物と言わない……」

スタンドは超能力だろって?
ジョークだジョーク、両親が5年間ぶっ倒れてるのも、多重人格なのも
ジョークじゃ無けりゃ漫画だろって言いたいね。

 「って言いたいんだけど、今居候してる家のお祖母ちゃん、母さんと同じくコーヒー派でさぁ
 馴染みの店に『豆』取りに行かせるんだよな、お蔭で店員に顔が覚えられてヤンの。」

俺の知る限りでは、彼女は俺の役に立たないし、俺も彼女の役に立てない
だったら其処で一線を引いて、この話は終わりだ、エンディング、幕引き、FIN、etc…。

 「どう?このお気にのジャケットコーヒー豆の匂いしない?大丈夫?」

もし、それでも鎖のように絡む時が来てしまったら、それは『運命』とやらなんだろう
俺は俺が嫌いだ、故に他人が俺のようになるのは好まない

 (しっかし笑顔を崩さないっていうのも結構疲れるぜ……本来なら『僕』が出張る時に
 『私』の行動が記憶とかち合って、バグみたいな扱いでその時の記憶を持ってる『俺』が引きずり出されたんだろうが。)

その運命が悪意と共に来るなら
この後輩達を襲う前に引きずり降ろして地獄の業火の中に叩き込んでやる。

819今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/25(水) 03:19:06
>>818

「私も、やっぱり紅茶派なんですよね〜」
「葉っぱにこだわりとかは無いですけど」

「あ。でもコーヒーもテスト前とかは飲みますねっ」
「カフェイン、お茶の方が多いとか聞きますけども」
「イメージなのかな」「コーヒーの方が眠気がなくなりますね」

先輩に何を聞くことも、いう事もしない。
・・・私と先輩には、似ているところがある。

でも、それも言う事はしない。
私はフツーなだけでいい。
フツーな私があるべき私だ。

「え。匂いですかっ」
「・・・」「どれどれ」

       クン

「フツーです!」
 
       ニコ

「フツーの、ジャケットの匂いですね〜」
「ジャケットの匂いに詳しいわけじゃないですけどっ」

それに似てることがいいことかどうか、分からないし。
考えているのはそんなこと。でも、私は笑った。
笑う事と考えている事は、繋がってなくても良い。

「今から缶コーヒー零したりしなければ大丈夫だと思いますよ!」
「自販機、確か向こうにありましたんで」「行きましょう、イカルガ先輩!」

820斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/25(水) 13:06:22
>>819

 「そう?それは良かった」

それは良かった、だ。

だから、ここからは蛇足

最近聞かなくなった通り魔も。
特定の人間を引きずり込む、妙な悪夢の話も。

僕が歩き回って見つけられなかった事
恐らく、他の誰かが解決したのだろう。

次は誰とかち合うのか解らないが。

この後輩がそれに巻き込まれない事を祈ろう。

 「いやあ、急に元気になったなー ……僕が言うのもなんだが」

 「星座の事、忘れてないか?」

821今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/25(水) 23:17:30
>>820

「あっ、急でしたか!?」
「すみません、あはは……現金でしたっ」

「あっ」

それから先輩の言葉を聞いて空を見た。
星はいくつも光っていた。
きっときれいなんだと思った。
星は消えない・・・雨とか、太陽の光で隠れても。
誰でも、いつでも、綺麗だと思えるフツーの光景だ。

「星は、だってほら、後でも見れますもん」
「でも先輩は帰っちゃったらいないじゃないですか?」

「なんて」「そーいう言い訳しちゃいますけどっ」

「先生には通じないと思うんで、飲み終わったらちゃんとやります!」

・・・イカルガ先輩の秘密は、誰にも言わない。でも、私は忘れない。

822ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/29(水) 23:37:47

『奇妙な女』がいる。
ポンパドールの髪は白・青・紫のトリコロール。
その身を覆う服装も似たような色調だ。
何よりも背中に翼、両腕に羽毛、踵に蹴爪。
『鳥のようなコスチューム』は、まさしく『鳥人』を思わせる。

「この空模様だと今日は一日晴れ――――」

「有り難い事でございますわ」

高さ『約5m』ほど。
一本の樹の上に、悠然と腰を下ろしている。
その姿は、『羽を休める鳥』にも見えるかもしれない。

823ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/04(火) 20:47:33
>>822

     ――――フッ

次の瞬間、女の姿は消え失せた。
女が一羽の『小鳥』に変わったのだ。
この場合、『元の姿に戻った』と呼ぶ方が正しいのかもしれない。

              バササササァッ

小鳥が飛び去った。
翼を羽ばたかせ、街の方向に向かって飛んでいく。
その姿は一つの点になり、やがて見えなくなった。

824俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/12(水) 22:58:01
二月、日差しと大気がソフトになってきたとはいえ…未だ湖から寒い風がやってくる湖畔の昼下がり。


「あれーッ…」
  「どこ置いてきちゃったんだ〜俺ぇ〜」

なにやら男がウロついている…ダウンジャケットを着た、白髪の若者…


「 あのォーっ…そこのあなたァ… 」

  「 …すいません、ちょっと、いいですか」

『休憩』していたのか…それとも『たまたま』か、何かほかの理由があったのか…
ともかく、『ベンチ』の近くにいたあなた…(>>825の君のコトだ…)に、男が声を掛けてきた。

825ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 00:23:41
>>824

ベンチに座っていたのは奇妙な女だった。
白・青・紫のトリコロールカラーのポンパドールヘア。
身に纏う衣服も同じような色合いだ。
そして、背中に『羽衣』、両腕には『羽毛』、踵には『蹴爪』。
一言で表現するなら『鳥人』のような姿だった。

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

不意に、女が『鳥のような声』を発する。
肩に止まっていた野鳥に『鳥語』で告げたのだ。
『この話はまた後で』という意味だった。

「――――ハイ、何でございましょう?」

       グリンッ

どことなく鳥を思わせる動作で、やや大きく首を傾げた。
そして、目の前の『人間』を観察する。
一見すると、何かを探しているように思えた。

826俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 01:13:04
>>825
「 …あッえっとォ…」
 (日本語通じんのか?このヒト…ヒト?)
声を掛けてきた若者だが、(君ほどじゃあ無いが)ちょっとヘンな格好だ…
その辺のヒューマンと同じような見た目の割に…クツが何故か『サンダル』…あんまりあったかそうではない…

>「――――ハイ、何でございましょう?」

     > グリンッ
「オワぁっ!」
  (うわっこっち向いた喋った!)

君の…何やら地に足ついてないかんじの雰囲気にビビッてるみたいだ。君にはあまり近付いて来ないで話しかけてくる…

「 …あーエットぉ…『ご歓談』?中の所失礼します」
「 その辺、なんか『荷物』落ちてませんでした?」
 「 そこ昼頃俺がヒルネしてたベンチで」
   「 結構大事なもの置いてきちゃったかもしれなくて…」

あなたの予想ドンピシャ…『探し物』みたいだ。
少なくとも『ベンチ』の上には無さそう。下を覗けばあるかも…

827ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 01:53:48
>>826

(これは『サンダル』ですね。しかし『夏用』のはずでは?
 冬季に使う人間を見た事はありません)

(価値観がズレていらっしゃるのでしょうか?)

自分自身を棚に上げて考える。
だが、このブリタニカは『人間』ではないのだ。
物の考え方に違いがあるのは、むしろ『当然』と言える。

「いえいえ、どうぞお気になさらず。
 大した話ではございませんので」

肩に乗った鳥は大人しくしている。
おそらくは野鳥なのだろうが、飼い慣らされているかのようだ。
『話をしていた』というのも、あながち間違いではないかもしれない。

「それはそれは。
 よろしければ、お手伝い致しましょうか?」

      スッ

立ち上がり、肩の『同胞』と共にベンチの下を覗き込む。
人間社会に溶け込むためには、こうした活動も時には必要だ。
さて、果たして何が見つかるのだろうか?

828俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 02:17:27
>>827
「あっわざわざどうも…」
 (親切そうで良かった…)

ベンチの下を除きこむと…何かある。
『ビニール袋』…オニギリが入ってるっぽい…と、『黒い輪っか』…直径40センチほど…が、冷たい地べたに転がっている…

「…あります?」
 「俺の『マイハンドル』…」
  「命の次の次ぐらいに大事にしてる俺のハンドル…」
男は落ち着かない様子で君たちを窺っている…

829ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 02:32:34
>>828

「ええ、そのようで…………」

「確かに『ココ』にございますわ」

最初に考えたのは、『これは何なのか』という事だ。
己の『知性』が、その疑問を疑問のままにしておくのを許さない。
これは何か――解明の余地がある。

      ガシッ
               ガシッ

無造作に置かれた『ビニール袋』と『輪っか』を両手で掴む。
探究すべきなのは『輪』の方だ。
『ハンドル』という物は知っている。
しかし、通常それは乗り物に取り付けられている物だ。
自然公園の地面に置かれている物ではない。

「――――どうぞ」

          スッ

「つかぬ事をお聞きしますが、『マイハンドル』とは?」

両手の荷物を男に渡しながら、問い掛ける。
一方、『同胞』はビニール袋の方を気にしていた。
『食べ物』が入っているからだろう。

830俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 18:53:58
>>829
『ビニール袋』は、コンビニのやつだ。よく風に吹かれてるやつ。
中にはいっているおにぎり(二個。しゃけと、おかか。)は、何やら手付かず。

そして地面の冷たさを吸ってひんやりとしている黒い割っか…『マイハンドル』。
硬い芯材の輪に、ゴムの皮が貼られており、輪の中心部から銀色のパイプ状の突起が生えている…
…一般的に『自動車』に搭載される『ハンドル』を、まさに抜き取ってきたような形。
目立つ汚れも傷も無く、『よく手入れされている』印象を受ける。


>「ええ、そのようで…………」
>「確かに『ココ』にございますわ」

「あーそれですそれです!『マイハンドル』!!…と、ごはん!」
 
  
  スッ

 「よかったー…」
    「ありがとう『空力特性が悪そう』なお姉さん!!…と鳥さん。」
                      「良かったら食べます?おれの食べ忘れた昼ごはんなんですけど」


安心した様子で君に寄ってきて、『マイハンドル』を受けとる…ビニール袋は二の次みたいだ…どうも『ごはん』よりも大事なものらしい。
男は現在カバンの類を持っていない…つまりこの『輪っか』が男の唯一の手荷物、という事になる。


>つかぬ事をお聞きしますが、『マイハンドル』とは?」

「え…?そりゃあ」
「俺の車のハンドルだからそりゃあ『マイハンドル』でしょう」

「…ああ、取り外してることですか?」
「スマホとハンドルってあんまり手放したくないじゃないですか?
  脱着式のボスを噛ませてやればこうやって外して持ち歩けるんですよ」

…『マイハンドル』は、男にとっては『持ち歩いてないこと』が不思議なほど大事な物らしい。
…にも関わらずベンチに置き忘れたようだが。

831ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 22:26:11
>>830

「『空力特性』――――」

「――――ですか」

        バサァッ

「『タイヤ』は空を飛ぶための物ではないでしょう?」

「『翼』は空を飛ぶための物です」

両腕を大きく広げて見せる。
翼は空を飛ぶ物であり、地上で走るための物ではない。
そのように言いたいようだ。

「なるほど」

        グリンッ

再び大きく首を傾げて『マイハンドル』を眺める。
鳥の目というのは、人間のように『正面』ではなく、
『側面』に備わっている。
だから、目の前の物を見る時には、
こうして傾いた方が観察しやすいのだ。
もっとも、今は人間と同じく『正面』に備わっているのだが。
本能というか習性というか、大方そのようなものだ。

「手放したくない物ですか。お気持ちは理解できます」

「生憎『スマホ』は持ち合わせておりませんが」

確かに見た目は普通のハンドル。
それを取り外して持ち歩くのは普通ではなさそうだが。
しかし、彼にとっては普通なのだろう。

「『ごはん』……いえ、それは。
 食事を供給して頂く程の事はしておりませんので」

野生動物にとって、『食の確保』は最重要問題。
『知性』を何よりも尊重するブリタニカでさえ、
その重要さを無視する事は出来ない。
だから、この手の話は慎重に検討するようにしている。
食事を与えられるというのは大きな借りを作る事になる。
たとえ相手が何とも思っていないとしてもだ。

「そうですね……。
 では、これから私がちょっとした『芸』をお見せします。
 それをお気に召して頂けたら、その『ごはん』を頂く事にしましょう」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

「――――よろしいでしょうか?」

         バササッ

肩の『同胞』に声を掛けて、男の前から一歩下がる。
そして、話を聞いた鳥が飛び立った。
『パフォーマンスの準備』をするためだ。

832俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 23:29:08
>>831

>「『翼』は空を飛ぶための物です」

(なるほど…)

車を運転し、公道で最速を目指す『走り屋』をやってる男…『俵藤』には、
君の服装が【軽くて暖かそうだが、空気抵抗が凄そうなのであまり優れていない】ものに見えていた…。
全てのものを、地べたを這いずり走る『車両』基準で観察する、俵藤特有の視点だ…。

(ただ…『飛ぶ』事が目的の服装ってんなら話が別だよな…)
(おれは”それ”を正しく評価する必要がある…『速さ』を目指すために。)


>「そうですね……。
 では、これから私がちょっとした『芸』をお見せします。
 それをお気に召して頂けたら、その『ごはん』を頂く事にしましょう」
>「――――よろしいでしょうか?」

       > バササッ

「…王には王に、料理人には料理人に相応しい『服装』があると言いますケド…」

『俵藤』のペラッペラのサンダルも似たようなものだ…。クツを履いていると、地面の温度、風の流れを感じることができない…
普段から『路面』を感じ取り、最適の運転を探るためにサンダルを履いているのだ…


「…お姉さんのその服装もそういう類のものだ、と…なにかをするための格好だと、そういう事ですね…」

 ザッ
    ガシッ

「いいですね、ゼヒ見せてください。その『服装《チューン》』の意味。」
「『ごはん』とか関係ないや、気になっちゃって…お姉さんの『芸』が。」

男は一歩下がり、何故か『マイハンドル』を構えて、君のほうを向く。
これは彼なりの真面目な態度…『運転』してる時のように目の前の景色に集中しようという、『俵藤』の本能というか習性というか…を表す、そういう姿勢だ。

833ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/14(金) 00:20:37
>>832

「ええ――――そういう事です」

実際は少し違う。
この服装というか『姿』は、人間社会に溶け込むのが主な目的。
それを自然に見せるために『パフォーマー』を名乗っている。

「では、始めさせて頂きましょう。
 貴方お一人のための『特別公演』です。
 お見逃しお聞き逃しのないよう、ご注意下さい」

    「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

 バササササッ       バササササァッ
       バササササァッ        バサササササッ
               バササササッ        バササササァッ

森の方から何かが飛んできた。
女の声に応じて現れたのは『野鳥の群れ』だ。
ただ映画とは違い、人に襲い掛かったりはしない。

      「『♪』」
            クルッ
                「『♪』」
                      クルッ

女は『指揮者』のように立っている。
両手の人差し指を立て、女が腕を動かした。
女が右手を回すと、群れは右旋回する。
同じように左手を回せば左に旋回した。
鳥達は女の指示通りに動いているようだ。

      「 『♪』 『♪』 『♪』 」

          クルッ 
                クルッ

  バササササササササァ――――ッ
              
              バササササササササァ――――ッ

最後に、両手を高く掲げ、交差させるように振り下ろす。
それを合図に、鳥の群れが二つのグループに分かれた。
女の腕の動きに連動して、右翼と左翼に飛び去っていく。
その中には、先程まで女の肩に留まっていた鳥の姿もあった。
彼に頼んで『顔見知りの同胞』を呼んで来てもらったのだ。

「――――『ストリートパフォーマー・ハーピー』による、
 『翼のショータイム』、お楽しみ頂けましたでしょうか?」

834俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/14(金) 20:18:52
>>833
「『曲芸走行』の類は好きですよ…『一芸』は身を助く、って言葉もありますし」
「真剣な『芸』の中にこそ、生きる術って奴は有るんじゃないすかね」
「しっかり『独り占め』させてもらいますヨ」



    ……………………


>「――――『ストリートパフォーマー・ハーピー』による、
 『翼のショータイム』、お楽しみ頂けましたでしょうか?」


  バスバスバスバス…

『マイハンドル』の中心を叩いて、拍手の代わりとする…

「…数は力なんて言葉もありますケド…」
「…意味のないパーツをいくら寄せ集めたって、ガラクタしか生まれやしない…それじゃあ『烏合の衆』だ」

                          「あっこれは鳥さん達を悪く言ってる訳じゃなくてですねッ」


「…パーツそれぞれが『意図』をもって精密に噛み合うコトが、『ゴキゲンな機構』、そして『ゴキゲンな結果』が生まれる秘訣ですよね」
「『数』のもつ力、その真価って奴を垣間見た気がします。」



「あとええっと…このへん沢山いるんですね、『お姉さん』のトモダチ…」
「…たまに夜、この辺をクルマで飛ばしてるんですけど、あんま迷惑してるようだったらちょっと場所移します」
「ひとまずそのオニギリを差し上げるんで、この場は堪忍してつかあさい…」
「…………って、鳥さんに伝えといてください…」

835ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/14(金) 21:21:32
>>834

「仰る通り、鳥達と言葉を通わせる事が私の『一芸』でございます」

「そのお言葉――――『光栄』ですわ」

    フフッ

奇妙な風貌に相応しく、何処か謎めいた笑みを浮かべる。
『鳥語を解する人間』というのは、あくまで表向きの顔。
その実態が、『人語を解する鳥』である事は秘密だ。

「ご心配には及びません。
 窓を開けて大音量で音楽を鳴らしていなければ、
 彼らも気を悪くする事はないでしょう」

「この世は人間だけのものではありません。
 そして、鳥だけのものでもありません。
 お互いが幸せになれるのなら、それが一番ですもの」

実際、この辺りにはブリタニカの『家』もあった。
森の中の見つかりにくい場所に、『巣箱』を設置してあるのだ。
そして、それは一ヶ所だけではない。
同じような『隠れ家』を、この町のあちこちに用意していた。
それらを行き来する事で、『住所』を特定されないようにしている。

「では…………」

    ガサッ

「――――せっかくですから、ご一緒しませんか?
 『燃料』がなければ車は動きません。
 人間も『燃料』がなければ、十分な運転が出来ないのでは?
 空腹で事故を起こしたら大変ですわ」

「それに、お互いが幸せになれるのなら、それが一番ですもの」

袋から『おかか』を取って、ベンチの端の方に座り直した。
包装を外し、おにぎりを齧る。
『シャケおにぎり』入りのビニール袋は、
ベンチの真ん中辺りに置いた。

836俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/14(金) 22:40:32
>>835

「ううむ」
(徹底的に不思議なお姉さんだな…文字通り生きてる世界が違う、ってカンジだ…)
(気分を害してないのなら良かったのだけれど)

「…ゴ相伴にあずかりますか」


不思議な巡り合わせで手に入れた不思議な力…『スタンド』。
様々な機械の燃料の代替ができる自身のスタンドの意味を考え、
食事をとる気にもなれずボンヤリ彷徨っているうちに、ベンチで眠ってしまい……
そのままボンヤリ起きて立ち去った際に、荷物を忘れていった、という顛末だったのだが…

俵藤が忘れ物に気づき慌ててたところに、鳥とトモダチのお姉さんとの不思議な出会い。
この世界は不思議の積み重ねでできている…


    ススス…
 
「『燃料補給』は大事ですね、ウン。なんかちょっと忘れかけてました。」

ベンチの反対側に腰を下ろし、『マイハンドル』を足元に下ろし、ビニール袋を手繰り寄せる…


バリガサッ
  「…いただきます。」

『不思議な力』は俵藤のごはんの代わりにはならない…こいつは『料理人』のスタンドではないから…
鳥のような格好で鳥と語らう不思議なお姉さんだってご飯を食べるんだから、俵藤だってご飯を食べてもいいじゃないか…


ゴクン
「…お姉さん、なんて呼べばいいんですかね」
「お姉さんには一飯と一ハンドルの恩があるので…そんなヒトをお姉さん呼ばわりし続けるのもちょっと…」

837ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/15(土) 00:23:53
>>836

そんなヒト。
『人ではない』などと訂正はしなかった。
自分は人を名乗っているし、そう思われていなければならない。
『人間』――おそらく現在の地球上で最も繁栄している種族。
その知性を研究するために、
ブリタニカは人の姿を借りて人間界に溶け込む。

「『名前』、ですか?」

「『ハーピー』――――と」

「『人と鳥を繋ぐ者』でございます」

「よろしければ、そのようにお呼び下さい」

    フフッ

おにぎりを食べつつ、丁重に答えを返す。
人間と鳥の入り混じった伝承上の怪物の名。
『ブリタニカ』は、それを自らの名前として使っている。
『ハロー・ストレンジャー』は、鳥と人という二つの世界を繋ぐ能力。
その力は、まさしく現実に存在する『ハーピー』だ。

「あなたは私に『新たな知識』を教授して下さったようですね」

「『あなた』とお呼びするのも礼を失するという事を」

「何とお呼び致しましょうか?『ハンドル』のお方」

おにぎりを食べ終えて、両手を軽く払う。
男が何を考えているかなど分からない。
鳥であるブリタニカは、人の機微を全て理解してはいない。
男がブリタニカの『正体』を知らないのと同じように。
しかし、それでも何かしら『通じるもの』はあったのも確かだ。

838俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/15(土) 01:49:35
>>837

エエト…
「じゃあ、『ハーピーさん』。ハーピーさんって呼ぶことにします」
(明らかに芸名だけど…)

名前なんて…要は認識の問題だ…
俵藤は、鳥のようなヒトであるキミを、混ざり物…『ハーピー』の名前で呼ぶことは…
とても『正確』な認識で…、しっくりくるなぁ、と思えた。


「自分には『俵藤 道標(ひょうどう みちしるべ)』、って本名がありますが」
「…まぁ、ハーピーさんの好きな名前で呼べばいいんじゃないんですかね」


「ただ…『あなた』呼びは嫌ではないんですケド…個体として認識されてない気がして…」
「「なんか機嫌悪いんですか?」って思っちゃいますね」

「『ハンドルの人』ならまぁ…」
  「ハンドル持ってるんだからハンドルの人ですよねェ…」



  ガサガサ…
     …ガシッ

「…食うものも食ったし、出るとしますね」

「…クルマが必要な用事があったら声を掛けて下さい、星見の夜の山道で水色のクルマが走り回ってたらそれが俺です」
「別に人を載せて見せびらかすために車に乗ってるワケでは無いんですけど…」
「なんかハーピーさんにはちょっと見せびらかしたくなりました」


君にどういうバックボーンがあって、どのような世界に生き、何を考えているかを俵藤は知る由もないのだが…
俵藤もまた…『ハーピー』が世界を見つめる目に、ちょっとした『シンパシー』を感じたのも確かだった…


     ダッ
      「…そいじゃ!」

今度は『マイハンドル』と『ビニール袋』をちゃんと持って、俵藤は駆けだしていった…

839ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/15(土) 08:06:09
>>838

「では、『俵藤さん』とお呼び致します。こんにちは、俵藤さん」

ブリタニカには『翼』があった。
道がなくとも、『空』さえあれば何処へでも行けるのだ。
大抵の移動なら、それで事足りる。
だから、乗り物を必要としない。
『普通の鳥』なら、そう考えるだろう。

「ええ、その際は是非拝見させて頂きたいと思います」

このブリタニカは、『普通の鳥』の一歩先を進む『先進的鳥類』。
『人間研究』のチャンスは見逃さない。
少しでも多くの情報を集積する事が、
『研究』の精度を高める事に繋がる。
それは自分という一固体だけのものではない。
この地上で高度な社会を築き上げた『人の知性』を追究し、
得られた成果を『我々の世界』にフィードバックし、
種族全体を支える『繁栄の糧』とするのだ。

「さようなら、俵藤さん。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

俵藤も、また『独自の視点』から世界を観察している。
ブリタニカは、そのように感じていた。
それも、人間という種族の知性の表れなのかもしれない……。

「さて――――」

        シュンッ

俵藤と別れた後のベンチに、一羽の『インコ』がいた。
白・青・紫のトリコロール。
背中の羽毛の一部が、『天使の羽』のように広がっている。
それは『羽衣』と呼ばれる。
『羽衣セキセイインコ』の特徴だ。

                バササササッ

インコが空に舞い上がる。
町に向かって飛んでいく。
やがて姿が見えなくなった。

840鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/17(月) 21:50:10
公園のベンチに一人座る学生服の少年。その横には、いつも通りの『竹刀袋』が置かれていた。
そして彼は膝の上で和柄の包装紙を広げている。その中身は『みたらし団子』だった。
素振りの前に、軽く腹拵えをしておきたいという所存のようだ。

(…もう二月か)パク

団子を頬張りながら、ふと思う。
二月ともなれば、高校三年生はもうすぐだ。そしてそうなれば、進路の事を考えだす頃合いでもある。
進学か、就職か。どちらにしても、志すからには将来への展望も考慮しなければならない。
自分は何を目指したいのだろう?───どういった人間になりたいのだろう?

841塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 21:39:19
>>840

ブロロロロロロロ………

          ギギィーーーーーッ!

『ベンチ』からは少し離れた場所にある、
『自然公園』内の『車道』。
そこを通っていた車が、鉄の眼前を横切った後……急停止した。

「うるせぇーな。
眠ィんだよ、あんたの話はよぉ〜〜」

車の方から、何か言い争うような声が聞こえて来た。
程なくして、車はゆっくりと発進し、どこかで見た女が近づいてくる。

「よおーーーー『鉄』。
『奇遇』だなァ」

相変わらず、着崩した服を整えようともせず、
ベンチの傍らで立ち止まり、にんまりと笑った。

842鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 21:54:28
>>841

唐突に停止した車を、荒い運転だなと思いながら、何となくその後を見続ける。
間も無く始まった言い争うかのような声。車から聞こえてきたその内の片方には、覚えがある気がした。
その声の主が降りてきた事で、それは正しい事が証明された。

「『塞川さん』。こんにちは」

膝の上の団子を包装紙ごと一旦横へ退かして、立ち上がり一礼する。
続いて、車が去っていった方をチラリと見た。

「…同行者の方は、いいんですか?」

843塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 22:07:54
>>842
「はっは、相変わらず真面目な奴。
いや、『礼儀正しい』か。『礼儀』はイイよな。美徳だ」

適当にしゃべりながら、どっかとベンチに腰掛けて脚を組む。
『鉄』に言われて、ちらりと去っていく車を見た。

「ああ、別にあんたが気にするよーな事じゃあねえ。
私もだがな。
ツマラン話が好きな奴だったからな、丁度良かったよ。
下らねー話を長々する人間にはなるんじゃあねーぞ、あんたは」

全く悪びれずに、吐き捨てるように言い、
ふと、傍らの『竹刀袋』を見た。

「『部活』の帰りかァ?
一人でこんなトコで団子なんか食って……年寄りみてーな奴だな。
幾つだっけ、あんた」

844鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 22:15:51
>>843

ベンチに腰をかけた塞川さんに合わせ、こちらも座る。
彼女とは三度目の遭遇で、しかも初対面の時点で命を共に懸けた間柄だ。
至近距離で目を合わせる、とかでなければ会話に支障を来す程ではない。

「成る程。自分はあまり面白い話のできる人間ではないので、そうなるのは難しそうな気もしますが…心に留めておきます」

何か説教のような事でも言われたのだろうか。ただ、恐らく運転手の方は男性だろう。
あまり踏み入る話題ではないな、と察して肯く程度にしておく。

「はい、部活の後の自主トレをとしてこの公園はよく訪れています。
 今はその前に、小腹が空いたので軽く栄養補給を、と」モグモグ

「自分は十七歳、高校二年生です。友人にも、よく年寄りっぽいとは言われます」

そう言って、小さく笑う。

845塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 22:34:56
>>844
「客観的に自分が見られる内はイイんだよ。
自分に自信がつくほどに……要は歳食うほどに、そういうのは消えちまうからな。
ま、世の中にゃあ、そうやって自分に酔わなきゃあ、
とてもじゃねーができないって事も多いけどなァ」

話を興味深そうに聞きながら、
察するように話題を変えた『鉄』に、少し目を細めた。

「十七歳かァ〜〜。聞いたような気もするな。
私は17の時なんて、なんも考えずに生きてたよーな気がするな。
何考えて生きてんの? 今のコーコーセーは」

846鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 22:50:41
>>845

「そうですね…今は『進路』が一番多い悩みでしょうか」
「進学か、就職か…相対的には、やはり進学の方が多いとは思いますが」

かく言う自分もその一人だ。
まだ一年の余裕はあるが、それでも不安というものはそれなりにある。

「塞川さんは、どういった人生を歩まれてきたのですか?」

参考に、是非訊ねてみたい。彼女は自分と違い、立派な成人女性だ。

847塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 23:11:45
>>846
「進路………ねえ。
フツーだなァ。ま、面白い話かどうかなんてのは、
本人にとっちゃァ、何も関係のない話だからな。
『スタンド使い』でも、悩み事は年相応、か」

話を振られて、すっと目を逸らして前を向き、
何かを考えるような素振りを見せる。

「私の話………?
別に、大した『人生』じゃあねーよ。
少なくとも、『高校生』のあんたの参考になるようなモノはない。
だが、まあ………そうだな。『スタンド使い』としてなら、話しても面白い事はあるかもな」

「あんた、心に『空洞』がある………、
そういう感覚について、理解できるか?」

848鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 23:38:00
>>847

「少なくともオレは、この『超能力』で、生計を立てていこうとは思わないですね。
 元より、そういったことに向いている『スタンド』でもありませんし」

精々が手品くらいだろうか。切れ味を奪ったり戻したりして、観客を楽しませる程度。
もっともあまりにワンパターン過ぎて、すぐ飽きられてしまうだろう。
彼女の場合はどうだろう?綺麗な『ガラス細工』として売り出せるかもしれない。
とはいえ、持続時間の問題もあって『詐欺まがい』になってしまうかもしれないが。

「『空洞』…ですか?」「…『虚無感』…のようなものとは違いますか?」

849塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/19(水) 00:03:50
>>848
「からっぽなヤツ、とかいうだろう。それだよ。
どこか、上っ面を繕うような事だけが得意で、
実際のところ、なにも『大切』なものがない。
それゆえに、自分も、相手も、省みることがない……そんな人間だ」

いつになく真剣な様子で、ゆっくりと話し出す。
その様子は、どこか狂気じみてすら見える。

「私には、いつからか、なんとなくそれがわかった。
そういう奴らに好かれたし、
一緒にいる事で、私自身、不思議と安心したんだ。
私だけじゃあない、ってな」

「そうして、バカみてーに色んな奴と無為な時間を過ごした。
そんな人生さ。気が付いたらこの町にいたんだ。
だが…………こいつに目覚めた」

眼前に出した腕に、飛来した『鳥』が止まる。
中身のない『硝子細工』の、『クリスタライズド・ディスペア』。

「こいつが元々『私の中』にあったものなら……
私だって、何者かになれる。そうだろう?」

「だから私は、こいつの事が知りたいんだ。
『スタンド』とは何なのか? そういう事がな」

一息をついて、ふっと腕を振ると『スタンド』が掻き消える。
暫く押し黙って、『鉄』の方を見た。

「………ま、私の方はそんなカンジだな。
簡単に纏めると、無職にはなんなよ、ってトコだよ」

850鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/19(水) 00:27:40
>>849

「からっぽなヤツ、ですか。…何となく、分かる気はします」
「その中でも、望んでそうなっているタイプと、何も見つけられないタイプと」

クラスメイトの中にも、そういう種類の人間はいる。
彼の場合は、どちらかと言えば後者だが。
何でもそつなくこなせるが、だからこそ熱中できるものもなく、
誰とでも平均的に仲がいいが、共に居ることを心から楽しんでいる様子もない。
と、そこまで同意して、これは彼女自身の話なのだと気付いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙して、最後の団子に口を付ける。
内にある『空洞』。ガラス細工のような小鳥。彼女のスタンド、『クリスタライズド・ディスペア』。
それは、そういうことなのだろう。内に秘めた精神性の現れ。
何者にもなれなかった、何事も為せなかった虚無感が


「…なるほど。『スタンド』を知る事で、介して己を知る、と言うことですか」
「『無職』にはなりたくないですね…。両親や、妹を心配させてしまいますから」

冗談交じりに、少し微笑んだ。
『スタンド』をしまった彼女とは逆に、『シヴァルリ
ー』を反対側に発現する。
だとすれば、これは自分の何の現れなのだろう。これを用いて、何をすべきなのだろう。
そもそも、自分は何故この力を求めたのか。
─────何となく、答えの方向性は見えてきた気がする。

「…塞川さん。あなたは少なくとも、もう何者か、にはなってると思いますよ」
「あなたがいなければ、『加佐見』は倒せなかった。少なくともオレにとっちゃあ、あなたは必要な人だった」

851塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/19(水) 00:56:54
>>850
「ああ。私のことがわかれば………。
奴らの事も、もっとわかってやれるだろうしな」

どこか茫洋として、発現した『シルヴァリー』をふと見つめる。
いつか考えたことを思い出した。

(切れ味を奪い、自らがそれを振るう『スタンド』………
私はあの時、これは、こいつの二面性を顕していると思った。
危険から守りたいという気持ちと
そいつらを自らが『罰する』という気持ち。
タガが外れたなら、危険な精神性だと………)

>「…塞川さん。あなたは少なくとも、もう何者か、にはなってると思いますよ」
>「あなたがいなければ、『加佐見』は倒せなかった。少なくともオレにとっちゃあ、あなたは必要な人だった」

想いを巡らしているところに、鉄の言葉を聞いて、
虚を突かれたような面持ちで立ち上がり、視線を『鉄』に移す。

「…………そうかい。
だったら、私も………少しは報われたってトコだな。
じゃあな、稽古も、ほどほどにしとけよ」

ようやく、といった様子で言葉を絞り出し、
出会った時と同じく、顔を背けて足早にその場を去っていった。

852鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/19(水) 01:16:52
>>851

(ああ…そういう事なのか)

この人は、自分を知りたいだけでなく、その先で自分のような人間を救いたい気持ちもあるのか。
そしてそれは、きっと彼女のような人間にしかできないだろう。
言葉というのは、同じような境遇であればあるほど、届きやすいものだと思うから。

「はい、ご忠告痛み入ります。お話ありがとうございました、大変参考になりました。
 またお会いしましょう、塞川さん」

顔を背けた塞川さんに、変なことを言ってしまったかと思ったが。
これに関しては自分の率直な気持ちだ、もし何か傷付けてしまったとしたら、後で謝罪しよう。
包装紙と団子の串を近くのゴミ箱に捨て、竹刀を取り出す。

(そもそも『シヴァルリー』を求めたのは、理不尽に対抗する力が欲しかったからだ)
(それなら、自分がもっとも為したい事というのは、そこにあるのだろうか)
(『武』を担うもの、危険より守るもの…『シヴァルリー』)

『スタンド』で生計を立てることは出来ないし、したいとも思わない。が、『スタンド』から己を知る事ができるのなら。
例えば『警察官』、あるいは『消防官』、『自衛隊』など。自分のやりたい事というのは、そういうものかもしれない。
素振りを始めながら、帰宅した後にスマホで色々と調べてみようと思った。

853斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/03(火) 21:05:00
――梅の花が咲いた一週間後には、雨が降ってしまった
3月の空は春の訪れが待ち遠しいのか、何処か落ち着かない様子で
地面に散らばった丸い花弁は、その色とあいまって何処か雪のように見える

 (まあ、元よりあの『病室』に『梅の枝』とか、そういう尖った物は持ち込めないのだけど。)

僕がここを歩いているのは『日課』の為だ
雨降って地固まる、茶色と白のまだら模様ですっかり乾いた地面をスニーカーで踏みしめる
肺の中いっぱいにここの空気を吸うと、少し気が楽になる。

 (けれども、やっぱり学校の噂の方を調べるべきかな……『喋る焼却炉』だったか)

耳にしたイヤホンからは、柔らかなピアノの音が響く
何処かで足を止めて、ジャケットの懐に入るくらい薄く、小さい本を読むのもいい
通りすがりの人々は殆どがマスクをしている、そういう季節なのだろう。

 (『スタンド』に関わりが有るとは思えないけど、ね)

……それよりも、ホワイトデーのお返しを考えるべきかもしれない
あまり高価な物も委縮させるだろうし、やっぱり消え物が一番だろう
手作りの焼き菓子とか……いや、手作りはやめとこう、趣味じゃない。

 「〜♪」

鼻歌交じりに歩き、時折落ち葉を蹴り飛ばす
……そういえば、あの子に会ったのはこの辺りだっただろうか?
最近姿を見ないので、きっと大人しくしてはいるのだろう……『スタンド使い』、か。

 「……思えば、一番衝撃的だったケースかもね、『本体に害をなす』。」

誰に言うでもなく、そう独り呟いた。

854鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 22:15:34
>>853

「・・・・・?」「…あの人は」

いつも通り、自主練のために公園を訪れていた。そこへ、学校で何度か見た姿が現れた。
直接話したことはないが、後輩から彼の話を聞いた事はある。
その点で少し気になることも言っていたし、可能ならば話してみたいものだ。急ぎでなければいいのだが。

「こんにちは」


黒の学生服に身を包んだ、黒髪の少年が小さく笑いながら話しかけてきた。肩には『竹刀袋』を背負っている。

855斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/04(水) 22:35:39
>>854

――は、その声に振り返った
ライダーズジャケットに、学生服の時と同じく赤いマフラーを纏った彼は
イヤホンを外すと視線を声の主に向けた。

(…………。)

 ニッ

 「――やあ!」

彼は少しの間、貴方を見つめると
人懐っこい笑顔を作り、挨拶をかえす。

 「剣道部の人か、自主練かい?それとも終わって帰り?」

856鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 22:50:11
>>855

(私服…部活動には所属していないのか。それとも休日なのかな)
(しかし、音楽を聴いている最中だったのか.悪いことをしてしまったか)

音楽を聴きながら散歩をするのが趣味だとしたら、その時間を邪魔してしまった事になる。
しかし、彼は人当たりのいい笑顔で返事をしてくれた。少し安堵する。

「ああ、どちらもだ。部活の後の自主練さ」
「オレは高等部二年生、剣道部の鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。キミは、斑鳩くん…で合ってるかな?」

857斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/04(水) 23:21:05
>>856

 「ああ、『斑鳩 翔』(イカルガ ショウ)さ、いい名前だろう?」

肩を竦め、ウインクを一つ

(しかし……『自主練』か、何とも努力家だね、剣道って言えば呆れるくらい素振りをするのだっけ?)
(僕なら三日たつ前に飽きてやめる自信が有るな、大違いだ。)

 「そういう君は『黒 夕立』(クロガネ ユウダチ)……?聞き覚えがあるな」

奇妙な記憶に首をかしげる、はて?何処で聞いたのだったか?同級生なので話題にあがるせいか?
記憶の鎖を手繰り寄せる、少なくとも5年前でないことは確かだが

 「ウーン 確か……そう、後輩の三枝が言っていたような、知り合いかい?」

858鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 23:40:36
>>857

「あぁ、いい名前だと思う。響きがカッコいい」「キミの名付け親のセンスが良かったんだな」

これは世事抜きに本当だ。
斑鳩(いかるが)、という名字だけで既にカッコ良さはあるが、飛翔の翔、ともなれば非の打ちどころがない。
自分の名前にも自信がないわけはないが、彼のような華やかさはない。

「その通り、三枝千草さんの知り合いだ。斑鳩くんに世話になったと彼女から聞いてね」
「…それと、キミは心の中で何か大きな目標を掲げているのではないかと」
「その辺りも含めて、色々話をしたいんだが…時間はあるか?」

そう言って、近くのベンチを指で示す。立ち話もなんだから、もし応じるならどうだろう?という誘いだ。

859斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 00:11:13
>>858

 「――構わないよ」
 「そろそろ、今日は諦めようと思ってたんだ。」

彼の提案にゆっくりと頷くと、一足先にベンチへ向かう
枯葉の音が耳に心地よいが、それより彼の聞きたい事、というのに興味が湧いた。

 (さて、後輩の話だと彼も『スタンド使い』の筈だが……僕に何を聞きたいのだろう?)

ホワイトデーのお返しについての相談だろうか?
彼が女性に慣れていない事くらいは、同級生から聞いているが

 (それとも、『バレンタイン放送事件』のアレかな?主犯見つかってないけれど)

それはそうだ、何せ自分がやったのだし

ベンチに腰を下ろし、足を組む
何であろうと、少なくとも今の事態は、『僕達』の事を退屈にはさせてくれないのは確かだ。

 「――それで?三枝ちゃんから聞いて……何が気になったんだい?」

そう呟くと、彼は値踏みするような視線を向けた。

860鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 00:28:45
>>859

「ありがとう」
「・・・・・・・・・・」

軽く頭を下げて、彼の隣に座る。
しかし、何から切り出したものかと思う。まずは軽く世間話からがセオリーだと思うが、
共通点はあまりないように思える。クラスも違うし、部活動も彼は無所属だ。
やはり、単刀直入に訊ねるとしよう。

「三枝さんに、キミはオレに似て何か、覚悟を決めている物事があるのでは、と考えていた」
「ちなみにオレには、ある」
「もしキミにも同じようなものがあるとしたら、協力できないかと思ってな」

これがただの思い過ごしならそれでいいし、違うのなら是非とも協力したい。
何せ自分は『スタンド使い』だ。普通の人間にはできない事ができる。

861斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 00:59:16
>>860

 「…………。」

少し驚き、疑問を持ち、首をかしげる

(そうかそうか、つまり、君はそういう奴なんだな。)

 「――三枝ちゃんが、ねぇ……僕の事をそういう風に?」

さて、何と答えた物か、あの後輩、人を見る眼が有ったのやら無かったのやら
馬鹿正直に『真実』を語ってもいいし、当たり障りのない『嘘』をついてもいい

(他人を傷つける真実も有れば、優しい嘘というのもあるだろう。)
(しかし……)

 「『誤解だね』、それは。」

――断言する、できる。

 「僕は、生まれてこのかた『覚悟』なんてした事ないよ、これはホント。」
 「『覚悟』が必要な事なんてなかったし……デートに女の子誘う時くらい?違うか。」

『覚悟』『努力』実際、僕には必要なかった事だ、そんな事をしなくても大体は『できる』ではないか
まあ、今の僕では結構苦労するが……それでもやってできない事はあまりない『スタンド』もある事だし。

 「ああ、でも……『人生の目的』ならあるよ、とても困難で、出来るかどうかも解らない事なら これもホント。」
 「でも、これは『何に置いても絶対に実行しなくてはならない事』だし、でも、それは『覚悟』とは違う。」

……もっと重いか、汚いものだ。

 「――でも、『協力』って、何故そんな事をしようと?部活動の一環?」

862鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 01:20:39
>>861

> 「『誤解だね』、それは。」

「・・・・・・・・・・」

自分は人の嘘を見抜くのは得意ではない。だから、この彼の発言が真実か偽りかは分からない。
だから、ここで重要なのは斑鳩くんの気持ちだ。仮にこの発言が嘘であったとしても、
それならそれで触れられたくないものなのだろう。ならばそのままでいいのだ。

「それならいいんだ」

頷き、彼から目線を外して少し姿勢を崩す。ふぅ、と息を吐いた。…が。

> 「ああ、でも……『人生の目的』ならあるよ、とても困難で、出来るかどうかも解らない事なら これもホント。」
> 「でも、これは『何に置いても絶対に実行しなくてはならない事』だし、でも、それは『覚悟』とは違う。」

その言葉に、再び横を、斑鳩くんの顔を見る。
何か意思を伴う行動であるが故に『覚悟』があり、それは絶対に遂げなければならないからこそ『覚悟』ではないと。
それこそ、命を賭しても成し遂げなければならないもの。果たして普通の高校生が持つものだろうか?

だが、それに質問をするよりも先に彼から訊ねられる。まずは返答をするのが礼儀だ。

「…そうだな。キミは三枝さんの知り合いだし、…その、オレには人よりもできる事があるんだ」
「その能力を活かせば、キミの助けになれるんじゃあないかと思ってな」

『超能力使い』です、などとは流石にいきなりは言わない。
万が一頭のおかしいやつだと思われてしまったら、少し傷付く。

「オレは『理不尽』に傷付く人がいるなら、その助けになりたいんだ」

863斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 02:46:08
>>862

その顔には何も浮かんではいない
彼の瞳と同様に、『それが普通だ』と言わんばかりに柔らかく微笑んでいるだけだ。
それが普通になってしまったのか、自らそうしたのかは、誰にわかるわけもない

   パチ    パチ
      パチ

そんな彼の手がゆっくりと拍手をする

 「立派な物言いだと思うよ」
 「少なくとも、口に出して実行しようとしているのは。」

口に出してはみたが、実行するのは容易い事では無い事はいくらでもある
かく言う僕も、一念発起してみたものの『覚悟』など持てそうにない、自分の命など賭けれないし、今の生活も大切だ、捨てられない物は結構ある
こんな事では、何と言えばいいのか言語化が難しい物だ、それでも、あえて名前をつけるなら――

 「でも、今の言い方だと君にメリットが無いように聞こえるけど。」
 「――単純に、『善意』だけかい?それとも……」

……『殺意』だろうか、その方がしっくりくる。

 「君自身に『なにかあった』とか? ……さっき言っていたものな、『覚悟している事がある』って。」

864鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 20:53:00
>>863

「そう言われると、面映いな」

拍手をされ、頬をかく。
学生の内からそういった経験を積む事は、自分の将来の夢にも関係していると考えている。
とはいえ、目標を掲げているだけでは意味がない。実際に人の助けにならなくては。

「鋭いな」
「いわゆる『善意』…と呼んでいいのか分からないが、恐らくそれが大半だ」
「けれど、もしキミがとある『情報』を持っていたり、これから入手する事があったら、オレに教えてほしいんだ」

顔だけでなく、上半身の向きを変え、斑鳩くんに向き合った。

「妹が『通り魔』に傷付けられた。オレはその『通り魔』を探している」
「…キミの『人生の目的』というのは何だ?」

こちらから何かを要求するなら、当然見返りが必要だ。
仮にこちらが得るものがなかったとしても、どちらにせよ斑鳩くんの力にはなりたいが。

865斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 22:59:41
>>864

(『家族』か。)

まあ、彼のような人間を突き動かす物ならば、そう選択肢は多くないだろう
身内を傷つけられれば、猶更だ。

 (…………。)

 「理由なら……」

木々の隙間を僕は指差した

 「――もう見えてる。」

人差し指の示す先には、真っ白な四角い建物が、異物のようにそこにある
『アポロン・クリニックセンター』 それが、その建造物の名前だった

 「君の場合は『妹』だった、僕の場合は……」
 「『父』と『母』だ。」

聞かせろと言ったのは君の方だ、曲がりなりにもそう言ったのなら
僕の運命に巻き込まれても、文句は言えない。

 「SF(サイエンス・フィクション)の作品に、こういう台詞が有る」
 「『大半の医者がドラッグストアの棚に並んだが、未だに幅を利かせているのが、精神科医だ。』」
 「僕の両親は、僕を見ても、清潔なシーツの上から身じろぎ一つせず、息子だと認識しない ……知ってるかい?」

『鉄 夕立』に、視線を向ける                       Lost Identity
その瞳は氷のように冷たく、水晶のように透き通っている、そして、『なにもない』。

 「両親の声を忘れるには、5年もあれば十分なのさ。」

足を組み替える。

 「それで、なんだったかな えーと……そうそう」

わざとらしく忘れたふりをしながら、彼の台詞を思い出す

 「『助けになりたい』……だっけ?」

言うのは簡単だ ――『覚悟』はあるのか?

866鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 23:43:30
>>865

> 「君の場合は『妹』だった、僕の場合は……」
> 「『父』と『母』だ。」

身動ぎ一つせずに、静かに耳を傾ける。
同じだ。彼も何かによって、家族が傷付けられている。
─────尚更、共に戦いたい気持ちになる。
しかもその様子からすれば、彼の両親はまだあの白い病院の中にいるのだろう。

「…そうか。キミの両親の場合は、『心』が傷付いてしまったのか」

自分の妹、朝陽(あさひ)も未だにトラウマは残っている。人混みに対して忌避感があるのだ。
しかし、斑鳩くんの両親はその程度ではない。─────全く反応がない。それは家族として、どれだけの辛さがあるだろう。
思わず、膝を握る手に力が籠る。

「つまり、両親の心を治せる人を探している…そういう事でいいのか?」
「通常の手段では、治せる見込みはない、とも」


鉄夕立は、その冷たい瞳を真っ向から見て、逆に確認をした。
家族の事ともなれば、彼にとって踏み込まない理由にはならない。
改めて問いかけた斑鳩に対し、間を置かずに即座に言葉を紡いだ。

867斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 00:27:32
>>866

 「実行可能な手段は全て試したよ ……結論は『50年後には治療可能かもしれない』」

実行可能、5年前の僕にとってはかなり意味合いが広い言葉だ
少なくとも、『私』に比類すると思える才能は、医学界を見ても見当たらなかったのだから
今、再計算すれば数年は短縮できるかもしれない ……それでも意味がない

 「『方法は見つかりました、患者が老衰で死んだ後で』……意味無いだろう?」

視線を戻す、この椅子に座ってからずっと見ていたあの場所に
あそこに僕の愛する両親がいる。

 「――『奇跡』が欲しいんだ、その一端はもう見つけた」
 「後は探すだけだ、それが例え、砂漠の中で砂金粒を拾い上げるような行いだったとしても。」

自分の奇跡がそうでは無かった時は失望した、それでもあきらめる理由にはならなかった
……遠くからエンジン音、バイク5台、大型も混じっている

 「両親が、愛する父と母が倒れたのは、僕が原因なのだから。」 
 「『例え何をしてでも、必ず見つける 弱音を吐いて立ち止まっても、絶対に諦めない』 ――そう決めたんだ。」

おそらくボーイズギャングだろう、僕の方の客だ
まだ距離は有るが……『協力』の、『お礼』だろう。

 「――それで、聞きたい事は終わり?」

868鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 00:39:10
>>867

> 「実行可能な手段は全て試したよ ……結論は『50年後には治療可能かもしれない』」
> 「『方法は見つかりました、患者が老衰で死んだ後で』……意味無いだろう?」
> 「――『奇跡』が欲しいんだ、その一端はもう見つけた」
> 「後は探すだけだ、それが例え、砂漠の中で砂金粒を拾い上げるような行いだったとしても。」
> 「両親が、愛する父と母が倒れたのは、僕が原因なのだから。」 
> 「『例え何をしてでも、必ず見つける 弱音を吐いて立ち止まっても、絶対に諦めない』 ――そう決めたんだ。」

「全て、承知した」

深く頷く。
やはり現実的な手段では方法がない。しかし、それ以外の手段がある事を自分は知っている。
『スタンド能力』。
あらゆる現実を塗り替えるこの『超能力』ならば、彼の両親の心が壊れてしまった原因を取り除く事ができるのではないか?

「オレも『奇跡』を知っている。いや、正確には持っているんだ。…だが、オレのはキミの両親を治せるようなものじゃあない」
「しかし『奇跡』には幾つか種類がある。もしかしたら、その中にはキミの両親を治せるものがあるかもしれない」

あるいは、その口振りからして既に知っているのか?もしくは、既にその『奇跡』を持っているのか?
どちらでも構わない、彼に向けて握手を求めるように手を差し出す。
斑鳩くんが同じように手を出してきたら、『シヴァルリー』を発現。彼の手を握らせる。
これで『スタンド使い』でなかったとしても、『超能力』そのものは信じてくれるかもしれない。

「オレも探すよ」「『精神に干渉できる能力』…必要なのはそれだな」
「…オレの知り合いには、未だそんな人間はいないけれど。何か情報を掴んだら、必ずキミに伝えよう」

遠くから聞こえるエンジンの音をチラリと見るも、そして斑鳩くんの方を見て、ハッキリと断言する。

869斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 01:27:04
>>868

 「それこそ口先だけでも有難いよ。」
 「代わりにこちらは通り魔の情報を、君みたいに勤勉には無理だけど。」

微笑みながら
差し出された手をとろうとして――

 「……それにしても、君、詐欺とかには注意した方がいいな」
 「僕にとっては人が好過ぎる。」

手を戻し、席を立つ
音の方を見れば、もう視界に入ってきている

 (この状況で握手とかしてると、彼も標的に入りかねないな……まったくタイミングが悪い。)

大型に二人乗りしてるのが1、他が4、計6人 顔はヘルメットで解らないが、少なくとも運転に『金属バット』や『バールのようなもの』は必要ないだろうに
それにしても……マフラーに何かしら手を加えたのだろうが、五月蠅くて仕方がない。

――そうそう、忘れない内に、彼に顔を向けて言伝を

 「鉄(クロガネ)、君、早く逃げたほうがいい 関係ないからね」
 「――君が怪我したら、妹さんが悲しむだろ? また学校で。」

 「それと……お話、有難う、それじゃ」

視線を戻す、笑顔を作る時間は終わりだ。

――さて、『俺』の出番か?
連中は半月状に包囲を縮めてきている、彼我の距離は一番近い奴から約10m
武器持ちが2、無手が4、メリケンサックかナイフくらい隠し持ってるかもしれないが、生憎解らない
一番近い奴が『俺の女』だの『小指の礼』だのと喚いているが、俺としちゃあどーでもいい事だ

大体、手前の地位で俺の女になれとかほざいて、女に断られて逆切れして……心底ダセェムーブかましたのはテメーだろうに。

――斑鳩が手首を振るう
その腕に、半透明の鎖が無数の蛇のように 渦を巻いて絡みつき始めた。

870鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 01:39:20
>>869

音が近付き過ぎている。
握手を途中で止め、立ち上がった斑鳩くんも『無関係』ではなさそうだ。
周囲を確認すると、改造バイクに乗った暴走族のような連中が乗り付けていた。
穏やかではないな、そう思った。

「一応訊いておきたいんだが、やはり『被害者』はキミの方だな?」

斑鳩くんに訊ねながら、背中の竹刀袋から『竹刀』と『鍔』を取り出して、装着する。
もちろんこれでこの連中と戦うわけではない。
相手に武器を誤認させるため、あるいは敵の武器が防ぎ切れなかった時の防御用だ。
こいつらとやり合うための武器は、隣に立つ彼と同じ。

「…やはりキミも」「『スタンド使い』」

斑鳩くんの手首に巻かれた鎖を見ながら、呟く。半ば予想していた事だが、それは確信に変わった。
そして、暴走族のような連中に向き直り、『シヴァルリー』を正面に立たせた。
人生で初めてのケンカになるが、ひどく落ち着いているのが分かる。
あのビルで命を懸けてやり合った事に比べれば、さほど大した事はない。

871斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 02:37:57
>>870

残念な事に、どうやら『俺』の出番は今回ないらしい ちえっ
それというのもクロガネ?とか言う野郎が、逃げずに竹刀を構えたお陰だ どうやらやる気のつもりらしい
流石に俺が出て行って残虐ファイトかました場合、どう不利益を被るかっていうのくらいは想像がつく

 「……ああ、どうにも話が噛み合わないと思ったら、後輩から聞いてなかったのか?」

喧嘩は1人を連中がどん引くくらいボコボコにして、『次はテメェか?』と言ってやるのが一番早いんだが
こうなるとやり方を穏当に……『半分くらいぶちのめす』か、『武器持ちを即座に潰す』事だ
今度は両手の小指だな、骨折が治って病院から出てくる頃には頭が冷えてんだろ たぶん。

 「――stand up『Lost Identity』」

腕に巻き付いていた鎖が、その一言で俺の前進に巻き付いていく
瞬きの合間に、俺の全身は銀の鎖で覆われている……『纏うタイプ』の『スタンド』
俺の悩みから生まれた、もう一つの俺達、縋るべき奇跡の一つ。

 「それが僕のもう一つの『名前』だよ、『スタンド使い』の 鉄 夕立 君。」

クロガネの『スタンド』は未だに見えない、『器物』『近距離パワー』…あるとしたらそのどちらかか、『自動操縦』だろう
単純に、他ヴィジョンが見えないのと、他なら距離がある内に発動しておいた方がいいからな。

 (さて、応用のその一。)

チンピラ…まあボーイズギャングの質の悪いほうは、どうもクロガネが竹刀を構えたのをみて興奮してるらしい
さて、そんな感じにカッコつけてる合間に、連中が距離を『5m』まで詰めてきて……

 (『5m分』の鉄球2つを手の内に これで充分。)

『武器持ちの二人』だけが近づき、彼我の距離『3m』切ったところで、奇声を上げ、『走りながら得物を振り回してきた』
俺に向けては上段からの振り下ろし、クロガネに向けては大振りかつ中断からの薙ぎ払い 双方隙だらけ。
他の4人は俺達を逃がさないように、俺達から『5m』の地点でヘラヘラ笑っていやがる、さて……お手並み拝見だな。

勿論、チンピラの話じゃない 鉄 夕立の話だ。

872鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 02:50:30
>>871

「三枝さんから?いいや、キミが抱えていた目標の他には何も」

どうやら彼が狙われる理由は三枝さんも知っているらしい。
とはいえ、あまりそういった危険な物事については話したくなかったのか、彼女から伝えられてはいなかった。
もし伝えられていたとしても、行動は変わらないかったろうから一向に構わないが。

「『ロスト・アイデンティティ』」
「『スタンド』を…『鎧』のように身に纏う」「初めて見るタイプの『スタンド』だな」

斑鳩くんと話している間に、謎の暴走族が得物を振り回して襲いかかってくる。
こちらを狙う間合いは確かだ。竹刀に比べれば速度は遅いが。
─────もっとも、こちらを狙って踏み込んできている時点で勝ち目はない。
既にそこは、前面に構えさせた『シヴァルリー』の射程の中なのだから。
右の拳で得物を叩き落とし、左の拳で鳩尾に一撃を叩き込む。パス精BCB
『不可視』で、かつ膂力も精密性も優れた人型に勝てる人間はいないだろう。

873斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 03:13:16
>>872

残った4人の反応は様々なもんだった
笑みがそのまま引き攣ったように変わるヤツ、顔色が白だの青だのカラフルになるヤツ
共通点は総じて無様だって事くらいだ……まあ無理もねぇが

何せ一人は突然武器を手落とし、呆然として何が起こったのか理解する前に、体がくの字に曲がったかと思えば
震えながら地面に倒れて気絶するし。

 「――あ、そう?」

もう1人は俺の隣を通り過ぎた、と思えば
全身が鎖で武器ごとぐるぐる巻きになって、地面に倒れ込んだんだからな。
そして何かを言う前に、『僕』の奴にヘルメットごと踏みつけられて動かなくなった

 「三枝ちゃんも、『スタンド使い』だったし、僕もそうだと見せていたし……もう僕がそうだと知ってるのかと思って。」

『僕』が何をしたか?
振り下ろしてきたのを避けざまに……『鎖の塊』である鉄球を放り投げて分離しただけだ
そのまま慣性に従って、奴の全身を覆った鎖をそのまま結合、結果として残るのは……

 「それで話しかけてきたと思ってたんだけど。」

身動きできない『1/1チンピラメタルフィギュア』が一つ。

結果的に汗一つかかずに『運動』は終わって
青ざめた連中は蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ始めた、あ、此奴ら連れてけよ。

 「……それで、ええと 何の話だったっけ 『助けてくれて有難う』?『巻き込んで御免』かな?」
 「イカした『スタンド』を見せて貰ったけど 名前を聞いても?」

874鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 03:38:24
>>873

「『鎖』を自分に巻くだけでなくて、自在に操ったり、人に巻き付ける事もできるのか」
「『応用力』が高そうな『スタンド』だ」

鎖というのは頑丈で、そして『拘束力』が極めて高い。殺さずとも敵を無力化できる、いいスタンドだと思う。
ふと、この前ここで塞川さんと話していた事を思い出す。
『スタンド』が本体の内に潜む精神性を表すなら、彼の『鎖』には一体どんな意味があるんだろう?
しかし、そんな疑問は彼の次の言葉ですぐに消え失せた。

「─────『スタンド使い』?三枝さんが?」

それは初めて聞いた話だ。
もちろん、有り得ない話ではない。だがあのような子が、争いを嫌う子が、『スタンド』に目覚める。
そういう事もあるのだろうか。そもそも、彼女も自分と同じように『スタンド』を求めたのだとしたら、
そこには理由があるはずだ。それは一体、何なのだろう。

「…そうだったのか」

ひとまず、納得する。どちらにせよ、三枝さんに直接訊ねなくては分からない。
斑鳩くんに名前を聞かれ、答える。

「『シヴァルリー』。オレに『スタンド』を目覚めさせてくれた人は、そう名付けてくれた」
「それと、謝罪や感謝はいらないよ。これはオレがしたくてやった事だからな」

ああいったタイプの人間は、一度反省して痛い目を見るべきだろう。
でなければ、また無関係の人間が巻き込まれてしまう可能性がある。
去りゆく連中を見ながら、できれば二度とこんな事をしないことを願っている。

875斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 21:50:52
>>874

 「そう見えたなら、多少は扱いが上手くなったのかな。」

茶化すように肩を竦める。

 「それでも、隣の芝は青く見えるもので その純粋な『人型』のパワーは憧れるんだけどね」

(『俺』が同じことをしようとすると、パワーの3分の1使って木端微塵かどてっぱらに穴が開くからな いやぁ剣呑剣呑。)

全身の鎖を解除すると、足元のチンピラも元の姿に戻った
これはこのまま放置でもいいだろう それで困る奴もいないし、もう一度くるガッツがあるなら大歓迎
人は逆風の中でこそ成長するのだから、吹かないのなら自分で吹かせるしかないだろう。

(しかし、あの後輩は彼に言ってなかったのか ……やっべ。)

 「ま、確認は好きにしてくれ(僕に飛び火すると困るけど) ほら、僕の見間違いの可能性も有るし?(那由多の彼方くらいの確率で)」
 「あの時も今みたいに騒がしかったしネ!(嘘ではない、確認はその前だが)……でも女の子なんだから、隠し事のひとつくらい許してやれよ?」

(……取り合えずコレで彼女が嘘ついても、僕の見間違いの線で行けるかな、うんイケるイケる。)

 「ほら、『女の子は秘密を着飾って美しくなる』って言うだろ?(本来は浮気を皮肉って言う言葉だけど、追及激しくされると遠因で僕が困るし)」

無闇に相槌を打ちながら断言する、これで予防線はバッチリだ
こういうのはデリケートな問題である、それくらいの問題は解る機敏がこの元天才にもあった。
単に彼女がうっかり言ってないだけの問題であることを切に願った。

 「――それじゃ、ほら」

懐から本用の栞を一枚とり出し、鉄の胸ポケットに差し込む

 「それに僕の『電話番号』が書いてある、何か問題が出てきたら呼んでくれ」
 「余り余裕は無いけど、今の君みたいに、僕も『したくてやる』かもしれないからな『シヴァルリー』。」

 「あ、一緒にナンパに行きたい時は大歓迎だよ……荒事は苦手だからね。」

ウインクを一つやってこの場を去ろうとする
……中々、有意義な時間を過ごせた。

876鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 22:38:11
>>875

「成る程、そういうものか」
「『人型』はリーチに優れ、一般人に対して悟られずに動ける利点はあるが…
 やはり本体という『脆弱性』は明確な弱点になるからな。その点、キミのタイプならその心配はなさそうだ」

斑鳩くんの言葉に頷く。
彼の言う通り、三枝さんが言いたくないのであれば、無理やり問い詰めるつもりはない。
出来る限り、やんわりと、さり気なく訊ねてみよう。…自分にできる限りで。

「ああ、感謝する」「…斑鳩くんは人の名を『スタンド』で呼ぶのか?」
「確かにそれも『コードネーム』みたいでカッコいいが…」

自分も非常時は彼のことを『ロスト・アイデンティティ』と呼んだ方がいいだろうか。…悪くない。
受け取った『電話番号』を取り出し、スマホからその場でワンギリの要領でかける。
これで彼のスマホにもこちらの番号が表示されただろう。

「こちらは『荒事』は比較的得意だ。キミに『仁義』のある戦いならば、呼んでくれ」
「…ナンパの方は、その…申し訳ないが、力になれないからな…」

俯いて力なく答える。初対面の女性とまともに話せたことなど一度もないからだ。

「ああ、ありがとう斑鳩くん」「お互いに気を付けて。また今度」

去り行く彼に手を振って、自分は素振りをする所定の位置へ付く。
同じような境遇の『仲間』が増えたことは、とても心強い。同学年だし、彼は男性だ。
頼りになる友人ができたこの出会いに、感謝をしながら素振りを始めた。
…倒した暴走族の人間は、トラブルに巻き込まれない限り放置しておこう。

877斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 23:46:54
>>876

 (……そろそろ、今日は諦めようと思ってたんだ。)
 (後輩から『スタンド使い』だと聞いた以上、重力に引かれて何時かは出会うかもしれない、そう考えて歩いていたから。)

背後の声に軽く手を振って歩き出す
落ち葉を踏みしめる音も、そろそろ聞けなくなるだろう

 (思惑通りに『偶然』会えたわけだ、おまけに『善性』であの境遇なら僕に多少なりとも同情するだろう……とは考えた)
 (ここまで自分に都合がいいのは想定外だけど、彼の人柄と、その友人になる事で信用を得られるメリットは大きい、ならば精々利用させて貰う。)

イヤホンを再び耳につけ、再生ボタンを押す
ドビュッシー作曲の『月の光』が耳に響きだす、優し気な美しい旋律が僕の視界を歪ませる

 (自分の命は犠牲に出来ない、両親から貰った数少ない一つなんだ、出来るわけがない ……だけどね)
 (他人の命は勘定に入れない 関係無いとも言わせない 僕から両親を奪ったのは、お前たちの作り出した『規範』なんだからな。)

冬の帰り道、寒空の下でふと考える
……僕の帰る場所は何処にあるのだろう、と。

878夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/14(土) 19:28:50

ある晴れた日の午後。
芝生の上にうつ伏せに寝そべり、
食い入るように何かを見つめていた。
視線の先には、一匹の小さな虫がいる。
それは、指に乗るくらいの大きさの『カマキリ』だ。
鎌を舐めて手入れしているらしい。

      ジィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜ッ

こうして観察を始めてから、かれこれ30分程が経過していた。
しかし、まだまだ飽きそうにない。
『色』、『形』、『動き』――
その全てが『アリス』の好奇心を強く掻き立てる。
コイツも『いいかげんどっかいけよ』っておもってるかも。
でも、もうチョットみてたいキブンだ。

             スススッ……

「――――おん??」

そうこうしていると、ヤツがうごきはじめたぞ。
ドコにいくのか、つきとめねばなるまい。
ワレワレちょうさはんは、ただちにツイセキをこころみた!!

             ズズイィッ

移動を開始したカマキリの後方から、匍匐前進で追跡する。
こっちのアングルからみたフォルムも、
なかなかアジがあるじゃないか!!
『カマキリのうしろすがた』っていうコトワザもあるしな。
『めだたないけど、じつはイケてる』っていうイミで。
イマつくった。

879鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 02:15:55
>>878

「・・・・・・・・・・」

いつもと同じように、自己鍛錬のために竹刀袋を肩にかけて訪れた『自然公園』。
そこで、見慣れた姿を見かけた。
もっとも、その彼女が取った行動自体は全く見慣れていないものだったが。
公園の芝生で匍匐前進をしている女性を見たのは人生初めてだった。
記念にスマホで撮影しておくべきかと思ったが、無断で動画を撮るのは失礼だと思って流石にやめておいた。

「(アリスは何をしているんだ…?)」

周囲に他に人がいないか確認して、ゆっくりとその少女、夢見ヶ崎明日美へと近付く。
色々と奇天烈な行動をする事も多いが、流石にこれは何らかの理由があるだろう。多分。
声に出して訊ねてもいいのだが、何かに集中しているのならば、邪魔をするのも申し訳ない。

880夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 16:17:07
>>879

近くまで寄ってみると、草陰で何かが動いているのが見える。
小さな『カマキリ』だ。
どうやら、それを追いかけているらしい。

    ズズッ ズズッ ズズッ

もし『ドクター』をだしてたら、
ちかづくダレカに『オト』できづいたかもしれない。
しかし、イマはだしてなかったようだ。
ウンがよかったな。
どっちみち、『ミチのセイブツ』にシュウチュウしてるから、
タブンきづかんかったけど。
イマこのしゅんかん、わたしにはコイツしかみえない!!

             ズズッ ズズッ ズズッ

なおも芝生を這い進み、『未知の生物』――
『カマキリ』を追いかける。
そもそも『カマキリ』というもの自体を見た事がなかったのだ。
存在は知っていたが、実際に目にしたのは初めてだった。

881鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 22:00:35
>>880

(ああ、カマキリか)

そこまで物珍しい生き物ではないが、彼女にとってはそうではないのだろう。
故に彼女の旺盛な好奇心が、そこの小さな生き物へと向いたとしても何らおかしくはない。
そのカマキリにとっては少々迷惑かもしれないが、そこは甘んじて受けて頂きたい。

(この状況では声をかけるのも躊躇われるな)

観察に集中しているアリスは、接近するこちらに気付く素振りはない。それに声をかけると、驚いたカマキリが逃げ出してしまうかもしれない。
結局、自分もアリスと同じことをする事にした。カマキリと、それを観察している様子を。
幼い頃と違い、自分は虫を見る機会など最近はほとんどなかった、久し振りに見るのも面白いかもしれない。
顎に手を当て、上体を折り曲げる。

…一匹の虫と、それを匍匐前進で追いかけるアリスと、更にその後ろから
両者を観察している男というのもかなりシュールな気がするが。

882夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 22:43:22
>>881

それは、あまりにもシュールな光景だった。
もし第三者が通りかかっていたら、
間違いなく足を止めていただろう。
クロガネくんのうしろから、またベツのダレカがみてたら、
もっとオモシロいのに。
そのうしろから、さらにまたベツのヒトが……。
そんなカンジでドンドンひろがっていったら、
きっとセカイがヘイワになるとおもうぞ。

          〜〜〜♪

「――――あ、ナンカきた」

        ゴソ

不意に、スマホの着信音が鳴った。
ポケットから取り出して、這いずる姿勢のまま通知を確認する。
その間に、カマキリは少しずつ遠ざかっていく。

「ん??ん??ん??」

      キョロ キョロ キョロ

やがて辺りを見渡すが、カマキリの姿がない。
どうやら見失ってしまったらしい。
仕方なく起き上がり、両手で服の汚れを払い落とす。
しかし、アリスはあきらめないぞ。
こんかいはにげられてしまったが、
ワレワレはこんごもチョウサをゾッコウする!!

       クルッ

決意を新たにし、おもむろに振り返った。
すると、そこに『クロガネくん』がいるじゃないか!!
さっきのアイツにはニゲられたし、いいタイミングだぜ〜〜〜。

「よう、ようようよう――――」

「ようようようようよう、クロガネくんよ。ゲンキかね??」

     ツカツカツカツカツカ

声を掛けながら、距離を詰めていく。
クロガネくんも、さっきのヤツにまけずおとらずオモシロい。
アリスの『ターゲット』がヘンコウされたシュンカンだ!!

883鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 22:55:04
>>882

と、アリスのスマホに通知が来たようだ。
彼女がそれに気を取られている内に、小さなカマキリはこれ幸いと、あっという間に逃げ出していく。
生い茂る草の中に身を隠した直後、アリスが再び顔を上げた。完全に見失ってしまったようだ。
彼(彼女だろうか?)は上手くやった、達者に生きてほしい。

その場から去ったカマキリの事を思っていると、おもむろに少女は立ち上がった。
まあ目的と思わしき観察を終えたのだ、そうなるだろう。
さて、何と声をかけようかと考えていると、いきなり彼女が振り返った。

「こんにちは、アリス」「オレは相変わらず、無病息災だ」
「どうでもいいが、『よう』が多いな。…キミも元気そうで何よりだ」

その顔を見て、挨拶をかわす。そして目線を逸らし、地面を見た。
相変わらずぐいぐい来る少女だ、だが決して不快ではない。
…むしろ黙って様子を観察していた男の方が、不快と思われても仕方ないが。
あまりに面白そうだったので、ついやってしまった。

「『カマキリ』はどうだった?」

884夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 23:37:14
>>883

「ほうほう、アレがウワサの『カマキリ』か!!
 やっぱりナマでみるとちがうな〜〜〜!!
 いや〜〜〜『イイ』!!『イイ』よ〜〜〜うんうん」

「あんなのがいるなんてフシギだよね〜〜〜。
 だって、『こんな』だよ!!『こんな』!!
 これはセカイテキハッケンだな!!スゴイもんだ!!」

   ササッ

興奮した口調で熱っぽく語りながら、
両手を持ち上げて『カマキリのポーズ』をしてみせる。
この世界には、まだ見ぬ『不思議』が溢れている。
それを考えるだけで、胸がときめく。

「――――ま、ソレはおいといて……」

      ザッ

「クロガネくんさぁ〜〜〜」

           ザッ

「さいきん、ナンカおもしろいコトとかなかった??」

                ザッ

一歩ずつ足を踏み出し、さらに近付いていく。
その視線は、目の前の相手に真っ直ぐ向けられている。
口元には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

885鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 23:53:32
>>884

「そうだろう。カマキリのあの独特な動きは、遥か古代から『中国拳法』にも取り入れられた程だ」
「ただ、もし今度その『卵』を見つけても家には持ち帰らない方がいいな。それで友人が酷い目に会った」

心底楽しそうに『カマキリ』の事を語るアリスに、こちらも思わず笑みがこぼれる。
見慣れたものにも改めて価値があると再確認できるし、何より友人の幸せそうな姿は心暖まるものだ。
この世界は彼女にとって、まさに『ワンダーランド』なのだ。どんどんと面白いものを見つけてほしい。
などと一人感慨に耽っていると。

>      ザッ

>           ザッ

>                ザッ


「いや、待て」「この距離でも声が聞こえるんだから、それ以上、近付く意味は、ないと思うんだが」

接近する彼女に、両手を小さく上げながらゆっくりと後退する。とはいえ速度があまりに違うが。
何度かの遭遇でアリスに慣れてきたとはいえ、精々先程のように一瞬目を合わせるくらいだ。
まだ、あまり近付かれると、その、困る。耳が熱くなってくるのを感じる。
ひとまず彼女を納得させるワードを何か出さなければ。

「しかし、面白いことか…」「ああ、面白いことかは分からないが、最近共に協力し合える友人ができたんだ」
「オレと同じ学年の、斑鳩翔くんと言うんだが…見た事はあるか?」

886夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 00:34:31
>>885

「まあまあ、そうエンリョしなさんなって。
 おたがいに、もうチョイしんぼくをふかめていこうぜ??
 たのしいコトはミンナでわけあうと、
 もっとタノシクなるからさぁ〜〜〜」

      ザッ

前進と後退では、やはり前進の方が早い。
二人の距離は、だいぶ近くなっている。
さらに近付こうとした時、
『知っている名前』が出てきて足を止めた。

「『イカルガショウ』??
 ああ〜〜〜イカルガのショウくんか!!
 しってるしってる。いろいろオモシロいヤツだよね〜〜〜。
 ミョーにナゾっぽいっていうか」

「ナツごろにさそわれてさぁ。
 いっかい『デート』したコトあるぜ!!
 さいしょ、ただのシャレだとおもったのに、
 マジだったからビックリしたな!!
 いや〜〜〜アレはオモシロかった!!
 あ、『シャシン』みる??」

返事を待たずに、スマホの画面を見せる。
そこには、『夏祭り』の時に撮影した写真が表示されていた。
屋台の群れを背景に、青い浴衣姿の夢見ヶ崎が写っている。

「ショウくんが『ユカタきてこい』っつったから、
 ワザワザきてきてやったんだよな〜〜〜。
 まあ、たのしかったからイイけど!!」

887鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 00:55:21
>>886

「あぁ、確かにミステリアスだな…一見話しかけ辛そうだが、話してみるととてもいいヤツだった」

知っているのならば話は早い。
確かに彼はクール、あるいはミステリアスという言葉が相応しい。
どこか言葉も選んでいるような雰囲気もあるし、よく言う一般人とは一線を画すオーラがある。
それも彼の事情を顧みれば、致し方のない事だが。もちろんこの場でそれを話したりはしない。
既にアリスも知っているかもしれないが、そうでない場合の事を考えて─────。

「─────え」

思わず、再度アリスの顔を見てしまった。
『デート』というのは、その、男女が二人で出かける、それなりに親密な関係で行われるアレの事だろうか?
斑鳩くんの方から誘ったという事は、斑鳩くんはアリスに満更ではない、という事なのか。
いや、彼の去り際のセリフからすると、結構なプレイボーイであり、そこまでではないのか。それとも本名なのか。
それに、アリスも応じた辺りからして、それなりに彼の事を気に入っているということか。
これは聞いてしまって良かったのか。これからどういう態度で接すればいいのか。
色恋沙汰に疎い自分は、何とも言えないモヤモヤと混乱が頭を支配していく中、唐突にアリスがスマホの画面を見せてきた。

「…これは」

どうやら『夏祭り』の様子だ。二人のデートはそこで行われたようだ。
青い浴衣に身を包んだアリスが、よくある屋台を背景に、楽しそうにしている。

「…綺麗だな。似合ってる」

やはり和服は良いな、と個人的な感情は胸に秘めつつ、楽しそうな彼女も微笑ましく眺める。
彼ら二人の思いがどうであれ、それが楽しかったなら何の問題もないだろう。
そこに自分が気を揉む必要はない。頭がスッキリして、落ち着いてきた。自分の胸に手を置く。

「楽しんだみたいだな、夏祭り。キミも彼も、無事で良かった」

ああいった人が集まる場所には、良くない輩も狙いやすい。
最近こそ落ち着いているが、いつまたあの『通り魔』が現れないとも限らない。

888夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 01:30:02
>>887

「うんうん、いいコトバだ!!
 まったくクロガネくんは、ヒトをほめるのがウマいな〜〜〜。
 スエは『そうりだいじん』か??
 このよわたりじょうず!!」

何だかんだ言っても、褒められて悪い気はしない。
素直に喜び、上機嫌で明るく笑う。
しかし、マジメに言われると、少々照れが入る。
実のところ、この笑いには若干照れ隠しの意味もあった。
顔を見られていなかったのは、運が良かったのかもしれない。

「まあ、そのあとはコレといってなかったけど!!
 あ、そういえば『バレンタインチョコ』あげたんだった。
 『てづくり』で。
 やっぱり『アリス』としては、
 そういうイベントはみのがせんからな〜〜〜」

あれには、謎めいている彼の反応を探るという目的もあった。
しかし、一番の理由は『季節のイベント』に乗りたかったから。
要するに、『一石二鳥』狙いというヤツだ。

「『ブジ』??そうそう、ブジブジ。イマもピンピンしてる。
 ほら、ウデもアシもアタマもくっついてるし」

「まあ、もしヘンなヤツとかいてもダイジョーブ。
 ワタシがぶっとばすしな!!」

そう言いつつ、やたら自信ありげに胸を張る。
その根拠は、もちろん『ドクター・ブラインド』だ。
スタンド使いとして、『実戦』を経験したという自負もあった。

889鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 01:47:40
>>888

「うぅむ。褒める、と言うのもなんだか不思議だ」
「美味しい料理を食べた時に『美味しい』と言うのを褒めると称するなら、確かにそれかもしれない」

地面を見たままブツブツと呟く。
自分はウソや世辞はあまり得意ではない。それが人を幸福にするならともかく、
こういった事を自分に言われて喜ぶ人間がそうそういるとは思えない。
なので誰かを喜ばせるためではなく、綺麗、上手い、カッコいいなどは感じたままに言っているだけだ。

「あぁ、バレンタインチョコを。しかも『手作り』とは、気合が入っているな」
「しかし斑鳩くんはモテそうだからな。ライバルは多そうだ」

仮に彼女にその気がなかったとしても、『食べ比べ』としてのライバルという事だ。
ちなみに自分は家族、母と妹以外にもらった事は生涯ない。これからもそうかもしれない。
しかしそれは言わない。彼女に対して今更見栄もないかもしれないが、こう、最低限の誇りはある。
涙は心の中で流しておく。

「キミの事は信じているが、やはり『女性』だからな」「単純な力勝負では分が悪い」
「もし男相手に喧嘩になったら逃走を第一に考えて。それが無理なら、武器を持つか急所を狙って攻撃するんだぞ」

この前、ここの公園で斑鳩くんと共に暴走族のような連中と殴り合いになったのを思い出す。
『通り魔』以外にも、ああいう存在はこの街にいるのだ。
…しかし女性に対して護身法をレクチャーというのも、なんか、モテない理由はこういうのが原因なのかもしれないと我ながら思った。

890夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 02:20:56
>>889

「まあね〜〜〜マジでねらうんならライバルおおいカモ。
 でも、ワタシもう『コイビト』いるから。
 すっごいミリョクテキで、
 ずっとイッショにいてもあきないんだよね〜〜〜」

「『このセカイ』っていうコイビトがさぁ〜〜〜。
 だから、ヒトリのあいてにしばられてられないってコト!!」

 アリス   ワンダーランド
『自分』は『この世界』に恋をしている。
特定の相手と付き合っている暇などないのだ。
少なくとも、当分の間は。

「あぁ〜〜〜たしかに『チカラ』はよわい!!
 さすがはクロガネくん、イイとこをついてくるな〜〜〜。
 するどいシテキだ!!ソコはヒテイしないぞ」

「あ、でも『ブキ』ならもってる!!
 チカラでまけるぶんは――『ココ』でカバーだ!!」

自身の頭を付け爪の先でつつきながら返す。
『ドクター』のパワーは人間より弱い。
しかし、その両手には鋭利な『爪』が備わっている。
それこそが『武器』であり、『能力の鍵』だ。
その『能力』には大きな自信があった。

「まあ、ベツになぐりあいとかしたいワケじゃないけど。
 ダレカをボコボコにするなんてシュミじゃないし。
 ジンセー、おたがいにたのしくなきゃね〜〜〜」

「――そういえば、ショウくんと『キョウリョクしあう』ってナニ??
 やっぱり『アレ』のコト??ほら、こないだの『アレ』」

ゲームセンターで会った時の事を思い出す。
その時、自分も『協力する』と言ったのだ。
あれから特に収穫はないが、多分その事だろうと思った。

891鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 02:43:24
>>890

「…なるほど、それは確かに忙しいな」
「逆にキミの事を愛する人間は大変だ。文字通り、世界を敵(ライバル)に回すって事なんだからな」

実に彼女らしい言葉に頷く。この世界以上に魅力的な人物が、果たしてこの世界にいるだろうか?
世界を敵に回してでも。少女漫画で聞いたような台詞だが、アリスを捕まえるにはそれ相応の覚悟が必要なようだ。
もっとも、彼女はそんな出来事があろうがなかろうが人生を謳歌するだろうが。

「『頭』か。確かに戦略は大事だ」
「オレも相手の動きや得意技は常に頭に入れて動くが、限られた『ルール』の中の武道と違い
 路上の喧嘩は常に流動的だ。フィジカルで不利なら、そこが逆転の鍵になるだろうな」

アリスの動作の意図はそういう事だと思い、頷き下を向く。
しかしこの前は少数対多数故に『スタンド』を使ったが、やはり一般人相手に『スタンド』は過剰な暴力になりかねない。
…その暴力に飲み込まれないよう、自分も気を付けなければ。その点は塞川さんや立石さんにも指摘されている。

「全くその通りだな。争いなんてこの世からなくなってほしい」
「…誰も突然な悲しみに襲われない世界になってくれるなら、それに越した事はない」

アリスは世界を愛していると言った。しかし、自分は彼女ほどは胸を張れない。
特に妹の事件が起きた直後は、理不尽に彼女を狙った人間に、それを捕まえられなかった警察に、その場にいなかっと自分に、色々と苛立ってしまったものだ。
自分は少し時間をおいて頭を冷やせたが、今でもそれなり感情は燻っている。
…ならば、斑鳩くんはどうなのだろう?彼も、自分と同じく納得できているのだろうか。

「その通りだ。アリスと同じく、情報提供の関係さ」
「一人より二人、二人より三人だからな」

直接的な言及を避けるアリスに、やはり彼女も気を遣っているんだな、と優しさを感じつつ頷く。
恐らく、アリスも自分と同じくまだ手掛かりは得ていないだろう。あの警察から無事に逃げおおせているのだ、そう短期間で情報が手に入るものではない。

892夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 18:52:11
>>891

「やっぱり『そっちカンケイ』なんだ。
 にんずうがおおいってコトは、
 『め』がおおいってコトだからな〜〜〜。
 『め』がおおいほうがみつけやすい。
 そりゃそーだ、うんうん」

『斑鳩翔』もスタンド使い。
そして、彼も探しているものがあったハズだ。
協力関係としては、ちょうどイイのかもしれない。

「ところでさぁ、クロガネくん。
 『れいのヤツ』をみつけたとするじゃん。
 そしたら、どうすんの??」

「まぁ、あいてしだいだろうけど。
 もしハンセーしてたら??
 それとも、ぜんぜんハンセーしてなかったら??」

彼の性格から考えると、『立ち向かう』つもりなんだろう。
前に聞いた『不可視の刃』の正体は間違いなく『スタンド』だ。
無力とは言わないまでも、スタンドを持たない人間が、
単独でスタンド使いに挑むのは無謀に近い。

「クロガネくんはどうしたいのかなって。
 アリスとしては、『みつけてからかんがえる』ってのも、
 アリだとおもうけど。
 あせってもイイことないし」

だから、遠回しに尋ねるコトにした。
『危ないコトをするのが分かっていて行かせた』というのは、
何となくキブンが悪いからだ。
せめて、『一人で行かせる』のは止めとくべきだろう。

「――クロガネくんは、タブンつよいんだろうけどさ」

そう言って、竹刀袋に目を向けた。
竹刀というのは武器にもなる。
しかし、さすがにスタンド相手じゃ分が悪い。

893鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 21:10:25
>>892

>「ところでさぁ、クロガネくん。
> 『れいのヤツ』をみつけたとするじゃん。
> そしたら、どうすんの??」



「・・・・・・・・・・」

視線を上げ、アリスと目を合わせる夕立。薄刃にも似た、灰色の瞳が少女を見つめる。

「可能ならば、『法』の裁きを受けさせる」
「『警察』に知り合いがいる。その犯罪を立証できれば、何らかの手段で『見えない刃』にも刑罰を下せるかもしれない」
「───とは言え、その知り合いは先日『見えない刃』で斬りつけられ、意識不明だ」
「彼の意識が戻らないことには、この選択は不可能だろうな」

元々は、その『通り魔』は自分の手で裁くつもりだった。しかし塞川さんや立石さんと会って、それは危険な考えだと思い始めた。
反省していようといまいと、その処罰に自分が関わるべきではない。今ではそう思っている。
だが、『法』ではヤツを拘束できないのなら。そのまま野放しにするくらいなら。

「だから、少なくとも今はオレが決めるつもりでいる」
「…十分に反省して、二度と同じ事をしないと誓えるなら。その言葉を信じられるなら、そこまで手荒な事はしない」
「けれどそうでない場合は、マトモに表を出歩けないよう、『再起不能』になってもらう。
 とはいえ、やり合っている内にそこで止められない可能性もあるが、これに関してはオレも同じだからな」

もし殺してしまった場合、『スタンド』を上手く使って証拠を消せるだろうか?
『シヴァルリー』はそういう事に向かない、難しいかもしれない。
『墓穴』のような物を作り出せる『スタンド使い』と協力関係を結べたなら、非常にありがたいが。
流石にそれは、自分にとって都合が良すぎるだろう。

「負けるつもりはないが、勝負は何が起きるかは分からない。だからオレが失踪したら、そういう事だと思ってほしい。
 …ついでに妹、朝陽(あさひ)にオレは旅に出たとか、そう言ってくれるとありがたい」
「そもそも見つけられたと仮定して、の話だけどな」

犯人を探せなければ、全て机上の空論に過ぎない。直接刃を交えるよりも、その方が難易度が高いと思っている。

894夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 22:19:00
>>893

「――――そっか」

灰色の瞳に宿る光に、強い意志を感じた。
だから、多くは語らない。
スタンドは法律ではどうにも出来ないし、
中には反省のカケラもない人間もいる。
実際、自分も『ロクでもないヤツ』に遭遇した経験があるのだ。
そういう場合は、『実力行使』しかないんだろうとは、
何となく理解していた。

「でも、『タビにでた』ってのはヤダね。
 そんなコトつたえるなんてオコトワリだよ。
 どんだけたのまれてもさぁ」

「これからのジンセー、
 ずっとソレをかかえていくコトになるじゃん??
 そんなのゼンゼンたのしくないし。
 ワタシにカタボーかつがせようなんて、おもわないでよね」

刃の輝きを秘めた瞳を見返し、ハッキリした口調で言葉を返す。
もし今、この申し出を承知したら、
それが一生心に残り続けるコトになる。
冗談じゃあない。
だから引き受けられない。
引き受けたくない。

「だから、ゼッタイもどってくるように!!
 ナニかするときは、ちゃんとワタシにもいうコト!!
 まえにヤクソクしたでしょ??
 『ジョーホーキョーユー』するって」

「あいては『バケモン』みたいヤツなんだぜ??
 ナニもいわずにヒトリでいくなんてマジでアブネーから」

「『ヒトリよりフタリ』、『フタリよりサンニン』――でしょ??」

895鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 23:19:42
>>894

「…いや、確かにそうだな。アリスの言う通りだ」
「キミに負担をかけるような事を頼んでしまってすまない」

彼女の言葉に、成る程と頷く。何一つ非の打ち所のない、よく考えてみれば当然の道理だ。
冷静であろうとは心掛けているが、やはりあの犯人の事を考えると、つい熱が入ってしまうようだ。
もし実際に遭遇した時も、こうなってしまっては足元をすくわれてしまうかもしれない。
肝に銘じておこう。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

そして冷静に考えれば、ここで『絶対』などと言う言葉を使うのは不誠実だ。
これがどれだけ危険な行為なのか、自分も彼女も分かっている。
自分はウソが得意ではない。だから、ここで偽りの約束する事はできない。

───ならば、これを本当にするしかない。

「分かった。約束だ、オレは絶対に生きて帰る」
「それに犯人に会いに行く時は、必ずキミに連絡を入れてから行く」

宣言したからには、実行しなくては。それが矜恃というものだ。
これで差し違えてでも、などというわけには行かなくなった。
だが、彼女がこうまで言ってくれるなら、やる価値はあるだろう。

「民主主義の国らしく、犯罪者を『数の暴力』で圧倒してやるか」

軽く冗談交じりに呟いて、微笑む。

896夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 23:51:59
>>895

「よろしい!!
 やっぱり、そうじゃなきゃあいけない!!
 うんうん、そのいきだ!!」

満足した様子で大きく頷いてみせる。
悲しい結末なんて望まない。
もちろん、そうなってしまう可能性は常に存在するのだろう。
だが、そんなものは知ったこっちゃないのだ。
アリスの物語には、『不思議』はあっても『悲惨』などない。

「『カイブツ』があいてだしさ。
 それくらいでちょうどいいハンデってヤツ」

「――だから、むしろ『コーヘー』だね」

      ニヤッ

微笑に対して、威勢よく笑い返す。
相手の『能力』には分からない部分が多い。
何よりも、敵を見くびっていいコトなど一つもない。
だからこそ、協力するコトには意味がある。
一人で挑まなきゃならないルールがあるワケでもないのだ。

「じゃ、カタいハナシはこのヘンにして……。
 クロガネくん、『レンシュー』するんでしょ??
 だって、『ソレ』もってきてるし」

「ワタシ、ちかくでみてるから。
 ジツは、まだ『ケンドー』みたコトないんだよね〜〜〜」

「だからさ、みせてよ」

    ザッ ザッ ザッ
               トンッ

軽い足取りで芝生を歩いていき、ベンチに腰を下ろす。
そこで見学するつもりらしい。
惜しくも逃してしまった『カマキリ』の代わりだ。

897鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/19(木) 01:03:56
>>896

正直に言ってしまえば、死ぬのは多少なりとも怖い。
家族を悲しませてしまうのも嫌だし、妹の将来を見たい気持ちもある。
しかしそういったのを犠牲にしなければ、平気で人を傷つけ殺すような『スタンド使い』には勝てないと思い込んでいた。
そうかもしれない。けれど、それは自分一人ならば、の話だ。
今の自分にはアリスと、斑鳩くんがいる。ましてや斑鳩くんは『スタンド使い』だ。
剣道は一対一だが、これは剣道とは違う。仲間を頼ってもいいのだから。

「(それに、色々な世界を感じで楽しそうにしているアリスも見ていたいしな)」

生き残りたい理由は、いくつ有ってもいいだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・いや、まぁ、構わないが」

何一つ面白くないぞ、と言おうとしたが、やめた。彼女にとってこれは好奇心の対象なのだし、
色々な世界を見ているアリスを見ていたい、というのは今言ったばかりだ。
がっかりさせるかもしれないが、まぁ物は試しだ。竹刀袋から竹刀と鍔を取り出して、柄に通す。
そして空になった袋をベンチにかけると、中段の構えを取った。

「────────」

見られていると集中できない、などというのは小学生の段階で終わる。
ただ一つ、理想の一本を決めるためにひたすら竹刀を振る事だけを考えれば、それ以外は何も気にならない。
素早く竹刀を頭上に掲げながら摺り足で前進し、後ろ足を引きつけながら、更に素早く竹刀を振り下ろす。
上半身は同じ動きで、今度は下がりながら再び竹刀を振り下ろす。
ひとまずは300本、『面』に集中して繰り返す。…これを彼女が気に入ったかどうかは、あえて訊かないでおこう。

898斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/04/01(水) 22:01:33
四月一日……『エイプリルフール』である。

エイプリルフールというのはつまり、『嘘をついていい日』の事である
イギリスでは『正午まで』という刻限が決められているが、それ以外では一日中行われている。
奇妙な事に、その起源は一切の謎に包まれているという…………。


 「――――『イカルガァァァア!ボンッバァァアアアア』!!!」

       チョドォォォーン!               ――ザァァァアアア
                  パァァアアア……

斑鳩の『スタンド能力』の応用、『鎖』を融合し『鉄球』を作成、内部の鎖を分離し、投擲 『鉄球』内部で『おしくらまんじゅう』の要領で上昇する圧力が外殻を破裂させる
投げ込まれた湖が爆発し、四散した飛沫が可視光を反射、4月の空に美しい虹をかけた。

 「……わぁ」 「まるで『嘘』みたいな威力だぁ。」

 ミズウミヲバクハシテニジヲカケル
断じて『こ う い う 日』ではない。

因みに僕は授業中にペン回ししながら思いついた必殺技、『イカルガボンバー(仮)』を試しに湖畔で実験していた。
『敵の眼前で思い付きの応用失敗して死亡』とか笑えないしね!でもちょっとこの威力は予想外だった。
ノリノリで中二病発症させながら名前を考えようと思ったら、どう考えてもやりすぎの力だった。『必』ず『殺』す『技』と書いて『必殺技』である。

 「……これは、封印しとこうね『スリーピング』 殺人とかチョット、非効率的だし。」

猫の耳裏を掻き、不気味なゴロゴロ音を聞きながら次の技を考えよう。

899斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/04/03(金) 20:52:22
>>898

 「正直、まじめにコレを考えようとすると頭痛くなるんだけどなぁ」

元がスタンド能力とかいう物理法則を無視した超能力である
それを起点に物理法則に則った現象を起こして攻撃なぞするから、どうしても勘違いと不明点が出てくる。
ネコを撫でながら一つの鎖を千切る…『鉄の輪っか』、これは自分から分離したので『実体化』していて物理法則に準じる。
この『鉄の輪』にもう一つの『鉄の輪』を融合させる…ロスト・アイデンティティのルールに則って連結器も無く融合し、2つが1つになる。
 
 「ここまではいいんだ、スタンドの能力内だし、これは物理法則に準じない」
 「問題は……」

一つになった『鎖』に触れ、融合した鎖を分離させる
すると『鎖』が2つに戻り、同じところに存在できない鎖が……

 「――ここだ」
 「本来あり得ない状態から、まったく時間をかけずに『スタンドのルール』から『物理法則』に移行する」

ここで鎖の状態を掴めなくなる、解れた鎖はどうなるのか?
1.『互いの原子同士がぶつかり合い、瞬時に圧縮された後にその圧力で吹き飛ぶ』
2.『互いの鎖が存在する空間の圧縮が引き起こされ、空間が元に戻る勢いで双方の鎖が吹き飛ぶ』

最初、斑鳩翔はコレが『クレイモア』のような
『火薬を使って内部の圧力を上昇、高圧に耐える構造の殻が耐え切れず破裂、その勢いで散弾を放つ』ような応用法である、そう考えていた
実際、火薬を用いる以外は間違ってはいない、問題なのは圧力の用意方法で『火薬』等の外部からの作用では無く『同じ場所にある物を、瞬時に同じ場所に存在できなくさせる』という物だ。

スマホを見る「……現実でそんな事起こせないから、参考に出来る実験記録がない」凄く困る。

1番から考えよう、細胞分裂時の映像を参考にすればいいだろうか、同じ場所にある細胞核が、中央から分断され、半月状になった双方がゆっくりと同じ形に戻る。
これと同じ事を起こしていると考えると…もし一つずつ分裂するなら、得に何も問題は無い、破裂時の威力はそこそこで済むし、圧力も外殻内の鎖の質量におおむね比例するような形で上昇するだろう
問題は、この分裂が『大量の鉄の輪』が『全て同時に分裂する』事に有る、1+1=2とか、2*2=4とかそういう勢いで圧力が増えない。『同時に分裂する鎖の数が増える程に同じ場所にある鎖を押しのける』のだから
一つ一つの鎖は当然、細胞核を分裂させるように縮小する、だが細胞核と違うのはそれぞれがそのサイズを保とうとしている点だ、必然的に一時的にとはいえ『無数の鎖が同位置に存在可能なように圧縮される』
そして酸素等の空気なら圧力を熱量などに変換させられるが、金属類は圧力を変換せず、そのまま圧力として扱う、その圧力は分離させる数でいっそ暴力的なまでに増えていく

 「……下手したら『衝突核融合反応』とか起こるかな、分離する中心の圧力がえげつない事になるよねコレ」

2番目はもはやSFの領域であり、そうなるという証明方法すらない。

 「……ハハッ」

遠い目でネコを抱き上げる、どうして猫はこんなに伸びるのだろう、カワイイナー
目の前で起こっている物理法則には欠片も可愛さが無い。

 「『音仙』さんに聞いたら全部教えてくれないかな…無理かな、あの人スタンド使いだけど物理学者じゃないし」
 「――なんもかんも同位置に鎖同士が融合するのと切り離したら実体化して物理法則に従うのが悪い。」

風の噂にアリーナというところで夜な夜な賞金を賭けてスタンドバトルが行われていると聞くが、自分が勝つための行動を考えるに……
そこの観客も『遠距離から一方的に片方が爆殺される様』とか見たくあるまい、僕は頭を抱えた。

 「いや待て、別に完璧に同位置に鎖が存在しないのだし、多少のズレさえあれば外殻に寄るにつれて圧力の差ができるのでは?」
 「…規模から考えると誤差かな、中心点の圧力がえげつない事になるの変わらないし」

ネコの顎下を優しく撫でてやると、さも気持ちよさそうに目を細める。

(…取り合えずひとしきり『外殻を維持しながら圧力融解させた内部金属を水鉄砲みたいに撃つ』とか、『融解した金属を収めた金属球の小さな穴から噴射し続けてヒートソード』とか、『靴底に圧縮爆破弾仕込んで高速移動』とか試してから帰ろう)

彼は慢心とは無縁である、何故なら慢心とは、自分以外の比較対象と自身を比べ『自分の限界』を知り、自分がそれ以上だと誤認する事により起こるものであるから。
このスタンドとその応用法の何処に限界があるのかを規定可能な比較対象が存在しないが故に。彼は慢心すらできない。
崖に激突して死ぬツバメが、宙返りの角度の危険の限界を親ツバメから教わっていないために、つい 無謀な角度で飛行して死んでしまうように。

900宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/12(日) 22:10:30

 生まれ育った町を飛び出して、『星見町』に引っ越して、はや数ヶ月が経過した。
 『大都会』というほどまで栄えてはいないが、『田舎』というほどに寂れてもいない。

 ここは、『いい街』なのだろう。

(せめて、『怪物』がいなけりゃあな)

 だが、眼鏡をかけた陰気な男子学生―――宍戸獅堂は、不機嫌だった。

(むしろ、『クソみてーな街』とかでもよかった……『怪物』さえいなけりゃあなァ……)

 獅堂の両目に重なるように発現した、もうひとつの眼球『グロテスキュアリー』。

 身近なものに『擬態』している『怪物』を見抜く、という無二の代物だが……
 その視界が与える、常識の埒外の視界のためか。
 神経質そうにあちらこちらを見渡しては、『波止場』や『ミミズの死骸』を睨みつけ。

 せっかくの『海浜公園』に、重苦しい溜め息を巻き散らしている。ちょっとした『公害』だ。

901中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/12(日) 23:58:43
>>900

「あはー……ほんと、ヤバいなぁ……」

スマホを取り出し、ミミズの死骸の写真を取る女がいた。
オーバーサイズのパーカーを身にまとい、下はショートパンツらしい。
ミリタリーベレーを被って日の光を避けている。

「締め切りに間に合ったけど、自信ないなぁ……」

苦笑いを浮かべてふらふらと歩いている。

902宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/13(月) 00:29:28
>>901

「ヤベェじゃん……」

 鸚鵡返しのように口遊みながら、そんな女を見つけて立ち止まる。
 はた、と口元を抑えるものの、一度口に出した言葉は消えない。

 だが、ここまでの『役満』もなかなかないものだ。

 『ミミズの死骸』……に、『擬態』した『怪物』。
 何故か、それを『スマホ』に収めながら、何かをつぶやいている女。

(……とはいえ、なァ〜〜〜〜。
 あれくらい小物の『怪物』なら放っといてもいいんだろうが
 『万が一』ってのが起きちまったら、スゲー寝覚め悪りぃしなァ〜〜……)


「……あの、大丈夫スか」

 神経質そうな少年が声をかける。
 『何が』とは聞かない。

 自分が他人にどう見えるか、それくらいは分かっている。
 大丈夫、と応じられれば、そそくさと退散する構えだ。

(こんなんSSR不審者だろ……俺なら『ヒク』ね。100『ヒク』)

903中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/13(月) 01:04:27
>>902

「……へ?」

「あ、いや……え、だ、大丈夫? 大丈夫……です、はい……多分」

急に声をかけられたのに驚いたのかわたわたと言葉を返す。
引いている、と言えばそうでもなく。
ただ困惑しているような雰囲気はあった。

「あーえっと。別に怪しいものじゃなくて……って、これ言う人大体怪しいか……」

「私は大丈夫、です。それで貴方は……」

904宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/13(月) 21:40:17

>>903

「あー、そうスよね……」

 見知らぬ他人の事情は知らない。
 口をはさむ義務も権利もないが、『大丈夫』というなら大丈夫なのだろう。

 問題は、時間を稼ぐための口実がない、というところだ。


 『グロテスキュアリー』。


 宍戸自身の眼球から浮き出るように発現する、もうひとつの眼球。
 緑色の視線が、『ミミズの死骸』を凝視する。

「俺? 俺は……『ボランティア』ッスね。『ゴミ拾い』の……」

 口から出まかせだが、ないよりマシだ。

「『公園』の景色、綺麗でしょ?
 でも、たま〜にポイ捨てする輩もいるみたいで……
 アンタも、要らないゴミとかあったら引き取りますよ」


 ……中務の足元では、『ミミズの死骸』が起き上がると、


(いなくなれ。いなくなれ。見えないくらい遠くに消えろ)


     ビクッ !
               ニュキニュキニュキニュキニュキニュキ……


 ミミズにあるまじき速さ(スB)で、逃げるかのように遠ざかっていく……。

905中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/13(月) 23:17:45
>>904

「あぁ、なるほど」

「いや私は別にゴミとか……」

そういうものは持っていない。
カバンの類もないし、飲み物などと特にない。

「すごいんですね、ゴミ拾いとか」

「私は……そういうのしないし」

中務はそういうタイプではない。
悪人でもないし善人でもない。

「うわっ……」

その視線が逃げゆくミミズをとらえた。
肩がビクリと跳ねて、小さく声を上げた。

906宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 00:40:54

>>905

「すごいって……『ゴミ拾い』が?」

 『ミミズ』の全長は、たいしたものではない。
 如何な猛スピードで動いても、視界の端に消えるまで、もう少しかかるだろうか。

「特別なことじゃないスよ。やらない方が賢くて、たぶんフツーです」

 宍戸の定規は、善悪ではなく、損得だ。
 中務の評価に、不思議そうに首を傾げている。

「俺も……、別にやりたいわけじゃあ、ないし。
 ただ、『視界』に入ると、どうしても気になっちまうってだけで」

 自分の生活圏に、どれほどの『怪物』がいるのかを見回る。

 その挙句、どうしても気になっては、こうして排除しているのだから、
 この湖畔に訪れたのも、『ゴミ拾い』のようなものと呼べるだろうか。


「……キモ速かったなぁ、あのミミズ。
 覚えてたら夢に出そうだし、さっさと忘れた方がよさそうスね!」

 同意を求めるように大声で呼び掛けながら、緑色の眼球で周囲を探る。

 安全確認は大事だ。雑魚を追い払ったからといって、気を緩めてはいけない。
 あんなもん、1匹を見かけたら、30匹はいるのだ。

907中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/14(火) 01:30:40
>>906

「まぁ賢いかどうかはともかく……」

「良いんじゃないですかね」

少なくとも中務はそう思ってる。
そして、会話していくうちに感じる少しの違和感。
何となく、彼と自分の間に認識の歪みがあるように思った。

「あの、さっきから何の話、してるんですか?」

「あのミミズ、死んでましたよね?」

緑色の眼球。
それを見ている。
世界が違う、何かズレている。
溝、確かにそこにある。

「そう思ってますけど」

908宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 22:56:35

>>907

「あー……まあ、こっちの話。スンマセンね、ちょっと思うところがあって」

 『ゴミ拾い』に準えたつもりだったが、不自然な点もあったのだろう。


      ギョ ロ・・・
                    グリ ン !


 四方に視線を散らし、その端々から『怪物』を睨みつける。
 どれほど効果があるかは分からないが……『牽制』、にはなるだろうか。

「そう。どこからどう見ても、立派な『ミミズの死骸』だったけれど……」


「『動き出した』」


「……『死んだフリ』だったのかもしれないし、
 ただ単純に、たまたま『動いていなかった』だけかも。
 或いは、『ミミズの死骸』によく似ただけの、別の生き物だったか」

 その『正体』を。
 敢えて明かすこともないだろう。

「まあ、『この町』はそーゆーコトも多いみたいなんで」
「あんま気にしすぎない方がいいスよ。『怪談』とか、好きなら別だけど」

 そこにあるのが当たり前だと思っていたモノが、実は生きていて。
 自分たちを値踏み、欺き、隠れ潜んでいる。
 そんなこと、知らなくていい。あまりに気の毒だ。

 そもそも、信用してもらえないかもしれないが……

「……出会い頭に、スンマセン。長々と喋っちまって」

 ふと、緑の眼球が消える。
 そこで我に返って、不躾であったことを詫びた。

909宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 22:57:19
>>907

910中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/14(火) 23:32:53
>>908

「あはは……ホントですか?」

疑うとは違う。
中務千尋は知っている。
その緑の目の正体を知っている。
この世ならざるものの存在を確かに肌身で感じている。

「別にいいっスよ。私は信じるんで……」

「信じざる負えないんで」

相手の目を見ている。
くすくすと笑みを浮かべて。

911宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/15(水) 06:05:03

>>910

「信じる? ……あ、『怪談』をってコト?」

 中務とは対照的に、宍戸はなかなか視線を合わせない。
 人好きのしない不躾な態度にも見えるだろうが、そのくせに口は回る。

「まあ、『正体見たり枯れ尾花』って言うしな。
 あんまり真正面から信じない方が良いこともあるスよ。ホント」

「たぶん、『ミミズの死骸』も見間違いでしょ。この町そういうトコあっからな〜マジ」

 夢もロマンもへったくれもない、枯れた言葉で釘を刺す。
 あまり意味深な言葉で混乱させるのも、彼女に悪い。

(『イイ人』……っぽいよなぁ〜〜〜。
 物腰柔らかだし、大人しそうだし……笑顔もチョイ可愛いし。
 『SSR初対面キモ不審者』の俺にも、全然ヒかないで話聞いてくれっし……)

 だからこそ、『グロテスキュアリー』の視界を明かすわけにはいかないのだが。
 彼女はきっと一般人だろうし、猶更だ。


 …………。


(誰だろうが、『怪物』に人間襲わせるわけにゃあいかねーが……
 『イイ人』を救ったって思うと、何かスゲー得した気になるな。
 …………LI〇Eの連絡先とか、ワンチャン……
 いやいや、初対面でキモすぎだろ。ここら辺がベストな『引き際』と見たぜ)

912中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/15(水) 21:26:05
>>911

「どうっスかねぇ」

「私、この世にあるものはなんだって繋がってると思いますよ」

その言葉の意味を中務は教えない。
彼女の中にある絶対的ルール。
この世のあらゆる存在が存在する理由。
即ち、役割という割り振りによって全てが存在しているという価値観。


「あ、そういえばお名前聞いてなかったっスね」

「私、えっと、中務千尋って言うんですけど」

「お兄さんは?」

913宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/15(水) 23:42:49
>>912

「? ……ふぅん」

 言葉の意味は計りかねたが、おそらくは彼女の信条のようなものだろう。
 初対面で、あまり踏み込みすぎるのも礼儀がない。相槌のみに留める。

「宍戸。宍戸 獅堂。高3」

「ライオンの獅子の『獅』に、威風堂々の『堂』ね」

 声に自嘲の色が混じる。
 我ながら、似つかわしくない名前だ。

「『お兄さん』……てコトは、もしかして年下?」

 女性の外見は、特に見た目に分かりにくい。
 こちらから年齢にも触れにくいし、相手からとっかかりをもらったのはありがたいことだ。

「まあ、縁があれば……せっかくお互いに名前も知ったことだし」
「よけりゃ、また」

 ぜひ逢えればよいのだろうが、とはいえ、あまりがっついた感じも出したくはない。
 別れ際は、さらり、と締めたい。


(……っしゃァ〜〜〜〜〜名前ゲットォ〜〜〜〜〜!!!)


 目の見えないほど遠くで、ちょっとガッツポーズをしたのは秘密だ。

914中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/16(木) 00:09:59
>>913

「私高二なんスよね」

「宍戸さんですね、どうも」

遠くに行く宍戸を見送る。
そして、中務のスマートフォンに映る映像。
ミミズの死骸が画面の中で踊っていた。

「死んでるか生きてるか、っスよ」

「この世の全てのものは死んでるやつ以外は生きているんスから」

『エイミー・ワインハウス』
無生物のキャスティング・ボートを握るもの。
万物は踊る。
それを中務は知っていた。

915白町 千律『ハード・タイムス』:2020/04/16(木) 01:52:36

             ギ …

その少女は『学校指定ジャージ』を着ていた。
何を捉えるとも思えない、アンテナのように跳ねた頭頂部の一房を筆頭に、
流れるように後ろへ跳ねるショートカットと、見開いたような目が特徴だった。

        ギ …

バツ印を模した大きな髪飾りが、月光を反射して照る。
バランスを取るように両手を広げ、目を閉じて歩く。


――――『湖の上へ歩き出す少女』がいた。


             ギ…


その傍らには『ヴィジョン』が浮かんでいた。
手足が長く、蜘蛛めいて不気味で、白い。

水面の上1mに『広げられ』足場となる『大布』と共に、
見る者が見たならば、その『奇跡』ないし『奇術』の正体を示してもいた。

916白町 千律『ハード・タイムス』:2020/04/21(火) 01:20:49
>>915

「『2m』……『是正』……………」

       ゴソ   ゴソ

――やがて布をまとめて、その場を立ち去るのだった。

917ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/26(日) 04:07:19

『女』がいた。
白・青・紫の三色で構成されたポンパドールヘア。
古代ギリシャの装束である『キトン』を身に纏い、
足元は『サンダル』だ。
風変わりだが、『それ以外の特徴』に比べれば、
大きく目立つ部分でもない。
背中には『翼』が生え、両腕は『羽毛』で覆われ、
踵に『蹴爪』が備わっている。
神話に登場する『鳥人』を思わせる姿の女だ。
この街で、彼女は『ハーピー』と名乗っている。

  「♪♪♪」
          「♪♪♪」
                  「♪♪♪」

女が『鳥のような声』を発する。
彼女は『枝の上』に座っていた。
大体『10m』程の高さだろうか。
足を掛けられそうな場所もなく、どうやって登ったかは不明だ。
そこに腰を下ろして、『誰かと喋っている』。

     カァ カァ
           カァ カァ カァ

『カラス』だ。
女は『カラスと喋っている』。
そう見えるだけで、実際は違うのかもしれない。
しかし、『会話が成立している』と思える程に『自然』だ。
そもそも、至近距離にいるというのに、
カラスは全く逃げようとしない。

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

『会話』は続く。
なかなか『盛り上がっている』ようだ。
その『内容』は定かではない。

918猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/28(火) 21:06:07
>>917

そこへ少年が通りがかった。
青みがかった髪色に、金色の瞳。
ベレー帽を被り、白いワイシャツにベストを付け、ハーフパンツを履いている。
何かの声が聞こえ、木の上を見上げた。そこで謎の『ハーピー』と、カラスが話している様子が見えた。

「ねえ、お姉さん。お姉さんは鳥とお話しできるの?」

少年は、訊ねた。

919ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/28(火) 23:07:17
>>918

  ピクッ……

呼び掛けられて、女の動きが止まる。
その視線が、少年の姿を捉えた。
見覚えのない相手だ。

     「 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 」

  バ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ ァ ッ

女が『声』を発すると、唐突に『多量のカラス』が飛来した。
それらが厚いカーテンのように、女の姿を覆い隠す。
『カラスの群れ』が通過した後、枝の上には誰もいなかった。

「――――私、『ハーピー』と申します」

          ザッ

「こんにちは、『ニンゲン』の方」

女が『いた』。
木の陰から出てきて、恭しく少年に挨拶する。
いつの間にか降りてきたらしい。

  カァ カァ

肩には『一羽のカラス』が留まっていた。
先程まで喋っていたカラスのようだ。
やはり、野鳥とは思えない程に『馴れている』。

「ええ――『出来ます』」

「何故なら、私は『ハーピー』で御座いますので」

920猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/28(火) 23:38:40
>>919

大量のカラスが集まった姿を見て、少年は大きい目を少し細めた。
アレに襲われたらタダじゃあすまないかな、なんて事を考えながら、女性の次の動きを待つ。

カーテンみたいになったカラスが消えた後には、その女性の姿は木の上になくて。
気付いたら目の前の地面の上にいた。すごいなぁ、なんてぼんやり考える。

「『ハーピー』ってゲームで見たことあるよ。手足が鳥の、女の人でしょ」

「じゃあ人間の言葉も、鳥の言葉も分かるんだ。鳥って普段はどんなこと考えてるの?」

そう訊ねながら、近づいて行く。ボクが近付いても鳥は平気なのかな。

921ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 00:01:26
>>920

「よく御存知でいらっしゃいますね。
 ええ、『ハーピー』はギリシャ神話の『怪物』とされております」

「文献によっては、
 非常に邪悪で『ニンゲン』を襲う事もあるそうで――」

目を細め、少年に謎めいた笑いを向ける。
『怪物』の名を名乗る女は、確かにギリシャ風のいでたちだ。
そして、鳥の特徴も備えている。

「彼らの考える事は、あなた方と変わりありません。
 『昨日』の事、『今日』の事、そして『明日』の事で御座います」

「『鳥』に御興味がおありですか?」

カラスは少年を見ている。
しかし、様子を見ているのか逃げようとしない。
あるいは、『この女』がいるからか。

「何かお聞きになりたい事があれば、ご遠慮なくどうぞ」

うっすらと笑みを浮かべて、少年に告げる。
どうやら『通訳』するつもりらしい。
当人しか分からない以上、それが本当である保障はないが。

922猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 00:23:28
>>921

「ふうん、そうなんだ」
「お姉さんはなに食べるの?やっぱりニンゲン?」

一種の警告とも取れる言葉を耳にしながらも、少年の歩みは止まらない。
手を伸ばせば触れる位置まで来ると、羽毛などを興味深そうに見上げる。

「トクベツ、鳥さんだけに興味があるわけじゃないけど」
「動物と喋れたら面白いかなぁって」

逃げようともしない様子に、少年はますます興味が出てくる。
完全にこの女性に信頼感を抱いているということだ。野鳥は警戒心が強い、なんてのもどこかで見た。
それをここまで調教するのは、並大抵の技術ではないだろう。

「聞きたいことかぁ」
「うーん」「・・・・・『たくらん』って知ってる?」

923ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 00:46:30
>>922

「ニンゲンは食べません。
 私は『良いハーピー』で御座いますので」

「食べようと思えば食べられない事も御座いませんが」

本気とも冗談ともつかない言葉だった。
しかし、『敵意』はなさそうに見える。
少なくとも、この場で襲ってきたりはしないだろう。

「『穀物』・『野菜』・『果物』――
 その辺りが私の『好物』となっております」

どれも『鳥が食べるもの』だ。
鳥なのだから『当然』だが。
もっとも、それ以外のものでも食べる事は出来る。
この体は、人と同等の感覚を備えている。
それら外界からの刺激は、全て『ブリタニカ』に反映される。

「お気持ちは、よく分かります。
 私も『ニンゲン』の方とお話するのは、
 非常に『面白い』事で御座いますから」

『ニンゲン』――地上で最も高度な社会を築く種族。
それを研究する事が、『繁栄』を手に入れる鍵となる。
だからこそ『ブリタニカ』は、密かに人の社会に紛れ込む。

「『他所の巣に卵を託す行為』で御座いますね。
 ええ、存じ上げております」

924猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 00:57:28
>>923

「へぇー。悪い『ハーピー』ってどこかにいるの?」

「ニンゲンっておいしくないって聞くけどどうなんだろうね。」
「まぁでも、おいしくてもボクは食べたくないな。カワイソーだもん」

『ハーピー』の好物を耳にして、少年はふんふんと頷いた。
意外と人間と変わらないなぁ、なんて思うけど。そもそも珍しいものばかり食べてたら生き残れないのかもしれない。

「割とフツーだね。ボクも好きだよ、フルーツとか」
「野菜はそれなりかな。コク物ってなんだっけ、パンとかコーンとか?」

「ニンゲンと、って言うってことは、『ハーピー』さんは鳥側の人なの?人っていうか鳥なの?」

「あぁ、知ってるんだ。多分、その鳥は『たくらん』する鳥じゃないんだろうけどさ」
「その鳥は、どんな気持ちでそういう事をするんだろうねって」「ちょっと聞いてみたいな」


謎の鳥人間に臆する事もなく、質問攻めだ。

925ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 01:24:22
>>924

「私は『ニンゲン』を食べた経験は御座いません。
 もし『死ぬほど飢えていれば』食べる事もあるでしょうか。
 その時は、『悪いハーピー』になってしまうかもしれません」

「何しろ『空腹は最高のスパイス』と申しますので」

ややズレた感のある一言を付け加えた。
『ブリタニカ』は『先進的鳥類』を自負している。
通常の鳥よりも先に進んだ存在という事だ。
『人の研究』も、その一つに当たる。
しかし、『鳥である』のは変わりないため、
人の感性を完全に理解するのは難しい。

「私は『ハーピー』です。
 『ヒトと鳥を繋ぐ存在』だとお考え下さい。
 普段は、街で『パフォーマンス』を行っておりますので、
 機会が御座いましたら是非ご覧下さいませ」

『この体』と違い、『ブリタニカ』の肉体は非常に脆い。
ゆえに、『正体の秘匿』は『絶対』。
『ハーピー』を名乗るのは、そのためでもある。

「『どういう気持ちか』――――ですか?」

          グ リ ン ッ

ややオーバーな程に、大きく首を傾げる。
観察する時の『癖』だ。
この姿の時には必要ない動作だが、身に付いた癖というのは、
なかなか抜けないものだ。

「はい、通常この種は『托卵』を行いません。
 その質問にお答えする事は、少々難しいと存じます」

「何故その質問をなさったか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

926猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 20:33:12
>>925

「うわぁ。やばたにえん」
「でも確かに、他に食べ物なかったらニンゲンのお肉でも食べちゃうかなぁ」
「あ、ボクはあまりお肉付いてないからおいしくないと思うよ?」

顎に手を当てて、ふぅむと考える。そのまま空腹で死んでしまうくらいなら、
目の前に人間の肉と言われた肉があったら食べてしまうかもしれない。そのままの姿だったらムリ。

「『パフォーマー』なんだ、ハーピーのお姉さんは」
「歓楽街の方で芸をやる時は、気を付けてね。あまり目立ち過ぎるとヤバーい人に狙われちゃうから」

さっきみたいに鳥に言うことを聞かせられるなら、見せ物としてほとんどのことはできるだろう。
色んな年の人からも受けが良さそうだ。お店に来た人に、勧めてみてもいいかもしれない。
こっそり、さっきから見ていた『羽毛』に触れてみる。もふもふしてるんだろうか。


>「何故その質問をなさったか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

『クリン』

『ハーピー』が首を傾げるのに合わせて、少年も同じ方向に首を傾げた。
同じ角度でしばらく目を合わせた後、彼は明後日の方を向く。

「別に、大したことじゃないよ。ただ、自分の子供を捨てる親の気持ちって、どんなのかなって」
「…まぁ、そもそも親の気持ちなんて分からないけどね。ボク子供いないし」

そう言って、少年は肩をすくめた。
人間の行動を常日頃研究している『ブリタニカ』には、あるいはこれらの仕草から、
この言葉の中に『嘘』があると見抜くことができるかもしれない。

927ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 22:33:59
>>926

「幸い食糧には不自由しておりません。
 私は『パフォーマー』で御座いますので。
 ご覧下さった皆様から、十分な金額を頂戴しております」

野生の身にとって、『食料の安定的な確保』は、
真っ先に解決せねばならない問題だった。
そのために考え出したのが、
『ストリートパフォーマー・ハーピー』という存在だ。
『パフォーマー』として『食い扶持』を手に入れ、
かつ自然な形で人間社会に溶け込める。
『一石二鳥』とは、まさしくこの事だろう。
ただ、『一石二鳥』という『字面』は気に入らないが。

「有り難う御座います。ご心配には及びません。
 こう見えても、私は『素早い』ですので。
 そんじょそこらのニンゲンに捕まるような事は御座いません」

『この体』が全力で走れば、
そのスピードは『チーター』にも匹敵する。
引き離した所で『本来の姿』に戻り、
大空に舞い上がってしまえば見つからない。
これまでも、そうして切り抜けてきた。

      ――――モフッ

『羽毛』は、とても柔らかい手触りだった。
作り物とは思えない。
極めて『本物』に近い感触――というより『本物』かもしれない。
同時に、ほのかに漂う『不思議な香り』。
香ばしいナッツのような、晴れた日に干した布団のような、
もしくはバラの香水のような……。
人によって、表現の分かれる匂いだ。
ただ、悪い匂いではない。

「哺乳類と違って、鳥の表情は大きく変化致しません。
 『飛ぶために不要なもの』を極力減らさねばなりませんので。
 『表情筋』も、その一つで御座います」

「ですが、ニンゲンと同様に『感情』を備えております。
 意地悪な相手には『嫌がらせ』をしたくなります。
 時には『嘘』もつきます」

「それを暴く事もあれば、暴かない事も御座います。
 その点も、あなた方と同様で御座います」

『ブリタニカ』自身、『正体』を隠すために嘘をついている。
そして、それを暴かれないように立ち回っている。
もし、正体を知ろうとする者が現れた時は、
『全力』で対処する必要が出てくる。
だから、この少年が嘘をついていたとしても、
それを暴くような気は起こらなかった。
自分自身も、暴かれると困る『秘密』を持っているからだ。

「――私の『羽』は如何ですか?」

928猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 23:18:23
>>927

「お姉さん、売れそうだもんね。さっきのカラスと協力して登場とかカッコ良かったもん」

ハーピーのお姉さんの人気がある限りは、ニンゲンが食糧になることはなさそうだ。
少なくとも、しばらくは身の危険を感じなくて済みそう。

「ほえー、運動神経もいいんだ?そういや木の上に登ってたっけ」
「特に手をひっかけられそうな場所なんかもなかったのに…そういえばお姉さん飛べるの?」

木登りが得意、では説明のつかない高さだった気がする。
でもこの人なら、その羽を使って飛べるのかも。だとしたらスゴい。それだけでも食べていけそう。


>      ――――モフッ


「ふ」
「ふおおおおおっ?」

あまりのもふもふさにやられた。かなりのもふもふっぷりだ。
いや、人生で一番のもふもふかもしれない。近所のさもえど?犬よりもすごい。
頭から突っ込む。このもふもふっぷりは、全身で感じなければ。

「…ふーん?よく分かんないけど、ニンゲンの事にも詳しいんだね、お姉さん」
「鳥もニンゲンも、やっぱり感情があって、イヤな相手にはイヤなことするんだ」

ブリタニカの指摘が自分のついたウソを指し示しているとも気付かず、『羽毛』に頭を突っ込みながら、頷く。

「さいこーです」
「いや、お姉さん、これそこら辺の人をもふらせるだけでもお金取れちゃうな…」

くんかくんか。いい匂い、本当の鳥みたい。

929ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 23:47:20
>>928

『この体』と同じく、『羽毛』は実体化したスタンドだ。
しかし、その感触は本物と変わらない。
顔を埋めれば、『羽毛布団』に包まれたような感覚があった。

「『飛ぶ』事は、なるべく控えるようにしております。
 『ヤバイ人」に目を付けられては困りますので」

木に登れたのは『飛んだ』からだ。
降りてきたのも、カラスの群れに紛れて本来の姿に戻り、
木陰で『また戻った』からだった。
『この姿』のままでは飛べない。
飛ぶためには『正体』を晒す必要がある。
ゆえに、人前では見せられないのだ。

              ――――――ニヤッ

『お金が取れる』という言葉を聞いた瞬間、
『良い事に気付いた』かのように、意味ありげに口元を歪めた。
羽毛に顔を埋めている少年には見えなかったかもしれない。
『そういう手』もあるのか――そんな笑みだった。

「――こうすれば、『より』お気に召して頂けると存じます」

           ギ ュ ッ

そう言うと、両腕を回して少年の体を抱き締めた。
柔らかな『羽毛』が、小柄な体を包み込んだ。
『独特の香り』が鼻腔をくすぐる。

930猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 00:24:20
>>929

「うーん、その方がいいよ…お姉さんは捕まったら、絶対高く売れちゃうからね」

自ら動き出した羽毛に包まれて、夢現のまま呟く。
どうでもいいけど、このまま寝たら気持ちいいって時って大体寝ちゃいけないよね。
流石にこのまま寝たらハーピーさんに迷惑がかかるし、公園に放置されても大変な事になるかもしれない。
名残惜しいけど、羽毛の中から離れる。あくびが出た。

「ふわぁ…ありがとう、お姉さん。鳥さんも大体同じ匂いがするの?」
「一緒に住んでみるのも、なんだか悪くない気がするね」

お金に余裕があれば、の話だけど。
鳥って飼うのにどれくらいお金が必要なんだろう。

931ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 00:50:54
>>930

「ふふふ、そうですね。私は『高い』ですので」

「ふふふふふ」

ブリタニカは『羽衣セキセイインコ』である。
翼の一部と頭の毛が逆巻いているのが特徴だ。
通常のセキセイインコよりも高値が付き、
美しさを競う品評会も行われている。
値を付けられるのは、あまり好きではない。
だが、高く評価されるのは悪い気分ではないのだ。

「ご満足頂けましたか?それは何よりでした」

「それでは、『料金』を頂戴致します」

少年が離れた後、にこやかな表情で告げる。
『冗談』には見えない顔だ。
そして、一瞬の『間』が空いた。

「――――『冗談』で御座います。
 先程も申しましたように、
 『嘘をつく』のはニンゲンだけとは限りませんので」

「ほんの少し、『ニンゲンごっこ』をしてみたくなりました」

どうやら『冗談』だったらしい。
人の真似事をするというのも、一つの『研究』。
元々『インコ』であるため、『物真似』は得意分野なのだ。

「匂いは『種類』によります。
 生まれ持った『体質』や『食べ物』によって……」

「ニンゲンの中では、『この匂いがたまらない』という方も、
 少なくないと聞いております」

『インコ特有の匂い』を愛好する人間は多いらしい。
他の種族を魅了できる事は有用だ。
それは、生存のための『武器』に成り得る。

932猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 01:05:16
>>931

『料金』を頂戴します、と言われた少年は眠そうな目をこすり、こくこくと頷いた。
ある程度、この流れも想定内だったらしい。そういう仕事に慣れているかのように。


「…うーん、まぁ仕方ないね。お姉さんも生きるためだし」

後から料金を伝えるやり方はあまり良くないけど、お金になる、と言ったのはボクだから。
その責任は取るけど、最初にいくらと言わなかったから、こっちで決めさせてもらおうと、ポケットから財布を取り出そうとして。

>「――――『冗談』で御座います。

「うん、いいの?お金になるって言ったのは本当だし」「『対価』は払われるべきだよ」
「社会ってそういうものなんでしょ?ボクも似たようなお仕事してるし」

近くの木に寄りかかりながら、じっとお姉さんの瞳を見上げる。
もちろんお金に余裕があるわけじゃないから、払わなくていいと言うなら従うけど。
価値のあるものを提供したなら見返りがあるべきだと、ボクは思う。

「ほうほう、鳥の種類により違うんだね。今度スマホで調べてみよっと」
「お姉さんみたいな匂いのする鳥さんがいたらいいな。もっといい匂いのするのもいるかもだけど」

「そうだ、ハーピーのお姉さんと写真撮っていい?インスタにあげるから」
「宣伝にも繋がるから、撮って損はないと思うけど」

にこにこ笑いながら、スマホを取り出してお姉さんに見せる。

933ブリタニカ『』ハロー・ストレンジャー:2020/04/30(木) 01:24:04
>>932

「ええ、仰る通りです。
 『価値』には『対価』がつき物。
 そして、私にはそれに見合うだけの『価値』が御座います」

「ですが、私は『有料』だとは申しませんでした。
 両者の合意がなければ『ビジネス』は成立致しません。
 差し詰め『アコギな商売』と申しましょうか」

「『種族』に関わらず、社会は『信用』で成り立っております。
 『信用されない者』は、いずれ死に絶えてしまいます。
 私はそうなりたくありませんので、お気持ちだけ頂戴致します」

「それに――今は『生活』に不自由しておりませんので」

少年の申し出を、やんわりと断る。
あくどい手口というのは、『その場しのぎ』にしかならない。
最初は稼げても、すぐに立ち行かなくなるのは見えている。

「『インスタ』――『インスタ』ですか」

「『インスタ』」

「ええ、構いません。どうぞ『インスタ』なさって下さい」

新しい言葉を覚えるように、何度も繰り返す。
それが何なのかは分からない。
しかし、何やら宣伝になるらしいので承諾しておいた。

934猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 01:45:39
>>933

『ハーピー』の的確な説明は、少年の意図していた事と同じだ。
口元を隠して、くすくすと笑う。

「…へえ、さすがニンゲン社会に詳しいね」
「お姉さんの言う通りだよ。いわゆる『ぼったくり』とかで最初はお金をいっぱい稼げても、
 『SNS』とかが発達してるこのご時世、すぐに情報が共有されちゃうからね」
「そこで信用を失っちゃったら、後はお店が潰れるだけ。まぁお店ならまだやり直しができるかも
 しれないけど、お姉さんの場合は顔を見せてるからね」

悪い噂があまりに流れちゃったら、段々と『パフォーマンス』で稼ぐのも難しくなるかもしれない。
でもこのお姉さんはいいハーピーらしいし、その腕も本物だから、仮に同じ仕事の人が嫉妬して
悪い噂が流したとしても、すぐに取り返せるだろうけど。つまり心配はいらないってこと。

「…生活に不自由してないってのはいいことだよ。食べるものも、寝るところも。誰にでも、あって当たり前のものじゃないからね」

そう言いながら、スマホをインカメにしてハーピーのお姉さんの隣に移動する。
ギリギリまで手を離しながら、二人とも写真の中に収まるようにして。

「えっ、お姉さんインスタ知らないの?スマホの写真をネットにあげて、皆に見てもらうんだよ」
「まぁでも、お姉さんが今困ってないならいいかな?はい、ぴーす」

カメラに向かってピースサインをする。いえーい。
今更だけどこのお姉さんの髪色、すごーく映えるね。

935ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 02:05:33
>>934

「ええ、生活基盤がなければ『次』も御座いませんので。
 その辺りは私も『色々』と用意しております」

『次』とは『研究』の事だ。
しかし、『生存戦略』を疎かに出来ない。
全ては、その上に成立するものなのだから。
ちなみに、住む場所は『ここ』にもある。
この森の中心部に、密かに『巣箱』を設置してあるのだ。

「『情報伝達』の一種で御座いますか。
 『スマホ』は存じております。皆様、『あれ』がお好きなようで」

人間達が弄っているのを、よく見かける。
ただ、自分は持ってない。
『人外』の身では、まともな『契約』は出来ない。

「なるほど――『ピース』ですか」

「『ピース』」

少年の真似をして、『ピースサイン』をしてみせる。
写真には、少年と同じポーズの姿が写っている事だろう。
髪色は『地毛』だった。
正確には、『羽毛の色』と呼ぶべきかもしれない。
ともかく、目立つ事は間違いない。

936猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 02:27:18
>>935

『カシャツ』

「もちろん。今の中学生以上なら大体持ってるんじゃないかな」
「それだけみんなが見てるってことは、それを使って『宣伝』すれば効果バツグンってことだよ」

スマホをすいすいっと操作してすぐさまインスタにあげる。
ハッシュタグは『#パフォーマー』『#街中に現れる鳥のお姉さん』『#髪色すごいオシャレ』『#めっちゃいい匂い』辺りでいいかな。
まぁクラスメイトとかがリポストしてくれれば、それなりに広がってくれると思う。
しょせん中学生だから、あまり上客って感じではないかもしれないけど。
その内大人の目に止まったらラッキーって感じかな。

「…じゃあボクも、そろそろお仕事の時間だから。お話ありがとう、ハーピーのお姉さん」
「また今度、お姉さんのパフォーマンスを見せてもらうよ。その時はちゃんとお金を払うから」

そういえば、と思い出して。ハーフパンツのポケットに手を入れてごそごそ探す。
取り出したのは、色々なフルーツの味がするアメ玉だ。それを握った分、お姉さんに渡す。

「それは『羽毛』のお布団に対しての気持ち。対価じゃなくて、これならいいでしょ?」
「じゃあねー」

そう言って、ぶんぶんと手を振ってトリコロール色の髪のお姉さんに別れを告げる。
今更だけど、トリと『トリ』コロールをかけてるのかな。いや、たまたまかな。

937ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 20:48:48
>>936

『ブリタニカ』は『鳥』だ。
そして、その髪色は『三色』――即ち『トリコロール』。
もしかすると、『何らかの意味』があるのかもしれない……。

「――――『気持ち』」

  ジッ

渡された飴玉を見下ろす。
珍しいという訳ではない。
『気持ち』という部分を理解しようとしていたのだ。

「はい。確かに『気持ち』頂戴致しました」

「さようなら、『ニンゲンさん』」

少年に挨拶を返し、遠ざかっていく姿を見送る。
『ニンゲン』については、まだ分からない部分が多い。
それを解明する事が、『我々の種族』を栄えさせるための、
重要な『礎』となる。
いつの日か、鳥類が『制空権』を獲得し、
『世界中の空』を席巻する。
『ブリタニカ』は、そんな『ささやかな夢』を抱いていた。

         「『ピース』」

湖面に映る自分に向かって、『ピースサイン』をしてみせる。
これが何なのかも、まだ分からなかった。
『研究の余地』が尽きる事はない――――――。

938斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/05/04(月) 08:52:04
5月――ブラックバスという魚がいる。

これは元来日本には生息せず
外国から釣りの好きな人々が、その引きの強さを楽しむために
勝手に日本国内に放流した外来種である。

その繫殖力で増え続け、強い引きを実現する巨体で本来あった生態系を荒らしまわり
じゃあ釣って食って減らそう!と、しようとすればその身は臭くて食えたものではない。

 「――傲慢な人の都合で住処を移され、人の都合で殺される。」
 「いやー悲しいね、どうでもいいけど。」

   ――ヒュッ
           チャポン

今の季節に釣れる魚と言えば『ヒメマス』や『ヤマメ』だ
釣り針の先に粘土のような餌を括り付けて清流の中に放り
釣竿をホルダーに立てかけ、『嵐が丘』でも読みながら釣れるのを祈ろう

……傍でわちゃわちゃしている数匹の子猫に、ラジオの上の鳥がメチャメチャにされる前に!

939斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/05/07(木) 00:23:48
>>938

 ――パシャン!

釣り上げた魚を接続した鎖――鎖を更に接続すれば、最短距離で溶接したようになる――のを串がわりに刺し
乾燥した木切れと新聞紙で火をつけたキャンプ用の竈で焼く

表面に焦げ目がついたら子猫の前に1尾ほうってやると、最初は匂いを嗅いでいたり、警戒していたりしたようだが
途中からは一心不乱に食いだした。

 「優しいか…優しい?」

あの子は何故そんな事を言ったのだろう?

 「打算は有る、最初に良い印象を与えておけば 人間関係は後が楽だ。」

新しい苦悩、新しい苦痛

 「……猫にその必要はないだろう。」
 「何故? 猫に恨みはない 憎み怒るのは人間だけだ。」

――僕はかつて父の持っていたクーラーボックスから、キンキンに冷えた飲み物が幾らでも出てくるのを見て
それがドラえもんのポケットのような、魔法の箱だとその瞬間だけ信じていた

勿論今は信じていないし
その時も冷静に考えれば、そんなわけはないのだとすぐに解った事だった

ただ、父親と釣りに行き、あの夏の日差しの下で2人 他愛もない事を話しながら……
あの瞬間だけが、僕の中ではそれこそ魔法のように輝いていたのだ

才ゆえに何事にもすぐに飽きるような男だが
それでもこの趣味だけが続いていたのは ただそれだけが理由だと思いたい。

――そんな父の声が思い出せない。どんなに大切でも 何時かは終わりがくる、それを拒否は出来ない。
運命を否定はしない、ただ取り返したいだけだ、奇跡に縋る他は無い 他は何も思いつかない 祈るだけだ。

 「――でも祈りには意味がない」

バックと釣竿を手にし、火を消してベンチの上で丸まって眠る三匹からその場を後にする
……次が欲しい。

940三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/08(金) 21:30:25

  モグ モグ

千草です。
今、芝生で『あんパン』を食べています。
天気のいい日が続くので、外で食べてみたくなりました。
大げさかもしれませんが、『ピクニック』というのでしょうか。
この『あんパン』も、普段とは少し違った味に感じられます。

                 モク ゙モグ

千草の隣には、小さな『人形』が座っていました。
これは『ビケ』です。
『ビケ』は『人形』なので、千草のように死ぬ事はありません。
だから、見ていると落ち着きます。
言ってみれば、『お守り』のようなものです。

         モグ……

『ビケ』は『あんパン』を食べません。
『人形』ですから。
千草も『人形』だったら、死ぬ事もなくなるのでしょう。
その方が幸せなのでしょうか。
でも、もし『人形』だったら、
家族や友達や先輩達とは会えなかったでしょう。

『人形』には『人形の苦労』があるのかもしれません。
『ビケ』も苦労しているのでしょうか。
そうだとしたら、千草は一緒にいてあげようと思います。

941鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 00:34:24
>>940

いつものように素振りか、あるいは人目がなければ『スタンド』の修練でもしようかと考えて、公園を訪れた。
するとそこには、見慣れた小さな少女の姿があった。微笑みながら、声をかける。

「こんにちは、三枝さん」

ゆっくり歩いて近付くと、膝立ちになって目線を合わせる。
傍らには人形の姿が見える。三枝さんのお友達だろうか?

「お邪魔させて頂いてもいいだろうか?」

942三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 11:08:33
>>941

「あっ、鉄先輩」

「奇遇ですね。お会い出来て嬉しいです」

      ペコッ

「――――どうぞ」

何となく、寂しさのようなものを感じていた所でした。
正確には『ビケ』がいるのですが。
でも、『ビケ』は喋ってくれませんから。

「しばらく過ごしやすい日が続いていますね」

「先輩は、お散歩の途中ですか?」

何の気なしに、鉄先輩の手元を見てみます。
先輩は『剣道部』に所属していて、とても熱心な人です。
もしかすると、自主練習に来ていらっしゃるのかもしれません。

943鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 18:32:19
>>942

「ありがとう」ペコリ

礼を返して、隣に座る。隣、といっても間に人形を挟んでいるが。

「ああ、いや。今日は部活の後に、自主練をと思ってね」
「正確には、その前に軽く腹拵えをするけれど」

そう言う鉄の背中には、いつものように『竹刀袋』が、
そしてその右手には、『鈴眼』と書かれた紙袋がある。

「ところで、この子は?」

間にある人形のことを三枝さんに訊ねながら、竹刀袋を背中から外して傍へと置く。
そして紙袋を開けて、中から『スポーツ羊羹』を取り出した。

944三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 20:09:55
>>943

「自主練習ですか……。
 部活が終わった後も鉄先輩は頑張ってらっしゃるのですね」

鉄先輩は、とても熱心な方です。
真摯な姿勢だけではなく、真面目で誠実な人でもあります。
だからこそ、心から尊敬しています。

「――――お疲れ様です」

きっと先輩は、沢山の人達から慕われているのでしょう。
鉄先輩は『立派な人』ですから。
いつか自分も、そんな風になれたら嬉しいのですが。

「あ、ええと…………」

ほんの少し、迷いました。
変に思われないかどうか心配だったからです。
でも、『嘘をつく』のは良くない事です。

「これは『ビケ』です。その――『お守り』のようなものです」

「…………変だと思いませんでしたか?」

不安で視線を泳がせていた時、『羊羹』が目に入りました。
手早くエネルギーを補給できる『羊羹』は、
山登りの行動食としてもポピュラーだと聞いた事があります。
部活動が終わった後の自主練習の前に食べるのは、
とても『合理的』だと思いました。

945鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 20:32:33
>>944

「はは。そうでもないと、オレは強くなれないからな」
「自分より強い相手に勝つ為には、事前に出来る事を全てやる事で、ようやくスタートラインに立てるんだ」

自分は凡才だ。同学年の中では少し背が高いくらいで、他に特別優れたものはない。
県大会に出られたのも、人一倍の努力をしたからだと自負している。
そして、相手の動きを見て立ち回りや苦手な技を把握し、それに合わせて動く。
自分にできるのは、それだけだ。

「そうか、『ビケ』というんだな。よろしく、『ビケ』」

そう言って、人形の片手を握る。

「確かに珍しい名前だとは思うが、変だとは思わないさ」「三枝さんとの付き合いは長いのか?」

『羊羹』を齧りながら、首を振る。『ビケ』という名には、何らかの意味があるんだろうか。
それにしても、やはりここの羊羹は美味い。更にエネルギーにもなるのだから、一石二鳥だ。

946三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 20:58:58
>>945

「そう――――ですか」

中学生になって『人形』を持ち歩いているというのは、
あまり良くない事ではないのかもしれません。
そのように思われる事が、少しだけ不安でした。
だから、先輩の言葉を聞いて安心しました。

「『それなりに長い』、でしょうか……。
 他の方と比べてどうなのかは分かりませんが……」

『人形を持ち歩く人』を、あまり見た事がありませんから。
小学生でも、見る機会は少ないです。
小学生よりも小さな子なら、時々見かけますが。

「持っていると『安心』するんです。それで、今までずっと――」

「……『この前』の和菓子屋さんとは違うお店ですね」

紙袋の名前を見て、それに気付きました。
以前にも何度かお聞きした通り、
やはり鉄先輩は『和菓子』がお好きなようです。
見ていると、何だか美味しそうに思えてきました。
『隣の芝生は青い』という事でしょうか。
手の中には、まだ『あんパン』が残っていますが。

947鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 21:50:23
>>946

「そうか。じゃあ、もう『親友』と言っても過言ではないんだな」
「君にとっての『ビケ』は、ライナスの毛布というわけだ」

それだけ長く一緒にいたなら、当然愛着も湧くだろう。大切にしているのも肯ける。
付き合いの深さに時間は関係ないという人もいるが、自分は基本的に、仲の良さは時間に比例するものだと思っている。
高校生になった今でも『親友』と呼べる友人は、幼稚園から中学生まで一緒だった一人だけだ。
友人は皆大切だが、その中でもまた特別な人間というのはいる。

「ああ、ここは後輩の石動くんが教えてくれたんだ。『大通り』にあるお店だった」
「珍しい『和菓子』なんかもあるし、どれもとても美味しかった。三枝さんも、機会があれば是非寄ってみてほしい」

そう言って、二口目を食べる。残り半分くらいだ。

「…しかし、『ビケ』は喋ることができないのが残念だな。できたら更に楽しくなるだろうに」
「それとも三枝さんは、そういう非科学的なことはあまり信じない方かな?」

948三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 22:20:31
>>947

「ええ、『美味しそう』ですし……」

  チラッ

「今度、立ち寄ってみたいと思います」

『石動さん』――聞き覚えのない名前でした。
大きな学校なので、それも当たり前の事なのでしょう。
石動さんも、和菓子がお好きなのでしょうか。

「…………はい。でも、『人形』ですから」

「千草は『人間』ですし、鳥は『鳥』。魚は『魚』です。
 生まれつきのものですし、変えられる事でもありません」

「『ありのまま』を受け入れるのが幸せな事なのかなと――」

「それぞれ良い所があって、
 それを尊重していきたいと思っています」

          ニコ

『人形』には『人形の良い所』があります。
それは『死なない』という事です。
千草は死にます。
もちろん今すぐではありませんが、いつかは死にます。
死なないからこそ、『ビケ』は安心を与えてくれるのです。

「……でも、もし喋れたら楽しいと思います。
 世の中には『髪が伸びる人形』もあると聞きますし、
 何処かに『喋る人形』もいるのかもしれません」

「鉄先輩は、『不思議な話』はお好きなのですか?」

949鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 22:50:11
>>948

「…三枝さんも、食べてみるか?」

微笑みながら、食べかけの羊羹を差し出して訊ねる。
何となく三枝さんの考えていることが分かってしまった。
『鈴眼』の味の美味しさを確かめる意味でも、いいかもしれない。

「やはり君は大人な一面もあるな。それは確かにその通りで、ないものを求め続けるのは辛い事だ」
「そして『鳥』は空を飛べるし、『魚』は水の中で生きる事ができる。
 それを認め尊重することは、とても大事だとオレも思うよ」

三枝の笑顔に頷きながら、紙袋の中から『最中』を取り出す。羊羹の次に食べる予定だったものだ。

「そうだな…昔話の『妖怪退治』なんかは好きだ。小学生の頃は色々調べたりしたよ」
「ひょっとしたら『ビケ』にも何か超常の力が働いて、話せるようになるかもしれない、なんて思ったりするんだ」
「それこそ、『超能力』で眠れる意思を目覚めさせる、とかでもいいかもしれない」

950三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 23:19:51
>>949

「…………いいんですか?」

そう言いながら、羊羹を受け取ってしまいました。
『顔』に出ていたのでしょうか。
先輩には申し訳ないですが、せっかくなので頂く事にします。

       モグ……

「――『美味しい』、です」

「『妖怪退治』――ですか?
 『狐』や『狸』は人を化かすとか……」

「あ……でも、それは『妖怪』とは違うのでしょうか?
 ええと……『河童』の話なら聞いた事があります」

「侍に手を切られた河童が、
 それを返してもらうのと引き換えに、
 薬の作り方を教えたとかで……」

        モグ……

『河童』は空想の生き物です。
少なくとも、そういう事になっています。
でも、もしかするといるのかもしれません。
今はいなくても、昔はいたのかもしれません。
そう考えてみると、何だか不思議な感じがしてきます。

         ピタ

「『超能力で』――――」

ビケは死にませんが、千草は死にます。
千草には『能力』がありますが、ビケにはありません。
それも、『違い』の一つです。

「……そうですね」

「そういう事も――あるのかもしれません」

951鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 00:09:42
>>950

「それなら良かった」ニコリ
「しかし、君は博識でもあるな…何かの本で読んだのか?
 そういうのだよ。妖怪退治と言ったが、別に倒さなくても穏便に解決できるのも良い」
「他には、そうだな…『鵺退治』なんか好きだな」
「二条天皇を悩ませた怪異を、英雄たる源頼光と家来の猪早太が退治するお話だ」

「もし興味があれば、今度本を持ってくるよ」モグモグ

男として、そういう話にはやはり目が輝いてしまう。
『シヴァルリー』のような超能力がある以上、そういった怪異ももしかしたら現実のものかもしれない。
人々を危険に晒す怪異は流石にいない方がいいが、木霊のような生き物ならいても面白いと思う。

「・・・・・」
「そういうのも面白い、というだけさ。『超能力』がこの世にあるかどうか
 なんて、実際に会ってみないと分からないもんな」
「高校生になっても、意外とこういう事を考えるのは楽しいんだ」

そして、三枝さんが話すつもりがないのなら、それもいいと思う。
何もかも共有する必要はないし、自分が『スタンド使い』であるという事を隠しておく人間は多いだろうから。
最中を食べ終え、一人うんうんと頷く。

952三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/10(日) 00:47:52
>>951

「その、少しだけですけど……」

本は出来るだけ読むようにしています。
『将来の目標』のために勉強しなければいけませんから。
色々な事を学んで、『立派な人』になって、
『素晴らしい最期』を迎えられるように。

「『鵺退治』ですか?それは知りませんでした。
 『英雄』――何だか凄そうなお話ですね」

「いつか、その本を見せて下さい。一度読んでみたいので」

『英雄』というのは『立派な人』という意味です。
きっと、見習うべき部分も見つかる事でしょう。
『妖怪』よりも、そちらの方に関心が向いてしまいました。

「はい、千草もそう思います」

「中学生でも、そういう事を考えるのは楽しいですから」

          ニコ

楽しい事ばかりではないでしょう。
幸い出会った事はありませんが、
『スタンド』の世界には危険もあるのは、何となく分かります。
でも、楽しい事もあります。
まだ少ないですが、『スタンド』が縁で知り合った方もいます。
だから、『ありのまま』を受け入れようと思うのです。

「あ……すっかり話し込んでしまいました。
 先輩は『自主練習』をされるのでしたね」

「お邪魔になるといけないので、寮に帰っています。
 先輩に負けないように、
 千草も『予習』と『復習』をしておきたいので。
 今日は鉄先輩とお話が出来て、とても楽しかったです」」

           ペコリ

「――――ありがとうございました」

『ビケ』とあんパンの袋を持って、立ち上がります。
先輩は『立派な人』です。
だから、尊敬できる先輩と同じように、
千草も頑張ろうと思いました。

953鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 01:29:12
>>952

「勤勉であることは素晴らしい。オレも見習わなきゃな」

中学一年生でなお生徒会に入り、今もなお様々な事から学び続けている立派な少女だ。
ちなみに、自分はあまり学業に自信はない。日本史と国語が多少得意だが、世界史と英語が苦手なので結局平均点だ。
決して疎かにしているつもりはないのだが。もう少し三枝さんのように、本を読む回数も増やすべきだろうか。

「ああ、それなら今度持ってくるよ。都合の良い日をLINEで伝えるから」

本当は、もっと率直に『スタンド使い』である事を訊ねる事もできたが、それでこの子を傷付けてしまうことを恐れた。
三枝さんは暴力的な話に極めて耐性が低く、少し心配になる時もある。そんな彼女が、なぜ『スタンド』を求めたのか。
あるいは、生まれつきなのか。それとも何かしらの転機があって、目覚めたのか。
『スタンド』は精神の発露であるならば、触れられたくない人もいるだろう。
中には踏み込める人間もいるのだろうが、自分はこういう人間だ。

「いや、気を遣わせてすまない」
「こちらこそありがとう。三枝さんと話すのは、色々と勉強になるよ」
「それじゃあ、また今度」

立ち上がった少女へ向けて、同じく立ち上がって会釈をする。そして傍の『ビケ』にも。
手を振って、彼女が去っていくのを黙って見送る────。

「───三枝さん。オレは源頼光のような英雄じゃあないが、それでも人を助けるためにできることがある」
「だから、さっきの『怪異』じゃあないが。困った事があったら、すぐに呼んでくれ」
「・・・・・じゃあ、また」

『スタンド使い』というものは、基本的に一般人より高い戦闘力がある。だから、本来は三枝さんの事をそこまで心配しなくてもいいのかもしれない。
ただそれでもこんな事を言ってしまうのは。
彼女の性格が戦闘向きではないこと、それに何より、彼女に妹の姿を重ねてしまっているのかもしれない。
『スタンド』が見えてしまうからこそ、トラブルに巻き込まれる事もありえるだろう。
それでもどうか、そんなものとは無縁の世界にいて欲しい。ただそう願う。

954鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 02:10:58
×源頼光
○源頼政

955三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/10(日) 21:30:34
>>953

  ガチャ…………

寮に帰ってきて、自分の部屋のドアを開けます。
朝は、ここを出て学校へ行き、夕方頃に帰ってくるのです。
最初は少し戸惑いましたが、もう慣れたものです。

「――――ふぅ」

        トスッ

椅子に腰を下ろし、机に向かいます。
『ビケ』はベッドの上に座ってもらいました。
鞄から教科書とノートを出したら、
今日の『復習』と『予習』を始めましょう。

        カリカリカリ
               カリカリカリ

「――――…………」

ふと、手が止まってしまいました。
別れ際に、鉄先輩に言われた言葉を思い出したからです。
『人を助けるために出来る事がある』と。

「『人を助けるために出来る事』……」

千草の『墓堀人』も、『誰かを助ける』事が出来るのでしょうか。
もし出来るなら――『そうしてみたい』と思います。
そうする事で、『立派な人間』に近付ける気がするからです。

                カリカリカリ
                       カリカリカリ

でも、今は『勉強』に集中する事にします。
一つの事をキチンと出来ないようでは、
『立派な人間』にはなれませんから。
でも、いつか――――
『誰かを助けられるような人』になりたいです。

956シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 00:44:51

       〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

森の奥から、『調子の外れた歌声』が聞こえる。
いや――それを『歌声』と形容する事は適切ではない。
正確には、他者を不快に陥れる『怪音波』とでも言おうか。

  〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

事実、それを聞いた人間は奇怪な『頭痛』を感じるだろう。
ここが人の少ない場所である事は不幸中の幸いだった。
ただし、『動物達の迷惑を無視すれば』という注釈は必要だ。

          〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

ずっと前から、『私』は疑問に感じている事がある。
『発生源』であるシルク自身は、どうして平気でいられるのか。
本人だけが平然としつつ、周囲に被害を及ぼす行為は、
まさしく『邪悪』以外の何物でもないと『私』は思う。

      〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

しかし、『私』にはシルクの蛮行を食い止める事は出来ない。
『私』に可能なのは、『諸悪の根源』たるシルクが、
人々を苦しめる光景を見守る事だけなのだ。
どれほど言葉を尽くしたとしても、
この物悲しさを完璧に表現するには至らない。

957猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 01:53:29
>>956

『ズキン』

「んっ…」


運悪くそこを通りがかったのは、黒い『和ゴス』のドレスに身を包んだポニーテールの少女だ。
頭を抑えながら、時折木に手を添え寄りかかりつつも、音の発生源へと向かっていく。


「なんなのかしら、この金切り声は…」

仕事の前に、宣伝を兼ねて公園を散歩をしようかと思っていたら。騒音を超えて、破壊力を持った音が森の奥から聞こえてきた。
本当はそのまま離れても良かったのだが、その音源に対する好奇心が勝った。
とはいえ、今は半分ほど後悔している。もう少し歩いて見つからなければ、諦めて帰ってしまおう。
そう考えながら、音の主へと近づいていく。

958シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 13:58:27
>>957

森の中を進んでいくと、徐々に『音源』が見えてきた。
同じくらいの年齢らしい少女だ。
『燕尾服』風に改造した制服を着ている。
どうやら『歌っている』らしい。
それを『歌』と呼ぶのであれば。

   〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

          ザッ

「――えっ?あ、あれっ?」

「ひ、人がいたの?うぅ、恥ずかしいなぁ……」

不意に歌うのを止めた少女が、そちらを向いた。
襟の辺りに、コウモリ型の『ピンマイク』がくっついている。
『スタンド』だ。

        《………………》

その隣に『私』――『トワイライト・ゾーン』がいた。
人間の目には『奇妙な生物』が立っているように映るだろう。
『異次元生物』と表現するのが分かり易いかもしれない。

959猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 19:07:59
>>958

「まさか、本当に人間の声なの…?」

ようやく辿り着いた先に見えたのは、発生練習をしていた一人の少女だった。
もっともあの音響兵器を声と呼ぶなら、だが。
しかもあの『改造制服』には見覚えがある。同学年の少女だ。クラスは違うが。
こちらは格好も髪型も『普段』と違う。恐らくは気付かれないと思う、というかそうであってほしい。

「─────こんにちは」ペコリ

スカートの端をつまみ、笑顔で軽く一礼。
色々と訊ねたいことはある。その『スタンド』や、隣に立つ見たことのない生き物についてだ。
だが、まずは敵意の有無を確かめなければ。

「ねぇ、こんなところで何をしていたの?」

960シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 20:07:51
>>959

『私』は、現れた『少女』の姿を目で追った。
もし可能であれば、『ここは危険だ』と警告していただろう。
清月学園中等部において、
シルクは『合唱部のお荷物部員』として知られている。
その歌声を耳にした者は、
例外なく言い知れぬ不快感に襲われる事になる。
もっとも悪質なのは、シルク自身に『悪意が無い』という点だ。

「あっ――こ、こんにちはっ!」

     ペコッ

(ホントは誰かが近付いてたら、
 『エコロケーション』で分かるはずなんだけど……。
 集中しすぎちゃってたのかなぁ?)

思いがけず丁寧に挨拶され、慌てて挨拶を返す。
少女に似た同学年の『少年』は知っていた。
しかし、『練習』を見られて動揺していた事もあり、
全く気付かなかった。

「えっと、『歌の練習』をしてるんですよ。
 私、まだまだ『上手じゃない』から、
 誰かに聞かれちゃったら恥ずかしいし……」

「それで、人のいない場所で『練習』しようかなって。
 エヘ……でも、見られちゃいましたね」

『敵意』は感じられない。
そこが、シルクという少女の厄介な部分だった。
すなわち、『敵意の無い人災』だ。

961猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 20:38:17
>>960

「─────」
「お歌の。練習。」コクコク

気の抜けたような顔で、相槌を打ちつつオウム返しにこの子の言葉を繰り返す。
『スタンド』能力の練習、というか破壊力を確かめていた、とかならまだ分かるけれど。
ただ、この子がウソをついている気もしない。別に他人のウソを見抜けるとかそういう特技はないけれど。
同い年の子よりは、周囲にウソの多い環境にいると思う。

「うふふ。それで、あんな声が遠くから聞こえたのね」
「確かに、わたしも今までで一度も聞いたことのないようなお歌だったけれど」

両手を後ろで組みながら、ゆっくりと目の前の少女に近付く。
そうして状態を折り曲げて、間近で少女のピンマイクをじっと見つめた。
手を伸ばし、それに触ってみる。

「ひょっとして、それはこの子が悪さをしているんじゃないかしら?」

962シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』[:2020/05/22(金) 21:31:19
>>961

「私、歌うのが大好きなんです。学校の『合唱部』にも入ってて」

「もっともっと練習して、
 早く上手くなりたいなぁって思ってるんですっ。
 将来は、歌を歌う職業に就きたいので!」

見知らぬ少女の手が『ピンマイク』に伸びていく。
不思議に思いながら、その様子を見つめる。
『トワイライト・トーン』は実体化していないので、
『カーマ・カメレオン』を発現しているのであれば触れるだろう。

「『この子』って…………見えるんですか!?
 『トワイライト・トーン』が!」

(やっぱり私だけじゃなかったんだ!もしかして、この人も!?)

驚きを隠せない。
自分以外に『見える』人間に出会ったのは初めてだ。
出会ったばかりの相手ではあるが、何となく親近感を覚えた。

              ツヅラシルク
「あ、あの……!私、『黒葛純白』って言います。
 『シルク』って呼んで下さい!」

「『見える人』に会ったのは初めてで……。
 なんだか感動しちゃいました!」

『私』は、二人のやり取りを観察していた。
シルクは、ここに『私』がいる事を忘れているらしい。
『私』は実体化している為、誰にでも見えるし触れられる。
出くわしたのが『力を持たない者』であったなら、
シルクは説明に苦しんでいただろう。
その意味では、この少女が『力を持つ者』であるのは、
幸いだったと言える。

963猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 21:46:17
>>962

「あら」

スウッ

案の定、自分の指は『ピンマイク』をすり抜けた。
自分以外のを見るのは初めてだったが、これで確信した。間違いなく『スタンド』だ。
しかし、目で見えているのに触れないのはやはり不思議だ。ボクのスタンドには自分で触れるだけに、これもまた初体験だ。
一歩離れ、また目の前の女の子をじっと見た。

(ああ、そういえば『黒葛』さんって名字だったっけ。名前に黒と白が入ってたのを覚えてる)

「『シルク』ちゃん。ふふ、覚えたわ」
「あたしはね、『林檎』って言うの。よろしくね、『シルク』ちゃん」
「あたしも初めてなのよ、『見える人』。それがこんなに年の近い子で、とても嬉しいわ」

にっこりと笑い、小さく首を傾げる。チラリ、と後ろに立つ生き物を見ながら。

「ねぇ、シルクちゃん。近くにいるあなたのお友達も、あなたの『能力』と関係あるのかしら?」

基本的な決まりとして、一人につき能力は一人、そんなことを言っていた気がする。
だからあの怪音が能力であるなら、この生物は一体何なのだろうか。
もしシルクちゃんの目に見えていなければ、それはそれでミステリーだ。

964シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 22:24:02
>>963

「林檎さん――ですね!こちらこそ、よろしくお願いします!」

           ニ コ ッ

(この子も『清月』かなぁ?
 女の子だし、同じくらいの年みたいだし、
 友達になれるといいなぁ)

そんな事を考えながら、笑顔で『和ゴス』の少女を見る。
やがて、その視線の動きに気付いた。
先にいるのは、自分が『召喚』した『異次元生物』。

「えっ?あっ――――」

(そういえば、呼んだままだったっけ。
 お喋りに夢中になって忘れちゃってたよぉ……)

「えっと……関係あるっていえばあるかもしれないです」

「この子は『別の世界』に住んでるみたいなんですけど、
 私が歌ってると、こうやって出てきてくれるんです。
 きっと、歌で『気持ちが通じ合ってる』んじゃないかなぁって、
 そう思ってます!」

この世界に『私』が現れるのは、
シルクの歌が『私』の精神に『悪影響』を及ぼすからだ。
従って、『通じ合っている』という考えは、
シルクの『妄想』に過ぎない。
それを理解させられない事が残念でならないと、『私』は思う。

「見た目はちょっと変わってますけど、
 とっても良い子なんですよ。
 私は『トワイライト・ゾーン』って呼んでます!」

「今日は練習を聞いてもらおうと思って呼んでたんです。
 大勢の前で歌うのは恥ずかしいですけど、
 やっぱり誰か聞いてくれる人がいる方が、
 気分が乗りやすいので!」

厳密には、シルク本来のスタンドは『トワイライト・トーン』だ。
『トワイライト・ゾーン』は、
『トワイライト・トーン』によって『異次元』から呼び出される存在。
それらを別々として見れば、
シルクは『二つのスタンド』を所有していると言えるだろう。

965猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 23:02:36
>>964

「歌で、出てくる。そうなのね。うん、気持ちは分からなくもないわ」

この子の言葉通り、その世界では本当にあの怪音が好まれているのかもしれない。
ただ、逆に目覚まし時計のように。耳をつんざき、頭痛を呼ぶ程の大音量で呼ばれているのだとしたら。
あまりにも可哀想だ。もっとも、言葉は通じないだろうけど。

「こんにちは、『トワイライト・ゾーン』さん?」

顔色を伺うように、下から見上げてみる。これで日本語が返ってきたら、面白いのだけれど。

「ねぇ、シルクちゃん。さっきの質問なのだけれど」
「あなたが『スタンド』を使わずに歌ったら、どうなるのかしら?」

あの音響兵器は、多分スタンド能力が関わっているはず。そうでなければおかしい。
だとすれば、スイッチを切ればそれで済むはずだけれど…。

966シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 23:38:11
>>965

《………………》

体長『2m』の『トワイライト・ゾーン』が、
無言で林檎を見下ろしている。
『別次元の存在』となると、やはり意思の疎通は難しいようだ。
シルクには可能なのだろうか。
少なくとも、『召喚』出来るのは間違いない。
ただし、本当に理解し合えているかは不明だ。

「『トワイライト・トーン』を使わずに……ですか?」

     ――――フ ッ

「えっと――じゃあ、歌いますねっ」

襟元から、『ピンマイク』のスタンドが消えた。
林檎の考えが正しければ、これで『正常』に戻るはずだ。
そう、『普通』なら――――。

  〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

      〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

          〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

『変わっていない』。
その『壊滅的な歌声』は、
スタンドを発現している時と『全く同じ』だった。
この『怪音波』は、『スタンド能力』とは『無関係』らしい。

967猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 00:03:35
>>966

反応がない事に頷き、まぁそうだろうなと納得する。
しかし、こんな見慣れない生き物を呼び出しても動じないとは。
このシルクちゃん、案外大物なのかもしれない。

「ええ、お願いね」

喉元からピンマイクが消えたのを見て、オンオフができない説は消えた。
これで、根本的な問題は解決するんじゃないか─────。

「っ?!」 バッ

思わず耳を抑え、後ずさる。
できるなら、片手を上げて歌声をやめさせたい。その時ら腕で耳を抑えよう。

「いえ、シルクちゃん。あなたのお声、どうなってるのかしら」
「その。『スタンド』に目覚める前から、そういう感じだったの?」

968シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/23(土) 00:33:17
>>967

「――――?」

突然の林檎の動きを見てキョトンとした表情を浮かべ、
歌うのを止めた。
本人には『自覚』がないらしい。
最初に言っていた通り、
シルク自身も『上手くない』とは思っている。
実際は『それ以上』なのだが、彼女は理解していない。
それゆえに、本人の認識と実情には、
大きな『ズレ』が存在していた。

「あっ、ごめんなさい……。
 やっぱり、私って『上手じゃない』ですよね……。
 こんなことじゃ、『歌手』になれないですよね……」

    ショボン……

目に見えて肩を落とし、沈んだ様子で俯く。
しかし、それは一瞬の事だった。
すぐさま顔を上げて、力強く両手を握る。

           グッ グッ

「ううん!ここで挫けちゃダメ!
 諦めなければ、いつか必ず夢は叶うんだから!」

「うん!落ち込みタイム終了!よーし、頑張ろう!」

打って変わった明るい声色で、元気よく自分に言い聞かせる。
非常に『前向き』な性格のようだ。
それが、シルクの『厄介な一面』でもあった。

969猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 00:51:54
>>968

「──────────」

成る程、ある程度理解できた。
第一に、この子の歌声は『頭痛』を呼び起こすほどに音痴なこと。ただ、これは『スタンド』ではない。
信じられないけれど、マンガのキャラのように、歌の下手さが極まってこうなったようだ。
『スタンド』そのものもマンガのような超能力だから、どうこうは言えないけど。
第二に、それは本人には一切影響がないこと。だから自分の下手さに気付くことはできない。
やっぱり、と言ってるからには、今までに何度か注意されてるんだろうけど。
第三に、シルクちゃんはすごい前向きであること。だから、誰から何と言われようと諦めないのだろう。
彼女に羞恥心があって本当に良かったと思う。人前で歌い出してしまったら、ちょっとした騒ぎになりかねないから。

(全てが噛み合って、とんでもない事になってるなぁ。ぴえん)

俯いて心の中で涙を流しつつ、小さく溜め息をつく。
そして今まで浮かべていた笑顔を消し、じっと大きな瞳でシルクを見つめた。

「あたしは、あなたの歌声を聴くと、『頭痛』がしてしまうみたい。最初、それがあなたの『能力』かと思ってたのだけれど」
「違うみたい。生まれつき、あなたの『音域』は人間のそれと、大きく外れてるみたいね」

「それでも、人と大きく違うことはメリットよね。この時代、少し上手くても、目立つものがなければ売れないもの」
「いずれちゃんと聞こえるようになったら、その時はシルクちゃん、きっと素敵な歌声になると思うわ」
「そうしたら、一緒にカラオケでも行きましょうね」

再び笑顔を浮かべ、首を傾げる。ポニーテールがふわりと揺れた。
もっとも、その機会はしばらくないだろうことを、林檎自体もなんとなく感じていた。

970シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/23(土) 01:24:52
>>969

林檎の分析は的を得ていた。
『天災的な歌唱力』と『自身に対する無自覚』に加えて、
『どこまでも前向きな性格』――
それらの要素が重なった結果、
シルクという少女は形作られている。
ある意味では、『運命の悪戯』とも呼べるかもしれない。

「ありがとうございますっ。
 私、いつも『一人カラオケ』ばっかりだから、
 すっごく嬉しいです!」

理由は簡単だった。
『誰も一緒に行ってくれない』から。
だから、一人で行くしかない。

「林檎さんとカラオケするの、楽しみにしてますねっ!」

         ニ コ ッ

心からの笑顔で、林檎の言葉に応じる。
それが実現するのは何年後か、あるいは何十年後か。
少なくとも、『長い時間』が必要なのは間違いない。

《………………》

林檎と名乗る少女に視線を向けながら、『私』は思った。
会話は一段落している。
今なら、自然に立ち去る事が出来るだろう。
この『危険地帯』を離れるのなら『今の内』だ。
シルクの『被害者』が増えるのは、好ましい事ではない。

971猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 01:39:07
>>970

一緒にカラオケに行きたい、と言ったのはウソじゃない。
歌が壊滅的に、むしろ超能力に匹敵するレベルで下手なのさえ除けば、シルクちゃんは前向きで明るくて、いい子だ。
だからこそ、歌が上手くなってさえくれれば。心の底から、本当にそう思う。

ああ、でもその時はこの格好で行かなきゃ。
自分がどっちの姿で知り合ったか、間違えないようにしないとね───と思ってたら、『トワイライト・ゾーン』からの視線を感じた。

歌声の主人へと近付くものを警戒しているのか。それとも、実は同じ被害者を心配しているのか。
何にせよ、この怪音の正体は突き止めたし、自分もそろそろ『歓楽街』の方へ向かわなければならない。
彼(実は女の子かも?)へクスリと笑い、シルクちゃんへと近付く。

「それじゃあ、あたしは帰るわ。練習のお邪魔をしても悪いもの」
「また会いましょう、シルクちゃん」

ばいばい、と手を振って、公園の入り口へと向かう。
『スタンド使い』の知り合いができたのは嬉しいが、同時に『スタンド』でなくとも
中にはそれに匹敵する力を持つ人もいるんだ、と知ることができた。
今日は色々な意味で、貴重な体験だったなぁと思う。

972今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/02(火) 22:10:36

今日は休みの日。

この前、カメラを買ったんだよね。
うちには写真立てはあるけど、写真が無かったから。

「…………」

       スッ

別に湖の写真を飾りたいわけじゃないんだ。
ただ、練習をするのが、フツーだと思った。
だからカメラを持ったまま、湖畔を歩いてるんだ。

973夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/02(火) 22:57:51
>>972

    ザッ

ながねん『ミカクニンセイブツ』をおいつづけてきた、
ワレワレ『UMAちょうさはん』のモトに、
あるひ、ひとつのユウリョクジョーホーがもたらされた……。
サイキンこのあたりで、
『キミョーなセイブツ』のモクゲキがあいついでいるという……!!
ワレワレはシンジツをたしかめるべく、
さっそくヒコウキでゲンチにちょっこうした!!

            ザッ

昨日観た『秘境探検ドキュメンタリー』に影響されたせいで、
探検家になりきって湖畔を歩く。
もちろん、そう都合よく『UMA』が見つかるとは思っていない。
しかし、このまえの『カマキリ』のように、
『まだみたことのないイキモノ』は、ヤマほどいるのだ。
そういうイキモノをみつけるコトが、
このタンケンのモクテキだった。
もし『ダイイチハッケンシャ』になったときのために、
ナマエかんがえとかないとな!!

                     ザッ

「――――おん??」

「お〜〜〜い!!イズミ〜〜〜ン!!」

イズミンの姿を見かけて、手を振りながら走っていく。
もしかするとイズミンも、
『レイのセイブツ』のショウタイをあばきにきたのかもしれない!!
オドロキのてんかいはCMのあと!!

974今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/02(火) 23:18:29
>>973

「あっ!」「ユメミンじゃないですか〜」

思いがけずに友達と会った。
私は笑って、カメラを持ってない手を振る。

「こんにちは、ユメミン」
「奇遇ですねえ。何もないところで」

周りを見渡す。
フツーに、何もない景色。
それとも『何もないがある』って言うのかな。

「今日は……お散歩ですか?」
「それとも」「何か、不思議なものを探してたりしてっ」

975夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/02(火) 23:40:12
>>974

「ん〜〜〜『ミカクニンセイブツ』をさがしてる!!
 このまえは『カマキリ』みつけたから、
 きょうはチガウやつをみつけようとおもって!!」

       キョロ キョロ
                キョロ キョロ

イズミンにつられて、辺りを見回す。
『レイのセイブツ』のコンセキは、いまだにみつからない。
やはり、あのハナシは、ただのデンセツにすぎなかったのか??
だが、ワレワレちょうさはんは、あきらめなかった。
ねばりづよいチョウサをつづけ、
ついに『テガカリ』をハッケンしたのだ!!

「で――――イズミンは??」

「『ソレ』もってるってコトは、イズミンたいいんもチョウサ??」

イズミンの『カメラ』を指差す。
これは、ユウリョクなテガカリだ。
ひょっとして、イズミンたいいんのカメラに、
『レイのセイブツ』がうつっているかもしれない……!!

976今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 00:05:58
>>975

「未確認生物!ですかっ。 いいですねえ」
「この湖、UMAが出るって噂もありますし」
「そこまでじゃなくても」
「珍しい動物見かけたとか、たまに聞きますしね」

ユメミンは私よりいろんなものを知ってる。
けど、逆に、私より全然知らない事もある。

「あ、えーと」「私は調査じゃなくって」

            『カシャッ』

適当にシャッターを切る。

「訓練、ですっ。ユメミン隊員!」

「あは」「カメラ、ついこの前買いまして〜」
「とりあえず風景とか撮って練習しようかな、って」

「でもせっかくですし、未確認生物を練習台にしちゃおうかな」

今の所は、ほんと、面白いものはなにも撮れてないんだけどね。
あんまりわかんないし。どう写せば綺麗なのかとか、難しいよね。

977夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 00:46:05
>>976

「おっ、イイね〜〜〜。よし、イズミンたいいん!!
 まだみぬ『ミカクニンセイブツ』をカメラにおさめよう!!」

    ザッ

とりあえず、適当に歩き出す。
何か変わったものが見つかるかもしれないし。
ふと視線を下ろすと、
葉っぱの上に『ミョーなモノ』がいることに気付いた。

「イズミン――――イズミン、イズミン……。
 ナンか『ヘンなの』みつけちゃった……!!」
 
「あ!!これウワサの『UMA』か??
 いや……ゼッタイそうだ……!!」

「うんうん、マチガイないな……。
 だって、こんな『ヘンなヤツ』なんだし……!!」

興奮しながら、その『ヘンなヤツ』を観察する。
ソイツは、とても小さい生き物だった。
このサイズなら、イマまでみおとされていたとしても、
フシギはないな!!

       ジィィィィィィィィィィ――――…………ッ

そして、背中に『貝殻』みたいなのを背負っている。
動き方は、かなり『ゆっくり』みたいだ。
ながきにわたるチョウサのすえ、
ワレワレはついに、
『レイのセイブツ』のハッケンにセイコウした!!

「ナマエは…………『メがとびでてる』から、
 『デメキンムシ』とかどうかな??」

「あ、それとも『ロング・アイ』とかのほうがイケてるカンジ??」

熱心に『カタツムリ』を見つめながら、名前を提案する。

978今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 01:08:44
>>977

「いいですよ、見つけたら教えてくださいねっ」

私には多分見つけられない。
図鑑とか、昔結構読んだからね。
そうこうしてると早速ユメミンが見つけたようだ。

「わ、もう見つけたんですか! 流石ですねえ」
「って」「こ」「これは……!」

かたつむりだ。どう見てもかたつむり。

「これは………………!!」

かたつむりだよ。……あ、どうしよう。
これ、ユメミンのいつものノリ?
それとも、ほんとに『見た』事ないのかな。

どう反応するのがフツーなんだろう。
こういうパターン初めてかも、難しいな。
……とりあえず、ユメミンに合わせてみよう。

「これ……貝の仲間じゃないですか? ユメミン隊員」
「『ハサミのないやどかり』かもしれません」
「『メナガカイセオイ』……はフツーすぎるか」
「それにしても遅いですね、動き」「貝が重たいのかな」

かたつむりをこんなじっくり見たのも、初めてかもね。
虫ってそんなに好きじゃないのがフツーだと思うんだ。 
だからわりと、そうしてるんだよね、いつもは。

「うーん」「やっぱり貝は捨てがたいですよ」
「『デメキンガイ』なんてどうですか、ユメミン隊員」

      『カシャ』

とりあえずカメラに収めておく。動きが遅いから、撮りやすいね。

979夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 01:35:00
>>978

「あ〜〜〜『デメキンガイ』…………」

「――――それ、イイ!!
 さすがはイズミンたいいん……。
 めのつけどころがちがうな……!!」

「いや、でも『メナガカイセオイ』もナカナカ……。
 なんか、こう……『ガクジュツテキ』っぽいヒビキだし!!」

「じゃあじゃあ、ガクメイを『メナガカイセオイ』にして、
 ワメイが『デメキンガイ』で!!どう??」

         パシャッ

「よし!!『ショウコシャシン』もゲット!!」

自分も、スマホのカメラで写真を撮っておく。
サングラスの奥の瞳が輝いている様子からは、
『本気さ』が滲み出ていた。
カタツムリを見たコトは――まだ、なかった。

「いや〜〜〜さいさきイイな〜〜〜。
 いきなり、こんなオオモノがみつかるとは……」

「――あ、もうイチマイとっとこう」

          パシャッ

別の角度から、追加でシャッターを切る。
やはり、シンシュのカイなのか……。
センモンカのイケンをあおぐひつようがあるかもしれない……。

「『アイちゃんセンセー』、ナニかしってるかな??
 あ、セイブツのセンセーじゃないからダメ??」

980今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 02:02:45
>>979

「学名と和名! いいですねっ」「本格的で」
「実際ああいうのって誰が決めてるんでしょうね?」
「第一発見者が全部決めるのかな」

「……」

それは、本当に知らない。
学名ってよくわかんないよね。
生物に詳しい人は覚えてるのかな、あれって。

「あーっ、どうでしょう?」
「先生は、なんというか」
「『私が本当に知らない事』は多分知らないんですよ」
「知ってて忘れてる事とかは、知ってる事ありますけど」
「生き物の種類とかは、うーん……」

私が生き物にそんなに詳しくないのは本当だ。
図鑑とかは、読んだんだけどね。
フツーにしか読んでないんだ。

「…………」

あ、これ、どうしよう。
ユメミン、これが何なのか本気で知らないっぽい。
そうだよね、それは全然、あり得ることだった。

「えっと〜」
「でも、あれですよね」
「もしかしたらこれ」

       スッ

ゆっくり動く殻を、同じくらいゆっくり指差す。

「……『かたつむり』の仲間、だったりするのかも?」
「私も、『生物』ってそんなに詳しくないんだけど」

「貝を背負ってて、ゆっくり動く虫なんですよ」
「ほら、『でんでん虫の歌』に出てくる、あの……」

それで、どう言うのがフツーか分からないから、ゆっくり言った。

981夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 02:32:16
>>980

          「 え 」

そう言われて一瞬固まり、また『カタツムリ』に視線を向ける。
イズミンが知ってる。
ってコトは、『シンシュのカイ』じゃない。

         「『カタツムリ』……」

  「『カイ』をせおってて『ユックリ』うごく…………」

      「『デンデンムシのウタ』………………」

『カタツムリ』――おぼろげな記憶の中に、
その名前があったのを思い出す。
ただ、『見たコトがない』から実物と結び付かなかった。
それが、イマになって繋がった。

「……『カタツムリ』」

葉っぱの上の小さなそれを、じっと見つめる。
それから少しの間、何も言わなかった。
やがて、勢いよく顔を上げる。

「――――はじめてみた!!カタツムリ!!
 まさか、『コレ』がカタツムリだったとは……・。
 カタツムリって、こんなんだったんだ!!」

「いや〜〜〜スゴい!!
 シゼンカイはシンピとナゾにみちているな〜〜〜。
 うんうん、やっぱり『ダイハッケン』だ!!」

さっきまでとは違う輝きを秘めた瞳で、
改めてカタツムリを見下ろす。
たとえ『誰も見たことのないモノ』じゃなくても、
自分にとっては『初めて見たモノ』だ。
『見たことのないモノを見た』コトには変わらない。
だから、嬉しい。
だから、これも『大発見』なんだと思える。

982今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 03:04:01
>>981

「……………………………そうっ」

固まったユメミンに、私も固まったんだ。
それは、本当に、どうすればいいか分からなかったから。

「そうですよ! 多分っ」
「貝じゃなくって、かたつむりの仲間」
「あれ、かたつむりは貝の仲間なんだっけ」

ユメミンが顔を上げた時、良かった、って思った。

「……」

そう思うより早く、私が思った気がしたんだ。
喜んでるのは、『本当の新種』だからじゃない。
ユメミンにとっての『新発見』だからなんだ。
だから怒ったり、ガッカリしたりは、してないんだ。
それが分かったのが、私は、きっと、嬉しかった。

「この大発見、ぜひ記録に残しておきましょう!」
「いつか本とかに載るかもしれません」
「ユメミン、隊員の『伝記』とか」

         『カシャ』

ユメミンとかたつむりが収まるように写す。
あんまり綺麗には、写らなかったけど。
それでも意味があると思った。

「それにしても、いるものですねえ。生き物」
「普段フツーに歩いてると、飛んでる虫は見ますけど」
「こうして葉っぱについてるのって見ないですし」

「あ、なんかいた」

他の葉っぱも見てみると、小さい変な虫もいる。
名前は分からない。多分何かの幼虫なんだろうな。
緑で、小さい。これも動きが遅かった。

「本当の『新種』がいてもおかしくないっていうか」
「『UMA』なんて噂になるのも、分かる気がしますっ」

このかたつむりだって、分からないからね。
多分よくいる種類だろうけど、新種じゃないとは限らない。

983夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 03:35:57
>>982

「おっ、さすがイズミンたいいん『てぎわ』がイイ!!
 キレイにとれてるかな??」

「あ!!そのシャシン、あとでおくってくれない??
 『デンキ』のサクシャショウカイのトコにつかいたいから」

これは、そのための『1ページ』だ。
『発見』というページを、もっともっと積み重ねていきたい。
『ページ』がたくさん集まった時、
世界に一冊だけの『本』が出来上がるハズだから。

「ナニもないようにみえてさぁ、ケッコーあるんだよね〜〜〜。
 『フシギなコト』ってさぁ〜〜〜」

「たとえば……『ジメンのナカ』とかに、
 スッゴイのがかくれてるかも!!」

         キョロ キョロ

「え??なになに??イズミンたいいんのホウコクをうけ、
 ワレワレはゲンバにキュウコウした!!」

    ジッ…………

「ほうほう、コレは――『ムシ』だな!!
 シンシュかもしれないし、そうじゃないかもしれない……!!
 もしかしたら、コレがオトナになったヤツが、
 シンシュかもしれないし……!!」

「どっちかわかんないけど、『みたコトないヤツ』だ!!」

           パシャッ

「コレさ、イズミンは『どんなの』になるとおもう??」

抜かりなくスマホで撮影しておく。
はたして、どんなセイチュウになるのかどうか……。
ひょっとすると、
しょうらいは『ダイトウリョウ』ってカノウセイもありうるな……!!

984今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 03:54:41
>>983

「どうですかね、あんまり綺麗じゃないかも?」
「なかなか慣れないんですよね〜。デジカメに」

画面を見せる。
手ブレしてる気がするんだよね。

「いいですよ! 現像したら……」
「あ、スマホに取り込んだりも出来るのかな」
「なんにせよ、送りますね! 良い記念になりそう」

次にカメラを向けるのは、虫。
私一人なら絶対気にしないような虫。

「地面の中……もぐらとか、いるかもしれませんね」
「葉っぱだけでもこんな、色々いるんですし」
「これは……」「うーん」

虫を見る。
……ゆっくり、葉っぱを食べてるように見える。
こんな小さい虫でもちゃんと食べるんだね。

「そうですねえ、モンシロチョウとか?」「小さいし〜」
「『ガ』だったら、ちょっと嫌だし」「蝶々がいいです」

「できたら白い蝶々になってほしいですね」

               『カシャ』

どっちもそんなに変わらないんだけどね。
でも、蝶の方がフツーに綺麗な柄のが多いよね。

撮った写真をカメラの画面で見てみる……

「…………あ! そうだ、ユメミン隊員」
「あの、お耳に入れておきたい事があるんですけども」

と、そうこうしてると思い出した事があった。

「この前、クロガネ先輩に会ったんですよ〜」
「偶然会って……このカメラが売ってるところ探すの、手伝ってもらったんです」
「それでその時に、ユメミンの話をちょっと出しまして」

「スタンド使いだってことセンパイに教えたんですけど」「……よかったです?」

メールで連絡しようとしてたんだよね。今日せっかく会ったから、この場で伝えとこう。

985夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 16:31:50
>>984

「『モンシロチョウ』!!きいたコトある!!」

カタツムリと同じように、やはり『実物』を見た経験はない。
『フシギ』は、あちこちに転がってる。
『フツーじゃない場所』だけじゃなくて、『フツーの場所』にも。

「うんうん、イイたべっぷりだ。
 モリモリたべて、ドンドンおおきくなれよ〜〜〜」

もしダイトウリョウになったら、
『プレジデント・バタフライ』ってナマエつけよう。
フルネームは、『バタフライ・ホワイト』で。
みなさん、ゼヒきよきイッピョウを!!

「――クロガネくん??
 あ〜〜〜そういえば、
 わたしもこのまえグーゼンあったっけ……。
 ホラ、クロガネくんがシナイでカマキリをたおしたハナシ」

実際は、ここでカマキリを追いかけてる時に、グーゼン会った。
いや、まてよ??
そうか、『そういうコト』だったのか……。
まさかグーゼンをよそおって、
であいのキッカケをつくっていたとは……!!
なかなかやりてのプレイボーイじゃないか!!

「あ、そうなの??イイよイイよ」

「コッチがしってるのにアッチがしらないのって、
 なんかフェアじゃないカンジだし。
 クロガネくんは『ヤバいヤツ』でもないしさ」

世の中には『マジで危ないヤツら』がいる。
そういうヤツに知られるのは、『チョーチョーチョーキケン』だ。
だけど、クロガネくんが『違う』のは分かる。

「それに、『スタンドつかい』だってわかってたら、
 そのツテでナンか『ジョーホー』がはいるかもしんないし。
 かわったモノとか、めずらしいモノとか、そういうの」

教えておくのは、得するコトもある。
『スタンド使いならでは』の、
『オモシロ情報』がゲットできるからだ。
そこから、新しい『ウサギ』を見つけられるかもしれない。

「ちなみにクロガネくん、どんなリアクションだった??
 ビックリしてた??」

「なッ……!そ、そうだったのか……。すまない。
 あまりにもイガイだったから、ついとりみだしてしまった。
 そうか、カノジョが……」

「――――こんなカンジとか??」

出来るだけ低い声とマジメな表情を作り、
クロガネくんの『モノマネ』を披露する。
だけど、カメラ探しを手伝ったというのは意外な気がした。
ジツは、そういうのくわしいのか??

986今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 23:44:00
>>985

「ほんと、白い蝶なんですよ」「小さくて」
「結構よくいるので後で探してみましょうよ」
「動くものも撮りたいですし」

      『カシャ』

葉っぱをよく食べる虫をもう一枚撮る。
それから、カメラを下げた。

「ごめんなさい、先にユメミンに確認すべきでしたよね」

「クロガネ先輩になら、教えてもいいかなって」
「フツーに、良い人ですし」
「ユメミン的にもよかったなら、よかったです」

先にユメミンに聞くべきだった、とは思う。
最近こういうの多いから気を付けないと。

「あはは、似てます似てますっ」
「ユメミンものまね上手ですねえ」
「フツーに、クロガネ先輩が言いそうですもん」

「でも〜、残念、はずれです!」「実際は」「……えーと」

          スッ

口を手で覆う。

「いや」
「何となくそんな気はしていた」
「彼女なら驚かないな」

低い声をしながら、記憶通りに話す。
けっこう上手いと思うんだ。それっぽくするの。

「って〜、そういう感じのこと言ってましたよ」
「それと、ユメミンのことは信用してるって!」

女子が苦手な鉄先輩が、信用してる。
ユメミンともわりとフツーに接せてるんだろうな。
なんとなく、それはイメージ出来る。

「それにしても……増えてきましたね。スタンド使いの知り合い」
「というか共通の知り合い?」「イカルガ先輩もですし、クロガネ先輩も」

987夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/04(木) 00:51:01
>>986

「マジで??おもいのほか、うすあじのリアクションだった……。
 エンブンひかえてんのか??
 いまひとつコクがたりないな……」

「もっと、こう…………なんか、あるじゃん??
 『ショウゲキのテンカイ』みたいなヤツが!!」

シンジツがあかされ、ヘイオンなひびはオワリをつげた。
もはや、『ほうほう』はひとつしかのこされていない。
チカラとチカラがぶつかりあい、
おたがいのタマシイがしのぎをけずる。
そうぜつなタタカイのはてにおとずれるモノとはナニか……。
さいしゅうかい『あすへのきぼう』に、ごきたいください!!

「――――まぁ、それは『ジョーホー』もらうコトで、
 いつか、うめあわせしてもらうとして……。
 イズミンたいいん、クロガネくんのマネうまいな〜〜〜!!
 フツーにうまい!!ホントにいいそうだもん。
 あ、いったんだっけ??」

コレは、まけてられないな……!!
『モノマネクイーン』のイスは、ただひとつ!!
グランプリまでに、『しんネタ』のかいはつをいそがねば!!

「たしかに〜〜〜。それ、スゴいわかる!!
 おんなじガッコーの『スタンドつかい』にあうってコト、
 さいきんおおいんだよね〜〜〜」

「しかも、リョーホーのシリアイだし。
 シリアイのシリアイ??みたいな??」

考えてみれば、こういうコトが最近多い気がする。
もしかすると、ナニかのまえぶれか??
おおきなコトがおこるぜんちょうとか??

「じつは、きづいてないけどケッコーいるのかも。
 このまえも、まちであったんだよね。
 『おんなじガッコーのスタンドつかい』に」

「そのコは、ウチらよりトシシタっぽかったけど。
 『シンブンブ』らしいよ」

『黒羽』と名乗った少女を思い出す。
彼女からは、『スタンド暴行事件』の話を聞いた。
これも、『ウサギ』の一つとして『リスト』に入れてある。

「『スタンドつかい』もきになるけど――――」

    キョロ キョロ

「イマは『モンシロチョウ』さがそう!!
 ココにヨウチュウがいるってコトは、
 このちかくに『セイチュウ』がいるのかも!!」

                   ヒラ ヒラ

スマホを握り締めて、あちこちを探す。
その時、少し遠くの方で何かが飛んでいるのが見えた。
もしかして、モンシロチョウかもしれない。

「イズミンたいいんへ。
 『ミカクニンヒコウブッタイ』はっけん!!
 ただちにカクニンにむかう!!」

           ダダッ

その方向に向かって元気よく駆け出す。
『フツー』の中にも『フシギ』はある。
だから、これも立派な『冒険』だ――――。

988今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/04(木) 02:00:38
>>987

「こんな感じ、でしたよっ」「あは、言ったんです」

ウケたみたいでよかった。

「なにかこう、ユメミンにヒントを感じてたのかもしれないですね」
「なんだろ」「スタンド使い特有の動きのクセがあるとか」
「ほら、クロガネ先輩、剣道やってるからそういうの分かるのかも」

実際、そういうのがあっても変じゃないよね。
剣道やっててフツーに分かる物では無いと思うしけど。

「やっぱりたくさんいますよね? うちの学校」
「偶然スタンド使い同士が集まってるだけ?」
「その新聞部?の子は、私はまだ知りませんけども」

「この調子だと、すぐ知り合いになりそうです」
「取材とかされたらどうしよ」「あはは」

いつか会う事もあるのかな。
こればっかりは、分からない。
スタンド使い以外とも新しく会うことはあるし。

でもまあ、それは、今はいいや。

「そうですねっ、探しましょうモンシロチョウ!」
「きっとお花の近くとかに」「あっ」

       タタッ

「走るの速っ。待ってくださいよ〜っ、ユメミン隊員!」

ユメミンを追いかけよう。
この行き先は不思議の国じゃない。
フツーの湖畔の中で探す不思議に、きっと意味がある。

989『星見町案内板』:2020/06/04(木) 14:11:30

次スレ→ 【場】『 湖畔 ―自然公園― 』 その2

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