したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【場】『 大通り ―星見街道― 』

671鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:01:24
>>670

「そう、そっか、それならいいんだ。
 キミを誤解してしまってたみたいで、
 なんだか申し訳ないけど――」

        ニコ…

小銭入れをおとなしく、ポケットにしまう。
気持ちいつもより深めに入れておいた。

「ま、ありがたいのは事実だからさ。
 ジュースはともかく気持ちは受け取ってね」

笑みを浮かべて、立ち去ろうとして、
また振り返る前に高宮の表情に気づく。

「……深入りはしないけど、
 なんか嫌な事でもあったの?
 ごめんね、こういうの気になる方なんだ」

鬱陶しがられるかもしれないが、
顔のイイ人間が暗い顔をしているのは、
なんだか、もったいないことのような気がするから。

672高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 00:34:20
>>671

「……」

俯き気味に小さくうなづいた。
おずおずと、様子を見るように。

「気持ちくらいなら……荷物にはならないから」

重さの無い気持ちなら自分でも持てる。
そうでないものは気が重くなってしまうから。

「嫌なこと、か……」

(そんなにぼくが嫌なことまみれに見えるのか……? くそう……)

「この顔は生まれつきなんだ……」

「いや、気にかけてもらって申し訳ないね」

「あぁでも悩みといえばあるにはあるけど」

673鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:58:47
>>672

「なら、よかったよ」

       「……?」

頷く高宮に笑みを魅せながら、
内心の憤慨には気付かない。

「ああ、そうだったんだねえ、
 ごめんね、誤解が多くってさ」

「ま、深入りはしないって言ったから」

         スッ

「話し辛い悩みなら聞かないけどさ」

足を一歩引いた。
流石に対話を求められていないと察したし、
地雷原でタップダンスをする気もなかった。

「ボクにあずけて軽くなる荷物なら、
 あずけてみてくれてもかまわないよ」

  「投げつけるのは、やめてほしいけどね」

674高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 01:28:04
>>673

「……今日の楽しみ方がわからないんだ」

そう言った。
高宮は今日の楽しみ方がわからない。

「つい最近いいことがあってね」

「そのお祝いじゃないけど、今日はいい日にしようと思ったんだけど」

どう一日を楽しめばいいのかわからない。

「君は今日何をしてたのかな。言いたくないのなら、いいんだけど」

「その様子だと多分、楽しい一日を謳歌してたんじゃないかな」

675鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 02:14:00
>>674

「楽しみ方、楽しみ方かあ。ボクは方法は考えたことないけど」

「今日は雑貨を買ったり本を買ったり、
 ランチでサラダバーを食べたりしたねえ」

       「でも」

「ボクは今からまだまだ謳歌するところなんだ。
 わざわざバスで着たのにお昼過ぎじゃ終われない。
 もっと、やりたい放題してから帰りたいんだよ」

視線の先は、東の方角。
ここから東に行けば――――川に突き当たる。

それから、視線は高宮をいったん経由して、
この町で一番高い、ここからでも見える塔へ。

「だから今から、スカイモールの劇場に劇を見に行くんだ」

「一緒にどうだい? 楽しみ方が分からないならボクに預けてみなよ。
 予約チケットは一枚しかないけどさ、どうせガラガラだから、
 さすがに、お代までは出してあげられはしないけどさあ」

          クルッ

     「楽しくなくってもボクのせいに出来るし、
      それに、ボクはいつも一人で見るんだけどねえ、
      たまには他人と感想を言い合ったりしたいんだよね」

676高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 22:30:00
>>675

「さ、サラダバー……?」

(健康志向なのかな……いや、まぁ、最近野菜高いしな……)

少しだけ予想外の答えだった。
寿司や酒を嗜むのとは少し趣が違う。

「劇か」

あまり悩まなかった。
その先のことは。

「行こう」

「こう見えても無駄なものを集めるのが得意でね」

「財布の中はそういうので詰まってるんだ」

少し厚い長財布が上着のポケットからのぞいていた。

「一緒に楽しませてもらおうかな」

677鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 22:42:57
>>676

「野菜をね、たくさん食べるとさあ。
 いい気分になるんだ。
 ボクは肉とか魚も全然食べるし、
 今日がそう言う気分なだけなんだけど」

「たまにない? 野菜を食べたい日」

この店なんだけどね、と、
スマホの画面を見せる。
自然派レストランとのことだった。結構高い。

         ニコ

「よし、決まりだ。
 きみ、車で来てるなら載せてってくれない?
 歩きで来たなら、バスの時間は15分後だね」

「どっちにしても……今日は、想像以上に楽しくなりそうだ!」

笑みを浮かべたまま、いずれにせよ、歩きはじめるのだった。

なお、劇は鳥舟がファンをしている男優が出るらしく、その事をしきりに語られた。

678鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 22:49:20
人通りの多い交差点。そこの近くにある、待ち合わせによく使われるスポット。
その壁によりかかりながら、鋭い目線で行き交う人々を眺めている青年がいた。
白のインナーに黒いライダース、デニムという格好で、腰には小さめのポーチを付けている。

「・・・・・・・・・・」

近くにベンチが空いているが、そこに座るつもりはないようだ。
何かを、あるいは誰かを探すように、切れ長の瞳を動かしている。

679音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/26(火) 23:50:31
>>678

     カツカツカツカツ・・・

気取ったスーツを着た『ケツアゴ』の男が、
『鉄』の眼前を通り過ぎ、『ベンチ』へ腰掛けようとする。


       スゥゥ...

                     スクッ


   「――――ああ、ひょっとしたら、
    この『ベンチ』で待ち合わせてるのかね?」

半ば中腰の姿勢にまで至ったところで、
『鉄』が視線を巡らせているのに気が付き、腰を上げる。

   「別に、この『ベンチ』は座ってしまって、構わんのだろう?
    私もちょうど、ここで待ち合わせをしていてね。

    少々長くなりそうなんだ。――――いいだろうか?」

『待ち人』を探す『鉄』の視線を遮らぬよう、
彼の脇に立ったまま、話しかける。

680鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 23:59:30
>>679

「ああ、いえ。お気になさらず」

声をかけられ、青年は男性の方を見て首を振った。
幾分か、その鋭い視線が和らいだ様に見える。

「オレはあなたと違って、特定の人を待っているわけではないんです」
「ですので、そのベンチは『待ち人』を待つあなたのような方が使うべきだと思います」
「どうぞ」

許可を求めるピエールの言葉に頷き、ベンチへ座ってもらうように手で示す。

681音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:10:20
>>680

   「どれ、それじゃあ遠慮なく」

座面に付いたゴミや埃を、パッパと手で払ってから、
その頑強な肉体を折り畳むように、ベンチへと腰掛ける。

   「ところで、『特定』の人を待ってないとは、
    随分と妙な話に聴こえるな。

    見たところ、まだ若そうだから、
    『交通量』の調査ってわけでもあるまい」

訝しむように問い詰める声色でもなく、
唯々、不思議そうに問い掛ける。

   「ちょうどここに、空いてる目玉が『2つ』あるのだが、
    ここは一つ、君の『待ち人』を一緒に探してみようじゃあないか」

暇に空いてか、要らぬおせっかいを焼き始める。

682鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:20:17
>>681

「ああ、いえ…」

自分で口にして思う。特定の誰かを待っているわけではないとは、妙な話だ。
例えばナンパです、なんてうまく嘘でもつければよかったのだが。
自分はそういうのは得意ではない。だが、かといってこの人の善意を無下にするのも心苦しい。

「・・・・・・・・・・」

10秒にも満たぬ沈黙を間に置いて、結局口を開く。

「怪しい人間を探している、なんて言ったら」
「いや、そんな事を言い出す人間が一番怪しいだろ、と思われるかもしれませんが」

683音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:29:48
>>682
「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

重たげな沈黙に応えるかのように、
真面目くさった語調で言葉を返し、


     フフッ

          「フフッ、クッ、」

          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

含み笑いを浮かべては、傍に立つ少年を見上げた。

「疚しいことを隠せるような人間なら、
 もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

「まあ、怪しい人間を探してることと、
 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

 ――――で、怪しい人間ってのは、どんなのだい?
 ほっかむり被って、唐草模様の風呂敷包みでも担いでいれば、
 私も出ることに出て突き出せるような人間だと解るのだがねェ……」

そう、簡単なものではないだろう、と前置きを入れて、問い掛ける。

684鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:43:13
>>683

>「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

「・・・道理です」

いきなりこんな事を言い出すなど、何を企んでいるのか分かったものではないだろう。
だからそう言われても仕方ない。目を瞑り、自省する。
今日は諦めて、帰るべきかと考えたところで。

>          「フフッ、クッ、」

>          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

>「疚しいことを隠せるような人間なら、
> もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

>「まあ、怪しい人間を探してることと、
> 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

「・・・・・」「ありがとう、ございます」

彼の言葉に、微笑みながら深く頭を下げる。
この男性が自分のことを悪い人間だと思わなかったように、自分もまた、彼が良い人間であるように思えた。
しかしその次の問いを訊ねられては、表情を曇らせてしまう。

「…いえ、容姿に関しては何も分かっていません」「男性が女性か、若者か老人か、日本人かそうでないのかさえ」
「ただ、恐らく何らかの『凶器』…それも『刃物』を扱っている可能性はあります」

「…それだけです。現れない可能性の方が、かなり多いと思います」

それでも、自分は人の流れを見続ける。可能性は低いが、ゼロではないのだから。

685音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:04:22
>>684
「刃物、か。

 少なくとも、『持ち歩く』にしても、
 目立つような装いにはしないだろうな……」

『凶器』、とは人を傷つける『道具』に用いる言葉だ。
増してや『刃物』、神妙な面持ちになって、『鉄』の言葉を聞く。

「まるで、……そうだな。

 『邪推』をするようだが、
 君は『待ち人』が来ると思っているのかね」

                   ラウンド・アバウト
老若男女、さまざまな人種が 『 交 差 点 』 を過ぎ去っていく。
目の前を横切っては、背後へと抜け、何百人もの人影が現れては消える。

その光景を目の当たりにしながら、『ピエール』はすっと立ち上がった。

    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
     
              安心するために見張ってはないか?」


       ズ ア ッ!


『鉄』に近づき、肩を叩く。
その刹那、両刃剣の『ジュリエット』を発現し、
分厚い『刀身』を、少年の肩口にそっと押し当てる。

686鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:16:12
>>685

>    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
>     
>              安心するために見張ってはないか?」

「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

ないだろうが、事実として傷付けられた人間がいる以上、そうでない可能性は限りなく低いだろう。
それはここで『通り魔』が見つかる可能性より、もっと有り得ないものだ。
そう説明しようとした言葉が、全て頭の中から消え去った。
肩口へと押し当てられた、『スタンド』の刃によって。

「『シヴァルリー』ッ!!」

名を叫びながら、己のスタンドを彼が剣を持つ側の方に発現する。
同時に可能であれば、その『切れ味』を奪い取り吸収する。
とっさに剣を持つ側の手に発現したのは、吸収する際の軌道で彼を傷付けないためだ。…今のところは。

「『刃物』を持った…『スタンド使い』ッ!」

687音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:33:25
>>686

>「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

      . .
     「いる……」

     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
                                   . .
      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


憮然として、しかし真剣味を帯びた眼差しで、『鉄』に告げる。

それは、決して『普遍的』な事実としてではなく。
明確に『存在』すると知っているからこそ、
それと比較した『鉄』を『善人』と評した。

         ビュワッ!

『シヴァルリー』の視認によって、瞬く間に『ジュリエット』は鈍磨する。
己のスタンドであっても、その効果は認識できない。

     「私は、君の言う『待ち人』ではないが、

      ……とまぁ、スタンドを出した以上、
      そう言っても『信用』ならない、かも知れないが、ね」

穏やかに、押し殺すような低い声で、
念を押すように話しながら、『ジュリエット』を解除する。

     「いないのに、越したことはない。同感だ。

      ――――だが、そーいう『人種』がいるかどうかなら、
      間違いなく存在し、振るう刃に『前触れ』はない―――」

     「今の『一刀』は、そうした『警告』のためだ。
      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

688鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:42:56
>>687

>     「いる……」

>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>                                   . .
>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」

「・・・・・ッ!」

息を飲む。そして理解する。
この人は、そういう人間を知っている人だと。実際に目で見て、会ったからこそ、言葉の重みが違う。
そしてここからは想像でしかないが。この人は、そういった人間と、刃を交えた言葉もあるのではないか?

逞しい青年が『スタンド』を解除したことにより、『切れ味』も戻る。
その行動を警戒しつつも、数秒の逡巡の後に、自分も『シヴァルリー』を解除した。

「いいえ、信じますよ」
「以前にも、『スタンド使い』はそういうことができる人間だと教えてくれた人がいましたから」

それに、もし『通り魔』なら絶好の間合いでスタンドを解除する理由がない。
自分が警戒して『シヴァルリー』を出すより早く、斬ることも可能だったかもしれない。

>      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
>      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

訊ねる。蛇の道は蛇、とは少し違うが。
彼なら、あるいは荒事に関する知識が、あるいはその心当たりがあるのだろうか?

689音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:58:53
>>688
>「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

  「私も、望んでそういう『人種』に会ったわけじゃあない。

   ――――だが、もしもそうした『人探し』をするのであれば、 
   『仲介人』を名乗る男に、『名刺』を貰ったことはあるぞ」


     スゥ...

                                         バ
『ピエール』は尻ポケットから、二つ折りの『財布』を取り出し、    サ
それをペラペラと捲り、もう一回ポケットにしまってから、                ガサ
胸ポケットから『カードケース』を取り出し、それを数度捲り、                   ゴソ
ポロッと落としたクリーニング屋のポイントカードを拾い上げ、    ペ
カードケースに仕舞い込むと上着のポケットを数度叩き、       ラ     ポロッ    
もう一度財布を取り出しては紙幣入れに指を入れてから、      ラ
ふと思い出したかのように上着のチーフポケットに手を入れ、              パ
一枚の『名刺』を取り出すと、それを『鉄』へと差し出した。                 サ

   「『曳舟』という男は、『需要』と『供給』を操るとか、
    ……少なくとも、そのスタンド能力を利用して、
   スタンド使いの斡旋や、仕事の紹介をしているぞ」

『曳舟利和』。
その名前を確かに見せると、その名刺をカードケースにしまう。

   「――――まぁ、私も正直に言うと、『信用』しているわけじゃあない。
    ちょっと、まぁ、『胡散臭い』ところもあるからな……。

    これをどーするかは、君次第、になるわけだ」

   「おっと、人の名前を出しておいて、
    私の名乗りもないとは、無礼もいいところだったな」

スッと視線を彼方に向けてから、少年へと向き直る。

   「『音無ピエール』だ。
    この町で『柔道整復師』をやっている」

690鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:13:52
>>689

「・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

青年の動きを待っている間、やはりこの人は『通り魔』ではないんだろうな、と確信を抱きつつ。
家に帰ったら財布の中や、部屋の掃除もまたしておくか、などと思っていた。
そして差し出された名刺。しっかりと、その名前を記憶する。
正直スマホで写真を撮っておくべきかと思ったが、流石にそれは無礼だろう。

「『曳舟』さん、ですか」

代わりにその名前をしっかりと覚えておく。
しかし、思ったよりも『スタンド使い』というのは体系化されているようだ。
『スタンド』に目覚めさせる人間の存在は知っていたが、ひょっとしてスタンド使いの『組織』などもあるのだろうか?
そしてその『曳舟』さんとやらと関わり合うことで、『通り魔』の情報や
それを知ることができる『スタンド使い』と出会うことができるのだろうか?

「『柔道整復師』の方でしたか。もし骨折などしまきたら、お世話になろうと思います、音無さん」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。『清月学園高等部二年生』、『剣道部』です」

こちらも同じく名乗り返し、一礼をする。

691音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 02:25:48
>>690
「よろしく。

 ――――見つかるといいな」

『ピエール』はそう言い終えると、立ち上がる。
視界の端からゆっくりと歩いてくる『老婆』に、
軽く片手を上げて、自らの存在をアピールする。

   「私の『待ち人』は、やっと現れたよ。

    ……では、『夕立』。
    機会があれば、また会おう」

そう言って、老婆を出迎えるように歩み寄れば、
二言、三言話した後、ゆっくりと人混みに紛れていった。

692鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:36:59
>>691

現れた老婆を出迎えた音無さん、恐らくお客様だろうか。
彼には待ち人が現れたが、自分には現れなかったようだ。もう既に一時間が経過している。流石に潮時か。

「…ありがとうございました。またお会いしましょう、音無さん」

去り行く彼に対して、再度頭を下げる。
手荒い行動ではあったが、彼は自分に対して道を示してくれた。
『スタンド使い』の危険性を教えてくれた平石さんに、『悪意』を持つ人間は必ずいると警告してくれた音無さん。
大人の方からは、学ぶべきことは多い。

「あとは、進むべきか否か、か…」

帰途へと着きながら考える。そもそも、考えたところで詮無きことではあるのだが。
仮に進むことを選んだとして、こちらから『曳舟』さんとやらに接触できるのか?
電話番号でもあれば、話は違うのだろうが。
だが、どちらにせよ覚悟は決めておくべきだろう。もし進むことを選ぶのであれば。
『試合』とは違う、命懸けの争いになる覚悟を。

693サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/10(金) 23:30:15

オープンカフェの一人席に座り、何もない時間をつぶしていた。
布のマスクで隠れた口元も、長いまつ毛の猫のような目も、風景に溶けていた。

     カチッ カチッ カチッ カチッ

人生は『いつかその時』が来るまで、全部暇つぶしだと思うわけで。
暇つぶしなら無難に、サリヱ一人で完結するものを選んできたわけで。
暇つぶしのための暇つぶしのための暇つぶしをする気はしなかったわけで。
そんな風に考えてきたサリヱの人生に『本物』なんてのは何もないわけで。

         カチッ カチッ カチッ カチッ

だけど掌で転がす『フィジェットキューブ』の響きは、今日は意味がある気がした。

「…………」
  
    ミー・アンド・マイ・シャドウ
(『サリヱとサリヱの影法師』だなんて……他人から貰ったものにも、自分しかない)

           『チカッ』

見つめた影は消えて、向かいのビルの壁面に『影法師』が生まれていた。

「ひええ、なんだこりゃほんと……」

そういうありえない光景に思わず声が漏れるのは、暇つぶしの人生としては有意義な気がするからだ。

694彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 00:12:35

          『シュワォウ』
                    『シュワオォウ』

サリヱの視界右端から『色彩』が割り込んできた。
道路向かいの灰色のビル壁に、ビビッドカラーのラインが、長く、長く、引かれる。

額にゴーグルを引っかけたパンクなファッションの少女が、手にしたスプレーを巧みに操り、
ビル壁の端っこからストリートアートを仕上げている所らしい。
……絵のモチーフは、騙し絵の巨匠・エッシャーの「メタモルフォーゼ」を意識したようなデザイン。
人間のシルエットが変化していく過程を、目の覚めるような鮮やかな色遣いで仕上げてゆく。

「こいつが思いっきりの一筆(ストローク)だ」

ガンマンが二丁拳銃を持ち替えるように、スプレー缶を手の中でクルクルと弄ぶ。
腰のホルスターから「クロムイエロー」を引き抜くと、スプレーを噴出しながら、
ビルの左端を目指して、ラインを伸ばして――――

「――――っととと。先客か!?」

ビル壁に刻まれた『影法師』に気づき、慌ててブレーキをかけた。

「さっき下見した時はなかったのに、いつの間に描いたんだ?コレェ」

695サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 22:04:45
>>694

「ひえ…………!」

視界に入ってきた『目立つやつ』に思わず声が出た。

(絶対やばいやつじゃん……皆見てるんだぞ……)
(……と、とりあえず、知らん顔しておくけどな)
(目立つのに巻き込まれたくないし)

       ポチポチポチポチ

(あと知らん影もしておく……)

手の中の『ボタン』を連打して気を取り直す。

影法師は・・・そのままにしておく。
『座っている人間の影』・・・『形』はない。影だけ。

回収したら秒でバレる。

        ・・・

             ・・・

                  ・・・

今日はいい天気だ。
オープンテラス席は道路に影を描き出す。

確かにそこに座っているが、『影がない人間』は・・・知らん顔でコーヒーを一口飲む。

696彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 22:25:30
>>695
そんなサリヱの気も知らず、彩木ミサオは『影法師』を眺めながら首をひねっている。

「しまったな……迷惑はかけないと約束したばかりなのに、
 さっそく他人のキャンパスに踏み込んでしまったぞ……?
 あまりに目立たなかったから、ギリギリまで気が付かなかったけど」

……もし、『コレ』のアーティストが「灰色のビルという背景に溶け込むように」という、
コンセプトで描き残していったのなら、誰かの作品に勝手に筆を足してしまったことになる。
これはいけない!

(★ 「そもビル壁にアートを描く時点で領域侵害ではないのか?」という意見もあるだろうが、
ミサオにとってこの飾り気のないビル壁は「白紙である」と判断されたので、問題はなかった)

「塗料っぽい匂いは全然しない……墨?灰?チョーク?(クンクン)
……そうだ!描かれたばかりなら、近くに作者がいるかもしれない」キョロキョロ

あたりを見回していると、この『影法師』のシルエットとそっくりな子を向かいのカフェに見つけた。
なるほど、アレがきっとこの絵のモデルに違いない――――まさしく影写し!

「おーい、そこのマスクのカノジョ!ココに絵を描いていった人をさァ〜」

道路を渡ってサリヱの方にまっすぐやってくる。

697サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 23:34:54
>>696

(あいつ何言ってんだ……? 『影』を『絵』と勘違いしてんの?)

芸術家のことはよくわからない。
何を考えているのか……どういう哲学があるのか。
わかるのは、明らかに自分と違う価値観ってことだけだ。

(……マスク?)

「ひえ……」

(や、やばい……こっちに来る……)
(『描いたヤツ』だって思われたんだ……やばい……)

(なんとか目立たないように……やり過ごさなくっちゃあ)

「なっなんだよぅ……絵なんか『描いてない』っての……」

             チラッチラッ

『影法師』を横目に見つつ、誤魔化しに走るサリヱ。

               カチャカチャ

「か、壁のシミじゃないのか?」
「あるだろ……ほらぁ、『ホラー番組』とかでさ……!」
「そういうのじゃないのぉ〜〜〜っ……」

「私はずっとここ座ってたからな、そんな絵なんて知らないよ……ほんとだよ」

698彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:57:35

「キミをモデルに描いてたヤツがいたんじゃないかなって。
 違う?ホント?あそこの壁の絵とそっくりだと思うけどなァ」

                    チラリ

「そうかァ?」

サリヱに何か妙な違和感を覚えつつも、その正体が『影』だというところまでは気づいていない。

「ホラーなシミ!なるほど、ここは大通りだからな。 ・ ・ ・ ・
 車も多いし、夜にバイクを飛ばす奴もいる………そういうこともあるカモ」
「(店員を呼んで)すいません、お水もらえます?あとカプチーノを1つ」

サリヱのテーブルの空いてる席に腰掛けた。

「それだったらそれで困ったな。
 こんなカフェの近くに、なんて縁起が悪い……でも死んだ人間が描いたカタチならそれも『作品』だ。
 先人が思いを残していったのなら『敬意』を払わなきゃいけない。悩むぜ」

「美術館だって365日同じ作品を展示し続けている訳じゃあないだろう?
 季節・時代によって展示品を変えてゆく必要がある。
 上から塗りつぶしたものかな?いっそ避けるカタチで同居する構図という手もあるけど」

すごく……しゃべる!

699彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:59:37
>>697 また安価忘れちゃってた、ごめんネ

700サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 00:48:04
>>698

「ひええ、モデルとか……そんな目立つことしないっての」
「こういうシルエットのやつ、他にもいるってぇ絶対ぃ……」

(ウッ、こいつ今足元見なかったか……!)(実はバレてる?)
(っていつの間に座ってんだ! なんだこいつヤバ〜〜〜……)

          カチカチカチカチ

思わずフィジェットキューブのスイッチ面を連打する。
この距離の詰め方……いや詰めているのとも違う気がする。
独特の距離感、芸術家タイプを感じる……苦手なタイプだ。

「か、勝手に描いてるだけなら勝手に塗り潰しちゃっていいだろぉ……」
「いや、描いてるとは限らないけど」「シミを推すけど……」
「ともかく勝手にそうなってるだけだろぉ……?」
「ビルの持ち主が描いたなら別だけどさ……」

『所有権』があるからだ。
『所有権』――――『持ち主』には、権利がある。
持ち物を好きにする権利……あらゆる意味でそれがある。

(なんか話題変えないとこいつのペースに飲み込まれる……)

「あ、そう、カプチーノ頼んだよな」
「ここカプチーノに絵描いてくれるけど」
「あんまり難しいの注文したらすごい雑に出てくるぞぉ……」

「……」

(あっやばい……また『絵』の話にしてしまった…………!)

701彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:26:22

「そうだな。ストリートアートは自分の家の塀に描くんでもなければ、
 少なからず誰かのキャンパスにはみ出してしまう行為だ。
 しかし、市役所や所有者に問い合わせて『描いていいですか?』でOKとは、なかなかいかない」

「ただボクが描かなかったからビルの壁は白紙(ブランク)のままだろう?
 こんな人目につく大通りに面していながら、只の灰色なんて逆に失礼とも思うけど……」
「周囲との調和、アートが受け入れられる場か……場所と空気は選んでるつもりだけど……」

サリヱの指摘に思うところがあるのか、少し静かになったが――――


「ラテアート!向こうの『絵』を気にしてたからお任せで適当に頼んでしまったな。
 『ハーツ』と『リーフ』の簡単なアレンジならボクも描けるよ。
 色々な絵の画材を試していたとき、パンケーキアートとかその手のものにも挑戦してみたね」
「なくなることを前提とした、コーヒー一杯を飲み終わる間までのアート。
 一筆分の失敗で脆くも崩れてしまう繊細な芸術!刹那的だ!
 得るものは多かったよ――(店員が運んできたカプチーノの絵柄を見て)――『ネコちゃん』だ。そう見える」

カプチーノを一口すする。

「うん、ストリートアートも“ソレでいい”と思うな。今のところは。 
 この大通りを通った人の記憶の端に残って、描いて数日後には市の清掃が消してしまう。
 掃除する人には手間だろうけど、この『殺風景なビル壁やシミ?をどうにかしよう』と考えるきっかけにはなるかも。
 偉そうに語ったけど、絵柄のテーマをあーだこーだいうほどのこだわりは実はまだないんだ!」



「で、やっぱりキミが作者なんだろ。アレ」

702彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:36:58
>>700
「いや、恥じらう気持ちはわかるさ。公の場に絵を晒すのは勇気がいる。
 作者であることを隠して、クリーンな反応を見たかったとかかな。
 かの有名なストリートアーティストの某も、描いたあと近くでこっそり反応を見るのはやってると思う」

「ふぅ、一方的に語ってしまったな!普段同好の士がいない絵描きはこれだからいけない。
 さぁキミの順番だ。その思いのたけををブチまけてくれ!
 あの地味で目立たなく周囲に溶け込み見向きもされないような影の作品の意図をぜひ聞きたい!野暮かもしれないが素直な感想だ!」

703サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 02:09:31
>>702

「『影』だ。『影』に『意図』はない。『消えるまであるだけ』」

と、口が動いていた。

>>701

「…………」
「あ、いや」

それから、反論とか否定とかの言葉が頭をよぎった。
もう遅い気がした。

「ち、違うんだよお……じ、事故っていうかさあ……」

    アセッ

「認めるよ、無関係ってわけじゃないんだけど」
「でも違くてぇ〜ッ」「別に発表したかったわけじゃなくって」
「そういう目立つの嫌だしぃ……ただ、『試した』だけで」

             キョロッ
                  キョロッ

「そういう『芸術論』みたいなの、ないし……」

消えた影を一瞥して、それから影法師を見た。

「ちょ……ちょっと一服」

        ゴッゴッ

「私もカプチーノにしとけばよかった……」
「あとそれ私には『ネズミ』に見えた」

コーヒーを飲む。一口では足りない。
覗き込んだカプチーノの人為的な『模様』に、何を占うわけでもない。

「それで、だからそんな、芸術とかアートとかじゃないんだよぉ……ほんと偶然」
「テーマとかも、ないし」「『影』なのはそうだけど……作品とかそういうのじゃないんだよ」

「それこそ、その、『巡り合わせ』っていうかぁ……『あるからそこにある』だけ……みたいな」

704彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 22:02:27
>>703
「…………?」

一寸遅れてビル壁の方を振り向く。
ミサオのアートの色彩にかき消されそうに薄い『影』だが、
呼びかけてくるような存在感を一瞬感じてしまったのだ。


「手癖とか、偶然で付けちゃった模様?」

「なるほど……本当に『意図』はナシ。
 ボクは第一印象であのシルエットが『キミ』そっくりなように受け取った。
 偏見と前提知識次第……受け手は、見たいように見るってことか……」

                ウン  ウン

「あそこの描きかけアートも同じだね。
 新鮮さを覚える人もいれば、古典の安っぽいパロディと受け取る人もいる。
 突き詰めれば、キミの『影』やラテアートのネコちゃんと同じ――――」

       コトバ          カタロ
「どれだけ『色』を尽くして饒舌に描こうとも、真の共感とは幻想のようなもの。
 アーティストは有名・無名・どのジャンルでも本質的に孤独な存在ってワケだ!」

「なら、みんな好きなように描けばいい!『ただ試した』で『あるからそこにある』
 結構なことじゃあないか……それで1%でも波長の合う、
 『巡り合わせ』があれば儲けものだ!(ズズーッ)――うん、カプチーノで正解」

「泡はちょっと足りなかったけど」

                      ブジューッ

手品のように右手に『ホイップクリームのスプレー缶』を出現させると、
泡を吸いきったカプチーノの上にクリームを足した。即席ウィンナーコーヒーだ。

「キミも足すかい?『同じ味』は『共感』だ」

705サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 22:58:11
>>204

「手癖というか影癖というか……」
「とにかくそう、ほんとに意図はないからな」
「『攻撃』とかじゃあない」
「受け取り方までは……私が決める事じゃないが」

「『意味がないなら、自分で意味を考えれば良い』」
「『他人の中にこそ意味が生まれる』」
「……嫌いじゃない考え方だ。芸術的に前向きで」

意図はない、意味もない。
そこから勝手にプラスを読み取られるのは、嫌ではない。
他人の感じた中こそ『意味』が生まれる、というのは。

「ヒェッ……今それどこから出したぁ!?」

         カチャッカチャッ

「アーティストか手品師かどっちかにしろよぉ……」
「濃すぎるぅっ」「私がかえって目立つぅ……!」

などと考えていたら突然現れたスプレー缶に目を見開く。

「あっ……いや……まあ」
「なんとなく、分かるけど………………」「うん」

が、すぐにその正体には思い至る。
・・・突然現れた『影』が彼女を呼んだのだから。

「説明すると変に目立ちそうだし……」「嫌だし……」
「食べるには得体知れなすぎるし……悪いけど遠慮しとく」

ただ、タネがなんとなく察せてもいきなり出たものをいきなり食う勇気はなかった。

「…………その『道具』、好きなだけ出せるのか?」
「良いなぁ……」「食費がほとんど浮きそうだ…………」

「あ、いや、探るわけじゃないぞ……答えなくてもいいからな」

706彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 23:24:53
>>705
「いらない?ならいいか」

「受け手の気持ちを考えつつ、自分のエゴも押しつつ……。
 今はただ広いキャンパスに描いてるだけで楽しいから、細かいことは気にしないけど!」

ガンマンが拳銃でやるように、スプレー缶を手の上でクルクル弄ぶ。

「最近、“聴かせてもらって”自覚した才能だよ」

チラリと『影法師』の方に目をやり、次にサリヱに視線を移す。
明言はしないが察している態度。

「色々挑戦した中で自分の手に一番なじむ筆さ。
 七色(レインボウ)の絵筆――――『どんな色でも持ってくることができる』」
「多すぎも少なすぎもない、一度に『七色分』まで置いておくことにしている」

ホイップクリームのスプレーが手の影に隠れた次の瞬間、アロマオイルのスプレーに代わっている。

「製品のロットナンバーとかまでちゃんと書いてある本物……生産元の会社が迷惑してなきゃいいけど」

「『影(アレ)』と同じで何となく偶然でできちゃうモノらしいね」
「キミのも、試しててそんなカンジしない?」

707サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 23:52:57
>>706

「あっ、いや、お前個人が嫌とかじゃなくてだな」
「まだ『こういうの』を信じ切れてないだけだ」
「私は細かいこと気にする方だからぁ……一応言っとく」

        コロッ

テーブルの上にキューブを置いて、コーヒーを取る。

「……"聴かせて"?」「"描いて"じゃないのか?」
「いや……詮索はしないが……」
「気にはなるが……」

「…………『ソレ』と『アレ』はだいぶ違うがな」
「説明はしない……のはさっきも言ったけど」
「たしかに『理屈』とかそういうのじゃない」

影法師は今も、壁の側を歩く人々の会話を聴いている。
あるいは、そのアクセサリーの真珠の数を数えている。

「なんとなく、出来る」「なぜか『知ってる』」
「……手と足のほかにもう一つ増えた感覚で」

        ズズ…

「…………与えられた物だけど、『自分』なのは間違いない」

それが違和感なく『伝わってくる』。
歩き方を今更説明出来ないように、直感的な認識として。

「お前のも自分……」「……え、『ロットナンバー』!?」
「ヒェッ、それどっかの倉庫から飛んで来たりしてんじゃないのかぁ……!?」

「怖ぁ〜っ……まあ、そういうのとは違うって"聴かされて"? るんだろうがな……」

708彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 00:16:43
>>707
「そうだね。鳥やヘビに『手足があるってどんな感じ?』と聞かれても説明には困る。
 最初から体の一部としてあったみたいに、見えるし動かせる……そういうモノ」

あの『影』もミサオのレインボウと同じく、遠くまで見えてるし動かせるモノなのだろう。

「……でも、『スプレー』は違うなぁ。考えて創ってるわけじゃない。
 このメーカーの製品使ったことないし、売り場で見かけても成分表までは気にしてないよ。
 とにかく、想像の及ぶ範囲で『一番ちょうどいい色』を手にする」

「数量限定の貴重品とか出しまくったら、真相がわかるかも(やんないけど)」

                  ズ ズ…
                               カチャ

少し納得いった表情で頷きながら、一息にコーヒーを飲み終えた。

「この感覚の話は、さっきも言った『貴重な共感』だったね。
 いい『巡り逢い』だったよ――――それじゃあ残りを仕上げようかな。ごちそう様」

そう言って支払いを済ませると、ミサオは再び道路向かいに戻ってゆく。
描きかけのアートの仕上げ作業に移るのだ。

709サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/14(火) 00:39:49
>>708

「私のソレは『自分』でしかないからな……」
「既製品」「……にそっくりなもの? 実物?」
「とにかく既製品っぽいのを出せるのは怖い……」

悪用とかそういう話ではない。……少しはあるが。
この奇妙な力は『自己完結』するだけの力ではない。
無限の可能性があるということ……無限の危険性もだ。

(……私のが目立たない部類だと分かったのは良いがな)
(…………こいつのが派手なだけかもしれないが)

「私にも……悪い話じゃなかった。『価値』はあった」
「……って、あ、あれ続き描くのかぁ……!?」
「警察とか呼ばれるんじゃ……いや」

        キョロキョロ

「……誰もそんな事してなさそうか」

「まあ、私は止めないし……」「勧めもしないが……」
「好きに描けばいいさ。言われなくても描くだろうが」

去る姿を目で追っていたが、周囲の視線に気付いた。
あのアーティストの関係者だと思われるのは、まずい。

・・・それは、目立つからだ。

「………………………………………ちょっと目立ち過ぎた」

        『パン』

(場所を変えよう…………暇つぶしの場所を…………)

絵に集中し始めたのを見計らい、影を拾って店を出る。

710彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 01:05:24
>>709
「『価値』のある体験、そう思ってもらえるならよかった!」
「モチロン描くよ。このまま尻切れトンボにはしておけないし」

          『 シュワォウ 』
                          『 シュワァォウ 』

そうして、サリヱの視界の端へとフェードアウトしビル壁の左端の方から、
人間が鳥へと変身(メタモルフォーゼ)してゆく図を完成させてゆく。
しばらく後、カフェ向かいのところまで描き進めたところで『影』がいなくなっているのに気づく。

「…………フム」
                 シュワォ      シュワォ

「よし!」

サリヱが去った後のカフェテラスと交互に見比べ、満足そうに頷くとその場を立ち去る。
空白だったビル壁には、クロムブラックの塗料で先ほどの『影法師』がそっくりに再現されていた。
これは……目立つ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
★星見町新名物・その〇 → 『駅前カフェのストリートアート』
後日、街の清掃がやってきて消してしまった。『影』に気づいた人は多分いない。

711竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/16(木) 22:45:53
「平和だなぁ……」

プラプラとあてもなく歩く。
何も無いことは平和でいい事だが、同時に退屈でもある。
事実、女は退屈していた。
追うものも追われるものもない。
なんと平坦で、平凡なことか。
……日々の支払いには追われているが。

「……」

あたりをみまわす。
何かないだろうか。

712小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 00:54:59
>>711

その時、近くにいたのは『喪服』を着た女だった。
そこまで突飛な服装ではないが、珍しいと言えば珍しいかもしれない。
女は立ち止まり、何かを見ているようだ。

視線の先にあるのは、通りに設置されている花壇だった。
そこに植えられている花を見ているらしい。
今の所、辺りに他の人間は見当たらない。

713竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 01:44:23
>>712

「……」

誰かの葬式でもあったのだろうか。
だとしたらご苦労なことだ。
死は誰にでも訪れるが、身近なものが死んだら式を挙げねばならない。
喪に服さないとならない。
多くの人間がどこかで死んでいるが、それを無視して身近なものや尊敬するものを弔わねばならない。
生きた人間のエゴだ。

「やぁ、どうも」

「何かありましたか、お嬢さん?」

「そこのお花が欲しいのかい?」

714小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 02:28:18
>>713

呼び掛けられて、ゆっくりと顔を上げて静かに振り返る。
相手の姿を確認し、それから丁寧に頭を下げた。

  「――こんにちは」

  「いえ、ただ……」

また、花壇に視線を向ける。
咲いているのは、鈴の形をした小さな白い花々だ。

  「以前に通りかかった時には、まだ花が咲いていませんでした」

  「今、ちょうどスズランが咲いているのを見かけたもので……」

花壇に植えられているのはスズランの花だった。
君影草や谷間の姫百合といった別名もある。

715竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 18:59:32
>>714

頭を下げた相手にへらへらと笑う。

「ご丁寧にどーもね、どーも」

自分は片手をあげるだけで応じる。
それでいい。
女にとってはこれぐらいのお返しが限界だ。

「鈴蘭の花ねぇ……」

「花言葉とか詳しそー」

そんなことを言いつつも、考えは別の方向。

(毒性の花……)

鈴蘭のことはよく知らないが、それは知っている。

716<削除>:<削除>
<削除>

717小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 20:30:13
>>716

鈴蘭は、結婚式のブーケに使われることが多い。
慰めの意味も持つため、葬儀の供花としても使われる。
この小さな花を見ていると、自身が経験した出来事が頭をよぎる。

  「花言葉――ですか……」

  「純粋、純潔……謙遜、再び訪れる幸せ……」

  「――そういったものだと聞いたことがあります……」

思い出しながら、鈴蘭の花言葉を口にする。
その時、緩やかな風が吹いた。
空気の流れに乗って、爽やかな香りが辺りに漂う。

  「それから――」

  「鈴蘭の花は香りも素敵ですね……」

鈴蘭の花は、バラやジャスミンと並んで香水として用いられる。
同時に、外見とは裏腹に強い毒を持つ植物でもある。
芳香と有毒――相反する二つの側面を持つ花だ。

718竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 23:06:00
>>717

「詳しいんじゃん。ちょっと尊敬しちゃうぜ」

「お姉さん的にはね」

クスクスと笑う。
それから鈴蘭のくすぐったそうに体を揺らす。
出来れば何の匂いも嗅いでいたくない気分だった。

「うん、そうね。そう思う」

「この花の香りに包まれてみたいなー」

薄っぺらなことを吐く。
そんなこと、微塵も思ってない。

「お嬢さんもそう思うかい? どうどう?」

719小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/18(土) 00:16:39
>>718

  「……そうですね」

穏やかに微笑する。
相手の思惑には気付かなかった。
気付くことはない。

  「それも素敵だと思います……」

  「私はラベンダーの花が好きなので……
   その香りに包まれていると気持ちが落ち着きます」

私の傍には、常に死の誘惑がある。
その足音が近付いて心が乱れた時、ラベンダーの香りが鎮めてくれる。
それでも足りない時には、『鎮静剤』に頼るのだ。

  「――お花はお好きですか?」

720竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/18(土) 20:38:25
>>719

「ひゃぁ〜お嬢様みたいだねぇ」

(私トイレの芳香剤ぐらいでしか聞かないなぁ)

失礼なことを思い浮かべながら言葉を返す。
おどけてみせて、心ではそれになんとも思わない。
心と言葉の乖離が平時。

「いんや、ぜーんぜん……ウソウソ、花の匂いは好きだよ。お姉さんが好きなのはねぇ、もっとキツい匂いなんだよなぁ」

「アルコール? 甘いタバコの匂い? そういうのが好き」

今度は乖離しなかった。
気まぐれな距離感で言葉と心が動き続ける。

721小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 00:05:23
>>720

アルコールと煙草――自分にとっては、どちらも縁が薄いものだった。
『彼』と死に別れた時、そういったものに頼る道もあったかもしれない。
実際にはそうはならず、今の私は別のものに頼っている。

  「私も……お酒は時々いただきます」

  「嗜む程度ですが……」

言葉を交わしながら、不思議な感じのする人だと思っていた。
飄々としているというのとは少し違う気がする。
ただ、捉えどころがないという意味では近いものがあるようにも感じられた。

  「――この辺りには、よく来られるのですか?」

  「もしかすると……またお会いすることがあるかもしれませんね」

奇妙な親近感のようなものを感じたのだろうか。
あるいは、心の中に何かを持っているというような。
だから私は、こんな言葉を言ったのかもしれない。

722竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/19(日) 20:05:19
>>721

「まぁ、ここに住んでるし来るには来るよ」

「自分の街だしね」

生活圏内ではあるらしい。

「また会うかもねお嬢さん」

「会わないかもしれないけど」

723小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 22:48:22
>>722

返ってくる言葉を聞いて、口元に微笑を浮かべる。
やんわりとした柔らかい微笑みだった。

  「――はい」

  「もしお会いすることがあれば……またお話をさせて頂きたいです」

おもむろに背筋を伸ばし、姿勢を正す。
そして、出会った時と同じように深く頭を下げた。

  「声を掛けて下さって、ありがとうございました」

  「――それでは失礼します……」

別れの挨拶を告げると、背中を向けて静かに歩いていく。
先ほど感じた不思議な感覚を、心の片隅に残して。

724門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/07(金) 22:24:08

「―――とりあえず、これでいいか」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケットの男が
駅から少し離れた古ぼけたビルの前に立っていた。
一階にあるテナントには『門倉不動産』とかかれている。

                ………『手書きの張り紙』で。

725日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/09(日) 23:57:40
>>724

           ズイッ

「お兄さん、なぁにコレ?」
「おっ『不動産屋』――――へ〜、儲かるんでしょ?」

「家売るんだもんねぇ」

それを覗き込むのは、学生服の少女。
ビターチョコのような色の髪に、兎の耳のようにリボンを立てていた。

「なのにぃ、『張り紙』? これ、手書き?」
「あんまり景気良くないってやつなのかな」
「ニュースでそういう話してるよねぇ」

      スイッ

            「実際どお? 景気ど〜お?」

後ろに手を組んだ姿勢で、張り紙から『門倉』の顔に視線を向けなおす。

726門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 00:22:48
>>725(日下部)

声をかけられた『門倉』は、少女に視線をやる。

「ああ―――うん、そうだな。
 景気はけしてよくはないが、
  それより別の問題が俺とこの『不動産屋』を襲っていてね。
   その結果が、この紙の張り紙というわけだ」

『門倉』は大げさにため息をつく。

「『金が足りない』という事だね―――つまりは。
 目の前にいる少女が『お客』になってくれれば少しは改善されるんだが………
  その学生服を見るに、その可能性も薄そうだ」

よくは分からないが『貧乏不動産屋』という事らしい。
もっとも、およそ真っ当な社会人と思えない『門倉』の格好と、
『紙の張り紙』での社名提示をみるに、儲かっていないのは当然とも思える。

727日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/10(月) 01:08:53
>>726

   スタスタ

笑みを浮かべて、回り込むように動く『日下部』。

「んふふ、正直なんだね〜。
 悪いけど『家』買う予定はないかな。
 おカネ、私も持ってないしな〜」

           スタスタ

「お金持ちそうだからお茶の一杯くらい奢ってもらえるかな〜〜〜って」

          「私も『正直』に言うとそう思ったん、だけどさぁ」

張り紙を見ながら、勝手なことを言っていたが・・・

「……ん〜?」

「なんか思い出してきたかも、もしかしてだけど」
「ここって、ちょい前に『爆破事件』があった不動産屋さ〜ん?」

頭のリボンを揺らしながら、再び門倉の顔に視線を向けなおす。

728門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 20:11:09
>>727(日下部)

「………知っているのなら話は早い。
 つまりはそのせいでこのありさま、というわけさ」

 『門倉』は観念したかのように肩をすくめる。
 星見駅周辺の不動産屋で『爆破事件』があったというのはちょっとしたニュースになった。
 警察は『事故』と断定したらしいが、真実がどうだかは分からない―――

「一応それなりの蓄えもあったし『副業』したりして
 ある程度の修繕は出来たし周囲への補償もしている。
 だが、まだ『ある程度』にしか過ぎない。節約できるところは節約しないとね」

 『門倉』は二度目のため息をつく。

「さて―――どうせ客も来ないだろうし店に寄っていくかい?
        『お茶の一杯』くらいなら用意してあげられるよ」

 いかにも怪しい男、『門倉』が誘ってくる。

中に入ればねちっこく長話をしてきそうな予感もするし、
それ以上の事だってあるかもしれない。
それがイヤなら外でのライトなコミュニケーションで満足しておくべきか――

729日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 04:13:00
>>728

「なぁるほどね。それで……このありさまってわけだ」

得心して張り紙に頷く。
『爆破事件』――――ないしは、『事故』。
『全国ニュース』になった類似の事故の関係で、覚えていた。

「副業、節約。意外と世知辛いけど〜」
「『命あっての物種』……とも言うもんね」
「少なくとも大けがとかはしてないみたいでよかったじゃん?」

     ニヤ

「……なんて優しいとこを見せてみたりして」
「感動したら一番良いお茶飲ませてね」

           スッ

「家の話とかされても、わかんないし」
「お茶の美味しさでそこをカバーするから」

「ま〜私、お茶の良しあしもあんまし……わかんないけど〜」

ナチュラルに上がりこんで茶をタカる動きを見せる『日下部』。
門倉もいかにも怪しげな雰囲気だが、この少女も価値観が怪しいのかもしれない。

730門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/11(火) 08:04:32
>>729(日下部)

「―――たまたま店に居なかったからね。
     怪我とかはしていないんだよ」

『主(あるじ)のいない状況での事故』………
まあ、そういう事もあるかもしれないが余計に怪しい話ではある。

 それはさておき、

「なァに、『良し悪し』なんて分からない方がいいんだよ。
 なんでも『良し』と思える方が人生は幸せに進む。

 ああ、そうだ。自己紹介しておこう。
    『門倉 良次(かどくら りょうじ)』、一応、不動産屋をしている。

                          ―――さあ、中へどうぞ」

勧められるままに『門倉不動産(手書き)』へと入る事になる『日下部』。

 ………

『不動産』内は控えめに言ってもひどいありさまだった。
壁紙はある程度張り直してあるのだが完全ではなく、
黒こげの壁面がところどころ見えている。

接客用のカウンターはまだ修繕できていない様子で、
申し訳程度に学習塾のような『長机』とパイプ椅子が置いてあった。
何かの間違いでここに入ってきてもマトモな感覚の客ならば、
適当な理由をつけて踵を返す………そんなふうに思わせる風景だ。

731日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 22:42:58
>>730

「『気の持ちよう』でモノの『価値』は変わんないけどさあ」
「ま〜でも、『価値観』が違えば、変わってくるとこもあるか」
「良いこと言うね良次さん。あ、私は『日下部 虹子(クサカベ ニジコ)』」

「虹の子供って書いて虹子」
「不吉な名前でしょ〜」

              ザッ

                 ザッ

「不動産屋って入るの初めて……んふふ」

屋内に入ると、再び手を後ろで組んで辺りを見渡す。
焦げた壁とか……中途半端な壁紙とか、カウンターとかを。

「これ〜っ。ここで『家』の相談する席?」
「『大学部』の席みたいで風情がある。ここ座ってもい〜い?」

           ゴソッ

「お菓子でも出そうかな、私も……ね〜。良次さんってチョコレート好き?」
「あ。お茶って『お茶』? それとも〜、『コーヒー』のこと、お茶って言ってる?」

片手をカバンに手を入れて漁りながら、パイプ椅子の背もたれに手をかけた。

732門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 01:19:29
>>731(日下部)

「『虹子』―――不吉なのかい?
          いい名前だと思うけれど」

 この『ありさま』にもさほど退かない『日下部』に
 『門倉』はそんな言葉を投げかける。

「そして―――だ。座るのはちょっと待ってほしいな。
  さすがにここじゃあ『おもてなし』するには、殺伐すぎる」

             ガ  チ   ャ   リ

       そう言いつつ、『門倉』が『ドア』を開けた。

 ………

 『日下部』がしっかり室内を確認していたのなら、
  その場所に『ドア』などなかった事に気づいただろう。

 『日下部』が外観からここの間取りを考察できていれば、
  位置的にそこに『ドア』があっても、『部屋』などないと分かっただろう。

 『日下部』がカバンに気をとられすぎていなければ、
  『門倉』の腕に重なるように一瞬だけ発現した『スタンドの腕』が見えただろう。

   しかし、たとえ全ての項目で『NO』だったとしても、
    『日下部』にはその『奇妙さ』が理解できるはずだ。

      『ドア』を開けたその奥には―――

 『不動産屋』の風景とはまるで違う、
  狭いビル内にあるような『数席しかないカウンターの店』があったのだから。


          ドド   ドド   ド  ド    ドド ド ド


                     「―――いらっしゃいませ」

薄暗い雰囲気のその店はどうやら『喫茶店』のような場所らしい。
『カウンター内』に居る長身の男の『店員』が『門倉』と『日下部』にそう声をかける。

 至って普通の対応―――ここが普通の『喫茶店』であればの話だが。

733日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 14:19:45
>>732

「『虹』って『雨』の後にしか出ないしさ〜。すぐ消えちゃうじゃん」
「残るのは綺麗だったって感想だけだよ」「あとスマホの写真」

           ニタ ニタ

「『一瞬のために生きろ』って言われてるみたいでしょ?」

           「だから、私は不吉だと思うよ」
 
門倉の言葉に笑みを浮かべる日下部。
真意は、表情からは読み取れない。

「んん? ……?」

                  「あれっ」

日下部は『目に見えるもの』を信じている。
だから『目に見えたもの』はしっかり覚えている。

・・・そんな扉はなかった。
・・・それにこの建物に、その方向に部屋はないはず。

「んんん? なんだこれ」

   キョロッ

「良次さん、なにここ〜。……実はカフェに間借りしてるとか?」

         「ねェ〜、メニューとかって置いてある?」

                  キョロッ

しきりに視界をめぐらせながら、今度こそ席に着こうと動き出す。

734門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 20:29:08
>>733(日下部)

『日下部』は唐突な『ドア』に疑問を覚えつつ、
物怖じもせず、キョロキョロしながら『カフェ内』へと侵入していく。

 「フフフ………なんだろうね?
  とりあえず好きなところに座るといいよ」

そんな『日下部』の小動物のような動きが面白いのか、
『門倉』は不気味な笑みを浮かべながら、答えになっていない答えを返す。

L字型になったカウンターの等間隔に椅子は置かれている。
用心のため入口間近に座るもよし、
好奇心を満たす為、奥の席まで行ってみるのもよし―――

 「メニューはそちらにございます」

『長身の店員』が手で示したとおり、カウンターの上に『メニュー』が差し込んである。
表紙を見るに『メニュー』は『フード』『サラダ』『サイドメニュー』
『ドリンク』『デザート』などに分かれているようだ。

『門倉』がそのメニューをヒョイととり、
『ドリンク』のページを『日下部』に向けて開く。

「すぐに出てくる『ドリンク』を頼んだ方がいいと思うよ。

   ………いや、ケチっているとかじゃあないんだ。
        『お茶の一杯』って話だったし、
        なにより、『そう長くはいられないからね』―――」

含みのある言い方で『門倉』はドリンクを薦めてくる。
『ドリンクメニュー』は以下のとおり。

<COLD>
・ミネラルウォーター
・ウーロン茶
・アイスティー
・レモンティー
・コーヒー
・オレンジジュース
・アップルジュース
・グレープフルーツジュース
・コーラ
・ジンジャーエール
・クリームソーダ
・タピオカミルクティー

<HOT>
・ホットティー
・ミルクティー
・レモンティー
・コーヒー
・カフェラテ
・ココア

735日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 22:54:02
>>734

        スタスタ

「ん〜? 含みがある。じゃあ、ここにしとこうかな」

   ストン

「入り口側って慌ただしいしさぁ」
「他にお客さんとか、来るのか知らないけど」

最奥の席まで歩いて、そこに座った。
用心などしていない――――ということだろうか。

「ども、ども〜」

「注文は・・・『タピオカミルクティー』」
「タピオカミルクティーってさ〜、良次さん好き?」
「みんな好きだよねえ」「私も好きだけど〜」

「でも、なんでどこも『ミルク』なんだろうねぇ」

メニューを指さしながら、カバンを机の下に置く。

「まそれはいいや、何? なんか『用事』とかあるの?」
「あーいや、それはあるよね。事務所があの状態なんだし〜」

長くはいられない――――という言葉の真意は、さすがに読み取れない。
が、納得のいく予想は出来たので、それ以上特に追及する気もなかった。

736門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/13(木) 08:24:12
>>735(日下部)

『タピオカミルクティー』を頼む『日下部』。

 「あ――― 俺もそれで」

『門倉』がそれに便乗する。
『長身の店員』は『分かりました』と頷く。
『タピオカミルクティー』ふたつがほどなく、用意されるだろう。

「俺も好きだよ―――『タピオカ』。
 最近は流行っているみたいだから色んな味があるみたいだけどね。
 でもまあ『ミルク』が『定番』ってヤツなんだろうな。『定番』は強いよね、やっぱり」

『門倉』も『日下部』の隣に座る。

「いやいや、『事務所』があんな状態だって
 かわいい娘とお茶の一杯くらい飲みたいさ。

 むしろあんな状態だからこそ、君のような娘と何にも考えず語っていたい。
 『虹』の話とか、『タピオカ』がなんの卵かとかそーゆー話をね。
 だから『用事』なんて大それたものは特にはないんだよ」

 『門倉』はそう語る。その言葉にのって
  この場で愚にもつかない『四方山話』に興じるのもアリか。

「ただまあ、たとえば君が『オイシい副業』に
 興味があると言うのならそれを紹介してはあげられるけど―――」

 『オイシい副業』………完全無欠に怪しいワードだ。
 うら若い乙女な『日下部』が気軽にのると酷い目に遭うヤツかもしれない。

737日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/13(木) 20:35:58
>>736

「『タピオカティー』って呼ばれるようにはならないんだろうね〜」
「『タピオカドリンク』って言い方は、聞く気もするけど」

「まあ」

「なんだかんだミルクが一番美味しい気はするかなぁ〜っ」

          クルッ

腰を軸に体を回し向き直る。
頭を飾るリボンが、クラゲの足のように揺れる。

「かわいい? 私かわいい?」
「よく言われるよ〜」

     ニヤ…

「んふふ、『用』がないならいいんだけど」
「長居できないみたいなこと言うもんだから気になってね」

水のコップを手に取り、水滴を拭いとるように掌で回す。

「それで〜? 副業って? 『おカネ』に特別困ってはないけど〜」

    「私みたいなかわいい娘にできる仕事って……なぁに?」

              ズイッ

上体を乗り出すようにして、門倉の話を――――『聞く』ことにした。

738門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/14(金) 08:19:42
>>737(日下部)

「『お金』に困っていないのはいい事だね。
 それなら、そんなに興味はないかもしれないが―――」

                    ピコーン

『門倉』が持っていた『タブレットPC』を起動させ、画面を指でスライドしていく。

「あった、これだ。

    『ひきこもり男子をどうにかして外に出してほしい』。

 ひきこもりの心境というのは正直、俺にはよく分からないんだよね。
 だから断ろうかなと思ってたんだけど。
 でもまあ、男子ってのはかわいい女の子に呼びかけられれば、
 すぐに飛びつくものだろう?

   かわいい女の子―――

               つまり、君にうってつけな仕事というわけだ」

             『門倉』はそう断言する。

『ひきこもり男子』はむしろ女子に
何かしらの苦手意識がありそうだが………
あくまで『門倉感覚』での『オススメ』という事らしい。

 ………

                  「………『タピオカミルクティー』です」

そうこうしているうちに『タピオカミルクティー』が運ばれてきた。

739日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/14(金) 23:44:05
>>738

「『10万』とかもらえるなら話は変わるけどねぇ」
「流石に、普通のバイトじゃそんなに儲かんないし」

「どれどれ〜」

          ズイッ


「――――『引きこもり』ぃ?」

「引きこもりってあの、家にこもって出ないやつのことでしょ?」
「ふうん……まあ、私は可愛いけどね〜。引きこもりかぁ〜」

           カチャッ

     クルックルッ

「話は聞いてもいいけどね。『引きこもり男子』か〜……」

       「あんま変なヤツだと嫌だなあ〜」

ストローを回して、タピオカをかき混ぜる。
別に意味があるわけでもないが……

「とゆーか……良次さんって、『不動産屋』だよねえ? 『斡旋業者』もしてるの?」

740門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 00:13:55
>>739(日下部)

「まあ、断るつもりだったからあんまり詳しい情報もないし、
 無理にとは言わないけどね。

   ―――成功すれば『10万円』くらいはあげられるかもだけど」

『門倉』はさらっとそう告げ、ズズイとタピオカをすする。
タピオカが宇宙エレベーターのように高速で上へ上と吸い込まれる。

「そして、俺に様々な『依頼』が舞い込んでくるのは
 何を隠そう、この俺が『超能力者』だからなんだ。
 だから、みんな、俺を頼って来るんだよ―――

     ………

               なァんて言ったら信じるかい?」

『門倉』は冗談めかした口調でそんな事を宣う。

741日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/15(土) 02:00:46
>>740

「ほんと? ほんとに言ってる? ……10万だよぉ?」
「10万円ってさァ〜」「大きいんだよ?」「だって6桁だもん」
「良次さんみたいな『オトナ』にはそうでもないのかなあ?」

「私は、『17歳』だからさ〜……『10万』は魅力的だよぉ」

       クルックルッ

「ただね、友達がちょっとヤバいお仕事して『3万』稼いでた」
「その『3.3倍』ヤバいって認識も〜、できちゃうよね」

           ズズーーーーッ

そこまで言い終えてからタピオカを吸う。
動きはおとなしくなる……タピオカの魔力だろうか?

「……」

「でっ」「超能力者ね。ふぅ〜〜〜ん」「なるほどだね」

            キョロッキョロッ

即座に魔力が切れたのか、周囲を見渡す『日下部 虹子』。

「どうしよっかな、信じてほしい?」
「信じてもいいけどね。信じる『根拠』とかあったほうがい〜い?」

742門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 08:52:29
>>741(日下部)

「へえ、『17歳』か―――未成年。

  ふふ………

               ………

 いやまあ、年齢は関係なく、しかるべき『仕事』をこなせば、
  しかるべき報酬を受け取るべきだと俺は思うね。
  『3万の仕事より3.3倍ヤバい』と考えるより、
  『3.3倍』、君が活躍するのだと思ってくれればいい。
  そうすれば『しかるべき報酬』は君のもの、というわけだ。

  あ、そうだ―――この前も、とある事件を解決してね、
             未成年の『パートナー』に『10万円』、ちゃんと渡したよ」

『門倉』は誇らしげに実績を主張するが、
税金なんかはどうなっているのだろう。
(これが噂の『闇営業』というヤツか?)

「そして、『超能力』を信じる『根拠』……だって?
      出せるのかい? そんなもの―――」

『門倉』は首を傾げる。

「あッ!
     ひょっとして君は………

            俺に『一目惚れ』しちゃったとか?

 『愛する者の言葉は無条件で信じる』

                 つまりはそういう事なのか―――?」

『門倉』がどこまで『本気』なのかは窺いしれない。

743日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 09:07:00
>>742

「未成年だけど……? なに〜今の笑顔? いかがわし〜」

「まーでも、私のがその子より『3.3倍』……いやもっと可愛いし」
「仕事もね、それくらい出来るって自信はあるから……大丈夫かな〜」

        ニヤ…

「とゆーか、そんな頻繁に『仕事』抱えてるんだ」
「不動産屋っていうか〜、何でも屋さんみたいだねえ」
「その言い方だと、人を斡旋するだけじゃないみたいだし」

高額な『ギャラ』のためなら『闇営業』も仕方ないという気風らしい。
倫理観とかは『取っ払って』しまったのだろうか……これが今風なのか?

「私に惚れられたら、良次さんは嬉しい? ふふふふふ」
「でもね、残念だけど、そういうのじゃないな〜」
「100万円くれたらそういうことにしてもいいけど」

「『好き』も『信頼』も目に見えないんだからさあ」

        キョロ キョロ

「え〜と」「もう、これでいいかな…………」

視界を彷徨わせて……おもむろに食器入れに手を伸ばす。

「根拠はちゃんとあるんだけどね〜」
「ここで出しちゃっていい?」

「汚れちゃうからさ……掃除とか、誰か困らないかなあ?」

そして・・・フードメニュー用の物なのだろう。

            スッ

フォークを手に取り、袖をまくり、切っ先を肌に建てる。

744門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/16(日) 21:57:54
>>743(日下部)

「そりゃあ君のような可愛い娘が好きになってくれるならそれは最良だよ」

 『門倉』はそんな事を言いながら、

「―――?

       何を………何をしようとしているんだ!?」

 フォークを肌にたてる『日下部』に血相を変える。

「こ、『根拠』ってアレか?
  ヤクザの『指詰め』みたいな行為をもって示そうってのかい!?
        いや……病んだ少女の『リストカット』が近いか………?

    いやいや、譬えなんてどうでもいい!
    当たり前のことだが、俺はそんな事を望んじゃあいないよ!」

 『門倉』は『日下部』の行為を止めようとする。

745日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 23:19:51
>>744

「『オトナ』も手を焼く『ひきこもり』の『連れ出し』」
「『若くてかわいい』だけの『17歳』を連れてくのも」

「んふふふ、まあね」

        プツッ

止めるよりも・・・手を動かす方が、少しだけ早い。
目を細めて、肌に鋭い先端が突き刺さる。

「それはそれでいいんだろうけどね」
「でも……『仕事相手』はお金払うわけだし」

           『ポコ』 『ポコ』

「良次さんは、私のこと『頼れるパートナー』って紹介するんだよ」
「だから、その辺で捕まえた『17歳』じゃなくって〜」

                ・・・?

今確かに、『フォーク』は突き立てられた。
肌に銀の切っ先が刺さり・・・赤い血が・・・出たはずなのだが。

      ペロッ

「こういう『目に見える』証があった方がねぇ、お互いのためだと思うの」

いたずらな笑みを浮かべ、フォークを口にくわえるその手は、傷一つなく、白い。

746門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 00:53:10
>>745(日下部)

「ああッ!」

 『門倉』の眼前でフォークが『日下部』の柔肌に侵入していく。
 思わず軽い悲鳴のような声を出してしまう『門倉』だったが―――


                    「―――ん? んんん?」

 無傷の手………消えた『傷口』。その事実に目を見開く『門倉』。

 ………

「君―――その傷は……『奇術』か『マジック』で………?

 ………

  いや、止めよう。この現象が『超能力を信じる根拠』だというのなら」

              グ  オ  ン

       『門倉』の傍らに『人型のスタンド』が現れる。

  ・ ・ ・
「『視える』方の人間だという事だね―――虹子ちゃん、君は」

747日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 01:40:27
>>746

日下部は――自分の手に視線を落とし、笑みを浮かべる。
それから、顔を上げて。

「うわ。なるほどだね、そういう『形』があるものなんだ?」
「私のは、そういうのないみたいだからね〜」「乱暴しちゃったけど」

「でも、どうしてもね、『見せたかった』の」
「『信頼』なんて見えないもの、担保もナシに出来ないから」

「だからねえ、よろしくね良次さ〜ん」

人型のスタンドをまっすぐと見据える。
この『世界』に立ち入るパスポートは、すでに、持っていた。

「で、よろしくなんだけどね」

「出来れば『日下部ちゃん』って呼んでほしいな〜、」
「『虹子』って呼ばれるのね、あんまり得意じゃなくって」

「こっちも対等に『門倉さん』に変えてもいいからさ〜あ・・・どう?」

748門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 02:08:37
>>747(日下部)

「形(ヴィジョン)がないタイプか―――
  というか、君はそんなに、この超能力、
   『スタンド』については知らないみたいだね。

  呼び方については分かったよ。『日下部ちゃん』。
         ………ああ、俺の方は『良次さん』で構わないよ」

『門倉』は『日下部』にそう告げる。

「それで、『見せてもらった』俺としては改めて訊きたいんだけど、
 『引きこもり男子を連れ出す』ミッション、引き受けてくれるかな?

  イエスにしろノーにしろ、とりあえず連絡先はきいておきたいわけだけど」

749日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 02:22:33
>>748

「んふふ、それじゃあ、良次さんって呼んだままにしとく」

「え〜と、ねえ。『スタンド』っていう言葉と……」
「これが『アット・セブンティーン』って名前なのは聞いたけど」
「詳しいって言えるような事は、何も知らないかな〜っ」

「その言い方だと良次さんは詳しそうだし、今度教えてよ」
 
    「あっ今度っていうのはねえ」

        「またいつかとかはっきりしない話じゃなくって」

板チョコを模したケースに収めた、スマートフォンを取り出す。

           ミッション
「――――その『お仕事』の時にでも、ね?」

見せた画面には、『QRコード』。
それから、はっとしたような顔でそれをテーブルに置きつつ。

「あ、良次さんは『ラ●ン』、分かるよね〜? でも私ね、別にメールでも使えるから」
「不便ならメールでもいいよ。オトナの人だと、たまにいるからさあ、そういう人も……」

年より扱い……ではないのだろうが、『世代間の隔たり』を感じなくもない配慮を見せた。

750門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 02:43:38
>>749(日下部)

「ああ引き受けてくれるのか!

             ―――じゃあ、また今度」

『門倉』はスマホを取り出し、『QRコード』を読み取る。
そしてその場で、「門倉だよ」とメッセージを送ってくる。

     「手取り足取り教えてあげよう、色々ね」

 そんな事を言っていると、

   突如―――

     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………

              一瞬で、『視界』が変わる。

 ………

今までいた『喫茶店』がまるで夢だったかのように、
『日下部』と『門倉』は、焦げが残る『門倉不動産』に居た。

            「ああ――― もう、『時間』か」

 『門倉』が名残惜しそうに言う。

奇妙な『部屋』、『超能力』、『タイムリミット』―――
『門倉』という男が『日下部』と同じ超能力者、
『スタンド使い』なのだとしたら、
その能力を類推するのはそう難しい事ではないだろう。

751日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 03:30:03
>>750

「はい、登録」「っと〜」

      スゥッ

「や〜ん、言い方がいかがわしい〜」
「良次さんたまにそういうとこあるねえ」「なぁい?」

メッセージに『スタンプ』を返し、スマホを懐にしまう。
そして飲み終えた飲み物のストローを回していると・・・

>     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………       

          「……んんん」

「なるほど、なるほどだね〜」
「こういうのも『アリ』な世界ってことか」
 
         キョロッ

「タピオカ……『飲んだ気』は残ってる気がする」
「カロリーもあの部屋みたいに、なかった事にならないかな〜」

              キョロッ

来た時と同じように、後ろ手を組んで、『来たままの部屋』を見渡す。
が――――少なくとも今日は、それをいつまでも続けてはいなかった。

「ま〜こうやって見てても原理はわかんないか」
「原理なんか、ないのが『能力』なんだろうし」

「それにねえ、私、そろそろ行こうかなって思うんだ」
「『10万円』貰えるなら、いろいろ買いたいものとかあるしぃ」

        ザッ

          「それじゃあ行くね。また仕事でね〜、良次さん」

そのまま、『門倉不動産』を発つ――――次に会うのはおそらく、仕事の席で、だろう。

752門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 03:50:22
>>751(日下部)

「いかがわしいつもりはないんだけれど………
               よく言われはするね。

 そして、残念ながら『飲食』は血肉となる。
       あの部屋が『思い出』の彼方に消えてもね」

 『タピオカ』も『ミルクティー』も高カロリー。
  流行りには文字どおり甘い罠があるという事だ………

「それじゃあね―――
   詳しい日程の調整が出来たら『連絡』するから」

 去りゆく『日下部』の背に『門倉』は手を振る。
  残されたのは彼自身と、まだ完全に修復しきらない彼の『仕事場』。
   『門倉』の次なる仕事は
    自らの傷を癒せる『17歳』の女の子と一緒に、という事になりそうだ。


                                      TO BE CONTINUED…

753エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/06/22(土) 21:09:37
古ぼけたキャリーバックを転がし、キョロキョロと見渡しながら商店街を歩いている。
中東系の女性で、服装も少々年季が入っている……端的に言えばボロい。
端から見れば、バックパッカーか何かに見えるかもしれない。

754エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/06/24(月) 00:59:25
>>753
立ち去った

755夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 00:26:00

趣味の町歩きの途中、オープンカフェで一休み。
少しして、テーブルの上に泡立つジンジャーエールが置かれた。
グラスを持ち上げて、ショウガの利いた炭酸を喉に流し込む。

       グビッ グビッ グビッ

「――――ッかぁ〜〜〜!!」

やっぱ、ジンジャーエールは『カラクチ』だな!!
ベロにガツンとくる、シゲキテキでクセになるようなオトナのあじわい。
ナツいアツはコレにかぎるぜ!!

    《L(エル)》
                     《I(アイ)》
            《G(ジー)》
      
     《H(エイチ)》
               《T(ティー)》

そのまま休憩しつつ、何か面白そうな情報を求めて『町の声』に耳を傾ける。
『ドクター・ブラインド』の『超聴覚』――――それを使って客やら通行人の声を拾う。
なんかミミよりなハナシとかない??

756???『???・????????』:2019/07/19(金) 21:23:18
>>755

夢見ヶ先明日美、そのスタンド、傍に立つ『ドクター・ブラインド』の超感覚が
周囲の喧騒を拾い続ける。

 ガヤガヤ                  「……学校で猫が……」
                  ジャー
   「……幽霊だって!ほんと……」      ワイワイ
                       レロレロ       「……キャー!私のサンドイッチ!……」
コツコツ       「……肝試し?それは……」
                               ジャリンジャリン


その無数の音は絡み合いながら、本来なら雑踏の騒音として私達の耳に入るだろう
だが、彼女のスタンドはそれを確かに聞き分け続ける。

        ……コツコツコツコツ

その中から一つの靴音が方向を変え、貴方の背後からだんだんと近づいてくると
急にサングラスの目の前に、ハンカチで覆い隠された

 「さあ、僕は誰でしょう?」

唐突に背後から質問を投げ掛けられる。
同じくらいの年頃の少年の声だ。
どこかで聞いたことがあるような気がする。

757夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 22:19:51
>>756

誰かが背後から近付いているのは『聞こえていた』。
だが、いきなりの目隠しまでは予想していなかった。
ナニモノだキサマ!!
さてはソシキのエージェントか……!!
このミセで『マッケンジー』にうけわたすよていの『ブツ』がねらいだな!!

「ほうほう――」

どこかで聞いたような声を聞き、思案する。
このまま普通に当てるのもいいだろう。
しかし、それじゃあ『ツマらない』とおもわないかね??

「じゃあ――――『あてて』みよっかな」

      シュバッ

『ドクター』を動かし、ハンカチを持っている手に爪で『チクッと』する。
ほんのちょっとでいい。
それだけで十分。
『ドクター』の能力の一つ――『視覚移植』を行うためには。
本来は盲目である『ドクター』だが、それによって一時的に『視覚』を得る事が出来る。

「えっとね〜〜〜」

『ドクター』を振り返らせ、その人物を目視する。
                  ブースト          ブラックアウト
そういえば、前に会った時に『鋭敏化』は見せたけど『盲目化』は伏せていた気がする。
ま、ベツにいっか。

「――『イカルガのショウさん』ににてるっていわれないッスかぁ〜〜〜??」

本人は相変わらず目隠しされたままで答える。 ブラックアウト
ちなみに、『視覚移植』が成功しているなら、彼は『盲目化』しているだろう。
つまり、イマのわたしと『おなじジョウタイ』ってコトになるな!!

758斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティー』:2019/07/19(金) 22:38:27
>>757

「ーーあたり。」
「君みたいには上手くいかないな。」

ハンカチが取り除かれ、視界が開ける
彼が貴方の背後から現れた、夏風に色褪せたスカーフを揺らし、笑みを湛えた少年
斑鳩 翔。

その腕に鎖が巻かれたかと思うと、即座にボロボロと崩れ落ち、ずるり、と影のような腕が現れた
腕が夢見ヶ埼の肩を叩き、そしてテーブルの縁を触りながら、少年を向かいの席へと誘導する。

「やるもんじゃあないなあ、キャラじゃない事は
 今度は僕からからかおうと思ったんだけど、逆にやられてしまった。」

「椅子、椅子……何処だっけな。」

たどたどしい様子でテーブルの周りを回る
肩を竦めつつも、しばらくするとお手上げのようで『4本の腕で降参』しつつ口を開いた。

「……よければ助けて頂けると、嬉しいんだけど。」

759夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 23:24:53
>>758

『視覚移植』の持続時間は『10秒』だ。
解除しなくても自動的に元に戻るが、それまでの間に『事故』が起きるかもしれない。
たとえば、テーブルにぶつかった拍子にグラスが倒れるとか。

「ほうほう、ソレはいちだいじですな。よし、すぐ『シュジュチュ』しよう!!」

だから、『持続時間切れ』になる前に能力を解除する。
ただし、そうなると別の問題が出てくる。
いわゆる『ささいなモンダイ』ってヤツだけど。

「――――『アリス』のワンポイントアドバ〜〜〜イス!!」

「さいしょはさぁ、ハッキリあけとかないほうがイイとおもうよ??」

人間の目は、暗い所から急に明るい場所に出ると『眩しさ』を感じる。
しかも、今の季節は『夏』だ。
視力が戻る際に感じる眩しさは、相応に強いものになるだろうから。

「あせらなくてもイイのよ??さぁ、カラダのチカラをぬいてリラックスして……。
 おちついたキブンで、ゆっく〜〜〜りとあけていきましょうね〜〜〜」

さながら保健の先生か何かを思わせるような作り声で語りかける。
テーブルの上のグラスは手に持っている。
眩しさが事故の原因になるとも限らないからだ。

760斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 00:13:18
>>759

急激に戻った夏の日差しに目を細めつつも、どうにか椅子に座って一呼吸入れる
視界に明瞭な世界が入ると同時に、夏の暑さと喧騒が同時に戻る気がした

「ご親切にどうも、アリス。」

涼し気な声と微笑みを返して彼女と対面する
前と会った時と別段違いはなく、何時ものように陽気にすら思えた

「気分はさながらジブリの大佐だったよ」
「最後にめがぁって言いながら彷徨う感じの。」

(影の頭で視界を確保すれば良かった気もするが、まあ気づかなかった事にしておこう
 事実、見えたかは怪しいし……。)

「で、其方は暑い夏に冷えたジンジャーエール?いいね。すいません、そこの可愛い緑のエプロンした店員さん、アイスティーを」

少年は彼女の手に持った結露したグラスを見て
呼ばれてやってきた店員と二言三言かわすと、店員が二人を見てから斑鳩に話しかけた。


「え?キャンペーン?ストロー2本のカップル用の大きいサイズがある?じゃあそれで。」

店員を何でもないように見送った後、目の前の彼女に向き直る
いつも通りの笑顔で。

「それで、夢見ヶ埼ちゃんはどうしたの?散歩の休憩?鏡の世界探し?」

761夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 00:42:13
>>760

「わたしぃ〜〜〜??いつもどおり、この『フシギのセカイ』をボウケンしてる。
 なんかユカイなコトとかないかな〜〜〜って」

「そしたら、ホラ――――ちょうど『みつかった』トコ」

両手でテーブルに頬杖をついて、正面の相手を見つめる。
まるで恋人と語らっているかのように。
そんなワケねーけどな!!カンチガイすんなよ。

「――で、どうよサイキン??あの、アレだアレ。なんかあった??
 こう、かわったコトとか。モグラがサカダチしながらスキップしてるようなカンジの」

「つーかさ、ショウくんはナニしに……いやまて、あぁ〜〜〜。うんうん――わかった」

一人で何事か納得して、何度か大きく頷く。
アリスのカンサツリョクとスイリリョクは、ヒトツのケツロンをみちびきだしたのだ。
ほかのヤツならいざしらず、このアリスのめはごまかせない。

「さては、さっきのウェイトレスをマークするためだな!!やるねぇ〜〜〜」

「ナツはこれからだからな〜〜〜。『アツイよる』をすごすのは、まだまだまにあうぞ!!」

762斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 02:04:13
>>761

彼女にとっては不思議な世界
例え僕にとっては深海の底でも。

生まれた時から、さっきスタンドが見せた光景で、急に光が戻るなら
確かに彼女にとって色に溢れるここは不思議な世界なのだろう

(感受性が豊かというか…一緒にいて退屈だけはしないで済むタイプだな)

そう考えつつも、店員が持ってきたグラスを受け取る
……想像以上にでかい、おまけにハートマークの意匠で作られた
これまたでかい二口ストローが刺さっている。

(安いし興味本位で頼んでみたけど、成程 向かい合わせで飲むんだな
 そうでないと一人では吸えず、飲めない仕組みか。)

「モグラが逆立ちはないなあ、チェシャ猫のようなのなら海で一匹。」

そう言いかけた所で夢見ヶ先……もとい、アリスが自信満々に間違った推理を披露しだした
とりあえず断じておこう、ターゲットが違う、フラミンゴではボールが打てないのと同じだ。

「いや?マークは僕の目の前の、素敵な女の子だけど」

自分でも驚くくらいに、その台詞はあっさりと舌から滑り出した
夏の暑さのせいだろう、きっと たぶん メイビー。

「『アツいよる』に、一緒に夏祭りを見て回るの、どうかなって」 「駄目?」

視線を合わせ、はにかんで言っては見るが、まあ断られたら諦めよう
此方としては散々からかわれた記憶が有るので、目指せ赤面ではある。

(……おかしいな、僕は何やってるんだろう。)
(スタンド使いを探して…いや、夏祭り会場なら人も多いし、スタンド使いも集まるのでは?)
(つまりこれは両親のためにも合理的なお誘い、うん!そう!よし!)

言った後に今更鎖まみれの脳みそが回転を始める。
夏の風景を移すグラスの氷が、ほどけて子気味良い音を立てた。

763夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 03:03:07
>>762

「なるほど??それが『いつものテ』ってワケですな〜〜〜。
 アマいコトバで『ソノき』にさせて、アソんであきたらポイしてツギのエモノを……。
 そうやって、イマまでナンニンなかしてきたんだ??おおん??
 もうショウコはあがってるんだ。ジハクしたらツミがかるくなるぞ!!
 さぁ!!さぁさぁさぁ!!」

やや早口で、テキトーなコトをベラベラ喋る。
そうこうしている間に、目の前にクソでかいドリンクが置かれた。
まぁフタリぶんだし、ナットクだな!!
1ぷんでのみきったら、5マンエンとかない??
たぶんショウくんがチョウセンしてくれるハズだ!!
わたしは『5マンエンをもらうカカリ』をやろう!!
これぞ『チームプレイ』だ!!

「あのさ、いちおういっとくんだけど――」

「『いっていいコトとワルいコト』があるぞ」

「もし、それが『シャレだったら』のハナシで」

「マジだってんならイイよ。イマのトコよていないし」

「――タノシソーじゃん??」

アスファルトから照り返された太陽光を、サングラスのレンズが反射している。
そのせいか、表情は今一つ分からなかった。
しかし、少なくとも声色は普段と同じだ。
ただ平時と比べると、多少静かな感もある。
ほんの少しだけマジメになったような、
あるいは『マジメになったフリ』をしているような――そんな雰囲気だった。

「まぁソレはソレとして――――」

改めて『ドリンク』に視線を移す。
今まで見たコトがない代物だ。
コレはコレでヒジョーに興味がある。

「コイツはスゲーのがきやがったな……!!
 まったく、こんなのチュウモンするヒトのカオがみてみたいぜ。
 ミヂカなバショにも、こんな『フシギ』があったとは……!!イイねぇ〜〜〜」

サングラスの奥の瞳を輝かせ、ストローに口をつける。
しかし、ドリンクが上がってこない。
『同時に吸わなければ飲めない』というコトを知らないようだ。

764斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 04:35:44
>>763

「あ、バレたぁ〜?」

少女の怒涛の追求に、舌先から出た言葉は悪びれも無く軽かった。

「お祖父ちゃんが『女を口説く時はこう口説けって』うるさいんだよ、
まあ顔の方はイケメンに生んでくれた両親に大感謝だけど
僕より上手のアリスには通用しないしなー!参っちゃうよな!」

「ちなみに今は君が初めて使う相手だから、失敗もあるよね!精進します。」

そう言うと肩を竦め、苦笑いで誤魔化そうとした

(ま、それも『今こうなった原因』の一つなんだから複雑と言えば複雑だが……。
 『そのいかした顔がイラつく』だって?まったく、あいつらどうかしているよ。)

「でも、約束の方は『マジ』さ女に礼を失するなって言うのが、僕の家の教えだ。
 それに、僕が約束を破ったのは ……1回だけだからな。」



(もっとも、タイムリミットが先に作動しない限りは、だが。)

タイムリミットとは結局のところ、彼の複雑な人格に終始する
1番目は僕達の生死に興味がない

問題は2番目だ、怒り狂った2番目の人格が『スタンド』で、そこらのチンピラを殺す手段を確保したとたん
まず間違いなく殺して回るのが見えている、そして善人のスタンド使いなら、
『あまりにも証拠が残らない殺人』は見逃さないだろう……そうなると

(最悪なのは、『善人』が『徒党を組んで』襲いかかってくる事だ……
 そうなったら、僕はもう、両親を助ける機会すらなくなる。)

(その前に人格を統合か分離か……やれやれだ、
 何方にせよ『僕が主人格になる保証は無い』、断頭台に向かって歩いているような物だ)

(感謝はしているが、あの人も無茶を言うな『人類そのものを憎んでいる人格』が『熱愛』なんて、できるわけがない)
(だが他の二つは『死線』と『悲劇』……成長できても僕が死んだら意味がない、結局全部困難という事か。)

(『ロスト・アイデンティティ』…これ以上何を無くせと言うんだろうな。)

「ま、それはそれとしてデートの約束ゲット 浴衣姿とか楽しみだな。」

悪い予想を振り払うように首を振って思考を現実に戻す
見ると、丁度夢見ヶ崎がカップル用ドリンクに、(サングラス越しに)瞳を輝かせている所だ
だが、頑張っても吸い出せていない、仕組みを知らないのだろう

しばらく苦戦するのを見ているのもいいと考えたが
流石に少年が見かねたので

「……ノックせずにもしもぉ〜し」
「それ、1人じゃ、飲めない奴 ほら、こうやって……」

もう片方のストローを銜えて、一緒に吸おうとした。

765夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 13:14:22
>>764

「ナニこれ??このストローこわれてる。だってゼンゼンのめないし。
 ストローってのは、のむためにあるんじゃねーのかよ??
 すえないストローなんて、もちてがサカサマについてるヤカンみたいなモンだ。
 つかえねーヤツだな〜〜〜カネかえせ!!」

この『アリス』をコンワクさせるとは、イガイにガッツあるじゃあねーか。
だが……『そのていど』でとめたきになってるんならナメすぎだぜ!!
『アリス』のじゅうなんな『ハッソウリョク』をアマくみるんじゃあねー。
『ストローをつかわなきゃならない』なんてダレがいった??
ストローがつかえないんならよぉ〜〜〜

      ガシッ

「『ちょくせつのめば』すむハナシだぁ――――ッ!!」

役に立たないストローを完全に無視して、グラスを持って直接飲もうとする。
しかし、飲み方を教えようとしているのを見て、ギリギリで手を止めた。
同じように、再び自分もストローに口をつける。

「あ、のめたわ」

ごく自然にドリンクが吸い上がる光景を見て、納得した。
だけど、すこぶるメンドくせーな。
これ、ヒトリでリョウホウくわえてもイケるのかね??

「さすがによくしってるじゃん??
 こうやってオンナつれこんで、いつもおなじようなチュウモンしてるワケだ。
 ついにうごかぬショーコをおさえてやったぜ!!」

「――――で、ナンのハナシだっけ??『ユカタ』がどうとかって??」

「わたしは『ユカタをきる』なんてヒトコトもいったオボエはありませんね。
 イカルガさんが、そういうカッコウをおこのみだというなら、ヤブサカではありませんが。
 ただ、そういうカッコウがスキならスキと、『ハッキリ』おっしゃっていただきませんと」

「――どうなのですか??」

感情を抑えた声色と口調で、容赦なく追及を続ける。
そう、まるで男性社員からデートに誘われた『高嶺の花のエリートOL』のように!!
さぁ、おもいのままにジブンの『シュミ』をぶちまけるがいい!!フハハッ!!

766斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 17:22:25
>>765

「フッ、僕のクラスメイトの知識を甘く見るなよ…年がら年中『彼女欲しい』とか言いながら
 学生服の第2ボタンを仮縫いして取られやすいようにしている奴だ…!流石の僕も戦慄する。」

別名:色ボケした馬鹿とも言う。
だが健全な男子生徒とかそんなもんである。

(まあアイツには後で自慢するとして)

悔しがる顔が目に浮かぶが
今度は浴衣が好みなのか等と問われてしまった
声色が抑えられて、真夏のクーラーのような印象を受ける


(話しぶりがころころ変わるなあ、夢見ヶ崎ちゃんは
 とはいえ……)


「そうだなあ。」
「好きと言うよりは、夏の祭りを更に楽しむための装いだと思ってるけど。」


やぶさかではないと言われ、今一度目の前の少女を見直す

セミロングの金糸が夏の日差しを反射して煌めき
ネイルアートの施されたカラフルな付け爪が指先を彩り、
黒目がちの大きな瞳を、ブルーレンズのサングラスが覆う


「元がいいから何着ても似合うとは思うし
 頼んだら着てくれる辺り優しいよね、アリスは。」

本心からそう言うと、アイスティーを更に飲む
冷えた液体が喉を流れ落ちていく

(白地に紫陽花辺りもいいと思うけど、白は汚れが目立つからなぁ。)



「それとも、夏用の特別な装いはお気に召さない?
 他の時期だと着れない物だけど。」

彼女の好奇心をくすぐるように囁く
事実、興味が無いわけでは無いのだ。

「ところでさらっと飲んでるそれ、僕のドリンクなんですけどー!
 資本主義に乗っ取り代金を要求するー!」

767夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 18:19:25
>>766

「あー、うん、まぁね、そりゃそうだ、うんうん」

こうもストレートに褒められると、何だかミョーに照れくさい気分になる。
だから曖昧な相槌を打って、この話題を切り上げてしまおう。
だけど考えてみれば、これも『未知』の経験の一つだ。
『全ての未知』を網羅する予定の『アリス』としては、体験しておくべくなのかもしれない。
そう考えていた所に、『ダメ押しの一手』が放たれる。

「くッ…………!!『トクベツ』か…………!!」

心が揺らいだ。
その手の誘いには弱い。
なぜなら『アリス』だからだ。
アリスは『フシギ』を追い求めるモノであり、私は『アリス』である。
つまり、私は『フシギ』を追い求めなければならないのだ。

「――――『のった』ッ!!『きて』やろうじゃないか!!
 わたしを『ソノき』にさせやがって……。コウカイすんじゃねーぞ!!」

    ズズズズー

さりげなくドリンクの量を減らしながら、ビシッと宣言する。
それから顔を上げて、不意にニヤリと笑ってみせる。
何事か企んでいるような――そんな不適な顔だった。

「ヘイヘイヘイヘイッ!!ショウくんさぁ〜〜〜、ヒトツだいじなコトわすれてるよ??
 『わたしといっしょにカフェでくつろぎのヒトトキをすごしてる』ってコトをさぁ〜〜〜。
 『モトがイイからナニきてもにあうアリス』とイッショに。
 ソレが『ドリンクだい』にならないのは、ちょっとシツレーすぎるとおもわないかい??」

            ニヤッ

「ショウくんはわたしとヒトトキをすごす。わたしはドリンクをいただく。
 コレで『つりあい』はとれてるワケだよねぇ〜〜〜??
 ココでわたしがオカネだしたらさぁ〜〜〜
 『ワリ』にあわなくなるんじゃないのぉ〜〜〜??」

「しかもさぁ〜〜〜『デート』のさそいまでオーケーしたよねぇ〜〜〜??
 さらにオカネまでとろうなんて、ソレこそ『シホンシュギイハン』じゃないのぉ〜〜〜??」

ニヤニヤしつつ、ドでかいグラスを挟んで向かい側に座る相手の顔を眺める。
『シホンシュギ』っていうのがナニか、よくしらないけどな!!
さぁ、どうでる??イカルガショウ!!

768斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/21(日) 02:20:39
>>767

「グッド!」

口角が嫌でも吊り上がる
彼女…アリス相手にまず一勝と言う所だろう
好奇心をくすぐるのは成功だったらしい

「そうだね、後悔するのは隣に誰もいないクラスメイトだろうけど。」

動揺して話題を斬り上げられた、
ポイント1-0。
ただし、彼女はただで倒れる相手では無かった
不敵な笑みと共に、即座に反撃の手を刺し始めたのだ

「女生とカフェのひと時での支払い?」

そう言われると困った事になった
なにせ、確かに僕が褒めているのは事実だし
これに下手なNOを突き付けるのは、今までの言葉を嘘にする事になる

(そう言いつつ更にドリンクを減らすあたり抜け目ないなあ。)
(が、どうかな……)

資本主義と言うのは適当にはなった言葉だが
このまま彼女に言わせておくのは男がすたる、気がする。
よろしいこの斑鳩、受けて立つ、ならば『ふたつの』頭をフル回転すべし。

うんうんと唸りながらも、ドリンクが半分を切った頃に、は何とか影の頭共々ひねり出し
説明の為に指を一本ずつ立て、順に折っていく

「……一つ、デートの誘いが無ければ浴衣を着ようなんて『特別』考えてなかったんじゃない?
 つまり僕から君に『教えてる』という体で『デートは双方に利益が有る』、よって、チャラ。」


要は自分は『デートの機会を得る』、彼女は『浴衣を着る機会を得る』
という事で相殺しようという論理だった、彼はそのまま続けて口を開く


「二つ、確かに君は美人だ、それは認めていて、覆えさない
 だが、僕だってそれに負けているとは思っていない、僕は斑鳩家の一人息子で…この顔に生んでくれた両親に感謝しているから」

彼は自分が整っているとは考えていたし、事実その通りではあった
ただ、彼の自信は鏡を見た主観的評価では無く、単に両親への愛で自分も美形だと信じているのだ



      「それに」



「君のような女の子が、たったのドリンク一杯で『デートに誘われた』、なんて自分を安売りしていいわけがない」
「友人にはこう言えばいい、清月学園一のイケメンをタダで『デートさせてやった』…のほうがいいんじゃないか?」

(……我ながら結構苦しいかもしれない!)

斑鳩は言い終えると、こう考えた
世の中の女を口説くのが礼儀だと思っている男性は、皆、同じような苦労をしているのか……と

769夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/21(日) 07:01:30
>>768

「『イケメン』だったの??」

今初めて気付いたような口調だった。
客観的に見て自分のルックスがいいのかどうかも、正直な所よく分かっていないのだ。
そう言われたから、深く考えずに同意しただけで。

「まぁ、そういわれてみればそーかもね」

生まれつき視力が働かなかった自分は、顔に対する『優劣の感覚』が薄かった。
それぞれが違っていて、その違いが面白いとは思っているのは事実だ。
しかし、『そこに優劣を感じるか』と言われると、あまりピンとこない。

「うんうん、そのトオリだ。やっぱりイカルガくんはかしこいなぁ!!
 ハンサムでスマートでおまけにアタマもいい!!
 よっ、プレイボーイ!!イロオトコ!!ジェームズ・ボンド!!」

あまりにもアッサリと、ほぼ全面的に同意する。
特に反論してくる様子もない。
ソレはナゼか??

           (――――ニヤリ)

表情には出さず、内心でほくそ笑む。
こちらの目的は最初から、『勝手に飲んだドリンク代の支払いを回避する』ことのみ……。
そのために!!論点を『ウヤムヤ』にして忘れさせるッ!!

「ユカタの『ガラ』は、どんなのがイイとおもう??『トリガラ』いがいで」

さらにダメ押しにッ!!ごく自然な流れで『話題』を転換する!!
もし思い出したとしても、あれだけ力説した後で『カネを出せ』とは言いにくかろうッ!!
『いつまでもコゼニにこだわるミミっちいオトコ』という『ちいさくないマイナスイメージ』が、
『ウワサずきのジョシたち』のあいだでフイチョウされるコトになるぜぇ〜〜〜??

「やっぱ『ブルーけい』か??そこはかとなく『アリス』っぽい。
 コーディーネートがジューヨーだからな。ネイルもあわせないといけないし」

ソレはソレとして、ユカタはタノシミなのだ。
むしろジブンのほうが、それまでのハナシをわすれつつある。
あれ??さっきまでナニはなしてたっけ??モグラのハナシか??

「よし!!これからみにいこうよ!!
 おもいついたら、すぐコウドウしなきゃ!!
 はやくしないとユカタがにげるぞ!!アイツらケッコーはえーからな!!」

「――――イイよね??」

さも当たり前のように提案を持ち出す。
まぁ断られたら一人で行くだけなんだけど。
どうよ??

770斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/21(日) 18:08:45
>>769

「……有難う!」

彼女に感謝をしつつも脳内でゴングが鳴り響く
苦笑しつつも今回の舌先に置いて敗北を喫した

(くっ、これ以上の追求は無理か…!
 すまない、男子生徒諸君、僕が男であるが故の敗北だった…!)

自身の見目を女性に褒められた以上
これ以上の金銭への追求は、男としても『みっともない行為』にしかならないのだ
男のプライドにより始まった戦いは、漢のプライドにより敗北したのであった――

「まあ、(僕以外の男子生徒の尊厳とか、別にどうでも)いいや
 それで?浴衣を見に行くんだったらお祖母ちゃんの贔屓の店を紹介するけど。」

席を立ち、レシートを持って彼女の傍に立つ
夢見ヶ崎を誘うように手を振ると、口を開いた

「何せ、夏の時間は有限だからねアリス?
 お茶会の時間は終わり、お店で君に似合う帯を探す時間だよ。」

意地の悪そうな笑顔と共に、歩きだす。

(――そう、時間は有限だ。僕達にとっても。)

結露したグラスが、夏の風に吹かれて、残されたテーブルを濡らしていた。

771夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/21(日) 23:23:12
>>770

「ナニそれキョーミあるぅ〜〜〜。
 まさか、そんなバショをしってるとはな…………ナカナカやるじゃないか!!」

目の前に出されたのは、新しい世界への招待状。
答えは決まってる。
なぜなら、私は『アリス』だから。

「そうね、ジカンはたちどまらないもの」

      ガタッ

「だから――――わたしたちはあるいていくのよ」

椅子から立ち上がり、芝居がかった口調で応じる。
『アリス』は立ち止まらない。
世界から世界へ、常に新たな『未知』を求めて渡り歩いていく。

「では、『ウサギ』さん――『アリス』をあんないしてくださる??
 あたらしい『フシギのくに』のいりぐちへ」

      ニコッ

一片の曇りもない晴れやかな笑顔で語りかける。
その表情は、二人の頭上に広がる夏の空のようだった。
今日もまた、『アリス』は新たな冒険へ赴くのだ――――。

772宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/07(水) 21:34:04

小さな公園の隅に設置された自販機の前に作業服を着た男が立っている。
硬貨を入れてコーヒーのボタンを押す。
反応は無い。
少し待ってから緑茶のボタンを押す。
やはり反応は無い。

「この暑さだ」

続いて返却レバーを操作する。
反応は無い。

「機械も狂う」

踵を返して自販機に背を向ける。
歩き出しかけた時に背後から音が聞こえた。
コーヒーと緑茶が一本ずつ出て来た音だ。
自販機に近付いて二つの冷えたスチール缶を取り出す。
頭の中では余る一本を片付ける方法を考えていた。

773芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/07(水) 23:59:36
>>772

「あぁぁぁ〜〜〜〜暑っっちぃなぁ たぁぁくよぉ

蒸して蒸して蒸し蒸し蒸し……嫌気差す中でも、ウィゴーちゃんの
体臭が咽るぐらいに漂う事が、地獄みてぇな環境の中での天国だよな」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト です。だぁぁれの体臭が
漂ってくるだ、コラッッ゛!! こちとら無臭だわっ!!!』

「安心してくれ この世で一番の香りだ」

『くっそ! 30℃超える熱でも、こいつのイカレ脳味噌を正すのは無理かっ!』

貴方の横を平然と通り過ぎる、ヤバイ雰囲気の男と ある程度まともな調子の
スタンドが堂々と会話しつつ自販機へ立つ。

「どんれぇにすんの?」

『慣れ慣れしく肩に手を置こうとすんな。んじゃ 午後ティーで』

「はいよぉー」  カチ   カチャン

『まったく、何時になれば猛暑は過ぎるんでしょうか』 ゴクゴク プハー!

そして、缶へとスタンドが手を翳す。

キィィン スラッ   ギュンッ

缶から『フィルム』が抜き出され、スタンドが手を弄ると蓋を開ける前の
状態へと戻っていく。それを男が平然とした様子で頂いた。

ゴキュ ゴキュ プハーッッ!

「んっめぇぇぇ〜〜 やっぱウィゴーちゃんとの間接キッスは最高だぜぇぇ〜え!」

『……駄目だ 抑えろ 自分。いずれ妖甘様か成長するにしても、自立型になり
こいつを思う存分ぶっ倒すその日まで、抑えるんだ……っ!』

こんな奇妙な光景が、貴方の眼前で繰り広げられている。

774宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 00:21:57
>>773

「ああ――」

スタンドと男を見た。
コーヒーの缶を開けて中身を飲み干す。

「この暑さだ」

空になった缶をゴミ箱に捨てる。
やはり自分で始末するべきだという考えに至った。

「人間も狂う」

緑茶の缶を開けて一息に呷る。
空になった缶を無造作に捨てた。

775芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 19:56:57
>>774(レス遅れ失礼しました)

男の奇行に対し狂気を垣間見る。だが、この男の場合は正気も狂気も
見てくれはどちらも変わり映えはしないものなのだろう。

空き缶がゴミ箱に入る音に、狂気を纏う芦田は緩慢な動作で首を向ける。

「あっっついよなぁ本当によぉ、なぁ? 年々気温が上昇しててよぉ
南極だが北極の氷も溶け切ってなぁ」

やってられねぇよなーと、空き缶を逆さにしつつ残る雫を舌で受け止める。

「苛々が堪らねぇ。なぁ、あんたも偶には暑さ以外でも何でも
ストレス発散したくならねぇか?」

自販機を指しつつ、男は嘯く。

「俺の嫁さんは器物破損するとブチ切れんのよ。おたく、一丁派手に
ぶっ壊してみね? 見るだけでも、こちとらちょいとは胸がスカッとすると思うし」

『誰が嫁だコラ』

貴方(宗像)へ自販機を破壊する誘惑を薦める・・・。

776宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 21:45:01
>>775

「自販機に八つ当たりしても俺の気分は変わらない」

「つまり俺には一つの得も無い」

男とスタンドから視線を外して自販機から離れる。

「どうしてもと言うなら自分でやれば良い」

近くのベンチに腰を下ろして再び男とスタンドに視線を向ける。

「その後で起こる全ての問題に責任が持てるなら――だが」

「自分の行いの後始末が出来ないなら止めるべきだ」

777芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 21:54:48
>>776

>自分の行いの後始末が出来ないなら止めるべき

「出来るぜ?」

さも当たり前の顔を男(芦田)はする。そして、自分のスタンドにも
目線を向けた事も何となく勘付いたようだ。

「うちの嫁さんは最高だからなー。完全にぶっ壊れて原型留めずとも
多少パーツあれば直ぐに元通りなのよ。凄くね? 凄くね?」

『嫁呼ばわり、止めてくださいよ』

そして軽い能力自慢と共に、不平不満もうぶつけてきた。

「けど、俺一人で自販機ぶっ壊しやろうにも、無駄に運動して
余計に上着と股間に汗がだらっだらになるだけで不快度マッハでよぉ。
ウィゴーちゃんも女の子で細身だから、自販機壊すような悪い事なんて
しないし、俺にもさせませんだとよ」

そう言う部分に惚れてんだけどよ、と零す男を。スタンドは
ウィゴーじゃなくウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトだと返しつつ
惚れたとか呟くなと本体を、まったく仕方がない奴だとばかりに睨んでる。

「なぁ、能力説明したんだしよぉ。あんたの知り合いか、あんた自身
喋れるスタンドの知り合いっている? 
教えてくんねえかな。ウィゴーちゃんの友達増やしたいのよね 俺。
それか、ウィゴーちゃんでも着れるスタンドの服作れる人とかいたら
あんたのなんか貴重品壊れた時とか、無償で直すけど」

ウィゴーちゃん任せだけど、と。スタンドに改めて正式名称を言い返されつつ
男はマイペースに告げた。

778宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 22:11:00
>>777

「俺は能力を教えてくれと言った覚えは無い」

「能力を聞く代わりに情報を提供する取り決めをした覚えも無い」

他人に能力を教える事は大きな危険性を孕んでいる。
その相手と敵同士になった時に不利になる可能性があるからだ。

「だが敢えて答えるなら――」

「知らない」

男の言うようなスタンドと出くわした経験は無かった。
もし知っていたとしても教えるかどうかとは別の問題だ。

「それだけだ」

779芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 22:43:35
>>778

「ふぅん まっ、知らねぇなら仕方がねーな」

所詮この世は納得出来ない理不尽の連続。そう上手い具合に答えが
転がりこんでくる事など無いのはわかっている手前。芦田はパタパタと
手うちわで生ぬるい風を顔に運びつつ了解した意を唱える。

「んじゃまー、またどっかで出会えた時に。もし知り合ってたら
教えてくれーな」

あー暑い暑い。海にでもいっかウィゴーちゃん。

ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトですよと訂正を告げられつつ
足の向きは宗像と真逆のほうへと進んでいく。

(あー、暑いし面白い事も転がってこねぇなぁ)

(なんか一発、どでかい事が町で起きれば良いんだが)

780宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 23:02:53
>>779

「――確約は出来ない」

立ち去る男の背中に投げ掛ける。
そのまま遠ざかる男とスタンドを見送った。

「妙な奴だ」

それが男に対して抱いた感想の全てだった。
客観的に見て正常とは言い難い。

「暑さのせいなら良いが――」

781ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/16(金) 22:24:12

少し前から、一部の人々の間で『奇妙な噂話』が囁かれるようになっていた。
それは、『高速で走り去る少女』の噂だ。
リュックを背負った七歳ぐらいの少女が、常識では考えられないスピードで駆け抜けていくのだという。
ある目撃者によると、自転車を追い抜いてバイクと並走していたらしい。
そして、その少女は主に『夕暮れ時』に現れるという事だ――――。

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ

「――――早くッ」

「帰らなきゃッ」

「はぁッ――――」

「『永添さん』がッ」

「心配しちゃうからッ」

俺とヨシエは――正確には『リュックに入った俺を背負ったヨシエ』は、夕方の通りを走り抜けていた。
俺の『ワン・フォー・ホープ』の能力は、人間に『超人的なスピード』を与える。
今は、遊びに夢中になって帰るのが遅くなったヨシエのために使っているワケだ。

               バッ
                        ババッ
                   バッ

だが、この姿は少々――いや、かなり目立つ。
一応、出来るだけ人目につきにくいような狭い道を選んではいた。
ヨシエに与えた『達人的な精密性』で、障害物の多い場所でも速度を落とさず突っ切る事が出来る。

                           タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ

しかし、だからって透明になれるワケじゃないからな。
完全に姿を見られなくするなんていうのは、まぁ無理な話だろう。
どこかで、『変な噂』にでもなってなきゃいいが。

782成田 静也『モノディ』:2019/08/19(月) 23:42:34
>>781

「大分遅くなってしまったな・・・」

この街の学校に転入して数か月、前の学校より今の学校の方が先に進んでいる科目がいくつかあり、
それのために放課後過ぎまで居残りしていたのだ。

「早く帰って夕食の準備しないとな・・・っ!?」

後方から尋常じゃない速度でこちらに来る足音(?)が迫ってくるのを『モノディ』が聞き取った。

いきなりの接近で驚いたのもあり振り返って反射的に『モノディ』で防御の構えをとった。

が、振り返って目にしたのは小さな子供の姿であった。

「子供!?しかしこの速度、とてもこの年の子供に出せる速度では…まさかまたスタンド使いか!?」

783ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/20(火) 00:29:46
>>782

 タタタタタタタタタタタタタタタタ

遠方から接近してくる足音を、『モノディ』の鋭い聴覚が聴き取った。
『モノディ』程ではないが、その速度は『高速』と呼んでいい速さだ。
『短距離走専門のプロアスリート』でさえ、到底不可能なスピードで近付いてくる。

            タタタタタタタタタタタタタタタタタタ

いや、これは『陸上選手』どころではない。
その子供は、『バイク』に匹敵するスピードで走っている。
どう考えても普通では有り得ない――――『スタンド使い』だ。

「――わわッ!?」
                ズザッ

驚いた様子の少女が、急ブレーキをかけて立ち止まった。
明らかに『モノディ』が見えている。
それは間違いない。

(『スタンド使い』らしいな……)

ヨシエのリュックの中で、俺はどうするか考えていた。
見られたのは仕方ない。
しかし、スタンド使いに見られたとなると面倒な事になるかもしれない。

(……ひとまず様子を見るか)

相手がまともな奴なら、大きなトラブルにはならないだろう。
だが、そうでない可能性がないとは言い切れない。
その場合は、何か手を考えなければならなくなる。

784成田 静也『モノディ』:2019/08/20(火) 23:02:43
>>783

・・・今のところはまだ様子見だが敵意とかは目の前の少女からは感じられないな。

ならば・・・

「驚かしちゃってゴメン、いきなりすごいスピードで走ってきたもんでついとっさにスタンドを出してしまった。」

「一応聞くけど、キミはスタンド使いかな?オレの『モノディ』も見えている(?)みたいだし。」

警戒やいらない敵対心を持たれないように優しめの声色で聞いてみる。

785ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/20(火) 23:29:17
>>784

「――――『スタンド使い』?」

少女はキョトンとした表情だった。
単に、スタンド使いという言葉を知らないだけかもしれない。
それとも何か『別の理由』があるとも考えられる。

「あッ、こっちこそゴメンなさい。でも、ぶつからなくて良かったね!」

   スッ

少女が手を伸ばし――――『モノディ』に触れた。
本来なら触れないはずのスタンドに『素手』で触っている。
触れられている感触が、『モノディ』を通して確かに伝わってくる。

「ケガしてないですかー?大丈夫みたいですねー」

看護師のマネでもしているのか、少女はそう言って『モノディ』から手を離した。
その様子から、少女が警戒していない事が分かる。
触られた場所も、別に何の変化もない。

       ニコッ

少女は笑っている。
裏のない子供らしい笑みだ。
子供らしいからこそ分かりにくいとも言えるかもしれないが…………。

786成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 00:00:56
>>785

『モノディ』に触れた上にこの少女はスタンドを知らない?
オレはスタンドに目覚めた時に一通りの説明は『心音』さんから聞いた。

この子は聞かなかった?それとも説明されなかった?何か違和感があるな・・・

少し『モノディ』の聴覚で周りを探ってみるか。

「ありがとう、でもちょっとスピードの出し過ぎかな。」
「オレはモノディ・・・このそばに立つコイツがいるから大丈夫だけど他の人ならもっと驚いてしまうし、
キミ自身も車とかにぶつかると危ないから今度からはほどほどの速度でね?」

諭すように話していると。モノディが二つ目の心音を捕らえた。少女のものと比べると小さいが確かに聞こえる。

「キミ・・・えっと名前を聞いてもいいかな?オレは成田、ナリタシズナリっていうんだ。」

「キミは今、一人じゃなくてそばにだれかもう一人いるのかな?」

少女に聞いてみる。

787ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 00:31:57
>>786

よく見ると、少女の手の甲に『光の紐』が繋がっていた。
その先にあるのは、少女が背負っているリュックだ。
そこに向かって『光の紐』は伸びている。

「はーい!ヨシエは嬉野(うれしの)ヨシエっていいまーす!」

ヨシエは元気よく返事を返した。
そして、『モノディ』の優れた聴覚は第二の心音を捉える。
その位置は『ヨシエの背後』だ。

「いるよー。ねっ?」

       シュルルルルルルルッ

その時、『光の紐』が少女から離れ、リュックの中に戻っていった。
中に何かがいるように、リュックが小さく揺れ動く。
次の瞬間、『黒い何か』がリュックから顔を出した。

       ヒョコッ

一匹の『チワワ』だ。
一般にスムースコートと呼ばれる短毛種で、毛の色は黒い。
こうした黒単色の種類は『ソリッドブラック』という名で知られている。

「『ディーン』っていうんだよー」

黒いチワワは、『DEAN』と名前が入った首輪を付けている。
首輪には、革紐の『リボンタイ』が結んであった。
チワワは愛嬌を振りまくでも吠えるでもなく、じっと成田の方を見つめている。

788成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 01:48:38
>>787

「なるほど・・・そういうことだったのか。」

おそらくこのスタンドの本体はこのディーンなのだろう。
『モノや生物と一体となるスタンド』少しだけ聞いたことがある。多分それなのだろう。
だからヨシエにはスタンドの知識が欠けているのだろう。

「心強いボディガードがいるんだね、これなら夕暮れ時でも大丈夫そうだ。」

ディーンの方を見て感慨にふける。

かつてオレも幼い時に犬を飼っていた。まだ家族が仕事でバラバラになる前の事だ。

犬種は覚えていないがフレッドという名前でとても可愛がっていたことと幸せだったことは覚えている。

結局、親の仕事の都合で引っ越す羽目となり引っ越し先のアパートはペット禁止で
近所の犬好きの人に引き取ってもらうことになったがとても悲しかったのも覚えている。

「オレさ昔犬を飼っていて動物が好きなんだ。だからもしよければディーンを少し撫でさせてくれないかな?」

ヨシエとディーンに頼んでみる。

789ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 02:15:52
>>788

動物のスタンド使い。
ヨシエやディーンは知る由もないが、成田は既に出会った事がある。
ここでまた遭遇したのも、何かの縁かもしれない。

「だってー。いいかなー?」

ヨシエの問いかけに対して、ディーンは成田からヨシエに視線を移した。
『アイコンタクト』――――視線による無言の会話が交わされる。
それは、この一人と一匹だからこそ通じるものだ。

「『いい』って言ってますよー。成田のお兄さん!」

ヨシエが成田に背中を向ける。
同時に、ディーンも向きを変えて、ヨシエとは逆の方向を向く。
つまり、成田と向き合うような形になる。

    ジッ

ディーンは無言だが、態度は落ち着いている。
過剰な警戒や敵意は見られない。
ヨシエの言葉通り、撫でても問題ないはずだ。

      ポウッ

不意に、ディーンの『リボンタイ』が淡い光を発した。
先程の『光の紐』と同じ光だ。
おそらく、これがスタンドなのだろう。

《『ガラス細工』のように扱えとは言わないが――――『程々』にな》

『声』が聞こえた。
これは『スタンド会話』だ。
目の前のチワワが、そのスタンドを通して言葉を発している。

790成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 03:02:35
>>789

「ありがとうヨシエちゃん、ディーン。」

そういうとディーンの頭を毛並みに沿う形で指の腹を使って優しくなでる。

・・・昔の幸せの思い出とついこの間まで一緒に戦った仲間たちの事を思い出す。彼らは元気にしているだろうか?

「うん、昔一緒にいた犬のフレッドを思い出して少し懐かしい気分になったよありがとう。」

撫でるのを終えて、ヨシエとディーンに感謝する。

「さてと、ヨシエちゃんもそろそろ帰らなきゃなパパとママが心配してるよ?」

もうすぐ完全に陽が落ちる頃だ、オレも残業で帰れない母の代わりにスーパーで夕飯を買わなければならない。

791ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 04:10:35
>>790

「うん!よかったねー!静也のお兄さん!」

ヨシエはクルリと体の向きを変えて、再び成田に向き直った。
うまり、それに合わせて俺も体の向きを変えなくちゃならない。
そうじゃなきゃ、俺は成田に背を向ける事になる。
生憎、背中に目や口は付いてないからな。
別にスタンドを通して喋ればいいんだろうが、その間ずっと背中を見せているのは『本能的』に嫌な気分だ。

《その代わりと言っちゃなんだが、今日ここで見た事は内密にしておいてくれ。
 『普通じゃ有り得ないスピードで子供が走ってた』って事を、な。
 昔の思い出の代金だと思えば安いもんだろう?》

実の所、撫でられるのを了承したのは『口止め』しておきたかったという理由も多少あった。
まぁ誰かに喋られたとしても俺には分からないだろうから、さほど期待はしていない。
だが、この成田という男(オス)の人柄を推し量る参考にはなるだろう。

「あっ…………うん…………そう…………だね…………」

『パパとママ』という言葉に対して、ヨシエはあからさまに表情を曇らせた。
家に帰っても、ヨシエの両親は待ってはいない。
二人は仕事で常に色んな場所を飛び回っていて、滅多に帰ってくることがないからだ。
実際、ここ数ヶ月は顔を見ていない。
家で待っているのは、両親が雇った家政婦の『永添』だけだ。

      ワンッ

ヨシエの様子を見て、俺は小さく鳴いた。
『永添』が待ってる。
それに俺もいる。
そういう意味を込めた鳴き声を発した。
『言葉が通じなくても伝わるもの』がある事は、つい最近思い出す機会もあった。

「うん、そうだね。大丈夫。ヨシエは一人じゃないから」

           ニコッ

「――――ありがと!静也のお兄さん!」

                 タッ

「『モノディ』さんも!バイバイ!」

                     トトトトトッ

成田の親切な注意が効いたらしく、ごく普通の速度で少女が駆けていく。
その後姿は夕日の中に溶けるようにして消えていった。

792成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 23:44:59
>>791

ヨシエとディーンを見送った後、我ながら無神経だったと思った。

あの子も自分と同じで家族がバラバラになってしまい寂しい思いをしていたのかもしれない。

・・・ただ、あの子はオレとは違っていつもそばに寄り添ってくれるディーンがいる。
他にも寄り添ってくれる人もいる様子だった。だから多分大丈夫だろう。

「ただ、もしもああいう子とかがスタンドの事件に巻き込まれるのは嫌な気分だな・・・」

この間の戦いの物騒な連中を思い出し、強くなるという目標を遂げるだけではなくこの街で知り合った人を
守れるようになるのも悪くないかもしれないな。

そう思いにふける中、改めて夕食を買いにスーパーへと歩き出した。

793斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/21(土) 00:36:30

 「――だってさ、ありえないじゃあないか そんなの。」

9月、夕暮れ時の日差しが柔らかに差し込む大通り
その喧騒から離れた場所に、1人の少年が歩いていた

 「バイクが最低時速50㎞、ウサイン・ボルトが時速45㎞」

ライダーズジャケットに赤いスカーフを首に巻いた少年は
耳にスマートフォンをあてて、喋りながら路地の先へと歩いている

歩み方に迷いはないが、その姿は何処かうんざりとした雰囲気を纏っていて
手にしたスマートフォンで電話越しの相手と会話しているようだった。

 「『バイクと並走』っていうのはつまり、ワールドレコードを追い抜いて、壁に向けて走れば自殺できるって事なんだぜ?」
 「ターボばばあみたいな都市伝説だろ?」

――正直、それ以外に思いつかない というわけではない
『都市伝説』以外に、僕達にはもう一つだけ可能性が有る。

そして、その可能性が有る限り、僕達は無視するわけにはいかないのだ。

 「そりゃあ……噂の出所を辿って確認には来たけどさ」
 「あのチンピラ、ホントにここで見たと言っていたのか?」

だが、お陰で僕は酷く疲れていた
顔も知らない相手、その姉、その親戚のお婆さん、その御婆さんの友人、etc、etc、etc……

おまけに聞きまわった中の一人にギャングボーイズが混ざっていたせいで
要らないトラブルに巻き込まれ、朝方から歩き回ってもう昼頃になっている

……スタンドも、僕も、くたくただった。
そうして辿り着いた場所を見回せば『大通り ―星見街道―』 その路地裏だ。


 (人目につかない路地裏、これじゃあ障害物競争になるじゃあないか、足跡なんて何処に残っている物なんだろうか。)


溜息を一つつき、スマートフォンを懐に仕舞うと少年は
ジャケットの襟を正して、せめて今日の労力に、何か納得できるものが無いかと目を皿のようにして探し始めた。

794ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 07:03:21
>>793

『バイクと並走する少女』――まさしく眉唾物の噂だった。
ごく常識的に考えれば、まず存在するはずがない。
枚挙に暇がない『都市伝説』の一種だと思うのが普通だ。
しかし、斑鳩翔は『知っている』。
それが、決して『絶対に有り得ない話』ではない事を――――。

         シィィィィィ――――ン…………

賑やかな表通りとは裏腹に、この場所は至って静かだ。
人もいなければ動物もいない。
そして、『噂』に繋がるような何かも見当たらない。

                      タッ タッ タッ
               トンッ
    タッ タッ タッ

ふと、曲がり角の向こうから軽い足音が聞こえてきた。
やがて、一人の『少女』が姿を見せる。
花柄のワンピースを着た七歳くらいの小さな少女だ。
花モチーフの髪留めで纏められた髪が、軽く走る度に揺れている。
『噂の少女』と同じように、背中に『リュック』を背負っていた。

795斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 13:05:45
>>794

 「……。」

数分程探した後に、膝を伸ばし
懐に借り物の小型のルーペを仕舞い込む。

 「やっぱり、何も無さそうだな」

失意に額を抑えながら空を仰ぐ
いままでの苦労とはいったい……3割程は自分のせいだった気がしなくもないが

 (靴跡の一つでも残っていれば、そこから年齢くらい解るんだが……。)

何もない物は仕方がない、かの高名な山高帽を被った男でも
靴に土がついていなければ、推理のしようがないではないか

 (そうと決まれば、さっさと帰ってロッ〇マンDASH3でも…… うん?)


顔を上げると、ふいに耳にその靴音を捉えた、視線を向けると
物音ひとつしない路地裏の奥に、靴音の発生源……1人の少女の姿を捉える。


 (『スタンド』の類は見えない、ただの女の子か? しかし、都合のいい事には違いない。)

 「――さて、アレが僕の幻覚じゃあなければ、話の一つでも聞くべきなんだが。」

自身に呼びかけるように呟くと、少女の方に向き直った
人気のない路地裏を、此方に向かってくる姿に呼びかける。

 (リュックを背負って走り回る、遊び盛りって感じだな)

 「――そこの、花飾りの素敵なお嬢さん」
 「そんなに急いで何処に行くんだい、転んでしまうよ?」

796ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 16:16:47
>>795

――――ピタッ

「こんにちはー!」

立ち止まった少女が、元気よく頭を下げて挨拶してきた。
よく見ると、年齢や外見も『噂の少女』と似ているように思える。
もちろん、ただ単に『似ているだけ』かもしれない。

「えっとねー」

「――――『あっち』!」

       ピッ

少女は、路地から『表通り』に向かう道を指差した。
かなりアバウトな答え方だが、とにかく通りに出るつもりのようだ。
現状、本当に『単なる少女』にしか見えない。

「お兄さんは、どこに行くんですかー?」

何ら他意の感じられない様子で、そう尋ね返してくる。
やはり、どこからどう見ても『普通の少女』だ。
ただ――『似ている』のも事実ではある。

797斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 20:21:38
>>796

少女の挨拶につられて頭を下げる

 「ん、こんにちは」

礼儀正しい子だ、親の教育が良かったんだろう
――良い事だ こういう子供は巻き込まれるべきではない。

ちらっ……と靴のサイズを目算してみる
『鎖』のお陰と言うべきか、見るだけで大体の長さを推定できた

 (目算の靴のサイズは約20cm、靴のサイズからの推定年齢は、7〜8歳……とても、似ているな)

しかし、この子か?と言われるとまるでそうとは思えない
単なる礼儀のいい子が、たまたまここを通っただけかもしれない



何処に行くのか、と聞かれて返答に詰まった
哲学的な問いではないだろう、恐らく、ただ行き先を聞いているだけだ。

 「そうだなぁ――」

……返答に詰まるのは、自身の後ろめたさのような物だ
自身の為に、無関係の人間を巻き込む事への。

 「僕は、ここが終点みたいなものでね、知ってるかい?」

 「最近の噂話。」

笑顔を崩さず、話し続ける。

 「この辺りでね、とても奇妙な事が有ったと言うんだ」

 「なんでも、自転車より早く走る女の子だとか、あの自転車だぜ?」

肩を竦め、おどけたように首を振る
そして、問わなければならない。

 「――聞いた事、あるかい?」

798ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 22:43:23
>>797

「そうなんだー。ヨシエも会ってみたいなー」

事も無げに、少女は言う。
『とぼけている』という感じはない。
そして――ここからは『俺』しか知らない事だ。
彼女には『噂になっている自覚』がない。
ゆえに、それは『自分ではない』か、
あるいは『自分以外にもいる』と思っているのだ。

    スタ スタ スタ
              ピタッ

「あのー」

「『公園』って、こっちで合ってますかー?」

再び歩き始めた少女が、途中で足を止めて質問してくる。
この近くにある公園に行きたいらしい。
出る前に調べたはずだが、『ド忘れ』したのか。

「それとも向こうですかー?」

               ニコニコ

本人は笑っているが、何だか頼りない雰囲気だ。
このまま放っておいたら迷子になるかもしれない。
もし斑鳩が知っていたら、そこまで付いて行った方がいい気もする。

799斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 23:48:51
>>798

 (知らない、か……)

その態度は、隠しているという事でもないようだった
やはりあのチンピラにはガセを掴ませられたのだろう

 「ああ、会えたらいいな 夢が有る。」

とはいえ、この辺りに目撃情報が集中しているのは間違いない事だ
録画機器等の何かしらを設置するべきか……

そんな事を考えていると、不意に
公園の場所を問われた、どうやら少女の目的地らしいが

 (名乗りもしない見知らぬ奴をあまり信用するなと言うべきか)

 (でもブーメラン帰ってくるしなあ、それ。)

ボーラは飛んでも帰っては来ないが、自分の行いは帰ってくる
笑顔の裏で苦虫を噛み潰しながら、自分の為にどう断ろうかと考えて、口を開いた。

 「それじゃあ、案内しようか?」

 「迷うと、こんな所に来てしまうからね。」

――正反対の言葉が飛び出してきたので、自身に閉口した

無意識に1人で頼りないと考えたか、放っておけないと考えたかは解らないが
まあ既に散々時間を無駄にしているのだ、少しくらいいいだろう

 「それで、公園の方? エスコートさせて貰おうかな。」

徒歩でスカーフを揺らしながら
そう無理やり自分を納得させた。

800ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 00:18:02
>>799

斑鳩の苦悩に気付く事もなく、少女は無邪気に笑っている。
もし彼女が『スタンド使い』だったとしたら、相当な食わせ者だろう。
この年齢で、そこまでの手練れというのも、
有り得なくはないかもしれないが、やはり考えにくい。

「うん!」

「あ――」

「ありがとーございますー」

    ペコッ

一度返事をしてから、改めて少女は頭を下げる。
やはり、育ちは良いようだ。
オーダーメイドとまではいかないが、身なりも『高級な既製品』らしい。

          スタ スタ スタ

そして、二人は路地から表通りに出た。
斑鳩の案内もあって迷う事もなく歩き続けると、横断歩道の前に着く。
これを渡れば、目指す公園は『すぐそこ』のはずだ。

                   チカッ チカッ

青信号が点滅し始めている。
それを見て、ヨシエと名乗る少女は立ち止まった。
まだ車は来ていない。

「――――え?」

「うん」

不意に、少女が『独り言』を呟いた。
ちょうど会話は途切れていた時だったし、近くには他に誰もいない。
まるで、『イマジナリーフレンド』か何かと喋っているかのようだ。

801斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 02:24:02
>>800


 「――どういたしまして。」


……公園のすぐ手前で、点滅する青信号を見て、隣に止まる、並んで立つ姿は
周りから見れば年の離れた兄弟にでも見えるのだろうかと、ふと考えた

一人っ子の自分にはそういうのとは無縁ではあったが
自分に上や下の兄弟がいれば、今の境遇も少しでも変わったのだろうか?

たられば、等と言う疑問に答えが出る筈もなかった
頭を振り、疑問を散らす。

9月の風に、涼やかな物が混ざっている事に
夏は去り、秋が近いという事を連想したほうが、幾分かマシな生き方という物だろう

落ち葉が散って積もった頃には、芋でも焼いてみようか等と考えながら
傍にいる少女の方を眺めた

改めてみるその姿は、頭髪をきちんとポニーテールに纏め
衣服などもブランド物の既製品のように見える、いい家の出なのだろう

ふいに、独り言のように彼女が呟いた時も
ほとんど疑問には思わなかった、ただ、

『誰かに対しての返答』のようだったのが気になった。

自分かと思ったが、それは違う、目線は自分には向いていない
スタンドとの会話ではない、それなら自分にも見える筈である

他を考えれば、携帯電話などと思い浮かんだが、そういう物を手に持っている様子もない
――では、誰に?

自分の心当たりは3つくらいであった

1つ、イマジナリーフレンド これは幼少期によくある『自分にしか見えないお友達』を作り出す物で
年齢を重ねれば自然と無くなる物だ (このうちの何割が『スタンド使い』なのだろうか?という疑問は有るが今は無視する)

1つ、多重人格者、ただし人格が互いに会話する例はかなり少ない

1つ、……自分には見えていない場所に『もう一人いる』

斑鳩に断定は不可能であった。

ただ、歩く時に少女がふらついて見えたのなら、
それは彼女とは別の「重心をずらすように動くような物」がリュックサック内に入っているだろう、という推理だけの想像であり

(まあ、UFOだの幽霊だの、無いと断言するよりは、有る方が面白い)

という考えであった。


故に、斑鳩はこの交差点で、ヨシエと名乗る小女が、次に何をしようとも、それを傍観する事に決めた
彼女が何をしだすのか、むしろ楽しみになっていて、中身の見えないおもちゃ箱を見ている気分になっていたのだ。

802ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 08:37:27
>>801

「あー、『もうすぐ』だったんだねー。そうだったんだー」

「もうヨシエは大丈夫なのでー。あっち行ってきまーす」

「――――ありがとーございましたー」

    タタタッ――――

ヨシエが斑鳩に向き直り、笑顔で感謝の言葉を告げる。
そして次の瞬間、横断歩道を渡ろうと走り出した。
『時速60km』程のスピードで。

        タタタタタタタタタタ
                 タタタタタタタタタタッ

あっという間に横断歩道を渡り切ったヨシエは、
そのまま斑鳩から離れていく。
たまたま人通りが少なかったため、
その光景を目撃できたのは斑鳩だけだ。
それを見た人間が他にもいたとすれば、
おそらく『高速で走り去る少女』と表現するだろう。
いつの間にか、ヨシエの手の甲には『光の紐』が繋がっている。
『例の噂』の中には、そういう話もあった。

(…………よし)

行儀良く足を止めていたヨシエを『説得』する事には成功したようだ。
リュックの中にいた俺は、他の人間には気付かれないように伝えた。
『もう近くだから早く行こう』――――と。
だが、本当の目的は違う。
『道案内してくれた同行者』を、ヨシエから引き離すためだ。
今は、ちょうど信号が変わるタイミングだった。
こっちにとっては、それも都合がいい。

(さっき、コイツはヨシエに対して『探り』を入れてきた。
 狙いは知らないが、この手の人間には関わらせたくないんでね)

    チカッ チカッ チカッ

青信号の点滅が終わろうとしている。
車も近付いてきているようだ。
今から飛び出すと、車と衝突する可能性があるかもしれない。

803斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 14:17:04
>>802

此方に笑顔で向き直った少女に、返礼をしようとして

 「ああ、どういたしまし……」

その少女が急にすさまじい速度で走り出した時の、僕の表情は傑作だったろう
鏡が有れば自分も見れたのだけれど、惜しい事をした。

 「て?」

変に上ずった声まで出て、ぽかんとしたが
同時に、『もう一つの頭』が周囲を見渡すと状況が見えてきた。


 (成程、成程……高速移動の話から、能力でなければ『器物』か『纏う』タイプだと思っていたんだが)

 (青信号は点滅状態、無理に渡ろうとすれば僕は車にひかれる)

 (つまり、そういう状況まで持っていく『知能』まである。)

 (しかし女の子の方ではない、別のスタンド使い……動物という前例が無いわけではない、リュックサックの中、か?)


 「さて、どうした物かな 送って終わりとしたいが」

 「こうも目の前で使われると、リュックサックの中身が知りたくなった」

ふたつの脳みそが、青信号の点滅が途切れるまでに考え込んだ後に、一つの結論を出した。

 「走るか。」

――ウサイン・ボルトの叩きだしたレコードは『時速45㎞』
ただし、それは彼に脚が二本しかなかったからだ。

 「――『ロスト・アイデンティティ』」

両足に鎖が巻き付き、砂のように崩れ去ると
重ね合わせるように発現する『影の脚』

それは、斑鳩の脚に、影で出来たもう二つの脚を生やし
二倍の脚力を得ることを可能にする、斑鳩の『スタンド』の一部だった

クラウチングスタートの態勢を取ると、四本の脚が互い違いに地を踏みしめ……

 (追いつけるか試してみよう、目的地は知っている)

常人の二倍の速度で地を滑るように駆けだした。

804ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 16:31:22
>>803

『鎖』を解除した事によって発現する『影の脚』は、
常人の『二倍』に相当する『脚力』を生み出す。
それがもたらすのは、通常の人間には不可能な初速と加速だ。
信号が青から赤に変わる直前に、斑鳩は見事に横断歩道を渡り切った。

(こうして『能力』を見せた以上、このまま終わりとは思えない……。
 『噂』について、妙に興味を持っているようだったからな。
 何より――アイツは『行き先』を知っている)

単純なスピードだけなら、やはりヨシエの方が速い。
しかし、『一歩で進める距離』という点では明らかに斑鳩の方が上だ。
その『歩幅の違い』が、『スピードの差』を縮めていた。

(だが、俺の目的は『振り切る事』じゃあなく『引き離す』事だ。
 アイツを『ヨシエに近付かせない策』は既に考えてある。
 そのための時間さえ稼げれば……)

『スタンド』の発現には『一呼吸分』の時間を要する。
『鎖』の解除にしても、僅かな間が生じるだろう。
それらは決して長い時間ではないが、
その短い間にヨシエは数メートルの距離を稼いでいる。
最初に走り出した時点から、二人の間には小さくない差が開いていた。
『二人分の脚力』を以ってしても、即座に追いつく事は難しそうだ。

    タタタタタタタタタタ
             タタタタタタタタタタ――――ッ

ほとんど減速する事なく、ヨシエは角を曲がった。
彼女の進行方向には、多数の『車止め』が並んでいたが、
ヨシエは、その狭い隙間を一度もぶつかる事なく通り抜けていく。
その動きは、『ロスト・アイデンティティ』と同等の『精密性』を思わせた。

                       タタタタタタタタタタ…………

そして――ヨシエの姿が斑鳩の視界から消えた。
『公園』の中に入ったために見えなくなったのだ。
少なくとも、その『敷地内』にいる事は間違いない。

805斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 20:19:10
>>804

 (見失った ……か?)

数メートル遅れで到着した公園に、彼女らの姿を認識できなかった斑鳩は
公園内に姿が見えない事に驚きを覚えた。

 (そこまで遠くには行っていない筈だが、鬼ごっこの次はかくれんぼと来たか。)

 (『ロスト・アイデンティティ』に『探知』の能力は無い 対して向こうは……)
 (少なくとも此方と同等以上の精密動作が有ると見ていい。視界外から忍び足で去られるのは随分と困る。)

 (だが、少なくとも能力が『他者への譲渡』ならば)
 (それ以外の『透明化』『隠蔽』等の能力は持っていないだろう)

 (移動能力も、走る以上は無いと考えてよさそうだ。)

 (そう考えれば、発見するにはあくまで聴覚及び視覚で捉えればいい)
 (……攻撃が許されるなら、ボーラの投擲で捕まえられたんだが。)

『影の頭』からの提案を振り払うように首を振ると、斑鳩の全身を『鎖』が覆った
銀色の鎖が、夕日を浴びて鈍く輝く。

 (怖いほうが出てこない内に、手段を選ばないと)

向こうが『能力を見せて』逃走を選択した以上、取れる手段はそう多くはない
対話を不可能と判断した斑鳩は、スタンドの使用を良心の許す範囲内で選択した。

 (……やはり、これが一番かな)

 (これが戦闘なら、自分も身を隠す所なんだが。)

頭部の鎖が砂のように解け、もう一つの『頭』が出現する
影のような黒い頭部は、不機嫌そうに被りを振った後に、少年の視界外を確保する様に周囲を見渡し始めた

同時に、両腕の『鎖』が伸び始め、約2m程に達すると、それを振り回し始める
高速で回転し始める銀の鎖は、まるで円盤のようにも見えた。

 (距離は離されていない、それは事実だ、視界内に捉えることを最優先に視界外には聴覚で対応する)
 (離れたのは数メートル前後 ……ならば射程内だ)

――夕暮れの空から銀色の雨が降り注いだ、遠心力で回転している鎖が分離して千切れ飛び、空から降り注いでいるのだ
スタンドで出来た鎖の破片、その雨が半径20m以内に降り注ぐ

 (視聴覚の確保という点では、これが一番だろう、『鎖を踏めば音が出る』『降り注ぐ鎖に当たればその音で居場所を探知できる』『下手に物陰から移動すれば僕の視界内に入る』)
 (……さて、お次は何を見せてくれるんだろうな?)

806ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 21:25:28
>>805

公園内で隠れられそうな場所は多くはない。
遊具の後ろ、自販機の陰、あるいは茂みの中……。
ヨシエがいたのは、その『どれでもなかった』。

(――――…………)

自ら砕け散った『鎖の破片』が、公園内の『ほぼ全周囲』に降り注ぐ。
『鎖のヴィジョン』と『切り離しの能力』を駆使した、
『銀色の雨』による『広範囲探知』だ。
しかし、それらしき『反応』が見られない。

(つい『策』なんて言葉を使っちまったが……
 何というか、それは少し『言い過ぎ』だった。
 実際、そう大したものじゃない事は認めざるを得ないな。
 『工夫』や『応用』って意味じゃあ、向こうの方がよっぽど上等だろうさ)

『鎖の雨』が降り注ぐ音は、こちらにも聞こえている。
だから、相手が『何かしている』事は分かった。
どうやら、かなり大掛かりなトリックを仕掛けているらしい。

(俺は、ただヨシエに伝えただけだ。
 天気が悪くなりそうだから少し『雨宿り』しないか?――ってさ。
 それが出来そうな場所は、ここじゃあ『一つ』しかない)

そこは、ごく小さな場所だった。
屋根があり、床があり、壁がある。
その中の様子を、外から窺い知る事は出来ない。

(人間は『オス』と『メス』で『場所』が分かれてるよな?
 最初は妙だと思ったんだが、すぐに納得できたよ。
 『二ヶ所』に分けた方が混雑しなくて済むからな)

ヨシエと俺は『公園のトイレ』の中にいた。
これは当然だが、『メス』が入る方だ。
人間の言う『女子トイレ』ってヤツさ。
まともな『メス』なら『オス』の方には入らない。
もちろん、その逆も同じだ。
もしかすると、『ここにいるんじゃないか?』と思われるかもしれないな。
だが、それを実際に『確かめる』のは容易じゃあない。

807斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/23(月) 19:40:52
>>806

 (反応がない、か)

その公園には銀の破片が散らばり
ある種の童話のような光景と化していた

実際には全てがこの場より逃げだそうとする者を探知する『罠』なのだが。

 (しかしこの場合、『反応がない』という事が判断材料になるわけだな。)

遊具の後ろ、自販機の陰、茂みの中、樹木の根元、鎖の落ちない箇所はそう多くないと判断し
数か所に視線を同時に向けるが、動くような姿は無い ――当然だ、そこには誰もいないのだから

 (参ったな、僕の見間違いで 既に公園の外に逃げたか?)

猜疑を振り払うように頭を振る

 (……いや、その為わざわざ視界まで増やした 絶対にまだこの公園内にいる。)

斑鳩は情報を整理する事にした
鎖を踏む音は聞こえず、視界にも捉えていない……

 (つまり、『動く必要性がなく』、『僕の視界外』で『鎖を防ぐ屋根が有る』場所……)

ぐるりと公園内を再び見渡せば、鎖のばら撒かれた光景の中に
条件に当てはまる個所の中で、『自分ではいけない場所』が有る事に気づいた

 「……まいったな、そこか?」

斑鳩は苦々しげな表情でぼそりと呟いた――『公衆トイレ』、屋根には無数の破片が乗ってはいるが
視界は通らず、自分のスタンドから隠れるに絶好の場所

 (相手は、僕のスタンドを必要最低限の動きで無効化したわけだな)

『スタンド』の鎖を振りかぶり ――力無く元に戻した

 (駄目か、敗北だな 僕のスタンドは能力の射程はあれど、僕自身からは1mmたりとも離れる事は出来ない)

 (……これ以上は『僕』には無理だ。)







公園のトイレの中

一度はやんだ『雨音』が、再び鳴り始めた

――未だに外からは『雨』の降る音が聞こえてくる

808ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/23(月) 20:52:37
>>807

「降ってきたねー……」

《…………ああ》

「どうしよー?傘もってきてないよー」

《諦めて止むまで待つしかないな》

「うん……分かったー」

ひとまずは『凌いだ』と考えていいだろうか?
『雨』ではなく『アイツ』を――だ。
何者かは知らないが、明確な『目的』を持っているらしいヤツだった。

(わざわざ『能力』を使う事もなかったか?いや……)

並んで歩いている途中に、俺はアイツから『良くない臭い』を感じ取った。
それが何に由来するのかまでは分かりはしない。
だが、何処か『暴力的なもの』を嗅ぎ取った事は事実だ。
そして、俺は『そういう人間』を警戒する。
得体の知れない人間の近くにヨシエがいる事が、気に食わなかった。

(……しばらくは、この辺りには来させない方が良いかもしれないな)

雨音を聞きながら、俺は今後の事を考えていた。
雨が上がったら『窓』から出るか?
その理由をヨシエに説明する事を考えると、今から頭痛がしてくる。

(全く――――面倒な事になった)

809斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/23(月) 22:24:59
>>808

酷い頭痛に頭を抱えながら、『それ』は晴れた空から降り注ぐ雨のささやきの中を歩いていた

それは人目につかない路地裏に入り込むと獣じみた唸り声をあげ、額をコンクリートの壁面に叩きつける

鈍い音がして、赤い筋が目尻を通り頬をなぞって顎から滴り落ちる

爪が掌に食い込み、赤い跡を残すのも構わず唇を千切れんばかりに噛みつぶす

 「馬鹿な事をしたなあ、俺に任せておけばいい事を」

路地裏に男の声が響いた、路地裏の外を通るサラリーマンは、その声に気づかずに鞄を傘代わりに走り抜けていく

 (――――)

 「何故そんな良心なぞを気にする?それは死にかけの老人を態々延命させている事に他ならないではないか」

それは反応を見せない、或いは答えられない。

男の声は氷のような冷ややかさを持って続けられる

 「リュックサックの中身が何であれ、アレは俺達よりよほどうまくやっているよ。」

それの影は苦笑した、泣いている理由なぞとうに解っているが、馬鹿らしいプライドで認められないのをよく知っているからだ

 「みじめだなぁ?俺達がどれほど『努力』しても出来ない事をやってのけ、あるじを『守り』、無事『危機』を切り抜けた」

 「拍手と称賛を送ってやれよ、よくやったってな。」

それが顔をあげた、額の血は赤い涙のように流れていく

その顔は何の表情も浮かんではいなかったが、はたから見れば泣いている事を押し殺しているように見えた

 「次にアレと少女を見る時は、俺達が鉄格子付きの病院の窓からである事を祈ろうじゃあないか」

 「そして幸福な人生を送る事をな、イカレ野郎。」

天気雨が上がり始め、パイプから滴る雨粒が、空の虹を写しながら地面に吸い込まれていく

 「知っているか?天気雨は涙雨とも言うそうだ そして性質上よく虹が観察できる。」

石のように動かない本体を尻目に『ロスト・アイデンティティ』はしゃべり続ける

 「――今頃、公園の空には虹がかかっているだろうよ。」

810ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/24(火) 19:31:19
>>809

あの時――『ボーラ』の使用を躊躇しなければ、少女を捕まえられただろう。
しかし、少年は『それ』をしなかった。
彼の行動を『優しさ』と呼ぶ者がいれば、
その一方で『甘さ』と呼ぶ者もいるかもしれない。

だが、客観的に見れば正しい判断だったはずだ。
もし『ボーラ』を使っていれば、少女に傷を負わせてしまった可能性もある。
『影の腕』の精密性なら無傷で済んだかもしれないが、
絶対に有り得ないとは言い切れない。

そうなった場合、謎めいた『リュックの中身』は、
斑鳩の存在を本格的に『敵』と見なしていただろう。
だが、そうはならなかった。
少年の――斑鳩の『良心』が、それを選ばなかったからだ。

        ――――トッ

しばらくして、俺はヨシエと共に外へ出た。
雨上がりの空には、虹が掛かっているらしい。
不意に『何か』を思いかけたが、その正体は掴めなかった。

俺はヨシエを守らなければならない。
ヨシエを傷付ける可能性のある全てのものから。
もし俺に『生き甲斐』というものがあるとしたら、多分それなんだろう。

811黒羽 灯世『インク』:2019/09/25(水) 01:40:16


クロバネ トモヨ
『黒羽 灯世』という、少女がいる。
清月学園に通い、『報道部』に属している。

「コーヒーを。……ええ、ええ、そうよ。ブラックで!」

猛禽類のような印象を抱かせる三白眼と、
袖だけを飛膜――――『振袖』のように改造した制服が目立つ。

             スタ  スタ

それ以上を知る人間は少ない。
なぜならば、彼女は『友達』が少ないからだ。

      ストン

「…………」

だからこうして、買ったコーヒーを手にベンチに座るのも一人で、だし。
彼女が手にしている『筆』について知る者は――――『一人もいない』。

812ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 00:46:57
>>811

    トッ トッ トッ

ちょうど同じ頃、一匹のチワワが歩いてきた。
何かの偶然か、手元のコーヒーと同じように全身が真っ黒だ。
『DEAN』と刻まれた首輪をしている。
そこには『リボンタイ』が結んであった。
近くに飼い主らしき人間はいない。

(流石にいないか……。まぁ、それならそれでいい)

その日、俺は一匹で公園を訪れていた。
一言で言うなら『確認』のためだ。
俺とヨシエは、この近くでスタンド使いらしいヤツに遭遇した。
その時は回避できたが、まだ安心はできない。
だから、こうして確かめに来たってワケさ。

           チラ…………

(おい、待てよ……。
 この辺はスタンド使いの溜り場じゃあないだろうな?)

何かを探すように動いていたチワワが、ふと少女の方を向いた。
一瞬、『筆』の方を見ていたような気もする。
たまたま視線が向いただけかもしれないが。

813黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 02:19:30
>>812

             ……チラッ

「……」

       フイッ

一瞬だけ、目が合った。
が、黒羽灯世は特に『犬好き』とかではない。
すました様子で、すぐに視線を戻したが・・・

            スゥ―――

手にした『筆』を、軽く上げる。

「…………………………」

そして、これ見よがしに『消す』。

     サッ

代わりに取り出したのは・・・『スマートフォン』だ。
無言で、カメラを『ディーン』に向けているのが、ディーンの動物的直観で分かる。

814ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 12:03:45
>>813

(…………?)

正直、少女の意図は今一つ読み取れなかった。
まぁ当然と言えば当然だろう。
初対面だし、何より『人』と『犬』だ。
向こうだって、俺が何を考えてるかなんて分かりはしない。
『会話』すれば多少は理解し合えるだろうが、その必要も今はない。

(あぁ、『アレ』だな)

それが『スマートフォン』と呼ばれる道具である事は知っている。
人間がいる場所では、必ず一つか二つは見かけるヤツだ。
ヨシエも持っている。
『犬も歩けば棒に当たる』という言葉があるらしいが、
今は『スマートフォンに出くわす』事の方が多いのかもな。
そして、それに『カメラ』が付いている事も知っていた。

(別に、このまま撮られてもいいんだが……)

撮られる事は始めてではなかった。
ヨシエが撮ることもあるし、たまに他の人間にも撮られる。
それ自体は、特に何とも思わない。

(――――ちょっと試してみるか)

     トッ トッ トッ

カメラから外れるように、自然な動きで少し横に『ズレる』。
少女のリアクションを確かめるためだ。
『どういう人間か』を推し量る参考にさせてもらうとするか。

815黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 19:30:00
>>814

「……………………………………」

     ・・
(…………杞憂、のようね。
 いえ、杞憂というのはこの場合だと逆。
 ゆか喜び……そう、それなら間違ってない)

消えた筆に反応することは特になく、
『スマートフォン』には反応した。
黒羽の考え方では、こういう事になる。
筆を見ていたのではなく、『手元を見ていた』……と。

『インク』――『それ』が見える者を、探していた。

(もっとも、犬が『インク』を見られたところで、
 話を聞けるわけじゃあないのだから…………
 これくらいは、特に落ち込むようなことでもないけど)

何気なくシャッターを切ろうとした……が。
被写体がいつの間にか、ズレている事に気づく。

「…………」

      ムッ

(カメラを『避けた』……!? これって偶然?
 それともつまり、私に『勝った』つもりでいるの?
 つまり……私が、犬に、負けてるってこと……!?)

「……………………………………!」

      カシャッカシャッ

ズレた先に素早くカメラを動かし、動く前に撮ってやる。
特に意味は、ない。が、『負けたまま』なのはシャクだ。

816ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 22:13:56
>>815

(気のせいか?今のは妙に熱が篭っていたような……)

少女のリアクションを見て、そのように解釈した。
今度は動かなかったので、写真は綺麗に撮れている。
やがて少女に背を向けたチワワは、そのまま少しずつ離れ始めた。

                     トッ トッ トッ

(『スタンド使い』――――か。
 後々のために、もう少し『勉強』させてもらうのも悪くないな)

世の中や人間に対する知識は、多ければ多いほどいい。
それが『スタンド使い』なら尚更だ。
今、ヨシエはいない。
だから、多少は大胆な行動を選ぶ事も出来る。
つまり、スタンド使いの人間に自分から『接近』するという事だ。

                 タタタタタッ
           ヒョイッ
    ポスッ

距離を離したのは『助走』のためだった。
駆けてきた勢いのまま、四本の足で地面を蹴り、ベンチに飛び乗る。
そして――――少女との間にスペースを空けて座った。

(普通に近付いても良かったんだが……。
 何となく、どんな反応があるか見たくなった)

横にズレてみせた時の反応は、俺の興味を引いた。
『人間観察』は趣味の一つでもある。
知識を得るためもあるが、言ってみれば『趣味と実益』を兼ねたって所さ。

817黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 23:17:32
>>816

「………………フッ」

         スゥー

スマートフォンを懐にしまい直す。
それから、離れていく犬を見ていた。
犬そのものに、特別な興味はないのだ。

「……!?!?」

だけれど急に戻ってきた犬には、もともと鋭い目が引き絞られる。
反応と言うほどの反応も出来ず、コーヒーを落とすことだけは、
それは『弱すぎる』と思ったから――――しないように、手の力は無くさない。

「……」

そして犬を見つめる。
フェイントのような行動。『付かず離れず』な位置取り。

遊んでほしい犬とは思えない。
黒羽の『記者』としての観察が、そう告げる。

(こ、この犬……やっぱり『杞憂じゃない』。
 普通の犬とは思えない……私に、挑戦している。
 『観察』して『分析』する……『上から私を見ようとしてる』)

    『シャラッ』

    (気にくわないわ! ……『上の方』に立つのは、いつでもっ、いつでも私!
      それにもしかすると……勝ち負け以上の意味もあるんじゃないの!)

だから立ち上がって、『ディーン』を見下ろす。
傍から見れば『急に犬が来たから立った』用にも見えるだろう。

そして利き手を逆の袖に入れ、『居合』のように、しかし緩慢に抜き出す――――『インク』を持った手を。

818ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 23:47:14
>>817

表情を変えず、少女を見上げる。
相手が何を考えているかは分からない。
しかし、『何か』をしようとしている事は察せられた。

(さて、どうするか…………)

      チラ

『筆』が出てきたのを一瞥し、考えを巡らす。
未知のスタンド使い相手なら、『警戒』はしておくべきだろう。
いつでも飛び降りられるように、密かに四肢に力を込める。

(少なくとも外見は『ただの犬』の俺に対して『スタンド』を出した。
 そこが問題だな)
 
(――次の行動で、コイツが『危険なヤツ』なのかどうか計れる)

少女を見つめたまま、その動きを見逃さないように観察する。
もし危害を加えられそうなら、すぐに離れるつもりだった。
『ワン・フォー・ホープ』は――――まだ出さない。

819黒羽 灯世『インク』:2019/09/27(金) 00:59:38
>>818

「………………」

          シャッ

                シャッ
    
    シャッ

黒羽がしたことは『危害』ではなかった。
彼女のスタンドは――――『剣』ではない。
武器は、『ペン』だ。少し古風な形ではあるが。

            シャッ

ペンの用途は、『書くこと』。文字列は――――――――

           目の前の 犬 が インク を 見た

「――――――――『ゴースト・ストーリーズ』」

                      『ヒタッ』

「ペンは剣より強い……フフッ! 今の私には事実!
 真実のみを暴き出す私のペンは、特に強いのだから」

             「さあ、さあ、今に『真実』は……あれ?」

   「……? あっ」

ディーンの目には、相当に意味不明な行動に見えるだろう。

文字列は――――空気に貼り付いたように、黒羽が触れようと何も起きない。
『ゴースト・ストーリーズ』……『人間の行動』を再現する力が『犬に効かない』のは道理だ。

                     ……それを行動より早く導くには、経験が不足している。

820ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/27(金) 14:09:02
>>819

     カァー 
            カァー

(……)

(…………)

(…………ん?)

数秒間の間、何ら関わりを持たない犬と少女が見つめ合った。
何とも言えない『微妙な空気』が流れる。
誰かが通りかかったとすれば、それは『奇妙な光景』に見えただろう。

(『何もない』……のか?いや、何もないワケはないな。
 『何かをやろうとした』のは間違いない……)

少女の様子を見て、さらに考える。
何かをやろうとしたが、何もない。
そこから考えられる結論は、おそらく一つだろう。

(ひょっとして――――『ミスった』のか?
 何故かは知らないが……とにかく上手くいかなかったんだろう)

目の前の犬が『インク』を見た。
それは確かに『事実』だ。
しかし、『人のみに作用する能力』であるため、再現されない。
奇しくも、それは『犬のスタンド』と同じ特徴だった。
その事を、『目の前の犬』が知る由もないが。

(しかし……何というか『困る雰囲気』だな。
 まさか、こんな事になるとは思わなかった……。
 こういう時にヨシエがいてくれたら、場を和ませられるんだが……)

(だがまぁ、少なくとも――――『危険なヤツ』ではなさそうだ)

             シュルルルルル

首輪に結んだ『リボンタイ』が独りでに解け、一本の『光の紐』に変わる。
その紐が、空中で蛇のように動く。
すぐに出来上がったのは、簡単な『記号』だった。

        クルッ

現れたのは『マル』だ。
『光の紐』で形作られたため、『ネオンサイン』のように発光している。
『目の前の犬がインクを見た』という文字列に対する『返し』なのだろうか?

821黒羽 灯世『インク』:2019/09/27(金) 22:48:41
>>820

「んなっ……」

          「…………!?」

(な、なにこの「〇」は……どういう意味!
 私が文字を書いているのを『真似した』ってコト!?
 犬にそんな知能が……!? いや、それより……)

「見つけた。私以外の『スタンド使い』……やっぱり『いた』!」

               シャッ   シャシャシャッ

確信はなかった。いるのが『自然』だと思ってはいたが、確信が欲しかった。

『光の紐』に筆先を向け――――
それに重なるような位置に『二重丸』を描く。

「ねえねえ、私の言葉……それにマークの意味が分かるなら!
 これより『上』のマークを作れる? あなたの『スタンド』で……」

もちろん、二重丸は一重の丸よりも――――『上』だ。

「負けを認めるのでもいいけど。フフッ!
 どちらにしても……『貴方が話せるのか』教えて。
 私ね。自分以外の『スタンド使い』に話を聞いてみたかったの。
 その『マル』だけなら『偶然』かもしれない……確信が持てない。だから」

背筋を伸ばし、目の高さは合わせないまま見下ろすような形で、『ディーン』の目を見る。

822ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/27(金) 23:57:56
>>821

潔く負けを認めても良かった。
元々、勝負を挑んだつもりはなかったのだ。
ただ、もう少し『ゲーム』を楽しみたい気分だった。
これも、スタンドの訓練になるだろうという考えもある。
だから、この勝負を受ける気になった。

(なら――――俺は『こうする』)

      シュルルルルル…………

犬が少女を見上げ、『光の紐』が再び動き出す。
そして、別の形を作り始めた。
やがて出来上がったのは『二つの丸』だ。
ただし、少女が描いたような『二重丸』とは違う。
それは、二つの丸が横に繋がったような形の記号だった。

         クルッ 
             クルッ

空中に描かれたのは――――『∞』だ。
人間の間では『無限』を意味する記号として知られているらしい。

《――こんな感じでどうだ?》

そして、同時に『スタンド会話』を少女に飛ばした。
あまりやらない事だが、向こうが話したがっているなら、
まぁ乗ってみてもいい。

823黒羽 灯世『インク』:2019/09/28(土) 00:58:56
>>822

「うッ……!!! それは……!?」

一筆書きで『三重丸』は書けない。
戯れに勝てる勝負を仕掛けたつもりだったのだ。

         「い……」

(犬なのに賢い……だけじゃない!?
 人間の『記号』をちゃんと理解していて、
 それを自分の能力で応用できている!?
 こ、この犬……たぶんスタンド使いでも、『上の方』!)

『∞』――――それを信じられない物を見る目で見る。

「……………………言っておくけど。
 私が負けだと認めない限り、私の負けじゃない。
 だけど…………『私の勝ちとも言い切れない』」

「それは、フフッ。認めざるを得ない」

              スンッ

すました顔を作り出す。『気持ち』で負けないのは大事なのだ。

「あなたもなかなか『上等』なようだわ。
 それに日本語も喋れるようだし……えっ? !?」

「…………喋れるの!? なんで! ……それも『スタンド』の力!?」

824ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/28(土) 01:38:51
>>823

発せられた『声』は男性的なものだった。
おそらくは『二十台前半から半ば』ほどの年齢を思わせる声だ。

《なかなか楽しいゲームだった。俺は、それで十分だ》

    シュルルル

『光の紐』が元通り『リボンタイ』の形に結ばれていく。
しかし、放たれる淡い光は消えていない。
解除してしまうと、会話が出来なくなるからだ。

《『話がしたい』と聞いたのは俺の空耳だったか?
 俺だって、『犬と会話が出来る人間』を見たら驚く》

《だけど『俺達』は別だ。スタンドを通して意思をやり取りするのさ。
 スタンド同士の『糸電話』みたいにな》

四肢に込めていた力を緩め、やや落ち着いた姿勢で座り直す。
目に見える危険はないと判断したからだ。
少なくとも、今の時点では。

《で――――何を話すんだ?
 俺が知ってる『人間向きの話題』と合うかは保障できないが》

今までの様子から、スタンド使いになって間もない事は分かる。
もっとも、俺も似たようなものだ。
スタンドについて、それほど中身のある話が出来るワケじゃあない。

825黒羽 灯世『インク』:2019/09/28(土) 02:56:29
>>824

「『話はしたい』けど……まさかそういう風に話せるなんて。
 その『ひも』で『〇』を作って質問に答えるくらいかなって」

「――――そう、まずは、これも収穫。フフッ!」

             スッ

先ほどしまったばかりのスマホをせわしなく取り出す。
ディーンには見えない角度だが、『メモ』を取るためだ。

「それで、それでね。あなたの言い方だと『スタンド使い』……」

       キョロ …

と、言いかけて周囲を一瞥する。
犬と話す女というのを見られたくないが、あいにく人も皆無ではない。

数度考えて、自分の中に今までにない『出力』があることを自覚した。

≪……こう。こうね。『覚えた』……『スタンドの会話』。
  それで……あなた、スタンド使いに会ったのは初めてじゃなさそう。
  まずはこれを聴きたい。単刀直入――――シンプルに言うから答えてね≫

             ≪……スタンド使いに関わる、集団とかは、ある?≫

気にかけているのは『スタンドそのもの』ではない。
その力が生み出す、取り巻く世界だ。それを知ることが『必要』だと考えている。

826ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/28(土) 11:50:31
>>825

《……いや、知らないな。聞いた事もない》

その話題は初耳だった。
しかし、言われてみれば十分に有り得る話だ。
むしろ、そういうグループが全く存在しない方が妙な話だろう。

《だけど、そういうものがあったとしても俺は驚かない。
 同じ生き物同士が『群れ』を作るのは自然な事だ》

肉食動物なら効率的に狩りをするため。
草食動物なら生存の確率を上げるため。
その他にも色々な事情で動物は群れを作る。

《『人間』も同じだし、『スタンド使い』も例外じゃない。
 俺は――そう思う》

少女に向けていた視線を、しばし遠くに見える『高層ビル』に移す。
人間も集まる事で、一人では出来ない事を成し遂げられる。
『スタンド使い』なら、もっと大きな変化を世界に与える事も出来る筈だ。

《俺みたいなのも当然いるだろうしな。
 まぁ、もしもの話だが猫とか鳥とか魚とか……》

《……話が逸れたな。とにかく俺は知らない。
 だが、『スタンド使いの集団の有無』という話は俺も興味が湧いてきた》

《もしアンタが何か掴んだら、俺も知りたいね。
 それよりも……何かするなら、その時は『手』を貸してもいい》

『大きな変化』――それは良し悪しに関わらない。
それがヨシエにも影響を及ぼすものであるなら、俺は知る必要がある。
いや、知らなければならないだろう。

827黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 00:17:22
>>826

《そう…………なら少なくとも『知ってるのが普通』、
 知らないと『情報弱者』……そうではないようね。
 それだったら、別に何も、問題はないと言えるわ》

組織力ほど大きな力はない。
一人一人が違う能力を持つスタンド使いの組織が、
誰もが知るほどに勢力を拡大しているのであれば、
それは今後の身の振り方にも関わる……『強者』としての。

《とはいえ……そうね、あなたは犬だものね。
 頭は中々いいようだけれど、知れる情報には偏りがありそうだわ。
 人間で頭がいい私なら、また違った答えを知れるかもしれない》

      「フフッ!」

《……笑いをスタンドでやるのは、ちょっと難しいのだわ。
 これもひとつ勉強ね。とにかく、そう、違った答えよ。
 あなたと私では視点が違う、それにきっと考え方も。
 何をする気もないけど、手の『貸し借り』は賛成だわ》

と、そこまで言い終えて『手』を見る。
振袖に半ば隠れた自分の手ではなく、ディーンのを。

・・・『手』?

《でも、あなたのそれは『足』と言うんじゃないの?
 あなたの自認では『手』? 気になる……とても、とても気になるわ》

828ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 00:50:50
>>827

《賛成できる意見だ。視点が増えれば、それだけ考えの幅も広がる。
 考えの幅が広がれば、行動の選択肢も増やせる》

《世の中には『動物お断り』の場所も多い。
 そういう場所だと、俺が入るには苦労するからな》

《その代わり、『鼻』なら俺の方が利くだろう……。
 『頭』は、アンタの方がいいかもしれないが》

現状、この少女からは『危険な匂い』を感じ取れなかった。
まぁ、信用してもいいだろう。
少なくとも、『仕事をする上での協力者』としては問題ない。

《――『足』?ああ、これは『前足』だ。『手』じゃあないな。
 人間みたいに何かを持ったりするようには出来てない》

教えるべきかどうか。
それについては迷いがあった。
しかし、今後『同じ仕事』をするなら知らせておく必要がある。

《……まぁ、いい。教えておこう。俺の『能力』を。
 ただし、『アンタの』も教えてくれるのが条件だ》

         シュルルルルル

《――――それでどうだ?》

『光の紐』が再び解けていく。
その先端が、握り拳を開くように展開していく。
よく見れば、人間の『手』のような形をしている事が分かるだろう。

829黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 02:23:39
>>828

《そう、人間だから入れる所の方が多いと思うけれど、
 逆に、人間じゃあ入れない所も多いのだわ。
 私は『記者』だけど……探偵やら警察やら、
 謎解きが仕事の人達の相棒は、『動物』が多いの。
 私とあなたは……相棒というほどではないと思うけど》

     スゥーー ・・・

《種族は違えど『上位』に立つ存在同士ではある》

《つまり、手を取り合うことは出来そうだわ!
 それと、少しずつくらい、秘密も共有できる。
 あなたなら、大多数の人間には『言いふらせない』し》

『筆』を手に浮かべ、それをかざす。
その筆先には文字通りの『墨(インク)』が滲み、
空間に残す。極めて儚く、しかし明確な『筆跡』を。

《フフフ……私の『インク』は、見ての通り。
 空間に文字を書く……それも、とても、とても速くね》

         シャシャシャシャッ

《あなたの走る足より、私の筆の方が速いくらいでしょう》

勝ち誇る笑みを浮かべ、意味のない筆跡は消える。
残ったのは筆……それに最初に書いた『文字列』のみ。

《それと……『筆法』という、特別な技も使えるそうだわ。
 もちろん、与えられた技が全てじゃあないけれどね。
 私が編み出した『筆術』も、フフッ。大いに『強さ』になる!》

《…………とまあ、こんな所かしら? 教える情報のレベルは? どうかしら?》

830ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 11:15:49
>>829

《――――オーケー、問題なしだ。見た事のないタイプだな。
 俺も他のスタンドに出くわした経験は少ないが……》

『筆』というのは、あまり目にする機会がない。
前にテレビか何かで見たので、それが『筆記用具』なのは知っていた。
おそらく、概ねは『その通り』なのだろう。

《確かに『速い』な。『俺が走る』よりも速そうだ。
 その『筆法』とかいうのも――何か底知れない『強さ』を感じる》

だが、『それだけ』ではなさそうだ。
現に、さっきも何かしようとしていた。
もっとも、それを見る事は出来なかったが。

《次は俺の番か。名は『ワン・フォー・ホープ』。
 見ての通り『光の紐』だ》

        シュバババッ

《こうして、アンタの『手』みたいに動かせる……。
 そして『俺が走るよりも速い』》

空中に伸ばした『ワン・フォー・ホープ』を柔軟に動かしてみせる。
そのスピードは、『インク』の筆記スピードと同等だ。
もっとも、指先から『墨』が出てくるワケじゃあないが。

《俺の能力は、この『手』と『人間の手』が合わさった時に使える。
 つまり、『人間』がいてこそ役に立つ能力なのさ。
 『その人間』は基本的には強くなって、
 アンタや俺の『手の動き』と同じくらい速く動けるようになる》

《俺から教えるのは、これくらいだな。満足してもらえたか?》

831黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 19:40:52
>>830

《ふうん? 筆は珍しいのかしら……まあ納得だわ。
 普通に筆記具は『ペン』の方が主流だものね。
 私だって、紙にものを書くときはペンだけれど……》

《ああいえ、私のことはいい、あなたのその『紐』。
 能力からしても『リード』のスタンドって事よね。
 面白いわ。きっと人間には目覚めない力でしょうね。
 それに…………あなたの『ユーモア』も。それから……》

動く『光の紐』を目で追い、笑みを浮かべる。
人間がリードを付けないとも限らないとはいえ、
それを『力』として発現するのは……相当のものだろう。

《……名前も面白いわ。『犬だけに』……フフッ!》

(『ワン・フォー・ホープ』も『彼』が名付けたのかしら?
 なんだかイメージとは違うわね……何度も話したわけじゃないけど)

力を与える存在であった『道具屋』に、力を与えた人間もいるだろう。
そう考えればディーンと自分の力の出所は違ってもおかしくはない、と考えてはいた。

《面白くって……ええ、ええ。満足出来たのだわ。
 私たちが今回明かした『強さ』がほんとに等価なのかは分からないけど……
 同じ価値観のはずもないものね。大事なのはお互い満足できたこと》

         フフフ……

《もう一つだけ教えてくれる? その首輪に書いてる……
 で、で…………アルファベット四文字。それがあなたの名前?》

832ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 21:09:25
>>831

《『名前』か…………。ああ、そういう事になるだろうな。
 少なくとも、そう呼ばれている》

『首輪』と『リボンタイ』は、見た目の年数が一致していなかった。
『リボンタイ』の方は真新しく、ごく最近の品だと分かる。
『首輪』の方は、それよりは使い込まれたものらしい。

《『ディーン』――――それが俺の名前だ。
 まぁ呼び方はアンタに任せるが……》

自分でも無意識の内に、『あの女』の事を思い出す。
俺に名前を与えた女だ。
それは『ヨシエ』じゃないし、『ヨシエの身内』でもない。

《ただ、『チワワ』や『犬』って呼ぶのはオススメしない。
 他のヤツと区別がつかなくて、お互いに困る事になるからな》

しかし、考えるのは一瞬だけだ。
おそらく二度と会う事はない。
俺自身、会いたいと思ってるワケでもない。

《これは、『ついで』に話すんだが……。
 俺が出くわしたスタンド使いは、アンタで五人目だ。
 その中で『人型』じゃなかったのは、アンタと『鎖の男』だけ》

    グッ グッ グッ グッ グッ
                     ピッ ピッ
   
『ワン・フォー・ホープ』を軽く持ち上げる。
そこにある『五本の指』が、順番に折り曲げられていく。
そして、『二本の指』だけが元通りに伸ばされた。

《年は、アンタとそう変わらない――――ように見えた。
 とはいえ、この点はアテにはならんかもしれないが……》

《ソイツも『スタンド』について調べている様子だったな。
 『何かに駆り立てられている』というか…………。
 とにかく、大きな『動機』のようなものがありそうに見えた》

《俺からの『情報提供』は以上だ。
 その代わりといっちゃあなんだが、
 次に会った時に何か『新しいネタ』でも仕入れていたら教えてくれ》

《――――おっと、うっかり忘れる所だった。
 出会いの記念に、アンタの名前も聞いておこうか。
 『女』や『人間』じゃあ他のヤツと区別が出来なくて困るからな》

833黒羽 灯世『インク』:2019/09/30(月) 15:31:01
>>832

≪ディーン。なるほどね、私もそう読むって思ってたところだわ!
  フフッ! あえてあだ名を理由もないし、名前で呼ぶことにする≫

もちろん読めてなかったのだが、
それを確かめるすべはどこにもないのだ。

≪スタンドの形の統計は置いておいて……『鎖の男』?
  ふうん――――『学生』で、スタンドを探してるなら、
  いずれ会うかもしれないわね。ありがと、貴重な情報だわ≫

実際の所、役に立つ情報と言える。
鎖の男がどういう動機を持ってるのかは謎だが、
知っていることは、基本的にそれだけで意味がある。

                     クロバネトモヨ
≪私のことは『筆の女』じゃなく、『黒羽灯世』……
  区切りは『クロバネ』と『トモヨ』の二つだから、
  好きな方で呼んでくれていいわ、『ディーン』≫

             キョロ   ・・・

≪それで……そういえば、あなたの『飼い主』はどこにいるのかしら?≫

首輪や人間風の名前の存在からも存在しているのは明らかだが、
彼の『帰る場所』はどこなのだろう。周囲を見渡して、それらしき人間を探す。

834ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/30(月) 19:19:29
>>833

あの『鎖の男』から、俺は『良くない匂い』を感じた。
しかし、それは言わなかった。
『先入観』を与えたくなかったからだ。
『別の視点で見る』事を重視するなら、その方がいい。
もしかすると、『別の何か』が見えてくるかもしれない。

《分かった。『トモヨ』――そう呼ぶ事にしておく。
 これで、お互いに平等だ》

俺は、物心ついた時から『檻の中』にいた。
ドライな表現をすると、『商品になるために生まれてきた』とも呼べるな。
だからどうってワケじゃあないんだ。
それについて、たまに少しだけ考える事はある。
だが、それだけさ。

《それで、俺の『飼い主』だが……『ここ』にはいない》

ある日、一人の女が俺を買った。
だけど、その女は『今の飼い主』じゃない。
なぜなら、俺を捨てたからだ。
理由は知らないが――まぁ『何か』あったんだろうな。
訳もなく捨てたんじゃないと、俺が思いたいのかもしれないが。

《今は『家』にいるからな。
 眠ってたから、俺だけで出掛けたんだ。
 次に会った時にでも紹介するさ》

《まぁ、そろそろ起きる頃だろう……。
 俺がいないと心配するだろうから、ぼちぼち帰らなきゃならないな》

近くには、『飼い主らしき人間』は見当たらない。
遠くには数人の人が見えるが、通り過ぎていくだけだ。
言葉通り、『家』にいるのだろう。

835黒羽 灯世『インク』:2019/09/30(月) 23:54:51
>>834

≪『平等』――――そうね、それで構わないのだわ。
  現にあなたは私に比肩する知性を見せてくれた。
  少なくとも、今は……『どちらが上か』決められない≫

≪それに、必ずしもはっきりさせる必要もないのだわ≫

犬に――――いや、『ディーン』に負けているとは思わない。
だが、すぐには勝ち負けを決められない。『どちらも上』だ。
犬ながらにして自身を驚かせたという、その時点から、今まで。

自分が『強者』で『上の方にいる』――――
確信があれば、他の、並び立つ強者の存在は問題ない。

≪あら、そうなのね……
  飼い主を心配させるのは、すごく良くないわね。
  次いつ会えるかは分からないけれど、約束は守るわ。
  なにか『新しいネタ』があれば教えてあげる!≫

             コト

コーヒーの容器をベンチに置いた。
いつの間にか氷が解け始めていた。話に夢中だった。

≪さあ、さあ……お行きなさい。出来たらまた会いましょう。
  この出会いはとても、とても実りがあるものだったのだわ!≫

836ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/10/01(火) 01:18:13
>>835

捨てられた時は、
その事実を受け入れるのに時間が必要だった事を覚えている。
それを受け入れた頃には俺は衰弱し、
死という泥沼に半分ほど浸かった状態だった。
あまり気持ちのいい思い出とは呼べないな。
だが、それがヨシエと出会うためのプロセスだったとすれば、
そう悪くないと思えてくるんだ。
今の俺は、そう考えている。

《アンタの話は興味深かった。いつかまた聞かせてくれ。
 それに、『ゲーム』も嫌いじゃない》

    ヒョイッ

《それじゃあ、またな――――『トモヨ』》

          シュルルルルル

ベンチから飛び降り、『光の紐』が『リボンタイ』に結び直される
そして、『リボンタイ』から光が消えた。
『ワン・フォー・ホープ』が解除されたのだ。

               ――――ワォンッ

別れの挨拶代わりに、俺は一声の鳴き声を発した。
意味は伝わらないだろうが、別に大した意味はない。
人間が『別れ際に手を振る』程度のものだ。

                    トッ トッ トッ…………

背中を向け、トモヨの前から立ち去っていく。
今度は、『急に戻ってくる』というような事はない。
『帰る場所』――ヨシエの傍に戻らなければならないからだ。

837黒羽 灯世『インク』:2019/10/01(火) 11:17:10
>>836

《私の話は、いつだって興味深いわ。
 国語の作文とかもいつも点数が高い方だし……フフッ》

去っていく犬の背中に、振袖の中で小さく手を振る。
……初めて出会うスタンド使いが犬とは思わなかった。
ディーンの言葉から察するに、犬が多いわけでもないだろう。

(なかなか『上等』な体験だったと言わざるをえない。
 ああ、さっそくメモに残しておかなきゃいけないのだわ)

スマートフォンを取り出し、今日あったことを記す。
記事にするのは無理のある話だ……事実ではあるが、
大多数が受け入れられない事実は、そうは扱われない。
不満こそあるが、いまはまだ、その時では無いだろう。

(何より次につながる話も聞けた…………『鎖の男』。
 ……とりあえず、学内で鎖をジャラジャラさせてる不良とかは、
 いつも以上に気をつけておくに越したことはなさそうだわ。
 …………しまった。ほかの四人についても聞いておくべきだった!?)

全てがうまくいったわけではないが、意味はあった。
色の薄れてきたコーヒーの残りを喉に通しながら、機嫌よくメモを残す・・・

838美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/03(木) 22:42:03

          ――――キキッ

駅前にある広場。
停車したスクーターのシートに腰を下ろし、視線を落とす。
眺めているのは、
駅構内のマガジンラックに置かれていた『フリーペーパー』だ。

「大抵の事は『デジタル』が解決してくれる時代とはいえ、
 やっぱり『アナログ』も大事よね」

そのフリーペーパーはラジオ局が定期的に発行しているもので、
出演者の紹介や番組情報などが記載されている。
公式サイトやSNSアカウントもあるが、気付かれなければ意味がない。
人目につく場所に置くことで、存在を知ってもらう事が出来る。
表紙に写っているのは、パーソナリティーの一人だった。
化粧っ気のある整った顔立ちに、ラフなアメカジファッションの女だ。

「今はスマホでも手軽にラジオが聴けるし、もっと身近になるといいんだけど」

手にしたフリーペーパーを眺めているのは、
表紙の人物と『同じ顔と姿の女』だった。

839釘宮『ミュオソティス』:2019/10/03(木) 23:29:55
>>838

「……おっと」

襟のない白シャツを着た男がいた。
自然石のネックレスが胸元にあった。
フリーペーパーに手を伸ばす。

「参ったな。美作さんだ」

どうやらそちらを知っているらしい。

840美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 00:01:26
>>839

「――――はい?」

不意に名前を呼ばれて、そちらの方を向いた。
相手の姿を見て、記憶を辿る。
顔見知りの人物だっただろうか?

(思い出せない……。同じ業界の人だったかしら?
 違う局の人なら、流石に全部は分からないし……)

目の前の相手について、しばし思考する。
顔と声を、自分の知っている人物と当てはめていく。
その中に該当する人物が、一人いた。

「釘宮さん――ですよね?」

841釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 00:42:42
>>840

「そう、釘宮さんだよ」

「……流石ですね、よく覚えてらっしゃる」

そう言って淡く微笑んだ。
その背後にぴったりと何かがくっついている。
半透明なそれはスタンドらしい。
女性的な幽鬼がそちらを見ていた。

「お綺麗ですね。まぁ、写真よりやっばり実物ですが」

彼は自分の背後にいるものに無頓着だ。

842美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 01:11:38
>>841

「これでもアンテナは広く持ってますからね」

「私と同じ業界の方ですよね?
 こんな場所で出会うなんて、ビックリしましたよ」

    ニコリ

「ありがとうございます。釘宮さんもステキですよ。
 ネックレスが、よくお似合いで――――」

その時、それが見えた。
まるで背後霊のような幽鬼のヴィジョン。
見た瞬間に、『スタンド』だと直感した。

「…………えっと、何のお話でしたっけ?
 ああ、そうそう。『凄く偶然ですね』っていう話で……」

「いえ、違いました。ネックレスの話でしたよね?
 その石は、どういった種類のものなんでしょうか?」

予想外だったせいで、内心は少々動揺していた。
理由は他にもある。
そのスタンドの視線に、どこか『嫉妬』めいたものを感じたからだ。

(危険は……ないわよね。
 彼は、そんな人には見えないし……)

そう思ってはいるが、不安もないではなかった。
大抵の人間は、嫉妬する相手の事を良くは思わない。
もちろん、これは人間の場合だが、
もしかすると、そういうスタンドもいるのかもしれない。

843釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 01:43:07
>>842

「最近は同じ局で番組もしてますよ」

「……言っても曜日が違うから会うこともないですけど」

そう呟いてフリーペーパーを開く。
途中で閉じてしまったが。

「なんだったけっなこの石、ガーネット? とか、そういうのだったかな」

ネックレスを指で押し上げながら言う。
小くてゴツゴツとした石が連なっていた。

「……?」

「大丈夫ですか? なんだか、間があったような……」

不思議と男は目線を合わせずに話している。

844美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 02:26:39
>>843

「ああ、そうなんですね?失礼しました。
 私ったら、ついウッカリしちゃって」

「まさに『灯台下暗し』とは、この事ですねえ。
 視野を広げすぎると、却って近くが見えにくくなる。
 うん、結びの言葉としては上々。
 この話、いつか使わせて頂いても構いませんか?」

同じ局なら把握してると思ってたけど、私もポカやらかしたものね。
まぁ、最近はチョット忙しかったから……。
何てのは言い訳にならないわね、反省反省。
でも、それも『ただの失敗』にはしない。
これもトークのネタになると思えば、むしろ収穫なんだから。

「いえ、少し考え事をしていたもので……。
 『ガーネット』ですか。私も、もう少し宝石の勉強をしなくちゃ。
 普段、あんまりアクセサリーらしいアクセサリーを付けない方なので」

会話を続けながら、スタンドの様子を窺う。
これが、彼のスタンドなのは間違いない。
彼が何故か目線を合わせようとしないのは、
何かスタンドに関係しているのだろうか?
そもそも、彼がスタンドを出している理由は何なのか?
そこまで考えた時、何となく『試してみたくなった』。

「まぁ、私に似合うものがあれば――――ですけどね」

不意に、肩の上に『機械仕掛けの小鳥』が現れる。
『プラン9』を発現した。
彼の反応を見たくなったのだ。

845釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 02:39:13
>>844

「構わないですよ。私も使わせてもらおうかな」

「……いや、嫉妬されるかな?」

微笑み。
よく笑う人だった。
だがどこか遠くを見ている。

「意外ですね、結構オシャレさんなんだと思ってた」

「まぁでも、美作さんはあんまりゴテゴテ装飾品をつけるイメージもない、か……」

「素材がいいと、シンプルな方がよく映える」

褒めていても相手を見ていないのだ。

「必要なら馴染みの店を……おっと」

「……なるほど、理解した。そういうことか、パズルのピースが埋まった気持ちだ、ほんのちょっぴりだけど」

肩の上に視線を送るが一瞬で目を逸らした。
忙しなく目が動くが焦っている訳では無いらしい。

「見えるんですね、僕の『ミュオソティス』が」

846美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 03:03:30
>>845

「ご覧の通り、普段はカジュアルなファッションが多いので。
 でも、必要があればアクセサリーも付けますよ。
 『TPO』みたいなものですね。
 たとえば、ステキな男性とロマンチックな時間を楽しむ時なんかには、
 それなりの格好じゃないとサマになりませんし」

「――『素材が良いと』というお言葉は、ありがたく受け取らせて頂きます」

    ニコリ

「ええ、そちらの彼女が見えてますよ。
 私の事は、あまりお気に召して頂けてないようですけど……」

「『恋人』が別の女性に近付くのは、確かに気になりますからねえ。
 私も、その気持ちは分かりますよ」

「あなたも私の『プラン9・チャンネル7』が見えてらっしゃるようで。
 同じ業界で同じ力を持っているなんて、随分と奇遇ですよねえ。
 そう思われません?」

(また視線が逸れた。逸らそうとしているのは確かみたいだけど)

「――――私は、そう思いますねぇ」

スクーターのシートから降りる。
そして、何気なく彼の視界に入るように歩み寄る。
別に困らせたい訳じゃない。
恋人同士の間に割り込むような趣味はないから。
ただ、何となく気になるのよね。

847釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 13:40:37
>>846

「はは、なるほど。理解した」

「そういうものですね、確かに」

笑みには笑みで返す。

「『ミュオソティス』はちょっとばかり、私を守る意志が強い」

「この奇遇は呪いみたいなものだけど」

視界に入るように美作が近寄る。
視界内への侵入。
同時に釘宮と美作の視線の交差。
目が合った。
黒い目がそちらを見ている。

「おっと……好奇心は猫を殺す」

「分かってて近寄りましたね?」

苦笑いを浮かべながら言葉を発する。

「私の視線は太陽光線よりも危険です」

848美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 17:12:54
>>847

「お分かりでした?アハハハ……。どうか、ご勘弁を」

悪戯っぽく笑い、キャップを取って軽く頭を下げる。
あからさまに視線を逸らされた事に対する、
ちょっとした『お返し』みたいなものだ。
大きく踏み込むつもりはない。

「私は視線を合わせてお喋りするのが好きなんです。
 よく言うでしょう?『目は口ほどに物を言う』って。
 目を逸らされてると、『嫌われてるのかな?』と思っちゃいますし」

「私も『日焼け』はしたくないですからねえ。
 肌が痛む前に身を引く事にします。
 『火遊び』は程々にしておかないと、女の『嫉妬』は怖いですから」

危険に飛び込む気はないので、彼の視界から外れる。
それからジーンズのポケットに手をやり、スマホを取り出す。
明るい黄色――『カナリアイエロー』のケースに入っている。

「――――釘宮さん、今『スマホ』はお持ちですか?
 私のは、こんな感じですねえ。『カナリア色』ってヤツです。
 ほら、そこに停めてる『愛車』とお揃いですよ」

そう言って、自分のスクーターを指差す。
スマホケースと同じような色だ。
お気に入りの色なのかもしれない。

「釘宮さんのスマホは、どんな感じなんでしょうか?
 見せて頂けません?」

849釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 22:49:05
>>848

「私の場合は、沈黙は金なんだ。視線に関してはね」

「この仕事は黙れない仕事だけど」

視線を再び外した。
そちらを見ているようで微妙に見ていない。
焦点を外している。

「スマホなら持ってるけど」

ポケットから取り出したのは鮮やかな緑色のスマートフォン。

「ずいぶん急じゃないですか」

850美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 23:38:15
>>849

「センスの良いお色ですねえ。
 自然を感じる色合いは、私も好きですから。
 『ビタミンカラー』なんかが特に…………」

「おっとっとっ、話題が逸れちゃいましたね。
 ほら、お互いにまだ『番号の交換』をしていないでしょう?
 忘れない内に、やっておきませんと」

『プラン9』の背中にある『マイク』を通して、
その『声』を『自分のスマホ』に送る。
同じ事を彼のスマホに対して行う事も出来た。
でも、それは『モラル』に反する行動だ。

「ハロー?あなたの『電話番号』を教えてくれる?」

《ハイ、クルミサン。『×××‐××××‐××××』デス》

本体の質問を受けて、『機械仕掛けの小鳥』が歌うように喋りだす。
ヴィジョンの口に内蔵された『スピーカー』から、言葉が発せられているのだ。
それは、『美作くるみの電話番号』だった。

「――――覚えて頂けました?」

わざわざこんな事をせずとも、普通に教えれば済む話だろう。
ただ、それでは『パフォーマー』として納得できない。
たとえプライベートな時であっても『エンターテインメント』を忘れないのが、
美作くるみの『ポリシー』なのだ。

851釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 00:34:15
>>850

「黒とか白とか面白みがないですから」

そういう理由らしい。
案外、普通を避けるタイプなのかもしれない。

「おっと……自分から個人情報漏洩……でも、私にしか聞こえないか」

「えぇ、覚えましたよ」

自分のスマートフォンに入力し、ワンコール。
これで、着信履歴から番号が登録できるわけだ。

「僕の『ミュオソティス』はそういうのは得意じゃないから、ちょっとおもしろいですね」

852美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/05(土) 01:00:30
>>851

「もし勝手に話し出したら、それこそ大変ですけどねえ。
 プライバシーが筒抜けになっちゃいますよ。
 でも『私が聞いた事』しか喋りませんので、ご安心を」

    ニコリ

自分は『放送関係』の職業に就いている。
だからこそ、人一倍『モラル』を大事にする気持ちは強い。
『もしそうでなかったら』と考えると、ほんの少し怖い気持ちになる。

「面白がって頂けたなら『エンターテイナー』として本望ですよ。
 釘宮さんの『恋人』は……
 確かに私の『アシスタント』とは随分雰囲気が違いますからねえ」

『ミュオソティス』――『プラン9』とは明らかに異なるスタンド。
ヴィジョンが全く違うのだから、おそらくは能力もそうなのだろう。
『視線』と何かしらの関わりがあるとは思うけど。

「気になる所ですけど、深く聞くのは止めておきますよ。
 『個人情報』に当たりますから」

「それに、『後ろの彼女』の嫉妬を買うのも避けたいですし――――ね」

853釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 01:38:04
>>852

「アンコントローラブルなものじゃなくてよかった」

心の底からそう思う。
情報社会においてそれは強すぎる。

「はは、お気遣いどうも」

「『ミュオソティス』も喜びますよ、多分ね」

自分は彼女がどんな姿をしているのかもわからない。
後ろにぴったりと張り付いているから。

「そのアシスタントも素敵ですけどね」

854美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/05(土) 02:13:00
>>853

「そう言ってもらえて『プラン9』も喜んでると思います。きっと」

    フッ

肩の上から『小鳥』の姿が消える。
そして、スマホをポケットにしまった。
着信履歴から、釘宮の番号は登録済みだ。

「ちょっと挨拶のつもりが、長い立ち話になっちゃいましたねえ。
 この辺りでお開きにしましょうか。
 お話できて楽しかったですよ」

            ザッ

そう言って、愛車であるスクーターの下に歩いていく。
イタリア製の『ヴェスパ』だ。
シートに腰を下ろし、キックレバーを軽やかに蹴り付ける。
カナリアイエローの車体にエンジンが掛かった。
ハンドルを握り、もう一度振り返る。

「それじゃあ、また――――『お二人さん』」

別れの言葉を告げて、アクセルを開ける。
軽快なエンジン音と共に、歓談の場となった駅前を後にした。
その途中で、『よく故障する愛車』がヘソを曲げたのは別の話だ。

855釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 12:52:29
>>854

「私も楽しかったですよ、今度は仕事で会えるといいですけど」

そう言って焦点をずらしたまま美作を見送った。
他人には一人、見える者には二人。

「おっと……僕も写真を載せてもらえるくらいにならないとな」

「……その時は君には隠れていてもらおうかな」

856比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/05(土) 21:20:19

    ザッ ザッ ザッ

午後の通りを、人々が行き交う。
何の変哲もない日常の光景。
その風景に溶け込むようにして、『何か』が佇んでいた。

        ――――スッ

白い鎧を身に着けた一人の『兵士』だ。
胸にトランプのような『スート』が刻まれている。
見る人間が見れば、『スタンド』だと分かるだろう。

『兵士』の向こう側にはオープンカフェがあり、数人の客が座っている。
その中に、モノトーンのストライプスーツを着た男がいた。
フェドーラ帽を被っているため、表情は見えにくい。

857ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/06(日) 19:19:08
>>856
まゆです。変哲もない午後にいつものように通りを歩いていたら変な『兵士』を発見。
ああいうのには気づかないふりをして…

  「きゃっ」

あっ『兵士』の近くでつまづくっ。
鞄の中を地面にこぼす。『バイト誌』『パワーストーン的なブレスレット』『化粧用品』とかがこぼれちゃう。
あと、誰も反応しなけらばあたし転んじゃう。たすけてー!

858比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/06(日) 20:57:52
>>857

その時試していたのは『軽いテスト』だった。
オルタネイティヴ4は『実体化』している。
ゆえに、一般人にも見えてしまう。
その特性を逆に利用して、
一般人とスタンド使いの『反応の違い』を調べていたのだ。
少し待っていると、『気付かれたような気がした』。

(――――さて、彼女は『どちら』でしょうか?)

しかし、ここで予期せぬトラブルに見舞われた。
観察していた相手が倒れ掛かってきたのだ。
『兵士』は、彼女の近くにいた。
そして、そのサイズは『トランプ』程度しかない。
さらに言えば、『実体化』している。

    グォォォォォ――――

(…………このままでは潰されますね)

            ガシッ

彼女の体は、地面にぶつかる寸前の所で止まる。
地面と彼女の間に、『兵士』が立っていたからだ。
巨石の如く倒れ込む体を、両手で受け止めている。
見かけは小さいが、それなりのパワーはありそうだ。
しかし、そう長く持つようにも見えない。

(お願いですから、早めに立ち上がって下さいよ……)

椅子に腰を下ろしたまま、静かにコーヒーカップを傾ける。
だが、心の中では願わずにはいられなかった。
そうでなければ潰されてしまうのだから。

859ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/06(日) 22:36:22
>>858
こいつ動いた気がしたわ。気のせいかしら。
そして、あたしを支えてみせるとは見上げた根性。
よく出来たフィギュアね、気に入ったわ。

「あっ落としてしまいました…」

落としたものを拾い集める。

 ガシッ

ついでに『兵士』も掴む。掴もうとする。
 
   「『ミスティカル・ガイド』」

目に重ね合わせる形で『スタンド発現』。
『スタンド使い』から見たあたしは『目が水晶のように』なって見えるはず。
ま、『スタンド使い』がいればの話だけど。

『トランプ兵士』を鞄に入れようとしながら、周囲を見渡す。

少しでも『ストレス』を感じている人間は、今のあたしには『赤く見える』。
そういう、『スタンド能力』。
『ストレス』を感じている奴がいたら…そいつが『持ち主』かな。
そいつがこっちを見てたら、あたしと目が合うかもしれない。

そんな奴がいないなら、この『兵士』はあたしが大事に持ち帰って事務所に飾る!

860比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/06(日) 23:17:04
>>859

素早い動きで、有無を言わさず『兵士』を捕まえる。
掴んでみて分かったが、小さい割に力は『同等』だ。
抵抗されたら少々手を焼いたかもしれないが、それもない。

(『スタンド使い』でしたか。
 しかし、未知の相手に対して大胆というか図太いというか……)

『兵士』には視聴覚共有が存在するため、本体の目で見る必要はない。
よって、『兵士の視界』で相手の一挙手一投足を見ていた。
本体が向いているのは別の方向だ。

(何をする気か知りませんが……
 人様の『鞄の中身』を覗き見る趣味はありませんので)

    ――――シュンッ

鞄に入れようとした時、唐突に『兵士』の姿が掻き消える。
周囲を見ると、他の人間と比べて『やや赤い』人間がいた。
8〜9mほど先のオープンカフェに座っているストライプスーツの男だ。
生憎、そちらを向いてはいなかったが。
『ストレス』――その原因は『捕まった事』ではなく、
『潰されかけた』からだが、それは男自身しか知らないだろう。

861ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 00:37:41
>>860
>    ――――シュンッ

えっフィギュアが消えた どういう事?ナンデ?

そして発見する『やや赤い』男。離れた場所で優雅にお茶してる。『フィギュアを落とした人』には見えない。
あれ、『兵士のフィギュア』と関係ある人間?ただ『コーヒーがマズくて苛立ってるだけの人』なんじゃあないかしら。

  「……『カード』が無いですわね」
  「どこかに飛んで行ったのかしら」
   
鞄の中を見ながら、ちょっと意味深なことを言ってみる。
言いながら、オープンカフェの方角に向かい歩く。
…チラ、とストライプスーツの男を見てみる。
スタンドは発現しっぱなしなので、目は『水晶』のまま。
 
(この女は『スタンド使い』になりたてなので、
 『トランプの兵士』=『スタンド』だとか、
 周囲に『スタンド使いがいる』という考えに至っていないのだ。
 それは比留間から見れば『大胆…というか迂闊』に見えるかもしれない。)

862比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 01:14:20
>>861

(彼女は『スタンド使い』……。
 ここから『どう動くか』――気にならないと言えば『嘘』になりますね)

『兵士』は解除してしまった。
元々『三分間』しか維持できないので、
そのまま放っておいても消えたのだが……。
『視覚共有』がなくなった今、
確認するには自分の目を使わなければならない。

    スッ

上着のポケットに手を入れ、鎖付きの『懐中時計』を取り出す。
だが、目的は別にある。
ポケットから手を抜く時、同時に『ハンカチ』を落とすためだ。

          ハラリ…………

「――おっと……」

落とした『ハンカチ』を拾うために身を屈める。
その際、一瞬『兵士』がいた場所に視線を向ける。
それによって、先程の彼女の様子を確かめる。

(『クリスタル』の目ですか……。
 おそらく『能力』の一部と考えて良さそうですが……)

ハンカチを拾った時、『水晶の両目』を見た。
タイミング的に、『目が合った』かもしれない。
男は帽子を被っているため、多少の分かりにくさはあったが。

863ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 01:48:55
>>862
>「――おっと……」

「あら」

『目が合った』。気がした。

「―――喉が渇いてしまいましたわ」
「少し、お茶でも―――」

先手必勝!この男を探ってみる。
道端に置いてあった『兵士』は、怪しげではあったが、『危険』には見えなかった。
『ストライプスーツの彼』にしても…ここ、日中の大通りよ?彼が『危険分子』とは思えないのよね。

オープンカフェ、『ストライプスーツの彼』の座席に向かう。隣の席に座ろうとする。
その間、『水晶の目』で彼を注視しておく。

864比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 02:26:14
>>863

(『ここ』に来ましたか。『偶然』という可能性も有り得ますが……)

距離が近付いたため、男の顔がハッキリ見えた。
年齢は同じくらいで、顔立ちは優男風だ。
スーツの仕立ては良く、『堅い職業』を連想させる。

「――――こんにちは」

隣の席に座った『彼女』に対し、至って穏やかな表情で挨拶する。
同じ店に来ただけでなく、近くの席を選んだのも『偶然』だろうか?
それは気になる点ではあった。

(『何をするか』――拝見させて頂きましょう)

『水晶の目』を通して見る男の色は、『紫』に変化していた。
先程までは何かしらの『ストレス』があったらしいが、
それは解消されたようだ。
『兵士』の本体である自分に接近される事は、
『ストレス』と成り得る可能性はある。
だが、彼は『本体である事を知られた』とは考えていない。
ゆえに、現時点では、それを『ストレス』とは認識していないのだ。

865ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 03:16:17
>>864
(女は、民族衣装風のロングカーディガン、色白、30過ぎくらい、といった風体だった。
 他の外見的特徴は…PLがこれから決めてくのでお付き合いよろしくお願いします…)

「ええ、こんにちは」
「お隣、失礼します」

彼の隣の席に座る。
そして顔を見て挨拶。そして彼の『温度の変化』を見る。
『知らない女』にいきなり相席されて、彼はちょっとでも『ストレス』『興奮』があるかしら。
私の人型スタンド、『ミスティカル・ガイド』の顔を、ちょっと自分からズレた位置に置く。
『スタンド』でジロジロ対象を観察。本体は、カフェのメニューでも見る。

「『ちょっとした冒険』」

   「………」

   不自然でない程度に間を置く。ストライプの彼の反応を見る。
ちなみにこの言葉に深い意味はないわ。
  状況に当てはまりそうで、どうとでもとれる言葉を適当に言っただけ。

「………………の気配を感じまして」

ここでメニューから彼に目を移し、我が顔面を彼の顔面にズイっと近づける。彼の『体温』はどうだろう。
童貞くんとかならここで顔をメチャ赤らめるんだけど。この男はそこまで反応しないかもね。モテそうだし。

「わたしのことは  『La・fino(ラ フィーノ) 石繭』とお呼びください」
「呼びにくければ、『まゆ』さん、などでも構いませんわ」

866比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 03:47:09
>>865

「『まゆ』さん――その名前は、よくお似合いですよ」

(どうやら随分と『特徴的な個性』をお持ちの方のようですね……)

「『比留間』と申します。
 『見知らぬ相手と同じテーブルに着く』というのは、
 確かに『小さな冒険』と呼べるでしょうね」

(『未知のスタンド使いと相席』……確かに『冒険』でしょう)

今の所、男の『表情』にも『体温』にも変化はない。
相席された事を良いとも悪いとも思っていないようだ。
だが、先程『赤かった』事は確認している。

(さて――まずは『簡単な質問』から始めましょうか)

「『ラフィーノ』……失礼ですが、『芸名』か何かでしょうか?
 どこかで耳にしたような記憶がありますね」

『嘘』だった。
少なくとも、自分は一度も聞いた事のない名前だ。
狙いは、相手の反応から『情報』を引き出す事にある。

867ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 20:28:06
>>866
こいつあたしの名前知ってんの?普通の成人男性が占い師に興味持つ?
怪しいわね、『同業者』とかかしら

 「…そのようなものです」
 「『まことの名』とも言えます」

 「『運命』に耳を傾けることを生業としていまして」

うりゃ!これで伝わるか!
要するに『アヤシイ占い師』よ!
ちなみにこの芸名は中学生のころ考えたやつを徹夜のノリで採用したやつ。
数多くあるやりなおしたい過去のひとつね。!


  「あ、いいですか」
  「アイスコーヒー、ホットコーヒー、一つずつ」
  「ミルクもつけてください」

今のうちにカフェの店員捕まえて注文もしとくわ。

868比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 21:10:49
>>867

少なくとも、男の外見は『占い師』には見えない。
何かしら『事務的な仕事』に従事しているような雰囲気だ。
しかし、会社員風とは違う。

「興味深いですね。
 差し支えなければ、もう少し詳しく教えて頂けますか?」

(『運命に耳を傾ける』……ですか。
 あまり一般的な職業ではなさそうですね……)

話を聞く職業といえば、まず『カウンセラー』辺りが思い浮かぶ。
しかし、『運命』と付くと途端に胡散臭く見えてくるから不思議だ。
もっとも、だからこそ関心を引かれるとも言えるが。

「どこで名前を聞いたか思い出せるかもしれません。
 こういう事を放っておくのは、気になる性分でして」

(もう少し喋って頂きましょうか……。
 私が考えていた以上に面白い方のようですからね)

聞けなければ聞けないで構わない。
会話が続けられたなら、それで十分だ。
言葉を交わす内に、『何か』が分かるかもしれない。

869ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 00:15:50
>>868
「そうですね……『カード』」
「『タロットカード』『トランプ』、『☆戯王』とかでも」


「お好きなカードで、あなたの運命、『占います』わ?」


『タロット』『トランプ』『遊☆王』の札を鞄から出して見せる。
どれも、古より神との交信に使われてきた由緒正しきカードよ!


 「わたしは、分かりやすく言うところの『占い師』です」
 「比留間さん、お好みのカードはありまして?」


ちなみにあたしの雑感だけど、
『タロット』を選ぶ奴は、頭は回るが、『占い』に呑まれやすいこともある気質。
『遊戯☆王』を選ぶ奴は…性根が小学生男児。
『トランプ』……は、『呪術的なかんじ』に欠けるんで不人気。選ぶ人はちょっと変わった拘りがある人ね。

870比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 00:55:52
>>869

「――――では、『トランプ』を選ばせて頂きましょう」

確たる理由はない。
強いて言えば、自分のスタンドとの共通点からだ。
そして、占ってもらう前に確認する事が一つある。

「『見料』は如何ほどでしょうか?
 あまり現金を持ち歩かない主義ですので……」

「『カード』は使えないでしょうね?」

大抵の買い物は『クレジットカード』で済ませる事にしている。
それは別として、彼女が詐欺師か何かでない保証はないのだ。
べらぼうな値段を請求される前に、確かめておく必要がある。

(『占い』……『能力』に関わるものでしょうか?)

本体とスタンドは密接に繋がっている。
言われてみれば、『水晶』というのは『占い師』らしくもある。
その職業も、『能力』との関係がないとは言い切れない。

871ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 01:30:50
>>870
この男丁寧ね。『占い?ちょっとやってみせてよ』とかいうタイプじゃないのは好感が持てる。

「お代は結構ですわ」
「わたしが勝手にやっている事ですし」
「どうしてもというなら、ここのお勘定を払っていただく、などでも」

ま、代金はいらないわ。今日のこれは『スタンド』の試運転も兼ねてやってるのよね。
トランプの束をテーブルに置く。

  「比留間さん、『お悩み』などはおありですか?」

店員から受け取ったホットコーヒーを片手に、話を促してみる。

(ちなみにこの女は、店員が持ってきた『ホットコーヒー』『アイスコーヒー』を両方自分の前に置かせた。
 店員は不思議そうにしていた。)

872比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 01:58:02
>>871

「それを聞いて安心しました。
 プロの方に対して『無料で』というのも失礼ですし、
 ここの支払いは私が持ちますよ」

(『それに見合うだけのもの』を見せてもらえるなら、
 払う価値はありますからね)

「『悩み』ですか……」

(なるほど――『占い』の『常套句』という所ですね)

基本的には、悩みの全くない人間はいないだろう。
探せば一つや二つは出てくるものだ。
最初の言葉として、これほど相応しいものはそうそうない。

「……そうですね。幾つかあるのですが――」

考え込む素振りを見せる。
これといって思い浮かぶようなものはなかった。
しかし、だからといって『何もない』と言ってしまってはつまらない。

「ここ最近、両親に『結婚の話題』を出される事が多くなりまして。
 生憎まだ予定がないもので」

「――――今の一番の悩みといえば、それでしょうか?」

実の所、結婚を急かされているというような事実はない。
つまり、これも『嘘』だ。
だが、その真偽を確かめる術はないだろうと考えた。

873ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 02:14:55
>>872
(PLより:すみません、差し支えなければ、『悩み』の話をしているときの比留間PCの『体温の上昇』具合を観察していたことにできないでしょうか…?)

874比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 02:26:38
>>873

『水晶の目』で男――比留間の『体温』を観察する。
その状態は、依然として『紫』のままだ。
『悩み』の話をしていれば、
少しは『変化』があっても不思議はないかもしれない。
しかし、全く『変化』が見られない。
単に、実際は『些細な悩み』だとも解釈できるが……。

875ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 03:06:23
>>874
おかしくない?この年代の男が結婚の話をそんな平然とできるものかしらね。
ちなみあたしに『婚活』の話をさせたらきっとストレスで顔真っ赤っかね。アラサー独身の悲哀なめんなよ。

 「なるほど、では、簡単な『恋愛』の占いをいたしましょうか」

コーヒーカップを右手に強く持ち、コーヒーをすこし飲む。

    「…では、始めましょう」

トランプの札を表にし、テーブルに広げる。
左手で『ハートのカード13枚』右手で『ジョーカー1枚』を取り出し、比留間に見せる。
計十四枚を、混ぜ合わせ、手早くシャッフル。そして、『いちばん熱いカード』がてっぺんに来たら、シャッフルを止める。
私の『ミスティカル・ガイド』は、一度にも満たない温度差を判別することができる!

ふふふ…この状況で、いちばん温度を持ったカード……それは、
『ホットコーヒーのカップを持っていた右手』で触れたカード!

  「数字が大きいほど、『ラッキー』です。」
  「では、カードを引いてみてください」

比留間が引くカードは――――――『ジョーカー』よ!

(ちなみにこの間、『水晶の目のスタンド』がトランプの束を食い入るように凝視していのが、
 比留間には見えている。明らかにこの女アヤシイ、と気づくことができる…。)

876比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 03:29:21
>>875

「――――…………」

(『スタンド』で何か仕込んでいる……という訳ですか)

当然、それが『何なのか』までは分からない。
だが、『スタンドの目』で見ている事は確かだ。
そして、彼女のスタンドは『水晶の目』を持つ。

(事実を考え合わせれば、その辺りに秘密がありそうですが……)

「では――――」

    スッ

現れたのは『ジョーカー』だった。
ゲームによっては『最高のカード』にも『最悪のカード』にもなる。
ゆえに、解釈が難しいが……。

「……『ジョーカー』には『数字』がありませんね。
 申し訳ありませんが、『解説』をお願いしても宜しいでしょうか?」

(『仕込み』なのは明らか――もう少し突っ込んでみますか……)

カードをテーブルに置いて、『ラフィーノ』に問い掛ける。
どのような返答を返してくるか。
それも一つの『参考』にはなるだろう。

877ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 00:38:38
>>876
目論見通り、『ジョーカー』が出た。

 「わあ、特別な札が出ました。ラッキーてすね」
 「………と言えば、あなたは喜びますか?」

ここで、比留間とまた目を合わせ、顔を近づける。

 「恋愛運なんて、比留間さんには『重要ではない』、そういう事です」
 「あなたには、『本当の想い』がある」「違いますか?」

この職業で大事なのは、『私は貴方を見通している』、というアピールだ。
さあ、どう反応するかしら?あたしは性格が悪いので、こういう会話でマウントをとるのが好きなのだ。

878比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 01:09:34
>>877

「なるほど――そういった解釈は思い付きませんでしたよ」

(『占い師』としての腕前は定かではありませんが、
 少なくとも『話し相手』としては優れた方のようですね)

「さすがに『プロ』の方の言葉は含蓄がありますね。
 まるで全てを見通されているようです。
 不思議なものですね」

(では――『これ』はどうでしょうか?)

現在、会話のイニシアチブは彼女に傾いている。
上を取る気はない。
むしろ、その『逆』をやる。
こちらが選ぶのは『更に持ち上げる』事だ。
そうする事で、『次の質問』に答えざるを得ない状況を作り上げる。

「確かにおっしゃる通りかもしれません。
 自分自身でも、まだよく分かっていないのですが……。
 言われてみれば、
 心の中に『何か特別なもの』があるような気がします」

「――――『それ』が何か、お分かりになるのですね?」

あたかも、
『彼女には全て分かっている』という前提で質問を投げ掛ける。
表面的には、相手の力量に感心しているように装う。
それは、相手の出方を窺うための手段だ。

(『分からない』と言うか、
 それとも『曖昧な言葉』ではぐらかすか……。
 お手並み拝見といきますか……)

879ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 01:45:43
>>878
反応が来たわね。ここからは『占い師』特有の『それっぽい事を言う』段階よ

 「あなたは…ええ」
 「非常に冷静です。人から一歩離れた位置にいようと心がけている。」
 「世間というものにそこまで乗り気ではない。恋愛にしたって、そうでしょう?」

 「その一方で、好奇心が強い一面があり、あなたはその目でしっかり人を見ている。」

いかが?

 「『遊び心』ですわね、あなたには、それがある」
 「現にこうして、私で『遊んで』いる。違いまして?」

成人男性の『占い』にたいする心情など、だいたいこんなモノだ。
昼間からシャレオツに決めて一人で茶をしばく、知的な雰囲気の男性。
いきなりやってきた占い師に対しては嫌な顔をせず、会話を楽しむ。
人から距離を置くが、人間嫌いではない。『比留間』は、こういう人ね。エリートタイプ。


  「―――世界というのは、一種の『ゲーム』だ」
  「はい、私に続いて言ってみてください」
  「世界というのは、一種の『ゲーム』だ」

  「 『世界というのは、一種の『ゲーム』だ』 」

とりあえずそれっぽい事を言わせてみる。言わせて、比留間の反応を見る。
これは、彼がこの言葉を肯定的に反応するか、嫌悪感を示すか、それを測る『リトマス紙』のような言葉だ。

この間も、『ミスティカル・ガイド』は観察を続ける。大きな水晶の瞳で、比留間の顔を覗き込む。

880比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 02:17:32
>>879

「『世界というのは一種のゲームだ』」

表情を変える事なく、言われた通りの言葉を繰り返す。
比留間彦夫の何よりの楽しみは『嘘を吐く事』だ。
見方を変えれば、『遊び心』と言えなくもない。
そのせいか、『体温』は若干上がっていた。
無論『ミスティカル・ガイド』にしか分からない程度の違いだが……。

「いや、参りましたよ。
 確かに、そんな気質があるのかもしれません」

「私の完敗です。あなたは大した方だ」

    ニコリ

こちらが取るのは――『負けを認める』事だ。
たとえば、自分が『殺人犯』で相手が『刑事』なら、こうはいかないだろう。
相手に腹の内を知られないように隠し通す必要がある。
しかし、この『ゲーム』には負わなければならない『リスク』などないのだ。
ゆえに、一本取られたとしても痛くも痒くもない。
それに、『本当の部分』が知られる筈もないのだから。
だからこそ、こうして『やり取り』を楽しんでいられる。

「おっと――そろそろ『事務所』に戻りませんと。
 まだ片付けなければならない書類が残っているもので」

「支払いは私が済ませておきますので、どうぞごゆっくり。
 お蔭様で、非常に『有意義な時間』を過ごせましたよ」

    ガタッ

穏やかな表情で一礼し、椅子から立ち上がる。
その『体温』は、今は『紫』に戻っていた。
ふと、レジの方へ向かいかけていた足が、途中で止まる。

「そうそう……『どこで名前を聞いたか思い出せるかもしれない』と言ったでしょう?」

「――――今、思い出しましたよ」

881ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 02:31:04
>>880
む、体温上がってる。ストレスかしら、興奮かしら。
このへんは『ミスティカル・ガイド』じゃあわからないから、私の技量を磨いていく必要があるわね。
この男、表情から本心が読みにくい雰囲気なのよね。

 「そう言っていただけると何よりです。」
 「私としても、この出会いは…あなたの言葉を借りるなら、『有意義』でした」

『スタンド』の試運用ができたしね。本業にいきなり投入ってわけにはいかないもの。
道行く人間で試せたのはラッキーだったわ。
彼、今後『占い』に来る性格とも思えないし、後腐れなくテストができたってわけよ。

 「ご馳走になりますわ」
 「この出会いに感謝を。
  そして、あなたの『遊び心』に幸が有ることを、私が約束いたします」

コーヒーを口元に運ぶ。いやあ、無辜の市民を弄ぶのは楽しいわねーーーッ!

882比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 02:46:45
>>881

「数日前、うちの事務所の女性が何人か、
 あなたの事を話していましてね。
 あなたの名前を出して、
 『インチキ』だの『イカサマ』だのと罵っていたんですよ。
 全く『酷い誤解』ですよね」

「彼女達には、私の方からハッキリと伝えておきますよ。
 『ラフィーノ石繭は決してインチキやイカサマなんかじゃない』とね」

当然、そんな話など聞いてはいない。
そう思っているのは、他ならぬ『比留間自身』なのだから。
だが、『本当の部分』を知る術はないのだ。

「それでは――――『良い午後』を」

    ニコリ

優男風の顔に穏やかな微笑を浮かべて、彼女の前から立ち去っていく。
『ノーリスク』とはいえ、ただ負けを認めるのもつまらない。
だからこそ、最後に置き土産を残していく事にしたのだった。

883ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 03:02:59
>>882
「ぶーーーッ!?」「熱っ あっっつ !!」

コーヒーを口から噴き出す。
目を白黒させながら比留間を見る。
マジか。こいつ。
 
   「マジか」
   「あ、いえ…えっと、ごきげんよう」

良い性格してるわ。人生楽しんでる系男子ね。
…二度と会いたくないわ。

  「(ま、敗けた…)」

去り行く優男の背中を見ながらそんなことを思うまゆでした。ごきげんよう。

884ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/27(日) 23:44:24

夕刻の大通りに『一人の女』がいた。
背中に『天使の羽』を思わせる羽衣が備わり、
両腕は『羽毛』で覆われている。
踵の辺りには『蹴爪』が生えていた。

「お集まりの皆様――その目と耳で、ご覧下さいませ。
 どうぞ『瞬き』は控えめに」

    「♪♪♪」

         バササッ

       「♪♪♪♪♪」

              バササササッ

             「♪♪♪♪♪♪♪」

                     バササササササッ

女が『鳥のような声』を発すると、付近の『野鳥』が集まってきた。
ハトやカラスなど、種類は多種多様だ。
その鳥達が、女の指示に応じて周囲を飛び回って見せる。
まるで、巧みに飼い慣らされているかのような動きだった。
これが、この『ビジネス』のメインなのだ。

「――――本日はここまでです。またお会い致しましょう」

「それでは皆様、ごきげんよう」

観客の『人間達』に挨拶し、撤収の準備を始める。
といっても、今日の分の『稼ぎ』をしまうだけなのだが。
小銭ではあるが、それなりの額が集まった。

(『人間社会』に溶け込んで『知識』と同時に『食い扶持』も得られる。
 我ながら優れたアイディアですわ)

彼女は『ハーピー』と名乗っている。
『鳥人を模したコスチューム』に身を包み、
『鳥とコミュニケーションする技能』を駆使して、
街頭で『ショービジネス』を行っているという話だ。
メディアからの取材依頼もあるものの、それらは全て断っており、
素性やプライベートは一切が謎に包まれている。

(まさしく『一石二鳥』ですわね。
 この言葉の『字面』は、少々不愉快ですけれど)

その正体は『ハゴロモセキセイインコ』である。
彼女の名は『ブリタニカ』。
『自由』と『知識の追求』のためにブリーダーの下から脱走し、
野生化して今に至る。

885日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/30(水) 03:46:42
>>884

「超ウケる! この辺こんないっぱい『鳥』いたんだ!」

『野鳥』達と『ビジネス』を見せていた時、
そこから少し離れた『コンビニ』の前で、
たむろしていた人間の一人が声を上げていた。

「ちょいちょい、待って! にへへ……そんな時間取らないからさ」

・・・そして芸を終えた今、立ち上がって寄ってきた。
何か話していた彼女らの中で、代表するように。

「『ハロウィン』の人かと思ってみてたんだけど!
 お姉さんさァ〜〜〜、『何者』!?
 もしかして…………『大道芸人』ってやつ!?」

これは、どういう人間なのだろうか?

「てゆーかさ! その衣装すごいね。なんかのマンガのキャラ?
 衣装ってか『本物』みたいなクオリティ……ぷぷっ、それはないか」

           イヒヒッ

金とも銀とも言えない、流れに逆らう束が幾つもある長髪。
そして鳥にとっては吉兆とは言えなさそうな、猫系の顔立ち・・・

とにかく、そのような人間がブリタニカに、軽い調子で話しかけたのだった。

886ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/30(水) 07:08:13
>>885

「茜色の秋空を彩る『翼のショー』はお楽しみ頂けましたか?
 それは何よりでした」

やや芝居がかった口調で、丁重に挨拶する。
観客に対しては平等に応対する事にしている。
『見物料』とは関係ない。
払うかどうかは、あくまで個人の自由なのだ。
もっとも、『収益』によっては『場所』を変える事はあるが。

「『ハーピー』とお呼び下さい。
 ご覧頂いた通り『パフォーマー』を生業としております」

「――――『パフォーマー』」

実際の所は、別にどちらでもいいのだ。
ただ単に『響き』の問題でしかないのだから。
だが、『ビジネス』において『言葉の響き』は重要な要素となる。
何より、この『ブリタニカ』は『言葉のチョイス』にはうるさい方なのだ。
平均的な『人間』と同じか、それ以上には。

「ええ、もちろん『本物』ですわ。私は『ハーピー』ですからね」

            フフ

どこかミステリアスな笑みを口元に浮かべ、平然と答える。
『人間社会に溶け込む方法』を考えた時、
最終的に行き着いたのは『目立つ事』だった。
普通の状況であれば、この格好は『非常に目立つ』。
下手に隠そうとすればするほど、却って周囲から浮いてしまうのだ。
それならば、いっそ自分から目立ってしまえば良い。

「だからこそ、こうして鳥達と『コミュニケーション』を取れるのですよ」

『パフォーマー』であれば、注目を集めるような格好をしていても、
何ら不思議はない。
むしろ、『そうするのが当然』と言っても良いだろう。
だからこそ、目立つ格好をしていても『逆に目立たない』。
あえて『本物』と答えるのも『誤魔化すより良い』と思っているからだ。
大抵の人間なら、それも『演出の一環』だと受け取ってくれる。

887日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/31(木) 09:24:49
>>886

「ん、超ウケた。タネとか全然分かんなかったし!
 まぁタネが分かったら分かったで『逆に』ウケるけど」

「てかハーピーってさァ〜、『外国の妖怪』でしょ?
 ヤバ、流月『妖怪』って初めて見たかも! ぷぷっ……」

演出に本気で騙されているのか?
そうなってもおかしくはないだろう。
なぜなら、演出は『本物』なのだから。

それともそういう『ノリ』なのか?
真剣味に欠けているのか、これで真剣なのか……

「でも妖怪でも『お金』は使うよね?
 『パフォーマー』としてお仕事してるワケだし!
 でさ。流月らさァ〜、さっきからあそこで」

      スッ

指差す先は、コンビニ前の集団だ。

「見てたんだケドさ。タダ見みたいになってるじゃん?
 それはどうなのかな〜〜〜〜って思ったんだよね。
 だからコレ。流月が代表して払いに来たってワケよ」

「にへ、どれくらい渡すモンなのか分かんないけど……ホラッ」

       ジャラジャラ

ポケットから取り出したのは、百円硬貨が六枚ほど。
数えてみればあの集団+彼女の人数も六人。一人百円だ。

888ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/31(木) 18:26:07
>>887

『人間界』に溶け込む上で解決すべき問題は色々とあるが、
その中でも『食料』が占める割合は大きい。
この『ビジネス』を軌道に乗せるまでには、多くの苦労を重ねてきた。
『人間』について研究して『方法』を模索し、
『出演料』を交換条件にして『同族達』の協力を取り付け、
こうして一定の評価を得るまでには手間と時間が必要だった。

「ええ、仰る通りですわね。
 たとえ『人外』の身でも、
 『人の世』で生きるには『対価』が必要ですもの」

観客の内の何割かが払ってくれれば、この商売は十分に成り立つ。
しかし、出されたものを拒む理由もない。
羽毛に覆われた両手で、足元に置かれたアタッシェケースを開く。
ちなみに、これは『拾い物』だった。
まだ使えるというのに勿体無い事をするものだ。

「その『お気持ち』――ありがたく頂戴致しましょう」

少女の前に、ケースを差し出す。
六枚の小銭を見て、反射的に考えた。
最も安い『シード』ならギリギリ二袋、
一段階ほどグレードが上がれば一袋といった所だろう。

「『♪♪♪』」

「『鳥の言葉』で『ありがとう』という意味ですわ。
 お仲間の皆様にも感謝を申し上げます」

正確にいうと少し違うのだが。
何しろ全くの『異種族語』なのだ。
いかに『バイリンガル』であっても、完全に訳し切るのは難しい。

889日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/31(木) 23:55:32
>>888

そんなブリタニカの努力など知るよしもなく、
食費となるコインをケースに収めていく少女。

「みんなにも伝えとくわ!
 鳥もありがとうって言ってたって……ぷぷ。
 てゆーかさ、今の声喉のどっから出てきてんの!?」

      「ピピッ!」  「出ないし!」

「その声出せたら流月も鳥呼べるのかなァ〜ッ。
 別に呼んで何がしたいってワケでもないケド。
 でもむしろ、何かしたいって思って呼ぼうとしたら、
 邪念! みたいなの伝わって『逆に』来なさそうだし?」

などと言いつつ、六枚目を入れ終えた。
六百円。彼女らには『大きな金額』ではないが、
それなりの食糧が買える額だ。鳥ならば、なおさら。

「んじゃ……流月あっち戻るね。
 ハーピーさんはいつもこの辺で芸やってんの?
 流月らはいつもこの辺にいるわけじゃないけどさ」

「また見かけた時のために『おひねり』用意しとくわ」

特に止められないなら、そのまま集団の方に戻る。
元よりソレを渡しに来ただけで、深い用事はなかったのだ。

890ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/01(金) 01:08:57
>>889

「『鳴管』からです。『声帯』と同じような器官ですわ」

インコが『人語』を発話できる理由は、
体内構造に人と共通する部分を持つためだ。
鳥類共通の発声器官である『鳴管』に加えて、
インコの舌は分厚く発達し、先端が丸くなっている。
これは人間の舌と似通っており、
それによって巧みな発声を可能にしているのだ。
もっとも、それは『一般的なインコ』の話。
『ハロー・ストレンジャー』の能力は、『更に先』を行っているのだから。

「そうですね。
 そのような声を上げられますと――――
 『ピッ!』という声が返ってくるのではないでしょうか?」

「『細切れに鳴く』のは『対象に注意を向けている時』ですの。
 『警戒』という程ではないですが、『緊張』している状態ですわ。
 それでも近付いてくるというのは、かなりの『反逆児』ですわね」

短く『鳥の声』を発声してみせる。
そして、ケースをパタンと閉じた。
いつもの店で『鳥用フード』を買って、
『出演者達』に『出演料』を配らなければならない。

「ここ以外にも色々な場所で披露しております。
 もし見かけた際は、是非お立ち寄り下さい」

「それでは失礼致しますわ。
 流月さん――――また何処かでお会い致しましょう」

謎めいた微笑と共に『礼』をする。
人間の文化や習慣を覚える必要がある。
単なる模倣ではなく、真に理解しなければならない。
それこそが知識の収集であり、知性の追求なのだ。
そのような事を考えながら、演技の場を後にした――――。

891日沼 流月『サグ・パッション』:2019/11/01(金) 01:42:51
>>890

「『鳴菅』! かァ〜、流月にはそれ無いわ。
 カラオケとかで『声真似』するのは、
 得意ってほどでもないけど出来るんだけどな〜ッ。
 んで、ハーピーさんはソレを持ってるってワケね!
 やば! それほとんど『鳥の仲間』ってことじゃん!」

       ケラケラ

仲間というか、『鳥』だ。
が、当然それを知るはずもない日沼は笑っていた。

「しかも鳥にめっちゃ詳しいし!
 ウケるね、鳥にも『反逆児』とかあるんだ。
 までも、群れとか作ったりするならあって普通かも」

「逆らいたくなるってのはさ」

日沼は、空をなんとなく見上げていた。
本当になんとなく……そこに鳥はいない。
いることを期待していたが、外れて良かった気もした。
期待通りばかりが良いことではないのだ。

「んじゃ、またねハーピーさん!
 今度はできれば、最初っから近くで見とくね!」

手を振って、同じくその場を離れて『群れ』へと戻る。
日沼もまた、『桜裏悲鳴』という群れの中にある。
そして……群れそのものが『反逆児』の集合であり、
その中でさえ、気に入らない『流れ』には『反抗』する。

ある意味では、人間社会の模倣には向かない。
ある意味では、人間の真の模倣には近付ける。
そうした存在との邂逅だった…………の、かも? しれない?

892日沼 流月:2019/11/01(金) 02:26:21
>>891(メール欄抜けてました)

893エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/23(土) 23:47:03
古ぼけたキャリーバックを転がし、キョロキョロと見渡しながら商店街を歩いている。
中東系の女性で、服装も少々年季が入っている……端的に言えばボロい。おまけに半袖だ。
端から見れば、バックパッカー……以前に、ホームレスと見間違えるかもしれない。

「……クシュンッ!」

「……寒い」

894ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 00:17:18
>>893

(あれが、いわゆるホームレスと呼ばれる人間でしょうか。
 初めてお目に掛かりましたわね)

鳥のような格好をした女が、そちらを見ていた。
詳しく言うと、背中には『羽』が備わり、両腕は『羽毛』で覆われ、
踵に『蹴爪』が生えている。
前髪をポンパドールにした長髪は、白と青と紫のトリコロールだ。
肩には、一羽の鳥が留まっていた。
ハトのようだ。

「その話は、また後で――」

「……あら、違いました」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

女が鳥のような声を発すると、ハトは飛び去っていった。
言葉が通じるのだろうか。
ともかく、女は引き続きエマを眺めている。

895エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 00:38:38
>>894
              バサッ バサバサッ

「鳩 だ……」

羽ばたく音に気が付いて、鳩のほうへと目を向けた。
そしてそのまま、偶然に目線を落としていき…ブリタニカの方へ意識が向かった。

 ・・・・・・・・?

   パチパチパチ
           クルッ パッ クルッ…パッ

         グググ・・・・・・グイッ 

その姿を見て少し動きが止まり……瞬きを数回、一度目をそらして再度元に戻すこと2回。
鳩が飛んで行った方を見て、再度視線をブリタニカへ向けること1回。
こちらを優雅に眺めるブリタニカは、この浮浪者のような女と目と目が合うことだろう、
そしてこう口走っていることは理解が行くはずだ。

「鳥 だ……」

896ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 00:54:40
>>895

「あら――――」

実の所、『鳥だ』という言葉は真実を指していた。
自らのスタンドを駆使して人間に化けているが、

   ストレンジャー
この『妙な女』の正体は『ハゴロモセキセイインコ』である。
だが、ブリタニカは動揺しない。

    スタスタスタ

軽やかな足取りでエマの方へ歩いていく。
ほどほどに近い距離まで。
そして立ち止まる。

「失礼、私は『ハーピー』と申します」

「そう、『ご覧の通り』です」

正体を知られたとは考えない。
正体の秘匿には細心の注意を払っているのだから。
だから、『鳥だ』と言われても落ち着いていた。

「先程くしゃみの音が聞こえたもので、
 そちらに目を向けてしまいました。
 お気に障ったのなら謝りましょう」

897エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 01:20:12
>>896
「あ …ごめんなさい ハーピーさん」

  ペコォ

口元を手で抑えて、まずはブリタニカへ謝罪の言葉を口にした。
当然といえば当然だが、まさか目の前の『人の女性の形をしたもの』が人間ではない、だなんて
露ほども思っている様子はない。

「実は 最近この街にやってきた ばかりで
 服もあまり持っていなくて 住む場所とかも……」

近づいたブリタニカには解るだろうが、浮浪者……というには小奇麗である。
野良犬を干したような『エグみ』のある体臭もなく、服も着古したものではあるものの、
汚れなどが目立った様子はなかった……どうにも、チグハグとしている、と思うかもしれない。


「…… くしゅん!」

「… うう」

また1つ、抑え目ながらもくしゃみをして見せている。

898ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 01:47:15
>>897

一方のブリタニカからは、『独特の香り』が漂っていた。
ナッツを齧った時に立ち上る香ばしい香りのような、
あるいは焼きたてのパンやバターのような、
もしくは天日干しされた洗い物に付いた太陽の匂いのような……。
このインコ特有の香りは、一部の人間達から『インコ臭』と呼ばれ、
こよなく愛好する者も数多いらしい。

「それはそれは…………」

「大変なお気持ちは、よく分かりますわ」

住処がないのは大きな問題だろう。
ブリーダーの下から出奔したブリタニカには、
その気持ちが何となく分かるような気がした。
家や食料を得るまで、自分も苦労してきた。
その甲斐あって、現在のブリタニカは複数の『隠れ家』を所有している。
街のあちこちに、密かに『巣箱』を設置しているという意味だ。

「いかがでしょうか?『お茶』でもご一緒に」

「丁度あちらに店があるようですし」

指差す方向には一軒のカフェがあった。
少なくとも、ここよりは暖かい。
本体である自分は、外気から隔絶された最適な環境にいるのだが。

(これも『知性』を深める経験になるかもしれませんわね)

相手は珍しい種類の人間のようだ。
このまま別れてしまうのは惜しい。
それに、何となく親近感を覚えてもいた。

899エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 02:08:30
>>898

 スンスン……

小さく、失礼にならない程度に鼻を鳴らす……変わった臭いだ、と思った。
鳥のような匂いと聞かされれば納得するだろう。
尤もそれは、目の前の人の正体が鳥である!という事実への理解というわけでなく、
羽をふんだんにあしらった衣服によるものだという認識によるものだが。

「クシュン! はい ぜひ……!
 ……カフェが あるんですね この街にも」

ブリタニアの誘いに、エマはクシャミと笑顔で頷いた。
そしてそれはもう、食いつかんばかりに頷いている。
半袖なのは暑がりなのではなく、本当にそれしか服の手持ちがないのだろう。と、察することが出来る。

「いろいろと 街のことを 教えていただけませんか?
 人と話すのは久しぶりで …ハーピーさんさえ よかったら ぜひ」

900ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 02:33:51
>>899

「ええ、勿論。
 よろしければ、あなたの事も聞かせて頂きたいですわ」

生憎ブリタニカは『人』ではなかったが、それは今は問題ではない。
『コミュニケーション』として、こちらも笑い返す。
飛行のために『表情筋』の退化した本来の自分には出来ない芸当だ。

「私も他所から来た者ですの。
 最初は住む場所もありませんでしたが…………。
 今は何とかやっております」

「そうそう――まだ名前を伺っておりませんでしたね。
 何とお呼びすれば宜しいでしょう?」

先に立って歩き出し、ほどなくしてカフェの扉を開いて店内に入った。
ブリタニカの風貌を見ても、店員や客は特に驚いた様子を見せない。
この辺りは稼ぎが良いため、よく『仕事』で来ている。
だから、彼らも見慣れてしまっているのだ。
慣れというのは恐ろしい。

「――――『カプチーノ』を一つ」

メニューを一瞥し、オーダーを出す。
鳥の身では飲めないが、『ハーピー』なら別だ。
そして、改めてエマに向き直った。

「街について……でしたわね。何をお話しましょうか?」

901エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 02:52:47
>>900
     キョロ
          キョロ・・・
ブリタニカと共に入店し、そして……店員が驚かないことに軽く驚愕した。
軽く周囲を見渡す。ともすれば挙動不審とさえ見受けられかねないが……
やはり、ブリタニカの姿を見て驚く人はいなかった。

               ジリッ・・・

「ひょっとして 私の認識の方が間違ってる?
 この街ではこれが普通? 
 食屍鬼街にも似たような格好の人はいたけど……案外これは ポピュラー?」

    グッ

頭を少し抱えたそうな素振りを見せたが、さすがにそこは我慢してブリタニカと共に席に着いた。
メニューを広げ……目を丸くする。

    パララ・・・・
          パラララララ・・・・
                          ・・・・パタ・・・・・

「み 見たこともないようなものが……
 たくさん種類がある……! 
 え えーと ……お 同じものを」

数分程度メニューを眺めていた……が、端から見ても解るだろう。
どんな品物が出てくるのかが解らない様子だ。
何の知識もない人間が、薬剤師の免許がないと処方できないような薬のリストを見せられたときのような反応といえるだろう。
結果、エマはブリタニカに合わせることにした。

   パタン・・・

「あ ごめんなさい 名前をまだ…
 私は エマです エマ・ティファニー 
 最近 この街にやってきたんです ……移住というか 引っ越しのために」

それで、と小さく前置きをして

「働く場所とか 住む場所とかを探していて……
 でも どうやって探せばいいのか 解らなくて
 なかなか人に 声もかけられなくて…… ハーピーさんと こうやって話をしたのも
 それこそ 数年ぶりくらいかも……」

902エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 03:10:30
>>901

903ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 03:18:44
>>901

『食屍鬼街』――――何やら不穏な名前が聞こえてきた。
どんな場所かは知らないが、そこからやって来たのだろうか。
ともかく、人と人の姿をした鳥との会話は続いていく。

「エマさんとおっしゃるのですか。
 失礼ですが、他所の国からいらっしゃったようですわね」

鳥から見ても、この国の人間でないのは察せられた。
人間の中には、髪の色や目の色を変える人間もいる。
だが、そういった人間とは雰囲気が違う。
そのエキゾチックな印象のせいか、エマを意識する者もいるようだ。
普通なら、むしろブリタニカの方こそ目立つ筈なのだが。

「『数年ぶり』とは随分と長いようで……。
 色々とご苦労がおありだったようですね」

「住む場所や食い扶持に関しては、私も苦労して参りました。
 ご参考になるかは分かりませんが、
 私の『仕事』についてお話致しましょう」

「私は『ストリートパフォーマンス』で生計を立てております。
 具体的には『鳥とのコミュニケーション』ですわ」

    ズズ

「鳥と対話をして、
 道行く人々に『パフォーマンス』を披露していますの」

運ばれてきたカプチーノに口をつけながら、自身の仕事を語る。
より正確な表現をするなら、
『同族』である野鳥達の協力を得ているのだ。
無論タダではなく、収益の一部で『鳥用フード』を購入し、
報酬として現物支給するというシステムを構築している。

904<削除>:<削除>
<削除>

905<削除>:<削除>
<削除>

906エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 18:17:47
>>903
あまり見ない外見なのは間違いがない……
少なくとも、星見の外からやってきた人間であることは間違いがなかった。
その容姿や服装からしても、ブリタニカの言う通りそれなりに人の目を集めているのだが、
幸か不幸か、エマはそのことをあまり意識はしていなかった。
……いや、気が付いているのだが、自分がそう見られているとは思っていない、といった具合か。

   スッ……   ペチペチ
               ・・・・…ズズ……

運ばれて来たカプチーノを口に含みながら――
―― ひとしきり、そのカプチーノの外見を物珍しそうに観察し、
初めて見る昆虫に触れるような手つきでカップに触れて温度を確かめ、
確かめるようにしてゆっくりと―― ブリタニカの話を聞き、ふんふん、と頷く。

「鳥とのコミュニケーション…… 『パフォーマンス』 ですか!
 なるほど だから そんな鳥みたいな格好をしているんですね」


   ポン      

合点がいった、と手と手を合わせて軽く音をたてた。

「この街の 流行の服だったりするのかなとか 思ったんですけれど
 私の前に居た場所…… そこでも いろいろな格好をした人が いたんですが」

907ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 20:17:04
>>906

(彼女のリアクションは『普通の人間』とは思えない)

(『まさか』とは思うけれど――――)

(いえ、少なくとも『可能性』はある…………)

カプチーノに対するエマの反応を見て、一つの疑念が浮かぶ。
もしかすると、自分と同じく『人外』なのではないか?
人間に成りすましているが、
本当は『人以外の何か』なのではないだろうか?
自分も最初の内は、無意識に不審な行動を取ってしまっていた。
だからこそ、『擬態』の可能性を考えたのだ。

「お口に合いますでしょうか?」

「――――『初めて』のようですが」

そうだとしても、『同族』ではあるまい。
それは、あまりにも偶然が過ぎる。
では何だろうか。
『哺乳類』か、それとも『爬虫類』か?
知性のレベルを考えると、やはり『哺乳類』が妥当か?

「その通りですわ。私は『ハーピー』ですもの」

    フフ

「この格好が流行するとしたら、
 私の『ビジネス』が大いに成功した時になるでしょうね」

この格好は否応なしに目立つ。
そう、普通なら。
しかし、『パフォーマー』なら話は別だ。
人目を引く格好をしていても、決して不自然には見えない。
だからこそ、こうして人間社会に溶け込む事を可能にしている。

「失礼ですが、エマさんは何か『特技』などをお持ちですか?」

「私も『特技』で生計を立てる身。
 それを仕事に活かすのも一つの方法かと存じますわ」

908エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 20:56:17
>>907

   ズズ・・・・    

「ええ こういう飲み物は 『私』は 『初めて』で……
 『特技』 ですか?」

尋ねられて、カプチーノを飲む手をふと止めた。
…まさか目の前の人物(いや、鳥物というのが正しいのか?)が、
自分のことを人類ではないのかと疑っているとは思ってはいない。
しかしブリタニカの質問の内容は、少し答えに困る内容のものだったようだ。

   クルッ クルクルクル・・・

「うーん」

     クルクルクル

人差し指をくるくると空中で回し、虚空を見上げる。
答えられない……というよりかは、何かしっかりした特技なりなんなりがあるのだが、
それを伝えるための言葉を選んでいるような様子だと思えた。


 クルッ・・・

「うーん そうですね……
 『占い師』……というか あるいは 『カウンセラー』のようなことを していました
 人と話をして その人の将来をこう 指し示すというか……」

指を止めて、一番しっくりきたらしい言葉をつかってそれを表現する。
どうにも歯切れが悪そうだが……

「……でも それはもう 廃業してしまっていて
 この街では何か もっと別の仕事ができればいいかなあ と」

909ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 21:22:57
>>908

人か『それ以外』か。
それ以上の追求はしない。
ブリタニカも『正体』は秘密にしているのだ。
必要な理由がない限り、他者の秘密を暴こうとは思わない。
心の中で、密かにそのような事を考えていた。

「なるほど――さしづめ『新しい出発』とでもお呼びしましょうか」

『占い師』あるいは『カウンセラー』。
最初に浮かんだのは『音仙』の存在だ。
彼女も、それと似たようなものだと考えている。
では、エマも同じような仕事をしていたのか?
それこそ、『まさか』とは思うが。

「では、ひとまず『アルバイト』から始められてはいかがでしょう?
 何事にも先立つものは必要ですし……」

    スッ――――

「仕事をしながら『行く末』を模索するのも悪い話ではないかと」

話しながら、店の一角を指差す。
そこには一枚のポスターが貼られていた。
『スタッフ急募』と書かれているようだ。

910エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 21:59:35
>>909
「え 本当に?」

   ジーッ
                コクコク……

思慮を巡らせるブリタニカの考えに至れるわけもなく……
それよりも『スタッフ急募』のポスターに目を奪われた。
書いてあることを読み、うんうんと頷く。


「こういうところで 仕事を見つけるんですね… なるほど 解りました
 ありがとうございます!ハーピーさん お願いしてみようと思います」

笑顔を浮かべて頷く。
その表情はブリタニカが思う『音仙』に近しいものか……
あるいは、かけ離れているのかは、ブリタニカにしか解らないだろう。

911ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 22:36:20
>>910

表面的な情報だけでは、内面までは分からない。
事実、自分も『人に成りすました鳥』なのだから。
しかし、エマの表情が形だけのものとも思えなかった。
それに、自分と彼女は偶然出会っただけ。
深い部分を知る必要などないのだ――――『お互い』に。

「いえ、お役に立てれば私としても幸いですわ」

    フフ

一通りの話が終わる頃には、カップは空になっていた。
カップをテーブルに置いて、窓の外に視線を向ける。
街路樹の枝には、一羽の『鳩』が留まっていた。
それは、先程ブリタニカの肩にいた鳩だ。
といっても、『同族』でもなければ区別はつかないだろう。

「私も『仕事』に戻る事にしましょう。
 そろそろ人通りの多くなる時間帯ですから」

「もし宜しければ、少し見物していかれませんか?
 『ギャラリー』が多くて困る事はありませんもの」

備え付けのナプキンで口元を軽く拭い、誘いの言葉を掛ける。
見物料の事は考えていない。
足を止めて見ている人間がいるだけで、宣伝効果は得られるのだ。

912エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 23:04:25
>>911
「本当ですか ぜひ見てみたいです」

   ガタッ

頷いて席を立つ、その顔には笑顔をたたえて。
これは偶然の出会いだ。たまたま私が大通りを歩いていて……
そこをたまたまブリタニカが歩いていた。
たまたまブリタニカが私に興味を持っていて、
たまたま、私がそれに気が付いた……これは単なる偶然の出会いだ。だが。


「あと その できれば…… 
 まだ いろいろとお聞きしたいこととか あって……
 それに 何かお礼とかもしたいですから その……
 お友達になっていただけますか? ハーピーさん」


               グッ

この街ならきっと、新しい人生が始められそうだ。
そう思いながら、ブリタニカのショーを見学していった……帰りにバイトの申し込みをするのを忘れないように。

913ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 23:38:12
>>912

「『お友達』…………」

「――――ええ、喜んで」

    フッ

『友達』という言葉の意味は知っている。
人種が違っても、人は友人になれるらしい。
では、『種族』が違っても友人になれるのだろうか?
改めて考えると、なかなか興味深いテーマだった。
それに、こうした繋がりが増える事は純粋に良い事だ。

「生憎、適当な『連絡先』の持ち合わせはありませんが、
 街のあちこちで『仕事』をしておりますので」

「見かけた時に声を掛けて下されば結構ですわ。
 この姿を見間違える事は、まずないでしょうし」

「では、行きましょう。特等席でお見せ致しますわ」

エマと共に店を出て、街道に向かう。
ブリタニカが目配せすると、肩の上に先程の鳩が舞い降りた。
彼は新入りで、色々と説明する必要があったのだ。

「――――お集まりの皆様、私の名は『ハーピー』。
 人と鳥の間を繋ぐ者でございます。
 この一時の間、暫し現実という地面から離陸し、
 大空のキャンバスを鮮やかに彩る『翼の芸術』をご堪能下さいませ」

「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

    バササッ
            バササササッ
                      バササッ

『ハーピー』ことブリタニカの『呼び掛け』に応じて、
多数の野鳥達が空を舞う。
人と鳥を繋ぐ。
確かにその日は、
鳥であるブリタニカと人であるエマが繋がりを得た日であった。

914ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/12/14(土) 18:05:19

「んー……」

冬の大通りを、リュックを背負った小さな少女が歩いている。
時折立ち止まり、目を閉じて鼻をひくつかせる。
まるで『動物』か何かのように。

「――こっち!」

分かれ道に来る度に、そう言って先に進んでいく。
それを繰り返し、やがて少女は立ち止まった。
目の前には、オレンジ色のキッチンカーが停まっている。

「一つ下さい!」

まもなく、店員から湯気の立つ『スイートポテト』が手渡された。
それを手にして、少女は適当な場所に腰を下ろす。
研ぎ澄まされた嗅覚で感じる匂いは、普段よりも強烈だ。

「『ディーン』も食べるー?」

少女が独り言を言っている。
『イマジナリー・フレンド』という奴かもしれない。
少なくとも、周囲にはそれらしき人間はいないようだ。

915ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/12/20(金) 18:00:33
>>914

《いや、いい。
 たっぷり入った砂糖やらクリームやらは、
 俺達には刺激が強すぎるんだ》

「うーん、そっかー」

    パクッ
           パクッ

「寒かったけどあったかくなってきたー」

「じゃあー、遊びいこー!」

    ――――ヒュバッ

韋駄天のようなスピードで少女が駆け抜ける。
『高速で走る少女の噂』が、また一つ増えたのだった。

916ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/11(土) 17:26:19

ある日の大通り。
その一角に、ちょっとした人だかりが出来ていた。
中央に立つのは、
『鳥人』を思わせるコスチュームに身を包んだ女だ。
彼女の周囲には、多種多様な野鳥が群れを成して飛んでいる。
まるで訓練されているかのように統率された軌道だ。

「お集まりの皆々様、
 私『ハーピー』のショーはお楽しみ頂けましたでしょうか?」

「――――それでは、またの機会にお会い致しましょう」

    バサササササササササ
               ササササササササササァ――――ッ

両肩に野鳥を留まらせたまま、恭しく礼をする。
それを合図に、鳥達が一斉に飛び立った。
『仕事』を終えて、各々の場所に帰っていくのだ。

「ふう」

    パタン

やがて、見物客達も同じように立ち去り始めた。
人間達の様子を見届けてから、
足元に置いていたアタッシェケースを閉じる。
その中には、今日の稼ぎが収められていた。

「さて」

          スタスタスタ

片手にケースを下げて、緩やかな足取りで歩いていく。
これも『宣伝活動』の一つだった。
一人でも多くの人間に、この姿を認知してもらう事が利益に繋がる。
それは食い扶持を得るためだけではなく、
人間という生物を観察して研究するためでもある。
さらに『正体』を隠蔽する役にも立つのだから『一石三鳥』だ。

917ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/18(土) 16:41:50
>>916

    ピタッ

やがて、その歩みが止まる。
視線の先には、鳥のイラストが描かれた看板。
そこには、こう書かれていた。

【種類に合わせたフード、止まり木、ケージ、おもちゃなど、充実の品揃え!!】

         スタスタスタ
               ――――ガチャ
                      
                      「いらっしゃいませェ〜」

918鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/20(月) 22:38:59
商店街を一人歩む、学生服姿の男子高校生。肩には竹刀袋をかけている。
ぶつからないように左端を歩きながらも、時折行き交う人の顔を見るようにチラリと目線を走らせる。
それをしばらく繰り返しながら進み、一つのお店の前で足を止めた。

「『バターどら焼き』四つ下さい」

『和菓子屋』だった。

919三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/20(月) 23:40:23
>>918

「――――あ、鉄先輩」

「こんにちは」

    ペコ

先輩を見かけたので挨拶しましょう。
この店には、少し前から来ていました。
でも、こんな所でお会いするとは思いませんでした。

「先輩は『バターどら焼き』ですか?」

「千草は『クリーム大福』です」

    ス

片手に持った袋を持ち上げます。
それから竹刀袋に目線を合わせました。
先輩は、やはり部活動の帰りなのでしょうか。

920鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/20(月) 23:56:43
>>919

「ん?」

名前を呼ばれ、振り向く。視界の先、ではなく下。
見知った可愛らしい顔がそこにあった。

「おや。こんにちは、三枝さん」ニコリ


>「先輩は『バターどら焼き』ですか?」

>「千草は『クリーム大福』です」


「そうだよ。家族からも頼まれてね」
「しかし『クリーム大福』?そんなのもあるのか、チェックしてなかったな…」

ううむと唸り、お品書きを改めて見る。『クリーム大福』、冷やしても美味しそうだ。
と、そこで三枝さんの視線に気付いた。

「そうだよ、今日も部活帰りさ」「三枝さんは、最近『生徒会』はどうだい?」

921三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 00:15:43
>>920

「ご苦労様です」

    ペコリ

「――はい。
 お陰様で生徒会の仕事にも随分慣れたような気がします。
 『気がする』だけかもしれませんが……。
 まだまだ学ぶ事は多いので」

「最近は、『他にも何か出来る事がないか』と考えています。
 何か――何か千草に出来る事があればと……」

学校の屋上で日沼先輩と会った時のこと。
それから、教室で斑鳩先輩と出会った時のこと。
頭の中に、その二つが思い浮かびました。

「でも、なかなか上手くいかなくて……」

千草は『墓堀人』を使って、学校から『ゴミ』を減らそうとしました。
でも、ちょっと空回りしてしまったみたいです。
新しい事を始めるのは難しいです。

「――――先輩は如何ですか?」

922鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 00:39:13
>>921

>「最近は、『他にも何か出来る事がないか』と考えています。
> 何か――何か千草に出来る事があればと……」
>「でも、なかなか上手くいかなくて……」

少女の語る言葉に相槌を打ちながら、内容に耳を傾ける。
実に善良な、彼女らしい悩みだ。聞いていて、何とも微笑ましくなる。
とはいえ三枝さんは真剣に悩んでいるのだ。それを表面に出すことはしない。

「何事も最初はそんなものだ。オレも『剣道』で、上手く一本が決まらない時期があった」
「所謂『スランプ』というやつだな。焦れば焦るほど、心と竹刀が先走って有効打にならないんだ」
「ただ、そんな時は一度冷静になって。自分の課題をしっかり見て、どうすればいいのかを考え、そして解決策に向けて努力する」
「オレは正直、器用な方じゃないからな。一つ一つ、ゆっくりと確実にやっていくしかできないって気付いたんだ」

と、そこで店主が『バターどら焼き』を袋に入れて持ってきてくれた。
お礼を言いつつ代金を支払い、それを受け取った。

「何かの参考になれば幸いだ」


>「――――先輩は如何ですか?」

「今度、『団体戦』でもレギュラーに選ばれてね。近くの高校、何校かと総当たり戦をやるんだ」
「良い結果を残せるように頑張ってくるよ」

923三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 01:04:49
>>922

「一つ一つ――ですか……」

言われてみれば、千草は少し焦っていたのかもしれません。
何かをしようとしても、いきなり成功するのは難しいでしょう。
失敗したからといって、そこで止めてしまえば終わってしまいます。

「今日の失敗は明日の成功に繋がる一歩――」

「そんな風に考えてみる事にします」

    ニコリ

「ありがとうございます、鉄先輩。
 先輩のお陰で、また頑張ろうという気持ちになれました」

「試合も応援しています。
 『先輩が頑張っているから千草も頑張る』。
 そういう気持ちになれますので……」

「あの――もしよろしければ、少し歩きませんか?」

先輩が袋を受け取ったのを見て、視線を通りに向けました。
道にはゴミ一つありません。
もしゴミが落ちていたら『片付ける』事が出来たので、
少しだけ残念に思いました。
でも、ゴミがないのは良い事です。
だから、ゴミがあった方が良いと思うのは良くない事です。

「そういえば、鉄先輩は『斑鳩先輩』の事をご存知でしょうか?
 この前お会いしたのですが、先輩と同学年だったようなので」

「何だかこの所、
 『高等部二年生』の方にお会いする機会が多いのです。
 『日沼先輩』、『斑鳩先輩』、『猿渡先輩』……」

指を折って数えます。
そしてもちろん、『鉄先輩』も入っています。
何かの縁があるのでしょうか?

924鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 01:37:12
>>923

「そうか。なら良かった」
「三枝さんは、『生徒会』に入りたいという夢をしっかり叶えた人だからな」
「キミならば、諦めなければきっと大丈夫だとオレは信じている」

三枝千草。彼女とは、互いの頑張りを感じてより目標に向けて邁進できる関係だ。
断る理由もない、共に歩こうという申し出に頷く。

「『斑鳩』くん…ああ、珍しい名字の人だな。聞いたことはあるが会った事はない」
「どんな人だったんだい?」

「ちなみに猿渡くんは会ったことがあるよ」「中性的で、大人びた雰囲気の人だったな」
「色々と面白い話をしてくれたんだ」

925三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 01:57:52
>>924

「あっ、猿渡先輩とお知り合いでしたか。
 千草は『学生寮』に住んでいるのですが、
 わざわざ訪ねて来て下さいました」

「カップケーキをご馳走になって……」

そこで思い出しました。
千草は『寮生』になったのです。
鉄先輩にお伝えしていたでしょうか?

「その、鉄先輩にお話していたでしょうか?
 千草が『学生寮』に入居したことですが……」

「少しでも自分を成長させたいと――そう思ったのです」

「斑鳩先輩は…………不思議な感じがする人でした。
 詳しくは分かりませんが、
 鉄先輩のように何か『目標』があるように見えました」

あの時、千草は窓から突き落とされて、
いつの間にか気を失っていたようです。
そのせいでよく覚えていませんが、
きっと斑鳩先輩が助けてくれたのでしょう。
次に会ったら、お礼を言わないといけません。

「猿渡先輩とは、どんなお話をされたのですか?」

926鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 20:57:28
>>925

「そうなのか。カップケーキを…流石猿渡くん、おしゃれだな」
「ん?…いや、それよりも」

>「その、鉄先輩にお話していたでしょうか?
> 千草が『学生寮』に入居したことですが……」

>「少しでも自分を成長させたいと――そう思ったのです」

「・・・・・そうなのか」

腕を組み、三枝さんの言葉に対して思案する。
もちろん、彼女に対して信頼はある。三枝さんと世間一般の中学一年生には、隔たりがあると自分は思う。
主に、責任感や実行力などにおいてだ。
だがしかし、それでも彼女はまだ、ついこの前までランドセルを背負っていたのだ。
友人とはいえ、あまりこういった事に口を出すべきではないのだろうが。

「…『学生寮』の中には、優しい人はいるか?」「生活に関しても、特に困った事はないか?」

つい心配してしまう。
自分は『学生寮』の仕組みについて詳しくはないが、彼女は家を離れることに不安はなかったのだろうか。

「…斑鳩くんが、か」「ありがとう、今度少し話しかけてみるよ」

『目標』というのは少し気になる話だ。それが学生のスケールの話ならば、そこまで関係はないが。
自分と同じように、命を懸けても成したいことがあるのか。
それならば、もしかしたら『スタンド使い』絡みか?

「猿渡くんとは『図書室』で出会ってね。彼が借りた本とか、後は…」
「…そうだな、男同士の会話は少し」

彼に気になる女性がいる云々の話は、ここで話すべきではないだろう。適当な言葉で濁しておく。

927三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 22:08:26
>>926

「――――?」

猿渡先輩と鉄先輩。
何だか曖昧にされた気がしますが、
こういう時は聞かないのが礼儀です。
だから、そのままにしておく事にしました。

「はい、今は大丈夫です。
 分からない事がある時もありますが、
 周りの人達に助けて頂いていますので……」

「中等部三年の『黒羽先輩』も、同じ寮生です。
 幾つも賞状を貰っていて、とても凄い人です」

「以前、黒羽先輩の部屋でお茶とお菓子をご馳走になりました。
 その時に、鉄先輩についても少しお話しました」

「ですから――大丈夫です。ただ、少しだけ…………」

「少しだけ寂しい時はありますが……」

家を離れる前から、ある程度は考えていたつもりでした。
それから実際に家を出て、改めて思いました。
千草の家族も、似たような気持ちを感じているのでしょうか。

「――――いえ、大丈夫です」

       ニコ

「千草は、もっと『成長』したいですから。
 家に帰るのは、成長した姿を見せる時にしたいのです」

寂しくても、家に戻ろうとは思いません。
千草は、『立派な人物』になりたいのです。
誰からも尊敬されるような人になって、
『素晴らしい最期』を迎えたいのです。
それが千草の叶えたい『目標』です。
そのために、千草は『成長』したいのです。

928鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 22:32:17
>>927

>「はい、今は大丈夫です。
> 分からない事がある時もありますが、
> 周りの人達に助けて頂いていますので……」

「…ああ、それならいいんだ」

食事なども、『寮母』が用意してくれるのだろうか?
学業と生徒会活動に加えて、帰宅後に『家事』までするのは流石に負担が多いだろう。そうだと思いたい。
何にせよ、周りに協力してくれる人がいるならば、少し安心できる。

「『黒羽』さん?…いや、名前を妹から少し聞いたことがあるような」
「確か、広報系の人材だったと記憶しているな。その賞状は、それに関したものなのかい?」

自分の事を話したとは、一体何だろうか。
猿渡くんの時も思ったが、正直自分はあまり目立たない方だと感じている。
人に話して面白い男だとは認識していないだけに、少し意外だ。

>「ですから――大丈夫です。ただ、少しだけ…………」

>「少しだけ寂しい時はありますが……」

「・・・・・・・・・・」

「なぁ、三枝さん」

袋を持っていない方の手で、少女の頭をゆっくり撫でる。妹が同じぐらいの年の頃、そうしたように。

「キミはまだ中学一年生だ。目標は立派だと思うし、オレも応援してるが、あまり無理をしないようにな」
「人間の心には限界がある。オレだって、必要なら自分を追い込むことに躊躇はないが、それでも限界を迎える前に一旦身を引く」
「いつでも帰りたい時は帰っていい。頑張る為には、そういうのも必要だ」
「そうしてまた、戻ってくればいいんだ」

929三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 23:02:44
>>928

「…………はい」

ただ黙って頭を撫でられました。
何か言おうかとも思いましたが、何も出てきませんでした。
鉄先輩の言葉が『正しい』と感じていたからです。

「無理をして失敗したら元の木阿弥ですね」

          ニコ

「だから、無理はしません。
 無理はしませんから――『出来るだけ』頑張ります」

千草は、『自分の限界』が、まだ分かりません。
だから、それを知りたいと思っています。
そのためにも、『出来るだけ』頑張ろうと思います。

「黒羽先輩は『新聞部』の方です。
 部屋には『新聞大会』の表彰状がありました。
 それから、『書道コンクール』なども……」

「運動部の取材を考えていらっしゃったようなので、
 それで鉄先輩の事をお話したのです」

「生徒会の事も幾つかお答えしました。
 仕事の内容など……」

そこで思い出しました。
鉄先輩の妹さんも、中等部三年だったと思います。
黒羽先輩と同じ学年です。

「先輩の妹さん――『朝陽さん』も黒羽先輩と同じ学年ですね。
 朝陽さんの具合はいかがですか?
 その……『怪我をしてピアノが弾けない』とお聞きしていたので」

930鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 23:18:51
>>929

三枝さんの返事に頷き、手を頭から離す。
妹からは、中学生をあまり子供扱いするなと言われてはいる。
しかし親元を離れて暮らすなど、高校生ですら中々できない事だろう。
立派な事だが、それはつまり同じくらい大変という事だ。
彼女は少し、焦っているようにも見受けられる。できれば、無理はしないで欲しい。

「ああ、成る程…運動部への取材か」
「しかし『書道』でも表彰される程の腕前とは…自ら記す内容に対して、誠実であるという印象を受ける」
「了解した。もし彼女からそういった申し出があれば、喜んで受けさせてもらうよ」

とはいえ、自分はあまり面白い記事に繋がりそうな事など言えないが。
しかしそういったのを人が見たがる記事にするのも、書き手の実力なのかもしれない。
何にせよ、三枝さんの紹介ならば断る理由もない。

「…ケガ自体はそう重いものじゃあないんだ。既に治って、リハビリもこの前終わった」
「ピアノの腕も戻ったように聴こえる。まぁ本人は、『友達に差を付けられてる、もっと頑張らなきゃ!』って言っていたけどな」

そういって、少し苦笑する。
そう問題なく傷は治っている。身体の傷は、だが。
しかしそれ以外の話は彼女に伝えるべきじゃない。この子は、そういったのを苦手としている。

931三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 23:46:40
>>930

「そうですか。それは……良かったと思います」

「あの――――本当に……」

もっと気の利いた言葉が言えれば良かったのですが。
でも、上手く出てきませんでした。
デリケートな話題です。
そして、千草が『苦手な話題』でもあります。
ただ、それでも具合を聞いておきたいという気持ちがありました。

「その、朝陽さんに伝えて頂けないでしょうか?
 『もし良かったら一緒に頑張りましょう』――と」

「千草に何か出来る訳ではないですが、
 頑張り合っている人がいれば、少しは支えになれるかと……」

「千草も、さっき鉄先輩が頑張っているのを聞いて、
 『頑張ろう』と思えたので……」

千草に出来る事は少ないです。
でも、少しでも何か出来る事があるなら、
誰かの力になりたいと思っています。
大げさかもしれませんが、
その積み重ねが大事なのではないでしょうか。
鉄先輩も言われました。
『一つ一つ確実に』――――と。

932鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/22(水) 00:04:36
>>931

>「あの――――本当に……」

「ん?」

顔を横へ向け、少女の方を見る。

>「その、朝陽さんに伝えて頂けないでしょうか?
> 『もし良かったら一緒に頑張りましょう』――と」

>「千草に何か出来る訳ではないですが、
> 頑張り合っている人がいれば、少しは支えになれるかと……」


「…キミは、本当に優しい子だな」「ありがとう。しっかりと、朝陽に伝えておくよ」
「まぁそれで張り切り過ぎて、『わたしも寮生活する!』なんて言い出したりしないか心配だが…」
「そうなったら兄として、全力で止めさせてもらおう」

少し笑いながら、三枝さんの言葉に頷く。
自分より二歳も年下なのに、実家を離れて頑張っている少女の言葉は、きっと妹に届くだろう。
そうして、心の傷もやがては癒えてくれていったならと、切実に思う。
現代社会で人混みを常に避けて生きていくのは、大変で、辛いことだ。

「─────と、それじゃあオレはこちらの道だから」
「まだ日は落ちてないが、それでも気をつけて。何かあったら、すぐに呼んでくれよ」

今回は休日の部活帰りともあって、冬といえどまだ夕暮れだ。もちろん警戒するに越したことはないが。
寮には他に同じ学生もいるだろう。いざという時は、その人達も頼りになるはずだ。
その中に『スタンド使い』がいれば、なおさら安心だ。

「今日はありがとう、三枝さん」「さようなら、また今度」

そう言って手を振り、十字路の別れ道を進んでいく。
…もし、三枝さんの言葉などで朝陽の心の傷が完全に癒えたら。そしてこれ以上、『通り魔事件』が発生しなかったら。
一旦、区切りは付けるべきかもしれない。犯人は探したいが、何も起きなければ、それに越した事はないのだろうから。

933三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/22(水) 00:42:19
>>932

「いえ、こちらこそありがとうございました」

     ニコ

こんな千草でも、誰かの役に立てるのでしょうか。
そうだとしたら、とても嬉しい事だと思います。
『小さな一歩』を踏み出す事が出来たと思えるからです。

「はい、またお会いしましょう、鉄先輩。
 朝陽さんにも、よろしくお願いします」

     ペコリ

先輩と別れ、『清月館』に向かって歩き出します。
足元からは影が伸びていました。
細く黒い影が――――。

       スタスタスタ

「『It’s now or never』」

934比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/20(木) 22:23:24

午後の時間帯――オープンカフェに一人の男が座っていた。
ストライプスーツを着て、フェドーラ帽を被った男だ。
テーブルの上には、コーヒーカップと共に小さな石が置かれている。

「『ラピスラズリ』――
 確かに神秘的な力を秘めているように見えますね」

少し前に、ある『占い師』から購入した品だ。
深い青色に黄色の斑点が浮かんでいる。
その色や模様は、夜空に輝く星々を思わせた。

「もちろん本当にパワーがあるかどうかは別として、ですが」

石から視線を外し、コーヒーカップを傾ける。
その時、9mほど離れた植え込みの中で何かが動いた。
白い鎧を身に纏った小さな『兵士』だ。
別に何かをしようという訳ではない。
ちょっとした『実地テスト』の一環だ。

935日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/26(水) 23:09:00
>>934

「『パワー』がほんとにあるかは分かんないけど〜」

               カチャ…

隣のテーブルに座ったのは、白い女だ。
服も、髪も、肌さえ新雪のように白い。

「『価値』はあるよねえ。お隣失礼しまあ〜す」

一般的には失礼なほどの距離ではない。
が、人のパーソナルスペースは目に見えないものだ。

「その石、お兄さんの? 私ね、パワーストーンに最近凝ってるんだ〜」
「『神秘』とかは分かんないけど、『見た目が綺麗』だから。……んふふ」

首から提げた、『ゴールドルチルクォーツ』を使ったネックレスを手に取っていた。
それが白に染まった女の、目に見えてもっとも映える『色』なのは言うまでもない。

・・・彼女に実地テストに気付いている様子はない。少なくとも、『目に見える範囲』では。

936比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/27(木) 05:48:11
>>935

「あるいは『見た目の美しさ』こそが、
 こうした石の持つ大きな力なのかもしれません。
 古くから、『何かがある』と思わせる魅力に引かれる人間は、
 数多いと聞きます。
 そのために大枚を叩く方も後を絶たないとか」

「――私も詳しくはありませんが、ね」

    ニコ

優男風の顔立ちに穏やかな微笑を作り、『白い女』に言葉を返す。
あたかも色素が欠落しているかのような容姿に、
少々の驚きを感じた。
しかし、それを表情には出さず、首の宝石に目を留める。

「そちらの『石』も素敵ですよ。
 生憎と種類は分かりませんが、
 知識のない人間にも『美しさ』は理解出来ます」

「失礼ですが、どちらでお求めに?
 私は『ある占い師』から買いましてね」
 
「『ラフィーノ石繭』――ご存知ですか?
 よく当たると評判の占い師ですよ。
 私も占って頂きましたが、なかなか鋭い方のようでして。
 まさに『的中』といった所です」

実際、当てられたのは確かだ。
『嘘をつくのが楽しみ』であるという自分の本質を言い当てられた。
占い師としてはイカサマだが、人を見る目はあるのだろう。

「もし機会があれば、一度占って貰う事を勧めますよ」

『兵士』は動かしていない。
もし見える人間がいれば、
その反応を確かめようという意図もあった。
だが、何も自分から積極的に姿を見せる必要も無いのだ。

937日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/27(木) 22:47:22
>>936

「『ゴールドルチルクォーツ』だよ」
「『お金を呼び込む石』」「呼び込むかは分かんないけど」
「これ一つで『10万円』也〜」

     キラ…

「これはね、『友だちに貰った』んだ〜。んふふ」
「今の説明もね、全部教えてもらっただけで、私も詳しくはない」

10万円の石をくれる友だちとは、『猫』だ。
あえてそれを口に出さないくらいの『社会性』はある。

「『ラフィーノ』? 聞いたこと……あったような〜」
「私ね、占いってあんまり興味ないんだよねえ」
「未来ってねえ、変わるときはすぐ変わっちゃうし」

「私はあんまり信じないな〜」

目に見えないことを重視していない。
占いは『統計』や『心理学』の観点もあるらしい。
そういう意味で、全く何もないものではないのだろうけど。

「ちなみに、お兄さんはどんなこと占ってもらったの〜?」

それでも未来はいつでも不確定だ。『的中』刺せたというのは気になった。

938比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/27(木) 23:54:08
>>937

「ははあ、なるほど。
 いえ、そこまで値打ちのある物とは思わなかったものですから。
 見た所お若いようですが、
 結構な品をお持ちでいらっしゃるようで」

「ちなみに、これは『ラピスラズリ』という石だそうです。
 『誠実さ』や『思いやり』、『高潔さ』を象徴するのだとか」

「ここだけの話ですがね。私のは『五百円』でして。
 いや、お恥ずかしい」

           フフ

人の良さそうな微笑と共に、ラピスラズリを胸ポケットにしまう。
金額が全てとは言わないが、これは少し差が大きすぎる。
それにしても十万円の宝石をくれる友達とは、
一体どのような人物なのだろうか。
気にはなったが、突っ込むつもりは無かった。
曖昧な言い方から見て、恐らく聞いても答えてはくれまい。

「そうですね。
 『自分自身を見つめ直す手助け』をして貰った――
 とでも言いましょうか。
 自分の事というのは案外分からないものですから。
 客観的な視点からアドバイスをして頂いたのですよ」

「私も占いに傾倒している訳ではありませんが、
 彼女の『観察力』や『洞察力』は優れていると感じました。
 少なくとも、そういった『実践的な方面』の実力は本物ですよ」

比留間は、彼女の占いは『インチキ』だと思っている。
『運命が視える』などという謳い文句は、
客寄せの為の口八丁に過ぎないと。
しかし、『確固たる土台を備えたイカサマ』でもあると考えている。
単なる口からの出任せではなく、
それに信憑性を持たせるだけの『根拠』が伴っている。
その点において、ラフィーノには一種の『敬意』を抱いていた。

「『運命』や『未来』といった神秘的な分野に関しては、
 私からは何も言えませんが。
 何しろ『素人』ですので」

同時に、非常に興味ある『遊び相手』だとも思っている。
だからこそ、こうしてラフィーノを持ち上げているのだ。
彼女の所に一人でも多くの客が行くように仕向けたい。
そうする事で、
もっと彼女のイカサマを引き出してみたいという意図がある。
そんな事をする理由は、それが『面白そうだから』だ。

「――貴女は『神秘的な力』は信じない主義で?」

この世界には、不可思議な力が実在する。
『スタンド』という力。
自身の『オルタネイティヴ4』も、その一つだ。

939日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 00:22:57
>>938

「『500円』でそれだけ綺麗なら良いよね〜」
「私の石と、『99500円分』も綺麗さは変わんない気がするし」
「お買い物上手なんだよ〜、お兄さん」

笑みを浮かべて、自分の石から手を離した。
そして自分の席に着き、自分のコーヒーを手に取る。

「なるほど〜〜〜」
「『人生相談』ってコトなんだ。それなら『ホンモノ』かも、しれない」
「だって人生は本物だから!」

ラフィーノ石繭。
覚えておく名前ではあるが・・・『興味』はそんなに、無い。
人生について特別に、他人に見てもらいたいわけでもない。

そして続く問いかけには・・・目を細める。

「んん、未来予知とかはね、わかんないじゃ〜ん」
「『第六感』とかもわかんないよね〜」
「証拠の出しようがないもん」

「目に見えない、説明も出来ないものが『神秘』なら、信じないよ〜」

940比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 00:55:08
>>939

「いや、ごもっともです。
 根拠のないものが信じられないのは当然の事ですからね。
 私も全く同感ですよ」

「そうですね――『神秘』とまではいきませんが、
 ちょっとした『手品』をお見せしましょうか。
 最近、少し練習していましてね。
 本来なら披露する程のものではありませんが、
 少々お付き合い頂ければ幸いです」

    スッ

人知れず発現していた『兵士』を解除する。
懐に入れた手を抜き出すと、そこには五枚の『カード』があった。
実体化スタンドである『それ』は、
質感もサイズも実物のプラスチック製トランプと同様だ。
もう片方の手にはハンカチが握られている。
ブランド品のようだが、特に何の変哲もない品物のようだ。

「今から、この『カード』を消してご覧にいれましょう。
 私がハンカチを被せてから三つ数えます。
 ハンカチを取り払ったら、『カード』は消えている筈ですよ」

           パサッ

「何分まだ練習中ですので、上手くいくかは分かりませんがね。
 もし失敗しても、お許し願いますよ」

「――『1』……『2』……『3』……」

            バッ

ハンカチを取り除くと、そこには確かに『カード』は無かった。
最初から存在していなかったかのように消えている。
『解除』したのだから当然ではあるが。

「おっと……どうにか消えてくれたようですね。
 失敗するのではないかと思って、内心は冷や冷やしましたよ」

「もっとも、これは単なる『手品』ですので、
 『神秘』でも何でもありませんが――ね」

941日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 01:32:46
>>940

「根拠が無くても信じたい気持ちも、分かるけどねえ」

「ん、手品? お兄さぁん、『マジシャン』っぽいもんね」
「『人は見かけによる』んだねえ」「んふふ」

          カタ…

椅子を動かし、身を乗り出して『手品』を見る。
手品。『タネがある』という宣言だ。

「それ、トランプ〜?」「いや、ちょっと違うかな〜?」
「わあ、良いハンカチ持ってるねえ」

品々に寸評を入れつつ、目を細めて見守る。
そして――――その視界は『騙される』。

「わあ〜すごい、すごぉい」

           パチッ  パチッ

「上手いねえ、全然分かんなかったよ」
「机の下に隠すとか、袖に入れるとかだと思ったけど」
「『何処に』『いつ』やったかわかんなかった」
「お兄さ〜ん、器用なんだねえ」

「ねえ、それでトランプはどこ行ったの?」
「そこんとこ知りたいなあ、んふふ。どうなんです〜?」

942比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 02:09:27
>>941

「どうも恐縮です。
 趣味でやっているだけですので、
 そうバリエーションがある訳ではありませんが」

『手品』にはタネがある。
しかし、『これ』にタネは無い。
何故なら、手品というのは『嘘』だからだ。
実際は『神秘的な能力』の産物。
だから説明のしようがない。

「『どこに行ったか』ですか?
 そうですね。『ここ』か、それとも『こちら』か……」

「いえ――恐らくは『この辺り』ではないでしょうか?」

    スッ

何かを探しているかのように、
ジャケットのポケットを上から軽く叩く。
そして、おもむろに片手を首の後ろに回した。
手を引き戻すと、そこには再び『カード』が現れていた。

「いや、見つかって安心しました。
 もし消えたままになっていたら困る所でしたよ」

           シャッ

『カード』を扇状に広げて見せる。
四隅に四つの『スート』が配され、
中央に『道化師』の顔が描かれたデザインだ。
その裏面は、『トランプ』に酷似していた。

「今は、この辺りが限界といった所でしょうか。
 お付き合い頂き、感謝致しますよ」

そう言って『カード』を懐に収め、同時に『解除』してしまう。
あまり突っ込まれると、誤魔化し切れなくなるからだ。
だから、更に追求される前に切り上げる事にしておいた。

943日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 02:50:47
>>942

「わ〜ッ、すごいねえ、すごいよお〜」

感心した表情で再び手を打つ。

「どうやってそんなところに入れてたんだろう」
「さっきのとは別のカードだったりとか〜?」
「んふ、『タネ』があるってわかってても凄ぉ〜い」
「むしろ、わかってるからすごいって思うのかな〜?」

などと褒めたおしていたが、やがてカードの絵柄に視線を移す。
それが懐に収められると、顔を上げた。

「『ジョーカー』がメインみたいな絵柄だったよねえ〜。今のカード」
「なんだか珍しいなって」「トランプ自体が『マジック用』だったりとか?」

「んふふ、まあいいやなんでも〜」

引っ掛かりはしても不思議ではない。
そして、別に不思議でもかまわない。
目に見えるものを信じるだけだ。目に見えないものを暴きたい気持ちはない。
目に見えないものは、嫌いとかイヤとかじゃあなく、どうでもいいのだ。

「だって楽しかったもんね、私が〜。んふふ……」
「相手してくれてありがとね、手品が得意なお兄さ〜ん」

そして自分の席に戻る。自分の感情は、はっきりそこにある・・・コーヒーを飲んだ。
彼女の方から、これ以上深く何かを追及したり、話しこんだりする様子は無さそうだった。

944比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 03:22:09
>>943

「こちらこそ『楽しい時間』を有り難うございました。さて――」

    ガタッ

「仕事が残っていますので、一足お先に失礼します。
 この店のコーヒーは、値段の割には中々質が良いですからね。
 私も時々、立ち寄っているんですよ」

「もしお会いする事があれば、また何かお話が出来ればと。
 ご都合が宜しければ、ですが」

「――――では、これで」

椅子から立ち上がると、会釈して会計に向かう。
心の中には、小さな満足感があった。
『嘘をつく事』が、自分にとって何よりの楽しみだからだ。

(もっとも『同じかどうか』までは分かりませんが――)

            ザッ

(――今日の所は良いでしょう)

『力を持つ者の反応を見る』というのが当初の意図だった。
それは果たせなかったが、別に構わない。
いずれにしても、『価値ある時間』であった事は確かなのだ。

945日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 03:52:35
>>944

「わかるよお。私もたまに来るからね、ここには」
「待ち合わせとかにもちょうどいいし〜」

騙されている。
それが事実――――だが『分からない』。
実感がないし、気付くことも今は無い。
実害がないし、引きずる理由も無い。

だから、日下部虹子には問題にならないのだった。

「んん、また会ったらね」
「次は私も何か、面白いハナシ考えとこうかな」

        ヒラ…

小さく手を振った。

「じゃあね、ばいば〜い」

会わなければそれはそれでいい・・・会いたくなれば探せばいい。

946三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/09(月) 21:32:24

    トッ 
        トッ
            トッ
                トッ
                    トッ

その日、千草は『歩道橋』を上っていました。
両手には、大きめの手提げ鞄を持っています。
中には、図書館から借りてきた本が詰まっていました。
将来のために、今から色々と勉強しておきたいのです。
でも今回は、『それ』が悪かったようです。

    ガ ッ

        「あッ――――」

                 ド シ ャ ァ ッ

気付いた時には、最上段の段差に躓いて転んでいました。
両手が塞がっていたので、そのまま倒れてしまいました。
そのまま階段を転がり落ちていかなくて幸いでした。

        「ッ…………!」

少し体を打ったようですが、『死ぬ程』ではないです。
でも、一歩間違えたら死んだかもしれません。
『九死に一生を得る』というやつでしょうか。
とにかく立ち上がりましょう。
いつまでも倒れていると、他の人の迷惑になってしまいます。

     「――――痛い…………」

ただ、もう少しだけ時間が掛かるかもしれません。
思ったよりも『痛かった』からです。
あと、ほんの少々待って頂けますでしょうか。

947ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 19:25:33
>>946
 「……………(ムカッ)」

だれも助けへんのかい。
なんかあるでしょ、声かけるとかさ。

「……はぁぁぁ〜〜〜っ……」
「この町は糞糞の糞ねッ 地獄に落ちるわよッ!」


どうも。末石まゆです。
職業:占い師(偽)です。
ラフィーノうんとかとかいう芸名もありますが
今はオフなので、ただの末石まゆです。

 「オチビさん 立てます?」
 「おぶってさしあげましょうか?」

 「痛いでしょう…大丈夫、大丈夫ですから」
 
チビっこの前にしゃがんで目を合わせ。
周りに落ちてるものとかあったら拾ったりとかしちゃう。

948三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 21:01:05
>>947

  「はっ――――いえ、あの」

            「大丈夫……ですから……」

      …………ザッ

声を掛けられて、何とか起き上がりました。
この方は、見ず知らずの千草を気遣ってくれています。
なかなか出来る事ではないでしょう。
とても『立派』です。
こういう良い部分は、どんどん見習っていきたいです。

「お気遣いありがとうございます」

         ペコリ

きちんと姿勢を正して、お礼を言いましょう。
両手に持っていた鞄は落としてしまっていました。
中に入っていた本が散らかっています。
これでは通行の迷惑になります。
早く片付けないといけませんが、
お礼を疎かにしていては『立派な人』にはなれません。

949ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 22:08:49
>>948
「ほんとうに大丈夫です?膝とかすりむいていない?」
「絆創膏あるから 貸してあげますよ 貸すだけですけれど」

そんな感じに声を掛けながら、チビっこが落とした物を拾う。

「…いろいろ読んでンのね」
「立派ね」

本か。
私の事務所にもいっぱいあるわね。
風水とか星とか心理学とかFXとか漫画とか。

こんなにたくさん、この子は何を読んでるのかしら。
お勉強の本とかかしらね。

950三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 22:33:18
>>949

散らばった本には、色々なジャンルのものがありました。
特に多いのは、『社会勉強』に関係した本です。
『社会の仕組み』や『職業の解説』や『資格の取り方』などですね。

「あっ、ありがとうございます」

拾っていただきながら、自分でも本を集めます。
二人だったので、すぐに片付きました。
お陰様で、とても助かりました。

「いえ、とんでもないです。
 知らない相手を気遣える方こそ立派だと思いますから」

「――――『膝』、ですか?」

見下ろして気が付きました。
言われた通り、擦り剥いていたようです。
少しだけですが、そこから『血』が出ていました。

       グラリ…………

『それ』を見た瞬間、体が大きく傾きました。
血を見たせいで、意識が『飛んでしまった』ようです。
気絶したまま、ゆっくりと後ろに倒れていきます。

951ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 23:13:18
>>950
年相応ではないものを読んでいてびっくりした。
このコ、まだ小学生くらいでしょ。

「立派… そんなことないと思うけど 実際、気まぐれよ。」

 >グラリ…………

 「エッ うわっマジ?  『ミスティカル・ガイド』!」

両手に本を抱えている状態なので、
仕方なく『人型スタンド』で素早く受け止め、ゆっくり倒してやる。
こういう時も周りの連中は遠巻きに眺めてるだけなのよね
くそッ 腹立つ。

 「オーーーイ  聞こえる?大丈夫ですよ」
 
 「『怪我』が怖かったのですか? 」
 「…とりあえず絆創膏貸しますよ 貸しですからね」

自分の鞄から水玉模様の絆創膏を取り出し、チビッ子の膝に張っておく。

 「大丈夫 もう怖い事はありませんから」
 「……生きてる?救急車呼びますよ?」

952三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 23:37:31
>>951

遠くの方から、誰かが呼んでいる声が聞こえました。
どなたでしょうか。
そんな事を考えていると、
少しずつ目の前が明るくなってきたようです。

「――――う…………」

まだ頭がぼんやりしています。
でも、生きているようですね。
一安心です。

「大丈夫……です。ちゃんと生きてます……」

「だから……救急車は結構ですので……」

最初に見えたのは、先程の親切な方でした。
そして、『絆創膏』が目に留まりました。
血が見えなくなったので、もう意識が飛ぶ事もないと思います。

「……絆創膏、『お借りします』。ありがとうございます」

「この御恩は、いつか必ずお返ししますね」

         ペコリ

             「あっ――」

お辞儀をして、また頭を上げた時に気が付きました。
その人の近くに、見慣れない姿の『スタンド』がいる事に。
だから、そちらに視線が向く事は避けられませんでした。

953ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/16(月) 00:04:16
>>952
「生きていてよかった。安心ですね。」


>  「あっ――」

「んっ」

職業柄、人の視線とかよく見ちゃうから。
…その視線移動。わかっちゃったわ。
正体が子供にバレた。これはよくない

 「……『御恩』……そうね、恩ですね」
 「絆創膏……あげるから」

チビっ子の肩をつかんでグイっと迫る

 「『内緒』にしていただけませんか……」

顔面を近づけ小さな声で喋る。

「『スタンド使い』ってのは知恵が回る
 …ズル賢い。裏をかく。油断ならない。
 さらにオカルトに耐性がある。 
 そういうわけで、わたしの商売にはちょっぴり厄介なのです」

「しかし、自身の心情、ルールに逆らうことはしない」
「そういう傾向がある。『奇妙』な人々です。」

「あなたもそうなのでしょう」

「でも……立派な人間なら『恩返し』、できますよね?」
「あなたはしっかりした子だから」
「『内緒』に。ね?できますよ、あなたなら」

954三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/16(月) 00:25:32
>>953

「ひッ――――」

後ずさる暇もなく、瞬く間に肩を捕まれました。
その素早い動きに、圧倒されるような『迫力』を感じます。
喉の奥から悲鳴に近い声が漏れてしまったのは、
そのせいかもしれません。

「は、はい。誰にも言いません。『絶対』に」

「『内緒』にします。約束します」

スタンド使いは知恵が回るというのは本当でしょうか。
千草は自分の事を賢いとは思いません。
でも、きっとこの方は賢い人なのでしょう。
態度や言葉の節々から、
『強さ』が滲み出ているような気がします。
そういう部分は、是非とも見習いたい所です。

「千草は『立派な人間』ではないですけど、
 『そうなりたい』と思っています」

「だから――『約束』は守ります。
 『恩返し』しますから……」

     コクッ

小さく頷いて、ハッキリと宣言します。
恐いからではなく、
そうする事が『立派な人』になるために必要だからです。
『立派な人間』なら、恩返しをしなければいけません。

955ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/16(月) 00:54:55
>>954
『あの占い師さん!知ってる人です!スタンド使いです!』
などと他のスタンド使いに言いふらされれば『神秘』の『格が落ちる』。
そういうわけでちょっと圧を掛けてみたのだ。

 「………『約束』ですからね」

最後に、眼が水晶となった、岩のような体を持つスタンドで睨みを利かせ、
チビッ子から離れてあげる。

 「…ふふ、……怖がらせ過ぎてしまいました ごめんなさい」

 「別に『地獄に落ちろ』とか『死ね』とかではなくて…
  ただ、『オカルト』というのは厄介なものだな、という、」

 「それだけの話です。とって食べたりなんてしませんから 安心して」

 「もう怖い事はありません 絆創膏もあります」

ちょっと怖がり過ぎじゃないこのチビっこ。
この臆病さで『スタンド使い』か。逆に怖いやつね。
かわいい子だけど要注意。
とはいえ可哀そうなものは可哀そうなのでちょっとフォローはしておいた。

956三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/16(月) 01:17:50
>>955

『水晶の眼』を見ていると、
何だか考えを見抜かれているような気がしてきます。
もしかすると、本当にそうなのかもしれません。
『人の心を読み取る能力』――
『スタンド』には、そんな力もあるのでしょうか。

「は、はい。よく分かりました」

「――『約束』です」

千草は誰からも尊敬されるような『立派な人間』になりたいです。
立派な人間になって、『素晴らしい最期』を迎えたいのです。
そのためにも、この秘密は『墓穴』まで持っていく覚悟です。

「あの……『勉強』があるので、これで失礼します」

「色々と親切にして頂いて、ありがとうございました」

       ペコッ

最後に、もう一度だけ頭を下げて、歩き出します。
いつか、あんな風に『賢くて強いスタンド使い』になれるでしょうか。
それは分かりませんが、
この『出会い』も、きっと『肥やし』になってくれると信じます。

957ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2020/03/20(金) 18:29:43
>>853

時々、こう考える事がある。
俺が『人間』だったなら、
ずっとヨシエの傍にいてやれたのかもしれないと。
だが、俺が犬じゃなければ、ヨシエと出会う事はなかっただろう。

(――『発想』を変えてみるか)

もしヨシエが『犬』だったらどうだ?
そうしたら、俺はヨシエを支え続ける事が出来たかもしれない。
そこまで考えて、俺は軽く頭を振った。

(いや……我ながら馬鹿な思い付きだったな)

こうして自分だけで歩いていると、
どうでもいいような事が思い浮かんでしまう。
もっとマシな時間の使い方がある筈だ。
そう思って、俺は周りを見回した。

  クゥーン

ここは『公園』だ。
コンビニが近いせいか、『人間』は程々にいる。
『犬』は俺だけだ。

今頃ヨシエは、『人間の友達』と遊んでいる。
ヨシエは『人間』であって『犬』じゃあない。
だから、『犬』ばかりではなく、
『人間』との付き合いも大事にするべきだ。

958ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2020/03/28(土) 19:11:28
>>957

     トッ トッ トッ

しばらくして、俺は歩き出した。
こういう時には、場所を変えてみるのも『一つの手』だろう。
俺にあるのは『前足』であって、『手』じゃあないが。

             トッ トッ トッ

959美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/28(土) 21:34:48

  バァァァァァ――――ッ

軽快な走りで颯爽と通りを駆け抜けるスクーター。
その上に乗っているのが私。
風を切って進む感覚が心地良い。

                   プスンッ

       「――――あら?」

徐々にスピードが鈍り、ついには路肩で停車した。
また『ご機嫌』を損ねてしまったのだろうか。
そう思い、シートから降りて各部を点検する。

「しょうがない子ね」

           カチャッ

これくらいのトラブルなら、少し構ってあげれば直るだろう。
シート下のスペースには車載工具が入っている。
その中から六角レンチを取り出して、車体を弄り始めた。

960<削除>:<削除>
<削除>

961名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 00:46:05
>>959

『コツコツコツ』

そこへ、小さな靴音が近づいて来た。年齢は中学生くらいだろうか。髪は背中まで届くセミロングだ。
華奢な身体に、所々和装の趣が入った黒いドレスを身に纏い、足元には厳つめのブーツを履いている。

「ねえ、ねえ」「これは何をしているの?」

訊ねながら、美作の隣で座り込んだ。興味深そうに、二輪と六角レンチを眺めている。

962美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 01:16:12
>>961

「――――ん?」

『足音』が聞こえてくる。
てっきり、そのまま通り過ぎるのだろうと思っていた。
しかし、どうやら違ったらしい。

「これはね、ちょっとした『トラブル』っていうか――」

    カチャ

「まあ、そんな大変なものでもないんだけど――」

                     カチャ

「たまに調子が悪くなっちゃうのよね。今みたいな感じで――」

            カチャ

「――でも、慣れてるから大丈夫よ」

作業を続けながら、隣に言葉を返す。
一段落してから、相手の方に視線を向けた。
そして、その服装を軽く観察する。

「なかなか個性的なファッションね。
 『和洋折衷』って言うのかしら?」

こちらの格好は、ラフなアメカジスタイルだ。
化粧っ気のある二十台半ば程の女。
対照的という程でもないが、イメージはだいぶ異なる。

963名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 01:46:22
>>962

「『トラブル』」「ああ、この『二輪車』、動かなくなっちゃったのね」

美作の言葉を反芻しながら、うんうんと頷く。
慣れている、と言った彼女の言に偽りなく、会話をしながらでもその動きに淀みはない。

「お姉さんは、普段からこういったお仕事をされているの?」
「それとも、この子がちょっと『問題児』なのかしら?」

首を傾げながら、スクーターを指差した。
そして美作の視線に気付き、肯定する。やや広がったデザインの袖口に手を隠し、自分でもそのドレスを眺める。

「『和ゴス』って言われているらしいわ。あたし、よく知らないのだけれど」
「それでも、似合っていると言ってくれたから。ねえ、お姉さんからは、どう?」

白い肌に対照的な、黒いドレス───和ゴスの子は立ち上がり、くるりと回った。
裾の長いスカートがふんわりと舞い、一回転すると、笑顔で美作に問いかける。

964美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 02:19:30
>>963

「あはは、『仕事』って訳じゃあないかな。
 これは何というか――趣味みたいなものかしら?」

「本当にどうしようもない時は、
 修理屋さんに出さなくちゃいけないんだけどね。
 ちょっとした故障くらいで持っていくのも考え物だから。
 それで『応急処置』の仕方を覚えたの」

「まあでも、『問題児』なのは確かね。
 でも、それなりに長く乗っていて愛着があるから」

    ポンッ

「それに、『手が掛かる子ほど可愛い』とも言うし――ね。
 私が『親バカ』なだけかもしれないんだけど」

鮮やかなイエローの車体を軽く叩き、明るく笑う。
その目に映るのは、白と黒のコントラスト。
あまり見かけない珍しいファッションなだけに、
自然と興味を引かれた。

「そうね……うん、『綺麗』だと思うわ。
 『可愛い』って言うべきかもしれないけど、
 どちらかというと『綺麗』の方がしっくり来る感じ。
 ブーツがアクセントとして効いてるわね」

「――なぁんて、何だか偉そうな事を言っちゃった。ごめんね。
 でも、感想の方は本当だから」

そう言いながら、少しだけ昔の事を思い出した。
『ステージ衣装』を着ていた頃の事を。
ただ、『和ゴス』ではなかったが。

965名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 02:33:58
>>964

>「それに、『手が掛かる子ほど可愛い』とも言うし――ね。
> 私が『親バカ』なだけかもしれないんだけど」


「──────────」

それは、数秒にも満たないほんの僅かな間。
笑顔を浮かべる少女が、まるで一時停止ボタンを押されたかのようにフリーズした。
が、すぐに動き出し、袖で口元を抑える仕草をする。

「うふふ。お姉さんって、モノをとても大切にする人なのね」「いい人ね」
「あたし、そういう人は、好きよ」「要らないからって、すぐに手放したりしない人って」

美作の衣服に対する感想に、少女はとても嬉しそうだ。ドレスの裾をつまむと、軽く広げて頭を下げた。

「ありがとう」
「あたしはお姉さんを信じるけれど。これが仮にお世辞だとしても、嬉しいわ。あたしもこのドレス、とても気に入っているの」
「お姉さんも、そのスポーティなファッション、とても似合っているわ。活動的な大人の女性って感じで、カッコいいもの」

手を後ろに回して、上体を曲げながら美作の衣服を眺める。

「お姉さん、今日は『オフ』なの?それとも、お仕事の時もそういう格好なの?」

966美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 03:00:55
>>965

(『何か』――――あるみたいね)

唐突に固まる少女を見て、内心は驚いていた。
しかし、それを表には出さない。
かつて『アイドル』だった時代に、
自分自身の『舵取り』をする訓練を積んで来ているからだ。

「ありがとう、お嬢さん。そう言ってもらえると、とっても嬉しいわ。
 自分でも気に入ってるの」

        フフッ

少女の言葉に笑顔を見せる。
褒められるのは嬉しいものだ。
それは『立場』が変化しても変わらない。

「そうね、こういう服装でいる事が多いかしら。
 やっぱり動きやすいのが大きいから」

「しっとりした雰囲気なのも、
 たまには良いかなとは思うんだけど……」

「だけど、あなたみたいなファッションは、
 さすがに似合う年は過ぎちゃってるわね」

           クスッ

ドレスを見つめる視線の奥に、
一瞬だけ『憧憬』のような色が現れた。
過去の栄光を懐かしむ気持ちが、心の中を過ぎった。
それを隠すために、悪戯っぽく微笑んだ。

「今日はお休み――だから『オフ』の日よ。
 ちょっと軽く街を走ってみようかと思ってね」

「――あなたは?」

967名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 03:15:22
>>966

「あら、あたしの見立てなら、お姉さんは今でもお似合いになると思うわ」
「元がいい人はね、化粧とファッションでどんな風にでも変身できると思うの。あたしがそうだもの」
「いつでも気が向いた時は相談してね。お姉さんに似合うお洋服、探してあげるわ」

過去を思い出し懐かしむ美作に対して、それを知ってか知らずか
少女はつかつかと歩み寄り、首を傾げてみせた。どうやら割と頭が動くクセがあるらしい。

「そうなの。うふふ、きっとその子もお姉さんとお出かけできて、喜んでいるわね」
「張り切り過ぎて、ちょっと失敗しちゃったみたいだけれど」
「あたし?あたしはね、『お仕事』の前に散歩をしているの。宣伝も兼ねているのだけれど」

968美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 03:29:54
>>967

「あはは、ありがとう。もし必要な時はお願いするわね。
 お嬢さんなら、安心して任せられそうだから」

この少女はセンスが良い。
だから、もし本当に相談する事になっても信頼出来そうだ。
もっとも、その機会はすぐには巡って来ないとは思うけど。

「喜んでる――そうね、きっとそうだと思うわ。
 元気が良すぎるのも問題なのかもね」

     フフ

スクーターを人のように表現する言い回しに、思わず表情が緩む。
実際、自分もそういう風に愛車を扱う事がある。
だから、彼女の言い方に共感を覚えたのだろう。

「『宣伝』?どういうお仕事をしているのか聞いてもいいかしら?」

彼女の言葉が気になった。
見た所は中学生くらいだが、
その年でする仕事というのは何だろう。
とはいえ自分も少女と同じくらいの年頃から『仕事』はしていたが。

969名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 03:47:30
>>968

「ええ、もちろんよ。あたしね、『名刺』を持っているのよ。『名刺』」
「なんだか大人みたいじゃない?カッコいいわよね、ふふ」

美作の問いに二つ返事で頷いた少女は、袖の中から一枚の名刺を取り出した。
彼女の洋服にもよく似た和柄の背景、そして大きな文字で『Bar 黒猫堂』、その下に『林檎』と記されている。
その名刺を両手で持ち直すと、賞状でも手渡すかのように、そっと美作に差し出した。

「あたしね、『林檎』って言うの。もちろん本名じゃないけど。これを言うってことは、本名は言えないってことなの」
「でも、お姉さんみたいな人はあまり来ないわね。やっぱり男の人がほとんどよ。あたしはそういう人とお喋りするの」
「だから、お姉さんの知り合いの人で、そういう所に行きたい人がいれば渡してあげて。お姉さんの紹介なら、少しサービスしてあげる」

唇に指を当て、じっと目の前の美作の顔を見上げた。

「お姉さんのお名前は?」
「ああ、もちろん本名でなくてもいいのよ。あたしが違うもの。フェアじゃあないものね」

970美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 04:11:33
>>969

「――――『名刺』?これは、ご丁寧に」

表情の上では平静を保ちながら、両手で名刺を受け取る。
しかし、心中では少しばかりの戸惑いもあった。
予想もしていなかった答えだったからだ。

(……もしかすると、見た目よりも大人なのかしら。
 世の中には童顔の子もいるし……。だけど……)

(いえ……きっと考え過ぎね)

まさか中学生がバーで働いているとは思わない。
労働基準法とか風営法というものがある。
だから、そういう場で働ける年齢なのだろうと解釈した。

「ありがとう。じゃあ、せっかくだから『名刺交換』しましょうか」

ジーンズのポケットから名刺入れを取り出す。
その中から一枚を抜き出し、少女に差し出した。
『<Electric Canary Garden> パーソナリティー・美作くるみ』――
名刺には、そのように記載されている。
他に、ラジオの放送局名や番組放送時間、
問い合わせ先などが書いてあった。
『電気コードが付いた小鳥』のイラストが、隅の方に添えてある。

「私は、こういう者よ。
 詳しくはそこに書いてあるけど、『ラジオ』をやってるの。
 『パーソナリティー』っていうやつね」

「お暇な時にでも聴いてくれると嬉しいわ。
 リスナーとお喋りするコーナーもあるから、
 もし良かったら気軽に電話してきてね」

971名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 04:30:17
>>970

「─────『名刺交換』!」
「とっても素敵ね、それって。うふふ、大切にさせて頂くわ、お姉さんの名刺」

手を胸の前で合わせ、林檎はきらきらと目を輝かせた。
両手で名刺を受け取ると、まじまじと興味深そうに眺める。意味もなく、日に透かしてみたりしている。

「可愛らしいデザインね。特にこの小鳥さんが可愛いわ。くるみさんというお名前なのね」
「…ラジオ?」「確か、おばあちゃんが持っていたかしら」
「ねえ、これはスマートフォンとかでも聴いたりできるの?」

まだ幼い少女にはあまり馴染みのないもののようだ。しかし興味はあるらしい。

「トーク番組の司会を務めてる、みたいなものよね?すごいわ、くるみさん」
「ぜひお邪魔させて頂くわ。でも、それってあたしたちのお話が他の人にも聞こえてしまうのよね?」
「なんだか少し緊張してしまうかも」

972美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 04:54:31
>>971

「実は、この小鳥は私が描いたのよ。
 番組のイメージキャラクターなの。
 名前は『電気カナリア』ね」

       フフ

「大丈夫よ。最近はラジオが聴けるアプリもあるから。
 今はラジオを聴く機会も少なくなってるから、
 きっかけが増えるのは、関係者としてもありがたい事ね」

「そうね――最初は緊張するかもしれないけど、
 話し始めると落ち着いてくる事も多いから。
 もちろん、話しやすいような雰囲気作りには、
 私も気を遣っているしね」

「だから、林檎さんも気が向いたら掛けてきて。
 いつでも待ってるわ」

        ザッ

「――さてと……調子はどうかしら?」

シートに腰を下ろし、慣れた動きでキックレバーを蹴る。
三回目のキックで、無事にエンジンが始動した。
一安心し、小さくため息を漏らす。

「何とか元気になってくれたみたいね。
 次は張り切り過ぎないように言っておかないと」

「でも、この子が失敗したお陰で林檎さんと出会えたんだけど」

         クスッ

スクーターに乗ったまま、少女に笑い掛ける。
故障がなければ、会う事はなかっただろう。
だから、ある意味では幸運だったのかもしれない。

973猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/03/31(火) 05:21:04
>>972

「『カナリア』って、あの美しい声で唄うっていう鳥の?いいえ、直接聞いた事はないのだけれど」
「くるみさんは電気のカナリアで、その声を電波に乗せて届けるのね!なんだかロマンティックだわ」

『カッ』『カツッ』

自分の推理が当たっていると思い込んだのか、感極まったかのように林檎はくるくると回った。
ブーツの底がアスファルトの地面にぶつかり、音を立てる。

「そうなのね、それはとてもありがたいわ。今度お家で聴かせてもらうわね」
「他の人と話しているところを聴けば、どんな雰囲気かも分かりやすいでしょうし」
「うふっ。くるみさんにリードして頂けるなんて、とても光栄だわ、あたし」

美作がスクーターの上に乗り、レバーを蹴る様をまた興味深そうに見つめる林檎。
そしてエンジンが点火したのに驚き、一歩後ろに下がった。

「そうね、あたしはその子に感謝したいけれど。その子がやきもちを妬いてないといいわ」
「それじゃあね、ばいばい。くるみさんとのドライブ、楽しんできてね」

スクーターのヘッドライトの辺りを覗き込み、小さく手を振る。
そして改めて美作へと向き直り、ドレスの裾をつまんで一礼をした。

「ありがとう、くるみさん。また今度、その時は電波でお会いしましょうね」

そうして林檎は背中を向けると、靴音を鳴らしながら去っていった。
その小さな姿も、やがて人の中に紛れ込んでいく。




「…あの人は、いい大人だったなぁ」「できれば『ボク』の時に会いたかったかも」
「うーん、でも『ラジオ』でお店を宣伝させてもらうのはいいアイディアかな?」
「でもでも、目立ち過ぎるとボクは働けなくなっちゃうしなぁ」

誰もいない所でセミロングのウィッグを外し、『少年』に戻った少女は一人呟く。
自分が歩いてきた道を振り返り、あの優しいラジオパーソナリティの人を思い出していた。
はぁ、とため息を吐くと、ウィッグをかぶり直し、『少女』へとなった少年は、己の戦場である夜の街へと歩いていく。

974鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/12(日) 21:36:59
商店街の中にある、スポーツ用品店。そこから買い物袋を手にした一人の少年が出てきた。
竹刀の手入れ用品を買い足した彼は、そのままの足で和菓子屋さんへと向かう。
今日は何を買って行こうか、そんな事を考えながら、時折反対側の歩行者へチラリと視線を送る。
何の変哲もない、平和な通りだ。そうあるべきな、望み通りの光景だ。

「・・・・・」

考え事をしながら、横を見て歩く少年は前方に注意を向けていない。誰かにぶつかってしまうかもしれない。

975石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/13(月) 18:53:06
>>974
>誰かにぶつかってしまうかもしれない。

どん! ばらばらっ!
……案の定、誰かとぶつかってしまった。同時に、なにかが散らばる音が響く。

「おっと、ごめんよ」
ぶつかったのは、白黒の髪に黒の清月学園中等部制服、シャチのような風貌をした少年だ。
身長178cmの鉄よりいくらか低い(172cm)が、がっしりとした体格をしている。

「すまねぇ、よそ見してた。どっか汚れなかったか?」
地面には『携行補給食』の『スポーツ羊羹』が散らばっている。

976鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/13(月) 20:17:10
>>975

「ッ?!」

「いや、申し訳ない。こちらこそ、ぼうっとしていて…」

ぶつかってまず思ったのは、しっかりとした体幹だ。何らかのスポーツをやっているのだろうか。
制服からすると中学生らしいが、かなり恵まれた体格をしている。
筋肉量次第では、こちらよりウェイトは上かもしれない。

「こちらは大丈夫だ。拾う手伝いをさせてくれ」

頭を下げ、彼が床に落としてしまったものを拾おうとする。
その内の一つを手に取ったところで、思わずしげしげと眺めてしまった。

「これは…?『羊羹』か?」

977石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/13(月) 20:59:42
>>976
「いやいや、こちらこそすまない。」(ペコォー
少年は頭を下げる。

「拾わせちゃって更にすまない。助かる。」
落ちた『羊羹』を自らも拾う。

「ああ、『羊羹』さ。
『男が和菓子なんて!』と思うかもしれないが、コイツは『スポーツ羊羹』ってヤツだ。
小サイズで高カロリーだから、競技中の栄養補給にピッタリなのさ。
まぁ、競技抜きにしても好きなんだけどな。」
喋りながらヒョイヒョイと拾っていく。

978鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/13(月) 21:09:55
>>977

『ピクッ』

「このサイズで、高カロリー…?しかも、『羊羹』で?」

何という高機能食品だろう。携帯しやすいサイズでありながら、手軽にエネルギーを補給できる。
しかも、美味しい和菓子の羊羹で。
自分も拾えるだけ集めて、二人で一通り拾った所でわ改めて少年へと向き直る。

「すまないが君、この羊羹はどちらで売っているんだ?」
「ああ、申し遅れた。俺は高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)だ」
「『剣道部』に所属している」

979石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 05:35:17
>>978
「拾ってくれて、ありがとうさん」
拾ってもらった羊羹を受け取る。

「んん?『スポーツ羊羹』に興味あるのかい?
すぐそこの和菓子屋で売ってるが……一緒に行ってみるかい?」
聞いてみる。

「ご紹介ありがとう、先輩だったのか。
俺は清月学園の中等部3年、石動織夏(いするぎおるか)だ。」
「『水泳部』に所属している。」

980鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 16:45:46
>>979

「是非、頼みたい」
「それと…『和菓子』を好きな男がいても、何らおかしくはないさ」
「美味しいものを好きな気持ちに、男女は関係ないのだから」

自己擁護も含めつつ、彼の提案に頷く。自分も『洋菓子』より『和菓子』の方が好きだ。
総じて甘いものが好きな方だ。その点に関して、男なのに、と誰かに言われようとも嗜好に関しては仕方あるまい。

「織夏(おるか)、いい名前だ」
「しかし『水泳部』か…何かスポーツをやっているのでは、と思っていたが、
 それなら納得だ。良い鍛え方をしているな、石動くんは」

自分も勿論鍛錬は怠ってはいないが、剣道部の中ではやや細い方になる。
肉が付きづらい体質なので、剣筋は力で押すよりも速さで攻めるタイプだ。

981石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 18:37:39
>>980
「おう!喜んで案内するぜ!
 和菓子好きが増えるのはいいことだからな!」
案内するように、てくてくと歩いていく。

「鉄さんは剣道部か。なるほど『らしい』や。
 水泳は冷えるし、鍛えなきゃ泳げないからな、適切な食事が必須なのさ。」

「しかし、『くろがね』ってことは『鉄』って字か。
 『いするぎ』が『石動』って字だから、アレだな。
 お互い『鉱物』に関する名字ってワケだ。アイアンとストーンだな。」
軽口を叩く。

「……さて、着いたぞ。」
そんなこんなで和菓子屋さんの前に着いた。『御菓子司 鈴○』 と書いてある。

※和菓子屋さん役のNPCはこちらが演じる、ということでいいでしょうか?

982鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 19:14:52
>>981

「確かに、冷える環境というのはそれだけでカロリーを消費する」
「他のスポーツよりも、その点に関してより気を付けなければならないのか。
 …しかし、『水泳』は周囲の環境に影響される所が多くて大変だな」

冬場などは、やはりそのまま泳ぐことは難しく、陸上部のように身体を鍛える事もあるのだとか。
温水プールなどが近くにあれば、練習場所としてはいいのだろうが、他の利用者との兼ね合いもあるのだろう。
…いや、『清月学園』にはひょっとしてあるのか?あの学園は大きい、自分の知らない施設があってもおかしくない。

「ふむ、着眼点が素晴らしい。気がつかなかったな」
「鉱物として同じ、好物の同じコンビとしてキミとは仲良くしたいものだ」

石動くんの言葉に、小さく微笑む。
肉体も素晴らしいものを持っているが、機転も効くタイプのようだ。

「ここにも『和菓子屋』が。気がつかなかったな」「『場所』をしっかり覚えておかなくては」


※ありがとうございます、よろしくお願いします。

983石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 19:56:22
>>982
石動「……褒めすぎだ。照れるぜ。」
鉄の言葉に石動が照れた。

石動「和菓子屋さーん、また来たぜ〜。」

ガラガラガラ……と戸を開けて、店に入る。

京風の和菓子屋だ。バイトの女の子が店番をしている。

和菓子屋のバイトさん「あら、石動さん、いらっしゃい。さっきも来た所ですのにどうしました。」

石動「新しいお客さん連れてきたんだ。ちょっと店内見せてよ。」

店内には……

・七味せんべい
・葛饅頭
・若鮎
・羊羹

……などが並んでいる。

984鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 20:23:24
>>983

「こんにちは」
「石動くんの友人の、鉄です。お邪魔させて頂きます」

店員さんへと一礼をする。
成る程、顔を覚えられる程に石動くんはこの『和菓子屋』を訪れているようだ。
そんな事をするつもりは毛頭ないが、万に一つも失礼がないようにしよう。
陳列されている『商品』を眺めていく。

「『若あゆ』…珍しいな」「確か元々は京都の方で作られた和菓子だとか」

この『若あゆ』と、石動くん愛用の『スポーツ羊羹』は2つずつ買っておこう。
何故2つかと言うと、羊羹はともかく、若あゆを1人だけで食べていると妹に見つかった時に怒られるからだ。
後は『団子』、それと『安倍川餅』あるいは『信玄餅』があったら買っておこう。やはり2つ。

「…そういえば、あるいは既に知っているかもしれないが」
「石動くんと同じ学年に、妹がいるんだ。鉄 朝陽(くろがね あさひ)と言う」
「もし何か関わる機会があれば、よろしく頼む」

石動くんの方を見て、言う。

985石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 20:53:20
>>984
和菓子屋のバイトさん「鉄さんですね。よろしくお願いしますー。」

和菓子屋のバイトさん「石動さんは部活の帰りによく寄られるので覚えちゃったんですよー。」

和菓子屋のバイトさん「はいはい、若鮎とスポーツ羊羹ですねー。」

和菓子屋のバイトさん「あと、『お団子』と『安倍川餅』もー。」

和菓子屋のバイトさん「全部おふたつですね。」
てきぱきと包んでいく。

和菓子屋のバイトさん「税込1600円になりますー。」
商品8つで、お値段は1600円。そこそこ安い方にあたるのだろうか。

石動「おっと、妹さんがいるのかい。実は俺のとこにも喧しい妹がいるんだが……。」

石動「おう。関わる機会があったらよろしくされるぜ。」
よろしくされた。

986鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 20:59:56
>>985

「ありがとうございます」

財布からお金を出して、無事購入を済ませる。買い物袋が二つになった。
家に帰って、味を確かめるのが待ち遠しい。『スポーツ羊羹』は部活動の時に持っていくとしよう。

「そうか、キミも兄だったのか」「やはり共通点が多いみたいだ」
「それで妹さんは、どんな子なんだ?石動くんと同じ『水泳部』なのか?」

お店を出ながら、訊ねる。

987石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 21:30:01
>>986
和菓子屋のバイトさん「毎度ありがとうございますー。」

ちりんちりーん……お店を出た。

石動「妹かい、玲緒(れお)って言うんだが、変わっててさ。」

石動「カンフーが大好きなんだが、色んな部活動を転々としてるから、さながら『応援部員』って感じだなぁ。」

石動「まぁ、うちの家族は変わり者が多いから、なんとも言えねぇや。」

988鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 21:45:42
>>987

「レオ、か。勇ましい名前だな」
「名に似て活発そうな妹さんだ。まだまだ、色々な事を経験するのも良い歳だな」
「しかし、カンフー…と言うと中国拳法かな?」「女性でありながら『武』を志すというのは、恐れ入る」

兄のオルカ、というのはシャチの別名だったはずだ。妹のレオ共々、強い子になってほしいという親の想いを感じる。
自分も妹と対になる名前だが、意味は考えずに響きで決めたらしい。…何か願いとかなかったのだろうか。

「世話になったな、石動くん」「この借りは何らかの形で返したい」

店を出た所で、改めてお礼を言う。新しい『和菓子屋』さんを知る事ができたのは、大きな収穫だ。

989石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 21:53:08
>>988
「うん、勇ましすぎて、女の子らしさが足りねぇんだよなぁ……。」

「借りとか、そういうこと言わなくていいって。鉄さんはマメだなぁ……。」

「この店お気に入りだから常連さんが増えたら面白いな、ってだけの話だからさ。」

「それじゃあな!妹さんにもヨロシクー!」
よろしくを言って、去っていく。

990鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 22:22:44
>>989

「オレの妹も、『ピアノ』を習い始めるまでは似たようなものだったよ…」
「もっとも、それでようやく少し変わったかな、ってところが」

女の子らしくないことがいけない事ではない、と個人的には思うが。
ただ、それで要らぬ諍いを呼んでしまうのではないかと、少し心配になってしまう気持ちもある。

「これはオレの個人的な感覚だ、キミは気にしなくていいさ」
「それじゃあまた、石動くん。キミとキミの妹さんも、お元気で」

そう言って自分も帰途につく。
なお、この後剣道部でちょっとした『スポーツ羊羹』のブームがあったとか。

991『星見町案内板』:2020/04/15(水) 13:17:40

次スレ→【場】『 大通り ―星見街道― 』 その2

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1586906856/1-


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板