したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

生贄の祭壇

1邪神様:2015/06/27(土) 22:28:10
シクレとか気にして表に出しづらい応援はここに捧げると良い

2冥王星:2015/07/01(水) 02:36:00
員登場SSです(断言)

◇◇◇

「あぁ、今日も空気がうまい。邪神様の復活の日が近いということだろう」

歌川灰斗は大仰な仕草で天を仰げながら、満足気に呟く。
もっとも、天の頂点に存在するはずの恒星は今は地に堕ち、その空は暗然たる様子である。しかし敬虔なる信徒である灰斗はそうした異常事態すらも邪神復活の兆候であると解釈し、歓迎し祝福するかの様に目を細めた。

「あぁ、素晴らしい空模様だ。今日も今日とて、邪神様の為に我が美声で聖歌を捧げることができそうだ」

一度、掃き溜めを覗くかの様な侮蔑の視線を労働バーを回している強制労働者に向けた後、彼は歌い出した。

「〜〜〜♪」

それは、邪神を賛美する歌。
灰斗はこの歌を歌うことで邪神への信心を増すことのできる魔人能力を持つ。
この能力によって、彼は無辜の民や異教徒に邪神への信心を刷り込み、強制的に労働させることを可能としているのだ。

(一度、歌による教導を怠った際は悲惨な目にあったからな……)

彼は、約一年前のことを思い出す。
それは、うだるような暑い真夏日のことであった。

◇◇◇

「糞! 糞! 糞! 屑めっ!!! 役に! 立たん塵共が! 貴様等如きの生まれた意味など! 邪神様に使われるために決まっておろうが! その程度の! 役目さえ! 果たせんとは度し難い!!!」

ガッ、ガッ、ガッと連続する暴力的な音。
灰斗が労働者を革靴で何度も踏みつけているのだ。
その労働者は、暑さの為か労働バーを回している最中に倒れたのだ。

「死ね! 死ね! 死んで詫びろ! 豚にも劣る貴様らが! 邪神様の復活を邪魔しおって!!! この世に! 邪神様を復活させる以外の法などない! 天下の道理だ! 弁えろ!!! 滅びぬ! 蘇る! あってはならんのだ! そんなこと!!! 邪神様は不滅だ! 舐めるなよ屑めらがァ! 誰にも負けん! 不可能はない!!!」

灰斗は激昂していた。
労働者は一般教徒にも劣る存在だとは思っていたがここまで役立たずであったのか、と。

「邪神様以上の存在などこの世にいない! 封印されたままでいいはずが無かろうが!!! 役に立て! 生贄となれよ貴様等! 邪神様が復活する為ならば、残らず塵共!!! 磔に処してくれる! それ以外、すべてに何の意味があるというのだ! ありなどしない! 邪神様は必ず! 復活し救世主とな――ぐあッ!!!」

蹲る労働者をひたすらに蹴り続けていた灰斗であったが、突然横から殴られた。

「――ふざけんじゃねぇ! 人を何だと思ってやがる! 何が邪神様だッ!」

労働バーを回していた者の一人が余りに酷い仕打ちに見かねて、灰斗を殴ったのだ。

「――、なんだと」

血の滴る額を抑えながら、灰斗は瞠目する。
何故今まで文句ひとつ言わなかった労働者がここに来て反目するのかと。

「もう俺らは我慢できねぇ!」
「ふざけるなぁッ!」
「お前が死んで詫びろ!」

殴られ、蹴られ、灰斗は地面に伏す。

「ぬ、が……貴様らああああああああアァァッ!」

そういえば今日は歌による教導がまだだったことに、彼は気づいた。

3冥王星:2015/07/01(水) 02:36:19
――だが、もう遅い!

「皆、今こそこいつに仕返しするんだ!」背中を足蹴にする労働者その1!
「そうだそうだ!」同じく背中を足蹴にする労働者その2!
「ヤンスヤンス!」何故かその場に居た下っ端口調のいい匂いがする美少女!
「せいっ! せいっ!」何故かズワイガニを投擲する女子!
「以心電信! ズワイガニ!」
「プロミネンス! プロミネンス!」何故か地上に降りてきたピンポン球ぐらいの大きさの太陽!
「やめてください!こんなことは無意味です!」
「ゴボボゴボゴボゴボボ。ゴボゴボゴボボゴボ。ゴボゴボボゴボゴボ。」
「ウソつくのやめてもらってイイデスカ―」
「ぴょーん。ぴょーん!」何故かハイジャンプから足蹴にしてくるウサ耳を被った貧乳少女!
「私、あすか! ちょっぴり正義感の強い普通の女の子!」普通の女の子はこんな場所に出現しない!
「グギョギャ」
「やぁやぁやぁ! この石油でも受け取ってくれたまえ(じょばばばー)」
「ウェーイ……ワンチャン……」
「ヒヒヒ……」何故か現れたあずきを洗う老婆!
「ギロ、ミンナがとっても大好きでチョンパっ! 主の御加護がミンナにもあることを祈ってるでチョンパ〜っ!」チョンパチョンパっ!
「な、何ですかこの人だかり!?(びくびく)」何故か現れたうさぎ耳の巨乳少女!
「邪神様。私は貴方様の為に今から眼球をえぐり出します」(※グロ映像注意)
「ア、 アニギィ……」

そんなこんなでもみくちゃにされる灰斗。

「ぐッ、おお、おおおおおおおおおおぉぉぉォォォオッ!」

結局、駆けつけた再生派の信徒たちに助けられるまで、この凄惨な(?)暴力は続いた。

――この時を境目に、灰斗は欠かさず歌を歌うことにしたのだった。

【END】

4ボニートヘッド:2015/07/01(水) 04:49:50
ある船乗りの手記



4月27日

今日はさんざんな一日だった。
朝から激しい雨と時化に見舞われ、いつものコースを外れちまった。

結局、船長の判断でルートを変更することになった。
食糧にも余裕はあるし問題ないだろうとのことだ。

ただ、最年長のドクじいさんだけはやたら反対していた。
なんでもそのルート上には、昔っから不吉なことばかり起きる海域があるらしい。
ったく、根拠のねえジンクスにいつまで怯えてるんだか。


4月28日

……非常事態だ。
ゆうべ見張りをしていたジェームズが、むごたらしい姿で殺されてやがった。
最初に見つけたアレックスをはじめ、何人かの船員がその場でゲロぶちまけたせいで
甲板はひどい有様だ。

ミステリーなら『犯人はこの中にいる』と探偵が喚くところだろうが、誰もそうは思わなかった。
いくら海の男が屈強でも、人間の四肢をもぎ取って
残った身体もぐちゃぐちゃに引きちぎるなんて芸当は出来ないだろう。

一体だれが――いや、何がこんなことをしたんだ?


4月29日

怪物だ。魚の頭をした怪物が、船に
(字がぐちゃぐちゃに乱れており、この後は判読できない)

5ボニートヘッド:2015/07/01(水) 04:50:12
5月1日

クソみてえな一夜が過ぎた。
怪物はブッ潰したが、トムとアレックスが餌食になった。

犠牲者が出たことも痛ましいが、もっと深刻な問題が起きた。
騒動のせいで、食料がダメになっちまった。
なんとか無事なものをかき集めたが、それでもあと何日食いつなげるかわからない。

「魚頭のあいつを食っちまおうぜ」とスコットが軽口を叩いたが、誰も笑わなかった。
あいつなりの気遣いのつもりなんだろうが、無神経にも程があるぜ。


5月2日

亡くなった皆を弔う。
遺体については、相談の結果使っていない船室を霊安室にすることにした。
怪物の死骸も一緒だ。海に捨てちまえ、と思ったが『仲間が仕返しに来るかもしれない』と
ドクの血迷った意見が採用されちまった。

そんな中、スコットの奴は腹を空かせてうろついていた。
食欲があるのが果たしていいことなのか悪いことなのか。

どこか島にでも上陸して、食料を補給できれば良いんだがな。


5月3日

スコットの様子がおかしい。
昨日、霊安室にした一角で何かこそこそしていたようだが……
まさか、本気であの怪物の肉を食おうとしていたのか?

仲間の亡骸の前で、よくもまあそんな意地汚いマネができるものだ。
それとも、やはり化け物の一件で精神に変調を来したのだろうか?
スコットめ、起きてきたらブン殴って目を覚まさせてやる。

6ボニートヘッド:2015/07/01(水) 04:50:42
5月5日

バケモノが再び現れた。どこから忍び込みやがった!?

バケモノをどうにか仕留めたとき、生き残っていたのは俺だけだった。
船長も、ギルバートも、ドクも……みんな、やられた。
船の舵もマストもぶっ壊されちまった……クソッ!クソッ!

バケモノどもめ。俺は一人でも生き延びてやる。


5月7日

食糧、あと僅か。腹が減る。

皆の死体を運んでいて気付いたことがある。
スコットの死体が見つからなかった。なぜだ?
……ダメだ、空腹で考えがまとまらない。


5月8日

食料が、尽きた。

7ボニートヘッド:2015/07/01(水) 04:51:04
5月10日

胃袋が久しぶりに満たされたからか、活力が戻った様に感じる。
今ならスコットの気持ちも、少しはわかる気がする。
非常食はまだかなりの量がある。助けもそのうち来るだろう。


5月12日

風ぜを引いたのだろうか、頭がボーッとする。重い。
おなかがすく。肉はまだまだある。

昼すぎに、声がした。助けがきたのかと思ったが空耳だったようだ。


5月14日

のどかわいた ので 水をくんでのむ。うみの水 うまい。

にく くさりかけてる けどうまい。 うまいにく。
スコット うまい。せんちょ  も。もっとくいたい。


 月5 日 
      7

こえ      える
   が きこ

ぎょ
        ま
 かみ さ  ま  ま  
   け    
      ひゃ

(日記はここで完全に途切れている)

8邪神様:2015/07/01(水) 21:38:48
>>2-3
短い文章でこの数のキャラクターを全員だすとはなんという実力……やはり冥王……と邪神様は言ってました。

>>5-7
良い日記でした。怖さ……

9やられ:2015/07/02(木) 21:56:42
ギロチーナ
男女を落とす
その仕草
次に落とすは
刃と命

10黒渕さんの妹:2015/07/02(木) 22:04:12
ギロチーナ
言葉の刃は
歯を鳴らす
瞬く仕草も
気付かぬあなた

11江地手 恋日:2015/07/02(木) 22:05:46
さあ叫べ
響き渡るは
生命の詩
そして舞うのは
生命の赤

これは最早ポエムでは

12大万里浄土:2015/07/04(土) 17:56:10
Pure Land's file 48 「地獄の杯」

これは僕―大万里浄土が知り合いのお誕生日会に呼ばれた時のことです。

「ヒャッハー!!宴デース!!」
「ピザとズワイガニもっと持ってこーい!」
「ギロロロロロオェェェェ!」

そのお誕生日会はピザ屋で開かれていました。誰も彼も狂ったようにピザとズワイガニを貪り、ビールを浴びるように飲んでいましたよ。なかにはリバースしている人なんかもいましたね。そこまでして何故、人は酒を飲むんでしょうね?
……まぁ人間以外もいたんですけど。

お誕生日会の間、僕はピザ屋の店員さんのお仕事を手伝っていました。人手が不足してるってことで働かされることになったんですよ。頼まれるとあまり断れない性格でして…。
それで結局、お誕生日会の主役である邪神様さんにも会えずじまいでした。
お誕生日会は早朝近くまで続いて、僕は朝の4時くらいにやっと開放されました。それまで騒いでいた皆さんもぐったりした様子で死んだように眠っていましたよ。聖職者のような格好をした方は子守唄替わりなのかしばらく歌を歌っていましたね。
僕も相当疲れていたので、適当な場所を見繕ってごろんと寝転がって目を閉じました。それから15分位たってからですかね。なんかね、小さく音がするんですよ。

ぴちゃぴちゃぴちゃ。

その頃にはもう子守唄も聞こえなくなっていて、皆さん寝静まっていたはずなんですが。

ぴちゃぴちゃぴちゃ。

何か水が滴るような音でした。
僕はもう心底怖かったんですけど……探求者としての血が騒いだといいますか、好奇心が勝ってしまいまして、とにかく何の音か確かめに行こうと思い起き上がりました。

どうやら音はキッチンの方からのようです。あたりを見回してみましたが、スタッフの皆さんも帰っていらっしゃいますし、当然どなたも見当たりません。
ただの気のせいだったのかなと思い、僕は寝床に戻ろうとしました。そうしたらまた

カタッ。
また音がしたんですよ。今度は何かが動いたような音。聞こえてきたのは大きな冷蔵庫の中からでした。ここまできて確かめないわけにはいかないと思って、僕は冷蔵庫のドアに手をかけて、ゆっくりとドアを開きました。
ドアの隙間から中を覗き込むと、うっすらと中に人の影があるのが分かりました。

「う゛っ!!」バタン!
僕は驚いて、反射的にドアから手を話しました。今はこうして冷静に話せますがその時は心臓が止まるかと思うほど怯えていました。でもちゃんと確かめないわけにはいかないと思って、もう一度ドアを開けたんです。するとそこにあったのは……。

13大万里浄土:2015/07/04(土) 18:04:10
「……人形?」
まるで本当の人間かと見間違えるような人形がそこにはあったんです。近くで見て触って、ようやく造り物だということに気づけました。
それくらい精巧な造りだったんですね。

しかし、なんでこんなところに人形が?一体誰が何の為に?それにさっきの音は…。
開けっ放しにした冷蔵庫の中で腕組みしながらそんなこと考え込んでいると

カタカタッ。
目の前の人形がね、動いたんですよ。
僕はまた驚いて、思わず後ずさりました。人形は直立不動のままドアの方に向かって動いているように見えましたね。さっきの音はこれだったんだ。

カタカタカタッ。
人形はしばらくの間動いて、そしてまたそれまでと同じようにピタリと止まりました。
そこで僕はようやく思い至った。日本では古来より長い時間を経ることで物にも魂が宿ると言われています。
この人形にも魂が宿っているのでは?

もしそうなら…。僕は人形の手のひらに「いんふぇるのこっぷ」と書かれているのを見つけました。そうならばやるべきことは一つしかありません。

「以心電信!インフェルノコップ!!」

物言わぬ人形の魂が僕の心と同調し始めました。あらゆる魂との交信を可能にする力。それが僕の能力『以心電信』なのです。
相手が物であろうとそこに魂さえ宿っていれば……。次第にインフェルノコップの思いが僕の中に流れ込んでいきます。
さぁ、一体君は何を伝えようとしているんだ?

(……スけ……。た……ケ…。…タす……ケ…て)
(え?今この人形……助け――)
「何してるんですか〜?」

僕はビクッと体を跳ね上らせて、すぐに後ろを振り向きました。
するとそこには可愛らしいコスチュームに身を包んだ女の子が怪訝そうな表情でこちらを睨みつけていました。
彼女の手には腰に下げた刀の柄が握られています。

「えっ……と物音が聞こえて、カタカタッて」
「…………」
「…そ、それで怪しいと思って見に来たんです」
「………ふ〜ん、そですか〜」

少女の表情はすぐ興味無しといった風に変わり、刀の柄を握っていた手も離してくれました。僕もまた胸を撫で下ろします。

「きっと疲れているんですよ。もう休んでください!」
「はい、そうします…」
彼女に言われるがまま、僕はインフェルノコップとの交信を中断し、キッチンを離れようとしました。

「ああ、それと。もう絶対に開けない方が良いですよこの冷蔵庫」
「え?」
「音なんてしませんから」
そういうと彼女は冷蔵庫の中に入り内側からドアを閉めようとします。

「な、なにをなさるんですか?」
「……補充です」

その時僕は、彼女の瞳の中にとてつもなくどす黒い何かを見たような気がします。

バタンッ。
やがて冷蔵庫のドアが完全に閉まると、再び

ぴちゃぴちゃぴちゃ。

水が滴るような音が聞こえ始めました。


もしかしたらあの人形は何かから逃げようとしていたのかもしれません。
それが一体何なのか、僕にはまるで検討も付きません。だって判ってしまったら……。

どうやら世の中には知らない方が良い事もあるようなんです。



14黒渕さんの妹:2015/07/05(日) 21:35:55
第十二話「太刀魚、ズワイガニ、そして……」 

 邪神様復活を間近に控えた七月の頭の日であった。
 ここは名古屋、日本有数の大都市でありL.Aとか北海道へのアクセスも良い。

 「ふん、女子高生が熊のぬいぐるみね。ファンシーなことで」
 私が、こんな仕事をする羽目になるとはな。
 長身の美女はやれやれと頭を振る、物憂げと言うより気だるげな動作こそがこの人がどこに住まうのかを教えてくれるようだった。過ごし方としては待つことに慣れている。
 けれど、生き方としては焦れて焦れてどうしようもない。不機嫌な人だった。

 北海道まで出向くことにならないで良かったと言うべきか、少し不幸中の幸いを思う。
 少し腹立たしげで、それがより魅力的に見せるのだが、そう彼女に言ったところでその面立ちは崩れないだろう。

 ――公安第六課所属の女魔人警官・糺礼(ただす・れい)は黒渕さんの妹を監視していた。

 蟹煙(かいえん)をくゆらせ、息をつく。
 名古屋は都会と聞いたのだが、丁度タバコを切らせてしまっていた私は刻み蟹しか無いと知って愕然とする。断腸の思いで採用したのだが、案外イケたようだった。
 パイプ用のカニを紙の上に広げ、くるくると巻いていく。鼻腔にカニの成分が染み渡っていく。
 血の匂いがカニに塗り潰される。馬鹿馬鹿しい……、何度言わせるか、くだらない。

 この世界は狂っている。
 意識高い若者と言う名の体制のかませ犬、そいつらの世迷言ではない。
 そんな負け犬の遠吠えを嘲笑ってやるとか、そんな呑気な話題ではない。
 馬鹿馬鹿しくも、探偵が跋扈し邪神が復活するなんて時勢に常識が通用するとでも言うのか。
 雨竜院(ウリュウイン)、鬼無瀬(キナセ)、口舌院(クゼツイン)、結昨日(ユキノ)、夢見崎(ユメミザキ)……、この国に監視対象に当たる魔人家系は多々あれど、そいつらは基本おとなしい。
 
 何をするか、基本読めるからだ。
 魔人と言う生き物は自分自身=魔人能力に型を嵌める傾向にある。
 名は体を成すと言うべきか、それとも逆か似た傾向の魔人が集うなら対処法も読めると言うことだ。
 連中が突発的に暴発することは基本ないし、腹立たしいことだが社会様と一定の折り合いをつけておられる。

 ……悪い味ではなかったが、なにぶん私は愛煙家ではないんだ、せいぜい許してくれ。カニを踏み潰しつつ、私は待ち人を待つ。

 頭のいい連中は基本読めるし、こちらの都合も読んでくれる。
 だが、頭が良くても悪くても愚かな連中、もしくは狂っている連中には手の施しようがない。
 覚醒したばかりの突発性魔人が集うことで計画性を加え、両方を兼ね揃えた魔人集団は何をするかわからん。
 
 と言うより、相手にすること自体が馬鹿馬鹿しかった。

 「遅いぞ」
 足元に幾つ甲羅が転がった頃だろうか。
 奴が来た。忌々しい探偵どもに頭を下げるつもりは毛頭ない。
 この男なら半端に頭のいい連中など、歯牙にもかけないだろう。
 だが、私はこの選択が正しかったのか、今でも疑問に思っている――。

 「やあ、ミスター解説だ。糺さん、待たせて悪かったね」
 さすらいの解説者とだけ伝わっている謎の男について語ることはしない。
 勝手に想像でもしていてくれ。

----

15黒渕さんの妹:2015/07/05(日) 21:37:02
 やあ、はじめまして! またの人にはお久しぶり! ミスター解説だ。
 では解説する前に、私が誰か言っておこう!
 とは言ってもまずは『ダンゲロスSS4』を見るといいと思う! 具体的にはロンドンとかタイタニック号やエデンの園に行けば私に会えるぞ!
 ま、そんなことはいいじゃないか!

 私と君達が出会えた奇跡に乾杯! おや、ビールを持っていない?
 それはイケないな! 今すぐピザ屋にデリバリーだ!
 
 さぁ解説だ!
 私を呼んだこの見目麗しきレディーは糺礼、詳しくは『ダンゲロスSS』へGoだ!
 クールでハードボイルドだけど、実は魔法少女と言うチャーミングな一面も持っているぞ。

 「いいから、話を進めろ……」
 おっと、近頃のお嬢さんは銃とは……、物騒でいけないな!
 私も邪神復活に当てられたみたいだ、さぁ反省して話を進めようか!

 君は『ある船乗りの手記』を読んだかい?
 解説は、一緒に読み進めていくとして、君はこの手記にどこかおかしなところがあったとは思わないかい? さぁ、謎を解き明かそう!

 さて、結論から言うとしようか、つまりこの手記は複数の人物の視点から成っている!
 え、なんだって結論を急ぐなと? まぁ、待ちたまえ。
 先に、この手記の中で名前が出た登場人物をまとめるとしようか。

 船長
 ドクじいさん
 ジェームズ
 アレックス
 トム
 スコット
 ギルバート

 以上、七名だね。生存者は誰だったかな?
 残念なことに探偵はいなかったから解説の自分が呼ばれることになったが、心配はいらないさ!
 
 まず、4月27日から29日までの部分。
 ここで船長からアレックスまでの名前が出たわけだ。きっと名前が出ていない船員は28日の何人かの船員の部分でまとめられているんだろう。
 で、問題の29日の部分、途切れているね。沈痛の思いだ。
 5月1日で日誌は再開されているけれど、同一人物なら後で書き足すはずだから別人の筆紙だとわかる。つまり、彼はここで亡くなったトムとアレックスのどちらか。
 28日にアレックスの名前が出ているから書いていたのはトムだ。

16黒渕さんの妹:2015/07/05(日) 21:37:42

 船長
 ドクじいさん
 ジェームズ 
 スコット
 ギルバート

 ×印は不吉なので名前を消したよ、残り五人だ!
 5月1日から彼がどうして死人の記録を引き継ごうと思ったのか、それともこの日誌の提出者はツギハギにしてミスリードを誘おうとしたかはわからない。だけど、それは今は置いておこう!

 消えた日付については想像で補うしかないのだから。
 さて、ここの視点人物はジェームズかギルバートのどちらかだ。
 ドクとスコットは出ているし、ドクに対する態度から船長とは考えにくい。よって消去法だ。
 
 5月4日で最低三人消えて。
 残るは。
 ジェームズ
 スコット

 5月10日を境に日誌の信頼性が一気に落ちるけれど、ここがカギであることは間違いないだろう。
 一見すると、生き残りはジェームズ……もっとも、ここまで真面目に考えようと思う人自体稀かもしれないがね。
 
 少し論理の飛躍を挟むが、付いてこれるかな?
 スコットの死体が見つからなかったから最後の視点人物はジェームズ……、果たしてそうだろうか?
 28日の時点で『ミステリーなら』と言う文言が出ている以上、この手記は探偵不在だったからジャンル:ホラーになってしまったのではないかな?

 結論を言おう。
 5月1日から3日まではギルバートの手記。
 5日のみがジェームズ。
 それ以降、つまりは最終生存、あれを生きていると言っていいのかは疑問だが……スコットだ。

 おかしいとは思わなかったかい?
 不自然な日付の飛び方に!
 5日からをジェームズとするなら、6日と9日の抜けに違和感が残るんだ!
 どうして彼は食料の事ばかりでバケモノについて言及していないのか!
 それに、アテのない漂流生活で手記を途切れさせるその心理はどうなんだろうね? 

 ところが、7日の時点で落ちていた手記を拾い上げたなら6日の抜けは説明が付くんだ。
 抜けがあるとは言え、5日と7日の記述は同じ人物とするには違和感があるハズなんだ! 

 そして、7日の彼はスコットの死体がないのにどうしてスコットが生きているか海に落ちたとは思わなかったんだろう? なお、手記からするに怪物に変化したと言うのは彼の中で確証はないはずだよ。

 つまり、彼が狂いはじめたのは記述されていない9日の段階じゃあないんだ。
 4日、もしくは6日の段階でスコットは自分は誰であるか揺らいでいたんだろう。
 ギルバート、ジェームズ、そのどちらか、恐らくは両方を殺したストレスに耐えきれず、乖離したんだろう。スコットが認識する自分と言うのはスコットであってスコットではないんだ!

 スコットの死体が無いのは当然だよ、生きているんだから。
 そんなこともわからないほどに錯乱していたんだ!

 あとは――わかるだろう?

17黒渕さんの妹:2015/07/05(日) 21:56:01
----
 ミスター解説がそこまで語ったところでぱちぱち、と乾いた音が二重に聞こえた。
 それは冬の枯葉を踏みしめるような冷たい拍手の音、心なしか胸元が膨らんでいるようにも見えた。

 「……仮定に仮定を重ねたつまらん推論だな。それに私は探偵は嫌いだと言っただろう――」
 クビ――、冷徹な言葉のままに言い放った。
 呆然と立ち尽くすミスター解説を余所に糺礼は歩き出した。
 そう言えば、なんで私は黒渕にさん付けしていたんだ? と言う割と根源的な疑問を抱きながら。

----
 
  その頃、黒渕さんの妹は――!
 魔人警察の追跡をかわして、熱海にまで来ていたのである!
 ここ、熱海は名古屋の次には四国に近い温泉地として名を轟かせていた!

 そして、今彼女は熱海・高知海にてズワイガニを供物に捧げ、邪神の眷属を喚び出そうとしていたのである。
 「ズーワ、ズーワ、イー・ガ=ニー……」
 おお、なんたる難解で禍々しき呪詛であろうか。
 片手にはテディベア、名付けてクマのまーくん。愛する恋熊の現身であった。
 片手にはズワイガニ、名前はまだない。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。

 ――!
 「ギョギョオオォォオオオー!!」
 魚はカツオで人は武士、よくよく聞く言葉であるが、そこに立っていたのは二足歩行のカツオ。
 
 ……つまりはカツオ武士であった!
 「このカツオ武士にお姉ちゃんの太刀魚を武器として、私のズワイガニを甲冑として装備させれば……!」
 すなわち、死をも恐れず邪神様にお仕えする最強の武士団が完成する!
 なんと恐ろしい計画であろうか、黒渕さんの妹は知力6によって本戦の裏でこのような暗躍をしていたのである!

 「行くよ、金蔵寺スコット!」
 名のある武士であろう――、黒渕さんの妹は彼を引き連れ走り出した!




新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板