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生贄の祭壇
13
:
大万里浄土
:2015/07/04(土) 18:04:10
「……人形?」
まるで本当の人間かと見間違えるような人形がそこにはあったんです。近くで見て触って、ようやく造り物だということに気づけました。
それくらい精巧な造りだったんですね。
しかし、なんでこんなところに人形が?一体誰が何の為に?それにさっきの音は…。
開けっ放しにした冷蔵庫の中で腕組みしながらそんなこと考え込んでいると
カタカタッ。
目の前の人形がね、動いたんですよ。
僕はまた驚いて、思わず後ずさりました。人形は直立不動のままドアの方に向かって動いているように見えましたね。さっきの音はこれだったんだ。
カタカタカタッ。
人形はしばらくの間動いて、そしてまたそれまでと同じようにピタリと止まりました。
そこで僕はようやく思い至った。日本では古来より長い時間を経ることで物にも魂が宿ると言われています。
この人形にも魂が宿っているのでは?
もしそうなら…。僕は人形の手のひらに「いんふぇるのこっぷ」と書かれているのを見つけました。そうならばやるべきことは一つしかありません。
「以心電信!インフェルノコップ!!」
物言わぬ人形の魂が僕の心と同調し始めました。あらゆる魂との交信を可能にする力。それが僕の能力『以心電信』なのです。
相手が物であろうとそこに魂さえ宿っていれば……。次第にインフェルノコップの思いが僕の中に流れ込んでいきます。
さぁ、一体君は何を伝えようとしているんだ?
(……スけ……。た……ケ…。…タす……ケ…て)
(え?今この人形……助け――)
「何してるんですか〜?」
僕はビクッと体を跳ね上らせて、すぐに後ろを振り向きました。
するとそこには可愛らしいコスチュームに身を包んだ女の子が怪訝そうな表情でこちらを睨みつけていました。
彼女の手には腰に下げた刀の柄が握られています。
「えっ……と物音が聞こえて、カタカタッて」
「…………」
「…そ、それで怪しいと思って見に来たんです」
「………ふ〜ん、そですか〜」
少女の表情はすぐ興味無しといった風に変わり、刀の柄を握っていた手も離してくれました。僕もまた胸を撫で下ろします。
「きっと疲れているんですよ。もう休んでください!」
「はい、そうします…」
彼女に言われるがまま、僕はインフェルノコップとの交信を中断し、キッチンを離れようとしました。
「ああ、それと。もう絶対に開けない方が良いですよこの冷蔵庫」
「え?」
「音なんてしませんから」
そういうと彼女は冷蔵庫の中に入り内側からドアを閉めようとします。
「な、なにをなさるんですか?」
「……補充です」
その時僕は、彼女の瞳の中にとてつもなくどす黒い何かを見たような気がします。
バタンッ。
やがて冷蔵庫のドアが完全に閉まると、再び
ぴちゃぴちゃぴちゃ。
水が滴るような音が聞こえ始めました。
もしかしたらあの人形は何かから逃げようとしていたのかもしれません。
それが一体何なのか、僕にはまるで検討も付きません。だって判ってしまったら……。
どうやら世の中には知らない方が良い事もあるようなんです。
終
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