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生贄の祭壇

14黒渕さんの妹:2015/07/05(日) 21:35:55
第十二話「太刀魚、ズワイガニ、そして……」 

 邪神様復活を間近に控えた七月の頭の日であった。
 ここは名古屋、日本有数の大都市でありL.Aとか北海道へのアクセスも良い。

 「ふん、女子高生が熊のぬいぐるみね。ファンシーなことで」
 私が、こんな仕事をする羽目になるとはな。
 長身の美女はやれやれと頭を振る、物憂げと言うより気だるげな動作こそがこの人がどこに住まうのかを教えてくれるようだった。過ごし方としては待つことに慣れている。
 けれど、生き方としては焦れて焦れてどうしようもない。不機嫌な人だった。

 北海道まで出向くことにならないで良かったと言うべきか、少し不幸中の幸いを思う。
 少し腹立たしげで、それがより魅力的に見せるのだが、そう彼女に言ったところでその面立ちは崩れないだろう。

 ――公安第六課所属の女魔人警官・糺礼(ただす・れい)は黒渕さんの妹を監視していた。

 蟹煙(かいえん)をくゆらせ、息をつく。
 名古屋は都会と聞いたのだが、丁度タバコを切らせてしまっていた私は刻み蟹しか無いと知って愕然とする。断腸の思いで採用したのだが、案外イケたようだった。
 パイプ用のカニを紙の上に広げ、くるくると巻いていく。鼻腔にカニの成分が染み渡っていく。
 血の匂いがカニに塗り潰される。馬鹿馬鹿しい……、何度言わせるか、くだらない。

 この世界は狂っている。
 意識高い若者と言う名の体制のかませ犬、そいつらの世迷言ではない。
 そんな負け犬の遠吠えを嘲笑ってやるとか、そんな呑気な話題ではない。
 馬鹿馬鹿しくも、探偵が跋扈し邪神が復活するなんて時勢に常識が通用するとでも言うのか。
 雨竜院(ウリュウイン)、鬼無瀬(キナセ)、口舌院(クゼツイン)、結昨日(ユキノ)、夢見崎(ユメミザキ)……、この国に監視対象に当たる魔人家系は多々あれど、そいつらは基本おとなしい。
 
 何をするか、基本読めるからだ。
 魔人と言う生き物は自分自身=魔人能力に型を嵌める傾向にある。
 名は体を成すと言うべきか、それとも逆か似た傾向の魔人が集うなら対処法も読めると言うことだ。
 連中が突発的に暴発することは基本ないし、腹立たしいことだが社会様と一定の折り合いをつけておられる。

 ……悪い味ではなかったが、なにぶん私は愛煙家ではないんだ、せいぜい許してくれ。カニを踏み潰しつつ、私は待ち人を待つ。

 頭のいい連中は基本読めるし、こちらの都合も読んでくれる。
 だが、頭が良くても悪くても愚かな連中、もしくは狂っている連中には手の施しようがない。
 覚醒したばかりの突発性魔人が集うことで計画性を加え、両方を兼ね揃えた魔人集団は何をするかわからん。
 
 と言うより、相手にすること自体が馬鹿馬鹿しかった。

 「遅いぞ」
 足元に幾つ甲羅が転がった頃だろうか。
 奴が来た。忌々しい探偵どもに頭を下げるつもりは毛頭ない。
 この男なら半端に頭のいい連中など、歯牙にもかけないだろう。
 だが、私はこの選択が正しかったのか、今でも疑問に思っている――。

 「やあ、ミスター解説だ。糺さん、待たせて悪かったね」
 さすらいの解説者とだけ伝わっている謎の男について語ることはしない。
 勝手に想像でもしていてくれ。

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