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おもらし千夜一夜4
1
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/
2
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/10(月) 01:02:18
乙
4スレ目は何作くるかなw
3
:
事例の人
:2014/03/14(金) 19:39:19
スレ立て乙です
新スレ早々続き物とかアレだし単品でも楽しめるのにします
します、と言うか2年くらい前に書いた未公開の奴を引っ張ってきただけ
……本編が出来てない時間稼ぎですorz
4
:
事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。①
:2014/03/14(金) 19:40:54
「あぁ、ダメ……そろそろ限界かも」
彼女――“雛倉 雪”は体を少し前に倒した姿勢で、苦しそうに何かを耐える。
落ち着きの無い仕草、時折スカートの前に待っていかれる手。
注意深く観察すれば、誰でも彼女が何に耐えているの分かるだろう。
ただ、今は23時40分。場所は彼女の家付近の自然公園内であり、人通りはない。
もし人が居たとするなら、ここまで大胆な仕草は取ってはいないだろう。
「んっ――そろそろ戻らないと間に合わないかも……」
そう口にした彼女は、公園の半ば付近で自宅の方向に向き直り、落ち着き無くその場で足踏みをする。
そして、上着に入れてある携帯を取り出し、液晶に映る時間を確認する。
「“目標の12時”まではあと17分か……あぁ、どうしようかな」
彼女は時間を気にして、一向に自宅へとは向かわない。
それは今から帰ると“目標の12時”より早く自宅に着いてしまいう可能性が高いから。
その場でじっとしているのが辛く、足踏みをして、たまに片足を上げて膝をすり合わせる。
(あぁ、もう、じっとしてられないっ!)
彼女は意味も無く街灯の下付近を歩き回る。
そして何度も携帯を確認して、しばらくすると動きを止め、再度自宅方向に向き直る。
「ぁぅ……あと13分、コレなら……」
そういって今度は自宅へ向かって歩き出す。
彼女の額にはほんの数分前までは無かった汗が光っていた。
5
:
事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。②
:2014/03/14(金) 19:42:37
――彼女が尿意の我慢をしなければいけない理由は無い。
強いて言うなら彼女が自らそういう制約で行動している。
時を遡ること6年前。彼女が中学2年の時。
夏休みの部活の帰り、途中で催した尿意。学校を出るときに家から持ってきたペットボトルを空にしようとしたのが間違いだった。
なかなか変わらない信号。開いてくれない踏み切り。
限界が迫り、恥ずかしいのを我慢して途中のコンビニに飛び込むも、目的の場所への扉には故障中の3文字。
その下には“お急ぎの方は店員に一言かけて頂ければ従業員用のお手洗いをお貸しします。”と書かれていた。
“お急ぎの方”つまり、どうしても我慢が出来ない人の事。当然恥ずかしがり屋である彼女は申し出ることは出来なかった。
それに、例え彼女でなくとも常識的に考えて女性がそんなことを言えるはずもない。
すべてが彼女に意地悪を働いてるように、欲求の開放を妨害された。
何とか自宅へたどり着いた彼女だが、自宅の鍵がカバンから見つからない。
そんな時、背後から妹に声を掛けられ、咄嗟に取り繕うもそれが災いし妹の前で下腹部の波打ち感じながら水溜りを作ってしまった。
妹は姉を優しく抱きしめ、慰めた。
結局鍵は、直ぐ出せるようにと帰り道自分で制服の胸ポケットにしまっていた。
情け無いやら、惨めやら、色々負の感情が込みあげる中、ただその中にひとつ“気持ち良かった”その開放感だけが異質ながら存在していた。
中学での出来事はしばらく彼女に傷を負わせていたが、高校生になると“もう一度限界まで我慢してみたい”と思う気持ちが強くなっていた。
初めは高校1年の一学期期末テスト。最後の科目で不意に催した尿意。
テストが終わりトイレに向かうも、工事による一部断水の為使用できるトイレが限られ、
またテストの間の休憩時間は皆ギリギリまで勉強していたようで、テストが終わったときのトイレは混雑していた。
まだ余裕があった彼女は、学校のトイレの使用をあきらめて帰宅する事にした。
その時僅かながら彼女自身、高揚していることに気が付いていた。
まだ余裕はあったが、帰宅となると徒歩10分、電車で20分、自転車15分。
電車の待ち時間も含めると自宅のトイレに入れるのは1時間程度先だった。
もちろん駅にトイレはあった。でも彼女は使用せず、逆に駅に着いたとき缶コーヒーを買って一気に飲み干した。
自宅近辺の駅に着いたときは余裕が殆どなくなっていたが、そこでもトイレに寄ることはせず、駐輪場まで駆け足で向かい自転車に跨り、帰路に着いた。
でも駅を出て5分したところで彼女は後悔していた。電車に乗る前に飲んだコーヒーが今になって思ったより効いてしまい、家まで持ちそうに無かった。
あとたった10分……それが高校生にもなって我慢できない。とても恥ずかしいことに思え、中学の時同様、負の感情に心が沈んでいく。
涙目になりながら帰路を急ぐも、限界を超えてしまい、サドルに押し付けていた下着にシミを作ってしまう。
無我夢中で自転車を住宅地の一角にある空き地に止めて、飛び降り、不法に置かれた車の陰に隠れる。
隠れる前から少しずつ溢れ出し始めていたが、もう止める余裕も無く隠れるなり下着を下ろし野外で放尿した。
それは我慢しすぎた為か、勢いは無いが1分以上も出続けた。――自宅まであと500mが間に合わなかった。
彼女にとってそれは恥ずかし粗相のはずだった。
でも、後から思い出されるのは限界まで張り詰めた膀胱と、限界寸前の緊張感、そして例えようの無い開放感だった。
それからも彼女は月に1〜2回程度わざと尿意を限界まで我慢していた。
それは下校中だけに留まらず、家に誰も居ないとき、休みの日の出かけ先で、授業中にまで至った。
大学に進学してからはさらにその行為はエスカレートして行った。
大学近辺のアパートで一人暮らしを始めた事で箍が外れたからだ。
6
:
事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。③
:2014/03/14(金) 19:44:02
「はぁ、はぁ……んっ! あぁ、出ちゃう……」
公園から自宅に向けて歩みを進める彼女。
その足取りは行きのときとは違い小幅で、時折立ち止まっては足を絡ませ、手で足の付け根辺りと抑えていた。
時間は23時52分、時間にして先ほどから5分程度しか経っていない。
我慢が辛く、思った以上に歩みも進まず自宅まではまだ2/3程度の道のりを残していた。
(家を出る前に飲んだ、最後のダメ押しの紅茶2杯……思った以上に効いてる……)
(なんとか我慢したまま家まで戻れれば、すごい量出せそうだけど……間に合わないかも)
彼女は予想外の尿意の高まり方に動揺する。
経験上、額に汗が浮かびだすと持って15分。引き返すタイミングは悪くなかったと思っていた。
でも実際にはそれよりもずっと早く尿意は加速し、下腹部を触ると既にこれ以上に無いくらい硬く張り詰めていた。
それは今回初めて使った利尿作用の強い紅茶を飲んだのが大きく影響していた。
「んぁ! ダメ……あぁ、おしっこしたい……が、我慢しないと」
(い、何時もと同じ紅茶にして置けばよかった……)
半分の道のりを過ぎたところで今までに無い大きな波がきて立ち止まる。
今度はスカートの下から手を差し入れ下着の上から押さえる。
それでも溢れそうになり、体をくの字に曲げ足を締め付ける。
「ぁ……あぁ! ダメ……んっあ!!」
<プシュッ>
彼女の手の中に暖かい感触が一瞬渦巻く。
「いや! ダメまだ、だめぇ……」
下着を押さえる手により力を込め、尿意を紛らわすように揉み解す。
下着を濡らしてしまったことに――恥ずかしい行動に羞恥心が刺激され、顔は紅潮する。
彼女はおもらしする事を望んでいるわけではなく、
求めているのは、あくまで限界まで我慢したときに感じる何ともいえない感覚とスリル、そして放尿したときの開放感。
事実大学に入ってからは今まで下着を濡らしてしまったことは1度しかなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……んっ」
1分程度続いた強烈な波は去り、一時の小康状態となる。
だが、以前として限界まで張った下腹部を見れば状況が変わったわけではなく、
むしろ紅茶の利尿作用で今も膀胱の水位を上げつつある。
今すぐにでも自宅に帰りたいのに、少し無理をして公園に長くいすぎたため自宅までまだ少し距離があった。
ならば、人目が無いのだから、野外放尿という手段もあるのだが、彼女は自宅を目指し続ける。
昔からの負けず嫌いな性格が、自分で立てた目標を曲げてしまうのを拒んでいた。
今回の目標は、0時まで我慢する事、自宅のトイレまで我慢することの二つ。
(はぁ……折角もうすぐ12時なのに家まではまだ半分くらい……どうしよう、どうしよう……)
波が来てないうちに出来る限り、早足で自宅に歩みを進める。
それでも手はもう前を離せない状態にあり、その歩みはお世辞にも速いものではなかった。
7
:
事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。?
:2014/03/14(金) 19:45:16
(さっき少し出ちゃったってことは……もうそんなに持たないはずよね?)
大学で一度濡らしてしまったときは崩壊まで5分と持たなかった。
個室の中に入る前から溢れ、下着を下ろすことすら出来なかった。
まさか間に合わないとは思ってなかった、しかも学校のトイレで……。
限界を迎えてから使用中のトイレ、清掃中のトイレとたらい回しになった結果だった。
「(あの時は誰にもバレずにすんでよかった……まさか大学生にもなって――っ! あぁ! 波が……!)」
以前の体験を思い出してしまった為、敏感に膀胱が反応して波打つ。
不意打ちの大波に立っていられず、しゃがみ込み、かかとを立てて押さえ込む。
「あぁ、まだダメぇ……んっあぁ!!」
<シュワ……>
踵に感じる確かな温もり。
それは、今の彼女が自分の状態を改めて確認するには大きすぎる失態。
その恥ずかしい液体は滴り落ちることは無かったが、下着はほとんど完全に濡れてしまい、これ以上の水分を蓄えられないほど湿っていた。
「はぁ、はぁ……っ、ダメ、もう木陰で――」
彼女はもう自宅のトイレまでとても間に合うとは思えず、野外での放尿を決断したときだった。
「っ! うそ……人が――!」
さらに言えば、その顔は大学での顔見知りであることに気が付く。
(な、なんで梅雨子が……)
直ぐに木陰に隠れる。
見つかってしまえば会釈だけではすまない相手。
彼女の親友である、黒蜜 梅雨子。
もう限界まで張り詰めた膀胱を抱えた雪には見つかるわけには行かなかった。
「(お、お願いぃ! 早くっ…はやく! どこかへ行ってっ!! じゃないと、私っ、もうっ……!)」
もう間に合わないと決断したのだ、早く居なくなって貰わなければ……
次の波が来てしまえば……もう耐え切れる自信は彼女には無かった。
木陰にしゃがみ込み、濡れてもう冷たくなり始めた下着にねじり込むようにして、踵で押さえ込む。
限界まで緊張した括約筋は麻痺してしまい、時より跳ねるような痙攣が踵に感じられる。
その痙攣が彼女にもう我慢の限界だと認識させ、焦りをより加速させる。
――もし、我慢できずに限界まで張り詰めた膀胱の中身を出してしまえば――
――こんな静かな夜に、そしてほんの数メートル向こうに相手がいるのに――
――……確実にその恥ずかしい音が…匂いが……相手に――梅雨子に聞こえてしまう……そうなれば――
「あれ〜? ゆきりんらしき人影見えたと思ったんだけどなぁ……」
「っ!」
突如聞こえた、彼女を指す言葉。
そう、梅雨子は彼女の姿を見ていたのだ。
8
:
事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。⑤
:2014/03/14(金) 19:50:19
「ぁっ――」
今まで括約筋を痙攣させながらも、何とか均衡を保っていた恥ずかしい液体を塞き止めていた栓に
自身の名前を呼ばれると言う、予期せぬ事態がかすかな揺らぎを与えた。
その揺らぎを合図に、膀胱が小さく波打ち、今までにない圧力で、閉じ込めておくべき恥ずかしい水が
出口に向かって動き出す。
「――っ!!」
限界。
経験上この感覚を彼女は知っている。
だからこそ彼女は焦った。そして動揺した。
もう数秒先に迫る限界点。
だが、数歩先には知り合いが居る……絶対に迎えてはいけない限界点。
――だめ……無理! でも、あぁ! 我慢できないっ! 梅雨子がいる! まだダメなのっ!
――早くどこかへ! 居なくなって! もう溢れるっいや、我慢しなきゃいけない! でももう……
沢山の思いが頭の中で駆け巡る。
その十秒にも満たない時間が彼女にとっては何十分にも感じられた。
そして膀胱の小さな波打ちが止まる。
それは消して小康状態になったわけではなく、硬く収縮したままとなったのだ。
圧倒的な圧力が括約筋を内側から抉じ開けようと攻め立てる。
「くぁ……ぃゃ!」
そしてついに彼女の括約筋はその圧力に屈した。
<ジュッ>
「ぁ…ぁ……っ!」
今までとは違う勢いのあるくぐもった音が下着の中で聞こえた。
たったの一吹きで押さえ込んでいた足の靴下をびしょびしょにしてしまう。
そして、さっきまでの失態とは違い、さらに膀胱が搾り出そうと収縮して圧力を上げる。
もう彼女にそれを防ぐ手立てはなかった。
<ジュッジュ〜〜>
「ぁ…くっ……やぁっ!」
如何にかして下腹を引き締めようとするが、力の入れ方が判らず、
押さえ込まれたスカートに染みを広げ、さらに勢いを増し、足元に水気を帯びた影を広げてゆく。
<シュィーー>
誤魔化しようのないおもらし。
大学生にもなって……もう2回目だ。
しばらく放心状態の彼女だったが、2分もすれば我にかえり、周囲をきょろきょろと確認する。
おもらしをしてしまう寸前まで居た梅雨子の姿は無かった。
一度音が聞こえる程度の距離まで近づいて来ていたが、決壊して、大きなくぐもった音を出していた時には、
ある程度離れていたため気が付かれなかったのだ。
しかし、あと10秒、いや5秒早く決壊していたのなら、その音は梅雨子の耳に届いていたかもしれない。
彼女は安堵しながら立ち上がる。
スカートの裾からまだ暖かい水滴がいくつも零れ落ちる。
「っ……また、やっちゃった……」
その水滴が彼女の羞恥心を煽る。
スカートを吊り上げると、自分の粗相を重さとして実感した。
目に涙を溜めて、それでも今度の水は溢さず、家まで持って帰る。
「誰にも見つからずに部屋までいけるかな……」
時計を見るともう日付が変わっていた。
おわり
9
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/15(土) 01:13:33
1000 名前:名無しさんのおもらし[sage] 投稿日:2014/03/14(金) 20:39:54
1000なら次スレは久々に覗かなくても良作キテタ
10
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/15(土) 18:34:09
あれ? 黒蜜 梅雨子ってひょとして真弓の姉かな?
11
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/16(日) 15:17:29
呼び方もあやりん、ゆきりんで妹と同じだしそうとしか思ってなかった
12
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/25(火) 00:38:02
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/
前スレ「声が聞きたい!」シリーズまとめ
>>731-737
:事例1「山寺 瞳」と私の自己紹介。
>>747-750
:事例2「篠坂 弥生」と……。前編1
>>752-759
:事例2「篠坂 弥生」と……。前編2
>>777-785
:事例2「篠坂 弥生」と……。後編
>>799-813
:事例3「日比野 鈴葉」と『声』の無い二人。
>>821-830
:追憶1「雛倉 雪」
>>842-854
:事例4「宝月 皐子」とラブレター?前編
>>860-871
:事例4「宝月 皐子」とラブレター?後編 ※描写ミスあり
>>882
-
>>883
辺りを参照
>>872
:事例4「宝月 皐子」とラブレター?EX
>>877-879
:追憶2「雛倉 雪」と微睡みの幻?
>>884-897
:事例5「黒蜜 真弓」と抜き打ち見学会。前編
>>902-917
:事例5「黒蜜 真弓」と抜き打ち見学会。中編
>>929-939
:事例5「黒蜜 真弓」と抜き打ち見学会。後編
>>940-942
:事例5「黒蜜 真弓」と抜き打ち見学会。EX
>>982-985
:事例5.1「?」とセンチメンタルな真夜中の私。 ※一部訂正
>>986
「声が聞きたい!」シリーズ・登場人物紹介安価
>>791
「雛倉 綾菜」(主人公、高校1年生)
>>738
「山寺 瞳」(別クラスの友達)
>>786
「篠坂 弥生」(懐いてる友達)
>>814
「日比野 鈴葉」(花屋の娘で大学生)
>>831
「雛倉 雪」(姉で大学生)
>>873
「宝月 皐子」(お嬢様の生徒会長、2年生)
>>943
「黒蜜 真弓」(元気な親友)
13
:
名無しさんのおもらし
:2014/03/25(火) 00:46:48
某所で評判を聞いてここを探し当て、読ませて頂き
続編への期待をこめて目次を貼らせてもらいました。
その手の書物や作品などを漁って十数年になりますが
こんな秀逸なおもらし小説を書ける人は
ネット広しといえども古今東西ほかに見当たりませんね
これからもがんばってください
14
:
名無しさんのおもらし
:2014/04/04(金) 16:21:35
過疎スレあげ
15
:
事例の人
:2014/04/17(木) 19:24:10
>>10-11
その通りです
>>12-13
応援ありがとう、でも自重して! 特に12は貼らないで欲しかった
ところで某所ってどこだろう?
そして、やっと書けたので投下する
待ってて頂いた方には一ヶ月以上も放置してごめんなさい
今後も多分こんなペースです
あと、今回ちょっと我慢要素少ないかもです、後編の時になるべく頑張る予定
16
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。①
:2014/04/17(木) 19:26:18
「あ、綾ー?」
「……なに?」
「来週末には東京もどるからー」
「……わかっ――えっ!」
――東京に戻る?
雪姉から聞かされた衝撃の事実。
「何その反応? 休みはもう少しあるけど、用事は無いわけじゃないんだから当然じゃない?」
そう言うと、私のベッドに寝転びながら漫画の続きを読み始める。
……結局のところ、雪姉が帰ってきてから特に何も無かった。
こんなことなら、家族でレストランとか行く以外にも、市民プールとかどこかの娯楽施設に誘うべきだった。
「ふーんふーんふんふん〜♪」
音程をやたらと外した鼻歌を、機嫌良く歌いながら漫画を読んでる雪姉。
――……あれ? 二人でそういうところ行けなくて後悔してるのって私だけ?
帰ってきた時雪姉は“寂しかった”って言ってたのに……実際のところあれは社交辞令で、
本当に寂しく感じていたのは、私だけだったと言うことかもしれない。
「そうだ、綾! また正月に帰ってくるから、東京土産何か欲しい?」
……。
「……別に、なにもいらないけど? だから、買ってこなくていいし、忙しいなら帰ってこなくてもいいよ」
もやもやした気持ちのまま問い掛けられ、さらに内容が帰ることの話で、不貞腐れた態度で返してしまう。
「あ、綾? な、何か私…嫌われる事したかな?」
私の態度の変化に気が付き、慌てた様子でオロオロしながら問い掛ける。……可愛い。
私は首を小さく横に振った。
「そ、そう……」
そう言って漫画の続きを読み出すが、どうにも納得いかない様子でチラチラを私の様子伺ってる。
折角機嫌よくしていたのに、悪いことをしてしまった……。
私は雪姉に聞こえないように小さく嘆息して、自室の椅子に座りながら先日の見学会の感想をまとめる。
そしてそれを書き終えたとき、ふと、机の隅に置かれた紙が目に入る。
その紙には大きく“夏祭り”の文字が書かれていた。
――……あ、そうだ!
私はこの祭りに雪姉と一緒に行こうと思い、椅子に座ったまま体だけを横に向けて雪姉に向かって口を開いた。
17
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-②
:2014/04/17(木) 19:28:18
「雪――」<♪〜〜〜>
私の携帯の着信音が、私の声を遮る。非常に間が悪い。
私は、こっちに視線を向けた雪姉に「ごめん」と一言言って携帯を手に取る。
――一体誰が……ってまゆ…か。
そういえば見学会の後、一度も会話していない。
あの時は気を利かせてくれたようで、降りた時に居たのは“近づかないでオーラ”を放っていた朝見さんだけだった。
当然私も話しかけ辛かったので、極力見ないようにして帰った。
……。
私は意を決して、恐る恐る電話に応答した。
「……も、もしもし?」
「やっほ、もうすぐあやりんのところって祭りだよね?」
「……え? あ、うん」
「んじゃ、当日夕方5時くらいに神社の入り口のところ集合ね! バイバーイ」<…プープー>
……。
タイミング悪いのに加えて一方的過ぎる。
とはいえ、当たり前のように、そしていつも通りの態度で誘ってくれたのは凄く嬉しいのだけど。
「夏祭り友達といくの?」
電話の内容を聞いていたであろう雪姉が、私に問い掛ける。まゆ…声大きすぎる……。
本当は雪姉と行こうと思っていたけど、「姉と行きたいからパス」――なんてまゆに言えない。
それに、まゆと行くのも悪くないと思うし。
私は取り合えず声には出さず頷いた。
「そっか、私も梅雨子と鈴葉と一緒に行く予定あるけどねー」
――そうですか。
誘っていたところで撃沈だったと。
18
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-③
:2014/04/17(木) 19:29:52
――
――
「とうちゃ〜く」
「……だね」
祭りの行われる、神社の入り口付近に雪姉と共に着く。
ちなみに私達の服装は浴衣。
私が着てる――――着せられた……――――浴衣は、黒を基調にした素朴な菖蒲柄。
色的に、銀髪が映えるような感じ。
雪姉のも私と同じく黒を基調にした浴衣。
柄は牡丹かな?
「あ、あやりーん!」
まゆの私を呼ぶ声が聞こえ、こっちに駆け寄ってきた。
「あやりん?」
雪姉が私のあだ名――――まゆしか使ってないあだ名だけど――――を初めて聞いて目を丸くする。
「え……えっと、お姉さんですか? 始めまして、真弓って言います!」
まゆが雪姉の存在に気が付き、元気良く敬礼しながら挨拶をする。……なんで敬礼? 可愛いけど。
あえて私は何も言わずに観察してよう。
「真弓ちゃん? んー、どこかで見たような顔で、どこかで聞いたような名前……」
まゆの挨拶を無視して、なにやらぶつぶつと言いながら考え込む。
「……ちょっと雪姉! 自己紹介してるのにちゃんと返してよ!」
ちょっと頭にきたので注意したやった。
「あ……うん、ごめん。……私は綾菜の姉の雪です。いつも綾菜がお世話になっています」
私のきつい言葉に我に戻り、なんとか挨拶を済ませるが、相変わらずすぐ凹む。
ちょっと泣きそうな顔で無理に笑顔を作ってる。
「あー、お姉さん気にしないで下さい、あやりんはこんな感情的な態度、学校では殆ど見せないから逆に羨ましいですよー」
「っ! ……まゆ、黙って……――雪姉もいきなり元気にならないで!」
私は顔が熱くなるのを感じならが、二人に抗議する。……恥ずかしい。
そんな様子をまゆがニヤニヤと見てくるから余計にいたたまれなくなり、二人に背を向ける。
気持ちを落ち着かせるために、二人に聞こえないように深呼吸してから口を開く。
「……雪姉も友達待たせてるんじゃなかった?」
「あ……そうね、――それじゃ真弓ちゃん、綾のことよろしくお願いねー」
余計な一言を言って、雪姉は神社の奥の方に走って行く。
それを視線だけで見送っていると横からまゆが抱きついてくる。
「……ちょ、ちょっと何?」
私はそれを気怠そうに対応する。
「いやー、雪さんってあれでしょ? 3年間成績1位をキープしたって言う伝説の優等生」
「……多分そうだけど、あれ見たら幻滅したんじゃない?」
「まぁ、思ってたような人じゃないけど。でも、ああいう感じの方が印象良くていいじゃん?」
確かにお堅い性格よりは良いのかもしれない。
人のものを勝手に食べなきゃね!
19
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-④
:2014/04/17(木) 19:30:44
「――にしても、あやりん浴衣かー、超似合ってるし……」
抱きついていた身体を離し、私を舐めるように観察する。
「……ん、ありがと――でも見過ぎ……」
私は視線を少し逸らして言う。
「あー、私も浴衣着てこれば――」「見つけたー!」
まゆの言葉に被って、遠くから叫ぶような声が聞こえた。
その声の主は小走りにこちらに向かってきた。
「もう! なんで、待ち合わせの、場所から…ちょっと離れてるん、ですかっ!」
息を少しだけ上げてそう怒ってるのは弥生ちゃん。
――そっか、まゆと二人でって事じゃ無かったわけか。
よくよく考えると二人で出かけるのに“集合”って言い方は余りしないかもしれない。
というか、むしろ何で二人だと私は勘違いしてたのだろう?
……やっぱり、友達が少ないとそういう発想に疎くなるのかもしれない。
「本当にちょっとだけじゃん! 弥生ちゃん細か――」「雛さん浴衣なんですね! 私もなんですよ!」
弥生ちゃんは、まゆを完全に無視して、私の浴衣姿を見てから元気良く話す。
脇を空けて、肘を90度に折り曲げて体を捻って見せる。
それは水色を基調にした桜柄。
「……可愛い」
――あ、声に出して……まぁこの場合は別にいいのか。
「か、可愛い!? そんな、雛さんも凄く似合ってますよ!」
凄く照れてる。やっぱり弥生ちゃんは可愛い。癒される。
「もう! 浴衣着てない私への当て付けか! さっさと出店とか回ろうよ!」
手を大きく広げて大げさな態度で怒りをアピールし、すぐ私たちの後ろに回り込む。
私たちに振り向く暇も与えないまま、背中に手を当てて、出店のあるほうに押す。
そんないつもと変わらない日常に、私はほんの少し頬を緩め、押された手に身を任せるようにして歩いた。
20
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑤
:2014/04/17(木) 19:31:49
――
――
「いっぱい回ったねー」
弥生ちゃんがカキ氷を食べながら満面の笑みを見せる。
ちなみにこのカキ氷は2つ目、その前には喉が渇いたとかでラムネも……。
唯でさえトイレ近いのに大丈夫なのだろうか?
「ん……あ、ちょっと私お手洗い行ってきますね!」
……案の定大丈夫じゃなかった。
ただ、走っていった仮設のトイレが余り込んでいないのは残念。
まだ、祭りが賑わって来る時間帯では無いし、祭りに来てすぐトイレに駆け込む人も少ないのだろう。
「私も一応行って来るけど、あやりんはどうする?」
まゆが私にそう問い掛ける。
「……私はいいよ、家出る前に済ませたし」
それに、今してしまうとこの後『声』が聞けなくなる。
折角の祭りって言うイベント事だし、『声』を聞かずに普通に過ごすだけって言うのはちょっと勿体無く感じる。
……そういう発想になる私って……。
まゆは私の言葉を聞いて、「じゃあ、此処で待ってて」と言い残し弥生ちゃんの後を追った。
私はなんとなく視線を上に向けると、空が赤から黒に変わり始めていた。
「――綾菜さん?」
聞き覚えのある声がして、視線を空から声の聞こえたほうへ移す。
「……あ、皐先輩」
そこには綺麗な長い金髪で、ハーフアップの髪が上品な印象を与える生徒会長様がいた。
「やっぱり! ……えっと、御一人ですか?」
「……あ、いえ、友人と3人で来てます……皐先輩は一人なんですか?」
「いえ、後で椛さんと合流予定です」
――あぁ、なるほど、椛さんか。
それは聞き覚えのある名前。
生徒会副会長であり一応小学生の頃からの顔なじみ。
とはいえ、最近は疎遠気味だけど。
でも、まさか皐先輩と椛さんが祭りを二人で回るほど仲が良いとは思っていなかった。
――にしても……椛さん――か。
学年は違ったけど、昔は凄く仲良かった。雪姉を交えてよく3人で遊んでいた。
弥生ちゃんと同じく幼児体系だけど、クールで仕事とかの要領が凄く良くて、それでいて、気さくなところもあって、なんか色々と凄い人だった。
憧れ……って言うほどではなかったけど、尊敬できる人。
21
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑥
:2014/04/17(木) 19:32:58
「えっと、綾菜さん? どうかしました?」
思い出に浸っていた私は、名前を呼ばれて祭りに来ている現在に戻る。
「……すみません、少し考え事してました」
私の言葉を聞いて皐先輩は、怪訝そうに私の顔を覗いた後、口を開く。
「祭りを楽しんで友達と別れた後で良いので、少し話せますか?」
突然、意外な台詞を言う。
恐らく生徒会への勧誘だとは思うけど。
「……まぁ、少しくらいなら大丈夫だと思います」
「そう? よかった。えっとちょっと待って――……っと、これ私の携帯番号だから、時間出来たら連絡くれると助かります」
皐先輩はメモ用紙を出して、携帯番号の書いて差し出す。
なんだか知らないけど、生徒会長様の携帯番号をゲットできた……ちょっと嬉しい。
「では、祭りを楽しんでください」
そう言って皐先輩は人ごみの中に消えて行った。
「あやりん? 今の会長さん?」
用を済ませてきたまゆが隣まで走ってきて尋ねる。
「……うん、副会長と来てるんだって」
「ふーん」
興味があるのか無いのか……まゆは微妙な態度で返す。
「お、お待たせしました」
パタパタと浴衣を揺らしながら弥生ちゃんが帰ってくる。
遅かったのは浴衣きてたからって言うのと
並んだ列――――仮設トイレだったのでフォーク並びでは無さそうに見えた――――の進みが遅かったのかもしれない。
……良く見ると、弥生ちゃんの浴衣の帯とおはしょりが少し乱れてる。多分、裾を帯に挟んだときにでも少しずれたのかもしれない。
「……弥生ちゃんちょっとじっとしてて」
私は弥生ちゃんの前にしゃがみ込み、少しでも見た目がいいように直す。
完璧とは行かなくても、多少のマシに出来るはず。
「あ……ごめん」
少し恥ずかしがって居るみたいだけど、じっと待ってくれる。
時間にして1分程度で作業を終え、細かい点を除けば、ほぼ直ったと思う。
「……はい、出来た」
「えへへ、ありがとう、雛さん」
少し複雑な表情ながらも、笑ってお礼を言ってくれた。
「待ちくたびれたよ〜」
そうだった……まゆのこと一瞬忘れかけてた。
私達は、まゆに軽く謝り、祭りの散策を再開した。
22
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑦
:2014/04/17(木) 19:34:42
――
――
射的や金魚掬いをしてある程度見回った時、最近では珍しい遊戯屋台を見つける。
そして、私が見つけたと同時に、弥生ちゃんも見つけたのか、目を輝かせて、それを指差して口を開く。
「あれ! 型抜き菓子ですよ!」
今日一番の笑顔でそう言う。
見学会の時と良い、弥生ちゃんは美術的なものが好きらしい。
弥生ちゃんは早速、型を買って屋台の隣にあるテーブルがあるほうへ行く。
私とまゆはとりあえず弥生ちゃんの後に続く。
「……テーブル殆ど座ってるね」
4人がけのテーブルが4セットもあるにも関わらず、ほぼ満席。
唯一一人しか座っていないテーブルがあったので私達はそこへ向かうことにした。
「すみませーん、隣良いかな?」
正直どうやって声を掛けるべきかって思っていたけど、まゆが真っ先に行動してくれた。
私も弥生ちゃんもこういうの苦手だし……本当、気が利く。
「え、あ、いいですよ――って!?」
快く了承してくれた少女だったが、私たちの顔を見て驚く。
私も驚いた。
「……山寺さん……こんばんは」
「ひ、雛倉さん!? こ、こんばんは……」
そこに居たのは山寺さん。
随分挙動不審で……そういえば“あれ”以来会ってなかった。
あの時微妙な感じで別れることになったから、私はちょっとだけ気不味い。たぶんあっちはもっと気不味い。
まゆや弥生ちゃんが居る以上、下手にフォローしてボロが出てしまうのは避けたい。余計なことじゃべらないで置こう。
「奇遇だねー、山寺さんだっけ? こんな風に喋るのって初めてだよね?」
「え、あ、うん……えっと、黒蜜さん…で、あってるかな? こっちは篠坂さん?」
私自身、山寺さんと確り話したことは4〜5回程度しかなかったけど
どうやら、その少ない会話の中に出てきた、二人の名前を覚えていたらしい。
「は、はじめまして……篠坂弥生って言います」
初対面な人に緊張しているのか凄くかしこまった態度で自己紹介をする弥生ちゃん。可愛い。
少し居心地悪そうにしていた弥生ちゃんだったが、
山寺さんの前のテーブル上に置かれた、いくつかの型抜き菓子の完成品を見て目を丸くした。
と言うか、私も驚いた。さらに言えば今抜いてる物にも。
「……なんか随分な数抜いてるね。しかも今してるのなんか異様にデザイン細かいし」
「うん、私、型抜き得意なの。それと今のコレは店主の特別製らしくて――」
少し照れながら、けど得意げに喋り続ける。可愛い。
23
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑧
:2014/04/17(木) 19:36:51
――ブルッ……
不意に背筋に震えが走り尿意を感じる。
皆がトイレに行ったときに済ませなかった甲斐があった。
私は早速『声』に意識を傾ける。
『また、したくなって来ちゃった』
『やば……さっきまで集中してたから気が付いてなかったけど、そこそこトイレ行きたいかも……』
……そして聞こえてきた『声』は、まさかの二人同時。
正直弥生ちゃんの方はもともとトイレが近いのに加え、水分を取りすぎだったので予想してたけど
まさか、偶然出会った山寺さんまで尿意を感じているなんて……なんて運が良い。
「ねぇねぇ、弥生ちゃんって型抜き見つけたときテンション上がってたけど、やったことあるの?」
まゆが弥生ちゃんに尋ねる。
「あ、いえ、漫画とかで存在を知ってただけで、やったことないです」
「んじゃあ、山寺さんにコツとか教えてもらえばいいんじゃない?」
まゆは何と無しにそう言ったが、実際のところ弥生ちゃんの人見知りを気にして言った言葉な気がした。
ただ、今の二人にそういう事させると、トイレに立ち難くなるんじゃないかって思う。……私としては少し嬉しいけど。
弥生ちゃんは少し複雑な表情を見せながらも、山寺さんに教えてもらうことにしたようで、恐縮そうにしながら隣に座る。
私は山寺さんの正面に座り、その隣へまゆが座る。
我慢の仕草をしていないか観察するが、特に目立ったものは見つけられない。
まだそこまで尿意は高まっていないということ。
――えっと、弥生ちゃんの方は『声』からして尿意を感じ始めてすぐ?
山寺さんの方は型抜きに集中してて尿意を意識してなかっただけで、それなり溜まっているっていったところかな?
実際、『声』の大きさも山寺さんのほうが遥かに大きかった。
しばらくはまゆとちょっとした雑談を含めながら、二人の様子を眺める。
「こういうところは、大胆に割らずに少し深めに削っていくと上手く行くと思うよ」『ん……意識し始めたからかな? 結構辛くなってきたかも』
「はい、此処もそんな感じで良いんですよね?」『やっぱ飲みすぎたのかな、そろそろ行かないと……』
表向き確り指導して確り勉強してるが、頭の中ではおしっこの占める割合が随分増えてきた。
そして、いつの間にか『声』の大きさに大きな違いが無くなっていった。
――これはすぐに弥生ちゃんが逆転しちゃうかな?
その様子を内心ニヤニヤしながら眺めていると、隣に座っていたまゆが「さーて」といいながら立ち上がる。
「見るのも飽きたし、何か買ってくるからここで待っててー」
そう言うと、屋台の並ぶ方へ小走りに向かっていった。
24
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑨
:2014/04/17(木) 19:38:27
『どうしよ……やっぱ行かないと――でも、さっき行ったばっかりだし、また浴衣直して貰うのも恥ずかしいし……山寺さんもいるし……』
弥生ちゃんは行きにくい要素が沢山あって、どうしても言い出せない様子。
出来れば弥生ちゃんから申告してくれるのが望ましいけど……。
……助け舟を出してあげるべきかもしれない。
でも、なんて言えば良いのかわからない。
直接的に言うのは簡単ではあるけど、ほぼ初対面の山寺さんが居る以上、流石にデリカシーに欠ける気がする。
しばらく、考えてみるがやっぱり上手い方法が思いつかない。
いっそのこと私がトイレに行きたいって言うのも手かと思ったが、皆で行くとまゆに悪い気がする。
山寺さんに残ってもらうって言うのも尿意の大きさからして酷だし、私が山寺さんの様子を見ていられなくなるのも勿体無い。
せめて、まゆが戻ってくるのを待てば――
「ひとみー! 食料とか調達してき――たんだけど?」
突如山寺さんを呼ぶ声が聞こえてきた。
山寺さんをひとみと呼ぶくらいの仲の人。私は視線をその人物に向ける。
初めに目に付いたのは、お面、金魚、ヨーヨーをはじめとする祭りの戦利品。
「なんで狼さんが居るわけ?」
少しきつい態度、それに毛先にウェーブの掛かったセミロングの髪。
「ひとみ、ボクが居ない間に此処のテーブル、随分賑やかになったね」
テーブルにたこ焼き、焼きそば、カキ氷を置きながら、なぜか私に視線を向けて言う。
「ま、鞠亜……1時間くらい探検してくるとか行ってなかったっけ?」
彼女の名前は霜澤 鞠亜(しもざわ まりあ)。
新聞部部長で、私に“一匹狼の雛さん”と言うあだ名を付けた人物らしい人。
――と言うかこの人、ボクっ娘だったのか。可愛いかも。
「探検は終わりっ! 殆ど見て回ったし、ひとみの用意してくれた商品交換権も使い切ったし!」
商品交換権ってなんだろうと疑問に思ったが、さっきからこの辺りの人たちがそれらしきものを持っているのを何度か見た。
どうやら、型抜きの報酬が現金ではなく、他の出店で使える商品交換権らしい。
恐らく、予め他の店と連携を取っていたのだろう。
『あ、あれ? なんだろ、この空気。さらにお手洗いに行き難くなっちゃった……』
そう『声』にだす弥生ちゃんの身体が左右に小さく揺れ動く。可愛い……けど、そろそろ余裕がなくなってきてる。
どうにかしようと、私は口を開く。
「……あの――」「何? 狼さん。今ボクとひとみが話してるんだけど?」
私の言葉を遮るようにして、高圧的な態度で言う。
朝見さんの態度と少し重なるが、こっちはもっと直接的で感情的……。
言い返す隙こそ朝見さんよりはありそうではあるが、私の性格上無理だ。
25
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-?
:2014/04/17(木) 19:40:50
「ちょ、ちょっと! さっきから何なんですか!? 雛さんに失礼です!」
余りの態度に見かねた弥生ちゃんが抗議してくれる。
だけど――
「どうして? 関係ない子は黙っててよ」
「っ! 関係なくなんてないです! 雛さんは友達だもん!」
それを聞いた霜澤さんは目を丸くさせる。
「鞠亜、一応言っておくけど、私も雛倉さんとは友達だからね」
……なんだろう、凄く嬉しいんだけど、私が一番恥ずかしい思いをしてる気がする。
「な、なによ……ボクが悪いわけ?」
「あだ名の命名も含めて明らかに鞠亜が悪いよ」
「え? あの厨二臭い二つ名みたいなのってこの人が考えたんですか?」
「ぐっ!」
――なんだか、霜澤さんが可哀想になってきた……。
厨二臭いと言われて恥ずかしかったらしく、顔を赤く染めて……。
歯を食いしばるようにして少し涙目で悔しがるその姿は……うん、可愛い。
しばらくそんな態度をしていたが、黙ってまゆが座っていた席に座る。
まゆの席だと言うことを伝えようかと思ったが、もともと先に居たのは霜澤さんの方だし……まゆ、ごめん。席なくなったよ。
『うーん、トイレにたつタイミング……やっぱこの前の事もあるし言い出し難いな……』
『まずいよ……お手洗い、早く言わないと間に合わなくなっちゃう……』
二人とも良い『声』。
だけど、弥生ちゃんの方は本当に危ないかもしれない。
言い出すのを待っていたら手遅れになる可能性もある気がする。
難しい顔をしながら型抜きをする弥生ちゃん。
良く見るとほんの少しだけ身を捩る仕草が見て取れる。
あの時――――科学の実験の授業の時のこと――――の様子を合わせて考えると、
此処まで仕草に出てしまう状況は、弥生ちゃんにとって結構危ないところまで来ているように感じる。
26
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑪
:2014/04/17(木) 19:42:05
――仕草を見せないように必死になってるなんて、凄く可愛い……だけど……。
『んっ! あぁ、だめ、どうしよう……もう我慢できないかも……言わなきゃ……』
弥生ちゃんの手はいつの間にか止まり、下を向いたままとなる。
――だめだ、これ以上見てられない。
そう思った時、隣の霜澤さんが機嫌悪そうにしながら、テーブルに置かれたカキ氷の氷を右手で掴む。
私はその行為にどういう意味があるのか考えたが、すぐに答えを出すことが出来なかった。
謎の行動をする霜澤さんに視線を向けていると、急に、でも音を立てずに立ち上がった。
そして、霜澤さんの視線が弥生ちゃんに向けられていることに気が付いた。
――っ! まさか……。
霜澤さんが弥生ちゃんの後ろへ回り込む。
我慢と作業に集中してる二人は気が付いてない。
私は霜澤さんを止めるため、慌てて立ち上がり、同時に声をだした。
「ちょっと! 霜澤さん!」
私の珍しく焦った声に、弥生ちゃんと山寺さんが驚いた表情で私を見る。
「残念でしたー♪」
弥生ちゃんの背後に居る霜澤さんは、得意げな顔を見せてすぐ、弥生ちゃんの浴衣の襟を首筋が見えるように左手で引っ張り、その中へ右手を入れた。
「えっ!? ひ、ひにゃっ!」
カキ氷の氷を不意に入れられ、その冷たさに背中を逸らしながら、小さく可愛い悲鳴を上げる弥生ちゃん。
凄く可愛い……でも――
「んっ! あっ! あ! あぁ……!」『あぁ! ダメぇ!』
【挿絵:
http://motenai.orz.hm/up/orz33972.jpg
】
逸らした背中は直ぐに顔がテーブルに触れそうなくらい前のめりとなり、
さっきの悲鳴とは、全く別種の焦りを含む声を発する。
身体はプルプルと震え、テーブルの下に隠れた手は、恐らく大切な部分へ添えられている。
不意を付いた尿意の猛攻――それに必死に抗う弥生ちゃんの姿に、私は立ち上がったまま、生唾を飲み込み、見入ってしまっていた。
「……え? ちょっと、なに? 大丈夫なの??」
霜澤さんは氷を背中に入れた直後こそ笑っていたが、焦りを含んだ悲鳴に変わった弥生ちゃんを見て異常に気が付く。
そして、数秒の後、弥生ちゃんの予想外の反応に心配する声を出し、肩を掴んで隣にしゃがみ込む。……意外と優しく面倒見の良い性格なのかも知れない。
「あぁ……んっ! やぁ……」『ダメ……も、もう、溢れっ――あぁっ!』
「あ……、もしかしてトイレ我慢してたの?? ご、ごめん……我慢してよ?」
デリカシーの欠片もない言葉。
でも、霜澤さんがそんな気遣いをする余裕が無いくらい焦っているのもわかる。
状況をある程度理解できてしまったからこそ、自分のしたことがどれほど大きな失敗だったのか……。
27
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑫
:2014/04/17(木) 19:43:08
「ぁ……」『だめ……もう、我慢、なんて出来な――あぁ! やぁ……』
霜澤さんの言葉に答えるように大きな『声』を出して、身体を大きく震わす。
「え? 嘘……」
弥生ちゃんのすぐ隣に居た霜澤さんが足元を見て、信じられないものを見るような顔で、二歩、三歩と後ずさる。
……音は聞こえないけど、私はすぐに理解した。
――我慢……できなかったんだ……。
「篠坂…さん……」
隣に座っていた山寺さんも名前を呼ぶも、どう声を掛けていいかわからないらしく、言葉が続かない。
私は……弥生ちゃんの尿意を知っていながら……。
決して私は悪くないはずなのに、知っていたということが微かに罪悪感を残す。
こんなに周りが騒がしいというのに、私達のテーブルでは弥生ちゃんの小さな嗚咽と息遣いしか聞こえてこなかった。
なんて声を掛ければいいかなんてわからないけど、そんな沈黙に耐えかねて、私は口を開いた。
「……えっと、弥生ちゃん?」
すると弥生ちゃんは大きく肩を跳ねさせる。
私は、気の利いた言葉をなんとか出そうともう一度口を開こうとした時――
<ガタンッ>
勢い良く弥生ちゃんが立ち上がる。
同時にテーブルの下で雫が落ちる音が微かに聞こえた。
そして、その音が止まぬうちに、弥生ちゃんは踵を返し、走り出した。
「……え、ちょ、ちょっと! っ!」<ブチ>
私は追いかけようと、足を踏み出すが、下駄の鼻緒が切れて、バランスを崩す。
「わっ! ちょっと、綾!」
丁度目の前に居た、霜澤さんが私を受け止める。
私の目は、まだ弥生ちゃんを捕らえていて、同時にもう一人タイミングのいい所に来た人に気が付いた。
「ま、まゆ! 弥生ちゃんをお願い!」
「へ?」
当然なんのことかわからず、弥生ちゃんはまゆの隣を駆け抜けていった――
が、まゆが目で弥生ちゃんを追ったことで、浴衣の後ろが水色から紺色に変わっていることに気が付いた。
「あ〜、うん、了解ー!」
察してくれたらしく、弥生ちゃんの後を追って人ごみの中へ消えてゆく。
28
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑬
:2014/04/17(木) 19:45:14
――まゆ、頼んだよ……。
私は、弥生ちゃんの事をまゆに任せて、とりあえず椅子に座ることにした。
下駄の鼻緒が切れたなんて……妙なタイミングで不吉なことが起きてくれる……。
それと気になることが――
――「わ、ちょっと! 綾!」――
つい今しがた、私を呼んだ霜澤さんの台詞。
――“綾”? 霜澤さんが私を“綾”って呼んだ?
“一匹狼”とか“狼さん”なら判る。でも何故私を“綾”だ何て呼び方……。
私は怪訝な顔を霜澤さんへ向けた。
その視線に気が付いてか、霜澤さんは視線を逸らして機嫌悪そうに言う。
「な、なに? ……ボクが悪いの?」
どうやら、弥生ちゃんのことでまだ頭が一杯らしい。
それに、咄嗟の場面だったし、自身が口走ったことも確り覚えていないのだろう。
でも、まぁとりあえず――
「……悪いと思う」
「……」
呼び方の事はとりあえず置いて置くことにして、私は率直な答えを口にする。
それを聞いた霜澤さんは、下を向いて押し黙る。
……。
「……でも、知らなかったんだし……仕方がないとも思う」
私の続けた気遣いの言葉の裏には、我慢していたことを知っていた私の自責の念があった。
視線を軽く霜澤さんに向ける。
霜澤さんは視線を斜め下に落として気不味そうにしていた。
「……今度会ったとき、謝ろう。私も一緒に付き添うから」
「っ!」<ガタンッ>
――ん? あれ? 何だろう?
霜澤さんは突然立ち上がり、目を見開いて私を驚いた表情で見る。
そして、その目はすぐに細められ、何故か怒りを含む目で私を睨んだ。
「嘘つき……」
――え?
「ちょっと! 鞠亜どうしたの?」
「え? ……あ、――ご、ごめん…ボクもう帰る」
霜澤さんはそう言うと山寺さんの手を掴んで踵を返す。
「え、あ、型抜きが! それに――」『と、トイレに行きたいんだけどっ!』
私はただ、その姿が人ごみに消えてゆくのを眺めていた。
つづく。
29
:
事例の人
:2014/04/17(木) 19:52:21
前スレ920さんが弥生ちゃんが好きと言ってくれたのでまずは弥生ちゃんにスポット当てました
メイン回ではないけど前編のヒロインポジなので許して
30
:
名無しさんのおもらし
:2014/04/19(土) 21:37:53
いつの間にか良作が
31
:
名無しさんのおもらし
:2014/04/21(月) 22:48:34
久々に以下略
32
:
名無しさんのおもらし
:2014/04/24(木) 10:12:03
やはり弥生ちゃん可愛い!
わざわざありがとうございます
会長さんに期待
33
:
名無しさんのおもらし
:2014/05/17(土) 20:47:26
__ /: : : : : : : : : : : (
〈〈〈〈 ヽ /: : : : ::;:;: ;: ;:;: ; : : : ::ゝ
〈⊃ } {:: : : :ノ --‐' 、_\: : ::}
∩___∩ | | {:: : :ノ ,_;:;:;ノ、 ェェ ヾ: :::}
| ノ\ / ヽ ! ! 、 l: :ノ /二―-、 |: ::ノ
/ ● ● | / ,,・_ | //  ̄7/ /::ノ
| ( _●_) ミ/ , ’,∴ ・ ¨ 〉(_二─-┘{/
彡、 |∪| / 、・∵ ’ /、//|  ̄ ̄ヽ
/ __ ヽノ / / // |//\ 〉
(___) / / // /\ /
パンチラ
パンチラの書き込み超最高!! マジで復活希望!!
34
:
名無しさんのおもらし
:2014/05/28(水) 19:47:56
前スレより落ちてる……ので一応age
35
:
名無しさんのおもらし
:2014/05/29(木) 04:42:37
続いてるスレ平気で落としたかと思えば
とっくに1000超えてるスレや荒れてしかいないスレを平気で残してたりするし
前スレが1000超えても使えるしで管理人の基準もでたらめだし
単独スレになってるところもあるしで
あんま新スレの意味ないよな
36
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-①
:2014/06/01(日) 00:26:13
下駄の鼻緒が切れてしまったので大して動けず、まゆも待たなくてはいけないため
ぼんやりと山寺さんと弥生ちゃんが彫っていた、大して美味しくもない型抜き菓子を出来の悪い順から頬張っていた。
……こんなに美味しくないなら、商品交換権へ交換できるものはしてしまった方が良いかも知れない。
――にしても、霜澤さんのあの態度……凄く気になる。
私を“綾”と呼んでいたし、もしかしたらどこかで会っているのかもと考えたが、
記憶の中に彼女を見つけ出すことは出来なかった。
それに顔見知りだと言うことを黙っている理由も良くわからないし……。
ただ単に、仲良くなる前の弥生ちゃんと同じ様に、心の中での呼び方が違っただけなのかも知れない。
そう考えた方が自然……だけど――
<♪〜〜〜>
思考を遮るように私の携帯が鳴る。私は相手が誰なのか確認する。
――……まぁ、まゆだよね。
想定通りの相手に、確認後、間をおかずに応答する。
「もしもし?」
「あ、あやりん? ……えっとね――」
まゆは少し言い辛そうに言葉を濁す。
……。
「弥生ちゃん凄く泣いててさ……戻ろうって言っても首横に振るし、今はまだあやりんに顔合わせれないって…さ」
「……うん、そう…なんだ……」
「でさ……あやりんには本当に悪いと思うけど……私、弥生ちゃんを家まで送って行こうって思うんだけど……」
「……私はいいよ、弥生ちゃんをお願い」
「ホントにごめん、私が誘ったのに……もう夏休み中は無理かもだけど、また三人でどこか行こう?」
「……ん、期待してる」
「それじゃ、切るよ」
「……またね」
電話が切れる。
37
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-②
:2014/06/01(日) 00:27:46
――はぁ……。
“一匹狼の雛さん”……たしかに今は一人か。
なんだかその二つ名見たいなあだ名が妙に胸に突き刺さるので、この状況を早急に打破すべく私は浴衣の袖に入ったメモを取り出す。
メモに書かれた番号を、携帯に打ち込む。
最後に通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
「――電波の届かない所にいるか電源が――」
――なんでよっ!
連絡して来いって言っておいて、この仕打ち。
皐先輩には悪いけど、下駄もこの状態だし、連絡付かないならもう帰ってしまおうかと考える。
――と言うか、トイレにも行きたいし……。
なんにしても下駄がコレだと何をするにも面倒くさい――どうしよう……。
しばらく悩んでみるが、状況を好転させる方法が思いつかない。
雪姉に連絡しようとも考えたが、折角友達と楽しんでるはずなのに邪魔するわけにも行かない。
「はぁ……」
「綾、どうしたの?」
っ!
懐かしい声、そして私を綾と呼ぶものはそんなに多くはない。……だけど、振り向くまではその声の持ち主が誰なのかわからなかった。
そして、振り向いてしまえば、それは声の印象と同じく、懐かしい相手。
「……椛さんっ!」
「えー、一応先輩なんだけどー?」
少し不満そうな顔で返す。
「あ、……紅瀬先輩って呼べばいいのかな?」
「うそだよ、昔のままでいいよ、くすぐったいしー、“椛さん”でも一応丁寧だし」
くすくすと笑いながら返す。……やっぱり可愛い。
そして、相変わらずの背の低さ。……これも可愛い。
『あー……しまったな…トイレ行きたかったのに、つい話しかけちゃった……』
っ!
これって椛さんの『声』だよね?
しかもそこそこ大きな『声』。
少なくとも私よりは我慢してそうな感じ。……最高に可愛い。
――弥生ちゃんがさっきあんなことになったって言うのに私は……。
好きなものは好きだし、可愛いものは可愛いし、仕方がないけど……。
そう思いながら私は型抜き菓子を一口頬張る。うーん、微妙な味。
「で? なにしてるの? 型抜き菓子なんて美味しくないでしょ?」
私が美味しくなさそうに食べてるのを見て呆れ顔で尋ねる。
「……えっと、なんて言えばいいのかな? 置いていかれた的な感じと言うか……、それに――」
私は話すのを止め、鼻緒が切れた下駄を履いている方の足を、椅子から横に伸ばして、椛さんにも見えるようにする。
「あーうん、こりゃ歩くのきついね……にしても、置いていかれたってこんな状態でとか酷くない?」
椛さんは少しムッとした顔で周囲を見渡す。
別に私を置いていった人がまだ近くに居るだなんてこと思っては居ないのだろうけど、そういう仕草で私に“お姉さん”を見せているみたい。
実際姉御肌ではあるんだけど、背が低いことや、幼児体系を凄くコンプレックスに感じているから
少し大げさにでも、お姉さんぶりたいのかも。……そういうところも可愛いと思う。
――昔から全然変わらないな……。
私は見えないように少し口元を緩めた。
38
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-③
:2014/06/01(日) 00:29:11
「……まぁ、事情があるし、鼻緒が切れたこと知らないから仕方がないよ」
あえて、山寺さんと霜澤さんのほうの事情は話さない。――というか、私も良くわからないから説明できないし。
「ん、そっか……」『トイレ……どうしよう。折角久しぶりに話してるのに、綾を置いていくのもな……』
良い『声』なんだけど――……ちょっと気を使わせちゃってる。
折角だし『声』を聞いて楽しみたいけど、気を使わせてるのに……ちょっと後ろめたさが残る。
それは思いやりだなんて大層な物じゃなく、私の都合だけど……。
私がそうやって悩んでいると――
「はぁー、隣座るよ」
答えを出す前に椛さんは嘆息しながら隣に座った。
……対面じゃなくて良かった。
「実は私もちょっと困っててね……人探しなんだけど、探すの面倒でさ」
どうやら、誰かを探しているらしい……。
……。
「……それ、皐先輩ですよね?」
「ん……そうだけど…あれ? 会長と知り合いなの?」
私の口から“皐先輩”と言う名詞が出たのが意外だった様で、疑問と驚きの顔を同時に見せた。
「……まぁ…ちょっと、生徒会への勧誘をされてて……」
「っ!」
驚くかもしれないとは多少思っていたけど、予想以上に驚いてる。
少し疑問に感じながらも誤解を与える前に続けた。
「……でも、今のところは入ろうだなんて思ってないけど」
「へー、そうなんだ……会長も二人に振られそうだなんて大変だね」
――二人?
一人は当然、生徒会に入る気がないと言った私。
……本当の事を言えば、少し迷ってる。このまま行けば入らないだろうけど、状況が変わればあるいは――
それに加えもう一人……皐先輩は私以外に誰かを誘っているということ。
「まぁ、同じ1年でしょ? 一緒に入ってみたら? 私も推すよ」
「……というか、そのもう一人が誰か良くわからないんだけど……」
なんだか、勝手に知り合いだと思われてるらしい……気になる。
椛さんはもう一人は誰なのか知っているってことかもしれない。
「え? そうなの?」
また意外そうな顔をする椛さん。私はその問い掛けに首を立てに振る。
39
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-④
:2014/06/01(日) 00:30:09
「んー、私も良くわからないけど、長い黒髪の子だったけど……
私が見たのは……えっとあれは1年が見学会の時かな?
皆が帰った後ひとり校門辺りで立つ後姿だけだし、誰かまでは良くわからないけどね」
……。
私はその条件に該当する人を一人しか知らない。
違う……断言できる。
間違いなく朝見さんだ。
――でも、どうして? それに振られそうってことは朝見さんも入る気はない?
そしてなにより、皐先輩は私と同じクラスの人を誘うのに、なぜそのことを私に伝えない?
……考えるだけ無駄だ。
朝見さんを誘う予定が最近決まったのかもしれない。
いくらだって説明の付く仮説はあるから。
『ん……困ったな…、歩き回って喉乾いてたから、ラムネ2本も飲んじゃったし……結構溜まるの早いな……』
……無駄なことを考えるより、今は余計なことを考えず楽しむべきかもしれない。
ただ、弥生ちゃんみたいに沢山の人に見られる可能性のある場所で失敗されるのも考え物だけど。
「……もう一人の生徒会候補はなんとなく予想は付きました……にしても皐先輩居ませんね」
とりあえず生徒会候補生の話をぶつ切りした。大分無理やりだけど気にしない。
「だね、携帯は電池切れっぽいし……」『どうしよ、なんでもない振りしてトイレに行こうかな……』
……。
「……そういえば奥のほうから来た人が、金髪の浴衣姿の人見かけたって言ってたかも」
――嘘だけどね!
なにか話に動きがないとトイレに立ってしまいそうだし……ちょっと故意にしてるのは気が引けるけど。
「え、じゃあ、行って――…みようと思ったけど、綾はどうする?」
「……どうするって……あっ」
鼻緒が切れた下駄……これが一番問題だった。
「お姫様抱っこでもして欲しい?」
――っ!
突然の台詞に吃驚した――が、私をからかう冗談らしく視線を向けるとニヤニヤと笑っていた。
「……そうしてもらおうかな?」
その顔を見て私も少しニヤつきながら冗談を返す。
「本当にやっちゃうよ?」
……それは困る。私は体を引いて首を振る。……ていうか、冗談だと思うけど真顔で言わないで欲しい。
「まぁ、抱っこは冗談だとして、肩くらい貸すよ。そこの射的の景品に派手な下駄があったから行ってみよー」
そう言うと、私に確認を取る間もなく、肩の押し貸しをしてきた。
――そっか、まゆって少し椛さんに似てるのかもしれない。
40
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑤
:2014/06/01(日) 00:30:54
――
――
「あぁ! もう!」『トイレにも行きたいし!』
射的屋に到着してもう15分くらい経っただろうか?
山寺さんと弥生ちゃんが残してくれた型抜き菓子を射的券に交換したが券はあっという間になくなり
現金を二千円を使い果たしたところ。
ちなみに全部目当ての物には当たっているけど落ちないだけ。
周りにも5〜6人の見物客が集まる始末。
『どうしよう……トイレ……こんなに見物客が居る中でどうやって抜け出せば……』
そして、再度5発分の弾を貰い撃ち始める。
『んっ……じっとしてなきゃ…我慢してるの周りにバレちゃう……』
そんな『声』を出しながらも、今度もすべて命中。でも落ちない。
当たり所だって悪くない。同時に撃つなりしないと物理的に厳しいのかもしれない。
……この状況凄く悪い。流石に見かねて助け舟というか、本音も込めて私は口を開いた。
「……もういいよ、諦めよ? 流石にそんなにお金出してもらうの悪いし……」
少し前に私がお金を出そうとしたら、「先輩を立てるべき」などと言って断られたが流石にこれ以上は……。
椛さんは、私の言葉を聞いて不満そうな顔で答えた。
「じゃあ、下駄どうするの?」
私は言葉に詰まる。確かに下駄は欲しい……。
そんな私を見て、椛さんはさらにお金を店主に払う。
「……もう、待って……私も撃つから」
本当はこんな見物客が居るのに目立つようなことしたくないって言うのが本音だけど。
私も銃を持ち椛さんの弾を一つ貰う。
――ああ、視線が痛い。
唯でさえ銀髪に黒の浴衣とか目立つ格好なのに……。
「それじゃ行くよ!」
別にカウントダウンを始めるわけでもなく、椛さんは銃を構える。
私も同じように構え、椛さんの微妙な身体の弛緩に注意を配り、引き金を引いた。
<パシュッ>
コルク弾が発射される時に聞こえる独特の乾いた音が同時に二つ聞こえた。
直後、周囲からちょっとした歓声が上がる……なんで射的だけでこんな目立つのか……。
一応上手く行ったことに私は安堵する。
隣にいる椛さんは大きく嘆息して、私以上に安堵しているみたいだ。
『よかった……これ以上我慢し続けるのは辛かったし、財布も……』
店主が持ってきた戦利品の下駄に早速履き替える。
……凄い派手。
41
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑥
:2014/06/01(日) 00:31:50
「あ、えっとさ、綾?」『流石に…ね』
一度言葉を止めて言い辛そうに視線を逸らしながら、再び口を開く。
「い…入り口の方に行こうか」
「……あ、うん」
結局トイレに行きたいとは言わない。
普段からこんな感じだと、凄く苦労してそうだけど
やっぱり、久々に話したし、特に私に対しては、“お姉さん”でありたいのかもしれない。
だから、尿意の告白なんて弱みのようなものを見せたくない……そう感じているのだと思う。
でも、私が奥に皐先輩が居たって言ったことは完全に忘れてる。
しばらく並んで歩く。
視線だけで様子を見てみるが、見た目上変わったところはない。
前屈みでも無ければ、歩幅が小さいなんてこともない。
――まぁ、『声』の大きさから考えても、仕草を隠すくらいの余裕はまだまだありそうだったし。
「あ……」『嘘?』
突然、椛さんは足を止めて信じがたいものを見たときのような『声』を上げる。
私も足を止めて視線を前方に向ける。
『も、もしかしてあの行列ってトイレ待ち?』
長蛇の列――と言うほどでもないが、結構な長さの列。
どうやら仮設トイレにありがちの故障があったらしく、使えるトイレが3つほどしかないらしい。
それに、多くの人が浴衣姿であることを考えると、見た目以上に時間が掛かるかもしれない。
『し、仕方ないか……多分大丈夫だと思うし……』
椛さんは少しだけ不安な顔をしながら、さり気なく下腹部を擦る姿を見せた。
「あ、綾……トイレ行きたくない?」
此処まできて、自分から行きたいと言わないとは……。
「……そうですね、椛さんは行きたくないんですか?」
私は本音を「声」として聞きたくてつい出来心から意地悪な台詞を口にする。
「え? ……あ、――ちょっと行きたいし…綾が並ぶなら並ぼうかなって……」『我慢してるのバレてる? そんなこと…ないよね?』
はい、バレてます。
でも、もう十分楽しんだし、今から並んでもそれなりに楽しめるはず。
「……皐先輩も見つからないし、とりあえず寄ってこうかな」
「そうね……」
そう言って私達は仮設トイレの列の最後尾に並ぶ。
椛さんは自分からトイレに行きたいと言わなかったので当然私の後ろへ並ぶ。
そういえば、祭りに来たすぐと違ってフォーク並びになっていた。
並ぶ人が増え、途中で故障したことで、皆の意識が変わって自然とそういう流れになったのかもしれない。
42
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑦
:2014/06/01(日) 00:33:08
私は身体を少しだけ列の外側へ傾けて、前の様子を伺う。
人数にして15人程度。だけど、やっぱり進みは遅い。
それでも、30分もすれば十分個室へたどり着けるだろう。
それくらいなら私は余裕だし、未だ大きく仕草に出して居なくて
『声』も会った時から比べ、多少大きくなった程度の椛さんも、間に合うと思う。
間に合うと言っても、『声』でラムネを2本飲んでいると聞いたので、
良い仕草を見せてくれるところくらいまでは、追い詰められるとは思うから十分満足だけど。
列がほんの少しずつ前に進んでゆく。
『……はぁ、結構掛かるな……まだ我慢できると思うけど…うぅ、ちょっと不安だな』
――え……不安?
椛さんが意外な『声』を出す。
私の分析だと十分間に合いそうな気がするんだけど……。
ただ、過度に心配しているだけなのか、仕草を見せてしまうことも危惧してのことなのか。
まぁ、どちらにせよ私にとっては良いスパイスになってくれる。
一人、また一人、私達の目指す先である仮設トイレから人が出てくる。
そのたび、一歩また一歩と仮設トイレに近づく。
――あと8人……か。
ふと気が付く。今まで椛さんの『声』にばかりに気を配っていたけど、此処はトイレの行列。
個人に向けてでなく、周囲にも感覚を向けると、列に並ぶ人は皆、少なからず『声』を出していた。
『あぁ、時間掛かるなートイレいきたーい』
『まだかな? 我慢できないこと無いけど……』
『おしっこしたい……はぁ、もっと早く並んでおくべきだったか』
良い『声』。
だけど、やっぱりまだまだ小さい。
私はさり気なく左手を首の後ろに回して右側にある髪を首元に押さえつける。
そして、自身の右肩越しに後ろに視線を向ける。
「はぁ……」『大丈夫、まだ大丈夫……』
下を向き腕を抱くようにしてじっとしている椛さんが瞳に移る。
『声』の大きさはさっきから殆ど変わっていないけど……なぜか不安は大きくなっている気がする。
尿意の大きさが変わってない以上、列が進み確実にトイレを済ませるまでの時間が短くなっているはずなのに……。
「……ぁ」
耳を澄ましていなければ聞き逃してしまいそうなほど小さな声が椛さんの口から発せられた。でも――
『やぁ、嘘? もう来ちゃうの……だって、まだこんなに並んで……』
直後に聞こえたその『声』は今までとは比べ物にならないほど大きかった。
身体も小さく震わして、腕を抱いている方の手は強く握り締められ、抱かれている方の手は太腿辺りまである服の裾を強く掴んでいる。
43
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑧
:2014/06/01(日) 00:34:02
――え? も、椛さん??
おもらしをしてしまう前に聞くような『声』の大きさや仕草に一瞬驚くが、直ぐに理解できた。
こういう人に今まであってきたこともあるし、よくよく思い出せば椛さんの『声』を初めて聞いた時もそうだった。
あの時はこんな趣味持ってなかったのでうろ覚えだけど……。
きっと椛さんは括約筋が人より弱いのだと思う。
膀胱の内圧は徐々に上がっては行くけど、ある一定量を超えると急に上がる傾向がある。
その後に来る尿意の波は括約筋が弱くなくても辛い。
現に限界まで我慢した後に来る尿意は、括約筋が弱ってしまい我慢し辛い……と思う。
『やだ……此処じゃまだ……我慢、我慢しなきゃ!』
焦る『声』に私は前を向き残りの人数を確かめる。
――1、2…――まだ4人も……。
「あ、綾……」
「え?」
突然後ろから声を掛けられて吃驚して振り向く。
「あ、その……順番回ってきたら…先に、入っても…いい?」『恥ずかしいけど……もう、猶予が……あぁ!』
少し前屈みになって必死にそう言う椛さんを見て、私は目を丸くする。
そしてその裏では必死に波に抗う『声』も聞こえて……。
『お、治まってよ、ホントにもうっあ! やぁ!』
何も喋れずに椛さんを見ていると、両手がジーンズの前に添えられた。
添えられたというより、片手は大切な部分に指を差し入れ、その上からもう片方の手で力を込めて押さえつける。
「うぅ……」『ちょっと、でちゃっ――だ、だめ…まだ、離せない……』
真っ赤な顔をして、目に貯めた涙を必死に零れないように目を細めて羞恥に耐えてる……可愛い。
――って! どうしよう? 波をやり過ごせばまたしばらく大丈夫だとは思うけど……。
間に合う? 後4人……。
「はぁ…はぁ……ぁ…あはは、い、今のオーバーリアクションって奴だからね!?」『やっと…ちょっと治まった……でも…もう間に合わないかも…やだよ、そんなの……』
波を何とか乗り越えて身体を震わしながらも、手を大切な部分から離して何でもないと言い張る。
でも、押さえていた部分は僅かに濃く変色していて……椛さんはそのことに気が付いてない様子……可愛い。
でも、きっとこのままじゃ間に合わない。
そう遠くない未来、絶対に決壊する。
もう並んでも10分も掛からないはずだけど……連れ出すなら今しかない。
44
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑨
:2014/06/01(日) 00:35:13
「……椛さん…行こ!」
「え? あ、ちょっと!?」
大切な部分から離されていた椛さんの手を、私は半ば強引に手首から掴み、列を抜け出す。
「あ、綾っ! なにしてっ……コレじゃまた並ぶことに…?」『ダメ……間に合わなくなっちゃう! 早く、トイレに…な、なんなの??』
「……いいから!」
混乱してる椛さんにあえて何も言わない。
言ってしまえば、列に戻るって絶対に聞かない気がして……。
屋台の隙間を抜け、薄暗い草木が並ぶまさに“する”には恰好の場所へ到着する。
「……ここなら多分バレないから……見張ってますから済ませて下さい」
「え? ……それって……」『私が我慢出来そうにないから、ここでしろってこと? ……そんなのって……』
「出来るわけないじゃない! こ、こんな所でっ…ぁ!」『あ、またっ! だめ……駄目なのにっ……』
小さな悲鳴を上げた後、我慢できないほどの波に切羽詰った焦りの『声』を上げる。
「……して下さい! 本当に間に合わなくてもいいですか!?」
私はあえて強く言い放つ。
「で、でも……私は『先輩なのに』……こんな『綾の前で』……外でなんて……」
「……おもらしなんてしたらもっと恥ずかしいですよ……」
私は見張るために後ろを向いたまま言った。
椛さんのプライドを守るために、プライドを傷つける言葉を……。
「っ……」『そうよ……綾の言う通り、もう間に合わない…っ だ、だったら……ここで……』
私は胸を撫で下ろす。
最悪の事態は避けられそう。
あとは……見てみたい。
限界まで我慢した椛さんの姿を。放出する瞬間を。
――ふ、振り向くべき? こっち向きながらしてるなんてこと……ないよね?
撫で下ろした胸が今度は鼓動を早くする。
そして、振り向きたい衝動を抑えきれず、恐る恐る振り向く。
「ぁ…あれ?? ちょ…なんで?」『ど、どうしてこんな時に! っ! 駄目…お願いもう少しだけ……』
様子がおかしい。
椛さんは後ろを向いていて、何やら下腹部辺りを手で抑えてるように見える。
「な、なんで下りないっ、あぁ!」
――下りないって……っ! ま、まさかジーンズのファスナー?
凄く既視感を覚える。
それもそのはずで、ほんの数日前に夜中で歩いた時、見かけたOLのお姉さんがまさに同じ状況だった。
「やっ! だ、だめぇ……」『待って! もう少しだけ……』
私はどう考えても危ない状況に見張りをやめて、踵を返した。
45
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑩
:2014/06/01(日) 00:36:24
「……椛さん! だ、大丈夫?」
駆け寄っていくと、椛さんは左手で大切な部分を押さえ込んで、右手でどうにかファスナー下ろそうと必死になっている姿のまま振り向く。
「ぁ……あ、綾っ…ファ、ファス、ナ…が下りなくてっ、ダメ…もう」『もう、出ちゃう出ちゃう!』
「……ま、待って! 椛さん! 我慢して、私が何とかしてみるからもう少しだけ我慢してっ」
椛さんは直ぐに決壊寸前まで我慢した尿意を抑えるため、右手も大切な部分へ添えられる。
私は椛さんの前で膝を付いてファスナーに手を掛ける。
でも、上げても下げても全く動かない。
「あぁ! や……」『ダメ……ダメェ……』
――っ! もう間に合わないの?
切羽詰った声と『声』に合わせて、目の前で抑え込まれたジーンズに染みが少しずつ広がっている。
私はそれを見て顔が熱くなるのを感じながら、手に力を込める。
「あっ…! だ、ダメ押さないで…揺らさ…ない……でっ……」<ジュウ……ジュ…>
声とジーンズの抑え込まれた部分から聞こえる音に、私は慌てて手に込める力を緩める。
溢れ出た熱水は抑え込んだ手の隙間から雫をひとつふたつと落とす。
そして、その独特の匂いが私にまで届く。
「(でちゃう…おしっこ、出ちゃうっ……)」
独り言の様に心の中で言わなければいけないはずの台詞を私にも届く程度の小声で零す。
身体の大きさも合わさり、本当に子供のように――いつものお姉さんキャラは見る影もない。
椛さんの今の辛さが伝わってくる。
間に合わない……いや、もう間に合ってないのかもしれない。
それでも私は、余り下腹部を刺激しないように懸命にファスナーを下げようとする。
だけど、ジーンズと密着している下腹部の硬さはどうしても手に感じてしまう。
充満している硬さではなく、筋肉が収縮し排出を促しているであろう硬さ……。
この尿意に耐えながら椛さんは――
「――っ! お、下りた!」
何度か上に下にファスナーを動かそうとしていると、外すことができた。
「っ! う……あぅ……」
苦しそうな声を出し、右手をジーンズのウエスト部分持って行き脱ごうとするが、
少し下がって大人っぽい黒の下着――――コレはコレで良いギャップ――――が少し顔を出すだけで……。
足を開かず、手で押さえ、そして少し濡れてしまっているフレアジーンズでは例え両手でも脱げるわけもない。
私はそんな姿を見て、脱ぐのも手伝おうかと一瞬考えたが、直ぐに椛さんは後ろを向く。
ほんの少しの小さなプライドがそうさせたのかも知れない……だけど――
「やぁ……」『もう…だめ……』
<ジュッ! ジュィィーー>
ジーンズを股下程度まで何とか下げたところで椛さんは恥ずかしい音を立てて、直ぐにその場に膝を付いて屈みこんでしまった。
私から見えるのは真っ黒な下着から恥ずかしい熱水が迸り、
その大半がジーンズに一度染みこみ、保水性の限界を超え滴り、その雫で地面を湿らせる……そんな椛さんの姿。
「んはぁ……はぁ……」
震える熱い吐息がなんとも艶っぽさを醸し出して……凄く可愛い。
きっと放心状態で……終わったらどんな反応をしてくれるのだろう。
……。
――いやいや! これ終わったらどうやってフォローすればいいの!?
46
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑪
:2014/06/01(日) 00:36:59
「あれ? 綾菜さん? こんな所でなにを――」
――っ!
そして、探しても見つからないくせに、一番都合の悪い時で出てくるこの人……。
「――え? ――ぁ……ぇ? ……も、椛さん?」
屈み込んで後ろを向いている椛さんの肩が大きく跳ねる。
放心状態から名前を呼ばれることで正気に戻ったためか、耳が少しずつ赤色に染まって行くのがわかる。
「うぅ……」『だ、だめ……止まってよ……』<ジュウゥゥーッ…ジュッ、ジュー>
声を押し殺して恥ずかしさに耐え、それでもまだ完全に止められない。
断続的に聞こえるくぐもった音は、止めようとしての事だろうし、余計に今の状況が判ってしまい、より羞恥心を感じる結果となっている。
「えぇ〜と……綾菜さん…コレは――」
私に聞かれても……皐先輩も突然こんな場面に遭遇して混乱してるだろうから仕方がな――
「――前に回りこんで表情を確認してもいいですか?」
――……。
私は後ろを向いたまま答える。
「……ダメです」
本当によくわからない人……。
47
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑫
:2014/06/01(日) 00:38:26
――
――
「べ、別に私恥ずかしくないしっ!」
おもらしが終わって直ぐに立ち上がり、そして振り向いた際に言った第一声。
涙目で真っ赤な顔をしながら……強がりって可愛い。
「そうですわね〜、可愛いですよ椛さん♪」
上機嫌に答える皐先輩……私も同じようなこと思ってたけど、口に出すのやめた方がいいと思う。
「う、うるさい! もうパソコン関連の仕事してやんないよ!」
「っ! そ、それは……今後、私、家に帰れなくなってしまいますから……ご、ごめんなさい」
流石、生徒会副会長。裏方ではやっぱり一番の実力者。
「はぁ……帰るわ、私……」
気怠いそうにそう言って、とぼとぼと私達に背を向けて歩く。
「……えっと? 大丈夫ですか?」
「え? うん……余り大丈夫では無いけど、暗いし早々バレないでしょ?」
確かに辺りは暗くなり始め、遠目では全く気が付かないと思う。
弱みを見せないように強がってるんだろうけど……それを加味しても強いメンタルの持ち主だと思う。
「それと……綾、浴衣…ごめんね」
その言葉に私は自身の浴衣を見る。
別に濡れたわけではないけど、ファスナーを降ろすのを手伝った時、膝を付いていたため汚れていた。
「……別にコレくらいいいですよ」
「ん……ありがと……またね、会長もね」
そう言って私達の前から姿を消した。
「吃驚ですね……あの椛さんが…意外でした」
目を丸くさせて、今でも信じられないものを見ているような目で、もう見えなくなった椛さんのほうへ視線を向ける。
だけど、ちょっとだけ嬉しそうなのが……皐先輩らしいというかなんというか……。
48
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑬
:2014/06/01(日) 00:39:45
「それともう一つ吃驚しました……綾菜さん、椛さんと知り合いだったんですね」
「……だから椛さんに透視…使わないでくださいね」
皐先輩は私の言葉に「え?」と声を出し固まる。
そして数秒間の後、ガックリと項垂れる……そんなにショックなのか。
というか、今まで絶対『見てた』……。
「……それよりも…話って何ですか? 電池切れの先輩」
私はやや怒りを含ませた口調で問う。
皐先輩はその口調に表情を変えているとでも思ったのか、何か期待しているような顔で直ぐにこっちを向いた。
が、直ぐに残念そうにする。……そう簡単に見せませんから!
「電池切れはほんの少し前に気が付きました……不注意でしたね、すみません」
丁寧に謝った後、皐先輩は少し言い難そうに「話というのは――」と切り出し、途中で口を塞ぐ。
そして、仕切りなおすようにゆっくりと口を開いた。
「綾菜さんは朝見呉葉さんのこと……ご存知ですよね?」
今回も勧誘だと思っていたが、苦手な人の名前が挙がり、少し複雑な心境になる。
勧誘される事自体は、正直悪い気はしない。
「呉葉とは……えっと、知り合いなんです。昔からの……」
――なるほど、生徒会に朝見さんを誘っているのは知り合いだからか……。
凄く気難しい人だし、普通知り合いでもなければ誘おうだなんて思わないと思っていただけに、すんなり納得できた。
だけど……なんだろう? 皐先輩の態度に少し違和感が残る。
「それで……最近、呉葉と喧嘩とかしました?」
――っ!
その言葉に私の身体は少し緊張する。
もしかして、朝見さんは“あの事”を皐先輩に話したんじゃないかって……そう思った。
しばらく私は黙って……表情も崩さないようにして続きの言葉を待った。
「……肯定と受け取ります」
その言葉に私は少し安心した。
深い内容までは確り理解していない。そう思えた。
「結論から言うと……仲直りして欲しいのですが……ダメですか?」
「……ダメもなにも……もう関わらないって言われたから……私からは、なんとも」
「そうですね、それは呉葉から伺ってます」
「……だったら――」「でも!」
私に言うのは間違い……そう返すつもりだったが皐先輩はその言葉を遮るように小さく叫んだ。
そして、言っていいのかどうか迷った様子で話の続きをするために、再度口を開いた。
「でも……コレは内緒ですからね…実は呉葉、私に泣きながら言ったんです」
49
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-後編-⑭
:2014/06/01(日) 00:40:26
――……え?
「ですから……取り返しの付かないことをしてしまったって、もう貴方に関わる資格なんてないって……泣きながら言ったんです」
理解できていない私を察して丁寧に判りやすく説明してくれる。
……話の内容は理解できた。
だけど、意味が――頭の理解が追いつかない。
「……ど、どうして? だって朝見さんは私の事をいつも馬鹿にして、酷いことばかり言って……」
「ちゃんと言わないと判りませんか? ……呉葉は貴方の事嫌ってなんていませんよ」
――嫌ってない?
――朝見さんが、私を?
「でも、呉葉は素直じゃありませんから……一朝一夕では仲直りできないと思うので――」
私が混乱しているうちに、なぜか仲直りをする流れにされている。
……確かに、私は朝見さんの事は凄く苦手ではあるけど…別に嫌いと言うわけではない。
仲良くできるものならしてみたい……。
とりあえず、皐先輩の誘導に乗ることにして、次の言葉を待つことにした。
「次の中間テストで呉葉の順位を超えてください」
「……え? ちょ、ちょっと待って! 何でそんなこと――」
――というか無理だ。勝てるとは到底思えない。
「出来ますよ、綾菜さんなら……では、お願いしますね。二人がギクシャクしてるのは私にとっては都合が悪いんです」
頭の中を整理する前に、皐先輩は居なくなっていた。
――“都合が悪い”って結局生徒会へ私達二人を入れるに当たってってこと?
いや、それはこの際置いておくとして――仲直りか……本当に出来るの?
……。
……。
……って! トイレ行かなきゃ!
色んなことがあって忘れていた尿意が、一人になってぶり返す。
結構鋭い尿意……急いでまたあの列に並ぶために入り口付近へ向かった。
……ちなみに危なかったけど間に合いました。
おわり
50
:
「紅瀬 椛」
:2014/06/01(日) 00:49:58
★紅瀬 椛(べにせ もみじ)
3年で生徒会副会長を2年連続で務めている。
前会長が「宝月 皐子」をスカウトしていなければ、恐らく会長になっていたであろう人物。
融通が利き、発想豊かで、機転が効いて、仕事も早い。
一戸建ての頃の雛倉家のご近所さんで、小学生時代は雛倉姉妹と良く遊んでいた。
当時3人で遊ぶ時は、天然の雪、元気な綾菜、二人の面倒を見る頼れる“お姉さん”であった。
中学に入学してからは同じ学校でありながら、学年の違いに加え、
諸事情で雛倉家が一戸建てからマンション住まいになり、少しずつ疎遠になり
高校入学後は会う機会も少なくなった。
特に綾菜とは2学年差あるためなお更。
非常に背が低く、「篠坂 弥生」と同じくらい。
またスレンダーでメリハリのない体つきを気にしている。
見た目はどうしようもないので、見えない部分(主に下着)で見栄を張っているのに加え
自身が頼れる“お姉さん”であるところを無意識ながら過度に主張している。
実際頼れる存在ではあるが、“お姉さん”であることのプライドが邪魔をして
頑固になったり、自身の本来の主張を押し殺してしまうこともある。
膀胱容量は身体に似合わず平均的。
ただ、自身が我慢できる限界を遠くに見すぎていることが多々あり
限界直前の差し迫った状況に陥ってから慌ててしまう面がある。
また、括約筋も人より弱いため、危ない状況直面してからの我慢が思うように利かない。
成績並、運動優秀。
勉学自体はさほど良いわけではない。
性格は基本的にはクール。仲のいい人へは気さくでもある。そして適当(にみえる)。
ストレートな物言いで、高いリーダーシップを持ち、本当に大事なことは熱く語ることも。
綾菜の評価ではちっちゃくて可愛いお姉さん。凄く尊敬もしている。
51
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/01(日) 03:38:42
そういえば途中だったのか>後編
イラストに期待
52
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/01(日) 03:48:33
回想シーンのあだ名で呼んでたシーンが生かされるのはまだまだ先かな
53
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/01(日) 09:46:16
GJ!相変わらずの素晴らしいSSです。
54
:
事例の人
:2014/06/02(月) 22:38:26
訂正……orz
×
>中学に入学してからは同じ学校でありながら、学年の違いに加え、
>諸事情で雛倉家が一戸建てからマンション住まいになり、少しずつ疎遠になり
>高校入学後は会う機会も少なくなった。
○
中学に入学してからは同じ学校でありながら、学年の違いにより、少しずつ疎遠になる。
諸事情で雛倉家が一戸建てからマンション住まいになってからは、会える機会も少なくなった。
つなぎ方が変で矛盾が生じる所だった……
>>51-53
感想とかありがとう
次のは同時進行で書いてたので、もうちょっと早く仕上がると思います
絵も頑張る!
55
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/02(月) 22:46:23
事例の人、よそでキャラの名前だけ隠した安価ss書いたりしてた?
56
:
事例の人
:2014/06/02(月) 23:02:08
>>55
してた
57
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/02(月) 23:10:30
その安価SS詳細求む。
58
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/03(火) 04:00:42
この界隈でも別名で書いてるし
他板でもいろいろやってるね
他所で何度も活動をほのめかすのはあざといというか印象良くないけど
59
:
事例の人
:2014/06/03(火) 16:52:51
>>51
事例6後編の⑫くらいの挿絵
http://motenai.orz.hm/up/orz36617.jpg
>>57
>>58
のように思う方も少なからずいらっしゃると思うので
自己解決していただけると嬉しいな
60
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜①
:2014/06/04(水) 23:28:20
おい! そこの3人組!」
ボクは男子共を追い払い公園を占拠した3色の女子グループに突っかかる。
「また貴方ですか……」「毎度懲りないね」「え、えっと……」
金髪は呆れ気味に、銀狼は待っていたとばかりに、黒姫はおろおろする。
ボクは得意げな顔で相手側のリーダー格である銀狼に視線を向けて口を開く。
「男子どもを追い返して、公園の秩序でも守ってるつもり? 一緒に遊ぶって発想はないわけ?」
「ないですね」「だって此処に来る男子暴力的だし」「え、えっと……?」
彼女達はまた皆で言葉を返す。ボクは銀狼に言ったんだけど……。
そして、銀狼は結構痛いところを付く。確かにあの男子共は他の低学年の男女を問わず追い払ってしまうし暴力も振るう。
「た、たしかにそうだけど……だからって実力行使が良いわけないじゃん!」
対した切り返しも思い付かず、今週3回目くらいのありきたりな返し……。
「さてと、今日の理由付けは終わりかな?」
銀狼が一歩前に出て、黒姫は逆に下がる。金髪は二人の行動を確認してから一番前に出て口を開いた。
「水鉄砲は持ってきてますね?」
ボクはそう言われてスカートの中の太腿に取り付けた水鉄砲を二丁格好良く取り出す。
そして昨日必死に考えた格好良い構え、腕を前で交差させて水鉄砲を横向きにする。
そして最後に――
「ボクの“るなてぃっく――”…えっと……」
――あれ、なんだっけ?
「る…“るなてぃっく……すっ、凄い奴!”を見せてやる!」
――……死にたい。
「……」
何でもいいから、突っ込んで欲しかった!
沈黙とか一番辛い!
――うぅ……恥ずかしいっ!
真っ赤な顔を下を向いて隠しながら悔しさに歯を食いしばる。
そのまま黙っているわけにも行かないので未だ真っ赤なはずの顔を上げて口を開いた。
「ぐぅ……早く勝負しゅるわよ!」
思いっきり噛んだけど気にしない!
61
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜②
:2014/06/04(水) 23:30:10
ボクは水鉄砲を一番前にいる金髪に向ける。
金髪は悠長にブランド物のバッグから黄色の水鉄砲を取り出しながら横へ歩く。
ボクも同じ方へ足を進めながら徐々に距離を詰める。
「あ、私の水鉄砲の中身は唐辛子エキス入っていますから、顔を狙って差し上げますね」
――っ! 酷い! ボクのは口に入っても大丈夫なように煮沸消毒した上に、富士の天然水を使ってるのにっ!
金髪は両手で水鉄砲を持ちながら狙い打つ。
ボクはそれを軽やかに避けて反撃する。
「っと……危ない」
ボクとは違って金髪は紙一重で避ける。
実力差は歴然。
金髪は戦いやすい場所へ移動するためなのかさらに横に走る。
ボクは距離が離れないように同じように横へ移動する。
でも、距離は詰めない。もし万が一にも顔に飛沫が飛べば――
「おーい鞠亜ー」
後ろの方から突然、銀狼の声が聞こえて振り向く。
<バシャー>
何がなんだか判らない内に全身が冷たくなった。
「……え?」
<バシャバシャー>
なんで冷たくなったのか直ぐ理解できた。水に濡れた。
そして尚も掛け続けれられ、ボクは腕で顔を隠しながら水の飛んでくる方向を見る。
そこには井戸水がでる蛇口を上に向けて、指でボクの方に水が飛ぶように調整している銀狼が居た。
……しかも凄い笑顔で。
「あははー、鞠亜の負けー」<バシャバシャ>
「ちょ、やめ! 綾! 卑怯だってっ!」
「卑怯なんて失礼な。作戦勝ちです」
さらに後ろから金髪の声が聞こえる。
――作戦……まさか、金髪はボクが井戸水の蛇口があるほうに移動するように行動していたってこと?
だとすると、あの水鉄砲の中身に唐辛子を入れたなんてことをわざわざ言ったのも
ボクの動きを慎重にさせて、誘導し易くしていたのかもしれない。
「落ち込まないでよー鞠亜ー。一対一だったら絶対鞠亜が一番強いってー」<バシャバシャ>
「も、もう! いつまで掛け続けるのよ! いい加減――ひ…ひくちぃっ!」
流石にいくら夏でも冷たい井戸水は辛い。ボクはその場にへたり込んでしまう。
ボクのくしゃみを聞いて銀狼は水を掛けるのをやめた。
62
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜③
:2014/06/04(水) 23:31:41
――ブルッ
だけど、すでに完全に身体が冷えてしまい尿意まで感じてきた。
――……あれ? 最後にトイレに行ったのって……。
今は午後三時くらい。そして最後にトイレに入ったのは昼食ちょっと前。
時間からすれば大したことない……のに、思った以上に尿意が切迫している。
冷たい身体を両腕で抱き、モジモジとした動きが止められない。
――そんな……なんでこんなに…あっ!
そして重大なことにボクは気が付いた。
水鉄砲に入れた富士の天然水……あまった奴はボクが全部飲んでしまったんだ。
それを飲んでから1時間ちょっと。
それに、公園のトイレは男子共が砂を詰めて修理中。
……事の重大性を理解して、顔から血の気が引いていく。
別に、今すぐ漏れそうなわけじゃないけど――負けたら罰ゲーム……それはボクから言い出したこと。
もともといつもボクが一人で不利だから、無理難題を課せられることはないとは思うけど……この尿意はそう長く耐えれそうにない。
「どうしました? なんだかしおらしくなっちゃいましたね……そうですね〜♪」
金髪が頬を緩ませながら、口に手を当てて、上機嫌に罰ゲームを考えている。
――ど、どうしよう!? 逃げなきゃ……でも捕まったら…我慢してるボクが、足で綾菜に勝てるわけない……。
詰んだ。罰ゲームが直ぐ終わる内容であることを祈って受けるべきかもしれない。
「今日一日私達のパシリっていいんじゃないかしら?」
――あー、うん。終わった。完全に無理だ。
「えっと……めーちゃん、それはやり過ぎじゃないかな?」
罰ゲームの内容に不服を唱えたのはボクではなく銀狼だった。
「そんなことありませんよー、あーちゃん。私の言うパシリは、焼きそばパンを買って来いとかじゃありませんし、ただ従順にしててもらうだけですから」
要するにパシリと言うより従順な舎弟のような感じだろうか?
どちらにせよボクには同じ死の宣告。多分もう10分と我慢できないから……。
「で、でもさ……」
それでも、銀狼――綾は納得言ってない様子だった。
「あら、あーちゃん? 今日は随分霜澤さんの肩を持つんですね?」
少し膨れっ面で不満たっぷりに問い掛ける。
「そ、そう言うわけじゃないけど……」
どうして綾がボクの事を心配してるのかは知らないけど、このままじゃ金髪に押し切られる気がする……。
そうなれば、此処でボクがおもらし――ダメ…だったら申し出るしかないけど
間に合うトイレがこの近くにない……。
63
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜④
:2014/06/04(水) 23:33:19
「もう……だったらさらに譲歩します。1時間だけでいいですから……酷いことも絶対しませんから、ね? 霜澤さんいいでしょ?」
全然悪気のない顔でボクを覗き込む……。
本当にこの人はボクに何を求めているのか…いつもよく判らない。
ただ、本当に酷いことはしない……そんな気がする。でも――
「……いや! ボクはお前のようなお金ですべて解決しようとする奴は…き、嫌いだ!
酷い命令がなくても、お金を貰っても言うことなんて絶対聞かない!」
嫌いと言う部分を除けば大体本心だった。
同じお金持ちに生まれたもの同士だけど、親の財力に頼るようなことはボクは嫌いだった。
金髪は親の権力をかざして、男子共を脅したこともあった……金髪のことは嫌いじゃないけど……そう言うのはやっぱり嫌いだ。
だけど、今この台詞を言ったのは、金髪を怒らせるため。
怒って帰ってしまえば、それを追うように銀髪も黒姫も帰ってくれる…そう思ったから。
「……そっ、そうですか! 悪かったですね! 私は使える力は全部使ってこそだと思ってますから!」
――知ってる……。
「もてる力を使わないのは力の持ち腐れです。それは持ってない人への侮辱です!」
――それも判ってる……そんな金髪の思想も知ってて言った。
でも、『帰って』……ボクはそう念じた。
「もう、いいです! 今日は帰ります! ……罰ゲームは次、…また、会ったときに…考えておきますからね!」
嫌いって言ったボクに、また会ってくれるといってくれたことが凄く嬉しかったけど……凄く痛かった。
金髪が背を向け公園を出て行くと離れた場所に居た黒姫もその後を追っていった。……だけど。
「……鞠亜のバーカ」
「っ! な、なんで、あんたは帰らないのよ……」
「……ごめん、私のせいで喧嘩させちゃって……トイレでしょ?」
――っ!
「私が濡らしちゃったから……えっと鞠亜…間に合う?」
ボクは顔を真っ赤にして首を横に振った。
我慢してるのがバレてるのを知って、緊張の糸が切れ、手がスカートの上から大切な部分を抑える。
64
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜⑤
:2014/06/04(水) 23:34:25
「と、とりあえず、公園の隅の茂みに行こう?」
その提案に乗るしかない……そう思ってボクは立ち上がろうとする。
<ジュ……>
――っ!!? 今ちょっとでちゃ――ぁ、だめ……。
「やぁ…」<ジュ…ジュウ……>
冷たくなっていた下着の中で熱水が渦巻く。
立ち上がる時に変に力が入ってしまった……。
どうにかこれ以上漏れないようにと立ち上がるのを諦め再びへたり込んでしまう。
「えっと……無理?」
「うぅ……無理……」<ジュワ……>
今も少しずつ溢れてる……綾に気が付かれるのも時間の問題。
情けない……金髪を怒らせて、綾に見透かされ、心配もされて……それなのに我慢できない自分が情けない。。
「う〜、何か容器みたいなもの……」
綾はきょろきょろと周囲を見渡す。
だけど、そんな都合のいいものはすぐには見つからない。
そして、ボクにとってその都合のいいものは今すぐでないと、もう意味がない。
<ジュゥ……ジュウー……>
――だめ……溢れてくる……手も熱くなってきた……。出ちゃう……綾の前で…漏れちゃう……。
身体を大きく震わし、波が治まるのを必死に待つ。
だけど、治まるどころか、膀胱は収縮を繰り返し、さらに吐き出そうとして居る。
<ジュゥゥ…シュィー……>
必死に歯を食いしばる、でも全然止めることができない。
一度に溢れる量も勢いも増え、閉じていられる間隔も短くなって……。
我慢の力も次第に失って、暖かい……なんとも言えない開放感が襲う。
それでも、必死に…必死に我慢しようと手で抑え付ける。
「鞠亜……」
ボクを呼ぶ声が遠くで聞こえる、
――神様……お願いだから…我慢させて…漏らしたくないよ……お願い……。
神頼み。神なんて居ない。そう日頃から思ってるボクに似つかわしくない事。
そして、それは心のどこかで聞き取って貰えないことだと判っていた。
<ジュッ…ジュウゥゥゥーー>
抑える手に熱水が溢れだす……そして同時に目の前が白く濁り、何も見えなくなった。
65
:
追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜⑥
:2014/06/04(水) 23:36:37
――
――
「――亜……鞠…! 鞠亜!」
――ん……綾?
肩を両手で持ってボクを揺さぶる綾が目に映る。
でも直ぐにボクの身体は綾の方に引き寄せられて、空が見えた。
「よかった! ……大丈夫?」
「え? あ、……うん?」
――えっと? なんでボク綾に抱きしめられてるんだっけ?
しばらくすると綾が抱きしめるのをやめて、両手を地面に付きながら心底安心したように口を開いた。
「はぁ〜…急に気を失うから吃驚した……」
気を失った?
……。
――っ!
ボクは視線を自身のスカートに向ける。
濡れてる……のは当たり前だけど、この匂いは……。
顔に血が上っていくのが判る……ボクはおもらし……しちゃったんだ……。
綾の前で、気を失いながら……。
目の前が歪む。
それは涙のせいなのだと直ぐにわかった。
「ぐす……」
――綾は……こんなボクを抱きしめてくれたんだ……。
複雑な涙。
凄く恥ずかしい失敗をしてしまって悔しかった。でも綾の優しさが嬉しかった。
「鞠亜、立って、もうちょっとこっち来て」
綾がボクの手を引く。
ボクは力なく立ち上がり、よく判らないまま少しだけ動く。
「そんじゃいくよ! “るなてぃっく凄い奴!”」<バシャバシャー>
冷たい。
蛇口を上に向けてボクたち二人に水が掛かる。
恥ずかしい失敗も、涙も流してくれる。
虹が見える中、綾は笑いながら言った。
「……今度めーちゃんに会ったとき、謝ろうよ! そのときは私も一緒に付き添うからさ」
おわり
66
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/06(金) 00:49:50
おお、もう次の話が更新していたか。 次回の話も楽しみに待ちます。
67
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/08(日) 18:26:39
@鞠亜とな
他の人のもなんかあるのかな
68
:
事例の人
:2014/06/08(日) 20:31:17
>>67
主人公(綾菜)以外の視点ってだけです
事例EXの話を除き、一つの話で一貫して視点が違う時は今後もこういう書き方します
69
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/24(火) 20:43:44
早朝の国道沿い まだ車も疎らであるこの時間帯に全力疾走する二つの姿があった
「待ちなさーーーーい!!!!」
ひとつは所轄署の刑事課のホープとまで言われている小谷麗子巡査部長である
彼女は昨晩まで他の署の捜査本部に応援に行っていた
そのせいで家路につくころには既に夜があけかかっていた。
その日の捜査はそれこそトイレに行く暇もないくらいだったので帰り道尿意を感じた
家まで我慢できそうにないのでしかたなくコンビニでトイレを借りようとした
ところが…
入ったコンビニのレジの前にあからさまに怪しい覆面をした男がいた
覆面の男が「金を出せ!」って叫んだものだから思わず「警察だ!」と叫んでしまった麗子
その言葉を聞いて入り口の麗子を突き飛ばし逃げ出す覆面の男
尻餅をつく麗子、衝撃で括約筋が緩んでシュシュッと吹き出たもののなんとか前を押さえて耐える
なんとか耐えたはいいものの強盗犯を無視してトイレに行くわけにもいかず張り詰めた膀胱を抱えたまま麗子の追跡劇が始まった
70
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/24(火) 20:44:19
(いったいいつまで逃げるのよぉ〜〜〜!)
既に麗子は十数分は犯人を追いかけている
学生時代は陸上部であり、諦めてトイレを優先しようという誘惑もも持ち前の正義感でねじ伏せている
とは言ってもおしっこを我慢しているようなコンディションでは距離など詰まるはずもない
一回強盗犯がコケるという絶好のチャンスがあったにもかかわらず急激に襲ってきた尿意の波に負け前押さえを優先してしまった
(ああおしっこしたいトイレトイレトイレトイレおしっこおしっこもれちゃうもれちゃう!)
強盗犯もだいぶバテては来ているものの麗子の尿意も比例して切羽詰ってきている
もはや麗子には強盗犯との距離はそのままトイレへの距離に思えた
(あと5mでおしっこおしっこおしっこすあと4mもれちゃうもれちゃうがまんがまんがまんあと3mもうすぐといれといれといれ!)
しかし麗子は気がついていない犯人を確保できたとしてもすぐにトイレに行けるわけではない
少なくとも犯人を近隣の警察に受け渡すまで麗子の我慢は続くのである
71
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/26(木) 19:12:26
続かない? 続いてもいいのよ? 続いてください
72
:
名無しさんのおもらし
:2014/06/27(金) 00:54:37
続かない 続きます 続く 続くとき 続けば
73
:
事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生①
:2014/07/07(月) 23:30:52
七月七日、七夕。
私は短冊に願いを書く。
“お手洗いの失敗なんて事、もう絶対にしませんように。弥生”
――だめだ。名前はダメだよ…。
私は名前の部分をマジックで塗りつぶす。
此処は多くの人が短冊を吊るしにくるところ。
もし学校の人が弥生なんて名前見たら……そう思うと名前なんて書けるわけがない。
自分で書いた短冊を顔を赤くしながら間違いがないか確認して再度吊るす。
手を伸ばした時、横の短冊が揺れて内容が目に入る。
“あーちゃんとまた仲良くなれますように。くーちゃん”
……なんだろ、子供っぽい内容なのに子供の割には凄く字が綺麗。
それを見ていると直ぐ隣にある短冊も目に付いた。
“← くーちゃんが素直になって、過去に振り回されませんように! めーちゃん”
これも字が綺麗の割に……。
――いやいや! 他人の見るとかよくないよね! わ、私のも見られたくないしっ!
……なんだか私の願い事が余りに酷い気がしてきた。
私は短冊を破いて書き直す。
“雛さんとついでに真弓ちゃんとも、ずっと仲良しで居られますように。弥生”
今度は堂々と名前を書いて吊るす。
やっぱりこういうことを書くべきだ。
私は笑顔で駅前にある笹飾りを後にし、帰りの電車が来るホームへ向かう。
74
:
事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生②
:2014/07/07(月) 23:32:17
――
――
電車に揺られ自宅へ向かう中、ふと尿意を感じる。
学校出る前に済ませてきたが、短冊を吊るすために1本電車を遅らせたのがいけなかったのかも知れない。
――はぁ〜、こんなことなら駅のお手洗いを使えばよかった……。
後悔しても後の祭り。
目的の駅まで後ひと駅だ。付いたら駅のお手洗いを利用すればいいだけ。
「〜申し訳ございません。車両点検を行うため10分ほど停車いたします〜」
――なによこんな時に……。
マーフィーの法則……そんな言葉が思い浮かぶ。
いやな予感を感じながらも大丈夫だと自分に言い聞かせる。
まだ尿意を感じてそこまで時間がたっているわけじゃない。
10分なんて直ぐ終わる。
5分が経ちまもなく10分が経つ頃。
「〜大変ご迷惑をおかけ致しました。車両点検が只今終了致しました。まもなく電車が発車します〜」
――ほ、ほら余裕だ! これなら余裕を持ってお手洗いにいける。多少込んでても大丈夫!
カバンの中に丸めて入れられた破れた短冊。
破った罰でも当たったのかと思ったけど、本当に助かった。
しばらくすると電車が駅のホームへ入り、扉が開く。
ホームに下り、改札に行く前に、お手洗いへと足を進めた。
だけど――
“清掃中”
……最悪。
いつまで掛かるのか判らないし、ここで待つのも我慢してるって言ってるようなものだし、なんだか恥ずかしい。
私は思い切って改札から出る。
家までの道のりは15分。……多分間に合う。
それに、公園もちょっと遠回りすればあるし、そこにはお手洗いがある。
真っ直ぐ帰るか、5分ほどで付く公園に向かうか。
家まで我慢できないことはない……でも、不安は拭えない。
私は公園へ向かうことにした。
75
:
事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生③
:2014/07/07(月) 23:34:12
電車の中で座ってるときはそうでもなかった尿意が、歩いていると少し辛くなった気がする。
きっと立ち止まると足をもじもじと動かしてしまうほどに尿意が高まってきた。
だけど、もう公園は見えてきた。あと2分と掛からずこの辛さから開放される。
そして、公園に足を踏み入れる。
「あら? 弥生ちゃんじゃない!」
――っ!
人見知りな私に声を掛けてきたのは近隣住民の調子のいいおばさん。
――や、やな人に捕まっちゃったな……。
長話。そうなる気がした。
我慢。電車の中からここまで抱えてきた液体を足を閉じて我慢する。
顔見知りだけど、この人は苦手だ。ましてや近所の話のネタにされるわけにもいかない。
だから我慢しているのがバレるのは困る……じっとなんでもないように愛想笑いをして何とか切りがいいところまで我慢するしかない。
――
――
2分…5分…そして10分経っても話は終わらない。
ずっとマシンガントークで……私のようなとろとろした子には到底入り込む余地がない。
でも、尿意は強くなって次第に足をじっと止めることができなくなってきていた。
――こんなことなら、真っ直ぐ家に帰ればよかった……。
私は、なんとか話を切り上げるタイミングを計っていると、おばさんの後ろの公園のお手洗いに一人のおじさんが近づいていくのが目に付く。
その手には南京錠らしきものと鎖が……。
額に汗が浮かぶ。恐らくあの人は公園の管理者。
まだ夕方もそこそこだというのに、防犯のためなのかお手洗いに鎖を巻くらしい……。
今すぐにでもお手洗いに行きたいのに、目の前には喋り続けるおばさんと、公園の管理者。
おばさんの話をなんとか切り上げることと、公園の管理者のおじさんには尿意の告白をしなければ入ることは出来ない。
――む、無理だよ……。
タイミングを測っている間に、おじさんは鎖を巻いてどこかへ行ってしまった。
76
:
事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生④
:2014/07/07(月) 23:35:19
「あら、もうこんな時間! タイムセールがあるから失礼するわね」
話し始めてから15分。結局あっちから切り上げられるまで何も出来なかった。
そして、もう目的の場所は硬く閉ざされてしまった。
私はスカートの裾を握り締める。
尿意はもう一刻の猶予もないところまできている。
家までは……12〜3分。間に合う気がしない。
でも、一番近い私の欲求を満たせるところがそこ以外思いつかない。
こめかみから流れる汗が頬を伝う。
私はようやく気が付いた。
さっきのタイミングを逃した時、私に残された道が二つになってしまったことに。
一つは……意地でも家を目指すこと。
おもらしになるか、おチビリで済むのかわからないけど、どう考えてみても無事でつけるとは思えない。
もう一つは……や、野外で……つまりは野ション……。
現実的にはこっちだと思う。だけど、まだ外はそれなりに明るくて……。
視界がぼやけてくる。
なんだか悔しくて涙が出てくる。
最悪の2択。迷ってる暇なんてない。それでも決断できない。
私はカバンで隠しながらスカートの前を抑えた。
――だめ、我慢できない……は、早くぅ、お手洗い……。
私の心はお手洗いを求めた。私は目の前にある鎖の掛かったお手洗いに足を踏み出す。
もしかしたら、南京錠を掛け忘れているかもしれない。
もしかしたら、簡単に開けれるかもしれない。
もしかしたら――
そんな思いで近づいて私は鎖を手にして肩を落とす。
――ダメだ……開かない。
開いてしまいそうな部分を抑えながら、絶対に開かないお手洗いの鎖を手にする。
なんて皮肉。
77
:
事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生⑤
:2014/07/07(月) 23:36:13
もう……野ションしかない。
私はスカートの前を抑えながら、お手洗いの裏手に回る。
木があるし背の低い草も茂っていて多少は周囲から見難いところ。
足がガクガクと揺れる。
こんな所で……そう思っていても限界の近い膀胱は許してくれない。
――でる…でちゃう……もう、ここで、しちゃうしか……。
そう思って私はカバンを直ぐ脇に置き、心臓が痛いくらいになるのに耐えながらスカートの中に手を入れた。
――しちゃう、しちゃんだ私……こんなところで、野外でなんて……もう何年ぶりだろう……
下唇をかみながら下着に手を掛ける。
だけど――
「――――?」「――――」
目の前の木の向こう側。見難いが道路がある方向。
二人組みの声が聞こえてきた。
私は茂みに身体を隠すために咄嗟にそのまましゃがむ。
下着はまだ降ろしていない。
なのに……。
<ジュ……>
――ダメ! でないで……まだ、なの……もう少しだから……お願い……。
私は咄嗟に下着の上から手で力いっぱい抑える。
手に感じるのは湿った暖かいぬくもり。そして、押し返す力。伝わる震え。
<ブシュ…>
抑え込んでいるはずなのに、手の隙間から雫が滴る。
本当は下着をずらせば済ませられるかもしれない。
だけど、音が道路まで聞こえてしまうような気がして……。
<ジュウゥ……>
溢れ出す雫が乾いた土に染みを増やし、やがて小さな水溜りを作る。
そして声が遠くへ行ったのに気が付き、抑えていた手を離し直ぐに下着をずらした。
<ジュィーーー>
「はぁ、はぁ……」
土を抉るような音と、夏なのに湯気さえ出そうな熱い息を何度も吐く。
額から零れる汗が地面に出来た水溜りに落ちて消えていく。
それを眺めながら、安堵、それ以上に情けない気持ちが心に湧き上がってくるのを感じて……。
私は目からも熱い液体を零した。
おわり
78
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/08(火) 04:06:19
おつ
イベントにキッチリそろえてきたということは
この先それらしい日までは待つことになるのかな
ナンバリングはキャラ別?
複数競演の場合はどうなるのかな
79
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/10(木) 03:34:58
某スレはあんなに人がつめかけてるのに寂しいな
せっかく良作が更新されてるんだからあげとこう(といっても現在上から2番目だけど)
80
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/10(木) 19:28:34
>>78
読んでくれてありがとー
七夕だし七夕主題に何か書こうって急遽思っただけなので…余り七夕が関係ない内容になってしまったけど
今後の投下は今まで通り、不定期気侭で行きますよ
ナンバリングは基本的に時系列順
事例は入学〜。 それ以前は追憶でこっちのナンバリングは書いた順。小数点はその間にあった出来事の掘り下げや付け足し話。
「」内はその話のメインヒロイン(のつもり)
>>79
わざわざageありがとう。寂しく適度に頑張る。ROM専がそこそこ居てくれてることを信じて……
他の方も書いて欲しいよ!
>>69-70
の続きも見たいわ
81
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/10(木) 21:25:37
いつの間にか更新していたか。 相変わらずの素晴らしい出来にGJと言ってしまう。もはやこの事例シリーズは今の小説で一番の楽しみだ。
82
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/15(火) 20:22:23
事例2.1ってことは弥生ちゃんおもらししないようにお祈りした後にも夏祭りでやっちゃったのか
かわいい
83
:
事例の人
:2014/07/21(月) 00:42:24
>>81-82
感想とかありがとう。励みになるよ!
84
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。①
:2014/07/21(月) 00:43:40
「……はぁ、はぁ、はぁ…」
私は息を切らせながら自転車を漕ぐ。
今日は9月2日。始業式の日。
額に汗が浮かびながらも、私が懸命に自転車を漕ぎ続けるのには理由がある。
朝起きた時間が自宅を出る時間であり……つまりは寝坊だった。
新学期早々に遅刻とかありえない。
こんなことじゃまた朝見さんに何を言われるか――いや、あの時の言葉通りなら
私には関わらないはず……。
酷いことを言われないのは良い事のはずだけど……皐先輩の話を聞いてからはそんな簡単に考えられなくなった。
でも、それよりも今は、夏祭りの時以降話せていない人が居る事の方が問題だ。
……。
――いや、だったら遅刻した方が話のネタになって上手く行く可能性も?
……。
――いやいや、冷静に考えよう。そんな小さな話のネタでどうにかなるのなら、ネタがなくてもどうにか出来るでしょ?
……。
どっちでもいい気がしてきた。
でも折角ここまで急いできたわけだし、それを無駄にするのは勿体無い気もする。
結局のところ結果次第。遅刻してしまったら話のネタになるから結果オーライ……とでも、思っておくことにする。
そして、やっとの事で学校目前の踏切に差し掛かる。
<カーンカーンカーンカーン>
だが、目の前で遮断機がおり、行く手を阻まれる。
私は必死で自転車を漕いできた足を地面に付ける。
この時間帯の踏切は長い場合が多く――――通過タイミングが日によって数秒違うので直ぐに開く時もある――――
それに出くわすと確実に間に合わなくなる。
『あぁ、最悪……トイレ…行く時間絶対なくなったよ、コレ……』
『声』が聞こえてくる。
相手は……後ろから数秒遅れで来た生徒。私と同様、自転車に乗り、この踏切で足止めを受けることになった、Aクラスの睦谷 姫香(むつたに ひめか)さん。
ファッションなのか、左右違う柄の派手な靴下を履いている。しかもこの人いつも長袖の制服を着てる変わった人。
実のところこの人を此処で見かけることは多々あるのだけど、話したことは全くない。
そういえば見学会の日もこの人の良いシーンを見させてもらった。
そして、我慢の『声』が聞こえた事で、今更ながら私自身も尿意を感じていることに気が付く。
急いで自宅を出てきたため、朝トイレを済ませていなかった。
だから別にどうと言うことはないけど、このまま行くとトイレを済ませず始業式。
それは、すこしだけ心配ではあるけど、むしろ期待のが大きい。
一学期の入学式では収穫はあったけど、終業式では本当に大したことが起きなかっただけに、今回は何かあって欲しい。
というか、睦谷さんがその“何かある”人になる可能性が高いと思う。
――だけど……別にそれほど大きい『声』ではなんだけどね……。
多分私と同じくらいか、ちょっと多いかも知れない程度。
見学会の日に見た、長い排尿時間から察するに、結構膀胱は大き目なんじゃないかと考えられるので
始業式をトイレを済ませずに行ったとしても、それほど苦労せずに済んでしまうんじゃないかと思う。
それでも、式の間、退屈せずに過ごせるのは良い事だけど。
『ん、開いた……遅刻はしないけどやっぱトイレは無理だなー……』
その『声』に私もペダルに足を引っ掛けて、睦谷さんの前を走った。
85
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。②
:2014/07/21(月) 00:44:36
――
――
「あ! あやりんギリギリじゃーん!」
教室に入ると直ぐにまゆが私を見つけてそう叫ぶ。目立つからやめて……。
多くの人の注目を浴びながら私は表情を変えずに視線を周囲に向ける。
それは無意識のうちに行った行動で、自分でも驚いた。
一番気にしていた筈の弥生ちゃんは、まゆの近くにいたのでそんなことをする必要がなかったのだから。
――やっぱり……。
“関わらない”という言葉の重みを今更ながら理解した。
コレほどまでに目立っているにも関わらず、ただ一人、朝見さんだけは窓の外に視線を向けていた。
……。
「ひ、雛…さん? どうしたの?」
心配そうに声を掛けて来てくれたのは、私から声を掛けるべきだった相手の弥生ちゃんだった。
「……あ、うん…なんでもない」
予想していなかった事態に私は少し不自然に否定した。
「あやりん、なんか元気ないね?」
周りのクラスメイトが日常に戻っていく中、まゆが私に近づき話しかける。
こんなことで心配かけるわけには行かない。
私はまゆの言葉に首を振ってから口を開く。
「……おはよう、二人とも…」
まゆは少し腑に落ちないような態度をとりながらも小さく息を吐いてから挨拶を返す。
弥生ちゃんはなんだか視線を逸らしながら少し赤い顔で小さく返してくれた。
私の前で二度も失敗したことを恥ずかしく思っているのかもしれない。
でも、なんだかその態度がまだ確り打ち解けていないころの弥生ちゃんを彷彿とさせ、なんだか懐かしく思えた。
最悪、会話すら出来ないかもしれないと思っていただけに、安心した。
「ん〜? 今度はなんだか嬉しそうだねー」
まゆが私の顔を覗き込むようにしてそう言う。
表情変えたつもりなんてないのに……相変わらず鋭い。
<キーンコーンカーンコーン>
チャイムが鳴ると先生が入ってきて、扉付近に居る私達の背中を押すようにして席へ付くように促した。
そして、出席を点呼で取り、始業式のため、教室を出る。
ガヤガヤとして騒がしい廊下でAクラスから出てきた睦谷さんが目に止まる。
同時にさっきまであまり意識していなかった『声』が聞こえてきた。
『はぁ、我慢我慢……見学会の帰りの時と比べればどうってことないし……』
一瞬見えた横顔には焦りも不安も表情から読み取ることは出来なかった。
86
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。③
:2014/07/21(月) 00:45:42
――
――
「――生徒の皆さんが楽しんだ夏休みだとは思いますが、この先、文化祭、体育祭と、多くの行事も控えています。
学校生活を夏休みよりもより有意義に、楽しく、健康的に過ごせるのではないかと考えています。
そして、皆さんならそれが出来るということを信じています。
私も微力ながら各行事が成功するように生徒会長として可能な限りの努力をしてまいりたいと思います。
少し長くなりましたね。以上をもちまして、私の御挨拶に代えさせていただきます。
生徒代表、生徒会会長、宝月 皐子」
「キャー会長様ー」<パチパチ>
皐先輩の挨拶が終わり拍手が体育館に響く。
……誰だ会長様って叫んだ生徒。
『う〜、やっと終わる? 結構辛くなってきた……』
睦谷さんの『声』が聞こえてくる。
時間にして1時間もなかった始業式だが、『声』は大きく、尿意は思いのほか上がっている様だった。
――朝から沢山水分を取ったとか、コーヒーを飲んだとかかな?
斯く言う私も、昨夜眠気を覚ますためにアイスコーヒー2〜3杯飲んでいた。
朝済ますことが出来なかったので、睦谷さんほどではないにしても結構我慢してる。
『ふー、Aクラスから出れるのは、我慢してる私には救いだな〜』
始業式が終われば、教室に置いてある連絡事項の紙を持って自由に帰って良いらしい。
実に面倒が嫌いな人には優しい仕様だ。
だけど、睦谷さんの『声』が届かなくなり、知らない間に済ませてしまうって言うのは残念。
教室に戻った頃には、案の定睦谷さんの姿は隣のクラスにはなかった。
「あやりんー帰ろ!」「……」
まゆと弥生ちゃんが声を掛ける。正確には弥生ちゃんは口を開いただけで声にはなっていなかったけど。
誘ってもらえるのは凄く嬉しい。だけど、私は今日ちょっと用事がある。
「……ごめん、私ちょっと図書室に用があるから……先に帰ってていいよ」
「ぇ……」
何故だが弥生ちゃんがショックを受ける。
「あやりーん、それどれくらい掛かる? この後3人でお茶していこうかな〜って思ってたんだけど?」
……なるほど。
恐らくまゆなりに私と弥生ちゃんの事考えてくれてるのかな?
「……15分くらいは掛かると思うけど……大丈夫?」
「おーけー! それくらいなら教室で時間潰してるよ〜」
そう言って、教室の中で弥生ちゃんの机に座るまゆ。
私はそんなまゆと弥生ちゃんに「……後で」とだけ言い残し、背を向けて教室を出た。
87
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。④
:2014/07/21(月) 00:46:59
図書室に向かっていると自身の尿意が辛くなってきたのに気が付き、通り道にあるトイレに入る。
この先まゆと弥生ちゃんとお茶しに行く用事はあるものの、まだ少し先の話だ。
今行っておかないとタイミング悪く私が限界なんてこともあるし。
そうして、個室に入り用を済ませ、再び図書室へ歩みを進める。
入学して間もない時に、一度興味本位で入っただけで、まともに利用したことがないのだけど……。
図書室の扉前に着き、私は扉に手を掛ける。
<ガチャッ>
引き戸の扉を開くために力を入れた手に、予想外の重い手応えを受ける。
――鍵が開いてない?
私は扉に書かれたカレンダーを見るが、事前の調べ通り、今日も昼までは開放されているはず……なんだけど。
これからどうするべきか……私はカレンダーを見ながら考えていると――
「あ、あの……すみません」
私は後ろから声を掛けられ振り向く。
「い、今開けますね……」
申し訳なさそうにしながら、でも人付き合いが苦手なのか
――――私も人の事を言える程でもないが――――目を全く合わせようとせずに、私の脇へ移動して鍵を差し込む。
<カチャン>
学校にありがちな安っぽい鍵の開く音。
彼女――睦谷さんは鍵をカバンに入れて扉を開けた。
――そういえば、この子って図書委員だったんだっけ?
流石に1年生の名前と顔をすべて把握してる私でも、所属委員とか部活とかの詳細情報までは知らない。
でも、まぁ、折角わかった情報だし確り覚えておこう。
「あの……」
扉を開けて直ぐに睦谷さんは私に話しかける。
開いた扉から先に入った私は、振り向いて相手の言葉を待つと小さく口を開けて声を出した。
「えっと、本……借りて行きますか?」
――えっと?
「……え、ええ…まぁ、何冊か借りようかと……」
「で、ですよね……あはは、すみません変なこと聞いてしまって……」
そう言うと何かを誤魔化すように小走りにカウンターへ向かう。
私はそんな睦谷さんに疑問を抱きながらも目的の本を探しに本棚へ向かう。
88
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。⑤
:2014/07/21(月) 00:48:27
――えっと……とりあえず歴史と化学のよさそうな参考書は……。
本棚に目を走らせ、それらしいものを手に取りは戻してを何度か繰り返す。
思った以上に役に立たなさそうな本が多くて、面倒な作業。
……でも、納得いかないところを適当に済ませてしまうと、朝見さんに勝てる気がしない。
というか、本当に私なんかが勝てるのか……。皐先輩は絶対私を買い被ってる……。
私が毎日のように寝坊しそうなくらい勉強したとしても、中間テストでその結果が出せるか。
――ダメだったら絶対皐先輩に八つ当たりしよう。うん、そうしよう。
そんなことを考えながら一冊、また一冊と選び取る。
ある程度取ると、持ち帰る手間を考えて嘆息し仕方がなく何冊か返して、3冊ほどで妥協した。
私は両手に少し大きめの参考書を抱きながらカウンターへ向かう。
……?
カウンターに居る睦谷さんを遠目から見ると、下を向いて左右に揺れている。
本を借りるため近づいて行くと、前髪の隙間から辛そうな顔と、少し荒い息遣いが聞こえてくる。
――あれ? えっと、もしかして……我慢…してるの?
あと5メートルってくらいまで近づいたが、辛そうな顔、粗い息遣い、ソワソワと落ち着きのない身体、少し前屈みな体勢。
どれをとっても尿意に耐えている姿そのもの。――と言うかこの距離で私に気が付かないのか。
私はトイレに寄ってしまったことを後悔しつつ、もう数歩足を進める。
そして、カウンターに本を置くコンマ数秒前に、睦谷さんが私に気が付く。
「……ぇ? あ――」
今までしていた仕草を見られていたと察して、視線を外して耳まで顔を赤く染める。……可愛い。
ただ、落ち着きなくソワソワしている仕草は止まったものの、身体はまだ少し前屈みで膀胱を庇っていて、
当然息遣いも直ぐに整うはずもなく、なるべく小さくしている呼吸音が聞こえる。
――これって……結構危ないんじゃ……。
『声』が聞こえない以上判断基準は仕草だけだが
ほぼ初対面の私相手に此処までしか仕草を隠せないとなると限界寸前なのではないかと感じ取れる。
「えっと、こちらの3冊を1週間でよかったっ……でしょう、か?」
睦谷さんは最初こそ確りした口調で対応するが、最後まで平静を装えず、途中息を詰まらせる。
「……そうです……1週間でお願いします」
「わかり、ました……」
そう言って本を受け取り最後のページの裏についているカードを本から抜き取る。
あとはそれに私の名前を書いて終わりだろうし、流石に間に合うだろう。
89
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。⑥
:2014/07/21(月) 00:50:12
「あ、えっと、借出し申請証を出していただけますか?」
……え?
全く聞き覚えのない単語。
生徒手帳を出せばいい物だとばかり思っていたが、どうも妙なものが要るらしい。
「……えっと、ごめんなさい、私初めて利用するんだけど、その、申請証? って言うのは……」
「あ、えっとですね……こ、こちらで準備しますので少々、おまち…ください!」
睦谷さんは後ろを向いて、引き出しの中を漁り始める。
もじもじと足を摺り合わせ、少し腰を突き出すようにして……艶可愛い。
思わぬ収穫だけど、あっちは最悪の延長戦と言った所だと思う。
何か止む終えない事情でトイレに寄れずに此処まで来るのも、きっと睦谷さんにとって延長戦だったはずで……。
私のためにトイレに行かずにカウンターで必死に我慢してたと思うと、流石に悪い気がしてくる。
「うぅ……」
――わ、私が見てるのに腰を振って我慢……あれ? これって本当に不味いのでは?
私は口を開きかけて直ぐに閉じる。
もし直ぐに終わるような作業ならなにも言わずに帰った方が睦谷さんの為。
……一瞬そう考えたが、今までそうやって迷ってきて恥ずかしい失敗をさせてきた人も多い……。
幸い私以外人は居ないからそれでもいい気もするけど、私だけだからと言っても恥ずかしいものは恥ずかしいだろう。
そりゃ私はそんなところを見るのは好きだけど、助けれるものなら助けたいってのもある。
「……えっと、いいですよ先に行ってきても」
「え? あ……ち、違うんです私、我慢なんて……」
振り返りスカートの前を抑えている手が見えているにも関わらず、睦谷さんは強がる。
――というか、別に我慢がどうのって言ってないんだけど……。
「……いいから、そういうの!」
「うぅ……でも……あっ! んっ……ご、ごめんなさい!」
【挿絵:
http://motenai.orz.hm/up/orz39225.jpg
】
真っ赤な顔をして迷っていたようだけど、急に身体を軽く跳ねさせて、険しい顔をしながらカウンターを飛び出す。
だけど、扉まで行くと扉に手を掛け体重を掛けるようにして、姿勢を屈めていく。
――え……うそ?
90
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。⑦
:2014/07/21(月) 00:52:05
「……ちょっと大丈夫?」
私は慌てて駆け寄る。
「あぁ…やぁ、おね、がい……見ないでっ…んっ――あぁ!」
<ジュゥ……>
くぐもった独特の音が、睦谷さんのスカートの中で小さく響くのが聞こえた。
でも、直ぐにその音は止む。
閉じあわされた足が小刻みにガクガクと揺れ動く。
チビッた――と言うには明らかに多すぎたであろう音。
もしかしたら、既にカウンターを飛び出す直前に恥ずかしい先走りをしていたのかもしれない。
それでも、私は睦谷さんをトイレに行かせるため、扉に手を掛ける。
でも、小さな声で「ダメ」とつぶやく声が聞こえ睦谷さんへ視線を向ける。
真っ赤な顔で、目に涙を貯めて震える声を零す。
「もう…間に、合わない……からっ……んっ」
……我慢できないと悟って人目を避ける…わからない話じゃない。
だけど、きっと睦谷さんは気が付いてない。
トイレに行くことを諦めているのに、どうして我慢しているのか。
混乱。羞恥。意地。沢山の理由があると思う。
どこかに希望がある――そんな風に心の片隅で信じているのかもしれない。
現実を受け止めることが出来ないだけかもしれない。
でも……。
「やぁん……だめ、あぁ…っ〜〜〜」
<ジュッ…ジュゥー……>
さっきよりも大きな音が2回に分けて聞こえる。
扉の方に回り込んだ私には抑え込まれたスカートが濃く染まっていくのが見えた。
歯を食いしばってこれ以上でないように……そんな表情も見て取れる。
<ピチャ…ピチャ……>
そして、足を伝って出来た小さな水溜りに限界まで溜め込まれた恥ずかしい雫を零し音を立てる。
それは、抑え込まれた大切な部分から今も尚、止めきれず少しずつ溢れ出している証拠で……。
<ピチャ…ピチャピチャピチャ>
次第にその雫の落ちる音の間隔は狭くなって……睦谷さんはしゃがみこんでしまう。
「はぁ……はぁ……っ、んはぁ……」<ジュゥーーー>
息を荒げて、上気した表情でただ呆然と広がる水溜りに視線を落とす。……か、可愛い…。
私は無意識に手を伸ばす。
「あ、…え?」
なぜか頭を撫でてて居た。
……。
――ど、どうしよう!?? なにしてんの私!?
【挿絵:
http://motenai.orz.hm/up/orz39226.jpg
】
つい可愛くて触ってしまった。とてつもなく私混乱してるけど、きっと睦谷さんも混乱してる。
なにか声を掛けないと……。
91
:
事例7「睦谷 姫香」と図書室。⑧
:2014/07/21(月) 00:53:43
「……えっと、よく頑張ったね?」
「う……うん」
……よかったんだろうか?
今も尚、手を離すタイミングを失って撫でてるけど、顔は真っ赤にしてるけど、特に嫌がってないみたいだし……。
――でも気不味い。なんだろうこのどうしようもない感じ!
しばらくすると、睦谷さんのスカートの中で聞こえていたくぐもった恥ずかしい音が聞こえなくなる。
「あ、も、もう、大丈夫…です……ごめんなさい」
真っ赤な顔で、涙目の上目使いで、少し汗ばんで髪の毛が額に張り付いて、上気した表情で……可愛い要素が多すぎて困る。
なんだか見てるのがこっちが恥ずかしくなってきた。顔に血が上るのが判る。
「……別に謝らなくても……」
「で、でも…ぐす」
泣き出しそうな声で表情を崩していく。
「……あー、大丈夫だから、ね? わ、私掃除道具入れからバケツと雑巾持ってくるから!」
私は慌ててなにか行動する。
ちょっと慌しくなれば睦谷さんだって泣く隙を与えずに済むかもしれない。
「……ほらちょっとあっちで休んでて、掃除しておくから」
「え、ま、待って! それ汚…わ、私のおしっ……こ……」
途中まで言いかけて、顔をこれ以上にないくらい真っ赤にしてる……可愛い。
そこまで言われると、掃除するのも可哀想。……。
「……じゃあ、とりあえずこれは置いておいて、着替える?」
「え……ほ、保健室…ですか?」
凄く不安そうな顔で答える。
……確かにこの格好で廊下を歩いて保健室までって言うのは酷か。
仕方がない。
「……あー、ちょっとまって――」
私はカバンに常備しているタオルとスカートと新品の下着を取り出す。
「どっ、どうしてそんなものがカバンの中にっ!?」
「……い、いや…き、気にしないで……」
「まさか、貴方おもらしの常習――」「ち、違います! いいから着替えて! それとも着替えさせて欲しいの!?」
「え、あ、お願いし――あっ、ごめんなさい自分で着替えます……」
雫が落ちないようにタオルで足を拭いた後、カウンターの影の方へパタパタと駆けていく。
――今、「お願いします」って言いかけなかった?
……。
「はぁ……」
私は一息吐く。
これはこれで良かったけど、やり直せるものなら、トイレを済ませずにやり直したい。
だからと言ってあのまま我慢したままって言うのも今度は私自身が心配だったし仕方がなかったんだけど。
……本を借りれるのはまだ少し先になりそう。
「……はぁ、まゆに電話しよ……」
私は遅くなる連絡を入れることにした。
おわり
92
:
「睦谷 姫香」
:2014/07/21(月) 00:58:29
★睦谷 姫香(むつたに ひめか)
1年A組の生徒
常に長袖で靴下をよく履き間違える天然っ娘。
図書委員に所属している。
友達が少なく、若干人見知りの文学少女。
本が好きと言う理由だけで図書委員になる。
当番の日はカウンター内で本を読んで有意義な時間を送っている。
膀胱容量は比較的大きく最大で1000ml程。
ただ、体質の問題で尿の生産量が人より多く、水分をある程度取りすぎると
最大容量の割にはトイレの近い子になってしまう。
膀胱が大きいのも体質の問題で我慢する機会が多いためである。
本人はその体質に気が付いていない。
成績並、運動音痴。
文系の科目はそこそこ得意だが、理系は平均点を遥かに下回る。
運動に関しては非常に酷いが、走る事に関しては並程度。
絵などの芸術も微妙。
性格は無口で綾菜ほどではないにしろポーカーフェイス。
無自覚ではあるが、心のどこかで頼れる人に甘えたいと思っている。
綾菜の評価では、膀胱容量の大きい人。
靴下の履き間違いをファッションだと誤認している。
93
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/21(月) 01:43:16
挿絵がレベルアップしてる?
94
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/22(火) 10:31:36
新作乙です!
某イラスト投稿サイトの活動も拝見しています。
可愛い挿絵も書けて文才もあって、多彩な才能をお持ちで羨ましいです。
95
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/22(火) 22:27:41
毎日覗いたらすごい良作キテタ
睦谷さんの行動謎な部分が多いし後につながりそう
96
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/22(火) 23:06:45
新作GODです。挿し絵の女の子も可愛くて文句なしの出来です。
97
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/23(水) 00:46:43
>95
いつもの人かな>定型文
98
:
事例の人
:2014/07/23(水) 21:28:08
>>93-96
感想とかありがとう
絵もちょっとはマシになってきてるみたいで良かったです
99
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/28(月) 01:42:52
「はい…それでは…お願いします…はい」
犯人を追跡し始めて数十分ついに麗子は犯人を確保した
麗子にタックルされた強盗犯は気絶し、今は金網フェンスに後ろ手に括り付けられているから逃亡の可能性はまずない
(あっあっあっ…!だめっ!もれちゃう!)
そんなことよりも麗子はそのタックルで刺激された尿意と戦うことに必死だった
犯人を追いかけているうちに気づけば国道沿いからはなれた資材置き場のようなところに着いてしまった麗子
周りにはコンビ二のような開いている店も公衆トイレもまったくない
今呼んだ警察がたどり着くまで離れることのできない麗子はただひたすら応援が来るまで耐えるしか方法がないのである
(うっ…くぅ…我慢しなきゃでも…ああッ!)
周りに人の目がないことをいいことに幼子のように前を押さえおしっこ我慢のステップを踏む麗子
最後にトイレに行ってから12時間以上既に限界はとうに通り過ぎている
このままでは麗子がトイレまでおしっこを我慢できる確率は限りなく低いだろう
「どこか…どこかにおしっこできるところはないの!?」
この際トイレじゃなくても茂みで用を足そうと考えるもあいにく資材置き場は視界を遮る様なところはそれこそ資材の影ぐらいしか見当らない
さすがに人の敷地内でするわけには行かず震える足でもう少し奥まで進むと…
「ああ!あったトイレ!」
手を洗う水道の脇に打ち付けてあった板に小さく トイレ⇒ と書いてありその先にはトイレが建っていた
「やっと…!やっとおしっこができる…!」
実に半日ぶりの開放を求めて麗子はトイレへの道を急ぐ
100
:
名無しさんのおもらし
:2014/07/28(月) 01:43:26
しかし麗子に待ち受けていた運命は残酷であった
「えっ………?」
ドアを開けた先には朝顔、ようするには男性用の小便器がそこにはあった
そもそも資材置き場である以上そこまで利用する人がいるわけでもなく小便器で十分役目は果たせているのだろう
「そんな…うそ…こんなことって…」
だが女性である麗子にとってそれはトイレとしての役目を果たすことはできない代物である
どうしようか迷う麗子、そこに
「くぅんっ!?」
開放を待ち望み、この瞬間に開放される予定であったおしっこが麗子の腫れきった膀胱のなかで暴れ始めた!
「ああああああ…あああああああああああああ!もうむりぃっ!げんかいよぉっ!」
半ば脱ぎ捨てるようにスラックスとショーツを下ろす麗子
水を流すスイッチのついた管をつかんで朝顔の前に腰を押し付けるように立った
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ………」
シュシュシュ…ジュゴオオオオオオオォォォォォッ!
すさまじい水圧を持って黄金のアークが叩き付けられる。
12時間もの間膀胱に閉じ込められていた大量のおしっこがごぼごぼと唸りをあげて朝顔のなかに吸い込まれていく
パトカーのサイレンの音が周囲に聞こえているのも気づかずに排泄の快感から力の入らない足を突っ張らせ麗子のおしっこは尚も続く
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