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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ5

1名無しさん:2019/12/29(日) 22:16:00 ID:M7iFGJGU0
当スレッドはTV放映された
平成仮面ライダーシリーズを題材とした、バトルロワイヤル企画スレです。
注意点として、バトルロワイアルという性質上
登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写が多数演出されます。
また、原作のネタバレも多く出ます。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。


当ロワの信条は、初心者大歓迎。
執筆の条件は、仮面ライダーへの愛です。
荒らし・煽りは徹底的にスルー。

2名無しさん:2019/12/29(日) 22:16:36 ID:M7iFGJGU0
【参加者名簿】

【主催者】
大ショッカー@仮面ライダーディケイド

【仮面ライダークウガ】 2/5
●五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/●ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ

【仮面ライダーアギト】 0/5
●津上翔一/●葦原涼/●木野薫/●北條 透/●小沢澄子

【仮面ライダー龍騎】 1/6
○城戸真司/●秋山 蓮/●北岡秀一/●浅倉威/●東條 悟/●霧島美穂

【仮面ライダー555】 2/7
●乾巧/●草加雅人/○三原修二/●木場勇治/●園田真理/●海堂直也/○村上峡児

【仮面ライダー剣】 1/6
●剣崎一真/●橘朔也/○相川始/●桐生豪/●金居/●志村純一

【仮面ライダー響鬼】 0/4
●響鬼(日高仁志)/●天美 あきら/●桐矢京介/●斬鬼

【仮面ライダーカブト】 2/6
●天道総司/●加賀美新/●矢車想/○擬態天道/○間宮 麗奈/●乃木怜治

【仮面ライダー電王】 0/5
●野上良太郎/●モモタロス/●リュウタロス/●牙王/●ネガタロス

【仮面ライダーキバ】 2/4
○紅渡/○名護啓介/●紅 音也/●キング

【仮面ライダーディケイド】 2/5
○門矢 士/●光 夏海/○小野寺 ユウスケ/●海東 大樹/●アポロガイスト

【仮面ライダーW】 2/7
○左翔太郎/○フィリップ/●照井竜/●鳴海亜樹子/●園咲 冴子/●園咲 霧彦/●井坂 深紅郎

14/60

3名無しさん:2019/12/29(日) 22:17:00 ID:M7iFGJGU0
【修正要求について】
・投下されたSSに前作と明らかに矛盾している点がある場合、避難所にある議論用スレにて指摘すること。それ以外はいっさいの不満不平は受け付けない。
・修正要求された場合、該当書き手が3日以内(実生活の都合を考慮)に同じく議論用スレにて返答。必要とあらば修正。問題無しならそのまま通し。
・修正要求者の主観的な意見の場合は一切通用しません。具体的な箇所の指摘のみお願いいたします。

【書き手参加について】
・当ロワは初心者の方でも大歓迎です。
・書き手参加をご希望の方は避難所にある予約スレにて予約をするべし。
・その他、書き手参加で不明な点、質問は本スレ、もしくは避難所の雑談スレにでも質問をお書きください。気づきしだい対応致します。

基本ルール
各ライダー世界から参加者を集め、世界別に分けたチーム戦を行う。
勝利条件は、他の世界の住民を全員殺害する。
参加者を全員殺害する必要はなく、自分の世界の住民が一人でも残っていればいい。
最後まで残った世界だけが残り、参加者は生還することが出来る。
全滅した参加者の世界は、消滅する。

4名無しさん:2019/12/29(日) 22:17:20 ID:M7iFGJGU0
以上でテンプレ終了です。

5 ◆JOKER/0r3g:2019/12/30(月) 14:39:11 ID:4rbZaYzs0
これより予約分の投下を開始いたします。

6シゲゲルグダダド ◆JOKER/0r3g:2019/12/30(月) 14:40:35 ID:4rbZaYzs0

燃える道路の片隅で、二人の男女が対峙している。
彼ら彼女らはどちらも生身で、更に言えば互いに敵意を抱いている訳でもない。
だというのに、その場に流れる空気は、息も出来ないほどに重く苦しいものだ。

他の誰も立ち入ることの出来ない凄まじいプレッシャーが、確かにその場を支配している。
だが、常人であれば碌に動くことも出来ないだろうその空間を、二人はさも当たり前であるかのように直立していた。
流れる重苦しい沈黙の中、バラのタトゥーをその頬に持つ赤いドレスの女、ラ・バルバ・デは、唐突にその口を開いた。

「……お前に、首領から与えられた新たなゲゲルの条件を告げに来た」

感情の一切を伴わない業務連絡のような口調で、バルバは告げる。
事実、その感想もあながち間違いではあるまい。
グロンギ族のゲゲルを厳粛に取り行う役割を担う彼女にとって、この殺し合いも所詮少しばかり規模が大きいだけで、いつものゲゲルとさして変わらないのだろう。

なれば、こうしてグロンギと向き合いゲゲルの始まりを告げるのは、彼女にとっては寧ろ日常とでも言うべきものに違いない。
だが、それを告げられた全身に白い服を纏う男、ン・ダグバ・ゼバは、彼女の言葉に対し不気味に笑みを浮かべた。

「―――――へぇ」

彼が感嘆の声を漏らしたのは、バルバの言葉が、実のところグロンギからすれば有り得ないものだったからだ。
新たなゲゲル。そんなもの、グロンギには本来存在しないのだから。
バルバにゲゲルの条件を告げそれをスタートする際、普通であればグロンギはそのバックルにゲドルードと呼ばれる爆薬を埋め込まれる。

それによってゲゲルを開始したグロンギの運命は、ゲゲルの成功による階級の上昇か、理由はどうあれその失敗による死か、その二つに一つしかない。
無論、ゲゲルを前にリントを殺した為に資格を剥奪され、無様に生き長らえたゴオマがどれだけ周囲に軽んじられていたかを鑑みれば、不名誉な生より死を選ぶのがグロンギの本能であるのだが、ともかく。
詰まるところ、バルバがゲゲルに失敗したグロンギを相手にしてわざわざこうしてゲゲルの再開を申し出るというのは、最上位のンに属するダグバでも、非常に興味深いことだった。

「―――――君が、そんなことを言うんだね」

「私の意思ではない。これは首領の意思によるものだ」

だからこそ純粋に驚きを込めてダグバが言葉を漏らせば、バルバは相変わらず無表情ながら、それでも僅かに目を細めた。
恐らくは、会場内で誰がどういった状況に陥ったとしても、彼女はこうした介入を本来は拒むのだろう。
だが、このイレギュラーによってこの会場で開かれていたゲゲル……即ち、殺し合いで生き残る世界を決めるというゲゲルが、不本意に妨げられる事を恐れた首領によって、彼女はこうして使わされたに違いない。

本心を言えば、首領とやらが直接出向いてくれればよかったのに、と思う自分がいるのをグッと押さえて、ダグバは再び口を開いた。

「―――――新たなゲゲルって言うことは、もう僕に他の世界の参加者を皆殺しにするっていうゲゲルは、関係ないのかな?」

「そういうことになる。お前はそのゲゲルの参加資格である首輪を破壊されたからな」

ダグバは、自身の首筋をツイとなぞる。
先ほどまで銀の枷がついていたはずのそこには既に何もついていない。
強いて言えば先の爆発によって負った酷い火傷で自信の肌に嫌にざらついた触感を覚えたが、それもすぐに直るだろう。

どうやら先ほど自分が考えたように、この首に付けられていた首輪というのは、変身に制限をかけるという以上の意味を、この殺し合いにおいては持っていたらしい。
だがどちらにせよそれを失った今となっては、ダグバにはその些末はどうでも良いことだ。
ふぅん、と口先だけの感嘆を述べて、ダグバはそれきり以前のゲゲルへの言及をやめた。

7シゲゲルグダダド ◆JOKER/0r3g:2019/12/30(月) 14:40:56 ID:4rbZaYzs0

「―――――ねぇそれよりも、新しいゲゲルっていうのは、何なの?」

途端にそれまでの会話への興味をなくしたダグバに、しかしバルバは大した動揺も見せない。
気紛れな彼の性格は、既に熟知しているのだろう。
特に表情を変えることもなく、彼女はカツリとその足を進めた。

「首領からお前に言い渡されたゲゲルの内容とは、『今夜0時、この会場に残っている仮面ライダー達と戦い、皆殺しにすること』だ」

「―――――ふぅん……?」

バルバが告げたゲゲルの内容にしかし、ダグバは首を傾げる。
本来グロンギが行うゲゲルでは、時間とはタイムリミットとしてしか用いられない。
故に、『この時間まで誰も殺すな』と言外に告げるようなその内容は、些か不思議に感じられたのだ。

それはバルバも分かっているようで、しかしその表情は相も変わらず冷たい氷のようだった。

「……お前の言いたいことも分かる。だが、首領はあくまでこの会場の仮面ライダーたちがどんな運命を辿るのかということに興味があるらしい」

「―――――それは構わないけど……仮面ライダーは、本当に僕の所に来れるの?」

自分よりも仮面ライダー如きに興味がある、という言葉が僅かに気に障ったか。
かつて自身のベルトの破片をガドルへ投げ渡したのと同じように、ダグバはそんな意地の悪い質問をバルバへ投げる。
だが、彼女はやはり自身と同列のあらゆる情緒を超越したグロンギだ。

眉一つとして動かすこともなく、ダグバに向き直る。

「お前は、奴らを甘く見すぎている。奴らは必ず、お前の元に辿り着く。お前を倒し、このゲゲルを終わらせる為に」

「―――――バルバも、そんな事を言うんだね」

漏らしたダグバの表情には、少しばかりの寂しさが滲んでいる。
ガドルだけでなく、あのバルバでさえリントに……否、仮面ライダーに多大な期待を寄せているらしい。
元の世界では絶対的な存在として自分を認識していたはずの彼女がいつの間にか変化させた意識に、ダグバは嫉妬の念を隠しきれない。

ガドルもバルバも、一体仮面ライダーの何を知ったというのだ。
何度も彼らと対峙し、果てには彼らに直接その疑問を問うた自分は、一切そのなんたるかを理解出来ていないというのに。
閉口し、平素の笑みを閉ざしたダグバに対し、バルバはしかしそれを気に留める様子もなく、そのままダグバへと歩んでいく。

「安心しろ。お前がこのゲゲルに勝てば、首領は……“テオス”は望み通りお前と戦うそうだ」

「―――――“テオス“」

テオス。不思議と高揚感を覚えるその名を復唱して、彼は思わず破顔した。
ようやく知り得た新たなゲゲルの成功報酬が自分の望むものであったことに、ダグバは歓喜を抱く。
自分でさえ知覚できない隙にこの会場へ自分を拉致し、そして得体の知れぬ首輪を取り付けた首領との、いわばザギバスゲゲル。

生まれながらの究極であった彼にとって、初めて挑む喜びを抱ける敵が現れた僥倖は、何事にも代えがたく。
初めて抱くその高揚感に胸が沸き踊るのを感じながら、ダグバは強く拳を握る。
だがそれから少しして、ふとある可能性に思い至り、またバルバを見やった。

「―――――僕が勝てばっていうことは……もし仮面ライダー達が勝てば、彼らがテオスと戦うってこと?」

「……そうだ」

答えるのに一瞬の沈黙があったのは、ガドルのように今まで戦ってきた仮面ライダーを思い出すため……ではあるまい。
自分は、確かに仮面ライダーが勝つ可能性を、十分存在しうる未来として想定している――その考えを自分に告げるのに、バルバと言えど僅かばかりの躊躇があったからだ。
グロンギにとって、最高位たるンの自分が敗北する可能性を僅かでも考慮していると宣言するのは、かなり大きな意味を持つ。

8シゲゲルグダダド ◆JOKER/0r3g:2019/12/30(月) 14:41:17 ID:4rbZaYzs0

それこそそう、グロンギの頂点である自分がリントの戦士である仮面ライダーに負けるなど、本来であれば口が裂けてもバルバが認めるはずもない。
だがそれでも彼女が確かにその可能性を一つの未来として考える程度には、彼女……そしてテオスの目から見る仮面ライダー達は、強いということなのだろう。
そんな彼女の価値観の変化に、しかしダグバはもう、羨望の念を抱く事もしなかった。

仮面ライダーを理解することなど、自分には恐らく未来永劫叶わないのだ。
なれば、叶わないそんな願いを抱くだけ無駄だろうと、彼は割り切ることにした。
それにどうせ……彼らは自分の手によって、今夜0時には全員残らず皆殺しにされるのだから。

目先の仮面ライダーではなく、その先にあるザギバスゲゲルへ。
まるでダグバとの戦いに胸高鳴らせるゴのようにテオスとの対峙を待ち望むダグバは、今までよりも一層深い笑みを浮かべた。
同時、ダグバが事実上ゲゲルを承諾したことを受け、バルバはその指にはめている指輪を彼のベルトへと押しつける。

これにより、今のダグバに相応しい威力を持つゲドルードがセットされた。
告げられたゲゲルの条件からして時限式ではないのだろうが、どちらにせよダグバがこのゲゲルに負ければ、それこそ凄まじい範囲を覆う爆発が起こるのだろう。
だが、仮面ライダーとの戦いによって自身が敗北する可能性を一切感じていないダグバは、ただグロンギの本能として、ゲゲルの開始に高揚感を抱くのみだった。

一方で、浮かれる王を尻目にバルバは、自身の仕事は終えたとばかりにヴェールへ向けて歩き出す。
そうしてその身体がヴェールに届き、再び大ショッカーの本部へと移送されるのだろうその瞬間、しかし彼女は何かを思い出したかのように振り返った。

「……気をつけろ、奴らは強いぞ。究極の闇となったクウガと同じだけの実力を持つものも、少なくない。」

「――――――それでも……今の僕にはもう、敵わない」

その声に滲むのは、自信か或いは諦観か。
所在なげに空を見上げたダグバを置いて、バルバもまた本部へ戻ろうとヴェールを潜る。
果たして彼女がその瞬間に胸に抱いていたのは、どちらの勝利を想うものだったのか。

残されたダグバには、もう知るよしもなかった。

【二日目 午前】
【F-4 道路】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、ジョーカーアンデッド化、首輪解除
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:テオスへとのザギバスゲゲルに挑み、勝つ。
1:その為に、今夜0時に残っている仮面ライダー達を皆殺しにする。
1:ジョーカーである相川始に多少の興味。
【備考】
※アンデッド(ジョーカー)化しました。 また、その影響によりグロンギ態がより強化され“沈み行く究極を超えた究極の領域(スーパーセッティングアルティメット)“へと変身出来るようになりました。
※制限が解けたので瞬間移動が出来る模様です。ただ会場の外に出ることは出来ません。

9 ◆JOKER/0r3g:2019/12/30(月) 14:43:59 ID:4rbZaYzs0
以上で投下終了です。
短くて申し訳ないですが、恐らくこれが2019年最後の投下になると思いますので、この場を借りまして皆様への今年度の感謝を述べさせていただきます。
またそれとは別にご指摘、ご感想などがございましたら、よろしくお願いします。

2020年も頑張っていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

10名無しさん:2019/12/30(月) 15:15:39 ID:jAH5PHYs0
投下乙です。
これでダグバは会場内のラスボスポジか……まあ実力的にも納得ですね

11名無しさん:2019/12/30(月) 15:19:55 ID:QDKLQyG60
投下乙です!
ダグバに与えられたとんでもないゲゲルが明かされたから、確実にラストに近づいているかな?

12 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:52:18 ID:6aG2OzYo0
皆様、あけましておめでとうございます。
これより投下を開始いたします。

13覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:53:42 ID:6aG2OzYo0

聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士雷の如く出で太陽は闇に葬られん。
彼の者、その清らかなる心を失い、究極の闇を世界に齎す。
彼の者、その疾走においてその一歩一歩で大地を轟かせ、その咆哮は天を衝く慟哭となる。

されど、彼の者が絶対的な強者であれるのは、元の世界においてのみ。
故に、10の世界が混ざり合うこの戦場においては、凄まじき戦士とて常識の範疇を逸しない。
それこそ、今彼の者が対峙する魔王の名を冠する異星からの来訪者に対しては、些か見劣りすると認めざるを得ないだろう。

なれば、戦士は諦め立ち向かうことをやめるのか。
否、清らかなる心を持つ戦士は、例え勝利が約束されていなくとも戦いに挑むことをやめない。
仮にその心が究極の闇に葬られようとも、守るべき誰かの笑みの為、その身を捧げることを厭わない。

痛ましいその献身が導くのは、悲劇かそれとも一縷の希望か。
それを指し示す物語が、間もなく幕を開けようとしていた。





「アアアアァァァァァァ―――――!!!」

人ならざる獣のような咆哮が、空気を震わせその存在を世界へ誇示する。
黒き瞳と漆黒に染まったその肉体、凄まじき戦士と化したクウガの声に、その場にいる誰もが戦慄を禁じ得ない。
だが、驚愕と緊張に身を強張らせた面々の一方で、クウガの視線を一身に受けるカッシスワームは、その場でただ一人余裕の笑みを浮かべた。

その手を大きく広げ、挑発するように自身の存在を示威する。
だがそんな気障な仕草も、心を失った戦士に対しては何の意味も持ちえない。
ただ彼こそが向かうべき敵であるというその認識一つだけを抱いて、クウガは強くその足を踏み出した。

一歩、また一歩と彼が足を進めるたび、高く砂埃が舞い上がり蹴りつめた地面がまるで哭くように轟音を立てる。
雄叫びを上げ駆け抜けていくその戦士の姿は、まさしく一騎当千の兵(つわもの)のようだった。

「アアアァァ!!!」

クウガが、その掌をカッシスへ翳す。
ともすれば何の意味があるのか不明なその動作だが、刹那カッシスの身体が一気呵成に炎上する。
彼の持つモーフィングパワーによって空気中の原子が再構築され、カッシスの周囲の空気がプラズマ化したのである。

本来であれば苦痛に呻き藻掻いてもおかしくないその熱量は、しかしカッシスの腕の一振りで鎮火する。
自身の攻撃が無為に帰したという驚愕してもおかしくないはずの眼前の光景に、しかしクウガは大した動揺を示すこともない。
それならばそれで構わないとばかりに、彼は勢いよくその足を進めていく。

だが瞬間その風の如き猛進が押し止まったのは、今度はカッシスの翳した手によってクウガの身体がプラズマ化し燃え上がった為だ。

「……フン」

自身の力で身を焼かれるクウガを前に、カッシスは鼻で笑う。
彼の持つ必殺技を吸収する能力によって、クウガの必殺技ともいえる超自然発火能力を、彼もまたラーニングし身につけたのである。
だがその表情からは、先ほど仮面ライダー達の必殺技を我が物とした時のような興奮は見られない。

何故彼がそうまで冷静でいるのかという理由は、自身と同じように腕の一振りでその炎を鎮火するクウガの姿が示していた。
やはりか、とカッシスは思う。
先の病院大戦において、自身はもう一人のクウガが変ずるライジングアルティメットと戦い、その技をも手に入れた。

14覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:54:09 ID:6aG2OzYo0

だが自身の闇でその身を滅ぼせと放った一撃は、あまりにも呆気なくライジングアルティメットに打ち破られたのである。
故に此度のクウガが放つ攻撃もまた本人には大した効果を為しえないのだろうと、予め高を括っていたのだ。
だが、そんな今までのカッシスの戦いの変遷など、このクウガには知る由もない。

己が身に降りかかる火の粉を振り払うように炎を消し去ったかと思えば、彼は小細工は無駄とばかりに思い切り駆け出した。

「ウオオオォォォォォ!!!」

心を感じさせない絶叫を上げて、クウガがカッシスにその拳を振るう。
目にも止まらぬ速さで振り抜かれたそれは、しかし今のカッシスには防御も難しいものではない。
その片腕を盾状へと変形させ、爆音を響かせながらされど一歩も退くことなく究極の暴力をその一身で受け止めた。

「……ほう」

漏れた声には、敵の実力を見定めるような感嘆と同時に確かな余裕が滲んでいる。
その一合で、彼は二つのことを理解した。
一つは、このクウガはあの時自身を追い詰めた昇り行く究極には遠く及ばないが、しかし十分驚異的な能力を持っていること。

パワー、スピード、そして瞬発力……その全てが生物兵器と呼ぶのに相応しいだけの威圧と迫力を伴っている。
勿論ライジングアルティメットに比べれば大きく劣るが、このクウガもまた並の仮面ライダーに比べれば別次元の領域であることは認めざるを得ない。
特段何の計略も用意せずに戦えば、今の自分でも無傷で勝利することはかなり難しいだろうことは、火を見るより明らかだった。

そしてもう一つ分かったことは、それほど敵を評価した上でなお、自分の実力の方が勝っているという確信だった。
理由は単純。今の自分には仮面ライダー諸君から手に入れた多彩な必殺技があり、なにより何者にも敗れえぬ最強の固有能力がこの身に蘇っていることだ。

「フリーズ!」

勝利宣言の如く高く叫びながら一歩後ろへ引いたカッシスは、天に伸ばした腕を真っ直ぐ胸に向けて引き戻す。
彼がその動作を終了させると同時、韋駄天と見紛うスピードでカッシスに追撃を行おうとしていたクウガの全てが、凍り付くように静止した。
されどそれは、決してクウガ単身に対して発動された能力ではない。

まさしくカッシスを取り巻く彼以外の世界の全てが、彼だけを取り残して止まってしまっていた。
フリーズと呼ばれるこの能力は、先ほど龍騎を完封した実績も持ち、この会場における超常の中でも最強の一角だ。
目の前で無防備に停滞するクウガを見て、カッシスは自身の圧倒的な実力を再確認しながら、その腕を剣へと変形させる。

そしてそのまま、彼は思うがまま眼前の哀れな心を失った獣へその剣を振るった。
刹那カッシスの腕にクウガの肉を斬る感触が伝わり、紫の甲殻を赤い鮮血が濡らす。
敵の抵抗を許すこともない一方的な蹂躙によって、敵対者の生暖かい液体が自身の身体を伝うことに優越感を覚えつつ、カッシスはその腕にエネルギーを纏わせた。

放たれたインパクトスタップの一槍が、クウガの左胸を刺し貫く。
それと同時、一定の成果を認めたか、カッシスはフリーズを解除し通常の時間軸へと帰還する。
動き出す世界の中、ゆっくりと全ては動き出すが、しかしその中で唯一カッシスの猛攻を一身に受けたクウガだけは、大きくその身体を彼方へと弾き飛ばされていた。

大地を抉りながら転がり、大きく傷ついたクウガの身体はしかし、次の瞬間には回復を開始する。
瞬く間に無数の切り傷が塞ぎ、その全てが黒へと溶けていく。
ライジングアルティメットとの戦いでも嫌気が差したその尋常ならざる回復力は、どうやら彼にも備わっているらしい。

瞬時に立ちあがり、クウガは抵抗の拳をカッシスへ向け次々と放つ。
うち幾つかは防ぎ躱すことで無へと帰すが、しかし殺し切れなかった数発だけでも、カッシスの甲殻を歪ませるには十分な威力を伴っていた。
なるほど、とカッシスは思う。

15覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:54:31 ID:6aG2OzYo0

なまじ一度自分を敗北にまで追いやったのと同種の仮面ライダーではない。
攻撃力と速さだけで言えば対処しきれる範疇だが、回復力を始めとするその戦闘続行能力を鑑みればやはり恐ろしい敵であることに変わりはない。
だがもう一度フリーズを行うまでに少しばかりの時間が欲しい、とカッシスは今一度ライダースラッシュをクウガへ放ち、無理矢理に両者の距離を引き剥がした。

それでもクウガは一瞬のうちに再び猛攻を開始しようと突撃してくるが、何もカッシスの戦法はフリーズだけではない。
クロックアップによって刹那を一秒ほどにまで引き延ばし、その瞬間にクウガへ向け暗黒掌波動を放っていた。

「ガアァッ……!」

軌道線状の地面ごと闇に抉られ大きく吹き飛ばされたクウガが、またも即座に立ちあがる。
これまでに連続した戦闘の疲労故か、肩を大きく上下させる彼の意思に反するように、その身体はなおも戦う為だけにその身を万全の状態へ瞬時に回復させる。
これは全く以て厄介な生き物だとカッシスは苦い顔を浮かべようとして、しかし瞬間とある事象に気付いた。

(こいつ……心なしかさっきよりも回復力が落ちてきている……?)

眉を顰め、クウガの身に刻まれた数多の裂傷を注意深く観察する。
……やはりだ。彼が持つ人並外れたその回復力によって、先ほどまでは瞬きの間に閉じていたはずの傷が、今は数秒経ってもまだその身に残り続けている。
それは、クウガ自身の生命力が度重なる激闘によって尽きつつある証左か、或いはアマダムの損傷によってその完全な生物兵器としての性能に泥がついたためか。

ともかくクウガに残る体力が最早残り少ない事だけは、この場で確かなこととしてカッシスにも伝わっていた。

(それなら、あまり無駄に長引かせるのも酷か)

フン、と鼻で彼は嗤う。
こうして自分とやりあう時間はそこまで長いわけではないというのに、ここまで疲弊しその絶命を予感させるクウガを手中に置くことに、カッシスは既に興味をなくしていた。
とはいえ今のクウガと言えど、悪戯に敵に回すのは気が引ける程度の実力は有している。

なればやはり、その生命力が発動するより早く終わらせるのが最適かと、カッシスは再びフリーズを発動させるためその腕を大きく掲げた。
瞬間、それを妨げるようにクウガは自身に向けまたも掌を翳し超自然発火能力を発動させていたが――しかしその炎がカッシスを燃やすよりも早く、彼は自分一人だけの世界へと突入していた。
またしても止まったクウガへ向け、カッシスは勝者の余裕を携えて近づいていく。

フリーズ発動の瞬間、彼がまるで断末魔の如く放った炎が築いた道を、ゆっくりと歩みつぶしながら。

「哀れなものだよ……君も、五代雄介も。結局は自由意志を失い獣のように暴れるだけ暴れて死んでいくなど」

クウガへと放った言葉は、しかし当の本人どころか誰に届くはずもない。
抱いてもいない憐れみを言葉に滲ませてその腕へ再びタキオン粒子を迸らせたカッシスの目には、クウガの姿は既に倒した敵としか映っていなかった。
思い切りライダースラッシでクウガの胴を薙ぎ払い、それと同時時を再始動させたカッシスは、その身にクウガの身体から噴き出した赤い鮮血を浴びる。

あれだけの傷を受けた後、この量の失血をすれば果たして、今度こそクウガは死に至っただろう。
そんな半ば確信を抱き自身の勝利を確認しようとしたカッシスのその瞳に映ったものは。










―――――既に眼前にまで迫った、自身の顎を強かに捉えようとする究極の拳だった。

16覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:54:52 ID:6aG2OzYo0

「なっ……!」

そこから先の言葉をカッシスが継げなかったのは、至極当然のことだ。
彼が何らの防御策ないし回避策を講じるより早く、クウガの狙いすました一撃が彼の面を打ち据え、その脳を強く揺さぶっていたのだから。
勝っていない、というだけならばまだしも、自身最強の能力であるフリーズを事実上攻略されたカッシスは、碌に受け身も取れぬまま無様に地を転がった。

「馬鹿な……!?」

驚愕に呻き、急いて状況を把握するため顔を見上げたカッシスへ、一瞬の隙も与えずクウガの追撃が突き刺さる。
筆舌に尽くしがたい嗚咽を漏らし、訳も分からないままカッシスは再度吹き飛ぶが、しかしこれ以上の無防備を晒すほど、彼は愚かではなかった。
ほぼ反射的にクロックアップを発動し、無理矢理クウガと自分を引き離すだけの時間を稼ぐ。

勿論、通常のクロックアップ程度の加速であれば今のクウガに捕捉することなど容易いが、されどそれでもクウガは、次のカッシスの行動を予測し勢いよく回避行動へ移っていた。
それと同時、抵抗のつもりか或いは目晦ましのつもりか、クウガが再び超自然発火能力でカッシスへ火をともすが、しかし意味はない。
三度フリーズを発動し、クウガの動きが再び制止する。

間違いなくそれが発動したことに、カッシスはしかし攻撃の意思よりも早く安堵の念を抱いている自分を、自覚してしまっていた。

(何故だ……何故こいつが俺のフリーズを破れる……!?)

思わず抱いた戦慄は、この能力を破った人間が生涯においてかの天の道を往く男に次いで二度現れるなど想定もしていなかったからだ。
それも、あの天道が武器に頼ってようやく成しえたフリーズ攻略を、自分の身一つで成し遂げて見せるなど、それこそカッシスにとっては考え得ぬことだった。
もしくはあれは偶然が生みだした奇跡だったのかもしれないと安易な考えも一瞬浮かぶが、自身が揺るぎない最強であるという安寧が醒め始め、冷静な思考を取り戻した聡明な頭脳が、そんな甘さを消し去っていた。

(認めよう……こいつはまず間違いなく、俺のフリーズを既に攻略している……!)

心中で、憎々し気にそう呟く。
理由は分からないが、敵はもうこちらの手の内を理解し有効的な対策を編み出している。
無論、フリーズの発動中に与えたダメージの回復に手間取り、こちらへの致命傷に値するような一撃を放つことは出来ないらしいが、それも不幸中の幸いという程度。

一方的な蹂躙で終わらせることが出来るとばかり思っていた敵の思いがけぬ反撃に、カッシスはこの戦いへの認識を改めていた。
フリーズの持続が限界を迎えつつあることを理解したカッシスは、クウガへ向けライダーキックを放つ。
黒く染まり堅固な鎧と化したクウガの肉体を、電流迸る足先が一閃する。

それと同時カッシスはフリーズを解除するが、しかし此度その瞳は、敵対者と認めたクウガを鋭く射抜き続けていた。
そして同時、止まっていた空気さえ爆音を伝える為の振動という形で動き出したまさに瞬間、カッシスの頬を再びクウガの強力な殴打が殴り飛ばす。
生じたインパクトによって両者は同時に大きくその身を吹き飛ばされるが、同時カッシスはクウガがフリーズを見抜いた方法を逆に見抜いていた。

結論から言えば、奴が目安にしていたのは他ならぬ自分自身だ。
時を止める直前にクウガが超自然発火能力で自分へ炎を放っていたのは決して無駄な抵抗ではなく、更に言えば攻撃ですらなかったのである。
奴は時を止めた瞬間と動き出した瞬間、その一瞬の炎の僅かな揺らぎだけで自分のフリーズ中の行動及び居場所を理解し、すかさず反撃に移っていたのだ。

ふざけた反射神経だと敵ながら称えたくなる一方で、しかしカッシスの中には未だクウガに対する疑問は燻り続けていた。
どれだけ今のクウガがあの哀れな傀儡と違い自分の飛び抜けた才覚を万全に行使できる状況にあるとはいえ、自身の能力をただの一度見ただけで対処できるとは考え難い。
事実として破られてしまった以上はその理不尽を認めるしか出来ないのは重々承知で、それでもなお彼は苛立ちを隠し切れずにいた。

カッシスが知るよしはないが、その対処スピードを生みだしたのは様々な詳細こそ異なるとは言え、フリーズと同じ時を止める能力を持つ剣の王とクウガがかつて対峙していた経験の為だった。
最も、その剣の王の時を止める能力とてただの数回ほどで見抜き攻略していたのだから、カッシスの油断を考慮すればその経験は特段この戦いに影響を及ぼしていないのかも知れないが。
ともかく、膝をつき回復へとその力を集中させるクウガを、カッシスは油断なく睨みつける。

17覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:55:21 ID:6aG2OzYo0

幾らフリーズへの有効的な対処法を見出したとはいえ、クウガが既に満身創痍であることは疑いようがない。
このまま数度今のような攻防を繰り返せば、敵への油断を捨て去った現状、カッシスの勝ちはやはり手堅いだろう。
だがしかし、そうして勝利を勝ち取ろうとしても、クウガの超反射による反撃を受けていれば自身も相応に消耗することは明らか。

加えて言えば、そもそも間宮麗奈を殺すという当初の目的から大きくかけ離れた戦果に、受けた消耗と見合うだけの価値は見出せないのが正直なところ。
果たしてこの戦いをどう収めるべきか、と思案を始めたカッシスが、束の間の休息を終えたクウガへ立ち向かう為構えようとした、まさにその瞬間。
カッシスの身体を、不自然な外部からの圧力が抑え込んだ。

「――小野寺ユウスケ!今だ!」

何事か、と事態を正確に把握するより早く、耳に届いたのは遠くから叫ぶフィリップの声。
まさかと思い見上げれば、そこにいたのは彼が持つ蝙蝠と蜘蛛を模した二つのガジェットが、自身へ向けそれぞれ超音波と糸を放つ姿だった。
不味い、と本能が叫ぶ。こちら側の被害を度外視すれば、今のクウガへの勝ちは手堅いと判断したが、それはあくまで一対一に敵が徹していた場合だ。

一つ一つは小さな戦力であっても、ほんの一瞬でもこちらの挙動を阻害しクウガを支援する仲間の存在がある場合、或いは自分の敗北の可能性も、十分頭を擡げてくる。
二機のガジェットの攻略にはそれこそ一秒もあれば事足りるが、しかしそれだけの隙を許容してくれる相手ではあるまい。
本格的にこの戦いが描く未来図が、かつて天道に敗北した時と同じ暗雲に導かれつつあるのを感じ、カッシスはいよいよ冷や汗をかくような戦慄を抱きかけ――刹那、目の前のクウガが躊躇なく自身を支援するガジェットを握りつぶしたことに、驚愕で目を見開いた。

クウガの遥か後方で、フィリップが自身の発明を破壊されたことに動揺の声を漏らす。
そして流石に声こそ上げないものの、カッシスもまたクウガの今の行いには彼と同じだけの驚きを感じずにはいられなかった。
何故自分を支援する仲間の所持品を、迷いなく破壊するような真似をするのか。

自身に纏わり付いた糸を引きちぎりながら思案したカッシスは、冴えた頭脳で以て刹那の内にその答えを見出していた。

(まさか……今のクウガには、敵味方の区別もつかないのか?)

浮かんだ仮説は、次の瞬間には多様な根拠を伴って裏付けされ始める。
主に仕えるライジングアルティメットを最初に知っていた為に理解まで時間がかかったが、恐らく今のクウガはあくまで敵を打破するためにだけ動く生物兵器なのだ。
そこに小野寺ユウスケ自身の自我は存在せず、何らかのシステムによって裏付けられた敵を打ち倒す為だけの戦士としての本能が彼を突き動かしているのだろう。

だからこそ、奴は自身を支援するガジェットを、敵味方の区別が出来ず瞬時に破壊したのだ。
それらが放つ敵の動きを阻害できる技能が、自分に向くかもしれないと、人の血の通わない思考回路で、導き出したために。
或いは蝙蝠型のガジェットが放っていた超音波はもう既に、超常の知覚能力を持つクウガには牙を剥いていたのかもしれないが、ともかく。

そんなあり得ない可能性によって千載一遇のチャンスを無為にしたクウガを前にして、カッシスは改めて敵への有効な対処法を模索し始める。
同時、聡明な彼の頭脳が本格的にこの場での最善を導き出す為回転し始める、まさにその寸前。
ガジェットの残骸が拳から零れるのも気にせず走り出したクウガを取りあえずやり過ごす為に、カッシスは一旦その思考を中断した。





「小野寺ユウスケ……!?」

凄まじき戦士と化したクウガと、自身の知るそれより圧倒的な威圧を誇る形態へ進化したカッシスワームの熾烈極める戦いの遥か後方で、フィリップは立ち尽くしていた。
思わず漏れたのは、自分の開発したメモリガジェット二機が、他ならぬ支援しようとしたクウガ本人の手で破壊されたことに対する困惑と動揺を含んだもの。
無論、最悪カッシスによって破壊される可能性は考慮の上での行動だったが、しかしこちら側に何も有利に働かない結果に終わったのは、些か不本意だと言わざるを得なかった。

18覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:55:42 ID:6aG2OzYo0

「――お前がフィリップ……左翔太郎の相棒だな?」

果たして今のクウガに何が起きているというのか、疑問を深めたフィリップの元へ、女の声が届く。
緩くそちらへ振り返れば、そこにいたのは白い服に黒い髪を下ろした女性が、その腕を押さえながらやっとの思いで歩く姿。
だが、明らかに守るべき対象たるその様相を前にしても、フィリップは彼女を支えるために動き出すことは出来なかった。

理由は単純。数多くの仲間との情報交換によって得られた残る参加者の中で、女性と判断できる名前はただ一人。
それも乾巧を庇い死んだという正義の仮面ライダー、天道総司が警戒するべきと警告していた間宮麗奈のものしか、残されていなかったのだから。
彼女はワームであり、容易に信用するべきではない……乃木怜治に裏切られた今、フィリップにはその言葉があまりにも重く説得力を伴って感じられた。

故に、他の怪我人と同じような処置を彼女に施すのには、彼の中に些かばかりの疑問と躊躇が生まれていたのである。
自分を警戒するフィリップの視線に気付いたか、麗奈はそこで足を止める。
客観的に鑑みて、ここで無理に自分を敵対視されるよりは距離を取る方が有効的だと考えたのだろう。

事実、それによって最低限の保証を確保されたと判断したフィリップは、彼女の問いにようやく答えるだけの余地が生まれたと判断する。

「……その通りだ。僕はフィリップ。そして彼は、相川始。君は間宮麗奈……で間違いないかい?」

カッシスワームによる攻撃を受け、変身を解除された始を、麗奈へ紹介しつつ、彼女へ一応の確認を取る。
無言で頷いた麗奈に対し、一方の始もまた言葉もなく隠そうともしない警戒を彼女に向ける。
最も、そんな怪訝な瞳を麗奈は特に気に病む様子もなく、そのまま遥か彼方の戦場へ目を向けた。

「フィリップ、小野寺ユウスケに今何が起きているのか、知っているか?」

「分からない。これまでの彼の戦い方や僕のガジェットを破壊したことからするに、恐らくは今の彼に小野寺ユウスケ自身の意思は存在していないのだろうけれど……」

「そうか……」

短く返答を述べ、麗奈は俯き思考に沈む。
その物憂げな表情が何を懸念するものなのか、普段のフィリップなら分からなかっただろうが、奇しくも彼女と同じことを考えているだろう今の彼には、手に取るようにそれが分かった。
恐らく彼女も考えているのだろう。暴走し手を付けられない小野寺ユウスケの脅威がこちらへ向く前に、今無事な仲間だけでも逃げるべきではないかと。

事実、こちら側に残る戦力はあまりに心もとない。
間宮麗奈は取りあえず置いておくとしても、先ほど救出した城戸真司は気絶しているし、自分にも始にももう変身手段は――G4は先のダグバの襲撃によりダメージを受け正常に起動する保証もない為に――残されていない。
使いまわしを考慮しても今のクウガやカッシスを相手には心もとない戦力しかないのは変わりないし、であれば逃走という手段を取るのは決して間違いではないだろう。

それこそが合理的に導き出された答えではあるし、事実一年前の自分であれば疑うこともせず、仲間を連れこの場から逃げ出していただろう。
だが、良くも悪くも今のフィリップは、小野寺ユウスケという心優しい青年を犠牲に自分たちの安全を取るような行動を、取れなくなっていた。
仲間との交流で育まれた人間性が、それこそ一年前、翔太郎の旧友を蝕むガイアメモリの毒素が彼女の人格を変貌させていると指摘し彼に怒鳴られた時のような、どこまでも冷静に物事を判断する魔少年の一面を消し去っていたのである。

だが、ユウスケを見捨てる選択肢を安易に取れないとしたところで、ガジェットも潰されてしまった今、自分に出来ることなど無いのではないか。
このままクウガがカッシスと痛み分けの形で戦いを終わらせ、その隙に変身制限によって生身を晒したユウスケを救出し離脱するという、極めて消極的かつ博打的な方法でしか、自分たちがここにいるメリットはないのではないか。

19覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:56:07 ID:6aG2OzYo0

(いや、一つだけ別の手段はあるけれど……)

思考を模索する中で、フィリップは自分にしか出来ない打開策に思い当たる節こそある。
だがそれを行うには自分だけでは事足りない上、“彼”の無私の協力が必要だ。
やはり、様々な面から見てこの手は実質不可能だろうと、フィリップはその思考を無理矢理振り払った。

刹那、数多の可能性が浮かび、そしてその度消えていくフィリップと同様の思考を繰り広げているらしい麗奈と、ふと視線が交差する。
彼女もまた、どうやら最初に浮かんだ逃走という手段を否定できるだけの材料が見つからないらしい。
特に自分と違い、とっておきのウルトラCの可能性を逡巡することも出来ないのだから、彼女の思考にはいよいよその一択だけしか残されていないのだろう。

なれば、やはり城戸真司と始、そして麗奈を連れてこの地を離れるべきか、とフィリップがようやくその思考に折り合いをつけようとした、その瞬間だった。
視線の端でなお戦いを続けていたクウガとカッシス、絶え間なく響いていたその戦闘の余波による轟音が、突如消え失せたのは。
勝負が決まりそうな大技を放ったわけでもなく、かつ戦いが終わるだろう予兆すら感じさせない勢いで交わし合っていた攻撃の応酬に、思わず油断していたのである。

思いがけず訪れた沈黙に、彼らは勢いよくその顔を見上げる。
そして同時、彼らの瞳が捉えた、そこに立つただ一人の人影は。
黒く聳え立つ四本角を携えた、心を失った凄まじき戦士の姿だった。

思わず、フィリップの喉から安堵の溜息が漏れる。
正義の仮面ライダーであることは保証されているユウスケの命を見捨てずに済んだことに、純粋に喜びを抱いたのである。
だが、そんな彼の緩んだ表情は、すぐに引き攣ることとなる。

カッシスとの戦いを終えたクウガが、なおも変身を解くことなく、その身体を遥か彼方で待機している自分たちへ、ゆっくりと向けたのだから。

「小野寺ユウスケ……?」

ガジェットを破壊された時よりも鬼気迫る思いで、フィリップは呟く。
まさかそんなことが、あっていいはずがない。
だが、縋るように呼ばれた自身の名前に一切の反応を示すことなく、クウガはその剛脚で迷いなくこちらへと向け走り出していた。

「――下がれ!」

刹那、一瞬のうちに凡そ200Mほどの距離を一気に無に帰したクウガと自分の間へ、見知らぬ白い怪人が滑り込んでいた。
そして、放たれた声でそのシオマネキのような怪人が間宮麗奈の真の姿なのだろうとフィリップが理解するのと、ほぼ同時。
白い怪人……ウカワームが咄嗟に構えた盾状に変形させたその腕へ、クウガの拳が突き立たされていた。

それなりの重量に耐えうるように設計されているはずの橋が、ただ一人の戦士の拳を前に容易くその身を凹ませる。
無論、その間に挟まれたウカにもそれ以上の負荷が襲い掛かるが、しかし彼女とて伊達にワームの幹部を務めてはいない。
その身一つで勢いを完全に殺し切り、逆にその鋏のような右腕を振り払ってクウガを無理矢理に引き剥がしていた。

後ろへと跳び、地面へ着地したクウガが、再び吠える。
恐らくは新たな標的としてウカを見初めたのだろう生物兵器の唸りを受けて、それでも彼女は動じない。
その背に守る新たな仲間の盾として、凄まじき戦士を迎え撃つようにウカワームは今一度戦いの姿勢を整えた。





「――上手く行った、か」

一方で、戦いを始めたクウガとウカワームの姿を遠目に収めながら、生身へと戻った乃木怜治は一人満足げに呟いていた。
彼がクウガの前から消えたのは、勿論敗北しその全身を消滅させたからなどという理由ではない。
戦いの最中にフリーズを発動した後、クウガへの攻撃を一切行うことなくその視界から消える事だけを目標に駆け抜けた為である。

20覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:56:30 ID:6aG2OzYo0

そんな行動を取ったのは逃走の為だろうか。
否、彼がそうして戦いを離脱したのは、クウガを利用して自身の宿敵間宮麗奈を殺させる道具として利用する為だった。

「全く、五代雄介といい君といい、クウガというのは実に愚かなものだよ。強さを求めれば、自分の意思を失わなければならないなど」

嘲笑を漏らし、乃木は手頃な木へと寄りかかる。
地の石に操られた五代といい、暴走した小野寺といい、その実力が確かであることは認めるが、その力の代わりに自我を失っているようではまだまだだ。
そんな扱い難い力を得たところで、石という分かりやすいツールのある五代は勿論、目の前の敵を見失った小野寺も、こうして守るべき仲間へと襲い掛かってしまうのだから。

憎むのならば、無駄な甘えに囚われさっさとGトレーラーで逃げなかった仲間を憎むんだな、と乃木はまた一つ笑って。
ウカワームを殴り続けるクウガというその光景を、ただ愉悦を抱いて見守っていた。





ファイズの銀の拳が、宙へ赤い軌跡を描いて敵へと迫る。
必死の形相で放たれたそれは、しかし黄のラインを走らせたカイザの腕に容易くいなされ、躱される。
思わず体勢を崩し、前のめりに倒れかけたファイズを半ば強引に押し上げるようにして、カイザショットの一撃が彼の中腹へと突き刺さった。

腹から空気が吐き出されるような嗚咽を漏らし、ファイズはアッパーカットの直撃に耐えられず宙に殴り飛ばされる。
突然訪れた不可解な滞空時間に彼が困惑を漏らすより早く、その身体は橋へと叩きつけられ、その勢いのまま数度転がった。
腹と背中に走る凄まじい痛みに荒く呼吸をして、それでも何とか立ち上がったファイズは、やはりというべきか目前の敵と自分の実力差を痛感する。

容易に想像出来たことではあるが、所詮ただの人間に過ぎない今の自分と、オルフェノクを統べる企業の長たる村上の実力は、簡単に埋められないほど開いている。
如何に自分が仮面ライダーとして戦う覚悟を決めたとは言え、結局は意識が少し変わっただけだ。
元より揺るぎない戦いの意思を固めていた村上と同じ土俵に立ったところで、素人に過ぎない自分がまともにやりあって勝てるはずもない。

分かっていたはずではあるがやはり現実は厳しいと、ファイズは改めて痛感する。
だが、だからといって彼の中に逃走を選ぶ自分がいるかと言われれば、その答えは否であった。
無論、ベルトを渡して命乞いをしろと叫ぶ自分も、逃げてしまえと喚く自分も、変わらず自分の中には今も存在している。

だがその声に従ってカイザに背を向けるのは、リュウタロスの思いを継ぎ、かつて憧れたヒーロー、園田真理のように誰かを守ってみせると決めた今の自分には、到底出来なかった。
しかしそうして意地を張ると決めたところで、現実問題としてカイザに対抗するための小細工や戦う術は残されているだろうかと、ファイズは辺りを見渡す。
藁にも縋る思いでの咄嗟の行動でしかなかったそれは、しかし彼に確かな光明を示した。

――あれがあれば、もしかすると上手くいくかも知れない。
視線の先に映った見覚えのあるデイパックの中身にファイズが希望を見出すのと、彼が駆け出すのは、ほぼ同時のことだった。

「むっ……?」

怪訝な表情で、カイザは一目散に何かに向けて走るファイズを見やる。
彼が向かう先にデイパックがあるのを認め、それを破壊しようかとも一瞬思うが、しかし自分の思うとおりのものがそこにあるのであれば、その必要もないとカイザは彼を見守ることにした。
彼にはどうせあれを使うことも出来ないのだし……そもそも、使うだけの努力もないだろうから。

果たしてそんなカイザの余裕によって難なくデイパックへ辿り着いたファイズは、その勝手知ったるデイパックの中から一つのトランク型強化アタッチメントを取り出した。
ファイズブラスターの名を持つそれは、仮面ライダーファイズをその最強形態たるブラスターフォームへ進化させる機能を持つ。
無論、彼がその所在と能力を知っていたのは、偶然ではない。

何せこのデイパックは、先ほど彼が看取った無垢な魔人、リュウタロスのもの。
彼と共に支給品を確認しその説明も読んでいた彼にとって、ファイズを纏う今それはまさしく危機打開の為の切り札に違いなかった。
だが勢いに任せブラスターへ起動コードを打ち込もうとしたファイズに対し、響いたのはカイザの放つ制止を呼びかける声だった。

21覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:56:56 ID:6aG2OzYo0

「――無駄ですよ、貴方ではそれを使うことは出来ない」

思わずカイザへ向き直ってしまったのは、それを告げた彼の声が焦りや恐怖とはほど遠い余裕が滲むものだったからだ。
恐らく、彼は本心から確信しているのだ。
自分はこのブラスターを使うことも出来ず、もし仮に使用しても灰化して死ぬだけだと。

そしてそれは、ファイズとて今までの様々な要因から、既に理解している。
そもそも、本来であればオルフェノクしか使用出来ないはずのこのライダーズギアなど、自分には元より過ぎた力なのだ。
名護からの情報で知ったが、やはり自分の想像通りにオルフェノクだったらしい乾巧なら、問題なくこの強化アタッチメントも使用出来たのだろう。

だが人間である自分では、カイザに変身した他の流星塾生のように変身を解除した瞬間に灰化してしまうばかりか、恐らくこれを利用した変身すら叶うまい。
もしそれでも変身を断行すれば、この身に走るフォトンブラッドが鎧や力の源としてではなく、過ぎた力として牙を剥きこの身を一瞬で滅ぼすのだ。
思わず抱いてしまった未来の有り得る形に身震いし、トランクへと伸びていたファイズの手が迷いに垂れる光景を前に、カイザは予想通りだとばかりに一つ笑った。

「……安心してください。先ほどはああ言いましたが、それがあるなら話は別だ。ファイズギアと共にそれを渡してくれるなら、貴方の事は見逃しましょう」

ファイズブラスターを指さしながら、カイザはまるで宥めるように言う。
猫撫で声とも形容出来るだろうそれは、恐らくファイズがその提案を拒否するはずがないという確信に満ちている。
そして事実それは間違いなく、この状況ではこれ以上ないほど魅力的な話だった。

この世界間戦争をかけたこの殺し合いにおいて、村上は敵ではない。
ここでファイズブラスターを渡すことで、村上という強力な仲間の戦力増強が出来る、と考えれば、この手にそんな力があるより余程意味があるのは違いない。
そう考えれば違いないが……それは、あくまで大ショッカーが開いたこの殺し合いのルールに従う上での話だ。

自分にとって、少なくとも今の村上を野放しに出来る道理はない。
間接的とはいえリュウタロスを殺し、これからもあの王とやらと組んで無差別に誰かを襲うのだろう彼にこの力を渡すなど、まっぴら御免だ。
そもそも、このファイズを始めとしたライダーズギアは父である花形から自分たち流星塾生に送られた物なのだから、それを他者に渡すこと自体が今となっては違和感を覚える。

様々な理由を逡巡し、やはり戦う以外に道はないと断じたファイズは、再びその手に持つトランクを胸の高さまで持ち上げる。
今度こそ驚きに僅かばかりその足を退いたカイザを前に、彼は精一杯強がって笑って見せた。

「俺には使えないって?そんな答えは、聞いてないんだよ……!」

それは、今は亡き魔人の――彼の友達の決め台詞。
どんな道理だかは知らないが、自分にこれを使えないとかどうだとか、そんな話はもうウンザリだ。
出来ないとかやれないとか、そんなつまらない答えなど聞いていないのだ。

もしそれが唯一無二の逃れ得ぬ答えなら、そんな運命変えてみせる。
そうだ、リュウタロスも言っていたではないか、『戦いというのはノリと勢いだ』と。
なれば今この戦いにおいて、明らかにノっているのは自分の方に違いない。

強いとか弱いとか関係なしに、“勝たねばならない”勢いを持っているのは、間違いなく自分の方に違いないのだから。

――5・5・5・ENTER

――STANDING BY

起動コードを承認したファイズブラスターが、人工衛星へと要請を送信し変身シークエンスを開始する。
指示に従い、ドライバーからファイズフォンを引き抜いたファイズは、しかし刹那カイザの嘲笑を耳にした。
呆れているのだろう。自暴自棄になって、拾える命を捨てた愚か者だ、と。

だが、ファイズは投げやりになった訳でもなければ、分の悪い賭けに無策で挑んでいるつもりもなかった。
戦いで死ぬつもりもなければ、勿論カイザに変身した他の流星塾生のように灰になって死ぬつもりもない。
これは、生き残るための戦いだ。

22覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:57:18 ID:6aG2OzYo0

父の真意は未だ分からないが、それでも彼が自分たちを信じて託してくれたというのなら。
修二にとってそれは、心の奥底に眠る勇気を振り絞るのに、十分な理由だった。

――AWAKENING

トランク型アタッチメントにファイズフォンが装着されたのを受け、人工衛星がファイズに向けて強化スーツのデータを転送する。
赤い輝きに飲み込まれて、ファイズは思わずその身を焼くような熱量に身を悶えさせる。
全身を迸る赤いフォトンストリームが彼の全身を満たすように出力を上昇させ、フォトンブラッドの力がスーツを装着する修二にも襲いかかったのだ。

乾巧のそれとは違い一向に強化形態への変身を完了しないファイズに向けて、カイザは哀れみをも秘めた視線を向ける。
帝王のベルトにすら及ぼうという力を誇るあの赤いファイズを、唯の人間如きが使える道理などないのだ。
ともかく、この男が灰となった後にファイズギアとトランクを無事に回収できればそれでこの場は良しとしよう。

そんな風に油断したカイザが、しかし瞬間その瞳に映した物は。
決して耐えられぬはずの熱量にファイズが順応を始め、徐々にその姿勢を真っ直ぐ正そうとする、その信じがたい光景だった。

「馬鹿な……」

思わず、驚愕に声が漏れる。
因子を埋め込まれた人間は愚か、並のオルフェノク程度では一瞬で身を滅ぼすはずのそれを、今彼は纏おうとしている。
それは自身で帝王のベルトを纏い、その力を身に染みて実感したカイザにとって、最も受け入れがたい光景だった。

言葉を失い傍観するカイザを前にして、ファイズは大きく吠えてその身体を天に向けて真っ直ぐに伸ばした。
それで以てスーツを転送出来るだけの準備が整ったと判断したか、降り注ぐレーザー光線はより一層の輝きを伴って彼の姿をいよいよ覆い尽くし、世界を光で包み込む。
刹那、離れた場所で事の顛末を見守っていたカイザですら直視できないほどの光量が、ファイズドライバーへ収束していく。

そして光が収まるその瞬間、彼の視線の先に立つのは最早通常のファイズではなかった。
全身に赤いフォトンブラッドを漲らせ、不要となったフォトンストリームは全身に自壊制御装置となって黒いラインを走らせる。
背中には巨大なバックパックを背負い、より重厚な印象を抱かせるその全身が、灰化することもせず直立していた。

――仮面ライダーファイズブラスターフォーム。
ファイズの最強形態にして、三本のベルトでありながら帝王のベルトすら凌駕する強度を誇る『555の世界』最強のライダーが、今そこに君臨していた。

「有り得ない……こんな事など……!」

しかし、その雄々しい姿に苦悩と苛立ちを覚える者が、ここに一人。
労せず手に入るとばかり思い込んでいたファイズ究極の力を、他ならぬただの人間風情が纏ったことに、カイザは憤りを隠しきれない。
こんな事は間違っていると示すために、カイザはその激情のまま自身のベルトへと手を伸ばした。

――EXCEED CHARGE

カイザショットへとエネルギーが充填されるのを待たず、カイザは駆け抜ける。
今のファイズは奇跡にも近い偶然で無理矢理成り立っている張りぼてに過ぎず、自分が力を加えればすぐに崩壊する儚い幻想なのだと、そう証明する為に。
だが悲しいかな、我を失い直進するカイザは、ファイズにとって格好の的でしかなかった。

――1・0・3・ENTER

――BLASTER MODE

――EXCEED CHARGE

流れるような手つきでトランクへコードを打ち込んで、ファイズは大砲のような形へと変形したそれを両手で構える。
次いで再びENTERキーを指で押し込めば、銃口へ充ち満ちるは今までに感じたことのないような高密度のエネルギー。
手に持つ力に恐れを抱くこともせず、彼がトリガーを引き絞れば、放たれたのは一発の弾丸……否、砲弾。

23覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:58:01 ID:6aG2OzYo0

フォトンバスターの名を持つその一撃へ向け、カイザは思い切り拳を振るう。
まるで自分の方が種としても個体としても優れているのだとそう叫ぶように伸びた拳は、しかしカイザの意を汲むことはなく。
ほんの一瞬の拮抗も許すことなく、彼の拳を打ち破りカイザの全身を蹂躙した。

「ぐわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

許容の範囲を大きく超えたダメージに、ベルトが悲鳴を上げ吹き飛んでいく。
それを受けオルフェノクの姿を晒してもなお、フォトンブラスターの勢いは衰えることを知らない。
橋の中腹を削り、ローズの身体を引きずりながら、彼が偶然にもその背を向けていた欄干にぶち当たり無理矢理に制止するまで、赤い輝きは一切の減衰を見せることはなかった。

あと少しで川にローズを放り出せたという局面で砲弾がかき消えたのは、或いはローズの決死の抵抗が齎した産物だったのか。
だがそうまでしてこの戦場に止まろうと意地を張った彼はしかし、今の一瞬で力を使い果たしその意識を手放していた。
未だ硝煙を上げる銃口を見やり、改めて凄い力だとファイズは思う。

身震いするように一つ息を吐いて、ローズに止めを刺すべきかと思案したその赤い躰に向けて、瞬間死角から光弾が迫っていることをファイズは察知する。
ほぼ反射的にそれを躱し、後方で生じる爆炎には目もくれず、ファイズは光弾を放った異形に再び向き直る。
そこにあったのは、今の今まで静観を決め込んでいたオルフェノクの王たるアークが堂々と立ち尽くし自分へ向けて敵意を剥き出しにする姿。

恐らくは村上の敗北を受け、万全な体調ではないながらもここでファイズを倒さなければ不味いと判断したのだろう。
或いは、元の世界で一度自身を打ち倒したその姿に、彼自身思うところがあったのかもしれないが、ともかく。
戦闘態勢に入ったアークへ向けて、ファイズは今一度震える足で無理矢理立ち上がり、雄叫びと共に橋の上を駆け抜けていった。





――三原修二程度の人間がファイズの最強形態であるブラスターフォームに変身を遂げたことに、違和感を覚える者もいるだろう。
或いは、通常の仮面ライダーファイズへの変身そのものに不可解を感じる者もいるかもしれない。
無論、元の世界において修二はファイズに変身したことはない。

もしかすれば彼が持つ因子程度では園田真理と同じようにファイズに変身出来ない可能性すらあるし、もし仮にそれが可能なほど因子が適合していたとしても、ブラスターへの変身はまず不可能だろう。
恐らくは当初彼が支給品の中からファイズブラスターを見つけた時考えたのと同じように、或いは先ほど村上がそう断定したように、彼がブラスターフォームに変身するなど、夢のまた夢の話ですらあったはずだ。
だがそれらはあくまで、彼が単身で変身を試みた場合の話だ。

思い出して欲しい。何故ン・ダグバ・ゼバが、剣崎一真と同じように13体のアンデッドと融合したキングフォームに変身出来たのか。
本来であればカテゴリーキング一体との融合が関の山であったはずの彼が、低い融合係数でありながらそれを可能にしたのは、大ショッカーによって細工が加えられていたためだ。
ブレイバックルに、ではない。この会場に、でもない。

彼らが付けているこの首輪こそが、ダグバのキングフォームや修二のブラスターフォームを実現させた要因だった。
彼らが身につける首輪に、変身制限を齎すなどの大きなデメリットがあるのは既に何度も述べられた通り。
だが一方で、首輪を付けていることでBOARDの変身システムを誰もが副作用なく使用出来るようになるというようなメリットもまた、確かに備わっていた。

そのどちらもが突き詰めてしまえば、参加者間の不平等を可能な限り小さくすると言うバランス調整の目的から設けられた機能なのだが、それが上に上げた二例では特に顕著に表れたということだ。
剣崎一真にしか変身出来ないキングフォームが、他の参加者にも扱えるように制限されたというなら、乾巧他一部のオルフェノクにしか扱えないブラスターフォームを、因子を持つだけの修二が纏ったところで可笑しいことは何もない。
他にも、桜井侑斗しか纏えないゼロノスを誰でも纏えたことや、オリジナルですらない海堂直也が帝王のベルトたるサイガに変身出来たことなど、他にも近似例は事欠かないが、それはひとまず置いておくとしよう。

24覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:58:28 ID:6aG2OzYo0

結局の所、今最も重要なのはただ一つ。
三原修二がブラスターフォームへと変身出来たのはこの場限り、それも大ショッカーが彼に与えた首輪を付けている時のみの話であり。
そんな偶然の積み重ねが、ここに奇跡の結晶として再び仮面ライダーファイズの最終形態を顕現させたという、そのただ一つの事実だけだ。

だが、そんな自分の身に起きている論理的な結論など、当の本人は知るよしもない。
だから、彼が今自分に起きている出来事を、彼がどうにか理解しようとするならば。
ブラスターフォームへの変身を問題なく完遂出来るほど、自分のノリが良かった、というそんな身も蓋もない話になるだろう。

だがそれで起きる問題は、詰まるところ一つもない。
彼が今ブラスターフォームへ変身出来ているのは紛れもない事実であり――そして同時、彼の友達たる魔人すら文句なしに認めるほど、今の彼はノっているのだから。
二人の友情が齎した勇気とその末に遂げた奇跡の変身に、異を唱えられる者など一人もいなかった。





「やめるんだ!小野寺ユウスケ!」

フィリップの悲痛な声が、戦場に虚しく響く。
究極の闇に染まったクウガ本来の優しさを呼び起こそうと放たれたそれは、しかし彼には届かない。
何の感慨も見せず戦いを続けようとする凄まじき戦士の姿を前に、しかしそれでもフィリップは懇願することをやめられなかった。

されど、必死の思い虚しくまたもクウガに殴り飛ばされるウカワームを前にして、彼は遂に無力感に膝をつく。
小野寺ユウスケを助けたいなどと身の丈に合わない願いを抱いたばかりに、自分を庇ってくれた麗奈が今、彼に痛めつけられている。
そして、助けてくれた仲間が実際に傷ついているのと同じくらいに、ユウスケに望まぬ暴力を振るわせてしまったという事実は、強く彼の胸を締め付けていた。

しかし、後悔に暮れ絶望している時間は、もう彼には残されていない。
少なくとも今Gトレーラーをも捨てて逃走の為の経路を取れば、真司と始の命だけは保証されるだろう。
これ以上仲間を失う訳にはいかないと後ろ髪引かれる思いを抱きながら振り返ったフィリップは、しかしすぐ目前に現れた影に足を止めた。

「相川始、退いてくれ。僕の判断ミスだった。今すぐここを離れよう」

始に逃走の意思を伝えるフィリップの顔は、しかし苦しげだ。
やむを得ない選択だったのだろうそれを受けて、しかし始の表情はまだ諦観には染まっていなかった。

「いや、まだ手はある」

告げて始は、暴れ続けるクウガへ真っ直ぐその視線を向ける。
自分勝手な理由で使い潰し、その死を招いてしまったもう一人のクウガへの罪悪感が、彼を安易な逃走から遠ざけているのかもしれない。
或いは、先ほど思考を巡らせる中で、彼へ一瞥をくれてしまっていたこととその意味に、目敏く気付いているのかも知れないが。

いずれにせよ、彼という男がわざわざ呼び止めてまでクウガと麗奈を助けようとしている事実は、理由はともあれフィリップの足を引き留めるのに十分なものだった。
果たして様々な思考を抱いて次なる始の言葉を待ち訪れた沈黙へ、彼は一石を投じるように突如それを打ち破る。

「フィリップ……俺の首輪を解除しろ」

放たれたその言葉は、しかしフィリップからすれば意外でもないものだった。
何故ならそれは、先ほど逃走以外に有効的な解決策を模索していた中で、最後の二択に残るほど有力な候補であったのだから。
かつて橘朔也の首輪を外したのと同じように、首輪を外して変身制限から解放されれば、始の真の力を用いてクウガを抑えることが出来る……それは確かに有効な手だ。

もし仮に始が自我を保ったままジョーカーへと変身し、クウガの変身制限が来るまで戦ってくれるなら。
確かにそれは最も平和的にこの場を収められる術であることは、恐らく疑いようがないだろう。
だが、始の協力を得るのが難しいだろうと飲み込んだその提案を本人から投げかけられてなお――フィリップの表情は、暗く思案に沈むものだった。

とはいえその反応も、始には予想通りだったのだろう。
大した間を置くこともせず、彼は表情一つ変えずに一歩足を進めた。

25覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:58:51 ID:6aG2OzYo0

「……お前の気持ちも分かる。だが、俺があの力を使わない限り、今のクウガは止まらない。……違うか?」

かつて病院大戦で五代を操り敵として立ちはだかった自分が首輪を外す、つまり変身制限を克服することに多大な葛藤があるのは、始とて理解している。
されど、この場で制限を抜きにして考えれば、クウガと互角に戦いうる力を持つのは自分を置いて他にはおるまい。
故に確たる意思で以てフィリップを揺さぶるように問いを投げれば、フィリップは気まずさに言葉を選びながらゆっくりと始へと向き直った。

「相川始、君の言うことは正しい。……だが、今の君の首輪を外す事は、僕には出来ない」

「……俺が、殺し合いに乗っていたからか?」

「正直それも、理由の一つではある。だけど……」

変わらず苦悩するその顔に、フィリップが自身の首輪解除を渋るのは彼の個人的な感情のみによるものではないらしい、とようやく始は思い至る。
もしや、首輪の解除が出来ないのか?いや或いは、彼の表情はまるで――。
一つの可能性に思い至り、まさかと目を見開いた始に対し、フィリップはさもそれを見通したように重いその口を開いた。

「相川始、君の首輪を外すべきかどうか……正直僕はまだ迷っている。だけど、僕は小野寺ユウスケを救いたいし、出来れば犠牲も出したくない。だから、今からする話を聞いた上で……君に、その結論を委ねたい」

フィリップの眉間には、深い皺が寄っている。
きっとその脳裏には、始が敵に回った為に死んでしまった多くの仲間たちへの無念と、それでもなお彼を信じようとした剣崎一真や葦原涼の示した正義が交差しているのだろう。
だからこそ、彼は始を許すべきか否かの判断の最終材料を、これから始本人が下す決断によって判断しようとしているのだ。

例えその結果として、自分たちにとって強大な敵となって始が立ちはだかっても、構わないという覚悟さえ抱いて。
並々ならぬ思いで自分と対峙したフィリップを前に、始は承諾の意を込めて強く頷いた。
それを受け、始自身も中途半端な気持ちで言い出したわけではないらしいことを理解したか、フィリップは戸惑いを飲み込むように始の目を真っ直ぐに見つめた。

「相川始、結論から言おう。君の首輪を外せば……恐らく君たちの世界は崩壊する」

「なに……?」

告げられた言葉は、あまりに予想だにしない衝撃的なものだった。
思わず困惑を漏らした始を前に、フィリップはそれも当然かという様に次々と矢継ぎ早に自身が持っている根拠を提示する。

「説明しよう。まずこの首輪は、大ショッカーが殺し合いの参加者を制限するほかに、その生死を判別するためにつけられている。恐らくは、放送で間違った情報を伝えないためにね」

我が物顔で説明するフィリップへ、何を分かり切ったことを、と怪訝な顔で始は頷く。
だが、これはフィリップにとってもあくまで前提条件の確認のつもりだったのだろう。
特に始の反応を見ることもせず、そのまま次の内容へと移る。

「次に、この首輪はこの生きている参加者に装着されている間だけ、その効力を発揮する。禁止エリアに置き去りにされた死体の首輪が爆破しないことからも、それは明らかだ」

それは、未だ始が知らない情報だった。
とはいえそれも想像の範疇ではあった為に、彼は大した思考の整理も必要とせずその情報を飲み込む。

「そしてこれは、さっきの放送で名前を呼ばれたのにダグバが生きていたことから分かったことだけど……恐らく大ショッカーは、僕たちが首輪を外すのも一つの戦術として認めているらしい」

今度は、流石に始と言えど飲み込むのに時間が必要だった。
わざわざ変身制限を設ける為この首輪を着けたというのに、首輪の解除を大ショッカーが認めているとは、どういうことか。
その困惑はフィリップとて分かっているのか、彼はなるべく伝わりやすいようにその言葉を選ぶ。

「まず、この会場には首輪を解析するための装置が幾つも設置されていた。最初は誰か第三者の存在を疑いもしたけど……違う。さっきダグバを放送で呼んだのは決して間違いなんかじゃなく、きちんと確認した上で大ショッカーが呼んだものだったんだ」

「確認だと……?だが奴はあの通り生きていたぞ」

「あぁその通り。だからこそ……戦術の一つ、という訳さ」

大ショッカーがダグバを呼んだのは確かにその死を確認したからだと宣うフィリップに、始は流石に疑問を投げる。
だがそれさえもお見通しとばかりに頷いた彼は、仕上げとばかりに勢いよくそのパーカーの裾を翻した。

26覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:59:11 ID:6aG2OzYo0

「首輪を外した参加者は、死亡したと見なされる。例えダグバのように、爆発に耐えて生き残ったとしても、それは変わらない。つまりこの殺し合いの上では、クウガの世界の参加者は残り一人だけということになる」

「『クウガの世界』の参加者が残り一人だと?――まさか」

「そのまさか、だろうね」

至った一つの可能性に、始は思わず呻く。
首輪をどういった経緯であれ外した参加者は、首輪の機能が停止し死亡したと見なされる。
そして、この殺し合いで死亡するという事の意味は、何も放送でその名前を呼ばれるというだけではない。

つまり――。

「――俺が首輪を外せば、その時点で参加者が全滅したと見なされて『剣の世界』は滅びる……ということか」

最初に述べられた結論へ辿り着いた始に対し、フィリップは強く頷いた。
成程それこそ彼がこうまで自分の首輪の解除を渋った理由であり、同時にその結論を自分に委ねた理由なのだろう。
世界保守を理由に殺し合いに乗っていた自分に、目の前の惨劇を食い止めるためにその道を断つ覚悟はあるのかと、そう問うているのだ。

彼の意図を察した始は、深く思案に沈んだ。
自分の意思さえ失って望まぬ暴力を翳し続けるクウガを止めたいという思いは、嘘ではない。
だが一方で、正直この状況を利用して首輪を解除すれば、後々仮面ライダーたちを全員相手取ることになっても有利に事を進められるという考えが自分の中に存在していたのもまた、確かな事実だった。

だがしかし、この首輪を解除することがそのまま、大ショッカーの言葉が真であった際には愛すべき存在全ての消滅を意味するのならば。
様々な要因によってその言葉の真偽が怪しくなってきた今となっても、始にその選択肢を選ぶことは、不可能に近かった。
そもそも、この会場に来てこの方、自分にとって絶対の目的は自身の世界を守りあの親子や剣崎の守ろうとしたものを守ることなのだから、こんな危ない橋を渡る必要もない。

大ショッカーの打倒を目指しつつ、奴らの言葉が正しいと分かれば仮面ライダーらを裏切り優勝を目指す。
そんな誰からも罵られるような汚い戦い方こそが、自分が誰に何と言われようと世界を守るために選んだ道ではなかったか。
そうして、彼の心の中に潜む冷たい死神が、首輪を外すことなくこの場から迅速に逃走するという自身の答えをフィリップへ告げようとした、その瞬間だった。

――『始!』

――『始さん!』

彼の脳裏へ、温かい声が響く。
それは、既に亡き友がいつしか自分へ向けた笑顔と、命を懸けてでも守りたいと感じたか弱き少女の、無垢な笑み。
まるで自身の真意を試すように突如思い出されたそれに、思わず始は動きを止める。

まさしく、彼が人間として生きる中で空虚な死神の心に温かい人の心が宿ったときと、同じように。
冷たい結論を述べようとしていた始の口が、どうしようもなく躊躇に歪む。
冷静な思考ではここで首輪を外すなど性急すぎるとそう分かっているはずなのに、どうしてもそれを言葉にしたくない自分がいる。

ここでフィリップの提案を拒んでしまえば、恐らく何があったとして自分はもう二度と彼ら彼女らに対して顔向けできないと、そう思っているからか。
既に死んだ剣崎は勿論、世界が滅んでしまえばそもそも栗原親子にももう生きて会うことは出来ないというのに。
あまりに非合理的な自分自身の思考に混乱を隠し切れず、始は視線を彼方へ彷徨わせる。

ふと見れば、そこには先ほどと変わらずほぼ一方的にウカワームを痛めつけるクウガの姿があった。
先ほどまでのカッシスとの戦いによって負った傷が治り切らない為か、ウカでも防戦一方であれば耐えられる程度にはその迫力は失せているが、それでも脅威であることには変わりない。
対峙するウカ自身かなりの疲労を溜めていることもあって、クウガの変身が解除されるより早く彼女の命が刈り取られることは、まず間違いないだろう。

27覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:59:30 ID:6aG2OzYo0

そう、自分が行かなければ、一人の大ショッカーに反しようとする存在が死に、そしてあのクウガもまた望まぬ殺戮にその手を赤く染めることとなる。
つまりは、誰かの笑顔の為に戦う……そう自分に向け真っ直ぐ言い切って見せたもう一人のクウガの意思をも、踏みにじる事となるのだ。
そうしてまた再び物思いに耽り思考を巡らせた始は、そもそも何故あのクウガにそこまで自分が拘っているのかを考え……そしてすぐに結論に辿り着く。

要するに、自分は重ねていたのだ。
今のクウガと、キングフォームの力に溺れて我を忘れて暴走した剣崎の姿を。
仮面ライダーとして気高い意志を持ち、その力で誰かを守って見せるといったはずなのに、強すぎる力に振り回されるその様は、まるであの時の剣崎の生き写しのようですらあった。

そこまで考えて、始は自分自身に呆れたように、小さく鼻で笑った。
自分は結局、殺し合いでその手を血に染めた今もずっと信じているのだ。
あの時の剣崎のように、仮面ライダーならば暴走する自分自身を抑え込み立ち上がれるはずだと。

力に呑まれ、青臭くも崇高な理想を捨て去る運命など覆せる者にこそその名を名乗る資格があるのだと、そう純に信じているのである。

(運命……か)

思わず過ったその単語に、始はまた思考を深めていく。
運命。つまるところ今のクウガに迫りつつある問題と、自分が選択を迫られている問題は、その言葉で繋がっている。
本来の使命を忘れ無慈悲な暴力を翳す運命を強いられたクウガと、大ショッカーが叫ぶ殺し合いによる世界の崩壊という運命を受け容れようとしている自分。

果たしてそれらは、本当にどうしようもない絶対の結末なのだろうか。
いや、違うはずだと始は頭を振る。
そんな絶望を、仮面ライダーは享受しないはずだ。

もし仮に大ショッカーの言葉が正しかったとして、かつて剣崎が高く叫んだようにその運命さえ覆し望む未来を勝ち取って見せるのが、仮面ライダーのあるべき姿だろう。
それこそ剣崎と同じように自分を前にそう宣言して見せた、ジョーカーを名乗る異世界の男のように。
だというのに、彼らのような正義の体現者が変え得る運命を信じつつある自分は、それを何時までも傍観する立場に甘んじている。

世界崩壊という絶望の運命だろうと仮面ライダーが全てを救済する希望の運命だろうと、ただそれに流され甘んじようとしている。
だがそんな風に誰かに与えられた安寧を待つ受け身な姿勢では、きっと何の運命も変えることは出来ない。
ジョーカーの衝動にさえ抗い戦って見せ、ジョーカーが最後の一体になっても世界は滅びないはずだと信じた剣崎のようには、きっとなれないだろう。

――『始!』

再度脳裏を過る、友の声。
自分は彼に救われ、教えられたはずだ、運命を変える方法を。
それは出来ると信じ続けること、そして……運命と、真正面から戦い続けること。










長い思考を終え、始は目を見開く。
無限にも感じられたその時間は、実のところそこまで長くはなかったらしい。
神妙な顔で自身を見つめるフィリップへ向け、始は確かな意思と共に深く息を吸い込んだ。

「フィリップ……俺の首輪を、解除してくれ」

「――その言葉の意味は、分かっているよね?相川始」

「あぁ、だが……仮面ライダーは変えて見せるんだろう?世界が滅びる運命など」

28覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 15:59:51 ID:6aG2OzYo0

問うた始の表情はまるで、憑き物が取れたように穏やかでさえあった。
彼は決めたのだ。自分もまた一人の仮面ライダーとして、運命を変える為戦う覚悟を。
もし大ショッカーの言葉が正しかったとしても、そんな絶望の運命を変えるべくその命を懸けて愛すべき存在を守る、そんなどこの世界にでもいる仮面ライダーの一人として。

彼の揺ぎ無い決意を受け止めて、フィリップはその懐から数枚のカードを取り出す。
それは橘朔也から彼が受け継いだカードの内、クラブスートのJ、Q、Kの上級アンデッドが封印された三枚のラウズカードだった。
突然の譲渡へ怪訝な表情を向けた始へ対し、しかしフィリップはカードを持つ手を引っ込めようとはしない。

「橘朔也が言っていたんだ、多くのラウズカードを持っていれば、君はそれだけジョーカーとしての本能を抑え込めると。だから……君の決断への僕なりの敬意の形として、これを渡したい」

言われて始は、改めて三枚のカードを見やる。
最も自分が欲しているハートスートのものではないが、上級アンデッドが封印されているそれらはジョーカーになった時自分の意思を保つ上で、かなりの効果を持つだろう。
特に、睦月をスパイダーアンデッドの呪縛から解き放ったQとKの二枚は、きっと自分が相川始として戦う手助けもしてくれるはずだ。

「……礼を言う」

短く感謝の念を伝え、始はそのカードを受け取る。
何のこともない譲渡だったが、それは少なくともフィリップにとっての始の存在が、何度他者に裏切られた上でもなお信じるに値する人間だと判断されたことを示していた。
言葉少なくも確かな信頼を交わし合った彼らは、しかしそれからすぐ表情を引き締める。

ウカワームは今もなおクウガの暴力に晒されている。
決死の思いで首輪を解除したというのに全てが終わった後だった、では洒落にならない。
急かすように指示を飛ばしたフィリップに従ってGトレーラーへ戻り、始は椅子へ腰掛ける。

「それじゃあ……始めるよ」

確認するように声を掛け、フィリップは彼の首元へと次々に様々な工具を宛がう。
首輪には様々な種類があると聞いていたが、それに関する懸念は漏らさなかったのは、既に金居のものを解析してアンデッドの首輪の内部構造を知り尽くしていたからだ。
それでも、首輪の解除自体そう何度も手がけたはずでもないというのに、持ち前の才能で以て手際よく作業を進めていくフィリップの進捗を、始は耳で聞くことしか出来ない。

だがしかし、それでもなおそう長くない後、この忌まわしき銀の輪から自身の首が解き放たれることだけは、彼にも確信出来ていた。





目の前に迫る黒い闇に、ウカワームは何度目かの戦慄を抱く。
傍から見ても満身創痍で傷だらけの身体を引きずり、しかし戦意だけは一切萎えることなく戦い続ける今のクウガは、まさしく生物兵器の呼び名に相応しい。
持ち前の回復力さえ満足に扱えずその身からは絶えず赤い血が流れ出ているが、彼は気にする様子もない。

地面にその血を巻き散らかしながら、ウカへと迫りまたその拳を振るう。
これだけの傷を負いながら未だに超常の域にあるその豪腕は、それでもなお彼女の手に有り余るほどの威力を伴って衝撃を伝導する。
歯を食いしばり、足を地面にめり込ませながら必死の思いでようやくそれを受け流したウカは、そのまま返す刀で鋏を振るう。

だが、彼女自身の体力もクウガと同じように限界を迎えつつある事が、災いしたか。
今までのそれとは違い少しばかり狙いがずれて放たれた角度の浅いそれは、幾ら今のクウガと言えど捌ききるのは容易かった。
思い切り鋏を腕で撥ね除けて、そのままウカに向けて思い切りストレートキックを放つ。

蹴りとは思えない風を切る音と、ウカの甲殻に足がめり込む鈍い音が響いて、まるで冗談のようなスピードでウカが彼方へと吹き飛んでいく。
彼女を受け止める壁もなく、数秒の滞空を経てウカワームは地面を抉ることで無理矢理その勢いを殺す。
傷つき疲れ果て、遂に間宮麗奈の姿を現した彼女に対して、クウガはゆっくりとその歩みを向けた。

29覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:00:09 ID:6aG2OzYo0

超自然発火能力ですぐに燃やし尽くさないのは、それだけの力すらもう残っていないのか、或いはアマダムの自壊によって無意識下のユウスケの思いが僅かに今のクウガにも作用しているのか。
どちらにせよ、もう数秒も経てばクウガは問題なく麗奈へその拳を突き立てることは間違いない。
だが果たして、この虚しい戦いが誰の望みも果たさない最悪の結末で終わろうという、まさにその瞬間。

クウガは背後から凄まじい勢いで迫る何らかの圧縮されたエネルギーを感じ取った。
勢いよく振り返り、その腕の突起で以て飛来した何らかの物質を受け止める。
そのまま自身への攻撃を試みた新たな標的をその瞳に映したクウガが認めた狙撃手の姿は、自分と同じく黒を基調とした身体に、赤い心臓を思わせるハートの意匠が刻まれた一人の仮面ライダーの姿だった。

「……フン」

一方で、クウガの意識が麗奈から自分に移ったのを受けて、黒い仮面ライダー……カリスは狙い通りだと不敵に笑う。
その首には既に、忌まわしき銀の首輪はない。
まさしくウカワームの命が失われようというその瞬間に、変身制限から解き放たれこうして危機一髪の状況に馳せ参じたのである。

ともかく、変身制限を克服して彼女を救い、クウガが望まない殺戮を止めるという第一目標はひとまず達成できた。
とはいえ、クウガの注意を惹くことなど今までもやろうと思えば出来たことで、本題はあくまでここから先、自分が彼に殺されないようにすることである。
最もそれが可能であると確信した為に、この混乱極める戦場で自分の首輪が解除された訳ではあるが。

自身に向けて走り抜けるクウガは、まさに心を失った獣だ。
そんな姿に在りし日の自分を重ね合わせ、カリスは思わず吐き気を覚える。
あんな風に暴れ回ることしか知らない化け物など、醜い以外にかける言葉が見つからないほど醜悪で蔑むべきものだ。

だがしかし、今自分は再びそんな獣の姿に身を変えようとしている。
あのクウガのように、或いは病院でのように見境なく暴れ回るためではなく、寧ろその逆の目的のため。
忌むべきあの力を乗りこなし、人の心で以てクウガを巣くう獣を鎮めんとする為に。

力でしか力を制することが出来ないというのなら、ジョーカーという運命さえ越えて自分がクウガに彼自身が望む姿を思い出させてやろうではないか。
かつて剣崎にそうしたように、或いは記憶の中の剣崎が、先ほど自分を再び仮面ライダーにしてくれたように。
仮面ライダーは自分自身にだって、打ち勝ってみせる力を持っているはずだから。

「――ウオオオオォォォォォォ!!!」

大きく高く、そして強く、カリスは天に向け叫ぶ。
まるで肺を突き破り喉を引き裂かんとするようなその絶叫は、まさしくこの身体の奥底から湧き出る本能の体現だ。
心臓が不自然なリズムを奏で、全身から汗が噴き出し瞳孔が拡散する。

まさしく人の身ではない存在であることを示すようなその変化を、しかしカリスは……否、始は受け入れる。
かつてその身を自由自在に変えられるアンデッドを相手に、ジョーカーの姿を囮に使ったのと同じく、上級アンデッドのカードと強い意思があれば、この死神の姿とて乗りこなせないものではない。
少なくとも剣崎達との絆を深め、自分が人間だと信じる今の始にとって、あの姿はもうかつて怯えていたほどの脅威には感じられなかった。

咆哮する始の意思に従って、その身が緑と黒のカミキリムシのような姿に変わる。
死札ではなく、切り札として立ったその瞳に宿るのは、確かな人の温かい情。
その心には未だ相川始の思いが根付き、力に支配されることのない変わらない思いが、クウガを鋭く睨み付ける。

それは、死神と恐れられたジョーカーアンデッドが世界崩壊の運命を覆すため、凶行を繰り返す究極の闇を前にして立ちはだかる姿であった。
新たな強敵の登場に、低くうなり声を上げたクウガを真っ向から迎え撃ったジョーカーは、彼とほぼ同時にその顔目がけパンチを放つ。
クロスカウンターの形で互いの頬を抉ったそれは、それぞれに赤と緑の血を吐かせ、その距離を無理矢理引き剥がす。

30覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:00:29 ID:6aG2OzYo0

相手の拳の威力に、思わずふらつきつつしかし直ぐさま放たれた蹴りも両者ほぼ同時。
交差した右足に痺れるような感覚を覚えながら、二人の胸にそれぞれ相手の足が到達する。
呻き、またも距離を離した両者の距離がまた0になるまで、そう長い時間は必要なかった。

――もしも今のクウガに思考能力がまだ残っていれば、この数度のぶつかり合いだけできっと気付いたことだろう。
この相手は、自分と同じ手合いの者だと。
エネルギー源の話ではない。その有り余る攻撃力と回復力に任せ戦闘を行うその戦闘スタイルそのものが、凄まじき戦士となったクウガによく似ているのだ。

だからこそ互いに、相手の攻撃を躱したり防御したりという小細工を弄することもない。
優れたその戦闘続行能力を存分に使ったスタイルで以て、ただひたすらに相手より早く多く拳を振るう。
そんな乱暴な戦い方が、二人の間で今互角の勢いを伴って繰り広げられていた。

この場の誰も知り得ぬことだが、皮肉にも両者はその戦い方だけではなく万全の上での実力もまた、ほぼ互角だった。
かつてクウガと互角に戦った、13体のアンデッドと融合を果たした仮面ライダーブレイドキングフォーム。
それが行き着く先、或いはそうまでして得た力でようやく互角の文字通り規格外がこのジョーカーアンデッドなのだ。

今は互いに大きく消耗しその力をすり減らしているためにかつてのキングフォームとアルティメットフォームの戦いの時のような惨状にはなり得ないが、しかしそれでも本来であればあれと同じだけの被害を周囲に齎すことも出来ただろう。
つまりはそう、橘朔也がそう予想したように、ジョーカーはまさしく凄まじき戦士となったクウガにも敵いうる数少ない存在の一人だったのである。
或いは、アルティメットフォームとキングフォームの戦いがあくまでこの場での様々な恩恵と制限によって互角に保たれたものだと言うならば。

超自然発火能力をも無為にし、純粋な体力と攻撃力でクウガと互角に渡り合えるジョーカーこそ、彼にぶつけるには最高の好敵手と呼ぶに相応しいのかも知れなかった。

「ガアァッ!」

クウガが吠え、ジョーカーを再び殴りつける。
それによって血がまた傷口から吹き出して、ジョーカーの中に巡る闘争本能を強く刺激する。
戦いが苛烈を極める度どうしようもなく高鳴るそれを受けて、思わず彼は歯噛みした。

自分がこの姿でジョーカーを制御できるのは、あくまで短い時間だけだ。
それも、こんな最上の相手と鎬を削るような激闘を繰り広げていれば、その内手綱を握りきれなくなったとしても何も不思議はない。
この場で戦い続けて自分までも暴れるという事態を招いては本末転倒かと、ジョーカーはクウガの振るう腕を脇で挟み込んだ。

そのまま、思わぬ拘束に身を悶えさせるクウガを抱いて、彼は橋から川に向けて勢いよく飛び込む。
高さ数十メートルはあろうかという高さを一切怯むことなく落ちる二人は、そのまま全身を水面へ打ち付けた。
一定の速さでぶつかればコンクリートよりも硬くなるとさえ言われるそれに100kgを越える体躯を衝突させたダメージは、今の彼らには凄まじい衝撃だ。

呻くように少し悶えて、しかし次の瞬間には二人は怯むことなく立ち上がる。
川の流れさえも無視して、ひたすら相手に自分の拳を突き立てる為だけに、彼らは再び互いの顔へ目がけてその拳を放っていた。





「大丈夫かい?間宮麗奈」

「あぁ……私は問題ない」

ジョーカーがクウガを連れて川へ飛び込んだ後、取りあえずの安全を確保したフィリップは、麗奈の元へ歩み寄っていた。
その表情には未だどうしても彼女を信じて良いのかという疑念が浮かんでいたが、それでも尚こうして生身で近寄ってきてしまう程度には、彼はお人好しなのだろう。
それが分かっただけでも麗奈には十分だったし、城戸真司が目覚めれば必然的に彼の懸念も解けるだろうと、大した心配をすることもなかった。

31覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:00:51 ID:6aG2OzYo0

起き上がり、服に付いた砂埃を払った麗奈は、そのままフィリップと共にGトレーラーへ向かおうとして、しかしその視線の先にもう一つの戦いがあることを認めその足を止めた。
そこにいたのはデルタと同規格らしい仮面ライダーに、この戦いの発端となった圧倒的な実力を持つオルフェノクの二人。
赤い仮面ライダーは信じがたいことに、その戦闘スタイルから見るに三原修二らしいが、あのオルフェノクの疲労もあってか、今のところは互角にやり合えているらしい。

だがそれでも彼の戦い方は稚拙極まりなく、オルフェノクに対して消耗が明らかに激しい。
どうやらあの形態そのものが彼にとって無理のあるものらしく、デルタに変身している時に比べてもなお彼の動きはどこか覚束ないものだ。
少なくともあのオルフェノクを相手にして誤魔化しが効くのも時間の問題だろうと、麗奈は見切りを付ける。

自分が、行かなくては。
使命感にも似た思いを抱いてGトレーラーとは逆方向へ歩き出した彼女を見て、フィリップは思わずその肩を引き留めていた。

「待て、間宮麗奈。今の君が行ったところで、死にに行くような物だろう」

「そうかも知れん。だが私は――」

「――行かせてやれよ、フィリップ」

突如その場に響いた声に彼らが振り向けば、そこにはさも最初から居たかのような立ち振る舞いで欄干に寄りかかる乃木の姿があった。
恐らくは今までのウカワームとクウガの戦いも遠くから悠々と観戦していたのだろう。
麗奈が死にかけただとか、クウガが暴走して生身の参加者に襲いかかるかも知れないだとか、そんな事は彼にとってどうでもいいことなのだ。

いよいよ彼が仲間として自分の前で取っていた行動は自分の利益の嘘に塗り固められたものだったのだと確信し、フィリップは堪えがたい憤りを覚える。
だがそんな彼の怒り肩に大した感慨を抱く様子もなく、乃木はそのままゆっくりと彼らの前へ歩を進めた。

「おや、だんまりか?まぁいい、それよりも……決着を付けようか?間宮麗奈」

フィリップには興味をなくし、麗奈へ翻った乃木の表情は、余裕に溢れている。
当然だろう、見るからに満身創痍である彼女には、それだけでなく変身手段すらもう残されていないのだから。
だがそれでも毅然とした態度で乃木を睨み付け続ける麗奈に退屈したのか、痺れを切らしたように彼は懐から一本のベルトを投げ渡していた。

「――使えよ。それがあればまた、俺と戦えるだろう?」

危なげなく麗奈が受け止めた見覚えのあるベルトに、フィリップは目を見開く。
彼女が今手にするそれは、草加雅人が使用していたカイザギアの一式だ。
恐らくはその辺りで村上が堕としたものを偶然拾ってきたのだろうが、入手経緯は大した問題ではない。

今彼が危惧しているのは、カイザを使用した際に装着者に襲いかかる余りに重い代償についてだった。
適合した者が変身しない限り、このベルトは装着者を灰化させその命を奪い取る。
フィリップは勿論、乃木も麗奈も同様に知っているだろうそれを百も承知で、乃木は今彼女に問うているのだ。

死を約束された鎧を纏ってでも、自分と戦う気はあるか、と。
きっとそれは乃木にとって、単なるお遊びに過ぎないのだろう。
先にフリーズを誇示した事で、カイザに変身しようとしまいとお前に待ち受けている運命は同じだと、そう暗に示しているのかも知れない。

だがそんな彼の狙いなど考える必要もないと、麗奈はカイザドライバーをその腰に装着する。
そのままカイザフォンを開き変身コードを入力しようとした彼女に対し、フィリップは思わずその肩を引き留める。

「正気か!?それで変身したら、君は死ぬんだぞ!そうでなくても、今の君じゃ戦う事なんて無理だ」

「いや、どちらにせよ奴はこの状況で私を見逃すつもりはないだろう。ならば、最後に私はやるべき事をやる」

32覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:01:09 ID:6aG2OzYo0

揺るがぬ意思でカイザフォンを構え鋭い瞳で睨み付ける麗奈の毅然とした姿に、乃木はしかし小さく嘲笑を漏らした。

「見上げた根性だな、そうまでして俺と戦いたいか?」

「勘違いするな……貴様などを相手している暇はない」

「何……?」

麗奈の言葉に、乃木は思わず困惑を露わにする。
あれほど自分との因縁に固執していた彼女が、いきなりそれを切り捨てるとは思いもしなかったのだ。
理解が及ばない様子の乃木に対し、麗奈はゆっくりとその視線を果てない空を見上げるように泳がせた。

「私は間違っていたのだ。掟に縛られず、あの雲のように自由に生きると決めたはずなのに、いつまでも貴様の存在に囚われていた。そのせいで……ようやく手に入れた一番大事な物まで、見失うところだった」

「一番大事な物だと?」

「あぁ、それは私にあってお前にないもの。つまり……仲間だ」

思わず問うた乃木に向き直った麗奈の瞳には、もう迷いなど何もない。
人間としての心をも抱いて生きてみせると宣言したあの時、それを支えてくれた翔一や真司、リュウタロスと言った数多くの仲間がいてくれた有り難さを、自分は忘れていた。
だから昔の因縁に拘って結果として彼らを危険に晒し、龍騎のデッキをも身勝手な戦いで破壊してしまった。

何と自分は愚かだったのだろうと自嘲の念も勿論沸くが、しかしもうあんな事は繰り返さないと麗奈は誓う。
人間の“私”がワームの“私”に託してくれた彼らという存在を、もう取りこぼすことはしない。
この心赴くままに自由に生きる自分にとって、かつての掟などもうどうでも良かった。

「あの間宮麗奈が仲間……人は変わる物だと言うが、まさかワームも同じとは」

「御託は良い、そこを通して貰うぞ」

「間宮麗奈……」

興味をなくしたように道を譲った乃木には目もくれず進む麗奈に、フィリップは思わず声を掛ける。
カイザに変身すると言うことは即ち、避けられぬ死を運命付けられると言うこと。
そんな覚悟を以てまで仲間の為に戦おうとしている彼女の姿は、紛れもなくフィリップの知る仮面ライダーのそれだった。

だが麗奈は、それ以上フィリップに何を言うこともなかった。
ただ一つだけあまりにも優しい笑みだけを残して、それからカイザフォンに今度こそコードを入力する。

――STANDING BY

「変身……!」

――COMPLETE

まさしく最後の変身を紡いだ麗奈の身体に、黄のフォトンストリームが走る。
それは一瞬のうちに防護スーツを形成し、彼女の身体を頑強な鎧に包み込んだ。
呪われたベルトと呼ばれたカイザへの変身を遂げた麗奈に、しかし感慨に耽る時間は残されていない。

今も戦い続ける仲間を救うため、彼女はもう宿敵たる乃木に目もくれず一目散に駆け出した。

「……ハッ」

その背中を冷ややかな目で見つめながら、乃木は何度目とも知れぬ嘲笑を漏らす。
最初にカイザを手渡した時は悪い冗談のつもりで、まさか本当に使うなどとは思いもしなかった。
最も、フィリップが何らかの代替案を提示したり、麗奈自身が別の変身手段を使用するようならフリーズで直ぐさま殺そうと考えていたので、漏れた殺気が見抜かれていたのかも知れない。

33覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:01:42 ID:6aG2OzYo0

だが仮にそうだとしても、どうせこの場で自分に殺されて死ぬくらいなら、仲間を救って死ぬ方がマシだとでも言うのだろうか。
それならば本当に彼女も甘い仮面ライダー共に影響されて変わった物だと、称賛の意を送りたいところである。
最も、数多の裏切り者を粛正してきた彼女が今更自由に生きられる道理もないだろうと、嘲笑してやりたい気持ちの方が相変わらず強いのだが。

「乃木怜治……!」

らしくなく物思いに沈んでいた彼の背中を、痛いほどに真っ直ぐな瞳が射貫く。
十中八九フィリップだろう。どうやら恨み言の一つでも言いたいらしい。
だが、わざわざそんな泣き言のようなことを聞いてやる必要もない。

勿論、大ショッカー打倒に有能な人材である彼をここで殺すつもりも、一切ないのだが。
ともかく、取り合うだけ得もないと、乃木は彼に振り返ることもなくフリーズを使用してその場を後にする。
そして一人残され、やり場のない苦悶を抱えたフィリップには、もうカイザの戦いを見届ける以外出来ることは残されていなかった。





「だああああぁぁぁぁぁ!!!」

ファイズの赤い拳が、アークへ深く突き刺さる。
その威力に呻き、僅かに怯んだ彼はしかし、次の瞬間にはその腕を横凪に振り払い、ファイズの顔を殴りつける。
防御の姿勢も取れず吹き飛んだファイズは、得物も持たない素手の戦いでは不利かとばかりに、置き去りにしていたトランクへ駆け寄った。

あれを操作されるのは不味い、と本能で分かるのか、アークが妨害の意を込めて触手を伸ばすが、それより早くファイズは反撃の狼煙を上げていた。

――BLADE MODE

コードを受け大剣へと変形した得物で、彼は触手を切り払う。
先ほどまでの勢いが嘘のように一刀の元に触手群が両断されていくのは気持ちの良い光景だったが、これは勿論ファイズとアークの相性によるものだった。
幾らアークオルフェノクが王とさえ呼ばれる強力無比な力を持つとは言え、所詮彼はオルフェノクの範疇から脱してはいない。

王を守り、反抗する者を討伐する為作られたライダーズギアに用いられるフォトンブラッドという元素は、アークにとっても問題なく効果的に作用する。
故にこそアークの攻撃はファイズに余り届かず、逆にファイズの攻撃は全て実際の威力以上の力でアークに襲いかかっているのだ。
無論、それだけの相性による優劣があったところで、オーガギアのオーバーヒートがなければ、その相性差を補ってアークの勝利は揺るぎなかったのだろうが。

ともあれ、触手ではファイズには対抗出来ないと判断したアークは、今度は掌から光弾を放つ。
通常の三本のベルトで変身した仮面ライダー程度なら一撃で戦闘不能に追いやれるだけの威力を持つそれを前に、流石にファイズも真正面から無策で受け止める愚は犯さない。

――FAIZ BLASTER TAKE OFF

急ぎコードを入力し、背部に取り付けられたフォトン・フィールド・フローターユニットが急激に熱せられその身体を宙に押し上げる。
地上で爆発した光弾の勢いさえ利用して急上昇したファイズは、そのまま一気にアークへ向け急降下を開始する。

――EXCEED CHARGE

入力された指示に従い、ファイズブラスターに光の大剣が構成される。
一撃必殺、フォトンブレイカーの名を持つそれを携えてバーニアを吹かし接近するファイズを追い払うように、アークは次々に光弾を放つ。
だがそれも、エネルギーが充填したファイズブラスターの敵ではない。

光弾を切り伏せ、或いは数発を左右に躱して、ファイズは妨害を意に介することもなくアークとの距離を0にする。

34覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:02:02 ID:6aG2OzYo0

「はああああぁぁぁぁぁ!!!」

遂に、フォトンブレイカーの一撃がアークの元へ到達する。
無論アークとて愚かではない。その直撃の寸前に腕を交差させ、身を焼き切らんとする大剣を拒む。
刹那、拮抗した両者の動きはまんじりともせず停滞する。

バーニアを燃やし剣を切り抜かんとするファイズを相手に、アークはその超常を逸した怪力で以て一歩も退かず応じていた。
つまり言うなればそれは、究極の力比べだった。
『555の世界』最強のライダーと最強のオルフェノク、その意地と威信をかけた、文字通り頂上決戦。

互いに咆哮を上げ、全身全霊で以てこれで終わらせると意気込んだこの局面を制したのは、しかしやはりというべきか、より体力を残していたアークだった。
その腕の筋を高出力のフォトンブラッドで焼かれながら、しかしそれでもなお種を統べる王としての威厳で以てフォトンブレイカーを撥ね除けて見せたのである。
ファイズブラスターをも手放し、バーニアの制御も出来なくなったファイズが、無防備に地面に打ち付けられる

辛うじて未だブラスターフォームの変身は解除されていないが、それでももう今のように俊敏な動きでアークを追い詰めることが出来るだけの体力は、彼には残されていなかった。
倒れ伏すファイズとは違い未だ二の足で立ち続けるアークが、その掌を翳す。
今またあの光弾を放たれれば、もうファイズに避ける術は残されていない。

これで万事休すか、と彼が諦めその瞳を閉じかけた、しかしその瞬間。
聞き覚えのある電子音声が、彼の耳に届いた。

――EXCEED CHARGE

突如アークの身体が、黄色いエネルギーネットに拘束される。
当然光弾の発射さえも取りやめてそれから脱しようと藻掻くアークにしかし、終焉の時は近づいていた。

「イイイヤアアアァァァァ!!!」

ファイズの後ろから駆け抜け、一発の弾丸と化して迫るカイザの声に、ファイズは聞き覚えがあった。
というより、最早聞き間違えるはずがないのだ、この場に残る女性は、もう間宮麗奈一人しか残されていないのだから。
光条と化し、アークを貫かんと迫るカイザを思わず拳を握って応援するファイズ。

だが、敵もまたその程度の攻撃で倒れるほど甘くはない。
ブレイガンから放たれたワイヤーネットを物ともせず引きちぎって、アークは今まさにその身体に突貫しようとしたカイザをその豪腕で振り払った。
まるで風に揺られる紙切れのように容易く宙へ投げ出されたカイザは、受け身も取れず地面に直撃する。

辛うじて変身は保っているが、しかしそれすら精一杯と言った様子の彼女を見て、ファイズの身体は考えるよりも早くアークの動きを止めるため動いていた。

――FAIZ BLASTER DISCHARGE

背中のマルチユニットを変形させ、その両肩にブラッディキャノンと呼ばれる二門のエネルギー砲を携えたファイズは、そのままアークに目がけ圧縮エネルギー弾を乱射する。
大凡フォンブラスターの300倍とも言われるその威力を前に、さしものアークすら怯むが、しかしそれも一瞬の話だ。
すぐにその弾丸の雨を物ともせずに立ち尽くし、自身の頑強さを周囲に誇示する。

いよいよ以てブラッディキャノンを全身に浴びながらゆっくりと歩き始めたアークに対し、ファイズの手札も尽きたかに思われたその瞬間、しかし王の進行は突如停止する。
どういうことかと光弾を止め見やったファイズの目に映ったものは、アークを後ろから羽交い締めに拘束するカイザの姿だった。
もう彼女にはエクシードチャージを使用するだけの体力も残されていなかったのだろう。

それでもなお自分たちの勝利を掴むために、最後の力を振り絞って再び立ち上がって見せたのだ。

「間宮さん!?」

ファイズの叫んだ困惑に、アークを押さえるカイザがゆっくりと頷く。
言葉もなく、しかしその仮面の下にある麗奈の表情すら読み取れるような万感の意を込めたそれを見て、ファイズにはもう動揺するだけの時間も残されていなかった。

35覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:02:22 ID:6aG2OzYo0

――FAIZ POINTER EXCEED CHARGE

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

絶叫を放ち、ファイズは駆け抜ける。
これでこの戦いの全てを、終わらせる為に。
背に装着するバーニアの勢いさえ利用して高く跳び上がったファイズは、その急降下の勢いのまま、宿敵へ向けてその右足を真っ直ぐに伸ばした。

「――だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

必死そのものとしか形容しようのない叫びが、周囲に木霊する。
彼の中に残る全ての余力を込めたその蹴りは刹那、凄まじい光量で辺りを包み込む。
誰もが目を開けていられないような閃光の中、それでもファイズは、高く高く叫び続けていた。










――光が晴れたとき、その場に立っていたのはファイズだけだった。
今すぐにも倒れてしまいたいほどの疲労を押さえ、それでも自分に為さねばならないことをしようとしたファイズだが、瞬間その身から急速に力が失せる。

――ERROR

ファイズブラスターが承認を否定するような電子音声を放つと同時、修二の身からファイズの鎧が引き剥がされる。
システムに無理矢理弾かれたようなその強引な変身の解除に、修二は思わず今まで流星塾生がカイザを使用して灰となって死んだという話を思い出す。
自分がこうしてブラスターフォームに変身出来たこと自体が奇跡のようなもので、自分にもその運命が来てしまったのだろうかと。

だが幸運にも、この変身の代償を受けて灰化するのは、彼ではなかった。

「え……?」

彼が困惑を漏らすのも、無理はない。
今彼の目の前で一瞬の内に灰へと帰したのは、他でもない、エラーを吐き出したファイズギアとファイズブラスターそのものであったのだから。
――修二は知るよしもないが、彼がいるのとは違う『555の世界』においても、似たような事例はあった。

変身一発と呼ばれる発明品により、オルフェノクどころかその因子すら持たないただの人間が、カイザへの副作用のない変身を可能とした時のこと。
カイザギアは問題なく作用しその鎧を人間に齎したが、その代償としてベルトを灰化させたのである。
無論、それが変身一発による効能の一種だと考えることも出来るだろうが、しかしそれをベルトそのものの防衛機能と考えることも出来るのではないだろうか。

そもそも三本のベルトは、オルフェノクによって彼らの王を守る為に作られたベルトだ。
様々な要因が巡り巡ってオルフェノク同士で戦う際に用いられるのはともかく、敵にしかなり得ない人間にただで使わせる意味はない。
もし仮にセーフティとして設けられているオルフェノクか否かを判断する機能を人間が何らかの手段で突破した場合、ベルト自体が自壊するよう作られていたとしても何も不思議はないのだ。

まぁ、大ショッカーがこうした状況を見越した上で首輪にそういったセーフティを設けていたのかは、実際の所はっきりとはしないのだが。
或いはこの現象は、オルフェノクの記号を持つ修二と首輪の機能が噛み合ったために生まれた一種の奇跡だったのかもしれないが、ともかく。
今大事なのは修二がブラスターフォームへの変身を果たした上でもなおこうして五体満足で生還できたという、その事実であった。

36覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:03:23 ID:6aG2OzYo0

――ERROR

どうあれ、今自分が考えても事情が分かるはずもないと思考を切り上げた修二の耳に、先ほど自分も聞いた電子音声が届く。
翻り見れば、ベルトそのものへのダメージでカイザギアが火花を散らし、麗奈の身体からカイザの鎧を消失させるその瞬間であった。
苦悶に喘ぐ彼女に急ぎ駆け寄って上半身ごと抱き起こせば、麗奈はどこか満足げに修二の顔を見上げた。

「三原修二、強く……なったな……」

「間宮さん……」

何とか、彼女も自分と同じように現世に踏み止まってくれるのではないか。
そんな希望を抱いた修二を嘲笑うように、麗奈の皮膚は徐々に灰色に染まっていく。
もう長くないことを知らしめるようなその変化に顔を強張らせる修二の一方で、麗奈はまるで全てを受け入れているかのように儚げに笑った。

「これで……死ぬのは三度目か」

奇妙な人生もあったものだと、麗奈は微笑む。
一度目は人間として、二度目はワームとして、そして三度目はそのどちらでもない“私”として。
それぞれが何から何まで異なる人生だったが、麗奈にとっては、この三度目は今までと比べ特別異なるもののように感じられた。

人間とワーム、それぞれの種族に殉じた今までと違い、今回はそのどちらでもない“私”として生きたのだ。
種としての誇りや記憶など関係無く、自分自身がしたいことを行ったこの人生は、まさに自由だった。
志し半ばで倒れた一度目や今まで抱いたことのない心地を初めて覚えた途端死んだ二度目と違い、三度目である今回は自分がやりたいことをやりきったとそう言い切れる。

勿論、元の世界に戻り“彼”に会うという目的は果たせなかったが、それでも麗奈の心に悔いはなかった。
自分に自由な生き方を教えてくれた仲間たちを守る為この力を尽くし、そしてこうして一人の掛け替えのない存在を守ることが出来たのだから。
満足感に満ちあふれた表情で空を見上げた麗奈は、その青の中を泳ぐ雲へと、その手を伸ばす。

風に流され、気の向くままに行き先を決めるその雲たちの動きは緩慢で、まるで本当にあの男のように自由で、そして何より優しかった。
かつて、今の三原修二のように自分を抱きかかえ看取ってくれた“彼”を思い出し、麗奈は先ほどまでとはまた違う笑みを浮かべる。
人間としての私が抱いていた感情が、この私にも伝染したか?それとも或いは、私たちは最初からどちらも……?

取り留めのないそんな思考を、彼女は意図して切り上げる。
これ以上そんな事を考える必要もない。
精々あの男が愛する雲となって、その行く末を天から見届けてやるとしよう。

「大介……」

思い人の名を呼んだのは、果たしてどちらの彼女だったのか。
それを知る術は、もうない。
伸ばしていた手も、そこから先を紡ぐはずだった口も、次の瞬間には灰と化して溶けてしまったのだから。

手に抱いていたはずの麗奈が消え失せてしまったことに、修二はやりきれない思いで拳を握る。
リュウタロスの次は、麗奈だ。
彼ら彼女らを守りたいと思って戦ったはずなのに、結局自分はどちらにも助けて貰ってばかりで守ることなど出来なかった。

だけれども、そんな自分の無力感に打ちひしがれて修二が戦意を失うことは、もうない。
彼らの願いだけでなく、真理や草加の思いをも抱いて戦うと決めた彼に、ここで立ち止まることなど許されないのだ。
涙を拭い、麗奈だった灰の山から彼女の首輪を持ち上げた修二はそのまま立ち上がろうとして、刹那身体に襲いかかる凄まじいストレスによって意識を刈り取られた。

灰化こそしなかったとはいえ、ブラスターフォームに変身したことにより生じた凄まじいその力の反動は、そのまま彼の身に襲いかかっていたのである。
クリムゾンクロスと呼ばれる部分から伝わる余剰エネルギーが、容赦なく修二の身体から体力をこそぎ取る。
だがその暴力的なまでの疲労感に呑まれ意識を手放そうとも、修二はその顔に確かな笑みを浮かべていた。

37覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:03:46 ID:6aG2OzYo0

――麗奈が大好きだったこの空と雲。
その眩しいまでの青さの中から、突如として一陣の風が吹いた。
それは修二の頬を撫で、そのまま彼のすぐ側に鎮座する灰を舞い上げて彼方へ運んでいく。

飛ばされたそれは何時しかリュウタロスの成れの果てである砂と混じり、何処かへそれらを乗せていく。
じゃれ合うようにもみ合い同化する砂と灰が自由気ままに風に踊り、空へ溶けていく。
それはまるで、リュウタロスが最後に大好きな麗奈を友に会わせるために、待っていたかのようですらあった。

そうして目的を果たした風は、最後に修二の新たな旅立ちを祝福するようにして一際強く吹いた。
感謝と称賛と、そしてこれから先の彼の行く先への激励を訴えるようなそれに、しかし終ぞ修二は気付くこともなく。
次の瞬間にはもう、風は止んでいた。





「あぁ、王よ……!」

ブラスタークリムゾンスマッシュの衝撃に弾き飛ばされたアークを抱きかかえて、ローズは半ば懇願するような声音でその身体を抱き寄せる。
王は最強のオルフェノクなのだ、こんなところで死ぬはずなどある訳がない。
ピクリとも動かないその肢体はまるで死人のようだったが、それでもなおローズは王の復活を信じ疑わない。

「貴方は、こんなところで死んではならない。さぁこの身を食らいまた再び――!」

焦りと興奮に加熱したローズの言葉は、しかしそれから先を紡ぐことはなかった。
彼がその復活を乞い続けたその王自身が、その身から青い炎を出して崩壊し始めたのだから。
それは、オルフェノク全てに共通する逃れ得ぬ死の現象。

全ての力を使い終えたオルフェノクが自分自身の身体をその炎で焼き尽くし、灰と帰する、村上も寸分違わず知っているそれだった。
――元の世界ではブラスタークリムゾンスマッシュを食らっても死ぬことのなかったアークが死ぬとしても、何も可笑しいことはない。
三本のベルトで変身出来るライダーの容姿には王をモチーフとして取り入れているという逸話から、王がかつて現れたのは周知の事実。

そもそも王を守るベルトの制作経緯からして、復活のため同族を糧とする王を忌まわしく思うオルフェノクが、彼を何度も討ち取っているのは分かりきっている。
史実において幾度となく繰り返された王の死という歴史がここでまた繰り返されたという、ただそれだけの事。
付け加えれば、このアークは仮死状態にあったものを無理矢理入手し、財団Xが蘇らせた、言わば急ごしらえの復活を果たした状態である。

無論、その強さに瑕疵こそないが、それでも数年単位をかけその依り代に相応しい存在を見出す本来の復活に比べれば、些か無理も出ようという物。
故に、王は今その身を無惨に崩壊させようとしている。
自身を抱く忠臣が、その光景をどんな気持ちで見ているのかなど、知るよしもなく。

「あぁぁっ……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

深く、そして絶望に溢れた慟哭が、天を貫くように高く響いた。
ローズの喉から放たれたはずのそれは、しかし本人にさえそう知覚できないほど悲しみに満ちあふれ、橋の彼方にまで轟くような声量だった。
だが、悲観に暮れる彼の元へ駆けつけてくれる仲間は、もういない。

仮初とは言えこの場で得られたはずのそれを裏切り種としての使命に殉じたのは他ならぬ彼自身の決断だったのだから。
その雄叫びは、どこまでも遠くへ、しかし誰に届くこともなく、ただ虚しく響いていた。

38覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:04:05 ID:6aG2OzYo0




「ハァァッ!」

ジョーカーの拳が、クウガの顔面に突き刺さる。
それによって体制を崩し川へ倒れ込んだ彼の動きは、しかし先ほどまでと違い緩慢だ。
それほど強くない流れに抗うことすら必死で、辛うじて立ち上がるのもやっとの満身創痍で、しかしそれでも尚クウガは戦うことをやめようとしない。

戦慄を通り越して悲痛としか言いようがないクウガに対し、ジョーカーは憐れみすら覚えながらその口を開いた。

「……どうした、クウガ。皆の笑顔を守るために戦うんじゃなかったのか?」

目の前の凄まじき戦士ではなく、小野寺ユウスケに問いかけるようなそれに、しかしクウガは心を感じさせない咆哮で応える。
何とか回復を完了させ起き上がったクウガが、その拳を握る。
だが未だ敵意を剥き出しにする彼を前にしても、ジョーカーはもう一切動じることはなかった。

「もう一人のクウガの……五代雄介の分まで仮面ライダーとして戦うと、そう言ったのは嘘だったのか?」

「アァァッ!」

振り抜かれたクウガの拳を、ジョーカーはしかし簡単に見切る。
彼が避けるように横に少し移動しただけで、クウガが狙いを外して重心を崩し、前のめりに転倒したのである。
もう自分を支えるだけの体力すら覚束ないのだろう。

だがそれでも、クウガはまだ立ちあがり、戦いにその身を尽くそうとする。
最期の力でその拳に炎を纏わせ、赤く炎上したそれを強く握りしめたその瞳に、未だジョーカーの声が届く様子はなかった。

「やってみろ、自分自身の力に呑まれる今のお前には、大ショッカーどころか俺を倒すことすら出来ない」

「オォォ……オオオオオオオぉォォォ!!!」

最早まともに回避する様子も見せず、ジョーカーは真正面からクウガの拳をただ見つめる。
だがそれだけの隙を晒せば、今のクウガでもジョーカーを葬れるだけの威力を持つ攻撃はまだ可能である。
故にクウガの放った究極の拳は、そのままジョーカーの顔面を打ち据えるように命中する……はずだった。

死力を振り絞り、全身全霊を込めて放たれたはずのクウガの拳が、ジョーカーのすぐ目の前で停止する。
その一撃を届かせることが出来ぬまま、体力が底を尽きたのか。
いや違うと、ジョーカーには既に分かっていた。

「ぐっ、うぅ……ううぅぅぅ」

クウガが、呻く。
先ほどまでの獣のようなそれではなく、まるで内なる自分自身を押さえる苦悶を抱えるように。
そんな彼の姿に満足げに笑い変身を解く始の前で、同様にクウガの変身も解除される。

最も自分のそれとは違い、彼は変身制限を迎えた為に強制的に解除されたのだろう。
だがそれでも、最後の一瞬攻撃を躊躇したのは、紛れもなく彼自身が力を乗りこなす片鱗を見せたのと同義だと、始はそう理解していた。
かつてジョーカーの暴走を克服して見せた自分や剣崎のように、このクウガも力に抗って見せたのだ。

大ショッカーを相手どる仮面ライダーならば、そのくらい出来てもらわなければ困ると冷静に思う自分も、確かにいる。
だが一方で、他世界の仮面ライダーもまた剣崎と同じだけの強さを持った戦士なのだという事実の再確認は、やはり彼にとっても喜ばしいものだった。
果たして本当に大ショッカーにも届くだけの実力を彼らが持つのかという結論は、未だつける事こそできないが。

それでも始にとってこれは、大ショッカー打倒に対して間違いなく大きな一歩目だった。

39覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:04:31 ID:6aG2OzYo0




――王が、死んだ。
遂に青い炎を燃やす質量すら消え失せて、灰の山と化したかつて王だった残骸の前で、ローズは何度目かになる認識を重ねた。
もう彼には喉が枯れるほどに叫び、現実逃避をするだけの気力は残されていない。

もしまだ彼に人間としての姿が残されていれば一瞬で老け込んでもおかしくないほどのストレスが一気に襲い掛かり、彼に嫌でも現実を理解させる。
いっそ、彼が愚か者だったなら、こんな現実は嘘だと無意味な否定を吐き出すことが出来たのだろうか。
だが皮肉にも、こんな悲劇に見舞われてもなお彼は聡明で、有能で、そして理知的だった。

王は、死んだ。
短命という重大な欠陥を抱えた種を残して、それを覆すことのできるだけの力を持っていたはずの王が死んでしまったのである。
これでもう、全て終わりだ。スマートブレインも、限られた寿命で生きるオルフェノクも、そして何より……粉骨砕身の思いでオルフェノクの栄光を信じ続けてきた、自分自身のプライドも。

「終わりだ、村上峡児」

突如、ローズの耳に冷たい声が届く
どうやらこの声はフィリップのものかと、意識すらせず彼は認識してしまう。
ゆらりと焦点の定まらない視点で見上げれば、そこにはやはり自分の思った通り、フィリップの姿があった。

放っておいてくれと泣き言をいうことも出来なかったのは、自分ならそんな甘えは許さなかったからだ。
大ショッカー打倒にとって障害になる存在がいて、その存在を鎮圧できるとあれば、そうするのは当然のことだ。
無論、自分であればこんな風に声をかけることもせずその命を摘み取っていただろうことを思えば、随分優しい待遇だとすら言えるが。

喪失感に沈んでいた身体に、それでも少しの力が宿る。
情けないものだ、こんなことになってもなお、まだ生存本能は働いているらしい。
自分自身の浅ましさに呆れつつ、彼はそれでも震える喉で声を振り絞った。

「……私を、殺す気ですか」

漏れた言葉に、思わず笑ってしまう。
命乞いでもない、この状況で聞く意味もないそんな当たり前を問う質問が、それでもほぼ反射的に自分から発せられていた。
だが、その問いに対して返ってきたのは、少しの沈黙。

きっと彼はその答えを、まだ迷っているのだろう。
まだ自分と共に戦う事が出来るなどと、本気でそう想っているのだろうか。
どちらにせよ、今のローズにとってはそんな些末な事象はどうでもよかった。

「……正直、この戦いで生まれた犠牲を思えば、君をそうしてやりたい思いがないとは、言い切れない」

やはりか、とどことなく納得したように俯くローズに、フィリップはしかしそれで言葉を切ることはしない。

「でも、罪を憎んで人を憎まず……それが、僕の街の流儀だ」

言ってフィリップは、ローズに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
まるで彼の心に、訴えかけるように。

「君の犯した罪は消えない。それでも……君がその罪を償おうと戦うなら、僕はそれを応援したい」

フィリップの胸に去来するのは、かつて同じように自分の罪を認め、しかしそれでもなお罪を償うことを教えてくれた鳴海壮吉の姿。
あの日彼は、悪魔と呼ばれた自分を救い変えてくれた。
だからそうして救われた自分も、村上のことも死で断罪ずるような非情は、犯したくなかったのだ。

40覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:04:51 ID:6aG2OzYo0

ローズの視線が自身に向いたのを確認して、彼は立ち上がる。

「君の正義は僕たちとは違うかもしれない。だけど、共に戦うことは出来る」

言葉と同時に、フィリップはローズの目の前に掌を差し出す。
それを驚愕の視線で見やる彼に向けて、彼は意気込むように小さく息を吸い込んだ。

「一緒に大ショッカーを倒そう、村上峡児。君の罪を、償う為にも」

ローズの目の前に、手が差し伸べられる。
それを見上げて彼は、しかしあまりの滑稽さに思わず笑ってしまう。
この青年は本気で信じているのだ、自分が未だ戦うだけの意思を残していると。

きっと生き続けていれば、王に代わる自分の人生の意義を見つけられると、そう思っているのだろう。
罪を憎んで人を憎まず?そんな生易しい言葉で、本当に何かが変わるとでも?
いや或いは彼が今まで相手をしてきた、ガイアメモリに人生を狂わされてきた人間に対してならその理屈も正しいのかも知れない。

何らかの外部要因によって道を踏み外しただけの人々の罪は、その意識さえあればきっと償えるはずだという優しさは、きっと彼の街とやらでは十分通用するのだろう。
だが、そんな理屈が自分にも当てはまるなどと思われては、村上峡児の名が廃る。
腐っても自分は、オルフェノクを統べる企業の長を勤め上げていたのだ。

ここで彼らに情けをかけられたまま死んだとあっては、オルフェノクという種に殉じたこの人生に、拭えない汚点を残すことになるではないか。
フィリップが善意から差し伸べた手に対する怒りによって、皮肉にもローズの瞳に再び光が灯る。
キッと鋭い眼差しを取り戻した彼は、フィリップの手を勢いよく撥ね除けて、その掌を彼へ翳した。

攻撃の予兆を見せたローズに対し、すかさず身を翻したフィリップの背を、放たれた花弁が襲う。
だが攻撃だろうと防御に徹したフィリップの予想に反して、花弁はただその視界を覆っただけ。
どういうことだと花弁の目潰しを振り払ったフィリップの目に映ったのは、欄干に飛び乗るローズオルフェノクの姿だった。

逃走のためかとも一瞬思うが、しかしすぐさま否定する。
ただ逃げるだけのつもりなら、先ほど自身を引き剥がした時点でそうしているはず。
無駄を嫌うはずの彼がそうしなかった時点で、何か理由があるはずだった。

困惑したフィリップの様子に気付いたか、ローズは一鼻で笑って口を開く。

「フッ、心配することはありませんよ、フィリップさん。私に逃げるつもりなど毛頭無い。ただ、私の一生の終わりを決めるのは私自身でありたい……そう思っただけです」

「一生の終わり……?」

ローズから放たれた言葉は、あまりに不穏なもの。
自分の提案を拒絶する以上の意味を持つそれを、村上が悪戯に発言するはずもない。
なればこそ、その意味は文字通りのものとしか捉えようがなかった。

「村上峡児、本気なのか?君にはまだ、元の世界でやらなきゃならない事があるはずだ。会社やオルフェノクの繁栄……今ここで全てを終わらせる必要なんてないじゃないか……!」

彼の声音は、半ば乞うようですらあった。
この数時間を共に過ごし、村上が単に悪と断ずることの出来ない存在であることを、既にフィリップは知っている。
だがしかし、ここで村上がこうまでして死に急ぐ理由は全く分からなかった。

彼が大ショッカーの打倒を目指したのは、彼にも元の世界に戻って成し遂げたい野望があった為のはずだ。
良太郎と問答し、それでもなお人類との確執は埋まらないと宣言した村上の胸中には、オルフェノクへの並々ならぬ思いがあったはずなのである。
だというのに、彼は今それらを全て投げ捨てて自ら死のうとしている。

それが本当に不可解で、フィリップはそれを彼の動転から来る気の迷いなのだろうと必死に引き留めようとする。

「フィリップさん、貴方は本当に……何も分かっていないようだ」

41覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:05:15 ID:6aG2OzYo0

だがそんなフィリップの優しい言葉を、村上は呆れた様子で返す。
その瞳には、もう先ほどのような熱は宿っていない。
本心から冷め切った様子で、彼は言葉を紡いだ。

「私にとって、確かに種の繁栄は生涯をかけるべき目標でした。しかし、それはオルフェノクこそが生態系の頂点に立つに相応しいと……我々オルフェノクは人類より優れていると、そう心から信じていたからだ」

遠い目で、ローズは彼方を見つめた。
生涯をかけるべき目標“だった”。
その言葉が過去形であることに、喪失感と無念を隠そうともせず。

「だが、そのオルフェノクの頂点に立つ王は敗れ去った……。皮肉にも、貴方たち人類の守護者たる仮面ライダーを前に、ね」

自嘲を込めたその声には、言外に自分の無力感を噛みしめる感情が滲んでいる。
きっと彼にとって、三本のベルトを携えた自分という実力者が共に戦ったというのに敗北を喫したというのは、形容しがたい敗北感を伴っているのだろう。
だがそれを聞いてもなお、フィリップはローズを引き留める事をやめはしない――その優しさを、捨てられない。

「なら村上峡児、もうオルフェノクだけに尽くすのはやめればいい。人類とオルフェノクが共存できる世界……君になら、それを作れるはずだ」

「……まだ分かりませんか、フィリップさん」

もうローズの声に、呆れや無念は見られない。
それらを通り越し、ただ無駄な問答を繰り広げようとするフィリップに対する憤りだけが、そこに残っていた。

「私は、オルフェノクと人類の全面戦争になれば、オルフェノクが勝者になると信じて疑わなかった。だが、実際は違う。貴方たち仮面ライダーがいる限り、我々に勝ち目は……ない」

それを告げるローズは、あまりに無力感に打ちひしがれていて、さしものフィリップでさえ、思わずかける言葉を失ってしまう。
だがローズの言葉は止まらない。
彼はそのままフィリップ達を見やり、心から仮面ライダーとの決別を宣言する。

「……それが分かってしまった時点で、もう私が生き長らえることに意味は無い。いずれ滅び行く我が種の末路を見届けるくらいなら……私は、自分の手で死を選ぶ」

言い切り、フィリップの瞳を真っ直ぐに睨み付けるローズの眼には、迷いはない。
きっともう、彼は何を言われても止まらない。
すぐにでもその身を川へと投げ打ち、その生に終止符を打つのだろう。

だがローズの覚悟を目の当たりにしてもなお、フィリップが学んだ半人前の優しさは、彼を一人死なせることに異を唱え続けていた。

「それでも……君にはそれを見届ける義務があるんじゃないのか?オルフェノクの運命に絶望しか残されていないのだとしても……それを覆す何かを、探すために」

ローズの死への意思が決して曲がらないほど固いというのなら、フィリップの彼を見捨てない優しさもまた、同じくらいに固かった。
半人前の相棒や、所長を努めるお節介から学んだ、誰かを助けようと努力し続ける強さ。
それを常に胸に抱き、甘ったるい理想論を、しかし揺るがぬ瞳で説き続けるフィリップを前に、遂にローズは毒気を抜かれたように少しばかり、笑った。

「フッ、全く……貴方たちは本当に、不愉快な方たちだ……」

そうして、最後の最後、ローズの表情が、僅かばかり安らぎに揺らいだ、その次の瞬間。
彼の身体は、大きく倒れ込むようにして欄干の向こうへと消えた。
飛び降りたと理解するより早く、フィリップは思わず彼が寸前まで立っていた欄干へ走り寄る。

飛沫を上げ、水に勢いよく着水したローズの身体は、それきり一切脱力した様子で川の流れに逆らうこともなく川下へと流れていく。
泳いで、彼を救出することが出来るだろうか、と無謀な思考を重ねようとしたところで、しかし彼の冷静な思考がそれをやめさせる。
思い出したのだ、ここがマップにおいてどこであり、そしてこの川がどこに続くのかを。

ここはG-3エリアにある東と西を繋ぐ橋。
なればここから川下に向けて流れていけば、辿り着く先にあるものはH-3エリアに設定された禁止エリアだ。
逃れ得ぬ死を運命付けられ流されていくローズの身体を眺めながら、フィリップはやるせなさにその拳を握りしめる。

42覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:05:53 ID:6aG2OzYo0

結局の所、自分が取りこぼしたものは、余りにも多い。
その悲しみに慟哭する彼の耳に川下から凄まじい爆音が響いたのは、それからすぐのことだった。


【二日目 午前】
【G-3 橋】


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】暴走中、疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、アマダムに亀裂(進行)、ダグバ、キング@仮面ライダー剣への極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダークウガに2時間変身不能、仮面ライダーガタックに1時間50分変身不能
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、照井の不明支給品×0〜1
【思考・状況】
0:(気絶中)
1:一条さん、どうかご無事で。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
4:渡……キバット……。
5:もし本当に士が五代さんを殺していたら、俺は……。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターに認められています。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※ギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※アルティメットフォームの暴走に抵抗したように見えたのは体力の低下による機能不全か、アマダムの損傷による弊害か、ユウスケの意思が届いたのかは不明です。詳細は後続の書き手さんにお任せします。



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、士への信頼、ダメージ(極大)、疲労(極大)、美穂と蓮への感謝、仮面ライダーナイトに1時間55分時間変身不能、仮面ライダー龍騎に1時間45分変身不能
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:(気絶中)
1:戦いの後、西病院に戻り仲間と合流する。
2:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
3:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
4:黒い龍騎、それってもしかして……。
5:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
6:自分の願いは、戦いながら探してみる。
7:蓮、霧島、ありがとな。
【備考】
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。

43覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:06:27 ID:6aG2OzYo0

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、仮面ライダーギャレンに1時間50分変身不能、サイクロンドーパントに1時間15分変身不能、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ギャレンバックル+ラウズアブゾーバー+ラウズカード(ダイヤA~6、9、J、K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:村上峡児の死に動揺と悲しみ。
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除をする際には世界崩壊の可能性があることも伝える。
5:葦原涼の死は、決して無駄にしない。
6:相川始が首輪解除を承諾してくれたことに喜び。
【備考】
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をGトレーラーのトレーラー部分に載せています。



【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、開放感、首輪解除
【装備】ラウズカード(ハートのA~6、クラブJ~K)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。
1:取りあえずは休憩し、その後情報を交換する。
2:更なる力を得るため、他のラウズカードを集める(ハート優先)。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とは、戦わねばならない……か。
【備考】
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。



【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(極大)、疲労(極大)、仮面ライダーファイズに2時間変身不能、仮面ライダーランスに1時間50分変身不能、仮面ライダーデルタに1時間45分変身不能
【装備】ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555、間宮麗奈の首輪
0:(気絶中)
1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
3:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるはずだ。
4;少し休んでから情報を交換したい。
【備考】
※後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。
※仮面ライダーファイズブラスターフォームに変身しましたが、副作用は全てファイズギアが肩代わりしたので反動以外には全く影響ありません。

44覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:06:47 ID:6aG2OzYo0




(私もこれで、年貢の納め時、ですか)

ただ川の流れに身を任せ空を仰向けに見上げるローズは、ふとそんな事を思う。
思えば本当に、自分の人生は空虚なものだった。
人間として生まれ、優秀な成績を収めたというのに、オルフェノクとなった途端周囲に差別され弾圧された。

親しかったはずの家族や友人は全て自分を化け物として扱い、二つの種の共存という理想を求めていた若き村上峡児は、そこで死んだのだ。
だが、そんな人間への絶望を動力源として働いてきたオルフェノクの種としての繁栄への努力も、全て水の泡と化した。
これが虚しくなくて、何だというのだろうか。

(『目的のない人生は牢獄と同じだ。だが、案ずることはない。その扉を開ける鍵は、自分が持っているのだから』か。フッ、私としたことが、読み方を誤りました)

先ほど相川始から横領した詩集を流し読みした中にあった、詩の一節を思い出す。
最初に見たときは、何と陳腐な詩だろうと嘲笑すら浮かんだ。
牢獄の中にいるようにつまらない人生は、自分の頑張り次第でどうとでも好転するのだ、そう言っているのだろうと。

だが、今となっては、その解釈は違ったのだとそう断言出来る。
この詩は、こう言っているのだ
一度目的が失せた人生という牢獄から逃れる手段を、人は誰しも常に自分の手に持っている。

即ち、その退屈な人生を自分の手で終わらせ、牢獄の中で生き長らえる地獄から解き放たれるという、鍵を。
少なくとも、今の村上にとってその読み方は、果てしなく正解に近かった。
滅びが確定した種の行く末を見届ける牢獄のような地獄の生涯を送るより、自分は尊厳を持ってこの生を終わらせる道を選ぶ。

それが村上が最後の最後に決断したその人生の締めくくり方であり、彼という存在が最も納得出来る終わり方だったのだから。

(と言っても、この人生を笑顔で終えられないことだけは、悔いが残りますが……)

詩、格言などという言葉からの連想で、嫌でも村上は自身の座右の銘を思い出す。
人は必ず泣きながら生まれてくるが、死ぬときの表情はその人次第だ。
村上はずっと、この命を種に捧げ人類への勝利を確信しながら笑って死ぬものだと、そう思い込んでいた。

野望の全てが打ち砕かれ、そしてオルフェノクは人類に敗北するのだろうと理解した上でこうして惨めに自死を選ぶなど、思ってもみなかったのだ。
勿論、今の彼の表情に笑みなどないし、無理矢理に浮かべることも出来ない。
敗北の無念とも悲しみとも違う、ただ喪失感だけが、彼に表情に表せるだけの感情も奪い取っていたのである。







――彼の首輪が、喧しい警告音を掻き鳴らす。
どうやら、思った通り禁止エリアに突入したらしい。
橘朔也やダグバの首輪が爆発した時の詳細は村上も知らなかったが、少なくとも爆発することが真実であれば、他の細かな仕様などどうでも良いことだ。

そうして彼は、来るべき時に備えその瞳をゆっくりと閉じて。
その瞼の裏に、見るはずもないと思っていた走馬燈を見た。

――『村上さん、あなたは私たちが支えます。人を襲ったりなんて、もうさせないようにさせてみせますから』

――『何で貴方は人間とオルフェノクの共存を考えたりしないんですか、そんなにオルフェノクに優しいなら、人間と戦わない道を探すことだって――』

――『一緒に大ショッカーを倒そう、村上峡児。君の罪を、償う為にも』

45覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:07:10 ID:6aG2OzYo0

過ぎるのは、どれもかつて仮面ライダーにかけられた言葉ばかり。
どいつもこいつも皆一様に自分を不用心に信じ、分かり合える道があるはずだと諭してきた。
もうそんな道が自分に残されているはずなど、ないというのに。

そもそも今まで自分がどれだけの人間を手に掛けてきたと思っているのだ。
もう後戻りが出来ない自分に、そんな明るい道を行くことなど、出来るはずがないのである。
だというのに、それでもなお最後の最後までこうして出てこられてしまっては、まるで自分が間違っているようではないか。

やり直せないことなどないと、共存の道はあるはずだと、そう訴え続けたあの甘ちゃんどもの言葉に、心動かされてしまったようではないか。
あぁ、あぁ全く、本当に―――――。










(仮面ライダー……不愉快な方たちだ)

その思考を最後に紡いで。
村上……否、ローズオルフェノクの思考は、首輪から発せられた凄まじい熱量に焼き切られた。

【村上峡児@仮面ライダー555 死亡確認】
【アークオルフェノク@仮面ライダー555 死亡確認】
【間宮麗奈@仮面ライダーカブト 死亡確認】

【残り13人】

【備考】
※G-3エリア橋上に、デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555、支給品一式(村上)、詩集@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、支給品一式(麗奈)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王、支給品一式(リュウタ)、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王が放置されています。
※メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、ファイズブラスター@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555が破壊されました。

【全体備考】
※相川始が首輪を解除しました。これによりフィリップの考察通りなら『剣の世界』の参加者が全滅したと見なされ世界崩壊を確定したことになりますが、詳細がどうなるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※H-3エリアで村上峡児の首輪が爆発しました。被害はG-3にまでは及んでいないようですが、かなり広範囲で観測できても可笑しくないと思われます。
※ドレイクゼクターがどこに行ったのか、資格者を探しているのか自由気ままに移動しているのかなど詳細は後続の書き手さんにお任せします。

46覚醒 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:07:27 ID:6aG2OzYo0




「……ほぉ、これはまた随分と派手にふっ飛んだようだな」

H-3エリアで起きた凄まじい水飛沫を伴う爆発を目に映して、乃木は花火でも見るような心地で一人ぼやく。
間宮麗奈の確実な死を見届け、ブラックファングを取りに少しばかり橋から離れた場所へ戻っている最中に、思わぬ見世物があったものだ。
あの爆発の規模と場所から見るに、恐らくあれは首輪の爆発によるものだろう。

灰になった間宮麗奈のものではないのは明らかだし、であれば誰かまた別の参加者が誤って川に転落でもしたのだろうか。
半ば冗談ではあるが、もし本当にそうであればこれほど笑える話もない。
麗奈が死んだところで切り上げず最後まで見ておくべきだっただろうかと、少しばかりの後悔を抱きながら、しかし乃木の興味はそこで終わった。

所詮、誰であれもう死んだ存在だ。
自分にとって必要なのは、これから先誰が生き残っているのかという情報だけ。
首輪をはめられていた頃と違いフリーズだけでなく数多の必殺技すら吸収した今の自分ならば、単身での大ショッカー打倒も十分視野に入れられる。

まぁ仮面ライダー諸君が首輪を外し、その命を自分の崇高な野望の為に捧げたいと懇願するのなら肉壁代わりにしてやらなくもないが、それも時間の問題だ。
余りにフィリップが解除に手間取るようなら、彼らを利用して得られるメリットより、自分の能力を知られるデメリットの方が大きくなる。
無論、そうなっても負ける気はないが、どちらにせよ一刻も早く大ショッカー打倒に有用な情報を得ることが必要不可欠だろうと、乃木は確信していた。

「となれば……やはりあそこか」

乃木が一瞥を向けたのは、先ほど自身の片割れが手酷い敗北を喫した廃工場のあるG-1エリア方向。
大ショッカーがいち早く禁止エリアに設定し、そこを守るように幹部を配置して分かりやすく防御体勢を敷いたことは、罠だと仮定してもなお暴く価値があるものである。
片割れから流れ込んできた記憶のせいであの三島という男にリベンジをしてやりたい気持ちもあるし、取りあえずの目的地にするには丁度良いように乃木には思えた。

ブラックファングがエンジンを燃やし、タイヤを急回転させる。
砂や葉を巻き上げて突き進むその黒い鉄の馬の勢いを止める者は、誰もいない。
復讐に燃える主の心に呼応するように、ファングは低く遠吠えた。


【二日目 午前】
【G-2 平原】

【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:G-1エリアに向かい、三島にリベンジを果たす。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
【備考】
※もう一人の自分を吸収したため、カッシスワーム・ディアボリウスになりました。
※これにより戦闘能力が向上しただけでなくフリーズ、必殺技の吸収能力を取り戻し、両手を今までの形態のどれでも好きなものに自由に変化させられる能力を得ました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動、インパクトスタップ、ライダーパンチ(パンチホッパー)、超自然発火能力の六つです。

47 ◆JOKER/0r3g:2020/01/08(水) 16:12:43 ID:6aG2OzYo0
以上で投下終了です。
今回の内容は議論を要するかとも思いましたが、より多くの方に判断して貰うべきかと思い、こちらに投下しました。
自分でも気になっている問題と思われる部分は敢えて列挙しませんが、皆さんが読んだ上でやはり問題だと判断されれば遠慮無く仰ってください。

それでは、ご指摘ご感想、またご意見等ございましたらよろしくお願いします。

48名無しさん:2020/01/08(水) 17:37:33 ID:wLv4uW2A0
投下乙です!
今回逝ってしまったのは皆怪人ばかりでしたね。しかしあくまで自分の種族のみに拘った社長と、種族を超えた絆のために散った麗奈。
最後に笑えたのは後者でしたね。社長も後悔は無かったとはいえ……ううむ。

それはそれとして、だいぶ自信過剰になってきた乃木。三島にはもう勝てると思いますが、どうなるか……。

総じて期待以上に楽しませていただきました。問題と思われるような箇所も特に無かったです

49名無しさん:2020/01/08(水) 20:07:37 ID:Tc6w4yVA0
投下乙です!
南エリアの激戦にもついに決着がつきましたが、やはり村上と麗奈の最期はそれぞれ悲しかったです……
三原のブラスターフォーム、ジョーカーVSアルティメットフォームなど熱い対戦カードが展開されて、誰が脱落するかわからないバトルは最後までハラハラしましたね!
そして乃木も再びG-1エリアに向かいますが、果たしてリベンジには成功するのか?

50 ◆JOKER/0r3g:2020/01/10(金) 00:18:35 ID:oYPvn9W60
皆様、ご感想ありがとうございます。
さて、この度は当企画に関する重大な相談をさせていただこうと思います。
皆様ご存知の通り、当企画は残り参加者数が(主催陣営を考えなければ)当初の5分の1となり、残る対主催メンバーが全員集合するのも時間の問題という段階になりました。
そこで、次の第四回放送を以て当企画のリレー制度をやめ、私の一人リレーで完結まで書くとした方が様々な面でスムーズではないかと考え、その是非を問いに参った次第です。

勿論、第四回放送まで自己リレーだけでも後数作はかかりますし、どれだけ早く見積もっても2月までは猶予があると思いますが、その段階で突然告知、というのも不躾かと思い、ご連絡させていただきました。
最も、私自身この連絡の是非を問うのは、今年の4月以降自分がどれだけ忙しくなるかまだ未知数の為、自分の想像以上の忙しさであれば書く意欲がある方はいるのにエターになる、という状況に陥る可能性がある為です。
もちろん善処はしますし絶対に中途半端にするつもりはありませんが、それでも年単位で私を待つのも不毛ということであれば、書き手の参加を縛るのも問題ではないかと思い、今ここで意見を募りたいという思いであります。
一応、様々な事情を鑑みて、実際に第四回放送を投下出来るという段階で最終決定を下したいとは思いますが、今ここである程度ご意見をお伺いしておきたいです。

それでは、長々と失礼しました。皆様のご意見、お待ちしております。

51 ◆LuuKRM2PEg:2020/01/10(金) 07:38:03 ID:vTKbX08Q0
第四回放送以降の制度については異論はありません。
状況的にも既に終盤に突入している中、単独執筆がベストと考えるのであればそちらを採用するべきでしょうし。

52名無しさん:2020/01/11(土) 08:58:30 ID:g7EkJ6A.0
加賀美開きか……

53 ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:17:20 ID:FUFhjo4s0
加賀美開きの日ということで、記念に(?)投下しようと思います。

54Round Zero〜Fallen King ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:18:18 ID:FUFhjo4s0

「クソ、あいつら……!」

ドサリ、と重い音を立てて、一人の男が平原へと落ちた。
自身の首から排出されたガイアメモリをキャッチすることも出来ず俯せに倒れた男は、見るからに満身創痍の風体を為している。
一張羅の赤いジャケットが汚れることすら厭わずに呻き、藻掻く彼の名はキング。

最もその姿と名のどちらもがコーカサスビートルアンデッドが人間世界に溶け込むため擬態した仮初めのものであり、偽りではあるのだが。
立ち上がることも出来ないまま、手だけを伸ばして何とかT2ゾーンメモリを掴み取った彼は、荒く呼吸をしてここはどこかと辺りを見渡す。
視線の先に見えるのは市街地、後方に見えるのは、先ほどまで自分がいたサーキット場。

しくじった、とキングは舌打ちする。
正直、ゾーンを使って仮面ライダーたちから逃げる時は無我夢中で、どこへ逃げるなど考えずに適当に能力を行使したのだが、それが失敗だったらしい。
この会場内であればどこへでも瞬時に飛べるはずのゾーンを使って、まさかこんな近くに飛んでしまったとは。

先ほどまでの万全であれば十分無視出来たはずの瞬間移動による疲労感も、今となってはこうして行動を阻害するほどのものとなってしまっている。
戦いを終えたばかりのWの左側やアクセルがここまで自分を追ってきて封印する、というケースは流石に考えにくいが、それでもこの状況は不味い。
誰か参加者が通りがかれば、面白半分に蹂躙されるのは自分の方だ。

そんな面白くない結末などあっていいはずがないと全身に力を込めるが、しかし今までの仮面ライダーとの戦いによるダメージが響いているのか、身体は一向に思い通りに動こうとしない。
少し軽率に動きすぎだったか、と今更ながらキングは自分を呪う。
放送の前はともかくとして、それから先は自分の思うようにゲームを進行できていないことへの焦りが、生まれていたのかもしれない。

天道総司を名乗るあのネイティブワーム風情に正義の味方の愚かさを知らしめて以前の全ての世界を憎む彼に戻してやろうとしたのに、ディケイドにその計画を頓挫させられ。
挙げ句の果てに彼の意思を一層強固にしてしまったばかりか、折角取り戻した盾まで破壊されて、ますます苛立ちが募る結果となり。
その鬱憤を晴らそうと容易に勝てる相手としてWの左半分と瀕死のアクセルを弄ぼうとサーキット場に向かえば、結果はベルデを失い命からがら逃げなければならない始末。

その末にこうして地面を這いずらなければならないと来れば、面白くなくて当然だった。

「――チッ!」

強く、舌打ちを放つ。
全く以て仮面ライダー如きが、この世界で一番強い自分に対していらない抵抗をしてくれる。
口先だけの正義の味方など、少しその根本を揺さぶれば皆正義なんて投げ捨てて醜い本性を露わにするはずなのに。

あいつらは何故その本性を剥き出しにしようとしない。
仮面ライダーの善性が人の本性だなどと、そんな綺麗事があるはずがないのだ。
そうだ、次はもっと奴らを精神的に追い詰めてやろう。

どうせ、自分を封印することは世界を守ろうだなどと考えている奴らには叶わないのだから、好き勝手やってやればいい。
となれば次は何を利用するかだが、最も面白そうなのはやはりディケイドだろうか、
五代雄介殺害についてもっと広く伝聞し、ディケイド対全仮面ライダーの構図、すなわちライダー大戦を再現出来れば、これほど面白いものはない。

彼が今まで紡いできた絆など全て上っ面だけの薄いものだと証明すれば、仮面ライダーも正義などという言葉を声高に叫ぶことすら出来なくなるだろう。
それこそ自分が望む混沌であり混乱に違いないと、キングは愉悦に頬を歪めた。
だがそんな野望を遂行する為にはまず、身を休めることが必要だとキングは冷静に判断する。

まずは体力を回復し、それから他の参加者を探してディケイドが世界を滅ぼす悪魔だという情報と五代雄介を既に殺害しているという事実を伝える。
そうすれば少なくとも彼を野放しには出来ないだろうし、あと一押しで自分の目論見通りに事は進むはずだ。
まだまだ自分の遊びは終わらないのだと余裕を取り戻し始めたキングは、しかし瞬間、自分を覆う影が突如濃くなったのを察知していた。

誰かが、自分を見下げている。
不味い、と彼の本能が叫んでいた。
先も思慮した通り、今の自分は仮面ライダーに一方的に蹂躙される存在に他ならないのだから。

55Round Zero〜Fallen King ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:18:42 ID:FUFhjo4s0

それまでの愉悦も放棄して、彼はアンデッド態になり勢いよく振り返る。
少しでも反撃を行う為の行動だったが、そこにいたのはしかし、彼が危惧するに値しないものだった。
何故ならそれは、参加者どころか人型ですらなく。

自分がこの会場に連れ込んだネオ生命体が、コアだけで浮遊している姿だったのだから。

「……なんだ、お前か」

思わず安堵に溜息をつきながら、キングは変身を解く。
ネオ生命体がこの形態でここにいるということは、恐らくドラスとして戦いに敗れたのだろう。
死体だけでは餌が不十分だったのかもしれないが、それにしても最強最悪の怪人の呼び名に値するような活躍をしたとは思えない。

自分の想像よりも遙かに早く戻ってきてしまった彼に失望の念を抱きながら、しかしキングはこれはこれで好都合かと思い直す。
ネオ生命体は、貪欲に全てを食らい自分の力にしようとする性質を持っている。
彼を連れ、適当に消耗した参加者を食わせる……即ち吸収させてやれば、再びドラスとして、ないしは今までに無いほど強い存在として生まれ変わるかも知れない。

そうすれば今の消耗しきった自分でも十分この戦いを面白く出来る可能性はあるし、ジョーカーが封印されてしまった後、自分の保険がなくなってしまっても楽しめる。
邪悪な思考を巡らせて、キングはようやく体力を取り戻し力を込めて立ち上がる。
その瞳に、更なる混沌の未来を描きながら。

「アンデッド君、僕、お腹空いちゃったよ」

「慌てるなよ。今からお前に、旨いもんたらふく食わせてやるからさ」

「美味しいもの?」

問うたネオ生命体に、キングは頷く。
そうだ、今度は死体だなどとケチ臭いことは言わない。
生きている参加者が密集している場所に行って、満足するまでこいつに食わせてやる。

面白そうなのは、やはりクウガだろうか。
機能が生きているアマダムごと吸収すれば、ネオ生命体はそれこそダグバすら越える究極生物になるに違いない。
鬱屈としていた感情が、これから先の展望に明るく輝き出す。

足を引きずりながら、それでも市街地のどこかへ隠れてしまえばこちらのものだと歩き出したキングに、ネオ生命体はなおも無垢な声をかけ続ける。

「本当に、食べて良いの?」

「当たり前だろ。お前の力で、全部をメチャクチャにして欲しいんだからさ」

それは、紛う事なきキングの望みだった。
このつまらない生を永遠に終わらせることが叶わないなら、秩序や正義、そんな大層な言い分は全部ぶっ壊してやりたい。
そうして全部なくなった後に、この殺し合い自体の意味もなくなって世界が全部滅んでしまえば良い。

そんな破滅こそ彼の望む姿であり、種の繁栄も世界の存亡も、全てがどうでもよかった。
ここに至るまでの今までの全ては、彼にとってはただの暇潰しに過ぎないのだから。
果たして、今度は面白い結果になればいいなと、そんな風に彼はまた一歩前に踏み出そうとして。










突然、その身体ごと前のめりに倒れ込んだ。
疲労ではない、足がもつれたわけでもない。
いきなり、身体全体に力が入らなくなったのである。

事態を正確に把握するより早く、彼の腹部が凄まじい熱を帯び出す。
何かに貫かれたのだと気付くのとほぼ同時、キングは攻撃を行った下手人の正体をも、一瞬で看過していた。
自分を攻撃したその敵の正体とは、この場にいる自分以外唯一の存在、即ち……ネオ生命体に他ならないと。

「お前……何、考え、て……!?」

咄嗟にコーカサスアンデッドに変身しながら、キングは浮遊するネオ生命体を見上げる。
彼の目的は一体何なのか、それが全く理解出来なかった。

56Round Zero〜Fallen King ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:19:00 ID:FUFhjo4s0

「え?だってアンデッド君、食べて良いって言ったでしょ?僕の力で、全部メチャクチャにしてほしいって」

「――ッ、は、ハハハ……」

微塵も罪悪感の感じられないネオ生命体の言葉を聞きながら、キングは自分の愚策を呪い思わず苦笑を漏らした。
彼はあくまで、人工的に作られただ力を求めて培養されていた悪夢の生命体なのだ。
それを相手にして、まともな話など出来ようはずもない。

先ほどまでならともかく、今のネオ生命体はドラスとして敗北し空腹を訴えている状態。
目の前に弱り切った餌がいれば、それがなんであれ取り込み吸収しようとするのは至極当然のことだった。
コーカサスのバックルが開き、彼敗北を痛感させる。

詰みだ。もうどうしようもない。
これから自分は、ネオ生命体の一部として吸収されるしかないのだ。
だが、そんな絶望を前にしても、キングはいつものように薄っぺらく笑った。

アンデッドである自分がこういった形で消滅すれば、バトルファイトの根幹が覆るかも知れない。
自分を退屈な永遠に閉じ込めたあの統制者が他の世界の要因でバグを引き起こすとしたら、それはどれだけ面白い光景だろう。
ジョーカーが最後の一人になったとき、世界は滅びる……その揺るがないはずの結末だって、もしかしたら壊れてしまうかも知れない。

無論それを見届けることは出来ないが、少なくともこれはこれで面白くなりそうだと、キングはもう碌な抵抗もしなかった。

「なぁ、ネオ生命体……僕の身体、好きに使っていいからさ……世界も、殺し合いも仮面ライダーも全部全部……メチャクチャにしてくれよ」

故に最後に放つのは、そんな狂った願望。
だが、これこそがキングだった。
自分がどうなろうと関係なく、全ての破滅を望む。

愉しければ何でも構わないと万物を否定する彼にとって、この殺し合いからの脱落すら大した意味を持つはずがない。
元々この会場に来たのも暇潰しに過ぎないのだから、それが終わるとして今更深い感慨が沸くはずもなかった。

「変なの。……まぁ、いいよ」

場違いな笑みを浮かべたキングを不可解に思うような表情を見せながら、しかしネオ生命体は止まらない。
その沸き起こる食欲に任せて形だけの承諾を返し、それから彼はキングに対して“口を開いた”。

「――じゃあ、アンデッド君。いただきまぁす」

それは、食事に対する感謝の気持ち。
生きているものではなく、自分の糧となる存在に対し誰もが口にする食事の合図だ。
それが不死者である自分に投げられているというのは些か不思議な心地ではあったが、しかしキングはどうということもない。

ネオ生命体の伸ばす緑色をした粘着質の液体が、キングを包み込んでいく。
それはどことなく心地よさを感じるような感覚でもあり、同時、ラウズカードに封印される時とも違う、自分が消えて無くなるような感覚でもあった。
徐々に薄れ行く意識の中、嗚呼なるほどと、キングは納得したような心地を抱いた。







――これが、死というものなのか。







そんな、不死者である彼が本来抱くはずのなかった感慨を最後に残して。
コーカサスアンデッドは、ネオ生命体に取り込まれその永遠と思われた生命を消化された。
それから少しの後、意識を手放したキングと同化、吸収したネオ生命体は、突如として不気味な呻き声を上げる。

キングの力を取り込んで今までのどれとも違う新たな形態へ変身を遂げようとしていることを思えば、或いはその声を産声と称するべきだろうか。
それまでのコアを剥き出しにした形態から一転、自身を形成する肉体を再構成し、ネオ生命体は二の足で地面に降り立つ。
今この地に新たに生み出されたそれは、まさしく凶悪を絵に描いたような風体を為していた。

57Round Zero〜Fallen King ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:19:21 ID:FUFhjo4s0

顔面はまるで猛る獣のように雄々しく、赤く脈動する赤いラインが、艶めかしく銀に光る肉体を横断するように走る。
身体の一部に金色の角や甲殻が見られ、その腕には破壊剣と盾を携えるその姿は、まさに彼が栄養とした怪人の特徴をそのまま引き継いだかのようであった。
誕生を終え、平原の中に悠然と立つその怪人を、最早単にネオ生命体と呼称するのは憚られる。

かつてダブルやディケイドと戦ったネオ生命体の進化形が、ドーパントを吸収したことからアルティメットDと呼称されるならば。
アンデッドを吸収し生まれたこの怪人の名は――アルティメットUD、そう呼ばれるのが相応しかった。
自分の力を確かめるように手を軽く開閉した彼は、今の自分が以前アルティメットDとして仮面ライダーに負けたときより、遙かに強いことに気付く。

だがそれも少し考えれば、至極当然のことだ。
アルティメットDとしての素体にネオ生命体が選んだのは、偶然その場に居合わせた一般ドーパントであるダミーである。
無論、その能力をフルに活用できればダミーは十分他の世界の強豪にも並びうる力を持つ怪人ではあったが、所詮本体の身体能力は著しく低く、そもそもドーパントはメモリを用いているだけで使用者はただの人間に過ぎない。

故に、客観的に見てダミードーパントはネオ生命体が選ぶに値するだけの素質が備わっていたとは到底思えない、お粗末な個体であったことは疑いようがないだろう。
だが此度ネオ生命体が取り込んだのは、生まれながらの不死であるアンデッドであり、かつその中でも最強を自称するに足る実力を持つキング、コーカサスビートルアンデッドであった。
なれば、その類い希なる生存力と高い戦闘力を吸収した今の彼がアルティメットDとは比べものにならない力を得ていたとして、何も不思議はない。

これならばさっきよりもずっと楽しく遊ぶことが出来そうだと心機一転した彼は、その視線の先に市街地の中一つだけ高くそびえ立つ白亜の塔を捉える。
あそこに行けば、満足のいく遊びが出来るだろうか。
そんな期待に胸高鳴らせて、アルティメットUDは目標に向け堂々たる一歩目を踏み出した。


【二日目 昼】
【C-1 平原】

【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(小)、満腹、アルティメットUDに変身中
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、ソリッドシールド@仮面ライダー剣
【道具】T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)
1:病院に行って、新しい身体で遊ぶ。
2:アンデッド君にお願いされたし、全部をメチャクチャにするのもいいかな。
【備考】
※キング@仮面ライダー剣を吸収し、アルティメットUDへと変貌しました。
見た目もアルティメットDから少々変わっていますが、基本的には同じです。



――さて、キングは終ぞ知ることがなかったが、実のところここでキングが消滅しバトルファイトから脱落したところで、彼の言うジョーカーによる世界の崩壊は起こらない。
何故ならこの場には彼が把握しているジョーカー、相川始だけでなく、様々な要因によって新たにジョーカーとなったダグバもいるのだから。
最後に残ったアンデッドが二体である限り、例えそのどちらもがジョーカーであってもバトルファイトは終わらない。

詰まるところ、皮肉にも元の世界で剣崎一真と相川始に起こったことが、この場でも起きてしまったのである。
だが、二人のジョーカーはこの地ではいずれ雌雄を決さなければならない。
相川始が仮面ライダーとして世界の崩壊を止める為戦い、ダグバがそれを蹂躙しようとする以上、剣崎一真と相川始が結んだような不干渉は決して為し得ないのだ。

残された二体のジョーカーがぶつかるとき、その勝者はどちらになるのか。
どちらが勝っても避けられぬ世界崩壊の運命は、果たして本当に起こってしまうのか。
その答えはまだ、暗雲立ちこめるに包まれていた。

【キング@仮面ライダー剣 吸収】
【GAME OVER】

58 ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:22:00 ID:FUFhjo4s0
以上で投下終了です。
今回出てくる例の台詞については勿論とある作品を意識して書きましたが、オマージュないしパロディの範疇を超えていると判断されれば修正しようと思います。
それではご意見ご感想等ございましたらよろしくお願いします。

59 ◆JOKER/0r3g:2020/01/11(土) 17:26:16 ID:FUFhjo4s0
それから◆LuuKRM2PEg氏、私の提案についてご意見くださりありがとうございました。
取りあえずは今のところ、自分が言っていた通り第四回放送以後は自己リレー形式に変更、ということで進めていこうと思います。
もし自分の懸念する多忙が更新を困難にするようであればその時はまた形式を変更する、という形も考えておりますので、そういった解釈でよろしくお願いします。

60名無しさん:2020/01/11(土) 17:45:10 ID:UV7l9H5U0
投下乙です!
まさか、とは思いましたがやはりパロディでしたか。読んだ経験のある人なら思い浮かべてしまいますよね。

さて、ここにきて強化されたアルティメットDとは……実力そのものも厄介ですが、最後に言及された滅びも気になりますね。今後が不安になります……

61 ◆LuuKRM2PEg:2020/01/11(土) 19:50:24 ID:g7EkJ6A.0
記念(?)すべき加賀美開きの投下乙でした!
これまで好き放題に暴れまわったキングですが、その報いのように無残な最期を迎えましたか。
でも、決して有利になった訳ではなく、むしろネオ生命体が強化されことも厄介ですね。

そして、提案の件についても了解致しました。

62 ◆JOKER/0r3g:2020/01/13(月) 00:23:44 ID:dizni1tU0
月報です。
150話(+ 6) 12/60 (- 3) 20.0

皆様のおかげで150話という大台を迎えることが出来ました、ありがとうございます。
これを一つの励みとして、これからも変わらず頑張っていこうと思います。

63 ◆JOKER/0r3g:2020/01/15(水) 10:47:28 ID:A6FyPGms0
予約後は予約スレを見ない、ということもあると思いましたので、こちらにも予約スレに書いたのと同じ内容を表記しておきます。
以下は引用です。

『◆Mx1Kf1LUvw氏、ご予約ありがとうございます。
ただ、第四回放送を前にしてロワ全体の流れを纏める立場としてお話の内容を把握したいので、少しだけお伺いしてもよろしいでしょうか?
twitterをやっていれば私へのDM、やっていなければフリーのメールアドレスを晒しますのでそちらにご連絡ください。』

64 ◆JOKER/0r3g:2020/01/15(水) 11:04:53 ID:A6FyPGms0
heirai.rowa@gmail.com

上記のものが自分のアドレスになりますので、twitterで@bulky_secondにDMするのが難しい場合はこちらにメールをお願いいたします。

65 ◆Mx1Kf1LUvw:2020/01/16(木) 22:07:36 ID:Yj6MLrRo0
こちらにもわざわざありがとうごさいます。
先方にも書きましたとおり、かえってお手を煩わせるようでしたら予約をとりさげます。お騒がせして申し訳ありません。

66 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 13:59:41 ID:gXcg.M4c0
お待たせいたしました、これより投下を開始いたします。

67Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:00:35 ID:gXcg.M4c0

太陽が燦々と輝き、いよいよその身を丁度空の真上にまで至らせようという市街地の中を、しかしなるべく影を歩くようにして進む男が一人。
全てを照らすような陽の光をなるべく視界から外して俯き歩く男に、名乗る名前はない。
かつて紅渡として生を受けた彼は、しかし誇り高き先代の王からキングの称号を受け継ぎ、その名を名乗り続けるはずだった。

だがその称号も、今や彼には残されていない。
王にのみ従うとされる忠実なる僕が、彼はキングの器たり得ないとして彼の元から去ってしまったために。
故に、彼の足取りは今までのどの瞬間よりも重く、そして緩慢だった。

今までは徒歩で1時間もあれば十分に横断できたはずのこの会場の1エリアを、もう2時間ほど経つというのに満足に進めていないのが、その証拠。
特段進まなければならない目的もないのにそれでも彼が足を止めないのは、立ち止まれば今までの罪悪感が自分を押し潰すような気がするからだ。
紅渡として犯してきた数多の罪と、キングを名乗る為踏みにじってきた数え切れないほどの善良な人々。

もしここで足を止めてしまえばもう二度と動けなくなるような気がして、渡はただひたすらに歩き続ける。
罪の意識からも、それを受け止め考えることからも逃げたいという一心で。
まるで幽鬼のような足取りでアスファルトに靴を擦りつけ歩む彼は、ふと視線の先に広がる影が一層濃厚な黒に変化したのを受けて、その顔を見上げた。

そこにあったのは、以前自分が襲ったのとほぼ同じ白亜の塔……病院。
E-4エリアにあったものより幾分か小さく見えるそれに、しかし彼は以前自身が犯した所行を思い出して吐き気を覚えた。
違う建物と頭では分かっているはずなのに、自分が世界の為と銘打って病院にもたらした災禍が、どうしようもなく脳裏をちらつく。

あの時に至るまで、どうとでも引き返すことは出来たはずなのに、自分は紛れもなく己の意思で善良な仮面ライダーとの決別を意味する引き金を引いた。
放たれた弾丸とレーザーの雨によって崩れ落ちていく巨大な病院の姿を、無意識に目の前のものと重ねた彼は、しかし込み上げてきた胃の内容物を無理矢理飲み込む。
今の自分に、選べる道などあるはずがない。

もし自分に王足る資格がないのだとしても、それでも自分は決めたはずだ。
愛すべき人と世界を守る、その為には手段を選びはしないと。
他の世界が何だというのだ、この心が望まぬ殺戮だから何だというのだ。

自分の手は既に血に汚れている。
なれば今までに犯してきた罪や犠牲にしてしまった人々の無念を無駄にしないためにも、自分にはやり遂げる義務があるはずだ。
王としてではなく、ただ一人の名も無い孤独な男になったとしても、その責任からは決して逃れられるはずがなかった。

先ほどまでと一転して、彼の瞳に光が宿る。
今からこの病院を襲撃する。そう決めた彼は、以前と同じようにデイパックを開きその中からゼロノスのベルトを取りだした。
ゾルダのファイナルベントには遠く及ばないが、これを使えばあの時と同じく奇襲をかけられるはず。

そうしてベルトをそのまま腰に巻き付けようとして、しかしその動きはそこで止まった。
――もしあの中に、名護がいたら。
突如として心中から湧き出た躊躇が、非情に徹しようとする渡の決意を鈍らせる。

もしゼロノスによる奇襲で名護を殺してしまうようなことになれば、それは自分が望むところではない。
愛すべき存在を守る為に殺し合いに乗る決断をしたというのに、それを自分から犯すなどこれ以上の愚行はない。
なればサガークで以前と同じように名護の存在の有無を確かめれば、と考えて、しかし渡はその自身の考えに苦笑した。

キバットバットⅡ世に見捨てられた今、自分がまだサガークに認められているのか確認するのが怖かったのも一つだが、それ以上に。
果たして一体、自分は今更彼の存在の有無に何の意味を見出そうとしているのか、それが分からなくなってしまった為だ。
彼にはもう、自分に関する記憶は残されていない。

何故なら誰であろう他ならぬ自分が、望んでそれを消してしまったのだから。
なればもし病院に名護がいたとして、自分の使命に何の関係があるのだろう。
世界存亡をかけた殺し合いにおいて同郷の氏と戦う理由がないから?

68Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:00:54 ID:gXcg.M4c0

馬鹿を言え、自分は直接確認したはずだ。
彼は決してこの殺し合いに乗ることはなく、何よりも大ショッカーの打倒を目指しているのだと。
冷静に考えて、大ショッカーが宣う言葉に従い戦う自分にとって、そんな存在は敵の一人にしかなり得ない。

そうだ、自分はあの時言ったではないか。
彼は彼として、仮面ライダーの道を往けば良い。
自分は王としての道を往き、その二つは決して交わることはないと。

あの言葉には、決して嘘は含まれていない。
彼に自分の罪を背負う必要など微塵もないのだし、自分のような存在は彼にとって汚点にしかならないのだから。
そうして彼を解き放つ意味を込めて自身に関する記憶を消したのだから、裏を返せばそれは自分もまた彼と対等に敵として戦わなければならないことを意味していた。

確かにかつて一度は、彼を見逃した。
だが、もうそんな甘えが許されるはずがない。
あの病院に名護がいようとも、戦うほか道は残されていないのだから。

そんな迷いを捨て彼とただの敵になる為に記憶を消したのは、他ならぬ自分自身であるはずなのに。
それでもなおその可能性に怯えて引き金を引く決断に踏み切れない渡は、苦悩に顔を歪ませてベルトをデイパックへと仕舞い込む。
やはり奇襲は、行えない。

これまでの経緯がどうあってとして、そんな形で自分は名護を殺すことなど出来なかった。
どこまでも捨てきれない自分自身の甘さに唇を噛みしめながら、彼はそのまま病院へと進んでいく。
奇襲も偵察も一切行わない、無防備極まりないその歩みで以て彼が向かうのは、誰もが使うのだろう正面入り口だ。

裏口を使うだとか見つからない為の工夫を弄するだとか、そんなものは一切行おうともしない。
だがそれは決して、王ならばそんなことはしないからなどというプライドから来る誇り高い行動ではない。
寧ろそんな策を弄して敵の裏を掻く為の思考を割くことすら、今の彼には億劫だったのである。

誰がいようと、自分には戦うしか道がない。
そんな悲痛な覚悟が、今の彼からまともな思考力を奪っていた。
直後、依然として覚束ない足取りながら、彼はゆっくりと病院の正面入り口へその足を踏み入れた。

そして同時、すぐに一つの人影を見つける。
薄暗いエントランスの中心、まるで渡を待ちわびていたように立ち尽くす、見覚えのある男のシルエットを。
まさか。そんなはずはないと、渡は首を振る。

見間違えではないのか、そうして数度瞬きを繰り返した渡へ向けて、男は一つ声を発した。

「渡君」

聞き覚えのある声、聞き覚えのある呼び方。
一歩自身に向け足を進めた男の顔を、渡が忘れるはずがない。
何故なら彼は、まさしく数時間前にも同じように自分に呼びかけた男……名護啓介その人だったのだから。





「――大体わかった、じゃあその一条って刑事がユウスケの世話を見てたって訳だ」

彼らが病院に到着して大凡1時間ほどが経過した頃、名護からユウスケの情報を聞いた士は、得られた情報を簡単に纏める。
何でも先ほどまでこの病院にいたという一条薫という男は、ユウスケとずっと行動を共にしていたらしい。
それだけならともかく、彼はユウスケのそれとは違う『クウガの世界』から来たというのだから、運命とは全く以て数奇なものだ。

69Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:01:16 ID:gXcg.M4c0

ユウスケではないクウガがいる世界。
そのクウガとは誰かを考えて、士はふとその表情に影を落とした。

(一条って奴はやはり五代の仲間だろう、なら俺は……)

彼の複雑な感情の理由は、一条が十中八九間違いなく五代雄介の仲間だろうということに思い至った為だった。
地の石に支配され、心ない者によって殺戮を余儀なくされた五代。
本来罪などないはずの彼を、自分は殺している。

勿論ああするのが彼の望みであり、そうしなければ仲間の命が奪われていただろう事は確かだし、決断が遅れていればもっと被害が増えていたことは想像に難くない。
だが、それでも自分がもっと強ければ彼の命をあんな形で終わらせることもなかっただろうという悔いは、未だに士の心に残り続けていた。
というより、これは自分が生涯をかけて背負わなければならない罪なのだろう。

総司は自分を励ましてくれたが、それでも彼と違って自分の意思で五代の命を奪ったのは、紛れもない事実なのだから。

(一条って奴には、色々なことを伝えないとな)

ユウスケを立ち直らせてくれた礼、そして五代の命を奪ってしまった謝罪。
彼に対する感情は一言で言い表せないほど大きくなっていたが、それでも五代の件は自分が隠さず伝えなくてはならない。
もしその結果として、彼が激情しその罪を命で償えと詰められれば、士には反論することは出来ないだろう。

自分にとってのユウスケの存在と同じかそれ以上に、五代の笑顔を一番望んだのは、きっと彼だろうから。
一条という男への思いを新たにして沈黙に沈んだ士に対し、名護はしかしそれを内容を飲み込む為の沈黙と解釈して話を続ける。

「あぁ、それに一条は、ユウスケ君に数え切れないほど命を助けて貰ったと言っていた。彼への感謝は、どれだけ尽くしても足りないと」

「ユウスケが……?」

思わず漏れた困惑は、ユウスケという人物の人間性への懐疑心から来るものではない。
純粋に、この会場において彼の実力がそう何度も他者を窮地から救えるほどに逸脱したものではないと、士は知っていたからだ。
ガドルや牙王、それからキングに乃木など、参加者内外を問わずこの地には自分でさえ苦戦する強者が掃いて捨てるほどいる。

たまたま彼が出会ったのが大した実力者ではなかったということもあるまいし、そういった強豪を相手にもユウスケが他者を守り戦えるほど強くなったと考えるべきだろう。
なればその理由はと思考を巡らせて、士はすぐにその答えに辿り着いた。

(あいつが、凄まじき戦士って奴になったから……か)

ヒビキや橘たちから聞いていた、ユウスケがアルティメットフォームになりダグバと互角に戦ったという情報。
キバーラから、かつて自分が戦ったアルティメットクウガとは比べものにならない実力を持っていると釘を刺されてはいたが、実際に彼はその変身によって自分の想像以上の力を身につけたらしい。
最も、自分が懸念していたほどに彼は自暴自棄になっておらず、相変わらず誰かの笑顔を守る為にその力を使っていたのだという情報は、士にとっても喜ばしいものに違いなかったが。

ともかく、話を聞く限りでは彼を自分が改めてとっちめる必要もないだろうか、とそこまで考えて。
士は、今の話の中にあったとある違和感に気付いた。

「待て。何でそれだけずっと一緒にいて、病院には一条一人だけで来たんだ?ユウスケはどうした」

士が感じたのは、至極当然の疑問だった。
何度も命を救って貰った命の恩人であり、自分の代わりにユウスケを支えてくれた一条が、何故彼を置いて一人だけ病院に来たのか。
最初病院に来たときの一条の傷はかなり深刻だったとも聞いたし、そんな存在を差し置いてまでユウスケに何かやるべきことがあったのだろうか。

70Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:01:38 ID:gXcg.M4c0

「それは……」

しかし士のそんな素朴な疑問に対し、名護は言葉を詰まらせる。
暫し思案し目を泳がせるその姿に何らかの事情を察した士は、顎で名護の言葉を促す。
それを受け、何かを覚悟するように一度俯いてから、名護はゆっくりと話しだした。

「一条は、俺がユウスケ君から引き取ったんだ。酷い傷で死んでしまうかも知れないから頼む、自分にはやるべきことがあるからと」

「やるべきことってのは?」

間髪入れず問うた士に、名護はしかしもう戸惑うことはしなかった。

「その時は詳しく聞かなかったが、後で一条に聞いたところによると、紅渡君を説得しに行ったらしい」

「紅渡を……?」

思いがけず放たれた名前に、士は思わず険しい表情を浮かべる。
病院を襲い、自分を破壊者として討伐しようとしてきた厄介な相手。
五代の死にも浅からぬ因縁がある渡と、『キバの世界』で王であるワタルに仕えていたユウスケ。

そんな二人が出会い言葉を交したというのは、不謹慎ではあっても奇妙な縁で結ばれていると思わざるを得ない。
一条が病院についたのは第三回放送前だというので少なくとも両者共に無事に事を終えたらしいが、それが即ち渡との和解を意味する訳ではない。
願うことならばワタルと同じように渡もまたユウスケの優しさに触れて凶行を止まっていればいいが、果たしてそれで自分を破壊する事まで諦めるほど容易い相手だろうか。

結局はまた彼と戦わなければならないかもしれないと覚悟を新たにした士を前に、名護はなお言葉を紡ぐ。

「それから、彼は何か石のようなアイテムでユウスケ君を操ろうとしたと一条は言っていた」

「石のようなアイテム、だと!?」

名護の言葉によっていきなり話が急展開を迎えたことに、士は動揺を隠しきれない。
クウガを操る能力を持つ石のようなアイテムについて、士は嫌になるほど知っている。
まさか、あの病院大戦の後でそれを回収していたのが渡だったとは。

突如大声を上げた士に対し、名護はその驚愕を肯定するように一つ頷いた。

「あぁ、ほぼ間違いなく、それは君が言っていた地の石というものだろう。最もユウスケ君は自力でその支配から抜け出すことが出来たと、一条はそう言っていたが……」

そこまで言って、名護は士の顔色を伺うようにその顔を見上げる。
名護には既に、病院で地の石が巻き起こした惨劇を説明済みだ。
そんな代物を自分の意思で扱ってユウスケを操ろうとした事実は、もし仮にそれで犠牲が誰も出ていないのだとしても、大きすぎる罪には違いなかった。

「士くん、正直に言ってほしい。君は本当に……紅渡君と和解できると思うか?」

俯いた名護から放たれたのは、深い苦悩を伴う暗い声。
どうしようもない不安に囚われたその声音は、どこまでも真剣なもの。
きっと、これまで以上に渡について考えているからこそ至った懸念なのだろうと、士は彼の心中を察した。

「どうした?お前らしくないな。師匠としてあいつを救いたいんじゃなかったのか?」

だがその上で、士はあくまであっけらかんと名護の問いに答える。
それはまるで自分の真意を問うようで、自分が質問を投げかけたはずなのに名護は試されているような心地を覚えた。
それでもしかし、彼の言葉が澱むことはない。

例え士がどういう心づもりであれ、自分の考えを説くだけだと彼は口を開いた。

「勿論、その言葉に嘘はない。だが……彼の犯してきた罪を他者から聞くたびに、俺の中にはどうしても悪い考えが浮かんでしまう……。今の紅渡君は、かつての俺が信じた彼とは、全くの別人ではないかと」

71Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:01:58 ID:gXcg.M4c0

漏らした声は、今にも消え入りそうな儚いもので。
いつもは溌剌とした喋り方をする名護がこんな弱音を吐くのは、まさしく彼の中にどうしても迷いが浮かんでしまっている為だろう。
病院の襲撃、仲間から奪取した地の石を用いてユウスケを操ろうとする――そのどれもが、今まで名護が対峙してきた中でも最上の邪悪の所業と言えた。

もし彼にどんな信条や使命があるとしても、誰かの自由意志を踏みにじっていい理由にはなり得ない。
少なくとも記憶をなくした今の自分にとって、名前しか知らない紅渡の善性を無垢に信じるのと、彼を誰かの自由を踏みにじろうとした邪悪と断ずるのとでは、後者の方が余程容易かった。
だからこそどうしても、聞いてみたかった。

実際に出会い戦ったという士の目から見て、その信念や思いは本当に仮面ライダーの正義と妥協しうるものなのかどうか。
そして、漏れてしまった不安は簡単には止まらない。
そのまま名護は、縋るようにして士の目を見つめた。

「それに、俺は既に一度彼の説得に失敗している。記憶があった俺にも出来なかったのに、記憶も消えてしまった今の俺ではなおさら、もう彼を止める事なんて……出来ないかもしれない」

告げた名護の瞳は、無力感に歪んでいる。
仲間たちの言葉から、記憶を失う前の自分が真に心から紅渡を信用していたのは理解している。
だがそれはあくまで、この殺し合いに来る前の彼ではないのか。

こんな極限状態にあれば、人が心根から変わってしまってもおかしくはないはずだ。
それこそ総司が全てを恨む純粋な悪から正義を志し仮面ライダーへ変わってくれたのと、ちょうど真逆を描くように。
詭弁に過ぎない身勝手な正義を宣い他者を踏みにじる許されざる邪悪へ、かつての弟子が変貌しているのではないか。

そんな思いが、彼の善性を信じようとする名護の心に住み着いて仕方ないのだ。
胸の中に潜む弱い自分、否定したい自分を吐き終えた名護に対し、士は相も変わらずふっと笑った。
まるでそんな疑問を、どう思うこともないように。

「……それでもお前は、紅渡を信じ、救いたいと感じているんだろ?なら、何度でも繰り返すしかない。その手があいつに届くまで、諦めずに」

「フッ、簡単に言ってくれるな……」

士から得られた返答は、どこまでも理想主義的なもの。
平素の名護であればそんな甘さを肯定し同意したのかもしれないが、しかし今の彼の声音には、確かに話をはぐらかされた事に起因する怒りが滲んでいた。

「確かに俺は紅渡君を救いたい。だがもう俺には彼の記憶は微塵も残されていない。彼にどう手を差し伸べればいいか、どう話しかけていいのか、それすら何一つ分からないんだ……」

言って己の手を見やった名護は、自嘲するように鼻で笑った。
最高の弟子と師匠。自分が発したのだろうそんな言葉すら、どこまでも薄っぺらく感じられてしまう。
かつて自身が彼の師匠だったという他者の言葉だけを頼りに説得をするには、あまりに自分は無力だった。

だがそうして絶望に暮れる名護の苦悩に対し、士はあくまでさも当然の事のように軽い調子で答えて見せた。

「一人じゃ駄目だって言うなら、次は誰かと一緒にやればいいだろ。一人じゃ出来ないことを助け合う為に、俺達は仲間って奴を作るんじゃないのか」

士が何気なく放った言葉に、名護はハッとしたように目を見開いた。
そうだ、仮に前の自分が為す術もなく説得に失敗したのだとしても、それは自分一人で渡と向き合おうとしたからだ。
きっと、一人で向かった時の自分の中には、驕りにも近い自信があったに違いない。

この名護啓介の手に掛かれば、一人でも渡を説得できると。
自分の言葉であれば、きっと渡の凶行を止められるに違いないと。
もしかすれば、そんな見通しの甘さを、渡は気付いていたのかも知れなかった。

72Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:02:19 ID:gXcg.M4c0

もしそれが違うのだとしても、自分は彼と同じように間違いを犯し、しかしやり直すことが出来た総司と彼を語らせるべきだったのは間違いない。
恐らく記憶が消える前の自分は、渡に総司本人を会わせることもせずに言ったのだろう、罪を償い正義の仮面ライダーとして戦っている青年がいると。
迷い悩んでいる状態でそんな話を聞けば、渡本人に関する記憶が消えても自分は幸せにやれるはずだと判断されても可笑しくない。

事実、総司を救い他ならぬその渡本人を打ち抜いた自分は、罪悪感を覚えることもせずただ弟子を救えた達成感に打ち震えていたのだから。
結局のところ自分もまだ甘いな、と名護は嘆息する。
完璧だとか最高だとか周りが自分を評価してくれる声に、いつの間にかまた天狗になっていたのかもしれない。

かつて音也と出会い、遊び心と共に自分の足るを知ったはずなのに、こんな調子では彼にまた笑われてしまうと、名護は気を引き締めた。

「……そうだな士くん、君の言うとおりだ。今の俺では力不足だとしても、今は君もいる。彼を救うことを諦めない限り、きっと可能性は0じゃないはずだ」

迷いを振り切った名護に対し、士も一つ頷きを返す。
音也はもう死んでしまったが、渡の善性を信じ仮面ライダーとして共に戦えるはずだと説得を試みる存在が居る以上、諦めるのはまだ早い。
もしディケイドの破壊を彼が目指しているのだとしても、言葉ではなく拳でしか語り合えないなど悲しすぎる。

音也の思いも抱いた自分には、きっとこれまでの彼の戦いの意味もしっかり理解した上で結論を出す義務があるはずだった。

「はろろ〜ん、二人とも深刻なお話してるとこ悪いんだけど、大事なお知らせよん」

「君は……?」

士と名護が互いへの信頼を深めたその瞬間、女性の声を響かせて窓際から小さな白い蝙蝠が飛来する。
見た目からすればそれは名護もよく知るキバット族によく似ていたが、しかし彼らより一回り以上小さい。
突如現れた新顔に困惑を示す名護に、蝙蝠はあら、と向き直る。

「そう言えば貴方にはまだ自己紹介してなかったわね、啓介。私はキバーラ、高貴なるキバット族の血を引く者にして、偉大なるキバットバットⅡ世の実の娘よ」

「キバット君の……?」

胸を張って自己紹介したキバーラと名乗る蝙蝠に、名護はしかし抱いた困惑がより深まる心地だった。
キバットバットⅡ世にもう一人子供がいたなど、聞いたこともない。
太牙に仕えているⅡ世とは交友がまだ浅いからともかくとして、息子であるⅢ世があの性格で妹の存在をひた隠しにするものだろうか。

それとも或いは、Ⅲ世すらその存在を元から知らされていないのか……?

「あら啓介、そんな怖い顔しちゃって。レディに秘密は付きものよん?」

だから詮索しないでね♡と締めくくったキバーラの声は、茶化すような口調の一方で確かな牽制が含まれている。
少なくともこれ以上複雑な彼女の家庭事情について考えるのは誰も得しないかと、名護はそこで思考を切り上げた。

「……それで、大事な知らせってのは何だ」

「あ、そうだった忘れるとこだったわ。参加者が一人、病院に向かってきてるわよ。……それも、恐らく二人にとっては最悪の、ね」

「最悪の……?キングか?」

「フフ、そうね、それも半分正解ってとこかしら」

思わず忌むべき宿敵の名を吐いた士に、キバーラはクスリと笑いつつ身体を揺すって否定する。
困惑の色を示した士に対して、彼女はそのまま声のトーンを先ほどより低くして続けた。

「……紅渡よ」

その名を聞いて、名護と士は目を見合わせる。
実際に会ったときどう対処すべきかを今の今まで話し合っていた男が、ここに辿り着こうとしている。
一気に二人の間に走る緊張感が高まるのを感じて、彼らはそれまでとは一転してキバーラを真剣な瞳で見上げた。

73Chain of Destiny♮彷徨える心 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:02:45 ID:gXcg.M4c0

「渡は一人か?」

「えぇ、それに今度は生身で歩いてくるわ。以前のようにいきなり病院を蜂の巣にされることはないんじゃないかしら」

「蜂の巣……」

キバーラから放たれた恨み節を、名護はもう一度復唱する。
以前E-4エリアの病院を襲った際、渡はゾルダという仮面ライダーに変身して遠距離から病院に大砲やレーザーを打ち込んだらしい。
幸いそれによる直接的な死者は出なかったものの、そうなるように手加減をしたわけではあるまい。

下手をすれば病院全体が崩壊して彼らが皆生き埋めになる、という可能性があったことも考えると、決して死者の有無だけで判断して良い案件ではなかった。
再び渡の罪について思考を巡らせて難しい顔を浮かべた名護に対し、キバーラは彼に聞こえないよう、士にだけ小さく耳打ちする。

「あと、これは一応良い知らせよ。士、アンタの予想通り、紅渡はゼロノスのベルトを持ってたわ」

「やっぱりか」

キバーラの言葉に、士は名護の記憶が消されたロジックを見抜く。
『電王の世界』に存在する仮面ライダー、ゼロノス。
記憶を消費し戦うというその性質によって、渡は名護から自分に関する記憶を消したに違いない。

それが故意か偶然かはともかく、少なくとも自分の知る“紅渡”のような超常の力を今病院に向かっている彼が持っていないのは確からしい。
最も名護本人にそれを説明しても一から話すべき内容が多すぎる上、無駄に混乱させるだけだろう。
その考えはキバーラも同じ故にこうして耳打ちで済ませたのだろうが、士からすればこの情報は彼が自分の知る“紅渡”と明確に異なる存在だと断ずるのに重要な情報だった。

なればあの渡に対して、自身の知る彼と重ねて無駄な感慨を抱く必要もない。
気持ちを切り替えた士は、もう一刻の猶予もないとそのまま立ち上がり正面玄関の方へ足を向けた。

「啓介、まずは俺が対処する。その上でまだ対話が可能そうだったら出てきてくれ」

「待ちなさい士君」

だが、ディケイドライバーを携えて歩き出そうとした彼の肩を、名護が引き留める。
その腕の力はあまりにも強く、士でさえ容易には振り払えないほどだった。
思わず振り返れば、先ほどまで苦悩していた表情はどこへやら、そこにあったのはいつもと同じ強い意志を抱いた名護の瞳だった。

「もし彼がまだディケイドを目の敵にしている場合、君が安易に出て行くのは彼を刺激するだけだろう。まずは俺が彼と話す」

「いいのか?今の自分には渡にどう話しかけていいかも分からない。そう言ったのはお前だぞ?」

士の問いに、名護は僅かに俯く。
きっと、まだ彼の中にも確かな渡との会話の筋道は出来ていないのだろう。
どうすれば改心してもらえるかは勿論、どう話しかければ心を開いてくれるのか、それすらもまだ手探りなはずだ。

だがそんな先行き不透明な状態であっても、なお名護は渡と言葉を交したいという思いだけは萎えることを知らぬようだった。
少しばかり沈黙して、再び彼はその口を開く。

「今の俺では力不足なのは分かっている。だが聞いてみたいんだ、彼に。彼がどういう青年なのか、まだ殺し合いに乗っているのか、そして……何故俺の記憶を消したのか」

一つ一つ確かめるように呟く名護の瞳には、絶対に譲れないという強い意志が見て取れる。
恐らくここで自分が張り合ったとしても、彼は渡を諦めようとはしないだろう。
なるほどこれは総司も良い師匠を持ったものだと一つ溜息をついて、士は道を譲るようにして一歩退いた。

「分かった、なら最初はお前に任せる。だがもしお前だけじゃどうしようもないと判断したら――」

「――分かっている」

名護の頷きには、やはり迷いは見られない。
最初から彼と敵対する可能性は百も承知で、しかしそれでも自分の納得の為に赴くのだとそう割り切っているのだろう。
いや、実際にそうなったとして、名護がすんなりと退くかはまた別の話かも知れないが。

ともかく、催促するキバーラの声に伴って病院一階のエントランスへと降りた名護は、その中心地で真っ直ぐに立ち尽くす。
まるで隠れる気が微塵もないそれは、まさしく今の名護からの渡への気持ちの表れだ。
何も後ろめたいことはないのだから、君も正面から自分に向かってこい。

そんな暑苦しいメッセージを込めたその仁王立ちは、果たして今の渡に響くのか。
少し離れた場所から彼を見守る士が漏らした呆れを含んだ溜息は、しかしすぐに沈黙に溶けていった。

74Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:03:47 ID:gXcg.M4c0







重苦しい無言の中、立ち尽くす名護の元へ待ち人が現れたのは、それから間もなくのことだった。

正面入り口の自動ドアが開き、来訪者の存在を知らせる。
気の利いた電子音が鳴り響くようなことはなかったが、それでも名護には今来たのが誰なのか既に分かっていた。
周囲を警戒しながら病院へ足を踏み入れた青年に、名護は見覚えがない。

だが、いやだからこそきっと彼こそが“そう”なのだと名護は確信して、立ち止まった青年に向け一つ声をかけた。

「渡君」

発せられた声は、努めて平静を装ったもの。
総司を呼ぶときと同じような声音を心がけたつもりのそれに、しかし青年――渡は眉を顰める。
自分が記憶を取り戻したように思えて驚愕しているのだろうか。

いや違うと、名護には既に分かっていた。

「やめて下さい名護さん、今の貴方に僕の記憶はないはずです」

「……見透かされていたか」

苦笑と共に俯いた名護の瞳には、しかしどこか喜色も浮かんでいる。
きっと、渡は今の自分の一声だけで、目の前の“名護啓介”が以前までのそれと何かが根本的に違うと気付いたのだろう。
声音なのか、呼び方なのか、或いはそこに込める思いなのか。

きっと、所詮は演技に過ぎない今の自分と本心から彼を弟子と思っていた名護啓介の差は、彼からすれば一目瞭然だったに違いない。
だがそれでも、裏を返せばそんな注視しなければ気付けないような些細な差を一瞬で気付ける程度には、彼もまた自分を好ましく思っていてくれたということなのだろう。
それが、彼を最高の弟子と紹介していた自分の言葉は決して独りよがりではなかったのだと思えてどことなくくすぐったく思えた。

だがそんな感慨に耽って、沈黙に暮れている時間は無い。
一つ息を吸い込んで、名護は渡へと向き直った。

「君の言う通りだ。仲間から君の話を聞き、自分の記憶がなくなっていると知りはしたが……情けない話だ。君とこうして相見えてもなお、今の俺には君のことを何一つ思い出すことが出来ない」

「当然でしょう。他でもないこの僕が、貴方の記憶を消したんですから」

渡の言葉に、名護は珍しく打つ手なしという具合で自信なさげに俯いた。
一方で、こんな正直に弱い感情を吐露する名護はこの1年間の交流の中で初めて見た、と渡は目を丸くする。
きっとそれは、この1年で彼が大きく成長したお陰で、こうも気楽に弱音を吐けるほど強く余裕を持てるようになった為なのだろう。

出会う時期が違えば、こんな彼を見ることもあったのだろうか。
そんな抱くべきでなかった思考が浮かぶ渡の一方で、当の名護は渡の視線を気にする様子もなく続けた。

「だがそれでもやはり……俺には君を、単なる敵と見ることは出来ないらしい」

顔を上げた名護の瞳には、しかし先ほどまでの不安はない。
それはまさしく、平素と同じ揺るぎない正義と覇気を取り戻し、確信に満ちた彼の顔であった。

75Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:04:15 ID:gXcg.M4c0

「これが記憶を失う前の俺が抱いていた思いの残滓なのか、それとも今の俺の自己満足なのか、それは分からないが……どちらにしても俺は、君と拳ではなく言葉を交したいと思っている」

自分の拳で自分の掌を叩くジェスチャーを交えながら、名護は渡を見つめる。
全てを知る渡からすれば、それは最終的に拳で語り合うことになってしまった以前の自分を恥じているようにも思えたが、当然ながらこの名護がそれを知るよしもない。
両者の中に存在する微妙な記憶の差異によって生まれた渡の僅かな隙に、名護はすかさず言葉を続ける。

「だから聞かせてくれないか、渡くん。君がこれまで何をしてきたのか、何故俺の記憶を消さなければならなかったのか、そして……これから君は、どうするつもりなのか」

真っ直ぐに自身の瞳を見つめて問うた名護に対して、渡は暫し沈黙する。
自分の懸念通り病院に名護がいたのはともかくとして、彼はまた自分を説得するつもりらしい。
自分のような重荷に囚われなくて済むように記憶を消したはずなのに、これではまた以前の焼き直しになるだけだ。

だが、だからといってここで名護の言葉に一切揺り動かされず彼と戦う道を選べるかと問われれば、それもまた難しい問いである。
自分に関する記憶をなくしたからといって、名護が自分の守りたい存在の一人であることに変わりはない。
ここで使命の邪魔だからと彼を殺し、元の世界で待つ恵に辛い思いをさせるのは、自身の願いを自分で否定することに他ならなかった。

なればやはり、今度こそ名護自身の意思で自分を救うことを諦めさせる他ない、と渡は結論づける。
名護が記憶を失って尚まだ自分を救い上げようと言うなら、渡も今度こそ彼に自分を諦めさせるしかない。
少なくとも以前の記憶がある自分と、“紅渡”に関する記憶全てを失っている今の名護であれば、敗北を認めた前回と異なる結果になる可能性も有り得る。

暫しの逡巡の後、十分に勝算を認めた渡は、今度は自分から真っ直ぐに名護を見据えた。

「……いいでしょう。貴方にはやはり、話しておく必要がある。僕の罪と、そして何故僕が貴方の記憶を消したのか、その理由を」

それから渡は、少しずつ語り出した。
以前名護に話したのと同じく、加賀美という男を誤って殺してしまったことや、ファンガイアのキングを倒しその称号を継いだこと。
そしてキバットと離別したことや、ディケイドを倒す為に協力関係を結んで病院を襲ったこと、それによって多くの仮面ライダーが犠牲になっただろうこと。

全てが全て以前と同じ語り口ではなかったが、しかしそれを聞く名護の表情は以前と同じ真面目なものだった。
例え相手の記憶が一切なかったとしても、救いたいと思った相手の言葉には真摯に耳を傾けるのが、名護という男なのである。
少なくとも、それだけ真面目に聞いてくれる相手を前にして、渡が中途半端に話すことは許されなかった。

「それから僕は、この場で初めて貴方と出会い……そして、貴方の記憶を消しました」

「それは……俺が君に頼んだのか?」

さらりと流された二人にとって最も大きいはずの事象に、名護が問いを投げる。
或いはと考えたそれにしかし、渡はすぐさま首を横に振った。

「いいえ、貴方の僕に関する記憶は、僕が自分の意思で消しました。貴方が僕の罪を、背負わなくて済むように」

「……正直だな、君は」

苦笑した名護の瞳には、しかし当然だとでも言うような確信が宿っていた。
幾ら渡が罪を重ねたとして、自分がそんな弟子を見捨てて記憶を消せと懇願するはずがない。
もしそんな見苦しい真似を頼むくらいなら、きっと自分は弟子に腹を刺されるまで説得を続ける道を選ぶはずだろうから。

半ば有り得ないと考えていた可能性ではあったが、しかし悩むことなくそれを肯定する渡の姿は、やはりどこか憎めないものであった。
本来であれば心優しい最高の弟子であったのだろうと何度目とも知れぬ感慨を抱きながら、しかし名護はその瞳を鋭く光らせて渡を見やる。

76Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:04:33 ID:gXcg.M4c0

「渡君、俺は例えどんな罪を犯したとしても、その生涯をかけて償う覚悟があれば許されるべきだと思っている。だが君がそれを拒み俺の記憶を消したと言うことは――」

「――えぇ、その通りです名護さん。僕の罪はこれまでだけじゃない、これからもずっと重なっていくものだから……貴方に、それを背負わせることは出来ませんでした」

確認のように告げた名護の言葉に、渡は再び即座に肯定を返す。
嘘偽りのないその返答を見て、しかし名護はやはりかと心中で呟いた。
予想していた通り、今も彼はまだ殺し合いに乗っているらしい。

殺し合いにより得られる世界の安寧など大ショッカーの出任せかも知れないのに、今の彼はそれにすら縋らずにはいられないのだ。
きっと、以前の自分も同じように彼にそれは間違っていると熱弁し、仲間になれと呼びかけたに違いない。
だがその言葉に対し、彼は世界が滅びる可能性をしかし捨てきれなかったのだろう。

一方で自分を殺す訳にもいかず、その折衷案として苦肉の策で彼は自分から記憶を消したのだ。
例え自分がどれだけの罪を被ろうと、紅渡についての記憶がそもそも無ければその境遇に悲しむことも出来なくなるだろうと考えたのかも知れない。
或いは、そうすればきっと自分はもう彼の罪を背負うなどと言わなくなるに違いないと、そう考えたのかも知れなかった。

(紅渡くん、君は何と悲しくなるほどに優しい青年なんだ……)

そんな渡のどこまでも辛い決断を案じて、名護の胸は強く締め付けられるように痛んだ。
世界を守る為にと自分を強く奮い立たせなければならなかった青年、紅渡。
差し伸べられた手を無慈悲に切り落とすことも出来ず、愛する全てを救おうとした結果自分が一番辛くなる選択肢を選ばなければならなかったのだろう。

そんな切なすぎる優しさに胸を打たれながら、名護はやはり自分は間違っていなかったのだと深く理解した。
これほど思いやりに満ちた素晴らしい青年を、記憶が消えた程度で誰が見捨てられようか。
そんな残酷なことなど、許されていいはずがない。

例え何度記憶を消されようと、燃え続けるこの胸の正義がある限り自分は紅渡を諦めることはないだろう。
それが、この会話の果てで名護が導き出した自分なりの答えだった。
一方で話すべき内容は終えたとばかりに一息をついた渡は、自分の答えを告げる為に再び口を開く。

「……分かったでしょう名護さん。僕はあまりにも多くの罪を重ねました。数多の仮面ライダーを犠牲にし、貴方の記憶だって消した。そんな僕に今更戻る道なんて――」

「――何を言い出すのかと思えば、そんなことか」

だが、これまでの罪を踏まえ、仮面ライダーらとの隔絶を強く意識して言葉を放った渡に返ってきたのは、しかし笑みすら携えた名護のあっさりとした返答だった。
記憶がない今度こそ名護は自分を諦めるだろうと考えていた渡にとって、その迷いのなさは余りにも意外なもので、彼は思わず言葉を失ってしまう。

「確かに君が犠牲にしてしまった人々への償いは続けなければならないだろう。だが、少なくとも俺の記憶に関してはそう思い詰める事でもない。俺はまだ、こうして生きているのだから」

「生きて……?」

なまじ渡との記憶が失われているからか、自分の想定する返しと全く違う返答を続ける名護に、彼は困惑を隠し切れない。
だがそれを優しい頷きで肯定して、名護は続ける。

「そうだ、例え記憶が消されたとしても、罪を重ねたとしても、君も俺もこうして生きている。なら、また一から作っていけば良い。以前と同じ……いや以前よりもずっと素晴らしい俺達の思い出を」

それはあまりにも名護らしい言葉だった。
理想論染みているようであり、しかし同時にそれが可能なのではないかと思わせる説得力も、言葉に滲み出ている。
だが、そんな素晴らしい師の言葉であったとしても……いやだからこそ。

今の渡にとってそれは、決して受け取れるはずがないあまりにも眩しい誘いだった。

「そんなこと、出来るわけ……」

「出来るさ。俺が名護啓介で、君が紅渡であるという、その事実がある限り」

咄嗟に出た自身の拒絶に対する名護の曲がらぬ意思の表明を受けて、変わらないなと渡は苦笑する。
もう自分に囚われなくていいように記憶を消したのに、名護は今なお自分の為に尽くそうとしている。
自分の罪なんて背負わず仮面ライダーとしてだけ戦ってほしかったのに、また必要のない厄介ごとを抱え込もうとしている。

77Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:05:02 ID:gXcg.M4c0

そして同時に、キングであるという自負、責任があったあの時と違い、従者から直接それを否定された今となっては、名護の手を取り紅渡に戻るというのは、限りなく魅力的な提案ですらあった。
自分の罪を名護と共に償い、大ショッカーや世界の崩壊など、全ての責任は他の誰かに任せてしまう。
そんな風に生きられたらどれだけいいだろうと夢想して……しかしそれでは駄目だと渡は首を振った。

自分のような裏切り者が、彼らの中にいていいはずがない。
もし世界崩壊が本当だった時、背後から名護のかけがえない仲間を刺しかねない自分が、許されていいはずがないのだ。
そしてそんな悲しみを、名護が背負う必要もない。

なれば自分に残されたのは、やはり紅渡でもキングでもなくなった孤独な愚者として、一人罪を重ね続ける道でしかなかった。
故にこそ、名護をまた自分は拒まなければならない。
そうだ、“彼”の名を出そう。きっと今の名護にとっては、“彼”の存在はかつての紅渡と同じほどに大きいものになっているはずだから。

自分の発しようとしている言葉と、それが意味する師への二度目の裏切りに、僅かばかり唇が震える。
だがそれでもこれが自分の進むべき道なのだと、渡は必死にその戸惑いを自分の中に押し込んだ。

「いいえ名護さん、ならやはり僕は貴方とは歩めません。僕はもう紅渡じゃないし……それに、僕は貴方の最も大事な人の事も、既に殺している」

「なに……?」

名護の顔が、嫌な予感に染まっていく。
これを口にすれば、もう彼も手を差し伸べようとはしないだろう。
だが、それでいい。薄汚い嘘つきとして生きていく覚悟は、既に出来ているのだから。

「えぇ、そのまさかです。僕は天道総司を名乗るあの青年と出会い……そして殺しました」

冷たく告げた渡の声が、その場を沈黙へと包み込んでいく。
それまで熱心に言葉を紡いでいた名護の顔から、それを境にするように血の気が一気に引いていくのが、遠目でもはっきりと視認できた。
どうやらやはり、あの青年の存在は彼にとってかなりの支えになっていたらしい。

それこそ丁度、以前の“紅渡”と同じ、最高の弟子だったのだろう。
そんな存在の名をただ自分の為に使うことにどこか胸が締め付けられる苦しさを覚えるが、しかしそんな甘さに囚われている暇はない。
例えこれから先どんな仕打ちを受けようとも、自分は言わなければならないのだ。

世界を守る為、そして名護に不必要な罪を背負わせない為に。

「念のために言っておきますが、勿論“本人”の方ではなく、もう一人の方です。彼は言っていました、貴方の分まで自分が僕を“紅渡”に戻すのだと。しかし、貴方と違って彼には僕が見逃す理由もない。だから――」

「――そこまでだ、紅渡」

渡の言葉を中断させたのは、しかし名護の声ではなかった。
聞き覚えのある、しかし聞きたくはなかったその声の主を、渡は知っている。
刹那、ほぼ反射的に振り返った渡の目が映したのは、以前病院で取り逃がした世界の破壊者とも悪魔とも呼ばれるディケイド、門矢士その人であった。

「ディケイド……」

その姿を捉えた瞬間に、渡は胸中から湧き出る複雑な感情を自覚する。
今までの話を盗み聞きしていた、という行為自体に苛立ちを覚えるのは確かだが、それ以上に彼の存在をどうするべきか、渡の中でもまだしっかりと定まっては居なかったからだ。
キングとして彼を打ち倒すのか、紅渡として彼の善性を信じるのか。

――『もし、本当に士が破壊者だったなら、その時は俺があいつを破壊する』

かつて地の石の支配を抜け出したクウガが、自分を真っ直ぐに見据えて言った言葉を思い出す。
ディケイドと共に旅を続けてきた仲間であるはずなのに、彼は自分の為に悪魔を破壊する役割を請け負って見せると言い切った。
もし本当に懸念の通りにディケイドが諸悪の根源であるなら、それを倒す義務は自分に在るのだから、渡は彼の善性を信じていいのだと。

78Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:05:25 ID:gXcg.M4c0

信じたいと思った自分の心そのままに生きてみればいいのだと、彼は笑って見せた。
その優しさを不意に思い出してしまって、渡は不意に言葉を失ってしまう。
一刻も早くディケイドを破壊しなければ全ての世界が滅びる。

他ならぬ自分が広めてきたその言葉の真偽が定まらないことに、何より苦悩を抱きながら。

「待ってくれ士君、俺と渡君の話はまだ……!」

「いや啓介、後は俺に任せてくれ。俺も、こいつと少し話がしてみたい」

そして渡以上に士の登場に動揺していたのは、名護だった。
総司を殺していたという言葉には確かに驚いたが、しかしまだ彼を倒すべきと判断を下すのは早急ではないのか。
そう訴えかけようとする彼に対して、士はただ小さく手でその勢いを制した。

“話”。
文字通りの意味のようでもあり、彼がこのタイミングで言うと隠語のようでもある。
どちらにせよ渡が目の敵にしているはずの士がここで現れるのは、些か不安が残る展開だった。

「渡、少し場所を移すぞ。ここじゃお互いやりづらいだろ」

そして士はそのまま、渡に病院内からの移動を提案する。
言外に、名護は抜きで、という意味が感じられるそれを受けて、名護は事態の結末を案じ僅かばかりその眉を顰めた。
だが、逆に言ってしまえばそれだけで、士を必死に止めることはしない。

この数時間の交流で、名護の中にもディケイドの話の真偽がどうであれ士を信じたいという思いが芽生えていたのである。
きっと、彼ならば任せても悪いようにはならない。
そんな確信めいた直感が、名護にそれ以上の口出しを妨げさせていた。

「……えぇ、分かりました」

暫しの思考の末、渡は士の提案に従うことにした。
彼が本当に対話を望んでいるのか戦いを望んでいるのかは分からないが、しかしどちらにせよ自分の答えを導くのにも或いは役立つかも知れない。
そんな僅かな希望を抱いて、渡も彼の後に続いてエントランスを去って行くのだった。







――彼らは、知らなかった。
こうして長々と話をしている間に、北方向から病院へ向け、凄まじい勢いで突き進む一つの影があったことを。
キバーラも、サガークも今まで索敵していたはずの存在が全て彼らのデイパックへと収まり、そして話し合いだけであるのに緊迫した空間を生み出していた為。

故にこそ、それは訪れる。
士と渡が不在となり、一人彼らの帰りを待っていた名護だけが残る、その最悪の瞬間に。
迷える青年の運命を決める試練は今、すぐそこにまで迫っていた。






「……ここらへんでいいだろ」

D-1エリアの市街地の一角で、士はふと足を止める。
追随して彼の後を歩いていた渡も同様に歩みを止めれば、士は緩く振り返った。
見渡せば周囲は開けた地形となっており、戦いに支障は及ばないようになっている。

人に話が聞かれないだけの距離にしては遠すぎる移動距離に、渡は先ほどの言葉が名護に対する方便に過ぎなかったのだと理解する。
分かっては居たはずなのに淡い期待を抱いていた自分を自覚しながら、渡はデイパックからゼロノスのベルトを取り出す。
だが、そんな彼に待ったを掛けるのは、他ならぬ士だった。

「待て、始める前に聞いておきたい。お前、本当に総司を殺したのか?」

79Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:05:45 ID:gXcg.M4c0

「え……?」

虚を突くような質問に、渡は思わず言葉を詰まらせる。
まさか、嘘だと見抜かれたというのか。
そんなはずはないと自分に言い聞かせながら、渡は何とか言葉を吐き出した。

「……勿論です、さっきも言いましたが、僕に彼を見逃す理由はありませんから」

「それで啓介が悲しむとしてもか?」

続けざま投げられた問いは、渡の胸に突き刺さる。
だが、元々彼を突き放す為についた嘘なのだ。
ここで折れる訳には、いかなかった。

「えぇ、世界を守るにはそうするしか方法がない。その為に名護さんが苦しむとしても……それは仕方の無いことです」

「……成る程な」

渡の絞り出すような言葉を受けて、士は思案するように僅かに俯く。
その瞳に映る渡の姿は、敵としてなのか或いは違う形なのか。
僅かに続いた沈黙の後、士は考えても埒が明かないとばかりに懐からディケイドライバーを取り出した。

どうやらやはり、自分と戦う気らしい。
もう話し合いは終わりだということか。
それも当然だろうと思う一方で、渡はどこか心の芯が冷たく凍えていくのを感じていた。

「どうした、俺を破壊したいんじゃなかったのか?」

「……そうですね、僕にそれ以外の道は残されていません」

士の挑発を受けて、渡は甘い自分を振り切るようにゼロノスのベルトを腰に巻き付ける。
そのまま渡は緑のカードを、士はディケイドのカードを構え、いよいよ因縁の第二幕が幕を開けようという、しかしその瞬間。






――病院の方向から、突如として爆発音が響いた。

「な……ッ!?」

二人は同時に、その爆音の方へと向き直る。
見れば、病院の一階部分から爆発により生じた黒煙が止めどなく空へと吐き出されている。
最もあくまでダメージを負ったのが一階部分だけである点から見るに以前の渡がしたような大規模な奇襲ではないようだが、それでも何かがそこで暴れたというのは一目瞭然だった。

そして同時、渡の胸に最悪の可能性が過ぎる。
何かが暴れたというのなら、その相手は十中八九間違いなく、彼ではないかと。

「名護さん……!」

一人だけそこに残された師の名前を呼び、士の事さえ捨て置いて渡は駆け出す。
何が起きているのかは分からないが、それでも彼の安否だけが今の渡にとっては最も重要なことだった。
そして渡から遅れること数秒、士もまた病院へと駆け出す。

戦いの中で渡の真意を見定めようと思っていたのだが、しかしそれは叶わないらしい。
だがもし本当に名護が信じたように彼の中にまだ正義が眠っているというのなら。
向かった先にある混沌が彼の迷いを断ち切ってくれるのかも知れないと、士は思った。

80Chain of Destiny♮師弟対決再び ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:06:08 ID:gXcg.M4c0





ライジングイクサの身体が、切りつけられ火花を散らす。
呻きながらも反撃を試みるが、しかしイクサカリバーは敵の身体に傷を付けることすら叶わない。
すぐさま得物を切り落とされ、無手になったイクサの身体を敵が持つ巨大な大剣が一合二合と連続して切り刻む。

苦悶と共に数歩退いて、なればと新たに手に取ったイクサライザーを乱射するが、しかしそれも敵の生じさせたエネルギーの障壁に阻まれ届くことはない。
見覚えのあるその盾にイクサは目を見開くが、しかしそこから先それによって更なる反撃の糸口を手繰り寄せることは出来なかった。
雄叫びと共に突貫してきた敵の強力な体当たりが、イクサを大きく吹き飛ばしその変身を解除させたのだから。

「名護さん!」

受けたダメージ故、地に這いつくばり敵を睨むことしか出来ない名護の元へ、駆け寄る声が一つ。
どうやら渡たちが騒ぎを聞きつけて戻ってきてくれたらしいと、名護は安堵する。
そのまま抱き起こすようにして名護を起き上がらせた渡は、それから彼をこうまで追い詰めた敵を見やり、そして同時に驚愕した。

目の前にいるその怪人が持つ剣と盾、そしてその身体に刻まれた幾つかの意匠に、彼は見覚えがあったのだから。

「キング……!?」

それは、かつて自身の相棒を屠った憎むべき宿敵の剣と盾、そして金色の甲殻だ。
だがキングとは似て非なる今のその姿に困惑を抱いた渡の元へ、遅れて駆けつける足音が一つ。
そうして現れたマゼンタカラーのインナーにジャケットを羽織った男の登場にいち早く反応したのは、意外にも怪人だった。

「お兄ちゃん」

「……ネオ生命体か」

異形の存在に兄と呼ばれたことを一切気にする様子もなく、士はその存在の正体を見破る。
ネオ生命体、かつてスーパーショッカーが蘇らせた最強最悪の怪人。
9つの世界の仮面ライダーやダブルと協力して打ち倒したはずだが、やはり彼も蘇らせられたらしい。

面倒なことをしてくれると舌打ちを吐いて、士はそれから今の彼が持つ得物の存在に気付いた。

「その剣と盾……成る程な、大体わかった。今度はドーパントじゃなくキングを吸収したって訳だ」

「うん、そうだよ。この身体凄いんだ、前のと比べものにならないくらい頑丈で強いんだよ。今ならきっと、お兄ちゃんだって簡単に殺せる」

「そうか、それなら……試してみろ」

その低い声音に似合わぬ可愛らしい口調で話すネオ生命体、否アルティメットUDを前に、士はディケイドライバーを腰に当て付ける。
それによってドライバーからベルトが排出され彼の腰に巻き付くと同時、彼はライドブッカーからカードを抜き出して目前へと掲げ、誇示するようにそれを勢いよく翻した。

81Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:06:47 ID:gXcg.M4c0

「変身!」

――KAMEN RIDE……DECADE!

彼がカードをドライバーへ叩き込めば、流れる電子音がその名を叫ぶ。
幾つかの虚像がオーバーラップして士の身体に重なると同時、ドライバーから吐き出されたカードが顔面へと突き刺さる。
それによって身体全体が色を取り戻せば、それによって彼の仮面ライダーディケイドへの変身は完了していた。

「はあああぁぁぁ!」

ライドブッカーをソードモードへと変形させ、ディケイドはアルティメットUDへと向けて駆け出す。
その勢いのまま掛け声を上げて彼は剣を振るうが、しかし敵の持つ破壊剣に拒まれ届かない。
どころか返す刀が彼の身から火花を散らし、競り合おうとしたディケイドを容易く引き剥がす。

吹き飛ばされ地を転がったディケイドは、しかしすぐさま立ち上がり対策を講じつつ敵の実力を見極めた。
成る程、ネオ生命体が自惚れるだけの事はある。
恐らく単純な力だけで言えば、今の彼はあの電撃を纏ったガドルをも凌いでいると言って過言ではない。

これまで戦ってきた中でも間違いなく最強の一角である敵を前に、だからといって諦めるわけにはいかないと、ディケイドはライドブッカーから新たなカードを抜き出していた。

――FORM RIDE……DEN-O AXE!

電子音を受けて、ディケイドの身体にオーラアーマーが装着される。
それによって換装された姿はまさしく『電王の世界』で時の運行を守る仮面ライダー、電王のもの。
ベルト以外は別物とすら言えるその変身を完了した彼は慣らすように肩を回して、そのままもう一枚カードをドライバーへ投げ込んだ。

――ATTACK RIDE……TSUPPARI!

迫り来るアルティメットUDへ向けて、ディケイド電王が目にも止まらぬ速さで掌底を放つ。
単純な力だけで言えば今の自身が持つカードの中で最強とも言えるアックスフォームの攻撃をこれだけ連打すれば、或いは。
そんな考えでの攻撃だったが、しかしそれらは全てアルティメットUDには届かない。

文字通り彼の目の前に生まれたソリッドシールドが、ディケイドの攻撃を全て阻んで通さないのだ。

「フンッ!」

つまらないとばかりに一閃されたオールオーバーが、ディケイド電王を薙ぎ払う。
火花を散らし悲鳴を上げて彼の巨体が吹き飛ばされるが、しかしそれでめげはしない。
彼の次なる攻撃の手は、もう切られていたのだから。

――KAMEN RIDE……KABUTO!

――ATTACK RIDE……CLOCK UP!

82Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:07:05 ID:gXcg.M4c0

先刻総司から受け継いだ、新たな力。
ディケイドカブトへと変身した彼は、クロックアップのカードを切って高速空間へと飛び込む。
力で敵わないなら、速さで勝負だ。

しかし目の前でかき消えたディケイドを追うようにして、アルティメットUDもまた凄まじい速度でその高速戦闘に応じる。
かつてディケイドやダブルと戦った時に見せたような、目にも止まらぬ連撃。
それがキングを吸収したことで以前より素早くなったというのなら、それはクロックアップの領域にも至ろうというもの。

信じがたいその光景に目を見開いたディケイドカブトに体当たりをかまして、アルティメットUDは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
だが勝利宣言にはまだ早いと、ディケイドは息つく間もなくカードをドライバーへ叩き込んだ。

――KAMEN RIDE……RYUKI!

三度変わったその身体が、赤い龍の力を纏う仮面ライダー、龍騎のものへと変身する。
そろそろ策も尽きてきたかと痺れを切らしたアルティメットUDが高速でディケイドへと迫る一方で、彼はもう既にカードの装填を完了していた。

――ATTACK RIDE……ADVENT!

召喚を意味する電子音声に乗せて、鏡の中から巨大な影が吐き出される。
ドラグレッダーと呼ばれるその召喚獣は、当然ながら龍騎の力を受け継いだディケイドにも使役が可能だ。
その巨体を前に思わず怯んだアルティメットUDに刃と化した尻尾をぶつければ、これには流石の彼もその俊足を止めて応じざるを得ないようだった。

――FINAL ATTACK RIDE……RYU・RYU・RYU・RYUKI!

次いでディケイドライバーが必殺の一撃を奏でれば、ドラグレッダーはアルティメットUDを弾き飛ばし主の元へ舞い戻る。
そのままディケイドの周りを数度旋回して、彼らは同時に宙へ向けて飛び上がった。

「ハアアアァァァ……!」

気合いを込め、ディケイド龍騎が空を舞う。
勢いをつけるためか数度空中で回転して、彼はその右足を真っ直ぐ敵へ向けて伸ばした。

「タアアアアァァァァァ!!!」

それを合図と受け取ったか、ドラグレッダーが龍騎へ向けて火炎弾を吐き出す。
単純な跳び蹴りだけではなくミラーモンスターの援護さえ受けたその炎を纏う必殺技の名は、ドラゴンライダーキック。
数多くあるライダーの必殺技の中でも有数の撃破率を誇る、凄まじい一撃だった。

刹那、ディケイドの右足とアルティメットUDの盾が、衝突する。
周囲へ凄まじいインパクトを伴ってぶつかった蹴りと盾は、しかし両者どちらとも譲らずに拮抗する。
無論傍から見れば、ただ受け止めただけのアルティメットUDに比べれば、勢いに勝るディケイド龍騎の方が勝りそうにも思える。

だが此度勝利を掴んだのは、その最強の盾だけでなくより強靱な肉体をも携えていたアルティメットUDの方だった。

「フン!」

「ぐあっ!」

気合いと共に、オールオーバーがディケイド龍騎の身体を切り上げる。
これまでと違い遂にダメージが限界を迎えたのか、その身体が通常のディケイドへ戻り地を滑る。
同時、今までと違い切り札たるファイナルアタックライドすら容易く防がれた今、彼に次の策は残されていなかった。

83Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:07:25 ID:gXcg.M4c0

そして地に片膝を突き肩で息をするディケイドを前にして、アルティメットUDは彼へ見切りを付ける。
恐らくディケイドは既に持ちうる有効な手札を全て切り終えてしまったのだろう。
なればもう彼に興味はない。

遊びの時間は終わりだと言うように、彼はその胸からアルティメットボムと呼ばれる最強の光弾を放った。

「ぐわああああぁぁぁぁ!!!」

爆炎が生じ、絶叫が響いてディケイドの変身が解除される。
もう片膝を突くことすら出来ず俯せに倒れ伏した士に対し、アルティメットUDはつまらなさそうに溜息を吐いた。

「もう終わり?なら――ここで死んじゃっていいよ、お兄ちゃん」

宿敵に完勝し、彼は士の生を終わらせるため再びその胸部にエネルギーを充填させる。
これまでのダメージに呻き、地に這いつくばる士には、もう為す術なくそれを甘受する道しか残されていない。
どうしようもない運命を前に誰もが諦めかけた、しかしその瞬間。

「――ハアアアァァァァァ!!!」

気高い咆哮を轟かせて、アルティメットUDに切りかかる緑の戦士がいた。
その手に握るゼロガッシャーを振るいアルティメットボムの発射を中断させた彼の正体は、しかし意外なものだった。

「渡!?」

呼んだ士の声に応えることなく渡は、いやゼロノスはアルティメットUDに怒涛の連撃を仕掛ける。
だがそれでも、究極の力を身に着けたネオ生命体には力及ばない。
金属音を響かせてゼロガッシャーが敵の盾に阻まれたかと思えば、振り下ろされたオールオーバーが彼の身体を蹂躙する。

悲鳴を上げ、得物をも取り落として後退ったゼロノスを、しかしアルティメットUDが見逃すはずもない。
その剣にエネルギーを乗せて振るい放たれた衝撃波の直撃を受けて、いとも容易くゼロノスの変身は解除され、渡は地へと倒れ伏した。

「渡君!」

名護が、脚を引きずりながら彼に駆け寄る。
戦う術が残されていなくても、彼の無事を確認したかったのだろう。
だがそんな感慨に、ネオ生命体の感情が揺り動かされるはずがなかった。

「つまんないの。まぁいいや、じゃあ皆纏めて……殺してあげるよ」

不気味な哄笑を上げて、アルティメットUDがその歩を進める。
アルティメットボムを放たないのは、一人一人嬲り殺しにするつもりなのだろう。
だがそんな彼の歪んだ自我を皮肉るだけの余裕は、もう士にも残されていなかった。

立ち上がることも出来ず悠然と迫りくる絶望を睨みつけていた彼らの元へ、しかし救世主が現れる。
突如空から戦場へ飛び込んだ一筋の赤い光が、アルティメットUDに突撃しその歩みを止めたのだ。
まさか、とこの場にいる誰もが驚愕する中、それは主の元へ颯爽と舞い戻り彼の手中へと収まった。

士が、名護が、目を見開く。
何故ならそこにいたのは、先刻渡が殺したと言ったはずの自分たちの仲間、総司その人であったのだから。
カブトゼクターを掴んだ総司が、倒れ伏す面々を一瞥する。

きっと旅に出ると言った直後にこうして戻ってくるのは、些か決意が必要だったことだろう。
だがそれでも、彼は迷わずにこの場に現れた。
渡との話を終わらせるため、そして何より……仮面ライダーとして、仲間の危機に駆け付けるために。

「変身!」

――HENSHIN

――HYPER CAST OFF

84Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:07:47 ID:gXcg.M4c0

カブトゼクターをベルトに叩き込んだ総司の身体が、一瞬でハイパーフォームへと変化する。
変身の完了と同時、彼は雄叫びを上げてアルティメットUDに掴みかかりそのまま駆け抜けていく。
敵を引き離し、傷ついた仲間の安全を確保する為だろう。

彼らが幾つかの民家の壁を突き破る度、喧騒が遠くへ離れていくのを受けて、士はようやく立ち上がり渡へと歩み寄っていた。

「大丈夫か?渡」

だが、未だ倒れ伏す渡へ向け差し伸べた士の手を、見向きもせず彼は振り払う。
思わず怪訝な表情を浮かべた士に対し、渡は一つ自暴自棄になったように乾いた笑いを吐いた。

「笑いたいなら笑えばいいでしょう、ディケイドがいる限り世界は滅びる……そう分かっているはずなのに、僕は他ならぬその悪魔を救ってしまったんですから」

言葉を紡ぐ渡の表情は、どこまでも苦悩に染まっていた。
きっと、自分自身何故アルティメットUDから士を庇ったのか分かっていないのだろう。
悲痛なその声音からは、何より自分自身に対する深い失望と不信感が見て取れて、士は思わず言葉を失ってしまう。

だが、そうして生まれた沈黙を打ち破ったのは、やはりと言うべきか名護だった。

「誰が君を笑うものか」

言って彼は渡と同じ視線になるためにしゃがみ、彼の肩を抱く。
真正面から渡の瞳を見つめる名護の表情には、一切の嘘や後ろめたさが感じられなかった。

「渡くん、君は今自分の身を挺して目の前の命を救ったんだ。それの何を恥じる必要がある、もっと胸を張りなさい」

「違います、そんなんじゃない!僕はただ、勝手に身体が動いただけで……!」

「なら尚更素晴らしい。理屈などじゃなく目の前の命を救いたい、それは俺たち仮面ライダーの正義と同じだからな」

「違う、違う、僕は仮面ライダーなんかじゃ……!」

駄々っ子のように首を振る渡の瞳には、いつの間にか涙が浮かんでいる。
何時だかも見た光景だと名護は一つ笑って、彼の身体を優しく揺すった。

「いいや渡くん、君は仮面ライダーだ。正義を信じ、誰が相手であろうと助けようと尽力するその優しさ……それらを持つ君が、そうでないはずがない」

「正義なんて、僕はそんなもの――」

「なら君は何故、総司君を殺したと嘘をついたんだ?」

「ッ!それは……」

名護の問いに、渡は言葉を詰まらせる。
あれはただ、名護に自分を敵と認めてもらうためについた咄嗟の嘘のはずだ。
そうでしかないと言い切ればいいはずなのに、渡はしかしそれを口にすることが出来なかった。

「君が嘘をついたのは、そう言えば俺達が君を裁いてくれると、そう思ったからじゃないのか?今までの行いに罪の意識があるから、それに対する罰を望んだ……違うか?」

名護の言葉に、渡は何を言い返すことも出来ず俯く。
何故あんな嘘をついたのか、そもそも何故自分は総司を殺すことが出来ず見逃してしまったのか。
その答えはもしかすれば名護の言うように、自分は内心では罪の意識に苛まされ仮面ライダーによる裁きを望んでいたからなのかも知れなかった。

紅渡の優しさを捨てキングの非情を取ったはずなのに、それすら完遂出来なかった中途半端な自分に生きている資格などないと、そう考えて。
もう世界を守るなどと考えるのも疲れ果てて、その決着を悪として討たれる形で遂げようとしていたのかも知れない。

85Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:08:08 ID:gXcg.M4c0
改めて考えてしまえば、しかしやはりそれは自分の罪に対する逃げでしかない。

結局、自分は最初からずっと、色んなものから逃げることしか考えていなかったのかもしれない。
そんな風にすら思えてきて、渡は自分自身に呆れたように小さく自嘲を漏らした。

「そうかもしれません。……けど、結局その罰は与えられなかった。僕が仮面ライダーにも、その敵にもなりきれなかったから……それをきっと、見透かされていたんですね」

「そうかもしれないな、君は単なる敵とは違った。……だがそれは決して、過ちや瑕疵なんかじゃない」

渡の言葉を肯定しつつ、しかし名護はやはり彼を見捨てようとはしない。
真っ直ぐに彼の瞳を見据えて、どこまでも根気強く続けた。

「君には真の邪悪と違い、死以外にその罪を償う方法が残されているはずだ、渡君。俺達と共に、仮面ライダーとして戦う道が」

それは、何時までも変わらない名護の思いだった。
記憶が消されようと、総司のように悩む一青年として目の前の渡を諦められない。
どこまでも真っ直ぐで、理想主義的な彼の正義。

しかしそれと同じ申し出を既に一度拒んでいる渡にとって、その手を今更掴み取るのはただ名護の甘さに付け込むようにしか感じられなくて。
名護の大切な記憶すら消したのにそんな都合の良いことは許されないと、渡は首を大きく横に振る。

「でも……僕がやり直せるはずありません。僕のせいで失われた命は、あまりにも……多い……!」

「そうだとしても、償い続けるしかないだろう。君の、一生をかけてでも」

「そんなの……出来るわけない!」

不意に見た渡の顔は、既に涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れている。
きっと、感情の整理も出来ていないのだろう。
ただその胸に抱いた激情を発露させて、渡は思い切り名護を突き飛ばし立ち上がった。

「加賀美さんに、キバットに……それに深央さんだって!僕のせいで死んだ、僕が殺したんだ!なのに……なのに僕が、そんな風に生きていて良いわけないじゃないか!」

「渡君……」

遂に心の内を打ち明けた渡に対し、名護はその感情の重さ故に思わず言葉を失ってしまう。
彼はきっともう、自分でも分かっているはずなのだ。
非情な王として、異なる世界の罪なき命を摘み取れるほど、自分は残酷にはなれないと。

しかし、それでも自分の罪の意識故にもう仮面ライダーに戻ることだけは出来ないと、そう自分に枷を架しているのだ。
戻れない理由も、きっと既に形骸化した使命感でしかないのだろう。
進むことも出来ず戻る選択肢も絶った今、彼にとって死は確かに一つの救いなのかも知れない。

名護がそんな事を考え言葉での説得を諦めかけてしまう程度には、今の渡は正攻法で立ち直らせることの難しい存在と化していた。
だが……いや、だからこそ。
この地に唯一人、今の彼が直面しているのと同じような無理難題を、常識外れのやり方で常にひっくり返してきた唯一無二の存在が、ここにいる。

正攻法で無理ならば、いっそ劇薬で毒を制してしまえば良い。
そう胸を張って言い切れる彼こそが、この膠着状態を“破壊”する上では、最も相応しかった。

「おい」

「え?」

86Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:08:28 ID:gXcg.M4c0







――声に振り向いた渡の頬を、不意に放たれた握り拳が打ち据える。







名護のものではない。
それは、今の今まで静観を続けていた門矢士の、突如として放たれた迷いない鉄拳だった。
強い衝撃を覚え、渡はそのまま受け身も取れず地に倒れ込む。

名護が渡の名を呼び駆け寄ろうとするが、しかし士がそれを制する。
後は俺に任せておけ。瞳だけでそう伝えて、彼は渡へと向き直る。
鋭い瞳で自身を見上げてくる彼に対し、士は殴った手を力なくぶらつかせた。

「いきなり、何を……!」

「根性注入」

恨み節の一つでも言いたいのだろう渡に、士はあっさりと言い放つ。
無論、そんな四字熟語で納得出来るはずもない。
怒りと共にすぐさま立ち上がって、渡は士に掴みかかる。

だがそれすら予想の範囲内とでも言うように、彼はあっけらかんと続けた。

「……人は前に進むものだ。悲しみを乗り越え、大きくなった時……大切な人は隣にいる。お前は、前に進むしかない」

「は?」

突如として士が述べた格言に、渡は困惑を示す。
だがそんな様子を気にする素振りも見せず、士は何かを察したように苦笑を浮かべた。

「音也の言葉だ。あいつ、道理で俺に向けた即興の言葉にしては出来すぎてると思ったぜ。まさか、元はお前に向けた言葉だったなんてな」

「父さんの……?」

不意に出た父の名に、襟を掴む渡の力が緩まる。
それを受け彼の後方へと足を進めながら、士はなおも言葉を紡ぐ。

「あぁ、俺が今のお前みたいに自棄になりかけた時、音也が目を覚まさせてくれた。今俺がやったのと同じように、その拳でな」

渡を殴りつけた自身の拳を見やりながら、士は思い出す。
この世の全てを憎み破壊し尽そうとした自分に対し、音也はその拳であるべき姿を思い出させてくれた。
破壊者なんかじゃない、世界を巡り紡ぐ仮面ライダーとしての、自分の姿。

その瞬間からずっと胸に秘めていた彼への恩を返すなら今しかないと、士はそう確信していた。

「でも、父さんが僕に言葉を残すなんて有り得ません。だって、父さんはもう――」

「――細かい事情は俺も知らないさ。だがお前になら分かるはずだ、俺の言ってることが、嘘か本当か」

言われて渡は、殴りつけられた自身の頬を触る。
――熱い。
それは名護との殴り合いで生じた痣よりも、まして今までのどの戦いで受けた傷なんかよりも、ずっと熱くそして痛かった。

そして、だからこそ理解する。
この痛みはきっと、士の言うように父の仕置きの分まで含まれているからこそのものだ。
勿論、父が自分を知るはずなどないし、理屈は決して通らない。

だがそれでも、渡には分かる。
士は決して、嘘などついていない。
先ほどの言葉も拳も、正真正銘自身の父から受け継いだものなのだ。

87Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:08:53 ID:gXcg.M4c0

「父さん……」

呟いて、既に亡き父に思いを馳せる。
悲しみを乗り越えて前に進めば、そこに大切な人はいる。
綺麗事でしかないはずのそれはしかし、何故だか今までの何よりも渡の心に強く響いた。

「渡」

士が、渡へ再び呼びかける。
彼の父の言葉を告げる役目は終えた。
だからこれから先は、渡に向けて士が自分自身の言葉を紡ぐ番だった。

「これから先お前がどう生きるのか、それはお前次第だ。だがどんな生き方を選ぶにしろ、その先で罪を償う為に死のうなんて思ってるなら……俺はここでお前を潰す」

それは、決して咄嗟に吐かれた出任せではない。
彼は本当に、渡の真意次第ではここで彼を破壊しようとしている。
その覚悟に思わず身が引き締まる思いを抱いた渡を前にして、士は続ける。

「……沢山の罪を重ね、多くの思いを受け継いできた俺達には、生きる義務ってやつがある。死んでいった奴らの思いを未来に繋ぐ為にも、な」

「未来に……」

士の言葉を復唱して、渡は不意にこの会場に来る前からずっと自身のポケットに押し込めていた一枚のステンドグラスを取り出す。
それは、自身が殺してしまった深央への罪の意識を絶やさない為に、バラバラに飛び散った遺体の中から自分が持ち出してきたものだ。
最早何の意味も無いはずなのに、何かに導かれるようにそれを掲げれば、突如として虚空に自身の愛しい女性の姿が浮かび上がった。

「深央さん……」

既に消えてしまったはずのその姿がそこにあることに驚きつつ、渡は彼女の名を呼ぶ。
それだけで深央は、渡の大好きだった儚げな笑みを浮かべた。

「僕、いいのかな……紅渡として――仮面ライダーとして、生きても……」

問えば、当然だと言うように彼女は笑顔を浮かべ首肯する。
そしてまるで役目を終えたことを悟ったように、渡の手の内からステンドグラスが消滅する。
だがそれは、今の渡にとってはもう深央の形見が消えてしまったことを意味しなかった。

空っぽになった手を握りしめて、渡は士へと向き直る。
最も重大な確認すべき事を、彼に確かめる為に。

「ディケイド……いえ、士さん。一つだけ聞かせて下さい」

遂に渡からの士への呼び名が、忌むべき悪魔のそれから個人を指す名前となった。
だがそれに感慨を抱くこともなく、士は彼の言葉を促すように首肯する。

「父さんがさっきの言葉を貴方に言ったということは……貴方もまた、誰か大切な人を亡くしたんですか?」

それは、渡にとって聞いておかなければならない質問だった。
最後の最後、彼を信じて良いのかどうか、その質問の答えが彼の行く末を左右する……そんな質問。
だがあまりにも意外な角度から向けられたその言葉に士は暫し逡巡して、それからどこか遠くの虚空を見つめた。

邪悪によって、失われた光。
自分の帰る場所になると言ってくれた、あの優しい笑顔。
自分が全てを破壊した後、倒してくれる存在として認めた、唯一の存在。

渡の問いによって、士はもう彼女がどこにもいないことを再度実感する。
だが、この苦しみから逃げずに告げなければならなかった。
彼女の思いを、優しさを、そして記憶を……未来に繋ぐ為にも。

88Chain of Destiny♮父の鉄拳 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:09:12 ID:gXcg.M4c0

「――あぁ」

放たれた肯定の言葉は、極めて短い上にどこか掠れている。
だがそれだけで、渡にとって必要な情報が全て含まれていた。
彼は破壊すべき悪魔ディケイドではなく、自分と同じように誰か愛すべき存在を亡くし悲しみに暮れた一人の青年だったのだ。

その事実が、彼を縛り付けていた最後の鎖を打ち壊す。
キングとして他の世界を滅ぼし自身の世界を守るだとか、ディケイドを倒さない限り世界は滅びるだとか、そんな運命にはもう屈さない。
父の言葉を証明する為に、そして深央の、加賀美の、キバットの命を未来へと繋げる為に、自分は迷わず前に進み続ける。

だからこそ、もう自分の心には嘘をつかない。
紅渡として……偉大なる男である紅音也の息子として、自分は戦い続けてみせる。
どんな世界の誰であろうと人の心の中に流れる音楽を守りたいし、例えその存在が世界を崩壊に導くのだとしても自分は“門矢士”を信じたい。

決意を固め、渡は俯いていた顔を見上げ士へ向けて強く頷く。
皮肉にもそれは、かつてユウスケに説かれた王の資格を、キングの名を捨てる覚悟をしたことで渡が得た瞬間だった。
そしてそんな彼の元へ、飛来する黒い影が一つ。

パタリパタリと羽ばたいて渡の元へと飛来したそれは、あるべきキングの姿とはかけ離れたはずの彼の今の姿を見て、しかしどこか満足そうに頷いた。

「フン、いい目をするようになったな……音也の息子に相応しい」

「キバットバットⅡ世……戻ってきてくれたの?」

渡に名を呼ばれた黒い影……キバットは、そんな彼の問いをさぞつまらなさそうに鼻で笑い飛ばした。

「言っただろう、俺は俺のやりたいようにやると。王としてではなく、紅渡としてのお前の行く末……それを見てみたくなった」

「……ありがとう」

渡には、それしか言える言葉がなかった。
ただ、自分を見捨てた彼が自分を“紅渡”としてまた認めてくれたことが、これ以上無く嬉しかった。
だが、それで立ち止まっている訳にはいかない。

今もまだ、このすぐ側で戦いは続いているのだ。

「……行くぞ、渡」

「はい」

士に呼ばれたその名前を、もう否定することはしない。
誰に何と言われようと、今度こそもう逃げることはしないと決めたから。
そして同時、肩を並べ共に歩んでいく二人の背中を見て、名護は満足そうに頷いた。

89Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:10:05 ID:gXcg.M4c0





「フン!」

「ぐあぁ!」

オールオーバーの一撃を受けて、カブトの変身が解除される。
病院での爆発を見て全力で駆け抜けて何とか間に合いこそしたものの、しかしドラス戦での疲労は決して癒えていない。
そんな状況で先ほどよりも強化されたネオ生命体と単身で戦えば、この結果も当然とすら言えるものだった。

そして今、レイキバットさえ失った総司には振り下ろされる剣を躱す術もなく――。

「総司君!」

突如として横から飛び込んだ名護が、総司の身体を抱きかかえるようにして剣を躱しそのまま倒れ込む。
ありがとう、と彼にお礼を言うのと同時に、総司はその視線の先にあるものを映して思わず笑みを浮かべた。
一体その先に何があるというのか。

彼の視線に釣られて振り返ったアルティメットUDがその瞳に映したのは、自身に向けてゆっくりと歩む二人の戦士の姿だった。
門矢士と紅渡。
それは、決して相容れないと思われていた男たちが、今志を同じくして宿敵へリベンジを行おうとするまさにその光景。

だが総司からすれば狂喜乱舞すべきその悲願の達成に対し、アルティメットUDは心底つまらなさそうに鼻で嘲笑を漏らした。

「なんだ、誰かと思えばお兄ちゃん達か。さっきも負けたのに、またやられに来たの?」

彼の滲み出る自信は、決して過剰なものではない。
その実力は凄まじいものがあるのは確かだし、恐らくまた挑んだとしても彼らの勝ち目は薄いだろう。
――単身ならば。

「確かに、俺たちはお前にさっき負けた。だがそれは、一人一人での話だ」

「一人一人?二人になったからって何か変わるって言うの?」

士の言葉に、アルティメットUDは意味が分からないとばかりに鼻で笑い飛ばす。
しかしそんな傲慢な悪を前に、士は決して屈さない。

「変わるさ、俺達は一人一人じゃとても弱い。強い敵にだけじゃなく、自分自身にだって負けてしまうことが、あるくらいには」

語りながら、士は渡を一瞥する。
自身の心の声を聞こうともせず逃げ続けていた今までの渡。
仲間の存在を最初から信じようとせず絆を断ち切ろうとばかりしてきた、弱い自分。

もう彼は、そんな自分に負けたりしない。

「だがそれでも……支え合える仲間がいれば、俺達はどこまでも強くなれる。どんな枷だって振り払って、なりたい自分になることが出来る!」

名護と総司が、深く頷く。
彼らが紡いできた絆こそが、この言葉の証明だ。
師弟の絆、数多の人が見せた渡を見捨てない覚悟、そして……時代を超えた親子の愛情。

全てが積み重なって、今ここにこうして彼らがいる。
それが士と渡にとって、何よりの力となっていた。

90Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:10:24 ID:gXcg.M4c0

「だから今度は、お前にも絶対に負けない。俺達は今……一人じゃないからな」

「お前……一体何者だ」

顔を見合わせ頷き合った二人に対し、アルティメットUDは問いを投げる。
だがそれは、とどのつまり彼が待ち侘びていたものだ。
自身の存在の証明、そして自身が生きる限り紡ぎ続ける世界を巡る旅の記録。

許されざる悪を前に、彼が名乗り続けるその名前は――!

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!」

士の高らかなる宣言を受けて、アルティメットUDは吠える。
それこそ丁度、かつて渡が激情を露わにしたのと同じように。
しかしその程度の威圧に、今更彼らが怯むはずもない。

亡き父に、亡き友に受け継いだ力をそれぞれ手に抱いて、彼らは強く叫んだ。

「変身!」

――KAMEN RIDE……DIEND!

士のディエンドライバーが、戦いの幕開けを合図するように高く銃声を響かせる。
それによって纏われるシアンの鎧に、しかし士は特別の感慨を抱く事もない。
ただ少しだけ、自分にはやはりこの鎧は似合わないなと、何の意味も持たない愚痴を漏らしたくなった、それだけだった。

一方で、ダークキバの鎧を纏う渡の心には、この鎧に先ほどまではいなかったはずの父が一層強く感じられた。
紅渡の名を誇り続ける覚悟をしたからなのか、或いは士を通じて彼の言葉を聞いたからなのか。
そのどちらにせよ、もうこれまでのように負けはしないと、渡は確信していた。

「グオオ!」

獣の如き唸りを上げて、アルティメットUDが大地を蹴りつけ駆け抜ける。
剛脚を轟かせ迫る彼を前にして、ダークキバはその懐からザンバットソードを取り出して応じた。
オールオーバーとザンバットが、火花を散らし拮抗する。

実力は同格、剣としての格も、剣士としての才覚も互角程度。
なればその勝敗を決めるのは残されたフィジカルの差だと、アルティメットUDが力を込めるが、ダークキバの狙いは決して鍔迫り合いによる勝利ではなかった。
剣同士での戦いの決着を待つこともせず放たれたディエンドの弾丸が、アルティメットUDの腕から大剣をはたき落とす。

意識外からの攻撃に得物を失い呻いたアルティメットUDへ、ダークキバは躊躇なくザンバットを振るった。
勢いを盾で凌ぎきれず後退する彼を前にして、間髪入れずディエンドは次なる攻撃の手として二枚のカードをドライバーへ滑り込ませる。

――KAMEN RIDE……HIBIKI! KABUKI!

続けざま放たれた電子音声が、虚空に二つの像を結ぶ。
並び立った二体の傀儡は、本来共に戦うはずなどなかった異形の鬼たちだ。
だがそんな経緯など、今の彼らには関係ない。

ただ自身らを呼び出したディエンドの意のままに、彼らは同時にアルティメットUDへと己の腰に備え付けられた音撃鼓を装着した。
かつてキングに通用したソリッドシールド攻略の音撃打が、今また二重奏となって奏でられる。
だが、二人に増えたとは言え所詮彼らは分身に過ぎない。

アルティメットUDの豪腕を以てすれば、この程度の拘束を解くことなど時間の問題。
だが、そんな事はディエンドも先刻承知の上である。
攻撃を完成させる為の最後のピースに向けて、彼は勢いよく呼びかけた。

91Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:10:48 ID:gXcg.M4c0

「渡!」

「はい!」

ディエンドの意図を察したのだろう。
返答と同時、ダークキバはその足下へ禍々しいキバの紋章を浮かび上がらせる。
同時、気合いと共に彼が腕を振るえば、今まさに音撃鼓を打ち破ろうとしていたアルティメットUDの背をそれが拘束し、彼からいよいよ抵抗の術を奪った。

「ウェイクアップ2!」

そして、そんな格好のチャンスを見逃す彼ではない。
すかさずキバットにウェイクアップフエッスルを噛ませ、沸き上がる魔皇力に任せて高く宙へと跳び上がる。
同時、それによって発動したキングスバーストエンドのタイミングを理解していたように、響鬼と歌舞鬼が音撃打を終え虚像となって消滅する。

残されたキバの紋章だけであればアルティメットUDには打ち破ることも出来たかも知れないが、しかしそれももう遅かった。

「ハアァ!」

掛け声一つ、アルティメットUDの胸へダークキバ渾身の一撃が突き刺さる。
同時、無条件でその身を守るソリッドシールドが浮かび上がるが、その程度の防壁、闇のキバの必殺技を前には砂の砦に等しい。
瞬く間に罅割れ砕け散り、遂に彼を守る盾は跡形もなく破壊されてしまった。

背に負った紋章すら打ち破り、アルティメットUDは大きく吹き飛ぶ。
その身が地面を抉り転がるが、しかしすぐさま立ち上がる。
その胸から硝煙を燻らせ、確かなダメージをその身に届かせながらも、しかし彼は未だなお萎えぬ殺意で以て仮面ライダーらを睨み付けていた。

全身に受けたダメージを微塵も感じさせぬ威圧を伴って、アルティメットUDは大きく吠える。
同時、かつてない強敵を前に警戒を緩めず構え直したダークキバの元へ、今の隙にコンプリートフォームへと変身を遂げていたディエンドが並び立つ。
奴を倒すには、やはり特大の一撃を食らわせるしかない。

そう思考を巡らせて、彼は懐から三枚のカードを抜き出した。
渡と心を通わせたことによって色を取り戻したそれらのカードこそ、この勝負の決着をつけるのに相応しい。
チラとダークキバを一瞥して、ディエンドは手に持つカードの縁を見せびらかすように叩いてみせる。

「決めるぞ、渡」

「……うん」

――KAMEN RIDE……KIVA!

ダークキバの頷きを受けて、ディエンドライバーが三度新たな電子音声を放つ。
叫ばれた意外なその名にダークキバが驚愕を禁じ得ない中、虚像は実像となりその姿を現実のものとする。
刹那、そこに立っていたのは、『キバの世界』を代表し、黄金のキバの異名も持つ仮面ライダー、キバ。

渡からすれば二度と見るはずがないと思っていた、過去の自分の姿だった。

「キバット……?」

だがその姿にダークキバが抱く感慨は、過去の自身との邂逅ではなく今は亡き相棒との再会に対するものだった。
キバの腰に鎮座する相棒に声を掛けるつもりで彼に呼びかければ、意識のない傀儡であるはずのそれはしかし、彼の呼びかけに深く頷いた。

――FINAL FORM RIDE……KI・KI・KI・KIVA!

ディエンドライバーの指示に従って、キバの身体は大きく変形していく。
人体の可動域を無視し、超常を逸した変形を完了したキバの姿は、まさしくキバットを模した弓と形容するのが相応しい。
その両手で以て、ダークキバがキバアローと化したキバを抱きかかえる。

92Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:11:08 ID:gXcg.M4c0

それは彼からすれば、まるでもう二度と叶わないと思われていた生涯の親友との和解を成し遂げたような、そんな心地ですらあった。

――FINAL ATTACK RIDE……KI・KI・KI・KIVA!

必殺の準備を終わらせた彼らに対抗するように、アルティメットUDがその胸にエネルギーを滾らせる。
だがそんなものに恐れを抱く理由はもう何も無い。
カテナを解き放ちその魔皇力を全開にしたキバアローを引き絞って、ダークキバは真っ直ぐに構えた。

「キバって……行くぜええぇぇぇぇ!!!」

相棒の声が、胸を打つ。
放たれたアルティメットボムを目がけて、キバが矢を解き放つ。
それと同時ディエンドも銃口から巨大な光線を打ち込めば、二つの必殺技は交わり更に巨大な一条の矢となって敵へと迫る。

刹那、衝突した相対する二つの光。
だが力を合わせた彼らの攻撃を前に、究極の名を冠した光弾は最早僅かな拮抗すら許されず掻き消えた。
そしてその勢いが、その程度で収まるはずがない。

放たれた最強の矢は、アルティメットボムを突き破った勢いを一切萎えさせることなく、その先にあるアルティメットUDの胸をも、容易く射貫きそのまま虚空へと消えていった。

「グゥゥオォォ……!」

胸に風穴を開け、身体のバランスを失ったアルティメットUDが呻き、その巨体を大きく後ろへ倒れさせていく。
同時、打ち込まれ、高まりきったエネルギーの奔流が彼の身を突き破って巨大な爆炎を生じさせ、その全身を消滅させる。
それはまさしく、幾度となくあまりにも大きな悲しみをこの地に振りまいてきた王を名乗る邪悪の企みが、今度こそ全て無に帰した瞬間だった。

アルティメットUDの撃破を受け、役目を終えたキバアローがダークキバの手を離れ人型へと戻る。
降り立ったキバはしかし、何の言葉を発することもない。
ただ再び虚像と化して空に溶けるまで、ずっとダークキバの事を、静かに見守り続けていた。

そしてそれは、ダークキバも同じこと。
謝罪や感謝ですら、今この瞬間に限っては無駄な言葉に過ぎない。
ただ向かい合うだけの二人の間にあったのはしかし、他の誰にも立ち入ることの出来ない、まさしく二人だけの世界だった。

一分の時間制限によりキバが消滅し、ダークキバの変身も解ける。
それでも渡は未だ思いを馳せるように虚空を眺めていたが、そんな彼の意識を浮上させたのは、あまりに遠慮無く彼に抱きついた名護だった。

「やったな、渡君!」

「名護さん……」

もう少しだけ余韻に浸りたい気持ちもあったが、しかし彼に掛かればそんな湿っぽい空気もどこへやらだ。
やっぱり名護さんは名護さんだなと微笑して、渡はそれから辺りを見渡す。
総司と士、確かな殺意を以て戦った彼らが歩んでくるのを前にして、自分は言わなければならなかった。

「総司君、士さん、その……今まで本当に、すみませんでした」

「……いいよ、渡君がちゃんと自分に向き合えたなら」

「総司君……」

総司の優しい言葉に、渡は二の句を継げなくなる。
どうしようもなくなって笑みを交し合った彼らの元に、士は総司の言葉に頷きつつ歩み寄った。

93Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:11:27 ID:gXcg.M4c0

「渡、さっきの言葉はあの時限りじゃない。もしお前がまだ、仮面ライダーとして戦った末に死のうと考えてるなら……」

「……えぇ、分かってます。もうその心配はいりません」

心の底から、渡は断言する。
もう、死ぬつもりなんてない。
少なくとも自分から全ての罪を被って死ぬだなんて逃げは、既に彼の思考からは消え失せていた。

そしてそんな渡の覚悟を前にして、士は満足そうに頷く。
微笑を携え渡と向き合う彼の姿は、到底世界を破壊する悪魔とは思えないほど穏やかなものだった。

「渡君」

名前を呼んだのは、名護だ。
その瞳には、先ほどまで渡を説得していた時のような、真剣な光が浮かんでいる。

「これから君は、数え切れないほどの人間に数え切れないほど謝っていかなくてはならない。だが心配することはない、君は……他ならぬ俺の弟子なのだから」

「名護さん……」

記憶を消し、何度も彼の手を拒んだというのに、名護はまだ自分を弟子と呼んでくれた。
それがどうしようもなく嬉しくて、渡の目に再び涙が滲む。
そんな彼を前に名護も僅かに涙ぐみ……そんな湿っぽい空気を切り替えるように、総司は敢えて戯けて間に入ってみせた。

「でも名護さん、渡君は一回名護さんの記憶を消しちゃってるから……名護さんの弟子としては、今は僕の方が先輩だよね?」

「え……?」

自身が以前犯した過ちを掘り返すような言葉に仰天して総司を見やる渡の顔は、あまりに真面目なもので。
それが何より可笑しくて、総司も名護も思わず吹き出してしまう。

「ふふ、そうだな。今は総司君が先輩で、渡君が後輩だ」

「よろしくね、後輩君!」

「そんなぁ……」

俯く渡に対し、いよいよ士も吹き出す。
朗らかな笑いに包まれた彼らの中に、もう憎しみは存在しない。
ただこれからもずっと罪を抱き生きていく仲間として、渡を受け入れていた。

「さぁ、行こう渡くん、病院で君の手当をしなくては」

談笑を終え、仲間達が病院へと歩んでいく。
その背中を眺めながら、渡はふと空を見上げた。
深央や加賀美、それにキバットは、これからの自分を見守ってくれるだろうか。

病院で自分のせいで死んでしまった人や、かつての王は自分を許すことなく恨み続けるだろう。
それを思うと自分は本当に、多くの思いを抱いて生きていかなければならないと再度実感する。
それに、世界の崩壊やディケイドの真実など、これからも自分の目で見定めなければならない事は、あまりにも多い。

だがそれでも、父と母がくれた紅渡の名を胸を張って名乗れるという事だけで、渡の心中は透き通るように冴え渡っていた。

「渡くーん!どうしたのー?置いてっちゃうよー!」

「……今行く!」

仲間の自分の名を呼ぶ声に否定をせず応じられることが、これほどまでに嬉しいこととは。
そんな当たり前を再実感しながら、渡は勢いよく走り出した。
――そうして全ては、ハッピーエンドに向かっているはずだった。

この場にいる憎しみに囚われた唯一の邪悪の、その牙が未だ健在でなかったなら。

94Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:11:55 ID:gXcg.M4c0







不意に、渡の身体に衝撃が走った。
何か背中から突き飛ばされるような、そんな感覚。
思いがけずその足を止めて、渡は自身の腹部を見やる。

赤く染まったその箇所には、手で覆い尽くせないほどの大きな穴が空いていた。

「渡君!」

「名護、さ……」

名護の声に返すことも出来ず、渡はそのまま前のめりに倒れ尽す。
予想だにしなかったその展開に、場にいる誰もが驚愕に染まる中、渡を背後から襲った下手人はただ一人下卑た笑い声を上げた。

「ハハハハハッ!やったぁ、これで……僕の勝ちだ……!」

その笑い声の主は、意外性の欠片もない。
それは、緑の身体全身から火花を飛び散らせながらもしかしまだ息絶えていなかったネオ生命体のコア。
アルティメットUDの身体が破壊されて尚その身体の頑強さ故に生き残っていたそのコアが、最後の悪足掻きで無防備な渡を背後から襲ったのである。

「ははっ、僕の思ったとおり……やっぱり、人間は弱――」

だが、捨て台詞を吐こうとした彼の言葉は、そこで止まる。
それ以上彼が薄汚い口を動かす前に、すかさず放たれたディエンドライバーとイクサナックルの光弾が、その眉間を的確に打ち抜いた為。
断末魔すら許されず爆発したネオ生命体にはもう目もくれることもせず、彼らは渡を抱きかかえた。

「渡!」

「渡君!」

だがその呼び声に、渡は最早まともに応えることも出来なかった。
腹部を打ち抜かれた影響で、口中にまで血が沸き上がっていたのだ。
一目見てもう無理だと分かってしまうようなその惨状を前に、しかし名護だけは諦めることを知らなかった。

「待っていろ渡君、今病院に連れて行って助けてやる!士君、総司君!担架を持ってきてくれ!彼を運ばなければ――」

「――やめて、下さい……もう、いいんです、名護さん……」

「良いわけがあるか!俺が君を救ってみせる、だから、だから……!」

必死の思いで叫ぶ名護に、しかし総司も士も動けない。
分かっているのだ、名護の意思がどれだけ固くても、これはもうどうしようもないと。
なれば彼の言葉を最後まで聞き届けることこそが、自分たちの使命に違いないと。

それは、既に名護にも分かっている。
だがそれでも諦めきれないとどうにか彼を救おうとして、しかし答えは見つからない。
あまりの無力感に言葉を失った彼に対して、渡は死力を振り絞り必死に言葉を紡いだ。

「すみません、名護さん……僕は結局、最後の、最後で貴方をまた……裏切ってしまった。紅渡として……生きて罪を償うこと……それすらも、僕には出来ませんでした……!」

涙を浮かべながら、渡は悔いるように漏らす。
以前はキングとして冷酷な王の道を往くと名護を裏切り記憶を消した。
そして今度は、紅渡として罪を背負って生きていくと決めたはずなのに、その約束を裏切ってもう死のうとしている。

やはり自分が言ったとおり、自分は薄汚い裏切り者でしかないのだと強く実感して、渡はそれが何より辛かった。
だがそんな渡の苦悩を一瞬にして断ち切るのは、やはり名護の言葉だった。

95Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:12:13 ID:gXcg.M4c0

「何を言う渡くん、君は一度も俺を裏切ってなどいない。君はずっと愛する誰かを守る為に戦ってくれていたんだろう……その優しさの、どこが裏切りだと言うんだ!」

それは、以前の記憶を持っていた名護が、キングとしての自分の行いを肯定してくれた時の言葉と、よく似ていた。
本当に名護さんは何も変わらない。
自分たちが名護啓介と紅渡である限り、素晴らしい関係を築けるはずだという、先ほどの言葉を思い出す。

自分はキングとして紅渡の名を捨て、名護からは記憶を消してその絆を断ち切ったはずだったのに、結局こうしてまた繋がってしまった。
彼がどこまでも名護啓介で……そして遂に自分も彼に負けて、紅渡に戻ってしまったから。
本当にこの人には敵わないなと苦笑して、渡は最後の最後、今この瞬間に抱いた気持ちをどうしても彼に伝える為、薄れ行く意識を繋ぎ止めて口を開いた。

「名護さん……やっぱり貴方は……最高、です……」

ただ、それだけ言い切って。
渡の首は、がくんと力なく項垂れた。
師への感謝と、謝罪と、そして称賛の全てを込めた、その一言。

かつて彼に憧れ弟子入りしようとした時、彼を崇め持ち上げようとした一心で、渡が放った言葉。
それを、この名護が覚えているはずもない。
だがそれでも、彼はどうしてもこの言葉からまた始めたかった。

自分が紅渡として、名護啓介に最初に抱いた感情と同じ全幅の憧憬を告げることで、また一から、二人の関係を。
しかしそれは、叶わない。
その言葉を最後にして、もう渡の意識は永遠に失われてしまったのだから。

「……渡君?」

名護の呼びかけに、渡がもう応えることはない。
始まりの言葉だけを残して、渡は逝ってしまった。
もうどれだけ彼らが名前を呼ぼうと、身体を揺さぶろうと、応じることはない。

どうしようもないその喪失感に、名護は胸を強く締め付けられ、力強く彼の身体を抱き寄せる。

「聞こえないぞ、渡君……!もっと……大きな声で言いなさい……!渡君……!」

涙で途切れ途切れになりながらも告げたその言葉に、しかしもう返してくれる声はない。
それがどうしようもなく心苦しくて、名護はそれから長い時間、嗚咽を上げて渡の亡骸を抱きしめていた。


【二日目 昼】
【D-1 市街地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディエンドに2時間変身不能、仮面ライダーディケイドに1時間50分変身不能
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:渡……。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:仲間との合流。
7:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎〜キバの力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。

96Chain of Destiny♮スーパー・ノヴァ ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:12:32 ID:gXcg.M4c0


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間45分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:渡君……。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君のコーチになる。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
8:乃木怜治のような輩がいる以上、無謀な行動はできない。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。
※士に対する信頼感が芽生えたため、ディケイドが世界破壊の要因である可能性を疑いつつあります。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、仮面ライダーカブトに1時間55分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:渡君……。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。


【紅渡@仮面ライダーキバ 死亡確認】
【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編 GAMEOVER】
【残り人数 11人】

【備考】
※渡のデイパックの中身{サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑一枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト、支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト}がD-1市街地、渡の死体にそのまま付けられています。
※ネオ生命体が持っていたキングのデイパックの中身{T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)}がD-1市街地にそのまま転がっています。
※キバットバットⅡ世がこの後どうするのか(名護達の仲間に戻るのか、また誰か資格者を見つけようとするのか)は不明です。

97 ◆JOKER/0r3g:2020/01/23(木) 14:16:19 ID:gXcg.M4c0
以上で投下終了です。
この話を書いている時、たくさんの感情が沸いてきましたが、それが独りよがりでないことを祈るばかりです。

毎度の事ではありますが、感想やご指摘、ご意見などありましたら気軽にお願いいたします。

98名無しさん:2020/01/23(木) 16:33:28 ID:O2ojYKeY0
アルティメットUD、やけに呆気ないと思ったら……意思を失ってなおも嫌がらせをしようというキングの怨念すら感じてしまいます。

無念の最期となってしまいましたが、渡はここで脱落。このロワが始まって以来、本編と同じか、下手すればそれ以上に思い悩んだ彼が心から頷ける答えを見つけられたことが感慨深いです。

そして目の前で渡を殺されてしまった士の精神も大いに削られてしまいそうで心配になります……。果たして彼はコンプリートになれるのか、今後も固唾を飲んで見守ります。

99名無しさん:2020/01/23(木) 17:47:00 ID:NI5N/VEg0
投下お疲れ様です。
渡君改心したのに脱落ですか……
これもロワの運命ですね。
アルティメットUDが短命ってところが完結編での出番の少なさと重なってるように感じましたね。
残りの3人には対主催の要として渡の分も戦って欲しいです。

頑張れ!仮面ライダー!(響鬼さん感)

100名無しさん:2020/01/23(木) 18:03:34 ID:J.2jKP4U0
投下乙でした!
渡はこれまでの罪と向き合い、そしてみんなとようやく贖罪ができるかと思ったら……まさかこんな結末になるなんて。
せめて、最期に名護さんに気持ちを伝えきれたことだけが救いでしょうか。

101 ◆JOKER/0r3g:2020/01/26(日) 00:09:47 ID:LdhrRVTw0
皆様、感想ありがとうございます。
さて、皆様薄々お気づきとは思いますが、そろそろ第四回放送です。
……とはいえ実のところまだ放送に行く気はなかったのですが、書こうとしていた次のパートのプロットが浮かばず、かつそこで書こうとしていた事は放送後でも書ける上その方がスムーズだと判断したので、もう放送に移行しようと思います。

そして、今回の放送で当企画のリレー形式を一旦やめる形となり、自分が自己リレーで完結まで書いていく形となります。
無論、以前も言っていた通り自分が自己リレーをしてでも完結させることが難しいと判断したときはリレー形式への再帰も考えておりますが、一応はそのまま完結まで書く心づもりですのでよろしくお願いします。

しかし、これでもうリレーは終わり!もう皆書けないよ!というのは些か企画の私物化甚だしいと思いますので、1月一杯まで放送前パートの予約期間を設けたいと思います。
もしそこまでで予約をしていただけるようであれば何らかの話を書いていただくのは一向に構いませんので、参加を考えていた方、書きたい内容がある方はどうぞリレーにご参加下さいませ。

それでは長くなりましたが事務連絡は以上です。今後とも当企画をよろしくお願いいたします。

102 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 11:47:53 ID:UFvFTXtk0
お待たせいたしました。
これより放送の投下を開始いたします。

103第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 11:55:42 ID:UFvFTXtk0

時刻は正午。
この6時間毎に行われていた定時放送が遂に四度目を迎え、参加者にこの会場で24時間を経過したことを痛感させる。
これまでも放送の度に奏でられていた荘厳な音楽が至る箇所から鳴り響き、空を数機の飛行艇が覆い尽くす。

灰色のヴェールから吐き出されたあまりにも巨大な質量の波が、下界の喧噪など一切気にすることなく空を縦断するその光景。
残された参加者からすれば最早怒りを覚えることすら忘れるほどに繰り返されたそれが、今までと同じく定位置で低空すると同時、飛行艇に備え付けられたモニターに映像が映し出される。
今までも幾度となく見た、鷲のエンブレムが部屋の中心に鎮座する赤い部屋。

キング、三島正人、神崎士郎といった数多くの幹部たちが放送の開始と共に現れていたその部屋に今度は、一人の老紳士が立ち尽くしていた。
黒を基調とした服装で全身を包み、白髪で染まった長髪と同じ色をした灰色のマフラーを巻く彼の風貌は、全体的に上品な印象を抱かせる。
故に、ふと見れば穏やかにすら思える彼の顔立ちは今まで現れた誰よりもこの凄惨な状況に不釣り合いなようにも思われたが、しかし男はそれで物怖じする様子もなかった。

「……定時となった。これより予定通り、第四回目の放送を開始する」

極めて静かに、どこか厳かな雰囲気を絶やさず男は口を開く。
後ろ手に両手を組んだ彼は、手元にある資料へ目を移すこともせず真っ直ぐカメラを見据えて続けた。

「私は今回の放送を担当する幹部、花形……とだけ名乗っておこうか。参加者の諸君、まずはこの長い24時間を生き残れたことに心から敬意を表したい。」

花形と名乗った男は、そう言って小さく頭を下げる。
その言葉は第二回放送を担当した三島という男のそれに通ずるものもあったが、しかし一切の情緒が感じられなかった彼に比べれば、幾らか人間味に溢れるものだった。
まるでこの殺し合いに関与しながらも、本心から参加者の無事を祈っているようですらあるそれは、しかしこの状況では不釣り合い過ぎて寧ろ反抗心を煽る物だったかも知れない。。

ともかく、本心は不確かながら下げていた頭を上げた彼は、今度は手元の資料へとその視線を移す。

「それでは、以前と同じように前回の放送からここまでの死者を発表しよう。今回の死者は葦原涼、村上峡児、相川始、間宮麗奈、リュウタロス、紅渡……以上の6人だ。残る参加者は9名。またこれにより、アギト、剣、電王の世界が滅びを迎えることが確定した」

そこまで資料を読み上げて、花形の言葉は一瞬詰まる。
その文面にある内容以上の事を伝えたいのか、或いはそこに嘘が混じっているのか。
ともかく幾分かの躊躇を滲ませた彼は一瞬視線を持ち上げて、それからすぐに一つ溜息をついて観念したように続けた。

「これにより残る世界は6つ。更にその殆どが残り人数一人という段階と考えれば、次の放送を迎える前に決着が付く可能性も高いだろう」

資料の文字に目を沿わせながら、花形は続ける。
それから一泊の間を置いて、彼は決心したようにその瞳を持ち上げた。

「だが、ここで一つ注意しておこう。殺し合いの勝者を判断するのはあくまでこの定時放送ごと……つまり、もし最後に生き残った二人が相打ちとなり放送を迎える前に全参加者が息絶えれば、この殺し合いは勝者なしという形に終わる」

一息に告げられた内容は、その実終盤に差し掛かったこの殺し合いにおける最悪の可能性を危惧しているようでもある。
だが花形の声音からは、明らかにそれ以外の意図が見え透いていた。

「……勿論、勝者が居なければこの殺し合いの目的である世界の選別も為されない。そんな事が起こらないことを、心から願っている

締めくくるように言葉を告げる花形の瞳には、何かを期待するような光が灯っている。
言外とはいえ誰かへ向けた何らかの意図が明確なそれに、しかし花形はそれ以上言及することはしない。
しかし今の言葉だけで伝えるべき対象には十分伝わると確信している調子で、彼はそのまま手元の資料を捲った。

「さて、それでは次に禁止エリアの発表だ。とはいえ流石に前回ほどではないが、今回もかなりのエリアが禁止エリアとなる。これから二時間後、14時にFエリア以南が禁止エリアとなる。その場にいる者は速やかに移動するように」

104第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 11:56:49 ID:UFvFTXtk0

Fエリアより以南にいる者。
その言葉を紡ぐ時、僅かに花形の表情が歪んだ。
だがすぐさまそれを取り払うように一つ咳払って、花形は平静を装うようにまた前を向く。

「……私からは以上で終わりだ。それから最後になるが、この放送の直前、新たに我々大ショッカーの幹部となった者を諸君に紹介しておこう」

それを締めの挨拶として、花形は誰かへ場を譲るようにしてゆっくりと画面外へと消えていく。
刹那、最後の最後まで紳士のような振る舞いを崩さなかった花形と入れ替わるようにして、一人の男が画面の中心へ躍り出た。
花形と同じく黒ずくめの服に全身を包んだその男はしかし、彼とは違いどこか威圧感と不遜な雰囲気を漂わせている。

ゆっくりとその足をカメラの真ん前にまで進めて、男は鋭くレンズを睨み付け、不敵に笑う。
そのまままるで自身の存在を誇示するようにその両手を広げて、男は目深に被っていたフードをはらりと押し上げた。

「やぁ、仮面ライダーの諸君。会場内には見知った者もいるだろうが、改めて自己紹介しておこう。俺は花形の紹介にあった通り、新しく大ショッカーの幹部となった―――――







―――――乃木怜治だ。以後、お見知りおきを」

クスリ、と笑った男……乃木は、そう告げて仰々しくその頭を下げた。





時間は放送前、乃木が橋での戦いを終えG-1エリアの廃工場に再び足を踏み入れた瞬間にまで遡る。
適当な場所にブラックファングを停車した彼は、そのまま慣れた足取りで廃工場の内部へとその歩みを進めていく。
その先にある大ショッカーが秘匿したい何らかの事情と、そしてそれを守護する木偶の坊の元へ向かうために。

「……懲りずにまた来たか」

そして乃木の予想通り、先ほど自身の相方が遭遇したのと全く同じ場所、全く同じ位置に、その男は未だ真っ直ぐ立ち尽くしていた。
眼鏡をかけたスーツ姿の男の名は、三島正人。
その一張羅の汚れを払うことすらせずただ直立してこちらを睨むその姿は、恐らく放送前に自分たちと戦った時からずっとその姿勢だったのだろうと乃木に確信させる。

全く以て忠実な番犬というべきか、どこまでも飼われる犬に過ぎない哀れな傀儡と呼ぶべきか。
呆れを一つ吐き捨てて、乃木はゆっくりと三島に向けてその足を進めていく。

「フン、大ショッカーが番人を立ててまで隠そうとしているものだ、見逃す手はないだろう」

「馬鹿が……一人では俺に敵わないと知っているだろうが」

「……どうかな?」

不敵に笑った乃木に対し、三島は先ほどと同じようにかけていた眼鏡を取り外し、懐に収めて乃木に向き直る。
だが、ほんの一瞬に過ぎなかったはずのそれを終え三島が戦闘態勢を整えるその僅か数秒の間に、もう彼の視界から乃木の姿は消え失せていた。

「何……?」

まさか、あれだけ挑発しておいてもう逃げたというのか?
クロックアップを使用した様子もなかったのに、一体いつの間に。
三島の中に湧き出た疑問を氷解させたのは、背後から響く呑気な声だった。

105第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:00:10 ID:UFvFTXtk0

「ネイティブになっても視力が悪いのかと思ったが、伊達眼鏡とはな。そこまで人間だったころの残滓に縋りたいか?」

振り返れば、そこには見覚えのある眼鏡をかけながら嘲笑する乃木の姿があった。
慌てて懐を探ってみるが、そこからはつい今しがたそこに収めたはずの自身の眼鏡が失せている。
つまりは今乃木が手で弄んでいるのは、まず間違いなく自身の所有物であるということだ。

「貴様……」

自身の所有物を勝手に物色されたことに憤りを抱くのと同時、三島の背筋に今まで感じたことのない寒気が走る。
今目の前に立つ乃木は、先ほどまでの比ではない強さをその身に秘めている。
ネイティブとなった自分すら知覚できない速さで懐の眼鏡をくすねられたということは、同じだけの労力で命を奪う事も容易だっただろうと言うこと。

そこまで自分が舐められているという事実と、何よりこの短時間で想像を遙かに凌駕する力を乃木が身につけたという事実が、あまりに重く彼にのしかかっていた。
先ほどまでとは文字通り桁の違う進化を果たした自身を前に三島の動きが止まったのを受け、乃木は嘲笑を一つ残してその場を後にする。
目指すは大ショッカーの秘匿している何かの情報であり、決して三島の殺害などと言う些末な事象ではない。

勿論そのリベンジ自体は後々果たすが、そんな木っ端よりも優先すべき事象があると、彼は三島が背に庇っていた一台の車へと歩を進める。
そのブツ自体ははどこにでもある自家用車に見えるが、どうやら鍵が掛かっているらしい。
とはいえわざわざ番人を立てておいて単なる移動手段と言うこともないだろうと、乃木はその力で無理矢理車の荷台をこじ開けようとする。

「……やめておけ」

だがそんな乃木の動きを止めたのは、未だ敗北感に俯く三島のそれではない。
それは、この状況には似つかわしくないほどに落ち着き払った、壮年の声。
今しがた彼らの前にその姿を現した灰色のヴェールの中から響いたそれに振り返れば、そこにあったのは黒ずくめの服に白髪を隠した男の姿だった。

男の首に、参加者の印たる銀の輪ははめられていない。
つまりはそう彼もまた、三島と同じ大ショッカーの手の者に違いなかった。

「貴様……何のつもりだ」

三島が凄みながら男の元へと駆け寄る。
このG-1エリアを任された自分を差し置いて、他の幹部がしゃしゃり出てきたことに苛立ちを隠せないのだろう。
だが、今にも噛み付きそうな勢いでにじり寄った三島には一切の動揺をくれることもなく、男はゆっくりとその顔を横に振った。

「……待て、この場で戦う必要はない。私は彼に、一つ提案をしに来ただけだ」

「提案だと……?」

肩を怒らせ詰め寄る三島を押しのけて、男は乃木へとその顔を向ける。
紳士然としたその態度は緩慢にも思えたが、しかし男の醸す雰囲気が彼が只者ではないことを知らしめていた。

「自己紹介がまだだったな、私は花形。乃木怜治くん……君を我々と同じ、大ショッカーの幹部として迎え入れたい」

「何……?」

漏れた困惑は、奇しくも乃木と三島とで全く同じものだった。
そして当然その言葉を世迷い言と断じたか、三島は今度こそ激情のまま花形の首元に掴みかかる。

「貴様、気でも狂ったか。この男は我々大ショッカーを潰そうとしていた男だぞ……?そんな男を何故幹部に加える必要がある……」

三島の口調は、静かながらその胸の中の禍々しい感情の奔流を押さえ切れていない。
対応を誤ればすぐにでも花形の首が掻き切られても可笑しくないそんな状況で、しかし彼は平静を保ち続ける。

106第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:04:22 ID:UFvFTXtk0

「あの車の中身だ」

短い返答。
だがそれに釣られるようにして視線を車へと向けた三島の腕からは既に、力が失せつつある。
まさか、その一言で納得したとでも言うのか。

三島の人間性からすれば全く以て信じがたい光景に乃木ですら目を見張る一方で、花形は続ける。

「あの中身を鍵もなしに見られては、この殺し合いの進行に不具合が起きる……お前もそれは避けたいはずだ」

「それは……」

三島の顔に、初めて迷いが生まれる。
まさしくサイボーグのような鉄仮面が、任務の失敗を前に不安を覚え揺らぎつつある。
その一幕だけで大ショッカーという組織内では彼もまた末端の存在に過ぎないのだと理解して、乃木は眉を顰めた。

「それに勿論、これは私の独断ではない。この事は既に、首領代行が承諾済みだ」

「首領代行が……!?」

続いて花形から放たれた固有の誰かを指し示すのだろう単語に、乃木は目敏く気付く。
首領代行。間宮麗奈から聞いた情報が確かなら、第二回放送の内容の中で現れた大ショッカーの幹部で、名前は確かラ・バルバ・デと言ったか。
代行というのが些か気になるところではあるが、ともかく三島にとっては雲の上の存在なのだろう。

こちらを見やり苦悶する三島の表情に、しかしもう妥協の色が滲んでいるのが、何よりの証拠。
ワームへの憎しみだけは人間だった頃から変わらず持ち続けているはずの三島ですら名前を聞いただけでその感情を押し込めるだけの存在が、確かに大ショッカーには存在している。
その確信を抱くと同時、成る程これは話を聞いてやるだけの価値はあるかと、乃木は改めて花形に向き直った。

「……もし仮に大ショッカーに加わったとして、俺に何の得がある?」

「首領は、この殺し合いが終わった暁には幹部の願いを全て叶えると言っている。恐らくは君の願いも、問題なく聞き届けることはずだ」

「……ほう」

言葉を紡ぐ花形の瞳を見つめながら、乃木は彼の中に底知れない感情が渦巻いているのに気付く。
彼はその張り詰めた表情の中に、何かを隠し持っている。
それが何なのかまでは正直読み取れないが、少なくとも言葉通りの大ショッカーに仕える忠臣でないらしいことは確かだ。

だがそれがそのまま彼という人間への不信感に繋がるかと問われれば、寧ろ逆だった。
彼が腹に一物を抱いているとみれば、この幹部への勧誘にもまた字面とは違う意図が見えてくる。
花形という男は、大ショッカーを打倒する意思を持っていた自分を表向きは幹部として抱き込むことで、組織内での地位を高めつつ何らかの野望を果たしたいのかも知れない。

その仔細や狙いなど正直どうでもいいが、ともかくこれが罠である可能性が低いと考えることが出来るなら、その誘いに乗るのも決してやぶさかではなかった。
無論、願いを事前に聞きもせず一律に叶えられるなどと大言壮語を吐いていることはあまりにも怪しい。
正直胡散臭さすら感じるが、言ってしまえばそれを当てにしなければいいだけのこと。

つまるところ言ってしまえば、戦う場所が変わっただけとみればいいのだ。
この会場で遅々として進まない仮面ライダー諸君の首輪解除を待ち、彼らに仲間として認識されながら大ショッカーの裏をかくよりも寧ろ、その懐に潜ってしまえば良い。
あちらにもそれなりの自信はあるのだろうが、それで自分を押さえ込めるなどと思うこと自体が間違っているのだ。

もしもそんな思考の全てを読んだ上で花形やバルバが自分の幹部入りを歓迎しているのだとしても、敢えて敵地に飛び込むことは決して無謀とは言い切れなかった。

107第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:06:30 ID:UFvFTXtk0

思考を終えた乃木は、花形へと向き直る。
その顔に花形の浮かべているのと同じ、不敵な笑みを携えて。

「……いいだろう。今この瞬間から、俺は大ショッカーの一員だ」

乃木の意味深な笑みに、花形は小さく頷いた。
その様子にわざと聞こえる大きさで舌打ちした三島に一瞥をくれながら、乃木は花形に続きヴェールの中へと歩んでいく。
その思考に、本来多くの幹部が期待しているのだろう首領がもたらす願いの成就など、一切当てにすることもなく。





時刻は再び現在へと巻き戻る。
本来予定になかった放送への乃木の登場は、花形が突然予定したものだ。
『一時とは言え、仮面ライダーの仲間だった存在が我々の側に寝返ったことはきっと残る参加者から抵抗の意思を削ぐことに繋がるはずだ』……そんな方便を用いて。

成る程それも、あながち嘘ではないかも知れない。
少なくとも病院で共に戦った門矢士やフィリップなどは、以前敵対者として戦ったことを踏まえてもなお、自分が大ショッカー幹部の座についたことに当惑するだろう。
だが花形の狙いがそんな矮小なものでないことは、乃木にとっては既に確信できる事象となっていた。

今こうしてカメラの前に立つ乃木の姿は、会場へと全てリアルタイムで放送されている。
誰しもの注目が集まったこんな格好の状況を作り出した本当の理由は一つしかないと、乃木は物陰でこちらを睨む花形を一瞥する。
今から自分が為そうとしていることまで見込んだ上で自分を幹部の座に引き上げたなら、中々の策士と言うべきか。

まぁどちらにせよ、彼の狙いがどうかなど関係ない。
自分にとっても最高の舞台が整っただけだと、乃木は勢いよくその両手を広げた。

「さて、自己紹介も終わったところで、諸君に俺から一つ朗報だ」

予定にない言葉に周囲がざわつき始める中、そんな仔細など気に留めることもなく、乃木は大きくその口角を吊り上げる。

「喜びたまえ。今回の放送を以て、この殺し合いは終わる。何故なら―――――俺が今ここで、大ショッカーを潰すからな」

その言葉に、一瞬でその場が静まりかえる。
予定になかった言葉、予定だにしなかった展開に、誰もが思わず言葉を失ったのである。
だがこの突然の裏切りは、乃木にとって最初から予定されていた事象だった。

正直、そのタイミングはまだ見計らうべきかとも思っていたが、こうまで絶好のチャンスが転がっているというのに見逃す手は無い。
つまりは自身の手で大ショッカーを潰し、その後で技術と力の全てを掌握する――それこそが、乃木の最初から何も変わらぬ一つの願いだったのだから。

本性を露わにした乃木の前に、しかしすぐさま歩み出る影が一つ。
それは、ワームの本質を誰よりも理解しているが故に、元より乃木を一切信用していなかった三島の姿だった。

「貴様、やはり裏切ったか……!」

「フン」

肩を怒らせ飛び出した三島は既に、眼鏡を外している。
恐らくワームの生態をよく知る彼にとっては、最初から乃木が裏切ることも既定路線として想定されていたに違いない。
乃木からしても、それはごく当然のことだ。

ワームは元より、侵略によって他の文明を内側から支配する事を至上とする種族。
そんな存在を不用心に懐に招き入れれば、こうして背反されることなど容易に想像出来て当然と言える。
寧ろ挙動が遅れたとすら思えるのは、所詮彼の性分が上司の指示待ち人間に過ぎないからなのだろうと、乃木は嘲笑を浮かべた。

108第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:09:36 ID:UFvFTXtk0

「覚悟しろ。大ショッカーの幹部として、裏切り者は俺が粛正す――」

――三島の言葉が、それ以上紡がれることはなかった。
彼の身体がネイティブワームのそれへと変貌するまさにその寸前、一手早くフリーズを発動していた乃木の、否カッシスワームの腕から生えた剣が、彼の胸を真っ直ぐ貫いていたのである。
口から血を吐いて、苦痛に喘ぎながら三島がその場に倒れ伏す。

あまりにも呆気ない幹部の死を目の当たりにするのと同時、本部内にはびこる戦闘員たちはいよいよ以て喧噪を深めていく。
仮にも大ショッカーにおいて多くの権威を誇る幹部が瞬殺されたという状況を前にして、ようやく理解が追いついたのだ。
今ここで大ショッカーを潰す……乃木が先ほど口にした言葉が、決して冗談などではないと言うことを。

まるで最初の会場において、首輪を爆破された見せしめを目の当たりにして参加者が事態の深刻さを理解したのと同じようなその光景に、乃木は意趣返しを感じて高らかにその腕を振り上げた。

「さぁ選べ!降伏か、或いは死か!案ずるな、どちらを選ぼうとお前達の技術も野望も、全て俺が貰い受けよう!」

大きく手を広げて、高らかにその存在感を誇示するカッシスワーム。
その圧倒的な実力に誰もが立ちすくむ中、部屋の隅から彼に向かって一歩、また一歩と進んでいく男が一人。
カッシスの威圧を前に背を向けて逃げだそうとしていた者も、カッシスに降伏すべきかと悩んでいた者も、“彼”の姿を目の当たりにした瞬間にその愚考を止め思わず跪く。

今のカッシスワームを前にしてもなお、一切衰えぬ気迫を伴いゆっくりと歩む男の前に自然と道が開けるのは、至極当然のことだった。

「……ん?」

カッシスが、ようやく男の存在に気付く。
見ればそこにいたのは、黒い服に全身を包み中性的で端正な面持ちに茶髪を生やした一人の青年。
生身であるはずなのに有象無象の怪人ひしめくこの場でもなお衰えぬ彼の存在感に、カッシスは訝しげな瞳を向けた

「お前は?」

「――私は、貴方たちが大ショッカーと呼ぶこの組織の長です」

カッシスの問いに対して返ってきたのは、名ではなく男の地位。
だがそれは少なくとも他の何者よりもこの場で乃木が求めていた存在であり、故にこそこの登場は僥倖であった。

「この地での殺戮は無意味です。それでもなおこれ以上貴方が悪戯に命を奪い、我々とそして我々の管理する戦いの進行に害をもたらそうというのなら……容赦はしない」

黒い服の青年は、カッシスを真正面から見据えて宣言する。
確かな殺意を秘めた彼の瞳を前にして、思わずカッシスの身が竦む。
それは間違いなく、彼にとって生まれて初めての感覚だった。

あのライジングアルティメットや、オルフェノクの王を前にしても感じる事の無かった、心根が震えるような心地。
声を荒げることもなく穏やかに告げられているはずの言葉にどうしようもなく威圧される自分を感じて、カッシスはそんな自分を否定するように強く拳を握った。
そしてそのまま、ほぼ反射的に拳を天に向け振り上げる。

彼がどれだけの力を持っていようとも、その力を発揮するより早く、その命を絶やすために。

「フリーズ!」

胸の前にまで振り下ろされた拳が、カッシスワーム最強の能力を発現させる。
瞬間、辺りを取り囲んでいた戦闘員達の喧噪も、底知れぬ存在を放っていた首領を名乗る男も、全てが平等に制止していた。
同時その光景を目の当たりにして、カッシスはらしくない安堵を覚える。

首領がどれだけの力を持っていたのかは知らないが、時を止められてしまってはその証明など出来ようはずもない。
この空間がある限り、自分の最強はやはり揺るがないのだと、そう確信して首領の首を刈り取るため、その足を進めようとして。
――カッシスの足はしかし、一切動くことはなかった。

109第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:14:32 ID:UFvFTXtk0

(なっ……!?)

驚愕に声を漏らしたつもりだったが、しかしそれすら叶わない。
そして同時、理解する。
今この瞬間、まさしくこの場の全てが平等に制止しているのだ。

喧噪に喘ぐ戦闘員達も、光も音も、そして――能力を発動したカッシスワーム自身すらも。
いや実際の所、それすら正確ではない。
フリーズを発動したはずのカッシスすら身動き一つ取れないその空間の中で、ただ一人、それまでと何ら変わらず悠然と足を進める存在が、そこにいたのだから。

コツリ、コツリと靴音を響かせて、それまでと一切変わらぬ速さでこの瞬間唯一自由にこの場を自由に出来る者……黒い服の青年が、カッシスの目前にまで歩みを進める。
労せず命を刈り取れると甘んじていた相手に、いつの間にか自分の生殺与奪の権利を握られているというのに、カッシスには抵抗は愚か身じろぎすることすら許されない。
いよいよ男が歩みを止めその鋭い眼差しをカッシスへ向けると同時、思わず彼はその身に迫る“死”を強く意識した。

「……私には、時間の流れなど意味がありません。この宇宙に“時間”をもたらしたのは、他ならぬ私なのですから」

言葉を言い終えると同時、青年は何らの思念をカッシスへと飛ばした。
特別な動作など何一つ存在しない、言ってしまえばそれはただの鋭い眼光に過ぎない。
だがしかしその一瞬だけで、カッシスは鋭い激痛と共に止まった時の中から弾き飛ばされてその身を床に横たえる。

突如として起こった急展開に、周囲で跪いていた戦闘員達も皆驚愕と歓喜の声を上げる。
この場にいる誰もが、今二人の間で何が起こったかを理解するよりも早く青年の勝利を悟ったのだ。
だがしかし、切り札たるフリーズを攻略されてもなおカッシスの戦意は尚衰えない。

時を司るから何だというのだ。
正直呆れるような能力ではあるが、だからといってここで退く手など残されてはいない。
最強たるは我なのだと自身を鼓舞した彼は、未だ直立不動の姿勢でこちらをじっと見つめる青年に向けてその両掌を翳した。

「――喰らえッ!!!」

そして放たれるのは、その場の全てを飲み込まんとする質量の闇。
或いはこれによってこの放送用の部屋ごと本部が打ち壊される可能性も高かったが、その程度問題ではない。
今はとにかく、この男を殺し自身こそが全てを統べるに相応しい強さを持つ存在なのだと証明する。

絶えぬ支配欲と勝利への渇望が、暗黒掌波動にこれまでにないほどの破壊力を携えさせる。
この直撃を喰らえば、恐らくはあのライジングアルティメットでさえ無傷では済むまい。
そう確信できるほどの威力とその余波が周囲の戦闘員達を飲み込んでいく圧倒的な光景を前に、カッシスは思わず腹からの哄笑を漏らした。

先ほどは些か驚きこそしたが、この威力を前にしては彼であろうとも立ってはいられまい。







――そんな風に抱いた思いが自分の願望に過ぎなかったという事が分かるのは、それからすぐの事だった。
その視線の先、立ちはだかる全てを飲み込み噛み潰すと思っていたその闇が、とある一点に吸い込まれ消えていく。
まるで元々そこが在るべき場所だったかのような、そんな予想外の光景にカッシスが笑みを絶やす一方で、闇の中から一人の青年がその姿を晒す。

黒い服を着た茶髪の青年……即ち、大ショッカーの首領が、その瞳に先ほどまでとは違う明確な断罪の意思を携えて。

「貴方は私の忠告を無視し、力を行使した……だから私は貴方に、罰を下さねばなりません」

言い終えると同時、青年の殺意がそれまでと桁違いに膨れあがる。
これは不味い、と逃走を促す生存本能が働きすらしなかったのは、青年の瞳を前に感じていたからだろうか。
――これは避けられぬ、天罰に違いないと。

110第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:17:26 ID:UFvFTXtk0

青年が、その掌をカッシスに向けて翳す。
刹那放たれたのは、彼の暗黒掌波動など比べものにならないような、無限の闇だった。
一瞬能力による吸収も試みるが、しかしすぐに理解する。

これはこの身になど収まるはずもない、まさしく超常の事象なのだ、と。

「―――――ぐ……があああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

天を衝くようなカッシスの絶叫が、その場に響き渡る。
押し寄せた闇の奔流が彼の身を突き破り、彼の意識を今にも無に帰さんとその身体の全てを蹂躙する。
朽ち果てていく自身の終わりを悟りながら、しかしカッシスはその視線の端に、未だ機能を停止していなかったカメラの存在を捉えた。

中継が繋いでいる事を示す赤いランプが点灯しているということは、つまりこの状況もまた会場へ放送されていることに他ならない。
なればまだ、希望は残されている。
自分では敵わなかったこの強敵たる首領を前にしてもなお戦意を絶やさぬ者たちに、一縷の望みを託すことが出来る。

その一心だけを抱いて、カッシスワームは今にもその身を焼き付くさんとする闇の中で、死力を尽し思いきり叫んだ。

「――会場に残る……仮面ライダー共……!首輪を解除し、G-1エリアに行け……!そこには、大ショッカーが隠そうとしている……何かが、ある……!」

言葉は絶え絶えで、今にも消え入りそうな声量しか放てない。
だがそれでもその威厳だけは絶やさずに、カッシスは叫び続ける。
忌々しい仮面ライダー共に全てを託さなければならない憎しみに、心を焼かれながらも。

「鍵を開けろ……そして、大ショッカーを……倒せ…………!」

カッシスワームの喉から意味のある言葉が紡がれたのは、それが最後になった。
それから先放たれたのは、激痛と苦悶を訴える一匹の獣の咆哮のみ。
だがそれも、決して長くは続かない。

青年が一つ気合いを込めれば、その手から放たれる闇が一層の勢いを増し、一瞬のうちにカッシスワームの身体を全て喰らい尽してしまったのだから。
絶叫が消え、やがてカッシスごと全てを飲み込んだ闇自体すらも青年の手の紋様に収まるように消えた後、誰もいないその部屋の中で、ただ一人青年は立ち尽くす。
まるでどんな存在であれその手で命を奪ってしまったと言うことを、心から憂うように。

儚げな雰囲気を醸した青年は、そのまま既に息絶えた三島の亡骸へと歩みを進める。
夥しい量の血を垂れ流し青い顔を晒す三島は誰が見ても即死と断ずることの出来るものだったが、しかし青年が諦観を匂わせることは一切なかった。

「……貴方の使命はまだ、終わってはいません。蘇りなさい、私の力で」

三島を慈しむようにも嫌悪するようにも見える複雑な表情を浮かべた後、青年は手の甲を彼の身体に翳しその瞳を閉じた。
閃光が辺りを支配し、どこからともなく吹いた風が青年の身体を揺らす。
突如として持ち上がる三島の遺体、そして開く青年の眼。

ただその一瞬、閃光が全てを覆い尽くしたほんの一瞬の間に、三島は既に自力で立ち上がっていた。
荒く呼吸をし、三島は先ほどカッシスに貫かれたはずの胸の刺し傷を見やる。
だがそこにはもう、裂傷は愚か治癒を経たと思えるような傷跡も残されていない。

ただ元々彼の身体がそうであったような、傷一つない肉体がそこにあるだけだった。
首領の類い希なる力で為された奇跡を他ならぬ自身の身体で体験して、三島は思わずその膝を地に着く。
加賀美陸にやったそれとは全く異なる、心からの忠誠、死者蘇生という奇跡への感謝。

それは、特殊な技術など小細工を弄しない、文字通りの神の御業を体感したことで、生前から感情の薄かった三島の中に、初めて信仰という思いが生まれた瞬間だった。
だが自身に跪く三島には目もくれず、青年は未だ辛うじて稼働していたカメラを見つめる。
そのまま少しの間、ただそのレンズを眺めて……そこで、放送は終わった。

111第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:19:39 ID:UFvFTXtk0




「首領!」

放送の終了と同時、異常事態に遅れて駆けつけた死神博士が、首領の元へと駆け寄ろうとする。
だがその手が、彼の元へ届くことはない。
死神が彼の元へその足を届かせるより早く、首領はその瞳をゆっくりと閉じ、その身を倒しながら一瞬で虚空へと溶けてしまったのだから。

「なっ……!?」

今この瞬間まで目の前にいたはずの首領が消え失せたことに、三島と死神が目を見開く。
まさか今の戦いと三島の蘇生で、全ての力を使い果たしてしまったというのか。
そんな驚愕に染まりわなわなと震える彼らの動揺を止めたのは、その場に響いた一人の女の声だった。

「案ずるな、首領は未だ完全に復活してはいない。そんな状況で力を行使したツケが来ただけだ」

「首領代行……!」

見れば、そこにあったのは首領代行として最も首領の事情に精通するバルバの姿。
慌ててそちらに跪き直す死神には一瞥をもくれることなく、彼女はその足を崩壊した室内へと進めていく。

「最も、不完全な状態でも常軌を逸した力を行使することは出来る。今貴様の命を、冥府から呼び戻したように」

「……この身に余る幸福です。この期待には、必ず」

三島の目の前で立ち止まったバルバに対し、三島は一層深くその頭を垂れる。
まさしくそれは、本心からの言葉と信仰。
もう彼の中にZECTへのそれのような離反への野心が残されていないだろうと確信して、バルバは再びその足を進めた。

「首領の完全なる復活の時も近い。このゲゲルも……もうじき終わる」

誰にともなくそう告げて、彼女は緩く振り返る。
彼女が向けた視線の先、確かに今この瞬間まであったはずの人影は、まるで逃げるようにその場を後にする。
その存在の正体など、詮索するつもりもない。

例え内部で誰か幹部が首領の目的とは異なる意思や野望を抱いているのだとしても、そんなことは些末なことだ。
あの予想を覆すような進化を遂げたカッシスワームですら、首領には遠く及ばない。
であれば今は内部反乱の恐れを抱くよりまず世界をかけた殺し合いの行く末を見届けるべき。

仮面ライダーとグロンギの王。
そのどちらが最後に立つに相応しい者となるのか。
彼らは果たして、あの首領にすら届きうるのか。

観測者たるバルバの瞳は、揺らぐことなくその結末を見定めようとしていた。



――そして同時、バルバの視線から逃れるようにしてその部屋を後にした白服を纏う女……ネオンウルスランドも、迷い無くその足を進める。
彼女は手元のストップウォッチを一瞥し、それからすぐにまた歩き始める。
財団Xの命により派遣され、大ショッカーへの協力という形で幹部となった彼女にとって、この殺し合いでの重要事項は結末よりもその課程だ。

財団が行おうとしている計画のためにも、出来るだけ多くの実地データを得ることが彼女の使命であり、義務なのである。
ゲゲル……つまりは殺し合いの終わりも近い。
もう悠長にしていられる時間も無いと、ウルスランドはどこかへ向けて歩き始めた。

112第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:22:51 ID:UFvFTXtk0





カツリ、カツリと足音を立てて、花形は薄暗い廊下を歩いて行く。
その足取りは、先ほど放送を担当するという大義を成し遂げたとは思えないほど重く、そして苦悩に満ちていた。
しかしそれも当然か。彼の目的は決して、この殺し合いの成就ではない。

故にその思考を満たすのは、先ほどその目に焼き付けた信じがたい超常へのただ一つの懸念だけだったのだから。

(あれが、首領の力……か)

それは、あのカッシスワームディアボリウスすら打倒した首領の圧倒的な力について。
予てよりとある世界を創造したとは聞いていたが、まさかあれほどまでとは。
オルフェノクの王と互角に戦ったあの怪人をまるで手玉に取るようなあの力の強大さに、花形は戦慄を禁じ得ない。

だがここで、一つの疑問が浮かぶ。
何故自身の組織の長が背反者を容易く打ち破ったという事象に、幹部たる花形がこうまで苦悩しているのか。
だがその実、理由は単純明快だ。花形もまた、首領の為そうとしている世界の選定を是とはしない存在である……ただそれだけのこと。

元々花形は、この殺し合いの行き先など左右出来るような立場にはない。
ただ全ての世界から幹部を見繕うという大ショッカーの方針によって無理矢理蘇生させられ、協力させられているだけだ。
断るという手も考えなくはなかったが、代わりに村上などの残忍な存在が幹部に加わる可能性を考えれば、幹部の立場を退くという道は花形には残されていなかったのである。

最もただ蘇っただけで殺し合いに消極的な姿勢を続けていられたかと言われれば、その答えは否だ。
先の放送の後に会場に送り込まれたオルフェノクの王の存在が、まさしくその証拠。
花形は自身が幹部であり続ける為に戦力として王の存在を大ショッカーに伝え、そして財団Xにその蘇生を依頼した。

最も花形からすれば王もまた滅びるべき種の頂点に座するだけの無意味な存在でしかなく、特別な思い入れもない空っぽの器に過ぎない。
そんな存在を前にこの過酷な戦場を生き抜いてきた仮面ライダーが負けるはずなどないと、花形は半ば確信していたのである。
事実、花形の考え通り、王はスコアを上げることもないまま呆気なく仮面ライダーらに敗れた。

つまりは皮肉にも会場で村上峡児がその死を前に絶望したのと真逆に、花形はその死を当然のものとして享受し歓喜したのである。
過度な進化に絶えられぬオルフェノクは、人間を前に滅びる運命にある。
かつて、力に呑まれ心を失う多くの同胞らの姿を見て絶望した花形が行き着いたその結論は、最早揺るがぬものとなった。

いや、というより正しくはオルフェノクに限らず、人間に害する数多の世界に存在する敵は、余すところなく滅びるべきなのだ。
その力に呑まれ悪戯に誰かを傷つける事しか出来ない種族など、到底生きている価値はない。
故にこそそんな有象無象を集めた大ショッカーもまた滅びるべきだと、花形はそう考えていた。

故に言ってしまえば、花形が乃木を勧誘したのもまた、彼と共に共謀して大ショッカーを内側から滅ぼす為に過ぎなかったのである。
とはいえあの状況で花形が加勢したとしてそのまま大ショッカーが瓦解すると考えていたかと問われれば、それは否。
実際には、大ショッカーの真の実力を見定めるために乃木を捨て石にするつもりで使ったというのが、正直なところだった。

だがその甲斐あって、彼の犠牲は決して無駄ではなかったと花形は思う。
首領は神にも等しい力を持つとは言われていたが、まさかあそこまでとは。
圧倒的なまでの首領の力を目の当たりにした彼の思考がその打倒へ向かうのは、半ば当然だった。

(オルフェノクの王は、王を守る為のベルトによって討ち取られた。それなら首領は……)

首領を討ち取れるだけの存在に、思いを馳せる。
話に聞く限り、彼が元々居たのは『アギトの世界』と呼ばれる世界だ。
恐らくはアギト、というのがその世界の異能の代表であり、首領の対となる存在だったのだろう。

113第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:25:21 ID:UFvFTXtk0

だがその力を宿す者は一人残らず死してしまった。
それにその力を内包しうる世界の破壊者もまた、アギトの力の継承には至っていない。
言ってしまえばライダーズギアと違ってその個人個人に由来するのだろうアギトの力は、既に失われてしまったと言うことだ。

少なくとも、この会場の中においては。

(アギトは、人間の進化の可能性……と言ったか。それが首領に対する切り札になり得る上、もう滅びてしまったとは……皮肉なものだ)

思わず悲観に暮れて、彼方を見上げ溜息をつく。
ともかく、アギトに関しては考えるだけ無駄だ。
今は無い物ねだりではなく、それに代替しうるような首領への対抗手段を講じなければ。

そんな風に思考を切り替えつつ、また歩みを進めようとした花形の足を止めたのは、闇の中から降りかかった一つの声だった。

「待ちな、そこのアンタ」

背後からの声に、花形はゆっくりと振り返る。
いつでも反撃できるようオルフェノクへの変身体勢は整えながら振り返ったその瞳が映したのは、毛皮で出来た上着を羽織る時代錯誤な格好の男の姿。
何故か自身を前に口角を上げる彼の姿に、しかし敵意は見受けられない。

どうやら言葉もなしに襲うという訳ではないらしいと、花形もまた歩き始める対話の意思を見せるために彼の呼びかけに応えた。

「……君は?」

「俺はカブキ。アンタと同じ、大ショッカーの幹部だ」

時代錯誤な風体の男は、カブキと名乗った。
言われてみればその口調もどこか時代劇風というか、どことなく歌舞伎者のように気取っているように聞こえる。
だが大真面目なその様子を見ると、或いは彼はそっくりそのまま遙か昔から呼び出されてきた存在なのかも知れない。

まぁ彼の素性がどうであれそれを突き詰める暇もないと、花形は様々な疑問を飲み込んでカブキに向き直る。

「それで、私に何の用だ」

「いや、そんな大した用じゃねぇさ。さっきの放送の労いついでに、ちょっとアンタと話そうと思ってよ」

「……私と?」

大ショッカー内部において、幹部の中でもあまり存在感を放っていないはずの自分と、わざわざ話したいとは。
様々な可能性に思考を巡らせ怪訝な表情を浮かべた花形に、カブキはしかしハンと笑って見せた。

「アンタ、何でも聞くところによれば、孤児院って奴をやってるらしいじゃねぇか。身寄りのないガキ共を集めて、保護してるって」

「……それがどうした」

思いがけぬ角度から始まった会話に、花形は警戒を緩めることはしない。
かつて花形がオルフェノクの王の依り代を探すために開いた孤児院、流星塾。
懐かしくもあり、花形自身の逃れ得ぬ罪を自覚させる存在でもあるそれを想起させるカブキの語り口に、花形はあまりいい顔はしなかった。

だがまともに取り合おうとしない花形を前にしてもなお、カブキの調子が崩れることはない。
再び調子良く鼻で笑って、花形に背を向けるようにくるりと翻った。

「……俺は、人間が嫌いだ」

拳を握りしめたカブキの声は、それまでの気風からは幾らか違っていた。
どこか心中に後ろ暗いものを匂わせる、底知れぬ声音。
花形からはカブキの表情を見ることは出来なかったが、それでも彼の顔が明るくないことは背中越しでも見て取れた。

114第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:27:27 ID:UFvFTXtk0

「奴らは俺が鬼ってだけでどれだけ人を助けようと、この身を犠牲に人に尽そうと、容赦なく差別して見下しやがる。薄汚ぇバケモノはどっちだってんだ」

カブキが、拳を握る。
絶えぬ怒りと憎しみを秘めたその様相に思わず彼の境遇を思う花形に対して、カブキはふと先ほどまでのような笑みを携えて振り返った。

「……けど、ガキ共は違ぇ。あいつらは差別なんて知らねぇ真っ白なキャンパスだ。大人共とは丸っきり違ぇ、純粋な目をしてやがる」

先ほどまでの憎悪を滲ませる声音から一転して、子供について語るカブキの瞳はキラキラと輝いていた。
恐らくは彼の中で、それは一つの真理なのだろう。
子供がいずれ彼の言う差別に塗れた大人になるとしても、そうなるまでの子供達への愛は両立するものなのだ。

「アンタも、その口だろ?差別に塗れた人間共に呆れて、ガキ共だけを集めて育ててた……違うか?」

続いたカブキの言葉と彼の様子を前に、花形は彼が自分に話しかけてきた理由を察する。
確かにカブキの言う通り、かつて自分もただ利用するための道具として集めたはずの流星塾の子供達の純粋な心に胸打たれ、オルフェノクの永劫を諦めた。
成る程つまり彼は、子供達の素晴らしさを知る自分とその尊さを共有したいという一心で、こうして声をかけたに違いない。

だが、彼の言葉を聞いた花形の心は、酷く凍えきっていた。
少なくともカブキと子供に関する価値観を共有する気は彼の中から毛頭消え失せていたといっても過言ではない。
花形にとっての流星塾の子供達は、一人一人が掛け替えのない息子であり娘であり、決して自分の異形を認めてくれる都合の良い存在などではないのだから。

どころか言ってしまえば、寧ろその逆。
オルフェノクであるという事をひた隠しにしてきた自分など、彼ら彼女らの親たり得るはずがない。
ただ私欲の為だけに子供達を利用した自分の存在が、彼らに父として敬われて良いはずがないのだから。

「……答える気はない」

少ない交流の中で、しかし間違いなくカブキとは相容れないと確信した花形は、それだけ言い残してその場を後にしようとする。
無論それでカブキが満足しないのも、当然のことではあるのだが。

「待てよ、そうつれねぇこと言うなって。ここの幹部連中は皆変わった奴ばっかだろ?だから――」

「――お前に言われたくはないと思うがな」

カブキの言葉を遮るようにして、その場に新たな声が降る。
低く感情を伴わない無機質なその声の主は、僅かな嘲笑を携えながらやがて闇の中から姿を現す。
生気を感じさせない青白い顔に、頭蓋骨を鏤めた異様な服装を纏った男は、手の中に独楽を遊ばせながら花形らの前でゆっくりと立ち止まった。

「アンタ、確か死郎っつったか。幽霊列車とか言う大層な代物を操れるって聞いたぜ」

「ほう……貴様、随分他の幹部の事情に詳しいらしいな。何が目的だ?」

死郎と呼ばれた男は、手で回り続ける独楽越しにカブキを見やる。
だがあくまでその視線が捉えているのは独楽の動きで、カブキの事はまさしく片手間というところか。
だがそんな挑発にも動じず、カブキは平素の調子で鼻頭を擦った。

「ヘッ、別に目的なんざ何もねぇよ。他の連中に比べりゃ話が合いそうな奴らの事は少し知っておこうかってだけだ。アンタと俺は、生まれた年も近ぇだろ?」

「俺とお前を一緒にするな……俺には果たさねばならん目的がある。生まれた年など、もう何の意味もない」

呆れたような口調で吐き捨てた死郎は、それきり興味を失ったように背を翻す。
実際のカブキの心がどうであれ、それすらもどうでもいいと言うことなのだろう。
だがそんな調子にムッとして、カブキは意地悪っぽく笑って口を開いた。

「――目的ってのはソラって女の事か?」

115第四回放送 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:28:51 ID:UFvFTXtk0

その名前を耳にして、死郎の足がピタリと止まる。
狙い通りだと言うようにカブキは一つ鼻で笑ってそのまま続けた。

「正直一人の女にゾッコンってのがどんな気持ちだか俺には分かんねぇけどよ。云百年もかけるぐれぇだから相当の上玉なんだろ?」

カブキの言葉を聞き終えるより早く、死郎は翻りその襟に掴みかかる。
余裕綽々で死郎を見上げるカブキに比べて、彼の表情はまさしく怒り心頭。
それまでの生気の欠片も見られない幽鬼のような彼からは想像も出来ない烈火の如く怒りが、その全身に満ちあふれていた。

「……それ以上俺とソラについて無駄口を叩けば殺す。お前も、ソラを泣かせたくはないだろう」

鬼気迫る表情でそれだけ言い残して、死郎はそのまま闇の中に消えていく。
その背中を見届けながら、カブキは乱れた襟を正して振り返る。

「へっ、たくここの幹部連中はコミュニケーション能力がねぇ奴ばっかだ――」

だが、つい先ほどまで背後にいたはずの花形の姿は、既にそこにはない。
いつの間にか一人取り残されていた事に気付いたカブキは大きな溜息を一つ吐いて、自身もまたその場を後にした。





カブキや死郎らから離れ、ようやく一人になれた花形はふとその懐から一枚の写真を取り出す。
在りし日の過去、流星塾生の子供達と撮った一枚の写真。
何度も肺に塗れた手で握りしめた為に色褪せてしまった、しかし花形にとっては命にも代えがたい宝物。

いつものように自身の身体から漏れ出した灰の汚れを払い、彼はそこに写る子供達の笑顔一つ一つに目を移していく。
穏やかな笑みを浮かべていたその表情は、しかしやがて並んで座る二人の顔を目にして歪む。
真理と雅人。この殺し合いに巻き込まれ、死んでしまった愛しき我が子たち。

出来ればその死を妨げてやりたかったのに、それは叶わなかった。
特に、真理の誰よりも美しいあの笑顔がもう二度と誰にも向けられないと思うと、未だに胸から込み上げてくる感情を我慢出来なくなってしまう。
震える手と込み上げる衝動を抑えつつ、花形の瞳は写真の隅で無垢な笑みを浮かべる一人の少年の顔を、優しく撫でた。

「修二……」

漏れた声は、いよいよ世界の命運を担う最後の一人となってしまった息子へ。
様々な奇跡が重なったとは言えオルフェノクの王さえ打倒して見せた彼は果たして、先の放送での自分を見て何を思うのか。
このまま彼が生き残り、そして自身の前に立った時、自分は彼に何から伝えればいいのか。

写真を握る手をゆっくりと垂らした花形の袖からは、残り少ない彼の命を示すように灰がこぼれ落ちていた。

【乃木怜治(角なし) GAME OVER】

※主催陣営に花形@仮面ライダー555、カブキ@仮面ライダー響鬼、死郎@仮面ライダー電王、ネオンウルスランド@仮面ライダーWが存在しています。
※オーヴァーロード・テオスが復活しつつあります。完全復活までどれくらいかかるのかは不明です。

116 ◆JOKER/0r3g:2020/02/11(火) 12:30:04 ID:UFvFTXtk0
というわけで、以上で投下終了です。
今回から出来る限り一人リレーで完結まで頑張ろうと思いますので、よろしくお願いします。
それではご意見ご感想、ご指摘などございましたらよろしくお願いいたします。

117名無しさん:2020/02/11(火) 12:39:39 ID:ZOqJo5Ew0
投下乙です。
乃木がまさかの裏切り……と思いきや、さらにまさかの展開。即堕ち2コマみたいですね。

意外な幹部も明らかになり、大ショッカー内部でもややきな臭い感じがしてきましたが……果たして花形さんと三原は再会できるのでしょうか?
この放送を見た反応も楽しみになりました。次回も期待してます!

118名無しさん:2020/02/16(日) 20:54:52 ID:YUW1P/zo0
投下乙です
ワームの王として暴れてきた乃木を瞬殺するテオスやばい…オーマジオウを呼ぼう(無茶ぶり)
花形、カブキ、死郎と各ライダー世界からの主催陣もこれで揃ったかな?

119 ◆LuuKRM2PEg:2020/06/07(日) 11:34:20 ID:sLE1yeGw0
仮面ライダーゼロワンや魔進戦隊キラメイジャーの放送再開を祝いながら、久しぶりに支援イラストを投下させて頂きます。

ttps://dotup.org/uploda/dotup.org2168103.jpg_j07Svnh3aAXCjZXzZTV6/dotup.org2168103.jpg
今回は◆MiRaiTlHUI氏による第102話『G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド』にて、ハイパーカブトとなった擬態天道がガドルとの決着をつけるシーンをイメージしたイラストになります。
散ってしまったダークカブトゼクターたちの想い、そして擬態天道に力を貸してくれたみんなの想いと共に、全力のハイパーライダーキックをガドルに放ったこの話は今でも印象深いです。
最近は色々と大変な出来事が多いですが、皆様も健康管理には注意してください。

120 ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:54:58 ID:HSuy8Ico0
新作ライダーも発表されたので投下します。

121Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:56:02 ID:HSuy8Ico0

その声を聞いて久しぶりに感じたのは、意外にも安堵だった。
記憶と寸分違わない穏やかで優しく、それでいて自然と背筋が伸びるような威厳を伴った不思議な声。
耳にこびり付いたそれは修二がずっと求めていたもので、だからこそこんな凄惨な状況で彼が話しているのが不思議で仕方なかった。

何度も何度も瞬きを繰り返しながら、修二は画面越しに話し続ける父の姿を見やる。
いつもと同じ服装、いつもと同じ視線。
けれど父が紡ぐ言葉だけは、決して修二の記憶のそれとは一致することはない。

困惑し、何度も内容を理解しようとする修二を待つことなく父の言葉は紡がれ続ける。
待ってくれ、待ってくれよ父さん。
心の中で呼びかけても、父は修二を待ってはくれない。彼の気持ちに気付いてはくれない。

そしていつの間にか、修二が自身の中の感情を整理し終わるより早く、放送は終わった。
驚愕の内容を少しでも分かち合おうと、周囲が喧噪に呑まれ始める。
しかしそんな光景を前にしてもなお、修二はただ一人だけ違う世界にいるような心地で、ただ父の言葉を思い返していた。





一台のトレーラーが、病院という目的地への到達を受けて勢いよく停車する。
だが通常停車後に消灯するだろうヘッドライトの明かりが未だ眩くその前方を照らし続けているのは、万が一の状況を考えての判断なのだろう。
抜け目ないな、と士は思う。

遠方から偵察を行っていたために既にこの到着は承知していた為、病院内の仲間たちは全員トレーラー内からも一瞥できる場所に立ち並んでいる。
それでもなおまだ隠し球の存在を危惧し、いつでも逃げられる状況に自分を置いているそんな運転手の存在を、疑り深いと思いこそすれ不快に思うこともなかった。

「……ハッ、俺らのことも敵扱いか」

だがそうして相手の抜け目なさを好意的に受け止めることが出来ない仲間も、隣に一人。
分かりやすく苛立った様子で眉を顰める帽子の男、翔太郎を一瞥して士は小さく笑った。
以前共に戦った時にも少し感じたが、やはり彼は感情を隠しておけない性質(タチ)らしい。

続けて翔太郎の隣にいる一条にも視線を移す。
彼にはいずれ、話さなくてはならない。
東病院での戦いで自分が犯した、許されざる罪について。

幾度となく過ぎった忌むべき記憶のフラッシュバックに士が顔をしかめるのと同時、Gトレーラーの助手席から一人の影が舞い降りる。
大凡100mほど先でゆっくりと立ち上がる青年の姿に士が既視感を覚えるのと、今まで斜に構えていた翔太郎が駆け出すのはほぼ同時だった。

「フィリップ!」

隠そうともしない弾んだ声で、翔太郎は唯一人の相棒の名前を呼ぶ。
それを受け少し呆れたような、しかし歓喜を含んだ様子で髪をかき上げたフィリップもまた翔太郎に向け歩を進めていく。
こうして、この24時間余り心の底から幾度も再会を望みあった二人の探偵の邂逅は、意外に呆気なく果たされたのだった。

「フィリップ、お前無事だったんだな……」

「君の方こそ、僕抜きでよくここまで生き残れたねぇ?」

「ハッ、言うじゃねえか」

フィリップの軽口を小さく鼻で笑うように息を吐き出して、翔太郎は小さく小突くように彼の胸を突いた。
まるで相手に直接触れられることを確かめるようなその動作に、フィリップも嫌悪を示す様子もない。
悪戯っぽく笑い合ってから、フィリップはふと徐ろに懐へと手を伸ばした。

いつでもそこから取り出せるようにしてあったのだろう。
さして苦労する様子もなく、彼は目当ての代物を探し当てそのまま翔太郎へと差し出していた。

122Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:56:37 ID:HSuy8Ico0

「翔太郎、これを」

どこか仰々しく差し出されたそのドライバーを、翔太郎が忘れるはずもない。
翔太郎とフィリップの絆の証であり、愛する街を守り戦い続ける為に得た彼らの力の象徴――ダブルドライバー。
サンキュ、と小さく礼を呟きながら受け取って、翔太郎はこれでようやく本領発揮だとばかりに帽子を被り直した。

「……久しぶりだな、ジョーカーの男」

だが瞬間、相棒との再会に沸く彼の熱を冷ますような、涼やかな声がその場に響く。
その声の主を、翔太郎が忘れるはずもない。
木場という善良な青年を躊躇なく殺しておきながら、何食わぬ顔で自分と行動を共にした面の皮の厚い男。

彼こそは自身の因縁の存在、相川始その人であったのだから。

「相川さん……いや、こう呼んだ方がいいか?仮面ライダーカリス、そして……ジョーカーアンデッド」

翔太郎の言葉を受けて、始の眉がピクリと動く。
だがそれは動揺と呼ぶにはあまりに薄い反応で、彼にとっては元より正体がばれていることも織り込み済みだったのだろうと思えた。
だがそれならそれで構わないとばかりに、翔太郎は矢継ぎ早に続ける。

「まさか、あんたが木場さんを殺した張本人だったなんてな。気付かなかったぜ」

「ならどうする?また俺と戦うか?」

お手上げだ、のジェスチャーを示すように腕を広げた翔太郎に対し、始は取り合う様子もなく懐からハートのAのカードを取り出す。
それはまさしく、あの時木場を殺した仮面ライダーが用いていたのと同じ規格の、同じハートスートのカード。
分かっていたはずなのに、改めて本人から示された彼の正体に、翔太郎はその拳を握り締め肩を怒らせる。

「残念だがあんときと同じ結果にはならねぇぜ?今の俺には相棒もいるからな」

「なら……試してみろ」

ダブルドライバーを握る手に、思わず力が籠る。
木場を殺した憎むべきあの黒い仮面ライダー。
それが目の前の男であるのが確かなら、木場の無念を晴らすのが自分の仕事ではないのか。

見知らぬ異世界の住人である自分を庇い命を散らした、あの心優しき異形の分まで、正義を果たすために。
そんな青臭い義憤に駆られて、彼はドライバーを胸の高さに掲げて……しかしそこから自身の腰に装着することなく、その腕を力なく垂らした。

「……やめだ」

「何?」

始の困惑を前に、しかし翔太郎は罰が悪そうに視線を逸らす。
怖気づいたようにも見えるその挙動に覚えた苛立ちを隠そうともせず、始はその瞳を鋭く尖らせる。

「木場という男の仇はどうした。お前の怒りはその程度か」

安い挑発だ、と始自身分かっている。
だがそれでもここで翔太郎が敗北の可能性に怯え折れるくらいなら、この程度は幾らでも吐いてやるつもりだった。
だが翔太郎は動じない。ただ心苦し気に拳を握りしめて、今度は始に対し向き直る。

「俺は正直、木場さんを殺したあんたのことを……そう簡単に許すことは出来ねぇ」

「なら――」

「だけど、それ以上に俺は……あんたの事を信じてぇ」

続けられた翔太郎の言葉に、始は思わず顔を上げる。
思わず衝撃に染まったその表情にしかし躊躇いもせず、翔太郎は続けた。

123Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:57:07 ID:HSuy8Ico0

「あんた俺に言ったろ、世界が崩壊する運命を変えて見せろって。あんたが本当に悪人なら、あんなこと言う必要ねぇはずだ、違うか?」

翔太郎の問いに、始は答えない。
それを答える義理もないとばかりに沈黙を貫いて、しかしその間こそが、翔太郎にとっては何よりの答えに思えた。

「それに木場さんは、敵かもしれねぇ俺のことを心から案じてくれた。そんなあの人が、例え自分を殺した奴だとしても、今のあんたの死を望むわけねぇって……そう思っちまうんだよ」

告げてから翔太郎の表情が、僅かに歪む。
死者の言葉を自分に都合よく代弁することに、心苦しさを感じているのだろう。
だが、それを撤回する様子は見られない。

例え綺麗事だとしても、自分の信じたいものを信じぬく。
それが彼という人間の在り方であり、魅力であり、同時に愛すべき欠点でもあった。

「……好きにしろ」

翔太郎の言葉を受け止めて、始はゆっくりと病院に向け歩みを進めていく。
その背中は変わらず飄々としているようで、しかしどことなく憑き物が落ちたようでもある。
果たして彼にとってこの許しが救いであればいいが、と願うように見送った彼の隣から、まるで指定席に収まるようにフィリップが顔を覗かせた。

「……ハーフボイルド」

「うっせぇ」

言葉少なに交わした会話は、しかし彼らにはもうそれだけで全てが伝わるような心地だった。
だが居心地が悪そうに帽子を被り直し視線を反らした翔太郎に対して、フィリップが続けたのは意外にも安堵を含んだ声だった。

「いや、安心したよ翔太郎。君が、君のままでいてくれて」

「え?」

フィリップの言葉の意味を捉えきれず、彼に向け振り向いた翔太郎はしかし、すぐに彼の意を汲むこととなる。
その視線の先、虚空を見つめるフィリップの瞳が、あまりにも悲しみに暮れていた為だ。

「……そうだな」

全てを察したように呟いた翔太郎を横目に見ながら、フィリップはどうしてもその胸にこの状況に呑まれ変わり果ててしまった女性のことを思い浮かべる。
鳴海亜樹子。葦原涼から告げられた彼女の変貌の末路は、彼にとってあまりにも信じがたい事実だった。
だがそれでも彼が嘘をついていると糾弾する気になれなかったのは、自分自身この場で再開した彼女にどことなく違和感を覚えていたからかもしれない。

彼女の全てを知ったつもりになって、照井という心の支えを失った彼女の心に触れるのが怖くて、フィリップはその違和感を見ないようにした。
その結果が、矢車と乃木を彼女に殺させてしまうという最悪のものになるとも知らずに。
愛すべき仲間の、それもかつて自分が生み出したガイアメモリによる暴走の果ての死は、フィリップの心に深い傷を残していた。

故に彼は始と対峙した翔太郎の決断に、一切の口を挟まなかったのである。
彼がまだ自分の信じる半人前であるのかどうか、それを見極めたいという、その一心で。
だがこれで、その杞憂も晴れた。

今は亡き彼女の分まで、街のため戦わなくてはならない。
もちろん彼女が最終的に選んでしまった修羅の道ではなく、他者と手を取り合い共に進む道を、歩む形で。

「おい翔太郎!久しぶり!」

重く苦しい決意を固めた二人のもとへ、場違いなほど能天気な声が響く。
振り向けば、茶髪に青いジャンパーを着た人懐っこそうな笑みを浮かべた城戸真司の顔がそこにあった。
全く良い意味で、この男はやはり馬鹿なのだなと苦笑を浮かべながら、翔太郎は肩から一気に力が抜ける心地だった。

124Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:57:49 ID:HSuy8Ico0

「なんだよ、俺の顔になんかついてる?」

「いいや、助かったよ。それよりお前以外にはその車ん中には乗ってないのか?」

「いや、三原が気絶してる小野寺って奴を見てる」

「小野寺……か」

真司から飛び出した名前に、翔太郎は思わず病院の前の一条に視線を向ける。
彼はこちらのやり取りが気になるのか、或いはトレーラー内の残り人数が気になるのか不安げな瞳をこちらに向けていた。
果たしてあれほど力を渇望した理由の一つでもある小野寺との再会に、彼はどう振舞うのだろうか。

そんなことは考えても仕方ないとわかっていても、翔太郎にはどうもそれが心掛かりに感じられた。

「小野寺さん!まだ歩いちゃダメだって!」

ふと、トレーラーの方向から叫び声が聞こえる。
三原の声だ、と瞬時に理解すると同時、彼が呼び掛けている人物が幽鬼のような足取りでこちらに近づいてくる視線の先の青年だと気づく。
これが小野寺ユウスケか、と知っているはずなのに身構えてしまったのは、ひとえにその身体に刻まれた隠しようのない痛ましい傷の数々故だ。

こんな状況で人は歩けるものなのか、とさえ感じてしまうその満身創痍の風体で、ユウスケはゆっくりとしかし確実にその足を進めていく。
だがそんな惨状を補い余りあるほどに彼の瞳に宿る命の炎は燃え滾っていて、そのギャップが何より彼に今の異様な雰囲気を齎していた。

「小野寺君!」

背後から、一条が彼を呼ぶ声が響く。
刹那、それを待ち望んでいたように表情を明るく一変させたユウスケは、そのまま一条のもとへ足を進めようとして――。
――そこで思い切り、前のめりに倒れこんだ。





―――――どうしたの、もう一人のクウガ。

―――――もう終わりなの?

―――――もっともっと強くなって、もっと僕を笑顔にしてよ。

―――――待ってるよ。

「……ッ!」

誰かに気安く肩を撫でられるようなそんな悪寒を全身に感じて、ユウスケは飛び上がるように身を起こした。
全身はうだるほど熱いようでもあり、一方で凍えるほど寒いようにも感じるし、頭の中は絶えずキンキンと耳鳴りのような音が響いている。
端的に言って最悪の目覚めにそれでも彼が顔を歪めないのは、今見た悪夢が自分の妄想に過ぎないとは到底思えなかったからだ。

自身を二度も究極の闇に染めた忌むべき悪魔、ン・ダグバ・ゼバ。
彼はもう死んだと頭では理解しているはずなのに、どうしてもその考えを受け入れられない自分がいる。
これは自分のトラウマが生み出した強迫観念に過ぎないのか、それともアマダムが放つ危険信号の一種なのか。

どちらにせよどうしても自分は、ダグバが未だ生きていて自分を殺しに来るというその思考から逃れられないでいる。

それこそそう、今も自身の肩にポンと手を乗せて――。

125Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:58:15 ID:HSuy8Ico0

「うわっ!」

まさに自分の中に浮かんだ考えに追従するように肩に置かれた手を、ユウスケは勢いよく撥ね退ける。
だがその先にあったのは彼が恐れを抱いた白い悪魔のそれではなく。
こちらを案じるような表情を浮かべた、一条薫が伸ばした手だった。

「一条さん……」

「大丈夫か、小野寺君」

待ち望んだはずの、一条との再会。
第二回放送前の時は自身の背中の上で今にも死にそうな顔色をしていた彼であるが、今は随分生気が戻ったらしい。
だが、自身の足で立ちベッドに横たわる自分を案じる余裕すらある一条の姿を前にしてもなお、今のユウスケは素直に喜ぶことすら出来なかった。

一条もまた、沈むユウスケを前に何事もないように振舞えるほど器用では無い。
故に必然生まれた重苦しい沈黙の中で、一条は突如意を決したように口を開いた。

「フィリップから聞いたぞ。また、凄まじき戦士になったと」

一条の言葉に、ユウスケは答えない。
そうだ。あれだけ仲間を傷つけておいて、あれだけ皆に迷惑をかけておいて、ダグバを倒すことすら出来なかったくせに。
さっきの戦いでまた自分は、究極の闇にこの身を染めた。

自分の目の前で誰も傷ついてほしくないなんて甘えたことを言って、結局他ならぬ自分が誰かを傷つけてしまうと、わかっていたはずなのに。
あの戦いで死んだ間宮麗奈という女性だって、自分のせいで死んだわけでないと仲間は言ってくれたが、果たして本当にそうだろうか。
もし自分ではなくもっと強い仮面ライダーがあの場にいてくれたら、彼女はまだ生きていたのではないか。

「……君が無事で良かった」

考えるべきではないと分かっているはずなのに無数に去来するそんな思考に苛まれるユウスケを尻目に、一条が紡いだ言葉はしかし意外にも安堵だけを示すものだった。
口調や声音はどうであれ、自身が暴走したという事実を咎めるだろうとばかり思っていた一条が放った赦しとも言える言葉は、ユウスケに確かな驚愕を齎していた。
そして、そんな彼の驚きは一条にも容易く伝わっていたのだろう。

少し言葉を選ぶように逡巡してから、一条は続けた。

「勿論俺も、理想を言うなら君が凄まじき戦士にならなくて済むのが一番だと思っている。
だが、第0号……ダグバを始めとして、この場にはあの姿にならなくては対抗できない相手が多々いることも、もう承知しているからな」

それは、一条なりに多くの妥協を積み重ねた結果なのだろう。
中途半端をしない一条が、かつて五代がクウガとして未確認との戦いに参加することを認めたのと同じように、ユウスケにその覚悟があると認めたのかもしれない。
ダグバの変身したブレイドとの戦いで大敗を喫してから、一条の中にもまた心境の変化があったのだろうか。

そんな風にユウスケが一条の心の内を慮る一方で、当の一条はだが、と言葉を続けた。

「だがそれはあくまで、最悪の可能性として、だ。俺はずっと、君が究極の闇にならなくて済むように……少なくとも君に守られるだけの俺じゃなく、共に戦える力を得たいとそう考えていた、だから――」

勿体ぶるようにそこまで告げて、一条は懐からストップウォッチのような機器と一体化したガイアメモリを取り出した。
初めて見る形状のそれにユウスケが困惑を示す中、一条は確たる意思で続ける。

「これは、トライアルメモリというアクセルの強化アタッチメントだ。勿論これがあったからと言って俺があのクウガほど強くなったとは思わないが……しかし少なくとも、もう君に守られるだけの俺じゃないと、そう言い切ることは出来る」

断言した一条の瞳に、迷いはなかった。
事実彼にとって今の言葉に一切の嘘はない。
少なくとも単身でモンスターを打破せしめたこのトライアルの力は、一条が元の世界において五代雄介と並び共に戦う為欲していた力として不足なかった。

もしこの力がこの地に連れてこられる前に手元にあったなら、などとそんなIFを夢想するつもりはない。
ただ照井から受け継ぎ、翔太郎が鍛えてくれた今のアクセルならば、きっと前よりもうまく戦える。
半ば確信にも近い自信を抱いて、一条はユウスケに向けてゆっくりと手を伸ばした。

126Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:58:36 ID:HSuy8Ico0

「だから……小野寺君。もう一度俺と、一緒に戦ってくれ」

揺ぎ無く真っ直ぐに伸びた腕と、その先にある迷いない一条の瞳。
正面から見据えれば射抜かれてしまいそうなそのひたむきさに、ユウスケは思わず顔を背ける。
彼らしくもない不自然な消沈に一条が気付くのと、ユウスケが口を開くのはほぼ同時だった。

「……無理ですよ、もう」

予想していなかった意外な言葉に、一条から驚愕の嗚咽が漏れる。
だがユウスケの口から続けられたのは、更に驚くべき内容だった。

「俺はもう……長くないんです。これ以上クウガとして戦いを続けたら死ぬ。アマダムが、そう警告してくるんです」

「アマダムが……?」

言って一条は、ユウスケの腰あたりを見やる。
当然臨戦態勢ではない今彼の腰に霊石は出現していないが、それでもほぼ反射的に一瞥せずにはいられなかった。

「ブレイドに変身したダグバと戦ったとき、多分アマダムに傷がついたんです。それが戦うたびに広がって……そのたびに『これ以上戦いを続ければ死ぬぞ』って、頭に声がするんです」

「頭に……それが、アマダムからの警告だと?」

問いに頷くユウスケを前に、一条は過去の五代の言葉を思い出す。
未確認生命体42号との戦いの折、深い怒りに駆られた五代は、凄まじき戦士のビジョンを見たと言っていた。
曰くそれは究極の闇にすまいとするアマダムから齎された警告ではないかということだったが、或いはそれに近しい信号を、ユウスケの霊石も発しているのかもしれなかった。

「だが、アマダムが傷ついたとしても、君にはクウガ以外にも戦う術があるだろう」

「ええ、でも分かるんです。このままアマダムの警告を無視し続けたら、俺は死ぬって」

「死……!?」

そんなことを言うな、と咎めようとした一条の脳裏に、かつて友である椿が五代の身体を診察した際の言葉が思い出される。
クウガと未確認の身体の構造は非常に似ていて、凄まじき戦士に覚醒すれば、それこそ肉体的にはその二つは完全に同一のものとなるという、彼の言葉。
それはすなわち霊石の働きによって尋常ならざる力を得ているだけで身体構造そのものはかなり人に近いと言われた未確認と、同じになるということだ。

未確認は戦いの後、霊石から爆発し死に至る。
つまりそれは霊石さえ無事なら生き延びられる彼らにとって、不可避の死を与えるにはそれが最良だと、彼ら自身知っていることに他ならない。
ならば当然、それらと肉体的に同じクウガもまた、アマダムの破壊はそのまま死に繋がることになる。

皮肉にもユウスケより遥かに長くグロンギ相手に苦しい戦いを強いられたからこそ知りえた、霊石に関する知識。
それらから齎される結論の残酷さと現実の非情さに、一条は思わず慰めの言葉すらかける事が出来なくなってしまう。
そして俯いた一条とは反対に自身の定めを悟ったように静かに、ユウスケは口を開く。

「その声を俺は、ずっと……無視してきました。それで誰かを助けられるならって、渡の時も、さっきの戦いの時も。でも……思ったんです、そんな風に俺が出しゃばっても、結局誰も助けられてないって」

「何を言う、君は何度も俺たちを助けてくれたじゃないか。俺だけじゃない、京介君も小沢さんも……君に助けられたんだぞ」

ユウスケの肩を揺すりながら、一条は必死に訴える。
それだけは、彼に否定してほしくなかった。
洗脳された小沢に襲われたあの時、もしも彼と出会えていなければ、少なくとも自分はあの時死んでいた。

127Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:58:54 ID:HSuy8Ico0

或いは照井のように京介を逃す事すら出来ず、無念の中で息絶えていたかもしれないのだ。
それだけではない。牙王の時も、ダグバの時も、彼は足手纏いな自分に代わって仲間を守ってくれた。
本当は背負わなくていい厄介だというのに、それが自分の望みだと、傷つくことすら恐れぬままに。

しかし一条の叱咤を受けても、ユウスケの面持ちはなお暗く、俯き続けていた。

「でも……結局京介君も小沢さんも、俺のせいで死んじゃったじゃないですか」

「君はまだそんなことを――!」

「俺が!」

さしもの一条も、煮え切らぬユウスケを前にいよいよ怒声を上げようかという、しかしその瞬間。
それを遮るように放たれた彼の一条のものより遥かに大きい声が、その場を支配した。
空気が震え、歴戦の刑事である一条の背筋すら強張るようなその中で、ユウスケは一転囁くような声音で続ける。

「……俺が弱いから、ダグバを、キングフォームになる前に倒せなかったから……だから、あの二人は死んだんです。全部、俺のせいなんです……!」

依然として俯いたままのユウスケの拳が、ぐっと強く握りしめられる。
だが一方の一条もまた、今の彼以上に強く、強くその拳に力を込めていた。

「それは、君の本心か。小野寺ユウスケ」

小野寺君、ではなく敢えて“ユウスケ”と一条は呼んだ。
五代と同じその名前で呼ぶことに、果たして今の自分が怒っていると示す以上の意味が含まれているのかどうか。
しかし数秒の間をおいてもなお、ユウスケはその問いに肯定も否定も返すことはなかった。

「……しばらく、頭を冷やせ」

それだけを言い残して、一条はユウスケの病室から廊下に飛び出す。
ただ一人、窓から日光が差し込むその閑静な一本道の中心で、一条は耐え切れぬとばかりにその拳を壁に叩きつけた。
果たして、頭を冷やさねばならぬのは自分の方だ。

ユウスケに言ってやりたかった。
本当はその苦しみは、全て警察官である自分が背負うべきものなのだと。
京介と小沢を救えなかったことだけでなく、ユウスケを究極の闇にしてしまったことだって。

全ては自分が弱いから引き起こされた事なのだ。
民間人である五代をこんな殺し合いに巻き込んで死に追いやったのも、今ユウスケが死に向かいつつあるのも。
トライアルの力を得てもなお、大ショッカーとの戦いを前にユウスケは戦わなくても良いとは言えない自分自身の情けなさも、全て全て。

結局のところ一条は、ユウスケから逃げ出したのだ。
あのままあの場にいればきっと、理不尽に彼を怒鳴りつけずにはいられなかったから。
それこそが自分の弱さ故だと知りつつも、それでもなおあの場には留まっていられなかった。
何故もっとうまくやれないのかと、自己嫌悪が沸く。

究極の闇なんかにならなくても、仲間を頼れば大ショッカーだって倒せるはずだとそう伝えて、彼らしく生きることの後押しをしてやるはずだった。
そんな風に前向きに、あの黒いクウガにならない小野寺ユウスケにも、いやだからこそ意味があるのだと伝えたかった。
だというのに結局自分は、何も変えることが出来ない。

やはり自分ではだめなのかと、押し込めたはずの疑念が頭を擡げる。
ユウスケを立ち直らせるには、自分よりもっと他に適した人間に任せるべきではないのか。
そんな彼らしくもない他力本願を抱いたその時、彼はふといつの間にやら自身の前に立っている人影に気付いた。

「そんなとこで突っ立って、何してる?」

「門矢さん……」

128Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 18:59:12 ID:HSuy8Ico0

いつの間にかその場に突然現れていた男、門矢士は壁に傾れかかるようにして立つ自分を不可解そうに見つめている。
だが、情けないところを見られてしまったと居心地の悪さを感じるよりも、彼ならばユウスケに的確な言葉をかけることが出来るかもしれないと、そんな思いが沸く。
いやむしろ、ユウスケの笑顔を守ると宣言し、共に旅を続けてきた彼を前にしてはやはり、自分など出る幕がなかったに違いない。

不思議と肩の荷が下りるような心地を抱きながら、一条は一礼しつつ病室への道を譲るようにして退こうとする。
だがそうしてこの場から掃けようとした一条を呼び止めたのは、士の呑気にも聞こえる声だった。

「お前確か、一条薫……だったか。ユウスケが世話になったらしいな、礼を言う」

「いえ、自分は何も……」

「謙遜するな、あいつは俺がいないと何をしでかすか分からないからな。アルティメットフォームになったって聞いた時は、流石に驚いたが」

聞き覚えのない単語に一条は生返事しか返せないが、士はそれを意に介す様子もない。
だが、一見すると傍若無人に見えるその振る舞いの裏には、確かにユウスケを気遣う一面が存在していることを一条は見抜いていた。
きっと彼らの間には、深い理解と信頼があるのだろう。

二人のやり取りを直接見たわけでもないのに十分感じられる彼らの絆を目の当たりにして、一条はただただ深く安堵の籠った溜息をついていた。
それに対し、不可解を示した士の目線を前にして、一条は身体ごと彼にしっかりと向き合い直した。

「安心しました。あなたがいればもう、小野寺君は心配なさそうです」

「まぁな」

謙遜することなく、士はその言葉を受け容れる。
だがそんな不遜にも思える彼の態度が、一条は嫌いではなかった。

「俺は、羨ましいですよ。あなたのことが」

だから、だろうか。
信頼できる相手に出会い、そして自分の抱えていた不安を預けて良いと思えた安心感からか、一条は自身の心中を吐き出していた。
ユウスケからずっと聞いていた、頼れる仲間である門矢士。

自分自身、クウガの横に並ぶ男として、彼のように支え合えるほどの信頼感を築けていたら。
幾度となく夢想した理想の関係を築く彼本人に対して、一条は自身の思いを押さえられなくなっていた。

「皆の笑顔を守ろうとする彼自身の笑顔を守る為、共に肩を並べて戦う。五代にも、そんな存在がいれば……いえ、俺自身が、そうなれていれば……そう、思わずにはいられないんです」

かつてユウスケにも吐露した、自分がずっと抱き続けてきた後悔。
ただの冒険野郎に過ぎなかった五代を苦しい戦いの道に引きずり込み頼るしか出来なかった自分。
もし自分に五代の笑顔を守って見せると断言できるだけの強さがあったなら。

「羨ましい、か」

士に言ってもどうしようもないと分かったうえでどうしても漏れた心の声に、士はしかし意外にも己の掌を開き見ていた。
単に感慨だけではないその動作に一条が呆気にとられる中、士は不意に視線をこちらへと戻し、続ける。

「薫。ユウスケのこと以外にもう一つ、お前には言っておかなきゃならないことがあった」

「俺に、ですか?」

訝し気な瞳を向ける一条に対し、士は迷うことなく頷く。
その眼に一切の迷いは見られず、どころかその鋭さは、まさにこちらを見定めんとするかのようだった。

129Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:00:09 ID:HSuy8Ico0

「……五代を殺したのは、俺だ」

「え?」

士の言葉にその場の空気が、凍り付く。
時さえも止まったような錯覚すら覚えるその空間の中で、一条はひたすらに困惑しか示せない。
まさか五代を殺したのがあのユウスケの仲間であり、今目の前にいるあの門矢士だというのか?一体何のために。

なんと問えばどんな答えが返ってくるのか。
あまりにも唐突なその告白に一条が二の句を告げずにいる一方で、士は痺れを切らしたように続けた。

「あいつは地の石の力に操られて、仲間に手をかけようとしていた。だから俺は、あいつの背中に向けて……トリガーを引いた」

ただ事実を述べているだけ、という風に士は淡々と当時の状況を口にする。
刹那ほぼ反射的に、一条の脳裏にその瞬間の光景が再現される。
紅渡が持ち、ユウスケを操ろうとしたあの地の石の力で、望みもしない殺戮に手を染めさせられる五代。

その凶行と彼の心中を思えば思うほどに、一条の胸は熱く、締め付けられるように痛む。
一方で、もし自分がその場にいれば五代が目の前で殺されることなど許しはしなかっただろうとも思う。
もしそうしなければ、誰かの命を五代が奪うことに、なったとしても。

次々に沸き上がる様々な感情に翻弄される一条は、しかしそれでも一つ息を吐き出してその頭を小さく下げた。

「……ありがとうございます、門矢さん。あいつの……五代の最期を、知らせてくれて」

「それだけか?俺は、五代を殺した張本人なんだぞ?」

煽るような士の口調に、さしもの一条もその顔を強張らせる。
仲間を守るため仕方なかったとはいえ、背中から撃ち抜かれた五代のことを思えば、憤りややるせなさを感じないはずがない。
きっと士は、自分を煽ることで敢えてそのやり場のない怒りの受け手になろうとしているのだ。

だから恐らくこの衝動のままに自分が殴り掛かったとしても、士は何も弁明しないだろう。
しかしそこまで分かっていて一条が彼に手を出さないのは、その実彼の人柄が咎めるからでもなく、刑事という職業柄持っている強い理性故からでもない。
彼が手を出さないのは、ただ一つ五代の望みを知っていたからだった。

「確かに、あなたは理性を失った五代を殺したのかもしれない。でも、きっと……それは、あいつの願いでもあったはずです」

「……」

真っ直ぐな一条の瞳に、士は何も言わない。
ただ少しだけその眉をピクリと動かして、興味深そうに彼を眺め見ただけだった。

「あいつは、ずっと気にしていました。自分がもし究極の闇になって、理性を失ってしまったら、どうすればいいのかと」

思い起こされる、様々な五代との会話。
椿にグロンギとの類似性を指摘された時、桜子に究極の闇の伝説を伝えられた時、どちらも五代は言葉ではその危険性を否定して見せた。
だがその言葉と裏腹に、彼は常に究極の闇と化した自分の弱点を探し続けていた。

アマダムを砕けば倒せるというのも元を正せば、椿の話を受けて五代自身がいつもよりずっと真面目なトーンで語った分析だったのである。
故に彼が真に危惧していた聖なる泉が枯れ果てた末のものではない、地の石による自己喪失であったとしても、彼の思いは変わらないはずだと、一条は思う。
すなわち、誰かの笑顔を奪うくらいなら、自分の命を絶ってほしいという、その高潔な自己犠牲の精神は、何も変わらなかったはずだと、そう思うのだ。

「だから……少なくとも、あなたが俺に謝る必要はありません。本当はその仕事も、俺がしなくちゃいけないことだったんですから」

130Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:00:26 ID:HSuy8Ico0

本来彼が背負うべきでない責任を負わせ、自分が戦いに巻き込んでしまった好青年、五代雄介。
その彼が道を踏み外したなら、終わらせるのは自分だったはず。
なればこそ、五代に無念はあったのかもしれないが、その重責を押し付けてしまった士に対し、一条が怒る資格など、あるはずもなかった。

心中で五代への思いを募らせながら、一条はもう一度士に頭を下げる。
もうこれ以上彼をここに留めておいてはいけない。
彼にはこれから、自分の代わりにユウスケを立ち直らせる仕事が残っているのだ。

「待て、一条薫」

そのままその場を後にしようとした一条に対し、士の声が響く。
意外なその声に驚き振り返れば、士はこちらに背を向けたまま、続ける。

「……十分わかってるだろ、お前はあいつのことを」

放たれた言葉が指す意味が、一条にはすぐに飲み込めなかった。
そんな困惑を背中越しに察したのか、士は続ける。

「五代はきっと、お前が思うよりずっとお前のことを頼りにしてたはずだ。自分の笑顔を守るために戦ってくれる相棒として」

「五代が俺を……?何故そんなことが言えるんです?」

死に際の五代と言葉を交わしたとして、しかしその交流はとても短かったはずだ。
しかし士の言い分は確信めいていて、それ以外の答えなどないようにすら錯覚させられる。
それが一層不可解で、一条はらしくなくそんな問いを投げていた。

「俺自身が、お前みたいになれたらと思うからだ」

士の口から発せられた言葉に、一条は耳を疑う。
未だ彼はこちらに背を向けたまま、その声は彼の背中越しにしか聞こえない。
だがそれでも、なぜか一条には士の表情が分かるような気がした。

「俺は結局、ユウスケとは旅を通じてしか関われない。いつか旅が終わり、それぞれの道を行く時が来れば……あいつと俺はもう、二度と出会うことはないだろう」

それを告げる士は、隠しようもないほどに孤独を滲ませていた。
口調だけでなく、その背中からさえも、如実に感じられるほどに。

「だが、お前は違う。もし戦いが終わっても、同じ世界で、同じ景色を見ながら生きていける。……生きていけた、はずだったんだ」

そこまで言って、士はようやく一条に向けて振り向く。
その顔に苦痛を滲ませながら、どこかに罪に対する罰を求めるような、そんな居た堪れない表情を浮かべながら。

「お前は、確かに俺にはなれない。だが俺は、決してお前のようにユウスケに関わることは出来ない」

士は、ゆっくりとその足を進めていく。
ユウスケの病室を離れて一条の方へ、いやその先に待つ仲間たちの方へと。

「――俺は、お前が羨ましいよ」

すれ違い際、士は一条にそう耳打ちする。
ユウスケに聞いた士の人柄と合致しない、あまりにも実直に仲間を思う青年の、心から漏れ出た真実の声。
ユウスケに会わなくていいのか、とそう呼び止めることすら出来ぬまま士の背を見送った一条は、そのまま自身の掌を開き見る。

クウガの笑顔を守ると宣言して見せた自身の理想の一つは、自身のような存在を羨ましいと言ってくれた。
同じ世界に生き、戦い抜いた先も当然に隣にいていい存在としてクウガの友であれる、そんな自分。
見失いかけていた自分の存在意義に気付かせてくれた士の背に、一条は今一度深くその頭を下げた。

心よりの感謝と、そしてもう二度と五代の横に立ち続けてきた自分を恥じぬことを、心から誓いながら。
くるりと翻り、今度こそはとユウスケの待つ病室のドアへ手をかけたその瞬間。
一条が力を込めるより早く、閉じられた扉は勢いよく押し開けられた。

131Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:00:48 ID:HSuy8Ico0

「小野寺君……」

目の前に立つ青年に、どう声をかけるべきか。
一条がそんな逡巡をする必要すらなくなったのは、彼の頬から汗ではない滴が零れ落ちるのを、見てしまったからだった。

「なんだよあいつ……ああいうことは、直接言えっての……!」

「小野寺君、まさかさっきの会話を……」

よもや病室の壁越しでも聞こえてしまうほどに、今のユウスケの聴力が進化していたというのか。
そんな驚きを示すより早く、ユウスケはその涙に濡れ赤くなった瞳で一条を見上げた。

「一条さん、さっきはすみませんでした。俺……もう迷いません。五代さんの分まで、それに俺自身が胸を張ってあの馬鹿の横に立つ為にも……戦います、クウガとして」

宣言して見せたユウスケの顔には、さっきまではなかった芯が戻っていた。
そしてそれを取り戻して見せたのは……悔しいが自分との会話ではなく、さきほどの士の言葉なのだろう。
きっと士はユウスケに聞かれているのが分かったうえであの話を自分にし、故に彼に会うことなくこの場を後にしたのだ。

何故ならあのままユウスケに会えば、その言葉の真意を問いただされてしまうのが、目に見えているから。
そして何より、そんな士の複雑な感情を、ユウスケも理解しているのだ。
出ようと思えばいつでも出てこられたはずなのに、士が去った今になって出てきたのが、何よりその証拠だった。

「フッ……」

互いに互いが相手を十分すぎるほど理解しているのに、それをどちらも直接伝えられない。
そんな関係がどこかおかしくて、一条は思わず小さく苦笑する。
不思議に思ったユウスケの問いを軽く流しながら、彼は病室の窓から見える青空に視線を巡らせた。

(本当に、素晴らしい仲間だ。そう思わないか?なぁ、五代……)

俺たちも、そう見えていただろうかと。
亡き友に思いを馳せる一条の中にもう、煩わしい悩みなど存在しなかった。





「この中に、天道総司の名を名乗っている男はいるか」

病院に備え付けられたロビーのように開けた空間の中、ここに集った生存者が各々思い思いの時間を過ごすその空間に、相川始の声が響いた。
小さく、しかし確かな威圧と存在感を秘めたその声に、空気が張り詰める。
恐らくはただならぬ事情があるのだろうその問いに、真っ先に答えたのはしかし当人ではなく名護だった。

「始くん、先に聞いておきたい。何故君はその存在を探しているんだ?」

「……それを聞いて何になる」

名護の問いに答える義理はないとばかりに、始は鋭い視線を返す。
だが名護もまたただで退くつもりはないのだろう。
視線を交わした数瞬の後、折れたのは始だった。

「以前キングと戦った際、その男が剣崎を殺した犯人だと聞いた。本当の名前は他にあるが、今は天道総司を名乗っていると。俺はそいつを探し、剣崎の仇を取る」

「待て、君の事情は分かったが、今は皆で力を合わせるべき時だ。俺たち仮面ライダー同士が戦っている場合じゃないだろう」

「なら心配はいらない。俺はもとより、剣崎を殺したそいつにも……仮面ライダーを名乗る資格はないからな」

全てに迷いない始の言葉は、それだけ剣崎を殺した存在への怒りの強さを示していた。
大ショッカーとの戦いをすると決めたとして、それとはまた別の次元で、彼はきっとその下手人を許すことは出来ないのだ。
どう彼を説得すべきか、思わず苦悩した名護の背後から、ふと一つの声が届いた。

132Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:01:12 ID:HSuy8Ico0

「もういいよ、名護さん」

仲間を守らんと始に対峙していた名護を制止する声が、響く。
思いがけず現れた一人の青年に名護が振り返るのと、始の視線が向かうのは同時だった。

「総司君、何故……」

「大丈夫だよ名護さん。僕はもう一人前の仮面ライダーだから。それに……これは、僕の責任だから」

名護の目を見て言い切った総司に、名護はそれ以上何も告げられなかった。
ただ一人の戦士として成長した弟子の背中を見送るように、総司を見守るしかない。
そして自身の前に歩み寄ってきた彼に対し、始の視線はギロリと色を変える。

「……お前が、天道総司を名乗るワームであり、剣崎を殺した男。間違いないな」

「そうだよ、僕が……剣崎を殺した」

「なら話は早い。表に出ろ」

始の言葉に、全て無駄はない。
表に出ろという言葉に含まれる隠喩は、流石の総司も知っている。
剣崎の仇を取るために、自分と戦え……つまりはそういうことに違いなかった。

そして総司は、それを理解した上で始に続こうとする。
剣崎を殺したという自分の罪を憎む存在がいるというなら、その咎を甘んじて受けるのも自分の役目ではないか。
だが、そうして過去の自身の罪を贖う為、一対一の決闘へと赴こうとした彼らの前に、立ちはだかる壁が一つ。

「待ちな、二人とも」

「翔太郎……?」

気障な仕草に、勿体付けた動作。
彼らの前にするりと滑り込むように現れたのは、彼らにとって浅からぬ因縁を持つ翔太郎の姿だった。
思いがけぬ新手の存在に、始は隠そうともせずその眉を顰める。

「……どけ、ジョーカーの男。お前に構っている暇はない」

「いーや、構ってもらうぜ。あんたにゃ一つ、絶対に訂正してもらわねぇとならねぇことがある」

「何……?」

翔太郎の吐いた予想外の言葉に、始は思わず聞き返す。
だがそれを気にする様子もなく、翔太郎は続けた。

「あんたさっき、自分は勿論剣崎を殺した総司も仮面ライダーを名乗る資格はねぇ……そう言ったな」

「それがどうした」

始にとってそれは、疑う余地もない事実だった。
木場を殺した自分もそうだが、剣崎ほどの仮面ライダーを殺した存在が、その名を名乗れる義理などない。
だがその始の答えを受けて、翔太郎はゆっくりと自身の懐から一つのバックルを取り出す。

始が見間違えるはずもない、それはまさしく友の遺品であり分身とも言える代物である、ブレイバックルだった。

「それは、剣崎の……何故お前が」

「ダグバと戦って奪い返したんだ。俺じゃなく、そこにいる総司が、命がけでな」

翔太郎の意外な答えを受けて、始は思わず背後の総司へと振り返る。
だがその視線には未だにこちらを射抜かんとするような敵意が含まれており、総司の緊張が解かれることはなかった。
見定めるように総司を睨むこと、おおよそ数秒の後、始は再び翔太郎に向き直る。

133Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:01:43 ID:HSuy8Ico0

「……だからどうした。ブレイバックルを取り戻したとしても、こいつの罪が消えることはない。そんなことをしても、剣崎が戻ってくることはない」

「確かにな。けど……せめて認めてやってくんねぇか、こいつだって剣崎や俺らと同じ、誰かの為に命張れる仮面ライダーの一人なんだって」

鋭く交わされる、二人の視線。
他の介入を許さないその空間の中で、しかし始は揺らぐ様子もなく吐き捨てるように続けた。

「無理だと言ったら?」

「なら……俺はここでこれをぶっ壊す」

「翔太郎!?」

翔太郎が指したのは、他でもない今話題の渦中にあるブレイバックルだった。
流石の総司もこれには黙っていられないと飛び出しかけるが、彼の前に立つ始が意図せずそれを制止する。
果たして数舜の後、些かの苛立ちを含ませつつも、しかしその冷静さを保ったまま次の言葉を待つ始に対し、翔太郎は再び切り出す。

「始さん、俺はこのブレイバックルを、剣崎から受け継がれてきた仮面ライダーの正義のバトンなんだと思ってた。人から人へ、ずっと受け継がれていく剣崎から続くバトン。……けどよ、そう思えたそもそものきっかけは、これをダグバから取り返したのが他でもねぇそこにいる総司だったからだ」

とうとうと語る翔太郎に対し、始は何も告げぬまま黙って次の言葉を待つ。
まるでその先にある結論で彼という人間を見定めようとしているような、そんな不思議な眼差しと共に。

「そいつはよ、最初に俺と出会ったときは、自分で何をすればいいのかも分からねぇような半端モンだったんだ。それが色んな仲間の存在を知って、自分のした罪を数えて……今じゃ、立派に仮面ライダーの正義を胸に戦ってんだよ」

共に戦い、泣き笑いを積み重ねた、今までの時間を思い出しながら、翔太郎は言葉を紡ぐ。
きっと、言葉だけでは彼が思っている感情の半分も伝わらないだろう。
だがそれでも、彼はこのまま始が総司を仮面ライダーですらないと誤解したまま戦うことだけは、我慢ならなかったのである。

「そんな総司が、自分の罪を少しでも償おうと必死で取り戻したブレイバックルだからこそ、俺は意味があるんだと思ってる。だから例えあんたでも、その正義を否定するっていうなら……俺にとってこれは、何の意味もねぇ代物なんだよ」

ブレイバックルを翳しながら、翔太郎は始に問いかけるように言う。
そしてそれを受けて、始もまた思考を開始する。
一見すればこれは、翔太郎がブレイバックルを人質に脅しているようにも見える。

“ここで戦うことをやめなければ、お前の友の遺品を壊すぞ”と。
だが彼の狙いは恐らく――というより十中八九――そこにはない。
何故なら彼が持ちかけている要求は、あくまで総司を仮面ライダーとして認めぬまま戦うな、ということ。

先の自分の発言を何よりの侮辱と感じて、それをどうにかして取り消させようとしているのだ。
まったく以て下らないプライドだとも思うが、始にとってそれはあながち無視できる話でないのも事実だった。
まさしく今の今まで、彼は剣崎を殺した犯人を他者の名を騙る卑怯な愚か者であり、生き残っているとしても欺瞞を重ねた結果なのだとばかり考えていた。

故に、天道の名を騙っていることは勿論、剣崎を殺した事実すら彼らは既に承知済みだったらしいと察した時には、流石の始にも少しばかりの驚きがあった。
それどころかまさか、彼が仮面ライダーでないとするなら信じていた正義など嘘だとばかりにブレイバックルをさえ破壊しようとする翔太郎を前にしては、始とてその討伐に二の足を踏もうというものだった。
今一度振り返り、始は総司を一瞥する。

満身創痍そのものの肉体に、疲れが滲む顔。
しかしそのどちらすらも、彼は誇らしいとばかりに感じているのが傍目にも分かる。
きっとこれは翔太郎の言う通り、誰かを守るために奔走した結果なのだろうと、始ですら認めざるを得ないほどに。

134Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:02:00 ID:HSuy8Ico0

目を細め、総司から視線を外した始は、翔太郎へと歩み寄りその手からブレイバックルを取り上げる。
奪ったわけではない。これを破壊することはないと、つまりは彼は確かに仮面ライダーだと、そう認めたことを示すためだった。
一転してくるりと翻り、始は総司の横を通り過ぎていく。

無論、これは決して彼を許したことと同義ではないのだと。
もし大ショッカーを倒し、ダグバを倒せばその時は、と。
そんな含みを、未だその鋭い眼に宿しながら。

「――ちょっと席を外した間に、どーいうことだ?」

始が適当な椅子に腰かけ総司が脱力するのと同時、どこか間の抜けた問いがその場に響く。
振り返れば、そこにあったのはどうやらユウスケの病室から戻ってきたらしい士の姿だった。
その後ろから一体何事だと駆けつけたユウスケと一条に対し何でもない、と翔太郎は首を横に振る。

少なくとも今のところ始の話を掘り返す必要もない。
後で彼には、また別の話を問いたださねばならないが。
ともあれ何事もなく収まったその場に対し、仲間全員の集合を認めたらしい男が一人、新たに話を切り出していた。

「――皆聞いてくれ。これから、ここにいる全員の首輪を解除したい」

戻ってきた士らが自分の座るスペースを確保するのを待つが早いか、フィリップは全員の注意を引き付ける。
彼の言葉が意味するところはつまり、大ショッカーによって彼らの首に取り付けられた銀の枷――変身を阻害し、そして大ショッカーに生殺与奪権の一切を握られている原因でもある、その首輪を解除するという提案だった。
それを受けてまず我先にと立ち上がったのは、意外にも真司だった。

「ちょちょ、ちょっと待ってくれよ。もしかしてそれって……俺たちの首輪を、外せるってことか?」

「あぁ、その通りだ。現にここにいる相川始の首輪は、既に僕が解除した」

フィリップの言葉を受けて、全員の視線が始へと集まる。
近寄りがたいその雰囲気から他者の接触を極力避けていたことから、彼の首に首輪がないことを今初めて知ったという人間も多かったらしく、その場に点々と驚愕の声があがる。
居心地が悪そうに視線を逸らした始をチラと見やりながら、次いで声をあげたのは総司だった。

「待ってよ、でもその始って人、さっきの放送で名前を呼ばれてなかった?どういうことなの?」

「あ、そーいえば……確かに、さっきの放送で名前呼ばれてたよな?」

「いや、真司も知らねぇのかよ……」

病院にいて状況を把握していない総司はともかく、一応ここに来るまで同行していたのにそれを知らない真司には翔太郎も呆れざるを得ない。
うるさいな、とばつが悪そうに頭を掻く真司を見やりながら、まぁ説明もしてなかったしね、とフィリップは仕切り直す。

「実は、首輪を解除する前に、皆に知っておいてほしいことがあるんだ。結論から言えば僕はこの場で、ここにいる全員の首輪を解除することが出来る。だが首輪を解除すれば……それはすなわち、この殺し合いでの死を意味する」

「死……って」

修二が困惑した声を漏らす。
今目の前にいる始は生きていないのか。それともそれは彼がアンデッドだから生きているだけなのか。
理解の追いつかない面々を前に、フィリップはかみ砕くように続ける。

「勿論、首輪を外しても直接死ぬわけじゃない。でも、大ショッカーが仕組んだこの殺し合いにおいては脱落することになる。そして、その世界の参加者が全員脱落すれば、それは――」

135Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:02:19 ID:HSuy8Ico0

「自分がいた世界は崩壊する、という訳か」

全てを理解したらしい名護に、フィリップは頷く。
そして同時、全員が状況を理解する。
この場にいる参加者の多くは自分の世界で最後の一人という状況にまで迫られている。

すなわちもしも大ショッカーの言葉が真実だとした時、自分が守ろうとした世界は滅んでしまう……そういうことになる。
この結論は流石に予想していなかったのか、その場には重い空気が流れる。
だがフィリップはこうなることも全て承知の上で、再び口を開いた。

「……もし皆の中で一人でも首輪を外したくないという人がいるなら、僕は無理強いしたくはない。だからその判断を、皆に委ねたいんだ」

理想を求め大ショッカーの打倒に全てをかけるか、10もの世界を手玉に取れる強大な存在の言葉を信じここで止まるか。
果たして後者の答えを選んでも誰にも責められはしないと、フィリップは思っていた。
自分だってもし風都がなくなるのだとすれば、それは絶対に避けたい。

その為に戦う決意すら空回りかもしれないのに、全員に犠牲を強いることなど出来なかった。
だが決断に時間がかかるかと思われたその中で、悠々とフィリップに向けて歩を進める者が、いた。

「ま、俺は元々無所属扱いらしいからな。それにどっちにしろ、首輪を外さなきゃ奴らを潰せない」

「ディケイド……」

あまりにも心強い士の言葉。
思いがけず感情が込み上げるフィリップの一方で、目前にまで迫っていた士の身体が突如グラつく。
バランスを崩した理由は大したものではない。

彼の背後から、ユウスケが彼の肩を叩いたためだ。

「お前だけに良い恰好させるかよ、士」

「……勝手にしろ」

懐っこい笑顔を浮かべ彼に並んだユウスケの手をはねのけながら、しかし士の顔にはどこか喜色が浮かんでいた。
そしてそんな彼らに刺激されたか、今また立ち上がるものが一人。

「俺も、首輪を外すことに異論はありません」

二人の生みだした流れを無為にしないように、次いで立ち上がったのは一条だった。
彼にとってはこの場にいる全員自分が守るべき一般市民であることに違いはない。
故に彼らにそれほどのリスクを抱えさせながら自分はそれを犯さない、などというのは、彼にとって耐えがたい中途半端に感じられたのだった。

「俺も……賛成」

そして次にその流れに続いたのは、真司だった。
先ほどまでと変わらず頭を掻きながらも、しかしその瞳は迷いを断ち切った色をしていた。

「正直、俺のせいで世界が滅びるとか考えたら、やっぱそれは嫌だけど……でも、ここで大ショッカーを野放しにしておくのは、やっぱ違う」

きっとそれは、真司の中で元の世界の人々とここで出会った仲間とをどちらも重んじた結果編み出された結論なのだろう。
無論元の世界で待つ仲間もかけがえないものだが、それと同じくらいに翔一やヒビキら他世界の戦友とすら呼べる仮面ライダーの存在が、彼に戦う覚悟を与えたのである。

「僕も……決めたんだ。もうどんな命だって世界だって、救って見せるって、そんな仮面ライダーになって見せるって」

次いで立ち上がった総司は、そこまで言って名護を見やった。
疑念のない、信頼と確信だけを秘めた真っ直ぐな視線を前に、名護は苦笑しながら軽く膝を叩き立ち上がる。

136Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:02:36 ID:HSuy8Ico0

「そうだな、大ショッカーがどんな力を持つとしても、9つもの世界に住む人々を見捨てる理由にはならない。そんな理不尽と戦うのが、俺たち仮面ライダーだからな」

総司に向けて頷きながら、名護もまたフィリップらの方へ向け歩き出す。
そうしていよいよまだ座っているのは……つまりはまだ首輪解除の意思を固めていないのは、残された一人だけとなっていた。

「修二……」

総司の小さな呼びかけに、しかし修二は俯いたまま答えない。
正直な話この場にいる全員、この条件を持ち出された際の最難関は修二だと、そう考えていた。
彼の目的は仮面ライダーのように正義の為戦うことではなく、家に帰ること。

すなわち元の世界にあるのだろう安住の地へ、無事帰る事だったのだから。
それがなくなるかもしれない戦いに、彼のような存在を無理強いすることは、やはり仮面ライダーの正義に反する。
だがそれでは大ショッカーに立ち向かう術すら失われてしまう……とそんなジレンマに彼らが陥りかけた、その瞬間。

修二はゆっくりと、しかし真っ直ぐにその場に立ちあがっていた。

「俺も……首輪を、外してほしい」

小さな声で、しかし明瞭に大ショッカーに立ち向かう意思を、彼が示した。
その光景に、彼をよく知るものほど目を見開く中、しかしその戸惑いに惑わされることなく、修二は続けた。

「正直、世界が滅ぶとか、そういうの未だによくわからないけど……。でもきっと俺も、戦わなきゃいけないんだ。答えを、確かめるためにも」

修二の決意が示す意味は、きっと誰にも分かってはいないだろう。
だがそれでも病院にいたときの彼と今の彼とでは大きな違いがあることだけは、誰の目にも明らかだった。
これで、全員が首輪の解除に同意を示した。

否、最後に一人、まだ心の内を聞いていない者が隣にいたことを、フィリップは不意に思い出し、悪戯な笑みを浮かべた。

「それで……君はどうするんだい、翔太郎」

「ハッ、決まってんだろ。首輪なんざさっさと外して大ショッカーをぶっ潰す。俺たちで、な」

気障にポーズを決める翔太郎に手を貸し立ち上がらせて、フィリップは改めてこの場に集った全員の顔を見やる。
誰一人として、無傷の者はいない。
どころか誰しも満身創痍で、厳しい戦いの中にあったのだろうことは日の目を見るより明らかだ。

だがそれでも、フィリップの心には一抹の不安すら過ることはなかった。
きっと彼らとなら、異なる世界に生きてきた英雄たちとなら、大ショッカーがどんな敵だとしても負けるはずがない。
強い確信を抱いて、フィリップは再び切り出した。

「皆、ありがとう。それじゃこれから、首輪の解除に関して細かい説明に入る――」

それからフィリップは、首輪の特性について語った。
種族ごとに首輪の種類が異なること、それ以外の種族のものに関しては解析を経てからでないと解除が出来ないこと。
しかしキングが持っていた五代、海東の首輪も手元にある今、間宮麗奈で総司の首輪も解除できるだろうことを考えれば全員の首輪を問題なく解除できるだろうこと。

だがそこまで聞き終えてから、しかし一つ大きな問題が解決できないことに、彼らは気付いた。

「……待ってくれ、俺たちの首輪はそれでいいとして、フィリップ君の首輪はどうする?誰か他に首輪を解除できる人材がいるのか?」

137Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:02:54 ID:HSuy8Ico0

彼らが気付いた疑問とは、首輪解除唯一の第一人者であるフィリップ自身の首輪は誰が解除するのかということ。
或いは当初期待されていた通り士が行うのかと視線をやるが、しかし当人にその気は皆無のようで、つまらなさそうに虚空を見上げていた。
だがそれを受けてもフィリップは何一つ動揺することなく、むしろ自信すら滲ませて得意げに笑った。

「いや、僕以外首輪を解除できる人材は、ここにはいないだろうね」

「なら――」

「――あぁ、だから……“僕が解除する”のさ」

フィリップの予想外の発言に、名護だけでなくその場にいた殆どが不可解に首を捻る。
しかしその中で一人、フィリップの意を察したらしい翔太郎だけは、ハンと気障に笑って見せた。

「そーいうことか、相変わらず考える事がぶっ飛んでるぜ」

「翔太郎君、どういうことだ?」

「まぁ、言うよりもやって見せた方が早いだろうね」

フィリップの言葉に従って、翔太郎は懐から赤いドライバーを取り出す。
彼が今まで使ってきたロストドライバーではなく、先ほど相棒から託されたダブルドライバーを。
彼が慣れた手つきでそれを腰に迎えれば、フィリップにも同様のドライバーが出現する。

無から生み出されたとしか思えないそれに感嘆の声が上がる一方で、二人はそれぞれのメモリのスイッチを押した。

――CYCLONE!

――JOKER!

ガイアウィスパーの声と共にメモリを振りかぶった彼らの腕がちょうどアルファベットのWを描く。
そしてそのまま、高らかに叫んだ。

「「変身!」」

装填されたサイクロンメモリが翔太郎のドライバーへと転送され、次いでジョーカーのメモリをドライバーへと突き刺す。
けたたましく待機音が鳴り響く中、メモリスロットを左右へ展開すれば、もう彼らの変身は完了していた。

――CYCLONE JOKER!

同時解き放たれた二つの地球の記憶が、翔太郎の身体を包み込む。
緑と黒、二つの粒子によってそれぞれの半身を彩った戦士の赤い瞳が光るのと、彼が首に巻くマフラーがたなびけば、そこに立つのはもう半人前のそれではない。
風都の守護者であり、街の……否、かの世界に生きる人々の希望の名を背負うに相応しい一人の戦士。

仮面ライダーダブルが、今初めてこの場に顕現した瞬間だった。

「これがダブル……凄い」

「だろ?」

思わずと言った様子で呟いた総司に、翔太郎は軽口で返す。
これこそが自分の真の力なのだと、これでようやく引け目なく全力で戦うことが出来ると、改めて再確認した心地だった。

「おい皆!フィリップが!」

不思議な充足感を覚えたダブルのもとへ、真司の悲鳴が響く。
見ればそこにはドライバーを装着したまま気絶するフィリップの姿があった。
そういや碌に説明もしてなかったな、と頭を抱えながら、ダブルはフィリップを抱える真司のもとへと歩みを進める。

「心配いらないよ、城戸真司。僕の意識はこっちだ」

「え、フィリップの声……?腹話術か?」

ダブルから響いたフィリップの声に、真司の視線はフィリップの身体とダブルを繰り返し何度も往復する。
そんな様子に悪戯な笑みを浮かべながら、ダブルは誤解を解くために口を開いた。

138Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:03:12 ID:HSuy8Ico0

「残念だけど違う。ダブルに変身した時、僕の意識は翔太郎と文字通り一体化する。だからその際、本来の僕の肉体はこの通り、気を失ったように見えるのさ」

「ならまさか、フィリップの首輪解除方法と言うのは……」

「そう、この状態で、翔太郎の身体を使って僕が僕の首輪を解除する……という訳さ」

得意げに右手の指先を立てたダブルに対し、名護はいよいよ感嘆の声を漏らす。
今までも超常の存在に呆れるほど出会ってきたという自負こそあれど、まさか自分の肉体にかけられた枷をこんなやり方で解除するとは。

「おい相棒、解説は良いけど時間がねぇぞ。さっさとやっちまわねぇと」

「分かってるって。翔太郎、ちょっとの間、身体借りるよ」

翔太郎が肯定を言うが早いか、ダブルはすぐさまフィリップの首輪解除に取り掛かる。
ふとすれば死んだようにすら見える自分の身体をまじまじと見るというのは、一体どんな心地なのだろう。
幽体離脱のようで薄気味悪くはないのだろうかなどと呑気なことを、真司は思う。

鏡の中の自分は決して自分と違う動きをしないから平気なだけで、ある日突然自分の真似をするのに飽きて、鏡の中から飛び出してきたとしたら。
それも鏡像よろしく自分と全てが反対で、ライダー同士の戦いで勝ち残ろうとする自分と入れ替わってしまったら。
突拍子のない考えのはずなのに、妙にその妄想が現実味を帯びて感じられて、真司は悪い夢を覚ますようにその頭を大きく振るった。

「どうしたんだい、城戸真司。少し顔色が悪いようだけど」

上から降った声に思わず顔を上げれば、そこにいたのは先ほどまで横たわっていたはずのフィリップであった。
その首には既に首輪はなく、どうやら自分が思考に気を取られている間に首輪の解除に成功したらしかった。
何でもないと溜息を吐きながら、真司はふとロビーに備え付けられた小さな鏡を見やる。

そこに映っている自分の顔は、自分が思っているよりずっと疲れて見えた。





それから数時間、フィリップが首輪の解除と三つの首輪の解析を行う間、彼らはそれぞれが持つ支給品を整理することにした。
それぞれの戦力になる支給品は勿論本人へと渡したほか、士のカメラやアルバムなど、嗜好品として持っていてもかさばらない代物は希望した者へ渡った。
無論これから先、変身制限がなくなり余分な戦力が必要なくなったことで少しでも身軽にするために不用品用デイパックはどんどん嵩張っていったが、しかしそれも問題はあるまい。

大ショッカーという巨悪との最後の戦いに向けて、信じられる幾つかの術以外は荷物にしかなり得ないのだから。
そうして、整理を始めておおよそ2時間ほど経過したころには、各々のデイパックはそれまでと比べ物にならぬほどに無駄なく整頓された。
だが彼らの肩こりを解消させたのは何も物理的に重荷が下りたというだけの理由ではなく。

先の放送で花形が告げたタイムリミット18時を前にして、この場にいる全員の首輪が解除されたことによる精神的な高揚にもあった。
だがその昂りに水を差す知らせが、今まさに一つ。
よりにもよって先の首輪解除で彼らを沸かせたフィリップから、齎されようとしていた。

「皆、一つ聞いてほしいことがある」

「なんだフィリップ、今度は首輪を外せても意味はない、なんて言わねぇだろうな?」

相棒を信頼するが故に遠慮のない翔太郎の軽口に応じることなく、フィリップは思いつめたようにただその瞳を見つめ返した。
その顔はまるで、以前自身の母があの大道克己の母、マリアクランベリーではないかと誤解していた時のように、これ以上なく張り詰めてすらいた。
思わず息を呑んだ翔太郎に周囲も事情を察したか、シンと静まった仲間たちに向けて、意を決したようにフィリップは口を開いた。

139Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:03:30 ID:HSuy8Ico0

「ン・ダグバ・ゼバは……生きている」

「第0号が!?」

吐き出すようなフィリップの言葉を心底信じられないと言った様子で立ちあがったのは、元の世界でグロンギと戦い続けてきた一条だった。
彼は自身の驚愕冷め止まぬうち、すかさず視線をユウスケに移しその視線を交差させる。
彼にとっては自分以上に因縁深い相手だろうと彼を案じたのだが、しかし意外にもユウスケに動揺する様子はなかった。

まるで、その生存を以前からずっと知っていたかのようなその立ち振る舞いに逆に一条が困惑する一方で、フィリップから話を継いだのは意外にも始だった。

「そして奴は恐らく、アンデッドになっている。それも俺と同じ……ジョーカーにな」

「なっ、てことは……!」

此度立ち上がったのは、翔太郎だった。
満身創痍のキングから聞いた、ジョーカーが最期のアンデッドになった時世界が滅びるという恐るべき摂理。
そのキングすら死んだと聞いてそれも彼の得意の嘘だったかと忘れかけていたが、まだアンデッドが残り一人になっていないのだとすれば。
それも最後に残った二人のアンデッドがどちらもジョーカーで、どちらが勝ち残っても世界が滅びるのだとすれば、それはつまり――。

「勝っても負けても、世界は滅ぶ……」

浮かび上がった絶望的な結論に、翔太郎は俯く。
そして今まで気丈に振舞い続けてきた翔太郎の消沈は、仲間たちに大きな衝撃を与える。
まさしくそれは彼らの中に緩やかに、しかし確実に戦わずして敗北の色が広がっていくようで。

だが一人、そんな安い絶望など見飽きたとばかりに、いつもと変わらぬ不遜な調子で士はパンパンと二度手を鳴らした。

「大体わかった。まぁどっちにしろ、俺たちのやることは変わらないだろ。大ショッカーを潰して、ダグバも倒す。それだけだ」

「けどそれじゃ世界が……!」

「なら、このまま諦めるのか?それこそ大ショッカーの思う壺だろ」

士の瞳には、迷いは一切見られなかった。
世界が滅ぼうとお構いなしというわけではない、むしろ真に世界を案じているからこそ、揺らがない信念。
自分が信じる仮面ライダーとして、為すべきことを為す。

或いはそうすれば自然と道が開けると知っているかのような、そんな自身に満ち溢れていた。

「それに、始を封印しなきゃ世界が滅びるだのどうのは、ダグバを倒した後の話だ。世界の滅びだか何だか知らないが、そうなった時はそうなった時でどうにかすればいい」

「そんな適当な……」

「まぁな」

こともなげに吐き捨てて、士は会話を一方的に断ち切る。
だがそれを受けて彼に怒りを抱く者は、ここにはいなかった。
実際のところ、全て士の言う通りだからだと思ったからだ。

ダグバを倒さない限り戦いが終わらないことは確かだし、始を案じるあまりダグバに負けてしまえばその時点で世界は滅んでしまうのである。
なれば今ここでそんな先の不安に囚われて動けなくなる方がよほど、自分たちにとって無駄な時間に違いなかった。
気合を入れるように強く息を吐き、翔太郎は大きく伸びをする。

140Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:03:48 ID:HSuy8Ico0

大事なのは、まず目の前のこと。
そうすなわち今この瞬間においてそれは、もう30分後にまで迫った次の放送の時間だった。
なればあと少しだけ残された安息の時間を心から満喫すべきかと彼が目を瞑ろうとしたその瞬間。

「ねぇ皆、あれ!」

総司の指さす先に蠢く灰色のオーロラが、刹那のうちに彼の眠気を吹き飛ばしていた。





大ショッカー幹部でさえ入ることの許されない、大首領の間。
殺し合いの状況を映し出すモニターの光でその顔を青く照らしながら、ラ・バルバ・デは小さく目を細めた。
間もなく彼らは放送の時を迎え、今までの殺し合いとは違うテオスによる次なる選定を受ける段階へと進む。

すなわちバルバを含んだ大ショッカー幹部との戦いを経て、真に彼らが世界を救うに足るのかどうかを見定められるのだ。
首輪を外し大ショッカーを潰せたと思ってもなおそれすらテオスの意中に過ぎぬと知れば、果たして彼らは何を感じるのだろうか。
このままでは結局のところ、全てはテオスが思案したとおりの結末で終わってしまう。

かけがえない命を容易く奪った無情も、死した仲間の為限界を超えて見せた数多の局面も。
全てがテオスの一時的な満足の為に消費され、いずれ忘れ去られていくだけの存在へと成り果ててしまう。
そう、このままでは。

「まだ……足りない」

モニターから目を離し、バルバは小さくそれだけ呟く。
何が足りないのかは、誰にもわからない。
だがそれでも、彼女にとってこのまま全てが無意味に帰すというのは、あまりに神のつまらぬ戯れに過ぎぬと、そう思えた。

「どこへ行くのです、ラ・バルバ・デ」

全知全能の主たる男の声が、響く。
殺し合いが始まった時よりずっと明瞭に、そしてずっと正確に。
最もそれは当然のこと。

何故なら既に彼は……テオスは、完全なる肉体で大ショッカー首領の椅子へと深く腰掛けるほどに、回復していたのだから。

「……仕上げだ」

振り返る事すらせず、バルバはそれだけ告げてテオスの前から歩き去っていく。
その背後に、テオスの眷属たる三人の怪人を、ぴったりと引き連れながら。





残る参加者の拠点となっていた病院の目の前に現れたオーロラを前に、10人の男たちが並び立つ。
キングやアークオルフェノク、今まで多くの仲間を葬ってきた大ショッカーの幹部が現れた時と同じ、不穏な光景。
誰一人として油断を許さないそんな緊張感の中ついにオーロラから現れたのは、彼らにとって見覚えのある三人の怪人だった。

「あれは……B-1号の後ろにいた……!」

第二回放送でバルバと名乗った女の後ろに控えていた、翔一が戦ったという三人の怪人……確かアンノウンと言ったか。
一人一人がとてつもない強さだったと語られていたその姿に一条の顔が強張るのと同時、青いアンノウン、水のエルがその手を振るう。
それを受け頭上へ浮かび上がった巨大な紋章を前にして、彼らは考える間もなくその場を飛びのいていた。

141Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:04:07 ID:HSuy8Ico0

「――!」

刹那地に舞い降りた紋章が、突如として炎上し爆発を起こす。
咄嗟の判断で直撃を免れこそしたものの、仲間は見事に分断されてしまったらしい。
悠然とした歩幅で近づいてくる水のエルを前に一条はアクセルドライバーを装着する。

そしてそのままアクセルメモリを胸の高さにまで掲げて、そこで視界の隅に映るユウスケの姿に、動きを止めた。
彼は既にアークルを出現させ、戦いへの準備を整えている。
だがそれでもそこから先クウガへの変身動作へと身体が動かないのは、どうしようもなく頭の中に響く生存への訴えなのだろう。

きっと彼の脳裏には今も、アマダムから戦いをやめるよう警告がけたたましく響き続けているはずだ。
恐らく、誰かの為に戦いたいという彼の強い意志に一転の陰りを生みだしてしまうほどには、そのビジョンは明確で、そして強いものであるに違いなかった。

「小野寺君……」

思わず自身の手すら止めて、一条はユウスケを見やる。
そんな葛藤に苛まれる彼に対して、自分は何を言ってやれるだろう。
戦えと発破をかけるべきか、休めとその身体を労わるべきか。

そのどちらもが、彼にとって望ましい答えであるようには、一条には思えなかった。

「おい」

だがそんなユウスケの肩を、背後からドンと叩く手が一つ。
驚き振り返った彼の瞳が捉えたのは、まさしくずっと苦楽を共にしてきた門矢士のもの。
呆気に取られて何も言えぬまま見上げたユウスケに、士はただ一言告げた。

「行くぞユウスケ」

ただそれだけ。
ただそれだけの言葉と共に自身に並びカードを構えた士の姿に、ユウスケの表情から憂いが消え失せる。
心配など何もいらない。

例え何があったとして、自分の笑顔は横にいる彼が守ってくれるのだから。

「……あぁ!」

頷き叫んだユウスケは、改めてアークルへその手を伸ばす。
赤く輝いた霊石が光を放つのと同時、士もまたその手に握るカードを指先だけで翻して見せた。

「変身!」

――KAMEN RIDE……DECADE!

ディケイドライバーから電子音が鳴り響く一方で、ユウスケの身も古代の戦士へと姿を変える。
刹那並んだディケイドとクウガの姿に、類似点など何もない。
どころか似ているところすらどこもないというのに、並び立つ両雄はこれ以上なく最高のパートナーのようにすら見えた。

そして、構える二人の背中を見ながら一条は一つ安堵の息を漏らす。
やはり自分は門矢士のようにユウスケを支えることは出来ない。
彼が自分のように五代を支える事が、出来ないのと同じように。

「……」

戦闘態勢を整えたディケイドらを前にして、水のエルは深く息を吐く。
殺意を隠そうともしないその威圧を前に、一条もまたユウスケと……クウガと共に戦える自分になるために、ガイアウィスパーを高らかに鳴らした。


【二日目 夕方】
【D-1 病院前】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、首輪解除、仮面ライダーディケイドに変身中
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式+アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス、ライオトルーパー)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:ひとまず現れたアンノウン(三体のエルロード)を倒す。
2:ユウスケをもう究極の闇にはさせない。
3:ダグバへの強い関心。
4:相川始がバトルファイトの勝者になった時のことはまたその時に考える。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎〜キバの力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。

142Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:04:24 ID:HSuy8Ico0


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、アマダムに亀裂(更に進行)、首輪解除、仮面ライダークウガに変身中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】なし
【思考・状況】
0:まずは目の前の怪人に対処する。
1:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
2:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
3:士に胸を張れる自分であれるよう、もう折れたりしない。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。自壊を始めていますが、クウガへの変身に支障はありません。
※ガタックゼクターに認められています。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除、仮面ライダーダブルに変身中
【装備】ダブルドライバー+ガイアメモリ(ジョーカー+メタル+トリガー)@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:まずは目の前の怪人に対処する。
1:仲間と共に戦い、大ショッカーを打倒する。
2:相川始かダグバ、どちらかが生き残れば世界が全て滅びる……?
3:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除、仮面ライダーダブルに変身中
【装備】ファングメモリ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:(Wに変身している為)気絶中
1:まずは目の前の怪人に対処する。
2:大ショッカーは許さない。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除、仮面ライダーアクセルに変身中
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、車の鍵@???
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:まずは目の前の怪人に対処する。
1:小野寺君を支えつつ戦う。
2:五代……津上君……。
3:鍵に合う車を探す。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※体調はほぼ万全にまで回復しました。少なくとも戦闘に支障はありません。

143Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:04:42 ID:HSuy8Ico0


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、首輪解除、仮面ライダーナイトに変身中
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:まずは目の前の怪人に対処する。
1:自分の願いは、戦いながら探してみる。
2:蓮、霧島、ありがとな。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除、仮面ライダーデルタに変身中
【装備】デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:まずは目の前の怪人に対処する。
1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
3:父さんが何故大ショッカーに……?


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除、仮面ライダーカリスに変身中
【装備】ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤA〜K、ハートA〜K、クラブA〜K)@仮面ライダー剣、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣、ブレイバックル@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。
1:まずは目の前の怪人に対処する。
2:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
3:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)はいずれ倒す。
4:ジョーカーの男……変わった男だ。
5:もしダグバに勝った後、自分がバトルファイトの勝者になれば、その時は……。
【備考】
※ホッパーゼクター(パンチホッパー)に認められています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除、仮面ライダーカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:まずは目の前の怪人に対処する。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
4:士が世界の破壊者とは思わない。
5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。

144Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:05:00 ID:HSuy8Ico0


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、首輪解除、仮面ライダーイクサに変身中
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:まずは目の前の怪人に対処する。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君は心強い俺の弟子だ。
【備考】
※紅渡は死亡しましたが、ゼロノスカードで消えた記憶は消えたままです。


【水のエル@仮面ライダーアギト】
【時間軸】不明
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:首領代行(バルバ)の意に従い、“仕上げ”をする。


【地のエル@仮面ライダーアギト】
【時間軸】不明
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:首領代行(バルバ)の意に従い、“仕上げ”をする。


【風のエル@仮面ライダーアギト】
【時間軸】不明
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:首領代行(バルバ)の意に従い、“仕上げ”をする。


【全体備考】
※テオスが完全に復活しました。
※全参加者の首輪が解除された為、次の放送で当初の“世界が最後の一つになるまで殺し合う”殺し合いは終わります。
※上記の状態表に載っていない支給品は全て不用品入れデイパックにまとまりました。
※バルバの言う仕上げが何を意味するのかは不明です。エルロードらもテオスに命じられた為にバルバに従っているだけで、その真意は知りません。

145Rider's Assemble ◆JOKER/0r3g:2020/07/29(水) 19:08:12 ID:HSuy8Ico0
以上で投下終了です。
今回はもろもろの事情により半年近く滞ってしまいましたが、次は仮面ライダーセイバーが始まる前に投下できるよう頑張りたいと思います。
ご意見、ご感想ほか何かありましたらお願いします。

146名無しさん:2020/07/29(水) 22:20:30 ID:QxDRUEEs0
投下乙です!
ついにみんなが集まり、それぞれの因縁が複雑に絡み合う中、何が起こるかと思いきや……今のところはどうにかまとまってくれましたか。
フィリップによる驚きのアイディアで全員の首輪を解体したのは凄いですし、戸惑いながらも前を進む勇気を見せてくれた三原も凄いですね!
ただ、そんな彼らの前にまさかの刺客が! 殺し合いも新たなる局面に入りましたし、本当にどうなるでしょう。

147名無しさん:2020/07/31(金) 00:23:24 ID:Ny6UGI4E0
投下乙です
対主催勢が全員一つの場に揃うと、クライマックスになってきたってなりますね!
そしてバルバの意思によりダグバより先に襲来したエルロード達…、バルバはどんな結末を望んでいるのか気になりますね

148 ◆LuuKRM2PEg:2020/08/10(月) 11:20:51 ID:2fXfPhIU0
◆JOKER/0r3g 氏、投下乙です!
残る対主催が全員集合して、一つ一つのやり取りを見るたびにこれまでの物語が脳裏に浮かび上がり、その矢先に現れたエルロード達!
まさに終わりに向かっていることが実感しますし、読んでいて胸がドキドキしましたね。

そして>>119に続いて支援イラストを投下します。
ttps://dotup.org/uploda/dotup.org2224030.jpg_fhw5Wh4pAA23FbxDRhQH/dotup.org2224030.jpg
今回は◆cJ9Rh6ekv.氏による第103話の『闇を齎す王の剣』から、アルティメットフォームになったユウスケとキングフォームとなったダグバをイメージしたイラストです。
ユウスケとダグバの死闘、ユウスケを想う一条さんとキバット、戦いの果てに散った京介・小沢さん・牙王など見所満載で、読んでいて心が震えたので今でも思い出に残る作品になります。

仮面ライダーゼロワンも残り数話となり、来月からは仮面ライダーセイバーの放送が始まりますので、今後ともよろしくお願い致します。

149 ◆JOKER/0r3g:2020/08/10(月) 20:29:17 ID:Tpl2/bL20
◆LuuKRM2PEg氏、毎度ながら感想&格好良い支援イラストありがとうございます!
アルティメットクウガの拳が燃え上がっているようにも、彼の身体が血濡れているようにも見える絶妙な赤があのSSでのユウスケの悲壮感を思わせますね。
氏のご厚意に負けないよう、自分も近日中に投下出来るよう頑張りますので、変わらぬ応援よろしくお願いします。

150名無しさん:2020/08/11(火) 02:35:34 ID:UZ5awJJQ0
投下乙です。
ついに、ついに、ついに、最終決戦への道行きが始まりましたね…!
離れ離れになっていた相棒たちの再会。
五代・一条・士・ユウスケの、翔太郎・始・フィリップ・総司の・それぞれの負い目と葛藤の整理。
そして首魁たるテオスへ向かうための前哨戦の開幕。アガりますねえ…!

あと、wikiに上がった分読んでひとつだけ気になりましたのでご報告をば。
翔太郎とフィリップは現時点で「Wに変身してます」。
で、フィリップの状態表の持ち物欄にT1サイクロン、ルナ、ヒートの3メモリがなかったですけど
この3本は不要デイパックに仕舞われてるんじゃなくて、W(フィリップ)が持ってるってことでいいんですよね?

151 ◆JOKER/0r3g:2020/08/12(水) 22:30:03 ID:zS4DXnN.0
>>150さん、ご感想ありがとうございます!
ご指摘の件に関しては完全に自分の表記ミスですね……申し訳ない限りです。
ソウルメモリ三本に関しても勿論フィリップが持ってますしダブルとして使用するつもりで紛れもない記載漏れですので修正しておきます。
細かいところまで気付いていただき気が引き締まる思いです、これからもよろしくお願いします。

152名無しさん:2020/09/03(木) 18:14:41 ID:rvFMGSMk0
偶に読み返してますけど、麗奈にカイザギアを渡そうとする乃木にエボルトみを感じるなぁw

153 ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:24:34 ID:6c9iHJDY0
結局仮面ライダーセイバーに先を越されましたが投下します。

154加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:25:43 ID:6c9iHJDY0

「うおりゃあああああああ!!」

掛け声と共に振り抜かれたクウガの赤い拳が、水のエルの胸を的確に捉える。
だがそれによって水のエルの身体が動じることはない。
予想外のタフネスに驚愕で顔を見上げたクウガに向け、その隙を見逃さず振るわれた水のエルの手刀が、呆気なく彼を弾き飛ばす。

だが刹那、地に転がったクウガへの追撃だけは阻まんと飛び込んだアクセルが水のエルへと猛攻を仕掛ける。
先の支給品交換にて手に入れたエンジンブレードを振るう彼の構えは、彼が得意とする剣道の基本姿勢と同じだった。
息も付かせぬ面の連打は、まさしく剣道で言えばその動作も気迫も達人の域。

だが悲しいかな、今行われているこれは決して武道のそれではなく、紛れもなく命を懸けた殺し合いのそれだったのだ。

「面ッ!」

掛け声と共に振るわれたエンジンブレードを、水のエルは一歩退くことで難なく回避する。
標的を失った剣が、その重量故に勢いを殺し切れず地面に突き刺さり舗装されたアスファルトを砕く。
同時、失策に気付いたアクセルが得物を引き抜こうとするが、それより早く突き出された水のエルの得物、怨嗟のバルディッシュが彼の身体を大きく吹き飛ばしていた。

「一条さん!」

得物を失い倒れ伏したアクセルに駆け寄りながら、クウガは立ち上がりその脚に炎を纏わせる。
だが必殺の一撃を放とうとする彼を目の当たりにしてなお、水のエルはつまらなさそうにふとバルディッシュを虚空へと振り抜く。
まるでその瞬間に、“背後から見えぬ存在が放つ一撃”を予想していたかのように。

「なっ……」

不意の一撃を防がれたことに思わず驚きの声を漏らしたその瞬間に、ディケイドインビジブルの効果が切れる。
それにより可視化されたディケイドを嘲りと共に振り払うのと同時、背後からクウガの雄叫びが響く。
マイティキックの名を持つ跳び蹴りに対し、水のエルは躱す素振りすら見せることなくゆっくりと振り向き、ただその手をクウガへと翳す。
それを受け空中へ出現した光の輪へ、勢いを殺し切れずクウガが飛び込めば、その身体は一瞬にしてディケイドの目前へと移動していた。

「ぐわあああぁぁぁぁ!?」

突如として瞬間移動したクウガのマイティキックを受け、ディケイドは大きく吹き飛ばされながら絶叫する。
仲間への意図せぬ同士討ちにクウガが困惑と怒りを抱きながら振り向くのと同時、水のエルはその手の甲に主への祈りと共に印を結ぼうとする。

「……させるか!」

――ENGINE!MAXIMUM DRIVE!

だがそれを妨げんと、アクセルの持つエンジンブレードからAの字を象った巨大なエネルギーの光弾が射出される。
窮地の仲間を救わんと放たれたそれを前にして、しかし水のエルは変わらずただその右手を翳した。
刹那、水のエルの手より放たれた念動力は、今まさに彼のもとへ達しようとしていたエネルギー弾をまんじりともせず制止させる。

超常を逸する光景に彼らが呻く一方で、水のエルの意のままに手繰られたエースラッシャーは、次の瞬間攻撃を放ったアクセル自身の元へと撥ね返されていた。
思いがけぬ反撃にその身を大きく吹き飛ばし、絶叫と共に仰向けに倒れ伏すアクセル。
辛うじて変身は保ちながらも、戦いが始まってまだ数分と言うのに三人の歴戦の勇士が肩で息をする戦況に、言葉にはしないながらも彼らは皆悟っていた。

今戦っている相手は、まさしく大ショッカーの尖兵に相応しい実力を持つ、ただならぬ強敵であると。

「醜い……」

それでもと立ち上がった三人の仮面ライダーに対し、水のエルは一人ごちる。
その声に含まれる感情は怒りとも憐れみとも違う、ただ憎悪だけを煮詰めたような深い隔絶の色だった。

「人ならざる者は、滅びねばならない……」

己の使命を噛み締めるように、そう呟いて。
水のエルはただ敵を迎え撃たんとその腕を翳した。





「さぁ、お前の罪を数えろ!」

いつもの決め台詞を言い放ちながら、ダブルは風のエルに向け走り出す。
マフラーを靡かせ風を肩で切るその疾走を前に、しかし風のエルはただ頭上に生じさせた光の環から一張の弓を取り出した。
憐憫のカマサの名を持つそれを胸の前に構え、風のエルは自身へと向かってくるダブルへと矢を放った。

無論、対するダブルとて無手で攻撃を受ける愚は犯さない。
横に転がることで矢の直撃を避けたかと思えば、立ち上がりざまその手に握った銀のメモリを起動する。

155加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:26:06 ID:6c9iHJDY0

――METAL!

――CYCLONE METAL!

ガイアウィスパーが叫ぶ闘士の記憶が、ダブルの左半身を黒から銀へと染め変える。
それに伴い背中へと生みだされたメタルシャフトを振り抜けば、その一薙ぎは矢を撃ち落とす風の防壁と化した。
一矢、また一矢と続けて放たれる風のエルの攻撃を的確に跳ねのけつつ恐れず接近するダブルは、瞬く間に敵の間合いへと潜り込む。

「ウォラ!」

気合と共に振るわれたメタルシャフトの一突きは、しかし風のエルに触れることはない。
彼はまるでそよ風のように跳び上がり、ダブルの持つ得物の先へ、我が物顔で直立していたのだから。

「野郎……!」

自身を馬鹿にされたと感じたか、勢いよくダブルが得物を振り上げれば、風のエルはその勢いをも利用して宙へと跳び上がる。
そのまま背後へと着地した彼へダブルが振り返るのと、憐憫のカマサが矢を吐き出すのはほぼ同時だった。

――CLOCK UP

自身の危地に呻きを漏らし、半ば覚悟を強いられたダブルの元に、しかし矢が到達することはない。
彼の前に現れた赤い疾風が……すなわちクロックアップを発動し割り込んだカブトが、高速の勢いのままそれを叩き落としていたからだ。

「総司!」

ダブルの漏らす歓喜の声に応じることなく、カブトは風のエルに向け一直線に駆け抜ける。
クロックアップのネタが割れる前に敵を倒す算段なのだろう。
だが今対峙しているのは、腐ってもこの殺し合いを監視し続けてきた大ショッカーの幹部の一人。

まるで動じる様子もなく風のエルがその手を彼らに向けて翳せば、その背後からカブトらに向けて凄まじい突風が吹き荒んだ。
その勢いは、まさしく天の齎した神風と呼んで相違ない。
一瞬にして高速の領域にあったカブトの足を止め、クロックアップを強制的に終了させる。

どころか立つのに精いっぱいで無防備に立ち尽くすしか出来ない彼らの姿は、風のエルからすれば格好の的でしかなかった。

「……させるか!」

――LUNA!

――LUNA METAL!

風のエルに弓を引かせるわけにはいかぬと、ダブルは懐から黄色のメモリをベルトへ装填する。
それにより新たに神秘の記憶を身に宿した彼がメタルシャフトを振るえば、そのリーチは先の比のそれではない。
まるで伝承における斉天大聖の棍棒の如く、物理法則の如何を無視して暴風の中を一心に敵へと伸びていく。

この奇想天外の戦法にはさしもの高位の天使も呆気にとられたか。
その肉体にメタルシャフトの到達を妨げることも出来ず、風のエルは火花を散らして数歩退かざるを得なかった。

「ありがとう。翔太郎、フィリップ」

「礼はいらねぇよ総司。にしても……」

改めて並んだカブトと言葉を交わしながら、ダブルの視線は少し離れた場所に立つ一人の仮面ライダーの元へと向かう。
翔太郎からすれば未だ消えぬ未練の象徴、どうしようもなく忌々しいハートの意匠を刻んだ彼の名は、カリス。
相川始の変じた黒い戦士が、こちらを援護するどころか風のエルに攻撃を加える素振りすら見せぬまま、こちらを観察するように立ち尽くすその姿だった。

「高みの見物か?いいご身分だぜ」

「翔太郎、今は相川始よりあっちの相手が先だよ」

ダブルの右目が光り、フィリップの声が響く。
それに引っ張られるように視線を前に戻せば、早くも態勢を立て直した風のエルが、こちらをその鋭い瞳で睨みつけていた。
確かにあの強敵を前にして外野を気にしていられる余裕はないかと、翔太郎は一つ息を吐き出した。

「分かってるよ、相棒。行くぜ、総司」

「うん……!」

油断なく構えたカブトの姿に頼もしさすら感じながら、ダブルはその左手に青のメモリを握りしめた。







「……そうだ、それでいい」

黄色と青の身体へ姿を変えたダブルの背中を睨みながら、カリスは誰にも聞かれぬよう一人ぼやく。
運命を変えて見せると宣って見せたジョーカーの男、左翔太郎。
曰くフィリップと共に戦えれば自分にも勝てるとのことだったが、果たしてそれもあながち思い上がりでもないらしい。

通常のカリスにしか変身できない自分であれば、なるほどあの変幻自在の戦法は確かに厄介な存在に違いない。
少なくともあの木場という男を喪った戦いにおいてダブルに変身できていれば彼を守れたかもしれないというのは、決してないものねだりの願望というだけではないと、そう思えた。
だがその程度の実力では、結局大ショッカーを前にしては実力不足でしかない。

少なくとも大ショッカーの尖兵として現れたあの風を操る怪人など倒せる実力がなければ、運命を変えるなど夢のまた夢だというのは、疑いようのない事実だった。
故にこの戦いの行方を見つめ、その実力を見定めるというのがカリスの目的の一つ。

156加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:26:27 ID:6c9iHJDY0
そしてもう一つは――。

「剣崎を殺した男……確かめさせてもらうぞ、お前が真に、あの男の力を継ぐに相応しいのかを」

小さく呟いたカリスは、視線をダブルからカブトへと移す。
彼の言うあの男とは、もちろん剣崎のことではない。
ただ一人でかの究極を超える暴力に抗って見せた誇り高き一人の戦士、太陽にも等しい輝きを持つ一人の男のことだ。

――『おばあちゃんが言っていた。散り際に微笑まぬ者は、生まれ変われないってな』

それは、灰と化してこの世から消え去らんとするその瞬間に至るまで、その顔から笑みを絶やさなかった一人の男の最期の言葉。
不敵にその人差し指を天に翳しながら、何の悔いもないとばかりに言い切って見せた“あのカブト”と同じ顔をした男の言葉だった。

――『そしてこの地には、この俺に並ぶような奴らが、仮面ライダー達がいる。だから、何も心配せずに逝けるということだ』

あの男が紡いだ、確信に満ちた言葉。
皮肉にも始に病院への襲撃を決意させたその言葉は、しかし未だに彼の心の深い部分に楔のようにして突き刺さり続けていた。
もしも“あの剣崎を殺した男”を自分が認めるようなことがあるとすれば、それはあの男の言葉が真であると認めたときに相違ない。

顔を奪われ、名前を奪われ、そしてなお力を奪われたあの男……天道総司。
だがもしそれらが奪われたのではなく託されたものだったのだとすれば。
灰へと帰したあの誇り高き笑みに恥じるような無様だけは、絶対に許せるはずがなかった。

「見せてみろ、お前が本当にあの男の言う仮面ライダーだというのなら、剣崎からバトンを受け継いだというのなら……お前が、その資格に相応しいのかを」

故に、カリスはただ戦いを見つめ続ける。
運命を変えて見せると宣った男の実力と、数多の仮面ライダーからその称号を授けられたという罪人が真にその名に足る存在なのかを、見定めるために。
彼の赤い双眸が映す戦火は、なお一層にその激しさを増していった。





「だぁぁ!」

ナイトの掛け声と共に、ウィングランサーが地のエルを薙ぎ払うように振るわれる。
見え見えの大振りに過ぎないそれを彼は難なく受け止めるが、その瞬間を突くようにイクサが剣を構え飛び込んだ。
イクサカリバーの赤い刀身が地のエルの身体をなぞり、飛び散る火花に晒されながら二人は同時に横へと飛びのく。

それにより地のエルを抑えていた圧力が一気に解放されたかと思えば、その視線の先にあったのは自身に向け銃口を構えるデルタの姿だった。

「ファイア!」

デルタが放つ光弾の雨に、イクサもまたカリバーをガンモードへと変形させ合わせる。
連射性、威力どちらも申し分のないそれは上位の天使たる地のエルにすら通用し、その身体を大きく後方へと退かせた。

「っしゃあ!」

ナイトが、歓喜の声を上げる。
確かにこの状況を一見すれば、強敵を前に三人の仮面ライダーが圧倒的有利にあると言うことも出来る。
だがその優勢を手放しで喜ぶことは、イクサには出来なかった。

「……」

イクサの思った通り、というべきか。
その身からなおも硝煙を揺蕩わせながらも、しかし地のエルはなおも健在。
どころか大したダメージも戦意も感じられないその風体を前に、イクサが抱いたのはまず尋常ならざる違和感だった。

「貴様……まさか戦う気がないのか?」

「え……?」

イクサが地のエルに投げかけた疑問に、デルタが困惑を吐く。
だがそれも無理はあるまい。
この状況はまさしく大ショッカーから遣わされた敵と仮面ライダーの真っ向勝負なのだと、誰もがそう思っていた。

故にその戦いにおいて戦意を露わにしないなど、まず考えに浮かぶはずがない。
だが対峙する地のエルはただ溜息一つだけ吐いて、そして三人の顔を交互に見つめた。

「人よ、力を捨てる気はないのだな」

「何……?」

その声に滲むのは倦怠感でも憤怒でもなく、悲しみ……或いは憐れみとでも言うべき感情の色。
交わされた言葉の意味が捉えきれず意味のない確認だけを漏らしたイクサに対し、しかし再度向き直った地のエルの顔からは、それまでの無気力は消え失せていた。

「なれば力づくでも……人は、人を超えてはならぬのだ」

頭上へと現れた光の輪から敬虔のカンダと呼ばれる大剣を取り出して、地のエルは身の程を弁えぬ人へと罰を下す為にその足をゆっくりと進めていった。

157加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:26:55 ID:6c9iHJDY0





――FORM RIDE……DEN-O!ROD!

ディケイドライバーが読み込んだカードの名を高らかに叫ぶと同時、彼の身体は青のオーラアーマーに包まれる。
それにより亀の甲羅を思わせる装甲を纏ったライダー、電王ロッドフォームへとその姿を変えたディケイドは、同じく青い姿へ変身を遂げたクウガに立ち並ぶ。
ロッドモードのデンガッシャーと、ドラゴンロッドをそれぞれ構えて、彼らは一斉に水のエルへと得物を振り抜く。

だが、対する水のエルもまた自身の長斧を目まぐるしく振り回し、二人の攻撃をいなし続ける。
ディケイドとクウガとて棒術において確かな使い手であることは間違いないが、水のエルはこと長物の扱いにおいてはそれこそ神業の域。
二対一という数の不利などものともせず攻撃を捌き続ける彼を相手にしては埒が明かないと断じたか、ディケイドは手を緩めないながらもライドブッカーへと手を伸ばした。

――FORM RIDE……KIVA!DOGGA!

先の戦いにおいて渡から受け継いだ新たなライダーの力。
それによりフランケンシュタインの怪物の力をもその身に宿らせたディケイドは、その手に構えたドッガハンマーを勢いよく振り下ろす。
ドン、と鈍い音を響かせて激突したドッガハンマーと怨念のバルディッシュ。

力自慢のドッガを相手には流石のエルロードも今までのように軽くあしらうことは出来ないのか、僅かばかり水のエルの動きが鈍る。
同時、ディケイドが作り出したこの好機を逃す手はないと、クウガは高く宙へと跳び上がっていた。

「うおりゃあああああ!!」

ドラゴンロッドを正中に構え水のエルへと飛び掛かるクウガの姿は、まさしく彼が封印エネルギーを叩き込むための動作に違いない。
スプラッシュドラゴンの名を持つその一突きを無防備に受けるのは不味いと、本能がそう察したか。
腕ずくでドッガを撥ね退けた勢いそのまま、水のエルはクウガのドラゴンロッドをいなしその勢いを受け流す。

「超変身!」

だが、そのまま得物をクウガの薄皮に突き立てんと振りかぶった水のエルを待っていたのは、強固な鎧と化した紫のクウガの姿だった。
その手に持っていた棒を改めてタイタンソードに変化させたクウガの力は、先ほどまでの比ではない。
一人であっても自身を数瞬は抑え込めるだけの剛力を発揮したクウガに、水のエルが目を見開いたその瞬間、既に彼らの次なる手は切られていた。

「今だ、士!」

「あぁ!」

クウガの掛け声に乗じて、ディケイドキバがドッガハンマーを振り下ろす。
流石の水のエルもこの連携攻撃を真っ向から受け止めることは出来なかったか。
火花を散らし後退を強いられながらも、ただでやられるわけにはいかぬとばかりに水のエルがその手を翳せば、瞬く間に二人のライダーの頭上から紋章が舞い降りる。

ドッガフォームとタイタンフォーム、力と引き換えに俊敏さを失った今の彼らではその動作を見てからではろくな回避行動を取れるはずもない。
紋章に捕らえられた彼らの身体は瞬く間に炎上し、そして爆ぜた。

「うわあああぁぁぁぁ!!!」

蓄積されたダメージ故に、その身を通常のものへ戻す二人の仮面ライダー。
傷つき倒れた二人に追撃を仕掛けんとする水のエルだが、しかしその瞬間彼に青の疾風が迫る。
ほぼ反射的に念動力を発揮しその動きを止めようとするが、捉えたのは残された青の残像だけでしかなかった。

「ハァッ!」

思わず動じた水のエルに、掛け声と共に突き立てられる青い拳。
すかさず飛びのきつつ自身に攻撃を仕掛けた何かの正体を探れば、そこにあったのはここにいる誰もまだ知らぬ新たな青い戦士の姿だった。

「一条さん!」

未だ倒れ伏すクウガから、歓喜の声が飛ぶ。
その声に振り向き頷いたアクセルの姿は、特訓により手に入れた新たな領域、トライアルのそれである。
重厚な装甲を捨てたことにより高速移動を可能にした今のアクセルにとって、水のエルの異能を見切るなど容易いこと。

敵が如何に常軌を逸した能力を持つとしても喰らわなければどうということはないのである。
確たる強い意志と共に、アクセルは自身のドライバーからトライアルメモリを引き抜き、マキシマムスイッチを起動する。
宙へと放られたメモリが刻む時の流れと共に、アクセルの身体は一瞬で目にも止まらぬ領域にまで加速する。

対する水のエルもまた念動力での対処を試みるが、しかし今のアクセルがその程度で止まるはずがなかった。
遂に憎き怨敵へと到達した、アクセルの青く染まった右足。
音速で乱打されるコンビネーションキックが、水のエルの身体にTの字を浮かび上がらせるのと、トライアルメモリが彼の手に舞い降りるのはほぼ同時のことだった。

158加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:27:15 ID:6c9iHJDY0

――TRIAL!MAXIMUM DRIVE!

トライアルメモリが指すタイムは、9.6秒。
間違いのないマキシマムの成功は、しかしアクセルに勝利への確信を抱かせることはなかった。
どころか、まさしく今しがた水のエルの身体を蹂躙したはずの彼の右脚に纏わり付く水の違和感は、彼に考え得る限り最悪の可能性を連想させた。

「一条さん、危ない!」

クウガの声を待つが早いか、背後から膨れ上がる殺気を感じて振り返ったアクセルの瞳に映ったのは、未だ健在の水のエルの姿だった。
マキシマムの直撃を喰らったはずなのに、何故ダメージすらないのだ。
狼狽と共に脳裏に浮かんだその問いを打ち消したのは、意外にも彼自身の脚に未だ残り続けるぐっしょりと濡れた感触だった。

(こいつまさか、自分の身体自身を水そのものに――!)

思い至ったのはそんな突拍子もない、しかしこれ以上なく合点の行くものだった。
そして状況判断からのみ絞り出された一条のその考えは、実のところ限りなく正解と言って過言ではない。
高位の存在たるエルロードの一人であり、水を司る水のエルにとって、自身の身体そのものを液状化させることなど容易いことだった。

通常の攻撃であれば数発が限度の精度であろうと、瞬く間に放たれ続けるマシンガンスパイク相手なら、10秒の制限時間いっぱいまで攻撃を躱し続けることはなお容易い。
果たして無傷でアクセル渾身の必殺をやり過ごした水のエルは、この瞬間を待っていたとばかりに自身の持つ長斧を勢いよくアクセル目掛け振り下ろす。
ほぼ0距離から放たれた暴力的なまでの圧力を前に、如何にトライアルであろうと躱す術はない。

次の瞬間、振り抜かれた怨念のバルディッシュが、トライアルの薄い装甲をまるで紙切れのように呆気なく蹂躙する。
あまりに重いその一撃にトライアルの鎧が耐えきれるはずもない。
まるで紙切れのようにその身を刻まれたアクセルの身体は、変身を保つことすら出来ず仰向けに倒れ伏した。

「一条さんッ!」

先ほどの注意喚起よりも切迫感を伴ったクウガの絶叫が、虚しく響く。
絶体絶命の光景を前に、自身の痛みすら無視して立ち上がろうとする彼の動きはしかし、この瞬間においてはあまりに緩慢だった。

「人は……ただ人であればいい」

クウガが何らかの対処を試みるより早く、水のエルはただそれだけ呟いて自身の得物を再び振りかぶる。
その狙いの先にある一条はただ、振りかざされる超常の暴力を前に何の抵抗を行うことも出来ないまま、齎される結果を享受することしか出来なかった。







――バキリ。







死すら覚悟した一条の耳に到来したのは、しかし自身の体が砕け散る音ではない。
ただ己の腹部の方向から届いた、何かが壊れるような乾いた音と強い圧迫感だけだ。

「え……?」

だが、だからこそ一条の口から漏れたのは痛みに悶える苦悶のそれでも、状況の打破を目指す威勢の声でもなく、ただひたすらに眼前の光景への困惑を示す間の抜けた声でしかなかった。
彼の映す視界の先、自身の腹部に装着されているドライバーに、深々と突き刺さる長斧。
それはまさしく、照井という尊敬すべき一人の戦士から受け継いだ仮面ライダーの力が、あまりにも呆気なく奪われた瞬間だった。

「――ッ超変身!」

ようやく立ち上がりペガサスフォームへと変身を果たしたクウガが、ペガサスボウガンから弾丸を放つ。
まさしく風を切る勢いで放たれたそれは水のエルの身体を一条から引き離すことに成功するが、しかし悲しいかな。
既に水のエルから一条という一個人への執着は失われている。

アクセルという力を失い、最早“ただの人間”へと成り下がった彼など、全ての事象において取るに足らない矮小な存在へと成り下がってしまったのだから。

「薫!無事か!?」

「えぇ、ですが……」

体制を立て直したディケイドが、一条のもとへと駆け寄り心配の声をかける。
それにさした意味も持たない空返事を返しながら、ただ腰のアクセルドライバーを茫然と見つめる一条。
何と言葉をかければいいのか、ディケイドですら思案を強いられるその一方で、ただ一人クウガだけは確かな意思と共に水のエルの前へと悠然と立ちはだかっていた。

「士、一条さんを連れて離れてくれ。こいつは……俺が倒す」

「ユウスケ……」

こちらを振り向くこともなく、水のエルを睨み続けるクウガ。
その背中にディケイドですら何も言えなかったのは、背中越しでも伝わるほどに彼の怒りが凄まじいものだったからだ。

159加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:27:38 ID:6c9iHJDY0

「あのドライバーは、一条さんが照井って人から受け継いだ大事な物なんだ。それを、こいつは……!」

血が滲むのではないかと思わされるほどの力を込めて、クウガはその拳を強く握りしめる。
きっとユウスケは、また自身の心を葬り究極の闇へとなろうとしている。
例えそうなったとしても守りたい笑顔があるから……かつて破壊者となった士自身の前に立った時と同じ思いを抱いて、その使命を果たそうとしているのだ。

「小野寺、くん……」

ユウスケの心中を察した一条が、弱弱しくその名を呼ぶ。
それに応えて振り返ったクウガの表情は、変身している為に見えはしない。
それでも彼はまるでいつもと変わらぬ明るい声で、明るい仕草で一条に頷いた。

「大丈夫ですよ、一条さん。俺も……クウガですから」

様々な含みを持たせたその言葉だけを残して、クウガはそれきり一条たちに背中を向け敵目掛け駆け出す。
赤いクウガが自身では敵わぬ存在へと勇敢に立ち向かっていく、一条にとってはいつもの光景。
だがその雄姿をいつもと同じ心境で見送ることは、今の一条にはどうしても出来なかった。





ダブルの持つトリガーマグナムから、弾丸が連続して放たれる。
常識など存じぬとばかりに縦横無尽に飛び交う黄色の光は、それを放った本人ですら予測不能の軌道を描き、いずれ敵を蹂躙する
それこそまさしく、幻想の遊撃手とも言うべきルナトリガーの能力の本懐。

速度も威力も特筆して優れているとは言えないが、それでも自由自在に弾道を操れるこの姿で遠距離戦において不利に陥った経験は、未だかつてダブルの二人とて経験したことがない。
いや、この表現は些か語弊があるだろうか。
今この瞬間、彼らが対峙する風を司る高位の天使と出会うまでは、それは紛れもない事実であったはずだった。

「ウォラッ!」

苦し紛れの掛け声と共に、ダブルが再び弾丸を放つ。
だが、摩訶不思議な軌跡を描いたそれはしかし風のエルに達するより早くエネルギーを霧散させ掻き消える。
だがそれは、何も風のエルが持つ特殊な防御壁によるものではない。

ただ単にルナトリガーの弾丸が如何な軌道で彼に迫ろうとも、風のエルがそれを全て自身の矢で撃ち抜いているという、それだけのこと。
どれだけダブルが弾数を増やそうと、どんな軌道を描こうと、全ては神速で放たれる矢を前に無に帰してしまうのである。
その人知を超えた技能はまさしく神業と呼ぶべき代物で、いままであくまでも人が姿を変えたドーパントと戦い続けてきたダブルに戦いの苛烈化を否応なしに認識させるものだった。

「感心してる場合じゃないよ、翔太郎」

「そうだな相棒、パワーが足らねぇってんなら……!」

――HEAT!

――HEAT TRIGGER!

新たに赤いメモリを起動し、ドライバーに装填するダブル。
それに従い右半身を赤く染めたその姿は、ダブルの中でも随一の火力を誇るヒートトリガーのそれであった。
刹那、これまでと変わらぬ動作でトリガーマグナムの引き金を引けば、放たれたのは火球の如く真っ赤に燃える弾丸だ。

これまでと違い、ヒートトリガーの攻撃は狙いの精細さに欠き連射性に劣る。
だがそれでも彼らがこの形態を選んだのは、果てしなく高まった火力がこの状況を打破すると確信していた為だ。
今までのそれと同じく、迫る弾丸に自身の矢を射る風のエル。

ルナトリガーの弾丸であれば一矢で二発を撃ち落とすことすら容易かったはずのそれは、しかしヒートの力を得た今の弾丸に対しては相殺が関の山だった。

「――ッ」

目の前で霧散したはずの弾丸から、エネルギーの余剰を示すように火花が風のエルの身体に降りかかる。
すなわちそれは、ダブルと風のエルの間における撃ちあいにおける力関係が、まさに逆転した瞬間であった。

「うおおおおおおお!!!」

これを好機と見たか、ダブルは弾丸を放ちながら風のエルに向けて突貫する。
徐々に迫り行く二人の距離、どんどんと対処に追われ始めダブル本体への対応もままならなくなっていく風のエル。
瞬間、遂にほぼゼロ距離にまで迫ったダブルの手には再び切り札の記憶が握られていた。

――JOKER!

――HEAT JOKER!

「ウォラッ!」

その拳に炎を纏わせ、ダブルは真っ直ぐに風のエル目掛けストレートパンチを放つ。
弓を引く速さにも勝ろうかというその神速の勢いは、だが敵を捉えることなく空を切る。
先ほどメタルシャフトを回避した時と同じく、風のエルが宙へと跳び上がった為。

だが上空で憐憫のカマサに矢を番えようと構えた風のエルに対して、ダブルは不敵に振り返って見せた。

160加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:28:03 ID:6c9iHJDY0

「ハッ、かかりやがったな――総司、今だ!」

「ライダーキック!」

叫ばれたその名前に応えるように、風のエルと同じ高さにまで跳び上がったカブトが必殺の一撃の名を叫ぶ。
思わぬ伏兵に風のエルも対応を試みるが、しかし遅い。
彼が何らの抵抗を行わんと動いたその瞬間に、タキオン粒子迸るカブトの右足は強かに敵を捉えていた。

「グオォッ!」

ライダーキックの直撃を受け、呻きながら地に落ちる風のエル。
遅れて降り立ったカブトに駆け寄りながら、ダブルは気障にその手をスナップさせた。

「やったな、総司」

「うん。でも……まだだよ」

カブトの張り詰めた声に釣られて、ダブルも前に向き直る。
見れば、ライダーキックの直撃を受けてなお風のエルは健在。
ゆっくりと立ち上がったその瞳には、未だなお消えぬ殺意の炎が灯されている。

分かっていたつもりでも、どうやら楽に勝てる相手ではないらしいと構えなおした彼らに対し、しかし風のエルの視線が向かうことはなかった。

「野郎、どこ見てやがる……?」

「あの方角、まさか……!」

首を傾げたダブルの右目が光り、フィリップの戦慄が響く。
急ぎ風のエルの視線の先へと身体を向けたダブルの目に映ったのは、ダブルに変身している為に無防備に倒れ伏したままのフィリップの身体だった。
奴の狙いはこちらではなくフィリップの本体そのものか、と彼らが理解するのと、風のエルがそちら目掛け矢を放つのはほぼ同時の事だった。

――CLOCK UP

瞬間、聞き覚えのある電子音声と共に走り抜ける赤い旋風。
クロックアップを発動したカブトが、フィリップを守らんとその身を投げ出したのである。
無論、幾らクロックアップが無敵の高速化を可能にすると言っても、時間を止めることなど出来はしない。

既にフィリップの眼前にまで迫りつつあった矢を前にしては、クナイガンでの迎撃を行う暇すらなく、カブトの身そのものを盾とすることで精一杯だった。

「総司!」

ダブルの呼び声も虚しく、マスクドフォームに戻る隙すら与えられず、矢の雨に晒されるカブト。
遂に膝をついたその姿を前に、しかし風のエルが慈悲を見せることはない。
その弓につけられた名の通り……ただ異形に対する憐憫だけを抱いて、風のエルは彼に終わりを告げる一条の矢を放っていた。





「はあぁ!」

掛け声と共にイクサが振るったイクサカリバーが、地のエルの持つ大剣に受け止められる。
なればとばかりに剣を握る手に力を籠めるイクサだが、しかし拮抗すら許されずいなされ吹き飛ばされる。
あのガドルが変じたアームズ以上の力を誇るその剛腕を前に、さしものイクサも呆気なく後退を強いられる一方で、飛び込んだのはナイトだった。

――TRICK VENT

電子音声と共に4人に増えたナイトの姿。
イクサを庇う様に地のエルを囲んだその一団を前にしかし、地のエルは悠然とその身体を大きく回転させる。
それに伴い円を描くように振るわれた大剣の一閃が今まさに迫らんとしていたナイトたちの身体を切りつければ、ナイトが生みだした三人の分身は割れた鏡の如く呆気なく消え失せる。

唯一残された本体が鎧から火花を散らし倒れ伏すのに最早目もくれず、地のエルはデルタへと向き直る。
すかさずデルタも銃口を向け攻撃を試みるが、しかし彼が引き金を引くより早く地のエルの掌から放たれた塵が彼の身体へと襲い掛かっていた。
人の身体を塵へと帰す力を持つその流砂を浴びて、デルタの鎧が悲鳴を上げる。

或いは超常の異能を誇るその塵にライダーズギアがシステムエラーを起こしたか。
デルタはその身から火花を散らし、俯せに倒れ込んだ。

「真司君!修二君!……貴様ァ!」

仲間の無事を案じつつ、イクサは自身のベルトへとカリバーフエッスルを装填する。
それによりイクサカリバーに充填されたエネルギーは、まるで太陽の如く輝きをイクサに齎した。
永遠に輝き続ける真紅の光を背に抱いたイクサは、激情のままにイクサ・ジャッジメントを地のエル目掛け振り抜く。

161加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:29:07 ID:6c9iHJDY0

数多のファンガイアを滅ぼしてきた、名護にとっても最も信頼のおける最強の一閃。
かつてガドルにすら致命傷を与えたその一撃は、しかし今地のエルの剛腕を前に振り切ることすら許されずしかと受け止められていた。

「何ッ!?」

自身の必殺技が容易く破られたことに思わず困惑を漏らすイクサに対し、しかし地のエルの力が留まることはない。
気合と共に彼がその剣を振り上げれば、人類の英知の結晶とも言うべきイクサカリバーは呆気なくその刀身を二つに別っていた。
今度こそ驚愕に息を呑むイクサだが、それも地のエルからすればさほど驚くべき事象ではない。

地のエルの持つ敬虔のカンダは、かつてアギトのシャイニングカリバーすら破壊したこともある疑う余地のない逸品だ。
なればその破壊力が、並の剣で受け止められるはずもない。
当然の結果に感動すらなく、呻くイクサを問答無用で切り伏せた地のエルの目に映るのは、ダメージ故未だ立ち上がる事すら叶わぬ三人の人間の姿。

その光景を前に地のエルの中に浮かぶのは、人間とはなんと哀れ弱い生き物なのだろうかという、そんな呆れにも似た感情だった。
地に這う芋虫にも等しいこの無様な光景を、あの方が見れば何というのだろうか。
こんな存在があの方の寵愛を一心に受けている、という事実にやはりというべきか不快感と不可解を抱きながら、しかし地のエルは忠実なるあの方の下僕として、或いは高潔なる天使として、彼ら哀れな人間に救いの声を響かせた。

「人間よ、我々が戦う必要はない。力を手放し、人へと戻るがいい」

「ふざけるな、誰がそんなことを……!」

未だ地に這いながら、憤怒の声を漏らしたのはイクサだった。
その瞳にはやはりまだ闘志が燃え続けている。
彼は既に力を手放しても人には戻れないのかもしれない。

なんと哀れな存在なのだと彼に慈悲の感情すら向けながら、地のエルは続けた。

「あのお方は直に世界を見定め終える。その時を目前にして、望まぬ戦いを続ける理由はないだろう」

地のエルはそう言って、イクサ以外の二人へと視線を移す。
この殺し合いに巻き込まれる前から戦いを忌避し、人ならざる存在への“変身”を拒んできた、三原修二。
13人の人間同士で殺し合った末の奇跡を謳われながらも、しかし決して誰かを殺すことなく戦いを止めようとし続けた、城戸真司。

そんな彼らからすれば、力を捨てるという選択肢に何の迷いもないに違いないと、地のエルは――或いは彼の主さえも――そう思っていた。
故に彼は投げかける。
力を放棄し、人として生きることで得られる主による祝福を、戦いで穢れた自身の罪を贖うつもりはないかと。

「真司君、修二君……」

地のエルの言葉を受けたイクサの、不安げな声が響く。
名を呼ばれてもなお俯くナイトとデルタの出す答えが果たしてどんなものなのか。
それを断言することは、さしもの名護にも出来ぬことだった。





三体のエルロードと仮面ライダーらの戦いは、当然の道理として大ショッカー本部にも届いていた。
だがその映像を見守る首領の表情は、決して明るいものではない。
自身が命じたも同然とはいえ、圧倒的な強さで人間を圧倒する自身の眷属と、彼らに断罪されようとしている愛すべき子供たちの姿は、胸を締め付けるほど痛ましいものだ。

もう戦いの行方を、つまりは眷属による仮面ライダーらの虐殺を、見届ける必要もあるまい。
確かな失望と悲しみを胸に、首領は椅子から立ち上がりその場を後にしようとする。

「……どこへ行く、テオス」

だがそんな彼の背中を、冷たく引き留める声が一つ。
それは、このエルロードらを仮面ライダーと戦わせることを提言し決定した張本人ラ・バルバ・デのもの。
結局は彼女もその種族の性で人間の死にざまを見たかったに過ぎないのだと呆れながら、しかし首領はゆっくりと振り返った。

162加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:29:27 ID:6c9iHJDY0

「もうこれ以上、あなたの悪趣味に付き合う理由はありません、ラ・バルバ・デ。他ならぬ私の眷属に、人間を殺させるなど……そんな光景を、私はこの目に映したくはないのです」

「お前は、奴らがこのままお前の眷属に敗れると思っているのか?」

バルバの問いに、首領は深く頷きを返す。
その心に一切の迷いすら感じさせぬ彼の仕草にバルバは呆れたように眉を顰めて、しかし視線を一切外すことなく続けた。

「案ずるな。人間は、リントとは違う」

人間と、リント。
その言葉の意味する些細な機微を正確に知ることが出来るのは、恐らくバルバだけに違いない。
だがそれでも、創造主でありながら人間への理解において異形たる彼女にすら劣る首領がその意味を察することなど、出来るはずがなかった。

「ラ・バルバ・デ、それはどういう……」

「……始まったぞ」

首領の言葉を遮って、バルバは妖しい笑みを浮かべる。
その視線の先に映るのは、一つのモニター。
一体何が始まるというのか、そんな問いを新たに発することすら出来ぬままに。

首領もまた、その光景を見届けることしか出来なくなっていた。





赤いクウガの猛る拳が、水のエルを打ち据える。
揺らいだ身体を支えんと反撃代わりに振るわれた長斧を青のクウガに変じて躱し、その勢いのまま飛びのいて緑のクウガで敵を射抜く。
さした効果すら齎さず距離を詰められ長斧が身体を蹂躙するかと思われたその瞬間には紫のクウガへとその身を変え、重厚な鎧で以て敵の攻撃を凌ぎきる。

目前で繰り広げられる死闘と呼ぶべき一進一退の攻防に、一条は思わず息を呑んでしまう。
小野寺ユウスケの戦い方は、確かに五代のそれと比べれば粗削りで、危なっかしいものであることに違いはない。
だがそれでも、その敵を打ち倒さんとする鬼気迫る勢いだけは、或いは闇にその身を堕としてでも成し遂げるという覚悟の分だけ、五代を上回るものと言って過言ではなかった。

(小野寺君……)

そんな必要などなかったはずなのに、一人で戦うクウガの姿。
またしても背負わせてしまったその重圧に胸を締め付けられながら、今の一条にはただそれを見守るしか出来ることはなかった。

「薫」

苦悶の表情を浮かべた一条に対し、降る声はディケイドのそれだ。
クウガから視線を外すことも出来ず、返事をするだけの気力もない一条は半ばその声を無視したように無言を貫くが、ディケイドはその心情を察しているのか、気にする様子もなく続ける。

「あのアンノウンのことはユウスケに任せて、俺らは逃げるぞ、いいな?」

「……」

ディケイドの問いかけに、一条は答えない。
聞こえていない訳ではない。
むしろその言葉の意味するところまで理解した上で、一条は答えない。

幼稚だと罵られようとも、沈黙こそがその問いに対する一条の答えだった。

「一条、早く離れないとユウスケが――」

「門矢さんは、それでいいんですか……?」

「あ?」

「彼を……小野寺君を、究極の闇にしても良いって言うんですか――!?」

163加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:29:45 ID:6c9iHJDY0

重ねられたディケイドの言葉に重ねるようにして、一条の口から遂に声が漏れる。
それは疑問とか問いだなんて大層なものではない。
ただ子供の駄々のように答えの存在しないもので、それでいて彼からすればどうしようもなく譲れない事象であった。

究極の闇になってしまったという事実を、ユウスケはずっと後悔し苦悩し続けていた。
ダグバを倒す為とはいえ、心を手放しただ暴れまわるだけの異形と化すその戦い方が、彼の望む戦士のそれであるはずがない。
橘朔也やヒビキに恐怖を植え付け、牙王やダグバに追い回される要因となり、挙句の果て小沢や京介を守れなかった、何の意味も持たぬただ強いだけの血の通わぬ力。

もう彼にあんな思いをさせたくはないと、自分にだって何か出来ることはあるはずだとそう考えたから、辛い特訓にだって打ち込んだはずなのに。
その力は大ショッカーを前にはあまりに無力で、そしてまたユウスケはあれだけ辛い思いを飲み込んででも、再び究極の闇にその身を堕とそうとしている。
先の病室であれだけ戦いへの恐怖を如実に語ったばかりだというのに、それでも誰かの笑顔を守りたいという、それだけの思いを抱いて。

そんなのは、あまりに苦しくて、悲しすぎる。
この世界ではクウガだけが戦う力を持つわけではないのに、何故そんな思いを彼だけが引き受けなければならないのか。
どうしようもない無力感から漏れだす思いは、もう一条自身にも止めることは出来なかった。

「あなたは、小野寺君の笑顔を守ると言ったんじゃないんですか!?彼が究極の闇にならなくても済むように共に戦うと、そう言ったんじゃないんですか!?」

「あぁ、言ったさ」

「なら――!」

「――だから俺は、お前を死なせるわけにはいかない」

一条の怒涛の勢いにぴしゃりと水を打ったのは、ディケイドのそんな言葉だった。
何故今、自分の話が出てくるというのだという困惑に、思わず一条は声を失う。
そして、その当惑を予想していたかのような調子で、ディケイドはまるで言い聞かせるように続ける。

「ユウスケの願いは、もう誰の笑顔も失わないことだ。特にお前が死ねば……あいつはきっと、もう笑うことは出来ない」

「俺が……?何故、そんな……」

「似てるからさ。お前と、あいつの戦う理由だった女が」

告げるディケイドの瞳は、戦いを続けるクウガの姿を映す。
一条にとって、それは初耳の話だった。
小野寺ユウスケの、もう一人のクウガの戦う理由となった女性の存在。

果たしてそれは親類なのか、恋人なのか、それとも或いは自分と五代と同じように、未確認との戦いなどなければ出会うはずもなかったなんとも呼称し難い間柄なのか。
思わず思案に沈んだ一条に対し、変身すら解いて隣に座り込んだ士の表情はどこか寂しげにも見えた。

「だから俺は、お前を守って……あいつの笑顔を守る。それが俺とあいつの、約束だからな」

行くぞ、と差し伸べられた士の手とその先の顔を、一条はただ見上げる事しか出来ない。
結局自分は、ずっと誰かに守られて生き延び続けているだけではないか。
本当は、五代だってユウスケだって京介だって翔一だって士だって、自分が守るべき市民であるはずなのに。

自身を顧みず使命を果たした父や照井のように、警察官としての職務を果たせないばかりか、むしろ彼らの命を踏み台に生き残ってしまっている。
それが何より情けなくて中途半端に思えて、一条は無力感と共に己の身体を見やる。
だがその行為を繰り返す度その目に一番に映るのは、やはり傷だらけの己の身体などではなく、破壊されたアクセルドライバーだけだった。

果たしてフィリップでも復元することなど叶わぬほどの亀裂を走らせた、赤いドライバー。
その喪失が齎すのは、何もその戦力を失ってしまったという単なる事実の再確認だけではない。
寧ろそれを自身に与えてくれた命の恩人への、絶えぬ後悔と謝罪の念の方が、よほど大きかった。

164加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:00 ID:6c9iHJDY0

(申し訳ありません照井警視正、自分は貴方と違い、何も守ることが出来ませんでした――!)

家族を殺した仇を討つために照井が得たという、仮面ライダーアクセルの力。
だがそれがどんな理由による始まりだったとしても、照井が自分や京介を守りその思いを託してくれたことは、紛れもない事実だった。
だというのに結局自分は、彼の望み通り戦い続ける事が、出来なかった。

どころか今やこうして庇護されるだけの一般人として、守りたかった笑顔を闇に染めることすら止めてやれない体たらく。
これを照井が見れば何というのかなど、考えたくもなかった。

「薫」

沈黙した一条に向けて、再び士の声が届く。
もう時間がないと、そう告げているのだろう。
ふと見れば、水のエルを相手に戦い続けるクウガは徐々に押され始め、遂にはその身体を地に倒れ込ませていた。

やり切れぬ無念に拳を握りしめ、一条は士に向けて手を伸ばす。
その手を取り、この場から離れて最悪の事態だけは……もう二度と小野寺ユウスケから笑顔を奪うなどという悪夢だけは、避けるために。

――『お前は警察官だろう!ならば、命に代えても一般市民を守るのが使命のはずだ!』

ふと、伸びかけていた手が止まる。
たった今脳裏を過ったその声は、照井の今際の言葉だ。
質問を許さないなどという不可思議なことを述べながら、それでも職務には誰よりも熱く忠実だった、素晴らしい男の声。

記憶中枢に焼き付いたそれは未だその瞬間の光景や匂いすら伴って、まるで一条にその決断をやめろと訴えるように響き続ける。

――『警察官として……仮面ライダーとして、このふざけた戦いにゴールを迎えさせろ!一条薫、行けぇぇぇぇぇぇ!』

自分が最後に耳にした、照井の願い。
そして同時、ふと気づく。
彼は決して仮面ライダーとしての使命だけを自分に託したわけではない。

アクセルという力も託したがそれ以上に、警察官としての矜持さえも、自分に託したのだ。
あの短い時間で、他に選択肢こそない状況だったと言えど、それでも。
彼は警察官としての自分に、残された無念の全てを託したのである。

グググ、と冷え切っていた一条の身体の芯に、炎が再び灯される。
アクセルに変身できないからなんだというのだ。
照井は決して、仮面ライダーでなくなったことに全てを絶望したわけではない。

例え力が奪われようと、敵に敵う道理などなかろうと、それでも残された警察官としての思いで以て、あの恐ろしい未確認を相手に立ち向かって見せたではないか。
なれば、ここで自分が諦めて良いはずがない。
クウガが闇に堕ちるなどとそんな認めたくない未来のビジョンを、何もせず受け止めていいはずがないではないか。

「薫……どうかしたのか?」

自身の手を取らぬ一条に不審を感じた士が、問う。
正直に言って、自身の今からやろうとしていることが正しいかは分からない。
或いは彼に言えば、真っ向から反対されることすら容易に想像できた。

だがそんな時なんと言えばいいのか、その答えすらも、一条は照井から既に学んでいた。

165加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:17 ID:6c9iHJDY0

「今の俺に、質問をするな……!」

「何……?」

思いがけぬ突飛な答えに、士が面食らったしかしその瞬間。
一条は落ちていたエンジンブレードを拾い上げて、その勢いのまま走り抜ける。
誰に止められようと止まらぬほど真っ直ぐに、ただ一直線に戦いを続ける水のエルとクウガに向けて。

「あの馬鹿……ッ!」

背後から、士が息を呑む声が聞こえる。
だがそれももう気にする必要はない。
士が懐から何らのカードを取り出すより早く、一条の振り下ろしたエンジンブレードは水のエルの背中を深く切りつけていたのだから。

「一条さん!?何してるんですか!早く逃げてください!」

「断る!例え変身できなくても、俺は警察官だ!君のことを、一人にするわけにはいかない!」

困惑を漏らしたクウガに対し、一条はしかし動じることなく応える。
だがそれでも、常人が扱うには明らかに不釣り合いな重量を誇るエンジンブレードを振り回しながら、彼はなおも揺らぐことのない闘志で水のエルへ立ち向かい続ける。

「それに、俺は気付いたんだ。仮面ライダーは、決して変身できるから強いわけじゃない。例え自分の身を犠牲にしてでも誰かの為に戦う……その意思があるからこそ、仮面ライダーは世界の希望になり得るんだと!」

「一条さん……」

相手が生身の人間故か、反撃の手を出しかねている水のエルに対して、一条の躊躇ない斬撃が飛ぶ。
あまりに大振りな攻撃は次第に躱され始めるが、それでもなお彼の勢いが衰えることはなかった。

「照井警視正は、俺に警察官としての誇りだけじゃなく、そんな仮面ライダーとしての思いも託してくれた……。だから俺が、ここで退くわけにはいかないんだ!」

いよいよ辛抱の限界が来たのだろうか。
一条の振るったエンジンブレードが、水のエルの剛腕に容易く受け止められる。
今までの重量を嘘のように一条の手から取り上げた得物を軽く投げ飛ばして、水のエルは一条の頬を殴りつける。

超常の存在たるエルロードからすれば、それはまるで蠅を払うにも等しい力のこもらぬただの手の一振り。
だがそれでもただの人間である一条にとっては、その一撃はあまりにも重いことに変わりはない。
80㎏を超えようという一条の身体が数瞬の滞空を経て地に落ち、彼の脳に痛みと苦しさを伝達する。

苦悶に呻き、地を舐める一条。
その瞳になお闘志を滾らせようとも、傍から見れば彼は最早満身創痍に違いなかった。

「もうやめてください一条さん!俺は……俺は大丈夫ですから!」

未だ地を這うクウガの悲痛な訴えが、一条の心に僅かな揺らぎを生む。
これは結局のところ、自分の自己満足に過ぎないのではないか。
あぁそうかもしれない、だが……もし仮に、それが逃れようのない真実なのだとしても。

「それでも……それでも俺は……!」

一条は己の拳に力を込めて、ふらつきながらも立ちあがる。
傷だらけの身体で、傷だらけの拳で、しかしそれでもなお譲れぬ思いだけを、その胸に抱いて。
最期の力を振り絞った一条は、ただ拳を握りしめて大きく叫んだ。







「俺は―――――君の笑顔を守りたいんだ!」

166加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:34 ID:6c9iHJDY0
例え門矢士のようにうまくやる事なんて出来ないとしても、どれだけちっぽけなプライドなのだとしても。
それでも自分も、クウガの隣で戦う者として最後まで共に戦いたい。
それが一条の、例え変身できなくとも譲れない最後の思いだった。

「うおおおぉぉぉぉ!」

咆哮にも等しい唸りを上げて、一条は水のエルへと拳を振り抜く。
五代に背負わせてしまった責任も、ユウスケに感じさせてしまった絶望も受け止めた一条が、その全てを込めて放つ全力の一撃。
今までの無力感も、無念も含めた全ての思いを乗せた、文字通り全力全開。

だが、だがしかし。
悲しいかな……どれだけの思いを乗せようとも、一条薫はただの人間に過ぎない。
故にその拳にどんな思いを乗せようと、その叫びにどんな感情を込めようと、高位の天使たるエルロードには通じるはずもない。

その身体を揺るがす事すら叶わぬまま、強固な肉体に打ち付けられた一条の拳は逆に砕け散り、彼の思いも同様に霧散する。
それは、紛れもない一つの事実で、覆しようもない圧倒的な実力差が生みだす当たり前の光景――であるはずだった。

「……グッ!?」

驚愕の声を漏らしたのは、他ならぬ彼の拳を受け止めた水のエルその人。
ただの人間であるとは思えぬその威力に、思わず数歩の後退を強いられたのだ。
誰もが、一条に驚きの視線を送る――或いは、この状況を生みだした一条でさえも。

「そのベルト、まさか……!」

水のエルの困惑に釣られて、一条は己の腹を見やる。
そこにあったのは、いつの間にか出現していた眩い光を放つ金色のベルト。
見覚えは、ある。脳裏に過る一人の青年の姿は、今も一条に消えぬ後悔を残し続けているのだから。

それが何故己の下に現れたのかは、皆目見当もつかないが、だからどうしたというのだ。
力はある。使い方も分かっている。なれば後は、この心が導くままに、叫ぶしかないではないか。
己に新しい生き方を示してくれたあの青年――津上翔一のように、自分らしく生きるために。

「――変身!」

刹那、光輝く一条の身体。
それが収まったその瞬間に、そこにあったのは最早生身の人間のそれではない。
頭から伸びる二本の角は黄金に輝き、その瞳はまるで彼の心の炎を映すように曇りなき赤に染まる。

腰に輝く霊石オルタリングを携えたその戦士の名は、アギト。
それは、津上翔一の死によってこの世界から滅びたとばかり思われていたとある世界を代表する仮面ライダーが、今こうして顕現した瞬間だった。





「馬鹿な……!」

一条薫によるアギトへの変身という、にわかには信じがたい奇跡にそんな定型句にも等しい驚愕を漏らしたのは、何も水のエルだけではなかった。
その衝撃は、この殺し合いを統括する大ショッカーの首領、すなわち人類の創造主たる彼にとってもまた同様のもので、大ショッカー本部にて彼は傍目すら気にすることなく動揺の声を上げていた。

「アギトは、既に滅んだはず……それなのに、何故……!」

首領の困惑は、実のところこの殺し合いが始まってから最も大きいものと言って過言ではない。
何故なら彼が首領となる前、己の世界で行おうとしていたのは他ならぬアギトの殲滅に他ならなかったのだから。
彼からすれば有象無象の異形とアギトとは、文字通り積み重ねてきた因縁と憎悪の桁が違う。

167加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:59 ID:6c9iHJDY0

木野薫、津上翔一、そして葦原涼の死によって遂に絶やされたと思われていたアギトの種がまたこうして予想外の形で発芽したことに、彼はどうしようもない動揺を示したのである。
故に彼の全知全能たる頭脳は、今この状況の解明にのみその全てを費やされていた。

「まさか……あの時、“彼”は既に他の世界の存在をも感知し、アギトの種を撒いていた……?」

果たして首領が導き出したのは、彼が考え得る最悪の可能性。
かつて人類に“火”を齎そうとした自身にも等しいもう一人の存在との、長きに渡る争い。
その結末として敗北した彼が撒いたアギトの種は、或いは一条薫の住む『クウガの世界』を始めとした他の世界にも撒かれていたというのか。

可能性としては、0ではない。
現に自分はこうして9つもの自身が創り出したわけではない世界を見つけ、一つにまとめ殺し合いを開いている。
たまたま自分が最近まで見つけられなかったというだけで“彼”はあの時にもう数多の世界を見つけ、そこに住む人類にも同様にいつかの切り札としてアギトを齎していた。

そう考えれば――無論、心底から悍ましいことに変わりはないが――この事象に一応の説明を齎すことも、出来なくはない。

「……フッ」

だが、そうして思考を巡らせる首領をあざ笑うように、バルバは一つ息を漏らす。
まるで答えを知っているかのようなその思わせぶりな態度に、さしもの首領とて怪訝な表情を浮かべることは免れなかった。

「何を笑うのです、ラ・バルバ・デ」

「……テオス、お前はやはり人間のこともアギトのことも、微塵も理解していないのだな」

「ならばラ・バルバ・デ。あなたは彼らについて何を知っているというのですか」

首領のその声には、僅かばかり苛立ちが含まれている。
だがそれを向けられた当のバルバはそれすらも汲み取ったうえで、なお涼しい顔を崩さない。

「テオス、アギトを新たに生み出せるのはお前と等しい力を持つ存在だけだと、お前はそう言ったな」

「えぇ。そして“彼”が滅んだ今、私以外にそんな存在などいるはずが――」

「――本当に、そう言い切れるか?」

首領の言葉を遮ったバルバの声には、確信が満ちている。
まるで自分の考えが、間違っているはずなどないと言わんばかりに。

「もし仮にアギトが無限に進化を続けるならば、それが最終的に辿り着くのは何か……お前は既に分かっているだろう、テオス」

「――まさか」

バルバの言葉の意味を理解した首領の身体が震えだす。
アギトが進化を続けた先に辿り着く、唯一無二の存在。
その答えは、ずっと恐れ続けていた悪夢そのもの。

自身に似せて創り上げた人間がアギトとなることで、いつしか起こり得る最悪の事象。
すなわちそれは、人間が自身と同じ神に等しいだけの力を持つこと。
それを妨げたい一心で、アギトになり得る可能性のあるとはいえ愛しい我が子らを眷属の手にかけてきたというのに。

それが全てこんな形で覆されるなど、彼からすれば最も受け入れがたい残酷な現実に違いなかった。

「だが、可能性はあるだろう。お前に初めて手を触れた人間であり、一度はお前の肉体をも滅ぼしたあのアギトならば、その死に際に他者の中にアギトの種そのものを与えることも或いは……」

バルバはただ、淡々と言葉を並べ続ける。
それは最早、ただの脚色や考察などと片付けられないほどに整然としたもので。

168加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:14 ID:6c9iHJDY0

「まさか、ラ・バルバ・デ。あなたが彼らを戦わせたのは、最初からこうなると知ってのことだったのですか……?」

故に首領から漏れたのは、アギトの力そのものの脅威への感情などではなく。
人間への理解を深めるため、という名目で自身の側近としただけの目の前で立つグロンギへの、底知れなさの再認識だった。

「いや。ただ私はアギトが真に人間の無限の進化の可能性だというのなら、あんな形で潰えるはずはないと、そう思っただけだ」

「無限の進化の、可能性……」

呆気ないバルバの返答に歯ぎしりした首領の顔は、見る見るうちに蒼白となっていく。
その威厳さえ失せさせる本能的なアギトへの恐怖心こそが、彼から人類を理解する機会を奪っているのではないかと思いながら。
観測者であるラ・バルバ・デの視線は、ただ再び発現した人類の進化の可能性を、新たなアギトの姿を見つめていた。





「アギト……!」

水のエルが、ただ譫言のように呟く。
創造主たる彼の主ほどではないにしろ、アギト殲滅の責務を長年務めてきた水のエルにとって、この再会はあまりにも予想外の出来事だった。
自身の身体に何が起こったのか分からない様子で己の身体を眺め見るアギトを前にしながら、水のエルはただ憎しみに表情を歪ませる。

「何故だ……何故人であることを捨てる……!」

彼の憎悪はやがて、アギトそのものからアギトへと変じた愚かな人間にまで及ぶ。
人は人でありさえすれば、それだけであの方の寵愛を受けられるというのに。
如何にそれ以外の生物を迫害しようと、何らあの方から罰せられることなど無いというのに。

何故そうまでして人でなくなろうとするのだ。
何故そうまでしてその身を過ぎた力を得ようとするのだ。
数万年前、大洪水で全ての人間を洗い流した時と同じだけの憤りを、彼は目前のアギトへ向け解き放とうとする。


「人間であることを捨てた……か。アギトは人間じゃないってか?」

だがそれを妨げるようにして悠然と現れた士が、アギトを庇うように立ちはだかる。
自身の怒りを嘲笑するようなその口調に耐え難い憤怒を覚えて、水のエルはすかさず口を開く。

「当然だ、アギトと人が交わることはない。アギトの存在はやがて、人を滅ぼすのだ」

「……違うな」

「何……?」

だがその言葉を、士はすぐさま否定して見せる。
まるで迷う様子すらなく、紛れもない確信を抱いて。

「例え姿がどう変わろうと、誰かの為に戦う限り……人は人でいられる。そしてこいつは、それが出来る男だ。それも……たった一人のちっぽけな笑顔を、守るためにな」

後方のクウガを振り向きながら、士は僅かに口角を上げる。
ちっぽけってなんだよ、とぼやく声は無視して、彼は続けた。

「そして、お前が思ってるほど人はヤワじゃない。アギトだろうが何だろうが真正面からちゃんと向き合って、また前に歩き始める――それが、人間って生き物だからな」

「貴様……一体何者だ」

超常の存在たる自身を侮る士の言葉に、思わず問うた水のエルに、士はニヒルに笑って見せる。
幾度となく答えてきたその名を名乗ることに、最早何の迷いがあるはずもなかった。

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!」

――KAMEN RIDE……DECADE!

カードを読み込んだディケイドライバーが、高らかに彼の名を叫ぶ。
変身を完了した彼の手に握られているのは、仲間と心を通わせたことで力を取り戻した三枚のカード。
ふと横を見れば、そこには今色を宿したカードの絵柄と同じライダー、アギトと彼が身を賭してでも守ろうとした笑顔を持つライダー、クウガが並んでいた。

どうやら流れは、自分たちに向きつつあるらしい。
そんな確信を抱きながら、ディケイドはライドブッカーの刀身を撫で上げて見せた。

169加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:30 ID:6c9iHJDY0





カブトへと到達せんとしていた風の矢を、黒い壁が切り伏せる。
ガッ、と鈍い音を立て地に落ちる両断された矢を、誰もが驚愕の目で見やる。
何故なら今カブトの前に立ったその戦士の登場を予想していたものは、この場に誰一人としていなかったのだから。

「始……!?」

未だ膝をついたままのカブトが、思わず彼の名前を呼ぶ。
歓喜ではなく驚愕を含んだその声に、しかし張本人であるカリスが振り返ることはない。
ただ真正面から風のエルに敵意の眼差しを向けながら、しかし彼の心中には先ほどまでとは違う総司への感情が芽生えつつあった。

(ジョーカーの男がああまで庇う理由はある……か)

先ほど剣崎を殺したワームとして総司を殺そうとした自分を必死に止めた、ジョーカーの男こと左翔太郎。
彼もまた仮面ライダーであり、剣崎からその志を受け継いだ一人なのだという彼の言葉を、始は正直信じてなどいなかった。
それでもその言葉を無視しブレイバックルを破壊させるのも寝覚めが悪いと、一度はその矛を収めたのだ。

その言葉の真偽を確かめる機会、それを大ショッカーとの次なる戦い……すなわちこのエルロードとの戦いに求める形で、ではあったが。
では果たしてこの戦いで総司の姿は始の目にどう映ったかと問われれば、その答えはただ一つ。
剣崎を殺し、笑顔で逝ったあの男と同じ姿をした男は、始をしても一点の疑いなく仮面ライダーの一人だった……そう認めざるを得ないものだった。

(この地にはお前と並ぶだけの仮面ライダーが多くいる、か。俺にその名を名乗る資格はないが……この男は、違うのかもしれないな)

そうしなければ生まれ変わることは出来ぬと、笑顔で死んだあの男。
彼が残したその最後の言葉が指す存在の一人に、今自身が背に庇う新たなカブトも含まれているのだろうか。
既に確かめようもないそんな感慨を拭うように、カリスは懐から一枚のカードを取り出す。

ハートスートのK、パラドキサアンデッドを封じたそれを眼前に構えて、彼は勢いよくそれをバックルへと滑らせた。

――EVOLUTION

進化を意味する英単語が、カリスの身体を赤く染めていく。
全てを滅ぼす最悪の死神でありながら人の血を思わせるその体色は、まさしく“相川始”だからこそ辿り着いた一つの最終形。
仮面ライダーワイルドカリスへの変身を果たした彼は刹那、両手に鎌状の双剣を携え風のエル目掛け飛び掛かる。

飛び交う矢など意に介する必要もない。
今までにも増してあっさりと切り伏せながら、カリスはワイルドスラッシャーを振るう。
息つく隙すら見せぬ彼の連撃に、風のエルはあっさりとその身を刻まれ吹き飛んでいく。

「総司、大丈夫か!?」

カリスの圧倒的な強さに息を呑むカブトに対し、ダブルが駆け寄る。
ダメージこそ負ったが、少し休めば戦えるようになるだろう。
自分たちの不手際でカブトが致命傷を負わなかったことを、彼らは心から安堵した。

「僕は大丈夫だよ、それよりも始を手伝って。僕も、すぐ行くから」

「総司……お前」

複雑な感情を抱いて問うた翔太郎の声に、カブトはただ頷く。
仮面に隠れその表情を伺うことは出来ないが、それでも彼が決して渋々始を助けようとしている訳ではないことは明らかだった。
自身を仇として殺意を向けてきた相手すら許容し共に歩もうとするその意志は、翔太郎からしても眩しいほどの仮面ライダーの資質とすら言える。

或いはそれすら彼が剣崎の死に対して抱いている大きすぎる自責の念が生む覚悟なのかもしれないが、それでも。
ダブルはカブトの意を受けて、ゆっくりと立ち上がった。

「行くぜフィリップ、あいつだけに良い格好させらんねぇ」

「あぁ、エクストリームで勝負だ」

風のエルを切りつけるワイルドカリスの姿を目の当たりにしながら、しかしダブルも当然見ているだけで終わるつもりはない。
慣れた手つきでメモリをサイクロンへ換装したその瞬間に、フィリップのデイパックより飛来した鳥を模した自立型メモリが気絶する彼の身体をその身に吸収する。
思いがけぬ光景に困惑するカブトを尻目にそのメモリがドライバーへと装填されたその瞬間、エクストリームは独りでに己が身を開いていた。

170加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:57 ID:6c9iHJDY0

――EXTREME

新たなメモリが極限を叫ぶと同時、ダブルの身体から眩い輝きが溢れ出す。
それに呼応するように彼が腕を大きく広げれば、そこにあったのは最早今までのダブルの比ではない。
運命で定められた最高のパートナーだけが辿り着ける最強のダブル、サイクロンジョーカーエクストリームの姿が、そこにあった。

「さぁて、反撃開始と行こうか?」

不敵に告げるダブルの声に、最早一点の不安さえも覗くことはなかった。





「力を手放すが良い。それがお前達の何よりの望みだっただろう」

大ショッカーの刺客たるアンノウンが投げかけたその言葉に、イクサは内心拭いきれない不安を感じていた。
自分がその呼びかけにどう答えるか、という意味ではない。
共に戦う自身の仲間である二人がそれにどう答えるのか、迷いない確信とまで言えるようなものを抱ききれなかったからだ。

(真司君、修二君……)

俯せに地に倒れたままの姿勢で、イクサはチラと後方を見やる。
ナイトに変身した城戸真司と、デルタに変身した三原修二。
彼らに共通するのは、彼らは決して自分と違い悪への義憤によって戦っている訳ではないということだ。

真司が元の世界でライダーとなり戦っていたのは、ライダー同士の殺し合いを止め、ミラーモンスターから人々を守る為。
修二に至ってはこの数時間の別行動の間に少しばかり戦う決意を固めたばかりで、それまでは戦わなければならない状況に不平を訴え続けていた。
共に悪への義憤を人並みに抱く好ましい青年であるとはいえ、言ってしまえば力への執着という点で言えば、彼らの目標はその力を捨てることだとすら思えたのである。

(……)

彼らに対して、憤る気持ちは沸いてこない。
誰かを守る為に戦う事と、悪を打ち倒す為に戦う事は、似ているようで大きく違う。
彼らは心優しい青年だ。その拳を握り誰かを殴りつけることなど、相手が誰であれ望むはずがない。

その末に多くの命を救えるのだと頭で分かっていたとしても、無理に彼らにそれを強いることは、今の名護には出来なかった。

「……出来るかよ」

例え一人だとしても、と決意を固めようとしたイクサの動きを止めたのは、後方から届いた小さな声だった。
思わず振り返れば、名護が今まで見たことがないほどに戦意を滲ませるナイトの姿が、そこにはあった。

「何故だ、お前は戦いを止める為に力を得たはず。何故更なる戦いを求めるのだ」

地のエルが、震えた声で問いを投げかける。
彼からすれば純粋に疑問なのだろう、何故真司が立ち上がろうとしているのか、心の底から理解出来ないに違いなかった。

「俺も正直、この世界に来るまでは、ライダーなんてやめたいって思ったこともあったけどさ……でも、約束したんだ」

漏らすように呟きながら、ナイトはゆっくりと、しかし真っ直ぐに立ち上がる。
絶対に迷うことのない、曇り無き瞳を地のエルへと向けながら。

「『人類の自由と平和の為に戦うヒーロー』って意味の仮面ライダーとして、皆で一緒に戦おう、って」

「そいつはもう、いないけど」と続ける声は、それまでと比べて少し暗い。
だがそれでも言葉を途切れさせることはしない。
抱いた決意を、彼との誓いを決して嘘にはしない為に。

「だから……俺は戦う。最後まで、”仮面ライダー”として」

ナイトが告げたその名前は、最早13人の殺し合いの果て願いを叶える戦士の意ではない。
一緒に笑って、一緒に餃子を食べて、一緒に戦おうとそう屈託無く言い合った彼と、確かめ合ったその名の定義。
世界を滅びから守り、大ショッカーを倒す正義の戦士の意で仮面ライダーを名乗ったナイトの姿には、一点の曇りも見られなかった。

「俺は、知りたいんだ」

ナイトに追随するように、デルタもまた口を開く。
その声はもう、震えていなかった。

「父さんは今までどこにいたのか、俺達にベルトを送ったのはなんでなのか、それから……なんで父さんが大ショッカーにいるのか」

171加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:18 ID:6c9iHJDY0

先の放送で大ショッカー幹部としてその姿を見せた自身の父、花形。
ずっと会いたかった彼との予想外の再会は、しかし修二に新たな戦う理由を与えていた。
会って、話をしてみたい。

今までの色んな事や、真理や草加のことも。
もし父が自分の知るような彼とはもう違っているのだとしても、それでも。
子供が父に会いたいと思うことに、理由など必要なかった。

「だから、俺は戦わなきゃいけないんだ。その答えを、知るまでは」

言うが早いか、いつの間にか立ち上がっていたデルタの姿に、イクサは呆気に取られる。
彼は本当に、自分が考えていたよりずっと逞しくなった。
それもきっと良い師匠がついていたからだろうな、と名護は思う。

彼を支えた存在が自分ではなく、あの無邪気な魔人であることに、少しばかり悔しさを覚えながら。
二人に負けているわけにはいかないと、イクサは勢いよく地に二本の足を突き立てた。

「これで分かったか、俺達は決してお前達に屈しはしない。それが、仮面ライダーの答えだ」

「……ぐっ」

呻いた声は、地のエルのもの。
きっとこいつがこの答えを理解することは永遠にないに違いない。
だがそれでいい。

不可解で気紛れで名状しがたい行動を平然と取る、それこそが人間の心なのだから。
これまでにないほど誇り高く、人であることに胸を張りながら、イクサは大きく息を吸い込んだ。

「悪魔の集団大ショッカー!世界を、そしてそこに生きとし生けるもの全てを、貴様らに滅ぼさせはしない。イクサ、爆現……!」

――R・I・S・I・N・G

イクサの純白の鎧が弾け飛び、その姿を青く染める。
それは、22年の月日を経て生まれた人類の英知の結晶、彼が守るべき素晴らしき青空の化身。
ライジングイクサの名を持つ最強形態へと変身を遂げたイクサの姿が、そこにはあった。

――IXA RISER RISE UP

電子音を受けて、チャージを開始するイクサライザー。
さしもの地のエルと言えど、その直撃を真正面から受けるわけには行かぬと察したか。
イクサに向けて手を翳し、塵を放つことでそれを妨げようとする。

「ヌウ……ッ!」

だが刹那彼に突き刺さった白い三角錐状のエネルギーが、その挙動すら押し止める。
ふと見ればそこにあるのは銃口を向けるデルタの姿。
不味い、と打開の策を講じようとした瞬間には既に、デルタは大きく宙に向け飛び上がっていた。

「だああああぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫にも等しい雄叫びと共に、ルシファーズハンマーの一撃が地のエルの身体を貫通する。
だが彼に、今まで味わったことのない猛毒に悶える時間が与えられることはなかった。

「ハァッ!」

掛け声一つ吐いて、イクサがトリガーを引く。
それを受け解き放たれた巨大なエネルギー弾は、為す術無い地のエルを焼き大きく吹き飛ばす。
大きく弧を描いて地に落ちた彼はその身から煙を上げ、まさしく満身創痍の風体。

しかし未だ健在である以上は負けを認めるわけには行かぬと、彼は立ち上がる。
……或いは、立ち上がってしまった、と言うべきかも知れないが。

――FINAL VENT

轟いたエンジン音に思わず振り向いた地のエルの目に映るのは、自身に向けて突撃せんとする一騎の巨大な鉄の馬。
それは、自身と契約モンスターたるダークレイダーが一体となって敵を貫くナイト最強の必殺技、疾風断。
その身をマントに包みなお速度を上げ続けるその膨大な質量の塊を避けるだけの体力は、もう彼には残されていなかった。

「ぐうぅああああぁぁッ!」

都合三発の必殺技の連発は、強化された地のエルと言えど到底耐えきれる威力で収まる物ではない。
絶叫を上げ爆散する敵の肉体を見やりながら、彼らは大きく安堵の息を吐いた。

172加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:38 ID:6c9iHJDY0





「ウォラ!」

ダブルの振るうプリズムソードの一刃が、風のエルの身体に消えぬ傷を残す。
明らかに襲い回復に、ダブルの持つ剣そのものが自身の治癒能力を阻害しているに違いないと彼は察するが、しかし反撃の手を講じる暇はない。
横から飛び込んできたカリスの持つ双剣が、構えかけた憐憫のカマサを叩き落とし風のエルの唯一の得物を奪い去った。

「トゥア!」

カリスに切り上げられた風のエルの身体が、容易く宙を舞う。
先ほどまでと打って変わって呆気なく地を転がりながら、彼は冷静に戦況を把握する。
――このままでは彼らには勝てない、と。

どうすればいいのかは分からない。
あの方に頼んだとして、更なる力を自分にくださるという保証もない。
だがそれでも、ここで馬鹿正直に戦ったとして何の意味もないことだけは、確かな事実であった。

「あ、野郎!」

思うが早いか、ダブルが叫ぶ声も無視して風のエルは高くその翼を広げ飛び上がる。
その果てに強さを得られる根拠などなくても、ただ今は彼らにやられたくないという意地にも似た感情だけを抱いて。
だが、高く高く太陽に向けて飛んでいくその翼は刹那、太陽から彼目がけ舞い降りた金色の光に射貫かれた。

「ぐあ……ッ」

呻き、地に落ちる風のエル。
最早逃走すら許されなくなった彼が、それでも何とかその瞳に映したのは。
先ほど自身を貫いた金色の矢……否、剣をその手で受け止めるカブトの姿だった。

「これは……」

困惑を漏らしたカブトが持つその剣の名は、パーフェクトゼクター。
葦原涼の死後、誰の手にも止まることなく自立行動を続けていた孤高の存在だ。
だがそんないきさつなど、当然のことながらカブトが知るよしなどない。

今カブトに変じる総司は本来の所有者の天道とは違い、これがどんな存在なのかすら知らないのだから、それも無理のないことだった。
――刹那、パーフェクトゼクターに色とりどりの機械仕掛けの昆虫たちが集っていく。
そのうち黄色と青のそれに、カブトは見覚えがない。

だが最後に装着された紫のゼクターには、彼にも浅からぬ因縁があった。

(渡君……)

それは、自身の兄弟子であり、一度は道を違え拳を交えたこともある紅渡が使っていたサソードゼクター。
掬いきれなかった後悔の一つでもあるその力を抱いて戦うことは、総司にただの力だけでない強さを与えていた。

「助かったぜ総司、おかげでこいつを逃がさずに済んだ」

「その剣……なるほど、君がそれの本来の持ち主だったというわけだ」

「お喋りは後にしろ、まずはあいつを片付ける」

総司への感謝を漏らした翔太郎やパーフェクトゼクターへの感慨を漏らしたフィリップに対し、カリスはあくまでも冷静に戦況を見つめる。
事実、彼らを前に立ち上がった風のエルは最後の抵抗を試みようと、その敵意を込めた眼差しを真っ直ぐに三人へ向けていた。

173加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:53 ID:6c9iHJDY0

「おっといけねぇ。じゃあさっさと片付けるか、お二人さん?」

「うん!」

ダブルの声に従って、彼らは全てを終わらせるため必殺の一撃の準備を開始する。
パーフェクトゼクターを操作するカブトと、13枚のカードを統合するカリス。
二人に負けていられじと、ダブルは懐から4本のメモリを取り出した。

――CYCLONE! HEAT! LUNA! JOKER! MAXIMUM DRIVE!

――MAXIMUM HYPER CYCLONE

――WILD

「ビッカーファイナリュージョン!」

嵐の如くけたたましく鳴り響いた電子音声に負けぬ声量で、ダブルが叫ぶ。
刹那放たれた三つの輝きは、世界を一瞬で白く塗り染めるほどの眩さで以て風のエルの身体を蹂躙する。
少しの後、光が止み景色が元通りの色を取り戻した頃にはもう、彼らの前に敵はなかった。





「ヤァッ!」

ディケイドの掛け声と共に振るわれたライドブッカーが、水のエルの身体を切りつけ火花を散らした。
思わず後退した彼は反撃の手を講じるが、しかしそれを封じるように飛び込んだクウガの拳がその手から長斧を打ち落とす。
息の合ったそのコンビネーションに思わず舌打ちを漏らせば、その隙を逃さずアギトの跳び蹴りが水のエルの身体を大きく吹き飛ばしていた。

「ぐうう……!」

その威力故地面を滑りながらも、しかし水のエルは未だ背を地に着けはしない。
むしろこれから真の戦いだとばかりに、大きく咆哮し三人の頭上へあの紋章を複数発生させる。
空を覆い尽くそうとする圧倒的質量に呻くアギトとクウガ。

だが唯一人この絶望的な状況にもなお希望を絶やさぬ男が一人、彼らの側で切り札を抜いていた。

――FINAL FORM RIDE……A・A・A・AGITO!

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え……?」

ディケイドライバーがその名を詠唱するのと同時、狼狽えるアギトを気に留めることもせずディケイドがその背中をなで上げる。
それを受け光を放つアギトの肉体は、刹那最早人型で収まらぬ異次元の変形を遂げていく。
一瞬のうちにアギトトルネイダーへと変身を終えたアギトの姿は、言うなれば宙を浮かぶスライダーの如し。

傍目には異常な光景に水のエルでさえ呆気に取られるその一方で、ディケイドは何の躊躇もなくそのシートの上へ飛び乗っていた。
だが彼はすぐにアギトトルネイダーを発進させることはしない。
察しが悪いなとばかりに溜息一つついて見せて、彼はぶっきらぼうにクウガを振り向いた。

「何突っ立ってる、お前も乗れ」

「……あぁ!」

ディケイドの差し伸べた手を受け取り、アギトトルネイダーへと飛び乗るクウガ。
かつてもディケイドとこうして並んだことはあるが、それでも今見える光景は、あの時と随分違って見えた。

「ハァッ!」

感慨に耽る間もなく、水のエルが次々に紋章を解き放つ。
そのどれもが直撃すれば危ういほどの威力を誇っていたが、逆に言えば当たらなければどうと言うことはない。
スーパーマシンと化した今のアギトを前にしては、その程度の攻撃の嵐を全て潜り抜けることなど、造作も無いことだった。

一瞬で水のエルまで距離を詰めたアギトトルネイダーが反転し、バーニアから放たれた火で敵の身を炙る。
それを受け水の化身たる彼が呻いたその隙に、トルネイダーは空へ向けて一心に加速を開始していた。

――FINAL ATTACK RIDE……A・A・A・AGITO!

ディケイドが装填したカードに秘められた力を、ドライバーが叫ぶ。
それと同時高く太陽を背に飛び上がったディケイドとクウガに並ぶのは、クロスホーンを展開したアギトの姿だった。

「ヤアアアァァァァ!!!」

ディケイドが、クウガが、アギトが雄叫びをあげながらその右足を真っ直ぐに伸ばす。
そして既に万策尽きた水のエルに、この攻撃を前に対処出来るだけの手は存在していなかった。

「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!」

三人の仮面ライダーによるトリプルライダーキックの直撃を受けて、水のエルの肉体は無惨にも爆発し消滅する。
地に降り立ち――今度こそ油断なく確実に――敵の消滅を見届け変身を解いた士の視界にふと映ったのは、同じく変身を解除した一条へと駆け寄るユウスケの姿だった。
だが予想に反して、その様相は勝利を分かち合わんとする浮かれたものではない。

まるで悪戯がバレた子供のように、切り出し方を悩んでいるような、そんな所在なさげな仕草だった。
きっとそれは、一条がアギトになったことに責任を感じているからだろう、とディケイドは思う。
彼の先ほどの言葉も、こんな形で消えぬ力を得てしまった事も、全て自分に原因があるのだと彼は感じているのだ。

だがそんな彼の後ろめたさを全て察した上で、士は敢えて何も言わない。
一条とユウスケ、その二人の間にある絆も、きっと自分が思っている以上に強いものに違いないと、そう感じるから。

174加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:08 ID:6c9iHJDY0

「一条さん、俺……俺は……」

「――小野寺ユウスケ!」

「え?」

果たして言葉を探し続けるユウスケに対し一条が示したのは、力強く空へ向けて伸びる親指だけを伸ばしたサムズアップだった。
士もかつてどこかで、聞いたことがある。
サムズアップというのは、古代ローマにおいて素晴らしいと認められる働きをした者にだけ与えられる称賛の証だったと。

だけれど一条がユウスケに向けるそれにそんな元来の意味以上のものがあるのは、彼の笑顔が示している。
これからの憂いも、これまでの後悔も、全て感じさせないその顔とそのジェスチャーは、きっと並大抵の言葉で表すことの出来ない感情を秘めている。
だが、いやだからこそ、だろうか。

最初は戸惑いつつあったユウスケも、一条にサムズアップを返す。
きっと由来など何も知らないのだろうが、それでもこの場で最も必要なのはそれを交し合うことなのだと、そう理解したとびきりの笑顔で。
万感の意をその親指に込めた二人の間に、言葉はいらなかった。

――パシャリ。





「……終わったな」

水、風、地。
三つの元素を司る高位のエルロードたちが仮面ライダーを前にその身を散らしたのを見届けて、バルバは小さく呟く。
とはいえその表情には、常と変わらぬ冷ややかな色しか浮かんでいない。

全てが予想通りだとでも言うように、そして全てがまるで空想の中の出来事に過ぎないかのように。
だが、現実味を伴わない無感動な瞳をした彼女とは対照的に、抱えきれぬ憤りをその全身から滲ませる存在もまた、この場に一人。
愛すべき従者を喪っただけでなく、その戦いによって因縁の宿敵の復活を目の当たりにした首領……闇の青年である。

「人よ……やはり貴方たちは、アギトを受け入れると言うのですね」

拳を握りしめ、彼は俯く。
かつての従者が言ったように、人はいずれアギトの存在すらを受け入れるのかも知れない。
だが残念ながら、それを自分が許容することは有り得ない。

皮肉にも、一条薫という”人間”のアギトへの変身によって、それは彼の中で悲しいまでに揺るがない事実として認識されてしまった。
故にそう……アギトを受け入れうるとさえ宣言された人という種そのものへの無償の愛すらも、彼の中で今崩れつつある。
願いの為であれば力を手に嬉々として同族を打つことが出来、姿形が似通った異種族すら正義の名の下に繁栄の礎として踏みつけることが出来る。

偶然にも見つけてしまった異世界で見た人の生き様がどれも、あまりにも醜いものであったから。
それを受け入れたくなくて、どうにか希望を見出そうと全ての美醜を問わず全ての異世界から仮面ライダーと怪人を集めたこの殺し合いを開いた。
例えどれだけ無意味な催しでも、その果てに彼らを愛することが出来るのかどうかを見定めることは出来るだろうと、そう考えて。

「もう間もなく、この殺し合いは終わる。私も答えを……出さなければならないのかもしれません」

誰にともなく、一人呟きだけを残して。
彼の、オーヴァーロード・テオスはゆっくりと歩き出す。
全てを決めるその瞬間に必要な最後の材料を得るために。

仮面ライダーへ自身の言葉を、告げる為に。





時刻は18:00。
都合五度目の定時放送を告げるその時間に、しかし今までと違い飛空挺が現れることはない。
テレビも何の映像を映し出すこともなく、首輪が音声を届けることもない。

静まりかえった空間の無音が、むしろ耳を刺激する。
誰もが何一つとして異変を逃すまいと張り詰めた、痛いほどの緊張感の中。
不意に”それ”は、彼らの中心に現れていた。

「なッ……!?」

一体どうやって、いつの間に。
思わず飛びのき各々の武器を構えた彼らに、しかし突如として存在感を増した”それ”はただゆっくりとその手を制止を呼びかけるように翳した。

「――初めまして。こうして直接お会いするのは、初めてですね」

「お前は……!」

高まった緊迫感が、ひたすらに”それ”に集まっていく。
黒い服を着た、一目見てただならぬ存在感を放つ男。
第四回放送において乃木を呆気なく葬った忘れがたい驚愕の記憶が告げている。

この男と正面からやりあうのは、不味いと。

「皆さんには、まだ私の名を伝えていませんでしたね。私は貴方たちが大ショッカーと呼ぶ組織の首領、名は――テオス」

それは、悠久に渡るこれまでの歴史において、彼が人の身へ初めてその名を告げた瞬間だった。

175加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:23 ID:6c9iHJDY0


【二日目 夜】
【D-1 病院前】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、首輪解除
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式+アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス、ライオトルーパー)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:カードが揃った、か。
2:ユウスケをもう究極の闇にはさせない。
3:ダグバへの強い関心。
4:相川始がバトルファイトの勝者になった時のことはまたその時に考える。
【備考】
※現在、ライダーカードはクウガ〜ディケイドの力全てを使う事が出来ます。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、アマダムに亀裂(更に進行)、首輪解除
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】なし
【思考・状況】
0:テオスに対処する。
1:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
2:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
3:士に胸を張れる自分であれるよう、もう折れたりしない。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。自壊を始めていますが、クウガへの変身に支障はありません。
※ガタックゼクターに認められています。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ダブルドライバー+ガイアメモリ(ジョーカー+メタル+トリガー)@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:テオスに対処する。
1:仲間と共に戦い、大ショッカーを打倒する。
2:相川始かダグバ、どちらかが生き残れば世界が全て滅びる……?
3:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。

176加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:51 ID:6c9iHJDY0


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ+ファング+エクストリーム)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:仲間と共に大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:大ショッカーは許さない。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除、仮面ライダーアクセルに変身中
【装備】アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、車の鍵@???
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:テオスに対処する。
1:ありがとう、津上君。
2:五代……。
3:鍵に合う車を探す。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※体調はほぼ万全にまで回復しました。少なくとも戦闘に支障はありません。
※アクセルドライバーは破壊されました。
※仮面ライダーアギトに変身することが出来るようになりました。このことによる反動などがあるかは不明です。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、首輪解除
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:テオスに対処する。
1:自分の願いは、戦いながら探してみる。
2:蓮、霧島、ありがとな。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:テオスに対処する。
1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
3:父さんが何故大ショッカーに……?

177加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:34:05 ID:6c9iHJDY0


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤA〜K、ハートA〜K、クラブA〜K)@仮面ライダー剣、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣、ブレイバックル@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
3:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)はいずれ倒す。
4:ジョーカーの男……変わった男だ。
5:もしダグバに勝った後、自分がバトルファイトの勝者になれば、その時は……。
【備考】
※ホッパーゼクター(パンチホッパー)に認められています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター+パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:テオスに対処する。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
4:士が世界の破壊者とは思わない。
5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、首輪解除
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:テオスに対処する。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君は心強い俺の弟子だ。
【備考】
※紅渡は死亡しましたが、ゼロノスカードで消えた記憶は消えたままです。

178 ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:38:54 ID:6c9iHJDY0
以上で投下終了です。
色々含めて、ようやくここまで書けたなと中々感慨深い心地です。
次の投下は……うん、年内目安とかでいいんじゃないでしょうか、そんな感じです。

ともかく、ご指摘ご感想ご意見などあればよろしくお願いします。

179名無しさん:2020/09/06(日) 20:25:53 ID:N6wst8xo0
投下乙です!

劇中でも無かったエルロード集結に対し、ライダー陣営も贅沢に最強フォームへ……と思ったら一条さん!?
まるで予想だにしない展開に仰天してしまいました……そういえばこのロワではまだクウガとアギトは共演していませんでしたね

そしていよいよ士のコンプリートも揃いました。ライダー達はテオス相手にどんな言葉を交わすのか、次回も楽しみにしてます!

180名無しさん:2020/09/07(月) 00:24:14 ID:s35NDQ2.0
投下乙です
 このままディケイドがアギトのカードを取り戻さずに全てが終わるのは流石に無い
→誰かがアギトの力に目覚める筈だ(予想の本命は三原)、と思っていたけどそう来たか〜!!と唸らせました
そしてテオス自ら会場に降臨……。幹部達やダグバもまだ生きてる以上決着がここでつくとは思えないですが、ここまで抗ってきたライダー達は何か一矢報いて欲しいですね

181名無しさん:2021/01/11(月) 07:16:46 ID:vYyQVEyY0
今年も加賀美開きの時期になりましたね

182名無しさん:2023/03/12(日) 18:35:10 ID:6WSmRVs20
まだ生きてますか?


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