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川 ゚ -゚)子守旅のようです
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困ったことに世界は急激に縮小された。
都市の大半が潰れた。もちろん人間もたくさん死んだ。
それでも尚、世界は存在し続けている。
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そのついでに、興味深い話も聞けた。
灰の片付けは昨日したばかりなのに、今日もフサがジョルジュに命じたのだという。
いつもは数日あけるそうだ。
また、暖炉を覗いたツンが、全ての灰が取り除かれていることに気付いた。
暖炉というのは基本的に、常に一定の量の灰を置いておく必要がある。
なのに綺麗さっぱり掃除されていた。それもフサに言い付けられたのだろうか。
とにもかくにも、フサが何かを隠そうとしているという方向で4人の見解は一致した。
幸い、中庭に4人以外の姿はない。さっさと調べてしまおう。
早速ハインリッヒがバケツを掴む。
物凄く嫌な予感がした。ハイン様、とデルタが名を呼び──
当然間に合うわけもなく、バケツはその場で引っくり返された。
(;^ω^)「わー!」
ξ;゚⊿゚)ξ「は、ハインさん……」
( "ゞ)「……ちゃんと掃除しないと駄目ですよ」
とりあえず何か言わねばと思ったが、出てきた言葉はそれだけだった。
ハインリッヒが膝をつき、乱雑に灰を掻き分ける。
正直この光景は予測できていたが、実際に目にすると、色々思うところがある。
ああ、ああ、そんな、真っ白いコートを着たままそんなこと。
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( "ゞ)「ハイン様……じっちゃんがやりますよ、それ」
从 ゚∀从「え、そう? でもまあ、もう遅いからいいや!」
たしかに手遅れである。
灰は少量であったが、だからといって汚れないわけではない。
とりあえずコートだけでも脱がせた。
すっかり日も暮れ暗くなった中庭で、屋内から漏れる明かりを頼りに灰を漁る姿は奇妙極まりない。
顔や髪まで汚したハインリッヒが、ふと手を止めた。
从 ゚∀从「──布だ」
持ち上げられたのは、白い布。片手なら覆える程度の大きさだ。
燃え残りのようで、3方が焦げている。
( "ゞ)「暖炉で燃やされたのでしょうな」
ξ゚⊿゚)ξ「これが燃え残りなら、元は結構な大きさだったのでは?」
从 ゚∀从「ここの宿で使ってるシーツに似てるけど……」
(;^ω^)「シーツ? 何でシーツを暖炉なんかに」
从 ゚∀从「さあ。……これを『手紙』とは呼ばないよな、
オーナーさんが燃やしたのとは違うか」
ひとまず布切れをデルタに預け、ハインリッヒは再び灰に手を突っ込んだ。
それから大して時間もかけず、目当てのものを見付けたようだった。
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从 ゚∀从「……じっちゃん、これ……」
緑色の紙片。
こちらは小さいもので、元が何であったかを決定づけるのは難しい。
ただ、ここの住所に含まれる文字列──らしきもの──が書かれているため、封筒の類である可能性は高い。
デルタとハインリッヒは、顔を突き合わせて紙片を眺めた。
──手紙。緑の。
なるほど。
ξ゚⊿゚)ξ「それが手紙ですか?」
( ^ω^)「それだけでも燃え残ってたのが奇跡みたいなもんだけど、
その小ささじゃ、何も分かりませんおね……」
从 ゚∀从「だなあ」
ブーンとハインリッヒが肩を落とす。
──だが、デルタは首を振ってみせた。
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( "ゞ)「昨日、オーナーが緑色の封筒を持っているのを見ました。
封筒には赤い封蝋も」
从 ゚∀从「私も見たけどさ、緑の封筒ってだけじゃ何も……」
いや、と声を発したのは、今しがた落胆したばかりのブーンだ。
( ^ω^)「本当に赤い封蝋が?」
( "ゞ)「老眼は入ってきてますが、あれは見間違えません」
从*゚∀从「首長さん何か知ってんのか!?」
( ^ω^)「……中央のまとめ役が公的な知らせを伝える際に、緑色の封筒を使うんですお。
赤い蝋で封をして……」
以前ブーンから組織宛てに送られてきた手紙にも、その封筒と封蝋が用いられていた。
ドクオという護衛を、ブーンの部下として正式に引き抜きたいという内容だった。彼も元気にしているだろうか。
ツンが紙片の感触を指で確かめ、たしかに、と呟いた。
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ξ゚⊿゚)ξ「……燃え残ってて当然ですわね。
重要な知らせを守るために、特殊な紙を使っているんです。
水や火に強い素材ですわ。──破いてしまうと、耐水性も耐火性も下がってしまいますが」
从*゚∀从「おお、ホノボノ紙か? 初めて見た! そうなのかあ、こういうの使うんだ」
( "ゞ)「ハイン様は基本的に一所に留まりませんから、手紙にはあまり馴染みがないでしょう」
目を輝かせるハインリッヒ。興味が紙片の中身より素材に向いてしまったらしい。
紙片を返しながら、ツンは眉根を寄せた。
ξ゚⊿゚)ξ「当然、中央からの公式な文書ということになるので毎回ブーン様が確認します。
私が宛先を調べるのですが、ここ最近この町へ出した手紙は一週間前の、船の知らせのみです。
このような宿に手紙を送ったことはありません」
( "ゞ)「……じゃあ、誰が手紙を出したんだろうね?」
中央から手紙を受けたことのある者なら、封筒や封蝋の色を知っているから
真似をすることは可能だろうが──
ホノボノ紙は特殊な素材と製造法ゆえ、やや高価だ。
真似るためだけに用意したとは考えにくい。
ならばやはり、中央の、それもまとめ役の人間が出した手紙ということになる。
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从 ゚∀从「……オーナーさんって、中央と何か関係ある人なのかなあ?」
首を捻るハインリッヒに、ブーンが答えた。
( ^ω^)「中央というか、元は東スレッド国の人ですお。
東スレッドが『中央』になるより前に国を出ていった人で」
( "ゞ)「はあ、そうなのですか」
中央は、東スレッド国とレスポンス国の2ヵ国が合併して出来た街。
ブーンは東スレッド人だが、フサもそうだったとは。
从 ゚∀从「へー……って首長さんは何でそんなこと知ってんの?」
( ^ω^)「僕の知り合いの、弟さんなんですお。フサさん。
名前しか聞いてなかったから、会ったのは今日が初めてですけど」
その知り合い(ギコという男らしい)が言うには、
戦争が始まる前──およそ25年前──に
まだ20歳にもなっていなかったフサが、故郷である東スレッド国を出ていったのだそうだ。
当時の東スレッドは就職難の傾向があり、
思い切って他所の国で働き口を探そうという理由での出国だったという。
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( ^ω^)「それで、この宿を経営してたレスポンス人に拾われたと。
そんな感じですお」
元々の経営者がレスポンス人だというのは、ハインリッヒとデルタも知っている。
ロビーに飾られていた昔のパンフレットに書かれていたのだ。
代々レスポンス人が継いできた宿らしい。
天災で後継者が絶えたため、今は、東スレッド人のフサが継いでいるというわけだ。
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば、被害者の方はレスポンスの出身でしたわね」
从 ゚∀从「え、ヒッキー君が?」
ツンが思い出したように言う。
先代の経営者といい、ヒッキーといい、やたらとレスポンス人の集まる地だ。
天災前の地理で言うなら、ここはレスポンスに近い国だったらしいので当然なのかもしれないが。
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( "ゞ)「彼は何故この街で印刷所を……」
ξ゚⊿゚)ξ「元は中央の1区で研究職をやってたんです」
从*゚∀从「え、1区って、有名な研究者の血筋が集まってんだろ!?
何だ、やっぱりそういう仕事してた人だったんだな!」
ヒッキーは、「齧った程度」に科学知識があると言っていた。親戚に研究者がいるから、と。
彼なりに謙遜した結果、ああいう言い回しになったのだろう。大筋は間違っていない筈だし。
ξ゚⊿゚)ξ「4年前、この街の工場がほとんど無事に残っていると聞き、
管理者として彼が派遣されたんです。製紙等の知識もありましたので」
( ^ω^)「そうらしいですお」
从 ゚∀从「『らしい』って、首長のくせに」
(;^ω^)「ぐう」
ξ゚⊿゚)ξ「……当時、ブーン様は首長になって一年経つか否かという頃で、
まだまだ周りの助けを借りていたものですから。
全てを把握してはおりませんでしたの」
物は言いようである。
取り引きの際にブーンの怠け癖を知ったデルタには、おおよその事実を推測できる。
他人に任せきりだったのだろう。
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何があったわけでもないが、全員が口を閉じた。
情報が出尽くしたため、各自、頭の中で整理するために黙っただけだ。
从 ゚∀从「……つーか結局、ここのオーナーさんが中央から手紙もらってた理由が分かんないな」
少しして、ハインリッヒが沈黙を破る。
フサが中央──というより、「元」東スレッド──に所縁があるのは分かったが、
だからと言って、まとめ役から非公認に手紙を受ける理由にまでは踏み込めない。
そうですねとブーンが同意を示すと、
ハインリッヒは伸びをして、次の方向を定めた。
从 ゚∀从「……直接訊くしかないかあ」
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──4年前にこの街へ派遣されてきたヒッキーが、今日の昼、何者かに殺された。
死体の第一発見者はジョルジュ。
昼までは従業員や客と一緒にいた。
宿を出た12時10分から、死体を発見する12時30分まではアリバイがない。
しかしその20分では、現場へ向かうだけで精一杯だ。殺害する余裕はない。
容疑者はロマネスク。凶器のナイフを持って死体の傍に立っていた。
彼もアリバイはない。
本人は、たまたま見付けた死体からナイフを抜いただけだと言っている。
ジョルジュが死体を見付けたとき、近くにロマネスクがいたかどうかははっきりしない。
昨夜は宿の食堂でロマネスクとヒッキーが喧嘩したらしい。
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凶器であるナイフは宿の備品、かもしれない。
少なくとも、同型のナイフが食堂から無くなっていた。
普段は棚の中に入れてある。昨夜ロマネスクが棚の近くに座っていたため、
彼が盗んだのではないかと自警団は睨んでいる。
しかしわざわざ盗まなくとも、ナイフくらい、彼の護衛のクールが持っているのだが。
前2人が犯人でないなら次はサダコだとハインリッヒは言った。
ナイフを管理していたのは彼女だからだ。
しかし、昨夜ロマネスクから庇ってくれたヒッキーに恨みを持つとは思えない。
彼女が1人になったのは11時30分から12時までの30分間。
ジョルジュと同様の理由で、犯行は不可能に思える。
サダコに仕掛けた盗聴器から、今日の昼頃、フサが手紙を燃やしたことが分かった。
手紙は中央のまとめ役から送られてきた可能性が高いが、首長のブーンは何も知らないという。
フサは、デルタ達に封筒を見られることすら嫌がっていた。何かしら都合の悪いものであったのか。
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フサが事件に関わっているかは分からない。
が、ハインリッヒはこれまでの流れから、今度はフサを疑っているらしい。
明確な根拠を示せと言われると、結局、なんとなく、としか言えないが。
さて、どうなるやら。
デルタは、ハインリッヒと対峙するフサを眺めた。
ミ,;゚Д゚彡「──灰を漁ったのですか」
フサは困惑したような表情を浮かべた。
仮に彼が潔白であっても、ハインリッヒの行動には驚くだろう。
ちなみに中庭に散乱した灰は、デルタとツンが可能な限り片付けた。
どのみち肥料に使う予定だったのだから、多少の取りこぼしは大目に見てほしい。
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从 ゚∀从「それはともかく。何で手紙燃やしたんだ?」
紙片を翳してハインリッヒが直球に問う。
フサは口を開いたが、思い直したように視線を逸らした。
「とりあえずお座りください」と椅子を引く。
──デルタ達は今、ロビーにいる。
自警団はロマネスクとクールの監視以外は引き上げたそうだ。
がらんとしたロビーは、やけに広く感じる。
ハインリッヒ、デルタ、フサは同じテーブルセットにつき、
すぐ傍の長椅子にブーンとツンが座った。
突然呼び出して突然犯人扱いして突然ごみ漁りを告白した客に対して
こうも丁寧に応じる彼は、経営者の鑑だ。
ミ,,゚Д゚彡「──手紙のことですが」
フサは窺うようにハインリッヒの顔を見て、ゆるりと首を振った。
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ミ,,゚Д゚彡「大した内容ではありません。
ちょっとしたコネで、質のいい野菜を安値で仕入れておりまして。
それに関する件で……」
从 ゚へ从「じゃあ何で燃やしたんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「……」
目を伏せる。
──嘘をついた、というよりは、何かを隠したようにデルタには思えた。
これでは、フサが口を噤む限りはどうしようもない。
嘘なら矛盾を突けばいい、しかし黙秘は手のつけようがないのだ。
ハインリッヒはフサを見つめ、やがて溜め息をつくと背もたれに寄り掛かった。
从 ゚∀从「オーナーさんは、中央のお偉いさんの誰かと繋がりがあるってことだよな。
まあ手紙の内容はこの際、置いておくとして……」
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从 ゚∀从「──オーナーさんは、元東スレッド人。
で、ヒッキー君は元レスポンス人なんだって?」
ミ,,゚Д゚彡"
フサが目を上げた。
反応があったことに気を良くしたハインリッヒが、にやりと笑う。
そして出し抜けにブーンへ振り返ったと思うと、そちらに質問をぶつけた。
从 ゚∀从「首長さんが『新政府案』を出したとき、中央じゃ暴動が起こったんだろ?」
そのニュースは当時、世界中に報じられた。記憶に新しい。
痛ましげな顔つきをしたブーンが躊躇いがちに首肯した。
( ^ω^)「……そうですお。
反感を持った元レスポンス国の人達がデモをして──
元東スレッドの方も対抗するような形で悪化しましたお」
从 ゚∀从「そう、レスポンス人と東スレッド人に確執が生まれた……というか表面化したわけだ!」
ついさっき座ったばかりだというのに、調子づいたハインリッヒは跳ねるように立ち上がった。
そのままテーブルの周りをぐるぐる歩き始める。
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从 ゚∀从「中央のお偉いさんと関わりのあったオーナーさん、
中央のお偉いさんから派遣されてきたヒッキー君、
どちらも情勢には色々と思うところがあったろう」
从 ゚∀从「それで、東スレッド人のオーナーさんと
レスポンス人のヒッキー君も仲が悪くなった!」
そうしてフサの背後で立ち止まる。
確信しきった顔はとても凛々しい。
フサの肩に手を乗せて、ハインリッヒは言葉を続け──ようとしたのだが。
从 ゚∀从「それが今日悪化して、」
ミ,,゚Д゚彡「彼とはずっと仲良くさせていただいておりました。
うちの食堂を気に入ってくれていましたから。
それに今あるのは『中央』。東スレッドもレスポンスも関係ありません」
前を向いたまま毅然として答えるフサに、ハインリッヒの手がずるりと滑った。
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「元」国民として、理想的とも言える回答だった。
ブーンが嬉しそうに頬を緩めたくらいには。
調子を崩されたハインリッヒに、ツンから追撃。
ξ゚⊿゚)ξ「お言葉ですが……
フサさんとヒッキーさんが口論するようなことはなかったと、他の従業員が」
( "ゞ)「……まあ仲がいいとは、ジョルジュ君も言ってました」
从;゚∀从「あ。ううっ」
先程の凛々しさはどこへやら、ハインリッヒがたじろいだ。
さらにツンが手帳を開いて追い討ちをかける。
ξ゚⊿゚)ξ「それに、彼のアリバイについてはいかがでしょうか。
時々10分や20分程度1人になることはあったようですが
基本的に誰かと一緒にいましたし、宿を出たという話もありませんし……」
手帳の2ページにまたがって、タイムテーブルのようなものが書き込まれていた。
全ての従業員に行った聞き取りを元に、各人のアリバイをまとめたのだという。
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从;゚∀从「えー! 何だこの便利なの! 先に見たかったよ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、す、すみません、ハインリッヒ様方も色々調べたというので、
最低限これくらいは知っているのかと……。
あんなに自信満々だったから、何か考えがあるのかと思ったのですが」
もぎ取る勢いでツンから手帳を受け取り、ハインリッヒはそのページをじっくり読み込んだ。
徐々に眉尻が下がり、背中が丸まり。
しょんぼりしながらデルタの隣に腰を下ろす。
どの従業員も客も、怪しくは見えないようだ。
がっくりと肩を落として手帳を閉じる。
从;゚3从「何だよお……私の推理、ことごとく外れてるじゃん……」
( "ゞ)「……」
从;゚3从「この宿にいる人じゃ、スギウラ君以外に犯行は不可能じゃないか……
前提から見直さなきゃなあ」
通り魔、事故、自殺、やっぱりスギウラ君が犯人。ハインリッヒがぶつぶつ呟く。
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──ずっと気になっていたのだが。
どうやら今回も、ハインリッヒの悪い癖が出ているらしい。
「誰が犯人か」──「誰ならば犯行が可能だったか」という、縦軸のみに目を向けている。
誰であれば、ヒッキーに殺意を抱き彼を殺して工作する、この一連の流れを遂行できたのかと。
そこに集中するあまり、横軸を見失っている。
( "ゞ)「何でも1人で出来るハイン様には、それ故、少々難しいかもしれませんなあ」
デルタがそう言うと、すっかり自信の失せたハインリッヒはふるふる頭を振った。
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从;゚∀从「そんなことないよお、いっつもじっちゃんに頼って、」
──咄嗟に口を閉じ。
ハインリッヒは固まった。
ゆっくり目が見開かれていく。
同じように口も開いていって。
从;゚∀从「……あああああ!!」
そうして叫ぶハインリッヒに、デルタは、ゆったりと微笑みかけた。
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(;^ω^)「わあびっくりした!」
ミ,,゚Д゚彡「……」
从;゚∀从「……ジョルジュ君! ジョルジュ君、彼が、彼は、」
両手をばたばた振って、ハインリッヒがまたぐるぐる歩き出した。
思考に口が追いついていないらしく、変に喚き散らして、
テーブルの周りを5周したところでようやく意味のある言葉を発した。
从*゚∀从「──彼は『後始末』をしたんだな!? ……そっか、そうだ、台車!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハインさん落ち着いて」
(;^ω^)「な、何ですかお? ナガオカさんが犯人という意味?」
从*゚∀从「違うよ、いや違わない、彼も犯人だが犯人じゃない!
殺したのは彼じゃないが──」
一瞬、間をあけて。
从*゚∀从「彼なら、死体を運べたんだ!」
ハインリッヒがそう叫べば、真っ先に意図を察したツンが瞠目した。
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ξ;゚⊿゚)ξ「死体は移動させられたということですか?
──その、台車を、使って?」
从*゚∀从「そう、彼は台車を引いて宿を出た!
貨物船が来ることはみんな知っていたから、台車を使っても目立ちはしない!」
从*゚∀从「そこに布でくるんだ死体を乗せていても、輸送させるための荷物だとしか思われない筈だ!」
ハインリッヒが、例の布切れを叩きつけるようにしてテーブルへ出した。
それを見たフサの目が揺れる。
何も言わなかったが、顔色は悪い。
从*゚∀从「スギウラ君が捕まったとき、ジョルジュ君は
オーナーさんへ話を通すと言って、自警団より先に宿へ戻ってきた!
そのときに布──恐らくシーツか、死体を包むのに使った布を燃やしたんだよ!」
( "ゞ)「死体を運ぶだけなら、20分あれば行けますね」
(;^ω^)「ちょ──ちょっと待ってくださいお!
その話じゃ、ヒッキーさんは──」
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(;^ω^)「──この宿で殺されたことになりますお!?」
从*゚∀从「そうだな! ──ああ、それならスギウラ君こそ完璧にアリバイがあるじゃないか!
彼はずっと飲み歩いていたんだから!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ナガオカさんが死体を運んだだけ、と言うなら……
刺殺した犯人は別にいるのですよね?」
ハインリッヒが停止する。
しかし、思考まで止まったわけではない。瞳はきらきら輝いたままだから。
きっと、これまでに得た情報を掛け合わせて答えに辿り着こうとしているのだろう。
計算が済んだか、は、と大きく息を吐き出す。
やや上気した顔で、ハインリッヒは答えた。
从*゚∀从「──サダコ君だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「ヤマムラさん?」
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从*゚∀从「物証はないけど、……いや、探せばまだあるかもしれないけど!」
ミ,,-Д-彡
デルタと目が合うなり、フサは瞼を下ろす。
観察していることに気付かれたか。
観察を拒むというのなら、つまり、観測され得る何かがあるのだろう。
だが、
从*゚∀从「盗聴器の内容からして、彼女は昼頃までブローチを付けていた。
なのにさっきは付けてなかった」
ミ,;゚Д゚彡「……はっ!? 盗聴!?」
さすがにこれには反応せざるを得なかったようだ。仕方あるまい。
ばっちり目を開け、どういうことかとハインリッヒとデルタに説明を求めるフサ。
しかしハインリッヒは推理の披露に夢中だし、主人がそうするならデルタは邪魔しない。出来ない。
とりあえず話の流れで察してもらえればと思う。
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从*゚∀从「休憩時間に外したのをそのまま忘れただけなら、そう言えばいい。
でも、初めから付けていなかったと嘘をついた。──咄嗟についた嘘だったんだろうな」
くるりと一回転したハインリッヒは、無意味にツンへ人差し指を向けた。
从*゚∀从「彼女は、昼に制服を着替えてたんだ!
なぜ着替えた? ──着替えた事実そのものを隠したってことは、
着替えた理由も隠したかったわけだ」
回答を求められたと思ったのか、ツンは黙考した。真面目なたちである。
そして、はっと息を呑む。
ξ;゚⊿゚)ξ「……返り血……?」
ハインリッヒは正解とも不正解とも言わなかったが、
にんまり笑ったので、まあ、そういうこと。
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从*゚∀从「制服はまだ彼女の部屋にあるかもしれないぞ!
逆に、彼女の制服が一着減っていた場合も怪しいことには変わりない。
制服を丸ごと破棄したわけだからな!」
从*゚∀从「それが確認されれば、殺害はサダコ君、死体運びはジョルジュ君の犯行で決まりだ!
どうだじっちゃん!」
( "ゞ)「お見事です、ハイン様」
デルタは共犯の可能性に気付いていただけで、根拠などはぼんやりとしか掴めていなかった。
こちらが黙っていても、ハインリッヒならいずれこの結論に至っただろう。デルタが少し早めただけ。
拍手をしてみせればハインリッヒはにやにや笑い、再び椅子に腰を下ろす。
一通り称賛して、そろそろ頃合いかと、通路の方へ目をやった。
( "ゞ)「──反論があるなら、早めにした方がいいよ」
ハインリッヒとブーンが首を傾げてデルタの視線を追う。
数秒おいて──陰から、ジョルジュとサダコが現れた。
-
ミ,;゚Д゚彡「……! お前ら……」
从 ゚∀从「あれっ、いたのか! いつから?」
_
(;゚∀゚)「……少し前だ」
川д川「酷いですわハインリッヒ様、盗聴器だなんて……」
从 ゚∀从「うん、ごめんな! 新しい方は普通のブローチだから勘弁してな。
それに君らも、こうして盗み聞きしてたわけだし。おあいこ」
( "ゞ)(立ち聞きと盗聴器では、わけが違うのでは)
ジョルジュは青ざめているが、サダコは元々青白いのでよく分からない。
彼女の腕には白い布が垂れ下がっている。
川д川「……私達は、たまたま通りかかって……出るに出られず」
ξ゚⊿゚)ξ「その布は?」
川д川「……」
ツンが腰を上げ、失礼します、とサダコから布を受け取った。
一度、皆に背を向けてツンが1人で確認する。
ぴくりと肩を揺らした彼女は、すぐにこちらへ振り向いた。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「これは」
広げられた布──エプロン。
白い布地に、点々と、血のような赤黒い汚れが付着している。
量はさほど多くない。
(;^ω^)「け、血痕かお」
川д川「……私、よく怪我をするので……今日もお昼の調理中に手を切ってしまって、そのときに」
( "ゞ)「じゃあ、その傷を見せてもらえるかな。
絆創膏や包帯は私が付け直してあげるから」
間髪入れずにデルタが提案すれば、サダコは僅かに唇を噛んだ。
ジョルジュがおろおろしながらデルタとサダコを見比べている。
ミ,,゚Д゚彡「……見せなさい」
フサが低めた声で言うと、観念したのか、サダコは左手首の包帯に触れた。
逡巡。ゆっくりと包帯を剥がす。
-
──傷は、なかった。
代わりに黒い汚れ。
擦ったように掠れた汚れが、3つほど。
デルタはサダコの傍に立ち、そっと彼女の手をとった。
( "ゞ)「この汚れは何かね」
川д川「……事務作業中にインクが付いて……洗っても落ちなくて。見苦しいので、隠しました……」
( "ゞ)「そのインクを持っておいで。本当に落ちないのか試そう。色味も見ないと」
川д川「……」
サダコが黙る。ハインリッヒが身を乗り出す。
デルタは汚れを指先で擦った。乾いているのか少しも薄まらない。
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( "ゞ)「……ここの印刷工場で使っているインクは、服や肌に付くとなかなか落ちないそうだ」
川д川「……そう、らしいですね」
( "ゞ)「ヒッキー君の手にはいつもインクの汚れがついていた。
──ああ、この汚れ、インクの付いた手でこうされた跡に見えるね」
強く握り締めない程度に、サダコの手首を右手で掴む。
デルタの指先が、汚れに重なった。
川д川「……昨日の、夜に……
ヒッキーさんがスギウラ様から私を庇ってくださったときに、インクが……」
( "ゞ)「昨夜は手袋をしていたんだろう、ヒッキー君。
手袋をしていたならインクは付かない」
_
(;゚∀゚)「あ……」
( "ゞ)「今日の昼に、ヒッキー君と会ったんだね」
ジョルジュが気まずそうに目を逸らした。
昨夜のヒッキーが手袋をつけていたことは、彼が証言してくれた。
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( "ゞ)「……あなた達は、嘘が下手だね」
やはり、黙られるよりは嘘をつかれる方が分かりやすい。
基本的に本心を垂れ流すハインリッヒの方が、よっぽど分かりづらいのだから。
──手を切った、と言わなければ、こうしてデルタがインクのことまで暴くことはなかった。
適当に他の場所を挙げれば良かった。あるいは肉や魚を捌いたからだと言えば。
また、隠蔽も下手だ。
偶然この場を通りかかったというのは恐らく事実だろう。
大方、エプロンを処分するためジョルジュと一緒に移動する最中だったというところ。
ジョルジュがシーツを燃やしたように、サダコも、
すぐにエプロンを燃やすなり切り刻んで捨てるなりしていれば、まだ言い逃れが出来たのだ。
事の始末が不完全に過ぎる。
ジョルジュにしても。
ロマネスクが捕まった際、ここを使えと彼が自警団に言った。
実際の犯行現場になど、寄せ付けたくないだろうに。
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( "ゞ)「とても計画的な犯行だったとは言えない。
全てが突発的な思いつきにしか見えないよ」
デルタがそれらを指摘すると、サダコもジョルジュも黙って顔を伏せた。
今度はハインリッヒがデルタに拍手する。
この様子ならば、逃げたり暴れたりはしなさそうだ。
サダコから離れ、デルタはハインリッヒの隣に座り直した。
(;^ω^)「……でも、ナイフの件は?
彼女が犯人なら、ナイフをあらかじめどこかに隠してたことになりますお。
それは計画的な犯行だったと言えるんじゃ……」
ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、ブーン様。ナイフを持ち出したのは、『逆』だったのかもしれません」
(;^ω^)「逆?」
ξ゚⊿゚)ξ「ロマネスクさんは、ナイフを保管する棚の近くにいたから凶器を持ち出せたのだ──と疑われました。
ならば、彼の隣の席に座ったというヒッキーさんも同様です」
(;^ω^)「ヒッキーさんが何でナイフを!」
ブーンが戸惑う通り、ヒッキーがナイフを盗む理由はない。
──ない、ように思えるだけか。
実際には理由がある?
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思考を巡らせ、──デルタとハインリッヒは同時に気付いた。
理由に、思い至ってしまった。
从 ゚∀从「……ああ。そっか……」
ハインリッヒが発した声は、少しばかり沈んでいた。
俯き、デルタの腕を握る。
从 ゚∀从「私のせいだったのかな……もしかして」
(;^ω^)「はい? 何でハインさんが?」
从 ゚∀从「私の研究内容について、面倒なことになってたのかな」
研究って、と首を傾げるブーンとツンに、
鞄を開いたハインリッヒが一冊のファイルを渡す。
ファイルを開いた2人は、まず、訝しむような色を浮かべた。
そしてページをめくるにつれ、信じられないとでもいうような顔つきへ変わっていく。
──ヒッキーと同じ反応だ。
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从 ゚∀从「そうなんだろ」
問い掛けるハインリッヒの目は、フサへ。
部下が疑われ追い詰められても、彼は不自然に落ち着いている。
無関係であるならばもっと何かしらの反応を見せるだろう。
ならば全くの無関係でもないのではないか。
フサは眉間に皺を寄せて目を閉じ──次に瞼を上げたとき、
瞳に悲しげな色を落としていた。
ミ,,゚Д゚彡「……先代のオーナーが、フィレンクト様の旧友でした」
彼の言葉は、ハインリッヒではなくブーンへ向けられたようだった。
フィレンクト。たしか、ブーンに代わって諸々を決めていたレスポンス人。
新政府案のごたごたがあった際、黒幕とされた男ではなかったか。
新聞で見た程度なので真偽も詳細も知らないが。
ファイルから顔を上げたブーンは目を瞬かせ、不思議そうな顔をした。
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(;^ω^)「フィレさん?」
ミ,,゚Д゚彡「その縁あって、質のいい野菜を定期的に安値で……」
あ、と声を漏らしたブーンが手を叩く。
ツンと顔を見合わせ、得心したように頷き合った。
(;^ω^)「そうか、5区!」
ξ゚⊿゚)ξ「5区は元レスポンス人の多い土地でしたわね。
流通の責任者もレスポンス人です」
ミ,,゚Д゚彡「おかげで、とても助かっていました。
経営が厳しくなっていて──金が足りなかったものですから。
……本来ならば、もっと安い、質の悪い食材しか買えないほどなのです」
( "ゞ)「椅子を修理に出すお金すらないわけだからね」
デルタの違和感も消化された。
高価な野菜を仕入れているようだとブーンが言ったとき、不思議に思ったのだ。
もっと他のことに金を使うべきではないかと。
経年で劣化した宿を改築することもなく、椅子ひとつ修理に出さず、
人手が足りぬせいでサービスも行き届かない、
果てはサダコが過労で失敗を犯し、ロマネスクを怒らせた。
整えるべきものが整っていないのに食材にばかり気を遣うような、そんな経営者には見えなかった。
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ミ,,゚Д゚彡「……ここ一年で街に滞在する人間がどっと増えましたが、どうにも贅沢な人ばかり集まってくる。
うちではサービスが追いつかない。……客が離れてますます儲けが出ない」
( ^ω^)「宿泊に関しては知らないけれど、料理はとても素晴らしいですお」
ミ,,゚Д゚彡「逆に言えば、もはや残されたのは料理だけだったのです。
それだって、安くて美味い、というのが売りでしたから……
値上げをしてしまえば、他所の飯屋を選ぶお客様も増えましょう」
宿泊業をやめて食堂のみの営業に切り替えれば──という案も出たらしいが、
どうしても、それは嫌だった。
フサはこの宿に、いや、先代の経営者に誇りと恩義を持っている。
壊れた椅子ひとつとっても、こだわるほどに。
何があったのかは知らないが、そうするだけの恩があるのだろう。
ミ,,゚Д゚彡「そんな折──ヒッキーさんがやって参りました。
仲良くしていたのは事実です、その日も軽い雑談を交わしました。
……そのとき、彼は言ったのです」
ミ,,゚Д゚彡「フィレンクト様へのいい土産が出来そうだ、と」
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──世界的に大きな一歩となる発見をした者がいる。
その人を、中央1区の研究所へ紹介しよう。
そうすれば、落ち目となっている研究所が一躍注目される。
その研究所の責任者はフィレンクトの親戚だ。
フィレンクトがハインリッヒを見付けたことにし、
権利全てを研究所に移せば、肩身の狭い思いをしている彼らが再び表舞台に立てる──
川д川「……ヒッキーさんは、祖国であるレスポンスのこととなると
いささか己を見失うところがありました……」
( "ゞ)「己を見失わぬために、祖国にこだわったのでは?」
川д川「……ええ、それはたしかに、そうなのかもしれませんね……」
サダコが腕を押さえ、頷く。
彼女もその話は聞いていたそうだ。
──ヒッキーはすぐに、ハインリッヒのことをフィレンクトに伝えた。
フサの客であることも報告していたらしく、
間もなく、フサのもとにフィレンクトから手紙が届いた。
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ハインリッヒに、研究内容を売ってくれるよう交渉しろ、というものだった。
本人を勧誘するより、手柄をそっくり研究所が譲り受ける方向に固めたらしかった。
フィレンクトには監視の目があるそうで、彼が直接交渉することは出来ない。それでフサに頼んだのだろう。
ミ,,゚Д゚彡「……私はそれに断りの手紙を返しました。
──このときの判断が、間違いでした。
せめてハインリッヒ様に、事情を話せるだけ話しておくべきだった……」
从 ゚∀从「何で断ったんだ? 君には損も得もないだろうに」
ミ,,゚Д゚彡「私の個人的な感情です。
──フィレンクト様の所業は、兄から詳しく聞いていました。
中央の暴動があったとき、首長と仲がいいという理由だけで
兄と姪が苦労させられたことも」
( ^ω^)「……その通りですお」
ミ,,゚Д゚彡「だから私は、彼が他人の手柄を利用して得をしようというのが、
どうしても受け入れがたかった」
すると、また手紙が来た。
昨日デルタ達が見かけたものだ。
内容は、ほぼ脅しとも取れるものだった。
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言う通りにしろ、こちらに恩だってあるだろう。
こちらに返すものもないのなら、食材の融通も中止する──
意訳すれば、そのような。
これまでの食材が回されなくなれば、いよいよもって宿が潰れてしまう。
追い詰められたが、しかし、対策が何も浮かばない。
そして今日。昼前。
思い悩みながらも裏口で仕事をしていたフサのもとへ、ヒッキーがやって来た。
彼は、この時間、しょっちゅうフサが裏手で作業しているのを知っていた。
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(-_-)『昨日、例の研究内容について他言無用だとハインリッヒさんに言われました。
ぎりぎりまで秘密にしたいと。
──あの研究を知っているのは、きっと、ごく一部の人間だけです』
(-_-)『……論文を強引に奪ってしまうことも出来るかもしれませんよ』
ミ,,゚Д゚彡「彼は本気でした。私が何を言っても聞きません。
挙げ句には、私が東スレッド人だから邪魔をするのだとまで言われました」
「それはたしかに、ある意味では間違っていないのですけれども」。
皮肉るように、フサは言う。
ミ,,゚Д゚彡「そして彼は、フィレンクト様から手紙を受けたろう、と続けました。
中央からの正式な命令なのだから、拒否することなど出来ない……と」
从 ゚∀从「実際は、正式な命令を装っただけなんだけどな」
ミ,,゚Д゚彡「……ああ、そうだったのですか。……私はそんなことにも気付けませんでした」
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川 ゚ -゚)子守旅のようです
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受け取っていないことにしてしまえば、命令を聞く必要もない。
半ば自棄気味に、フサは二通目の手紙を処分すると決めた。
一通目には返事をしてしまったから無かったことになど出来ないが、
少なくとも「一度は断った」という事実が残っている。
彼は、客の功績を奪い取る行為こそ、宿屋の主人としてやってはならぬことだと判断したのだ。
ミ,,゚Д゚彡「……ともかく私の説得では、ヒッキーさんは聞き入れないだろうと思いました。
なので、サダコに説得を頼んだのです。
彼はサダコのことを憎からず思っていたので、もしかしたら、と」
盗聴器の最後に録音されていた部分であろう。
あの直後にサダコがヒッキーと会ったのか。
ξ゚⊿゚)ξ「でも──駄目だった?」
川д川「……はい。
ヒッキーさんは私にナイフを見せました。
昨夜、食堂から盗んできたのだと言って……」
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──協力を拒むのであれば自分1人でやる。
ただし、このナイフでハインリッヒ達を刺して、
死体にナイフを刺したまま自警団に通報する。
この宿で似たナイフを見たことがあると証言すれば、
宿の人間がハインリッヒを殺したのだと判断されるだろう──
彼はサダコをそう脅したそうだ。
まさか殺してまで論文を奪うつもりだったとは思わず、サダコは狼狽した。
ヒッキーが恐ろしくなった。
街の中においては、ヒッキーの方がフサよりも信頼性がある。
フサは有象無象の宿屋の主人だが、ヒッキーは、今や世界一の印刷工場の責任者だ。
貢献度が違うのである。皆、ヒッキーの言い分を信じるだろう。
その上サダコは、フサが、あの脅迫じみた手紙を燃やしてしまったことも知っている。
あれが無ければ、フィレンクト側が無茶を言ったことを証明できない。
川д川「私、何も言えませんでした……。
すると決裂したということで、ヒッキーさんはナイフを持ったまま立ち去ろうとしました。
これじゃいけないと思って、私、必死に引き留めたんです……」
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揉み合いになった。
混乱しきっていたサダコは、もう何が何だか分からず、がむしゃらに動いた。
そして──
気付けば、ナイフがヒッキーの胸に。
川д川「……そこへオーナーが様子を見に来て……
しばらく2人で途方に暮れましたが、ともかく、
ヒッキーさんの死体を別のところへ運ばなければと……」
从 ゚∀从「それでジョルジュ君に頼んだと」
ミ,,゚Д゚彡「ええ、買い出し当番だったので。
ジョルジュには、そのとき初めて事情を説明しました。
──こいつはただ、私に頼まれて仕方なくやっただけなのです。
……いえ、それはサダコも同じです。2人共、私の問題に巻き込まれただけだ」
それは違う、とジョルジュが顔を上げた。
フサの座る椅子の背もたれに手を添え、ぶんぶん首を振る。
_
( ゚∀゚)「俺は断ることも出来た! 頼みを聞いたのは俺の責任だ」
川д川「私だって……結局、刺したのは私ですもの……。
オーナーは、ヒッキーさんがナイフを持ってることなど知りませんでした……」
フサは2人を見遣った。
何かを言いかけ、右手で顔を覆い、俯く。
ミ,, Д 彡「……お前達にも、スギウラ様にも、本当に──申し訳ないことを……」
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(;^ω^)「そうだ、スギウラさんは……本当に巻き込まれただけ?」
_
(;゚∀゚)「ああ。まさかあの人が近くにいるとは思わなかった。
ましてやナイフを抜くなんて……」
ミ,,゚Д゚彡「あくまで、犯人不明の死体として処理してもらうつもりでした……。
スギウラ様に……他人に罪を着せる気はなかった」
ナイフ自体は珍しいものではない。普通に出回っている型。
路地でヒッキーの遺体が見付かっただけならば、宿へ目が向くこともないだろうし、
宿へ捜査が入らなければ、食堂のナイフが紛失した件も表には出ない。
ロマネスクが余計なことをしなければ、きっと彼らは逃げ切れていただろう。
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普通に推理でしたごめんなさい
しかしヒッキー放置しててもデルタがサクッとやってくれたような……
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( "ゞ)「あなた達は、スギウラ氏が犯人にされてしまったことに罪悪感を抱いたわけだね」
ハインリッヒが疑問符を浮かべたので、
少しばかり丁寧に言い直した。
( "ゞ)「放っておくのも心苦しくて、つい、宿に来てくれと言ってしまったのかな」
从 ゚∀从「……あ、そういうことか」
彼らが積極的にロマネスクを疑うような発言をしなかったのも、その表れだろう。
真犯人だと名乗り出る勇気はないが、
しかし、ロマネスクに罪を着せたいわけでもない──
結果、中立的な態度をとり、半端な嘘をついてしまった。
フサも、サダコも、ジョルジュも、完璧な悪意を持って立ち回っていたわけではない。
無論、一番は自首するべきだったのだろうが、
この街の人間は自警団に対して恐ろしい先入観がある。
だから彼らは結局──そうするしか、なかったのだ。
重たい静寂が満ちる。
サダコの呼吸が震えた。前髪に隠れた目元から、ぽたり、雫が落ちた。
ミ,,゚Д゚彡「……首長」
フサが、落ち着き払った声で沈黙を破った。
真っ直ぐにブーンを見つめている。
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ミ,,゚Д゚彡「ヒッキーさんは、普段はおとなしい方でした。
真面目に仕事をし、料理を楽しみ、時おり冗談を飛ばす、普通の方でした。
こと故郷の話になると、ムキになってしまうだけの」
ミ,,゚Д゚彡「……お願いします、どうか、素晴らしい国を作ってください。
レスポンスだの東スレッドだの、既に無い国にこだわる者がいなくなるように。
どうか素晴らしい国を、世界を……」
そこまで言って、フサはくしゃりと顔を歪めた。
後悔と諦念と罪悪感をごちゃまぜにして、
揺れる視線が、震える口が、ブーンに縋る。
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ミ,,゚Д゚彡「……民が信頼できる、政府を……」
戸惑い続けていたブーンの瞳が、静まる。
正面からフサと向き合い、彼は、しっかりと頷いた。
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