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('A`)百物語、のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 00:13:40 ID:adaBwzoE0
最初に言い出したのは、誰だっただろうか?
――今となっては、もうはっきりと思い出せない。
でも、確かに誰かがそれを言い出して、俺たちはこうして集まっている。
.
144
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:21:04 ID:p/orKOsg0
――百物語は続いている。
ミルナの爺様の家を借りて、軽い気持ちではじめた百物語。
部屋は暗く、二間先に用意した蝋燭の光もほとんど届かない。
時計もろくに見えない闇の中では、どのくらいの時間がたっているのかもわからなかった。
( )「……次は僕の番かな」
暗闇の中で声が上がった。
言葉を切り出すタイミングをうかがっていたかのような声。
少しだけ高い声は、語尾が消えかかっている。
この声は、ショボン……だろうか?
.
145
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:22:17 ID:p/orKOsg0
( ゚д゚ )「頼む」
誰が。いや、そもそも何人いるかさえもわからない部屋の中。
見えるものといったら、すぐそばにいるミルナの姿くらい。
俺には、同じ部屋にいるはずの声の持ち主すらわからない。
( )「そうだね……」
('A`)「どうした? 話が思いつかないのか?」
( )「そうじゃなくて……
これって体験談でもいいのかな?」
ショボンはためらうように沈黙した後、やっとそう口にした。
体験談。ショボンは幽霊か何かを見たことがあるとでもいうのだろうか?
本当に? 偶然そう見えただけじゃないのか?
( )「んー、何でもよかったんじゃないかお?」
川 )「私の話もほぼ体験談だったしな。問題ない」
ξ )ξ「クーのは体験談とは少し違うような……。
でも、ショボンの体験談にはちょっと興味あるわ」
( )「いいから、さっさと話してほしいんだからな」
.
146
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:23:05 ID:p/orKOsg0
考えこんでいる俺を無視して、話は進んでいく。
あの一番はしゃいでいる声は……ツンだろうな、やっぱり。
そして、誰かが声を上げた声で、部屋は静かになる。
(´ ω `)「じゃあ、あの話にしようかな……」
そして、ショボンは語りだす。
(´・ω・`)「これは去年の話なんだけど……」
部屋に横たわる闇の中で、ショボンの顔がふと見えたような気がした。
.
147
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:24:44 ID:p/orKOsg0
('A`)百物語、のようです
廃村ツアー
.,、
(i,)
|_|
.
148
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:25:54 ID:p/orKOsg0
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----------------------------
----------------------
--------------
僕ってさ、実はサークルをいくつか掛け持ちをしてるんだ。
いろんなサークルに興味があるっていうと嘘になるかな、実際のところは名前を貸してるだけだし。
そう。人数あわせってやつ。学校公認の部活もあるけど、同好会がほとんどかな。
でさ、その中の一つに元写真部ってのがあるんだ。
何が元かって?
そうだね、元はちゃんと活動していたんだけど、真面目な部員が卒業して、今はちゃんと活動してないって言えばわかるかな。
え、それで何をしてるかって?
……部長に振り回される会かな?
…
ああ、部長のこと?
きっちゃん先輩――、狐娘って言うんだけど知ってる?
狐娘。……狐娘 木津子先輩。
学部でも変人ってことで有名らしいんだけど……。
あ、これ本人が自分から言ってることだから、悪口ってわけじゃないよ。
.
149
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:27:29 ID:p/orKOsg0
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----------------------
--------------
(;´ ω `)「……ごめん。僕が先輩を変人って言ったこと、やっぱ誰にも言わないで」
話し始めてすぐに、ショボンは言葉を切った。
時計がないからはっきりしないが、下手したら1分もたっていないだろう。
その先輩がどれだけ怖いのかは知らないが、いくらなんでも情けなさすぎじゃないか。
(;'A`)「訂正するぐらいなら、最初から言わなきゃいいだろ」
川 - )「そういじめてやるな、ドクオ。
ショボンの中ではおそらく複雑な葛藤があったのだろう」
(;´ ω `)「……ごめん、みんな本当に忘れて。
考えなしだった僕が悪いから、この話はもう忘れよう? ね?」
思わず出た不満は、おそらくクーの声によってなだめられた。
俺としてはいじめたつもりなどなかったのだが、どうやらショボンの地雷だかトラウマだかを踏んでしまっていたらしい。
とりあえず「すまん」と謝ると、ショボンに続きを話すように頼むことにした。
.
150
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:30:05 ID:p/orKOsg0
('A`)「それより続きを」
(;´ ω `)「あ、ああ。そうだね」
ξ )ξ「きつねむすめ……きつ……あ!」
――のだが、ショボンの声は途中から言葉にならなくなった。
ショボンの声を遮るように。突然、女――ツンが声を上げたからだ。
ツンは長いこと唸っていたが、何か思いついたのかぽんと手を叩いた。
( ゚д゚ )「知っているのか?」
ξ )ξ「もしかして社会学部の人?
前にキレイな先輩が、学校にテント張ってるのを見たことあるわ」
.
151
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:32:25 ID:p/orKOsg0
ツンは一人納得しているが、俺は話についていけない。
どうやら他の奴らも同じらしい。
しばらくツンの何だか分からない説明を聞いていたが、とうとうブーンらしき声が助けに入った。
( )「テントって学祭か何かの準備かお?
ツンもよくそれで、ショボンの先輩ってわかったおね」
ξ; )ξ「そうじゃなくて、キャンプしてたの、キャンプ! しかも学校で!
なんだろうって思ってずっと見てたんだけど、駆けつけてきた警備員に連れてかれちゃったの!!」
が、……意味がわからない。
.
152
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:34:15 ID:p/orKOsg0
ツンの言いたいこと自体はかろうじて分かったが、今度はその先輩らしき人が何を考えているのかわからない。
なんだ、その奇行。確かにそれが本当なら相当な変人だろうが、本当にそんなやついるのか?
そう思って他の奴らの様子を伺ってみたが、どいつもこいつも何も言わない。
……まさか、本当なのか?
(´ ω `)「…それ、間違いなく先輩だと思う。
前に、キャンプしてたら学生課に怒られたって言ってたから……」
(;'A`)「……」
ξ; )ξ「あ、本当にそうなんだ」
(;'A`)「とんでもねーヤツだな、その部長ってのは」
そう言葉を返すと、ショボンがいた辺りから大きなため息が聞こえた。
どうやらその先輩とやらは想像以上に、困った人物らしい。
(´ ω `)「きっちゃん先輩はさ、そういう人なんだ」
.
153
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:37:52 ID:p/orKOsg0
(´ ω `)「そんなきっちゃん先輩が部長になったらどうなるか……想像つくでしょ」
想像はつくが、深くは考えたくない。
少なくとも、まともに写真をとってないことだけは確かだろう。
全然知らない部ではあるが、空中分解してないことを祈るだけだ。
(;´ ω `)「も、もちろんちゃんと写真を撮ろうとして入部した人もいるんだよ。
でも、残った部員は不真面目なやつがかなり多くて……」
('A`)「それで、部長に振り回される会か」
(´ ω `)「……うん」
( )「おーん。なんかすごそうだお」
暗闇の向こうで、力ない笑い声が上がる。
ショボンの声か、それとも話を聞いている誰かのものなのか。闇の中では、はっきりとしなかった。
(´ ω `)「それでね……」
.
154
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:40:33 ID:p/orKOsg0
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--------------
部活だけど、活動自体は楽しかったよ。
とにかくきっちゃん先輩が、活動的でね。みんなで集まってはいろんなことをしてた。
夜の学校を探検したり、インチキ降霊術をしてみたり、お化けの被り物でよそのサークルの部室に突撃してみたりね。
古いビデオを引っ張り出してきて、昔の心霊番組や映画を見るなんてしょっちゅうだった。
学校のそばにある廃墟に潜り込んだ時は、ものすごく盛り上がったよ。
……なんていうか、ほぼオカルト研究会だよね。
今年、新入生が何人か入ったんだけど、みんなびっくりしてた。
逃げた新入生がいなかったのが、一種の奇跡だったね。
……話がそれてるね、ゴメン。
僕はもともと上の先輩たちが引退した後、人数合わせのために引っ張り込まれたんだ。
そういった経緯で入った部だけど、それでもきっちゃん先輩たちとバカをやるのは楽しかった。
だからなのか、思い返せば参加率はけっこうよかったような気がする。
結局の所、掛け持ちしている部の中でも元写真部にはかなり思い入れがあったんだね。
写真部とは名ばかりの変な部だったけど、僕以外の部員もみんな楽しくやっていたみたいだった。
まあ、中には先輩狙いのやつも何人かいたみたいだけど、モメることも特になかったよ。
.
155
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:42:12 ID:p/orKOsg0
それで、僕がこれからする話なんだけど。
全てのはじまりは、きっちゃん先輩の思いつきだったらしい。
試験もレポートも大体終わり、いざ夏休みというその日、先輩は突然言い出したそうだ。
イ从゚ ー゚ノi、「夏なんだから、合宿しよ!」
(-@∀@)「え?」
残念ながら僕はその場にいなかったんだけど、それはもう大騒ぎだったらしい。
<_プー゚)フ「いいじゃん! いつやるんだ?」
イ从゚Д゚ノi、「今」
.
156
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:44:28 ID:p/orKOsg0
从´ヮ`;从ト「わわ。え? えっ?」
(;@∀@)「よ、世の中にはいろいろと段取りというものがあってですな。
というか、いくらなんでも無理でござる!!! ご慈悲を!
そもそも、きっちゃん氏はどこへ行くつもりでありますか?」
イ从゚ ー゚ノi、「そんなの今から決めるに決まってるじゃん」
(;@∀@)「きっちゃん氏ぃ。ご乱心にも程があるであります。
ちょっと、引きずらないで! きっちゃん、きっちゃん氏ぃぃぃ!!!」
从´ヮ`;从ト「きっちゃぁーん」
きっちゃん先輩が思いつきで行動するのはいつものことだ。だけど、いくらなんでも急すぎる。
そう思ったみんなは必死で先輩を説得した。
部員総出で「後日にやろう」と訴えた結果、その日は何とか事なきを得た……らしい。
.
157
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:46:36 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
――そして、それから数日後。
イ从゚ ー゚ノi、「ついにきたわ! エクスト、車っ!」
<_プー゚)フ「まかせろっ! 見ろよー、このピカピカな新車を!」
僕は学校に呼び出されていた。
ご丁寧にも、軍手や懐中電灯といった持ち物の指定付き。
一体、何をするつもりなんだろうと思った僕を出迎えたのは、元写真部のメンバーだった。
(*@∀@)「おお、ショボン氏。来ていただけましたか。
拙者、感謝感激雨あられでござる!!!」
きっちゃん先輩こと狐娘木津子と、同じ学部のエクスト・プラスマン。
……そして、学部は違うけど学年は同じ、朝日アサピーがそこには来ていた。
.
158
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:48:25 ID:p/orKOsg0
(*@∀@)「今日の計画でありますが……」
――計画を担当した朝日によると、僕たちは日帰りで設楽場温泉に出かけることになっているらしかった。
合宿をするにはどうしても準備に時間がかかる。
でもそれじゃあ、待ちきれなくなった先輩が何を言い出すかわかったものじゃない。
大変なことになる前に、とりあえず遠出だけでもして、先輩の機嫌を取ろうということらしかった。
(iii@∀@)】「ショボン氏っ! どうしても来てほしいであります!
拙者1人で、きっちゃん氏とエクスト氏の相手は無理でござる! 無理でござるよぉぉ!!」
……それで僕が呼び出されたわけだった。
連絡をくれた朝日の必死な姿を思い出す。
集まったのが4人だけなのが残念だったけど、あの急な呼び出しでよく4人も集めたものだと僕は感心したよ。
.
159
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:50:14 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
僕たちの行き先は設楽場温泉ということだったけど、その目的は温泉じゃなかった。
……軍手や懐中電灯が持ち物にある時点で、なんとなく普通ではない気がしていたけどね。
イ从*゚ ー゚ノi、「オカ研と言ったら、やっぱオカルトっぽい所よ!」
(-@∀@)「いやいや、きっちゃん氏。写真部でござるよ」
<_プー゚)フ「オカルトって言ったら、心霊スポットか?
やべー、呪いのトンネルとか通るのか? なぁ、なぁ?!」
(-@∀@)「……写真部」
普通の場所は嫌だという先輩と、朝日の間でいろいろとあったらしい。
僕は詳しく知らないけど、その結果、廃墟を探すということで話がまとまったらしい。
廃鉱山とか廃工場は、下調べに時間がかかる。
だけど、きっちゃん先輩が待ってくれるとは思えない。
朝日は手軽に行けそうな、ホテルやドライブインの廃墟を探してみることにしたそうだ。
.
160
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:52:23 ID:p/orKOsg0
廃墟の中でも、廃ホテルっていうのは定番だ。
ものの本によると廃墟っていうのは基本的には人のいたところにしかないらしい。
じゃあ、その廃ホテルがどこにあるかっていうと、それは主に町か観光地となる。
だけど、大きい街や人気がある土地だと、潰れたホテルはすぐに更地か、新しい建物になってしまう。
となると、目指すは寂れかけた観光地ってわけになるわけさ。
イ从*゚ ー゚ノi、「やっぱこれぞ青春って感じよね。廃墟っ、廃墟っ!」
(-@∀@)「きっちゃん氏、過度な期待は禁物ですぞ。
拙者、全力を尽くす次第ではありますが、上手くいくとは限らないのが世の中でござる」
<_プー゚)フ「っていうか、温泉行こうぜ、おんせんー」
(´・ω・`)「……なんていうか、みんな元気だよね。朝から」
――それで、思いついたのが隣の県の設楽場温泉ってわけ。
温泉街ならきっと、寂れて廃墟になったホテルの一軒や二軒あるだろう。
それに、あのあたりは山だからね、道中にもめぼしいものがあるかもしれない。
もし何も見つからなかったとしても、最低でも温泉があるからね。
風呂にでも入っておけば、きっちゃん先輩やエクストをごまかせるだろうとなったわけさ。
イ从*゚ ー゚ノi、「お風呂セットも準備ばっちし!」
<_プ∀゚)フ「待ってろよ、温泉まんじゅう!!」
.
161
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:53:22 ID:p/orKOsg0
……ドクオ?
さっきからどうしたのさ。そんなにブツブツ呟いて……
え、温泉?
ああ、日帰り温泉くらいあるだろうって話。
.
162
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:55:20 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
( )「そういえば、設楽場温泉には、混浴で有名な旅館があるおね」
誰が言ったかわからんが、あまりにも素敵でミラクルな言葉が聞こえたような気がする。
こんよく? 混浴だとっ。
(#゚A゚)「なぁんだと!! けしからんっ、けしからんっ!!!」
(;´ ω `)「ど、どうしたの急に」
気づけば俺は、ショボンの声をさえぎって叫んでいた。
(#゚A゚)「年上のお姉さんと旅行で温泉とか羨ましすぎだろ!!」
.
163
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 20:57:38 ID:p/orKOsg0
百物語とか正直どうでもいい。今は、こいつをとっちめ――
(;-д- )「……祖父たちに聞こえるから、声を抑えてくれないか」
川 - )「ミルナもこう言っている。
羨ましいのはよくわかったから、続きを聞くことにしよう」
――ようとした動きは、闇の向こうから聞こえてきた声に止められた。
蝋燭の明かりの中で、めったに表情を変えないミルナが困ったように眉を寄せるのが見えた。
もう一つ聞こえてきたのは、クーの声だろうか。
(;'A`)「あ、ああ。スマン」
……人の家でとんでもない失態を晒してしまった。
そう思うと、恥ずかしくて、今すぐにでもこの場から頭を抱えて逃げ出したくなる。
無意味に、ペットボトルからジュースを飲んでみたが気まずさは消えない。
(;´・ω・`)「……えっと、じゃあ続きを話すね」
そんな俺を気使うように、ショボンは恐る恐る続きを話し始めた――。
.
164
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:00:00 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
設楽場温泉についたのは、ちょうど昼くらいだった。
それで、軽く回ってみたんだけど、残念ながらそれっぽい廃墟は見当たらなかった。
設楽場温泉自体は確かにさびれているにはいたんだけど、それでも夏休みだからか観光客も多かった。
(-@∀@)「ちょっとメジャーすぎましたかねぇ」
<_プ∀゚)フ「うぉぉぉ、温泉卵食いてぇぇぇ!!!」
(´・ω・`)「あるの? 温泉卵」
それでもひと通り散策してみようってことになって、僕たちは温泉街を巡った。
大通りからはなるべく外れて、それらしき廃墟がないか見て回る。
.
165
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:02:17 ID:p/orKOsg0
イ从*゚ ー゚ノi、「ふふーん。地酒ゼリーだってー!」
(;@∀@)「きっちゃん氏ぃぃぃ。
それ食べたら運転できないではござらぬかぁぁぁ!!!」
イ从*>〜<ノi、「おいしぃぃ!!!」
<_プД゚)フ「きっちゃん部長ずりぃ、オレもオレも!」
途中で店をひやかしながら歩きまわったけど、なかなかいい建物は見つからなかった。
いい感じにボロい建物はいくつかあったんだけど、まだ現役だったり、人通りがそこそこあって入るのは無理そうだった。
(-@∀@)「不覚っ。場所の選択を完全に見誤ったでござる」
(´・ω・`)「まぁ、こればっかりは詳しく調べてみないとね」
もっとマイナーでブームも過ぎ去った観光地を探すんだった。
朝日が後悔していたけど、時すでに遅しさ。
正直、僕も廃墟が探索できると期待していたから、残念といえば残念だったかな。
.
166
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:04:16 ID:p/orKOsg0
イ从#゚ ー゚ノi、「ねー、どうしてさっきのとこ入らなかったの?」
(-@∀@)「無理でござる。向かいのおみやげ屋さんがスナイパーの目で見張っていたでござる。
見つかったら、間違いなく公権力によるタイーホフラグ」
イ从#゚ 3゚ノi、「やだやだー」
<_プー゚)フ「なーなー、酒屋行ってもいいだろ? 地酒飲みたい地酒ー!!!」
辛抱できなくなった先輩と、あっちこっちにフラフラするエクストを丸め込みながら、僕らは進んだ。
とはいえ、このまま町を歩くのも不毛だから、方針を変えることにした。
それで僕らは当初の目的を果たすため、車で町外れを目指すことになった。
温泉街の中心部から離れれば、人目がなくて条件のいい廃墟が見つかるかもしれないからね。
イ从゚ワ゚ノi、「あっちの山のほう、なんか見えない?」
<_プー゚)フ「えー、ドレドレ? ドレよ」
(-@∀@)「……建物で、ござろうか?」
みんな行ったことあるかもしれないけど、設楽場温泉って山の中にあるんだよね。
だから、車でちょこっといくだけですぐに山だ。
人気のない山の中にきっちゃん先輩は、建物らしき影を見つけた。
……コンクリートの建物だろうか。
山の中に団地や会社があるとは思えないから、おそらくはホテルか、工場の一部。
温泉地からは結構遠い場所にあるから、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。
目的のものも見つからず、迷走していた僕らは迷うこと無く山への道に入った。
.
167
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:06:58 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
山道も最初のうちは順調だった。
だけど、どんどん道が細くなっていく。
コンクリートの建物の方にハンドルを切ったせいか、途中でカーナビに道が表示されなくなってしまった。
今思えば、ここで引き返せばよかったけどね。
それでも、もったいないからと道を無理に走ったのが悪かったらしい。
(;@∀@)「む。う、ハンドルが」
(;´・ω・`)「大丈夫、朝日?」
……気づけばUターンもできない細い一本道を、僕らは走っていた。
(ii@∀@)「きっちゃん氏。この道はもう無理でござる!!」
<_;フ−)フ
.
168
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:08:57 ID:p/orKOsg0
イ从゚ ー゚ノi、「しかたないわねー。引き返すことを許可する!」
(;´・ω・`)「引き返すのはいいけど、これUターンできるの?」
イ从*゚ ー゚ノi、「じゃあ、バックで引き返したら?」
(;´・ω・`)「そんなことしたら谷底に向かって真っ逆さまだよ」
このままじゃ立ち往生するぞと思っても、道が狭すぎて引き返すこともできない。
道はどんどん悪くなり、そうこうしているうちに舗装がなくなり、砂利道に入った。
これはヤバイと思ったけど、どうしようもない。最終的に車は、草だか道なんだかよくわからないところを走るハメになっていた。
<_;フ−)フ「むり」
あまりの道の酷さに、エクストが途中でゲロゲロと吐き出した。
それにつられて、僕も朝日がもらいゲロしそうになってさ大変だったよ。
<_;フー)フ「死ぬ」
(;@∀@)「エクスト氏ぃぃぃぃ」
(;´・ω・`)「袋っ! 吐くなら袋っ!! 先輩っ、そっちの窓開けて!!」
.
169
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:10:23 ID:p/orKOsg0
え? 先輩?
イ从゚ぺノi、「どれだけ軟弱なのよ、もー」
先輩は平然としてたよ。
なんかもう、「ちょっと男子〜、クサイからやめてよね〜」とかそんな感じだった。
……僕は乗り物には強い方だと思ってたけから、あの先輩を見た時は軽くショックだったよ。
.
170
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:12:49 ID:p/orKOsg0
……それから、どのくらい車を走らせたかな。
エクストのヤツが半泣きから本気で泣き出したところで、きっちゃん先輩が窓へとピタリと張り付いた。
イ从゚ ー゚ノi、「あ」
先輩は食い入るように、外を見つめている。
一体どうしたんだろうと思った所で、先輩は「家だ」と叫んだ。
(´・ω・`)「……今、何て」
イ从*゚ワ゚ノi、「家だぁぁぁっっ!!」
目に痛いほどの緑の中、木とは違う色が見えた。
なんだろうと目を凝らしてみて、僕もようやく気づいた。
家がある。
それも、一軒だけじゃない。
立ち並ぶ木のカーテンの向こうに、家が立ち並んでいるのが見えた。
.
171
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:13:50 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
(´・ω・`)「――そう、」
(´・ω・`)「僕らは、村を見つけたんだ」
.
172
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:15:58 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
ひどい山道を通って、たどり着いたのは村だった。
村とは言ったけど、実際はそれほど大したものじゃない。小さな集落と言った方がいいかもしれないシロモノだった。
それでも、僕らはなんとか人のいそうな場所に着いたんだ。
(´・ω・`)「建物だ」
(*@∀@)「本当でござるか? これは僥倖!!」
見える家の数はそう多くない。
それでも休憩ができるかもしれないと、車を走らせる。すると、道端に花が供えられたお地蔵さんが見えた。
どうやら道はそこで終わりみたいで、そこから先は急に道幅が狭くなり、車じゃ入れない細さになっていた。
(´・ω・`)「行き止まり……みたいだね」
<_フ;ー;)フ「外にだして……死ぬ……」
イ从゚Д゚ノi、「もー、気合が足りないからよー」
僕は窓から周りを見回した。
路肩を使えばなんとか車の切り返しもできそうだ。
.
173
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:18:36 ID:p/orKOsg0
一時はどうなることかと思ったが、最悪でもこれで引き返すことができる。
山道から解放され、僕はようやくほっとした気持ちになっていた。
(-@∀@)「うーむ、ここはどこでござろう。
ナビは完全に死んでるし、地図はどうであります?」
(´・ω・`)「うーん、さっぱりだね。
それらしき道がそもそも見当たらないし」
イ从゚ぺノi、「そんなの人に聞けばいいじゃん」
そう言って、まずきっちゃん先輩が外に飛び出した。
それから、エクストが体をフラフラさせながら車から出た。
<_フ;ー;)フ「外だァァァァァ!!」
朝日と相談した結果、僕たちは休憩がてら、人を捕まえて道を聞くことになった。
朝日はしばらく渋っていたけど、最後には納得してくれたよ。
ここがどの辺りかもわからないし、あのひどい道をもう一度通るのはできれば避けたかったからね。
道に迷った辺りから廃墟探索は完全に諦めていたから、その時の僕らは設楽場温泉に帰るつもりだった。
.
174
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:20:37 ID:p/orKOsg0
(´・ω・`)「帰り道が見つけるといいんだけど」
(-@∀@)「まあ、こればっかりは運を天に任せるしか無いでありますな」
で、先に行った先輩たちを追って歩き出したわけだけど。
その村には、本当に人がいなかった。
田舎に行ったことがある人ならわかるだろうけどさ、昼間って意外と人がいないもんだよね。
大体は、昼食後の昼寝とか、仕事とか、畑や山を見に行ってるとかなんだろうけど。
だけど、それを差し引いても、あまりにも人がいないんだ。
そもそも人の気配がしないんだと、僕はしばらく歩いてから気づいた。
(´・ω・`)「誰もいない」
――どうしてだろうと、思った時にふとその理由がわかった。
どこの家も、窓が開いてないんだよね。
設楽場温泉のある山はとても涼しい。だけど、どこの家の窓も開いてないなんて流石に不自然だ。
それから妙に草が多いのも気になった。不自然にぽかりと開いた土地には、茂った雑草が藪と化している。
(´・ω・`)「……庭にしては不自然なような気が」
(-@∀@)「畑か田んぼでしょうな。手入れをしなくなって相当たってる感が」
.
175
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:23:23 ID:p/orKOsg0
ひょっとしたら、ここには誰も人がいないんじゃないかという不安は最初からあった。
僕らの入ってきたあの道じゃ、いくら車でもあまり通る気になれない。
それにこの荒れよう。人が住んでるなら、もう少し手入れをするもんじゃないだろうか。
<_フ;∀;)フ「空気ウマイ! すずしい! ガタガタクネクネしない!!」
先を行くエクストが、草をかきわけて建物へと近づいていたのに気づく。
……だけど、途中でエクストは首をひねりながら別の家へ向かって走りだした。
どうしてだろう?と、エクストが最初に向かった家を眺めてみれば、玄関や勝手口らしき場所に雑草が生い茂っている。
そして、玄関の戸は、はめ込まれたガラスが割れていた。
なるほど、空き家だったのか。僕はそう思ったよ。
イ从#゚ ー゚ノi、「エクストー、先に行かないでよ!」
<_プー゚)フ「へへーん。最初はハズレだったが、一番乗りはオレサマだっ!」
エクストの後を、きっちゃん先輩が走りながら追いかけていく。
僕と朝日はため息を付きながら、二人の後をついて行った。
(-@∀@)「……これはひょっとしたらひょっとするかもですな」
(´・ω・`)「だね」
ひょっとしたら、僕たちは大変なものを発見してしまったのかもしれない。
これまで見かけた家。――いや、それだけじゃない。
この辺りにある家は全て空き家なのかもしれないという可能性が、頭をよぎる。
そうであるならば、僕たちがいるこの場所は……。
.
176
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:24:15 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
僕たちはざっとその村を一周りした。
落ちている木の枝を踏み越え、雑草をかき分け、なんとか進めるところを進む。
荒れていたのは、最初に見かけた家や畑だけじゃなかった。
改めて見て回ると家は何軒もあるのに、その周りの道や畑は何年もの間放置されていたとしか思えないほど荒れていた。
その頃には僕は。いや、僕たちはここが廃村だと確信していた。
<_フ; ー )フ「疲れた、もうムリ」
イ从;-Д-ノi、「誰もいないー。つまんないー」
どこにも人の姿はなかった。
人の姿どころか手入れをされている気配すらない。
ここまで来ると、なんで建物があるのかさえ謎だ。
(-@∀@)「これはすごいですな」
朝日がカメラのシャッターを切りながらゆっくりと進む。
一枚、二枚……それだけじゃ物足りないのか、デジカメを取り出して撮影を始める。
僕は遅れがちな朝日に付き添いながら、辺りを見回して息をついた。
.
177
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:26:21 ID:p/orKOsg0
360度どこを見てもあるのは木の緑と、幹の茶色。
山をうめつくすように茂る緑は、目に痛いくらいに鮮やかだ。
緑の隙間を通るようにして見える家や、小屋らしき建物は沈黙し続けている。
人の声も、鳥の声さえもしなかった。
聞こえるのは、どこか遠くから聞こえてくるカナカナという蝉の声だけ。
(-@∀@)「ショボン氏。あちらをみてください」
(´・ω・`)「え?」
不意に声をかけられて、僕は現実へと引き戻された。
朝日がカメラを掲げながら、ある一点を指さしている。
(-@∀@)「あそこの。木の合間……あっちに、他とはすこし違う色が見えるでしょう。
崩れてかけて危なっかしいこと限りないが、ありゃぁ、きっと石段か何かでござろう」
(´・ω・`)「石段? 何で?」
(-@∀@)「立地的に……寺か、神社か。
きっちゃん氏に声をかけてみましょう。きっと面白いものが見えるでござるよ、旦那」
止める暇もなかった。
甲高い笑い声を上げながら、朝日は階段へと足を向ける。
旧式のカメラと、最新式のデジカメ。一人だけ大量の荷物を持ちながらも、朝日の足は軽やかだ。
(-@∀@)「この村が本当に生きているのか、それとも死んでいるのか。
きっと、ここを登ればわかるはずでござる」
.
178
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:28:22 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
イ从*゚ ー゚ノi、「なっ、にっ、がっ、あーるーかーなーっ」
(´・ω・`)「朝日の話だと、寺か神社って話だけど」
僕は先輩たちに慌てて声かけると、朝日の後を追いかけはじめた。
朝日は一足先に階段を登り始めていたから、それを追いかけるのは大変だった。
きっちゃん先輩はまだ乗り気だったけど、エクストは階段を見た途端に嫌そうな顔をした。
嫌がるエクストの背を僕ときっちゃん先輩が無理やり押し、僕らは石段を登った。
<_;フー )フ「……っ」
石段は思ったよりも長くって、段差がキツかった。
それでも普通に階段があるところはまだよかったけど、崩れている場所はもう大変だった。
むき出しの地面をよじ登り、何かの拍子に階段が崩れないか心配しながら僕らは進んだ。
(*@∀@)「みんなも来てくれたでありますか」
(;´・ω・`)「行かなきゃよかったって、後悔しているところだよ……エクストが」
<_;フー )フ「……ムリぃ」
朝日と合流し、石段を登る。
「もうカンベンしてくれ」と泣きつくエクストを引きずって、僕らは頂上へとたどり着いた。
.
179
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:31:20 ID:p/orKOsg0
イ从* >∀<ノi、「とーちゃぁぁぁぁく!!!」
――その先に広がっていたのは、完全に潰れた建物だった。
屋根は落ち、柱や壁に至っては原形すらとどめていない。
そこにあったのは、どうやら神社だったらしい。
階段を登ってすぐのところにある、倒れた鳥居がかろうじてその名残を残していた。
(-@∀@)「まあ、こうなりますか」
イ从;゚ ー゚ノi、「うわー、なにこれ腐ってるぅぅ」
(*@∀@)「いやいや、きっちゃん氏。これは上等な方でござるよ」
カメラを取り出して撮影しながら、朝日は笑った。
社殿だったと思われる建物は、どこも無事なところがない。
賽銭箱に入っていたものらしい、錆びた小銭がいくつか、地面に転がっているのが見えた。
<_;フー )フ「なんも、ねーのかよ」
イ从゚ぺノi、「もー、なさけないなぁ。運動しなさいよね、運動」
ゼイゼイと息をあげたエクストは、その場にぺたりと座り込んで動かなくなった。
とりあえず、エクストはきっちゃん先輩に任せて、僕は朝日を引き連れて辺りを見物することにした。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:32:19 ID:p/orKOsg0
(´・ω・`)「見事にボロボロだね。誰もいないのかな」
(-@∀@)「その可能性が高いでござるな。
……しかれども、まったく手入れがされていないわけではなさそうですぞ」
朝日に言われてみると、確かに神社のあたりはそれほど荒れてはいなかった。
原形を留めてない本殿のひどさに気を取られていたけど、よくみればゴミを集めたり、木の手入れをした跡がある。
それでも落ちた枝葉が散らばっているが、他に比べるとまだ少しは整えられていた。
(-@∀@)「あちら側になにかありそうですな。
他に比べて、足元も整備されているみたいでござる」
(´・ω・`)「あっち?」
朝日の言う方角には、社殿の脇を抜けて更に奥に続く道があった。
木々の間を抜ける道は、人が何度も通ったのか足元がしっかりと固められていた。
(-@∀@)「きっちゃん先輩ではないが、ワクワクするでござるな」
(;´・ω・`)「え、二人で行くの?」
(*@∀@)「エクスト氏が動けない今、拙者たちが動かなくてどうするでござる。
きっちゃん氏が帰るぞと言い出さないうちに、行くであります!」
.
181
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:35:53 ID:p/orKOsg0
途中でなくなるのではと恐れたが、道はちゃんと奥の小さな広場まで続いていた。
思いの外整えられたそこにあったのは、小さな祠だった。
社殿とは違って、祠は意外なほどしっかりしていた。
屋根もちゃんと付いているし、古びて入るけれどもどこも壊れていない。
そして、その前にはいつのものかわからない酒瓶と、造花らしい花が飾られていた。
(´・ω・`)「ほこら、かな。花……か。いつ供えたんだろう」
(-@∀@)「生花ならともかく造花じゃ、わからんでござるな
それほど汚れてないから古くはないと思うのでありますが……」
パシャリと、朝日がカメラのシャッターを切る。
朝日が黙りこんでしまえばもう、辺りは蝉の声とカメラの立てる音しかしない。
(-@∀@)「でもまあ、ここには今でもちゃんと人の手が入っているようですな。
他の建物と違って寺社仏閣と墓場は、人がいなくなっても手入れすることが多い所でござるから」
朝日の言葉を聞きながら、僕は少し驚いた。
この誰にもいないような村でも、神社の手入れをするような人がいる。
……その人は、何を思って誰もいない寂しい村でゴミを拾い、花を供えたのだろう。
(´・ω・`)「わからない、か」
カナカナとセミは鳴く。
僕は祈るわけでなく――ただ、ぼんやりとそこに立っていた。
.
182
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:36:41 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
イ从゚ ー゚ノi、「よしっ、どこかの家に入ろう」
戻ってきた僕らを迎えたのは、きっちゃん先輩のそんな一言だった。
朝日と行った祠の話はしたのだけれども、どうやらきっちゃん先輩のお気に召さなかったらしい。
(;´・ω・`)「はい?」
イ从゚ ー゚ノi、「みんな、ここがどこだと思う? 廃墟よ、廃墟っ!!
廃墟ときたら探索でしょーが。これオカルト研究会の鉄則!」
(;@∀@)「オカルト研究会じゃなくて、写真部ですぞ……」
きっちゃん先輩は腕を振るうと、探索するべきだと熱弁をふるい出した。朝日や僕の声はもちろん無視している。
いろいろ言っていたけど、そのほとんどが散歩と山登りは飽きたという内容だった。
しばらくその場で、ごちゃごちゃ話していたけど、先輩の暴走は止まらない。
ミoイ从*>ー<ノi、o彡「せっかくそれっぽい建物いっぱいあるんだから入りたいー」
(;´・ω・`)「……先輩、かわいこぶってもダメです」
イ从゚ 3゚ノi、「ケチー」
<_プ3゚)フ「ズルイぞー、しょぼくれー」
.
183
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:38:25 ID:p/orKOsg0
僕や朝日は説得したけど、きっちゃん先輩は主張を曲げなかった。
それどころか、体力が回復したエクストまできっちゃん先輩の主張にノッてきたからもう手に負えない。
先輩は元々、言い出したら聞かない人だ。だから、こんな状態になったら説得も効果がない。
イ从*゚ ー゚ノi、「ふっふーん。わかればいいのよ。わかれば」
僕たちは結局、先輩の言葉に従うことになった。
村の建物を探索するという一大イベントに先輩の顔はとたんに生き生きとしはじめる。
イ从 ゚∀゚ノi、「こういう怪しげな村には、謎のクリーチャーが出るのが鉄則なのよ!
屍人とか、ゾンビとか、幽霊とか。んー、ワクワクするっ!!」
<_プ∀゚)フ「よっしゃ、ゾンビっ!
ゲームで鍛えたオレサマの腕前、見せてやるぜ!」
(;´・ω・`)「は、はは。いるといいね、クリーチャー」
(-@∀@)「いや、クリーチャーはいないでござろう」
イ从゚ ー゚ノi、「じゃあ、行くわよ!」
きっちゃん先輩とエクストはごきげんな調子で進んでいく。
僕と朝日はため息を付きながらそれを追いかけた――。
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184
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:40:38 ID:p/orKOsg0
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--------------
( ゚д゚ )「それは、犯罪ではないのか?」
ショボンの話を遮って言ったのは、珍しいことにミルナだった。
不法侵入だと言いたいのだろうか。
真面目で堅物なミルナはどうやら、他人の家に上がり込むことが気になったみたいだ。
('A`)「……これまで散々、廃墟の話をしておいて今更じゃないか」
( ゚д゚ )「そうだが。人がいないと言っても、家なのだろう? 勝手に入るのはよくない」
( )「細かいこと気にするやつだな、お前」
言われてみればそうかもしれないが、そこで話を止められても困る。
そんなこと言い出したら、最初に言ってた廃墟に行った話とか、肝試し全般がアウトになってしまう。
おいおい、どうするんだよと俺は言いかけて、
.
185
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:43:23 ID:p/orKOsg0
(;´ ω `)「そうだね。やっぱりそうなるよね。僕は止めたんだけど……」
ショボンがいつもの語尾が消えかける弱々しい口調で呟いた。
何度か口ごもりながらショボンは言いかけて、その言葉を途中で切ってしまった。
(´ ω `)「……そうだね。
きっちゃん先輩やエクストばっかりに責任を押し付けるってのも、卑怯だよね」
( )「ショボン……」
暗闇の中、暗く光る瞳が見えたような気がした。
ショボンは相変わらずの弱々しい口調で、それでもはっきりと本当のことを口にした。
(´ ω `)「ミルナの言うとおり、本当は犯罪だよね。
だけどさ、僕たちはどうしても好奇心を抑えきれなかったんだ」
.
186
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:44:49 ID:p/orKOsg0
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--------------
……念願の廃墟を見つけて、僕のテンションはかなり上がっていた。
廃村なんて滅多に見れるものじゃない。
それも有名どころじゃない場所となれば、余計にそうだ。
これを逃したら、いつ行けるかわからない。
それに、人の住まなくなった家は長持ちしないからいつ倒壊するかわからないしね。
有名ドコロの廃墟みたいに解体される恐れだってあった。
だから、僕たちはこのチャンスを逃すつもりはなかった。
さっきは止めたって言ったけど。
本当のことを言うと、その時の僕はかなり積極的だった。
まあ……ね。
うん、わかってるよ。
廃墟探索っていうのはさ、元々そういう趣味なんだ。
廃墟関係のHPや本を見れば、そういう警告はいくらでもしてある。
でもさ、僕たちは元々廃墟を探しに来てたんだ。
それっぽい物件があるというのならば、多少の危険を犯しても見たくなるのは当然だよね。
そういうわけだったから、僕らは喜んで廃屋探索へと向かったんだ。
.
187
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:46:46 ID:p/orKOsg0
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神社の階段を下ると、先輩とエクストは真っ先に手近な家へと向かった。
エクストなんかは、神社で倒れかけていたのとは別人みたいな動きだった。
きっちゃん先輩とエクストは、家の前で立ち止まると僕と朝日を呼んだ。
<_プー゚)フ「しょぼくれー、あさぴー来いよ! すげーぜ!!!」
イ从゚ ー゚ノi、「こっちからだと中、見えるよ!」
そこにあった家は、何ていうかもう家じゃなかった。
遠くから見た時はまだまともな建物に見えたけど、近づいてみるとその家には壁がなかった。
正確には、先輩が指さしている一面にあたる壁が外れて、野ざらしになっていた。
板張りの小屋ってあるだろ?
木の板だけを打ち付けて作ったような、古いやつ。
そういうのって、古くなると釘が外れたりして木が外れちゃうんだ。あの家もちょうどそんな感じだった。
イ从゚ ー゚ノi、「見てよ、すっごいボロボロ!」
(;@∀@)「あー、きっちゃん氏。それ以上入ると危ないですぞ」
イ从゚ 3゚ノi、「え〜〜」
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188
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:49:17 ID:p/orKOsg0
<_フ*^∀^)フ
(´・ω・`)「エクストもダメだからね」
<_フ;゚ー゚)フ「そ、そそ、そんなこと思ってねーし!!」
中に入り込もうとする先輩たちを止めながら、最初にカメラを構えた朝日が。
それから少し遅れて僕が、崩れ落ちた家の中をのぞき込んだ。
――長年放置されていたということは、ひと目でわかった。
最初に目についたのは、建物の中を斜めに走るいくつもの板だった。
これは何だろうと考えた後に、天井の板が外れかかっているのだと気づく。
.
189
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:50:51 ID:p/orKOsg0
イ从゚ ー゚ノi、「アタシも入るぅぅー!!」
<_;フ>∀<)フ「いーれーろぉぉぉ!!!」
(#´・ω・`)「ダメだって!!」
建物は大きく歪み、奥の方の天井は完全に落ちてしまっている。
目を凝らしてみれば、床があったと思われる部分は地面がむき出しになっていて、草が生えていた。
タンスや戸棚みたいなものも見えたけど、上から落ちかかってる天井の板や、草に隠れてよく見えなかった。
(-@∀@)「素晴らしいですが、こりゃあいつ崩れてもおかしくないですな」
<_;プー゚)フ「マジ?」
考えるまでもなく、危険だった。
このまま入り込んだら、あの神社みたいにいつ天井が崩れるかわかったもんじゃない。
名残惜しかったけど、この家は危険だし、村には他にも家がある。
朝日が写真を撮り終わるのを待ってから、僕らは別の民家へと向かった。
.
190
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:52:22 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
次に向かったのは、そのすぐ近くにある民家だった。
例によって家の周りは草だらけで、窓は締め切られ、人の気配はどこにもなかった。
イ从゚ ー゚ノi、「入っていい? 入っていい?」
(-@∀@)「そうでござるな……」
家を見上げ、朝日は考えこんでいた。
入っていいものか、入るならどこから入るのか悩んでいるんだろう。
僕は入れそうな入り口がないか歩こうとして、エクストの声を聞いた。
<_プー゚)フ「こっち! こっち! 鍵かかってねーぜ!!!」
(´・ω・`)「!?」
気づくと、エクストが拾った木の枝を振り回しながら家の角の方に立っていた。
エクストのいる方に向かうと、勝手口らしき場所に木の枝を向ける。
そちらに駆け寄って見てみれば、エクストの指す扉は中の様子が見えるくらい開いていた。
(´・ω・`)「誰も、いない……?」
<_プー゚)フ「だろー。スゴイだろ!」
.
191
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:54:30 ID:p/orKOsg0
覗いてみた室内は暗く、奥のほうははっきりと見えない。
しかし、玄関にはホコリや木の葉が降り積もっていて、長年誰も使っていなのはすぐにわかった。
イ从゚∀゚ノi、「よくやった、エクスト!」
<_プ∀゚)フ「やったぜ、きっちゃん部長っ!」
イ从> ー<ノi、「開けるぞドーンっ!!!」
これなら中が、探索できるかもしれない。
そう思いだした瞬間、きっちゃん先輩がエクストに突進して扉に手をかけた。
止めるよりもはるかに先輩の動きは早かった。
途中で何かにひっかかったのだろう、先輩は何度か押したり引いたりしていたが、すぐに扉は開いた。
イ从#゚ ー゚ノi、「アタシにかかればざっと、こんなもんよ!」
<_プー゚)フ「きっちゃん部長すげぇぇ!!!」
イ从゚∀゚ノi、「野郎ども探検よ!!!」
(;@∀@)「あ、足元にはくれぐれも気をつけるでござるよ」
呆然とする僕の横で、朝日が鞄から懐中電灯を差し出した。
きっちゃん先輩はそれを受け取ると、家の中へと踏み込んでいった。
.
192
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:56:15 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
中に入ってみると、ホコリとカビの入り混じったような匂いが鼻についた。
空気はよどみ、肌にべたりと絡みついてくるみたいだった。
<_プー゚)フ「ボロボロだな」
(-@∀@)「いやいや、かなりよい方かと」
それでも、家の中は、朝日の言うとおりかなりいい状態だった。
……まあ、所詮は廃墟だからね。人が住んでいる家とはそりゃあ違うよ。
天井には黒いカビのような物が生えていたし、床には得体のしれない赤黒いシミがポツポツとあった。
だけど、床も気をつけて歩けばしっかりしていたし、さっきの家と違って天井もまだ持ちそうだった。
(;@∀@)「エクスト氏。そこ腐ってるから気をつけて」
<_;プー゚)フ「うぉっ、マジ?!」
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193
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 21:59:31 ID:p/orKOsg0
懐中電灯の光を向けながら、土足で進んでいく。
昼間でも床が腐っていたり、釘やガラスが飛び出していることがあるから、素足というわけにはいかない。
慎重に足元を探りながら進んだ先で、きっちゃん先輩に声をかけられた。
イ从゚ ー゚ノi、「ショボンー、エクストー、こっちこっち!」
(;´・ω・`)「先輩、危ないから一人で進まないで」
先輩の声につられて言ってみると、そこには初めて見る光景が広がっていた。
一言で言うと――そこは宝の山だった。
民家だったらしいその建物には、ひと通りの家具がそろっていた。
台所らしき場所には割れた茶碗や、ホコリをふけばまだ使えそうなお椀が転がっていた。
足元に転がった木箱が邪魔であまり踏み込めなかったけど、転がっていた空き缶の表示は見たこともない古いものだった。
懐中電灯の光を向けてみた先には、色の剥げかけた仏壇が残っていた。
それだけでも驚いたけど、その中に位牌を見つけた時はさすがにぞっとしたね。
……そうだ。今日は持ってないけど、家や部室にはその時の写真がたくさんあるから今度見せるよ。
本当にすごかったんだから。
イ从゚ ー゚ノi、「すごいわね、これ」
(-@∀@)「拙者も、ここまで残留物の多い廃墟は初めてでござる」
.
194
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:01:55 ID:p/orKOsg0
(*´・ω・`)「いいね、いいね!
こんなに物があるなんて珍しいんじゃないの!?」
(*@∀@)「ああ、この打ち捨てられた感じがなんとも物悲しくてキュンと」
(*´>ω<`)「キュンとかwww」
イ从*゚ ー゚ノi、「何それ」
特に、居間らしい部屋はすごかった。
ところどころ腐った畳の上に、ちゃぶ台がしっかりとした状態で置かれている。
壊れかけたタンスの中には、使われていたらしい服がそのまま残っていた。
<_フ*^∀^)フ「なーな―これ見ろよ!」
<_フ*^∀^)フ「ぱんつ!」
(-@∀@)「……どうしました、プラズマンくん」
(´・ω・`)「正気にかえりなよ、エクスト・プラズマン」
<_フ;゚Д゚)フ「お前ら、何で急に冷静になっちゃってるの?
呼び方違うし、キモっ!!!」
.
195
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:04:44 ID:p/orKOsg0
イ从゚ ー゚ノi、b「ナイスぱんつ!」
<_ブ∀T)フ「うぉー、きっちゃん部長!! オレっち一生ついていきます!」
イ从*゚ ー゚ノi、「ふっふ。よきにはからっちゃいなさい!」
探索は楽しかった。
この村で初めて入る建物だったし、遺留品の多い廃墟に入るのも初めてだったからね。
懐中電灯を向けた先に、錆びついた時計があった時は、息が止まるほど興奮した。
朝日なんかは興奮して、カメラのフィルムを1本使いきっていたよ。
僕もカメラは朝日に任せるつもりだったけど、気づけばかなりの写真をとっていた。
<_プー゚)フ「なーな、これ昔のカネだろ? 記念に持って帰ろうぜ!」
ただ、エクストが戸棚の中から現金を見つけた時は流石に真っ青になったね。
いくらここが人のいない廃墟だからって、やっていいことと悪いことはある。
廃墟に入り込んでいる身で言えることじゃないけど、それでも最低限の礼儀っていうものがあるからね。
(;´゚ω゚`)「それだけはやめて!」
(iii@∀@)「エクスト氏ぃぃ!!! それはいくらなんでも犯罪でござるぅぅ!!
そんなんじゃ、いつか本当にお縄につきますぞ」
<_フ^ー^)フ「ダイジョーブだって、誰も見てねーし!」
.
196
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:05:35 ID:p/orKOsg0
(iii´゚ω゚`)「窃盗はやばい! だめだよ、絶対!」
<_プ 3゚)フ「お前らケチだなー。ねー、きっちゃん部長」
イ从゚ ー゚ノi、「泥棒はないわー」
<_;プー゚)フ「え、部長?! あ、なんかゴメン」
これ以上ここにいたら、またエクストがまた何かを持ち帰ると言い出しかねない。
そう思った僕らは、エクストを引き連れてさっさと家からでることにした。
……ようやく外に出た時には、日の光の眩しさと木の緑で、別の世界にいるみたいだった。
イ从゚ ー゚ノi、「あー、空気がウマイっ。クリーチャーはいなかったけど、なかなか楽しかったね」
(´・ω・`)「……それにしても、何でお金が」
(-@∀@)「引っ越すなら普通、置いたままにはしていきませぬな」
<_プー゚)フ「えー、忘れたんじゃね?
うちのグランマやママンは、よくヘソクリなくしたって言ってるぜ」
少し気になることはあったけど、家の探索は十分すぎるほどに満足できるものだった。
山独特の涼しい空気に身を任せながら、僕は大きく息をついた。
.
197
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:07:22 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
しばらく休憩してから、僕らは別の家を探索した。
ツタに絡まれたその家は、外観こそ荒れていたけれど、中の状態はとてもよかった。
家には前に住んでいた住人が残したらしい家具や、道具がそのままになっていた。
ホコリや建物の傷みにさえ目をつぶってしまえば、今でも誰かが住んでいるといっても信じてしまいそうだったよ。
<_プ∀゚)フ「水筒見つけたー!!」
イ从゚Д゚ノi、「お茶碗ビームをくらぇぇぇぇ!!!」
(#@∀@)「人の家の物で遊ぶとは何たる狼藉! 流石の拙者もプンプンですぞ!」
(;´・ω・`)「……楽しそうだね、みんな」
前の家と同じく、この家もいわゆるアタリ物件だった。
保存状態がよくて、残留物がここまで残っている廃墟なんて珍しいのに、それが二軒連続。
最初に覗いた家だって、しっかり中が見えたのだからアタリと言えなくもない。
.
198
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:09:22 ID:p/orKOsg0
――今日はついてる。
そう信じこむ程度には、僕たちのテンションは上がっていた。
この機会を逃したら、こんないい廃村なんて見ることはできない。
できることならずっと、この廃村を回っていたかった。
(-@∀@)「ふむ。そろそろ3時を回りますな」
……とはいえ、時間もそろそろ遅いし、こんなところで日没を迎えるのはマズイ。
僕たちは相談した末、最期にもう一軒だけ探索して帰ろうと決めた。
.
199
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:11:19 ID:p/orKOsg0
――え、夜のほうが探検にはいいんじゃないかって?
ダメだよ。
廃墟ってのは昼間でも、足元や周りの様子が見えづらいんだ。
そんな場所を視界の悪くなる夜に探索するなんて、それこそ自殺行為だ。
考えてみなよ。あの廃村で、崩れてきた天井に押し潰されたとするよ。
そうなったら、あの道の悪さじゃ、救急車どころか救助の人だって来られないんだから。
大怪我ですめばいいけど、ヘタしたら命を落とすことにもなるかもね。
だから、夜の探索はダメなんだ。
.
200
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:13:33 ID:p/orKOsg0
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--------------
('A`)「……なんというか、正直スマンカッタ」
軽く聞いた言葉に、真剣に答えを返されて俺は黙り込んだ。
ショボンのやつ、廃墟にはそれほど興味ないって顔をしておきながら結構、詳しい。
オカ研の件と言い、百物語にわりとノリ気で参加してきたことといい、大人しいくせにこういうことが好きなのかもしれない。
……目の前の相手の顔が見えない程度で、ビビっている俺とは大違いだ。
(*´ ω `)「本当は、エラそうなこと言えないんだけどね。僕も夜の廃墟で肝試しやったことあるし」
( ゚д゚ )「やったのか」
ξ; )ξ「アンタって意外と度胸あるわね」
.
201
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:15:22 ID:p/orKOsg0
ツンの声にショボンは、「そんなことないんだけどなぁ」と返した。
暗闇の一角が動いているような気がするのは、きっと首でもひねっているのだろう。
ショボンのやつ。この感じだと、こういう感じのスポットには何度も行ってるんだろうな。
……この後のこいつの話が怖い。
(;´ ω `)「……ああ、そうだ。
ドクオじゃないけど、「夜に探検したら」っていうのは、エクストやきっちゃん先輩も言ってたよ。
もちろん。僕と朝日が全力で止めたけど、正直笑えない……」
ハハハと乾いた笑い声を上げたショボンが、言葉を切る。
しばらく飲み物を飲むような音が響いた後、ショボンは再び声を上げた。
(´ ω `)「じゃあ、続きと行こうか。
――エクストときっちゃん先輩を説得した僕らは、最後の家へと向かった」
.
202
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:17:59 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
僕たちが最後の探索場所に選んだのは、集落のなかでも特に立派な家だった。
家というよりは屋敷かな。
村長か何か。きっと、村でも有力者の家だったんだろうね。
家のすぐ脇には倉があって、いかにも金持ちの家って感じだった。
イ从゚ぺノi、「これで最後とかつまらないー」
<_プ∀゚)フ「そーだそーだ、もっと回ろうぜぃ!」
(-@∀@)「エクスト氏はあのひどい道を夜間運転する自信がおありで?
揺れますぞ、危ないですぞ、気持ち悪くなりますぞ」
<_フ;゚ー゚)フ「あれれー、オレ早く帰って温泉に行きたくなって」
イ从#゚ ー゚ノi、「この裏切りものー!!!」
きっちゃん先輩は最後まで納得してなかったみたいだけど、それでも最後には折れてくれた。
朝日の説得がきいたのか、それとも単に飽きたのかはわからないけどね。
.
203
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:19:21 ID:p/orKOsg0
(´・ω・`)「大きな家だね」
屋敷はこれまで見た建物の中で、一番状態がよかった。
元々、頑丈な作りだったんだろうね。
柱は太くてしっかりしていたし、ふすまの上にある鴨居……だったかな? には、キレイな細工がされていた。
床の間にはホコリを被った掛け軸がそのまま残されていた。
イ从*゚ ー゚ノi、「すっごーい」
この家は残留物もすごかった。
例えば、ある部屋には小さな戸棚と人形がいくつか飾られていた。
遊びの途中だったのか、ままごとの道具らしいおもちゃが転がっていて、そこに人形が一つちょこんと置かれていた。
<_;プー゚)フ「ひぃぃぃぃぃ!!!」
エクストはよほど人形に驚いたのか、半泣きになっていたっけ。
他にも、広げられたままの新聞とか、積み重ねられた本がそのまま残っていた。
ちょっと外出しただけ。本当にそんな感じだった。
だけど、残されている新聞は黄色く変色して触ったら崩れそうだったし、本だって見たことのないような古いものだった。
(-@∀@)「日付は……かなり前ですな。
数十年も前のものでござったとは」
.
204
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:21:25 ID:p/orKOsg0
屋敷は広くて、いろいろな部屋があった。
どの部屋にも物が残されていて、僕らはそのたびに息を呑んだ。
子供部屋、客間らしき部屋、仏間。この家の人がどんな生活をしていたか、目に浮かぶみたいだった。
(´・ω・`).。oO(……あ)
そして、僕は見つけたんだ。
なんとなく触ってみた、戸棚の中にそれはあった。
昔のお金が入った、がま口の財布。
真剣に探せば通帳とか、ハンコみたいなものも見つかったかもしれないね。
でも、僕はそれどころでなかった。
(;´・ω・`).。oO(……何で、また)
背中が、ぞわりとした。
お金を見つけるのは、二回目だ。
最初の家でみつけたときは、エクストの行動を止める方に気を取られてそれほど意識してなかった。
だけど、ここでも見つけたとなるとやっぱりおかしい。
.
205
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:23:31 ID:p/orKOsg0
(´・ω・`)「ねぇ、朝日」
エクストやきっちゃん先輩には黙っていたよ。
エクストはいいやつだけどバカだから、そんなこと行ったらさっきみたいに持って帰ろうと言いかねない。
きっちゃん先輩は……、うん。まぁ、こっちも考えなしの人だからね。
(´・ω・`)「ここ、やばいかも」
(-@∀@)「……」
だから、僕は朝日にだけこっそりと話した。
朝日はさ。口調はいろいろとアレだけど、僕ら4人の中では一番慎重でいろいろなことに詳しい。
だからなのか、僕が言いたいことを全て理解してくれた。
(-@∀@)「……早めに帰ったほうがいいかもしれませんな」
どうやら朝日も薄々、感じていたらしい。
ここの廃屋たちは残留物が多いんじゃない。多すぎるんだ。
人の生活の気配が残りすぎている。
(-@∀@)「夜逃げでピンチ程度ならよいのでありますが、そうはいかないでしょうなぁ」
.
206
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:25:20 ID:p/orKOsg0
それまでは深く考えてはいなかったけど、やっぱりこの村はおかしい。
仮に過疎や生活難で移住したとしても、残されているものが多すぎるんだ。
よほど切羽詰まった理由がない限り、人は現金や財布を残したまま出て行かない。
朝日の言うとおり夜逃げなら、なおさら。
それに、位牌が残っているのもおかしい。
仮に、自然災害か何かでやむを得ず出て行ったとしても、現金や位牌があるなら間違いなく取りに戻るはずだ。
でも、それがない。
どう考えたって普通じゃない。
生活の気配が残りすぎた村。
それはまるで何かの理由で人だけが失われてしまったようだった……。
イ从゚ ー゚ノi、「んー、どしたん?」
(;´・ω・`)「い、いやなんでも」
胸の中に何か冷たいものがたまっている。
これから嫌なことがあるとわかっているのに、何もできなくてただ待っている時と同じ気分だ。
何かがおかしい。それはわかっているのに、僕はどうすればいいのかさえもわからなかった。
.
207
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:27:18 ID:p/orKOsg0
<_;プ∀゚)フ「ああ゙ぁーっ!!」
――その時、エクストが大げさな声を上げた。
(;@∀@)「どうしたでありますか、エクスト氏」
<_ブ∀T)フ「タタミに足がぐじゅって、気持ちわるっ!」
腐った畳を踏み抜いて大騒ぎをするエクストに目を向けると、途中に奇妙なものがあることに気づいた。
……あ、エクストは特に怪我してなかったから安心して。
下手をしたら大惨事だったけど、エクストは本当に運がいいよね。
イ从;゚ ー゚ノi、「あーあ、床抜けてるじゃな……あれ?」
そこで、きっちゃん先輩はあるものに気づいた。
……それは、黒いシミ。
シミは一つじゃなくて、ぽつり、ぽつりと、一定の間隔をおいてついていた。
こういう汚れはそう珍しいものじゃない。現に、これまで入った家にもいくつか見つけた。
だけど、先輩はそうは思わなかったみたいだ。
.
208
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:29:42 ID:p/orKOsg0
イ从゚ ー゚ノi、「これさ、もしかしたら血だったりしてね」
<_プー゚)フ「血? 別に赤くないぞ」
(-@∀@)「血というのはしばらくすると黒く変色するのですよ、エクスト氏」
<_;プー゚)フ「マジで?!」
ぽつり、ぽつりと続くシミは奥のふすまへと向かって進んでいた。
おそらくまだ進んでいない部屋へと続くふすまを前に、僕らは足を止めた。
イ从゚ ー゚ノi、「ホラーっぽくてドキドキしない?」
<_;プー゚)フ「怖いからヤメロってー」
イ从 ゚∀゚ノi、「これを開けたら、お化けがギャァって〜」
<_;フ>ー<)フ「ヤメロよってー」
ふすまは、まだ何とか動きそうだった。
びびるエクストや、それから我先へと飛び出して行きそうな先輩。
それを押しとどめて、僕は腐りかけたふすまへ手をかけた。
.
209
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:31:49 ID:p/orKOsg0
――ガタン、と大きな音をたててふすまが開く。
その向こうは真っ黒だった。
先輩の手にした懐中電灯が、闇の中を照らす。
じれったいくらいに狭い範囲しか照らさないオレンジ色の光のなかで、僕は――僕たちは見た。
.
210
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:33:51 ID:p/orKOsg0
……そうだ。
ちょうど、ここみたいな感じの部屋だった。
ふすまの向こうはこんな感じの和室で、タンスと……布団らしきものが見えた。
タンスはボロボロだった。
それこそ刀か何かで切りつけたように、不自然な傷が一面についていた。
イ从 ー ノi、「なに、これ?」
明かりを向けた布団は、茶色く変色していて。
そこから、畳、タンス、そして天井へと向かう黒い……何か、が見えた。
それは、
.
211
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:35:28 ID:p/orKOsg0
(´・ω・`)「――血だったと、思う」
.
212
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:37:41 ID:p/orKOsg0
最初、それが現実だと思えなかった。
どこかで見た映画や、ゲームの光景だろうと思った。
ああ、僕は疲れてるんだな。
そう思ってしまうくらいに、現実感のない光景だった。
<_プー゚)フ「どうした、しょぼくれー」
イ从゚Д゚ノi、「早く行ってよ、見えないーっ!!」
そして、エクストたちの声で、僕はようやくそれが現実だということを理解した。
不自然なくらいにボロボロなタンス、そこに飛び散る黒いシミ。
布団を汚して床からタンス、天井へと続くこの黒いものは――
――壁に飛び散った、血しぶきの跡。
(ii´・ω・`)「あ」
.
213
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:39:58 ID:p/orKOsg0
<_プー゚)フ「よっしゃ、二番乗りっ!」
イ从゚ぺノi、「なにそれ、シミ? 汚いわねぇ」
僕を押しのけて、部屋の中に入ったエクストと先輩が、わけのわからないことを言っている。
どうして、わからないんだ。
先輩が、汚いと言っているそれはきっと、シミなんかじゃない。
(ii´・ω・`)「違うよね。これ違うよね」
前の部屋で見た、黒いシミが浮かぶ。
ひょっとしたらと笑った、ポツポツと落ちたシミ。
それから、あれと似た得体のしれないシミを見たのを思い出す。
最初の家。
それから、次の家にもあった。
残された家具、生活用具、位牌、現金――これまで、この村で見た光景が次々と脳裏に浮かぶ。
.
214
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:42:27 ID:p/orKOsg0
(iii@∀@)「ショボン、先輩連れて外っ!」
イ从*゚ ー゚ノi、「どうしたのよ、アサピー。まさか怖いのっ?!」
朝日が叫んだ。いつものフザケてるのとは違う、低い真面目な声だった。
だけど、僕は動けない。
どうしていいのか、どう動いていいのかさえもわからなかった。
――ヤバイかもとは思っていた。
だけど、現実にそれらしい痕跡を見つけてしまうと、もうダメだった。
<_プ∀゚)フ「なー、なー!! これって剣じゃね? かっけー!!!」
イ从*゚ ー゚ノi、「日本刀……? ボロボロだけど」
エクストが細長いものを拾い上げた。
闇の中に浮かぶそれは、先輩の言うとおり刀で。
先輩が懐中電灯で照らした、その刀身は――黒く、こびりつくものがあって。
.
215
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:43:29 ID:p/orKOsg0
ホラー映画で見た、安っぽい光景がいくつも目に浮かぶ。
振り上げられた日本刀。振り回されるそれは、タンスを切りつけ、そして布団に居る人へ向け振り下ろされて……。
首から吹き出る血と、悲鳴までもが脳内でリアルに再生される。
(ii´・ω・`)「ひっ」
イ从゚ぺノi、「もう、さっきからどうしたのよ。二人して情けない」
(iii@∀@)「血だよ、血っ!! この量じゃ助からな」
朝日がこらえきれずに大声を上げた瞬間、――何かが、落ちてきた。
それから、少し遅れてドサリという、重い音。
<_;フー )フ「う――ぁぁぁぁぁぁっ」
イ从;゚ ー゚ノi、「――っ」
.
216
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:45:32 ID:p/orKOsg0
なんだろうと、考えている余裕はなかった。
視線を横へと向けて、僕は見たような気がする。
暗闇の中に横たわる、何か大きな影。
1メートルかそれ以上の、大きさのしっかりとした重さを持ったそれ。
(iii@∀@)「外っ、警察っ、早くっ!!!」
(ii´・ω・`)「あ――」
僕は見た。
確かに見たんだ。それは、
――それは、確かに人間のカタチをしていた
気が……
.
217
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:47:36 ID:p/orKOsg0
(ii´ ω `)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気づいたら僕は走っていた。
それは、僕だけじゃなくてみんなも同じで。
僕らは屋敷から出て、村の中を走り抜けて、車へと向かっていた。
どこかで引っ掛けて作った、傷が痛かった。
それでも止まってる余裕なんかなくて、転びかけたエクストを二人がかりで引っ張りながら走った。
(iii´・ω・`)「車っ――」
<_;フー )フ「……ひっ、ぁ、あ」
そして、ようやく車へとたどり着いた。
息をつく暇を惜しんで、エクストを車へと押しこむ。
(;@∀@)「先輩も早くっ!」
イ从;゚ ー゚ノi、「うんっ」
そして、車は走りだした。
――道端のお地蔵さんに供えられた花。
そのしなびかけた白と黄の色だけが今でも目に焼き付いている。
.
218
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:49:50 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
(´ ω `)「血だったと、思う」
そう、ショボンが言った時、とてもじゃないが実体験だとは思えなかった。
その声は落ち着きついていて、臨場感のかけらもなかったから。
だって、そうだろう。
つくり話だったとしたって、普通はもっと上手くやるもんだろう。
だけど、そうじゃなかった。
(;'A`)「……」
話が進むほどに、ショボンの声にははっきりとした熱がこもりだした。
落ち着いた話し方と、それとは裏腹の声の熱さ。そのチグハグさに、頭がくらりとした。
.
219
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:51:00 ID:SoHkEs62O
これ、今投下中なんだ
支援
220
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:51:44 ID:p/orKOsg0
('A`).。oO(血の跡に、人らしきもの……死体?)
ショボンの語った話は、本当なのだろうか。
天井から降ってきた何か。それが人間のカタチをしていたなんて……いくらなんでも見間違いだろう。
('A`;).。oO(見間違いだ、絶対)
それこそ、天井の破片か、動物か何か。
それがタイミングよく落ちてきたものだから、驚いたのだろう。
暗い廃墟の中なのだ、誰だって驚くに決まってる。
('A`ii).。oO(そうだ。死体なんて、あるはずがない)
そうに決まっている。
そんな怖いこと、実際に起こるはずがない。
そう自分を納得させようとした俺の脳裏に、引っかかるものがあった。
落ちてきたものは、きっと動物か天井か何かだろう。
だけど――、血はどうだろうか。
.
221
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:53:50 ID:p/orKOsg0
俺はおそるおそる顔を上げた。
奥の部屋から漏れる蝋燭の光で、ぼんやりとしか見えない部屋に目を凝らす。
そこに脳内でタンスをおいて、布団を敷いてみる。
――そして、脳裏に血を描いてみる。
布団、タンス、それに天井。
下から上へ。噴水が水を噴き上げるように、真っ赤な血を思い描く。
吹き上がった血は天井を染め、布団と畳へと染みこんでいく。
血の持ち主を、想像してみる。
首から真っ赤な血を吹き出す誰か。
噴き上がる血はやがて収まり、そして倒れこむ。
ショボンの話に出ていた朝日は、助からないと言っていた。きっと、生きてはいないだろう。
( A iii).。oO(気持ち、悪い)
喉元に何かがせり上がってくる。
想像した血の赤さとむせ返る匂いに、吐き気がした。
.
222
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:55:20 ID:p/orKOsg0
……そんなこと、あるはずがない。理性ではわかっている。
だけど、ショボンが語ったことが本当だったとすれば――、
何度も切りつけたような跡のあるタンス。
転がっていた日本刀。こびりついた血らしき形跡。
天井へと届きそうな、黒い跡。
――そこで起こったのは、殺人ではないのだろうか。
川 )「……本当に、見たのか?」
俺の考えを遮るように、クーの声がした。
俺は息を呑んで、ショボンのいる辺りを見据える。
今すぐに、ショボンの答えが聞きたかった。
俺はこれ以上、ショボンの見た光景を、それが意味する事態を考えたくなかったのかもしれない。
.
223
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:58:09 ID:p/orKOsg0
作り話だと言ってくれれば、笑ってそれきっとでおしまいだ。
俺は安心して、次の話を聞くことができる。
だけど、
(´ ω `)「わからないよ。
だって、僕の頭はもう真っ白になっていたからね」
ショボンは、ひどくあっさりと言い放っていた。
(´ ω `)「本当は変色した雨漏りかカビか何かだったのかもしれない。
上から落ちてきた何かも、単に天井が崩れて落ちてきただけかもしれない。
――だけどさ、僕は。いや、確かに僕たちは見たんだ。それだけは本当だよ」
声が暗い部屋に響く。
――ショボンの言葉は、これまでの話を決して否定しない。
もしあの部屋で、ショボンが考えた通りのことが起こっていたとしたら、
天井から降ってきたものは、本当に死体だったのではないかと、ふと思ってしまう。
……そんなはず、ないのに。
(´-ω-`)「さてと、その後の話と行こうかな。
といっても、そこから先はもうオマケみたいなもんだけどね」
.
224
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 22:59:46 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
僕たちは必死で、あの廃村から逃げた。
どうやって帰ったのかは、殆ど覚えてない。
あんなひどい道、よく無事に帰れたよなと自分でも思う。
途中で谷にでも落ちていたらと思うと、ゾッとする。
誰が運転したのかもあやふやだ。
覚えているのは、息が止まるかと思うくらい時間が長く感じたことだけ。
カーナビに道の表示が出た時、僕はやっと生き返った気がした。
(´・ω・`)「……町だ」
それから何とか、設楽場温泉にたどり着いて、最初に目についた交番に駆け込んだ。
そこにいたお巡りさんに、廃村で見たことをありのままに話した。
.
225
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:01:28 ID:p/orKOsg0
(´・_・`)「夢でも見たんじゃない?」
イ从#゚ ー゚ノi、「ホントなんだって! あれはどうみたって事件があった感じだった!」
<_;プー゚)フ「さつじんじけんだって。絶対、ヤバイってこれ!!」
(´・_・`)「あのあたりに村なんてないって、何度も言ってるでしょ。
廃村も、現役の村も君たちの言う場所にはない。つまり君たちが言っていることは嘘ってこと」
イ从#゚Д゚ノi、「ちょっとは信じろー! 見に行くくらいしてくれたっていいじゃん!」
あの廃村はおかしかった。そうでなくても最後の屋敷の血の跡はただ事ではない。
それに最後に見かけたのが死体だったのなら、警察に知らせなくてはいけない。
僕らは必死だった。……だけど、僕らの言うことなんて、全然信じてもらえなかった。
(´・_・`)「君たち観光の人でしょ。困るんだよねぇ、目立ちたいからって。
それに君たちのいうことが本当だったとしたら不法侵入だよ。わかってる?」
イ从#゚−゚ノi、「ぐっ」
(;@∀@)「きっちゃん氏、落ち着くであります」
どれだけ説明しても話は通じず。
結局、僕たちは不法侵入に対するありがたいお説教を受けただけだった。
.
226
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:03:46 ID:p/orKOsg0
流石にそれ以上粘る気にはなれなくて、僕たちは設楽場温泉を後にした。
体は汚れていたけど、あんなもの見た後でのん気に温泉に入るほどの度胸もなかったしね。
――それに、誰も口にしなかったけど、僕たちは気づいてしまったから。
『あのあたりに村なんてない』
『廃村も、現役の村も君たちの言う場所にはない。』
あの警官がいうことが本当だったとしたら。
僕らのいた村はいったい『どこ』だったんだろう――、って。
.
227
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:07:23 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
(;'A`)「……一体、どういうことなんだ?」
(´ ω `)「さあね」
ショボンの声は落ち着いていた。
もしかしたら、この話を何度かしているのかもしれない。
だからこそ、ショボンはこんなにも落ち着いているのだろう。
(´ ω `)「僕には……いいや、僕たちにはさ。あの村が何だったのかわからないんだよ」
ξ )ξ「調べなかったの?」
(´ ω `)「もちろん調べたよ。
あそこで本当に事件が起こっていたなら、新聞記事になってなきゃおかしいからね。
きっちゃん先輩の号令で部員総出で、昔の新聞記事を探した」
でも、なかったというのか。
事件は記事にならなかったのか、それとも地元だけで小さく取り扱われたのか。
そもそも事件なんて起こっていなかったのかもしれないし、それとも山奥のことだから気付かれなかったのかもしれない。
.
228
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:10:51 ID:p/orKOsg0
(´ ω `)「地図だって調べたし、昔の地図を出してもらって、そっちも見た。
ネットでも調べてみたけど、そっちも空振りだった。
朝日なんかはかなりしつこく調べていて、よその図書館の資料を取り寄せたりしてたんだよ」
('A`)「それでもなかったのか」
(´ ω `)「残念ながら」
長い溜息が聞こえた。
だけど、ショボンの声の調子は、いつもと変わらない。
見たと思ったものが幻だった。気のせいだという失望はどこにも感じられない。
(´ ω `)「でも、確かにあの村はあって、人がいたはずなんだ。
写真だって残ってるし。それに、僕は気づいてしまったんだから」
( )「何にだお? 他に見た人がいたのかお」
その問いかけに、「そうじゃない」とショボンは答えた。
ショボンの声には、少し前にも感じた熱のようなものが微かにちらついていた。
(´ ω `)「朝日が、祠で『今でもちゃんと人の手が入っている』って言っていただろう?」
.
229
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:13:50 ID:p/orKOsg0
思い出す。
確かに朝日というやつは、人の手が入っていると言っていた。
(´ ω `)「それに、僕たちがあの廃村の入り口で見た、花。
お地蔵さんに供えられたあの花束ってさ、造花じゃなくて切り花だったんだ」
川 )「……花」
('A`)「花がどうしたんだ?」
(´ ω `)「花ってさ、長持ちしないものだよね」
その言葉に、俺は息を止めた。
ショボンの話の中で何度か出たそれ。
これまで全く意識していなかったそれが、急に嫌な色を帯びたような気がした。
(´ ω `)「だったらさ、それって僕達があの廃村につくすぐ前に、あの村に行った誰がいたってことだよね。
地図にも新聞にも載っていない廃屋だらけの村に、今も通っている誰かが。ついさっきまでいたんだ」
.
230
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:15:58 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
ああ、そうだこれも言っておかないと。
僕たちがあの廃村にたどり着いてから、数週間後のことだけど。
エクスト、あの廃村にまた行ったらしいんだ。
友達を何人か連れて、今度は地図とかいろいろ持って行ったらしい。
<_フ;ー )フ「 っ」
だけどさ、
どれだけ探しても、あの廃村は見つからなかったんだって。
.
231
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:17:19 ID:p/orKOsg0
ねえ、みんなどう思う?
僕たちが言ったのは何処だったのかな。
あれは全部、幻で僕たちは夢を見ているだけだったのかな。
それとも――、
.
232
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:19:29 ID:p/orKOsg0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「……」
ショボンの声に、俺は息を呑んだ。
気づけば周りはシンと静まり返り、誰も言葉を口にしなかった。
――なにか、最後にものすごい爆弾を放り込まれたような気がする。
ショボンの話ではエクストってやつは、いわゆる馬鹿っぽいヤツだった。
話を盛り上げるために嘘を付いているという可能性もないとは言えない。むしろ、そっちの可能性のほうが高いだろう。
だけど……、これまでの話を聞いていると、とても嘘だと思えなかった。
(´ ω `)「杉沢村って知ってる? 有名な都市伝説でさ。
昔、東北で『一人の村人が突然発狂し、村民全員を殺して自らも命を絶つ』って事件が起きたと言われてる村なんだ。
まあ、あくまでも都市伝説だから、そんな村は実際に存在しないらしいんだけどね」
シンと静まり返った部屋の中で、ショボンはポツリと声を上げた。
杉沢村という言葉は聞いたことがないけど、昔そんな事件があったとテレビで見たような気がする。
だけど、どうしてそんな話をショボンはするのだろう。
.
233
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:19:49 ID:SoHkEs62O
(´・_・`)を警官役か、支援
234
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:21:21 ID:p/orKOsg0
川 - )「ふむ。その話なら聞いたことがあるな。
時空の歪みの中にあって、現われたり消えたりするとかなんとか」
(;゚д゚ )「なんだそれは?」
ξ; )ξ「時空の歪みって言うと、一気に胡散臭くなるわね」
いつの間にかその場の空気は明るくなっていた。
俺の疑問など気づかないように、みんなは楽しそうに話を続けている。
(´ ω `)「まあ、所詮はうわさ。胡散臭い都市伝説だけどね。
でもさ、僕たちがたどり着いた廃村もそこと同じだと思うと面白くない?」
そんな中で聞こえた、ショボンの声は変わっていた。
語尾がかすかに消える気弱そうな声でも、落ち着いた声とも違っていた。
.
235
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:23:28 ID:p/orKOsg0
(*´ ω `)「あの廃村でさ、頭のおかしくなった誰かが村人を殺して回ったんだ。
そいつは村で暴れまわって、いろんな家を襲った挙句に、あの屋敷で誰かを殺したんだ」
('A`)「……」
(*´ ω `)「だからあの村には人がいない。
殺人鬼から逃げるために全てを置いて逃げたのかな。だって、そうじゃなきゃ家にお金なんて残さないよね」
ショボンは語り続ける。
熱に浮かされたように、血なまぐさい話を口にする。
(*´ ω `)「――それとも」
――その声は、場違いなほど嬉しそうで。
(*´^ω^)「みんな死んじゃったから、あの村は歴史から消されちゃったのかな?
それで生き残りか、親戚がたまに花を添えるために通ってるんだ。
――ねえ、みんなはどう思う?」
俺は、思わず耳をふさぎたくなった。
.
236
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:25:14 ID:p/orKOsg0
(*´ ω `)「ああ、あの村についてなにか知ってることがあったら教えてよ。
僕はそれが知りたいってのもあって、この話をしたんだから」
誰も何も言わない。
ショボンの声だけが、暗い部屋に響き渡っている。
その言葉は、楽しくてたまらないと言っているようにも聞こえた。
(´ ω `)「僕の話はこれで終わり」
――そして、ショボンは満足そうに語り終えると、腰を上げた。
蝋燭を消しに行くのだろう。ならば、この話は本当におしまいだ。
ショボンの姿が暗がりの中へと消えていく。俺はその足音をじっと聞いていた。
.
237
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:27:17 ID:p/orKOsg0
いつのまにか、首を汗が伝っていた。
空気はどろりと淀んでいて、水槽の中にいるようだった。
だけど、頭の一部だけが凍りついたように固まっている。
ショボンの声が、頭から消えない。
……ショボンは、どうしてあんなに楽しそうだったのだろう。
人が殺されたかもしれないと言ったショボン、楽しそうだったショボン。
自分の見たかもしれない事件を、死体を、心の底から嬉しそうに語ったショボン。
(*´^ω^)
暗がりの中ではっきりと見えた笑顔が、頭のなかに焼き付いている。
よく知ったはずの笑顔が、今はどうしようもなく気持ち悪かった。
.
238
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:29:27 ID:p/orKOsg0
( )「……終わりかお」
( ゚д゚ )「そうだな」
ささやくようなその声に、ふと我に返る。
(;'A`)「……っ」
――百物語は続いている。
それは、俺一人が耳をふさいだところで何も変わらない。
.
239
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:31:15 ID:p/orKOsg0
( )「次は誰の番?」
顔も見えない誰かの声。
その声に導かれるように、俺は声を上げた。
('A`)「――次は、」
――そして、暗闇の中、次の話がはじまる。
.
240
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:32:02 ID:p/orKOsg0
('A`)百物語、のようです
廃村ツアー 了
(
)
i フッ
|_|
.
241
:
名も無きAAのようです
:2014/08/16(土) 23:33:33 ID:39zzun.s0
おつ
今年も最後の最後にぞくっとした
242
:
名も無きAAのようです
:2014/08/17(日) 12:26:43 ID:96Tu.KGA0
乙。
243
:
名も無きAAのようです
:2014/08/17(日) 12:35:27 ID:nyCE5lZQ0
真っ昼間に読んだのに怖いってどういうことだ
244
:
名も無きAAのようです
:2014/08/25(月) 22:08:36 ID:olGguKuI0
乙 他の話も聞きたいが1年待たなきゃか…
245
:
名も無きAAのようです
:2015/07/28(火) 20:33:58 ID:Z7aqAfS6O
今年も来るかな
凄く楽しみ。
246
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:17:31 ID:tdqDYF4E0
|Д`) ダレモイナイ・・トウカスル ナラ イマノウチ
247
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:22:03 ID:tdqDYF4E0
( ω )「うーん。
なやむおー、なやむおー」
暗い部屋にひときわ脳天気な声が響いた。
それは怖い話をしているのを忘れそうなくらい、いつも通りなブーンの声だった。
.
248
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:23:00 ID:tdqDYF4E0
百物語。
怪談を一つ語り、そのたびに蝋燭を一本消す。
それを百話になるまで繰り返す、古式ゆかしい怪談の一形式。
百話語り終えると恐ろしいものが現れる――とかなんとかいうそれを本格的にはじめてもうどれくらいたっただろうか。
会場に使わせてもらっている、ミルナの爺さんの家は暗い。
明かりは三間続きの和室の、一番奥の部屋にある蝋燭だけ。
月のない新月の夜だから余計に闇が濃い。
隣にいる相手の姿も見えないくらいの暗闇は、それだけで恐ろしいものだ。
そんな中で怪談をするとなれば、体がすくんでも仕方がないだろう。
( ω )「困っちゃうおー」
――この個性丸出しの声が、雰囲気をぶち壊してさえなければ。
.
249
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:25:01 ID:tdqDYF4E0
暗くて姿が見えなくても何の問題もないレベルで、誰がしゃべっているのかまるわかりだ。
しかも、恐怖の欠片もない明るさときた。
('A`)「……」
「お前、怖い話してんの忘れたのかよ」と、思わず口に出しそうになる。
しかも、でけーんだよお前の声。何で急にでかい声になった。
( ゚д゚ )「どうしたんだ、急に?」
川 )「まぁ、落ち着けミルナ。
これはお手本のように見事な、かまってちゃんアピールだ」
(;゚д゚)「かまって……ちゃん……?」
(; )「クーってさ、言いづらいこと、わりとはっきり言うよね。
……ミルナも、本気で相手しなくていいから」
('A`)「やさしい女子なんていなかったんだ」
クーの言い様に、軽くノッてみる。
軽い笑い声が上がり、空気が緩む。
たとえるならば、百物語? なにそれおいしいのといった感じ。
シリアスに怪談をしていたはずなのに、なんかもう空気からしてグダグダだ。
250
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:26:58 ID:tdqDYF4E0
気づけば、ちょっと休憩にしようぜムードが漂っていた。
蛇、おまじない、廃村……どれだけ話したか忘れたが、もう長いこと怪談ばかり聞いている。
百話まではかなりかかるだろうし、仕方ないのかもしれない。
('A`)(そういやぁ、どのくらい話してるんだっけ?)
一息入れようとペットボトルに口をつけて、顔をしかめる。
……甘い。甘すぎる。
しかも、ぬるい。
暗くてよく味もわからないのに、強烈な甘さだけは伝わってくる。
口の中がベタベタして、気持ち悪い。
('A`)(……水、……どこだ?)
買い込んだ別の飲み物があったはず――そう思って、俺は手を動かした。
.
251
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:27:59 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
-
ξ )ξ「――で、ブーンは何に悩んでるのよ」
( ω )「お?」
ξ )ξ「いいからさっさと話しなさいよね。先は長いんだから」
( * ω )「うれしいおー。かまってちゃんとか、みんなひどすぎなんだおー」
周りでは話が進んでいるみたいだが、肝心の水が見つからない。
おかしいな。たしかに買ったのに。
どこ行ったんだ……もっと、違うところに置いたか?
('A`)(明かりでも出すか)
川 )「聞いたか、ドクオ。ラブコメの波動を感じるぞ」
(;'A`)「うわっ!」
肩を掴まれて、声を上げた。
急にどうした? 声からすると……クー、か?
飲み物探しに気を取られて完全に油断していた。
252
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:28:57 ID:tdqDYF4E0
( )「別にアンタのことなんて気にしてないんだからね! ――ってやつなんだからな」
(;'A`)「は? どうした急に」
( )「よかったね。やさしい女子はここにいたよ」
ヤバイ。聞いていなかった。
これはどういう流れだ? ラブコメ? やさしい女子?
そんな話なんてした――いや、したか。
('A`)「……やさしい女子なんていたか?」
( )「あ、馬鹿!」
ξ:::::::::)ξ「……静かにって言ったわよね」
('A`ii)「――っ」
暗闇の中に、とてつもなく低い声が響いた。
はっきりいって怖い。恐怖とは別の意味で怖い。
こんな声で話す女子なんていたか?
いまここにいる女子と言ったら、クーとツンのはず……だが。
253
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:31:41 ID:tdqDYF4E0
……いや、ツンたちと一緒に他の女子が来たんだと思っておこう。
精神衛生上そっちのほうがいい。
川 )「いいじゃないか。ほら、ブーンが待ってるぞ」
ξ; )ξ「な、なんでそこでブーンが出てくるのよっ!」
('A`;)(ツンだと!?)
あの人を殺せそうな声が、ツンだと……。
……現実は非情だ。
かわいい女子なんて二次元にしかいないのである。
川 )「ツンは本当にかわいいなぁ。私が男なら嫁にしたというのに」
( ω )「え? ツン結婚するのかお?」
('A`;)「お前は、ちょっと黙ってろ!」
( ω )「ひどいおー。せっかく何を話そうか悩んでたのにー」
ξ; )ξ「はぁ!? アンタそんなことで悩んでたの!?」
( * ω )「そうですおー」
254
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:33:51 ID:tdqDYF4E0
気づけばなんかもう、めちゃくちゃだ。
怖い話どころか、このまま飲み会に突入してもおかしくない流れだ。
それはそれで楽しそうだが、人の家を会場にしといてそれはダメな気がする。
ミルナの爺さん婆さんに会った時に、気まずすぎるだろ。
(; )「みんな落ち着こうよ……」
( ゚д゚ )「いいじゃないか、楽しそうで」
( )「続きマダー」
ダメだ。堅物なミルナまでもが、場の空気に染まっている。
このままでは本格的に解散の流れだ。それはイカン。
そうだ。こういう時こそ怪談だ。無理矢理にでも誰かに話させてしまうに限る。
255
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:34:49 ID:tdqDYF4E0
('A`)「おい、ブーン。そろそろ話せ」
( ω )「お? もう話すのかお?」
ブーンのいるらしき方向に顔を向けると、そこに白い顔が浮かび上がる。
人畜無害を絵に描いたような、丸っこい顔。
それが暗闇の中でにこにこと笑顔を浮かべ、口を開いた。
( ^ω^)「そうだおねー。ええと……、あ。
この前あったというか、気づいた話なんだけど……」
こうして、今夜最大の適当なムードの中。
ブーンの怖いであろう話が始まった。……多分。
.
256
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:35:29 ID:tdqDYF4E0
('A`)百物語、のようです
奇妙な偶然
.,、
(i,)
|_|
.
257
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:38:09 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
「食べ物は大事にしなさい」って、カーチャンに言われたことないかお?
うちはしょっちゅうなんだお。
だから、僕は出されたものは全部おいしく食べて、お残しはしないんだお。
好き嫌いだってしないし、お魚の骨や、米粒だってキレイに食べるお!
『それはお前が、食い意地張ってるだけじゃねーか』って、そんなこと言うのはドクオかお?
そういうドクオは牛乳飲まないから、背が伸びないんだお。
ちょっとは僕を見習って――、
……
ドクオがひどいおー。
いくら僕だって、そこまで
……いいお、いいお。どうせ僕はお腹ぽよぽよだお〜。
.
258
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:40:28 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
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----------------------
--------------
ξ )ξ「ドクオ」
(;'A`)「すいませんでした!!!」
ξ ⊿ )ξ「謝るなら、もうちょっと静かにしてよね」
低い声で言われて、俺は慌てて謝った。
暗くてよく見えないが、ツンのやつ絶対に怒っている。
しかたないじゃねぇか。ブーンのやつ、どう考えたってツッコミ待ちだったろあれ。
「相撲取り二人分くらいあるだろ」とは言ったが、そこまで凹むようなもんじゃねーし。
ブーンのやつだって、いつもみたいにニコニコ笑ってんじゃねーか。
( ゚д゚ )「楽しそうなのはいいが、話の続きはいいのか?」
(; )「はは、なかなか進まないよね。楽しいのはいいんだけど」
( )「ドクオがそんなやつだっていうのは、わかってたけどね」
259
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:43:03 ID:tdqDYF4E0
川 )「ツンもそのあたりにしておいてやれ。
これじゃあ、愛しのブーンも話ができないだろ」
ξ# )ξ「く、クーっ!!!」
次々と声が上がる。
ブーンの話は完全に止まり、みんな口々に話し出している。
まさに、どうでもいい空気ふたたび。ここまで話が止まると、脱線させた俺が完全に悪いような気がしてくる。
('A`)「スマン。俺が悪かった。
ブーン、続き話してくれるか?」
女子二人はまだ楽しそうだが、少し反省しよう。
「またラブコメかよ」とか、「今、リア充いたよな」とか言ったら、絶対にもう百物語に戻れない気がする。
……大人しく聞いてられるだろうか、俺。
( ω )「んー。いいのかお?」
( ゚д゚ )「そうだな。ドクオもああ言っているし、頼む」
(* ω )「じゃあ、話すお!」
……恐怖とは違う不安を抱えながら、俺は小さく頷いた。
260
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:45:44 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
何を言いたかったか、っていうと。
僕は、食べ物をとても大切にするってことなんだお。
だから、まだ食べれるものが捨ててあったりすると「モッタイナイなぁ」って、思っちゃうんだお。
――で、僕がしたかった話っていうのは飲み物の話なんだお。
プラスチックのカップってあるおね?
強く握るとグシャってなるようなやつだお。
ほら、透明の……コンビニとか、オサレなカフェとかでコーヒー入れたりしてるやつ。
紙コップじゃなくて、ほら透明なやつだお。
アイスコーヒーとかアイスティー在中って感じのアレだお。
ちょっとお高い感じがして、ストローも白じゃなくて真っ黒なやつ。
……あれ? 緑だったかお?
とにかくそんなやつだお。
……え。そんなに高くない?
ジュースと同じか、安いくらいなのかお。
へー。科学は進んでるんだおねー。
ああ、話だおね。
僕がこれから話すのは、そのプラカップ?――ってやつの話なんだお。
.
261
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:50:12 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
んー。いつだったかなぁ。
とにかくちょっと前に、僕はそのプラカップを見つけたんだお。
( ^ω^)「ん?」
ただのカップじゃなくって、まだ中身が残ってるやつ。
……半分くらい残ってたかおね。
透明だから中身が見えるんだけど。茶色い、お茶かだいぶ薄まったコーヒーが入ってたお。
ストローは黒だったと思う。
それが駐車場の端っこにポツンって置いてあるんだお。
ゴミ箱に入れるんじゃなくって、いかにも飲みかけですよって感じで。
_,
(; ^ω^)「もったいないことするやつもいたもんだお」
.
262
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:52:04 ID:tdqDYF4E0
ああいうカップに入ってるやつって、オサレ〜って感じがして僕は買ったことないんだお。
どっちかというと僕、コーヒーよりも炭酸派だからNE。
もちろんオレンジとかリンゴのジュースも好きだお。甘いやつがいいおね。
……あ、言うお。
続きだおね、わかってるお。
せっかくのオサレ飲み物を残すだなんてひどいヤツがいるんだ――って、その時の僕は思ったんだお。
…
……
場所?
ええと、家から駅に行く途中だったと思うお。
たまに行くマンガ喫茶の近くだったかおね……。
一番おっきな道路を渡る手前くらいだったと思うお。
.
263
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:54:17 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
それから次は……えっと?
駐車場もったいないやつ事件からちょっとしてからだったと思うお。
事件じゃない?
食べ物は大切に派の僕からしたら、事件だったんだお。
食べ物は大切に。ゴミはゴミ箱にって、カーチャンいつも言ってるお。
( ^ω^)「あれ?」
僕が、大学まで自転車なのは知ってるおね?
……え? どうでもいい?
そんなこと言うのはドクオかお?
ふふーん、正解だお!
ドクオの言うとおり、自転車自体にそんなに意味はないんだお。
単に自転車に乗ってる時に気づいたってだけだから。
( ^ω^)「これは……」
大学のそばに、喫茶『ロマン』ってあるおね?
――あったんだお! あそこのモンブランがめっちゃ美味いんだお。
まさに栗っ、マロン! 店長は感動的なまでに栗のことわかってるお。
下手なケーキ屋さんより美味いから、今度いっしょに行くお。
264
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:56:17 ID:tdqDYF4E0
( ^ω^)「……ひどいやつもいるもんだお」
そこの駐車場の、ブロックのところにやつがいたんだお。
例のにっくきプラスチックのカップ!
それが堂々と放置してあるんだお。
しかも、中身が残ってるんだお。
信じられるかお? コーヒーが勝負の喫茶店に、お茶かコーヒーを放置だお!
しかもヨソの店のだお。ロマンはお持ち帰りセットがないんだから、確定だお。
(#^ω^)「こんなことをする馬鹿はどこのどいつだお!」
その時の僕はプンプンだったんだお。
お? プンプンはキモイ? ……そいつはすまんこ。
あ、そのお茶か、コーヒー?
近くのコンビニのゴミ箱にぶち込んであげましたお。
僕はこう見えても、『ロマン』を愛するロマニストなんだお!
えっへん。
あそこクリームソーダも美味しいからみんなで飲むお!
コーヒー? ごめん、飲んだことないお。
でも、コーヒーが自慢って、店長が言ってたからきっとおいしいお。
.
265
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:58:32 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
(* ω )「オレンジジュースや、レモンスカッシュも美味しいんだお。
店長がちゃんと果物をしぼって作ってるんだってお!」
川 )「ふむ。行ってみるか」
ブーンの話を聞き流しながら、手元を漁る。
コーヒーだかお茶だかの話を聞いていたせいか、飲み物が妙に恋しい。
さっきみたいないジュースじゃなくて、甘くないものが飲みたい。
(;'A`)(どこいったんだ、クソッ)
水とお茶のペットボトルを買ったのは確実だ。
なのに、暗くて手元がよく見えないせいで、さっきから菓子の袋ばかりとぶつかる。
266
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:00:33 ID:lvJC6wew0
( )「今のところはまだ、普通の感じだね」
ξ )ξ「おいしいお店情報が手に入ったくらいよね」
( ゚д゚ )「色々な店を知っているんだな」
話は順調に進んでいくが、求めるペットボトルは見つからない。
あきらめて、あのやたらめった甘いジュースのペットボトルを引き寄せる。
(* ω )「お店選びなら僕に任せるお!
おいしいお店と、温泉と銭湯なら僕ちょっと詳しいお」
蓋を開けて、口につける。
ごくり――と飲みこんだ味は、果物じゃなくて人口物の味がした。
('A`)(……どうせなら冷たいコーヒーが欲しかったな)
飲むなら、ブーンが話してるみたいなコンビニ売りのやつがいい。
ぬるいジュースを飲みながら、俺は切実に思った。
.
267
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:02:22 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
えーと、ここまでは僕も変だなぁなんて思ってなかったんだお。
もったいないことするやつもいるもんだって、怒ってただけで。
あと、あのプラカップのコーヒー流行ってるんだなぁくらいは考えたかもしれんね。
「今度、買ってみるかお。」
たしか、そう思った記憶はあるお。
ジッサイには買わなかったんだけど。
まぁ、それもすっかり忘れてたんだけど。
それからちょっとたった……最近のことだお。
――ほら、ショボンとドクオと焼き肉食べに行ったことあったおね?
あの日のことだお。
.
268
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:04:03 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
( )「焼き肉? ……いつのかな?」
聞こえてきた声に、俺は考えこむ。
これは……たぶん、ショボンの声だな。
……いつだ? ブーンとショボンで焼き肉、焼き肉……
焼き肉食べ放題ができたぞーって、何度か行ったことがあるから。
いつだ? 本気でわからん。
('A`)「俺とショボンとブーンでか?」
( ω )「ほら7月の……」
(; )「あ」
.
269
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:05:16 ID:lvJC6wew0
('A`)「7月ったら、考査の最終日か?
あの日は、そもそも焼き肉じゃなくて映画見に行ったんだろ」
どれだかわかった。忘れもしない前期最後の試験の日だ。
あの日の俺は、開放感でいっぱいだった。
何駅か先に、18歳未満はお断りなピンク色の映画をやる映画館がある。
そのことを唐突に思い出した俺は、行かなければならないという熱い使命感に駆られた。
テストとレポートと徹夜明けのテンションのせいもあるだろう。しかし、ダメ元で誘ったブーンとショボンはわりとノリノリであった。
……まぁ、現実は厳しかったわけだが。
小汚くて暗い映画館で、知らないおっちゃんたちと見るいかがわしい映画は最高に気まずかった。
しかも、隣は友人二人。これは死ねる。
(; )「ドクオ、ちょっと」
( ω )「そうだったお! 焼き肉のインパクトがでかくって、そっちは黒歴史になってたお」
('A`)「わざわざ遠征したんだよな。
あれは地獄だった……そもそも何で行こうと思ったんだか」
ξ )ξ「地獄って一体何を見たのよ」
(; )「あ」('A`;)
.
270
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:06:10 ID:lvJC6wew0
綺麗なお姉ちゃんにイケナイことを教える話です、もちろん性的な意味で。
――とは、とてもじゃないが言えない。
女子や堅物のミルナの前で口にできるタイトルではないことだけは確かだ。
( A )「黙秘を主張する」
(; )「たいしたタイトルじゃないよ、は、はは」
( )「ドクオのことだから、アニメじゃない?」
川 )「かわいらしい美少女が大活躍するようなやつだろう、おそらく」
( ゚д゚ )「なるほどな」
頼む、このまま映画について忘れてくれ。
ついでに俺の頭からもあの馬鹿な記憶を消し去ってくれ。あの時は若かったんだ俺も!
手にしたままのジュースを飲み込んで、嵐がすぎさるのを祈る。
暗くて助かった。
きっと明るかったら、今の俺は顔面蒼白なことだろう。
( ^ω^)「あ、映画の話かお?」
(;'A`)「いいから次! 次っ!!」
おいこら、ブーン!
余計なことを言うんじゃないっ!!!
.
271
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:10:32 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
映画でいろいろあって、あの時はすっごくおかしなテンションだったんだお。
それで、ヤケになって焼き肉食い放題するぞ、ってなんたんだお僕たち。
( ^ω^)「お?」
それで外に出たとき、映画館の外のところにあったんだお。
例のプラスチックのカップ。
透明なカップに黒いストロー、それでもって中身がまだ残ってるやつ。
_,
( ^ω^)(ゴミがいっぱいだお)
でも、その映画館ってそんなにキレイじゃなかったから、そんなに気にしなかったんだお。
ボンノウと焼き肉で、僕の頭マッハだったし。
もちろん、「もったいない」くらいは思ってたと思うお。
……そのことをはっきりと思い出したのは、後になってからだったけど。
.
272
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:12:18 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
('A`)「ふぃー、食った食った」
(´・ω・`)「今日は派手に散財しちゃったね」
(*^ω^)「お腹いっぱいだお〜」
それで、焼肉食べ放題で満足して、さあ帰るぞって時だお。
入り口のドアを開けた時。ショボン、止まったおね。
(*'A`)ノシ「どしたー、しょぼんくーん?」
(´・ω・`)「何かがひっかかったみたい。あ、開いた」
( ^ω^)「なにがあったのかおー」
ショボンとドクオは、もう忘れちゃってるかもしれないけど……
.
273
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:14:24 ID:lvJC6wew0
あの時、ドアにひっかかってたの。プラカップだったんだお。
中身が入った、黒いストローのやつ。
そいつが倒れて、ドアの向こうに転がってたんだお。
( ´ω`)「おー」
(*''A`)「どしたー、くらいぞー、ブーンちゃぁぁぁん!!」
( ´ω`)σ「そこにカップが……もったいないお」
まだ残ってるのにもったいないとか、世の中にはゴミを捨てる悪い人が増えたんだなー、って僕は悲しくなったんだだお。
それから、倒れたコーヒーだかお茶だかを避けて、外に出て。
それから、アレって思ったんだお。
――そういえば、あのカップみたいなやつ映画館でも見たなって。
.
274
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:15:14 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「偶然だろ」
考えるよりも先に、そう言っていた。
だって、そこらで売っているカップだ。コンビニに行けばいくらでも買える。
というか、俺はそれよりも。焼き肉の時の俺がどれだけ醜態を晒していたのかのほうが気になる。
あの日は確か勢いのままに酒も飲んだから、後半の記憶は曖昧だ。
思いだせ、何かアホなことをやらかしてないか思い出すんだ俺。ついでに、例のカップも。
( ω )「僕もそう思ったお。
本当にあのカップのお茶流行ってるんだおって……そのときは、そんくらいだった」
.
275
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:16:22 ID:lvJC6wew0
( ゚д゚ )「そのときは?」
( ω )「ん」
ブーンが一瞬、口ごもる。
馬鹿みたいに明るいヤツにしては珍しい反応だ。
その珍しさに、俺は先日の記憶を掘り起こす作業を止めた。
(; )「あ」
ブーンに続き、ショボンらしい声も上がる。
こちらも一言だけ。
何かを思い出したのか……?
.
276
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:17:04 ID:xuMsv05k0
今年もきたな!
支援だぜ
277
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:18:27 ID:lvJC6wew0
('A`)(何か、あったか?)
記憶をたどる。
フワフワとして、踊りだしたくなるような気分だったのは覚えている。
食い過ぎた肉を胃に押し込めて。
ぬるい空気の中を走れば、空も飛べそうな気がして。
走りだそうとした足を、ショボンかブーンに無理やり抱えて止められて。それから……?
「ドクオ、やめるお!」
「ほら、飲めないからそれ。あとで自販機行こ」
暑苦しい野郎どもの腕の向こうに
――プラカップの姿を見た、ような、気が。
.
278
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:19:58 ID:lvJC6wew0
(;'A`)(あれ?)
おかしい。
妙な記憶がある。
いや待て、ブーンが例のプラカップを見たのは映画館と焼肉屋。
でも、そのどっちでもないこれは、何だ。
(;'A`)(飲めないってなんだ? )
ブーンと、それからショボンの方を見る。
あいつらならわかるだろうか。これが本当のことなのか、それとも俺の夢なのか。
.
279
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:22:07 ID:lvJC6wew0
(; ω )「その後、その……酔っ払ったドクオが、ね」
やっと続いたブーンの言葉は、歯切れが悪い。
頼むから、はっきりと言ってくれ。
心臓がドクン、ドクンと音を立てる。
額をたどっていく、汗が気持ち悪い。
(; ω )「プラカップを拾ったんだお。電車で」
( ゚д゚ )「それはどういう状況だ?」
(´ ω `)「電車の出入口の脇のところに、置いてあったんだよ。
たぶん、飲み残しの紅茶だと思うんだけど……」
(; ω )「そうだお。ドクオ、ノド乾いたーって、飲もうとしちゃって」
頭をガンッと殴られたような衝撃がした。
拾った? しかも電車? 俺が?
さっきの記憶は、実際にあったこと……なのか?
.
280
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:25:38 ID:lvJC6wew0
川 - )「それは、マズいんじゃないか?」
ξ ⊿ )ξ「なにしてんのアンタ?! 馬鹿なの?!」
(;'A`)「俺もどうしてそうなったのか聞きたいくらいだよ!!」
クーとツンらしき声に問い詰められるが、俺も正直いっぱいいっぱいだ。
正直、はっきりと覚えているわけじゃないし。なんでそんなことをしたのかもわからない。
それに、例のプラカップ……? なんでそいつがここで出てくる。
( )「飲んでたら面白かったのに」
(; A )「おい。今、飲んでたら面白いって言ったやつ誰だ!?」
俺の渾身の叫びに、返事は無かった。
動揺している俺に、ひどいことを言うやつもいたもんだ。絶対に後から殴る。
.
281
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:28:27 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
ドクオは力づくで止めたから大丈夫だったお。
ちゃんと例のブツは駅のゴミ箱にポイして、ドクオには水飲ませたから安心するおー。
あ、水代は今度ジュースでもおごってくれれば、オーケーですから。気にせんでいいお。
まあ、それはともかく。
( ^ω^)「……また、あのカップだったお」
さすがの僕も、ちょっとおかしいなぁと思ったわけだお。
これまで全然気にしてなかったけど、いくらなんでも見る回数が多すぎるお。
だって、一日に3回だお。
いくら流行ってるからっていっても、あんなにカップがあちこちに落ちてるっておかしすぎるお。
しかも、場所も時間もバラバラ。それもおんなじように中身が残ってるんだお。
( ^ω^)「ドクオ、飲んじゃうところだったし……」
まるで、僕の行くところに置いていってるみたいだって。
ちょっと怖かったお。
.
282
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:29:30 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
( ゚д゚ )「……流石にそれは」
川 )「どうということでなくても、こうも続くと気味が悪いな」
ブーンの話に、ミルナの息をのむ声が続く。
クーや他のやつらが何か言ってるようだが、俺の耳にはいまいち入ってこない。
(;'A`)「……」
さっきから、心臓の嫌な音が止まらない。
ブーンたちのお陰で中身は飲まなかったみたいだが、電車に乗ってたのが俺一人だったらと思うとぞっとする。
なんだよ、これ。ブーンの話を適当に聞いていたはずなのに、気づけば一番の当事者じゃねぇか。
何で飲んだんだよ、俺。……その時の俺をぶん殴りたい。
ξ )ξ「私はドクオの方が怖かったけどね。
そんなになるまで飲むんじゃないわよ、馬鹿」
まったくもってその通りだ。
こんな心臓に悪いだけの話、知りたくなかった。
.
283
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:32:43 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
( ω )「まぁ、ドクオはサイナンだったけど、それからはあんまり見なくなったんだお。
例のプラカップちゃん」
('A`)「そんなに転がっててたまるかよ」
(; )「だよね。さすがにあれは焦ったよ」
明るく戻ったブーンの声に、俺も慌てて言葉を返す。
もうこうなったらさっきまでのことは忘れてしまおう。
そうとなったら、ブーンの話はさっさと終了させて、次の話に移るに限る。
('A`)「お前の話はもう終わりか? だったら、次に」
( ω )「んー。そうだおね。
それからは2回くらいしかみてないから」
( )「へー、まだ見てるんだ」
どうやらブーンの話はまだ続くらしい。
俺の酔っ払い事件以上に、まだ話すことがあるのか?
というか、ブーンはどうやってこの話にオチをつけるつもりなんだろうか。
.
284
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:34:50 ID:lvJC6wew0
( )「2回って、まだあるの?」
ξ; )ξ「本当によく転がってるのね、そのコーヒー? アイスティー?」
( ω )「といっても、そんな怖い話はないお。
この前、自販機のとこのゴミ箱で見かけた時なんて、お久しぶりだったから嬉しくなっちゃったし」
('A`)「……何で嬉しくなってるんだよ。
さっきまでの空気返せよ。完全に俺の醜態のさらされ損じゃねーか」
ブーンの声に気が抜ける。
さっきまで、嫌な汗をかいていたのが嘘のように空気が軽い。
これ俺以外のやつにとっては、完全に笑い話なんじゃねーか?
(; ゚д゚ )「嬉しくなるもの、なのか?」
川 )「ふむ。ブーンにとっては、『すっごい“偶然”にあっちゃったお〜』という感じなのだろう。
……慣れとはおそろしいものだな」
(* ω )「そうだおそうだおー。いやぁ、ホントにこういう“偶然”ってあるんだおね」
(;'A`)「――っ、」
ξ )ξ「……アンタって、ほんとマイペースよね」
.
285
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:36:48 ID:lvJC6wew0
偶然。
確かに、ブーンの話はあくまでも偶然だ。
ブーンたちにとってそれが当たり前だし、俺だってそう思ってた。
(;'A`)「……」
だけど、違う。今は違う。
偶然だと言われてはじめて、気づいてしまった。
“たまたま”俺が酔っぱらってのどが乾いたところに、誰かが“都合よく”置いた中身の残ったカップがある。
そんな都合の良すぎる『偶然』あるわけない。
――というか、そんな不自然な現象をよくある偶然にされたらたまったもんじゃない。
('A`)「……もう1回見たって言ってただろ、そっちはどうなんだ?」
ためらいながらも、聞いてみる。
正直に言おう。俺は、最後の1回が偶然以外の何かであればいいと願っている。
あの奇妙な偶然は、偶然じゃないのだと――。
.
286
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:38:59 ID:lvJC6wew0
ブーンのいる方を見据える。
ニコニコと笑っていた顔は、暗闇に隠されてはっきりと見えない。
( ω )「ああ、それかお」
だけど、ブーンは言った。
( ω )「ニ週間くらい前に、すっごい暑い日があったおね。
あの日、公園のベンチで見つけちゃって、うっかり飲んじゃうところだったんだお。
僕もドクオのこと笑えないおねw」
なあ、ブーン。
お前、それが偶然って本当に思ってるのか?
(; A )「……公園だろ、自販機とか。
そうじゃなくても、水飲み場とかあるんじゃねえの?」
のどが乾く。
不自然に上ずりそうな声をそっと隠して、言う。
ブーン、答えろ。お前は冗談で言ってるのか? それともまた、偶然って言うのか?
_,
(; ω )「それが、僕お金持ってなかったんだおー。
水飲み場も壊れちゃってたし、ホント困ってたんだお〜」
.
287
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:40:39 ID:lvJC6wew0
で、ベンチに例のカップが置いてあるおね。
それがこれまでと違って氷が浮いてて、さっきまで誰かが飲んでましたよーって感じなんだお。
カップに水滴がついてて、いかにも冷えてますって感じで、めっちゃうまそうなんだんだお。
しかも、都合がいいことに周りに誰もいなくて、
あ。これ飲んじゃってもいいかも、って――
.
288
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:45:10 ID:lvJC6wew0
一瞬、頭が真っ白になった。
悪趣味みたいにひどい『偶然』だった。
(;゚A゚)「飲んだのか!?」
(; ω )「飲んだなんて言ってないおー。
いくら僕でも、流石に外に置きっぱなしのものは飲まないお。
ドクオじゃないんだから」
思わず、目の前の影に掴みかかる。
ブーンらしき体の肩をつかみ、揺さぶる。
ぷよぷよとした柔らかい体は、汗でじとりと湿っている。
(; ω ))「ゆれるおー、ドクオやめるおー」
(;゚A゚)「は、は。よかったー」
息をついて、ブーンをつかむ手を放す。
いつの間にか、俺の目には涙が浮かんでいて、笑いたい気分になった。
ξ )ξ「やめなさいよね、ドクオ。
それにしても、ブーンが怪しいもの飲んでなくてよかったわ」
.
289
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:49:01 ID:lvJC6wew0
川 )「いくら食い意地のはったブーンでも、腹を壊しただろうからな」
( )「食中毒とか、変なものが入ってたら怖いしね」
( ゚д゚ )「途中で持ち主が帰ってくる可能性もあるしな」
( )「知らない奴が自分の飲み物飲んでるとか、怖すぎだからな」
ほっとした空気が満ちる。
いくらブーンでも、放置されている怪しい飲み物を飲むほどアホじゃなかったらしい。
だけど、もしブーンが飲んでいたら――。
偶然以外の何かを望んでいたのは俺なのに、そうなっていたらと思うと心臓が止まった。
飲んでいたら、きっと……。それを考えるのが怖かった。
('A`)(……あ)
そして、ふと気づく。
ブーンは大人だったら飲まなかった。
当たり前だ。そんなもの飲む馬鹿はいない。
だけど――、もし
('A`)(見つけたのが子供だったら)
.
290
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:50:52 ID:lvJC6wew0
ニ週間くらい前。
セミが一斉に鳴き始めた、本格的な猛暑がはじまる頃。
壊れた水飲み場と、ベンチに置かれたプラカップ。
氷の浮いた、冷たそうな飲み物。
それを見つけたのが、もし子供だったのなら。
そして、“たまたま”水筒もお金も持っていなくて、のどが乾いていたのなら――
(* ∀ )゛ □
その子供はどうするだろうか?
.
291
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:51:54 ID:lvJC6wew0
(* ∀ )つ□
――飲むかもしれない。
そう思うのは、きっと俺だけではないだろう。
.
292
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:55:12 ID:lvJC6wew0
( ゚д゚ )「どうした、ドクオ?」
(;'A`)「別に」
はじめのカップは駐車場。
それから、映画館や店の入口ときて、電車。
一つ一つは別におかしい場所じゃない。
だけど、電車の出入口といえば目につく場所で。
自販機の横のゴミ箱となれば、飲み物を買おうとするやつならきっと見る場所で。
公園といったら人がよく来る。子供の多い場所で。
そのベンチとなれば当然、多くの人が休みに来る場所なわけで。
どんどん目立つ場所になっている。
……そう思うのは、おかしいだろうか?
(;'A`)(考え過ぎだ、それこそ『偶然』だ)
そこにもし、何かが入っていたら?
毒とまでは言わない。
だけど、中身が腐っていたら?
それとも、誰かが洗剤なんかを入れていたとしたら?
293
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:56:22 ID:lvJC6wew0
よくある、透明なプラスチックのカップ。
黒いストローのささった、コンビニか何かで売られているような平凡なそれ。
中身が少しだけ残ったそれが、
――誰かが悪意をもって残した贈り物じゃないと、誰が言えるだろうか。
.
294
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:59:46 ID:lvJC6wew0
('A`)「……」
……やっぱり偶然だ。
それでいい、そっちの方がよっぽど良い。
ξ )ξ「困ったもんよね。ゴミくらいゴミ箱に入れなさいよ」
川 )「まあ、確かに。店ならともかく、公園にならゴミ箱くらいあるだろうに」
聞こえる声は、いつもとそう変わらない。
少しだけ機嫌が悪そうな気がするが、俺が思ってるような悪意なんて感じている様子がない。
それに、わけもなくほっとした。
('A`)(落ち着けよ、俺。
そりゃあ、少しばかり妙だけど偶然なんだから)
ごくりと、ジュースを飲む。
ベタベタとしたぬるい味が、今は少しだけ心地よかった。
.
295
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:00:54 ID:lvJC6wew0
( ω )「みんなは飲み物をポイ捨てしちゃダメだおー。
お残しはもったいないし、僕やドクオみたいな不幸な犠牲者が生まれちゃうんだお」
( )「ブーンらしいまとめだね」
( )「この話ももう終わりかー。イマイチだったなぁ」
ワイワイとした声が、聞こえる。
その輪に加われる気分じゃないのが、少しだけ悔しかった。
(; ω )「あー、話したらノド乾いたお」
('A`)「……そりゃあ、この暑さだしな」
ホッとしたように声を上げるブーンに、言葉を返す。
今の俺は、ちゃんと自然な声になっているだろうか。
なっているといい。ブーンの話にはおかしな所なんてなかったんだから、それでいい。
( ω )「あ、これ飲んでもいいかお?
ずっと気になってたんだお、僕」
川 )「いいんじゃないか? 取られたくないものなら、自分の近くに置くだろう」
( ω )「じゃあいただくおー」
.
296
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:03:23 ID:lvJC6wew0
ブーンの動く物音がして、それからカタコトと水音がした。
カップに揺れる氷みたいなその音に、俺ののどが鳴る。
氷さえあればこのくそ甘いジュースも、いくらかマシになるだろうに。
ξ )ξ「それにしても暑いわね、こうも暑いと熱中症になりそう」
川 )「飲み物もすっかりぬるくなってしまったよ」
(; )「あ、僕も」
( ゚д゚ )「気が回らなくてすまなかった。冷えた茶を出そう」
お茶か。
探していたペットボトルは見つからなかったし、ちょうどいい。
……そういえばブーンが持ってるの、俺のペットボトルじゃねーよな?
暗くてよく見えないが、確認してみねぇと。
.
297
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:05:08 ID:lvJC6wew0
(*^ω^)「ぷはー、よく冷えてておいしいーお!
たまにはコーヒーもありかもしれんね」
闇が揺れて、ブーンの顔がぼんやりと浮かび上がる。
その手元に目をやって、俺は息を止めた。
顔をほころばせたブーンの手の中に、水滴が浮かんだカップがある。
うっすらと見えるその形は、ストローのささった、
――透明のプラカップ。
その奇妙な偶然に、吐き気がした。
頼むからブーンが気づきませんように、と願ってさえもいた。
.
298
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:06:25 ID:lvJC6wew0
( )「いいなぁ。それって誰が買ったの?」
ξ )ξ「おいしいのはいいけど、ちゃんとお礼言いなさいよね」
ツンの言葉に、ブーンがあたりを見回す。
その動きに合わせて、カタコトと氷が音をたてる。
水滴の浮かんだカップは、買ったやつなら絶対に飲みたいものだろう。
だけど、――
( ^ω^)「おっおっ。そういえば、誰のだお?」
.
299
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:07:07 ID:lvJC6wew0
ブーンの言葉に、返事はなかった。
.
300
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:07:55 ID:lvJC6wew0
('A`)百物語、のようです
奇妙な偶然 了
(
)
i フッ
|_|
.
301
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:10:37 ID:ThTwsCB60
不気味な話だ…
乙
302
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:14:21 ID:s8VzuaMQ0
ぞくっとした……
乙
303
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 18:26:05 ID:0JgPtMh.0
おお……乙
304
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 23:28:07 ID:LmqMBxJg0
今年も楽しみにしてた!おつ!
そんでもってこええよ・・・偶然じゃねえだろ・・・
305
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 23:47:55 ID:SFES.vrA0
乙、よく見る様な光景も突き詰めれば恐怖の的になり得るんだな…
暫くコーヒー飲めないわ
306
:
名も無きAAのようです
:2015/08/24(月) 15:36:24 ID:YOjjMU3.0
今年も乙!
ところで昨日車で出掛けたんだけど、信号で停止したときにふと外に目をやったんだ
塀の上にはプラカップ
風があったんだけどね
あっ、と思ったら音を立てて落下
目の前に急に落ちてきたプラカップに通行人は驚いたろうな
『偶然』だね
http://i.imgur.com/A7QqTr2.jpg
307
:
名も無きAAのようです
:2015/08/25(火) 17:47:27 ID:iRu/JYhc0
偶然ってこわい
308
:
名も無きAAのようです
:2016/08/13(土) 02:25:14 ID:8us3OPsM0
今年も来るんだろうか
309
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 19:56:53 ID:ShLUSYN6O
おひさしぶりです
特にトラブルがなければ、後半の日程で投下します
310
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 19:57:56 ID:3aQz2FSg0
わくわくぞくぞく
311
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 20:02:34 ID:IPFY3jXs0
すげー楽しみ
312
:
名も無きAAのようです
:2016/08/16(火) 00:52:37 ID:2XghcXQA0
そりゃ楽しみだ
最初から読み返しとこう
313
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:03:12 ID:alE8X3hE0
百物語だけど夏物語
投下します
314
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:04:13 ID:alE8X3hE0
――夏といえば怖い話だ。
そう言い出したのは誰だっただろうか。
畳のにおいのする和室のなかで、闇が揺らぐ。
二間先の蝋燭の明かりは、ぼんやりとしたかすかな光しか届けてくれない。
その闇の中に、何人かの人影がある。
百物語。
夏になるとよくその名前を聞く怪談会。
定番なのは、部屋に集まり怪談を九十九話語るというもの。
百話語ると恐ろしいモノが出てくるらしいが、大体はそこまで話す前に終了するのがほとんどだ。
315
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:05:41 ID:alE8X3hE0
('A`)「今、何話目だっけ?」
俺たちは今、ミルナの爺さんの家を借りて、その百物語を本格的にやっている。
新月の夜の、暗い和室。
三間続きの和室の、一番奥に当たる部屋には火鉢に並べられた蝋燭が百本。
相手の顔もわからない闇の中で、俺たちは怪談を語り続けている。
( ゚д゚ )「……しまったな。失念していた」
( )「ええと、どうだったかな。ブーンはわかる?」
( )「おー? 僕は電話かけに行ってたから、わかんないお」
( )「えー。つかえないんだからなー」
呟いた言葉に、幾つもの声が返ってくる。
正面に座るミルナと、個性丸出しなブーンの声だけははっきりとわかるが、それ以外は誰がいるのかもわからない。
316
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:07:25 ID:alE8X3hE0
('A`)「……」
すぐ近くにいて、こうして話もしている。
なのに、顔が見えないだけで、俺はそこにいるのが親しい相手なのかすらわからない。
百物語がはじまってかなりの時間が経つのに、俺は未だにこの暗闇に慣れていなかった。
ξ )ξ「え? それだとマズくない? 百個、話すのよね」
そんな中、女の声が響いた。
高くも低くもない、普通の声。
大勢の中に紛れてしまえば、俺はきっとその声を見つけることはできないだろう。
( )「大体でいいと思うお!」
ξ )ξ「アンタは、ホントいつもおおざっぱね」
川 )「残っている蝋燭で判断すれば、いいんじゃないか?
自然に消えたものは……まぁ、考えても仕方ないだろう」
( )「クーは、あったまいいおー」
ブーンと、さっきとは違う女の声が聞こえる。
この凛とした声はクーのものだろう。ブーンが名前を出してなくてもわかる、特徴的な美しい声。
だとすると、もう一人の女の声はツンなのだろう。
317
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:08:20 ID:alE8X3hE0
ξ )ξ「じゃあ、話の数はこれで解決ね」
クーと仲の良い女子。
それでもって、俺やブーンのようなリアルが充実していないやつにも普通に話しかけてくれる貴重な存在。
ぱっと見は少し話しかけにくいが、なんだかんだで気さくな彼女。
( ゚д゚ )「そうだな。異論はない」
( )「一瞬、どうしようかと思っちゃったよ」
( )「さっさと次の話しようぜー」
ξ )ξ「次の話か……」
ツンが、ためらうように口を開く。
そういえば、途中参加のツンの話はまだ聞いていなかったような気がする。
('A`)「お前は、なんかネタはないのか?」
ξ; ⊿ )ξ「んー、話すのは苦手なのよねー」
318
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:09:32 ID:alE8X3hE0
試しに聞いてみると、ツンが言葉を濁らせる。
怖い話を聞くのは好きだけど、話すのは苦手なタイプか。
そういうことなら、これまで話をしていないのも納得だ。
( ゚д゚ )「他にも話してないやつはいる。後にしてもいいが」
ξ; 〜 )ξ「これ以上プレッシャーがかかってもヤだし、話しちゃうわ」
津出 ツン。
俺たちと同じ大学に通う、日本生まれの日本育ちの日本人。
気さくだし、性格だってそんなに悪くない。
そんなツンが一見、話しかけにくい理由。
ξ ⊿ )ξ「怖くなくても、つまんないって言わないでよね」
目の端に明るい色がよぎる。
蝋燭のかすかな光に浮かび上がるのは、金の髪。
冗談のように白い肌と、色素の薄い瞳は、テレビの向こう側でしか見たことのない色だ。
――津出 ツンは、金の髪と青い瞳をしている。
319
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:11:01 ID:alE8X3hE0
染めたものとは違う、生まれつきのその色。
それは、初対面の人間を一瞬だけ、戸惑わせる。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、話すわよ」
明かりの加減で、ツンの顔がはっきりと見える。
いつもはくるくるよく変わる表情は、雰囲気に飲まれてかあまり感情が見えない。
暗い和室に佇む、金の髪の少女。
テレビや映画でも見ているような、現実感のない光景だった。
ξ゚⊿゚)ξ「これは、あたしのおばあちゃんから聞いた話なんだけどね……」
父方と母方、そのどちらにも異国の血が入っている、少女が語る。
――普段、見慣れたその顔は、不思議と美しく見えた。
320
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:12:12 ID:alE8X3hE0
('A`)百物語、のようです
幻の馬。
.,、
(i,)
|_|
.
321
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:13:59 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
これはおばあちゃんが小さい頃に、聞いた話なんだけど。
おばあちゃんのそのまたおじいちゃんの、おじいちゃんの……ええと、ご先祖様。
そのご先祖様……えっと、おじいちゃんでいいか。
そのおじいちゃんがね、
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「あ!」
まだ子どもの頃にね。キレイな馬を見たっていうの。
.
322
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:16:12 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「どうした?」
(*゚∀゚)「兄ちゃん、見てアレ!」
_
( ゚∀゚)「……すげぇなぁ」
おじいちゃんだけじゃないわ。
おじいちゃんのお兄さんも、おじいちゃんの村の人たちみんなも見たんだって。
(*゚∀゚)「なーなー、あれ乗っていい? 乗っていい?」
_
(; ゚∀゚)「お前一人じゃ、乗れねぇじゃねぇか」
(*゚ o゚)「兄ちゃんが手伝ってくれれば行けるし」
_
( ゚∀゚)「んじゃ、まずは兄ちゃんが乗ってやろう」
(*゚ 3゚)「兄ちゃんばっか、ずりぃー」
323
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:20:28 ID:alE8X3hE0
まだ若い、芦毛の馬。
見るからに手触りが良さそうな、輝く毛並み。金色に輝くたてがみはクシを入れたばかりのよう。
村にいるどの馬よりも。それどころか、村にいる人たちがこれまで見たどの馬よりも、その馬はキレイだった。
そんな馬が、おじいちゃんたちの前に現れたの。
美しくて立派な馬が一頭だけ。
しっかりと手入れがされているのに、どこにも飼い主らしい人はいない。
買おうと思ったら、いくら金があっても足りない。それくらい立派な馬だったんだって。
゙゙(; ゚━゚)「ここか!」
(*゚∀゚)「おっちゃん!」
あまりにも立派な馬だから、こんな馬が野生のはずがない。どこかから逃げてきたんじゃないか。
よほどの金持ちか偉い人の馬に違いない、って。
それほど大きくない村はすぐに、大騒ぎになったんだって。
£°ゞ°)「どうしますか?」
("・」・")「そのままには、しとけんだろうなぁ」
゙゙( ゚━゚)「じゃあ、預かるか?」
("-」-")「……それしかないだろうなぁ」
324
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:21:13 ID:alE8X3hE0
大人たちが集まって話し合って、結局、持ち主が見つかるまでは村で面倒をみようってことになったの。
村はずれに住んでいるおじさんがたくさん馬を飼っていたから、馬はそこで預かることになったわ。
£°ゞ°)「今日からキミは、しばらくウチの子ですよ」
(*゚∀゚)「いいないいなー」
その馬はとてもかしこい馬だったわ。
おじさんが持ってきた馬具をつけると、馬はおどろくほど素直に従ったわ。
暴れるんじゃないかって、おじさんは心配してたみたいだけど、そんな心配は全然なかった。
£°ゞ°)「キミの家じゃ馬の面倒は見れないでしょう?」
(*゚ぺ)「でもさー、でもー」
£°ゞ°)「しばらくは家にいるから、遊びに来てあげてください」
325
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:23:27 ID:alE8X3hE0
おじいちゃんは、その馬を一目見たときからものすごく気に入っていたの。
あの馬はすごかった。死ぬまでそれが、おじいちゃんの口癖だったそうよ。
だから、どうしても自分の家で預かりたかったんだけど、そればっかりはどうにもならなかったみたい。
£°ゞ°)「ほーら、良い子だ。おいで」
(*゚∀゚)「おっちゃん、おっちゃん。こいつに乗せてよ」
£°ゞ°)「ダメです」
_
(; ゚∀゚)「弟のヤツさっきから、ずっとこうなんだ。ちょっとくらい乗せてやってくれよ」
£-ゞ-)「大事な預かりものだからダメです。ウチの子ならいいけど、」
(*゚∀゚)「そいつらじゃヤダ!」
その馬を気に入っていたのは、おじいちゃんだけじゃなくてお兄さんもだったの。
だから、おじいちゃんはお兄さんと二人であの馬に乗せてください、って何度も頼んだの。
だけど、その馬にだけはどうしても乗せてもらえなかったわ。
……大切な預かりものだしね。
近所の子どもを乗せて遊ばせるなんて、おじさんもできなかったのね。
326
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:25:15 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
(*゚∀゚)「おっちゃーん、あの馬まだいるー?」
£°ゞ°)「おや、こんにちは」
_
( ゚∀゚)「こんにちはー」
おじいちゃんたちはそれでもあきらめずに、おじさんのところに通ったの。
おじさんも、二人が馬を見るぶんには怒らなかった。
おじいちゃんたちが気に入っていたその馬は、とても賢くておじさんの言うこともよく聞くいい子だった。
暴れないし、他の馬ともケンカもしない。環境の変化にとまどう様子もなかったみたい。
おじいちゃんたちが見に行くと、いつも近くによってきて懐いてくれたんだって。
_
( ゚∀゚)「あの馬は元気?」
£;-ゞ-)「それが……」
(;゚∀゚)「連れてかれちゃったの!?」
£;°ゞ°)「いえ、そうではなくてですね……」
だけどね、とても困ったことがあったの。
327
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:27:09 ID:alE8X3hE0
その子はね、どんなにおじさんが勧めてもエサだけは食べなかったの。
もちろんおじさんもいつも見ているわけじゃないけど、それでも飼い葉が減っている様子はなかった。
甘いものをあげてみても、外に出してみても草を食べないの。
無理やり食べさせても吐いてしまうって、おじさんは困っていたみたい。
_
(; ゚∀゚)「エサ食べないなんて、大丈夫なのか?」
£°ゞ°)「落ち着いているように見えても、やっぱり環境の変化には慣れないんでしょうねぇ。
調子を崩す前になんとか食べてもらいたいのですが……」
(;゚ぺ)「なんとかしてよ、おっちゃん!」
£;°ゞ°)「ええ、わかっていますよ」
それでも、その馬はエサを食べなかったわ。
水は飲むんだけど、おじさんが与えたエサだけはどうしても食べないの。エサのあげ方を変えてもダメだった。
みんな心配していたんだけど、その馬は弱る様子もなく元気だったんだって。
だから結局、おじさんが見ていない間に、草やほかの馬のエサを食べてるんじゃないかってことになったの。
まだ心配だけど、そういうことなら安心だ。って、みんなほっとしたわ。
328
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:29:49 ID:alE8X3hE0
困ったことは、他にもあったわ。
馬の持ち主がなかなか見つからなかったの。
あの馬は手入れしたばかりだったみたいにキレイだった。
ちゃんと人が世話をしている形跡はあったし、おじさんのいうこともちゃんと聞く賢い子だった。
捨てられたようにはとても思えない、とても立派な馬。
だから、おじさんや村の人達は、すぐに持ち主が見つかるだろうって思っていたの。
それなのに、持ち主は数日たっても現れなかった。
(*゚∀゚)「お前、ウチにこないか?」
_
( ゚∀゚)「ダメだって。親父も言ってただろ」
(*-∀-)「ちぇー」
£°ゞ°)「キミたちの家が、馬を飼えればよかったんですけどねぇ」
なかなかエサを食べない馬に、見つからない飼い主。
売るわけにもいかないし、下手な扱いもできない。
おじいちゃんたちは馬がいることに喜んでいたけど、おじさんはとても困っていたみたい。
329
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:31:59 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
そんな日々がしばらく続いた、ある日の晩。
――事件は起きたの。
£°ゞ°)「……っ」
( `v´)「大人しくしといたほうが、身のためだぜ」
まぁ、簡単に言っちゃうと……、
おじさんの家にね、強盗が現れたのよ。
.
330
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:33:25 ID:alE8X3hE0
おじさんの家に押しかけてきたのは、二人組の男だったわ。
彼らは武器をちらつかせ、おじさんが止めるより早く襲いかかってきたの。
( `v´)「そっちはどうだ?」
(●冊●)「婆さんとおばちゃんが一人ずつだ」
£;°ゞ°)「二人はっ!」
( `v´)「殺しちゃあいねぇだろうな」
(●冊●)「とりあえずは」
( `v´)「……だ、そうだ。どうすりゃぁいいかは、わかるだろ?」
それで、どうなったか、って?
ああ、安心して。
おじさんたちは、ちゃんと無事だったわ。
331
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:35:23 ID:alE8X3hE0
……そんなの、ホラーじゃない?
ドクオ。アンタねぇ、人の話をいちいち邪魔するのやめたほうがいいわよ。
感想とかならいいけど、怖いか怖くないかなんて人によって違うじゃない。
今度やったら、無視してやるから覚えときなさいよ。
大体、なんで百物語で、普通の犯罪の話なんてしなきゃいけないのよ。
これおばあちゃんに聞いたのよ。
孫に強盗殺人事件を語るおばあちゃんなんてイヤすぎるでしょ。
……
……ごめん。
あたしも、ちょっと言い過ぎたかも。
続きよね。ええと、……
332
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:37:25 ID:alE8X3hE0
£;°ゞ°)「……」
おじさんたちは命だけは無事だったわ。
だけど、抵抗できないように縛り上げられて、家中を荒らされたの。
( `v´)「随分と貯めこんでるようだが、これだけとは言わねぇよな。
こっちは人質が一人減ろうが、別にかまわないんだぜ?」
£;°ゞ°)「うっ」
男たちは暴れて、かたっぱしから金目の物を集めたわ。
それだけじゃ飽きたらずに、もっとよこせと言い出したの。
おじさんがどんなに抵抗してもムダだった。
333
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:39:44 ID:alE8X3hE0
£; ゞ )「……馬を、預かっています」
(#`v´)「馬だぁ?!」
£; ゞ )「……この村で今、一番価値があるのはあの馬です」
それでおじさんは、仕方なくあの馬のことを話したの。
あの馬ならまず間違いなく高値がつく。おじさんはそれを知っていたから、話すしかなかった。
……自分と家族の命がかかってるからね。あたしも、おじさんが悪いとは思わないわ。
£; ゞ )「……ここ、です」
( `v´)「こいつか」
(●冊●)「間違いないな」
(*`v´)「シケた村かと思ったら、とんだ儲けものじゃねぇか」
馬なんてと、はじめはバカにしていた強盗たちも、その馬を見るなり目の色を変えたわ。
堂々としたその姿は、他のどの馬と比べても圧倒的に美しかった。
この馬なら間違いなく金になると、強盗たちは大喜びだった。
334
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:41:44 ID:alE8X3hE0
(*`v´)「こいつを売りゃぁ、豪遊間違いなし、っときた」
(●冊●)「久しぶりの儲けだ」
(*`v´)「こんな場所さっさとおさらばして、一杯やろうぜ」
£;°ゞ°)「……っ」
強盗たちは馬を奪うと、盗んだものをありったけその馬に積んだわ。
そして、おじさんたちを縛り上げたまま残して、二人で馬に乗ったの。
£;°ゞ°)「――あぁ」
(*`v´)「じゃあな、おっさん!
運がよけりゃぁ、助けられるだろうさ!」
――そして、走りだそうとしたその時。
335
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:43:10 ID:alE8X3hE0
馬が、暴れだしたの。
.
336
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:45:55 ID:alE8X3hE0
それはすごい、暴れ様だった。
(●冊●;)「な」
(#`v´)「何やってんだ、このクズ!」
賢くて大人しかったのが嘘みたいに、馬は興奮していたわ。
体を何度も大きく上下に振って、激しく声を上げた。
目は血走り、口からヨダレをぼたぼたと垂らして、それはすさまじい形相だった。
自分に乗っているのが、悪党だって知っているみたいだった……後におじさんは、そう言ったそうよ。
337
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:47:23 ID:alE8X3hE0
(#`v´)「おい、なんとかしろ!」
(●冊●;)「くっ」
£;°ゞ°)「ひっ」
馬の暴れ様は凄まじくて、積んだ荷物がかたっぱしから落ちるくらいだった。
だけど、不思議なことに強盗たちは馬から落ちはしなかったわ。
よほど必死でしがみついたのか、それとも馬が惜しかったのか……それは誰にもわからない。
(#゜v゜)「――ぐぅぅっ!!」
そして、馬はひときわ大きく声を上げると、強盗を乗せたまま走りだしたの――。
£°ゞ°)「……そんな、」
……あの馬も、強盗たちも夜の闇に消え。
そして、そこには縛り上げられたままのおじさんだけが残ったわ。
338
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:49:47 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
おじさんたち家族が助けられたのは、夜が明けるよりも早かった。
なんだったかな……。理由は忘れちゃったんだけど、おじさんの家に用があった人がいたの。
゙゙( ゚━゚)
从゚×ナ;从
で、その人が縛られたまま床に転がされている奥さんを見つけてびっくり仰天。
別の部屋にいたお婆ちゃんも救出されて。それから、馬小屋にいたおじさんも助けられたの。
゙゙(;゚━゚)
从゚×ナ;从
£;-ゞ-)
339
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:51:29 ID:alE8X3hE0
村はもう大騒ぎ。
大きな事件なんて、もう何年も起こっていない村だったから。それはもうすごかったらしいわ。
盗まれたのが、あの馬というのも騒ぎを大きくする一つの原因だったみたい。
(;"・」・")「それで、被害は? 馬以外はどうなってる」
£;°ゞ°)「私たちは、そう大きな怪我もなく。
あとは、家の中が荒らされたのと、家具が壊されて……」
゙゙(;゚━゚)「無事でほんとうによかった」
おじさんたち家族は小さな怪我くらいで、みんな無事だった。
盗られたものも、馬が暴れた時に落ちたおかげでほとんどなかった。
荒らされた家だけはどうしようもなかったけど、それでもおじさんたちは喜んでいたわ。
340
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:53:55 ID:alE8X3hE0
だって強盗よ。
さっきのドクオの話じゃないけど、殺されたっておかしくはなかったんだもの。
それが、命が助かっただけじゃなくて、盗まれたものも返ってきた。これって奇蹟みたいなものじゃない?
£°ゞ°)「ああ、これもあの馬のおかげです」
("・」・")「被害がこの程度ですんで、本当によかった。
何より、お前たちが無事なのが嬉しい」
゙゙( ゚━゚) 「あの馬は、神の使いにちげぇねぇ」
村の人たちも、これは奇蹟に違いないって思ったの。
自分たちがこうして助かったのは、日頃の信仰のおかげだろう。
村人たちのおこないを見た神が、村を守るためにあの馬をつかわしたのだろう、ってね。
341
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:55:51 ID:alE8X3hE0
村人たちはその後、恩人である馬の行き先を探したけれど……馬は、見つからなかった。
それらしい馬が売られたって話もなかったし、見た人もいなかったわ。
£°ゞ°)「ああ、あの馬は一体……」
从゚×ナ;从「……無事やと、ええんやけど」
せめて、持ち主にお礼を言おう。
そして、できれば代わりの馬を贈ろう、って探したけど。
あの馬の持ち主は見つからなかった。それどころか、それらしい噂さえもなかったの。
不思議な事に、おじさんたちを襲った強盗のその後の行方もわからなかったわ。
342
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:57:37 ID:alE8X3hE0
そう。――あの美しい馬は幻のように現れて。そして、姿を消してしまったの。
.
343
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:59:15 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
暗闇の中に静寂が落ちる。
聞こえるのは、じぃじぃという虫の声だけ。
いつの間にか、ツンの話は止まっていた。
ξ ⊿ )ξ「……」
何か言おうと口を開いて、そのまま息を飲み込む。
飲み込んだ空気は熱く、体温をあげていく。
拭ききれなかった汗が、首を流れていく。
('A`)「……」
体にまとわりつく、湿った生ぬるい空気。
それが、どうしようもなく気持ち悪い。
344
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:00:24 ID:SLGJOZkI0
おお!今年も来たか期待
345
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:01:10 ID:alE8X3hE0
……ツンの話で出た村はどうなのだろうかと、ふと思った。
あの美しい馬のいた村も、夏はこんな風に暑いのだろうか。
そこまで考えて、たぶん違うんだろうなと思った。
ツンの祖先が住むところは、海の向こうの遠い国なのだろう。
ツンと同じ金の髪の人々が暮らすその国は、きっと気候からして違う。
たとえ暑いとしても、この重く体にまとわりつくような暑苦しさじゃないのだろう。
('A`)(もっと、……涼しいんだろうな)
こことは全く違う、どこかの遠い国。
そんな国の人々が美しいと言うその馬は、一体どんな馬だったのだろう。
そして、どこへと消えてしまったのだろう。
謎めいた美しい生物。
その行き着く先が、野垂れ死になんてしょうもないものでなければいい、と思った。
幻の馬は、幻のまま。それがきっと、一番美しいのだろう。
346
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:03:26 ID:alE8X3hE0
川 )「不思議な話だな」
( )「いいはなしだおー」
( )「神がどうたらってのは、うさんくさいけどな」
……気づけば、話が盛り上がっていた。
さっきまではうるさいくらいに聞こえていた虫の声も、俺達の声にかき消されている。
( )「僕は単に迷い馬だった説を推したいけど、無粋かな」
( ゚д゚ )「動物報恩譚……か。神仏援助のパターンのようでもあるが」
(;'A`)「頼むからミルナは、俺にもわかる言葉で喋ってくれ」
とりあえず話に混ざろう。
そう思って、一人真顔で難しそうな話をしているミルナに声をかける。
ミルナは俺の声に、パチパチとまばたきをすると、「ふむ」と口元に手を当てた。
周りはみんな適当に話しているのに、いちいち固っ苦しいやつである。
347
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:05:16 ID:alE8X3hE0
( ゚д゚ )「動物報恩譚は、ツルの恩返しとか、ぶんぶく茶釜のようなやつだ。
神仏援助は……説話などによくある神様や仏様が助けてくれましたというやつか……?
すまない。俺も専門ではないので、そう聞かれると上手く答えられない」
(;'A`)「お、おう……」
オマケに回答まで堅苦しいときた。
正直、そこまで詳しい説明を求めてなかったので、俺としても反応に困る。
何を言ってるか正直わからない所があったが、下手に聞いてまた説明されたら困る。
俺はちょっとした好奇心を満たすことよりも、いさぎよく黙る方を選択した。
川 )「馬の恩返しか、日頃の信仰のたまものというやつか」
( )「どっちかというと、因果応報っぽい気がする……」
( )「怪奇・消えた馬のミステリー、だと思うんだからな!」
( )「きっと、神様の奇蹟だおー。ツンもそう言ってたし」
困る俺とは対照的に、クーたちはなにやら盛り上がっている。
同じ話を聞いていて、こうも意見が別れるもんなのか。
そう思うと楽しくて、俺もつい真剣に話を聞いていた。
348
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:07:08 ID:alE8X3hE0
ξ ⊿ )ξ「……奇蹟か」
盛り上がる俺たちの中で、一人黙っていたツンがぽつりと声を上げた。
奇蹟。そう話したのはツンのはずなのに、その言葉はどこか納得していないように聞こえた。
ξ ⊿ )ξ「あたしがこの話をしようって思ったのは、神様の奇蹟だからじゃないの」
川 )「……と、言うと?」
クーの問いかけに、少しの沈黙があった。
「えっと」とか、「あ」とかためらうような声が上がって、それからようやく決心したようにツンは声を話し始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「ホントはね。この話、続きがあるの。
こっちの話はあんまり好きじゃないから、話したくなかったんだけど……」
海の向こうの、幻の馬。
その話の続きが、ツンの口から語られようとしていた――。
349
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:09:11 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
この話はおばあちゃんのご先祖様……おじいちゃんの話だって言ったでしょ。
おじいちゃんとお兄さんが、村に現れた馬に乗りたがっていたって話は、さっきしたわよね。
(*゚∀゚)「なー、乗せてくれよー」
£-ゞ-)「だめです」
(*゚∀゚)「けちー」
£;°ゞ°)「だめです」
_
( ゚∀゚)「こっそり乗せるってのは、ダメなのか?」
どんなに頼んでもおじさんは、あの馬にだけは乗せてくれなかった。
それでもね。どうしても、おじいちゃんはあのキレイな馬に乗りたくてたまらなかったの。
350
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:11:20 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「お前、今日も行くの?」
(*゚∀゚)「もっとお願いすれば、乗せてくれるかもしれないし!」
_
( ゚∀゚)「そうかぁ?
おじさんたちに頼んでもムダなんじゃねぇか?」
(#゚∀゚)「そんなことねーもん!」
_
( -∀-)「あー、残念だなぁ。
お前がそうやってノロノロしてるうちに、持ち主が来ちゃうんだろうなぁ」
だから、おじいちゃんは考えたらしいの。
(;゚∀゚)「え?」
_
( ゚∀゚)「持ち主が来ちゃったら、もうあの馬を見ることもできなくなっちまうぞ」
(;゚〜゚)「……どうしたら、いいんだ?」
351
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:13:28 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「なに、簡単なこった」
このまま、おじさんに頼んでもあの馬に乗ることはできない。
だったら、別の方法をとるしかない。
子どもだったおじいちゃんたちが思いつく方法なんて、そう大したことないわ。
_
( ゚∀゚)「オレたちで、こっそり乗るんだ。あの馬に」
――おじいちゃんたちはね、自分たちだけであの馬に乗ることにしたの。
おじさんの家にこっそりと忍び込んでね。
352
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:15:14 ID:alE8X3hE0
……まぁ、普通に考えるとダメよね。
でも、幸か不幸か、おじいちゃんたちを止める人は誰もいなかった。
おじいちゃんは思い込んだら一直線なところもあったし、お兄さんも止めなかった。
本当はお兄さんのほうが馬に乗りたかったんじゃないかって、おばあちゃんは話してたけど、私もそう思うわ。
(*゚∀゚)「父ちゃんと、母ちゃんは……」
_
( ゚∀゚)「寝てるぞ」
(;゚∀゚)「に、兄ちゃん!」
_
( ゚∀゚)「じゃ、行くか」
(*゚∀゚)「うん!」
その日の夜、みんなが寝静まった時間。
おじいちゃんは、お兄さんといっしょに家を出たの。
家族にバレないように、こっそりとね。
(*゚∀゚)「うわー、楽しみ」
_
( ゚∀゚)「デカイ声出すなよ。バレたら大変だからな」
353
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:17:15 ID:alE8X3hE0
子どもだけで夜の外出なんて、見つかったら怒られるどころじゃすまないわ。
だけど、おじいちゃんたちはそんなのへっちゃらだった。
それどころか、夜の冒険だーなんて気分で出かけたんだって。
_
(* ゚∀゚)「ドキドキするな」
(*゚∀゚)「兄ちゃんも? オレもオレも!」
事件なんてもう何年も起こったことのないような平和なところだったし、危険な獣は人里には出てこない。
だから、おじいちゃんたちも特に心配することなく夜道を歩いていたわ。
外は静かで、月がとてもキレイだった。
……一体、どんな夜だったのかしらね。おばあちゃんは、この話をするたびにそう言ってた。
あたしもそう思うわ。もし、あたしがその場にいたなら、どんな気持ちになったのかしら。
わくわく、したのかな。
それとも、怖くって何度も後ろを振り返りながら歩いたのかしら。
おじいちゃんはひょっとしたら、お兄さんの手をつなぎながら歩いたのかもしれないわね。
354
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:19:29 ID:alE8X3hE0
……話がそれちゃったわね。
おじいちゃんとお兄さんは、あのキレイな馬を目指して歩いたわ。
おじさんの家は、村の外れにあるって言ったでしょ。
だから、家は少し遠かった。
強盗?
……
……そうね。二人は何事もなかったわ。
それこそ神様のおかげ、ってやつね。
355
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:21:55 ID:alE8X3hE0
えっと。とにかく、二人は夜道を歩いていたの。
途中からは民家もなくなり暗い道が続くだけだったから、二人は話しながら歩いていたみたい。
(*゚∀゚)「馬、起きてるかなぁ」
_
(* ゚∀゚)「起きてなかったら、起こしてやろうぜ」
おじさんの家まであと少しというところだったわ。
大声が、二人の耳に聞こえたの。
「あぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
切羽詰まったような、尋常じゃない声。
聞くだけでぞっとしてしまうような、そんな声だったそうよ。
356
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:23:30 ID:alE8X3hE0
(;゚∀゚)「に、にいちゃん!」
_
(; ゚∀゚)「大丈夫だ! 兄ちゃんがいるから」
その声を聞いた時は、生きた気がしなかった。
おじいちゃんは死ぬまで、その時のことをこう話し続けたそうよ。
だからお前も、不用意に夜道を歩くんじゃないぞ、って。
……おばあちゃんも、何度もそう言い聞かされて育ったんだって。
だから、おばあちゃんは今でも夜道が少しだけ怖いそうよ。
あたしも、その場に居合わせたらそうだったかもね。
……まあ、ここで百物語なんてしてるあたしが言うのもなんだけど。
357
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:25:16 ID:alE8X3hE0
ぞっとするような声は、一瞬だけでは終わらなかった。
消えるどころか、どんどんひどくなっていくようだった。
はじめは何の声なのか理解できなかったおじいちゃんも、聞くうちにそれが男の悲鳴だって気づいたの。
低い男の声。
そして、それは一人だけの声じゃなかった。
(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
_
(; ゚∀゚)「落ち着け、大丈夫だ!」
男の悲鳴が、少なくとも一人以上。
何かが起こっていることは、間違いなかった。
_
(; ∀ )「……何なんだよぉ」
(;゚∀゚)「……ぅ」
その声がどこから響いてくるか、おじいちゃんたちははじめわからなかった。
でもそれが、道の先から聞こえることに気づいて、ぞっとしたそうよ。
夜道に何かよくわかないものがいる。
358
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:27:09 ID:alE8X3hE0
――そして、それはどんどんと、近づいてくるみたいだった。
「 れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「 い! !!!」
そして、おじいちゃんたちは気づいたの。
聞こえるのは男たちの声だけじゃない、って。
闇の向こうから聞こえる声。そこに、聞き慣れた音が混ざっていた。
聞こえるその声は、荒い息遣いと、いななき。
それから、それに紛れて聞こえてくるのは……何かが、走る音。
(*゚∀゚)「あ」
そして、おじいちゃんたちは見たの。
359
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:29:10 ID:alE8X3hE0
馬だった。
二人がこれまで見た中で。
いいえ、二人のそれから先の人生を含めても、最も美しい馬。
月の光をそのまま集めたような、黄金のたてがみ。
キラキラと輝く毛並みは、どんな布や毛皮よりもつややかで美しい銀の色。
吸い込まれそうな黒い大きな瞳には、星の光が散っていた……ようだったわ。
,ハiヽ..
ノ" ,,'' ヽミ
. (。,,/ ) ヽミ〜─〜⌒ヾミミミミ彡
ノ )
( 、 ..)___彡( ,,.ノ
//( ノ ノ.ノ (
// \Yフ .. 〆 .い
.(ノ くノ //
くノ
360
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:31:23 ID:alE8X3hE0
おじいちゃんは、恐怖を一瞬忘れた。
お兄さんも信じられないって顔で、その現実とは思えないくらい美しい生き物を見たわ。
(* ∀ )「……すごい」
それは、おじいちゃんがどうしても乗りたいと思っていた、あの馬だったわ。
361
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:33:18 ID:alE8X3hE0
乗ってみたい。
何が何でも、あの美しい生き物に乗ってみたい。
たとえ、どんなことが起きても。
(* ∀ )「ああ、いいなぁ……」
おじいちゃんは。いいえ、おじいちゃんだけじゃなくて、お兄さんもそう思ったの。
さっき怖いって思ったのが嘘のように、その馬の方へ向かって走ろうとして……、
( `v´)「助けてくれぇぇぇぇぇ! おい、そこのガキッ!」
……聞こえてきた声が、おじいちゃんたちを現実に引き戻したの。
362
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:35:20 ID:alE8X3hE0
おじいちゃんたちは気づいていなかったけど、あの馬には人が乗っていたの。
見覚えのない男だった。
それが二人。遠くてはっきりとは見えなかったけど、それがよそ者だってことだけははっきりとわかった。
(●冊●)「ガキだ!」
( `v´)「おい、お前っ。お前らっ!!!」
_
(; ∀ )「――っ」
得体のしれないよそ者が、あの馬に乗っている。
それもこんな時間に。
事情のわからないおじいちゃんたちにも、それが異常なことだってわかったわ。
(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
_
(; ∀ )「お前は下がってろ!」
馬はこちらに、走ってくる。
それは全力に近いスピードだった。
なのに、その馬はおじいちゃんたちを見てもスピードを落とそうとしないの。
それどころか、かえって足を早めたようだった。
363
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:37:11 ID:alE8X3hE0
(;゚∀゚)「馬行っちゃうよ!」
_
(# ゚∀゚)「いいからっ!!!」
お兄さんはおじいちゃんを掴むと、走りだしたわ。
思いっきり飛んで、それからの道の外の草むらに身を投げたの。
(#゚∀゚)「なんだよ、兄ちゃん!」
_
(# ゚∀゚)「おとなしくしとけ!」
馬がその場を駆け抜けていったのは、ちょうどその時だったわ。
少しもスピードを落とさず。おじいちゃんたちがいた、その場所を走っていったの。
お兄さんが動いていなかったら。
いいえ、あと少しお兄さんの動きが遅かったら。
――おじいちゃんたちは、きっと大怪我か、下手をしたら死んでいたかもしれない。
364
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:39:38 ID:alE8X3hE0
(;゚∀゚)「……っ、なんで」
だけどね。
それよりも怖かったのは、馬に乗っている大人がそれを止めようともしなかったこと。
_
(# ゚∀゚)「アブねぇぞ!!!」
……ううん。それも違うかもしれない。
本当は、馬に乗っている二人組も止めようとしていたのかもしれないわね。
でも、そうはしなかった。できなかったの。
(iii ゙v゙)「俺を助けろっ!」
(●冊●)「止めろ! 止めてくれっ!!」
大声が響いた。
その声は、おじいちゃんたちに言い続けていた。
365
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:41:43 ID:alE8X3hE0
「嫌だ」
「しにたくない!」
「たすけてくれ」
聞き取れたのはそれだけ。
あとは、馬の叫ぶような鳴き声と、意味をなさない声でかき消された。
……あっという間の出来事だった。
止めようって思うよりも早く、その馬は駆け抜けていったの。
信じられないくらいの速さだった。
あんなに速い馬は、後にも先にも見たことがなかったって。
366
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:43:25 ID:alE8X3hE0
(li ゚∀゚)「……なに?」
_
(; ∀ )「暴れ馬だ」
それが暴れ馬だったんだって、気づいたのはそのすぐ後だった。
馬に乗っていたのが誰かはわからない。
だけど、ひょっとしたらあの馬の持ち主だったのかもしれない。
雰囲気が雰囲気だったし、何か事故が起こったんじゃないかって、二人は慌てたそうよ。
(;゚∀゚)「おいかけよう!」
_
(; ゚∀゚)「……ああ」
何がなんだかわからないまま、二人は馬を追いかけることにしたわ。
馬は村ではなくて、森へと続く方向へ道を変えたから、二人は夢中で追いかけたわ。
道はどんどん、村から離れていく。
それにだんだん周りが暗くなっていくようで、二人は怖くなったわ。
_
(; ゚∀゚)「クソッ。どこに行ったんだ!」
367
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:45:44 ID:alE8X3hE0
そして、馬の姿はとうとう見えなくなって。
――遠くで、ものすごい悲鳴が上がって。それっきり何も聞こえなくなった。
_
(; ゚∀゚)「……っ」
(;゚∀゚)「兄ちゃん……」
おじいちゃんとお兄さんはそれでもなんとか、追いかけたの。
悪いことが起きたのは、間違いなかった。
もしかしたらそれは自分たちが止められなかったせいじゃないか。そう思うと、すごく怖かったんだって。
_
(; ゚∀゚)「……こっちか?」
おじいちゃんたちは、追いかけて……。
だけど、湖に行き当たった辺りで完全に見失ってしまったの。
368
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:48:15 ID:alE8X3hE0
(*゚∀゚)「ここ」
_
(; ゚∀゚)「湖、だな」
馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。
(;゚∀゚)「兄ちゃん」
_
(; ゚∀゚)「……」
夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。
おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。
この場所で何かが起こった。それは確実だったわ。
369
:
修正
:2016/08/19(金) 21:50:04 ID:alE8X3hE0
(*゚∀゚)「ここ」
_
(; ゚∀゚)「湖、だな」
馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。
(;゚∀゚)「兄ちゃん」
_
(; ゚∀゚)「……」
夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。
おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。
この場所で何かが起こった。それだけは、確実だったわ。
370
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:50:53 ID:alE8X3hE0
悪いことが起こっている。
::(;゚∀゚)::「……あ、」
_
( ゚∀゚)「戻るぞ。人を呼ぼう」
::(; ∀ )::「でも、怪我とかしてたら……」
_
(# ゚∀゚)「俺たちじゃ何もできないだろ。
それに、二人じゃどこにいるかも探せない」
だけど、二人だけじゃどうにもならないことは、おじいちゃんたちにもわかっていた。
それでもおじいちゃんたちは、辺りをもう少しだけ探したわ。
森へは入らず、湖の周りを二人は歩き回った。
_
( ゚∀゚)「もう、終わりだ」
(* ∀ )「……うん」
それでも、馬も。馬に乗っていた人の姿も、どこにも見つけられなかった。
どこから血の匂いがしたのかもわからなかった。でも、それでよかったのかもしれないわね。
血にひきつけられた獣に鉢合わせる可能性もあったから。
二人は完全にどうしようもなくなって、村へと戻ることにしたの。
371
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:52:41 ID:alE8X3hE0
早く村へと帰って、誰かにこのことを伝えないと。
二人の頭はそのことでいっぱいだった。
だから、二人は慌てて村へと帰って――、
_
(; ゚∀゚)「大変だ!」
£;°ゞ°)「ああ! 君たちは無事だったんですね」
――村が大変なことになっていたのを、知ったの。
372
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:55:28 ID:alE8X3hE0
原因は、強盗が現れたことだったわ。
村はずれにあるおじさんの家が強盗に襲われて、村で預かっていた馬と金品を奪ったの。
盗まれたものは幸い返ってきたけれど、馬だけは帰ってこなかった。
そう。さっき話した強盗騒ぎね。
£;°ゞ°)「……生きた心地がしませんでした」
从゚×ナ;从「大丈夫?」
おじさんたち一家が助けられたあと、村の大人が集まって大騒ぎになったの。
強盗たちは村にも来るんじゃないか。他にも、被害はあるんじゃないかって。
その中で、おじいちゃんたち兄弟がいないことがわかったの。
……子どもが襲われたかもしれない。
おじいちゃんの家族と、村の大人たちはもう心配どころの騒ぎじゃなかったわ。
(;゚∀゚)「え?」
_
(; ゚∀゚)「オレたちは平気だけど」
大人たちの様子が変なことに、おじいちゃんたちもようやく気づいたの。
夜中に外を走っていたあの美しい馬。そして、そこに乗っていたよそ者。
賢かったあの馬が暴れていたのは何故なのか……。
373
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:56:27 ID:alE8X3hE0
自分たちが見かけたあの男たちが、強盗だったんじゃないか。
そう、答えが出るのはすぐだった。
゙゙(; ゚━゚)「怪しい男の二人連れを見なかったか?」
(;゚∀゚)「……兄ちゃん」
大人たちに聞かれて、おじいちゃんは怖くなったの。
話の中でしか聞いたことのない強盗がいたこと。その強盗に自分たちが会っていたこと。
一歩、間違ったら。自分たちは、殺されていた。
そのことが今更わかって、おじいちゃんの体はガクガク震えたわ。
だけど、おじいちゃんには、それよりももっと怖いことがあった。
゙゙(; ゚━゚)「上の坊主はどうだ?」
_
(; ゚∀゚)「……」
その怖いはずの強盗は……もっと別のものを怖がっていた。
374
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:58:33 ID:alE8X3hE0
助けてくれ、と。
しにたくない、という声を聞いた。
あれから強盗たちの姿は消えてしまった。
最後に聞いた、悲鳴が耳を離れない。
_
(; ゚∀゚)「知らない」
(;゚∀゚)「……」
_
(; ∀ )「オレたちは何も見なかった」
……大怪我をしたか、獣に襲われたか。
ひょっとしたら、湖に落ちたのかもしれない。
そのどれだとしても。無事だとは思えなかった。
美しい馬。
狂ったように暴れまわった、あの姿。
あのとき嗅いだ、血の匂いがまだ残っている気がした。
375
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:00:25 ID:alE8X3hE0
£;-ゞ-)「よ、かった……」
从゚×ナ;从「てっきり、ウチに来たもんとばかり……」
£;°ゞ°)「こんなことになるのなら、君たちをあの馬に乗せてあげればよかった」
おじいちゃんたちは、その後ものすごく怒られた。
だけど、強盗にもあわず無事だったことには、泣いて喜ばれたって聞いたわ。
その優しい言葉と、それから自分が本当に危なかったんだという恐怖で、おじいちゃんたちは泣いて謝ったんだって。
_
( ;∀;)「……ごめん。ごめんなさい」
(;゚∀゚)「う」
(*;∀;)「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
376
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:02:45 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
それから、おじいちゃんたちは少しだけいい子になったみたい。
他から見ると全然いい子じゃなかったみたいなんだけどね。
おばあちゃんが聞いた話では、なんというか……、「とんでもない、じいさんだった」みたい。
それからのことを少し話すわね。
おじいちゃんたちは、あの夜見かけた馬のことだけは村の誰にも話さなかった。
というよりも、話せなかったのね。
強盗の姿は見ていないって言っちゃったし、村人たちはあの馬は神様の使いなんだって信じきっている。
それに、話さなかったことを怒られるのも怖かったみたい。
だけど、おじいちゃんたちが馬のことを話したくなかったのはね。
単純に、あの馬が怖かったからなんだって。
_
( ゚∀゚)「あいつ、なんだったんだろう」
(*゚∀゚)「兄ちゃんでもわかんないの?」
_
(; ゚∀゚)「バっ。オレみたいな大人でもわかんないことはあるっつーの」
おじいちゃんとお兄さんは、その後、こっそりと湖に見に行ったの。
ひょっとしたら、何かわかるんじゃないかって。
377
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:04:09 ID:alE8X3hE0
でもね、あの馬の痕跡はどこにもなかった。
強盗の姿も、血の跡さえも見つけられなかった。
それこそ幻のように……消えてしまったの。
(*゚∀゚)「なぁ、兄ちゃん」
_
( ゚∀゚)「どうした?」
(*゚∀゚)「オレたちあの夜、もしもさ」
おじいちゃんは、それから何度も考えたんだって。
強盗たちに出会った、あの夜。
あのキレイな馬に乗ったのが自分たちだったら……、どうなっていただろう、って。
もしからしたら悲鳴を残して消えていたのは、自分たちのほうなんじゃないかって。
……もしもの話だから、正解なんてないんだけどね。
_
( ゚∀゚)「そんなこと言うな。オレたちは何も見てないんだから」
(*゚∀゚)「……うん」
_
( ゚∀゚)「でもさ。一つだけ、約束してくれないか?」
378
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:06:14 ID:alE8X3hE0
そうだわ、話の最後にもう一つだけ加えておくわね。
家には変わった家訓があるの。
これまでの話と関係があるから言うんだけど、その家訓って言うのは――
_
( ゚∀゚)「もう一度あの馬に会っても、ぜったいに乗るなよ」
――どんなに立派だったとしても、飼い主のわからない馬は絶対に乗るな、よ。
神様のお使いならいいけど、そうじゃなかったら怖いものね。
379
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:08:21 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
ツンの声が止まった。
しばらく待ってみたが、続きはないみたいだ。
ξ ⊿ )ξ「……」
どこかでじぃじぃと虫が鳴いている。
ミミズだったか、オケラだったか。たぶん、そんな感じの虫の声。
さわがしいその声は、聞いているだけで耳が痛くなる。
('A`)「お前んち、家訓なんてあるのか?」
思ったことを、そのまま口にしてみる。
内容に意味はない。ただ、虫の声を聞いていたくなかっただけ。
反応がなかったり怒られるようなら、別のことを聞くつもりだった。
380
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:10:15 ID:alE8X3hE0
ξ ⊿ )ξ「まぁ、ね」
川 )「言われてみれば珍しい気もするな」
( )「おっおっ、僕んちはないおー」
一度、口を開いてしまえば、どんどん会話が盛り上がっていく。
結局のところ、みんな話す機会を探していたのだ。
それはそうだろう。こんな顔も見えない和室でそろって黙っているのは辛い。
なんていったって、俺達は怖い話をしているのだから……。
虫の声は止まらない。だけど、遠くなった気がするのは、会話が盛り上がっているからだろう。
('A`)「……ふぅ」
ブーンたちの会話を聞きながら、ツンの話していた村では、こんな虫は鳴かないんだろうなと考えてみる。
美しい灰色の馬のいるところ。
霧のかかる深い森の奥に、湖が広がっている。そんな光景が、頭に浮かんだ。
……うん、悪くない。人生一度くらいはそんな国にいってみたいもんだ。
381
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:12:16 ID:alE8X3hE0
('A`)「そういやぁ、さっきの話だけど」
ξ ⊿ )ξ「ストップ」
('A`;)「へ?」
金の髪と青い目の兄弟は、その後どうしたのだろうか?
そう思って、口にした言葉はツン本人によってあっさりと止められた。
なんでだ? さっきは普通に話してたのに、どうしてここで止められたのかわからない。
ξ ⊿ )ξ「その声、ドクオでしょ。これ以上は聞かないわよ。
どうせまた人の話に文句言うんでしょ。知ってるんだからね」
('A`)「へ?」
ξ ⊿ )ξ「何だその話とか、ウサンクサイとか言う気でしょ。
その手には乗らないんだから」
返ってきた言葉は理不尽の塊だった。
ツンの言葉に心当たりがないわけではない。ホラーじゃないとか、ついさっきも言った記憶があるし。
だからといって、この扱いは許されるものだろうか。いや、そうではないと言いたい。
382
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:14:28 ID:alE8X3hE0
(;'A`)「あのなぁ……」
川 )「ツンも、そう言ってやるな。怪談の後のやりとりは怖い話の定番だろ」
ξ; ⊿ )ξ「い、イヤよ!」
( )「妙にゴネるな」
ξ; ⊿ )ξ「ここで話なんかして、怖くなっちゃったら……蝋燭消しに行けないじゃない!」
ツンの叫ぶような言葉に、部屋の空気が一気に変わった。
一言で言うのならば、こいつをどうやってからかってやろう。
ツンは必死なのか、自分が怖いのがイヤなんて弱点をさらけ出したのに気づいていない。
( )「へぇぇぇぇ。こわいんだ。へぇぇぇぇ?」
ξ; ⊿ )ξ「な、なによ!」
川 ) 「ほう。ツンは怖い話は平気だと思ってたが」
ξ; ⊿ )ξ「へいき、……よ」
( )「これまでわりと乗り気だったもんね」
川 ) 「しかし、一人になるのは怖いのか。そうかそうか」
383
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:16:26 ID:alE8X3hE0
さっそく3人くらいが、ツンをからかっている。
そういえば、最初の方も聞くのは平気だけど、話すのは苦手って感じのことを言ってた気がする。
気が強いように見えるが、自分が怖い目にあうのはダメだったのか。人間意外な弱点があるもんである。
怖いなら怖いで、素直に言えばいいのに。
ξ# ⊿ )ξ「行けるわよ! だって、怖くないもの!
一人だって……一人だって平気だもん!」
('A`)「ついて行ってやろうか?」
ξ# ⊿ )ξ「見てなさいよ!」
(;'A`)「おい……いいのか?」
助け舟でも出してやろうと言った言葉は、あっさりと拒否されてしまった。
暗闇の中で、ツンの立ち上がる音がする。
そのままドスドスと足音を立てながら、ツンの姿が消える。
……大丈夫だろうな、あれ?
384
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:18:26 ID:alE8X3hE0
(; )「行っちゃったお……」
川 )「あの様子だと、しばらくかかりそうだな」
( )「あれ絶対に、びびってたよな? な?」
なんだかんだで盛り上がっていた部屋も、すぐに静かになる。
静かになってしまえば、あとは苦しくなるような闇。
じぃじぃ。じぃじぃ。じぃじぃ。
神経にさわる音は耳につき、湿った熱い空気は体を焼いていく。
熱い。
体の中から水という水が汗で流れて、からからに枯れていくみたいだ。
('A`)(……水)
飲み物を求めて、手を伸ばす。
これまで飲んでいたぬるいジュースの入ったペットボトルがあるが、全力で避ける。
こいつを飲んだところで、のどの渇きが増えるだけだ。せめて、冷たいものを……
暗闇の中を手探りで動かし、冷たい何かに触れる。
この冷たさは、きっと飲み物だ。俺は手を伸ばしてそれをつかむ。
385
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:21:21 ID:alE8X3hE0
川 )「そういえば、ドクオは何を話そうとしていたんだ?」
(;'A`)「は?」
( ゚д゚ )「そういえば。津出の話に何かあったのか?」
ようやく飲み物をつかんだ手が止まる。
慌てて顔をあげると、ミルナの白い顔がこっちをじっと見ていた。
あまりまばたきをしないミルナの目がこちらを向くと、妙に迫力がある。
こっち見るなと言いかけてから、自分が質問されていることにようやく気づいた。
(;'A`)「いや、単に何だったんだろうなって思っただけだ。
強盗と、馬が消えたって言ってだろ。なんか、理由があるんじゃないかって」
あわてて出した返事に、ミルナが小さく頷く。
表情はちっとも変えないまま、ミルナは「ああ」と返事をした。
( ゚д゚ )「……もしかしたら、河童かもしれないな」
386
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:22:22 ID:alE8X3hE0
('A`)「……」
ミルナの口から、変な言葉が聞こえた。
冗談もろくに言えない固っ苦しいやつの口から。しかも、真顔で。
(;'A`)「もう一度、言ってくれ」
( ゚д゚ )「河童ではないかと、言った」
(;'A`)「カッパ」
( ゚д゚ )「そう。その河童だ」
カッパ。
妖怪の出てくるマンガやらなんやらで、真っ先に出てくる妖怪。
ヤツが出てくる子供向けの怖い本を、大昔に何冊も読んだことがある。
( )「え? カッパってキュウリを食べるやつだおね。カッパ巻きとかの。
あれって、安くてお腹たまっていいおね」
( )「相撲とったりするやつだろ?」
387
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:24:11 ID:alE8X3hE0
やっぱり、聞き間違いじゃないよな。
川とか池とかにいる。頭に皿を乗っけた妖怪。
いかにも日本って感じのメジャー妖怪様だ。それが、なんでツンの話と関係あるんだ?
(;'A`)「いや、カッパが何かはわかるんだが……」
( ゚д゚ )「続きを聞いてみたところ、馬の恩返しでも神や仏の力でもなさそうなのでな。
津出の話に合いそうなものを考えていたのだが……」
( )「それが、どうして河童に……」
( ゚д゚ )「最後に、湖が出てきただろう?」
川 )「ああ、なるほど。それで河童か」
ミルナとクーだけはなにやら納得しているようだが、俺は話についていけない。
他の奴らはと見回してみるが、手にしたものもろくに見えない暗さの中では無意味だと気づく。
( )「お……?」
( )「ええと……」
ただ見えない代わりに、耳が戸惑うような声を拾う。
どうやら困っているのは、俺一人じゃないようだ。
それはそうだろう。そもそも、どういう理由で河童がでてきたのか、さっぱりわからない。
388
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:26:15 ID:alE8X3hE0
( ゚д゚ )「河童にまつわる伝承の一つに、馬を水中に引き込むというものがある。
失敗したという話の方が多いのだがな」
( )「そうなのかお?」
川 )「泳いでいる人を水中に引き込んで、溺れさせるっていうのもあるな。
ヤツは人の尻子玉も食うしな。ゆるキャラっぽいわりに、凶暴なやつだ」
( ゚д゚ )「馬の妖怪の話は、あまり聞かない。ツンの話の条件に一致するものとなると尚更な。
ならば、馬を襲う妖怪はなんだったかと考えてみた。
それで、河童が一番条件に合うと思ったのだが……」
バケモノなのは馬でも強盗でもない、別のモノ。
なるほど。そういう話なら納得だ。
だけど、それが河童ということだけが納得できない。
('A`)「そこは普通に、馬がバケモノって話でいいんじゃねぇか?
いや、他にバケモノがいるっつーならそれでもいいが、カッパとかじゃなくてもっとこう……」
389
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:28:50 ID:alE8X3hE0
遠い、海の向こうの国。
馬が当たり前に生活に溶け込む、平和な村。
そんな村で起きた謎めいた事件の原因が……なぜカッパ。
バケモノのせいだってのなら、まだいい。
でもそこは、妖精とかモンスターとか雰囲気にあったものがよかった。
( )「馬。馬で湖なら……ケルピーとか、水の精っぽいものとか?」
('A`)「そう! それだよ!
なんだよ、カッパって。なんで急にベタな昔話になってるんだよ」
ケルピー。
どこかのゲームで敵として出てきた、水の馬のモンスター。
ええと、馬の体に魚の尻尾がついてるやつ……だったか?
……でも、尻尾? 例の馬の尻尾って、ツンの話に出てきたっけ?
( ゚д゚ )「ケルピー?」
( )「ええと、」
( )「人を食うん……だっけ?」
390
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:30:11 ID:alE8X3hE0
( )「見た目は普通の馬なんだけど、背に乗った人を水中に引きずり込んで、溺れ死にさせてから食べるんだよ。
でも、内臓だけは食べないから水の上に浮かんでくるって話」
( ゚д゚ )「ふむ。はじめて聞くな。勉強不足を実感するばかりだ」
親切な誰かが、ケルピーについての説明をしてくれている。
俺の全然知らない話だけど、ゲームに出てくる奴とはやっぱり違うんだろうか。
それにしても。内臓とかいちいちグロいな。
まあ。それでも、さっきのカッパ説よりはよっぽどそれっぽい。
( )「有名なのはケルピーだけど、似たような伝承はいろんなところにあるみたいだよ。
水の精のネッキとか。こっちは馬だけじゃなくて、人間の姿にもなるみたいだけど」
川 )「オカ研の人間は言うことが違うな」
( )「……オカ研じゃないんだけど。まぁ、いいや」
カッパよりも納得できる答えが出たことに安心して、俺は握ったままになっていた冷たいものを確かめる。
自販機でたまに見かける小さなパック。
さっき、ミルナとミルナの婆様が差し入れにと、持ってきてくれたジュースだろう。
握りつぶさないように気をつけながら、ついているストローの袋を外す。
見えないストローの差込口を指で探り、ストローを刺す。
391
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:32:51 ID:alE8X3hE0
( )「僕はやっぱり、神様のおかげで。
みんなどこかで平和に暮らしているのがいいお〜」
川 )「強盗が平和に暮らしましたはダメな気がするが」
( )「えー。死んじゃうのはよくないお」
( )「それなら、馬をめぐる醜い争いの末に殺し合いのほうが、怖くていいと思うんだからな」
( ゚д゚ )「まぁ、水妖のたぐいや事件より、事故の可能性の方が高いのだろうがな」
川 )「それを言い出したら、村人たちの調査不足もあるだろうな」
( )「夢がないお〜」
気がついたら、最初の話が終わった時と同じように解釈や仮説が乱立している。
あの時も、馬の話か、神や仏の奇跡だか、強盗の因果応報な失敗談で話が別れたんだったか。
同じ話を聞いているはずなのに、そうだとは思えないくらい答えがバラバラだ。
ツンの話が下手だったというわけではないんだが、どうしてこうなったのだろう?
392
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:35:10 ID:alE8X3hE0
('A`)「そういえば、ミルナはなんで妖怪説なんて考えてたんだ?
普通そこは、モンスターとかじゃねぇの? 外国なんだし」
ミルナが、目を少しだけ大きく見開く。
ほとんど表情を変えないミルナにしては珍しい変化だ。
( ゚д゚ )「日本の話じゃなかったのか? 江戸くらいの」
……ストローに口をつけようとした動きを、止めた。
ミルナが何を言ったのか、一瞬、理解できなかった。
('A`)「外国だろ……?」
( )「あ、僕も西洋あたりだと思った」
川 )「私はどちらかというと、日本か。河童説はなかなか斬新だった」
( )「僕はどっちでもいいお!」
話が合わない。
同じ話をしていたはずなのに、致命的にズレている。
話の結末も同じだ。
馬のせいなのか、それとも水に潜む何かのせいなのか。似たようでいながら、その答えは完全に違っている。
393
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:36:16 ID:alE8X3hE0
(;'A`)「え、でも。ツンのばーちゃんって」
金の髪のツン。
白い肌に、青い目をした、人形のような見た目の少女。
日本生まれで日本育ちの日本人で、気さくで、話しやすくて。たまに、めんどくさくなる普通の女子。
矛盾するようでいて、ちっとも矛盾しない不思議な友人。
川 )「母方の祖母はたしかに、海外に暮らしているらしい。
だが、父方の祖母は日本人だな」
( )「あれ。じゃあ、この話?」
どっちだ。
外国と日本。
同じ話でも、国が違うだけでその結末は完全に変わる。
(;'A`)「……」
わかったつもりになっていた話が、たったの一言で崩れていく。
今まで俺は、何をわかったつもりで聞いていたのだろう。
なぜ、なんの疑いもなく、外国の話なのだと思っていたのだろう。
394
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:38:09 ID:alE8X3hE0
( )「不思議だおね〜」
心臓が、嫌に早くなっている。
気づけば、口の中がカラカラで痛いくらいだ。
そういえば、さっき俺は飲み物を口にしようとしていた。
飲んで一息つけば、このわけのわからない焦りも落ち着くだろう。
( )「どっちにしろ、強盗は死んだんだと思うな。僕は」
その声が、なぜか耳に残った。
不思議と賛成する気にも、反対する気にもなれなかった。
なぜだろう? そう思いながら、指でストローを探り、口をつける。
パックの中から冷たい液体を吸い上げて……
(li A )「げっ……あ゙っ」
咳き込んだ。
溢れかえった液体が、口元を濡らしていく。
鼻や器官に水が入り込んで、一瞬、息ができなくなる。
395
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:40:11 ID:alE8X3hE0
( ゚д゚ )「おい、大丈夫か」
(li A )「ぐ、あ……」
( )「ドクオ、どうしたお!?」
咳き込んで、鼻と器官に入り込んだ水を吐き出す。
息が苦しくて、涙が出る。
子どもの頃に、溺れたことを思い出す。
あの時感じたのと、同じ感じ。
……地上にいるのに、溺れている。そう錯覚してしまいそうな苦しさ。
(li A )「……お茶」
川 )「ああ、むせたのか。慌てて飲むからだぞ」
口の中にあふれる苦いそれは、水ではなくてお茶のはずだ。
……だけど、一瞬。
生臭い、味がしたのだ。
汚い川の水が口に入った時のような、藻のような嫌な味が。
(li A )「そうじゃなくて、これ……お茶だよな」
( ゚д゚ )「そのはずだが」
396
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:42:12 ID:alE8X3hE0
冷たいミルナの手が、俺の手からパックを取る。
それを顔に近づけて、パックの匂いを嗅いだようだった。
( ゚д゚ )「烏龍茶のようだな。
……すまない。賞味期限が近かったのかもしれない」
( )「味はどうだった?」
( )「サイナンだったおね」
息が苦しい。
首元を伝うのは、汗なのかお茶なのか……それとも、どこかの川の水なのかわからない。
じぃじぃと遠くから音が聞こえる。
(li'A`)「おぼれる、かと思っ、」
( )「タオルは……あった。これ、使って」
(li'A`)「助かる」
タオルで口元と体を拭い、陸に上げられた魚のようにぜいぜいと息をする。
体の中でまだ水が暴れまわっているようだ。
溺れるのは苦しい。それで、死んだやつだっている。
……胸が痛い。
あの強盗たちはこんな風に、溺れて死んだのだろうか。
それとも、無事に生きていたのか。
397
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:44:04 ID:alE8X3hE0
――なんとなく、
彼らは死んでしまったのではないか、と思った。
こんなふうに溺れて、苦しんで死んだ。そう思った。
('A`)「……ふぅ」
なんとか呼吸を落ち着かせて、一息つく。
じとりとした熱い闇は、湿気を含んでいる。
まるでぬるい、水の中にいるようだ。
このままここにいれば、さっきのように溺れてしまいそうだった。
口の中にさっきの生臭い味が蘇ったような気がして、慌てて首を振った。
……こんなことを考えてしまうのも、さっきのお茶とツンの話のせいだ。
('A`)「……」
ツンの話の真相を、俺達は知らない。
幻のように謎めいた、美しい馬と、強盗と、少年たちの話。
遠い国のことなのか、それともこの国のことなのか……真相はきっとツンだけが知っている。
いや、ひょっとしたら。ツンも知らないのかもしれない。
確かめたい、と思った。
だけど、確かめたくない自分もそこにいた。
398
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:46:13 ID:alE8X3hE0
ξ ⊿ )ξ「……みんな。クー? いるわよ、ね」
ツンが戻ってきたのは、それからすぐ。
何か怖いことでもあったのか、その声はどことなく弱々しい。
( )「おかえりだお、ツン。クーもみんなもここにいるお」
川 )「不幸な事故はあったけどな」
ξ; ⊿ )ξ「……じ、事故って何よ」
川 )「それはだな……」
ξ; ⊿ )ξ「イヤ! やっぱ、聞きたくない!」
物音がして、それからやっとツンが席につくのを感じる。
このまま問いかけたら、ツンはあの話の続きをしてくれるだろうか。
それとも、幻は幻のまま。その正体を知らないほうがいいのか。
俺は少しだけ悩んで、結局、口は開かなかった。
399
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:49:16 ID:alE8X3hE0
ξ ⊿ )ξ「さあ、続きをはじめましょ。質問タイムはナシで!」
( )「えー」
ξ# )ξ「いいの。ナシと言ったらナシなの!」
暗闇の中で、ツンの金の髪が揺れる。
今ははっきりとは見えないが、その目は青の色をしているのだろう。
暗い闇の中で、彼女の瞳を思う。
キラキラと光を返す、青い色。
それはまるで湖の色のようだ。
引きずり込まれたら、決して上がってこれない深い深い水の色。
鳥の声も無い、夜の森。その中にぽっかりと広がる霧に飲まれた、深い青の湖。
あるいは、じとりとした暑く湿った空気の。山の合間にひっそりとある、冷たい水の湧く場所。
( )「――だって。次は誰が話す?」
400
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:51:36 ID:alE8X3hE0
溺れて死んだ男は、たぶんいたのだろう。
彼らが死んだ。その理由だけを、俺達は知らない。
単なる事故か。
それとも、人の知らない何かによるものか――。
人を食う水馬か、馬を水に引き込む妖か。
('A`)(それとも別の、何かか……)
あの一瞬味わった、生臭い水の味を思う。
溺れるような感覚。もう二度と戻ってくることができない、深い水の底。
男二人を引きずり込んだ何かが、本当にいるのなら……、
それは、きっと湖の中にいる。
河童、ケルピー、水精、水妖――、
401
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:53:08 ID:alE8X3hE0
言えるのは一つ。
水の中に潜むモノは、思った以上に多いようだ――。
.
402
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 22:54:14 ID:alE8X3hE0
('A`)百物語、のようです
幻の馬。あるいは、水妖の話 了
(
)
i フッ
|_|
.
403
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 00:33:19 ID:WsGDJtJs0
乙
404
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 01:11:16 ID:s5v5g1jc0
乙! 好きな種類だ、これ
不思議な話しいいね!
405
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 10:05:29 ID:sMT2/AL20
乙
ドクオの心情がひしひしと伝わってくるぜい
406
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 13:52:12 ID:Ryf1BsJEO
乙
毎年ドキドキさせてくれてありがとうございます
407
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 15:06:37 ID:bqEWN/bo0
おつ
不思議な話とか昔話は、実体験より心穏やかに聞けるな
408
:
名も無きAAのようです
:2016/08/20(土) 15:15:25 ID:ETl0MMuQ0
乙
今一気読みしたけど偶然の話がかなりゾクゾク来た
409
:
名も無きAAのようです
:2017/08/10(木) 00:52:03 ID:FUn1Nkn.0
今年ももうじきかな
410
:
名も無きAAのようです
:2017/08/29(火) 20:29:14 ID:SL4uijuI0
彼岸までにはなんとか…
411
:
名も無きAAのようです
:2017/08/29(火) 22:33:42 ID:rOX71Sds0
マジでか 待ってる
412
:
名も無きAAのようです
:2017/08/30(水) 01:34:03 ID:jb/bTvVw0
やったー!!
待ってる!!!!
413
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:35:39 ID:4Pykjo5k0
暑さ寒さも彼岸までというわけで、投下します
414
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:38:11 ID:4Pykjo5k0
濡れた服が、べたりと体に張りつく。
汗だか、さっきむせた飲み物だかで濡れたそれは、生ぬるくて気持ち悪い。
服を引っ張って体からはがしてみても、手を放すだけでぺたりとまた張り付いてくるから最悪だ。
(;'A`)「あつい」
( )「だおねー」
つい口にした言葉に、返事の声が上がる。
相手の顔は――見えない。
ξ )ξ「何度くらいあるのかしら?」
川 )「予報だと熱帯夜にはならないそうだが、あてが外れたようだな」
部屋の中からいくつも声がする。
だけど、その顔もやっぱり見えない。せいぜい、俺の正面に座るミルナの顔が見えるくらいだ。
415
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:38:52 ID:4Pykjo5k0
畳のにおいのする和室は、闇の中に沈んでいる。
それでもなんとなく輪郭が見えるのは、二間先にある蝋燭のおかげだろう。
( ゚д゚ )「冷房をかけるか?」
( )「僕はもうちょっとつけずに粘りたいな。
……せっかくの、百物語だし」
( )「冷房なんかつけたら、台無しなんだからな!」
広い和室の中は、じとりとした熱がこもっている。
昼間にくらべればはるかにましだが、暑いことには変わりない。
それでも、誰一人として冷房をつけろと言わないのは、俺たちが怖い話をしているからだろう。
――そう。俺たちは今、百物語をしている。
.
416
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:42:56 ID:4Pykjo5k0
百物語。
怪談話を百話して、蝋燭を一本ずつ消していくっていう夏の怪談の定番。
会場は、ミルナの爺さんの家を借りた。
新月の夜に、三間続きの和室。
一番奥の部屋には、百本の蝋燭を並べた大きな火鉢。
( ゚д゚ )「冷房はこのままにしておく。だが、水分だけは摂取してくれ。
必要ならば取ってくる」
川 )「気を使わせてすまないな、ミルナ」
( ゚д゚ )「気にするな。俺もいい経験をさせてもらっている」
――とまあ、一見本格的なんだが実はそうでもない。
ミルナとミルナの婆様が差し入れてくれたり、コンビニで買い出しした食べ物や飲み物が、部屋には転がっている。
ブーンなんかは携帯で人を呼んでたし、途中参加も退出も自由という何でもありの仕様。
本格的な百物語とは、ほど遠い仕上がりだった。
.
417
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:43:46 ID:4Pykjo5k0
それでも、――思うのだ。
(;'A`)「……」
( )「どうした、ドクオ?」
(;'A`)「なんだかんだ言って、雰囲気あるなって。
なんかが出てきても、おかしくなさそうだ」
( )「なに言ってるのさ」
相手の顔も見えない、暗い部屋。
冷房のかかっていない、知らない部屋にじっと座っていると、
ここは本当にミルナの爺さんの家で、すぐそばに座っているのが本当に知り合いなのかもわからなくなる。
418
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:47:30 ID:4Pykjo5k0
長く話しすぎたせいで、雰囲気に飲まれ過ぎている。
そうなのはわかっているんだが、不思議な何かの存在をつい信じてしまいそうになる。
( )「そんなの、今にはじまったことじゃないだろ」
('A`)「そうなんだが……でも、」
声の聞こえてきた方に、顔を向ける。
そこにいる顔は、やっぱり見えない。
相手の顔が見えない。たったそれだけなのに、なんだか不安になるのは、俺がビビっているせいなんだろう。
( )「……ドクオ?」
(;'A`)「お、おう?」
( )「ぶつぶつ言ってないで、次の話をはじめよう?」
(;'A`)「あ、ああ。そうだな」
( )「やーい、怒られてやんの」
419
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:48:20 ID:4Pykjo5k0
反対の方から聞こえる声の先には、誰かがいるらしき暗闇。
馬鹿にするような声の主も、当然ながら顔が見えない。男なのか女なのか、それさえもわからない。
川 )「主役が呆けていては話しにならないからな」
( )「準備はできたかお?」
凛とした声。これは誰かわかる。ずっと聞いていたくなるような美しい、クーの声。
それから、特徴的な語尾はブーン。
でも、二人の姿は見えなくて――、
ξ )ξ「次は、ドクオの番よ」
('A`)「え?」
ξ )ξ「聞いてた? ドクオの順番だって、言ってるんだけど」
女の声が聴こえる。
姿の見えない影が、俺に順番と囁い――、じゅんばん?
今、順番って言ったか?
420
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:51:51 ID:4Pykjo5k0
順番
この状況で、順番って言ったら……何の順番だ?
('A`)「すまん。もう一度言ってくれ」
ξ )ξ「はぁ!? アンタ、あたしに何回言わせる気よ。
順番って、言ったら決まってるでしょ!」
(;'A`)「ええと、」
( ゚д゚ )「次に怪談を話すのはドクオだと、津出は言っている」
状況がわからない俺に、ミルナが説明をしてくれる。
怖い話をする順番。
百物語で、順番と言ったら確かにそうだ。
421
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:53:57 ID:4Pykjo5k0
だが、待ってくれ。
準備なんてぜんぜんできていない。
俺はさっきまで、全然別のことを考えていた。
部屋に雰囲気ありすぎて正直ビビる。
一言で言うとしょうもないことこの上ないが、そっちに夢中になりすぎて、次に何を話すかなんてまったく考えていない。
それなのに、急に順番を回されても困る。
川 )「ドクオはしばらく話をしていなかったし、ちょうどいいだろう」
ξ )ξ「今さら、話せないなんて言わないわよね?」
(;゚A゚)「ぐぬっ」
422
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:56:45 ID:4Pykjo5k0
…
………
やべぇ。
なんっにも思いつかねぇ。
考えようとすればするほど、頭から消えていく。
(゚A゚)(考えろ。考えろ、俺!!!)
どうした、俺。
俺なら怖い話の1つや2つ余裕で思いつくだろう。
ネットで見たうさんくさい都市伝説を思い出せ、異次元に繋がった廃村とか……
……これ、ショボンが話したな。
なんか、あるだろう。
オバケ、オバケが出るやつ……この際、妖怪とかそんなんでいい。
423
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:57:51 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「つまんなかったら承知しないわよ」
推定ツンらしき女の、機嫌を悪くしたらしき声が聞こえる。
さっき順番の話を何度もさせたせいか。それとも、俺がなかなか怖い話をはじめないせいか……。
不機嫌の原因はなんとなく想像がつくが、今は正直それどころじゃない。
川 ) 「厳しいな」
ξ )ξ「あたり前でしょ。あたしの番のときに、コイツ文句を言いまくったのよ」
(;'A`)「ゔっ!!」
なんか今、予想しなかった答えが聞こえた気がする。
確かに俺は、誰かが話すたびにツッコミをいれていた。
ホラーじゃないとか、怖い話じゃないとか……言ったか。言った気がするな。
だが、今ここでその話を出してこなくたっていいじゃないか!!
ξ )ξ「謝るなら今のうちよ」
(; ω )「あうあう」
(; )「あー」
424
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 21:59:09 ID:4Pykjo5k0
ツンの声が上る。
カーチャンが説教をはじめる前みたいな声に、冷や汗しか出ない。
蝋燭を消しにいくのを怖がっていたときのかわいげは、どこに行ったんだ。
(;゚A゚)「あ、う、う、うー」
口を開いても、無意味な音しか出てこない。
あ、い、う――と声を出しながら、それっぽい単語を頭にひたすら浮かべる。
(;゚A゚)「あー」
アンデス。あんこう。アンタレス。
なんか、それっぽいが、怖い話っぽいワードがなんにも出てこない。
(;'A`)「い、いー、いー……じゃなかった」
イもだめ。
イカのおすしとかいう、わけのわからん単語しか出ない。
こうなった次、ウだ。ウに賭けるしかない。だめだったら、ア行のほかの言葉で……
425
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:00:43 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「う。うー、う、うちゅうじん」
それは、まさに天からのひらめきだった。
漫画なら電球がぱっと光りがつく感じ。神からの贈り物。むしろ、俺こそが神。
そう自慢したくなるくらい、その瞬間の俺は冴えまくっていた。
( )「宇宙人?」
川 )「ほう?」
宇宙人。
とっさに、思いついたにしてはすばらしい言葉だった。
聞こえてくる声の反応は、そんなに悪くない。
(;'∀`)「宇宙人! そう、宇宙人だ!」
もう、こうなったらこのまま突っ走るしかない。
大丈夫。1話だけだ。
ちゃっちゃと適当に話して、次のヤツに順番を回せばいい。
息を吸って、吐く。
そして俺は、人影に向かって高らかに声を上げた。
.
426
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:02:37 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「宇宙人はな。いるんだよ!」
.
427
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:03:33 ID:4Pykjo5k0
('A`)百物語、のようです
宇宙人あらわる!
.,、
(i,)
|_|
.
428
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:04:46 ID:4Pykjo5k0
( )「な、なんだって――!?」
ξ )ξ「ねぇ、それってあり?
ありなの? 百物語よこれ」
俺の会心の一言に、ざわざわとした声が上がる。
機嫌が悪かったツンでさえ、困るか慌てているらしかった。
('A`)b「ふっ。アリに決まってるだろ。
宇宙の大いなる神秘。ロマンの塊。宇宙人! オカ研だって大好きだろ」
( )「オカ研じゃなくて、元写真部だよ。
まぁ、たしかに、好きそうなやつはいるけど……」
(*'A`)「よし聞いたかツン! 宇宙人はな……ありなんだよ」
ξ )ξ「でも、宇宙人なんて……」
俺の主張にツンはぐうの音も出ないようだ。
あの圧倒的不利からの逆転勝利に、喜びと興奮が止まらない。
やるな俺。今なら、漫画やアニメみたいに高笑いができそうだ。
429
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:06:01 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「宇宙人なんて……話が思いつかないから、適当に言ったんでしょ!」
( )「話が思いつかないからって、最悪なんだからな!」
(;'A`)「う……」
俺の喜びは一瞬で散った。
奇跡の逆転は、一言でまたひっくり返されてしまった。
たしかに。宇宙人はその場の思いつきだ、だからってその言い方はないだろ。
( )「ドクオなら、もっと別の話をすると思ってたのにな」
(#'A`)「宇宙人なめんな! この俺がなんかスゲー感じの話をしてやるよ!」
ξ )ξ「ふ、ふんっ! だったら、やってみなさいよ。
宇宙人で、とびきりの怖い話をね!」
頭の中のどこかで、やめるなら今のうちだぞという声がする。
宇宙人でゴリ押しなんてできるはずがねぇ――なんていう、弱気な考えも浮かぶ。
だけど、俺は。そんな冷静な言葉に、納得できるほど大人じゃなかった。
430
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:07:22 ID:4Pykjo5k0
(#゚A゚)「上等だ、ゴルァァァァァ!!!」
ξ# )ξ「言ったわね! 今さら、ナシなんて絶対に言わさないわよ!」
宇宙人上等。
俺は宇宙人で、ここにいる全員がビビる話をしてやる!
見てろよツン。それに、……ええと、まぁいいや。そこにいる誰か!
( )「は、はわわわわだお!」
川 )「いいぞ。もっとやれ」
(; )「いいのかなぁ、これ。ドクオ、大丈夫?」
息を吸って、吐く。
覚悟は決まった。正直、なんも思いつかんが、男にはやらなきゃならないときがある。
( ゚д゚ )「ドクオ。話してくれるか?」
('A`)「ああ」
――そして、俺は口を開いた。
.
431
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:08:10 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「宇宙人ってのはな、本当にいるんだよ」
.
432
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:10:10 ID:4Pykjo5k0
('A`)「宇宙人は……」
(;'A`)「……」
(;゚A゚)「う、宇宙人」
俺は口を開いた。
.
433
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:11:33 ID:4Pykjo5k0
(;'∀`)(やべぇ!! なんも思いつかねぇ!!!!)
口を開いてみたのはいいが、何にも言葉がでてこない。
脳内検索をしてみても、宇宙人の話なんてほとんど出てこない。
そもそも、宇宙人って、怖いんだっけ?
( ゚д゚ )「どうした?」
円盤。UFO。タコ型火星人。
両手を男に引っ張られる、グレイだっけ? なんか、アメリカの陰謀っぽいやつ。
それから、美少女とかロボとか宇宙戦艦の出て来るアニメがたくさん。あれに宇宙人はいたんだっけか?
織姫彦星は……流石に、宇宙人じゃないよな。宇宙っぽいけど。
(;'A`)「なんでもない」
( )「……」
川 )「どんな話が来るのか、楽しみだな」
(; )「ええと、ドクオ? 無理はしないでね……?」
(;゚A゚)「……」
434
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:12:28 ID:4Pykjo5k0
頭の中にある、宇宙っぽい知識をひっくり返してみる。
いくつか浮かんでくる単語はあるが、うさんくさかったり、そもそも宇宙人とそんなに関係ない言葉しか出てこない。
ホラー。ホラーで、宇宙人っぽいやつ。
なんかあるだろ。宇宙は広いんだ。宇宙人だって、いっぱいいるだろ!
(;゚A゚)「宇宙人っていっぱいいるよな?」
( )「そうだおね! 僕、宇宙戦争っぽいの好きだお!
いろんな宇宙人とかメカが出たり、ビームっぽいサーベルとかで戦うんだお!」
(;゚A゚)「そういうのも、……あるよな」
宇宙戦争。映画かなんかか?
あー、そんな話もあった気がする。
そういうワクワクするのもいいけど、今はなんかホラーでエグい感じで……エロとかグロとか。
……グロ?
なんか、映画であったような気がする。
宇宙からの侵略とか。そんな感じのやつ。
435
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:13:37 ID:4Pykjo5k0
(;'A`)「ええと、俺が話す宇宙人っていうのはな。いるんだ」
ξ )ξ「でも、証明されてないわよね」
(;'A`)そ「そりゃあ、気づかれてないからだよ!
宇宙人はたしかにいて、地球にも来ているんだ!」
ξ )ξ「宇宙人が地球にいるっていうなら、なんで見つかってないのよ!」
さっき散々調子に乗ったせいか、ツンがやたらと食い下がってくる。
まだ考え中なんだから、黙ってろ! ……なんてことは、当然言えない。
俺は知っている話を語っているはずなんだから、ここでボロを出すのはマズイ。
ツンをごまかすためにも、何か話さなければいけない。
だけど、思いつく話はない。
……どうする?
(;'A`)「そりゃぁ……」
( )「なに?」
……こうなったら、もう。
何か適当にでっち上げるしか、道はない。
436
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:15:10 ID:4Pykjo5k0
その場で話を考えて、作る。
宇宙人で、ホラーっぽくって、百物語っぽい話を今から考える。
大丈夫。一話だけだ。
百話あるんだ。一話くらい、俺が作った適当な話があってもバレはしない。
だから、がんばれ俺! なんかそれっぽい設定を、でっち上げるんだ。映画っぽい感じで。
(;'A`)「……人間を乗っ取ってるからに決まってるだろ?」
……言ってしまった。
言ってしまったからには、もう引き返せない。
ここから先は、俺が話を作るしかない。
話が行き詰まらないように、なんとか時間を稼ぎつつ頑張るしかない。
437
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:16:17 ID:4Pykjo5k0
( ゚д゚ )「乗っ取る?」
( )「へぇ」
('A`)「そう。そうなんだ!」
宇宙人の出てる映画で、人間を乗っ取ったり操ったりしているやつがあったはず。
そういう感じなら、宇宙人が地球にとけ込んでいても不思議じゃないだろう。
(-A-)「宇宙人は人間の体を乗っ取る。
だから、人間を乗っ取る前の純粋な宇宙人は、ほとんど目撃されないんだ」
よし。これで、それっぽい。
あとは、この宇宙人が地球を侵略していることにでもすれば……
438
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:18:07 ID:4Pykjo5k0
( )「その宇宙人、なんていうの?」
('A`)「ん?」
( )「名前だよ。名前。わかってないなら、どういう宇宙人か分類が聞きたいな。
タコ型? それとも、グレイ? 人間を操ったり寄生するタイプなら、そのどれとも違うのかな?」
(;'A`)「……」
( )「僕、そっちはそんなに詳しくないんだけど。宇宙人って、ロマンがあるよね。
それでドクオの話している宇宙人なんだけど……」
(;'A`)「……」
早口で話しかけられて、俺は黙り込む。
俺が黙っていても、声はひたすら宇宙人について語っている。
ツンみたいに疑われるのも嫌だが、こう喰い付かれても困るな。
( )「僕は異型タイプの宇宙人だと思ってるんだけど」
439
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:19:40 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「ストップ。ドクオの話が止まっちゃってるでしょ」
( )「ごめん。つい……」
(;'A`)「名前。名前かぁ。なんだったかなぁ……」
ツンの声が、いつまでも続きそうな宇宙人トークを遮る。
いつもならよくやったと言っているところだけど、今日に限っては余計なことをしやがってと思う。
何しろ話がぜんぜん思いつかないのだ。
静かになった声の主……たぶん、ショボンに向けて、俺は時間稼ぎの言葉をとりあえず放つ。
宇宙人。
宇宙人の話をやるなら、たしかにそれっぽい名称は必要だ。
そのへんの設定はここで考えておかないと、確かに困るな。
(;'A`)「うーん……」
火星人はメジャーすぎだから却下。
金星とかも、地球から近すぎる。ここでうっかり話に出して、ショボンにつっこまれたら大惨事だ。
どこか遠い星。というふわっとした感じにしておこう。
440
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:20:23 ID:4Pykjo5k0
(;'A`)「ここよりもずっと、遠くにある星から来た……」
なんかカタカナの名前。
すぐに覚えられて、間違えなさそうな簡単な名前で。既存のやつと被らないネーミング。
……無理だろ。これ。
(;'A`)「今思い出す……そう……」
ξ )ξ「ねぇ、いるの? そんな宇宙人」
(#'A`)「ど忘れしただけだ! ええと、」
オリジナル。オリジナル……
……だめだ。肝心なところで出てこない。
仕方ない。とりあえず「星人」ってつけて宇宙っぽくするっきゃない。
(;'A`)「バルタンじゃなくて、ダダじゃなくて、キングギド、いや、キ……えーと……そう!」
441
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:21:23 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「き……キリン。麒麟っ! そう麒麟星人だ!!!」
.
442
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:22:11 ID:4Pykjo5k0
麒麟。
ビールとかについてる、なんかかっこいい神獣。
フェニックス星人とか、鳳凰星人とか、ヒュドラ星人とかのほうがかっこいいかもしれないが、とっさに考えたにしては上出来だ。
(*'A`)「そう。その宇宙人は麒麟星人って言ってな」
ξ )ξ「きりん……」
川 )「ふむ。キリンか」
( ゚д゚ )「きりん、キリン、麒麟……キリンか?」
なかなかいい思いつきだと思ったんだが、周りの反応がなんか微妙だ。
驚いている……にしては、少し違う感じの声で、「きりん、きりん」と呟く声が聴こえる。
なんだ。なんか、マズイ言葉でも言った、か?
( )「なんか、かわいい名前だお!!」
( )「キリンって、動物園みたいじゃないか!」
(;'A`)「あ」
443
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:23:49 ID:4Pykjo5k0
のんびりとした声。それからその次に起こった爆笑に、俺の頭が一気に冷える。
心臓がバクバクして、頭がグラグラする。
そうだ。キリンと言ったら、動物園の人気者が出てくるほうが普通だ。
なんで、伝説の神獣・麒麟なんて思った!
黄色い体に長い首のキリンさんなんて、アホ丸出しじゃないか!
( )「ふうん。キリン星人なのか。
キリン座とかあったから、そっち系なのかな? それとも特殊ないわれがあったりとか?」
(;'∀`)「ええと、どうなんだろうな?」
( ゚д゚ )「ふむ。キリン星人という名称に意味が」
川 )「キリン星人。あなどれないな」
やべぇ。キリン星人という単語が思いの外馴染んでいる。
いまさら、やっぱ違いましたなんて言えない空気だ。
というか、キリン星人のインパクトが強すぎて、他の名前をつけてもキリン星人にすぐ戻ってしまいそうだ。
444
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:26:04 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「で、そのキリン星人がどうしたの? 話の続きは?」
下手なことを言ったら真っ先に否定しそうなツンまで、キリン星人をあっさりと受け入れている。
すげぇなキリン星人。
みんな最初の驚きどこにやったんだよ。
アホ丸出しとか思った、俺のほうがアホだった気さえしてくる。
(;'A`)「そ、そうだな。
キリン星人は、人間を乗っ取って、その体に潜んでるんだ」
ξ )ξ「潜んでるって、それどうしてわかるの?
見た目は人間……なんでしょ? 宇宙人がいるってどうしてわかるのよ」
川 )「確かに見た目が人間なら、宇宙人の存在は他の者にはわからないな」
なんか正論が聞こえる。
そうだよなぁ、宇宙人が体を乗っ取るって言っても、乗っ取られたやつしかそんなことわかんねぇよな。
こういう時って、どういうパターンが王道なんだ?
(;'∀`)「普通に考えりゃあそうだよな」
445
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:26:56 ID:4Pykjo5k0
( )「そこは何かあるんだよ! 映画とかだとこういう場合、ささいなきっかけで主人公が気づくんだ」
( )「きっかけ、ねぇ? あるの? そんなの」
映画とか、雑誌ってこういう時どうだっけ?
そもそもこういう宇宙人系の映画って、しっかり見たことないんだよなぁ。
ええと。目がやばいとか、動きが変とか、頭がなんか受信しちゃってる感じだったり、わかりやすく体が変形してる……とかか?
……うーん。
一番わかりやすいのは、体が変形してるパターンだよな。
なんか生えてるとか、増えてるとか、見るからに変だって分かる感じの……。
(;'∀`)「キリン星人にのっとられたやつってのは、普通とは違うんだよ」
( ゚д゚ )「どこが違うんだ」
(;'∀`)「それはな……」
考えついたところまで話してみたが、その先が思いつかない。
キリン星人だろ。
キリン星人っぽい感じで、明らかに変だとわかると言ったら……。
446
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:27:40 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「もったいぶってないで、早く言いなさいよ」
(;'A`)「ひゃぃ!」
( )「なんにも考えてないとか、言わないよな?」
川 )「ふむ。私も楽しみだ」
やべぇ。
まだ考え途中なのに、絶賛急かされている。
頼むから、もうちょっとだけ待ってくれ!!! 頭のなかで、そう叫んでみてもツンたちには当然届かない。
( )「どうやって宇宙人の正体を明かすのかワクワクするよね」
(;゚A゚)「宇宙人。キリン星人にとりつかれた人間はだな」
( )「ドクオ? 大丈夫かお?」
(;'∀`)「平気、へーき。
えっと、キリン星人、キリン、キリン……キリンは……」
頭に浮かぶことをひたすらつぶやきながら、頭を回転させる。
気持ち悪いほど汗が流れているけど、ぬぐう余裕なんてない。
キリン星人。キリン。キリンと言ったら……
447
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:29:07 ID:4Pykjo5k0
動物園の人気者のキリンさんのことを考える。
あいつらは確か、黄色くて、茶色い模様があって、ツノがあって、それから。それから……
(;'∀`)「首が長い!」
川 )「たしかにキリンの首は長いな」
( ゚д゚ )「首が長いのは、高いところの葉を食べるためだったか?」
ξ )ξ「それと宇宙人が、どう関係あるのよ」
思いついたと思ったのに、全然思いついていなかった。
一瞬。一瞬だけ、すげぇいい考えが浮かんだって思ったのに。それがこのざま。
だって、首だぜ。首。キリンっぽいし、何より見た目にインパクトがある。
(;゚A゚)そ「ぐっ!」
ξ )ξ「ドクオ……アンタ、本当にちゃんとこの宇宙人の話知ってるの?」
今、思いっきり考えてます。
それが事実なんだが、――そんなこと今さら言えっこない。
それを言ったら、俺がツンに完全敗北したことを認めることになる。それだけはできない。
448
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:29:47 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「しっかり覚えてないなら、他の話にしたっていいのよ」
('A`)「それはできない。それだけはできない……」
ξ )ξ「なによ」
ここからは、一世一代の大博打だ。
一度、口にしたら後は引き返すことが出来ない。それでも、男にはやらなければいけない時がある。
(;'A`)「なぜなら、俺は間違ったことを言っていないからだ!!!」
ξ )ξ「……っ」
ツンが一瞬、怯んだ気がした。
その隙につけ込むように、俺は言い放った。
('A`)「キリン星人は普段はのっとられた当人も気づかないほど大人しい。
だがな、ある条件が整ったその時だけ、」
ξ )ξ「……」
449
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:30:48 ID:4Pykjo5k0
. . . . .
(#'A`)「首が伸びるんだよ!!!」
言ってやった。
いや、言ってしまった。
ここから先は、完全に何も考えていない。
ツンがこれで納得してくれればいい。しかし、納得してくれなかったその時は、ここから先は地獄だ。
ξ )ξ「……」
ツンは、何も言わなかった。
「はい」も「いいえ」も、俺の話を否定する言葉も口にしなかった。
(*'A`)(勝った)
勝った。
俺は勝った。ここから先、何を話せばいいかわからないが、とりあえず俺は勝ったのだ。
勝利の感触に酔いながら、汗を拭う。
せっかくだから、ここは酒でも飲みたい気分だった。……人の家だから買ってきてないけど。
450
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:31:35 ID:4Pykjo5k0
――しかし、勝利の瞬間とは長く続かないものである。
俺の感動と余裕は、たった一言によって打ち砕かれた。
( )「なんで首がのびるんだお?」
よりにもよってブーンの一言でである。
当たり前と言えば、当たり前の一言。
俺だって、話を聞く側だったらそう思ったであろう言葉だった。
シンプルな言葉は、時によっては人を殺す。
(;'A`)「ええと、別に伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃ……」
( )「だよね。そんなことしたら目立つし……
でも、伸びるんだよね、首」
( )「のばしたくなくても、のびるんだ。首」
次々と言われる言葉に、頭が真っ白になる。
ツン言葉にカッとして答えただけだから、全然考えてない。
一つ考えたら、また一つボロが出てくるなんて本当に死にたい。
451
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:32:20 ID:4Pykjo5k0
まるで、レポートを書いているみたいだ。
穴埋めに書いた一文に、赤ペンで修正されたしょっぱい記憶がよみがえる。
レポートと違って文が消せないぶっつけ本番は、やばいと改めて思う。
(;'A`)(考えろ、俺!!)
宇宙人は人を乗っ取る。
だけど、そのままだと宇宙人が人を乗っ取っているかどうかわからないから、首が伸びることにした。
ここまでは、どうやっても動かせない。
とりあえず、首を伸ばす理由をなんとか考えて……考えて……考えろ。
乗っ取られた人間が死にそうだから、脱出?
うん。これは悪くない。悪くない路線だ……でも、乗っ取った人間ってそんなに簡単に死ぬか?
死因と言ったら、多いのが事故か病気?
病気で死んだ爺さん婆さんの首が伸びる……
……なんか。宇宙人っていうより、新手の妖怪っぽいなこれ。
うーん。
乗っ取る。宇宙人が人を乗っ取るっていうなら、目的は侵略っぽいやつだよなぁ。
映画だと大体そんな感じだろうし。
だったら、乗っ取った人間は利用したいよな。
452
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:33:52 ID:4Pykjo5k0
(;'A`)「……お前らは、なんで伸びるんだと思う?」
考える合間に、口を開く。
ちょっとでも時間を稼ぎたいのと、頼むから誰かヒントをくれという願いをかけて、俺は問いかける。
ミルナとかならなんか難しくてよさげなことを知ってるかもしれない。それか、オカルト詳しそうなショボン。
ツンは……、とりあえずこれ以上余計なことは言わないでほしい。
(; )「え? はぇ? 急に聞かれても困るお」
( )「ええと、ふつうに考えると……
宇宙人が肉体を改造した……とか、かなぁ?」
川 )「宇宙人という異物に、人体が適応できなかったという線もありそうだな」
( ゚д゚ )「宇宙人については詳しくないが、動物と同じと考えるのなら……
環境に適応するためか、生存に有利だからだと思うが」
ありがてぇ。ほんとにヒントが来た。
言ってみるもんだなぁと、慌てて脳内メモにヒントを書きつける。
宇宙人がやった。人間の体じゃ適応できなかった。環境に適応するため……
453
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:39:07 ID:4Pykjo5k0
ξ )ξ「……アンタたち。よく、そんなに考えつくわね」
( )「なー」
( )「みんなすごいお。
僕、宇宙人ってほんとはろくろっ首なんじゃないかって思ってたんだお」
ヒントにならなさそうな声も上るが、今は答えを考えることに集中する。
クーの、「人間の体じゃ適応できなかった」が一番使えそうな説だ。
あとは、……生存に有利?
('A`)(生存に有利……なんで、生存?)
妙に、ミルナ説が脳裏にひっかかる。
首が伸びて有利になることって、なんだろう。
ろくろっ首なら相手をびっくりさせることと、遠くが見えたりすることなんだろうが。
宇宙人だと、特に思いつかない。
454
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:43:40 ID:4Pykjo5k0
遠くが見えるのは、望遠鏡とかそっちを使ったほうがよっぽど早いので却下。
人間乗っ取ってるんだから、それくらいできるだろう。
('A`)(あとは、びっくり……びっくり?)
びっくりさせることのメリットは……ああ、相手から逃げるチャンスができるとかか。
でも、宇宙人に天敵なんているか?
それに人間をのっとってちゃんとカモフラージュできてるはずだから、わざわざ人間の体から逃げる必要なんてないよな。
せっかくのっとった大事な肉体。そいつを捨てるほどの理由なんて。
('A`)「!」
今、天才的なひらめきが走ったような気がする。
('A`)「キリン星人がとりついた人間の首が伸びる理由……」
大昔にテレビかなんかでみた、エイリアンの映像が脳裏によぎる。
人間の体を捨てて、そこから出てくる理由。
('A`)「それは……」
そう。それは……
455
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:44:20 ID:4Pykjo5k0
. . . .
(*'A`)「そこからキリン星人が、産まれるからだ!!」
人間の体を食い破って、誕生するエイリアンの姿。
弱そうな人間の体から、完全体に進化する。もうこれっきゃない!!
(; )「あ。ああー!!」
川 )「なるほど。その手があったか」
ξ; )ξ「……う」
聞こえてくる反応が、なんかいい感じの気がする。
この路線はなんかよさそうだ。
答えに詰まってたところが、なんかいい感じに話をタメてたっぽくなってて、さらにいい感じだ。
456
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:46:08 ID:4Pykjo5k0
ξ; )ξ「うまれるって……? 体の中から、そんな変なものが出てくるっていうの?」
( )「さっき、首の話をしてたし。出てくるなら首かな?」
川 )「首からメリメリばきばきぐにゃぐにゃ……ギャー。
その結果、伸びる首か?」
ξ; )ξ「ひ」
ツンの声が露骨に弱気になった。なかなか悪くない反応だ。
なんかいい感じに、話が盛り上がっているような気がする。
俺が考えた話で盛り上がるのは、悪くない気分だ。
これぞ、百物語の醍醐味ってやつだろう。
( )「出てきたあとは、どうするんだお?」
(;'∀`)「ええと」
訂正。
まだ油断してはいけない。一つ話したら、一つなんかを直さなきゃならない。
宇宙人は人間の首から出てくる。めりめりバキバキぐにゃぐにゃで、ギャーはとりあえず採用しておこう。
そこから先。宇宙人がすることと言ったら、やっぱり定番は……
457
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:46:52 ID:4Pykjo5k0
(;'∀`)「地球侵略」
( )「はぁ?」
とりあえず口にしてみたが、思いっきり冷たい声で返された。
言葉にするならば、「なにそれ、馬鹿なの?」というくらいの反応。
誰だよ、今の声。地球侵略っていったらオカルトやSFの王道だろ……多分。
(;'∀`)「侵略じゃなくて、でも侵略的な……侵略」
宇宙人の目的と言ったら、とりあえず侵略。
映画とかでよくある地球人とのファーストコンタクトは……、首から爆誕してる時点で無理だなこれ。
地球の調査、地球資源の確保。……この2つは、どっち選んでも地球侵略っぽいな。
ダメだ。頭が地球侵略モードから離れてくれない。
こうなったら、地球侵略はそのままにしとこう。
あと、考えなきゃいけないのは首から出てきた宇宙人がどうするかだっけか?
(;'A`)「そう」
458
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:48:58 ID:4Pykjo5k0
宇宙人。宇宙人……
こいつらが宇宙人じゃなくて、それこそキリンだったら。
そいつらがやることと言ったら。食って、寝て……あと、
('A`)「そう。キリン星人は……」
生き物の大原則。
生き物が生まれて、生きて、そしてやることと言ったら……もう、これっきゃない。
(*'A`)「子孫を残すんだ。それで増える!!!」
一瞬、部屋がしんとした。
聞こえるのは、じぃじぃという耳障りな虫の声。
それで、はじめて周りの物音が聞こえないくらいに、必死になっていたことに気づいた。
ブーンやツンたちの声以外に音がしていたなんて、全然わからなかった。
459
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:50:12 ID:4Pykjo5k0
(;'A`)「……」
( ゚д゚ )「……」
耳を澄ませて、返事を待つ。
普通なら相手の表情で反応がわかるのに、暗い部屋は人の顔なんて見せてくれない。
かろうじてミルナの顔が見えるが、いつもと変わらない表情に見える。
(;'A`)「人間の体を使って、子孫を残して。
それで、また新たな子孫を残そうと……」
一秒、二秒……流れる時間が、絶望的なまでに遅い。
頼む。
誰か、何か言ってくれ。
俺はここから先、どうやって話を作ればいい?
460
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:51:19 ID:4Pykjo5k0
……そんな、じれったいほどに長い時間は何秒続いたのだろうか。
(; )「うわ」
ξ; )ξ「気持ち悪……」
小さな声が上る。
さっきみたいな冷たい声じゃない。たぶん、呆れているとかいう声でもない。
反応は……、どうなんだろうか。
( -д- )「生殖か」
( )「ひそかに紛れ込んだ宇宙人が、人間の体を食い尽くして増殖していくのか」
川 )「ファンシーな名前なのに、凶暴だな」
( )「キリン星人さんこわいお〜」
悪くは、ないような気がする。
怖くはないが、とりあえず気持ち悪いっぽい話にはできたっぽい。
ああ、なんだ。これで怖い話ができたんじゃないか。
461
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:52:05 ID:4Pykjo5k0
(*'∀`)
やればできるじゃないか、俺。
あとは、これまでの話してきたことをちゃんとした話っぽくまとめれば完璧だ。
二度とやりたくないが、ぶっつけ本番でもできるもんだな怖い話って。
(*'A`)「なんかごちゃごちゃしちまったから、まとめるな」
顔が自然とにやけてしまう。
さっきまではそれどころじゃなかったけど、冷静に考えてみればこれまでの話はいい感じだったと思う。
あとは「これは遠い国の話ではない」的な一言を加えれば話は完成だ。
息を吸って、目を閉じる。
俺は話を完成させるために、口を開いた。
.
462
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:53:01 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
話の流れが無茶苦茶になっちまったから最初から話すな。
俺の話は宇宙人の話だ。
宇宙は広い。
それだけ広いんだから、地球以外にも生物がいるかもしれない。
その中には、知性を持つ生命――いわゆる宇宙人もいるかもしれない。
いろんな国の研究者たちがこぞって研究しているけど、まだその存在は確認されていない。
……って、世間では言われているよな。
.
463
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:53:41 ID:4Pykjo5k0
だが、それは間違っているんだ。
世間には公表されていないが、すでに宇宙人の存在は確認されている。
それどころか、やつらはすでに地球に来ているんだ。
宇宙人はいる。
そいつらを俺は、≪キリン星人≫と呼んでいる。
.
464
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:54:27 ID:4Pykjo5k0
キリン星人は地球の環境では長く生きていけない。
だから、キリン星人は人間に取り付くんだ。
キリン星人に取り付かれた人間は、外見からでは区別がつかない。
キリン星人が世間に知られていない、最大の理由がそれだ。
キリン星人は、めったなことがないかぎりは宿主に悪さをしない。
だから、宿主自身も自分が乗っ取られていることに気づきもしない。
ほとんどの宿主は、自分の体に宇宙人がいるってことに気づかないまま生きて、ふつうに寿命を迎える。
――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人はその牙をむく。
だからこそ、キリン星人の存在はこうやって、一部の人間に知られているんだ。
465
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:55:09 ID:4Pykjo5k0
みんなは、俺がキリン星人の名前を出したときに変な反応をしたよな。
「きりん、きりん」って、ひたすら言ってるやつもいたよな。
たしかに、俺もその名前をはじめて知ったとき、同じように思ったよ。
「なんで宇宙人にキリンかって?」
みんなも変だって思っただろう。それには理由がある。
……そう、さっきも話したよな。
キリン星人に乗っ取られた人間は、その首が伸びるんだ。
まるでキリンのように……だから、その宇宙人はわざわざ≪キリン星人≫なんて呼ばれているんだ。
466
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:55:51 ID:4Pykjo5k0
――とはいえ、いつも首が伸びるわけじゃない。
首の伸びた人間がそこらじゅうを歩いていたら、そりゃあもう目立つからな。
もうそこに宇宙人がいるってのがバレバレだろう。そうなったら、一気に駆除の対象だ。
でも、実際はキリン星人がいるって話も、駆除されたって話も聞かないだろう?
キリン星人はさっきも言ったみたいに、めったなことがないかぎり宿主に悪さをしない。
そして、宿主が死ぬと、宿主の体にいるキリン星人もそのまま生を終える。
普通なら、な。
――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人は宿主に牙をむくんだ。
467
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:57:10 ID:4Pykjo5k0
キリン星人は普通、1つの体に1体が取り付く。
だけど、ごくまれに1つの体に、2体以上のキリン星人が住み着くことがある。
そうなった時だけ、キリン星人の宿主の首は伸びるんだ。
その理由は、たったひとつ。
生き物の大原則。
生き物が産まれて、生きて、その中でやることと言ったらセッ……じゃなくて、そう生殖だ。
それは地球外生命体でも、変わらない。
キリン星人もその大原則からは逃れることが出来ないってこったな。
男と女が出会って、子どもが産まれるように……
宿主の体に2体以上のキリン星人が住み着いた時、やつらは生殖を行う。
そして、よろしくやったキリン星人たちは宿主の体の中に大量の卵を産み付ける。
その卵は宿主の体の中で成長し、――ある日一斉に孵化する。
.
468
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:57:51 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「――ある日一斉に孵化する。」
話は順調過ぎるほどに順調だった。
何しろさっき話したことを、もう一回話すだけ。
忘れかけてるところや、考えてなかったとこがあって焦ったが、なんとかそれっぽく話ができたはず。
ツンに怒られそうなセクハラ一歩手前のワードも、ミルナ大先生のおかげでなんとか回避できた。
この調子で行けば、俺の話は終われる。
……だからなのだろう。そこで、どうせならもうちょっと、という欲が出てきた。
.
469
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:58:40 ID:4Pykjo5k0
('A`)「そうやって孵化したキリン星人たちは、宿主の首から」
俺の口は、気づけば止まっていた。
孵化したキリン星人が、宿主を殺して出て来る。
映画とかならば、話のオチに当たる部分だ。
……だけど、なんとなく物足りない。
というか、ひっかかる。なんかこの部分の出来がイマイチのような気がする。
ツンが絶好調だったら、多分ツッコミが入ってるだろう。
('A`)(やっぱ、首が伸びるって無理あるよな)
キリン星人の被害者は、首が伸びる。
これは、いい。というか、調子に乗って作った前提条件だからもう動かせない。
宿主の体で孵化したキリン星人(子)が、宿主殺して首から出てくる。
これもいいと思う。話に無理はないし、首というワードは何とか出せている。
そこまで考えて、俺は致命的な事実に気づいてしまった。
.
470
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 22:59:46 ID:4Pykjo5k0
(;'A`)(やべぇ。被害者の首、伸びてねぇじゃねぇか!!!)
考えてみればそうだ。
「首から出てくる=首が伸びる」にはならない。
さっきは勢いとか雰囲気で流されていたが、これはヤバい気がする。
(ii'A`)(どうする。このまま行くか? このまま行って、大丈夫なのか?!)
言葉が出てこない。
さっきは上手く話が進んだ。でも、次もそれでいけるかは……わからない。
途中でツッコミが入って、どうしようもなくなるくらいなら、いっそ――ここで話を盛るべきじゃないのか。
471
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:00:37 ID:4Pykjo5k0
( )「ん、どうしたお。ドクオ?」
川 )「大便か?」
( )「そうやって、ずばりと言われると……ちょっと恥ずかしいんだけど。
せめて、お花をつみにいくとかそんな感じで……」
川 )「そう照れることはない。排泄は立派な生理現象だぞ」
周りから声が上がり始める。
このまま黙っているのはマズイ。
(;'A`)「なんか喉が痛くなって……」
咳を無理やり出して、言い訳をする。
「話しすぎか?」とか言いながら、何度か咳き込む。
もちろんその間も、頭はどうやって「首が伸びる」事件を解決するのか必死だ。
(;'A`)(なんかそれっぽいことないか。考えろー、思いつけー)
472
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:01:37 ID:4Pykjo5k0
宇宙人パワーで首が伸びると、ゴリ押しできる自信は俺にはない。
となると、それっぽい設定を追加するしかない。
(;'A`)(首が伸びる。首が伸びる。首、首……)
首が伸びた人間なんて見たことがない。それこそ、ろくろっ首とか妖怪だ。
死体だったとしても、聞いたことが無い。
不自然に首が伸びた死体がいくつも発見されたら、それこそネットやテレビで大騒ぎだ。
じゃあ、どんな状況なら自然なんだ?
('A`)(……首吊り死体とか? 本当に伸びるのかどうか知らないが)
首吊り。首吊りならまだ、マシなのかもしれない。
キリン星人は、人間を乗っ取ってる設定なんだから、宿主の行動も操れるだろう。
となると、首を吊らせること自体はセーフ、と。
473
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:02:19 ID:4Pykjo5k0
セーフなんだがなぁ……。
キリン星人が産まれるだけなら、別に首を伸ばす必要なんてないんだよなぁ。
そもそも、普通に宿主殺せばいいだけなんだし。
(>'A`)>(やべぇ! とりあえず首吊り、採用してそのまま突っ走るか?!)
とりあえず生まれたばかりのキリン星人は力が弱いから、自力では宿主から出れない。
親に当たるキリン星人は、宿主の体を操って首を吊らせるとか、そんな感じでごまかして……
(>'A`)>「……あ」
――そこで、ふと思いついてしまった。
これまでの話と合わせて考えてもぱっと見、矛盾はなさそうに思える。
我ながら恐ろしいことを、思いついてしまったかもしれない。
今日の俺はきっと、神がかっているんだろう。
.
474
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:03:04 ID:4Pykjo5k0
('A`)「すまん。心配をかけた。
……孵化したキリン星人たちの話だったよな」
( ゚д゚ )「そうだ」
('A`)「孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ」
一度口にしてしまえば、まるではじめからこうなることが決まっていたかのように話は続く。
まるで自分が、物語を作る機械になったようだ。
俺じゃない何かが、俺じゃないモノが語る、騙る。
深く考え込まなくても、口は勝手に物語を作り上げていく。
.
475
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:03:44 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ。
死んで抵抗力を無くした宿主の体を食い破って、宇宙人たちは外の世界に出ていくんだ。
孵化した宇宙人たちは、死体の体内を這いずり回り、口や首を食い破って出てくる。
そのせいで死体の首がキリンのように長くなるから――その宇宙人はキリン星人と呼ばれるようになったんだ。
……なんで首を吊るのか、って?
ああ、俺もずっと不思議だった。
宿主が死ぬなら、その殺し方はなんだっていい。それこそ飛び降りとか病死とかでもいい。
俺も、はじめそう思ったさ。
でも、違うんだ。
キリン星人が、宿主の首を吊らせるのにはちゃんと理由がある。
.
476
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:05:01 ID:4Pykjo5k0
首を吊らせる理由。それは、2つある。
そのうち1つは、単純に時間がかかるからだ。
孵化したばかりのキリン星人は、死んだ宿主の体から外に出るのに時間がかかる。
セミの幼虫だって、羽化には一晩くらいかかるだろう。そんな感じだ。
だが、そっちの理由はそんなに重要じゃない。
キリン星人が宿主に首を吊らせる最大の理由。
お前らは……首吊り死体を見つけたら、普通どうする?
警察を呼ぶ? 救急車……それもそうだな。
わかった。救急車か警察が来る。それから、その後は。
死体を、下ろすよな。
死体を下ろして、回収して……そいつが墓の下に行くまでに、何人もの人間が接触するよな。
……キリン星人はな、そうやって接触した人間の体に、取り付くんだ。
477
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:06:25 ID:4Pykjo5k0
そう。
キリン星人が、宿主に首を吊らせるのは、生まれた子に新たな宿主を与えるためだ。
宿主とともに親のキリン星人は死に、死んだ宿主を食い破って子供たちはこの世に生を受ける。
そして、自分が産まれた死体に接触してきたものを新たな宿主とする。
生まれたキリン星人はこうやって、宿主を見つけその体に住み着くんだ。
そして、宿主に気づかれないままひっそりと生きる。
そんなふうにして、キリン星人にとりつかれた人間はたくさんいる。
そして、そんな宿主の中のごく一部が、また別のキリン星人に接触し……次代を産むための犠牲者となる。
ああ、そうだ。
そいつは体内に無数の卵を産み付けられて、キリン星人の意思に命じられるまま首を吊るんだ。
そして、そこから新たなキリン星人たちが生まれる。
.
478
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:07:22 ID:4Pykjo5k0
……
まぁ、取り付くっていっても、全部が全部成功するわけじゃない。
中には場所やタイミングが悪くて、虫や動物に食われちまうやつも居るだろう。
そういった虫や動物は宿主にはなれない。
理由はわからないがたぶん、繁殖ができないんだろう。
だから、虫や動物にとりついたキリン星人は、なんとかして人間にたどり着かなければならない。
そいつらはどうするか、って?
食物連鎖ってのがあるだろ。
キリン星人がとりついた虫や動物は、当然、食ったり食われたりする。
自分のいる虫や動物の場合が死んでも、たいていの場合キリン星人は死なない。
……本来の宿主じゃないからな。
キリン星人は自分の仮の宿主を食ったものに、新たに移り住むんだ。
こうしてキリン星人は仮の宿主をどんどん変えていき、いつか人間にたどりつく。
まぁ、こっちはそんなに確率は高くないんだがな。
大半のキリン星人たちは人間にたどり着く前に、死ぬ。
だけど、そうやってのっとられた人間のうちの、何十人か何百人かに一人が……体の中に卵を宿して、その卵をかえすんだ。
自分がはじめて外の世界に出た、その場所にかえって。
そこで首を吊らせて、その伸びた首を食い破って。キリン星人はその数を増やすんだ。
.
479
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:08:11 ID:4Pykjo5k0
自殺の名所ってあるだろ。
なぜか、その場所でだけ自殺が続くっていうそんな場所。
首吊りが続く場所があったら、近づかないほうがいい。
首吊りの名所っていうのは、キリン星人たちの産卵場だ。
いや、孵化した宇宙人が誕生する場所……と言い換えたほうがいいか。
運の悪い宿主が死を迎えるその場所で、新たな生き物が生を受ける。
そして、そこにやってきたやつのうち何人かに一人が、また新たな苗床となり、そこで首を吊る。
なんども首吊りが起こる場所ってのは、そんな場所なんだよ。
よく言うだろ。自殺の名所なんかにうかつに近づくなって。
それは、そういうことなんだよ。
――人が近づいてはいけない場所には、ちゃんとした理由があるってことだ。
.
480
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:09:46 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
息をついた瞬間、世界に音が戻ったような気がした。
夢から覚めたときのように、頭が少しぼんやりとしている。
汗をかいたのか、濡れたシャツはさらにベタベタになっていた。
(;'A`)「……ふぅ」
いまいち自覚がないが、俺の話はちゃんと終わったみたいだ。
話さなきゃならないことはまだあるかもしれないが、今は思いつかない。
部屋の中は静かだ。
目を凝らして、反応を探る。
とりあえず、一番文句を言いそうなツン。アイツの反応さえよければ俺の話は完全に終了できる。
481
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:10:46 ID:4Pykjo5k0
ξiii )ξ「ムリ。なんかもうムリ。きもちわるい……
うじゃうじゃしたのって、ほんとダメ」
しばらく耳をこらしていると、やっと女の声が聞こえた。
たぶん、ツンの声。
妙に大人しい感じだが、怒ってるわけではなさそうなので、ほっと息をつく。
川 )「そうか? 私は面白いと思うんだが。
こういう奇妙な生態の生物の話を聞くと心が踊らないか? 虫とか動物とか微生物とか」
ξii ⊿ )ξ「あわわわわ、やめ、やめてぇ」
川* - )「ほれほれ、よいではないかよいではないか。
個人的に寄生虫とか、すごぉく心が踊るぞ。あれも宿主を操るやつがいるとか」
いや、ちょっと待て。
なんか妙に楽しそうだ。クーの美しい声がツンをからかっている。
482
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:12:20 ID:4Pykjo5k0
ξii ⊿ )ξ「やめてぇぇぇ」
川* - )「体の中で増えて、卵がうじゃうじゃびちびち、うごうご、ぞわぞわ」
ξii ⊿ )ξ「ひぃぃぃ……」
2人のやりとりが、ものすごく気になる。
というか、この流れなら、ツンにこれまでの文句の仕返しができそうな気がする。
……だが、ここでツンを怒らせたら最後、困るのは俺だ。
('A`)(とりあえず、ツンは大丈夫っと)
とりあえず今は、キリン星人に対するクレームがなければそれでいい。
このまま話を聞いていると余計なことを言いそうなので、顔を別の方向に向ける。
ミルナと、あとはショボンとかそのあたりの反応はどうだろう。
483
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:13:04 ID:4Pykjo5k0
( )「東某の佐久車緑地もかな?」
( )「なんだお、それ?」
暗闇に目を向けると、全然関係のない話が始まっていた。
とうぼう? さくしゃりょくち?
……こいつらが何を言っているのか、全然わからない。
目を細めてみても、人影っぽいものが見えるだけで、その表情もよくわからなかった。
( )「知らない? 佐久車緑地の首吊りの木って言ったら、そこそこ有名な怪談スポットだよ」
('A`)「なんだ。首吊りつながりだったのか。
てっきり別の話がはじまったんだと」
( )「ごめんごめん。首吊りで有名な場所って言ったら、思い浮かんでさ」
ショボンらしき声が、一人盛り上がっている。
その声を聞いた感じでは、こちらも俺の話に対する文句とかはなさそうだ。
できれば、キリン星人についての話が聞きたかったんだが、それは贅沢だろうか?
484
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:14:09 ID:4Pykjo5k0
( )「トーボー?」
川 )「東某といえば、ショッピングモールで有名だったところか」
( )「そうそう。ほら、僕たちが中学くらいのとき、結構テレビに出てた」
ξ )ξ「今、どうなってるのかしら。あんまり聞かないわよね」
途中からツンたちの声も混じって、楽しそうに話が進む。
地元の話って盛り上がるよな……。俺も、普通に宇宙人じゃなくて怪談スポットの話をしておけばよかった。
そうだったら、あんな必死に考えなくても話がすんだろうに。
( )「それは、あれじゃない?
……東某連続変死事件。相次ぐ謎の変死に陰謀だ殺人だなんて噂も。
ちょうど首吊りの木のある辺りで起こったって、ネットではちょっとした騒ぎだったよ」
( )「それ、キリン星人がやったのかお!?
ほんとーにいたのかお、キリン星人!!」
ξ )ξ「ううっ……もうその話やめて」
485
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:14:57 ID:4Pykjo5k0
自殺の名所に、変死事件。
事実って言うのは作り話よりも怖いもんだと思いながら、汗を拭う。
「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」――自然と口から出たあの言葉は、案外間違っていなかったのかもしれない。
川 )「あれは感染症だろう? 一時期は、なにかと騒ぎになったが」
( ゚д゚ )「数年前の話だな」
( )「クーは夢がないねぇ。
きっちゃん先輩とか、旭とかこういう話大好きだよ」
( )「ニュースに白い服の人いっぱい出てたやつかお? あれ、こわかったおね〜」
ショボンたちの話は続いている。
キリン星人が本当にいたら、こんな感じで話題になったんだろうなと、ふと思った。
.
486
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:15:52 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
東某市の佐久車緑地、建逃平和公園、没根多倉庫――。
自殺の名所の名前をいくつか上げて、ショボンたちの話は止まった。
('A`)「……蝋燭、5本くらい消してもいいんじゃね?」
( )「ほら、話したのはドクオだけだし」
川 )「その後、ショボンがひたすら語り倒していたがな」
( )「消すロウソクは1本だからな!」
ショボンの話はひたすらに豊富だった。
このあたりにこんなに自殺スポットがあるなんて知識、正直欲しくなった。
ついでにいうなら、その全部がいわくつきなんて話も知りたくなかった。
というか、いわくがありすぎて、本当にキリン星人っているんじゃねえか?
……なんて、一瞬思いかけた。
だが、今作ったばかりの宇宙人が存在するはずなんてないので、即座に脳内で却下する。
487
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:16:55 ID:4Pykjo5k0
とはいえ全部が全部、適当だった俺の話も、「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」の一点だけは本当にあっていたらしい。
それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。
ただ自殺の名所にだけは今後絶対に行かないと、心に決めた。
( )「僕、平和公園にもう行けないお……キリン星人が出るお」
ξ )ξ「……うぅ。キリン星人はもうやめて……」
( ゚д゚ )「大丈夫か?」
ξ )ξ「なんとか……」
まだ話している声は聞こえるが、このあたりで俺の番もようやく終了というとこだろう。
キリン星人の名前がまだ聞こえるのが、なんとなく嬉しい。苦労したかいがあるってもんだ。
……そう思いながら、俺は畳に手をつく。
ザラリとした感触を感じながら、腰を上げて立ち上がる。
('A`)「蝋燭消してくる。とりあえず、1本で」
( )「あったりまえだろ!」
( )「いってらっしゃいだお〜!」
488
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:17:47 ID:4Pykjo5k0
部屋を軽く見回す。
蝋燭は二間先。開けっ放しにしてある襖の向こうだ。
(;'A`)「よっ、と」
少しだけ明るい方向を目指し、おそるおそる足元を探る。
かろうじてぼんやりと見える形を避けつつ、なんとか転ばないように進む。
近くに何かがあるはずなのに、よく見えないというのは、怖いもんだと改めて思う。
1歩、2歩と進んで、腕を伸ばして襖を探る。
何度も通ったはずなのに歩きにくいのは、きっと最初よりも暗くなっているせいだろう。
川 )「やっぱり寄生虫か……」
( ゚д゚ )「土地の穢れ、呪いのあたりも近いと思うが」
( )「僕はやっぱり、エイリアンを推したいなぁ」
クーたちの声を背に、襖を越えて次の部屋へと入る。
……あの話は、俺の話の続きだったんだろうか。
気にはなるが、これまで蝋燭を消しに行く途中で戻って来たやつはいない。
というか、やったら間違いなく弱虫認定される。いくらなんでもそれはゴメンだ。
後ろ髪を引かれる思いをぐっとこらえて、俺は足を進める。
489
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:19:18 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
隣の和室は、四方を襖で区切られただだっ広い部屋だった。
そこには、家具どころか荷物1つ置いていない。
ついさっき入ってきた側の襖と、蝋燭が並べてある部屋へと続く襖だけが開け放たれている。
('A`)「……」
俺達がいた場所よりも、少しだけ明るい部屋。
そこには、当たり前だが誰も――いや、
いいや、――
.
490
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:20:30 ID:4Pykjo5k0
(=゚д゚)
そこに、動く気配があった。
蝋燭のある奥の部屋からぬっと現れた影は、俺よりも遥かに小さい。
というか、小さすぎた。人というよりは、もっと小さい。
(=゚д゚)
(;'A`)「ぬこ?!」
なぁお゙ぉう、と鳴く声が響く。
猫だ。たしかに、猫がいる。
模様まではわからないが、結構大きな猫のような気がする。
ミルナの爺さんの、猫なんだろうか?
.
491
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:22:02 ID:4Pykjo5k0
(=゚д゚)
その猫は俺の方へと寄ってくると、口から何か落とした。
何かを咥えていたのだろう。
プレゼントかなにかのつもりか? そう思って、視線を足元へ落とし――
(;゚A゚)「な、なぁぁっ!?」
――声を上げていた。
全力で叫んだつもりだったけど、出たのは間抜けな声だった。
ろくに言葉が出てこない。体は動かなくて、ただ馬鹿みたいにそれを見つめるだけ。
.
492
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:22:50 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「な、な、なん」
視線の先にあるのは、毛玉みたいな何かだった。
和室に転がっているにはあまりにも不自然なそれは、ピクリとも動かない。
黒くって、猫よりももっと小さくて――ヒモのようなもののついたそれは、なにかの生き物。
その、死体。らしき、もの。
.
493
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:24:21 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「しんで、る?」
たぶん、それはネズミなんだろう。
見慣れない毛玉のようにしか見えない、生き物だったもの。
猫よりも小さなその体が、頭の部分が不自然な角度で曲がっている。
曲がっている。いや、曲がっているというよりは――、首が、のびて、いるような。
(;゚A゚)「……あ」
同じだ。
あの宇宙人と同じだ。
ひとに取り付く宇宙人。俺が作った、キリン星人。
.
494
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:25:08 ID:4Pykjo5k0
キリン星人にとりつかれた、犠牲者の死体。
首の伸びたその死体に触れたものは、キリン星人に体をのっとられる。
だったら、あのネズミに触ったら俺も。キリン星人に乗っ取られる?
.
495
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:26:13 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「……ちがう」
大丈夫。大丈夫のはず、だ。
これが本当にキリン星人の仕業だとしても、動物に取りついているだけなら何の害もないはずだ。
その死体を食うなんて、馬鹿なことをしない限りは。
(;'A`)彡「大丈夫。こいつはただのネズミ。なんともない」
頭をおもいっきり、振る。
混乱しかけた頭は、その動きで少しだけ冷静さを取り戻す。
496
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:27:44 ID:4Pykjo5k0
俺は馬鹿か。
キリン星人なんてものいるはずがない。そんなの、話をでっち上げた俺が一番わかってるだろう。
それが実現するなんて――、
.
497
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:28:54 ID:4Pykjo5k0
生暖かい感触。
.
498
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:29:36 ID:4Pykjo5k0
生暖かい何かの感触が、俺の思考を完全に止めた。
それが、もう一度――。
(;゚A゚)「ひっ」
はっきりとした感触。
暖かい何かが確かに動いて――、
.
499
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:30:38 ID:4Pykjo5k0
――なぁお゙ぉう。
.
500
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:32:01 ID:4Pykjo5k0
弾かれたように、足元を見る。
俺の足。
ちょうど何かが当たって、動いたそのあたり――。
(=゚д゚)
(; A )
そこにはあの猫がいた。
ああ、そうだ。この部屋には猫がいた。そんなことも頭から消えていた。
(=゚д゚)
生暖かい体が、足に擦り付けられている。
褒めろというのか。それとも「どうだ。驚いたか」とでも言うように、金の目がこちらを見上げている。
.
501
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:33:17 ID:4Pykjo5k0
猫だ。なんてことはない、ただの猫。
宇宙人がとりついているわけでもない、ごく普通の。普通のはずの猫。
(;゚A゚)
(=゚д゚)
その体を振り払いたいのに、俺の体は指の一本も動かせない。
なぁお゙ぉう、とまた猫が鳴く。
俺は猫と、ネズミの姿を見下ろして――、
.
502
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:35:06 ID:4Pykjo5k0
( ゚д゚ )「ラギ。駄目だろう」
.
503
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:36:23 ID:4Pykjo5k0
静かな声がして、俺はようやく動きを取り戻した。
( ゚д゚ )「驚かせた」
(;'A`)「みる、な? なんで、」
和室の中に、見慣れた姿が立っている。
ほとんど表情の変わらない顔に、暗闇の中でも妙に目立つ白い肌。
――隣の部屋に居るはずのミルナが、いつの間にかそこに立っていた。
( ゚д゚ )「声が聞こえた」
(;'A`)「それで、か」
俺が毛玉に気を取られている間に、ミルナは隣の部屋から飛び出してきたのだろう。
考えてみれば、ここはミルナの爺さんの家だ。
ミルナが真っ先に動くのは、全然おかしなことじゃない。
504
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:38:08 ID:4Pykjo5k0
( ゚д゚ )「すまなかったな。ラギはいつもこうなんだ」
('A`)「ラギって、」
( ゚д゚ )「こいつだ」
(=゚д゚)
( ゚д゚ )「獲物を取るたびに、ラギは見せに来るんだ」
白いミルナの手が猫を抱き上げ、そのついでのようにあのネズミのような毛玉を拾う。
そうするのが当然というような、仕草だった。
死体なのかもしれないのに、ためらう様子すらなかった。
――宿主の死体に接触したモノに、キリン星人は取り付く。
.
505
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:39:10 ID:4Pykjo5k0
さっきまで話していた宇宙人の姿が一瞬、浮かぶ。
それから、首の伸びたネズミと、猫を抱えたミルナが重なる。
あのネズミが、キリン星人に取り憑かれていたとしたら。
宇宙人は、あの猫にいるのだろうか。
それとも、素手で死体を触った……ミルナに?
違う。動物に取りついている宇宙人は無害だって、さっきも考えたはずだ。
たしか、その死体を食ったりしないかぎりは大丈夫。
ミルナは猫や蛇なんかじゃない。まっとうな人間なんだから、そのへんで死んでるネズミなんか食わない。
だから、大丈夫。
いや、……本当に?
('A`)(馬鹿馬鹿しい)
506
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:40:34 ID:4Pykjo5k0
あんなのは、俺が作った作り話だ。
キリン星人なんてものは、この世のどこにも存在しない。
そう頭では何度も否定しているのに、気づけば頭の片隅にはキリン星人のことが浮かんでいる。
もう忘れろ。
俺の順番は終わったんだから、今度こそ完全に忘れてしまえ。
俺には関係ない。
キリン星人も。東某の佐久車緑地も、建逃平和公園も、没根多倉庫も。
首吊りの木も、死が連続する土地も。
あの首が伸びたように見えたネズミだって、全部俺とは関係ない。
.
507
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:41:53 ID:4Pykjo5k0
( ゚д゚ )「片付けてから戻る。
悪いが、死骸の件はしばらく内密にしてほしい」
その声で、我に返った。
ミルナを意識から消すくらいに、俺は考え込んでいたらしい。
( ゚д゚ )「ドクオ?」
ミルナは今、死骸と言った。
死骸ということは、やっぱりさっきのネズミは死んでいたらしい。
それなのに、ミルナは顔色一つ変えもしないで、死体を握り続けている。……それを黙っていろと言うのだろうか。
宇宙人の存在を隠蔽。
一瞬浮かんだ言葉を、俺は即座に否定する。
('A`)「……あ、ああ」
508
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:43:42 ID:4Pykjo5k0
そうだ。考えてみれば、変な話じゃない。
百物語中に本当の死体なんて、宇宙人云々を差し引いても、洒落にならない。
猫がいるだけでも驚いたのに、そこにネズミの死体まであったなんて言ったら、この部屋を通るのも嫌になるだろう。
最悪ツンなんかは、百物語を中止にするなんて言い出してもおかしくない。
('A`)「わかった」
これまで散々、怖い話をしてきた。
人が死ぬ話はいくつもあった。
それでも、本物の死を見たのは、これがはじめてということに気づく。
作り話じゃない、本物の死。
その事実に、背筋がぞくりとする。
それが、ただのネズミであったとしても、ミルナのようにその死体に触れたくはなかった。
( ゚д゚ )「すまないな」
ミルナの表情は変わらない。
生きている猫と、死んだネズミを抱いて、その姿はいつも以上に普通だった。
そう。いつものミルナだ。
509
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:45:04 ID:4Pykjo5k0
いつものミルナのはずなのに、その瞳だけが猫の目のように光っている。
( ゚д゚ )
ゆっくりまばたきをして、目をこする。
止まりそうになる息で、無理矢理呼吸をする。
一回、二回。目を閉じて、息を吸って吐く。
( ゚д゚ )「ドクオは先に行ってくれ」
……もう一度見直したミルナの瞳は、もう光ってはいなかった。
なにもない。いつもと変わらない。
いつか見たような気がする、金に光る瞳も、白い鱗も――どこにもありはしない。
510
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:45:49 ID:4Pykjo5k0
(;゚A゚)「……あ、ああ」
死体を見て、混乱していたんだろう。
やっとそれだけ口にすると、足を動かしはじめた。
気のせいだ。気のせいに違いない。
そう言い聞かせたのに、ミルナの顔をもう一度みる勇気はない。
(;'A`)「……」
心臓の音が止まらない。
クーやツンのやつ。よくこんなとこを歩いたよな。なんて、どうでもいいことを考えて、なんとか気をそらす。
.
511
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:46:58 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
そして、蝋燭はそこにあった。
部屋は、これまで通ったどの部屋よりも明るかった。
ゆらゆらと揺れる、橙色の列が火鉢の中に並んでいる。
かぎなれない匂いは、遠くにある婆ちゃんの家を思い出す。
('A`)「1本、消せばいいんだよな」
ぽつんと、一つ離れて残っている蝋燭を手に取る。
敷かれた灰色の粉に模様が残って、蝋燭はあっさりと持ち上がる。
.
512
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:47:47 ID:4Pykjo5k0
ゆらゆらと揺れる火に、青白い蝋燭。
下の方を持っているはずなのに、手が焼かれているように熱い。
ジジジ、と聞こえないはずの音が聞こえた気がする。
少し強く吹けば、火は歪み消える。
焦げたような。だけど、それとは少し違うような匂いが強くする。
('A`)「これで終わり、と」
役目を終えた蝋燭を、火鉢の中に放り込む。
ゆらめく蝋燭はたくさん残っている。
火の消えているもの、倒れているものもあったが、全体に比べればそう多くない。
百話はまだ遠い。
この蝋燭が全部消えるまでに、どれだけの時間がかかるんだろう。
.
513
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:49:12 ID:4Pykjo5k0
百物語をした。
蛇の話だった。たわいのないおまじないの話だった。
廃村へ行く話もあったし、たんなる偶然の話も、どこかわからない国の馬の話もあった。
蝋燭が、ゆらゆらゆれる。
暗い部屋の中で蝋燭だけが揺れる光景は、異世界のようだ。
テレビでも見たことのない、風景。
ここは……どこなんだろう。
ミルナの爺様の家なのは、わかっている。
そう。だけど、思ってしまうのだ。
――この家はおかしいんじゃないか。
さっきのネズミも、誰のものかわからないカップも、泣きたくなるほど悲しい誰かの声も、ミルナの肌に見えたウロコも。
全部、ビビりまくっている俺の気のせいじゃないとしたら……。
この暗闇の中にいるのは、誰なんだろう?
.
514
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:50:00 ID:4Pykjo5k0
蝋燭の部屋を抜け、猫とネズミがいた部屋を抜け、暗闇の中へと進む――。
闇が、一番深い部屋。
俺達がずっといる、百物語の会場。
( )「ドクオ」
暗闇の中から、待っていたとでもいうように声が上がる。
ツンやクーじゃない。
ブーンじゃない。たぶん、ショボンでもない。
( )
川 )
( )
ξ )ξ
暗い部屋の中には、誰がいるのかわからない。
相手が男なのか、女なのか。知っている相手なのか、知らない相手なのか。
ここにいるのは何人なんだろう。そもそも、ここにいるのは――
.
515
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:51:36 ID:4Pykjo5k0
( )「続きをはじめよう」
(;'A`)「……」
( )「嫌だなんて言わないよな。
だって、ドクオは怖い話が大好きなんだから」
蝋燭はまだ大量に残っていた。
百物語は半分も超えていないし、きっとこれからも続く。
夜明けはきっと、まだ遠い。
ξ )ξ「早く入ってきなさいよ」
( )「おつかれさまだおー」
川 )「ミルナはまだなのか?」
( )「どうする、続きはじめちゃう?」
.
516
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:52:41 ID:4Pykjo5k0
足を進めれば、進めるほど灯りは遠ざかっていく。
元の位置だと思うところに腰を下ろせば、相手のシルエットくらいしかわかるものがない。
そんななかで、声が聞こえる。
( )「さあ、続きを始めようか――」
じぃじぃと、夜の虫の声が響く。
目の前の誰かの笑う顔が、見えたような気がした。
.
517
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:53:29 ID:4Pykjo5k0
('A`)百物語、のようです
宇宙人あらわる! 了
(
)
i フッ
|_|
.
518
:
名も無きAAのようです
:2017/09/23(土) 23:57:21 ID:qtG6GbmA0
乙 待ってたぞ
相変わらず怖い
519
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 00:24:20 ID:ZnUlYM0o0
おつお
内側から侵されるってぞくぞくくるよね
520
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 00:24:23 ID:VGmiAEbc0
話もさることながら、この環境自体怖いよな…今更気付いてドクオと一緒にgkbr
今年もおつ
521
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 00:38:08 ID:HLc7xuJ60
乙 楽しみにしてた
今回もおもしろかった
522
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 02:31:29 ID:CL/iQY3I0
おつ
さて、夜明けがくる日は、百物語の蝋燭をすべて消す日はいつになるんだろうか
つづきを期待しながら最終話がちゃんと来るのを待つぜい
523
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 11:02:03 ID:KP8ji4xk0
おつおつ
ギャグで油断させてからのフルスイングやめてもらえませんかね
524
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 12:03:22 ID:TunmHqTk0
おつ!!!!
信じて待ってた!!
宇宙人なんてどうするのかと思ったら……
すごく良かった!!
蛇はどこで出るんだろうか
525
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 12:32:34 ID:PLpGmfvs0
蛇の話はこれだな
http://iroirotunpeni.blog11.fc2.com/blog-entry-655.html
('A`)百物語、のようです 蛇の話
526
:
名も無きAAのようです
:2017/09/24(日) 21:12:49 ID:HdH.YXxE0
最終話見届けたいが、ずっとこの周期に密度だと仙人にならないと無理そう
527
:
名も無きAAのようです
:2017/09/25(月) 15:14:25 ID:MIEUGMsU0
もし百物語すべて話すならば1度に複数話を投下するしかないな……
528
:
名も無きAAのようです
:2017/09/27(水) 02:20:52 ID:fY0BfzJA0
>>525
ありがたや
早速読んでくる!
529
:
名も無きAAのようです
:2018/08/05(日) 01:43:20 ID:nzc6pSfw0
一年に一話なんだからもっと推敲しなよ…ひどすぎ
530
:
名も無きAAのようです
:2018/08/05(日) 13:20:12 ID:WFnAw5hU0
そろそろ百物語の季節 毎年楽しみにしてます
531
:
名も無きAAのようです
:2018/08/06(月) 09:20:52 ID:HuA8KXV20
酉なしですが報告
今年は時間がとれないため、延期or中止となります
楽しみにされてた方ごめんなさい
532
:
名も無きAAのようです
:2018/08/07(火) 06:54:35 ID:Bm5urXeo0
大丈夫さ、来年がある
533
:
名も無きAAのようです
:2018/08/22(水) 14:40:35 ID:C.Yt/qQI0
怪談夜話と同じぐらい新作を切望してる
来年楽しみにしてるよ!
534
:
名も無きAAのようです
:2019/07/24(水) 14:44:58 ID:/XZxB63c0
今年は来るのだろうか
535
:
名も無きAAのようです
:2019/08/12(月) 01:24:05 ID:s3gfhEJo0
お盆になりましたなぁ
536
:
名も無きAAのようです
:2019/08/24(土) 21:04:31 ID:BQr.Qnfg0
酉なしですいません
時間がとれないので今年も投下はありません
投下をするときはファイナル板の予告スレに書き込みをするので、そのときはよろしくお願いします
537
:
名も無きAAのようです
:2019/08/25(日) 01:43:13 ID:vnuvBoSA0
生存報告ありがとう
なに、ブーン系民にとって1年なんてあっという間だ
538
:
名も無きAAのようです
:2020/11/24(火) 02:24:54 ID:nNIoolY20
他所でも冬百物語が始まったようですね
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