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[SS]壊れた大学生の追憶

1ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:00:23 ID:dTDZPd7A00
7作目です。
これまで同様、世界観は前作までと共通です。
かなり長編になると思いますが、どうかお付き合いください。
よろしくお願いします。

2ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:01:34 ID:dTDZPd7A00


プロローグ



女「大学生になったのね」

大学生「まあな」

笑えない女と、壊れた大学生。

近いうち"優勝者"の称号を手にする二人は、会場の客席で話していた。

第十二回CPUトナメ。

レベル8勢の選手たちが集うこの大会に二人は参加し、敗退した。

今行われているのは決勝戦、週末のユウナくん対突起物!ポンチコの試合だ。

女「第八回の時に挨拶できれば良かったんだけど。変わりすぎていて気づかなかったわ。ごめんなさい」

大学生「ケケッ…コッチのセリフだわ鉄仮面」

女「あれ…?でも歳が合わなくないかしら」

大学生「うっせぇよボケ!浪人留年繰り返してなんか悪いかァ!?」

女「いや、悪いでしょ」

大学生「ケケッ、言うようになったじゃねえかクソ女!」

女「…貴方こそ、一体何があったのか気になるわ」

大学生「はァ?てめーが知る必要ねえよ」

女「…そう」

大学生「ケケケ…てめーに比べりゃ俺なんざ些細な変化だろ…」

大学生はぼそりと呟いた。

女「ん?何か言ったかしら。歓声でよく聴こえなくて」

大学生「何も言ってねえよ黙って試合観とけやボケ。そんなんだからすぐ負けんだよ」

女「…そう。貴方には言われたくないけど、一理あるわ」

大学生「ケケケ…俺は今回一勝してんだよ残念ながらなァ。てめーはシード貰っときながらあっけなく終了だろ?さぁどっちが上なんだろうなァ?」

女「ごめんなさい。形式上は二人とも二回戦敗退だけど、別にいいわ、貴方の勝ちで」

冷ややかに大学生の挑発を流し、試合の行われるステージへと視線を戻す女。

大学生はその横顔を眺めて、小さくため息をついた。

大学生「ケッ…ちっとは笑えや、気色悪い…」

3ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:03:20 ID:dTDZPd7A00




ギル「ポンちゃーん!がんばー!」

パタ「ちょ、はしゃぎすぎだろギル姐」

大学生たちから少し離れた席で観戦しているのは、♀幻のギルティースMk Ⅱと、悲しみのパターソン。

ギル「何よパターソン。アンタもポンちゃんに負けたんだから、どうせならポンちゃんに優勝してもらったほうが格が落ちないでしょ?」

パタ「フン、別にどっちだっていいよ…元々俺に落ちるほどの格なんてねえし…悲しみ…」

ギル「全くもう!いい大人が情けないわねえ。そんなんじゃ次の大型の出場権、私が取っちゃうわよ!」

パタ「好きにしろよ…まあどうせドドンだろうけどな…」

ギル「うっさい!ほんっとネガティブなことしか言わないんだからアンタはも〜!」

パタ「母ちゃんかよ…」

ギル「アンタが子供すぎるのよ!いつまでも私に甘えちゃって!」

パタ「へいへい…今日だって普段の任務だって、誘ってくるのはギル姐からだろ…」

ギル「あん!?なんか言った!?」

パタ「い、言ってねえよ…」

㌘「ひゅーっ、お熱いねェお二人さん」

ギル「あっ、ブラッド!」

そこに合流したのは、愛の㌘ブラッド。

この第十二回大会で初参戦した、フォックス族の新人だ。

パタ「そういうのに見えるか…?」

㌘「え?違うのか?確かに"愛"を感じたんだがねェ」

ギル「フフ、愛にも色々あるものよ」

㌘「違いねェな。さすが、最年長は大人の余裕っつーモンがあるようで」

パタ「大人の余裕があるヤツはこんな怒鳴り散らかさねえって…」

ギル「あん!?」

パタ「すいません…」

㌘「…あり?最年長?でもあのヒト、ギル姐さんより歳上に見えたが、気のせいかい?」

ギル「あの人?」

パタ「あぁ、リカエリス´中将´か。そういやこないだ自己紹介はしてもらったが、詳しい事は何も聞いてねえな。村でも見た事ねえし…」

ギル「そっか、話してなかったわね。リカエリスさんは私の先生よ」

パタ「先生!?ギル姐の!?」

㌘「てェことは、やっぱりあっちの方が歳上なのかい?」

ギル「う、うーん…同い年…かしら…?本当は歳上の筈なんだけどね…」

パタ「はあ?どういう事だよ…」

ギル「ま、とりあえず今は試合を観ましょうよ。あ!ほら!二ストック差よ!ポンちゃんいけーっ!」

パタ「うお、すげぇなアイツ…そりゃ俺が勝てねえ訳だ…悲しみ…」

㌘「ハハ、相変わらずパタさんは、"哀"に溢れてるねェ」

パタ「ほっとけ…」

4ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:04:21 ID:dTDZPd7A00




転校生「フン…レベルの低い大会だな」

BJ「そう?結構頑張ってると思うけどナ。あのポンチコとかいうピカチュウ、ふざけた名前のくせにミカにも引けを取らない動きだヨ」

ゲイ「ああ。ユウナくんも負けてないね。的確な戦い方で僕好みだよ…フフフ…」

また少し離れた席では、無敵の転校生、ξ黒きBlack Joker、綺麗なゲイが観戦していた。

"魔の一族"と呼ばれる魔界出身の者たちは、この世界でもよくつるんでいる。

転校生「俺ならこんな奴ら、五秒もあれば仕留められる」

ゲイ「フフ、それはどうかな。転校生も確かに強いけれどね」

BJ「キミ、黒猫と同じくらいの強さだったでショ。少なくともアイツらはそれより上だヨ」

転校生「大昔の話だろ。今の俺はあの時より遥かに強くなっている。黒猫がこの二十年、修行を続けていたとも思えないしな。動きが鈍っているに決まっている」

BJ「そうかナ。むしろ強くなってたように見えたケド…」

ゲイ「僕は魔界じゃ黒猫くんには会ってないんだよね。どうしていなくなったんだい?」

BJ「サア?いつの間にか消えてたナ。そもそもアイツがいたのはほんの一瞬だったしネ」

転校生「まあ…ヤツは惜しい人材だった。あの戦いの時、ヤツがいれば少しは戦局にも影響があったかもな」

ゲイ「へえ、転校生が人を褒めるなんて珍しい」

転校生「事実を言っただけだ。勿論俺が教育を行った上でなら、の話だがな」

かつて転校生は"無敵の教育係"を名乗り、魔の一族の新入りに戦闘教育を行っていた。

BJ「蒸発と言えば、アメリーナも魔の一族だったんだよネ?」

転校生「ああ。お前と入れ替わりで姿を消した。会ってないんだったか。結局今までどこで何をしてたのかさっぱり分からんがな」

BJ「黒光のヤツが毎日探してたのは今でも覚えてるヨ。かなりお気に入りだったんだろうナ」

転校生「パシリがいなくなって困ってただけだろ」

ゲイ「フフ…黒光のお気に入りと言うなら、間違いなく転校生だろうね」

転校生「気色悪い事を言うな!!」

5ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:05:28 ID:dTDZPd7A00




ウシ「モォォォォォォォ!」

飼育員「うわっ!興奮しちゃってる!落ち着いてウシくん!」

アントン「びっくりしたぁ…」

飼育員「すみませんアントンさん!」

アントン「あはは、大丈夫だよ。会場内の熱気すごいもん。興奮して当然だよね、うん」

動物園のウシとその飼育員、そして天空の虫使いアントンも、この会場に観戦に来ていた。

飼育員「一試合目はポンチコさんの圧勝でしたね…!このまま一気に決めてしまうんでしょうか…!」

アントン「どうかなぁ。CPUトナメは何が起こるか分からないからねぇ」

ウシ「モォォ」

飼育員「ん?どうしたのウシくん」

ウシが後ろを向き、飼育員とアントンも後ろを見る。

アントン「あ!」

ロハス「どーもっす」

そこに歩いてきたのは、若き日のロハスだった。

飼育員「ロハスさん!」

アントン「ロハスくん久しぶり〜」

ロハス「アントン先輩、ご無沙汰してます」

軽く会釈をしながら、ロハスはアントンたちの隣の席に座る。

飼育員「って、ボロボロじゃないですか!どうしたんですか!?」

ロハス「いえ、ちょっと任務帰りで。大した傷じゃないっすよ。試合どんな感じっすか?」

アントン「ポンチコくんが一歩リード!って感じだよ、うん」

ロハス「へぇ…さすがにパターソン先輩やブラッド先輩を倒しただけありますね」

飼育員「ん?先輩って…パターソンさんとは同期だし、ブラッドさんに至っては後輩なんじゃ…」

ロハス「いやいや、トナメに呼ばれたのは俺が早かったっすけど、フォックス族としちゃ二人の方が断然先輩っすよ。俺はまだまだヒヨッコですから」

アントン「ロハスくんはまだ若いもんねぇ。これからもどんどん成長していくって思うと末恐ろしいよ、うん。今でも十分強いのに」

ロハス「ええ、本当に学ぶ事が多いっす。先輩方からたくさん吸収させてもらって、感謝してます」

飼育員「あ!そう言えば私もロハスさんに感謝してますよ!」

ロハス「え?」

飼育員「ロハスさんに勝ったことでウシくんが色んな企業様からオファー頂いて!動物園の来客数も以前の百倍になりました!第十回以降本当にすごい反響なんですよ!ありがとうございます!」

アントン「飼育員さん結構失礼な事言うよね…」

ロハス「ハハ、まあ俺が弱かっただけっすよ。次はそうはいきません!」

飼育員「私もウシくんの育成を日々頑張っていますからね!そう簡単にリベンジはさせませんよ!ふっふっふ!」

アントン「うんうん、切磋琢磨でみんな成長していく…良いことだね、うん!」

ウシ「モォォォォ!」

飼育員「あ、二戦目が始まるみたいですよ!」

6ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:06:41 ID:dTDZPd7A00




セレブ「ひ、人がいっぱい…やっぱりこわいです…」

とろける「びっくりするよね〜。僕たち里の外にはほとんど出ないもんね〜」

鳴りやま「やっぱ決勝だけあってすげえ歓声だなオイ!!しかもそこらじゅうにファイターが紛れ込んでやがるぜ!って俺もファイターだったわ!ワハハハ!!」

セレブリティーヨシオの財力によりVIP席からヨシオ族たちも観戦していた。

奈落「長らく奈落の底にいた儂の耳には少し堪える…」

鳴りやま「老人臭えこと言ってんなよ奈落のジイさん!!アンタもトナメに参戦したからにはあの歓声を受ける側に回ってんだぜ!!あ、もしかして俺の喋りが煩いって意味か!?だったらすまんな!!なんたって俺は鳴りやまぬ事で有名な鳴りやまぬヨシオだからよ!!」

殺意「黙れ鳴りやまぬ、殺すぞ」

鳴りやま「おっす……」

奇跡「あはっ、やっぱりすぐ鳴りやむねぇ♪改名した方がいいんじゃない?きゃは☆」

鳴りやま「う、うっせー!」

勇者「殺意さんはどう思いますか?この試合」

殺意「ふん、さあな。準決までの試合じゃユウナくんが一枚上手に見えたが、今みたいにアイテムであっさりひっくり返るのがCPUトナメだ。予想なんかするだけムダだろ」

勇者(予想ハズレてご機嫌斜めみたいだ…あんまり話しかけないでおこう…)

ヨシオ「いいプリ?あれはでんげきという技プリ。ピカチュウ族の得意技で、遠くからチクチクと面倒くさいプリ」

仮面「ほうほう!」

ヨシオ「そしてあれはファイアボールといってマリオ族の得意技プリ。遠くからチクチクと面倒くさいプリ」

仮面「なるほどプリ!勉強になりますプリ!」

ドヤ顔で雑な解説をするヨシオくんと、律儀にメモるヨシオ仮面であった。

勇者(奇妙な光景だなぁ…)

7ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:07:37 ID:dTDZPd7A00




エーレ「おお、ポンチコくんやりますね。このまま押し切ってしまいそうだ」

ヒーロー「いや、ユウナくんのあの目、隙があればいつでも逆転してやろうという強い意思を感じる。油断禁物だぞ。…しかし同じマリオ族なのに、どうしてこうも違う…あの場所に立ってるのが俺じゃないのが悔しいな」

ポイゾネ「ヒーローにはヒーローの良さがあるよ。大丈夫さ、チャンスはまだいくらでもあるんだから」

殺し屋を微笑ませたエーレヒト、満たされないヒーロー、紅きポイゾネサスくんも、立ち見席から観戦中。

ヒーロー「そうか?このCPUトナメというのもいつまで続くか分からないぞ。主催者は素性の知れない謎の男だしな…」

ポイゾネ「はは、確かにそうだけど…ここまで規模の大きいものになったんだからそう簡単には終わらないんじゃない?初めて出た時はこんな事になるとは思いもしなかったけど」

ヒーロー「そうだな。第一回以降しばらく音沙汰もなく、一回限りのお祭り大会かと思っていた。それが今や世界中で愛され、ポイゾネサスくんもぶっちぎりの最強選手として大スターになった」

ポイゾネ「い、いやいやそこまでじゃないでしょ!言い過ぎだよヒーロー」

ヒーロー「フ、謙遜はよせよ…俺が虚しくなるから…」

ポイゾネ「だんだんパターソンみたいになってない?」

ヒーロー「おっと、すまない。満たされなさすぎて。しかしあの時、ねこくんと出会わなければ君がファイターになることもなかったと思うと、運命的なものを感じるな」

ポイゾネ「そうだね。ほんと、恩人だよ。もちろん僕を鍛えてくれたヒーローやゲンさんたちもね」

エーレ「いや二人とも喋ってないで試合観ましょうよ!?めっちゃアツイですよ!」

ヒーロー「お、おお!すまない」

ポイゾネ「わ!ユウナくんが一気に逆転したよ!」

エーレ「どうなるか分からなくなってきましたね!」

8ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:08:29 ID:dTDZPd7A00




reku「はあ…どっちが勝ってもどーでもいいや…」

妹「どうしたの?お兄ちゃん」

少し離れて世界のrekuiemuと[自称]妹も観戦していたが、rekuiemuは俯いている。

reku「いやだってさ…なんなのあの新人カービィ…あんなド派手な試合されたら僕の出番なくなんない?」

妹「ああ、報いちゃんのこと?」

reku「うん。なんだってあんなの復活させちゃったわけ…?僕への嫌がらせ…?青カービィは僕一人だから安泰だと思ってたのに…」

妹「しょ、しょうがないよ。あの子がいなきゃ死人が出てたかもしれないんだから」

reku「…そーだけどさぁ…」

妹「まあまあ、大丈夫だよ。お兄ちゃんは最古参で根強いファンもいるし、第十回でもしっかり好成績残してるんだから!」

reku「…ま、そうだよね。うん、確かに。よく考えたら僕の方がすごい」

妹「うんうん!分かったら試合観よっか!」

reku「やれやれ、仕方ないなぁまったく。後輩たちの晴れ舞台を観てあげるとするか」

妹「調子に乗るの早すぎない?」

reku「そこが僕の良いところだよね」

妹「すごく悪いところだよ」

reku「お!ユウナくんが勝ったよ!一気に決めた!」

妹「聞いてないや…まあ立ち直って良かったけどさ」

reku「これで次勝った方が優勝だね!面白い展開になってきた!」

妹「うん!ユウナお兄ちゃんがんばれー!あたしに勝ったんだから、優勝しないと許さないよ!」

9ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:09:45 ID:dTDZPd7A00




他にも会場内のあちこちで、数十人のファイターたちがこの試合の行く末を見守っている。

会場に来ていなくとも中継で観ているファイターたちもいることだろう。

世界が注目する決戦。

勝っても負けてもお祭り騒ぎ。



これは、ここに至るまでの物語だ。

10はいどうも名無しです (ワッチョイ 9057-27fb):2021/04/10(土) 22:08:29 ID:w4LUPTDU00
待ってました。
ヨシオ君が仮面に先輩風吹かしてるの笑う

11ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:00:22 ID:USsiN0RY00
初見の方がもしいましたら、ここからは魔炎師ヤミノツルギ†の叛逆を読んでからご覧ください
第一章開幕です
よろしくお願いします

12ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:00:46 ID:USsiN0RY00


第一章



二十年とちょっと前。



とある北の町で、当時小学校低学年だった大学生は暮らしていた。

小学生「みんなまた明日なー!」

友達「おー!またなー!」

小学生はクラスの中心的存在だった。

友達も多く、先生からの信頼も厚かった。

小学生「ん?あいつ、何してんだ?」

少女「うーん…いない…もう…どこいったの…?」

河原の近くでキョロキョロと不安そうに辺りを見回しているのは、十歳にも満たない、小学生と同じくらいの少女。

小学生「おい!おまえどうしたんだ?」

少女「わっ…え…えっと…しょーくんが…いなくなっちゃって…うわあああん!」

小学生「はあ?ちょ、おい!泣くなよ!しょーくんって誰だよ!」

少女「う…うちのペットだよ…一緒に散歩してたの…うぅ…」

小学生「なんだペットか…ったく、一緒に探してやるから、泣くなよ!」

少女「ほんと!?」

小学生「ああ」

少女「ぐす…ありがと!」

小学生「…!そーだよ、そうして笑ってるほうがいい!」

少女「えへへ…」

小学生は、よく笑う少女と出会った。

13ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:02:35 ID:USsiN0RY00

小学生「で、しょーくんはどんなやつだ?」

少女「えっとね、黄色くて、ほっぺたが赤くて、耳が黒くて、尻尾がギザギザ!」

小学生「なんだそりゃ!?なんつー生き物だ!?」

少女「わかんない。ネズミかなぁ?」

小学生「何かわかんないもん飼ってんのかよ!?」

少女「う、うん…ごめんなさい…ぐす…」

小学生「わー!泣くな泣くな!怒ってるんじゃないって!でも変なヤツだな!そんなの目立つから、人に聞いたらすぐ見つかるんじゃないか!?」

少女「あ、そっか…!」

小学生「よし!聞き込み調査だ!」

少女「う、うん!」

小学生「すいませーん!おじさん、黄色くて尻尾ギザギザのやつ見なかった!?」

小学生は茶色いマリオ族の男に話しかけた。

???「おじさんじゃない。まだ二十代ですよ。黄色くてギザギザ…?それってもしかして…」

小学生「見たの!?」

???「いやいや、ピカチュウ族かと思ってね」

少女「ピカチュウ?」

???「ええ。それはこんな姿じゃないですか?」

男は片手に持っていた本を開いて見せた。

少女「あ!これ!しょーくんだ!」

小学生「ピカチュウっていうのか!」

???「そうです。ピカチュウ族はポケモンという生き物で、体から電気を放つことができます。今では喋れるピカチュウも少なくないみたいですよ」

少女「喋れる!?しょーくんが!?」

???「あくまでそういう個体もいるという話です。私の知り合いにも何人かいますよ」

小学生「へー。おじさん何もんなんだ?」

???「おじさんじゃないです。ただの教師見習いですよ」

小学生「へー!どこの学校!?うちじゃないよな!見たことないし!」

???「…それより、探さなくていいんですか?そのしょーくんを」

小学生「あ!そうだった!ありがとうおじさん!」

少女「あ、ありがとうござます!」

???「だからおじさんじゃない!…やれやれ…」

14ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:04:03 ID:USsiN0RY00



それからおよそ二時間後。

小学生「はあ…だめだな…もうこの辺にはいないかも…」

少女「え!?」

少女は泣きそうになる。

小学生「う、嘘だよ!でももう暗くなってきたから、また明日探してみよう!な!」

少女「う、うん…」

小学生「大丈夫だって!きっと見つかるよ!」

少女「うん…!」




翌日。

小学生は学校が終わると、すぐに待ち合わせの場所に行った。

小学生「おーい!」

少女「あ!よかったー!もしかしたら来てくれないんじゃないかって、不安だったの」

小学生「はあ?なんでだよ。来るに決まってるだろ?さあ、行こうぜ!」

少女「うん!」

二人はまた調査を開始した。

15ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:05:08 ID:USsiN0RY00


小学生「この辺で、ピカチュウ見ませんでしたかー!?」

少女「しょーくーん!どこー!?」

???「坊やたち、ピカチュウなら向こうで見たわよ!」

少女「ほんと!?」

小学生「ってうわ!恐竜!?」

それは赤ヨッシーだった。

???「あら、ヨッシー族よ。知らない?」

小学生「うん、初めて見た」

???「おぎゃああああ!!」

小学生「うわ!」

赤ヨッシーの抱いていた金髪の赤ちゃんが泣き出す。

???「あらら。よしよし、帰ってごはんにしましょうね〜。それじゃ坊やたち、がんばって」

少女「うん!ありがとうございます!」

小学生「ありがとー恐竜のおばさん!」

赤ちゃんをあやしながら、赤ヨッシーは去っていった。

16ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:05:56 ID:USsiN0RY00



それから二人は赤ヨッシーの指した方へ行き、ピカチュウを探した。

少女「しょーくーん!どこー!?いるなら返事してー!!」


ピカッ!!

ゴロゴロゴロ…


少女「きゃっ!?」

雷が鳴り、少女は怯えてうずくまった。

小学生「天気悪くなってきたな…まだ雨は降ってないけど…今日はこの辺にしよう。な?」

少女「そんな…しょーくんを見たって人がいるんだよ?」

小学生「それはそうだけど…俺たちがそれで怪我したり風邪引いたりしたら元も子もないよ。お母さんも心配するだろ?」

少女「いないよ」

小学生「えっ」

少女「お母さんもお父さんも、誰もいないよ」

少女は悲しい顔で、消えそうな声で言った。

小学生「…ご、ごめん」

小学生は小学生ながら、なんとなく事情を察して謝った。

小学生「だけど、俺はお前が心配だ!」

少女「…」

小学生「さ、一旦帰ろう。大丈夫だよ。俺はいつまでだってお前に付き合うよ。しょーくんが見つかるまで、いつまでも」

少女「そっか…うん、そうだね…ありがと」

そして二人は家路についた。

17ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:07:19 ID:USsiN0RY00




捜索三日目。

小学生「おっす!」

少女「ほんとに今日も来てくれた…」

小学生「当たり前だ!俺は約束は絶対守るんだからな!」

少女「でもどうして?私…会ったばっかりだし…全然知らないのに…」

小学生「関係ないさ。困ってるヤツがいたら助けてやんないと気が済まないんだ俺は!」

少女「えへへ、なんかヒーローみたい」

小学生「そ、そんなんじゃねーよ!さ、いこうぜ!」

少女「うん!」

二人はまた昨日の場所に向かった。



小学生「うーん…この辺にいるって言ってたよな。あの恐竜、ウソついたんじゃないだろーな!」

少女「そんなことないよ!あの人、すごくやさしそうだったもん!」

小学生「まあ、そうだよな…でもこの辺にはやっぱりいなさそうだぞ。移動したのかもしれない。もっかい聞き込みしてみようか!」

少女「うん!」

18ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:08:44 ID:USsiN0RY00



そしてまた人通りの多い場所で聞き込みをすること一時間。

小学生「だめだー!全然目撃情報がないや!」

少女「うぅ…しょーくん、私のこと嫌いなのかなぁ…」

小学生「そ、そんなことないって!たぶん迷子になってるんだよ!だから早く見つけてやんないとな!」

少女「うん…」

小学生「この辺にはもういないみたいだし、場所うつそうぜ!しょーくんの好きなところとか、心当たりないのか?」

少女「うーん…お散歩はいつも同じコースだったし…」

小学生「じゃあ、好きなものは?」

少女「えっと、リンゴが好きだよ!」

小学生「そっか。だったら、果物屋さんとかにいるかもしれないな!よし、商店街の方にいってみよう!」

少女「う、うん!」



二人は商店街へ。

小学生「すいませーん!ピカチュウ見ませんでしたか!」

果物屋「うん?そうだなぁ、この辺でピカチュウ族っつーと、暴力さんかい?」

小学生「ぼ、暴力さん…?」

果物屋「ほら、赤い帽子のお医者さんで、最近結婚したっつう…」

少女「いや、ちがくて、えっと、しょーくんっていう私のペットなんですけど…」

果物屋「ペット?じゃあ知らないねえ」

小学生「そっか…ありがとーおじさん!」

果物屋「おう、なんか知らんが、頑張ってな!」

少女「ありがとうござます!」


小学生「くそー…ここでもないか…とにかく色んな人に聞いてみるぞ!」

少女「うん!」


しかし見つからず。





探し始めて、一ヶ月が経った。

19はいどうも名無しです (アウアウ 6531-9f24):2021/04/14(水) 04:48:34 ID:6zagFZicSa
しょーくん…まさか野生の衝撃?

20ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:32:16 ID:5FLa.PxQ00

小学生「おーっす!」

少女「おっす!」

小学生「行こう!」

少女「うん!」

この日は休日で、二人は朝から捜索を開始した。

毎日毎日暗くなるまで共に過ごし、もう二人は親友と呼べるくらいの仲になっていた。

小学生「なあ、聞いてもいいか?家のこと…」

それくらいの仲になったから、聞いても大丈夫なのではと思ったのだ。

だが。

少女「イヤ」

小学生「え…」

一瞬、表情豊かな少女の顔が人形のように冷たく変化する。

小学生は驚いて、唾を飲んだ。

少女「…そんなのどうでもいいじゃん!それよりしょーくん探さなきゃ!」

小学生「そ…そうだな!」

小学生は子供ながらに、踏み込んではいけない領域だと悟った。

小学生「そうそう!実は隣町に、野良猫の溜まり場があるらしいんだ!今日はそこに行ってみようぜ!」

少女「野良猫?でも、ピカチュウって猫なのかな?」

小学生「うーん、わかんねーけど、とにかく行ってみよう!」

少女「わかった!」

二人は隣町の、とある小さな公園に向かった。

21ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:33:28 ID:5FLa.PxQ00



小学生「ここか…」

少女「しょーくーん!いるー!?」

猫「ニャー」

少女「あ!猫さん!しょーくん知らない?」

猫「…?」

小学生「ははは!猫が喋るわけないだろ!俺あっちの方見てくるから、お前はそっちを頼む!」

少女「はーい!」

二人は手分けして探すことに。


少女「しょーくーん!どこー!?」

少女は茂みの方へ近づく。

ガサガサッ!

???「やあお嬢さん。何かお探しかい?」

少女「わっ!?」

突如茂みの中から白ファルコンが現れた。

少女は驚いて尻餅をつく。

???「おやおや、驚かせてしまったかな?フフフ。立てるかい?お嬢さん」

ファルコンは手を差し伸べる。

少女「う、うん。ありがとうおじさん…」

???「おじさん…?フフフ、惜しいな。私は性の喜びを知ろうとする者の前に現れる妖精さ」

少女「せ、せいの喜び…?なにそれ…?」

喜び「性の喜び…それすなわち、愛を育む事」

少女「あ、愛!?」

喜び「あの少年が好きなんだろう?フフフ」

少女「え!?ち、ちがうよ!?そういうんじゃないよ!?」

喜び「隠しても無駄だよ。妖精の私には人の持つ恋心が見えるんだ。そして私の役目は、その恋が実るように背中を押してあげることなのだ」

少女「ち、ちがうってば!」

少女は顔を真っ赤にして否定する。

喜び「フフフ、まあ君ぐらいの歳なら恥ずかしがるのも無理はないか」

22ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:35:33 ID:5FLa.PxQ00

小学生「おい、何してんだ?」

少女「あ!あのね、なんか変なおじさんが…」

小学生「おじさん?どこにいるんだ?」

小学生はキョロキョロと周りを見る。

少女「え?」

喜び「フフフ、言っただろう?私は妖精。普通の人には見えないのさ」

少女「な…!」

小学生「向こうにはいなかったよ。そっちはどうだった?」

少女「え、えっと…」

ガサガサッ!


???「ギャオオオオオオ!!」


少女「きゃっ!」

茂みの中から何かが少女に向かって飛びかかった。

小学生「危ない!」

小学生は咄嗟に少女を庇う。


ドゴォッ!!!


鈍い衝撃音が響く。

が。

小学生「…あれ?」

喜び「フ…フフ…無事か……よかっ…た…」

ドサッ…

少女「お、おじさーーん!!」

性の喜びおじさんが二人を庇い、倒れた。

小学生「さっきから何言ってるんだ?おじさんって…いや、それよりアイツ…!」

???「ガルルルルル…!!」

少女「しょ…しょーくん!?」

そこには"しょうげき"の文字が書かれた首輪を付けたピカチュウの姿があった。

小学生「あ、あれがしょーくん…!?」

少女「あの首輪…間違いないよ…!しょーくんの本名は衝撃っていうの…でも…」

衝撃「グワオオオオ!!」

小学生「な、なんかやばそうだぞ…」


ダッ!!


衝撃が二人に飛びかかる。


???「危ないっ!」

23ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:36:31 ID:5FLa.PxQ00


ズドォッ!!


またも何者かが二人を庇った。

小学生「こ、今度はなんだ!?」

???「ふぅ…なんとか間に合ったようですな」

青いドンキーが衝撃を受け止めていた。

少女「ゴ…ゴリラ…?」

???「性の喜びくんの妖圧が消えたと思って来てみれば…何なのですかこのピカチュウくんは」

少女「さ、さっきのおじさんの仲間…?」

???「私は屈強なる妖精。私を一言で表すならば、そう……屈強なる妖精ですぞ」

小学生「こいつは俺にも見えるぞ…!」

屈強「性の喜びくんはまだ妖精として未熟ですからな…さあ君たち、今のうちに逃げるのですぞ!」

少女「で、でもしょーくんが…!」

小学生「そんなこと言ってる場合か!正気じゃねーぞアイツ!」

少女「そんなの関係ないよ!しょーくんはしょーくんなの!」

衝撃「ガルルル…!」

屈強「くっ…すごい力だ…!このままでは跳ね除けられてしまいますぞ…!さあ、急ぐのですぞ!」

小学生「ほら!早く行こう!」

少女「でも…!」

小学生「今は無理だ!場所は分かったんだし、また対策を立ててこよう!見捨てるわけじゃない!」

少女「う、うん」

二人は走って公園を離れた。

24ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:39:19 ID:5FLa.PxQ00



小学生「はあ、はあ…怪我ないか?」

少女「うん、大丈夫…」

小学生「ごめんな…」

少女「あ、謝ることないよ!でも、どうしよう…しょーくん、もう私のこと忘れちゃってるのかも…」

小学生「大丈夫だよ!もし忘れちゃってたとしても、もう一回仲良くなればいい!一回仲良くなれたんなら、何回だって同じだろ!」

少女「そ、そう…かな…」

小学生「絶対大丈夫だ!俺を信じろ!俺がお前に嘘ついたことあったか!?」

少女「…ない…と思う…分かった。信じるよ」

小学生「ああ!」



二人はコンビニで買った昼食を食べながら、作戦会議を始めた。

小学生「アイツは今正気を失ってる。たぶん話しかけても意味ないだろう…」

少女「じゃ、じゃあどうするの?」

小学生「まずは落ち着かせなきゃな。だから一回、かわいそうだけど無理やり取っ捕まえる」

少女「…うん…でも、どうやって?」

25ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:40:30 ID:5FLa.PxQ00

小学生「へへーん!これを見ろ!」

がしゃん!

小学生はポーチから鉤爪のついた装置を取り出した。

少女「何?これ…」

小学生「父ちゃんの部屋からこっそり借りてきた!クローショットっつー武器だ!」

少女「ぶ、武器?何に使うの?」

小学生「これをこーやって腕に着けて…」

たたたた…

小学生は少しだけ離れた場所に移動する。

小学生「こう!」

ジャキンッ!!

鎖の付いた鉤爪が真っ直ぐに飛び出し、正面にあった昼食のゴミを捕らえ。

小学生「はっ!」

ギュリリリ!

小学生が腕を引くと鎖が巻き戻され、鉤爪に掛かったゴミが手元まで引き寄せられた。

少女「お、おぉ〜…」

小学生「見たか!これでしょーくんを捕まえるんだ!」

少女「す、すごいけど…この鉤爪でひっかけられたら痛そうだよ…」

少女は鉤爪の部分をちょんちょんと触り、眉をひそめる。

小学生「その点は問題ないぞ!意外と痛くないんだ。父ちゃんに宿題終わるまで遊ぶなって言われて逃げ出そうとしたとき、コイツで捕まえられたことがあってな。まあその後くらったゲンコツは痛かったけど…ハハ」

少女「そっか…でも、引き寄せるだけ?暴れられたら抑え込めないんじゃ…捕まえるための檻みたいなのはないの?」

小学生「…たしかに!」

少女「考えてなかったんだ…」

小学生「よし!それじゃあ檻を探そう!」

少女「う、うん」

小学生「丈夫なヤツじゃなきゃ壊されそうだよなー。アイツ、めちゃくちゃ凶暴だったし…どこで買えるかな…」

少女「うーん…」

小学生「あ、そうだ!動物園に相談してみよう!」

少女「動物園?」

小学生「ああ!最近この辺にできたろ?あんまり話題になってないけど…」

少女「そうなの?…たしかに動物園なら頑丈な檻があるかもしれないね」

小学生「よし、行ってみよーぜ!」

少女「うん!」

こうして二人は動物園へと向かった。

26ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:04:10 ID:60d7cd5c00



小学生「子ども二人です!お願いします!」

小学生はなけなしのお小遣いから入園料を差し出す。

受付「はーい。あらあら、きみたちデート?うふふ」

小学生「は、はあ!?ち、違うよ!」

受付「うふふふふ」

少女「……」

少女は顔をトマトのごとく真っ赤にしていた。


そして動物園に入ると、二人は猛獣のコーナーへ行く。

小学生「うおおー!!ライオンだ!!かっけー!!あ!!こっちはトラだぜ!!すげー!!」

少女「目的忘れてる…」

小学生「あ…す、すまんすまん。つい興奮しちゃって」

少女「飼育員さんに聞くのがいいかな?」

小学生「だなー。どこいるんだろ」

飼育員「私に何か用ですか?」

小学生「おわ!飼育員さん!」

二人の後ろに、若い女性飼育員が立っていた。

少女「こ、こんにちは…」

飼育員「ふふ、こんにちは。どうしたんですか?」

小学生「実は、コイツが飼ってたピカチュウが逃げ出して…すごい凶暴になってて…檻が欲しいんです!」

飼育員「檻?ていうかピカチュウって…確か電気ネズミの種族ですよね。うーん…」

少女「だめですか…?」

飼育員「いえ!ただ、二人じゃ危ないんじゃないかと思って…」

小学生「大丈夫!これでも俺かなり強いんだぜ!リンク族っていう、英雄の末裔なんだ!ほら、このとんがってる耳が証拠!」

小学生は胸を張ってドヤ顔をする。

飼育員「リンク族…?なんか聞いた事ありますね…」

小学生「でしょ!まだ剣とかは使わせてもらえてないけど、父ちゃんにもファイターとしての資質があるって言われてるし!」

飼育員「ファイター…なるほど…ちょっと不安ですが、分かりました!檻を貸しましょう!」

少女「ほんと!?」

飼育員「はい!実はこんなこともあろうかと電気を通さないゴム製の檻があるんです!」

小学生「すげー!」

飼育員「えっへん!なんせここは動物園ですからね!」

27ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:05:33 ID:60d7cd5c00

少女「あ、ありがとうございます…!」

飼育員「いえいえ!野生化して凶暴化したピカチュウなんて、放っておくわけにもいきませんからね」

小学生「なんでこんなすごいのに、こんなにお客さん少ないんだろーな!」

少女「わ!失礼だよ!」

飼育員「あはは、いいですよ、事実ですから。実はここだけの話、設備ばかり整えてたら、動物を歓迎するお金がなくなっちゃったらしくて…ほら、空っぽの檻がいっぱいあるでしょ」

小学生「あ、ほんとだ…よく見たら…」

少女「大丈夫なんですか…?潰れたりしない…?」

飼育員「優しいんですね。でも大丈夫!心配しないでください!なんとかしてみせますから!」

小学生「おぉー、頑張ってお姉さん!」

飼育員「はい!」

飼育員(…って偉そうに言えるほどの立場じゃないんですけどね…ただの新人飼育員だし…)



それから、飼育員は倉庫から檻を持ってきた。

飼育員「どうぞ!」

小学生「ありがとうございます!」

飼育員「返すのは使い終わってからでいいですからね。それと、危険だと思ったらすぐに大人に頼ること!分かりましたか?」

小学生・少女「はい!」

飼育員「よろしい!それじゃあ頑張って!」

小学生・少女「いってきます!」

小学生は檻を抱え、二人は動物園を後にした。


飼育員「ふぅ…でもやっぱり心配ですね…一応お巡りさんに連絡しておきましょう」

飼育員は二人を見送った後、事務所に戻り警察署の番号を確認しながら、呟く。

飼育員「ピカチュウか…ファイターって呼ばれるような種族でも、ペットに飼われてるんだなぁ…うちの動物園でもファイターを飼育してみたら、人気出たりしないかな…?園長に相談してみよーっと」

28ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:06:47 ID:60d7cd5c00



一時間後。

小学生たちは再び衝撃のいた公園へ来ていた。

小学生「そういえばさっき助けてくれたゴリラ、大丈夫だったのかな?」

少女「屈強なる妖精さんだっけ…無事だといいな…」

屈強「き、君たち…なぜ戻ってきたんです…」

少女「妖精さん!」

屈強なる妖精は這いつくばっていた。

二人は妖精の元へ駆け寄る。

小学生「だ、大丈夫か!?」

屈強「も…問題ないですぞ…なんせ私は屈強なる妖精…屈強なことだけが取り柄ですからな…」

少女「しょーくん…なんでこんな酷いことを…」

小学生「とにかく、被害者が増える前に早く捕まえよう!」

少女「うん!」

屈強「つ、捕まえる…!?や、やめなさい…!いくらなんでも無茶ですぞ…!」

小学生「大丈夫!俺強いから!」

屈強「……!その目…そうか…君もファイターなんですな…ならば、止めはすまい…」

小学生「妖精さん!しょーくんはどっちに行った!?」

屈強「…あっちの路地裏にいきましたぞ…」

小学生「ありがとう!よし、行くぞ!」

少女「うん!」

二人は路地裏へ走る。

屈強「幸運を祈りますぞ…」

29ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:07:54 ID:60d7cd5c00


少女「しょーくーん!いるー!?」

小学生「いるなら出てこい!俺が相手になってやる!」

衝撃「グァオオオッ!!」

小学生「!!」

二人の後ろから衝撃が現れ、飛びかかった。

ズガァッ!!

小学生「うわっ!」

小学生はとっさに身を屈めて、衝撃の攻撃をかわした。

衝撃「ガルルル…!」

小学生「くらえっ!!」

ギャリンッ!!

衝撃「ギャゥ!?」

小学生のクローショットが衝撃を見事に捕らえた。

小学生「今だ!!檻を!!」

少女「うん!」

ガチャンッ!!

衝撃「グァオオ!!」

こうして二人は衝撃を檻の中へ捕らえることに成功した。

小学生「や、やった…!やったぞ!これで、後は正気を取り戻させるだけだ…!」

少女「だけ…か…そんなにうまくいくかな…」

小学生「すぐには無理かもしれない。でも、時間をかければきっと大丈夫だ!」

少女「う、うん。そうだよね。私がんばるよ。しょーくんとまた、檻なんかなくても遊べるように」

小学生「ああ、その意気だ!…ん?」

小学生は何かに気付いて衝撃に近づく。

少女「どーしたの?」

小学生「怪我してる。この傷…どっかで擦ったのかな。それともケンカか?」

衝撃の横腹には大きな擦り傷ができていた。

少女「ほ、ほんとだ…大丈夫?しょーくん…痛いよね…帰ったら獣医さんに連れて行ってあげるからね…」

衝撃「ガルルル…!!」

少女「きゃっ!」

衝撃は少女に向かって威嚇する。

小学生「これじゃ落ち着くまで手当ては無理そうだな…」

少女「しょーくん、かわいそう…」

小学生「まあとにかく、今日は帰ろう。そろそろ日が暮れるしな」

少女「う、うん、そうだね」

30ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:08:53 ID:60d7cd5c00



二人は衝撃の入った檻を抱え、家路につく。

小学生「一人で大丈夫か?しょーくん、うちで預かってもいいぞ?」

少女「大丈夫だよ。それに少しでも長く一緒にいたいから。早く前みたいに仲良くなりたいもん」

小学生「そっか、そうだな!」

少女「うん。今までありがとね…」

小学生「…?なんでそんな最後みたいな…」

少女「だって、しょーくんが見つかるまでって約束だったでしょ…?」

少女は目を潤ませながら言う。

それを見て小学生は大きなため息をついた。

小学生「はー…なーに言ってんだか…」

少女「え?」

小学生「そりゃ最初はそーだったけどさ、もう俺たち友達だろ?」

少女「友達…」

小学生「大体、俺だってしょーくんと仲良くなりたいっつーの!探すの協力したのに、独り占めする気か!」

少女「…あ」

少女の目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。

小学生「お、おい!どーしたんだ!?」

少女「もうお別れだって思って…でもそんなことなくて…安心したら…なんか…わかんないけど…涙止まんないよぉ…ふぇぇ…」

小学生「はは、泣くことないだろ!そもそもこんな近くに住んでるんだから、いつでも会えんじゃん!」

少女「うぅ…」

小学生「それじゃあまた明日、いつものとこに集合な!」

少女「うん…!」

小学生「気をつけてな!」

少女「うん…!」

二人はそこで分かれた。

31ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:10:05 ID:60d7cd5c00




翌日、放課後。

小学生「おっす!」

小学生が待ち合わせ場所に行くと、体操座りで少女は蹲っていた。

少女「…いなくなっちゃった」

小学生「え?」

少女「しょーくん…またどこかに行っちゃった…」

小学生「え?…えっと…どういうことだ?」

少女「…朝起きたら…檻が破られてて…」

小学生「ま、また逃げられたのか!?」

少女「…うん…」

小学生「マジかよ!なんつーヤツだ!くそー!」

少女「ごめんね…たくさん…手伝ってもらったのに…一人で大丈夫って…いったのに…」

小学生「お前が謝ることないって!しょーくんがめちゃくちゃ強かったんだろ!よーし!むしろ燃えてきたぞ!絶対捕まえてやる!」

少女「無理だよ…檻ももうないのに…」

小学生「また動物園に行けばきっと…!」

少女「そんなの迷惑だよ…」

小学生「だ、大丈夫だって!あの飼育員さん優しかったし!」

少女「無理だよ…」

小学生「…!」

少女はかつてないほど落ち込んでいた。

小学生の励ましの言葉がことごとく拒絶される。

小学生「よーし分かった!じゃあ俺が連れて来てやる!待ってろ!」

少女「…えっ…」

少女が顔を上げた時には、もう小学生は駆け出していた。



小学生「…って飛び出したはいいけど、どこにいるんだ?しょーくん…とりあえず昨日の公園に行ってみるか」

小学生は隣町の公園へ行こうとしたが。

???「待ちなさい」

小学生「え?」

小学生の前に現れたのは、捜索初日、最初に話しかけた茶色マリオだった。

32ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:11:55 ID:60d7cd5c00

???「しょーくんというのは、このピカチュウですね?」

そこにはマリオ族の腕に抱えられた、弱ったピカチュウの姿があった。

小学生「しょーくん!そうです!捕まえてくれたんですか!?」

???「いえ、保護しました」

小学生「ん?えっと…どこにいたんですか?」

???「君と共にいた、あの少女の家ですよ」

小学生「え!?」

何を言っているのか理解できず、小学生は混乱する。

???「この子は少女に虐待を受けていました。だから私が助け出した」

小学生「な…何を言ってるんだ…?そんなわけないだろ…」

???「この傷は彼女が付けたものです。檻に囚われ身動きの取れないこの子を、彼女は鞭で何度も叩きつけ…」

小学生「だからそんなわけないだろって、言ってるだろ!?」

小学生は激昂する。

???「落ち着いてください。私は君を助けたいんです」

小学生「はあ!?意味わかんねーよ!!」

???「彼女は魔力暴走体質なのです。二億人に一人と言われる特異体質…時折魔力が暴走して、自制が効かなくなる体質です」

小学生「うるせえっ!!しょーくんを返せっ!!」

ダッ!!

小学生は我を忘れて殴りかかる。

???「言い忘れていました」

パチンッ!

小学生「!?」

マリオ族が指を鳴らすと、突然小学生の前から消え、その拳は空を切った。

???「私は昼間の召喚士。魔法学校の教師見習いです」

いつの間にか小学生の背後に立っていたマリオ族はそう名乗る。

小学生「…魔法学校…?」

昼間「ええ。担当科目は召喚術。今のはその応用で、君の後ろに私自身を召喚した」

小学生「まっ…魔法なんかあるわけないだろ!!」

ダッ!

小学生は再び殴りかかる。

パチンッ!

小学生「くそっ!!また消えた!!」

そして召喚士は再び背後に現れる。

昼間「今のを見ても信じられませんか?まあ仕方ないですね。普通の人は魔力を感じ取ることはできませんから」

小学生「マリョク…?」

33ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:14:18 ID:60d7cd5c00

昼間「生きとし生けるもの全てには魔力という力が宿っています。我々魔法使いはそれを使ってさまざまな魔法を発動する。このように」

ボゥッ!

小学生「うわっ!」

召喚士は掌の上に炎の球を作り出した。

昼間「しかし"魔"という文字の通り、この力は良い面だけではありません。身に余る魔力を宿した者は、感情のコントロールを失ってしまうのです」

小学生「感情のコントロールって…別にアイツは…たしかにちょっと泣き虫だけど…そんなやばいヤツじゃねーぞ!」

昼間「君の前ではね。魔力暴走体質の傾向として、ある一定の条件を満たすことで魔力が爆発的に増幅する」

小学生「条件…?」

昼間「はい。その条件には個人差がありますが、多くの場合、"愛"が関わっています」

小学生「はぁ…?」

昼間「初めて君たちと会ったあの日、私は彼女の魔力の波が不規則に乱れていることに気付きました。そしてすぐに彼女が魔力暴走体質だと分かった。それから、彼女の過去を調べていました」

小学生「…過去…そう言えばアイツ、何も話したがらなかった…」

昼間「彼女の両親は、彼女が五歳の時に死んでいる」

小学生「!!」

昼間「そしてその後彼女を預かった祖父母も、二年後に事故で死亡…いや、殺されたのです。彼女自身の手によって」

小学生「はあ!?あ、あんなチビでひ弱なヤツが、大人を何人も殺せるわけないだろ!?」

昼間「そんな常識を覆すのが魔力というものです。先ほどの魔法を見れば体格など関係無いと分かるはずです」

小学生「く…」

昼間「その後は親戚からの仕送りで、あの若さで一人暮らしをしていたようですが…三ヶ月前、寂しさに耐えかねて野生のピカチュウを拾った。そしてこの子も彼女の手によって危険にさらされ、逃亡を謀った。家族やペットといった相手に深い愛情を持って接することが、魔力暴走のトリガーとなってしまうのです」

小学生「…じゃあ…俺を助けたいっていうのは…」

昼間「はい。君と彼女の関係性が、これから更に深くなっていった場合…近い将来、君も被害に遭う可能性があります」

小学生「…!…い…いいよ、俺は強いんだ!アイツが暴走したら俺が受け止めてやる!」

昼間「無理ですよ」

小学生「無理じゃない!!俺はリンク族だぞ!!」

昼間「彼女もサムス族…ファイターの一族です。同じファイター同士なら強い魔力を持つ方が当然強い。君では勝てない」

小学生「やってみなくちゃ分からねーだろ!!」

昼間「…ふぅ…」


ゴォッ!!


小学生「…!?」

目にも留まらぬ速さで、召喚士は小学生の目の前に拳を振り下ろした。

地面にはその拳を中心に大きなヒビが入っていた。

昼間「魔力による身体強化。魔法使いにとって基礎中の基礎です。それでも一般人を屠るには容易い。私は魔力操作には自信がありますが、魔力量は平均並み…そして暴走時の彼女の魔力は、私を遥かに超えています」

小学生「…!!」

昼間「分かっていただけたみたいですね」

小学生「で、でも…そんなのどうしろってんだよ!それじゃアイツは一生一人で生きてかなきゃいけないのかよ!」

昼間「そうですね」

小学生「そうですねって…てめー他人事だからって…!」

34ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:16:32 ID:60d7cd5c00

昼間「彼女を救うには魔力暴走体質を治すしかないでしょう」

小学生「な、治せるのか!?」

昼間「…はい。ですが魔力暴走の条件となる一人の協力が必要です」

小学生「俺でもいいのか!?どうすればいい!?なんでもするよ!!」

昼間「落ち着いて。協力者は君でも構いません…と言うより、君が最も適任でしょうね。条件に当てはまるのは今のところこの衝撃くんだけですが、衰弱しているし、意志の疎通も難しい」

小学生「つまり、俺がもっとアイツと仲良くなって、その条件ってのになればいいんだな!?」

昼間「そういうことです。あえて魔力の暴走を促し、その瞬間にこの魔力阻害リングを彼女に装着する」

そう言って召喚士は黒いリングを取り出す。

小学生「なんだそれ…」

昼間「文字通り、魔力の操作を阻害するリングです。本来は魔法を使った犯罪者などに使うもので、装着し続ければその魔力を吸収し、やがて一般人と変わらないレベルまで魔力量を減少させることができます」

小学生「そんなのがあるのか…!だったら早く使ってやってくれよ!」

昼間「このリングは魔法使いの中でも特別な資格を持つ者でなければ取り扱いできない、指定魔道具です。あまりにも効力が強いため、一般的な魔力量の相手では生命を脅かしてしまう」

小学生「な…!」

昼間「普段の彼女は一般人となんら変わりない。装着のタイミングを誤れば命を落とす危険性があります」

小学生「…そんな…」

昼間「だからこそ協力が必要なのです。タイミングは魔力が暴走を始める二秒間。その瞬間が最も魔力が上昇し、体内の魔力流動が高速化します。そこにリングの効力が加わる事により、その魔力を体内に留めたままが吸収を始める事ができます」

小学生「二秒…!?暴走のタイミングなんてどうやって分かるんだよ…失敗したら死ぬかもしれないんだろ…!?」

昼間「魔力測定器というものがあります」

召喚士はそう言って、懐中時計のような形の機械を取り出した。

昼間「このランプが赤くなった瞬間、リングを彼女に向かって投げれば、リングは触れた相手の魔力に反応して自動的に装着されます」

小学生「…!お、俺がやらなきゃだめなんだな…?」

昼間「…危険な方法です。やりたくなければ、やらなくて結構です。私とて初めから君に頼るつもりはありません」

小学生「はぁ!?ふざけんな!他に方法はないんだろ!」

昼間「ええ。ですが彼女はこれから魔法学校の監視下に置かれます。暴走の条件が揃わないようにし、何かあれば魔法使いがすぐに駆けつけて対処をするでしょう」

小学生「アイツの気持ちはどうなるんだよ!このまま一人で生きてけってのか!?」

昼間「魔力暴走体質は自然と治る可能性もあります。何年掛かるかは分かりませんが…」

小学生「そんなの待ってられないだろ!それにその言い方じゃ、治らないかもしれないんだろ!?そんなの…ずっと一人なんて、ダメだ!!」

昼間「君のような子供に、他人の命がかかった問題を任せる事などできないと言っているんですよ」

小学生「それでも…俺がやるしかないんだろ!!やるよ!!」

昼間「……!!……はあ…諦めさせるつもりで説明したんですがね…逆効果ですか…」

召喚士は困り顔で後頭部を掻く。

35ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:17:43 ID:60d7cd5c00

そこへ。

少女「…私からもお願いします…」

小学生・昼間「!!」

小学生を追いかけてきた少女が、頭を下げていた。

少女「しょーくんのその傷…私がやったんでしょ…?」

小学生「…聞いてたのか…」

少女「ごめんなさい。ずっと私のために頑張ってくれたのに…一人でいじけちゃって…謝ろうって思って追いかけたら、その人と話してたから…」

昼間「やはり暴走中の記憶はないんですね。この体質の多くの人に見られる症状です」

少女「記憶はないけど…でも…なんとなくわかってた…もしかしたら私が何かしてるんじゃないかって…お母さんもお父さんも…おばあちゃんもおじいちゃんも…しょーくんも…いつも私が寝てる間にいなくなってたから…」

小学生「…!!」

昼間「そうですか。でも本当にそれでいいんですか?失敗すれば命に関わるんです。そう簡単に決めていい問題ではありませんよ」

少女「いいんです…もし死んでも…お母さんたちに会える…私がみんなを殺したのなら…平気な顔で生きてるなんておかしいよ…」

小学生「ふざけんな!何言ってんだ!お前がやりたくてやったんじゃねーだろ!」

少女「…うん。ありがとう。だから、あなたに私の全部を託すよ。あなたが私のことをすっごく大事に思ってくれてるって分かったから」

小学生「!!」

少女「私がみんなを傷つけたって知って、辛くて、消えてしまいたい…だけど、おんなじくらい嬉しかったの。だから…私を助けて…!」

小学生「…ああ…!当たり前だ!!」

少女「ありがとう…!」

小学生「お願いします!俺にやらせてください!」

小学生は召喚士の方を向き直し、深々と頭を下げる。

昼間「…………ふぅ…仕方ありませんね…では君にこれを渡しておきます」

召喚士は小学生に魔力阻害リングと魔力測定器を手渡す。

小学生「ありがとうございます!」

昼間「この二つは彼女と会う時、必ず肌身離さず持ち歩く事。測定器は魔力の上昇を感知すると、緑のランプが点滅してアラームが鳴ります。そしたらすぐにリングを用意してください。そして、一定の魔力量を超えるとランプが赤くなるので、その瞬間にリングを投げてください」

小学生「はい!」

昼間「我々はずっと君たちを監視していますからね。危険だと判断すればすぐに駆けつけます。それと、このピカチュウは私が預かっておきます。魔法学校の薬ならこの程度の傷はすぐに治せるはずです」

少女「よ、よろしくお願いします…!」

昼間「…もう一つ。暴走の条件となる"愛"とは曖昧なものです。何がどう繋がるか、私もはっきりとは分かりません。くれぐれも他の人と仲良くなろうとは考えないでください。寂しいかとは思いますが…治療が終わるまでの辛抱です」

少女「…はい」

小学生「大丈夫。俺がずっと側にいるよ!」

少女「うん…!」

昼間「では失礼します。頑張ってください」

パチンッ!

指を鳴らすと、召喚士は姿を消した。


小学生「…でもこれ以上仲良くなるって、具体的にどうすりゃいいんだ?俺たちもう親友だよな?」

小学生は腕を組んで首を傾げる。

少女「私…ずっと怖かった。私の家族のこと知ったら、あなたも離れていっちゃうんじゃないかって…だから隠してた。それが壁になってたんだと思う」

小学生「…そっか」

少女「うん。でももう何も隠さなくていい。だから大丈夫!今まで通りにしてるだけで、私もっとあなたのこと、好きになれるよ!」

少女はにっこりと微笑みかけ。

小学生「おう!」

小学生もそれに微笑み返した。

それから二人は今まで踏み込めなかったような話をしながら、家路についた。

36はいどうも名無しです (ワッチョイ ee0c-b625):2021/04/17(土) 22:20:03 ID:Ru/MWaCs00
悲しい体質…これは笑えない

37ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:30:43 ID:TVi5vk5600




翌日。

少女「ふーんふーんふんふんふーん♪」

少女は鼻歌を歌いながら、小学生との待ち合わせ場所へ向かっていた。

勿論衝撃の捜索ではなく、ただ友達らしく、遊ぶためにである。

その途中。

???「ここが地上か〜!すごいな!色がいっぱい!!」

黒いパワードスーツの頭部を脱ぎ、キョロキョロと周りを見回して目を輝かせているサムス族を発見した。

少女「お姉さん、どうしたの?」

少女は嬉しそうに話しかけた。

母に似ていたからだ。

???「私はアメリーナ。お嬢ちゃん、この街の子?」

少女「うん」

アメリ「ちょうどよかった!私、ここに来たばかりなの!案内してくれない?」

少女「え?いいよー」

少女はにっこりと笑って頷く。

アメリ「ほんと!?ありが…」

小学生「こらー!!そこで何してる!!」

アメリ「!」

そこへ小学生が走ってきた。

小学生「誰だおばさん!コイツに手を出すな!」

アメリ「おば!?」

少女「違うよー。この人この街に来たばかりで、これから道案内してあげるところなの」

少年「知らないヤツに話しかけちゃダメって言われてるだろ!!帰るぞ!!」

少女「わっ」

小学生は少女を引っ張って連れて行く。

少女「ごめんお姉さん、またねー!」

少女は手を振り、アメリーナも手を振り返した。

38ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:31:52 ID:TVi5vk5600


小学生「まったくもう!昨日の今日だぞ!」

少女「あはは、心配しすぎだよー。一ヶ月あなたと過ごしてても、まだ暴走してないんだもん。ちょっと道案内するくらい大丈夫だよ」

小学生「…そ、それもそーか。ちょっと過敏になってたかも…でも気を付けないとダメだぞ。あのおっさんも言ってたけど、どんなことがきっかけになるか分かんないんだから」

少女「そうだね。ありがと!それじゃ、いこっか!」

小学生「おう…ホントに分かってんのか…?」

少女「分かってるよ失礼な!私、あなたがいればそれでいいもん!」

恥ずかしげもなく少女は言う。

小学生「お、おぉ…」

小学生は照れ隠しに目を逸らす。

少女「…!」

その反応を見て、少女も自分の言動が急に恥ずかしくなって頬を染める。

と、その時。


ピーピーピーピーピー…!


小学生「!!」

首に下げていた魔力測定器からアラームが鳴った。

緑のランプが点滅していた。

少女「え…!?」

小学生「お、落ち着け!!大丈夫だ!!思ってたよりめちゃくちゃ早かったけど!!」

小学生はすぐにポケットからリングを取り出した。


ピピピピピピピ!!


アラームの音は大きくなり、ランプが赤に切り替わる。

小学生「今だッ!!」

小学生は少女に向かってリングを


ガシッ!


小学生「え」


投げられなかった。

何者かが、小学生の腕を掴んだのだ。

少女「にげて…!」

39ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:33:35 ID:TVi5vk5600


ピピピピピピピ…ボンッ!!


小学生「うわっ!」

魔力測定器が測定限界値を超えて爆発した。

少女「あはははははははは!!」

小学生「……!!」

少女「ねぇ、あそぼ?」

少女はニタリと不気味な笑みを浮かべた。

ドサッ…

小学生は無意識のうちに尻餅をついた。

これまで見てきた純粋な笑みとは明らかに違うその表情に、小学生は背筋が凍るような感覚を覚える。

小学生「…ひっ…く…来るなッ!」

少女「ひどい。私はこんなにもあなたを愛してるのに」


バチンッ!!


小学生「がっ…」

強烈な平手打ちが小学生の頬を襲った。

その一撃で小学生は気を失った。

少女「こらこらー、こんなとこで寝ちゃダメでしょ?」


バチンッ!!


小学生「っ…!?」

逆の頬を叩かれ、小学生はその衝撃で意識を取り戻した。

だがその次の瞬間には。


ドゴッ!!


腹を蹴られ、数メートル吹き飛ばされていた。

小学生「げぇッ…!」

ビチャビチャッ!

胃の中身が全て口から溢れ出る。

少女「あははははっ!!すごーい!サッカーボールみたいに跳んだね!」

40ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:36:27 ID:TVi5vk5600

小学生「…なん…で……」

少女「あ〜、だめだめ。ボールは喋らないんだよ?」

タッ…

少女は一瞬で距離を詰めると、再び蹴りの構えに入る。


ガッ!!!!


昼間「…すみません。遅くなりました」

小学生「…!」

間一髪、召喚士が現れ、蹴りを受け止めた。

少女「誰?」

昼間「昼間の召喚士ですよ。昨日会ったでしょう」

少女「さあ?知らない。邪魔しないでッ!」

昼間「記憶の混濁…まあさして問題は無いか」

パチンッ!

少女「なっ…!?」

召喚士が指を鳴らすと、少女の体に縄が巻き付いた。

昼間「大人しくしてください」

少女「…ばかなの?こんなの意味ないよ!あはははははは!」

ブチブチブチ…!

少女は縄を力尽くで引きちぎる。

が、その間に召喚士は魔法書を開き、更なる魔法を発動していた。

昼間「顕現せよ」


キュインッ!!


少女「!!」

少女の体を三つの光の輪が拘束した。

昼間「深き眠りに落ちなさい」

少女「なに…こ……れ……」

ガクッ…

召喚士の言葉と共に、少女は眠りについた。

昼間「…ふぅ…」

パタン…

召喚士は溜息をこぼして、魔法書を閉じた。

小学生「…ご…めん…なさい…」

小学生は倒れたまま涙を流す。

昼間「気に病むことはありません。君はまだ子供なのですから」

小学生「…でき…なかった…俺…ゲホッ…ビビったんだ…もし…失敗したら…ゲホッ…死ぬかも…しれないって…」

あの時小学生の腕を掴んだのは。

いや、小学生の腕は掴まれてなどいなかったのだ。

失敗する事への無意識的な恐怖が、体を硬直させた。

41ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:37:58 ID:TVi5vk5600

昼間「大丈夫です。さあ、これを飲んでください。すぐに治ります」

召喚士は魔法薬を小学生の口に流し込む。

小学生「……!!何だこれ…!怪我が治っていく…!」

小学生は本当にすぐに治り、立ち上がった。

昼間「これからは彼女の身柄は魔法学校で預かります。暴走しないよう、人との接触を防ぐ隔離施設に入れられる事になるでしょう。安全は保証しますよ」

小学生「…だ…ダメだ!!そんなのまるで牢屋じゃんか…!!ソイツは何もしてねーんだぞ!!」

昼間「何もしてない事はないでしょう…」

小学生「だけど…!」

昼間「君は失敗した。それにもう君には無理だ」

召喚士は冷たく言い放つ。

小学生「何だと…!?」

昼間「昨日の君はまさしく勇者だった。私も信じてみたくなるほどに。ですが今の君からは、恐怖しか感じません」

小学生「…そんなこと…!」

小学生はそこでやっと気付く。

自分の体が震えている事に。

小学生「そんな…」

昼間「いいんですよそれで。それが相応の反応です。勇気ある行動も、実力が伴わなければただの無謀。君は身をもって自分の弱さを理解した筈です」

小学生「…くそっ…どうすりゃいいんだよ…!」

昼間「もう何もする必要はありません」

小学生「そ…それじゃダメだって言ってるだろ!ソイツは寂しがり屋なんだ…!」

昼間「…なぜそこまで拘るのです?出会って一ヶ月程度のこの少女に」

小学生「そんなの…!」

少女「ん…」

小学生「!!」

少女が目を覚ました。

小学生「大丈夫か!?」

小学生はすぐに駆け寄る。

昼間「ダメだっ!!」


ズドッ!!


小学生「…え…」

42ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:40:14 ID:TVi5vk5600

強い衝撃。

少女を拘束していた光輪は消え、その右腕は真っ直ぐに、小学生の腹の中へと伸びていた。

小学生「がふっ…」

ビチャビチャビチャッ!

小学生は大量の血を吐く。

少女「わっ!ビックリした〜!あはははっ!」

ブシャアアアアアッ!

少女が手を引き抜くと同時に、血が噴き出す。

ドサッ…

そして小学生は力無く倒れた。

少女「あはっ!そのカオすごくいい!私、あなたが好きよ?あはははっ!」

昼間「くっ…魔力が前回の暴走時より上がっている…催眠輪もほとんど効いていない…レベルツーに移行しているのか…!」

少女「わあ…お腹に穴あいちゃったね。あははっ!すっごい血出てるよ?」

グチュ…グチュ…

少女は小学生の腹の穴に指を入れ、掻き混ぜるように動かす。

小学生「あぐ…ゲホッ…が…ッ」

少女「あはははははは!まだ生きてるんだ!すごいすごい!」

昼間「やめなさい!」


ドガァッ!!


少女「ブッ!」

召喚士の拳が少女の頬にヒットし、吹き飛ばした。

昼間「こうなってしまっては悠長な事は言っていられませんね」

パチンッ!

少女「!!」

召喚士が指を鳴らすと、少女の手首に魔力阻害リングが装着された。


バリィン!!


昼間「なっ…!?」

少女はもう片方の手でリングを殴り、粉砕した。

少女「あはははっ!変なのつけないでよ!」

昼間「くっ!ならば…」

パチンッ!

今度は両腕両脚にリングが現れる。

が。

バリィン!!

一瞬でその全てが粉砕された。

昼間「馬鹿な…っ!」

少女「やめてって言ってるでしょ?まったくもう」

昼間(触れもせず割れるのはリングの起動者が自ら魔法で解除するか、魔力の許容限界を超えた時のみ…それを四つ全て一瞬で…!あり得ない…!)

少女「あははっ!私はただ、あなたと遊びたいだけなんだよ?」

這いつくばる小学生に向かって言う。

小学生「う……ぐ……」

昼間「仕方ない…実力行使です」


ドガッッ!!


少女「だれ?おじさん。いきなり殴りかかるなんて危ないなぁ」

少女は片手で召喚士の拳を受け止めた。

43ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:41:48 ID:TVi5vk5600

昼間「はっ!」

召喚士はその瞬間拳から炎の球を撃ち出す。

ボフッ!!

少女「きゃっ!」

昼間「ほっ!」

ズガッ!!

その隙を突き、流れるように足払いを掛ける。

少女「わ…」

昼間「はぁっ!」


ゴッ!!


バランスを崩したその顎にアッパーカットを打ち込む。

少女「んぐ!」

パチンッ!

指を鳴らすと、表面に魔法陣の描かれた黒い布が出現。

昼間「はあっ!!」

ギュルルルッ!!

召喚士が手をかざすと布は一人でに動き出し、少女の体に巻きついていく。

昼間(少年には申し訳ないが…彼女は封印する!前例はないがこれは恐らくレベルスリー…!明らかに異質の進化を遂げている…!)

少女「あーもう……」

昼間(あと少し…!)



少女「邪魔っ!!!!」



ドォッ!!!!



昼間「!?」


ドドドドドドド…!!


少女が叫ぶと共に、巻きついた布が弾け飛び。

更には衝撃波によって周囲の物を吹き飛ばした。


少女「はあっ…はあっ…あははっ!キレーになったね!」

少女の周囲数十メートルが更地と化していた。

昼間「ぐ……な…なんという…魔力…!」

44ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:42:55 ID:TVi5vk5600

小学生「…あ……う……」

昼間「!」

召喚士のすぐ近くに小学生も飛ばされていた。

昼間(ギリギリ生きている…しかし早く治療しなければこのままでは危ない…だが彼女を放っておくわけにはいかない…魔法学校に応援を要請しなければ…)

少女「ぐうっ…!?」

昼間「!?」

少女は突然、頭を抱えて膝をついた。

少女「なに…これ…!?やめ…ろ…!だれだ!!わたしのあたまのなかから…でていけ!!きえろ!!」

昼間「何だ!?」

少女「あなたは私じゃない…傷つけないで…!ちがう!私は私!!ちがう!!ちがう!!ちがう!!」

昼間「何が起きてる…!?」

少女「ああああああああああああ!!!!」

少女は叫び。

叫んだ後、沈黙が訪れた。

そして。

少女「……ごめ…んな…さ…い…」

少女は一粒の涙を落として、そう告げる。

タッ…

そして高く跳び上がり、どこかへ去っていった。

召喚士は見ている事しかできなかった。

昼間「……そ、そうだ、少年を治療しなければ…!」

すぐに召喚士は小学生に魔法薬を飲ませる。

昼間「く…傷が深すぎる…この魔法薬だけでは治せないか…」

パチンッ!

小学生に触れたまま召喚士が指を鳴らすと、二人は消えた。

45ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:43:58 ID:TVi5vk5600





小学生「ん…」

小学生は目を覚ます。

小学生「…どこだ?ここ…俺なんでこんなとこに…」

そこは見知らぬ医務室のベッドの上だった。

がばっ!!

小学生「うお!?」

抱きついてきたのは小学生の母だった。

母「全くもう…心配させて…」

父「ははは!良いじゃないか!子供はこれくらい元気な方がいい!」

母「笑えないわよ!死にかけたのよ!?」

小学生「母ちゃん…父ちゃん…」

父「うん?何をぼーっとしてるんだ」

小学生「いや…ここどこ?」

昼間「ここは魔法学校です」

小学生「オ、オッサン!」

ゴンッ!

小学生「いだっ!」

父「命の恩人にオッサンはないだろ。老けて見えるがまだ二十代前半だそうだぞ」

ゴンッ!

父「あだっ!」

母「アンタも失礼よ…先生、本当にありがとうございます…!」

昼間「いえ、お気になさらず」

46ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:45:39 ID:TVi5vk5600

小学生「ど、どういうことだ…?状況がわかんねーよ…」

昼間「あれから一週間経ちました。君はずっと眠っていたんです」

小学生「あれから…?…そ、そうだ…アイツは!?アイツはどうなったんだ!?」

昼間「あの少女は…消えました」

小学生「消えた!?」

昼間「魔力暴走体質のレベルスリー…未確認の症状です。彼女の暴走した魔力は人間の限界を超えていました。私の手にも負えない程に…」

小学生「な…!」

昼間「そして、どこかへ姿を眩ましました。その時彼女は一瞬だけ自我を取り戻した様子でした。これ以上君を傷つけないためにあの場所を離れたのでしょう」

小学生「ど、どこに行ったのか分からないのか?魔法使いは魔力とかいうのを感じ取れるんだろ…?」

昼間「…それが…この空間を繋げる魔法書を使って彼女を探しているのですが、全く感知できないのです」

小学生「感知できないって…」

昼間「本来ならばあれほどの魔力、この魔法書を使えばすぐに見つけられる筈…しかし、魔力の痕跡すら見つからないのです。何が起きているのか、我々にもまだ分かっていません」

小学生「そんな…」

父「落ち込んでる場合か!」

小学生「え…」

母「ちょっとあんた、まだ目覚めたばっかりなのに…」

父「うるせい!お前が寝てる間に先生から詳しく聞かせてもらったぞ!お前は勇敢だが、弱い!よく分かったはずだ!」

小学生「…ああ…」

父「ならば強くなれ!自分の意志を貫くためには強くならねばならない!」

小学生「つ、強くなるったって…あんなヤバいヤツには…」

ゴンッ!

小学生「いでっ!」

父「ドアホウ!何をビビってるんだ!お前は勇者の血筋だ!それも、俺やジジイよりも色濃く血を継いでる!はっきり言って天才だ!」

小学生「分かってるよ!何回も聞かされてきた!でも、アレはそういうレベルじゃ…」

父「でもじゃないわ!お前はまだ何もしてないだろ!」

小学生「…!…まだ…そうだ…まだ俺は強くなるために何もしてない…」

父「ならばどうする?どうやって強くなる?ヒントは…その目で見たはずだ」

小学生「…ああ。分かった。ありがとう父ちゃん!!」

父「ふっ、さすが俺の息子だ」

ばっ!

小学生はベッドから降りて立ち上がる。

ヨロ…

母「わっ!大丈夫!?まだ寝てなきゃダメよ!」

小学生「大丈夫だよ母ちゃん。ありがとう」

そして小学生は真剣な顔で召喚士の方を見る。

小学生「オッサ…じゃなくて…召喚士さん!!」

昼間「はい」

小学生「俺を…この学校に入れてください!!」

小学生は深く頭を下げる。

昼間「…魔法は難しいですよ。ついて来れますか?」

小学生「意地でもついていく!!」

昼間「…!」

もうその眼差しに恐怖はない。

あの時召喚士が信じた、勇者の目だ。

昼間「…フッ…よろしい。認めましょう!」

小学生「ありがとうございます!!」

昼間「…と言っても私はただの新人なので、校長先生を呼んできますね」

ズコー!

盛大にずっこける似た者親子たちであった。

47ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:49:41 ID:TVi5vk5600


それからいろいろな手続きを行い、来年度から魔法学校への転入が決まった。


昼間「表向きはこちらの学校に通ってもらいます。小中高一貫の私立学校です」

と、召喚士は資料を渡す。

小学生「へー…この学校、見たことあるな」

母「うちの近所に昔からある学校ね。どうしてこの学校に?」

昼間「ここは魔法学校へのゲートになっているのです。魔法学校の学生証を持って、北校舎の地下室に入ってください。そうすれば、魔法学校の正門に繋がります。毎回私が送り迎えするわけにもいきませんからね」

父「ほぉ〜!まるで映画みたいですなぁ!」

小学生「召喚士さんはなんでそれを通らなくてもいいんですか?」

昼間「召喚魔法ですよ。魔法学校内には私の召喚陣を張り巡らせているので、私自身を召喚すればいいわけです。まあこちらからあちらの世界に行く場合は基本魔法書を使いますがね」

小学生「ふーん…聞いてもよくわかんねーや」

昼間「でしょうね。まあしっかり授業を受ければすぐに分かるようになります」

母「どうか息子をよろしくお願いします…!」

父「みっちりしごいてやってくださいよ!はっはっはっは!」

昼間「お任せください。一人前…いや、それ以上の魔法使いにしてみせます」

小学生「よろしくお願いします!!」


小学生はこうして魔道に足を踏み入れる。


バッドエンドへ続く道の第一歩だ。

48ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:03:22 ID:eEyLx8kU00





同じ頃、隣国の小さな村では。

チュンッ!チュンッ!

ガガッ!!

ブラスターから放たれた二発のレーザー弾が、二つの的の中心を正確に射抜く。

???「ほう、物覚えがいいな。流石は彼奴の妹だ」

二人のフォックス族が、訓練場で訓練を行なっていた。

白いフォックスと、幼い紫フォックス。

???「ありがとうございますリカエリス中佐!」

リカエ「気を抜くなギルティース。第五ラウンドが始まるぞ」

ギル「はいっ!」

今度は天井に吊るされた三つの的が、猛スピードで動き始めた。

チュンッ!チュンッ!チュンッ!

ギル「ううー!当たんない!」

リカエ「呼吸を整えろ。冷静に動きを追い軌道を読むんだ」

ギル「は、はい!」

チュンッ!

ガガガッ!!!

ギル「えっ!?」

的が三枚重なったほんの一瞬、一発の弾がそれを全て射抜いた。

撃ったのはギルティースではない。

リカエ「ナザレンコ。お前、来ていたのか」

ナザ「ええ。まあ」

オレンジのジャケットを着た少年フォックスだ。

ギル「何よナザレンコ!邪魔しに来たの!?」

ナザ「え?いや、あんなゆっくり動く的、練習にならないだろ。ギル姐だって早く次のラウンドに行きたいだろ?」

ギル「はあ!?」

49ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:04:26 ID:eEyLx8kU00

リカエ「ナザレンコ。誰もがお前のようにすぐにこなせる訳ではない。成長するには段階を踏まなければならん」

ナザ「そうなんすか?」

ギル「ていうか何で私のやってるとこで撃つのよ!隣の部屋使いなさいよ!」

ナザ「だってガキどもが遊んでんだぜ、隣。あんな煩いとこじゃ集中できねえよ」

ギル「アンタもガキよ!」

ナザ「ギル姐もな」

リカエ「そうか。今日はドドンとポルスが来ているんだったな。誰が教えてるんだ?」

ナザ「アルバロ。アイツも別に大して上手くねえのに、偉そうに先生ぶってましたよ」

リカエ「アルバロか…彼奴も才能はあるんだがな…伝説のフォックスと呼ばれた長老の家系だからと甘やかされすぎて、自尊心が大きくなっている。我々大人にも責任はあるだろう」

ナザ「戦場じゃ家系がどうとか、何の役にも立ちゃしねえよ」

リカエ「ああ、その通りだ。まあ彼奴もいずれ気付くだろう。大事なのは自分自身だ」

ナザ「ギル姐も肝に銘じとくこったな。姉ちゃんの名前を継いだからって、アンタが強くなる訳じゃない」

ギル「分かってるわよ!だからこうして練習してるんでしょうが!邪魔しにきといて何言ってんのアンタ!…ていうかさっきから何なのその"ギル姐"って。私アンタの姉さんじゃないんだけど」

ギルティースはムッとした表情でナザレンコに詰め寄る。

ナザ「別に、歳上で先輩だから呼んでるだけだよ。ギルティースっつうとアンタの姉ちゃんの方が浮かんじまうし」

ギル「あっそ!ふん!勝手にすれば!」

ナザ「何なんだよ…」

リカエ「お喋りはそれくらいにしろ。さあ訓練の続きだ。第六ラウンドが始まる」

ギル「もー!アンタのせいでいきなりレベル上がったんだけど!」

ナザ「へーへー、すんまそん」

ギル「何よその態度ー!ムカつくー!」

リカエ「まあ落ち着けギルティース。まだ冷静になればお前ならクリアできるレベルだ」

ギル「は、はーい」

50ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:05:04 ID:eEyLx8kU00



それから数時間の訓練を終え、ギルティースたちは施設を後にした。

ナザ「普通のヤツってあんなもんなのか…勉強になったよ」

ギル「何よー!ちょっと才能あるからって見下して!」

リカエ「神童も二十歳を過ぎればただの人という言葉がある。ナザレンコ、お前もトレーニングを怠ればいずれギルティースや他の若いフォックスたちに抜かされるかもしれんぞ」

ナザ「大丈夫っすよ、俺は天才だし」

リカエ「それが駄目だと言っているんだが…」

ギル「ホントガキなんだから!絶対抜かしてやるわ!」

リカエ「その意気だギルティース。姉とは違って真面目だな。お前は必ず強くなるだろう」

ギル「ありがとうございます!姉さん、不真面目だったんですか?」

リカエ「彼奴もナザレンコと同じ天才タイプだったからな。だが俺は彼奴を超えるため必死に努力して、彼奴の成績を塗り替えた」

ギル「そっか…じゃあ私はもっと頑張らなきゃですね!今度は私が中佐を超えるくらいの気持ちで!」

リカエ「ああ。お前ならそれができると信じているよ」

ナザ「あーあ、やだやだ、そういう暑苦しいの苦手なんだよなぁ俺って」

ギル「あっそ!じゃあ私病院寄って帰るから、また明日!」

リカエ「ああ、気をつけてな」

ナザ「じゃあ俺もどっか寄り道して帰りますわ。さいなら中佐」

リカエ「またタワーか?お前も、親御さんにあまり心配かけるなよ」

ナザ「へーへー」

51ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:06:43 ID:eEyLx8kU00



ギル「姉さん!」

姉「妹よ〜!よく来た!」

ギルティースは病室に入るや否や、ベッドの上の女フォックスに抱きつく。

ギルティースMk Ⅱの姉、初代ギルティースだ。

ギル「今日も疲れたぁ〜!」

姉「フフ、お疲れ様。リカエリスの稽古は厳しい?」

ギル「うん」

姉「でしょうね。アイツ真面目だから」

ギル「でも真面目に訓練を積んだから、姉さんよりも強くなったんでしょ?さっきその話をしてきたの。姉さんは不真面目だったって」

姉「う…リカエリスのヤツめ…まあそうね。アイツについていけば間違いなく私なんかより強くなれるわよ」

ギル「うん!…姉さんより強く…か…」

姉「自信ない?」

ギル「そうじゃないの。もちろん、絶対に超えてやる!って思ってるの。でも、果てしないなって…今のペースだといつまで掛かるんだろうって、考えちゃって…」

姉「そうねえ。でもアンタは私の妹だし、才能はあるはずよ。ちょっとしたきっかけで、一気に伸びるかもしれないわ」

ギル「きっかけかぁ…」

姉「例えば、任務で危機に瀕した時とかね。結局一番人を強くするのは実戦なのよ」

ギル「実戦…でも私まだ任務にはいけないわ。アーウィンの乗り方すら習ってないし…」

姉「何言ってるの。任務は宇宙だけじゃないのよ?」

ギル「え?」

姉「この星での任務もたくさんある。紛争地帯で人を助けたり、犯罪組織を潰したりね。そういうのは子供のフォックスたちの仕事。宇宙に出るのは若くてもせいぜい十五、六歳からよ」

ギル「そうなんだ…知らなかった」

姉「ああ、そう言えばアンタが物心つく頃にはもう私も宇宙に出てたんだっけ」

ギル「姉さんも小さい頃はそういう任務をしてたの?」

姉「そうよ。五つくらい組織を潰したかしら。懐かしいわね…」

ギル「五つも…!すごい!やっぱり姉さんって天才なのね!」

姉「フフ、ありがと。でも勿論一人の力じゃないわ。任務は基本仲間と二〜四人のチームを組んで挑むからね」

ギル「チームかぁ…」

姉「アンタが組むなら、ナザレンコくんとかかしら?気が合うみたいだって、この前リカエリスが言ってたわ」

ギル「冗談!あんなヤツ、全っ然合わないわよ!今日だって私の訓練を馬鹿にしに来たんだもん!」

姉「あら、そうなの?喧嘩するほど仲が良いってことかしら」

ギル「仲良くないー!」

姉「フフッ、好きでもない人にわざわざ絡みにくると思う?」

ギル「知らないわよ!ふん!そんなことより姉さんの仲間のことを聞かせてよ!」

姉「私の?」

ギル「だって姉さん、幻って呼ばれるようになった頃から、ほとんど一人で任務に行ってたじゃない。仲間の話なんて聞いたことないわよ」

姉「あー、確かに。そうね、それじゃあ一番最初にチームを組んだヤツのことから話していきましょうか」

ギル「やった!」

姉「フフッ、あれは私がアンタくらいの歳の頃…」

それからギルティースは目を輝かせながら姉の話に耳を傾けた。


病院を後にしたのは外が真っ暗になってからだった。

52ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:15:44 ID:w6mZig2w00




一ヶ月くらい後。


チュンッ!チュンッ!

ガガガガッ!!


ギル「……フゥー…」

リカエ「第五十ラウンド、クリアだ。おめでとうギルティース。これで全ラウンド制覇だ」

ギル「は、はいっ!ありがとうございます!」

ナザ「やっとか。ドドンとポルスも一週間前にはクリアしてたってのに」

ギル「アンタまた見に来てたの!?何なのよホントにもー!」

リカエ「気にするなギルティース。二ヶ月弱の訓練で制覇までいく奴はなかなかいない。お前も十分才能を持ってる」

ギル「そ、そうなんですか?」

リカエ「ああ。アルバロもお前より先にこの訓練に入ったが、まだ制覇していないしな。ちなみに俺は二年掛かった。正直驚いているよ。フォックス族の未来は明るいな」

ナザ「じゃあそろそろ任務行かせてもらえないっすか?」

リカエ「…確かに実力的には任務もこなせるレベルだろう。だが流石にまだお前たちには足りないものがある」

ギル「足りないもの?」

リカエ「実戦だ。明日からはこれまでとは違い現実に生きた相手と戦う訓練を行う」

ギル「じ、実戦…」

ごくりとギルティースは唾を飲む。

リカエ「大丈夫だ。お前ならやれる」

ナザ「俺もやるんすか?」

リカエ「ああ。嬉しいだろう?」

ナザ「いや…つうかやるならもっと早くすりゃ良かったじゃないですか。俺は二年前にはもうここの訓練は全部クリアしてたんだ。なんでギル姐にペース合わせてるんすか?」

ギル「確かに…」

リカエ「当然だろう。チームを組む者同士、足並みを揃えるのは」

ギル・ナザ「は!?」

リカエ「次の訓練に進まなかったのは、ナザレンコ、お前について来れる奴がいなかったからだ」

ギル「…っていうことは、次の訓練って…」

リカエ「ああ。チームで行ってもらう」

ナザ「いやいやいやおかしいでしょ。なんでギル姐とチームなんすか。ギル姐だってどうせ俺にはついて来れねえし…別に俺は一人でやれます」

リカエ「無理だ。どれ程の手練れでも一人でやるには限界がある。そういう場合を想定した訓練なのだ。初めから一人でできるようにはできていない」

ナザ「…そうすか。まいいや、足引っ張んなよギル姐」

ギル「ふん!こっちのセリフよ!」

53ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:18:17 ID:w6mZig2w00




翌日。

ギルティースたちはある山奥にやって来た。

ギル「こ、ここでやるんですか…?」

リカエ「ああ。ここは酸素が薄く、木や岩などの障害物も多い。訓練には持ってこいだ」

ナザ「どうでもいいけど…なんでコイツらまで来てるんすか?」

三人の後ろを、紫と緑のチビフォックスたちが追いかけていた。

リカエ「ドドンとポルスも訓練場での訓練は全てクリアしたからな。この二人は力量も同程度だ。チーム訓練に移ってもいいだろう」

ナザ「マジかよ…俺は二年もお預け食らったってのに…」

ドドン「よろしくな!」

ポルス「な!」

ナザ「よろしくねえよ。お前らにはまだ早え。帰れ」

ギル「ちょっとナザレンコ、こんな小さい子に悪態つくのやめなさいよ!みっともない!」

ナザ「フン、ギル姐に俺の気持ちは分かんねえだろうな」

ギル「分かるわけないでしょ!」

ポルス「なんかケンカしてるよ」

ドドン「俺たちが先にクリアしてやろう!」

ポルス「してやろう!」

リカエ「それでは訓練を始めるぞ」

ナザ「ん?こんなとこで何と戦うんだよ…」

ピッ、ピッ、ピッ…

リカエリスは携帯端末の画面を何度かタップする。

と。


ウィィン…


ギル「何!?」

リカエリスの前の地面がスライドし、縦穴が現れた。

ドドン「穴が空いたぞ!」

ポルス「空いたぞ!」

ナザ「なるほどな。この山は訓練用に改造してあるってわけか」

リカエ「ああ。お前たちには、此奴を倒してもらう」

54ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:20:04 ID:w6mZig2w00

ヌゥ…

ズシィン!

穴の中から、巨大な生物が現れた。

三つの目に六本の腕、長い尻尾を持っている。

ドドン・ポルス「でけえ!」

ギル「な、なんなのコイツ!?」

リカエ「昔フォックス族が宇宙で捕獲してきた宇宙生物だ。額の目と尻尾の付け根にあるコアが弱点だ」

ナザ「コイツを倒しゃいいんすね?」

リカエ「その通り。制限時間は三分。ナザレンコ、ギルティースのチームから始めよう」

ナザ「こんなもん、俺一人で余裕だぜ」

ギル「ちょっとナザレンコ!勝手に突っ走らないでよね!」

ナザレンコとギルティースが前に出て、宇宙生物に近づく。

他の三人はそこから少し距離を取る。

リカエ「準備はいいな」

ギル「はい!」

ナザ「うす」

ピッ

リカエリスが再び端末を操作すると、

ガシャンッ!

宇宙生物に付けられていた首輪が外された。

リカエ「スタートだ」


チュンッ!チュンッ!


ナザレンコはスタートと同時に額の目をブラスターで撃つ。

ナザ「…チッ、効いてねえか」

リカエ「あのコアはエネルギー吸収器官を兼ねる。ブラスターなど奴にとっては格好の餌だ」

ギル「体術で壊すしかないってわけ…」


ズドンッ!!


その瞬間、二人に二本の腕が振り下ろされた。

ギル「ちょっと!危ないわねもう!」

ギルティースはギリギリで回避する。


ダダダダダダ…!


ナザレンコはその腕に飛び乗り、駆け上がっていく。

ギル「うそっ…」

そしてそのまま背中を通り、頭上まで移動。

ナザ「まずは目だ」


ドガッ!!


額の目に渾身の蹴りを打ち込んだ。

眼球が破壊され体液が飛び散る。

ドドン「おー!やったぞ!」

ポルス「やったぞ!」

リカエ「だが二つのコアを破壊しなければ奴は死なん」

55ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:21:39 ID:w6mZig2w00


スタッ!


ナザレンコは宇宙生物の頭から降りると、


ダダダダダダッ!


一気に尻尾のコアへと距離を詰めた。

ナザ「これで終わりだ」


バゴッ!!


再び蹴りを叩き込み、尻尾のコアを粉砕した。

ギル「えっ…?」


バガァン!!


ナザ「ぐっ…!?」

ナザレンコは宇宙生物の尻尾で弾き飛ばされ、木に激突した。

ギル「コ、コアを壊したのに、どうして生きて…」

ナザ「…チッ、治ってやがる…」

見ると、額の目が復活していた。

そして尻尾のコアも、次の瞬間には再生された。

ギル「再生能力…!これじゃ片方ずつ壊しても間に合わないわ!」

ナザ「そういう事か…」

リカエ「気付いたようだな。チーム二人が完全に息を合わせなければ、奴を仕留める事はできないのだ」

ドドン「なるほど!」

ポルス「なるほど!」

ギル「だったら、私は目を狙うわ!ナザレンコ、そっちは頼むわよ!」

ナザ「大丈夫かよ」

ダッ!

二人は同時に駆け出す。


ドゴッ!!


ズドォッ!!


宇宙生物は巨大な腕を何度も振り下ろし、周りの木や地面を破壊していく。

二人はそれをするりするりとかわし。

ギル「よし!いける!」

ダンッ!

ギルティースは宇宙生物の頭上へ跳び上がる。

ギル「はあっ!」


ドゴォッ!!


跳び蹴りが宇宙生物の顔面を直撃。

56ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:23:10 ID:w6mZig2w00

ギル「あれっ!?」

しかし弱点である目には当たっていなかった。


ズドンッ!!


ナザレンコはコアに近付くため、邪魔な胴体を下から蹴り上げていた。

ギル「アンタのせいか!!」

ナザ「は?」

ギル「アンタの攻撃のせいで私の狙いがズレたのよ!もう!」

ナザ「知るかよ。大体同時に破壊しなきゃ意味ねえんだ。一人で勝手に突っ走んなよ」

ギル「アンタさっきはすぐコアのとこいけてたじゃない!」

ナザ「そりゃ二度目は警戒してくるだろ。それくらい考えて分かんねえのか?」

ギル「こ、こんなデカいやつと戦うのなんて初めてなんだもん!」

ナザ「俺だって初めてだよ」

ギル「きー!むかつくー!」

ポルス「ありゃ?またケンカしてるよあの二人…」

ドドン「アホだな」

ポルス「だな」

リカエ「はぁ…」


そのまま二人は息が合わず。

リカエ「そこまで!」

ギル「えっ!」

ナザ「は!?」

リカエ「三分経過した。ドドンとポルスに交代だ」

ドドン「よーし、いくぞポルス!」

ポルス「よーし、いくぞドドン!」



それからドドンとポルスの二人は、開始から一分足らずで宇宙生物を倒した。

ギル「嘘…」

ナザ「クソ…ギル姐のせいだぞ」

ギル「はあ!?アンタのせいでしょ!?あんだけ私のこと下に見てたんだから、私に合わせなさいよ!それぐらいできるんじゃないの!?」

ナザ「なんで俺が下のレベルに合わせなきゃいけねえんだよ」

ギル「な、なんですって!?」

リカエ「その辺にしておけ。ドドン、ポルス、よくやったな」

ドドン・ポルス「おす!」

57ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:25:38 ID:w6mZig2w00

リカエ「ギルティース、ナザレンコ、そう焦る必要はない。この訓練も俺は三年掛かった」

ナザ「中佐がどれくらい掛かったとか関係ねえんすよ。俺はとっとと任務に出たいんだ」

ギル「何言ってんのナザレンコ!失礼よ!」

リカエ「ナザレンコは才能を持って生まれた者として、ギルティースはその名を継いだ者として。焦る気持ちは分かる。だがそのせいで、お前たちは自分の事しか見えていない」

ギル「自分の事しか……そうかも…」

ナザ「…チッ…」

リカエ「ドドンとポルスはこのまま第二ラウンドに移る。ギルティースとナザレンコはもう一度だ」

ギル「え?でも今のでかいの、倒しちゃったんじゃ…」

ドドンとポルスによって二つのコアを破壊された宇宙生物は、もうピクリとも動いていない。

リカエ「地下に巨大な飼育施設があるのだ。あと十体はストックがいる。問題ない」

そう言ってリカエリスはまた端末を操作し、地下から宇宙生物を召喚した。

リカエ「ドドン、ポルス、お前たちはこっちだ」

ドドン・ポルス「おす!」

リカエリスはチビ二人を連れて、さらに深い山奥へと進んでいった。


ギル「ナザレンコ、さっきはごめんね。中佐の言う通りだわ。全部アンタのせいにして…」

ナザ「…そうだよ。悪いのはギル姐だ。だから言ったんだよ、ついて来れねえって」

ギル「なっ…!」

ナザ「もういいわめんどくせえ」

ナザレンコは村の方へと歩いていく。

ギル「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ!」

すると少し離れたところで立ち止まり、宇宙生物の方を振り返る。

ナザ「俺一人でやる。最初からそう言ってるだろ」

ギル「いや、それができないからチームでやるんじゃない!」

ナザ「いいから、黙って見てろよ」


ダダダダダダダダッ!


ナザレンコは猛スピードで走り出す。

一瞬で宇宙生物の前まで来ると、


ダンッ!!


高く跳び上がり頭上へ。

宇宙生物は全く反応出来ず、攻撃も防御も回避も間に合わない。

ナザ「ファイヤーッ!!」


ボォッ!!!!


ギル「……嘘…」

ナザレンコの放った炎の体当たりは、宇宙生物の額から尻尾まで一気に貫通した。

スタッ…

ナザ「こうすりゃ同時に破壊できる」

ドシャァン…

宇宙生物は力なく地に伏した。

ギル「こ…こうすりゃって、簡単に言わないでよ…私まだファイアフォックスもできないのに…」

58ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:27:33 ID:w6mZig2w00


タタタタ…

そこへリカエリスが戻ってきた。

リカエ「これは…ナザレンコ、お前がやったのか…!?」

ナザ「はい。文句ないっすよね。倒せればいいんでしょ?」

リカエ「…ううむ…予想以上に規格外だな…体は大丈夫なのか?」

ナザ「何がですか?」

リカエ「ファイアフォックスは出力を誤れば自身も大きなダメージを負う危険な技だ。かつて"13人目の天才"と呼ばれた男は、自分の火力によって燃え尽きて死んだという。無論それほどの火力を出せる者などほとんどいないが…」

ナザ「俺は特に問題ないっすよ」

リカエ「そうか…それならいいが…」

ナザ「俺も第二ラウンドに進ませてもらえますよね?」

リカエ「駄目だ」

ナザ「は?」

リカエ「この訓練の本質を理解できなければ、お前はいずれ命を落とすだろう」

ナザ「仲間と協力しろっていうんでしょう?俺には必要ない。だからやってみせたんじゃないですか。何が不満なんすか?」

リカエ「たとえお前がどれほど強くとも、一人で乗り越えられない場面は必ず来る。必ずだ」

ギル「そうよ…幻と呼ばれた姉さんだってそれで…」

ナザ「俺はそんなヘマしねえよ」

リカエ「…それが分からないうちはお前に任務を任せる事はできんな」

ナザ「ふざけんな!俺は…」

ギル「ふざけんなはコッチのセリフよ!!」

ガッ!!

ギルティースはナザレンコの胸ぐらを掴んで怒鳴る。

ナザ「あ?何キレてんだ?お前俺に勝てんのかよ」

ギル「いい加減にしなさいよ!いつまでそうやって孤高気取ってんの!?アンタこの訓練に失敗してんのよ!?私たちなんかよりチビたち二人の方が何倍も才能あるわよ!!」

ナザ「ンなわけねえだろ。俺は一人でソイツ倒したんだぜ?」

ギル「倒したのは二人も同じよ!アンタドドンとポルス二人相手に勝てるつもり!?」

ナザ「勝てるだろ。あんなガキども…」

ギル「そうよ、今はガキ!でも自分と同じくらい大きくなったドドンとポルスに勝てるの!?無理よ!!一人と二人じゃ全然違うの!そして二人が連携できるのとできないのとでも全然違うの!!そんな事も分からないの!?」

ナザ「一人でやった方が効率がいい。同じ任務に向かわせるのに少ない人材で済むならその方がいいんじゃねえのか?」

ギル「あぁーもう分かんないわね!!アンタってやっぱり馬鹿なのね!!」

リカエ「落ち着けギルティース。ナザレンコの言う事も一理ある。個々の実力は大事だ」

ナザ「だったら…」

リカエ「だがギルティースの言っている事が本当に理解できないのなら、お前はもうフォックスとして宇宙に出るのは諦めろ。村で職に就いて平和に暮らすのも悪くないだろう」

ナザ「な…!」

ギル「ちゅ、中佐、それはさすがに…!」

59ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:28:33 ID:w6mZig2w00

そこへ。

ドドン「中佐!第二ラウンド終わったぞ!」

ポルス「終わったぞ!」

山の奥からドドンとポルスが楽しそうに歩いてきた。

服はボロボロだが、大した傷は見当たらない。

リカエ「ほう、あれを一発クリアか。流石だなお前たち」

ドドン・ポルス「楽勝!」

二人は腕を組んでドヤ顔で言う。

ギル「すごい…」

ナザ「……!」

リカエ「どうするナザレンコ。このままでは差を付けられる一方だぞ?」

ドドン「あれ?二人はクリアじゃないのか?」

ポルス「クリアじゃないのか?」

宇宙生物の死体を見て、不思議そうに首を傾げるドドンたち。

ギル「大丈夫よナザレンコ。ちゃんと協力すれば私たちだって…」

ナザ「うるせえっ!!」

ギル「!!」

ダッ!!

ナザレンコは走り去っていった。

ギル「…ナザレンコ…」

リカエ「彼奴もアルバロと同じだ。才能を持て囃されて生きてきた。後から来た者に自分が抜かされるのが許せないのだろう」

ギル「あ、あんな顔したナザレンコ…初めて見た…」

リカエ「こうでもしなければ彼奴の頭を冷やす事はできん。これで折れるならばそれまでだ」

ギル「でも…」

リカエ「ギルティース、お前はどうしたい?」

ギル「え?」

リカエ「ナザレンコを待つか、他の訓練生と組むかだ。一人ではこの訓練は受けられないぞ」

ギル「そ、それは…」

ギルティースは黙り込む。

そして訓練中にナザレンコと話した事を思い出していた。

60ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:06:41 ID:ZNs/fPgc00




チュンッ!

ナザ「ギル姐、こんな毎日毎日同じ訓練してて飽きねえか?」

チュンッ!

ギル「飽きるとか飽きないとかじゃないでしょ。これが出来なきゃ姉さんを超えるなんて絶対無理なんだから」

ギルティースはブラスターを撃ちながら答える。

ナザ「そもそもアンタがやる意味あんのか?」

ギル「はあ?」

ナザ「だってよ、俺もガキどももギル姐より小さい時から訓練してんだぜ。ギル姐がこれまで訓練してこなかったのはなんでだ?元々戦うつもりなんかなかったんだろ?他に何か夢があったりするんじゃねえのか?」

ギル「か、関係ないでしょアンタには!」

ナザ「ふーん、てことはあるんだな?何だ?」

ギル「だから関係ないでしょってば!」

ナザ「まあ何でもいいが。…その夢を諦めてまでやる事か?」

ギル「いいのよ!私は姉さんを尊敬してるの!その姉さんに託されたんだもん!」

ナザ「姉ちゃんに託されたからって自分の夢諦めるのかよ?人生は一度きりなんだ。やりたい事やらなきゃ損だぜ?」

ギル「何よ偉そうに!人生語れる歳か!」

ナザ「俺の家族はアンタと違って普通なんだ。父ちゃんはヒラフォックス、母ちゃんは主婦。それでもいつもウゼェくらいに楽しそうにしてる。自分のやりたいようにしてきたからだっつってた」

ギル「…珍しいわね、アンタがそんな事語るの」

ナザ「ムカつくんだよ。ギル姐みたいに不自由な奴を見るとな」

ギル「ふん!アンタが自由過ぎんのよ」

ナザ「自由なのは悪い事か?」

ギル「他人に迷惑かけなきゃ良いんじゃない?」

チュンッ!

ギルティースの撃った弾は的を大きく外れた。

ギル「…現に今迷惑してるわけだけど」

ナザ「それは下手なだけだろ」

ギル「とにかく!邪魔するなら帰って!」

ナザ「…腰引きすぎ。尻尾立てすぎ。目ぇしっかり開けろ。狙い定まってねえのにトリガー引くな」

ギル「は!?」

突然の具体的なダメ出しにギルティースは驚いて振り向く。

ナザ「なんだよ、アドバイスしてやってんだ。これも邪魔か?」

ギル「何よいきなり…別に邪魔じゃないけど…」

ナザ「じゃあ今すぐ直せ。全然なってねえ。中佐はこんな初歩的な事も教えてねえのか」

ギル「お、教わったわよ!…できてなかった?」

ナザ「ああ、ダメダメだ。あのギルティースの妹だからって甘やかしてんのかね」

ギル「そんな事ないと思うけど…ていうか何なのよ、悪い物でも食べた?」

ナザ「別に。戦場にアンタみたいな鈍臭いのがいたら邪魔だと思っただけだ。まあそんなんじゃ任務なんて到底任されないだろうけど」

ギル「何よー!」

ナザ「ほらまた集中が切れてる」

ギル「アンタが話し掛けるからでしょーがっ!!」

ナザ「そんな言い訳戦場じゃ通用しねえぞ。俺たちには目の前で味方が墜とされても冷静でいられるメンタルも必要…」

ギル「うるさーい!!」

61ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:07:42 ID:ZNs/fPgc00




ダッ!!!

回想を終え、ギルティースは駆け出した。

リカエ「どこへいく、ギルティース!」

ギル「ナザレンコを連れ戻します!」

振り返らずにそう答える。

そのままギルティースはナザレンコを追った。

リカエ「…それでいい。お前たちは既にお互いを信頼している。あとはそれを自覚できるかどうかだ」

ドドン「大丈夫なのか?」

ポルス「なのか?」

リカエ「心配するな。彼奴らはこんな所で終わるタマじゃない。さあ、続きを始めよう」



ギル「ナザレンコ…いない…どんだけ速いのアイツ…」

ギルティースは全速力で追うが、ナザレンコの背中すら見えない。

ギル「アイツの行きそうな場所……訓練場…?いや…」



十数分後。

カン、カン、カン…

ギルティースは梯子を登る。

ギル「あ!」

ナザ「!」

ナザレンコが驚いた顔で振り向く。

村の東にあるタワーの頂上。

かつて実在したという、九尾を持つ妖狐の銅像の尾の一つに、ナザレンコは座っていた。

62ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:09:12 ID:ZNs/fPgc00

ギル「やっぱりここにいたのね」

ナザ「……」

ナザレンコは話したくないとばかりに、再び村の景色へと向き直す。

ギル「アンタ、いつも訓練の後はここに来てるんでしょ?前に中佐から聞いたわ」

ナザ「……」

タッ…

ギルティースも妖狐の尻尾に跳び乗り。

ギル「わぁっ…凄いわね…ここの景色。村の端から端まで見えるわ。知らなかった。危ないから登っちゃダメ!って、ずっと言われてたもん」

ナザ「…何しに来たんだよ」

ギル「話しに」

ナザ「は?」

ギル「アンタ言ってたわよね。不自由な奴はムカつくって」

ナザ「…ああ」

ギル「その気持ちがちょっと分かったわ。すごく不自由そうにしてる今のアンタを見てたらね」

ナザ「何?」

ギル「任務に行きたくても行けない。早く次の訓練に進みたいのに進めない。アンタが一番分かってるはずよ」

ナザ「……」

ギル「だけど逃げたって何にも変わらないわ。自由を手に入れるには行動するしかない。そうでしょ?」

ナザ「……だがありゃ無理だろ」

ギル「無理?」

ナザ「チームプレイなんざ俺にはできねえ。俺について来れる奴なんかいねえ。そんなもん分かってんだよ…」

ギル「またそうやって勝手に決めつける…アンタね、才能あるからっていい気になんじゃないわよ。どうせ自分一人で全部解決すりゃ他の奴らは戦わなくて済むとか思ってんでしょ?」

ナザ「…は…?」

ナザレンコは虚をつかれた表情でゆっくりとギルティースの方を見た。

ギル「アンタほんっとバカね。一人で何でもできるほどこの世界は甘くないのよ。私だってまだ子供だけど、それくらい分かる。適材適所ってもんがあんの」

ナザ「ちょっと待て!俺がいつそんな事言った!?違う!俺はただ戦いてえだけだ!」

ギル「プッ!何よそれ!アンタいつも私たちのこと気に掛けてるじゃない。私にアドバイスしてくれた事覚えてる?あんなのちゃんと見てなきゃ分かんないわよ」

ナザ「いや、あれは誰でも一目で分かるぐらい酷い構えだったぞ」

ギル「うっさい!とにかくアンタがいくらクールぶってても、みんなをすごく大切に思ってるのはバレバレってわけ!いつもここに来るのだって、こうやって村を見渡して、自分の守りたいものを確認するためなんでしょ?」

ナザ「!!」

63ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:10:10 ID:ZNs/fPgc00

ギル「ふふん、お姉さんにはお見通しなのよ!そして私も同じ。私もみんなを助けたい!アンタほど自信過剰じゃないけど、私の手で救える人が少しでもいるのなら、力になりたいの!」

ナザ「…チッ…分かった気になってんじゃ…」


ギル「だったら!!教えなさいよっ!!」


ナザ「っ!!」

ギル「一人で背負い込むのなんて偉くもなんともないわ!自分の事もっと話しなさい!たまに語ったと思ったら自分じゃなくて周りの話ばっかり!私はアンタ自身のことが知りたいの!」

ナザ「だから、言ってんだろ…!俺は戦いてえだけだ!」

ギル「んなわけないでしょ!!アンタの目ぇ見りゃ分かるわよ!!戦いなんて無くなってほしいって目よ!!」

ナザ「適当な事言ってんじゃねえ!!他の奴らが何してようが興味ねえんだよ!!」

ギル「だったら何でこんなとこに来るの!?何で毎日毎日訓練場に来るの!?何で私にアドバイスするの!?何で私に夢を訊いたの!?いつもいつも周りのことばっかりじゃない!!ねえ!!答えなさいよナザレンコ!!」

ナザ「く…!俺は…!」

ナザレンコは言葉に詰まる。

ギル「…私はみんなを助けたい…みんなには、アンタも含まれてんのよ…ナザレンコ」

その目には薄らと涙が滲んでいた。

ナザ「……!」

ギル「ちょっとくらい頼んなさいよ…寂しいじゃない…」

ギルティースは感情を出し尽くして、大粒の涙を流した。

ナザ「…………」

ナザレンコは何も言えなかった。

ギル「……返事は!?」

ナザ「は、はいっ!!よろしくお願いします!!」

勢いに流されてナザレンコはようやく素直になった。

ギル「よろしい!」

ナザ「…はあ…ったく…強引な姐御だぜ…」

ギル「なんか言った!?」

ナザレンコはクスリと笑い。

ナザ「いいや!!さて、そうと決まりゃ戻るぜ!!」

ガシッ

ナザレンコはギルティースの手を握り。

ゴゴゴゴゴ…

体に炎を纏う。

ギル「え、ちょっと何する気?嘘でしょ?ねえ、普通に梯子から降りよ?」


ナザ「ファイヤーッ!!」

64ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:10:57 ID:ZNs/fPgc00




ドドン「よっしゃー!!倒したぞ!!」

ポルス「倒したぞ!!」

ドドンとポルスの前には、たくさんトゲの生えたヤバそうな生物が横たわっている。

リカエ「第三ラウンドクリアだ。本当に凄いな…この若さで…」

ドドン・ポルス「はっはっはー!」

そこへ。

ザッ…

ギル「リカエリス中佐!」

リカエ「ギルティース、ナザレンコ。戻ったか」

ナザ「もう一回、お願いします!!」

ナザレンコが勢いよく頭を下げた。

ギル「お願いします!!」

続いてギルティースも頭を下げた。

リカエ「…フ…ああ。良いだろう」


それから二人は先程の失敗が嘘のように順調に訓練をこなしていった。

65ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:11:44 ID:ZNs/fPgc00





およそ四ヶ月後。

リカエ「おめでとう、ギルティース、ナザレンコ。これでここの訓練は全てクリアだ」

ギル「や、やった!ついにやったわね!ナザレンコっ!」

ギルティースはナザレンコの手を握り、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。

ナザ「はしゃぎすぎだっつーの…そんな大した難易度じゃなかったろ」

ギル「な、何よー!そりゃアンタは余裕だったでしょうよ!足引っ張りまくって申し訳ないわよ!まったくもう!」

ナザ「申し訳なさそうには見えねえな…」

ドドン「くそー!先を越された!」

ポルス「越された!」

ドドン「俺たちも早くクリアするぞ!ポルス!」

ポルス「うん!ドドン!」

リカエ「焦るな二人とも。お前たちがいくら才能があるとはいえ、まだ最終ラウンドに挑戦するのは早い」

ドドン「えー!ずるいぞ!」

ポルス「ずるいぞ!」

ナザ「だから言ったろ最初に。お前らにゃまだ早えってよ」

ギル「むしろ途中までほとんど私らより早くクリアしてたの、末恐ろしいわね…」

ナザ「へっ、誰かさんのせいでな」

ギル「ぬぁんですってー!!」

ナザ「ギル姐のこととは言ってねえぞ?」

ギル「じゃあ誰よ!!」

ナザ「はははっ、さあな」

ギル「むかーー!!」

リカエ「うむ、良い雰囲気だ。この訓練でお前たちの信頼関係もより深くなった。チームワークも完璧と言っていい。これなら入隊試験に推薦できそうだ」

ナザ「何!?」

ギル「ってことは、その試験を通れば…!」

リカエ「ああ。お前たちに任務を任せられるようになるだろう」

ナザ「っしゃ!」

ギル「ありがとうございます中佐!やった…これで姉さんにも、少しだけ近づける…!」

リカエ「気が早いな。試験はそう甘くないぞ。…とは言ってもお前たちならば問題なくクリアできるだろうがな」

ナザ「当然っすよ」

ギル「絶対に合格してみせます!見ていてください中佐!」

リカエ「ああ、期待しているよ」

66ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:14:06 ID:ZNs/fPgc00



それから解散し、ギルティースはすぐに病院へと向かった。

ギル「姉さん!!」

姉「あら、今日は早かったわね」

ギル「チーム訓練、全部クリアしたのよ!」

姉「本当!?おめでとう!すごいわ!さすが私の妹!」

ギルティースの姉は満面の笑みで褒め称え、腕を広げた。

ギル「ありがとう姉さんっ!うふふ…」

そこへギルティースが抱きつく。

姉は抱きついたギルティースの頭を撫でる。

ギル「それで、ついに入隊試験を受けさせてもらえることになったの…!」

姉「お、やったわね!精一杯頑張んなさい!」

ギル「うん!私絶対合格する!姉さんに追いつくために!」

姉「ええ。アンタならきっと、立派なフォックスになれるわ。宇宙の平和は、貴方たちが背負っていくのよ」

ギル「うん…!」

ギルティースは、自分を抱く両腕から力が抜けていくのを感じた。

姉「いい?私たちにとって一番大切なことは…」

ギル「仲間を信じること!でしょ?」

姉「ふふっ、ちゃんと分かってるわね。そう。大変な時は仲間に頼るの。そして仲間が大変そうな時は、貴方が助けてあげるのよ」

ギル「うん!分かってる!」

姉「……一つ聞いてもいい?」

ギル「何?」

姉「後悔…してない…?」

ギル「え…」

姉「貴方が小さい頃…私みたいなフォックスになりたいって、言ってくれたでしょ?すごく嬉しかった…でも、その後他にも夢ができた…お菓子屋さんになりたいって…」

ギル「な、何で知ってるの!?姉さんには言ってないのに…」

姉「ふふ…前に…母さんに聞いたのよ…ごめんね…もし…私の名前を託された事を…後悔してるなら…」

ギル「してないよ!」

姉「……!」

ギルティースは笑顔で言う。

ギル「私、目標はずっと変わらないもん!他にどんな夢ができても、一番の憧れは姉さんだもん!」

姉「…嬉しい…」

ギル「姉さん、私頑張るからね…!!絶対なる…姉さんよりすごいフォックスに…!!」

姉「ええ…楽しみに…してる…」

ギル「だから…ね?ちゃんと見ててね…?姉さん…!」

姉「ふふ……頑張れ……幻のギルティース…マーク……ツー…………」

ギル「…うん…!」

ギルティースは零れそうになる涙を堪え、最後まで笑顔で答えた。

ピーーーー…

心電図が直線を映す。


リカエ(…さらば、戦友よ)

病室の外まで来ていたリカエリスは、静かに天を仰いだ。

67はいどうも名無しです (ワッチョイ b3aa-02aa):2021/05/02(日) 22:23:48 ID:mEerrwIU00
見てるよ

68ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 07:52:55 ID:l5TCJNfk00





宇宙のどこか。

一隻の宇宙船が飛行していた。

㍍「この宇宙での暮らしには慣れましたか?アメリーナ」

アメリ「え?突然どしたのアルザークさん」

宇宙船に乗っていたのは、パワードスーツを脱ぎラフな格好をしたサムス族たち。

㍍「貴女が来てから半年…いくつかの星を訪れましたわね」

アメリ「うん!すっごい楽しかった!」

㍍「魔界から来た、なんて言い出したときは驚いたものですわ。もし貴女が悪い魔族だったら、私は貴女を討伐することになっていたかもしれませんわね」

アメリ「えへへ、そうだね。でも意外と良い人もいるんだよ?奈落さんとか、アルベルトとかは結構優しかったし」

㍍「魔界の仲間ですの?」

アメリ「うん!他にも……いや、やっぱりあんまり良い人はいなかったかも」

㍍「どっちですの!?」

アメリ「あ、あははー、まあ中には良い人もいるってことだよ!」

㍍「そうですのね…いつか私もご挨拶したいものですわ」

アメリ「きっとそのうち会えるんじゃないかなぁ。近いうちに地上に妖魔が攻めるって言ってたし」

㍍「例の魔族の王ですわね。しかしそうなると、戦わなくてはいけませんわね…」

アメリ「そうだね。まあ大丈夫だよたぶん!なんやかんや、上手くいくって!」

㍍「適当ですわね…」

アメリ「えへへ、割と今まで適当でなんとかなってきたし。アルザークさんにも出会えたしね!」

㍍「魔力を失っても、貴女は変わりませんわね。生来、そういう性分なのでしょうね」

アメリ「うん!ていうか、アルザークさんが優しいからだよ、私がこんなに楽しいの!あの時アルザークさんに会えなかったら私どうなってたか分かんないもん!」

㍍「たまたま私が故郷に帰った日に、たまたま貴女が魔界から現れた。まさしく運命の出会い、ですわね。フフ」

アメリ「運命の出会いか〜!えへへ!これからもよろしくね!」

㍍「ええ。ですがいつまでも貴女の面倒を私が見るわけにはいきませんわ」

アメリ「え…?なんで?」

㍍「なんでって…貴女もいい歳ですし、そろそろ独り立ちを…」

アメリ「アルザークさんは楽しくなかったの?」

㍍「勿論楽しかったですわ。ずっと一人で旅をしてきましたから、二人旅というのは新鮮でした」

アメリ「じゃあいいじゃん!これからも二人で旅しようよ!」

㍍「しかし初めから言っていたはずですわ。この船に乗せるのは貴女が独り立ちできるまでだと。この宇宙で生きていく術はもう全て教えましたし、資金も充分に集まっていますわよね」

アメリ「むぅ…楽しい方が絶対いいのに。アルザークさんは私がいない方が嬉しいんだ」

アメリーナは口を尖らせていじけたように言う。

㍍「そ、そうは言っていませんわ!」

アメリ「それじゃいいよね!アルザークさん大好き!」

アメリーナはアルザークに抱きつく。

㍍(くっ…!可愛い…!なんと純粋な笑顔…!)

アメリ「あ!ほら!そろそろ次の星に着くよアルザークさん!楽しみだなー!」

㍍「ちょ、ちょっとアメリーナ!話は終わっていませんわよ!」

アメリ「何言ってるの!私はこの船降りる気ないよ!アルザークさんってば、ほんとわがままなんだから!」

㍍「す、すみません…」

アメリ「ふふん!分かればよろしい!」

㍍(ま、まずいですわ…このままではアメリーナはダメ人間になってしまいますわ…!しかし…この可愛さに逆らえない…!!)

69ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 07:55:03 ID:l5TCJNfk00




十数分後。

二人は目的地の星に着陸した。

多くの白い建造物が立ち並び、町は人々で溢れかえっている。

アメリ「わあっ!すごい!今まで行った星で一番人が多いかも!」

㍍「そうですわね。ここはこの星系で最も繁栄している星ですから」

アメリ「へえー!」

㍍「へぇって貴女、やっぱり昨日の私の話を聞いていなかったのですわね…」

アメリ「え!?い、いやぁ、キイテタヨ…」

㍍「…はぁ…私たちがこれから向かうエネルギープラント、そこに危険な生物が住み着き、エネルギーの供給を断っています。その討伐が今回のミッションですわ」

アメリ「わ、分かってるよ勿論!大丈夫!アルザークさんってば心配性なんだから〜!」

㍍「早く行きますわよ」

アメリ「わっ!待ってよー!」

二人は宇宙船から降り、町の中心部へと進んでいく。

70ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:01:14 ID:l5TCJNfk00



アメリ「ここがエネルギープラント?」

そこには窓一つない真っ黒なドームがあった。

人口密集地の中心にありながら、その周囲には誰一人いない。

そして一つしかない扉は、無残にも破壊されていた。

㍍「そうですわ。地下に流れる龍脈がこの星のエネルギー源。ここはその龍脈が多く集まる龍穴になっているようですわね」

アメリ「そうなんだ。じゃあ早く退治しないと」

㍍「しかし…」

アメリ「どうしたの?」

㍍「この中に生体反応はありませんわ…既にもぬけの殻…」

アメリ「ええ!?逃げられたってこと!?」

㍍「あるいは、既にどなたかが討伐したか…何にせよこれでは、私たちに出来ることはもうありませんわ」

アメリ「そんなぁ…前の星からこの星まで一週間かかったのにぃ…」

㍍「一週間もあれば先を越されても仕方ありませんわね。少々のんびりしすぎました。宇宙で働くバウンティハンターは私たちの他にも星の数ほどいますから」

アメリ「むぅぅ…ま、いっか!後悔してもしょうがないし、この星を楽しもう!」

㍍「そうですわね。ですがその前に念のため確認しておきましょう」

アルザークは壊れた扉からプラント内を覗き込む。

その中心には大きな穴が開いており、青にも赤にも見える不思議な光が噴き出していた。

その光が上部に設置されたエネルギー変換装置によって吸収され、街へと供給されるというシステムになっているようだ。

㍍「これが龍穴…凄まじいエネルギー反応ですわ」

そのすぐ近くに、黒い反応があった。

㍍「!!」

そこには十メートル程の巨大な生物の死骸があった。

アメリ「どう?なんかあった?」

㍍「ええ。これが龍脈のエネルギーを喰らっていた生物ですわね」

アメリ「わっ!でかっ!」

㍍「この銃痕と、焦げ付いた打撃の跡…恐らくフォックス族の仕業ですわね…」

アメリ「フォックス族?」

71ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:03:15 ID:l5TCJNfk00

㍍「私たちと同じ宇宙を股にかける種族ですわ。魔界にはいませんの?」

アメリ「うん。たぶん会ったことないなぁ。こんな大きいの倒すなんて、随分強いんだね」

㍍「ええ。しかしこの辺りで活動していたフォックスは、今は故郷で後進を育てていると聞きます。一体誰が…」

バッ!!

アルザークは急に振り返り、右腕のアームキャノンを構えた。

アメリ「わっ!?な、何!?」

㍍「誰ですの!?そこで見ているのは!」

すると、建物の影から初老の男性が出てきた。

偉い人「これは失敬。私はこの街の偉い人です」

㍍「…!失礼いたしましたわ。ミッションの依頼者の方ですの?」

アルザークは右腕を下ろす。

偉い人「はい。エネルギープラントの巨大生物が倒されたというので見に来たのですが、もしかしてあなた方が退治してくださったのですか?」

㍍「いえ、私たちが着いた時には既に終わっていましたわ」

偉い人「そうですか…報酬も貰わずにいなくなってしまうとは…」

㍍「監視カメラの記録を見せていただく事はできますか?この生物を討伐した方は、私の知り合いのフォックスかもしれませんわ」

偉い人「おお!そうですか!是非確認していただきたい!この街を救ってくださった恩人に何のお礼もできないなど、偉い人として失格ですからな!」



それから二人は偉い人に連れられ監視ルームへ。

偉い人「ささ、どうぞ」

㍍「失礼しますわ。あの死体の硬直具合や臭いから考えて半日も経っていない…恐らく数十分から数時間前に来ている筈…」

アルザークは映像を巻き戻し、チェックしていく。

アメリ「どう?なんか気になるところある?」

ピッ!

と、今から一時間前の映像を停止した。

㍍「これは…」

アメリ「見つかった?」

㍍「いえ…これはダミー映像ですわ…!」

偉い人「ダミーですと!?」

㍍「余程自分の姿を晒したくないのか…何か裏があるのかもしれませんわ…」

偉い人「しょ、少々お待ち下さい。他にもプラント内に十八台、外部にも三十台のカメラがあります。どこかに映っているかもしれません…!」

カタカタカタカタ…

偉い人はコンピュータを操作して、別カメラの映像記録を映す。

㍍「ありがとうございます。確認してみますわ」

72ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:06:09 ID:l5TCJNfk00

アルザークはダミー映像が流れていた時間帯まで映像を遡る。

㍍「…駄目ですわね。全てダミーに差し替えられていますわ」

アメリ「ちょっと待って!ここ!」

ほんの一瞬、外部カメラのうちの一つだけが正常な映像を残していた。

㍍「…!!」

そこに映っていたのは、緑の服のフォックス族だった。

アメリ「知り合い?」

㍍「…いえ…ですがこの顔、見覚えがありますわ…」

偉い人「ほお!何という御方ですか?」


㍍「…ロハス…フォックス族の英雄、ロハスですわ」


偉い人「ロハス!?」

アメリ「ロハス…?」

驚く偉い人と裏腹に、きょとんと首を傾げるアメリーナ。

㍍「アメリーナは知りませんわよね。宇宙での活動を続けていれば知らない者はいない、いくつもの星の危機を救った奇跡の人ですわ」

アメリ「へー」

偉い人「で、ですが彼は戦死したと…!」

㍍「ええ…私の故郷の星で起きた戦争で、数十年前に。もし仮に生きていたとしても既に引退しているような年齢の筈ですわ…」

偉い人「い、一体どういうことなんですか!?」

㍍「私にも分かりません…考えられるとすれば、よく似た血縁者か…もしくは…クローン…」

偉い人「ク、クローン…!?」

㍍「…私も実際に会った事がある訳ではありませんし、ただの他人の空似かもしれません。ですが正体を隠すのにはそれなりの理由がある筈ですわ」

偉い人「な、なるほど…」

㍍「…お役に立てなくて申し訳ありませんわ」

偉い人「いえいえ!御二方もこの星のためにわざわざ遠路はるばる来てくださったんでしょう。是非ゆっくりしていってください!」

㍍「ええ、そうさせていただきますわ」


アメリ「やったー!観光だー!」

㍍「燃料や食糧なども買っておかなければいけませんわね」

それから二人は街へ繰り出し、観光や買い物を楽しんだ。

73ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:32:30 ID:J7ufTwrU00




翌日。

㍍「朝ですわよ。そろそろ起きなさい、アメリーナ」

ホテルの一室で爆睡するアメリーナの肩を、アルザークが揺する。

アメリ「…う〜…あと…五分…」

㍍「まったく…まあ今日は予定もありませんし、ゆっくりさせてあげましょう。私はちょっと外に出てきますから、留守番を頼みますわね」

アメリ「…は〜い…」

アルザークはホテルから出ていった。



三十分後。

アメリ「はっ!?」

アメリーナは目を覚まし、勢いよく体を起こした。

アメリ「はぁ…夢か…ってアレ?アルザークさんは?」

隣のベッドにアルザークがいないことに気付き(さっきの会話は寝ぼけて覚えていない)、バスルームやベッドの陰、クローゼットの中などを確認するが、いるはずもなく。

アメリ「まあいっか。どっか出掛けたのかな」

アメリーナは特に気にせず二度寝に入った。

74ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:34:46 ID:J7ufTwrU00



その頃アルザークは、エネルギープラントを再度訪れていた。

㍍「確かこの辺りでしたわね。死骸は既に片付いていますか…当然ですわね」

偉い人「ん?貴女は昨日の…どうかされましたか?」

㍍「あのフォックスのことが少々気になりまして」

偉い人「なるほど。こちらでも手掛かりがないかと調べていたのですが、未だ尻尾は掴めていません、フォックスだけに」

㍍「…」

偉い人「あの生物の死骸も今研究室で解剖を行っていますよ。案内しましょうか」

㍍「お願いしますわ」

偉い人「ではこちらへ」

プラントの外に停めてあった車へと案内される。

㍍「随分と大きな車ですわね」

偉い人「ほっほっほ、まあ私これでも一応偉い人ですからな」

㍍「…」

偉い人「…何か気掛かりなことでも?」

㍍「気付かないとでも?」

バッ!

アルザークはアームキャノンの砲口を車に向け。


ドォォォン!!


偉い人「なっ…!」

ミサイルを放ち、車を消し飛ばした。

タタタッ!!

その中から三人の緑フォックスが退避して姿を現した。

偉い人「…何故分かった?」

㍍「私のパワードスーツのAIは視野角に入った全ての生体を瞬時にスキャンしますの。表面的な変装など通用しませんわ」

偉い人「そうか」

ピッ

偉い人が腕にはめていた腕時計に触れると、身に纏っていたホログラムが剥がれ、本当の姿が露わになる。

それは車から現れた三人と同じく、フォックス族だった。

75ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:36:32 ID:J7ufTwrU00

㍍「フォックス族…貴方は何者なんですの?その三人も全く同じ生体反応を示しています。やはりクローンですの?」

???「知る必要はない。㍍アルザーク、貴様はここで処理する」

㍍「そう簡単にはいきませんわよ」

四人のフォックスが一斉にアルザークを襲う。

㍍「はっ!」


ギュルルルッ!!


その瞬間、回転しながら跳び上がるスクリューアタックを発動し、フォックスたちを弾き飛ばした。

ブォンッ

???「!!」

更にロープ状のビームでフォックスの一人を捕らえ。

ビュンッ!!

???「くっ…!」

後方へと投げ飛ばす。

飛ばした先には、龍穴から噴き出すエネルギーの奔流が待ち構えていた。

㍍「いくら頑丈なフォックス族と言えど、星そのものの巨大なエネルギーをその身に受けては、無事ではいられませんわ」

???「ぐおおおおおおっ!!」


ジュゥゥゥッ…!!


フォックスはそのままエネルギーに焼き尽くされて消滅した。

ダッ!!

今度はアルザークの背後から二人が飛び掛かる。

ヒュンッ

???「!!」

アルザークはそれをするりとかわし、逆に二人の背後を取った。

ドガッ!!

???「ぐっ!」

かかと落としで一人を龍穴へ落とす。

チュンッ!チュンッ!

㍍「!」

後ろで構えていた一人がブラスターでアルザークの背中を射撃し、隙を作ると。


ドガッ!!


㍍「かはっ…」

もう一人はその腹に蹴りを入れた。

ガシッ!

ブンッ!

更にアルザークを掴み、龍穴へと投げる。

㍍「くっ…!」

ギリギリのところでアルザークは踏みとどまり、すぐさま態勢を立て直す。

タタタタタタ…!

そこへ追撃すべくフォックスの一人が距離を詰め。

???「ファイヤーッ!!」


ゴォッ!!


㍍「甘いですわ」

炎を纏った体当たりを、アルザークはガードし、受け流した。

そのまま体当たりの勢いは止まらず、フォックスは龍穴へと落ちた。

㍍「さあ、後は貴方だけですわ」

76ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:37:53 ID:J7ufTwrU00


ガンッ!!


最後の一人も距離を詰め、蹴りを繰り出す。

アルザークはそれをアームキャノンで弾いた。

ダダダダダ!!

フォックスは更に何度も蹴りを浴びせ、アルザークは徐々に押され始める。


ギュルルルッ!!


???「!!」

龍穴の縁まで追いやられたところで、アルザークは再びスクリューアタックを繰り出し切り抜ける。

と同時に。

ブゥン…

フォックスの背後へと回り、ロープビームで捕らえ。


ドゴォ!!


地面に叩きつけた。

???「ぐっ…」

ドッ!!

???「ごはっ…!」

這いつくばるフォックスの腹を踏みつけ、その頭に砲口を突きつける。

㍍「チェックメイトですわ。さあ、話していただきましょうか。貴方たちが何者なのか。目的は何なのか」

???「フン」


ガシッ!!


フォックスはその脚を掴み。


ゴゴゴゴゴゴ…


㍍「!!」

体に火を纏い始める。

???「貴様も道連れだ、㍍アルザーク」


ゴォッ!!


そのままファイアフォックスを発動して、アルザークごと龍穴へと突っ込んだ。

㍍「解除」


バシュウッ!!


アルザークは掴まれた右脚のパワードスーツパーツを解除し、なんとか道連れを逃れた。

???「く…」

フォックスは一人龍穴に呑まれ、消滅した。

㍍「…フゥ…少し肝を冷やしましたわ。右脚のパーツを新調しなくてはなりませんわね……ん?」

アルザークはフォックスたちの乗っていた車の残骸の中に、白い箱を見つける。

㍍「これは…何かの記録媒体のようですわね…」

77ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:40:08 ID:J7ufTwrU00



それからアルザークはホテルへ戻った。

アメリ「アルザークさんおかえりー。どこ行ってたの?」

㍍「少しエネルギープラントの調査を」

アメリ「って脚!どうしたの!?」

アメリーナが駆け寄る。

㍍「心配ありませんわ。ちょっとした戦闘になりましたが、ダメージはほぼありません」

アメリ「戦闘!?もしかしてフォックス族と!?」

㍍「あら、よく分かりましたわね」

アメリ「だってなんか獣くさいから…」

㍍「そうですか?アメリーナは鼻がいいんですのね。とりあえず、スターシップに戻りますわよ。支度しなさい」

アメリ「えっ!?もう出発するの?」

㍍「ええ。あまりこの星に留まっていると、また刺客が現れるかもしれませんから」

アメリ「刺客?」

㍍「あのフォックス族ですわ。どうやら私たちは見てはいけないものを見てしまったようですわね」

アメリ「そんな〜!もうちょっと観光したかったのにー!」

㍍「ぐ……!いやいや!今は我儘に付き合えるような状況ではありませんわ…!」

アルザークは駄々をこねるアメリーナの可愛さに甘やかしそうになりながらも、ぐっとこらえる。

アメリ「むぅ…は〜い…」



それからチェックアウトを済ませて、宇宙船へと帰った。

アメリ「…あれ?ちょっと待って」

㍍「忘れ物ですの?」

アメリ「いや、そーじゃなくて…あの偉い人は!?あの人も昨日の映像見ちゃってるよね!狙われるんじゃ…」

㍍「……手遅れですわ」

アメリ「え!?」

㍍「先程プラントからホテルに戻る前に連絡を取りましたが、応答したのは彼の部下の方でしたわ。既に殺されていたと」

アメリ「そんな…!」

㍍「この星を戦場にするわけにはいきません。出発しますわよ」

アメリ「つ、冷たくない!?つい昨日会った人が殺されたっていうのに…!」

㍍「死者はもう戻りませんわ。私たちにできるのは、生きているこの星の方々が平穏に暮らせるように、一刻も早くここから立ち去る事だけですわ」


ゴゴゴゴゴゴ…!!


こうしてアルザークたちはこの星から飛び立った。

78ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:42:08 ID:nlzBZUZU00





魔法学校では。

新年度を迎え、講堂にて新入生たちを歓迎する集会が開かれていた。

いくつも並べられたテーブルに、大きな燭台と絢爛な食事が用意されている。

㌦「はじめまして、僕は㌦ポッターだよ」

隣に座った赤い帽子の少年が、小学生に手を差し出した。

小学生「ああ、よろしく」

小学生は握手を返す。

㌦「君はなんでこの学校に?」

小学生「強くなるためさ。どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」

㌦「へぇ、かっこいいね。僕はお金が好きでね、魔法で楽してお金を稼ぎたくて入ったんだ」

小学生「そ、そうか。まあいいんじゃねーかな…お金は大事だしな…」

㌦「錬金術というのがあるらしくてね。ああ、早く習いたいよ」

小学生「…」

ざわざわと新入生たちが会話する中、高級感漂うローブと帽子を身に付けた老人が登壇した。

校長「えー、静粛に。ワシは校長じゃ。新入生のみんな、仲良く楽しく学校生活を送ってくれ。以上じゃ」

パチパチパチパチ…

そして降壇した。

小学生(挨拶みじか!!)

㌦「あの校長先生、すごい魔法使いらしいよ。でも僕のリサーチによると、もっとすごい先生がいるらしいんだ」

小学生「召喚士さんのことか?」

㌦「…なんだ、知ってたのか」

小学生「俺はあの人の紹介でこの学校に入れたからな。俺の恩人だ」

㌦「そうだったのか」

小学生「つーか、他のヤツらはどうやってこの学校を知ったんだ?」

㌦「いろいろだよ。僕の家はとても貧乏でね、なんとか大金を手に入れる方法はないかと探してたら、錬金術を知ったんだ。そこから魔法関連の情報を漁るうちに、ここにたどり着いたってわけさ」

小学生「へー…すげーな、自分で見つけたのか」

㌦「まあね。でも一番多いのは家族や親戚の紹介だろうね。魔法使いの家系ってやつさ。中には突然魔力に目覚めて連れてこられたなんて人もいるらしいけど…」

小学生「突然魔力に目覚めて…か…」

小学生は消えた少女のことを思い出す。

79ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:47:50 ID:nlzBZUZU00

くっちゃくっちゃ…

㌦「…って行儀悪いな君!」

㌦ポッターの対面の席…というよりテーブルの上に座って、料理に食らいつく黄色いボール。

???「ん?」

ボールが顔を上げると、その顔面には大量の米粒がくっついていた。

㌦「汚っ!」

小学生「こ、こいつも新入生なのか…?」

ペロリと長い舌で顔についた米粒を舐め取って、ボールはにっこりと笑う。

???「うん!ぼく、おこめ!」

小学生「お、お米…?」

おこめ「お米すき!お米そだてるために入学した!」

㌦「…農業の学校じゃないよ、ここ…」

おこめ「しってるわい!お米そだてる魔法、開発するのだ!」

小学生「開発…?そんなことできるのか?」

昼間「勿論です」

小学生「召喚士さん!」

三人の後ろに昼間の召喚士が立っていた。

昼間「魔法とは魔法使いたちが研究を積み重ねて編み出した技術です。おこめくん、君は魔法研究者を目指すのですね」

おこめ「いや!農家をめざす!」

昼間「農家…魔法を使った農家ですか…ふむ、それもなかなか興味深いですね。頑張ってください」

㌦「あなたが昼間の召喚士先生ですか!?」

ガシィ!

昼間「わっ」

㌦ポッターは召喚士の手を握り、目を輝かせる。

㌦「僕は㌦ポッター!錬金術師を目指しています!よろしくお願いします!」

昼間「…はい、よろしくお願いします。君のことは聞いていますよ。私と同じマリオ族が入学したと」

㌦「は、はい!光栄です!」

昼間「古くからマリオ族は魔法使いとしての才能が開花しやすいと言われています。期待していますよ」

㌦「ありがとうございます!」

それからまた召喚士は他の生徒にも声を掛けて回っていった。

小学生「ふーん、マリオ族っつーのか」

㌦「ああ。ファイターと呼ばれる英雄の末裔さ!すごいでしょ!」

小学生「へっ、そーいうことなら俺だってファイターだぜ?リンク族っつーんだ」

㌦「…なんだ…君もそうだったのか…」

80ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:50:54 ID:nlzBZUZU00

おこめ「ぼくもカービィ族だよ!すごいよ!」

小学生「カービィ族?」

おこめ「たくさん吸い込んだり、マネしたりできる!」

小学生「マネって…物真似?」

㌦「聞いたことがあるよ。吸い込んだ相手の能力をコピーしてしまうんだとか…」

小学生「なんじゃそりゃ」

おこめ「やってみる?」

ヒュオオオオオ!

小学生「どわっ!?」

小学生がおこめの口の中に吸い込まれた。

きゅぽん!

かと思えば次の瞬間には外に吐き出されていた。

小学生「あれ!?な、何が起こったんだ!?」

㌦「吸い込まれてた」

小学生「マジで!?こんなちっこいのに!?」

おこめ「ほらみて!ぼうし!」

小学生「あ!」

おこめの頭に緑の帽子が生えていた。

小学生「…ってそれだけ?」

おこめ「うん」

小学生「…コピーする意味ある?」

おこめ「ない!」

そう答えると同時にピコッとおこめの頭から星が出て、帽子が消えた。

㌦「元に戻った…」

小学生「何だったんだ…」

おこめ「きみが何もできないからだ。コピーするほどの能力がなかった」

小学生「な、何ィ!?」

㌦「ふぅん…じゃあ僕もコピーしてみてよ」

ヒュオオオオ!

キュポン!

おこめ「ほい!」

㌦「お、今度は僕と同じ帽子だ」

小学生「また帽子だけか?」

おこめ「うーん…えい!」


ボッ!!


小学生「!?」

おこめの手から炎の球が放たれた。

㌦「おおっ!これはファイアボール!マリオ族に伝わる必殺技だ!」

球はそのままテーブルの上を直進し。

小学生「っておいおい…」

ボォッ…! ジュゥッ…!

並べられた料理を次々と燃やしていく。

おこめ「ありゃ」

81ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:52:58 ID:nlzBZUZU00


ボォォォォォ…!!


最後はカーテンにぶつかり、燃え移った。

教師「こらー!!何をやっとるんだお前たちはー!!」

三人「すみませんでしたー!!」

体格のいい教師が怒鳴り、三人は速攻で頭を下げる。

昼間「やれやれ…」

パチンッ!

㌦「あ、あれ?」

召喚士が指を鳴らすと同時に、炎上したカーテンが丸ごと消えていた。

昼間「カーテンは焼却炉に移動させました。もう大丈夫です」

小学生「ふぅ…良かった…」

教師「良くないわー!!昼間先生がいたから良かったものの、火事になるところだったんだぞ!!」

昼間「まあまあ、そう怒らず…あのカーテンもちょうど新しいものに替えようとしていたところでしたし」

教師「甘いっ!!甘すぎます昼間先生!!そんなことでは彼らは今後も問題を起こすかもしれませんぞ!!退学にすべきです!!」

小学生「た、退学っ!?」

校長「ほっほっほ、ここは魔法学校じゃ。事故は珍しくない。何もそこまで怒ることはあるまいて」

教師「校長!しかし…!」

校長「じゃが何の罰もなしでは他の生徒に示しがつかん。というわけで、君たち三人には特別授業に参加してもらおう」

㌦「と、特別授業…!?」

校長「昼間くん、お願いできるかね?」

昼間「分かりました」


パチンッ!


小学生「え?」

㌦「ん?」

おこめ「ぽよ?」

気付けば三人は真っ暗闇の中に立っていた。

小学生「な、なんだぁ!?停電!?」


ボボボボボッ!


すると両側の壁に並べられた燭台に火が灯って、周囲が見えるようになった。

そこは三人の他には誰もいない、狭い通路だった。

82ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:54:33 ID:nlzBZUZU00

おこめ「…どこ?ここ」

㌦「召喚士先生に飛ばされたのか…」

昼間『そこは魔法学校の地下迷宮です』

㌦「召喚士先生!」

小学生「迷宮!?」

昼間『三人で協力して脱出してください。特別授業開始!』

小学生「えっ!?ちょ、おい!……だめだ、もう返事がねえ!俺たちだけでなんとかしろってことか…」

おこめ「ぼく、迷路すき!たのしそう!」

小学生「楽しんでる場合か!って言いたいとこだけど、実は俺もちょっとワクワクしてるよ!ハハハ!」

㌦「よくそんな余裕でいられるね…ここは魔法学校だよ?」

おこめ「?」

小学生「どういうことだよ…」


ボオオオオッ!!


小学生「ぬぁ!?」

通路を照らしていた燭台の火が大きくなり、一箇所に集まっていく。

おこめ「なにこれ!?」

それはやがて火の巨人のような姿になった。


ドゴォン!!


小学生「うおおっ!?」

巨人が大きな腕を振り下ろし襲いかかってきた。

三人は一斉に駆け出す。

㌦「どうやらコイツから逃げながら出口を目指さないといけないらしいね…!」

小学生「な、何ぃー!?」

おこめ「おこめ、あいつ、倒す!」


ボォッ!!


おこめは先程のコピー能力を使い、巨人に向かってファイアボールを撃ち出す。

㌦「そうかっ!倒せばいいんだ!」


ボォッ!!


㌦ポッターも同じくファイアボールを撃ち出す。

83ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:58:20 ID:nlzBZUZU00

小学生「いやいや!火の巨人だぞ!?」


ボシュッ…


ファイアボールは巨人の体に吸収され、巨人は更に巨大化した。

㌦「しまった!火は効かないのか!」

小学生「考えたら分かるだろー!」

㌦・おこめ「ごめーん!!」

三人は再び駆け出す。

小学生「つーかすげーなお前ら!まだ魔法習ってないのにそんな技使えるなんて!」

㌦「言ったろ!僕らの種族なら使えて当然の技だ!」

おこめ「小学生は技ないの!?」

小学生「俺はこのクローショットくらいだ!」

㌦「その背中の剣は!?」

小学生「剣もブーメランもバクダンも入学祝いに貰ったばっかで、まだ全然使えねえ!」

㌦「だからおこめくんのコピーが効かなかったんだね!クローショットってのはどんな武器なの!?」

小学生「相手を捕まえて引き寄せる!武器っつーよりは便利道具だ!この状況じゃ役には立たねえ!」

㌦「そうか!仕方ない!とにかく今は逃げよう!」

おこめ「道、分かれてる!どうする!?」

小学生「左!」
㌦「右!」

おこめ「どっち!?」

小学生「左だよ!右はなんか嫌な予感がする!」

㌦「予感て!そんな曖昧なもので決めていいの!?」

小学生「じゃあ右でいいよ!!」

ダッ!!

三人は一斉に右折。

おこめ「また分かれ道!」

㌦「さすが迷宮というだけあるね…!」

小学生「どうする!」

㌦「左だ!」

ダッ!!

今度は一斉に左折。

とその時。

おこめ「あっ」

ズサーッ!

おこめはつまづいて転んだ。

㌦「おこめくん!!」

すぐそこまで火の巨人が迫る。


ズオオオオ!!


巨人が腕を振り下ろす。

おこめ「うわーっ!」

小学生「おこめっ!」

84ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:59:37 ID:nlzBZUZU00


ギャリンッ!!


おこめ「わっ!」


ドゴォォォン!!


小学生「あっぶね〜…」

小学生のクローショットでおこめを引き寄せ、ギリギリのところで巨人の攻撃をかわした。

おこめ「ありがとう!」

小学生「おう!」

㌦「フフッ、役に立ったじゃないか、クローショット!さあ立って!まだ安心してる場合じゃない!」

おこめ「うん!」

㌦ポッターはおこめに手を差し伸べ、立ち上がらせる。

そしてまた三人は迷宮を走り出した。



教師「よかったんですか?昼間先生」

昼間「え?」

教師「地下迷宮は中等部の上位クラスでも苦戦する難関…いくら校長先生の提案とはいえ、あんな入学して間もない子供たちを…」

昼間「大丈夫ですよ。彼ら三人ともファイターの家系です。それに何かあれば私が助けますし、多少の怪我は魔法薬で治せます」

教師「しかし…」

昼間「見てください」

召喚士は魔法書を開いて見せる。

教師「こ、これは…!」

そこには地下迷宮で巨人から逃げ惑う三人の姿が映し出されていた。

昼間「ね?心配ないでしょう。むしろこれくらいでなくては、彼らにとって罰にはなりませんよ」

教師「そ、そのようですな…」

そこに映る三人の表情は、とても楽しそうだったのだ。

85ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:36:10 ID:nNVuxjDo00



それからおよそ二時間。

小学生「はぁ…はぁ…チクショー!全然出口が見つからねー!」

おこめ「ほんとに出口あるの!?もうつかれたー!!」

㌦「はぁ…ずっと走りっぱなしだし…流石に堪えるね…はぁ…」

三人はまだ迷宮を彷徨っていた。

おこめ「あのでっかいの…体力すごすぎ!はぁ…はぁ…」

小学生「そもそも…体力なんてないんじゃねーか?はぁ…火だし…」

火の巨人は未だにすごい勢いで三人を追いかけている。

㌦「体力がない…?そうか!」

小学生「なんだ?」

㌦「コイツの正体は…これだっ!!」


バキィ!!


㌦ポッターは壁にある燭台を殴って壊した。

小学生「ど、どういうことだ?」

㌦「火で作られたゴーレムがこんなに長時間単独で行動できるわけないんだ!すぐに燃え尽きて消えてしまうはず!つまり火が常に供給されてる!それがこの燭台だ!」

おこめ「なるほど!わかった!」

小学生「これを壊しゃあコイツも消えるってことだな!?」

㌦「そういうこと!」

小学生「よし!そうと分かりゃブッ壊しまくるぞ!」

86ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:37:42 ID:nNVuxjDo00


バキィ!!

ドガァッ!!

ズガガッ!!


三人は走りながら、壁の燭台をどんどん破壊していく。

小学生「お!?なんか小さくなってるぞ!」

振り返ると、火の巨人は小学生たちと変わらないくらいの大きさにまで縮んでいた。

㌦「供給される火が減ったからだ!」

おこめ「これ壊せば…おわり!」


バキィ!!


おこめが燭台をキックで破壊。

すると。


シュゥゥゥゥ…


小学生「消えていく…!」

㌦「はぁ…はぁ…やった!」

おこめ「ぼくたちの、かち!はぁ…はぁ…」

三人は疲れてその場に座り込む。

小学生「…って暗っ!?火ぃ全部ブッ壊しちまったから明かりがねーぞ!どうやってこっから抜け出しゃいーんだ!」

㌦「はは、そんな焦らないでよ…」

ボッ!

㌦ポッターは掌の上にファイアボールを作り出した。

小学生「おお…便利だなそれ…」

おこめ「ぼくもやる!」

ボッ!

おこめもコピー能力を使ってファイアボールを出したが、前へ飛んで行った。

おこめ「ありゃ?」

㌦「こうやって同じところに留めておくにはちょっとコツがいるのさ」

小学生「へー。同じ能力でもやっぱ扱い慣れてると差が出るもんだな」

おこめ「ポッター、すごい!」

㌦「はは、照れるな…とりあえずこれで出口をゆっくり探せるね」

小学生「ああ!」

㌦ポッターの掌のファイアボールを頼りに三人は迷宮を進んでいく。

87ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:40:00 ID:nNVuxjDo00

㌦「えっ…?」

ほんの十メートルほど歩いたところで、三人の前にドアが現れた。

小学生「こんなとこにドアなんてあったか?」

おこめ「なかった!」

㌦「あのゴーレムを倒すのが脱出の条件だったのか!」

小学生「まあ何はともあれ…これで迷宮クリアだ!」

ガチャッ!

三人はドアを開け、地下迷宮を後にした。

㌦「ここは…」

そこには木々が生い茂り、地には花が咲き、その中心に小さな湖があった。

小学生「庭園…?でも召喚士先生は地下って言ってたよな。どうなってるんだ…?」

???「ああ、間違いなくここは地下さ」

小学生「誰だ!?今どっから声が…」

???「ここだよ、ここ」

おこめ「どこ?」

三人はキョロキョロと周りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

チャプン…

???「僕だよ」

中心にあった湖の中から、水色のルイージ族が顔を半分出した。

小学生「うおおっ!?」

㌦「なな、なんなんだ一体…!?」

???「僕は湖の精霊さ」

おこめ「せいれい?」

湖「自然界の魔力から発生する生き物さ。生まれた経緯や場所によって、妖精や魔物などと言うこともあるね。種類は様々だけど、大きな括りでは同じような存在だよ」

小学生「妖精…半年くらい前に一度会ったことあるよ。アイツ、元気にしてるかな…」

湖「へぇ、素晴らしいね。妖精は一般的に心の綺麗な人の前にしか姿を現さないんだよ」

㌦「そ、それよりここはどこなの?あの迷宮を脱出したら帰れるんじゃないの?」

湖「ああ、もちろん帰れるさ。校長先生に頼まれているからね」

小学生「ってことはお前が帰してくれるのか?」

湖「そういうこと。ただせっかくここまで来たんだ。僕の話に少し付き合ってほしいな。こんなところにいると中々人と会えないんだ」

おこめ「なんでこんなとこにいる?」

湖「言ったろう?僕は湖の精霊だからね。この湖から離れることはできないのさ。多少無理をすれば外に出ることはできるけど、すごく体力を使うんだ」

小学生「なるほどなー。湖ごと地上に移したりできないのか?召喚士先生なら魔法でチョチョイっとできそうなもんだけど」

湖「それは無理だよ。余程膨大な魔力でもなければ、空間移動できるのはある程度の大きさに限られているんだ」

小学生「じゃあホースで水だけ抜いたりとかは?」

湖「それも無理だね。水中の小さな生き物たちや、この周りに茂る自然も全て含めて湖なんだ。そんなことをしたら僕は存在ごと消えてしまうよ」

おこめ「はかない命ね」

88ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:41:03 ID:nNVuxjDo00

㌦「そもそもどうしてこんな地下に湖が…?」

湖「この魔法学校が裏の空間にあるのは知っているね?」

小学生「ああ。なんか入学手続きの時にそんなこと言ってたな。よく分かんなかったけど…」

㌦「普通の人たちが住んでるのが表の空間で、魔法使いたちが住んでるここが裏の空間だよね?」

湖「まあ簡単に言うとそう。大昔の魔法使いたちは魔法学校を建てるために、表の空間から一部を切り取って、この裏の空間を作り出したのさ。でもそんな大掛かりな魔法は当然とても不安定だ。その拍子にこの湖は地下深くに押しやられてしまったのさ」

おこめ「かわいそうに」

小学生「なんとかしてやれねーかな?」

㌦「無理だよ…僕たちまだろくに魔法も覚えてないのに」

小学生「だよなぁ…」

湖「何、気にすることはないよ。僕は静かなのが好きだし、ここにいるのが性に合ってる」

おこめ「でも、寂しいでしょ?」

湖「そう思うこともあるけど、君たちのようにたまに人が訪ねて来るし、なんたってもう何百年もここにいるんだ。心配ないよ。暇潰しにも困ることはないしね」

㌦「え?こんなとこで一人で何するの?」

湖「湖の中をご覧」

湖の精霊は人差し指でちょいちょいと三人を近くへ呼ぶ。

小学生「ん?」

三人が湖を覗き込むと。

㌦「こ、これは…」

おこめ「本?」

湖の中には、ズラリと本が並んでいた。

大きな図書館にも入りきらない程の膨大な量だ。

湖「そう。どうやらこれが僕の精霊としての特殊能力なんだ。捨てられた本、誰も読まなくなった本、そんな本たちが、この湖の中に集まってくる」

小学生「すげーなー。道理で頭良さそうなわけだぜ」

㌦「うん。まさに湖の賢者といったところだ」

湖「知識だけあっても特に意味はないけどね。さて、そろそろ気が済んだし、お別れだ。久しぶりに人と話せて楽しかった。ありがとう」

フワッ…

すると三人の体が宙に浮く。

小学生「おわ!なんだ!?」

湖「またいつか会おう、少年たち」

パッ!

三人は湖の前から姿を消した。

89ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:42:19 ID:nNVuxjDo00



ドササッ!

小学生「あだっ!」

おこめ「ぶぇ」

㌦「いたたた…あれ、ここは…」

そこは元いた講堂だった。

とはいえ歓迎の集会はもう終わり、すっかり人はいなくなっている。

昼間「お帰りなさい、君たち」

小学生「召喚士先生!」

おこめ「あーおもしろかった!」

㌦「いや第一声それって…一応僕たち罰受けてたんだよ…?」

校長「ほっほっほ、気にするこたぁない」

㌦「こ、校長先生!」

校長「君たちファイターと呼ばれる種族は、魔法学校の長い歴史の中で常に名を残してきた逸材ばかりじゃ。この昼間先生もその一人」

㌦「もしかして、僕たちの力を試すために…?」

校長「左様。そして見事あの難関を越えて見せた。間違いなく君たちは、最高の魔法使いになれるじゃろう」

三人「ありがとうございます!」

校長「ほっほっほ、期待しておるぞ」

校長はご機嫌そうに笑いながら去っていった。

昼間「三人とも、怪我はないですか?」

小学生「あ、はい!大丈夫です!」

㌦「そう言えば召喚士先生、あの地下の湖って…」

昼間「そうそう、彼のことは口外無用でお願いしますね」

㌦「え?」

おこめ「なんで?」

昼間「本来あの迷宮は中等部の実技試験に用いられるものなのです。そしてクリアした者だけが彼に会い、その知識を一つ分けてもらうことができる」

小学生「へー」

昼間「一昔前まで、その知識を狙って迷宮に忍び込んだ人が死亡する、という事故が多発していました」

小学生「え…」

昼間「試験外で勝手に入り込まれては、すぐには気付けませんからね。助けられなかったのです。それ以来、湖の存在は隠されています。彼は、詳しすぎたのですよ」

㌦「あ、あの人の知識ってそこまですごいものなんですか…?」

昼間「ええ。湖の本を見たでしょう。彼はあの力で、歴史の闇に葬られた禁断の魔法書をも手に入れています」

㌦「な…!!」

おこめ「きんだん?」

昼間「危険すぎて禁止された魔法、という意味です」

小学生「そこまで危険なら、試験なんかに使わなきゃいいじゃねーか。なんで…」

昼間「まあ、何百年と続く伝統ですからね。頭の硬い老人たちの…おっと、今のは聞かなかったことにしてください」

三人「…」

昼間「とにかく、くれぐれも湖のことは内密に。よろしくお願いしますね」

三人「はーい」

こうして入学初日が終わった。

90ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 22:04:17 ID:nNVuxjDo00




数日後。

小学生「うおおおおおっ!!」

小学生は机に置かれた水晶に向かって手をかざし、叫んでいた。

しかし水晶には何の変化もない。

昼間「力み過ぎです」

小学生「くーっ!ムズイ!なんでお前らそんな上手いんだよ!」

㌦「才能かな」

おこめ「小学生!がんば!」

㌦ポッターとおこめの前の水晶は浮き上がり、赤や黄色に光っている。

小学生「チクショー!」

㌦「意地張ってないで杖を使えばいいじゃないか…」

おこめ「ぼくの杖、貸す?」

小学生「いーや!自力でやる!㌦にできて俺にできないなんてありえねー!」

昼間「何も杖を使うのは恥ずかしい事ではないんですけどね…㌦くんが特別なだけですよ。マリオ族は元々魔法使いの素質が高いのです」

小学生「だ、だけど…」

㌦「おこめくんも杖を使ってるんだ。このまま魔力の基礎すら覚えられなかったら、それこそ恥ずかしいよ」

小学生「ぐ…!わーったよ!」

おこめ「はい、杖」

小学生「おう!ありがとう!」

おこめから杖を受け取り、小学生は水晶に向かって杖の先を向ける。

小学生「うりゃああああ!!動けええええ!!」

昼間「いや、だから力み過ぎですよ…」

91ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 22:05:13 ID:nNVuxjDo00



三時間後。

小学生「よっしゃあああ!!浮いたぜ!!」

小学生は立ち上がりガッツポーズをする。

水晶はものすごーく淡く光り、ほんの数センチだけ浮遊していた。

㌦「やっとか…」

おこめ「もうみんな次の教室行った」

小学生「え!?」

㌦「召喚士先生もとっくに他のクラスの授業に行ってるよ…まったく…」

小学生「マ、マジかよ…お前ら…いい奴だな…!!」

㌦「え?」

小学生「みんないなくなっても残っててくれたんだろ!?」

㌦「ああ、まあ…」

おこめ「小学生、ともだち!」

小学生「ありがとな!ほんと!」

小学生は笑顔で二人の手を取る。

㌦「はは…ま、君の根性だけは認めるよ。周りのことが全く見えないくらい集中してたみたいだし」

おこめ「小学生すごい!ぼくも負けてられない!」

小学生「おうよ!俺だって負けねーぞ!飲み込みはお前らより遅えけど、練習量でカバーしてやる!」

㌦「それはどうかな。僕だってたくさん努力するからね。どんな分野だって一番強いのは、才能もあって努力もできる人なのさ」

小学生「だったらその倍努力するさ!」

おこめ「ぼくも!」

㌦「フフ、それじゃあ僕たちはライバルだね」

小学生「おう!」

おこめ「うん!」

92ハイドンピー (ワッチョイ bf82-de96):2021/05/23(日) 22:22:02 ID:wd2459j.00





とある夜の、とある都会。

立ち並ぶビルの陰で、何かの取引を行う二人組がいた。

ミカ「例の組織で手に入れた極秘資料だ。これで依頼は完遂したぞ」

???「ああ。二年間の潜入お疲れ様、ミカ君。助かったよ」

冷たい表情の青ピカチュウが、赤ドンキーに資料を手渡す。

そして赤ドンキーは、青ピカチュウに分厚い封筒を手渡す。

ミカ「組織は潰しておいた。これでお前以外に情報は知りえない」

ミカは封筒の中の札束を確認しながら、淡々と言う。

???「フ、流石は味方殺しの家系だ。以前、君の父上にも世話になってね。本当に良い仕事をしてくれる」

ミカ「父は関係ない。これからは俺を頼れ」

???「もう一人前になった君にとっては、父上すら商売敵という訳か。まだ若いのにしっかりしているな、フフ…そうだな、また頼める仕事があれば君に連絡しよう」

ミカ「ああ。じゃあな」

そして二人は互いに違う方向へと去っていった。

93ハイドンピー (ワッチョイ bf82-de96):2021/05/23(日) 22:27:52 ID:wd2459j.00


プルルルルルル…


ミカ「!」

赤ドンキーと別れてすぐ、ミカの携帯に知らない番号から電話が掛かってきた。

ピッ

ミカ「誰だ」

???『味方殺しだな?依頼がしたい』

ミカ「専用ルート以外からの依頼は受け付けてない」

???『専用ルート?そんなものがあるのか…用心深いんだな。そのルートを辿るにはどうすればいい?』

ミカ「自分で調べろ。表の人間に一から教えてやるほど暇じゃない。じゃあな」

ミカは電話を切ろうとしたが。

???『まあ待て。私は半年前、お前の父に仕事を依頼したのだ』

ミカ「…何?」

???『しかしその後一切連絡が取れない。仕事に失敗したのか、投げ出したのかは知らんが…』

ミカ「有り得ない。あの男が失敗するわけない…まして仕事を投げ出すなんてあるはずがない」

???『そう言われても事実なのだ。奴の息子なら、その尻拭いくらいしてもらわねば困る。こちらも高い金を支払っているのでね』

ミカ「知ったことか。俺には関係ない」

???『そうか…ならばこちらも相応の対応をさせてもらおう。私は一応名が通る立場にいるのでね。この世界において依頼者からの信用を失う事がどういう意味を持つか、分からない訳ではあるまい』

ミカ「くだらない」

プツッ

ミカは電話を切った。

94ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:06:56 ID:dIqdflQU00





一年後。

ミカ(依頼が来ない…あの男の仕業か?)

ミカは飢えていた。

そこへ。

プルルルルルル…

ピッ

ミカ「誰だ」

???『どうだね?味方殺し。私の依頼を受ける気になったかな?』

ミカ「お前か…」

???『断り続ける限りお前に仕事は来ない。早めに受けておいた方が得策だと思うぞ?』

ミカ「ここまでできるなら専用ルートくらいすぐに辿り着けるはずだろ。なぜこんな無駄なことに時間を使う?」

???『立場関係を知っておいてほしかったのでね。お前は私の依頼を受けるしかないのだよ。何もタダで働けと言っているんじゃないんだ。意固地になって断り続ける事の方が余程無意味じゃないか?』

ミカ「チッ…分かった。内容を教えろ」

???『おお!そうか!受けてくれるか!ならばこれから送る住所に来てくれ、そこで全て伝えよう』

95ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:08:39 ID:dIqdflQU00



その後メールで送られた住所へとミカは足を運んだ。

ミカ「でかいな…」

そこには大きな屋敷があった。

ギィ…

と、大きな門が開き。

???「やあ。待っていたよ味方殺し」

中から現れたのはいかにもな高級スーツを着てギラギラと輝くアクセサリーを大量に着けた男だった。

ミカ「お前が依頼人か」

???「ああ。ここでは人目につく。中で話そう」

そして屋敷の中へと招かれた。


ミカ「オイ、そろそろ話を…」

???「いいや、まだだ。屋敷の一番奥に秘密の部屋があるんだ。話はそこで聞いてもらう」

男はどんどん屋敷の奥へと進んでいき、ミカはその後をついていく。


ガチャン!!


ミカ「は?」

突如、ミカの踏み出した脚に足枷がはめられた。


ガチャン!!ガチャン!!ガチャン!!


更にいくつもの拘束具が床や壁や天井から突き出し、ミカを縛り付けていく。

ミカ「デガワァ!!」


ドガァッ!!!!


ミカはかみなりを落とし、その全てを一撃で粉砕した。


ドガガガガガ!!


しかしその間にミカの周囲に分厚い壁が降りてきて取り囲み、逃げ道を完全に封鎖した。

ミカ「はっ!!」


ドゴッ!!


尻尾で壁を叩きつけるも、表面にヒビが入っただけだ。

ミカ「チッ…何の真似だ…」

96ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:09:25 ID:dIqdflQU00

???『ハッハッハッハッハ…悪いねぇ味方殺し。これは罠なのだよ』

天井のスピーカーから男が言う。

ミカ「見れば分かる」

???『お前の父親の話も嘘だ。なんたってお前の父親を捕らえたのも私だからな』

ミカ「…目的は何だ?」

???『お前は商品になるんだ。ファイターと呼ばれる種族は金になる』

ミカ「奴隷商か…?」

???『違う。聞いた事はないか?闇の世界の格闘技、ブラックファイト…!!』

ミカ「知らん」

???『ブラックファイトはルール無用のデスマッチ…どちらかが死ぬまで戦い続けるのだ!』

ミカ「お前はそのオーナーというわけか」

オーナー『その通り!そしてお前にはこの戦いに参戦してもらう!』

ミカ「…そんなものが商売になると思ってるのか?」

オーナー『フフフ…裏格闘技だと思って甘く見るな。ブラックファイトは超一流だ!表の格闘界から消えた世界チャンピオンや、十年間逃亡を続けた殺人鬼、宇宙から来た謎の怪物まで揃っている!そこに伝説の殺し屋の息子も加わる訳だ。胸が躍るね…!』

ミカ「そんな奴らが俺の相手になると思ってるのかって聞いてるんだ。俺が一人で全員殺して終わりだ」

オーナー『安心しろ。お前も観客も退屈にはさせないさ。フフ…!お前の父親もこのブラックファイトで死んだんだからな!』

ミカ「何…!?」

オーナー『ハッハッハッハッハッ!やっと表情が動いたなぁ!殺し屋と言えども身内の死には流石に動揺するか!本当はお前と父親を戦わせようと思っていたんだがなぁ…二ヶ月前に殺されてしまったよ。クク…』

ミカ(あの男が殺された…?真実だとすれば、イカレた強さのファイターが混ざっていることになるが…)

オーナー『今夜早速お前に出番をやる。楽しみにしていろ』

ブツン!

マイクが切れる音とともに、スピーカーは天井の中に格納された。

ミカ(面倒だな…この壁、絶縁性の素材でできてる。電撃は効かない。分厚すぎて物理での破壊も無理そうだ)

97ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:10:49 ID:dIqdflQU00



数時間後。

オーナー『さあ出番だ味方殺し』

ゴゴゴゴゴゴ…

ミカの前の壁が開く。

そこは数千人が入ったスタジアムの、ステージの上だった。

ミカを閉じ込めていた部屋ごと移動されていたのだ。

そのステージは分厚いガラスの檻で囲まれている。

ミカ「ピカチュゥ!」

バチッ!!

ミカの電撃はガラスに弾かれて消えた。

オーナー『無駄な抵抗はやめろ。当然、特殊強化ガラスだ』

ミカ「チッ…」

オーナー『皆様、お集まりいただきありがとうございます!本日より参戦しますのは、ファイターと呼ばれるピカチュウの一族!二ヶ月前、無惨に死んだ味方殺しの一人息子!果たしてどこまで生き延びるのか!』

ワアアアアアアア!!

ミカ「くだらない前置きはいい。さっさと始めろ」

オーナー『ハッハッハ!見ての通り生きのいいピカチュウです!この余裕の表情が歪んでいく様を、皆様どうぞご覧あれ!』

ワアアアアアアア!!

ミカ「チッ…耳障りな歓声だ」

オーナー『対するは、こちらもファイターと呼ばれし一族!英雄キャプテン・ファルコンの末裔!破壊王…エーレヒト!!』

ザッ…!

エーレ「よろしくお願いしますっ!」

ワアアアアアアアッ!!

現れたのは紫色のヘルメットを被った少年だった。

ミカ「…子供じゃねえか」

エーレ「君がそれ言いますか…?」

オーナー『これまで二十の試合を全て乗り越え、チャンピオンの座まで駆け上がったエーレヒト!今宵はどんな破壊を見せてくれるのでしょうか!』

ミカ「お前みたいな子供が何故こんなところにいる?」

エーレ「え、普通に面白いからですけど…」

ミカ「面白い…?」

エーレ「戦うのって楽しくないですか?」

ミカ「どこがだよ」

オーナー『さあそれでは試合開始です!スリー!トゥー!ワン!スターーート!!』


ガッ!!!!


開始と同時に、両者の拳と尻尾がぶつかり合う。

エーレ「お、一撃目に反応できた人、久しぶりですよ」

98ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:12:33 ID:dIqdflQU00


バチバチッ!!


エーレ「うぎゃ!?」


ガシッ!

ブンッ!!


エーレ「おわっ!」

ミカは電撃でエーレヒトの動きを封じ、更に投げ飛ばす。

ドゴォ!!

そのままエーレヒトは壁に打ち付けられた。

エーレ「いてて…すごい…強い…!」

ヒュッ!


ドガッ!!


ミカは更に追撃の尻尾を振り下ろすが、エーレヒトはとっさにかわし、尻尾は壁にヒビを入れた。

エーレ「おっと、危ない危ない!」

タッ!

ミカは反撃を受けないよう、すぐさま壁を蹴って距離を取る。

エーレ「へへ…よーし、今度はこっちの番です!」

ダッ!

エーレヒトはミカに飛びかかるが。

ミカ「デガワァ!!」


ドォォン!!!!


エーレ「ぐあっ!!」

かみなりがエーレヒトを弾き返し。


ドゴッ!!


エーレ「がはっ!!」

その隙を突いてミカは蹴りを入れ、エーレヒトを再び壁に叩きつけた。

オーナー『何ということでしょう!これは予想外の展開です!あのエーレヒトが翻弄されている!この味方殺し少年、父親以上の逸材かもしれません!』

ワアアアアアアアアアアアア!!!!

歓声は勢いを増す。

ミカ「チッ、うざったいな。これくらいあの男だってできるはずだ。それがここではできていなかった…?…てことは、試合前に何かされたのか…」

エーレ「何ブツブツ言ってるんですか?」

ミカ「…お前、俺の父と戦ったのか?」

エーレ「え?いや、戦ってないですよ。試合はモニターで見てましたけど」

ミカ「誰にやられたんだ?」

エーレ「表の格闘技の有名選手らしいです。まあその人は僕が殺しましたけどね」

ミカ「…やっぱりな」

エーレ「何が?」

ミカ「いや、あの男がそんな簡単に殺られるわけがない。何かを仕込まれてたと考えるのが自然だ」

エーレ「は…?」

ミカ「くだらない祭り上げだ。奴らはお前を使って金を稼ぎたいだけだからな。当然か」

エーレ「な、何言ってるんですか!?僕が勝ってるのは本当の実力じゃないって言いたいんですか!?」

ミカ「ああ。お前が勝つように仕向けられてる」

エーレ「そんなバカな!僕は最高の戦いがしたいだけなんだ!命を賭けた本気のぶつかり合いが!」

ミカ「そう思ってるのはお前だけだ」

エーレ「ふざけるなっ!!そんなはずない!!」

99ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:14:23 ID:dIqdflQU00

ダッ!!

エーレヒトが飛びかかる。

ミカ「遅い」


ドガガガガッ!!!!


エーレ「かはっ…」

ミカはエーレヒトの拳をかわし、瞬時に連打を叩き込んだ。

ガクッ…

エーレヒトは膝をつく。

ミカ「お前、本気でやってるのか?」

エーレ「あ…当たり前だ…!」

ミカ「気持ちの話じゃない。体の話だ」

エーレ「何…?」

ミカ「言っただろ。俺の父は明らかに何か仕込まれて、本来の力を出せずに負けた。お前を祭り上げるためにな。奴が今度は俺を祭り上げようとしてるとしたら、お前も何か仕込まれている可能性がある」

エーレ「な…!!」

ミカ「はっきり言って今のお前の動きは表の格闘家でもせいぜい上の下レベルだ。それが本来の力だとは思えない」

エーレ「そ…そう言われると…たしかになんか体が重いような…」

ミカ「お前がやってたのは戦いじゃない。あの馬鹿どもを楽しませるための茶番だ」

エーレ「…そんな…」

ミカ「やってみたくないか?本当の戦いってやつを」

エーレ「え?」

ミカ「こんな檻の中で戦ってても本当の戦いはできない。永遠にな」

エーレ「そ、それってまさか…」

ミカ「逃げるんだよ。ファルコン族のパワーならこんな檻、簡単に壊せるはずだ」

エーレ「で、でも…」

ミカ「なんだ」

エーレ「僕は赤ん坊のときに捨てられて…死にそうになりながら生きてきたんです…それで、僕がファルコン族だって気づいたオーナーが拾ってくれて…ここにいれば食べ物には困らない…」

ミカ「そういうことか」

オーナー『何をしている?戦えエーレヒト、味方殺し』

檻の内側に取り付けられたスピーカーからオーナーが言う。

ミカ「黙れ」


バチバチッ!!


ボォン!!


ミカはスピーカーを電撃で破壊した。

ミカ「迷う必要があるか?ここから脱出するか、ここで俺に殺されるかしか、お前に選択肢はない」

エーレ「……」

ミカ「全力も出し切れずに死ぬ。戦い好きなお前にとっては最悪の結末だろ?エーレヒト」

100ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:15:20 ID:dIqdflQU00

エーレ「……確かに…君の言う通りです」

くるっ!

エーレヒトは後ろを振り向く。

エーレ「ファルコォン…」


ボォッ!!


エーレヒトの拳を炎が包み。

エーレ「パァンチ!!」


ズドォッ!!!!


ガラスの檻に向かって炎のパンチを繰り出した。

ビキビキ…


ドガァーン!!


そして檻に大きな穴が開いた。

ミカ「よくやった」

タッ!

エーレ「!」

ミカは穴から脱出した。


キャアアアアアア!!


会場は悲鳴に包まれる。

オーナー「馬鹿なっ…!」

主催者席から見ていたオーナーは思わず立ち上がり。

ミカ「よう」

その前にミカが現れる。

オーナー「なっ…!!き、貴様ぁ!何の真似だぁ!」

ミカ「あの子供を飼い慣らしていたようだが、洗脳が足りなかったようだな」

オーナー「ふざけるな!一体このショーにどれだけの金が掛かっていると思っている!?」

ミカ「ショーだとよ」

エーレ「……」

オーナー「!!」

ミカのすぐ後ろにエーレヒトも立っていた。

エーレ「僕を騙してたんですね、オーナー…!」

オーナー「ハ……ハッハッハッハッハッ!!馬鹿がっ!!そうだ!!当たり前だろう!!誰が面倒を見てやってると思ってる!?」

エーレ「ファルコォン…」

ボォッ!!

オーナー「ま、ままま待て!!は、早まるな!!何が欲しい!?か、買ってやろう!!」

ミカ「散々命を弄んできておいて、命乞いとはな」

エーレ「パァンチ!!」


ドゴォッ!!!!


オーナー「ごぁ」


ドバァン!!


オーナーはファルコンパンチによってブッ飛ばされ、壁にぶつかり、体が爆発四散した。

ミカ「…汚い花火だ」

今宵はどんな破壊を見せてくれるのか。

これがその答えであった。

101ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:17:11 ID:dIqdflQU00



それから十分くらい後。

ミカ「で、これからどうする?」

エーレ「そうですね…僕も君みたいに、殺し屋になってみようかな…」

二人の周囲は血の海となっていた。

会場の観客を皆殺しにしたのだ。

ミカ「戦いを楽しみたいなんて言ってる奴には無理だ。格闘大会みたいなのに出たらどうだ?俺たちファイターなら入賞は容易い」

エーレ「僕もオーナーに拾われる前はそれで何度かお金を稼ごうと思ったんですけど、ダメだったんですよ。経歴不詳で出場できなかったり、できても賞金の出ないちびっ子大会しかなくて…ストリートファイトも相手にされないし…」

ミカ「なるほどな。まあいいだろう、この裏社会で生きていく方法くらいは教えてやる」

エーレ「ほんとですか!?」

ミカ「脱出に協力してもらった礼だ。俺は借りは返すタイプだからな」

エーレ「ありがとうございます!」

それからしばらく二人は行動を共にする事となった。

102ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/05/26(水) 20:49:17 ID:osLfD98o00





とある星の内部。

その部屋にはいくつものモニターとコンピュータが並べられており、それぞれを若い緑フォックスが操作している。

???「CR-34、35、36の反応消失を確認」

コンピュータを操作しながら、フォックスの一人が報告する。

???「未完成とはいえ、我らの同胞をことごとく…㍍アルザーク…侮れん相手だな」

高い位置の椅子に座りモニターを眺めるのは、他のフォックスたちよりも少し歳上の緑フォックスだ。

???「㍍アルザークへの追撃はどうする」

???「もういい。今の未完成クローンでは奴には勝てまい。無駄に戦力を失うだけだ」

???「了解。第八基地に待機させる」

???『こちら第三研究室。モルダー細胞の分裂を確認。クローンネス無限生成実験第一フェーズクリア』

通信と共に、緑色の液体に浸かった小さな胎児のようなものがモニターに映された。

???「そうか…直ちに第二フェーズに移行しろ」

???『了解』

???「ネス…全能神とまで呼ばれたが子孫を残さず、その力は太古に失われた…だが我らのクローン技術を以ってすれば、その力も蘇らせることができる。…魔界に向かったオリジナルからの連絡はまだか?」

???「未だ応答無し」

また別のフォックスが答える。

???「あのドンキー族との交信はできるか?」

???「交信を試みる」

カタタタタタタ…

コンピュータを操作。

しばらくして。

???「……交信成功、音声を繋ぐ」

ザ…ザザ…

???『やあ。初めまして』

???「お前が我らのオリジナルを魔界に送ったのだな?」

???『そうだよ。しかし驚いたな。まさかクローンから連絡が来るとはね』

???「オリジナルが魔界へ行って一年以上が経っているが、未だに連絡が取れんのだ。お前なら何か知っているのではないかと思ってな」

???『ああ、勿論。研究を終えた彼をこちらの世界へ帰すまでが私の仕事だからね』

103ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/05/26(水) 20:50:21 ID:osLfD98o00

???「オリジナルと連絡を取ることはできるか?」

???『それはできない。こちらからの連絡はするなと、他ならない彼自身からそう頼まれたのでね』

???「そうか…オリジナルは今何をしている?」

???『フ…何故私が君たちにそんな事を教えてあげなければいけないんだ?』

???「何だと?」

???『私は情報屋なのでね。私の持つあらゆる情報は、商品なのだよ』

???「…そういう事か。ならば対価を払おう」

???『ほう?』

???「フォックス族の村を知っているな?その北の山奥には実戦用の訓練場がある。山の地下には五十種の宇宙生物を飼い、その生物との戦闘訓練を経てフォックスは入隊試験へ進める」

???『フ…残念ながらそれくらいは知っているよ。対価にはならないな』

???「重要なのはここからだ。宇宙生物を飼っている地下施設についてだ」

???『巨大飼育施設だろう?それぞれの種に合った環境を整え、AIによって増えすぎないよう数を調整したり、体調やエサの管理も全て自動で行うという』

???「…あれは飼育施設ではない。宇宙生物のクローン培養施設だ。かつての大戦時、オリジナルが実験に使っていた」

???『ほう…』

???「本拠地をこちらの星に移す際、今後何かの役に立つ可能性も考え、施設は破壊せずに残した。フォックス育成の訓練場と偽ってな。この事実を知る者は我ら以外にはいない」

???『フ…これは面白い話だ。だがそんな事を私などにバラしてもいいのか?』

???「問題ない。あの施設はもう寿命だ」

???『寿命?』

???「施設はAIによって管理されているが、それには限界がある。機器の劣化や培養液の腐食…ある程度自己修復できるようにはしてあるが、完全とはいかん」

???『なるほど。情報を与えたところでその証拠が失われてしまえば信憑性も失くなるというわけか』

???「ああ。だが極秘情報に変わりはない」

???『フ…いいね。充分な対価だよ。これからは魔界の彼の動向を定期的に君たちに報告してあげよう』

???「頼む。それで今オリジナルはどういう状況だ?」

???『ここ一年、ほとんど変わらないね。ずっと魔物の解剖を続けているよ。体内の魔力流動の解明に時間が掛かっているようだ。魔力は普通の人には感知できないから、当然と言えば当然だが』

???「そうか…」

???『フ…まあ彼は研究熱心だからね。どれだけ時間を掛けてでも、必ず結果を出すだろう。気長に待つとしようじゃないか』

???「ああ」

???『そう言えば以前君たちに渡したキングバナナの皮は研究に役立っているかい?』

???「まあな。詳しくは言えないが、DNAの抽出には成功した」

???『そうか、それは良かった。それではこちらからももう一つ、教えておこう』

???「何をだ?」

???『大戦で封印された"煙草マスター"の所在だよ』

???「何!?」

???『彼…君たちのオリジナルに頼まれていた情報でね。つい最近この情報を手に入れたんだ』

???「奴は一体どこにいる?」

???『私の住む国の、深い森の奥さ。マップを送ろう』

ピコン!

送られたマップがモニターに映し出される。

???「ここか…」

???『それでは私は失礼しよう。君たちの計画が成就する事を祈るよ。フフ…』

ブツン…

???「第二基地のCR-70、71を向かわせろ。煙草マスターの封印解除…難しければ細胞の一部を、確実に持ち帰れ」

???「了解」

???「…煙草マスター…かつてオリジナルと共闘し、そしてあの男に封印された戦士の一人…我らの計画に必要な存在だ」

???『こちら第三研究室。クローンネス無限生成実験第二フェーズへの移行完了。分裂したモルダー細胞に新たな呼称を求める』

???「そうだな…これは我らの研究における大きな一歩だ」

フォックスは目を瞑って少し考え。

???「その細胞の名は…エルバン」

104ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/06/01(火) 21:30:22 ID:E3lCn7m600





ドドォォォン!!!!


ドドン「おわーっ!!」

山奥で大きな爆発が起こる。

ポルス「ドドン!大丈夫!?」

ドドン「お…おう!ギリギリ避けれた!」

訓練場で巨大な宇宙生物が暴れていた。

リカエ「何事だ…?この大きさ…成長し過ぎている…!」

ドドン・ポルス「どゆこと!?」

リカエ「訓練は中止だ。とにかく此奴を討伐する。協力しろ二人とも!」

ドドン・ポルス「ラジャー!」


ドドォォン!!


ドドン・ポルス「どわーっ!!」

宇宙生物は口から爆弾のようなものを吐き出し攻撃してくる。

リカエ「はっ!!」


ドゴッ!!


爆発を上手くかわしリカエリスは宇宙生物の右脚を蹴り上げる。

リカエ「ドドン!ポルス!此奴の腹の中は起爆性の体液が詰まっている!腹以外を狙え!」

ドドン・ポルス「おす!!」

タタタタタ…!

二人は二手に分かれて接近する。


ドドォン!!

ドドドォン!!


ドドン「よっ!」

ポルス「とうっ!」

二人は素早い身のこなしで爆発をかわし。

ドドン・ポルス「とりゃあっ!」


ドガァッ!!


両サイドから肩を蹴り、破壊した。

その隙にリカエリスは宇宙生物の背後から跳び上がり。

リカエ「はあっ!!」


ズガァン!!!!


蹴り下ろし、頭を潰した。

105ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/06/01(火) 21:34:31 ID:E3lCn7m600


ドサァッ!!


そして宇宙生物は倒れた。

ドドン・ポルス「よっしゃあ!!」

リカエ「…ふぅ…よくやったぞお前たち。流石だな。もう来年にはギルティースたちと同じく任務に出られるかもしれんな」

ドドン・ポルス「ほんとか!」

リカエ「ああ。それじゃあお前たちは先に村に帰ってくれ。私は少し地下施設を調べ…」


ドドォォン!!!!


リカエ「なっ…!?」

地響きとともに、爆発音が鳴る。

ドドン「なんだ!?」

ポルス「さっきのやつは死んでるけど…」

リカエ「今の音は地下からだ…やはり何か起こっている…!」


ドドドォォォンッ!!!!


今度は音だけではなく、地下に繋がる穴から爆炎が噴き出した。

ドドン・ポルス「うわっ!?」

ズドドドド…!!

そして地下から、先程の宇宙生物が次々と姿を現した。

リカエ「くっ…!管理AIの故障か…?自己修復機能があるから点検は不要という話だったはずだが…」


ドガァァン!!


今度は遠くの方からも轟音が響いた。

リカエ「今のは第十訓練場か…!」


ドォォン!!

ズガァァン!!


更に山の各所から、何度も轟音が続いた。

ドドン「何が起きてるんだ!?」

ポルス「なんかやばそうだぞ!」

リカエ「ああ…まずいな」

リカエリスは端末を操作する。

リカエ「管理チップも作動していない…」

ドドン「管理チップ?」

リカエ「奴らの核に埋め込まれたチップだ。それを使って数を把握したり、動きをある程度コントロールできる。それが無いということは、奴らは最早野生と変わらん…!暴れ出すぞ!」

ドドン・ポルス「なんだってー!?」

リカエ「お前たちは村に戻れ!そして住民たちを避難させるんだ!此奴らは私が食い止めておく!」

ドドン・ポルス「わ、わかった!」


キィィィィィン…!!

そこにアーウィンが飛んでくる。

リカエ「とうっ!」

ダッ!!

ちょうど真上にアーウィンが来ると同時にリカエリスは跳び上がり、アーウィンに乗り込んだ。


ズドドドドドド…!!!!


アーウィンから宇宙生物を射撃するが。

リカエ「く…数が多すぎる…!応援が来るまでなんとか持ち堪えなければ…!」

106ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/06/01(火) 21:38:24 ID:E3lCn7m600




ピコン!ピコン!ピコン!

ギル「わっ!?なに!?」

ギルティースとナザレンコの持つ端末からアラームが鳴った。

ナザ「救援信号…大佐からだ」

ギル「む、村で何かあったの!?」

ナザ「分からねえ…だがこれじゃ…」

二人は窓の外を見る。


ザアアアアアア…!!


そこはとてつもない嵐に見舞われていた。

ギル「飛行機も全部欠便だし、帰れないわね…この嵐、数日続くって言うし…どうしよう…」

ナザ「クソ…アーウィンならこれくらいの嵐無理やり突破できんのに…!」

村から遠く離れた国で危険武装集団の鎮圧を終えた二人は、空港で足止めを食らっていた。

ギル「仕方ないわよ…私たちまだライセンスすら持ってないんだから」

ナザ「だからってこんなところでじっとしてらんねえよ!」

ナザレンコは勢いよく立ち上がる。

パシッ…

ギルティースはその腕を掴んで引き止めた。

ギル「落ち着きなさい。きっと大丈夫よ。私たちなんかよりベテランのフォックスもたくさんいるんだから。先輩たちを信じましょう」

ナザ「……ああ…すまねえ」

ナザレンコは座り直す。

ナザ「しかし悔しいぜ…試験は来週だぜ?それをクリアしてりゃアーウィンに乗れてたのに…なんでこんなタイミングで…」

ギル「そうね…ついてないわね、私たち」

ナザ「ああ。初任務でもギル姐がいきなりズッコケて敵に見つかって、危うく任務失敗しかけたしな」

ギル「それは言わないでよ…」

ナザ「いやいや、割とマジに、呪われてんのかもしれんぜギル姐」

ギル「誰によ…」

ナザ「ホラ、あのタワーの妖狐サマの尻尾に乗ったろ」

ギル「そりゃアンタも同じでしょ…ていうかあの像、村を見守る守り神みたいなもんでしょ?呪ったりしないって」

ナザ「分かんねえぞ?アレのモデルになったっつう"1人目の天才"は性格悪かったらしいし」

ギル「そうなの?知りたくなかった…」

ナザ「あくまで噂だけどな」

ギル「まあ千年以上も前に死んでるもんね。その何人目の天才とかって、何人目までいるのかしら」

ナザ「確か十四だ」

ギル「姉さんやアンタほどの才能の持ち主でもそこに連ねられないとこ見ると、よっぽど凄いんでしょうね、その天才って…」

ナザ「らしいな。別次元の強さとしか伝わってねえし、想像つかねえや。俺らの生きてるうちに新たな天才が生まれねえもんかね」

107ハイドンピー (ワッチョイ 3623-cf15):2021/06/01(火) 21:39:30 ID:E3lCn7m600

ギル「そうねぇ。去年生まれたマクラウド家の子とか?マクラウド家は天才を沢山輩出してるって聞いたことあるわ」

ナザ「ああ。確か天才の半数以上はマクラウド家だとか」

ギル「ご先祖様の血を一番色濃く継いでるらしいし、そりゃ凄いわよね。憧れるわ…」

ナザ「それでも天才って呼ばれるのは何百年に一人っつう逸材だぜ?そうそう生まれるもんじゃねえだろ」

ギル「そうよねぇ…そういうとこも私たち運が無いわね。天才は千年生きて妖狐になるって、ただの伝説かもしれないけど、ホントにそれだけ長生きするなら今の時代にも一人くらい残ってたって不思議じゃないのに」

ナザ「でもその強すぎる力を制御できずに早死にするって話も聞くし、ぶっちゃけアイツらよく分からんけどな」

ギル「確かに。っていうかアイツらとか言わない」

ナザ「自分の力で死ぬって普通に考えてアホだぜ。馬鹿と天才は紙一重ってやつなのかね」

ギル「アンタが言うな。ファイアフォックスで何回崖から落ちたか…」

ナザ「いいんだよ生きてんだから。俺はそこらのフォックスとは体の出来が違うんだ。つうかギル姐だって何回かやらかしてんだろ」

ギル「う…そりゃそうだけど…」

ナザ「しっかし何だってこんなに俺らの行く先々に崖があるんだろうな。やっぱ呪われてるぜ絶対」

ギル「結局そこに行き着くのね…ていうかアンタがそういうオカルトとか信じてるの意外だわ」

ナザ「無いとは限らねえだろ。実際、魔界とかいうファンタジーでしかない別の世界があったんだろ?何があったっておかしくねえ」

ギル「まあねぇ…ホントにそんなのがあるとしたら、私にとっての呪いはアンタそのものかもね」

ナザ「はあ?」

ギル「だってアンタみたいな凄いのが同世代にいたら私なんか絶対目立てないじゃない。幻のギルティースを継いだっていうのにさ」

ナザ「そりゃねえぜギル姐…」

ギル「フフッ、冗談よ。でもね、私はアンタに負けたくないって思ってる。才能の差は歴然…それは分かってる。それでもアンタより強くて頼れるフォックスになりたい」

ナザ「何だよ、らしくねえな」

ギル「そう?最初から変わってないわよ。だって私はみんなを助けたいもの。だからもしアンタがピンチになったら、私が助けてあげられるくらいに強くならなきゃ!…でしょ?」

ナザ「ハハッ…凄えな。その実力で俺を助けたいなんて言えるなんて」

ギル「何よ!そんなこと言うなら助けてあげないわよ!」

ナザ「いやいや、頼りにしてるぜギル姐」

ギル「何なのよ…フフッ」

その後も二人はなんてことはない談笑を続け、この足止めを楽しく過ごした。

108ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:30:53 ID:V9JuArjU00




一週間後。

ようやく飛行機が動き、二人は帰国。

そして、すぐに村へと向かった。

だが。

ギル「……何よ……これ……」

そこにはもう、村は無かった。

崩壊した家々から黒煙が立ち昇り、そこかしこに巨大な宇宙生物が闊歩していた。

そして上空から何機かのアーウィンが宇宙生物たちを攻撃している。

ナザ「応答しろ!誰でもいい!村はどうなってる!?」

…ザザ…ザザザ…

リカエ『…ナザ…ンコか…』

ナザ「大佐!」

ギル「い、一体何があったんですか!?」

リカエ『ギ…ティースもいるな。通…機が壊れ…聞き取りづ…いだろうが、落ち着…てよく聞け。山の実戦…練場地下施設の宇宙生…たちが暴走し、村…襲った。フォック…総出で討伐に当たっているが、多く…犠牲が出た』

ナザ「…な…」

リカエ『子供た…とフォックス族以外の…民はドドンとポ…スに任せてある。お前たちも二人を助けてやっ…くれ。東のシェルターにいるはず…』

ギル「わ、分かりました…!大佐は無事なんですか!?」

リカエ『大丈夫だ。よう…く山の周辺に溢れて…た奴らが片付いた。これから施設に入り原因を調…する』

ギル「はい…!気を付けてください!」

リカエ『ああ』

ブツン…

ナザ「行くぞ」

ギル「ええ!急ぎましょう!」

二人はすぐにシェルターへと駆け出した。


タタタタタ…


走りながら、そこら中に墜落したアーウィンと倒れたフォックス族たちが視界に入ってくる。

ギル「なんて数なの…どうしてこんな事に…」

ナザ「なっちまったもんはしょうがねえ…俺らにできることをやるしかねえ…」

ギル「ええ…」

109ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:33:10 ID:V9JuArjU00


ズズズズ…!!


ギル「きゃっ!?」

突如、ギルティースの足元の地面が盛り上がる。


ドゴォォン!!


そして地面の下からモグラのような巨大生物が現れた。

ナザ「大丈夫かギル姐!」

ギル「ええ!」

ナザ「コイツ…!確か十五ラウンドくらいで戦ったヤツだ…!」

ギル「でもこんなに大きくなかったわよ!?」

ナザ「ああ…でも弱点が変わるわけじゃねえだろ。訓練と同じパターンでいくぞ」

ギル「分かった!」


ドドドドド…!!


ナザ「!!」

そこへ毛むくじゃらの巨大な猿人が、凄い勢いで横から転がってきた。

ダッ!!

ナザレンコは間一髪でかわす。

ギル「ア、アイツも訓練場にいたわよね!?」

ナザ「ああ…!どいつもこいつも育ち過ぎだ…!二体相手じゃキツい…一旦瓦礫に隠れてやり過ごすか…」

ギル「ええ」


ズシィン!!


ギル「なっ…!」

更にそこに第一ラウンドで戦った宇宙生物も出現し、二人の行く手を阻んだ。

ナザ「どけ!!ファイヤーッ!!」


ボォッ!!


ズドォォォン!!


ナザレンコは得意のファイアフォックスで宇宙生物の体を貫く。

ナザ「今だ!抜けるぞ!」

ギル「ええ!」

しかし宇宙生物はすぐに再生して二人を追いかけてきた。

ナザ「チッ…コアを破壊しきれてなかったか…!」

ギル「この大きさじゃ仕方ないわよ!二人でいきましょう!」

ナザ「だな!尻尾のコアは俺がやる!目の方は任せた!」


ヒュンッ!!

ドガガッ!!

ズドォッ!!


二人は完璧なコンビネーションで宇宙生物を瞬殺した。


ドガッ!!


ギル「かはっ…!」

しかし別の宇宙生物が横から巨大な尻尾を振り回し、ギルティースを吹っ飛ばす。

110ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:35:09 ID:V9JuArjU00

ズザザザ…

ナザ「ギル姐っ!」

ギル「大丈夫!それより周り見て!」

気付けば更に宇宙生物たちが集まってきていた。

ナザ「クソッ…!こりゃ今までの訓練やら任務なんか比じゃねえくらいキツいな…!」

ギル「戦ってたらキリがないわ…!」

ナザ「だがこのままシェルターに行けばコイツらが付いてきちまう!倒せないにしても、なんとか引き離さねえと…!」

ギル「どうやってよ!」


???「ワーーーッハッハッハッハ!!我に任せろ愚民どもよ!!」


ナザ「…その声は…」

ギル「アルバロ!?」

アルバロ「その通り!!」

ダーン!

瓦礫の山の上に、緑フォックスが仁王立ちで立っていた。

ナザ「何してんだお前!ドドンたちと一緒に避難しろ!」

アルバロ「何だと!?貴様たちより少し遅れてしまったが、我も入隊試験をクリアしたのだぞ!避難などしていられるか!」

ナザ「だったら尚更だ!あんなチビ二人に任せねえでお前が先導しろよ!」

アルバロ「何ぃ!?今更帰ってきて偉そうに!!我はこの一週間戦い続けてきたのだ!!我の方が偉いぞ!!」

ナザ「偉いかどうかはどうでもいい!」

アルバロ「どうでもよくないわ!!」

ギル「うるっさーい!!今ケンカしてる場合じゃないでしょ!!」

ナザ「そういうことだ!」

アルバロ「ぐぬぬ…!」

ギル「アルバロ、ここで出てきたってことは何か作戦あるんじゃないの!?」

アルバロ「作戦?そんなものはないぞ!」

ギル「何しに来たのよ…」


ドガーン!!


ギル「きゃあっ!!」
ナザ「ぐおっ!!」

頭骨の異常発達した宇宙生物に頭突きをくらって二人は吹っ飛ばされる。

アルバロ「はあ、全く。油断しているからそうなるのだ。ここは戦場だぞ」

ナザ「誰のせいだよ!」

アルバロ「フン!我に任せておけ!」

ギル「何するつもり?」

アルバロ「見ておれば分かる。まあ、貴様たちの目で捉えられるかは分からんがな」

ナザ「あぁ?」

111ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:37:36 ID:V9JuArjU00


ダンッ!!


アルバロが地面を蹴る。

その瞬間に、アルバロの姿は見えなくなった。

ギル「消えた!?」

ナザ「いや、めっちゃ速く移動してる!」

アルバロ「貴様たちが任務でイチャイチャしておった間に我はここまで鍛え上げたのだっ!!」

ナザ「イチャイチャしとらんわ」


ドガッ!!

バキッ!!


アルバロはちょこまかと攻撃をかわしながら、宇宙生物たちの脚部を破壊していく。

バランスを崩した宇宙生物たちはバタバタと倒れる。

ギル「すごい…!」

アルバロ「見よ!!超速ファイアフォックス!!」

ゴゴゴゴゴゴ…!!

アルバロ「ファイヤーッ!!」


ズドォォォン!!!!


アルバロは瓦礫の山に突っ込んだ。

ギル「…何やってんの!?」

ナザ「いや…!案外いいかもしれねえ…!」

ギル「え?…うわ!」

ブワァッ!!

その勢いで瓦礫や砂埃が舞い上がり、周囲一帯を覆った。

アルバロ「今のうちだ!ゆけ!」

ナザ「助かった!サンキューアルバロ!」

ギル「ありがとう!」

アルバロ「礼など良い!さっさとゆけ!弱者を守るのがフォックスの務めだからな!ワハハハハ!!」

ナザ「ボケ!お前も来んだよ」

ガシッ!

ナザレンコはアルバロのジャケットの裾を掴み引っ張る。

アルバロ「ぐおっ!な、何をするか!」

ナザ「何をするか!じゃねえよ!お前こそ一人で残って何する気だよ!」

アルバロ「フン!こんなもの我一人で殲滅してやるわ!」

ナザ「いくらお前が速くても、この数じゃ倒し切る前に体力が尽きんだろ!アイツらが見失ってるうちにここから離れるぞ!」

そして三人はシェルターへ向かった。

112ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:40:10 ID:V9JuArjU00


タタタタタ…!


ギル「ていうかアンタ、パートナーは?」

アルバロ「…やられた。三日前にな」

アルバロは表情を変えずに言う。

ギル「…そっか…辛かったわね…」

アルバロ「フン、何を甘えたことを抜かしておる。我々は常に死と隣り合わせだ」

ギル「でも…」

アルバロ「弔いも後悔も、戦場では邪魔なだけだ。今は前だけ見ておれば良い」

ギル「……そうね…」

ナザ「…シェルターが見えて来たぜ」

アルバロ「ワハハハハ!あの餓鬼共もしっかり自分の仕事をこなしているようだな!なかなかやるではないか!」

ギル「ホント、小さいのに頼りになるわねあの子たち」

ナザ「…んな悠長なこと言ってる場合じゃなさそうだぜ」

ギル「!!」

シェルターの外壁に、巨大なナメクジのような宇宙生物が張り付いていた。

アルバロ「彼奴は確か溶解液を持っておる宇宙生物だな。火が弱点だったはずだ」

ナザ「俺の出番だな!」

ダッ!!

ナザレンコは跳び上がり。

ゴゴゴゴゴゴ…!!

ナザ「ファイヤーッ!!」


ボォッ!!!!


ナザレンコのファイアフォックスを受けたナメクジは炎に包まれ、やがて蒸発した。

スタッ…

ナザ「よし!」

ギル「ちょっと待って…溶けてない?」

ナザ「あ…」

シェルターの壁の一部がドロドロに溶け、大穴が開いていた。

ドドン「来るのが少し遅かったな!」

ポルス「遅かったな!」

穴の奥からドドンたちがひょっこりと顔を出す。

ギル「ドドン!ポルス!」

113ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/09(水) 05:44:27 ID:V9JuArjU00

ドドン「あのナメクジに壁が溶かされちまったぞ!」

ポルス「ちまったぞ!」

ナザ「ああ、見りゃ分かる」

ギル「このままじゃ危ないわね。ドドン、ポルス、安全なところまでみんなを誘導してくれる?」

ドドン・ポルス「わかった!」

アルバロ「隣の村に大勢入れる集会所がある筈だ。我が先に行って道を開けてやろう。貴様たちは後からのんびりついて来ればよい!ワハハハハ!」

ダンッ!!

アルバロは超スピードで走っていった。

ギル「アルバロ…ホントに頼もしくなっちゃって」

ドドン「成長したな!」

ポルス「まったくだ!」

ナザ「お前らなんで上からなんだ…まいいや。ギル姐もコイツらについていって守ってやってくれ」

ギル「ん?アンタはどうすんのよ」

ナザ「俺は他のフォックスたちの応援に行く」

ギル「何言ってんの!?ドドンたちを手伝えって大佐に言われたでしょ!?」

ナザ「悪いなギル姐。やっぱり俺は欲張りなんだ。今戦ってる奴らも見捨てられねえや」

ダッ!!

ナザレンコは戦場へと戻っていく。

ギル「…はぁ…まったく…死なないでよね!!ナザレンコ!!」

ブンッ!

ギルティースはその背中に向かって叫び、何かを投げつける。

パシッ!

ナザレンコは振り返らずにそれを受け取った。

114ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/12(土) 01:45:20 ID:14ObnNBU00




その頃、リカエリスは。

リカエ「これが…正体だと言うのか…地下施設の…」

地下に降り、眼前に広がる光景に愕然とする。

中心部には巨大なコンピュータがあり、恐らく宇宙生物によって破壊されていた。

そしてそのコンピュータから伸びる大量のケーブルやパイプが天井や床を通って、いくつもの大きな水槽に繋がる。

分厚い水槽は全て割れ、緑色の液体が漏れ出している。

長老「これは…」

リカエ「長老、何かご存じなのですか?」

リカエリスと共に地下へ降りた老フォックスは、伸びた顎髭を触りながら話し始める。

長老「いや…ロハス殿の言っていた事と違う…それに戸惑っておるのだ…」

リカエ「ロハス…!?大戦の時代の英雄の…?」

長老「ああ…我は彼の後輩だった」

リカエ「そうだったのですか…」

長老「ロハス殿は戦闘は勿論…頭脳明晰で科学の分野にも長けていた。アーウィンの修理でよく世話になったものだ…」

リカエ「まさか、この施設も…?」

長老「ああ…彼が造ったものだ。後進のためにと、我に託した…だがこれはまるで実験施設だ…」

リカエ「…確かに、とても飼育施設だとは思えませんね。一体どういう事なのでしょう」

長老「分からん…」

リカエ「…この液体は…」

リカエリスは指で緑の液体を掬い取り観察する。

リカエ「……うぅむ……分からん…」

長老「…何も…分からんな…」

リカエ「はい…こういったものには疎く…」

ヴァティ「いや二人してそんなマジメな顔でボケなくていいですから」

眼鏡を掛けた白衣の女フォックスが冷静にツッコミを入れる。

リカエ「いや、ボケたわけでは。ヴァティさん、何か分かるのですか?」

115ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/12(土) 01:47:21 ID:14ObnNBU00

ヴァティ「たぶん、これは培養液だね。このデッカい水槽の中で宇宙生物たちを成長させていたんだ」

リカエ「…なるほど…」

ヴァティ「それもかなり特殊だね。成長速度を高めるためか、異常な栄養濃度を示してるよ」

水槽の下部に付いているメーターの数値を見ながらヴァティは言う。

リカエ「…そうか…管理AIの故障によって、奴らの成長速度が上がり巨大化し…それによって回転率も上がり、数が急激に増えたのか…!」

ヴァティ「うん。そう考えるのが自然だ」

長老「…しかし…ロハス殿はなぜこれを隠しておったのだ…?正直に話しておけばここまでの事態にはならなかったやもしれんのに…」

リカエ「確かに…ですがそれを考えるのは後にしましょう」

ヴァティ「あ!ちょっとこっち来てください!」

ヴァティはコンピュータのところへ二人を呼ぶ。

リカエ「どうしました?」

ヴァティ「このコンピュータ、一台だけだけど生きてる。施設の情報が見れるかも」

リカエ「お願いします」

ヴァティ「おっけ。かなり古いタイプだから時間掛かるかもしれないけど」

ヴァティは自前のコンピュータと接続し、データを確認していく。


カタカタカタカタカタ…

ヴァティ「!」

数分間休まずキーボードを叩き続けたところで、ヴァティの手が止まった。

長老「何か分かるか…?」

ヴァティ「これは……クローン…?」

リカエ「クローン!?」

ヴァティ「この施設、宇宙生物のDNAデータから細胞を分裂させて、全く同じ能力を持った宇宙生物を複製してるんだ…!」

長老「古くからクローン研究は倫理的観念から、禁忌とされてきた筈だ…まさか、それで隠しておったのか…?」

ヴァティ「ロハスさんについても何か情報がないか調べてますけど…ダメっぽいです」

リカエ「まあ隠しているのなら、情報を残しているはずもありませんね…」

ヴァティ「だね。ん?これは…!」

カタカタカタ……ッターン!

リカエ「…何をしたのですか?」

ヴァティ「管理チップのプログラムを再起動したんだ。端末で見てみて、リカエリス」

リカエ「了解」

ピッ、ピッ、ピッ…

リカエリスは携帯端末を操作する。

リカエ「反応あり!宇宙生物たちの位置情報を確認…!正常にチップが作動しています…!」

ヴァティ「やった!じゃあすぐに停止命令を!」

リカエ「はい。全てのチップに停止命令を送りました。これで奴らも大人しくなればよいのですが…」

ヴァティ「…今までより効き目は薄いだろうね…あそこまで巨大化しちゃうと」

長老「だが…よくやってくれたヴァティ…これで村に蔓延る宇宙生物の駆除も、かなり楽になる筈だ」

ヴァティ「はい!」

リカエ「この近くにはチップの反応はない…私は村へ援護に戻ります。二人はここで調査を続行してください」

長老「ああ。頼んだぞ」

そしてリカエリスは地上へ出ると、すぐにアーウィンで村へ飛んだ。

116ハイドンピー (ワッチョイ af6a-a582):2021/06/12(土) 01:48:25 ID:14ObnNBU00




ドガァン!!

口から放った火の球がリフレクターによって弾き返され、宇宙生物の一体が倒れる。

ナザ「ハァ…ハァ…何だ…?コイツら急に動きが鈍くなった…」

ザザ…

リカエ『皆、聞こえ…か。リカエリスだ』

ナザ「大佐!」

リカエ『管理…ップを再起動し、宇宙生物た…に停止命令を送った。完全と…いかなくとも、暴走は落ち着…はずだ。今、宇宙…物の位置情報を皆の端…に送った。これを元に、速やかに掃討する…だ!』

ナザ「了解!」

ナザレンコはすぐに携帯端末で位置情報を確認すると、近くの宇宙生物の元へと向かう。


タタタタタ…

ナザ「お、見えてきた!」

その時。

キィィィン…

一機のアーウィンがナザレンコの上を通り過ぎる。

ナザ「ん?今のアーウィン…」


ドドドドド…!!


そのままアーウィンはナザレンコが倒そうとしていた宇宙生物を先に倒した。

ナザ「…やっぱアーウィン便利だな…スピードが全然違え」

するとそのアーウィンが引き返し、ナザレンコの上空に止まった。

ナザ父『ナザレンコ!戻ったか!』

ナザ「やっぱり父ちゃんか!無事だったんだな…!」

ナザ父『ああ、なんとかな。リカエリス大佐からの通信は聞いたな?』

ナザ「ああ」

ナザ父『今アーウィンの陣形で村の中心部までヤツらを追い込んでる。そこを一気に叩くぞ。ナザレンコも向かってくれ』

ナザ「分かった!」

通信を終えると、ナザレンコの父はすぐにアーウィンを発進する。

グゥゥゥ…

ナザ「…ハハ…安心したら腹減った」

ナザレンコはギルティースから受け取ったものをポケットから取り出した。

ベリベリと包みを剥がすと、中にはチョコ菓子が入っていた。

ナザ「ありがとなギル姐…いただきます」

それをムシャリムシャリと頬張りながら、村の中心部へと駆け出した。

117ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/17(木) 21:55:05 ID:Xzlxh6.200



キィィィン…

ドドドドドドド…!!

ドドォン!!


村の中心部では既にフォックスたちが一斉に宇宙生物の討伐を始めていた。

タダヒト「モーブ!右から来るぞ!」

モーブ「オッケー、タダヒト」

ドガァ!!

オジィ「ヘイボン、こっちはワシに任せろ!」

ヘイボン「助かりますオジィさん!フトゥ、頭のコアを頼む!」

ズドォッ!!

フトゥ「ああ!ムメイ、三時の方向にブラスターを!」

ムメイ「任せな!」

チュンッ!!

ドドドド…!!

アーウィンによる上空からの射撃と、地上のフォックスたちの一糸乱れぬ連携により、宇宙生物たちは次々に倒されていく。

タダヒト「ははっ!こうなっちまえば楽勝だな!」

モーブ「油断するなタダヒト。大人しくなってるとはいえ、奴らは訓練で戦ったのとはレベルが違う」

タダヒト「分かってるよ!」

オジィ「ヒー…ワシゃ少々疲れてきたわい!」

ムメイ「アタシらに任せて休んでなよ!アンタもう引退してんだから!」

オジィ「長老も戦っておられるのだ!ワシもこれくらいで休んでられんわい!」

フトゥ「だったら弱音吐かないでくださいよ!士気が下がる!」

ヘイボン「大先輩に向かってなんてこと言うんだフトゥ!」

フトゥ「うるせえ兄貴!俺あんま余裕ねえんだよ、みんなと違って弱いから!」

ヘイボン「俺だって弱いわ!」

モーブ「戦場でケンカするなバカ兄弟。そんなんだからいつまでも弱いままなんだ」

ムメイ「いや煽るな煽るな!アンタまでケンカに参加してどうする!」

モーブ「あ、ごめん」

オジィ「がはははは!若者は元気があっていいのう!だがお喋りはそこまで!目の前の敵に集中…」


ゴキッ!!


オジィは背後から姿を消して忍び寄ってきたカメレオンのような宇宙生物に首を折られ。

ドサッ…

絶命した。

ヘイボン「オジィさん!!」

118ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/17(木) 21:56:03 ID:Xzlxh6.200

フトゥ「兄貴!!右!!」

ヘイボン「っ!!」


ドゴォッ!!


オジィに気を取られたヘイボンは、右から来たサイのような宇宙生物の突進を受け。

キラーン…

ブッ飛ばされて星になった。

フトゥ「あ、兄貴ぃぃぃっ!!」

タダヒト「くっ…!!全員、気を引き締めろ!!」

モーブ「停止命令が全く効いてないヤツもいるみたいだな」

ムメイ「チッ…!厄介な…!」

フトゥ「…はっ…はっ…あ…兄貴が…や…やられるなんて…」

タダヒト「深呼吸しろフトゥ!気をしっかり持て!」

フトゥ「あ、ああ…!悪い…」

モーブ「ムメイ、五時の方向」

ムメイ「はいよ!」

チュン!チュン!


ピュゥゥン…


ムメイ「なっ!?」

ムメイの撃ったブラスターの弾は、そこにいたクジャクのような宇宙生物の羽に吸い取られた。

モーブ「しまった…!エネルギー吸収タイプだ…!」

ガブッ!!

ムメイ「ぎゃあああっ!!」

鋭いクチバシで右腕を食いちぎられ、ムメイは地面を転げ回る。

タダヒト「ムメイっ!!モーブ、俺が食い止めるからすぐに止血を!!」

モーブ「わ、分かった!」

その瞬間。


バゴォォン!!


タダヒトはゴリラのような宇宙生物に巨大な拳を振り下ろされ、即死。

モーブ「なっ…!?」

フトゥ「ああ…タ…タダヒトまで…!」

モーブ「くそっ…!油断するなって言ったのに…!」

119ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/17(木) 21:57:02 ID:Xzlxh6.200

フトゥ「…お…終わりだ…も…もう…俺たちは…ここで滅ぼされる運命なんだ…」

フトゥは膝をついて頭を抱える。

モーブ「ふざけるなッ!!諦めるな!!フトゥ!!立てッ!!最後まで戦え!!」


ズドォッ!!


モーブは宇宙ゴリラの腹部を蹴り飛ばし、ひっくり返らせる。

ゴゴゴゴゴ…

モーブ「はあああっ!!ファイヤーッ!!」


ボォッ!!


更にファイアフォックスを繰り出し、ゴリラの頭部を粉砕、とどめを刺した。

モーブ「はあっ…はあっ…冷静になれ…俺は強い…こんなところで死んでたまるか…」

自分に言い聞かせるようにモーブはブツブツと呟く。


ザンッ!!


モーブ「見えてんだよカマキリ野郎!!」

背後から襲ってきた宇宙カマキリの一撃もかわし。


バキィッ!!


反撃の蹴りでその鎌をへし折る。

が。


ニュルルルッ!


モーブ「ぐっ…!?」

先程の宇宙カメレオンが舌でモーブを捕らえ。

パクッ

モーブは食われた。

フトゥ「…あ…あああ…!やっぱり…無駄だ…!抵抗なんて…無意味…」


ダダダダダダダダ…!!


フトゥ「……?」

そこへ、遠くから誰かが走ってくる。


ゴゴゴゴゴゴ…!!


ナザ「ファイヤーーッ!!」


ズドドドドッッ!!!!


ファイアフォックスで宇宙生物を四体まとめて一気に貫きながら、ナザレンコは現れた。

120ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/17(木) 21:58:19 ID:Xzlxh6.200

ナザ「すんません!遅くなりました!」

ドサッ…

脇に抱えたモーブを降ろす。

宇宙カメレオンを貫くと同時に、モーブも救出したのだ。

モーブ「お…お前…ナザレンコ…か…?」

ナザ「はい」

モーブ「…そうか…逞しくなったな…」

ナザ「そうすか?まあ身長はちょい伸びましたけど。それよりモーブさん、早くムメイさんの止血を」

モーブ「あ、ああ!」

ナザ「フトゥさん、立てますか?」

フトゥ「…いや…」

ナザ「どっか怪我してるんすか?じゃあモーブさんに…」

フトゥ「違う…!いくらお前が天才だろうと…もう無駄だ…無駄な足掻きだ…!」

ナザ「…じゃあ、戦わなくてもいいんで、隠れててください」

ナザレンコはフトゥの肩に手を置いて言う。

フトゥ「何…?」

ナザ「流石に守りながらじゃこの数はキツいんで」

フトゥ「よせ!お前みたいな子供が戦っても…」


ズドォン!!


ナザレンコは真後ろから放たれた宇宙生物の攻撃を。


ピキンッ!!


見ずにリフレクターで跳ね返した。

フトゥ「なっ…!」


ドゴァン!!


宇宙生物は自らの攻撃で爆発して倒れる。

121ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/17(木) 21:58:58 ID:Xzlxh6.200

ナザ「周り、見てくださいよ。横にも上にもまだ戦ってるフォックスがいる」

フトゥ「…!」

ナザ「確かにもう何十人も死んでる…けど…まだ諦めるのは早すぎます。生き残ってる人たちを俺は失いたくねえんすよ、誰一人」

フトゥ「…くっ…」

その強い眼差しを直視できず、フトゥは視線を落とした。

そこへ。


キィィィン…!


ドドドドドドドド!!!!


明らかに動きが別次元のアーウィンが到着し、周りにいた五体の宇宙生物を一気に倒した。

リカエ『すまない!道中の宇宙生物も倒しながら来たので遅くなった!』

ナザ「大佐!」

リカエ『皆、もう終わりは近い!少なくともこれ以上敵が増える事はない!ここで確実に決めるぞ!』

ナザ「はい!」

ムメイ「はぁ…はぁ…アタシもやってやる…!即死のヤツもいるってのに、腕の一本持ってかれたくらいで、アタシはラッキーだったよ…!」

止血の終わったムメイはそう言って、ふらつきながら立ち上がる。

モーブ「おい!ムメイ!」

ナザ「さ、流石にその体じゃ無茶っすよ…」

ムメイ「あぁ!?アタシに逆らうとは偉くなったなナザ坊!」

ナザ「いやいや…汗だくじゃないっすか…」

ガシッ!

ムメイ「あ…?」

フトゥ「落ち着け、ムメイ…」

ムメイの肩を掴んで抑えたのはフトゥだった。

ナザ「フトゥさん…」

フトゥ「コイツは俺に任せろ…行ってこい二人とも」

ムメイ「テメエ!自分が戦いたくねえだけだろ!」

フトゥ「すまない…怖いんだ…!俺が死ぬのはいい…でも仲間をこれ以上失うのは…もっと怖いんだ…!」

ムメイ「…チッ…腰抜けめ!」

フトゥ「ああ…すまない…」

ナザレンコとモーブは顔を見合わせ。

ナザ「じゃあよろしくお願いします!」

モーブ「任せる」

そして二人は暴れる宇宙生物の方へと走っていった。

122ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 21:59:00 ID:Wqi..c/U00



タタタタタ…

ナザ「はあっ!!」


バキィッ!!


ナザレンコが宇宙生物の脚部を蹴りで破壊し。

モーブ「はっ!」


ズドッ!!


バランスを崩した隙にモーブは顎を蹴り上げる。

ドサァッ!


ドゴォ!!


そして脳を揺らされ倒れた宇宙生物の急所を確実に破壊する。

ナザ「よし!次ィ!」


ドガァン!!

ズダァン!!


ナザレンコ、モーブの他にも生き残っている数十人のフォックスたちが連携し戦う。


ドドドドド…!!


さらに上空からの援護も加わり、新たな犠牲はほとんど増やさぬまま順調に討伐は進んでいく。

123ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:00:19 ID:Wqi..c/U00



ナザ父「強くなったな、ナザレンコ…リカエリス大佐、アイツを鍛えてくれてありがとう」

その光景を上空から見るナザレンコの父は、僅かに嬉しそうに言う。

リカエ『いえ、彼奴は元々天才でしたよ。私が教えたことなどほとんどありません』

ナザ父「ハハ、ま、俺の息子だからね。でもその才能のせいで、アイツは昔から何でも一人でやろうとしてた。仲間とあれだけ連携が取れるようになったのは、紛れもなくお前さんのお陰だよ」

リカエ『…礼なら、私ではなくギルティースたちに言ってやって下さい。ナザレンコをいつも一番近くで支えていたのは、彼奴らですから』

ナザ父「そうか…そうだな…それじゃあさっさと終わらせて、礼を言いに行くとするか!」




そして数十分後。

リカエ『よし…反応はあと十体だ。皆最後まで気を抜かずにかかれ!』

ナザ「はい!」

モーブ「地上には九体…一体は地下に潜伏してるな」

ナザ「あのモグラみたいなヤツっすね」


ヒュゥゥ…


ドガァン!!


ナザ「おっと」

二人は大砲のような口を持つ宇宙タコの砲撃をかわす。


チュン!チュン!


ナザレンコは反撃のブラスターで怯ませ。

モーブ「はあっ!」


ズドンッ!!


モーブはその間に距離を詰め、弱点となる頭部を蹴って破壊した。

124ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:01:17 ID:Wqi..c/U00

ナザ「モーブさん後ろ!」

モーブ「!!」

タッ!

モーブは地面を蹴り。


ドゴォン!!


背後から忍び寄った宇宙マンモスの踏み付けをかわした。

そして。

ゴゴゴゴゴゴ…

ナザ「ファイヤーッ!!」


ボォッ!!


ナザレンコはファイアフォックスを放ち、巨大なマンモスの鼻を焼き切る。

ナザ「ありゃ…アタマ貫くつもりだったんだが…」

モーブ「コイツは鋼鉄の骨の持ち主だぞ」

ナザ「訓練所のヤツはいけたんすけどね…デカくなって骨も頑丈になってるらしい」

モーブ「訓練所のヤツも十分硬いはずなんだけど…な!」


バゴッ!!


モーブは飛び蹴りで左前脚を攻撃し、バランスを崩させ。

ナザ「だったら…正攻法でっ!!」


バキィッ!!


倒れてきたマンモスの喉元を、ナザレンコが蹴り上げた。

ナザ「いってぇ!!けどこれで倒れ…てねえ!?」

モーブ「な…!」


ドスドスドス…!!!


マンモスは暴れ出し、二人はすぐに距離を取る。

ナザ「喉が弱点じゃなかったんすか?コイツ」

モーブ「そのはずだ。皮膚も分厚くなってダメージが入り切れてないんだろう」

ナザ「んじゃモーブさん上から叩いて下さい」

モーブ「分かった」

125ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:02:09 ID:Wqi..c/U00

ダッ!!

モーブはマンモスの上に飛び乗る。

そこから更にジャンプし。

ゴゴゴゴゴ…

モーブ「ファイヤーッ!!」


ズドォッ!!


マンモスの後頭部にファイアフォックスで突っ込んだ。

ナザ「とぉっ!!」


バゴッ!!!!


上からの攻撃によって勢いよく落ちてくる喉元を、ナザレンコは再び蹴り上げた。

ドサァァ!!

宇宙マンモスは倒れた。

ナザ「っしゃあ!上下挟み撃ち作戦成功!」

モーブ「脚は無事か?」

ナザ「ハハ、誰の脚だと思ってんすか」

その間に他のフォックスたちも六体の宇宙生物を倒し、残るは二体。

モーブ「地下のヤツはまだ出てこないか」

ナザ「まあ、ともかくまずはアイツを……あ」


ドサァッ!


地上でうねっていたコブラのような宇宙生物は、他のフォックスたちの攻撃とアーウィンの射撃で、あっさりと倒された。

モーブ「…もう片付いたみたいだな。これでラス一か」

ナザ「しっかし全然出てきませんね…どうするんすか?これ」

モーブ「放置する訳にもいかないし、監視を続けるしかないな。この星の地下じゃアイツが生きていけるほどのエサはない。しばらくすれば顔を出すはずだ」

ナザ「マジすか…長い戦いになりそうだ…」

モーブ「ああ…?は…?」

ナザ「ん?どうしたんすか?」

モーブ「は…反応が消えてる…!」

ナザ「え…?」

モーブ「位置はここから動いてなかった…つまりこの真下にいたはずなんだ…!なんで…いつの間に…!?」

ナザ「し、死んだってことっすか…?」

モーブ「分からない…何が起きた…!?」

周りのフォックスたちもざわつき始める。

126ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:02:54 ID:Wqi..c/U00



その時。


ドガァッ!!!


ヴァティ「なっ…!?」

長老「ごはっ…!」

地下施設に宇宙モグラが現れ、長老の体を爪で貫いた。

ヴァティ「長老!!」


ドゴッ!!


ヴァティはモグラの手を蹴るが。

ヴァティ「ぐっ…!実戦から離れてたせいで…」

逆にヴァティの脚が捻挫を起こし、跪く。

長老「逃げろ…ヴァティ…!がふっ…!」

ブンッ!

ドシャァ!!

長老は投げ飛ばされ、壁に叩きつけられた。

ヴァティ「く…!そんな…どうして…!?反応は無かったのに…!」


ザンッ!!


ヴァティ「が…っ」

モグラは爪を振り下ろしヴァティの体を切り裂く。

ヴァティ「はっ…はっ…く…」

ヴァティは死にかけながらもモグラを観察する。

ヴァティ(あの頭のキズ…)


ドガァ!!


モグラは更に手で上から叩きつけた。

ヴァティ「うぐっ…!!」

ヴァティは体で受け止めるが。

ミシミシ…

徐々に潰されていく。

ヴァティ「…みんな…あとは任せる…」


グシャッ!!

127ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:04:26 ID:Wqi..c/U00



ピコンッ!

リカエ「何だ?ヴァティさんからか」

リカエリスの端末にメッセージが届く。

リカエ「…これは…!」

それを読み、リカエリスはすぐに通信を入れる。

リカエ「皆、聞いてくれ!最後の一体は、自ら頭を切り開いて管理チップを取り除いたのだ!奴は地下を通り訓練場の地下施設へ移動した!今からすぐに向かう!アーウィンに乗っている者はついてきてくれ!」

フォックスたち『了解!』


キィィィィン…!!


リカエリスと十数機のアーウィンはすぐに訓練場のある山奥へと飛んだ。



そして僅か数十秒後。


ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!


リカエ「何だ…!?」

今まで聞いたこともないような地響きが鳴り、フォックスたちは山の手前でアーウィンを止めた。

ナザ父『リカエリス大佐、あれ…!』

リカエ「馬鹿な…」

一つの山が割れ、下から超巨大化した宇宙モグラが現れていた。

下半身は地下に隠れたままにもかかわらず、見える部分だけでその大きさは数百メートルにも及ぶ。

ナザ父『なんだあのデカさは…!?』

リカエ「…そうか…培養液…!あの地下施設からエネルギーを吸収したのか…!」

ナザ父『培養液…?』

リカエ「地下施設には宇宙生物たちの成長を早める培養液があったのです…しかしこれ程の効力があるとは…!…詳しくは後にしましょう。あんなものが暴れ出せば、村が危ないどころの騒ぎではありません…!」

ナザ父『ああ!』

128ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:05:53 ID:Wqi..c/U00


キィィィン…!


アーウィンたちはモグラを囲むようにして近づき。


ドドドドドドド…!!


一斉に射撃を始める。

だが。

リカエ「…急所の鼻と腹部にすら、ほぼダメージは入っていない…となれば」

パシュゥッ!

リカエリスはアーウィンのコックピットを開き。

ダッ!!

飛び降りた。

ナザ父『リカエリス大佐!?』

リカエ「私が直接急所を破壊する!皆は援護を!」

スタッ!

リカエリスはモグラの頭上に着地。

ダダダダダダダ…!!

そして鼻先まで一気に駆け下りる。

ゴゴゴゴゴゴ…

リカエ「ファイヤーッ!!」


ズダァン!!!!


そして鼻の正面から渾身のファイアフォックスを発動した。


ズドドドドド…!!!!


モグラは急所を攻撃されてのたうち回る。

その動作一つ一つで辺りの地形が変わっていく。

リカエ「くっ…!」

ダッ!!

リカエリスはすぐさま鼻の上から跳び上がり。

スタッ!

アーウィンに再び乗り込む。


キィィィィィン…


そしてモグラの周りを飛びながら、次は腹部への攻撃のためのチャンスを窺う。


ドガァァァン!!


リカエ「ソノタッ!!」

暴れるモグラの腕に当たり、リカエリスの同期であったソノタのアーウィンが撃墜された。

リカエ「く…少し腕に当たっただけでとてつもない破壊力だ…早く決着をつけなければ…!」


ズオオッ!!!!


リカエ「!!」

モグラの周囲を爆風が渦巻き、アーウィンはバランスを崩すが。

ギュルルンッ!

キィィィン!

横に何度かローリングする事でリカエリスは体勢を立て直した。

が。

129ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:06:51 ID:Wqi..c/U00


ズゴゴゴゴ!!


リカエ「メサヌーブ!!ラクツィ!!」

リカエリスの後輩二人が受け身を取れず、回転しながら凄い勢いで落ちていく。

ラクツィ『んぐぉおお!!せ、制御不能ォォォ!!』


ドゴォォン!!


二機のアーウィンは無情にも墜落。

メサヌーブ「あ、危ねぇ…」

メサヌーブはギリギリのところで緊急脱出し、パラシュートで宙を舞っていた。


バクッ!!!!


モグラはそれを丸呑みにした。

リカエ「くそっ!」

ナザ父『近くにいるとまずいな!みんな一旦距離を取ろう!』

リカエ「しかし遠距離射撃では此奴に通用しません!」

ナザ父『焦り過ぎだ。アイツがあそこから動く様子はないし、しっかり作戦を練ってから…』

リカエ「我々が周りにいるから動かないだけでしょう!少し離れた隙に地中に潜られたら、もう戦う手立てはない!」

ナザ父『わあああああああああああああ!!』

リカエ「ラ、ラヴレンチさん!?」

ナザ父『落ち着けリカエリス大佐』

リカエ「えっ…」

ナザ父『リーダーがそんなに取り乱すもんじゃないよ。仲間がやられて動転する気持ちは分かるけどね』

リカエ「…!」

ナザ父『訓練生の時にみんな言われたはずだ。目の前で味方が墜とされても冷静でいられるようになれってね』

リカエ「…すみません…」

ナザ父『観察してる限りじゃ、アイツはたぶん自重でほとんど動けない。時間はある』

リカエ「はい…皆すまない。一度距離を取るぞ」

そしてアーウィンはモグラの周りから離れる。

130ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:08:48 ID:Wqi..c/U00


リカエ「…ラヴレンチさん、ありがとうございます。お陰で冷静になれました」

ナザ父『ハハ、ヒラフォックスにしちゃあなかなか頼れるだろ?これでも一家の大黒柱だからな。マクラウド、お前も父親になったんだから、俺みたいに頼れる男にならなきゃダメだぞ?』

マクラウド『えぇ!?そこで俺に振るんですか!?…いや無理ですよ…なんでラヴさんそんなマイペースでいられるんですか?』

ナザ父『"どんな時でも楽しく自由に"がラヴレンチ家のモットーだ。自由に生きれば余裕が生まれる』

リカエ「素晴らしい考え方です。心の余裕…か…」

マクラウド『そういうもんですかね』

ナザ父『そういうもんさ。話せるようになったら子供にも教えてやるといい。ナザレンコのように優秀なフォックスに育てたいならな』

マクラウド『ウチの子は天才なのでわざわざ俺が何かしなくても優秀になりますけど?』

ナザ父『おま、親バカだな…つうかそれは父親としてどうなんだ…?まあ無駄話はまた今度にして、作戦何か思いついたか?』

リカエ「はい。彼奴に射撃はほとんど効かない。ならばやはり生身で攻撃するしかないでしょう」

ナザ父『そうだな』

リカエ「しかし先程の鼻への攻撃も少し怯ませた程度で大ダメージとはいかず、私一人の技で倒し切るのは難しい。皆の協力が必要だ」

マクラウド『ああ、もちろん』

リカエ「遠距離射撃で彼奴の気を引く陽動部隊と、地上から近づき弱点を攻撃する近接部隊に分かれる。近接部隊は私と、ラヴレンチさん、マクラウドさん…それから…」

リカエリスは部隊のメンバーを選出していく。

そして二つの部隊に分かれると、リカエリス率いる近接部隊はアーウィンから降り、地上から巨大モグラの元へと向かった。


タタタタタ…


リカエ「陽動部隊は上手くやってくれているな…急ごう」

上空ではアーウィンがモグラの弱点に集中射撃し、モグラは鬱陶しそうに腕を振り回している。

ナザ父「今なら腹まで近づけそうだな」

マクラウド「俺が運びます」

マクラウドはクラウチングスタートのような構えを取る。

そしてフォックスたちはその前に並び、マクラウドに向かって走っていく。

マクラウド「とりゃぁっ!」


バゴッ!!


走ってきたフォックスたちを、マクラウドは高く蹴り上げる。

バゴッ!!

バゴッ!!

バゴッ!!

次々と蹴り上げていき、フォックスたちがモグラの腹部まで接近した。

リカエ「今だ!!」


ズドドドドドッッ!!!!


フォックスたちは一斉に腹部を蹴り上げた。


ゴバァッ!!!


モグラは口から青い血液を滝のように吹き出す。

ナザ父「やったか!?」

131ハイドンピー (ワッチョイ 20c3-7e75):2021/06/27(日) 22:16:24 ID:Wqi..c/U00


ゴオォォォォッ!!


リカエ「いや…!」

モグラがフォックスたちに向かって腕を振り下ろし。


ドゴォォン!!!!


腹部の周囲に集まっていたフォックスたちは一気に地面に叩き落とされた。

リカエ「ぐ…!!何という…パワー…!皆無事か…!?」

リカエリスはなんとか立ち上がり、周りを見る。

リカエ「…な…っ」

そこは血の海になっていた。

上手く受け身を取れたのはリカエリスだけだった。

リカエ「…アビーさん…!シードさん…返事をしろ…イフジーチ…!アイジャック…!エルムノップさん!ラヴレンチさん…!誰か…生きていないのか…!」

返事はない。

がくり、とリカエリスは膝から崩れ落ちる。

タタタタ…

マクラウド「リカエリス!」

リカエ「マクラウドさん…すみません…作戦は…失敗です…」

マクラウド「これは…くっ…!そうか…」

マクラウドもその光景を見て愕然とする。

そして更に絶望は続く。


ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!


マクラウド「何だ…!?」

地面が激しく揺れ、モグラを中心にひび割れていく。

リカエ「まさか…」


ズオォォォォ!!!!


そしてその下から巨大な脚が現れた。

マクラウド「う…動き出したのか…!!」

リカエ「まずい…このままでは…」


ズシィィン!!!!


モグラは巨大な一歩を踏み出す。

リカエ「我々は滅ぼされる…」

132ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:05:16 ID:kl3C8vqE00

マクラウド「ボーッとするな!止めるぞ!何としてでも!」

リカエ「しかし一体どうすれば…!」

マクラウド「とにかく弱点を狙うんだ!さっきの攻撃も、血を吐いたってことはノーダメージじゃない!」

リカエ「了解…!」

タタタタタ…!

二人は腹部への攻撃のため、モグラの前へと走るが。


ズシィィン!!!!


マクラウド「くっ…一歩がデカすぎる…!」

リカエ「追いつけない…!」


ブンッッ!!!!


モグラは再び腕を振り回す。

それにより気流が乱れ、アーウィンたちがコントロールを失い。


ドゴォォン!!!!


二機のアーウィンがぶつかり合い、大破。

リカエ「キューさん!アールス!」


ドガァァン!!!!


更に二機のアーウィンが地面に叩きつけられ、爆発した。

マクラウド「テューヴ!ウィクシィーズ!!」

リカエ「クソッ…!」

マクラウド「…ん?動きが…止まった…?」

リカエ「爆発に気を取られているのか!今なら追いつける…!」

マクラウド「ああ!」


ダダダダダダダ…!


そして二人はモグラの前に回り込み。

マクラウド「リカエリス!」

リカエ「はい!」

マクラウド「行けぇぇぇ!!」


バゴッ!!


先程と同じ要領でマクラウドがリカエリスを蹴り上げる。

133ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:06:17 ID:kl3C8vqE00

リカエ「はああああっ!!」

ゴゴゴゴゴゴ…!

空中でリカエリスは炎を纏う。

リカエ「ファイヤーッ!!」


ズドォッッ!!!!


そしてモグラの腹をファイアフォックスで打ち抜いた。

グラァッ…

モグラは僅かに仰反る。

マクラウド「き…効いてるぞ…!リカエリス!」

ガシッ!

その瞬間リカエリスはモグラの毛に掴まり。

リカエ「まだだ…!」

ガガガガガッ!

モグラの体をよじ登っていく。

そして鼻の上まで登ると。

リカエ「はあっ!!」


ズドッ!!

ドガッ!!

バキッ!!


鼻に何度も蹴りを浴びせる。

と。

グラァッ…


ズシィィン!!!!


モグラは白目を剥いて倒れた。

スタッ…

空中に投げ出されたリカエリスは綺麗に着地し、倒れたモグラを見上げる。

リカエ「ハァ…や……やった…のか…?」

マクラウド「リカエリス!やったぞ!」

マクラウドが駆けつける。

リカエ「ハァ…ハァ…本当に…倒し切れているか…確認を…」

マクラウド「ああ…と言ってもこんなデカイの、どうすりゃいいんだ…」

リカエ「確かに…」

134ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:07:19 ID:kl3C8vqE00


タタタタタ…


そこへ村で待機していたフォックスたちが走ってきた。

ナザ「大佐!」

リカエ「お前たち…!」

モーブ「遅くなりました…すみません。もう終わったんですね」

マクラウド「ああ…だがまだ息があるかもしれない。みんな、確認に協力してくれ」

みんな「了解!」

フォックスたちはモグラの方へと走る。

リカエ「…ナザレンコ」

ナザ「はい?」

呼び止められたナザレンコは振り返る。

リカエ「すまない…お前の親父さんは…」

ナザ「…ああ、そうなんすね。分かりました」

リカエ「ナザレンコ…」

ナザ「大丈夫ですよ。フォックスとして戦ってんだから、こういうこともあるでしょ。つうか村もブッ壊されて、こんだけ死にまくってて、父ちゃん一人死んだくらいで悲しんでらんねえっすよ」

リカエ「…そうだな…」

ナザ「どうしたんすか。らしくないですね、大佐」

リカエ「…いや…私は元々こんな情けない男だったよ。見せないようにしていただけさ」

ナザ「情けないって…仲間が死んで落ち込むことがですか?別に普通じゃないですかね。俺は天才だから割と冷静でいられますけど」

リカエ「…フッ…やはり私はダメダメだ。先輩どころか新人にまで励まされているようでは」

自嘲するようにリカエリスは笑う。

ナザ「気にしないでくださいよ。みんな大佐を信頼してるからこそ、ほっとけないんだと思いますよ」

リカエ「ありがとう…すまないな。…さあ、皆を手伝おう」

ナザ「うっす」

そして二人もモグラの方へと歩み始める。

と。


パキパキ…


リカエ「…何だ…?」

135ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:08:03 ID:kl3C8vqE00

モグラの体にいくつも亀裂が入り、中から光が漏れ出す。

モーブ「な、何が起きてる!?」

マクラウド「よく分からないが、全員、離れろ!」

その瞬間。



ドドォォォォォォォォォォォォン!!!!



モグラは爆発した。

近くにいたフォックスたちは一瞬で巻き込まれる。

リカエ「ナザレンコ!!」

ナザ「はい!!」

少し離れていたリカエリスとナザレンコの二人だけは、すぐに爆発から逃げた。

136ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:09:05 ID:kl3C8vqE00



ギル「な…何なの、今の…」

アルバロ「何か…向こうの空が明るくなったな…」

住民たちを誘導中のフォックス四人は、その爆発の衝撃に足を止めていた。

ポルス「ねえ!こっからなんか見えるよ!」

瓦礫の上からポルスが三人を呼ぶ。

ドドン「なんかってなんだ?」

ドドンも軽い身のこなしで瓦礫の上に飛び乗る。

ギルティース、アルバロもそれに続く。

ポルス「なんかキノコみたい。何あれ?」

ギル「…キノコ雲ってやつかしら…たぶん、凄い大きな爆発があったんだわ…」

ポルス「あれ、山の訓練場の方じゃない?」

アルバロ「訓練場…」

ギル「どしたの?」

アルバロ「あそこには爺様が調査に向かっていた筈だ…ヴァティ殿も…」

ギル「母さんが!?」

アルバロ「いや、まあリカエリス大佐も同行しておるから、大丈夫だとは思うがな…フン!そんな事より我らはとっとと一般人どもを送り届けるぞ!時間を無駄にするな貴様たち!」

ギル「そ…そうね…」

ポルス「そ…そうね…」

ギルティースたちは瓦礫から降り、住民たちのところに戻るが。

アルバロ「…む?」

アルバロが振り返ると、ドドンは一人、爆発の方から目を離せずにいた。

ギル「ドドン、どうしたの?もう行くわよ!」

ポルス「もう行くわよ!」

そしてドドンはぽつりと溢す。

ドドン「…美しい…」

ボカッ!

その後ろからギルティースがゲンコツを振り下ろす。

ドドン「いたっ!何するんだギルティース!」

ギル「美しい…じゃないわよ!行くわよ!」

ドドン「お、おお!すまんすまん!」

これがドドンと爆発との出会いだった。

137ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:09:50 ID:kl3C8vqE00



リカエ「ナザレンコ、無事か?」

ナザ「ゲホッゲホッ…なんとか…」

僅かに爆風を受け全身の毛がチリチリになりながらも、二人はなんとか逃げ延びた。

リカエ「…この規模の爆発では…逃げられなかった者達はもう…生きてはいまいな…」

ナザ「確かめてみなきゃ分かんないですよ」

リカエ「そうだな…煙が収まったらすぐに確認に行こう」

ナザ「はい」

リカエ「しかし…奴は何故爆発した…?」

ナザ「アイツに自爆するような能力とか無かったっすよね」

リカエ「ああ。巨大化による影響か…?」

ナザ「巨大化…そういや地下施設には何があったんですか?」

リカエ「クローンの培養施設のようなものだ。宇宙生物の巨大化はその培養液による遺伝子異常だと考えられる」

ナザ「なるほど…モグラの巨大化も…」

リカエ「恐らくな。ヴァティさんと長老に詳しく調べてもらっていたのだが…巨大化したモグラの下敷きになってしまった…施設を制御していたコンピュータも、これでは跡形もあるまい…」

ナザ「そう…ですか…」



爆発を中心として、リカエリスたちとは反対方向に、男が佇んでいた。

???「魔力による自爆…これ程の巨大さでも大した威力は出ないか。やはり重要なのは肉体の大きさではなく、魔力量…この程度では足りぬ。奴を倒すには…」

車椅子に乗った緑フォックスの老人。

その体のあちこちが機械化されている。

???「さて…あの男の記憶も消しておかねばな…」

フォン…

車椅子は浮き上がり、老人はどこかへ飛び去った。

138ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:10:34 ID:kl3C8vqE00




数十分後。

二人は生存者がいないか確認して回ったが。

リカエ「…やはり、駄目だったか…」

ナザ「…でもモグラのヤツは木っ端微塵…つうか、塵一つ残ってないっすね」

リカエ「ああ。どうやったのかは分からないが、自らの体そのものを爆発エネルギーに変化させたのだろう。調査する必要があるな」

ナザ「ですね……ふぅ…」

ナザレンコは虚な目で、ため息をつく。

表面上は冷静に見せていても、度重なる戦いや仲間たちが死んでいく悲しみから、心身共に疲弊し、とっくに限界を迎えていた。

リカエ「村へ帰るか、ナザレンコ」

ナザ「そうですね」

二人はリカエリスのアーウィンに乗って村まで帰った。

139ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:12:12 ID:kl3C8vqE00



フトゥ「大佐!ナザレンコ!」

壊滅した村の中で、残っていた数人のフォックスがリカエリスたちを出迎える。

ムメイ「さっきの爆発、何だったんだ?」

リカエ「宇宙生物による自爆だ。それに巻き込まれて、我々以外は全滅した」

フトゥ「そんな…」

リカエ「この戦いでお前たちの友人や家族も、何人も命を落とした事だろう…皆…すまなかった。私の力不足だ」

リカエリスは深く頭を下げる。

ムメイ「謝んねえでくれよ大佐。アンタの指示のお陰でアタシらは生きてるし、村の住民への被害も最小限に抑えたんだ」

フトゥ「ああ…感謝こそすれ、誰もあなたを責めたりなんてしません」

他のフォックスたちもそれに頷く。

リカエ「すまない…」

それからリカエリスは、これからどうするかフォックスたちに指示を出していった。




それから少し後、リカエリスたちは隣の村に避難したギルティースたちと合流した。

ギル「そんな…母さんが…」

ギルティースは涙を零しながら、がくりと膝をつく。

アルバロ「そうか…爺様…最後まで役目を全うしたのだな…爺様から引いた血は、我が誇りだ…」

アルバロは胸に手を当て、遠くの空を見上げる。

リカエ「ギルティース、アルバロ、すまなかった。私が地下施設に二人を残して行かなければ、結果は違ったやもしれん…」

アルバロ「しかし大佐がすぐ駆けつけたからこそ、村の宇宙生物たちの掃討が迅速に終わったのだろう。気にするな」

ギル「…よくそんな…冷静でいられるわね…ぐすっ…」

アルバロ「ギルティース…フォックスとして戦うというのはそういう事だ。いつ命を落とすか分からぬ危険な仕事なのだ。だが、それによって救われる命も沢山ある」

ギル「分かってるわよ…でも…違うもん…」

アルバロ「違う?」

ギル「母さんは一線を退いてたもん…何年も戦ってなかった…だけど緊急事態だから、調査に駆り出された…そうでしょ?リカエリス大佐…」

リカエ「ああ」

ギル「母さんも他の人と一緒に避難してれば…こんなことにならなかったのに…!」

リカエ「すまない…ギルティース」

リカエリスは頭を下げることしかできなかった。

140ハイドンピー (ワッチョイ a081-9036):2021/07/07(水) 21:13:48 ID:kl3C8vqE00

アルバロ「甘えるなギルティース。それは爺様とて変わらぬ。他にも引退したフォックスたちは何人も死んでおる。貴様の母上だけではない」

ギル「は…?」

ギルティースはアルバロを睨む。

アルバロ「誰も強制などしておらん。大佐は戦えるフォックスだけを招集したのだ。当然だろう」

ギル「だったらどうして!」

アルバロ「言わねば分からんか、馬鹿者がッ!!」

ギル「…!」

アルバロ「フォックスとして…そしてこの村の…この星の…この宇宙の一員として、皆、自らの正義によって動いたのだ!!命を賭して戦ったのだ!!それを否定するというのかッ!!」

ギル「……!」

どさっ…

かつてないほどに本気の表情を見せたアルバロに、ギルティースは気圧されて尻餅をついた。

ギル「ご……ごめんなさい…」

アルバロ「…怒鳴って悪かった。分かればよい。この戦いで年長の者たちが多く命を落とした。これからは我々の世代がしっかりせねばならんからな」

アルバロはギルティースの肩に手を置く。

ギル「うん…」

リカエ「アルバロ…お前も随分と頼もしくなったものだな…」

アルバロ「我は偉大なる長老の孫だぞ!これくらい当然である!」

アルバロは偉そうに腕を組んで言う。

ギル「…でも…どうしたらいいの…?母さんも姉さんも死んで……私…もう…一人ぼっちになっちゃったよぉ……」

ギルティースの涙は次々と溢れ出す。

ドドン・ポルス「何言ってるんだ?」

ギル「え…」

ナザ「まったくだ。誰が一人ぼっちだって?」

ギル「みんな…」

アルバロ「我々は家族だろう。貴様を一人にはさせん」

ギル「家族…」

アルバロ「ああ。遠い先祖ではあれどフォックスという一人の男から、我々は続いておる。大なり小なり、全てのフォックス族にはその血が流れておるのだ。そして何よりもその精神に、我々はフォックスという男の正義を宿している筈だ。つまり…」

ナザ「長えよ。んな小難しいことじゃねえだろ」

アルバロ「何ぃ!?」

ナザ「俺らは仲間に命を預けて戦うんだ。その絆は簡単に壊れるもんじゃねえ。それこそ家族と同じくらいに…ってハズいこと言わせてんじゃねえよアルバロ!」

アルバロ「人の話遮っておいて!?」

ドドン「やっぱこいつらバカだな」

ポルス「うん。バカすぎる」

ナザ「んだとガキども!」

アルバロ「貴様たちには一度痛い目を見せておく必要がありそうだな…」

コキコキと拳を鳴らすナザバロ。

ドドン「いや、絆はどーした!」

ポルス「き…絆…!ブフォッ!恥ずかしい!」

ナザ「ブッ飛ばすッ!」

ドドン「うわあ!怒った!バカが怒った!」

ポルス「逃げろ!バカが怒った!」

ナザ「あ!待てテメエら!」

アルバロ「ワーハッハッハ!!我から逃げられるとでも思っておるのか!!」

ドドン・ポルス「ぎゃー!!」

ドタバタドタバタ…


リカエ「やれやれ…これでは家族というより、小学校の教室だな」

ギル「…フフ……そうですね。…ありがとう…みんな…」

涙は止まらなかったが、その表情は少しだけ穏やかになっていた。

141はいどうも名無しです (アウアウ a7dc-4252):2021/07/08(木) 12:19:32 ID:KKeIedm2Sa
アルバロの株がどんどん上がっていく

142ハイドンピー (ワッチョイ 7f82-d7fa):2021/08/09(月) 20:58:36 ID:x9k8dMII00





真夜中のとある町。

バンッ!バンッ!

男「ウッ…!」

ドサッ…

ヤクザA「フン…俺らに舐めた真似したらどうなるか、これで分かったろ…クズが」

ヤクザB「流石っす兄貴!」

ヤクザA「こいつは海に沈めとけ。あともう一人、俺はカタァ付けなきゃならんヤツがおる」

ヤクザB「うす!了解っす!」

そしてヤクザの兄貴分は、裏路地を通ってどこかへ向かう。

ヤクザA「俺らから逃げられると思うなよ…ドブネズミが…」

ザッ…

???「誰が逃げるかい!」

ヤクザA「あぁ?」

その前に現れたのは、緑の帽子のピカチュウだった。

???「へへっ!ワシゃヤクザ王目指しとんねん!お前ごとき相手に逃げてられるかい!」

ヤクザA「ヤクザ王って何だよ」


バンッ!!


ヤクザはピカチュウに向かって容赦なく引き金を引いた。

???「遅いんじゃボケェ」

ヤクザA「はっ!?」

銃弾をかわして瞬時に接近し。


バチバチバチバチッ!!


ヤクザA「ぎゃああああああ!!」

電撃をお見舞いした。

143ハイドンピー (ワッチョイ 7f82-d7fa):2021/08/09(月) 21:00:27 ID:x9k8dMII00

???「…ワシも知らんわ。何やねんヤクザ王て」

ヤクザA「て……てめぇが…言ったんだろう…が…」

ガクッ…

最後にツッコんで、ヤクザは気絶した。

???「ふいー、今日は五人か。いやー、大漁やな」

???「テメエが最近ウワサになってる"極道狩り"か」

そこに緑のルイージ族が現れた。

???「おうおう、六人目が自分から来よったわ」

???「残念ながら俺はヤクザじゃねえよ」

???「あァ?ほんなら何やねん」

???「俺はチェマ。地上最強になる男だ」

???「ち!地上最強てお前!ブハハハハ!本気で言っとるんか!?」

チェマ「何がおかしい?」

???「いやいや笑うやろそんなもん。よう見たらお前まだ中学高校ぐらいのガキやろ?ケンカ売る相手は選んだ方がええで」

チェマ「テメエこそヤクザ相手にケンカ売ってんだろうが」

???「そらあんな弱え奴らにワシが負けるハズあれへんからな」

チェマ「つうかよ…相手選んでたら最強になんざなれねえだろうがよ!!」

ダンッ!!

チェマが飛びかかる。


ドガッ!!


ズザザザザ…

チェマの拳をピカチュウは尻尾で弾いた。

チェマ「チッ!」

???「ほぉ、まあたしかにスジはええな。せやけどワシには敵わん」

チェマ「何様のつもりだよ!」

ダンッ!!

再びチェマが飛びかかる。

???「動きが単調やなあ。デガワァ!!」


ドシャァン!!!!


チェマ「ぐあっ!」

ピカチュウのかみなりでチェマは吹っ飛ばされた。

ババッ!

ズダダダダ…!

チェマはすぐに立ち上がって再びピカチュウに向かって突撃する。

144ハイドンピー (ワッチョイ 7f82-d7fa):2021/08/09(月) 21:01:46 ID:x9k8dMII00

???「ピカチュゥ!」


バチッ!!


チェマ「ぐっ…!」

電撃をくらい、怯んだ隙に。

ガシッ!

グルグル

ズダンッ!!

ピカチュウはチェマを投げ飛ばした。

チェマ「ぐはっ…!」

???「無駄や。今のお前じゃ何回やったってワシには勝てん。もうちょい強くなったらまた相手したるわ」

チェマ「ぐ…クソッ…!テメエ、名前教えろ!」

???「ワシは片割れや」

チェマ「片割れか…覚えたぞ!たしかにテメエの言う通り、今は勝てねえ…だがすぐに強くなってまた来る!覚えとけ!」

チェマは去っていった。

片割れ「なかなか将来有望なガキやったな…」

ヤクザC「よお片割れぇ…見つけたぜぇ」

片割れ「!」

そこへガタイのいいヤクザが現れた。

片割れ「今度こそマジの六人目か」

ヤクザC「クックック…六人目だぁ?残念だったなぁ!もう逃げ場はねえぞ!」

片割れ「あん?」

周りを見ると、武器を持ったヤクザが大量に集まって片割れを囲んでいた。

片割れ「ケッ、よってたかって…まあええわ。お前らが何人で来ようが相手んならん。それを教えたるわ」

ヤクザC「やっちまえお前ら!!」

ヤクザたち「うおおおお!!」

ドンッ!!バンッ!!

ドガッ!!バキッ!!

ヤクザたちは一斉に片割れに向かって攻撃を仕掛ける。


そして数分後。

片割れ「ふぅ。えーっと…一、二、三、四…何人や?まあええわ。とりあえずめっちゃ狩ったわ」

ヤクザは全員転がっていた。

ヤクザC「…クソ……て…てめぇ……なんで極道狩りなんざ…しやがるんだ…!」

片割れ「なんでやって?逆に聞くわ。なんでお前らはヤクザなんかやっとんねん。みんな怖がってるで?」

ヤクザC「それは…」

片割れ「あーウソウソ、答えんでええで。お前らがヤクザんなった理由なんかどうでもええ。とにかくな、迷惑やねんお前ら。ワシはこの町が好きでな、少しでも町が平和になればいいと思っとる。せやからお前らは邪魔やねん」

ドガッ!

ヤクザC「ウッ…」

ガクッ…

最後の一人も気絶させ、片割れは去った。

145ハイドンピー (ワッチョイ 80ac-f22a):2021/08/16(月) 20:26:26 ID:BviEfudE00




翌朝。

片割れ「おうナイフ、まだ生きとったか」

ナイフ「はぁ?当たり前だろ!」

小さな病院のベッドで、点滴をつけ、痩せ細っている赤ピカチュウは寝ていた。

片割れ「がはははは!そんなカッコしてよう言えるな!」

ナイフ「俺はどんな時でもキレてるからな!切れたナイフだからな!」

片割れ「意味分からんわ」

ナイフ「ゲホェーッ!!」

ナイフはめちゃくちゃ血を吐いた。

片割れ「ボケ、言わんこっちゃない」

ナイフ「は、ははは…これくらいどうってことないぜ…グフッ…」

片割れ「あーもうええから寝とけ」

ナイフ「…ん?お前その傷…」

片割れ「あ?あー、ちょっとかすっとったか。まあ別に大した傷やないわ。気づかんかったくらいやし」

ナイフ「…またヤクザと戦ったのか?いい加減にしとけよ」

片割れ「なんも問題ないわ。昨日みたいに囲まれることなんか滅多にあらへんし。あんなクズども、ワシが全部この町から追い出したる」

ナイフ「まあお前の気持ちも分かるけどさ…気をつけた方がいいぞマジで。どこの組か忘れたけど、メチャクチャに強えヤバい奴がいるらしいしな」

片割れ「ああ、そのウワサはワシも聞いたことあるわ。せやけどそんなヤツ今まで会ったことあらへん。あるいは会ったけどワシからしたら他の有象無象と変わらんかったか。何にせよ所詮ウワサはウワサや」

ナイフ「そうかなぁ…なんか嫌な予感するんだよなぁ」

片割れ「お前の予感なんかアテにならんわ」

ナイフ「まったく…とにかく、程々にしとけよ」

片割れ「へーへー。頭の片隅のまた片隅辺りにゃ置いとくわ」

そうして片割れは病院を後にした。

146ハイドンピー (ワッチョイ 80ac-f22a):2021/08/16(月) 20:27:16 ID:BviEfudE00


バチバチッ!!


男「ぐはっ!?」

病院のすぐ近くにいた男に片割れは電撃を浴びせた。

片割れ「お前もどっかの組の差し金やろ。尾けとるのに気付いとらんとでも思ったか?」

男「な、何の話だ!」

片割れ「言うとくけどな、アイツに手ぇ出しよったら、お前ら全員殺すで」

バチチチチチ…

片割れは頬の電気袋から音を鳴らして脅す。

男「ヒィィッ!」

男は逃げていった。

片割れ「ケッ、情けない悲鳴あげよって…けどまァ、あれだけビビらせりゃもう近寄らんやろ」

147ハイドンピー (ワッチョイ 80ac-f22a):2021/08/16(月) 20:28:23 ID:BviEfudE00




その頃とある組の事務所では。

ヤクザA「すんません親分…!」

ヤクザC「すんません…!俺たちじゃ力不足で…!」

昨晩片割れに倒されたヤクザの二人が、組長らしき人物に頭を下げていた。

組長「フン。気にするな。頭上げろお前ら」

ヤクザA「はっ、はい!」


バンッ!!


ヤクザAが頭を上げると同時に、その頭は横から撃ち抜かれた。

ヤクザB「とんだ甘ちゃんっすねぇ兄貴。あんな失態晒しといて、頭下げて許して貰おうなんざ、そんな甘い話があるわけねえでしょ。この世界によ」

ヤクザC「てめえ!!何の真似だ…!!」

ヤクザB「言葉にゃ気を付けてくだせぇ」

ガッ!

ヤクザC「あがっ…」

ヤクザBは、ヤクザCの口に銃口を突っ込んだ。

ヤクザB「あんたは親分に断りもなく勝手な行動でうちの兄弟たちを大勢引き連れて、挙げ句全員病院送りにされ、何の成果もなく帰ってきた。大方、巷で話題の極道狩りを仕留めりゃ若頭候補に名乗り挙げられるとでも考えたんでしょうが…」

組長「その辺にしとけ、B」

ヤクザB「うす」

ヤクザBは銃を引いた。

ヤクザC「げほっげほっ…!す…すんませんでした…!!」

ヤクザCはすぐさま土下座し、額を血が滲むほど床に擦り付ける。

組長「よせ。床が汚れる。そこに転がってる馬鹿は裏で何年もウチの金を好き勝手使ってやがったから、粛清したんだ。だがてめえの失敗は今回だけだ。タマ取るほどのモンじゃぁねえよ」

ヤクザC「せ、責任取ってエンコ詰めさせて頂きやす…!!」

組長「てめえの指なんざいらねえよアホンダラ」

ヤクザC「す、すんません!!じゃあどうすれば…!」

ヤクザB「こいつを須磨武羅組の事務所に仕掛けてきてくだせぇ」

そう言ってヤクザBが持ってきたのは、トランクケース。

ヤクザC「なんだ…?」

ガチャッ

Bはトランクケースを開く。

148ハイドンピー (ワッチョイ 80ac-f22a):2021/08/16(月) 20:29:28 ID:BviEfudE00

ヤクザC「な、なんだこいつは…!?」

その中には目と足のついたいくつかの爆弾が眠っていた。

ヤクザB「ボム兵っつう爆弾っすよ。もう職人がいねえんでほとんど手に入らねえ代物っす。火力はそこらの爆弾なんかとは比べモンにならねぇ」

ヤクザC「ボム兵……ん?つうか今、須磨武羅組って言ったか…?」

組長「ああ。奴らさえ消えりゃぁウチがこの町のトップだ」

ヤクザC「む、無理ですよ!あそこにだきゃあ手ェ出すなって、親分だって言ってたじゃねぇっすか!」

組長「フン、ボム兵さえ手に入りゃぁ関係ねぇ。事務所ごと全員まとめてお陀仏よ」

ヤクザC「しかし…!」

ヤクザB「うだうだうるせぇな!黙って漢見せんかい!」

ズドッ!!

ヤクザC「がはっ!!」

BはCの腹を殴りつける。

組長「ま、そういうことだ。何も特攻しろっつってるわけじゃねぇんだ。こいつを仕掛けてくりゃそれで今回のミスがチャラだぜ。安いモンだろう」

組長は跪いたCの肩にポンと手を置いた。

ヤクザC「は…はい…行かせて…いただきやす…」

ヨロヨロとヤクザCは起き上がり、ボム兵を懐にしまって出て行った。

149ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:06:04 ID:ZjzJF1FQ00




数十分後…片割れは。

片割れ「らっしゃーせー」

コンビニでバイトしていた。

そこへ。

チェマ「よう。こんなとこで何してんだてめえ」

片割れ「あぁ?なんや、昨日のクソガキかい。見たらわかるやろ。働いてんねん」

チェマ「お前みたいなヤツでも働くんだな…」

片割れ「ワシが働いたらあかんのか?」

チェマ「いや、意外だろ…つうかその短え手足でコンビニバイトなんかできるのかよ…」

片割れ「フン、ワシゃ意外と器用なんや。少なくともガサツそうなお前よりは何倍もな」

チェマ「そうかい。ま、頑張れやオッサン」

片割れ「いや、つうかお前学校は!?」

チェマ「チッ…っせーな」

片割れ「お前なぁ、親御さんはお前育てるために必死で働いてんねんぞ!わかっとんのか!?働くのって結構大変なんやぞ!?」

チェマ「てめえにゃ関係ねえし、てめえに言われたかねえ。じゃあな」

片割れ「おい待てや!」

客「あの…レジいいすか…」

片割れ「ああ!すんまへん!どうぞどうぞ!…ったくあの馬鹿ガキは…」

カチャ…

片割れ「あ?」

客?「死にたくなけりゃ金を出せ」

その客は片割れの額に拳銃を突きつけていた。

片割れ「…はあ?」


バチバチッ!!


客?「ぐあっ!?」

片割れ「ケンカ売る相手間違えたなぁお客さん。すぐにケーサツ呼ぶからな」

150ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:07:10 ID:ZjzJF1FQ00

男「動くな!!」

片割れ「あ?」

男「動けばコイツの頭が吹き飛ぶぜ!」

店員「ひいいっ!!」

後ろにいたマスクの男は、拳銃を他の店員に突きつけていた。

片割れ「チッ、仲間がおったか。めんどくさいのぉ…」

男「とっととそのバッグにありったけ金を詰めろ!コイツがどうなってもいいのか!」

片割れ「へーへー、分かりましたよ」

片割れはレジの中から金を出して、バッグに詰めていく。

ドサッ…

片割れ「ほれ、全部詰めたで。もってけ泥棒」

男の前にバッグを投げる。

男「最初からそうすりゃいいんだよ!」

男が拾おうとした瞬間。

片割れ「ピカチュゥ!」


バチバチッ!


男「ぎゃあっ!」

片割れ「えーっと、テープはっと…お、あったあった」

片割れはガムテープで強盗二人の手足を縛った。

店員「はあ、はあ…た、助かりましたよ片割れさん…ありがとうございます」

片割れ「なーに気にすんなや。こんなんいつも相手しとる奴らに比べりゃ虫みたいなモンや」

店員「いつも…?」

片割れ「あー、いや、アレや、実はちょっと格闘技をな…」

店員「そうなんですね!」

片割れ「…で、お前らどっからこんなモン手に入れたんや?」

男「う…な、なんだと?」

片割れ「この拳銃、マジモンやろ。この町じゃ銃の売買は禁止されとるからなぁ。まあどうせヤクザ絡みやろうけど」

男「い、言うと思うか…?」

片割れ「別に言わんでもええけど…ヤクザとワシと、どっちが怖いんやろなぁ」

バチチチチチチ…

片割れは電気袋から火花を散らして脅す。

男「わ、分かった!言う、言うよ!昨日、変なデケぇ男から買ったんだ!」

片割れ「デケぇ男?なんやそれ。はっきり言えや」

男「夜だったし、全身黒ずくめで、顔はよく見えなかったんだよ…コイツと歩いてたらいきなり路地裏から声かけられて、拳銃見せられて…めちゃくちゃ安かったし、俺もコイツも借金まみれで人生終わってたから…もうこれに賭けるしかなかったんだ…」

片割れ「どこの路地や?」

男「ひ、東の駅の近くだよ…」

片割れ「東っつーと…アイツらのシマか…」

店員「何か知ってるんですか…?」

片割れ「ああ、そこそこデカイヤクザの事務所があんねん。あの辺はクスリの売人も多いし、あんま近寄らんほうがええで」

店員「へ、へー…」

片割れ(最近アイツら妙に活発になっとるらしいからな…今夜辺り潰しに行くか)

それから程なくして警察が到着し、強盗たちは引き渡された。

151ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:08:22 ID:ZjzJF1FQ00




そしてその夜。

片割れ「この辺が怪しいな」

片割れは路地裏へと入っていく。

片割れ「…ビンゴや」

ダッ!!

片割れは何かの取引をしている二人の男を見つけ飛びかかる。

男1「なんだ!?」


バチバチッ!!


男1「ぐぁぁっ!!」

片割れ「まずは一人」

男2「てめえ…!極道狩りか!!」

片割れ「正解」


ドゴォッ!


男2「ぐはぁっ!」

ガシャ!

突き飛ばされた男の懐から拳銃が零れ落ちた。

片割れ「お前、なんで拳銃なんか売っとんねん。それも激安で」

男2「は…?な、何を言ってやがる…」

片割れ「とぼけても無駄やボケ!この辺で銃売っとる奴がおるのは分かっとんねん!」

男2「知るかよ!そりゃ俺のチャカだ!返しやがれネズミ野郎!」

男は片割れに飛びかかる。

片割れ「あぁ?」

バキッ!!

男2「ぐほぉ!」

片割れ「…そういや売人は大男やって言うとったな…コイツもそこそこ背は高いが、大男ってほどのモンやない…人違いか…?」

男2「だ…だから…違うっつってんだろ…俺はただクスリを…」

片割れ「クスリのほうやったか」

バチバチッ!!

ドサッ

片割れは男を気絶させた後、その懐にしまっていた麻薬を電撃で焼き尽くし、拳銃も尻尾で叩きつけて粉砕した。

そしてまた路地裏を捜索する。

片割れ「しかしでかいってんならすぐに見つかりそうなもんやけどな…」


バンッ!!


片割れ「銃声…!あっちか!」

片割れは銃声のしたほうへ走る。

152ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:10:00 ID:ZjzJF1FQ00

片割れ「誰や!!」

???「…見つかってしまったか」

そこには車椅子に乗った老フォックスがいた。

片割れ「あ!?」

???「まあいい。幸い、弾はもう一発残っている」

片割れ「!!」


バンッ!!


片割れの眉間を一発の弾丸が貫いた。



数分後。

片割れ「…うん?」

???「大丈夫かい?ピカチュウ族の人」

片割れ「うおっ!?ゴリラ!?」

片割れが目を覚ますと、そこには赤毛のゴリラがいた。

???「すまない、驚かせてしまったか」

片割れ「あーいや気にすんなや、いきなりでビビったけども。…ってなんでワシはこんなとこで寝とんねん」

???「さあ…私も目が覚めたらここにいて困惑していたところさ」

片割れ「あんた、何モンや?」

???「私はこの近くでバーをやっている者だよ。女性のお客さんによくセクハラまがいのことをしてしまうので、エロ過ぎるマスター、通称エロマスと呼ばれている」

片割れ「最低やな…」

エロマス「も、勿論ちょっと下ネタが多いだけで、直接触ったりなんかはしてないぞ!本当だぞ!」

片割れ「そーかい。ワシは片割れっつーもんや。しかしほんまに何があったんや?何も覚えてへんねん…」

エロマス「ああ、私もだ。まるで何者かによって記憶が抜き取られたかのように…」

片割れ「んなアホな。映画の見過ぎとちゃうか」

エロマス「フ、まあそうだな…状況から考えると、我々はこの路地で前方不注意で走っていて、正面衝突して頭でも打ったのだろう」

エロマスはそう言って眉間の辺りをさする。

片割れ「あ、ホンマや。なんかぶつかったような痕があるわ」

エロマス「だだ何の用があって私はこんなところを走っていたのか…」

片割れ「…そういやワシも何の用で……ってせや!売人捜しとったんや!」

エロマス「売人?たしかにこの辺りでは麻薬の取引が横行していると聞くね。君も麻薬をやってるのか?やめた方がいいよ」

片割れ「ちゃうわ!むしろ逆や!ワシはそう言うの許せんねん!」

エロマス「なるほど…自警団みたいなことをしているのか。団ではないみたいだが」

片割れ「まあそんなとこや…つっても今捜しとるのはもっとヤバい奴やけど」

エロマス「ヤバい奴?」

片割れ「この辺で銃の取引がされとるらしいんや」

エロマス「ほう、それは初耳だな。ん?そう言えば昼に強盗事件があったというニュースがあったが…まさかあれも売人から買ったのか…?」

片割れ「ああ。そうらしい」

エロマス「そうらしいって……なるほど、強盗を撃退したアルバイトのピカチュウ族というのは君か」

片割れ「ま、まあな…なんやハズいな」

エロマス「フ、立派なことじゃないか」

153ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:11:43 ID:ZjzJF1FQ00

片割れ「…ワシはただ嫌いなモン叩き潰しとるだけや。正義感とかそんなんやない」

エロマス「いいんじゃないか?それが人のためになるのなら」

片割れ「いいわけあるかい…たまたまその相手がヤクザやら悪人ってだけで、気に入らんから叩き潰すなんてやっとることはそこらの不良と変わらん」

エロマス「フ、真面目だな。そんなに思い詰めるな」

片割れ「思い詰めてはないけどな。ワシは別に人のためにやっとるわけやないってことや」

エロマス「強い信念を持っているんだな、君は」

片割れ「せやからそんな大したモンやないて…」

エロマス「謙遜はよしてくれ。私には信念も野望も何もないんだ。だから君のようなギラギラとしたものを心に秘めた人を見ると、とても眩しく映るんだよ。どうか私にも君を応援させてくれないか?何か困ったことがあれば力になるよ」

片割れ「…なんや、エロ過ぎるマスターとか名乗っとるけど、お前結構優しい奴やな?」

エロマス「フ、私は打算的な男でね。ファイターと呼ばれる種族とは仲良くしておいたほうが今後のために都合が良いというだけさ」

片割れ「ケッ、まあそんなこったろうと思ったが。さっきも言うたけどワシゃ自分の嫌いなモン叩き潰すだけやからな。お前に何か頼まれたところで、助けてやるとは限らんぞ?」

エロマス「いいさ。ただ私は大きな敵は作りたくないんだ。平穏な毎日を送りたいからね」

片割れ「そーかい。ほんならワシはそろそろ行くわ。じゃあな」

エロマス「おっと、待ってくれ。これを渡しておくよ」

片割れ「ん?」

エロマスは名刺を手渡す。

片割れ「…情報屋…?」

エロマス「ああ。バーの片手間にね。何か知りたいことがあればうちに立ち寄るといいよ、極道狩りさん」

片割れ「!!お前、分かっとったんか…」

エロマス「いや、顔までは知らなかったさ。ただ極道狩りの噂は勿論知っていたからね。君の話を聞いてすぐにピンと来たよ」

片割れ「そういうことか。まさかお前、ワシの情報をヤクザどもに売ったりせんやろな?」

エロマス「それはどうかな?客として対価を払ってくれるなら私は誰が相手でも気にしないスタンスだからね。まあでも自分から売りに行くようなことはしないよ。私が売るのは自ら訪ねてきた人にだけだ」

片割れ「ちなみに今までにヤクザが訪ねてきたことは?」

エロマス「フ…それ以上問い詰められると、情報料が発生するが構わないか?商売なのでね」

片割れ「チッ…まあええわ」

154ハイドンピー (ワッチョイ cc27-0d6e):2021/08/24(火) 20:13:15 ID:ZjzJF1FQ00

片割れは名刺を帽子の中にしまうと、踵を返した。

エロマス「もう行くのか?」

片割れ「ああ」

エロマス「そうか。それじゃあ気をつけて。私はいつもバーで待っているよ」

片割れ「おう。行くか分からんけどな」

エロマス「それと、これからはお互い前を見て歩くよう注意しよう」

片割れ「ハッ、それはそうやな」

そうして二人は別れる。


片割れ「!!」

片割れは何かの視線を感じ、咄嗟にビルの上を見た。

片割れ「…気のせいか」



???「記憶の消去は成功したようだな。奴の研究室にあった私に関する情報も全て削除した。さて、拠点へ帰るとしよう」

キィィィン…

そこへ一機のアーウィンが飛んでくる。

???「お迎えに上がりました、オリジナル」

???「ああ」

老フォックスはアーウィンに乗り込むと、空へと消えていった。

155ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 21:51:37 ID:dBVAsxFk00



数時間後。

片割れ「どうしたもんかね。クスリの売人はもう五人もブッ倒したのに、拳銃の奴はどこにもおらん。今日は来てへんのか?」

ヤクザB「誰を捜してるんだ?」

片割れ「!」

ヤクザBが片割れの背後に姿を見せた。

ヤクザB「拳銃の売人ってのは俺のことだ。てめえは極道狩りだな」

片割れ「ほぉ、自分から出てくるとはいい度胸やな。なるほどたしかにデカいが…それだけじゃワシには勝てんぞ」

ヤクザB「デカいだけ?誰に向かって言ってる」

バサッ!!

ヤクザBは、纏っていた黒服を脱ぎ捨てた。

片割れ「ゴ…ゴリラ…!?」

その正体は、茶色いゴリラだった。

ヤクザB「そうさ。俺はこの町じゃ珍しい、ドンキー族というファイターの一族なのさ」

片割れ「珍しいて…ついさっき他の奴に会ったばっかやけども…」

ヤクザB「何!?…そうか、そういやこの辺はあのエロマスの拠点だったな」

片割れ「なんや、知っとるんか?やっぱりあの野郎、ヤクザと繋がりが…ってんなこたぁ今はどうでもええねん。なんで銃なんざ安く売り捌いとるんや?お前らにメリットがあるとは思えへんな」

ヤクザB「教えると思うか?」

片割れ「さあな。答えたくなきゃ答えんでええ。どうせお前はここでブッ潰すからな」

ヤクザB「フン、こっちのセリフだ。俺もてめえを捜してたんだ」

片割れ「は?」

ヤクザB「昨日はウチのモンが世話になったようだな」

片割れ「なんや、敵討ちっちゅうわけかい。くだらん…クズ共が一丁前に仲間意識なんか持ちよって…」

ヤクザB「お喋りはこの辺でいいだろう。死ぬ覚悟はできたか?」

片割れ「コッチのセリフじゃボケ!」

二人は睨み合う。

156ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 21:52:30 ID:dBVAsxFk00


ダンッ!!


そして同時に飛びかかる。


ドガガガガガ!!


ヤクザB「ごあっ…!」

片割れ「どうした!?遅えな!!そんなんでワシに勝てると…」


バキィ!!


片割れ「ぶっ!!」

ヤクザB「やかましいんだよ…!戦い方ってもんがあんだろうが…重量級との戦いは初めてか?」

片割れ「チッ…」

ヤクザB「オラァ!!」


ブンブンブンブン!!


ヤクザBは両手を広げて回転しながら片割れに突撃。

片割れ「ピカチュゥ!」


バチィ!


ヤクザB「効かねえよ!」

片割れ「は、弾いたやとぉ!?」


ドガァッ!!


片割れ「ぐあっ!」

ヤクザB「ふんっ!」


ガシッ!!


ヤクザBは巨大な両手で片割れを捕まえる。

片割れ「くっ!放せ!」

ヤクザB「お望み通り…放してやるよ!!」


ブンッ!!


ドゴォ!!!


片割れ「ぐああっ!」

片割れはビルの壁面に投げつけられ。


ズドォッ!!!!


更に顔面にパンチを叩き込まれた。

157ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 21:54:10 ID:dBVAsxFk00


ガラガラガラ…!!


ズシィィン…!!


その衝撃で崩れた壁が片割れにのしかかる。

ヤクザB「フン、他愛ねえ。俺にはてめえみてえな調子づいた馬鹿を相手にしてる暇はねえんだよ」

カチャ…

ヤクザBは片割れの頭部に拳銃を突きつける。

片割れ「く…そ…ッ…」


???「そこで何してる」


ヤクザB「あ?」

ヤクザBが振り向くと、そこには赤いカービィ族がいた。

片割れ「な……なん…や……アイツ…」

???「何やら騒がしいと思って来てみれば、こんなところで抗争か?馬鹿どもが。建物も壊しやがって…」

ヤクザB「誰だよてめえ。カタギが首突っ込んできてんじゃねえぞ」

???「カタギじゃねえよ」

ヤクザB「何?どこの組のモンだてめえ」

ヤクザBは拳銃をカービィに向ける。

???「須磨武羅組だ」

ヤクザB「何だと…?」

片割れ(須磨武羅組…!この町最強のヤクザ…!)

ヤクザB「…フン、それがどうした。てめえのようなチビに何ができる!」

ヤクザBが引き金に指を掛ける。


バチッ!!


ヤクザB「ぐっ…!?」

横から飛んできた電撃により、ヤクザBは拳銃を落とした。

片割れ「どこ…見とんねん…お前の相手は…ワシや…ボケが…!」

ヤクザB「ク……クックック…そんなボロボロでよく言えたモンだな!」

片割れ「ざけんな…ワシはまだまだ…元気やっつーの!!」


ドガァ!!


のしかかった瓦礫を尻尾で払い除け、片割れは立ち上がった。

ヤクザB「ケッ…根性だけは一丁前だが…根性だけでどうにかなるほど甘かねえぞ、この世界はな」

片割れ「言っとけ…ワシゃヤクザの世界になんざ興味ないんじゃボケ」

158ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 21:56:15 ID:dBVAsxFk00

ザッ…

睨み合う二人の間に、赤カービィが立ちはだかった。

???「やめろ」

ヤクザB「どけチビ。潰すぞ」

片割れ「関係ねえ奴は引っ込んどけや…それとも…お前からやられたいんか…?」

???「やめろと言っているのが分からないか?」

ギロリ、と、カービィは二人を睨む。

途端に二人の動きが止まった。

片割れ(なんや…?コイツのこの迫力は…!)

ヤクザB(う…動けねえ…!?)

???「フン、俺もまだ小童に遅れを取るほど衰えちゃいない」

片割れ「お、お前…何モンなんや…!?」

???「須磨武羅組大親分、名は迫力」

片割れ「お…大…親分…!?」

ヤクザB「馬鹿な…須磨武羅組のトップはガタイのいいオッサンの筈だ!お前のようなチビじゃぁねえ!」

迫力「そりゃ俺のひ孫よ」

ヤクザB「ひ孫だぁ!?ふざけるな!てめえ一体何歳だってんだ!?」

迫力「百二十六歳だが…?」

ヤクザB「あぁ!?」

片割れ「滅茶苦茶言いよるなコイツ…」

迫力「何もおかしいことはねえだろう。寿命なんざ種族によっていくらでも変わってくる。てめえの価値観こそが世界の常識だと思い込んじまう、若え奴の悪い癖だ」

ヤクザB「…チッ…主語のでけえジジイだ。だがまあ、てめえが須磨武羅組のモンだってんなら話が早え。ジジイだろうが何だろうが、敵に容赦はしねえ」

カチャ…

ヤクザBは迫力に銃を向ける。

ヤクザB「てめえのその威圧感も長くは続かねえらしいな。もう問題なく動けるぜ」

迫力「おいおい、こんな老人にチャカ使う気か?」

ヤクザB「大親分ともあろう者が命を乞うのか?」

迫力「そりゃあ嘘だ」

ヤクザB「あぁ?」

迫力「そう言やビビって戦いをやめると踏んだんだが、思ったよりてめえは大物だったらしい。須磨武羅組に大親分なんていう役職はねえ。とうの昔に俺は引退したのさ」

ヤクザB「何だと…?」

迫力「早え話が今の俺はただの隠居したジジイだ。カタギに手ぇ出すつもりか?」

ヤクザB「何だそりゃ。知るか。死ね」


バンッ!!

159ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 21:58:58 ID:dBVAsxFk00

ヤクザB「ぐっ…!」

撃った瞬間、片割れがヤクザBの腕を尻尾で叩き、拳銃を弾き飛ばした。

片割れ「ほんならさっさと帰って寝とけやジジイ!」

迫力「そういうわけにはいかんだろう。こんなとこで戦いおっぱじめようって輩を見て見ぬ振りしろってのか?この俺に」

片割れ「力がないなら出しゃばっても意味ないねん!サツでも呼べばよかったやろうが!」

迫力「見縊んな。てめえらがサツ程度で止められるタマじゃねえことぐらい一目で分かる」

ヤクザB「解せねえな…それはてめえが出てきたとて同じことだろ。それともてめえなら止められるとでも思ったのか?」

迫力「だから見縊んなと言ってんだろうが。時間さえ稼げりゃ良かったのさ」

ヤクザB「何…?」


ザッ!


片割れ「!!」

気付けば三人の周囲に、数十人の屈強な男たちが集っていた。

中にはファイターの種族も数人混じっている。

ヤクザB「な…!」

片割れ「仲間を呼んどったんか…!」

迫力「おう。こんな夜中に呼び出して悪いなお前たち」

???「滅相もございません」

と、黒スーツのルイージ族が頭を下げる。

???「大親分の呼び出しとあらば俺たちはいつでも駆けつけますよ」

迫力「大親分はよせと言ってるだろう。もう俺は引退した身だ」

???「はっ!すみません、ついクセで……それで、迫力さんの言っていた厄介そうな奴というのは…」

迫力「ああ、アイツらだ」

ヤクザB「よう…久しぶりだな人間」

人間と呼ばれたルイージ族は、ヤクザBの顔を見るやいなや一瞬で人相が悪くなる。

人間「チッ…てめえか。迫力さんに迷惑掛けてんじゃねえぞクズが」

ヤクザB「あ?てめえ程の漢がそんなジジイ相手にヘコヘコしやがって。介護も楽じゃねえな。俺が楽にしてやろうか?」

人間「何…?」

一段と人間は睨む。

周りのヤクザたちも同様に殺気立つ。

160ハイドンピー (ワッチョイ 3f68-f48d):2021/08/28(土) 22:01:36 ID:dBVAsxFk00
ヤクザB「…なんてな。須磨武羅組相手に一人で挑む程俺は馬鹿じゃねえ。ここは退かせてもらう」

人間「てめえ…迫力さんを侮辱しといて逃げられると思ってんのか?」

須磨組員たち「そうだそうだー!」「舐めてんじゃねえぞコラ!」

迫力「よせてめえら。この場を収めりゃそれでいい。だがな、見逃してやるのは今回限りだ。この町でまた暴れようとしやがったら容赦はしねえ。分かったな坊主」

ヤクザB「…肝に銘じとくよ」

ヤクザBは去っていった。

すると。

フラ…フラ…

ドサッ…

迫力「!」

片割れは倒れた。

迫力「こっちの方はとうに立ってられる体じゃなかったか。大した根性だよ全く」

人間「迫力さん、コイツはどうしますか?」

迫力「ソイツぁ悪い奴じゃねえ。手当てしてやれ」

人間「分かりました」

161はいどうも名無しです (ワッチョイ 6b9f-4fa8):2021/08/29(日) 00:01:27 ID:KvaKGq9s00
意外なキャラが意外な登場をするのでいつもワクワクしながら読んでます
続きも楽しみです!

162はいどうも名無しです (ワッチョイ d410-19bd):2021/08/29(日) 00:05:11 ID:LvPjniUw00
この人間は使えそう

163ハイドンピー (ワッチョイ df86-2a3e):2021/09/03(金) 21:20:26 ID:Zq6JSe8g00




片割れ「はっ!」

片割れは目を覚ます。

片割れ(知らん天井や…ここは一体…)

迫力「お、目が覚めたか」

片割れ「お前は…っ!」

立ち上がろうとしたところで片割れは全身に激痛が走った。

人間「無理するな。四箇所の骨折に全身打撲、血もかなり失ってる。処置は済んだがまだ絶対安静だ」

片割れ「くっ…」

迫力「流石だな人間。相変わらず優秀な奴だぜ」

人間「恐れ入ります、大親分」

迫力「コイツに感謝するんだな。あのまま放っときゃお前は死んでただろう」

片割れ「ぐ…ふ…ふざけんな…ヤクザに救われたって嬉しないわ…!」

迫力「死んだ方がマシってか?くだらねえ。てめえみてえな若造が命投げ出すなんざ百年早え。一つしかねえ命だ、大事にしろ馬鹿タレ」

片割れ「ヤクザが命語んなや…吐き気がするわ」

人間「お前、最近巷を騒がせてる極道狩りだろ?」

片割れ「…それがなんや…」

164ハイドンピー (ワッチョイ df86-2a3e):2021/09/03(金) 21:21:33 ID:Zq6JSe8g00

人間「カタギからしてみりゃ俺らは害でしかねえだろうしな。気持ちは分かるぜ」

片割れ「何やと…?」

人間「俺も昔は極道なんざクズしかいねえと思ってた。そして今のてめえみてえに痛い目を見た。そんな時、迫力さんに救われたんだ。俺だけじゃねえ。須磨武羅組の奴の多くは、迫力さんに救われてここにいる」

片割れ「ケッ…それで自分もヤクザになっとったら世話ないわ」

人間「ウチを他の組と一緒にすんじゃねえよ。須磨武羅組ではカタギに手ぇ出さないのは勿論、ヤクの取引や闇金も禁止してる」

片割れ「…それでどうやって組織保てるんや…?」

人間「それは…」

迫力「賄賂さ」

片割れ「あぁ…?まさかサツと繋がっとるんか、お前ら…」

迫力「サツだけじゃねえ。町の大企業やら宗教団体やら、色々とな」

片割れ「腐っとるな…」

迫力「この世にゃ法律だけじゃどうしようもねえ奴らもいる。サツだけじゃ手に負えねえ奴らもいる。そういうのを俺たちはこの町から追っ払ってんだ」

片割れ「……」

片割れは目を逸らす。

迫力「はっ、思い当たる節があるようだな。そうだ。俺らのやってることはてめえと大して変わらねえ。だから他の組から目の敵にされる訳だが」

人間「別に良いことしてるとか正義だとか言えるほど思い上がっちゃいねえ。だが少なくともカタギから汚い手使って搾り取ってる連中とは一緒にされたくねえな」

片割れ「…そうかい…」

迫力「要は俺たちゃ同志って訳だ。てめえもウチに入らねえか?」

片割れ「…は?」

???「おいジジイ、また事務所に入り浸ってんのか」

ガチャリ

部屋に入ってきたのは、強面のスーツの男。

165ハイドンピー (ワッチョイ df86-2a3e):2021/09/03(金) 21:22:58 ID:Zq6JSe8g00

迫力「お〜、戻ったか」

人間「お疲れ様です親分!」

親分「親分はやめろ人間。お前と俺の仲だろうが」

人間「ははっ、んなこと言ったって親分は親分だからなぁ」

親分「…まあいい。そいつが極道狩りか」

人間「ああ」

片割れ「お前が須磨武羅組のトップか…」

親分「そうだ。お前の噂は聞いている。ウチのモンはまだやられてないが、随分とやんちゃしてるらしいじゃねえか」

片割れ「チッ…」

親分「もうジジイから聞いただろうが、俺もお前に興味がある」

片割れ「何やと…?」

親分「ウチに入れ、片割れ」

片割れ「な…なんでワシの名前知っとんのや…名乗っとらんはずやぞ」

親分「少し調べりゃ分かることだ。お前の友人…ナイフとか言ったか?そいつが重病を患って入院していることも知っている」

片割れ「な…!!」

親分「俺には腕の良い医師の知人がいてな…ウチのモンが抗争なんかで死にかけた時に何度も世話になってるんだが、そいつに手術を頼んだ。手術代は既に払ってある」

片割れ「は!?な、何を勝手に…!!」

親分「勝手な訳ねえだろう。当然本人の同意の上だ」

片割れ「あんの馬鹿…!ワシに何の相談もせずに決めよって…!」

166ハイドンピー (ワッチョイ df86-2a3e):2021/09/03(金) 21:24:41 ID:Zq6JSe8g00

親分「保護者かよ。あいつももう良い大人だろう。自分のことくらい自分で決めさせてやれ。何、心配はいらねえ。俺を信用しろ」

片割れ「できる訳ないやろ!何やねんその自信…信用要素ゼロやろ…怪しすぎるわ」

親分「お前、気付いてねえだろう」

片割れ「…あ?何がや…」

親分「昼間、あいつんとこに刺客が来てたんだよ。お前にやられた報復のつもりだろうな」

片割れ「何やと!?まさかあん時追っ払った奴が…」

親分「極道の世界を舐めねえ方がいい。多少脅したくらいで引き下がるような奴はいない。まあウチのモンに守らせたから、被害はないがな。むしろあちらさんの方がダメージを負ってるだろう」

片割れ「……貸し作ったつもりか…そんなもん、証拠もないやろ。お前が勝手に言っとるだけかもしれん」

親分「流石に強情だな。やはり両親を殺された恨みはそう簡単に覆るもんじゃねえか」

片割れ「!!…お前…そこまで調べたんか…」

親分「当たり前だろう。これから仲間になる奴の事だ」

片割れ「ならんわ!…フン、この際はっきり言ったる。たしかにワシは十年前、お前らヤクザに両親を殺された。それをきっかけに戦い方学んで、死ぬほど鍛えてきたんや。ヤクザをブッ潰すためにな。お前らが何しようが、あん時のヤクザとは関係なかろうが…ヤクザはヤクザや!ワシはお前らを許すことなんかできん!」

親分「だが、復讐に取り憑かれているって訳じゃねえだろう?お前にやられた連中は皆大した怪我も負っていない。ファイターの力がありゃあ一般人なんざ簡単に殺せるにもかかわらずだ」

片割れ「当たり前や。お前らと一緒にされんのはごめんやからな。ワシはただワシの同類を作らんように、この町を平和な町にしたいだけや」

親分「俺たちとて殺しは滅多にやらねえよ。余程手強い相手に、殺らなきゃ殺られるっつう時くらいのもんだ」

片割れ「そんなモン言い訳にもなっとらんわボケ」

親分「大体お前がどう思おうがやってる事は俺たちと変わりねえ。俺たちにゃサツと組んでる暗黙の特権てのがあるが、お前にはそれもねえ。このまま続けてりゃお前は捕まってそこで終わりだ」

片割れ「別に構わん。ワシは初めから覚悟の上や」

親分「捕まったらもう極道狩りはできねえぞ。お前の目指す平和な町は実現できねえ。いいのか?それで」

片割れ「お前らがワシと同じことしとるんなら、お前らが成し遂げてくれるやろ」

親分「俺たちは信用ならねえんじゃなかったのか?内部に入り込めりゃあ近くで監視するには持ってこいだろう」

片割れ「チッ…ああ言えばこう言う…無駄や。ワシには話術も脅しも効かん。帰らしてもらうわ」

バッ…

片割れはベッドから立ち上がり、窓を開けた。

167ハイドンピー (ワッチョイ df86-2a3e):2021/09/03(金) 21:25:45 ID:Zq6JSe8g00

人間「おい!まだ歩けるような体じゃねえぞ!」

片割れ「知るかボケが」

親分「…仕方ねえ。無理にとは言わねえよ。だがこれだけは覚えておけ」

片割れ「あ?」

親分「俺たちはお前の味方だ」

片割れ「勝手に言っとけ。ワシはお前らの敵や」

タンッ!

片割れは窓から去っていった。

人間「止めなくて良かったのか?」

親分「人間、あいつを守れ。他の組の連中は今の弱ってるあいつを確実に狙ってくる」

人間「敵を誘き出すエサに使うってことか」

親分「ああ。あいつがウチに入らねえなら、利用するまでだ」

人間「ったく、人使いの荒い親分だ」

親分「信頼してんだよ」

人間「へいへい。行ってきますよ」


ガチャリ

人間も片割れを追って事務所から出た。

人間「…うん?おい、お前そこで何してんだ?」

事務所の裏でコソコソと動いている男を見つけ、詰め寄る。

ヤクザC「はっ!?」

人間「てめえそのカオ見覚えあんな…何の用だ?その荷物は何だ」

ヤクザC「な、なんでもねえよ!」

ダッ!

ヤクザCは逃げ出すが。

ザッ!!

ヤクザC「ひっ!」

人間は一瞬でその前に回り込む。

人間「中身見せろ。見せねえならブッ飛ばす」

ヤクザC「…くっ…俺はこんなとこでやられる訳にゃいかねえんだああっ!!」

ガチャッ!

ヤクザCはトランクを開け、中のボム兵を取り出そうとする。


ドゴォッ!!


ヤクザC「ぶへぁ」

ドサッ…

その寸前で人間がブン殴り、ヤクザCは気絶した。

人間「ったく…なんだよこりゃ…爆弾…?なんか見覚えあるようなないような……まあいい、とにかく危険物に違いねえな。後で調べてみるか」

168ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/09(木) 07:02:29 ID:AslOVJ1Y00




片割れ「イタタタタッ!クソッ…あんのゴリラ…今度見つけたら絶対ブッ飛ばしたる…」

足を引きずりながら片割れは自宅を目指していた。

そこへ。

ざざざっ!!

チンピラI「よお極道狩り!この間はよくもやってくれたな!」

片割れの周りを囲むように大量のチンピラが現れた。

片割れ「ケッ、来ると思ったわバカが…お前ら程度、今のワシでも余裕やっちゅうねん」

チンピラII「ぎゃははは!バカはてめえだぜ!よく見やがれ!」

片割れ「あぁ…?」

チンピラI「てめえの電撃対策にゴム手袋とゴム長靴を装備してきたんだぜ!電撃さえなけりゃてめえなんかただのネズミだ!」

チンピラII「いくぞお前ら!やっちまえ!」

チンピラたち「うおおおお!!」

片割れ「…ほんまにアホやな…」


ドドドドドガーン!!!

169ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/09(木) 07:03:50 ID:AslOVJ1Y00



数分後。

チンピラI「く、くそっ…コイツなんでこんなに動けるんだ…!?」

片割れ「ファイターやからな」

立っているチンピラはもう三人だけになっていた。

チンピラII「で、電撃無しでも強え…」

チンピラIII「いや、つうか普通に電撃食らってんぞ!?何でだ!?」

片割れ「そらそうやろ…ゴム以外んとこに当てりゃいいだけやんけ…」

チンピラIII「そ、その手があったか…!!」

片割れ「はあ…付き合いきれんわ…」

???「なーにぐだぐだやってんの?こんだけ人数いて負けるって、やばくね?」

片割れ「あ?」

チンピラII「そ、その声は…!」

チンピラIII「鼻ちんさん!」

鼻ちん「チッス」

そこに現れたのは緑ヨッシーだった。

片割れ「なんやこのトカゲ…」

鼻ちん「俺は鼻ちん!しくよろ!」

片割れ「またふざけた奴が来よったな…」

鼻ちん「ふざけてるかどうかは、戦ってから決めるもんだぜべいべー!」


ドゴッ!!


片割れ「!?」

鼻ちんのキックは片割れに届く前に弾かれた。

鼻ちん「…なんだチミは」

人間「須磨武羅組の人間だ」

鼻ちん「エ?まじ?」

チンピラI「鼻ちんさん!誰だか知らねえけどやっちまってください!」

鼻ちん「いや、やばいやばい。須磨武羅組はやばい」

チンピラII「何ビビってんすか!」

鼻ちん「むり、人間こわい」

チンピラIII「だめだ!もう心がぱきっと折れてる!」

170ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/09(木) 07:04:52 ID:AslOVJ1Y00

人間「心弱すぎるだろ。名乗っただけだぞ」

鼻ちん「なんだとぉ!?誰の心が弱いだとぉ!?」

人間「てめえ以外誰がいんだよ」

鼻ちん「はい。弱いです。すみませんでした」

チンピラI「ええ!?」

チンピラII「どうしちまったんすか!」

人間「…戦う気がねえんならさっさと帰れ」

鼻ちん「よし、帰るぞ!」

チンピラIII「ちょ!いいんすか!?」

鼻ちん「いい」

鼻ちんとチンピラたちは去っていった。

人間「大丈夫か?片割れ」

片割れ「チッ…余計なことしよって…逃げられたやないか…」

人間「もう十分痛めつけたろ。戦意喪失した奴まで追いかける必要はねえ」

片割れ「あのトカゲはまだ無傷やろ…」

人間「トカゲ…ああ、たしか鼻ちんとかいう、そこそこ有名なチンピラだな。万全ならともかく、今のてめえじゃ勝ち目は薄いだろうぜ」

片割れ「…チッ…つうか何やねん、尾けてきとったんか」

人間「まあな。てめえは親分たちのお気に入りらしい。何が何でもウチに引き込みたいようだぜ」

片割れ「無理や言うとるやろ。これ以上ワシに付き纏うんなら、お前らにも容赦はせんで」

人間「悪事をやらねえ俺たちに攻撃するのか?そりゃあお前の芯がブレるんじゃねえか?」

片割れ「勘違いすな。ワシはただ気に入らんモンを倒すだけや。そもそもお前ら賄賂やっとるやろうが」

人間「じゃあサツや企業さんにも喧嘩売るのかよ?」

片割れ「ケッ、また始まった、得意の屁理屈タイム。ヤクザとのお喋りはもううんざりや」

片割れは人間の横を素通りして帰っていく。

人間「ったく…一筋縄じゃいかねえな…そりゃそうか、親殺されてんだもんなぁ…こりゃ根っこが深すぎるぜ、親分…」

171ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/13(月) 20:26:09 ID:6PSuHRYo00




翌日、病院。

片割れ「おいボケ」

ナイフ「お、片割れか。って誰がボケだよボケ!」

片割れ「お前や。昨日ここに誰か来たか?」

ナイフ「ん?いや来てねえけど。それより聞いてくれよ!手術が決まったんだよ!」

片割れ「はあ?」

ナイフ「無料で受けさせてくれるらしいんだよ!なんか難病の人を助けたいって活動してる団体が寄付してくれたんだと!ありがてえよなマジで!」

片割れ(アイツら、直接来たわけやないんか。ヤクザやってバレたら断られるかもしれんから裏で根回ししたっちゅうとこやろな…)

ナイフ「何だよ神妙なカオして。なんかあったのか?…よく見たらめちゃくちゃケガしてるし」

片割れ「気付くの遅いな!だいぶボロボロやぞ?」

ナイフ「またヤクザ狩りか?」

片割れ「…まあな」

ナイフ「こっぴどくやられてんじゃねえか。だからやめとけっつってんのによぉ…」

片割れ「やめんわ。ちょっと油断しただけや。こんくらいすぐ治る」

ナイフ「んなわけあるか!」

片割れ「それより、手術はいつや?」

ナイフ「ああ、来週だよ。なんでもめちゃくちゃ腕の良い天才ドクターらしい。治ったらなんか旨いモン食わしてくれよな!」

片割れ「ケッ、しゃーないな」

ナイフ「言ったな!?約束だぞ!?」

片割れ「おう」

ナイフ「マジか?破んなよ!?」

片割れ「分かっとるっちゅうねんしつこいな!ワシどんだけ器小さいと思われとんねん!退院祝いくらい普通にするわ!」

ナイフ「ワハハハハ!良いダチを持ったわ!愛してるぜ!」

片割れ「キショいわボケ!」

看護師「ちょっとお二人、院内ではお静かにお願いしますね」

ナイフ「あっはい…」

片割れ「サーセン」

それからしばらく談笑し、片割れは病院を後にした。

172ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/13(月) 20:27:01 ID:6PSuHRYo00



片割れ「クソ…あんなカオされたらやめとけなんか言えへんわ…調べた限りそのドクターっちゅうんもガチモンの有能らしいし…断る理由があらへん…ほんま卑怯な奴らや…」

人間「さすがに心外だそれは」

病院の外に人間が立っていた。

片割れ「またお前かストーカーめ」

人間「仕方ねえだろ、親分の命令だ。てめえとアイツを守れってな」

片割れ「チッ…お前らに守ってもらわなあかんほど弱くないわ」

人間「でもアイツは違うだろ?てめえも常に付きっきりって訳にもいかんだろ」

片割れ「…」

人間「まあ安心しろ。常にファイター含む三人以上を護衛につけてるから、安全は保証するぜ。他の組じゃファイターなんていても一人二人程度。十人以上もファイターがいんのは須磨武羅組だけだ」

片割れ「そうかい」

人間「感謝しろとは言わねえ。こっちもアイツの手術に関しちゃあお前を引き入れたいっつう打算ありきだ。だが、ちょっとは考え直してほしいもんだな」

片割れ「考え直す?何をや。ヤクザ狩りならやめへんし仲間になる気もないぞ」

人間「極道の中にも色んな奴がいるってことをだよ。平気でカタギから金騙し取ったりクスリ売ってるクズどももいれば、それを許さねえ奴だっている」

片割れ「……フン、分かっとるわ。もうお前らにゃ手ぇ出さん。町とグルになって賄賂とか貰っとんのは許せんが…見んかったことにしたるわ」

人間「…はは…ありがとう」

片割れ「は?何やねん気色悪い」

人間「いや、意外だったもんでな。また突っぱねられて終わりかと」

片割れ「馬鹿にすな。ワシかてそのくらいの筋は通すわ」

人間「そうか」

片割れ「もうええか?行くで」

人間「ああ。それから一つ忠告だ」

片割れ「何や」

人間「昨日のアイツにゃあ気を付けろ。ウチと対立してる組の参謀みてえな立ち位置にいる奴だ。俺が昔戦った時は五分だったが、更に腕を上げてやがるみてえだった」

片割れ「ああ…戦ったワシが一番分かっとる。間違いなく相当な手練れや。でも次は負けん」

人間「油断するなよ。勿論てめえがピンチになったら俺らが加勢するつもりではあるがな」

片割れ「いらんわボケ」

173ハイドンピー (ワッチョイ 6475-6102):2021/09/13(月) 20:30:01 ID:6PSuHRYo00



数十分後、バイト先。

店員「どうしたんですかその怪我!?」

片割れ「いやあ、ちょっと階段で転んでもうてな…」

店員「大丈夫なんですか!?」

片割れ「まあな。仕事に支障はないで」

店員「ま、まあ片割れさんがいいんだったらいいんですけど…休んだ方がよくないですか…?」

片割れ「ハハハ、気にすなや。こんくらい全然問題ないわ」



さらに数分後。

ウィーン…

片割れ「いらっしゃいま…何や、お前か」

チェマ「うお!?お前どうしたんだその怪我!?」

片割れ「うっせえわ。学校行けクソガキ」

チェマ「何なんだよその怪我は」

片割れ「…転んだだけや」

チェマ「嘘つけぇ!んな訳ねえ…」

バチッ!

チェマ「いだっ!?」

片割れ「アホか…こんなとこで話してクビんなったらどうすんねん…ちったあ考えろや」

チェマ「お、おう、すまん…」

片割れ「…まあええわ。今誰も見てへんし、ちょい耳貸せ」

片割れは小声で昨日のことを話した。

チェマ「…なるほどな」

片割れ「お前、誰でも彼でも喧嘩売っとるみたいやが、ヤクザに手ぇ出すんはやめとけよ。ワシですら返り討ちに遭うようなファイターがおるんや。他の奴とは訳が違う。負けたら命取られるかもしれんのや」

チェマ「お前が言うか。だが俺は地上最強を目指してんだ。誰だろうと倒す!」

片割れ「死んだらそこで終わりやぞ。歳上の言うことは聞いとけ」

チェマ「知るかよ、親でもあるめえし。自分がボコボコにされてビビっちまったか?」

片割れ「はあ?ワシはお前みたいなガキが死ぬのを黙って見とるほど間抜けやないねん。大体な、ワシに負けたんやからまずお前が目指すべきはワシやろ。ワシに勝てんまま関係ないとこで死んでもええんか?」

チェマ「……チッ…確かにな…わーったよ…だがてめえを倒すまでだぜ。その後は俺の勝手だ」

片割れ「ああ、それでええわ」

店員「あ、あのー…」

片割れ「ん?」

店員「レジの応援いいですか…」

片割れ「おお!すまんすまん!チェマ、お前はさっさと学校行けや」

チェマ「だからてめえにゃ関係ねえだろ。…つうか今日日曜日だぞ」

片割れ「…ほんまや!」

174ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:40:06 ID:PyKTCmEo00




そして翌週。

片割れ「……はぁ……」

手術室の前のソファーに片割れは座っていた。

パチッ…

"手術中"のランプが消える。

片割れ「!!」

ウィーン…

そしてドクターが手術室の中から現れた。

片割れ「先生!!手術は上手くいったんか!?」

医者「まあそうですね」

片割れ「…ふぅ…そうか…ありがとう…」

医者「お気になさらず。それじゃあ私はこれで」

スタスタスタスタスタ…

ドクターは早足で去っていく。

片割れ「ほんまにありがとうございます!!」

去っていくドクターが見えなくなるまで、片割れは深く頭を下げ続けた。

175ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:41:02 ID:PyKTCmEo00



それからしばらくして。

ぱちくり

ナイフ「……」

片割れ「ナイフ!目ぇ覚めたか!」

ナイフ「…ああ…え…?もう終わったのか?」

片割れ「おう、大成功や!」

ナイフ「マジか。一瞬だったな」

片割れ「まあ寝とっただけやしな。体調はどうや?」

ナイフ「うーん…なんつうか、めちゃくちゃ体が軽い感じだな。今すぐにでも走り回れそうな気がするわ。手術が完璧すぎたのかな」

片割れ「マジか」

ナイフ「手術してくれた先生は?」

片割れ「もう行ってもうた。お礼はワシから言っておいたわ」

ナイフ「そうか…俺からも直接礼がしたかったんだけど…」

片割れ「しゃあない。めちゃくちゃ忙しそうやったしな。この前調べたんやが、いろんな国渡り歩いて今まで何万人っちゅう重病患者を救っとる、医療界の神様みたいな人らしいわ」

ナイフ「そ、そんな凄い人だったのかよ…」

片割れ「ああ、運が良かったな。そんな人の手術タダで受けれるなんて」

ナイフ「そうだな…寄付してくれた団体の人にも感謝しないと」

片割れ「ん?ああ…せやな…」

ナイフ「何だよその反応」

片割れ「いや、なんでもないで」

片割れは目を逸らす。

ナイフ「いや絶対なんかあるだろ!」

片割れ「なんでもない言うとるやろ!」

ナイフ「隠し事下手すぎるだろ!」

片割れ「うっさいわボケ!」

ナイフ「…で?何隠してんだ?」

片割れ「言われへん」

ナイフ「なんでだよ…」

片割れ「なんでもや」

人間「言ってやれよ」

ナイフ「そうだそうだ…ってどちらさま?」

人間が病室ににょっこりと顔を覗かせた。

176ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:42:07 ID:PyKTCmEo00

片割れ「お、お前…っ!何しに来てん!」

ガッ!

片割れは人間の胸ぐらを掴み、病室の外に連れ出した。

人間「おいおい何だこの手は。ウチには手ぇ出さねえんじゃなかったのか?」

片割れ「知るか。何しに来たんや」

人間「何って、いつも通りの護衛だよ。そんでちょっと術後の様子が気になったから覗きに来てみれば、何やら修羅場っぽい感じになってるじゃねえか」

片割れ「ああ?修羅場でもなんでもないわ」

人間「そこまで隠すほどのことか?」

片割れ「当たり前や。自分の体治ったのがヤクザのお陰なんて知って、素直に喜べると思うか?」

人間「さあな。だがアイツ自身が知りたがってんだ。何も知らずにモヤモヤしながら生きていくってのも可哀想だと思わねえか?」

片割れ「思わんな。そんなもんすぐ忘れるやろ。アイツアホやし」

人間「ひでえな。でもだったら尚のこと教えても問題ねえだろ?」

片割れ「チッ…何やねん。手術が終わってもうたら後戻りはできんからバラしてもええってことか。手術前に知ったら断るやろうしなぁ。既成事実作りゃ後は都合良く利用できるって魂胆やな?結局お前らも他のヤクザと同じか」

人間「待て待て、んなわけねえだろ!」

片割れ「何が違うんや。なんで教える必要ないもんを教えたがる」

人間「言ったろ、アイツ自身が知りたがってんだ。子供じゃねえんだ」

片割れ「子供とか大人とか関係あらへんやろ」

人間「あるさ。うちには息子がいてな。まだチビなんだが」

片割れ「ヤクザがガキなんぞこしらえよって…ガキもこんな親の元に生まれて可哀想に」

人間「そりゃおめえ…否定はできねえがよ…ガキってのはな、何でもかんでも首突っ込んで、知りたがんのさ。それも隠せば隠すほどそのパワーが増しやがる。知的好奇心の塊みてえな奴らさ。まあ勉強は別みてえだが。誰にでも子供時代はあるしてめえにも心当たりくらいあんだろ?」

片割れ「それが何やねん。アイツは大人やって話やろ?矛盾しとんぞ」

人間「まあ聞け。その知的好奇心ってのはよ、だんだん薄れていくもんさ。他にやるべきことが増えたり余裕がなくなったりしてな。大人の間じゃ隠し事なんざ誰もが持ってて当たり前で、それに突っ込まないのも当たり前。そういうもんだろ?それでも知りたがるってのは相当さ。それを知って傷付いてもいいっつう覚悟ができてんだよアイツは」

片割れ「んな深いこと考えとらんやろ」

人間「考えてなくてもだ」

177ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:43:28 ID:PyKTCmEo00

片割れ「…チッ……分かった」

人間「え?」

片割れ「分かった言うとんねん馬鹿タレが」

人間「マジか」

片割れ「…ワシもな…感謝しとんねん。アイツにゃもう助かる道はないと思っとったからな」

人間「なんだ、急に素直だな」

片割れ「…お前らは他のヤクザとは違う…ワシのヤクザ狩りよりよっぽど社会に貢献しとるのも分かった。大体お前らの資金源が賄賂っちゅうなら、アイツの手術代もヤクザやのうてこの町が出しとるようなもんや」

人間「はは、確かにな」

片割れ「そういうの全部教えてやりゃあ、アイツだって納得するやろ。アホやし」

人間「そうだな」



それから二人はナイフに全てを打ち明けた。

ナイフ「…マジかよ」

片割れ「マジや」

ナイフ「ま、片割れが認めるくらいだから大丈夫だろ。人間だっけ?ありがとな」

人間「礼なら親分に言うこったな」

ナイフ「そうだな。退院したら礼に行くよ。呼びつけるわけにもいかないしな」

人間「ああ」

片割れ「…ケッ、ヤクザなんぞに気ぃ使うことあらへん。所詮ワシを引き入れるためにやった事や」

ナイフ「目的が何であれ俺の病気が治った事に変わりないだろ」

片割れ「お人好しすぎんねんボケ」

ナイフ「ハハハハハ!大怪我負っててもヤクザ軍団を返り討ちにできるお前にゃ分かんないだろうよ、寝たきりになる辛さは!」

片割れ「うっさいわ!さっさとリハビリして出てこいや!」

ナイフ「おうよ!メシ奢るって約束忘れてねえだろうな!?」

片割れ「…なんやそれ?」

ナイフ「オイ!」

片割れ「たははは、冗談や」

178ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:44:28 ID:PyKTCmEo00

人間「はは、ホント仲良いなてめえら。積もる話もあるだろうし俺はここらで帰るとするぜ。そろそろ護衛交代の時間だ」

片割れ「ああ、お疲れさん」

ナイフ「いつもありがとな」

人間「へっ、よせよ、気持ちわりいな」

人間は病室を出る。

プルルルルルル…

ピッ

人間「親分か、どうした?」

親分『…人間…すまねえ…』

人間「…え?」

親分『…襲撃を受けた……お…俺はもう死ぬ…」

人間「なっ…」

親分『…ウチの…息子を…頼む…たとえ俺が死んでも…須磨武羅組は…不滅だ………』

人間「ちょ、ちょっと親分!?おい!返事しろ!馬鹿野郎!」

電話は繋がったまま、返事は返ってこない。

人間「畜生っ!!」

ドガンッ!!

人間はどうしていいか分からず、思わず壁を殴った。

片割れ「何しとんねんお前!病院やぞ!」

人間「…す、すまん…」

片割れ「なんや、そのカオ…なんかあったんか…?」

人間「分からねえ…親分がやられたみてえだ…」

片割れ「やられた…?ヤクザにか?」

人間「分からねえっつってんだろ!なんでこんな…いきなり…!クソッ!!」

片割れ「落ち着け!こんなとこで暴れて何になんねん!」

人間「…すまん…」

片割れ「とにかく一旦事務所戻って確認してこい」

人間「ああ…」

人間は去っていった。

片割れ「大丈夫か?アイツ…」

179ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/20(月) 22:45:17 ID:PyKTCmEo00

ナイフ「どうしたんだ?」

片割れ「よう分からんがなんか親分がやられたとかで、人間の奴、めちゃくちゃ焦っとったわ」

ナイフ「親分…?」

片割れ「須磨武羅組の親玉や。風格は一端やったが、ただの人間やったからな…ファイターに襲われたらひとたまりもないやろ」

ナイフ「なっ…!くそ、こうしちゃいられねえ!」

バターン!!

立ち上がろうとしたナイフは一歩目で倒れた。

片割れ「ボケ!何やっとんねん!?」

ナイフ「俺の恩人がやられたって事じゃねーか…!礼言いに行くってさっき約束したばっかなのに…!」

片割れ「んなモン今お前が行ったって何もできんやろ!」

ナイフ「じゃあお前が代わりに行ってくれ!」

片割れ「はあ!?何でやねん!」

ナイフ「頼む!退院祝いなんかしなくていいからよ!俺を助けると思って!」

片割れ「…ったく、しゃあないのぉ」

片割れは人間を追った。

180ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:05:57 ID:1Yq5JkL200




数分後、須磨武羅組事務所。

人間「はあ…はあ…親分!!」

須磨組員1「おわっ!?何すか人間さん、いきなり」

人間「親分は!?」

須磨組員1「いないっすよ。一時間前くらいっすかね、ほら、今日はサツのお偉方と会食っつってたじゃないすか」

人間「そうか…!クソッ!」

須磨組員1「どうしたんすか…?」

人間「説明してる暇はねえ!会食の場所は!?」

須磨組員1「に、人間さんが知らないのに俺が知ってるわけないじゃないすか…超極秘のやつでしょこれ」

人間「…!!そりゃそうか…すまん…フゥー…」

人間は冷静さを取り戻すため一息つき。

人間「…親分からさっき連絡があった。襲撃を受けたらしい」

須磨組員1「襲撃!?」

人間「ああ。もう死ぬとか言ってやがった。相当ピンチなのは間違いねえ…最悪もう…」

須磨組員1「そ、そんな…!」

人間「クソ…心当たりのある場所を片っ端から捜すしかねえか…」

ファンファンファンファン…

人間「サイレン!?もうサツが動いてんのか!?追うぞ!」

須磨組員1「あ!待ってください!」

人間「何言ってる!親分の場所が…」

須磨組員1「違います!テレビ見てください!」

人間「あぁ!?」

事務所の奥で流れていたテレビに目を向ける。

181ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:07:15 ID:1Yq5JkL200

アナ『こちらが立てこもり現場の様子です。犯人は拳銃を所持しており…』

人間「なんだこりゃ…近所じゃねえか」

須磨組員1「人間さんこの頃ずっと忙しくしてたんで知らないかもしれないっすけど、立て続けにチャカ使った事件が起きてるんすよ…」

人間「何!?…そうか、この間のBが売り捌いてやがったチャカか…!まさか初めから俺らの目を撹乱する目的で…?だとしたら親分を襲った犯人は……とにかく場所を特定する…!動ける奴を総動員して捜せ!」

須磨組員1「了解っす!」

組員はすぐに他の組員に連絡を取り、捜索に当たらせる。

人間「だがそれだけじゃ時間が掛かり過ぎる…何か方法は…」

と考えていると、組員が電話しているのが目に止まる。

人間「…そうだ…!電話…!親分が電話してきた時の発信源を調べれば…!」

人間はすぐにパソコンをつけ、携帯をコードで接続する。

カタカタカタカタカタカタカタカタ…

そして物凄いスピードでキーボードを叩き、データを解析していく。

須磨組員1「す、すごいっすね…そんなんで何か分かるもんなんすか?」

人間「分からん。だがやってみる価値はある」

須磨組員1「そういうのどこで習ったんすか…?」

人間「習ってねえよ。今調べながらやってる。ぶっつけ本番だ」

須磨組員1「ええ!?そんな事出来るんすか!?」

人間「俺は"使える人間"の異名を持つ男だぜ?それくらい出来ねえ訳ねえだろうが。つうか俺に構ってねえでお前も手ぇ動かせ」

須磨組員1「は、はいっ!」

182ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:08:40 ID:1Yq5JkL200



それから数分後。

カタカタカタカタカタカタ…

ッターーン!!

人間「出たぞ!発信源は東の料亭だ!俺はこのまま向かう!お前は他の奴らに伝えろ!」

須磨組員1「了解!」

ダッ!!

人間は事務所から飛び出し、東へ向かう。

ダダダダダダ…!!

片割れ「どこ行くんや?」

片割れが後ろから現れ、人間に並走する。

人間「片割れ…てめえ何で…」

片割れ「ワシはお前らがどうなろうと知ったこっちゃないけど、ナイフに頼まれて仕方なくな」

人間「…そうか。悪いな。だが緊急事態だろうとカタギの力借りる訳にゃあいかねえよ」

片割れ「言っとけ。ワシは勝手にやらせてもらうで」

人間「チッ…言って訊くような奴じゃあねえか」

183ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:10:11 ID:1Yq5JkL200



さらに数分後、二人は料亭の前に到着。

片割れ「ここでお前らのボスが殺されたんか」

人間「まだ死んだかどうか…」

???「クク…死んだよ、奴は」

人間「なっ!!」

二人の背後に何者かが現れた。

片割れ「誰や!」

人間「…っ、て、てめえはっ…!」

組長「クク…久しぶりだな、"使える人間"。てめえらの負けだ」

片割れ「知り合いか?」

人間「この前話したろ…ウチと対立してる組…その組長だ」

片割れ「ケッ、そういう事かい。くだらん抗争に巻き込みよってからに」

人間「勝手についてきたんだろうが」

組長「この俺を前にベラベラと…余裕のつもりか?言ってんだぜ、てめえらのトップはもういねえとな」

人間「片割れのお陰で冷静になれた。元々極道に足を踏み入れた時点で覚悟はしてたはずだったんだ。今までも仲間の死は何度か見てきた。それが今回は親分だった…それだけの事だ」

組長「分かってねえようだな。トップが死んだ今、てめえらはもう負けてんだよ」

人間「トップならいるさ。俺が親分に託されたんだからな」

組長「何だと…?ああ、アイツのガキの事か。フン、くだらねえ。そんなモンにてめえら須磨武羅組の長が務まるとでも思ってんのか?冷静に考えろよ人間…俺の下に付け」

人間「てめえの下に?何の冗談だ」

組長「冗談に聞こえるのか?」

人間「冗談にしか聞こえねえな」

組長「……クク…ならば死ね!!やれ、てめえら!!」

組長が手を挙げると同時に、周りから十数人のヤクザたちが現れて二人を取り囲んだ。

片割れ「はぁ…まーたこれかい…馬鹿の一つ覚えやな。囲もうが何しようがただの人間がワシらファイターに勝てる訳あるかい」

組長「…あん?誰かと思えば、そうか…てめえが極道狩りか…クク…丁度いい!諸共やっちまえ!」

ヤクザたち「オオオオオ!!」

ヤクザたちが一斉に襲いかかる。

片割れ「無駄や言うてんねんボケが…」

184ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:12:16 ID:1Yq5JkL200


ドゴォッ!!


片割れ「ぐあっ…!?」

人間「片割れ!」

片割れは殴られて吹っ飛ばされた。

片割れ「な、なんや…!?」

人間「よく見ろ…!コイツら…全員ファイターだ!」

片割れ「なッ…!!」

鼻ちん「チッス」

片割れ「お前はあん時の…!」

人間「どうなってやがる…何で別の組の奴まで…!」

組長「フハハハハ!!連合を組んだのさ!この町の極道にとって、てめえら須磨武羅組は共通の敵だからな!共闘を持ちかけりゃすぐにファイターを派遣してくれたぜ!」

人間「連合だと…!?」


ボゴッ!!


人間「ぐあっ!!」

ヤクザB「そういう事だ」

人間「くっ…B…!!」


ドガガガガッ!!


人間「グゥッ…!!」

Bは殴りまくり、人間はガードしかできない。

ヤクザB「てめえと直接やり合うのは久しぶりだな!人間!」

人間「く…!」

ヤクザB「どうした!喋る余裕もねえか!?どこでこんなに差がついたんだろうな!?あぁ?!」

人間「…っせぇなっ!」


タンッ!


ズドドドドッ!!


人間は跳び上がり、ドリルのように回転しながら連続キックを繰り出す。

ヤクザB「鬱陶しい!」


バチィン!!


人間「ぐあっ…!!」

Bは巨大な両腕を振り上げて挟み込むようにして攻撃し、人間を弾き飛ばした。

ヤクザB「俺はもう、てめえじゃ届かねえ高みにいるんだよ!」

ドサァッ!

高く舞い上がった人間が背中から落下する。

人間「かはっ…」

ヤクザB「…他愛ねえな。さて、トドメはてめえらに任せるぜ」

ヤクザたち「オオオオオオ!!」「そいつにゃ何度も邪魔されたんだ!!」「この焼け爛れた右腕の恨み、晴らさせてもらうゼェ!!」「死ねぇ!!人間ン!!」

人間「くっ…!」

185ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:14:38 ID:1Yq5JkL200


片割れ「デガワァ!!」


ドシャァン!!!


ヤクザたち「ぐあああぁっ!!?」

ヤクザB「何…!」

片割れ「ったく世話の焼けるヤクザやな!」

人間「か…片割れ…!」

組長「馬鹿な…!これだけのファイター相手になぜ戦えていやがる!?」

片割れ「はぁ…はぁ…ボケが!…はぁ…ファイターにもピンキリあるやろ!コイツら…ファイターやからって適当に集めてきたんやろうが…ワシからしたら一般人と大して変わらんな!」

組長「な、何だと…!?」

鼻ちん「つよ…」

片割れの前には鼻ちんすらも跪いていた。

ヤクザB「落ち着いてくだせえ親分。俺がいる限りこちらに負けはない」

組長「B…てめえ本当に大丈夫なんだろうな?」

ヤクザB「ええ、負ける要素がありませんね。俺は一度奴に勝ってますし…強がっちゃいるがアイツはもう限界が近い…この前のダメージも完治はしてねえ筈です」

片割れ「ケッ、ワシの回復力舐めんな!とっくに治っとるわ!」

ダッ!


ズダァン!!


片割れの尻尾攻撃をBはガードして受け止める。

ヤクザB「…チッ…お前も"こちら側"だったか」

片割れ「あァ?」

ヤクザB「ファイターの種族に生まれた、ただそれだけでファイターを名乗る愚図も多い…俺たちのように真にその力を使いこなせる者だけがファイターを名乗るべきだ…そうは思わねえか?」

片割れ「何やお前いきなり。どうでもええわキッショ」


バチバチッ!!


ヤクザB「ぐっ…!ファイターの名前だけ使った雑魚共に名を傷付けられる…不愉快だと思わねえのか!?」

片割れ「知るかいな!何を気にしてんねん、ちっさい男やな!」

ヤクザB「…そうか…理解できねえなら構わねえさ。ようやくこの悲しみを共有できる相手に出会えたと思ったんだがな」

片割れ「勝手に悲しんどけ!ボケ!」


ズガガガガッ!!


片割れは怒涛の連続電撃でBを仰け反らせる。


ブンッ!!


Bは腕を振り回すが、片割れはそれをかわした。

片割れ「カウンターはもう見切った!ワシに二度も同じ戦法が通用すると思うなや!」

ヤクザB「一回かわしたぐれえで調子に乗るな!」


ズドガガガガッ!!


そして二人は激しい戦いを始める。

186ハイドンピー (ワッチョイ c1f9-c679):2021/09/26(日) 01:17:00 ID:1Yq5JkL200

人間「な…何ちゅうレベルで…やりあってやがる…とても…俺らの入れる次元じゃねえ…」

ヤクザたち「クククッ、何を呑気な事言ってやがる?」「極道狩りをヤツが抑えてる間にてめえにトドメを刺すゼェ!!」「いくぜてめえらぁ!!」

人間「し、しまっ…」


ドガッ!!


ヤクザ「ごばあ!!」

横からヤクザは殴られて吹っ飛んだ。

須磨組員2「すんません人間さん!遅くなりやした!」

人間が顔を上げると、須磨武羅組に所属するファイターたちが集まっていた。

人間「て、てめえら……フッ…まったくよ…後は頼む…」

須磨組員3「押忍!!」

須磨組員4「っしゃ行くぞォォ!!一網打尽にしてやれ!!」

須磨組員たち「ウオオオオオオ!!!!」

こうして須磨武羅組とヤクザ連合のファイターたちによる大乱闘が巻き起こった。



その頃、料亭の中では。

須磨組員1「親分!!」

組員は倒れている親分を見つけ駆け寄る。

だが。

須磨組員1「そ…そんな…」

心臓に刀が突き刺さり、その部屋は真っ赤に染まっていた。

ガクッ…

組員は膝から崩れ落ちる。

須磨組員1「…許せない…絶対に…」

そして親分の胸に突き刺された刀を掴み、引き抜く。

須磨組員1「待っててください親分…!カタキは俺が必ず討ちます……あのクズめ…殺してやる…!!」

187はいどうも名無しです (ワッチョイ 58c0-daf8):2021/09/27(月) 02:57:21 ID:PqgWgugM00
久々にしたらばを覗いたら面白くて一気見してしまった
他の話の繋がりが良く出来てて凄いわ
片割れも良いキャラしてんなあ

188ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:35:19 ID:jKmiDD5w00



それからおよそ一時間後。

片割れ「はぁ……はぁ……」

ヤクザB「はぁ……はぁ……チッ…小せえくせにしぶてえ野郎だ…」

片割れ「ふん…お前の攻撃が弱すぎるだけや…そもそもほとんど当たっとらんしな…単調すぎんねん…カウンターなんざ、来るん分かっとったら簡単に避けれる」

ヤクザB「…クソ…はぁ…反論…できねえな…たしかにそうだ…はぁ……てめえは間違いなく…今この町で一番…強え……A級の漢だ……はぁ…だからこそ…てめえの力が……欲しかったんだがな……」

片割れ「あぁ?」

ヤクザB「…悔しいぜ…俺は所詮……B級か……」


ドサァッ!


Bは体力が限界を迎えて糸が切れたように倒れた。

片割れ「……フゥ……ようやく倒れよったか…」

人間「片割れ…」

片割れ「!」

片割れが振り返ると、人間は両脇を組員に支えられながら立っていた。

人間「そっちも…終わったようだな…」

片割れ「ケッ、早々に潰された奴が何を偉そうに言っとんねん」

人間「ハハ、言えてるな…やっぱすげえよ、てめえは…あのBに勝っちまうとは…」

片割れ「敵の親玉は?」

人間「劣勢になるやいなや、早々に逃げやがったよ…今ウチの弟分が追ってるはずだ…」

須磨組員2「それが…アイツと連絡が取れません…!」

人間「何…!?どういうことだ…アイツに何かあったのか…?」

須磨組員2「分かりません…」

須磨組員3「たしかあっちの方に向かったはずです。俺たちも追いましょう!」

人間「ああ…そうだな…!」

片割れ「先行っとくぞ」

人間「ああ」

片割れは組員の指した方向へと走った。

189ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:38:11 ID:jKmiDD5w00


それから少し進んだところで。


ドドォォォォン!!!!


片割れ「何や!?爆発!?」

タタタタタ…

片割れは音の方へ駆けつける。

ヤクザ「ごは…」

ドサッ!

そこには黒焦げになって倒れるヤクザがいた。

片割れ「し…死んどる…」

組長「くっ…!ウチの精鋭が…!」

須磨組員1「てめえだろ?この爆弾をウチの事務所に仕掛けようとした奴ぁ…だったらこれで吹き飛ばされても文句は言えねえだろ」

その片手にはボム兵があった。

組長「や、やめろ!ソイツはファイター用の武器だ!ただの人間が食らえば本当に粉微塵になっちまう!」

須磨組員1「そのつもりだ。灰も遺さねえ」

組長「…っ!!」

ブンッ!

組員はボム兵を投げる。


ドガァッ!!


組長「ぐはぁっ!」

横から片割れが組長を尻尾で叩き飛ばし。


ドドォォォン!!!!


ボム兵は地面にぶつかって爆発した。

須磨組員1「なっ…!極道狩り…!なんで邪魔しやがる!!」

片割れ「アホか。目の前に人殺そうとしとる奴おったら止めるわ」

須磨組員1「てめえにゃ関係ねえだろ!!」

片割れ「関係なくても止めるっちゅうねん」

須磨組員1「クソッ…!邪魔するんなら…てめえもこのボム兵の餌食にしてやる!!」

ブンッ!

片割れ「そんなヘボボール当たるかい!」

片割れは緊急回避しボム兵を避ける。

190ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:39:28 ID:jKmiDD5w00


ドドォォォン!!!!


片割れ「くっ…なんちゅう威力や…!こりゃマジで当たったらまずいな…」

須磨組員1「まだボム兵は残ってんだよ!」

ブンッ!

片割れ「くっ!」

再び片割れは避ける。


ドドォォォン!!!!


須磨組員1「おらぁっ!!」

ブンッ!ブンッ!

片割れ「うおっ!?何個あんねん!」


ドドォォォン!!!!

ドドォォォン!!!!


と、しばらく投げ続けて、組員の手が止まった。

須磨組員1「はぁ…はぁ…クソッ!あと一つしかねえ…アイツ殺るために残しとかなきゃいけねえのに…」

片割れ「…ふぅ…弾切れか…もうやめえや。ファイター倒せる爆弾言うても当たらな意味ない」

人間「片割れ!!足元を見ろ!!」

片割れ「あ?」

てくてくてく…

ボム兵は自立して片割れの方へ歩いてきていた。

人間「触れたら爆発するぞ!」

片割れ「あぶな!」

タンッ!

片割れはジャンプしてボム兵をかわした。

てくてくてく…


ドドォォォン!!!!


少し進んだ先でボム兵は爆発した。

191ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:40:05 ID:jKmiDD5w00

須磨組員1「な…なんでっすか…!!人間さん!!アイツは親分を…」

人間「いや片割れがやった訳じゃねえだろ。それにお前はこのままじゃ奴らと同じだ。怒りに任せた復讐なんてのは親分は望まねえ筈だ」

須磨組員1「…でも…!」

人間「ああ、気持ちはよく分かる…俺だってブッ殺してやりてえよ…だが、堪えろ。俺たちがやらなきゃならねえのは、この町の平和を守ることだけだ」

須磨組員1「くっ……くそぉぉっ!!」

組員は膝をつき、地面に向かってやり場のない怒りを叫びに変えてぶつけた。

組長「ひ、ひぃぃいっ!」

片割れ「うっさい!」

ドゴォ!!

組長「オゥフ…」

ドサッ…

逃げようとする連合軍の組長を片割れは尻尾で叩きつけて気絶させた。

人間「…さあ、戦いは終わった。帰ろうぜ」

人間は手を差し伸べる。

須磨組員1「…………はい…」

組員1は人間の手を取り立ち上がった。

片割れ「…ったく、世話の焼けるヤクザどもや…」


その後ヤクザ連合軍は全員拘束され、ファイター専用の収容所へ連行された。

192ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:41:35 ID:jKmiDD5w00




数日後。

須磨武羅組事務所では、数十人の組員が集会を開いていた。

人間「次の組長は親分の息子に託されてる。だが知っての通り、若はまだ小せえ。しばらくは俺が組を仕切る。何か異論はあるか?」

組員たち「ありません」

人間「…本当に?」

組員たち「はい」

人間「…マジか…荷が重えなぁ…」

須磨組員1「親分の代わりができるのは人間さんくらいでしょう」

須磨組員2「貴方なら誰も文句はねえっすよ」

人間「…そうか。分かった。みんな、よろしく頼む!」

組員たち「はい!」

193ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:42:48 ID:jKmiDD5w00




更に数日後。

コンコンコンコン

須磨組員1「はいはい、今開けますよっと」

ガチャリ

片割れ「よう」

須磨組員1「ご、極道狩り!何しに来やがった!?まさか俺たちをターゲットにするつもりじゃないだろうな!」

片割れ「アホか。ちっと挨拶にな」

須磨組員1「挨拶?」

片割れ「ああ。ワシやないで。コイツや」

ナイフ「どうも」

須磨組員1「!!…アンタたしかこないだ手術受けた…」

ナイフ「切れたナイフだよ」

須磨組員1「もう歩けるようになったんだな」

ナイフ「おかげさまでな。今日は礼を言いに来た」

須磨組員1「そうか、まあ上がれよ」

そして二人は事務所内へ招かれる。


人間「よう片割れ、ナイフ」

片割れ「おう」

ナイフ「どうも」

人間「もう体は良いのか?」

ナイフ「まあ、ちょっと出歩くくらいなら全然大丈夫だよ。人間さん、早速だけど組長さんはどこに?」

人間「こっちだ」

人間は奥の部屋へ案内する。

そこには仏壇があった。

ナイフ「…まさか直接挨拶する前に亡くなっちまうなんてな…」

人間「ああ。唐突すぎるよな」

チーーーーン

ナイフは鈴を鳴らし、合掌。

片割れもその後ろで合掌。

人間「ありがとよ。親分も喜んでるだろうぜ」

ナイフ「礼を言うのはこっちだ。組長さんだけじゃなくアンタらにも、感謝してもしきれない。本当に、ありがとう!」

ナイフは深々と頭を下げた。

片割れ「ケッ、ワシ引き入れるためにやっただけやで」

人間「まあそういうこった。頭上げろ」

ナイフ「それでもいいよ。アンタたちの目的が何であれ、俺の病気が治ったことには変わりないからな」

人間「ハハ、お前も片割れに負けず強情だな」

194ハイドンピー (ワッチョイ 1fb1-9d20):2021/10/03(日) 07:43:21 ID:jKmiDD5w00

ガチャリ

迫力「ようお前ら、どうした揃いも揃って」

人間「大親分!」

迫力「だからその呼び方はよせっつってんだろ」

人間「あ、すんません」

ナイフ「大親分…てことは、アンタが迫力さんか?」

迫力「ああ、そうだが」

ナイフ「ありがとう!アンタがいなきゃ、片割れはBとかいう奴に殺されてたかもしれない!」

片割れ「はあ?」

迫力「フッ、あん時ゃたまたま通りかかっただけだ。ま、巡り合わせっつう奴だな」

ナイフ「巡り合わせか…ハハ、たしかに片割れもアンタたちも似たもの同士だ。極道狩りと極道、本来いがみ合ってる筈の奴らがこうやって同じ部屋で笑ってられるのも、きっとそういう運命だったのかもな」

片割れ「ワシは笑っとらんぞ」

片割れはむすっとした顔でそっぽを向く。

人間「ひねくれた奴だぜ」

迫力「どうだ片割れ。ひねくれついでにウチに入ってみねえか?」

片割れ「ひねくれついでって何やねん。入るわけないやろ」

迫力「…お前はどうだ?ナイフとやら。長え入院生活で仕事もねえんだろ?」

ナイフ「そうだな…いいかもしれないな。入ってみんのも」

片割れ「は!?正気かお前!?」

ナイフ「ああ、大マジよ。須磨武羅組は他とは違うし、命の恩人だ」

迫力「はっはっは!決まりだな!」

人間「よろしく頼むぜ、ナイフ!」

ナイフ「おす!」

人間とナイフは固い握手を交わす。

片割れ「ったく…どうなっても知らんぞワシは」

人間「んなこと言わずにこれからも力を貸してくれよ。入れとは言わねえからよ」

片割れ「ケッ、お断りや。ワシはこれからも自由にやらせてもらう」

そう言うと片割れは事務所から去った。

人間「ほんっと頑固だなぁ」

ナイフ「でもアイツがヤクザとこうして普通に話す日が来るなんて、昔のアイツを知ってる俺からしたら考えられないよ。それだけアイツも須磨武羅組を信頼し始めてる」

人間「ハハ、そりゃ良かった」


こうして極道の町の騒動は幕を閉じた。

195ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:20:20 ID:eeOlezMI00





数ヶ月後。

キィィィン…

ゴゴゴゴ…

ガシィン…

どこかの山奥の小さな白い建物の前に、三機のアーウィンが着陸した。

???「被験体はどうなっている?」

降りてきた緑フォックスが言う。

???「問題ない。胎児は順調に成長している」

そう答えたのは別の緑フォックス。

ピピピピピ…

ガコンッ!

フォックスの1人が建物の扉の前に立つと何らかの認証が行われたのか、一人でに扉が開いた。

扉の奥には地下へ続く階段があった。

カツ、カツ、カツ…

三人は地下へ降りていく。

???「煙草マスターから採取したDNAを分裂したモルダー細胞に移植し、そこから精子を作り出してリンク族に受精させる…オリジナルはよくぞこんな事を思いつくな」

???「我々クローンは確かにオリジナルより高い能力を持って成長するよう設定されている。頭脳も含めてな。だが唯一我々に無いのは、経験だ」

???「ああ。㍍アルザークに同胞たちが遅れを取っているのもそのせいだろう」

196ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:20:52 ID:eeOlezMI00

???「この実験が成功すれば、いよいよクローンネス無限生成実験も最終フェーズへ移行できる。ひいては、我々クローンロハスも完成に近づくだろう」

ウィーン

階段を降り切り、自動ドアを抜けると。

そこには広大な研究施設があった。

そこかしこに白衣のフォックスが点在して何らかの研究を行なっている。

その一番奥にまた別の部屋があり、緑フォックスたちはそこへ入っていった。

女リンク「…アンタたちか。本当に大丈夫なんだろうね?」

白いベッドに寝て三人を睨むのは、リンク族の女。

???「ああ。このまま行けばあと七ヶ月で産まれる筈だ」

フォックスの一人がコンピュータを操作しながら言う。

女リンクの下腹部には機械が取り付けられ、胎内の映像をモニターに映している。

女リンク「私は偉大なる英雄の末裔…この血を絶やしてはならないのよ…!最強の子を残さねば、存在価値はない…!」

???「案ずるな。煙草マスターはファイターの一族でこそないものの、あの玄酔楼ですら倒し切れず封印という形を取るしかなかった四闘士の一角…実験が成功すれば間違いなく最強のリンク族となるだろう」

197ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:22:00 ID:eeOlezMI00





そして月日は流れ。

赤子「オギャー!!オギャー!!」

女リンク「はぁ…はぁ…やった…やったわ…!」

???「無事産まれたか。後は成長を待つだけだな。煙草マスターの持つ煙の力に覚醒した時、その子供は究極の力を手に入れるだろう」

女リンク「絶対に…最強の戦士に育て上げてやるわ…!!」

???「オリジナルに報告する」

カタカタカタカタ…

フォックスの一人がコンピュータを操作すると、モニターに老フォックスが映し出された。

???「こちら第二基地。煙草マスターの子供の出産を確認した。見た目、体調、共に問題は見当たらない。取り敢えずは成功と見て良いだろう」

???『そうか…では今後常に監視を続けろ』

???「了解」

???『モルダー細胞の方はどうなっている?』

???「そちらも順調だ。新たに分裂した細胞にはこちらでウォーカーと名付けた」

???『そうか。ではまずエルバンを素体として実験を進めろ。ウォーカーに新たに細胞分裂が始まる様子は?』

???「僅かだが可能性はありそうだ。モルダー細胞と近づけることで反応を示す様子が確認されている」

???『ならばそのまましばらく様子見だな。進展があり次第私に伝えろ』

???「了解」

プツッ

???「そういうわけだ。お前にはこれから普通の日常を送ってもらう。家はこちらで用意してある」

女リンク「何?私の家では駄目なの?」

???「力の覚醒にはまず良好な環境下で健康に成長することが最も重要なのだ。仮に力に目覚めても肉体が伴わなければ持て余す事になる」

ピッ

フォックスがモニターに家の写真を映した。

女リンク「…そこに住めと?」

???「ああ。快適な空間だ。不満はあるまい」

198ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:22:43 ID:eeOlezMI00

女リンク「ふざけないで!そんな生温い環境では真の強さは手に入らない!」

???「古い考えだ。この家にはトレーニングルームや戦闘シミュレーターも完備してある」

女リンク「シミュレーションなど実戦には遥かに劣る!私は三歳の頃から親と実戦訓練を行なってきたけれど、大人になって初めて体験したシミュレーターとやらの下らなさには愕然としたものよ!こんなものをやって何の意味があるのだとね!」

???「喚くな。頭を冷やせ」

女リンク「なんだ…と…」

ガクッ…

女リンクは突然うなだれる。

???「鎮静剤を投入した。お前は今我々の支配下にあるという事を忘れるな。そしてお前には拒否権などないという事もな。そういう契約をした筈だ」

女リンク「…くっ…」

???「研究において我々の指示に必ず従う事。常に我々の監視下に置かれる事。我々の存在について一切口外しない事。そして従えないならば、お前を消す事。我々にとってお前一人の存在を抹消するなど造作も無い」

女リンク「…分かった…従うわ…」

???「それでいい」


ビーーッ!!ビーーッ!!ビーーッ!!


???「何だ!?」

突如警報が鳴り響いた。

???「アーウィンだ!登録されていないアーウィンが敷地内上空に侵入した!」

???「偶然通過しただけではないのか!?」

???「いや…確実にこちらへ向かってきている!」

???「何だと!?」

199ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:24:31 ID:eeOlezMI00

???「CR-103、104、105!ただちに迎撃しろ!」

???「了解!」

三人のフォックスが研究室を飛び出し、アーウィンの駐めてある格納庫へ。

そして乗り込もうとしたが。


ドォォン!!


???「くっ!?」

格納庫のシャッターが破壊された。


キィィィィィン…

ゴゴゴゴ… ズシィン…


そして一機のアーウィンが侵入してきた。

???「な…何者だ…」

リカエ『こちらの台詞だ。アーウィンの目撃情報を聞いて来てみたが…まさか本当にこんなところに基地があるとはな…お前たちどこの所属だ?』

パイロットはリカエリスだった。

リカエ『そのアーウィンは見たことがないな…それにお前たちのその顔…三つ子か…?』

???「…そうだ…我々の一族は…かつて村から独立し、ここで静かに暮らしているだけだ」

リカエ『中を調べさせてもらう』

パシュッ

スタッ

リカエリスはコックピットを開き、アーウィンから降りる。

???「…悪いがよそ者は入れられない」

リカエ「…何の真似だ?」

三人はリカエリスにブラスターを向けた。

???「お前には消えてもらう」


チュンッ!チュンッ!チュンッ!


放たれた弾をリカエリスは全てかわし、一人のフォックスの懐に潜ると。


ドガッ!!


???「くっ!」

腹を蹴って壁に叩きつけた。

リカエ「余程隠したいものがあるらしいな」

???「ああ…その通りだ」


ザザザザッ!!


奥の扉から新たに数十人のフォックスが現れる。

リカエ「…!!な…何だ…!?全員同じ姿…クローンか…!?だとすれば…写真で見た姿より少し若いが…まさかお前は…」

???「何かに気付いたか?だが意味は無い。お前はここで消えるのだ」


ドガガガガッ!!!!


リカエ「ぐあぁっ…!!」

フォックスたちの一斉攻撃が始まった。

リカエ(くっ…一人一人がなかなかの実力…しかもこの数とは…!)

200ハイドンピー (ワッチョイ 2db3-c4c1):2021/10/10(日) 19:25:26 ID:eeOlezMI00

ゴゴゴゴゴ…

リカエ「ファイヤーッ!!」


ドガァッ!!


???「ぐっ…!」

ファイアフォックスでフォックスたちを弾き飛ばす。

リカエ(応援を呼ばなければ…!)

ピッ

そしてリカエリスはジャケットの内側にある端末を使い、救援信号を出した。

???「応援を呼んだのか?」

???「無駄な事を」

リカエ「我々を舐めるな…お前たち程度の実力では村で訓練を積んだフォックスたちには到底…」

???「そうではない」

リカエ「何?」

???「この基地の半径三キロメートルには我々の使う特殊な電波以外を完全に遮断する防壁が備わっている」

???「信号は届かない」

リカエ「なっ…!」

タッ!


ドガガガガガ…!!


リカエ「く…!」

再びフォックスたちはリカエリスを囲みタコ殴りにする。

リカエ(ならば…!)

ポチッ

今度はジャケットの内側のスイッチを押した。

キィィィィン…

???「!!」

するとアーウィンのエンジンがついた。

???「自動操縦か!」


ドドドドドドドド!!!


???「くっ!」

アーウィンから放たれた弾にフォックスたちはリカエリスから引き剥がされる。

???「面倒だな」

???「アーウィンを破壊しろ」

リカエ「そうはさせん!」

ダンッ!

リカエリスはアーウィンに飛び乗る。


ゴゴゴゴ… キィィィィン…!!


そして格納庫から脱出した。

リカエ「防壁があるというのなら、その外へ出ればいい!」

201ハイドンピー (ワッチョイ a010-3f06):2021/10/18(月) 20:18:18 ID:hK6XWgDE00

???「逃がすな!」


キィィィィィィィィン!!!!


リカエリスを追って、格納庫から数十機のアーウィン群が飛び立つ。

リカエ「なっ…速い…!エンジンを改造しているのか…!」


ドドドドドドドド!!!!


リカエ「くっ!」

リカエリスは後方からの射撃を巧みな操縦技術でかわす。


キィィィィン!


リカエ「なっ!?」

今度は機体の速さを利用してアーウィンごと突っ込んできた。


ギュルッ!


リカエリスは機体をローリングさせてかわす。

リカエ「クローンは使い捨てという訳か…!」


キィィィィン!!


アーウィンは次々にリカエリスの機体へと特攻を仕掛ける。

リカエ「だがこの程度ならば…かわせる!」


ギュインッ!!


リカエリスは機体を急上昇させる。


ドガァァァン!!!!


四方から来たアーウィンはその動きに対応できずにぶつかり合い、大破した。

202ハイドンピー (ワッチョイ a010-3f06):2021/10/18(月) 20:19:25 ID:hK6XWgDE00

リカエ「それ程の速度を出せば当然操縦の精度は落ちる。速ければいいというものではない…とは言え」


ドガァァァン!!!


再び特攻をかわし、アーウィンたちが大破。

リカエ「…この数は流石に多過ぎるな…」


ドガァァァン!!!!

ドガァァァン!!!!

ドガァァァン!!!!


更に大破、大破、大破。

それでもまだ十数機のアーウィンがリカエリスの機体を取り囲む。

リカエ「このままではいずれ…」

その時。


ドガァァァン!!!!


リカエリスの機体にアーウィンが激突した。

???『やったか?』

???『いや、脱出された』


スタッ!

リカエリスはぶつかる寸前にアーウィンから逃れ、着地した。

リカエ「やられたか…!どうする…生身であの数のアーウィンを相手取るのは不可能!」


ドドドドドドドド!!!


リカエ「くっ!」

タタタタタ…!

リカエリスはなんとか射撃をかわしながら、走る。

203ハイドンピー (ワッチョイ a010-3f06):2021/10/18(月) 20:20:31 ID:hK6XWgDE00


???『逃がすな!確実にここで仕留めろ!』

???『待て!』

???『何?』

???『奴め…再び基地へ向かっている…』

???『これでは迂闊に撃てん…』

???『だがそれならば生身で戦えばいいだけの事。奴のアーウィンも既に墜とした。もう逃げ場はない』


リカエ「やはり基地の方向へは撃てないか。あの中は精密機械の並ぶ研究施設と見て間違いなさそうだな…」

リカエリスはそのまま破壊した格納庫のシャッターの所まで走り抜ける。

???「基地を盾にするとは良い発想だと褒めてやりたいところだが、甘い」

???「袋の鼠だ」

???「狐だがな」

格納庫の前には生身のフォックスたちが待ち構えていた。

リカエ「前門の虎、後門の狼…か。どちらも狐だが…」

後ろからはアーウィンが迫ってくる。

???「かかれ!」

ダダダダダダダ…!

前方のフォックスたちが雪崩のごとくリカエリスへ飛び掛かる。

リカエ「フ…私がただ空中で逃げ回っているだけだと思ったのか」

204ハイドンピー (ワッチョイ a010-3f06):2021/10/18(月) 20:21:30 ID:hK6XWgDE00


ボンッ!!!!


???「…?」

???「何の音だ…?」

???『せ、制御不能!!エンジンに何か工作されている!!』

追ってきていた一番後ろのアーウィンが、エンジンから火を吹いていた。

???「何っ!?」


ギィィィィイィィイイィ!!!!


ドドォォォォォン!!!!


アーウィンはそのままフォックスたちを巻き込みながら格納庫に突っ込み、爆発した。

リカエ「上手くいったようだな…だが逃げ場がないことに変わりはないか…」

ゴゴゴゴゴ… ズシィン…

追ってきていた十数機のアーウィンが着陸し、フォックスたちが降りてきた。

リカエ「ならばこのまま中へ入り、真相を確める!」

タタタタタ…

炎上する格納庫を通り抜け、基地の内部へと侵入する。

???「待て!」

リカエ「待てと言われて待てるほど私は芸達者ではないぞ」

チュンッ!チュンッ!

リカエリスは天井を撃つ。


ガラガラガラガラ…!!


天井が崩れ、通路が塞がれた。

リカエ「こんなものすぐに突破されるだろうが、時間稼ぎにはなるだろう…」

そしてリカエリスは進んでいく。

205ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:32:47 ID:HUYrE5r.00


タタタタタ…

リカエ「…さっきのでクローンが尽きたか…?数人は正面突破する覚悟だったが…」

内部通路にはフォックスは一人もいなかった。

タタタタタ…

そのままあっさりと通路を抜け、研究室に入る。

リカエ「…やはり…ここでクローン研究を行っていたのか…」

あの訓練場の地下にあった装置と同じようなものがいくつも並んでいるのを見て、リカエリスは確信する。

リカエ「ロハス…何を企んでいる…?本人は此処にはいないのか…?」

???「知る必要は無い」

リカエ「!!」

物陰から十数人のフォックスが現れ、リカエリスを取り囲み。

ダッ!!

一斉に飛び掛かる。

その時。


リカエ「待てッ!!」


???「!!」

???「何だそれは…」

リカエリスは懐から黄色い液体の入った瓶を取り出した。

リカエ「…最後の切り札だ」

???「何…?」

リカエ「これを割れば液体が空気中の窒素に反応して大爆発を起こす。私もろとも、お前たちも、この研究施設も全てが吹き飛ぶ程のな…」

???「な…」

リカエ「取引といこう。私をこのままここから出してくれればいい。その代わり私はお前たちについて一切口外しない。勿論応援を呼んだりもしない。監視を付けてもらっても構わない」

???「…どうする」

???「…いいだろう」

???「いいのか?」

???「やむを得ん。我々の計画において重要なここの検体を失う訳にはいかん」

???「…そうだな」

206ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:34:25 ID:HUYrE5r.00

リカエ「交渉成立だ」

リカエリスは右手を差し出す。

???「ああ」

フォックスの一人もその手を握ろうと右手を差し出す。

ガシッ!

???「!!」

リカエ「はあっ!!」


ブンッ!!


???「ぐあっ!」

リカエリスはフォックスの腕を掴んで投げ飛ばした。


ドガァッ!!


そのフォックスに巻き込まれて二人のフォックスも吹き飛ばされる。

???「フェイクか!」

フォックスの一人が飛びかかる。

リカエ「さて、どうかな」

???「なっ…!」

リカエリスは瓶を盾にし、フォックスは攻撃を止めた。


ドゴッ!!


???「ぐはっ…!」

その隙に腹に蹴りを叩き込む。

???「あの薬品を取り上げろ!」

リカエ「果たしてお前たち程度に、瓶を割らずに取り上げることなどできるかな?」

???「舐めるな。この人数差、この狭い空間でお前が我々に勝つなど不可能」


ブンッ!!


背後からの攻撃をリカエリスはかわし。


ドゴッ!!


???「かはっ!」

蹴り飛ばす。

リカエ「舐めるなとは、此方の台詞だな。お前たちの動きは先程の奴らよりも鈍い。大方お前たちはこの施設に篭り戦闘訓練をほとんどしていない、研究特化型クローンといったところだろう?」

???「くっ…」


ズドォッ!!

ドゴォ!!

バキィ!!


そしてリカエリスは孤軍奮闘の末、フォックスたちを退けた。

が。

タタタタタ…

リカエ「!」

207ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:35:41 ID:HUYrE5r.00

???「ここまでだ」

通路を塞いで足止めしていたフォックスたちが駆けつけた。

リカエ「少し時間を掛けすぎたか…」


ドガガガッ!!!


最初に駆けつけたフォックスとリカエリスが打ち合い。


ブンッ!!

ドガァ!!


???「ぐっ…」

壁に向かって投げつけるが、すぐに立ち上がる。

リカエ「く…」

そしてリカエリスも肩に一撃食らっていた。

???「…もう諦めろ。我々はまだストックがある。お前の体力も限界が近いだろう」

リカエ「諦めるのはお前たちだ…」

リカエリスは瓶を見せる。

???「くっ…その薬品は爆薬だ…!窒素に反応し爆発する!」

先程倒されたフォックスの一人が這いつくばりながら伝える。

リカエ「そういう事だ」

???「構わん」

リカエ「……何だと…?」

???「先程別働隊から連絡が来た。検体は全て基地の外へ運び終えたとな」

リカエ「何!?」

???「これまでの戦いは全て時間稼ぎという訳だ」

リカエ「馬鹿な…くっ、仕方ない!」


パリィン!!


リカエリスは瓶を床に叩きつけて割った。


ぼわぁっ!!!


???「なっ…!?」

その瞬間研究室内は白い煙に覆われた。

???「煙幕か…!」

???「く…やはり…ブラフだったか…!」

208ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:36:48 ID:HUYrE5r.00


リカエ(あの通路は塞いでいた…つまり他に抜け道がある…!どこだ…!?)

タタタタタ…

リカエリスは室内を走り回り探索する。

すると。


女リンク「助けてェェーーーーッ!!」


リカエ「!!今の声…!あっちか!」

タタタタタ…

声の方へとリカエリスは走る。

リカエ「あった!」

出入り口を発見し、そこを出ると地上への階段があった。

タッタッタッタッ…!

階段を一気に駆け上がっていく。


ドガァン!!


そして最後の扉を蹴り破る。

と。

リカエ「!!」

???「!!」

そこにはアーウィンに乗ろうとするフォックスたちがいた。

女リンク「ンーーー!!」

口を塞がれた女リンクが必死に叫んでいる。
そしてその腕には赤子を抱いていた。

リカエ「待てっ!!」

209ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:40:12 ID:HUYrE5r.00

チュンッ!チュンッ!

リカエ「くっ!」

三人のフォックスがブラスターでリカエリスの足元を狙う。

???「行け。我々が食い止める」

???「ああ」

ゴゴゴゴ…

キィィィィン…!

五機あるうちの四機が飛び去っていく。

女リンク「ンンーーーー!!」

女リンクは最後のアーウィンの後部に詰め込まれる。

リカエ「くそっ!どけ!!」

???「通さん」

ザザッ!

リカエ「くっ!!」

リカエリスの前にはフォックスたちが立ち塞がる。

???「時限式次元分離システム、発動まで十秒…」

リカエ「!!自爆する気か!」

???「九…八…」

リカエ「くそっ!!」


ズドドッ!!

ドガッ!!

ドゴォォ!!


???「ぐはぁっ!」

フォックスの一人を一瞬で倒す。

???「七…六…五…」


ズガガガッ!!!

バゴッ!!!


更にもう一人。

???「…四…三…二…い…」

リカエ「うおおおおっ!!」


ドガァッ!!!!


そして三人目も突破し、発進しようとするアーウィンへ走る。

210ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:41:21 ID:HUYrE5r.00

ゴゴゴゴ…

しかし間に合わない。


チュンッ!


ブラスターから一発の弾を放つ。

リカエ「いけぇぇ!!」


パリィン!


それはコックピットの窓を貫き。


バチッ!


???「なっ…!」

パイロットの指を弾き。


ボンッッ!!


制御装置を破壊した。


キィィィィィン!!!!


そのままアーウィンは真っ直ぐに飛んでいった。

リカエ(あのまま真っ直ぐに行けば海に落ちる…助かってくれ…!)

そしてその瞬間。


ゴォォッ…


基地の奥から球状に拡がる巨大な黒い閃光に、リカエリスは呑まれた。

211ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:42:51 ID:HUYrE5r.00




アーウィン機内にて。

???「くっ…制御装置をやられたか…!通信して救助を…」

ガッ!!!

???「ぐっ!?」

女リンクは拘束を解き、後ろからフォックスの首を絞めた。

女リンク「…私のことは基地に置いてくるべきだったわね」

ミシミシ…

???「く…」

ゴキッ…

首の骨が折れる音が鳴る。

女リンク「…よし…次は…」

ドガッ!!

アーウィンの操縦席の下部を破壊。

そして中の配線を引っ張り出し、引きちぎった。


バチバチバチバチ!!


女リンク「ぐぅぅぁぁぁっ!」

女リンクは感電する。

女リンク「……はぁ…はぁ…はぁ……これで…あのチップは機能しないだろう…」

カチャ…

更にフォックスのホルスターからブラスターを奪う。

チュン!チュン!チュン!

パリィン!!

女リンク「下は…海か……よし…」

ダッ!

コックピットの窓を割り、女リンクは脱出した。

212ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:43:33 ID:HUYrE5r.00




十数分後、とある無人島にて。

???「こちらCR-40。オリジナル、報告がある」

???『どうした』

???「一時間前、第二基地に侵入者が現れた。調べたところリカエリスという名のフォックスだ」

???『それで?』

???「奴を倒すには我々の基地の戦力では足りないと判断した。検体を全て回収し、開発中の次元分離システムを発動した。システムは正常に作動。残ったのはCR-40、42、43、84の四体とアーウィンが四機のみ…だが奴は確実に仕留めた筈だ」

???『そうか。まあ仕方あるまい。今の未完成なクローンでは熟練のフォックスには太刀打ちできぬ事は想定の範囲内だ。モルダー細胞は無事なのか?』

???「ああ、そちらは問題ない。ただ脱出に使った五機のうちの一機が墜とされた。海に墜落した機体を調べたが、パイロットであるCR-89は首を折られ絶命。リンク族の女と赤子は姿を消していた」

???『逃げられたか。女には生体反応チップを埋め込んでいた筈だが』

???「ああ。しかしチップの反応が無い。脱出した際に着地に失敗し絶命したか、何らかの方法で無効化したか。いずれにせよこれではすぐには見つからない。捜索に人員が欲しい」

???『分かった。第三基地のCR-110から119を向かわせる』

???「了解」

213ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:06:26 ID:X201ky2QSd





魔法学校の一室。

小学生「うおお!!やっぱすげーな㌦ポッター!」

おこめ「なかなかやる」

㌦「何、これくらい朝飯前だよ」

㌦ポッターの前の机には、赤みがかった金属の塊が転がっている。

小学生「でもこれ金じゃないよな」

㌦「うん。金の錬金はかなり難しいんだ。僕はまだ銅の錬金しかできない」

小学生「へー。何が違うんだ?」

㌦「金の錬金には銅よりも遥かに繊細な魔力のコントロールが必要なんだよ。先生でもなかなか上手くいかないし、成功しても数分で消えてしまう」

おこめ「そんなにか!」

小学生「俺からすりゃ銅でも十分すげーけどなぁ。やっぱ魔法は奥がふけーな」

㌦「コツさえ掴めばこれくらいは簡単さ。君も二、三年勉強すればできるようになるよ」

小学生「それでも二、三年掛かるのかよ…」

おこめ「魔法の才能ないもんな」

小学生「うっせー!」

214ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:08:13 ID:X201ky2QSd

昼間「おや、まだ居たんですか?もうそろそろ下校の時間ですよ」

小学生「あ、召喚士先生」

㌦「お疲れ様です!」

昼間「おお、これは銅の錬金ですか。かなり高い精度で錬金できていますね。これは㌦くんが?」

㌦「はい!」

昼間「お見事です。その若さでここまでやるとは。私が君たちくらいの歳の頃はまだ魔力の操作もおぼつかない未熟者でしたよ」

小学生「そう言えば、先生はなんで魔法使いになったんですか?」

昼間「私ですか?私はただ魔法使いの家系に生まれて、他の選択肢は無かったというだけですよ。両親が厳しい人でしたから」

おこめ「あらら」

昼間「初めは嫌々でしたけど、召喚魔法の楽しさに気付いてからは充実した学校生活になりました。君たちはすごいですね。初めから確固たる目的意識を持ってここにいるのですから」

㌦「えへへへへ」

おこめ「そんなに褒めるな!むふ」

小学生「……目的意識…か…」

小学生はその言葉で少女のことを思い出す。

その時だった。

215ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:09:10 ID:X201ky2QSd


カッ!!


小学生「うおっ!?」

突如、窓の外が光に包まれた。

㌦「な、何だろう…雷…?」

昼間「いえ…雲も出ていませんし、音もしません。誰かが閃光の魔法でも使ったんでしょう。私が様子を見てきます。君たちはもう帰りなさい」

三人「はーい」

召喚士は教室を後にした。

小学生「閃光の魔法か…でもそんなにデカい光出せたっけ?あの魔法」

㌦「どうだろう。僕たちが習ったのはまだ弱い魔法だったのかも。上級生ならあれくらい出せるんじゃないかな?」

おこめ「でもなんで使った?閃光」

小学生「あれって暗闇を照らしたり、敵の目眩しに使う魔法だよな」

㌦「たしかに…もう暗くはなってるけど街灯もあるし、閃光を使うほどじゃない。だとしたら…」

おこめ「だれか襲われてる?」

小学生「かもしれねーな…!よし!俺たちも行ってみよーぜ!」

おこめ「うん!」

㌦「え!?ちょっと!先生はもう帰れって…」

小学生「前にその先生が言ってたろ?気になることはとことん追求しろ、新たな可能性が見つかるかもしれない、ってな!」

㌦「いやいや!それはルールを守った上での話で!そもそも本当に誰かが襲われてたとしても先生が向かった時点で蹴りはついたも同然…」

おこめ「ふっ、びびりめ」

㌦「ビ、ビビってるわけじゃないよ!分かったよもう!行くよ!」

小学生「そうこなくちゃ!」

そして三人は召喚士を追って外へ出た。

216ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:11:46 ID:X201ky2QSd


小学生「…つっても、どっから光が出てたんだ?」

㌦「窓の外が真っ白になるくらい光ってたからね…中心点なんか分かるわけないよ…」

おこめ「魔力を探る!」

小学生「おお、そういやこないだ習ったな。よし、みんな集中するんだ!」

三人は目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。

そして。

小学生「見つけた!」

おこめ「もう!?」

㌦「早いな!」

小学生「召喚士先生の魔力は他の人よりデカいから分かりやすかったぜ!こっちだ!」

おこめ「あ!待て〜!」

三人は走り出す。


タタタタタ…

㌦「でもすごいな。僕なんて二人の魔力に邪魔されてまだ何も分かってなかったのに」

おこめ「ぼくも」

小学生「まじか」

㌦「ああ。感知能力の才能だけならこの中で一番かもね」

小学生「…へへ、まあ感知なんかできたってそんなに役には立たねーだろ」

㌦「いやいや、魔力を扱う上で一番有用とも言われてるくらい大事な力さ。なぜなら魔力というのは魔法使いだけじゃない、あらゆる生き物に宿ってるものだからね。それを感知する力はとても重要なんだ」

小学生「なるほど…へへ、ありがとな」

㌦「ま、僕だって負ける気はないけどね!感知能力も鍛えれば精度は上がるんだ。胡座かいてるとすぐ追い抜くよ!」

おこめ「ぼくも!」

小学生「俺だって負けねーよ!…お、この辺りだ!」

㌦「ってここ…」

おこめ「魔の森!」

217ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:13:47 ID:X201ky2QSd

小学生「…ってなんだっけ?」

㌦「えぇ!?魔の森だよ!夜になると魔獣が起きてくるから生徒は近づいちゃダメって言われてる!」

小学生「あー、そういや先生がそんなん言ってたような言ってなかったような…」

㌦「確実に言ってたよ!もしかしてこの奥なの!?」

小学生「うん」

㌦「まずいよ…さすがに引き返そう」

おこめ「そうだなー。ここはちょっとやばいかも」

小学生「そんなに?俺たちファイターだぜ?」

㌦「関係ないよ!魔獣がどれだけ強いかも分からないのに!」

小学生「でも先生はたしかにこの奥に…」

㌦「そりゃ先生は強いからね!僕たちの出る幕じゃないよ!」

おこめ「さすがにやめとこ」

小学生「…そうだな」

と、三人が引き返そうとした時。

ガササッ

昼間「ん?君たち、どうしてここに…」

森の中から召喚士が出てきた。

小学生「いや、ちょっと気になって…」

㌦「すみません…」

おこめ「さっきの光なんだった?」

昼間「これですよ」

召喚士は両手に抱えたものを見せた。

218ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:15:29 ID:X201ky2QSd

小学生「…なんだこれ、動物?」

おこめ「サルのこどもかな」

㌦「いや、魔の森から出てきたんだ。きっと魔獣だよ」

昼間「いえ、サルです」

㌦「本当にサル!?」

昼間「ええ。サルの赤ちゃんですね」

おこめ「あたった」

小学生「えっと…そのサルがさっきの光を出したんですか?」

昼間「サルが現れた時に光が発生した、と言ったほうが正確でしょうか。恐らくこのサルは別の空間から来たものです」

小学生「別の空間!?」

おこめ「表の空間からきた?」

昼間「それはまだ分かりません。表の空間なのか、それともまた別の空間なのか」

小学生「別の空間っつーと…天界とか魔界とか?」

昼間「その可能性もありますが、人界にもこの魔法学校のようにいくつかの枝分かれした小さな空間が存在しますからね…その痕跡が無い以上、どこから来たのか知る術はありません」

小学生「じゃあ元の世界に帰してやれねーのか…」

昼間「そうなりますね」

おこめ「かわいそうに」

㌦「そのサルに空間を移動する力が…?」

昼間「それもまだ分かりません。ただこのサル自体は、何の変哲もない普通のサルだとは思います。魔力も平凡、見た目もサルですから」

小学生「まあ、たしかに」

おこめ「そのサルどうする?」

昼間「とりあえずは魔法学校で預かるしかないでしょう。魔法動物科の先生に相談してみます」

小学生「魔法動物科…しょーくんのいるとこか」

㌦「しょーくん?」

219ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:16:40 ID:X201ky2QSd

小学生「ああ、話してなかったっけ。まあ人に話すようなことでもねーか…」

おこめ「だれ?」

昼間「ペットですよ。小学生くんのね」

小学生「え」

昼間「表の空間で飼っていたのですが、魔力減衰症が発症してこちらで預かっているのです」

㌦「なるほど…!君も苦労してるんだね…」

小学生「あ、ああ、そうなんだよ…」

おこめ「なおるといいね」

小学生「おう…」

昼間「さあ、君たちは早く帰りなさい」

三人「はーい…」

そして三人は家路についた。

220ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:17:56 ID:X201ky2QSd



その帰り道。

昼間『さっきは勝手なことを言ってすみません』

小学生「うおっ!?何だ!?」

突然脳内に直接声が聞こえた。

昼間『昼間の召喚士です』

小学生「先生!?」

昼間『シーーー…魔力を使った念話という技術で話し掛けています。頭の中で喋りたいことを念じればこちらにも届きます。周りに人がいなければ普通に喋ってもらってもいいですが』

小学生「あ、はい…もう二人とは別れたので…」

昼間『彼女のことはまだ友達には話していないようですね』

小学生「はい…アイツら巻き込むわけにはいきません。優しいヤツらだし、話せばきっと力貸してくれると思うけど…アイツらにも夢があって…その邪魔はしたくない…」

昼間『そうですね。いい判断だと思います』

小学生「……アイツの手掛かりはまだ見つかりませんか…?」

昼間『ええ、残念ながら』

小学生「そう、ですか…………あ、そう言えば、魔力減衰症って何ですか?」

昼間『魔力が少しずつ失われていく病気です。魔力は生命のエネルギーそのもの。つまりそれが完全に無くなることは、死を意味します』

小学生「こえー…そんなのあるんですね…」

昼間『ちなみに治療法としては、土地の魔力が濃い場所に長期間滞在することです』

小学生「土地の魔力?魔力って生き物にしかないんじゃ…」

昼間『あぁ、そうですね。正確にはその土地の植物や生き物など、人以外の色々なところから発生する魔力のことです』

小学生「なるほど。じゃああの湖の精霊とかもそれから生まれたんだ」

昼間『そういうことです。この裏の空間はかつて魔法使いたちが作り出しただけあって、かなり土地の魔力が濃いのです。魔界はその比ではないらしいですが』

小学生「魔界か…先生は行ったことあるんですか?」

昼間『いえ。魔界はとても危険ですからね。関わらないに越したことはない』

小学生「先生でも?」

昼間『はい。魔の一族と呼ばれる魔界の住人たちは、とてつもない魔力を秘めている。そして極めて凶暴な性格です。私でも正面から戦って勝てる相手ではないでしょう…』

小学生「そんなに…!?想像できねー…」

昼間『それじゃあ、私はもう少し業務があるので、この辺で』

小学生「あ、はい!ありがとうございました」

昼間『はい。失礼します』

プツッ

221ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:18:42 ID:X201ky2QSd

小学生「いやー、やっぱすげーな魔法って。こんなこともできんのか」

男の子「よっ!何一人で喋ってんの?」

小学生「おお、たかし!何って…独り言だよ!」

話しかけてきたのは、魔法学校に通う前のクラスメートだった。

男の子「でけー独り言だな!つーかさ、同じ町に住んでんのに何で転校したの?」

小学生「え?いやあ、親の都合だよ、親の!」

男の子「都合ってなんだよー!マジお前がいねえと学校つまんねーぜ!」

小学生「はは、わりーな。それより時間いいのかよ?お前んち門限厳しかっただろ?」

男の子「うおっ!やべ!んじゃまたなー!」

小学生「おう!今度学校のみんなのことも聞かせてくれよ!」

男の子「おっけー!」

男の子は去っていった。

小学生(あっぶねー…無闇に魔法学校のこと漏らしたら罰則やべーんだよな…さっさと帰ろ)

222ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:56:40 ID:arxlBH7.00




翌朝。

小学生「おはようしょーくん!」

衝撃「ガルルル!!」

小学生たちは衝撃が暮らす魔法動物の飼育施設を訪れていた。

㌦「こ、これが衝撃くん…?」

おこめ「顔、こわ!」

小学生「だろ?ぜんっぜん懐かねーんだわ」

㌦「だろって…本当にペットなの…?」

おこめ「お手!」

小学生「あっ!馬鹿!」


バチバチッ!!


おこめ「ぎゃああああ!」

小学生「ダメだよ檻に手ぇ入れちゃ。コイツすぐ電撃撃つから」

おこめ「は…はやく…言ってよ…けほ」

㌦「こんなのどうやって飼ってたの…?」

小学生「え、いやー…えーっと…元々は大人しかったんだけど…」

㌦「なるほど、魔力減衰症によって荒んでしまったのか」

小学生「そ、そーなんだよ!」

おこめ「それにしては、元気だな!」

小学生「ま、まあもう結構こっちにいるし、もう治りかけ?的な?」

㌦「へえ。たしかに、僕たちと比べても魔力量は遜色ないね」

おこめ「そりゃよかった」

㌦「本来なら十年くらいかけてやっと治る病気なのに、すごい回復力だ」

小学生「あ、ああ!だよな!すげーよな!…あとはこの凶暴化をなんとかできりゃいいんだけど…」

衝撃「グルルルルル…」

㌦「これはちょっとやそっとじゃ治りそうもないね…」

小学生「だよな…」

おこめ「うむ」

223ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:57:37 ID:arxlBH7.00


???「ウキャーーーッ!!」


小学生「なんだ?」

㌦「あっちの檻からだ」

三人は声の聞こえた方へ。

小学生「あれ、コイツって…」

おこめ「昨日のサル!」

㌦「昨日はなんかぐったりしてたみたいだったけど、元気になったみたいだね」

おこめ「よかったよかった」

小学生「だな。それにしても、どこから来たんだろうな、コイツ」

㌦「召喚士先生でも分からないのに、僕たちに分かるわけないよ」

小学生「まあそうだけど…なんとかして元の世界に帰してやりたいよな」

おこめ「そうだな」

ウィーン

女教師「おや、もう来てたのかい」

優しそうなおばさんの先生が入ってきた。

小学生「あ、魔法動物科の先生、おはようございます!」

㌦「おはようございます!」

おこめ「おはよう!」

女教師「ええ、おはようございます。その子、別の空間から来たんだってね。昼間先生から聞いたわ」

㌦「はい」

おこめ「このサルどっから来たのか、先生もわからない?」

女教師「昼間先生が分からないのに私が分かるわけないわよ、ふふふ。あ、そうだ。あなたたち、この子に名前付けてあげてよ」

小学生「名前?」

女教師「ずっとサル呼びじゃ可哀想じゃない」

おこめ「たしかに」

小学生「名前かー…どうする?」

㌦「うーん…」

女教師「まあ、焦らなくてもいいわ。思い付いたら教えてね」

三人「はーい」

三人は授業へ向かった。

224ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:58:49 ID:arxlBH7.00



小学生「どうする?名前」

㌦「ポチとか?」

おこめ「タマ」

小学生「お前らテキトーだな…」

㌦「そんなこと言われたって思い付かないよ…君こそ、何か良い名前思い付いたの?」

小学生「いや、全然」

おこめ「おいおい」

小学生「だって名前なんか付けたことねーしなー…」

㌦「…ん?じゃあ衝撃くんは君が名付けたんじゃないんだ」

小学生「え?あ、ああ。父ちゃんが付けたんだよ、父ちゃんが」

㌦「そっか。それにしても、衝撃っておかしな名前だね。そのセンスを受け継いでるとしたら、君もネーミングセンスは無さそうだね」

小学生「なにぃ!?失礼な!」

おこめ「ぼくはセンスあるよ」

小学生「ほんとかよ」

おこめ「なぜなら将来マイブランドのお米に名付けるために、勉強しているから!」

小学生「…お前に任せると米みたいな名前になりそうだ」

㌦「これじゃ結局僕が決めることになりそうだね…」

小学生「お前だって大したことねーだろ!」

㌦「大事なのは愛さ!愛のこもった名前に勝るものはないよ」

小学生「テキトーなこと言うな」

㌦「本気だよ!」

小学生「つーか別にあのサルに大して愛情なんかねーだろ俺たち。昨日会ったばっかりなのに」

㌦「時間は関係無いさ」

おこめ「じゃあ勝負!」

小学生「勝負?」

おこめ「放課後までに三人で名前考えて、いちばんいいやつが勝ち!」

㌦「一番はどうやって決めるの?」

おこめ「えーっと、魔法動物科のセンセーにきめてもらう!」

小学生「ふーん。ま、いいぜ。俺が負けるわけねーけど」

㌦「望むところだよ」

おこめ「よし!じゃあ勝負開始ーっ!」

225ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:00:30 ID:arxlBH7.00



休み時間。

小学生「さて、どうすっかなー。やっぱカッコいいのがいいよな」

同級生「どうしたんだ?」

小学生「お前ペット飼ってたっけ?」

同級生「なんだよ急に。イヌなら飼ってるけど。お前もペット飼うの?」

小学生「まあ、そんなとこだ。なんて名前?」

同級生「ウェルカム・ザ・アンダーワールド」

小学生「なげぇな!」

同級生「カッコいいだろ?」

小学生「カッコいい。どうやって付けたんだ?」

同級生「カッコいいと思う言葉をそのまま付けただけさ。ちょっと長くなっちゃったけど、後悔はないぜ」

小学生「なるほど…心のままに、か。サンキュー!なんか思い付きそうな気がする!」

同級生「おう」

226ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:01:48 ID:arxlBH7.00



そして放課後、三人はサルのところへ。

おこめ「名前きまったか?」

小学生「おう!めちゃくちゃいいのを考えてきたぜ!」

㌦「僕も最高の名前を思い付いたよ。はっきり言って負ける気がしない」

おこめ「ふーん。ま、ぼくが勝つけども」

㌦「先生、気を遣わずに公正な判断をお願いしますね」

女教師「はいはい」

おこめ「じゃあ、誰からいく?」

小学生「よし!じゃあ俺からいくぜ!」

㌦「来い!」

小学生「俺の付けた名前は…シャイニングボンバー!!」

おこめ「おお!かっこいい!」

㌦「そ、そう?ちなみになんで?」

小学生「コイツが来た時、すごい光っただろ?だからシャイニングだ」

おこめ「ボンバーは?」

小学生「カッコいい」

おこめ「なるほど…やるな…」

㌦「そうかなぁ…」

小学生「フッ、㌦、怖気付いたか?」

㌦「なんでそうなるんだ。呆れてるのさ、あまりの子供っぽさにね」

小学生「なにぃ!?」

㌦「光ったからシャイニング。ボンバーに至っては特に意味も無いと来たもんだ。全然愛情が感じられないよ。ペットに付ける名前じゃあないな」

小学生「くっ…そこまで言うならお前の考えた名前を聞かせてもらおーじゃねーか!よっぽどすごいのを考えてきたんだろーな!」

㌦「当然さ。僕の考えた名前は…㌦モンキーだ!」

二人「…ダサ…」

㌦「えっ!?」

おこめ「センスない」

小学生「それのどこに愛があんだよ」

㌦「あるでしょ!自分と同じ名を与えるのも愛だし、㌦にはお金に恵まれて幸せに暮らしてほしいという願いが込められてるんだ!」

小学生「ふーん…一応意味はちゃんと考えてるらしいけど…そんなん関係なくとにかくダサい」

㌦「んなっ!?君こそ人のこと言えないだろ!」

小学生「何だとぉ!?」

227ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:03:15 ID:arxlBH7.00

おこめ「やれやれ…こりゃあぼくの案できまりか」

小学生「ふん、この分じゃおこめも期待できそうにねーぜ!」

㌦「僕には勝てないだろうけど、聞かせてもらおうか」

おこめ「トム・リドル」

小学生「いや誰だよっ!」

㌦「ん?いや、なんか聞いたことあるかも」

おこめ「図書室でいい名前探してたら見つけた」

女教師「昔この魔法学校にいた魔法使いの名前だね。だけど魔力に取り憑かれて、闇の魔法使いとして葬り去られた」

おこめ「へー」

小学生「縁起悪りーなオイ。そんなん付けちゃダメだろ」

おこめ「む…」

㌦「そうだね。これは㌦モンキーで決まりかな」

おこめ「トム・リドル!」

小学生「それはねーよ!闇の魔法使いだぞ!」

おこめ「かんけーない!名前っぽさで勝ってる!」

㌦「名前っぽさ!?適当に本から見つけただけの名前なんて何の愛情もこもってないじゃないか!」

おこめ「なに!?」

小学生「やっぱ自分の感性の従った俺のシャイニングボンバーが最高ってことさ!」

㌦「それだけは何としてでも回避したいところだね!ダサすぎるよ!」

おこめ「そーだそーだ!ちょっとカッコいいと思ったけど勘違いだった!」

小学生「なんだとー!?」

女教師「まあまあ、落ち着きなさい」

㌦「あ…失礼しました…」

小学生「ごめんなさい…」

おこめ「そうだった。決めるのはセンセーだった」

㌦「…先生、判定は?」

女教師「うーん、そうだねぇ…」

228ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:04:06 ID:arxlBH7.00

昼間「三つ合わせて、"ドル・ボ・リドル"にしましょう」

三人「召喚士先生!?」

女教師「ドルボリドルか…うん、それがいいね。決定!」

小学生「えぇー!?」

㌦「美味しいとこ持っていかれた…」

おこめ「ブーブー!」

昼間「フフ、私が見つけたサルなのですから、名付ける権利は私にあります。それに、三人の案がちゃんと入ってるのですから良いでしょう?」

㌦「…まあたしかに、㌦が付いてるから僕の込めた想いは受け継がれてると言ってもいいかもしれません」

おこめ「うむ…特に異論なし」

小学生「俺の"ボ"だけじゃん…」

㌦「それじゃあ僕は錬金術の自主練に行ってきます」

おこめ「あ、ぼくもお米魔法の研究しなくちゃ。じゃあね」

小学生「うおい!?無視かよ!」

昼間「さて、それではドルボリドルの元いた空間を探す方法を考えましょうかね」

小学生「うおーい!?先生も!?」


こうして不可解なサルは、ドルボリドルと名付けられた。

これがのちに魔法学校に波乱をもたらすことになるとは、この時は誰も思っていなかった。

229ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:38:03 ID:ic2McTlw00





遠い宇宙。


ドドドドドドッ!!!!


巨大な宇宙船にいくつも取り付けられた砲台から、一斉砲撃が行われている。

その先には二人の男がいた。


キィン!!キィン!!キィンッ!!


ドドォォン…!


放たれた砲弾を、男たちはビームソードでぶった切っていく。

???「この数…流石にFOOSUを全開にするしかないようだ」

そう呟いたのは年老いた緑ヨッシー。

???「そうだな。一気に決めるとしよう」

応えるのは、若き緑ルイージ。

???「ゆくぞ、◎ANAKINSUKAIWOOKAA☆彡」

???「ああ、¶YOODA¶」

二人はビームソードを上に掲げ、集中力を高める。


ゴォォォォォ!!!


すると二人のビームソードは出力を増し、巨大な剣になった。

二人「はあああああっ!!」


ドォォォォン!!!!


そのままビームソードを振り下ろし、宇宙船は木っ端微塵になった。

230ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:39:30 ID:ic2McTlw00

YOODA「ふぅ…なんとかなったようだ」

ANAKIN「強敵だったな…」

YOODA「ところでANAKIN…感じておるか?このFOOSUの鼓動を…」

ANAKIN「ああ…先程からどんどん大きくなっている。随分遠いけど…」

YOODA「恐らく現在の技術では届かない程に遠く離れた宇宙…そのFOOSUがここまで届いているという事実…計り知れない何かが、生まれようとしているようだ」





同じ頃、とある小さな島国の、小さな病院の一室にて。


???「おぎゃぁ♡」


小さなカービィ族の赤子が、可愛らしい産声を上げた。

その瞬間。


ズキュゥゥゥーーーン!!!!


人々「うおおおおお!!」

突然病院中が沸いた。

???「きゃっきゃっ♡」

その歓声を受けて、赤子は笑う。

人々「Fooooooooooooooo!!!!」

更にそれを見た人々は発狂する。

人々「なんて可愛いんだ!?」「奇跡の子よ!!」「この瞬間に立ち会えた僕は幸せ者だ…」「なんというお名前なのですか!?」

親「ちょこにゃです」

人々「ちょこにゃああああああああ!!!」

この日、ちょこにゃの名は瞬く間に広がり、翌日にはこの国で知らない者はいなくなった。

231ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:40:43 ID:ic2McTlw00




ある国では。

???「おかあさん、この声なに?」

ピカチュウ族の親子が歩いていると、子ピカチュウが立ち止まった。

親「声…?そんなの聞こえないけど…」

???「きこえるよぉ!おんなのこの声!」

親「えー、そう?お母さんには分からないわ。もう歳かしら…」

???「なんか言ってるよ…?ちょこにゃ…?ちょこにゃってなに?」

親「さあ…?その子の名前じゃないかしら?」

???「そっか!ちょこにゃちゃんっていうんだ!かわいいなまえだね!」

親「こらこら、道ではしゃいじゃダメよ」

???「アイドルになりたいって!おかあさん、アイドルってなに?」

親「歌って踊って夢を届ける人たちよ」

???「夢をとどける…?」

親「うん。見てる人を元気付けたり応援したり、笑わせたり感動させたりするの」

???「へぇ、すごいなぁ♪」

親「じゃあ今度ライブに連れてってあげるわよ。すごいんだから」

???「ほんと!?やったー!ねえ、ぼくもアイドルなれる?」

親「どうかしらねぇ…成功するのは難しいって聞くし。でもあなたが頑張るなら、お母さんは応援するわよ、バルザード」

232ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:41:26 ID:ic2McTlw00




またある国では。

ピッ

ニュース『昨夜ある島国で奇跡の子が生まれたとして、国中がお祭り騒ぎになっています』

???「奇跡の子…?」

ニュースを観ながら首を傾げているのは、一般的な家庭に住む、男らしい顔付きで体格の良い少女。

ニュース『生まれた赤ちゃんはちょこにゃちゃん、カービィ族という種族のようです。その産声を上げた瞬間、国中がハッピーな気分に包まれた、とのことです』

???「なにそれ…」

ニュース『更に不思議なことにその同時刻、世界中の各地で"何かを感じた"、"突然脳内にちょこにゃという文字が浮かんだ"などといった声が多く上がっており、ちょこにゃちゃんの誕生と関係しているのではないかと専門家の間で話題となっています』

???「ふぅん…ちょこにゃちゃんか…そんなことあるのね。世界中をハッピーにするなんて…まるでアイドルになるために生まれてきたような子だわ」

親「こらドルコリン!何ぼーっとテレビ観てるの!早く朝ごはん食べちゃいなさい!オーディション遅刻するわよ!?」

ドルコ「あっ!はーい♪」

233ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:43:03 ID:ic2McTlw00





そんな奇跡の子が生まれた日、ある星では。

エース「ん?なんだ?」

ちょこにゃの存在感をわずかに感じ取り、黄色カービィの少年、エースが立ち止まった。

エースパパ「どうかしたのか?エース」

エース「…いや、なんでもないよ、パパ」

エースパパ「そうか。さあ、早く行こう」

エース「うん」


それからエース親子は広場にやってきた。

エース「準備いいよ、パパ」

エースパパ「よし!来い!ワープスターーー!!」

エースの父親が叫ぶと。


ピロピロピロピロ…


ワープスターがどこからともなく飛んできた。

エースパパ「今だ!乗れ!」

エース「うん!」

ぴょんっ

飛んできたワープスターに向かってエースが飛び込む。

234ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:44:18 ID:ic2McTlw00


ズドォ!!


エース「ぐはぁっ!?」

ワープスターはエースの顔面にぶつかり、突き飛ばした。

エースパパ「エースぅぅぅ!!」

エース「く、くそぉ…」

エースパパ「大丈夫かエース!ケガはないか!?」

エース「だ、大丈夫だよパパ…僕たちは柔らかいからね」

エースパパ「そうか…よかった」

エース「でもこれじゃダメだ…ぜんぜん上手くいかないや…タイミングが全く合ってなかった…」

エースパパ「なに、焦ることはないさ。ご先祖さまが乗りこなしていたこのワープスターは、その血を継ぐエースにだって必ず乗れる」

エース「だけど…」

エースパパ「お前はまだ子供だ。パパだって乗りこなせるようになったのは二十歳過ぎだよ」

エース「そうなの?」

エースパパ「ああ。だから気にする必要はない。ワープスターはとても速いから扱いが難しい。ゆっくり慣れていけばいいさ」

エース「わかったよパパ」

エースパパ「ワープスター、もう一回出てくるとこから頼む!」

するとちょっと離れたところに止まっていたワープスターは、うなずくような動きをした後、フッと消えた。

エース「…ん?」

エースパパ「どうした?エース」

エース「いや、今ワープスター止まってなかった?」

エースパパ「え?それがどうかしたのか?」

エース「止まってる時に乗ればよくない!?わざわざ飛んでくるタイミングに合わせて飛び乗る意味ある!?」

エースパパ「…なるほど!」

エース「気づいてなかったの!?」

エースパパ「フッ…とんでもない天才がいたもんだ」

エース「いやいやいや!」

235ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:44:59 ID:ic2McTlw00

エースパパ「…なんてな」

エース「え!?」

エースパパ「まあそれに気付けたのは偉い。さすが俺の息子だ」

エース「ど、どういうこと?」

エースパパ「俺たちはワープスターの正統後継者だ。俺たちにはカービィとして、この宇宙の平和を守るという責任があるんだ」

エース「う、うん。知ってるよ」

エースパパ「つまり将来、必然的に戦いの中に身を置くことになる。そんな戦いの最中で、追い込まれた状況だとする。わざわざワープスターを止めて乗る暇があると思うか?」

エース「お、思わない…!そうか…!そのための特訓だったんだ!」

エースパパ「そういうことだ!また一つ成長したなエース!」

エース「うん!」

エースパパ「よし!そうと分かればもう一度だ!準備はいいか!?」

エース「おっけー!」

エースパパ「来い!ワープスターーーっ!!」

ズドォ!!

エース「ぐへぇ!!」

エースパパ「エ、エースぅぅぅ!!」

エース「ぼ…僕もしかしてワープスターに嫌われてる…?」

エースパパ「そんなことはない!カービィ族なら誰でも乗る資格はあるんだ!」

エース「それならいいけど…」

エースパパ「さ、もう一回だ!」

エース「う、うん!」

それからエースは一生顔面にワープスターを受け続けた。

236ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:12:58 ID:4BYAvO4.00




それから数ヶ月後。


ピロピロピロ…


エース「や、やったー!!乗れた!!」

エースパパ「よくやったエース!お前はもう立派な一人前のカービィだ!」

エース「パパー!!やったよー!!」


ズドォォン!!


ワープスターの上でよそ見をしていたエースは壁に激突した。

エースパパ「エースぅぅぅ!!」

エース「いててて…」

エースパパ「だ、大丈夫か!!」

エース「だ、大丈夫だよパパ…」

エースパパ「ふぅ…まったく、これじゃあまだまだ特訓が必要だなエース」

エース「そんなぁ…僕早く宇宙に出たいよ…」

エースパパ「何度も言ってるだろうエース。焦る必要はない。自分のペースで成長すればいいんだ」

エース「でもこうしてる間にもきっと宇宙のどこかでは事件が起きてるんだ…」

エースパパ「あまり気負うなエース。この宇宙にはバウンティハンターや、我々と同じく宇宙を守るフォックス族などもいる。できないところは他の人に任せていいんだ」

エース「だけど、ワープスターのワープ能力があればどんなところにも一瞬で駆け付けられるんでしょ?」

エースパパ「ああ。そうだな。だがそれでも一人で全ては救えないんだ」

エース「どうして?」

エースパパ「二つの事件が同時に起きたら、どちらかを選ばなければいけないだろう」

エース「ひとつを一瞬で片付けてもうひとつのほうに行くよ!ワープスターならできるでしょ?」

エースパパ「その情報はどうする。どこで何が起きているかまでは把握できまい」

エース「う…」

エースパパ「情報を仕入れる者、発信する者、報酬を支払う者、一般人を巻き込まないように避難させる者や、守る者…たくさんの人の力を借りて、やっと我々は動くことができる。それを忘れてはいけない」

エース「うん…」

エースパパ「さあ、そうと分かれば、早速特訓を始めよう!」

エース「うん!」

プルルルルルル…

エースパパ「ん?ちょっと待っててくれエース。電話だ」

ピッ

エースパパ「もしもし?……ああ。……そうか。……分かった、すぐに向かおう。…ああ。ではな」

ピッ

エース「どうしたの?」

エースパパ「すまないエース。特訓の続きは明日だ」

エース「事件?」

エースパパ「ああ。来い、ワープスター!」

ピロピロピロ…

スタッ!

エースの父親はワープスターに飛び乗る。

エース「行ってらっしゃいパパ!気を付けてね!」

エースパパ「ああ、ママにも伝えといてくれ!行ってきます!」

ビューーーン!!

そしてワープスターで宇宙へ飛び立った。

237ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:14:19 ID:4BYAvO4.00




そこからちょっと離れた星。

魔物「グオオオオ…!!」

住民「うわあああ!!」

その都市部で、大量の獣の姿をした魔物が暴れていた。

ピロピロピロ…!

シュタッ!

エースパパ「大丈夫か!早く逃げるんだ!」

住民「こ、腰が抜けて…」

エースパパ「くっ、仕方ないか…じゃあそこでじっとしていてくれ!俺が守る!」

住民「すみません…」

エースパパ「なぁに、気にするな!俺は強いぞ!」

魔物「グォォォ!!」

魔物が飛びかかる。

エースパパ「とうっ!!」


ドゴォ!!


魔物「グァァァ…!」

ジュゥゥ…!

魔物は消滅した。

エースパパ「よしっ!この程度ならすぐに終わりそうだ!さあ、どんどんかかってこい!」

魔物「グオオオオッ!!」

エースパパ「はっ!!」


ドガッ!!

バキッ!!

ドゴッ!!


エースの父は次々と飛びかかってくる魔物たちを一撃で粉砕していった。

住民「す、すごい…!」

魔物「ググゥ…」

魔物たちはその強さに怖気付いたのか、攻めてこなくなった。

エースパパ「どうした?来ないならこっちから行くぞ!」

ダッ!!

エースの父は残った魔物たちに向かって飛びかかる。

238ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:15:45 ID:4BYAvO4.00

魔物「ギャアァァ!!」

魔物たちは様々な反応をした。

エースの父と同じく飛びかかる。

その場で迎撃の構えを取る。

逃げ出す。


ドガガガガッ!!


エースの父はその全てを殺した。

エースパパ「よしっ!任務完了!」

住民「あ…ありがとうございます!!本当にありがとうございます…!!」

エースパパ「どういたしまして!」


???「…なんで…?」


エースパパ「ん?…な、何をやってるんだ!」

振り返ると、消えていく魔物たちの死骸を抱き抱えている者がいた。

蒸発していく魔物の煙によってその姿はよく見えない。

???「どうして…この子たちに戦意はもうなかったのに…」

エースパパ「離れるんだ!危な…くはないか、死んでるし…だが…」

???「答えてよ!!」

エースパパ「!!…そのパワードスーツ…サムス族か!?」

煙が晴れると、そこにいたのは黒サムスだった。

アメリ「そうだよ。私は暗黒のアメリーナ…魔の一族だよ…!!」

エースパパ「魔の一族だと!?この魔物たちの親玉か!?」

アメリ「質問してるのはこっちだよ!!どうして殺したの…!?」

ババッ!!

二人はお互いに敵意を感じて臨戦態勢をとった。

㍍「アメリーナ!!」

二人「!!」

そこへアメリーナと共に宇宙の旅を続けていた㍍アルザークが駆け付けた。

アメリ「アルザークさん…」

エースパパ「アルザーク…お前の連れか?」

㍍「あら、お久しぶりですわね」

アメリ「知り合い…?」

㍍「ミッション中に何度か顔を合わせた程度ですわ。貴方もこのミッションに?」

エースパパ「ああ」

㍍「それで…何を怒っていますの?アメリーナ」

アメリ「何をって……そんなの決まってるでしょ!?」

239ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:17:41 ID:4BYAvO4.00

エースパパ「戦意を失った相手への追撃が良くなかったようだ。確かに言われてみれば、残酷なところを見せてしまったな。すまない」

アメリ「見せてしまったって…なんで私に謝ってるの?謝るなら死んだ魔物たちに…ううん、謝ったってしかたない…あの子たちはもう戻らないんだ…」

㍍「アメリーナ。気持ちは分かりますけれど、逃がせばどこか別の場所で暴れる可能性がありますわ」

アメリ「そしたらその時にまた止めればいいじゃん!」

㍍「それでは犠牲者が増えるばかりですわ。もし私たちの逃したターゲットが誰かの命を奪ったら、どう責任を取るというのですか。宇宙の平和の為には必要なことなのです」

アメリ「だとしても殺す必要ないでしょ!?捕まえればいいじゃん!」

㍍「もちろんミッション内容によっては捕獲する場合もありますわ。しかしどんなミッションでも捕獲できるわけではありません。特にこういった凶暴な魔物や宇宙生物相手では、生半可な檻では破られてしまいます。それなりのものを用意するとなると、当然相応のコストが掛かりますわ」

アメリ「コスト…?結局お金なの?この世界はいっつもお金お金って…!魔界にはそんなの無かったのに…!」

㍍「だから魔界は秩序の無い世界なのでしょう」

アメリ「秩序って何!?こんな酷いことを平気でするのが秩序だっていうなら…そんなのいらないよ!!」

㍍「誰も平気でやっているわけではありませんわ。ですが誰かがやらなければならないのです」

アメリ「そんな…何それ!全然納得できない!!」

㍍「納得などする必要はありませんわ」

アメリ「意味分かんない!!」

ダッ!!

㍍「ア、アメリーナ!」

アメリーナは走り去っていく。

エースパパ「…純粋な子だな。彼女にはこの仕事は向いてないんじゃないか?」

㍍「ええ…しばらく共に旅をして、薄々感じてはいましたわ。いつかこんな日が来るのではないかと…」

エースパパ「一体何者なんだ?」

㍍「…魔界から逃げてきたそうですわ」

エースパパ「逃げてきた…?」

㍍「魔界は一人の王によって支配され、自由などない。自由を求めてこの世界へ来た…と、そう言っていましたわ。…はぁ…怒る筈ですわね…」

エースパパ「…こればかりは仕方がない。彼女の気持ちの問題だ。お前が気に病むことはない。これからどうするかは、彼女自身が決めるだろう」

㍍「そうですわね…」

エースパパ「しかし、魔の一族か…近頃いろんな星に魔族が現れている。警戒を強める必要があるかもな」

㍍「ええ。風の噂で聞いたところによると、幻のギルティースも魔の一族にやられたそうですわ」

エースパパ「何!?彼女が!?」

㍍「数年前、単身魔界に乗り込んで、返り討ちに遭ったそうです」

エースパパ「しばらく名を聞かないと思ったら…そうか…たしかに彼女は一人で突っ走るタイプだったからな…勿論実力があるからこそだが…その彼女ですら勝てない相手となると、相当な実力者でなければ歯が立たんな」

㍍「それに魔の一族は独自のゲートを使い、どこに現れるか分かりませんわ。更に増えれば対応が間に合わなくなるでしょう」

エースパパ「そうか…どうしたもんかね…」

㍍「……」

エースパパ「…ま、取り敢えず連盟に相談してみるよ。会議は俺たちの仕事じゃあない。どっちにしろ俺たちだけじゃ全ては対応できないしな」

㍍「ええ。お願いしますわ」

そして二人は別れた。

240ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:19:26 ID:4BYAvO4.00



それからアルザークは宇宙船に戻ってきた。

㍍「…あら?ロックが開いていますわね」

ガシャッ

アルザークはドアを開けて中へ。

㍍「アメリーナ、戻っていますの?」

アメリ「あ、アルザークさん。おかえりー」

㍍「アメリーナ…先程は…」

アメリ「あー、いいよ!大丈夫!」

㍍「え?」

アメリ「もう、決めたんだ」

㍍「決めたって…?アメリーナ…その荷物、まさか…」

アメリ「うん。私、この船降りるよ」

㍍「…そう…ですか…」

アメリ「フフッ、なんでそんな悲しそうな顔するの?自立しなさいっていつも言ってたのはアルザークさんじゃん」

㍍「ええ…そうですわね…」

アメリ「自分用の宇宙船、実はもう買ってあるんだ。じゃあ、行くね!」

㍍「え…待っ……ア、アメリーナ!」

アメリ「ん?」

㍍「ほ、本当に大丈夫ですの…?」

アメリ「へーきへーき!お金はまだ結構余ってるし、次に行くところも目星つけてるんだ。一人でやってけるよ、アルザークさんのお陰でね!」

アメリーナはいつも通りの純粋な笑顔で言う。

㍍「そうですか…」

アルザークはそれしか言えなかった。

アメリ「それじゃ、行くね!今まで本当にありがとう!アルザークさんっ!」

アメリーナは宇宙船から出ると、深々と頭を下げた。

㍍「ええ…お気を付けて、アメリーナ」

アメリ「フフッ」

顔を上げたアメリーナはやはり笑っていた。

そしてアメリーナはくるりと振り返り、宇宙船から離れていく。

㍍(アメリーナ…先程のことは気にしていないんですの…?まるでいつもと同じ…)

去っていくアメリーナの後ろ姿を、アルザークは不安な顔で見つめる。

アメリ「あ、そうだ」

㍍「…?」

アメリーナは立ち止まり、またアルザークへ振り向く。


アメリ「次会う時は敵同士だよ」


㍍「…!?」

やはりその顔は、笑っていた。

アメリ「バイバーイ!」

そしてアメリーナは楽しそうに、スキップで駆けていった。


㍍(アメリーナ…)

アルザークは旅の途中でアメリーナと話したことを思い出していた。

241ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:20:28 ID:4BYAvO4.00



アメリ「自由になりたかったんだ」

㍍「ええ、その話は何度も聴きましたわ。王の抑圧に耐えかねたのでしょう?」

アメリ「うん。でもね、もし妖魔がいなくても、たぶん私はこの地上に来てたと思う」

㍍「どうして?」

アメリ「だって自由なんだよ、魔の一族の本質は。地上って存在を知ってたら行きたくなっちゃうし、行きたくなったら行っちゃうんだよ。それが私なんだ」

㍍「フフ…単純明快ですわね」

アメリ「難しいことなんて知らないもん!楽しいことが全てだよ!」

㍍「魔力というのを失っても、それは変わりませんのね」

アメリ「うん!ずっと自由を夢見てきて、地上に出てそれが叶ったんだもん!私は私の道を行く!!」

㍍「今は、楽しいですか?」

アメリ「あははっ、決まってるじゃんっ!見たことない景色、見たことない生き物、見たことない世界!それに、アルザークさんが一緒だしね!」

㍍「嬉しいことを言ってくれますわね」

アメリ「本心だもん!」

㍍「フフフ…ですが、そろそろ自立をかんが…」

アメリ「あー!!ほら見てあれ!!すごい綺麗な星!!」

㍍「アメリーナ…」



回想はそこで終わり。

㍍「そうでした…貴女の本質は自由でしたわね。魔界という不自由から抜け出し、そして私という不自由からも抜け出し…どこまでも自由を求めているのですね…」

アルザークは船内を見渡す。

アメリーナがいなくなって、船内は広く感じられた。

㍍「次会う時は敵同士…ですか…」

呟いた後、アメリーナに倣って笑みを浮かべた。

㍍「フフ…望むところですわ。そう言えばアメリーナとは戦ったことがありませんでしたわね。本気の貴女と戦える日を、楽しみにしていますわ」

243ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:40:01 ID:TB4iDozY00





極道の町では。


バチバチバチバチッ!!


武装組織「ぐああああああっ!!」

ドサァッ…

数十人の屈強な男たちが、電撃によって倒れる。

片割れ「ふぅ…まったく…この町で暴れようなんざ命知らずにも程があるで。ヤクザの方が百倍強いわ」

タタタタタ…

人間「あ!片割れ!てめえまた俺らより先にやりやがったな!」

片割れ「フン、お前らが遅いからや。悔しかったら儂より早く駆けつけるこった」

人間「無茶言うなよ…つうかいい加減ウチに入れよ。結局やる事は変わんねえだろ」

片割れ「いい加減にすんのはお前や。入らん言うとるやろ」

人間「ほんっと頑固だなぁ。ナイフのヤツはもうすっかり組に馴染んでるぜ?まあまだまだリハビリ中で全然動けてねえけど」

片割れ「ハッ、アイツは元々弱かったぞ。病気になる前からな」

人間「え?でもファイターだろ?」

片割れ「ファイターにもピンキリある言うたやろ。ワシが"ピン"ならアイツは"キリ"。はっきり言うて、ファイターかどうかも疑わしいレベルや」

人間「そ、そんなことあんのか?でもさすがに一般人よりは…」

片割れ「残念ながら、たぶん一般人にも勝てん。少なくともそこらのちゃんとしたヤクザ相手じゃ、何の役にも立たんやろな」

人間「…マジかよ…」

244ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:41:47 ID:TB4iDozY00

タタタタタ…


アルバロ「ワーーッハッハ!!我が来たからにはもう好きにはさせんぞ!!」

ドドン「ここは俺たちに任せろっ!!」

ポルス「任せろっ!!」


片割れ「……なんやコイツら」

人間「…さあ?」

アルバロ「む?武装組織はもう片付いておるのか…貴様たちがやったのか?」

片割れ「ああ。ワシがやった」

人間「何なんだ?お前らは」

ドドン「フォックスだ!俺はドドン!」

アルバロ「我はアルバロだ!」

ポルス「我はポルスだ!」

人間「フォックス…!お前らがウワサの…」

片割れ「知っとるんか?」

人間「宇宙の平和を守る種族だと聞いたことがあるぜ」

片割れ「ほぉん、そらご苦労なこって」

アルバロ「ああ。だが今回は我々の出る幕では無かったようだな。誰だか存じぬが協力感謝するぞ、貴様たち!」

片割れ「気にすなや。もうこの町にゃ来んでええぞ。ワシがおる限りここは安全や」

人間「オイオイ」

アルバロ「フン、それは連盟次第だな。我々はその任務に従って動いているに過ぎん。貴様たちでは間に合わぬと判断されたのだろう」

片割れ「ああ?何言うてんねん。連盟だかなんだか知らんが、ワシがおらな攻撃されとったぞ。遅かったんはお前らの方や」

アルバロ「遅い!?遅いだとッ!?」

片割れ「うお、なんや急に」

ポルス「アルバロは速さだけはめっちゃプライド高いんや」

片割れ「そうか。お前はなんでワシと同じ口調やねん」

ポルス「何言うてんねん。ワシは元々こんなんやで」

片割れ「はあ?」

ドドン「ポルスはいつもモノマネばっかしてるんだ」

人間「変わってんな…」

245ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:42:25 ID:TB4iDozY00

アルバロ「とにかく!もしまた任務でこの町に来るような事があれば我は必ず貴様より速く駆けつけるからな!!覚えておけ愚民め!!」

片割れ「あーはいはい…」

アルバロ「なんだその態度はっ!!」

人間「まあまあ、落ち着けって。片割れも煽るような事言うなよ。遠くからわざわざ来てくれたんだからよ」

片割れ「ケッ…」

人間「お前らまだ子供だろ?ウチで休んでいけよ。菓子でもやるぜ」

アルバロ「なっ!貴様、我を子供扱い…」

ドドン「ホントか!行く行く!」

アルバロ「…ドドン…貴様…」

人間「ハハハ、まあいいじゃねえか。よろしく頼むぜ、アルバロ隊長」

アルバロ「た、隊長…!フン!そこまで言うなら行ってやらん事もないぞ!」

人間「よし、決まりだな」

ポルス「……」

人間「ん?どうした?お前」

ポルス「普通すぎてモノマネし甲斐がない…ごめんなさい…」

人間(…なんか謝られた…)

ドドン「二人がすまないな。この三人じゃ一番しっかりしてるのは俺だから、頼ってくれていいぞ」

アルバロ・ポルス「それはない」

246ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:43:45 ID:TB4iDozY00



それからアルバロたちは須磨武羅組の事務所へと案内された。

片割れ「てかいいんか?正義のフォックス様をヤクザの事務所なんぞに連れてきて」

人間「まあいいだろ。正義なんて言う気はねえが、俺らもこの町の平和を守ってんだから、仲間みてえなモンだ」

片割れ「ケッ、都合のいいやっちゃ」

アルバロ「邪魔するぞ」

ドドン・ポルス「お邪魔しまーす!」

迫力「あぁ?フォックス族じゃねえか。珍しいな」

人間「あ、迫力さん、いらしてたんですね」

片割れ「このジジイいっつもおらんか…?」

迫力「ははは!居心地がいいもんでね。どうだ片割れ、ウチに入る気になったか?」

片割れ「もうええてその話は」

人間「ほらお前ら、こっちだ」

応接間のテーブルには菓子が大量に置かれていた。

ドドン「うひょー!!いただきまーす!!」

ポルス「いただきまーす!!」

アルバロ「こら!はしたないぞ貴様ら!我が先だっ!」

人間「ハハ、やっぱり子供だな。こんだけあるんだから仲良く食えよ」

迫力「須磨武羅組の纏め役ともあろうもんがなーに和んでやがる。てめえもすっかり親になっちまったな」

人間「そ、それはしょうがないじゃないですか。元々子供好きなんですよ、俺」

迫力「はっはっは!なら仕方ないな!」

片割れ「…ナイフは?」

人間「今日は若とうちのせがれの世話してもらってるよ。おもちゃ屋にでも行ってるんじゃねえか?」

片割れ「そうか。まあアイツにもそれくらいならできるか…」

人間「せがれはともかく、若は親分や迫力さんに似て結構ヤンチャだからな。結構苦労してるぜきっと…ハハ」

迫力「そりゃどういう意味だ?」

人間「いやぁ…ハハ…」

247ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:44:47 ID:TB4iDozY00

ムシャムシャ…

ドドン「うまいっ!うまいっ!」

ボリボリ…

ポルス「うまいっ!うまいっ!」

アルバロ「…もうちょっと静かに食えんのか貴様らは」

ドドン「うるさいぞアルバロ!そんなこと言うなら俺がお前の分も食ってやる!」

アルバロ「ふざけるな!我はただ貴様らのせいでフォックス全体の品位を疑われるのが我慢ならんだけだっ!」

ポルス「フン!すーぐ頭に血が昇るお前に品位がどうこうなどと言われたくはないわ!」

アルバロ「えぇいやめろ!我の真似をするでない!」

迫力「ははははは!事務所がこんなに賑やかなのはいつぶりだ?」

人間「ここに若とせがれが混ざったらもっと凄い事になりそうだな…早めに帰ってもらうか」

片割れ「お前、自分で呼んどいて…」

ドドン「くんくん……ん?これは…!」

アルバロ「む、どうした?」

ドドン「火薬の匂いがする!」

ドドンはそう言って勢いよく立ち上がる。

迫力「お、分かるのか。鼻がいいな。そりゃたぶんコイツだ」

カチャッ…

迫力は拳銃を取り出した。

人間「ちょ、迫力さん!子供の前でそんなもん…」

迫力「良いんだよ。フォックス族はガキの頃からブラスターを扱ってる、俺らなんかとは違う世界に生きてる奴らさ。この程度で驚きゃしねえよ。だろ?」

アルバロ「まあな」

ドドン「違う」

迫力「何?」

ドドン「この火薬は…拳銃の感じじゃない。俺が一番好きな匂いだ!」

ダッ!!

人間「えっ!?」

ドドンは急に隣の部屋へ入り、その奥の厳重な金庫へと飛び掛かった。

ドドン「この中にあるっ!!爆弾の匂いだ!!」

248ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:46:05 ID:TB4iDozY00

人間「嘘だろ…なんで分かるんだ…」

アルバロ「此奴は以前に巨大な爆発を目撃して以来、爆弾に取り憑かれてしまったのだ」

ポルス「流石にこの嗅覚は我にも真似できん」

ドドン「フッフッフ、まあそれほどでもある!」

ばっ!

ドドンはジャケットの前を大きく開く。

その内側には大量のいろんな爆弾がついていた。

人間「んなっ!?何やってんだてめえ!危ねえぞ!」

ドドン「大丈夫だぞ。安全装置をつけとけば勝手に爆発はしないからな」

人間「いやそりゃそうだが…怖くねえのか…?」

ドドン「むしろ、愛おしい」

ドドンは爆弾を一つ取り出して、頬ずりする。

迫力「はははは!こりゃとんでもねえ奴がいたもんだな!」

片割れ「イカレとるわ…」

ドドン「この爆弾、俺にくれ!」

人間「……コイツはやれねえよ…」

ドドン「なんで!?」

片割れ「なんでって、図々しいやっちゃな…」

人間「危険すぎる。ファイターと呼ばれる種族ですら、コイツの爆発では大きなダメージを負い、最悪死ぬ。一般人なんか灰すら残らねえだろう」

ドドン「…!!」

人間「…オイなんでさっきより目ェ輝かせてんだてめぇ…」

ドドン「そんなのボム兵しかないじゃないか!!幻にして究極の爆弾っ!!」

アルバロ「ああ、そういえばこの前言っておったな。憧れの爆弾だと」

人間「何ぃ!?ダメなもんはダメだ!」

249ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:47:04 ID:TB4iDozY00

迫力「まあいいじゃねえか。渡してやろうぜ人間」

人間「えぇ!?何言ってんですか迫力さん!」

迫力「俺らはこんなもん絶対に使わねえが…宇宙で戦うコイツらなら、その力が必要になることもあるだろうよ」

人間「ですが…」

迫力「ガキには過ぎた力だと言いてえ気持ちも分かるがな。フォックス族はファイターの中でも飛び抜けて正義感の強い奴らだ。少なくとも悪用はしねえ筈さ」

人間「……分かりましたよ」

ドドン「ホントか!!ありがとう!!」

カチッ…カチッ…カチッ…

ガチャン

人間は金庫を開けた。

ドドン「うおおおおっ!!ボム兵!!すごい!!本物だー!!すごすぎる!!」

ボム兵を抱え上げて跳びはねるドドン。

人間「ったく…危険物だぞ?子供がプレゼントもらったみてえにはしゃぎやがって…」

ドドン「ボム兵は本当に貴重なんだぞ!?もう職人がいないから、現存するボム兵はもう世界に数十しかないと言われてるんだ!」

人間「そりゃこっちでもある程度調べたが…」

迫力「お前さん、その服ん中につけてる爆弾は自作か?」

ドドン「え?うん、そうだけど。あ、でも買ったヤツもあるぞ」

迫力「若干見た目が歪だったからな」

ドドン「む…まあな。やっぱりまだプロの作った物には勝てないぞ…」

迫力「いや、その若さでそれだけのもんが作れんなら立派だ。もしかしたら、てめえならなれるかもしれねえな。この世から消えちまった、ボム兵職人に」

ドドン「おう!最初からそのつもりだ!」

人間「ええっ!?こんなもんこれ以上増やしちゃダメでしょ!」

迫力「心配しなくてもコイツぁ量産できるような代物じゃあねえさ。もし作れてもそこら中に出回るってこたあねえ。それにこの目を見てみろよ。とてもじゃあねえが止められねえぜ」

人間「……!」

アルバロ「我から謝ろう。すまぬな。だが案ずるな。悪用だけは絶対に我々がさせん。約束する」

人間「ハァ…分かったよ…」

片割れ「ククッ…苦しそうやな人間」

人間「胃がもたねえよ…まったくファイターってのはどいつもこいつも…」

片割れ「お前も一応ファイターやろ」

人間「…今ならBの言ってたことが分かる気がするよ…"ピン"の方のファイターは、明らかに俺らとは一つ上の次元に生きてる…」

250ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:48:24 ID:TB4iDozY00



それから数分後。

ドドン「んじゃまたなー!」

ポルス「またなー!」

アルバロ「世話になったな」

人間「おう。別に任務とかじゃなくても、普通に遊びに来いよ。歓迎するぜ」

片割れ「ヤクザが子供歓迎しとんちゃうぞ」

アルバロ「ヤクザ!?ヤクザだったのか!?」

片割れ「気付いとらんかったんか…」

ドドン「ヤクザって、反社会組織だろ?それじゃあいつか戦うことになるかもな」

人間「ならねえさ。俺らは町の平和を守ってる、ヤクザん中ではマトモな方だ」

アルバロ「フン、まあ連盟に目を付けられんように気を付ける事だな」

人間「おう」

迫力「そういやぁてめえら、何でここまで来たんだ?アルバロはともかく、ドドンとポルスはまだアーウィンに乗れる歳じゃねえだろう」

ドドン「アルバロのアーウィンの後ろに乗ってきたぞ」

ポルス「ギュウギュウ詰めだぞ」

アルバロ「フン、そうなのだ。我が貴様らに遅れを取ったのは此奴らが乗ってアーウィンの速度が落ちていたからであって、本来ならば…」

ドドン「いや、途中で道に迷ってたからだぞ」

ポルス「めちゃくちゃ迷ってたぞ」

アルバロ「貴様ら〜!!」

ワハハハハ…

そしてアルバロたちは帰っていった。

251ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:49:42 ID:TB4iDozY00


片割れ「ジジイ」

と、三人を見送った後で片割れが口を開く。

迫力「なんだ?」

片割れ「なんでそんなにフォックスに詳しいんや?」

迫力「俺ぁ大戦を経験した世代だからな。そん時に色んな種族と戦ったのさ。仲間としても敵としてもな」

人間「だから迫力さんは人としてめちゃくちゃデカいんだよ」

誇らしげに人間は胸を張る。

片割れ「お前が偉そうにすな。色んな種族って?」

迫力「ファイターと呼ばれる種族とは軒並み戦ったよ。マリオにルイージ、ドンキー、リンク、ファルコン、サムス…そしてフォックス。えーっと…あと何だったかな。そうそう、ヨッシー、ピカチュウ…カービィとも戦ったな」

片割れ「ほーん…凄いな」

人間「ファイターが戦争に出られねえ今じゃ考えられませんね」

迫力「そん中でもフォックスとは因縁があってな」

片割れ「因縁?」

迫力「四闘士っつうのを聞いたことくらいあるだろう」

片割れ「四闘士…たしか大戦でめっちゃ活躍した四人の戦士やな」

迫力「ああ。普通の人間でありながら特異な能力に目覚めた男、煙草マスター。美しく舞うようにコンボを決めるカービィ、雅。電撃・格闘・アイテム捌きとあらゆる技術が突出したピカチュウ、ポンチコ。そして四闘士最強と謳われた伝説のフォックス、ロハス。俺はこのロハスと一戦交えたんだ」

片割れ「で?負けたんか」

迫力「ああ」

片割れ「一方的な因縁やな…」

迫力「ははは!まあな!だが結構善戦したんだぜ?」

片割れ「負けたら意味ないやろ、戦争なんやから」

迫力「そりゃそうだ。ま、そういう事もあって俺は調べたのさ、フォックスについてな。終戦後にはフォックスたちの村にも行った。勿論戦いはしなかったがな」

片割れ「そうか」

ナイフ「おう!どうしたんだ三人揃って」

そこへ子供二人を連れてナイフが帰ってきた。

人間「おかえりなさい、若。お前も」

若「ただいまー」

子人間「ただいま父ちゃん」

迫力「何、他愛ねえ話さ。そんな事よりお前たち腹減ってんだろ。早く上がんな。メシにしよう」

子供たち「やったー!」

片割れ「ワシはもう帰るで」

ナイフ「食っていかないのかよ」

片割れ「ヤクザと一緒にメシなんか食いたないわボケ」

片割れは去っていった。

ナイフ「ちぇっ、いつまでも意地張りやがって」

人間「いや、アイツさっきめっちゃ菓子食ってたから、普通に腹一杯なんだと思うぞ」

ナイフ「…素直じゃねえなぁ」

252ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:23:13 ID:IfN.ppww00





同日、フォックスたちの村では。


チュンッ!チュンッ!

ズガガッ!!


高速で動き回る三つの的が、一瞬で全て撃ち抜かれる。

ムメイ「おー、やるなぁチビのくせに…」

???「へっ、楽勝だ」

それを撃ったのは、とても幼い白フォックス。

ナザ「これが本物の"天才"ってヤツか…」

ギル「マクラウド家の血筋なだけあるわね…同世代のパターソンはまだ幼稚園で水鉄砲撃ってるわよ」

ムメイ「きっとコイツは九尾になる逸材だ。千年後じゃ見届けらんねえのが残念だがな。ナザ坊、この調子じゃあお前の記録もすぐ抜かれるぜ」

ナザ「そっすね。つーかそのナザ坊ってのやめてくれませんかね。もうそんな歳じゃねえっすよ…」

ムメイ「呼びやしいんだよ。なあ、天才?」

天才「ああ。ナザボー、呼びやしいぜ」

ナザ「うるせえ!」

ギル「フフ、ムメイさん、すっかりママみたいになって」

ムメイはあの事件で片腕を失ってからは、後進の育成をしている。

事件の後、生き残りのフォックスたちは崩壊した村を捨て、避難先のこの隣村へ移り住んだ。

フォックス以外の住民たちの協力もあり、訓練場やアーウィンの格納庫なども建設し終え、既に任務もこなし始めていた。

253ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:25:00 ID:IfN.ppww00

ギル「そう言えばドドンとポルスは?今日は任務ですか?」

ムメイ「ああ。たしかアルバロも一緒に、外国の武装組織の鎮圧だったかな」

ギル「そうですか。あの子たちもすっかり一人前のフォックスになっちゃったわね…」

ナザ「はっ、まだまだだろ。ドドンはなんか知らんが爆弾作りに夢中だし、ポルスは相変わらずモノマネばっかしてるし、アルバロも速さばっかで精細さに欠ける」

ムメイ「ハハハッ!良いじゃねえか、個性があってよ。何の取り柄も面白味もねえフォックスよりずっとマシだぜ」

フトゥ「おい、そりゃ俺のことか?」

ギル「フトゥさん!」

ナザ「お疲れっす。帰ってたんすね」

フトゥ「ああ、ついさっきな。リカエリス大佐は?」

ムメイ「まだ調査から帰ってねえよ」

フトゥ「まだ!?俺の任務より前から出てなかったか?あの人」

ナザ「そういや遅いっすね。調査っつっても宇宙に出たわけじゃねえ筈だし…」

ムメイ「連絡取れねえんだよ。あの人のことだから大丈夫かと思ってほっといたんだが…そう言われるとたしかに気になってきたぜ…おいフトゥ、応援に行くぞ」

フトゥ「はぁ?帰ったばっかなんだが…」

ムメイ「別にいいだろうが。大した任務でもなかったろ」

フトゥ「そこそこキツかったっつーの。つうかお前も行く気か?」

ムメイ「ああ。ナザ坊とギルティースはこれから別任務だ。他のも動けるヤツは出払ってる。人手不足だからな…」

ギル「私は大丈夫ですよ?今回の任務はかなり楽ですし、戦闘もほとんどしなくていいみたいだから」

ナザ「だな。戦わないならむしろ俺がいない方が都合いいだろ。俺がいると目立っちまう。フトゥさんと俺で行きましょう」

フトゥ「しゃあないな。まあ大佐に何かあったら大変だしな。それでいいか?ムメイ」

ムメイ「むぅ…分かったよ。んじゃアタシら三人で行くぞ」

フトゥ「結局ついてくんのかよ!大丈夫なのかその体で」

ムメイ「大丈夫だって。ちょっと見に行くだけだぜ?ナザ坊のアーウィンに乗せてもらうし」

ナザ「えぇ、俺っすか?」

ムメイ「んだよそのイヤそうなカオは。お前の操縦ならもし何かあってもなんとかしてくれるだろ?」

ナザ「そりゃフトゥさんより断然上手いっすけど」

フトゥ「おい」

ムメイ「ずっと村に篭ってたら鈍るじゃねえか。たまには出させろってんだ」

ナザ「私情じゃねえすか。まあいいけど…」

ムメイ「おし、決まりだな。悪いな天才!稽古はまた今度見てやるよ」

とムメイは天才の頭をわしゃわしゃと撫でる。

天才「フン、もういいぜ。俺は一人でできるし、すでにムメイより強いからな」

ムメイ「ケッ、可愛くねえガキだぜ。実際片腕のアタシよりゃ強えかもしんねえがな」

ムメイは言葉では悪態をつきながらも、天才の成長を喜ぶような笑みを浮かべていた。

254ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:26:49 ID:IfN.ppww00




それから三人はリカエリスの向かった山奥へと飛んだ。

ムメイ「な…何だこりゃあ!?」

アーウィンから見下ろすと、そこには球状に抉り取られたかのような巨大な跡だけが残っていた。

ナザ「なんか、爆発でも起きたんすかね」

フトゥ『爆発じゃここまで綺麗な断面にはならない。重機か何かで掘削した跡だろう』

ムメイ「ばっかお前、こんなでけえ重機があるかよ」

ナザ「じゃあ何なんすかね」

ムメイ「知るか!」

ナザ「そもそも大佐って何の調査してたんすか?」

ムメイ「あー、この近くの町に魔の一族?っつうのが出たんで調査してたんだよ」

ナザ「魔の一族!?それってギル姐の姉ちゃんを殺した…」

ムメイ「ああ。でもそいつは大佐が見つけて倒した」

ナザ「え」

ムメイ「問題はその後、町の住人からアーウィンの目撃情報があったらしいんだ」

ナザ「アーウィン?」

フトゥ『俺たちの村のフォックスではないってことか』

ムメイ「ああ。ここしばらく大佐以外この辺には近づいてすらないはずだ。つまり掟を破った奴がいる」

ナザ「アーウィンを任務外で村の外に持ち出すな、とかのアレっすか」

フトゥ『アーウィンは連盟からの任務において、出入国などのあらゆる手続きを完全にスルーすることができる。迅速に任務をこなす為にな』

ムメイ「そんなシロモノを勝手に持ち出したらやべえって話だな。密入国しまくりだ」

ナザ「でも任務は各国にも伝わってるんじゃないんすか?任務外で侵入したら流石に捕まるでしょ」

フトゥ『たまにある緊急事態の出動は各国に伝わっていない事も多い。つまりその場合、完全に無断入国になる訳だが…黙認されてる』

ナザ「はあ?なんでっすか?」

フトゥ『俺たちフォックス族が信頼されてるからだ』

ナザ「信頼って…」

フトゥ『大昔…つっても本当に大昔の何千年前とかだが…ファイターと呼ばれる種族の一部が暴れ出す事件があったそうだ。その時フォックス族だけは誰一人暴れる事なく、暴れ出した奴らの対処に当たった。それがきっかけだ』

ナザ「ふーん…そんな昔話がまだ通用してるんすね」

フトゥ『まああくまできっかけだ。それ以降も正義を貫き続けたからこその結果だろう』

ムメイ「要はその掟破り野郎は、アタシたちの正義を利用してやがるわけだ」

ナザ「なるほど。何企んでるんすかね」

ムメイ「それを大佐が調査してる…はずなんだがな」

こんなはずではないという感じでボリボリと頭をかくムメイ。

255ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:27:54 ID:IfN.ppww00

フトゥ『本当にここで間違いないのか?』

ムメイ「これ見りゃわかんだろ!どう見ても何かあったヤツだろこりゃ!」

フトゥ『…まあ…』

ナザ「とにかく大佐を探しましょう」

ムメイ「ああ!」


三人はしばらくアーウィンでぐるぐると飛び回り、リカエリスの手掛かりを探す。



ドォォォォン!!!!



ナザ「……え?」

突然の爆発。


ヒュゥゥゥゥ…

ドドォォン…!


フトゥの乗っていたアーウィンはそのまま落下し、火を上げた。

ムメイ「フトゥーーっ!!」

ナザ「な、何すか!?攻撃!?」

ムメイ「分からん!!フトゥ!応答しろ!!フトゥーっ!!」

ナザ「…………くっ…ダメだ…」

ムメイ「クソッ!!ふざけやがって!!どっから撃たれた!?とにかく警戒しろナザ坊!!」

ナザ「はい!」


ドォォ!!


ナザ「!?」

ムメイ「クソッ!!やられた!!」

ナザレンコたちのアーウィンも、左翼が撃ち抜かれた。

ナザ「でもこれくらいなら大丈夫っす…!俺の操縦技術がありゃ飛べます」

ナザ(…しかし…この抜かれ方からして真後ろに付かれてるな。見えねえってことはステルス機か…よく見りゃ右翼にも少し掠ってる。弾のばらつきがデケぇ。一人が撃ってもこうはならねえだろう。敵は恐らく複数人…しかもフトゥさんは一撃、こっちも数発で捉えられた。相当な手練れだ…勝ち目あんのかこれ…)

一瞬でナザレンコは思考を巡らせる。

そして。

256ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:28:40 ID:IfN.ppww00


ドドドドドドドドッ!!


ナザレンコは地面を撃ちまくり、土煙を巻き起こした。

ナザ「逃げます!」

ムメイ「ああ!」


キィィィィィン!!


ナザレンコは全速力でその場を離脱する。

ムメイ「チッ!フツーに追ってきてやがるぞ!アーウィンだ!三機!」

ナザ「弾の感じからしてそうだとは思ったが…大佐もアイツらにやられたのか…?」

ムメイ「畜生!どういうつもりだ裏切りもんども…ってかなんで見えるんだ?ステルス機じゃねえのか」

ナザ「さっきの土煙被ったからっす」

ムメイ「あーなるほど!すげえなお前!」

ナザ「つっても見えにくいことに変わりはねえし、飛んでりゃ土も落ちちまう。今のうちになんとかしねえと…」

ムメイ「そうか…なんか作戦はあんのか?」

ナザ「あったらやってますよ」

ムメイ「だよな」

ナザ(向こうは手練れ三人に魔改造アーウィン三機…こっちは隻腕含む二人に隻翼アーウィン一機…俺がそこそこ天才なのを加味しても、キツすぎる戦力差だ…!)

ムメイ「クソ…何か手は……ん!おいナザ坊、あそこ!」

ナザ「なんすか」

ムメイ「洞窟だ!あん中なら一匹ずつ誘い出せるんじゃねえか!?サシならお前に敵うヤツぁそうそういねえ!」

ナザ「なるほど、洞窟ごと壊されて生き埋めっすね…」

ムメイ「そうかぁぁ!!馬鹿かアタシは!」

ナザ「落ち着いてください。大丈夫っすよ。ムメイさんには期待してないんで」

ムメイ「うおい!先輩を敬えや!」

ナザ(…どうする…ガチでまずいぜ…何も打開策が浮かばねえ…ムメイさんは動転してまともに思考が働いてなさそうだし…それこそ仲間が助けに来てくれたりしねえとどうしようも…)

257ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:29:38 ID:IfN.ppww00


ザザッ…


ナザ「!!」

タロウ『あー、あー、聞こえるかナザレンコ。こちらタロウだ』

通信してきたのは、生き残りフォックスの一人、タロウだった。

ムメイ「タロウ!なんでここに!」

ジロウ『ん?その声、ムメイも生きてたか!こちらジロウ!任務から戻ったら、ちょうど出発するギルティースと鉢合わせてな!話を聞いて応援に来たぞ!』

サブロウ『こちらサブロウ!俺らが来たからにゃもう安心だぜ!』

ナザ「ジロウさん!サブロウさん!助かります!」

タロウ『今お前らを追ってるが、この後ろについてるハエを落としゃあいいんだな?』

ムメイ「ああ!頼む!」

ジロウ『楽勝だな!アーウィンの射撃技術なら俺たちタロジロサブロ、村でもトップクラスだぜ!』

サブロウ『いくぞっ!!』


ドドドォォォォォォォォン!!!!


ムメイ「おおっ!!やった………は!?」

後ろを見ると、三機のアーウィンは依然追ってきている。

そしてその後ろで大爆発が起きていた。

ナザ「……墜とされましたね…」

ムメイ「嘘だろ…!?おい!!タロウ!ジロウ!サブロウ!返事しろーーっ!!」

ナザ「…どこから撃たれた…?三人はたしかにアイツらの後ろについてたはずだ…」

ムメイ「ん…!?」

ナザ「どうしました…?」

ムメイ「……タロジロサブロのアーウィンの爆煙で…見えちまった……クソッ…」

ナザ「いや、だから何がっすか、ムメイさ……ん……」

そこでナザレンコも気付く。

258ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:30:52 ID:IfN.ppww00

背後に迫る、更なるステルスアーウィンたちが、爆煙の煤が付いたことで炙り出されていたのだ。

ムメイ「なんだよ…あの数……」

その数は優に五十を超えていた。

ナザ「……!」

次の瞬間。


ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!


アーウィンたちによる一斉射撃。


ドドォォォォン!!!!


避けられる筈もなく、ナザレンコのアーウィンは一瞬にして仕留められた。


ヒュゥゥゥゥ…


アーウィンが落ちていく。

その下は深い崖になっていた。

259ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:31:57 ID:IfN.ppww00



タタタタタ…

???「この辺りに墜ちた筈だ」

???「あれ程の射撃を受けて生きてはいまいが…また面倒な奴らが捜索に現れるかもしれないからな。一切の痕跡を残すな」

崖下を流れる河岸を緑フォックスたちが走る。

???「あったぞ!アーウィンだ」

川の真ん中に、もはや原形を留めていないアーウィンがあった。

そこへフォックスたちが集まる。

一人がアーウィンに入り、中のパイロットを引きずり出した。

???「問題ない。死んでいる」

???「右腕はどうした?」

???「墜ちた時に失ったのかと思ったが…出血していないところを見るに、元々隻腕だったらしい」

カタカタカタカタ…

と、一人がコンピュータを操作する。

???「データがある。ムメイ・ブラッドという女フォックスだ。フォックスの訓練場でオリジナルが行ったクローン肥大化及び魔力解放実験の時に、右腕を失っている」

???「そうか」

ピピピピ…

???「こちらCR-120。どうした」

???『こちらCR-148。先程墜とした三機のパイロット、タロウ・シーゴ、ジロウ・ロックナー、サブロウ・ハックの死亡を確認した』

???「了解。CR-140から160は機体と死体を回収して基地へ戻れ」

???『了解』

???「よし、我々も戻るぞ」

???「ああ。その前に一応、周囲の生体反応を確認しておく」

ピッ、ピッ、ピッ…

一人が端末を操作し、画面を見つめる。

???「…!一つ、我々以外に反応がある!」

???「何!?二人乗っていたのか!捜せ、まだ近くにいる筈だ!」

???「いや…」

ピピピピ…

そこで通信が入る。

???「チッ、何だ。こっちは今…」

???『こちらCR-135。最初に墜としたアーウィンのパイロットの死亡を確認した。フトゥ・ブラッドで間違いないだろう』

???「ブラッド…?ムメイ・ブラッドの血縁関係者か」

???『…いや、一年前に結婚しているようだ』

???「…結婚……まさか、その生体反応は…」

???「ああ…この女の位置と重なっている」

260ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:35:03 ID:IfN.ppww00





ザァーン…

ザザァーーン…


ナザ「ん…」


ナザレンコが波の音で目を覚ます。

ナザ「どこだここ…」

そこは見知らぬ砂浜だった。

ナザ「はっ!そうだ!ムメイさん…!!」

ナザレンコは体を起こし辺りを見回す。


ザッ…

ザッ…

ザッ…


しばらく歩き回り。

ナザ「……クソッ……」

ナザレンコは膝をついた。

ナザ「…いるわけねえか……あの時…川に墜ちて…俺を外に…蹴り出した……ムメイさんは…あのキズじゃもう……」

ザッ、ザッ、ザッ…

???「どうした?そんなボロボロの格好で」

歩いてきた老人が問いかける。

ナザ「……いや…なんでもねえっすよ…」

ナザレンコは俯いたまま、無気力に答える。

???「何でもないということはなかろう。来い」

ナザ「え…」

ザッ、ザッ、ザッ…

老人は手を貸すこともなく、歩いていく。

ナザ「ちょ…ジイさん…!」

ナザレンコは渋々立ち上がり、老人を追った。

261ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:36:29 ID:IfN.ppww00



それから数十分。

ナザ「ど、どこまで行くんだよ!?」

???「此処じゃ」

ナザ「…え?」

辿り着いたのは、険しい山の中腹にある山小屋だった。

ナザ「こんなとこに住んでんのか…」

???「腹を満たせば少しは回復するじゃろう」

小屋の前には、巨大なイノシシの丸焼きが置かれていた。

ナザ「…でっか…!」

???「儂一人では食い切れんのでな。腐らすのも勿体なかろう」

ナザ「…ありがてえよ……けど…悪い……ジイさん……俺…食欲が……」

???「莫迦者が。食わねば戦えん」

ナザ「……戦う…か……」

ナザレンコは自分の震える手を見つめる。

???「怖いか」

ナザ「…そう…なのか…?俺はビビってんのか…?」

???「恐怖する事は恥ではない。戦えぬなら、別の道を選ぶ事も一つの手じゃ」

ナザ「別の道…?でも…もう…大人はいねえ……俺がいねえとアイツらは…」

???「直ぐに決める必要は無い。お前が今すべきは食う事じゃ」

ナザ「なんでだよ…まあいいや…分かったよ……いただきます」

ガブッ!!

ナザレンコは肉にかぶりついた。

悪夢を振り払うかのように豪快に、すごい勢いで食いちぎり、咀嚼し、飲み込む。

262ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:37:09 ID:IfN.ppww00


幼い頃から天才と言われてきた。

何度も仲間を救ってきた。

仲間を失っても気丈に振る舞い、皆を勇気付けた。

頼られる存在だった。

勝ち続けてきた。

だが何も出来なかった。

そして護らなければならないはずの存在に、命を救われた。

ナザ「なぁ…………ジイさん……」

???「……」

ナザ「…なんだよこの味付け………しょっぺえな………ちくしょう……」

顔を脂まみれにしながら肉を食い散らすナザレンコの頬には、ダムが決壊したかのように涙が伝っていた。

263ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:38:27 ID:IfN.ppww00




翌朝。

ナザ「はっ…!」

ナザレンコは飛び起きる。

ナザ「…泣き疲れて眠ってたのか…子供かよ…」

鏡に映る自分の顔の涙の跡を見て、呆れる。

ナザ「うわっ!つうかなんだコレ!顔めっちゃギトギトじゃねえか!気持ちワリイ!」

洗面台へ行き、蛇口をひねる。

ナザ「……あ、そうだった。ここ水道通ってねえんだ。たしか近くに川があるって言ってたな…そういやジイさんどこいった?」

テーブルを見ると、書き置きがあった。

ナザ「なになに…儂は修行場へ向かう。暫くは帰らん。出て行くも居座るも好きにするが良い…か。ったくお節介なジイさんだ…こんな不便なとこじゃ居座ろうにも無理だろうが」

ナザレンコはすぐに身支度を整える。

と言っても着替えも荷物もアーウィンもなく、川で顔や体を洗うくらいだが。

ナザ「ん…?」

体を洗おうとしたところで、ナザレンコは体中の怪我に包帯やガーゼが貼られていることに気付いた。

ナザ「…ホント、お節介なジイさんだな…」

ずっと俯きっぱなしで顔も分からず、名前も聞いていない。

ただ白い服と緑のオーバーオールだけが記憶に残っていた。

ナザ「ありがとよ、ジイさん」

そうして、ナザレンコは山小屋を発ち、村へ帰るため歩き出した。

264ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:39:00 ID:IfN.ppww00




数日後。

ナザ「ただいま」

ギル「ナザレンコ!!」

村の入り口に、ギルティースが待っていた。

ナザ「おう」

ギル「おう、じゃないわよ!!心配したのよ!全然連絡つかないし!今から私も捜しに行こうかと思ってたとこよ!」

ナザ「悪い」

ギル「…何があったの?ムメイさんたちは?」

ナザ「……死んだよ。生き残ったのは俺だけだ」

ギル「え…」

ナザ「ムメイさんもフトゥさんも…大佐も…タロジロサブロの三人も……誰も…救えなかったんだ…」

ギル「そんな……何が…」

ナザ「……あの時の宇宙生物が、生き残ってたんだ」

ギル「え!?」

ナザ「それで…しかも繁殖してて…なんとか全部討伐したんだが…みんな…食われちまった…」

ギル「………そっか……辛かったわね」

ギュゥ…

ギルティースはナザレンコを抱き締める。

ナザ「よせよ…」

ギル「私たちがいるわ。大丈夫…大丈夫だからね…」

ナザ「……ああ…」


ナザレンコはあのフォックスたちの事は誰にも言わなかった。

この村へ戻る数日間の帰り道で、全てを一人で背負うという覚悟を決めていた。

これ以上犠牲を出さないために。

265ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:31:10 ID:aaJ2oUP600





数ヶ月後。

魔法学校では。

小学生「おっすおこめ!」

おこめ「おはよう!」

校舎の廊下で、小学生とおこめは元気に挨拶を交わす。

小学生「今日は召喚術の授業だっけか」

おこめ「ぼくはお米の品質アップ魔法の授業!」

小学生「はぁ?そんな授業ないだろ…?」

おこめ「放課後に個人研究してたら、センセーに見つかって、カリキュラムに組み込んでもらえた!」

小学生「何ぃ!?すげーじゃん!」

おこめ「さんきゅ!」

小学生「いつも研究頑張ってたもんな、お前。ホントに米が好きなんだな」

おこめ「うん!とゆーわけで、またあとで!」

おこめは去っていった。

小学生はそれを見送ってから、教室に入った。

小学生(しっかしどーしたもんかな。㌦のヤツはいきなり飛び級で中等部に行っちまうし、おこめも順調に夢に近づいてる…ライバルたちがどんどん前に進んでるっつーのに、俺は…)

昼間「皆さんおはようごさいます」

生徒ら「おはざーす」

昼間「今日は使い魔の召喚魔法陣について学びましょう。魔法書の二十九ページ目を開いてください」

という感じで授業は進んでいく。

266ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:32:18 ID:aaJ2oUP600


そして授業の中盤。

昼間「それでは、実際にやってみましょう。この魔法陣では最弱の使い魔しか出ないので安心してください」

生徒ら「はーい」

小学生「………」

昼間「どうしました?」

小学生「おわっ!」

昼間「そんなに驚くことないでしょう…何か考え事ですか?」

小学生「先生…俺、こんなことしてていいのかな…」

昼間「どういう意味ですか?」

小学生「あ!いや、召喚魔法を馬鹿にしてるとかそういうんじゃないですよ!?同期の二人がどんどん遠くへ行ってる気がして…このままじゃ…」

昼間「そうですねぇ。あの二人…特に㌦ポッターくんは高い才能の持ち主ですよ。だけど才能以上に、君と二人とでは決定的な違いがある」

小学生「違い…?」

昼間「目標です。自分でも心当たりがあるのではないですか?」

小学生「…」

小学生は俯く。

昼間「㌦くんは錬金術師、おこめくんは米魔法の開発。二人はその具体的な目標に向かって真っ直ぐ突き進んでいる。君はどうですか?」

小学生「俺は…強くなりたい」

昼間「ええ。ただ強くなりたいと、漠然としたものしか見えていません。どう強くなるのか、どうやって目標に近づくのか、そのゴールはどこなのか。自分自身で気付き、明確にしなければ、大きく成長することはできません」

小学生「…ゴール、か…」

昼間「ですが焦ることはありませんよ。まだ学校生活の半分も過ぎていないのですから。高等部の卒業までに何かを見つければいいのです。見つけさえすれば、君はきっとすぐに掴み取れる筈だ」

小学生「でも…俺には時間が無いんです…!」

小学生は焦りと不安を表情に浮かべる。

昼間「…そうですね…分かりました。それじゃあ今日の放課後、私の職務室に来てください。相談に乗りましょう」

小学生「分かりました…」

267ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:33:37 ID:aaJ2oUP600



そして放課後。

コンコン

ガチャリ

小学生「失礼します」

昼間「どうぞ、そこの椅子に座ってください」

小学生「はい」

昼間「今日の召喚魔法、素晴らしかったですね。文句無しの満点ですよ。やはり君にもちゃんと才能はある」

小学生「ありがとうございます…でもあんな基本的な召喚魔法くらいで喜んでられないですよ。アイツらに比べたら…」

昼間「他の人と比較する必要なんてありませんよ。大事なのは自分の目標です」

小学生「俺の目標…先生だって分かってるでしょ…?俺は…アイツを助けてやらなきゃいけないんです…!アイツは今も苦しんでるかもしれない…!」

昼間「…はい。しかしあれからずっと捜し続けていますが、彼女が見つかる気配はありません」

小学生「…先生が何年も魔法書で捜しても見つからないなんて、そんなことあるんですか…?」

昼間「ええ。いくつかの可能性があります。一つは、感知の及ばない程離れた場所へ移動している可能性。ただ、彼女を追跡できなくなったのは、彼女が逃げてから僅か数時間以内のこと。魔法書による感知は最大で三千キロ程度まで拡げられますから、その短時間で範囲外に出るのは難しいでしょう」

小学生「二つ目は…?」

昼間「魔力の感知を妨害する魔法を使っている可能性。ですが…」

小学生「アイツにそんな技術はないはず…」

昼間「ええ。この可能性も低いでしょう。そして三つ目は、別の空間に移動している可能性です」

小学生「別の空間…?この魔法学校みたいな…?」

昼間「ええ。暴走時の彼女の魔力量なら、空間に無理やり穴をこじ開けることも不可能ではありません。他の空間に入り込まれたら、その空間を見つけ出さない限り絶対に感知できない」

小学生「…そんな…他の空間なんてどうやって見つけるんですか…?」

昼間「空間を移動する際に発生する歪み…これを観測し、空間魔法によってこじ開ければ、理論上はその空間に辿り着けます」

小学生「じゃあその空間の歪みってのを探せば…!」

268ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:34:37 ID:aaJ2oUP600

昼間「ですが空間の歪みは魔法書では感知できない上、一定の時間が経てば消えてしまう。彼女がその空間に籠ったまま出てこなければ、もう見つけるのは不可能に近い」

小学生「なっ…!!」

昼間「…言いたくはありませんでしたが…はっきり言いましょう。彼女のことはもう諦めた方がいい」

小学生「ふざけんなっ!」

ガタン!

小学生は勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。

昼間「…」

小学生「空間の歪みは魔法書じゃ観測できない…?だったら、俺が旅に出て直接見つけてやる!!」

昼間「無謀ですね。この広い世界のどこに現れるかも分からない、どころか、現れることもないかもしれないんですよ?」

小学生「それでも、ゼロじゃない!!」

昼間「やれやれ…」

コンコン

小学生「!」

昼間「どうぞ」

ガチャリ

おこめ「しつれーします」

小学生「おこめ…」

おこめ「あれ?なんでこんなとこいるんだ」

小学生「お前こそ…」

おこめ「あ、そうそう。センセ、これ、今日の試作品」

コトン

おこめは召喚士の机の上に、一杯のごはんを置いた。

昼間「はい。いただきます」

パキッ

召喚士は割り箸を割ると、ごはんを食べ始めた。

小学生「…え?何これ…」

おこめ「定期的にぼくのお米魔法の成果を見てもらってるんだ。今日がその日だから持ってきた。どう?」

昼間「うん。美味しいです。ただ、前回と大きな違いはないように思います。もう少し与える魔力の量を増やしてもいいかもしれませんね」

おこめ「なるほど!ありがとうでしたセンセー。それじゃあしつれーします」

パタン…

おこめは帰っていった。

昼間「しかし…凄いですね彼のお米への愛は。一分一秒全てをお米に費やしている…これなら本当に、不可能を可能にしてしまうかもしれません」

小学生「不可能を可能に…?」

昼間「魔法とはあくまであらゆる行為に対し、手助けをするものでしかありません。力を高めたり、物を移動させたり、物にエネルギーを加えたり。物質そのものを変質させることは不可能とされています。彼の研究は、その常識を覆そうとしている…」

269ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:35:41 ID:aaJ2oUP600

中学生「それだっ!!」

昼間「!」

小学生「さっき先生言いましたよね!他の空間を見つけるのは不可能だって…!だったら作ればいい!それを可能にする、新しい魔法を!!」

昼間「なるほど…いいでしょう」


パチンッ!


召喚士が指を鳴らすと、二人は別の広い部屋に移動していた。

小学生「え?」

昼間「ここは空間魔法の研究室です」

先輩「やあ、話は聞いてるよ。よろしく」

小学生「あ、はい。よろしくお願いします…?」

訳もわからぬまま小学生は部屋にいたローブを着た青年と握手を交わす。

昼間「今日から君もこのチームの一員になってもらいます。詳しいことはリーダーの彼に聞くといい。空間魔法のスペシャリストです」

先輩「はは、ハードル上げないでくださいよ先生」

小学生「な、なんか妙にスムーズに話が進んでるような…」

先輩「ん?先生に言われて空間魔法を始めようと思ったんじゃないの?」

昼間「違いますよ。彼が自分で決めたことです。新しい魔法を開発したいと。ね?」

小学生「はい…って、もしかして俺こうなるように誘導されてたのか!?さっきおこめが来たのも、全部計算ずくか!?」

昼間「まあ、そういうわけです」

小学生「な、なんでそんな回りくどいことを…」

昼間「自分で気づき、自分で決めることが大事なのです。魔道においても、人生においてもね。でなければ新たな魔法の開発などできませんから。私はその手助けをしたまでですよ」

小学生「…たしかに、おこめもめちゃくちゃ自分勝手だもんな…ありがとうございます先生!俺、ここで絶対に見つけてみせる!アイツを救う方法を!」

昼間「ええ。私もできる限り協力しますよ。頑張ってください」


パチンッ!


小学生を研究室に残して、召喚士は職務室に戻った。

昼間「…ふぅ…」

椅子に腰掛け、一息つく。

昼間(最も確率の高い四つ目の可能性については…言わなくてよかったのでしょうか…もし言ったとしても彼はきっと低い可能性に賭けて、同じことをしたでしょうが…)

頭を抱え、そして再び。

昼間「はぁ…」

大きく溜息をつく。

昼間(あの時の状況…彼女の症状…そして数年間、魔力の痕跡すら追えないことを考えると…)


昼間(…彼女は恐らくもう…死んでいる…)

270ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:44:07 ID:rE0fJLeg00





とある国。


ドドドドドォ…!!


ドォォン!!


兵「うおおおお!!」


ドドドドド…!!


ドガァァン!!


兵「ぐああああ…」


激しい銃撃戦により何人もの兵士たちが倒れる。

兵士たちは町を囲む砦を防衛していた。

数百人の鎧を纏った敵軍がそこへ攻め入ろうとしているが、銃撃によりなかなか前線を進められずにいた。


ダダダダダダダダダ…!!


その中に一人、それを物ともせず突っ込んでいく者がいた。

兵「うわっ!?なんだこいつ!?」

兵「くそっ!速え!銃が当たらねえぞ!」


ドゴォ!!


兵「ぐあぁっ!」


バキィ!!


兵「ごはっ…!」

ドサッ…

目にも止まらぬ足技で兵士たちを蹴り飛ばす。

兵「く…くそっ…」

兵「貴様…!これは戦争犯罪だ!ファイターは戦場に出てはならない!」

???「知らぬ!」

水色のヨッシー族は踏ん反り返って、堂々と言う。

兵「ふざけるな!」

兵「何者か知らんがそんな勝手がまかり通ると思っているのか!?」

???「知らぬ!!」

兵「知らぬで済むかァ!!」

???「済むッ!!」


ドゴォッ!!!


兵「ぐはぁっ!」

271ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:45:52 ID:rE0fJLeg00

兵「め、滅茶苦茶だ…!」

兵「こんな事は許されん…!貴様!世界連盟に消されるぞ!」

???「愚かな者どもの決めた掟など関係無い!!本当の空を取り戻す、我等、空色十字軍にはッ!!」

十字軍「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」


ドドドドドドドド…!!!!


ヨッシーの後ろに続く兵隊たちもそれに乗じて、雄叫びを上げながら突撃してくる。

兵「くそっ!話が通じない!」

兵「あの恐竜モドキだけではない…奴ら全員狂っている…!」

兵「撃てーっ!!ここを突破されてはならん!!何としてでも止めるのだっ!!」


ドドドドドドドド!!

ドォン!!

ドドォン!!


十字軍に向けて銃や大砲が撃ち込まれる。

空色「無駄だ!!そんなもの我等には効かぬ!!」

十字軍「ウオオオオオ!!」


ドガガッ!!

ズドォ!!


兵「ぐああああ…」

十字軍は怯みすらせず突撃してくる。

兵「何なんだよこいつら!」

空色「この世界に空色の空を!!その為ならば、我等は鬼にもなろう!!」

十字軍「ウオオオオオオオ!!」

兵「畜生っ!ここまでかっ…!」


ドゴォォン!!


十字軍「うああああ…!」

空色「!!どうした!」

後ろからの悲鳴に、ヨッシーは振り返る。

272ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:47:39 ID:rE0fJLeg00

ズドォ!!

十字軍「ぐはっ!」

ドガッ!!

十字軍「ごあ…」

バゴッ!!

十字軍「ぶへっ!」

空色「馬鹿な!我が十字軍が…!何だ彼奴は!」

そこには生身で十字軍を薙ぎ倒していく赤ファルコンがいた。

兵「…くっ…奴を使う事になるとは…」


ダンッ!!


赤ファルコンは高く跳び上がり。


くるくる…


シュタッ!


空色「!!」

ヨッシーの前に着地した。

エーレ「どーもぉ、空色十字軍の皆さん。僕、エーレヒトといいます」

空色「そうかエーレヒト!!死にたいようだな!!」


ズドドドド!!


ヨッシーは一瞬の逡巡もなくエーレヒトに飛び掛かり、連続蹴りを繰り出す。

エーレ「いいですね!実にいい!殺意の篭った蹴りだ!」


シュババババ!!


エーレヒトはそれを全て受け流す。

空色「貴様ッ!!遊びに来たつもりか!!此処は戦場だ!!」

エーレ「わかってますよ。次はこっちの番です」

空色「!!」


バゴッ!!


空色「かはっ…」

エーレヒトはヨッシーの顎に上段蹴りをお見舞いした。

273ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:48:56 ID:rE0fJLeg00

エーレ「手応えが軽い…上手く後ろに飛んで威力を抑えたようですね。いい反応です」

空色「貴様…」

兵長「戻れエーレヒト!!まだそこは貴様の戦える場所ではない!!」

兵士たちのリーダーらしき人物が、砦の上から叫ぶ。

エーレ「えー!?ちょっとくらいいいじゃないですかー!向こうだってファイター使ってんですから!」

兵長「ダメだ!それでは奴らと同じになる!」

エーレ「うるさいなぁ…まいいや。じゃあついてきてください」


ダダダダダダダ!!


エーレヒトは凄い勢いで退いた。

空色「貴様!!逃げる気か!!」

ヨッシーはそれを追う。

兵長「奴を通すな!!撃てーっ!!」


ドドドドドドドド!!!


空色「無駄だ!!」

ドガッ!!

バキッ!!

兵「ぐあああ…!」

ヨッシーは立ちはだかる兵士たちを一瞬で倒すと、エーレヒトを追って町へと侵入していく。

兵長「チッ…やはり無理か…」

兵「い、良いんですか兵長!あの恐竜、領地内に…!」

兵長「仕方あるまい…ファイターを止められるのはファイターだけだ…奴はそのために雇ったのだ…」


ダダダダダダ…


空色「どこまで行く気だ!!」

エーレ「うーん、まあこの辺でいいかな」

ダンッ!!

エーレヒトは跳び上がり。

シュタッ!

町の広場の真ん中に着地。

そこで二人は対峙した。

エーレ「フフッ、あなたとなら最高に楽しい戦いができそうです!」

空色「楽しむだと!?我等を愚弄するかッ!!」

エーレ「愚弄なんてとんでもない!僕は楽しい戦いが大好きなんですから!それを僕に与えてくれるあなたは、神様のようですよ!」

空色「か…神だと…!?貴様ァッ!!」

エーレ「えっ、なんか悪いこと言いました?」

空色「神など要らぬッ!!この空には雲も星も神も要らぬ!!空に在るべきは、空色の空だけだッ!!」

エーレ「何言ってんのかわかんないですけど…まあ本気で戦ってくれるならいっか」

空色「死に晒せ!!餓鬼がッ!!」

274ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:50:32 ID:rE0fJLeg00



ドゴォッ!!


兵「ぐわぁ!」

十字軍「がはっ!!」

兵「な…」

十字軍「何だ此奴は!」

兵「ど、どちらにも攻撃している…!?」

???「くくくっ…美味そうな肉の臭いがするぜ…ジュル…」

兵士たちと十字軍の戦場に、突如として現れたのは、謎の赤ピカチュウだった。

兵「ど、どこの所属だ貴様!名を名乗れ!」

???「名前ェ…?くく…そんなモン忘れちまったなァ!」


バチバチバチバチッ!!


兵「ぎゃあああああ!!」

十字軍「くっ…この強さ…リーダーでなければ歯が立たぬか!」

兵「仕方ない…一時休戦といこう、空色十字軍!まずはこいつを倒すぞ!!」

十字軍「断る!!」

兵「何ィ!?」

???「チッ、目障りだ。失せろ雑魚ども。不味い肉にゃ用はねえんだよ」


ドガガガガッ!!!

バキッ!!

ドゴッ!!


兵・十字軍「ぐあああっ!!」

兵長「くそっ!ファイターがもう一匹だと…!一体どうすれば…!!」

砦の上から見ていた兵長が頭を抱える。

兵「兵長…今こそ"アレ"を使う時です…!」

兵長「なんだと!?だがアレは…一体誰が使えると言うのだ!」

兵「分かりませんが…これだけいるんですからきっと誰か使えますよ!」

兵長「くっ…そうだな…それに賭けるしかないか…」

兵「はい」

275ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:51:08 ID:rE0fJLeg00

兵長「全員、退避ーっ!!砦の地下へ!!」

兵長は戦場に向かって叫んだ。

兵「地下!?まさか、アレを使う気なのか!?」

兵「だが確かにアレがあれば、この状況を打開できるかもしれない!」

兵士たちは砦へと走る。

十字軍「アレとは何だ!?」

十字軍「待てっ!!逃げるな貴様等!!」

???「あぁ…?なんか秘策でもあんのか?まあいい…邪魔な雑魚が退いてくれたんだ。ありがたく肉を漁らせてもらうぜ。ジュルッ…」

ダッ!!

赤ピカチュウは町の方へ走る。

十字軍「我等も征くぞ!!この地を取り戻すのだ!!」

十字軍「ウオオオオオ!!」

十字軍も続いて町へ侵攻する。

276ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:52:11 ID:rE0fJLeg00



兵「だ、大丈夫なんですか兵長!上を開けてきて…!」

兵長「問題ない。民間人の避難は済んでいる。あの傭兵もいる。アレを使うならば今しかない」

そして兵士たちは地下に集まった。

兵長「私の後ろに一列に並べ!順にこれを抜くのだ!」

そこには、台座に刺さった一本の剣があった。

兵「こ、これが…神剣…!!真の勇者にしか使えないという…」

兵長「まずは私からだ…」

ガシッ…

兵長「ふんっ!!」

兵長は剣を引き抜こうとするが、びくとも動かない。

兵長「…はあ…はあ…ダメだ。次っ!!」

兵「はいっ!!」

ガシッ…

兵「ふんっ!!」

しかし動かない。

兵「はあっ…はあ…ダメです…!」

兵長「次っ!!」

兵「はい!!」



そして十数分後。

兵「…くっ…ダメです!」

兵長「次っ!!……あれ?」

兵「今ので最後です兵長!!」

兵長「何だと!?」

兵「ど、どうしましょう兵長」

兵長「と…とにかく上へ戻るぞ!」

兵「は、はい!」

277ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:53:09 ID:rE0fJLeg00


ダダダダダダ…


兵士たちは階段を駆け上る。

そして。

兵「な、なんだこれは!!」

十字軍「うぅ…」

そこには、倒れた十字軍たちがいた。

空色「く…我等が…やられるとは…不覚…ッ」

ガクッ…

十字軍のリーダーたるヨッシーも倒れる。

エーレ「あはははっ!すごい!楽しいです!まさか一日に二度もこんな強い人と戦えるなんて!」

???「くくっ…こりゃあ喰い甲斐がありそうだ。まだ成熟しきってねえのが残念だがな」

町の広場では、エーレヒトと赤ピカチュウが戦っていた。

兵「そうか…あの傭兵がやってくれたのか…!」

兵長「だがあの黄色いハムスターは、そう簡単には勝たせてくれんようだ…」

兵「援護しますか?」

兵長「いや…我々の割って入れるレベルではない…奴が勝つのを祈るしかあるまい…全員、今のうちに倒れている十字軍を捕えろ!」

兵「はい!」

278ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:54:21 ID:rE0fJLeg00



バチバチッ!!


エーレ「おっと!…ふぅっ、危ない危ない」

???「テメエ、ピカチュウと戦い慣れてやがんな」

エーレ「はい!ちょっと前までピカチュウの殺し屋の人と一緒に行動してたんですよ!」

???「殺し屋だァ?」

エーレ「僕にこの世界での生き方を教えてくれたんです!お陰でいろんな強い人と戦えました!」

???「そいつは強えのか?」

エーレ「めちゃくちゃ強いですよ!あなたよりも全然!」

???「ほぉ…そりゃあ喰いてえな…ジュル…」

エーレ「あれっ?怒らないんですね。こう言うと怒ってもっと全力出してくれるかと思ったのに」

???「くくっ、俺より強えピカチュウなんざ美味えに決まってる。むしろ喜びしかねえぜ」

エーレ「はははっ!僕と一緒ですね!やっぱり強い相手との命のやり取りは楽しいですよね!」

???「テメエみてえな戦闘狂と一緒にすんなボケ」

エーレ「またまた〜」

???「…ウゼエな。とっとと絞めて喰うとするか」

エーレ「おっ!やっと本気になりますか!」

???「後悔するぜ」

エーレ「しませんよ!」


ドドドドドドドド!!


二人「!!」

二人の間を分かつように上空から光線弾が襲い、二人はとっさに距離を取る。

???「何だ?」

エーレ「もー!なんで邪魔するんですか!今いいとこなのに!」

279ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:55:25 ID:rE0fJLeg00

兵長「あれはアーウィン…!!」

兵「十字軍のファイター投入が連盟に伝わって助けに来てくれたんですね!」

アルバロ「そこまでだ!戦いをやめろ!」


ドドドドドドドド!!


エーレ「うわっ!」

???「チッ、めんどくせえ…じゃあな。テメエを喰うのはもっと成熟してからにしてやるよ」

タッ!!

エーレ「あ!待ってくださいよ!まだ戦いは…」

兵長「追うなエーレヒト!戦いは終わりだ!」

エーレ「えーっと…終わりってことは…契約終了!ですよね!」

ダッ!!

エーレヒトはピカチュウを追った。

兵長「なっ!?待てと言ってるだろう!…まったく…」

ゴゴゴゴ…

ズシィン…

兵士たちの前にアーウィンが着陸する。

アルバロ「我はアルバロ。十字軍のファイターというのはどれだ?」

兵長「そいつだ」

兵長は倒れたまま拘束されている水色ヨッシーを指差す。

アルバロ「ファイター用の収容所はこの国にあるか?」

兵長「都市部にはあるが、この町にはないな」

アルバロ「分かった。我が身柄を預かり収容所まで連れて行こう。目覚めて暴れ出したら貴様たちでは止められまい」

兵長「ああ、すまない」

アルバロ「さっき戦っていた二人は何なのだ?」

兵長「万が一のために我々が雇っていた傭兵と…よく分からん乱入者だ。突然戦場に現れて、両軍に喧嘩をふっかけてきた」

アルバロ「何?どういうことだ」

兵長「いや、分からん。ただの異常者だろう」

アルバロ「そうか…一応連盟に報告しておく」

兵長「ああ」

キィィィィィン…

そしてアルバロは飛んで行った。

兵長「しかしエーレヒト…報酬、いらんのか…?」

280ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:56:03 ID:rE0fJLeg00



エーレ「待ってくださいよー!」

???「あァ?まだ追ってきてやがるのか。まあいい。あのアーウィンの方は来てねえみてえだしな…」

ザッ!

ピカチュウは立ち止まり、エーレヒトの方に振り向いた。

エーレ「お!やっとやる気になってくれましたか!」

???「そんなに喰われてえなら喰ってやるよ」

エーレ「へへっ、望むところです!」


ドガガガガ!!!


それから二人は壮絶な戦いを始めた。

281ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:57:01 ID:rE0fJLeg00




翌日。

エーレ「はあっ…はあっ…も、もう追ってきてないよね…」

エーレヒトは街中の建物の影に張り付いていた。

エーレ「ホントに死ぬとこだった…ていうか食べられるとこだった……普通にミカさんと同じくらい強かった…あの人…」

ブツブツとぼやきながら自分の体を抱き締める。

エーレ「ふ…震えてる…怯えてるのか…?こんなの初めてだ…」

おじさん「兄ちゃん、どうしたんだそんなとこで」

エーレ「あ、お構いなく…」

おじさん「いやいや、ボロボロじゃねえかよ。ウチの店で休んでいきな」

エーレ「え、いいんですか?」

おじさん「おうよ。客がいなくて暇なんだ」

エーレヒトはおじさんの店に連れて行かれた。


エーレ「へえー、いいお店ですね」

おじさん「ふん、もう潰れる寸前さ」

エーレ「そんな…」

おじさん「んなことより、兄ちゃんなんでそんなボロボロなんだ?」

エーレ「戦ってたんですよ」

おじさん「兵隊さんか?そういや、空色なんたらって奴らが戦争を仕掛けてきたんだったな」

エーレ「まあ、そんなとこです」

おじさん「ほら、食いな」

ゴトッ!

おじさんは皿いっぱいに盛られた料理をエーレヒトの前に出した。

エーレ「ええっ!こんな…いいんですか!?」

おじさん「国のために戦ってくれたんだろ?これくらい安いもんさ」

エーレ「いや、でもお金は払いますよ!申し訳ないし!お店潰れそうなんでしょ!?」

おじさん「ははは、気にするなって。まだ若えんだからよ」

エーレ「そういうわけにはいきませんよ!」

エーレヒトは財布を見る。

エーレ「ってしまったぁぁ!!報酬貰い忘れてたぁぁ!!」

282ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:57:52 ID:rE0fJLeg00



その頃赤ピカチュウは。

???「チッ…逃げたか。臭いを辿ればまだ見つかりそうだが…まあいい。アイツは喰うにはまだ早え。またいつか会った時にゃあ、骨の髄までしゃぶり尽くしてやらァ…じゅるっ…」

そう言って街から去って行った。

283ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:43:22 ID:KDCwCrrY00





とある国の、とある都会の、とある路地裏。

エーレヒトと別れ単独行動を再開した味方殺しは、眼鏡の怪しい男と話していた。

ミカ「あ?ヨシオ族の里?」

眼鏡男「ああ。ヨシオ族と言えば最弱の種族と名高い雑魚どもだが、中には強力な力を持って生まれる者もいる」

ミカ「そんなことは知ってる。あれでも一応ファイターの一族だ」

眼鏡男「とはいえだ。その力を持った者たちでも他のファイターに比べれば遥かに弱い」

ミカ「それがどうした」

眼鏡男「ごく稀にそれを覆す者がいるのだ。これを見てくれ」

眼鏡の男は手に持っていたタブレットPCの画面を味方殺しに向ける。

そこに映し出されたのは、一人の小さなヨシオ族を黒服の集団が囲んでいる映像だ。

黒服『やれ!』

黒服たちは次々に襲い掛かる。

ドガッ!!

バキッ!!

赤いリボンをつけたピンクの風船は、簡単にそれを返り討ちにした。

ミカ「ハッ、こんなもん当然の結果だろ。ただの人間とファイターじゃな」

眼鏡男「だがこのヨシオ族はまだ子供だ」

ミカ「俺も人間の大人程度なら三歳で殺せた」

眼鏡男「…問題はこの後だ」

ミカ「何?」

黒服『来い!お前の出番だ!』

すると黒服たちはヨシオ族から離れ、代わりに黄色い帽子のヒゲ男が現れた。

284ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:44:40 ID:KDCwCrrY00

ミカ「こいつは…マリオ族か?」

眼鏡男「ああ。うちの機関で実力ナンバーワンの男だ」

マリオ『ヨシオ族…ウワサ通り小さいな。こんな奴相手に俺を投入するとは、情けねえ仲間たちだ』

???『なんだオッサン。殺すぞ』

マリオ『フッ、強い言葉で威嚇するのは弱者のすることだぜ?』

???『威嚇?違う。警告だ』

マリオ『フハハハハ!面白いことを言う!』

???『もう一度だけ言う。里にこれ以上近付いたら…殺す』

マリオ『!!!』

ババッ!!

マリオ族はその瞬間後ろにジャンプし、ヨシオ族から大きく距離を取った。

黒服『何をしている!?』

マリオ『……なるほど…どうりで誰も里に侵入できない訳だ』

黒服『ど、どういう意味だ?』

マリオ『奴は別格だ。あのとてつもねえ圧…戦えば間違いなく、死ぬ…』

黒服『何!?お前でもか!?』

マリオ『フッ、足元にも及ばねえだろうな』

黒服『チッ…仕方ない。一時退却だ!』

???『一時…?また来るなら今ここで潰す』


ドゴォ!!


黒服『ぐあっ!』

ヨシオ族は黒服の一人を殴り飛ばす。

マリオ『よせ!分かった、もうここには来ない!』

黒服『なっ!?ふざけるな!何を勝手に…!』

???『仲間はそう言ってるが?』

マリオ『…俺が言って聞かせよう』

???『信じられるか』

バキッ!!

黒服『ぐあああ…っ』

再び黒服の一人を蹴り飛ばす。

ガッ!!

そして倒れた黒服の頭を踏みつける。

ミシミシ…

黒服『ひっ…ぎゃああああ!!』

???『死ね』

285ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:46:09 ID:KDCwCrrY00

マリオ『くそっ…はあああっ!!』

ダッ!!

マリオ族が殴りかかり。

???『!!』

ブンッ!!

ヨシオ族は回避。

それによって黒服は解放された。

マリオ『俺が食い止める!もって一分だ!逃げろ!』

そして黒服たちは逃げ去った。

映像はそこで終わった。

眼鏡男「この後コイツは戻って来なかった。恐らく殺されたんだろう」

ミカ「…で?ヨシオ族の里に何しに行ったんだ?」

眼鏡男「奴らの里には何かが隠されている」

ミカ「何か?」

眼鏡男「ああ。今の映像を見ての通り、奴らは執拗に部外者を拒絶する。連盟に特別待遇を受けているフォックス族ですら、里に入ることを許さない。衛星写真を見てもただの小さな里だが…だからこそ怪しい」

ミカ「その隠してる何かを調べろってことか」

眼鏡男「そうだ」

ミカ「俺に依頼するってことは、ヨシオ族の里を滅ぼすことになるぞ?俺の専門は"味方殺し"だ」

眼鏡男「ああ、そのつもりだ。機関に報復に来られては面倒だからな」

ミカ「……報酬は?」

眼鏡男「これくらいでどうだ?」

眼鏡の男はタブレットPCに金額を提示した。

ミカ「…ハッ、駄目だな。安すぎる」

眼鏡男「何?お前たちの相場は調べたが、十分な金額だろう」

ミカ「まずヨシオ族しかいない里に潜入する難易度が高すぎる。それにさっきの赤リボン程じゃないにしろ、他にも戦えるレベルの奴はいるだろう。仮にもファイターの一族だ」

眼鏡男「そうか…なら…これでどうだ」

男はタブレットで計算し、再び金額を提示する。

ミカ「…まだ駄目だな。リスクに見合ってない」

眼鏡男「何!?くっ…なら…これでどうだっ!」

ミカ「桁が一つ…いや、二つ違う。お前、俺が子供だからって舐めてないか?」

眼鏡男「なっ…!舐めてるのはどっちだ!こっちは国防省直属の…」

ミカ「だからだ。これは国の未来にも関わるかも知れない問題だろ」

眼鏡男「そ、そこまで大きな話じゃあない!」

ミカ「ハッ、どうだかな。ヨシオ族の隠している何かとやらが、世界の常識を変えるようなものじゃないとも限らない。だから国がお前らみたいな裏の組織を使ってまで探りをかけてる。違うか?」

眼鏡男「…チッ…分かった。だがこれ以上の金額となると上に相談する必要がある。また連絡する」

ミカ「ああ、そうしろ」

そして眼鏡の男は去って行った。

286ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:47:49 ID:KDCwCrrY00


ミカ「ケッ…ヨシオ族の里に隠された何か…そんなもの本当にあると思ってるのか?くだらないことに税金使ってるな、この国は」


キィィィィィン…


ミカ「!!」

味方殺しの上空を、大きな宇宙船が通過した。

ミカ(あれは確かファルコン族の…だがあれの持ち主はどっかの王国のレーサーじゃなかったか…?なんでこの国に…)

???「気になるかい?」

ミカ「!」

ババッ!!

味方殺しはとっさに跳んで距離を取った。

???「そんなに驚くことないだろう。私のこの顔がそんなに不思議か?失礼な人だ」

そこにいたのは、オレンジの服を着た金髪の少女だった。

ミカ「…なんだお前」

???「塩顔、醤油顔、ソース顔…いずれにも属さない絶妙なバランスのこの顔を見て、人はこう呼ぶよ。コンソメ顔、とね」

ミカ「そんなことはどうでもいい。俺に何の用だって聞いてるんだ、ガキ」

コンソメ「ガキとは失敬な。私はこれでももう幼稚園を卒園した身だよ」

ミカ「大ガキじゃねえか」

コンソメ「フッ、自分より歳下を見て嬉々としてガキガキと喚く姿はまさしく子供だ。まずは鏡の前に立って自分を見つめ直すことをお勧めしよう」

ミカ「嬉々としてねえよ。用がないなら失せろ」

コンソメ「用ならある。私は君を殺しに来たんだ、味方殺し」

ミカ「何?」


バンッ!!


コンソメ顔はいきなり銃を放った。

コンソメ「ほう、かわしたか。流石だね」

ミカ「レイガン…ファイターにも通用する光線銃か」

コンソメ「ああ。これを手に入れるのには苦労したよ」

ミカ「誰の差し金だ」

コンソメ「誰でもないよ」

287ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:48:32 ID:KDCwCrrY00


バンッ!バンッ!


ミカ「誰でもない?お前個人に俺を殺したい理由でもあるのか」

コンソメ「私の母は君の父に殺された」


バンッ!バンッ!バンッ!


ミカ「なるほど。そりゃ俺には関係無いな」

コンソメ「そうかい?味方殺しというのは一族代々継がれている家業なのだろう?その二十代目が君だ。違うかい?」

ミカ「ハッ、よく調べたなその歳で」

コンソメ「これ以上被害を出さないために、ここで終わらせる」

ミカ「そうか。お前の目的は理解した。だがそれなら声など掛けずに隠れて狙い撃つべきだったな」


バチバチッ!!


コンソメ「っ…」

バタッ!

コンソメ顔は一撃で倒れた。

ミカ「さて、今日の宿でも探すか」

そして味方殺しはその場を去ろうとするが。


ガシッ!!


コンソメ「ま…待つんだ…」

その足をコンソメ顔が掴んだ。

ミカ「しつこいな。ガキをいたぶる趣味はない」


バチバチバチバチ!!


コンソメ「ぐあああああっ…!」


ドゴォ!!


ミカ「寝てろ」

首の後ろに尻尾を叩きつけ、完全に気絶させ、味方殺しは去った。

288ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:49:56 ID:KDCwCrrY00




コンソメ「はっ!?」

コンソメ顔が目覚めるとそこは病院だった。

看護師「先生!女の子、目を覚ましましたよ!」

コンソメ「や、奴は…味方殺しは…!?」

看護師「え…?何のこと?」

コンソメ「…そうか…そうだよな…すまないお嬢さん。今のは忘れてくれ」

看護師「お嬢さん!?」

コンソメ「あれから何日経った?」

看護師「え、えっと、君が見つかってから丸一日よ。首のダメージが大きくてね、先生がたまたまうちの病院にいなかったら死んでたかもって。本当に運が良かったわね」

コンソメ「そこまで…!?そうか…こんな子供を殺しかけるとは…味方殺し、なんと非道な奴だ…ところでその先生とは…」

そこへちょうど医者が入ってきた。

医者「どうも」

コンソメ「ドクター、君が私を治療してくれたのかい?ありがとう」

医者「どういたしまして。首に異常はなさそうですね。じゃあ私はこれで」

コンソメ「えっ!?もう行っちゃうのかい!?」

医者「はい」

医者は去って行った。

看護師「とてもお忙しい先生なのよ」

コンソメ「そうなのか。そんな先生に治療してもらえるとは、本当に幸運だったんだね」

???「コンソメちゃんっ!」

病室へ勢いよく入ってきたのは、緑色の服を着た、コンソメ顔と瓜二つの少女。

コンソメ「塩姉さん。一体どうしたんだい?そんなに慌てて」

塩「ど、どうしたって…このばかちん!!」

コンソメ「ばかちん!?」

塩「遊んでたらいきなり、見つけた!とか言って、血相変えて飛び出して行って…さっき連絡が来たと思ったら病院で寝てるって…!!どれだけ心配したと思ってるの!?」

コンソメ「…そうか…すまなかった、塩姉さん。我を忘れて君の気持ちを考えていなかった。心配してくれてありがとう」

塩「まったくもう…それで、何を見つけたの?何があったの?」

コンソメ「味方殺しだよ」

塩「!!」

289ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:51:14 ID:KDCwCrrY00

コンソメ「奴だけは、野放しにしてはおけない…」

塩「そんな奴のこと、もう忘れてって言ってるのに…!コンソメちゃんまでいなくなったら私は…!」

コンソメ「大丈夫さ。私は簡単に負けたり…」

塩「負けてるでしょーが!!現に!!」

コンソメ「う…」

塩「お姉ちゃんを困らせないでよ…!」

コンソメ「…すまない…」

???「なんだなんだ。騒がしいと思ったら姉妹喧嘩か?」

そう言って病室を覗いたのは、紫ファルコンの男。

塩「あ、ごめんなさい」

コンソメ「すまない、もう済んだところさ。ところで君…どこかで見た覚えがあるな」

???「はっはっは!それは恐らくテレビじゃないか?なんせ俺は[世界第1位]の肩書きを持つ男!」

塩「誰?」

コンソメ「はっ…まさかゲンさん!?」

ゲン「ご名答!F-ZERO史上最速の男、[世界第1位]ゲンとは俺のことだ」

塩「だから誰?」

コンソメ「F-ZEROというレース競技の超新星さ。デビューするやいなやぶっちぎりのトップに躍り出たんだ」

ゲン「初出場で初優勝!からの十連覇!人は俺をこう呼ぶ、[世界第1位]ゲンと!はっはっは!」

塩「ふーん」

コンソメ「まあ塩姉さんはあまりテレビ見ないし、知らなくても無理はないよ」

ゲン「はっはっは…」

コンソメ「しかしそうか…じゃあ昨日見かけた宇宙船は…」

ゲン「俺のファルコンフライヤーのことだろうな」

コンソメ「やっぱり。でもどうしてこの国に?F-ZEROをやっている王国とは随分離れてるはずだけど」

ゲン「PEYONJUNという伯爵が俺の大ファンらしくてな。パーティーに招待されたんだ」

コンソメ「へぇ、パーティーか…住む世界が違うな…」

ゲン「はっはっは!今日はそのついでに病院へ慰安訪問に来たのさ。ファンサービスも欠かさないのが真の[世界第1位]だからな!」

コンソメ「流石だね」

290ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:52:23 ID:KDCwCrrY00

ゲン「それで、なぜ喧嘩してたんだ?」

塩「は?あなたには関係ないですけど」

ゲン「随分当たりが強いな…人見知りなのか?」

コンソメ「人見知りというか…私以外には懐かないんだよ。これでも波乱万丈な人生を歩んできたからね」

ゲン「はっはっは!それは仕方ないな!」

コンソメ「私たちの母は、サムス族としての身体能力を活かして格闘道場をやっていた」

ゲン「ん?そうか、君たちはサムス族だったのか」

コンソメ「ああ、パワードスーツを着てないと気付かれにくいけどね。その道場に門下生として、一人のピカチュウが現れた。そして三ヶ月後、奴は母の格闘技術の全てを奪い、殺して、姿を消した。奴は"味方殺し"だったんだ」

ゲン「味方殺し…?」

コンソメ「組織に仲間のフリをして潜入し、技術を奪い、独占するため皆殺しにする、殺し屋の一種だよ。父はそのショックで自暴自棄となり、犯罪を犯して捕まった。それから私たちは施設に預けられ…そこではすぐに父が犯罪者だと広まり、虐めに遭った。そして塩姉さんは、人を信じられなくなった。私はよく大人ぶった口調だなんて言われるけど…二人で生きていくためには、大人にならざるを得なかった」

ゲン「なるほど…それは大変だったな、二人とも!」

コンソメ「ああ。だから私は必ず味方殺しを倒すと誓ったんだ。そしてついに奴を見つけて、戦いを挑み…敗れた。塩姉さんも不安にさせてしまった。面目ない限りだよ…」

ゲン「それが喧嘩の理由か。心意気は立派だが、姉に心配をかけるのはいただけないな!たった一人の肉親だろ?」

コンソメ「分かっているよ。だが…あの時奴の顔を見たら、我を失ってしまった。反省はしているけど…次また奴を見た時、自分を抑え切れる自信は…正直ない」

ゲン「そうか…じゃあ仕方ないな!」

塩「仕方ないって…これだけ話聞いて結論がそれですか…」

ゲン「ああ!抑え切れないんじゃあどうしようもないだろう?」

塩「は?」

コンソメ「まあまあ、塩姉さん。実際その通りだよ…」

塩「でも…」

ゲン「抑え切れないなら、戦うしかない!戦うには、強くなるしかないな!はっはっは!」

コンソメ「強くなる…か。ありがとう。流石ゲンさんだ。勉強になったよ」

291ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:55:14 ID:KDCwCrrY00

ゲン「君もだ、塩少女」

塩「は…?」

ゲン「妹を止めるには強くなるしかない!妹を助けるには強くなるしかない!」

塩「…!」

コンソメ「ま、待ってくれゲンさん!塩姉さんを戦わせたくはないんだ!私はただ、塩姉さんには平穏に暮らしていてほしいんだ!」

ゲン「ほう、平穏に暮らすか。だが塩少女にとっての平穏は、君が側にいて初めて訪れるんじゃないか?」

コンソメ「そ…それは…だから私が強くなれば済む話だろう?そしたらずっと側で塩姉さんを守れる」

ゲン「いいや。君が戦いに向かう、それだけで平穏は崩れる。違うか?塩少女」

塩「…」

コンソメ「心配させないくらい強くなるよ。それじゃダメかい?」

塩「……ダメだよ」

コンソメ「えっ」

塩「その人の言う通りだ。私、いつもコンソメちゃんに守られてた。でもそれじゃダメだったんだ」

コンソメ「塩姉さん…」

塩「私、強くなる。私がコンソメちゃんを守る!」

ゲン「はっはっは!よく言った!そこでだ、一つ提案があるんだが」

コンソメ「提案?」

ゲン「俺はこれから一週間この国に滞在する。ちょうど大会がない期間で、元々観光の予定だったんだが…どうだ、俺と一緒に特訓しないか?」

コンソメ「特訓…!?そんな、いいのかい?貴重な休暇なんじゃあ…」

ゲン「はっはっは!気にするな!俺もレースばかりじゃなく、たまには生身で運動しないとな!」

コンソメ「あ…ありがとう!」

塩「…よろしくお願いします」

ゲン「ああ!」

ゲンは親指を立ててニッカリと笑った。

292ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:56:17 ID:KDCwCrrY00




その頃、次の仕事を待つため、都会から離れた田舎町の小さな宿場に泊まっていた味方殺しは。

テレビ『…の国で行われていた、空色十字軍なる軍勢との戦争が終わった模様です。空色十字軍は全員捕縛され、その頭目と思われるヨッシー族の男は世界連盟における戦時特例法違反によって収容所に…』

ミカ「クク…あの空色十字軍を倒したか、エーレヒト。傭兵として随分活躍してるようだな」

湯呑みの茶をすすりながら、テレビや新聞、インターネットを見て適当に情報を仕入れていた。

ミカ(アイツとは短い付き合いだったが…オレの人生には間違いなく大きな出会いだった。殺し屋の一家に生まれ、あらゆる感情を殺して育った。依頼者か標的か、出会う者全てが虚偽の関係…だがアイツだけは…友と呼ぶに値する存在になった)

ミカ「しかし空色十字軍がやられたとなれば、"アイツら"も動き出すかもしれないな…」


???「アイツらってのは、ボクらのことか?ミカ」


その声は、隣の部屋からだった。

ミカ「チッ…地獄耳だな。ただの独り言に話しかけてくるな、気色悪い」

???「そ、それはちょっと言い過ぎじゃない?」

ミカ「言い過ぎじゃねえよ。隣の部屋に泊まってる奴に壁越しに話しかけられたら誰でもそうなるわ」

???「…確かにそうだな…ごめん。でもキミとボクとの仲じゃないか」

ミカ「何の話だ」

???「つれないことを言うなぁ。かつてはボクらの組織に所属してたのに」

ミカ「もう何年も前の事だろ」

???「いやぁ、懐かしいなぁ。当時まだ小さな子供だったのに、キミは本当に優秀だった。みんな驚いてたよねぇ」

ミカ「フン…」

???「それにしても、喋り方が少し変わったね。なんか柔らかくなったっていうか。何かいい出会いでもあった?」

ミカ「うるせえな。お前には関係ない」

???「ふふ、喋り方は変わっても、他人に踏み込ませない性格はそのままか」

ミカ「何が言いたい」

293ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:57:15 ID:KDCwCrrY00

???「キミが突然組織をやめたのは、依頼がキャンセルになったからでしょ?」

ミカ「!」

???「ボクらの捜査網を甘く見ない方がいいよ、ミカ…いや、殺し屋・味方殺し」

ミカ「…気付いてたのか」

???「うん。キミは味方殺しとしての最初の依頼で、ボクらの組織に入った。だけど依頼は途中でキャンセルされて、そのまま何もせずに組織を抜けた。でも、どうして急にキャンセルされたか、考えたことある?」

ミカ「…!まさかお前らが…」

???「ふふふ…そのまさかだよ」

ミカ「…ハッ、くだらねえ。今更そんなもん聞いたところで、大して驚きもしねえ。ただの昔話をしに来たのか?」

???「いやいや、そんなわけないでしょ」

ミカ「だったら何だ。復讐でもする気か?オレに勝てると思ってるのか?」

???「滅相もない。そもそもキミには何もされてないんだから、復讐なんてするはずないさ」

ミカ「チッ、用があるならさっさと話せ。お前と話すとイライラする」

???「酷いなぁ。ボクはただ勧誘に来たんだよ、味方殺し」

ミカ「断る」

???「早っ!」

ミカ「オレはそんなもんに興味ねえ。帰れ」

???「なんで?全てが闇に包まれた世界では、キミはきっと大スターになれるよ」

ミカ「だからそれに興味ねえっつってんだボケが」

???「はぁ…残念だよ。キミなら分かってくれると思ったのに」

ミカ「ハッ、狂人の考えなんざ理解したくもねえ」

???「狂ってるのはこの世界さ。夜は素晴らしい…美しい闇が広がり、人々は寝静まり…静寂の…ゼロの世界が訪れる…なのに…朝が来れば、その闇は簡単に晴れてしまうんだ…!そんなのおかしいじゃないか!」

ミカ「おかしいのはお前の頭だ」

???「ふざけるな!!ボクらを侮辱するならたとえキミでも許さないよ!!」


ドゴォッ!!!!


声の主は壁を突き破り、味方殺しを攻撃したが。

???「ハァ…ハァ…いない…逃げたか…まあいいさ…目障りな空色十字軍も消えた今…いずれ夜の明けない世界がやってくる…」

その男は、白い帽子のルイージ族だった。


???「ボクら…"パジャマの革命軍"の手によって、世界は眠りに就くのさ」

294ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:59:45 ID:KDCwCrrY00





魔界。

その第四階層、"奈落"の暗闇の中で。

ダダダダダダ…!!

走るファルコン族が一人。

???「にゃっはー!!どこまで続いてるんにゃこれ!!」

そして、それを高い岩の上から見る赤リボンのヨシオ族が一人。

???「ほう、この暗闇で走り回るか…随分と夜目が効くようだな」

???「誰にゃっ!?」

???「お前こそ」

???「オイラは犬のような黒猫!!」

???「儂は奈落のヨシオだ」

黒猫「お前、うまいのか!?」

奈落「まずいぞ」

黒猫「そうか…じゃあいいにゃ…」

黒猫はしょんぼりする。

奈落「初めて見る顔だな。どこから来た?」

黒猫「上のほう。でっかいヤツに吹っ飛ばされて、穴に落っこちて、気づいたらここにいたにゃ」

奈落「でっかいヤツ…?キング・オブ・妖魔か?」

黒猫「あー、そう言えばそんなんだったかも」

奈落「そうか…奴に喧嘩を売るとは、命知らずな奴だ」

黒猫「イノチシラズ?って、褒めてるのか?」

奈落「ふん、さあな…ここへ落ちたのはいつだ?」

黒猫「えーっと…わからん!だいぶ前!」

奈落「飯はどうしていた?」

黒猫「フツーに魔物狩って食う。でもここ全然獲物いなくて、もうしばらく食えてないぞ…」

奈落「やはりな。儂の屋敷へ案内しよう。ついて来い」

黒猫「え!!もしかしてごはんくれるのか!?」

奈落「ああ」

黒猫「ありがとう!オマエいいヤツだなー!」

295ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:00:18 ID:KDCwCrrY00



そして二人は奈落の屋敷へ来た。

黒猫「ごっはっん!ごっはっん!」

黒服はバンバンとテーブルを叩く。

奈落「随分なはしゃぎようだな。余程腹が減っていたか」

黒猫「うん!こんにゃに食べにゃかったの初めてだからにゃ!」

奈落「そうか」

カチッ

奈落が何かのスイッチを押すと。


ズボッ!!


黒猫「にゃんだぁぁ!?」

黒猫の座っていた床が抜け落ち。

黒猫「うわあああああああ!!」

そのまま奈落の底へと落ちていった。

奈落「…」

奈落のヨシオはそれを一切の表情も変えずにただ見ていた。

296ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:01:36 ID:KDCwCrrY00




ドシーーーン!!


黒猫「いてー!!」

黒猫は数十メートル落下し、地面に着地した。

そこは上の穴以外には何もない小さな空間になっていた。

???「おぉ…新入りか…」

黒猫「誰にゃっ!?」

話しかけてきたのは、うつ伏せに寝転がっている赤いゴリラだった。

???「腫れたおしりだ…」

黒猫「プッ!!にゃんだそれ!!」

おしり「生まれつきおしりが腫れていてな…」

黒猫「にゃはははは!!へんにゃの!!」

おしり「フン…他人事なら笑えるだろうな…座るだけで痛みが走るこの不便な体も…ってお前その顔…まさかΦデスエンペラーか…?」

黒猫「ん?オイラは犬のような黒猫だ。でもそのデスにゃんとかって、聞いたことあるにゃ…にゃんだったっけ?」

おしり「同じ種族というだけか…Φデスエンペラーは魔界最強の男だ…」

黒猫「思い出した!アイツか!結局ほとんど喋れにゃかったけど。ところでここどこ?」

おしり「どこだと…?見ていたはずだろう…お前は奈落の罠に掛かった…」

黒猫「わにゃ!?」

おしり「ああ…俺たちは…アイツの食糧となったのだ…」

黒猫「く、食われるのか!?」

おしり「奈落には食えるものは少ないからな…アイツはこうして落ちてきた者を騙して捕らえるのだ…俺も元は妖魔の部下だったが…弱すぎて奈落に捨てられ…この有様だ…」

黒猫「ちくしょー!!ゆるせーん!!ブンにゃぐってやる!!」

おしり「無理だ…あの高さでは…ここから出る事はできないだろう…」

黒猫「ふん!オイラのジャンプ力をにゃめるにゃよ!!とうっ!!」


ダンッ!!


天井の穴に向かって黒猫は大ジャンプする。

おしり「な…!す、すごい…コイツならば本当に…!」

297ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:02:23 ID:KDCwCrrY00


ドシーーン!!


黒猫「ぐにゃーーー!!だめだった!!」

おしり「…あぁ…やはりか…」

黒猫「もっかいだ!!とうっ!!」


ダンッ!!


ドシーーン!!


黒猫「くそー!!もっかい!!」


ダンッ!!


ドシーーン!!




数分後。

黒猫「はぁ…はぁ…ちくしょー!」

おしり「もうよせ…無駄だ…」

黒猫「無駄じゃにゃい!食われるにゃんてごめんにゃ!」

おしり「だがもう体力も消耗し…最初よりジャンプも低くなっているぞ…」

黒猫「じゃあちょっと休憩する!」

おしり「ああ…」

ドサッ

黒猫はその場に座り込む。

298ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:03:17 ID:KDCwCrrY00

黒猫「…くっそー…絶対抜け出すぞ!」

おしり「すごいな、お前…なぜそこまで足掻く…?」

黒猫「はあ?食われそうににゃってるのににゃんで足掻かないんだ?」

おしり「…それは…見れば分かるだろう…出られるわけがない…」

黒猫「ふーん。まあたしかにその尻じゃムリか」

おしり「尻は関係ないだろ…」

黒猫「ん?あれ?そういやお前、にゃんで分かったんだ?食われるって」

おしり「何がだ…」

黒猫「だって食ってるとこ見たわけじゃにゃいだろ?ここに閉じ込められてるんだから」

おしり「…何週間か前に俺が捕まった時、先客がいたのだ…ソイツから聞いた…ソイツはある日目が覚めたら消えていた…」

黒猫「消えてた?」

おしり「…ああ…恐らく寝ている間に殺し、上へ運んだのだ…」

黒猫「じゃあやっぱり食われるとこ見たんじゃにゃいんだにゃ!」

おしり「直接見たわけではないが…他に何の意味があるというのだ…こんなところに閉じ込めて…」

黒猫「知らん」

おしり「…フン…希望的観測でしかないな……いや…待てよ…?」

黒猫「どした?」

おしり「アイツが俺たちを食うなら…結局俺たちを上へ引き上げる必要がある…ならば…寝たふりをしてアイツが降りてくるのを待ち…そこを返り討ちにするのだ…!」

黒猫「おー!!にゃるほど!!頭いいにゃお前!!」

おしり「しーっ…!アイツに気付かれたら台無しだ…」

黒猫「あ、そっか…じゃあ小声ではにゃすぞ…」

おしり「よし…これから常に俺たちは交互に睡眠を取る…どちらかは絶対に起きておくのだ…そして起きている間は、寝たふりをする…」

黒猫「うんうん」

おしり「アイツが降りて来たら、大声で叫べ…寝ているほうを起こすのだ…そして二人掛かりでアイツを倒す…!」

黒猫「わかった」

おしり「いける…いけるぞ…!お前のお陰だ…礼を言う…犬のような黒猫…!」

黒猫「にゃはは、こっちこそにゃ。お前がいにゃきゃ俺はそんにゃこと思いつかにゃかった」

おしり「さあ…そうと決まれば寝る順番を決め、早速寝たふり作戦を始めよう…!」

黒猫「おーっ」

299ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:03:57 ID:KDCwCrrY00




一週間後。

黒猫「ふわぁ…よく寝た」

おしり「起きたか…黒猫…では…交代だ…」

黒猫「おっけ〜…それにしても全然降りて来にゃいにゃぁ…早く来てくれないと腹へって動けにゃくにゃっちまうぞ…」

おしり「…それも…アイツのやり口だろう…俺たちを弱らせ…トドメを…刺しやすくしているのだ…」

黒猫「どうするんだ…このままじゃ作戦失敗ににゃっちゃうぞ…」

おしり「もう少しの…辛抱だ…できるだけ動かず…体力を温存しろ…」

黒猫「わかった…」

そして腫れたおしりは寝た。

黒猫「はぁ…ヒマだにゃぁ…」

300ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:04:48 ID:KDCwCrrY00



一時間後。

黒猫「くかー…」

黒猫は寝ていた。

シュルルル…

スタッ

そこへロープを通し、奈落のヨシオが降りて来た。

奈落「よく寝ておるな」

ガシッ…

奈落は腫れたおしりを持ち上げる。

そしてロープを引っ張ると、自動的にロープが巻き上げられ、奈落と腫れたおしりは穴の上へと昇っていく。

ガッ…

奈落「む?デカすぎてどこかに引っ掛かったか」

おしり「い……いってえええええええええ!!!!」

奈落「!?」

壁面に引っ掛かったのは、腫れたおしりの腫れた尻だった。

黒猫「にゃんだ!?」

その悲鳴で黒猫も目を覚ます。

奈落「しまった…!」

黒猫「あーっ!!お前ー!!」

奈落「くっ…」

黒猫「待てっ!!」


ダンッ!!


黒猫は大ジャンプした。

黒猫「あれ…」

が、空腹と疲れと寝起きのためか、高さは伸びず、奈落に届かない。

奈落「…ふぅ…」

奈落は安堵の溜息をこぼす。

301ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:06:06 ID:KDCwCrrY00


ガシッ!!


奈落「なっ…」

黒猫は奈落には届かなかったが、ロープを掴んでいた。

黒猫「逃がさにゃいぞ!!」

ロープをジリジリと登り奈落へ近づいていく。

おしり「ま、待て黒猫…!」

黒猫「え?」

おしり「今暴れれば俺たちはまたこの下に落ちる…!コイツを懲らしめるのは上に上がってからでいい…」

黒猫「あそっか!やっぱ頭いいにゃ!」

奈落「く…」

そして三人はそのまま穴から出た。


ザッ…


黒猫「うおー!やっと出れた!」

おしり「はぁ…はぁ…」

奈落「これを飲め」

黒猫「にゃに?」

奈落は二人に湯呑みに入ったお茶を差し出した。

おしり「き…貴様…そんな手に俺たちが…引っ掛かると思うのか…?罠に決まっている…」

ズズズ…

黒猫「うま」

おしり「……」

奈落「案ずるな。普通の茶だ」

302ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:07:10 ID:KDCwCrrY00

黒猫「ぷはー。ごちそうさまでした。やいお前!あんにゃとこににゃん日も閉じ込めて、どういうつもりだ!」

奈落「すまなかった。儂の野望を叶えるためにはそうするしかなかった」

おしり「野望だと…?」

奈落「究極の魔族を作るという儂の野望だ」

おしり「究極の魔族…!?」

黒猫「にゃんかよくわからにゃいけど、そんにゃ勝手にゃこと許すわけにゃいだろー!!」


ドゴォ!!


奈落「ぐはっ…!」

黒猫渾身の右ストレートが奈落の腹辺りを襲った。

ドガッ!!

奈落は壁に叩きつけられ、跳ね返って、また黒猫の前に倒れた。

黒猫「ファルコン・パンチ!!」


ドゴォッ!!!!


奈落「ぶっ!」


ドガガガガガッ!!


さらに燃えるパンチを受けた奈落はパチンコ玉のように壁や天井で反射しまくり。

ドサッ!

また黒猫の前に倒れた。

黒猫「はースッキリした!あと腹へった!」

奈落「…ぐ……もう…よいのか…?」

黒猫「うん!」

奈落「…お前は…殴らぬのか…?」

おしり「フン…今ので俺もスッキリした…それに…俺たちを食おうとしていた訳じゃなかったんだろう…?」

奈落「ああ…」

おしり「究極の魔族…詳しく聞かせてもらうぞ…」

黒猫「そんにゃことよりごはんくれ!くれにゃいにゃら、お前食うぞ!」

奈落「ああ、分かっている…少し待っていろ」

奈落はふらつきながら家の奥へ入っていった。

303ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:08:37 ID:KDCwCrrY00

おしり「…本当にいいのか…?二回殴った程度で許してしまって…」

黒猫「うん!お茶くれたしにゃ!」

おしり「そもそも飢えたのはアイツのせいだぞ…」

黒猫「にゃはは、オイラバカだから過ぎたことはあんまり気にしにゃいんだ!」

おしり「そうか…まあ、お前がいいならそれでいい…」

すると奈落が戻ってきた。

奈落「魔物の肉だ。好きなだけ食うがよい」

黒猫「うおー!!いただきまーす!!」

ムシャムシャムシャムシャ!!

おしり「俺ももらうぞ」

ムシャムシャムシャムシャ!!

奈落「食いながら聞け。儂はかつて魔界の王だった」

ブッ!!

おしりは思わず口の中のものを噴き出した。

おしり「ま、魔界の王…!?お前が…?」

奈落「八百年以上も前になるがな。魔力の衰えを感じた儂は、腹心の友にその座を譲り、この奈落へ隠居したのだ。当時は儂に恨みを持つ者も多く、幾度となく奇襲を受けたが…全て返り討ちにしておるうちに、やがて忘れ去られた」

おしり「し…信じられんな…お前にそんな魔力は感じない…」

奈落「とうに魔力は尽きた。もはや儂はただの老いぼれに過ぎぬ」

おしり「それで…それが俺たちを捕らえた事とどう繋がる…?」

奈落「キング・オブ・妖魔は、儂が作った」

おしり「…!?」

奈落「儂が忘れられた後も、お前たちのように奈落へと落ちてくる者はおった。儂は気まぐれで其奴らを助け、腐敗へと帰してやっておった。だがある日、とてつもなく凶暴な奴が現れた」

おしり「それが妖魔か…」

奈落「ああ。奴は奈落の魔物を意味もなく次々と殺していった。魔物の絶滅を危惧した儂は、奴を地下へ閉じ込め、弱らせるため三ヶ月の時を待った」

おしり「三ヶ月…あの狭い地下でか…想像もしたくないな…」

奈落「だが奴は一切弱らず、むしろ魔力は増大していたのだ。奴は殺さなければならないと、そう思い、儂は地下へ油を注ぎ、火をつけた。だが妖魔は死ぬどころか更に怒り狂い…ついに爆発した」

おしり「爆発…!?」

奈落「ああ、物理的にな。魔力が急激に高まり、周囲の全てを消し飛ばしたのだ。儂はこの軽い体のお陰で、吹っ飛ばされるだけで済んだがな。そうして奴は脱出し…儂が気付いた時には、既に自力で喧騒へ帰っておった」

おしり「何…?一体どうやって…」

奈落「恐らく奈落の下、"最果て"へ降りたのだろう。最果ての番人ならば、喧騒へのゲートを開く事が出来る」

おしり「番人…そんなのがいるのか…」

304ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:10:40 ID:KDCwCrrY00

奈落「喧騒へ帰った奴はすぐに王を殺し…ジャック・オブ・妖魔という渾名は魔界中に広まった。更に手下を続々と増やした奴は、名をキング・オブ・妖魔と変え、独裁を始める。それからは、お前たちも知っているだろう…儂は奴を倒すため、対抗しうる力を探しておるのだ」

おしり「…それが、究極の魔族という訳か…」

奈落「ああ。妖魔と同じように地下へ閉じ込め、覚醒を促す…それを数百年間続けてきた。だが弱るだけで、妖魔のように魔力が増大する者は現れなかった」

おしり「そもそも…それで覚醒者が現れたとして…どうやって従える気だ…?」

奈落「これでも儂は人を見る目はある方だ。初めから話の通じる奴を選んでおる。現にお前たちもこうして儂の話を聞いてくれておるだろう」

おしり「…伊達に魔界の王をやっていた訳ではないということか…」

奈落「ところでお前、何故さっきから立ちっぱなしなのだ。座って食えばよかろう」

おしり「尻が痛いからだ…」

奈落「そうか…」

おしり「そうだ、俺と共に閉じ込められていた奴はどうなったのだ…?」

奈落「覚醒を見込めない者たちは全員腹を満たしたら腐敗へ帰しておる。お前たちも食い終わったら上へ送ってやる」

おしり「上…か…」

奈落「どうした」

おしり「お前に地下へ落とされる前に…確か話したはずだ…俺は弱過ぎて捨てられたのだ…喧騒へ帰っても…俺の居場所などない…」

奈落「そうか。ならば奈落におればよい」

おしり「いいのか…?」

奈落「勘違いするな。儂の屋敷からは出て行ってもらうぞ」

おしり「…チッ…まあそうだろうな…俺一人では魔物一匹捕らえられん…そもそもあの暗闇の中では何もできん…どうすれば…」

305ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:11:33 ID:KDCwCrrY00

黒猫「ぷはーっ!食った食った!」

肉に夢中で無言だった黒猫がようやく口を開いた。

奈落「お前はどうする、犬のような黒猫」

黒猫「ん?にゃにが?」

おしり「何も聞いてなかったのか…」

奈落「腐敗へ帰るか?帰るなら儂が送り届けよう」

黒猫「うーん。おしりがここにいるにゃらここにいるぞ!友達だしにゃ!」

おしり「な…!気は確かか…!?」

黒猫「にゃはは、おしり一人じゃにゃんもできにゃいだろ!」

おしり「そ、それはそうだが…」

奈落「ならば決まりだな。少し待っておれ」

おしり「え…」

黒猫「にゃんだ?」

また奈落は家の奥へ行き、しばらくすると戻ってきた。

ドサッ!

奈落は大きな荷物を二人の前に置いた。

おしり「何だ…?この荷物は…」

奈落「餞別だ」

黒猫「くんくん…肉だ!!」

奈落「言っておくが、これが最後だ。これ以上はやれん。儂も此処で飯を調達するには苦労しておるからな」

ムシャムシャ…

黒猫「うめー!!」

おしり「おい…」

奈落「さあゆけ。東の方ならまだ魔物の巣は幾つか残っておるだろう」

おしり「あ、ああ…すまんな…」

おしりは荷物を背負う。

黒猫「じゃあにゃー!」

そして二人は屋敷を後にした。

306ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:13:08 ID:KDCwCrrY00


奈落「…アメリーナといい黒猫といい…近頃の魔族は随分優しくなったものだな。だが優しさでは何も救えぬ」

???「その通りだな」

奈落「っ!?」

突然奈落の隣に黒ファルコンが現れた。

奈落「黒猫…いや違う…Φデスエンペラーか…!?」

デスエン「正解だ。よく俺を知っていたな。こんな辺境に引きこもってるのに」

奈落「…儂はずっと見てきたのだ。儂にはあの化け物を作り出してしまった責任がある」

デスエン「ほぉ。だがお前じゃあ奴は止められないだろう」

奈落「まだ見つかってはおらぬが…だが必ず、奴が動き出す前に見つけてみせる。奴に対抗しうる、究極の魔族となる存在を…」

デスエン「おいおい、正気か?四百年以上同じこと繰り返してダメだったんだろう?やり方が間違ってるんだよ」

奈落「妖魔はそれで覚醒したのだ。間違っておる筈はない」

デスエン「はぁ、これだから老人は。大体、アイツに対抗できるヤツならもういるだろ?」

奈落「何…?」

デスエン「いやいや、いるだろ目の前に」

奈落「…自惚れるな。奴はお前の力を欲しがっているだけだ。お前と戦っておる時に、全力など一度も出してはおらぬ」

デスエン「そりゃ俺も同じさ」

奈落「いずれにせよ、お前では意味が無い。もしお前が妖魔を倒せたとしても、今よりも更に無秩序な混沌とした世界になるだろう。儂は何もそんなものを望んでおる訳ではない」

デスエン「勝手な奴だ。妖魔から解放されるなら本望だろうよ」

奈落「確かに完全な自由を求めている者も多いだろう。魔の一族の本能がそうさせる。だがそれでは世界は成り立たず、崩壊への一途を辿る。必要なのはある程度の秩序とある程度の自由を両立させる事ができる王だ」

デスエン「そんな都合の良い奴はいない」

奈落「それでも…見つけねばならぬ。儂の使命だ」

デスエン「フッ、まあいいさ。何か進展がありそうな時にまた来る」

フッ…

デスエンは一瞬で消えた。

奈落「Φデスエンペラー…百年程前、突然喧騒に現れた男…一体何者なのだ…?」

307ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:15:32 ID:KDCwCrrY00





王国。

F-ZEROが盛んに行われているこの国は、千年以上の間一度も戦が起きていない世界一平和な国として知られている。

中でも最も平和と言われるのがこの城下町である。

住民「おっ、今日もパトロールか?ヒーロー」

ヒーロー「ああ!何か変わったことはないか?」

ヒーローと呼ばれているのは、マントを付けた黄色マリオの少年だ。

住民「そうだなぁ、実はうちのばあさんの腰痛がひどくてね…」

ヒーロー「そういうのじゃなくて!」

住民「はは、冗談だよ」

ヒーロー「はあ、まったく。今日もこの町は平和そのものだな…」

住民「いいことじゃないか」

ヒーロー「そうだけど…こんなんじゃ満たされないよ…」

ヒーローはぼやく。

すると。

住民「ヒ、ヒーロー!こっちに来てくれ!」

ヒーロー「どうした!?事件か!?」

住民「川で子供が溺れてるんだ!」

ヒーロー「はぁ…そんなことか…」

タッ!

ババッ!

シュタッ!

ヒーローは一瞬で子供を助けた。

子供「ありがとうヒーロー!」

ヒーロー「ああ」

308ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:16:27 ID:KDCwCrrY00

住民「ヒーロー!こっちだ!早く!」

ヒーロー「なんだ!?今度こそ事件か!?」

住民「あそこのマンションのベランダ!おじさんが落ちそうになってる!」

ヒーロー「なんだ…」

ダダダッ!

パシッ!

シュタッ!

ヒーローは一瞬でおじさんを助けた。

おじさん「あ、ありがとう!助かったよ!」

ヒーロー「うん」

住民「ヒーローーー!!やばいぞ!!」

ヒーロー「やばい!?何がだ!?」

住民「動物園からライオンが逃げ出した!!」

ヒーロー「まったく…それくらいちゃんと躾けておけ」

ダッ!

ズババババ!

オテ!

オスワリ!

ハウス!

ヒーローは一瞬でライオンを躾け、ライオンは自ら檻の中に帰った。

園長「ありがとうございます!ヒーロー!」

ヒーロー「大したことじゃない」

住民「いやぁ、ヒーローのお陰で平和だよこの町は!」

住民「ヒーロー、いつもありがとうね!」

住民「まだ若いのに本当にすごいよヒーロー!」

309ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:17:43 ID:KDCwCrrY00

ヒーロー「違うっ…!俺の求めているヒーロー像はこれじゃない…これじゃただのレスキュー隊だ!」

住民「ははは、だったらヒーローはどんなヒーローを目指してるんだ?」

ヒーロー「決まってる!悪と戦い人々を守る、正義の味方だ!」

住民「うーん…平和なこの国に、悪なんていないよ」

住民「だったら旅に出てみてはどうだ?外国には色んな人がいるぞ。良い人も悪い人も、この国にいない種族にも会えるだろう」

ヒーロー「それはダメだ。俺はこの国が好きだし、平和ボケしたキミたちを置いていくわかにはいかない」

住民「はは、心配性だな」

住民「本当優しいよヒーローは。自分よりみんなを守ることを第一に考えてる。ヒーローとしての精神を持ってる」

ヒーロー「嬉しくない褒め言葉だ…」


キィィィィィィン…


住民「お!あれは!」

住民「ファルコンフライヤーだ!ゲンが帰ってきたぞ!」


ガシィン…


ファルコンフライヤーがゲンの家の庭に着陸した。

住民「ゲンさんおかえり!」

住民「かっけー!本物のゲンだ!」

住民「海外旅行行ってたんでしょ?」

カシャ!カシャ!カシャ!

すぐにその周りに大量の野次馬たちが集まってきた。

ゲン「はっはっは!ただいま!」

ゲンはポーズを取ってファンサービスする。

310ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:19:23 ID:KDCwCrrY00


ザッ!


ヒーロー「やめるんだキミたち!プライベートにまで踏み込むんじゃあない!」

そこへヒーローが割って入った。

住民「えー」

住民「なんだよケチー」

住民「ポーズ取ってくれてるのに?」

ヒーロー「プロ意識というやつだ!カメラを向けられたらそうせざるをえない!不本意なことだ!」

住民「まあそうだな」

住民「大人げなかったよ…すみませんゲンさん」

住民「ヒーローが言うならしょうがないかぁ」

住民「ほらみんな散った散った!」

住民「はーい」

住民たちは去っていった。

ゲン「はっはっは!すまないなヒーロー。助かったよ」

ヒーロー「ゲンさんもゲンさんだ。ファルコンフライヤーなんて目立つものに乗るからそうなるんだ。海外旅行なんて飛行機でいいだろう」

ゲン「はっはっは、それはできないよ。俺が目指すものは"キャプテン・ファルコンの復活"なのだから」

ヒーロー「キャプテン・ファルコンの復活?」

ゲン「俺の先祖キャプテン・ファルコンが元々F-ZEROパイロットだったことは知ってるだろう。だがファルコン族は世界中に散り散りになり、もはやパイロットは俺だけになってしまった。そして今やファルコン族はファイターとしての側面の方が大きくなっている…」

ヒーロー「なるほど…復活とは本来のファルコンのイメージを取り戻すということか」

ゲン「ああ。そのためには存在を知ってもらう必要がある。俺は目立たなくてはならないんだ」

ヒーロー「そうか…それでファルコンフライヤーに…じゃあ、この国にしかない競技なのに仕切りに[世界第1位]を名乗るのも、その名を世界に羽ばたかせたいという思いがあるからだな?」

ゲン「そうだな。というより元々F-ZEROは世界中…いや、宇宙中のいろんな星々で行われていたんだよ。数千年という長い時間によって忘れられていったんだ」

ヒーロー「そうだったのか…」

311ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:20:40 ID:KDCwCrrY00

ゲン「俺が名を上げれば、世界中のファルコンたちのF-ZEROパイロットとしての血を沸き立たせられるかもしれない!そうなればもっともっとF-ZEROも盛り上がる!」

ヒーロー「ああ、頑張ってくれゲンさん。応援するよ」

ゲン「はっはっは!ありがとうヒーロー!」

ヒーロー「それじゃあ俺はまたパトロールに戻る。何かあればいつでも呼んでくれ。俺はすぐに駆けつける」

ヒーローはマントを翻し、去ろうとするが。

ゲン「頼もしいな!だがヒーロー、少し気負い過ぎてないか?」

ヒーロー「何?」

ゲン「俺がいつも笑っていられるのは自分のペースでやっているからだ」

ヒーロー「自分のペース…」

ゲン「俺は何も今すぐ夢を叶えようなんて思っちゃいない。一生かけて夢に近づければいい。届かなければ誰かに託そう。それくらいのノリでやってるんだ。もちろんできる限りの全力は尽くしてるが、すぐに叶うようなものでもないからな」

ヒーロー「…それを言うなら、俺の夢はこの国にいる限りは叶いそうにない」

ゲン「はっはっは!じゃあ外へ行ってみるといい!しばらく俺がヒーローの代わりをしてやる!」

ヒーロー「いや、悪いよ。それにゲンさんには荷が重い。F-ZEROもあるし」

ゲン「そんなことはないぞ!俺は強い!ヒーローよりもな!」

ヒーロー「強いのは分かる。だが、ヒーローとはそう単純なものじゃない。助けを呼ぶ声を聞いてすぐに駆けつけ解決する、そのためのセンサーを常に張り巡らせておかなければならないんだ」

ゲン「なるほど、アドバイスありがとう!気をつけるよ!」

ヒーロー「いやそうじゃなくて!俺はこの国から出るつもりはない!」

ゲン「逃げるのか?」

ヒーロー「なんだと?」

ゲン「そうやってこの国を理由にして自分のやりたいことから逃げているんじゃないかと聞いてるんだ」

ヒーロー「そんなわけないだろう!」

ゲン「だったら早く行くんだ。センサーを張り巡らせろと言ってたが、お前のセンサーはこの町限定か?ヒーローならもっと多くの人を守るべきじゃあないのか?」

ヒーロー「そ、それは…」

ゲン「平和なこの国でレスキュー隊のようなことをしている現状に満足しているんじゃないか?満たされないと言いながらその実、満たされてしまっているんじゃあないか?」

ヒーロー「…」

ヒーローは何も言い返すことができなかった。

312ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:21:33 ID:KDCwCrrY00

ゲン「気持ちは分かる。皆から頼られ、讃えられるのはすごく気分がいいからな」

ヒーロー「……たしかに…そうだったかもしれない…俺は満たされていたのかもしれない…」

ゲン「それでいいのさ!子供のうちはやりたいようにやればいい!言っただろ?気負いすぎるな。あまり根を詰めすぎるといつかポキッと折れてしまうかもしれない。大人になるまで、いや、大人になってからも、自分の本当にやりたいことなんて分からないもんだ」

ヒーロー「ゲンさんもか?」

ゲン「そうさ!キャプテン・ファルコンの復活なんて本当に俺が望んでいるのか?疑問に思うことはある。誰だってそうさ。それでいいんだ。気楽にいこう」

ヒーロー「気楽にか……ヒーローはそんな簡単な気持ちで名乗っていいものなのか…?いや、違う…ヒーローはもっと気高くなければ…」

ゲン「はっはっは!まあそうやって悩むのもたまにはいいことだ!存分に考えるといい!」

ヒーロー「…ああ…」

ゲン「それじゃあな!程々に頑張れヒーロー!」

バタン

ゲンは家の中に入った。

ヒーロー「…ゲンさんの言っていたことは正しい…この平和な国よりも、紛争地帯や治安の悪い国へ行ったほうがもっと多くの人を救えるだろう…だが…」

ブツブツ言いながらヒーローもパトロールを再開した。

住民「おーい!!ヒーロー!!」

ヒーロー「!!なんだ!?」

住民「橋の下に子供が倒れてるんだ!!来てくれ!!」

ヒーロー「何!?救急車を呼べ!!」

住民「ヒーローが運んだほうが早い!!」

ヒーロー「まったくしょうがないな!!」


ダダダダダダダッ!!


ガシッ!!


ダダダダダダダッ!!


ヒーローは一瞬で倒れていた子供を病院へ運んだ。

313ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:23:03 ID:KDCwCrrY00




少女「…………ん……」

病室のベッドで金髪の少女は目を覚ます。

ヒーロー「目が覚めたか、少女」

少女「!!」

ヒーロー「キミは橋の下で倒れていたんだ」

少女「……」

ヒーロー「なぜあんなところにいたんだ?濡れてなかったから川に溺れたわけでもなさそうだし…」

少女「…あ…」

ヒーロー「…まだ意識が朦朧としてるのか?無理に答えなくても大丈夫だ」

少女「…う…?」

ヒーロー「…もしかして喋れないのか?」

少女「………?」

ヒーロー「言葉が分からないのか…?」

少女「…あ……?」

少女は首を傾げる。

ヒーロー「…参ったな…」

ヒーローは帽子のつばを深くかぶる。

看護師「あ!起きてたんですね!呼んでくださいよ!」

病室に看護師が入ってくる。

ヒーロー「ああ、すまない、忘れていた。でも特に体に悪いところはなかったんだろう?」

看護師「ええ。すぐに退院できるはずです」

ヒーロー「しかし看護師さん、この子言葉が分からないようなんだ」

看護師「えっ!」

少女「あぅ…?」

314ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:24:03 ID:KDCwCrrY00



それから警察を呼び、少女のことを調べたが、情報はなかった。

看護師「とりあえず今夜は病院に泊まってもらいます。ベッドも空いてますし」

ヒーロー「ああ、頼む」

そしてヒーローは病院を後にした。


ヒーロー「さて…今日はもう遅いし帰るとするか」

少女「う…」

ヒーロー「…!?なぜキミがここに…」

振り返ると、少女がマントをつまんで立っていた。

看護師「ま、待って〜!」

ヒーロー「一体どうしたんだ…」

看護師「どうしたもこうしたも、ヒーローくんを追いかけていっちゃって…ほら、戻りますよ」

看護師は少女の手を引くが。

ギュウウゥゥ…!

ヒーロー「うぐっ…て、手を離せ少女!」

少女「…」

少女はマントを掴んで離さない。

看護師「離しなさーい!」

看護師は更に強く手を引っ張る。

ヒーロー「ゔっ…!く、首が締まる…!」

看護師「あ、ごめんなさい!」

ヒーロー「…はぁ…そんなにこのマントが気に入ったのか?仕方ないな。替えはうちにたくさんあるし、貸してやる。病院にいる間だけだぞ」

とヒーローはマントを脱いだ。

少女「…あー…」

少女はしばらくそのマントを見つめると。

ポイッ

ヒーロー「な!?なぜ捨てる!?」

ぎゅっ…

ヒーロー「なぜ俺の手を握る!?」

看護師「…も、もしかしたら、ヒーローくんを親だと思っているのかも…」

ヒーロー「目覚めた時に最初に見たからか!?いやそんな雛鳥じゃあるまいし!」

看護師「でも言葉も分からないんですよ?まるで赤ちゃんみたいです…」

ヒーロー「それは…」

少女「うー…」

少女はうるうるとした目でヒーローの顔を見つめる。

ヒーロー「…くっ!分かった!この子はうちで預かる!」

看護師「ええ!?」

ヒーロー「離れてくれないんじゃあ仕方ない。無理やり引き剥がしても、また抜け出してきてしまうだろう…」

看護師「そうですけど…ヒーローくんのご両親の許可は?」

ヒーロー「大丈夫だ。うちの両親はめちゃくちゃオープンだからな」

という感じで少女はヒーローが連れ帰ることになった。

315ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:24:45 ID:KDCwCrrY00



ヒーロー「少女、ここが俺の家だ」

少女「う…?」

ヒーロー「そうだった。言葉が分からないんだった」

ガチャリ

ヒーロー「ただいま」

ヒー父母「おかえり!」

ヒーロー「さっき病院から電話があったと思うけど、この子が…」

ヒー父「おお!その子が例の少女か!」

ヒー母「きゃー!かわいー!さあ、入って入って!」

ヒーローの両親はすぐに少女を受け入れた。

少女「…?」

ヒーロー「ほら、こっちだよ」

ヒーローに手を引かれ、少女は戸惑いながらも家の中へ入った。

ヒーロー「あっ、こら!靴は脱いで!」

少女「…う…?」

ヒーロー「やれやれ…」

ヒーローは少女の脚を持って、靴を脱がせた。

ヒー母「うふふふ、まるで兄妹ね!」

ヒー父「わっはっは!それにしちゃあ似てなさすぎるだろう!」

ヒー母「ホントね!お人形さんみたいに可愛いからびっくりしちゃったわぁ!」

ヒーロー「うるさいなぁ…」

少女「…?」

こうしてヒーローと少女の共同生活が始まった。

316ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:25:35 ID:KDCwCrrY00




翌日。

ヒーロー「さて、今日もパトロールだ」

少女「あぅー…」

ヒーロー「キミも来るか?」

少女「…?」

ヒーロー「まあ勝手についてくるんだろうけど…」


ヒーローが家を出ると、やはり少女はついてきた。

住民「ん?ヒーロー、どうしたんだその子。迷子か?」

ヒーロー「まあ、そんなところだ」

住民「ここらじゃ見かけない顔だね」

ヒーロー「ああ。だから困っているんだ。警察が調査してくれているし大丈夫だとは思うが…」

住民「そうか…名前はなんて言うんだ?」

ヒーロー「それが分からないんだ。恐らく記憶喪失のようで、言葉も喋れない」

住民「言葉も!?それはかわいそうに…不便だろう…」

少女「むぇぇー…」

少女はヒーローの後ろに隠れた。

住民「あら、隠れちゃった」

ヒーロー「まだ他人が怖いようだ。なぜか俺は懐かれてしまったが…」

住民「ははは、ヒーローの優しさは言葉じゃなくても通じるってことか」

ヒーロー「そんなんじゃないだろう、たぶん…」

317ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:26:10 ID:KDCwCrrY00


住民「おーいヒーロー!!来てくれ!!」

遠くの方から住民が手を振って走ってきた。

ヒーロー「どうした!」

住民「車がガス欠になっちゃって!ガソリンスタンドまで頼むよ!」

ヒーロー「だからそれ俺の仕事じゃないだろう!」


ダダダダダダ…!!


そう言いつつも一瞬で車をガソスタまで押し運んだ。

住民「ありがとう!助かったよ」

ヒーロー「気にするな…あ、しまった。少女を置いてきてしまった」

戻ろうと振り返ると。

少女「うあ?」

ヒーロー「うわっ!?」

すぐ後ろに少女はマントをつまんで立っていた。

ヒーロー「な、なんでついてこれるんだ…?普通の人間じゃありえない…まさかキミもファイターなのか?」

少女「…ぅあぅ?」

ヒーロー「答えが返ってくるわけもなし…か。パトロールを続けよう」

少女「ぁとーる?」

ヒーロー「…パトロール」

少女「あとーる」

ヒーロー「はは…言葉はまだ難しいか…」

318ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:26:56 ID:KDCwCrrY00





それから数週間が過ぎた。

ヒーロー「さて、今日もパトロールだ」

少女「ぱとろーる!」

ヒー父「よく飽きないなぁ。毎日毎日」

ヒーロー「それがヒーローの仕事だからな。いついかなる悪が現れても即座に現れみんなを守るのが俺の役目だ」

少女「ひーろー、やくめ」

ヒー母「よく言ったわ!さすがは母さんの息子!」

ヒー父「そうだなぁ、たしかに昔の母さんによく似てるよ。不良だった父さんにビビリもせずに注意してきて」

ヒー母「うふふ、まあ今思うと我ながら恐ろしいわ。当時は全然知らなかったけど、マリオ族に殴られでもしたら一発であの世行きだもの」

ヒー父「わははは!それはさすがに言い過ぎだろう!でも父さんはそんな勇気ある母さんに惚れてしまったんだなぁこれが!」

ヒーロー「息子の前でのろけないでくれ、まったく…じゃあ行ってくるよ」

少女「いってくる!」

ヒー父母「いってらっしゃーい!」

319ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:27:36 ID:KDCwCrrY00



ヒーロー「しかし少女も随分と喋れるようになったな。意味を理解できてるかは分からないが…」

少女「りかい、できてる。わたし、しょうじょ。あなた、ひーろー。ひーろー、みんな、まもる、えらい」

ヒーロー「はは…すごいな。少女は頭が良いんだな」

ヒーローは少女の頭を撫でる。

少女「えへへ〜」

それから二人はいつものように手を繋ぎ、町を歩いて回った。



そして数時間後。

ヒーロー「今日もとてつもなく平和だな、この町は…」

少女「へいわ!すばらしい!」

ヒーロー「ああ、そうだな。平和が一番だ」

少女「へへへ」

ヒーロー「今日はパトロールは終わりにして、少し遊ぶか」

少女「あそぶ?」

ヒーロー「最近隣の町に遊園地ができたんだ。この間人を助けた時に、そのお礼でチケットを貰ってな」

少女「ゆーえんち、ちけっと、なに?」

ヒーロー「まあ、行けば分かるさ」

320ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:28:23 ID:KDCwCrrY00



そして二人は遊園地へやってきた。

少女「これ、ゆううんち?」

ヒーロー「ゆうえんち、な」

少女「あれ、なに?」

ヒーロー「あれはジェットコースター」

少女「あれは?」

ヒーロー「観覧車だ。あれはコーヒーカップ。あれはゴーカート。あっちはメリーゴーランドだ」

少女「な、なんか、いっぱい…」

少女は見ているだけで目を回していた。

ヒーロー「ははは!どれに乗りたい?」

少女「ど、どれ、わからない」

ヒーロー「そうか。初めてだもんな。よし、それじゃあ最初はジェットコースターだ」

少女「じぇっとこーすたー!」

321ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:29:29 ID:KDCwCrrY00



数分後。

ヒーロー「オエェェ…」

少女「ひーろー、だいじょうぶ?」

ヒーロー「は…ははは…心配するな…そんなことより、楽しかったか?」

少女「うん!はやい、ぐるぐる、おもしろい!」

ヒーロー「そうか…それはよかった」

ゲン「はっはっは!デートか?ヒーロー!」

ヒーロー「ゲンさん!?なんでここに!」

ゲン「なんでも何も、ここは俺が出資してプロデュースしている遊園地だからな!」

ヒーロー「何!?そうだったのか!?」

ゲン「ほら、あの観覧車の真ん中を見ろ。俺のこのファルコンマークがついてるだろ?」

ヒーロー「あ、本当だ…どうりでジェットコースターが速すぎると思った…」

少女「あなた、だれ…?」

少女はヒーローの後ろに隠れながら恐る恐る尋ねた。

ゲン「俺は[世界第1位]ゲンだ!君のことは聞いてるよ!ヒーローの家で居候している迷子の少女だな!」

少女「げん…よろしく」

ゲン「ああ、こちらこそ!ヒーロー、少女の身元はまだ分かっていないのか?」

ヒーロー「ああ…まだ何の情報も見つかっていない」

ゲン「そうか。早く見つかるといいな」

ヒーロー「ああ。しかし…もし身元が判明しても、この子がちゃんと帰ってくれるかどうか…見ての通り、俺以外にはあまり懐かないんだ」

ゲン「フム。たしかに記憶もないとなると、今の少女からすれば両親すら他人と変わらないかもしれない。困りものだな」

少女「わたし、かぞく、ひーろー」

少女はヒーローの服をぎゅっと掴む。

ヒーロー「もちろん、少女はもう俺の家族だ。だがどこかで少女を捜している本当の家族がいるかもしれないだろう?」

少女「……」

少女はぶんぶんと首を振る。

ヒーロー「少女…」

322ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:31:15 ID:KDCwCrrY00

ゲン「この感じ…元の家で何かあったんじゃないか?虐待を受けていたとか…記憶を失ったというのも帰りたくないがための嘘ということはないか?」

ゲンはヒーローにだけ聞こえるくらいの小声で言う。

ヒーロー「その可能性も考えたが、体に傷はないし、一度警察の方で脈拍を測りながらの取り調べもあったが、特に怪しい点は見られなかった」

ゲン「そうか。だとしたら帰りたくないというより、本当にヒーローと別れたくないんだな」

ヒーロー「まあ…そう思ってくれるのは嬉しいが、このままでは良くないよな…」

ゲン「…ところで少女。君はもしかして、サムス族じゃないか?」

少女「さむす…?」

ヒーロー「サムス族?」

ゲン「ファイターの一族だ。前に海外でサムス族と会ったことがあってな。彼女らによく似ている」

ヒーロー「ファイター…やはり少女の身体能力の高さはそのせいだったのか」

少女「ふぁいたー…ひーろー、おなじ?」

ゲン「そうだ」

ヒーロー「詳しく聞かせてくれゲンさん」

ゲン「俺もあまり詳しくはないが…先祖の名はサムス・アラン。キャプテン・ファルコンと同じく宇宙船を持ち、宇宙海賊などと戦うバウンティハンターだったそうだ」

少女「…さむす…あらん…」

ゲン「その最たる特徴は、サムスにしか扱えないとされるパワードスーツだな。強力な破壊力を持つアームキャノンによって多くの敵を倒し、宇宙中の悪党に恐れられていたという」

少女「ぱわぁど…すーつ………ぅ…ぅぅう…!」

ヒーロー「!?ど、どうした!?」

急に少女が頭を抱えて、呻き声を上げ始めた。

少女「あぁぅ…うぁああああああああ!!」

ヒーロー「な、なんだ!?頭が痛いのか!?」

ゲン「少女!」

少女「…………………」

ヒーロー「お、おい…」

少女「あ……あたま……」

ヒーロー「大丈夫か!すぐに病院に連れて行く!」

少女「…あたまに…わからない…きおく…」

ヒーロー「記憶…!?それはまさかファイターとしての記憶か…?」

少女「ふぁいたー…?」

323ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:32:07 ID:KDCwCrrY00

ゲン「少女の見た記憶は、パワードスーツを着て敵と戦っていたんじゃないか?」

少女「ぱわーどすーつ…わからない…けど、たたかった。へんな、りゅうみたいなの…」

ゲン「竜…サムスの宿敵と言われるリドリーのことかもしれないな」

ヒーロー「やはりそうか…きっとサムス ・アランのことを聞いたのが引き金となって、記憶が呼び覚まされたんだ」

少女「むーん…」

ヒーロー「こんなこと言ってもよく分からないか」

ゲン「はっはっは!まあ、あまり気にすることはない。頭が痛いわけじゃないんだろ?」

少女「うん、だいじょうぶ」

ヒーロー「ファイターと呼ばれる種族にはよくあることなんだそうだ。俺もマリオの記憶を見たことがある」

少女「まりお?」

ヒーロー「俺や父さんのご先祖様だ。カメの大王と戦っていたらしい」

少女「かめのだいおう、なに?」

ヒーロー「クッパと言ってな、お姫様をさらって悪さをしていた。マリオはそのお姫様を助けるために戦っていたんだ」

少女「まりお、ひーろーみたい」

ヒーロー「何を隠そう、俺がヒーローを志したのはその記憶を見てからだからな。悪と戦うご先祖様に憧れて、俺もそうなりたいと思った」

少女「ひーろー、えらい!」

ヒーロー「はは…ありがとう少女。だがまだまださ。一度も悪とは戦えてないんだ」

少女「あく、ほしい?」

ヒーロー「…勿論平和が一番だ。だけど俺の目指すヒーロー像には、戦うべき相手が必要なんだ。前にゲンさんにも助言をしてもらったが…どうするべきか、まだ迷っているよ…」

ゲン「はっはっは、答えを焦る必要はない。人生はまだまだこれからだ」

ヒーロー「そうだな…」

ゲン「それじゃあ俺はもう行く。君たちの幸運を祈る!」

ヒーロー「ありがとう、ゲンさん」

少女「げん、ありがとう」

ゲン「それと、デート、楽しんでくれたまえ!はっはっは!」

ヒーロー「って、そういうのじゃないからな!」

ゲンは去っていった。

少女「でーと、なに?」

ヒーロー「しょ、少女にはまだ早い!」

少女「むー…」

それから二人はデートを楽しんだ。

324ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:32:59 ID:KDCwCrrY00




翌日。

ジリリリリリリ!!

カチャッ

ヒーローは目覚まし時計を止めて起きると、隣のベッドに寝る少女を起こしに行く。

少女は朝が弱く、ちょっとやそっとじゃ起きてこない。

ヒーロー「朝だぞ。おはよう、少…あれ?いない」

ベッドには誰もいなかった。

ヒーロー「目覚ましより早く起きるなんて珍しいな。トイレか?」

ヒーローはトイレを見に行く。

ヒーロー「いない…」

それから家中を捜すが。

ヒーロー「いない…いない…!なんで…」

ヒー父「どうしたんだ?」

ヒーロー「少女がいないんだ!」

ヒー父「え!?母さん、何か知ってるか!?」

ヒー母「い、いえ、何も聞いてないわよ!」

ヒーロー「な…!」

ヒー父「と、とにかく捜そう!母さんはうちの中をもう一回ちゃんと捜してみてくれ!俺たちは外だ!」

ヒーロー「ああ!」

ガチャッ!

そしてヒーローは勢いよく外へ出た。

325ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:33:56 ID:KDCwCrrY00

ヒーロー「しょ、少女!」

家のすぐ前に少女は立っていた。

ヒー父「なんだ、こんなところにいたのか!まったく、焦ったじゃないか!わははは!」


少女「ごめんね…」


ヒーロー「え…?」

その顔は今まで見たことのない悲しげな表情だった。

少女「私…わからなくなっちゃったよ…ヒーロー…」

ヒーロー「何を…言って…」

そして昨日までとはまるで違う流暢な喋り方だった。

ヒー父「ど、どうしたんだ…?様子がおかしくないか…」

ヒーロー「ああ…」

少女「昨日、ファイターの記憶を見たでしょ?その時に…自分の失くしてた記憶も戻ったみたい」

ヒーロー「何!?それなら早く言ってくれよ!」

少女「ごめんね…混乱して…頭の中がぐちゃぐちゃで…すぐには自分でも理解できなかったの」

ヒーロー「そ、そうか…でも、良かったじゃないか!これでキミの身元が分かる…帰れるんだ、本当の家族のところに!」

少女「……」

少女は首を横に振る。

ヒーロー「な、なぜだ…?」

少女「…言えないよ…こんなの…」

ヒーロー「え…!?」

少女「ううん、なんでもない…でももう…ここにはいられない」

ヒーロー「な、何を言ってるんだ…?話してくれよ!俺たちはみんな、キミの味方だぞ!過去に何があったって、俺たちは家族だ!」

少女「…ありがとう、ヒーロー…」

ヒーロー「少女…」

少女「…愛してる」

次の瞬間。

326ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:34:35 ID:KDCwCrrY00



カッ!!!!



眩い光が辺りを包み込んだ。

ヒーロー「ぐっ…!なんだ!?」

そして光はすぐに消えた。

ヒー父「な、何が起きてるんだ!?」

ヒーロー「少女!!無事か!!」

光を受けて目の前が見えないまま、ヒーローはさっきまで少女がいたところへ駆け寄る。

ヒーロー「どこだ!?少女!」

手探りで少女を捜す。

徐々に目が慣れてきて、周囲を見回す。

ヒーロー「少女…」

だが少女はどこにもいなかった。

ヒーロー「少女ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


それからすぐに警察に捜索願を出し、ヒーローたちも国中を走り回り、目撃情報を聞いて回った。

だがその後誰一人として少女のことを見た者は現れなかった。

327ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:36:10 ID:KDCwCrrY00





およそ一年後、魔法学校では。

夕陽に照らされる修練場にて、小学生と召喚士、空間魔法研究室の生徒たちが集まっていた。

小学生「いきます!!」

生徒たち「おう!」「がんばれ!」「君ならできる!」

小学生はブーメランを構える。

そのブーメランの表面には、びっしりと緻密な魔法陣が描かれていた。

小学生「とうっ!」


ブンッ!!


小学生がブーメランを投げる。


キュルキュルキュル…


するとブーメランが修練場のある一点で止まり、その宙に円を描く。

すると。


ボフッ!!


その円の中心が小さな爆発を起こし、同時に、空間に穴が開いた。

生徒たち「おおっ!!」

小学生「や…やった…!完成だ…!」

328ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:37:07 ID:KDCwCrrY00

昼間「すごい…!魔法史に名が残る偉業ですよこれは…!」

小学生「マジで!?」

昼間「マジです!完全に封鎖された空間を見つけ出す魔法…!今まで誰一人としてできなかったことを成し遂げたのですから…!」

生徒たち「やったなおい!」「本当にすごいよ!おめでとう!」

小学生「みんな…!ありがとう!みんながいっぱい研究手伝ってくれたお陰だ!」

校長「ほっほっほ、さすがはリンク族と言ったところじゃのう。珍しく昼間先生も興奮しておるわ」

小学生「校長先生!」

昼間「こ、これは、お恥ずかしいところを…」

小学生「見ててくれたんですか!?」

校長「もちろん。君には是非この空間魔法研究のリーダーとしてこれからも…」

小学生「ごめんなさい!」

校長「え?」

昼間「校長先生。転入手続きの時に説明したと思いますが…彼の目的は魔力暴走体質によって消えた少女を見つけ出し、助けることです」

校長「おお、そうじゃったな」

小学生「俺行かねーと!この魔法があればきっとアイツを救ってやれる!」

ダッ!!

小学生は走り出す。

昼間「落ち着きなさい」

パチンッ

召喚士が指を鳴らすと。

小学生「どわっ!?」

ドサッ!

小学生の両足が光の紐で結ばれ、バランスを崩して尻餅をついた。

小学生「な、何するんですか先生!」

昼間「この程度の魔法を即座に無効化できないようでは、彼女を見つけても返り討ちに遭うでしょう。魔力が暴走した時の彼女の強さを忘れたのですか?」

小学生「そ、それは…」

329ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:37:34 ID:KDCwCrrY00

昼間「このままでは無駄死にするだけです。ですから初等部卒業までの間、私が死ぬ気で鍛えます」

小学生「召喚士先生が、死ぬ気で…?」

昼間「君は一つの明確な目標が見えると、驚異的な集中力を発揮して、爆発的に伸びるタイプだと思います。君ならきっと短期間で私よりも強くなれるでしょう」

小学生「先生よりも!?それはさすがに言い過ぎじゃ…」

昼間「すみません、言い過ぎました」

小学生「本当に言い過ぎなの!?」

昼間「しかし間違いなく、今より数段強くなれます。私が保証します」

小学生「先生…!」

校長「うむ、それがよいな。がんばりたまえ」

小学生「よ、よろしくお願いします!」

昼間「はい、よろしくお願いします。来週から早速修行を始めますよ」

小学生「来週と言わず今日からでもいいですよ俺は!」

昼間「無理ですよ。足結びの魔法はとっくに解いていますが、立てないでしょう」

小学生「え?…あれ…ホントだ。なんで…」

生徒「アホ、ここ数日研究漬けでろくに寝てなかったろお前」

昼間「いかに高い身体能力を持っていても、ファイターだって人間です。しっかり食事と睡眠を取らなければそうなって当然ですよ。まして君はまだ子供だ。来週までしっかり体を休めてきなさい」

小学生「はーい」

330ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:38:23 ID:KDCwCrrY00



それから小学生は生徒たちに助けられながら、教室へ帰り支度をしに戻った。

おこめ「すごかったな!」

教室にはおこめがいた。

小学生「何が?」

おこめ「さっきの魔法!」

小学生「え?見てたのか?」

おこめ「ここの窓から修練場見えるからなー」

小学生「あホントだ。全然気付かなかったぜ…」

おこめ「隠された空間を見つけ出す…空間探査魔法とでも名付けるか。ほんとすごいぜ」

小学生「いや待てなぜお前が名付ける。まあいけど、分かりやすいし」

おこめ「ふっふっふ。㌦ポッターにもみせてやりたかった」

小学生「はは、アイツは更に飛び級して高等部まで行っちまったからな。もう俺らなんて眼中にもねーだろ」

おこめ「ぼくも!?」

小学生「そうだよ。いや、最初からだ。俺ら三人、一緒に入学したあの時からすでに、アイツの目指すところは俺らとは違った」

おこめ「㌦ポッターの目指すところ?」

小学生「召喚士先生だよ」

おこめ「まじ?」

小学生「正確には召喚士先生超え」

おこめ「まじのまじ?」

小学生「まあ直接聞いたわけじゃねーけどさ」

おこめ「なーんだ」

小学生「だけどアイツ授業中、召喚士先生にいつも対抗意識燃やしてただろ?先生より早く魔法陣描こうとしたり、先生よりでっけー使い魔呼び出したり」

おこめ「…あー、たしかに」

小学生「へへ…アイツはきっとすげー魔法使いになるよ。そんな気がする」

おこめ「そうだな!」

そして二人は下校した。

331ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:39:06 ID:KDCwCrrY00




翌週。

昼間「来ましたね」

小学生「はい!よろしくお願いします!」

小学生と召喚士の二人は、修練場で向かい合っていた。

昼間「いつでもどうぞ」

二人は戦いの構えをとる。


ダッ!!


小学生「はあああっ!!」


ブンッ!!


小学生は思いっきり剣を振り下ろす。

が、召喚士はすでに消えていた。


ギャリンッ!


昼間「むっ!」

小学生は背後に移動していた召喚士をクローショットで捕らえた。

小学生「とぉっ!!」


ドガッ!!


引き寄せた召喚士をそのまま蹴り飛ばす。

ズザザザ…

昼間「私が背後に回ることを読んでの攻撃…いいですね」

332ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:39:39 ID:KDCwCrrY00

小学生「あの時の俺とは違いますよ!」

昼間「…たしかにリンク族だけあって戦闘のセンスはあります。ですがまだ甘い。魔力の集中が足りていません。君の魔力総量は私以下…それで戦うとなれば、魔力コントロールの高速化が必要でしょう」

小学生「はい!」

昼間「さあ、どんどん来なさい」

再び二人は構え直す。

小学生「はああっ!!」


ドガッ!!

バキッ!!

ドガッ!!


小学生「くそっ!」

小学生の攻撃は全て召喚士に相殺される。


トンッ…


小学生「ごはっ!?」

腹を軽く小突かれて小学生は膝をついた。

昼間「もっと相手の動きを見るのです。魔力の防御が遅れれば、このように生身で攻撃を受けることになります」

小学生「は、はい…」

昼間「今は手加減しているからいいものの、あの少女の暴走状態で殴られたら怪我じゃ済みませんよ。できる限り最強の攻撃と、できる限り最大の防御。この二つを瞬時に切り換えられるようになってもらいます」

小学生「はい…!」

それから暗くなるまで二人は特訓を続けた。

333ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:40:39 ID:KDCwCrrY00





数ヶ月後。


ドガガガッ!!


ガクッ…

激しい打ち合いの末、召喚士は膝をつく。

昼間「はあ…はあ…君の勝ちですよ…」

小学生「や……やった…!!」

昼間「よく…頑張りましたね…この短期間で、本当にここまで強くなるとは…」

小学生「はい…!」

昼間「魔力コントロールも完璧に近い…これなら、少女が暴走しても止められるはずです」

小学生「ホントですか!?」

昼間「ええ。彼女の魔力量は多いと言っても、コントロールは未熟そのもの。教える者がいない以上、それはあの時から変わっていないでしょう。今の君ならば、きっと大丈夫です」

小学生「ありがとうございます!」

昼間「あ、でもまだ行かないでくださいよ」

小学生「はは、分かってますよ。修行の疲れを残したまま行ってもしょうがないでしょ。それに、明日の卒業式にはちゃんと出るつもりですから」

昼間「良かった…成長しましたね。強さだけじゃない。精神的にも…」

小学生「召喚士先生のお陰です。本当に、ありがとうございました…!」

小学生は深々と頭を下げる。

昼間「どういたしまして。ですが、大事なのはここからですよ」

小学生「はい、分かってます。俺の空間探査魔法の範囲は半径百十五メートル…この修練場と同じくらいだ。アイツを見つけるにはそれを何百回、何千回と繰り返していかなきゃならない」

昼間「長い旅路になるでしょう。でも君はきっと諦めないのでしょうね」

小学生「当たり前です!こんだけいろんな人たちに手伝ってもらったんだ…絶対にアイツ見つけて、助けて…そしたらまたここに戻ってきます」

昼間「ええ、待っていますよ」

334ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:41:52 ID:KDCwCrrY00




翌日。

講堂では魔法学校初等部の卒業式が行われていた。

校長「えーー、ワシは校長じゃ。ここにいる者は皆、素晴らしい魔法使いとしての資質を備えておる。初等部はまだ長き魔道の始まりに過ぎん。中等部でも頑張ってほしい。以上じゃ」

パチパチパチパチ…

校長は降壇する。

司会「校長先生、ありがとうございました。続いては…」


おこめ「㌦はやっぱいないな」

小学生「そりゃそーだろ、高等部だぜ」

並んだ席に座る二人は小声で話す。

おこめ「でもざんねんだ。あいつもぼくたちのライバルのハズなのにさ。一緒に卒業式にも出ないなんて」

小学生「しょうがねーさ。ぶっちぎりで凄い才能持ってたんだ。でもおこめ、お前ならきっとアイツに追いつけるぜ」

おこめ「なに?」

小学生「お前の米魔法もずいぶん完成に近づいてるんだろ?」

おこめ「まだまだだ。それにもし完成したとしても、飛び級するには他のいろんな分野でもトップの成績をとらなきゃいけないんだぞ」

小学生「はは、飛び級なんかしなくていーだろ」

おこめ「はー?どゆこと」

小学生「夢なんだろ?米魔法はお前の。だったら先に夢を叶えた方の勝ちじゃねーか。㌦はたしかにすげーけど、まだ夢を叶えちゃいない」

おこめ「…なるほど!」

小学生「頑張れよおこめ。俺は㌦より、付き合いの長いお前を応援するぜ」

おこめ「おう!…ん?なんだそれ」

小学生「何が?」

おこめ「まるで自分は競争から降りるみたいな言い方じゃんか」

小学生「ああ、言ってなかったっけ?俺はこの卒業式を最後に、この学校を去る」

おこめ「ええ!?」

おこめは思わず大声でリアクションをとった。

教師「そこ!静かに!」

二人「ごめんなさい」

335ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:43:24 ID:KDCwCrrY00

おこめ「ど…どゆこと〜!?」

再び小声に戻り、小学生に問う。

小学生「やらなきゃいけねーことがあるんだ」

おこめ「…そういえば入学のときにも言ってたな。それってなんだ?」

小学生「言えねーことだ」

おこめ「え〜。空間魔法とか、センセーとの修行も全部そのためか?」

小学生「まあな。ま、いつまでかかるか分かんねーけど、やること済んだらまた顔出すからよ。そん時までにお前もしっかり夢叶えとけよな!」

おこめ「へへ…んじゃあそれでいいじゃん」

小学生「あ、そうだな!俺のやることと、おこめの夢と」

おこめ「どっちが先に叶えられるか」

二人「勝負だ!」

ザワザワ…

小学生「…ん?なんか注目されてね?まだ声デカかった…?」

おこめ「それはすまんことをした…」

司会「何してるんですか。早く登壇してください」

小学生「え…?え?俺!?」

小学生はスポットライトで照らされていた。

昼間『お喋りに夢中で何も聞いてませんでしたね?』

小学生(おわっ、先生…!いきなり念話すんのやめてくださいよ…)

昼間『君は首席に選ばれたんですよ』

小学生(えぇっ!?)

昼間『当然ですよ。新たな魔法の開発や、私にも匹敵する魔力コントロール、他の授業でもそれらを上手く応用して好成績を残してきましたからね。さあ、登壇してください』

小学生(は、はい)

小学生は戸惑いながら、校長の待つ壇上に向かう。

校長「表彰状。君はこの学年で最も優秀な生徒じゃったので、これを進呈する。魔法学校校長」

小学生「ありがとうございます」

小学生は校長から賞状をもらう。

パチパチパチパチ…

336ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:43:58 ID:KDCwCrrY00

司会「ではそのまま代表挨拶をお願いします」

小学生「え!?」

校長「我が校ではそういう決まりになっておるのじゃ」

小学生「いや、でもなんも準備してねーけど…!」

校長「今の気持ちを、素直に皆に伝えてほしい。事前に準備して着飾った言葉より、本心を聞きたいのじゃよ」

小学生「…わ、分かりました…」

校長は小学生を残して降壇した。

小学生「えー…と…素直に今の気持ちを言うと、いきなり壇上で喋れって無茶振りやめてくれよって感じなんですけど…」

ハハハハ…

小学生「でもこれだけは言える…俺がここに立てたのは、支えてくれたみんなのお陰です。召喚士先生、研究室のみんな、父ちゃん、母ちゃん、そしてライバルたち。今まで本当にありがとうございました!」

小学生は深く頭を下げる。

パチパチパチパチ…

そして小学生は降壇した。

おこめ「わはは、優等生みたいなコメントだったな」

小学生「うっせー」

そして卒業式は無事終わった。

337ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:45:31 ID:KDCwCrrY00



そして。

おこめ「これでお別れか」

小学生「ああ」

表の空間へと続くゲートの前で、小学生とおこめ、召喚士が集まっていた。

おこめ「さびしくなるな」

小学生「まあ二度と会えないわけじゃねーし、お互い頑張ろうぜ!」

おこめ「おう」

昼間「何か困ったことがあれば遠慮なく頼ってくださいね。よほど離れた場所でなければ魔法書で手助けできますから」

小学生「はい!ありがとうございます!あ、それと魔法動物科の先生に、しょーくんとドルボリドルのこと、よろしくお願いしますって伝えてください」

昼間「分かりました」

おこめ「ぼくもちゃんと面倒みるよ」

小学生「おう、サンキュー。じゃあ…俺、行きますね」

生徒たち「おーい!」

小学生「!」

走ってきたのは、空間魔法研究室の生徒たちだった。

小学生「みんな…」

先輩「ほら、これ」

そのリーダーを務める先輩が、ブーメランを渡した。

小学生「え?いや、自分のちゃんと持ってますけど…」

先輩「違うよ。お前が研究室に来なくなってからも、俺らは当然研究を続けてた。お前のお陰で空間魔法の研究は更に上の段階へと進んだ。これはお礼だ」

小学生「お礼って…」

先輩「お前の空間探査魔法に更に改良を加えたんだ。探査距離は元の三倍になってる」

小学生「三倍!?まじか!」

先輩「へへ、驚いたか。俺にも先輩の意地があるからな。つっても研究室のみんなで協力したんだけど」

小学生「みんな…ありがとう!」

生徒たち「おう!」「がんばれよ!」

小学生「ああ!じゃあ、行ってきます!」

そして小学生は魔法学校を去った。


小学生「待ってろ…絶対に助けてやるからな…!!」





第一章 完

338ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:57:20 ID:KDCwCrrY00
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
第一章は小学生編でした!
構想と書き溜めをするためにしばらく更新は休みますが、第二章も乞うご期待!
感想等頂けると喜びます!

339はいどうも名無しです (ワッチョイ a871-cfb3):2021/12/01(水) 19:55:45 ID:L7RdwBT600
第一章乙でした!
いつも楽しく読ませていただきました
続きも楽しみにお待ちしています!

340ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/06(月) 07:03:59 ID:27bQicF.00
>>339
ありがとうございます!
頑張ります!

342はいどうも名無しです (ワッチョイ 7dbb-bb58):2021/12/10(金) 11:57:20 ID:XjrDsy/o00
次の出番はいつになるか分からないANSをすこれ

343はいどうも名無しです (スプー 635f-bb58):2021/12/10(金) 12:21:40 ID:Cdgqs5jwSd
>>342
ここANSスレじゃなかったすまそ

346動画なら (ワッチョイ 567a-c5e3):2021/12/16(木) 22:17:54 ID:bdWp7u1U00
ふー、うっかり二週してたから感想忘れてた。
執筆お疲れ様でした。2部も楽しみにしてます。
フォックス勢モブキャラ含めて皆面白くて寿司!

347ハイドンピー (ワッチョイ 4b69-bbb2):2022/01/16(日) 08:30:09 ID:rMCOyq6200
>>346
ありがとうございます!
二章も楽しんで頂けるようにがんばります!

348ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:11:03 ID:WwT6cbl.00

〜ここまでのあらすじ〜

小学生(大学生)は少女と出会い、いなくなったペットの衝撃を一緒に探すことに。
そのうちに二人はとても仲良くなったが、少女は愛によって魔力が暴走し荒ぶってしまう「魔力暴走体質」を持っていた。
少女は小学生をボコした後、消息不明に。

小学生は少女を見つけるため、召喚士が教師を務める魔法学校に入学。
そこで㌦ポッターやおこめと出会い、互いに認め合うライバルに。


その頃、世界各地では謎の緑フォックスたちやら、魔族やらが暗躍し、フォックスの村が壊滅したり、リカエリスが消息不明になったり、ナザレンコが泣いたり。

片割れが町の平和を守るためにヤクザたちとバトったり、ちょっと打ち解けたり。

味方殺しとエーレヒトが出会って殺しあったり、友達になったり。

ちょこにゃが産まれたり。

空色十字軍が国に戦争しかけたり、エーレヒトや人喰い軍曹まで乱入してきたり、十字軍は負けて捕まったり、エーレヒトは軍曹に喰われそうになったり。

ヒーローが記憶を失った少女と出会ったり、一緒に暮らしたり、少女が記憶を取り戻したと思ったらまた消息不明になったりしていた。

宇宙各地でも、謎の緑フォックスたちやら、魔族やらが暗躍し、アルザークやエースのパパが奮闘したり、アメリーナが闇堕ちしたりしていた。

魔界では、黒猫とおしりが奈落のヨシオに捕まったり、脱走したり、和解したりしていた。


そんなこんなで数年経ち、小学生たちは別空間から突然現れたサルにドルボリドルと名付けたり、㌦ポッターだけ飛び級して疎遠になったり。
なんやかんやありながらも、無事初等部を卒業。

小学生は魔法学校で身につけた「空間探査魔法」を使い、消えた少女を探す旅に出たのであった。

349ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:13:59 ID:WwT6cbl.00
第二章




ここはとある田舎町。

ドガッ!!

ずざざざ…

???「くそっ…何なんだよてめえら!いきなり変な穴から出てきやがって…!」

魔物「クケケケケケ…」

四足歩行の黒い魔物に囲まれている、ピンクルイージの少年がいた。

だんっ!!

魔物たちが一斉に飛びかかる。

???「く…ここまでか…!」

ルイージは目を瞑る。


ギュルルルルッ!!


ドガガガガガガ!!


魔物「グギャアアアア!!」

???「え…」

???「大丈夫か?」

目を開けると、そこには青マリオの少年が立っていて、魔物たちは倒れていた。

???「た、助けてくれたのか…!ありがとう!あんた、名前は?」

???「俺はリア・リエ。マリオ族だ」

???「マリオ族!そうか、強いはずだぜ。俺はレイア、ルイージ族だ!」

350ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:15:30 ID:WwT6cbl.00

リア「ルイージ…にしては弱いな。こんな奴らに手こずるとは」

レイア「…悔しいがその通りだ…俺は強くなりてえ。どうやったらそんなに強くなれるんだ?」

リア「修行するしかねえだろ」

レイア「修行か!ありがとう!よぉし!やってやるぜ!」

リア「おい、待てよ」

レイア「え?」

今にも走り出しそうだったレイアをリア・リエは引き止めた。

リア「闇雲にやったって意味はない。目標を決めてメニューを組まないとな」

レイア「なるほど」

リア「それに修行には修行相手がいたほうが効率がいい」

レイア「そうか!じゃあ俺とやろうぜ!」

リア「フッ、だからそう言ってんだよ」

レイア「おぉ、そうか!よろしく頼むぜ!」

リア「俺の修行はキツイぞ。死ぬ気でついてこい」

レイア「望むところだ!」

そんな感じで、後に"熱望ブラザーズ"と呼ばれる二人は共に修行をすることになった。

351ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:16:52 ID:WwT6cbl.00



そのすぐ近くでは。

ダダダダダダダ…!

魔物「ギィッ!グギッ!」

先程の魔物が一匹だけ逃げ延びていた。

そしてその先には一人の金髪少女がいた。

???「え…?うわっ!何!?」

魔物「グギャーッ!」

魔物はその勢いのまま、少女に飛びかかる。

???「伏せろっ!」

???「えっ!?」

後ろからの声に、少女は咄嗟にしゃがむ。


ドウッ!!!!


魔物「ギャッ」

そこへ飛んできた光の球によって、魔物は木っ端微塵になった。

???「た、助かった…?」

???「怪我はないか?」

???「は、はい…あ、ありがとうございます…」

魔物を仕留めたのは黒いパワードスーツのサムス族だった。

352ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:18:12 ID:WwT6cbl.00

ガション

サムスは頭部の装甲を取り、褐色の素顔を見せた。

???「俺は卍黒きムッコロズ。お前は?」

???「バ…バロンムッコロスです」

卍「ムッコロス?」
バロン「ムッコロズ?」

卍「……似てるな」

バロン「はい…」

卍「それにその顔、お前もサムス族か?」

バロン「は、はい」

卍「歳も近そうだな。フ…運命など信じていなかったが、これがそうなのかもしれないな」

バロン「た、たまたまですよ!僕はムッコロズさんみたいに強くないですし!」

卍「パワードスーツ無しじゃそりゃそうだろ」

バロン「そ、そうなんですかね…?正直、着ても使いこなせる気がしませんけど…」

卍「自分のパワードスーツは持ってないのか?」

バロン「一応家に祖母のお古がありますけど…まだサイズが合わなくて着れないんです」

卍「そうか…まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。少し修行をつけてやる」

バロン「えっ!?」

卍「スーツが無くても戦闘技術は向上できる。肉弾戦や射撃精度、戦闘中の細やかな判断はスーツを着たからといって変わるものじゃないからな」

バロン「で、でもいいんですか?」

卍「ああ。人に教えることで自分の向上にも繋がる」

バロン「ありがとうございます…!」

そうしてこの二人もまた、修行仲間として行動を共にするようになった。

353ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:20:30 ID:WwT6cbl.00



さらにそのすぐ近くでは。

中学生「魔力が消えた…アイツらが倒してくれたみたいだな」

魔法学校を卒業し、中学生になった大学生がいた。

中学生とは言っても学校には通わず、少女を捜す旅を続けているのだが。

中学生「魔界から来た魔物…召喚士先生からも連絡来たけど、最近ホント多いな…どうなってんだ?一体」

???「やあそこのキミ」

中学生「…?俺?」

???「ああ」

中学生に話しかけてきたのは、白ルイージだった。

中学生「何だ?」

???「キミ、魔法使いだね?」

中学生「な!なんで分かった!?もしかしてアンタも…」

???「いや、ボクは魔法は使えないよ。ただその存在は知っている。キミの背負っているそのブーメランに描かれているのは、魔法陣だろう?」

中学生「……ナニモンだ…?」

???「ボクはパジャマ。パジャマの革命軍の総帥だ」

中学生「パ、パジャマの革命軍…?」

354ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:21:42 ID:WwT6cbl.00

パジャマ「まだ公には出てないから、知らなくても無理はない。この世に永遠の夜をもたらす団体さ」

中学生「な、なんかアブなそーなヤツらだな…」

パジャマ「とんでもない。闇に包まれた世界はとても美しい…きっとボクらの目的を果たした世界は、キミも気に入ってくれることだろうね」

中学生「その考え方がもうアブねーんだよ!」

パジャマ「やれやれ。とにかくボクらは今、魔法使いの力を借りたいんだ」

中学生「永遠の夜をもたらす魔法なんか知らねーけど…」

パジャマ「ああ、そこは問題ないよ。ただ我々の開発した道具に魔力を必要としていてね」

中学生「なるほど…でもやっぱ怪しいし…悪いけど他を当たってくれ」

パジャマ「本当にいいのかい?」

中学生「どういうことだよ」

パジャマ「知っているんだよ、キミが魔法学校を首席で卒業した天才だということはね」

中学生「!!」

パジャマ「なぜ知っているのかって?実は魔法学校出身の魔法使いは、ウチにも何人かいるのさ」

中学生「じゃあそいつらに手伝ってもらえばいいじゃねーか…」

パジャマ「それが残念ながら、彼らでは無理なんだ。その道具を使うには魔力を一点に集中しなければならない。それほどの魔力操作をできる魔法使いはほとんどいない」

中学生「それで俺を狙ったわけか…」

パジャマ「さあ、ついてくるんだ。ボクらのアジトへ案内するよ」

中学生「待てよ、協力するなんて一言も…」

パジャマ「キミなら気付いてるでしょ?ボクらがキミについての情報を握っているということが、何を意味するか」

中学生「…ひ、卑怯だぞてめー!」

パジャマ「大人しく協力すれば無事は保証するよ…キミの仲間のね」

中学生「くそっ…分かった…」

パジャマ「ふふふ、ありがとう。こっちだよ」

中学生(ちっ…面倒そうなのに捕まっちまった…まあ永遠の夜なんて絶対ありえねーし、適当に済ませて、とっととおさらばしてやる)

中学生はパジャマについていった。

355ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:23:10 ID:WwT6cbl.00



中学生「ここがてめーらのアジトか」

そこは教会のような場所だった。

椅子が並べられ、中心部には翼の生えた女神のような石像が立っている。

パジャマ「ああ。みんな来てくれ!ボクらに協力してくれる新たな仲間を紹介するよ!」

中学生「仲間じゃねーよ」

パジャマ「まあいいじゃないか、細かいことは」

すると、アジトの奥からぞろぞろとメンバーが現れた。

中学生「…!?」

パジャマ「どうした?」

中学生「ど、どうしたって…なんでみんな…そんな…」

メンバーたちの多くは、体の一部が欠損していたり、障害を患っていた。

中学生はまだ大きな障害をもった人をあまり見たことがなかったので、衝撃を受けた。

パジャマ「…ショッキングな光景だろう?」

中学生「……」

パジャマ「そうだ。差別というのは、見えるから起こるんだ」

中学生「さ、差別ってわけじゃ…」

パジャマ「ああ、キミにとってはそうだろう。でも彼らは生きているだけなんだ」

中学生「生きているだけ?」

パジャマ「腕が無くても、脚がなくても、彼らにとってはそれが当たり前で、ただ生きているだけ…なのに、人々は無意識にそうやって彼らを奇異な目で見るでしょ?それが彼らには辛いんだよ」

中学生「…」

パジャマ「障害だけじゃない。形、色、種族による差別も…全ては見えるから起きる。ボクらパジャマの革命軍の目的は、世界を夜の闇に包み込み、世界を本当の意味で一つにすることだ」

中学生「何も見えない、光のない世界なら、差別は起きないってことか…そんな無理やりな方法、俺はよくないと思う」

パジャマ「へぇ、じゃあキミならどうする?」

中学生「分かんねーけど…少なくともずっと夜の世界じゃすげー健康によくないってことは分かるぜ」

パジャマ「そこは心配ないさ。大丈夫なようにするからね」

中学生「どういうことだよ」

356ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:25:31 ID:WwT6cbl.00

パジャマ「世界を夜にするための道具、それはただ夜にするだけじゃないってことさ。陽の光など浴びずとも心身ともに健康を保つことができるよう、すべての生物の肉体を改変する」

中学生「んなっ…!そんなことできるわけねーだろ!」

パジャマ「それはどうかな?現にボクは人体改造を施され、陽の光を必要にしない体となっているよ」

中学生「マジで!?」

パジャマ「うん。ボクがまだ赤ちゃんの頃だ。ボクは日光によって火傷を負ってしまう肌の病を患った。絶対に治らない病気だ。そこで、パパがボクをとある男の元へ連れて行き、改造された」

中学生「う…うさんくせーな…」

パジャマ「本当の話だよ。その男はクローン研究のスペシャリストでね、そのクローンの細胞をボクの体に混ぜ、不安定になっていたDNAのバランスを保ったんだ」

中学生「そんなことできんのか…?」

パジャマ「できたからボクはここにいる」

中学生「…」

パジャマ「さあ、こっちだよ」

パジャマは奥へ進む。

パジャマ「これが、ボクらの望みを叶えてくれる装置だ」

中学生「…え?それ?てめーらの崇める神様かなんかかと思ってたんだけど…」

それはアジト内に入ってすぐに目に入った、女神像だった。

パジャマ「神なんていないよ。もしそんなものがいるならボクたちが殺す。これはたまたまそういう形になっただけさ」

中学生「そーすか…で、これをどうすりゃいいんだ」

パジャマ「脚のところに魔力を吸収する珠が付いてる」

中学生「…え?どれ?」

パジャマ「これ」

パジャマが指差したところをよく見ると、BB弾くらいの小さな水晶玉のようなものが埋め込んであった。

中学生「ちっさ!!」

パジャマ「ああ、だから繊細な魔力操作が必要なのさ」

中学生「もっとデカいの使えばいいじゃねーか」

パジャマ「これ以上大きくしては魔力が僅かに拡散してしまい失敗する。言ったろう?ウチにも魔法使いはいるんだ。何度も何度も失敗を繰り返して、ようやくこの形にたどり着いたんだよ。さあ、頼むよ、ありったけの魔力をその珠に注ぎ込んでくれ」

中学生「分かったよ…」

中学生はその珠に手をかざす。

357ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:26:47 ID:WwT6cbl.00

中学生「はあああああっ!!」


ピカーーン!!


魔力を込めると、女神像が光り始めた。

パジャマ「おおっ!素晴らしい!」

台座に取り付けられたメーターがグルグルと回転する。

パジャマ「…いいぞ…これなら本当に…!」


ボンッ!!


中学生「おわっ!」

珠が爆発した。

パジャマ「…え?」

ざわざわ…

アジト内がざわつく。

中学生「…な…なんかやっちゃった?」

パジャマ「…ど…」

中学生「?」


パジャマ「どうしてくれるんだああああああ!!」


中学生「!?」

358ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:28:06 ID:WwT6cbl.00

パジャマ「その珠めちゃくちゃ貴重なんだよ!?」

中学生「いや知らねーよ!!」

パジャマ「知らないじゃ済まないんだよ!!魔力込めすぎ!!」

中学生「だから知らねーって!!そんな大事なら先に説明しろや!!」

パジャマ「普通そんな一気に注ぎ込まないでしょぉ!?こんな小さい珠なんだから慎重に少しずつやるもんでしょぉ!?」

中学生「ありったけの魔力を注ぎ込めって、てめーが言ったんだろーがっ!!」

パジャマ「そりゃキミが優秀な魔法使いだから信頼してたんだよ!!そんな基本的なところでミスするなんて思わないでしょ!!ガッカリだよ!!」

中学生「うるせーー!!勝手に信頼すんな!!」

パジャマ「……ハァ…ハァ…」

中学生「…」

パジャマ「…くっ………過ぎたことは仕方ない…声を荒げてすまなかったね…」

中学生「ホントだよ」

パジャマ「…あぁ…たしかにキミの言う通りだ…ちゃんと説明するべきだったね…」

ゴゴゴゴゴゴ…

中学生「……ちょっと待て、なんだこの揺れ」

パジャマ「この装置はあの珠で制御する筈だったんだ…それが壊れた今、キミの注ぎ込んだ魔力は装置の回路内で暴走し…増幅機関で反復して巨大化する…」

中学生「つまりどういうことだよ!」

パジャマ「あと数十秒で爆発する…」

中学生「はぁっ!?早く言えバカヤロー!!」

中学生は即行で逃げ出す。

中学生「…おい!お前ら何やってんだ!お前らも早く逃げろ!」

振り返ると革命軍たちはその場で立ち止まっていた。

パジャマ「フッ…もう終わりさ…ボクらはこの作戦に命をかけていたんだよ…もう生きている意味はない…」

359ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:29:18 ID:WwT6cbl.00

中学生「バカヤローーー!!」

ダダダダダ…

中学生はすぐに引き返し、革命軍たちの手を引っ張った。

パジャマ「なぜ助ける…?ああ、人質が心配なのかい?安心してよ…ボクの命令がない限り危害は加えない…ここでボクが死ねば、全て丸く収まるさ…」

中学生「マジでバカヤローだな!!こんなアホみてーな失敗したぐれえで諦めてんじゃねーよ!!てか目の前で死のうとしてるヤツいたらそんなん関係なく助けるっつーの!!」

パジャマ「…」

そうして中学生は革命軍たちをアジトの外へと引っ張り出していく。

タタタタタ…

中学生「よし!お前で最後だ!来い!」

ガシッ!

最後まで突っ立っていたパジャマの手を掴む。

パジャマ「離せ!ボクはここで死ぬ!」

中学生「俺の目の前で死なせてたまるかボケ!助けた後で勝手に死ね!」

キュゥゥゥ…!!

女神像がひび割れ、そこから光が溢れ出す。

中学生「くっ!もうヤバそうだな!ほら早く行くぞ!」

パジャマ「やめろ!離せ!」

中学生「暴れんな!」

中学生は無理やりパジャマを引きずっていく。

そして…



ドドォォオオオオオオオオン!!!!



大爆発が起きた。

中学生「どへえ!」

ギリギリでアジトの外へ出た二人は、その爆風で吹っ飛ばされ、

ゴロゴロゴロゴロ…

びたーん!!

転がって、壁に激突した。

中学生「あ、危なかったぜ…」

パジャマ「…くそっ…余計なことを…」

中学生「ちっ!ホント陰気くせーな!生きてりゃいいことあんだろ!」

パジャマ「そんなもの…」

360ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/02(木) 21:30:55 ID:WwT6cbl.00

「「総帥!」」

パジャマ「!!」

パジャマの元へ、革命軍のメンバーたちが駆け寄ってきた。

「よかった…ご無事で…」
「お怪我はありませんか!?」

パジャマ「み…みんな…」

中学生「…ほらな、お前はもうかけがえのないモンを手に入れてるじゃねーか」

パジャマ「……くっ……」

中学生「もう変なことしねーで真っ当に生きろよ。こんなに仲間がいるんだ。それでも諦めきれねーならまたやり直しゃあいい。みんながきっと支えてくれるだろうよ」

「ああ!その通りだ!」
「私たちは総帥にどこまでもついてゆきます!」
「総帥!」

パジャマ「……ふふ…そうか…ありがとう」

中学生「んじゃあな!」

パジャマ「…待ってくれ」

中学生「なんだよ」

パジャマ「……すまなかったね。キミの仲間には今後一切関わらないと誓うよ」

中学生「ああ、分かりゃいいんだよ。んじゃ…」

パジャマ「キミはボクたちに協力してくれた。だから今度はボクたちがキミに協力させてほしい」

中学生「え?」

パジャマ「キミが幼なじみの少女を捜していることは、キミの身辺を調べた時に知っている。彼女についての情報を提供したい」

中学生「何!?なんか知ってんのか!?」

パジャマ「ああ。…と言ってもそれが同一人物かどうか、確証はないけど…」

中学生「何でもいい!!教えてくれ!!」

パジャマ「二年ほど前…ここから南西へ行ったところにある王国に、サムス族の子供の目撃情報があったんだ」

中学生「マジか!」

パジャマ「でもその子は記憶を失っていたらしい。そしておよそ一ヶ月の間、とある家族に引き取られ暮らしていた」

中学生「…過去形ってことは…」

パジャマ「ああ、彼女はまた姿を消している。引き取った家族の目の前で、突然光を放って、次の瞬間にはいなくなっていたそうだ。そしてその後一切の目撃情報はない…」

中学生「…やっぱり……アイツは別の空間を通って移動したんだ…!」

パジャマ「空間移動…魔法の類か」

中学生「その家族に会って話を聞いてみたい。なんて人たちか分かるか?」

パジャマ「ああ」

パジャマはその名前と住所を伝えた。

中学生「ありがとう!とりあえず行ってみる!」

パジャマ「ああ…彼女が見つかるといいね」

そして中学生はパジャマの革命軍たちと別れ、王国へと向かった。

361ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:18:28 ID:5KDco17I00





魔法学校では。

ドルボ「ウキャーッ!」

おこめ「おはようドルボリドル!」

おこめは魔法動物科の飼育施設を訪れていた。

中学生との約束通り、おこめは毎日ドルボリドルと衝撃の世話をしているのだ。

ドルボ「オハヨー!」

おこめ「うわ!!喋った!?」

ドルボ「シャベッタ!」

おこめ「すごい!天才サルだ!」

昼間「元々喋れる種族なのかもしれませんね」

おこめ「センセー!」

昼間「おこめくん、おはようございます」

おこめ「おはよーっす」

昼間「ドルボリドルに似た種族に、ドンキー族というゴリラの姿をした種族がいます。彼らはとても頭が良く、喋る事もできます」

おこめ「でもドルボリドルは今まで喋らなかったのに…」

362ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:18:58 ID:5KDco17I00

昼間「それはどんな種族でも同じですよ。赤ちゃんが初めから流暢に喋れるわけではないでしょう?」

おこめ「なるほど…成長したんだな」

昼間「ええ。君が毎日世話をしている成果と言えるでしょう。このまま意思疎通ができるまでになれば、もしかしたら元いた世界に帰してあげられるかもしれません」

おこめ「まじ!?」

昼間「赤ん坊の頃の記憶ですから保証はできませんが…可能性はあります」

おこめ「そうか…じゃあこれからもっと話しかけるようにするぞ!」

昼間「フフ、よろしくお願いします。私もできる限り対話を試みることにします」

おこめ「おお、センセーもよろしくな!」

衝撃「ガルルル…!」

昼間「衝撃くんの方は相変わらずですね…」

おこめ「でも最近ぼくに電撃しなくなった!手渡しでエサもあげてるぞ!」

昼間「ほう…少しは人に慣れてきたのでしょうか」

おこめ「毎日世話をしている成果!」

昼間「そうですね。魔法動物科の先生もすごく助かってると言っていましたよ。ただ、自分の研究も疎かにしてはいけませんよ、おこめくん」

おこめ「モチのロン!」

363ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:19:40 ID:5KDco17I00




翌日。

おこめ「おはようドルボリドル!」

ドルボ「おはよう」

おこめ「ぼくおこめ!」

ドルボ「知っている。お前はおこめ…私はドルボリドル」

おこめ「すげー!じゃあドルボリドルを見つけたヒトわかる?」

ドルボ「昼間の召喚士だな。召喚魔術のエキスパート。現状は魔法学校一の魔法使いだ」

おこめ「うおー!めっちゃ喋れるようになってる!!」

ドルボ「そう騒ぐな。まずは私をこの狭苦しい檻から出してもらおう」

おこめ「おー、そうだな。そこまで喋れたらもうほとんど人みたいなもんだ。センセーにカギもらってくるぞ!」

364ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:20:23 ID:5KDco17I00



数分後。

おこめ「カギもらってきたぞー」

女教師「本当なの?ドルボリドルが喋ったって」

おこめ「まじ!めっちゃ流暢よ!ほらドルボリドル、なんか喋って!」

ドルボ「命令するな。私はドルボリドル。お前はいつも私の世話をしている者だな。礼を言う」

女教師「あらほんと…なんかちょっとエラそうだけど…すごいわねぇ」

おこめ「ねえ、出していい?」

女教師「そうねぇ、まだダメよ」

ドルボ「何?」

女教師「知性を持った魔法動物は危険だからね。それもつい先日まで一言も喋らなかったのに、突然流暢に喋るなんて…明らかに不自然よ」

おこめ「ドルボリドルがあぶないヤツなわけないぞ!」

女教師「それはどうかしらねぇ。とにかく安全が確認できるまでは出しちゃダメ。昼間先生、聞こえますか?」

女教師は昼間の召喚士に念話を繋いだ。

昼間『はい』

女教師「ちょっとこっちまで来れるかしら」

昼間『分かりました」

と、言い終わる前に召喚士は空間移動で飛んできた。

365ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:21:52 ID:5KDco17I00

おこめ「センセー、おはよー」

昼間「おはようございます。ドルボリドルの件ですね」

女教師「ええ」

ドルボ「昼間の召喚士、お前はこの世界に迷い込んだ私を拾ってくれた男だ。感謝している。だが私は狭い場所が嫌いなのだ。この檻から出せ」

おこめ「かわいそうだ!ねえセンセー、出していいでしょ!」

昼間「…あの時から記憶は残っているようですね。ならば質問します。ドルボリドル、君は一体どこから来たのですか?」

ドルボ「それは分からない。記憶があるのはこの世界に来た時からだ。光に包まれ、次の瞬間にはこの地にいた」

昼間「なぜ今になって喋り出したのです?一朝一夕でそこまで喋れるはずはない。つまり喋れるのにあえて喋らなかった…違いますか?」

ドルボ「違うな。私は恐らくこの世界に来た時の衝撃で、脳の回路が破壊されていた。それがようやく治っただけだ」

昼間「治った…?脳が自然に…」

女教師「有り得ないわね。脳はとても繊細な部位…破壊された言語野の回路が治るはずないわ」

ドルボ「自然にではない。治したのだ」

昼間「治した…!?どうやって…」

ドルボ「お前たちのよく知る方法だ」

昼間「まさか…魔法…?」

ドルボ「そうだ」

ドルボリドルは手のひらをおこめに向ける。

昼間「何をする気だ!」

おこめ「!!」

ドルボ「 私を檻の外へ出せ 」

昼間「な!?」

おこめ「はい」

おこめの瞳は赤くなり、操り人形のように動き出す。

366ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:23:02 ID:5KDco17I00

ガチャッ…

ギィィィ…

ドルボ「よくやった」

ドルボリドルが檻を開けて出てきた。

昼間「馬鹿な…」

おこめ「はっ!…あれ、ぼく今なにしてた?」

ドルボ「お前たちの魔法とやら、学習させてもらった」

昼間「なるほど…」

パチンッ!

ドルボ「!!」

召喚士が指を鳴らすと、ドルボリドルの体を光る輪が拘束する。

おこめ「えっ!?なになに?!」

昼間「学習したということは、元々使えたわけではないようですね」

女教師「でも直接教えたわけでも魔法書を読ませたわけでもないし…どうやって習得したの…?催眠魔法なんて、そう簡単に覚えられる魔法じゃないわ…」

昼間「……耳…でしょうか」

ドルボ「その通り。この数年…私は、生まれながらに備わった高い聴力、そしてお前たち人間を遥かに上回る知能によって、施設外部の情報を少しずつ集めてきた」

女教師「なるほど…サルは人間の七倍もの聴力を持っている…」

ドルボ「そうだ…そして…身体能力も…」

パキ…パキ…ッ!

ドルボリドルを拘束する光輪がひび割れていく。

ドルボ「人間のそれとは次元が違うのだよ」

バキィン!!

女教師「な…光輪を腕力だけで……!?」

おこめ「カッケー!」

昼間「何を企んでいるのです?ドルボリドル」

367ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:24:28 ID:5KDco17I00

ドルボ「…私の名の意味を知っているか?」

女教師「え…?何、急に…」

おこめ「知ってる知ってるー!㌦ポッターの㌦に、シャイニングボンバーのボ、トムリドルのリドルで、ドルボリドル!誰が名付けたと思ってんのー!」

昼間「私です」

ドルボ「そう、私は闇の魔法使いの名を継ぐ者。ドルボリドルの名において私は…この世界を支配する」

昼間「…何故そうなるんですか…」

おこめ「なにいってんだドルボリドル!」

ドルボ「言っただろう。私は狭い場所が嫌いなのだ。人間どもが私を管理する世界は窮屈だ。上に立つのは、私でなければならない」

昼間「そうですか…残念ですが…全力で阻止します」

ドルボ「それは困るな、昼間の召喚士。今のレベルでお前に勝てると思い上がるほど私は馬鹿ではない…」

ズズズズ…

おこめ「なんだ!?」

ドルボリドルの足元から黒いもやが溢れ出し、ドルボリドルの体を包んでいく。

ドルボ「また会おう」

そして黒いもやと共に、ドルボリドルは姿を消した。

おこめ「きえた…」

女教師「…そんな…魔力が追えない…!」

昼間「…私もです。魔力を隠すのがかなり上手いようですね…」

おこめ「ど、どうすんの!?」

昼間「魔力は感知できませんが、予想はできます。空間移動は難しい魔法ですから…行ったことのない場所に移動するのは至難の技です。つまり、今までにドルボリドルの行ったことのある場所…」

おこめ「それってもしかして、魔の森!?」

昼間「はい。ドルボリドルが初めてこの世界に現れた場所…そして誰も寄り付かない場所でもあります。身を隠すにはもってこいでしょう」

おこめ「ふっふっふ、相手がわるかったなドルボリドル!センセーにかかればお前の考えなんてお見通しってわけだ」

昼間「おこめくんはそろそろ教室へ行きなさい。授業始まりますよ」

おこめ「うわホントだやば!!あ、でもドルボリドルが…」

昼間「こっちは私に任せてください」

おこめ「まあ、センセーなら大丈夫か…じゃあドルボリドルをおねがいします!」

おこめはお辞儀をして、授業へ向かった。

女教師「本当に大丈夫ですか?昼間先生。あんなサルは見たことありません…」

昼間「確かに恐るべき知能です。だからこそ、早めに手を打たなければ」

368ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:25:54 ID:5KDco17I00



それから召喚士は魔の森へ。

昼間「この森は相変わらずとてつもない魔力を放っていますね…こんな魔力に紛れられたら、そう簡単には見つけられません」

すると召喚士は魔法書を開き、ブツブツと詠唱を始める。

そして数秒後。

昼間「いでよ使い魔!」


ボボボボボ!!


召喚士の前に、犬のような魔物が五体出現した。

昼間「魔の森を探ってください。ドルボリドルを見つけるのです」

犬「わん!」

使い魔たちは一斉に魔の森へ放たれた。

昼間「な…!?」

しかし、その使い魔の反応が一瞬で消滅した。

昼間「馬鹿な…!いくら魔獣が棲んでいるとはいえここまで早くやられるなんて…!ありえない…まさか…」

ドルボ『お前の想像通りだ、昼間の召喚士』

昼間「ドルボリドル!」

ドルボリドルは念話によって召喚士に話しかける。

ドルボ『この森の魔獣は全て私のしもべとなった。魔獣を操ってお前の使い魔は潰させてもらったぞ』

昼間(この森の魔獣はそこらの魔物とは訳が違う…!本当に全ての魔獣を従えているとしたら、魔法学校はすぐにヤツの手に落ちてしまう…!!)

ドルボ『さあ、次はお前だ』

ガサガサッ

昼間「!!」

魔獣「ギャオォォッ!!」

四体の魔獣が一斉に召喚士を襲う。

昼間「はっ!」


ドガガッ!!


召喚士はそれを蹴り飛ばした。

昼間「くっ」

魔獣はさらに増えて襲いかかる。

昼間(この数…流石に一人では分が悪い…!)

369ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/03(金) 21:26:41 ID:5KDco17I00


パチンッ!


次の瞬間、召喚士は自分の職務室にいた。

昼間「ふぅ…危険ですね…なんとか対策を打たなくては」

㌦「何がですか?」

昼間「㌦くん!」

そこには㌦ポッターがいた。

㌦「どうしたんですか召喚士先生」

昼間「君こそどうして私の職務室に?まだ授業中のはずですが?」

㌦「いや、この時間は先生に召喚魔法の新たな研究について発表する予定でしたけど?」

昼間「あ……すみません、忘れていました」

㌦「えぇ!?」

昼間「実は急用ができましてね…」

㌦「急用?」

昼間「実はかくかくしかじかで…」

召喚士はドルボリドルのことを話した。

㌦「そんな…!ドルボリドルが…!?」

昼間「はい。魔の森の魔獣を相手に正面から戦えるのは恐らくファイターである私たちだけです。㌦くん、協力してもらえますか?」

㌦「わ、分かりました…おこめくんは?」

昼間「彼はまだこの戦いにはついて来れないでしょう。代わりに射撃魔法の部隊を編成し、遠距離から私たちの援護をしてもらいます」

㌦「はい」

370ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:16:41 ID:FqmhGX0Q00



それから召喚士は戦闘に秀でた魔法使いたちを招集し、作戦を説明した。

そして再び、魔の森の前へとやってきた。

昼間「…では、これより魔の森に突入します。準備はよろしいですか?」

魔法使いたち「はい!」

昼間「よし…行きますよ、㌦くん!」

㌦「はい!」

ドルボ『懲りずにまた来たようだな、昼間の召喚士。今度は手下を引き連れているようだが…』

㌦「こ、この声、ドルボリドル…!?本当に喋ってる…」

昼間「手下ではなく仲間です。全てを催眠魔法で従えている君には分からないでしょうがね」

ドルボ『弱者が強者に従うのは当然の事だろう。さあゆけ、我がしもべたちよ!!愚かな人間どもを駆逐するのだ!!』


ドドドドドドドド!!


地響きと共に、大量の魔獣が森から飛び出してきた。

昼間「はあっ!」

㌦「とうっ!」


ズドッ!!

ドガッ!!

バキッ!!


㌦「くっ…!強い…!」

二人はなんとか応戦するが、数の多さに苦戦する。

371ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:17:18 ID:FqmhGX0Q00

昼間「みなさん、一匹そっちへ行きました!防御魔法を展開してください!」

魔法使いたち「はい!」


フォンッ…


魔法使いたちは一斉に杖を前に出し、透明な壁を作り出した。

ドガッ!

魔獣「グオッ!」

魔獣は壁に激突し、はじき返される。

㌦「はあっ!!」


グシャッ!!


追ってきた㌦ポッターのパンチで魔獣の体は砕け散った。

昼間「㌦くん、ここは頼みます!私は森の奥へ向かいます!」

㌦「了解!」

召喚士は森の中へ入っていった。

魔獣「ガルルル…」

魔獣はさらに数十体増えていた。

㌦「…頼むって、この量を…?まったく、先生は人使いが荒いんだから…」

372ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:18:13 ID:FqmhGX0Q00



ダダダダダダダ…

召喚士は森の奥へと駆け抜けていく。

昼間(ここまで近づけば、微かにドルボリドルの魔力を感じ取れますね…この先にいる…!)

ズザッ!!

そこには不自然に木が生えていない空間が作られていた。

そしてその中心にある切り株に、ドルボリドルが腰を掛けていた。

ドルボ「早かったな、昼間の召喚士」

昼間「ドルボリドル…」

ドルボ「だが私の成長の方が早かったようだ」

昼間「何…?」


パチンッ!


ドルボリドルが指を鳴らすと、木でできた銃のようなものがその手に召喚された。

昼間「何ですか?それは…」

ドルボ「見れば分かるだろう」


ギュゥゥゥ…


ドルボリドルは銃を掲げ、徐々に銃口を召喚士へと下ろす。


ドンッ!!


ドルボ「ディディー族に伝わる伝説の銃…ピーナッツ・ポップガンだ」

シュゥゥゥ…

昼間「…!」

召喚士は銃口の動きを読んでかわしたが、後ろにあった木が消し飛んでいた。

373ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:19:13 ID:FqmhGX0Q00

昼間「な、なんという威力…それにディディー族とは一体…」

ドルボ「何…?知らぬのか?この世界にドンキーが存在する以上、ディディーもいると思ったのだがな」

昼間「やはりドンキー族と関係が…?」

ドルボ「私の祖であるディディーコングは、ドンキーコングと同じジャングルで育ち、共に戦った…お前の言うところの、仲間だったのだ」

昼間「なるほど…しかしこの世界にディディー族はいませんよ。ディディーコングがいたかは定かではありませんが、どちらにせよ"種族"となるまでには繁栄できなかったようですね」

ドルボ「ふん、まあどうでもよい。私のファイターとしての能力を知られていないのであれば、その方が好都合だ」

昼間「しかし君はその情報をどこで…?ディディー族という名がこの世界に存在しないなら、どれだけ聴力が優れていようと聴くことはできないはず…」

ドルボ「記憶を見たのだ」

昼間「!…そうか、ファイターの記憶が…いや、しかし何かトリガーとなるものがなければ記憶は見られない…」

ドルボ「ああ。そのトリガーはこれだ」

パチンッ!

ドルボリドルは再び指を鳴らす。

昼間「…?」


ヒュゥゥゥゥ……


ドゴォン!!!


上から降ってきたのは、青く巨大なゴリラだった。

昼間「な…!まさかこれは…魔の森の…ヌシ…!?」

374ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:20:16 ID:FqmhGX0Q00

ドルボ「さあ…何者かは知らぬが、私がこの森に来た時に襲いかかってきたのだ。同時に私は祖の記憶を見た。そして此奴は最強のしもべとして従えることにした」

昼間「ヌシまでも容易く操るとは…!」

ドルボ「やれ」

ヌシ「グオオオオオオッ!!」


ドゴォォッ!!


昼間「くっ!」

召喚士はヌシのパンチを緊急回避するが。

ドルボ「こちらも忘れるなよ?」


ドンッ!!


昼間「ぐあっ…!」

ピーナッツが召喚士の肩を直撃した。

ヌシ「グオオオオ!!」


バチィン!!!


ヌシが放ったビンタをなんとかガードするが。

昼間「くっ…重い…!」


ドガァッ!!


耐えきれず吹っ飛ばされ、木に激突した。

昼間(なんという攻撃力…!一対一ならともかく、ドルボリドルもいる状況ではヌシの攻撃はかなりの脅威になりますね…どう切り抜ける…)

召喚士はすぐに立ち上がり、二人を視界に捉える。

ドルボ「ふむ…この状況でも冷静に戦略を練る胆力…殺すには惜しいな。人間など配下に加える必要はないと思ったが、気が変わったぞ」

昼間「!!」

ドルボリドルは召喚士に手のひらを向ける。

ドルボ「私のしもべとなれ、昼間の召喚士」

375ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:21:19 ID:FqmhGX0Q00

昼間「……無駄です」

ドルボ「…そうか。お前を操ることはできぬのか。優れた魔法使いともなれば、催眠魔法へのプロテクトは常時張っているという訳だな?」

昼間「理解が早いですね」

ドルボ「大人しく操られておけば命は助かったものを」

昼間「操られて仲間を攻撃するくらいなら死んだ方がマシです」

ドルボ「ならば死ぬがいい」

昼間「それも御免ですね」

ヌシ「グオオオオオオッ!!」


ドゴッ!!!!


昼間「遅い!」

召喚士はヌシの攻撃をかわし。


ズドドッ!!


反撃の連続攻撃をくらわせた。

ヌシ「グガァァ!」

昼間(まず先にヌシを仕留める…!)

召喚士はさらに追撃をしようと踏み込む。

が。


ズルッ!


昼間「何っ…!?」


ズコッ!!


召喚士は地面に転がっていたバナナの皮で滑って転んだ。

そしてそこへドルボリドルがピーナッツ・ポップガンの銃口を向ける。

ドルボ「終わりだ、昼間の召喚士」


ドンッ!!!!

376ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:35:40 ID:FqmhGX0Q00



㌦「はぁ…はぁ…数が多すぎる…!射撃部隊ももう魔力が限界だ…!」

魔獣「グオオオオッ!!」

㌦「たあっ!!」


ドガァッ!!


魔獣「グァァ…」

㌦「くそっ…もし森の中にこれ以上の数の魔獣がいるとしたら、先生だって危ないぞ…!」

魔獣「ガァァアッ!!」

㌦「!!」

㌦を背後から魔獣が襲った。

㌦(くっ!ガードが間に合わないっ…)


スワーッ!!


㌦「えっ!?」

突然魔獣は後ろから何かに吸い込まれた。


バチバチバチバチ!!


魔獣「グギャァァァ!!」

さらに、他の魔獣も突然感電し、焼け焦げて倒れる。

㌦「な…なぜ君がここに…!」

377ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:36:32 ID:FqmhGX0Q00

おこめ「えっへん!助けにきてやった!」

衝撃「ガルルルルル…」

そこに現れたのはおこめと衝撃だった。

おこめ「ドルボリドルがこの森にいるのはわかってたからな!センセーたちだけじゃ力不足だとおもったんだ」

㌦「失礼な!僕はともかく召喚士先生は大丈夫だよ!」

おこめ「フフフ、どーかな」

㌦「…まあ僕も少し心配になってきてたとこだけど…ていうか衝撃くん連れてきて大丈夫なの…!?」

おこめ「問題ナシ!なぜならぼくには懐いてきてるからだ!もうほとんどビリビリされなくなったし、言うこともそこそこ聞いてくれるぞ」

㌦「若干怪しいな」

おこめ「ちなみに㌦は近づいたら即ビリビリの刑だから気をつけろ」

㌦「全然大丈夫じゃないじゃん!…って喋ってる場合じゃないや!」

おこめ「いくぞー!」

魔獣「グオオオッ!!」


ズドドド!!!


ドガガガガ!!!


三人は一気に攻めて、魔獣をどんどん倒していく。

㌦「はぁ…はぁ…召喚士先生は先に森の中に入ってる…僕たちもここを片付けたらすぐに追わなきゃ!」

おこめ「それなら心配いらない」

㌦「え?いや、確かに先生はめちゃくちゃ強いけど…」

おこめ「そうじゃなくて、実はもう一人助っ人をよんである!その人がセンセーのとこにもう向かってる!」

㌦「助っ人…?僕らの他にファイターなんていたっけ…」

おこめ「ファイターじゃない、フツーの人!でもぼくたちよりつよい人!」

㌦「えっと…それって…」

378ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:37:26 ID:FqmhGX0Q00



ドルボ「…誰だ?お前は…」

召喚士に向けて放たれたピーナッツ弾は、防御魔法によって弾かれていた。

昼間「…こ…校長先生…!」

校長「ほっほっほ、おこめくんに頼まれましてな」

ドルボ「校長…?なるほど、この空間の頂点に君臨する者か」

校長「買い被りすぎじゃよ。昼間先生のほうがずっと強いわい」

ドルボ「…なるほど、確かに感じる魔力の量は昼間の召喚士のほうが上だ。だがその異様な雰囲気…只者でないことは分かる」

ドルボリドルはそう言いながら手のひらを校長に向ける。

校長「ん?何かな?」

ドルボ「…やはりか。私の催眠魔法も意に介していない」

校長「ほっほっほ、こちらもお返しするとしようかのう」

ドルボ「何?」

次の瞬間。


ギンッ!!


何の予備動作もなく、校長が大きく目を見開く。

校長「…」

ドルボ「……」

昼間「…こ、これは…催眠魔法の攻防が行われている…?」

しばらく沈黙が続く。

両者動かず。

379ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:38:17 ID:FqmhGX0Q00

そして沈黙を破ったのは。

ドルボ「ぶはっ…!」

昼間「!!」

ドルボ「はあっ…はあっ…この私を操ろうとは…!」

校長「うぅむ、防がれたか…こりゃ困ったのう」

ドルボ「厄介だ…こういう相手は力で叩き潰すに限る…!やれ!!」

ヌシ「グオオオオオオッ!!」

召喚士の前に立ち塞がっていたヌシが標的を変え、校長の方へと走り出す。

昼間「行かせません!」


ボボボッ!


召喚士はファイアボールを放つ。

ヌシはそれを物ともせず突き進む。

昼間「校長先生!」

校長「そう慌てなさんな」

クイッ!

校長は杖を小さく振る。

ヌシ「グオオオッ!!」

と、ヌシは進路を変え、ドルボリドルのほうへと走り出した。

ドルボ「何だと!?」

昼間(すごい…!催眠を上書きした…!)

380ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:39:08 ID:FqmhGX0Q00


ドゴォン!!!


ドルボ「チッ…!」

ドルボリドルはジャンプして木に飛び乗ることでその突進をかわしていた。

ヌシはそのまま木に頭を強打し、目を回している。

校長「おや、催眠が解けてしまったか。まあよい。これで二対一じゃな」

ドルボ「二対一?何の話だ?」

昼間「!!これは…!囲まれています!」

校長「…そのようじゃのう…」

気づけば周りに魔獣の群れが集まってきていた。

魔獣「グルルル…」

ドルボ「其奴らの相手でもしていろ。その間に私は更に力を付ける。さらばだ」

校長「逃がさんぞっ!」


バッ!!


校長は素早く両手をドルボリドルに向けて突き出す。

校長「封印ッ!!」

掛け声とともに両手を合わせる。

ドルボ「なっ…何だこれは…!」

ドルボリドルの体は動かなくなり、足元から少しずつ黒い布が巻きついていく。

校長「ほっほっほ、ワシはこう見えても大昔に封印魔法を開発した張本人でな…!」

381ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:40:18 ID:FqmhGX0Q00

ドルボ「クソッ…こんなところで私が封印など…されるものかァァ!!」

校長「暴れようとしても無駄じゃ…!封印は力でどうにかなるものではない!」

ドルボ「うおおおおおオオオオオオオオ!!」

昼間「な…何かおかしい…!私も手伝います!」

召喚士もドルボリドルに手を向け、封印魔法を放つ。

ギュルルルルルル…!!

黒い布が巻きつくスピードが更に上がり、一気にドルボリドルの体は見えなくなっていく。

ドルボ「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


ゴプッ…


校長「何じゃ…!?」

ドルボリドルの口から、黒いスライムのようなものが溢れ出た。

そして次の瞬間、ドルボリドルの体は完全に黒い布で包み込まれた。

昼間「封印…できたのか…?」

校長「いや…あの黒いものからとてつもない魔力を感じますぞ…」

ドルボ『クク…フハハハハハハ!!』

昼間「なっ!?」

ドルボ『残念だったな、昼間の召喚士!!そして校長とやら!!私は肉体を捨てた!!』

校長「肉体を捨てたじゃと…?」

ドルボ『固形化した魔力に思念を乗せ、体外に排出したのだ!!一か八かの賭けではあったが…クク…上手くいったようだな!!』

昼間「馬鹿な…!」

校長「言わば自身を魔物化したという訳か…!」

ドルボ『フハハハハハハ!!さらばだ!!』

そして謎の黒い物体と化したドルボリドルは姿を消した。

382ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:41:08 ID:FqmhGX0Q00

昼間「くっ…!」

校長「追いたいところじゃが…魔獣が来ますぞ、昼間先生!」

昼間「はい!」


ズドッ!!

バキッ!!


二人は攻撃魔法を駆使して魔獣たちを倒していく。

校長「はあ…はあ…キリがありませんな…ドルボリドルの魔力ももう感じんし、一度退くとしましょう」

昼間「そうですね…」

魔獣「グオオオッ!!」

魔獣が校長の背後から飛びかかる。

校長はすぐに杖を振り、防御魔法を使おうとしたが。

校長「ゴフッ…」

突然吐血した。

昼間「校長先生!!」

ドガッ!!

咄嗟に召喚士が割って入り、魔獣を蹴り飛ばした。

昼間「だ、大丈夫ですか!?」

校長「ほっほっほ…久しぶりの運動で疲れましたな…ゴホッ…ワシは気にせんでよい…それより…魔獣に気を付けなさい…」

昼間「は、はい…!」

魔獣「グオオオオオオオ!!」

さらなる魔獣たちが二人を襲う。

昼間(くっ…全方向から…!これでは校長先生を守り切れない…!)

383ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:41:48 ID:FqmhGX0Q00


㌦「はあっ!!」

おこめ「とおっ!」

衝撃「デガワァ!!」


ドガガガガ!!

ドゴォォン!!


そこへ駆けつけた三人によって、魔獣たちは一気に半分ほど蹴散らされた。

昼間「君たち!」

おこめ「だいじょーぶ?センセー」

㌦「急に魔獣たちが森の奥へ戻っていったので、もしかしたらと思って追いかけたら、案の定でした」

衝撃「ガルルルルル…!」

昼間「助かりました。ありがとうございます」

おこめ「あれ、ドルボリドルは?」

昼間「…すみません…肉体は校長先生が封印したのですが、逃げられました」

おこめ「ど、どゆこと…?」

昼間「詳しくは後で。今はとにかく、森を抜けましょう!」

㌦「はい!」

そして五人は魔獣たちを退けながら、魔の森から出た。

384ハイドンピー (ワッチョイ d3da-1327):2022/06/04(土) 21:42:43 ID:FqmhGX0Q00



五人は森の外で待機していた射撃部隊と合流した後、校舎へと戻ってきた。

そして衝撃は飼育施設へ、校長は医務室へと送り届けられた。

おこめ「ふいーーっ!」

㌦「なんとか無事帰れたね。校長先生、大丈夫かな…」

昼間「疲れが出ただけみたいです。もうお年ですからね。魔法薬を飲めばすぐに良くなりますよ」

㌦「そうですか…それならいいんですが。あ、それでドルボリドルは…」

昼間「それが、かくかくしかじかで…」


㌦「…なるほど…自らを魔物化…そんなことが…」

おこめ「でも、どこいったんだろ…魔の森以外にかくれるとこある?」

昼間「正直分かりません…最悪、魔法学校の外…表の空間へ行った可能性もあります」

おこめ「えー!?行ったことない場所に行くのはムズイって言ってたじゃん!」

昼間「はい…ですがドルボリドルは我々の想像を遥かに上回るスピードで成長していました。表の空間の存在自体は恐らくあの聴力で知っているでしょう…ならば狭い場所を嫌う性格上、より広い外へと行こうとするのも自然な流れです」

おこめ「そうか…たしかに…」

昼間「私はすぐにドルボリドルを捜索します。あの体では魔力を隠すのは難しいでしょうし、魔法書を使えば余程遠くへ離れていなければ見つからないことはないはずです」

㌦「僕たちは?」

昼間「通常通り授業に行ってください。何か分かれば知らせます」

㌦「はい」
おこめ「はーい」

二人は各々の教室へと向かった。


昼間「ふぅ…困りましたね…収穫もありましたが…それ以上にまずい状況になってしまった…ドルボリドルは何をしでかすか分からない…早く見つけ出さなければ…!」

385はいどうも名無しです (ササクッテロ 0529-9674):2022/06/06(月) 21:21:06 ID:EYCU31xoSp
続ききてるやん!支援!

386はいどうも名無しです (ワッチョイ 646e-4dd4):2022/06/06(月) 21:36:42 ID:fi2/fnOk00
遂にSP勢も来てたのか

387ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/08(水) 21:02:57 ID:IyoCTAVE00





数日後。

表の空間のとある病院にて。

赤ヨッシーがベッドで横たわり、そばに助産師がついている。

母「んぐおあおおおっ!!」

そして。

???「「おぎゃああ!おぎゃああ!」」

カービィ族が生まれた。

助産師「ふ、双子…!?」

母「え?どういうこと?」

母の位置からはカービィは一人にしか見えない。

事前の検査でも、赤子は一人しかいなかったはずだ。

しかし。

助産師「これを…見てください…」

母「…な…!?こ…これは…!!」

赤子の股間…包み隠さずに言うとチンコに顔が付いていた。

母「せ、先生!どういうことなんですか!?これは!」

産婦人科医「うーん。たぶん一卵性双生児が繋がったまま出てきちゃったんだろうねえ。ソーセージだけにね。たまにあるよこういうことは。タマだけにね」

母「そ、そうなんですか…?だ、大丈夫なんですか…?」

産婦人科医「大丈夫なわけないでしょ」

母「はあ!?」

産婦人科医「まあまあ心配しなさんな。ちょうどこの町に私の友達の有名なドクターが来てるんだよ。さくっと治してくれるさ」

母「そ、そんな簡単に治るものなんですか!?」

産婦人科医「フツーは無理よ。でも彼は超絶天才だから。ちょっと待ってな」

と言うと産婦人科医は外へ出てどこかに電話を掛けた。

388ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/08(水) 21:03:31 ID:IyoCTAVE00



数分後。

医者「どうも」

母「ほ、本当に治せるんですか!?」

医者「ええ、まあ」

産婦人科医「んじゃあよろしく頼むわー」

医者「適当だな」

そして赤子は手術室へと連れて行かれ。



一時間後。

医者「手術は成功しました」

母「ほ、本当に!?」

医者「はい」

助手の人が手術室の中から赤子を持ってくると、ソーセージは切り離されていた。

本体もソーセージも、穏やかな表情で眠っている。

母「りょ、両方生きてるんですよね!?」

医者「まあそうですね」

母「あ…ありがとうございます!!ありがとうございます!!なんとお礼を言ったらいいか…!!」

医者「お気になさらず」

産婦人科医「相変わらずエグいな。なんでもありじゃん」

医者「呼んどいてエグいはないだろ。医療の神様を目指している私にはこれくらい当然だ」

産婦人科医「そうかー。まあがんばれよ」

医者「じゃあ私はこれで」

ドクターは去っていった。

母「ああ…なんて奇跡なの…奇跡の子よ、あなたたちは」

母は泣きながら息子たちを抱きしめるのであった。

389ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/14(火) 20:57:41 ID:YxyOqJgg00





その頃、中学生は。

中学生「着いたー!!」

王国に到着していた。

中学生「ふー、疲れた…ずっとブーメラン投げっぱなしだったからなぁ…」


ワアアアアアアア!!


中学生「な、なんだぁ!?」

突然、町の奥ですごい歓声が沸いた。

中学生が駆け寄ると。

ゲン「はーっはっは!みんな応援ありがとう!今日も俺がブッちぎるところを見ていてくれ!」

観客「キャー!ゲンさーん!」
観客「ステキー!」
観客「あんたサイコーだぜ!」

中学生「なんだありゃ…」

観客「君、知らないのかい?史上最速のF-ZEROレーサー、ゲンさんさ」

中学生「へー。F-ZEROってなんですか?」

観客「この国で一番人気のレース競技だよ。F-ZEROマシンは物凄い速さで走るんだ。見ていくといい」

中学生「ふーん」

390ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/14(火) 20:58:07 ID:YxyOqJgg00

観客「君は他の国から来たのかい?」

中学生「はい。最近この辺りで行方不明になった女の子を探してるんです。もしかしたら俺の知り合いかもしれなくて」

観客「ああ、そういえばそんなこともあったねえ。ヒーローんちの…」

中学生「ヒーロー?」

観客「その女の子を預かってた家の子だよ。正義感が強くて、いつも人助けしてるんだ。まあこの国はめちゃくちゃ平和だから、ヒーローらしいことできなくて、本人は不満そうだけどね、ははは」

中学生「そうですか…いい人に助けてもらってたんだ、良かった…それで、その家はどこに?」

観客「えーっと、たしかあっちの方だったかな。ヒーローはいつも町をパトロールしてるから、ひょっとするとその辺で会えるかもな」

中学生「ありがとうございます!」

中学生は礼を言うとすぐにその方向へ走り出した。

観客「えっ、ちょっと!見てかないのかい!?」

中学生「また今度ー!」

391ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/14(火) 20:58:55 ID:YxyOqJgg00



そして数分後、中学生は観客の言っていた辺りにやってきた。

中学生「この辺だったよなー…」

中学生はキョロキョロと周りを見回す。

住民「おや、見ない顔だね。何かお探しかな?」

中学生「すいません、ヒーローって人の家を探してて」

住民「ああ、それならそこの角を曲がって真っ直ぐ行ったところだよ」

中学生「ありがとうございます!」

中学生は言われた通りに進んでいく。

そこには普通の一軒家があった。

ピンポーン

インターホンを押すと、しばらくして。

ガチャ

ヒー母「あら、こんにちは」

中学生「こんにちは」

ヒー母「うちの子の友達?ごめんね、今パトロール中なのよ」

中学生「いえ、前に行方不明になった女の子についてちょっと話を聞きたくて…」

ヒー母「えっ!?」

中学生「実は俺も昔、かくかくしかじかで…」

中学生は事情を説明した。

ヒー母「…そう…もしかしたらあの子が、君の友達かもしれないのね?」

中学生「はい」

ヒー母「…ちょっと待っててね」

ヒーローの母は一度家の奥へ行って、しばらくして戻ってきた。

中学生「これは…」

ヒー母「あの子の写真よ」

中学生「…!間違いない…アイツだ…!」

ヒー母「やっぱりそうなのね…もっと詳しく話をしたいわ。中に入って」

中学生「あ、はい…お邪魔します」

392ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/14(火) 20:59:42 ID:YxyOqJgg00

リビングでテーブルにつき、二人は話を続けた。

少女の家族事情や魔力暴走体質について。

空間探査魔法で中学生が少女を探していること。

そして少女がなぜ消えたのか。

中学生「…たぶんアイツは暴走してあなたたちを襲ってしまう前に、自分から姿を消したんだと思います」

ヒー母「そっか…私たち家族もあの子が消えた後、国中を捜し回ったの。でも、何の手掛かりも見つからなかった……もしかしたらあの子がいたって記憶が間違ってるんじゃないかって……夢でも見てたんじゃないかって思ったりして…」

ヒーローの母は堪えきれず涙を流し始める。

中学生「…嫌なこと思い出させちゃってごめんなさい…」

ヒー母「あっ、ううん、こっちこそごめんなさい!でもあの子、私たちのためにいなくなったのね。事情くらい話してくれれば良かったのに、まったくもう…」

中学生「きっと俺が見つけてみせます。そしたらここにも連れて来ますから、絶対!」

ヒー母「…ふふ、ありがとね。君のこと、家族にも伝えておくわ」

中学生「はい!じゃあ俺は行きます!」

ヒー母「ええ、頑張って!でも無理しないでね。あの子のためにたくさん頑張ってくれる君も、私の家族みたいなものよ」

中学生「へへ、ありがとうございますおばさん!」

そして中学生はヒーロー家を出立した。

家の前の角を曲がった先で。

ヒーロー「ふぅ…今日も異常無しか。満たされないな…」

中学生は黄色い帽子のマリオ族とすれ違った。

中学生「…ん?今のって…」

中学生は振り返るが、マリオ族は角を曲がったのでもうそこにはいない。

中学生「…まいっか。よっしゃ!旅の続きと行くか!」

中学生はまたブーメランを投げながら、少女の行方を追い続けるのであった。

393ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/19(日) 21:09:55 ID:qW5pYw3g00





魔界・第四階層"奈落"。

黒猫「おしり!」

おしり「どうした、黒猫…」

犬のような黒猫と腫れたおしりの二人は、奈落の東側にある洞窟を住処にしていた。

黒猫「にゃんか見つけた!」

おしり「何かってなんだ…」

黒猫「よくわからん!変な穴だ!」

おしり「穴…?最下層への入り口じゃないだろうな…」

黒猫「いや、めっちゃ木生えてたぞ!」

おしり「木…?この奈落に植物など存在するのか…?ここへ落ちてから数年、そんなもの見たことも聞いたこともないが…」

黒猫「とにかく行くぞ!」

おしり「うおっ、引っ張るな!」

黒猫はおしりの手を引き、その穴へと向かった。

394ハイドンピー (ワッチョイ e490-8010):2022/06/19(日) 21:10:29 ID:qW5pYw3g00



そして二人は、住処の洞窟から数百メートル離れた岩場まで来た。

おしり「…なるほど、たしかに穴だ…」

その岩の一つに、穴が開いていた。

黒猫「ほら!覗くと木みたいなのが見えるだろ?」

おしり「ああ…しかしこれは一体どこへ繋がっている穴だ…?岩の内部に木が生えている訳でもあるまい…」

黒猫「木があるってことは、きのみがあるかもしれにゃいぞ!」

おしり「たしかにな…だが罠の可能性もある…」

黒猫「うひょー!」

おしり「っておい待て黒猫!」

黒猫は忠告も聞かずに穴の中へ飛び込んだ。

おしり「まったく…仕方ない…俺も行くか…」

おしりも黒猫を追って穴へと入った。

395ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/23(木) 21:01:45 ID:LlBw6Xg.00





とある小国の、とあるジャングルでは。

???「ぐおおぉぉ…」

黒いゴリラが寝ていた。

???「ティーダ起きて。また"ヤツら"だべ」

ゴリラに向かって話しかけるのは、黄色いヨッシー族。

ティーダ「ウホ…?」

ザッ…

???「お前がジャングルの怪物…モケーレムベンベか」

そしてそこへ現れたのは、五人の緑フォックスたちだった。

ベンベ「しつこい!帰って!」

???「このジャングルの固有種の樹脂が研究に必要なのだ。そこをどいてもらおう」

ベンベ「このジャングルはオラたちの縄張りだべ!何度追っ払えばわかるんだ!」

ティーダ「ウホ」

???「ならば仕方ない」

フォックスたちは一斉にブラスターを構える。

ベンベ「来るべ!ティーダ!」

ティーダ「ウッホ!」


ズドドドドドドッ!!!!


ティーダは圧倒的なパワーと地の利を生かした的確な動きでフォックスたちを瞬殺した。

396ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/23(木) 21:03:27 ID:LlBw6Xg.00

???「…CR-194から197が全滅。一時退却する」

キィィィィン…!

唯一生き残ったフォックスは、少し離れた場所に駐めていたアーウィンに乗り込んで飛び去った。

ベンベ「もう二度と来るんじゃないべー!まったくアイツら…でもティーダはやっぱりすごいべ!あんなコワイヤツらに全然ビビらないしな!」

ティーダ「ウホホ」

ベンベ「そうだ、向こうに新しいバナナの木見つけたんだべ!食べにいこう!」

ティーダ「ウホー!」

二人はジャングルの奥へ走る。


ベンベ「ほら、アレだべ」

そこにはたっぷりとバナナが実った木があった。

ティーダ「ウッホー!」

ベンベ「うまそー!いただきまーす!」


ドゴォッ!!!!


ベンベ「ぐほぉっ!?」

ベンベはブン殴られて吹っ飛んだ。

397ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/23(木) 21:04:59 ID:LlBw6Xg.00

黒猫「これはオイラが先に見つけたんだぞ!横取りするにゃ!!」

ベンベ「誰だべ!?」

おしり「いきなり殴ってすまんな…我々は奈落から来た…」

ベンベ「な、奈落?」

おしり「第四階層だ…まああんな場所に住んでいる奴など、我々か奈落のヨシオぐらいのものだ…知らなくても無理はないか…」

ベンベ「何の話してるかわかんないけど…ティーダ!とりあえずコイツらブッ飛ばすべ!」

ティーダ「ウホ!!」

黒猫「にゃんだ!やんのかこら!」


ドガガガガガ!!!!


ティーダと黒猫は激しく殴り合う。

ベンベ「そ、そんな…嘘だべ…!?ティーダと互角に戦ってる…!?」

おしり「黒猫の戦闘センスはかなりのものだ…それに元々森や岩場の多い"腐敗"に住んでいたからな…この木々の中でも十分に実力を発揮できる…」

ベンベ「フハイってなんだべ…?」

おしり「腐敗も知らないのか…?一体ここはどこなんだ…」

ベンベ「どこって、"コンゴジャングル"に決まってるべ」

おしり「コンゴ…ジャングル…?喧騒にそんな場所あったか…?」

ベンベ「ケンソウ?お前さっきから何言ってるべ」

おしり「いや…コンゴジャングル…どこか聞き馴染みのある……まさか……」

ベンベ「何ブツブツ言ってるんだべ…怖いべ…」

398ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/23(木) 21:06:04 ID:LlBw6Xg.00


ピカッ!!


おしり「!?な、なんだ…!?」

ベンベ「何って…朝が来ただけだべ?」

おしり「朝…まさかあれは太陽か…!?ということは…やはりここは地上…!?」

ベンベ「地上に決まってるべ…」

おしり「そうだったのか…まさかあんなところに開いた穴が地上に繋がっているとは…」

ベンベ「なんだ?お前ら、地下から来たんだべ?」

おしり「地下ではない、魔界だ…言っても分からんだろうがな…」

ベンベ「マカイ?」


ドサァ!


ティーダ「ウホォ…」

ベンベ「ティ、ティーダ!?」

黒猫「やったー!勝ったぞ!おしり、この黄色いきのみ早く食おう!」

おしり「ああ…」

ベンベ「そんな…ティーダが負けるなんて…」

おしり「悪いがこの世は弱肉強食…お前たちの縄張りのようだが、ここは明け渡してもらおう…」

399ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/23(木) 21:06:47 ID:LlBw6Xg.00

ベンベ「ま、まだオラは負けてないべ!」


ドゴォッ!!


黒猫「にゃっ!?」

ベンベの蹴りがバナナをむさぼる黒猫の顔面にヒット。

おしり「なっ、お前も戦えたのか…!」

ベンベ「オラだってファイターだべ!!うおおおお!!」

ドガガガガガッ!!

ベンベは連続で蹴りを入れまくる。

黒猫「あーもう…邪魔!」


ズドォ!!!!


ベンベ「ぐはっ…!」

黒猫のパンチ一発でベンベは沈んだ。

黒猫「おしり、何してるんにゃ?早く食わにゃいとオイラが全部食っちまうぞ!」

おしり「あ、ああ…容赦ないなお前…」

そして二人はバナナをむさぼり始めた。

400ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/25(土) 21:22:08 ID:IT69AQSs00



それから数十分後。

おしり「ふぅ…これだけあれば数ヶ月は食糧には困らんな…収穫も終わったし、そろそろ帰るぞ黒猫…」

黒猫「うん」

二人はバナナを大量に詰めた袋を背負って、穴へと向かう。

おしり「…あれ?」

黒猫「ん?どうしたにゃ?」

おしり「穴が…無くなっている…」

黒猫「え?」

おしり「無いのだ…!通ってきた穴が…!!ど、どうする!これでは帰れんぞ!」

黒猫「えぇ〜!?」

おしり「我々はゲートを開くこともできんし……詰んだ…」

黒猫「んー、まあいいんじゃにゃいか?ここのほうがいっぱい食えるモンあるし!」

おしり「たしかに…」

ベンベ「う〜ん…うるさいなぁ…なんだべ…?」

ティーダ「ウホ…」

騒いでいるとベンベとティーダが目を覚ました。

黒猫「ほら、非常食もいるし!」

おしり「…自分と似た姿のヤツを食うのはちょっと…」

401ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/25(土) 21:24:33 ID:IT69AQSs00

ティーダ「ウホ?」

ベンベ「ひ、非常食ってオラたちのことだべか…?」

黒猫「安心しろ!オイラはなんでも消化できるからにゃ!」

ベンベ「ひえ〜!」


チュドドドドドドドドド!!!!


ベンベ「どわ〜っ!?」

今度は上空からベンベたちは射撃された。

黒猫「にゃんだありゃ!?飛んでるぞ!」

上空には五機のアーウィンが飛んでいた。

おしり「あれが地上に存在するという、飛行機というヤツか…!木で照準がブレて助かったようだが今度はそうはいかん…ここを離れるぞ…!」

ダッ!

四人はジャングルの中を走り抜ける。

ベンベ「ちくしょーアイツら!さっき来たばっかなのに、ほんと懲りないべ!」

おしり「知っているのか…?」

ベンベ「なんかこのジャングルのコユーシュのジュシ?とかいうのが欲しいらしいんだべ。それで何回も攻めてくるから、毎回ティーダが返り討ちにしてるんだ」

ティーダ「ウホ!」

ベンベ「でも上から撃たれたのは初めてだべ…いつもは他んとこ降りてから、生身で来るからな…」

おしり「その固有種ごと傷つけないようにしていたんだろう…だがティーダの強さに痺れを切らして、こちらの討伐を優先したのだ…」

402ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/25(土) 21:25:40 ID:IT69AQSs00


ドドドドドドドド!!!!


ベンベ「どわわわわ!!お前、もうちょっと速く走れないべ!?」

おしり「すまん…無理だ…!」

おしりは走るのも遅い上に、すでに息を切らしていた。

黒猫「にゃははは!おしりは弱っちいからにゃー!」

ベンベ「…ってよく考えたら別にお前らに合わせる必要もないべ!ティーダ、さっさと行くべ!」

ティーダ「ウホホ!」


ドドドドドドドド!!!!


ベンベ「どわぁー!!なんでこっち撃ってくるんだべ!!そっちのヤツらのほうが狙いやすいべ!?」

おしり「それはそうだろう…元々お前たちを狙ってるんだから…」

黒猫「まったくしょうがないにゃぁ!オイラに感謝しろよ!」


ダンッ!!


黒猫が高くジャンプし、アーウィンに飛び乗った。

???「な、なんだコイツは!」

黒猫「ファルコン・パンチ!!」


ドゴォッ!!!!


燃えるパンチでアーウィンのコックピットを消し飛ばした。

ベンベ「えぇっ!?つよっ!?」

おしり「フ…流石だな…やはり地上の人間ごときでは、いかなる兵器を使ってこようとも相手にならんか…」

403ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/25(土) 21:26:50 ID:IT69AQSs00

???『総員標的変更、奴を撃ち落とせ』

???『了解』

フォックスたちは一斉に向きを変え、黒猫に照準を合わせる。

が。


ダンッ!!


次の瞬間には別のアーウィンに飛び移り。

黒猫「ファルコン・パンチ!!」


ドゴォッ!!!!


黒猫「もういっちょファルコン・パンチ!!」


ドゴォッ!!!!


黒猫「ファルコン・パンチと見せかけてファルコン・キック!!」


バゴォン!!!


瞬く間に三機のアーウィンを撃墜し、残りは一機となった。

???『くっ…何故こうもこのジャングルには厄介なファイターが集まる…』

404ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/25(土) 21:27:27 ID:IT69AQSs00

???『自爆せよ』

そこへ通信してきたのは、老人フォックスだった。

???『了解』

黒猫「ファルコン…」



ドドォォォォォォォォン!!!!



おしり「……!?」

ベンベ「ば、爆発したー!?」

ティーダ「ウホ…」

ヒュゥゥゥ…

ドサッ…

黒猫が爆煙の中から落下する。

おしり「く、黒猫!大丈夫か!?」

黒猫「だ……大丈夫…にゃ……」

ガクッ…

おしり「黒猫ォーーっ!!」

405ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:02:47 ID:oJYj8oY.00




翌日。

黒猫「ん…」

おしり「目覚めたか、黒猫…」

ベンベ「おお、よかったよかった!生きてたべ!」

ティーダ「ウホ!」

黒猫「にゃんだぁ?ここどこにゃ?」

おしり「このティーダとベンベの隠れ家だ…お前は丸一日眠っていた…まだ全身火傷を負っているから動けないだろうが…」

ベンベ「ふっふーん!感謝してよ!オラが薬草集めてなかったらお前死んでたべ!」

黒猫「にゃんだとぉ!?オイラがあの飛んでるヤツ倒さにゃかったらオマエらこそ死んでたぞ!」

ベンベ「……うん、まあそれは感謝するべ。ありがとう」

黒猫「分かればいいんだ!オイラのほうこそありがとにゃ!」

おしり「あの後またヤツらが来たが…目的の木を明け渡すと来なくなった…ただ樹脂が欲しかっただけで、我々の命には興味がなかったようだ…」

黒猫「そうか、よかったにゃ!」

ベンベ「オラたちがさっさと渡しとけばこんなことにはならなかったべ…ほんとごめんな…」

ティーダ「ウホ…」

黒猫「別にいいぞ。オイラが勝手にやったことだしにゃ。それよりごはんくれ!」

おしり「ああ、ここにある…この黄色いきのみはバナナというらしい…」

黒猫「バニャニャか!いただきまーす!」

ムシャムシャムシャムシャ…

406ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:03:48 ID:oJYj8oY.00


???「そのバナナ…私も頂こう」


ベンベ「誰だべっ!?」

隠れ家の中にいつの間にか入り込んでいたのは、黒いドロドロの物体。

その物体は少しずつ形が変化していき、ディディーコングの姿になった。

???「私はドルボリドル。この世で唯一のディディー族だ」

黒猫「誰にゃ。知らん。バナナはやらん」

黒猫はバナナを抱え込んでムシャムシャと食べ続ける。

ベンベ「ていうか勝手にウチに入るな!」

怒るベンベ。

しかし二人のゴリラたちは、その光景に開いた口が塞がらなかった。

ベンベ「ん?どうしたべ?二人とも。ティーダ、コイツ追い出すべ!」

ティーダ「……ウホ…」

おしり「ディ…ディディー…まさか…」

ベンベ「ど、どうしたんだべ?」

ドルボ「驚くのも無理はない。ディディーコングはかつてドンキーコングと共に過ごしたサル…この世界では千年以上も前にその血は途絶えているのだから」

407ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:05:17 ID:oJYj8oY.00

おしり「ディディー!」

ティーダ「ウホォー!」

二人はドルボリドルに抱きついた。

ベンベ「えぇ!?」

おしり「お前と過ごした記憶…何度も見たぞ…!ディディー…お前はもういないと思っていたが…地上にいたのだな…!」

ティーダ「ウホホ!ウホホ!」

ドルボ「残念ながら私はこの世界の住人ではない。お前の言う通り、この世界にディディー族は存在しない」

ドルボリドルは二人の後ろに立っていた。

おしり「え…いつの間に…」

ドルボ「コンゴジャングル…かつて我々の祖が生きた場所。まだ残っていたとはな」

おしり「…あ、ああ…俺もそれには驚いた…」

ドルボ「かつて存在した土地の多くは名を変えていたり、天変地異などにより分裂、崩壊…そして消滅している。各地にその名残りはあるようだがな」

ドルボリドルはしゃべりながら黒猫のバナナを手に取る。

黒猫「あ!こら!取るにゃ!」

ドルボ「黙れ」

ギラッ!!

黒猫「!」

ドルボリドルが睨みつけると、黒猫は動かなくなった。

おしり「…?な、何をした…?」

ドルボ「さあな。私に恐れをなしたんじゃないか?」

そう言ってバナナを食べ始める。

408ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:06:30 ID:oJYj8oY.00

ベンベ「コ、コイツ…なんかおかしいべ…やっぱり早く追い出したほうがいいべ!ティーダ!」

ティーダ「ウホ…」

ティーダは頭が悪いため自分の親友と先祖の親友を前にどうすればよいか分からず、動けない。

ベンベ「くっ、ティーダがだめならオラがやるべ!うおおおっ!!」

ダッ!!

ベンベはドルボリドルに飛びかかる。

ドルボ「魔法も使えん奴が私に逆らおうとは片腹痛い」

ギラッ!!

ベンベ「!」

またもドルボリドルが睨みつけた途端、ベンベが動きを止めた。

おしり「ま、また…!魔法と言ったな…俺には感じられんが…魔力を使って何かしたのか…?」

ドルボ「フン…催眠魔法を使ったまでだ。視線による発動は初めてだがな。もうコツは掴んだ」

おしり「さ、催眠魔法…だと…?」

ドルボ「此奴らはもう私のしもべだ。お前たちもそうしてやるつもりだが、どうする?催眠によってしもべになるか、自らの意思でしもべとなるか」

ティーダ「ウホ…ウホーッ!!」

ダッ!!

ティーダは葛藤の末に、先祖よりも今の自分の親友を選び、殴りかかった。

409ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:07:36 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「そうか」

ギラッ!!

ティーダ「!」

そしてティーダも催眠に落ち、動かなくなった。

おしり「……!」

ドルボ「やれやれ…催眠魔法は単純な命令しかできんのだ。戦闘時の細やかな判断ができなければ、その実力の半分も発揮できまい。できれば自ら私に従ってもらいたいのだがな」

おしり「な……なんという強さ…!こんなもの…誰も勝てるわけがない…!」

ドルボ「お前はどうする」

おしり「ぐ…」

おしりは恐れ慄き、後退りする。

ドルボ「早く決めろ。でなければ…」

おしり「わ、分かった…!お前に従う…ドルボリドル…」

おしりは跪いた。

ドルボ「フン…それで良い。さて、腹ごしらえも済んだことだ。まずはこの星を手中に収め、次は宇宙へと進出する」

おしり「う、宇宙だと…!?」

ドルボ「私にこの星は狭すぎるのだ。宇宙へ行くには宇宙船が必要だな。お前、宇宙船はどこで手に入る?」

おしり「し、知らん…俺は地上へ来たばかりだ…」

ドルボ「チッ、使えん奴だ…まあいい。私の耳をもってすれば情報など容易く集まる」

ドロッ…

ドルボリドルはまたスライム状に戻り、どこかへ飛んでいった。

おしり「お、おい…!どこへ行くんだ…!俺はどうすれば……!……消えた……」

410ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:08:58 ID:oJYj8oY.00



数分後。

ドロロッ…

ドルボリドルが隠れ家に戻り、またサルの姿に戻る。

おしり「なんだ…?忘れ物か…?」

ドルボ「フン、もう調べ終わったのだ。宇宙へはアーウィンとやらを使う。奪いに行くぞ」

おしり「ど、どこへ…?」

ドルボ「フォックス族という種族の村だ。奴らがアーウィンを操縦している」

おしり「フォックス…?というと、キツネか…?キツネの顔をした種族なら、つい昨日見たばかりだぞ…奴らこのジャングルに、飛行機に乗って来たのだ…」

ドルボ「何?クク、ならば丁度いい。其奴らのアーウィンを奪うまでだ」

おしり「ただ、目的の樹脂を手に入れるとすぐに帰った…また来るかどうかは分からん…」

ドルボ「…チッ、少しは使える奴かと思ったが、やはりゴミか。それでは意味がないだろう」

ドルボリドルが睨む。

おしり「ひっ!ま、待ってくれ…!たしか黒猫がその、アーウィン?というのを、いくつか破壊した筈だ…!それがまだ使えるかもしれん…!」

ドルボ「何処だ」

おしり「こっちだ…!」

おしりは昨日のところまで案内した。

しかし。

411ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:11:10 ID:oJYj8oY.00

おしり「え…?ば、馬鹿な…無くなっている…!?」

ドルボ「どういうことだ?」

おしり「たしかにここで奴らと戦闘になったのだ…!しかし痕跡すら残っていないなど…あ、あり得ん…!」

ドルボ「この私に嘘をついたのか?」

おしり「ち、違う…!信じてくれ…」

ギラッ!!

とうとうおしりも催眠にかけられ、動かなくなった。

ドルボ「フン、どちらせよこの無能は私の駒としては必要ない。奴らがここへ来ないのであれば、予定通りフォックス族の村へ行くまでだ」


キィィィィン…


ドルボ「…その必要もなさそうだな」

そこへ飛んできたのは数十機のアーウィンだった。

412ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:12:32 ID:oJYj8oY.00


ドドドドドドドド!!!!


アーウィンは一斉にドルボリドルを射撃する。

ドルボ「無駄だ。今の私に形はない。弾は全て通り抜けるだけだ」

???「お前は何者だ?」

アーウィンに乗っていた緑フォックスの一人が問う。

ドルボ「知って何になる」

ギンッ!!

ドルボリドルが睨むが。

ドルボ(催眠が効かぬ…大した魔力は感じられんが、基礎程度はできるか)

???「お前には生体反応がない。だが魔力反応は検知されている。通常ではあり得ない事だ」

ドルボ「当然だな。私は肉体を捨てた。この体は思念と魔力のみによって構成されているのだ」

???「生け捕りにする」


ドドドドドドドド!!!!


またアーウィンは集中砲火を始める。

が、やはりドルボリドルにダメージは通らない。

???「物理攻撃は完全に無効か。だが、魔力による攻撃ならどうだ?」

フォックスたちはアーウィンのコックピットを開き、立ち上がると。


ゴゴゴゴゴゴ…


全身から炎を放ち始める。

???「ファイヤーッ!!」


ドガガガガッ!!!!


そして一斉にファイアフォックスを放った。

413ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:13:38 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「フン、正解だ。魔力による攻撃のみが私にダメージを与えられる。だが当たらなければ意味などない!」

ドルボリドルはジャンプしてファイアフォックスをかわしていた。

さらに。

パチンッ!

指を鳴らし、ピーナッツ・ポップガンを召喚。

ドルボ「従わぬなら消すまでだ!ハハハハハハハハハ!!」


ドドドドドドドド!!!!


ピーナッツ弾を撃ちまくり、フォックスたちを次々に吹き飛ばす。

ドルボ「残り三匹…催眠状態でどれ程の力を出せるか、試しておくか。やれ、しもべ共!」

ダッ!!!

今まで動かなかった黒猫、ベンベ、ティーダの三人が一斉に動き出し、フォックスたちに襲いかかった。


ドガガガッ!!

バキッ!!

ズドドッ!!


三人はフォックスたちと互角の戦いを繰り広げる。

ドルボ「…この程度の雑魚と互角か。やはり催眠状態で真の力を引き出すには、催眠魔法の改良が必要だな」

414ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:14:53 ID:oJYj8oY.00


昼間「魔法の改良?そんなことをする前に、自分の魔法の精度を上げてはどうです?」


ドルボ「!?」

ドルボリドルの後ろに、突如、昼間の召喚士が現れた。

???「無関係の人間に見られるのは面倒だ。退却するぞ」

???「ああ」

キィィィィン…

残ったフォックスたち三人はすぐにアーウィンに乗り込み、飛び去った。

昼間(あれは…フォックス族のアーウィン…?)

一瞬だけそっちに目をやったが、すぐにドルボリドルを視界に戻す。

ドルボ「クク…昼間の召喚士、よくここが分かったな」

昼間「君は無用心すぎます。どれだけ空間魔法を使おうと、どれだけ魔力を隠そうと、そんなドロドロの目立つ格好でいろんな場所に現れていては、目撃情報を照らし合わせて簡単に特定できますよ」


パチンッ!


ドルボ「なっ…!」

召喚士が指を鳴らすと、ドルボリドルは透明な箱の中に閉じ込められた。

昼間「申し訳ないですが、お喋りしに来たわけではないんですよ私は。速攻で君を捕えます」

召喚士は片手に分厚い魔法書を開き、そのページには魔法陣が描かれている。

415ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:16:14 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「結界か…だが今の私にはこの程度!」

昼間「でしょうね。ですから更に重ね掛けさせてもらいます」

ドルボ「!」

パチンッ!

パチンッ!

パチンッ!

召喚士は何度も指パッチンし、そのたびにドルボリドルを囲む結界は分厚くなっていく。


ドンッ!!!!


ドルボリドルはピーナッツ・ポップガンを撃つが。

ドルボ「チッ、効かぬか」

結界は表面に少しヒビが入るだけだった。

昼間「このまま君を魔法学校へ連れて帰る、と言いたいところですが、結界を張ったままでは飛べません。ここで封印します」

ドルボ「阻止せよ、しもべ共!」

ダッ!!

フォックスたちに逃げられてボーっと突っ立っていた黒猫たちが、今度は召喚士を襲う。

パラパラパラパラ…

召喚士は魔法書の別のページを開き。

昼間「㌦くん!」


ボフンッ!


そこに描かれた魔法陣から、㌦ポッターが召喚された。

㌦「はっ!!」


ドガガッ!!


㌦ポッターはすぐさま足払いで三人を弾く。

昼間「ありがとうございます」

㌦「こっちは任せてください!それより先生は封印を!」

昼間「ええ」

召喚士はドルボリドルに向けて手をかざし、呪文をブツブツ唱え始める。

416ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:17:35 ID:oJYj8oY.00

ドルボ「フン、詠唱が終わる前にこの結界を破壊してくれるわ」


ドドドドドドドド!!!!


ドルボリドルはピーナッツを全方向に撃ちまくり、結界をヒビだらけにしていく。


ビキビキ…


パリィィン!!!


そして結界は砕かれた。

ドルボ「ハハハハハ!!残念だったな昼間の召喚士!!」

昼間「こちらの台詞です」


フュオオーッ!!


ドルボ「!?」

ドルボリドルは後ろから何かに吸い込まれた。

昼間「物理攻撃が効かないであろうことは予測していました。それならば、彼の出番だ」

おこめ「ン!!」

ドルボリドルを吸い込んだのはおこめだった。

昼間「さて、仕上げです」

パチンッ!

召喚士が指を鳴らすと、おこめの前に巨大なカプセルのようなものが召喚された。

昼間「はあああっ!!」

パカッ!

召喚士が手をかざして魔力を込めると、カプセルが開いた。

昼間「準備は整いました!おこめくん、ドルボリドルを吐き出してください!せーのッ!」

おこめ「オエッ!」

合図とともに、おこめがドルボリドルを勢いよく吐き出す。

ドルボ「くっ!!」

昼間「うおおおおおおお!!」


バシュウッ!!!!


完璧なタイミングでカプセルが閉じ、ドルボリドルを捕らえた。

おこめ「やった!?」

㌦「いや、まだだよ!」

417ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:18:28 ID:oJYj8oY.00

ガタガタガタガタ!!

カプセルが激しく揺れる。

㌦「ドルボリドルが中から抵抗しているんだっ!」

おこめ「セ、センセー!」

昼間「大丈夫!」

パチンッ!

召喚士は黒い封印布をいくつも召喚する。

ギュルルルル!!

そしてカプセルの上から封印布を巻きつけていった。

ガタガタガタッ!

ガタガタッ!

ガタッ!



そしてカプセルは動かなくなった。

昼間「……封印成功」

㌦「やった!!」

おこめ「ドルボリドル…安らかにねむれ。おまえと過ごした日々は忘れない」

418ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:19:57 ID:oJYj8oY.00

ベンベ「はっ…!?」

黒猫「ん?あれ、オイラにゃにしてたんだっけ?」

ティーダ「ウホ…」

おしり「…一体何が…」

ドルボリドルが封印されたことにより、操られていた四人が目を覚ます。

昼間「初めまして。私たちはドルボリドルを封印するべく、遠く離れた国の魔法学校から来ました」

黒猫「まほーがっこー?にゃんだそれ?うまいのか?」

ベンベ「学校っていうのは人間の子どもが勉強するために通うとこだべ」

おしり「つまり魔法を学ぶ場所か…ドルボリドルも魔法というのを使っていた…まさかお前たちも奴の仲間なのか…」

昼間「仲間…まあそうとも言えますね。彼は私たちの施設から逃走したのです」

㌦「先生、いいんですか?そんなにいろいろ喋っちゃって。無関係の人に魔法学校のこと話しちゃダメなんじゃ…」

昼間「ドルボリドルに操られていたんですよ。無関係とは言えません。それにそこのファルコン族の魔力は、間違いなく魔族のものです」

黒猫「ん?オイラ?そうだけど」

おしり「俺も一応魔の一族だ…弱いが…」

ベンベ「そういえばマカイとか言ってたな。なんだべ?そのマノイチゾクとかいうのは」

おこめ「魔界にすんでるコワイやつらだよ。ぼくもはじめて見るけど」

419ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:21:22 ID:oJYj8oY.00

昼間「あなたたちはなぜ地上に?」

おしり「来るつもりはなかった…なぜか知らんが、ここに繋がる穴が開いていたのだ…そして気づいたらその穴が閉じていてな…帰ることもできん…」

昼間「あなたたちが開けたのではなく?」

おしり「そうだ…そもそも俺たちは魔力の操作が下手だからな…」

昼間「だとしたら…」

㌦「もしかしたら他にも魔族が来ているかもしれませんね」

昼間「ええ。お二人はこの辺で他に誰か見かけませんでしたか?」

ベンベとティーダのほうに問いかける。

ベンベ「へんなキツネのヤツらなら何度も来たけども…」

昼間「先程のフォックス族ですか?そういえば私が来た途端すぐいなくなりましたが…」

おしり「何に使うのかは知らんが、ジャングル固有種の樹脂が欲しかったらしい…昨日俺たちも襲われた…黒猫の怪我もその時のものだ…」

昼間「樹脂…?魔族である君たちや、ドルボリドルを討伐するために来たわけではないのですか?」

ベンベ「コイツらが来る前から、ヤツらは来てたべよ。縄張り荒らされるのイヤだったから追い返してたけど、すぐ仲間を呼んできて、ホント面倒なヤツらだったべ」

昼間「そうですか…フォックス族がそんな強引な手段を取るとは思えませんが…」

㌦「フォックス族の村は宇宙生物に壊滅させられたってニュースもありましたし、なんかおかしくないですか?」

昼間「ええ。少し調べてみますか…二人とも、帰りますよ」

おこめ「ハーイ」

召喚士は魔法書を開き、おこめと㌦ポッターはそこへ集まる。

420ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:22:29 ID:oJYj8oY.00


ドッ…


突如、三人は倒れた。

黒猫「アレ?にゃんだ?急に眠ったぞコイツら」

ベンベ「よく見るべ!頭になんか跡がついてるべ!」

おしり「そ、狙撃されたということか…?だが銃声などしなかったぞ…」

ティーダ「ウホ…」

黒猫「どういうことにゃ?」

おしり「少なくともジャングルのどこかに…まだ敵が潜んでいる…」

次の瞬間。


ドッ…


四人も倒れる。


???「…我々の記憶を持つ七名の記憶消去完了。魔法使いにも感知されなかった。魔力遮断着の性能実験も成功と言っていいだろう」

スナイパーライフルのような形状をしたブラスターを持ち、黒いローブを纏ったフォックス族が、ジャングルの中に潜んでいた。

???『そうか。目覚めないうちに離脱しろ』

???「了解」

黒猫「にゃにしてんだ?オマエ」

???「!!」

黒猫がフォックス族の目の前まで近づいていた。

ベンベたち三人は倒れたが、黒猫だけは、姿勢を低くして狙撃をかわしていたのだ。

421ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:23:13 ID:oJYj8oY.00


ドゴォ!!


黒猫「にゃにすんだ」

フォックス族は咄嗟に蹴りを放つも、黒猫はそれを片手で受け止める。

???「訂正する…一人、記憶消去に失敗した」

黒猫「誰としゃべってんだ!」


バキィッ!!


???「がはっ!」

黒猫に蹴り返され、フォックス族は吹っ飛んで木に激突した。

???「く…貴様…どうやって…」

黒猫「鼻!オイラは犬みたいに鼻が効くんだ!昨日のアイツらと同じニオイがした!」

???「…そういうことか…」

???『簡易式次元分離システムを起動しろ』

???「しかしそれでは魔力遮断着の完成品が…」

???『問題無い。データは取れた』

???「…了解」

黒猫「にゃに一人でブツブツしゃべってんだっ!!」

ダッ!!

黒猫がさらに攻撃を仕掛けようと踏み込む。


カチッ


フォックス族がローブの内部に仕込まれたスイッチを起動。

黒猫「にゃっ!?」


ゴォォォ…


球状に拡がる黒い閃光が、フォックス族もろとも黒猫を呑み込んだ。

422ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:24:39 ID:oJYj8oY.00



数十分後。

おこめ「おーい、㌦ー?」

ぺしぺし

おこめは眠っている㌦ポッターの頬をぺしぺしする。

㌦「はっ…ここは…」

昼間「コンゴジャングルですよ。何者かに私たちは眠らされていたようです」

と、召喚士は自分の額についた何かがぶつかったような跡を指差す。

㌦「眠らされていたって…誰に…?」

おこめ「ドルボリドル?」

昼間「分かりません。ただドルボリドルの封印に成功した時点で催眠は解ける筈ですから、その後で他の手駒を操って我々を攻撃したとは考えにくいでしょう」

㌦「でもだとしたら…」

おしり「…いつの間に寝ていたんだ……ん…?黒猫は…?」

おしりが目を覚まし、周りをキョロキョロ見回す。

昼間「そう、不可解なのは、あのファルコン族が消えていること」

おしり「き、消えている…!?」

㌦「ホントだ…じゃあ…」

おこめ「それが犯人じゃん!」

昼間「そうと決まったわけではありませんが、可能性は高いでしょうね。彼は魔の一族です。我々を魔力によって眠らせるような手段を持っていても不思議ではありません」

423ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:25:53 ID:oJYj8oY.00

おしり「ま、待て…勘違いだ…」

昼間「どういうことです?」

おしり「言っただろう…俺たちは魔力の操作が下手なのだ…黒猫がそんな技を使える訳がない…」

昼間「あなたにも隠していたというだけでは?あなたは彼と違って魔力が弱い。初めから利用するだけ利用して捨てるつもりだったのかもしれない」

おしり「そんな馬鹿な…奴はそこまで頭の良い奴ではない…」

おこめ「おまえもだまされてたんだよ。魔の一族って、めちゃくちゃ狡猾らしいぜ」

㌦「懐いてたのに裏切られる気持ち、よく分かるよ。信じられないよね。僕たちもドルボリドルで味わったから…」

おこめ「㌦には別になついてなかったけどな。ていうか全然世話してなかったじゃん」

㌦「いやしてたよ!おこめくんとは時間が被らなかっただけで、結構顔出してたから!」

おこめ「えー?ほんとかよー」

㌦「ホントだよ!」

おしり「…魔の一族に信用などないか…それが正常なのかもな…」

ベンベ「オラは信じるべよ!」

ティーダ「ウホ!」

おしり「ベンベ…ティーダ…」

ベンベ「黒猫はオラたちを助けてくれたしな。それにオラも、アイツにそんな頭良さそうことできないと思うべ」

おしり「ありがとう…」

昼間「ふむ…彼を庇いますか」

ベンベ「なんだべ?やんのか?」

ティーダ「ウホ!」

ベンベとティーダはヤンキーのごとくガンを飛ばす。

昼間「いえ。もう一つの可能性について考えていました」

おしり「もう一つの可能性…?」

424ハイドンピー (ワッチョイ 95cf-3257):2022/06/28(火) 21:28:47 ID:oJYj8oY.00

昼間「あれを見てください」

召喚士が指した先には、直径五メートル程の空間が丸く抉り取られたような跡が残っていた。

ベンベ「な、なんだべ?アレ…」

昼間「分かりませんが、恐らく空間魔法を使用した跡です。この場所で黒猫さんの魔力の痕跡が途絶えていますから、ここでゲートを開き、魔界かどこかへ移動したと考えるのが普通でしょう」

おしり「だから奴にそんなことができる訳が…」

昼間「しかしゲートを開いたという痕跡がないのです。本来空間魔法を使った際に生じる空間の歪みがない…つまり、魔力を使わずに空間を移動したと考えられます」

おしり「…??」

おこめ「どゆこと?」

㌦「おかしいですよ先生。魔力を使わずにどうやって…?」

昼間「それは分かりませんが、天界に住むという神や天使は、魔力以外の力を持っているとされています。そういった我々の知らない方法でゲートを開いたとしたら…」

おしり「つまり…黒猫は何者かによって、連れ去られたと…?」

昼間「そういうことになりますかね」

㌦「そ、それこそおかしいですよ!魔の一族を連れ去るなんて、何の意味があるんですか?」

昼間「そうですね…ですからあくまで可能性の話です。私も黒猫さん自身の意思で逃走した説が濃厚だと思っています。魔力の痕跡を隠す方法も存在しないわけではありませんしね」

おしり「……」

ベンベ「おしり!オラたちで黒猫を助けるべ!」

おしり「え…?」

ベンベ「黒猫が誰かにさらわれたなら、きっと腹を空かせてるに違いないべ。オラたちで見つけて、たらふくバナナ食わせてやるべよ!」

ティーダ「ウホホ!」

おしり「ベンベ…!ティーダ…!ありがとう…!」

珍獣たちによる新たな冒険が始まろうとしていた。

昼間「さて、私たちはもう帰りましょう」

㌦「アレ放っといていいんですか?」

昼間「ベンベさんとティーダさんは民間人に危害を加えるような人たちには見えませんし、おしりさんは危害を加えられるほど強くもないでしょう。魔の一族にもあんな人がいるとは驚きですが…まあ旅に出るくらい自由にさせてもいいんじゃないですか」

㌦「そうですけど…」

おこめ「なにが心配?」

㌦「いや、別の空間に行ったんならこの世界をどれだけ旅しても見つからないんじゃないかなって…」

おこめ「なるほど。かしこいな、㌦」

昼間「しかし私たちにはどうしようもないですよ。空間の歪みが消えている以上、私たちにも見つけ出すのは困難です」

おこめ「空間探査魔法は?」

昼間「教えても彼らでは使いこなせないかと。それとも君たちが彼らの旅についていきますか?どれだけの時間がかかるか分かりませんが」

おこめ「それは…ムリだ。ぼくにもやらなきゃいけないことあるし」

㌦「…………まあ…帰りましょうか…」

昼間「はい」

三人は魔法書の魔法陣に魔力を込め、空間魔法を使って魔法学校へ帰った。

425ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:18:22 ID:D75EisdA00





とある町の一軒家では。

???「晩ご飯よ。戻っておいで」

???『了解。この敵を倒したら帰還します』

???「堅苦しいわね相変わらず」

狼の顔を持つ女が誰かと通信で話している。

???『私は居候の身…貴女に失礼な態度は取れませんので』

???「ハハ!アタシはアナタが気に入ったから匿ってあげただけって言ってるでしょ?まあいいわ。冷めないうちに帰りなさい、リカエリス」

リカエ『ありがとうございます、村田さん』

プツッ…


村田「さてと、リカエリスが帰ってくる前に…表の掃除をしないとね」

ガチャリ

村田と呼ばれる狼女は、家の外に出る。

???「ヒャッホーゥ!!遊びに来たぜウルフ村田ァ!!」

いきなりピンクのイカが飛びかかってきた。

426ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:19:07 ID:D75EisdA00


ドガァッ!!


村田はそれを蹴り返す。

村田「何度も何度もウチに押しかけて来ないでって言ってるでしょう?陛下」

ズザザザザ…!

陛下「やっぱやるねェ村田!こうでなくちゃ面白くない!」

陛下と呼ばれるイカは、学生服を着た幼女へと姿を変えた。

村田「アナタは気軽に出歩いていい人じゃないのよ?わかる?」

陛下「わかんない!」


ドババババババ!!


今度は持っていた水鉄砲のようなブキでインクを大量に発射。

村田「あーもう!汚れるでしょ!だからヤなのよアナタと戦うの!」

陛下「ヒャッホー!!楽しーっ!!」

村田「掃除するこっちの身にもなりなさい!」


ズバッ!!


陛下「ぎゃーっ!!」

村田は一瞬で陛下に近寄りひっかき攻撃をくらわせた。

427ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:20:07 ID:D75EisdA00

村田「痛い目に遭いたくなかったら早く帰んなさい!」

陛下「やだよーだ!!」

ガシッ

アッカンベーをする陛下の手を、後ろから来た何者かが掴む。

???「見つけましたよ陛下」

陛下「げぇっ!!エンコード!!」

エンコード「村田さん、ご無沙汰している」

エンコードと呼ばれる赤髪褐色肌の屈強な男が、村田に頭を下げる。

村田「エンコードさん、もっとしっかり見張っとかないとダメよ。この子すぐ飛び出すんだから」

エンコード「おっしゃる通りだ。以後気をつける。済まなかった」

陛下「クソッ!!離しやがれテメー!!」

エンコード「ところであの妙なフォックス族はいないのか?」

エンコードは陛下を無視して話を進める。

村田「今はちょっと出てるわ」

エンコード「そうか。様子を見ておきたかったが」

村田「もうすぐ帰ってくると思うけど、上がってく?」

エンコード「いや、いい。これ以上迷惑は掛けられん。村田さんが見張ってくれているなら問題ないだろう」

村田「見張ってるってわけじゃないけどね。リカエリスはそんな悪いヤツじゃないわよ?」

エンコード「それは分かっているが、謎が多いのも事実だ」

村田「まあねぇ…不思議な存在ではあるかも」

エンコード「新たに何か分かればすぐに連絡をくれ。今日のところは失礼する。さあ帰りますよ陛下。お勉強の続きです」

陛下「オイッ!!助けろ村田ァ!!」

陛下はそのまま引きずられていった。

村田「ふぅ、まったく。困ったものね、あの悪ガキには」

428ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:21:47 ID:D75EisdA00


それから村田がインクを掃除していると。

キィィィィン…

ゴゴゴゴゴ…

ガシィン…

アーウィンが着陸。

リカエ「ただ今帰りました」

村田「おかえり。どうだった?こっちでの任務は」

リカエ「やはりこの世界の生物はどれもこれもレベルが高いですが、その分こちらも得るものがあります」

村田「そっか。ま、話はご飯食べながらでも…」

リカエ「すみません。その前に一ついいでしょうか村田さん」

村田「ん?何?」

リカエ「これを…」

ドサッ…

リカエリスはアーウィンの中から、一人の黒ファルコンを持ってきた。

犬のような黒猫である。

村田「え…?」

リカエ「倒れていたのを見つけ、拾いました」

429ハイドンピー (ワッチョイ 0b9e-024d):2022/07/17(日) 21:22:31 ID:D75EisdA00

村田「こ、これって…」

リカエ「はい。この世界の住人と比べて少しカクカクとしたフォルム…恐らく、私と同じ世界の住人かと」

村田「えぇぇ…?」

430はいどうも名無しです (ワッチョイ 3749-78b2):2022/07/17(日) 22:12:22 ID:kf8iRFYk00
カクカク言っちゃうのかw

431ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:47:01 ID:SqW6gzFU00



数十分後。

黒猫「にゃにゃっ!?」

黒猫はベッドで目を覚ました。

リカエ「目覚めたか」

黒猫「にゃっ!?オマエ!!にゃにしたんだ!!」

バフォッ!!

黒猫は飛び起きていきなりリカエリスに殴りかかる。

リカエ「むっ!」


ドガァッ!!


リカエリスも咄嗟に蹴りを繰り出して相殺した。

432ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:48:38 ID:SqW6gzFU00

村田「うるさいわね。何の騒ぎ?」

部屋の外からウルフ村田も駆けつける。

黒猫「にゃぁ!?ぐちゃぐちゃだっ!!」

村田を見た途端、黒猫は飛びのく。

リカエ「落ち着け。ここは我々の世界よりも解像度の高い世界だ」

黒猫「カ…カイゾード…?」

リカエ「ああ。より高次元の世界と言った方が分かりやすいか。目に映る全てが我々の世界よりも鮮明で微細…ゆえに、脳の処理が追いつかないのだろう。しばらくすれば慣れる」

黒猫「にゃに言ってんだオマエ…」

村田「人の顔見て"ぐちゃぐちゃ"は酷いと思わない?」

リカエ「仕方ありませんよ…私も最初は驚いたものです。お前、名は何と言う?」

黒猫「い…犬のような黒猫…」

村田「何よその名前」

リカエ「では黒猫、聞きたいことがある」

村田「スルーなんだ…」

黒猫「聞きたいのはコッチだ!」

リカエ「ああ、すまない。分からないことだらけだろうが、後で教える。お前、私を見てすぐに殴りかかっただろう。何故だ?」

黒猫「当たり前だ!オマエがへんなワザ使ってオイラをここに連れてきたんだろ!」

リカエ「……やはりそうか」

黒猫「はあ!?」

433ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:50:03 ID:SqW6gzFU00

リカエ「それは私ではない。別人だ」

黒猫「そんなわけにゃいだろ!おんなじカオしてるじゃにゃいか!」

リカエ「それは同じ種族だからだ。お前をこの世界へ飛ばしたのは、私と同じフォックス族…ロハスだ」

黒猫「ロハス?…クンクン……言われてみればたしかにニオイが違う…」

村田「鼻が良いのね。見た目人間なのにホントに犬みたい」

リカエ「私もロハスとの戦闘中に次元分離システムを起動され、ここへ来た」

黒猫「!!そのジゲンにゃんとかって…聞いた気がするぞ!」

リカエ「そうだろうな。ロハスは恐らくこの現象に気づいていない。不完全なまま実用化してしまっているのだ」

村田「次元を粉々に分離して殺した気でいるのね。でも実際には、次元分離システムはこの世界への穴をこじ開けて、範囲内のものを移動させただけだった」

リカエ「はい。我々も、そして我々を道連れにしたロハスたちも。黒猫、お前もロハスと共にこの世界へ来たはずだ」

黒猫「一緒に来たかはわからにゃいけど、道連れにはされたにゃ」

リカエ「だがお前が倒れていた場所に奴はいなかった。つまりお前より先に目を覚まし、どこかに身を潜めているということだ。私と共にこの世界へ来たはずのロハスたちも、まだ全ては見つかっていない」

村田「ロハスがもう一度次元分離システムを使って元の世界に戻ったとは考えられない?」

リカエ「可能性はありますが…そんな簡単なものでもないでしょう。実際私をこの世界へ飛ばしたシステムは、次元を超えた影響か、完全に壊れていました」

村田「そういえばそうだったわね」

リカエ「そうでなくとも、もう一度使ったからと言って元の世界へ戻れる保証もないでしょう」

村田「そうね」

434ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:51:35 ID:SqW6gzFU00

リカエ「黒猫、お前をここへ飛ばしたロハスは、次元分離システムをどうやって起動していた?」

黒猫「んー…服ん中でカチッてにゃんか押したら、そっからぐわーって黒い光が出たぞ」

リカエ「そうか」

村田「リカエリスのとは違うわね」

リカエ「はい。私の時は遠隔操作によって起動し、基地全体を包み込む程の大きさの光が発生した。しかし黒猫の場合はかなり規模が小さい上、その場で光を発生させている。つまり奴等はシステムの小型化に成功しているのです」

村田「だとしたら、前のより丈夫になってる可能性もあるわよね。もう一度起動できるくらい」

リカエ「はい。とは言えやはり元の世界へ戻れる保証がない以上は、もう一度起動したという可能性は低いと思われます」

村田「うーん…でも、また別の次元分離システムを作ってる可能性はあるわよね」

リカエ「…なるほど…あのシステムを作ったのもロハスなら、元の世界へ戻れるシステムを新たに作れても不思議ではないか…」

村田「現状この世界からアナタたちの世界へ行く方法はないけど、ロハスがそれを作ってるとしたら…ラッキーよね」

リカエ「ラ、ラッキー…ですか?」

村田「だってそれ奪えばアナタたちも帰れるわよ」

リカエ「なっ…たしかにそうですが、そう簡単には…」

村田「まあアナタ一人じゃね。でも黒猫くんもいるし、私だって協力するわよ?」

リカエ「村田さんも…!?それは心強いですが、いいんですか?」

村田「何よ、私がそんな薄情な人に見える?」

リカエ「いえ、そういうわけでは…しかし住まわせてもらっているだけでもありがたいので、そこまで手伝ってもらうのは…」

村田「気にしなくていいの!私がやりたいのよ。それにアナタが元の世界に帰れないと、ずっと住まわせ続けなきゃならないんだからね」

リカエ「たしかに……分かりました。ではお言葉に甘えさせてもらいます、村田さん」

村田「ええ。兎にも角にも、まずはロハスたちの居場所を突き止めないとね!」

リカエ「はい!」

435ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:52:34 ID:SqW6gzFU00

ぐうううううううう…

と退屈そうに聞いていた黒猫のお腹が鳴った。

黒猫「にゃー、ゴハンにゃいの?」

村田「あ、そうね。すぐ用意するわ。ここで待ってなさい。アナタ全身ボロボロなんだから、動いちゃダメよ!」

黒猫「おー!ありがとう!」

村田は部屋から出て行った。

リカエ「…時に黒猫、もう一つ聞きたいことがある」

黒猫「ん?にゃんだ?」

リカエ「お前の出身はどこだ?」

黒猫「腐敗」

リカエ「フハイ…そんな国あったか…?」

黒猫「クニ?よくわかんにゃいけど、魔界だぞ!」

リカエ「!!」

リカエリスはそれを聞いた瞬間大きく目を見開き、次の瞬間。


ドガァッ!!


黒猫「にゃぁ!?」

リカエリスは黒猫の顔面を掴んで押さえつけた。

リカエ「…ハァ…ハァ…そうか…貴様か…!」

黒猫「は!?にゃにすんだ!?」

436ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:54:08 ID:SqW6gzFU00

リカエ「魔界…黒いファルコン族…そして特徴的な喋り方…!貴様が……貴様がギルティースを殺したんだな…!!」

黒猫「誰だよ!」

リカエ「ハァ…なんという運命の悪戯か…こんなところで出会えるとは思いもよらなかった……ギルティースが死んだあの日…私は誓ったのだ。必ず仇を討つと…!!」

黒猫「ひっ…!」

豹変したリカエリスの目に篭る殺意を感じ取り、黒猫はバタバタと暴れる。

リカエ「無駄だ。獣風情が私から逃れられると思うな」

リカエリスはブラスターの銃口を黒猫の腹に押し当て。


チュンッ!チュンッ!チュンッ!


黒猫「ぎゃああっ…!」

そのまま何度も弾を撃った。

村田「ちょっと何してるの!?」

リカエ「村田さん、止めないでいただきたい。此奴は私の友を殺した…」

村田「外でやってくれる!?家の中が壊れるでしょ!」

リカエ「すみません」

437ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:55:18 ID:SqW6gzFU00

ガシッ!

黒猫「グエッ!」

リカエリスは黒猫の首根っこを掴み上げると。


ドガッ!!

パリィン!!


黒猫「ぎゃっ!!」

窓の外へと蹴り飛ばした。

村田「窓も壊すな!」

リカエ「後で弁償します」

リカエリスはぺこりと頭を下げ、割れた窓から外へ出た。

村田「まったく…ご飯までには終わらせなさいよー」

438ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:56:11 ID:SqW6gzFU00


黒猫「ゲホッ、ゲホッ…もう怒ったぞ!!いきにゃり怒りやがって!!」

リカエ「貴様だけはこの手で殺す…」


ダンッ!!


両者ともに地面を蹴る。


ドガァッ!!!


リカエリスの蹴りと黒猫のパンチがぶつかり合う。

ダンッ!

黒猫は高く跳び上がり。

黒猫「ファルコン・キック!!」

リカエ「はっ!!」


ドゴォ!!!


黒猫のキックとリカエリスの蹴り上げがまたもぶつかり合う。

村田「んー、実力は互角ってとこね。黒猫くんあんなボロボロなのにあそこまで動けるなんてすごいわ。リカエリスは冷静さを欠いてるわねぇ。これは黒猫くんの勝ちかしら」

と割れた窓から少し戦いを眺めた後、ウルフ村田はまたご飯の準備に戻った。

439ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:57:12 ID:SqW6gzFU00



数分後。

黒猫「ハァ…こんにゃにオイラと戦えるヤツ…久しぶりだぞ…!」

リカエ「…くそっ…!」

戦況は村田の予想通り、黒猫の優勢になっていた。

リカエ(重い攻撃に圧倒的なスピード…そして獣のように読めない動き……ギルティースの言っていた通りだ…!)

黒猫「ととととととと!!」


ズガガガガガガガ!!


連続パンチでリカエリスを弾く。

リカエ「くっ…」

ダンッ!!

黒猫はすかさず跳び上がり、リカエリスの真上へ行くと。

黒猫「とおっ!」


バゴッ!!!


両脚で蹴り落とし、リカエリスを地面に叩きつける。

リカエ「ぐ…!」

黒猫「ファルコン・パ…」

村田「はいそこまでー」

ビシッ!

黒猫「うにゃ!?」

村田が黒猫の拳を片手で払い落とし、パンチを止めた。

リカエ「む、村田さん…」

440ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/20(水) 20:57:48 ID:SqW6gzFU00

村田「ご飯できたわよ。食べなさい」

黒猫「やったー!!ごっはん!ごっはん!」

黒猫は今まで殺し合っていたのが嘘のように、すぐに家の中へ入った。

村田「ほら何してるの。アナタも食べなさい。新しい仲間ができたことだし、今日は腕によりをかけて作ったんだからね!」

リカエ「…彼奴を仲間だなどとは思えません…そんな相手と食卓を囲むなど…」

村田「ふーん。でもアナタ、私が黒猫くん止めなかったら負けてたわよ」

リカエ「…はい」

村田「というわけで負け犬は大人しく言うこと聞きなさい。ご飯食べなさい」

リカエ「…手厳しいですね」

村田「まあここ私んちだし。私がルールよ」

リカエ「はい…」

村田「頭に血が昇りすぎ。あんなんじゃ勝てるものも勝てないわよ」

リカエ「え…」

村田「因縁のある相手じゃしょうがないかもしれないけどね。冷静沈着はアナタの武器なんだから、生かさなきゃ」

リカエ「…ありがとうございます。少し頭が冷えました」

村田「そう、よかったわ」

リカエ「でも諦めたわけではありません。黒猫はこの手で必ず倒します」

村田「ふふっ、はいはい」

441ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:50:51 ID:Ylq.mX5200





ヨシオ族の里。

その門の前に、謎の黒服たちが集まっていた。

黒服「撃て!撃てー!」

ドドドドドドドド!!

???「くそっ!数多すぎ!一人じゃキツイよこれ!」

黒服たちが、一人の青リボンのヨシオ族に向かって銃を撃ちまくる。


ミカ「デガワァ!!」


ビシャァン!!!!


黒服たち「ぐああああっ!!」

そこに味方殺しが現れ、かみなりで黒服たちを一気に吹っ飛ばした。

黒服「な、なんだアイツは!」
黒服「ピカチュウ族がなぜここに!」
黒服「退散!退散だー!」

黒服たちは逃げていった。

442ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:51:39 ID:Ylq.mX5200

???「た、助けてくれてありがとう!君は…」

ミカ「初めまして、オレはミカ。困ってる人を放っておけない性格でね」

???「そうかミカ。僕は勇気のヨシオだよ。よろしく!」

ミカ「よろしく。さっきの奴らは一体何者だ?」

勇気「さあ…最近よく来てたみたいなんだよね。でもここ一ヶ月くらいは来てなくて、安心した矢先にこれだよ…」

ミカ「やっぱり、この里に隠されてる何かを狙ってるんだろうか」

勇気「隠されてるって…何が?」

勇気のヨシオは首を傾げる。

ミカ「さあ?それは知らないが、噂になってるよ。ヨシオ族は絶対よそ者を里の中に入れないから、きっと何かを隠してるってな」

勇気「そんなことになってたんだ…ただヨシオ族は弱いから自衛してるだけなんだけどな…」

ミカ「はは、そんなことだろうと思ったよ。じゃあオレはもう行くよ」

勇気「あ、待って!」

ミカ「ん?」

勇気「お礼がしたいんだ。里には入れられないけど、少し待っててくれないか」

ミカ「礼なんかいいよ。オレはやりたくてやっただけだ」

勇気「そういうわけにはいかないよ。僕一人じゃ本当に危なかった。すぐ戻るから少しだけ時間をくれ」

ミカ「…しょうがないな。少しだけだぞ」

勇気「ああ!ありがとう!」

勇気のヨシオは里の中へ入っていった。

ミカ(さて、ここまでは計画通りだ。組織のカスどもを定期的に送り込んで里の番兵を調査し、週ごとに交代している当番制だと分かった。その中で最も弱い当番の時を狙って襲撃させ、オレが助けに入ることで信頼を得る。あとは時間を掛けてさらに深い信頼を築き、里へ潜入する)

443ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:52:23 ID:Ylq.mX5200


数分後。

勇気「ごめんなさい!お待たせしちゃって!」

勇気のヨシオが走ってきた。

その手には丸いものを持っている。

ミカ「なんだ?それは」

勇気「爆弾だよ!」

ミカ「は!?」

思わず飛び退き、体中の毛を逆立て、電気をバチバチと鳴らす。

勇気「わっ、ち、違うよ!プレゼント!ミカはすごく強いけど、一人旅じゃもしかしたらピンチになることもあるかもしれない。そんな時に使ってほしいんだ」

ミカ「…しかしなんで爆弾なんだ?」

勇気「うちは爆弾使いの家系なんだ」

ミカ「そうか。じゃあありがたくもらっていく。またな、勇気のヨシオ」

勇気「うん!お元気で!」

そうして味方殺しはヨシオ族の里から離れていった。

444ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/22(金) 20:53:01 ID:Ylq.mX5200



里が見えなくなるくらい離れたところで。

黒服「これで本当に上手くいくのか?」

黒服の中で一番偉そうな男が、味方殺しと話す。

ミカ「恐らくな」

黒服「あとは明日また襲撃すればいいんだな?」

ミカ「ああ」

黒服「しかし今日あれだけピンチになったんだ。人員が補強される可能性もあるんじゃないか?」

ミカ「問題ない。今までの襲撃後も一向に人員を増やす気配はなかっただろ。アイツらは馬鹿だ」

黒服「こっちは何人も病院送りにされてる上、お前にはとんでもない額の依頼料を払ってるんだ。絶対にミスは許されないぞ」

ミカ「当然だ。報酬金も忘れるなよ」

黒服「…勿論」

黒服「本当に大丈夫かよ…」
黒服「ファイターとはいえあんな子供、信用できるのか?」
黒服「馬鹿、聞こえるぞ…」

部下の黒服たちは不安そうに味方殺しを見る。

ミカ「ハッ、信用なんざしなくていい」

黒服たち「!」

ミカ「オレも誰一人信用してない。ただ金を貰ってるんなら仕事はきっちりこなせ」

黒服「あ、ああ…」

黒服たちは目線を逸らす。

ミカ(…しかし…勇気のヨシオの口振りには微塵も違和感がなかった。奴は何も知らないだろう。まあ末端の兵士が重要機密なんざ知ってる筈もないが…そもそも存在するかも分からないモンを調べなきゃならないってのが、今回の一番の問題点だな…)

445ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:24:02 ID:3Gza5VhY00




翌日。

勇気「むっ!また来たな!」

里の入り口で勇気のヨシオが待ち構える。

黒服「やれ!ぶち殺せ!」

勇気「さらに人数を増やしてきたか…でも今日は爆弾を持ってきたんだ!そう簡単にはやられないぞ!」

勇気は袋から爆弾を取り出す。


バンッ!バンッ!バンッ!


勇気「えっ!?」

黒服たちの放った銃弾が、勇気の持った爆弾を貫く。


ドドォォォン!!!


そして手に持ったまま爆発した。

勇気「…ケホッ…」

勇気は黒コゲになった。

黒服「やっぱバカだコイツ!!」

446ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:26:30 ID:3Gza5VhY00


ドババババババ!!


黒服たちは勢いづいてさらに銃を撃ちまくる。

勇気「くっ…!」

黒服「いけるぞ!このまま潰せ!!」


ドドドドドドドド!!!


勇気は必死に弾をかわすが、どんどん傷だらけになっていく。

勇気「ぐあっ…!」

ガクッ…

勇気はとうとう膝をついた。

黒服「トドメだ!!脳天をブチ抜け!!」

そこへ。


ドガガガガガ!!!


味方殺しが現れ、黒服数人を一気に吹っ飛ばした。

ミカ「大丈夫か!勇気!」

勇気「ミ、ミカ…!」

黒服「ま…またアイツだ!逃げろ!」

黒服たちは去っていった。

ミカ「まったくアイツら、懲りないな…」

447ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:28:07 ID:3Gza5VhY00

勇気「どうしてここに…」

ミカ「爆発音を聞いて駆けつけたんだ」

勇気「そっか…はは、爆弾も無駄じゃなかったな…」

ミカ「立てるか?」

勇気「ああ、大丈夫さ…」

ガクッ…

勇気は立ち上がろうとするが、すぐにコケた。

ミカ「無理するな勇気。肩を貸すよ」

勇気「ごめん、ありがとうミカ…」

ミカ「さあ、行くぞ」

勇気「えっ、ちょっと待って…!里の中に入るのはマズいよ…!いくらミカでも…」

ミカ「だからって放っておけるか。里の中に病院くらいあるだろ?そこまで連れていったらすぐに出るからさ」

勇気「わ、分かったよ。皆には僕から説明しよう…」

ミカ「まったく、自分がボロボロなのに人のことばかりだなお前は」

勇気「ははは、たしかに…でもお人好しはお互い様でしょ?」

ミカ「ふっ、まあな」

そして二人は里の中へ入った。

ミカ(潜入成功…まずは第一関門突破ってところだな)

448ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:29:32 ID:3Gza5VhY00


???「おい、誰だ?お前」


ミカ「!!」

二人の前に立ちはだかったのは、赤いリボンのヨシオ族。

ミカ(コイツ…里で最強のヨシオ族…一番面倒なのに見つかったな…)

勇気「殺意くん。彼はミカ…僕を二度も助けてくれた」

殺意「助けられたってことはお前、負けたのか。使えないな」

勇気「う…ごめん…」

ミカ「よせ。仲間同士で何を争ってるんだ」

殺意「余所者は黙ってろ。殺すぞ」

ミカ「なっ…」

殺意は味方殺しを睨む。

勇気「待ってよ殺意くん…!彼は本当に良い人なんだ。彼がいなければもっと多くの人間がこの里に侵入してきたかもしれない…」

殺意「それはお前が弱いからだろ」

勇気「そ、そうだけど…」

???「なんだなんだ。随分揉めてんな」

???「きゃは☆奇跡ちゃんの可愛さに免じて許してあげてほしいな、殺意クン♪」

そこへ緑と青のヨシオ族が現れた。

勇気「鳴りやまぬくん、奇跡ちゃん」

殺意「雑魚は黙ってろ。お前らから殺されたいのか?」

鳴りやま「雑魚とは聞き捨てならねえな!俺だって里の中じゃけっこう才能あるほうだって言われてるんだぜ?つうか殺意だって一人で二十四時間三百六十五日、年中無休で里を守れるわけじゃねえだろ!だから当番制でやってんだからよ!全員がお前みたいにすごいわけじゃないんだ!つまり何が言いたいかというとだな、もうちょっと心を広く持てよ!誰にでもミスくらいあるだろ!」

殺意「黙れ」

鳴りやま「はい…」

449ハイドンピー (ワッチョイ 2354-c73c):2022/07/23(土) 20:30:17 ID:3Gza5VhY00

奇跡「きゃははっ☆鳴りやんじゃった♪でも一理あると思うなぁ♪」

殺意「お前もだ奇跡」

奇跡「やだこわぁい☆でも奇跡ちゃん知ってるよ♪殺意クンホントはすっごく仲間思いで、だからこそ外から来た人を警戒してるんだよねぇ♪」

ボゴッ!!

殺意のキックが奇跡の顔面にめり込んだ。

殺意「黙れって言っただろ…」

???「そこまでじゃ、殺意」

年老いたヨシオ族が現れた。

殺意「…里長」

勇気「里長、ごめんなさい、勝手に部外者を里に入れてしまって…ですが彼は…」

里長「分かっておる。お主が信じておるということは、そやつは信用できるということじゃ」

殺意「はぁ?」

里長「勇気は昔から賢い子じゃったからのぅ。殺意も見習うんじゃぞ〜」

殺意「ダメだこのジジイ、完全ボケてる」

鳴りやま「ま、里長が言うならしょうがないだろ。諦めろ殺意」

奇跡「そうそう♪とりあえず矛を収めよっか♪」

殺意「チッ」

ボゴゴッ!!

殺意は二人の顔面を凹ませてから去っていった。

ミカ(…助かったか。最悪ヤツと戦うことも考えたが…戦わずに済むなら都合がいい。いきなり里長に会えたのもかなりツイてるな)

450ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:51:33 ID:ySe14y8Y00



そして味方殺しは里の中にある病院へと勇気を運んだ。

勇気「ありがとうミカ」

ミカ「気にするな。それじゃあオレはもう行くよ。部外者があまり長居してもみんな戸惑うだろう」

奇跡「えっ!もう行っちゃうのぉ?」

鳴りやま「オイオイ殺意にビビっちまったのか?もうちょっといりゃあいいじゃねえか!里長の許しも出たことだしな!俺たちはまだ里の外に出たことないんだわ!外の話聞かせてくれよ!」

勇気「そうだね。僕からもお願いしたい」

ミカ「しかし…」

勇気「見てよ、この子たちのキラキラした目。この目を裏切るわけにはいかないだろ?人助けだと思ってさ」

ミカ「…はは、仕方ないな。分かったよ」

それから勇気が治療を受けている間、病院前のベンチに座り込み、ミカはヨシオ族の子供たちに里の外での話をした。

451ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:52:44 ID:ySe14y8Y00



数十分後。

ミカの話すベンチには人だかり、もといヨシオだかりができていた。

ミカ「ははは!だから違うって。ドンキーは雑魚!一番ヤバいのはリンクだ。アイツらただでさえ強いのに武器まで使うんだ。しかも武器使いが上手いのなんのって…」

勇気「盛り上がってるね。何の話?」

鳴りやま「おっ、勇気さん治療終わったのか!いやあ聞いてくれよ!ミカさんすげえんだ!これまで三十ヶ国以上も旅していろんな人たちを救ってきたんだと!その中でとんでもなく強いヤツらと出会ったらしくて、その話をしてたんだよ!」

奇跡「ほんとワクワクするよねぇ♪まるで本の中の物語みたい♪」

勇気「へぇ、僕にも聞かせてよ」

ミカ「ああ。じゃあ今までで一番ピンチになった時の話でもしようか」

奇跡「ミカさんでもピンチになるの?」

ミカ「オレだってただの一匹のネズミだ。ネズミ取りにかかることもあるさ」

鳴りやま「ネズミ取りってまさか罠にでもかかったのかよ!?ミカさんがそんなモンにかかるなんて思えねえけどな!一体どんなヤツが相手だったんだ!?」

ミカ「ある国の資産家だ。ヤツは金で雇ったファイターたちを使って町を支配していたんだ。住民を使ってオレを誘き出し、ファイター百人ぐらいでオレを囲んだ」

勇気「百人!?」

奇跡「凄いね☆そんな数でも返り討ちにしちゃうんだぁ♪」

ミカ「はは、まさか。さすがのオレでも百人相手に真っ正面からやり合うのは無理だよ」

鳴りやま「てことは何かスゴい戦略を使ってそれを乗り切ったんだな!?それはそれでかっけえ!」

ミカ「かっこよくなんかないさ。オレの作戦は人質を取ることだった」

鳴りやま「ぬぇ!?」

452ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:53:41 ID:ySe14y8Y00

ミカ「ファイターたちの一人を倒して、ソイツを盾にしたんだ。と言っても向こうは金で雇われたヤツらだから、仲間意識なんかありゃしない。普通に攻撃された」

鳴りやま「じゃあどうやって乗り切ったんだよ!?」

ミカ「盾を増やした。オレの周りに四人ぐらい並べて、鉄壁の防御ってな」

勇気「それじゃあジリ貧じゃないか。敵は百人もいたんでしょ?視界も狭まるし、盾ごと押し潰されたり、かえって邪魔になると思うけど…」

ミカ「いや、盾はすぐに離した。そしてこう言ったんだよ。"作戦通りに頼むぞ"ってな」

奇跡「どういうこと?仲間がいたの?」

ミカ「いや?」

勇気「そうか!集まったファイターたちの中に、仲間が潜んでいると思わせたんだ!」

鳴りやま「おおお!!仲間割れさせたんだな!仲間にも平気で攻撃できるようなヤツらだし、疑心暗鬼にさせるのもカンタンってわけだ!さっすがミカさんだ!それでその後はどうなったんだ!?」

ミカ「まあもちろんそれだけで全員倒せるほどファイターも甘くはないからな。残ったヤツらは力技で倒した。それから資産家の屋敷に突入し、悪事を暴いて捕まえた。完全に元通りとはいかないが、町もある程度は平和に戻ったよ」

鳴りやま「くぅーっ!!かっけえぜ!!俺も早く里を出てミカさんみてえなヒーローになりてえ!!」

ミカ「はは、オレはヒーローなんかじゃないよ。ただ人が困ってたら見捨てられないだけだ」

鳴りやま「それをヒーローって言うんじゃねえか!分かってねえなぁミカさんは!自分がどんなにピンチになろうとも悪に立ち向かう!一本筋の通った自己犠牲の精神ってのがアツイ!!俺も鳴りやまないっつう筋を生涯貫く所存ではあるけどよ、口では簡単に言えてもやっぱなかなか実践できるモンじゃねえよな!」

奇跡「すぐ鳴りやむしねぇ♪きゃは☆」

鳴りやま「うるせぇっ!」

ミカ「そんな大したモンじゃないんだけどな…」

453ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:54:23 ID:ySe14y8Y00

勇気「謙遜しなくていいさ。僕もミカには助けられた。改めて礼を言うよ。ありがとう」

ミカ「はは、大袈裟な…」

鳴りやま「ヒーローと言えば、勇気さんちの子もたしか勇者って名前だったよな!」

勇気「うん。ヒーローみたいに勇敢で強い人になってほしいっていう願いを込めてるんだ」

ミカ「子供がいたのか」

勇気「うん。いつか大きくなったらミカにヒーローの何たるかをご教授願いたいな」

ミカ「やめてくれよ。オレに教えられることなんかない。本人が困ってる人を助けたいと思うならそうすればいいし、思わないならしなくていいんだ。変な使命感に取り憑かれて無茶して、もし取り返しのつかないことになってもオレは責任取れないぞ」

勇気「たしかにそうだね。やっぱりミカはしっかりしてるなぁ」

鳴りやま「そういやミカさんって今何歳なんだ?」

ミカ「十七だ」

勇気「えぇっ!?若っ!てっきり僕と同い年くらいかと…」

ミカ「老けてるって言いたいのか」

勇気「いやいやいや!すごいしっかりしてるからさ!」

鳴りやま「種族違うと全然分かんねえよなー!ホント外の世界はいろんな種族がいて面白そうだ!もっといろんなヤツらに会ってみてえ!さっきの話に出たリンク族とかドンキー族とか!」

奇跡「きっと鳴りやまぬクンは弱いから外出許可出ないよぉ♪」

鳴りやま「なにィ!?お前も人のこと言えねえだろがっ!つうかこれから超鍛えまくって殺意にも負けねえ戦士になるんだよ俺は!楽しみにしとけよな!」

奇跡「気長に待ってるよぉ♪きゃはっ☆」

その後もしばらく談笑は続いた。

454ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:55:00 ID:ySe14y8Y00



ミカ「もう暗くなってきたな。そろそろ行くよ」

奇跡「えぇ〜!」

鳴りやま「ミカさん一日くらい泊まってけよ!」

ミカ「泊まると言っても、この里に宿屋なんかないんじゃないのか?」

勇気「じゃあ僕の家に泊まる?子供が大きくなった時のために空けてる部屋が一つあるんだ」

鳴りやま「勇気さんナイス!!それでいいだろミカさん!」

ミカ「やれやれ、分かったよ」

そしてヨシオ族たちは病院前のベンチから解散し、ミカは勇気の家に招かれた。

455ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/29(金) 21:57:11 ID:ySe14y8Y00



勇気「ただいまー!」

勇気たちが家に着くと、勇気と同じ青のヨシオ族が出迎えた。

勇気妻「おかえりー…ってどうしたのその怪我!」

勇気「例の変なヤツらにやられてね…」

勇気妻「またなの!?しつこいねー…あれ、その人は?」

勇気「この前話したミカだよ。今日も彼に救われてね。今日はウチに泊めることになったんだよ」

勇気妻「あなたがミカさん!?夫を救っていただきありがとうございます!!」

勇気の妻はミカの両手を握り、何度も頭を下げた。

ミカ「気にするな。それより本当にこの家に世話になってもいいのか?」

勇気妻「どうぞどうぞ!何日でも泊まっていってください!」

勇気「ほらね、言ったでしょ。ウチの妻は恩人を無碍にしたりしないさ」

ミカ「ああ、それじゃあよろしく頼む」

勇気「うん。勇者にも紹介しなきゃね」

勇気妻「勇者ー!ちょっと来てー!」

妻が家の中に向かって叫ぶと、トタトタと軽い足音を立てて小さなヨシオが出てきた。

勇者「なに?おかあさん。あ、おとうさん!おかえりなさい!」

勇気「ただいま勇者。いい子にしてた?」

勇者「うん!」

ミカ「へえ、この子が勇者か。勇気によく似てるな」

勇者「…だれ?」

ミカ「ミカだ。よろしくな」

ミカは勇者の頭をポンポンと叩く。

勇者はミカの顔を不思議そうに見つめていた。

それから勇気一家と雑談を交えながら、ご飯を食べ風呂に入って就寝した。

456ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:29:43 ID:BcgIpGnM00



翌朝。

ミカ(さて…信頼はかなり得ているが…長居はできない。今日にでも里長に近づき、真相を確かめる)

ミカは布団から出て居間へ。

勇気妻「ミカさん、おはようございます」

ミカ「ああ、おはよう」

勇気「おはよう。よく眠れた?」

ミカ「ああ、ありがとう。勇気は今日も見張りか?」

勇気「うん。当番だからね」

ミカ「そんな怪我してるのに大丈夫か?」

勇気「大丈夫大丈夫!今日はふやけるさんも手伝ってくれるみたいだし」

ミカ「ふやける?」

勇気「ご近所さんだよ。強さは僕と同じくらいだけど、二人がかりならもし昨日のヤツらが来てもきっと勝てる」

勇気妻「ミカさんもいるしね!」

勇気「ダメだよミカに頼っちゃ。いつまでも里に居続けるわけにはいかないんだから。僕たちだけでしっかり里を守れるようにしなくちゃ!」

ミカ「ああ。お前たちならきっと大丈夫だ」

勇気「ありがとうミカ」

457ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:30:29 ID:BcgIpGnM00

ミカ「…そう言えば、昨日の子供は当番に入ってないのか?」

勇気「昨日のって…ああ、殺意くんのこと?もちろん入ってるよ。たしか来週が殺意くんの当番かな。あの若さにして里で一番の強者だよ」

ミカ「へえ。オレも手合わせしてみたいな」

勇気「えっ!?いや、いくら殺意くんが強いって言っても、さすがにミカには敵わないんじゃないかなぁ」

ミカ「勝ち負けはどうでもいいさ。ただ里一番のその強さを見てみたい」

勇気「ふぅん。じゃあ頼んでみよう。殺意くんも戦うのは好きみたいだし、たぶん承諾してくれると思うよ」

ミカ「そうか、ありがとう勇気」

それから勇気は殺意に電話を掛け、手合わせすることが決まった。

458ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:31:12 ID:BcgIpGnM00



それから数時間後の昼過ぎ。

殺意とミカは里の中央にある広場で対峙する。

ざわざわ…

その周りに数十人のヨシオ族が集まり、二人の戦いを見守る。

殺意「僕に挑んでくるとはね。昨日はビビってたように見えたけど…どういう風の吹き回しだ?」

ミカ「ただの力試しさ。さあ、始めようか」

殺意「手加減はしないぞ」

ミカ「勿論」


ドドドドドドドド…


そして二人は戦い始めた。

鳴りやま「うおお!!すげえな二人とも!」

奇跡「奇跡ちゃん、レベル高すぎて何やってるのかわかんない☆」

鳴りやま「俺も」

459ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:32:50 ID:BcgIpGnM00



そして十数分後。

殺意「はぁ……はぁ……」

ミカ「ふぅ……やるな…」

殺意「お前こそ…」

ドサッ…

二人は同時に力尽きて倒れた。

モブオ「さ、殺意と引き分けただと!?」
モブオ「すごかった…」
モブオ「二人とも化け物すぎ…」

鳴りやま「わははは!やっぱすげえや!殺意と引き分けるミカさんもすげえし、ミカさんと引き分ける殺意もすげえ!」

奇跡「奇跡ちゃんもすごい?」

鳴りやま「なんでだよ!すごくねえよ!それより二人をベッドに運ぶぞ!」

奇跡「そうだね♪」

鳴りやまぬと奇跡は倒れた二人の元へ駆け寄る。

鳴りやま「大丈夫かー?殺意」

バチンッ!

倒れた殺意の顔を覗き込んだ鳴り止まぬの頬を、強烈なビンタが襲った。

鳴りやま「な、何すんじゃーい!!」

殺意「大丈夫に決まってるだろ。僕を誰だと思ってるんだ」

ミカ「まったく、本当に血気盛んだなお前」

ミカと殺意はけろっとした顔で起き上がる。

460ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:34:16 ID:BcgIpGnM00

奇跡「二人とも平気なの?」

ミカ「ああ。ちょっと休んでただけさ。殺意はまだ全力を隠してるみたいだしな」

殺意「それはお前も同じだろ」

ミカ「はは、本気でやり合ったらどっちか死ぬんじゃないかと思ったんでな」

殺意「フン、死ぬのはお前だ」

殺意はそう言い残して去っていった。

鳴りやま「か、かっけぇー…!!俺もいつか言いてえぜ!俺たちが全力でやり合えば、どちらかが死ぬことになるだろう…的な!」

ミカ「はは、茶化すなよ」

鳴りやま「いやいやマジだって!それにしてもあれで本気じゃなかったなら二人ともどんだけ強いんだよ!俺たちまったくついていけなかったぜ!」

奇跡「ホントすごいねぇミカさん♪どうしたらそこまで強くなれるのぉ?」

ミカ「そりゃあ特訓するしかないだろうな。うちは結構厳しい家庭で育ったから、チビの頃から英才教育を施されてな。お前たちぐらいの歳の頃にはもう戦闘の基礎は大体できてた」

鳴りやま「マジかよ!?」

ミカ「ああ。旅の出たのもその頃だからな。そこらのファイターじゃ相手にならないレベルではあっただろう。まあ、殺意に比べれば可愛いもんだ」

鳴りやま「たしかに…俺らと同世代で今のミカさんと互角ってやっぱヤベーなアイツ…逆らわないようにしないと…」

奇跡「それはいつものことだけどねぇ♪」

???「ミカ殿、お初にお目にかかる」

そこへリボン無しのヨシオが近づいてきた。

ミカ「お前は?」

461ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:35:15 ID:BcgIpGnM00

???「私は㍑ヨシオ。この里の平和を保つため日々見廻りをしている、聖騎士の一族だ」

ミカ「聖騎士…」

㍑「ああ。そうは言っても実力はダメダメなのだ。里の見廻りを任されるということは、外からの敵とは戦わせてもらえないということでもある。ヨシオ同士の喧嘩を止めに入ったり、迷子を親元に届けたりするのが関の山だ」

ミカ「いいじゃないか。立派な仕事だ」

㍑「だが私はもっと強くなりたいのだ。最近は将来有望な若いヨシオ族も増えてきている。今のままではろくに見廻りすらこなせなくなるだろう…」

鳴りやま「そりゃずるいぜ㍑さん!俺にも教えてくれよミカさん!強くなる特訓の方法!」

奇跡「奇跡ちゃんはパスかなぁ♪だって奇跡ちゃんは可愛さっていう最強のチカラを持ってるから☆」

ミカ「…まあいいが、一朝一夕で強くなれるとは思うなよ?特訓は毎日コツコツ続けてようやく形になるんだ」

鳴りやま「はははは!分かってるよ!」

㍑「望むところだ」

ミカ「分かった。他に教わりたいヤツはいるか?オレは今日中にはここを発つ。チャンスは今だけだぞ」

ミカが周りのヨシオたちに言うと、ゾロゾロと集まってきた。

鳴りやま「ははは!まるで学校の先生みたいだな!ミカ先生!」

ミカ「よし、じゃあ始めるぞ」

そしてミカは特訓方法をヨシオたちに伝えた。

462ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:35:59 ID:BcgIpGnM00



数十分後。

鳴りやま「こ…こんなことミカさんは毎日やってんのか…すごすぎる…」

ミカ「いや、オレの特訓はこんなもんじゃないぞ。いきなり厳しすぎる特訓は危険だからな。お前たちに合わせた内容を教えた」

㍑「ありがとうミカ殿。早速今日からこの特訓を試させていただく」

ミカ「ああ」

モブオ「ミカさん、ちょっといいですか?」

一人のヨシオ族がミカの前に現れた。

ミカ「なんだ?」

モブオ「わたくし、里長の世話をしている者です。あなたに里長から話があるとのことで、里長の家まで来ていただきたいのです」

鳴りやま「なんだなんだ、里長から呼び出し?ミカさん一体何やらかしたんだ?里長、ああ見えても怒ると結構怖いぞ!俺も昔里長の頭のクルクルを引っ張ってめちゃくちゃ怒られたんだよなぁ!いやぁ、あん時はマジで里を追い出されるかと思ったぜ!」

奇跡「奇跡ちゃんは怒られたことないけどなぁ♪鳴り止まぬクンが嫌われてるだけじゃないかな?」

鳴りやま「ひでぇ事言うな!」

463ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:39:56 ID:BcgIpGnM00



数分後。

ミカは里長の家に来た。

里長「ふぉっふぉっふぉ、ずいぶんと里の者たちが世話になったようじゃのう」

ミカ「何、ちょっと世間話をしただけだ。世話になったのはこっちの方だよ」

二人は机を挟んで向かい合って座っている。

ミカ「で、話ってのは?」

里長「ああ。勇気から詳しい話を聞いたのじゃ。お主がいなければ里に大きな被害が出ていたかもしれんとな」

ミカ「大袈裟な…あの殺意って子供がいれば大抵の敵はなんとかなると思うぞ」

里長「ふぉふぉふぉ、たしかにのう。じゃが礼はさせてくれ」

ミカ「礼?」

里長「礼と言ったらもちろんこれじゃ!」

どんっ!!

里長は机の上に紙の束を置いた。

紙には不思議な模様が描かれている。

ミカ「なんだこれは?」

里長「見れば分かろう、金じゃ。百五十万ある」

ミカ「…この里の通貨か?……悪いが、これは里の外じゃ紙切れだぞ」

里長「…なぬ!?」

モブオ「だから言ったじゃないですか!」

里長の後ろで待機していた側近のヨシオが言う。

里長「だってワシも里の外に出たことないんじゃもん!」

モブオ「ないのかよ!?昔は外出許可とか必要なくて普通に出歩いてたって聞きましたけど!?アンタよく里長になれたな!?」

里長「それでヨシオ族は外で危険な目にあったんじゃもん!だからワシがこのルール作ったんじゃもん!偉いんじゃもん!」

ミカ(なるほど…ある程度強いヨシオ族しか外に出れないのに"ヨシオ族は弱い"と広く知られてるのはそういうカラクリか)

464ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:41:00 ID:BcgIpGnM00

モブオ「はぁ…すみませんミカさん、何か他にできることはないでしょうか」

ミカ「いいよ礼なんて。もし何か渡されても初めから断るつもりだった」

モブオ「しかしそれでは示しがつきません」

ミカ「言っただろ、世話になったのはこっちだってな。一晩泊めてもらって飯も食わせてもらった。それでチャラだ」

里長「なんと良い人なんじゃ…感動した…」

モブオ「感動してる場合かジジイ」

里長「…そうじゃ、ならば一つとっておきの話をしよう!」

ミカ「話?」

モブオ「ちょっと里長、それは…」

里長「よいのじゃ。こやつならば里の外に情報を洩らすこともあるまい。よいか、ミカ殿。これは里の秘密の話じゃ」

ミカ(来たか…)

里長「絶対に里の外で話してはならんぞ…」

そう前置きしてから、里長は話し始めた。

465ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:42:15 ID:BcgIpGnM00




ミカ「……本気で言ってるのか…?」

里長「そうじゃ。この事実は里の中でも一部の選ばれしヨシオにしか伝えられておらん」

ミカ「なんでそれをオレに…?」

里長「ふぉっふぉっふぉ、お主が世界の平和を守るヒーローならば、この事を知っておいた方がよいと思ってのう」

ミカ「そんな大したもんじゃないが……そうか…確かにそれが事実ならオレのこれからの活動もいろいろと考えていかなきゃならないかもな…」

里長「どうするかはお主自身が決めるのじゃ。来たるべき時に備えるもよし、ただの鎖された里の言い伝えと切り捨てるもよし」

ミカ「切り捨てやしない。だが、しばらく考えることにするよ」

里長「ああ。それでよい」

ミカ「ありがとう。この里に来れて良かった」

そう言ってミカは立ち上がる。

里長「もうゆくのか?それならば皆を集めて見送ろう」

ミカ「ハハ、だからいちいち大袈裟なんだよ。今日も勇気が見張りやってるんだろ?見送りならアイツだけで十分さ」

里長「そうか。お主らしいのう。それもよかろう。それとその金はやはりお主が持っておれ」

ミカ「ん?いや、だがこれは…」

里長「ふぉっふぉっふぉ、外では使えずとも里では使えるじゃろう。またいつでも遊びに来てよいからの」

ミカ「そういうことか。フッ、じゃあありがたく貰っておくよ」

里長「お主ならいつでも大歓迎じゃ」

ミカ「ああ、じゃあ、元気でな」

そしてミカは里長の家を去った。

466ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:43:40 ID:BcgIpGnM00



里の門にて。

勇気「あ、ミカ!もう行くの?」

ミカ「ああ。世話になったな、勇気」

勇気「こっちのセリフさ!あ、そうそう、彼がふやけるさんだ」

ふやける「どうも」

勇気の隣に立っていた緑のヨシオ族が軽く会釈した。

ミカ「オレはミカ。よろしくな、つってももう出るんだが」

ふやける「うん。またいつか来た時はゆっくり話を聞きたいものだねぇ」

ミカ「ああ、そうだな。それじゃあ二人ともまた会おう」

勇気「ああ!またいつか!」

ミカは里を去った。

467ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:46:38 ID:BcgIpGnM00




翌日。

同国内都市部の路地裏で、ミカと黒服は話していた。

黒服「何だと!?」

ミカ「報酬金はいらねえ。じゃあな」

黒服「ふざけるな貴様!!こちらに何人の犠牲が出たと思っている!?」

ミカ「犠牲って…死者は出てないだろ。浮いた報酬金分を治療費に充ててやれ」

黒服「そういう話ではない!!貴様、我々を裏切るつもりか!!」

ミカ「元々仲間でもなんでもねえ。報酬金取らねえだけありがたく思えよ」

黒服「失敗しておいて何を上から…!!」

ミカ「失敗?オレがいつ失敗した?」

黒服「とぼけるな!ヨシオ族を皆殺しにするという契約だろう!!それを貴様は一人も殺さずにノコノコと…!」

ミカ「だから…その契約を破棄するっつったろ」

黒服「そんな勝手が許されるわけ…」

ミカ「最初からそういう契約だった筈だ。里が隠している秘密なんてのはお前らの勝手な妄想だ。こういう類の依頼は珍しくもないが、その目的自体が存在しなかった場合、契約は破棄される。味方殺しの鉄則だ。別にオレは快楽殺人者じゃあない。無駄に殺しはしねえ」

黒服「じゃああの里には何も存在しなかったとでも言うのか!?」

ミカ「しつこいな。そう言ってるんだ」

468ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:47:32 ID:BcgIpGnM00

黒服「……!!…フ…フハハ!そうか…どうやらこちらのミスだったらしい…」

ミカ「やっと分かったか」

黒服「ああ…こちらの人選ミスだ…!」

ミカ「あ?」

黒服「あんな小さな里の秘密一つ持って来れない馬鹿だとは、見抜けなかったよ!!」

バッ!!

黒服が突然手を上げる。

ミカ「!」

同時にその路地を囲む建物のあらゆる窓から、銃口が突き出し、ミカへと向けられた。

さらに逃げ道を塞ぐように、大量の黒服たちが現れた。

黒服「やれ!!」

バッ!!

黒服が上げた手を下ろすと同時に。


ドドドドドドドド!!!!


一斉射撃が始まる。

ミカ「ったく、随分手荒い真似をしやがる」

ミカは当然のように銃撃をかわしながらぼやく。

黒服「ろくに仕事もできない裏社会のゴミなど、消されて当然!!」

ミカ「オレに勝てると思ってるのか?」

黒服「フン!貴様の力は二度も見ている!今貴様を囲んでいるのは、あの時の三倍の戦力だ!」

ミカ「…正気か?殺さないよう手加減してたに決まってるだろ…」

それからミカは黒服を全員戦闘不能にし、都市を発った。

469ハイドンピー (ワッチョイ 7239-a139):2022/07/30(土) 21:49:42 ID:BcgIpGnM00



ミカ(…しかしまさか、あんなものが里の秘密だったとはな。くだらねえ話だ)

ミカは歩きながら、里長との話を回想する。



里長「あれを持ってきてくれ」

モブオ「は、はい…」

すると側近は少し厚みのある黒い板のようなものを持ってきた。

その上部には更に小さな灰色の板が刺さっている。

ミカ「なんだそりゃ?何の機械だ?」

里長「ゲーム機だ。"ニンテンドウ64"と言う」

ミカ「…はあ?」

里長「そしてここに刺さっているカセット…これこそが、"大乱闘スマッシュブラザーズ"じゃ」

ミカ「待て待て、なんで急にゲーム機を?」

里長「実はこれはこの世界にたったの一台しか存在しないのじゃよ」

ミカ「…自慢のコレクションでも見せてくれたのか…?」

里長「そうではない。信じろという方が無理やもしれんが…」



回想を終えたミカは。

ミカ(…本当に馬鹿げた言い伝えだ。誰があんなもん信じる?それが事実だとしても、知ったところでどうすりゃいいってんだ?)

ハッ、と思わず笑いをこぼす。


ミカ("この世界がゲームの中の世界"だなんてな…)

470はいどうも名無しです (アウアウ 1c71-3fbb):2022/07/30(土) 22:16:21 ID:wU3FdC7wSa
さらっととんでもない爆弾残しやがった!?

471ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:08:05 ID:ciPArYfsSd





極道の町。


???「さあ…ショータイムだよ!お前たち!」


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドド!!


リーダーと思しき人物の号令とともに、謎の軍団が闇夜の町に散らばっていく。

472ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:10:16 ID:ciPArYfsSd



須磨武羅組事務所では。

人間「あ!?町じゅうで不良どもが暴れてる!?」

須磨組員1「はい!やべえっすよ!一人一人はただのガキっすけど、問題は数っす!こりゃウチだけじゃとても対処しきれねえ!」

人間「対処しきれねえっつったって、ウチはどこの組からも敵視されてんだ!協力は仰げねえぞ!」

須磨組員2「じゃ、じゃあどうしますか!?」

人間「どうってお前、とにかく行くしかねえだろ!須磨武羅組総動員で馬鹿どもを止めるぞ!」

須磨組員たち「はい!」


ダッ!

人間たちは外へ出る。


「ぎゃはははははは!」
「やっちまえー!」
「こんな町潰れちまえばいいんだ!」
「うぇーい!壊すの気持ちいいーっ!」


人間「な…!地獄絵図じゃねえか…!」

凶器を持った若者たちが、人を襲い、建物や車を破壊し、物を盗んでいた。

住民「いやぁぁっ!」

不良「ぎゃははは!泣き叫べー!」

人間「やめろボケ!」


ドガッ!!


人間は不良を殴り飛ばす。

人間「何が起こってやがるんだ…!!」

473ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:11:18 ID:ciPArYfsSd

須磨組員1「人間さん…じゃなくて親分!」

人間「別に人間でいいっていつも言ってんだろ!どうした!」

須磨組員1「奴らが暴れてる原因が分かりました!」

人間「何!?」

須磨組員1「これ見てください!」

組員は持っていたノートパソコンの画面を見せる。

人間「これは…」

須磨組員1「匿名掲示板の書き込みっす…!なんかネット上で盛り上がってるグループがあって、ソイツらが今日この町でオフ会で集まったらしいんですけど…」

須磨組員2「聞いたことあるな…しかしこの書き込みは一体なんだ?くせぇだの、煙たいだの…」

人間「煙…コイツらのブッ飛んだ行動…それにあのキマッた顔…」

須磨組員1「ええ…おそらく会場でクスリを撒きやがったんですよ…!!」

須磨組員2「なっ!?な、なんてことしやがる!」

人間「だとしたら…おそらく犯人はそのオフ会を仕込んだ奴か!」

ダッ!!

人間はその会場の方向へ走り出す。

組員もそれを追う。

人間「てめえらは暴れてるヤツらを抑えてくれ!少しでも被害を止めるんだ!」

須磨組員2「ウス!!」

474ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:11:54 ID:ciPArYfsSd

須磨組員1「あ!待ってください親分!仕込んだのはこの"古の八羽鴉"ってヤツっす!」

組員はそう言ってパソコンの画面を見せる。

須磨組員2「八羽鴉!?八人もいやがるのか!?」

人間「チッ、たしかにこれだけの人数にクスリ吸わせたんなら、数人がグルになってる可能性も高えな…!」

須磨組員1「ファイターもいるかもしれません!片割れを呼びましょう!」

人間「ああ。本当は頼りたくねえが…こりゃそんな悠長なことも言ってられねえ!」

須磨組員1「すぐに連絡します!」

そして組員たちは暴徒の対処に当たり、人間はそのオフ会会場へと走った。

475ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:13:21 ID:ciPArYfsSd



数分後。

人間「おう片割れ!」

会場へ向かう途中、片割れと合流。

片割れ「何が起きてんねんコレ?」

人間「かくかくしかじかでな。一応犯人の目星は付いちゃいるが、まだ会場にいるかどうか…とにかくとっとと調べるぞ!」

と片割れに説明している間に、二人は会場前まで来た。


バンッ!!!


人間は走ってきた勢いのままに会場の扉を開ける。

人間「出てこいクソ野郎!!」

???「クク…そう怒鳴るなよ人間。あたしは逃げも隠れもしねえさ」

そこには一人の緑サムスが立っていた。

片割れ「何や、普通におるやんけ」

人間「サムス族…俺を知ってるってこたあ、須磨武羅組に何か恨みでも持ってんのか!?」

???「さあ?どうだろうね」

人間「チッ、めんどくせえ。これだけのことをやらかしたテメェは問答無用でムショ行きだぜ」

???「ククク…」

人間「何を笑ってやがる。言っておくがテメェが一人じゃねえことぐらい分かってんだ、古の八羽鴉!!不意打ちしようったって無駄だぜ!」

???「…一人さ。あたしにゃもう仲間なんざいねえ」

人間「何?」

???「お前も見ただろ?あん時の、アイツらがあたしを見る目…ひでえモンだったぜ…クク…」

人間「テメェ…一体誰なんだ…!?」

???「寂しいねえ。まだわかんねえか?」

カランッ…

緑サムスは頭部装甲を脱ぎ捨てた。

476ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:14:41 ID:ciPArYfsSd

人間「…テメェは……フルパワー…!?」

フルパワー「その通り!覚えててくれたのか!嬉しいね!!ククク…」

片割れ「おお、古(ふる)八(ぱ)羽(わ)鴉(あ)って、そういうことか!…ところでコイツ誰やねん」

人間「レディースの元総長だ…昔クスリと強盗やって、俺が捕まえたんだが…テメェいつの間にムショから出てやがったんだ?」

フルパワー「つい先月さ。そしてムショの中でずっと考えてた計画をすぐに実行した」

人間「チッ…何の反省もしてませんってか」

フルパワー「会場のセッティング、大変だったんだぜ?クク…まあその甲斐あって町は大混乱、そしてお前たちはここに来た!何もかもあたしの思惑通りに事が進んでる!!クククク、最高の気分だよ!」

人間「ケッ、気分が良いのはクスリのせいだろ!」

フルパワー「そうかもなァ!!」


ドウッ!!!


フルパワーはいきなりチャージショットをぶっ放した。

人間「うおっ!」

人間は素早くかわす。

フルパワー「クク、さすが"使える人間"だな!」

人間「俺がここへ来るのも予想済みだったってこたぁ、復讐が目的なんだろうが…タイマン張ってやる筋合いはねえ。片割れ、速攻で潰すぞ!」

片割れ「誰に命令しとんねん!」


ドガガガッ!!!!

バチバチバチ!!!!

ズドォーン!!!!


そして二人は瞬く間にフルパワーを戦闘不能にし、地面に押さえつけた。

477ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:16:17 ID:ciPArYfsSd

フルパワー「はぁ…はぁ…さすがに二人相手じゃ歯が立たねえか…ククク…」

片割れ「何わろてんねん」

人間「クスリでイカれてるだけだ。そろそろサツも来る頃だぜ。今度はしっかり反省してこい」

フルパワー「…お前ほどのモンが…おかしいとは思わなかったのか?クク…」

人間「何…?」

フルパワー「上を見てみな」

人間と片割れは罠かと警戒しながらも、ちらっと見て確認する。

人間「なっ!?」

片割れ「ナイフ!!」

そこにはナイフと、人間の息子、そして元親分の息子の三人が眠らされ、縛られていた。

そしてその足元には爆弾のようなものが設置されている。

人間「テ…テメェ!!」

人間は激昂し拳を振り上げる。

フルパワー「おっと…いいのか?人間。あたしの指先一つでアイツらは木っ端微塵になるんだぜ?クク…」

人間「クソッ!!」

478ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:17:46 ID:ciPArYfsSd

片割れ「…なんで今更言うねん。脅しならワシらと戦う前からやっときゃええやろ」

フルパワー「なぁに、念のための足止めさ…本当のテストを始める前に速攻で潰される可能性もあったからな…」

片割れ「テスト?」

フルパワー「事実、歯が立たなかったワケだ…用意しておいて正解だった…クク…」

片割れ「いやちょい待てや。テストて何やねん」

フルパワー「すぐに分かるさ。お前たちがコイツの力を試すに相応しいかどうかのテストは終わった…申し分ねえ強さだ…!そしてここからが…本当のテストだ…!!」

その瞬間、フルパワーの体がビクンと跳ねた。

片割れ「何や…!?」

二人は咄嗟にフルパワーから離れる。

フルパワー「う…あああああ…!!」

フルパワーはもがき始め、その顔には血管が浮き出る。

人間「な…なんかヤベェクスリ打ちやがったのか!?スーツん中に仕込んでたのか!」

片割れ「クスリの性能テストっちゅう訳かい…」

フルパワー「フゥゥ……クク…その通り…お前たちのような、ファイターの中でも最上位の連中を超えるために作った、最強の薬…その名も"フルパワー薬"さ!!」


ダンッ!!!!


フルパワーは倒れた状態のまま、両手足を使って人間に飛びかかった。


ドゴォ!!!


人間「ぐはっ…!!」

そのタックルを受けて人間は吹っ飛ばされ、壁に激突。

片割れ「人間!」

479ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:18:58 ID:ciPArYfsSd

フルパワー「ウオオオォ!!」


ブンッ!!!


片割れ「うおっ!?」

フルパワーはアームキャノンを振り回し、今度は片割れを襲う。


ズドォッ!!!!


片割れ「ごはっ…」

そして片割れも簡単に吹っ飛ばされる。

フルパワー「クク…クククク…遅い…!全てが止まって見えるぜ…!最強だ…!!人間も片割れも…あたしには敵わない!!」

片割れ「待て待て…ワシはまだやられとらんぞ…」

片割れはフラつきながらも立ち上がる。

人間「…く…俺も…まだ…やれる…!」

人間も意地を見せて立ち上がる。

片割れ「ハハハ!死にそうやんけ!」

人間「うっせぇな…」

フルパワー「ククク…一撃だぜ!?たった一撃でそのダメージだ!!」

人間「テメェはもっとうっせぇ…!」

片割れ「あのボケ、パワーは一丁前やが、動きは単調や。冷静に立ち回りゃあワシらの敵やない」

人間「へへ……俺もちょうど…そう思ってたとこだ…」

フルパワー「何ブツブツ言ってやがる!!」


ダンッ!!


フルパワーはまた人間に向かって突撃する。

人間「くっ!」

人間はギリギリでかわす。

片割れ「ピカチュゥ!」


バチッ!!


フルパワー「ぐぅッ!」

人間「ほっ!」


ボフッ!!


フルパワー「あっつ!!クソッ!ちょこまかと…!!」

電撃とファイアボールを駆使して二人は慎重に反撃していく。

480ハイドンピー (スプー a59e-f886):2022/08/16(火) 19:19:45 ID:ciPArYfsSd



そして数十分間の攻防が続いた末。

フルパワー「がはっ…!?」

ガクッ!

フルパワーは膝をつき、苦しそうに胸を押さえる。

人間「はぁ……はぁ……ようやくくたばりやがったか…」

片割れ「…ワシらが倒したっつうより、クスリ切れって感じに見えるけどな…」

人間「どっちでもいいだろ…戦闘不能にゃ変わりねえ…」

フルパワー「…はぁっ…はぁっ……くそっ……クソッ!…これでも足りねえってのか…!!なら……!!」

片割れ「オイオイさらに打つ気か!?やめとけやめとけ!意味ない!死ぬで!」

人間「スピードやパワーの問題じゃねえことくらい…分かるだろ…」

フルパワー「うるせぇぇェェェェ!!」


ビクンッ!!


フルパワーの体が跳ねる。

片割れ「う、打ちよった…!!」

人間「お…おい…大丈夫か…」

フルパワー「…ぉあぁぁ……あ……」

人間「ダメだ、トんでやがる…」

フルパワーは意識を完全に失い、全身から汗を流しビクビクと震えていた。

片割れ「ったく…とっととアイツら解放して帰るで」

人間「ああ」

481ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:21:33 ID:yr/mznqA00


それから二人は会場の上部に捕らわれていたナイフたちを助け出し、人間の手によって爆弾も解除した。

片割れ「ハハ、さすが"使える人間"サマやなぁ。爆弾解除もお手のもんや」

人間「ま、これくらいはな…」

片割れ「そろそろサツも来るやろ。ワシはずらかるで。ナイフ頼むわ」

人間「おう…って俺も休んでる場合じゃねえよ!町の暴徒を止めねえと…!」

片割れ「ボケ、そんな体で無茶すなや。ワシに任しとけ」

人間「…ったく、分かったよ…組のモンでもねえのに偉そうに命令しやがって」

片割れ「組に入ったらお前の子分やぞ。むしろ命令できんやろ」

人間「はは、確かにな…」

そんな軽口を叩いて、片割れは町へと向かった。

ナイフ「ウンン…?」

人間「お、ナイフ、目が覚めたか」

ナイフ「あれ…?親分…俺は一体…」

人間「ちょっと事件に巻き込まれてな。眠らされてた」

ナイフ「……ハッ!?そうだ…若たちと出掛けてたら後ろからいきなり…!す、すまねえ親分!!俺がついていながら…!!」

人間「大丈夫だ。もう終わったよ。若もウチのせがれも無事だ。横見てみろ」

そこには子供たちが眠っていた。

ナイフ「よ、良かった…」

人間「あとは町で暴れてる奴らが正気に戻ってくれりゃあ一件落着…とはいかねえか。これだけ被害が出ちまったら」

482ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:23:01 ID:yr/mznqA00


ファンファンファンファン…


そこへパトカーのサイレンが近づいてきた。

人間「お、ようやく来たみてえだな…」


ダダダダダダ…


警察「警察だっ!フルパワー、ここにいることは分かっている!薬物を散布した容疑により逮捕する!」

十数人の警察が駆けつけた。

人間「遅えぞ。フルパワーなら捕まえといたぜ。とっとと持って帰んな」

人間はパワードスーツを脱がして縄で縛ったフルパワーを指差す。

警察「…に、人間か…ってどうしたその怪我は…!?いくらフルパワーがファイターとはいえ、お前がボロボロになるほどの強さじゃあないはずだろう!?」

人間「さっきてめえで言ってたろ…クスリだ。身体能力を大幅アップしやがった」

警察「クスリ…!?そ、そうか…しかしこいつどうやって釈放から一ヶ月でここまで…」

人間「どっかの組と繋がってんじゃねえか?クスリなんて再犯率めちゃくちゃ高えんだから、ちゃんと見張っとけよ」

警察「面目ない…」

それから数人の警察はフルパワーをちゃんとした拘束具で拘束し、収容所へと連行した。

残った警察たちは会場に他に危険物がないかや、フルパワーに協力者がいなかったかなどの捜査を始めた。

483ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:23:58 ID:yr/mznqA00

ナイフ「…クスリ吸わされちまったヤツらはどうなるんだ?」

人間「故意に吸ったわけじゃねえし、病院で一旦様子見して解放されんじゃねえか?モノとか人に加えた危害がデカすぎるヤツはそう簡単にはいかねえだろうがな」

ナイフ「そうか…なんか可哀想だな。やりたくてやったわけじゃねえのにさ」

ピピピピピピ…

人間「まあな。元々アイツらは世間に不満があって集まった連中だ。ただでさえイベントで舞い上がってるとこにクスリなんか吸わされたら、ああなっちまうのも無理はねえ」

ナイフ「ホントひでえことしやがって…許せねえよ…」

人間「…ところでなんか変な音しねえか…?」

ナイフ「…うん。俺も思ってたとこ」

ピピピピピピ…

人間「どっから聞こえてんだこれ」

ナイフ「すげえ近い気がするんだけど…」

ナイフがなんとなく頭を触ると。

ポロッ

ナイフ「え?」

人間「え?」

いつも被っている赤い帽子が落ち、その中から小さな丸い機械が転がり出てきた。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


人間「伏せろっ!!」


ドガッ!!


人間はすぐにその機械を人のいない方へ蹴り飛ばした。

その瞬間。


カッ!!!!


機械から黒い閃光が放たれた。

人間「!!」


ドガッ!!


ナイフ「あだっ!?な、何すん…」

人間はナイフを突き飛ばし、一人、閃光に呑み込まれた。

ナイフ「お、親分ーーっ!!」

484ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:24:46 ID:yr/mznqA00



片割れ「ふうっ、こんなモンか」

その頃片割れは、警察や須磨武羅組と協力し、町の暴徒たちを捕らえていた。

須磨組員1「助かったぜ片割れ」

片割れ「ケッ、役に立たんのォお前ら」

須磨組員2「うるせえよ!てめえが人間さんの応援に行ってる間は俺らがコイツら止めてたんだぞ!」

片割れ「そらごくろーさん。ほなワシは帰るで」

須磨組員2「ちょっと待て!話はまだ…」

プルルルル…

須磨組員1「おう、どうしたナイフ……何!?」

片割れ「なんや、どうした?」

須磨組員1「に、人間さんが…消えたって…」

須磨組員2「消えた!?」

片割れ「どういうこっちゃ…」

ナイフ『お、俺もわかんねえよ!Y!いきなり俺の帽子から変なボールが出てきたと思ったら、ピカッて光って消えたんだよ!』

片割れ「フルパワーのヤツ、まだ何か仕込んどったんか…!」

ナイフ『くそっ…!本当に情けねえっ…!!目の前にいたのに俺は…ただ親分に助けられることしかできなかった…!』

485ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:25:35 ID:yr/mznqA00




そして後日、人間の葬儀が執り行われた。

警察によってフルパワーへの取り調べが行われるも、心神喪失により受け答えもままならず、人間を消した球状の機械は、新たに開発された爆弾ということで処理された。

ナイフ「クソッ…なんで親分があんな目に遭わなきゃならねえんだ…!俺が親分の代わりに死ねばよかったんだ…!」

片割れ「何言うてんねんボケ。所詮ヤクザなんかそんなモンやろ」

須磨組員2「ああ!?」

片割れ「ヤクザは簡単に命奪ったり奪われたり、そういう世界やろ。くだらん。ワシはずっとそう言っとったハズやぞ」

須磨組員2「てめぇ…!」

須磨組員1「よせ…まあ人間さんは最初ッから覚悟できてたんだろうな…足りてねえのは俺たちの方だった…この世界に足踏み入れた時点で、命なんてあってないようなもんだ。人間さんもそう言ってた」

ナイフ「くっ…」

迫力「人間は最後まで自分の意志を貫いた。守りてえと思ったモンをしっかり守って死ねたんだ。本望だろうぜ」

須磨組員1「そうっすね…」

須磨組員2「く…だからってそんなすぐ飲み込めねえっすよ…!」

迫力「ま、時間が解決するだろうよ。で、片割れ、そろそろ決心がついたか?」

片割れ「あ?」

迫力「組で開いた葬儀に参列したんだ。そのつもりなんだろう?」

片割れ「……ああ」

486ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:26:07 ID:yr/mznqA00

ナイフ「決心って…お前、まさか…」

片割れ「フン、人間も消えて、もはや須磨武羅組は最強のヤクザなんて言えるレベルやないやろ。そんなトコにナイフを一人で入れとくわけにゃいかん」

ナイフ「お、俺なんかのためにお前が入る必要は…」

迫力「くくっ、馬鹿野郎、ただ理由が欲しいのさコイツは」

片割れ「うっさいのぉジジイ。分かった気になっとんちゃうぞ」

須磨組員1「か、片割れ…」

片割れ「安心せえ、お前らを憐れんどるんやない。全部ワシの意思や」

迫力「いい目だ。だったらこの場で交わしちまおう」

片割れ「ああ」

迫力は酒と盃を取り出し、片割れは盃を受け取る。

そして迫力はそこへ酒を注いだ。

迫力「コイツを呑めばてめえはウチの子分として極道に入る」

片割れ「おう」

ゴクッ…

組員たちが見守る中、片割れはあっさりと酒を飲み干した。

片割れ「この数年間、人間とはそこそこ仲ようさせてもらった!須磨武羅組は他の腐った組織とは違うっちゅうことも分かっとる!はっきり言う!ワシは須磨武羅組が好きや!」

ナイフ「片割れ…!」

片割れ「この盃をもって、ワシはこれより、"極道の片割れ"を名乗らせていただく!!よろしくお願い申し上げるッ!!」

こうして片割れは極道の世界へ足を踏み入れた。

487ハイドンピー (ワッチョイ 4373-f886):2022/08/16(火) 19:27:06 ID:yr/mznqA00





どこかの基地。

いくつも並んだコンピュータを緑フォックスたちが操作している。

???「オリジナル、あのサムス族に渡した新型次元分離システムは上手く作動したようだ」

???『そうか』

???「こちらの基地で開発した肉体強化薬の方も成功と言っていいだろう。限界量を超えて摂取したことにより結果的には自滅していたが、薬の効力そのものは問題なく発揮されていた」

???『分かった。ではその薬をCR-250以降に投与して経過を見ろ』

???「了解」

488ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:02:51 ID:lUDSdzGA00






月日は流れ。

魔法学校では。

昼間「本当に高等部へ上がらなくていいんですか?おこめくん」

おこめ「うん!ぼくの夢は達成したから!中等部卒業したらぼくも魔法学校出て、表の空間でたくさんの人におこめを届けたい!」

昼間「そうですか。寂しいですが、君が選んだ道なら止めはしません。頑張ってください」

おこめ「うん!」

昼間「そう言えば決まったんですか?あの米のブランド名は」

おこめ「もちろん!おこめブランドのおこめ、その名も"おこめ"!!」

昼間「そのまんま…」

おこめ「変か?」

昼間「いえ、まあ、いいと思います。自分の名前を付けるくらいに愛情を注いでいたのは私も知っていますからね。ただ商標に通るかどうか…」

おこめ「あーたのしみだ!きっとバクウレ間違いなしだ!」

昼間「…やれやれ…」

おこめ「ふっふっふー!どうだ、ぼくはもう夢を叶えつつあるぞ!このままじゃ勝負はぼくの勝ちだな!」

おこめは空に向かって叫ぶ。

489ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:04:10 ID:lUDSdzGA00





中学生「ふぇっくしょん!!」

その頃、中学生はとある国で旅を続けていた。

中学生「なんだぁ?誰かウワサでもしてんのか?ってこんなベタなセリフ言う日が来るとは…いや俺結構ベタなセリフ言ってるかも…」

と一人でツッコミをしていると。


ドガァァァン!!!!


中学生「な、なんだぁ!?」

いきなり目の前に、十メートル程度のクレーターができた。

目撃者や野次馬によって街がざわつき始める。

中学生「!!…この魔力…魔物か!?…いや、違う…!魔力がデカすぎる…まさか…」

???「フン…地上に出るのも千余年ぶりか…随分と様変わりしたものだな」

クレーターの中心には、西洋風の赤い鎧を纏った人物が立っていた。

中学生「おいてめー!まさか魔の一族か!?」

???「…リンク族か。フン、最初の相手としては悪くない」

中学生「質問に答えろや!」

???「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

中学生「はぁ?」

???「フン…敵を前に、随分と余裕だな」

ギッ…

赤鎧はしゃがみ込むと、

ダンッ!!

一気に踏み込み、中学生に近づいた。

中学生「!!」


ドゴォッ!!!

490ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:04:53 ID:lUDSdzGA00


???「…ほう、よく反応した」

中学生はそのパンチを盾でガードしていた。

中学生「たりめーだ!舐めんな!つーか…」

???「フンッ!」


ドガガガガガッ!!


赤鎧は更に連続攻撃を叩き込む。

???「…全て防いだか。面白い」

中学生「いや、つーか!!お前そんな鎧着てんのに肉弾戦すんのかよ!?」

???「些細なことに拘るんだな」

中学生「まあまあ衝撃的だよ!!」

???「ならば受けてみよ」


ボッ!!


中学生「熱っ!」

赤鎧は右掌から緑色の火球を放った。

???「フン、あえてこの技は封印していたまでだ。簡単に決着が着いては面白くないからな」

中学生「今の…ファイアボールか…!?マリオ族の…」

???「マリオではない!!!!ルイージだ!!!!」

中学生「うお!?すまん!なんか地雷踏んだ!?」

491ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:05:59 ID:lUDSdzGA00

???「……まあいい。もう終わらせるとしよう。貴様の力も大体分かった」

中学生「え、まだ俺攻撃すらしてないんだけど…」

???「問答無用!どの道貴様の剣など私の鎧には通じぬ!」


ドガァッ!!


中学生「だから遅いんだってば」

???「何…!?」

中学生は普通に赤鎧のパンチをかわした。

中学生「そんな鎧着てるからだろ。めちゃくちゃ動きにくそうだもん」

???「き、貴様…!我が鎧を愚弄するか!」

中学生「いや鎧じゃなくてお前に言ってるんだよ…肉弾戦すんなら絶対もっと動きやすい格好したほうがいいって…」

中学生はひらりひらりと攻撃をかわしながら言う。

???「クソッ…ちょこまかと…!ならばファイアボールを受けよ!」

ボボボッ!!

中学生「とうっ!」


ブンッ!!


中学生はブーメランを投げ、ファイアボールをかき消す。

???「なっ!?馬鹿な…!」

ダンッ!

赤鎧が驚いている隙に距離を詰める。

そして。

中学生「でやぁっ!!」

渾身の回転斬りを放つ。


ズギャァッ!!!!


???「ぐあああっ…!!」

ドサッ…

赤鎧は粉々に砕け散り、倒れた。

492ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:07:11 ID:lUDSdzGA00

中学生「ふぅ…魔の一族、意外と大したことなかったな。召喚士先生のほうが断然つえーや」

???「き…貴様…!」

中学生「!まだ意識があったか」

???「わ…我が鎧を…よくも…!」

中学生「着てんのが悪いだろ。そんなに大事ならどっかにしまっとけ」

???「くっ…」

中学生「しっかしルイージ族かー。パジャマのヤツに似てんなー。あと湖のヤツも…あ、あれは言っちゃマズイんだったっけ」

鎧が壊れたことであらわになった素顔を見て、中学生は今までに出会ったルイージ族たちを思い出す。

???「み…湖……だと…?」

中学生「え?」

???「そいつは…ま、まさか…水色の帽子のルイージか…!?」

中学生「え、うん。そうだけど…」

???「まだ…生きていたのか…湖…!」

中学生「何?知り合い…?」

???「…かつて…地上にいた頃…私は…奴に育てられたのだ…」

中学生「かつて地上にいたって…何言ってんだ?お前は魔の一族だろ?」

???「言っただろう…魔の一族かと問われれば…そうともそうでないとも言える…私は元々…この世界で生まれたのだ…」

中学生「どういうことだ?」

493ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:09:05 ID:lUDSdzGA00

???「我が名は…Lancelot…紅き鎧を持つことから、魔界では"紅のLancelot"と呼ばれるが…かつては"湖の騎士"という異名を持っていた…」

中学生「ちょ、ちょっと待て!なんか聞いたことある気がするぞ!?」

Lance「フン…だろうな…私は…Arthur王に仕えた騎士だったのだ…」

中学生「あの伝説の…!?マジで…!?」

Lance「事実だ」

中学生「マジかよ…!でもなんで魔界に?」

Lance「…色々あってな…私はArthurと決別し…Arthurと戦う力を求め…魔の力に手を染めた…そして最後の戦いに挑んだ日…突如、私の体に天から光が降り注いだ…それは神による裁きだったのかもしれない…気づけば私は…魔界の奥地に立っていた…」

中学生「神…そういや魔法学校で言ってたな。天界には天使とか神様がいるって」

Lance「魔法学校…地上にはそんなものがあるのか…?」

中学生「ああ。地上っつっても裏の空間だけどな。湖の精霊もそこにいる」

Lance「何…!?どこだ…どうすれば会える…?」

中学生「…そんなに会いたいのか?」

Lance「当たり前だ…!奴は私の…唯一の家族だ…だが…別れの言葉も…何も言えないまま…私は魔界に堕ちた…千年以上…ずっと後悔していた…」

中学生「そうか…もう暴れないって約束できるか?できるなら教えてやる」

Lance「約束する」

494ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:09:39 ID:lUDSdzGA00

中学生「…分かった。嘘はついてなさそうだ」

そして中学生は魔法学校への行き方を教えた。

Lance「恩に着る…」

中学生「そうだ、魔法学校に着いたらたぶん、てか確実に、昼間の召喚士っていうめちゃくちゃ強い人が攻撃してくると思うから注意しろ。俺の名前出せばなんとか説得できると思う」

Lance「分かった…しかしお前ほどの男が強いというそいつは…一体何者だ?」

中学生「先生だよ。最強の魔法使いで、マリオ族…ってそういや、お前なんであんなにマリオにキレたんだ?」

Lance「…Arthurがマリオ族だったからだ」

中学生「あー、なるほど…」

Lance「…すまなかったな…もう行ってくれ。私は回復するまで休みたい」

中学生「そうか。んじゃ、ちょっと運ぶわ」

Lance「は…?」

中学生「野次馬が集まってきたしな。これじゃ魔法学校行く前に捕まっちまうだろ?」

中学生はLancelotを肩に担ぎ、その場を離れた。

495ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:11:32 ID:lUDSdzGA00



数分後。

中学生「ここまで来りゃ大丈夫だろ」

中学生はLancelotを下ろす。

Lance「すまない…それと運ばれている間に一つ…思い出したよ…」

中学生「何を?」

Lance「フン…あの鎧を…大事にしていた理由…すっかり忘れていたが…あれは私がArthurに仕えた時に貰ったのだ…」

中学生「ふーん。じゃあいつか仲直りできるといいな」

Lance「フン…できる訳あるまい…奴はとっくの昔に死んでいる…」

中学生「わかんねーだろ。もしかしたらお前みたいに長生きしてるかもしんねーぜ」

Lance「……フッ…そうだな…」

中学生「んじゃ達者でな。先生によろしく言っといてくれ」

Lance「ああ」

そして中学生は再び歩き始める。

歩き出した途端。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


???「★気持ちいいいいいいいい!!」


良い感じな雰囲気をかき消すかのように、赤い帽子の少年が叫びながらすごいスピードで通り過ぎた。

中学生「こ、今度はなんだぁ…?」


ドゴォォン!!


少年はそのままゴミ捨て場のゴミ袋の山に突っ込んだ。

中学生「……マジで何なんだ…」

496ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:12:14 ID:lUDSdzGA00

中学生は駆け寄る。

中学生「おーい!大丈夫かー?」

ゴミ袋に埋もれた少年に手を差し伸べる。

???「★いてて…ありがとう。ところで君は誰?」

中学生「こっちのセリフだよ!街中ですげえ速度で爆走しやがって!」

???「★ごめんよ。生まれて初めて外を走り回れるから、舞い上がっちゃって」

中学生「え…病気か何かで入院してたとかか…?」

???「★いや、別に」

中学生「…まあなんか事情があんだな。でももうちょっと周り見ろよな。ゴミ捨て場だったからよかったけど、もし人にぶつかったら大変だぞ」

???「★そうだね、気をつけるよ」

中学生「おう。んじゃな」

そして二人は別れた。

中学生「…変なヤツだったな。あんな速さ普通の人じゃありえないし、アイツもファイターなのかもな」

497ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:14:29 ID:lUDSdzGA00



その様子を、街に設置された防犯カメラが捉えていた。


そしてそのカメラを通して、赤い帽子の少年の正体に気づいた者がいた。

エロマス「…これはまさか……ネスか……?」

エロ過ぎるマスターである。

バーのマスターをやりながら情報屋もしているエロマスは、世界各地のカメラをハッキングし、日々情報を集めているのだ。

エロマス「フッ…存在するはずのない種族…非常に興味深いな…」

エロマスはニヤリと笑った。





第二章 完

498ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 21:18:22 ID:lUDSdzGA00
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!!
以上、第二章・中学生編でした
また書き溜めたいのでしばらく更新を休みます

499はいどうも名無しです (ワッチョイ 23ed-5e3d):2022/08/22(月) 21:38:22 ID:l/opKTFM00
更新お疲れ様です!!波乱の展開が続いてハラハラしながらよんでました!続きも楽しみに待ってます!!

500ハイドンピー (ワッチョイ 84d7-baea):2022/08/22(月) 22:56:57 ID:lUDSdzGA00
>>499
ありがとうございます!頑張ります!

501はいどうも名無しです (ワッチョイ e02f-d9d6):2022/08/23(火) 23:14:52 ID:6PPswkU200
お疲れ様です。
次も楽しみにしてます。

502ハイドンピー (スプー 587f-e066):2022/08/26(金) 13:57:17 ID:4wqCEPcYSd
>>501
ありがとうございます!

503ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:03:02 ID:4B4Kcy/I00
第一章のあらすじ>>348

〜ここまでのあらすじ2〜

中学生(大学生)は、途中、"熱望ブラザーズ"やムッコロズ・ムッコロスなどとすれ違いながら、旅を続けていた。
パジャマの革命家と一悶着あり、少女の情報を手に入れ、王国へ。
王国では、少女を知るヒーローの母と会い、少女を連れ戻すと約束した。

魔法学校では、中学生たちが名付けたサル"ドルボリドル"が覚醒。
魔物たちを操るドルボリドルと召喚士たちが戦う。
封印一歩手前まで追い詰めたものの、ドルボリドルは肉体を捨て、魔物と化して逃亡。

魔界では犬のような黒猫と腫れたおしりが食べ物を求めて、謎の穴に突入。
穴の奥はなぜか地上のコンゴジャングルと繋がっており、バナナをめぐってモケーレムベンベ、ティーダと戦闘。
さらにジャングルの素材を狙って現れた謎のフォックスや、魔法学校から逃げてきたドルボリドルも現れ、黒猫たちは大ピンチに。
召喚士たちがそこに駆けつけ、ドルボリドルの封印は成功した。
しかし潜んでいた謎のフォックスは記憶を消す弾を使って、その場のファイターたちから、フォックスたちに関する記憶を消去。
唯一その弾をかわした黒猫だったが、次元分離システムによって消滅した…

かに思われたが、黒猫は次に目覚めると別の世界にいた。
かつて謎のフォックスたちと戦い、同じく次元分離によって消滅したリカエリスもこの世界に来ており、ウルフ村田という女性と暮らし、元の世界に帰る方法を模索していた。
リカエリスは倒れていた黒猫を村田家へ運んでくれた。
が、黒猫はかつて<魔炎師ヤミノツルギ†の叛逆>にてリカエリスの親友であった初代"幻のギルティース"を死に追いやった張本人だった。
リカエリスは攻撃を仕掛けるも実力で上回る黒猫に上手く捌かれ、ウルフ村田に制止される。
その場では矛を収めたが、リカエリスはこの手で必ず黒猫を倒すと誓う。

その頃味方殺しは、国の暗部の依頼によってヨシオ族の里に侵入。
ヨシオ族たちと交流を深める。
そしてその目的である"里の秘密"をゲット。
その秘密とは"この世界がゲームである"という馬鹿げた話だった。

極道の街では、フルパワーという前科者が薬物を撒いて町中で大パニックを起こし、須磨武羅組や警察が対処にあたった。
薬物で肉体を強化し文字通りフルパワーとなったフルパワーだったが、片割れと人間の協力により鎮圧。
しかしフルパワーが仕込んでいた次元分離により、人間はナイフをかばって消滅させられた。
片割れはそれを受けて、ついに極道の世界に足を踏み入れる決心をする。

月日が経ち、おこめは夢であった最高のおこめ魔法をついに完成させる。

一方中学生は未だ少女の手掛かりはなく、アテのない旅をしていたところ、魔界から紅のLancelotが出現。
中学生はそれを難なく撃破。
かつて魔法学校で会った湖の精霊の関係者であることを知り、魔法学校を紹介してあげた。
直後、爆走する少年がゴミ捨て場に突っ込んだので助けてあげた。
特に前進もなく、中学生の旅は続いていく。

504ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:10:35 ID:4B4Kcy/I00
第三章



中学生は高校生となっていた。

ただ勿論、高校に通っている訳ではない。

少女を探す旅を続けながら、時々、通信制の授業を受けている。

高校生「父ちゃんと母ちゃんには感謝しねーとな…この旅でアイツを見つけた後の事も、ちゃんと考えてくれてる。俺は目の前のことしか見えねーから…」

講師『ちょっと!?ちゃんと聞いてますかっ!?』

高校生「あっ、すんません!」

それから数十分。

授業を受け終わり、宿のベッドで眠りにつこうとしたが。


ピンポーン


高校生「あれ?誰だよこんな時間に……はーい」

ガチャッ

505ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:12:10 ID:4B4Kcy/I00

おこめ「よ!」

高校生「おこめ!?お前、なんでこんなとこに…!」

おこめ「ふっふっふ、バカな奴め。ぼくはもう夢を叶えたのだよ」

高校生「何!?」

おこめ「ジャーン!みろ!これがおこめ魔法によって作り上げた、最強のおこめ、その名も"おこめ印のおこめ"だ!」

おこめは袋に詰まった米を自慢げに見せつけた。

高校生「すげえじゃん!!おめでとうおこめ!!」

おこめ「エッヘン!夢バトルはぼくの勝ちだな!」

高校生「夢バトル?ああ、どっちが先に叶えるかってヤツか。そういやそんなんあったな…」

おこめ「オイ!!!」

高校生「いや、正直俺のは夢っつーか、アレだからな…」

おこめ「アレってなんだよ!てか結局やらなきゃいけねーコトってなんだよ!」

高校生「そりゃ…まだ言えねーよ。…んで、何でこんなとこにいるんだ?」

おこめ「…ま、エーギョーってやつだ。ぼくのおこめがいくら史上最強にうまいとは言っても、知ってもらわなきゃイミないからな。各地を巡って宣伝してるのだ」

高校生「なるほど」

おこめ「そんでたまたまこの辺に来たらオマエの魔力を感じたから、勝ち誇りにきたってワケだ!なのにオマエときたら…」

高校生「それは本当スマン。悔しがるどころか勝負自体忘れててスマン」

506ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:12:40 ID:4B4Kcy/I00

おこめ「ふん!まあいいさ。とりあえず、コイツを食え!!」

それからおこめは自前の炊飯器を使って米を炊いた。

二人は米が炊き上がるのを待ちながら、小学生時代の思い出話や、その後のいろんな事を話した。

そして。

おこめ「ジャーン!!これがおこめ印のおこめだっ!食え!」

高校生「うおっ!マジで美味そう!」

おこめ「トーゼンだ!」

高校生「いただきまーす!」

もぐもぐ…

高校生「うんめ〜〜〜〜!!!」

おこめ「だろ!!」

高校生「こりゃ売れるなマジで!!」

おこめ「そうだろ!!」

そして高校生は茶碗にたっぷりと盛られた米を、オカズもなしに何度もおかわりし、完食した。

507ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:13:14 ID:4B4Kcy/I00

高校生「ごちそうさま!」

おこめ「いい食いっぷりだった!」

高校生「ハハ、ほんとすげーよお前。正直な、俺、すげー疲れてたんだ…」

おこめ「うん、カオ見りゃわかる」

高校生「どんだけ頑張っても、俺の目的には辿り着けなくてよ…もう無理なんじゃねーかって、何度も思ったよ。折れかけてた。けど、お前の米食ったら元気出たわ!」

おこめ「だろ!」

高校生「ああ、ありがとな!俺も頑張るからさ、おこめもこの米、マジでめちゃくちゃ売りまくれよな!」

おこめ「言われなくてもだ!㌦ポッターが嫉妬するくらいの大金持ちになったるぞ!」

高校生「おう!その意気だぜ!」

二人は握手を交わし、笑い合う。

おこめ「じゃあ、そろそろいく」

高校生「そうか、また会おうぜ親友!」

おこめ「うん!またな親友!」

508ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:14:07 ID:4B4Kcy/I00



翌朝。

高校生「さて!行くか!」

高校生は宿を発ち、空間探査魔法の魔法陣が刻まれたブーメランを投げながら、あてもなく進む。

高校生「あっちの方、まだ見てなかったな」

町外れの山の方へと向かっていく。

すると。

おっさん「おい、おめえさんどこ行くんだ?あの山に入ろうってんじゃねえだろうな」

すれ違ったおっさんが声を掛けてきた。

高校生「え?そうだけど…なんかまずいんですか?」

おっさん「ああ。あそこにゃあクマとかイノシシとかいろいろ出るんさ。つい先週も山に入ったヤツが襲われてな」

高校生「そうなんすね…まあ俺なら心配ないですよ、ファイターなんで!」

おっさん「ホントかあ?立派な剣は持ってるが…」

高校生「本当ですよ!ほら耳!リンク族の特徴!」

おっさん「うーむ…聞いたことはある…しかし、野生動物を舐めちゃいかんぞ」

高校生「気をつけます!ありがとうございます!」

509ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:14:50 ID:4B4Kcy/I00

高校生は山に足を踏み入れる。

高校生「野生動物ねぇ…魔物なら何度も倒したが、そういやクマとは戦ったことねえな…魔物とどっちが強いんだ?」

そんな独り言をこぼしながらブーメランを投げる。

と。

キュルキュルキュルキュル…

高校生「…え?」

ブーメランはいつもとは異なる軌道を描く。

一定の場所で何度も円を描くように回り始めたのだ。

そう、それは隠された空間に反応を示している時の動きである。

高校生「ま…まさか…!!」


ボフッ!!


ブーメランが描いた円の中で小さな爆発が起き、空間に穴が開いた。

高校生「……!!」

510ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:16:06 ID:4B4Kcy/I00

高校生は驚きやら嬉しさやら、様々な感情が混じり合い、声すら出ない。

しかし体はすぐに動いた。

その穴へと、一直線に走る。

タッ!

そして穴の中へ飛び込んだ。


???「アゥ…?」


高校生「……は……??」


そこには、ボロボロの黄色い服を着た少年がいた。

周りには木々が生い茂り、深いジャングルのような場所になっている。

???「ウァァ…」

高校生「な…なんだ…コイツら…」

少年は一人ではなかった。

数十人の少年が木々の奥から現れ、正気を失った顔で高校生を見ていた。

高校生「み…みんな同じカオしてやがる……それに、どっかで見たような…」

511ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:17:01 ID:4B4Kcy/I00

???「ガァウゥゥ!!」

高校生「うお!?」

突然、少年の一人が高校生に向かって突撃してきた。

高校生「なんだ!?」

すると他の少年たちもそれに続いて、高校生に襲いかかる。

高校生「な、何なんだよ!?コイツら一体何モンだ!?」

高校生は突撃を交わしながら、少年たちを観察する。

高校生「動きは遅い…強くはなさそうだが…」

グシャァ!

???「アウゥ…」

少年の一人が、勢い余って木にぶつかる。

高校生「おいおい大丈夫か…?って、なんかこの感じ、前にも……そうだ、あの時の…ゴミ捨て場に突っ込んだアイツ…!」

???「ウアァァァ!!」

高校生「くっ!」

少年たちは無限に突進してくる。

512ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:17:35 ID:4B4Kcy/I00

高校生「おいっ!落ち着けよお前ら!俺は敵じゃねえ!」

???「ガウゥゥゥ!!」

高校生「クソッ、埒があかねえな…!まるで"バーサーカー"だ…コイツらが何なのかもわかんねーし、なんで襲ってくんのかもわかんねー…言葉も通じないみてえだし…」

高校生は通ってきた穴に視線を向ける。

高校生「……でも、この空間にアイツがいるかもしれねー……やっと…やっと見つけた空間だ…!ここにいないとしても、何か手掛かりがあるかもしんねえ…!」

ドスッ!!

高校生は地面に棒を突き刺した。

高校生「魔力棒…召喚士先生に貰っといて良かった。コイツを刺しときゃ、ゲートを離れても魔力を辿って帰れる」

そして高校生は、ジャングルの中を進んで行った。

バーサーカー「ガウウゥゥ!」

後ろから追ってくる声が聞こえ、振り返るが。

高校生「…遅すぎて全然ついて来れてねーや。これならじっくり調べられそうだな」

513ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:18:56 ID:4B4Kcy/I00




とある星の基地にて。

ピコン…ピコン…

ポチッ

???「どうした」

年老いた緑フォックスが、大きなモニターの前の席に座り、通信を受ける。

???『こちら第三基地。モルダー細胞のミスクローン廃棄エリアに、何者かが侵入した模様』

???「何…?あの空間は完全に閉鎖してあった筈…我々以外に、閉ざされた空間を開く技術を持った者がいるとすれば…あのドンキー族か?」

???『いや、侵入者はリンク族だ。何者かは不明…どうする』

???「…監視を続け、侵入者の素性と、侵入した方法を探れ。廃棄エリアから離脱した場合、記憶を抹消して様子を見ろ。その後、万一我々について嗅ぎ回るようなら、消せ」

???『了解』

プツッ

???「…さて…それでは実験の続きだ。ゲートを開け」

???「了解。魔界ゲート起動」

カタカタカタカタ…

ポチッ

若いフォックスがコンピュータを操作し、起動スイッチを押す。


ヴィィン…!


大きな装置の中の空間に、穴が開く。

???「被験体・クリーンを送り込め」

514ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:19:41 ID:4B4Kcy/I00

すると一人のフォックスが、眠った少年を抱えて穴の中へ入った。

その少年の顔は、先ほど高校生が出会った少年たちと同じものだ。

そしてフォックスは少年だけを穴の中に置いて、戻ってきた。

???「完了。問題無し。ゲートを閉鎖する」

バシュッ…

また若フォックスがスイッチを押すと、穴は閉じた。

???「これで魔力を持ったクローンネスが誕生すれば、我らの野望に大きく近付くだろう…」

???「しかしオリジナル、魔の一族となった場合、自我が肥大化し感情が制御できなくなるというデータがある。生体チップを埋め込んでいるとはいえ、我々のコントロール可能な範囲を逸脱するかもしれない」

一人のフォックスが言う。

???「その時は処分すればいい。元々ネスのPSIという力には、電気を扱うものもある。その影響によってチップを無効化される可能性も想定済みだ」

老フォックスが答える前に、また別のフォックスが答える。

???「ああ。他のクローンネスに関しても同じことが言える。仮にチップが無効化されたとしても常に監視は付けているし、子供の姿のまま成長が止まるというあの性質上、我らの手で消す事は容易だ」

少し大人のフォックスが更に付け加えた。

???「そういうことだ。CR-220、エルバンとウォーカーに関して、何か変化はあるか?」

老フォックスが、コンピュータを操作するフォックスに問う。

???「いや、エルバンは相変わらず爆走している。ウォーカーの方は、ようやく立って歩き始めた段階だ。まだPSIにも目覚めていない」

???「そうか。引き続き監視しろ」

515ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:20:11 ID:4B4Kcy/I00

???「そう言えばオリジナル、先程、第三基地からもう一つ報告があったようだ」

???「何?何故通信で言わなかった」

???「重要事項ではないからだろう。第二基地跡地で拾った、フトゥ・ブラッド及びムメイ・ブラッドの赤子についてだ。培養液の中で成長を促し、二足歩行まで可能となったようだ」

???「…そうか。身体機能に異常は?」

???「確認されていない。自我を持ち始め、現在はCR-170が教育を施している。発見時は数グラムの胎児であった事から、㌘と呼称している」

???「分かった。しかしあれはクローンとは勝手が違う。扱いには気を付けろ。少しでも我々に敵対する兆しを見せた場合、即刻処分できるようにしておけ」

???「了解」

516ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:21:22 ID:4B4Kcy/I00




三日後。

高校生「クッソォ…やっぱこの空間はアイツとは全然関係なさそうだ…はぁぁ…」

高校生は空間の中を隅々まで見て回ったが、何の手がかりも掴めず。

がっくりと肩を落としながら、通ってきたゲートへと引き返していた。

バーサーカー「ガウゥゥゥ!」

高校生「うわ!バーサーカー!忘れてた!まだいた!」

バーサーカー「グガァァァ!」

高校生「わりーけどてめーらの相手してるヒマねーんだよ!じゃあな!」

バーサーカーの群れをかわし、走り抜ける。

そしてゲートを通り、空間の外へ出た。

バーサーカー「グォォオオ!!」

高校生「うおっ!?こっちまで来てんじゃねーよ!閉じろ!」

バツン!!

高校生が手を合わせると、ゲートは閉じた。

517ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:23:02 ID:4B4Kcy/I00

高校生「ふぅ…なんだったんだ?結局…まぁいいや…」

タッ!

高校生は突然ジャンプする。

高校生「誰だ?」

何者かの僅かな魔力を感じ取り、その攻撃をかわしたのだ。

しかしその気配はすでに消えていた。

高校生「…ちっ、逃げやがったか。さすがに魔力が小さすぎて追えねーな……ん?」

そして木に残った弾痕を見つける。

高校生「銃弾…?にしては小せーか…銃のことはよく知らんけど…弾自体はないっぽいし、光線銃的なやつか。なんで俺を狙った…?さっきの空間と関係ないわけねーよな」

少し考え込む。

高校生「…ってこんなことしてるヒマねーや。面倒ごとに巻き込まれねーうちにずらかろう…」

高校生はすぐにこの山を降りた。

518ハイドンピー (ワッチョイ 5825-2cb7):2023/06/30(金) 21:23:44 ID:4B4Kcy/I00



少し離れた上空にて。

???「何者だ…?発する魔力を三パーセント以下にまで減少させる魔力遮断具を身に付けた状態で、魔力を感知された」

ステルスアーウィンに乗った緑フォックスが、基地と通信している。

???『ありえん。そこらの虫や植物と変わらない程度の魔力だぞ…』

???『調査によれば奴は魔法学校の出だ。感知力に関しては個人差があるからな。魔力量は同じでも、人と他の生物とではその質が異なるし、個体ごとにも差がある。それを嗅ぎ分けられたのかもしれん』

???『我々はまだその域には至っていないが…奴はそれ程に優れた感知力を持っているということか』

???「そうか…半端な戦力では奴には通用しなさそうだな。次は第三基地全隊を出動させ、確実に記憶を消す必要がある」

???『ああ。しかし奴の今いる場所は人目につく。しばらく様子見だ。オリジナルに報告しておけ』

???『了解』

519はいどうも名無しです (ワッチョイ 3a82-05f3):2023/06/30(金) 21:50:01 ID:tji/2LLY00
うおおおおお続きじゃー!!!待ってたぜぇ!!

520ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:10:09 ID:McfE2eQc00





とある国の北部に位置する、小さな村。

ここには、いろんな動物たちが住んでいる。

ねこ「ふーんふーんふふっふーん♪」

一匹の黄色いねこが、鼻歌を歌いながら歩く。

ゾウ「おう!ねこ!今日も幸せそうだな!」

ねこ「はい。朝トマト食べてきたので」

ウサギ「うちの畑で採れたミニトマトあげるね」

ねこ「ありがとうございます!!」

クマ「今日はどこいくんだ?」

ねこ「トモダチんちです」

キツネ「気を付けてな!」

ねこ「はい」

このねこは、歩いているだけで何度も動物たちに声を掛けれられた。

ゾウ「ありがたや〜」

ウサギ「今日も幸福オーラ分けてもらえてよかったわ」

クマ「こないだ出てきたバケモンもアイツのおかげで消えてくれたし、この村も安泰だな」

キツネ「ああ、ねこさまさまだ。あの子は俺たち大人が全力で守ってやらねば」

521ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:12:17 ID:McfE2eQc00



数日前。

ドカァァァン!!

下半身「ワーッハッハッハ!!この村はこの下半身虚弱体質サマが頂く!!」

ワー!

キャー!

村に突然魔の一族と思しきドンキーが現れ、破壊活動を始めた。

ねこ「ん?ゴリラなんて村にいましたかね」

そこに、ねこがトマトを食べながら偶然通りかかった。

下半身「あぁ?なんだ貴様はぁ!」

ねこ「ねこです。よろしくお願いします」

下半身「ああ、よろしく。ってバカ野郎!」

ドガッ!!

ねこ「うわ危な!なにするんですか!ねこを殴るなんて動物虐待ですよ!」

下半身「知るか!魔界にゃ法律なんてないんだよ!」

ねこ「わわわわわ!」

下半身虚弱体質がブンブンと振り回す拳を、ねこは必死にかわす。

ネズミ「おい何やってんだ!早く逃げろ!」

ムササビ「あなたの足の速さなら逃げられるわ!」

ワニ「そんなヤバそうなヤツに関わっちゃダメだ!」

ねこ「は、はい…」

522ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:12:44 ID:McfE2eQc00

ベチャッ!

ねこ「ああっ!トマトが!」

ねこは攻撃を回避する時に、トマトを落としてしまった。

ビーバー「今トマトなんてどうでもいいだろ!」

下半身「ワッハッハ!!よそ見とはバカなヤツだ!!これでトドメだァ!!」

ずるんっ!!

ゴチーン!!

下半身虚弱体質は下半身が虚弱だったためか、潰れたトマトの汁で勢いよく滑って転んで、後頭部を強打した。

クマ「えっ」

下半身「くぅ…お、覚えてやがれーっ!」

そう言い残し、下半身虚弱体質は去った。

ねこ「おお、トマトが助けてくれました…さすが、トマト」

523ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:13:53 ID:McfE2eQc00



そんな出来事があって以来、ねこは幸運を呼ぶ招きねことして人気者になったのだ。

ねこ「遊びにきました、猫又くん」

猫又「オウ、待ってたゼ」

ねこが訪ねた家から出てきたのは、水色のねこだった。

猫又という名前の通り、その尻尾は二股に分かれている。

猫又「ってウワッ!なんだそのトマトの数は!」

ねこ「来る時にいろんな人から渡されました。にひひひ…」

猫又「嬉しそうな顔しやがって。偶然ゴリラ転ばせただけのクセによぉ」

ねこ「ま、これもボクの運がなせる技ですよ。一つくらいなら分けてあげてもいいですよ」

猫又「そういうことなら貰っといてやるよ」

猫又はねこの手からトマトをぶんどると、冷蔵庫の野菜室に入れた。

ねこ「それで、今日は何して遊ぶんですか?」

猫又「トランプ」

ねこ「えー、またですか?天気いいし、たまには外で遊びませんか?」

猫又「バッキャロー、外でなんか遊んだら汚れてオフロ入らなきゃいけないだろ」

ねこ「入ればいいじゃないですか」

猫又「水道代がかかるだろ。まったく、これだからシロートは」

ねこ「えー…じゃあゲームしませんか?」

猫又「バッキャロー、電気代がかかるだろ。トランプはこのカードだけでできる最高の遊びだゼ」

ねこ「はー…相変わらずですね。まあいいですけど」

524ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:14:57 ID:McfE2eQc00



そして、夕方。

ねこ「じゃあ、さようなら」

猫又「オウ、またな」

ねこが猫又の家を出る。

と。

???「え…?ねこ?」

そこに現れたのは、一人の赤ヨッシーだ。

ねこ「あ!どうも!」

ピカーン!!

すると、ねこの体が光る。

そして数秒後に光が収まると、ねこは黄色いヨッシーになった。

ねこ「ねこです!」

赤YO「久しぶりだなぁ!その姿、懐かしいなぁ」

ねこ「そっちこそ、元気でしたか?村の外に旅に出たって、妹ちゃんから聞きましたけど」

赤YO「ああ、すごい面白かったよ!ついこの前帰ってきたんだ。ねこは何してんだ?」

ねこ「トモダチと遊んでました」

赤YO「友達?そっか。ねこ…今この家から出てきたよな?」

ねこ「え?はい。そうですけど」

赤YO「…本当に友達なのか?」

ねこ「どういうことですか?」

525ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:15:32 ID:McfE2eQc00

赤YO「いや、ここの家、誰か住んでんのかと思ってさ。俺もこの道はよく通ってたけど、昔っから人の気配ないんだよな。ほらツタも生えっぱなしだし…」

その家にはツタがびっしりと巻き付いて、元の壁面がほぼ隠れてしまうほどだった。

庭も雑草が大量に生い茂り、とても人が住んでいるとは思えない外観になっている。

ねこ「あれ?さっきまでこんな感じだったっけ…よく見てなかったかも…でも、ちゃんと住んでますよ。猫又くん」

赤YO「猫又?それって妖怪の?」

ねこ「よ、妖怪?猫又って妖怪なんですか?普通にねこの一種かと思ってました」

赤YO「えぇ…なんか怪しいぞ。どうやって知り合ったんだ?」

ねこ「この前、お腹がへって倒れていたので、トマトあげました」

赤YO「だ、大丈夫かよそれ…妖怪に取り憑かれたんじゃないのか…?」

ねこ「失礼な。まったくもう、だったら会ってみたらいいですよ。ちょっと待っててください」

コンコンコン!

ねこはドアをノックする。

ねこ「ねこです!忘れ物しました!」

赤YO「………」

ねこ「………」

赤YO「…………」

ねこ「……………あれ?おかしいですね。いつもならすぐ出てくるのに」

赤YO「やっぱ妖怪じゃん!まずいって!お祓い行こう!」

ねこ「いやいや、そんなはずありません。入りますよ!」

ガラガラッ

ねこはドアを開ける。

ねこ「…え…」

その瞬間、二人の記憶は途絶えた。

526ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:16:42 ID:McfE2eQc00



ねこ「ハッ!」

ねこが目を覚ます。

ブタ「あ、起きた」

ウサギ「ねこくん大丈夫?」

ねこ「ブタさん…ウサギさん…ボクは一体何を…」

ウサギ「道の真ん中で倒れてたの。ここはタヌキさんの病院よ」

ねこ「運んでくれたんですか?ありがとうございます」

ブタ「なあに、キミには感謝しているからね」

ウサギ「あ、おうちの人にはもう連絡してあるからね。もうすぐ来るはずよ。あなたのお友達にも連絡したかったけど、誰かわからなくって…」

ねこ「おトモダチ…?」

ウサギ「うん。お友達の家に行ってたんでしょ?」

ねこ「トモダチ……うぅ、頭が…」

ウサギ「だ、大丈夫!?」

ねこ「お…思い出せない…トモダチって誰…?」

ブタ「記憶が混乱してるようだ。大丈夫。タヌキさんが検査して、どこにも別状なかったそうだからね」

ウサギ「きっとじきに思い出すわよ」

ねこ「…そうですか」

527ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:17:36 ID:McfE2eQc00

ウサギ「それにしてもよっぽど仲がいいのね。真の姿で会うなんて」

ねこ「え?うわ、本当だ!なんでこのすがたに…!やばっ!」

ピカーン!!

ねこは自分がヨッシーの姿になっていることに気付くと、すぐにねこの姿に戻った。

ブタ「ブフフ、気にするな。誰も責めやしないさ」

ねこ「でも村の掟で、不特定多数に本当のすがたを晒しちゃダメなんですよね。小さい頃に習いましたけど」

ブタ「この村はいろんな種族が集まってできた村だからね。昔はひどい差別問題があったんだ。だからこうして全員動物になることで格差をなくしてるってわけさ」

ねこ「そんな深い理由があったんですか」

ウサギ「でも掟とは言っても、今は罰則があるわけじゃないわ。昔の人の差別をなくそうという願いが受け継がれているだけ。それに、動物になれない人もいるしね」

ねこ「ああ、そういえば赤ヨッシーの一家とか…」

ブタ「そうそう。まあヨッシーも動物に見えるっちゃ見えるし、差別されてるわけでもない。やっぱり今の時代に掟なんて気にしてる人はあんまりいないと思うな」

ウサギ「あの一家、本当に仲がよくて微笑ましいのよねぇ。旅に出ちゃったお兄ちゃんとは、ねこくんもよく遊んでたわよね」

ねこ「あ…はい」

ブタ「えっ、そうなのか?あの家の兄ちゃん、つい最近帰ってきたって聞いたぞ」

ウサギ「あら?そうなの?それじゃあもしかして、遊んでた友達って彼のことじゃない?」

ねこ「…そ、そうだ…!なんで忘れてたんだ!全部思い出しました!」

ブタ「おお、やっぱりそうだったんだな」

ねこ「違います!」

ウサギ「違うの!?」

528ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:18:49 ID:McfE2eQc00

ねこ「でも帰りに会ったんです!そしてボクも彼と会う時は、いつも彼に合わせて真のすがたになってたんです!」

ウサギ「ああ、なるほど…」

ブタ「ってことは、ねこは兄ちゃんと会ってる最中に倒れちゃったのか?でもだとしたら、ねこを置いていったとは考えづらいし…」

ねこ「彼はどこにいますか!?」

ブタ「えっ、いや、分からないけど…家じゃないか?」

ねこ「ボクと一緒に倒れてたわけじゃないんですね…?だとしたらまさか、猫又くんの家に…?」

ブタ「猫又くん?」

ねこ「ボクが遊んでたのは、猫又くんだったのです」

ブタ「聞いたことある?」

ウサギ「いえ…」

ねこ「猫又くんは、妖怪だったのです!」

ウサギ「妖怪!?」

ねこ「取り憑かれてるかもしれません!」

ウサギ「あっ!ちょっと!」

ダダダダダダダ……!!

ねこはベッドから飛び起きて、猫又の家へと走り出した。

529ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:20:11 ID:McfE2eQc00



一方、赤ヨッシーは。

赤YO「ん…?どこだここ…」

目を覚ますと、古い建物の中にいた。

猫又「オウ、目が覚めたか」

赤YO「誰!?」

猫又「猫又だゼ。よろしく」

赤YO「猫又…!?キミが、ねこが言ってた友達か?確かに、尻尾が二股に分かれている…」

猫又「ヘヘヘ…待ってたのさ俺は、この時をよォ」

赤YO「待ってた…?」

猫又「お前のようなフツーのヤツが来てくれるのをだ。この村の住人はどいつもこいつも、変なパワーで守られてやがる。動物に変身する能力もソイツが関係してやがるんだろうな…メンドくせえゼまったくよォ…」

赤YO「俺は変身できない…ま、まさか…」

猫又「クククク…ようやく取り憑けるゼ…!」

猫又は大口を開け、長い舌を赤ヨッシーに向けて伸ばす。

赤YO「や、やめろっ…来るなっ!うわあああああああ!!」

530ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:21:08 ID:McfE2eQc00


ドゴォ!!


猫又「く……効いた………ゼ……」

バタッ…

猫又は赤ヨッシーの蹴りをくらい、倒れた。

赤YO「…あれ…?…よわ…」

ガラガラッ!

ねこ「ぶじですか!!?」

そこにねこが駆けつける。

赤YO「あ、うん…」

ねこ「あれ?猫又くん倒れてる…」

赤YO「えっと…襲われたから咄嗟に蹴ったら、普通に勝っちゃった…」

ねこ「な、なるほど…」

ジュワァァ…

ねこ「ウワッ!?」

猫又の体から蒸気が噴き出した。

赤YO「なんだ!?」

するとその体が変化していき、猫又は水色のヨッシーとなった。

ねこ「ヨッシー!?」

赤YO「こ、これが猫又の正体…!?」

531ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:21:52 ID:McfE2eQc00

ねこ「ボクたちと同じですね…変身する時にピカーンって光らないから、原理が違うかもしれないですけど」

赤YO「まあ妖怪だからな…化けるのもありうる話だ…しかしコイツを野放しにはしておけないな。捕まえておこう」

ねこ「妖怪なんて捕まえられるんですかね」

赤YO「フッ。ずっとねこの姿でいるもんだから、俺たちヨッシーにはこの能力があるってことを忘れちゃったのか?」

ぺろんっ

赤ヨッシーは倒れている妖怪を丸呑みにした。

すぽんっ

と次の瞬間にはタマゴを産んだ。

ねこ「おお、その手がありましたか!」

赤YO「これでヤツはタマゴに封じ込めた!でも中で暴れられたらすぐ割れてしまうから、今のうちにこのタマゴを頑丈な箱に入れよう」

ねこ「箱なんてどこにあるんですか?」

赤YO「実はこんなこともあろうかと、旅の途中で買っておいたんだ」

赤ヨッシーは木箱を取り出して、タマゴを入れた。

赤YO「よし!」

532ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:22:13 ID:McfE2eQc00

ねこ「おお…一人で全部やっちゃった…ボク駆けつける必要なかったですね」

赤YO「はは、そりゃ結果論さ。来てくれてありがとう。妖怪が思ったより弱かったから良かったけど、強かったらヤバかった」

ねこ「まあそうですね。無事で何よりです。それで、その箱はどうするんですか?」

赤YO「うーん…ここに置きっぱなしにするのも怖いし、一旦うちに持って帰るよ。そんでお祓いとかできる神社に引き渡す」

ねこ「そんなの、この村にはないですよね」

赤YO「ああ。実は旅の途中で立ち寄った神社があるんだ。そこに頼もうかと思う」

ねこ「そうですか。アテがあるなら良かったです」

赤YO「それじゃあもう暗いし、今日はお別れだ。妹も待ってるだろうしな…」

ねこ「はい、また今度。旅の話も聞きたいですし」

赤YO「そうだな。メシでも食いながらゆっくり話そう。またな」

そして二人は別れた。

533ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:23:00 ID:McfE2eQc00



赤YO「ただいま」

妹「おかえりお兄ちゃぁぁん!!」

ムギュウウウウ!!

赤ヨッシーが帰宅するやいなや、小さな仔ヨッシーが全力で抱きついてきた。

赤YO「ぐえっ!ちょ、苦しいって!」

妹「あっ、ごめんね?だって、ちょっと買い物行くだけって言ってたのに、あんまりにも遅いから心配で…!」

赤YO「すまんすまん…いろいろあってな」

妹「ん?何その箱…」

赤YO「これはえーと、その…ヤバい箱だ。絶対に開けちゃダメ系のヤツ…」

妹「何それ…なんでそんなの買ってきたの?」

赤YO「いや別にコレ買いに行ったわけじゃないぞ!?買い物はこっち!」

赤ヨッシーは買い物袋に入ったアイスを見せた。

妹「あ!アイス!あたしの好きなやつだ!」

赤YO「うん。でもちょっと時間経ってるから溶けてるかも」

妹「冷凍庫に入れとけば固まるよ。あとで一緒に食べよ!」

赤YO「…え?なんで?」

妹「へ?」

534ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:24:04 ID:McfE2eQc00

赤YO「俺の金で買ったんだぞ。おまえにやるわけないじゃん」

妹「えぇっ!?」

赤YO「それより夜ごはん食べようぜ。腹へったー」

妹「え…あ…うん…ママー、ごはんー」

ママ「はいはい、できてますよ」

食卓にはたくさんの料理が並んでいた。

妹「わ、美味しそう!」

赤YO「ちょっと多過ぎじゃないか?もったいない…」

ママ「ふふ、あなたが帰ってきたから、ママちょっと頑張っちゃいました」

赤YO「頑張っちゃいましたじゃないよ!量が多いと洗い物も増えるんだぞ !水道代もかかるし時間もかかるし、良いことないだろ!」

ママ「えっ…ごめんなさい…」

赤YO「まったく…あ!何してるんだ!?テレビつけっぱじゃないか!見てないなら消しとけよ!もったいな!げっ、クーラーもつけてんのか!?ダメダメ!窓開けりゃ涼しいでしょ!」

ピッ!

赤ヨッシーは速攻でリモコンを取り、テレビとクーラーを消した。

ママ「……」

535ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:25:08 ID:McfE2eQc00

妹「…お、お兄ちゃん…なんか変だよ…?」

赤YO「何が?」

妹「なんでそんなイライラしてるの?あたしのお兄ちゃんはもっとカッコいいはずだよ…」

赤YO「そうか…?…まあ、そうか…悪かったよ。それじゃ早く食べよう。冷めちゃうともっともったいないしな」

妹「う、うん…」

ガチャ

パパ「ただいまー」

そこへ村の外に出張していた父が帰ってきた。

父はヨッシー族ではなく普通の人間である。

ママ「あら、おかえりなさい」

妹「パパおかえりー!」

パパ「元気してたかー?てか、あの玄関にあったデカい箱なんだよ…おっ?今日の晩メシは豪華だなぁ!」

ママ「何言ってるの。これは子供達のために作ったのよ」

パパ「えっ」

ママ「あなたお金持ってるんだから自分で買ってきたらいいじゃない」

パパ「ええっ?すごい疲れて帰ってきたんだけどなぁ…それに毎月のお小遣いじゃ晩メシ分までは足りないよ…」

ママ「稼ぎが大した事ないのが悪いんじゃない。節約しなさい」

パパ「ど、どうしたの急に…俺なんかしたかな…」

妹「ママもおかしくなっちゃった…喧嘩はやめてよぉ…」

妹は涙目で両親に訴える。

536ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:26:18 ID:McfE2eQc00

赤YO「ほっとけほっとけ。夫婦喧嘩なんてよくあることだ。相手するだけ時間の無駄だ」

妹「そ、そんな…」

赤ヨッシーは両親を無視してバクバクとご飯を食べ進める。

パパ「……おい!何を呑気に食ってんだ!?」

赤YO「は?」

パパ「稼いだのは俺だぞ!お前が旅に出る時にも金出してやっただろ!誰の金だと思ってる!?」

父は赤ヨッシーの胸ぐらを掴む。

妹「ちょっと…パパまで…!やめてよみんな…!」

赤YO「うるさい!!」

ドガッ!!

赤ヨッシーは父の手を振り払い、蹴り飛ばした。

パパ「うぐぅ…っ!」

妹「パパ!」

赤YO「いつまで父親ヅラしてるんだか…」

パパ「な、なんだと!?」

赤YO「村の外に出てみて分かったが、俺たちファイターは一人でもいくらでも稼げるんだ。そういう運命の元に生まれてきた選ばれし者なんだよ。ただの人間が逆らうな!」

妹「お、お兄ちゃん!?」

ママ「な、なんてこと言うの!それだけは言っちゃダメでしょ!」

赤YO「もういい、分かったよ。だったらこんな家出ていってやるさ!元々近いうちに外で一人暮らしするつもりだったしちょうどいい!!」

パパ「おぅ出てけ出てけ!!そんなにイヤなら勝手にしたらいいさ!養う相手が一人減ってくれりゃこっちとしても大助かりだよ!!」

妹「二人とも落ち着いてよ!」

二人「うるさいっ!!お前は関係ないだろ!!」

妹「う…うわあああん!!」

妹は泣きながら、走ってリビングを出た。

537ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:27:06 ID:McfE2eQc00


妹「ぐすん…何が起きてるの…?お兄ちゃんがあんなこと言うはずない…!パパもママも変…!何が…」

その時、妹の視界にあるものが映る。

妹「この箱…!ヤバい箱とか言ってたヤツだ…!怪しい…!怪しすぎる…!」

ガタガタ…

妹「わっ!?動いた!?」

???「ククク…いいゾ…!ようやく力が集まってきた…!今の俺ならこんな箱…」

妹「何!?こわっ!!喋った!?」

???「あん?誰か近くにいやがったのか。まあいい。この家の住人はあの変なパワーは持ってねえからな。俺の邪念で狂えっ!」

すると箱の中から青白いオーラのようなものが溢れ出し、妹の体に迫ってきた。

妹「邪念!?何!?やっぱコレが原因でみんなおかしくなっちゃったわけ!?」

???「ククク、その通り…!!お前の兄貴はこんな箱で俺を捕らえた気になっているようだが…妖怪であるこの俺には関係ないんだゼ…!!」

妹「よ、妖怪…!?」

妖怪「そうさ、俺の真の名は"貧乏性の妖怪"!!近付くもの全てを、極度の貧乏性に変える!!」

バキバキバキバキ…!

妖怪は箱を破壊し、妹の前にその姿を現した。

妹「ひっ…!」

妖怪「クク…安心しろ…お前もすぐ、家族と同じになるゼ…!!」

538ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:27:35 ID:McfE2eQc00

妹「いやあああああ!!」

ぴょんっ!

妹は恐怖のあまり跳び上がる。


ドゴンッ!!!


そしてそのままヒップドロップをかました。

妖怪「ぐあああっ!!」

妖怪は吹っ飛ばされ、壁に激突。

そしてうつ伏せに倒れ、動かなくなった。

妹「あ、あれ…?弱い……これでお兄ちゃんたちも元に戻るかな…?」

妖怪「…ざ…残念だったな…」

妹「ぎゃあっ!!まだ生きてた!!」

妖怪「…ククク…たとえ俺が死んでも、俺の邪念は残り続ける…もはや貧乏性から逃れる術はないのさ…!」

妹「はあ!?ふざけんなっ!」

ドガッ!!

這いつくばる妖怪を、妹は蹴り飛ばす。

ブワワワッ…

すると妖怪の体は霧のように消えていく。

妖怪「クク…心残りがあるとすれば、お前を貧乏性にできなかったことだな…変なパワーに守られていなくとも、俺の力が及ぶには個人差がある…肉体的、精神的強さによって、貧乏性になりづらいヤツもいる…あと少しだったんだがな…」

妹「うるさいうるさい!!そんなのどうでもいい!!どうやったらみんなを元に戻せるの!?」

妹は霧散していく妖怪を両手で振り払いながら言う。

妖怪「さあな…ククク…この世に貧乏性ある限り…貧乏性の妖怪もまた不滅……さらばだ……またいずれ、俺が生まれるその時までな…」

妹「二度と見たくないっての!!!」

そして妖怪は完全に消滅した。

妹はすぐに家族の元へ戻ったが、そこに元の暖かな家族の姿は無かった。

539ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:28:25 ID:McfE2eQc00




数日後。

イノシシ「聞いた?あのヨッシー一家の夫婦、離婚したらしいわよ」

シカ「聞いた聞いた!怖いわねぇ。あんなに仲良さそうな家族だったのに…裏じゃ冷え切ってたなんて」

ウサギ「お兄ちゃんの方も、一人で村の外に出ていったんだってね。妹ちゃんがかわいそうだわ」

イノシシ「そうそう、両親二人とも養育費がもったいないとかなんとか言って雲隠れしちゃって、今は親戚の家にいるらしいわよ」

シカ「ひどい話ねぇ…」

ねこ「…」

ねこはその井戸端会議を通りすがりに聞いてしまった。

ねこ(…もしかしてあの妖怪のせい…?ぼくが猫又くんとトモダチになったせいで…?)

ねこはショックを受け、頭を抱える。

ねこ(何が幸運の招きねこだ…最悪だ…結局人生はプラマイゼロなんだ…ちょっとうまくいったからって、舞い上がって…ばかみたいだ…)

540ハイドンピー (ワッチョイ bfb9-8962):2023/07/02(日) 23:28:51 ID:McfE2eQc00

妹「ねこ兄ちゃん」

ねこ「にゃっ!?」

赤ヨッシーの妹が、ねこの後ろに立っていた。

妹「…えっと…ひさしぶり」

ねこ「あ…はい…」

妹「あたし知ってるの…ねこ兄ちゃん、実はけっこう強いって」

ねこ「えっ?」

妹「前に、お兄ちゃんに聞いたの…ねこ兄ちゃんと一回だけケンカしたことがあるって。まったく歯が立たなかったって…」

ねこ「それは…」

妹「お願いねこ兄ちゃん……あたしを強くしてほしいの…!」

ねこ「え…」

妹「お兄ちゃんも、パパもママも…みんないなくなっちゃった……だけどあたしは諦めてないから…!またお兄ちゃんたちと一緒に暮らしたい…!だから強くなって、みんなを探す旅に出るの!」

ねこ「妹ちゃん……わ、わかりました。ちゃんと強くできるかわかりませんが…ぼくが手伝えることがあるなら、なんでもやってやりますよ!」

妹「ありがとう!ねこ兄ちゃん!」

ねこは自分が原因で赤ヨッシーたちが狂ってしまったという責任から、その頼みを受け入れたのだった。

541ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/05(水) 22:40:17 ID:yDS1EqCY00





フォックスの村。

ギル「はぁ!?芸人になる!?」

ナザ「おう!だから任務はお前らに任せる。ガキどものこと、よろしく頼んだぜギル姐!」

ギル「ちょ、ちょっと待っ…」

ドドン「ぷっ、ハハハハ!!いいんじゃないか?体張った芸じゃ右に出る奴いないだろ!」

ポルス「ハハハハ!!そうだな!いつも崖に突っ込むしな!」

ギル「あんたたちねぇ…!」

アルバロ「フン、ふざけるな。突然我々を集めて何かと思えば…自分が何を言っているか分かっておるのか?」

ナザ「当たり前だ」

アルバロ「何?」

542ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/05(水) 22:41:09 ID:yDS1EqCY00

ナザ「もう随分前から決めてたことだ。治安の悪い地区や紛争地帯に行くたびに、思ってた。笑顔を失ったガキども…娯楽なんて何も知らねえようなガキどもが、この世界にゃいっぱいいるんだ。そいつらに笑顔を届けてえんだよ、俺は」

ギル「じゃあなんで今更…」

ナザ「今のお前らになら全部任せられると思っただけだ。天才のヤツももう任務に出始めてるし、あと五年もすりゃアイツは間違いなくフォックス全員を引っ張っていく存在になる」

ギル「待ってよ、だったらその五年経つまでは…」

アルバロ「フン、良かろう」

ギル「えっ…ちょっとアルバロ何言ってるの!?」

アルバロ「ナザレンコ、貴様はこれまでよく戦った。そろそろ休んでもバチは当たらん。そうだろ?ギルティース」

ギル「……!」

ギルティースはこれまでのナザレンコの働きを思い出し。

ギル「……そうね…」

ため息を吐きながらも、頷く。

ナザ「アルバロ…!ギル姐…!サンキューな!」

アルバロ「だが勘違いするなよ。完全に除隊するわけではない。後進も確かに育ってきているとは言え、いつか貴様の力が必要になる時が来るだろう。鍛錬は怠るな」

ナザ「へっ、当然だ。ドドンの言った通り、俺にゃあ体張った芸しかできねえからな。鍛錬続けなきゃ体がもたねえよ」

こうして、のちに伝説的コメディアンとなるナザレンコは、芸能界へと足を踏み入れた。

543ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:51:39 ID:DwKJmZMQ00





遠い星。

魔物「ギャオオオオオ!!」

人々「きゃあああ!!」

巨大な魔物が市街地に突如現れ、人々を襲い始めた。

ピロピロピロピロ…

シュタッ

エースパパ「エースパパ参上っ!」

ワープスターで駆け付けたのは黄色カービィだ。

エース「エースも参上っ!」

その後ろに息子のエースも乗っていた。

エースパパ「エース、緊張しているか?」

エース「ダ、ダイジョーブだよ…」

ブルブルと震えながらエースは言う。

エースパパ「フッ…初のミッションだ。怖くたって無理もないさ。でも大丈夫!厳しい修行を乗り越えてきた自分を信じるんだ!お前なら勝てる!」

エース「う、うん、パパ!」

544ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:52:17 ID:DwKJmZMQ00



それから数十分の戦闘を繰り広げ、二人は魔物を倒した。

エース「はぁ…はぁ…やったねパパ…!」

エースパパ「ああ、素晴らしい動きだったぞ!さすが俺の息子!」

ガシッ!

二人は熱く抱き合う。

アメリ「あーん!間に合わなかった!」

エースパパ「!!」

アメリーナがそこに駆け付けた。

エース「誰?」

エースパパ「君は確かアルザークと共にいた…」

アメリ「暗黒のアメリーナだよ!そういうあなたは誰だっけ?」

エースパパ「ここにいるエースのパパだ」

アメリ「わかんない」

エースパパ「数年前にほんの少し話しただけだからな。覚えてなくて当然だ。それで、何をしてるんだ?アメリーナ」

545ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:54:04 ID:DwKJmZMQ00

アメリ「魔物が出てきたの感じたから、助けに来たの!」

エース「同業者ってこと?」

エースパパ「いや…たぶん彼女はそういうのじゃない」

アメリ「そ!私が助けに来たのはこの星の人たちじゃなくて、魔物のほうだよ」

エース「魔物を!?敵なの!?」

エースパパ「やはりか…」

アメリ「んー、でも今日は戦う必要ないかな…間に合わなかった私が悪いし。ホントはブッ飛ばしてやりたいんだけどねー」

エース「こわっ!?」

エースパパ「魔物を助けると言うが、一体どうやって?あんな巨大なもの捕まえるのは不可能だし、魔界へ帰すにしても、君は魔力を失っていてゲートを開けないんだろう?アルザークから聞いている」

アメリ「そこなんだよね。ちっちゃい子ならなんとか運べるんだけど、おっきい子はホント大変。どうするのがいいと思う?」

エースパパ「さあな。しかしその口振りだと小型の魔物は捕まえているようだな。その魔物たちはどうしているんだ?」

アメリ「聞いちゃう?フフッ、誰もいない星に連れて行くの!いい感じの星見つけてさ!」

エースパパ「なるほど…それはどこだ?」

アメリ「いやいや言うわけないでしょ!」

エースパパ「…いや…自分の同胞を傷付けられて、怒る君の気持ちも分かるよ」

アメリ「はぁ?」

エースパパ「俺もずっと考えていた。かつて君と会ったあの日から、ずっとな。殺さずに済む方法があるなら、それに越したことはない」

546ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:55:15 ID:DwKJmZMQ00

アメリ「…えっと…それってつまり、協力してくれるってこと?」

エースパパ「ああ。もちろんその星が本当に安全かどうか確かめてからだがな。もしその星から魔物たちが飛びたち、宇宙に解き放たれるようなことがあったら大変だろう」

アメリ「それは大丈夫だと思うよ。飛べる魔物はあんまりいないし、もし星を出たとしても宇宙空間じゃさすがに生きてけないよ」

エースパパ「そう言われても現地を見ないことにはな…それにどうせ協力するなら場所は知っておかなきゃならない」

アメリ「…私だって二つ返事で信用するほどバカじゃないよ」

エースパパ「だろうな。そこで俺の息子を君に差し出したい」

エース「え?」

アメリ「どういうこと?」

エースパパ「この世で一番大切な、俺の宝物だ。その命を君の手に預ける。万が一、俺が君を裏切るようなことをしたならば、煮るなり焼くなり好きにしていい」

エース「えぇ!?」

アメリ「なんでそこまで…」

エースパパ「絶対に裏切らないという自信があるからだ。エースも安心しろ。俺が一度でもウソをついたことがあったか?」

エース「た、たぶんない…」

アメリ「んー…やっぱダメ!ついさっき魔物をその手で殺した人のことなんて信用できない!」

エースパパ「そうか…残念だ」

アメリ「魔物を倒すのやめてくれたら信用してあげるよ。魔物と戦うことになっても、私が駆けつけるまで抑えてくれれば、私が魔物の星に連れていく」

エースパパ「言っただろ。その星の安全性が確認できなければ、君の行為を認めることはできない。今のままでは君はただの、ミッションを阻害する敵でしかないんだ」

アメリ「…はぁ、しょうがないねー…あなたを生かしておいても魔物たちが殺されるばかり…だったら、やっぱりここで再起不能にしとこ!」

エースパパ「!!」

547ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:56:25 ID:DwKJmZMQ00


ドガァッ!!!!


二人の攻撃がぶつかり合う。

エースパパ「まったく…急に仕掛けてくるな、気分屋め…!」

エース「パパ!」

エースパパ「エースは下がっていろ!お前はまだこの戦いにはついてこれない!」

アメリ「フフ、私に勝てるつもり?別に二人がかりでもいいよ?」


ガガガガガッ!!!


アメリーナは次々と攻撃を仕掛け、エースパパはギリギリでそれを凌ぐ。

エースパパ「ナメるなよっ!俺はこれでも数十年、宇宙の平和を守るため戦ってきたんだっ!」

アメリ「宇宙の平和?"人間"の平和の間違いでしょ?魔族や宇宙生物は平気で殺すんだもん。他の命を軽く見ているあなたが、よくそんなこと言えるねっ」

パシュッ!

アメリーナは一瞬の隙を突いてグラップリングビームを出し、エースパパを捕縛。

エースパパ「くっ!?」

アメリ「えいっ!!」


ドゴッ!!


そしてそのまま地面に叩きつけた。

エースパパ「ぐぁっ…!」

エース「パパ!!」

アメリ「よーしもう一発っ!みんなが受けた痛みはこんなもんじゃないんだからねっ!」

ドガッ!!ドゴッ!!バゴッ!!

アメリーナはさらに何度も叩きつける。

エースパパ「くっ…強い…!ならば!」

548ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:57:27 ID:DwKJmZMQ00

ゴッ!!

エースパパは石に変身した。

アメリ「んっ!?重っ!」

アメリーナは思わずビームを解く。

ぼふっ!

エースパパはすぐに元の姿に戻ると。

エースパパ「やあっ!!」


バキッ!!


アメリーナを蹴り飛ばす。

アメリ「く…やるな〜!そういやカービィはそういう変なワザ使えるんだったね…!魔界にいた頃は下目使いによくやられたよ…もう!ヤなこと思い出させないでよっ!」

エースパパ「知らんがな!」

アメリ「でもいいもーん!下目使いみたいな化け物、こっちにはいないもん!」


ズドドドド!!!


アメリーナは再び攻めに転じ、エースパパを追い込む。

エースパパ「ぐぅっ…」

そしてうずくまったところへ。

549ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 20:59:10 ID:DwKJmZMQ00


アメリーナ「これで終わりっ!!」


ドウッ!!!!


最大チャージショットを放った。

エースパパ「ぐぁぁぁっ!!」

エース「パパーーっ!!」

エースパパは吹っ飛ばされ、さながらピンボールのように建物にぶつかりまくって、倒れた。

アメリ「それだけボロボロならもう戦えないでしょ。んじゃっ!」

アメリーナは嬉しそうに手を振り、去っていく。

エース「ま、待て!僕が相手だっ!」

アメリ「やだよめんどくさい!死んではないと思うから早くパパを助けてあげたら?」

アメリーナは自分の宇宙船に乗り、宇宙へと飛び立った。

エース「パパ…!そんな…パパが負けるなんて…!」

550ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 21:00:18 ID:DwKJmZMQ00



数時間後。

エースパパ「う…」

エース「パパ!」

エースパパ「…そうか…俺は彼女に負けたのか…すまんエース、心配かけたな…」

エース「お医者さんが言うには、全身ボロボロで戦闘なんてもってのほかで、しばらく絶対安静だって…」

エースパパ「そうだろうな…体が動かん。エース…今こそ…ワープスターをお前に託す」

エース「えっ!?」

エースパパ「今のお前になら、俺の後を任せられる。この宇宙を頼んだぞ…」

エース「ま、待ってよ!まだ心の準備が…」

エースパパ「フッ、甘えるなエース。パパのような戦士になりたいと昔から言ってたじゃないか」

エース「……分かった…!僕が宇宙の平和を守る…!」

エースは父に心配をかけまいと、震える声で言う。

エースパパ「フッ…よく言った。俺の端末を調べろ。知り合いの連絡先もたくさん入っているから、遠慮せず頼るといい」

エース「分かったよパパ…あとは僕に任せて、安心して眠ってて」

エースパパ「ああ…頼もしいな、息子よ…」

エースパパは安心した顔で眠りについた。

エース「…行こう…」

エースはすでに父の端末の中に入っていたとある情報を見つけ、動いていた。

551ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-67e4):2023/07/11(火) 21:01:58 ID:DwKJmZMQ00


病院を出ると。

キィィィィン…

ゴゴゴゴゴ…

ガシン…

そこへスターシップが着陸した。

㍍「貴方がエースさんですわね。お父上の面影がありますわ」

エース「アルザークさんですか?」

㍍「ええ。貴方のお父上の容体は?」

エース「…」

エースは無言で首を横に振る。

㍍「そうですか。アメリーナがそこまでやるとは…」

エース「パパがあの人と戦った時に、発信機をつけてたみたいです。これが位置情報です」

エースは端末の画面をアルザークに見せる。

㍍「さすが、抜け目ないですわね」

エース「これからは僕がパパの代わりになります…!だからどうか力を貸してください!」

㍍「勿論。その為に来たのですから」

エース「ありがとうございます…!」

552ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:17:17 ID:9sxXl.c.00




数週間後。

アメリ「はい、ここが君たちの新しいおうちだよー!」

ガコン!

アメリーナは宇宙船の中から檻を下ろし、その中に捕らえていた魔物たちを解き放った。

アメリ「フフフッ、みんなはしゃいじゃって。やっぱり自由っていいよね!私もこの世界に来てホントよかったー!」

魔物「グギャォォォ!!」

アメリ「さてとっ、次はどの星に行こうかなー」

アメリーナは宇宙のガイドブックを眺める。

アメリ「あ、そうだ!久しぶりにあの星に戻ってみるのもいいかも!あのヒゲオヤジもさすがにもう私のことなんて眼中にないだろうし…地上に来てすぐ宇宙に出たから、あの星は全然見て回れなかったもんなー」

ぱたん

アメリーナはガイドブックを閉じると、操縦席に乗り込む。

アメリ「それじゃ早速しゅっぱーつ!!」

ゴゴゴゴゴ…

ビューーーン!!

アメリーナの宇宙船は宇宙の彼方へと飛んでいった。

553ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:18:07 ID:9sxXl.c.00



そして数時間後。

魔物「グォォォォ!!」

魔物たちが上空を見上げて吠え始める。

ピロピロピロピロ… シュタッ

そこに、ワープスターに乗ったエースが現れたのだ。

エース「ここか…確かに魔物がたくさんいるな…」

ゴゴゴゴ… ガシィン…

続いてスターシップが着陸。

㍍「なるほど…連盟からの報告にあった魔物もいますわ。ここ数ヶ月の間、出現した魔物が行方を眩ませていたのは、やはり貴女の仕業でしたのね、アメリーナ」

魔物「グオオ…!」

あっという間に二人は魔物の群れに囲まれた。

エース「…本当にやるんですか?」

㍍「ええ。この数の魔物を放置はできませんわ」

エース「留守を狙って攻撃なんて、なんか卑怯な気もするけど…」

㍍「平和の為ですわ」


ドドドドドドドドドド…!!


アルザークは、アームキャノンで次々と魔物を焼き払っていく。

魔物「ギャァァァ!!」

エース「はあっ!」

バキッ!!ドガッ!!

エースも負けじと魔物を粉砕していく。

554ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:18:51 ID:9sxXl.c.00



さらに数十分後。

いよいよ魔物の数は残り十体を切った。

エース「はぁ…はぁ…よし、あと少しだ…!」

㍍「ええ。見える範囲には、ですがね。ここを片付けたら、すぐに星を周回して生き残りを探しますわよ」

エース「は、はーい…」

すると。


魔物「グオオオオオオオオ!!」


エース「な、何!?」

突如、残った魔物たちが一斉に雄叫びを上げた。

そして一箇所に集まり始める。

㍍「これは…一体…!」


グチュッ…

ベキョッ…


魔物たちは密集し、互いを押し潰す。

そして飛び散った緑色の血液が、魔物たちを包んでいく。

555ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:19:31 ID:9sxXl.c.00

エース「なんなの!?同族が討伐されて変になっちゃったの!?」

㍍「…いや…これは…!エネルギー反応があの一点に集まって…どんどん膨れ上がっていますわ…!何かが起ころうとしています…その前に…消し飛ばしますわっ!!」


ドウッ!!!!


アルザークはその中心に向かって、チャージショットを放った。

が、そのエネルギーは血溜まりの中に吸い込まれていく。

エース「吸収した!?」

㍍「く…今の状態では攻撃を受け付けないようですわね…エースさん、一旦離れますわよ」

エース「は、はい!」

二人はその血溜まりから距離を取り、様子を伺う。

するとその血液が固まり。

エース「タ…タマゴ…?」

その姿は大きなタマゴのように変化した。

そして。


ピキッ!

バキキッ!


㍍「何かが生まれる…!?」

556ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:20:12 ID:9sxXl.c.00


バゴォォン!!


タマゴが内側から勢いよく破壊され。


怪物「ギャオオオオオオオッ!!!!」


十数メートルはあろうかという巨大な怪物が、産声を上げた。

エース「うぐううっ…!」

㍍「く…!なんという音圧…!」

二人は咄嗟に耳を塞ぐ。

怪物「ギャオオオオオ!!」


ブワッ!!!!


怪物は八本の長い腕を振り回す。

エース「うわぁっ!」

エースはその風圧により吹っ飛ばされる。

㍍「エースさん!」


ビュワッ!


アルザークはグラップリングビームを出し、エースを引き戻した。

エース「あ、ありがとうございます。でもあんなのどうすれば…」

㍍「大丈夫ですわ。確かに見た目やパワーだけを見れば恐ろしいですが…あの程度の数の魔物が融合したところで、わたくしたち二人を超えるほどの強さになったとは思えませんもの。お父上によく言われていたのでしょう?自分の力を信じるのですわ」

エース「は、はい!」

557ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:20:47 ID:9sxXl.c.00

怪物「ギャオオオ!!」


ドガガガガガガッ!!!


怪物は腕を次々と振り下ろし、二人を潰しにかかる。

二人はそれを素早くかわし、懐に潜り込み。


ギュルルルルルルッ!


アルザークはスクリューアタックによって怪物にダメージを貯める。

エース「とおっ!!」


ドガッ!!


エースは右脚を蹴り飛ばし。

怪物「ギャオォォッ!」

ドシャァァン!!

怪物はバランスを崩して倒れた。

㍍「今ですわ!」

エース「はい!」


ドガガガガッ!!


その隙に二人は一気に技を叩き込む。

558ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:21:32 ID:9sxXl.c.00

アメリ「こらーーっ!!」

エース「!!」

そこへアメリーナの乗る宇宙船が猛スピードで戻ってきた。

㍍「アメリーナ…!勘付かれましたか…」

アメリーナは宇宙船の上に立ち、アームキャノンを構える。


ドウッ!!!


上空から放たれたチャージショットを二人はかわす。

エース「暗黒のアメリーナ…!パパの仇っ!」

アメリ「殺してないわー!!」

アメリーナは宇宙船から飛び降り、その勢いのままエースに向かって蹴りを繰り出す。


ドガァッ!!!


エースも応戦し、両者の蹴りがぶつかり合う。

ズザザザザ…

エースは一方的に弾き飛ばされる。

エース「ぐぅっ…!強い…!」

アメリ「ってあれ!?よく見たらアルザークさんじゃん!ひさしぶりっ!元気してたー!?」

㍍「ええ。お久しぶりですわ、アメリーナ」

アメリ「そっかぁ…あの時言った通りになっちゃったんだね。覚悟はしてたけどさ」

㍍「そうですわね。次会う時は敵同士…わたくしはずっと…この日を、楽しみにしていましたわ」

アルザークはニヤリと笑った。

頭部装甲で表情は隠れているものの、アメリーナもその声の高揚を感じ取り。

アメリ「ははっ!いいね!そう来なくっちゃ!!」

559ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:22:36 ID:9sxXl.c.00


ダンッ!!


二人は同時に飛びかかり。


ドガンッ!!!!


アームキャノンによる打撃がぶつかり合った。

ドギャギャギャギャギャ!!!

二人は途轍もない攻防を繰り広げる。

エース「す…すごい…とてもこの戦いには入れない…」

怪物「ギャオオオオオッ!!」

エース「うわっ!コイツもいたんだった!」


ブォンッ!!!!


怪物は立ち上がり、エースたちを尻尾で薙ぎ払う。

三人はジャンプでかわす。

エース「あ、危なかった…!」

㍍「もう一発来ますわ!」


ブォンッ!!

ブォンッ!!


怪物は何度も尻尾を振り回す。

アメリ「あははっ!なんかこれっ!縄跳びみたいでおもしろっ!」

㍍「しかしこれでは戦えませんわよ?」

アメリ「はっ!しまった!どうする!?」

㍍「こうしましょうか」

アメリ「!!」


ブンッッ!!


アルザークはアメリーナをグラップリングビームで捕らえ、後ろに投げ飛ばした。

560ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:23:30 ID:9sxXl.c.00

㍍「エースさん、そちらの魔物は任せますわ」

エース「ええっ!?これ僕一人でやるの!?」

㍍「貴方のお父上なら文句は言いませんわよ」

エース「…!わ、わかりましたよっ!人使い荒いな…」

㍍「フフ…大丈夫、幸運の女神はきっと貴方に微笑みますわ」

アルザークはそう言うと、投げ飛ばしたアメリーナを追いかけていった。

エース「女神って…まったく…どうしろって言うんだ…」

怪物「ギャオオオオオオオッ!!!!」

エース「うるさいってば!耳がキンキンしてつらい!」


ドガァッ!!


怪物の振り下ろす腕をなんとかかわし、エースはその腕に乗る。

タタタタタタタ…

そしてその腕を駆け上った。

エース「えいっ!!」


ズバッ!!


そして巨大なカッターを出し、顔面を斬りつけた。

怪物「グギャァァァァ!!」

エース「どわっ!」

ガシッ!

怪物は肩に乗ったエースを掴み。


グシャッ!!!


そのまま地面に叩きつけ、押し潰した。

561ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:24:17 ID:9sxXl.c.00


ドドドドドドドドドド!!!!


さらに八本の腕で何度も追撃する。

怪物「グオオオオオオオオ!!」

完全に手応えがなくなると怪物は攻撃をやめ、勝利の雄叫びを上げる。

エース「…あ、危なかったー…マジで死ぬかと思った」

怪物「グァ!?」

エースは押しつぶされる直前にストーン化し、なんとか耐えていた。

エース「ふぅ……耐えたはいいけど…僕のファイナルカッターもそんなに効いてなさそうだ…どうしよ…」


チュドドドドドドドド!!


怪物「グギャアアアア!!」

突如、上空から大量の光線弾が怪物に降り注いだ。

エース「な、何!?」

そこには一機のアーウィンが飛んでいた。

ギル「待たせたわね!」

エース「誰!?」

ギル「幻のギルティースMk Ⅱよ!アルザークさんに呼ばれて応援に来たわ!」

エース「あ、ありがとうございます!幻のギルティース…なんか聞いたことある…!」

ギル「たぶんそのギルティースはうちの姉さんのことね。私の名前はまだそんなに知られてないと思うから」

怪物「グオオオオオオオオ!!」

ギル「あら、まだ元気ね…それじゃ私は上空から攻めるわ!エースくんはそいつの足元を狙って!」

エース「はい!」

562ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:32:02 ID:9sxXl.c.00



一方、アルザークとアメリーナは。


ドォン!!

ドガガガ!!

ズドォ!!


激しい戦いを繰り広げていた。

㍍「ふぅ…やりますわね」

アメリ「へへ、アルザークさんこそ!」

㍍「貴女がもしまだ魔力を持っていたらと思うと恐ろしいですわ」

アメリ「それはどうかなー?魔力を使えば確かにパワーは上がるけど、それだけだよ。魔力操作が上手いヤミノツルギなんかは戦いの最中にも魔力で小細工したりしてたけどね。私、こっちに来てからめちゃくちゃ強くなったんだよ。アルザークさんの戦い方を真似したりしてね」

㍍「あら、それは一人の戦士として嬉しいですわね」

二人は技を打ち合いながら対話する。

アメリ「でも、だからこそ悲しいよ。尊敬してるアルザークさんがこんなことするなんてね」

㍍「貴女がいない隙に魔物を討伐したことですか?確かに、少々卑怯なやり方であるのは否めませんが、確実にミッションをこなすには仕方のないことですわ。貴女に邪魔されながらでは難しいでしょうから」

アメリ「そもそも魔物を討伐したことに怒ってんの!!」

㍍「当然でしょう。人を襲う魔物など、生かしておくのは危険ですわ」

アメリ「見ればわかるでしょ!?この星には魔物しかいないよ!」

㍍「魔物がこの星を出る可能性もありますわ」

アメリ「ないよ!前にカービィの人にも言ったけど、飛べる魔物はいないし、宇宙空間じゃ生きられない!」

㍍「進化する可能性は?先ほどの魔物のように、融合して姿を変えるものもいますし、宇宙空間に適応する種が現れてもおかしくはありません。可能性が少しでもあるならば、殲滅すべきなのですわ」

アメリ「そんなの人のエゴだよ!人を襲う動物がいたら、その種を全部狩り尽くすの?人を殺す人がいたら、人を滅ぼすの!?そうじゃないでしょ!?この星にいる子たちは、現状何もしてないのに…!」

㍍「誰よりも自由を求める貴女が、エゴを否定するのですね。まあ…それはその通りですわよ。エゴです。それが何か?」

アメリ「はあ!?」

563ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:33:21 ID:9sxXl.c.00

㍍「ただ一つ、魔物を殲滅する理由を述べるとするなら…この宇宙に存在しない、外来種だと言うことですわ。放置すれば生態系にどんな影響をもたらすか分からない」

アメリ「そんなの私だって一緒だよ!」

㍍「そうですわよ。本来なら貴女が魔界から来たことを打ち明けてくれたあの日に、わたくしは貴女を殺すべきでしたわ」

アメリ「!」

㍍「ですが同じサムス族であり、旅を共にした貴女には、わたくしも少なからず情が移っていましたから…そんなことはできなかった。しかし今、こうして貴女はわたくしの前に立ちはだかっている」

アメリ「…はは…そっか。そうだよね。アルザークさんはそういう人だった。まいいや!ごちゃごちゃ言い合ってもしょうがない!」

㍍「その通り。勝った方が自由を手にする。単純な話ですわ」


ドォォォッ!!!!


二人のチャージショットがぶつかり、打ち消し合う。

アメリ「シンプルイズ…ベストー!!」

アメリーナは掛け声とともに攻撃を仕掛ける。


ギュルルルルッ!!


アルザークはそこにスクリューアタックを合わせて弾き返す。

アメリ「うぐっ」

さらにアメリーナの落下点に潜り込むと。


ボボボボボッ!!!


アームキャノンを上に掲げ、炎の弾を連射。

アメリ「ぐああっ!!」

アメリーナはそれによって再び宙を舞う。

564ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:34:10 ID:9sxXl.c.00

タンッ!

アルザークは跳び上がり。


バゴッ!!!


ソバットを放つ。

アメリ「かはっ!」


ドカァァン!!


アメリーナは吹っ飛ばされ、岩に激突した。

ガチャッ…

うつ伏せで倒れ込んだアメリーナの後頭部に、アルザークはアームキャノンの砲口を突きつける。

㍍「チェックメイトですわ」

アメリ「…はぁ…私の負けかぁ…やっぱ強いなぁ……いいよ。アルザークさんに殺されるなら本望」

㍍「……わたくしに…貴女を殺すことなど、できませんわ」

アメリ「え?」

ガチャンッ

アルザークはアメリーナの後ろ手に手錠を掛けた。

㍍「貴女にとっては死よりもきつい拷問かもしれませんが…敗者に選択権はありませんので」

アメリ「あ…あはは、捕まるんだ私…まあそうだよね…」

㍍「貴女がわたくしの元を離れなければ…こんなことをしなくて済んだのに…なぜわたくしの言うことを聞いてくれないんですの…?」

アメリ「……言うまでもないでしょ?」

㍍「……そうですわね…」

アルザークはアメリーナのパワードスーツを脱がすと、さらに全身に拘束具をつけて身動きを取れなくした。

そしてアメリーナを担ぎ上げ、エースたちの元へと戻った。

565ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:36:01 ID:9sxXl.c.00



エース「はぁ…はぁ…やったー!」

ギル「上手く連携できたわね!ナイスよエースくん!」

エース「ありがとうございます!」

エースたちは怪物を仕留めていた。

㍍「ギルティースMk Ⅱさん、来ていましたのね」

そこにアルザークが到着。

ギル「㍍アルザークさん!初めまして!」

二人は握手を交わす。

㍍「初対面なのに、なんだか懐かしいですわ。駆け出しの頃、貴女のお姉様とは共に何度もミッションをこなしました」

ギル「私も姉さんから話はお聞きしてます。姉さん以上の凄腕だと…当時は信じられませんでしたが…今あなたを前にしてみると、納得できますね。フフ…」

㍍「お姉様のことは残念でしたわね…」

ギル「ええ。でも姉さんが自分の正義を貫いた結果ですから」

エース「あの、もしかして僕のパパのことも知ってますか?」

ギル「ええ勿論。確か、スペードさんだったかしら?姉さんに並ぶ優秀な戦士だったと聞いたわ」

エース「そうですか!でへへ…」

ギル「あなたもなかなか強かったわよ。経験を積めば、きっとお父さんのような戦士になれるわ」

エース「へへ、ありがとうございます!」

ギル「…それで、さっきからアルザークさんが抱えてるのは…」

アメリ「暗黒のアメリーナでーす。この星に魔物を集めた犯人でーす」

いじけた態度でアメリーナが言う。

㍍「…そういうことですわ」

566ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:36:41 ID:9sxXl.c.00

ギル「どこかの収容所に連れて行くんですか?」

㍍「ええ。処分は上に任せ…!」

ドサッ…

ギルティースとエースは突然倒れた。

㍍「…お久しぶりですわね…ロハス」

その後ろには、緑フォックスがブラスターを構えて立っていた。

???「㍍アルザーク…排除する」


ズドォッ!!


㍍「ぐっ…!」

フォックスは一瞬で距離を詰めて蹴りを放ち、アルザークはガードする。

㍍「速い…!」


バゴッッ!!


次の瞬間、フォックスの蹴りがアルザークの腹部の装甲を粉砕した。

㍍「がはっ…!?」

アルザークは膝をつく。


ダンッ!!


さらなる追撃の蹴りを、ギリギリで後ろに跳んで回避する。

㍍(重い…!なんというパワー…!それにこのエネルギー反応は…かつて戦ったクローンたちとはまるで別物ですわ…!)

???「もはや㍍アルザークでは力不足だ。一対一でも相手にならん」

㍍「それはどうでしょうね…パワーとスピードだけで倒せるのなら、わたくしはこの宇宙でここまで生き延びてはいませんわ」

???「お前に言ったのではない」

㍍「…どなたかと通信を?」

???「答える義務はない」

567ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:38:47 ID:9sxXl.c.00


ブンッ!!


フォックスの蹴りを、アルザークはかわす。


チュンッ!チュンッ!


さらにブラスターによる射撃をジャンプでかわし、フォックスの頭上へ。


ガンッ!!


アームキャノンによる打撃を放つも、蹴りによって相殺された。

㍍「くっ…」

???「無駄だ。その程度の動きは全て読めている」

㍍(しかし…見たところ通信機器を使っている様子はない…まさか、昔アメリーナの言っていた"念話"を…?超小型の通信機器の可能性もありますが……もし念話だとしたら、魔力をも身につけているということ……有り得ない話ではありませんわ…)


ビュゥン


アルザークはグラップリングビームを伸ばす。

フォックスは当然のようにそれをかわす。

アメリ「ぎゃっ!?」

???「!」

グラップリングビームはフォックスの後ろに転がっていたアメリーナを捕らえた。


ドガッ!!


そのままアルザークはアメリーナをフォックスにぶつける。

アメリ「痛っ!!ちょっとアルザークさん私の扱い雑すぎない!?」

フォックスはほとんど動じずアメリーナを叩き落とすが、その一瞬の隙をアルザークは見逃さない。


ボボボボッ!!


ジャンプで距離を詰め、アームキャノンから放った火球でフォックスを焼く。


ギュルルルルッ!!


さらにスクリューアタックで追撃。


ドガッ!!!


そしてアームキャノンでその辺の大岩を破壊し。


ドガガガガッ!!


その破片をフォックスに向かって弾き飛ばした。

568ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:40:13 ID:9sxXl.c.00

???「チッ…」

フォックスは岩に埋もれる。

㍍(わたくし一人では勝てない…ここは撤退するしかありませんわね)

アルザークは倒れているエースたちを担ぎ上げると、スターシップへと走る。

㍍「くっ…アメリーナまで回収する余裕はありませんわね…!」


ゴバァッ!!


岩はあっさりと弾き飛ばされ、フォックスが起き上がる。

???「相変わらず小賢しいな。その機転は賞賛に値する…だが、無意味だ」

㍍「なっ…!」

スターシップの前に着くと、そこには数人のフォックスが立っていた。

???「逃げ場はない」

㍍「くっ…ここまで…ですか…」

エース「…ん…」

アルザークに担がれていたエースが、揺れによって目を覚ます。

㍍「エースさん!ワープを!」

エース「!!わ…ワープスターーッ!!」

???「!!」

ピロピロピロピロ…!

エースの叫びに反応し、ワープスターが高速で飛んでくる。

エース「掴まって!」

㍍「はい!」

タッ!

そしてエースはワープスターに飛び乗った。

569ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:41:13 ID:9sxXl.c.00

???「逃がすな!」

エース「ワープスター!どこか違う星へ!」


ピロピロピロピロ…!



パッ!



エースたちの乗ったワープスターは消えた。

???「チッ…ワープか…」

???「カービィのワープスターだな。一つしか現存していない筈のものだ。奴が正統後継者ということか」

???「まあいい。我々の今の戦闘能力を測ることはできた。並のファイターに遅れをとることはない。そちらはどうだ?」

フォックスたちはスターシップに視線を向ける。

???「…ここには無いようだ」

スターシップの中を調べていたフォックスが首を振る。

???「㍍アルザーク…抜け目のない奴だ」

アメリ「ふふっ、あんたら、ロハスだっけ?まだアルザークさんの追っかけやってたんだ?」

拘束されたままのアメリーナが言った。

???「暗黒のアメリーナか。数年前にアルザークと別れ、宇宙中で魔物を助けて回っている狂人…」

アメリ「誰が狂人だバカ!」

???「雑魚に興味はない。消して行くか」

カチャッ…

フォックスはブラスターをアメリーナの額に突き付ける。

アメリ「ちょっとタンマ!私、魔の一族なんだけど!」

???「…それが何だ?」

アメリ「助けてくれたら、魔力の面白い使い方、教えてあげてもいいよ」

???「……」

570ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:42:02 ID:9sxXl.c.00




ピロピロピロピロ…

ピコンッ!

エースたちの乗ったワープスターは遠い星に墜落し、粉々になって消えた。

ズシャァァァァ…!

乗っていた三人は投げ出される。

エース「いててて…無事ですか?」

㍍「ええ…助かりましたわ。ありがとうございます」

エース「それにしてもさっきの状況って…」

㍍「…目撃してしまった以上、隠しても仕方がありませんわね…あれは、わたくしを追っているクローンフォックスたちですわ」

エース「クローン…!?なんでそんなのがアルザークさんを…」

㍍「わたくしが彼らの正体を知っていることと…このキューブを持っていることが原因でしょう」

アルザークはパワードスーツの中から、小さな白い箱を取り出す。

エース「それは?」

㍍「彼らと初めて遭遇した時、彼らの乗っていた車から見つけた物ですわ。何かの記録媒体のようです。数年に渡って解析しているのですが…未だプロテクトに阻まれて、中を見ることはできていません」

エース「専門の人に依頼したりしないんですか?」

㍍「できるはずありませんわ。彼らに狙われてしまう」

エース「あ、そっか…」

571ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:42:30 ID:9sxXl.c.00

㍍「裏を返せば、それ程にこのキューブが大事だということですわ。彼らはとてつもなく危険な研究を行っています。恐らくはその研究を、さらに大きく進めてしまうようなデータが眠っている…絶対にこれを渡すわけにはいきませんわ」

エース「そんなに危険なら、壊しちゃうのは?」

㍍「勿論それも考えましたが…解析することで彼らの情報や目的がわかるかもしれません」

エース「なるほど…っていうかこれもしかして僕も狙われるのでは?」

㍍「そうですわね。キューブを持っているわたくし程ではないにしても、彼らのターゲットの一人として認識される可能性は高いでしょう」

エース「う…ちょっと怖いけど、僕にはワープスターがついてるから大丈夫です!なんとかします!」

㍍「くれぐれも戦おうなどとは考えないことですわ。彼らはすでにこの世の生物のレベルを超えています。絶対に勝ち目はありません」

エース「わ、分かりました……っていうかギルティースさん、まだ寝てる…」

㍍「ふふ、さすがフォックス族、図太いですわ。ギルティースMk Ⅱさんは彼らの顔を見ていませんから、今話したことは黙っておきましょう。強力な魔物に不意を突かれたということにしておけばいいですわ」

エース「分かりました。その設定でいきましょう」

572ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/12(水) 21:43:04 ID:9sxXl.c.00


それから二人はギルティースを起こし、嘘の事情を説明した。

ギル「えぇ!?じゃ、じゃあ私のアーウィンもあの星に置いてきちゃったんですか!?」

㍍「そうですわ。さすがに回収する余裕はありませんでしたので」

ギル「そっかぁ…また今度とりにいかなくちゃ…」

㍍「しばらくはあの星には近づかない方がいいですわね。あの魔物は強すぎましたわ」

エース「そ、そうですね!今行ってもゼッタイゼーッタイ返り討ちにあってしまうと思います!それにもしかしたらアーウィンも食べられちゃってるかもしれません!」

㍍(嘘が下手ですわ…)

ギル「うぅー…悲しみ…」

㍍(素直ですわ…)

その後ギルティースはアルバロに迎えに来てもらい、母星へと帰った。

573ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:58:27 ID:XXSsPR7600





とある樹海の洞窟。

女リンク「たくさん食べなさい。食べて力を付けるのよ」

子「はい、母さん!」

ここではリンクの親子が食事をしていた。

かつてリカエリスがクローンフォックスたちの基地から逃がした、女リンクとその子供だ。

女リンク「お前には才能がある」

子「はい、勿論です。僕は母さんの…リンク族の血を引いてますから」

採ってきた木の実やキノコ、狩りで仕留めたケモノ肉などを貪りながら、二人は話し始める。

女リンク「リンク族だけではないわ」

子「え?」

女「近頃の鍛錬で、お前はいよいよ私を超えるほどにまで成長した。もう話してもいい頃でしょう」

子「話すって、何をですか?」

女リンク「お前の父親についてよ」

574ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:59:18 ID:XXSsPR7600

子「父さん…!?父さんがいたんですか!?」

女リンク「いや…父と呼べるほどの存在ではないかもしれない。私もその男には会ったことがない。しかしお前がその血を引いているのは確かよ」

子「何者なんですか…?」

女リンク「煙草マスター…かつてこの星で起きた戦争で、何千人もの兵士を虐殺した、最強の戦士の一人」

子「た、煙草マスター…?煙草を使って戦うんですか?」

女リンク「いや、武器にしていたわけではないわ。とにかく煙草が好きで、戦場でも常に吸っていた。その煙草から撒き散らす副流煙によって、敵味方問わず大量の兵士の肺を破壊するという大事件を起こした程よ。その事件は現在では"受動喫煙事変"と呼ばれている」

子「でも、母さんはそんな人とどうやって知り…ってあれ?でも会ったことがないって言いましたよね?」

女リンク「煙草マスターは封印されているからな」

子「封印…!?」

女リンク「お前が生まれる前、私は悪の科学者に捕まっていた。その科学者は、封印されていた煙草マスターの細胞を盗み出した。そして研究の末、そのDNAを宿した子種を作り出したのよ。その子種は私の体に植え付けられ……お前が生まれた」

子「そんなことが…!じゃ、じゃあ…僕らがこうして身を隠して生きてきたのは…」

女リンク「そう。奴らに見つからないようにするためよ」

子「…!」

女リンク「だがこの生活ももう終わり」

子「え?」

女リンク「言ったでしょう。もうお前は私を超えていると。その歳でここまで開花するとは思わなかったが…もはや、私がお前に教えられることはない。今のお前なら、たとえ奴らに見つかり襲われるようなことがあっても、乗り越えられるはずよ」

子「じゃあ森の外へ出られるんですか?でも一体どこへ?」

女リンク「まずは街へ出て常識を身につけなさい。外の話は今までも知識として教えてきたが、実際に体験しなくては分からないこともあるでしょう。金ならあるわ」

女リンクはお金の入った袋を取り出し、子リンクに渡した。

子「え?えっと…母さんは行かないんですか…?」

女リンク「私は奴らに顔が割れているから、すぐに見つかってしまうわ。お前一人なら、一見ただの子供リンクよ」

子「でも僕一人じゃ…」

女リンク「大丈夫。お前なら一人でも生きていける。自分の力を信じるのよ」

子「…わかりました」

575ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 19:59:49 ID:XXSsPR7600

女リンク「それとお前には、外に出てやらなければならないことが二つある」

子「何ですか…?」

女リンク「一つは、スターロッドを手に入れること」

子「スターロッド…?」

女リンク「数千年前の英雄・カービィが使っていたという伝説の武器よ」

子「伝説の武器…?しかし母さん、僕にはこの剣があります。母さんから継いだ大事な剣が…」

女リンク「勿論その使い慣れた武器を手放す必要はないわ。しかしリンクと煙草マスター、二つの力を使いこなすには、剣とスターロッドという二種類の武器を使いこなせなくてはならない」

子「二刀流ということですか?」

女リンク「ああ。そのために二本の剣を持たせた鍛錬もさせてきたはずよ」

子「はい。あれはこのための鍛錬だったんですね…」

女リンク「スターロッドには対魔の力もあるという。必ずお前にとって大きな戦力となるわ」

子「分かりました…スターロッドというのは、どこにあるんですか?」

女リンク「それは私にも分からない…が、噂によると、この星のどこかに存在している。最後に確認されたのが、数百年前にこの星で起きた戦争の時。戦場の中で失われて以来、一度も見つかっていない」

子「そ、そんなの無茶ですよ…!」

女リンク「無茶でもやるしかないわ。お前がやるべきことを、やり遂げるためには」

子「やるべきこと…二つ目のことですか…?」

女リンク「そう。お前がやらなくてはならない二つ目のこと…それは、煙草マスターを倒すこと」

子「父さんを…倒す…!?でも、封印されてるって…」

女リンク「ああ。例の科学者によると、かつての大戦が行われた東の国のどこかの祠に封印されている。だがその封印が張られたのも遥か昔の話…今では劣化し、あと数年のうちに目覚めるらしい」

子「なっ…」

女リンク「煙草マスターが暴れ出せば、きっと世界中で大混乱が起こるわ。それを止められるのは、その血を引き、力を受け継いだお前だけ」

子「…!僕にしかできないこと…なんですね…!」

女リンク「ああ。だからスターロッドを手に入れ、煙草マスターの封印された祠を見つけ出すのよ。来るべき戦いに備えてな」

子「…分かりました……僕が、父さんを倒します…!」

こうして、煙草マスターの子は旅に出ることになった。

576ハイドンピー (ワッチョイ 277d-072e):2023/07/13(木) 20:00:17 ID:XXSsPR7600



翌朝。

女リンク「準備はできたか?」

子「はい!母さん、今までありがとうございました!」

女リンク「……ああ…愛しているわ、息子よ…」

ギュッ…

女リンクは子リンクを強く抱きしめる。

子「か、母さん…?」

その体は震えていた。

最強のリンクを育て上げることに執着し、厳しく接してきた女リンクだったが。

自分の元を離れようとする今になって、母性とも呼ぶべき感情が込み上げてきたのだ。

女リンク「今まで…すまなかった…私は…お前を…」

子「謝らないでください母さん。分かってます。全てを終わらせて、必ず帰ってきます」

女リンク「…ああ」

そして子リンクは旅立った。

女リンクはその背中を見送り。

女リンク「…さて…そこに隠れているのは分かっているわ」

???「フン…」

岩陰から現れたのは、例の緑フォックスだった。

女リンク「あの子には指一本触れさせない」

女リンクは古びた剣を構え、フォックスに斬りかかる。

ドシャッ…

フォックスはそれを瞬殺した。

???「無駄なことを…初めからあれに手を出す気はない。煙草マスターのDNAを持った擬似クローン…問題なく成長しているようだな。我々の施設で教育とトレーニングを行っていればもっと早く成長できたことは否めないが……能力の継承まで進めば、実験は成功だ」

577ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:45:50 ID:08FQC6aY00





とある城。

その廊下で、ファイターたちが戦っていた。

村田「ふぅ…結構強かったわね。ニートの割には」

怠惰すぎた罰「…チッ……運動不足が…祟った…か…」

緑の道着を身に纏った格闘家が、ウルフ村田に敗北し仰向けに倒れる。

村田「リカエリス、加勢する?」

リカエ「いえ、こちらも終わったところです」

邪念侍「く…拙者が…敗れるとはな……不覚でござる…」

巨大な剣を持った黒服の剣士が、リカエリスの前に這いつくばる。

村田「黒猫は…そっちも大丈夫みたいね」

黒猫「にゃはは!オイラが虫にゃんかに負けるわけにゃいだろ!」

悪イナゴ「チクショー…」

黒猫にボコボコにされた子供姿のリンクが、城の外へ投げ捨てられる。

村田「よし、悪党は三人だったはずだから、あとはお姫様を救出して終わりね」

リカエ「はい」

三人の悪党が見張っていた奥の部屋へ、リカエリスたちは足を踏み入れる。

578ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:46:43 ID:08FQC6aY00

アーナ「きゃああああっ!!」

村田「アーナ姫!」

そこにはピンクの服を着た金髪の女性が鎖に繋がれて、邪悪なオーラに飲み込まれようとしていた。

黒猫「にゃんだぁ!?」

リカエ「この邪悪なオーラ…奴らにもあったが…一体何なのだ…?!」

先ほど倒した三人も、同様のオーラを纏っていたのだ。

アーナ「た…たす…けて…!意識が…もう……」

村田「すぐに!」

三人は駆け寄り、鎖を破壊しようとする。

しかし。


ドガッ!!


三人の前に何かが現れ、弾き飛ばした。

村田「くっ!?誰!?」

鬼神「ククク…私は鬼神だ!!」

そこに立っていたのは、緑の服を着たシーズー犬だった。

リカエ「何者だ…!獣人のようだが、フォックスともウルフとも違う…?」

村田「確か、しずえ族という種族ね…アナタの目的は何!?」

鬼神「貴様たちに教えてやる必要はない!何故ならここで消すからだ!!」

ブンッ!

黒猫「うわっ!?」

黒猫は鬼神の放った釣り竿に捕まり、引き寄せられた。

リカエ「とうっ!」

リカエリスは黒猫の影に隠れて距離を詰め、蹴りを放つ。

鬼神「馬鹿め!」


ドガッ!!


黒猫「ぐはっ!?」

鬼神は引き寄せた黒猫を盾にし、リカエリスの蹴りをかわした。

リカエ「チッ!邪魔だ黒猫!」

黒猫「はあ!?」

村田「喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

579ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:47:48 ID:08FQC6aY00


ズバァ!!


村田は一瞬で鬼神に近づき、鋭いツメで切り裂く。

鬼神「…少しはできるようだな。ククク…だが神の力の前には無力!」

鬼神は手にグローブをはめ、村田に殴りかかった。

リカエ「はぁっ !」


ドゴッ!!


鬼神「ぐっ…」

今度こそリカエリスの蹴りがヒットした。

黒猫「せい!!」


バキッ!!


さらに黒猫のオーバーヘッドが炸裂。

鬼神「チィッ…!鬱陶しい!三対一とは卑怯な…!」

村田「神の前では無力、じゃなかったのかしら?」

鬼神「黙れ!操った三人も役に立たんし!面倒だ!ここは一旦退散する!」

パリィン!!

鬼神は窓を割って城の外に出た。

リカエ「なっ!待て!」

リカエリスが追い、窓の外を見ると、鬼神は風船によって空を飛んで逃げていた。

リカエ「…落ちろ」

チュンッ!

リカエリスはブラスターを放つ。

パンッ!

鬼神「何!?」

その弾は風船を見事に撃ち抜き、鬼神は落ちていった。

580ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:49:20 ID:08FQC6aY00

村田「アーナ姫!ご無事ですか!?」

村田はすぐにアーナの元へ駆け寄る。

リカエ「意識を失っているようですね。しかしオーラは消えた…もう大丈夫でしょう」

村田「ええ。鬼神とかいうヤツ、さっきの三人も操ってたらしいし、アーナ姫も操ろうとしてたのね、きっと」

二人はアーナを繋いでいた鎖を解き、ベッドに寝かせた。

リカエ「ん?黒猫は…?」

村田「さっきアナタが撃ち落とした鬼神のとこに走って行ったわよ。まあアレで死んだとは思えないしね」

リカエ「我々も向かいましょう。黒猫一人では危険だ」

村田「そう?」

リカエ「恐らくあの単純バカは、洗脳などされたらすぐに堕ちてしまうでしょう」

村田「…それもそうね。行きましょう」

二人は黒猫を追い、城の外へ出る。

そして案の定というべきか。

リカエ「!!」

黒猫「ニャーオ…」

黒猫は邪悪なオーラを身に纏い、二人の前に立ち塞がった。

鬼神「ククク…バカなヤツめ!鬼神たる私の前に、ノコノコと一人で現れるとはな!」

村田「あちゃー…遅かった」

リカエ「まったく…どこまでも迷惑な奴だ」


???「そこまでだ、鬼神」


全員「!!!」

鬼神「この声は…!!」

???「我は名もなきただの神…」

二足歩行の青い体のケモノが、雲を裂き、空から降りてきた。

村田「まさか…だれ神様!?」

リカエ「知っているんですか?村田さん」

村田「だれ神様は、人々の窮地に現れて、救ってくださるのよ…でも絶対に名を名乗らず、人々はだれ神様と呼んでいるの」

鬼神「クソッ…!貴様はいつも私の邪魔をする…!」

だれ神「汝の行動は目に余る。同じ神として、我が動くのは道理である。裁きを受けるがよい」


パァァァン!!


だれ神が手をかざすと、すさまじい光がその場を包み込んだ。

581ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:50:33 ID:08FQC6aY00

リカエ「何だ…!?」

鬼神「ぐああああああっ!!」

黒猫「ほにゃああああっ!?」

鬼神は苦しみ、やがて倒れた。

同時に黒猫のオーラも浄化され、消え去った。

そして光が消えると、だれ神もいなくなっていた。

リカエ「す、すごい力だ…何が起きたのかは分からんが…全てを浄化したのか…さすが神…」

村田「黒猫、大丈夫?」

黒猫「うん…なんかすごくいい気分だぞ!」

鬼神「…あれ…?ここは…一体…」

リカエ「なっ!今のを受けてまだ意識が…!?」

村田「いや…様子が変よ」

鬼神「え?え?なんですか…?どうなってるんですかこれ…」

鬼神は普通の女の子のようになっていた。

???「ボクが説明しましょう…」

リカエ「!?」

いつの間にか黒い学生服を着たメガネの少年が後ろに立っていた。

長谷川「ボクは神々が作りし長谷川。つまり、神々によって作り出された……長谷川です」

村田「つまりどういうことよ…」

長谷川「今だれ神様により浄化されたのは、鬼神の魂なのです。かつて鬼神は神々の世界を追放され、人の体を乗っ取ることで生きながらえてきました。次の器として選ばれたのがあのアーナ姫です」

リカエ「操ろうとしていたのではなく、乗っ取ろうとしていたというのか…」

長谷川「そういうことです。つまり今そこにいるのは、かつて鬼神に乗っ取られた、ただのしずえ族の少女です」

村田「そうなのね。大丈夫?立てる?」

元鬼神「あ…はい…」

村田が手を貸し、鬼神、もとい元鬼神を立ち上がらせる。

村田「アナタ名前は?」

元鬼神「わ…わかりません…何も思い出せないんです…」

村田「そっか。それじゃ身元が分かるまで、ウチ来る?」

元鬼神「へ?」

村田「居候のいる生活も慣れちゃったし、もう二人も三人も変わんないわよ。アナタたちも、構わないでしょ?」

リカエ「勿論」

黒猫「おー!人多い方が楽しいよにゃー!」

村田「…だそうだけど、どう?アナタさえよければ」

元鬼神「あ…ありがとうございます…!じゃあお言葉に甘えさせてください…」

村田「うふふ、よろしくね」

黒猫「よろしくにゃ!」

582ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:51:52 ID:08FQC6aY00

リカエ「では、そろそろアーナ姫に話を聞きに行きましょう」

村田「ああ、そうだったわね。元々そのために来たんだった」

元鬼神「どういうことですか…?」

リカエ「私と黒猫は別の世界から来たのだ。ロハスというフォックス族たちと共にな。奴らはどこかに身を潜めている。元の世界に帰るためには、奴らの居場所を突き止めなくてはならない」

村田「アーナ姫には預言の能力が備わっているって聞いたから、もしかしたら何か分かるんじゃないかと思ってね。それでこの国を訪ねて来てみれば、悪党たちに城を占拠されてて…ほんともう驚いたわよ」

黒猫「ま、オイラたちにかかれば楽勝だったけどにゃ〜」

元鬼神「な、なるほど…」

リカエ「…む?さっきの長谷川という男がいないぞ…」

村田「あらほんと。まあ神様の使いみたいな人だったし、消えもするわよ。それよりさっさと行きましょ」

リカエ「…はい」

それから四人は、再びアーナの部屋へ。



アーナ「はっ…わたくしは、一体何を…」

村田「アーナ姫、目を覚ましたんですね。具合はどうですか?」

アーナ「特に…問題はありません。あなた方は、先ほどわたくしを助けに来てくださった…」

村田「アタシはウルフ村田です。こっちはリカエリスと、黒猫。そして…」

アーナ「ひっ…!」

アーナは元鬼神の顔を見て青ざめる。

村田「安心してください。彼女は鬼神に体を乗っ取られていただけです。もう鬼神の魂は祓われました」

アーナ「そ、そうなんですか…?」

元鬼神「は、はい…!わたしはただのしずえです…!」

アーナ「…そう…みたいね…」

ぱたっ

アーナはまた倒れた。

リカエ「アーナ姫!」

村田「さすがに疲れてるんじゃないかしら。しばらくそっとしておきましょ。ここはアタシが見ておくから、アナタたちは外に捕まえてる三人の通報をお願い。操られてたとはいえ、アイツら元々悪者だから」

リカエ「了解」

そしてリカエリスたちの通報により、怠惰すぎた罰、邪念侍、悪イナゴの三人は連行された。

結局この日アーナは目を覚まさず、ウルフ村田を護衛につけ、リカエリスたちは街の宿に泊まった。

583ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:53:23 ID:08FQC6aY00



翌日、再びアーナの元へ。

リカエ「村田さん、アーナ姫の容体は?」

村田「まだ目を覚まさないわ。さすがに遅すぎる。何か後遺症があるのかもしれない」

リカエ「後遺症?」

村田「考えてたの。鬼神自体は祓われたけど、アーナ姫の体を乗っ取ろうとしていた時に、包み込んでいたオーラ…もしあの時すでに鬼神の魂の一部が入っていたとしたら…」

リカエ「…確かに、だれ神が放った浄化の光は、この部屋で寝ていたアーナ姫には届いていなかったかもしれません…まだアーナ姫の中に鬼神の魂が残っている可能性はありますね」

元鬼神「な、なんかごめんなさい…」

村田「アナタが気にすることじゃないわ。それより、この仮説が正しいとしたら、アーナ姫を浄化する方法を探さなきゃ」

黒猫「ふぁ〜あ…よくわかんにゃいにゃ。オイラ寝てていいか?」

村田「それじゃあ黒猫はしずえさんと一緒にここで見張っててくれる?もしかしたら目覚めるかもしれないし。アタシとリカエリスは浄化について少し調べてみるわ」

黒猫「はいはい…」

元鬼神「分かりました…!」

そしてリカエリスたちは城の外に出る。

リカエ「浄化…お祓いというのであればやはり寺や教会でしょうか…この世界にありますか?」

村田「ええ。お祓いのできるところを調べてみるわ」

そう言うと村田は携帯端末を使って調べた。

村田「この街の南にあるみたいね。行ってみましょう」

584ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:54:24 ID:08FQC6aY00



そして二人はとある寺に来た。

しかし。

村田「えぇ…」

リカエ「これは…」

ゴォォォォ…

盛大に燃えていた。

ピーポーピーポー…

サイレンが忙しなく鳴り響く。

寺の周囲では消防車が消火活動を行い、野次馬も集まっている。

???「いやー…やっちゃったわ…」

ピンクの服に緑の髪を持った、女神のように美しい女性が、無の表情で寺を見つめていた。

リカエ「この寺の方ですか?」

???「あ、うん」

村田「この火事は一体…」

???「えっ、聞いちゃう?それはねー、まあ、なんというか…タバコ的な?アレを、まあね、寺の中で吸ってた人がいてね、うん。そしたら火がちゃんと消えてなかった的なやつでね?木造だからね、うん」

リカエ「火の不始末ですか…」

村田「それはご愁傷様です。ひどい人もいるものですね」

???「うっ…うーん、まあそれが、私なんだけど」

村田「何やってるんですかアナタは…」

???「てへぺろ⭐︎」

村田「てへぺろってる場合か」

リカエ「…さすがに今はお祓いを頼める状況ではありませんね。村田さん、他を当たりましょう」

村田「そうね…」

???「お祓い?それならお安い御用だよ!」

村田「えっ?でも…」

???「大丈夫だよ!火事はもうどうしようもないし!ここにいても私にできることは何もないし!」

リカエ「どこが大丈夫なんですか…」

???「ふっふん!私は念仏てへぺろ!生まれながらに神に愛された、天才僧侶だよ!」

585ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:54:59 ID:08FQC6aY00

村田「ア…アナタが…?」

念仏「何そのめちゃくちゃ疑った目は!」

村田「いやそりゃそうでしょ…」

念仏「そりゃそうか。てへぺろ⭐︎」

リカエ「……しかし、事実ならばすぐにお願いしたい。アーナ姫が危険なのだ」

念仏「え!?お姫様が!?」

村田「かくかくしかじか…というわけなの」

念仏「なるほど…そんなことが起きてたんだ…!すぐ行こう!お姫様心配!テレポート!」

念仏てへぺろは消えた。

村田「すごい…判断が早い…」

リカエ「テレポートとは…彼女もファイターなのでしょうか。ともかく、我々も戻りましょう」

村田「ええ」

586ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:56:31 ID:08FQC6aY00



リカエリスたちは城へ戻ってきた。

元鬼神「えっ?誰も来てないですけど…」

村田「嘘っ、なんで?」

リカエ「テレポートなど使えるなら、我々より先に来ていると思ったのだが…」

すると。

シュタッ…

部屋の中に念仏てへぺろが出現した。

念仏「ごめん!間違えて別の城にテレポートしちゃった!てへぺろ⭐︎」

村田「…アナタやっぱりものすごいアホ?」

念仏「失礼な!天然なだけ!」

リカエ「一緒なのでは…」

村田「とにかく、アーナ姫を見てみてくれる?」

念仏「あ、はい。わっ!やば!とんでもない邪念が取り憑いてるよ!さっき言ってた鬼神の仕業だねこれは!」

村田「そんな一目で分かるほどなの?」

念仏「んー、それはどうかな。さすがに鬼神っていうかぁ、うまいこと隠れようとしてるからね。並の僧侶なら見逃しちゃうかもしれないなー。でもほら、私ってすごい天才だから!私の種族はパルテナ族って言って、先祖のパルテナ様はなんと女神様なのだ!」

リカエ「神の子孫…この世界ではそんなこともあるのか」

村田「なんとかなりそう?」

念仏「任せてよっ!神の子孫である私を信じて!」

てへぺろはてへぺろしながら親指を立てる。

てへぺろ本人を除くその場の全員が不安しかない中、てへぺろはお祓いの念仏を唱え始めた。

587ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:57:32 ID:08FQC6aY00



それから数時間が過ぎ。

念仏「ふぅっ…終わった!」

リカエ「おお!」

村田「これで鬼神は完全に祓われたのね!やるじゃない!」

念仏「あ、いや、そのー、そうじゃなくてね…失敗しちゃった!てへぺろ⭐︎」

村田「はぁ!?」

念仏「いや、だって、邪念が強すぎて、お姫様の魂とがっちり結合しちゃってるんだよ!これもうどうしようもないやつだよ!」

村田「終わったってそういう意味!?」

リカエ「なんとかならないのか?」

念仏「無理無理カタツムリだね。念仏ごときじゃびくともしないよこれ」

村田「ごときとか言うな」

リカエ「しかし、どうしますか?放っておくわけにもいきませんし…」

村田「他にお祓いできる人がいないか探すしかないわね」

念仏「無理だってばー。私の念仏で祓えないやつが他の人に祓えるわけないよ」

村田「うーん…」

ばんっ!!

???「無事か!アーナ!」

白い布で顔を隠した、紫の忍者のような男が、扉を勢いよく開けて入ってきた。

リカエ「誰だ!?」

リカエリスは咄嗟にその男の前に立ち塞がった。

黒猫「にゃんだオマエ!」

寝ていた黒猫も起きて、戦闘態勢をとる。

???「貴様らこそ誰だ!俺は壊す合体!アーナの友人だ!」

リカエ「友人だと?」

合体「守衛から連絡があったぞ!悪党にアーナが捕まったと!貴様らがその悪党か!?」

村田「いや、悪党たちは昨日アタシたちが鎮圧しましたけど…」

合体「なんだと!?それはありがとう!」

元鬼神「素直…」

黒猫「にゃんだ…敵じゃにゃいのか…つまんねー…」

黒猫はまた寝た。

588ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:58:19 ID:08FQC6aY00

リカエ「しかし、かくかくしかじかで、困っているのだ」

合体「なっ…そ、それじゃあアーナはもう目覚めないと言うのか!?」

念仏「んー、たぶんね。目覚めるとしたら、鬼神に乗っ取られた時かも」

合体「何!?」

村田「乗っ取られるってどういうこと?鬼神の本体は消えたはず…」

念仏「いや、ほとんどないと思うよ?ないとは思うけど…鬼神の魂がお姫様の魂を吸収して、復活するみたいな展開あるあるじゃん?もし目覚めるパターンがあるとしたらそれかなって思っただけ」

村田「…要するに目覚めないってことね…」

合体「くっ…なぜアーナがこんな目に…!!神よ!なぜアーナを助けないのだ!」

念仏「神様がそう簡単に下界に降りてくるわけないでしょ!女神の子孫であるこの私ですら会ったことないのに!ケチ!村田さんたちずるい!」

リカエ(…そういう心持ちだから現れないのでは…)

村田「でも、確かに不思議ね。だれ神様はとても慈悲深い神様として有名だし、アーナ姫の中にいる鬼神の魂に気付かなかったとも思えない。どうしてあの時、一緒に祓ってくれなかったのかしら」

念仏「そりゃ神様だって万能じゃないよ。なんでもできるならこの世界はもっと平和なはずじゃん?」

リカエ「下界にいられる時間が限られているとか…?神のルールのようなもので」

元鬼神「…もしかしたら、あえて残したのかも…」

村田「あえて?」

元鬼神「あっ、いや、ただのわたしの考えですけど…神様って、人々に試練を与えるっていうじゃないですか。だから、これもそうなのかなって…」

合体「試練だと!?ふざけやがって!アーナの命がかかっているんだ!」

元鬼神「ご、ごめんなさい…!」

リカエ「しかし、こんな言葉がある。神は乗り越えられない試練は与えない」

村田「フフ、そうね。さ、無いものねだりしてる場合じゃないわ。他に方法がないか探しましょう!」

合体「チッ…貴様らはアーナと赤の他人だからって気楽なもんだな!!だが助けてくれたことには感謝してるし、解決に向けて前を向く姿勢はいい!怒鳴って悪かった!」

村田「すごい急カーブみたいな話し方するわねアナタ…」

リカエ「まあ名前からして急カーブしていますし…」

589ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 17:59:28 ID:08FQC6aY00




それから数日。

いろいろな場所でお祓いを頼んだが、そのほとんどは「念仏てへぺろでも祓えないなら、ウチでは無理だ」と断られた。

ごく僅かに依頼を受けてくれた者たちも、やはり祓うことはできなかった。

村田「アナタ…ホントにすごい僧侶だったのね…」

念仏「疑ってたの!?」

村田「いや、信じてたわよ?三割くらいは」

念仏「七割疑ってたの!?過半数!!」

リカエ「しかし困りましたね。ここまでアテが外れるとは…」

元鬼神「アーナさま、点滴で命は助かっていますけど…このまま一生寝たきりなんて、かわいそうです…」

黒猫「そうか?オイラは寝てるの幸せだけどにゃー」

村田「そういうこっちゃないでしょ…ごはんも食べられないのよ?」

黒猫「にゃにっ!?それはイヤだにゃ!早く助けてやろう!」

村田「うん、だからその方法を探してるわけで」

合体「貴様らッ!!」

村田「わぁっ!?何よいきなり」

合体「貴様らなぜ…なぜここまでしてくれるんだ!?元の世界に帰る手掛かりを探すだけなら、アーナでなくとも預言者や探偵はいるはずだ!」

村田「何言ってるの。困ってる人放っておけるわけないじゃない」

元鬼神「ですよね…!」

リカエ「フォックスの名の下に、私は正義を貫くだけだ」

黒猫「オイラは難しいことはわかんにゃいけど、みんなといっしょにいるのは楽しいぞ!ごはんくれるしにゃ!」

合体「き、貴様らっ…!なんていい奴らなんだ!!」

念仏「わ、私ももちろんそんな感じだよ!?決して寺に帰って叱られるのがイヤだからとかじゃないよ!?」

村田「そんなんだから疑われるのよアナタ…」

590ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:00:00 ID:08FQC6aY00

元鬼神「そう言えば、皆さんが外に出てる時に、てへぺろさんのお寺の方から連絡がありました。てへぺろのことをよろしくお願いします、って」

念仏「え?えーっとつまり…クビってコト!?」

リカエ「…まあ不思議ではない」

村田「そうね。故意じゃないとはいえ火災を起こした挙句、数日間サボってるんだもんね…」

念仏「そ、そんなぁ〜!」

元鬼神「いえ、違います」

念仏「ちがうんかい!」

元鬼神「てへぺろさん素行は悪いけど、その才能はお寺の皆さんも尊敬してるみたいですよ。迷惑をかけるかもしれませんが、しばらくよろしくお願いしますって言ってました」

村田「あら、さすがお坊さんねぇ。慈悲深い。これは謝りに帰らなくちゃね」

念仏「良かった〜!ビビって損したよまったくもう!そりゃこの天才を手放すわけないよね!」

リカエ「お前という奴は…」

念仏「てへぺろ⭐︎」

村田「ダメだこりゃ」

黒猫「でも天才なら鬼神祓えるんじゃにゃいのか?むにゃむにゃ…」

村田「だからそれができないから困ってるのよ…いいからアナタは寝てなさい」

黒猫「ん、そうか。おやすみ…」

念仏「…」

てへぺろは黒猫の顔を見て、急に何か考え込む。

村田「…?どうしたの?」

念仏「あっ、思い出した!!」

村田「何を?」

念仏「すごい人!いたんだよ!昔うちの寺にいたけど、いなくなっちゃった人!」

リカエ「すごい人…?」

念仏「お祓いって結局外から働きかけることしかできないでしょ?でもその人は精神を他の人の中に送り込むことで、内側からその魂を浄化するすごい技を持ってたんだ!」

合体「何だと!?そいつはどこにいるんだ!?」

念仏「いや、それは知らないけど」

リカエ「寺の人間なら知っているかもしれんな。行くぞ」

念仏「えっ!?行くの!?ちょっと待って、まだ心の準備が…!」

村田「さっきのてへぺろ精神はどうしたのよ。もうこの際開き直りでもなんでもいいからとにかく来なさい」

念仏「やだー!!」

リカエリスと村田は暴れるてへぺろの両脇を抱えて引きずっていった。

591ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:01:15 ID:08FQC6aY00



そして数十分後。

坊さん「…なるほど。確かに彼ならば可能性はあるかもしれません」

リカエ「本当ですか!その方は今どこに?」

坊さん「やるべきことがあると言ってこの寺を去り、別の星へ行きました。もう五年近く前のことです。それ以来連絡は取れていません」

村田「別の星って…じゃあその人は宇宙で活動してるの?」

坊さん「はい。なぜなら彼はファ…」

???「そう、俺は宇宙を股にかける、キャプテン・ファルコンの末裔だからさ!」

全員「!?」

そこに現れたのは、ファルコン族だった。

坊さん「お、おサルさん!」

おサル「久しぶりだな!」

村田「おサルさん…?人間じゃない、どう見ても…」

おサル「フッ、俺はガキの頃ケンカばかりしてた不良だったんだが、サルのようなアクロバティックな戦法から、"サル"と呼ばれていてな。他人の精神に共鳴し入り込む能力…通称"シンパシー"と合わせて、今じゃ"シンパシーおサルさん"と呼ばれてる」

リカエ「ファルコン族は動物の名前でなければならんルールでもあるのか…」

おサル「ちなみにこの寺に身を置いたのも更生のためだ。そして能力も修業の中で身につけた」

坊さん「一体今まで何をされてたんですか?」

おサル「ある星でずっと除霊をしていたのさ。失敗してしまったがな」

坊さん「おサルさんが失敗…!?いったいどんな霊だったんですか!?」

おサル「とてつもない邪念を持っていてな。そいつは伝染するんだ。取り憑かれた者は全員"死体を愛する呪い"にかかってしまい、そこらじゅうで殺し合いが始まった。さすがの俺も除霊が間に合わず、星から逃げ帰るしかなかった」

坊さん「ではその星は…」

おサル「ああ…今じゃ完全にあの邪念が支配し、"ネク◯フィリア星"と化しているだろう…」

村田「ごめんちょっといいかしら?」

おサル「ん?ああ、お前たち、アーナ姫を助けたいとか言ってたな」

村田「聞いてたのね。そう、アナタに力を貸して欲しいの」

おサル「いいが、俺の除霊は高くつくぞ?」

村田「アタシはそんなお金持ってないけど…まあアーナ姫はお姫様だし、ポンと出せるんじゃないかしら」

おサル「フッ、そりゃ確かに。ならば霊を祓った後で、しっかり頂戴するとしよう」

村田「受けてくれるのね!ありがとう!」

おサル「…時に、あの天才小娘はどうした?」

村田「てへぺろのこと?」

坊さん「今は反省のため滝に打たれてます」

おサル「フッ、また何かやらかしたのか?変わってないな、あいつも」

坊さん「タバコの不始末で火災を起こしました」

おサル「いや変わったな!さすがに行きすぎだろ!」

坊さん「幸い怪我人もなく寺もほとんど無事ではありますが…」

おサル「着いた時から若干焦げ臭いとは思っていたが、そういうことだったとは…」

リカエ「とりあえず彼奴は寺の皆さんに任せて、我々はアーナ姫のところへ戻りましょう」

村田「ええ」

592ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:02:12 ID:08FQC6aY00



それからリカエリスたちはおサルさんを引き連れ、再びアーナの部屋へ。

おサル「アーナ姫…本当にすごい邪念を感じるな。あのてへぺろが祓えなかったというのも頷ける」

村田「いけそう?」

おサル「さて、どうかな。外側から見るのは苦手でな。姫様には申し訳ないが、精神の中に入らせてもらう」

するとおサルさんは座禅を組み、手を合わせて念じる。


しばらくして。

おサル「はっ…!」

おサルさんは滝のような汗をかいて、目を開けた。

リカエ「やったのか!?」

おサル「いや…ダメだ。結びつきが強すぎる。このまま俺のパワーで攻撃すれば、恐らくアーナ姫の魂ごと壊してしまう…」

リカエ「なっ…」

合体「ふざけるな!貴様が頼みの綱だったんだぞ!」

おサル「…お前…アーナ姫の血縁か?」

合体「あ?!そうだが!?」

元鬼神「えっ?友人だって言ってましたけど…」

合体「はっ!しまった!!」

村田「何か事情がありそうね」

合体「チッ…そうだよ!!俺はアーナの双子の兄だ!!俺たちの一族は代々姫となり女王となる運命なのだ!だから男として生まれた俺の存在は隠蔽された!!それが何だ!俺には何もできないっ!!アーナを救う力のない俺には、貴様たち霊能者に縋るしかないんだ!!無力な自分への苛立ちをぶつけてしまった!すまない!!」

おサル「…いや…いけるかもしれんぞ」

合体「何!?」

村田「どういうこと?」

おサル「俺のシンパシー能力は基本的に自分しか入れないが、対象の血縁者ならば、共に入ることが可能なんだ」

合体「なるほど!だがそれでは何の解決にもならないんじゃないか!?俺なんかが入ったところで…」

おサル「いや、だからこそだ。俺のパワーでは強すぎて魂ごと破壊してしまうが…お前のパワーならば、上手く鬼神のみを攻撃できる!」

合体「そうか…!!俺にもできることがあったか!よし!早速やろう!」

おサル「ああ!」

おサルさんは壊す合体の手を握り、再び座禅を組む。

593ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:03:06 ID:08FQC6aY00



合体「…はっ…!こ、ここがアーナの中か…!?」

二人は真っ白な空間にポツンと現れた。

おサル「そうだ。そしてあそこに光っているのが、アーナ姫の魂だ」

合体「!!」

二人の少し先に、光の玉が浮いていた。

だがその魂の光はとても弱く、周りには黒い影がうごめいている。

おサル「あの影がアーナ姫に取り憑いた鬼神の魂…あれを消し去ることで除霊は完了する」

合体「消し去ると言っても、どうやって攻撃するんだ?あれはどう見てもただの影だ…普通の攻撃は通用しない」

おサル「フッ、そのための俺だろう」

おサルさんはその影に向かって右手をかざし、左手は祈りのポーズを取った。

そして念仏を唱え始める。


ズズズズズ……!


すると影は実体化し、アーナの魂に絡みつく手のような形になった。

合体「これを攻撃すればいいんだな!?よし、任せろ!アーナ、今助けてやるからな!!」

シャッシャッシャッ…

合体は腕を細かく振りながら、その指先に針を取り出していく。

合体「とうっ!」


ズダダダダダッ!!


掛け声と共にその針を撃ち出す。

影「ギャァァァァァ!!」

おサル「いいぞ!その調子だ!」

合体「はっ!」


ドガガガッ!!

ズダッ!!


さらに手技足技を連続で繰り出し、影にダメージを与えていく。

合体「トドメだ!!アーナの苦しみを、次は貴様が受ける番だっ!!」

おサル「はっ…!いかん!待て!」

おサルさんは何かに気付いて制止するも、忍者のごとき合体のスピードは止まらず。


ドゴォッ!!!


合体は壊した。

その蹴りの一撃は、影を貫通し、アーナの魂をも砕いたのだ。

594ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:03:53 ID:08FQC6aY00



アーナの外では。

元鬼神「えっ?」

村田「どうしたの?」

元鬼神「う、嘘……アーナさんの脈拍が…止まった…!息もしてません…!」

リカエ「何だと!?」

村田「ま、まさか失敗したの!?」

元鬼神「そ…そんな…」



合体「……!!お…俺は一体何を…!!」

おサル「…邪念に当てられたんだ…あれ程強い邪念に何度も触れ続ければ、精神にも影響を及ぼすことがある。すまなかった…!俺の考えが甘かった…!」

おサルさんは深く頭を下げる。

合体「…俺が…アーナを……こ、殺したのか……?」

粉々に散ったアーナの魂を、合体は呆然と見つめる。

おサル「くっ……なんてこった…本当に俺という男は…!こんなミスをするなんて!…魂が壊れたら俺たちも…ここから出ることもできん…!」

合体「ダメだ…!認めんぞ!!死ぬなアーナっ!!」

合体はその魂の欠片たちをかき集める。

おサル「無理だ…壊れた魂は、そんなことで戻りはしない…」

合体「勝手に決めるな!!俺は諦めん!!」

ズアッ!!

合体が叫ぶと、同時にその体から風が吹き出した。

おサル「ぐっ…!なっ…何だ…?この…エネルギーは…!?」

合体「俺は……"壊す合体"だァーーー!!」


ギュオオオオオッ!!!!


合体の両手が輝き、魂が一箇所に集まっていく。

パァァァッ!!

そして、アーナの魂は元の球体となり、眩い輝きを取り戻した。

おサル「馬鹿な…!魂が復活した…!」

合体「アーナ…!やった…のか…俺は…」

ガクッ…

おサル「おっと」

おサルさんは倒れかけた合体を咄嗟に支える。

おサル「とりあえず出るか」

おサルさんが手を合わせ、目を瞑り念じると、アーナの精神世界から消えた。

595ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:05:17 ID:08FQC6aY00



元鬼神「えっ?ア、アーナさんの脈が回復しました!」

村田「ホント!?良かった!」

合体「はっ!?」

現実世界の合体とおサルさんが目を開ける。

村田「あ、戻ってきた」

リカエ「アーナ姫の中で一体何が起きていたんだ?」

合体「それは…自分でもよく分からないんだ…」

おサル「驚いたぞ、本当に壊れた魂を合体させるとはな…!アーナ姫は特殊な能力の持ち主…その双子の兄であるお前にも、元々才能が眠っていたんだろう」

合体「俺の…能力…?」

おサル「壊す合体…その名の通り、壊したものを合体させる能力といったところか。言霊というのを知ってるか?言葉が持つ霊力のことだ。念仏もその一つ。その言霊の中でも、最も強い力を持つのが"名前"だと言われている。お前が自分の名前を叫ぶと同時に、アーナ姫の魂を合体させたいと強く願ったことで、言霊が呼応して、能力が覚醒したんだ」

村田「なになに、どういうことなの?ちゃんと説明しなさいよ、アーナ姫さっき脈止まってたんだから!」

おサル「ああ、すまん。実はかくかくしかじかで…」

合体「そんなことよりアーナは無事なのか!?」

と、その時。

アーナ「……うぅん……」

アーナが目を開けた。

合体「アーナ!!」

アーナ「が…合体…?それに…みなさん…?わたくしは何を…」

合体「もう大丈夫だ!全部終わったんだ!何も心配いらない!」

ギュウッ!

合体はアーナを抱き締める。

アーナ「えぇ?もう…何が何だか…」

おサル「アーナ姫にも説明しておこう。かくかくしかじかで…」

念仏「やっほー!どう!?上手いことお祓いできた!?」

そこに念仏てへぺろが入ってきた。

村田「ちょっとてへぺろ!ノックくらいしなさい!一応ここお姫様の部屋なのよ?」

リカエ「というか滝行はどうした?」

念仏「逃げてきちゃった。てへぺろ⭐︎」

村田「アナタねぇ…」

念仏「…え?何これ!?」

てへぺろはアーナを見て驚く。

村田「そうよ、除霊は成功したわ。おサルさんと壊す合体の力で…」

念仏「離れてっ!!」


バキッ!!


合体「ぐはっ!?」

てへぺろは突然杖を使って合体を弾き飛ばした。

596ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:06:00 ID:08FQC6aY00

村田「ちょ!何してんのアナタ!」

アーナ「が、合体!大丈夫ですか!?」

合体「あ、ああ…」

念仏「あれ?普通だ…」

おサル「何か感じたのか?」

念仏「お姫様の中にまだ鬼神の気配があるような気がして…うーん…?いや…違う?お姫様自体が…?」

おサル「鬼神の魂は確かに破壊されたはず…いや、まさか…」

合体「あ…あの時アーナの魂と共に壊した鬼神の魂が…混ざってしまったのか!?」

アーナ「え?…え?」

念仏「どういうこと?」

おサル「かくかくしかじかで…」

念仏「…なるほど…確かにそんな感じだ。取り憑いてるって言うより、アーナ姫自体から邪念が出てるみたい」

合体「は、祓えないのか!?」

念仏「まー無理だね。魂が完全に合体してるから」

合体「そんな…!!」

アーナ「まあまあ…わたくしは何も感じませんよ。特に体に違和感もありませんし」

おサル「だろうな。邪念はもはやアーナ姫の一部だ。アーナ姫が自らの意思で邪念を使おうとしない限り、奥底から出てくることはないだろう」

村田「良かったじゃない。アーナ姫はそんなことしないでしょ?」

アーナ「もちろんです。合体、助けてくれてありがとうございます」

アーナは合体の頭を優しく撫でる。

合体「アーナァァ…うぉぉ…き、貴様ら、あでぃがどう!!」

合体は安心し、号泣し始めた。

アーナ「皆さんも、本当にありがとうございました」

アーナは深々と頭を下げる。

おサル「気にするな。まあ除霊代は頂くがな」

アーナ「あ、はい。いくらでしょう?すぐにご用意します」

おサル「今回の場合だと…これくらいだな」

おサルさんは携帯端末の画面に金額を提示した。

アーナ「えっ?これだけでいいのですか?」

おサル「フッ、俺一人では成し得なかったからな。気が引けるというなら、そこで泣いてる兄貴に礼をしてやってくれ」

アーナ「…はい。ありがとうございます」

念仏「それって私ももらえるのかな?」

アーナ「あ、勿論…」

おサル「いや、結構だ。コイツにはお代はいらないと寺の者から言われてる」

念仏「えぇっ!?しょんなぁ〜!」

村田「アタシたちからもちょっといいですか?アーナ姫」

アーナ「はい、何でしょう?」

リカエ「あなたの力をお借りしたいのです」

アーナ「わたくしの力…預言のことですか?」

リカエ「はい。私と黒猫は別の世界から迷い込んだ存在。元の世界に帰るために、探して欲しい者がいるのです」

アーナ「…分かりました。すぐに準備しますね」

村田「あら話が早い」

アーナ「皆さんは命の恩人ですから。わたくしにできることならなんでもさせてください」

黒猫「じゃあごはんくれ!」

リカエ「何一つ協力しとらん奴がなぜ真っ先に…」

アーナ「ふふ、ぜひ。皆さんも食べていってください。大変だったのでしょう?」

合体「お前もだアーナ。ずっと寝たきりだったんだ。こいつらへのお礼なんかより、まずお前が元気になることだけ考えろ」

村田「フフ、そうね。アタシたちったら気が利かなくてごめんなさい」

アーナ「それでは食事にしましょう」

それから使用人たちが現れてリカエリスたちを広間へ案内した。

597ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:06:55 ID:08FQC6aY00



食事の後。

アーナ「皆さん、満足していただけましたか?」

黒猫「うん!めちゃくちゃ美味かったぞ!」

村田「さすがに王族に仕えるシェフが作っただけあるわね。こんなに美味しいもの食べたの初めて」

元鬼神「ごちそうさまでした…!」

アーナ「それではここで暫しお待ちください」

アーナは席を立ち、広間を出た。

黒猫「ん?まだにゃんかあるのか?」

念仏「デザートかな?」

合体「少しは遠慮しろ貴様ら!」

しばらくして。

アーナ「お待たせしました」

アーナは美しいドレスを身に纏って戻ってきた。

元鬼神「わ…キレイ…」

おサル「その衣装はもしかして…」

アーナ「はい。預言を行うための礼装です。リカエリスさん、こちらへ」

リカエ「はい」

リカエリスはアーナの前に立つ。

村田「預言の儀式が始まるのね」

アーナ「目を瞑って…あなたの探している人の顔を思い浮かべてください」

リカエリスは黙ってそれに従う。

アーナはリカエリスの目の前に手をかざし、自身も目を閉じる。

598ハイドンピー (ワッチョイ 92bf-288e):2023/07/16(日) 18:07:24 ID:08FQC6aY00


しばらくして。

アーナ「ひっ…!!」

小さく悲鳴を漏らした。

合体「どうしたアーナ!」

アーナ「だ、大丈夫です…!少し驚いただけ…」

リカエ「何が見えたのですか?」

アーナ「凄惨な光景です…これは…戦争…?激しい血飛沫と…地面には大量の遺体が横たわっています…」

おサル「どこかの紛争地帯に潜んでるってことか」

アーナ「…しかし…それにしては…正気ではないと言いますか…」

村田「戦いなんてそういうものですよお姫様」

アーナ「いえ、そうではなく…!この戦いからは、理由が見えないのです…国や組織ではない、個人単位の殺し合い…?敵も味方もなく、最後の一人になるまで…」

おサル「…もしかしてそれは別の星じゃないか?」

アーナ「…はい…場所は……東の空に見える星…!」

ガクッ…

合体「アーナ!」

膝から崩れ落ちたアーナを、合体が咄嗟に支える。

アーナ「大丈夫…少し疲れただけです」

リカエ「アーナ姫、ありがとうございます。ゆっくり休んでください」

アーナ「ええ…」

合体がアーナを部屋へ運んだ。

おサル「…やはりか」

村田「どういうこと?知ってるの?」

おサル「寺で話しただろう。俺が宇宙で何をしていたか」

リカエ「まさか…!」

おサル「ああ。アーナ姫は見たのは恐らく……"ネク◯フィリア星"だ」

599ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:41:35 ID:tAlMJrj200





極道の町。

その北にある、かつてナイフが大病を患っていた頃に入院していた大病院。

その一室で。

迫力「ゲホッ、ゲホッ…」

ナイフ「だ、大丈夫ですか迫力さん!」

迫力「おう…さすがにもう長くはねえな…」

半年ほど前から迫力は入院していたが、体調が悪化したとの連絡を受け、須磨武羅組の組員たちが集まっていた。

片割れ「ケッ、須磨武羅組の大親分ともあろうモンが情けないのォ」

組員「てめえ口に気ィ付けろ…」

迫力「よせよせ…ったく…こんな時まで生意気な野郎だぜ…片割れ…組のこと、頼むぜ」

片割れ「…おう」

迫力「玄孫のこともな…」

ナイフの隣に座る、十代中盤くらいの少年を見て言う。

片割れ「あぁ?ガキどもの世話はナイフの管轄やろ」

迫力「そうだったか…まあどっちにしろ、コイツらが危険な時、ナイフじゃ何もできやしねえ」

ナイフ「ちょ、そりゃ酷いっすよ…まあ事実ですけど…」

600ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:42:45 ID:tAlMJrj200

組員「大丈夫っす!若には俺らもついてます!」

傍らに立っていた他の組員が言う。

若「お前らじゃ頼りねえよ。俺も命預けるなら片割れさん以外ありえねえ」

組員「ええっ!?」

片割れ「てめえらももっと強くなるこったな。ワシも一生子守りなんざゴメンや」

組員「くっ、分かってるよ!」

若「…ジジイ、もうすぐ死ぬんだってな」

迫力「おう…ちゃんとナイフや片割れたちの言うこと聞くんだぞ」

若「チッ、俺もうそんな子供じゃねえぜ。人間にも空手じゃ負けなしだ」

迫力「人間って…あぁ、せがれの方か…アイツはファイターのくせに父親と違って全く才能ねぇからな」

ナイフ「俺よりはありますよ」

片割れ「黙っとれ」

若「とにかく、ジジイが死んだら俺はこの組を率いていくんだ。だから天国で…いや、地獄か?なんでもいい、とにかく俺を見守っとけよ。この極道の町を、過去最高に平和な町にしてやる」

迫力「ハハ…大きく出たな。こりゃ死ぬのが楽しみってもんだ…」


それから数時間後、組員たちに見守られながら、迫力は安らかに眠った。

601ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:56:03 ID:tAlMJrj200





その隣の国では、軍の入隊試験が行われていた。

バロン「ムッコロズさん、どうでしたか?」

卍「まあ余裕だ。普通の人間が受ける試験内容だからな。俺たちファイターにとっては朝飯前だろう」

バロン「マ、マジですか…僕めっちゃギリギリだと思います…」

バロンムッコロスと卍黒きムッコロズの二人は、試験を終えて共に帰っている。

卍「それにしても最近、魔物が本当に多いな」

バロン「はい…魔の一族とかいうボスキャラみたいなのまで現れてるらしいですよ。怖すぎる…」

卍「怖がっている場合か?俺たちはそいつらと戦わなきゃならないんだぞ。この国は戦争とは縁がないが、どちらにせよ俺たちファイターは国際法によって戦争には出られない。魔物と戦うのが主な仕事になるかもしれない」

バロン「そ、それは分かってますけど…」

卍「ならば特訓あるのみだ。ムッコロス、ジムへ行くぞ」

バロン「は、はい…!」

602ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 21:59:21 ID:tAlMJrj200


二人は近くにある行きつけのジムへ来た。

卍「なんだこれは…」

ドアが破壊されていた。

バロン「何かあったんでしょうか…」

卍「入るぞ」

中に入ると、客は全くいなかった。

が。

卍「ん?何だアイツは…知ってるか?」

バロン「いや、初めて見ました」

下半身「ふん!ふん!」

そこには懸命に下半身を鍛えるドンキー族がいた。

卍「ちょっと話を聞いてみるか」

バロン「えっ?ちょっとムッコロズさん!」

卍「初めまして。俺は卍黒きムッコロズだ」

下半身「なんだ貴様!この下半身虚弱体質サマに気安く話し掛けるな!」

卍「そうか、そりゃすまない。俺はここの常連だから、何か困ったことがあれば頼ってくれ。ところであのドアの件なんだが…」

下半身「知らん !邪魔だ!」

卍「そうか…」

バロンムッコロスのところへ戻る。

トレーナー「ム、ムッコロズさん…!」

ジムのトレーナーが恐る恐る話しかけてきた。

卍「ん?いたのかトレーナー。何があった?」

トレーナー「あ、あのゴリラ…さっきいきなりドアを殴り壊して入ってきたんです…!」

卍「アイツが…?」

トレーナー「はい…お金も持ってないっぽいし…でも怖くて追い出せなくて…!なんとかしてくれませんか…?」

卍「警察は呼んだのか?」

トレーナー「いえ、まだ…ムッコロズさんたちがいつも来てくれる時間が近かったし、たぶん警察もあれが相手じゃどうしようもないと思って…」

卍「そうか…確かにそれはそうだ。まあ任せておけ。よし、バロンムッコロス、行け」

バロン「ぼ、僕ですか!?」

卍「何事も経験だ。魔の一族はアレよりもっと手強いはず。度胸をつけろ」

バロン「わ、分かりました…でも危なくなったら助けてくださいよ!?」

卍「ああ」

603ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:06:42 ID:tAlMJrj200

バロンムッコロスは下半身虚弱体質のほうへ近づく。

バロン「あ…あのぉー…すいません…」

下半身「なんだ貴様はぁ!鬱陶しいぞ!」

バロン「ひっ!ごめんなさい!…じゃなくて…!あ、あなた何なんですか!?ドア壊して勝手にトレーニング器具使ってるそうじゃないですか…!ダメですよ!」

下半身「俺サマに指図する気か貴様ぁ!」

バロン「ダ、ダメなものはダメなんです!」

下半身「また法律とかいう下らんルールか!?魔界にそんなもんはないんだよ!そんなもんで自分で自分を締め付けるとは、地上の人間どもは余程の変態らしいな!」

バロン「魔界!?」

卍「まさかアイツ、魔の一族か!」

下半身「ワッハッハ!今更気付いてももう遅い!潰してくれるわァ!!」


バゴォ!!


下半身「ぬっ!?」

下半身の振り下ろした巨大な拳は、ムッコロズが受け止めていた。

バロン「ムッコロズさん!」

卍「下がってろムッコロス。ちょうどいい。魔の一族とやらの力を一度見ておきたかった」

下半身「そうか!最期に見れてよかったなクソガキがっ!!」


ズダダダダダ!!!


卍「ぐっ…!!」

下半身は地面に両手を叩きつけまくり、ジム全体が大きく揺れる。

バロン「なんてパワーだっ…!このままじゃジムが潰れちゃいます!」

卍「チッ!俺のジムを壊すな!!」

バロン「ムッコロズさんのではないです!」


ドガッ!!


ムッコロズは下半身をドロップキックで蹴り飛ばした。

下半身「ぐおぉっ…!」

ドゴォン!!

下半身は壁を突き破って外に投げ出された。

バロン「ムッコロズさん、ジム壊しちゃってますけど!」

卍「しょうがないだろ!全部崩壊するよりマシだと思え!」

ムッコロズもその穴を通って外へ出る。

604ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:10:03 ID:tAlMJrj200

下半身「少しはやるようだな!だがこの程度では俺サマにダメージは与えられんぞ!!」

下半身はすぐに立ち上がり、ブルブルと体を震わせて体に付いた瓦礫を落とす。

卍「ほう。耐久力は確かにあるか」

下半身「何を上から目線で分析している!人間など我ら魔の一族の力で簡単に捻り潰せるんだぞ!!」


ドガガガッ!!


卍「ぐあっ…!」

下半身は両腕を大きく振り回して突撃する。

バロン「ムッコロズさんっ!」

ガシッ!

さらに今度はムッコロズの胴を片手で掴んで持ち上げ。

下半身「ふんっ!」


ドガッ!!


地面に叩きつけた。

卍「かはっ…!!」

下半身「死ねっ!」


ブンッ!!


下半身が繰り出した大振りのビンタを、ムッコロズはギリギリで後ろに跳んでかわした。

卍「…フゥ…さすがにパワーでは勝てないか…」

バロン「だ、大丈夫ですか!?」

卍「ああ。大方強さは分かった。生身では分が悪い…全力で行く」

下半身「何?」

するとムッコロズは黒いボールを取り出し、真上に投げる。

バシュッ!

ガシャンッ!

ガコンッ!

ボールはパワードスーツへと変形。

下半身「何だ…!?」

ガチンッ!!

そしてムッコロズの体に装着された。

卍「…五分で終わらせる」

605ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/17(月) 22:14:31 ID:tAlMJrj200


およそ五分後。

卍「ふぅ…十秒オーバーか。思った以上に手強かった」

ムッコロズは下半身虚弱体質を倒し、頭部の装甲を脱ぐ。

バロン「ムッコロズさん、大丈夫ですか?」

卍「問題ない。魔の一族が全員この程度の強さなら脅威にはならないな」

下半身「…ざ…残念だったな…」

卍「!…まだ意識があったか」

下半身「俺サマなど…平均的魔の一族に過ぎん…上位クラスや幹部の連中は…こんなもんじゃないぞ…」

卍「…だろうな。お前は下半身が虚弱だった。もっと鍛えておくべきだったな…あ、それでこのジムに来てたのか」

下半身「い…今更か…」ガクッ

そして下半身虚弱体質は気を失った。

バロン「この人どうするんですか?」

卍「確か近くにファイターの収容所があったはずだ。そこに入れておけばいいだろう。しかし…」

バロン「しかし?」

卍「このレベルでもまだ雑兵に過ぎないとしたら…魔の一族が本格的に攻めて来たら、今のままでは…この国は終わりだ」

バロン「ええ!?」

卍「だからこそ…もっと強くならなければ…!」

それからムッコロズは下半身を頑丈なワイヤーで縛り、収容所へ連行した。

606ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:05:44 ID:L5MYRj.A00





王国。

ヒーロー「やれやれ、今日も平和だな…」

城下町でヒーローはいつものようにパトロールしていた。

???「やあヒーロー、おつかれさま」

店の軒下から声を掛けてきたのは、赤い服の少年。

ヒーロー「ポイゾネサスくん。キミは店の手伝いか?」

ポイゾネ「うん。まったくこんな子供に店を手伝わせるなんて、うちのお父さんは人使いが荒いよ」

ヒーロー「ハハ、でもそのうちキミが店を継ぐんだろう?これも勉強さ」

ポイゾネ「はぁ…お父さんみたいなこと言って…マジメだなぁ…」

ヒーロー「自慢じゃあないが俺にはそれくらいしか取り柄がないからな!」

ポイゾネ「なんでそんな堂々と言えるんだ…取り柄があるっていいね。僕には何もないからさ」

ヒーロー「そんなことはないだろう」

ポイゾネ「じゃあ僕の取り柄って何?」

ヒーロー「え?それは…うーん…まあポイゾネサスくんとはまだそこまで深い仲でもないからな、急に言われても思いつかない!だがそのうち見つかるはずさ!それでは俺は見回りの続きをするので失礼する!」

ヒーローは走っていった。

ポイゾネ「逃げた…」

607ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:06:06 ID:L5MYRj.A00


それからしばらくして。

川沿いの道をパトロール中。

ヒーロー「あの橋…」

通りかかった橋を見て、数年前のことを思い出す。

ヒーロー「…少女…一体今どこにいるんだ…」

その橋は、記憶を失った少女を初めて見つけた場所だった。

ヒーロー「……?」

通り過ぎようとしたその時、橋の下にいる何かに気付き、ヒーローはすぐに駆け寄った。

ヒーロー「……少女……なのか……?」

そこには金髪の少女が倒れていた。

ヒーロー「少女!!おいっ!どうした!…くっ!」

ダッ!!

意識を失っている少女をヒーローは抱え上げ、あの時と同じ病院へと運んだ。

608ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:06:29 ID:L5MYRj.A00



数時間後。

少女「ん…」

ヒーロー「少女!!」

ヒー父「お!目が覚めたか!」

病室で目覚めた少女の前には、ヒーローとその両親がいた。

少女「…だ…れ…?」

ヒーロー「……!…あの時と一緒だな…」

ヒー母「また記憶を…?」

ヒー父「だが前と違って言葉は分かるみたいだぞ」

少女「……?」

ヒー母「あ、安心して…怪しい者じゃないわ」

ヒーロー「俺はヒーロー。こっちは俺の両親だ。俺たちはキミを知っている」

少女「ヒー…ロー…」

ヒーロー「昔、キミは俺たちと共に暮らしていた。今日と同じように、あの橋の下で倒れているところを見つけてな。その時もキミは記憶を失っていたんだ。それでキミの身元が分かるまで、うちで預かることになった」

少女「……そう…」

少女は何の感情も見えない表情で呟く。

ヒーロー「…そうだよな。急にこんなことを言われても分からないよな。いいんだ。また時間をかけて思い出そう」

少女「…ええ…ありがとう…」

ヒー父「そんじゃあもう遅いから俺たちは帰るよ。今日はここでゆっくり休んでいくといい」

ヒー母「病院の人にも伝えてあるからね。後のことは明日考えましょう」

少女「分かった…」

ヒーロー「じゃあ、また明日」

少女「…また明日…」

609ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:07:32 ID:L5MYRj.A00



翌日。

ヒーロー「おはよう少女!」

ヒー母「具合はどう?」

ヒーローとその母は朝一で少女の病室を訪れた。

父は仕事だ。

少女「悪くないわ…」

ヒーロー「そうか。何か思い出せたか?」

少女「……」

少女は無言で首を横に振る。

ヒーロー「そうか…じゃあなぜあの橋の下にいたのかも分からないんだな…」

少女「……いいえ」

ヒーロー「えっ?」

少女「その記憶はある…私の一番古い記憶は…真っ暗な岩場にいた記憶…」

ヒーロー「岩場…?」

少女「そして、獣のような何かに襲われた。私は必死で逃げて…気付いたら、空間に穴が開いてた」

ヒーロー「空間に穴…俺たちの前から姿を消した時みたいな移動方法を、無意識に使ったのか…?」

少女「…多分そう。その穴の奥にはジャングルがあったわ。お腹が空いてたから、生えてたバナナを頂こうとしたら、黒いゴリラと、黄色い恐竜みたいなUMAに追い回されて…また必死に走って、ジャングルから出た」

ヒーロー「ず、随分と冒険を繰り広げてたんだな」

少女「そうね…冒険と言えば冒険なのかもしれない…それから私は近くの街を訪ねた。ボロボロな私を見て、街のおじさんが声を掛けてくれたから、事情を話した。するとまた空間に穴が開いた」

ヒーロー「また!?その流れだと、おじさんに襲われて逃げようとしたのか!?」

少女「いいえ…おじさんが開いたのよ。そのゲートは、裏の空間に繋がっていた」

ヒーロー「裏の空間?」

少女「魔法学校という場所」

ヒーロー「魔法学校!?」

ヒー母「まさか…あの子の言っていたところ…?」

少女「あの子?」

ヒー母「あ、いえ、ごめんね。話を続けて」

少女「…おじさんは魔法学校への案内人だった。この世界と裏の空間を、行ったり来たりする名人と名乗ってたわ。名人さんは私の中の魔力が異常だと感じたらしく、魔法学校に連れてきた。そこで私は自分の体質について聞かされた」

610ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:08:18 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「魔力暴走体質…か…」

少女「ええ…知ってるのね。そう…そして暴走を未然に防ぐため隔離施設に入れられて、厳しい監視の中で数年を過ごした」

ヒーロー「なっ…!?」

ヒー母「そう言えば、彼も言ってたわ…本来その体質を持った人は隔離されるって…」

少女「ずっと一人きりで…極限の孤独の中で、私は精神がおかしくなるのを感じてた。そんな時、魔法学校は突然滅びた」

ヒーロー「!?」

少女「つい先日のこと…私も何が起きたのか分からなかった。黒い鎧の人が現れて、魔法学校を破壊し尽くしたの。私はその人と一瞬目が合った気がしたけど…なぜか見逃してくれた。どこか、懐かしい感じがした」

ゲン「それはサムス族だったんじゃないか?」

ヒーロー「ゲンさん!」

少女が見つかったとヒーローから連絡を受けていた[世界第1位]ゲンが病室に入ってきた。

少女「サムス…族…」

ゲン「はっはっは!久しぶりだな少女!と言っても記憶がないんだったな。改めて自己紹介しよう。俺は[世界第1位]ゲン!この王国で大人気のF-ZEROという競技において史上最速と謳われる男さ!」

少女「よ、よろしく…」

ゲン「ああ、よろしくな少女!…しかし少女と呼ぶにはもう随分と大人びているな、レディ」

ヒーロー「確かに…じゃあ俺もこれからは"女"と呼ぼう」

ヒー母「女ってあなたねぇ…」

女「…大丈夫…好きに…呼んでいい…わ…」

ヒーロー「ありがとう、女…って大丈夫か?目が虚ろになっているぞ。少し休むか?」

女「……いえ……こ…これは………記憶が…戻って…いる……?」

女は頭を抱える。

ヒーロー「記憶が…!?」

611ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:09:10 ID:L5MYRj.A00

ゲン「はっはっは!なんだ、まだ試してなかったのか?少女は前にサムスのことを聞いて、記憶が戻ったんだろう」

ヒーロー「そ、そうか!なぜ気付かなかったんだ!ありがとうゲンさん!」

ゲン「気にするな。それよりどうだ。何か思い出したか?」

女「……はぁ……はぁ……」

女は顔を覆っていた手を下ろし、ゆっくりと顔を上げる。

女「ええ…思い出したわ……ヒーロー…!」

そしてヒーローの顔を見て、涙を流した。

ヒーロー「ほ…本当に…思い出したのか!?俺のことも…!」

女「ええ…久しぶりね…」

ヒーロー「しょっ……少女ォ!!」

ヒーローも感極まって泣きながら女に抱きついた。

女「…女って呼ぶんじゃなかったの?ヒーロー」

ヒーロー「すまん!でもそれどころじゃあない!こ…こんなに嬉しいことはない…!」

女「大袈裟ね…」

ゲン「はっはっは!感動の再会、だな!」

ヒー母「ええ…!ぐすっ…本当に…良かったわ…!」

ヒーローの母も滝のように涙を流す。

612ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:11:02 ID:L5MYRj.A00


それからしばらくして、感動ムードが落ち着き、また話の続きを始めた。

ヒーロー「しかしゲンさん…なぜその黒い鎧がサムスだと思ったんだ?確か本来のサムスはオレンジ色だったはず」

ゲン「俺は宇宙で活躍していたキャプテン・ファルコンの末裔だからな。宇宙の情報もキャッチするようアンテナを張り巡らせている。その中に、とある黒いサムスの情報があったのさ」

ヒーロー「情報ってどんな?」

ゲン「ソイツは暗黒のアメリーナというサムスでな…なんでも、最近この星でもよく現れている魔物とやらに味方している、悪者だそうだ」

ヒーロー「魔物の味方を…?なるほど…確かに危険な奴だな」

ゲン「だがまあソイツは宇宙中いろんなところで活動しているようだから、魔法学校なんてものを襲うとも思えないがな。ただ悪者と黒い鎧から連想して、ソイツを思い浮かべたってだけだ。はっはっは!」

女「でも、合っているわ。確かにあの時魔法学校を襲ったのは、サムスだった」

ゲン「マジか」

女「ええ。その後のことを話すわ。裏の空間に取り残された私は、行ったり来たりする名人さんに助けられて、この世界へと戻ってきた。だけど結局、記憶の無い私には行く宛もなく…名人さんは優しかったから、私を引き取ってくれるとも言ってたけど…自分の体質を考えたら、断るしかなかった。それから私は、ただ彷徨い続けた」

ヒーロー「それからこの王国まで、歩いて来たのか?意外と近かったのか?」

女「いえ…ゲートを開いたの。自分の意思で」

ヒーロー「ゲートを…?できるのか?」

女「私も暴走状態じゃなきゃ無理だと思ってたけど…開く時の感覚は体に残ってたし、名人さんが目の前で開くのも見たから、難しくはなかった。ただ暴走していない私の魔力は多くないから…使い果たして、倒れたのよ」

ヒーロー「そういうことか…」

ゲン「だがこの国に来たのはなぜだ?記憶は無かったんだろう」

女「分からない…けど多分、無意識のうちに、大好きだったこの町を選んだのかも。ここは私の大切な居場所だったから」

ヒーロー「そうか。なんにしても本当に良かった…!これからはまた俺たちと一緒に…」

ヒー母「ちょっと待って」

ヒーロー「えっ?どうしたんだ母さん」

ヒー母「ヒーローは…もっと相手のことを見てあげなくちゃダメよ」

ヒーロー「どういうことだ?」

ヒー母「だって彼女…まだ一度も笑ってないもの」

ヒーロー「!!」

女「……」

ヒー母「記憶は戻っても、魔力暴走体質はまだ残ってるんでしょう?」

女「…ええ。だから…みんなとはいられない」

ヒーロー「な…!そんな…」

613ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:15:48 ID:L5MYRj.A00

女「ヒーロー…会えて嬉しかった。ありがとう。でもこのままじゃまた暴走してしまうから…」

ヒーロー「待ってくれ!俺もあれから随分強くなったんだ!」

女「無理よ」

ヒーロー「!」

女「全部…思い出しちゃったもの。私の暴走状態がどれほど危険なのか…」

ヒー母「じゃあ…彼のことも覚えてる?あなたが私たちに会う前に知り合ったリンク族の少年…」

女「!…なぜ知っているの?」

ヒー母「何年か前、うちを訪ねてきたの。あの子は今もあなたを探してる。あなたを見つけるためだけに、魔法学校に通って、あなたを探すための魔法まで開発して、ずっと…」

女「…そうか…それで私の体質のことなんかも彼に聞いたというわけね…」

ヒー母「ええ。あなたの名前も、生まれも…全部聞いたわ」

女「…だとしたら分かるはずよ。私と一緒にいることがどれ程危険なことか」

ヒーロー「……そうだな…俺は自分のことばかり考えていた。すまない。キミは、彼のところに帰るべきだ」

女「話聞いてた?彼だろうと誰だろうと、一緒にいるつもりはない…いてはいけないのよ…私は一人でいるべき存在なの」

ヒーロー「そんな筈はない!」

女「…!」

ヒーロー「彼が魔法を学んだのは、キミが暴走した時に止めるためだ。俺は彼と直接会ったわけじゃないが、間違いなく俺なんかより遥かに強くなっているだろう。彼がキミの居場所になってくれる」

女「…そうだとしても…私がそれに耐えられない…ヒーローたちにも、彼にも、私は攻撃なんてしたくないのよ…」

ヒーロー「…そうだよな…自分が愛する人を覚えていないうちに傷つけてしまう…その恐怖は、俺には計り知れない程だろう…だがそれでも…信じてほしい。俺たちのことを。俺たちは絶対にキミを見捨てない。キミが嫌だと言ってもだ」

ヒーローは力強い目で、真っ直ぐに女を見つめる。

女「…なぜ…そこまで…」

ヒーロー「俺は…ヒーローだからだ」

女「ヒー…ロー……そんなの理由になってないわ…」

ヒーロー「キミがとても人懐っこい性格で、孤独を嫌っていると知っている。記憶を失ったキミがうちに来た時も、いつもぴたりと後ろについてきていた」

ヒー母「そうね…懐かしいわ。それに彼も話してたわよ。あなた、孤独に耐えかねてペットを飼ってたそうじゃない。それで迷子のペットを探してるうちに彼と出会ったんでしょ?」

女「……!」

ヒーロー「大丈夫だ。絶対にキミを孤独にはさせない」

ヒーローは女の手を取り、両手で強く握る。

女「……ありがとう…皆…」

女はまた大粒の涙を零した。

ヒー母「良かった。やっと素直になってくれたわね、ウフフ」

614ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:16:39 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「はは、カッコつけたが、キミは彼の元で暮らすのがいいだろう?実は彼にももう母さんが連絡してくれている」

女「ふぇっ…?ま、まだそれは、心の準備が…!」

ヒー母「ふふ、近いうちに迎えに来てくれるわ」

女「ええっ…?!」

ヒーロー「…そういえば、キミが隔離されていたというのは彼の魔法学校とは別なのか?」

女「え、ええ…たぶん。彼の魔法学校は故郷の町にあるはずだから…」

ゲン「しかしヒーロー、残念なんじゃないか?キミはレディをこんなにも愛しているのに、他の男に渡さなきゃならないなんて」

ゲンはヒーローに肩を組んでウザ絡みしてくる。

ヒーロー「そ、そんなことはない!女自身の気持ちが第一だろう!俺はあくまでヒーローとして、女の幸せを願うだけだ!」

ゲン「はっはっは、そうかそうか!でも愛しているのは否定しないんだな?」

ヒーロー「う、うるさい!共に過ごした家族としての愛だ!」

女「…ヒーロー…」

ヒーロー「ん?」

女「…あ……駄目……」

ヒーロー「女…?」

女「ごめんなさい…」



カッ!!!!



その瞬間とてつもない光が部屋を包んだ。

ゲン「なっ!?なんだ!?」

ヒー母「これって…あの時の…!?」

かつて少女が消えた時のことが脳裏に浮かぶ。

ヒー母「いや!ダメよ!行かないでっ!!」

何も見えない光の中で必死に女を探し出そうともがく。

だが数秒後に光が収まると、女は消えていた。

ヒー母「ヒーロー…?」

ヒーローと共に。

615ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:17:20 ID:L5MYRj.A00




ヒーローが目を開けると、そこは薄暗い空間になっていた。

ヒーロー「なんだ…ここは…」

何者かに荒らされたような、ボロボロでグチャグチャな子供部屋だった。

女「私の部屋よ。どうして来ちゃったかな…」

女は壊れた椅子に座って言う。

女が光に包まれ消えようとした時、ヒーローは咄嗟にその腕を掴んでいたのだ。

ヒーロー「…キミの作り出した空間か。こんなところでずっと、たった一人で…寂しかったろう…」

女「…こんなところまで追いかけてくるなんて…」

ヒーロー「言っただろう?もうキミを孤独にはさせないさ」

女「本当…筋金入りのヒーローね…フフ…」

ヒーロー「女…!やっと笑っ…!」


ドゴォ!!!


突然殴りかかってきた女をヒーローはギリギリでかわす。

ヒーロー「……!?」

女「あはははっ!!なんで避けるの?受け止めてよ!私の愛を!!」

ヒーロー「くっ…これが暴走か…!」

女「フフフフッ、そっか!ヒーローは見たことなかったんだっけ!私の本当の姿!!」

616ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:18:06 ID:L5MYRj.A00


バゴォ!!!


今度は蹴りを繰り出し、それもヒーローはかわした。

ヒーロー「…本当の姿、か。確かにそうだな。普段のキミも、今のキミも、どちらもキミには変わりない」

女「違うよ!これが私の本性なんだ!!」


ガッ!!!


再び振りかざされた拳を、今度は両腕でガードするが。

ヒーロー「く…!誰にでも…色々な一面はある…!その一つに過ぎないさ…だからこそ…俺はキミの全てを受け入れよう…うおっ!?」


ドガッ!!


その途轍もない威力に耐えきれず、ヒーローは壁に叩きつけられた。

ヒーロー「がはっ…!」


ヒュンッ!!


ヒーロー「!!」

さらに女は一瞬で距離を詰め追撃する。


ドゴォン!!!


ヒーローはまたもギリギリでかわした。

女「あはっ、すごいすごい!よく避けるね!」

ヒーロー(なんだ…!?あれ程の力が何度もぶつけられているのに、壁が全く傷ついていない…?)

女「あぁ、これ?この外には"何もない"からね、壊れないの」

女は壁をコンコンと叩いて言う。

ヒーロー「何もない…そうか、この壁がこの空間の端っこなんだな…!」

女「そ!つまり、逃げ場はないってことだよ!」


ブンッ!!


女の裏拳を、ヒーローはしゃがんでかわす。


ズドッ!!!


が、その腹に女の蹴りが入った。

617ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:18:57 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「ごはっ…」

ヒーローは吐血する。

女「わっ、痛そー。大丈夫?フフフ」

ヒーロー「ゲホッ…フッ…気にするな女…これくらい…俺は何ともないさ…」

女「!!…あはははっ!面白いね!」


バチンッ!!


ヒーロー「ぶっ!」

女は強烈なビンタを放つ。


バチン!!

バチン!!

バチン!!


さらに何度も、往復ビンタを繰り返す。

女「ほっぺた腫れてしょーくんみたいになってるよ!かわい〜!ふふっ!」

ガシッ!

ヒーローはビンタする腕を掴む。

女「!」

ヒーロー「…大丈夫だ…俺が全部…受け止めてやる」

女「ホント!?嬉しいっ!!」


ギュウッ!!


女はヒーローを抱きしめる。

ヒーロー「ぐうっ…!」


メキメキメキ…!!


女「ふふふ…好きだよ、ヒーロー」

ヒーロー「…フッ……俺もだ…!しかしこのままでは…死んでしまうぞ…離してくれないか…?」

女「ええ!?ひどい!離れたくないよ!どうしてそんなこと言うの!?」

ヒーロー「俺が死んだら…また一人になってしまう…!」

女「やだ!!逃がさないよ!!」

ヒーロー(くっ…もはや会話が通じないか…!どうする…)

618ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:19:52 ID:L5MYRj.A00


ズッ!!!


ヒーロー「……!?」

女の貫手が、ヒーローの腹に刺さった。

女「あはっ!これで逃げられないでしょ!」

ヒーロー「ゴホッ…」

先程の比ではない大量の血を吐く。

女「血…真っ赤で綺麗だなぁ〜!宝石みたいで好きなんだよね!もっと見たいなぁ〜」


ブシュッ!!


女は腹に刺さった手を勢いよく引き抜くと、傷口から血が噴き出す。

ヒーロー「ぐぅっ…!!」

女「痛い?痛くないよね?私のこと好きなんだもんね?ウフフフ…!好きだったら痛みなんて感じないよね?嬉しいよね?」

ヒーロー「……ああ…痛くなど…ないさ…!女…キミに比べればな…!…ガフッ…」

女「…?」

ヒーロー「…キミは…こんなこと…望んでいない…!ゲホッ…俺よりも…キミの心の方が…痛いってことくらい…!分かっているさ…全て…!」

女「あはははっ!何言ってるの!?」


ドガァッ!!!


女はヒーローの頭を掴み上げ、壁に叩きつける。

ヒーロー「がっ…!…何…気にするな…キミが何をしようと…俺は見捨てない…!」

壁に押し付けられたまま、ヒーローは笑みを浮かべて言う。

女「……!」

ガシッ…

ヒーローは女の腕を弱々しい力で掴む。

ヒーロー「大丈夫…俺が…キミを…助ける…!」

女「意味わかんない…何言ってるの…?…何言ってるのぉぉおおおおお!!」


ドォォッ!!!!


女が叫ぶと、女の周りからすごい衝撃波が放たれる。

ヒーロー「ぐおっ…」

その瞬間ヒーローは全身が壁に張り付けられる。


ドドドドドドドドドドドド…!!!


空間内にあったものは全て吹き飛び、空間そのものが震動する。

女「いやあああああああああああ!!」


ドドドドドドドド…


衝撃波は収まらず、壁や天井に張り付けられたものが次々と潰れていく。

619ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:20:56 ID:L5MYRj.A00

ヒーロー「く……!俺は…諦めない…!女…!キミが本当の意味で…笑顔になれる…その時まで…!!」

ダンッ!!

ヒーローはその衝撃波に逆らい、力強く一歩を踏み出す。

身体中の傷口から血が噴き出し、全身を痙攣させながら。

さらに一歩、また一歩。


ギュッ…


そしてヒーローは女を抱き締めた。

ヒーロー「俺は…!!ここにいるぞ!!」

全ての力を振り絞って叫ぶ。

女「………!」

その瞬間、暴走は止まった。

ドサドサ…

衝撃波が収まり、壁や天井に張り付けられたものが落ちる。

ヒーロー「フッ……どうだ…?少しは…信じる気になったか…?」

女「…………ええ。信じる」

女は小さな声で答え、ヒーローを抱き返した。

ヒーロー「帰ろう。キミの居場所は…こんな寂しい場所じゃない…」

女は無言で頷き。

二人は元の世界へ帰った。

620ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:21:20 ID:L5MYRj.A00



ヒーロー「母さん、ゲンさん、ただいま…」

ヒー母「ヒーロー!」

ゲン「はっはっは!ボロボロだな!レディも無事か!」

女「し…心配かけて…ごめんなさい…」

バチーン!

女「うっ…」

ヒーローの母は全力で女の頬を引っ叩いた。

ヒー母「いった!!手ぇ痛!!」

ゲン「オイオイ大丈夫か…」

ヒー母「もう二度と…勝手にいなくなったりしないで…!約束よ…!」

女「…はい…ありがとう…」

ヒーロー「フッ…母さんが暴力なんて…めずら…」

ガクッ…

ドサッ…

ヒーローは倒れた。

ヒー母「ヒーロー!」

傷口から血が溢れて、瞬く間に血溜まりができていく。

女「ヒーロー…!」

621ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:22:09 ID:L5MYRj.A00




三日後。

ヒーローは病室にいた。

そのベッドの周りには、ヒーローの両親とゲン、女が見守っている。

ヒーロー「う、うおお…!すごい!まさかあの傷がたった三日で完治するとは…!!」

全身に巻かれていた包帯を取ると、傷は完全に消え去っていた。

ヒー両親「ありがとうございます!ありがとうございます!」

ヒーローの術後の経過を見に来たドクターに、両親は何度も頭を下げる。

ヒーロー「本当にありがとうございます!」

それに続いてヒーローも立ち上がり、礼を言う。

医者「お気になさらず」

ゲン「はっはっは!さすが、噂通りの超天才ドクターだな!」

ヒー父「うむ…!世界一と言っても過言じゃないんじゃないか!?」

医者「まあそうですね」

かつてとある国で死の淵にいたコンソメ顔を、神業で治療したドクター。

その話を耳にしていたゲンは、あの時連絡先を聞いておいたのだ。

女「本当に…ありがとうございます…!」

女も深々と頭を下げる。

医者「いえ、簡単な手術でしたから。じゃあ私はこれで」

そしてドクターは病院を去っていった。

女「ヒーロー…!」

ギュゥッ…!!

女はヒーローに抱きつく。

ヒーロー「女…心配かけたな。すまない。キミはもう大丈夫か?」

女「ええ…」

ゲン「確かレディは"愛"が原因で暴走するんだったよな?だが今していないということは、克服できたんじゃないか?」

女「それはまだ分からないけど…今は魔力が落ち着いてる…と思う。ヒーローが全部受け止めてくれたから…私の魔力が空っぽになるまで」

ヒーロー「俺には、女を攻撃してでも止めるという勇気も、力も無かった。ただそれだけだ。だが結果的には、それが暴走を止めるきっかけとなったのかもしれない」

ヒー父「ヒーローの鑑じゃないか!誰も傷つけず一人の女を救ったんだ!さすが我が息子!」

ヒー母「ええ!もちろん無茶はやめてほしいけど…!よくやったわ、ヒーロー!お手柄よ!」

ゲン「はっはっは!これにはさすがのヒーローも満たされたんじゃないか?」

ヒーロー「…そんなことはない」

ゲン「何!?」

ヒーロー「今回俺はただ家族を助けただけなんだ。しかも、誰も見ていないところでな……ヒーローとは民衆を分け隔てなく救い、どんな敵にも立ち向かう!俺のヒーロー活動はこれからだ!」

ゲン「はっはっは!そうか!ヒーローらしいな!」

女「私はちゃんと見てたわよ?」

ヒーロー「……」

ヒーローは、やはり笑顔を見せない女の顔を見つめる。

女「…?」

ヒーロー「…フッ…そうだな。キミの前でだけは、真のヒーローを名乗ってもいいのかもな…」

少し寂しげな笑みを浮かべ、ヒーローは言った。

622ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:22:35 ID:L5MYRj.A00

コンコン

病室のドアがノックされる。

ヒー母「はーい、どうぞ」

看護師「失礼します」

ヒー母「あら、どうしました?」

看護師「さっき少年が、これをあなたに渡して欲しいって」

看護師は手紙を渡す。

ヒー母「少年?私に?何かしら…手紙なら家に送ってくれたらいいのに…あれ?この名前…」

それは高校生からの手紙だった。



「挨拶もせず帰っちゃってすみません。

今の俺がソイツに会っても、何も言えねえと思います。

病室の外から一目見て、笑顔じゃなくてもなんか幸せそうな顔だってのは分かった。

俺はソイツが幸せなら、それで十分です。

ソイツの居場所は俺んとこじゃなくて、あなたたちのとこだと思います。

きっとあなたたちは本物の家族だから。

俺のことはソイツには話さないでください。

きっとその方が、俺もソイツも後腐れなくこれからの人生を生きていけると思う。

自分で言うのもなんだけど、ソイツ昔は俺のことも好きだったから、メンドくせーことになるかもしれねえし…。

とにかくそういうわけで、ソイツのこと、よろしく頼みます!

俺は国に帰って、勉強して、大学でも目指します!

じゃ、さようなら!」





第三章 完

623ハイドンピー (ワッチョイ 277d-bfde):2023/07/18(火) 21:28:11 ID:L5MYRj.A00
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!!!
第三章は高校生編でした!悲しい!
第四章は一体何編になるんだ…全く予想がつかない…!
また書き溜めたいのでしばらく更新を休みます
気長にお待ちいただければ幸いです

624ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 00:01:05 ID:EyQ0ctFM00
第一章のあらすじ>>348
第二章のあらすじ>>503

〜ここまでのあらすじ3〜

高校生(大学生)は長い旅で疲労困憊の中、親友おこめと再会し復活。
旅を続ける途中、謎の空間にてバーサーカー少年軍団と出会う。
結局その空間に少女の手がかりはなかった。
その空間は謎フォックスたちの管理する場所であったため高校生は目をつけられることになる。

動物の村では、ねこが友達の猫又と遊んでいた。
猫又の正体は"貧乏性の妖怪"であり、その呪いによってねこの友達であった赤ヨッシーの家庭は崩壊する。
ねこは残された赤ヨッシーの妹の特訓を手伝うことになった。

ナザレンコは部隊を引退して芸人に。

遠い宇宙ではアメリーナと魔物たち対エース・アルザークの戦いが繰り広げられる。
ギルティースの加勢もありアメリーナを倒したが、そこへ謎フォックスが乱入。
アルザークたちは逃げるしかなかった。

樹海の洞窟で密かに暮らしていた煙草マスターの子は、父である煙草マスターを倒すべく、スターロッドを探す旅に出た。

別世界へと飛ばされたリカエリスたちは元の世界へ帰るべく、預言の力を持つというアーナ姫の元を訪れた。
しかし城は悪党に占拠されており、悪党を倒すも、アーナは鬼神の邪念に取り憑かれていた。
てへぺろやおサルさん、アーナの兄である壊す合体の力によって、邪念はアーナの魂と合体し、事なきを得た。
その後アーナの預言により、リカエリスたちをこの世界へ飛ばしたフォックスたちはネク◯フィリア星にいると判明。

極道の町では、須磨武羅組の大親分こと迫力が老衰により逝去。
次の親分となるその玄孫の面倒を片割れが見ることになる。

ムッコロズ・ムッコロスは軍の入隊試験を受けたのち、行きつけのジムを訪れたところ、下半身虚弱体質と交戦。
ムッコロズは生身で戦い押されるも、パワードスーツを装着し倒した。

王国の城下町では、ヒーローがパトロール中、倒れている少女、もとい、女を発見。
女は魔力暴走体質によって魔法学校で数年間隔離施設に入れられていたが、その魔法学校は突然黒サムスにより破壊され、それから行く宛もなく彷徨い、この町へたどり着いたようだ。
女は再び暴走することを恐れ去ろうとするが、ヒーローはその手を離さず、女が作り出した異空間へ入り込む。
そこで女は暴走し、ヒーローはその魔力を出し切るまで全てを受け止めた。
女はようやくヒーローの元に残る決心をした。

ヒーローの母はそれを高校生にも報告し、高校生は町を訪れたが、幸せそうな女の顔を一目見て、女のことはヒーローに任せようと決心し、何も言わず去るのだった。

625ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:21:31 ID:EyQ0ctFM00

第四章




ある町の定食屋。

ナザ『バンジー無しバンジージャンプ!?何言ってんだ正気かこの番組!?アホか!そりゃ俺にしかできねえ芸じゃねえかよ!やるに決まってんだろ!』

破天荒な芸で最近人気を伸ばしてきている戦芸人ナザレンコがテレビに映る。

それをボーッと見ながら、孤独に飯を食べる青リンクがいた。

浪人生「はぁ…」

高校生は浪人生となっていた。

通信制の高校を卒業し、一応適当に大学を受けたが、学力が足りず普通に落ちた。

故郷の町へは、まだ帰っていない。

何年もかけて魔法を会得し、何年も旅を続けて、必ず連れ戻すと誓った少女が。

自分とは全く関係のないところで問題を解決し、他の男のところで幸せに暮らしていた。

女の無事を確認した時は素直に喜んだが。

少しずつ、少しずつ、イヤな気持ちが膨らんできていた。

いつの間にか、少女と出会うまでの人生よりも、連れ戻すための人生のほうが長くなっていた。

その結末があれだったのだ。

自分は何のために生きてきた?

そんな疑問が頭の中でグルグルと回っていた。

そんな自分の姿で、帰る勇気がなかった。

家族も仲間も皆優しく、何も言わずにまた受け入れてくれるだろう。
誰も責めたりするはずがない。

頭では分かっているが、浪人生はただただ自信を失い放浪していた。

浪人生「どうすっかなぁ…これから…」

626ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:23:28 ID:EyQ0ctFM00





浪人生の故郷にある、魔法学校では。

㌦「西の魔法学校が壊滅…!?」

昼間「はい…連絡が取れず調べてみたら、まさかこんなことになっていたとは…」

㌦「脱走したドルボリドルを捕まえる時にお世話になったところですよね…?」

昼間「ええ」

ここからドルボリドルの潜んでいたコンゴジャングルまでは遠く、空間移動で行くには膨大な魔力が必要となる。

そこで、コンゴジャングルの近くにあった魔法学校に協力を依頼し、学校同士を繋ぐゲートを開いてもらったのだ。

一方的な移動では届かない距離も、双方からならば繋ぐことができる。

㌦「一体どうして…」

昼間「分かりませんが…黒い鎧を着た何者かが侵入し、全てを破壊していったとのことです…」

㌦「そ、そんな災害みたいなヤツがいるんですか…?!」

昼間「黒い鎧…まさか…いえ、彼女がそんなことをする筈が…」

㌦「何か心当たりがあるんですか?」

昼間「君たちが入学する少し前…魔の一族が表の町に現れたのです」

㌦「魔の一族!?」

昼間「ええ、黒い鎧のサムス族です。しかし彼女から敵意は感じなかった。魔力阻害リングを装着させ、結局何事もなく一月が過ぎ彼女は魔力を失った…筈なのですが…」

㌦「考えすぎじゃないですか?さすがに魔力もない魔の一族が、魔法学校を滅ぼすなんてできっこないですよ」

昼間「…だといいのですが…」

627ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:24:19 ID:EyQ0ctFM00




その隣町では。

味方殺しが、路地裏で何やら通話をしていた。

ミカ「手続きは終わった。来季から潜入できる」

男『そうか。くれぐれも間違えるなよ。必要なのは無関係な魔法でも魔力の扱い方でもない。封印を解く方法だけだ。必ずあの中のどこかに、それが記された魔法書が存在している』

ミカ「ハッ、オレを誰だと思ってる。そんなヘマはしない」

男『ではよろしく頼むぞ』

ミカ「ああ」

ピッ

味方殺しは通信を切る。

ミカ「学校か…殺しの英才教育しか受けてこなかったオレには縁のなかった場所だ。たまにはこんな簡単な依頼も悪くねえ。学生気分でも味わってみるか……ハッ、まあ最後には全員殺すんだがな」

プルルル…

ミカ「あ?またか…」

ピッ

ミカ「誰だ?依頼なら先約がある。今は受け付けてない」

???『あ!ミカさん、お久しぶりです!』

ミカ「……お前…エーレヒトか?」

エーレ『はい!』

ミカ「…何の用だ」

エーレ『ええ!?久しぶりなのに冷たい!』

ミカ「用を言えよ。オレは忙しいんだ」

エーレ『嘘だあ、忙しい時は電源切ってましたよね』

ミカ「チッ、お前にはお見通しか。で、結局何なんだよ」

エーレ『実はこの前、戦地ですごい人と戦っちゃって…!』

ミカ「すごい人?」

628ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:24:46 ID:EyQ0ctFM00

エーレ『一般人ですよ一般人!』

ミカ「あ?」

エーレ『剣を持った一般人に負けたんです、僕!ファイターでもないのにあんな強い人、初めて見ましたよ!』

ミカ「お前が負けた…?」

エーレ『はい、僕嬉しくって…!』

ミカ「なんでだよ…」

エーレ『だってこんなこと滅多にないじゃないですか!面白いと思いませんか!?』

ミカ「思わねえな。教えたはずだぞ。俺たちは評価が全てだ。目の前の仕事を完璧にこなしてこそ、次の仕事に繋がる。それができない奴から消えていく」

エーレ『はは、相変わらずですね。ミカさん、"神剣"って知ってますか?』

ミカ「神が宿った剣の事か?別に詳しくはないが、そういう言い伝えは色々あるだろ」

エーレ『その人になんでそんなに強いのか聞いてみたら、この神剣のお陰だ、って』

ミカ「ヘェ…まあホームランバットや伝説のスターロッドみたいな、特異な能力を宿した武器ってのは実在してるからな。そういう剣があっても不思議じゃない」

エーレ『聞いたことないです』

ミカ「ハッ、相変わらずお前は世間知らずなままか。戦いだけじゃなく、少しは勉強したらどうだ」

エーレ『僕にそんな難しい事ができると思いますか!?』

ミカ「…ま、無理だな。その剣の名前は分からないのか?有名なモンなら調べりゃすぐ出てくるだろうよ」

エーレ『名前かぁ…言ってたような…なんだったかな…』

629ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:25:53 ID:EyQ0ctFM00





数年前。

エーレヒトを傭兵に雇い、空色十字軍との戦争に勝利した某国にて。

兵長「…此度の戦いはエーレヒトのお陰で勝てたが…奴がいなければ、我々はなす術もなくやられていた」

兵「そうですね…奴ら…ファイターには太刀打ちできませんでした」

兵長「もしまた奴らのような戦時法を無視した無法の集団が攻めてきたら、この国は終わりだ…早急に戦力の補強が必要だ」

兵「しかしどうやって…我が国にはファイターが少ない…ごく少数のファイター兵も、都市部の防衛に徹しています」

兵長「ああ。民間から普通に徴兵したところで大きな戦力にもなるまい…」

兵「ではどうするのですか?」

兵長「普通に徴兵すればの話だ。そこで、徴兵には神剣を使う」

兵「神剣を!?」

兵長「神剣に選ばれし者は究極の力を授かるという。たとえその身が凡人であろうとも、な。民間人を砦の地下に集め、あの時のように神剣を引き抜かせるのだ。もし引き抜ける者がいたなら、我が軍は最強となる」

兵「な、なるほど…!ファイターではない者が神剣を扱えれば、戦時法を素通りして他国との戦争にも投入できる…!」

兵長「ああ。では早速取り掛かれ!」

兵「はっ!」


それから兵たちは町の住民たちを順に砦の地下へ呼び出し、神剣を引き抜かせた。



そして数日後。

砦の地下室に突き立てられた剣の前に、住民たちが列をなす。

住民「ふんっ…!!」

先頭の男が剣の柄を握り引き抜こうとする。

住民「…ハア……ハア……ダメだ…びくともしませんよこれ…」

兵「次!」

住民「は、はい!」

次の男が柄を握る。

住民「ふんっ……!!……ダ……ダメですね…腕力には結構自信あったんすけど…」

兵「次!」

それから住民たちは剣を握っては交代し、列は進んでいく。

630ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:26:53 ID:EyQ0ctFM00



住民「はぁ…すいません、ダメです…」

最後に並んでいた男も引き抜けず、トボトボと帰っていく。

兵「兵長、今日召集した住民は以上です」

兵長「これで町の全住民の八割が終わったのか。未だ神剣が抜ける気配は無し……やはり普通の人間では駄目なのか…?」

青年「あのー…すいません、ちょっとトイレ行ってて…」

赤い服を着た金髪の青年が、申し訳なさそうに声をかける。

兵「ん?ああ、もう一人残ってたか。よし、やってみろ」

青年「はい。まあ僕なんかが引き抜けるわけないですけどね、はは…」

青年は剣の柄を握り。


ズッ…


青年「え?」

兵「え?」

兵長「え?」

剣はあっさりと持ち上がった。

兵「へ、兵長…これは…!」

兵長「引き抜けた…!ということは…お前がこの神剣に選ばれし者だ!!」

青年「……え…ええええええ!?」

???『お前からは可能性を感じる。よろしく頼むぞ』

青年「え!?誰!?」

兵「どうした?」

青年「いや、今よろしくって…」

兵長「ん?ああ、そうだな。これからお前には我が軍で働いてもらう。よろしくな」

青年「え、はい…いや、そうじゃなくて…」

???『私の声は他人には届かぬ』

青年「!?…ま…まさか…この剣が…?」

神剣『そうだ。私が持ち主と認めた者にのみ、私の声は聞こえる』

青年「し、神剣に宿った神様みたいな…?」

神剣『まあそんなところだ』

兵長「さっきから何を一人でブツブツと…大丈夫か?」

青年「い、いえ!なんでもないです!」

631ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:28:52 ID:EyQ0ctFM00



それからおよそ一年後。

青年は軍での訓練を経て、ついに実戦に投入された。

青年「戦場…空気が重い…僕こんなところで本当に戦えるのかな…」

兵長「ふむ、この一年で分かった事がある。お前に戦いの才能はないという事だ。だが、お前には神剣がある!さあ行け!」

青年「は、はい…!…って言っても…人斬ったことなんてないし…斬ったら痛そうだし…死ぬよね、たぶん…」

神剣『それが戦いだ』

青年「分かっちゃいるけども…」

敵兵「うおおおお!」

青年「うわこっち来た!」

神剣『構えろ!』

青年「う、うん!」


ズバッ!!


敵兵「ぐはっ…」

青年「え…?」

ドサッ…

敵兵はあっけなく倒れた。

青年「か、勝った…!」

敵兵「なんだアイツは!太刀筋がまるで見えなかったぞ!?」

兵長「やはり神剣…すさまじい力だ…!木刀での訓練とはまるで動きが違う!さあ、その力で存分に暴れてくるのだ!」

青年「は、はい!行くぞ…はあああっ!!」

ズババババッ!!

青年は神剣を振り回して敵兵の中へ突っ込んでいく。

敵兵「ぐああああっ!」

敵兵「くっ…強すぎる!」

ズダダダ!!

敵兵は銃を連射するが、青年は避けながら走り抜けていく。

敵兵「は、速い!弾が当たらん!まさかファイターか!?」

青年「違うよ!」

632ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:29:28 ID:EyQ0ctFM00


ズバァッ!!


敵兵「うわああっ!!」

敵兵は全く歯が立たず、青年一人に蹂躙されていく。

青年「はは…すごい…!まるで自分じゃないみたいだ…!」

???「そこまでだ!」

青年「!!」

青年の前に、一人のサムスが立ち塞がる。

青年「ファイター…!?」

???「私の名は逆キンタマ。この国の防衛を任されし者」

青年「逆キンタマ!?」

逆キン「生まれつきキンタマが生殖器の上についていたことから名付けられた。多少の不便はあるが、金的が効きづらいというメリットもある。案外いいものだ」

青年「そ、そうなんだ…」

逆キン「お前、一般人にしてはできるようだが、英雄サムスの血を引くこの私に勝てると思うな」

青年「やっぱりファイターだったー!ど、どうしよ!勝てっこないよ!」

神剣『案ずるな。私の力を信じろ』

青年「神剣…わ…分かったよ…」

青年は神剣を構える。

逆キン「ほう、ファイターと知ってなお向かってくるか。いい度胸…いや、いいキンタマだ」

ドガッ!!

ズババッ!!

ガキンッ!!

二人の攻撃が激しくぶつかり合う。

逆キン「バカな…!コイツ…強い!」

そして徐々に逆キンタマが押され始める。

青年「いける…!」

ガキィィ!!

逆キン「ぐおっ…!」

逆キンタマの攻撃を弾き、体勢を崩して無防備になった隙に。

ズバァッ!!

逆キン「ぐあああああっ!私のキンタマがああっ!」

ドサッ…

青年は神剣で逆キンタマを斬り伏せた。

青年「や、やった…!これが…神剣の力…!!」


神剣を持った青年の伝説は、ここから始まった。

その後さらに戦場に出ては勝ちまくり、近隣諸国を次々と領地にした。

さらにその勢いを恐れた国々、利用しようとした国々とも同盟を結び、巨大な勢力へと変貌を遂げる。

小国家だったこの国は、僅か数年の間に大国と呼ばれるまでに成長した。

633ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:30:21 ID:EyQ0ctFM00



そして……数日前。

敵国に攻め入った青年と、その国に雇われたエーレヒトがぶつかる。

ガキィン!!

エーレ「わっ!ファルコンパンチが防がれた!?」

青年「ヤバいよこの人…めちゃくちゃ強いよ…!どうしよ!」

エーレ「あなたファイターじゃないですよね!?」

青年「え、は、はい」

エーレ「すごいです!!普通の人でもそこまで強くなれるものなんですね!!」

青年「いや、神剣のお陰だし…」

エーレ「神剣って!?」

青年「コレですけど…」

エーレ「そんなのあるんですか!?だから普通の人なのに強いんですか!?」

エーレヒトは目を輝かせる。

青年「ちょ、ちょっとどうしよ神剣!なんかこの人めっちゃ話しかけてくるんだけど!」

エーレ「なんか剣に話しかけてる!?こわっ!!」

青年「そっちの方が怖いよ!なんで戦争中なのにそんな楽しそうなんですか!」

ドガッ!!

エーレ「楽しいんだからしょうがないじゃないですか!」

バキッ!!

青年「くっ…イカれてる…!今までファイターとも何度も戦ったけど…一番ヤバいタイプだよこの人…!」

エーレ「そんなに強いのになんで楽しくないんですか!?」

青年「い…命の取り合いが楽しいわけあるかっ!」


ズバァッ!!


エーレ「ぐあっ!?」

634ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:31:02 ID:EyQ0ctFM00

青年「…なんだ…?今、急に剣が軽くなったような…」

神剣『よく言った』

青年「神剣?力を貸してくれたの?」

神剣『ああ。戦いとは命の奪い合い…楽しむものではない。ゆえに私という凶器を使うこと、それ自体を恐れぬ者に、私を使うことはできない。だが…お前はこの力を使うことに慣れていた』

青年「うっ…だってめちゃくちゃ強いんだもん」

神剣『そうだな。だが今、お前の本音が聞けた。戦いを恐れる心、絶対に忘れるな』

青年「うん!」

神剣『ならば…今こそ教えよう、私の名を!』

青年「えっ?名前なんてあったの?」

エーレ「さっきから、何一人でブツブツと…言ってるんですかっ!!」

エーレヒトは起き上がり、飛びかかる。

神剣『名もなき剣などありはしない。さあ、敵が来るぞ!前を見ろ!そして聞けぃ!私の名は…』


ズバァッ!!!


エーレ「がはっ…!!」

青年の一振りでエーレヒトは大きく吹っ飛ばされ、気を失った。

青年「神剣…バスタード…!!」

神剣『そうだ。名を知ることで、お前は私の力をさらに引き出す事ができる』

青年「そっか…僕たちもう結構長い間一緒に戦ってきたけど、名前すら知らなかったんだな…」

神剣『これでお前は正真正銘、真の神剣使いとなったのだ。最早お前に敵うものはこの世界に存在すまい…だからこそ、その力を振るう事を恐れる心を、絶対に忘れてはならん。分かったな』

青年「うん!じゃあ、これからもよろしくね、バスタード!」

神剣『ああ』

青年「あ、それじゃあついでに聞いときたいんだけどさ…」

神剣『何だ?』

青年「バスタードって男?女?声も中性的だし、口調も分かりづらいし…ずっと気になってたんだよねー。いや、剣に性別とかないかもしれないけど」

神剣『男だ』


それから青年はバスタード♂とともに敵兵を全滅させ、この戦争も完全勝利で終結させるのであった。

635ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:32:06 ID:EyQ0ctFM00





魔界・第一階層"喧騒"。

???「チッ…随分と腕を上げたようだな…ゲイ」

茶色いゴリラが、緑の帽子の少年の前に倒れる。

ゲイ「ありがとう、ダーク内藤。フフ…」

ゲイと呼ばれる少年はニヤリと微笑む。

???「"腐敗"の辺境に現れたテメエを拾ってきてからまだ数年だ。魔力操作すらできなかったテメエがここまで成長するとはな」

青リンクが言う。

内藤「黒光…まったく、貴様がコイツを見つけなければこの俺がさらに地位を落とすことはなかったのだ」

黒光「そりゃテメエが弱いのが悪いだろ」

内藤「何だと!?ここで貴様を潰してやってもいいんだぞ!?」

黒光「クク、やってみろやデカブツが」

???「よせ内藤。お前じゃ無理だ」

黒ドンキーが口を挟む。

内藤「アルベルト、邪魔をするな!こいつは調子に乗りすぎだ!ここらで分からせておくべきだ!」

アルベ「だからお前じゃ分からされるだけだと言ってるんだ…」

黒光「その"お前じゃ"って言い方、まるでテメエなら俺に勝てるような言い草じゃねえか?オイ」

アルベ「よせ黒光。私はそんな挑発には乗らん」

黒光「ケッ、つまんねえヤツ。まいいわ。ゲイの実力も確認したし、帰るか」

黒光は去っていく。

636ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:32:42 ID:EyQ0ctFM00

ゲイ「フフ、彼らは相変わらず喧嘩っ早いね」

アルベ「まったくだ。もうすぐ地上への大規模侵攻が始まるかもしれんと言うのに、味方同士で争ってどうする」

ゲイ「地上か…フフ、楽しみだな…」

アルベ「そうだな。数十年生きてきた私も、まだ地上に出たことはない」

ゲイ「えっ、そうなの?」

内藤「フン、詳しくは知らんが、魔族は地上では神によって消される運命にあるらしいからな」

ゲイ「そうか…それで妖魔様は戦力を集めてるのか。その神とやらでも対応が間に合わないほどの侵攻で一気に攻め落とす。妖魔様らしいね…フフ」

アルベ「ああ。どうやらその神も弱っているらしいからな。我々が日の目を浴びる日も近いだろう」

ゲイ「それじゃあ僕たちも、それまでにもっと強くならなくちゃね」

???「クク…フハハハハッ!ならば我が貴様を鍛えてやろう、綺麗なゲイ!」

ゲイ「わぁっ!」

ボォッ!!

突然炎の中から現れたのは、赤ピカチュウの魔炎師ヤミノツルギ†であった。

内藤「ヤミノツルギ…!」

アルベ「また面倒なのが来たな…」

ヤミ「面倒とはなんだっ!頼まれたんだよ」

ゲイ「頼まれたって?」

ヤミ「君たちをもっと使える兵士に育てろって、妖魔様から直々にね」

アルベ「そうか…まあボスの命令ならば仕方あるまい。確かに我々はまだ、幹部格に比べると戦力として物足りないのも事実…」

ゲイ「フフ…期待してくれてるって事だね。嬉しい限りだよ」

内藤「さすがはキング・オブ・妖魔!この俺の才能を見抜いていたとはな!」

ヤミ「いや、内藤のことは別に頼まれてないよ」

内藤「ぬゎにぃ!?」

アルベ「残念だったな内藤。大丈夫だ、お前のことは私が守ってやるからな」

アルベルトはそう言って内藤の肩を抱く。

内藤「よせ気色悪い!」

ヤミ「強くなりたいなら教育係のとこにでも行ったら?どうせヒマでしょ」

内藤「チッ…分かった。ならば貴様らを超えて帰ってくる。せいぜい足を掬われんよう気を付けろ!」

内藤は去っていった。

ゲイ「フフ…なんだかんだ言いつつ内藤は物分かりがいいね」

アルベ「不器用だがイイ男なのだ、あいつは…フッ」

ゲイ「フフフ…」

ヤミ「さ…さて……始めるぞ!」

二人のなんだか男色めいた雰囲気に寒気を感じつつ、ヤミノツルギ†は特訓を開始した。

637ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:42:31 ID:EyQ0ctFM00





とある町はずれ。

アメリ「んー…変なとこ来ちゃったな。この子たち連れて帰らなきゃいけないのに」

魔物「グォォ…」

アメリーナは数匹の魔物たちを従えて、迷子になっていた。

アメリ「はあ…お腹すいたなぁ…」

ブタのような魔物を見ながら、アメリーナは呟く。

魔物「ブヒ!?」

アメリ「いやいや、食べないって…せっかく救い出したんだから。あの魔法学校…魔物使って変な実験してるっていうからブッ壊したけど、まさかあんな強い人がいるとは…」

アメリーナは数ヶ月前に滅ぼした魔法学校のことを思い出す。

アメリ「名人とか言ってたっけ…ただの案内人かと思ってたのに…!すごい追いかけてきたから全力で逃げてたら、自分がどこにいるか分からなくなるなんて……くっそ〜!思い出したら腹立ってきた!!…あ、そう言えばあのサムス族の子、元気にしてるかな〜?」

???「見つけたぜ…暗黒のアメリーナだな…?」

アメリ「誰っ!?」

アメリーナは即座に戦闘態勢をとり、アームキャノンを構える。

その先には一人の紫フォックスがいた。

???「俺はパターソン…悪いがお前を連行するぜ」

アメリ「もう!めんどくさいなぁ!今それどころじゃないの!」

パタ「めんどくさいって…悲しみ…迷子なんだろお前…」

アメリ「なぜそれを…」

パタ「お前の船が見つかったんだよ。お前が魔物を引き連れてウロついていたという目撃情報もな…だから来たんだ」

アメリ「ホント!?どこにあった!?私の宇宙船!」

パタ「北西の国の、森ン中…っつってももうとっくに連盟の雇った業者に解体されてるぜ。見つかったのは随分前だからな」

アメリ「ええーー!?なんてことするの!?私が自分でお金貯めて、初めて買った宇宙船なんだよ!?」

パタ「知るかよ…」

アメリ「許さない!!」

パタ「俺が何したっつうんだよ…悲しみ…どわっ!?」


ドガァッ!!!


アメリーナは問答無用で飛びかかり、パターソンはそれをガードする。

パタ「くっ…強えな!」

638ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:43:28 ID:EyQ0ctFM00

アメリ「はあっ!」

ギュルルルッ!!

ガードを解いた瞬間、至近距離でスクリューアタックを放つ。

パタ「ぐあっ!」

アメリ「せいっ!」

バキッ!!

さらに空中で蹴りを繰り出し、パターソンを吹っ飛ばした。

パタ「チッ!調子に…乗んな!」

パターソンは着地するとすぐさま態勢を立て直して飛び上がり。

ドゴッ!!

頭上のアメリーナを蹴り上げる。

アメリ「ぐっ…」

パタ「このままお手玉にしてやる」

ドゴッ!!

ドゴォッ!!

さらに何度も蹴り上げる。

アメリ「くっ…!痛いっつーのっ!!」

バゴッ!!

アメリーナはアームキャノンでパターソンをはたき落とした。

パタ「ぐおっ!?」

ビュゥン…

さらにグラップリングビームでパターソンを捕らえ。

パタ「なっ…クソッ!」

アメリ「ふんっ!」

ドガッ!!!

地面に叩きつける。

パタ「ぐあっ…!!」

パターソンが倒れたところに、アメリーナは馬乗りになって顔前に砲口を突きつける。

アメリ「はい終わりー」

639ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:44:23 ID:EyQ0ctFM00

パタ「クソッ…!」

アメリ「…んー…?なんかさ…弱くない?フォックスだよね?」

パタ「う、うっせぇよ!…悲しみ…」

アメリ「あれ?私フォックスと戦ったことあったっけ?」

パタ「知るか!……いや、ギル姐が任務でお前の拠点の星に行ったっつってたな、そういえば…」

アメリ「ギル姐?」

パタ「俺と同じ紫のジャケット着てる女フォックスだよ…」

アメリ「あー!思い出した!でもその人とは戦ってないよ?」

パタ「それは知らねえよ…」

アメリ「えーっと…たしか魔物たちがアルザークさんとカービィに襲われて…それでアルザークさんと戦って…負けて捕まって…その後そのフォックスにも会って……どうなったんだっけ?」

パタ「だから知らねえよ…人の上で考え込むなよ…悲しみ…」

アメリ「あ!そうそう!気付いたら別の星にいたんだ!」

パタ「何言ってんだお前…」

アメリ「うーん…なんだろこの違和感。なんか記憶がすっぽり抜けてるみたいな…」

パタ「……そういや、ギル姐もそうだったな…」

アメリ「どういうこと?」

パタ「あの時、背後から魔物にやられて気ィ失ったらしい…それで次目覚めた時には別の星だったんだと。仲間に助けてもらってその星に逃げたらしいが、アーウィンも食われたとかで、随分嘆いてたんだ……お前もそうなんじゃねえのか?」

アメリ「だったら私も食われてるよそん時に!完全に拘束されてたんだから!」

パタ「そ、そうか…」

アメリ「あ!そっか!襲われた拍子に拘束具も壊れたんだ!それで無意識のうちに逃げ切ったんだ!」

パタ「んなアホな…」

アメリ「さすが私!解決!」

パタ「まあお前がいいならいいけどよ…フォックスと戦ったかどうかって話はどこ行ったんだよ…」

アメリ「そうだった!忘れてた!」

パタ「すげえアホだ…俺はコレに負けたのか…悲しみ…」

アメリ「ん?なんか言った?」

パタ「いや、何も」

640ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:46:02 ID:EyQ0ctFM00

アメリ「誰がアホだっ!!」

パタ「聞こえてんじゃねえか!」


ドゴッ!!!


アメリーナはパターソンの顔面にアームキャノンを叩き込んだ。

アメリ「…あれ?」

しかし攻撃は空振り、地面に大きなヒビを入れただけだった。


???「ったく、何負けてんだパターソン」


アメリ「!!」

突如そこに現れた白フォックスが、脇に抱えたパターソンを下ろす。

パタ「すまん…助かった…」

アメリ「誰?」

天才「俺は15人目の天才!悪いがテメエの逃亡劇もここまでだぜ、暗黒のアメリーナ」


ゴッ!!


アメリ「ぎゃっ!?」

天才は一瞬で距離を詰め、飛び蹴りでアメリーナを吹っ飛ばす。

ドシャァ!!

さらにアメリーナを上から押さえつけ。

アメリ「速…!」

ガチャンッ!

両手足に拘束具をはめた。

天才「おし、一丁上がり!」

アメリ「えっ!?はっ!?う、嘘っ!動けない…っ」

パタ「…こ、こんなあっさりと…」

天才「んじゃ俺は次の任務があるから行くぞ。パターソン、コイツを収容所まで頼む」

パタ「あ、ああ…」

キィィィィン…

天才はアーウィンで飛び去っていった。

アメリ「ナ、ナニモンなのアイツ…!同じフォックスだとは思えないんだけど…!」

パタ「俺が聞きてえよ…同世代のハズなんだが、なんでこうも差が開いてんだか…悲しみ…」

641ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:46:52 ID:EyQ0ctFM00





とある星の基地。

???「暗黒のアメリーナが捕まったようだ」

コンピュータを操作する若いフォックスが報告する。

???「そうか。奴の記憶は抹消済み、我々に関する情報が漏れることはない」

老フォックスが答える。

???「ああ。奴の知る魔力の使い方も全て聞き出した。概ね既知の情報ではあったが…もはや奴に用はない。放っておけ」

また別のフォックスが言う。

???「了解」

???「魔力操作をさせるために奴に使った魔力増幅薬は勿体なかったな」

???「気にするな。今の我々には最早必要のない薬品だ」

???「オリジナル、マグヌスの監視に当たらせていたCR-315より報告。他のクローンネスと違う兆候が見られているようだ」

???「何?」

???「これまで送り込んだネスはいずれも性格に違いはあれど、人間に危害を加えるような事例はなかった。しかしマグヌスは悪意を持って人間に接する傾向にある」

???「悪意…?」

???「ああ。大きな事件こそ起こしていないが、他人を困らせる言動、イタズラや軽度の暴力を行った事例もある」

???「マグヌス…あれはたしか培養器による成長ではなく、普通の子供と同じく赤子から育て、保育園に預けて他人との関わりを重視した個体だったな」

???「ああ。保育士や同級生、果ては無関係な通行人にも危害を加えている。まだ幼く微弱なPSIしか使えないが、このまま成長させるのはまずい」

???「人間の悪意に影響を受けたのか?」

???「いや、遺伝子異常の可能性もある。廃棄したミスクローンたちのように暴力性が増しているのだろう?」

???「有り得ん。遺伝子検査は綿密に行なっている」

???「だが後天的に異常が発生した可能性もあるだろう」

???「幼少期に精神が不安定なのは一般人でも珍しい話ではあるまい。気にしすぎだ」

???「確かに…しかしネスを一般人と比較してよいものか…それに通行人にまで危害を加えるというのは行き過ぎではないか?」

基地内のフォックスたちがそれぞれの考察を口にする。

???「ふむ…取り敢えずかつて本物のネスが"英雄"と呼ばれたとされる年齢…十二歳までは様子を見ろ。余程危険な存在にならない限りはな」

???「了解」

???「重ねて報告だ。エルバンがファルコン族と接触した」

???「何者だ?」

???「今データを調べている……こいつだ。3億ドルの吐き気」

と、フォックスはモニターに赤ファルコンの画像を大きく映し出した。

???「特に変わった経歴はないようだな。幼少期から運動神経が高く、様々なスポーツで優秀な成績を収めているが…ファイターとしては別段珍しくもない。3億ドルというのはスポーツで稼いだ金額から取られた異名だな」

??? 「それがエルバンに一体何の用だ?わざわざ報告するということは、ただすれ違っただけではないんだろう」

???「ああ。しばらく行動を共にするようだ」

642ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:47:37 ID:EyQ0ctFM00





少し前、とある町。

住民「きゃあああああっ!!」

魔物「グオオオオオオッ!!」

モンゴリアンデスワームのような細長い魔物の群れが、住民たちを取り囲んでいる。


ドガガッ!!


???「大丈夫か?オエッ…」

そこに赤ファルコンが現れ、魔物たちを瞬殺した。

住民「あ、あなたは…3億ドルの吐き気さん!?」

住民「助かりました!ありがとうございます!」

吐き気「何、気にするな。うっぷ…け、怪我はないか?」

住民「はい!大丈夫です!」

住民「それより吐き気さんこそ大丈夫ですか?具合悪そうですけど…」

吐き気「問題ない…生まれつきだ」

住民「よかったらこれ飲んでください!この町で作られる漢方薬です!吐き気に効きますよ!」

吐き気「ありがとう…」

ゴク…ゴク…

吐き気は漢方薬を飲んだ。

住民「どうですか?楽になったでしょう」

吐き気「これは…すごいな。本当だ。今までの人生で一番効いたぞ」

吐き気は晴れやかな表情になった。

住民「それはよかった!」

吐き気「気に入ったぞ。この町を出てからも定期的に取り寄せさせてもらおう」

住民「ぜひぜひ!吐き気さんにならお安くさせていただきますよ!」

吐き気「ありがとう。それにしても…最近は本当に魔物が多いな。昨日訪れた町でも被害があった」

住民「この世界はどうなってしまうんでしょうか?」

吐き気「さあな…だが俺も手の届く範囲の人たちは救いたいと思っている。知ってくれているようだが、俺はもう一生暮らせるだけの金を稼いだ。それは応援してくれたみんなのお陰でもある。だから今、俺はその恩返しの旅をしているんだ」

住民「そうだったんですね!頼もしいです!」

住民「最近スポーツの試合で見かけないと思ったら、そういうことだったんですか」

643ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:48:50 ID:EyQ0ctFM00

???「おいおいおいおいおい!!にゃにもうおわっはひににゃっへんら!?まらうぉくあのほっへうぞ!!」

吐き気「!?」

そこに現れたのは、青リボンのヨシオ族だった。

住民「…なんて!?」

???「らからー!まらうぉくあのほっへうっへうっへんらよ!」

吐き気「…?」

???「オエッ…」

ビチャビチャッ!

住民「なんだ!?なんか吐いたぞ!」

住民「あれは…ミミズ…!?」

???「まだ僕が残ってるって言ってんだよ!!この口からミミズ出すくんがな!!」

吐き気「大丈夫か?この吐き気に効く漢方薬分けようか?」

出すくん「いらないよ!このミミズは僕のアイデンティティ一なんだ!ミミズ出せなくなったら終わりだ!」

吐き気「なんて悲しいアイデンティティ一なんだ」

出すくん「うるさい!!お前よくも僕の育てたミミズたちを殺してくれたな!!」

吐き気「ミミズ…さっきの魔物のことか?なるほど、あれはお前が吐き出したミミズの成長した姿というわけか」

出すくん「そうだ!!あそこまで育てるのに十年かかるんだぞ!絶対に許さない…!行け、ミミズたち!!ソイツを締め付けてやれ!!」

すると口から出てきたミミズたちがウネウネと吐き気の方へ向かっていった。

吐き気「遅い。たとえスポーツから離れても、そんな小さなミミズに捕まるほど俺は衰えてないぞ」

吐き気はミミズをかわし、そのまま口からミミズ出すくんの元へと走る。

出すくん「ふふふ、甘いな!」

ギュルン!

地面から飛び出したミミズが、吐き気の足首に絡み付いた。

吐き気「なっ!」

出すくん「プリ!!」

バチンッ!!

その隙に口からミミズ出すくんのビンタが炸裂。

吐き気「ぐはっ!」

住民「は、吐き気さんっ!」

出すくん「今だ!!ミミズたち!!」

シュルルル…!!

大量のミミズが一斉に吐き気に巻き付いていく。

644ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:50:20 ID:EyQ0ctFM00

吐き気「くっ…う、動けない…!」

出すくん「へっへっへ…たかがミミズと侮ったな!このままタコ殴りにしてやる!!」

ドガガガ…!!

吐き気「ぐおお…!」

住民「吐き気さーん!!」

吐き気(くっ…なんだこれは…!普段ならこんなもの引きちぎれる筈だが…思うように体が動かない…!いつもと勝手が違う…吐き気がなくなったからか…!?)

住民「今助けます吐き気さん!こんなミミズくらいなら俺たちでも倒せます!」

吐き気「ダ…ダメだ!来るな!」

住民「えっ!」

シュルルルッ!

住民「うわぁっ!なんだ!?」

住民たちの足元からもミミズが現れ、その足首に巻き付いた。

住民「くそっ、こんなもの…!」

出すくん「ふふふ…まらまららせるぞ!!」

ビチャビチャビチャ…!

口からミミズ出すくんはさらに口からミミズを出し、そのミミズたちは住民たちに向かっていく。

住民「うわっ!く、来るな…!」

ダダダダダ…


グシャァッ!!


出すくん「!?」

住民「えっ!?」

そこへ赤い帽子の少年が爆走して現れ、ミミズたちを踏み潰した。

エルバン「★うわ、なんか踏んだ…」

吐き気「な…なんだお前は…?」

エルバン「☆僕はエルバンだよ。君は?」

吐き気「3億ドルの吐き気…お前…強いのか?」

エルバン「★うーん、だいぶ」

吐き気「じゃあ頼む。このミミズをなんとかしてくれ」

エルバンはぐるりと見渡し、ようやく状況を把握する。

エルバン「☆うん、いいよ。PKファイヤー!」


ボォッ!!


エルバンは火球を放ち、ミミズに絡みつかれた吐き気ごと燃やした。

吐き気「熱ッ…!」

魔物「ぴゃぃぃ…」

ミミズたちは灰になって消えてゆく。

645ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:51:37 ID:EyQ0ctFM00

吐き気「くっ……ハァ…ハァ…た、助かった…!ありがとう!」

エルバン「☆どういたしまして」

出すくん「な、何なんだお前!!その見た目にさっきの技…ゲイの同族か…!?」

エルバン「★ゲイ?」

出すくん「知らないならいい!くそっ、ファイター二人相手はキツいな!!退散っ!!」

吐き気「逃がすか!」

ダッ!!

吐き気は逃げるミミズ出すくんを追う。

出すくん「オロロロロ…!こいつらの相手してろ!!」

魔物「ぴー!ぴー!」

出すくんはミミズを大量に吐き出し、吐き気たちの前にミミズの壁を作り出した。

吐き気「チッ…どけ!ファルコン・パンチ!!」

エルバン「★じゃあ僕も。はぁっ!!」


ドゴォッ!!!


魔物「ぴゃぁぁ…」

吐き気の繰り出した燃えるパンチと、エルバンの繰り出したヨーヨー攻撃により、ミミズの壁は一瞬にして消滅。

しかし、すでにミミズ出すくんの姿はなかった。

吐き気「くっ、逃がしたか…あの能力は厄介だ。仕留めておきたかったが…」

エルバン「★君強いね。今のパンチ、すごい威力だった」

吐き気「ファルコン・パンチ。俺たちファルコン族に伝わる必殺技だ。お前もファイターなんだろう?一体何族だ?」

エルバン「☆ネス族だよ」

吐き気「ネス…?聞いた事ないな」

エルバン「☆結構珍しいみたいだね。僕もまだお父さん以外のネス族に会った事ないもん。★いや、正確にはお父さんにも会った事ないんだけどね」

吐き気「複雑な事情があるのか。まあ深入りするつもりはない」

住民「お二人とも、また助けていただいてありがとうございます!」

住民たちも二人に駆け寄ってきて、何度も頭を下げた。

吐き気「気にするな。この辺りにどこか休める場所はあるか?」

住民「あ、それでしたらあちらのお店がおすすめです」

吐き気「ありがとう」

それから吐き気はエルバンを連れて店に入った。

646ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/04(木) 21:52:12 ID:EyQ0ctFM00


吐き気「エルバン、お前の力を見込んで頼みがある」

エルバン「★なに?吐き気」

エルバンは奢ってもらったジュースをチューチューとストローで吸いながら聞く。

吐き気「俺は今人助けの旅をしているんだ。悪人や、さっきのような魔物から人々を守ったりな」

エルバン「☆へえー」

吐き気「だがしばらく旅をしてみて気付いたよ。一人じゃあどうしようもないこともあるんだと。よく考えりゃ当然のことだが、俺は自分を過信していた」

エルバン「★ふーん…それで?」

吐き気「お前の力が必要だ。俺とチームを組まないか?」

エルバン「☆いいよ」

吐き気「…ず、随分あっさりだな」

エルバン「☆ふふ、実は僕も君を気に入ったんだ、吐き気。強い人は好きだ。僕の爆走について来れる人はなかなかいないからね」

吐き気「…そう言えばお前、さっきもものすごい勢いで走ってきてたな。何か用があったのか?」

エルバン「☆走るの、好きなんだ!」

エルバンは屈託のない笑顔で言った。

吐き気「フ…そうか。ならば俺の旅に付き合ってもらう代わりに、俺もお前の爆走に付き合ってやるとするか」

エルバン「☆ホント!?やったー!」

吐き気「…それと…一人の大人として、お前には少々常識も教えてやらねばなるまい」

エルバン「☆常識って?」

吐き気「まず、町中では爆走しないことだ。他人に迷惑がかかるだろう。特にお前ほどの強さの奴が一般人にぶつかっては一大事だ」

エルバン「☆ふーん」

吐き気「ちゃんと聞けよ…うっぷ…」

エルバン「★大丈夫?吐き気」

吐き気「う…吐きそうだ…」

エルバン「★トイレ行ったら?」

吐き気「いや、問題ない…やっと漢方の効力が切れてきたか…オエッ…これでいいんだ。俺は吐き気がないと本来の力を発揮できないことがさっきの戦いで分かったからな…うっぷ…」

エルバン「☆へー。吐き気は変わってるね!」

吐き気「…とりあえず、目上にはさん付けで呼ぶところから始めようか」

エルバン「★さん付け?よくわかんないけど、よろしく吐き気!」

吐き気「…」

こうして二人は共に行動することになった。

647ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:19:55 ID:5cqEJ83g00





数ヶ月後。

北の町の魔法学校では。

昼間「じゃあ㌦、よろしくお願いしますね」

㌦「はい。でも本当に僕なんかが表の学校で教師なんて、大丈夫ですかね…」

昼間「試験は通ったんでしょう。何を怖がることがあるんですか」

㌦「そ、それはそうですけど…」

昼間「来季は稀に見るファイター世代で、表の先生方じゃ手に負えません」

㌦「だったら召喚士さんが行ってくださいよー」

昼間「まったく…わがままを言わないでください。私はこちらの授業で手一杯です。それとも㌦が私の仕事をしたいんですか?」

㌦ポッターは召喚士の机の上にできた書類の山を見て、召喚士の普段の仕事量を思い返す。

毎日朝から晩まで学校の仕事をしながら、自身の召喚魔法の研究も怠らず、さらに㌦ポッターや生徒たちの個人的な指導や相談も行っている。

最近は魔物の出現量が多いため、常に表の空間で異常が起きていないかのチェックも欠かせない。

㌦「…遠慮しときます」

昼間「じゃ、頑張ってください」

㌦「はい……あ、そう言えばこちらの方にも久々にファイターが入学するんでしたっけ」

昼間「ええ。ミカ君というピカチュウ族です」

㌦「ピカチュウ…だったら衝撃と仲良くなれるかもしれませんね」

昼間「どうでしょう…昔よりは遥かに大人しくなりましたが、言葉が喋れないのは変わりませんし」

㌦「喋れなくても同じピカチュウならピカチュウ語が理解できるんじゃないですか?」

昼間「そういうものですかね…」

648ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:20:53 ID:5cqEJ83g00




そしてさらに月日は流れ、春。

㌦(どうして…こうなった…)

初めて担任となったクラスの教室に㌦ポッターが入ると、そこには。

???「くくく…ここをボクのアジトにする!もんくあるやつは、コイツみたいになるぞ!」

黄色い服の少年が、机を何段にも積み重ねて要塞を築き。

???「ちょ、ちょっとやめてよマグヌスくん!たすけてー!」

その要塞の中に囚われているのは㌦ポッターと同じマリオ族の少女。

???「やれやれ…まったくくだらない…マグヌスもチェントゥリオーネも、もう小学生なんですよ?教室では静かにしなさい」

???「わー、インテリくん、すごいむずかしそーな本読んでるねー!」

メガネをクイっと上げながら読書する緑ヨッシーと、バカそうな赤ヨッシー。

???「す、すごいクラスに入っちゃったね、ソーセージ…」

???「ビビったら負けだぞ、幼き弟よ。小学校は幼稚園とは違うんだ。舐められたら終わりなんだ」

自分の股間に向かって話しかける桃カービィと、返事をする股間。

一般人の生徒たちはその異様な光景に怯えながら、離れて見ていることしかできなかった。

すると。


バチーン!!


マグヌス「ぶへっ!」

背後から近付いた何者かによってマグヌスは机の上から叩き落とされた。

???「コラー!!何をやってるんですか!みんな困ってるでしょ!早く机を元の位置に戻しなさーい!!」

それは緑ピカチュウだった。

マグヌス「ボウリョクはんたい!」

???「うるさーい!」

バチーン!

さらにもう一発、ピカチュウは尻尾でビンタを繰り出した。

マグヌス「ぐはっ!」

㌦「ちょっ、ストップストップ!!」

呆気に取られていた㌦ポッターが、ようやく止めに入った。

???「あっ!もしかしてタンニンのセンセー!?」

と、のんきな赤ヨッシー。

649ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:21:28 ID:5cqEJ83g00

インテリ「コテツは相変わらずバカですね…こんな若い先生がいるはずないでしょう」

㌦「いえ、先生です。皆さんのクラスを担当することになった㌦ポッターと言います。よろしくお願いします」

コテツ「ほらー!インテリくんのほうがバカー」

インテリ「なっ…!だってチェントゥリオーネとほぼ同じ見た目なのに…!」

㌦「それはチェントゥリオーネさんの成長が早すぎるだけかと…」

幼き弟「先生、優しそうな人だね」

ソーセージ「んー、頼りなさそうだけどホントに大丈夫か?」

チェン「えへっ、ねえ聞いた?わたし、成長早いって。ってことは、オトナの女性ってことだよ!」

マグヌス「おっさんだろ…」

???「口を動かす前に手を動かすっ!」

ばちーん!

マグヌス「ぶひゃ!」

㌦「こ、こらこら、暴力はダメです!すみませんが皆さん、机を元に戻すのを手伝ってください。みんなでやればすぐに終わりますから」

「「え〜」」

???「口答えしない!先生の言うことを聞きなさーい!!」

「「はーい」」

ピカチュウの一声で、生徒たちは渋々㌦ポッターの指示通りに机を元の場所へ移動させる。

㌦「助かりましたよ、暴力くん。皆さんに信頼されてるんですね」

暴力「えへへ、幼稚園でもガキ大将だったので!悪いことしてる人を暴力で黙らせてるうちに、みなさんから恐れられる存在になりました」

㌦「ええ!?いや、暴力はやめましょう…」

暴力「でも僕のうちではそう教わりました!暴力こそ正義だと!」

暴力ピカチュウは眩しい笑顔でそう言った。

㌦(こ、これは早急に面談をしなくちゃ……でも見た感じ、恐れられてるというよりはみんな本当に彼を信頼してるみたいだ。たぶん彼がマグヌスくんへの抑止力になってるんだな)

暴力「?どうかしましたか?先生」

㌦「暴力くん、このクラスの学級委員長になりませんか?」

暴力「えっ?」

㌦「みんなに信頼されてる君なら、僕も安心して任せられる。どうかな?もちろん強要はしないよ」

暴力「喜んで!僕もそのつもりでした!うちのお父さんは病院の院長なんです。だから僕も常にトップに立って、みんなを引っ張っていく存在になりたいんです!」

㌦「ありがとうございます!でも、暴力はダメですからね」

こうして暴力委員長が爆誕した。

650ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:22:38 ID:5cqEJ83g00





あれから一年。

浪人生は特に目的もなく適当に再び受けた大学に合格し、晴れて大学生となっていた。

その大学内で、女学生たちがウワサをしていた。

女学生「知ってる?すっごいイケメンの新入生」

女学生「知ってる知ってる!たしかリンク族だっけ?」

女学生「ファイターとか言われてる種族らしいけど、見た目ほぼ人間だし、全然アリだよね!」

女学生「頭も性格もめちゃくちゃ良いらしいよ」

女学生「運動神経も神だしマジ神すぎよねー」

女学生「何それ、完璧超人じゃん」

女学生「あっ、ウワサをすれば…」


ゴチンッ!

女教師「いたっ!」

よそ見をして歩いていた女教師が柱にぶつかり、尻餅をついた。

???「大丈夫ですか?」

落とした書類を素早く拾い上げるとともに、手を差し伸べたのは、一人の白リンク。

女教師「ご、ごめんなさい、つい見惚れ…あ、いや、ありがとう、純白くん…♡」

女教師は赤面しながらその手を取った。

純白「ふふ、気を付けてくださいね」

女教師「はい…♡」

女学生「キャーッ!何あのイケメン!」

それを見ていた女学生たちも騒ぎ出す。

そしてそれを見ていた不良たちは。

不良「チッ…気に食わねえなあの一年」

不良「ブッ潰そうぜ」

不良「ファイターだかなんだか知らねえが、あんなヒョロいの囲んでボコせば終わりだろ」

不良「クク…やっちまおう」

不良は集団で純白の方へ近づいていく。

不良「おいテメエ!」

純白「ん?僕?何ですか?」

不良「随分チヤホヤされてるみてえじゃねえか。目障りなんだよなァ」

純白「えぇ…?知らないですよそんなの僕に言われても…」

不良「まあまあ、ちょっとこっち来いや」

と、不良の二人がニヤニヤと笑いながら純白に肩を組み、人目のつかない方へ連れていこうとする。

純白「えっ、このタトゥーイカしてますね」

その腕に彫られたタトゥーを見て純白が言う。

不良「あ?」

純白「あ、先輩のそのピアス!あの有名ブランドのヤツですよね!僕も好きなんですよ!」

不良「お、おう…?」

純白「そちらの先輩の抱えてるヌイグルミのアニメ面白いですよね!」

不良「え…あ、ああ」

651ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:23:03 ID:5cqEJ83g00


それから数分後、純白はいとも容易く不良たちと打ち解けた。

不良「ぎゃははは!意外と面白えヤツじゃねえか!」

不良「今度飲み行こうぜ!」

純白「是非!あ、でもまだ未成年なので、あんまり大きい声で言わないでくださいよ、ふふ」

不良「おう、悪い悪い!んじゃまたな!」

不良たちは去っていった。

男学生「お、おい純白、大丈夫なのか?あんなヤツらとつるんで…」

離れて見ていた純白の同級生たちが寄ってくる。

純白「はは、大丈夫ですよ。ガラは悪いけどそんなに悪い人たちじゃないと思います」

男学生「そ、そうかぁ?思いっきりケンカ売られてたように見えたけど…」

純白「まあまあ、話してみなきゃどんな人かなんて分からないもんですよ。それより、次どこでしたっけ」

男学生「えーっと、第八教室だな…ってオイ、どこ行くんだ純白!」

純白「いや、あの人って…」

ベンチに大学生が寝転がっていた。

男学生「ん?ああ、よく知らねえけどずっとあそこいるよなアイツ。講義も出てないっぽいし」

純白「そうなんですか?」

男学生「うん、俺も話したことはないんだけどさ。そういやアイツもお前と同じリンク族か」

純白「ええ、だからなんか気になって…」

男学生「まあお前が話したいなら好きにすりゃいいけど…とりあえず今はもう行こうぜ。講義おくれるし」

純白「おっと、もうこんな時間でしたか」

純白たちは教室へ向かった。

652ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:24:09 ID:5cqEJ83g00



大学生「はぁ…なんだ俺は…何がしたいんだ…?」


大学生は仰向けになり、空を見上げて雲を眺める。

その目の下には濃いクマができていた。

大学生「…………………」

大学生「…ダメだ…何も考えらんねーや…帰ろ…」

大学生は講義にも出ず、そのまま帰路に着いた。


その途中。

不良「あぁ!?やんのかテメエら!」

敵不良「オレらにケンカ売るたあ、死にてえらしいな」

不良グループ同士が道の真ん中で争っていた。

その片方は先ほど純白に絡んでいた連中である。

大学生「ちょっと通りまーす…」

大学生はその後ろを通り過ぎる。

敵不良「オラァ!」

ドガッ!

不良「ぐえっ!」

殴られた不良が飛んでくる。

大学生「うわっ…」

べしっ!

大学生は咄嗟にその不良を払い除けた。

不良「あぁ!?なんだテメエ!」

大学生「は…?」

不良「邪魔だっつってんだよ!」

不良が殴りかかってきた。

ドゴッ!!

大学生「…すまん」

不良「ヤ、ヤス!大丈夫か!…き、気絶してやがる…」

不良「テメエよくもッ!!」

バキッ!!

またも殴りかかってきた不良を返り討ちにする。

不良「ぐはっ…」

大学生「やめろ…今は…」

不良「マイク…!オイ嘘だろ…!なっ…何なんだテメエはっ!」

敵不良「ぎゃははは!通りすがりにやられてやんの!ザコどもが!」

敵グループの不良たちはそれを見て笑う。

不良「んだとテメエら!!チッ、関係ねえやつは引っ込んでろよ…」

そう言って不良たちは大学生から敵グループへと向き直し、喧嘩を再開した。

大学生「何なんだよ…」

大学生が通過しようとすると。

敵不良「おっ、良いモン持ってんじゃねえの!借りるぜ!」

今度は敵グループの一人が、大学生の背につけたブーメランを掴んだ。

653ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:25:07 ID:5cqEJ83g00

大学生「汚ねえ手で触んじゃねーよ!!」

ドゴッ!!!

大学生はその不良を殴り、道沿いの塀に叩きつけた。

敵不良「ケンジー!!」

敵不良「オイオイオイ!調子乗ってんじゃねえぞコラ!!」

大学生「あぁ!?ざけんな!さっきから何なんだよ!喧嘩なら邪魔にならねートコでやれよ!これは学校のみんながくれた大事なブーメ…ラ……ン……」

と、そこで大学生は止まった。

敵不良「…あ?どうしたテメエ急に黙りやがって!」

大学生(……大事な…?コレが…?)

大学生は空間探査魔法の魔法陣が刻まれたブーメランを、じっと見つめる。

大学生(…コレも…アイツを見つけるために作ったんだよな…)

空間魔法研究に明け暮れた日々。

そしてブーメランを毎日毎日、何年も投げ続けてきた長い旅路の思い出が、脳内を駆け巡る。

大学生(…結局…何の意味もなかったのか…?全部……俺は…間に合わなかった…)

敵不良「オイ!!なんとか言えやァ!!」

不良が飛びかかる。

ギャリンッ!

大学生はクローショットで他の不良を捕らえ、盾にした。

バキッ!

敵不良「ぐえっ!」

不良はパンチの勢いを止められず、仲間を思いっきりブン殴った。

敵不良「うおっ!すまねえ!大丈夫か!?」

敵不良「あ、ああ…てんめえ…舐めやがって…!」

大学生「…もう…いいだろ…」

顔を伏せたまま呟く。

敵不良「いいわけあるか!!死ねや!!」

ドガッ!!

不良は蹴り上げられて宙を舞い。

ドシャッ…

落下。

敵不良「がはっ……」

大学生「…はは…てめーらじゃ俺には勝てねーって」

大学生は泣きそうな顔で笑いながら、不良たちを見る。

敵不良「ク…クソッ…何なんだよコイツはァ!」

不良「いい加減鬱陶しいな!こっちは真面目に戦ってんだよ!水差しやがってよ!」

どちらのグループの不良も大学生の存在が鼻につき、矛先が全て大学生へと向く。

大学生「………」

不良「決着は後回しだ!先にコイツをブッ飛ばすぞ!!」

大学生「…………まあ…たまには…こうやって遊ぶのも面白えかもな」

不良「!?」

大学生「…ケケッ…」

大学生は涙を零しながら、不気味な笑みを浮かべる。

大学生の頭の中で何かが弾けた。

654ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:26:14 ID:5cqEJ83g00


数分後。

不良たちはグループ関係なく、全員が大学生の足元に転がっていた。

大学生「…え?」

大学生は正気を取り戻し、周りを見る。

不良たちはかろうじて息はあるものの、無惨に血まみれになっていた。

大学生「俺が…やったのか…?」

???「そうだよ。よくもやってくれたな」

大学生「え…」

そこに、一人の緑ルイージが現れた。

不良「うぅ…リ…リーダー…」

???「おう、無理して喋るなよ」

大学生「お前は…」

???「地上最強のチェマ。コイツらの兄貴分だ。仇とらせてもらうぜ」

それはかつて片割れに負け、さらに鍛え続け強くなったチェマだった。

今ではその強さに惹かれた不良たちをまとめ上げる存在となっている。

大学生「か、仇って…俺はコイツらの喧嘩に巻き込まれただけだぞ!」

チェマ「問答無用!!」


ガキィン!!


チェマはいきなりパンチを繰り出し、大学生は剣で弾いた。

大学生「話を聞けよ!正当防衛だ!」

チェマ「テメエファイターだろ」

大学生「はあ!?それがなんだよ!」

チェマ「そりゃあ一般人なんか相手にもならねえだろうな。確かにケンカに巻き込んじまったのはすまなかった。俺から謝る。…だが…テメエにゃ無傷でこの場を離れることだってできただろ…!それをテメエは…!!」

大学生「!!」


ドガッ!!


チェマのドロップキックで大学生は大きく吹っ飛ばされる。

655ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/05(金) 21:26:52 ID:5cqEJ83g00

チェマ「ここまでする意味があるか!?剣まで使ってよ!!」

倒れた大学生に向かって叫ぶ。

チェマが指差した先に倒れている不良の体には、大きな切り傷があった。

大学生「な…!あれも…俺が……?」

大学生は自分の背の剣に目をやる。

チェマ「この町じゃケンカに刃物は持ち出さねえって暗黙のルールがある…あれをできるのはテメエだけだ、クソ野郎が!!」


ドガガガガッ!!!


チェマは体を大きく広げて回転し、連打を放つ。

大学生「ぐあっ…!」

チェマ「オラァ!!」


ドギュオオオッ!!!


大学生「かはっ…」

チェマの燃えるアッパーが決まり、数十メートル上空まで大学生は飛ばされた。

ヒューー…

ドサッ…

大学生「ぐ…!」

チェマ「まだだ。これぐらいで許すと思うなよ」

コキコキと指を鳴らしながら、チェマは倒れた大学生に近付く。

警察「オイ!何してるんだお前たち!」

チェマ「……チッ」


こうして大学生は逮捕された。

656はいどうも名無しです (ワッチョイ 4757-a260):2024/01/05(金) 22:05:56 ID:A4ALUwHw00
悲しいな

657ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:13:03 ID:t36Wc5eg00




男「ここから出してやるよ」

後日面会に現れたとある男がそう言った。

大学生「…誰だよ」

男「お前があの不良どもと戦ってんのを見たぜ。随分強えじゃねえか。チェマの野郎にも引けをとらねえだろう」

大学生「…」

男「まあそう警戒するな。俺はこういうもんだ」

男は名刺を見せる。

そこには格闘ジムのスカウトと書かれていた。

大学生「スカウト…」

男「お前の力は格闘技でこそ使うべきだ。ファイターの参加できる特別階級になっちまうから、相手もかなり手強いが、それでもお前ならかなり上まで行けるハズだ」

大学生「…興味ねーよ」

男「ウチに来るって契約してくれるんなら、最強の弁護士を用意してすぐにでもここから出してやれるぜ?」

大学生「…別にいいよ…俺はもう…疲れたんだ…」

男「逃げんなよ!お前はすごい男なんだぞ!頼むから俺を信じてくれ!才能がもったいねえ!」

大学生「なんでそこまで……そんなに強え奴が欲しいなら、それこそあのチェマとかいうルイージをスカウトすりゃいいだろ…」

男「アイツのやってるのは格闘技じゃねえ、ケンカだ!町中のジムからスカウトされまくってるようだが全部断ってるみてえだしな。アイツは格闘技という枠に収まらない、"地上最強"を目指してるんだとか」

大学生「…そうかよ…」

男「それに比べてお前は体格、パワー、スピード、そして戦闘の基礎、技術!ただのケンカとは違う、バランスよく高い能力を持ってる!ウチに来りゃ最高の選手にしてみせるぜ!どうだ!?」

大学生「だから興味ねーって…つうか、あの時そこまで見せた覚えもねえんだが…」

男「フッ、スカウトの目を舐めるなよ。色んな修羅場を乗り越えてきたことくらい、一目で分かるぜ」

大学生「………はあ…分かったよ…」

男「おお!?」

大学生「別に他にやりてーことがあるわけでもねえ…やりゃあいいんだろ」

男「本当かっ!!ありがとう!!よし!すぐに弁護士を手配するぜ!」

失意のドン底にいた大学生には、自分を求めてくれるその男の言葉があっさり刺さったのだった。

658ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:13:29 ID:t36Wc5eg00



その後。

男「ただいま戻りました」

巨大な存在の前に、男は跪いて報告する。

???「おう。首尾はどうだ」

男「あっさり乗ってきましたよ」

???「やっぱりな。アイツはかなりの戦力になる」

男「でも、アンタがいりゃああんな病んだガキに頼らずとも、今の弱体化した須磨武羅組ぐらい潰せるんじゃないですか?」

???「てめえら一般人にゃ分からねえだろうが…ファイターの中にも格ってモンがある。人間や迫力が死んだとは言え、まだ須磨武羅組にゃあかつて俺を倒したA級がいる。俺は所詮"B級の漢"だ」

そう、そこにいたのはかつて須磨武羅組との抗争に敗れ、捕まった筈の茶ドンキー。

ヤクザB改め、B級の漢。

B級「あのガキが出てきたらクスリ漬けにして従わせろ」

男「しかし…あんな強えヤツが簡単に従いますかね?」

B級「フン…崖っ縁でフラついてるガキを闇に引き摺り込むことほど簡単なモンはねえよ」

659ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:14:08 ID:t36Wc5eg00




数週間後、大学生は無罪となり、晴れて拘置所を出た。

そして男に連れてこられたのは。

大学生「…は?ここがジム…?」

男「おう、事務所だ。なんつってな」

大学生「テメー…騙しやがったのか!?」

B級「まあ落ち着け」

ガシッ

B級が現れ、大学生の肩を掴む。

大学生「なんだテメーは…」

B級「俺はこの"B組"を取り仕切ってる者だ。まあ、B級とでも呼べ。俺たちはてめえの強さに惚れたんだ」

大学生「チッ…ヤクザだろテメーら。ヤクザに手ぇ貸すほど堕ちてねーよ…!」

B級「手ぇ貸せなんて言ってねえさ。てめえ…心に深いキズ負ってんな」

大学生「あ?」

B級「分かるよ。俺も昔、最悪の大敗を喫してよ、しばらくろくにメシも食えなかったもんだ」

大学生「一緒にすんじゃねーよ…」

B級「ファイターの痛みを分かってやれるのは、ファイターだけだ。ファイターは強え。だからこそ周りも本人も勘違いしがちなんだ」

大学生「勘違いだと…?」

B級「俺たちの体がいくら頑丈でも…心は普通の人間と何ら変わらねえってことさ。強がる必要はねえよ」

大学生「…」

B級「キツけりゃ逃げていいんだよ。逃げ道なんてたくさんある。だが、塞ぎ込んでると、その道すらも見えなくなっちまう。だからよ…俺がその逃げ道を照らしてやる」

大学生「…ヤクザに…何ができるってんだよ…」

B級「この世界にいるからこそ、できることもあんのさ」

するとB級は大学生の肩を抱き、周りに見えないように小箱を渡した。

大学生「…何だよこれ」

中には薬のようなものが入っていた。

B級「飲んでみろ。辛いことなんかすぐに忘れられる」

大学生「………」

660ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:16:18 ID:t36Wc5eg00




その夜。

大学生(クソ……何やってんだ俺…こんなもん受け取って…絶対やべークスリだろ…)

大学生は一人ベンチに座り、B級から受け取った薬を眺め、葛藤していた。


『キツけりゃ逃げていいんだよ』


優しい声色で放たれたB級の言葉が頭の中に反響する。

大学生はブンブンと頭を振り、それを必死に掻き消す。

大学生(…バカか俺は…アイツらヤクザだぞ…?俺を騙して…いいように利用されるに決まってる…)

661ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/06(土) 19:16:51 ID:t36Wc5eg00




数日後、B組事務所。

ピンポーン

ガチャ…

B級「よう。渡したもん、気に入ってもらえたみてぇだな」

大学生「…全部なくなっちまった……また…くれよ…」

大学生は朦朧とした表情で小さく言う。

やってはいけないことをしている自覚はあるのか、周りの目を気にしながら、フラフラと大学生はB級の元へ歩み寄る。

B級「フッ、勿論だ。そろそろ来る頃だと思って用意しといたぜ。オイ、持ってこい!」

すると事務所の中からヤクザの仲間が、クスリを持ってくる。

B級「同じファイターのよしみだ。今回までタダでプレゼントしてやる」

大学生「ああ…ありがとう…」

B級「欲しくなったらまた来い。ただし少し働いてもらうことになるがな。金を払えるならすぐに渡すこともできるが、見たところそんな大金も持ってねえだろ」

大学生「な…何をすればいい…?」

B級「何、てめぇにとっちゃそう難しい仕事じゃねえ。こういう仕事やってると、面倒な敵も群がってきやがるのよ。それを"掃除"してもらうだけさ」

大学生「掃除…?」

B級「おう。簡単だろ?」

大学生「………ああ……このクソみたいな気分が楽になるんなら俺は……」


大学生「何だってやってやる……ケケッ…」



こうして大学生は壊れ、バッドエンドを迎えた。

662ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:24:31 ID:RcGE18ko00







ここはとある島国。

この国では野球がとても人気である。

そしてこの国の野球では、"バットはどんな物でもよい"という特別ルールがある。

より激しく豪快な野球を求める民衆に応え続けた結果、いつしかこうなった。


カキィィィン!!!!


実況「打ったああああ!!ホームラァァァン!!」

ゆえに、当たりさえすれば必ずホームランになるアイテム"ホームランバット"が高値で取引され、あらゆるチームで使われている。

この球界にもはやヒットは存在せず、全てがホームランなのだ。

が。

実況「さあここで四番、松井の登場です!」

打席に立ったのは、桃カービィ。

その手に持つのはホームランバットではなく…先端に星のついた杖だった。

松井「さて、飛ばすか」

実況「"不思議な星のバット"を携えホームラン予告っ!突如球界に現れたピンクボール、松井☆福耳☆秀喜!今宵も我々に流星のごときホームランを見せてくれるのかっ!」


カキィィィィィン!!!!


実況「ホームラァァァン!!やはりすごいこの男っ!!ホームランバット無しでホームランを量産するぅぅ!!」

663ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:25:07 ID:RcGE18ko00



試合後。

実況「ではヒーローインタビューに参りましょう。今日のヒーローはもちろんこの男、松井☆福耳☆秀喜選手です!おめでとうございます!」

松井「どうもありがとうございます」

実況「松井選手といえばその不思議なバットですが、やはりあれだけ飛ばせるのは、そのバットにすごい秘密が?」

松井「いえ、これはこの間お祖父ちゃんちの蔵を掃除してる時に出てきたものです。なんなのか僕もよく分かっていません」

実況「ええ!?ということは随分古いものですよね?何かすごいお宝なんじゃないですか?」

松井「どうでしょうね。素振りしてみたら妙にしっくり来たので、試合で使ってみようと。そしたらすごい当たるようになりました」

実況「やはりすごいものなんですね!ホームランバット以上に飛ばしていますし!」

松井「いや、あれは普通に僕がすごいだけです」

実況「なるほど!ありがとうございました!」

664ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:25:41 ID:RcGE18ko00



松井「ふぅ…今日もいいホームランが打てた」

松井が帰っていると。

子「ちょっといいですか?」

少年が立ち塞がった。

父である煙草マスターを討つべく旅に出た、リンクの子だ。

松井「ん?どうしたんだい?もしかして僕のファンかな?」

子「スターロッド…間違いない…」

松井「…!?これを狙ってるのか…!?ヒーローインタビューでも言ったがこれはそんなすごいものじゃあないぞ!ホームランバットのほうが飛ぶぞ!」

子「それを僕にください」

松井「いや、だからこれを使っても僕のようには…」

子「野球には興味ありません」

松井「ええ!?」

子「それはスターロッドという武器です。古い蔵の中に眠っていたのなら、もしかしたらあなたの遠い先祖が使っていたのかもしれません。元々カービィが使っていたものらしいですから」

松井「…たしかに昔、先祖の記憶で星の杖を持って戦ってるのを見たことはある…なんか似てるなぁとは思ってたけど、これ本物だったのか…」

子「気付いてなかったんですか!?」

松井「だって僕は野球一筋だし…先祖と違って戦ったことなんてないんだ」

子「そうですか…ではとりあえずそのスターロッドをください」

松井「とりあえずってなんだ!ダメだよ!これは僕の商売道具なんだから!」

子「この世の平和のために必要なんです。かくかくしかじかで…僕が戦わなきゃダメなんです。用事が終わったらお返ししますから」

松井「いやぁ…そんなこと言われても困るよ…」

子「…あなたのことは調べてきましたよ。本当に野球が好きなんですよね」

松井「ああ…だったら分かるだろう?僕にとってこれがいかに大事か…」

子「ええ、全ての原点とも言える野球道具を大切にし、有名選手になった今でもグラブ磨きを欠かさない。そんなあなたにとってバットを他人に渡すなど言語道断でしょう」

松井「分かってるじゃないか」

子「ですが本当にそれでいいんですか?」

松井「え…?な、何が言いたいんだ…」

子「だってそれ、バットですらないですよ」

松井「!!!!」

子「野球に興味ない僕が言うことじゃないかもしれませんけど、この国の野球は変だ。バットはどんなものを使ってもいいなんて…それでも、ホームランバットはまだ一応バットの形を成している。しかしあなたのそれは違う」

松井「い、いいだろう別に!ルール違反をしてるわけじゃない!」

子「自分の胸に手を当てて聞いてみてください。あなたが子供の頃夢見ていた野球選手は、そんな姿をしていたんですか?スターロッドは持ってもホームランバットを持たなかったのは、今の球界に不満があって、一石を投じたかったんじゃないんですか?」

松井「くっ……!!」

子「本当に野球と真摯に向き合うのなら…最高のプレイヤーを目指すのなら…!なんの変哲もないただのバットで戦うべきだとは思いませんか!?」

松井「……!!」

子「野球を心から愛するあなたなら、きっと僕なんかに言われなくたって、もう分かっているハズです」

松井「…………くっ…………!」

子「自分の心に正直になってください松井選手。そしてこの国に、本当の野球を取り戻してください」

松井「……本当の野球…か……フッ…ハハハハハ……!そうだな……負けたよ…完敗だ。持っていきなさい!」

松井はスターロッドを差し出した。

子「本当ですか!」

松井「ああ…だがこれを託すからには、必ず世界を救ってきてくれ…そして野球の未来を守ってくれ!」

子「はい!ありがとうございます。あなたも頑張ってください」

松井「ああ。君のおかげで目が覚めた。また一から鍛え直すよ」

こうして煙草マスターの子は、スターロッドを手に入れた。

665ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:26:55 ID:RcGE18ko00





ヨシオ族の里。

その中央広場では。

鳴りやま「よっしゃー!鍛えた俺の技を喰らえ殺意っ!」


ドガガガ…バゴォン!!


鳴りやまぬヨシオが吹っ飛ばされ、倒れた。

殺意「弱い。次」

奇跡「ありゃりゃ☆鳴りやまぬクン随分鍛えてたのに、全く差が縮まってないや♪」

勇気「それどころかむしろ差が開いてない?どこまで強くなるつもりなんだ殺意くんは…」

鳴りやまぬ以外にも多くのヨシオ族たちが殺意に挑み、ボコボコにされてそこらじゅうに転がっている。

殺意はヨシオ族を鍛えるため、こうして数週間に一度、みんなを集めて特訓の場を設けているのだ。

殺意「そう言えば勇気…お前んとこの子供、随分強いらしいな」

殺意は勇気のヨシオを睨んだ。

勇気「えっ!?勇者のこと!?」

殺意「それ以外誰がいるんだ。ソイツを連れてこい」

勇気「待て待て、勇者はたしかに天才だけどまだ子供だよ。殺意が戦って楽しめるようなレベルじゃないさ」

殺意「僕が勇者の歳の頃にはもうお前より強かっただろ」

勇気「いや、確かに勇者ももしかしたら僕より強いかもしれないけど…殺意くんだってその頃より遥かに強くなってるでしょ?」

奇跡「ん?勇者クンだ♪戦いたいのかな?」

勇気「えっ!?」

勇気の息子、勇者ヨシオがすぐ後ろに来ていた。

勇者「お父さん…僕、もう子供じゃないよ!戦わせて!」

勇気「ほ、本気か!?」

勇者「はい!」

殺意「いい度胸だ。来い」

勇者「よろしくお願いします!」

666ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:27:43 ID:RcGE18ko00

広場の真ん中で勇者は殺意と対峙する。

モブオ「最近飛ぶ鳥を落とす勢いで強くなってる勇者が殺意と戦うらしいぞ!」
モブオ「まじすか!こりゃ見るっきゃない!」
モブオ「頑張れ勇者!殺意をぶっ飛ばせ!」

モブヨシオたちが続々と集まってくる。

勇気「勇者…立派になって…」

奇跡「きゃはっ☆ホント、名前の通り勇者だねぇ♪」

殺意「安心しろ、ガキ相手に本気は出さない」

勇者「えいっ!」

ブンッ!

勇者は青いリボンから取り出した爆弾を放り投げた。

ペシッ!

殺意はそれを軽く払いのける。

ドドンッ!!

地面に当たり爆弾が弾ける。

殺意「!」

その瞬間に勇者は距離を詰めていた。


バチンッ!!


両者のビンタがぶつかり合った。

勇者(重っ…)

ドシャァッ!!

威力は遥かに殺意の方が高く、勇者が一方的に吹っ飛ばされる。

勇者「ぐ…」

殺意「立て。これくらいで終わらないだろ?」

勇者「も…勿論です…!」


ドドドォン!!!


勇者は爆弾を周囲に投げ、撹乱する。

殺意「チッ…そこか」

タンッ!

爆煙の中に見えた影に向かって殺意が飛びかかる。

ぼすっ!

そのまま空中で蹴りを繰り出すが。

鳴りやま「ごふっ!?」

殺意「は?」

それを食らったのは鳴りやまぬだった。

奇跡「鳴りやまぬクン!?何してんの!?」

勇者は倒れていた鳴りやまぬを陽動として放り投げていたのだ。

バゴッ!!

その間に殺意の背後へ忍び寄り、蹴りを繰り出す。

667ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:28:43 ID:RcGE18ko00

殺意「甘い」

勇者「くっ…」

しかし殺意はその蹴りを容易くガードしていた。

殺意「多少頭は使えるらしいが、一つ覚えとけ。そういうのは自分よりバカな相手にしか通じない」

勇者「…」

ひゅぅぅぅぅ…


ドドンッ!!


殺意「!!」

上空から降ってきた爆弾が、殺意のすぐ後ろで爆発した。

勇者「く…はずした…!」

殺意(コイツ…蹴りを止められることも読んで、あらかじめ爆弾を上に投げてたのか…?)

ガシッ!

勇者「ぐっ…」


ドゴッ!!


勇者「うあっ!」

殺意は勇者を掴み、地面に叩きつける。

タンッ

さらに跳ね返った勇者を追って殺意も飛び上がり。


バゴッ!!


下から薙ぎ払い、上空へ弾き飛ばす。

勇者「ぐはっ…!」

さらに殺意もプカプカと浮かび上がり。


バチンッ!!


ビンタをかます。

勇者「ぶっ…」

バチンッ!!

バチンッ!!

勇者が落ちてくるのに合わせて、さらなる追撃の連続ビンタ。

奇跡「ひえ〜、容赦ないねェ♪さすが殺意クン☆」

勇気「ストップ!ストップだ殺意くん!」

殺意「は?」

668ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:29:11 ID:RcGE18ko00


ドドンッ!!


殺意の気が一瞬逸れた瞬間、勇者が落とした爆弾が殺意に命中した。

殺意「けほっ…」

勇者「あ…当たった…」

殺意「……ふざけるなァ!!」


ドゴォッ!!


勇者「ぎゃっ!」

勇者が落ちてきたところに、殺意の頭突きが炸裂。

勇者は遥か上空へと舞い上がった。

殺意「プリプリ…」

そして機嫌を損ねた殺意は去っていった。

ひゅぅぅぅぅ…

ポフッ…

上空から落ちてきた勇者はそのまま倒れ込んだ。

勇気「だ、大丈夫か勇者っ!!」

勇気たちが駆け寄る。

勇気「ひどい怪我だ…担架を頼む!すぐに病院へ!」

669ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:29:53 ID:RcGE18ko00



勇者は病院へ運ばれ、処置を受けた。

勇者「…お父さん…?」

勇気「勇者!目を覚ましたか!良かった!」

勇者「…えっと……そっか……僕…負けたんですね…殺意さんに…」

勇気「ナイスファイトだったよ、勇者!爆弾の使い方もお父さんより全然上手かったし!」

鳴りやま「俺に何か言うことがあるよな、勇者」

勇者「すみませんでした。代わりになるものがなくて…」

勇者は頭を下げる。

奇跡「でも殺意クンがここまでするなんてねぇ…」

鳴りやま「ああ…アイツいつも俺らをボコボコにするけど、大怪我にはならないようになんだかんだ加減してくれるからな。結構焦ってたんじゃないか?まあ俺はそん時意識なかったから状況ぜんぜんわかんねえけどなっ!がははは!聞いた話じゃあ殺意に一発入れたんだろ?」

勇者「それは止めに入ったお父さんに殺意さんが気を取られただけで…僕もあんなつもりでは…」

勇気「ああ…殺意にも勇者にも申し訳ない…」

鳴りやま「だとしてもすげえよ!そもそもその歳で殺意に挑む勇気がもうすげえ!」

奇跡「普通に鳴りやまぬクンより善戦してたしねぇ♪」

鳴りやま「何ぃ!?そりゃ聞き捨てならねえぞ!勇者!怪我治ったら今度は俺と組み手しやがれっ!」

勇者「はは…良いですよ…」

鳴りやま「オイオイなんだよ元気ねえなあ!ってそりゃそうか、怪我人だったわ!」

勇者「……」

しかし勇者は怪我以上に、落ち込んでいた。

670ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/08(月) 20:30:28 ID:RcGE18ko00

勇気「殺意くんに負けたことを気にしてるのか?大丈夫さ。殺意くんには里の誰も勝ててないんだし、歳も上なんだから。気に病むことじゃないよ」

勇者「でも……歳の差以上に、力の差を感じたんです。そりゃ鍛錬も経験も殺意さんの方がたくさんしてきてるから、勝てないのは分かってた…だけど…この先僕が殺意さんと同じ量、いやそれ以上に鍛錬を積んだとしても、追いつけるイメージが湧かない…それくらいの圧倒的な、根本的な力の差…」

鳴りやま「ああ、超分かるぜ!俺も死ぬほど特訓してるけど、差は開く一方だしな!ちくしょうムカつくぜ…もはや突然変異とか言われてるレベルだぞ!同期の俺ですらアイツが本当に同じ種族か怪しいしな!」

奇跡「だねぇ♪殺意クンはちょっとおかしいっていうか…」

勇者「…お父さん」

勇気「ん?なんだ?」

勇者「僕、里の外に出たい」

勇気「え!?どうした突然!」

勇者「旅に出て、いろんな人やものを見てみたい…この里で鍛えてるだけじゃ、永遠に殺意さんに近付けない…そんな気がするんだ」

勇気「外は危険なんだぞ!?」

勇者「分かってます。だけど、行かせてください」

鳴りやま「ハハハッ、良いじゃねえか!可愛い子には旅をさせろって言うだろ!?勇者くらい強けりゃきっと里の外に出てもやっていけるだろうしな!」

奇跡「きゃはっ☆奇跡ちゃんも勇者クン応援するよぉ♪里の外の話、また聞きたいなぁ♪」

勇気「……そうだな。分かった。ただ僕の一存じゃ決められないから、里長に相談しておくよ」

勇者「…!ありがとうお父さん!」

鳴りやま「小さな里から一人で冒険に出るなんて、本当の勇者みたいだな!"勇者ヨシオの冒険"てやつだ!ハハハハ!」

勇者「はは、からかわないでくださいよ」

鳴りやま「しかしそうなると俺との組み手も帰ってからだなー!俺もめちゃくちゃ鍛えとくから、お前も頑張れよ!」

勇者「はい!」


それから二週間後、勇者は里を出発し。

数ヶ月をかけて、いくつかの国を巡る。

そして最後に訪れた国の、とある村で。

勇者ヨシオは本当の〈冒険〉をすることになる。

671ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:46:24 ID:2JIdRYuY00





かつて、㍍アルザークが初めてクローンフォックスたちと交戦した星。

そのエネルギープラント内に、またもクローンフォックスたちが暗躍していた。

???「ふむ…龍脈のエネルギーを喰らった個体はやはりほとんどが即死。生き延びても身体的変異は見られない」

???「だがこの個体は、身体的変異が起きている。あの時と同じように」

そこには、巨大な獣のような宇宙生物が拘束されていた。

それはかつてエネルギープラントを襲ったものと同じ種の生物だ。

???「データを見る限り他の個体と身体的に大きな差異は見られなかったが、一つだけ突出している数値がある。魔力量だ」

???「ごく稀に生まれる魔力の高い個体だけは龍脈エネルギーに耐えることができ、さらに魔力と龍脈エネルギーが融合する事で身体に変異が起こる。現段階ではこの程度の仮説が限界か」

???「では予定通り、CR-344、CR-345を使い実験しよう。平均的魔力である344に対し、345は遺伝子操作を行い魔力を増幅させている」

???「仮説が正しければ、345にはこの個体と同じ異変が見られるかもしれない。この生物にのみ見られる現象という可能性もあるが、試す価値はある」

???「では実験を開始する。CR-344、CR-345、龍脈に右腕を同時に十秒間挿入しろ」

???「「了解」」

上官のようなフォックスの合図で、二人の若いフォックスが龍脈に腕を突っ込む。

???「「ぐあああああ…っ」」

そして十秒後に腕を引き抜く。

片方のフォックスの腕はそのエネルギーによって焼けただれ、ほとんど骨と化していた。

しかしもう片方のフォックスは、無傷だった。

???「CR-345、腕の具合はどうだ」

???「筋肉が変化しているのを感じる…」


ドゴォン!!!


その右腕で、隣の右腕を失ったフォックスを殴り、数十メートル先まで吹っ飛ばした。

???「…魔力を使わずにこのパワーだ。魔力をこめればさらに数倍の威力になるだろう」

???「まだ確実ではないが、仮説はどうやら正しいようだな」

???「あの時解析した変異生物のデータが㍍アルザークに奪われていなければ、ここまで時間を取られることもなかったのだがな…だがまあ、こちらもようやく緻密な魔力操作が可能になった段階。丁度いいタイミングでこのデータが得られた」

???「こうなれば奴の持つキューブも最早必要ないが…㍍アルザークが邪魔な存在である事に変わりはない。場所を特定し次第、小隊を送り込む」

宇宙生物「グオオオオ!!」

???「…時間だ。処分しろ」

???「待て。我々にはオリジナルに任されたもう一つの任務がある。この被験体は奴らを誘き出す餌として使える」

???「分かった。ではCR-338から346は第五基地へ帰還し、結果をオリジナルへ報告する。CR-345の変異した右腕の解析も始めておく」

???「了解」

672ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:48:04 ID:2JIdRYuY00





数日後、フォックスの村では。

カタカタカタカタ…

基地の待機室で、ドドンが何やらパソコンを操作している。

ポルス「ドドン、何してるんだ?」

ドドン「へへ、俺も爆弾職人として自分でも満足いく爆弾を作れるようになってきて、評判聞いた買い手も何人かついたからなドン。本格的に通販サイト作ったんだドン」

ポルス「おー、すごいなドン!」

ドドン「もちろん販売許可は貰ってるドン。これでもっと爆発のよさを広めることができるドン!」

ポルス「あれ、でもじゃあ、まさかドドンもフォックスとしての活動やめちゃうの?」

ドドン「まさか!そりゃ爆弾作りも大切だけど、それはただの手段だからなドン!俺が好きなのは爆弾より爆発そのものだドン。そしてそれが一番近くで感じられるのは、戦場だからなドン!」

ポルス「はは、そっか。さすがドドン、ブレないなドン!」

アルバロ「まったく…副業も程々にしておけよ。それで任務に支障をきたすようなら、貴様がどう考えていようが、アーウィンを下りてもらうぞ」

腕を組み偉そうに座るアルバロが睨みを効かせる。

ドドン「うひゃー、こえードン。アホのくせに」

ポルス「アホバロ」

アルバロ「何か言ったか!?」

ドドポル「なんにも〜」

アルバロ「言っとくがポルス、貴様もだぞ!最近休みにコソコソ出かけて、モノマネ芸人として活動してるらしいな!ナザレンコの真似のつもりか知らんが、任務に集中できんのなら出ていってもらうからな!」

ポルス「愚か者めがっ!我の芸は模倣だが、生き方まで他人を模倣したつもりはないわ!キッカケは確かにナザレンコだし、尊敬している…しかし芸人を目指すのは、まごうことなき我の意思だ!というか休みに我が何をしようと貴様には関係なかろう!」

アルバロ「わ、我の真似をしながら言うでない!」

ドドン「ふふふ、どうだドン。上から目線の喋り方ムカつくだろドン?これがお前ドン」

ポルス「フン、分かったら態度を改めることだな!ワーッハッハッハ!!」

アルバロ「う、うるさいわーっ!!」

673ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:48:21 ID:2JIdRYuY00

ウィーン…

ギル「おふざけはその辺にして。任務よ」

真面目な顔でギルティースが入ってくる。

ドドンたちもすぐに切り替え、真面目な顔で話を聞く。

ギル「南西の星に大型の宇宙生物が現れたわ。他の星からすでに何人か討伐隊や賞金稼ぎが行ったようだけど、全員撃墜されちゃったみたい」

アルバロ「ほう、強そうだな」

ギル「今近くで動けるのは私たちしかいないから、私、アルバロ、ドドンで行くわ。ポルスは待機して」

ポルス「え〜」

ドドン「ま、なんかお土産買ってきてやるドン。ご当地爆弾とか」

ポルス「そんなのあるのかドン?」

ドドン「さあ」

ギル「大型生物の討伐ならドドンの爆弾はかなり役に立つからね。ただしエネルギープラントの近くで暴れてるらしいから、絶対壊さないように注意すること」

ドドン「任せろドン」

アルバロ「ところでさっきから、その"ドン"というのは何なのだ、ドドン」

ドドン「ドドンのドンだドン。いわゆる語尾による鼓舞だドン」

アルバロ「…ギルティース、此奴は何を言っているのだ?」

ギル「さあ…?好きな言葉を語尾につけると気持ちが昂るってことかしら?」

ドドン「そんなとこだドン」

ポルス「お前らもやってみるといいドン」

アルバロ「フン、遠慮しておこう。さあ、無駄話はやめてさっさと準備を始めろ。最速で任務へ向かうぞ」

ドドン「無駄話って、お前が聞いたんじゃないかドン」

ポルス「やっぱアホバロだなドン」

アルバロ「ウザい…!ポルスのせいで二倍ウザい…!」

ギル「いいから行くわよアホバロ」

アルバロ「ギルティースまで!?」


それからギルティースたち三人はアーウィンで任務の星へ。

674ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:49:29 ID:2JIdRYuY00




ドドドドドドド!!!

宇宙生物「グオオオオオオオ!!」

三機のアーウィンが一斉に宇宙生物を撃つが、ほとんどダメージは入っていない。

アルバロ「思った以上に強いな!特にあの振り回す尻尾のパワーが尋常ではない!」

ギル「く…風圧で機体が揺れるわね…!ドドン、私とアルバロで急所が無防備になるように誘導するから、ボムよろしく!」

ドドン「了解ドン!」

アルバロとギルティースは宇宙生物の周囲を旋回し、注意を引く。

宇宙生物「ギャァァァース!!」


ドゴォォン!!

ズガァァァン!!


アルバロ「チッ、暴れ過ぎだ貴様ッ!」


ドドドドド!!


アルバロは宇宙生物の眼球を撃ち抜いた。

宇宙生物「グオオオオッ!」

ドドン「今ドン!!」

ドドンが爆弾のマークが描かれたボタンを押すとアーウィンの下部が開き、砲台が現れる。

ドドン「射出!!」

さらにボタンを押すと、砲台からボム兵が撃ち出され。


ドドォォォン!!!!


宇宙生物の首元にボム兵が命中し、大爆発が起きた。

ドシィィン…!

首は完全に破壊され、頭部が落ちる。

体も力を失い、仰向けに倒れた。

アルバロ「…目標完全に沈黙。任務完了だ!」

ドドン「よっしゃー!」

ギル「ふぅ…結構大変だったわね。二人で来てたら危なかったかも。それにしても、まーた威力上がってるわね、ボム兵…」

ドドン「日々の研究の成果だドン!」

アルバロ「それはいいが…威力を上げすぎて市街地にまで被害が出ないように気を付けろよ」

ドドン「うーん、考えておくドン」

アルバロ「考えるな!!」

ドドン「ははは、冗談ドン」

ギル「それじゃ任務も終わった事だし帰りましょうか」

ドドン「えー、せっかく来たんだしちょっとこの星の町に寄って行かないかドン?調べたところ爆薬売ってるとこもあるみたいなんだドン。ポルスに土産の約束もしてるしなドン」

ギル「…んー…まあそうね。ちょっとならいいわよ。私はスイーツ店でも探そうかしら」

アルバロ「フン、観光に来た訳ではないのだぞ。手短に済ませろ。我はここでアーウィンの整備でもして待つ」

そしてドドンとギルティースはアーウィンを停めると、町へと繰り出した。

675ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:51:24 ID:2JIdRYuY00

アルバロ「まったく…公私混同は控えてほしいものだ。最年長のギルティースまでスイーツなどにうつつを抜かして……まあ、彼奴はナザレンコが引退してからフォックスを先導すべく頑張っておったからな…たまの休息を許してやるのも我の務めか!ワーッハッハッハ!」

女性「そこのフォックスさん」

アルバロ「む…?我か?」

振り返ると、ガラクタを売っている小さな露店から、女性店員が顔を覗かせていた。

女性「はい。私、宇宙整備士なんですよ。それ、アーウィンですよね!」

アルバロ「ああ」

女性「ちょっと見せてください!本物のアーウィン見たの初めてで…!」

女性は目を輝かせる。

アルバロ「見るのは構わんが、勝手にイジるなよ。アーウィンはとても高度な機械だ」

女性「分かってますって!フォックスオタなんで!」

アルバロ「オ、オタ…!?」

女性「おおっ!ここはこんな風になってるんですね!お、これが反重力装置ですか!わっ、コックピットの中もかっこいいっ!ここのボタンは、レーザー砲の操作をするんですね!」

アルバロ「ちょ、オイ!勝手に乗るなよ!?」

女性「はっ!すみませんつい興奮しちゃって…!」

アルバロ「まったく…」

女性「ところでお願いがあるんですけど、ロボットに興味ありませんか?」

アルバロ「ロボット?」

女性「はい!私が独自に開発している戦闘ロボットがありまして、そのモデルとしてフォックス族の姿や動きを取り入れてるんです!」

アルバロ「ほう?ただのロボットに我々の動きなど再現できんと思うが…」

女性「勿論完璧とはいきませんが、フォックス族の任務中の映像なんかを宇宙中探してかき集めて、それを学習させたAIでロボットを動かしてます。見てみませんか?」

アルバロ「なるほどな。フン、まあ奴らが戻ってくるまでここでじっとしているのも退屈だ。一目見るだけなら構わんぞ」

女性「良かった!では呼びますね」

アルバロ「呼ぶ…?」

女性「ええ、自立式ロボットですから呼べばあっちから来てくれますよ」

アルバロ「ほう、面白いな」

女性が手元のリモコンを操作し、しばらくすると。

ガシン…ガシン…ガシン…

露店の裏から、白フォックスが歩いてきた。

女性「これが私の開発したAI戦闘ロボット…その名も"機動戦士"です!」

アルバロ「おおっ!?一瞬本物のフォックスかと思ったぞ!」

機動「俺は機動戦士!お前は誰だ?」

アルバロ「おお、喋るのか!我はアルバロだ!」

機動「アルバロ、よろしくな!」

女性「フォックスに関する記録を調べて、その口調もできる限り再現してるんです」

アルバロ「いいではないか!しかし肝心なのは動きだ。どんな事ができる?」

女性「はい!機動戦士、ファイアフォックスを見せてください」

676ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:54:20 ID:2JIdRYuY00

機動「いいぞ。…ファイヤーッ!!」


ボォッ!!


機動戦士は宙に向かって見事なファイアフォックスを放った。

アルバロ「おおっ!完璧ではないか!」

シュタッ!

機動「へっ!これくらい朝飯前さ」

華麗に着地した機動戦士は、腕を組んでドヤ顔を披露する。

女性「どれだけ映像を確認しても、どういう仕組みで燃えてるのか分からなかったので、取り敢えず頭部と脚部に火炎放射器と推進装置を仕込んで…」

アルバロ「ああ、アレは気合いだ」

女性「気合い!?」

アルバロ「我々フォックスにしかできぬ芸当だからな。解析できずとも無理はなかろう。それで、他には何ができるのだ?」

女性「フフ、すっかり夢中ですね。作り手として嬉しい限りです。それではお次は…」

それから機動戦士はフォックス族の様々な技を再現してみせた。

アルバロ「すごいぞ!威力やスピードは本物には及ばんが、見た目はまごう事なきフォックスだ!」

女性「そうでしょう!しかも実はさらに秘密があって…なんと戦闘機の操縦もできるんです!」

アルバロ「何!?ロボットが操縦を!?」

女性「機動戦士、見せてくれる?」

機動「お安い御用だ」

機動戦士は露店の裏に停めてあった小型戦闘機に乗り込み、しばらくすると。


キィィィィン…


戦闘機は飛び上がった。

アルバロ「おお!?」

女性「機械が機械を操作なんてちょっと変かもしれませんが…AIに記憶させれば、アーウィンだって乗りこなせます!」

アルバロ「ほう!凄いではないか!」

女性「ありがとうございます!」

アルバロ「ワハハハハ!こちらこそいいものを見せてもらった!礼を言うぞ!」

女性「いえいえそんな!本物のフォックス族の方に見てもらえて、こちらの方が感謝ですよ」

アルバロ「ならばこれからも研究に励むのだ!貴様の造るロボットはいずれは我らと共に宇宙を守る役目を担う存在になるであろう!ワーッハッハッハ!」

女性「そう言ってもらえると頑張り甲斐があります!…では、研究に関して最後に一つだけお願いがあります」

アルバロ「む?何だ?」

677ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:55:31 ID:2JIdRYuY00

そこに戦闘機が着陸し、機動戦士が降りてくる。

女性「この機動戦士を買い取ってもらえませんか?」

アルバロ「何…?」

女性「リアルな話、研究するにも莫大なお金が掛かるんですよ…本業はしがない整備士ですから、大した稼ぎもなく…この露店もそのためにやってるんですけど、全然儲からないし…正直ちょっと困ってるんです」

アルバロ「成程…しかし此奴はこれからの研究にも必要なのではないか?」

女性「いえ、本物のフォックスに近付けるためにさらに出力を上げるとなると、一から作り直さなくちゃダメだから、これ以上手は加えられません。それにこの機動戦士には見たものを記憶するメモリーがあるので、皆さんの動きや戦闘データを近くで見せてあげてほしいんです」

機動「メモリーはここだ。お前たちの動きを見れば俺のAIも更新できるし、今後の研究にも役立つ」

機動戦士が腕のところについたボタンを自分で押すと、頭部から筒状のメモリーがニョキッと出てきた。

アルバロ「そうか、これも研究の一環という訳だな」

女性「まあつまりそういうことになります」

アルバロ「フン、そういうことならお安い御用だ!実は我らも人手不足で困っておるのでな。少しでも戦力になるなら金を出す価値はある。Win-Winというやつだ」

女性「本当ですか!?ありがとうございます!」

アルバロ「いくらだ?」

女性「こちらになります」

女性は端末に金額を提示した。

アルバロ「たっっっ…!…い、いや、こんな高性能なロボットならそれくらいするのは当然…か…」

女性「これでも相当まけてます。正直かなり安いと思いますけど…」

アルバロ「う…うむ……ま、まあよい!!男に二言は無いわっ!!持っていけ!!」

アルバロは財布から札束を取り出した。

女性「毎度ありっ!」

女性は満面の笑みでそれを受け取った。

アルバロ「メンテナンスはどうすればいいのだ?この星へ来ればいいのか?」

女性「私、宇宙整備士なのでいろんな星を渡り歩いてるんですよねぇ。こちらに連絡くだされば私から出向きますよ」

女性は連絡先を渡す。

女性「とはいえ機構は意外とシンプルなので、別に私じゃなくても、ある程度宇宙で活動できるレベルのメカニックなら整備はできると思います」

アルバロ「成程、了解した」

女性「それとこちらが操作するリモコンです。電源のオンオフはこれでできます」

ポチッ

とボタンを押すと、機動戦士の目から光が消え、動かなくなった。

女性「離れた場所から呼び出したい時はこのボタンです。状況にもよりますが大体半径十キロ以内であれば届くハズです」

アルバロ「分かった」

女性「それでは、私は次の星へ行かなくちゃいけないので、これで!」

女性は露店を片付け、リュックにしまう。

アルバロ「そうか、研究頑張るのだぞ!」

女性「はい!あなたもお達者で!」

女性は小走りで去っていった。

678ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:56:27 ID:2JIdRYuY00


ちょうどそこへ。

ギル「おまたせアルバロ!…って何これ!?フォックス…のロボット!?」

アルバロ「買ったのだ」

ギル「はあ!?」

アルバロ「フッ、まあ見ていろギルティース。貴様も気に入る筈だ」

ポチッ

リモコンのボタンを押すと、機動戦士が起動する。

機動「俺は機動戦士だ。お前は?」

ギル「喋った!わ、私はギルティースよ。よろしくね」

機動「ギルティースか。よろしくな」

ギル「はえ〜、よくできてるわねえ」

そこへ。

ドドン「おーっす待たせたドン!ってなんだそりゃ!?フォックスのロボットかドン!?」

アルバロ「買ったのだ」

ドドン「買った!?」

ギル「コイツはドドン、爆弾魔よ」

機動「ドドン、よろしくな」

ドドン「おおっ、よくできてるなドン!メチャクチャ高かったんじゃないかドン?」

アルバロ「ま、まあな…」

ギル「でもこんなの買ってどうすんのよ」

アルバロ「性能は本物に劣るが、ちゃんと正常に動作したのは確認しておる。アーウィンも操縦できるそうだ。人手不足の我らにとっては、模造品でもいないよりはマシかと思ってな」

ギル「え…?まさか…」

アルバロ「今後は此奴も任務に同行する」

ギル「ええ!?大丈夫なの?それ…」

アルバロ「問題ない!機動戦士、もう一度ファイアフォックスを見せてみろ!」

機動「オーケー。ファイヤーッ!!」

ボォッ!!

機動戦士は空へ向かってファイアフォックスを繰り出す。

ドドン「おおっ!」

ギル「…んーまあ確かに見た感じは完璧だけど…」

アルバロ「そうだろう!」

機動「ウォォ!」

グシャ!!

アルバロ「グシャ…?」

見ると機動戦士は着地に失敗してバラバラになっていた。

アルバロ「は…はあああああ!?」

アルバロは目をまん丸にして、アゴが外れるくらい口を開けて驚く。

679ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/11(木) 20:56:50 ID:2JIdRYuY00

ギル「あらら…壊れちゃったわね…」

ドドン「ドンマイドン」

アルバロ「そ…そんな…」

アルバロは膝をつく。

ドドン「あっはっはっは!これじゃあ機動戦士じゃなくて、起動戦死だなドン!」

アルバロ「笑い事じゃないわあああ!!」

機動「グギギギ…キ…起動戦死…名称ををを…上書きした…ぞ…」

地面に転がった頭部が喋る。

アルバロ「上書きせんでいいわっ!」

同時に、ジャケットの胸部分についた小さな画面に表示されていた"機動戦士"の文字が消えていき、"起動戦死"と入力される。

ギル「なんか可哀想よこの名前。あ、そうだ!星なんか付けてみたら?可愛いわよ」

アルバロ「何を言っておるのだ貴様までっ!」

ドドン「おもろいなドン!なんかこういうマークも付けてみろドン」

ドドンは地面に指で"ψ"を描く。

起動「…リョ…了…解……"ψ起動戦死☆彡"で上書きした…」

アルバロ「だからせんでいいわっ!!」

ギル「てか真面目な話、詐欺なんじゃないの?」

アルバロ「くっ…!だ…だが確かにこの目で見たぞ…!此奴は本当にフォックスの技を扱えるのだ!それだけは事実!恐らくAIの学習が甘く着地が疎かだったのだ…!」

ドドン「あ、騙された自分を肯定してるドン。詐欺被害者によく見られる傾向ドン」

ギル「どっちにしろこんな脆いんじゃ戦場には連れていけなくない?」

アルバロ「う、うるさあああい!!そ、そうだ!連絡先を貰っておったのだ!問いただしてやるわ!」

ピッ…

『こちらの番号は現在使われておりません』

アルバロ「ふ、ふざけるなあああっ!!」

680ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:19:40 ID:6VYKp6oY00





さらに月日は流れ。

大学では。

生徒「オイオイ…アイツまたいるよ…」

生徒「怖いよな正直…」

生徒「ウワサだと八浪してたらしい…しかも現在五留してるとか…」

生徒「そこまでオッサンには見えなくない?」

生徒「やっぱ何回も警察に捕まってるって噂もマジなのかな…?」

ベンチに寝転がっている大学生を見て、生徒たちは噂していた。

純白「退学になってないなら違うんじゃないですか?」

生徒「じゅ、純白くん…!そりゃそうか、ハハハ…」

生徒「でもよー、部の先輩に実際に見たってやつがいるんだよ、アイツがクスリやって捕まってるの」

生徒「マジかよ。なかなか抜け出せないって言うしな…それなら何回も捕まってるってのも嘘じゃないかも…」

純白「噂に惑わされすぎですよ…ちょっと話してみます」

生徒「えっ!?純白くん危ないよ!やめた方が…」

純白「大丈夫です。僕、強いので」

にこやかに言い、大学生の元へ歩を進める。

純白「あの、すみません。隣いいですか?」

大学生「あァ…?何だてめーは…」

純白「ハハ、そこ座りたいので、ちょっと脚を畳んでくれるとうれし…」

大学生「死にてえのかァ!?」

純白(あ、ダメだこれ。話通じないやつだ。目がイっちゃってる)

大学生「オイ!なんか文句あんのか!?八浪して五留してなんか悪いか!?目上を敬えよ真っ白野郎が!!」

681ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:21:33 ID:6VYKp6oY00


ガキィン!!!


大学生は躊躇なく剣を振り下ろした。

純白「あっぶないなぁ…!僕じゃなきゃ死んでるとこですよ」

純白はそれを容易く剣で受け止めていた。

大学生「はっ…!?」

純白「?」

大学生「ぼっ……僕…また……何を…っ!」

大学生は急に剣を引き、頭を抱えてうずくまった。

純白「だ、大丈夫ですか!?」

大学生「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!」

大学生は泣きながら何度も謝る。

純白(…これが本性…?何か精神を病んでるのか…?まさか本当にクスリを…?)

純白「前に君を見かけた時は、そこまで凶悪には見えなかった。一体何があったんですか?聞かせてください。人に話せば楽になる事だってありますよ」

純白は大学生の肩に手を置き、優しい口調で言う。

大学生「僕……僕は…僕は…!…誰だっけ…」

純白「え?」

大学生「僕って……なんでこんなとこいるんだろう…」

その顔はどこか小さな子供のようだった。

純白(現実逃避…か…?)

大学生「君は誰…?」

大学生は不思議そうに純白の顔を見る。

純白「…ぼ、僕は純白です」

大学生「純白…君もリンク族?家族以外のリンク族、初めて見たよ!」

今度は急に明るい表情になった。

純白「…僕もだよ。君は今、何歳?」

純白は子供と接するように優しく問い掛ける。

大学生「え?えっと…六歳…?だっけ…」

純白(やっぱり幼児退行してる…!?)

682ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:23:11 ID:6VYKp6oY00

大学生「いや…ちげーわ…俺は…十五…いやいやいや…二十…?」

純白(精神が不安定すぎる…一体何があったらこんなことに…)

大学生「ハァ……もういいや…なんでも…クソッ…!クソッ!クソッ!!」

純白「!?」

大学生「酒を…よこせ!!クスリ…!クソがッ!!」

ドガァッ!!

大学生は両腕を振り下ろし、地面を叩き割った。

純白「な、何やって…」

教師「大丈夫か!?」

そこへ教師が駆けつけた。

純白「先生!あぶな…」

大学生「あふぁ…?」

純白「…え?」

四つん這いの状態になった大学生の肩に教師が触れた途端、大学生は突然意識を失った。

教師「おい!しっかりしろ!…気絶したのか…?しょうがない、医務室へ連れて行く…」

純白「だ、大丈夫なんですか…!?」

教師「分からんから連れて行くしかないだろう…こいつは俺に任せて、お前たちはしっかり勉強しなさい」

教師はにかっと笑い、大学生をおぶって運んでいった。

純白「……」

生徒「じゅ、純白くん!大丈夫!?なんか斬りかかられてたように見えたけど!」

怯えて見ていた生徒たちが駆け寄ってくる。

純白「…大丈夫ですよ。言ったでしょう?僕、強いので!」

生徒「それならいいけど…」

生徒「もうあんなのに関わるのやめとけよ!」

純白「…そう…ですね…」

683ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:24:20 ID:6VYKp6oY00



教師「…ったく、Bさんはなんでこんなヤツ飼ってんだか…」

一目のつかないところで、教師は大学生を下ろした。

大学生は眠ったままだ。

プルルル…

教師「はい、もしもし」

B級『俺だ』

教師「Bさん…!」

B級『どうだ?あのガキの調子は』

教師「さ、最悪ですよ!さっき生徒もいる中でいきなり発作起こしやがって!危うく全部バレちまうとこでしたよ!」

B級『フン、まあそうなったらなったで別にいいさ。困るのはそっちだ。生徒の三割がクスリやってるなんて知れたら大学の評判は地に落ちるだろうなァ?』

教師「か、勘弁してくださいよぉ〜」

B級『クク…てめぇらの命運はウチが握ってること忘れんじゃあねえぞ』

教師「わ、分かってますよ…!でも、なんで大学通わせるんですか…?こんなヤベェヤツ、普通に退学して事務所で飼った方がそちらとしても動きやすいんじゃ…」

B級『学生っつう身分は色々都合のいいとこもあんのさ。裁判じゃ有利になるしな』

教師「そういうもんですか…」

B級『つってもソイツはヤンチャすぎて流石にそろそろ庇いきれなくなってきちまったが…最後は絞れるだけ絞って捨てりゃあいいだけだ』

教師「……」

B級『後で事務所に来いと伝えろ。用件はそれだけだ』

ブツッ

教師「はあ…ちくしょう…」

大学生「…あ……お前…?」

教師「!…目ぇ覚めたか」

大学生「ク……クスリ……!」

教師「チッ、そう焦るなって!さっきお前に飲ませた分でなくなっちまったよ」

先ほど肩に触れた時、教師は生徒たちに見えないようにクスリを飲ませていたのだ。

大学生を落ち着かせるための措置だったが、強烈な快楽作用と不安定な精神状態が合わさり気絶に至った。

教師「Bさんが後で事務所に来いとさ。クスリならそこで貰えんだろ、たぶん」

大学生「ハァ…ハァ…クソッ…!」

大学生はすぐにB組の事務所へと向かった。

684ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:25:21 ID:6VYKp6oY00



B級「よう…随分荒れてるじゃねえか」

大学生「いいから早く…っ…クスリくれよ…!」

B級「タダでとはいかねえな。コイツを潰せ」

B級は写真を見せた。

そこには緑帽子のピカチュウが写っている。

B級「コイツは片割れ。須磨武羅組の実質的なボスだ。俺でも敵わねえこの町で一番厄介な奴だが…てめぇなら勝てねえ相手じゃねえ筈だ」

大学生「…かた…われ……」

B級「今は須磨武羅組の事務所にいることは調べがついている。突っ込んで叩っ斬れ。クク…最高級の鉄砲玉だ。奴らもさぞ気に入るだろうぜ」

大学生「片割れ……潰さなきゃ……」

大学生はフラフラと事務所の外へ出た。

純白「何してるんですか?こんなところで」

そこには純白が立っていた。

大学生「あ…?誰だよテメーは…」

純白「純白だよ。忘れたの?」

大学生「……知らねーな…どけ…早く行かねーと…!」

純白「行かせませんよ!どこに行くのか知りませんけど、どうせヤクザに利用されてるんでしょ!」

大学生「っせぇな!!黙ってどけよ!!邪魔なんだよ!!」

ガチャ…

B級「あ…?なんだ、騒がしいと思って来てみりゃあ、コイツのオトモダチか?」

B級が事務所から出てきた。

純白「あなたが彼をこんなふうにしたんですか?」

純白は睨みつける。

B級「フン、コイツが勝手にハマっただけだ。ここはてめぇのような良い子ちゃんの来るとこじゃあねえぞ。痛い思いしないうちに帰った方が身のためだぜ」

すると、事務所からゾロゾロと武装した組員たちが現れた。

純白「…本気で言ってますか?」

ジャキンッ…

純白は剣を抜き、構える。

685ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:26:33 ID:6VYKp6oY00

B級「…………冗談だ。てめぇら退がれ」

組員「えっ?なんでッスか親分!こんなガキやっちまいましょうよ!」

B級「やめとけ。勝てねえよ」

その剣を構えた立ち姿に、B級は脅威を感じていた。

大学生「どけっつってんだろうがァ!!」

純白「!!」


ガキィン!!!


大学生はB級のことなど気に留めず純白に斬りかかった。


ガガガガガッ!!

キィン!!

ドガガガッ!!


組員「嘘だろ…!あのガキとまともにやりあってやがる!」

B級「アイツも恐らくA級…下手すりゃあそれ以上の逸材だ。チッ…勿体ねえ限りだぜ。あの目…ありゃあ真っ直ぐすぎてこっちの世界にゃあ絶対堕ちてこねえタイプの人間だ」

純白「落ち着いてください!ヤクザの言うことなんて聞いたって何も良いことありませんよ!」

大学生「はぁ!?知るかよ!!だったらテメーがくれんのかよクスリをよぉ!!俺を助けてくれんのかよ!?」

純白「そのつもりだよ!!」

大学生「意味…わかんねェーんだよォォ!!」

ダンッ!!

大学生は強く踏み込み、回転斬りを放つ。

純白「遅い!」


ガンッ!!


大学生「…っ」

純白はそれをかわして背後に周り、大学生の後頭部を剣の柄で殴った。

ドサッ…

気絶し倒れる大学生を、純白は体で支える。

そして再びB級の方を睨み。

純白「もう二度と…この人に関わらないでください」

B級「……チッ…てめぇ…何故そんな奴にそこまでする…?ソイツの事は監視させてたが、特に親しい奴はいねえ筈だ」

純白「ええ…友人というわけでもありませんし、なんなら喋ったのも今日が初めてですよ」

B級「あぁ…?」

純白「…なんででしょうね。同じリンクだからでしょうか。放っておけなかった。ただそれだけです」

純白はそう言い残し、大学生を担いで去っていった。

686ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:40:09 ID:6VYKp6oY00




大学生「え…?」

純白「目が覚めましたか」

目を覚ますと、小さな部屋にいた。

大学生「誰だよテメーは…!」

大学生はすぐに背負った剣に手を伸ばそうとするが、そこに剣はない。

純白「そう何度も斬りかかられちゃたまらないからね…寝てる間にこっちで預からせてもらったよ」

大学生「アァ!?なんだテメーは!何が預かっただよ勝手に剣盗みやがって何様だァ!?ドロボー野郎が!!」

純白「純白ですよ。良い加減名前覚えてほしいですね…」

大学生「返せやッ!!」

純白「無茶しないでください。今の君じゃ僕には勝てませんよ」

丸腰で飛びかかる大学生を純白はひらりとかわし、背後に回って関節を固めた。

大学生「いだだだだだ!!アァー骨折れた!!慰謝料よこせ五千万!!」

純白「いや折れてないから」

大学生「早く…早くアレをブッ殺して…!クスリ…!」

大学生は無理やり暴れて抜け出そうとする。

純白「ぐ…暴れないでください!本当に折れますよ!?」

大学生「だったら離せやァ!!」

純白「くっ…クスリなんて使わせません!…お酒とかタバコもダメです!君が今何歳だか分かりませんけど…少なくとも君がそういうのに手を出して、良いことがあるとは思えない!」

大学生「なんなんだよテメーは!!いきなり保護者ヅラしやがって!!」

687ハイドンピー (ワッチョイ 5dfe-51b2):2024/01/12(金) 20:40:46 ID:6VYKp6oY00

純白「それですよ、保護者!」

大学生「あぁぁぁ!?」

純白「何があったか知らないけど、君は時々子供みたいになる!だから僕が保護者になる!僕が君を守る!守りたいんだ!」

大学生「はぁ!?キッショ!!」

純白「自分と同じ顔の人間が、傷つくのも、傷つけるのも、見たくないんですよ!」

大学生「知るかァ!!勝手に見てんじゃねーよ真っ白野郎!!」

純白「同じ大学に通う同じリンク族なんだ!嫌でも視界に入っちゃうでしょ!僕はそれを見て見ぬふりなんてできないんだよ!」

大学生「余計なお世話だっつってんだよ!!」


ボフン!!


純白「うわっ!」

大学生は爆弾を落として爆発させた。

威力はほどほどだったがその拍子に純白は手を離してしまう。

大学生「バァーカ!!誰がドロボーに保護されるっつーんだよ!!同じ顔の他人見る暇あったら鏡見て自分の言動見つめ直しとけハゲ!!」

純白「誰がハゲだっ!」

大学生はその隙に剣を取り返し。

パリーン!!

そのまま窓をブチ破り、部屋を飛び出して逃げていった。

純白「ぼ、僕の部屋が…」

純白の部屋はぐちゃぐちゃになっていた。

純白「…ふ……ふふふ…!いいでしょう…だったら僕も全力で君を止めるよ…!!この僕から逃げ切れると思うなよ…!!」

ダンッ!!

純白も大学生を追って窓から飛び出した。


それから、純白は大学生に付き纏い、壊れた大学生のストッパーとして助けていくこととなる。

バッドエンドで閉じた幕は、こうして再び上がるのだ。

688ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:36:49 ID:p.3o6J2U00





隣国では。

レイア「うおおおおっ!!」


ドゴォ!!


魔物「プギイイイイ!」

レイア「なんだよこの数は!すげえなオイ!」

リア「いよいよ本格的に攻めてきやがったようだな。やれやれ、面倒事は御免だぜ俺は…」

レイア「ははっ、だが修行にゃちょうどいいじゃねえか!」

出すくん「修行?悠長だね…この地上はもうすぐ地獄と化すっていうのにさ!」

レイア「誰だっ!?」

出すくん「僕は口からミミズ出すくん。お前たちを滅ぼすため送り込まれた魔の一族さ!オロロロロロロ…」

ビチャビチャビチャ!

ミミズ出すくんはミミズの魔物を大量に吐き出す。

レイア「うおっ!気持ち悪りい野郎だな!」

出すくん「気持ち悪いだと!?ミミズかわいいだろ!許さん!いけっ、ミミズたち!」

ミミズたちは一斉に二人に襲いかかった。

リア「合わせろや、レイア!」

レイア「おう!」


ドガガガガガガッ!!

グシャッ!!

ブチブチブチ…!!


魔物「ぴぎぃぃぃ!」

二人は息の合ったコンビネーションで次々とミミズの魔物を潰していく。

出すくん「ぼ、僕のミミズたちが…!!くっ!なんて酷いヤツらだ!」

リア「攻めてきたヤツが何言ってやがる…」

出すくん「うるさいうるさい!!いけっミミズー!!」

ビチャビチャ!ビチャビチャ!

ミミズ出すくんはさらにミミズを吐き出す。

リア「チッ、キリがねえな。先にアイツを倒すぞ」

レイア「分かった!んじゃ俺が行くから雑魚は任せるぞリア・リエ!」

リア「はあ?なんで俺がコッチなんだよ。まあいいけど…しくじんなよ」

レイア「バーカ俺を誰だと思ってんだ!おっしゃ行くぞ!!」

ダッ!!

レイアはミミズ出すくんの方へと一直線に走り出す。

689ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:37:23 ID:p.3o6J2U00

出すくん「こっち来んな!オロロロロ…」

レイア「どけぇ!!」


ボゥッ!!


ファイヤーボールでミミズを焼き払い、出すくんの眼前へと跳ぶ。

レイア「オラァ!!」


ドガッ!!


レイアのドロップキックが出すくんの顔面にめり込む。

出すくん「ぐあっ!」

レイア「まだまだぁ!!」


ギャルルルル!!


レイアは空中で回転し、ドリルのように踏み潰す。

出すくん「あだだだだ…!」

レイア「うおおおっ!!」


ズドドドドド!!


さらに回転は勢いを増し、両手足を使ってトルネードのごとく連続攻撃を食らわせた。

出すくん「があぁぁっ!!」

ドシャァ!

レイア「っしゃあ!どうだ!」

出すくん「つ…強い…!クソッ、退散だ!」

レイア「あっ!?待てコラ!」

出すくん「誰が待つか!オロロロロ!」

ビチャビチャッ!

出すくんはまたミミズを吐き、肉壁を作り出した。

レイア「どけっ!!」


ドゴォッ!!


ウネウネウネウネ…


レイアが殴ると、ミミズたちはその腕に絡みついた。

レイア「くっそ!キモいな!」

その隙に出すくんはゲートを開く。

出すくん「フン、まあいいさ…目的は果たしたからね…」

リア「目的…?」

レイア「テメェ、待ちやがれ!クソッ!覚えとけ!俺は灼熱のレイア!親玉に伝えろ!今度来やがったらこの俺がまとめて相手してやる!!」

出すくん「バーカ、お前らなんか幹部たちに比べりゃカスだ。僕みたいな下っ端一人追い返したくらいで調子に乗るな。ははははは!」

そしてミミズ出すくんがゲートをくぐり終えると、ゲートは閉じていった。

レイア「ちくしょう、逃げられたか…」

リア「ったく…しくじんなって言ったよな?」

ミミズの魔物を掃除し終えたリア・リエが、不機嫌そうにレイアを睨む。

レイア「おう、すまん!」

リア「…まあいい。アイツの口振りじゃ、まだまだとんでもねえのがいそうだな。もっと鍛えるぞ、レイア」

レイア「おう!」


それから魔族たちによるこの国への侵略はさらに勢いを増していき。

この二人もまた、巨大な戦いへと巻き込まれていくことになる。

690ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:38:08 ID:p.3o6J2U00





魔界では。

出すくん「お前助け出すのにミミズめっちゃやられたんだから、ちゃんと働いてよ」

下半身「ああ。悪かったな」

ミミズ出すくんは、かつてムッコロズに負け収容所に捕まっていた下半身虚弱体質と話していた。

ミミズでレイアたちの気を引いている間に、ゲートによって魔界へと連れ戻したのだ。

と、そこへ。

ぽふっ

下半身「!?」

突然頭上に何かがのしかかり、下半身虚弱体質はバランスを崩す。

???「やあ。調子どう?」

それは赤カービィだった。

いかに虚弱と言えど軽いカービィに乗られた程度でドンキー族がバランスを崩すはずはないが、カービィがその肩に担いだ巨大なハンマーの重量がそうさせた。

下半身「し、下目使い様…」

出すくん「とりあえず下半身虚弱体質は連れ戻しました」

二人は膝をついて報告する。

下目使いは虚弱の頭上からぴょんと飛び降り、二人の顔を見下ろす。

下目「おっけー。戦力は一人でも多いに越した事はないからね。虚弱はもっと鍛えなよ。下半身とか」

下半身「返す言葉もありません…」

出すくん「ただ地上でちょっと面倒なヤツに出くわしまして…」

下目「は?」

出すくん「灼熱のレイアとかいうヤツなんですけど…もちろん幹部クラスには遠く及びませんが…雑兵の魔物たちでは歯が立たないレベルのヤツが、地上にも意外といるみたいです」

下半身「レイアとかいうのとは違いますが、私も地上のファイターと戦い敗れました…甘く見すぎると予想外の反撃を食らう可能性があります」

691ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:38:33 ID:p.3o6J2U00

下目「ふぅん…灼熱のレイアね。まあ一応妖魔様には伝えとくよ。でもお前たちがもっと強ければそんな報告する前に潰せたはずだろ」

下目使いはギロリと高圧的な目で二人を見下ろす。

出すくん「は、はい…精進します…」

下半身「申し訳ありません…」

デスエン「ハハハハ、まあそういじめてやるなよ。地上じゃあそういうのはパワハラというらしいぞ」

そこにΦデスエンペラーが歩いてきた。

下目「デスエン。お前には関係ないだろ」

デスエン「なんだよつれないな。もうすぐ地上に出るんだろ?だったらもう少し地上のことも知っておくべきじゃないのか?」

下目「知る必要ないでしょ。どうせ僕たちが全部踏み潰すんだ。それに本当の目的は地上じゃなくてその上…天界の神とやらを見下すことだ」

デスエン「フッ、痛い目を見ても知らんぞ?」

下目「勝手に言ってろ」

デスエン「まあいい。俺もちょっと準備があるんでな」

デスエンは去っていく。

下目「何?まーた何か企んでんの?」

デスエン「企みというほどのモンじゃあない。だが、上手くいけば面白い事になるかもしれんぞ。"お前の企み"のようにな」

下目「…何の話だよ」

デスエン「フ、俺に隠しても無駄だ。だが口を出すつもりもないさ。精々頑張れ」

下目「チッ…」

出すくん(下目使いの企み…?何の話してるんだコイツら)

692ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:39:07 ID:p.3o6J2U00





王国の城下町では。

???「初めまして!僕はÅライムライトÅと申します!」

ヒーロー「お、おう…?見ない顔だな?」

ヒーローの前に現れたのは黄色い服の少年だ。

ライム「はい。先日引っ越してきました。あなたが噂のヒーローさんですね?この町を守ってるとか…」

ヒーロー「ああ。守るも何も、この国は平和すぎてパトロールくらいしかする事がないんだがな」

ライム「良いことじゃないですか。うちの家族も、世界一平和な国だって聞いてこの国に来たんですよ」

ヒーロー「そうだったのか。フッ、それは光栄なことだ。もし何かが起きてもこのヒーローがご両親共々絶対に守り抜くから、安心して過ごしてくれ」

ライム「ふふ、心強いですね。まあうちお父さんはいないんですけどね…」

ヒーロー「…そ、そうか…」

ライム「あっ!誤解しないでくださいね!死んだとか、離婚したとかじゃないんです。海外でのお仕事が忙しくて、ずっと会えないんですよ」

ヒーロー「なるほど。寂しくはないか?」

ライム「いつも電話してるので平気です!会いたくないと言えば、嘘になっちゃいますけどね」

ヒーロー「そうか…そうだよな。もしよかったらこの国の名物を紹介するよ。F-ZEROというレース競技だ。あれを見ればきっと興奮で寂しさなんて忘れてしまうぞ」

ライム「F-ZERO…聞いたことあります!今度行ってみますね。ヒーローさん、ありがとうございます!」

693ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:39:32 ID:p.3o6J2U00





極道の町の町はずれの、とある一軒家。

???「うおおー!!やっぱヒーローかっこいい!!」

テレビのヒーロー番組を観ながらはしゃぐのは、青い服の少年。

母親「こらアマゾン、こんな朝っぱらから大声出さないの。近所迷惑になるでしょ。ヒーローなら他人に迷惑かけちゃダメ」

アマゾン「はっ!そうか…確かに…気をつける」

番組が終わると、アマゾンは机に自由帳を広げた。

アマゾン「ぼくがヒーローになったら…」

自由帳に大きく稚拙な妄想を描いていく。

アマゾン「このへんに星をつけて…ポーズは、こうだ!へんしーん!グレイトォー…アーマーゾン!!」

イスの上に立ってポーズを取る。

母親「だからうるさいってば」

アマゾン「あ、ごめんなさーい」

母親「それと…パパに電話しなくていいの?テレビ見終わったらするって言ってたよね?」

アマゾン「あ!わすれてた!」

アマゾンはタンスの上に設置された黒電話の元へと走った。

694ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:40:19 ID:p.3o6J2U00






数ヶ月後。

とある村。


ドドドドドドドドドド…!!!!


卍「なんだ…?この音…」

バロン「すごい地響きですね…地震…?揺れはそんな強くないですけど…」

卍「いや…何かイヤな予感がする。出るぞ!」

ジムでトレーニングしていた二人は、すぐに着替えて外へ出る。

住民「うわああああっ!!」

卍「!!」

バロン「こ、これは…!」

魔物「グオオオオオッ!!」

そこには大量の魔物が出現していた。

卍「なんという数の魔物…!!バロンムッコロス、パワードスーツを着ろ!」

バロン「は、はい!」


ドガガガガガッ!!!


二人は、というかほぼムッコロズが、次々に魔物を倒していく。



そして数十分後。

卍「はぁ…はぁ…くそっ…犠牲者が出てしまったか…」

魔物は全て倒したが、何人かの住民が血を流して倒れていた。

バロン「あ…あの数じゃ仕方ありませんよ…」

卍「俺たちだけでは限界がある…もっと戦える者を増やさなくては」

バロン「増やすって…どうやって…」

卍「住民を俺たちで鍛えるんだ。自分の身を自分で守れるように。ファイターじゃなくとも、武装して戦い方さえ覚えれば、雑兵程度ならなんとかなるはずだ」

バロン「なるほど…でもそもそも体を鍛えてない人を今からトレーニングするには時間が…」

卍「ああ、分かってる…侵略はもう始まっている。ある程度屈強な肉体を持っている者を集めるんだ。時間がない。すぐに始めるぞ。俺は軍に連絡するから、お前は周辺の町や村に連絡してくれ」

バロン「了解です!」

695ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:41:03 ID:p.3o6J2U00





動物たちの村では。

魔物「ギャオオオ!!」

ドゴゴォ!!

ゾウ「うわああ!!」

サイ「ぎゃああああ!!」

ここでも大量の魔物が暴れていた。

住民たちが次々と犠牲になり、建物は破壊されていく。

ねこ「やめろー!!」


ドガッ!!


魔物「グギャア!」

ねこ「はぁ…はぁ…くそ…急にこんな魔物が出てくるなんて…!これじゃとても守りきれません…!」

ねこは戦い続けてボロボロになっていた。

テングザル「ねこ、ここは俺たちに任せろ!」

ウォンバット「その体じゃこれ以上は無理だよ!逃げて!」

ねこ「そんな!ファイターのボクが逃げるわけにはいきません!」

テングザル「フッ、実は俺たちだってファイターなんだぜ!」

ねこ「えっ!?」

ピカーーン!!

テングザルとウォンバットの二匹の体が光る。

次の瞬間、二人はマリオとルイージになった。

テングザル「これが俺たちの真の姿だ」

ねこ「な、なんと!」

ウォンバット「行って、ねこ!さっきテレビ見てたら速報が入って、魔物はこの村だけじゃなくこの国の各地で暴れてるらしいんだ!」

テングザル「魔物はどんどん勢いを増してる…被害は世界中に広がっていくハズだ…!こんなところでお前を失うわけにはいかねえ!幸運を呼ぶお前が行って、世界を救うんだ!」

ねこ「で、でも…!」

テングザル「今のお前じゃ足手纏いだって言ってるんだよ!」

ねこ「…!わ…わかりました……!みなさん、どうかご無事で!」

ねこはヨロヨロと歩き、村を離れていく。

魔物「ギャオオオ!!」

そこへ数匹の魔物が走ってきた。

ねこ「うわっ!…………あれ?」

魔物はねこを素通りした。

ねこ「き、きづかれなかった…?運よすぎか」

その後も何度も魔物と遭遇するも、運良く気付かれず、やがてねこは村から完全に脱出した。

ねこ「はぁ…はぁ…なんとかして、魔物を追い払わなきゃ…でもボクひとりじゃとてもムリだ…いっしょに戦ってくれるつよいヒトをさがさなきゃ…!お兄さんをさがして旅に出た妹ちゃんは無事だろうか…」


それから程なくして、ねこは近隣の村に到着する。

そして国の状況を把握するためニュースを見て、故郷の村が完全に滅ぼされたことを知る。

696ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:42:23 ID:p.3o6J2U00





魔界。

地上を蹂躙していく魔物たちの映像が、空中に大きく映し出されている。

その前には大量の魔族が隊列を組み集まっていた。

???「…これが地上だ。貧弱な人間共など、我等の敵ではない…!時は来た!征くぞ!我らの世界を取り戻すのだ!!」

先頭に立つ巨大な青ドンキーが声を上げる。

魔族「ウオオオオオオオオ!!!!」

魔族たちもドンキーに続いて雄叫びを上げた。

???「フンッ!!」

ドンキーが両腕を大きく広げると、その隊列の横に大量のゲートが開いた。

下目「進め!魔族の力を知らしめるんだ!」

ヤミ「フハハハハッ!!地上の虫どもを蹂躙せよ!!」

ドンキーのすぐ後ろに控えた下目使いとヤミノツルギ†が号令を出し、一斉に魔族たちはゲートをくぐっていく。

下目「我々も行きましょう、妖魔様」

ボォッ…!!

ヤミノツルギはファイアフラワーから放つ炎を操り、大きな輪を作った。

そしてその火の輪はゲートとなって地上の景色を映し出す。

魔物「ギャオオオオオ!!」


ドドドドドドド…!!


そのゲートから、ゴブリンのような魔物たちが先陣を切って地上へ出る。

そして下目使いとヤミノツルギがゲートの左右に跪き。

ヤミ「さあ、お通りください、妖魔様」

ドンキーはゆっくりと歩を進める。

ザッ…

ザッ…

ザッ…

そしてゲートを越えた先には。

697ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:43:22 ID:p.3o6J2U00

???「…これが地上か…いつ以来だ、この景色は…」

魔物によって破壊されていく村。

逃げ惑う村人たち。

村人「きゃああああ!!」


ドォォン…!!

ズズゥゥン…!!


村人「う、うわああっ!!」

そして逃げた先に、そのドンキーとかち合ってしまった不運な村人は、足を竦ませ尻餅をつく。

村人「ヒィッ…!なんだあのゴリラは…!!」

ドンキーはギロリと見下ろし、言う。


???「我はキング・オブ・妖魔…!いずれ世界を我が手中に収める者なり…!」





第四章 完

698ハイドンピー (ワッチョイ a57f-f411):2024/01/14(日) 19:53:32 ID:p.3o6J2U00
ここまで読んでいただきありがとうございます!
というわけで第四章は浪人生編?でした!
こうしてハイドンピー第一作目の〈勇者ヨシオの冒険〉に繋がっていきます
例によって書き溜めのためしばらく休みますが、クライマックスとなるであろう第五章を気長に待っていただけると幸いです
待ってる間に、四〜五章を繋ぐ勇者ヨシオの冒険や他作品もいかがでしょうか(宣伝)
感想等頂けると喜びます!

699はいどうも名無しです (ワッチョイ a417-3448):2024/04/12(金) 16:41:56 ID:VkdGbQ3U00
まだ回収されてない部分がどうなるのか気になる


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