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国際関係・安全保障論
4004
:
とはずがたり
:2016/08/05(金) 23:17:43
表向きは小説という体裁だが、シレフは私が行ったものを含む多くのインタビューで、ロシアとの全面戦争が勃発する可能性は非常に高いと強調している。同著作によると、明らかにウラジミール・プーチンがモデルである名無しのロシア大統領は、石油価格下落などに伴う国内の経済的苦境から国民の目をそらす目的で、ウクライナとNATO加盟国であるバルト3国の双方に対して同時に戦闘を開始する。
それにもかかわらず、西側諸国の首脳は自分たちの限られた軍事力を過大評価する。大陸側と島国の両方の政治家は、国内政治を気にかけ、戦争に対して全身全霊をかけるまでいかない。結果としてミスの連鎖となり、もしかすると致命的な結末に至るかもしれない。
こういったことが現実世界で起こるとの緊張感はなく、あっても遠い先だと考えられてきた。だが、プーチンはロシアの誇りを回復することを、その統治の中心に据え続けている。
ロシアは「ハイブリッド戦」に長けている
特にクリミアにおいて、ロシア政府は軍事評論家が「ハイブリッド戦」と呼ぶようになってきている手法に非常に長けていることを見せつけた。すなわち政治的に相手側を操作し、自国軍ではないと言い張れる部隊、特に階級章を外した部隊を利用して、正規軍に頼らずに成果を得ることだ。西側の複数の高官によると、これは、ロシアが西側諸国を大幅にリードしてきた分野なのである。
しかしながら、過去10年間に得られたもう一つの教訓は、いざロシアが全面攻撃を決断する場合、実際に2008年にグルジア、2014年にウクライナ、さらに昨年のシリアに対して行ったように、西側のアナリストの予想をはるかに上回る物量とスピードを駆使するということだ。
もちろん、問題なのは紛争を避けるための最善策を本当にわかっている人など、誰もいないということである。シレフや多くの他者、特に東側のより脅威にさらされているNATO諸国にとって、答えは抑止力の強化であり、その地域に十分な戦力を配置し、ロシアの通常戦力を用いたあらゆる侵略を困難にすることである。
上で述べたことのほとんどが、少なくともある程度までは、すでに現実のものとなっている。米国は2014年以降、欧州での軍備を劇的に強化し、高度に重装備な兵器を配置するだけでなく、戦車や特殊部隊などをロシアに隣接した前線の国々に送り込んでいる。
一方のロシアはこの10年間、石油で得た収入を惜しげもなく軍事費につぎ込み、近隣諸国に圧倒的な力を持つ軍隊づくりを虎視眈眈と進めてきた。いくつかの予測によれば、ロシアは国境を接する国々の国軍及びNATO軍を即座に打ち負かすのに足る以上の軍事的能力を、既に備えている。
過去のウクライナやグルジアと同様、最も発火点となる可能性の高いのはロシア系住民の人口が多い地域であり、どうしてもバルト3国との国境地域ということになる。こうした国々の政府はすでに、それら地域においてリスクを減らすための軍備増強や政治的努力を積み重ねている。しかし、専門家の中には、NATOの対策は過剰に軍事的な緊張を高めるだけになりかねないとの指摘もある。
NATOの非加盟国であるウクライナもグルジアも、2008年と2014年にロシアと戦争状態になったとき西側の軍事支援を頼ることはできなかった。バルト諸国の場合は事情が異なる。NATOの創立憲章の保護下にあり、1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなされるからだ。
西側の即応体制に穴も
冷戦期にNATOの欧州連合軍司令官は、欧州に駐留するNATO軍の対ロシア作戦での指揮権を持っていた。しかし現在はそうではなくなり、多くの決定を下すのには加盟国の政治的な承認が必要になった。これはある意味厄介な状況であり、侵略された場合の対抗措置は、以前と比べて遥かに打ち出しにくくなるだろう。
ロシアはこの種の対立が起こった場合の戦略の中心に、核戦力を置いている。西側の専門家によると、最近の軍事演習ではロシアが言うところの1回限りの「戦争の拡大を防ぐ核攻撃」の占める割合が、非常に高くなっていたとのことである。
その戦術は非常にシンプルではあるが、著しい危険をもたらしかねない。理論上は、ロシア軍がNATOのような敵と交戦して一度通常戦で勝利した場合、西側諸国を脅して軍を解隊させ結果を受け入れるよう迫るために、核ミサイルを一発発射する、というものだ。
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