ウラサキさん、お待たせしました。自宅に戻ったので、数日前にウラサキさんの質問にざっと応えた内容を補足しておきます。さしあたって「国民国家」と nation state の翻訳について少しく個人的な観点から述べたいと思います。英語と日本語を対応させるに際して、戦後の日本人にとって比較的なじみもあり、しかも公的な文言として国家を規定してきた日本国憲法の英訳を参照してみます。占領下において公布された日本国憲法の成立過程においては複雑なものがありました。短期間ですが占領軍と日本政府の間で緊張した交渉の往還があったでしょう。私見では、だからこそ英語と日本語の対応については当時の両国の高い知性が反映されていると考えられるからです。
自宅を離れている間に日本国憲法の英文を眺めていました。ウラサキさんも御承知でしょうが、くだんの日本国憲法においては、「国民」はほとんどthe peopleまたはthe Japanese peopleと翻訳されています。ただ唯一例外的な箇所でnationが使われています。その部分が、いわゆる前文における「諸国民(all nation)との協和による成果と…<中略>…ここに主権が国民(the people)に存することを宣言し、この憲法補確定する」の件りですね。憲法前文でnationが用いられているのはこの箇所だけです。前文ではなく全文ではどうなのか、ざっと目を通した限りでは確認できません。どうやら日本国憲法では国民の英訳はpeopleが該当し、文脈によって例外的にnationが採用されているようです。