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邪気眼少女の攻略法。

89心愛:2012/10/09(火) 07:56:33 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp






「……結野」



赤い双眸がこちらを向く。



彼女のしなやかな強さに、そしてかつての“ミウ”の面影に触れ、


今や、俺はこの痛みを一人で抑え込むことが、できなくなっていた。




「俺、昔さ。いじめられてたんだよね」




結野が目を見開く。



こんなこと話したって、彼女を困らせるだけ。
なにも良いことなんてないのに。



何故だろう……どうしても、結野に聞いてもらいたくなってしまった。



勢いがついてしまえば、情けない言葉の吐露はもう止まらない。



「いや……あんな程度をいじめって言うのは、ほんとにいじめに遭ってる奴に失礼かもしんないけど」



ははっ、とできるだけ明るく……みっともなく、笑う。



「俺、小さいときからみんなと一緒っていうのがどうしても好きになれなくて。学校でもつれなくしてたらさ、いつの間にか、自然とみんなの方も俺を『いないことにする』ようになっていった。……それは別に良かったんだけど、わざと聞こえるように悪口言われたり、あからさまに避けられたりした」



結野は一瞬だけ、泣き出しそうにその整った顔をくしゃりと歪めた。



……つくづく最低だな、俺。


結野は俺なんかよりもずっとつらい思いを経験してきたというのに、こんなにも強く眩しく、まっすぐに生きていて。

俺はと言えば、自己満足のために弱い自分の胸の内を女々しくぶちまけている。



……本当、最低だ。




「それで、そんなことなら最初っから孤立してればいいって気づいて。それからは、常に同年代の人間とは関わらないように気を配ってたから……小学校でも中学校でも―――ずっと、一人だった」



九年間。


自分の席の周りだけ、ぽっかりと穴が開いているような気がした。


ひそひそと囁かれる声、笑い声を聞くたびに、自分のことではないかといつも怯えていた。


卒業式の日だって、
みんなが泣いて、別れを惜しんでいる中で―――


俺は、これっぽっちも、悲しいと思えなかった。


悲しいと思えないことが、一番悲しかった。



「結野は俺のことリア充って言ってくれたけどさ、これで分かっただろ。……さすがに高校はこのままじゃまずいって思って、見た目とか、悪い癖とか必死に変えて。今もへらへら笑って精一杯……みっともなくあがいてるだけってわけ」



今までの俺を知る人が誰も適わないくらい頑張って勉強して、思惑通り俺の中学ではたった一人、この南高に合格した。

それからも勇気を出して近所の床屋じゃなくて美容院に行ってみたり、ださい眼鏡をやめてコンタクトにしたりした。


……でも、肝心の中身は全く、なにも変わってなかったんだ。



「ほんと、結野とは大違いだよ。結局、嫌なことから逃げただけ。どんなに見た目が変わっても、俺は暗くて、弱いままの―――」





「―――くだらないな」





凛とした、氷のように冷たく透き通った美しい声。



今まで俺の話を黙って聞いていた結野は、ふん、と小さく鼻を鳴らして、



「言いたい奴には言わせておけばいいんだ。
君のどこが暗いって? 君が弱い? はっ、笑えない冗談だな」



絶句した俺を、心底馬鹿にしたようにせせら笑う。



「本当の弱虫なら、まずぼくに近づこうともしないだろうし、自分を変えようなどと思いつきもしないよ」



……もしかして、このひねくれた、優しい少女は、



「そんな意味の分からないことで悩んでいる時間が勿体無いだろう」



俺を、励まそうとしているのか?



結野の強い眼差しが、厳しい声が、


身体中に、優しい温もりを沁み渡らせていく。




「君は、自分の道を選択したのだろう? あとは進むだけなんだろう? なら胸を張って、前へと進めばいいだけの話じゃないか」




憐憫も気遣いもなく、ただ当たり前の、ちっぽけな真実を語っているだけのように―――結野は続ける。


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