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邪気眼少女の攻略法。

5心愛:2012/09/16(日) 14:17:14 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp




彼女はひょい、と僕の隣のブランコに腰掛けて、艶やかな髪を風に靡かせながら。



『風ってどこから生まれるんだろうね』



彼女は不思議な子だった。
身の回りの色々なことを良く見ていて、感受性が強くて、純粋で、自分に正直で、子供っぽくて、一つ一つの仕草が妙に洗練されていたりした。

僕は彼女の話に耳を傾け、共感して頷いたり、時には自分の意見を言ったりした。

他の子と一緒にいるより、ひとりで遊ぶ方がずっと好きだったはずなのに。時間も何もかも忘れてしまうくらい、彼女と話すことが、すごく、すごく楽しくて。



『わたしはね、“自分”をさがしてるの』



内緒だよ、と彼女は笑った。



『……自分?』



『そう、自分』



ブランコから軽やかに降りると、彼女は両腕を思いっきり広げて夕焼け空を振り仰いだ。



『わたしが一ばん、こうありたいって思える自分。他人におしつけられる、いい子の自分じゃなくて、わたしが心から、なりたいって思える自分……。そんなリソウの自分を、ずうっとさがしてるんだ』



眩しかった。

赤い空が、まっすぐに生きる彼女が眩しくて仕方なくて、僕は思わず目を細めた。



『きっと見つかる』



だから、僕も笑って言った。



『ううん……ぜったい、見つかるよ』



『ありがとう!』



いつの間にか彼女の満面の笑みに見惚れていた自分に気づき、なんだかどぎまぎしてしまって、ついパッと逃げるように視線を逸らす。



『……あ』



『帰る時間?』



『うん。あんまりおそいと怒られるから』



時計の針が指し示す数字を見て、僕はブランコから立ち上がる。

それを聞いて、残念、と少し寂しそうに、彼女は手を振ってみせた。



『……あの!』



僕はありったけの勇気を出して叫んだ。



『また、会えるかな』



このまま別れるなんて嫌だ。
もっといっぱい、彼女の隣で、一緒に話していたい。
そう、思ったから。



でも、彼女は首を横に振った。



『ごめんね。……むりなの。明日、ちがう町に引っ越すから』



『え』



『今日も、ここにさいごのお別れをしに来たの』



眉を下げる彼女は儚くて、目を離したら今にも、この空に溶けて消えてしまいそうに見えた。



『だったらっ』



僕は必死だった。

もう、会うことができないのなら、せめて。

彼女の手掛かりを、一つでも手に入れたいと思った。



『名前、おしえて』



『ミウ』



白いワンピースの裾が、ばさり、と音を立ててはためいた。



『ユイノ、ミウ。あなたは?』



『……日永(ひなが)』



普通の小学生にしてはちょっとだけひねくれていた僕は、何となく自分の下の名前を素直に言うのは恥ずかしくて、敢えて自分の名字だけを告げた。


彼女―――ミウは不思議そうに瞬きして。
それから、大輪の花が綻ぶように、柔らかく微笑んだ。




『―――じゃあ、“ヒナ”ね!』




その笑顔は、可愛くて、優しくて、綺麗で、何よりもまばゆくて。




―――それが、初恋だった。








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