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叫号〜Io ripeto un incubo〜
1
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/10(火) 16:59:44 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
さて、前作から見てくださっている方はこんにちは。この作品からの方は初めまして、霧月蓮という者でございます。
今回は前作「Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜」の続編となる小説を書かせていただきます。
新たにスレを建てましたのは、タイトルが完全に変化していること、続編といいつつもキャラがほぼ全員新しいキャラであることを考えて、のことです。前作でキャラはほとんどお亡くなりになってますしね((
舞台については相変わらずある学園。ただし、今回は学園内だけでなく、あちこちへと飛び出していく予定です。ちゃんと書けるか心配すぎます。と、言うか前回のような連中が学園の外に出ても大丈夫なのかしら……? と考えていたり。
タイトルのIo ripeto un incuboはイタリア語で「私は悪夢を繰り返します」という意味。翻訳さんに頼ったりしたんで自身はないです。
叫号は「大声で叫ぶこと」……あぁ、何かタイトルから嫌な予感しかしない((
!注意事項!
・誤字、脱字、言葉の誤用が多いかと思われます。1度辞書を引いてから使おうとは思いますが、そういうのを見つけた場合お知らせいただけると大変助かります。
・一応遠まわしに描写するようにしますが、主人公その他諸々、非常に口と頭が悪いです。気分を害された場合直ちにブラウザバックを連打してください。
・気をつけるようにはいたしますが、流血表現等が多々出てくると思います。そのようなものが苦手な方はご注意ください。
・アドバイス等常時お待ちしています。すぐに繁栄できない可能性もありますが、出来うる限り反映させていきます。
h*ttp://jbbs.livedoor.jp/school/6734/#17 ←前作:Il record dell’incubo〜悪夢の記憶〜 読まなくても等作品を読むのに支障はありません。
2
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/10(火) 20:51:22 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
序章 桜蘭学園
いつの間にか人間は空飛ぶ都市を作り上げるまでの力を手に入れていた。もちろん一まとめに人間と言っても中には超能力者もいるし、科学者も魔法使いもいる。それらの全てが手を貸し合って出来たのが天空都市、エーテレ。
その中心には城や政治的中心地があるわけでもなく、巨大な学校が一校だけある。学校を取り囲むように配置された町もすっきりと整備されていて、相当な方向音痴でない限りは迷わないだろう。店のほかに多いのは学生寮だ。一般の民家なんていうものは殆どない。……まるで何かを隔離するためだけに作られたような、そんな印象を受ける町。
そんなエーテレの中心部にある学校は桜蘭学園と言う。能力者や魔法使い、吸血鬼……そんな具合に一般人から少し外れた力や見た目、性質を持った人々が集う唯一の学園。多くの人間が憧れ、そして入ることさえ出来ない学園。
「やれやれ入学式前日まで準備をしないとはうちの教師陣はどうかしているんでしょうか?」
脚立の上に立って作業をしながら呟くのは肩よりも数センチ長い白金の髪に青い瞳の人物だ。Yシャツに青いネクタイをつけて、白を基調とした裾や襟に黒いラインの入ったブレザーを着ている。
ハーフのような顔立ち、肌の色は妙に白く病弱なイメージを受けるもの、その上身体の線は非常に細い。そのせいか、男子制服を着ているというのにもかかわらず、実は女子なんじゃないか、と噂になったりもしていた。名を星条 風雅(セイジョウ フウガ)という。
風雅の胸元には輝く金の六芒星のバッチがつけられていた。それには“光高等部生徒会会長”と刻まれていて風雅のこの学園での地位の高さを主張している。
「いつもの事でしょう? 諦めが重要かと」
何故か絡まっていた紅白幕と格闘していた少年が顔を上げてそう言った。紫色の髪飾りで毛先に近いところでまとめた、毛先に近づくほど黒くなる白銀の髪、右が赤に左が透き通った緑の瞳。整った人形のような顔立ちに華奢な体躯……風雅と並んで実は女じゃないか、という噂が流れている。
着ている制服のデザインは風雅のものとほぼ同じなのだが、右の袖だけが切り落とされている。Yシャツの袖も同じように切り落とされているが、肘より少し上の辺りから手首の辺りまでは真っ白なアームカバーで覆われている。
面倒くさそうな表情をしながらも紅白幕と格闘する、その少年の名は遠野 刹(トオノ セツ)という。
学園内の治安維持活動、生徒会の補佐に生徒会長の守護を行う、理事長直属部隊のリーダーをやっていた。それ故に学園では知らない人間はほぼいなかったりする。生徒会長である風雅と一緒にいることが多いのも原因の一つではあるが。
「そんなこと言ったって、生徒会に丸投げはないと思うんですよね。“闇(ブイオ)”は手伝ってくれないし」
風雅のそんな言葉を聞いて、刹は呆れた様な表情をしながら、手に持っていた紅白幕の端の片方だけを手に持って「いつもの事でしょう? それこそ“光(ルーチェ)”生徒会メンバーを招集すればいいでしょうに」と言った。
不意に刹が手に持っていない方の紅白幕の端っこがぐるりと回って刹のいる位置とは逆の方へと滑っていった。風雅はステージの飾り付けが終わったのか、脚立から飛び降りてため息をついた。刹の言葉にどうを返していいものかと思案しているようだ。
その間に刹は軽く自分の手に持っていた紅白幕の端を投げた。そうすると端についていた紐が体育館の角にあった突起に絡みつく。他の四隅も勝手に突起に絡み付いていた。それを確認した刹は深くため息をついて伸びをする。
「呼ぼうにも昨日堂々と、明日は休みだ、って宣言してしまいましたし」
やっと言葉が出てきたのか、風雅はそういう。刹はそうですねー、なんて風雅の言葉を流しながら紅白幕の上の方を止めていく。
軽い返事しか返してない刹に少し不満を感じながらも、体育館の装飾を進めていく。他の仕事もあるだろうに手伝ってくれているんだ、文句は言えない、そう考えてチラリ、と刹の様子を伺う。刹は携帯を取り出して誰かと連絡とっているようだった。
急に呼び出されたのだろうか? そう考えて深くため息をついて風雅は作業を再開した。刹にばかり頼ってはいられないし、と小さく呟く。
「分かりました。報告ご苦労様です」
短く刹が言うのが聞こえた。心底面倒くさそうな表情をして刹は携帯をポケットにしまう。事後報告なんて面倒くさいから要らないと言っているのになんて考えるが、そういうわけにもいかないのだ。つくづく面倒な立場だ、と深くため息をつく。
3
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/24(火) 22:28:23 HOST:i125-202-254-245.s04.a001.ap.plala.or.jp
「他の仕事が入ったならそっちを優先していいですよ? 一人でも何とかなります」
飾り付けの図案を睨みつけながら風雅がそういう。電話で仕事が入ったと勘違いしたのだろうか? そう考えて刹は小さく笑った。
「大丈夫です。ただの定時報告ですし。と、言うか会長一人で終わらせられるんですか?」
からかうように刹が言うと、風雅はムッと頬を膨らませた。失礼な、とも思ったのだが一人じゃ無理だから手伝って欲しいと泣きついたのは風雅の方である。文句を言っていいものかと考える風雅を刹は心底面白そうに見ていた。
頬を膨らませたまま風雅は体育館を見渡す。ある程度飾りつけは終わっていたが入学式は明日だ。やはり準備は今のうちに終わらせておく必要がある。教師に丸投げしてもいいとは思うのだが、一度引き受けてしまった仕事だ。途中で投げ出すのは、自分の中で納得することができない。
それについては刹も同じようで、面倒くさいだの何だのと呟きながらも飾り付けを進めていた。
「闇の副会長でもいないよりはマシなんですけどねぇ……いや、後処理が面倒か」
ポツリと刹が呟く。深くため息をついて手に持った花の飾りを眺めた。濃紺の造花……その色を見て、刹は思わず造花を握りつぶす。嫌な人物の顔が脳裏に浮かんで、首を振った。イライラする。何度も何度も浅く息を吸っては吐き出す。
握りつぶされていた造花を見て風雅は慌てたように刹に駆け寄ってきた。不味いな、そんな風に呟いて、刹は握りつぶしてしまった造花をジッと見つめる。バツが悪そうに風雅は頬をかいていた。
「まぁ一つくらい大丈夫ですよ。気にしない気にしない」
思いつめないように、そう思って風雅は明るく笑った。それを聞いた刹は俯いて「……申し訳ありませんでした」とだけ言うのだ。必死に刹を慰めようとする風雅だったが、謝られるだけだった。
不意にカツンと静かな足音が聞こえてくる。規則的な足音が二人分……ふと刹が顔を上げる。
「やれやれ、他人の髪色と同じ花を握りつぶすなんて……不愉快極まりないね?」
濃紺の髪に、透き通った赤い瞳の少年が言った。ふわふわと揺れる濃紺の髪は高い位置でポニーテールにされている。前髪の右側だけが異常に長く、目を隠してしまっていた。
制服は風雅のものとよく似たデザインのものである。しかしその制服は風雅や刹のものとは違い、黒を貴重としていて、襟や裾には白いライン……要するに風雅たちの制服と配色が逆になったものである。
その胸元には黒ずんでいながらも、鈍く光を発する六芒星のバッチをつけていた。刻まれているのは“闇高等部生徒会副会長”という文字。……少年の学園内での地位。闇、というのは学園の派閥の一つ。もう一つの派閥は風雅が会長として率いる光である。
光は、闇を受け入れようとして、闇は光を拒む。そんなことの繰り返し。
双方のトップは高等部の生徒会のリーダーが引き受けることになっている。……もっとも闇を率いる会長はいつの間にか失踪してしまったため、現在は少年が代理としてトップとして闇を率いているのだが。闇を率いるその少年の名は秋空 湊(アキゾラ ミナト)。
その後ろには風雅に良く似た姿の少年が無表情で立っていた。伸ばしきった白金の髪をポニーテールにしていた、濁ったような濃い緑の瞳。湊と全く同じデザインの制服。
刹がポツリと湊と同じ髪型じゃないかと呟くと、少年は心底嫌そうな顔をした。
「そんなに怒らないでくださいよ。事実なんですし」
軽く笑って刹が言う。それを見た少年は顔を顰めて、胸元のポケットから拳銃を取り出した。それでも慌てる様子を見せることなく、刹は小さく手を上げる。刹を鋭く睨みつけて、拳銃を向けるその少年の名は、白鷺(シラサギ)。
まぁ白鷺というのは偽名で、本名は別にあるのだが、それを名乗ることはほぼない。それ故に白鷺の本当の名を知っているのは数えるほどしかいないのだ。
「やはり貴方、嫌いです。あの時殺しておくんだった」
白鷺が呟くと、僅かに刹は目つきを鋭くした。それなのに弧を描く唇が酷く不気味なように感じて、白鷺は唾を飲む。
「無理ですよ。貴方と僕には実力差がありすぎる」
下らないとでも言うように刹が吐き捨てる。そんな刹に白鷺は馬鹿にされているような気がして、無意味だろうと思いながらも引き金を引く。それを見ても刹は動かなかった。唇は弧を描き、その瞳はただただまっすぐと白鷺を見つめている。
本来ならその身体を貫くはずの銃弾は刹の目の前で急に失速して、地面に転がった。ギリッと歯軋りをして白鷺は右手を振り上げる。黒い光がゆっくりと渦巻いて……火花を散らしていく。その光が放たれる寸前、動いたものがいた。
4
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/27(月) 19:44:17 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
「ストップ。流石に入学式前日にそれはやめ。何にも面白くないからね」
湊だった。心底退屈そうに欠伸をしながら、軽く白鷺の右手を払う。不思議なことに今にも放たれそうだった黒い光は、湊が軽く手を振っただけで周りに溶けて消えた。それを見た白鷺は僅かに不服そうな表情をしながらも、半歩後ろに引く。
刹が小馬鹿にするように笑っていたが、しばらくして風雅に殴られていたから気にしないことにする。というよりも今手を出すと、自らの前で微笑んでいる湊に、即刻潰されそうな気がする。刹は副会長のお気に入り、ってわけね、そう呟いて深くため息をついた。
「さて、偉大なる四大精霊、風のシルフィード……少しだけ僕に力を貸しておくれ」
不自然な風が起きて、箱に入れられていた造花が舞い上がる。その風の影響か、手元に運ばれてきた飾り付けの図案を見れば。湊はため息をついて「やれ」とだけ呟いた。
唖然とする風雅をよそに、造花が一人でに飾り付けられていく。その様子を刹は無言で眺めていた。時々動く造花ではなく別のものを目で追うような目つきで辺りを見回す。湊のほうはいつの間にかステージに腰を掛けていた。
「はい、会場設営終了。んじゃ僕もさっさと戻りますか。やはり肉体から一定距離離れると問題が出てくるようだ」
辺りの飾り付けが全て終わった頃に風はやんだ。深く息を吐いた湊は自らの右手を見て僅かに顔を顰める。ゆらゆらと不自然に揺らいでいるのだ。形を留めることができないようで、不自然に膨らんでは元に戻る……それの繰り返し。
精霊の力を借りて意識だけを飛ばしたところまでは良かったんだけどなぁ、と呟きながら揺らぐ体を見つめる。スッと音もなく白鷺が姿を消した。刹と風雅はそれを気に留めることもなく、揺らぎながら消えていく湊の様子を眺めるのだった。フッと刹が手を伸ばして、湊の胸元を掴もうとする。しかしその手は湊の胸を突き抜けて、空を掴み……。
「ぎゃぁぁぁぁ!? む、胸を貫通した!?」
刹、大絶叫。間近で様子を眺めていた風雅も、目を大きく見開いて固まっていた。そんな二人を眺めて、少しだけ苦笑いを浮べる湊。少しずつ、少しずつ揺らぎは大きくなっていて、今にも溶けて消えてしまいそうだった。それを見てパニックを起こした刹は、どうしていいか分からずにあたふたとしている。自分の手が湊の心臓を突き抜けてしまったことが原因だと思っているのだ。
湊は今にも空気に溶けてしまいそうな手で、自らの頬を掻く。代行とはいえ、闇のリーダーをやっている者とは思えない表情だ。普段の湊を知る生徒ならば真っ先に性質の悪い悪夢かと疑うような、穏やかで、少しだけバツの悪そうな表情。そんな表情を見て風雅がやっと正気に戻ったようだった。
小首をかしげ、苦笑い気味の表情で「何があったんですか? 肉体に大損傷でも?」と問いかける。それを聞いて湊は小さく首を振る。その表情はそんなヘマはしない、とでも言っているかのようだ。
「ちょっと、上層部の連中を“お片づけ”してしまってね。肉体は今ここにはないよ。処分を下した刹に聞けば分かるんじゃないかなぁ。……あ、君が情報にアクセスしようとしても、守護者(パラディーノ)以上の権限がないと閲覧できないようになってるよ。今回の事件は、ね」
脳に直接響くような声に風雅は顔を顰める。守護者(パラディーノ)というのは、刹の所属している理事長直属部隊の名前である。守護者という名前とは裏腹に、最初から与えられている業務のほかにも、言われれば動物の捜索から、裏庭の掃除……そんな具合に何でもこなしてしまうよく分からない集団だ。そんな守護者は生徒会以上に大きな権限を持っている。まぁ、理事長のすぐ下に作られている部隊の一つだから当然だといえば当然なのだが。実力については一応光と闇、双方の会長に匹敵する程度、と定められているのだが実際はどうなのかは良く分からないところである。
________________________
とりあえず私立受験が終わり、PCも直ったようなので更新。
実は書き溜めがあるので、序章終了まではすぐに更新します
5
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/27(月) 19:45:23 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
ふっと、湊の姿が空気に溶けた。心底面白そうな笑い声を残して、跡形もなく……。風雅が横目で刹の様子を伺えば、俯いて苦虫を噛み潰したような表情。……華奢とは言っても、刹は身長百八十五センチメートル……。生憎、風雅とは二十センチメートル程度の身長差がある。俯いてしまったら逆に表情は丸見だ。逆に言えば、上を向いてしまえば風雅から表情を伺うのはかなり困難になる。……ただ、あまりにも不自然な格好を取ることになりそうだが。
ポンッと風雅が肩を叩くと、刹は少し驚いたようだった。何かを考えるかのように数秒間固まった後、薄く笑みを浮かべて首を傾げる。気に入らない、そう呟いて風雅はムニィーっと刹の頬を思いっきり引っ張る。慌てたように刹が風雅から逃れようと暴れるが、風雅も簡単には逃がす気はないようで、しつこくその頬を引っ張り続ける。
「また、隠し事ですか? そんで不満、溜め込んでるんですか? 隠し事はするなとは言いませんが、不満についてはゲロっちゃった方が楽になると思いますよ?」
奇声を上げてもがく刹に向けて風雅が言う。ムスッと頬を膨らませて執着に刹の頬を引っ張り続ける。
「いだだだだだ!! こ、こんなことで能力(チカラ)を使わないでくだひゃあ!? と、いひゃう!? やめて、くすぐらないで!!」
というか、手が届きましたね、そう刹が言おうとしたところで、風雅はより一層頬を膨らませた。刹の頬を引っ張るのをやめて、わき腹の辺りをくすぐり始める。……こうなってくるともう、じゃれあっているようにしか見えてこなくなるものだ。体育館を通って二棟へと移動する教師が、あいつ等は一体何をしているのだろうか? とでも言いた気な表情をしているが、風雅も刹も気にしない。いや、刹の場合には気にする余裕がない、というのが正しいのではあるが。
「ぼ、僕にだって守秘義務があるんです。にゃ、なんでもかんでもつ、伝えることが出来るわけじゃないんですよ。こ、今回のは不満を言ってしまうと言っちゃいけない部分に触れるかもしれないんです!!」
ようやく、という感じで笑いを堪えながら、刹が言う。その一気にまくし立てるような口調に、風雅は俯く。小さく謝罪の言葉を口にして、刹をくすぐるのをやめた。完全に乱れた呼吸を整えて、刹はため息一つ。そしてそっと、風雅の頭を撫でて微笑を浮べる。心配してくれて有難う、と言うかのように……。
そんな二人の様子をぼんやりと眺める二つの影があった。一つは肩位までの銀髪をサイドテールにして、右目を隠すかのように包帯を巻いた女。左目の色は透き通った水色の瞳をしている。真っ白な長い上着とその下に纏った薄い水色のワンピースが風に揺らいでいる。その身に纏っている服の左袖だけが綺麗に切り落とされて、外気にさらされた腕には右目と同じように包帯。胸元のスカーフを止める紫色の飾りは怪しい光を宿している。
もう一つは、肩に付くか、付かないか位の長さの濃紺の髪に、右が赤、左が青の瞳を持った男。胸よりも三、四センチメートル程度長い、赤いリボンでとめた黒いケープに、左の胸の三センチメートル下辺りから、大きくスリットが入っている白いシャツ。両袖にも大きく切込みが入っている。その両袖の一部、黒くなった部分と、ケープの裾には、キラキラと光が散りばめられていた。上はそんなに目立つ格好だというのに、下はいたって普通の黒いズボンである。
「どうするのよ。今回の世界には干渉するのかしら?」
銀髪の女が言うと、濃紺の髪の男はフッと笑った。黙って男を睨みつける女をよそに男は手を僅かに広げて高らかに宣言する。
「ああ。今回の世界からは本格的に干渉させてもらうさ。鍵は揃うようだしな」
そういう男の声は、僅かに怒りを孕んでいるようだった。幾度となく繰り返される悪夢を近くで見ていながら傍観を決め込んでいた男は、やっと立ち上がる。馬鹿げた物語を終わらせるために、傍観者を気取るのをやめる。……何だ、随分青臭い役をやることになりそうじゃないか、そう考えて男は笑った。
男から視線を外した女はまた、刹と風雅の様子を眺める。まるでストーカーのようじゃないか、そう考えて肩をすくめた。風雅と刹のやり取り見ていると、不思議と落ち着くのだ。その光景を自分も一度は見たことがあるような気さえしてくる。
「駄目ね。アンタみたいにはなれそうにないわ」
「そうかい。そりゃ結構さ。……さて、始めようじゃないか。ここ、桜蘭学園での物語を」
フッと男が言えば、女も小さく頷いた。駆け抜けていく風が優しく二人の頬を撫でていく。
……そんな二人のいる方向を、刹は鋭く睨みつける。風雅の頭を優しくなでながらも、威嚇するかのように、鋭く、鋭く……。
NEXT Story 第一章 捕らわれ少年と犠牲少女
6
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/28(火) 00:16:18 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
―ねぇ、湊? ……私たちの道は何処で違えてしまったのでしょうか?
嬉しそうにはにかんで、誰よりも明るかったあなたが、残酷なほどに冷たくなったのは何故?―
第一章 捕らわれ少年と犠牲少女
少年、秋空 湊は灰色の箱の中にいた。首には真っ黒なチョーカー。それからは妙な管がいくつも出ていて……。足には動くたびに音を立てる冷たい鎖に生々しい痣の残るその身体……。あちこちが引き裂かれた、闇を象徴する黒い制服。……あちこちに残る“乱暴”の跡には似合わないほどに、湊は穏やかな寝顔を浮べていた。まるで親の腕の中で眠る幼子のような安心しきった表情。
突然、箱の中に光が差し込む。湊はその僅かな光に反応し、呻き声に良く似た声をあげながら、目を開けた。……立っていたのは厭らしい笑みを浮かべた真っ白な男。自分へと伸びる男の手を黙って見つめていた湊はやがて嗤う。……少年と少年を捕らえるもの以外はない灰色の世界に、紅い、紅い華が咲いた。
「ああ……勝手に出てきちゃ駄目だよ。ウィンディーネ」
華をぼんやりと眺めた後、湊は自分を起こそうとする娘に言葉を投げかけた。誰もが言葉を失うであろう程に美しい娘。そんな娘の顔には何一つ表情は浮かんでいないし、娘からは生気というもの感じなかった。美しいのに、何か足りない、そんな印象を受けるのだ。生気のない娘が動くさまは、まるでからくり人形のようで……。
深くため息をついた湊は、黙って娘に身体を預ける。いや、そうするしかなかった。抵抗しようにもチョーカーに力を吸い取られているらしく、本当に僅かに手を動かすのが限界なのだ。そこに刹たちの元に現れた彼の強さはなく。……全く情けないものだと湊はため息をついた。
そんな事、お構いなく娘は湊の頭を撫でる。優しく、幼子をなだめる母親のように「もう大丈夫、……怖くない、怖くないからね」と何度も、何度も……。その意味が分からないながらも、湊は心地よさそうに目を細めていた。
「さぁ、ウィンディーネ。もうお帰りなさい。……こんな穢れた世界、君には毒だろう」
湊が言うと、娘は黙って首を振る。穢れてなどいないとでも言うかのように。穢れてもいないし毒にもならないから帰りたくないとでも言うように。どうしたものか、と思案する湊の顔を娘が覗き込む。僅かに濡れた髪から落ちた雫が、湊の頬を伝い落ちた。その冷たい雫が落ちていく感覚に、湊は気持ちの悪さを覚える。
「我侭は嫌い。……君も僕を“失望”させるのかい?」
冷たい湊の声が響いた。一瞬だけ怪しい光が湊の瞳に宿って……ずっと無表情だった娘が驚いたような表情をする。娘は湊を優しく地面に寝かせて、愛おしそうにその頬を撫でて、消えた。まるで池の波紋のような揺らぎを見せながら、ゆっくり、ゆっくりと……。
静まり返った箱の中で、湊はため息をつく。まだ光は差し込んでいた。……真っ白な男が入ってきた方からだ。ぼんやりとしてきた頭で出口だろうか? なんて考えて、その外を夢見る。何時になったら箱の中から出られるかも分からないと言うのに、湊は外の世界を夢見ていた。
だってそれぐらいのことしか湊には出来ないのだから。寝ているか、汚い大人達の相手をしているか……それとも箱の外の世界を夢見るか。湊の日常はそんな味気ない単純なことで形作られていた。でも、湊はそれに満足している。大人達の相手だけは嫌いだが、外の世界を夢見るだけなら、綺麗な部分だけを切り取って並べることが出来るのだから。
「あー……これ見つかったら不味いな……」
ふと紅い華に視線を移した湊は息を吐く。ムッとした鉄の臭いが辺りを包んでいく。ただ、湊にとってそれはどうでもいいことで、重要なのはどうやって人にバレないようにしながら臭いの元を片付けるか。今漂っている臭いなんてものにはいくらでも耐えることが出来るが、流石に臭いの元と共に暮らすのは無理だ。いくらなんでもそれは特殊な趣味がない無理だ、と考えて湊は笑った。
あまり放置して腐臭が漂ってしまえばもう最悪。湊が許せるのは鉄の臭いまでで、それ以上は無理。ああ、ウィンディーネを帰すんじゃなかった、なんて娘を追い返してしまったことを後悔する。もう一度呼び出してやろうかとも考えたけど、それは無理。だって、湊にはそんな力は残っていないのだから……。
_________________________________
文章が非常に不安定です。
そして初っ端からヤ湊君の一人舞台。……いや正確には一人とはいえないけど((
7
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霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/03/03(土) 23:41:04 HOST:i121-116-249-115.s04.a001.ap.plala.or.jp
静かに近づいてくる足音に湊は顔を顰めた。本格的にバレずにお片づけが出来なくなっている。せめて来る人物が自分の従者なら、と考えたがそれはあまりにも都合が良すぎるのだ。深く息を吐いて、湊は目を閉じた。寝たふりをすればバレないだろうと言う魂胆である。
灰色の箱の中に入ってきたのは白鷺だ。無造作に転がされている塊を見て呆れたように笑ったかと思えば、乱暴に塊を持ち上げ、そのまま姿を消す。……瞬間移動という奴である。数分もしないうちに白鷺は戻って来て、軽く湊の横っ腹を蹴った。
「……分かりやすい。狸寝入り……禁止」
白鷺の呆れたような声を聞いて、湊はゆっくりと目を開く。都合のいい展開があったものだなんて考えて、満足そうに笑った。それを見た白鷺は僅かに怪訝そうにしながらも、あたりに飛び散った紅をふき取っていく。湊はぼんやりとそれを眺めているだけ。しかしその表情は、申し訳なさそうなと言うよりは、当然だとでも言いたげなものだ。
そんな事気にするのも無駄だと言うように、白鷺は淡々と辺りを拭いていく。どうせ湊に指示をされるのだからその前にやってしまえと言う考えだ。……単純に飛び散る紅の中で冷静に話せる自身がなかったと言うのもあるのだが。ごしごしと自分の制服の上着を使って汚れを拭きとっていく。
いくら拭きとっても、終わりが見えない赤の拭き取り作業に白鷺は顔を顰める。おかげで制服の上着は鉄臭い臭いを放っていた。自分のものだったら気にならないのだが、人のものだというだけでこんなにも不愉快になるものか、と白鷺は考える。そもそも、掃除をするのに自分の制服を使うことが可笑しいことに白鷺は気づいていない。
しばらくは制服の上を片手に紅と奮闘していた白鷺だが、突然意味の分からないことを呟いて紅に手を翳しては能力で消し始める。……最初からそれを使えばよかったじゃないかと、湊が呆れたように言葉を投げかけると、短く「面倒。だから、能力嫌い」とだけ返した。
「で? 白鷺は何しに来たのさ?」
「報告。そろそろここから出られる。馬鹿刹、ここに向かってる」
湊の問いかけにピシッと敬礼しながら白鷺は答える。その白鷺の答えに湊はため息をついて頷いた。大方忘れられていたのだろう、そう考えると不思議と脱力感に襲われる。色々と周りに影響を与える行動ばかりしてきたはずなのだが、と考えて深く息を吐き出した。印象を与えるために与えてきた行動は全て無駄だったと考えると、自分の行動が馬鹿らしくなってくるものだ。
湊の様子を見て首をかしげた後、白鷺は黙って自分の後ろに目をやった。紫色の髪飾りで毛先に近いところでまとめた、毛先に近づくほど黒くなる白銀の髪を持つ華奢な少年……刹が心底退屈そうな表情で、箱の入り口の壁に寄りかかって腕を組んでいる。
ゆっくりと視線を刹に向けて湊は笑う。早く拘束具を外せよとでも言うような、威圧感たっぷりの笑みだ。そんな事気にせずに、刹はゆっくりと歩いて白鷺の横に並ぶ。しかしその表情は、何処か申し訳なさそうなものだった。
「すいません。今回の件は僕に一任されていたのですが、すっかり忘れてました。人間どうでもいい事ってすぐ忘れちゃうんですよね」
「分かってた。アンタはそういう人物だったよ」
深く、深く息を吐いた後、刹はその表情を笑みに切り替えて言う。湊のほうも半ば呆れたようにしながらそう言った。白鷺は何も言わずにジトーという効果音が似合いそうな目つきで刹を見ている。身体を起こそうにも自由に動けない湊を見て、刹は「何か繋がれたままの方が大人しくて良いんじゃないでしょうか?」と呟いた。
それを聞いて湊はムッとしたような表情をする。僅かに足を動かして鎖を鳴らした。さっさと外せと言う催促だ。それを見た刹は深くため息をついて、ズボンのポケットの中に手を突っ込んで何かを探し始める。何処か面倒くさそうな表情だが、一応拘束を解く気はあるようだ。
「まぁ、入学式もありますからね。ちなみに今、十九時です。手続きに戸惑ったもので」
ポケットから鍵を取り出した刹がそう言って、湊に近づいて歩いていく。拘束を解いた瞬間に襲われるのではないだろうか、なんて心配もせずにその鎖に触れる。そこで何かを考えるようなしぐさをした後、そーっと湊の足に指を這わせた。
僅かに身体を震わせて、刹の指から逃れるように、湊は足を動かす。しばらく散々遊ばれたが、白鷺が不機嫌そうに刹に声をかけたことで開放された。必要以上につけられて絡まった鎖の鍵、ぶつぶつと文句を言いながら、刹は湊を縛るその鎖の鍵を外していく。
最後に残った首のチョーカーを見て、刹は呆れたような表情をする。チョーカーから伸びる管の数本が乱暴に引きちぎられていた。丁寧に管の一つ一つをチョーカーから取り外して、床に並べていくと、白鷺が露骨に顔を顰める。
8
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/03/13(火) 19:33:31 HOST:i121-116-249-115.s04.a001.ap.plala.or.jp
「それ、力を吸収する、悪魔のアイテム……副会長に使った?」
「ええ。勝手にこれを使ったのは上の連中ですけどね。しかも数本の機能を潰すと他の管が完全な状態の倍の吸収をするようになってます」
拳銃を取り出しながら白鷺が言うと、刹は一旦手を止めてそう答えた。湊は経験したから大体は分かるとでも言うように頷いている。心底不愉快そうな表情をして拳銃を取り出した白鷺は、しばらく何かを考えるような仕草をした後、結局引き金を引かずにため息をついた。
やがて、全ての管がチョーカーから取り外されると、チョーカーはひとりでに床へと落ちた。チョーカーが外れたとはいえ、まだ力が戻らずにぐったりとしている湊を、刹は容赦なく白鷺の方へと蹴り飛ばした。流石に目を見開いた白鷺が、必死に湊を支えている。
恨めしそうに湊は刹を睨むが、刹の方はと言えば力を失っている湊など怖くないと言うかのように、涼しげに笑っていた。まぁ、実際に自分の足で立つことも出来ずに白鷺に支えられてやっとな状態なので、迫力も何も皆無である。我ながら情けない、と湊はため息をついた。
「でもまぁ、底知れず、って感じがありますよね。僕達の前に現れたのが能力によるものなら舌を巻くものがあります。普通ならこの長期間、装置をつけられただけでまず死ぬんですけどね。動けないだけで思考や会話に割く余力があるとは……流石と言うところでしょうか」
床に散らばったチョーカーについていた管の一つ一つを拾い上げ、ケースに収めながら刹は言う。数本が砕けていたのもしっかり破片を拾い集めてはケースにしまっていく。相変わらず反吐が出そうなぐらいに丁寧な仕事だ、そう考えで白鷺はため息をついた。一見、言うことはいい加減なものが多いが、実際に仕事をさせてみれば必ず成果を挙げてくる。
……だからこの人物は嫌いだと、白鷺は思う。そして思うのだ。刹がいい加減を演じることで自らの身を守っているのだと。実際は考え抜いた挙句に、いい加減でありながらもある程度、的を射た発言をしているように感じるのだ。そこまで考えて白鷺は下らない憶測だと笑った。
刹はケースの蓋を閉じ、流れるように鍵を掛けていく。四つの複雑な鍵を難なく閉めて見せた刹は、黙ってケースをポケットにしまった。そして白鷺に目をやって、深く、深くため息をつく。心底呆れたような表情。その表情に白鷺は黙って首を傾げる。
「貴方、何で上着を着てないんですか……しかも部屋中から血の臭いがしますし……まさか、また誰か殺したんですか? 駄目ですよ、人殺しは」
僅かに目つきを鋭くして、刹は言う。無言で湊に視線を落とせば都合のいいことに熟睡中。コイツのせいなんだけどなぁなんて思いながらも白鷺は「わかっている。殺し、してない」と答えた。その言葉を聞いた刹はしばらく怪訝そうな表情をしていたが、やがて満足そうに頷いた。
静かに箱の中を確認する。拘束具以外は何もない殺風景な部屋。その部屋の破壊にはどれくらいの力を使うのかを計算して、必要な分だけの力を解放していく。力に反応するかのように揺れて、形を崩していく部屋に、白鷺が思わず目を見開いて固まっていた。
そんな様子を見て、刹は笑う。早く逃げなければ危ないぞとでも言うかのように、突き放すような、冷たい笑み。短く舌打ちをした白鷺は黙って部屋の中から姿を消した。色々、刹に対して文句を言ってやりたいこともあるが、湊を支えたまま降り注ぐであろう瓦礫を防ぐのは白鷺の力では無理がある。身を守るための判断である。
「捕らわれ少年は箱の外に出て、何を見る……?」
静かに呟いた刹の言葉は誰にも届かずに飲み込まれていく。耳を劈くような爆音と共に箱が内部から崩れていく。そんな中心に刹は全くの無表情で立っていた。辺りが破壊されつくされるのを待つかのように、ジッと校舎の方を見つめて……。
しばらくして回りに箱だったものの残骸が転がるのを見て刹は深くため息をついた。元々使い捨てのものだとはいえ、跡形もなくバラバラにしてしまうのは流石に気が引けるものがあった。そして、湊を箱の外に出すことに対しても同じだ。
「まぁ……会長がうまくやってくれることを信じましょうか」
そう小さな声で呟いて、刹は瓦礫たちを踏みしめて歩き出す。黙って寮の自室へと規則的な足音を響かせて……。
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ヤ湊君救出完了でございます
そして鼻のいい刹君。……犬かよ
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