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てんしさまのすむところ-刹那の大空-

59霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/09/07(金) 19:51:52 HOST:i121-115-63-50.s04.a001.ap.plala.or.jp
>>月峰 夜凪様

コメント有難うございます!

勇者、事故により一回休みです((
勇者A「勇者玲がやられたか……」 B「しかし奴は勇者四天王の中では際弱の存在……」(((ry
そうですね。死にはしません。ただタイトルから分かる通り、ある問題が発生します。
ちなみに余談ではありますがデートしたらしたで、勇者は気にもせずナンパにいくので、エルボーくらって撃沈だと思います

ネーロさんは正直あまり出番を増やさず、それでも目立つように、と考えています
まぁ、ステッラのファミリーネーム、スペランツァは「希望」。ネーロのファミリーネームディスぺラッツィオーネは「絶望」と言うように名前だけは反対になっていますw
立場についてはまだ、なんとも……という感じでしょうか。重要、と言うよりはあるキャラ二人(正確には三人?)の過去に関わってきますよ
ネーロさん好きですか。そう言ってもらえるとあの子も喜ぶでしょう。協力陣の中でもネーロさんの人気は高いです
なので作者はあえて言いましょう。主人公を見てあげて! 空気だけども!!((

はい。勇者完全復活にはかなりの章を使うのですが頑張りますよ
有難うございます。のんびり更新ではありますが、頑張りますね!

60霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/09/16(日) 03:00:35 HOST:i121-115-63-50.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「うあー……今何時ー……?」

 気づけば眠っていたようだった。窓から入り込んでくるのは優しげで、少し寂しそうな、夕日に光。その光の中に、玲が立っていたような気がして、私は目を擦る。何も……いなかった。いる訳がなかった。こんな幻覚を見るなんてどうかしている。
 ため息をついて、傍においてあった携帯で時間を確認する。日にちが進んで現在十八時半過ぎ。どうやら丸一日眠ってしまっていたようだ。着信履歴には葵の文字。今日の十時から一時間おきに電話をかけてきているようだ。……暇なのかな?
 とりあえず顔とか洗ってから電話しよう。そう考えて、もぞりと身体を起こすとちょうど部屋に兄が入ってきた。

 「おー随分寝坊したなー。今さっき櫻井のところの末っ子が来て、病院に来いって言い残して行ったぞ? 玲少年が目を覚ましたんじゃないか? ちょっと待て、ヒデー顔してるから、とりあえずシャワー浴びて来い。母さんには俺から伝えとくから」

 兄の言葉を聞いて、私は勢い良く立ち上がった。鏡を確認すれば確かにそれは酷い有様。……急いで準備して行かなくちゃ。そう考えて、兄にお礼を言うことすら忘れてさっさとシャワーを浴びにお風呂場に。そんな様子を兄は笑ってみていた。
 シャワーを浴びた後、髪を整えてリビングに出ると兄はにっこりと笑って立ち上がった。……その笑顔が少し不気味だったなんていえない。兄はいつものだらしないスウェット姿から、Tシャツにジャーパンと言う格好に着替えていた。
 ……どこかに出かけるのだろうか? そう考えながらも私はパーカーを腰に結んだ。

 「おし、優しいお兄ちゃんが送ってやろうではないか!」

 車のキーを見せびらかすようにしながら兄はいう。私も急いで病院にいきたいから黙って頷いた。この際、本当に優しい人は自分で優しいなんていわないと思ったけれど、そんな事はどうでもいい。はやく玲に合いたい。話をしたい……。
 ただ、玲が起きたのかもしれないと言う希望で一杯だった。
 兄と家をでて、さっさと車に乗り込む。そういえばお母さんに伝えるって行った兄も一緒に出てきているんだけど、こういう時って誰がお母さんにこのことを伝えるんだろうか? 後で兄が電話でもしてくれるんだろうか? そんな事を考えていると車はゆっくりと走りだした。
 病院。急いで玲の病室に入ると、玲は目を閉じて横になっていた。……なんだ起きていないんだ。残念に思いながら玲に近づく。じゃあ葵は何で病院に来いなんて行ったのかなぁ? と、言うか葵たちは? 姿の見えない友人達に呆れながらも私はベッドへと近づいていく。
 ちなみに兄は見たいテレビがあるからとさっさと帰っていった。
 ぎりぎりまで近づくと、玲は少し身動ぎをした。今まで、ビクともしなかったのに……。それだけのことが嬉しくて、私は玲の頬に触れる。元気だった頃に比べるとまだ冷たかったけれど、確実に前よりも暖かかった。そんな些細かもしれない変化が嬉しい。

 「……ぅ……ん?」

 ゆっくりと玲が目を開いた。私に顔を向けて、何故私がここにいるのか分からないとでも言いた気な表情を浮べていた。

 「おはよう、馬鹿玲。気分はどう……」
 「っ……ダレ? ……僕の知り合い、なの?」

 身体を起こそうとして顔を顰めた玲は私に向かってそういった。冷たい感情を感じない声。玲が何を言っているのか、理解できなくて……いや理解したくなくて、私は必死に玲に話しかける。おどけた調子で、事故のことを、皆の事を。
 ……私の声は、震えていた。
 玲は理解していないようで、ただただ無表情で固まっていた。始めよりも少しだけ首を傾けているように見えた。必死になって私は“私達の”思い出を並べていく。中学生の頃葵が大会でドジをしてよりによって最後の大会で負けたこと、みんなで一緒に遊園地に行ったこと、みんなで海に、キャンプに……いろんなことを行ったこと。

 「美穂ッ!! 玲は!?」

 息を切らせて葵が部屋に飛び込んでくる。もしかすると葵が玲の変化に気づいてみんなの家にたずねて伝えて歩いてたのかもしれない。皆なんだかんだでまともに電話でない人だし……。葵は目が覚めた様子の玲を見てほっと息を吐いた。

61霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/10/28(日) 00:36:24 HOST:i118-20-249-88.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ったく心配かけさせんなよな。なんか言うことあるんじゃないのか?」
 「あ、えっと……はじめまして?」

 私の横に椅子を持ってきて腰を下ろす葵。安心したような表情は玲の言葉を聞いた瞬間に消え失せていた。変わりに浮かぶのは戸惑いで。まるで説明を求めるかのように私の方を見てくる。私の方を見ても私自体が今の状態を理解できていないんだけど。
 状況が分からないまま硬直する私達を他所に、皆が息を切らしながら部屋に入ってくる。その間玲はずっと怯えたような表情をしていて。ああ、本当に私たちのこと分からないんだな。やっと元通りだと思ったのに駄目だったみたいだ。
 気づけば頬を涙が伝っていたみたいで、玲は驚いたような表情をしていた。葵もどこか焦ったような表情で私のことを見ている。唯一ステッラとルチだけは無表情で玲のことを見つめ続けていた。

 「あの、だ、大丈夫ですか? 何で泣いて……」
 「心配、したから」
 「心配? 何故?」

 無表情のまま首を傾げる玲。その手が恐る恐るといった感じで私の頬に触れる。冷たいと思った。いつもなら嬉しいはずなのに、今はそんな風には思えなかった。何の表情も浮かばない玲の顔が悲しい。いつも嘘だろうがなんだろうが笑みを浮べていたのに。
 ポツリと友達の心配をしたら可笑しいのかと問いかけると、玲は僅かに顔を顰めた。もごもごと動く口は何かを言いたいのに、それを言うことを躊躇しているように見えた。彩花は俯いて何も言わない。葵はギリッと歯軋りをしている。

 「……友達って、初対面じゃないですか。僕達」
 「ふざけないで! 冗談なら怒るよ」

 勢い良く凛が立ち上がる。その大きな声と、椅子の倒れる音に玲は大きく肩を揺らした。明らかに怯えの色が濃くなっていく。嘘じゃない。嘘だったら玲は、私達相手にこんなに怯えないはずだ。いつもいつも凛相手に怖いと言うときも玲は余裕たっぷりだった。
 それどころか威圧感のある相手に対してでさえ、玲は怯えなかったんだ。なのに、今は。明らかに可笑しいし、これが本当の玲じゃない証拠だと思った。
 今にも玲に掴みかかっていきそうな凛を彩花が必死に宥めて、座らせる。その間もずっと玲は居心地が悪そうにあっちを見たり、こっちを見たりしていた。誰も何も言わない。いや、何もいえなかった。ルチが深く、息を吐く。
 そっと落ち着かせるかのように玲の頭に手を乗せた後、ふんわりと笑うルチはゆっくりと口を開いた。

 「皆さん、アキちゃんは僕達が分からないみたいですから、とりあえずなのっておきませんか?」
 「そう、だね。私は古川 美穂。玲、君の幼馴染だよ」

 ゆっくりと玲の瞳が私に向かう。その瞳には僅かな戸惑いの色が見えた。それでもルチがそっと玲の頭をなでているからか、それとも別の何かがあるのか、玲の怯えは少しだけ納まったようだ。まだ完全に消えたわけじゃないみたいだけど。
 優しい口調で彩花が名乗ると玲の瞳は彩花の方へ。ジッと何かを確認するかのように手から脚へ、顔へといろいろなところを目で追っていく。やがて、コクンと頷いてルチの方へと目をやる。ルチは薄い笑みを浮かべたまま玲の頭をなで続けていた。
 玲、頷いたけど、あれはどういう意味なのだろうか。覚えたと言う意味か、思い出したと言う意味か……。まぁ後者はまずありえないだろう。後者だとするのなら玲はもうとっくに笑みを浮かべて、いつもの調子でふざけ始めているはずだから。

 「あ、僕はルチアーノ。ルチアーノ=クローチェと言います。長いので“ルチ”と呼んでくれればいいですよ」

 やっぱりジロジロとルチを見た後、玲は小さく頷いた。その次に玲の瞳が向いたのは葵だった。肝心の葵はといえば完全に名乗る気なんて内容で、頬を膨らませてそっぽを向いていた。何処の子供なのだろうか、この人は。
 早く名乗ってあげなさい、そういうと葵はより一層頬を膨らませて不愉快そうな表情をした。

 「名乗る必要なんてないだろ。俺とお前はずっと仲が良かったじゃないか。何で、何で忘れるんだよッ!」
 「あ、えっと、ごめんなさい。分からないから聞いているんですが」
 「っ……そう、だよな。ごめん。俺は櫻井 葵って言うんだ。小学校のころからずっとお前と友達」

 困ったように玲が言うと、葵は我に戻ったかのように名乗った。名乗る前に十分に観察はしたんだろう。名前を聞いてすぐに玲はこくんと頷いて、視線を凛へと向ける。鋭い目つきで玲を睨みつけるだけでりんは何も言おうとしない。
 みんなで名乗るように言ってみるけど意味はなかった。へんな意地を張っているのかもしれない。仕方がないから私が変わりに凛の名前を教えてあげた。しばらく固まった後に玲は頷く。私達のときみたいにジロジロ見ようとはせずにすぐステッラの方に視線を移してしまう。

62霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/12/24(月) 22:38:55 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ボクは、ステッラ。ステッラ=スペランツァっていうの」
 「すてっら……?」

 ふわり、ステッラが笑った。それだけで玲は安心したようにしながらも首をかしげて……。私達に対してはずっと警戒したままだったのに、ステッラは腐っても天使ってことなのかなぁと思う。ルチもなんだかんだで頭を撫でること許してもらえてるし。
 再び、周りを見渡した玲は少しだけ不安気な表情をした後、小さく頷いた。とりあえずは全員分の顔を覚えてくれたのだろう。ただその後は絶対に凛のほうを見ようとはしなかった。相当怯えちゃってるなぁ……。
 葵が黙って下を見る。もしかすると責任を感じてしまっているのかもしれない。いつもそうなのだ。自分の周りの人間が傷つけられれば、追い詰められればそのたびに何故助けてやれなかったんだろう、気づいてやれなかったのだろうと自分を追い詰める。
 たとえそれが葵に一切責任が無いことでも。

 「葵、葵が責任を感じる必要なんてないんだよ?」
 「……ああ。でもさ、なんだかんだで俺、玲が可笑しくなってるってのは気づいてたからさ。事故はコイツの不注意だとして、周りに気を配れなくなるぐらいまで追い詰められてたなら……」

 そっと葵が玲の頬に触れる。まるで壊れそうなものに触れるかのように、おっかなびっくりの手つき。ほら、まただ。違うよ、葵は悪くないよ。そういったところで今の葵は気を遣われているだけだとしか感じないのだろう。
 キョトン、と首を傾げる玲が妙に痛々しい。
 不意に、病室の前が騒がしくなる。何か言い合いをしているような声だった。息子が大変なときぐらい仕事を休ませろとか、そうは行きませんどうせ軽症ですよなんていう声。……そういう言い方ムカツクなぁ。あ、そういえば玲のお父さんとお母さん、連絡は行ってるはずなのに一度も来てないな。

 「玲、大丈夫かい?」

 勢いよく開け放たれた病室のドアと、それに反して静かで落ち着いた声。ドアの方に顔を向けるとオールバックで青い目をしたダンディなおじ様が立っていた。スーツをピシッと着こなしているあたり会社の重役とかなんだろうなぁ。
 そんなおじ様の周りには、部下と思われる二人の若者。二人とも呆れた顔をしていたけれど、玲の惨状を見た瞬間、おじ様に耳打ちをして立ち去っていった。バツの悪そうな顔で。
 そりゃそうだ。今の玲はとりあえず座ることはできるといっても包帯でグルグル巻きなんだから。右目もチラリと覗く腕も、お腹の辺りも首元も……脚と左腕にはギブス。にしてもよく生きていたよなぁ、本当に。欠片がなかったら即死だろうに。
 玲はおじ様をぼんやりと見つめて首をかしげていた。不思議と怯えはないようだった。それはおじ様の雰囲気がなせる業か、それともおじ様と玲の関係からなのか、私には分からない。

 「……お久しぶりです恵(ケイ)さん」
 「ああ、美穂ちゃんか。久しぶりだね。他の子達は玲のお友達かな? 皆有難うね」

 月城 恵(ツキシロ ケイ)。れっきとした玲の父親だ。どんな仕事をしているかは全く分からないけど、そこそこいいポストについているんだと思う。そうでもないと高級住宅街にあるマンションを息子を独り暮らしさせるためだけに買ったりなどしないのだろう。
 まぁその辺は玲も話してくれないからよく分からない。
 慌てて玲のすぐ横にあったいすに座っていた葵が立ち上がろうとするのをおじ様は制して、その横に立った。真っ直ぐと玲を見つめる青い瞳には何処か安堵が宿っているようだった。優しげに笑って視線を玲に合わせた。もしかすると話は医者から聞いているのかもしれない。

 「おはよう、玲。私が誰か分かるかい?」
 「え、えっと……ごめんなさい。じ、自分が誰かさえ、わかんなくて……」
 「気にしなくていいさ。今は混乱しているだけかも知れないからね」

 優しく、玲の頭を撫でてため息をついた後、おじ様は私達に視線を移す。

 「もしかして皆のことも玲は覚えていなかったのかな?」
 「あ……はい。この後検査するって医者が言ってたから多分そのときにどんな感じかは分かるかと」

 葵が答えると、おじ様は深くため息をついた後に頷いた。ひとまずは納得したとでも言うような感じだ。そんなおじ様を見て心底不思議そうな表情をする玲。スーツ姿の人間がいることに違和感を感じているのかもしれない。
 ふと、葵が時計を確認して、ヤベ、とだけ呟いた。どうやらそろそろ検査の時間のようだ。葵に言われて私達はゆっくりと部屋を出る。玲に挨拶をすると、玲はほっとしたような表情をしながらも、小さく頭を下げてくれた。

63霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/12/28(金) 00:14:36 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
 おじ様も一緒に病院の廊下を歩く。何を話していいのか分からないらしく、皆無言だった。勿論私も無言だ。

 「そうだ、皆家へ来ないかい? きっと玲は家柄のこととかは何も話していないんだろう?」

 フッとおじ様が笑う。それは気遣いなのか、ただの思いつきなのか、私には分からなかった。それで、玲のことは知りたい。気づいたときにはもう頷いていて……。葵はジッと地面を見つめた後行くという意思をおじ様に伝える。
 彩花も、凛も、ルチ、遊莉もそうだ。小さく頷いて、みんなでおじ様についていく。おじ様に促されて乗り込んだその車は明らかな高級車で……。皆顔を見合わせて、固まってしまっていた。ちなみにステッラはおじ様に見えないとはいえ車に乗せるわけには行かないので、放置。
 何気なく後ろを見た葵の話によれば全力で追いかけてきている様子。それ見える人で事情の知らない人が見たらさぞかし怖い光景だろうなぁ。まぁ私には関係ないから良いのだけど。

 「少し遠いけど……よりたいところとことかあったら教えてね」

 静かに走り続ける車。どんどんと山の方へと入っていくようだ。はて、この辺に家なんてあったかなぁ? そんな風に思いながら景色を眺める。葵はそもそも家が町の外れの外れ、自然たっぷりの場所にある神社にあるから驚いてはいないようである。遊莉もその近所に住んでいるから同じく。
 凛はこんなとこに家を建てるなんて物好きだよねぇとか言っている。ちょっと待ってもう一人自然たっぷりのところに住んでる人いるから。しかも神社。
 ルチは目をキラキラさせてあたりを見渡している。まぁルチは留学生だし、あまり自然のあるところに遊びにいったりはしてないしね。葵の家は例外。神社だから仕方がないよね。ことあるごとに論外、例外とか言われてるけど。
 そんなこんなで好き勝手言っている内に見えてきたのは立派なお屋敷。日本に住んでいてあんな家見れることになるなんてねーと彩花が呟いている。私も激しく同意だ。そして何よりも平然とその門をくぐっていくおじ様が……。

 「着いたよ、皆着いてきてくれるかな? 玲の部屋に案内しよう」

 頭を下げてくるメイド服の女の人や、執事服の男の人達。訳が分からずにあたりを見渡しながら歩く私達の前を、おじ様は当然のようにメイドにお茶を持ってくるように頼んだり、執事に私達のものを持つように言ったり……。
 え、おじ様がここでこんなに平然としているということは、ここはやっぱりおじ様の家で、それは同時におじ様の息子である玲の家でもあることを意味しているわけで……。あれ、もしかしておじ様ってそこそこ良いポストについているとか、裕福どころじゃなくて超お金持ち?
 おじ様が立ち止まったのは立派なドアの前。ドアには“AKIRA”とプレートがかかっている。どうやら手作りのようでところどころ字が曲がっていたり、おかしなところに飾りのビーズがついていたりする。名前の下には紙粘土で作られた幼いころの玲そっくりな顔。
 ゆっくりと開かれるドア。中に入ると綺麗に片付けられていた。壁にはこの辺では名門な小中一貫校、白蘭東(ハクランヒガシ)学園の制服。そして、その制服を着て、照れ臭そうな表情をしている玲とお兄さんと思われる少年の写真。その横には伏せられた写真立て。

 「玲は写真が嫌い見たいでね。いくら使用人が立ててもこっちに帰ってくる度に写真立てを伏せてってしまうんだ」
 「……なんで玲が白蘭男子の制服を着てるんですか?」

 凛がポツリと呟くように聞く。白蘭男子は白蘭東学園のこの辺の呼び名である。有名市立校で男子校。
 確かに私も何で玲が白蘭男子の制服を着ているのか分からない。私は玲とは同じ幼稚園に通っていた。そのころは玲は今のマンションにご両親とお兄さんと一緒に住んでいた。私の隣の部屋だ。ただ、その後、玲は引っ越してしまった。
 そうだ、玲は転校生だったんだ。玲は小学四年生のときに私達の学校に転校してきた。そのときの先生の紹介も一般の市立小学校だとしか言わなかったし、玲本人もそうだった。だからだ。何でここに白蘭男子の制服とそれを着た玲の写真があるのかが分からない。
 おじ様は懐かしげに壁にかかった制服を眺めて、答える。

 「簡単な話さ。玲が白蘭男子に通ってたからだよ。転校のときは玲の希望で一般の小学校から転校してきたと言ってもらったようだ。転校した理由は……そうだな色々問題があったんだよ」

 凛が納得したように頷いた。彩花は黙って写真を見つめ、葵は壁にかけられた制服をぼんやりと見つめている。ルチは窓から外を眺めていた。遊莉は部屋の中を見てはニコニコと笑っている。もしかすると一人だけ現状を飲み込めてないのかもしれない。

64霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2013/01/01(火) 22:43:19 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp

 「殺風景な部屋だねぇ」

 遊莉が首をかしげながら呟く。おじ様は苦笑いを浮かべて頷いた。

 「殆どのものは一人暮らしのために持っていってしまっているしね。元々物が少ないのもあるけれど」

 遊莉はあー、そうかーだなんていって本棚の方へと歩いていく。全く、自由だなぁ、そう考えると葵と目が合う。葵も遊莉のことを気にしていたようで首をすくめて笑っていた。おじ様はぼんやりと私達を見つめた後、深く息を吐いた。
 やがて人数分の紅茶とケーキが運ばれてくると、全員がきちんと横に並んで座る。その様子を見たおじ様は静かに笑っていた。もしかするとこの中で玲が混じって笑っているところを想像でもしているのかもしれない。おじ様も紅茶を啜って、一息ついた後、真っ直ぐに私達のことを見てきた。

 「じゃあそろそろ話を始めようか」

 静かなおじ様の声に、葵がフッと真面目な表情をする。彩花とルチは小さく頷いた。私は……無言で自分の手元を見つめる。家柄のこととかはこの家を見れば大体は想像できる。でも何故玲がこのことを隠していたのか……。
 ゆっくりとおじ様は話し始める。おじ様が有名な会社の社長であること、玲は昔その会社を継ぐためにありとあらゆる知識を叩き込まれたこと。遊びたい盛りに勉強を強制され、甘えたい盛りに両親は離婚。父親は仕事でほぼ家に居ない。
 仲のいい兄はいたけれど、その兄も体が弱くて、結局玲は一人でいることが多かったこと。使用人の大人たちに暴力を振られていたこと。そして仕舞いには学校でも酷いイジメのターゲットにされて、それを誰にも言わず、助けも求めずに耐え続けていたこと。
 そして、いつの日か父親であるおじ様のことや、自分より大きい人間のことを以上に恐れ始める。そうして玲は壊れていったと語るおじ様は俯いていた。思い出して罪悪感にでもさいなまれているのかもしれない。気づけば葵も頷いて一点をじっと見つめていた。
 凛はありえないとでも言いた気な表情をしていたし、彩花は何かを考えるように天を仰いでいる。遊莉さえが表情を引きつらせている。そんな中でルチは恐ろしいぐらいに無表情だった。まるで何も感じていないとでも言うように。
 その後も話しは続く。手首を切って楽しげに笑っていたこと、お仕置きと称して防音室に閉じ込めたら重い棚の下敷きになってしまったころ。それ以来どんなに小さなものでも自分の方へと倒れてくるものには極端に怯えるようになったこと。
 そして、そんなことになった全ての原因を“自分と自分の家柄”のせいだと考えて、家柄を隠すように、そして何処でも笑って、本心を語らなくなった……。

 「なんていうか、な。ずっと独りで耐えてたんだな、アイツ……」

 ポツリと葵が呟く。おじ様は悲しげに笑いながら「本当に玲が可笑しくなるまでそれに気づけずに褒めも、認めせずにずっと無理をさせてきたんだ。父親失格だよ」と言った。ルチは何かを言いたそう顔を上げた後、小さく首を振って床を見た。
 皆してため息を吐いて顔を見合わせる。何を言っていいか分からなかった。
 だから玲ずっと笑ってたんだなぁ……。大きな変化を感じたのは中学のころだったけれど、それよりも遥に前から玲は壊れ始めていたんだ。それなら、今回の記憶喪失は玲にとってプラスだったのかもしれない。だって辛いことを何一つ覚えていないのだから。そう考えてしまうのはある意味エゴなのかもしれないけど。
 全ての話が終わったその後はおじ様と軽い雑談をした。おじ様は仕事のこととかを話して、私達は学校での玲のこととか独り暮らしをしている玲の様子とかと話す。おじ様は僅かに安心したような表情をして、笑った。

 「そういえば今の今まで名前を聞いていなかったね。名前を聞いてもいいかな?」

 そういわれて、私達は名乗っていないことを思い出す。いや、と言っても私はとっくの前に知られているし、病院でも覚えてもらえていることが分かったから関係ないのだけれど。彩花を最初にみんなが名乗っていく。珍しく最後に名乗ったのは葵だった。
 葵の苗字を聞いた途端、おじ様は僅かに顔を顰めた。そしてジロジロと葵のことを見る。葵はといえば居心地が悪そうに顔を顰めた。

 「櫻井……もしかしてお父さんの名前は優しいと書いて“優(スグル)”かい?」
 「……そうですけど、何で?」

 明らかに警戒するように言う葵。おじ様はそんな事を気にせずに一人頷いていた。ん? どうしたんだろう、そう考えて凛の方を見てみる。両手を小さく挙げて首をかしげていた。遊莉はふんわりと笑ってケーキをつついている。自由。この子凄い自由。

65霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2013/01/10(木) 01:40:05 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp

「いやね。優は私の弟なんだよ。優は櫻井に婿養子に行ったから苗字は変わってしまっているけど」

 驚愕の事実。どうやら葵と玲は親戚関係にあるようです。つか、何それ私知らなかったんだけど。葵本人も知らなかったようで、普段は変化の少ない表情を、命一杯驚きで染めている。彩花なんかは凄い勢いで携帯の中にある玲の写真と葵を見比べる始末。
 凛は多少訝しげに葵を凝視。そしてルチはそんなみんなの様子を見てクスクスと笑っていた。ちなみに私も驚いて葵の顔立ちの中に玲の面影を探してしまった。そして判定。全く似てない。つり目なのは同じだけど玲の目のつりあがり方はキツすぎるからなぁ。
 親戚関係にあるからって必ずしも似てるわけないもんね。
 うーん、それにしても葵が知らなかったってことは玲も知らないのかなぁ。……いや、それはないか。玲は“月城”を継ぐために色んなことを叩き込まれたらしいのだ。だとしたら、親戚系統の名前は全て頭に叩き込まれていても不思議ではないし。
 まぁ結局憶測なんだからなんともいえないというのが結論かなぁ。玲の情報の欠片とやらがあれば話は別なんだろうけど。

 「父さんと、玲のお父さんが……」

 葵がジッとおじ様をみる。私達が葵に玲の面影を探したように、葵もおじ様の中に自分の父親の面影を探しているのかもしれない。おじ様はそんな葵を見てクスリと笑っていた。

 「似ていないだろう? 昔から似ていない兄弟、と有名でね」

 葵は納得したとでも言うように頷いた。そういえば葵のお父さんは見たことないなぁなんて考えながら、おじ様を見る。変わらず笑みを浮かべるその表情の奥に何があるのか無意識のうちに探ろうとしてしまう。罪悪感か、玲を心配する気持ちか。はたまた“無感情”か。
 その後、おじ様の昔話が始まる。と言うのも遊莉が葵のお父さんがどういう子供だったのか気になると呟いたのが原因だ。それに葵も頷いて、凛も興味津々と言った様子。ルチは首を傾げるだけで何も言わなかった。そんなこんなでおじ様が折れる形で昔話が始まったのである。
 その話は驚きの連続だった。おじ様たちも“天使”に会っているとの言うのだ。唖然とする私達におじ様は苦笑いを浮かべ「夢、だったのかもしれないけどね。紅い目に白金の髪をした綺麗な人だった」と付け足した。どうやらステッラとは別のものらしい。おじ様は、私達が信じられなくて唖然としたと思ったようだけど違うんだよねぇ、これが。現在進行形で
 そしてその話が出た瞬間、本当に一瞬、僅かにルチが眉を顰めた。瞬きをしたその次の瞬間にはいつもの無邪気な表情に戻っていたけど。見間違いだったのかなぁ。そう考えながら私は窓のほうを見た。そこにいたのはステッラだ。
 その瞳は真っ直ぐ、真っ直ぐとおじ様を捉えて動かない。もしかして見覚えがあるのかもしれない。

 「ああ、そうだ。後は櫻井君のお母さん。……美幸さんを私と優でとりあっこしていたかな」

 クスリ、とおじ様が笑う。続いて凄く想像できない三角関係の発覚です。葵も凄い勢いで紅茶を噴出しそうになっていた。彩花はここに来て急に目を輝かせている。……なんかそういう話には一番興味なさそうなのになぁ。
 ちなみに昔話を始めることとなった原因の遊莉は、すっかり自分の世界に入って紅茶と残っていたケーキを楽しんでいる。本当に自由だなぁ。そして誰も注意しないあたり私達も遊莉と同類に近いのかもしれない。いや不思議ちゃんではないけどさ。
 ルチが軽く額に手を当てているのは何故なのか。遊莉に呆れているのかもしれない。でもねルチ。普段の君は遊莉に劣らないくらいに不思議な子だよ。留学生とかその辺は差し引いても現代人とは思えないような行動をすることがあるからね。
 不意におじ様が時計を見上げた。時刻は八時を過ぎている。まぁ全員が全員きちんと遅くなることを親に伝えているから問題はないだろう。ルチは独り暮らしだし。

 「おっと、もうこんな時間か。申し訳ないね、送っていってあげよう」

 私達が言うよりも早くおじ様は立ち上がった。彩花が申し訳なさそうに頭を下げるのに続いて、葵も小さく頭を下げた。凛はそっと遊莉の肩を叩いて立ち上がらせている。気にしなくていいと言って歩き出すおじ様に続いてみんなが部屋を出て行く。
 何気なく、部屋を出る瞬間に振り向いてみる。電気が消され、薄暗くなったその広い部屋の中で、小さいころの玲が泣いているように見えた。独りで膝を抱えて、声も上げずに……。

66矢沢:2013/01/10(木) 10:49:50 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
つまらないギャグは愚見に終わる


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