したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

てんしさまのすむところ-刹那の大空-

61霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/10/28(日) 00:36:24 HOST:i118-20-249-88.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ったく心配かけさせんなよな。なんか言うことあるんじゃないのか?」
 「あ、えっと……はじめまして?」

 私の横に椅子を持ってきて腰を下ろす葵。安心したような表情は玲の言葉を聞いた瞬間に消え失せていた。変わりに浮かぶのは戸惑いで。まるで説明を求めるかのように私の方を見てくる。私の方を見ても私自体が今の状態を理解できていないんだけど。
 状況が分からないまま硬直する私達を他所に、皆が息を切らしながら部屋に入ってくる。その間玲はずっと怯えたような表情をしていて。ああ、本当に私たちのこと分からないんだな。やっと元通りだと思ったのに駄目だったみたいだ。
 気づけば頬を涙が伝っていたみたいで、玲は驚いたような表情をしていた。葵もどこか焦ったような表情で私のことを見ている。唯一ステッラとルチだけは無表情で玲のことを見つめ続けていた。

 「あの、だ、大丈夫ですか? 何で泣いて……」
 「心配、したから」
 「心配? 何故?」

 無表情のまま首を傾げる玲。その手が恐る恐るといった感じで私の頬に触れる。冷たいと思った。いつもなら嬉しいはずなのに、今はそんな風には思えなかった。何の表情も浮かばない玲の顔が悲しい。いつも嘘だろうがなんだろうが笑みを浮べていたのに。
 ポツリと友達の心配をしたら可笑しいのかと問いかけると、玲は僅かに顔を顰めた。もごもごと動く口は何かを言いたいのに、それを言うことを躊躇しているように見えた。彩花は俯いて何も言わない。葵はギリッと歯軋りをしている。

 「……友達って、初対面じゃないですか。僕達」
 「ふざけないで! 冗談なら怒るよ」

 勢い良く凛が立ち上がる。その大きな声と、椅子の倒れる音に玲は大きく肩を揺らした。明らかに怯えの色が濃くなっていく。嘘じゃない。嘘だったら玲は、私達相手にこんなに怯えないはずだ。いつもいつも凛相手に怖いと言うときも玲は余裕たっぷりだった。
 それどころか威圧感のある相手に対してでさえ、玲は怯えなかったんだ。なのに、今は。明らかに可笑しいし、これが本当の玲じゃない証拠だと思った。
 今にも玲に掴みかかっていきそうな凛を彩花が必死に宥めて、座らせる。その間もずっと玲は居心地が悪そうにあっちを見たり、こっちを見たりしていた。誰も何も言わない。いや、何もいえなかった。ルチが深く、息を吐く。
 そっと落ち着かせるかのように玲の頭に手を乗せた後、ふんわりと笑うルチはゆっくりと口を開いた。

 「皆さん、アキちゃんは僕達が分からないみたいですから、とりあえずなのっておきませんか?」
 「そう、だね。私は古川 美穂。玲、君の幼馴染だよ」

 ゆっくりと玲の瞳が私に向かう。その瞳には僅かな戸惑いの色が見えた。それでもルチがそっと玲の頭をなでているからか、それとも別の何かがあるのか、玲の怯えは少しだけ納まったようだ。まだ完全に消えたわけじゃないみたいだけど。
 優しい口調で彩花が名乗ると玲の瞳は彩花の方へ。ジッと何かを確認するかのように手から脚へ、顔へといろいろなところを目で追っていく。やがて、コクンと頷いてルチの方へと目をやる。ルチは薄い笑みを浮かべたまま玲の頭をなで続けていた。
 玲、頷いたけど、あれはどういう意味なのだろうか。覚えたと言う意味か、思い出したと言う意味か……。まぁ後者はまずありえないだろう。後者だとするのなら玲はもうとっくに笑みを浮かべて、いつもの調子でふざけ始めているはずだから。

 「あ、僕はルチアーノ。ルチアーノ=クローチェと言います。長いので“ルチ”と呼んでくれればいいですよ」

 やっぱりジロジロとルチを見た後、玲は小さく頷いた。その次に玲の瞳が向いたのは葵だった。肝心の葵はといえば完全に名乗る気なんて内容で、頬を膨らませてそっぽを向いていた。何処の子供なのだろうか、この人は。
 早く名乗ってあげなさい、そういうと葵はより一層頬を膨らませて不愉快そうな表情をした。

 「名乗る必要なんてないだろ。俺とお前はずっと仲が良かったじゃないか。何で、何で忘れるんだよッ!」
 「あ、えっと、ごめんなさい。分からないから聞いているんですが」
 「っ……そう、だよな。ごめん。俺は櫻井 葵って言うんだ。小学校のころからずっとお前と友達」

 困ったように玲が言うと、葵は我に戻ったかのように名乗った。名乗る前に十分に観察はしたんだろう。名前を聞いてすぐに玲はこくんと頷いて、視線を凛へと向ける。鋭い目つきで玲を睨みつけるだけでりんは何も言おうとしない。
 みんなで名乗るように言ってみるけど意味はなかった。へんな意地を張っているのかもしれない。仕方がないから私が変わりに凛の名前を教えてあげた。しばらく固まった後に玲は頷く。私達のときみたいにジロジロ見ようとはせずにすぐステッラの方に視線を移してしまう。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板