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てんしさまのすむところ-刹那の大空-

62霧月 蓮_〆 ◆REN/KP3zUk:2012/12/24(月) 22:38:55 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
 「ボクは、ステッラ。ステッラ=スペランツァっていうの」
 「すてっら……?」

 ふわり、ステッラが笑った。それだけで玲は安心したようにしながらも首をかしげて……。私達に対してはずっと警戒したままだったのに、ステッラは腐っても天使ってことなのかなぁと思う。ルチもなんだかんだで頭を撫でること許してもらえてるし。
 再び、周りを見渡した玲は少しだけ不安気な表情をした後、小さく頷いた。とりあえずは全員分の顔を覚えてくれたのだろう。ただその後は絶対に凛のほうを見ようとはしなかった。相当怯えちゃってるなぁ……。
 葵が黙って下を見る。もしかすると責任を感じてしまっているのかもしれない。いつもそうなのだ。自分の周りの人間が傷つけられれば、追い詰められればそのたびに何故助けてやれなかったんだろう、気づいてやれなかったのだろうと自分を追い詰める。
 たとえそれが葵に一切責任が無いことでも。

 「葵、葵が責任を感じる必要なんてないんだよ?」
 「……ああ。でもさ、なんだかんだで俺、玲が可笑しくなってるってのは気づいてたからさ。事故はコイツの不注意だとして、周りに気を配れなくなるぐらいまで追い詰められてたなら……」

 そっと葵が玲の頬に触れる。まるで壊れそうなものに触れるかのように、おっかなびっくりの手つき。ほら、まただ。違うよ、葵は悪くないよ。そういったところで今の葵は気を遣われているだけだとしか感じないのだろう。
 キョトン、と首を傾げる玲が妙に痛々しい。
 不意に、病室の前が騒がしくなる。何か言い合いをしているような声だった。息子が大変なときぐらい仕事を休ませろとか、そうは行きませんどうせ軽症ですよなんていう声。……そういう言い方ムカツクなぁ。あ、そういえば玲のお父さんとお母さん、連絡は行ってるはずなのに一度も来てないな。

 「玲、大丈夫かい?」

 勢いよく開け放たれた病室のドアと、それに反して静かで落ち着いた声。ドアの方に顔を向けるとオールバックで青い目をしたダンディなおじ様が立っていた。スーツをピシッと着こなしているあたり会社の重役とかなんだろうなぁ。
 そんなおじ様の周りには、部下と思われる二人の若者。二人とも呆れた顔をしていたけれど、玲の惨状を見た瞬間、おじ様に耳打ちをして立ち去っていった。バツの悪そうな顔で。
 そりゃそうだ。今の玲はとりあえず座ることはできるといっても包帯でグルグル巻きなんだから。右目もチラリと覗く腕も、お腹の辺りも首元も……脚と左腕にはギブス。にしてもよく生きていたよなぁ、本当に。欠片がなかったら即死だろうに。
 玲はおじ様をぼんやりと見つめて首をかしげていた。不思議と怯えはないようだった。それはおじ様の雰囲気がなせる業か、それともおじ様と玲の関係からなのか、私には分からない。

 「……お久しぶりです恵(ケイ)さん」
 「ああ、美穂ちゃんか。久しぶりだね。他の子達は玲のお友達かな? 皆有難うね」

 月城 恵(ツキシロ ケイ)。れっきとした玲の父親だ。どんな仕事をしているかは全く分からないけど、そこそこいいポストについているんだと思う。そうでもないと高級住宅街にあるマンションを息子を独り暮らしさせるためだけに買ったりなどしないのだろう。
 まぁその辺は玲も話してくれないからよく分からない。
 慌てて玲のすぐ横にあったいすに座っていた葵が立ち上がろうとするのをおじ様は制して、その横に立った。真っ直ぐと玲を見つめる青い瞳には何処か安堵が宿っているようだった。優しげに笑って視線を玲に合わせた。もしかすると話は医者から聞いているのかもしれない。

 「おはよう、玲。私が誰か分かるかい?」
 「え、えっと……ごめんなさい。じ、自分が誰かさえ、わかんなくて……」
 「気にしなくていいさ。今は混乱しているだけかも知れないからね」

 優しく、玲の頭を撫でてため息をついた後、おじ様は私達に視線を移す。

 「もしかして皆のことも玲は覚えていなかったのかな?」
 「あ……はい。この後検査するって医者が言ってたから多分そのときにどんな感じかは分かるかと」

 葵が答えると、おじ様は深くため息をついた後に頷いた。ひとまずは納得したとでも言うような感じだ。そんなおじ様を見て心底不思議そうな表情をする玲。スーツ姿の人間がいることに違和感を感じているのかもしれない。
 ふと、葵が時計を確認して、ヤベ、とだけ呟いた。どうやらそろそろ検査の時間のようだ。葵に言われて私達はゆっくりと部屋を出る。玲に挨拶をすると、玲はほっとしたような表情をしながらも、小さく頭を下げてくれた。


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