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てんしさまのすむところ-刹那の大空-
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:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2013/01/01(火) 22:43:19 HOST:i118-20-98-64.s04.a001.ap.plala.or.jp
「殺風景な部屋だねぇ」
遊莉が首をかしげながら呟く。おじ様は苦笑いを浮かべて頷いた。
「殆どのものは一人暮らしのために持っていってしまっているしね。元々物が少ないのもあるけれど」
遊莉はあー、そうかーだなんていって本棚の方へと歩いていく。全く、自由だなぁ、そう考えると葵と目が合う。葵も遊莉のことを気にしていたようで首をすくめて笑っていた。おじ様はぼんやりと私達を見つめた後、深く息を吐いた。
やがて人数分の紅茶とケーキが運ばれてくると、全員がきちんと横に並んで座る。その様子を見たおじ様は静かに笑っていた。もしかするとこの中で玲が混じって笑っているところを想像でもしているのかもしれない。おじ様も紅茶を啜って、一息ついた後、真っ直ぐに私達のことを見てきた。
「じゃあそろそろ話を始めようか」
静かなおじ様の声に、葵がフッと真面目な表情をする。彩花とルチは小さく頷いた。私は……無言で自分の手元を見つめる。家柄のこととかはこの家を見れば大体は想像できる。でも何故玲がこのことを隠していたのか……。
ゆっくりとおじ様は話し始める。おじ様が有名な会社の社長であること、玲は昔その会社を継ぐためにありとあらゆる知識を叩き込まれたこと。遊びたい盛りに勉強を強制され、甘えたい盛りに両親は離婚。父親は仕事でほぼ家に居ない。
仲のいい兄はいたけれど、その兄も体が弱くて、結局玲は一人でいることが多かったこと。使用人の大人たちに暴力を振られていたこと。そして仕舞いには学校でも酷いイジメのターゲットにされて、それを誰にも言わず、助けも求めずに耐え続けていたこと。
そして、いつの日か父親であるおじ様のことや、自分より大きい人間のことを以上に恐れ始める。そうして玲は壊れていったと語るおじ様は俯いていた。思い出して罪悪感にでもさいなまれているのかもしれない。気づけば葵も頷いて一点をじっと見つめていた。
凛はありえないとでも言いた気な表情をしていたし、彩花は何かを考えるように天を仰いでいる。遊莉さえが表情を引きつらせている。そんな中でルチは恐ろしいぐらいに無表情だった。まるで何も感じていないとでも言うように。
その後も話しは続く。手首を切って楽しげに笑っていたこと、お仕置きと称して防音室に閉じ込めたら重い棚の下敷きになってしまったころ。それ以来どんなに小さなものでも自分の方へと倒れてくるものには極端に怯えるようになったこと。
そして、そんなことになった全ての原因を“自分と自分の家柄”のせいだと考えて、家柄を隠すように、そして何処でも笑って、本心を語らなくなった……。
「なんていうか、な。ずっと独りで耐えてたんだな、アイツ……」
ポツリと葵が呟く。おじ様は悲しげに笑いながら「本当に玲が可笑しくなるまでそれに気づけずに褒めも、認めせずにずっと無理をさせてきたんだ。父親失格だよ」と言った。ルチは何かを言いたそう顔を上げた後、小さく首を振って床を見た。
皆してため息を吐いて顔を見合わせる。何を言っていいか分からなかった。
だから玲ずっと笑ってたんだなぁ……。大きな変化を感じたのは中学のころだったけれど、それよりも遥に前から玲は壊れ始めていたんだ。それなら、今回の記憶喪失は玲にとってプラスだったのかもしれない。だって辛いことを何一つ覚えていないのだから。そう考えてしまうのはある意味エゴなのかもしれないけど。
全ての話が終わったその後はおじ様と軽い雑談をした。おじ様は仕事のこととかを話して、私達は学校での玲のこととか独り暮らしをしている玲の様子とかと話す。おじ様は僅かに安心したような表情をして、笑った。
「そういえば今の今まで名前を聞いていなかったね。名前を聞いてもいいかな?」
そういわれて、私達は名乗っていないことを思い出す。いや、と言っても私はとっくの前に知られているし、病院でも覚えてもらえていることが分かったから関係ないのだけれど。彩花を最初にみんなが名乗っていく。珍しく最後に名乗ったのは葵だった。
葵の苗字を聞いた途端、おじ様は僅かに顔を顰めた。そしてジロジロと葵のことを見る。葵はといえば居心地が悪そうに顔を顰めた。
「櫻井……もしかしてお父さんの名前は優しいと書いて“優(スグル)”かい?」
「……そうですけど、何で?」
明らかに警戒するように言う葵。おじ様はそんな事を気にせずに一人頷いていた。ん? どうしたんだろう、そう考えて凛の方を見てみる。両手を小さく挙げて首をかしげていた。遊莉はふんわりと笑ってケーキをつついている。自由。この子凄い自由。
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