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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

300ウルトラ5番目の使い魔 51話 (7/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:33:00 ID:CY9.ftKk
 本来の世界扉は異世界間のゲートを作り出すだけの魔法だが、根源的破滅招来体の力で強化されたその威力は、地上に開いたブラック・ホールのようにトリスタニアのすべてを吸い込んでいく。
 家が、商店が引き剥がされて舞い上がっていく。人間たちも必死に地面にしがみついているが、体重の軽い者や力の弱い者、傷ついた者は今にも宙に浮き上がりそうである。戦傷者救護所では、野外に寝かされていたけが人たちを魅惑の妖精亭の少女たちが必死に屋内に運び込もうとしていたが、すぐに建物ごと飲み込まれそうだ。
 ならば、魔法を使っている教皇を倒せば。だがそれもだめだった。カリーヌが魔法攻撃を放とうとしても、世界扉の吸引力が勝り、使い魔のラルゲユウスごと引き込まれていく。
「うわあぁぁっ!」
 ラルゲユウスの飛翔力を持ってしてもどうしようもなかった。錐もみ状態ではカリーヌも魔法が使えない。
 カリン様! アンリエッタの悲鳴が響いたとき、コスモスが飛んだ。
「ショワッチ!」
 コスモスは引き込まれかけていたラルゲユウスを掴まえると、そのまま担いで地上に引き戻した。
 だが、世界扉の吸引力はコスモスも引き込もうとしている。カラータイマーの点滅が限界に近いコスモスでは、せめて耐える以外にできることはなかった。
 ファイターEXも影響圏から離脱するのでやっとだ。元素の兄弟は魔法で体を地面に固定して耐えていたが、やがて地面ごと引っぺがされそうな勢いに冷や汗をかき始めていた。
 そして宮殿もまた、トリスタニアごと消滅しようとしていた。尖塔はもぎとられ、煉瓦は舞い上がり、噴水は干上がり、城門が剥ぎ取られていく。
「じ、女王陛下、城内にお入りください!」
「もうどこにいても同じことです。それにわたしは、たとえ死んでもここを離れるわけにはいきません。はっ、ウェールズ様!」
 バルコニーにしがみつくアンリエッタの見上げる前で、アルビオン艦隊も飲み込まれていく。
 もはや、これまでなのかとアンリエッタの目に涙が浮かんだ。トリステインもアルビオンも地上から消え去り、ハルケギニアは教皇の思うがままになってしまう。
 ここまでやったのに、みんな死力を尽くして戦ったのに、最後の勝利は教皇のものなのか。これでは神よ、始祖よ、あんまりではありませんか。

301ウルトラ5番目の使い魔 51話 (8/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:34:17 ID:CY9.ftKk
「ルイズ……ごめんなさい」
 涙が暴風に乗り、闇のかなたへ消えていく。
 崩壊していくトリスタニア。もはや誰にも、どうすることもできない。
 あと数秒もすれば、街だけでなく人間たちも塵のように巻き上げられていくだろう。
 すべてが……消える。そしていずれはハルケギニアも消える。努力も、夢も、希望も、なにもかも。
 それでも最後まで、あきらめない心だけは捨てない。地面に必死に食らいつく銃士隊の中で、ミシェルはそれが才人の教えてくれたことだと信じ、繰り返す。
「負けるもんか、負けるもんか……あきらめない奴にだけ、ウルトラの星は見える。そうだろ? サイト」
 どんな絶望の中でも、自分から希望は捨てない。未来は、奇跡はその先にしかない。ミシェルはそれを信じた、なによりも才人を信じた。
 だが、すべてが消滅しようとしているこの時に、いったいどんな奇跡が起こるというのだろう? もう、誰もなにもできない。間に合わない。
 悪の勝利、すべてが消える。教皇がそれを確信し、勝利の宣言をしようと空を見上げた、まさにそのときだった。
 
 
「待ってたぜ教皇! てめえがもう一度その、世界扉の魔法を使う瞬間をな!」
 
 
 突然、空に開いた世界扉のゲートから声が響いた。
 あの声は、まさか! その声に聞き覚えのあるアニエスやスカロンやエレオノール、そしてミシェルが空のゲートを見上げる。
 さらに、ゲートが突然スパークして不安定に揺らいだ。と、同時に吸引力が消滅し、浮き上がりかけていた人々は再び重力の庇護を受け、なにが起こったのかをいぶかしりながら空を見上げる。

302ウルトラ5番目の使い魔 51話 (9/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:36:26 ID:CY9.ftKk
 しかし、一番衝撃を受けていたのは教皇とジュリオだ。ふたりは、突然制御を失ってしまったゲートを見上げながら焦っていた。
「あの声は!? そんな馬鹿な。聖下、なぜワームホールが」
「わかりません。まるで、ワームホールの先から何かが無理矢理やってこようとしているような。まさか!」
 そのまさかであった。彼らも聞いたあの声は、異次元のかなたへと追放したはずの、彼の声。
 ヴィットーリオの開いたワームホールに無理矢理介入し、流れの反対方向からやってこようとしている何者か。それはワームホールの出口を破壊しながら、稲妻のように現れた。
 
「うわぁぁ、うわおわあぁーっ!?」
「きゃあぁぁーっ!?」
 
 一部の人間には聞きなれた二名の声。それが響いたと同時に、空に開いていたワームホールは激流の直撃を受けた水門のように爆裂し、代わって中から現れた何かが流星のように教皇のいる場所の傍の城壁の上に墜落した。
 何かが墜落した場所で爆発が起こり、巨大な城壁が落ちてきた大きな何かに押しつぶされて粉塵とともに築材が撒き散らされる。
 何が落ちてきた!? この場にいる人間のすべての視線が舞い上げられた粉塵に注がれ、そして風で粉塵が流された後には、巨大なカタツムリのようで、しかしとぼけた顔をした顔をした怪獣が城壁を押しつぶして寝そべっていた。
 それを見ると、コスモスは「そうか、ついにそのときが来たんだな」と、なにかに満足したように消えた。一体コスモスは何を? 変身を解かれたティファニアは不思議に思ったが、コスモスは何も答えてはくれない。
 だが当面の問題は怪獣だ。人々からは、怪獣!? 怪獣だ! という叫び声が次々にあがる。

303ウルトラ5番目の使い魔 51話 (10/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:38:34 ID:CY9.ftKk
 しかし、人々の関心はすぐに怪獣から離れることになった。なぜなら、怪獣の影から複数の人影が這い出してきたかと思ったら、突然がなり声で言い合いを始めたからだ。
 
 
「あだだだ……っ。ち、着地のことまで考えてなかったぜ。って、ここは……おお! トリスタニアじゃねえか! てことは、おれはとうとうハルケギニアに戻ってこれたんだ。よっしゃあ、やったぜえ!」
 
「いてて、よかったねサイトくん。いちかばちかの賭けだったけど、どうやら成功したみたいだね」
 
「はい、みんなあなたのおかげです……って、なんであなたたちまでここにいるんですかぁぁぁぁぁ!」
 
「いや、離れるつもりだったんだけど巻き込まれちゃって、仕方なく、ね。へえ、ここが君の時代かぁ、なるほど、僕らが頑張ったかいはこうなるのか。君も、しみじみすると思わないかい?」
 
「するわきゃないでしょ! なに私まで引きずりこんでくれちゃってるの! さっきサイトに見せちゃった私の別れの涙を返しなさいよ、やっぱりあんたを蛮人と呼ぶのをやめるのをやめるわ、少しは反省しなさいよーっ!」
 
「ぐぼぎゃ!?」
 
 青年と少年と少女が言い争いの末に、青年が少女に殴り飛ばされて派手に吹っ飛んだ。

304ウルトラ5番目の使い魔 51話 (11/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:40:33 ID:CY9.ftKk
 それだけではなく、別の方向からもう一組の男女が現れて。
 
「うう、いったぁ……ほんとに、あんたといるとろくなことがないわ! あれ? ここはもしかして、トリスタニアじゃない! やったあ! とうとう、とうとう帰ってこれたんだわ」
 
「やったなルイズ。うんうん、これもひとえに俺のおかげだな。いや、はっはっはっは」
 
「あっはっはっは……って、ごまかされるわけないでしょうが! 今回ばかりは本気で死ぬかと思ったんだからねーっ!」
 
「どわーっ!」
 
 少女が杖を振るうと爆発が起こり、青年がまともに食らって吹っ飛んだ。
 
 
 なんだなんだ、いったいなんなんだ?
 見守っている人々は訳がわからずに唖然とするしかない。
 だが、彼らの声の中で、明らかに明確に確実に実体のあるものが二人分あった。
 ティファニアにとっては友達の声、ミシェルにとっては愛する人の声。
 カリーヌにとっては娘の声、アンリエッタにとっては親友の声、それは。
 
「サイト!?」
「ルイズ!?」
 
 紛れもない、長いあいだ行方不明になっていた才人とルイズだったのだ。

305ウルトラ5番目の使い魔 51話 (12/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:42:20 ID:CY9.ftKk
 その声が届くと、才人とルイズははっとしてあたりを見回し、互いの姿を見つけるとすぐに駆け寄って手を取り合った。
 
「ルイズ、ほんとにルイズなのか。無事だったんだな、おれ、お前が撃たれて消えていったの見て、飛び込んだんだけど間に合わなくて」
「サイト、やっぱりあんたはわたしを助けようとしてくれてたのね。ありがとう、ずっとサイトに会いたかったんだから。長かった、ほんとに長かったわ」
「お前もいろいろあったんだな。おれも、今日までずっと冒険を続けてきたんだ。何度もくじけそうになったけど、ルイズもきっとがんばってるって思って、がんばれた」
「わたしもよ。サイトと必ずまた会えるって信じてた。ほんとにいろいろあったんだからね」
「ああ、そういやお互いけっこう髪が伸びたな。お前に話したいこと、山ほどあるんだぜ。おれもルイズから土産話をいっぱい聞きたいな。けど、その前に……」
 
 才人とルイズはきっと表情を引き締めると、怪獣の背中から城壁の上にいる教皇を睨み付けた。
「あのニヤけた教皇野郎をブっ飛ばさないとな!」
 びしりと才人に指差され、教皇の肩がわずかに震えた。
 ここにいる才人とルイズは夢でも幻でもそっくりさんでもない。間違いなく、ヴィットーリオが世界扉で異次元に飛ばしたあの二人だ。
 しかし、異次元に追放されてどうして? そればかりはさすがに教皇も想定外で、わずかにうろたえた様子を見せつつ問い返してきた。
「あ、あなたたち、いったいどうやって?」
「へっ、聞きたいか? てめえの魔法で、おれは大昔のハルケギニアに飛ばされてたんだ。けど、親切な人たちに助けられて、この未来怪獣アラドスって奴の力を借りてこの時代に帰ってこれたんだ。わかったかバカヤロウ」
 才人はそう言って、足元で眠そうな目をしている怪獣を見下ろした。
 未来怪獣アラドス。幼体で身長一メートル弱から成体の数十メートルにいたるまで、成長途上によって大きさに差がある怪獣だが、ここにいる個体は二十メートルほどの成長しきっていない若い個体である。特筆すべきはその能力で、彼らは非常に進化した細胞で時間の壁を越えて、自由に過去や未来に行き来することができるのだ。

306ウルトラ5番目の使い魔 51話 (13/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:43:44 ID:CY9.ftKk
 つまり、才人はアラドスを見つけて助力してもらうことで現代へと帰ってきたわけだ。アラドスは高い知能も持ち、今はタイムワープの疲れで眠っているけれど、才人は感謝してもしきれないほどの恩を感じている。
「ただ、未来に行くことはできても、正確にどれだけ時間を越えればいいかはわからなかった。だから、てめえが世界扉で時空に穴を開けたのを目印にさせてもらったってわけだ。ざまあみろ」
「くっ、私の虚無を逆に利用するとは。しかも、その時空間の干渉でミス・ヴァリエールまでも引き寄せるとは、なんと悪運の強い」
「そうね、サイトの悪運の強さはたいしたものよ。けど、わたしだって負けてないわ。わたしはね、どっか別の宇宙に飛ばされて、あっちの星やこっちの星を散々さまようことになったのよ。もう、何度怪獣や宇宙人を相手に大変な目に会ったことか。それでね、どこかの星の沼地でお化けみたいなトンボの群れに追い回されていたら、突然空に開いた穴に吸い込まれて、気がついたらここにいたわ。教皇聖下、乙女の柔肌を日焼けで真っ黒になるまでバカンスさせてくれたお礼はたっぷりさせてもらいますからね」
 そういえばルイズの顔がこんがり小麦色になっているように才人は思ったが、それ以上に赤鬼みたいだと思ってしまった。
 が、それはともかくルイズの魔法力は怒りのおかげでボルテージがどんどん上がっている。今なら、とんでもない大きさのエクスプロージョンでも撃てそうだ。
 しかし、周りの人々にとっては訳のわからないの自乗になっているのは変わらない。教皇聖下、いったいどういうことなのですかという声が次々と響き、ヴィットーリオは焦ってそれに答えようと手を上げた、だがその瞬間。
『エクスプロージョン!』
 ルイズの魔法が炸裂し、ヴィットーリオは至近で起こった爆発に吹き飛ばされかけた。
 そして、帽子を飛ばされ、顔をすすに汚しているヴィットーリオに向かってルイズは猛々しく突きつけた。
「あんたの小細工は通用させないわよ。どうせ、わたしたちを悪魔に仕立て上げて被害者ぶろうとしてたんでしょう。けど、手口がわかれば対処は簡単よ。どんな詭弁も、しゃべらせなかったらいいんだからね!」
 ヒューっと、才人は口笛を吹いた。さすが、ルイズらしい力技の解決法だ。だが、なるほど、どんな詐欺師でも口を利けなければ人を騙しようがないに違いない。
「わ、私を公衆の面前で殺害しようとして、あなたやあなたの家族がどうなると思っているのですか?」
「そういうことは後で考えるわ。少なくとも、わたしの家族は心配されるほど軟弱じゃないから安心しなさい」
 おどしもまったく効果がなかった。まあともかく、武闘派や隠れ武闘派ばかりのヴァリエール一家に喧嘩を売れるところはそうはないだろう。なお、忘れられていたがルイズの父のヴァリエール公爵は自領の軍を率いて国境でゲルマニアに対して睨みを利かせている。どうやら、隙を見せると隣のツェルプストー家が空気を読まずに茶々を入れに来るらしい。
 ルイズが躊躇を見せないことに、ヴィットーリオは思わず後ずさった。逃げようにも、ジュリオの使っていた竜はアラドスの落ちてきたショックで瓦礫に埋もれてしまい、ロマリアの兵隊たちも大半はトリスタニアの奥まで攻め込んでしまっているし、城壁を占領していた者たちもアラドスを恐れて逃げていてしまい、すぐにヴィットーリオを助けに来れる者はいなかった。

307ウルトラ5番目の使い魔 51話 (14/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:46:20 ID:CY9.ftKk
 こうなれば、ヴィットーリオも杖をふるって魔法で対抗するしかない。ルイズもアラドスの背から城壁の上に飛び移り、ふたりの虚無の担い手は杖を向け合う。
『エクスプロージョン!』
『エクスプロージョン』
 互いに長々と詠唱をしている隙はないので、詠唱簡略のエクスプロージョンの撃ち合いが始まった。ルイズとヴィットーリオを狙ってそれぞれ小規模の爆発が起こり、両者は自分に向けられた爆発を回避するために身を躍らせる。
 しかしヴィットーリオは律儀にルイズとの決闘に応じるつもりはなかった。ルイズがヴィットーリオを相手に杖を動かせない死角から、ジュリオが銃を向けてきたのだ。
「今度は一発で心臓を撃ち抜いてあげるよ」
 銃口が正確にルイズを狙う。教皇に意識を集中しているルイズはそれに気づくのが遅れた。
 だが、ジュリオもまたルイズを狙いすぎて死角を作ってしまっていた。ルイズを撃たせてなるものかと、才人が体当たりをかけてきたのだ。
「うおおっっ!」
「うわっ! き、君はぁ!」
「ふざけんなよこの野郎。おれの目の前で二度もルイズを撃たせてたまるかよ。そんでもって、てめえだけはぶん殴ってやるって決めてたんだ!」
 才人のパンチがジュリオの顔面に決まり、ぐらりとジュリオはふらついた。ルイズを狙っていた銃はあらぬ方向を狙って無意味に弾を飛び去らせる。銃さえなくなれば、過去の旅で才人は相当体力をつけてきた。そんじょそこらの奴に負ける気はない。
 しかしジュリオは才人とのタイマンになど付き合ってはいられないと、すぐさま体勢を立て直して剣を抜いてきたのだ。
「て、てめえ」
「あいにくだけど、目的を果たすのを優先させてもらうよ。心配しなくても、君の大切な人たちもすぐに向こうで会えるようにしてあげるさ」
 ジュリオの振り上げた剣が才人を狙ってきらめく。対して才人は丸腰だ。とても剣を持った相手に対抗することはできない。ルイズはそれに気づいていたが、とても今から振り向いてジュリオに魔法をぶつける時間はなかった。
「サイト!」
 ルイズの悲鳴が響く。しかし、ジュリオの剣は才人に届くことはなかった。寸前で乾いた音を立てて、横合いから飛び込んできた別の剣によってさえぎられたのだ。
 ジュリオの剣は止められ、ジュリオは驚愕した表情で割り込んできた剣の持ち主を見た。それは、長剣を小枝のように片手で軽々と持って、不敵な笑みを浮かべる金髪の少女だった。

308ウルトラ5番目の使い魔 51話 (15/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:47:43 ID:CY9.ftKk
「素手の相手に剣を向けるとはいい根性してるね。あんた悪者ね、悪者でしょ? サイト、こいつはわたしがもらうけどいいよね?」
「サーシャさん!」
 その細身に見える体からは信じられない力で、少女はジュリオを剣ごと弾き飛ばした。そして、体を覆っていた砂漠の砂よけのフードつきマントを脱ぎ捨てて、少女はその全身を現した。
 たなびく薄い金糸の髪、無駄なく引き締められた肢体に、揺れるほどよい大きさの果実、そして延びる長い耳。
「エルフ!?」
 人々から驚愕の声が響く。しかしジュリオの視線は、彼女の左手に釘付けになっていた。少女の左手の甲にきらめくルーン、それは。
「ガ、ガンダールヴだと!?」
「あら? ガンダールヴを知ってるの。なら話が早いわね、なんかあなたを見てると妙に胸がムカムカしてくるし、サイトに剣を向けた落とし前はつけさせてもらうわよ!」
 宣言すると、サーシャは俊敏な肉食獣のように地を蹴った。光と見まごうような剣閃が走り、反射的に受け身をとったジュリオの剣にすさまじい衝撃が伝わってくる。
「こ、これは本物だ。だが、いや、そういえばさっきサーシャと。エルフのガンダールヴ、ま、まさか!」
「なにぼさっとしてるの? 私は強いよ!」
 サーシャの舞うような剣戟が相次ぎ、剣技には自信のあったはずのジュリオが受けるしかできない。
 剣同士がぶつかり合う金属音と、輝く火花が人々の目を引き、まるで天使が円舞をしているかのような美しさを人々は感じた。エルフといえば、人間にとっては忌むべき、恐れるべき存在であるはずなのに、目の前のエルフの少女からはそうした恐ろしさはまるで感じられずに、逆にたのもしさと胸がすくような興奮が湧き上がってくる。
 さすが元祖ガンダールヴ! 才人は、全盛期の自分よりはるかに強いサーシャの活躍にしびれて、思わずガッツポーズをとりながら応援した。
 けれども、自分の実力ではかなわないと見たジュリオはまたも卑劣な手に出てきた。彼が右手の手袋を脱ぎ捨てると、彼の右手の甲にルーンが輝いたのだ。
「そいつは、私と同じ!」
「そう、僕も虚無の使い魔なのさ。僕は神の右手ヴィンダールヴ、その力を見せてあげるよ!」
 すると、彼らのいる城壁に向かって方々からドラゴンやグリフォン、マンティコアやヒポグリフなどが集まってきた。戦いの中で主人の騎士を失ったそれぞれの軍の幻獣たちだ、皆が正気を失ったように目を血走らせ、凶暴な叫び声をあげている。
「これが僕の力、あらゆる生き物を自在に操ることができるのさ。いくら君がガンダールヴでも、これだけの数の幻獣を相手にするのは無理だろう?」
 チッ、とサーシャが舌打ちするのと同時に、才人はまずいと思った。いくらサーシャが強くても、十数匹のドラゴンやグリフォンにいっぺんに襲いかかられたらかなうわけがない。

309ウルトラ5番目の使い魔 51話 (16/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:48:59 ID:CY9.ftKk
「サーシャさん、変身を!」
「あ、ごめん。さっきのでコスモプラックがどっか行っちゃって、変身できないのよね」
「ええーっ!?」
 最悪だーっ! と、才人は叫んだ。まずい、ここは城壁の上で逃げ場がない。やられる! 
 しかし、宙を飛んで襲い掛かろうとしていた幻獣たちに、さらに上空から別の飛行物体が高速で襲い掛かってきたのだ。
「いっけぇーっ、レーザーバルカン発射ぁ!」
 急角度から降り注いできた光線の乱射が幻獣たちを蹴散らし、さらに音速に近い速度で通り過ぎていったことで幻獣たちは衝撃波に吹っ飛ばされて散り散りになってしまった。
 今のは! 才人は城壁の上を飛び去っていった戦闘機を見上げた。あの機体は、どこかで見たような。いつだったっけ、けっこう前だったように思うけど思い出せない。
 しかし、才人の戸惑いとは裏腹に、その戦闘機、ファイターEXは再度反転して残った幻獣たちをあっという間に蹴散らしてしまった。才人やジュリオは呆然として見送るしかない。
 幻獣たちが全滅すると、ファイターEXは上空で調子に乗ったように宙返りをした。そのコクピットでは、メインAIであるPALが乱暴な操縦をしないでくださいと抗議していたが、パイロット席に座る彼、アスカ・シンは楽しそうに答えた。
「悪い悪い、操縦桿握るのなんて久しぶりだからついうれしくってさ。いい飛行機だな、こいつ。気に入ったぜ」
 彼はこちらの世界にルイズと来てルイズの爆発魔法で吹っ飛ばされた後、空を飛んでいるファイターEXを見て、そのコクピットが無人だと知ると「おーい、そこの戦闘機乗せてくれー」と手を振って頼んだのだった。
 もちろん、乗せるかどうかの判断はPALはしていない。アスカを乗せるのを決めたのは我夢だった。むろん、見ず知らずの人間を乗せるのには藤宮が難色を示したが、我夢はなぜか自信ありげに言った。
「大丈夫、彼は……信頼できる」
 我夢にしては根拠のない発言に藤宮は不思議に思ったが、確かにアスカは見事にファイターEXを操縦した。PALだけでは先ほどの機動は不可能だったろう。
 一方の我夢も、なぜか不思議な確信が頭に浮かんだのを感じていた。本当に不思議だ、彼を見るのは今日が初めてなはずなのに、まるで子供のころからの親友だったように感じた。
 この戦いが終わったら、彼と会ってみよう。我夢は静かにそう思った。
 ファイターEXは、周囲を警戒するようにトリスタニアの空を旋回し続けている。その速度に追いつける幻獣はハルケギニアに存在しない。ただ、カリーヌはその優れた視力でファイターEXのコクピットをわずかに覗き、心臓をわしづかみにされたような衝撃を感じていた。
 そして、嵐のように吹き荒れたアスカの乱入によって危機は去った。さあ、ここから再開だと、サーシャは剣を振りかざしてジュリオに飛び掛った。

310ウルトラ5番目の使い魔 51話 (17/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:50:43 ID:CY9.ftKk
「なにぼさっとしてるの! 卑怯な手を使わないと、女の子ひとりあしらえないのかな?」
「くっ、なめるなっ!」
 それはある意味ジュリオに対して最大の侮辱だったろう。才人は笑い転げたいのを我慢しながらサーシャの応援に戻った。
 だが、その瞬間、爆音を聞き、才人はエクスプロージョンの炎に弾き飛ばされてルイズが転がされるのを見たのだ。
「ルイズ!」
「だ、大丈夫よ」
 思わずルイズに駆け寄り、才人はルイズを助け起こした。ルイズは見たところたいした傷は負っていないようだったが、強がっている言葉に反して杖を握っている腕は痙攣して、相当に疲労が蓄積しているのが察せられた。
 そんなふたりを見下ろしながら、ヴィットーリオは余裕を取り戻した声で悠然と告げた。
「少し焦りましたが、やはりメイジとしての技量では私に一日の長があったようですね。悔しいですか? ですがあなたの言葉を借りれば、懺悔する時間は与えませんよ。今すぐに、始祖の下に送ってあげましょう」
 時間稼ぎはさせまいと、ヴィットーリオは即座にエクスプロージョンの魔法を完成させた。威力は抑えているが、それでも人間二人を粉々にして余りあるだけの魔法力が才人とルイズの眼前に集中する。
 やられる! 対抗の魔法は間に合わないと、ルイズは死を覚悟した。しかし、その瞬間、ふたりの後ろから別の虚無のスペルが放たれた。
『ディスペル!』
 魔法を打ち消す魔法の光がヴィットーリオのエクスプロージョンを瞬時に無力化した。
 馬鹿な! と、ヴィットーリオは驚愕する。そして、才人とルイズの後ろから散歩に行くような暢気な足取りで、小柄な青年が杖を握りながら現れたのだ。
「始祖の下に送る、か。いやあ、残念だけど多分それは無理だと思うよ」
「な、何者です?」
「ただのサイトくんの友達さ。いけないなあ、その魔法は悪いことに使うもんじゃないと聞いてないかい? これなら、まだ荒削りだけどそっちのお嬢ちゃんのほうがはるかにマシだよ。ねえ」
 そう言って、青年は寝かせた金髪の下の瞳をルイズに向けて優しく微笑んだ。
 すると、ルイズは不思議な既視感を覚えた。この人とは初めて会ったはずなのに、なぜかずっと昔から知っているような暖かな懐かしさを感じる。
「君がサイトくんの主人だね。話はいろいろ聞いているよ。なるほど、確かにどこかサーシャに似た雰囲気を感じるね。涙が出そうだよ……けど、どうやらタチの悪いのも生まれてしまったようだね。ここは僕がやるのが筋だろう、サイトくん、彼女を守ってあげなさい」
 彼はそれだけ言うと、再びヴィットーリオに向き合った。

311ウルトラ5番目の使い魔 51話 (18/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:52:26 ID:CY9.ftKk
 すぐさまヴィットーリオの放ったエクスプロージョンの魔法が襲い掛かってくる。だが彼は、即座に呪文を唱えると、なんと相手のエクスプロージョンの収束に自分のエクスプロージョンを当てて暴発させてしまったのだ。
 爆発が爆発で相殺され、爆風があさっての方向へと飛び散っていく。そんなまさかと驚くヴィットーリオに向かって彼は告げた。
「初歩の初歩の初歩、エクスプロージョン。けれど、だからこそ使い勝手はとてもいい。効くかどうかは別にして、望んだすべてのものを爆破できる。ふむ、やったことはなかったけど虚無に虚無をぶつけても効くのか、覚えておこう」
 事も無げに言ってのける彼だったが、それがいかにとんでもないことなのかはルイズがよくわかっていた。虚無を使えるようになってからエクスプロージョンは数え切れないほど撃ってきたが、あんな瞬間に超ピンポイントで当てるような神業はできない。あの青年は、いったいどれほどの虚無の経験を積んできたというのか。
 ルイズは才人に、「あの人はいったい誰なの?」と尋ねようとしたが、それより早く魔法戦は再開された。
 さらに強力なエクスプロージョンにエクスプロージョンがぶつかり、トリスタニアの空に太陽のような光球がいくつも閃いては消える。
 こんな魔法戦、見たことがない。戦いを見守っていた全世界の人々がそう思った。現れては消える、あの光球ひとつだけでも直径数百メイルはあるとんでもない巨大さだ。もしあれがひとつでも戦場で炸裂したら、アルビオンやガリアの大艦隊でも一瞬で消し飛ばされてしまうだろう。
 火のスクウェアメイジが百人、いや千人いたところでこんな光景は作れないに違いない。
 トリスタニアの空に太陽がいくつも現れては消える。アンリエッタやウェールズは、自分たちがヘクサゴンスペルを完成させたとしても到底及ばないと戦慄し、エレオノールやヴァレリーは「こんなの魔法の次元じゃないわ」とつぶやき、ルクシャナは好奇心を塗りつぶすほどの壮絶さに大いなる意思にひたすら祈り、カリーヌさえも唖然として見ている。
 全世界のメイジたちも同様に、一生に二度と拝めないかもしれない壮絶な魔法合戦を見守っている。
 ただ例外は才人で、彼はひとりでサーシャのほうの応援をしていた。
「がんばれーっ、サーシャさん! いけーっ、そこだ、かっこいいーっ」
 同じガンダールヴだった同士で波長が合うのか、才人の応援は熱がこもっていた。
 しかしそれが気に食わないのはルイズだ。あの虚無使いの人は何者なのかと聞こうと思ったら、才人は自分を無視してこのテンション。しかも、せっかく久しぶりに会ったと思ったら、知らない女に熱烈な声援を送っているのも気に入らない。
 そうなると、ガンダールヴとかの問題は思考の地平へ飛び去ってしまい、ルイズの心でメラメラと黒い炎が渦巻いてくる。
「ねぇ、サイト?」
「ん? なんだルイ、ぐえっ!? く、首、首を絞めるなぁぁっ!?」
「ご主人様から目を逸らしてずいぶん楽しそうじゃない。なんなのあの女? あんた、わたしの見てないところでまた新しい女とデレデレしてたんじゃないの?」
 ああ、この嫉妬深さ、これこそがルイズだと才人はしみじみ思ったが酸素を取り上げられてはたまらない。

312ウルトラ5番目の使い魔 51話 (19/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:54:17 ID:CY9.ftKk
「ぐえええ、締まる、締まってるって! 誤解、誤解だルイズ。いくらおれでも人妻に手を出すような趣味はないって!」
「人妻?」
 ルイズの力が緩んだ。なるほど、いくら才人でもそこまで節操なしではないだろう。才人はほっとして、胸いっぱいに空気を取り込んだ。
 だが正直に言ったのがサーシャの逆鱗に触れてしまった。
「ちょっ、誰が人妻よ、誰が!」
「あだぁっ!」
 サーシャが投げた剣の鞘が才人の頭に命中して鈍い音を立てた。才人は目を回し、代わってルイズが抗議の声をあげる。
「ちょっとあなた! 人の使い魔に向かって何してくれるのよ!」
「そいつが人妻だなんて言うからよ。私とあいつは、その……まだ……そんなんじゃないんだからね!」
 ルイズは彼女のその反応に、「あれ? なんかどこかで見たような」という感想を抱いたが、答えに思い当たると何かムカつく気がした。
 しかし、ルイズの願望を裏切るように、青年がヴィットーリオと戦いながらも口を挟んできたのだ。
「おいおいサーシャひどいなあ、君と僕との関係は、もう歴史上の既成事実なんだよ。子孫の前で、それはないんじゃないかな」
「う、うるさいうるさいうるさい! 誰があんたなんかと、あんたの赤ちゃんなんか産んでやるもんですか!」
「そうかい? 僕は君に僕の赤ちゃんを産んでほしいと思うけどなあ。僕と君の子供なら、きっとかわいいだろうなあ。そう思わないかい?」
「う、ううううう、バカバカバカ! もう知らないんだから!」
 青年の軽口に、サーシャは顔を真っ赤にして顔を伏せてしまった。だがそうしてじゃれあいながらも、ふたりともヴィットーリオとジュリオ相手に互角に渡り合っているのだからとんでもない。
 いったい何なのよ、この人たち? ルイズはわけがわからずに目を白黒させていたが、才人がやっと目を覚ましてきたので聞いてみた。
「ちょ、サイト。あのふたり、いったい何者なのよ?」
「んん? ああ、大昔の虚無の使い手と使い魔さ。お前の遠い遠いおじいさんとおばあさんだよ」
「大昔の? そっか、そういえばあなたは過去に行っていたって言ってたわね。けど、ほんとどういう人たちなのよ。あの人外の教皇と互角にやりあえるなんて、そんな虚無の担い手なんて、まるで始祖……えっ?」
 そこまで言いかけて、ルイズははっとして固まってしまった。
 まさか……そんな。しかし才人は、言葉が出ないルイズをニヤニヤ笑いながら見ている。ルイズは全身から血の気が引いていくのを感じた。

313ウルトラ5番目の使い魔 51話 (20/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:56:15 ID:CY9.ftKk
「ま、ままままま、まさか、ほ、ほほほほ本物の、しし、ししししし」
 そのときだった。教皇と青年の魔法の撃ち合いが、ひときわ大きいエクスプロージョン同士の炸裂で終息した。
 空を覆っていた魔法の光芒が消え去り、教皇と青年が十数メイルの距離を置いてにらみ合う。と、同時にジュリオとサーシャの剣戟も終息し、両者はそれぞれの主人の脇に戻った。
 しかし余力はまるで違う。教皇とジュリオが肩で息をしているのに対して、青年とサーシャは汗ひとつかいていない。
 戦いを見守っていた世界中の人々も、あのふたりはいったい何者なんだと息を飲んでいた。教皇聖下が、伝説の系統である虚無の担い手だということはもはや疑いようがない。その教皇聖下を同じ魔法で圧倒できるとは何者か? 同じ魔法? つまり相手も虚無の使い手。しかし、そんなものが存在するのか?
 人々は沈黙し、疑問の答えを待つ。やがて、穏やかに青年が教皇に対して語りかけた。
「もうやめないかい? 君もなかなかの力を持っているようだが、君の使う虚無の系統なら僕はすべて使えると思うよ」
「こ、これほどまでとは。いったい何者なのですか……いや、あなたの顔はどこかで……はっ!」
 そのとき、ヴィットーリオは記憶の中のひとつと目の前の青年の顔が合致して凍りついた。予期せぬ事態の連続と戦闘の興奮で半ば我を失っていたために気がつかなかったが、ロマリア教皇としてブリミル教の内情に関わった知識の中に、たったひとりだけ目の前の青年に該当する人物がいた。
 そういえば、ジュリオが戦っていたエルフの娘はガンダールヴだった。虚無の担い手は過去に複数存在したが、エルフを使い魔にしたのはたったひとりしか存在しない。
「ま、まさか、あなたの名は……」
「ん? そういえばまだ名乗ってはいなかったね。じゃあ遅くなったけど、自己紹介しておこうか」
「ま、待て!」
 ヴィットーリオは狼狽して止めにかかった。
 まずい、それだけはまずい。もし、目の前の青年があの人物だとしたら、ロマリアの、教皇の、権威も威厳も、そのすべてが塵のように吹き飛ぶ。そして、それを納得させられるだけの材料は、すでに全世界の人間たちの目に示されてしまってている。
 しかし、遅かった。青年はヴィットーリオを無視しているようなのんびりした声色で、全世界に対して自分の名を告げたのだ。
 
「僕の名はニダベリールのブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」
 
 その瞬間、全ハルケギニアが凍りついた。

314ウルトラ5番目の使い魔 51話 (21/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:58:37 ID:CY9.ftKk
 え? 今、なんて? ニダベリールの……ブリミル? え? 聞き間違いでなければ、その名前を許されているのは、ハルケギニアの歴史上たったのひとり。
 と、いうことは……つまり。
「し、ししししししし、始祖ブリミル、ご本人ーーーーっ!?」
 沈黙から一転して、全ハルケギニアがひっくり返ったような混沌に陥った。
 始祖ブリミル、その降臨。世界中で老若男女がひれ伏し、アンリエッタは気を失いかけ、カリーヌでさえ腰を抜かしそうになった。
 遠方で見守るギーシュたちもトリスタニアのほうを向いてひざを突き、アニエスやミシェルたちも剣や杖を置き、元素の兄弟もさすがに唖然となった。
 もはや、トリスタニアだけ見ても、トリステイン・ガリア・ロマリアどの軍も等しく平伏して身動きひとつしていない。
 例外はガリアでジョゼフが爆笑していることと、彼らの目の前で才人が調子に乗っていることである。
「わっはっはっはっ! どーだ教皇、てめえがいくら偉くても、ブリミル教でこの人より偉い人はいねーだろ! ざまーみやがれ!」
 胸がすっとなるような快感を才人は味わっていた。まるで悪代官に先の副将軍が印籠をかざしたり、将軍様が「余の顔を見忘れたか?」と言い放ったときのようだ。
 だが、調子に乗る才人をルイズが頭を掴まえて床にこすりつけた。
「いってえ! な、なにすんだよルイズ」
「バカ! 始祖ブリミルの御前なのよ。なんて恐れ多い、あわわわわ」
 ルイズもすっかり混乱してしまって目の焦点がぐるぐるさまよっている。しかしそんなルイズに、ブリミルは少し困ったように言った。
「ねえ君、ルイズくんといったよね。サイトくんも痛がっているし、やめてあげてくれないかな」
「い、いえそんな! 始祖ブリミルに対してそんな恐れ多い!」
「僕はそんなに偉い人間じゃないよ。少なくとも今はね。それに、友達に頭を下げられて愉快な人間なんかいないさ。さ、頭を上げて」
 促されて、ルイズが恐る恐る頭を上げると、そこにはブリミルとサーシャが優しく微笑んでいた。
 だが、優しげな表情を一転させて、ブリミルはヴィットーリオを鋭い視線で睨み付けると言った。

315ウルトラ5番目の使い魔 51話 (22/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/04(日) 00:03:34 ID:TzIwyXIc
「さて、僕の名前を使ってさんざん悪いことをしてくれたみたいだね。僕はね、君たち子孫に争ってもらいたくていろんなものを残したんじゃない。僕らの時代に、世界は荒れ果てた。僕らがやったことはすべて、この世界が平和を取り戻し、僕らの子供たちが幸せに暮らせるようになることを願ってのことだ」
「くっ、し、しかし聖地は」
「それだけは詫びねばいけないね。たぶん、死ぬ前の僕はそれだけは心残りだったんだろう。だけど、聖地は人間だけが目指すべき場所じゃない。エルフも、ほかの亜人たちも、この星の生き物すべてにとって重大な意味があるところなんだ。いや、すべての生命が力を合わせなければ聖地には届かない。君のやろうとしていることは、聖地から遠ざかることだ」
「ぐぐ……」
「この場で偽りを認めればよし。だが、もしこれ以上の戦いを望むなら、僕も容赦はしない。君がよりどころとする虚無の、そのすべてを打ち砕いてあげるよ」
 ブリミルのその一言が、教皇にとってのチェック・メイトであった。
 教皇が正義を騙っていた、そのすべての根拠がひっくり返された。最後に残った虚無も、始祖ブリミルという絶対の存在にはかなわない。
 
 もはやこれまで……ヴィットーリオは、連綿と続けてきた計略のすべてが失敗したことを認めた。
「数千年をかけて築き上げてきた我々のプランが、こんな形で崩壊させられるとは……ですが、たとえ我々がここで潰える運命だとしても、我々の後に続く者たちのために道をならしておくことにしましょう!」
 ついに本性を隠すことを止めたヴィットーリオとジュリオの周りにどす黒いオーラが渦巻く。
 来る! ついに根源的破滅招来体と、この世界で最後の決着をつける時が来たのだ。
 あのときの借りを今返すと、才人とルイズは視線を合わせて手を握り合った。
 そして、ファイターEXでもアスカが懐からリーフラッシャーを取り出していた。
 闇に包まれたハルケギニアに再び光を。歴史に残る大戦争の、そのクライマックスが今、始まる。
 
 
 続く

316ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2016/12/04(日) 00:08:53 ID:TzIwyXIc
51話はここまでです。
時代劇の王道パターンですが、権力を笠に着る奴をより以上の権力で叩き潰すって、なぜか気持ちいいんですよね。
さて、今回はとうとう主人公ふたりが帰還。しかも最強の助っ人を引き連れてです。コスモスは残念ですがちょっと出番を譲ってあげてください。
では、次回はいよいよロマリア編最終決戦です。今回は遅くなってしまいましたが、最悪でも年内に投稿できるよう頑張ります。

317名無しさん:2016/12/04(日) 13:24:03 ID:8tAQO01.
ここで、「えーい、上さ…もとい始祖ブリミル様がこのような所に居られるはずがない!」
とか言ってくれたら良かったのにw

デーンデーンデー(ry

318名無しさん:2016/12/04(日) 21:57:35 ID:NfHayrSw
そりゃジョゼフさんも予想を遥かに超えた事態が面白すぎて爆笑するわなw

319ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:16:22 ID:nov/m48.
5番目の人乙です。私も投下を始めさせてもらいます。
開始は23:20からで。

320ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:21:07 ID:nov/m48.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十七話「王立図書館の恐怖」
冷凍怪獣ペギラ 登場

 ――そろそろ夏が近い季節にも関わらず、トリステイン王国領土の平原が一面の銀世界に
なっていた。見渡す限りの大地が氷雪に埋もれており、木や草花には霜が降りている。仮に真冬で
あったとしても、トリステインの気候ではここまでの光景にはならないだろうというほどに
氷で閉ざされていた。
「バアオオオオオオオオ!」
 その犯人は、銀世界の真ん中に立つ一体の巨大生物。腕はヒレ状の翼となっており、足には
水かきが生えている。首はトドかアザラシのような鰭脚類に似ていて、まぶたが常に半開きなのが
おとぼけな印象を受けるが、この状況で一目瞭然だがその実はかなりの力を秘めた冷凍怪獣だ。
名をペギラ。本来は寒冷地にのみ棲息する怪獣なのだが、何らかの事情でトリステインの地に
迷い込んできたのだろう。そして降り立った場所を中心として自分に棲み良い世界に変えてしまった
ばかりか、氷の世界はペギラの冷凍光線によってどんどんと拡大していっている。このままでは
トリステイン全体が凍りついてしまうかもしれない。
 人間は環境への適応能力が優れているという訳ではない。それなのに世界で最も繁栄している
生物になることが出来たのは、高い知能によって環境の方を自分たちの暮らしやすいように変える
能力があるからだ。そこが通常の生物と一線を画すところだが、これを見ると怪獣にも同じ能力が
備わっていると言うことが出来るだろう。しかも怪獣には人間などはるかに超越する戦闘能力まで
ある。このままでは数え切れない人間がペギラによって蹂躙され、ハルケギニアという星が滅茶苦茶に
荒らされてしまうのは誰が見ても明らか。
 しかしそんな惨状を阻止するためにはるか遠くの宇宙から次元の壁を越えてやってきた、
新時代の英雄がいる。
「シェアッ!」
 そう、我らがウルトラマンゼロ! 彼は宇宙空手の構えを取り、これ以上トリステインを
氷に閉ざさせないためにペギラに果敢に立ち向かっていく。
「バアオオオオオオオオ!」
 だがペギラは口から霧状の冷凍光線を、膨大な量で吐き出す。それは俊敏なゼロでも回避
することは不可能であった。
「グゥッ!?」
 冷凍光線によってゼロは途端に苦しみ、身体が徐々に凍りついていく。ウルトラ族は光の種族。
身体の内に計り知れない光のエネルギーを持ってはいるが、それ故に極低温に対する耐性は持たない。
冷凍怪獣は全ウルトラ戦士が苦手とするところなのだ。
 しかもペギラは冷凍光線を発する能力に特化している。まさに相性は最悪だ。如何にゼロでも、
ペギラのもたらす猛吹雪を突破することは出来ないのか?
『――はぁぁぁぁぁッ!』
 そう思われたが、しかし、ゼロは全身から凄まじい熱量を発することで氷を溶かし、冷凍光線を
はねのけた上に、ペギラ本体まで熱波によってひるませた。
『俺たちは!』
『これくらいの寒さじゃあ!』
『参らないぜッ!!』
 ゼロと、このハルケギニアで彼と一体となった地球からの来訪者、才人の声がそろった。
 初めは事故によってゼロと融合し、否応なしに彼とともに戦う羽目になっただけの才人で
あったが、ハルケギニアで様々な戦いと試練を乗り越える内に大きく成長して、今や誰もに
認められる立派な戦士となった。ポール星人がもたらした氷河期も踏破したことのある彼の
精神力は、ペギラの冷凍光線も寄せつけない熱さなのだ。その精神がゼロの力に直結している。
 ゼロと才人、この二人は名実ともにハルケギニアの新たなる英雄であると言えよう。
『お返しだぜ! 俺たちの魂のビッグバン、とくと味わいなぁッ!』
 ゼロは握り締めた拳に真っ赤に燃える炎を宿し、ペギラへとまっすぐ駆けていく。
「セイヤァァァッ!」
 そして決まる灼熱のチョップ、ビッグバンゼロ!

321ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:25:16 ID:nov/m48.
 弾けた熱波が辺り一面に広がり、銀世界を吹き飛ばして氷雪を瞬く間に溶かしていった。
「バアオオオオオオオオ!!」
 熱すぎる一撃をもらったペギラはたまらずに戦意を失い、勢いよく空に飛び上がって黒い煙を
吹かしながら北に向かってまっすぐ飛び去っていった。このまま本来の生息域である、北方の
寒冷地へと去っていくことだろう。そのまま人間と折り合いをつけて生きていくのが、ペギラに
とっても人間にとっても最良の道なのだ。
「ジュワッ!」
 そしてペギラが立ち去っていったことで、ゼロもまた大空に飛び立って帰還していった。
ハルケギニアのほとんどの者が知らないことだが、彼の帰る場所はトリステイン魔法学院。
才人はそこで自分を召喚した少女、ルイズの使い魔として日々の生活を過ごしているのだった。

 ……このゼロの飛び去っていく姿を、ある場所から何者かが、不可思議な能力を以てじっと
観察をしていた。
『あれが、新しく現れた現実世界の英雄、巨躯なる超人、ウルトラマンゼロ。そして……』

 さてペギラを撃退した後、才人はルイズとともにトリスタニアを訪れて、アンリエッタから
ある頼みごとを受けた。
「ここがトリステインの図書館かぁ〜。おっきいな!」
「当たり前でしょ、王立なんだから。すごく価値のある資料も保管されてるのよ。……まぁでも、
わたしもこんなに大きいとは思ってなかったけど」
 日が地平線の向こうに沈みそうな時間帯に、ルイズと才人は雄大で豪奢な造りの建築物の
前にやってきていた。ここはトリステイン王国立図書館。トリステインが保有する様々な種類の
資料がこの建物の中に保管されている。
 才人はアンリエッタからの依頼の内容を、ルイズに確認する。
「それで、この中に夜な夜な幽霊やら人魂やらが出るってことだったよな? でも見間違い
じゃないのか? 幽霊なんて、大体はそんなオチだぜ。まさかシャドウマンがそこらにいる
はずもないだろうし」
「それを確かめるのがわたしたちの仕事でしょうが」
 アンリエッタからの話によると、ここ最近になって図書館で幽霊を目撃したという話が
持ち上がっていると、図書館の司書から報告があったというのだ。貴重な図書を狙う窃盗犯の
仕業かもしれないので、事の真偽と幽霊の正体を早急に調査しなければならない。しかし折悪く、
アンリエッタはある式典に出席するためロマリアに赴かなければならず、その準備で王宮は
忙殺されている状態。それで他に手が空いていて、アンリエッタの信頼がある人員として、
ルイズと才人にお鉢が回ってきたのだった。
「でも幽霊の正体暴きなんて、騎士というより探偵の仕事みたいだよなぁ。まぁ、剣の出番が
ないのならそれに越したことはないんだけどさ」
「俺としてはちょいと残念だがな。出番がねえのは寂しいぜ」
 デルフリンガーが鞘から少しだけ顔(?)を出してぼやいた。
 幽霊の正体はまだ見当もつかないが、誰かが危害を受けたという話はないとのこと。大袈裟な
対応は必要ないだろう、ということでオンディーヌは学院に置いてきて、ルイズとの二人だけが
アンリエッタに騒動の解決を頼まれた。……はずなのだが……。
「それなのに……どうしてタバサはここにいるのかしらね……?」
「シルフィもいるのね!」
「パムー」
 ルイズたちの後ろについているタバサの傍らのシルフィード人間体が手を挙げ、その肩の上の
ハネジローも真似して手を挙げた。才人はタバサにヒソヒソと尋ねかける。
「何でシルフィードは人間の姿なんだ?」
「街中で風竜の姿だと目立つ」
 なるほど、とうなずいている才人をよそに、ルイズはタバサに再度問いかけた。
「タバサ、どうしてあなたがわたしたちと一緒に来てるのかしらね? またサイトの護衛とか
言うつもりじゃないわよね」
 タバサは臆面もなく首肯してみせた。タバサは才人たちが学院からトリスタニアへと出かけるのに
目敏く気づいて、追いかけてきたのだ。シルフィードの速度からは誰も逃れられない。

322ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:28:32 ID:nov/m48.
 ルイズは目くじらを立ててタバサに詰め寄る。
「タバサ、ちょっと出しゃばりすぎじゃないのかしら? 行く先々にわたしたちについて回って。
これじゃあストーカーよ? 涼しい顔してないで、自重ってものを覚えた方がいいんじゃなくて?」
 タバサは涼しい顔で言い返した。
「あなたに指図されることじゃない」
 ピキ、と青筋を立てたルイズが杖を抜こうとするのを才人は慌ててなだめる。
「だぁーッ! こんなとこで喧嘩になるなよ! そ、それより、ここの図書館の司書の人は
まだなのかな? ここで待ち合わせのはずだよな」
「お待たせしました」
 噂をしたら、ちょうど図書館の司書と思しき人物がやってきた。
 才人は王立図書館の司書と言うから年配を想像していたが、それとは裏腹に眼鏡を掛けた
うら若き女性であった。肩の上には丸っこく赤い奇妙なものを乗せている。一見生き物かの
ようだが、よく見れば人工物であった。
「司書のリーヴルと言います。この子は使い魔のガラQです」
「ガラQ! ヨロシク!」
「パム!」
 肩の上のガラQなる赤い真ん丸が短い手をひょっこり上げて挨拶すると、ハネジローが
快活に挨拶を返した。
 ルイズは早速リーヴルという女性に、幽霊騒動の話を持ちかけた。
「リーヴル、図書館に出る幽霊のことなんだけど、それって目撃されたのは夜だけなの?」
「ええ、今のところは」
「分かったわ。それじゃ一旦宿に戻って、夜になってからまた来ましょう」
「よろしくお願いします」
 と頭を下げたリーヴルは……ルイズに鍵の束を手渡した。
「これが図書館の鍵です。では、私はこれで」
 言い残してその場を立ち去ろうとするリーヴルに、タバサも面食らった。
「ち、ちょっと! まさか帰るの!?」
「ええ。もう閉館の時間で、本日の業務も全て終えましたので」
「わたしたちだけで図書館にいろっていうの!?」
「私の仕事は時間内の図書館の管理だけです。他の時間は仕事の範疇外です。時間外の労働に
ついては、国を通して申請して下さい。それでは……」
 淡々と告げられてルイズたちが唖然としている内に、リーヴルはスタスタと帰っていってしまった。
「あ、ちょっと待ちなさいよ! ……行っちゃった」
「い、如何にもお役所仕事って感じの人だったな……」
 苦笑いを浮かべる才人。肩をすくめ、図書館の方へ向き直る。
「仕方ない。今から王宮に行くのも何だし、俺たちだけで見て回ろうぜ」
「はぁ、しょうがないわね……」
 ルイズと才人はそのまま宿の方角へ歩いていくが、タバサはやや怪訝な様子でリーヴルの
去っていった方向を見つめていた。
「お姉さま、どうしたのね? 置いてかれちゃうのね」
 シルフィードが急かすと、タバサはポツリとつぶやいた。
「……司書が夕方には帰るなら、誰が夜中に図書館内で幽霊を目撃したの?」
「あッ、そういえば……」
 シルフィードとハネジローが首をひねったが、答えは出てこなかった。
「うーん、難しいことは分からないのね。それより早く追いかけないと、あの意地悪な桃色髪に
宿から閉め出されるかもしれないのね」
「……」
 タバサはまだリーヴルの去った後に目を向けていたが、シルフィードに手を引かれて、
ルイズたちの背中を追っていった。

 数時間後に完全に日が落ちてから、ルイズたち一行は図書館に舞い戻ってきた。正門の鍵を
開け、中に入っていく。
 図書館は点在している仄かな魔法の照明のみが中を照らしており、辺りはかなり薄暗く、
かつしんと静まり返っている。一行の他には誰もいないのだから当たり前ではあるが。

323ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:30:38 ID:nov/m48.
 シルフィードがぶるぶると震えて口を開いた。
「うぅ、何だか不気味な雰囲気なのね。ほんとにお化けが出てきそうなのね」
「あんた、夜中は外で寝てるじゃない。それなのに暗いのが怖いの?」
 突っ込むルイズ。
「お外は夜でも虫の声や風の音がするのね。ここは何の音もない、自然にはない世界だから薄気味悪いのね。
全く、人間ってどうして自分たちの住処から音を無くしちゃうのか、理解に苦しむのね」
「パムー」
 シルフィードがぼやいていると、才人がふと平然としているタバサに尋ねかけた。
「そういえばタバサ、幽霊が出るかもしれないって話なのに、お前怖くないのか? この前は
幽霊嫌いとか言ってなかったっけ」
 するとタバサはギクリと身体を震わせる、珍しい反応を見せた。それに気づいてルイズが
胡乱な目を向けた。
「何よタバサ、あんた幽霊怖いの? ……でもそんな風には見えないわね。まさか、嘘吐いたんじゃ
ないでしょうね。サイトに、何のために?」
 軽く冷や汗を垂らすタバサを見て、何かを察したシルフィードがにんまりした。
「そうなのね! お姉さま、お化けがとってもお嫌いなのね。そういうことだから、勇者さまに
お姉さまを守ってもらいたいのね! さあさあ」
 タバサをぐいぐいと才人に押しやるシルフィード。
「お、おいシルフィード、ちょっと待ってくれよ……!」
 戸惑う才人だが、それ以上にルイズが癇癪を起こした。
「ちょっとぉッ! 何やってるのよあんたたち! 邪魔しに来たんなら帰ってくれる!?」
「落ち着けってルイズ。そんなに怒らなくてもいいだろ。お前は怖くないのか?」
「な、何が怖いもんですか! お化けが怖いなんて、そんな子供っぽいこと……!」
 とのたまうルイズだったが、その時にどこか奥の方でバサッという物音がした。
「きゃあああッ!?」
 その途端にルイズは大きな悲鳴を上げ、才人の片腕に抱きつく。
「ル、ルイズ、今のはどっかで本が落ちただけだよ。怖がることないじゃないか」
「ぷぷぷー。何だ、結局お前も怖いのねー」
 シルフィードに笑われ、ルイズはハッと我に返った。
「こ、怖がってなんかないわよ! サイトが怖がると思って抱き寄せただけなんだからね!」
「へぇー?」
 才人が含み笑いを浮かべて自分に目を向けるので、ルイズはキッとにらみ返した。
「何よサイト。ご主人様が怖がったって言いたいの?」
「いや、そんなことはないけどさ」
「お姉さまは怖いって言ってるのね! 抱き締めてあげるのね!」
 再びタバサをぐいぐい才人に押しやるシルフィード。才人はタバサの控えめながらも柔らかい
感触と肌のぬくもりを感じて赤面した。
「だ、だからシルフィード、ちょっとやめてって……」
「こ、この犬ぅ〜……!」
 するとルイズはメラメラと嫉妬心を燃やして、クルッと背を向けた。
「もういいわよッ! 真面目にやる気がないんだったら、わたし一人で姫さまからの任務を
遂行するわ! 犬はそこでタバサと竜とじゃれ合ってればいいわッ! それじゃあね!!」
 すっかりへそを曲げたルイズは憤然としながら、一人で図書館の奥へと行ってしまった。
「あッ、おいルイズ! 一人で行くな、危ないぞ!」
 慌ててそれを追いかけていく才人。残されたタバサはジロッとシルフィードをにらむと、
杖でその頭を叩いた。
「いたい!」
「おふざけが過ぎる」

324ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:32:19 ID:nov/m48.
「ごめんなさい、お姉さま。シルフィはただ、お姉さまがあの男の子ともっと仲良くできたら
いいなって思っただけなのね。……でもお姉さまだって、割と満更でもなかったような」
 そう言ったら、タバサはポカポカと杖で何回も叩いた。
「いたいいたい!」
「パム〜」
 そんな二人の様子をながめて、ハネジローがやれやれといった感じに首を振った。

「もう、サイトの馬鹿! 知らないッ……!」
 ルイズはぷりぷりしながら書架の間を通り抜けて進んでいく。
「いつまで経っても、ご主人様の気持ちが分からないんだから! すぐ女の子にデレデレして……!」
 不平不満を垂れながら歩いていたら……行く先に、本が六冊床に落ちているのを発見した。
「あら……? さっき落ちたのはこれかしら。でも、どこから落ちたのかしら」
 左右に目を走らせたルイズだが、両隣の書架は綺麗に本が並んでいて、落下の形跡は
見当たらなかった。書架の上にでも積んであったのだろうか?
 ともかく床に落ちたままなのは落ち着かないので、拾って棚に戻そうと本に手を伸ばすと……。
「え……?」
 その六冊の本から、妙な輝きが発せられた。

 才人はルイズの姿を捜しながら、薄暗い図書館の中を彷徨っている。
「おーいルイズー、どこ行ったんだー? くそッ、見失っちまったな……」
 頭をかく才人にデルフリンガーが意見する。
「いくら広くても限度があるだろうさ。外に出たんじゃなけりゃあ、しらみ潰しに捜せば
見つかるだろうよ」
「そうだよな。全く、幽霊より先にルイズを見つけなきゃいけなくなるなんて……」
 ぼやいたその時、奥の方からドサッと何かが倒れる音がした。先ほどの本の音とは違い、
明らかにもっと重いものの響きだった。
「!? 今のは……」
『サイト!』
 ゼロが焦った声を発した。
『ルイズの気配が妙だ! 急に動きがなくなった……! こりゃちょっとまずいかもしれねぇぜ!』
「何だって!? ルイズッ!」
 慌てて音の聞こえた方向に走る才人。そして、ルイズが床に倒れているところを発見する
こととなった。

325ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:32:56 ID:nov/m48.
「ルイズ! 何こんなところで寝てるんだよ!」
「動かさないで!」
 ルイズの身体に触れようとした才人を、同じく異常を察して駆けつけてきたタバサが呼び止めた。
「頭を打ってるかもしれない」
「そ、そうだな。ルイズ、しっかりしろ! ルイズ!」
 才人は手を引いて、ルイズに何度も呼びかける。だが一向に目覚める気配がない。
「ルイズ、どうしたんだよ……?」
 タバサがルイズの容態を診て、眉間に皺を刻んだ。
「完全に気を失っている。落ち着けるところで手当てした方がいい」
「そうか……。じゃあ控え室にルイズを運ぼう。大事じゃなければいんだけど……」
「シルフィード」
「はいなのね!」
 才人とシルフィードで協力してルイズの身体を持ち上げ、気をつけながら控え室まで運んでいった。
「パム! パム!」
 その一方でシルフィードの肩から飛び降りたハネジローが、ルイズの側に落ちていた六冊の本を
妙に警戒して鳴き声を上げた。
「……?」
 それを見たタバサは、本を全て拾い上げて、才人たちを追いかけて控え室に持っていった。

 それからルイズは気つけ薬を飲まされたり魔法を掛けられたりしたのだが、少しも目を
覚ますことがなかった。一体、ルイズの身に何が起きたというのか……。

326ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:34:29 ID:nov/m48.
ここまで。
そんな訳で迷子の終止符と幾千の交響曲編です。

327ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:18:03 ID:.PhEE1Oo
こんばんは、焼き鮭です。続きの投下を始めます。
開始は21:20からで。

328ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:20:10 ID:.PhEE1Oo
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十八話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その1)」
宇宙恐竜ゼットン
ウラン怪獣ガボラ
エリ巻き恐竜ジラース 登場

 王立図書館の幽霊騒動の解決を頼まれたルイズと才人。しかし、ルイズが突如として意識不明の
状態に陥ってしまう。
 それから一夜明けたにも関わらず、ルイズは一向に目覚めなかった。才人は図書館の控え室にて、
焦燥した様子でウロウロと歩き回る。
「くそッ、ルイズは一体どうしちまったんだ……。いきなり倒れて、目を覚まさないなんて」
「お姉さま、原因分からないの?」
「パムー……」
 シルフィードとハネジローがベッドに寝かされたルイズを見下ろし、タバサに不安げに
目を向けた。しかしタバサは力なく首を振る。
「分からない」
 知識が豊富なタバサでも、ルイズの昏睡の原因は不明であった。思いつく限りの処置を
取ったが、ルイズには全く効果がなかった。
 ゼロが意見する。
『怪獣とか宇宙人とか、そういう類の気配はなかった。……だが、リシュの件もある。何か
未知の力がルイズに働いたのかもしれねぇ』
 やがて、控え室の扉がノックされて一人の女性が入室してきた。
「失礼します」
「リーヴル!」
 王立図書館の司書のリーヴルだ。朝になって出勤してきたようだ。
 彼女はテーブルの上のガラQを置くと、才人たちに振り返って告げた。
「タバサさんの連絡で、おおまかな事情は伺ってます。その件で一つ、お話しが」
「ルイズのこと、何か知ってるのか!?」
 才人の問い返しにうなずいたリーヴルは、自身の目でルイズの容態を確かめてから才人たちに
向き直った。
「間違いありません……。これは、『古き本』の仕業です」
「古き本?」
「お姉さま、知ってる?」
 シルフィードにタバサは否定で答えた。リーヴルが説明を行う。
「この図書館には、数千年前の本が所蔵されています。内容は愚か、文字も読めません。
それら本を総称して『古き本』と呼んでいます」
「でも、その本とルイズに何の関係があるんだ?」
「『古き本』には、絶筆のものもあります。諸事情で、本が未完のままで終わってしまうことです。
そして絶筆された『古き本』には、最後まで完結したいという強い想いから、魔力を持つ例があります。
ルイズさんはそれら本に魔力を吸い取られ、本の中に心を奪われた。そう考えて問題はないでしょう」
 タバサが驚きで目を見開く。
「本が魔力を持つなんて話、聞いたことがない」
「世間では全くといっていいほど知られていない話です。現に、同じ事例は記録にある上では、
千年前に一件のみです」
 再度ルイズに目を向けるリーヴル。
「どうやらルイズさんは、かなり強大な魔力を持っているみたいですね。それを狙われて……」
「強大な魔力? そうか、“虚無”の力か……」
「キョム?」
 つい口から出た才人が、ガラQに聞き返されて我に返った。
「ああ、いや、何でもない! それで、ルイズは治るのか!?」
 リーヴルは真剣な面持ちになって返答した。

329ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:22:48 ID:.PhEE1Oo
「手はあります。ですが、それを決断するのは私ではありません」
「ど、どういうことだ?」
「本が未完で終わっていることに未練を抱いているのなら、完結させればいいのです」
 ですが、とつけ加えるリーヴル。
「『古き本』は作者以外のペンを受けつけません」
「何も書けないんじゃ、完結させられないだろ。どうすればいいんだよ!」
 突っ込む才人に、リーヴルは冷静に返す。
「本の中に入るんです。代々王立図書館の司書を勤めている私の家系には、『古き本』の
魔力を利用してその本の世界に入り込む独自に開発した魔法があります。そうして本の
登場人物となって話を進行させ、完結させるのです」
「本の中に入るってサラッと言うけど、危なくないのね?」
 シルフィードの疑問に首肯するリーヴル。
「危険です。本の中に入った者は、一時的に本の世界が現実となるので、その中で傷つけば
現実の傷として残ります。本の中で死ねば当然、命を落とします。故に滅多なことでは使う
ことの許されていない、禁断の魔法なのです」
「……本を完結させるか死か、その二択って訳か……」
 つぶやいた才人が決心を固めた表情で、リーヴルの顔を見つめた。
「一度に本の中に入れられるのは何人だ?」
「……私の力では、一人が限度です」
「一人か。それじゃあ決まりだな。俺がルイズを助け出す!」
 タバサは心配の視線を才人に向けた。それに気づいた才人は一旦リーヴルから離れて、
タバサに説いた。
「大丈夫だ。俺はゼロと魂が一つになってるから、ゼロも一緒に本の中に入れるはずだ。
ゼロの力があれば、よほどのことがない限り命の危険なんてないよ。心配いらないさ!」
「……ん」
 タバサは力になれないのがもどかしそうであったが、こんな場合に才人を止められないことは
知っているし、彼を信頼してもいる。素直にルイズのことを才人に託した。
「パムー」
 話していたら、ハネジローがパタパタとテーブルの上に六冊の本を一冊ずつ運んできた。
タバサがリーヴルに伝える。
「これらが倒れてたルイズの側に落ちてた」
「この六冊が、ルイズさんの魔力を吸い取った『古き本』のようですね」
 六冊を確かめたリーヴルが眉間に皺を寄せる。
「……厄介ですね。これらは『古き本』の中でも一番力の強いもの。砂漠で発見されてトリステインに
流通したもので、どこで書かれたものかも不明です」
「曰くつきって奴か。どういう内容なんだ? って、読めないのか……」
 何気なく本の一冊を開いた才人が、唖然と固まった。
「いや、俺これ読めるぞ! 日本語……俺の国の文字で書かれてる!」
「そうなのね!?」
 シルフィードたちの驚きの視線が才人に集まった。才人は他の五冊にもざっと目を通す。
「全部そうだ! しかも……全部ウルトラマンの本じゃねぇか!」
 仰天する才人。六冊全部が、ウルトラ戦士の戦いを題材にした作品なのだ。これら六冊も、
自分のように日本からハルケギニアに迷い込んできたものなのだろう。それと日本人の自分が
出会うとは、何という巡り合わせか。
 同時に才人は、若干険しい顔となる。
(となると、ゼロでも簡単にはいかないってことになるな。何せ、本の世界で待ってるのは
怪獣や宇宙人との戦いだ……)
 ウルトラ戦士の戦いが題材ということは当然、本の中で繰り広げられている世界でも怪獣、
宇宙人と戦うことは避けられない。ゼロの力ならばよほどのことは、と思っていたが、まさか
こんなことになろうとは。
 しかしそれならばなおさら自分たちが本の世界に行かなければならない。他の者では、
この六冊の物語を完結させるのはほぼ不可能であろう。改めて決心した才人は、最初に
中に入る本を選択する。
「……よし、これにしよう。最初には、『始まりのウルトラマン』の本が相応しいと思う」

330ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:24:35 ID:.PhEE1Oo
「決まりましたか」
「早速やってくれ。準備はもう出来てる」
 才人から本を受け取ったリーヴルが、本の世界に旅立つ前に忠告した。
「生死以外にもう一点、重要なことを。あまりに物語を改変してしまうと話が破綻し、その本の
世界は閉じてしまい完結できなくなります。要するに、最低でも本来の主役を立て、その人物に
物語を終わらせてもらう必要があります」
「俺が何もかも物語の中の問題を解決しちゃいけないってことだな。分かった」
 ただ怪獣たちを倒すだけでなく、本の中のウルトラマンと共闘する必要があるようだ。
その条件を解決しなければならないとは負担が増加したように思えるが、きっと何とか
なるだろう。同じ正義の心を持つウルトラ戦士なのだ。
 もう一つ、タバサがリーヴルに問いかけた。
「最後に、これだけ聞かせて」
「何でしょうか?」
「……何故千年以上前の貴重な本が、一般の書架に置いてあったの?」
 リーヴルは一瞬言いよどんだ。
「……私にも分かりません。ですが元は幽霊が騒動の発端。もしかしたら、『古き本』自体が
魔力を用いて人の目に留まるように動いたのかもしれません」
「……」
 タバサは若干納得していなさそうだったが、それ以上の追及はしなかった。
 そしてこれから本の中に入る才人に、仲間たちが応援の言葉を寄せる。
「俺も「一人」に数えられてるみてえだから、相棒と一緒に本の中にゃ入れねえ。けど俺が
いなくてもしっかりやれよ! 娘っ子を頼んだぜ!」
「気をつけてなのね! 死んじゃ絶対に駄目なのね!」
「……頑張って」
「パムー!」
 才人は彼らに笑顔で応える。
「ああ! 行ってくるぜ!」
 リーヴルの前に立つと、彼女が才人に魔法を掛ける。才人の視界がぐるぐると回り、目の前の
光景が大きく変化していく……。

   ‐甦れ!ウルトラマン‐

「ピポポポポポ……」
 荒野でにらみ合うウルトラマンとゼットン。ウルトラマンは八つ裂き光輪を投げつけて攻撃する。
「ヘアァッ!」
 しかしゼットンは己の周囲にバリヤーを張り、八つ裂き光輪は粉々に砕け散ってしまう。
「ヘアァァッ!」
 それを見たウルトラマンは肉弾戦に切り替えるが、ゼットンの水平チョップで返り討ちにされた。
「ウアァッ!」
 地面を転がりながらも立ち上がったウルトラマンは、必殺のスペシウム光線を発射!
「シェアッ!」
 だが直撃したスペシウム光線は、ゼットンに吸収されてしまう。
「ウアァッ!?」
 ゼットンは更に吸収したエネルギーによって、腕から光波を発射。ウルトラマンの急所である
カラータイマーに命中してしまう! ウルトラマンのカラータイマーが赤く点滅し出した。
「どうしたウルトラマン!?」
 叫ぶムラマツ。ゼットンは容赦なく光波を撃ち続けてウルトラマンを追撃。
「やめろ! ゼットン!」
「危ないわッ!」
 絶叫するイデと『フジ』。だが致命傷をもらったウルトラマンの身体がよろめき、前のめりに
倒れてしまった。

331ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:27:18 ID:.PhEE1Oo
 仰向けに横たわるウルトラマンを見下ろすゼットン。このままではウルトラマンの命が危ない!
「よし、ウルトラマンの仇討ちだ!」
 ムラマツたち科特隊がゼットンに攻撃開始。しかしスーパーガンの光線はゼットンに全く
通用していない。
「よぉし! イデ隊員の、すごい兵器をお見舞いしてやる!」
 するとイデがスーパーガンの銃口に新兵器スパーク8を接続。強化された光弾がうなりを
立てて飛び、ゼットンに直撃。
 ゼットンは爆炎の中に呑まれ、粉々に吹っ飛んだのだった。
「やったぁッ!」
 ――ゼットンは、イデ隊員の活躍で撃退された。しかし、常に勝利を誇ってきたウルトラマンは、
この戦いで遂に敗北を味わったのである。

 衝撃の事件から一ヶ月が過ぎていた。強敵ゼットンに対する勝利で勢いづいた科学特捜隊は
向かうところ敵なしであったが、一方でウルトラマンはスランプに陥り、怪獣に黒星を重ねていた。
 そんな中、日本各地で怪奇現象が続出。ハヤタは怪獣総攻撃の予兆を感じ取っていたが、
それはウルトラマンと一体である彼にしか感じられないもの。誰かに話すことは、自分が
ウルトラマンであることを告白すること。ハヤタは悩んだ……。
 しかし彼の決心を待たずして、怪獣軍団の尖兵が出現したのだ!

「ゲエエオオオオオオ!」
「ピギャ――――――!」
 緑に覆われた山脈の間を、二体の怪獣が行進している。一体は這いつくばった姿勢、もう一体は
直立した姿勢だが、どちらも首の周りがエリで覆われているという共通点がある。四足歩行の方は
エリが閉じていて首がその中に隠れていた。
 ウラン怪獣ガボラとエリ巻き恐竜ジラースだ! その進行先には人間の町がある。怪獣たちが
町に到達したら大惨事だ!
「くっそー、怪獣どもめ! ここから先には行かせないぜ!」
「みんな、何としても食い止めるんだ!」
 それに立ち向かうのは科特隊。アラシがスパイダーで射撃し、他の面々もムラマツの激励の
下にスーパーガンで応戦する。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ピギャ――――――!」
 しかし彼らの射撃は、ガボラとジラースにほとんど効果を上げていなかった。アラシが
大きく舌打ちする。
「くそぅ、一匹だけなら何とかなるが、二匹同時ってのは苦しいぜ……!」
「イデ隊員、スパーク8は使えないの!?」
 『フジ』がイデに尋ねたが、イデは首を横に振った。
「スパーク8は一発限りしかないんだよ!」
「もうッ! 肝心な時に使えないわね!」
 『フジ』の荒々しい言動に、イデはやや首をすくめた。
「フジ君、何だか気が強くなったんじゃないか? それに心なしか、背も縮んだような……」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ、イデ! 戦いに集中しろ!」
 アラシが叱りつけている一方で、ハヤタは懐の変身アイテム、ベーターカプセルに目を落としたが……。
「……駄目だ。今の俺では、ウルトラマンに変身しても怪獣に勝てない……」
「ハヤタ! 危ないぞッ!」
 ハヤタが力なく首を振っていると、ムラマツが警告を飛ばした。
 我に返って顔を上げたハヤタに、ジラースが光線を吐こうとしていた!
「ピギャ――――――!」
「うわぁぁぁッ!」
「ハヤターッ!!」

332ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:29:38 ID:.PhEE1Oo
 絶叫するアラシ。ハヤタのピンチ!
 その時、『フジ』が空の一画を指差して叫んだ。
「見て! あれ何かしら!」
 空の彼方から、何かが流星のように降ってきている。思わずそれに目を奪われる科特隊。
「セェェェェェアッ!」
 それは巨人だった! 空の彼方から脚を突き出して猛然と地上に迫り、ジラースに飛び蹴りを
ぶちかました。
「ピギャ――――――!」
 ジラースは巨人に蹴り飛ばされて、ハヤタは救われる。ガボラが驚いたように巨人に振り返った。
「な、何だあの巨人は……」
 科特隊の面々も唖然として巨人を見上げた。青と赤のカラーリングの肉体で、頭部には
二つのトサカが生えている。目つきはかなり鋭いが、勇気と優しさが眼差しから見て取れた。
「ハァッ!」
 ガボラに対して空手を思わせる構えを取った巨人の胸元には、丸い発光体が青々と輝いていた。
それを指差すイデ。
「胸にカラータイマーがついてるぞ!」
「じゃああの巨人は、ウルトラマンということか……!?」
 ぽかんと口を開くムラマツ。しかし一番驚いているのはハヤタであった。
「俺以外の、ウルトラマン……!?」
 ウルトラマン以外の『ウルトラマン』は、突っ込んできたガボラにこちらから向かっていく。
素早い蹴り上げがガボラの首に決まり、ガボラは押し返された。
「ゲエエオオオオオオ!」
 ガボラは頭部を覆い隠すヒレを開いて、口から熱線を吐き出した。だがウルトラマンは
側転して回避。
「ピギャ――――――!」
「セアッ!」
 そこに起き上がったジラースが背後から襲い掛かるが、ウルトラマンは機敏に反応して
裏拳を顔面に打ち込んで、振り返りざまの横拳でジラースを返り討ちにした。
 怪獣二体を相手にしてむしろ優勢なウルトラマンの様子に、科特隊の目は思わず釘づけになっていた。
「強い……!」
「ええ、すごい強さですね、キャップ……!」
 ムラマツとアラシは感心しているが、ハヤタは複雑な表情で自分以外のウルトラマンの
戦いぶりを見上げていた。
「テェェェイッ!」
 ウルトラマンはガボラを飛び越えて背後に回り込み、その身体を鷲掴みにして真上に放り投げた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ハァァァァァッ!」
 ウルトラマンはジャンプして空中でガボラをキャッチし、真っ逆さまに地面に叩きつける
パイルドライバーを決めた。ガボラはこの一撃によって絶命し、地面の上に横たわる。
「ピギャ――――――!」
 ガボラを倒したウルトラマンにジラースが突進していくが、ウルトラマンはそれをいなした上で、
エリマキに手を掛けて引き千切った。
「ピギャ――――――!?」
 首に手を当てて、エリマキがなくなったことに慌てふためくジラース。ウルトラマンは
千切ったエリマキを投げ捨てると、トサカに手を伸ばして……何と取り外した!
「あれ取れるのか!?」
 えぇッ! と驚くアラシとイデ。ウルトラマンは取り外したトサカを逆手に持ち、ジラースに
向かってまっすぐ走っていき……。
「セェアッ!」

333ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:32:18 ID:.PhEE1Oo
 喉元にトサカを走らせて切り裂いた。トサカは刃だったのだ。
 ジラースは口の端からツゥッと血を垂らし、前のめりにばったりと倒れ込んだ。
「シェアッ!」
 圧倒的な実力で立て続けに怪獣二体を撃破したウルトラマンは、両腕を天高く伸ばして
空に飛び上がり、どこかへと飛び去っていく。
 科特隊は突然現れ、風のように去っていくもう一人のウルトラマンの後ろ姿を、呆然と
見送っていた。

 ……ウルトラマンゼロから元の姿に戻った才人は、山の中腹からそんな科特隊の様子を
見下ろしていた。
『とりあえずは危機回避だな。こんなところでウルトラマンに死なれてたら、いきなりアウト
だったぜ』
「ああ。それにしても、本の中とはいえ、あの最初の地球防衛隊、科学特捜隊の人たちと
こうして出会うことになるなんてな……。夢みたいだよ」
 そう、ここか本の世界。才人は『古き本』の一冊目、『甦れ!ウルトラマン』の中に入ったのだ。
そして本文が途切れていた箇所、科特隊の窮地を救ったのであった。
 史実ではウルトラマンはゼットンに敗れた後、やってきたゾフィーとともに光の国に帰った
のだが、この作品は「もしもウルトラマンが帰らず、地球に残っていたら」のifを書いたものの
ようである。
 感慨深げに科特隊のムラマツ、アラシ、イデを順番にながめた才人だが、『フジ』に目を
留めて微妙な笑みをこぼした。
「……けど、その中にルイズが混じってるのが、意識が現実に引き戻されるような感覚がするな」
『正直、あの制服ルイズに似合ってねぇよな』
 そう、科特隊の紅一点、フジ隊員の姿は、ルイズのものに置き換わっているのだった。
それが、ここが現実の世界ではない何よりの証拠である。そして見た限り、ルイズは
すっかり『フジ』の役回りになり切っているようで、周りも別人になっていることに
気づいていないようであった。
『まぁそれは置いといて、こっからこの本を完結させるために頑張らねぇとな。まずは、
本来のウルトラマンに奮起してもらわねぇと』
「ああ。俺たちが怪獣を全部やっつけるってのは駄目だって話だったしな」
 ゼロと相談している才人がふと気配を感じ、顔を上げた。
「……そのご本人が、向こうからいらしたな」
 才人の元に、ウルトラマンことハヤタが歩いてきたのだった。

334ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:36:12 ID:.PhEE1Oo
今回はここまでです。
迷子の〜編は「本の中の世界」という部分だけ守って、かなり好き勝手します。

335名無しさん:2016/12/11(日) 15:05:28 ID:L98PTnWE
乙です!

336名無しさん:2016/12/11(日) 18:21:00 ID:0v7S8Ny2
スパーク8ごときで倒されるゼットンなんてゼットンじゃない!!乙

337名無しさん:2016/12/16(金) 14:18:15 ID:ckH.TGNc
乙です。
ほかの本がどんなの用意してるかわからないけど、ちょうど向こうにも『太陽の子』がいることだしウルトラマンVS仮面ライダーがあったらうれしいな。

338ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:20:41 ID:6xkvX/Wo
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は23:23からで。

339ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:23:52 ID:6xkvX/Wo
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十九話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その2)」
変身怪人ゼットン星人
恐怖の怪獣軍団
友好珍獣ピグモン 登場

 未完のまま筆が途絶え、自身の完結を求めて魔力を得た『古き本』の中に精神を囚われたルイズ。
才人は彼女を救うべく、リーヴルの力を借りて本の世界へと旅立った。――そこは初代ウルトラマンが、
ゼットンに敗れた後も地球に残り続けたifの世界。そこではウルトラマンことハヤタが敗戦のトラウマ
から不調になり、失意にどん底に陥っていた。才人とゼロは、ウルトラマンを立ち上がらせてこの本の
世界を完結に導くことが出来るのだろうか。

 野山を覆う緑の山林の中で、この本の主人公であり本来の『ウルトラマン』であるハヤタと、
現実世界から闖入者たるイレギュラーの『ウルトラマン』のゼロと才人が向かい合った。まずは
ハヤタの方が先に口を開く。
「君が……さっきのウルトラマンだね?」
 才人はうなずいて答える。
「ええ。平賀才人……ウルトラマンゼロと言います。はじめまして、ハヤタさん」
 この本の中では、ハヤタことウルトラマンはゼロのことを存じていないようだ。それも無理の
ないことかもしれない。本がいつ頃執筆されたかは知らないが、地球ではゼロの存在はかなり
最近になってから、惑星ボリスとハマー、怪獣墓場から生還したZAPクルーの報告によって知られた
もの。それ以前に書かれたのならば、たとえ『ウルトラマン』でもゼロのことを認知するのは
不可能。本の世界は、本来は作者の情報がその全てなのだ。
 さて才人が肯定すると、ハヤタは自嘲するように苦笑を浮かべた。
「そうか……。最近科特隊に活躍を奪われがちだったところに、僕以外のウルトラマンが
現れたなら、ますます僕はお払い箱だな」
 才人はそのひと言に若干慌てる。
「お払い箱だなんてこと……! 『この』地球を守ってきたのはあなたじゃないですか」
「そんなことは関係ないさ……。どんな実績を打ち立ててこようとも、現在に怪獣に勝てず、
地球を守れない弱いヒーローなんて誰からも求められないよ。これを機に、僕は引退する
べきなのかもしれない」
 かなり弱々しいことを吐くハヤタ。昨今のスランプがよほど精神に応えているようである。
 すると才人は、語気をやや強めてハヤタに告げた。
「そんな情けないこと、言わないで下さいッ!」
「え……」
 ハヤタの顔をまっすぐ見据え、熱意を込めて説く。
「あなたは地球に現れた、最初のスーパーヒーローだ。世界中の子供たちは、みんなあなたの
勇敢に戦う姿に勇気をもらい、憧れた。俺もその一人です。あなたの存在はたくさんの人に
夢を与えた……いや、与えてるんだ。あなたは不朽のヒーローなんです!」
 この応援のメッセージは、本を完結させるためだけのものではない。才人は本当に、地球を
何度も救ってきたウルトラ戦士の歴史の始まりとなった最初のウルトラマンに、強い憧れの心を
抱いて育った。だからたとえ本の登場人物でも、そのウルトラマンが弱っているのを放っておく
ことは出来ないのだ。
「ヒーローに、別の誰かがいるから必要ないなんてことはありません。今は落ち込んでても、
あなたは偉大な戦士なんだ。どうかもう一度立ち上がって、今までのように俺たちに夢と希望を
与えて下さい!」
「平賀君……」
 果たして才人の気持ちは、ハヤタの心を動かすことが出来たのか。
 その答えが出る前に、ハヤタの流星バッジが着信を知らせた。ハヤタはすぐにアンテナを伸ばした。
「すまない。こちらハヤタ!」
『ハヤタ、今どこにいる! たった今防衛隊から、謎の円盤群が日本上空に侵入したとの
連絡とともに出動要請が入った。直ちに迎撃するぞ! すぐにビートルまで戻れ!』

340ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:25:41 ID:6xkvX/Wo
「了解!」
 ムラマツに応答してアンテナを戻したハヤタが、才人に向き直る。
「悪いが、僕は行かなくてはいけない。話はまた後にしてくれ」
「分かりました。どうか、頑張って下さい!」
 才人の呼びかけに、ハヤタは迷いを顔に浮かべながらも、科特隊式の敬礼で応じて走り
去っていった。
 それから才人は、ゼロの千里眼によって科特隊に先んじて件の円盤群の光景をキャッチした。
『……こいつはゼットン星人の円盤だ!』
「ゼットン星人って言うと、あのゼットンを最初にもたらした……!」
 現在の地球において、ゼットンの名を知らぬ者などいないだろう。当時無敵と思われた
ウルトラマンを完敗せしめ、世界中の人間に衝撃を与えた恐るべき宇宙恐竜。色んな教科書に
その名前が載っている、世界一有名な怪獣だ。
 そのゼットンを最初に侵略兵器として地球に連れてきたのが、『ゼットン』という言葉が
出身星の名前にまでなっているゼットン星人だ。
『ゼットン星人はもう一つ、変身能力による破壊工作が得意だ』
「破壊工作……科特隊が円盤迎撃に出たのなら、基地はがら空きだよな」
『ああ。嫌な予感がするぜ。俺たちは基地の方に向かおう!』
「よっしゃ!」
 ゼロと相談し、才人は科特隊基地へ向かって駆け出した。

 ルイズを通信士として基地に残し、科特隊自慢の万能戦闘機、ジェットビートル二機で
出撃したハヤタたちは、ゼットン星人の円盤群と会敵していた。
「おいでなすったなぁ。円盤発見!」
『直ちに攻撃開始!』
 ムラマツの指示により、ジェットビートルは光線を発射して円盤に攻撃を加える。
 だが光線は円盤をすり抜けてしまう!
「どうなってやがるんだ!?」
 何度攻撃しても結果は同じ。ハヤタはこの円盤のカラクリを見抜いた。
「キャップ、あの円盤は何者かの罠です。多分、立体映像なんです!」
「おい、それじゃ本部は!」
 ビートルは本部の危機を察し、慌てて引き返していった。

 才人が科特隊の基地にたどり着いた時、上の階に行くほど幅が広がっていく独特な建築の
ビルの窓の一つから、黒い煙が立ち上るのを目にすることになった。恐らく作戦室だ。
『まずい! ひと足遅かったか!』
「ルイズは無事なのか!? くそッ!」
 ルイズが犠牲になってしまったら最悪だ。才人は全速力で基地に入り込み、階段を駆け上がって
作戦室にたどり着いた。
 そこでは科学者の男性が、光線銃を用いて科特隊本部のコンピューターを破壊していた。
その足元には、倒れているルイズの姿。
「ルイズッ! こんのやろぉーッ!」
 煙に巻かれる作戦室の中、激昂した才人が踏み込んで、男を殴り飛ばした。男は突然の
攻撃に驚いたか、すぐに作戦室を抜け出して逃げていく。
 才人は先にルイズを介抱して、無事を確認する。
「ルイズ、無事か! ……よかった、息はしてる」
「う、うぅん……」
 才人に抱き起こされたルイズの意識が戻った。
「大丈夫か?」
「大丈夫かって……あなたは誰なの!? ここは科特隊本部よ、子供がどうやって入ったの?」
 お前も子供だろ、と言いかけた才人だが、今のルイズはフジ隊員の役になり切っているのだ。
そんなことを言ってもしょうがない。

341ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:27:20 ID:6xkvX/Wo
「えーっと……俺は風来坊さ。科特隊の危機を察知して、助けに来たんだ」
「風来坊? 助けてくれたのはありがたいけれど、冗談言ってないで避難しなさい。ここは危ないわ」
 ルイズが自力で立つと、ちょうど本部に帰投したハヤタたちが駆け込んできた。
「フジ隊員、どこだ!? ……ややッ、君は誰だ!?」
「君はさっきの……!」
 イデたちは見慣れぬ才人の姿に面食らっていた。ルイズは彼らに告げる。
「この子は誰だか知らないけれど、わたしを助けてくれたの。それより、犯人は岩本博士よ!」
「そうだった、捕まえないと!」
「お、おい君ぃ! 一体何なんだ!?」
 才人が逃げた男を捜しに飛び出していく。その背中を追いかけていくアラシたち。
 男は科特隊基地から外に逃げ出したところだった。それを発見した才人が速度を上げ、
距離を縮めて飛びかかる。
「待てぇー! とおッ!」
 タックルした才人に足を掴まれ、男は前のめりに倒れた。
「この野郎、正体を見せろ!」
 才人の要求に応じるように、男はケムール人に酷似した真の顔を晒して立ち上がった。
これがゼットン星人だ。
 この時にハヤタ、ムラマツ、アラシが才人に追いついてきた。
「はぁッ!? 君、危ない!」
 ムラマツとアラシがゼットン星人から才人をかばい、ハヤタがマルス133をゼットン星人の
顔面に向けて発射。
「グ……グオオ……!」
 その一撃により、ゼットン星人はもがき苦しみながら消滅していった。
 しかし今際の断末魔が、怪獣軍団総攻撃の合図だった!

「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 東京奥多摩の丘陵を突き破り、レッドキングが出現! 驚き逃げ惑う人々に狙いをつけ、
襲い掛かり始める。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 それに続いて有翼怪獣チャンドラー、地底怪獣マグラー、冷凍怪獣ギガスまで出現した。
怪獣たちはレッドキングが総大将となり、人間に牙を剥く!

 怪獣出現の報を受けたムラマツは、部下たちに命令を発する。
「出動準備! 直ちにビートルで現場に向かうぞ!」
「しかしキャップ、この子はどうします?」
 イデが才人を一瞥して尋ねた。
「今は怪獣撃滅の方が最優先だ。すぐに発進だ!」
「了解!」
 ムラマツ、アラシ、イデの順にビートルへ向けて駆けていく科特隊。ハヤタだけは複雑な
眼差しを才人に注いでいたが、前を向いてムラマツたちの後に続いていった。
 彼らを見送った才人は、颯爽とウルトラゼロアイを取り出す。
「行くぜ、ゼロ!」
『ああ! ウルトラマンが再起するまで、俺たちが物語を支えなくっちゃな!』
 戦意を燃やしながら、才人がゼロアイを装着。
「デュワッ!」
 輝く光と化して、ビートルより早く奥多摩の怪獣が暴れる現場へと飛んでいった。

「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 奥多摩では、レッドキングが逃げ遅れた人たちを今にも叩き潰しそうになっていた。
「うわああああッ!」
 彼らの命が危機に晒されているところに、ウルトラマンゼロが到着!

342ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:28:39 ID:6xkvX/Wo
『てぇぇぇぇいッ!』
 上空からの急降下キックがレッドキングに入り、大きく蹴り飛ばした。それにより逃げ遅れた
人たちは間一髪で助かり、避難に成功する。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 レッドキングの前にチャンドラー、マグラー、ギガスが集まり、登場したゼロと対峙して威嚇する。
『来い、怪獣ども! このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 ゼロの挑発に応じるように、チャンドラーたちが一斉にゼロに押し寄せてきた。
『はぁッ!』
 対するゼロはまずチャンドラーの突進をいなし、マグラーの頭部にキックを一発入れて
ひるませ、殴り掛かってくるギガスの腕を捕らえてウルトラ投げを決めた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 投げ飛ばされたギガスに代わってレッドキングがパンチを打ち込んできたが、ゼロは紙一重で
かわし、反撃の掌底で突き飛ばした。
「ギャアアオオオォォウ!」
 そこにマグラーも跳びかかってくるも、すかさず反応したゼロがひらりと身を翻したことで
丘陵に激突した。
 四体もの怪獣相手に敢然と戦うゼロは、頭部のゼロスラッガーを取り外して両手に握る。
『一気に決めてやるぜ!』
 そして突っ込んできたチャンドラーにこちらから踏み込んでいき、刃を閃かせる。
「セェェアッ!」
 逆手持ちのスラッガーの一閃が、チャンドラーの片翼をばっさりと切り落とした。
「ゲエエゴオオオオオオウ!!」
『だぁぁッ!』
 それで留まらず、振り返りざまにゼロスラッガーアタックが叩き込まれた。ズタズタに
切り裂かれたチャンドラーは瞬時に爆散。
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 一瞬でチャンドラーを撃破したゼロに、マグラーとギガスは動揺して後ずさった。
『さぁて、次はどいつだ!』
 スラッガーを頭部に戻して残る怪獣たちに向き直ったゼロだったが、
『……ぐあッ!?』
 その肩に突然電気ショックが走った。予想外のダメージにゼロもふらつく。
『くッ、今のは……!』
 振り向くと、その方向の空間からヌゥッと新たな怪獣の姿が出現した。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
 透明怪獣ネロンガだ! 今のはネロンガの角から放たれた電撃であった。
『くッ、新手か……!』
 うめくゼロだったが、新たな怪獣の出現はネロンガで終わりではなかった。
「グウウウウウウ……!」
「ウアァァァッ!」
 丘陵の影から怪奇植物グリーンモンス、海獣ゲスラが出現!
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
「カァァァァコォォォォォ……!」
 更にミイラ怪獣ドドンゴ、毒ガス怪獣ケムラーも地中から出現した!
『五体も増えやがった!』
『ホントに怪獣軍団じゃねぇか!』

343ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:30:28 ID:6xkvX/Wo
 一気に八対一となり、さしものゼロも動揺を禁じ得なかった。
 しかし怪獣が現れているのはこの場所だけではなかった!

「ガアアアアアアアア!」
 雪山には伝説怪獣ウーが出現!
「ギャオオオオオオオオ!」
 大阪には古代怪獣ゴモラ!
「ピャ――――――オ!」
 国道上には高原竜ヒドラ!
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 山岳部には灼熱怪獣ザンボラー!
「パアアアアアアアア!」
 市街地には吸血植物ケロニア!
「キュ――――――ウ!」
「グアアアアッ!」
 更に石油コンビナートを油獣ペスター、沿岸を汐吹き怪獣ガマクジラが襲っていた!

 日本中を襲う怪獣軍団。だがゼロも大勢の怪獣を前に苦戦しており、とても現地に駆けつける
ことは出来なかった。
「グウウウウウウ……!」
 グリーンモンスは花弁の中央からガスを噴出。それは強力な麻酔ガスであり、ゼロの身体をも
痺れさせ苦しめる。
『うッ、ぐッ……!?』
「ウアァァァッ!」
 更にゲスラが体当たりしてきて、その背中に生える毒針がゼロに刺さった。
『ぐわぁぁぁッ!』
「カァァァァコォォォォォ……!」
 その上ケムラーが口から亜硫酸ガスを大量に噴出した。
『うッ、ぐううぅぅぅぅ……!』
 ケムラーの亜硫酸ガスは凄まじい毒性だ。ただでさえ毒を食らい続けているゼロの身体を
破壊していく。カラータイマーがけたたましく鳴り、ゼロの大ピンチを表した。
『こ、こいつはやべぇぜ……!』
 しかし怪獣たちの猛攻に追いつめられているところに、ジェットビートルが駆けつけた。
「あのウルトラマンが危ないわ!」
「攻撃開始!」
 科特隊はビートルからロケット弾を発射し、怪獣たちを上空から狙い撃ち。ゼロへの攻撃を
妨害して援護する。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
 だがビートルもドドンゴの目から放たれる怪光線に狙われ、危機に陥る。やはりあまりの
数の差に、ゼロたちは苦しい状況が続く。
「ホアーッ! ホアホアーッ!」
 その時、地上に小型の赤い怪獣が現れて、ピョンピョン飛び跳ねることで巨大怪獣たちの
注意を引きつけた。あれはピグモンだ!
『ピグモン! あいつ、まさか俺たちを助けようと……!』
 驚くゼロ。だがあれではピグモンの方が危うい。
 緊急着陸したビートルから飛び出したハヤタとイデが、ピグモンへと急いで走っていく。
「ピグモーン!」
「大丈夫かー!」
 しかしハヤタたちが駆けつける前に、ドドンゴがピグモンを狙って怪光線を放ってしまった!

344ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:31:22 ID:6xkvX/Wo
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
 怪光線は崖を砕き、発生した岩雪崩がピグモンの頭上に降りかかる。
「ホアーッ!?」
『!!』
 ゼロの身体が青く輝く。
 岩雪崩がピグモンに襲い掛かり、ピグモンは岩石の下敷きになってしまった。
「ホアーッ!」
「ピグモーンッ!」
「ピグモンッ!」
 ピグモンの元までたどり着いたハヤタが岩の下から引きずり出したが、ピグモンはそのまぶたを
ゆっくりと閉ざしていった……。
「ピグモーン!!」
「くッ……! ちくしょうッ!」
 激昂したイデがスーパーガン片手に怪獣軍団へ立ち向かっていく。
 一方でハヤタは、ベーターカプセルをその手に強く握り締めていた。
「俺は一体、何を……!」
 ハヤタは己の迷いがピグモンの犠牲を招いてしまったことに、激しい後悔を抱いていた。
 そして才人の言葉にも背中を押され、遂に迷いを抱えていたその目に力が戻った!
「おおおッ!」
 駆け出したハヤタがベーターカプセルを掲げ、スイッチを押した!
 百万ワットの輝きが焚かれ、ハヤタは巨躯の超人へと姿を変えたのだ。
「ヘアッ!」
 宙を自在に飛び回りながら怪獣たちを牽制する銀色の流星を見やり、才人が歓喜の声を発した。
『立ち上がってくれたのか……! ウルトラマン!!』
 そう、暴虐なる怪獣軍団の中央に降り立ち、倒れているゼロを守るように大きく胸を張ったのは、
失意の淵から甦った我らがヒーロー、ウルトラマン!

345ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:32:09 ID:6xkvX/Wo
以上です。
また一度に大量の怪獣出して。

346ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:31:17 ID:q6J2gu7Y
焼き鮭さん、乙です。
こんにちは、皆さん。ウルトラ5番目の使い魔、52話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。今回またちょっと長いです。

347ウルトラ5番目の使い魔 52話 (1/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:33:53 ID:q6J2gu7Y
 第52話
 ハルケギニアの夜明け
 
 破滅魔人 ゼブブ
 精神寄生獣 ビゾーム
 破滅魔虫 カイザードビシ 登場!
 
 
 異世界ハルケギニア。その精神の根幹を成してきたのは、六千年前にハルケギニアを作ったという聖人・始祖ブリミルの教えを語り継いできたというブリミル教である。
 しかし、六千年という時間は、その原初の精神が残され続けるにはあまりにも長い時であった。
 どんな精密なコピーでも百回、千回と繰り返せばデータが磨耗していくように、ブリミル教の内容も幾星霜の中で変化してきた。
 しかも、本来ならば正しい精神を継承すべきそれに、悪意が潜んでいたことが、後の世に混沌を生むことになる。
「僕は自分の考えを宗教にしてほしいなんて思ったことは一度もないよ」
 才人からブリミル教というものがあることを教えられたとき、ブリミル本人は呆れたように言った。
 自分は他人からあがめられるような立派な人間じゃない。ブリミルは、自分が聖人とされていることに何の喜びも感じず、むしろ自分なんかを聖人に持ち上げた後年の人間に対する嫌悪を表した。
 ならどうして、ブリミル教なんてものが作られたんでしょうか? その才人の問いかけに、ブリミルはこう答えた。
「六千年も経つんだから、一言で言うのは無理だろうけど、少なくとも君の時代のブリミル教の指導者たちの考えはたぶん、まばゆい光が欲しいからだろうね」
「光、っすか?」
「そうさ。光はなくてはならないものだけど、昼間に夜の暗さをみんな忘れてしまうように、明るすぎる光は闇の存在を忘れさせてしまう。そして闇にとっては、明るい光の影でこそ濃く暗くなることができる。おそらくこれで、当たらずとも遠からずってとこじゃないかな」
 才人はロマリアの街で見た光景を思い出した。ブリミル教の威光を笠に着た金持ちの神官と、数え切れないほどの浮浪者たち。しかしきらびやかな神官たちが外国に出向けば、その国の人たちはロマリアは豊かな国だと錯覚するだろう。
 むろん、ブリミル教の存在を全否定するわけではない。礼節やモラルなど、日本人の才人から見ても違和感があまりないくらいにハルケギニアの人々が礼儀正しいのはブリミル教の教えがあるからだろう。
 『神様が見ているから悪いことをしてはいけませんよ』。というのが宗教の基本で、それを否定するつもりはさらさらないが、逆に宗教が悪用されるときには『これをしないと地獄に落ちますよ』と言う奴が出てきて暴走する。それがまさに、聖戦をしないと世界が滅びますよと言っている今だ。
 死人に口なし。開祖がいくら善人でも、その教えを次いで行く者が悪人ならば教えはいくらでも歪められていく。

348ウルトラ5番目の使い魔 52話 (2/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:36:07 ID:q6J2gu7Y
 しかし今、奇跡は起きて始祖は蘇った。過去からやってきた始祖ブリミル本人が相手では、いかに教皇が詭弁を弄したところで勝ち目などない。
 
 今こそ、世界を覆う暗雲とともにブリミル教の虚栄の牙城を滅ぼす時。
 さあ、決戦だ!
 
 追い詰められた教皇とジュリオが紫色の禍々しいオーラに包まれ、人間の姿が掻き消えると人魂のような姿になって空に舞い上がった。
 たちまち、教皇様? 教皇様! 教皇様!? と、人々の叫びがあがる。教皇聖下を信じたい最後の気持ちが声になってあがるが、現実は彼らにとってもっとも残酷な形で顕現した。
 空から舞い戻ってきた紫色の光の中から、右腕が鋭い剣になり、蝿のような頭をした巨大な怪人型の怪獣が姿を現し、地響きを立てて降り立ってきた。それだけではない、並び立つように、人型でありながら顔を持たず、全身が黒色で顔面に当たる部分を黄色く発光させた怪物までもが現れたのだ。
 二体の怪獣は、愕然とする人々の前で不気味な声色で笑い声を放った。しかもその声は歪んではいるがヴィットーリオとジュリオそのもので、これまで必死に教皇聖下を妄信してきた人々も、ついに自分たちが騙されていたことを認めた。
「とうとう本性を表しやがったな」
 才人が吐き捨てた。聖人面してハルケギニアの人々をだまし、自滅に追い込もうとした稀代の詐欺師の本当の姿がこれだというわけだ。
 根源的破滅招来体の遣い、破滅魔人ゼブブ、精神寄生獣ビゾーム。異なる世界でも謀略を駆使して非道の限りを尽くしてきた、悪魔のような怪獣たちだ。
 ペテンをすべて暴かれ、ついに奴らは実力行使に打って出た。もはや策謀によるハルケギニアの滅亡は無理だが、少しでもハルケギニアの人間たちの力を削っておこうという魂胆か。根源的破滅招来体が他にどれだけいるのかは不明だが、ハルケギニアがダメージを負えば負うほど破滅招来体が次に狙ってくるときに易くなるのは間違いない。
 だが、そんなことをさせるわけにはいかない。この星の平和を、これ以上あいつらの好き勝手に乱させるわけにはいかないのだ。
 才人はブリミルとサーシャを振り向いて言った。
「ブリミルさん、サーシャさん、ありがとう。こっからは、おれたちがやります」
「ああ、僕も派手に魔法を使いすぎて少し疲れた。ここから応援してるよ、君たちの力、今度は僕らに見せてくれ」
「頑張りなさいよサイト。あんなニヤけた連中に負けたら承知しないんだからね」
 ブリミルとサーシャにも背中を押され、才人とルイズは無言で目を合わせた。

349ウルトラ5番目の使い魔 52話 (3/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:37:20 ID:q6J2gu7Y
 今なら人々の視線は二体の怪獣に向いている。この一瞬がチャンスだ、才人とルイズは互いの闘志を込めてその手のリングを重ね合わせた。
 
『ウルトラ・ターッチ!』
 
 光がふたりを包み込み、虹色の光芒の中でその姿が銀色の巨人へと変わる。
 時を越え、次元をも隔てられた魂が再びひとつに。ウルトラマンA、ここに降臨!
「テェーイ!」
 拳を握り、二大怪獣の前に構えをとって現れたエースの姿に、トリステインの人々から歓声があふれる。ウルトラマンが来てくれた。特に、遠方からながらも見守っていたギーシュたちや、この場所でもミシェルをはじめとする銃士隊の間で感動が大きい。ロマリア以来、姿を消していたエースがまた帰ってきた。
 だが、一番喜んでいたのは他ならぬ才人とルイズだったろう。長い間会えなかったエースが今ここにいる。
「サイト、ルイズ、よく戻ってきたな。君たちなら、どんな試練も必ず乗り越えて帰ってくると、俺は信じていたぞ」
「北斗さん、おれがだらしなかったばっかりに。けど、そのぶん過去で山ほど冒険してきたんだ、その成果を見せてやるぜ」
「冒険ならわたしだって負けてないわよ。まあ苦労した要因の半分は別のとこだけど……なにげに、初めて名前を呼び捨てにしてくれたわね。その期待を裏切らないためにも、あいつらに借りを返さなきゃね!」
 離れ離れになっていた間、自分たちの絆は切れていたわけではない。むしろ、会えないからこそ、遠いかなたを思い、歩き続けてきた。
 奴らは永遠のかなたへと追放したことで絆を断ち切れたと思ったかもしれないが、”永く遠い”のならば、それは乗り越えられる。それに絆は才人とルイズの間の一条だけではない。いまや、ふたりが持つ絆は数多く、それらを束ねれば永遠の長さなど何ほどのものがあろうか。
 ウルトラマンA、北斗星冶は才人とルイズの魂から、これまでにない生き生きとした力が流れ込んでくるのを感じた。
 これならば、以前と同じ結果になることはない。パワーアップした力を、今こそ見せてやろう。
 しかし、いかにエースが力を増したといっても相手は二体。しかもあのヴィットーリオとジュリオが元である以上、並々ならぬ敵であることは疑いようも無い。
 少なくとも苦戦は必至。しかも悪辣な奴らのことだ、片方がエースを相手取っている隙に片方が人質を取りに出る手段に訴えることも考えられる。なにぶんトリスタニアには人間が多すぎる。人間の盾作戦を取られるとやっかいだ。
 
 ただし、それはエースひとりだけならばの話だ。
 ここには、もう一人のウルトラマンがいる。そう、ルイズとともに旅を続けてきたネオフロンティア世界の勇者、彼もまたウルトラマンとして戦うべき時が来たことを悟っていた。
 ファイターEXのコクピットから地上を見下ろし、アスカはリーフラッシャーを掲げた。

350ウルトラ5番目の使い魔 52話 (4/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:38:27 ID:q6J2gu7Y
「ダイナーッ!」
 新たな輝きと共に、M78星雲出身のウルトラマンとはまた一味違うたくましいスタイルの巨人が現れる。
「デュワッ!」
 銀のボディにレッドとブルーのラインをまとい、胸には金色のダイナテクターを輝かせた光の戦士、ウルトラマンダイナここに参上。
 ウルトラマンがもうひとり! 光の柱の中からその雄姿を現したダイナに、人々がさらに沸きあがる。そして、エースの心の中で、ルイズは驚いている才人に向かって誇らしげに言った。
〔びっくりした? あいつはアスカ、またの名をウルトラマンダイナ。わたしは、あいつと旅をしてきたのよ〕
〔え? ダイナって、学院長やタルブ村の昔話で聞いた、あのウルトラマンかよ! けど、ダイナが現れたのは三十年も昔のことだって〕
〔わかんないわ。けどあんただって、始祖ブリミルを連れてきたじゃない? なんかのはずみで、よその世界で現代のわたしと三十年前のアスカが出会った。それでいいじゃない〕
〔ううん、さっぱりわかんねえけどそんなもんか。けど、伝説のウルトラマンといっしょに旅できたなんて、うらやましいな畜生〕
〔まぁ、そんなに自慢できるような奴じゃないけどね……〕
 うらやましがる才人に対して、ルイズはやや複雑だった。ウルトラマンになる人間にもいろんな種類がいるのは承知していたつもりだったが、旅の最中アスカには振り回されっぱなしだった。旅をしてたくましくなれたとは思うけど、それがアスカのおかげだと思うと癪に障る。
 それでも、ルイズはアスカを信頼していた。才人に輪をかけて無謀、無茶、無鉄砲ではあっても、絶対に引かずにあきらめない心の強さは、理屈を越えた力があるということを何度も見せてくれた。
 強大な悪の前に心が折れそうでも、それでも立ち向かうところから道は開ける。それはスタイルに関わらずに、すべての生き方に当てはまることだろう。
 だからこそ、ダイナが共に戦ってくれるということは何より心強い。ダイナはエースに向かって、俺もやるぜというふうに胸元で拳を握り締めた。
〔君は……〕
〔二対一なんてのはずっけえからな。俺も戦うぜ、よろしくな〕
〔不思議だ、君とは初めて会った気がしない〕
〔奇遇だな、俺もだぜ。へっ、後でパンでもごちそうしてくれよな!〕
〔ああ、食べすぎなんか気にしないくらいガンガン食わせてやるよ!〕
 エース、北斗の胸に不思議な感覚が湧き上がってきた。確かにTACに入る前に自分はパン屋にいた。しかし、なぜ彼は知っていたようにパンを食わせてくれなどと言えたんだ? いや、自分はパン屋をやっていて、何度も彼に食べさせたことがあるような気がする。夕子といっしょに、どこかの港町で?
 いや、それは後でいい。今するべきことは、この世界の災厄を払いのけることだ!

351ウルトラ5番目の使い魔 52話 (5/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:40:19 ID:q6J2gu7Y
「ヘヤアッ!」
「デアッ!」
 闘志を込めて構えるエースとダイナに向かって、ゼブブとビゾームが突っ込んでくる。
 巨体が走る一歩ごとに、響く轟音、舞い上がる敷石、立ち上る砂煙、そして、踏み潰される家々から吹き上がる炎。まるで巨大な山津波にも似たそれを、立ちふさがるウルトラマンという堤防が受け止める。
 激突! エースがゼブブと、ダイナがビゾームと相対し、壮絶な戦いが始まった。
 ゼブブの突き出してきた剣をひらりとかわし、エースのキックが炸裂する。
〔もうお前たちの負けだ。この世界から出て行け!〕
〔あなた方こそ、人間はいずれ美しいこの星も破壊しつくします。今のうちに殺菌しておかねば、どうしてそれがわからないのです〕
〔この星を守るのも滅ぼすのも、この星に生まれた者のするべきことだ。お前たちに好き勝手する権利なんてない!〕
 エースは破滅招来体の独善を許さないと、鋭いチョップやキックを繰り出して攻め立てる。たとえ善意であろうとも、よその家に勝手に上がりこんで掃除をすることを親切とは呼ばない。
 さらにダイナも、ビゾームと激しい格闘戦を繰り広げていた。
〔てめえらが、ハルケギニアをこんなにしやがったんだな。ゆるさねえ、青い空を返しやがれ!〕
 ダイナとビゾームは激しいパンチのラッシュに続いて、キック、チョップを含めた乱打で互いを攻め立てていった。そのパワーとスピードは両者ほぼ互角。どちらも一歩も譲らない。
 やるな! 両者共に、相手が見掛け倒しではないことを認識し、警戒していったん離れた。わずかな間合いを置いて、構えたままじりじりと睨み合う。
 うかつに動いて隙を見せたら一気に攻め立てられる。実力が拮抗する者同士での戦いは、少しのヘマが負けにつながる。逆に言えば、その一瞬をものにできれば優勢に戦える。
 続く睨み合い。だが、それも長くは続かないだろう。戦いを見守る多くの人々の目の中で、カリーヌはそう確信していた。
「フン、かっこうつけて頭を使うな。お前はそんな、気の長い奴じゃないだろう? アスカ」
 短く笑い、カリーヌは思い出とともに、疲れ果てた体に力が戻ってくるのを感じていた。
 そう、遠い昔のタルブ村のあの日もこんなだった。どうしようもないような絶望の中でも、前に進むことはできる。
 ダイナの姿に、半壊した魅惑の妖精亭の前でもレリアが目頭を熱くしている。スカロンやジェシカは、レリアからあれがおじいさんを救ってくれたウルトラマンなのと聞かされて驚き、ついでになぜかパニックに陥っている三人組がいるが、これはどうでもいい。
 そして戦いの流れは、カリーヌの予想したとおりになった。

352ウルトラ5番目の使い魔 52話 (6/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:42:55 ID:q6J2gu7Y
「デヤッ!」
 先に仕掛けたのはダイナだった。強く大地を蹴って走り出し、腕を大きく振りかぶって突進していく。
 むろんこれに黙っているビゾームではない。ダイナの攻めにカウンターで仕掛けようと、ダイナとは逆に下段から腰を落として待ちうけ、ついに両者が激突した。
「ダアッ!」
 上から振り下ろしてくるダイナのパンチに対して、ビゾームは下から打ち上げた。そしてダイナのパンチが当たる前に、ビゾームのパンチがダイナのボディに命中した。
 やった! と、そのときビゾームは思ったであろう。ビゾームのパンチはダイナにクリーンヒットした、これが効かないはずはない。しかしなんということか、ダイナはビゾームの攻撃を受けてもかまわずに、そのままビゾームの顔面を殴り飛ばしたのである。
「デヤアァァッ!」
 上段から勢いに乗ったパンチの威力はものすごく、ビゾームは吹っ飛ばされてもんどりうった。
 なぜだ? 当たったはずなのにとビゾームは困惑した。手ごたえはあったはずなのにと、戸惑いよろめきながら起き上がってきたその視界に映ったのは、腹を押さえながらも拳を握り締めるダイナだったのだ。
〔勝負はな、根性のあるほうが勝つんだよ。いってて〕
 なんとダイナは最初からカウンターを食らうのを承知の上で特攻をかけたのだった。最初からダメージと痛みを覚悟してたからこそ、カウンターを受けてもひるまずに攻撃を続行することができた。虎穴にいらずんば虎子を得ずとは言うが、なんという無茶か。しかし、食らうのを覚悟していたおかげで、同じクリーンヒットでもダイナよりビゾームのほうがダメージは大きい。
”今だ、敵はひるんでいる、追撃しろ”
 戦いを見守っているカリーヌが心の中で命ずる。聞こえずともそれに答え、ダイナはエネルギーを集めると、白く輝く光弾に変えて発射した。
『フラッシュサイクラー!』
 並の怪獣なら粉砕する威力のエネルギー球がビゾームに向かう。
 こいつが当たれば! だがビゾームは右手から赤く光るビーム状の剣を作り出し、フラッシュサイクラーを一太刀で切り払ってしまったのだ。
〔なめないでもらおうか。戦う手段なら、こちらもまだ全部見せてはいないよ〕
〔そうこなくっちゃな。本当の戦いは〕
〔これからだよ!〕
 剣を振りかざして襲い掛かってくるビゾームに対して、ダイナも再び突進していった。

353ウルトラ5番目の使い魔 52話 (7/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:44:53 ID:q6J2gu7Y
 剣閃をかわして、ダイナのキックが炸裂する。しかしビゾームの横なぎの剣閃がダイナの喉元をスレスレでなでていき、両者の戦いはさらに激化していった。
 
 さらに、エースとゼブブの戦いも死闘の度合いを深めていく。
 エースにひけを取らないゼブブの身体能力に加え、奴は右腕が鋭い剣になっている。あんなもので切りつけられたらウルトラ戦士の皮膚でもやすやすと切り裂かれてしまうだろう。
〔このハンデはけっこうデカいな〕
 北斗は決定打を与えるためにはゼブブの懐に入らねばならないが、そのためにはあの剣のリーチの内側に入らなければならないことにやっかいさを感じていた。
 剣を持った敵には、過去にもバラバやファイヤー星人、ハルケギニアでもテロリスト星人との戦いがあったけれども、いずれも楽なものではなかった。武器は、たとえそれがナイフ一本であろうとも持つと持たないとでは戦力に大きな開きが出る。勝てないとまでは思わないが、このまま戦えば一方的に不利だ。
 しかも、ならば武器を先に破壊してしまおうとしても、ゼブブは武器破壊に警戒した仕草を見せて剣を折らせようとはしなかった。まるで、一度剣を折られたことがあるかのようだ。
 それならばこちらもなにか武器を持てば? しかし、たとえば足元に落ちている兵士の剣を拾ったとしても、数打ちの量産品では強度に不安が残る。巨大化させてすぐ折れてしまわれたらエネルギーの無駄だ。それにエースブレードは念力で作り出す剣なので斬り合いには向いていない。
〔ちくしょう、こんなときにデルフがありゃあなあ〕
 才人は、異次元に飛ばされるときに無くしてしまった相棒であり愛刀のことを思いだした。あいつがいれば思うままに振り回すことができたのに。
 だが、いないものを考えてもしようがない。それに斬られることを恐れてはウルトラマンAの名がすたる、斬るのはこっちの専売特許だ。北斗と才人がたじろいでいるのを見かねたのか、ルイズが大声でふたりを叱咤した。
〔しっかりしなさいよ男のくせに! 力のことなら心配しなくても、今日のわたしは気合が有り余ってるから好きなようにしていいわ。後先のことなんか考えてんじゃないわよ!〕
 その叱り声に、才人と北斗ははっとしたものを感じた。そうだ、慎重になって悩むなどらしくない。相手が自分より二倍強いなら二分割して、四倍強いなら四分割してやればちょうどよくなるだろう。
 迷いを振り払ったエースは、腕を上下に大きく開き、白く輝く光の刃を作り出して放った。
『バーチカル・ギロチン!』
 超獣を一撃でひらきに変えるエースの必殺技がゼブブへ向かう。だがゼブブは迫り来る光の刃を剣ではじき返すと、奇声のような鳴き声を上げてエースに突進を開始した。

354ウルトラ5番目の使い魔 52話 (8/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:49:22 ID:q6J2gu7Y
 しかしエースもひるみはしない。今度は腕を水平に突き出して、ゼブブの首を狙った三日月形のカッター光線を発射した。
『ホリゾンタル・ギロチン!』
 その首置いてけと放たれた光刃を、ゼブブはしゃらくさいとばかりに縦一文字の斬撃で斬り砕く。だがエースはそのときには、二枚の光刃をXの形に重ねて撃ち放っていた。
『サーキュラー・ギロチン!』
 一枚の光刃は切り払えても二枚となるとそうはいかない。ゼブブは自分を四等分するべく向かってくるエネルギーのカッターを止めるために、急ブレーキをかけると、額を光らせて全身に電磁波の防御幕を形成した。
 一瞬、スパークしたような稲光がゼブブの体にひらめくと、サーキュラーギロチンのエネルギーははじかれて砕かれ、ゼブブは無傷な姿を現す。そして肩を揺らして笑うゼブブに、才人はいぶかしんだ様子でつぶやいた。
〔見えないバリヤーか?〕
 それ以外には考えようが無かった。となればやっかいだ、近接戦では武器を持ち、飛び道具はバリヤーで無効化する。攻防ともに隙が見られない。
 が、ゼブブの余裕もそこまでだった。上空を旋回するファイターEXから地上のエースに向かって我夢の声が響いたのだ。
「そいつの電磁波シールドは目の部分は覆えません。目を狙ってください」
 エースははっとし、ゼブブはぎくりとしたのは言うまでもない。我夢は以前の戦いで別個体のゼブブと戦ったことがあり、そのときの経験からゼブブの能力は把握している。
 弱点がわかればこちらのものだ。エースは我夢のアドバイスに感謝しつつ、ゼブブの目を狙い、右手を突き出して菱形の光弾を連続発射した。
『ダイヤ光線!』
 光の弾丸がゼブブの急所を狙って殺到する。しかしゼブブも、急所を狙われるとわかるならば当然そこを守ろうとする。
 ダイヤ光線が当たる前に、ゼブブは両手を顔の前でクロスさせて目を守った。腕は電磁波で守られているので光線をはじき、見守っている人たちから落胆の声が流れた。
 しかし、エースは次の手を考えていた。電磁波での防御ということは、光線ははじかれるし、物理的な攻撃も反発されて防がれる。実際、ガイアもかつてのゼブブとの戦いではそれでかなりの苦戦を余儀なくされた。だが、そういうふうに攻撃が効かないということで、逆にエースにひらめいた手段があったのだ。
 ゼブブは目を守ったことで、一時的に視界が失われている。そこを逃さず、エースはゼブブの腕をめがけて両手を突き出し、合わせた手の先から白色の霧を噴出して浴びせかけた。
『ウルトラシャワー』
 霧は強力な溶解液となってゼブブの腕にまとわりつき、ゼブブの皮膚と剣を瞬く間に腐食させていった。ゼブブはそれを見て慌てふためくが、時すでに遅しであった。電磁波の反発力でも、空気の対流に乗って入り込んでくるガスに対しては無力だったのだ。
 電磁波シールドを突破され、武器をボロボロにされたことでゼブブはうろたえている。その隙にエースは空高くジャンプして、直上からの急降下キックをお見舞いした。
「トオォーッ!」
 ゼブブは頭部の二本の角から電撃を放って迎撃しようとしたが狙いが甘く、外れてしまった。エースのキックでゼブブの頭で火花が散り、悲鳴と共に角の一本がへし折れる。

355ウルトラ5番目の使い魔 52話 (9/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:51:36 ID:q6J2gu7Y
 よしいける! エースはゼブブが体勢を立て直す前にと、奴の顔面に向かって再び両手をつき合わせて、今度は高熱火炎放射を食らわせた。
『エースファイヤー!』
 エースの手から放たれる灼熱の炎がゼブブの顔面を焼いて爆発する。ゼブブは片目を焼かれて、もう電磁波シールドを張ることはできないだろう。
「ざまぁ!」
 才人とルイズは声を揃えて言ってやった。力はまだまだたっぷり残っている。この時のために、ふたりとも臥薪嘗胆の日々を送ってきたのだ、簡単に燃え尽きてたまるものか。
 こちらがダメならあちら、様々な攻撃を繰り出して敵を圧倒する、技のエースの面目躍如だ。
 トリスタニアの人々は久しぶりに見るエースの活躍に、声をあらん限りに声援を送り、ロマリアやガリアからもウルトラマンたちを応援する声が出だしている。ほとんどの者たちは、よくもこれまで騙してくれたなという怒りでいっぱいだ。俺たちがこれまで命をかけて来たのは、それが神の御心だと信じてきたからだ、許すことはできない。
「がんばれ! がんばれウルトラマンたち!」
 人々の声援を背に受けて二人のウルトラマンは全力で戦う。人々の心の支えを利用して世界を滅ぼさせようとした卑劣な所業、散々人に対しては天罰や異端を吹聴してきたのだ、ならば自分たちでそれを実践してもらおうではないか。
 エースの猛攻にゼブブは傷つき、しかし手から紫色のエネルギー弾を繰り出して反撃してくる。が、エースはそれをさばいてフラッシュハンドでさらなるダメージを与えていく。
 
 一方で、ダイナ対ビゾームの戦いもラウンドの山場を迎えていた。
〔おいおいゾロゾロと増えやがって、孫悟空かてめえは〕
 ダイナの前に、数分の一サイズに縮んだビゾームが十体ばかりも並んで不気味な笑い声をあげていた。
 これがビゾームの分裂能力である。奴は精神寄生体という、なかば幽霊のような実体があるかないかあいまいな存在であり、それゆえにまるでアメーバのように分裂することもできる。奴はダイナの放った八つ裂き光輪でわざと自分の体を何回も切らせることで、その破片の一つ一つから再生して多数のミニビゾームとなったのだ。
 奇声をあげながら、ダイナの前に壁のように並び立つミニビゾームたち。人々はその不気味な様に、「化け物め」と、うめき声をもらし、ミニビゾームたちはダイナに向かって顔の黄色い発光体からいっせいに破壊光線を放った。
「ヌオワッ!」
 ダイナの体に光線が当たり、外れたものも周囲で爆発して煙と火柱をあげた。分裂したことで威力は小さくなったものの、数を頼りに撃ちかけられては防ぎきりようが無い。
 ミニビゾームたちは炎と黒煙に囲まれたダイナを見て愉快そうな笑い声をあげ、その不快な響きが人々の心に、こんな奴をどうやって倒せばいいのかと暗雲を湧き上がらせていく。だが、ダイナの闘志はこんなもので折れてはいなかった。
〔なめてんじゃねえぞ、本当の本当の戦いは、これからだ!〕

356ウルトラ5番目の使い魔 52話 (10/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:52:27 ID:q6J2gu7Y
 気合を込めると同時に、ダイナの額のクリスタルがまばゆく輝く。悪への怒りが光に新たな力を与え、ダイナの肉体が赤く燃え上がる闘士の姿へと転身した。
『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ』
 マッシブさを増した超パワーへのモードチェンジ。まるで小人を睥睨に巨人が現れたかのような雄雄しさに、ミニビゾームたちは一瞬ひるんだが、すぐに再び破壊光線の集中砲火を浴びせてきた。
 避けることもままならない弾幕に襲われるダイナ。しかし、今度のダイナは避けも守りもせずに、そのまま攻撃を受けながら突進し、一匹のミニビゾームの元までたどり着くと振り上げた鉄拳を渾身の勢いで叩き付けた。
「ダアッ!」
 隕石のような超パワーのダイナックルを頭上から叩きつけられ、そのミニビゾームはクレーターの底でそれこそぺしゃんこにつぶれてしまっていた。
 なんともいとあはれ。しかし、彼らにとっての惨劇は始まったばかりでしかなかった。一匹を失って狼狽するミニビゾームの群れに向かって、ダイナは思う様言ってのけたのである。
〔知らなかったか? 俺はモグラ叩きは大得意なんだよ!〕
 今度はミニビゾームたちが絶望する番であった。相手が小さいなら全部叩き潰してしまえばいいと、ダイナが繰り出してくるダイナックルの連打から逃げ惑うはめになった。
 右と思えば左、ミニビゾームたちは小柄さをいかして逃げ切ろうとするがダイナもそうはさせない。街の地形を見て、ミニビゾームの大きさでは動きにくい路地などへ追い込んでは叩き潰していく。
 人々を恐れさせていたビゾームの悲鳴のような奇声が、今度は本物の悲鳴になっていた。もちろんミニビゾームたちは逃げながら光線で反撃する。しかし、バラバラに放たれた攻撃では、ダイナのボディには通じない。
〔へっ、ヒビキ隊長のカミナリに比べたら、こそばゆいぜ!〕
 アスカがバカをする度に「ばっかもーん!」と怒声を浴びせてきたSUPRGUTSの名物隊長の顔がダイナの脳裏に蘇る。いつか、必ず帰ると誓ってはいるが、きっと帰ったら特大のカミナリを食らわせられるだろうなと彼は内心で苦笑いした。
 が、ビゾームにしてみれば知ったことではない。ダイナから逃れようとちょこまかと走り回っているけれど、悪人がどんなに逃げても怒れる魔神の神罰から逃れることはできないように、ダイナはきっちりと見つけ出し、ジャンプすると真上から一匹のミニビゾームを踏み潰した。
「デアッ!」
 体格差がありすぎるために、ミニビゾームはひとたまりなくつぶされてしまった。
 さあて次はどいつだ?
 まさに超特大のモグラ叩きそのものな光景に、人々からいいぞと喝采があがる。
 ミニビゾームたちは、バラバラのままでは全滅してしまうと人魂のような姿になるとひとつに結合して元のビゾームの姿に戻った。が、だからといって形勢がよくなるわけでは当然なく、待ってましたと突っ込んできたダイナの強烈なラリアットで大きく弾き飛ばされるはめになった。
 地を舐めさせられるビゾーム。同じころ、ゼブブもエースのエースリフターで投げ飛ばされ、両者はもつれ合いながらもなんとか起き上がってきた。
 
 さあ、そろそろ積みだ。エース、そしてダイナは肩を並べて悪の二大怪獣の前で構えをとる。

357ウルトラ5番目の使い魔 52話 (11/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:53:54 ID:q6J2gu7Y
〔これまでだ。この世界の人々の運命は、お前たちなどに渡したりはしない〕
 どんなご立派な大義名分があろうとも、他人の人生をおもちゃにしていい理屈は無い。お前たちのために、この世界があるわけではないのだ。
 とどめの一撃の体勢に入るエースとダイナ。だが、ゼブブは追い詰められながらも、蝿のような頭の中に持つ悪魔的な頭脳を止めてはいなかった。
〔確かに強いですね、あなたたちは。さすがは次元を隔ててもウルトラマンです。しかし、ウルトラマンであるならば、これはいかがですか?〕
 ゼブブが空に向かって手をあげた瞬間、空を覆っている黒雲から、何万、何億という数の虫の群れが地上へと舞い降りてきたのだ。
「なんだっ! 虫が集まって、怪獣になった!?」
 人々の見ている前で、その信じられないことは起こった。なんと、数え切れないほどの虫が地上で合体して、一つ目のグロテスクな怪獣へと変貌してしまったのだ。
 これが、世界を覆っている黒雲の正体である破滅魔虫ドビシの集合体である、破滅魔虫カイザードビシだ。胴体の上についた血走った一つ目には感情を感じず、片手、あるいは両腕が鋭い鎌のような武器になっている。
 しかも、それは一匹ではない。トリスタニアのいたるところに出現し、何十体もの軍団となってうごめいている。完全に囲まれてしまった。エースとダイナは一気に膨れ上がった敵の戦力がいっせいに攻撃をしてくるだろうと、背を合わせて構えをとる。
〔へっ、今度は数で勝負かよ。芸がねえぜ〕
 ダイナが強気に言ってのけた。これだけの数の怪獣をいっぺんに繰り出せるのならば最初からやればいい、なのにしなかったということは、戦力としてはあまり期待できないからだろう。昔から量産型は弱いものと相場が決まっているのだ。
 しかし、カイザードビシどもはエースとダイナの予想していなかった行動に出た。奴らはエースとダイナに襲い掛かってくるどころか、目も向けずに街を破壊し、人々を蹂躙しにかかってきたのである。
〔怪獣たちが! 貴様、なにをする!〕
〔フフ、あなた方に彼らを見殺しにすることができますか? 死にますよ、何千と、何万という人間たちがね〕
 あざ笑うゼブブに対して、エースとダイナは「このクズ野郎」と怒りに震えた。それが仮にも聖職者を名乗っていたもののすることか。
 カイザードビシたちは足を振り上げて街を破壊し、人々に向けて目から破壊光線を放って暴れている。止めなければ、本当に何万という犠牲者が出てしまうだろう。
 だが、エースとダイナがゼブブとビゾームを後回しにしてカイザードビシへと向かおうとしたそのとき、一陣の風とともに壮烈な怒声が響き渡った。
「やめろ! お前たちの倒すべき相手は、そいつらじゃない!」
 巨大なエアカッターの刃が一匹のカイザードビシの腕を切り飛ばし、次いで巨鳥ラルゲユウスの体当たりが黒い魔虫を地に這わせた。
 烈風が吹きすさび、傷だらけの騎士が杖を手にして空から声を響かせる。
「立て! トリステインの兵たちよ。お前たちは傍観者か? 諦観者か? 牙を失った猫か? いや! お前たちの手には剣がある、杖がある! これまでの戦いを思い出せ、お前たちは勇者だ! この烈風もまだ戦える。続け、トリステインを守るのは我々だ!」
 カリーヌの激が、疲れ果てていたトリステインの兵たちに最後の力を与えた。すでにカリーヌ自身も息が苦しくてたまらない。しかし気力だけは満タンだ。奇跡に奇跡が続いてやっと見えた勝利への光明を、自分たちの情けなさで台無しにするわけにはいかない。
 この国を守るのは、この国の人間でなければならない。それだけは譲れない、譲ってはいけない。

358ウルトラ5番目の使い魔 52話 (12/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:55:14 ID:q6J2gu7Y
 ラルゲユウスはその翼を一匹のカイザードビシと対峙し、その背に立つカリーヌはダイナに向かって一瞬だけ視線を送ると、短くつぶやいた。
「本当の戦いはこれから、そうだろ? アスカ」
〔まさか、お前……〕
 カリーヌは答えず、雄たけびのように吼えるとカイザードビシに向かっていった。
 あれから三十年経った。私もずいぶん年を取ったけど、お前は変わらないな。けど、お前と共に戦ったあの日のことは忘れていない。お前と共に、もう一度戦う。
 メイジたちは残り少ない精神力をふるって魔法を撃ち、兵たちも弓や銃、それもない兵も声を振り絞り、体に鞭打って武器を持ち、武器の無い者も懸命に負傷者を運ぶ。
 人間たちの予想外の逆襲にカイザードビシたちは意表を突かれた。カイザードビシはいかつい見た目はしているが、ダイナの見立てどおりに単体での戦闘力はたいしたことはなく、数でそれを補うタイプの怪獣だ。事実、ガイアの世界では戦車砲程度で倒されており、耐久力もあまりない。
 そして、トリステインの兵たちは怪獣相手の戦いに慣れている。指揮官たちは過去の戦いを思い出し、的確に指示を出していった。
「目だ! あのでっかい一つ目を狙え」
 カイザードビシのいかにも目立つ単眼にメイジや弓兵たちは攻撃を集中させた。
 また、街のいたるところには固定化の魔法がかけられた鎖が用意されていて、魔法の使えない兵はこれを使ってカイザードビシの脚をからませていった。怪獣を相手に生身の人間で何ができるかと考えられた結果、やれることはすべてやっておこうと、トリスタニアのあちこちにはこうした道具が隠されているのである。
 思わぬ人間たちの反撃に足止めを余儀なくされるカイザードビシたち。エースとダイナはその奮闘振りに「やるな」と、感心した。
 しかしカイザードビシもまた怪獣、一筋縄ではいかない。倒れこんだカイザードビシの腹の口から開くと、そこから何千匹という数のドビシの群れが吐き出され、さらにゼブブが「こしゃくな!」とばかりに手を上げると、黒雲からさらにドビシたちが降り注いできて、人々に直接襲い掛かっていった。
〔フハハハ、十匹の象を倒すことはできても、十万匹の鼠を殺しつくすことはできないでしょう。罪深き者たちよ、そのまま滅びなさい〕
 くっ、どこまで悪辣な奴だ。だが、効果的なことは認めざるを得ない。ドビシは一匹ごとは猫ほどの大きさしかないが、束になって敵に群がることで、ミツバチがスズメバチを倒すように相手を仕留めることができる。人間にとっては2・3匹もいれば十分に脅威だ。
「うわぁぁ、助けてくれっ!」
 複数のドビシにのしかかられて噛み付かれ、あちこちで悲鳴があがっている。まずい、このままでは弱った人から食い殺される。
 エースとダイナならば、光線技の広域発射でドビシたちをなぎ払うことができる。だがそれをすると、せっかく追い詰めたゼブブとビゾームにとどめを刺すエネルギーを使ってしまうことになる。それでも、何万という人々を見殺しにすることはできない。エースとダイナは、人々にイナゴのように群れていくドビシたちをなぎ払うために、光線技の構えに入ろうとした。

359ウルトラ5番目の使い魔 52話 (13/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:57:03 ID:q6J2gu7Y
 が、その瞬間だった。街の上を乱舞していたドビシの群れを、カリーヌのものとは違う氷雪の突風が押し流して行ったのである。そして王宮から響き渡る凛とした声が、街中に響き渡った。
「ウルトラマンさんたち、惑わされてはいけません。あなた方が戦うべき敵は、その偽善者たちです!」
 それは半壊した王宮で、なおも水晶の杖を掲げて立つアンリエッタの声であった。すでにドレスはすすけて汚れ、優美な印象は残っていない。しかし、彼女の表情には絶望はなかった。アンリエッタの傍らには、彼女の肩を支えてウェールズも立っていたからである。
「聞きなさい! トリステインとアルビオンの、二本の杖はまだ健在です。戦いなさい、トリステインの勇士たちよ! 血路はわたくしたちが開きます」
「アルビオンの猛者たち! 艦隊はなくなったが、我々にはまだ杖がある。腕がある、足もある、なにより命がある。戦おう! そして終わらせて帰ろう、我らの誇る空の故郷へ!」
 そしてウェールズとアンリエッタは杖を合わせると、呪文を唱えて二人同時に解き放った。完全にシンクロした魔法は互いを増幅しあい、トリステインの水とアルビオンの風が合わさった巨大な吹雪と化して街の上空を遷移するドビシたちを飲み込んでいく。王家の血筋同士が可能とする合体魔法、ヘクサゴンスペルだ。
 カリーヌのカッタートルネードにもひけをとらない暴風によって、数万のドビシたちが切り刻まれ、氷付けにされて吹き飛ばされていく。しかしドビシたちはまだまだ無限に近い数で人間たちを攻め立てている。けれども苦しめられる人々に、ウェールズとアンリエッタは毅然と声を投げかけた。
「戦え! 今、ここを乗り切れば勝利は目の前だ。苦しければ我らを見よ! 王家は逃げない。誇りを胸に最後まで戦う。平和な世を取り戻すために」
「ガリア、そしてロマリアの人々も聞いてください。あなた方は欺かれていました。ですがそれで終わりではないはずです。思い出してください、あなた方にはまだ、帰るべき故郷や守るべき人たちがあるはずです。誰かに守ってもらおうと考えるのではなく、あなた方が誰かを守るのです。戦う誇りを取り戻して、我らと共に未来を勝ち取りましょう!」
 声をあらんばかりに張り上げて、ふたりの若者が叫ぶ。それは飾り立てるものなどない魂のうねりであり、人間としての誇りの咆哮であった。
 その魂の発露が、人々に思い出させた。信仰が失われても、まだ自分たちには帰る故郷があり、帰りを待っている人がいる。そのためにも、こんなところで死ねない。
「うおぉぉーーーっ!」
 獣のような叫びとともに、その瞬間トリスタニアにいた人々は国籍も所属も問わず、一体となって立ち上がった。

360ウルトラ5番目の使い魔 52話 (14/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:58:58 ID:q6J2gu7Y
 襲い掛かってくるドビシに対し、本当に最後の力で立ち向かう。もう余計なことは考えない、俺たちは人間なんだ、お前たちなんかに負けてたまるか。
 
 魔法を撃ち、銃を撃ち、剣を振るい、槍を突き立て、素手の者は瓦礫を拾い、石を投げ、生きる理由のある人間たちはドビシたちを次々に仕留めていく。
 街中ではこれまで敵味方に分かれていたトリステインとロマリアの兵たちが共に戦う姿があちこちで見られた。呉越同舟も何も無い、ただ生きるために生命は全力で抗う。人間がその例外ではないということを見せているだけだ。
 
 ある街角では銃士隊が戦っていた。その姿は、まるで敗残兵のようにボロボロの有様になって、剣も刃こぼれし、なかばから折れてしまっている者もいる。
 だがその士気は天を突くように高く、アニエスとミシェルを先頭にすさまじい勢いでドビシを駆逐していっている。
「はあぁぁっ! ふぅ、どうしたミシェル? ずいぶんと調子がいいみたいじゃないか」
「ははっ、もちろんですよ。サイトが、あいつはやっぱり生きていてくれた。帰って、帰ってきてくれた。こんな、こんなうれしいことがありますか!」
 半分涙目になりながら剣を振るっているミシェルに、アニエスは微笑し、隊員たちも優しい笑みを浮かべながら剣を握りなおした。
「ようし、我々もサイトに負けてられんぞ。虫けらどもをトリスタニアから叩き出すんだ! 隊長と副長に続けーっ!」
「副長の結婚式を見るまでは、死ねませんしねっ! っと、でりゃ!」
「その次は、隊長のお婿さんを見つける楽しみもあるものね。でもこっちはちょっと難しいかしら」
「それなんですけど、お婿さんは男じゃなきゃいけないといけないってことはないですよね?」
「ん?」
 なにやらひそひそと話し合いながらも、銃士隊は的確に剣を振るい、ドビシに叩き付け、突き刺して倒していく。
 いくらでも来るなら来い虫けらどもめ。女は恋をすれば強くなる。愛することを知れば不死身になる。誰かを支えれば無敵になる。この世でもっとも強い生き物がなんであるか、とくと教えてやろうではないか。
 
 ドビシと人間たちの格闘はいたるところで繰り広げられている。人と虫とが乱戦となり、もはや戦術もなにもない混沌と原始の巷である。
 が、闘争とは本来そういうものだ。古来、人間は他の獣を狩って生きるハンターであった。食うか食われるか、それが戦いの原初であり、それをよく知るひとりの狩人は乱戦の中でも唯一冷めた目でドビシたちに矢を打ち込んでいた。
「これで二十七匹目、と……数が多いのはいいが、こいつらは煮ても焼いても食えそうにないな。これならキメラどものほうが料理できるだけマシか。いや、殻や内臓は薬になるかもしれないね。今のうちに集めておこうかしら」
 ジルという狩人の前では、人間以外の生き物は獲物としての価値があるかないかの二択でしかない。そこに善悪はなく、ジルにとってはドビシも猪や鹿と同等の存在でしかなかった。

361ウルトラ5番目の使い魔 52話 (15/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:01:26 ID:q6J2gu7Y
 いや、極論すれば、人間が生きるために善悪などというものは必要ないのかもしれない。事実、化け物の森で長年を過ごしてきたジルにはそんなものはいらなかった。ただ、それなのにジルを動かしているものがある。
「薬の試作ができたら竜のお嬢ちゃんに試し飲みしてもらうかな。手ごろな回復薬ができたらシャルロットの役にも立つかしらね」
 ジルはタバサの喜ぶ様子を想像してわずかに微笑んだ。人は生きるだけなら一人でできるが、誰かのために何かをすることでのみ己という存在に価値を見出すことができる。
 この戦いに、ジルがいる理由はそれだけだ。国がどうなろうとどうでもいい。言ってみればただの親ばかだ。
 
 そして親ばかといえば最たるところがチクトンネ街にいる。
「ふんぬぅ、うちの妖精さんたちはお触りは禁止されていますぅ。お引取りいただきましょうか、お客さんたちぃ!」
 くねくねとした動きをしつつも、鉄拳でドビシたちを吹っ飛ばしていくスカロンの雄姿? が、そこで輝いていた。
 魅惑の妖精亭、正確にはその跡地となりつつあるが、店員たちは皆そこを離れようとはせずに守り続けている。華奢な少女たちが、フライパンやおたまを武器にしてドビシに立ち向かい、その先頭にはジェシカが立って皆を鼓舞していた。
「みんな、あと一息よ! これが終われば、商売敵の店はみんなつぶれたからうちの独占商売よ。そうしたらじゃんじゃん稼ぐんだからね! がんばって」
「おーーーっ!」
 なんともたくましいものである。しかし、この若いパワーが未来を作るピースであることは間違いない。
 彼女たちにはそれぞれ、自分の家を持つ、故郷の家族のために稼ぐ、独立して自分の店を持つなどの夢がある。この戦争はマイナスだったが、終わればそれがプラスに転じるチャンスが来る。ならば、それを逃すわけにはいかない。
 スカロンは、少女たちの夢をそれぞれ応援している。血のつながった娘はジェシカひとりだが、同じ屋根の下で共にやってきた少女たちは皆、自分の娘も同然だ。それを守るためなら、無限に力が湧いてくる。
「でありゃあっ! そう、その意気よ妖精さんたち。けど顔だけは絶対傷つけちゃダメよ。ミ・マドモアゼル、泣いちゃうからねぇっ!」
「それだけは勘弁してください! ミ・マドモアゼルっ!」
 さすがの妖精さんたちも想像するに耐えない光景に身震いした。ジェシカは呆れたように笑うばかりだが、その手には得物の包丁と頑丈そうなロープが握られていて、その先には逃げ出そうとしているドルチェンコたち三人がくくり付けられていた。
「だめよー逃げちゃ。壊れたお店を建て直すのに、男の人の手は欠かせないんだからね」
「頼む逃がしてくれ、神様仏様ジェシカ様! あいつに、ダイナに見つかるのだけはすごくマズい!」
 過去になにがあったかは知らないが、三人組の焦りようはすごかった。もっとも、完璧に自業自得であるのだから仕方ない。

362ウルトラ5番目の使い魔 52話 (16/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:02:05 ID:q6J2gu7Y
 やがて、スカロンのおかげで店の周囲からドビシが一掃されると、彼女たちはウルトラマンたちに向かって手を振った。
 
 十万匹の鼠は駆逐できないとゼブブは言った。しかし、人間たちの奮闘はその常識に風穴を開けつつある。
 新たに湧いてくるドビシはアンリエッタとウェールズのヘクサゴンスペルが食い止め、その絶対数が増加することを許さない。
「大丈夫かい? アンリエッタ、さあ、僕につかまって」
「ありがとうございます、ウェールズさま。けど、国民の前でだらしない姿はさらせませんわ。大丈夫です、ウェールズさまが傍らにいるだけで、わたくしは負けません」
 ふたりとも常人の域を超えた魔法の行使でとっくに限界を超えているが、その表情は明るい。
 また、ふたりを狙ってドビシたちが襲ってくるが、それをカトレアやエレオノールたちが迎え撃っている。
「ラ・ヴァリエールの名において、お二人には指一本触れさせません。あなたがたのような命を弄ぶ人たちに、この杖は決して折らせませんわ」
「ちびルイズが目立ってるのに、私が働かなかったら後でお母様に殺されるわ。ま、たまには姉の威厳を妹たちに見せておくのも悪くないわね」
 ドビシたちは次々と叩き落され、王家のふたりは威厳を保ったまま立ち続けている。
 元凶であるカイザードビシたちも、カリーヌの奮闘や、ド・ゼッサールの率いる魔法衛士隊、名も無い兵士たちの活躍で押さえ込まれ、それでも余った連中にはブリミルのエクスプロージョンが炸裂した。
「やれやれ、いい加減疲れたから休ませてほしいんだけどな」
「なに言ってるの。私たちの子孫がピンチなんだから、頑張りなさいなご先祖様、それっ!」
 ブリミルに襲い掛かろうとするドビシをサーシャが舞うように剣を振るって切り刻んでいく。主の詠唱を守るガンダールヴの本領発揮というところだ。
 
 いまや、ドビシの活動はほぼ完全に押さえ込まれていた。街中にはドビシの死骸が無数に積み上げられ、人間たちの凱歌がそこかしこであがっている。
 まさか、こんなはずではとゼブブとビゾームはうろたえたが、これが現実であった。
 人間たちの最後の力を振り絞った悪あがき。もちろん時間が経てば、無限の物量を誇るドビシたちが再び圧倒するであろうが、それまでのこの、わずか一分程度の時間さえあれば十分だ。
〔ああ、お前たちを倒すには、一分もあればたくさんだぜ!〕
 ダイナはゼブブたちを指差して言い放った。
 人々が全力で作ってくれたこの機会。これ以上、もはやどんな手も用意してはいないだろう。このチャンスで、お前たちを倒す。

363ウルトラ5番目の使い魔 52話 (17/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:03:02 ID:q6J2gu7Y
「シュワッ!」
「テェーイ!」
 ダイナ、そしてエースの猛攻が再開された。
 空中高く飛び上がったエースのキックがビゾームを打ち、助走をつけたダイナのダイナックルがゼブブを吹き飛ばす。
 対して、ゼブブとビゾームもあきらめ悪く反撃を繰り出してきた。ゼブブの怪光線がダイナのボディを打ち、ビゾームの光の剣がエースの喉下をかすめる。
 しかしウルトラマンたちは攻撃をやめない。この一分はただの一分ではない、人々の願いのこもった世界で一番貴重な一分だ。一秒たりとて無駄にはできないのだ。
 エースのタイマーショットがビゾームの腕を剣ごと焼き切り、ダイナのブレーンバスターが見事に炸裂する。
 破滅招来体の企みも、ついにここで絶えようとしている。幾星霜を費やした遠大な計画が崩壊した理由、それは彼らがひとつのことを見落としていたからだ。
「なぜだ、なぜこうまで理不尽な偶然が重なる? なにがお前たちに味方しているというのだ」
〔お前たちにはわからないだろう、希望の持つ本当の意味を。希望は自分が歩き出すための糧じゃない、誰かと共に歩き出すために分かち合うものなんだ〕
 エースは才人とルイズ、多くの人たちを見て思った。こうしてこの世界に帰り、そして勝利を目前にしていられるのは、才人とルイズが希望を捨てずにあきらめなかったから。そしてこの場の人間たちがあきらめずに戦い、ドビシたちを追い返せたのは、ふたりのウルトラマンがいるという希望があったからだ。
 希望はつながり、連なり、より多くの人々へと拡散していく。小さな希望が大きな希望へ、そして奇跡を呼び、不可能を可能に変える。その連鎖こそが希望の本当の力なのだ。
〔うわべだけの絶望で、人間を支配できると思っていたのが間違いだ。人間はお前たちが思うような愚かな生き物じゃない。人間はこれからも、進歩し続ける生き物なんだ〕
 ウルトラマンは人間の希望と未来を信じる。そして才人とルイズも己の信念を込めて言い放った。
〔ハルケギニアはな、ブリミルさんやサーシャさんたちが死ぬ思いで旅を続けてやっと立て直した世界なんだ。お前たちなんかが勝手に独り占めしていいほど安くないんだよ〕
〔人間はバカだわ、それは否定しない。けど、お前たちなんかにバカにされたくないような素晴らしい人だってたくさんいるわ。人間の中にそんな人たちがいる限り、ハルケギニアは滅んだりしない〕
 ハルケギニアの人間の愚かさを信じた破滅招来体と、希望を信じた人間たちの対決の、これが答えであった。
 
 だが、破滅招来体は、ゼブブは違った。彼らの誇示する彼らの正義にとって、人間たちの希望の力はあくまでも理解できない、不要なものでしかなかった。
 破滅招来体は過去幾度もガイアの世界でもその意思を表示することがあったが、それらの中で共通していることがある。彼らは地球を美しい星と呼び、人類は不要と主張し続けたが、そんな彼らの要求する世界は人類では決して到達不可能な機械的な完全世界だったのだ。

364ウルトラ5番目の使い魔 52話 (18/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:04:16 ID:q6J2gu7Y
 彼らは妥協を嫌い、不確定要素を嫌った。彼らが文明を築く上でどのような進化を辿ってきたかはさだかではないが、彼らの欲する磨き上げられたダイヤモンドのような一点の傷も無いパーフェクトワールドは、感情を持つ人類とは決して相容れないものであり、そうでない世界は彼らにとって受け入れられないものだった。
 ゼブブとビゾームは敗北を悟った。しかし、彼らは破滅招来体の使者として、その最後の使命を果たそうとしていた。
「わかりません。わかりたくもありませんが、この戦いは我らの負けです。しかし、我らの主はいつか必ずこの世界を醜い人間たちから解き放ちます。我らはその捨て石となりましょう!」
 ボロボロの体でなお消えぬ殺意をみなぎらせて、ゼブブとビゾームは突撃をかけてきた。地響きをあげ、一直線にエースとダイナに向かって突進してくる。もはや小細工も戦法もなにもない、刺し違えることを覚悟した特攻だ。
〔奴ら、自爆する気か!?〕
 そうだ。奴らは、自らの命と引き換えにエースとダイナだけでも道連れにしようとしている。次に来る侵略部隊を少しでも有利にするため、恐るべき執念だ。
 避けるか? いやもう遅い。迎え撃つか? 自爆する気の相手に危険すぎる。
 引くも、受けるもできない。そしてここでエースかダイナがどちらかひとりでも倒れれば、破滅招来体は再侵略の余地があると見なすだろう。それでなくとも、ウルトラマンが倒されたという事実は他の侵略宇宙人たちも喜ばせ、我も我もと動き出させるに違いない。
 ウルトラマンが負けられない理由がここにある。奴らは命と引き換えにそこに一穴を残そうとしているのだ。
 危ない! だがその瞬間、アンリエッタとウェールズは温存し続けてきた切り札を使うときが来たことを悟った。
「ウェールズ様、あれを。今こそハルケギニアに光を取り戻しましょう」
「ああ、長かった夜を終わりに。我らの世界に再び朝を! 始祖の秘宝よ、お導きください」
 ふたりは守り続けてきた始祖の首飾りを共に空高く投げ上げた。一筋の流星となって秘宝は黒雲へと吸い込まれ、封じられていた『消滅』の魔法を解放する。
 
”光、あれ”
 
 祈りが込められた二つの始祖の首飾りの力は、トリスタニアの空を中心に一瞬にしてドビシの黒雲を消し去っていった。
 『消滅』の魔法は、ものを形作る小さな粒に、そのつながりを忘れさせることであらゆるものを崩壊させる効力を持つ。地球流に言うと、分子結合を強制解除させるとでもすればいいか。すなわち、あらゆる物質はその強度に関係なく塵に返ってしまうということだ。
 むろんドビシも例外ではなく、焼け石に落ちた水滴のように次々に消滅していく。分子結合を解くことで物体を溶解消滅させるものとしては、地球では一九五七年にほぼ同じ効力を持つ薬品が一度だけ使われたことがあるそうだが、これに耐えられるのは文字通り神の域を超えた生命だけであろう。

365ウルトラ5番目の使い魔 52話 (19/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:05:51 ID:q6J2gu7Y
 ドビシの黒雲が切り裂かれた空からは、黒に変わって透き通るような青とともに、明るく暖かい太陽の日差しが再び差し込んできた。
 一瞬にしてトリスタニアは夜から昼に変わり、数秒後には魔法学院やタルブ村も忘れかけていた太陽に照らし出され、数分後にはハルケギニア全土が光を取り戻した。
 しかし、この戦いの決着にはほんの数秒でたくさんだった。
 太陽の光がトリスタニアを、人間たちを、そしてウルトラマンと怪獣たちを照らし出す。その白い輝きは暗がりに慣れていた人々と、怪獣の目を激しく焼いた。
「ウオオォォッ、光? 光がぁぁっ!?」
 巨大な複眼を持つゼブブと、闇夜での活動を得意とするビゾームにとっては突然差し込んできた太陽の光は強すぎた。視覚を奪われ、エースとダイナの姿を見失った二体はなすすべなく立ち尽くした。
 今だ! すべての人がそう叫ぶ。太陽が与えてくれた、この黄金の一秒がすべてを決める。
 無防備な様をさらすしかないゼブブとビゾーム。対して、ウルトラマンは太陽の子、光の戦士だ。その金色の瞳はまっすぐに敵怪獣を見据え、その心は己がなすべき使命を悟っていた。
 
 これが破滅招来体との戦いの最後の一撃だ。エースのL字に組んだ腕が、ダイナの渾身のエネルギーを込めた火球が決着の時を告げる。
 
『メタリウム光線!』
『ガルネイトボンバー!』
 
 虹色の光芒がゼブブを貫き、灼熱の業火がビゾームを燃やし尽くす。
 長く続いたハルケギニアの夜。それが終わり、本当の夜明けを迎える時がやってきた。
 
 
 続く

366ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:07:36 ID:q6J2gu7Y
52話、ロマリア編最終決戦、お楽しみいただけたでしょうか。
3章を始めてここまで、平坦な道のりではありませんでしたが、皆様の応援のおかげで辿りつくことができました。
お礼にというわけではありませんが、少し早めのクリスマスプレゼントになれば幸いです。

では、次回は恐らく来年で。皆様よいお年を。

367名無しさん:2016/12/23(金) 15:17:25 ID:MxIuD8yg
乙です

>地球では一九五七年にほぼ同じ効力を持つ薬品が一度だけ使われたことがあるそうだが、
>これに耐えられるのは文字通り神の域を超えた生命だけであろう。

…まさか、数多くの超兵器でも完全に殺せなかった怪獣王を
殺せたアレですか?

368名無しさん:2016/12/24(土) 11:05:05 ID:5OnfRuos
ウルトラ乙。
ミジー星人とダイナ、感動の再会だなー(棒)

369名無しさん:2016/12/25(日) 14:37:37 ID:bdHU.rPo
おつです

来年はウルトラマンエース放送開始45周年
これからも応援していきます

370ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:01:02 ID:ezGi563k
メリークリスマス、焼き鮭です。今回の投下をさせてもらいます。
開始は21:03からで。

371ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:03:27 ID:ezGi563k
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その3)」
恐怖の怪獣軍団
宇宙恐竜ゼットン 登場

 才人は精神を囚われたルイズを救うべく、本の世界への旅を始めた。最初は初代ウルトラマンが
地球を防衛していた時代を描いた物語。しかし肝心のウルトラマンはゼットンに敗北したことが
原因で、失意の底にあった。才人は憧れのヒーロー、ウルトラマンを懸命に励ます。そんな中出現
したのは、日本中に出現したすさまじい数の怪獣軍団! その前にゼロも苦戦を強いられ、ピグモンが
ドドンゴの攻撃を受ける。それを目の当たりにしたハヤタは遂に立ち上がり――ウルトラマンが
甦ったのだった!

「ヘアッ!」
 今一度地球を守るべく立ち上がったウルトラマンは、颯爽と怪獣たちの間に飛び込んで
ギガス、ネロンガ、グリーンモンスにチョップを叩き込んでゼロから弾き飛ばした。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ゲエエゴオオオオオウ!」
「グウウウウウウ……!」
 更にドドンゴに飛びかかって文字通り馬乗りになり、その体勢から首を引っ張ることにより、
ドドンゴは後退させられて怪獣軍団から引き離された。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
 怪獣たちがウルトラマンにひるんでいる隙に、ゼロは体勢を立て直すことに成功した。
『助かったぜウルトラマン! せぇやッ!』
 ゼロも負けてはいられない。流れるようにマグラー、ゲスラにキックを仕掛けて張り倒し、
ケムラーの吐く亜硫酸ガスを跳躍して華麗に回避。
『もう食らわねぇぜ!』
 毒ガスは代わりにレッドキングが食らう羽目になった。
「ピッギャ――ゴオオオウ!?」
 もがき苦しんだレッドキングは岩を投げ、それがケムラーの口に嵌まってガスが詰まった。
「ヘアァッ!」
 ウルトラマンはドドンゴに乗ったまま首筋をチョップで連打してダメージを与えていくが、
ドドンゴがやられっぱなしでいるはずがない。思い切り暴れてウルトラマンを振り払う。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
「ダァッ! シェアッ!」
 しかしウルトラマンも振り落とされてすぐにスペシウム光線を発射。ドドンゴにクリーン
ヒットする。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
 その一撃によってドドンゴはたちまち絶命。横に倒れて動かなくなった。
 この間レッドキングを押さえつけていたゼロがウルトラマンに向かって告げた。
『ウルトラマン! ここは俺と科特隊に任せてくれ。あんたは他の場所の怪獣を頼む!』
 うなずいたウルトラマンが全身に力を込めると、その身体にエネルギーが集まっていく。
「ヘアッ! トワァッ!」
 エネルギーが最大に高まると、何とウルトラマンが五人に分身した!
 ウルトラセパレーション、分身の術。ウルトラマンの新しい戦法だ!
「シェアッ!」
 五人になったウルトラマンは、それぞれ別の方向に飛び立って怪獣の被害に遭っている
現場に急いでいった。
 その内の一人は沿岸で暴れているガマクジラを発見。
「グアアアアッ!」
 即座に飛行速度を急上昇させて、上空から一直線にガマクジラに体当たり!
 これによってガマクジラは一発でバラバラに四散した。ウルトラマンは上昇して別の場所へと
向かっていった。

372ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:05:29 ID:ezGi563k
 また別の一人はコンビナートを火の海にしているペスターを発見。
「シェアッ!」
 着地と同時にスペシウム光線をペスターの頭部にぶち込んで、一瞬で撃破した。
「キュ――――――ウ……!」
 ペスターを倒してからウルトラマンは合わせた両手からウルトラ水流を発し、コンビナートの
火災を瞬く間に消し止めた。それからまた飛行して、市街地の方角へ飛んでいった。

 五人のウルトラマンはそれからゴモラ、ヒドラ、ウー、ザンボラー、ケロニアの元へ駆けつけて
勝負を挑んでいった。
「ヘアァッ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
 一人目のウルトラマンが空中からドロップキックを仕掛けてゴモラを蹴り倒す。
「ヘアッ!」
「ピャ――――――オ!」
 ウルトラマンの二人目はヒドラと格闘戦を繰り広げる。
「ヘアァッ!」
「ガアアアアアアアア!」
 ウルトラマン三人目はウーと取っ組み合って雪原の上をゴロゴロ転がった。
「ヘアッ!」
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 ウルトラマン四人目は低姿勢でザンボラーにタックルして、相手の身体をすくい上げて放り投げる。
「トアアァッ!」
「パアアアアアアアア!」
 ウルトラマン五人目はケロニアに一本背負いを決めて投げ飛ばした。

 各地でウルトラマンが奮闘している間、ゼロもまた怪獣軍団相手に激しく戦っていた。
「セアッ!」
 ゼロのビームランプから発射されたエメリウムスラッシュがグリーンモンスの花弁の中心を
撃ち抜き、グリーンモンスを炎上させた。更にゼロはネロンガを捕らえて高々と担ぎ上げて
投げ飛ばす。
『せぇぇいッ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
 地面に叩きつけたネロンガにすかさずワイドゼロショットを食らわせて爆散させた。
これで一気に二体撃破だ。
 だがまだレッドキング、マグラー、ギガス、ゲスラ、ケムラーと五体もの怪獣が残っている。
「ウルトラマンにばかり戦わせてはいかん! 我々も戦うぞ!」
 そこで攻撃用意を整えた科特隊が援護を開始した。まずはムラマツがナパーム手榴弾を
マグラーに向かって投擲した。
「えぇーいッ!」
 手榴弾の炸裂を頭部に食らったマグラーはきりきり舞って、ばったりと倒れる。
「ギャアアオオオォォウ……!」
 イデはジェットビートルを駆って、ギガスの頭上を取った。
「今だ! 強力乾燥ミサイルを食らえ!」
 ビートル底部の弾倉が開き、爆弾が投下。ギガスに命中して爆発すると、ギガスは全身が
急激にひび割れて粉々になった。
 ルイズはゲスラをスーパーガンで撃ちながらゼロに叫んだ。
「背びれが弱点よ!」
 うなずいたゼロがゲスラの背後に回り込んで、素早く背びれを引き抜いた。
「ウアァァァッ……!」
 背びれを抜かれたゲスラはたちまち生命活動を停止し、その場に横たわった。
 アラシはマッドバズーカを肩に担いで照準をケムラーに向けた。
「こいつで泣きどころをぶち抜いてやる!」

373ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:07:31 ID:ezGi563k
 ゼロはすかさずケムラーの背後に飛びかかって、アラシが狙いやすいように甲羅を引っ張って
開き、その下に隠されている核を剥き出しにした。
「助かったぜ! 食らえッ!」
 バズーカから飛んだ弾丸がケムラーの核を見事破壊!
「カァァァァコォォォォォ……!」
 核を撃ち抜かれたケムラーだがその場では往生せず、ほうほうの体で火山まで這っていくと、
自ら火口に飛び込んで姿を消した。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 最後に残ったレッドキングが猛然とゼロに突進していくが、ゼロは正拳でカウンターして
レッドキングを押し返した。
『てぇあッ!』
 よろめいたレッドキングに、ムラマツ、アラシ、ルイズがスーパーガンを向ける。
「アラシ、フジ君! トリプルショットだ!」
「はいッ!」
 三人がスーパーガンを重ね合わせると、発射される光線も合わさって威力三倍の必殺攻撃と
なり、レッドキングを撃ち抜いた。
「ピッギャ――ゴオオオウ!!」
 トリプルショットをまともに食らったレッドキングは仰向けに倒れ、力尽きた。これで
この場の怪獣たちは全滅した。
「シェアッ!」
 怪獣が全て倒されると、ゼロは空に向かって飛び上がっていった。

 五人のウルトラマンたちの方もまた、怪獣との決着を順次つけていた。
「ジェアッ!」
 飛んで逃げようとするヒドラに放たれたスペシウム光線が命中し、ヒドラは空中で爆発。
「ジェアッ!」
 ケロニアにはウルトラアタック光線が決まり、ケロニアの全身を吹っ飛ばした。
 大阪ではゴモラの頭部にスペシウム光線がヒット。
「ギャオオオオオオオオ!!」
 ザンボラーにもスペシウム光線が炸裂し、全身を炎上させた。
 ウーもまた倒され、五人のウルトラマンは高空で合体して一人のウルトラマンに戻り、
そしてウルトラマンは地上に光の輪を放ってハヤタの姿に戻ったのだった。
 その場に、同じようにゼロから戻った才人が駆けつける。
「ハヤタさん! 変身できたんですね!」
「平賀君……」
 才人に振り返ったハヤタの顔つきからは、勇敢な心がはっきりと見えていた。もう陰鬱と
した表情は、さっぱりとなくなっていた。
「ありがとう。君の言葉が、僕の目を覚ましてくれたよ」
「いいえ。あなたは他ならぬ自身の勇気で復活したんです。俺はそのほんの手助けをしただけです」
 ハヤタに力が戻ったことで安堵した才人だったが、その時ハヤタの流星バッジに着信が入った。
『ムラマツだ。ハヤタ、応答せよ!』
「こちらハヤタ!」
『基地周辺にゼットンが出現! 我々は先に帰投して防衛に当たる。お前もすぐに基地へ
戻って防衛に当たれ!』
「了解!」
 バッジのアンテナを戻したハヤタは、才人と視線を合わせる。
「平賀君、僕に力を貸してくれ!」
「もちろんです!」
 二人はそれぞれベーターカプセルとウルトラゼロアイを取り出し、同時に再度ウルトラマンに
変身を遂げた!
「シェアッ!!」
 二人のウルトラマンはまっすぐ科特隊基地へと飛んでいった。

「ピポポポポポ……」

374ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:09:39 ID:ezGi563k
 科特隊基地はゼットンの襲撃を受けていた。ゼットンの顔面から放たれる光弾によって、
基地が破壊されていく。ムラマツたちが応戦しているものの、ゼットンには敵わず押されていた。
 そこに駆けつけたウルトラマンとゼロ。まずはウルトラマンが高速回転してキャッチリングを
放ち、ゼットンを拘束した。
「ヘアッ!」
 ゼットンはキャッチリングで締めつけられながらも振り返り、ウルトラマンに狙いをつける。
 しかしそこにゼロが飛び込んだ!
『せえええいッ!』
 ゼットンの身体をがっしり捕らえて、高々と投げ飛ばす!
「ピポポポポポ……」
 地面に叩きつけられたゼットンだが、それでもキャッチリングを破って立ち上がった。
その前にウルトラマンとゼロが回り込んで、にらみ合いとなる。
 いよいよ物語のクライマックス。このゼットンを打ち破れば、一冊目の本も完結だ!
「ピポポポポポ……」
 ゼットンはテレポーテーションで一瞬にしてウルトラマンたちの背後を取った。――が、
察知したゼロが瞬時に後ろ蹴りを入れてゼットンを返り討ちにした。
『てぇあッ!』
 ふらついたゼットンに、ウルトラマンが飛びかかって渾身のチョップを食らわせた。
「ヘアァァッ!」
 追撃をもらったゼットンが後ずさりした。この瞬間にゼロはストロングコロナとなる。
『でぇぇぇあぁッ!』
 強烈なパンチが炸裂して、ゼットンは大きく吹っ飛んで地面の上を転がった。
 さすがのゼットンも、二人のウルトラマンを同時に相手することは出来ないようだ。しかも
ウルトラマンとゼロは、即席のタッグとは思えないほどに呼吸がぴったりだ!
『行けるぜ、ゼロ! その調子だ!』
『おうよ! このまま一気に物語のフィニッシュだぜ!』
 ゼロが勇み、ウルトラハリケーンからのとどめを決めようと一歩前に踏み出した。
 だがその時! ゼットンが突如として真っ赤に発光!
『な、何だ!?』
 突然のことにゼロもウルトラマンも驚愕して立ちすくむ。そして赤い閃光が収まると――
ゼットンの姿が一変していた。
「ピポポポポポ……!!」
 体格はひと回り大きくなって、全身を覆う甲殻が増量して厳つくなっている。各部の発光体も
数が増えて変形し、細く尖った形をしている。この変化に合わせるように威圧感もまた増加し、
荒々しい印象を受ける。
 変わり果てたゼットンの姿を目の当たりにしたゼロが叫んだ。
『EXゼットン! 何てこった!』
『EXゼットン!? そんな馬鹿な! この時代には、まだ存在してないはずだろ!』
 混乱する才人。強化されたゼットンは最近になってから確認された存在であり、初代ウルトラマンの
時代である1960年代にはまだ影も形もないはずだ。それがどうして本の世界の中の世界に出てくるのか。
 ゼロがその理由を推察する。
『まさか、本来なら未来の存在である俺たちが本の中に入り込んだ影響でこんな事態が発生
しちまったんじゃ……』
『何だって!? そんなことが……!』
 信じられない気持ちの才人だったが、EXゼットンが出現したのは疑いようもない事実だ。
「ピポポポポポ……!!」
 変身を果たし、力を増したゼットンがゼロたちの方へ足を踏み出し――その姿が忽然と消えた!
「!!」

375ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:12:12 ID:ezGi563k
 ゼットンはまたもゼロの背後にテレポートしていた。再びキックで迎撃しようとしたゼロだが、
「ピポポポポポ……!!」
 ゼットンは出現と同時にスライドしながらゼロに突進し、手に生えた凶険な爪でゼロを
はね飛ばした! ストロングコロナゼロをも上回る凄まじいパワーだ!
『おわぁぁぁッ!』
「ダァッ!?」
 代わってウルトラマンが飛びかかっていくものの、彼も腕の一撃で軽く弾き飛ばされた。
「ウワァッ!」
『ぐッ……せぇいッ!』
 ゼロは地面に叩きつけられながらもゼロスラッガーを投擲したが、それもゼットンの爪に
弾かれてしまった。
「ピポポポポポ……!!」
 ゼットンは倒れているゼロたちに全く容赦がなく、顔面から火炎弾を連射して激しく追撃する。
『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』
「ジェアァッ!」
 反撃の余地すらない猛攻を受け、ゼロとウルトラマンは連続する爆炎にもてあそばれる。
二人のカラータイマーが激しく点滅して危機を知らせるが、ただでさえ手強いEXゼットンに
対して、両者ともここまで連戦に次ぐ連戦で疲労が蓄積していたのだ。相手の猛攻撃により、
それが響いてきた。
『ぐッ……! まだ最初だってのに、とんでもねぇピンチだ……!』
 火炎弾に襲われながらうめくゼロ。このままでは本を完結できないどころか、ゼロと才人の
命まで本当に危ない。絶体絶命の状況!
 しかし、この時戦っているのは何もウルトラマンだけではないのだ。そう、科特隊が彼らに
ついている!
「よぉーし! 今イデ隊員がウルトラマンに、スタミナを送って……!」
 イデが携帯していたケースから特殊弾頭を取り出して、スーパーガンの銃口に装着させた。
イデの行動に気づいたアラシが振り返る。
「今まで何か研究してると思ったら、それだったのか」
「アラシ隊員! このスタミナカプセルを、ウルトラマンのカラータイマーに命中させて下さい!」
「そんなことして大丈夫なのか!?」
「大丈夫です!!」
 太鼓判を押すイデ。話している間にもウルトラマンたちはゼットンに追いつめられており、
これ以上問答している余裕はない。
 アラシはイデを信用して、素早くスタミナカプセルをウルトラマンのカラータイマーに向けた。
「行くぞ!」
 発射されたカプセルは、アラシの腕が冴え渡り、見事にウルトラマンのカラータイマーに命中! 
カプセルが炸裂し、解き放たれたエネルギーがカラータイマーを通してウルトラマンに吸収された。
「ヘアッ!」
 すると途端にカラータイマーの色が青に戻り、消耗し切っていたウルトラマン自身も急激に
力を取り戻した。いや、普段以上に力がみなぎった状態になっている!
『!! こ、これは……!』
 驚いたゼロが見上げる先で、立ち上がったウルトラマンにゼットンが火炎弾を放つ。
「ピポポポポポ……!!」
「シェアッ!」
 瞬間、ウルトラマンは八つ裂き光輪を出したと思うとそれを自分の胸の前で回転させる。
その回転が、火炎弾を反射した!
「!!」
 増強されたパワーが仇となり、ゼットンは火炎弾の爆撃を自分が食らって大きくよろめいた。
これに目を見張る才人。

376ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:14:14 ID:ezGi563k
『すげぇ……!』
『のんきに感心してる場合じゃねぇぜ! 今こそチャンスだ!』
 ゼロは即座に通常状態に戻ってスラッガーをカラータイマーに接続、ゼロツインシュートの
構えを取る。
 ウルトラマンは八つ裂き光輪をそのままゼットンへ飛ばした。ゼットンは爪で光輪を破砕したが、
その直後のわずかな隙を狙って、ゼロとウルトラマンの二大必殺光線がほとばしる!
『せぇあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
「ジェアッ!」
 ゼロツインシュートと、虹色に輝くマリンスペシウム光線がEXゼットンに直撃。これを
食らったゼットンは衝撃で宙に浮き上がると、そのまま壮絶な大爆発! 木端微塵になって
消滅した。
「やったぁぁぁ―――――!!」
『やった……!!』
 大喜びの科特隊。才人とゼロも、彼らと全く同じ気持ちだった。
 才人は本の主人公を立てながらも、自分たちで物語を完結に導かなければならない。そう考えて
この世界にやってきた。しかしながら、本の中のウルトラマンと科特隊は彼ら自身の力でハッピー
エンドを迎えた。物語の中でも、地球の歴史の始まりのウルトラマンと防衛チームは偉大だったと
いうことなのだろう。
 EXゼットンを撃破して、ゼロはウルトラマンと向き合った。ウルトラマンが感謝の意を
表すようにうなずくと、ゼロも同じようにうなずいてそれに応じる。
「シェアッ!!」
 そして二人は天高く飛び立ち、地上から飛び去っていく。
 ――その様子を、ピョンピョン飛び跳ねて見送る赤い影。
「ホアーッ!」
 ピグモンだ。岩雪崩に潰れそうになったその時、ゼロは一瞬ルナミラクルゼロに変身して
ピグモンにエナジーシールドを照射していたのだ。それが盾となって、ピグモンの命をつないだ
のであった。
 ゼロは上空から守った命に手を振ると、ウルトラマンに見送られながらこの地球から飛び
去っていったのだった……。

 ――『甦れ!ウルトラマン』が無事に完結を迎え、才人は現実世界に帰ってきた。
「オカエリー!」
「どうやら、無事に一冊目の本を完結させられたようですね」
 才人の帰還を迎えたのはガラQとリーヴル、それからタバサとシルフィードとハネジロー。
皆才人を待っていてくれていたようだ。
 しかし才人が真っ先にやったのは、ルイズの容態の確認だった。

377ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:15:29 ID:ezGi563k
「ルイズは!? 目を覚ましたか!?」
 バッとベッドの方へ向かったが、ルイズは未だに眠ったままで、良くなっている様子は
傍目からは見られなかった。
 落胆する才人にリーヴルが告げた。
「ルイズさんに精神力の一部が戻ったのは確認できました。しかしやはり、六分の一が戻った
だけでは目に見えた変化はないようです」
「そうか……。なら次の本の完結を……!」
 と言いかけた才人だったが、振り向いた途端にふらついて倒れそうになった。
「うッ……」
 それを慌てて支えるタバサとシルフィード。
「無茶なのね! あなたも大分疲れてるみたいなのね。本を終わらせるの、大変だったんでしょ?」
 シルフィードの言う通りだ。戦いに戦いを重ね、最後はEXゼットンとのバトル。これで
消耗しないはずがない。
「くッ……一冊終わらせただけでこんな調子で、ルイズを助けられるのか……」
 焦燥する才人にタバサが忠告。
「焦ってもしょうがない。無理は禁物」
「お姉さまの言う通りなのね。あなたが倒れちゃったら、桃髪の子だって永遠に助からないのね」
 シルフィードたちの意見にリーヴルも賛同した。
「今日はもうお休みになって、続きは明日からにした方がいいでしょう」
「そうだな……。そうしよう」
 才人は逸る気持ちを抑えて、ふぅ……とため息を吐いて肩の力を抜いた。
 そのままどっかと椅子に腰を下ろすと、タバサが告げる。
「わたしたちは一旦学院に戻る。必要なものがあったら取ってくる」
「ありがとう、タバサ。それじゃお願いするよ……」
 疲弊し切っている才人はタバサの厚意に甘え、ルイズが目覚めた時のための着替えなどの
生活用品を頼んだ。
「お任せなのねー! それじゃお姉さま、行きましょう」
「ん……」
 頭にハネジローを乗っけてシルフィードが退室していこうとする。その後に続くタバサだが、
ふとリーヴルを一瞥して、一瞬だけ訝しむように目を細めた――。

378ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:18:10 ID:ezGi563k
以上です。
イデ隊員は最初の防衛なのに発明家キャラとして完成されすぎじゃないかっていう。

379名無しさん:2016/12/25(日) 21:55:03 ID:zUlzktx6
イデ隊員はアライソ班長いわく、存在そのものがメテオールだから……

このスタミナカプセル、ペンシル爆弾と間違えたら大変ですよね。

380ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:18:39 ID:OzXY/cEk
こんばんは、焼き鮭です。今年最後に、短いですが幕間を投下します。
開始は22:22からで。

381ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:22:04 ID:OzXY/cEk
ウルトラマンゼロの使い魔
幕間その九「学院の仲間たち」
岩石怪獣サドラ 登場

 王立図書館の幽霊騒動の解決をアンリエッタから頼まれたルイズと才人。何のことはない
事件だろうと思っていたのだが、ルイズが突如として倒れて目を覚まさなくなってしまう! 
司書のリーヴルの語ることには、ルイズは自らの完結を望む、魔力を持った『古き本』の中に
精神を捕らわれてしまったというのだ。才人はルイズを救うため、『古き本』の中へ旅立つ
ことを決意する。
 だが六冊の『古き本』はどれも、ウルトラ戦士の戦いを題材とした作品だった。才人とゼロは
一冊目『甦れ!ウルトラマン』だけでも、その中に現れた怪獣軍団とEXゼットンに大苦戦。辛くも
完結させることは出来たが、ひどく消耗したために連続して本の世界に入り込むことは不可能だった。
 才人が身体を休めている間、彼を支援するタバサは一旦魔法学院に戻っていた……。

「な、何だってー!? ルイズがそんなことになっちまったのか!?」
 学院の寮塔の、ルイズの部屋。タバサとシルフィードは荷物を取りに来たとともに、ゼロの
秘密を共有する仲間、ウルティメイトフォースゼロの三人とシエスタ、キュルケに、ルイズたちの
身に降りかかっている事態を打ち明けた。
 ちゃぶ台を囲みながら大仰に驚いたグレンに、シルフィードが首肯する。
「そうなのね。それでゼロとあの男の子が、本の中に入って『古き本』っていうのを終わらせてる
ところなのね」
「ルイズとサイトったら、よくよく厄介事に巻き込まれるわねぇ……」
 キュルケが頬に手を当ててため息を吐いた。シエスタはルイズたちの身を案じて目を伏せた。
「ミス・ヴァリエールはもちろんですが、サイトさんも大丈夫なのでしょうか……。『古き本』と
いうものを完結させるのは、相当大変なようですし……」
『うむ……どうにか手助けしたいところだが、さすがに本の中の世界では手出しのしようがないぞ……』
 参ったようにうなるジャンボット。如何に超人の集まりのウルティメイトフォースゼロと
いえども、本の中に入る術は持ち合わせていないのだ。
「ミラーナイト、お前はどうにか出来ねぇのかよ。二次元人とのハーフだろ?」
「残念ながら、無理です。正確には鏡面世界の人間ですので、鏡の中には入れても、さすがに
本の中というのは……」
 グレンが聞いたが、ミラーはそう答えたのだった。
「本の中に入る術を扱えるのは、そのリーヴルさんという人のみ。その方が、一人だけしか
本の中へ送れないと言うのでしたら、歯がゆいですが私たちには見守ることしか……」
 とミラーが言った時、何かを思案したキュルケが意見した。
「そのリーヴルって人、全面的に信用していいのかしら?」
「どういうことなのね?」
 シルフィードが聞き返すと、キュルケは己の考えを口にする。
「だって、始まりはほんの些細な幽霊の目撃談だったんでしょ? それまではたったそれだけの
ことだったのに、ルイズたちが図書館を調べ出してからいきなりそんな大事に発展するなんて。
ちょっと話が出来過ぎてるんじゃないかしら?」
『確かに……。事態が急変しすぎてるように思えるな』
 ジャンボットが同意を示した。タバサもまた、口には出さないものの内心ではキュルケと
同様の考えと、リーヴルへのかすかな疑念も抱いているのであった。
 『古き本』の視点から考慮してみれば、“虚無”の力を持った人間が図書館にやってくると
いうことなど事前に分かる訳がないはず。だからそれ以前に違う人間の魔力が狙われても
よさそうなものなのに、ルイズが最初の被害者になったというのはただの偶然だろうか。
 それにタバサは、才人が一冊目の本を攻略している間、図書館に来館した人たちを当たって
情報収集をしたのだが、誰も図書館で幽霊が目撃されたという話を知らなかった。では、何故
幽霊の目撃談などが王宮に上がったのだろうか?
「……幽霊の件を報告したのも、リーヴルさんという話でしたね……」
 ミラーが腕を組んで考え込んだのを見て、ジャンボットが尋ねかける。

382ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:24:26 ID:OzXY/cEk
『ミラーナイト。お前は一連の事態を、リーヴルという人物が仕組んだものだと考えている
のではないか?』
「何!? そいつは本当か!?」
「サイトさんたちは、罠に掛けられたと!?」
 グレンとシエスタが過敏に反応したので、ミラーは二人をなだめた。
「落ち着いて下さい、何もそこまで言うつもりはありません。ただ……この一連の事態、
偶然が重なったとするよりは、何者かの意思が働いてると考える方が自然ではないかと
いうだけです。今のところ、その候補に挙がるのはリーヴルさんですが、まだ彼女がそう
だと決定する明確な根拠もありません」
『要するに、判断材料がまだ足りないということか』
「ええ。……ともかく今は、リーヴルさんの手を借りて本の世界を攻略していく以外に手段は
ありませんね」
 結論づけたミラーは、タバサに向き直って託した。
「タバサさん、引き続きサイトとゼロを支援してあげて下さい。それと、リーヴルさんは
きっと何か、あなた方に話していないことがあると思われます。彼女の動向にも目を光らせて
下さい」
「分かった」
「シルフィたちにお任せなのね!」
「パム!」
 タバサたちが返事をした後で、シエスタが名乗り出る。
「わたしも図書館に行きます! わたしはサイトさんの専属メイドです。身の回りのお世話なら
わたしの仕事です。それに……ミス・ヴァリエールの介護をする人も必要でしょうし……」
 いつもルイズと才人を巡った恋の鞘当てを展開しているシエスタだが、今回は本心でルイズの
ことを心配して申し出た。ルイズとは立場を越えた心の友でもあるのだ。
「ではシエスタさんにもお願いします。そして私たちは……」
 ミラーが言いかけたところで、ジャンボットが鋭い声を発した。
『ミラーナイト、グレンファイヤー! トリステイン西部の山岳地帯から怪獣の群れが出現し、
人里に接近している! すぐに出動だ!』
「分かりました!」
「よぉっし! すぐに行くぜッ!」
 ミラーとグレンはすぐに立ち上がり、姿見の前に並ぶ。二人にシエスタとキュルケが応援した。
「頑張って下さい! このトリステインの人たちのこと、お願いします!」
「ゼロが動けない分も頼んだわね!」
「ええ、お任せを」
「すぐに片をつけてくるぜ!」
 ミラーとグレンは姿見から鏡の世界のルートを通り、怪獣出現の現場へと急行していった。

「キョオオオオォォォォ!」
 トリステインの山岳地から現れ、人間の村に向かって進行しているのは十数体もの怪獣の群れ。
全身が蛇腹状の身体に、両腕の先はハサミとなっている。岩石怪獣サドラだ。
 そのサドラの群れの進行方向に、ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーが空から
降り立って立ちはだかった。
『これが私たちの役目。ゼロがルイズを救出している間、私たちでハルケギニアを防衛します!』
『怪獣たちよ、ここから先へは行かせんぞ!』
『どっからでも掛かってこいやぁ! 今日の俺たちは、一段と燃えてるぜぇッ!』
 戦意にたぎる三人を前にしてサドラの群れは一瞬ひるんだものの、すぐに彼らに牙を剥いて
突貫していった。
「キョオオオオォォォォ!」
『よし、行くぞッ!』
 迫り来る怪獣の群れを、ゼロの仲間たちは勇み立って迎え撃ったのだった。

383ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:25:14 ID:OzXY/cEk
今年はこれで終いです。
ではどうか良いお年を。

384ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:44:14 ID:UgHbZZAM
焼き鮭さん、今年最後の投稿おつかれさまでした。
来年もよろしくおねがいします。

さて、今晩は。無重力巫女さんの人です。
何も無ければ22時48分に78話の投稿を開始します。

385ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:49:26 ID:UgHbZZAM

 ルイズは生まれてこの方十六年、これ程厄介なサプライズを体験したことは無かった。
 自分や姉、そして家族の誕生日会などでは、嬉しくも恥ずかしいと感じたサプライズなイベントを経験してきている。
 サーカスの一座が芸を見せてくれたり、御呼ばれされた手品師が誕生日プレゼントを消したり増やしてくれたりと、その方法も様々…
 時には恥ずかしい思いをしたし、嬉しいと感じた事もあった。今となっては、絵画にして額縁に飾っておきたい思い出達。
 
 けれども、今この場で―――最前線と化したタルブ村の外れで体験したサプライズは、ルイズにとって厄介であった。
 それ自体は決して迷惑ではない。何せ、過程はどうあれ結果的には思わぬ助太刀になったのだから。
 問題はそのサプライズを送ってきた四人の男女の内の一人で、恐らく残りの三人をここまで引っ張ってきたであろゔ厄介゙な隣人。
 出身地も、入学した魔法学院の寮室も隣同士という全く嬉しくない数奇な縁で結ばれている褐色肌に燃えるような赤い髪のゲルマニアの少女。

 ――――そして、今この場にいる事などあり得ない筈の彼女が姿を現した。
 連れてきた三人のうち、最も親しく背の小さい親友の使い魔である風竜のシルフィードの背に乗ってやってきたのである。


 ルイズ、霊夢、魔理沙の三人とデルフの一本にとって、それは突然の出来事であった。
 森から出てきて自分たち三人に攻撃をしようとしたキメラが、空から降ってきた青銅のワルキューレに押し潰されたのである。
 まるで薄い鉄細工の様に潰れたキメラの哀れな姿と、落ちてきたにも関わらず目立った傷が無い青銅のワルキューレ。
 ルイズは勿論、やる気満々であった魔理沙や霊夢もこれには意表を突かれ、思わず何が起こったのか理解する事ができなかった。
 そしてルイズがそのワルキューレの正体に気が付いた時、満を持して彼女は上空から現れたのである。

「キュルケ!どうしてアンタがここに…!?」
「こんばんはルイズ。てっきりギーシュのゴーレムで大変な事になってたと思ったけど…とんだサプライズになってくれたわねェ」
 シルフィールドの背の上に立ってこちらを見下ろしているキュルケは、笑顔を浮かべてルイズたちに手を振っている。
 その隣には彼女の親友であるタバサも降り、自分の使い魔である幼い風竜の耳元(?)に顔を近づけて、何かを喋っているのが見えた。 
 霊夢と魔理沙の二人もルイズに続いてキュルケ達の存在に気づき、目を丸くしながらも声を上げていた。
「ちょっと、ちょっと…あれってキュルケとタバサじゃないの…?何でここにあの二人が来てるのよ」
「おぉ本当だ!コイツは嬉しいねェ、援軍にしてはちょっと遅い気もするがな」
「――〜ッ!そんなワケ無いでしょうがッ!!――――って、ちょっと!何降下してきてるのよ!?」
 これまであの二人―――正確にはキュルケに色々と絡まれていた霊夢は鬱陶しい相手を見るかのような目つきで彼女たちを睨む一方で、
 魔理沙は何を勘違いしているのか、嬉しそうな声色でシルフィールドの上にいる少女達を見上げている。
 一方のルイズはそんな黒白に怒鳴ろうとしたが、ゆっくりと地面へ降りていくシルフィールドに気づいてそちらの方にも怒鳴り声を上げた。。

 どうやら先ほどタバサが指示したらしく、ルイズの怒鳴り声に怯むことなく風竜は三人から少し離れた場所へと降下していく。
 結果、十秒と経たずに着地したシルフィードの背からタバサとキュルケの二人がバッと飛び降り、そのまま軽やかに地面へと降り立った。
 流石にここまで来ると事情を聞かずにはいられないのか、ルイズは二人の名を呼びながら近づいていく。
「キュルケ!タバサ!」
「はろろ〜ん、ルイズ!こんとな所で会うなんて奇遇じゃないの?」
「今は夜」
 学院指定のブラウス越しでも分かる程大きな胸を揺らして着地したキュルケは、またもや手を上げてルイズに二度目の挨拶をする。
 そこへすかさずタバサが短く、的確な突っ込みを入れると、更にもう二人分の声がシルフィールドの背の上から聞こえてきた。
「す、凄い!僕のワルキューレが…何だか良く分からないモノを倒してるぞ…!」
「どう見てもただの事故に見えるんだけど…って、本当に降りる気なの?アタシは嫌よ!?」
 声色からしてキザなうえに自己陶酔的な雰囲気を放つ少年の声に、キュルケやタバサとも違う何処か神経質的な少女の声。
 その声に酷く聞き覚えのあったルイズはすかさずキュルケ達の後ろにいるシルフィードへと、視線を向ける。
 案の定青い風竜の背中から身を乗り出していたのは、『青銅』のギーシュと『香水』のモンモランシーの二人であった。

386ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:51:05 ID:UgHbZZAM
「んぅ?おぉ、ルイズじゃないか!一体こんなところで何をやっているんだね!」
「『こんな所で何をやっているか』何て…それって私達も同じような立場に置かれてるわよね?」
 先ほど青銅のワルキューレを空から落としたであろう少年は先程のキュルケと同じように手を振って、ルイズに挨拶している。
 彼の隣にいる金髪ロールが眩しいモンモランシーは周りの異様さに気が付いているのか、恐怖を押し殺したような表情を浮かべていた。

「……これは一体どういう事なんだ?というか、何でタバサやキュルケ達がこんな所へ来てるんだよ」
 流石の魔理沙と霊夢も、ギーシュやモンモランシーまで来たところを見て怪訝な表情を見せる。
 そして、本当なら全くの無関係であろう彼女たちがこんな危険な場所まで来ている事に疑問を抱かざるを得なかった。
「さぁ?私にもさっぱり分からないわ。ただ…何となく面倒くさい予感はするけど」
 黒白の言葉に対しての答えではないが、同じく何が何だか分からない霊夢も肩を竦めつつやれやれと言いたそうに首を横に振る。
『やれやれ。お前さんたち、今日は本当にツイテないようだね〜』
「そういうのは言わなくていいわよ。……とにかく、ルイズだけじゃあアレだし私達も話を聞きに行きましょう」
「えぇ〜?私もかぁ?……と言いたいところだが。生憎私も久しぶりに二人と話したいし、ついて行ってやろうじゃないか」
 デルフの嫌味満々な言葉に忌々しく思いながらも、彼女たちの方へと詰め寄っていったルイズの下へ行こうとした。
 只でさえ厄介な状況だというのに、これ以上ややこくしなってしまう前に事情を聞いておかねばならない。
 一方の魔理沙も先ほどまで森をにらんでいた時とは打って変わって軽いノリでそう言うと、クルリと踵を返して霊夢の後ろを歩き出す。

 ――――――この時、二人ば明確な敵゙がいる森に背を向けていた。
 本当ならば魔理沙か霊夢のどちらかがすぐに対応できるよう、森を見張っておく必要があるのである。
 しかし、命を賭けた戦いの経験が薄い魔理沙はそれを怠り、霊夢に関しては即時対応ができる為に背中を見せられる余裕があった。
 初戦ならばまだしも既に戦ったことのある異形の動きを把握している彼女にとって、怖れる相手では無くなっていた。
 相手が人間ならば状況は違っていただろうが、話しの通じぬ異形ならば遠慮なしで屠れる。そう判断していたのである。
 まだまだ体には『ガンダールヴ』の能力を行使した副作用で疲労が残ってはいたが、それ自体がデメリットにはならない。
 だからこそ今の様に敵にを背を向けられる余裕が出来ていたのだが…――――それが却って、危機を呼び込む結果となった。

「……?―――…ッ!?レイム、マリサッ!後ろッ!」
 二人の会話に気付いたルイズが後ろを振り向き、その鳶色の瞳を見開いて叫んだ直後…
 背後から幾つもの枝の折れ、葉が擦れる激しい音に二人は後ろを振り向き、思わず魔理沙は「うわっ!」と驚いた。
 彼女たちの頭上、丁度地上から二〜三メイル程まで飛び上がったキメラ『ラピッド』が三体、獲物を振り上げて森から飛び出してきたのである。
 闇夜に輝く銀色の薄い鎧が煌めき、鋭い刃先を持つ槍を上から突き刺そうとするかのように霊夢と魔理沙に襲い掛かろうとしていた。
「二人とも、伏せてッ!!」
 ルイズは手に持っていたままだった杖をキメラ達へと向けて、間に合わないと知りつつ呪文を詠唱し始めた。
 キュルケやギーシュ、モンモランシーは突然出てきた異形に驚いているのか目を見開いてキメラ達を見つめている。
 魔理沙は魔理沙で迎撃が間に合わないと察したのか、「うぉお…!?」とか叫びながらルイズたちの方へと倒れ込もうとしていた。

 しかし、あらかじめこうなると予想のついていた霊夢は手に持ったままであったスペルカードをスッと頭上に掲げて見せる。
 まるで興味のないパーティーで催されたビンゴ大会で、一番早くに上がった自分のカードを掲げるかのように、
 大したことではないと言いたげな余裕と傲慢さでもって、スペルカードの宣言と共にキメラ達を始末する――――筈であった。

387ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:53:28 ID:UgHbZZAM

「…霊符『夢想妙じ―――――」
「―――――ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
 だがしかし、彼女がスペルを宣言するよりも早くに一つの呪文を詠唱し終えた少女がいた。
 まるで湖の底の様に暗く静かで、氷の様に冷たい声色を持つ少女の声に霊夢の気だるげなスペル宣言が止まってしまう。
 ここでスペルカードを宣言しなければ間違いなく彼女はキメラの持つ武器の餌食になってしまうが、それはあり得ない未来となってしまった。

 何故ならば、背後から風を切る物凄い音と共に三本の『氷の矢』が彼女の真横を通り過ぎ、
 霊夢と魔理沙を襲おうとしていたキメラ達の胴にブチ当たり、勢いよく森の方へと吹き飛ばされていっただから。
「…は?」
「大丈夫?」
 突然の事に何が起こったのかイマイチ把握しきれていない霊夢の背中に、先ほどの呪文を唱えた少女が声を掛けてくる。
 後ろを振り向くと、目を丸くして唖然としているキュルケの横にいたタバサが杖を掲げていた。
 自分の身長より大きな杖の先は、先ほど放った『ウインディ・アイシクル』の余韻なのか白い冷気を放出している。

「まさか、アンタが助けてくれたの?」
 思わず口から出してしまった霊夢の質問に、タバサはコクリと頷く。
 眼鏡越しに見えるやる気の無さそうな目や顔の表情とは裏腹に、杖を向けて呪文の詠唱と発動は驚くほど早かった。
 キュルケやルイズなんかの同年代の子たちと比べれば、明らかに゙何か゛が違っているような気がする。
 最も、今の霊夢にはそれが何なのかまだ分からなかったが。

 伏せて避けようとしていた魔理沙も状況が変わったのを知ってか、顔を上げるとタバサに向かってニヤリと微笑んだ。
「へへ、わりぃなタバサ。また返す気の無い借りを一つ作っちまったな」
「別に気にしないでいい」
「いや、そこは怒るところなんじゃ…っていうか、アレは一体何なのよ!あの化け物たちは!」
 二人のやりとりを聞いて思わず突っ込もうとしたモンモランシーが、ふと先ほどのキメラ達を思い出して叫ぶ。
 少なくとも彼女の記憶の中では、あの様な亜人や幻獣などを図鑑やホントなどで目にした記憶は無かった。
「う〜む…どうなんだろう。少なくとも動作から見て、ゴーレムやガーゴイルの類では無いと思うけど…」
 一番傍にいたギーシュはそんな事を言いながら、先ほどタバサの『ウインディ・アイシクル』で吹き飛んだキメラ達の様子を思い出した。
 頑丈にしたガーゴイルやゴーレムならばあの程度の魔法などでは、吹き飛んで行ってもまたすぐに起き上がってきているに違いない。
 けれども先ほど森の中へ戻されていった三匹は一向に戻ってこないし、あの動きでゴーレムの類と言われても信じないだろう。

 そんな風にしてギーシュとモンモランシーが、先ほどの化け物達に関する場違いな考察に入ろうとした時…、
 彼らよりも前にいたキュルケが二人の間に割りこけ様なかたちで、声を掛けてきた。
「二人とも、そんなに悩まなくたってここに証人がいるじゃないの」
 そうよね、ルイズ?最後にそう付け加えて、キュルケは目の前にいる桃色髪の少女へと緯線を向ける。
 既に赤い髪の同級生に視線を向けていたルイズは彼女の目を睨み付けると、いかにも言いたく無さそうな渋い顔つきになった。
 まぁ無理もないだろう。何せ自分たちは恐らく彼女たちだけの問題に、わざわざ首を突っ込んできたのだから。
 しかしキュルケはその事を理解したうえで、敢えて首を突っ込んでやろうという意気込みを持っていた。
 一応親友としてついてきてくれたタバサはともかく、彼女の企みに巻き込まれてる形となったギーシュとモンモランシーは違うのだろうが…


「安心しなさいな。別に貴女達の邪魔をしにきたワケじゃないんだから」
 ちっとも安心できないキュルケの言葉に、ルイズは当然ながら「信用できるワケないじゃない」と素っ気なく返す。
「何処からつけて来たのか知らないけど、アンタ達には今回の事は関係ないわよ」
「知ってるわ。でも私は最近の貴女と傍にいる二人の事が気になるから、ここまで来てあげたのよ?」
 静かに憤るルイズの事など露知らずに、今にもしな垂れかかりそうなキュルケの物言いにその二人―――霊夢と魔理沙が顔を向けた。

388ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:55:09 ID:UgHbZZAM
「私達の事、ですって?」
「お、何だ何だ。もしかして、私の直筆サインを杖に書いて貰いたいとかかな?」
「それは有難くお断りさせて頂くわ。…まぁ、貴女達の゙正体゙を知りたくてここまで来たってのは、先に言っておきましょうか」
 魔理沙のサインをハッキリと断りながらも、キュルケは笑顔を浮かべたまま二人にそう言い放った。

 瞬間、それまでキュルケを見つめていたルイズと霊夢、そして魔理沙の三人は思わずその目を丸くしてしまう。
「ふふ、その表情。…何か隠し持ってそうね?」
 三人の変化を間近で目にしたキュルケは上手く行ったと言いたげな言葉と共に、クスリと微笑んだ。
 表情こそはいつもの彼女が浮かべているような、どこか人を小ばかにした艶めかしさが垣間見える笑顔である。
 しかし細めたその目は一切笑っておらず、刺すような視線が霊夢と魔理沙の二人をじっと睨みつけていた。

「!………それって、一体どういう意味なのかしら?」
「そう睨まなくても良いんじゃないの?この前のトリスタニアで、散々変なところを見せてくれたっていうのに…そうよね?」
「あぁ、まぁそうだな。そういやあの時に色々見られてたモンなぁ〜…ははッ」
 意味深に睨み付けてくる霊夢の言葉にそう返すと、今度は彼女の隣にいる魔理沙の方へと話を振る。
 先に話しかけた巫女さんとは違い、黒白の魔法使いはトリスタニアの旧市街地で起きた出来事を思い出して呟くが、その目線は自然と横へと逸れていく。
 タバサとモンモランシー、それにギーシュもその事は事前にキュルケから聞いていたので、然程驚きはしなかった。
 しかし、そこへ待ったを掛けるようにして慌てた様子を見せるルイズが割り込んできた。

「ちょ…ちょっとキュルケ!アンタねぇ、そんな下らない事に為にこんな危険な場所まで来たって言うの…!?」
「下らない事なんかじゃあないわよ、ヴァリエール。少なくとも私にとってはね?」
 霊夢達と自分の間に入ってきたルイズの言葉に嫌悪な雰囲気を感じつつ、それでもキュルケはその口を止めはしない。
 まるで彼女の暴発を誘うかのように、得意気な表情を浮かべてペラペラとお喋りを続けていく。

「貴女とレイム、それにそこの黒白が怪しいのは前々からだったし、この前のトリスタニアでは色々と見せてくれたじゃないの。
 それに…私だけじゃない。タバサにモンモランシー…それにギーシュだって、みんな貴女が召喚した巫女さんと居候の事を怪しんでるわ。
 学院長とミスタ・コルベール辺りは何かを知っていそうですけれど、私は直接貴方の口から聞きたいのよヴァリエール…。分かるでしょう?」

 後ろにいるタバサたちを見やりながら喋り終えたキュルケに、ルイズは渋い顔をしてしばし考え込む様な素振りを見せ……首を横に振った。
「…悪いけど、今は教えられないわ。今は、ね?」
 彼女の意味深な言い方にふとキュルケは前方にある森の方へと視線を向け、あぁ…と頷く。
 確かに彼女の言うとおりであろう。今このような状況で、悠長に話をしている場合ではないのは流石のキュルケでも察する事ができた。
「ま、まさか…あんなのが二体三体もいるってワケなの…?何なのよコイツラ…」
「まだ良く分からない事が多いけど、戦わないと駄目なんじゃないかなぁ?…多分」
 モンモランシーやギーシュは慌てて杖を手に取り、霊夢と魔理沙の二人も森の方へと視線を向けて再び臨戦体勢へと移っている。
 タバサはタバサで片手持ちであった節くれだった杖を両手で持ち、呪文を詠唱し始めていた。
 シルフィードもその頭を持ち上げて、森の方にいるであろゔ敵゙に歯をむき出しにして唸り始めている。
「そうよねぇ…。あんな得体の知れない怪物に命を狙われてる中で、長々と説明しているヒマはないんですものね」
 キュルケも腰に差していたルイズのそれより細く華奢な造りをした杖を手に持ち、その先で風を切りながら森の方へと向ける。
「そういう事。少なくとも、詳しいことはコイツラを倒した後でね」
 やる気満々と言わんばかりのキュルケにそう言った後、ルイズは一人小さなため息をつく。

「まあ遅かれ早かれバレるとは思っていたけど、まさかアンタの他にも三人いたとは思わなかったわ…」
 残念そうな表情でそう言いながらも、手に持っていた杖を再び森の方から現れようとする敵に突きつける。
 計七人と一匹、そして一本という少数戦力に対し、相手は少なく見積もって計五、六体の異形達。

389ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:57:04 ID:UgHbZZAM

『へへッ、何だ何だ?険悪ムードから一転して、共闘とは心が弾むねェ』
「少なくとも、私はまだまだ険悪なままなんですけどね?」
 一触即発な空気の中、空気を読まないデルフに霊夢が軽く起こった瞬間―――――
 それを合図にして、森の中からキメラ『ラピッド』達が数体纏めて飛びかかってきた。



「――――゙試験投入゙開始から、早くも十時間越えたな…」
 船特有の揺れで、唯一の灯りであるカンテラの灯りに当たりながら学者貴族の青年クレマンは一人呟いた。
 ハルケギニアでやや珍しい茶髪にゲルマニア出身の母から受け継いだ褐色肌が、カンテラの灯りに照らされて黒く輝いている。
 彼は手に持った懐中時計で時間を確認した後、それを懐にしまいこむと思わず止まっていた書類仕事を再開し始める。
 今、この船の中―――特に今いる部屋の中は、驚くほどに静かである。今、地上で行われている事と比べて…

 そんな事を考えながらペンを走らせていた彼は、突然ドアの方から聞こえてきたノック音でその手を止めてしまう。
「おーい、紅茶淹れてきてやったぞ。両手塞がってるから、そっちから開けてくれぇ」
 木で出来たドアを軽く蹴る音と共に、外の風を吸いに出ていた同僚であるコームの声がドア越しに聞こえてくる。
「おぉそうか。じゃあちょっと待っててくれ、すぐ開ける」
 時折不安定な揺れ方をする船内の中で書類と悪戦苦闘していたクレマンは一言返してから、ここ数時間座りっぱなしであった椅子から腰を上げた。
 それから大きな欠伸と共に背伸びをしてから、しっかりと作られた板張りの床を靴音で鳴らしつつ部屋の出入り口をサッと開ける。

 開けた先にいたのは、いかにもマジメ君という風貌をした緑髪に眼鏡を掛けた青年の貴族が立っていた。
 彼が両手に持つ皿の上には、熱々の紅茶が入ったマグカップが二つに五、六切れのハムサンドウィッチを乗せた皿が乗っていた。
「サンキューなクレマン。…紅茶を淹れてくるついでにサンドウィッチも貰ってきたから、ここらで休憩といこうや」
「そりゃあいい。この゙試験投入゙が始まってからひっきりなしに報告書と戦ってたしな、バチは当たらんだろ」
 意味深な単語を口から出しつつもクレマンはコームの持ってきてくれたサンドウィッチを一切れ手に取り、勢いよく齧る。
 しっとりと柔らかく、小麦の風味が出ているパンと、それに挟まれているハムとトマトにマヨネーズという具が舌を優しく刺激してくる。
 
 口の中に広がる暫しの幸福を堪能しつつ、しっかりと咀嚼してから飲み込んだクレマンは満足そうなため息をついた。
「ふぅ…!流石最新鋭の艦だけあるな。こんな夜食程度のサンドウィッチでも、中々どうして美味いとはな」
「空海軍じゃあこんなサンドウィッチでも、食べられるのは士官様ぐらいなもんらしいぜ?」
 クレマンの言葉に続くようにしてコームが言うと、彼は持っていたトレイを部屋の中央にあるテーブルへ置いた。
 それから紅茶の入ったマグカップを一つ手に取ると、息を吹きかけてから慎重に飲み始めている。
 クレマンも彼に倣ってカップの取っ手を掴み、湯気の立つそれに優しく息を吹きかけていく。

 そんなこんなで、男同士の慎ましやかな深夜のお茶会を堪能しているとふとコームがポツリと呟いた。
「ほぉ…!それにしても、サン・マロンの幹部方は、随分大胆な事をし始めたもんだな」
「全くだな。新作の『ラピッド』のお披露目ついでとか言って、よりにもよってあのレコン・キスタに貸し出すとは考えてもいなかったぜ」
 若い世代の貴族らしい砕けた喋り方で会話をする光景を歳を取った貴族が見たのならば、思わずその顔を顰めてしまうであろう。
 しかし、平民が使うような喋り方を彼らは躊躇なく使っているものの、その口調とは別に中身はちゃんとした学者の卵である。
 正規の試験と面接を受けて、晴れてガリア王国のサン・マロン―――通称『実験農場』研究として選ばれた身でもあるのだ。


 そんな彼らが今いる場所は、その『実験農場』が所有している最新鋭の試験用小型輸送艦―――通称『鳥かご』の中にある一室。
 ガリア陸軍の新基準として艦隊戦ではなく地上戦力の空中輸送と偵察に特化した、この時代ではまだ変わり種と言える船である。
 今この船は『実験農場』の上層部からの命令で、『新型キメラの実戦テストを兼ねた試験投入』の為にトリステインのラ・ロシェールへと派遣されていた。

390ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:59:03 ID:UgHbZZAM

 船員及び駆り出された研究員たちは『実験農場』特別顧問である゙女性゙からの命令を受け、トリステイン軍に対しキメラによる攻撃を実地している。
 その為現在トリステインに侵攻しているレコン・キスタの艦隊に手を貸している状態なのであるが、それを気に留める者は殆どいなかった。
 船そのものはアルビオンの艦隊から大きく離れた場所に隠してあるし、この計画の事をしっている者はアルビオン側は指で数える程度。
 当然トリステイン王国も、まさかお隣の大国であるガリア王国の研究機関が、自分たちを攻撃しているなどと夢にも思っていないであろう。
 
「しっかし、トリステイン側もエラく粘ってるなぁ。日が落ちるまでこっちが持ってきた戦力の三分の一を片付けてるんだからさぁ」
「最初のパニックはラ・ロシェールまで続いたが、タルブ辺りで態勢を整えられたのが原因だろう。トリステインはああ見えても精鋭揃いだしな」
 熱い紅茶をゆっくりと啜りながら、コームは同僚が見ていた報告書を一枚手に取って満足げな表情を浮かべている。
 船外へ出ている゙偵察員゙による報告は、キメラのみの戦力投入によるトリステイン側とキメラ側の被害状況を淡々と綴られていた。
 最初の投入地点であるトリステイン軍側の砲兵陣地で起こったパニックが、ラ・ロシェールにいる駐屯軍にまで波及した事。
 しかし、タルブ村で態勢を整えられてしまいその結果にキメラ側がそこそこの被害を被ってしまったものの、何とか占領できた事。
 他にも、現在ラ・ロシェール周辺に複数潜伏している偵察員たちが、リアルタイムで報告書を送ってきているのだ。

 その報告書を確認し、まとめる役割を務めていたのがクレマンであった。
 彼自身の気持ちとしては研究に参加しその完成と量産決定の決議を見届けていた身として、キメラの活躍報告が届けられるのは素直に嬉しかった。
 しかし、書類仕事の専門家ではなかった彼にとって膨大な数のソレを相手にするのには、まだまだ経験が足りなかったようである。
「自分たちの研究成果が活躍してくれるのは嬉しいけど、こう報告書の数が多いとな…―――ん?」
 クレマンはそんな愚痴をボヤキながら、二つ目のサンドイッチにかぶりつこうとした時であった。

 ふと、丁度部屋の真上にある甲板が騒がしくなってきたのに気が付き、コームと共に天井を見上げてしまう。
 薄暗い天井から漏れる声は複数人あり、声から察して甲板で観測任務についていた船員たちであろう。
 その船員たちが何を言っているのかまでは分からなかったが、何やらタダ事ではないという事だけは分かった。


「何だろう?甲板が妙に騒がしいな…」
「確かに。…ひょっとして、何か地上で大きな動きがあったのかも」 
 不思議そうな表情で天井を見つめていたコームがそう言った直後、ドアの外から何人もの足音が通りすぎていった。
 やがてドア越しに幾つもの靴音が通り過ぎていき、それまで静かであった船内が一気に喧騒に包まれていく。
 二人は互いの不思議そうな表情を浮かべる顔を見合わせ、ドアの方へと視線を向けた。

「な、何だ…?」
「分からんが…とにかく、何かあったんだろう。ちょっと見てくるわ――――…って、うおッ!?」
 首を傾げるクレマンに向けてそう言い、席を立ったコームがドアを開けようとした時、
 物凄い勢いで開いたドアが彼の鼻頭を掠め、思わず後ずさろうとしたあまりそのまま背中から倒れて床に尻もちをついてしまう。
 危うく彼の鼻を傷つけようとしたのは同じ『実験農場』に所属する先輩で、ややパーマの掛かった金髪と小太りな体が特長的なオーブリーだった。
 彼は牛乳瓶の底の様な眼鏡がずれてるのにも構わない程慌てた様子で、ドアを開けて最初に見えたクレマンに捲し立ててきた。

「おいクレマン、緊急だ!緊急連絡!特別顧問のシェフィールド殿が試験の終了及び、現空域から撤退しろとの事だ!
 これからすぐに船の発進準備に移る。お前らも地上へ派遣された偵察員への撤退連絡作業に加わるんだ、早くしろ!」

 突然そんな事を捲し立ててきたオーブリーに、クレマンは目を丸くして驚くほかなかった。
 つい一時間ほど前に届いた連絡文には実験の終了や撤退を匂わせるような事は書かれていなかったハズである。、
「え…!?ちょ、ちょっと待って下さい先輩、試験終了ってどういう事ですか!それに―――」
 しかし、困惑する後輩には構っていられなぬ言いたげに彼の前に肉付きの良い右掌を突き出してから、オーブリーは口を開く。
「質問は後で聞く、今は緊急を要する事態だ!もう他の連中も動いてる、お前もそこで倒れてるコームも早く動け」
 頼んだぞ!…最後にそう言ってから、小太りの先輩は踵を返して甲板へと続く廊下を走り去って行った。

391ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:01:04 ID:UgHbZZAM

 いきなりドアを開けて来たかと思えば、物凄い喧騒で捲し立てて去っていった先輩に、二人はただただ聞く事しかできなかった。
 まるで風の様にオーブリーが現れ、消えていった一分後にようやく立ち上がったコームが口を開く。

「な、何だよ…一体、何が起こったっていうんだ?」
「…さぁ?ただ、」
 騒がしくなっていく船内の中で、二人の研究員はついていく事ができないでいた。
 まるで激しい濁流に巻き込まれたかのように、急変した状況に流されるがままとなってしまっている。
 それと同時に、先ほど慌ただしくやって来て去って行った先輩の様子と、周囲の喧騒は絶対に只事ではないという事。

 それだけが何となく分かっているせいで、妙な胸騒ぎだけを感じていた。



「―――――まぁ、私達まで首を突っ込んじゃった貴女たちの今の状況の事は…良く分かったわ」
 先程自分の火で燃やした『ラピッド』の形見とも言える左腕の切傷を睨みながら、キュルケはルイズから聞いた話を理解していた。
 ついさっき、自分に襲い掛かってきた最後の一体を仕留める前にソイツが飛ばしてきた羽根の様な刃でつけられたのである。
 六枚も飛んできて当たったのは幸運にもたった一枚であったが、彼女的には「不覚を取った」と言いたい気持であった。
 幸い傷自体は浅く出血もそんなにしてはいないし、絶対に頼もしいとは言えないが『水』系統の魔法で治療してくれる子がいる。
 薄らと血が流れる傷口を眺めていたキュルケはふと、嫌悪感を隠さぬ顔で地面に転がる異形の躯へと視線を移す。

 彼女の放った『ファイアー・ボール』によって焼き殺されたソイツは、体にまとう銀色の鎧が黒く煤けている。
 口や体のあちこちから黒い煙が立ち上っている所を見るに、恐らく本体まで焼けてしまっているに違いない。
 体の中までは流石に生焼け状態かもしれないが、まず生きていないのは確実であろう。
 他にもキュルケが倒したのを含め、計五体ばかりのキメラ――『ラピッド』達が物言わぬ死体と化していた。
 ある一体は口の中をタバサが放った『ウインディ・アイシクル』が貫かれ、別の一体はルイズの失敗魔法で黒焦げとなっている。
 これら三体のキメラ達の倒され方は、まぁルイズを覗いてメイジが使う魔法での戦い方としてはオーソドックスな方であった。


 しかし、四体目は黒白の自称゙魔法使い゙が魔理沙がその手に持っていた黒い八角形のマジック・アイテムによって倒されている。
 それも普通の倒され方ではなく、『マジックアイテムから出た極太の光線で体の三分の二を失う』という壮絶な最期であった。
 本人にあれが何かと聞いた時は「これが私の魔法だぜ!」と、自分の正体を正直バラしてくれた。
 そして五体目、ルイズの使い魔である霊夢を相手にしたキメラは『手を出す前に消し飛ばされ』ている。
 自分たちが姿を見せる前に戦っていたであろう彼女は、疲れた様子で右手に持った一枚のカードをかざして、一言呟いただけ。

「―――霊符『夢想妙珠』」
 一言。そう、たった一言だけで彼女の周りから色とりどりで大小様々な光る玉が現れたのだ。
 かつて『土くれ』のフーケがゴーレムで襲った時にそれを見ていたキュルケとタバサは、それを目にしていた。
 ギーシュとモンモランシーの二人はそれを見るのが初めてであった為、目を丸くして驚いていた。
 光る玉たちは霊夢の周囲を飛んでいたかと、彼女へ迫ろうとしていたキメラに向かって殺到したのである。
 その後の事を例えるならば――――まるで獲物を仕留めるべく、喰らいつく狼の群れの如し。
 上下左右から迫りくるその光る玉の力によって、キメラは文字通り『手を出す前に消し飛ばされ』たのだ。

392ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:03:06 ID:UgHbZZAM
「前の決闘でも不可思議な事をしてくれたが…。き、君の力は一体何なんだ…?」
 全てが片付いた後、一度彼女と戦ったことのあるギーシュがおそるおそるそんな質問をしていた。
 疲れたと言いたいような大きなため息をついた彼女はゆっくりと後ろを振り返り、視線の先にいた彼へ一言…

「コレ?霊符『夢想妙珠』っていう弾幕よ。中々綺麗でしょ?そんでもって、使い勝手も良いのよ」
 ――――ま、ホーミングの精度が良すぎるのも偶に傷なんだけどね?
 最後にそう付け加えて説明した彼女は、右手に持っていたカード―――『夢想妙珠』のスペルカードをペラペラと振って見せた。
 魔理沙と同じく、彼女もまた自分の正体を隠す気は無かったようである。

 そんな風に先程まで起こっていた戦いの事を思い出していると、すぐ傍でモンモランシーの声が聞こえてきた。 
「―――…ょっと、聞いてる?」
 その声に慌てて横を向くと、自分の真横で杖を片手に持つモンモランシーが少し怒った表情を浮かべて立っていた。
「モンモランシー?どうしたのよ、そんなにいきり立って」
「どうしたのよ、じゃないわよ。こっちは『癒し』の使い過ぎで参ってるっていうのに」 
 恐らくさっきの戦いで傷ついた皆を治療してくれているのだろう。魔法の使い過ぎで少し疲れている様な感じが見えている。
 きっとモンモランシー本人も、ここに来るまで自分の魔法で誰かを治療するという経験は無かったはずである。
「あらごめんなさい、ちょっと考え事を…それで、何?治療してくれるのかしら」
「そうよ…ってちょっと、わざわざ近づけて見せつけないでよ!」
 キュルケはややご立腹な彼女に平謝りしつつも、左腕の切傷をそっ…と自分より背の低い彼女の顔へと近づけた。
 モンモランシーは自分の目の前で見せつけられる生々しい傷を見て、小さな悲鳴を上げて思わず後ろへと下がってしまう。

 しかしまぁ直してもらえるならそれに越したことは無いと、その後は素直にモンモランシーからの治療を施してもらう事となった。
 杖から発せられる青い光がキュルケの腕の傷を癒している最中、ふとモンモランシーはそこらで倒れているキメラたちを見つめている。
「それにしても、コイツら一体何なのよ。私達まで襲ってくるなんて…」
「多分ルイズ達と一緒にいたから、味方だと思って攻撃してきたんじゃないかしら?」
 生まれて初めて見るであろう人とも幻獣ともつかない不気味な姿の怪物を見て、彼女は青ざめた表情を浮かべている。
 モンモランシー本人は先頭に参加しておらず、傍にいたギーシュも彼女と自分を守るのに必死であった。
 とはいっても自分たちが地上へと降りる前に護衛にと出しておいたワルキューレが落ちて、戦いが始まる前に出てきた一体を押しつぶしてくれたので、
 実質的に何もしてないとは言えず、モンモランシーも戦いが終わった後にこうして不慣れながらも手当てをしてくれている。

「全く…何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ…ったく、もう…。―――はい、終わったわよ」
「ちょっと!叩かないでよ――――ってアレ?…痛く、ないわ」
 今日一日起きた出来事を思い出していたモンモランシーは無事治療を終え、元通りに治ったキュルケの腕をトンッと軽く叩いた。
 てっきりそれで塞いだ傷口が痛むかと思ったキュルケであったが、驚いたことに腕の内側から突き刺すような痛みは襲ってこない。


 それはつまり腕に出来た切傷が完全に塞がっている事を意味しており、キュルケは目を丸くしてしまう。
「綺麗に治ってる…。貴女、医者にでもなれるんじゃないの?」
「フン!そうお膳立てしても、アンタが私達を厄介ごとに巻き込んだのには変わらないからね」
「あら、酷いことを言うわね?貴女だって、彼女たちの事は気になってたんでしょう?」
「私はギーシュのついでよ!つ・い・で!!」
 キュルケの賛辞を言われても、モンモランシーは不機嫌な態度を変える事は無かった。

393ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:05:05 ID:UgHbZZAM
 そもそも彼女がルイズとその周りいる紅白の使い魔に、怪しい黒白の居候の事を調べたいと言わなければ、こういう面倒事に巻き込まれはしなかった。
 最初はコソ泥みたいにルイズの部屋を漁っていた時に無理やり誘われ、その次は不便な山中で一日中王宮を監視。
 はたまたその次は、ウィンドボナで執り行われる王女殿下の結婚式についていくであろう彼女たちを尾行――と、思いきや…
 何故かラ・ロシェール方面へと単独へ向かい始めた三人を追って、霧の中シルフィードの背に乗せられて無理やり尾行に付き合わされる。
 挙句の果てには、何故かゴーストタウンならぬゴーストビレッジと化しているタルブ村で、正体不明の怪物に襲われ、
 そして極め付けは、頭上の夜空に悪夢としか思えないような悪名高いアルビオン貴族派の艦隊が、トリステインへ攻めてきている事だ。
「私、多分生まれて初めてここまで不幸な目にあった事がないわよ。…ん?」
 思い出せば思い出すほど碌な目に遭っていないモンモランシーに、キュルケが優しくその肩を叩いた。
 まるで血の滲むような思いで仕事を成し遂げた部下に「お疲れ様」と労う上司がするかのような、そんな方の叩き方。
 夏だというのに夜霧で冷えている右肩に、キュルケの温かな手の温もりにモンモランシーは彼女の方へと顔を向ける。

 視線の先にいたキュルケは笑みを浮かべていた。我が子を褒める母親が浮かべる優しい笑みを。
 いつも浮かべているような人を小馬鹿にする笑みではない事に、モンモランシーは思わず「な、何よ…?」とたじろいでしまう。
 そんなモンモランシーに優しい笑みを向けたまま、キュルケはそっと口を開き…つぶやいた。


「良かったじゃないの?後々歳を取った後に、子供たちに語れる武勇伝が一日に幾つも出来て」
「――――――…アンタって、本当に上等な性格してるわね」
 優しい笑みの内側に、最大限の嘲笑を込めていたキュルケの言葉に、
 モンモランシーは怒りより先に、どこにいても変わらぬ留学生に対して苦笑いを浮かべるしかなかった。


 そんな様子を少し離れた所から不思議そうに見ていたギーシュは、ポツリと言葉を唇の隙間から洩らす。
「…あの二人、髄分長い事話し合っているじゃないか?」
「そうね。もっとも、言ってることばお互い仲良じって感じとは程遠いけどね」
 彼の返事を期待していなかったであろう独り言に、ルイズは先程まで切り傷が出来ていた足を不安げに触っている。
 本当ならば自分で持ってきた水の秘薬を使えば良かったのだろうが、アレはアレで相当傷口に染みる代物である。
 それに対してモンモランシーの魔法なら傷口に痛む事もないので、遠慮なく治療してもらったのだ。
 最も、当の本人にその事を伝えたら…「事あるごとに私を『洪水』とか呼んで小馬鹿にしてる癖に…」と愚痴を聞かされてしまったが…。
 
(だって本当の事じゃないの。洪水並みのお漏らししたって有名な癖に…)
 助けてくれたのは良いもののどこか自分と似たり寄ったりな彼女の事を思いながら、ルイズはとある方向へと視線を向ける。
 その先にいたのは霊夢とデルフ、そして魔理沙とタバサに地に足着けている風竜シルフィードだった。
 タバサとシルフィードに霊夢は先程の戦いは無傷で、魔理沙もまた服に掠った程度で済んでいる。
 キュルケと何やら揉めているモンモランシーと違い、三人と一本と一匹の間に漂う雰囲気は…どこかほんのりとしていた。
 いつ頭上のアルビオン艦隊がこちらに砲塔を向けて来るやも知れぬ状況だというのに、である。

 
「…にしても、お前は良いよな大した怪我がなくて。私だけだぜ?ルイズにあの痛い薬を塗り込まれたのは」
「お生憎様ね。私だってその秘薬が痛いって事は大分前にルイズから教えてもらっているから」
 魔理沙は右手の甲を隠すようにルイズが巻いてくれた包帯を睨みつつ、霊夢に愚痴をこぼしている。
 それに対して霊夢も、疲れているとは思えない様な睨みと笑みを見せて魔理沙に噛み付いていた。

394ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:07:05 ID:UgHbZZAM
 一見…いかにも掴み合いが始まりそうな嫌悪な雰囲気ではあるが、丁度二人の間にいるタバサは全く動じていない。
 まるで丈夫な鉄柵の向こう側から野良犬と野良猫の喧嘩を見つめているかのように、一人の傍観者と化している。
 しかし右腕に抱いている大きな一振りの杖はいつでも使えるようにと、左手の指がしっかりと掴んでいる。
『へへッ、流石レイムだぜ。あんだけ戦いまくって、まだあんな口喧嘩できる余裕があるとはな…なぁ、お前さんもそう思うだろ?』
「きゅいィ〜?」
 その一方で霊夢が一旦地面に置いていたデルフが二人の口喧嘩を眺めながら、面白おかしそうにシルフィードへと話を振る。
 しかし人語はかろうじて通じてもその言葉を喋れぬ風竜のシルフィールドは、ただただ不思議そうに首を傾げるしかなかった。
 霊夢と魔理沙の事を見慣れてしまったルイズも別に二人が仲違いしているワケではないという事を知っているので、動じる事はなかった。
 むしろ相も変わらず元気な二人を見て、まぁまだあんな余裕があるのねぇ…と溜め息をつきたい気持ちで一杯になってしまう。

「な、なぁ…ルイズ?あの二人の口喧嘩、止めないで良いのかい?何だかイヤな事が起きそうな気がするんだが…」
 そんな彼女の耳に、ギーシュの不安げな言葉が入ってくると彼女はそちらの方へと顔を向けて言った。
「あぁ?それなら大丈夫よギーシュ。…あの二人、何か事あるたびにああして言い争う形で話し合ってるから」
「い、いつも…?君、良くそんな二人と一緒にあの狭い部屋で暮らせるもんだねぇ。したくはないけど、感心するよ」
 最後に余計な一言が混ざったギーシュの言葉に、ルイズはどうもと手を軽く上げて返事をしてから、ふと頭上を見上げた。

 ラ・ロシェールとタルブ村の上空。本来ならトリステイン王国の領空内である空を、我が物顔で居座るアルビオン艦隊。
 アルビオン王家を滅ぼしたうえに、あまつさえ今度はトリステイン王家をも滅ぼそうと企んでいる不届き者たちの集まり。
 それだけではあき足らず、おぞましい異形のキメラ達をけしかけて自分の大切な家族の一人まで傷つけようとした。
 かつて『ロイヤル・ソヴリン』号と呼ばれ、今は『レキシントン』号と名付けられている巨大戦艦がゆっくりと動き始めている。
 周囲に大小様々な軍艦を妾達の様に集結させた艦隊は、後十分もすれば自分たちの真下を通過するだろう。
 恐らく、そこからが勝負となるのだ。勝率があるかどうかすら分からないそんな危険な勝負が。

「…さてと、そろそろ準備しとかなきゃダメかしらね?」
 一人そう言って背伸びしたルイズは、腰に戻していた杖を手に取るとまるで演奏指揮者の様に軽く先端を振った。
 その行為そのものに特に意味は無い。だが強いて言えば、それは心の奥底から湧き出てくる゙恐怖心゙の裏返しとでも言えば良いのだろうか。
 やはりというか、なんというか…最終的には上空のアルビオン艦隊を止めなければどうにもならないらしい。
 疲労している霊夢と魔理沙に自分の三人だけで、あれにいざ挑むとなってくると流石に二の足を踏みそうになってしまう。
 だからこそルイズは、自分の今の心境を誤魔化すために杖を振っていた。

「準…備――てっ…。え!?ちょっと待てよ!まさか君たちは本当にあの…あの艦隊と真正面からやり合うつもりかね!?」
 ルイズの言葉と、進行方向の関係上こちらへ近づいてくるアルビオン艦隊を交互に見比べながら、ギーシュは叫んだ。
 彼の叫び声と口から出た言葉に、いがみ合っていたキュルケ達や小休止していた霊夢達の耳にも届いてしまう。
 しかしそんな事お構い無しと言いたげなルイズはギーシュが大声を上げたことを気にもせずに、振っていた杖の動きを止めた。
 ピタッと綺麗に止まった彼女の古い相棒の先端の向く先には、こちらへ近づこうとしている『レキシントン』号。
 個人の力ではどうしようもないような威圧感を漂わせるその軍艦へ、彼女は無言で一方的な宣戦布告を突きつけたのである。

「無謀だルイズ!君のやろうとしている事は、そこら辺の棒きれ一本で腹を空かした火竜と戦うようなものなんだぞ?」
「別にアンタ達に手伝え何て言ってないわよ。元はと言えば私とレイムたちで決めた事だしね」
 必死な顔で゙無謀な行為゙を止めようとするギーシュに向けてそう言うと杖を下ろし、今までずっと肩にかけていた鞄をゆっくりと地面へ下ろしていく。
 持っていく時は軽いと感じたソレも、体の中に疲れが溜まっている所為なのか酷く重たいモノへと変わっている。
 そして自分の体や髪、服と同じくらいに土埃に塗れた鞄が地面から生える雑草たちを押しつぶして地面へと下ろされた。

395ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:09:06 ID:UgHbZZAM
 荷物を降ろした途端、フッと軽くなった肩を揉みながらホッと一息つく。
 その姿を見て先程までキュルケといがみ合っていたモンモランシーが、まるで機嫌の悪い仔犬のように突っかかってきた。
「ちょっとルイズッ!アンタ馬鹿じゃないの!?いくらアンタの使い魔と居候がスゴクたって、艦隊に勝てるワケなんか…」
「勝てる勝てないの問題じゃあないのよモンモランシー。アンタだって私の話聞いてたでしょ?あの艦隊は、このまま王都を滅ぼすつもりなのよ」
「……ッ。そりゃ聞いてたわよ!だけど、だけど…こんなの相手が悪すぎるじゃないの!?」
 彼女が最後まで喋り終える前に自分の言葉でそれを止めてきたルイズに、モンモランシーは突然一択しか選べぬ選択肢を突き付けられた気分に陥ってしまう。

 あのキメラ達との戦いが終わった直後、キュルケ達四人はルイズ達から今起きている状況をある程度教えてもらっていた。
 アルビオンからやってきた親善訪問の艦隊が、突如裏切って迎えに来たトリステイン艦隊を攻撃してきた事。
 攻撃してきたアルビオンの連中はその勢いを借りてあのキメラ達を地上へ放ち、迎え撃とうとしたトリステインの地上軍を蹴散らした事。
 そして偶然にも、自分の一つ上の姉であるカトレアがタルブ村を訪問している最中で、不幸にもアストン伯の屋敷で多くの村人たちと共に立て籠もっている事。
 自分は姉を助ける為に、霊夢と魔理沙は人を襲う異形達を駆逐し、それを操っているアルビオンを倒すためにここへ来た、という事。
 そして最後に…アルビオンの艦隊は夜明けと共にキメラの軍団を率いて前進し、最終的にはトリスタニアを攻め落とそうとしている事を…、
 ルイズは四人に伝えていたのである。
   
 そして今、迫りくる最後にして最大の敵たちをルイズ達三人は戦おうとしているのだ。
 ルイズと同じくトリステイン出身であるギーシュと、モンモランシーは彼女がやろうとしている事にはある程度の理解を示している。
 トリステイン王国の貴族として生まれた以上、母国と王家に害を為す者には断固たる意志を持って戦わなければいけない。
 しかし…未だ学生の身である彼女たちにはやはり頭上に浮かぶ相手はあまりにも大きく、そしてその傲慢さを持てる程の強さを持っている。
 例え彼女―――ルイズが使い魔である霊夢と、居候の魔理沙と共に戦ったとしても勝てる確率は恐らく―――二桁の数字にすらならないだろう。
「ルイズ、悪いことは言わない。僕らじゃあアレは止められない、蟻数匹が暴れ牛に戦いを挑むようなものだ!」
 この時ギーシュは、かつて『ゼロ』と呼んで蔑ろにしていたルイズを思い留まらせようとしていた。
 特に親しい間柄というワケではないが、知り合いである彼女が…一人の女がこれから地獄に片足突っ込もうとしているのだ。
 だがそんなギーシュの説得に対し、ルイズはつまらなさそうに鼻を鳴らして鞄の蓋を止めていたボタンを外している。
「アンタらしくないわねギーシュ?いつものアンタなら、王家の為に喜んで命を差し出そう!って言いそうなのにね…」
「そりゃアンタがそこまで変わったら、流石のギーシュだって止めに入るって事ぐらい分からないのかしら、ヴァリエール?」
 蓋を開けた鞄を漁っていたルイズの言葉に対しそう返したのは、背後のギーシュではない。
 モンモランシーのいる方向から聞こえてきたその声にルイズがスッと顔を上げると、赤い髪と大きな胸を揺らして歩いてくるキュルケの姿が目に映った。

「何があったのかしらないけどねぇ、そうやって格好つけるのはやめなさいヴァリエール」
 顔を上げたルイズに対し、普段とは違う真剣味のある声色と、彼女には似合わぬ真顔で喋るキュルケ。
 いつもとは違うギャップを見せる彼女に、ギーシュとモンモランシーの二人は硬直してしまう。
 ルイズの後ろにいる霊夢達もこれまで見たことのないキュルケの様子に、思わず視線を向ける。
「…キュルケ?」 
 ルイズもルイズでまるで豹変したかのような真顔を見せるライバルに、ルイズは怪訝な表情を浮かべてしまう。
 やがて一分もしないうちに彼女のすぐ傍にまで来たキュルケは、腕を組んだ姿勢のまま淡々と喋り始めた。

「貴女、今自分が何を相手にしようとしているのか…分かっているの?」
「…貴女に言われなくても、分かってるわよ。今から私が、とんでもなく馬鹿な事をしでかそうしている事ぐらい」
「なら下手に言わなくても良いわね。でも、そこまで理解しておいて何で抗おうとするのかしら?」
 キュルケは右手の握り拳から親指を一本立てて、背後の『レキシントン号』をその親指で素早く指さした。
 ルイズが鞄を降ろす前よりも少しだけ近くなったその巨大戦艦へとルイズが視線を向ける前に、それを遮るようにしてキュルケが質問する。

396ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:11:04 ID:UgHbZZAM
「答えて頂戴ヴァリエール。―――――大方そこの怪しい二人に、何か言われたんでしょう」
「おいおい…!ちょっと待てよ。それは酷い誤解ってモンだぜ?」
 彼女のその言葉を耳にした魔理沙が聞き捨てならんと言いたげに一歩前に出て、慌てるように言った。
 魔理沙に続いて霊夢も何か言いたい事があるのか、一歩前に出る…どころかキュルケの方へとツカツカと歩き出した。

 体から薄らとした怒りの雰囲気を放ちながら、ムスッとした表情で歩いてくる霊夢の姿…。
 一方のキュルケは待っていましたと言わんばかりにその顔に緩やかな笑みを浮かべて、近づいてくる巫女さんの方へと身体を向けた。
 そしてとうとう、キュルケとの間が一メイルにまで縮まった霊夢はその顔を上げて、自分より身長が上のキュルケをキッと睨みつける。
「アンタ、もしかして私と魔理沙がルイズを戦わせるように仕向けた…って言いたいのかしら?」
「えぇそうよ?ヴァリエールは典型的なトリステインの貴族だけどねぇ、こんな事を仕出かすような命知らずやバカじゃあなかったわ」
 怒りの気配を放つ霊夢のムスッとした軽い怒り顔にも動じる事無く、キュルケは自慢の赤い髪を掻きあげながらそう返事をした。
 髪を掻きあげられるほどの余裕に満ちていると思ったのか、霊夢はそのムスッとした顔に嫌悪感を付加させて喋り続ける。

「残念だけどね、ルイズはアンタが考えてるほどバカじゃないわ。アンタだって聞いてたでしょう?アイツが元々ここへ来たのは、自分の目的があったからよ」
「それはついさっき聞いてるから分かってるわ、でもそれは単なる無謀と言う行為よ。たった三人で艦隊に挑んで勝てるとでも思ってるのかしら?」
 売り言葉に買い言葉。お互い一歩も引かぬ強気な者同士の言い争いに傍にいた魔理沙は思わずたじろいでしまう。

「お、おぉ…過去に何があったかは知らんが、霊夢の奴も相当カッカしてるぜ」
「君、君…!そんな暢気に解説してる暇があるなら、ちょっと止めてみようとかそんな努力をしてみないかね?」
「んぅ〜どちらかというとこのまま見ておきたいが…まぁ確かに、あんなデカブツがすぐ近くまで飛んできてるしなぁ」
「ちょっと!そこは悩むところなの…!?」
 すぐ傍にまで命が危機が迫っている状況の中でも、魔理沙は決して己のペースを崩すことなく、
 突っ込みを淹れてくるギーシュやモンモランシーにまだ軽口をぼやける余裕は残っていた。
 タバサは相も変わらず無口で、地面に垂らしたシルフィードの尻尾の上に腰を下ろしてジッとキュルケと霊夢を見つめている。
 そして、二人の言い争いの原因でもあるルイズは鞄の中に入れていた手を引っ込ませると、その場でスクッと立ち上がった。
 重くなってしまった腰を上げたルイズは再び軽い背伸びをした後、キュルケの方へと顔を向けるとその口から出る言葉で彼女の名を呼んだ。
 
「…キュルケ」
「あらルイズ。いよいよ教えてくれる気になったのかしら?彼女たちに何を吹き込まれたのかを…ね?」
 突如話に加わろうとして来るルイズに、キュルケは嬉しさのあまり小さく両手を叩いて笑顔を浮かべた。
 そして、喋った言葉の中にあった「吹き込まれた」というのを聞いて、霊夢は思わがその顔を顰めてしまう。
「ルイズ、アンタが出てくる必要は無いわよ。すぐにコイツとの話は終わらせるから、準備でも…―――…ッ?」
 自分の前へ出ようとしたルイズを手で止めようとした霊夢はしかし、遮ろうとした自分の腕を下げたルイズにこんな事を言われた。
「ごめんレイム、ちょっと静かにしててくれる?この分からず屋に、ちゃちゃっと説明して終わらせるわ」
 まるで聞き割れの無い生徒を諭しに行く教師の様な表情と口調でそう言うと、彼女は霊夢の一歩前へと進み出た。
 一方の霊夢は、先程までと比べて妙に落ち着いているルイズを見て一体何を喰ったのかと訝しんでしまう。
 本人が彼女の今の心境を知ったら殴られそうであったが、幸いにも口にしていない為ルイズの耳に入る事は無い。

 そんな風にして、キュルケの話し相手が霊夢からルイズへと流れるようにして変わる。
 微笑みを浮かべて腕を組むキュルケと、そんな彼女を下から睨み上げるルイズに―――動く背景の様なアルビオンの艦隊。
 あまりにも奇怪で危機的な状況の中でも二人は決して動じず、両者ともに自分のペースで話し始めた。

397ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:13:04 ID:UgHbZZAM
「さてと…アンタには何処から話して良いのやら…でもまぁ、アンタにはとりあえず言っておきたい事があるの」
「ふふん!その言い方だと…何か面白そうな事を言ってくれそうじゃないの。良いわ、言ってみなさい」
「勿論言ってあげるわよ。アンタの言ゔ無謀な行為゙をするだけの理由をね」
 未だ余裕癪癪なキュルケに対し、ルイズは瞼を鋭く細めたまま話を続けていく。
 ギーシュやモンモランシーの目から見れば、それはいつも学院で目にしている二人の言い争いの場面を思い出させた。
 だがそんな彼らの意思に反して、ルイズはキュルケの微笑みを見てもかつて程怒ってはいなかった。

「じゃあ教えてもらおうじゃないの。この二人に何を吹き込まれて…命知らずな事をしようと思ったのかを」
「ちょっとアンタ。いい加減にしないと前の時みたいに蹴飛ばすわよ」
 あくまで彼女の使い魔と居候を敵視しているキュルケに、その使い魔である霊夢がいよいよ怒ろうとした直前、
 彼女を睨み上げていたルイズはふぅ…と一息ついてから……キュルケの言ゔ命知らずな行為゙をする理由を告げた。

「―――ムカつくのよ。ただ単純に」
「………はぁ?何ですって?」
「単純にムカつくって言ってるのよ。あの空の上でふんぞり返ってるレコン・キスタの連中がね」
 キュルケは予想していなかったであろうルイズの口から出た言葉に、思わず自分の耳とルイズの口を疑ってしまう。
 しかしそんな彼女に聞き間違いではないという事を教える為に、ルイズは目を鋭く細めてもう一度言った。
 細めた瞼の隙間から見える鳶色の瞳は気のせいか、キュルケの目には激しい怒りを湛えているかのように見えてしまう。
 そして彼女の言葉はキュルケの傍にいた霊夢や魔理沙にタバサ、そしてギーシュやモンモランシーの耳にも届いていた。

「む…ムカつくからってだけで、あの艦隊に戦いを挑もうとしてたの…?」
「ま、まぁ…怒りっぽいルイズらしいと言えば言えるけどね」
「怒りの気持ちで、人はどこまでも強くなれる」
 モンモランシーとギーシュは、どこかルイズらしいその理由に呆れつつも苦笑いし、
 相も変わらず無表情なタバサはポツリと、何処ぞの偉い人が言ったような格言みたいな言葉を呟いた。

 一方で、キュルケに敵視されていた霊夢と魔理沙もルイズの告白に反応を見せていた。
「…ここに来て、ようやっとぶちまけてきたわねぇ」
 先ほど露わにしていたキュルケへの怒りはどこへやら、霊夢はやれやれと言いたげに肩を竦めて見せた。
 しかし実際のところ、ここに至るまでやりたい放題やってきた連中を倒す目標としては一番お似合いである。
 本人は家族を助ける為だったりと、アンリエッタの為に戦おうと色々理由付けはしていたが本心では色々とムカついていたのだろう。
(まぁでも、私としてはそれを咎めるつもりはないし…ムカつくから戦り合うってのは至極単純で悪くはないわね)
 霊夢がそんな風にしてぶっちゃけたルイズを見ていると、後ろにいた魔理沙がニヤニヤと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「まぁ良いんじゃないか。そっちの理由の方が流石お前さんを召喚した人間らしいと思うぜ」
「それ、どういう意味よ?」
「いや、別に気が付かないならいいさ。心の中にそっとしまっておいてくれ」
 人を苛つかせる様な二ヤついた顔で意味深な事を呟いた魔理沙に、霊夢はキッと鋭い睨みをお見舞いする。
 しかしそんな睨みは普通の魔法使いには全く利かず、ニヤついた顔を反らしただけに終わった。

 そんな風にして五人が様々な反応を見せている間、ルイズとキュルケの話は続いていた。
「ヴァリエール、貴女…さっきのは本気で言っているのかしら?」
「本気に決まってるじゃないの。じゃなきゃアンタになんか自分の本音をぶちまけたりはしないわよ」
 ルイズの睨みに対し、その顔から微笑を消して真剣な表情を浮かばせるキュルケが彼女と口論を始めている。
 二人の間に漂い始めた近づきがたい気配は周囲に散り出し、周りの者たちは皆口が出せない様な雰囲気を作っていく。

398ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:15:03 ID:UgHbZZAM

 そんな事露も知らないキュルケは、ルイズの口にした『自分の本音』という言葉を聞いてフンッと鼻で笑いながら言った。
「へぇ…?じゃあ家族を助けるっていうのは単なる口実って事に……」
「誰も口実だなんて言ってないわよツェルプストー!私はねぇ、ちぃ姉様も助ける為にここへ来てるのよ!!」
 自分の言っている事をイマイチ理解できてないであろうキュルケに、ルイズは強く言い返す。
 突然大声で怒鳴ってきた彼女に思わず口をつぐんでしまうものの、すぐに気を取り直して喋り出した。
「……じゃあ何?アンタはここにいる家族の一人を助けて、ついでにムカつくアルビオン艦隊を倒しに来たって事なの?」
「バカだと思うでしょう?無理だと思うでしょう?残念だけと゛、私は大マジメなのよ。ツェルプストー」
 キッチリと自分の今の意思を伝え終えたルイズは、自分と見つめ合うキュルケの表情が変わっていくのをその目で見た。
 真剣な眼差しと真剣な表情が一瞬で変わり、目を丸くさせて信じられないと言いたげな怪訝なモノとなっていく。
 
「どう、分かったでしょう?私はレイムとマリサに誑かされてるワケじゃないって事を」
「……まぁね、大体分かったわ。けれどルイズ、貴女―――変わったわね?」
 両手を小さく横へ広げてハイ話は終わりと言いたげなルイズに、キュルケも肩を竦めながらポツリと呟いた。

 キュルケとしては、ただ『ムカつく』から圧倒的すぎる相手と戦おうとするルイズの事が信じられないでいた。
 かつてのルイズは名家であるヴァリエールの生まれでありながら、魔法の才能に恵まれず常にそのことで頭を抱えていた苦悩者。
 多少怒りっぽいところと高いプライドが珠に瑕であったが、それでも一人の貴族としては彼女ほど出来た者は二年生には指で数える程しかいない。
 魔法では勝てても乗馬の技術や運動神経ではあと一歩の差を空けられ、座学に関しては自分よりも一歩も二歩も先を歩いている。
 『土くれのフーケ』のゴーレムと戦った時の様な発作的な無茶をする時はあったが、基本的には体と頭が同時に動くのがルイズであった。
 例えるならば自分は頭よりも先に体が動き、タバサは体より先に頭が動く。しかしルイズは頭で考えつつ体も的確に動かしていく。
 もしも魔法の無い世界で生まれていたのならば、彼女…ルイズは天才と呼ばれる人間にまで成り上がっていたかもしれない。

 少なくとも自分のライバルとして彼女の右に出る者はいないだろう。キュルケは今までそう思っている。
 だからこそこれまでツェルプストーの者として彼女を馬鹿にしてきたものの、基本的には良きライバルとして彼女を見ていた。
 もしもルイズがまともな魔法が使えるようになった時、いつかは決闘を申し込んでみたいと望んでいる程度に…。

 しかし今目の前にいるルイズは、少なくとも自分が見知ってきていた彼女とは何処か別人のように見えていた。
 戦地に取り残された家族を助ける為に…というのならともかく、ただ単純に『ムカつく』からアルビオンの艦隊を戦おうとする無茶振り。
 だがそれを宣言してくれた彼女の怒りは驚くほど冷静であった。いつもなら火山が噴火するかの如く怒り散らすあのルイズが。

 無論性格は自分が知っているままだ。だけども、今の彼女ば何かに影響されている゙かのように自らの感情に従いつつ冷静に動いている。
 自分に悪口を言われて突っかかった時や、フーケのゴーレムに単身挑んだ時のような発作的な怒りではない。
 まるで我に必勝の策ありとでも言いたいかのような、そんな絶対的な『強気』を今のルイズから僅かに感じられるのだ。 
 ……では一体、何が彼女をここまで強気にさせているのか?キュルケは無性にそれが気になって仕方が無かった。
「ねぇルイズ、一つ聞いても良いかしら?」
「あによ。もうアンタに今話す事は話し終えたと思うけど?」
 一度気になれば聞かざるを得ない。そう思ったキュルケは喋り終えて一息ついていたルイズに再び話しかける。
 ルイズもルイズでまた話しかけてきたキュルケに軽くうんざりしつつも、彼女の質問に付き合う事にした。
 
「一つ聞くけど……貴女がそこまであの艦隊を倒すって言って聞かないのなら―――当然あるんでしょう?」
「……何がよ?」
「あのアルビオン艦隊を倒すことのできる、俗に゙必勝の策゙ってヤツ」
 ほんの少しもったいぶってからルイズにそう告げたキュルケの顔には、笑みが戻っていた。
 それはルイズを小馬鹿にする類のものではなく、いつか話のタネになりそうな面白そうな事を見つけた時の笑顔。
 ヒマを持て余していた荒くれ者が、美しい女を見つけた時の様な無邪気と邪悪が入り混じったようなそんなニヤついた表情である。

399ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:17:14 ID:UgHbZZAM
「さてと、そろそろ時間も無いようですし答えを聞かせて貰おうかしら?」
 更に悩んでいる所へ追い打ちをかけるようにして返答を促してくるキュルケ。
 もはや悩んでいる暇はない。断崖絶壁から飛び降りるような気持ちで、モンモランシーは目を瞑って叫んだ。
「良いわよ!やってやろうじゃないの!?どうせ乗り掛かった船よ、最後まで突きあってあげるわよォッ!」
 もはやヤケクソとしか言いようの無いモンモランシーの意思表示に彼氏のギーシュはたじろぎ、キュルケは「最高ね!」とコロコロ笑った。
 それを離れた所から見ていたタバサはホッと小さなため息をついて、後ろで休んでいたシルフィードに目配せをする。
 ―――準備しておいて。主からのサインと判断した幼き風竜は「キュイ」と短く鳴いて、コクリと頷いて見せた。

 ひとしきり笑った所で、キュルケは自分の後ろで様子を見ていたルイズ達三人の方へと振り返った。
「さてと、これで全員参加だけど、アンタの言う作戦が少人数で事足りるって事あるワケないわよね」
「…キュルケ。何で今更になって手助けしてくれるのかしら?」
「何で…って?そりゃ貴女アレよ、私の性格と家名を知ってれば自ずと答えが出てくるってヤツよ」
 キュルケからの確認を質問で返してきたルイズに、キュルケは考える素振りも見せずにそう答えた。
 しかしそれでもイマイチ分からなかったのか、不思議そうに小首を傾げるルイズを見て彼女は説明していく。

「私はツェルプストー。常にヴァリエール家のライバルとして、その隣で生きてきた。
 領地も隣り、そして所有する農場や牧場も隣で保有している兵力の数で争っているそんな仲。
 ヴァリエールの事なら何でも知っているし、知らない事があってはならない。戦じゃあ情報も大切だしね。
 だから私も知らなきゃいけないのよ。そこの紅白ちゃんを召喚して以来、変わってしまった貴女の事を…ね?」
 
 さいごの「ね?」の所で軽くウインクして見せたキュルケを見て、ルイズは感動と軽い怯えを感じていた。
「そ、それってつまり…アレよね?俗にいうストー…」
「はいはい、これ以上話してる時間は無いでしょうに。とっとと始めちゃいましょう」
 あと少しでキュルケを怒らせそうになった言葉を言いかけたルイズを遮りつつ、彼女の後ろにいた霊夢が大声を上げる、
 霊夢としては空気を読んで止めたワケではなかったものの、彼女が言うように残された時間は少ない。
 頭上を見上げてみれば、もうすぐあの『レキシントン』号が頭上を通過してくるほどまでに近づいてきている。

「おぉ〜おぉ〜、コイツはでかいな!こんなに大きいのなら、潰し甲斐があるってモンだぜ」
「言うのは簡単だけどさ…、いざこうして間近で見てみると中々迫力があるわね」
 近づいてくる巨大戦艦を暢気に見上げる魔理沙と、場違いな発言をする霊夢の二人は既に戦闘態勢を整えていた。
 魔理沙はいつでも箒に乗って飛べるように身構えており、霊夢も万全とはいえないもののある程度体力を取り戻している。
『レイム、分かってるとは思うが『ガンダールヴ』の能力を使うのは流石に無理そうだけど…いけるか?』
「私を誰だと思ってるのよ。地上では散々剣を振るったけど…次は私の十八番で戦うから問題ないわ」
 デルフの言うように『ガンダールヴ』能力は使えないが、恐らく次の戦い舞台はあの戦艦の周囲――つまりは空中。
 地上からでも既に随伴している竜騎士の姿が見えており、艦隊の間を縫うようにして飛び回っている。


「大物に程よい小物…こりゃ間違いなハードだが、楽しいステージになりそうだな」
「とりあえず、あの竜に乗ってるのは人間だろうし…何だか面倒な事になりそうね」
 二人して、向こうから迫りくる戦いに気合を入れていざ飛び立とうとした―――その時であった。


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