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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

482名無しさん:2011/03/03(木) 10:10:24
earthがレスの消費が早いからと態々別スレ作ったのに何で此処に感想書き込むかな

それに最新話が投稿されていてもレスが消費されてて分りにくいから別スレやれよ

483earth:2011/03/05(土) 00:14:00
前回、前編といったのに、タイトルに前編の文字がなかったことに
今更ながら気付きました(汗)。というわけで後編なんですが24話と
いうことにします。
それではノリと勢いと妄想で突っ走る第24話をどうぞ。

484earth:2011/03/05(土) 00:14:38
 未来人の多元世界見聞録 第24話

 賛美歌が鳴り響く中、次々に勝手に崩壊していく武装勢力の基地とその兵器群。常識を足蹴りにする光景に
誰もが絶句し身動きが取れない。
 
「おお、神よ……」

 神の御業とでも思ったのか、キリスト教徒の武官が思わず十字を切る。
 一方、非キリスト教徒の帝国陸軍中将は、慌てて我に帰ってオペレータに尋ねる。

「じょ、状況は?! 黒旗軍は何か言っていないか?」
「は、はい。あ、黒旗軍から入電です。『引き続き作戦を継続する。逃げ出した部隊の掃討を頼む』」
「……連中、最初から最後まで殆ど一人で片付ける気か?」

 目の前の敵には戦う力どころか、逃げる力さえ残されていない。いや力どころかそんな気力すらあるか怪しい。

「これでは道化ではないか……」

 彼らにできるのは、指をくわえて黒旗軍が残敵(?)を叩くのを見るだけだった。 
 司令部の人間が呆然としているのと同様に、前線部隊の将兵も想像を絶する光景に、瞬き一つできなかった。

「な、な……何が?」

 神に対して信仰心など持ち合わせていない人間であっても、『神の奇跡』と言われれば納得してしまいそうな
光景を見て、まりもは声がまともに出ない。
 先ほどまで元気に黒旗軍を罵っていた軍人も目を見開き、口を半開きにして茫然自失といった様相だ。

「……こ、これが黒旗軍の戦争だっていうの? いえ、もはや戦争ですらない」

 まりもは自分達地球人類と黒旗軍の間にある絶対的と言っても良い差を理解した。

(人類なんて黒旗軍のさじ加減一つで簡単に絶滅させられるちっぽけな存在でしかない。黒旗軍に毒づく軍人達
 など嘲笑の対象にすらならない。路傍の石、いやそれ以下……) 

 そんなまりも達にさらなる精神的追い討ちがかけられる。

「あれは……天使?」 

 まりもの視線の先には、かつて基地があった土地の上空で飛び交う多数の天使の姿があった。

485earth:2011/03/05(土) 00:15:13
 地上の様子を衛星軌道の戦艦《長門》の艦橋のメインモニターで見ていた長門と朝倉の2人は戦果に満足した。

「77の目標は完全に無力化。地球復興の妨げとなるような勢力は消滅したと言って良い」

 長門の言葉に朝倉は頷いて同意する。

「そうね。逃げ出すような人間もいないようだし、あとは救助活動ね。ESP部隊は無駄足になりそう」

 彼女の視線の先には、多数の天使が乱舞する光景があった。

「さて、賛美歌の中で武器が解けてなくなり、続けて天使の登場。人類のSAN値はどこまでもつかしら?」

 くすくす笑いつつモニターを見る朝倉。
 そこでは天使たちが落下していくヘリコプターのパイロットを救助したり、地上に降り立ち怪我人に近寄る
光景が見える。さらによくみれば天使に近づかれた人間は怪我が治っていくのが判る。
 治療された人間達は信じられないような顔をし、周囲の人間達は涙を流して天使たちに跪くか、祈りを
捧げるような姿勢をとる。

「かの香月博士なら、アレが質量のある立体映像と見破れるかも知れないけど、マグネトロンウェーブを
 使ったとは判らないでしょうね」

 今回の彼女のシナリオを時系列順に説明すると以下のようになる。

①《撫子》による強制ハッキング。並びに戦場周辺の全通信回線に賛美歌(30世紀に作曲されたもので、かつ
 21世紀の人間でも賛美歌と判るもの)を流す。
②戦闘空母《日向》《伊勢》及び地上基地から発進したステルス機を使って戦場周辺にも賛美歌を流す。
 ESP部隊もスタンバイ。
③戦術機など電子機器の塊のような兵器を無力化後、マグネトロンウェーブ発生装置を組み込んだ突入カプセルを
 投下。
④マグネトロンウェーブによって敵兵器の完全無力化を実施。
⑤突入カプセル内にある立体映像投影装置(質量再生システム付き)によって天使を投影。
⑥突入カプセル内のAIの判断に基づいて天使による救助活動、デモンストレーション開始。
⑦突入カプセルに仕込まれた医療用ナノマシン散布。ナノマシンの作動タイミングはAIが判断。

 マグネトロンウェーブとは、ヤマト第1期に出てきたガミラスの兵器で、機械を分解してしまう能力をもって
いる。これを彼女達は利用したのだ。

486earth:2011/03/05(土) 00:15:46
 最初からナノマシンを使うってのも朝倉は考えたが、ナノマシンを多用するのは芸がない上、ストレス解消にならない
こと、そしてばら撒いていたのが万が一、他の地域に流れたら面倒なことになることから、その考えを断念した。
 賛美歌と天使については、単に演出兼上位存在への嫌がらせの一環だった。

(今度、ログインしたときにはドン引きさせてやるわ。多少はこっちの苦労も思い知ればいいのよ)

 尤も彼女は単に嫌がらせのためだけに、こんな演出をやったわけではない。

(あの大将がストレスを感じればそれで良し。仮にこの世界が嫌になったら、最低限の援助をやっておいて速やかな
 撤退を提言すれば良い。うまくすれば、こんな面倒な仕事から離れられる。
 特に変化がなくても、人類が勝手にこちらを神格化してくれるから、今より仕事がやりやすくなる。
 どちらに転んでも損は無いわね)

 「計画通り」とばかりにニヤリと笑う朝倉。
 耕平がここに居て、彼女の目論見を知ったら「朝倉、恐ろしい娘!」とどこぞの昔の少女漫画風の作画でいうこと
は請負だ。

「それじゃあ、さっさと武装勢力の人員を収容しましょうか。瓦礫の山に埋もれた連中も、早めに救助しないと
 死んじゃうでしょうし」

 かくして各地に輸送艦やら輸送機が送りつけられ、生き残った人員はすべて黒旗軍が捕虜とした。
 2005年11月3日、日本時間午前10時に始まった武装勢力掃討はわずか18分で完了した。これによって
各国に脅威を与えていた武装勢力は事実上消滅し、残されたのは規模が小さく、地球復興においてさして脅威にならない
と判断された勢力のみとなった。
 捕縛された人間の取り扱いについては、黒旗軍と各国の間で色々な議論がなされた。
 黒旗軍は当時の情勢を踏まえて当初は軽い処罰で済まそうとしていた。
 だが日本帝国を筆頭に被害を受けた国々は厳罰か、速やかな引渡しを要請した。彼らからすれば武装勢力の人間は
相応の処罰を受けなければならなかった。
 黒旗軍は当初はこれに首を縦に振らなかったが、国連事務総長に就任した珠瀬玄丞斎が忍耐強く、そして執念深く
交渉した。

「確かに人類の頭数を減らしたくないという黒旗軍の意思は理解できます。ですが、法律の問題があります。
 ここで彼らを減刑してしまえば、後に悪しき禍根を残します。それは将来において人類社会に暗い影を与えることに
 つながります。最悪の場合、黒旗軍の手を煩わせる事態が起きるかも知れません」

 珠瀬総長は黒旗軍が掲げる人類社会の再建を確実にするためにも、適切な処罰を行わせて欲しいとカナーバに懇願した。

487earth:2011/03/05(土) 00:16:16
 さしものカナーバも珠瀬の主張を否定することはできなかった。
 長門と朝倉も捕虜の引渡しもやむなしとの結論に至る。だが同時に切れるカードがないにも関わらず、自分達の
政策を変更させるだけの力と意思を持った人間がいることに感心した。

「筋は通っている。ここで我々が筋を曲げるわけにはいかない」
「ええ。それにしてもなかなかに度胸のある人間ね。私達がその気になれば人類なんていつでも殲滅できると
 判っているのに」
「彼らにも譲れないものがあると思われる」
「そうね。でも武装勢力人員皆殺しというのは拙いわね。一応、捕虜にしたのはこっちだし。
 首領や組織の中核を担っていた者、特に悪質だった者を犯罪者として処刑して、残りは黒旗軍と国連軍の監視下で
 ユーラシア復興のための強制労働ってところかしら」
「ユーラシア復興がダメな場合は、多少危険で効率が悪いが、宇宙空間での資源採掘作業に振り分ける」
「まぁそれが妥当かしら」
 
 かくして捕虜の一部は国連に引き渡され、裁判の後に処刑されることになる。当初は何かしら抵抗をすると思われて
いた罪人達はみな穏やかな顔で処刑に臨んだ。彼らは「神の御業で生かされたのは、人類の未来のため、罪人として
処刑されるためだった」と言って死んでいった。
 残された末端の人間達は危険を承知で宇宙での作業の従事を志願した。特に祖国が滅び、自身の民族も殆ど散り散り
になって消滅した者たちはその傾向が強かった。
 かくして少なからざる者たちが宇宙に上がることになる。
 黒旗軍に正論が通用したことに各国は安堵したが、同時に今回の件から黒旗軍と自分達との実力差を嫌と言うほど
理解した。地球の戦力など苦も無く無力化(それも殆ど死者を出すことなく)できるという事実が、多くの軍人、政治家に
対黒旗軍へ対抗しようという考えを持つことの無意味さ、そして危うさを悟らせたのだ。
 プライドの塊のような日本帝国の斯衛軍でさえ「黒旗軍と戦うのは自殺行為であり、彼らに全面的に従うことで
将軍を守護するしかない」と考えを完全に改めたほどだ。色々と世間知らずの集団ではあったが、さすがの彼らも
戦うことすらできず敗北を強いられるという事態だけは避けたかった。
 現体制をひっくり返すことで将軍を復権させ、強固な挙国一致体制を構築することを目論む人間が残っていたが
下手な手を打てば今回のように黒旗軍が介入しかねないという懸念が出てきたことで、その動きは鈍っていった。
 少なくとも早急な武力の行使による現政権の転覆については慎重な意見が広まりつつあった。 
 だがそれと反比例するように、動きを活発化させた者たちがいた。そう宗教団体と科学者達だ。 
 勿論、朝倉は《それ》を狙っていたのだが、その動きは次第に彼女の予想以上に大きな盛り上がりを見せることになる。

488earth:2011/03/05(土) 00:18:41
あとがき
拙作ですが最後までお付き合いしていただきありがとうございました。
原作キャラの一人、珠瀬さん登場です。
ヒロインが殆ど登場していないのに、何故かおっさんキャラばっかり出て
来てしまうのは何故だろう(笑)。
皆様期待の烈士様は少しトーンダウンします。でも上位存在が自ら地球に
やってきたら、暴走するかも(爆)。
それでは失礼します。

489New ◆QTlJyklQpI:2011/03/05(土) 00:22:28
こんなことやらかしたら宗教団体黒旗教の誕生ですねw。天使は立体映像ですか、
Wガンダムゼロが乱舞する光景しか見えないw。

490New ◆QTlJyklQpI:2011/03/05(土) 00:53:18
>>489書くとこ間違えた。

491名無しさん:2011/03/05(土) 01:05:49
投下乙ですお待ちしていました
とうとう宗教方面に突入か……まあそうなるだろうとは思っていましたがw

492名無しさん:2011/03/05(土) 01:10:57
こちらにも誘導

未来人の多元世界見聞録について  (ナンバリング忘れ、実質2スレ目)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1299254720/

感想、雑談はこちらに〜

493earth:2011/03/06(日) 00:43:44
実験SSにも関わらず、色々と意見や感想が投稿されて光栄の限りです。
それではプロットなしで相変わらず勢いとノリで突っ走ります。
短めですが第25話です。

494earth:2011/03/06(日) 00:44:15
 未来人の多元世界見聞録 第25話

 世界各地の武装勢力がわずか18分で、しかも殆ど死人を出すことなく制圧されたとの情報は、あっという間に
世界各地に駆け巡った。
 緘口令を敷いて噂の拡散を防ごうとした各国政府だったが、多くの兵士が神の奇跡(?)を見た以上、すべての
口を塞ぐことなどできる訳が無かった。
 戦場で何が起きたかを知った一般人たちの中には、黒旗軍の上位存在が神か、神のごとき存在なのではないか
と考える者たちが増えていった。
 特にアメリカでは黒旗軍上位存在《総司令官》=神(又は救世主)という公式が少しずつであるが定着化しつつあった。 

「月を元通りにして、地球環境を回復させる……まさしく神の御業だ」
「そうだ。終末の後の救済の時が来たんだな」
「信仰心の厚かった爺さんが、主が降臨されたと聞いたら喜んだだろうな」 

 自国が推し進めたオルタネイティブ6によって世界を破滅寸前に追いやり、さらに自国にハイヴさえ築かれる
という地獄を味わった米国民にとって、その地獄から自分達を救い上げてくれた黒旗軍は救世主そのものだ。 
 この思想をさらに煽ったのは、キリスト教恭順派であった。 

「BETAによって齎された偽りの力、G弾を使ったが故に、この悲劇は起きたのだ!」 
「偽りの力を妄信した愚か者はもういない! アメリカは贖罪を経て、神の国とならなければならない!!」
「人の時代に終止符を打ち、神の時代を迎えるのだ!」

 BETAを神による試練と考え、G弾を忌み嫌ってきた恭順派はアメリカ国内で順調に影響力を拡大して
いた。
 一方、科学者の中には、黒旗軍の超技術の数々を見て人類を初め、地球の生命体を作り上げたのは黒旗軍の
上位存在、もしくはその同族ではないのかと考える者が現れた。

「生命体が生存、そして進化が可能なように惑星の環境を整備することくらい、黒旗軍の技術力なら可能だ」

 尤もそんな暢気なことを考えていられる科学者は少数だった。
 米政府によって黒旗軍の技術解析を任されていた科学者達は戦場で起こった映像を見て、頭を抱えるか半狂乱の
状態だった。

「建物や兵器の分解については、いくつか仮説は出せるが、どうやったらそれができるのか全く検討もつかない」
「というか天使は一体、どこから現れたんだ?」
「突入物体が映像を出したと言っても、出現した天使は落下するヘリパイロットを助けている。
 つまり実体を持っているといって良いだろう」
「実体を持った立体映像? 非現実的だぞ。むしろあのカプセルが重力を制御したのでは?」
「……俺達の常識が音を立てて崩れていく気がするよ。科学者を集めるよりSF作家でも集めたほうが良い気がする」
「俺もそう思う。もうハードSFの領域だ」
「いやオカルトだ。魔法の領域だ。魔法使いでも連れてくれば良いさ」

495earth:2011/03/06(日) 00:44:51
 日本の上位存在研究室では、宗教学者が大ハッスルで上位存在=神様を唱えていた。
 これに真っ向から反論するのは、天才科学者・香月夕呼だ。

「彼らは確かに超越した技術を持っています。ですが神のような高次元存在と言い切れません。
 この宇宙に実体がなくとも、別の宇宙に実体を持っている可能性はあります」
「別の宇宙? 香月博士が唱えておられた因果律量子論ですかな?」
「そうです」
「ですがその理論が正しいとも言い切れますまい。仮にその理論が正しく、別の宇宙に実体があったとしても
 世界の間を自在に行き来し、天地を創造できるような存在が神ではなくて何だというのです?」
「……確かに超越者を神と見做すのなら、上位存在を神と言っても過言ではないでしょう。
 ですがこれまでの宗教的概念と結びつけて、彼らを神と見做すのは危険すぎます。あくまでも超越した力を
 もつ異星人と考えることが必要です」

 黒旗軍=神と見做すことなど思考停止に他ならないと夕呼は考えていた。
 
「ですが彼らのやってきたことを考えれば、これまで人類が奉ってきた神としか言いようがないのでは?
 人類を脅かす悪魔を天からの雷で滅ぼし、人が自滅しそうになれば使徒を降臨させて助けを与え、罪人さえ
 武器を奪うだけで更正の機会を与える。まるで神話の神々ではないですか」  
「しかし、それも我々炭素生命体が物珍しいからなのでは?」
「物珍しさだけでこれだけの施しを与えると? 何の対価も要求することなく?」
「上位存在は我々とはかけ離れた存在です。我々とは全く異なる価値観で動いていても不思議ではありません」
 
 夕呼はそう言って宗教学者を抑える一方で、他の科学者を叱咤激励して黒旗軍の技術解析を急がせる。

(連中は環境再生用ナノマシンを持っていた。なら医療用ナノマシンを散布していても不思議じゃない。
 これに天使の立体映像まで持ってくるなんて、なんて悪辣な真似を!)

 だがさすがの夕呼も、どんな技術を使えば物を掴める立体映像を作れるのかさっぱり判らない。 

(連中は自分達を神と思わせることで、人類の思考を停止させることを目論んでいるとも考えられるわね。
 いえ、それだけでなく、人類を精神面からも支配するつもり?)
 
 夕呼はそういって深読みする。

(でも連中が神を自称すれば反発する連中も出てくる。宗教的な問題となれば面倒なことになる。
 奴らはそれを承知でこんなことを? それともまだ別の意図が?)

496earth:2011/03/06(日) 00:45:23
 一般人の多くが黒旗軍の神格化を容認しつつある中、夕呼のように黒旗軍が神を偽って人類を支配しようとしている
と考える者もいた。特に政治家たちは、黒旗軍によって物質的にも、精神的にも支配されることを恐れた。

「たとえ復興できたとしても、黒旗軍によって物心両面で支配されるかもしれない」

 今でも十分支配されているが、相手が異星人ということで最低限の警戒感は誰もが持っていた。
 しかし異星人が実は自分達が奉っていた神であったとなっては、誰もが警戒感を解いてしまう。まぁ仮に警戒して
いても相手が本気になればどうにもならないほどの実力差があるが、それでも最低限の警戒心を持ち、自立心を持ち
続けるのと、相手に物心両面で隷属してしまうのでは大きな差がある。  

「……彼らが何のために、あのようなことをしたのか、問い質す必要がある」

 榊はカナーバに直接会って黒旗軍の真意を尋ねた。
 これに対してカナーバはあっさりと答える。

「リサーチの結果です。武装勢力の抗戦意欲を根本から打ち砕き、かつ犠牲を最小限にするには今回の作戦のような
 行動をするのが望ましいとの判断がなされました」
「つまり、あくまでも武装勢力の士気を砕くためだと? ですが我がほうの通信回線にも賛美歌が流れましたが」
「それはこちらのミスです。申し訳ございません。こちらとしては可能な限り周辺に影響がないように努力したの
 ですが、このような小規模な電子戦というのは中々なかったので出力の調整がうまくいかなかったのです」

 地球各地の77箇所の拠点すべてに同時に電子戦を仕掛けることを《小規模》と言い切るカナーバに榊は
絶句する。彼女の言葉を信じるなら、黒旗軍からすれば通常の電子戦というのは複数の惑星に跨るか、それとも
恒星系そのものに対して仕掛けるものと判断できるからだ。

(宇宙での戦いというのは、それほどまでに大規模なものなのか)

 榊はスケールの違いに息を呑む。
 そんな榊を見つつ、カナーバは話を続ける。

「貴方方が言う天使は武装勢力の救助のためのユニットです。宗教的な意味はありません」
「ユニットですか?」
「はい。複数のユニットがありますが、武装勢力が安心して救助を受けれるようにするには、天使型のユニットが
 望ましいと判断されました」
「……今回の判断は上位存在が?」
「いえ。今回の作戦を主導されたのは朝倉少将です。それに上位存在は地球復興について細かく口出しはされません」
(上位存在はこの件に関しては無関係だというのか? いやそれどころか上位存在は地球そのものに対して関心を
 抱いていないということか?)

 榊はここで思い切って上位存在の正体について尋ねる。

「教えていただきたい。上位存在《総司令官》は、人類が考えてきたような神なのですか?」
「上位存在がいかなる存在か、それをお答えする権限は私にはありません。長門中将から直接お聞きください」

 かくして榊は後日、黒旗軍の大使館の通信回線を使って、戦艦《長門》にいる長門と面談することになる。

497earth:2011/03/06(日) 00:47:59
あとがき
拙作にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。
短めですが第25話をお送りしました。
次回、長門・榊会談です。下手をすれば榊さんのSAN値が……。
まぁ長門は朝倉ほど腹黒くないので酷いことにはならないと思いますが。
それではこのあたりで失礼します。

498earth:2011/03/07(月) 21:09:48
第26話が完成したので投稿します。
さてここから話が大きくなります。
風呂敷を畳むことができるか作者も判りません(爆)。
というか本当にマブラヴSSか怪しくなってきた(笑)。

499earth:2011/03/07(月) 21:10:22
 未来人の多元世界見聞録 第26話

 榊総理、そしてアドバイザーとして香月夕呼、その他3名の科学者と共に黒旗軍大使館を訪れた。
 榊を真ん中に5名の出席者が横一列に着席した。出席者達は自分達の前に用意された机に素早くメモ紙や
ノートをおき、一言も聞き逃すまいと気合を入れる。

(さて、黒旗軍が何と答えるか……)

 榊は緊張した面持ちで会談開始の時を待つ。そして予定時間になると同時に立体映像で長門の姿が彼らの
前に投影される。

『お待たせした』
「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ございません」

 最低限の挨拶を交わすと、両者は即座に本題に移った。

「すでにご存知だと思いますが、このたび長門中将に会談を申し入れたのは上位存在《総司令官》について
 のお話をお伺いしたいからです」
『聞いている。上位存在《総司令官》は、人類が考えてきたような神かどうかと問われたと』
「そうです。教えてください、長門中将。上位存在は人類が考えてきたような神なのですか?」

 この質問に対して、長門は熟考した末に答えた。

『……人類の《神》に対する考え方、概念が統一されていない。よって回答は不可能』

 否定も肯定もしない長門の言葉に5人は驚いた。
 だがここで怯む夕呼ではない。彼女は榊に代わって鋭く切り込んだ。

「では、質問を変えさせてください。上位存在は地球人類を創造したのですか?」
『……上位存在が地球人類を創造したという事実は無い』
「なるほど(つまり宗教上の神ではないということね)」

 とりあえず上位存在が、宗教上の神ではないことを確認して誰もがほっとする。

「上位存在はこの宇宙に本体が無いと説明を受けましたが、それではこの宇宙とは別の宇宙に本体が
 あるということですか?」
『……確かに、別の宇宙に本体は存在する』

500earth:2011/03/07(月) 21:10:53
 自身の唱えていた説が正しかったことを確信した夕呼は内心で小躍りしたが、それを敢えて表には
出されず質問を続ける。だがその質問が彼女達のSAN値を激減させることになる。

「別の宇宙にある黒旗軍の本拠に、上位存在の本体がいると理解して宜しいのでしょうか?」
『上位存在の本体がある世界と、黒旗軍の本拠がある世界は異なる』
「?!」

 予期せぬ回答に誰もが混乱する。夕呼はすぐに態勢を整えて再度質問する。

「それは一体、どういう事です?」
『言葉の通り。黒旗軍の本拠がある宇宙と上位存在本体のある宇宙は別のもの。
 より正確に言えば、黒旗軍の本拠のある宇宙は、上位存在の同族が作り上げたものに過ぎない』
「「「「「?!」」」」」

 宇宙を作ったとの言葉に、誰もが言葉を失う。

「う、宇宙を創造したと? 何のために?」
『上位存在とその同族の遊技場』
「遊技場? 遊ぶために宇宙を作ったと?」
『そう。黒旗軍の各種ユニットも本来は上位存在の遊戯のために作られた』

 その気になれば簡単に自分達を絶滅させることができるような戦力が、上位存在からすれば遊具に過ぎないと
いう言葉に誰もが言葉を失う。
 榊は何とか精神を立て直すと質問に加わる。

「黒旗軍の戦力は遊具にするようなものではないように思えますが。それにそれほどの力でどうやって遊ぶのです?」
『戦争』
「せ、戦争ですか?」
『そう。上位存在たちは自分達が作り上げた宇宙で、我々のような存在を生産し、編成し、戦い合わせている』
「「「「「………」」」」」

 あまりのスケールの差に誰もが声を失う。あの夕呼でさえ何も言えない。
 遊戯のために新たに宇宙を作り上げ、そこで人類の想像を遥かに超える兵器で戦争ゲームをしているというのだ。
 長門の言葉でなければ、到底信じることが出来ないだろう。いや今でも信じられないというのが彼らの本音だった。

501earth:2011/03/07(月) 21:11:29
 信じられないと言った表情を見せる5人を見た長門は、自身の言葉が真実であることを証明するために
録画されていた戦闘シーンの一部を表示することにした。 

『これがその証拠』

 長門がそういうと長門の姿が消え、立体映像でこれまでの戦闘シーンが映し出される。
 見たことも無い宇宙船が数光年にわたる戦陣を組み、目が眩むばかりのビームを撃ち合う。
 何も無い空間からいきなり多数の戦闘機(?)が現れ、宇宙船を次々に撃沈していく。
 宇宙船から発射されたミサイルが次々に惑星に吸い込まれるように落下していき、次の瞬間、惑星が粉々になって
消滅する。
 さらに惑星サイズの宇宙要塞が登場し、純白の光線で宇宙艦隊を一瞬でなぎ払う。光線が掠った惑星が瞬く間に
粉砕され、宇宙の塵と化す。

「……こ、これが黒旗軍の戦争ですか」

 震える声で言う榊に、長門は淡々と告げる。

『正確に言えば戦争ゲーム』
「ゲーム……」

 次元が違うとはこのことだった。
 
(彼らは確かに宗教上の神ではない。だが、持っている力は神と言っても過言ではない……)
 
 5人のSAN値は激減していた。正直、人類を作った神様と言ってくれたほうがまだ5人の精神にとっては
良かったかもしれないほどだ。
 何しろ自分達の神なら、慈悲を期待できる。だが目の前の存在は神と同格でありながら、自分達とは全く無関係の
異星人なのだ。彼らの気が変われば慈悲をかけられることもなく、一瞬で殲滅されるだろう。
 だが夕呼は別の心配もしていた。

(宇宙を自在に創造することができるような存在なら、並行世界を簡単に行き来できても不思議じゃない。
 他の上位存在が地球と周辺に展開する黒旗軍に気付いたら、大変なことになる……) 

 遊戯のために星さえ砕く連中だ。イザとなれば人類の事などお構いなしに太陽系で戦いだすだろう。
 そうなれば地球人類は滅亡へ向けてまっしぐらだ。

(人類が生き残る道は一つ。早急に地球を再建して、宇宙進出をして生存圏を拡大するしかない)

 夕呼がそんな考えに至ることを予め知っていた人物が、31世紀世界に居た。

502earth:2011/03/07(月) 21:12:02
 31世紀世界における世界政府たる銀河連邦。北米地区ニューヨークにある連邦本部ビルの一室で
一人の青年が淡々と言う。

「彼女は宇宙進出を強力に推し進めていくでしょう。既定通りに」

 青年の言葉に周囲の机に座っていた老人達、より正確に言えば銀河連邦の高官達は満足げに頷く。 

「ふむ。それは結構なことですな」
「左様。ここで躓かれたら面倒だ」
「修正は容易ではないからな。尤も、万が一の場合への備えはしてあるが」

 老人達の反応を見て青年は続ける。

「既定通り周辺世界への介入は予定通りに進めます。介入者はご覧の通りです」

 青年がそう言うと老人達の前に数名の個人情報が表示される。

「ふ、子供や暇人に世界の命運を託さなければならないとはな」
「ですが、これは決まったことです」
「《決まった》のではない。《決まっていたこと》だよ。そもそも君自身が経験者だろうに」

 青年が苦笑いしつつ頷く。

「……確かに」

 この反応に満足したのか老人は会議の閉会を宣言する。

「まぁ問題が無いなら良い。今回はこれにて終了とする。ご苦労だった、ミスターC」

503earth:2011/03/07(月) 21:14:00
あとがき
というわけで第26話をお送りしました。
拙作ですが最後までお付き合いしていただき、ありがとうございます。
何故、主人公が好き勝手に出来るかという謎解きの一つを今回やりました。
何故、政府高官が寂れたゲームに関わるのか、マブラヴ世界を知っているのか
が明らかになるのは多分、かなり後になると思います。
それでは失礼します。

504earth:2011/03/11(金) 23:47:02
第27話が完成したので投稿します。
短めですが……。
それではどうぞ。

505earth:2011/03/11(金) 23:47:36
 未来人の多元世界見聞録 第27話

 黒旗軍から齎された情報の詳細を聞いた日本帝国首脳部に激震が走った。
 戯れのために宇宙を創造し、奉仕種族を作り、星を砕く……あまりにレベルが違う話に当初は
誰もが嘘だろうと思ったのだが、長門の許可を得て持ち帰った戦闘映像を見て、さらに夕呼が
彼らが嘘を言ってはいないと判断したことが伝えられると誰もが頭を抱えた。

「復興が終えたら、速やかに太陽系から退去をお願いするしかないのでは?」
「だが彼らが簡単に撤退してくれるのか? 下手にこじらせれば、地球はあの砕けた星と同じ
 運命を辿るぞ」
「そもそも復興が終えて人類が独り立ちできるのは何時の話なんだ? 資源も食糧もすべて
 彼らに頼っているんだぞ。損害が少ない我が国でもあと2年は復興に専念しなければならない。
 世界全体が復興するのは何時の日になることか」

 本人達は事が終ればさっさと引き上げるつもりなのだが、そんなことは露も知らない高官たち
はどうすれば戦争に巻き込まれないで済むかで頭を悩ませた。 
 だがどんなに頭を捻っても良いアイデアは浮かばない。
 誰もが言葉を詰まらせる中、榊は決断を下した。

「……黒旗軍との関係をさらに強化する」
「しょ、正気ですか、総理!?」
「そうです。黒旗軍と関係を強化すれば、彼らの戯れに巻き込まれて、我が国の、いえ人類の
 存亡が危機に晒されます!」
「だがこのままではどうにもならないだろう。このまま援助を受けている間に、太陽系が戦場に
 なれば人類は滅亡。復興後に彼らが居座っても同じこと。
 仮に彼らが人類に興味を失って太陽系を去ったとしても、他の上位存在が太陽系に現れれば
 どうなる? 今いる上位存在は人類に対して友好的だが、他の上位存在が同じだと言い切れるか?」
「「「………」」」
「この際、今いる黒旗軍との関係を強化して技術を支援してもらい外宇宙で戦う術を手に入れる。
 いや少なくとも外宇宙に進出して生存圏を拡大できるようにする」

 榊は夕呼と話し合って、外宇宙進出こそ帝国の生き残る道であると判断していた。故に彼は
ここで話を切り出した。

「ですが、黒旗軍が我々を同盟国と、いえ同盟者と見做して技術を支援するでしょうか?」

 黒旗軍の圧倒的な物量、技術力からすれば人類の助力など、何の助けにもならないだろうし、わざわざ
技術を支援するほうが手間になると感じるのではないか……誰もがそう思った。

506earth:2011/03/11(金) 23:48:06
「彼らは人類の文明を興味深い存在といった。上位存在にとって脅威にならない程度で文明が発達する
 のは不快ではないだろう。むしろ興味深いと判断するはずだ」
「「「………」」」
 
 かくして帝国はさらなる黒旗軍との関係強化を図る道をとることになる。

「しかしそうなると、黒旗軍が宗教家が考えていたような神ではないと公表するのはやめたほうが
 良いですな」

 この意見に榊は同意する。

「そうだな。彼らが神と考えてもらったほうが宇宙進出もしやすい。宗教的な熱狂、宇宙開発に伴う
 新たな経済利権が重なれば、多少の慎重意見は吹き飛ぶ」

 だが黒旗軍の神格化を止めなかったために、アメリカ合衆国を含むキリスト教圏では黒旗軍を祀り
上げる動きが加速していく。
 加えて一部の宗教家の中には、この宇宙さえも上位存在の同族が作り上げたものであると考える
者が出始めた。
 
「宇宙を生み出し、さらに人類を生み出した神は、我らへの試練のためにBETAをこの星に
 遣わした。これによって我々人類は多大な被害を被った。だがその被害は決してムダではなかった。
 神は我らの努力をご覧になられ、救済のため、新たな時代の始まりを告げるため使徒を遣わされたのだ!」

 アメリカでは黒旗軍、いや正確に言えば超越者たる上位存在の使徒が降臨された年こそが新たな  
時代の始まりであると考える者が増えていった。
 彼らは西暦を終え、新たな暦を始めるときが来たと主張した。そして政府内部にまで入り込んだ
キリスト教恭順派がこれに呼応する。
 かくしてアメリカでは黒旗軍の第二拠点があるフロリダを標準時とした新たな暦《黒旗暦》が
制定されることになる。
 勿論、そのことを知ったアンドロイド2名は唖然とすることになる。

「……人類って信じられないことをするわね」
「ユニーク」

507earth:2011/03/11(金) 23:48:41
 マブラヴ世界がそんなカオスなことになっていることを知る由も無い耕平は、バイトを終えて
帰宅の途についていた。

「ふ〜何かバイトが速く終ったな……まぁ良いか。さっさと戻ってゲームの続きをするか」

 あ〜疲れたと言いつつ、帰路につく耕平。その耕平を眺める存在がいた。 

「既定事項どおりか。まぁ彼が自由意志で行動しているということだけが救いだな」

 必要最低限のものしか置かれていないオフィスの一室で、連邦高官からミスターCと呼ばれた青年は
椅子に座ったまま、壁のモニターに映されている耕平の姿を見ていた。
 その様子を彼の傍に立っていた髪の長いスーツ姿の美女が面白そうに笑う。
 
「ふふふ」
「何がおかしい?」
「いえ。別に。彼を哀れんでいるなら、真相を教えてあげればいいのに」
「無理だな。それは既定どおりではない。そんなことをすれば、上の連中が血相を変えてくる」
「そうね。あの爺連中だけなら楽勝なんだけど」
「物騒なことを言うな。我々の活動には彼らの協力が必要不可欠だぞ」

 部下(?)の物騒な物言いに苦言を呈するミスターC。

「勿論、判っていますよ」
(本当にわかっているのか?)
 
 突っ込みたかったが、突っ込んでも無意味だと判断したのか、ミスターCは黙った。

「まぁ良い。《彼女》は?」
「きちんと仕事をしています。シナリオは順調に進行中。誤差はすべて許容範囲内とのことです」
「……すべては定められたシナリオ通りか。嫌になってくる」
「ですがそのシナリオがあるからこそ、貴方が存在していられるのでは?」
「ふん。誰かの書いたシナリオどおりと言うのは面白くないさ」
「シナリオ通りに踊るのも才能のひとつなのでは? 案外、難しいと思いますよ、定められた振り付け
 どおりに踊るというのは」
「……」
「それに、どうせやるなら楽しまなきゃ損ですよ?」
「相変わらず減らず口だな」
「そう設定したのは、貴方自身でしょうに」

 そんなやり取りがされているなど露も知らない耕平は、家に帰ってから即座にゲームにログインする。
 自分がいなかったうちにカオスとなったマブラヴ世界のことなど知りもせず。

508earth:2011/03/11(金) 23:53:46
あとがき
拙作ですが最後まで読んでくださりありがとうございました。
マブラヴ世界の動き、そしてミスターCの動きでした。
一応、ミスターCは物語のキーマンなので。
次回、耕平のSAN値が激減するかも。
あとは異星人の船についての調査結果も明らかになる予定です。
あとはマブラヴキャラの個々人のエピソードを書けたら良いなと思って
いますが……難しいか?
あと感想スレに未来人の多元世界見聞録のSSが投稿されていたので
提督たちの憂鬱のように支援SSスレを立てるべか……悩みます。
それではこのあたりで失礼します。

509名無しさん:2011/03/12(土) 09:21:24
アメリカの暴走が止まらない。

510名無しさん:2011/03/12(土) 09:22:02
と、すいません、書き込み場所間違えました。謝罪します。

511名無しさん:2011/04/13(水) 09:22:03
1000行ったスレが二つになったので整理目的でage

512名無しさん:2011/04/18(月) 18:24:39
つづきはまだかいの

513earth:2011/04/18(月) 18:26:33
すいません。現在、こちらは止まっておりまして(汗)。
何とか5月中には新しい話を投下できるかと……。

514名無しさん:2011/05/07(土) 18:06:54
リアルを優先しないと創作も上手くいかないモンなのでは?
気が向いたら投下して下され

515名無しさん:2011/05/26(木) 23:30:34
おーい

516名無しさん:2011/05/31(火) 15:22:18
5月最終日wktk

517名無しさん:2011/05/31(火) 15:42:23
>>見聞録についてですが、改訂する可能性がでてきました。
>>改訂前のプロットでも書けないことはないのですが、ストーリーが
>>息抜きですまなくなるレベルになりそうなので。

覚悟してwktkするんだよ>>516

518earth:2011/05/31(火) 20:46:29
改訂版1話をアップします。


 未来人の多元世界見聞録 第1話

 誰もが一度は経験したことのある歴史の授業。興味がない人間にとっては眠気との戦いとなるその時間で
一人の少年が先生の授業を興味深く聞いていた。
 少年の名は桜坂耕平。このたびめでたく志望した高校に入学した高校一年生だ。しかしその彼にはある
秘密があった。

(まさか、生まれ変わったら1000年以上も経っていたなんて、まるで浦島太郎だな)
 
 彼は前世の記憶があったのだ。彼が死んだのは西暦2010年の日本。死因は交通事故であった。

(この世界で覚醒したときには混乱したけど、いまじゃすっかり馴染んじまったな。まぁ馴染まないと
 生活できなかったからな)
 
 彼がこの世界で覚醒したのは3歳のときだ。当初はあまりの状況に混乱したが、今では何とか普通に
生活している。
 当初は昔の家族のことを思い出すこともあったが、今では完全に割り切って、今の家族を大切に思っていた。

(それにしても、まるでSFだよな。まぁ俺の存在が一番、SFみたいだけど。いやむしろオカルトか?)

 22世紀中盤に開発された超光速航行技術、21世紀のSF風に言えばワープ航法によって人類の生存圏は
拡大した。止まることのない人口の増加、そして資源の枯渇という問題に頭を悩ませていた人類はあらたな
フロンティアを求めて太陽系の外、銀河系のあちこちに進出していった。
 そして彼が今、生活しているのは地球から3000年光年離れた植民地惑星アルカディアだ。
 大航海時代の初期に日米主導の下で開発された殖民惑星であり、現在は周辺宙域の経済の中心地として機能している。
 1000年前だったら、妄想として切り捨てられるような状況が、現実として目の前に存在している。それを思うと
少年は苦笑せざるを得なかった。

519earth:2011/05/31(火) 20:47:05
(前世で長生きはできなかったけど、こういう人生というのも貴重だな。せいぜい、今を楽しむとしよう)

 そんなことを考えていると、授業が終る。
 その日の授業は歴史の授業で終わりであったので、生徒の誰もが帰り支度をする。そんな中、友人達が話しかけてきた。

「コーはこの連休、どっかいくのか?」
「特に予定はないな……お前らは?」
「家族と一緒に異世界旅行さ。この前、親父が新しく次元航行船を買って張り切っているんだ」
「へ〜、それって敷島重工の新型?」
「そうそう。親父の奴、奮発して買っちゃったんだ」

 ワープ航法が開発されてから800年余りがたち、人類の生存圏は銀河系から他銀河、さらには並行世界にまで
広がりつつあった。そして今では個人で異世界へ旅行することさえできるようになっていた。

「アグレッシブだな」
「まぁな。お前も少しは外に出たらどうだよ」
「俺の趣味はわかっているだろう?」
「はいはい、お前もすき物だよな。あんなやたら金の掛かる上に、マニア向けのゲームをするなんて。
 おまけにパソコンをあんなレトロな形にするなんて」
「うるせーよ」

 そういうと、耕平は教室を後にした。

520earth:2011/05/31(火) 20:47:43
 家に戻るや否や、耕平は自分の部屋に戻りPCを起動させる。だが何故か彼のPCは21世紀初期のPCそっくり
だった。

「やっぱりPCはこうじゃないと」

 昔の記憶のせいか、どうもこの時代のPCが好きになれない耕平はPCを自作して、昔つかっていたPCと同じ
形をしたものを作ったのだ。尤もその性能は段違いであったが。
 鼻歌をうたいながら、彼は最近嵌っているゲームを起動させる。同時にゴーグルのようなものを被り、さらに
水晶のような形をした機器に手をかざす。
 
「さてさて、急いで宇宙艦隊を編成しないと」

 ゲームの名は『汎次元大戦』。もともとは10年前にでた『汎銀河大戦』と呼ばれるゲームの拡張版だ。
 ゲーム内容はいたってシンプルだ。プレイヤーは与えられた物資と資金をもちいて惑星を開拓し、工場を建設する。
そして工場で宇宙戦艦を建造して宇宙艦隊を編成。そのあと対戦相手のプレイヤーの根拠地を攻め落とすというものだ。
 ただしこのゲームは仮想空間で戦うのではなく、ゲーム会社が構築した並行世界の人工の宇宙空間で実際に宇宙艦隊を
PCから操作して戦い合わせるのだ。実に豪勢なゲームと言える。
 無論、豪勢な分、ゲーム会社に支払う金も高い。しかしその自由度の高さから10年たった今でもこのゲームに参加
する人間は少なくない。
 そして耕平はそんなゲームプレイヤーの一人だった。そして彼はそのプレイヤーの中では懐古主義者として
有名であった。
 何しろ彼は自前の宇宙艦隊を20世紀から21世紀のアニメや漫画、小説に出てきた兵器で編成していたからだ。
他のプレイヤーはあまりのセンスの古さに、桜坂が本当に高1なのか疑っている。
 しかしそんな疑惑の視線や声にめげるほど、彼はへタレではなく、今日も今日とてお気に入りの兵器を量産して
宇宙に浮かべては悦に浸っていた。

(これぞ未来世界の醍醐味だよな〜。ふふふ、色々とアルバイトした甲斐もある)

 ゲーム代金が高いために、彼はアルバイトをして小遣いを稼いでいた。
 自分が遊ぶ金を親にせびるほど、彼の性根は腐っていないのだ。

521earth:2011/05/31(火) 20:48:19
 彼が今勤しんでいるのが、宇宙戦艦ヤマトに出てきた地球防衛艦隊の再現だった。
 現在、戦艦ヤマト、アンドロメダ級戦艦2隻、主力戦艦36隻、巡洋艦81隻が就航してプレイヤーの根拠地
惑星上空に遊弋している。
 宇宙艦隊総旗艦・アンドロメダの艦橋のメインモニターには、堂々たる宇宙艦隊が映し出されている。
 この光景をみた一人の老人がニヤリと笑いながら言う。

「ああ、やっぱりアンドロメダ級は良い。それに主力戦艦も。ヤマトもいいけど、やっぱり量産型戦艦って
 いうのは軍オタの浪漫だよな〜」

 この老人、いや老人に見えるアンドロイドは、この人工的に構築された世界における耕平の代理人であった。
 このゲームではプレイヤーは総司令官として用意されたアンドロイドと五感をある程度リンクさせる
ことができる。このためこのゲームではまるで自分がその場にいるような臨場感を味わうことが出来るのだ。
 勿論、老人のモデルは土方艦長だ。アンドロメダに乗るのはこの人物以外にない。
 ちなみにヤマトならば沖田艦長、バーミンガムに乗るときは、ワイアット大将と、乗る船によって彼は
アンドロイドの外見を変えている。マニアなりのこだわりと言えよう。

「この時期、わざわざ第6世界にまで侵攻してくる物好きがいるとはいるとは思えないけど、報告は聞いておくか」

 悦に浸っていた耕平だったが、最低限の報告は受けておいたほうが良いと思い、青コート風の軍服を着た参謀に尋ねる。 

「各世界に繋がる次元回廊に敵影は?」
「ありません」
「そうか……まぁそんなものだろうな」

 この『汎次元大戦』は合計8つの人工宇宙のフィールドから構成されている。そして各フィールドはゲーム会社が
設定した次元回廊で接続されている。そして耕平が本拠を構えているのは第6世界と呼称されるフィールドだ。
 ちなみに回廊の存在はプレイヤー自身が見つけなければならない。さらに回廊を航行するには次元航行装置と呼ばれる
アイテムが必要だった。

「最近は新しい回廊も発見されていないし、第1〜第3世界の上級者連中も殴り合いで忙しいだろうから
 わざわざ他世界にまで来ないだろし……まぁ平和なことはいいことだよ。安心して艦隊整備に取り組める」

522earth:2011/05/31(火) 20:48:53
 そう言いつつも耕平は別の回廊が無いかを探らせるために索敵艦隊を放つ。
 知らない回廊から、いきなり奇襲を受けては溜まらないからだ。尤も索敵艦隊を放つとすぐに耕平は艦隊の整備に
取り掛かる。

「ぐふふ。次は戦闘空母だな。ヤマト2で沈んだ伊勢型とゲーム版のアングルデッキタイプの奴を……」

 色々と妄想に浸る耕平。だがその妄想は新たな回廊を発見したとの報告によって中断されることになる。

「どこの世界との回廊だ?」

 不機嫌そうに尋ねる耕平だが、アンドロイドの男性型参謀は意に介さず答える。

「第8世界です」
「第8世界? あの大戦で壊滅した?」

 ゲーム全盛期において起きた第三次汎次元戦争。8つの世界すべてが戦場と化したゲーム史上最大の大戦で
第8世界は壊滅的損害を受けた。あまりの被害によって世界そのものが崩壊寸前となった。公式では再建された
ことになっていたが、これまで発見された第8世界に通じる回廊が狭い上に、状態がよくないためにわざわざ
第8世界に行こうとするプレイヤーはいなかった。
 ゲーム会社も状態が良い第1〜7世界の再整備に力を入れたため、第8世界は半ば忘れられた。勿論、より
状態が良い回廊の探索は行われていたが……。

「状態は?」
「艦隊クラスが通れるサイズです」
「……周辺宙域は封鎖するように。機動要塞を配備。カモフラージュも忘れないように」

 いくら穏便なプレイヤーが多い第6世界とは言え、第8世界と繋がる安定した回廊が発見されたとなれば
戦争の火種になる可能性がある。情報は隠匿する必要があった。

「さて、どんな世界になっていることやら」

 耕平はすぐに追加の索敵艦隊を派遣する。するとそこが天の川銀河と似たような、いやほぼ同じ銀河が
あることが判った。

「だとしたら太陽系や地球があるかもな」

 耕平はそう思って艦隊を差し向ける。だが彼はこのあと、予期せぬものを見ることになる。 
 
「……嘘。何で、あんなものが、ゲーム世界にあるんだ?」
 
 アンドロメダのメインモニターに映る映像を見て耕平は呆然となっていた。
 索敵艦隊が発見した太陽系と似たような恒星系。そこの第4惑星、火星に良く似た惑星の表面に耕平がかつて
1000年前の世界で見たことのある人工物が聳え立っていたからだ。

「何故ハイヴがある?」

 かつて前世でプレイしたことのあるゲーム。あいとゆうきのおとぎばなし……マブラヴ。
 そのゲーム世界に存在した敵、BETAの巣窟ハイヴ。それがメインモニターに映し出されていた。

523earth:2011/05/31(火) 20:52:27
あとがき
改訂版をお送りしました。
改訂前とは色々と変わってくると思います。
改訂前のは息抜きでかけるようなものではなくなること、あと今後のプロットを
見直していると最強系からかけ離れすぎるのではないかと考えたからです。
不評なようでしたら、見聞録については全削除を行いたいと思います。

524名無しさん:2011/06/01(水) 20:05:33
個人的な感想を申し上げさせていただければ、もとより無双最強系として読んでいたわけではありませんし
改定後の展開を楽しみにさせて頂きたく思います。

525名無しさん:2011/06/04(土) 01:07:35
改定前のは息抜きで書けるようなものではなくなる、と聞くとどんなシリアスな展開が待っていたのかと気になってしまいますねwww

526earth:2011/06/04(土) 22:31:48
改訂版第二話投下します。

   未来人の多元世界見聞録 第2話


 火星でハイヴを発見した耕平は即座に地球に艦隊を急行させた。そして彼は再び驚愕することになる。

「……まんまマブラヴ世界じゃないですか」

 アンドロメダの艦橋で耕平(というか土方艦長)は目を丸くした。

「通信傍受によれば1998年。朝鮮半島から叩き出されているし……ゲームそのままか」

 遥か昔の記憶を所々思い出しながら、耕平は考えた。何故、第8世界にマブラヴ世界、もしくはそれに似た
世界があるかを。

「何かのイベント、ってことはないな。告知メールもないし。かといってあの世界が第8世界であることには
 間違いない。一応、座標は間違ってはいないんだから……だとすると、アレはなんだ?」

 暫く逡巡した後、耕平はとりあえずゲーム会社に異常としてメールを出すことにした。

「まぁ触らぬ神にたたりなし。ゲーム会社が何とかするだろう……まぁその結果、消去されたらご愁傷様だけど」

 耕平はあっさりマブラブ世界を無視することにした。 
 前世ではそれなりに楽しんだゲームだったが、そのゲーム世界に乱入するほど彼は酔狂ではなかった。

「連休明けには、学力テストがある。あんまり長々と遊んで、いや介入していたら勉強時間が削られて成績が下がる……」

 切実な問題だった。
 いくらマブラヴ世界の人間からすれば、神に等しい力を持っている耕平とは言え、リアルでは一学生に過ぎない。
 そして学生の本分は勉強なのだ。

「BETAのことも言っておこう。ゲーム会社が一掃してくれれば、資源探索もしやすい。
 連休明け後のテストのあとにくれば、第8世界の資源地帯を独占してウハウハ(死語)だな」
 
 だが帰ってきた答えは耕平にとっては信じがたいものであった。

527earth:2011/06/04(土) 22:32:27
 翌日、メールを確認した耕平は目を丸くした。

「つまり、あの世界の人類は大戦前にプレイヤーが作った箱庭世界の成れの果てってこと?
 それがマブラブ世界になると? どれだけ偶然が重なればそうなるんだよ……」
 
 アンドロメダの艦橋で耕平はため息をついた。
 何故ならゲーム会社は、マブラヴ人類は第8世界が一度壊滅する前にプレイヤーが創造したものではないかと通告してきた
からだ。実際、このゲームではアイテムを購入すれば独自に文明を創造することも不可能ではない。
 しかしどれだけの偶然が重なればマブラブと同じ世界になるのか、耕平には理解できなかった。耕平のような前世記憶もち
か、よほどの物好きが頻繁に介入しない限り、あのような世界が出来る可能性は極めて低かった。 
 
「おまけにBETAも野生の害獣(モンスター)扱いで手は出さないっていうし。本当に調査したのかよ」

 しかし文句を言っても仕方が無い。ゲーム会社は事実上、第8世界の異常を認めないのだ。 

「……さて、どうしたものか」

 ゲーム世界の時間は進行している。このまま何もしなければ本編どおりの展開となる。つまりBETAによる日本本土
への侵攻だ。

「横浜にG弾が落とされたらループ現象が起こりかねない。まぁそのときはゲーム会社が対処するだろうけど
 ゲームが一時的に遊べなくなる可能性がある。それはそれで面白くない。それに……」

 暫く黙った後、耕平は薄く笑う。 

「わざわざ決まりきったシナリオを見せられるのは面白くない。どうせなら、思いっきり引っ掻き回してみて
 どんな変化が起こるか見るのも一興だ。何しろゲーム会社は不干渉だからやりたい放題だ」 

 当の人類が聞けば卒倒しそうなことを呟くと、耕平は軍需工廠の管理AIに幾つかの兵器の改良とその生産を命じた。 
 同時に第8世界に前線拠点を建設する。第8世界で長期間活動するためには拠点が必要不可欠だった。

「俺は極力無駄なことをしない主義でね。一気に勝負を決めさせてもらう」

528earth:2011/06/04(土) 22:33:05
 西暦1998年7月に耕平は動いた。
 戦艦アンドロメダ、主力戦艦3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、戦闘空母1隻を中心とした打撃部隊が
地球からやや離れた位置に展開していた。地球環境を考えなければ、これらの艦隊だけで地球にあるハイブを
すべて潰すことが出来る破壊力を持っていた。
 しかしながら今回の作戦では、これらの艦隊は脇役。真打の護衛にしか過ぎなかった。

「宇宙艦隊と戦えるBETAなんて出てきたら厄介だと思って、護衛艦隊を連れてきたが、杞憂だったか」

 耕平は周辺に敵影なしとの報告をオペレータ(アンドロイド)から聞いて安堵の息をつく。

「さて、敵がいないのなら、さっさと始めるとするか」

 そういうと、彼は横を見た。そこには何とデスラー艦(二代目)があった。
 
「作戦開始」
 
 彼がそう命じるや否や、デスラー艦は艦首に装備している瞬間物質位相装置を作動させ、デスラー艦の
前方に布陣していた物体群を次々にワープさせる。

「『この一撃が世界を変える』とでも言えば良いか? いやそれには風情がないか」

 だが彼が行おうとする攻撃は、まさに世界を変えるものであった。
 位相装置によって地球の衛星軌道周辺にとばされた彼らは、事前に組まれたプログラムどおりに目標に向けて
突き進んだ。 
 これに慌てたのは、BETAではなく、地球人類であった。何しろ対宙監視システムには直前まで何も不審な
物体は映っていなかったのだ。
 世界各国は突然現れた物体に大混乱に陥った。あわてて迎撃しようとするもそれらの物体はその巨体に似つかぬ
高速で地球に落下していくので、迎撃が間に合わなかった。

「また新たなハイヴが築かれるのか」

 誰もが悲惨な結末を思い浮かべて悲観にくれた。特に京都防衛戦の最中だった日本帝国では焦燥感と悲壮感が
強かった。
 しかしその落下ポイントが、ユーラシア大陸各地にあるハイヴであることが算出されると、それは戸惑いに
変わった。

「何が起こっている?」

529earth:2011/06/04(土) 22:33:38
 人類に続いてBETA側もハイヴに落下してくる物体に気付いたのか、重光線級、光線級が迎撃に出る。
人類から空を奪った光線属種がハイヴを未知なる災害から守るべく、大量のレーザーを物体に浴びせる。
だがそれらはレーザーをすべて弾いて尚も落下を続ける。
 あ号標的と呼ばれるソレは、未知なる災害としてさらに多くの光線属種を迎撃に向かわせた。
 しかしそれでも尚、彼らは落ちない。すでに弩級戦艦でさえ蒸発させることができるほどのレーザーを浴びせ
ているにも関わらず、それらは落下を止めない。
 その様子を見て桜坂はニヤリと笑う。
 
「それにレーザーは効かないよ」

 物体の正体、それはヤマト第1期で出てきたガミラスの超大型ミサイルだ。
 かつてヤマトを地上で撃破しようとして、ガミラスが冥王星から発射したそれは、ハイブに向かって落下を
続けていた。しかしさしもの超大型ミサイルでもレーザーの集中攻撃を受ければ撃破されるのは確実。
 このために桜坂は反則ともいうべき改造を行ったのだ。

「そのミサイル表面は空間磁力メッキをした装甲で覆った。波動砲でさえ弾けるものを、たかがレーザーで
 抜けると思うなよ」

 空間磁力メッキ。あまりの反則振りに原作では無きものにされた対レーザー防御兵器だ。
 ヤマトの決戦兵器である波動砲さえ無力化してしまうのだから、いかにチートな存在かがよく判る。
 
「さて、第二段階の用意だ」

 そういうと、彼は先の超大型ミサイルとは違って、スマートな形の物体をデスラー艦の前に並べる。
 それらこそがハイブ攻略の切り札とも言うべきものだった。

「地表部分や深度の浅い領域のBETAを、超大型ミサイルで潰す。そしてこれで反応炉や大深度の
 生き残りを潰す。うん、まるで無駄がない作戦だな」

 そう言って自画自賛すると、彼は艦橋のメインモニターに視線を向ける。

「さて、もうそろそろ着弾の時間だな」

530earth:2011/06/04(土) 22:34:23
 BETAの必死の抵抗も空しく、1998年7月の時点でユーラシア各地に点在するハイブに次々に
超大型ミサイルが命中していった。
 直撃さえすれば、あのヤマトでさえ沈めうる力を持ったミサイルの破壊力に無傷で耐えうる耐久力をもった
ハイヴなど存在するはずがなかった。
 一瞬のうちに、地上のモニュメントは崩壊。さらに地表部分や浅い深度にいたBETAたちは纏めて根こそぎ
蒸発していった。かのオリジナルハイヴには念のために3発もの超大型ミサイルが撃ちこまれ、巨大なクレーター
が空くことになった。
 それは第5計画を発動しない限り、この世界の人類ではなしえない大戦果であった。
 しかしそれで終わりではなかった。
 地上やその近くにいたレーザー種が消滅したために、BETAの鉄壁とも言えた対空防衛網に大穴が開いた
状況を桜坂が見逃すはずが無かった。
 彼はBETAが体制を立て直す前に、とどめの一撃を放ったのだ。

「7gfaga0u0gahugfthaogtiaht8953045930dfagaagaga」

 自身がいるハイヴどころか、この星中に置いたすべてのハイヴのユニットが甚大な被害を受けたことを理解した
あ号は、作業を再開するために何をしたらよいのかを検討した。 
 そこには動揺も恐怖もない。彼にそんな感情はなかったのだ。
 だがその演算の最中、さらなる異変が彼(?)を襲った。
 
「gaite;taei853969e0wurao?!」

 突然壁を突き破って現れたもの。人がみたら間違いなくいうだろう「ドリル」と。
 しかしそんな表現方法を知らないあ号は速やかにそれを排除しようとする。だがそれが適うことはなかった。
 あ号が動き出した直後、それは内部に溜め込まれていた波動エネルギーを解放した。 
 慌てて防御しようとするあ号であったが、波動砲の50分の1程度のエネルギーを前にそれは徒労であった。
 50分の1、たかが50分の1かも知れないが、戦艦級の波動砲はその一撃でオーストラリア大陸を消滅させ
る威力をもつのだ。それを間近で受けて耐えられるわけがなかった。
 かくしてあ号は消滅。さらに反応炉もまとめて吹き飛んだ。 
 この光景は地球上にある全てのハイヴでも起こっていた。

531earth:2011/06/04(土) 22:34:56
「作戦は成功だな」

 すべてのハイヴと反応炉が消滅したことを確認した、耕平は満足げに頷いた。
 彼が最後のトドメとして放ったのは、ドリルミサイルだ。かつてヤマトの波動砲を潰し、ヤマトを撃沈寸前に
追いやった兵器を、彼はハイヴを潰すためのバンカーバスターに使ったのだ。
 この兵器は惑星内部に打ち込むこともできるので、この用途はもってこいと言えた。
 さらに確実にハイヴの奥深くにある反応炉を潰すために、ドリルミサイルには波動エネルギーを溜め込ませて
いた。このため各地のハイヴは超小型の波動砲の直撃を受けたような状態となったのだ。
 いくら頑丈さがとりえのハイヴとは言え、恒星間戦争で扱われるような大破壊兵器の直撃に耐える力がある
わけがなかった。
 
「すべてのハイヴは潰えた以上、オルタ4もオルタ5も中止。
 それに横浜が落ちていないし、G弾もおちていないから、あの武が来ることもない。さて、このあとこの
 世界がどうなるかが見物だな」

 そういって笑いながら、彼は艦隊を引き上げさせた。
 全てのハイヴが消滅した後、日本本土に上陸していたBETAは帰る場所も、エネルギー源も失い弱体化。
日本帝国の必死の押し返しもあり、京都防衛戦は日本の勝利で終った。
 そして京都防衛戦での勝利を皮切りに人類は残っているBETAの掃討を開始。1998年9月には地球上に
残っていたBETAを駆逐することに成功する。
 だが、この世界の人類は何者が、どのようにハイヴを全て消滅させたのか知る由も無かった。
 このため、不審物体が発見されて全てのハイヴが消滅するまでの8分間のことを、人類史上最大の謎として扱う
ことになる。

532earth:2011/06/04(土) 22:36:33
あとがき
というわけで第二話でした。
彩峰中将には史実どおり退場していただきました。
第三話もできるだけ早めに投下したいと思います。

533earth:2011/06/05(日) 10:59:38
短めですが、第3話ができたので投下します。


  未来人の多元世界見聞録第3話

 地球のハイヴを8分で始末した耕平は、ステルス性能に優れた潜空艦(ステルス艦)を配備した後、火星攻略の準備を
進めた。ただ潰すのであれば宙対地爆撃をしかければ良いが、BETAから情報を読み取るためには反応炉ごと潰す
わけにはいかない。耕平はハイヴを確保するために突入部隊を用意する必要があった。

「マーズゼロから情報を引き出して、珪素生命体か、BETAの本拠地の情報を割り出せれば探索効率が上がる」

 耕平はこの際、珪素生命体やBETAの本星を探り出そうと考えていた。
 
「第8世界の資源地帯を荒らされたら面倒だし、何より珪素生命体やBETAの本星には興味もあるからな」
 
 彼にとって第8世界は宇宙艦隊整備のための資源が眠るフロンティアだった。ここを荒らすBETAは害獣でしか
なかった。そしてその害獣を駆除するのは親玉を叩くか説得するというのが最も手っ取り早かった。

「『しゅんらん』、それに新型の戦闘空母も早めに建造したいからな。
 あとは永遠編の無人艦と完結編の戦艦、巡洋艦の整備を進めないと……ふっふっふ。ディンギルにボコボコにされた
 けど結構好きなんだよな。いや、ここは空母群の整備をもっと進めるべきか? 
 何しろ原作では空母の出番があまり無かったからな」

 原作のヤマト世界では地球防衛軍の空母というのは活躍の機会が少なかった。
 彗星帝国との戦いでは活躍の機会があったものの、他の作品では出番がなかった。これはかの世界で地球が
受けた人的被害が影響していると耕平は考えていた。まぁシナリオの都合と言う点もあるだろうが……。 

「あれだけ短期間の間に侵略者にボコボコにされたら、いくら人的資源があってもすぐに枯渇するよ」
 
 ガミラス艦隊によって地球防衛艦隊は一度壊滅。さらに地表には雨霰と遊星爆弾が降り注ぎ、100億以上の
人口を誇ったはずの人類は瞬く間に激減した。そんな状況で防衛軍、とくに宇宙艦隊を再建するとなれば人的資源が
苦しくなる。
 さらに言えば短期間で何度も強大な侵略者を敵に回した結果、防衛艦隊は戦役のごとに壊滅的打撃を受けている。
これでは箱物である軍艦を建造しても、それを操る将兵(作中では宇宙戦士)が絶望的に足りないのは間違いない。
そんな状況ではマンパワーを必要とする空母の整備など難しいだろう。むしろ毎回やられるのに短期間であれだけの
艦隊を復活させられるほうがどうかしている。 

「だがこの世界は違う。そんな制約はない。ふっふっふ。最強の空母機動部隊を整備してやるぜ……工廠を建設
 するたびに金が取られるのは痛いけど」

 銀行口座の残高を思い浮かべて、少し遠い目をする耕平。

「インターフェース作成もあるし、金がかかるね……」

534earth:2011/06/05(日) 11:00:10
 世の中、どんなにきれいごとを言っても、やはり金が物を言った。
 空母部隊の創設を進めると同時に耕平はBETAとのコミュニケーションを図るためのインターフェース作成に
取り掛かっていた。
 必要な情報を入手するためには重頭脳級と接触する必要があり、そのためには曲がりなりにも自家製00ユニット(?)を
作る必要があったからだ。
 このゲームではESP戦闘もあるため、作れないことはないのだが、強力なESPを持つアンドロイドの作成には
工廠をカスタマイズする必要があった。勿論、有料だ。

「先生がやっていたAL4を俺がすることになるか。やれやれ当人が知ったらどう思うことやら。尤もこっちが
 つくるのは原作00ユニットなんて目じゃないレベルだけど」

 耕平はマニアらしくやるとなったら、どこまでも金をかけるタイプだ。
 ちなみに彼が作ろうとしているのは強力なESP能力を持つアンドロイドであるが、1人あたりに必要なコストは
駆逐艦1隻とほぼ同等という化物じみたものだった。
 
「00ユニットを超えるリーディング能力とハッキング能力、さらに直接戦闘でも戦術機を瞬殺できる強力な超能力を付与する。
 その気になれば宇宙空間での戦闘も出来る。ふふふ、これならAL3で作られた連中だって圧倒できる!」

 どう考えてもオーバーキルなのだが、そんなことは気にも止めない耕平であった。
 
「しかし問題は外見だな。超能力ならやっぱり絶チルとかロックとかが良いんだろうけど、アンドロイドで 
 インターフェースとなると……あの連中かな」

 彼が想像したのは勿論、情報統合思念体に作られたインターフェースたちだ。

「原作並みの能力こそはないが、それでも十分すぎる能力はある。問題は無いだろう」

 かくして地球人類の目からすれば化物じみたアンドロイドが作成されることになる。

535earth:2011/06/05(日) 11:00:48
 火星攻略戦の準備を進める傍ら、彼は地球の様子を確認することも忘れない。
 
「何か面白いことでも起きたか?」

 若干の期待をかけつつ、耕平はアンドロメダの艦長席の端末に情報を表示させる。
 だがBETA大戦が終結した地球で起こった出来事は、その大半が彼の予想を大きく超えるものではなかった。
 
「まぁこれまでBETAという圧力で押さえ込まれていたものが吹き出すのは当然か」

 BETAという強力な外敵がいたことで、人類は仮初ではあるが。曲がりなりにもある程度は団結していた。 
 しかしその外敵が突然いなくなったことで団結は脆くも崩れ去った。
 まずは民族、宗教問題が吹き出した。これに加えて更地になったユーラシアの復興を巡って各国が対立する。
さらに中華民国と中華人民共和国は、正統政府の地位を争い、これが米ソ対立にも絡んで東アジアの復興計画は
停滞していた。
 国土の半分ちかくを焦土にされた日本は、大幅な軍縮によって復興費用を捻出しようとする政府と軍が対立。
 アフリカでは欧州系資本が引き上げたことで経済成長が止まり、さらに民族問題を端を発した紛争が起き始めていた。  
 そしてこれまで世界を支えていた超大国アメリカでは、これ以上他所の国や難民のために国力を費やすべきではないという
世論が台頭した。繁栄を謳歌しているとされる超大国アメリカだって限度と言うものがあった。 
 米政府の中でも色々と意見が分かれているが、現状は外国への影響力確保のために、積極的に介入を進める一派が優位に
立っている。そんな彼らでも莫大な費用が掛かるユーラシアの本格的な復興の支援には及び腰だったが……。

「……それにしても、あの世界、復興できるのか?」

 根本的疑問が浮かぶ耕平。何しろユーラシアはBETAによって大きく地形が変えられている。このために気象は
激変している。さらに放射能と重金属の汚染も酷い。さらに鉱物資源はBETAによって多くが奪われている。 

「……正直、AL5、いやバビロン作戦も間違っているとは言えないよな〜ユーラシアの本格復興なんて夢物語に等しいし。
 まぁそれでもBETAを駆逐できたユーラシア各国は復興しようと考えるだろうから、米国はたかられるな」

 超大国ゆえに、色んな国から復興費用をたかられる可能性が高い米国に、リアルで金に苦労している耕平は思わず同情してしまう。 

「南無〜」

 アメリカに対して色々と同情しつつ、耕平は何とか火星攻略の準備を終らせた。
 何しろ連休明けには学力テストがあるため、長々とゲームができないのだ。テストの点が悪ければ親に大目玉をくらう。

「というわけで、さくっと片付けよう」

 耕平は第8世界に建造した前線基地(ルナ2もどき)から艦隊を出撃させる。
 総旗艦アンドロメダ、アンドロメダ級2番艦『ネメシス』、主力戦艦4隻、巡洋艦12隻、駆逐艦24隻、戦闘空母2隻
デスラー艦2隻、さらに輸送艦やハイヴ攻略部隊を乗せた輸送船団を含む大部隊が整然と陣形を組んで火星に向かう。
 火星のBETAにとって災厄の時が訪れようとしていた。

536earth:2011/06/05(日) 11:03:07
あとがき
というわけで改訂前ではあっさり潰された火星のマーズゼロ攻略戦です。
アンドロメダの主砲が火を噴く予定です。改訂前だと出番がなかったですが
このたびは相応に派手にやってもらおうと思っています。
それでは失礼します。

537earth:2011/06/06(月) 22:55:54
マーズゼロ攻略戦前編です。長くなるので分けました。


 未来人の多元世界見聞録 第4話


 耕平が乗る旗艦アンドロメダを中心とした火星攻略艦隊は何の妨害も受けることなく火星周辺宙域に到達した。
  
「妨害はなし。やはり、太陽系のBETAにはこちらの艦隊の行動を阻害できる能力はないみたいだな。
 まぁそれはそれで有難いが……」

 艦長席で耕平が言葉を濁した直後、すかさず後ろから突っ込みが入る。

「まるで、彼らにその能力があってほしいみたいな言い方ですね」
「……俺はマゾじゃない。楽なことに越したことは無い」

 耕平が振り返ってジト目で見る先には、北高の制服を身にまとった朝倉涼子の姿があった。勿論、傍には
無言で佇む長門有希もいる。ちなみに長門は眼鏡装備だった。

「全く、原作に近い形で作ってみれば口やかましい性格になりやがって……まぁ良い。それも一興か」

 耕平はそういって肩をすくめるジャスチャーをすると、命令を下す。

「二人には、予定通り突入部隊に同行してもらうぞ。目標はマーズゼロ最下層にいる重頭脳級。
 何とかして情報を読み取って来い」
「「了解」」

 この命令を受けた直後、2人は瞬間移動で姿を消した。

「爆撃部隊を分離。我が隊はマーズゼロ上空へ移動して待機。爆撃終了後、状況を開始する」

 アンドロメダ、ネメシスを中心とした部隊はこの命令を受けてマーズゼロに向かう。同時にデスラー艦2隻と 
輸送部隊は攻撃準備に取り掛かる。
 マーズゼロは攻略するが、他のハイヴは丁寧に攻略する必要はない。地球と同じく容赦なく潰しても何の問題も
なかった。

538earth:2011/06/06(月) 22:56:33
 そして作戦開始時間が来ると共に、2隻のデスラー艦は自艦の前に並べられた超大型ミサイルを前回と同様に
瞬間物質位相装置で火星各地のハイヴ上空に送り込んだ。
 火星にいたBETAには光線属種がいなかったためか、超大型ミサイルは何の妨害も受けることなく火星各地の
ハイヴに降り注いだ。勿論、その中にはマーズゼロも含まれている。

「地球よりも遥かに大きいハイヴだ。多少攻撃した程度じゃ潰れないだろう。それに、あの膨大なBETAを一々
 駆逐していたら面倒だし、そんなチマチマしていたら疲れる」

 耕平がそう呟く中、火星各地のハイヴに超大型ミサイルが降り注いだ。その数は地球のハイヴを潰したときの3倍。
実に容赦ないと言える。
 地表にいたBETAは、何が起きたかを知ることも無く、いきなり現れ落下してきた大量破壊兵器によってまず
モニュメントごと吹き飛ばされた。地球人ではどうすることもできなかったハイヴの象徴がいとも簡単に砕け散る。
 マーズゼロの重頭脳級が何が起きたのかを理解する間もないうちに、第二射の超大型ミサイルが瓦礫の山とかした
各地のハイヴに降り注ぐ。
 続く爆発によって超高熱がハイヴの中を駆け巡り、中に居た無数のBETAを燃やし尽くしていく。核兵器に耐え
ることができるハイヴの構造が仇となったのか、超高熱の炎がハイヴ中を駆け巡り次々にBETAを焼き殺していく。

「マーズゼロ以外にはこれでトドメだ」

 超大型ミサイルによって粗方吹き飛ばされたハイヴにトドメとなるドリルミサイルが降り注ぐ。
あまりの高熱によって脆くなったのか、ドリルミサイルは次々にハイヴの壁を突き破りもぐっていく。残ったBETA
はこの異物を排除しようとするが間に合わない。
 最深部に残された反応炉は波動カートリッジ弾を内臓したドリルミサイルによって次々に木っ端微塵にされていった。
波動エネルギーによって引き起こされた爆発の閃光が火星中を覆う。

「マーズゼロを除く全ハイヴの反応が消滅しました」

 アンドロイドの参謀の報告を聞いて耕平は満足そうに頷く。

「それじゃ、始めるか」

539earth:2011/06/06(月) 22:57:28
 マーズゼロにもドリルミサイルは撃ち込まれていた。しかしその数はオリジナルハイヴにも関わらず少なかった。
 このため最深部の破壊は免れていた。尤もそれ以上となるとかなり破壊されており、BETAの数も打ち減らされていた。
 そんな中に戦闘空母から発進したコスモタイガーⅡが襲い掛かる。雨霰と空対地ミサイルが叩き込まれ、地表に顔を出した
BETAを叩き潰す。 
 そしてコスモタイガーⅡの攻撃が終ると、今度は大気圏内に次々に戦艦部隊が降下する。
 
「取り舵30度。全艦右舷砲撃戦用意!」

 耕平の号令と共にアンドロメダ以下の艦隊は針路を変えた後、全ての主砲をハイヴに向けた。

「劇場版では悲劇的な最期をとげ、TV版でも壮烈な最期を遂げたが……単純な戦闘力はヤマトを上回る。
 まぁ真田さんが乗っているヤマトには勝てないだろうが……地上を這いずるBETAを潰すには十分すぎる」

 アンドロメダが誇る3連装4基12門の50.8cm衝撃砲がハイヴに狙いを定める。
 
「司令、攻撃準備完了しました」
「よし、撃て!」

 耕平の号令と共に6隻の戦艦、12隻の巡洋艦が相次いでハイブに向けて衝撃砲を発射する。
 あの特徴的な効果音(実際には趣味で耕平が艦内放送している(笑))と共にビームの束がハイヴに殺到する。 
これに対処する術をマーズゼロの重頭脳級は持ち合わせていなかった。 
 スサノオの砲撃が可愛く思えるほどの砲撃を浴びて、ただでさえボロボロだったハイヴはさらに滅茶苦茶となった。
あるところでは大穴があき、あるところでは天井が崩れ落ち、BETAが押し潰される。床が割れて下の階層の床に
叩きつけられるBETAもいる。
 火星最大のハイヴとして威容を誇っていたのがまるで嘘のような有様であった。

「全弾命中」
「……よし、突入部隊を発進させろ!」
 
 戦艦部隊に続くように降下してきた輸送艦(何故かコロンブス級がモデル)から次々に人型兵器と航空機が、より
正確に言えばMSとMAが発進していく。
 
「普通の戦いじゃあんまり使い勝手が良くないUCやCEのMS、MAが、ここで役に立つとはね」

 彼は趣味で多くの兵器を作っていたが、中にはゲームの戦争では使えないようなものもある。 
 特にガンダム系は使い勝手がよくなかった。このため格納庫の隅に置かれることになっていたのだが、今回は
そのMSとMAが役に立つときがきたと言える。
 
「少なくともマクロスのヴァルキリーシリーズを量産するよりかは安く済むし、ここで失っても戦力的にそこまで
 痛くない。まぁMSやMAがくず鉄に変わるのは心苦しいが、このまま死蔵しているよりかはマシだし」

540earth:2011/06/06(月) 22:58:10
 降下してくるMSやMAを迎え撃つべく、再度BETAが立ち塞がる。  
 この状況では健気ともいえる行動であったが全くの無意味だった。小型種はジェガンやジム系の頭部バルカンに
よって次々に蜂の巣にされ、大型種はビームライフルの餌食だった。
 だがこの劣勢を挽回するべく、地上に3体の母艦級が出現する。地球ならば、この巨大なBETAが地上に現れただけで
大損害を受けるだろう。だが火星では違った。

「突入部隊を支援しろ!」

 上空で警戒に当たっていたコスモタイガーⅡが次々にミサイルを撃ち込む。続けてMS部隊は人工知能や旗艦からの指示に
従って距離をとりつつ、集中砲火を浴びせる。これによって母艦級はかなりの打撃を受ける。だがまだ倒れない。
 その様子を輸送艦の上から見ていた朝倉と長門は自分達の出番と判断した。 

「結構硬いわね」
「ここで苦戦するわけにはいかない。援護して」
「はいはい」

 2人はそういうとすぐに艦上から姿を消す。
 そしてその直後、輸送艦の一番近くに居た母艦級の上空に朝倉が出現する。

「それじゃあ、死んで♪」
 
 朝倉が笑顔でそういった次にの瞬間、多数の光の矢が現れ、母艦級に降り注ぐ。MSのビームライフルよりも遥かに凶悪な
破壊力を持った光の矢によって串刺しにされる母艦級。だがそれで終わりではない。
 朝倉の攻撃によって弱体化した母艦級の至近に現れた長門はそのまま手を母艦級につける。そして淡々と言葉を放つ。 

「分子結合操作開始」

 この言葉と共に母艦級は敢え無く倒れた。さすがの母艦級も体内の物質を変化させられたら、一溜まりもなかった。
 残りの2体も呆気なく倒され、ハイヴの守り手は失われた。

「さて、さっさと仕事を済ませましょうか」

 こうして突入部隊は重頭脳級がいるであろうハイヴ最深部へ向けて進撃を再開した。

541earth:2011/06/06(月) 22:59:07
あとがき
というわけで前編終了です。
アンドロメダの初陣だったわけですが、長門・朝倉ペアのほうが印象が強い
気がするのは何故だろう(笑)。
それでは失礼します。

542earth:2011/06/07(火) 21:56:17
と言うわけで短めですが、第5話です。

 未来人の多元世界見聞録 第5話


 母艦級があっという間に撃破されたのを見た耕平は、金(ゲーム内&現実世界)をかけた甲斐があったと思い安堵する。 

「あの2人とMS部隊がいれば重頭脳級でも何とかなるだろう。まぁどうしてもダメならまた別の方法を考えればいい」

 火星攻略戦につぎ込んだ兵力は耕平が所有する全兵力からすればごく一部でしかない。仮に艦隊を含めて部隊が壊滅した
としても建て直しは可能だ。尤も仮にそんなことが可能な敵が現れたとなれば、耕平も本腰を入れて動かざるを得なくなるが。

「さて、これだけ派手に火星で暴れたんだ。マブラヴ人類でも火星の様子がおかしいくらいは観測できただろう。
 多少は外宇宙に脅威を感じて地球連邦とまではいかないが、地球連合くらいは創設してもらいたいな」
 
 わざわざ火星を攻略したのは、この世界の地球人類(以降マブラヴ人類と呼称)に、謎の勢力が太陽系で活動している
ことを見せ付けるためでもあった。
 マブラヴ人類は宇宙空間からの一方的攻撃でハイヴが根こそぎ潰されたのを見ている。よって火星への攻撃が地球のハイヴを
掃討した勢力、またはそれと同レベルの技術力を持つ勢力によって行わたと推測は立てられる筈だった。

「外宇宙に脅威を感じ、さらに月攻略のために宇宙艦隊を編成というのも見てみたいし。原作ではなかった宇宙用戦術機とか
 是非みたいからな。勿論、発見したらすぐに同じのを作らせて貰う」

 元モデラーの血が騒ぐぜ、とテンションをあげる耕平。すでにハイヴの中で行われている戦闘のことは頭の片隅に、いや
殆ど追い出されている。朝倉がこの場にいれば突っ込みが入ることは間違いない。長門からも冷たい視線が注がれるだろう。

「そう言えば、自分と同じくらいの年齢のアンドロイドって、あの2人以外は作ったこと無いな。何か作るか」

 そう言って耕平は艦長席で端末を操作して色々と思案する。ちなみに地下でのチマチマとした戦闘の指示は面倒なので
AIやアンドロイド達に一任することにした。
 
「あと宜しく」

543earth:2011/06/07(火) 21:56:56
 戦闘を事実上丸投げされた朝倉は嘆息する。

「面倒なこと丸投げとはね……」
「今言っても仕方ない。我々は我々の仕事をするだけ」
「はいはい」

 両名を先頭とした突入部隊は、時折現れるBETAの群れを次々に殲滅していった。先ほどまでの砲爆撃、そして地上戦で
消耗しつくしたBETAに、突入部隊を食い止めるだけの力は残されていなかった。
 Zガンダムなどの可変型MSが先行してBETAを攻撃。続けて重火力のMSの面制圧、そしてビームライフルの弾幕射撃に
よってBETAは次々に屍に変えられていく。多少抵抗しても今度は長門と朝倉が制圧する。

「何とも貧弱な抵抗。こんなので私たちを止められると思っているのかしら」
「光線級が存在しない以上、彼らに選択肢は無い」
「判っているわ。でも初陣にしては物足りなくない?」

 そういった直後、朝倉は無数の光の矢を放ち、出てきたBETAの群れを1匹残らず消滅させた。

「もっと色々と使ってみたいのに」
「重頭脳級との戦いに備えて温存しておくべき」
「でもこの程度だと、期待できそうに無いわね。まぁ次の機会を待つとしましょうか」

 くすっと笑う朝倉。その笑みは第三者がみれば十分綺麗だと思えるものだったが、キョンが見れば戦慄すること間違いない。
 しかしそんなことは知る由も無い両名は障害を容易く排除し、マーズゼロ最深部にたどり着く。 

「さて、それじゃあ対面といきましょうか」

 2人を先頭にした突入部隊はマーズゼロの最深部に鎮座する重頭脳級を視界に捉える。 

「何とも趣味が悪いわね。少なくとも女性が見ていて気分が良いものではないわ」
「それは否定しない」
「でもやらないわけにはいかないのよね。ま、さっさと済ませましょうか」

 余裕を崩さない2人。
 この2人めがけて触手が向かう直前、朝倉は瞬間移動で重頭脳級のすぐ傍に移動する。

「atisuodiettayuod?!」

 勿論、この朝倉に攻撃しようとする重頭脳級。だがその直後、すべての触手が切り落とされる。 
さらに重頭脳級が展開していたラザフォード場がズタズタに切り裂かれ消滅する。

544earth:2011/06/07(火) 21:57:34
「この程度の攻撃を凌げないようじゃ、第1世界の化物に瞬殺されるのがオチよ。もう少し精進したら?」

 片手にナイフをもち、素敵な笑顔を浮かべる朝倉。実に原作どおりと言える。キョンでなくとも腰が引けることは
確実だった。

「あとは頼むわ」
「任せて」

 続けて出現した長門は重頭脳級に手をかざすと何かを呟く。そしてその直後、信じがたい現象が起こった。

「aginanaherokadnan?!」

 そう重頭脳級が凍り付いていくのだ。何とか抜け出そうとする重頭脳級。だがその努力が報われることはなかった。
 
「周辺の熱運動を全て停止させた。抵抗は無意味」

 長門は周辺の原子・分子の熱運動を停止させ、重頭脳級を絶対零度の中に閉じ込めたのだ。
見る見る凍りつき、動きを止めていく重頭脳級。かくして勝負は決した。

「1分足らずで決着……脆すぎね。まぁ良いか。あとは情報を読み取るだけ」
「判っている」

 かくして氷付けになった重頭脳級から可能な限りの情報を吸い出すと、長門たちは帰っていった。

「任務完了しました」

 アンドロメダの艦橋に来た2人から報告を受けた耕平は「ご苦労さま」と言って2人を下がらせる。

「さて、調査も終ったし、後はあの薄汚い穴倉を消して終わりだな」

 そう呟いた耕平は、波動カードリッジ弾を主砲に装填させた。

「波動砲を撃ち込むわけにはいかないから、これで我慢するか。精々、派手に散ってくれ。地球からも見えるように」

 そしてアンドロメダの50.8cm砲6門から、6発の波動カードリッジ弾が放たれる。
 放物線を描きつつ6発の砲弾は寸分違わずハイヴ、いやより正確に言えばハイヴ跡に吸い込まれる。そしてその直後、大爆発
を引き起こし、マーズゼロであったものを何もかも吹き飛ばした。BETAの死骸も、氷付けの重頭脳級も何もかも消え去った。
    
「作戦終了。帰還する」

 耕平の命令と共に艦隊は引き上げていく。こうして火星攻略戦は終了した。耕平の一方的な勝利によって。

545earth:2011/06/07(火) 21:58:55
あとがき
と言うわけで火星攻略戦終了です。
最強系SSらしく蹂躙です。しかし主人公の影が薄いのは何故だろう(笑)。
次は地球の様子が入る予定です。
それでは失礼します。

546earth:2011/06/09(木) 00:08:00
何故か書けてしまったので掲載します。
短めですが第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第6話


 西暦1999年2月11日、火星での謎の発光現象に関するニュースが世間をにぎわせていた。
 かつて一瞬でハイヴが掃討されたことを見ている人類は、同じことが火星でも起こったのではないかと考えた。
 特に京都防衛戦の最中に、ハイヴが掃討された日本帝国では神風が吹いたと歓喜する人間さえ居る。だがハイヴが
消えたと考えて喜ぶ人間がいる傍らで、謎の勢力が太陽系で活動していることを懸念する声も挙がった。

「太陽系にBETAと別の異星人がいることは明らかだ。BETA大戦の二の舞を避けるために宇宙軍を強化する必要がある!」

 米国の国連大使が国連安全保障理事会でそう力説する。これに対して他国の大使達は一定の理解を示すが、全面的に米国の
主張を認めることはなかった。

「確かに宇宙軍の強化は必要でしょう」
「ですが我が国にはそのような余力はありません。国土の復興こそが第一です」
「それに対異星人を名目にして新兵器、G弾を宇宙に配備するというのは感心できませんな。まして貴国は移民船団を改造した
 宇宙艦隊の編成を進めている。これだけでも十分ではありませんか?」

 最後のソ連大使からの言葉に米国大使は反論する。

「地球や火星のハイヴを、我々が探知しえぬ方法で一瞬で消滅させた異星人が相手でもですか?」 

 対BETA戦争のために人類は宇宙観測を重視していた。この技術によって火星周辺で行動する耕平の艦隊を捉えることに
成功したのだ。だがそうかと言って喜んでいられるほど彼らは、特に米国は能天気ではなかった。 
 むしろ太陽系内を自由自在に動き回る多数の宇宙船(それも信じがたいほどの速度で航行する)を確認した米政府は、この
宇宙船を所有する勢力が地球に押し寄せることを恐れていた。
 勿論、他の国も大なり小なり警戒や恐れは抱いている。だが、かといって謎の異星人対策と称して宇宙軍を拡張し、新型爆弾を 
自分達の頭上に配備しようとする米国の行動を全面的に是認するつもりはなかった。

(((異星人対策の名目で、我々の喉元にナイフを突きつけるつもりなのでは?)))

 BETA大戦終了後、アメリカは世界の盟主として君臨していた。
 横暴な大国であったが、アメリカによる秩序は確かに必要だった。しかし必要だからと言って大人しくアメリカの属国に
なる気は各国にはさらさらなかった。特にソ連はかつて世界を二分した超大国としての地位を取り戻すべく躍起になっていた。
 こうして各国は虚虚実実の駆け引きを繰り広げることになる。異星人対策など実は無意味だとも知らずに。

547earth:2011/06/09(木) 00:08:36
 そんな様子を半ば世捨て人として隠棲した香月夕呼は冷めた目で見ていた。 
  
「今の人類が総力を決したって、勝てるどころか対抗することさえ出来ないでしょうに。本当、無駄なことが好きな連中」

 某屋敷の洋風の書斎で新聞を読んでいた夕呼は、各国の動きを切って捨てた。
 
「まぁ良いわ。私には関係の無いことだし。さて今日は何をしましょうか」 

 地球上のハイヴが消滅し、さらにその後の掃討作戦で地球上のBETAが殲滅されたことでAL4は中止された。
 一部の人間から言わせれば御伽噺と言われるAL4を、BETA大戦終了後も続けられるほど人類は余裕があるわけで
はなかった。
 夕呼自身もBETA大戦が、謎の勢力による宙対地爆撃で事実上終焉したことで、やる気をなくしたので、AL4の中止を
あっさり受け入れて公式の場から姿を消した。
 ちなみに彼女の友人の神宮寺まりもはBETA大戦終了を受けて、再び教員の道を考え始めていた。A−01の人間達も 
それぞれの人生を歩み始めており、現時点では誰もが前途洋洋という状況だった。
 そしてそれは原作では酷い目にあったヒロインも同様だった。

「武ちゃん、早く行こう!」
「待てって」

 BETA大戦が終わり、復興に歩み始めた日本では、久方ぶりに遊園地が再開された。
 幸運にも遊園地のチケットと手に入れた白銀武と鑑純夏は遊園地でのデートと洒落込んでいた。尤も武にはデート
という意識は薄かったが。

「それにしても、BETAをやっつけた宇宙人ってどんな人たちだったんだろう?」
「さぁな。でも悪い宇宙人の後に、良い宇宙人が来たってことだろ。日本を救ってくれたんだし」
  
 帝国の中枢である帝都・京都。この千年の京がBETAの手に渡らずに済んだのは異星人のハイヴ攻撃があったからだ。
勿論、現地で必死に戦った斯衛軍の将兵の奮戦も忘れてはならない。彼らが居なければ京都は蹂躙された西日本同様に
呆気なく陥落していただろう。
 実際、そのことをわかっている国民は斯衛軍を賞賛した。そして斯衛軍と共に京都に残っていた将軍・煌武院悠陽もまた
賞賛の対象となった。
 だがそれは政威大将軍の権威の復活に繋がるものであった。シビリアンコントロールを重視する一派はこれを危険視し
斯衛軍を邪魔に思う帝国陸軍が影で動き始めていた。さらに復興のために軍事予算を大幅に削減しようとする政府に対し
陸軍は反発を強めており、日本帝国の政治状況は正常とは程遠かった。

548earth:2011/06/09(木) 00:09:08
 そんな状況を作った耕平だったが、彼の関心は今やBETAの母星(?)の情報に向けられていた。
 
「BETAの母星(?)が回遊惑星なんて聞いてないって」

 長門達が持ち帰った情報に耕平は顔を顰めていた。
 何しろBETAの本拠地である惑星は、銀河内を移動しているというのだ。これでは手の打ちようが無い。

「というか回遊惑星というより巨大な宇宙船だな……さて、どうするか」

 銀河中を探し回るわけにはいかない。そんなことをしていたら、第6世界の自軍領域の警戒網が穴だらけになって
しまう。BETAの母星を探しに行ってゲームオーバーなんて事態は避けなければならない。
 そんな中、長門がある提案を行う。

「それなら、敵の物資輸送の中継拠点を探し当てるのが適当」
「中継拠点?」
「母星が回遊惑星ならば、各惑星から送られてくるG元素を回収するために定期的にその位置を知らせなければならない」
「確かに」
「重頭脳級からの情報では幾つかの惑星にG元素が送られていることがわかった。この惑星群をさらに調査していけば
 母星にG元素を輸送する拠点にたどり着ける可能性が高い」
「なるほど。しかし手間がかかるな」

 面倒ごとは嫌いなんだけどな〜と思い、ため息をつく耕平。 
 
「いっそのこと、AIかアンドロイドに委任するか」
「またですか」

 朝倉は嘆息するが、耕平は気にもしない。

「仕方ないだろう。俺にはリアルの生活があるんだ。連休明けはテストだし」
「夢が無い話ですね」
「リアルあっての夢だよ」

 そう言いつつ、耕平は方針を決した。 

「それじゃあ、委任するか。というわけで頼むよ。長門、朝倉」
「え?」
「いや、一応、君達、艦隊司令官としても使えるようにしてあるし。第一、BETAの思考を読み取れる君達が現場で
 細かい方針を決めたほうが良い。そういうことで、艦隊旗艦にも使えるように改造してある主力戦艦『長門』と
 主力戦艦『周防』『土佐』、それに戦闘空母『伊勢』、巡洋艦4隻、駆逐艦8隻、パトロール艦12隻、あとデスラー艦と
 火星攻略に使った輸送船団の指揮権も与えるから」

 耕平は有無を言わさず、長門を艦隊司令官に、朝倉を参謀長に命じる。

「それじゃあ頑張ってね」

 かくして独立遊撃艦隊・『長門』艦隊が誕生することになった。

549earth:2011/06/09(木) 00:11:44
あとがき
口は禍のもと(笑)。
というわけで長門艦隊誕生です。改訂前と違って、ゲーム世界ではBETA相手に
暴れまわってくれるでしょう。ストレス解消も兼ねて(爆)。
BETA本星が回遊(移動)惑星というのは、こちらで勝手に設定したものなので
ご容赦を。

550earth:2011/06/09(木) 23:26:33
短めですが、第7話です。今回は長門艦隊です。

 未来人の多元世界見聞録 第7話


 総司令官(プレイヤー)たる耕平から独立遊撃艦隊を押し付けられた長門と朝倉は不承不承ながらも艦隊を編成し
必要な訓練を行った後、太陽系外のBETAが生息する惑星に向かった。
  
「それじゃあ、始めましょうか」

 旗艦長門の艦橋で、ダルそうな顔をしながら朝倉は作戦の開始を告げる。ちなみに彼女達は前の時と違って軍服だ。
 さらに言えば服装もヤマト式ではなく、TVアニメ版の『射手座の日』で着ていた軍服だ。長門は白、朝倉は青をベース
とした軍服をまとっている。ちなみに「やっぱりこうじゃないと」と言って嬉々として服を揃える耕平に、アンドロイドの
2人は怖気を覚えたと言う(爆)。
 まぁ服装自体は古臭いものの、決して悪くは無いので悪し様には言えないのが辛いところだろう。

「こんな作戦、早めに終らせるに限るわ」

 といっても内容は特に難しいものではない。最初に宇宙から地上のハイヴを偵察し、ハイヴの規模を確認。
そして全てのハイヴに対して、最下層の反応炉が残る程度に爆撃を行う。このあと突入部隊で最も手薄なハイヴを確保し
長門達が情報を読み取って重頭脳級の居場所を特定。このあと、再度、重頭脳級が居るハイヴを攻略するというものだった。

「作戦開始」

 長門の言葉と共に、デスラー艦が毎度なじみの超大型ミサイルをハイヴ頭上に送り込む。
 モニュメントごと地上付近のBETAをなぎ払った後、さらにドリルミサイルが降り注ぎ、ハイヴを丸裸にしてしまう。
 
「あとは突入部隊と一緒にいくだけね」
「判っている」

 簡単に反応炉を確保し、そこから情報を読み取った長門達は、すぐに重頭脳級が居るハイヴに向かった。
 3隻の戦艦からの砲撃、さらにコスモタイガーⅡからの爆撃が行われ、生き残っていたBETAがあっという間に駆除される。
波動エネルギーを注入した空対地爆弾は、戦術核など目ではない規模の破壊を撒き散らし、BETAを掃滅した。
 母艦級でさえ、この新型爆弾の前には無力だった。

「あっさり来れたわね。全く、脆すぎにも程があるわ」

 火星のマーズゼロのことを思い浮かべて、朝倉は嘆息する。そんな朝倉を長門が窘める。

「経路はわかっている。速やかに侵入し、目標を果たすべき」
「了解」

551earth:2011/06/09(木) 23:27:03
 このたびはサザビー、νガンダムなどファンネルを使えるタイプのMS部隊が長門と朝倉に同行していた。 
 雑魚を一々相手にするのも面倒なので、細かい火力支援が行える機体を連れて行ったのだ。
 勿論、彼らは原作の名に恥じない活躍で、ハイヴのあちこちから顔を出して襲い掛かってくるBETAをファンネルを
使って排除していった。

「さすが総司令のお気に入りの機体。中々の反応速度ね」
「中身のセンサーは、原作とは全くの別物になっていると聞く」
「余計なことには金かけるのね、あの人」

 耕平の趣向に呆れつつ、2人はハイヴの中を突き進む。時折、MS部隊を突破してきたBETAもいたが、それらは
全て朝倉の放つ光の矢によって片付けられた。こうして全ての障害を排除した2人は、あっさりと重頭脳級のいる最深部に到達。
前回と同様に1分足らずで決着を付けた。

 氷付けになった重頭脳級の前で、2人はこのあとどうするかを話し合った。

「さて、残りのハイヴはどうする?」
「……これまで通り、砲撃で殲滅する」
「波動砲を撃ちこまない? 拡散波動砲なら惑星が砕けることもないでしょうし、ミサイルを消費することなく掃討できる。
 それに波動砲のテストもできる。連中には私たちのような星間通信網がないみたいだから、通報される心配も無いわ」
「オーバーキル」 
「問題ないわ。それに新型BETAや惑星サイズのBETAが現れたら、波動砲、又はそれに近い大量破壊兵器を使う
 必要がある。そのためのテストと考えれば良いじゃない」

 G弾など線香花火同然の大量破壊兵器の使用を進言する朝倉。
 そして朝倉の進言は、決して間違ってはいない。実際、今後場合によっては地上に向けて波動砲を撃つこともあり得る。 
 そのことを吟味した長門は、しばしの沈黙の末、首肯する。

「了承した。波動砲統制射撃を行う」

 かくしてこの星の残存BETAは波動砲の標的となった。それも訓練用の。
 旗艦・長門に戻った2人はすぐに指揮下の艦隊(パトロール艦除く)に命令を下した。

「これより波動砲統制射撃を行う。全艦、マルチ隊形」

 地球よりやや小さい程度の1惑星に向けて、戦艦3隻がその波動砲の砲口を向ける。

「波動砲発射用意。ターゲットスコープ、オープン」

 チャージが開始されると同時に、引き金が艦長席の長門の目の前に現れる。
 長門は引き金を手をかけると、照準を合わせる。

「電影クロスゲージ明度10」
「エネルギー充填120%。いつでも撃てるわ」

 朝倉の言葉に頷くと、長門はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 朝倉は笑みを浮かべながら発射の時を待つ。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 長門は引き金を引いた。そして次に瞬間、小宇宙に匹敵するエネルギーが、3隻の戦艦から一斉に放たれる。

552earth:2011/06/09(木) 23:27:49
3隻の戦艦から放たれた波動エネルギーの奔流は、瞬く間に惑星表面に殺到した。そして散弾銃のように拡散して
放物線を描きながらハイヴやBETAに降り注ぐ。
 拡散しているとは言え、その破壊力は核兵器、そしてG弾の比ではない。惑星表面もろともBETAは原子レベルで
分解し、消滅を余儀なくされていく。地下深くに隠れていた母艦級でさえ、地面ごと掘り起こされその巨体を消滅させ
られていく。
 閃光が消え去った後、地上で動くものはなかった。それどころか惑星の形そのものが変わり果てていた。 

「地上のハイヴ、完全に消滅。また着弾の影響で惑星内部で大規模な地殻変動が起こっているようです。大量のマグマが
 噴出しており、惑星表面を覆いつつあります。加えて爆発の衝撃で軌道から逸れつつあります」

 参謀のアンドロイドの報告に長門は頷く。

「……威力的には申し分ないが、宙対地爆撃のほうが効率がやはり良い。惑星ごと粉砕する必要がある時はそのための
 兵器を用意したほうが良い」

 長門の言葉に、朝倉はすかさず頷く。

「そうね。それに波動砲を撃つと、暫く身動き取れないことがよく判ったわ。こういう弊害はやっぱり実経験がないと
 判らないわね」
「新型BETAの存在を考慮すれば波動砲の発射はタイミングを誤ると致命的な隙を作りかねない。
 ここは総司令に進言しておくべき」

 かくして3隻の戦艦から放たれた拡散波動砲によってズタボロにされ、砕けなかったのが奇跡とも思える惑星を背に
長門艦隊は去っていった。
 このあとも長門艦隊は容赦なく暴れ回り、色々なデータを収集することになる。そしてこれらのデータを基に、耕平は
新たな艦隊整備計画を進めることになる。

553earth:2011/06/09(木) 23:29:13
あとがき
改訂前では撃たれるがなかった波動砲ですが、このたびは容赦なく
発射されました。虐殺ってレベルじゃないですね(笑)。
それでは失礼します。

554名無しさん:2011/06/10(金) 20:09:12
ヤマトならこの後、軌道を失った惑星は小ワープを繰り返しながら
地球との衝突コースに入った……とかなるなw

555earth:2011/06/10(金) 22:28:32
第8話をアップします。


 未来人の多元世界見聞録 第8話

 太陽系外でBETAが一方的に駆逐されているのを知る由も無いマブラヴ人類は、紆余曲折の末、宇宙軍の強化を
決定した。米国は移民船団を改造した宇宙艦隊、そしてG弾の宇宙空間への配備を推し進める。
 だが国連のほかの国々も黙ってみているつもりはなかった。
 
「米国宇宙軍を牽制するために国連宇宙総軍を強化するべきだ」

 ソ連の主張に、少なくない国が同意して国連宇宙艦隊を編成した。勿論、表向きは異星人対策である。
 幾ら何でもアメリカの軍備増強に対抗するために宇宙艦隊を編成したとは口が裂けても言えない。
 「BETA大戦の悲劇を繰り返さないため」とのスローガンの下、復興に注ぎ込まれるはずの資材や予算までつぎ込む
その姿は滑稽とさえ思える光景だった。

「BETAを駆逐した宇宙人に備えるって、お偉いさんはまた戦争したいのかよ。それよりも復興に力を注げばいいのに」


 自宅でTVのニュースを聞いた武はそう言って呆れる。彼のような一般人にとっては復興こそ重要な問題だったのだ。
 しかし唐突に齎された平和は、唐突に失われることになる。
 西暦1999年6月、未だにハイヴが残る月から多数の着陸ユニットが射出されたのだ。着陸ユニットの大半は人類の
対宇宙全周防衛拠点兵器シャドウによって軌道を変えることが出来た。だがたった1つだけ防衛線を突破したのだ。  
 落着したのは、黒海沿岸コーカサス地方。元々地下資源が豊かな地域であり、ここをBETAが狙うのは当然と言える。
 だがこれをソ連は絶好の好機と見た。 

「万難を排してでも、着陸ユニットを確保するんだ!」

 対BETA戦争で鍛えられた軍隊を持つが故に、ソ連政府は愚かとも言える決断を下した。
 彼らにとって日に日に勢力を増していくアメリカに対抗するためには、BETAの技術を、G元素技術を手に入れる
ことが必要だった。
 国連軍の派遣を断ったソ連軍は全力でコーカサスに落ちた着陸ユニットに大軍を差し向けた。紅の姉妹など第3計画の
遺児たちさえ動員したのだから、どれほど力が入っていたのかが判る。
 そして彼らは多大な出血の結果、幸運にも着陸ユニットを制圧することに成功する。それはBETA由来の技術で
ソ連が優位に立ったことを意味していた。

556earth:2011/06/10(金) 22:29:05
 これに慌てたのは米国であった。
 彼らは硬軟あわせた交渉で、技術の開示を求めたが、ソ連は聞く耳を持たず着陸ユニットから得られたものを全て
独占し、これを交渉のカードに使った。AL3の遺児よりも遥かに強力な能力を持つ人間の製作にさえ手をつけた。

「G元素、そして超能力者。この2つがあれば、超大国の地位を取り戻すのも不可能ではない」

 ソ連政府高官はそう言って高笑いした。実際、ソ連がBETAに関して新たな情報を多数掴んだとの報告を聞いた
各国は情報を得ようと、ソ連に対して旨みのある交渉を申し込んでいた。
 勿論、ソ連はそれに素直に応じるつもりは無い。出来るだけ高値で売りつけるつもりだった。
 しかしこの動きを黙ってみているほどアメリカは穏健でも、能天気でもなかった。

「何としても情報を奪え。工作員をすり潰しても構わん!!」

 米国大統領はホワイトハウスに呼び出したCIA、DIA(アメリカ国防情報局)に厳命する傍ら、国務省には
共産国家であるソ連の台頭に動揺するだろう同盟国への支援を命じる。

「アラスカを間借りしなければならなかった国が、家主の我が国に楯突くなど、恩知らずにも程がある!」

 米政府高官はあまりの横暴なソ連の態度に、怒り心頭だった。
 だがアメリカ政府を苛立たせる原因がもう1つあった。そう、極東の要である大日本帝国だ。
 安全保障条約破棄こそなかったものの、光州事件、日本本土防衛戦を経て在日米軍と帝国軍との軋轢が大きくなって
いたのだ。
 
「日本がソ連に靡くようなことがあっては、東アジア戦略が根底から崩れる。何とかせねば」

 米国は親米政権(出来れば傀儡政権)を作り出すために策謀を開始する。この時の日本帝国はそれを許すほど隙だらけだった。

557earth:2011/06/10(金) 22:29:41
 BETAの脅威がなくなったにも関わらず本土防衛軍は存続していた。
 政治家や経済界の要人などの子息を安全な場所に配置して、子息の身を守りつつ、彼らの経歴を盾にすることで
影響力を拡大してきた本土防衛軍首脳部は、簡単に自分達の権力を手放すつもりはなかった。
 予算の大幅削減に不満を漏らす陸軍とも結託し、政府との権力闘争を繰り広げていた。

「黒海沿岸にBETAが再侵攻したのを見れば、軍縮がいかに危険かが判るだろう!」

 本土防衛軍首脳部の一人である陸軍出身の大将が会議の席でそう吼えた。
 これに政府側首脳は苦い顔をする。黒海沿岸に再びBETAが降下してくるのは計算外だった。さらにソ連軍が着陸ユニット
を確保したため、今後、ソ連が強大化することも懸念される。
 
「しかし軍事予算を削減しなければ復興予算が捻出できません」
「ならば斯衛軍の再建をやめればいい。多少は金を捻出できるだろう」

 この台詞に城内省の役人が激怒する。

「京都を守りきった彼らを蔑ろにするのですか?」
「その防衛戦で一体、どれだけの被害が出たのだ? 被害を補填するために軍の前線指揮官を引き抜くつもりか?」
「殿下をお守りするためです」
(殿下ではなく、お前ら、城内省や武家連中のためだろうが。そのために専用機など作りやがって)

 喧々囂々のやり取りが続くが、最終的には総理大臣である榊が決断を下した。

「確かにBETAの脅威が完全に払拭されていないのは判った。戦術機に関する予算は認めよう。
 だが他の兵科、特に歩兵については予算を削減させてもらう。海軍も旧式艦から順次退役させてもらう」
「ですが、それではソ連への押さえが」
「米国と組む。米国もソ連の態度には怒り心頭のようだ。交渉の余地はある」

 米国という言葉にムッという顔になる一部の軍人。反米感情が如何に強いかが見て取れる。
 そんな高官達のやり取りの影でも陰謀は進められていた。将軍の権威が復活する機運を嗅ぎ取った摂家が動いたのだ。  
 彼らは小娘を引きずり降ろし、自分が将軍の地位に座ろうと蠢き始めていた。
 政治がこんなカオスな状態なのだから、アメリカが付け入る隙は幾らでもあった。かくして対日工作が活発化していく
ことになる。

558earth:2011/06/10(金) 22:31:39
あとがき
と言うわけで人類は再び争います。ついでに日本国内も大荒れです。
地球連合どころか、冷戦時代に逆戻りです(爆)。
それでは失礼します。

559earth:2011/06/11(土) 01:05:45
何か乗ってきたので書き上げてしまった第9話です。相変わらず短いですが(笑)。


   未来人の多元世界見聞録 第9話


 連休明けテストに備えて、耕平は裏技で勉強に必要な電子データをゲーム世界に持ち込んで勉強していた。
 ゲーム世界は現実世界と時間の流れが違うので、ゲーム世界でなら時間に余裕を持って勉強できるのだ。
この様子をモニター越しに見ていた朝倉は呆れてため息をついた。

『何とも夢が無いことをしていますね』

 アンドロメダの艦長席で勉強をする耕平は、メインモニターに映る朝倉の姿を一瞬見ると、すぐに問題が表示されている
端末画面のほうに視線を戻した。

「リアルあっての夢、ゲームだからな。ただでさえリアルは忙しいんだ。ここで時間をうまく使わないと。
 だいたい、この裏技やっている人間、俺だけじゃないぞ」
『ここは学習塾の自習室ですか』
「社会人のプレイヤーもいるぞ。締め切りに追われた漫画家や同人作家もいる。イベント前になったら、観艦式さら
 がらの光景(複数のプレイヤーが集まっているため)が繰り広げられる世界だってある』

 この言葉に朝倉はため息しか出ない。

「……では、報告は聞こう」

 そう言いつつも視線を向けようともしない耕平に、朝倉は呆れるものの、すぐに報告を開始した。

『現在、8つの惑星のハイヴを攻略しました。ですが残念ながら、どれも敵の中継拠点ではありませんでした』
「そうか。まぁ仕方ない。気長に待つとしよう」
『それと、これまでの作戦から得られた戦訓や、今後の戦略に関する提言をメールで回します』

 朝倉の言葉を聞いた耕平は、初めて勉強以外に興味がわいたのか、早速メールを開封して読み始める。

「なるほど。興味深い。特に対惑星兵器は必要だ……早速、工廠で必要な兵器の生産を行おう。
 あとは波動砲発射後に、無防備になる問題だな」

 耕平は原作で、地球防衛艦隊がやられた光景を思い浮かべる。その多くが波動砲発射後のことだった。

(波動砲発射後に身動きがとれない状態でやられるパターンが多い。逆に波動砲を使わない土星会戦では土方提督の
 機転もあって大勝利を得た。つまり現状では波動砲に頼るのは危険ということだろう)

560earth:2011/06/11(土) 01:06:29
 しかし波動砲の火力は必要だった。耕平は第6世界では有数のプレイヤーではあるが、時たま現れる上位世界の
プレイヤーと戦うのは大変だった。故に波動砲の一斉発射は防衛側の戦術として棄てがたい。

「……艦隊を危険に晒さないようにするには超アウトレンジ攻撃が必要になるかも知れないな」

 耕平が脳裏に浮かべたのは、ガトランティス帝国軍が使っていた火炎直撃砲だった。

「瞬間エネルギー位相装置を作って、一部の艦の波動砲と連動して長遠距離から発射という戦術が使えるか?
 あとは波動エンジンを暴走させた大型無人戦艦でも位相装置で送り込んで自爆させるというのも良いかも知れない」

 無人兵器ばかりなので、耕平は普通は使えないような戦術を口にする。 

「あとは波動砲の機能をオミットした戦艦だな。波動砲の変わりに防御装置を満載しておけば、波動砲搭載艦の盾に
 なるし、砲撃戦でも打たれ強い艦は役に立つ」

 戦艦を護衛する戦艦というのも変な話であったが、モデラーの血が騒ぐのか、耕平のテンションが上がる。

「必要な消耗品はすぐに送る。あと勉強が終ったら、すぐに新兵器の製作に取り掛かるから」
『……まぁ頑張ってください』
 
 脱力したような顔で朝倉は通信を切った。
 
「さて勉強勉強」

 勉強後の楽しみを夢想して笑みを浮かべながら、耕平は勉学に勤しんだ。
 ちなみにこの時、耕平はマブラヴ人類の様子に関心を払っていなかった。何しろあれだけ色々と刺激したにも関わらず
内輪もめに力を注いでいるのを見ていれば飽きるのは当然だった。

(ソ連軍がどんな変態的な進化を遂げるかは興味がわくけど、一々チェックしようって気にはならないな)

 しかし完全に無視はしない。新型戦術機登場に備えて情報の収集は怠っていない。
 
(宇宙空母や宇宙用戦術機、はやくでないかな〜)

 今や、耕平にとってマブラヴ人類は遠い星のマイナー玩具メーカー程度の存在だった。

561earth:2011/06/11(土) 01:08:03
 連休が明け、耕平がログアウトしてマブラヴ人類への干渉が等閑になったころ、地球の様子はさらに緊迫した
ものとなった。
 西暦2000年1月、コーカサスに建設されていたソ連のG元素関連施設が突然大爆発を引き起こしたのだ。 
それも通常の爆発ではなく、ムアコック・レヒテ機関が暴走したときのもの、つまり超臨界反応による爆発だった。
 この大爆発によって広範囲に重力異常が発生することになる。
 だが問題はそれではなかった。ソ連政府が威信をもって進めていたG元素の研究が文字通り水泡と帰したのだ。
折角、着陸ユニットから採取した貴重なサンプルも、ソ連最高の科学者、技術者も何もかもが消滅したのだ。
 これはソ連政府にとって致命的とも言える大打撃であった。そしてソ連政府は自分達への責任追求を回避するために
この研究施設の爆発を、アメリカの陰謀だと主張した。

「忌々しい帝国主義者は、我々の研究施設へ破壊工作を仕掛けた。これを見過ごすことはできない!」

 真犯人扱いされたアメリカ政府は勿論、激怒した。

「こんな横暴な間借り人は見たことが無い!」

 米国議会ではアラスカの即時返還を求める動きが加速した。BETAがいなくなった今、共産主義者を領内に
留めておく理由は何一つない。
 まして恩人であるはずの米国に濡れ衣を被せてくるような輩に手加減は無用……そんな意見が米国を支配した。
 ホワイトハウスでは連日、この問題にどう対処するかで会議が開かれていた。  

「この爆発に我が国の情報員は関与していないのだな?」

 大統領の言葉に、CIAとDIAの責任者達は一様に頷く。
 実際、彼らは情報収集は行っていたが、破壊工作までは現状ではするつもりはなかった。現場が暴走した可能性は
否定できなかったが……何もかも吹き飛んだ今、それを知ることはできない。

「やはり事故なのでは?」
「ふん。ロシア人にムアコック・レヒテ機関ができるわけがない。我々だってG弾を開発するのにどれだけの手間と
 時間が掛かったことか」

 ソ連を嘲笑する男達。 

「だがこれでソ連の優位は消えました。反米の国々も旗頭を失い失速するでしょう」
「そうだな。これで我が国主導の世界が構築できる。万が一の備えとして宇宙艦隊の編成も進んでいる。今回の
 ように着陸ユニットの落着を許すこともないだろう」
「あとは、例の謎の異星人Xですな」
「今のところは大人しい。だが万が一への備えは必要だ。G弾さえ比較にならない大破壊兵器を無警告で地上に
 撃ち込む連中だからな」

 BETAを排除してくれたのは確かに有難かった。だが無警告で一方的に宙対地爆撃をしかけた存在を米国は
信用できなかった。故に宇宙軍の強化も欠かせなかった。
 勿論、宇宙軍の強化を行う事で地上を威圧し、仮初の平和を維持することで米国主導の秩序と米国兵士の命を
守ろうとも考えていたが。

「何はともあれ、我が国の時代だな」

 しかし、彼らの余裕はすぐに打ち崩されることになる。

562earth:2011/06/11(土) 01:09:37
あとがき
というわけでソ連政府の短い夢は終りました。
次回、地球情勢はさらに悪くなるでしょう。主人公が情報を確認したら
頭を抱えるか、呆れるか、大笑いするか……。
それでは失礼します。

563earth:2011/06/11(土) 11:18:25
第10話をUPします。


  未来人の多元世界見聞録 第10話

  
 ソ連が事実上失墜したのを見たアメリカは、自国の力の象徴として宇宙軍の強化に邁進した。
 移民船だった巨大宇宙船を巨大な宇宙戦闘艦に設計変更し建造を進め、宇宙艦隊が活動できる場所として大規模な
宇宙港をラグランジュポイントに建設しつつあった。さらにG弾を全周地球防衛核投射衛星アーテミシーズに配備する
など、圧倒的な国力に物を言わせて宇宙軍の強化を進めた。
 そしてこの強化されつつある宇宙軍を背景にして、米国は月奪還を目的としたAL6を国連に提出する。

「今こそ、BETAを地球圏から一掃するときだ!」

 米国大使の言葉に、ソ連大使は苦虫を噛み潰したような顔をするが、積極的な反論はしなかった。他の国も似たような 
ものであり、最終的にAL6は承認された。
 そんなマブラヴ人類の動きに対抗するかのように、2000年3月3日、月面のハイヴから再び多数の着陸ユニットが
打ち出される。

「性懲りも無いことを」

 米軍人達は嘲りつつ、迎撃を開始する。だが嘲りはすぐに驚愕に変わった。

「着陸ユニットからレーザー照射が!」
「何だと?!」

 着陸ユニット表面に張り付いた光線種が次々に核投射プラットフォーム・スペースワンから放たれた核を迎撃したのだ。

「全ての着陸ユニット、地球に向かっています!」
「こうなったらG弾が頼みか……」

 祈り思いで司令部の高官たちが戦況を写すモニターを見つめる中、最終防衛線であるアーテミシーズが迎撃を開始する。
 超臨界前までラザフォ−ド場を展開しているG弾を着陸ユニットから放たれるレーザーで撃ち落すことはできなかった。
 米国が配備したG弾によってユニットの大半が撃ち落され、さらにG弾にレーザー照射が集中した隙を掻い潜るかのように
核ミサイルが命中し、残った着陸ユニットも軌道を逸れていく。 
 だが1つだけ、地球に落着したユニットがあった。それも面倒な場所に。 

「BETAの着陸ユニットが防衛線を突破。降下地点は……中国東北部、旧長春です!」

564earth:2011/06/11(土) 11:21:20
 落着した着陸ユニットを確保するべく、ソ連は中華人民共和国と共同で旧長春周辺に大軍を差し向けた。
 前回の着陸ユニット確保で甚大な被害が出たソ連軍からすれば、乾ききった雑巾をさらに絞るような所業であったが
再び着陸ユニットを確保するという誘惑には逆らえなかった。
 一方、米国もこれを座視しない。台湾の国民党政府を中華の正統政府として後押しして進撃したのだ。加えて国連にも
手を回して中ソによる着陸ユニット独占を妨害する。
 
「着陸ユニットは国連によって管理されるべきだ!」

 AL6を主導し、事実上、国連を動かしているアメリカの言葉に対して中ソ両国は猛反発する。

「あそこは我が国の領土だ。米軍、台湾軍には速やかに退去していただきたい!」
「着陸ユニットはハイヴではない。協定の規約違反では無い!」

 不介入を主張する中ソに対して米国は圧倒的と言っても良い宇宙軍を背景にして譲歩を迫った。
 移民船改造の宇宙戦闘艦こそ完成していなかったが、軌道艦隊は質、量ともに国連宇宙総軍と戦えるものだった。
この圧倒的な武力を背景にされたら、普通は譲歩せざるを得ない。
 だが長春を包囲した米台連合軍と中ソ同盟軍の一部部隊による偶発的な戦闘が発生すると、中ソはますます態度を硬化
させた。
 ここで譲歩すればソ連の威信は完全に消え去るし、国民党が大陸に橋頭堡を築くことを許すことになりかねない。そして
それを許せば現指導部は失脚するだろう。独裁国家における失脚は、大抵、自身の死を意味する。故に指導部は必死だった。
 中ソが強硬姿勢を崩さないのを見て、米国もまた強硬姿勢を強くする。

「あの恩知らず供に、甘い顔をする必要は無い!」

 米世論はそう激昂し、さらに軌道艦隊を出撃させる。地上でも宇宙でも2つの勢力がにらみ合い、世界は最終戦争
5分前という状況になった。
 英仏などEU諸国による必死の調停が行われたが、両者とも聞く耳を持たなかった。
 そんな中、日本帝国では米国に味方するべきと主張する政府と、大東亜連合諸国と協力して第三勢力として動く
べきだと主張する軍部が対立していた。日米安全保障条約こそ破棄されていないが、軍内部の反米感情は強かったのだ。

565earth:2011/06/11(土) 11:22:01
 この動きにソ連は付け入った。軍の反米派を煽りたて、クーデターを唆したのだ。
 米軍の後方に位置する日本が騒乱状態となれば、米軍の作戦を妨害できると判断したのだ。
 この時、復興の遅れによって苦しい生活を余儀なくされている身内や知り合いを持つ将兵は、国体を変えて将軍中心の国家とする
ことによって復興と日本の国威回復がなされると考えた。このためソ連は不満分子を煽りやすかった。
 
「このままでは日本は米国の属国に成り下がってしまう!」

 光州事件で遺恨がある者たち、それに(自分達の考えで)国家を憂う者たちが集結し始める。さらにこれに軍事予算削減と
本土防衛軍縮小を図る政府に危機感を持つ軍部、そして現将軍である煌武院悠陽を引き摺り下ろそうとする摂家の一部が加わった。

「小娘にはこの際、退場してもらおう」

 勿論、この不穏な動きを察知できないほど煌武院家は無能ではない。彼らは自分達を引きずり落そうと目論む摂家の動きを
察知し、悠陽の身辺警護に力を入れていた。

「俗物供が!」

 悠陽に使える月詠真耶は、一連の動きを見てはき棄てた。そこには敬愛する主を引きずり落そうとする輩への嫌悪、そして
この国難のときに権力闘争に現を抜かす馬鹿者への侮蔑が含まれていた。
 悠陽もまた、一連の動きに心を痛めていた。

「そのように将軍の地位が欲しいのなら、何故、私が将軍の座に座るのを許したのですか……」

 しかし嘆いてばかりはいられない。彼女達は彼女達なりに日本のため、そして自分達が生き残るために動いた。
 この動きを絶好の好機と見たのは米国政府だった。親米政権樹立のために陰謀を進めていた彼らは、カウンターで一気に
反米勢力の中核である帝国軍を叩くことを目論んだ。
 BETAの脅威がなくなった今、多少帝国軍を叩いても問題はなかった。むしろ極東の不安定要素になりかねない反米
勢力を叩くことのほうが重要と考えたのだ。
 米国は空母部隊を訓練の名目で日本近海に展開させ、さらに中国大陸情勢に備えるためとの名目で在日米軍の増強にも
踏み切った。
 そして6月6日、運命の日を迎えることになる。

566earth:2011/06/11(土) 11:22:36
 この日、開かれた御前会議の席において政府は対米追従路線を奏上した。
 これを悠陽が認めたことで、反米派が暴発したのだ。さらに将軍が奸臣によって騙されているとして、沙霧尚哉大尉が
一派も挙兵。国土防衛軍首脳部さえ同調し、大規模なクーデターが起こった。これによって榊首相をはじめ多くの閣僚が
殺害されてしまう。
 米軍のリークや特殊部隊、そして鎧衣課長の活躍によって何とか悠陽は難を逃れたものの、摂家が新たな将軍を擁立する
や否や、正統政府の地位を巡って内戦状態となった。
 東京を脱出し、仙台に臨時首都を置く悠陽に対して米国は最大限の支援を表明した。

「悪人達に祖国を追われそうな悲劇のプリンセスを救え!」
 
 反米派の軍人に追われる美少女将軍を助ける……それは、何ともアメリカ人が好きそうなシチュエーションであった。
 実際、悠陽は美少女であった。このためナイト気取りの米国民は仙台の臨時政府を支持する政府を賞賛した。
 さらに悪逆非道の限りを尽くすソ連軍を自国領内に留めることはできないとして、アラスカの租借地を完全に包囲。
いつでも制圧できる体制を整えた。
 一方でクーデター軍は反米機運の強い大東亜連邦、そして本来は仇敵であったはずの中ソに連絡をとって自分達の
正当性を認めさせようとした。
 勿論、中ソはただちに日本帝国の新政権を容認した。ソ連軍はただちに日本政府支援のためとして北から臨時政府へ
軍事的圧力を掛ける。
 こうして日本は事実上分断された。

「……折角、BETAが居なくなったのに、今度は人類同士で、それも日本人同士で争うのかよ」

 TVニュースを見ながら、武は呻く。
 だが彼が呻いたところで情勢は変わらない。いやむしろ情勢は多くの一般人の嘆きを他所にさらに悪化していく。 
 西暦2000年7月1日、日に日に増強される米軍に恐れをなしたソ連軍は、一発逆転をかけて先制核攻撃を開始したのだ。
G弾、核戦力ともに上の米軍に対抗するには先制攻撃しかない……そう考えた末の信じ難い愚行だった。
 勿論、米軍が黙っているわけがなかった。彼らは軌道艦隊を総動員してソ連領への攻撃を開始する。核兵器に加えて多数の
G弾がソ連軍に向けて投下された。
 お互い、着陸ユニットそっちのけで大量破壊兵器を応酬。この結果、ソ連と中華人民共和国は国家として消滅。米国も多大な
被害を被ることになった。さらに大量の核兵器の応酬によって死の灰が各地に降り注いだ。
 そして人類が内ゲバに励む傍らで、着陸ユニットは再びハイヴを地上に築き上げることに成功する。
 それは第二次BETA大戦の始まりを意味していた。

567earth:2011/06/11(土) 11:24:35
あとがき
というわけで第三次世界大戦、そして第二次BETA大戦の始まりでした。
救いようがない世界です(爆)。
人類、もう詰んでいるとしか……それでは失礼しました。

568earth:2011/06/11(土) 20:45:39
短めですが第11話を投下します。

 未来人の多元世界見聞録 第11話

 
 テストが無事に終わり、自己採点の結果、満足の行く出来だったことに安堵した耕平は久しぶりにゲームにログインした。
 
「さて、テストも終ったし、バイトで金も貯めてある。この疲れを癒すために新しい工廠を買って新型艦や新兵器を作るぞ」

 このゲームでは保有できる艦隊の規模は工廠の数に影響される。
 何しろゲーム世界(人工宇宙)で作ったとはいえ、実物の宇宙戦艦なのだ。その整備には細心の注意が必要だ。 
 このためプレイヤーは工廠の整備能力を超える数の宇宙船を整備できないとされている。現状でさらに新たな宇宙戦艦を
多数建造したければ、既存の艦を廃棄するしかない。
 しかしそんなことをするつもりは耕平にはさらさらなかった。
 
「親に棄てられる心配がないコレクションを、自分で棄てるか!」

 1000年前の前世で、勝手にコレクションを棄てられたことを未だに根に持っているのか、まずゲームで使うことは
ないであろう艦隊(例:ガンダムのバーミンガム級戦艦、マゼラン級戦艦、サラミス級巡洋艦で構成される連邦艦隊)を
いまだに後生大事に保管している。
 実際、アンドロメダが収容されている本拠地(人工惑星)のドックには多種多様な艦船が収容されている。滅多に使わない
ものはそのまま置物だが、他のプレイヤーとも戦える艦(ヤマト、マクロス、Rシリーズ等)は損傷している艦もあり、ドック 
では補修工事の音が鳴り響いている。

「さて、次はどんな工廠を買うか。連休中に頑張って稼いだからな……やっぱり、超大型の工廠を買うか」  

 鼻歌を歌いつつ、アンドロメダの艦長席でカタログを広げる耕平。そして財布の中身と相談した後、新しい工廠を購入する。
 
「あとは新兵器開発だな」

 対惑星兵器として耕平は量産が効き、使い勝手もよいジオイド弾を選んだ。数が多いBETAに対抗するには、ある程度
数が必要だった。加えて波動砲の改造、さらに波動砲搭載型戦艦を護衛・サポートするための純砲戦用戦艦の開発に取り掛かる。 

「あと復活編で出たバリアミサイルでも作るか。波動砲非搭載戦艦に装備させて、イザとなったら盾に出来る。
 たとえ波動砲発射直後に艦隊の動きが鈍くなっても、艦隊を覆うくらいのバリアを一時的に展開すれば体勢は立て直せる。
 ……って、報告をみるのを忘れてた」

 そして2通のメールを読む耕平。1通目の地球情勢に関する報告を読み終えた直後、彼は大笑いした。

「ははは、何だ、この火葬戦記は! いや出来の悪いSFか!」

 あ〜笑えると言って2通目のメール、長門からの報告を読む。最初はニヤニヤとしていたが読み進めるにつれて彼は
自身の表情が硬くなるのが判った。

「あり得ない。そんなことが起こりえるはずが無い」

569earth:2011/06/11(土) 20:46:55
 耕平を呻かせる出来事が起こったのは、耕平がログインする前日のことだった。
 長門艦隊は与えられた任務に従って、BETAの殲滅、そして情報収集に当たっていた。無双と言うのも生ぬるい一方的な
殲滅戦を行っていたこの艦隊は、不自然な空間を発見した。勿論、見ただけでは判らない。だが艦隊の電子機器は空間の異常
を捉えていた。

「別のプレイヤーでもいるのかしら? こんなところに別位相空間があるなんて」
 
 戦艦長門の艦橋で、朝倉は首をかしげる。

「それもかなりの広範囲。これだけの空間を展開するのは膨大なエネルギーが要る」

 このゲームでは別位相の空間を設置する技術も存在する。これを使えば同一座標でも色々な空間を設置できる。 
 耕平が第8世界に続く回廊をカモフラージュしているのも、この空間制御技術だ。しかし制御機構が大きすぎ、必要な
エネルギーも膨大なので普通の宇宙船に搭載するのがほぼ不可能なのがネックだった。

「惑星サイズの機動要塞、または恒星にエネルギー源でも置いているのかしら?」
「可能性はある」
「ということは、ここから先の空間は敵地ってこともあるわね。パトロール艦を先行させる?」

 この言葉に長門はすかさず頷く。 

「それじゃあ、本隊はここで警戒待機。パトロール艦を斥候に」 
 
 こうしてパトロール艦4隻(艦名P204、P206、P207、P208)が本来の空間に入り込んだ。
 4隻のパトロール艦は1隻ずつに分かれて慎重に周囲を索敵しつつ、内部の空間を調査した。 

「……ほぼ1つの星系をすっぽり包む位相空間とはね。よっぽど隠したい何かがあるってことかしら。
 これはBETA探索どころじゃないかも知れないわね」
「……BETAよりも脅威となる可能性があるものが発見された以上、仕方ない」 

 調査の結果、この特殊な星系の中にもさらに別位相の世界が作られていることが判った。
 
「空間内部にさらに空間。何がしたかったのかしら? 空間の迷宮でも作るつもりだったの?」

 だがこのあと、2人をさらに驚かせることが起こる。

570earth:2011/06/11(土) 20:47:38
「あれは船?」
「少なくともゲーム内の船ではない。敵味方識別装置には反応がない」

 だがメインモニターに映し出される船が、別の異相次元に向かっていく光景を見て2人は驚く。

「ということはNPCの文明ってこと。凄いわね。NPCで限定的にとはいえ、宇宙空間で活動して、さらに
 位相の違う空間への航行が可能な艦を作るなんて」
「しかし彼らはこの恒星系から外に出たことがない。恐らく位相空間を渡ることのみに特化していると考えられる」
「何とも夢が無いわね。うまくすれば宇宙進出だって出来るのに」
「しかしNPCが力を付けすぎれば、管理会社が動く。それを考えれば結果として賢明な判断」

 しかしそうこうしている内に、パトロール艦P204がNPC(?)の文明に発見されたのか、巡航艦らしき
白い艦が向かってくる。

「発見されたようね」
「撤収する」

 引き上げていくP204。恒星間航行さえ可能な艦に、白い艦は追随できない。
 勿論、様々なチャンネルで停船を命じる通信が入るが、それに従う必要はなかった。

「無事に引き離せたようね」

 朝倉はほっとした。何しろ、もしも向こうがパトロール艦を容易に捕捉・撃沈できる勢力となると、大規模戦闘になる
可能性もある。下手をすれば耕平の本隊に応援を要請する必要があったからだ。
 
「それにしても、あの船の所属が『時空管理局』か……どんな組織なのかしら?」
「軍隊かそれとも警察機構か。調査は必要。ステルス艦の派遣を要請する」

 2人からすれば、単なる1NPC勢力との遭遇だった。だが耕平からすれば、それは信じがたいものだった。

「……マブラヴの次は時空管理局、いやリリカルなのは? 本当にNPCが実力で作った文明なのか?
 まさか俺みたいなプレイヤーがこの世界に潜んでいるとかはないよな? それとも何かのドッキリか?」
  
 耕平は第8世界に関してBETAや珪素生命体の調査、そして資源の開発だけ考えるのは危険と考え、第8世界に駐留する
艦隊を増強することにした。それは第6世界での兵力が減少することを意味している。
 
「戦略の抜本的見直しが必要だな。それに……色々と調べてみるか」

 こうして耕平は自軍の再編成に着手することになる。

571earth:2011/06/11(土) 20:50:02
あとがき
何故『多元世界』なのかは、今後明らかになります。
尤もそこまで引っ張るつもりもありませんが(爆)。

572earth:2011/06/12(日) 11:48:10
第12話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第12話


 自軍の再編に着手することを決意した主人公だったが、大規模な再編成に取り掛かる前にやることがあった。

「とりあえず、マブラヴ人類の救援か」
 
 耕平はとりあえずマブラブ人類救援のために地球派遣艦隊を編成することにした。現状では可能性は限りなく低いが、
ループ現象が起きるようなことがあったら面白くない。それに……この世界について詳しく調査する必要があった。
そのためには現状で人類が滅亡するのは好ましくない。
 だが現状ではBETAを駆除するだけで事足りるかが判らない。

「地球と人類について詳しく調査するために、あの人類が完全に滅ぶのは避けないと。でもBETAの駆除だけ何とか
 なるかな? 何しろ環境の破壊が酷すぎる」

 アメリカは何とか国を維持しているものの、主要都市のいくつかが核で吹き飛ばされている。さらに核爆発で発生した
電子パルスによって各地の都市機能に甚大な影響が出ていた。
 日本に至っては西日本が焦土。さらに内戦と核戦争で経済が完全に破綻している。さらに大陸からは死の灰が流れて
きており、滅亡寸前だ。おまけに国のすぐ横にオリジナルハイヴができたというオマケ付き。
 中ソに至っては放射能汚染と重力異常で自力での国家再建はまず不可能と考えられた。 

「人類同士の戦争だったためか、AL5より使われたG弾が少ない。おかげでユーラシア水没なんてことはなかったけど
 重力異常で地殻変動は起こっているようだし……しかし仮に環境を修復すると言ってもそれ専用の工廠がいるからな」

 端的に言うと惑星環境改造用の工廠を買う金がない。これに尽きる。 

「……ま、中古品を買うか、譲り受けるにしても、問題はあの人類が支援を受け入れるかだな。それに下手をしたら支援を
 巡ってまた内ゲバするかも知れないし。細かく関わるとなると面倒な交渉になる。全く」
 
 だがここで色々考えても状況は変わらない。取りあえずBETAを駆除するのが先だった。 

「まぁ良い。戦艦『蝦夷』『越後』、巡洋艦2隻、駆逐艦6隻を護衛につけて宙対地爆撃部隊(デスラー艦と輸送船団)と
 ついでに太陽系内外の資源開発をするの工作艦を送ろう。何しろ第8世界はかなり物騒かも知れないから、開発できる
 資源地帯はさっさと開発したほうが良い」

 前回よりも小規模であるものの、再び艦隊が第8世界の地球に向かう。
 かくして地球と月のBETAは滅亡を宣告された。

573earth:2011/06/12(日) 11:48:48
「あとは長門艦隊だな。時空管理局がある以上、他の組織が潜んでいる可能性は否定できない。
 取りあえずは亜空間潜行が可能な次元潜航艇10隻を送る。あと打撃力不足を補うために艦隊の梃入れも必要だな」

 耕平は取りあえず送ることができる艦艇のリストを眺める。そして暫くして決断する。

「アンドロメダ級3番艦『アルテミス』、主力戦艦4隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻、それに新型戦闘空母の
 『天城』、『葛城』。パトロール艦8隻。それに地上制圧用の地上部隊も連れて行けば十分だろう。
 あとは……第二の前線基地を建設するための工作艦も送ろう。大規模な整備補修ができる拠点も要るだろうし」

 十分というか、「お前はどこの星間国家と戦争するつもりだ?」と聞かれそうな増援であった。
 この梃入れによって長門艦隊は戦略指揮戦艦(アンドロメダ級)1隻、主力戦艦7隻、戦闘空母3隻、巡洋艦10隻を
中核とする大艦隊になる。この大艦隊に加え、今後建設する前線基地の指揮権も長門は委ねられる。  

「これなら問題はないだろう」

 耕平はすぐに増援を送ることを長門達に伝えた。 
 勿論、伝えられた側は、この大盤振る舞いに驚愕した。

「戦略指揮戦艦まで回すとは……総司令も随分気前がいいわね」

 戦艦長門の環境で朝倉は驚いた。

「それだけNPCの文明に驚いたのかも知れない」
「それにしても過剰反応のような気もするけど」
「何か考えがあるのかも知れない」
「何も考えていないんじゃない? まぁ手持ちの戦力が増えるのは良い事だから反対はしないけど」

 随分と酷い言われようであったが、これまでの経緯を考えると仕方が無いと言えた。

「まぁ取りあえず、時空管理局の調査のために次元潜航艇を潜入させつつ、周辺宙域のBETA探索も進めないとね」

574earth:2011/06/12(日) 11:49:19
 地球に向けて艦隊が向かっている頃、マブラヴ人類の状況は悪化の一途を辿っていた。
 長春に築かれたオリジナルハイヴからは次々にBETAが吐き出され、周辺に新たなハイヴを建設していた。 
朝鮮半島は再びBETAに蹂躙され、ソウルに第二のハイヴが建設された。これを阻止する戦力は人類にはなかった。
 仙台の臨時政府は、状況を打開するべくアメリカ、EU、オーストラリアに軍事支援を要請したが、そのどれもが梨の礫
であった。  

「そうですか、EUも」

 仙台の臨時御所で報告を聞いた悠陽はため息を漏らした。
 側近の月詠真耶は悔しそうな顔で俯く。 

「はい。一連の戦争で、EUも少なくない影響を受けており増援は難しいと。ですが我々仙台政府を正統政府と認め
 今後も物資の支援なら継続したいと」  

 しかし物資の支援と言ってもかつて米国が行っていたほどのものではない。
 津波のように迫り来るBETAの波の前には、殆ど意味が無いレベルのものだ。だがそれでも仙台政府が統治している
地域の住民にある程度の施しは出来る。

「政府は、日本本土陥落に備えて、オーストラリアに亡命政府を立てる計画を練っています」
「……もう無理なのでしょうか」
「……」

 真耶は答えない。だがそれが答えだった。
 現状では日本は助からない。BETAによって滅ぼされるか、環境汚染によって滅ぶか、それとも内ゲバによって滅ぶかの
どれかだった。
 悠陽は憂鬱な顔で俯く。そしてその憂鬱な表情を晴らす術を真耶は持ち合わせていなかった。
 しかし悠陽以上にクーデター軍は憂鬱だった。国際的に孤立し、さらに西からはBETA、北には臨時政府。
八方塞とはこのことだった。連日、責任を擦り付ける怒号が会議室から響いていた。

575earth:2011/06/12(日) 11:49:54
(このような俗物どもと同一視されるとは……)

 クーデターに一役買った沙霧尚哉少佐(昇進した)は、会議室で行われる上層部の醜態を見て歯噛みする。
 しかしどうにもならない。上層部は完全に内輪もめに収支しており、彼一人が何か言っても変わらない。

(我々が倒すべきだったのは、むしろ政府ではなく、この男達だったのでは?)

 そんな考えに囚われる沙霧。だが沙霧以上にクーデター軍上層部を民衆は恨んでいた。

「日本人同士で争って、この始末かよ」

 食糧の配給を受けるために長い列に並ぶ武は、思わず呟いた。
 クーデターが起こってから、民衆の生活は苦しくなる一方だった。仙台政府が統治している東北は、諸外国の支援で
食い物や医薬品があると噂がながれ、北に逃げる人間が後を絶えない。さらにBETAが西からまた迫っているとの
情報が、人々を絶望させていた。 

「……異星人も呆れているだろうな」

 ため息をつく武。だが彼の受難は終らない。クーデター軍は兵力不足を補うためとして徴兵を開始し、彼は強引に
クーデター軍に参加させられる。そして迫り来るBETAへの盾(もとい捨て駒)として西に配備されることになる。
それも戦術機乗りとしてではなく歩兵として。

576earth:2011/06/12(日) 11:51:30
あとがき
と言うわけで再び地球派遣艦隊出撃です。
尤も復興支援をどうするかはまだ未定ですけど(爆)。
あと武ちゃんが歩兵になってしまいました(笑)。
それでは失礼します。

577earth:2011/06/12(日) 19:32:52
非常に短めです。耕平の自軍再編に関する第13話です。
というか閑話に近いです。


 未来人の多元世界見聞録 第13話

 取りあえず地球派遣艦隊と長門艦隊への増援部隊を送り出した耕平は、自軍再編を開始した。

「Rシリーズ、ヤマト、マクロス、スパロボシリーズの機体や艦とかゴチャゴチャだからな……この際、多少は統一した
 ほうが良いな」

 戦争よりも実物大プラモの製作に力を入れてきたため、耕平の軍は、スパロボのようにごちゃ混ぜ状態だった。
 確かに見た目的には賑やかだが、整備の問題を考えると悪夢でしかない。これが表面化しなかったのは耕平が必死に
バイトして多数の工廠を揃えて物量を確保していたためだ。効率を重視し、戦争ゲームに注力していれば第6世界を
制覇するどころか、第3世界に参戦するくらいは出来ただろう。まぁ参戦したとしても戦略や戦術の差で劣勢を強い
られるのは間違いないだろうが。

「性能的にはRシリーズが良いんだが、コストが高いんだよな。特にR戦闘機とか……戦闘機で波動砲バンバン撃てる
 上に機動力とかの他の性能も化物クラスの機体だから仕方ないけど」

 R戦闘機を本格的に量産するのは、ギ○ンの野望でガンダムをジム並みに量産するのに等しい。
 現状でも量産しているが、全軍に配備できるほどの数は生産できなかった。

「まぁあんな強力な戦闘機をバンバン作ったら第三次汎次元大戦の二の舞だからな」

 第三次汎次元大戦ではR戦闘機、或いはそれを凌駕する化物が大量に、文字通り雲霞のごとく動員された。
 勿論、大量破壊兵器も空間そのものを破壊する凶悪なものが多数投じられた。この結果、第8世界は壊滅したのだ。
 故に同じことがないように、兵器にはある程度制限が付いたし、化物じみた機体については生産コストが引き上げ
られた。

「ということは、R戦闘機の廉価版みたいな機体を量産するのが良いってことか。
 ふむ。Rシリーズの技術をヤマトのコスモタイガー、マクロスのヴァルキリーとかに転用してみるか。
 MSも強化できたら、色々と使えるだろうし」

 オリジナル兵器を構想する耕平。

578earth:2011/06/12(日) 19:34:37
「あとは軍艦も少しずつ統一しよう。取りあえず、比較的使い勝手と量産が効くヤマトシリーズの艦を改造した
 艦を中核として艦隊を編成しよう。使い勝手がよくない艦は……心苦しいが廃却だな」

 苦い顔でコレクションを棄てる決断をする。勿論、内心では第8世界の問題が解決するまでの我慢と自分に
言い聞かせていたが(笑)。 

「手持ちの艦隊を25個艦隊に再編。うち5個艦隊(長門艦隊含む)を第8世界方面に振り当てて、残りの艦隊を
 第6世界の防衛に当てよう。防衛を主眼とすれば、20個艦隊あれば十分に戦線は維持できる」

 これに加えて耕平はAIによる参謀本部の本格的な立ち上げを決める。 

「AI、アンドロイドを効率的に運用していけば、二正面作戦になっても耐えられるはずだ」

 耕平は矢継ぎ早に、自軍の再編と効率化を進める。 
 それは第6世界有数のプレイヤーであり、生産力では7世界でも上位に入るプレイヤーが本格的な戦争を
始めることに他ならなかった。

「そういえば、これまで自分の軍の名前って決めてなかったな……マブラヴ人類や時空管理局と本格的に接触した時に 
 備えて名前を考えておかないと」

 そういって暫く考えると、耕平は昔読んだ某SF小説の軍隊の名前を思い出した。

「『黒旗軍』にしよう。ある意味、この軍は既存の秩序を破壊する存在になるだろうし」

 かくして第6世界各地におかれた黒旗軍の基地や工廠が俄かに動き出す。
 耕平が支配下におく資源地帯では急ピッチで資源採掘が進められ、次々に資源が各地の工廠に運び込まれていく。
さらに生産力にものを言わせて兵器が次々に吐き出されていく。
 そして参謀本部ではAIたちが、効率の良い戦力配置、戦争計画の策定に当たる。
 マブラヴ人類が束になっても足元にも及ばない勢力が本格的に動き出そうとしていた。

579earth:2011/06/12(日) 19:37:01
あとがき
というわけで第13話でした。
オリジナル兵器については、色々と考えているのですが、憂鬱と同じように
コンペを開催するのも面白いかなと思っています。
まぁ需要がないようでしたら、こちらで決めたいと思います。
……そろそろ憂鬱本編も進めないと拙いかな(汗)。

581earth:2011/06/13(月) 23:24:22
内容的に13話の続きの第14話です。

  未来人の多元世界見聞録 第14話


 組織編制を済ませた耕平は、すぐに既存兵器の改造、新兵器の開発に取り掛かる。
 まずはゲーム会社から多数の工廠を買ったことで溜りに溜まったポイントで、レアアイテムを手に入れる。

「これで強制波動装甲が生産できる」

 強制波動装甲とは、艦が受けたダメージをエネルギーに変換して蓄えることができる装甲だ。そのエネルギーを
利用することもできるし、イザとなったら放出することも出来る。
 勿論、限界以上の攻撃を受ければ装甲は破壊されるが、アンドロメダ級がこの装甲を装備すれば波動砲の直撃でも
受けない限り、轟沈することはなくなる。空間磁力メッキと合わせれば、まさにアンドロメダは不沈戦艦となる。
 かなりチートなアイテムなので、手に入りにくいのだが、耕平の溜りに溜まったポイント、そして珍しく幸運の
女神が微笑んだのか何とか手に入れることが出来た。
 しかし便利そうに見えて、この装甲を装備できるのは巡洋艦以上の艦艇に限られる。このため小型艦の消耗には
注意しなければならない。

「これに……フォースを組み合わせて、波動エンジン出力を強化だな。あとは亜空間潜行も可能にする。
 艦隊ごと亜空間を航行して、敵の背後をつければ一気に蹴りをつけられるからな」

 そういって耕平は工廠の端末に必要事項を入力していく。
 尤もRシリーズなみに自在に亜空間に潜る能力は与えられないので、使うとしたら奇襲や撤退などに限られることに   
なる。

「あとは直撃波動砲だな」

 白色彗星帝国軍が使っていた火炎直撃砲を参考にして製作しているのが、この直撃波動砲だ。
 瞬間エネルギー位相装置によって、発射された波動砲を遠く離れた場所にいる敵艦隊に直接撃ち込むというチート兵器
だった。これを使えば波動砲の射程は最大で倍になる。 

「手始めに、アンドロメダ級戦艦に装備していこう。成績がよければ順次、他の戦艦にも装備させればいいし」

 勿論、攻撃兵装だけを強化するつもりは耕平には無い。射撃管制装置を新型に換装し、バリアミサイルなどの防御兵器
の配備も進める。
 他のプレイヤーが聞けば「お前は第1〜第3世界に喧嘩でも売りに行く気か?」と聞かれそうな強化を行う耕平。
だが軍の強化はこれだけでは終らない。




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