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没作品投下スレ

1名無しさん:2006/12/07(木) 19:10:22
キャラが被ったり、様々な理由で没になったSSの供養場です。
SSの一時投下も承っております。

2風月花:2006/12/07(木) 22:20:45
 月下の森を突風が吹き抜けた。
 否。それは風ではない。
 吹き抜けたそれの正体は凛とした少女。
 束ねた髪を風に靡かせながら、甲冑に身を包んだ少女は行く。
 彼女こそヴォルケンリッターの将、シグナムである。
 飛ぶが如く木々の間をすり抜ける様はまさに疾風。
 人知を超えたその速度は、誰も追いつけはしないだろう。

 全力で駆け抜ける彼女の思考は一つ。
 一刻も早く主はやてのもとへ駆けつけ、彼女を守る。
 それが守護騎士ヴォルケンリッターたる彼女の使命。
 否。使命などなくとも、彼女の思いは変わりはしないだろう。
 脳裏に首を飛ばされた少女が浮かぶ。
 その姿が己が主と重なり、それが一層シグナムの焦燥を募らせる。
 シグナムは前だけを見つめながら、居場所の知れぬ主を求めひたすら駆ける。

「ふむ。そのような形相では美しい顔が台無しだぞ」

 そのシグナムのすぐ後方から、涼やかな声が響いた。
 瞬間。ゾワリと背筋が凍る。

「ッ、何奴!?」

 咄嗟に足を止め、後方めがけ支給品である鉈を振るう。
 首筋へと正確に迫る一撃は、優雅ともいえる緩やかな動きで躱された。
 背後まで忍び寄られたにもかかわらず、声をかけられるまで気配を感じとれなかったとは、なんという不覚。
 空振った勢いのまま後方へと向き直る。
 敵は軽く後方に飛びこちらとの距離をとった。
 対峙して、目に付いたのは雅な着物姿。そして流麗な顔付。
 颯爽と立ち居振舞うその姿には、敵意と言うものが感じられない。
 だが、この空間で自然体過ぎるその様は、余りにも不気味。
 どこか薄ら寒い物を感じさせる。
 帯刀こそしていないが、その姿は、

「侍、か」

「なに、そのような大層な者ではない。
 私は佐々木小次郎を名乗る、ただの武芸者にすぎんさ」

 鮮やかな月を背に、その男――佐々木小次郎は歌うような声で自らを名乗る。

「……守護騎士『ヴォルケンリッター』のシグナムだ」

 こちらも騎士の儀礼に従い名を返す。

3風月花:2006/12/07(木) 22:21:17
「それで私に何用だ。悪いが先を急ぐのでな、立ち塞がると言うのなら容赦はせんぞ」

 言って、正眼に鉈を構えた。
 そして、出方を伺うように小次郎を睨み付ける。

「ふむ。見た目にたがわぬ美しい剣気だな」

 返ってきたのは楽しげな声。
 小次郎は涼やかに笑いながら、こちらの殺気を受け流す。

「なに。急ぎの所、足を止めさせたのならば。許せ。
 美しい花が目の前を過ぎるのを放って置けぬ性分でな」

「なっ、戯けたことを……ッ!」

 漂々と小次郎は軽口を叩く。
 だが、構えすら取らないその佇まいには、信じがたいほど隙がなかった。
 それだけで、この男がどれ程の手練か伺える。

「貴様。このゲームに乗って、殺し合いに興じるつもりか?」

 もし、この男がゲームに乗っていたのならば危険だ。
 この男が主はやての命を脅かす存在ならば、この場で切り捨てる。
 明確な敵意を持って、鉈を握った手に力を込める。
 だが、こちらの殺気も意に介さず、平然と小次郎は口を開く。

「舞台に強者あらば、競い合うのが武芸者の性と言うもの。乗らぬ、とは言い切れん。
 ……だが、生憎と剣一つで生きてきた身故、空手ではそうもいかん」

 そう言って小次郎は素手を強調するように両手を開いた。
 流麗な身振りはまるで舞台役者のようだ。

「では剣を手に入れれば殺戮に走る、と?」

「戦意なき者にまで手を出そうと言う気にはならんさ。
 あくまで、剣を交えるのは心引かれた強者のみよ。
 そう。例えばシグナム、お前のような」

 初めて不変だった涼やかな表情を崩し、小次郎が眼を細める。
 僅かに放たれた剣気は抜き身の刃のようだ。

4風月花:2006/12/07(木) 22:22:54
「だが、剣の無い今は争う気はない、と?」

「……ああ、その通りだシグナム。
 まずは逸れた愛刀を捜してから、という事になる」

 口惜しげに、小次郎はそう呟き剣気を収めた。

 つまりは、弱者には手を出さなず、戦うのは強者のみ。
 その上、強者と戦うのも剣を手に入れてから。という事か。
 この物言いが本当ならば、この男がはやての脅威になる可能性は薄い。
 嘘を言っていないと言う保障は一切ないが、不思議と嘘を言っているようには感じられなかった。
 どちらにせよ、今こちらと戦う気が無いと言うのならこれ以上構っている時間はない。
 一刻も早く主はやてを探し出さねば。

「ならば私は行くぞ。去らばだ、佐々木小次郎」

 それだけの別れを告げ、小次郎を置き去りに大地を蹴りだす。

 主を捜し求める疾風は、再度木々の間を吹き抜ける。
 その途中ふと、一つだった思考に僅かな思考が混じった。
 もう出会うことはないであろう、おかしな男。
 雲のようなつかみ所なさと、抜き身の刃のような鋭さを持った男だった。
 このような舞台でなければ、剣を交え良い好敵手となれたのかもしれない。

 そう。もう出会うことはない、はずなのだが。
 気のせいか、後方を覗けば雅な侍が追ってきているのが見える。

「ッ、貴様。何故追ってくる!?
 愛刀を探すのではなかったのか!」

「なに。元より当てのない道だ。
 同じ道ならば、花を片手に行きたいというのが人情と言うものだろう?」

「なっ……!?」

 それはつまり、このまま付いてくると言うことか?
 冗談ではない。
 後方の侍を引き離そうと走る速度を上げる。
 だが、相手は平然とその速度についてくる。

5風月花:2006/12/07(木) 22:23:35
「くっ、ついてくるな……!」

「なに。私のことは気にするな。
 女狐から解放され、無粋な時と土地の縛りもないのだ。
 ゆるりと花を愛でる程度の自由は許せ」

「なにを訳のわからぬ事を……ッ。
 第一、この状況で己と戦いたがっている相手と行動を共になどできん」

「互いに全力を尽くせる状況で武芸を競うが武芸者と言うもの。
 不意を討つような野暮な真似はせぬさ。
 その精神は騎士道にも通づるものがあると思うのだが?」

「む。それは……」

 そして、何度か似たようなやり取りを繰り返した。
 どんなに食って掛かってもはぐらかされるばかり。
 その上、無理矢理引き離すこともできない。
 口から諦めにも似た溜息が漏れた。
 こうなっては諦めるしかない。

「…………もういい、好きにしろ」

「ああ。元よりそのつもりだ。
 なに。努々そちらの邪魔をせぬようには気を付けるさ」

 月下の森を突風が吹き抜けた。
 先ほどより吹き荒れる凛とした風に流麗な風が加わる。
 二つの風が誰にも追い付けぬ速さで森を駆ける。
 ただ月だけがそれを見つめていた。
 風が辿り付く先は求める先か、それとも、

【8−C 森・1日目 深夜】

【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、不明(刀の類ではない)
[思考・状況]:シグナムを追いながら物干し竿を探す

【シグナム@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:健康
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式
[思考・状況]:1.はやてを捜し護り抜く
       2.仲間との合流

6風月花:2006/12/07(木) 22:25:39
本スレに小次郎来たのでこっちも投下。

没一号!
よく見りゃ鉈も被ってらHAHAHA!

7ブラックパンサー:2006/12/07(木) 23:59:57
山の中腹、背の高い常緑樹の足元。腐葉土に埋もれるようにして彼女――
峰不二子は眼下の街を観察していた。

”支給品”である単眼鏡で街に視線を走らせる。
最初はコレが支給品だとは思わなかったが、他に目立ったものはなかったので
やはりコレが支給品なのだろう。
支給品は武器だと聞いたと思ったが、必ずしもそうではないようだ。
まぁ、しかし落胆はしない。この単眼鏡は軍用の物でかなり有用だし、なにより自分には
切れる頭に加え女という十分な武器がある。
だがしかし、実行力のある武器があるに越したことはない。
再び注意を街に向ける。
電灯一つ灯っていないが、月明かりのおかげでそれほど見るのには困りはしない。
集められた人数は80人ほど、もしそれらが均等に地図上にバラけたとするのなら
ここから見える範囲に何人か居てもおかしくはない。
もっとも、無用心にウロウロとするヤツなどいないかもしれないが、逆にいたとしたら……
それは私の獲物だ。

見つけた。口の中だけで囁く。
ここから見ても一際目立つレジャーホテル。その裏口から進入しようと試みる男。
見るからに素人。何らかの訓練を受けた人間の動きではない。
素早く土の中から身体を滑り出す。音は出さない。蛇のように。
デイバッグを脇に抱え山を転がるように降りる。速く。しなやかに。静かに……

全身を黒のツナギで被った彼女は黒豹のように静かに疾走する。

8ブラックパンサー 2/11:2006/12/08(金) 00:00:42
観察と地図の情報でここら一体の道は把握している。
あの男が入ろうとしていたホテル。次の通りを曲がればすぐだ。
男を発見してからまだ5分ほど。あの様子ならまだ扉を開けれずに往生しているはず。
通りを曲がった。音を立てないよう注意して駐車場のフェンスを跳び越す。
駐車場に止められたままの車の陰を走り、ホテルの裏口へと近づく……いた。
思ったとおり扉の鍵に四苦八苦しているようだ。無用心にガチャガチャと音を立てながら
扉に熱中している。
息を整えながら男を観察する……中年の男性、運動神経もよいようには見えない。
そうとう焦っている様だ。小心者で注意力がない。小物中の小物。獲物としては雑魚。
ついでに隠れているバンの扉に手を伸ばす。…さすがに開いているということはないか。
ん?その時何か車に違和感がした……何が、何かが変だ……
ガンッ!
一際大きな音に思考が中断される。イラついた男が扉を蹴ったらしい。

大きめに息を吸って車の陰から出る。
隠れずに普通に男の背後に歩み寄る。20m…15m…12m…10m。
ピタリ10mの位置で止まって声をかけた。
「こんばんわ」
ビクリと肩を震わせ、壁を背につくように振り替える。
「ヒッ……」
吃音が洩れる。そうとうに驚かしてしまったようだ。顔に優しい笑みを浮かべて……
「こんばんわ。あなた大丈夫?」
「オ、オォ……オ、俺か?」
「ええそうよ。落ち着いて」
「………………」
私を観察している。不審人物に用心している。だけどこのタイプの男なら……ほらもう。
「お、ぼ、ボクは野原ひろしと言います。あなたは?」
「私は峰不二子。よろしくねひろしさん」
フフ……ちょろいもんよ。

9ブラックパンサー 3/11:2006/12/08(金) 00:01:07
「一人で不安だったわ。やっと男の人に会えて安心」
「そ、そうですか。だ、大丈夫ですよ。任せてください」
何が大丈夫なんだか。このマヌケ面。
男が侵入しようとしていた裏口を見る。鉄製の頑丈な扉だ。道具がある普段ならともかく
今の状況ではスマートに開ける方法はない。なるだけ痕跡は残さないように動きたいが……
「それ、鍵が閉まっていて……」
解っているよ馬鹿。考えている時に話しかけるな。
……無闇に時間をかけてもリスクが高まるだけだ。
「ここで待っていて」
驚く男を尻目にデイバッグを残して壁沿いに歩く。ガラス製の窓がすぐにあったがこれはパス。
換気口は…いくらなんでもね。……あったトイレの窓。大丈夫。これならくぐれるサイズだ。
小さな窓枠にはまったガラス戸を一枚一枚丁寧に剥いで、足元の目立たない場所に隠す。
息を大きく吐いて…………頭から潜り込む。肩を捻りながら通して次は……お尻。
トイレの中に転がり込む。進入成功。
用心しながら非常灯だけで照らされた薄暗い廊下へ、そしてマヌケ男の待つ扉へと……

再び違和感を感じた。何かがおかしい。出てきたトイレに戻り個室のドアを開ける。
また廊下に出て今度は床の絨毯を注視する。
……ゾッとした。どこもかしこも新品だ。使われたという形跡もなければ埃も積もっていない。
まるでどこも今封を切ったよう。
……思い返せば駐車場の車もそうだった。車体は元より、”タイヤも”新品だった。
ありえない。まるで今さっきこのままの形で作られたような世界。
似たようなシチュエーションが今までなかったわけではないが、これほど大規模なのは……
…………ともかく今は結論がでないし、差し迫った脅威ではない。
気を取り直して愚図男の待つ扉に向かおう。
アレを放っておくのもそれはそれで危険だ。

10ブラックパンサー 4/11:2006/12/08(金) 00:01:30
幸いなことに裏口の扉は内側からだとノブを回すだけで開けられるものだった。
開ける前に一言声をかける。
「ひろしさん居る?開けるわよ?」
「はいっ、お願いします」
やれやれ……とドアを開ける。
「早く中に入って」
手を伸ばす。直前に手袋は脱いでおいたので素手だ。
すぐにスケベ男の手が伸びてくる。程度の低い扱いやすい男だ。
ドアを閉める。とりあえずは一段落終了か……
「す、すごいですね。まるで、スパイみたい……なんちゃって」
早く手を放せこのマヌケ面。
「一応、プロなの頼りにしてもらっていいわ」
「す、すごいですね」
「…………ええ」
手を放せよ。

馬鹿に荷物持ちをやらしてロビーへと向かう。
幸いなことにここに進入したのは私達が初めてのようだ。もっとも最初から中に誰かが
居たとしたのなら話は変わるが。
玄関側は総ガラス張りだ。ロビーに出れば外から丸見えになってしまう。
男を廊下の影に待たせて、這うようにロビーを横切りフロントの中に入る。
目的はもちろん……あった――マスターキー。他の鍵も全て揃っている。
とりあえず二組あったマスターキーを両方懐にしまい。他を物色する。
カウンターにはめぼしい物がないのでさらに奥の事務室へ。
人目につかない場所に入ったので大胆に、しかし後のことを考えて痕跡は最小限に。
成果はあんまり芳しくなかった。予備の懐中電灯にガムテープ。それと消防用の手斧。
脇に抱えて、あの男の所に変える。

11ブラックパンサー 5/11:2006/12/08(金) 00:01:55
持ち帰った消防斧にあのマヌケがビビっていたが、一々かまってはいられない。
私は忙しい。次はフロントとは反対側にあるレストランへと向かう。
幸いなことに入口は紐と立て看板で塞がれているだけだったので、そのまま身を屈めて
中に入る。立ち並ぶテーブルの隙間を縫って厨房へ。
ブウゥゥンと微かな音が聞こえる。冷蔵庫が出す音だ。電気は通っているらしい。
匂いは……特にしない。表には何も出ていないか。一応ガスが出ているか確かめる。
点火せずにコンロのノブを捻る。シュウっという音と共に特有の匂いがする。
ガスも通っているのが確認できた。次は一番重要な水だ。水道の蛇口の先に指を当てる。
湿気はない。未使用といった感じ。だが水は出た。今、初めて出たということだろう。
出てきた水の匂いを嗅ぎ、肌に触れさせ、舌の先でつつく。……とりあえずは問題ないようだ。
毒性はない。最もウィルスなどが混入されていればわからないが。
ライフラインの確認が済んだところで物色を始める。いくつかの調理器具から人を刺すのに
使えそうな包丁を1本。冷蔵庫からは保存の利く太いソーセージを2本を取り出した。
他にも色々とあったが、生ものを持ち歩くわけにもいかない。後、棚からウィスキーを
2本拝借。包丁をツナギの隠しポケットに入れ食料と酒を両脇に抱えて戻る。

「大漁ですね」
ソーセージを見るなり子供のように喜色満面で喜ぶ。
「お、これは高級品だ〜」
……緊張感のない男だ。
「これは非常食。すぐには食べないわ。お酒もアルコールとして使うの飲んだりはしない」
「あ、そうなんですか……いや、そうですよね」
そんな顔をするな鬱陶しい。

12ブラックパンサー 6/11:2006/12/08(金) 00:02:19
「次は部屋ね」
「部屋ですか……ゴクリ」
…ゴクリじゃないでしょ。嘆息。
「や、やっぱロイヤル……」
「あなた、何階からなら飛び降りられる?」
「へ?」
「何回からまでなら、飛び降りられるかって聞いているの」
小心者の表情が出る。コロコロよく表情の変わる男だ。
「と、飛び降りるんですか?……まさか自殺」
「違うわよ。万が一誰かに襲われた場合のことを考えて言っているの」
動揺している。久しぶりに今が殺人ゲームの真っ最中なのを思い出したようだ。
「え、えと〜…、えと〜……」
全く仕方がない。
「2階ね」
本当は4階ぐらいがよかったのだが仕方がない。使えなくても手駒は必要だ。

……ここでロイヤルスイート(最上階)と言える男なら少しは考えないでもないんだけど。

13ブラックパンサー 7/11:2006/12/08(金) 00:02:40
非常階段を登り、防火扉を開けて2階の廊下に出る。
どの部屋を選ぶか……1番目…2番目…3番目…4番目…これぐらいか。
階段から離れすぎていても危ない。マスターキーで扉を開けて中に入る。
廊下は非常灯が点いていたが中は真っ暗だ。
「うひぇ〜真っ暗、電気点けますね」
「ダメよ。点けないで。外から見られるわ」
「あっ……、そうか」
再び嘆息。考えの足りない男だ。

奥の寝室に進む。この部屋は月明かりで多少は明るい。
「あっ!カーテン閉めないと」
「まちなさい!窓に近づかないで」
「えっ?でも真っ暗にしないと……」
余りの頭の悪さにイライラする。
「一部屋だけカーテンが閉まっていたら不自然でしょ。それと窓には絶対近づかないで」
愛想笑いにも限界があるぞ。
「そ、そうですね。すいません」
嘆息。これで何度目だ。
とりあえず窓から死角となる場所に腰を下ろし一息ついた。

14ブラックパンサー 8/11:2006/12/08(金) 00:03:05
「ここでしばらく篭城するわよ」
「篭城……」
「そう、”誰に会わない”がこの手のゲームで生き残るセオリーよ」
「セオリー……」
「そう、出来るだけ戦闘は避ける」
「でも俺達みたいに……」
「……そうね。仲間が増えるかもしれない。けどそれも2人までで十分。それ以上は
リスクの方が大きいわ」
「でも、俺には家族が……」
そうか。失念していた。これは失敗だ。
「妻と息子がここにいる。……放ってはおけない。俺は家の大黒柱だから」
とんだ大黒柱だ……が、
「悪いけど、少しの間奥さんたちのことは我慢して。何も情報がない状態で外を歩くのは
危険なの」
「……………………」
「お願い。朝まででもいいわ。奥さんたちもこんな真っ暗な中で歩き回ったりしないわ。
どこかで隠れているに違いないわよ」
「…………そうだな。あいつらもどっかに隠れて」
なんとか、納得させられたか。しかし、あんまり長くもたないかもしれない。

15ブラックパンサー 9/11:2006/12/08(金) 00:03:31
………………
あれから3時間、目の前の男はそれまでと打って変わって押し黙っている。
しかしそれは……
「お、オレやっぱり……」
「むやみに動いても事態は好転しないわ。もしあなたが死んだらどうするの?」
「わかってるっ!でも、じっとしちゃいられないんだ。もしものことが遭ったらと思うと……」
思ってたよりも限界が来るのが早かったな……仕方ない。
「わかったわ。じゃあこっちに来て。荷物はそのままでいいわ」
立ち上がり寝室から部屋の入口へ、そこから廊下に出る。
「どこ行くんだ?」
それには答えずにそのまま向かいの部屋の扉を開けて中に入る。
「お、おい」
「ドアはちゃんと閉めてね」
あしらいながらバスルームのドアを開け灯りを点ける。
「な、何やって……」
ツナギのファスナーを一番下まで下ろした。
「な、な、何をされて……」
「少しの間。奥さんのこと忘れさせてあげるわ。さぁ、あなたも脱いで」
「え、え、え……」
「ほら早く!やめちゃうわよ」
せかすと慌てて服を脱ぎ始める。あんなこと言っていても所詮は駄目男か。
「全部脱いでね。それから全部脱ぐまで見ちゃいやよ」
全部脱ぐように指示する。そっちの方が都合がいいから。
私も全て脱ぐ。”濡れる”と困るから。
「お、オレはもう全部脱いだぞっ!振り向いてもいいか?」
「もうちょっとよ焦らないで」
衣擦れの音をわざと大きく立てて服を脱ぐ。脱いだ服は濡れないようにバスルームの外へ。
「おまたせ」
彼の左肩に手をのせ、隠し持っていた包丁を心臓めがけて背中に刺す。
「グギッ!」
引きつった小さな悲鳴は無視して膝を折り、そのまま目のめりの格好にさせ包丁に体重を
かける。心臓に達したら捻りを加える。傷口の端からブシッと血が吹く。
「ガ、ガッ、ガッ、ガッ…………」
壊れたラジオのような息を吐く男を抑え続ける……小刻みに震えていたのがビクリと大きく
波打つともう動かなくなった。
ふぅ……土下座のような格好で死んでいる様はまるでカエルのようだな。
駄目な男というものは死ぬ時も決まらないものだ。

16ブラックパンサー 10/11:2006/12/08(金) 00:03:56
死体をバスタブの中に落とす。刺した包丁は筋肉の硬直で抜けなくなったのでそのまま。
何度も使えるものではないので別にこれはいい。
身体を軽くシャワーで流し、鏡で返り血が点いてないか確認。身体を拭いたタオルは
バスタブへ捨てる。
急いで服を着なおし、元の部屋に戻りデイバッグからガムテープを取ってもう一度
バスルームの前に戻る。残した物がないかチェックし、バスルームのドアをガムテープで
目張りする。これで3日程度なら匂いが洩れたりはしないだろう。

部屋に帰って一息つく。結局殺してしまった。
もう少し手足として使いたかったが殺してしまったものは仕方がない。
とりあえずはここに篭ろう。ライフラインが確立された貴重な場所だ。
禁止エリアにならない限りは動く必要はないだろう。

……そういえば、あの男の支給品はなんだったんだ。
初めから何も手にしていなかったから武器ではないんだなとは思っていたが。
あの男の残したバッグを引き寄せ……妙に重い。とりあえず中身を確認する。
「これは……」
中に入っていたのはプラスチック爆弾の塊だった。
相当な量だ……きちんと配置して起爆すればビルの一つも崩せるだろう。起爆できれば。
デイバッグの中には信管と起爆装置が入っていなかった。
あの男が失くしたのかそれとも最初からなかったのか。どちらにせよこれだけでは何も
できない。ただの粘土の塊と一緒だ。
とりあえずは無用の長物。他の支給品を出し、爆弾だけをバッグにつめてクローゼットに
隠しておく。必要な支給品は自分のバッグの中に。

始まったばかりだというのに予定以上に動いてしまった。
洗面台の蛇口から水分を補給し、ベッドの陰に毛布を敷いて横になる。
せめて半日は何事もなく過ぎてくれればよいのだが……

17ブラックパンサー 11/11:2006/12/08(金) 00:04:20
 【D-5/ホテル(2階客室)/1日目-早朝】

 【峰不二子】
 [状態]:やや疲労
 [装備]:
 [道具]:支給品一式×2/単眼鏡/ホテルのマスターキー×2/懐中電灯/ガムテープ
      消防斧/ソーセージ×2/ウィスキー×2
 [思考]:ホテル内に潜伏/休憩

 ※峰不二子の滞在している客室のクローゼットにデイバッグに入ったプラスチック爆弾が
 ※隠されています。(20×20×20㎝/12.8kg)

 【野原ひろし 死亡】

18ブラックパンサー:2006/12/08(金) 00:05:24
キャラかぶり(野原ひろし)でボツ。

19名無しさん:2006/12/08(金) 00:22:10
面白かった〜。
けど、多分ライフラインや食料はないんじゃないかな?この舞台設定。

20名無しさん:2006/12/08(金) 05:38:44
10レスオーバーの作品が被りで散るとは。
あとシグナムと小次郎のも面白いな、シグナムがなにやら苦労人してるw

ライフラインは有っても可笑しくないから書いた物勝ちと思われ。

21巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:26:59
巨乳メイドさんだゾ #みくる

気がついたら私は学校の教室らしい所にいました。そこで私はひたすら泣いていました。
私の住んでいるお家とは違うので先刻の怖ろしい体験は夢ではないようです。
とりえずなんとかしなきゃと思いデイバックの中を調べてみたら中には金属バットが入っていました。
ああ、野球大会は怖かったですが楽しかったなぁ。
不覚にもこんなところにつれてこられる前の楽しかった学校生活のことを思い出して
しまいました。みなさんと街を探検したり、キョンくんとデートしたり、無人島に行って
古泉くん達にびっくりさせられたり、みんなで映画撮影をしたりして、友達といえば鶴屋さん
しかおらず任務のため彼女以外の人物に心を開くことが許されなかった私にとってとても
楽しい日々でした。涼宮さんの横恋慕は怖かったですがキョンくんとも出会え、いつか別れの日
が来てしまうことを考えなければ過去に一人で来たことも良かったことだとも思えました。
なのに私にとって大切なかけがえのない普通の人が二人もこのようなことに巻き込まれて
しまいました。これも涼宮さんの力の所為でしょうか?
いいえ、そうではないでしょう。他の人たちならいざ知らずキョンくんまで消滅の危険にさらす
ようなことは原則として彼女は望みません。だとすればSOS団の中で唯一参加していない
古泉くんが所属する機関の仕業でしょうか?
それも違う気がしました。長門さんを動かすことは彼らには不可能ですし、第一長門さんは
キョン君と涼宮さんを危険な目に合わせることはないでしょう。
ならば、やはり情報統合思念体でしょうか?
長門さん以外にもインターフェースがいるようですし未来から送られてきた情報では消滅した
はずの朝倉さんもいることを考えると一番ありえる選択肢だと思われます。
……ならどう頑張っても抗いようがないじゃないですか!



―――――でも本当にどうしようもない?

22巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:28:05



そんなことを考えているといきなり扉がバタン!と開きました。私は恐れながらバットを構えます。
「そこにいるのは誰ですか!?」
「ふたば幼稚園ひまわり組の野原しんのすけだゾ!
 メイドのお姉さん!もう泣き止むのはお止めなさい。美人が台無しですゾ」
そんな感じで5歳ぐらいの眉毛が太い少年がいきなりハンカチを差し出してきました。
「あ、ありがとうございます」

私のハンカチはありましたがすでにずぶ濡れとなっていたため彼のハンカチを使います。
「あの、なんで私がここにいることが分かったんですか?」
「フフフ、おつえを漏らしている女性の下に野原しんのすけありだゾ」
「おつえ?……嗚咽じゃないんですか?」
「そうとも言う、ナッハハハハハハハハハハハハ」
おもしろい子です。不思議と元気が沸いてきます。
「ねえねえお姉さん、オラと一緒にあいつらをやっつけないかい?」
「……しんのすけくん、それは無理だよ、あんなのになんか勝てないよ」
「甘ったれるんじゃありません!!」
「!?」
「オラだけじゃなくとうちゃんやかあちゃんにぶりぶりざえもんにおじさんも
 もいるんだゾ!絶対大丈夫!それにあの殺されちゃったお姉ちゃんやおっちゃんの仇も取って
 上げないといけないんだゾ!」

ものすごく楽観論ですが彼の瞳は自分の信念を疑うことのない強さがありました。
私はそれを持っていないためか彼のことを眩しく感じてしまいます。
「……そうだよね、こんなところで立ち止まっていても仕方ないよね」
「うん、そうそう、そういえばお姉さんのお名前は?オラは野原しんのすけだゾ」
「私は朝比奈みくるです」
「ほうほう、じゃあみくるちゃん、しゅっぱつおしんこー!」
そのまま彼は扉の外に出ようとし私もそれに続きます。

23巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:28:31










―――――ごめんなさい









そして、私は目を瞑り彼の後頭部に向かって金属バットをおもいっきり振り下ろしました。









ガンという音が響いたきり物音がしなくなりました。私が恐る恐る目を開けるとしんのすけくんは倒れていました。

24巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:29:22
少し時間が経ってから私は恐る恐る彼をうつ伏せから仰向けの状態にしました。
その瞳は何も映しておらず、口は開いたまま先刻まで生きていた少年の面影はそこには
ありませんでした。おもわず泣きたくなりましたが涙を流している暇はありません。
私は彼の死に報いるためにもこの広い島の中でどこかで死んでいるかもしれない人のためにも
この殺し合いをなかったことにしなければいけません。


普通なら不可能ですしあの仮面の人のご褒美も胡散臭いですが
私はそれが確実に可能な人物を一人知っています。
涼宮さんです。彼女の能力は世界の再構成から時間軸の干渉まで可能です。
ですが一見何でもありの力ですが欠点もあります、このように突発的な事態だと彼女の認識が
及ばず、また力の自覚もなくあくまで現実的な思考を持つ彼女では能力を発揮できないということです。


ですが、涼宮さんがここから脱出して元の世界に戻れば後は古泉がなんとかしてくれるでしょう。
なので急がなければいけません、彼女のことですからうっかり誰かと接触して殺されちゃうかも
しれないので、その前に見つけて安全な場所に連れて行かないと。
それに長門さん達やキョンくんたちも協力してもらえるかは分からない以上は先に
涼宮さんを確保しておきたいです、こうすることが一番良い方法のはずだから。

25巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:29:46
「ごめんね、しんのすけくん。後で必ず生きかえしてあげるからね」
私は彼の開いた瞳を閉じます。そして急ごうとして部屋から出ようとすると何かに足が
引っ掛かって転んでしまいました。まさか、まだしんのすけくんが生きていたかと思い足を見ると
それは彼の荷物でした。私は自分の支給品をまだ調べておらず何が入っているか興味が出たため調べることにしました。
彼の支給品はスペツナズナイフというスイッチを押すと刃が飛び出すナイフが五本、
シアン化カリウムというドラマではお馴染みの毒物が1kg入ったビンが一つ、
アンドバリの指輪という相手を洗脳できる道具が一つ、
私のはバットと拳銃と石ころ帽子という相手から見つからなくなる道具が中に入っていました。
全部が私の目的に使えそうなものでほっとしました。
私はそれらや彼の食料を自分の袋の中に入れ、そして今度こそ私は教室から出て行きます。






―――――こんな殺し合いをなかったことにするために

26巨乳メイドさんだゾ:2006/12/09(土) 00:31:09
【A-1高校/初日/深夜】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ×5、アンドバリの指輪@ゼロの使い魔、ワルサー TPH.22LR (7/7)
[道具]:荷物一式,シアン化カリウムの入ったビン(1kg)、石ころ帽子@ドラえもん
    悟史の金属バット@ひぐらしのなく頃に、予備の食料
[思考]:涼宮ハルヒを生き残らしてこのゲームをなかったことにする

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん 死亡】


こんなことを考えていた。なんとなくダメっぽいし、先に予約されたから没。

27狂騎士:2006/12/09(土) 15:59:18
サイトとセイバーが使われたので没になったもの。マーダーセイバーは投下された奴の方がよかったね。



「……冗談じゃない、どうなってるんだ!?」

 才人は走りながら呟いていた。その表情に余裕は無い。
 いきなり異世界に召還される、というのは才人は以前経験済みのことで、別にそれほど驚かなかった。
むしろ慣れていないだろうルイズやタバサを心配し、殺し合いなどと勝手な事を抜かすギガゾンビとかいう相手に怒りを覚える余裕があったほどだ。
そして飛ばされた世界は自分の元々いた世界に近いもので、やはりそれほど奇妙な感覚を味わわないで済んでいる。
そんな彼の最初の目的はルイズかタバサを探すこと、だったのだが。

「……うわっ!」

 才人の身長に匹敵するだろう、巨大な斧剣が頭を掠める。才人自身には怪我は無かったが……脇にあったゴーカートがその一撃で粉砕された。
冷や汗を流す才人だったが、立ち止まればあの斧剣――ただ岩を削り凶器と化しただけの、武器と言うよりは岩塊というべき物に潰されるだけ。
だからひたすら走るしか手は無い。
 要するに、才人は今襲われているのだが……それだけならまだいい。
問題は、それを振るっているのが小柄な女の子ということだった。

「なんなんだよお前、なんで殺し合いに乗ってるんだ!?」
「答える必要はありません……あなたはここで倒れろ!」

 斧剣を振るっている当人――セイバーが腕を振り上げ、斧剣に風王結界を纏わせて才人目掛けて叩きつけた。
寸前で避けた才人だったが、風王結界が巻き起こした強力な風に吹き飛ばされバランスを崩して倒れ込んでしまう。
吹き飛ばされたことで距離は開いたものの、セイバーにとってこれくらいの距離は一瞬だろう。起き上がることぐらいはできるだろうが、それが限界。
走り出すことはできず、潰されてそれで終わりだ。

「……くそ、いきなりやられてなんてたまるか!」

 起き上がりながらも、とっさに才人はデイパックに手を突っ込んでいた。
何か武器。なんでもいい、武器さえあれば彼に勝ち目はある。そう、例えどんな世界の物でも。
 ……そして、見つけた。

「これだ!」

 才人の手が意思に反応する。その左手に輝くはガンダールヴの紋章。
 小さな首飾りに過ぎなかったミニチュアの剣に魔力が通り……才人の手には白い長剣が現れていた。同時にその長剣は斧剣を華麗に受け流し、剣筋を逸らす。

「なっ!?」
「分かる……お前の使い方が! レヴァンティン、ぶった切れ!」
『了解』

28名無しさん:2006/12/09(土) 15:59:43
 いくらセイバーの力が普通ではないとはいえ、身長に匹敵する斧剣は易々と振り回せるものではない。
現に、渾身の力を持って振り下ろされた斧剣は地面に突き立っていた。
更に、いきなりの武器の出現にセイバーは少しとはいえ驚いている。
才人はその隙を見逃さずにレヴァンティンで斬りつけ……セイバーを見失った。

「な、消え!?」

 セイバーが消えている。いや、実際に消えたわけではなく才人の視界から消えたに過ぎない。
殺気を感じて見上げた才人が見たのは、宙を舞うセイバー。正確には、斧剣を使い棒高跳びの要領で飛び上がったのだ。
そして、その着地点は才人の頭上!

「甘い!」
「がっ……!」

 セイバーの強力な蹴りが才人に直撃する。
とっさに肩で受けたものの、その威力は半端なものではなかった。
吹き飛ばされ、コンクリートの地面を滑る。
痛みで苦しむ才人だが、セイバーが容赦する義理はない。斧剣を再び持ち上げ、セイバーが才人へ止めを刺すべく走る。
だが、才人は構えるどころかレヴァンティンを鞘にしまい込んだ。

「……何のつもりです。降伏すれば見逃すとでも?」

 セイバーが怪訝な表情で問い詰めて……とっさに後退した。
彼女の直感が危険だと告げたのだ。追い詰められているはずの才人の顔には不敵な笑み。
そして、鞘にしまわれたレヴァンティンが薬莢を排出する。まるで、

「もちろん攻撃に決まってるだろ! 飛龍……」

 銃に弾が込められたかのように。
 鞘から取り出されたレヴァンティンはもはや剣の形をしていなかった。
紫の魔力をその身に纏い、蛇と化したレヴァンティンがセイバーへ奔る。

「一閃ッ!」
「くっ!」

29名無しさん:2006/12/09(土) 16:00:38
「……逃げられちまった」

 真っ直ぐ直線状に砕かれたコンクリートの前で、才人は呟いていた。
右手にあるのはレヴァンティン・シュランゲフォルム――蛇腹剣という分類に入る形に変形したレヴァンティンだ。
本来ならシグナムしか扱えないはずのそれを才人に扱わせるのは、彼の左腕にあるガンダールヴの紋章の効果、あらゆる武器を使いこなさせるというもの。
だが……

「……レヴァンティン、いつもだったらもう少し力出せただろ?」
『はい』
「くそ、おかしいな。なんでも使いこなせるんじゃなかったのか、この紋章?」

 セイバーに届く寸前。才人はそこまで十分射程距離内だと思っていたのだが、その辺りで威力が弱冠だが弱まった。
結果としてセイバーに見事逃げ切れられたというわけだ。
紋章がある以上、射程を間違えるなんて凡ミスは有り得ないのだが。
 ただなぜか紋章、もしくはレヴァンティンの力が落ちているということを抜きにしてもセイバーの力が圧倒的だったのは事実だった。
あんな身長で馬鹿でかい斧剣を振り回すんだから絶対にどうかしている。

「無茶苦茶もいいとこだ……本当に人間かよ?
 どこ行ったんだ、あいつ……?」



「あの剣捌き……只者ではない。あの剣の担い手、ということか」

 才人の背後、ジェットコースターのレールの上。そこでセイバーは周囲を見渡している才人を眺めながら呟いていた。
その肩からは少しだけだが血が流れていく。
仮にも英霊と戦って生き延びたのだ、セイバーとしても感心せざるを得なかった。

「やはり、エクスカリバーが無いのは不利……
 風王結界が上手く作れないのも、この剣の影響かもしれませんし」

 軽々と斧剣を持ち上げながら嘆息する。やや見づらくなってはいるものの、本来の風王結界の効果……不可視の剣の作成にはほど遠い。
そもそも、この斧剣は宝具でさえない、ただ石を削り取っただけのもの。約束された勝利を彼女に与え続けた聖剣、それが無いのはやはり痛い。

「ご安心を、シロウ……私があなたを守ります。
 あなたに知られぬように、私はあなたの敵を全て討ち払う。あなたに知られぬように。
 気に病むことはない。罪は全て私が背負う。
 必ず、元の世界に帰します」

【G-4遊園地 1日目深夜】
【セイバー@Fate/Stay night】
[状態]:肩にかすり傷
[装備]:バーサーカーの斧剣+不完全風王結界
[道具]:支給品一式 
[思考・状況] 士郎以外を全て殺し、自殺

【平賀才人@ゼロの使い魔】
[状態]:やや疲労・左肩打撲・全身に擦り傷
[装備]: レヴァンティン・シュランゲフォルム(カートリッジ一発消費済み)
[道具]:支給品一式 
[思考・状況] 周囲を警戒

30四次元の闇:2006/12/09(土) 20:01:44
こんにちは。僕スネ夫です。
突然ですが、僕は今から殺し合いをしないといけないそうです。
うわぁん、助けてママ―――!!


失礼しました。思わず取り乱してしまいました。
でも、何故こうなったのか僕にも良くわかりません。
僕は、気が付いたら変な場所に連れてこられていました。
僕の他にも、ジャイアンやドラえもんやグズののび太も連れてこられたみたいです。
そして、変なおじさんが「殺し合いをしろ」と言いました。
逆らった男の人は、見せしめに殺されてしまいました。

いたいけな小学生の僕に殺し合いをしろ、だなんて酷すぎます。
実はこれは全部夢なんじゃないかと思って、ほっぺたをつねってみました。
痛い!やっぱり夢じゃない!!そんなの嫌だよママ―――!!


……ひとしきり泣いて少し落ち着きました。改めて回りを見渡してみます。
僕がベソをかいているのは、どうやらどこかの野原のようです。満月にススキが揺れてなんだかキレイです。
ススキの中に隠れていたら、怖い人に見つからずに済むかもしれません。
貰った道具を確認しました。残念ながら、支給品はあまり戦いに向いていないものでした。
やっぱり、ここで隠れていた方がよさそうです。
そう思って、ふと顔を上げると、

「 あ 」

ススキの中に、ひときわ黒い影がいます。違う、人です!
いきなり他の参加者と出会ってしまいました。
ここで大人とまともに戦っても僕に勝ち目はありません。なんとか話し合いで解決しないと。

31四次元の闇:2006/12/09(土) 20:02:11
「あ、あの、僕は骨川スネ夫といいます。僕はあなたと戦うつもりはありません。どうか、見逃してください!」

必至に男の人に話しかけました。これで普通の人なら許してくれるかもしれません。
でも。

にぃぃたぁぁぁり

男の人は普通の人じゃありませんでした。何故か満面の笑みでこちらに歩いてきます。
僕の話を聞いているのかいないのかもわかりません。
駄目です。話が通じる雰囲気じゃありません。というかむしろ怖いです。半端じゃなく怖いですこの人。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いよママ―――!!

すた、すた、すた、すた、すぽっ

目の前まで歩いてきた男の人の姿が、目の前で消えました。
落ちたのです。足元の穴に。
急いで、其処に作っておいた『仕掛け』を外します。
やりました。作戦通りです!!やったよママ―――!!

僕に配られた支給品は、ドラえもんの秘密道具、『四次元ポケット』でした。
でも、ポケットの中身はからっぽで、道具は何も入っていませんでした。
だから、僕はこのポケット自体を『罠』として使うことにしたのです。
このポケットは、どこでもドアのような大きな道具も出し入れできるぐらい伸び縮みします。
だから、めいっぱい伸ばして広げた四次元ポケットを、ススキの下に隠しておいたのです。
僕の姿も隠れるほどのススキで、しかも今は夜。まさか足元に落とし穴があるなんて、誰も気付きっこありません。
もし、話の通じる人が来たら仲間になって、敵が来たら落とし穴にはめてポケットに閉じ込める、
それが僕の立てた作戦でした。

32四次元の闇:2006/12/09(土) 20:02:53
作戦がうまくいって、僕もなんだか勇気が出てきました。
これなら、僕が頑張れば何とかなるかもしれません。
良い人とは仲間になって、悪い人は今回のようにやっつけていけばいいのです。
もしかしたら、主催者の人もやっつけられるかもしれません。
いえ、ドラえもんやジャイアン、のび太と一緒に頑張れば、きっといつものようにうまくいくはずです。

「よぉし、僕が頑張って、皆と一緒に帰るんだ!」

その時です。

ずるぅり

しまっておいたポケットの中から、黒いモノが、

ぞわぞわぞわっ

真っ黒のおぞましい物体が、闇が、這い出してきて、

33四次元の闇:2006/12/09(土) 20:03:38

べたっ

僕を掴んで、

ぐいぃっ

力任せにポケットの中の闇に引きずり込んで、

ゴギャッ

噛み付いて、

ゴリゴキゴキボキ

噛み砕いて

ゴリッボキッゴキッグチャッグチャッグチャッ

ようく噛んで。

バリバリグシャグシャバキバキゴクン

飲み込みました。

そして辺りは静かになりました。
すると、ポケットの隙間から、真っ黒な影がじわじわと染み出してきて、
そして、人の形に集まりました。それは最初に見たのと同じ人の姿でした。

34四次元の闇:2006/12/09(土) 20:04:04
「GEEEEEAPH!」
どうやら満腹のようです。
そして笑顔です。満面の笑顔です。

「子供も大人も、男も女も、人間も化け物もみいんな集めて殺し合いか」

男の人が話し出しました。僕はこの場にはいないので、きっと独り言でしょう。

「全くもって度し難い愚か者だな、ニンゲンよ。だが、全く理解できない訳でもない」

そして男の人は、すぅっ、と夜空を見上げました。


「こんな素敵な月夜なら、誰だって人ぐらい殺してみたくなるものだ」


夜空には、きれいな満月が浮かんでいました。

男の人は、しばらくの間うっとりと月を眺めた後で、
四次元ポケットと僕の荷物をつまみ上げ、どこかへ歩いて行きました。
後には僕だけが残りました。
……いえ、間違いです。『後には何も残りませんでした』
どうやら、僕はあの人に食べられて、死んでしまったみたいです。

――ママ、ごめんなさい。先立つ不幸をお許しください――
さよなら、ママ――

35四次元の闇:2006/12/09(土) 20:04:48
四次元ポケットが問題な上に、キャラも被った為NG。

36名無しさん:2006/12/09(土) 20:27:27
四次元ポケットは問題ですが、これはこれで面白いですGJ

37ひぐらしのなく頃に 病殺し編:2006/12/10(日) 21:53:24 ID:???
B-6か、かなり歩いたな、途中ボートがあってよかった、
橋を渡っていたら敵に遭っていたかも。今私たちは寺に向かっている。
沙都子ちゃんが罠張ってそうとか、梨佳ちゃんが巫女やってそうとか、
要するに圭一君の勘だ。圭一君…、巫女は神社だよ?だよ?
「ねえ、圭一君。」
「なんだよ、レナ。」
「部活のみんな無事かな?…かな?」
「ああ、大丈夫にきまってる!さっさと合流してあの仮面野郎を倒す作戦会議だぜ!」
そうだよね、きっとみんな無事だよね、圭一君はやっぱり頼りになる。大好き。カコイイ。
「とりあえずここらへんで休もうぜ、ん?レナ、顔赤くないか?」
「はうぅ、そんなことないよぉ…」
顔に出てたのかな、それとも誘ってる?そんな、まだ告ってもいないのに。
でも圭一君となら…。「もしかして風邪か?歩きすぎたか。」
「嘘だッ!!」「なにがだよ…」「はうぅ・・」
んもう、からかわないでよ、わかってるくせに。
でもしょうがないか、今はそんなことしてる場合じゃない。
この瞬間にも誰かがどこかで殺されているのかもしれない。不謹慎だ。
「あれ…、この髪の毛・・」地面に落ちてた紫の長い髪の毛、これって…。
「ねえ、圭一君?梨佳ちゃんここにいたんじゃないかな、かな?」
「な、何だって!?」「ほらこの髪の毛。」
「ほんとだ、よくみつけたな。」頭なでられた、うれしい。
一人目の手がかりが見つかった、圭一君の勘すごい!!惚れ直しちゃった。
そのとき、後ろから悲鳴が聞こえた。
「きゃああああっ!!たすけて!!」
!!
「圭一君!今のっ!」「ああ!沙都子だっ!」

38ひぐらしのなく頃に 病殺し編:2006/12/10(日) 21:56:04 ID:???
「やめて!近寄らないで!」
木を背に追い詰められた沙都子に紫色の髪の少女が一歩ずつ詰め寄る。
「駄目よ、だって私はあなたを殺したいんだもの、それに
どうせみんな殺すんなら市街地で戦意のあるもの同士の潰しあいに割って入るより
あなたのような山奥でコソコソやってるのを先に潰したほうが効率良さそうじゃない?
ま、北東に直線に移動してやっと会えたのがあなたなだけなんだけど…。」
独り言をいいながらその少女は沙都子の腕をつかみそして握り締めた。鈍い音がした。
「痛あああああいいいいいィ!!!腕がああっ!!にいにいいいいいい!!」
「あはははっ!痛い?怖い?どんな気持ち?私ね有機生命体の死の概念がどんなのか知っておきたいの。彼を殺して涼宮ハルヒの出方を見るためにもね。
それにしても彼女たちどこにいるのかしら…。」
「助けてっ…にいにぃ…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさうっ!」少女は沙都子の細い首に手をかけた。
「心拍数、脈拍、脳波、共に異常だわ、アドレナリンの分泌量も半端じゃない、これが死に対する恐怖って奴?…もういい、楽にしてあげよう。」
そうして沙都子の細い首を絞めかけた瞬間、
「沙都子オオォォーーー!!」
けいいちのたいあたり!きゅうしょにあたった!こうかはいまひとつのようだ。
あさくらはふっとんだ!
少女の手から逃れた沙都子を圭一はすぐ様抱きかかえる。
「にいにいっ!にいにい!!ううっ…。」
「おれだ!圭一だ!もう大丈夫だ…沙都子…。」

39ひぐらしのなく頃に 病殺し編:2006/12/10(日) 21:59:40 ID:???
沙都子ちゃん…、よかったぁ、生きてて。
はう・・圭一君に抱っこされてる、うらやましい。
「よくも邪魔してくれたわね…。」
それよりあの女だ、あろうことか起き上がって圭一君に色目を使っている!
おまけに沙都子ちゃんにあんなひどいことを!許さないっ!殺す。
「圭一君!鉈かして!」「レナ!…まさか、殺すのか?相手は素手だぞ。」
「うん、…ごめんね。」圭一君、色目に騙されちゃだめだよ?だよ?
私が泥をかぶるんだ、私が圭一を守るんだ。
「まあいいわ、おかげでモルモットが増えたんだもの。
さあ、あなたはどんな叫び声を上げてく…」
言い終わらないうちに拳が女の顔面にクリーンヒット、地面に倒れる。
魅ぃちゃんのおばあちゃんが言ってた、私の拳は光より速い、と。
「―――――ッ!!(わたしが遅れをとった!?こんな…ただの人間に!?)」
鼻血が出てる醜いわね。
「お姉ちゃん殺されちゃうよ?怒ったレナに!殺されちゃうよ!!」
「まって…いや!…あぐっ!」
私はそのままそいつの上にまたがり、首めがけて鉈を振り下ろした、何度も…何度も。
「レナ!止めろ!もうとっくに死んでる…。」圭一君の声で我に還った。
ああ、服が赤いのでびしょびしょだ。
沙都子ちゃんが泣いてる、圭一君、何?その目は。
私は…、あなたたちのために殺ったんだよ?だよ?
やめて…!!そんな目で見ないで!ヤメロオオオォォォ――!!

40ひぐらしのなく頃に 病殺し編:2006/12/10(日) 22:02:07 ID:???
朝だ…、青い空、鳥のさえずりが聞こえる。
ここ数時間の記憶がない。確か仮面被ったおじさんが何か言ってて気づいたらここに。
あれ…?なんで4つもバッグがあるのかな?かな?
ぁ、思い出した、みんな殺しちゃったんだっけ。
って言うか服がすごい色だ、鉄臭いし、新しいのに着替えよう。
町に行けば何かあるよね。
【C-5南西 2日目 早朝】
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:発症L5  
[装備]:コンバットナイフ レナの鉈 悟史のバット 弓矢(残数10本) SOS団腕章『団長』
[道具]:支給品一式 4人分
[思考・状況]
1: 町で服を探す
2: 無差別に殺害
3: 圭一を…。
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:死亡
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:死亡

41ひぐらしのなく頃に 病殺し編:2006/12/10(日) 22:07:15 ID:???
「う…。」有機情報の再構成開始、待機形態に移行。
気づくとそこには先ほど私を機能停止に追い込んだ人間がいた。
発狂しているその女はナイフで、なだめる男の胸を突き、泣き叫ぶ少女の首を切った。
そして…、「…圭一君はずっと私の物、私の血と肉として生きるの。」
そう呟き彼女は彼を体内に取り入れた。見るに耐えない、カニバリズムだ。
私は女に鉈を振り下ろされたとき初めて有機生命体の死の概念を理解できた様な気がする。
食事が終わった後、彼女は荷物をとり、こちらに近づいてきた。
「このワッペンかぁいいなぁ…、お持ち…帰りぃ…。」
虚ろな目、全然うれしそうじゃない。女は私の腕から腕章をはずし、バックに入れた。
「お姉ちゃんまだ暖かいなぁ、もしかしてまだ生きてる?…そうかあなた宇宙人でしょ?だから簡単に死なないんだ。地球を攻めに来たんだね?とどめ刺さなくっちゃね!あははははははははは!!!!!」
どうしてわかったの!? 待って!!まだ再構成が終わってないのに、今刺されたら…。
嫌アアアァ!!まだ死にたくないっ!!消えたくn…。
胸に冷たいものが入っていくのを感じた。痛い!苦しい!痛覚が…なんで!?
ああ、因子の誤作動で体が消えてく…まさかキョン君みたいなただの人間にやられるなんて、油断したわ。長門さん…、私はここまでみたい、……が………ま………。
【B-6/北西/1日目/深夜】
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:消滅

ムシャクシャしてやった、今になって反省している

42ジャイアニズム宣言:2006/12/15(金) 00:31:20 ID:H/u5icRQ
深夜。駅前のとあるカラオケボックスの一室。
床にうずくまった少年に、ドアの陰から顔をのぞかせた人形――翠星石から声が飛んだ。
「そんな姿を見せれば相手を油断させられると思っているなら大間違いです。
 翠星石はだまされないのです。」
返答はない。
少年は床にうずくまったまま微動だにしない。
「だまされないと言っているのです。いい加減にあきらめやがれです」
返答はない。
はあ、とため息をつくと翠星石は部屋の中に入り込み、少年に指を突きつけた。
「人間!! 特別に、この翠星石がお前の話を聞いてやるです。光栄に思うのです」
返答はない。
翠星石は腕を組むと、もう一度口を開いた。
「ほれ。さっさと話すです」
やはり、返答はない。
「ええい。お前が黙りっぱなしじゃ話が進まないのです!!
 翠星石は蒼星石とチビ人間を捜しに行かなきゃなんねえんです。
 あと十数える間だけ待ってやるから、それまでに何か言うです」
言って、翠星石はいーち、にーい、と数を数え始めた。
それが六までいったころだろうか、少年が唐突にぼそりと呟いた。
「……ソウセイセキ」
「!! 蒼星石を知っているの!?」
勢い込んでそう聞いてくる翠星石に、たじたじとなりながら少年――ジャイアンは答える。
「いや、別にそういうわけじゃないけどよ……お前の仲間かなんかなのか?」
「蒼星石は翠星石の妹です。
 まったく、世話の焼ける妹を持つと、姉が苦労して困ったもんです」
妹……、とつぶやいて、ジャイアンは再び翠星石に問いかけた。
「んじゃあ、チビ人間ってのは?」
「そそそそ、そんなことはお前に関係ないのです。
 別に、会いたいとか危険な目にあってないか心配だとか言うんじゃなくて、
 外に出ない引きこもりですから翠星石がそばにいてやらないと何もできない困った奴で……
 って、これじゃ逆です!! 話すのはお前で翠星石じゃないのです」

43ジャイアニズム宣言:2006/12/15(金) 00:31:53 ID:H/u5icRQ
何もできない困った奴……とつぶやいて、ジャイアンは立ち上がって居住まいを正した。
そうして一つ咳払いをすると、床に手をついて頭を下げる。
「スイセイセキ、お願いだ。俺のことを思いっきり殴ってくれ」
「はぁ?」
「頼む。このとおりだ」
素っ頓狂な声を上げる翠星石を無視してそう言うと、そのまま額を床につけた。
翠星石は唖然としてその姿を見ていたが、何を思いついたか口元が笑みの形にゆがむ。
薄暗い照明の下で、左右で色の違う瞳が怪しく光った。
「……だったら、顔を少し上げて目を閉じるです」
「おう」

………………
…………
……
ゴゥン

室内に、鈍い音が響いた。
痛みに頬を押さえてうずくまるジャイアンの目に映ったものは、満面の笑顔を浮かべて見下ろす翠星石と、
その右手に握られたフライパン。
「痛って〜。あにすんだよ!!」
起き上がって文句をいうジャイアンに、翠星石はしれっとした顔で答えた。
「何って、喝を入れて欲しいと頼まれたから、言われたとおりに殴ってやっただけです。
 翠星石の小さな手では意味がないだろうからという配慮までしてやったのに、
 文句を言われる筋合いはないです」
こいつ、とジャイアンは拳を振り上げるような仕草を見せたが、
思い直したのか何もせずにその場にあぐらをかいた。そっぽを向いて、ぶすっとした顔で言う。
「……ありがとうな」
「べ、別にあらたまって礼を言われるほどのことではないのです
 礼より、ここで翠星石の時間を使わせた分、ちっとは役に立って見せろです」
「おし。このジャイアン様に任せとけ。えーと、妹にチビ人間だっけか?
 そいつらがお前と一緒に帰れるようにしてやるぜ」
「だから、チビ人間はついでのついでなのです!!」

                       ○

44ジャイアニズム宣言:2006/12/15(金) 00:32:39 ID:H/u5icRQ
「……というわけで、さっさとバッグの中身を確かめるです」
言って、翠星石は部屋の隅に置かれたままのジャイアンのバッグを指差した。

結局、手を組んで知り合いを捜すことにした二人は互いの情報を交換し合い、
今後の方針について決めることにした。
名簿に記された名前のうち、誰が知り合いでどんな人物なのか。これからどこへ行くべきか。
ジャイアンに支給された道具の確認というのは、話の流れとしては当然のことと言えるだろう。
だが、次の翠星石の一言はジャイアンも予想だにしないものだった。

「そして、何かいいものが入っていたら、翠星石にわたすのです」
「何でだよ。これはおれのバッグだぞ」
「さっき翠星石のために働くといった以上、お前は翠星石の家来です。
 家来のものは翠星石のもの、翠星石のものは翠星石のものです」
「なんだと〜〜。人形のくせに、生意気だぞ!!」
ジャイアンは憤然として立ち上がった。
「生意気なのはお前のほうです。この機会にどちらの立場が上か、たっぷり思い知らせてやるです」
翠星石も立ち上がる。身長は完全にジャイアンに負けていたが、それを一切感じさせない迫力があった。
睨み合う二人の間で火花が散り、狭い部屋は異様な熱気に包まれた。
「ああっ!!」
「おおっ!?」
突然、翠星石の上げた叫びにジャイアンは慌てて後ろを振り向いた。
翠星石が指で示す先――部屋の奥の壁を注視するが、そこには特に異状は無い。
「……今です」
「あっ!! ずるいぞ!!」
ジャイアンの注意がそれた隙をつき、翠星石はバッグにとびついた。
非難の叫びを無視して手を突っ込んで中身をまさぐり……唐突に、その動きが止まる。
見る間にその顔色が青くなった。
「ひえ〜〜何かに咬みつかれたとってとってっとって腕を咬み千切られる〜〜!!」
叫んで、腕を振り回して暴れる翠星石の右腕のひじから先は、緑色の塊に覆われていた。
ジャイアンはため息をついて翠星石を捕まえると、それを腕からはずしてその場に放り投げる。
床に転がったぬいぐるみのワニの目が、ぎょろりと動いた。
「お、おほほほほほほ。
 こいつ、ぬいぐるみの分際で、一度ならず翠星石を惑わすとはいい度胸です。
 こんなやつこうして、こうして、こうしてやるです」
げしげしとぬいぐるみを蹴りつける翠星石を尻目に、ジャイアンは開かれたままのバッグに手を突っ込んだ。
その脳裏に、先程のぬいぐるみ以外には共通の支給品しか入っていないのではないかという不安が浮かぶが、
指先に触れた硬いものをつかみ一息に引き抜く。
「こいつは……」
自分の右手に握られていたものを見て、ジャイアンは思わず声を上げた。
鈍く光る刀身に黒い鍔、緋色の柄。
その全体的に安っぽいつくりの玩具のような刀――というより玩具の刀そのもの――に確かに見覚えがあったからだ。
鍔の所にひっかかっていた紙片が床に落ち、ジャイアンの目の前で広がった。

『名刀“電光丸”』

45ジャイアニズム宣言:2006/12/15(金) 00:34:20 ID:H/u5icRQ
【E-6駅前商店街 1日目 深夜】

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:顔面に軽い打撲
[装備]:名刀“電光丸”@ドラえもん、マイク(カラオケ店の備品で、店外では使用不可)
[道具]:真実のワニ@ローゼンメイデンシリーズ(※単なるワニのぬいぐるみです)、支給品一式
[思考・状況]
第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を捜す
第二行動方針:翠星石と一緒に行動し、蒼星石、桜田ジュン、深紅も捜す
基本行動方針:仲間たちとともにギガゾンビを打倒し、最初の惨劇をなかったことにする。


【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、フライパン
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
第一行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
第二行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
第三行動方針:剛田武と一緒にドラえもん、のび太、スネ夫、深紅も“ついでのついでに”捜す
基本行動方針:蒼星石と、共にあることができるよう動く


諸般の事情で最初から没確定で書いていた話だけれど、
本スレで投下した人の作品と比べると、自分の弱点がわかって興味深い。

46名無しさん:2006/12/19(火) 15:51:35 ID:20DfF8wU
ここでいいのかわからないけど、ちょっと質問。

ここにロワ非参加者が登場するSS投下してもいい?
参加作品決定時に漠然と考えてたネタなんだけど、
結局そいつらが参加しなかったんでお蔵入りになったものなんだけど。

47名無しさん:2006/12/19(火) 17:44:05 ID:d0h570JA
没作品、の定義には当て嵌まるから大丈夫だと思う。
ここ投下なら本編に影響を及ぼすこともないだろうし、ネタとして読んでみたい。

48シンクロニシティー:2006/12/19(火) 21:21:27 ID:20DfF8wU
殺戮の会場に二人が降り立ったのはほぼ同時だった。
会場の北東と会場の南西、それぞれに佇むのは同じ顔をした少年。
暖かい温泉でディバッグを開けるのはドリィ。薄暗い森林でディバッグを開けるのはグラァ。
こんなにもかけ離れた場所にいるというのに、彼等がまず考えることはほぼ同じだった。

『大変になってしまった・・・兄者様達は大丈夫だろうか?』

ディバッグを開け、まず最初に出てくるのは真っ白な紙。
参加者の名が書き連ねられたそれを開き、中の名前を確認する。

『若様やユズハ様はいらっしゃらないみたいだ。けど・・・』

自らの国の皇であるハクオロの名と、共に暮らす仲間たちの名を見つめ、顔をゆがめる。
次に出てきた地図をちらりと一瞥した後、二人は鞄から支給された物を取り出した。
・・・それは良く見慣れた物体。彼等の扱いなれた武具と同じ・・・弓と矢のセットだった。
それを眺め、二人は思う。これはウィツアルネミテアの思し召しに違いないと。

『これなら戦える。矢の残数だって充分だ』

だから、彼等は思った。

「兄者様や他の方達を・・・大勢の仲間を集めて、あの男を倒そう」
「兄者様や他の方達の・・・彼等のために戦おう、他の者を殺そう」

ドリィは思う。あれだけの人数が居たのだ。力を合わせれば、倒す事ができるだろう。
グラァは思う。あれだけの人数が居たのだ。全員を殺すのには多分、苦労するだろう。

『だけど、きっとできるはずだ』

なぜなら、自分には頼りになる兄弟が居るのだから。
双子である彼なら、きっと同じ事を考える。だから、大丈夫。

「兄者様達と生き残る。最後に残った人の願いを叶えるなんて事は、信用できない」
「兄者様達を生き残らせる。最後に残った方の願いで、皆を生き返らせてもらおう」


そうして、ドリィは歩き出す。そうして、グラァは歩き出す。
同じ方向を見ていたはずの瞳は・・・今は違うものを見つめていた。



【A-8温泉 1日目 深夜】

【ドリィ@うたわれるもの】
 [状態]:健康
 [装備]:弓道用の弓(矢の残数30本)@Fate/stay night
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
  第一行動方針:仲間を探す
  第二行動方針:ハクオロ等と合流
  基本行動方針:ギガゾンビを倒す

【H-1森林 1日目 深夜】

【グラァ@うたわれるもの】
 [状態]:健康
 [装備]:鳳凰寺風の弓(矢の残数30本)@魔法騎士レイアース
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
  第一行動方針:敵を見つけ殺す
  第二行動方針:ハクオロ等を生き残らせる
  基本行動方針:仲間達のうち誰かを生き残らせて、ハクオロ等を復活させる

とまあ、ドリィとグラァを活躍?させようと考えていたわけです。

49名無しさん:2006/12/23(土) 00:12:37 ID:hzH7lbBc
もし桜が出たら桜+夜天の書で原作黒桜再現、とか考えてたなあ……

50名無しさん:2006/12/23(土) 01:00:10 ID:DgNvAv0g
>>49
そんなことを言うのなら
「サイトォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!そいつをヨコセェェェェェェェ!!」
をやりたかった。

あとは、長門とタバサを組ませたかった。

51峰不二子の溜息 1/2  ◆S8pgx99zVs:2006/12/25(月) 23:23:32 ID:XQz63kTg
走り去った電車の速度は速くなかったが、他の人間に見つかることを警戒して慎重に移動したことと、
思いのほか路地が複雑で回り道せざるを得なかったために、峰不二子が駅に着いたのは黎明を
過ぎて早朝に入ろうというところだった。
そして今はその駅の前、入口がよく見える物陰に潜んでいる。

夜が明け始めていて明るいとは言わないまでも、もう闇の中とは言えない。
全身を黒く覆った革のツナギは闇の中では自身を隠してくれたが、これから先はそうではないだろう。
そして、目の前にある駅は外からでもけっこう見通しがいい。現在は人の気配は感じられないが
万が一、駅を探索中に外から見つかるようなことがあれば……
後ろ向きすぎるか。どれだけ確率が低かろうと賽を振らなければ勝負は始まらないのだ。
ただ篭っていても打てる手が減っていくだけでジリ貧だ。

峰不二子は気を奮い立たせ、目の前の道路を素早く横断し駅の中に静かに駆け込んだ。

券売機を横目に無人の改札を抜ける。事務員室や売店、他にも気になる所はあるが真っ先にホームを
目指した。万が一にも電車がホームに残っている可能性があるからだ。

だが、残念ながらホームに電車は残っていなかった。
代わりに見つけたのは銃弾を撃ち込まれた自販機とホームに落ちた一つの電灯。
戦闘があったのかも知れない。だが血痕はどこにも見当たらなかったし、銃痕も他には見当たらなかった。

ホームに屈んで落ちている薬莢を見る。そしてそこから撃たれた自販機を見やる。
落ちている薬莢の数と銃痕の数は一致する。そして銃が使われた痕跡はこれだけだ。
牽制……または誤射か?銃に慣れていない誰かが誤って撃ってしまったのかも知れない。
落ちている薬莢の種類と数からしておそらくサブマシンガンの類いだろう。

そしてもう一つの痕跡は落ちた電灯。
奇妙なのはその切り口だ。まるで初めからそうであったように綺麗に切られている。
……思い出すのは鉄をも斬る刀を持つ一人の男――石川五ェ門。彼の斬鉄剣ならばこういった
芸当も可能だろう。だがしかし、天井を見上げるとけっこうな高さがある。
跳んで斬ったのか、何のために?

よくわからない状況だ。
一人だったのか二人、いやそれ以上だったのか。殺しあったのかそうでないのか。

峰不二子は一つ溜息をつくと、情報だけを頭に入れホームを降りた。

52峰不二子の溜息 2/2  ◆S8pgx99zVs:2006/12/25(月) 23:24:14 ID:XQz63kTg
結局、駅の中では目ぼしいものは見つけることはできなかった。
定期的にF-1、E-6の駅から電車が出発することはわかったが、その本数は少なく次の時間までも
間がある。

駅に見切りをつけると、そのまま駅前の繁華街の方へと向かった。
商店が多ければ何か有用な物が見つかるかと思ったからだ。
武器は難しいかも知れないが、食料や飲料水などが見つかればいい。そして、殺し合いに怯え
引篭もっている他の人間がいれば……

ほどなくして峰不二子はある微かな匂いに気付いた。紅茶の香りだ。それも喫茶店の中から。
この状況で喫茶店だけが開いているとは思えない。つまり誰かが喫茶店に侵入し、そこで紅茶を
入れているのである。緊張感がないのかそれとも殺されないという自信の表れなのか……

遠目に中を窺って解るのはカウンターに大柄な男が座っているということだ。
目の前にカップは見当たらない。ということは紅茶を入れている人間が他にもいるということだろう。
つまり少なくとも二人。そしてその二人は殺しあわずにここで紅茶を飲もうとしている。
そもそも殺しあうという発想がある人間ではないのかもしれない。
だとすれば――少なくともいきなり撃たれるようなことはないだろう。話し合いの余地はあるはずだ。

ここは賽を振るべき場面。

意を決すると、峰不二子は正面から紅茶の香り漂う喫茶店へと足を向けた。




 【E-6/喫茶店の前/1日目-早朝】

 【峰不二子】
 [状態]:健康
 [装備]:コルトSAA(装弾数:6発・予備弾12発)
 [道具]:デイバック/支給品一式/ダイヤの指輪/銭形警部変装セット
 [思考]:喫茶店に入り中の人間と交渉する/ゲームから脱出

53 ◆S8pgx99zVs:2006/12/25(月) 23:26:09 ID:XQz63kTg
書き手が現れなかった時用に書いたもの。
結局、書き手が現れたので没。

ブラックパンサーに続き、峰不二子関係で二つ目の没だ。

54( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:30:49 ID:cLYQz.q6

絶対的特異的な存在に不可逆的な損傷を与えられた時点で、私の取り得る選択肢は2つあった。
①損傷の回復に努めるとともに、それ以上の損傷が加わらないように防衛すること。
②損傷を加えた対象を即時に無力化し、損傷の拡大を最小に抑えること。
今思い返してみれば、損傷を受けた対象が有機的存在である以上、
可及的速やかに損傷回復に努めれば、後遺症を最小に留めることが出来た可能性が高い。
また、結果的に私は交戦対象の無力化にも失敗してしまっている。対象の戦闘能力を見誤った為だ。
異常に強大な身体能力についても、より慎重にデータ解析を行えば、交戦前の段階でより正確に計測できていた可能性が高かった。

これらの事実にも関わらず、私は2番目の選択肢を選んだ。
今現在に於いて再考、再計算してみても、判断ミスとしか言いようが無い。
なぜ、あの時私は突発的な判断ミスを犯したのだろうか。
それにはこの、解析困難なノイズの関与が疑われる。
凉宮ハルヒが受傷したときに感じた、目の前が赤色に染まるような、あのノイズ。
そして今現在、また新たなるノイズの発生が確認されている。
そのノイズによって、私が判断ミスを犯した際の状況データが際限なく参照、解析され続け、
あの時私が別の行動を取っていたら、という過程の上での考察が留まることなく積み重なってゆく。
それは、まるで判断を誤った私の存在概念自体を叱責、非難するかのようだった。

そして、ある1つの解析結果が提示された。
『今からでももう一方の選択肢を選びなおし、判断の過失を補うよう努めれば、損害を最小限に抑えることが出来るかもしれない』
具体的には、凉宮ハルヒの下へ一刻も早く戻り、治療行動を開始する、というものだ。
それは楽観的観測に基づいてはでいたが、私に残された行動の中では、最も実現性の高い行動指針でもあった。
改めてインターフェイスのプロパティを検索する。損傷、機能不全を示すアラートと、無数のエラーメッセージが交錯する。
戦闘行為の継続は不可能に近い。だが、移動だけならまだ実行可能範囲内だ。
よって、これ以降は残存機能を全て移動用途だけに集中させ、それ以外の機能は一律に省エネルギーモードに設定することとする。

55( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:31:44 ID:cLYQz.q6
思考機能を制限する前に、現存するノイズについての考察を纏めておく。
記憶媒体中の文献から参照するに、このノイズは有機生命体の持つ、『感情』というものに酷似しているようだ。
ならば、有機体に似せたボディによる感覚のインプットと、有機体の社会環境によって与えられるインプットが、
私の中に『感情』という形のノイズを発生させたと仮定できるのではないだろうか。
ならば、そのノイズにも名前があるはずだ。
この『感情』は、いったい何という名前なのだろうか――


                         @


弓兵は、眼前に立つ人翳を静かに見つめていた。
ソレは、突然の闖入者に対しても悠然とした態度を崩さない。
その顔には俺を卑下するような笑みが張り付いている。好奇心と愉悦が混じった表情だ。
それは、動物園で人間が猿や像に対して見せる表情に酷似していた。
『この動物は、一体どんな芸をして、私を愉しませてくれるのだろう』とでも言いたげな。

「おや、久しぶりだな、敗北者。どうした? 何か忘れ物か? 」
吸血鬼はにやにやと笑っている。俺が戦闘に介入したことが嬉しくてたまらないようだ。
俺が、再び奴の射程内に飛び込んできたことが。
「だが、私は今とても忙しい。目の前の敵がまだ『健在』なのでな。魂の失せた歩く屍などの相手をしている暇は無い。
それとも……貴様が代わりに相手を務める、とでも言うつもりか? この私の相手を? 」
吸血鬼の目尻が緩む。自分好みの答えを待ち侘びているのだろう。
だが、不本意ながらも確かに俺の答えは、奴が望んだ通りのものだった。

「……ああ、望みどおり俺が貴様の相手をしてやろう、吸血鬼 」
吸血鬼の口元が、耳元まで大きく歪んだ。

56( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:32:11 ID:cLYQz.q6
「ほう、これは大した心変わりだな。尻尾を巻いて逃げ出したんじゃあ無かったのか? 」
全くだ。俺は俺のすべきことを優先した筈だった。
なのに、実際はどうだ。目の前の一人の少女を助けるために、全く不必要なリスクを犯してしまっている。
そもそもこの少女とて、この吸血鬼が殺さないのであれば、俺が殺す筈なのではないのか。
俺は一体何をしているんだ。
俺は何のために、この化け物と闘うというんだ。

ガラリ
不意に、瓦礫が崩れる音が辺りに響いた。
吸血鬼を中心に捉える視界の端で、少女がゆっくりと立ち上がっているのが見える。
ああ、そうだ。俺はこの少女を助けに来たのだ。
俺があの時仕留めなかった、吸血鬼の毒牙から守りに来たのだ。
……つまり、一時の感情を優先して、初対面の名前も知らない少女のために自らの命を投げ出すつもりなのか、俺は?
これでは、何処かの馬鹿と全く同レベルではないか。

俺の迷いを知ってか知らずか、吸血鬼がちらりと少女を見て呟く。
「貴様の目的は、コレを護ることなのか? 」
「…………その通りだ」
俺は、躊躇いながらも、そう答えた。だが吸血鬼は俺の葛藤になど興味は無いようだ。
「ふむ。二対一か、それもいいだろう。だが、弱虫のお前がきちんと私の相手を務めるのかどうか?
精々時間を稼いだ後に、再び逃げ出すのがオチでは無いのか? 」
吸血鬼は、ゆっくりと値踏みをするかのように俺を睨め回す。
「…………」
「図星、といったところか。まあ、以前と比べれば大した進歩だが、これではまだ足りないな。……そこで、だ」
吸血鬼は、手にした拳銃をゆっくりと標的に向ける。
――少女の方に。
「何っ!?」
「BANG! 」
吸血鬼の拳銃が火を噴いた。

57( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:32:59 ID:cLYQz.q6

だが、その弾丸は、少女には届かなかった。
俺が投影していた熾天覆う七つの円環に護られたからだ。不完全とはいえ、弾丸を弾くだけの力はあったようだ。
「ほう。思ったよりも頑丈な盾だな。だが、いつまでもつかな? 」
「……貴様、何がしたい? 俺と戦うのが貴様の望みではないのか? 」
「むろんその通りだ。だから、少し“ルール”を定めてやろうというのだ。
私は、貴様を殺し、その次にこの娘を殺す。貴様が逃げても、この娘を追って殺す。
貴様がこの娘を連れて逃げようとしても、真っ先にこの娘を殺す。
つまり、貴様は私がこの娘を殺す暇も与えず、闘い続けなければいけない。私が満足するまで、な。
……どうだ? この“ルール”なら、貴様も納得だろう? 」
そして吸血鬼は、子供のようにくすくすと笑みをこぼした。
狂っている。
こいつは自分が戦い愉しむこと以外の全てを棄ててしまっている。
「さて、ではそろそろゲームを始めるとするか。
おい娘。貴様は精々何処へなりと逃げるがいい。なんなら奴に加勢してもいいぞ?
そして貴様は、精いッぱいに、私を愉しませて見せろ! 」
少女は吸血鬼の言葉を聴いているのかいないのか、虚ろな表情のままだった。
だが、彼女は覚束無い足取りで、一歩、一歩と歩き出した。
そうだ。お前は逃げろ。
そして俺は――――
「では、はじめるとするか…………“ヨーイ、ドン ”だ! 」
――奴を、倒すッ!!

58( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:33:25 ID:cLYQz.q6
瞬間、俺は地面を蹴った。そして次の瞬間には、その場所に弾丸が飛来する。
「フフ、いい反応だ。そうでなくてはな! 」
そう嘯きながらも、吸血鬼は次々と弾丸を打ち出す。その狙いは正確で、速い。
投影に平時の数倍時間を要するこの世界では、新たに熾天覆う七つの円環を投影し防御する暇など無い。
それはつまり、この世界では俺の固有結界をも著しく制限を受ける可能性を示唆している。
固有結界を展開したところで、投影への障害が残れば攻撃能力が著しく減衰してしまう。
さらに、数倍の魔力の消費が俺の頸を絞める結果になりかねない。
そもそもこの世界で固有結界が展開できるのかどうかすら、甚だ疑問であるのだ。
固有結界は使えない。そもそも使う隙さえない。
だが、それでも……俺は勝つ!

俺は腰に刺した2本の干将莫耶を手に取った。予め投影して置いた物だ。
時間的余裕が無かったため、俺が今持っている剣はあと5本。この化け物相手では心許無いことこの上ない。
しかし、勝機は必ずある。
銃弾を躱しながら、俺は一本の剣を吸血鬼に向かって放ち、その魔力を解き放つ。
爆発。
吸血鬼の周囲に粉塵が巻き上がる。今だ!
俺は、更に2本の剣を投射する。
更なる魔力開放。そして、更なる爆発。
その衝撃で、吸血鬼の居た場所にもビルが崩れ行く。
そして大きな音が響き渡ると同時に、その場は濛々とした砂埃に包まれた。

これで、僅かながらも時間が稼げるだろう。十分だ。
機は熟した。
改めて精神を集中させると、俺は“新たな剣”の投影を実行する。
奴を斃すには、それに相応しい剣が必要なのだ。

59( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:33:53 ID:cLYQz.q6
「おお、ほっとした。また逃げるのかと思ったが、安心した」
砂煙の中から、吸血鬼の影がゆっくりと現れる。
「ふむ、それが貴様のとっておきか? そのいびつな一本の剣が」
吸血鬼の目は、俺の手に握られた一振りの剣を捉えていた。

「ああ、そうだ。貴様には過ぎた代物だが、特別だ。とくと味わえ―― 赤原猟犬(フルンディング)!!」


「ぬぅっ 」
吸血鬼が唸る。その腹には孔がひとつ。
放たれた赤原猟犬は、次の瞬間には吸血鬼の腹を射抜いていた。
だが、まだ終わらない。吸血鬼の腹を貫通した赤原猟犬は再び吸血鬼に襲いかかる。
第二、第三の孔が、次々に穿たれる。
「堕ちろ! 」
吸血鬼の躰は、壊れた操り人形のように踊る。
「堕ちろ! 」
だが、これだけでは不十分だ。止めが要る。俺は最後の干将莫耶を手に取った。
そのまま俺は、吸血鬼との間合いを詰める。
赤原猟犬で行動を封じた上で、接近しての壊れた幻想を直撃させる二段攻撃。それが俺に出来る、最良の殲滅法だ。
赤原猟犬が吸血鬼に突き立つ瞬間、俺は吸血鬼を滅殺すべく、振り被った。
「堕ちてッ! 滅びろッッ! 吸血鬼ッッッ!!!!!!」

60( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:34:16 ID:cLYQz.q6
「ふはあうぇら(つかまえた)」
「なッ!?」
だが、そこには極めて非現実的で、極めて馬鹿らしい光景が或った。
顔面に剣を突きたてた吸血鬼。口腔から後頭部へと突き抜けた剣は、しかししっかりと其処に固定されていた。
吸血鬼の、歯牙によって。
「糞っ、化け物めッ! 」
だが、もう既に奴の間合いだ。分かりきった事実を吐きながら、俺は奴に斬りかかった。
干将莫耶が吸血鬼の右胸を抉る。
だが、その一撃では奴を殺すのに『不十分』だった。
「焦ったか。惜しいな」
干将莫耶を握る俺の腕を、吸血鬼がぐい、と握る。
次の瞬間、ぐしゃりと、嫌な音が体の内側を通って聞こえた。痛みは感じなかった。悲鳴を上げる余裕も無い。
そして、俺はそのまま、剣の魔力を解放した。
爆音が、響き渡る。




「ふむ、相打ち狙いだったのか? 悪くはないな」
吸血鬼は冷静に、だが随分と嬉しそうに俺を見ていた。
壮絶な爆発が生じたのにも拘らず、俺も吸血鬼も生きている。
吸血鬼が爆発の刹那、剣を遠方へと放り投げた為だ。
「だが、貴様はその技を見せすぎた。残念ながら、そう易々と死んでやるわけにもいかんからなぁ? 」
よくもまあ、臆面も無くそんなことを言う。奴が生に拘泥しているなどとは微塵も感じない。
「おや、どうした掃除人? 私を倒すんじゃ無かったのか?」
吸血鬼が、孔の開いた口で喋る。
「調子はどうだ? 満身創痍だな。腕が千切れかけているぞ」
自分も再生が追いつかずにボロボロだというのに何を言うのか。
「どうするんだ? お前は犬か? それとも人間か? 」

61( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:34:41 ID:cLYQz.q6

俺が、誰かだと?
叶わぬ理想を夢見た末に、相も変わらず同じ事を繰り返すこの俺が誰かだと?
そんなこと、決まっているではないか。
ああ、そうだ。いつの間にか俺は気付いてしまっている。
俺が何をしたいのか。何のために戦いたいのか。
俺が一体誰であるのか。

「黙れ」
「……! 」
俺は、俺に残された最後の剣を抜き放った。
理想に殉じ、力尽きた男、衛宮士郎の投影したその剣を。
「御託はもう十分だ」
残された片腕で、剣を構える。大丈夫、まだやれる。俺はまだ死んではいない。
俺に残った、ありったけの闘志と殺意を、剣の切っ先に集中させる。
「さあ、殺してやるからさっさと来い! 早く!! 早く!!! 」

「ああ」
吸血鬼が呟いた。

「素敵だ。やはり人間は素晴らしい」
吸血鬼が今までとは違う顔で笑う。この化け物は、こんなにも幸せそうな顔をして笑えるのか。

「嗚呼、人間よ。お前の名を聞いていなかったな。聞かせて欲しい。汝の名は? 」

62( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:35:06 ID:cLYQz.q6
「名前だと? この俺の名前だと? 」
「ああ、そうだ。我、アーカードが汝に問う。汝の名は何ぞや? 」


敵に名前を名乗れとは、決闘かなにかのつもりなのか?
まあいい。名乗ってやるさ。俺もついさっき知ったばかりの俺の名を。


「俺の名が聞きたいのか? ならば聞かせてやろう。俺の名は――――」



「     」



叫ぶと同時に、俺は跳躍する。
そして一心に走る。獲物めがけて。
狙いは一つ。奴の左胸、心の臓。
俺の全てをつぎ込んで、
ありったけの力を注ぎ込んで、
その剣を、奴の心臓目掛けて、突き刺した。

やつの左手が剣を阻む。
だが、そんなもので止まりはしない。
俺の剣が、その掌を突き抜ける。

そしてそのまま、俺の剣は、吸血鬼の左胸に突き刺さった。

63( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:35:26 ID:cLYQz.q6
だが、俺の剣は、そこから先に進むことはなかった。
吸血鬼の手が、剣柄ごと、おれの拳を握り締めていたからだ。
俺の剣はそれ以上、びくとも動きはしなかった。
あと一寸切り込めば、心臓に至るというのに。

俺の手を握る吸血鬼の手は、先ほどとは違って、不思議と優しく暖かかった。
まるで握手をするかのように。
そして、その目は、信じられないほどに穏やかな光で満たされていた。
まるで、我が子を誇る父親のように。
だが、そこには悲しみの光もまじっていた。
友人との別れを悲しむ者のように。

「お前は本当に素晴らしかった。己を誇るが良い。永遠に……」

そして、吸血鬼の冷たい牙が、俺の首筋に当たる。
死が、優しく俺を包む。

俺は、少女がもう遠くに去ってしまった事実に満足すると、静かにその目を閉じた。

64( no name )  ◆B0yhIEaBOI:2007/01/16(火) 19:36:02 ID:cLYQz.q6
【E-3 市街地/1日目/昼】

【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、左腕骨折、背中に軽い打撲、思考にノイズ、SOS団正規団員
[装備]:S&W M19(残弾2/6)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、タヌ機(使用可)
[思考]:
 1.ハルヒの元へと戻る。
 2. SOS団メンバー及び仲間の知人を探す。


【アーカード@HELLSING】
[状態]:損傷多大。満腹。満足。
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾3)
[道具]:名も無き剣@Fate/stay night
[思考]:
 1.近くの暗がりでゆっくり眠る。


【アーチャー@Fate/stay night  死亡】

※アーチャーの荷物一式はその場に放置されています。

65                1/5:2007/02/13(火) 01:59:15 ID:swV8ddKI
 行く手に、いつかの橋が伸びていた。
 その少し手前、破壊痕こそ薄くとも、その場所こそがこの異状での「始まり」だったところだ。
 必ずいる、と信じていたヴィータに応えるように、彼女は橋の中ほどに立っていた。
 邪魔者の入る余地は一切ない。
 その姿を見届けたところで、のこのこついてきたお人好しに声をかける。
「おい、もういいぞ。こっから先はあたし一人で行く」
「あん?」
 答えを待たずにデイバッグを下ろす。グラーフアイゼンとレヴァンティンだけを両手に携え、カズマに背を向けた。
「あたしの荷物任すからさ、ここで待っててくれよ」
「おいおい。あいつをブッ飛ばすんだろ」
 一人よか二人の方が都合がいいに決まってんだろ、と目顔で訴えるのが、背中越しにわかる。
 その意見はもっともだが、この邂逅にはもう一歩先がある。
「お前にもいるんだろ、こいつだけは自分の手で倒さなくちゃなんないって相手」
 前に何とか言っていた相手だ。カズマにとってのその相手は、今ヴィータにも当てはまる。
 レヴァンティンの重さが、右手に静かに乗っている。ヴィータの指と手のひらに、穏やかに鞘を預けていた。
「だからさ、手、出さないでおいてくれ」
 視線の先の人影は、まんじりともしない。
「わーったよ。勝手にしろ」
「ああ」
 カズマがどんな表情をしているのか、窺い知る術はない。ただ、靴の裏が砂利を踏みにじる音が小さく聞こえた。
「ごめんな」
「……あん? 何つった?」
 橋には、シグナムが待っている。


 高欄にもたれかからせるようにして、シグナムのバッグが置かれていた。
 湖面に立つが如く斧を握るシグナムに、数メートルの距離を開けて対峙する。
 レヴァンティンを投げた。
 鞘のままのそれを片手で受け取り、シグナムは斧を脇に抛って剣を左手に携えた。
「……答は、決まったか」
「シグナム」
 グラーフアイゼンを右に持ち替えて一振りすると、今までそうであったように鉄の伯爵が利き手に納まった。
「やっぱりお前、間違ってる」
 水面の小波すら息を潜めて、透明な空気だけが厳かに二人の間を押し流していく。
「あたし、すっげー色々考えた。もしかしたら、シグナムの言ってることの方がはやてのためなのかもしんないって。
 笑ったり泣いたり怒ったりさ、死んでたらできないもんな……でも、やっぱり何かおかしいんだ。でも何がおかしいか、よくわかんなくて。
 で――いたんだ。あたしみたいなバカがさ。そいつ、何が正しいかなんて全然考えてなくてさ。
 自分がやりたいようにやりゃいいんだ、それの何が悪いんだ、って」
 その男は、約束を守って、ヴィータが戻ってくるのを待っている。
 我慢するのが正しいことだと信じたから。我慢しなければいけないところだと決めたから。
「やっぱりあたしには、難しいことなんかわかんなかった。だからさ……」
 グラーフアイゼンの柄尻に、そっと左手を滑らせる。
「あたしはあたしのやり方で、ベルカの騎士の誓いを果たす! 自分のために人が死んだなんて、はやてが喜ぶもんか!」
「……ならば、私も私の信じる道を往こう」
 涼やかな音を立てて、炎の剣が抜き放たれた。
「ヴィータ……例えお前の屍の先であろうとも!」
 その身体を、戦士の装束が包む。

66我らが誓いは主の為に 2/5:2007/02/13(火) 01:59:54 ID:swV8ddKI
 ヴィータの武器は、戦槌である。
 鎧の上から相手を殴り殺す武器に、浅く当てて行動を奪ったり、突きつけて動きを止めさせるような小器用なことは出来ない。
 不便、鈍重、しかし当たればただではすまない。そういう武器だった。
 それでもヴィータはグラーフアイゼンを担いだ。
 間合いは5メートルと少々。
 全力で叩き込むには十分な助走距離だが、確実にシグナムの方が速い。
「はああああああっ!」
 だが、跳ねた。
 当然のようにシグナムが応じた。
 ヴィータの進路上から半身をずらし、青眼のレヴァンティンを盾に前へ出る。
 切っ先が半円を描き、ヴィータの腋下を打とうと小さく疾る。
 それを、相手を打つにはかなり手前で踏みとどまったグラーフアイゼンが打ち落としに飛んだ。
 レヴァンティンを破壊してしまえれば、シグナムは止まる。そう考えていた。
 それと察知したシグナムによって、レヴァンティンは横に寝かされ、鉄槌はむなしく空を切る。
 そして手首のみで最低限の軌道を操られた剣先が、ヴィータの顔を狙う。
 辛うじてグラーフアイゼンの柄尻が払いのけた。
 体勢の直らないヴィータに、さらにレヴァンティンの切っ先が躍りかかる。
「なんで人殺ししてまではやてを生き返らせようとするんだよ!」
「主はやての為に全てを捧げるのが我らヴォルケンリッターの存在する意義だ! 忘れたとは言わせん!」
 剣を一度引き、シグナムは始めて大きな動作で打ちかかった。
 グラーフアイゼンの槌頭で受けるが、即座に放たれた斬り返しを防ぎ損ねた。肩口を浅く切り裂かれる。
「そんなことはわかってるけど……!」
 斬り下ろしたそのままの勢いで、胸元への刺突が飛ぶ。
 間違った避け方とはわかっているが、後ろに飛びながら手のひらで剣の横腹を叩く。
 手がざっくりと裂けた。
「でも、それとは違うだろ!?」
「何が違う!?」
 胴打ちが変化した。腿に数センチ、刃が通る。
「何が、って……お前は、お前は……!」
 再び凄まじい勢いで、剣先が繰り出される。
 シグナムの全力とは程遠かったが、それでもヴィータと扱いにくい得物の組み合わせでは、急所を外すのが精一杯と言う有様だった。
「お前は……!」
 血の滴る右手でグラーフアイゼンをぐっと握り締め、左の柄尻を前へ突き出す。
 数十度目の剣先を流し、絡め落とそうと捻りの加わったレヴァンティンにさらに食い下がる。
 レヴァンティンが僅かに離れた、その瞬間に柄尻で剣を目一杯叩いた。
「お前は!」
 裂けた右手の中で、戦槌が反転する。
 そのままの軌道で狙うのは、シグナムの正中線。
「お前は! はやてと一緒にいたいだけじゃないのか!?」
「……ッ!?」
 その一撃が軌道に乗る前にヴィータを斬り捨てるはずだった剣が、一瞬止まった。
 先の先を取るための時間の猶予は、それで失われた。
 そのまま剣を上げて、遠心力と重量の乗った槌を受け止める。
 ついにシグナムは捕捉された。
「お前がはやてと一緒にいたいから! はやてがいないことに耐えられないから!
 勝手なリクツつけて自分のワガママ通そうとしてるだけなんだろ!?」
 グラーフアイゼンが、シグナムをしっかりと縫い止めている。

67我らが誓いは主の為に 3/5:2007/02/13(火) 02:00:28 ID:swV8ddKI
「ベルカの騎士の務めだ! 私情など……!」
 押し返す力が、シグナムにない。
「騎士ならなおさらじゃねーか! はやてがどう思うかなんて、もうとっくにわかってるんだろ!?」
 騎士の誇りは何が大事かなどというのは、ヴィータには言うまでもなく決まっていることだった。
 そこに欺瞞があっては、ならない。
「何を一番大事にしなくちゃいけないか、わかってるんだろシグナムーッ!」
 シグナムの右足がふっと浮いた。
 続く前蹴りの前にヴィータは自ら鍔迫り合いを外し、一旦距離をとってから再びグラーフアイゼンを振りかぶった。
 自分の伝えられる言葉は全て伝えた。シグナムにも伝わるはずだと確信している。
 言葉だけは全てを伝えきれない。だから、この一撃で。
「でやああああああっ!」
 シグナムは完全に後手に回った。
 しかし、ヴィータの狙い通りとはならず、鉄の伯爵は炎の剣に受け止められた。
 そして、ヴィータの思惑の通り、直情の破城槌が、シグナムの理論武装に一撃でひびを入れた。
 槌の衝撃は重い。
 防御ごと砕かれかねない勢いを自ら後ろに飛ぶことで殺し、その勢いで距離をとる。
 ヴィータは追わない。
 10数メートルの距離を取って、シグナムは呼吸を整える。
「レヴァンティンッッ!」
「Bogenform!」
 ヴィータは、自分の狙いが、シグナムを追い詰めたことを知った。
 顔と指先が急に冷たくなっていくのを感じる。
 ボーゲンフォルムから放たれる超高速の魔力弾……シュツルムファルケンは、シグナムの奥の手である。
 確実に仕留める。そういう意味合いを持っている。
 シグナムの技量を持ってすれば、この狭い橋のほぼ全てを射角に収めることが出来る。
 もはや避けるようなスペースは――あった。
「行くぞ、グラーフアイゼン……」
「Raketenform」
 手に硬い重さを伝えながら、グラーフアイゼンが姿を変えていく。鋭く、迅く。
 回避地点はひとつ。発射されたシュツルムファルケンの、側面。
 風より速く前へ出て、撃ち出された矢の進行軌道そのものを避けること。
 余計な魔法で強化している暇はない。普段どおり、回転しているスペースもない。
 まっすぐ、ただひたすらまっすぐに、狙いを定めて槌を振り上げた。
「ラケーテンハンマァァァァ!」
「駆けよ、隼!」
 ハンマーの推進力が爆発すると同時に、非実存の弦が非物質の矢を放つ。
 隼の名の通り、音速を幾つも破った必殺の矢が、放たれると同時にヴィータに傷を与えていた。
 服を裂くにとどまらず、わきの下を灼き肋骨の数本を削りながら飛び去っていく。
 だが、直撃弾ではない。辛うじて競り勝っ――
「Schwertform!」
 状況を見てから剣に変えたのでは、間に合わないはずだった。
 であればこのタイミングでのフォルムチェンジは予定の行動。
 すなわちカートリッジ2発分、レヴァンティン最強のシュツルムファルケンは最初から目眩ましであった、ということ。
 強大な魔力の輝きから視力を取り戻した世界には、既に大きく横に振りかぶるシグナムの姿。
「紫電!」
 撃ち終えた空隙を突くつもりだった。
 レヴァンティンを叩き落として、それでもダメなら少し痛めつけて、負けを宣告して、それで――
 このまま打ち下ろせば、シグナムを殺してしまう。
 一瞬、止まりかけた。
「Raketenhammer!」
 グラーフアイゼンが吼える。
 もはや前進以外に活路はないのだ、と。
「うあああああああああああああああああ!」
「一閃――!」

68我らが誓いは主の為に 4/5:2007/02/13(火) 02:01:02 ID:swV8ddKI


「シグナム」
 振り下ろされた鋼の破壊槌は、橋の床板を砕いて止まった。
 ヴィータの眼前には川の流れ。破壊は小さくとも、もうここは橋の役を果たすことはないだろう。
 そして、辛うじて橋桁にこびりついた床板に、そっと屹立するグラーフアイゼン。
「はやてにさ……会ったら、何て言う?」
 川が空気を削る音と、彼方に海が陸を叩く音。
 じっとヴィータは答えを待っていた。
 破壊の残滓を飲み込んだ川は、何も知らぬ顔で浅い擦れ音を立てている。
「――――何も」
 溜息のような呟きが返される。
「主は、此度の事は何も知る必要はない。ただ幸せになってくださればそれでいい。そのためなら、私は悪魔に堕すとも厭わない」
 おそらくこちらを見ないまま発されたであろうその声を、ヴィータはじっと確かめた。
 声色、息の拍子、強さから音階まで。
 苔むした濃緑と川岸のコンクリートの色が混ざって、川の水は思うほど澄んでいなかった。
「はは、バカだな、シグナム」
 背を向けたまま、胸を反らして天を仰いだ。
 小さな体の抉られた痕から、ヴィータの命が極光のように散っていく。
 再び、前へ。斜めに突き立ったグラーフアイゼンの柄へ、肩から体重を預けた。
「そんなに、元気ねえ、言い方で――」
 共にあるように創られたアームドデバイスへその身を預け、ヴィータはゆっくりと膝をついた。


                    ※


 どの瞬間からか、橋に足を踏み入れていた男が、ヴィータとの間にシグナムを挟むように立ち止まった。
「まずは、見届けてもらったことに礼を言う」
「そいつに言われたんだよ。てめえは自分で倒すから手を出すなってな」
 シグナムの手には、抜き身のレヴァンティンが未だ残っている。
 その気になれば踏み込みから一太刀の間合いだと言うのに、男はあくまで自然体のまま。
 自然体のまま、全身に火のついた炸裂弾を埋め込んだ形相でシグナムを睨みつけている。
「さっさとどっか行きやがれ。俺はさっきからてめえをブチのめしたくてウズウズしてんだよ」
 そっと視線を流すと、ヴィータは小さく座っていた。
 あのままにしておくのは忍びない。
 だが、それ以上に自分はもうこの場にふさわしくない人間であると、全身で理解していた。
 男の瞳を見る。
 高原で焚く篝火も、これほど烈しく燃えないだろう。
「ヴィータを……」
「てめえが言うんじゃねえ」
 それ以上未練を晒せば、折角の気遣いがそこで終わる。
 いや、気遣いではなく、死者への義理と義憤のせめぎ合いだろう。そして彼がヴィータの心を決めさせた「バカ」であるならば、
 その行動は義憤によって凄まじい爆発力を見せる。
 技量は知らない。が、勝てる相手ではない、と思った。
 少なくとも、今のこの心では。

69我らが誓いは主の為に 5/5:2007/02/13(火) 02:01:28 ID:swV8ddKI


 擦れ違ったシグナムにそれきり視線を送ることもせず、カズマはヴィータに歩み寄った。
「おい、起きろよ」
 そっと抱え起こすと、未練そうに薄目を開いたまま静かに時を止めていた。
 性格の割に白い肌が、皮膚の下に消失の色を湛えている。
「ちぇ、バカ野郎……」
 何を思うでもなく、しばらく顔を見ていた。
 人差し指と中指で目を閉じさせ、得物にしては華奢な体を抱き上げる。
 葬る場所は、皮肉にもすぐそばにあった。
「じゃあな。かなみと君島に、よろしく言っといてくれ」
 小さな水飛沫を上げて、赤い姿が陰鬱な水の中を鮮やかに流れていく。
 その色が海に消えるまで、カズマはじっと見送っていた。
「Sie」
「あん?」
 ふと呼ばれた気がした。辺りを見回してみるが、カズマに語りかけるようなものは何もない。
「Nehmen Sie mich」
 傍らの鉄槌以外は。
「なんだあ?」
「Nehmen Sie mich,sie」
 間違いないと見て取って、柄についた血痕にそっと手を当ててみる。
 消えていくヴィータの体温が、手のひらに触れた。
「なんかのアルターか……? つれてけって言ってんのか」
「Ja」
 ヴィータの体ほどもある長い柄をまじまじと見る。
「そうかい、お前もこのままじゃ納まらねえか。そうだよなあ……!」
 カズマの言葉に応じるかのように、ハンマーは自ら縮んでいく。
 最終的に、手のひらに収まる程度の小さなハンマー型のフィギュアになった。
「へへ、気が利くじゃねえか」
 それを拾い上げれば、もう落ちた橋の他に何も残っていない。
「行こうぜ。このままほっとく気はねえんだろ、お前も!」
「Jawohl」
 小さくなったグラーフアイゼンをポケットにねじ込み、カズマは橋に背を向けた。
 進んで、ふと振り返る。
 水面が、小波を立てて静かに流れていく。

70我らが誓いは主の為に 6/-:2007/02/13(火) 02:04:21 ID:swV8ddKI
タイトルだけ決めてからひねり出した怪物。
どうせ没だし、せっかくなので好きにやった。

71Nihility letzt Momente:2007/02/15(木) 17:15:42 ID:wB20Geww
無数の建造物が立ち並ぶ市街地。
無骨な武器を持った少女は、一人で寂しく歩き続ける。
少女は不意に感じ取る。
グラーフアイゼンの異変に。

「どうしたのよあんた?サイトの仇討ちに行くのに…魔力乱れてるわよ」

「Vita, der nur mein Meister ist…Ich starb」
(たった今、私の主であるヴィータが…死にました)」

「はあ、どうして分かるのよ、放送も無いじゃない。寝言言ってる暇あれば…」

「Ich verstehe es.Vita und ich sind Mitsoldaten.Wenn ich sterbe…Ich finde es in Vorahnung.」
(わかりますよ。ヴィータと私は戦友です。死ねば…直感で感じてしまいます)

「悲しいの?…泣いてるんだ」

「Um zu weinen…Ich bin traurig darin…」
(泣くなんて…それに悲しくは…)

「いいじゃない、悲しいときは泣けば…はあどうして私のパートナーは素直じゃない男ばっかりなんだろ」

二人の会話は続く。
静かな市街地にすら響かない、静かな、そして穏やかな会話。
そして、それを打ち破るのは一人の赤服の男。

72Nihility letzt Momente:2007/02/15(木) 17:16:19 ID:wB20Geww
「HAHAHAHAHA。またしても魔法使いか。面白い、また俺の首を飛ばせるか!」

「…やれやれ、グラーフアイゼン、いつものお願い」

「…Yes sir」

シュワルベフリーゲンを一撃。
鉄球での攻撃は赤服の男、アーカードを直撃した。

「弱いわね、じゃあ話の続き」

「素晴らしいぞ!この魔女が!」

爆炎の中を飛び出して、ルイズの腹部にジャッカルで一撃を加える。
ルイズは二メートルほど後方に飛ばされ、コンクリートの壁に後頭部を撃ちつける。

「…痛いなあ」

ルイズはズキズキ鈍痛が続く後頭部に手を当てる。
生暖かいドロリとした感触。大量の出血があるのが分かる。

「グラーフアイゼン、あなた主を三人持つ気はある?」

「Nein, mein Meister mit Vita…Ich sage ehrlich, und ich mochte es nicht, aber es gibt nur Sie.Das Verändern oft
eines Meisters…Außerdem, es gibt nicht den Verstand, warum Vita stirbt, und sich selbst hält sich / sich aus.」
(いいえ、私の主はヴィータと…正直に言って気に喰わなかったですが、あなたしかいません。何度も主を変えるのは…
ましてやヴィータが死んで自分が生き長らえる気など無い。)

静かな問いかけに、確固とした意思の見える回答。
ルイズの思考もまとまった。

「OK.じゃああなた、もう一つ力持ってるでしょう、教えなさい。貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
最期の魔法のパートナーにあなたを選んだんだから。生半可な物じゃ許さない」

「Verstand es; unterrichten wir es.Alles von mir, Befreiung der Macht.」
(分かりました、教えましょう。私の全て、力の解放を)

それと同時にグラーフアイゼンは形をギガントフォルムへと変える。大きさもはるかに大きくなる。
ルイズ自身も魔力をグラーフアイゼンに吸われるのを感じ取る。

73Nihility letzt Momente:2007/02/15(木) 17:17:58 ID:wB20Geww
「いいわね、これ。最高」

「Ich setze mein Leben darauf, ob Sie gehen werden.」
(行きましょうか、私も命を懸けます。)

「HAHAHAHAHA。武器を巨大化か、本当に面白い、そういえば貴様の服、最初に殺した蒼髪の女と同じ服だな。もしや友の仇でも討ちたいのか」

「蒼髪…タバサか。不本意だけどしょうがないわね。グラーフアイゼン行くわよ」

ルイズはアーカードに向けて突進する。

「ギガントッッッッシュッッッラッッッーーークッッッ!!!!!!!」

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」

グラーフアイゼンとジャッカルは重なり合う。
轟音、大爆発、そしてその場には、草木一つ残らなかった。
ただ、アーカードが倒れていた。
微笑を浮かべて。

「はあはあ、勝ったの…いいえ、相打ちね」

ルイズは左胸を抑える。大量の出血、自分も長く無いと感じ取る。

「…グラーフアイゼン、最高のパートナーだったわ、あっちでも私の武器になる?」

「Ich werde enttäuscht, aber ignoriere Vita dort…」
(残念ですが、あちらではヴィータを無視するわけには…)

「そう、残念。まあいいか、あっちにはサイトいるし、あんたもヴィータと幸せになりなさい」

「Ha-ha es ist insbesondere diese Art von Verbindungen.」
(ははは、別にそういう関係では。)

「冗談よ…はあ、なんだか目も見えなくなってきちゃった。もう時間か」

「Nun, wie für ich…Es ist schwierig, daß ich rede…Ich wurde es.」
(そうですね、私も…話し辛く…なってきました)

「あんたも私も…サイトやヴィータのところにいければいいな、ついでに士郎や…あの機械女にも謝らないと…」

「Ich kann gehen.Gehen wir gewaltsam mit zwei Leuten zu allem, wenn ich nicht gehen kann.」
(行けますよ。行けなければ強引にでも二人でみんなのところまで行きましょう。)

「頼もしいわね、…もうさすがに苦しいわ…お休み」

「Es ist mein Hauptstaat, daß es zweitens gute Nacht liebte.」
(お休みなさい、私の二番目に愛した主様。)

ルイズが眠りに付いた数分後、追うようにグラーフアイゼンも静かにその機能を停止する。
ルイズの死に顔は、とても穏やかで眠るようだった。


【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 死亡】
【アーカード 死亡】
【グラーフアイゼン 消滅】
【ジャッカル 破損】



内容が内容だけに、本編では実現出来そうに無いので書きました。
グラーフアイゼンがしゃべりすぎなので、キャラが変わり過ぎです。

74 ◆2kGkudiwr6:2007/03/01(木) 23:32:36 ID:fwIA2YY2
メカリルの続きとして投下しようかと閃いたけど、シリアスな展開がブチ壊れるので3秒でやめたもの。

-概略-
なのはが死んで落ち込むフェイト。
そんなフェイトを慰めるべく頑張るゲイナー、
しかしフェイトは私なんて必要じゃないんだ……など様々なことを抜かします。
このままではフェイトが自殺してしまいそうです。
そこでゲイナー君は、フェイトを励ますべく彼女の存在意義を生む、大切な感情を伝えるのでした。
……口からでまかせで。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゲイナー
「そうだ!フェイト!
好きだァー! フェイト! 愛しているんだ! フェイトー!
助けてくれた瞬間から好きだったんだ!
好きなんてもんじゃない!
フェイトの事はもっと知りたいんだ!
フェイトの事はみんな、ぜーんぶ知っておきたい!
フェイトを抱き締めたいんだァ!
潰しちゃうくらい抱き締めたーい!
君の悲しみは心の叫びでかき消してやる! フェイトッ! 好きだー!
フェイトーーーっ! 愛しているんだよ!
ぼくのこの心のうちの叫びをきいてくれー! フェイトさーん!
フェイトが僕に振り向いてくれれば、ぼくはこんなに苦しまなくってすむんです。
優しい君なら、ぼくの心のうちを知ってくれて、ぼくに応えてくれるでしょう
ぼくは君をぼくのものにしたいんだ! その美しい心と美しいすべてを!
誰が邪魔をしようとも奪ってみせる!
恋敵がいるなら、今すぐ出てこい! 相手になってやる!
でもフェイトさんがぼくの愛に応えてくれれば戦いません
ぼくはフェイトを抱きしめるだけです! 君の心の奥底にまでキスをします!
力一杯のキスをどこにもここにもしてみせます!
キスだけじゃない! 心から君に尽くします! それが僕の喜びなんだから
喜びを分かち合えるのなら、もっとふかいキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらいます!
フェイト! 君が禁止エリアの中に素っ裸で出ろというのなら、やってもみせる!」

フェイト「え、え、え、え……!?」
レヴィ「今すぐ素っ裸で禁止エリアに出て死ね、阿呆ゲイナー」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

どう見ても没です。本当にありがとうございました。

75「ただ前を向き、ただ上を目指す……」 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:07:29 ID:SfsGLlYs



  漢、それは飽くなき正義の探求者

  豚、それは飽くなき正義の追求者

  あぁ、最早なにも言うまい

  騎士、立ちはだかろうとも決して止まらず

  騎士、止めようとも決して聞かず

  漢、ただ前を向き、ただ上を目指す

  豚、ただ前を向き、ただ上を目指す

  ただ前を向き、ただ上を目指す……

76「ただ前を向き、ただ上を目指す……」 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:08:09 ID:SfsGLlYs
 ◇ ◇ ◇


(こいつといる俺の昂揚感はなんだ――?)

 癒しの術の使い手であるという女性、鳳凰寺風を捜して、劉鳳は真・絶影を乗り回していた。
 巨大な尾がビルの壁面を叩き、時折市街を上空から探索する。目立つ行為ではあったが、これならば一気に広範囲を見渡すことが可能だ。
 傍らには救いのヒーローを名乗る豚、ぶりぶりざえもんがいる。
 風の素顔を知っているのはこの豚一匹のみ。本人確認のためにも彼は必要な人材だった。

(だがそれだけか? 俺がこの豚に求めているものは、本当にそれだけなのか?)

 得体の知れぬ安心感に答えを求めるべく、劉鳳は自問自答を繰り返した。

(ただの役立たずな豚かと思っていたが……違う! 俺にはこいつが、この豚が――頼もしく思える!)

 ぶりぶりざえもんと一緒ならば、負ける気がしない。
 期待できる戦力を保持するでもなく、効果的な能力を秘めるでもなく、ぶりぶりざえもんはただ喋るだけの豚だった。
 なのにだ。なのに、劉鳳は出合ったばかりのぶりぶりざえもんに対し不透明な親近感を抱いている。
 生涯最高のパートナーを見つけたような、そんな心躍る感覚。だが浮ついたりはせず、劉鳳自身もぶりぶりざえもんも、厳格な態度で風捜索を行っていた。

 E-4周辺に始まり、駅周辺まで捜索の足を伸ばしてきた劉鳳は、不意に真・絶影を止めた。
 それというのも、正義としては無視できぬ不愉快な音を耳が察知したためである。
 間違うはずはない。あれは、銃の発砲音――こんな平和そうな街中で、あんな無粋な物音が鳴るとは。
 劉鳳は唇を軽く噛み、怒りの形相で発砲音の鳴り響いた方角を向いた。
 銃声は決して劉鳳たちに向けられたわけではない。だがそう遠くない地点で、何者かが何者かを狙った事実は確かだ。
 自衛か防衛目的ならばそれもまた良し。殺傷が目的だとしたら――答えは決まっている。

「劉鳳、今のは銃声じゃないか?」
「ああ……行くぞぶりぶりざえもん」

 無駄な会話は一切行わず、劉鳳は真・絶影に指示を下す。
 男と豚、二人の絶対正義主義者を乗せ、大蛇の化身を思わせる自立稼動型アルターが再度飛翔した。
 駅周辺であるE-6エリアは、デパートや企業ビルなどといった都会らしい街並みを形作っている。
 コンクリートジャングルを這い、時には飛び、捜索の眼はギラついた意志を滾らせていた。
 捜す――銃声の発生地と思しき街路を見渡すが、加害者の影も被害者の影も見当たらない。
 争った跡もなし。薬莢もなし。血痕もなし。聴覚は大体この辺りだと訴えてくるが、物的証拠は何も残っていなかった。
 首を傾げるぶりぶりざえもんと、納得のいかない劉鳳は、そこで新たな騒音を耳にする。

77「ただ前を向き、ただ上を目指す……」 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:08:38 ID:SfsGLlYs
「また……」

 銃声が鳴った。すぐ近くではなく、今度はもっと遠くから。
 まさか、発砲音の主は銃撃を繰り広げながら移動している……?
 逃げ惑う野ウサギを、享楽しながら追い回しているとでもいうのだろうか。
 ゆっくり、ゆっくり、狩りを楽しみながら追い詰めていこうと……そんな思考の下で殺戮を楽しむ者が狂気が、銃声の正体だとしたら。

「毒虫が……ッ!」

 劉鳳は憤怒の炎を汲み、真・絶影を加速させる。
 想像通りの下衆な輩がいるのだとしたら、それは格好の断罪対象に他ならない。
 悪は潰えなければならず、正義はそのために動き続けなければならない。
 それが劉鳳の掲げる信念であり、ぶりぶりざえもんが掴もうとしている誇り。
 求めるには、信念を曲げない意志、誇りを崩さぬ実力、そしてあと一つ、必要なものは――

「パーン! って……これで四回目だゾ!」

 銃声が鳴り、それを聞きつけ現地に向かい、銃声が鳴り、それを聞きつけ現地に向かい……
 繰り返すこと計四回。市街中を走り回ったが、肝心の発砲者は未だに見つからず、ぶりぶりざえもんはついに怒りだしてしまった。

「……ん? どうした劉鳳、なにやら汗びっしょりだが大丈夫か?」
「なに?」

 四回目の銃声、今度こそ悪を逃すまいと真・絶影で移動しようとするが、劉鳳の出しかけた指示はぶりぶりざえもんの指摘により疑問符に変化した。
 ふと、自分の身が汗だらけになっていることに気づく。汗だけではなく、微かに息苦しさも感じた。
 まるで、市街中を全力疾走したかのような疲労感が残っている。自身は真・絶影の背に乗り、移動命令を出していただけだというのに、だ。
 アルター能力が弱体化していること、長時間の持続が困難になっていることは午前中に遊園地で確認したが、これはその反動だろうか。
 赤コートの男やカズマとの戦闘、ガス爆発のダメージ、数時間に及ぶ真・絶影の顕現……蓄積された疲労の波がここにきて一挙に押し寄せてきたらしい。

(疲労……そうか!)

 そこで、劉鳳はあることに気がついた。

「敵の狙いが分かったぞ、ぶりぶりざえもん。あの銃声は恐らく、俺たちを貶めるための罠だ」

 劉鳳は途切れ気味の声でそう断言し、ぶりぶりざえもんは「罠だと?」と首を傾げながら返した。

78「ただ前を向き、ただ上を目指す……」 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:09:06 ID:SfsGLlYs
 ピンポンパンポ〜ン

 ※ここまで執筆して予約しようと思ったらものの見事に被ってしまったので、以後は用意していたプロットを超ダイジェスト版でお送りします。





 度重なる銃声は、敵の陽動作戦だと悟った劉鳳。
 あちこち動き回らせて体力を消耗させる作戦か……だが、ここで退くわけにはいかない!
 貴重な銃弾を陽動に使うということは、相手は銃器を頼らない接近戦の使い手である可能性が高い。
 いい作戦だが、真・絶影を持ってすればその程度の策などまるで無意味。劉鳳は四回目の銃声の下へ向かう。
 到着後、劉鳳は即座に身構え襲撃に備える。
 が、敵は思わぬ所から――なんと劉鳳の真下、下水道に通じるマンホールから飛び出してきた。
 真・絶影の長時間行使に加え、想定外の場所からの奇襲に劉鳳は成す術もなく腹部を抉られてしまう。
 その際、襲撃者の正体がポニーテールの女騎士――シグナムであることを確認。
 すぐに真・絶影で反撃に出ようとするが、ぶりぶりざえもんが間に割って入り、戦闘は一時中断。劉鳳はぶりぶりざえもんを連れて逃走する。
 シグナムから離れた後、劉鳳はぶりぶりざえもんに「なぜ邪魔をした!」と怒り出すが、
 ぶりぶりざえもんは、「救いのヒーローとして、仲間を見殺しにすることができなかった」と主張する。
 確かに、あそこでぶりぶりざえもんが割って入らなければ劉鳳は確実に敗北していた。
 ぶりぶりざえもんは、病院でのヤマトの決死の行いを模倣し、自分なりに劉鳳をお助けしようとしたのだ。
 その意図を理解してなお、劉鳳は「自己犠牲で救える命などたかがしれている! 正義の名を冠さす者が、易々と命を棒に振るうような真似をするな!」と叱咤する。
 自分の命を投げ出すことでしか他者を救えぬようでは、正義には程遠い――劉鳳とぶりぶりざえもんの正義に対する意識は、似て非なるものだったのだ。
 が、劉鳳はそんな立派なことを言っておきながら、ボロボロの身を押して一人シグナム討伐へ向かおうとする。
「おいキサマ、言ってることとやってることがまるで逆じゃないか!」
「黙れこの毒豚が!」
 ぶりぶりざえもんが抗議するが、劉鳳はまったく寄せ付けない。
 我が身を省みない行動――悪を断罪するという強い信念は、たかが重傷などでは抑えられなかったのだ。
 カチンときたぶりぶりざえもんは、力ずくで劉鳳を止めるべく彼の鳩尾に不意打ちの体当たり。
 さらに悶絶したところを狙って、顔面におならを一発お見舞い。
 完全沈黙した劉鳳をその場に残し、ぶりぶりざえもんはシグナムの下へ駆ける。

79「ただ前を向き、ただ上を目指す……」 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:10:06 ID:SfsGLlYs
 ほぼ同時刻。
 シグナムは劉鳳を誘き寄せるために再度銃声を上げようとしたが、その間際に新たな標的――ホテルへ向かっていたセラスと風を発見する。
 本調子ではないセラスは闇討ちするには格好の的と見定め、シグナムは二人に銃撃。弾丸はセラスの足を貫き、移動を困難にさせた。
 すぐさま風がセラスを建物内に避難させ、『癒しの風』を施す。
 歩行が困難となってしまったセラスを気遣った風は、一人シグナムの気を引くため外へと飛び出す。
 外は真っ暗闇――狙おうと思えば頭を撃ち抜くこともできた。そうすれば一瞬で片がつく。
 それなのにそうしなかったのは、相手が銃の扱いに慣れていないから――そう推測した風は、付近にあった大型ディスカウントショップの駐車場に辿り着く。
 開けた場ならば、闇からの銃撃にも対処しやすい。そう判断し身構えていた風を、背中から矢の一撃が襲った。
 矢が飛んできた先、ディスカウントショップの屋根を見ると、そこには見慣れた弓を構えるシグナムの姿が。
 風の判断ミスはただ一つ。シグナムはたしかに『銃技』には長けていなかったが、『弓術』には長けていたことだ。
 騎士であるシグナムにとっては、暗闇での長距離狙撃など弓矢で行う分には何の問題もない。
 矢の一撃で重傷を負い、絶対絶命の風。その時、シグナムを発見したぶりぶりざえもんが乱入する。
 騒がしいぶりぶりざえもんに標的を変えたシグナムは矢を射るが、これは風が咄嗟に放った『碧の疾風』によって軌道をずらされてしまう。
 絶体絶命は変わらず、屋根の上から狙い撃ってくるシグナムに一人と一匹は何の対処もできず、あわやこれまでかと思われたその時――
「剛なる拳、伏龍ッ!! 臥龍ッ!!」
 ――満身創痍悪臭塗れの身を押して、劉鳳が救援に駆けつけた!
 再会して早々まずぶりぶりざえもんの頭にげんこつをかまし、傷の心配をした風を「女ごときが口を出すな!」と一蹴し、怒りの矛先は全てシグナムに向ける。
 劉鳳はシグナムに交戦の合図を出し、一方で風に「ぶりぶりざえもんを連れて逃げろ」と言い放つ。
 不服そうなぶりぶりざえもんを絶影の威嚇攻撃で黙らせ、風とぶりぶりざえもんはその場を離脱。
 シグナムも今回ばかりは逃げようとせず、重体で向かってくる戦士と真っ向から対峙する。
 装備万端ほぼ全快迷いを断絶したシグナムと、死に掛けの劉鳳。
 誰がどう見ても結果は明白な勝負が始まろうと――




 ピンポンパンポ〜ン

 ※ダイジェストの途中ですが、ここから先はキャラの生き死にが関わってくるため、この結末は各自のご想像にお任せします。

80 ◆LXe12sNRSs:2007/03/08(木) 23:11:26 ID:SfsGLlYs
以前に要望があった被り作品のプロットを暴露。
かなり大筋を端折ってる上に、シグナムの思考とかは完全スルーでしかも殴り書きですが、満足頂けたでしょうか?
中途半端なところで止めましたが、実際はもっと続きます。
前後編は間違いなし、というか過去最大量になるかもしれなかった。っていうか予約期間内に書けたのか、と今さら思ったり。
さーてそろそろ新作書くかなぁ……。

81毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:43:32 ID:obbHa4eY
 ――ギガゾンビの高笑いが空に響いた。その声は死者を冒涜し、生者の絶望を煽る。
 新たに呼ばれた名は九つ。悲しみが、怒りが、憎しみが、絶望が、様々な感情が遺された者たちを蝕んでいく。

 だが、遺されたものは、決してそれだけではない。
 かのパンドラの箱に最後まで残されたものは『希望』だった。
 ならば――この狂おしく愚かしい殺し合いの場にもまた、希望は残されているはずだ。
 この場に呼ばれ、たった数時間のみを共に過ごしただけの者もいた。
 死力を尽くし、殺し合った相手もいた。友の、愛する人の、好敵手の、それぞれから託された想い――
 それを、生き残った者たちが必死に紡ぎ続けている。伝えられなかった想いを繋げようと懸命に生きている。
 それがある限り人の希望は折れない。

 しかし、逆を言うならば――
人が寄りかかるものは想いしか残されていないということにもなる。それが潰えたとき、人は何に縋ればいいのだろうか?
 そして、忘れてはならない。パンドラの箱に最後まで残されたものは確かに希望だった。
 だが希望のみが残るまでに、災厄のその全ては世に放たれてしまったのだということを。
 ここホテルで、箱は開かれた。果たして希望が残るまで――人は、災厄に耐え続けることは出来るのだろうか。

 ◆ ◆ ◆

 アイツの姿が中空に浮かび上がったとき、あたしはそれが全く意味のないことだと分かっていたにも関わらず、思わず身構えてしまった。
 そう、身構える必要なんか、アイツ自体を恐れる必要などどこにもないのだ。
 アイツは、ギガゾンビは、自ら積極的な介在をせず、ただこの殺し合いを眺め、笑っているだけなのだから――!
 握る拳に力がこもる。爪が肉に食い込むのが分かる。でもこの気持ちは、やりようのない気持ちをどこにぶつけろというのか。
 あたしも……他の参加者を殺す?
 ふざけてる。そんなのはギガゾンビの言いなりになったも同然だ。
 何にこの怒りをぶつけるのか、そんなことはもうとっくに決まっている。
 ギガゾンビ――あたしは、絶対あんたを許さない。絶対の絶対に、あたしの気が済むまでぶん殴ってやるんだからねっ!

「おいみさえ、大丈夫か? 凄まじい顔してるぜ」
「あ……、うん、大丈夫。ちょっと……ちょっと考え事してただけだから」
「そうか。……少し休んどけ。あいつらが戻り次第ここを離れるからな」
「え!? なんで? せっかくだからここでもっと休んでいけばいいじゃない」
「周りをよく見てみろ。あちこちガタがきてやがる。下手に闘えば崩れる可能性だってある」
「あ、ほんとだ。……でもゲインさんは? 彼、まだ動けないわよ」
「心配するな。いざと言うときは俺が担いでいく。それより放送を聞き逃すな」

 ガッツの言葉であたしは慌ててギガゾンビへと視線を向ける。
 ……どうやら、まだ死者や禁止エリアは言っていないようだ。助かった、と安堵する。
 これこそアイツの言いなりになってるようで悔しいけれど、放送を聞き逃すわけにはいかない。
 今の私たちには少しでも情報が必要なのだ。
 まだ出会えていない仲間――フェイトちゃん、風ちゃん、そしてしんのすけ――彼女たちと合流し、協力することが今の最優先事項なんだから。
 ……でも、正直なところ放送を聞くのは怖い。一回目の放送のあと、ずっと考えてた。
 あの人のように、あの子の名前も呼ばれちゃうんじゃないかって。もし……もしだけど、そんなことがあったら、あたしは――
 駄目だ、『もし』なんて考えちゃ駄目だ。今は、まだ見ぬ仲間の無事を信じて、祈るしかない。
 それが気休めだってことは分かっていたけど、私は胸の前で手を組むありがちな祈りのポーズをとりながら、放送に耳を傾けた。

 ◇

82毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:44:15 ID:obbHa4eY
 良かった……。本当に良かった……!
 しんのすけの名前は呼ばれなかった。なのはちゃんと光ちゃんの探し人もまだ生きている。
 確かに、それは喜んでも良いことかもしれない。
 ただ、これだけは忘れてはいけない。またも十に近い尊い命が奪われてしまったということ。
 そしてその中に知ってた名前がいくつもあったこと。

「よぉ、良かったじゃないか。あんたのガキ、まだ生きてるらしいな」
「ええ。でも……」
「……あの沙都子ってクソガキと、そこの人形のお仲間の心配をしてるんだったら、そいつはいらんせっかいだ」

 ガッツの無粋な言い方に、あたしは憤慨を堪えきれず抗議の声を上げる。

「ちょっと! そんな言い方無いじゃない!」
「あいつらは二人とも俺たちを襲ってきた。ならそいつらの仲間ってのも信用できん」
「それは……そうかもしれないけど……」
「わかってるだろ。ここはそういう―― !?」

 突然会話を切り上げ、振り返ったガッツ。もしかして誰か帰ってきたの?

「? ねぇ、どうしたのガッツ?」

 巨体の脇から部屋の入り口の方をのぞき見ると、そこには知らない少女が立っていた。
 見るからに全身ボロボロ。年端もいかない少女の小さな身体は傷だらけで、こちらをぼおっと見る瞳にも生気は感じられない。
 いったい誰? もしかしてあれがフェイトちゃんか風ちゃん?
 突然の来客にあたしの頭の中が疑問符で埋め尽くされたとき、あたしの目がバカでかい剣を構えるガッツの姿を捉えた……って何してんの!

「いきなり何しとるんじゃあんたー! ほら、こんなボロボロじゃない! ……あーよしよし、もう大丈夫だからねー」

 ガッツの巨体の脇をすり抜けて少女の元へ駆け寄る。
 あーもー、こんな子にいきなり剣を構えるなんて、いったい何考えてんのかしらまったく。
 心の中で不器用な相棒の文句を垂れながら少女に近づいたあたしは気づいた。この子、なにか呟いてる?

「…………て…………サイ……」
「え? どうしたの?」
「サイトみてやっぱりひとがいたよこいつらころすよそしたらサイトはいきかえれるんだよ
 ねぇサイトはうれしいよねいまころすからころすからころすころすころす……」

 ――!? こ、この子……どうしちゃったの!?

 少女が手に持っていた鎚を上げるのがやけにゆっくり見える――

「みさえええええっ!」

 あたしは覆い被さってくるガッツの巨体に包まれながら、気を失っていった。
 最後に聞こえたのは、なにかが爆発する音。
 ああ、なんだか花火の音みたいだなぁ――また、家族四人で花火大会行きたいなぁ――
 この場に似つかわしくない随分のんきなことを考えながら、あたしの意識は完全に落ちた。

 ◆ ◆ ◆

83毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:44:49 ID:obbHa4eY
 くそっ……! 一体なんだってこんなことになっちまったんだ!
 俺たちの前に突然現れた来訪者――
 そいつはいきなり攻撃を仕掛けてきた。それもとびっきり強烈なやつをだ。
 うかつにもそいつに近づいたみさえに躊躇なく放った魔法。
 半ば反射的にみさえを押し倒し直撃は免れたものの、俺たちを通り過ぎた魔力の塊はホテルの壁を吹き飛ばす。
 そこに空いた穴からは日が落ちた暗い闇が顔をのぞかせていた。
 腕の中のみさえの様子を確認する。ところどころ火傷はしているが、それ以外に目立った外傷は無い。
 気絶しちまったのは仕方ない。ただでさえ闘い慣れてない一般人だ、むしろ寝ててもらった方がこちらも余計な心配をしなくてすむ。
 だが……俺のほうがヤバイかもしれねぇ。みさえをかばったせいで、あの爆発を直撃とは言わないがかなりくらっちまった。
 肉は焼け、皮膚は裂け、赤みがかった内筋が露出している。全身の神経が痛みを伝達し続け、焦げた臭いが鼻につく。

「クソっ……!」
 どうする? もちろん目の前の女はたたっ斬る。問題はそれまでの手順だ。
 こちらは戦力になるのは俺だけ。得物は得意の剣、威力は十全。
 しかし負傷した仲間の存在は無視できない。みさえは気絶、ゲインはベッドに寝たまま起きあがる気配もない。
 キャスカにいたっては未だ小さき姿に身をやつしたまま、いつ醒めるとも分からない状態。
 こいつらをかばいながら戦うのはさすがに骨が折れる。
 まして目の前の敵の攻撃魔法は威力、範囲共に俺たちをもろとも吹き飛ばすことさえ可能だ。
 ああ、人形もいたのか。アイツも目を覚まし次第俺たちを狙ってくる可能性があるな。
 クソっ……! つまり俺は三人を守りながら、糞人形が起きる前に、あの魔術師に魔法を放たせることなく斬る必要があるってか?

「しねしねしねしねしねしねしねしねしね」

 女から次々放たれる魔力。一つ一つの威力は先ほどの奇襲と比べると微々たるものだが、いかんせん数が多い。牽制か。
 ひとまず退避だ。襲い来る魔法はあえて無視。この程度なら致命傷にはならねぇ。素早く女から距離をとりみさえを床に寝かせる。
 そして正対。女の姿に視線を向ける。
 確認できた容姿はまだ幼い少女のそれだった。だがしかし……容赦はしねえ!
 握る柄に力を込め、

「うおおおおおおおおおお!!」

 雄叫びを上げながらの突進。――狙うは一撃必殺!
 この剣と俺の力なら――ただ振り切る、その動作だけで相手は必死!

84毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:45:20 ID:obbHa4eY
 しかし魔女は慌てる素振りさえも見せずに鎚を振るう。その魔力の向かう先は――みさえ!

 脳裏に迷いが走る。このまま敵を討つのか、それともみさえを守るのか?
 戸惑いは鋭敏さを失わせ、勝機は朽ちていく。自分はそれが分からない戦士ではなかったはずだ。
 だが身体は止まる。この場に呼ばれ、未だ一日も経っていない。みさえとの出会いはこの不条理の中の小さな偶然に過ぎなかった。
 それが――自分をこんなにも縛っている。素直に驚いた。
 人と人との絆に時間など関係ない。そんな言葉を聞いたときは一笑に付しただけだった。
 永きに渡る知人でも、利害のためならば平気で寝首を掻くような真似をする。それなのに絆だのなんだの言うのはお笑い種だと。

 しかしそれを実感するのは今現在の自分だ。今、俺はみさえを守りたいと思っている。
 そこに敵と味方の優先などの選択は存在しない。ただ行動のみ。そして今の自分に出来ることは――ただ剣を振るうのみ!

 剣、一閃。魔女へと向かっていた剣気の先をみさえへと迫る魔力の塊へと変える。
 凝縮された魔力が剣に裂かれたとき、炸裂寸前だったそれは霧散した。

「性に合わないのは分かっているが、契約は結ばれた」

 だから――いや、契約なんてのは関係ない。俺は、みさえを守ると決めた。

 再び剣を構え正対。相手との距離はやや離れている。おそらく近づこうとすればまたみさえを狙ってくるだろう。
 相手は入り口の外。剣を振るおうにも狭い扉が邪魔をする。
 おそらく横凪ぎに払おうとも壁面により威力、速度共に減少、下手を打てば逆に手痛い一撃をもらうことになる。
 必然的に狙うは唐竹か突きだ。しかし相手はそこまで読んでいる可能性さえある。
 それでも、近づきさえすれば一刀両断にする自信はあった。
 相手もそれを感じているのかは分からないが、牽制用の、質より量を重視した魔法を放ってきている。
 しかしその程度ならば剣の一振りで相殺可能。だが、俺も近づく余裕は無い。
 魔女が膠着を嫌い、俺たち全てを吹き飛ばす大魔力を放ってきたとき、それが反撃のタイミングだ。
 魔力を充填するその一瞬の隙を見逃すつもりは……無い!

 さぁ、我慢比べと行こうか魔女さんよ。俺は負けるつもりなんざさらさら無いがな。

 再度放たれる魔力。熱を帯びたそれを一刀。
 二撃、三撃、四撃、五撃。
 いかに魔女が魔法を放とうと、熟練の戦士はそれを一撃で霧散させていく。場は完全な膠着に陥いった。

 そして、根負けしたのは魔女だった。
 鉄槌にかつてないほどの高純度の魔力が注ぎ込まれていく。だがそれに要する時間もまた存在する。
 ここに、決定的な隙が出来た。
 勝った、と心の中で快哉を上げる。
 狙うは今。魔女の首を刈り取り、終いにする!
 肉薄すべく持てる膂力を溜め込み、爆発させようとする。
 が、その場に響いたのは――魔法と剣の支配していた空間に似つかわしくない、一発の乾いた銃声だった。

85毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:46:03 ID:obbHa4eY
 ◆ ◆ ◆

 ……翠星石が目を覚ましたのは、あの仮面の男の姿が空に現れてからすぐです。
 そのときのみさえとかガッツとかいう人間たちは隙だらけだったですが、武器も持ってない状況じゃ返り討ちに遭うのが関の山です。
 利口な翠星石はそのまま気絶した振りをして、密かに反撃の機会を窺うことにしたです。


 ……放送は、悪夢でした。呼ばれたのはチビ人間だけじゃなかったです。
 真紅……そして、可愛い妹、蒼星石。
 多分、仇を討ってやるという強い思いが無ければそこで泣き叫んでたに違いないです。

 ああ……! 蒼星石はきっとろくな武器も持たずに無惨にむごたらしく殺されたに違いないです。
 この場所に来て出会ったのはそんなろくでもない人間ばかりなのですから……!
 チビ人間、真紅、蒼星石……。仇は絶対に翠星石がとってやるです。
 だから……待っててくださいです。ここで優勝して……チビ人間を生き返らせて……アリスゲームにも勝ち残って……!

 そうすればまた元通りの生活が帰ってくるです。
 またチビ人間の家でのりの作ってくれた花丸ハンバーグを食べながらみんなで楽しく遊ぶです。
 だから……力を、翠星石に力を貸してくださいです。
 二人のローザミスティカ……あの忌々しい水銀燈のやつの手に渡る前に、翠星石がもらっていくです。
 二人の力と想いと共に、翠星石は絶対に生き残ってやるです。

 まずはみさえとガッツ……この二人を殺してやるです。今は待つです、好機を……。

 ◇

 チャンスは思っていたよりも早く訪れやがったです。突然の攻撃にデカ人間は傷だらけになりやがったです。
 もう動いても大丈夫なはず……。
 私は復讐のために支給品のつまったバッグへと歩を進めたです。欲しいのは銃と庭師の鋏。
 ……あったです、庭師の鋏。お願いです、蒼星石。貴方の鋏を血に汚してしまう姉のことを許してくださいです。
 けれど銃は弾ばかりで肝心の本体がないです……と思ったら、デカ人間がキャスカとかいう女を置いていた机の上に、翠星石が裏切り者を撃ち殺した銃が置いてありました。
 デカ人間たちは……大丈夫みたいです。向かい合ったままこちらのことは微塵も気にしてないです。
 女の魔法が飛んでくるのを恐れて少し尻込みしたけど、デカ人間が女の魔法をことごとく斬ってやがります。
 まったくどいつもこいつも常識外れなヤツばかりです。

 ようやく掴んだ銃は……冷たかったけど、何故かしっくり来たです。何故かはよく分からないです。
 この銃の握りが翠星石の手によく馴染むのか、それとも人を撃ち殺した翠星石がこの銃に慣れてしまったのか……。

 ええい、そんなことはどうでもいいです。今必要なのはあの人間どもを殺す銃弾だけです。過剰な力はいらないです。
 翠星石は知ってるです。人間ってのはとっても弱くて儚くて、銃弾一発で死んでしまう生き物だって。
 あんな大きな剣はいらないです。全てを壊す魔法もいらないです。翠星石に必要なのは人間を殺せるだけの銃……それで十分です。
 そして銃は今や翠星石の手元にあります。ならすることは一つです。どうやらあの魔法使いはデカ人間たちを殺すつもりです。
 なら翠星石はデカ人間を殺すです。アイツさえ死ねば他の人間どもはあの魔法使いが殺してくれるはずです。
 翠星石はその間に逃げればいいだけです。
 銃を構えると不思議と全身を覆っていた震えが止まったです。後は落ち着いて、良く狙って、引き金を引くだけです。

 翠星石は、みんなを助けるために絶対生き残ってやるです。そのためならなんだってしてやるです。
 それだけを考えて放った弾丸は、まっすぐにデカ人間へと飛んでいったです――

86毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:46:30 ID:obbHa4eY
 ◆ ◆ ◆

 突然の銃声が、俺に向かって放たれたものだと気づくまでに半瞬。痛みが脳に伝達されるまでにさらに半瞬。
 だが――それは俺の動きを止めるのに十分だった。止まる勢い。剣を振り抜くことも出来ない。
 脇腹を抉る銃弾の感触。急所は外れたか? しかしそれに「死ななくて良かった」などと安堵することは出来ない。
 なぜなら目の前にさらに確実な「死」が待ち受けているからだ。
 眼前に魔力が最大まで充填された鉄槌が見える。あれが振り下ろされ、炸裂したとき、俺の命はこの現世には残っていないだろう。

 せめて俺に出来ること……それは後ろの連中を守ることだけだ。

 猛進。少しでも前で受け止め、後ろへの飛び火を防いでみせる。

 近接。しかし、既に鎚は振り上げられ――

 激痛。痛みに身体は悲鳴を上げる。

 それは仲間を守るという強い意志に反する否定。間に合わない――!

 そして――鉄槌が振り下ろされんとす、まさにその時。

 一筋の疾風が走った。


「生憎だが……いつまでも寝ているわけにはいかないんでな!」

 黒いサザンクロスの放った飛礫が魔女の手から魔槌を弾き落とす!

「……ゲイン!」
「誰かは知らないが……あんたはここを、俺を守ってくれたんだろ? ならば相応の礼はしよう。助太刀だ」

 その瞳は鷹の如く。黒いサザンクロスの名を冠する請負人、ゲイン・ビジョウは生と死の狭間から帰還する。
 その手に握られたものは玩具の域を超えぬパチンコ一つ、それから放たれるものは小石の飛礫。
 だが魔女の猛攻を防ぐには十分。一擲で魔槌を落とす腕前たるや、その二つ名に全く恥じないものだった。

 しかし、寸前まで魔力を注ぎ込まれた魔槌は爆発の発現を止めようとはしない。
 放たれる寸前まで高純度に凝縮された魔力は暴発を引き起こす!

 この世界を為す成分のいずれにも属さない虚無。それは全てを飲み込み破壊し消し尽くす力。
 此度放たれた力はその場の誰にも向かわなかった。
 暴走した虚無の力は地階へと向かい――このホテルの根幹を為す鉄骨と、それを支える大地を抉る。
 壁が軋み、床は悲鳴を上げ始める。間もなく、この建物の全ては瓦解し、そこに生者の姿は無くなるだろう。
 ならば何を為す? 自分は……仲間を守るために何をする?
 守ると誓ったのだ。守ってみせる。その決意は胸の中でたぎる。

「みさえっ! 起きやがれ!」
「ん……。え? 何これ!? 一体どうなってんのよガッツ!?」
「ぼやっとするな、ここが崩れるんだ。脱出するぞ! 二人とも俺に掴まれ!」
「えっ、えっ、ええええええええ!?」

 ぼやぼやしている暇など無い。握っていた重剣は奇襲によって空けられた穴から外へと放り投げる。
 魔女が鉄槌を拾う暇に、みさえ、ゲインの二人を両肩に抱き、卓上のキャスカを掴む。
 糞人形の姿が無い。やはりあの銃撃はあいつの仕業か? さっさと逃げ出したと見える。気にはなるが放っておくしかない。
 いくつもあるデイバック……その全てを掴むことは不可。ええい、ままよ!
 直感でそのうちの一つを掴み、外へと広がる暗き穴を見据える。

「ちょ、ちょっとあんた、まさかあそこから……」
「跳ぶ。舌を噛むなよ」

 一呼吸おいた後、疾走。迷う時間すら惜しい。俺は穴から夜の闇の中へと飛び出した――

87毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:46:58 ID:obbHa4eY
 ホテルが……血を吸い尽くした建物が崩れ落ちる。此の戦場で流された血潮は数知れず。少なくない命も失われた。

 瓦礫のそばに立つのは三人。ガッツ、みさえ、ゲイン。
 戦士、主婦、請負人――その立場は違えど、その願いは同じ。この馬鹿げた殺し合いからの脱出。
 だが既に三人は傷つき、満身創痍。まともに動けるのはガッツ一人のみ。

 瓦礫のそばに浮くのは一人。ルイズ。
 貴族の出――本来、こんな場に呼ばれぬはずの少女の願いは。愛する人の蘇生と永遠の共生。
 そのためならばなんだってする覚悟は出来ている。――狂人の狂信を覚悟と呼ぶのならば。

 厄災はホテルさえも飲み込み、さらに貪欲に血を求める。瓦解したホテル――それだけでも足りぬ、もっともっとと責め立てる。

「みさえ、ゲイン……。ここは俺が引き受ける。逃げろ」
「そ、そんな! あんただけじゃ危ないわ!」
「いいから行け! むしろ怪我人を抱えたまま戦うほうが危険だ。足手まといはいらねぇって言ってるんだよ。
 時間からしてそろそろなのはと光が帰ってくるはずだ。E-4方面へ向かって合流しろ」
「ヒカル? つまりあんたらはヒカルやセラスの仲間ってことか?」
「ああ、そんなもんだ。詳しくは道々みさえにでも聞いてくれ。……分かったらさっさと行け!」
「……ガッツ! 絶対……絶対生きのびて!」
「フン、言われるまでもねぇさ。持ってけ。中身はわからんが無いよりはマシなはずだ」

 デイバッグの一つをみさえに押しつけ、戦士は再度魔女と向かい合う。
 みさえたちは駆けだした。ガッツの、仲間の無事を祈りながら。

「さぁ……殺り合おうか嬢ちゃん」

 しかし空に浮かぶ魔女に戦士の剣は届かない。ならば……引きずり落としてみせるまでだ!
 ハンティングナイフを投擲、しかしそれは魔女の肩口を掠めるのみ。
 魔女は……宙に浮きながらゆっくりとみさえたちの逃げていった方向を見る。まるで獲物の逃げる先を見極める狩人のように。

「てめぇ……! いかせねぇ!」

 戦士の怒号も今は虚しく響き渡るのみ。魔女の視線は揺るぐことすらない。

「わたしはぜんぶこわすのサイトもそれをのぞんでいるの
 グリフィスはいったのサイトをいきかえらせてくれるって
 だからわたしはひとりもにがさないでみんなころすのよ」

 誰に言うでもなく告げられる言葉。だがガッツはそれを聞き逃すことはない。

「グリフィスだと!? てめぇ……ヤツの仲間か!」
「グリフィスはいったのサイトをサイトをサイトをサイトサイトサイトサイトサイ」
「くっ……! 話にならねぇ!」

 悪態をつこうともガッツに全てを知る術などない。魔女が仲間の元へと向かうことを止めることさえ出来ない。

 そして、最悪の中の最悪は。
 砕け、潰れ、壊れ、生の気配など微塵も感じられないホテルの骸の中から……最凶の厄災が起きあがってきたことだ。
 瞬間、背筋に怖気が走る。身体中の細胞全てが危険信号を出している。
 身体を走った痛覚も、魔女に対する怒りさえも全てなかったかのように、今はただただ危険を感じていた。

「ククク……フハハハハハ!
 面白い、面白いぞ人間! この私を脇役扱い、果てには出番すら見せる前に舞台ごと生き埋めにするとはな!
 だがそれでいい。いつの世も……世界という舞台の中心は、主役は、人間のものだ。
 私のような怪物は、奈落の底で待ち受けるのみ。だが舞台は崩れ、役者は奈落へと落ち込んだ。ならば……!
 私もいい加減待ちくたびれた。その鍛えられた鋼のような肉体、仲間を思う自己犠牲。
 その全てが人間という種が持ち合わせる美! 我ら魔には到底併せ持つことのない代物!
 素晴らしい、素晴らしいぞ! さぁ……思う存分に闘り合おうじゃあないか」

 そう言って最凶の吸血鬼は――にたり、と嗤った。

88毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:47:27 ID:obbHa4eY
 ◆ ◆ ◆

 道すがら、みさえからこれまでの経緯を聞いた。どうやら俺は九死に一生を得、みさえたちから提供された薬によってここまで持ち直すことが出来たらしい。
 素直に礼を言う。ここまでされたからには、必ずみさえを守ってみせると。
 だがしかし……お世辞にも今の状況はいいとは言えないだろう。
 ガッツから渡されたデイバッグの中身は飲み物四缶、傘、壊れたスタンガン、とてもじゃないが扱いきるには難しすぎる巨大砲だった。
 みさえの背負っていたデイバッグにはまだナイフやショットガンが入っているが……
 これだけではあの少女に追いつかれたとき――為す術もなく、いたぶり殺される可能性が高い。
 せめてこの身体さえ健康体ならばあの巨大砲も扱えたかもしれないが、今の俺ではいたずらに死期を早めるだけ。
 いや……一つある。希望を……繋ぐ方法は。
 
「みさえ……聞いてくれ。俺は……ここに残る」

 勿論冴えたやり方だとは思っちゃいない。だが、たった一つの確実なやり方……それは、俺がここで足止め役を買って出ることだ。

「そんな……駄目よ! 絶対ガッツがなんとかしてるはずだから! だから諦めちゃ駄目!」

 当然のようにみさえは反対した。確かにガッツが少女を倒すなりしてくれていればそれが百点満点の解答だ。
 しかし、もし少女がガッツの制止を振り切り、俺たちに追いついてしまったら? 最悪二人とも死亡―― それは零点だ。
 ここで必要なのは次善の策。満点はいらない。少しでも犠牲を少なくするための策。

「諦めるわけじゃあないさ。ただ……このままのスピードじゃ追いつかれたときに逃げ切れない。
 怪我人の俺を置いてヒカルたちと合流するんだ。それから迎えに来てくれればいい。いわば俺は保険ってとこだな」

 そう、むざむざと死ぬわけじゃない。ヒカルたちの協力があれば逆に少女を倒すことも可能だ。
 そのための作戦。俺はここで時間を稼ぎ、その間にみさえは仲間と合流。満点とはいかないが悪くはない。
 それに今の俺は――

「それでも駄目よ! ゲインだけじゃ……!」

「みさえ……。俺の傷をよく見てくれ」

 そう言って上着を脱ぐ。そこにあったのはおびただしい量の出血だった。
 ホテルからの脱出、ここまでの強行軍、それが傷口を再び開かせる。

「だいぶ無理をし過ぎた。これ以上動けそうにもない。……だから、俺はここに残る」

 そう、今の自分は足手まといなのだ。これだけは如何ともし難い事実。
 みさえの顔に、諦めとも諦観ともつかない表情が浮かぶ。その後に見せた顔は決意の表情。

「ゲイン……分かった。あたしが絶対にみんなを連れて帰ってくるから。その傷も治してみせるから。だから……だから待ってて!」

 みさえは、俺の提案に力強く首肯してくれた。
 その後、お互いの持ち物の整理をする。
 しばしの相談の結果、みさえには到底扱いきれない巨大砲、それとナイフに元々持っていたパチンコだけ俺が持ち、
もしも他の敵に遭遇してもある程度応戦が出来るようにショットガンやバットなどの比較的扱いが簡単な武器、その他のアイテムの全てをみさえに持たせる。

「それじゃゲイン、行って来るから! 絶対に無理はしないで!」

 みさえは駆けだしていった。やれやれ……これでようやく一息つけるってもんだ。
 そう思った途端、ここまでの疲労をどっと感じて、俺はその場に座り込んだ。

89毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:47:50 ID:obbHa4eY
 しかし……。みさえから聞いた話によると、この殺し合いが始まってから、既に半数近くが命を落としたらしい。
 その間俺がしたことなんて……何もないようなものだ。
 うかつにもキャスカという殺戮者をホテル内へと引き入れ、セラスとヒカルを危機に陥れてしまったどころか、ただの一般人である朝比奈みくる嬢を巻き込み、死亡させてしまった。
 まったく……請負人だと? 反吐が出る。何も出来ない、それならば何の意味もない。俺は誓ったんだ。
 もう……ウッブスの悲劇は繰り返させないと。
 再度誓う。もう――何も守れないのはうんざりだ。俺は請負人として、為すべきことを成す。

 そしてそのために――このピンチを乗り切ってみせる。

 眼前には少女の姿があった。空を浮かび、鳥のように優雅にこちらへ近づいてくる様は、上流貴族のそれを思わせる。

「やあ、お早いお着きで。残念ながらお嬢様、ここは通行禁止で御座います。他の道をお通り下さいませ」

 おどけた調子で挨拶をしてみても少女は眉一つ動かさない。
 こいつは骨が折れそうだ――だが、退くわけにもいかない。
 魔女は、小さいながらもはっきりとした声で明確な、純粋な殺意を告げる。

「……うるさい
 みんなしんじゃえ」

 そう言うと最狂の魔女は――魔槌を振るった。

 ◆ ◆ ◆

 既にその外観は原型を留めてはいない。
 かろうじて建築物としての最低限を残した上階。石と鉄屑と化した下階。周辺に無数に散らばる瓦礫。
 それらがかつてホテルだったものを成していた。
 激しく行われた闘争の数々は、社交と癒しの場であった洋館を崩壊させるに一切の不足も無い。
 わずかに残された箇所も、刻一刻と流れ決して止めることの出来ない時の中、徐々にその姿形を破瓦させていく。
 数多の災厄を呼び寄せた館は多大なる血を以てその巨体を地へと沈めつつあった。

 しかし、未だ希望は――現れない。

90毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:53:11 ID:obbHa4eY
毒吐きの方で肯定的な意見が頂けましたので拙作を投下させていただきました。
少しでも本スレで活躍されている書き手諸兄に追いつきたいと思いますので、
感想、批評などを避難所か毒吐きスレの方に書き込んでいただければ幸いです。
非常に勝手なお願いですが、今後の為にも出来れば辛口で批評をお願いします。

91魔法少女カレイドナナシ:2007/03/18(日) 23:08:25 ID:V1OwK2f2
書き手の端くれとして偉そうな事を言わせて貰う。


書き手になれ。いやむしろなって下さい。

視点が微妙な所さえどうにかすれば充分じゃね?

92魔法少女カレイドナナシ:2007/03/19(月) 20:53:03 ID:nXsot16g
>>91
実は小ネタで繋ぎくらいは投下したことあるんだけど、ペースが速すぎでついていけない俺がいる。
今までのも放送前後の時間に余裕のある時しか書けてない遅筆だから。
これも一週間以上かけてようやくこのレベル……
筆を速くしたいが、その前に視点固定や文の繋がりなんかの基本を徹底出来るようになったら書きたいと思う。
そんなこと言ってもらえて嬉しかったんだぜ!

93魔法少女カレイドナナシ:2007/03/24(土) 21:09:52 ID:9KWQlq76
カズマとヴィータが、二人組みのマーダーと遭遇してコンビネーション攻撃に圧倒された後、分断に成功すれば使えたかもしれないカット。


視線を交わして言葉を紡ぐ?
歩調を揃えて同じ道を歩む?

違う。背中合わせで立ち上がるのが彼らのあり方。
だがそれ故に、避けては行けぬ戦場の上でのみ、彼らは合同に近い相似形。

この一戦の間だけは、ヴィータは反逆の拳であり、カズマは守護の鉄槌だった。

立ち塞がる城壁を打ち砕く破城槌と、

「一対一なら、鉄槌の騎士ヴィータに―――」

立ち塞がる壁こそを打ち砕く反逆者、

「タイマンなら、シェルブリットのカズマに―――」

二人の声が、唱和する。

「「負けは、ねえッ!!」


カズマの口調は怪しいし、テンポ悪いし、これしか思いつかなかったし……

94魔法少女カレイドナナシ:2007/04/22(日) 20:47:37 ID:UVnsWIWg
惨殺と鬱展開ばっかだけど、もう実現できないネタだし晒してみる
暇とか出来たらアナザーとして執筆するかもしんない


・水銀燈にローザミスティカ4+ジュエルシード+レイジングハート+闇の書の7つで擬似アリスとしてラスボス化
・梨花ちゃんにレイジングハート収奪させて腹黒巫女オヤシロ梨花として無差別マーダー化
・マーダーに挟み撃ちさせて新SOS団でひぐらし皆殺し編風展開、梨花役としてアルルウが惨殺される
・ホテル戦でフェイトの誤解フラグを消化してなのはVSフェイト
・先生とジュン君遭遇、ジュン君を保護しようとした先生がキレたジュン君に惨殺
・ドラえもん、ブチ切れ水銀燈にジャンクにされる。

95 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:32:19 ID:PZT8JobA
『―――貴様は言ったな、俺を殺すと。ならば―――人類全てを、歴史もろとも殺す気で来い。
唯一無二の力を―――アルターがアルターと呼ばれる所以を見せてやる!』
 
 画面の中で男が咆哮をあげ、紺碧の、刃そのものに等しい装甲身に纏った。
「何だと!?」
 その瞬間、それまでワインを片手に死闘の映像を楽しんでいた男、ギガゾンビの顔色が変わった。
(馬鹿な……ありえん……)
 画面の中の男、劉鳳が使うアルター能力とは、超空間の一つの支流に当たる空間にアクセスすることで、
物質を原子レベルで分解し、各々の特殊能力形態に再構成することができる特殊能力だ。
 その性質ゆえ、亜空間破壊装置の影響を受け、その力は抑制されている――

 ――はずだ。

(さらに上の段階への『進化』など不可能なはずなのだが……)
慌しく立ち上がり、ギガゾンビは劉鳳の首輪から最後に送られた戦闘データーの数値に目をやった。
その数値を目にした瞬間、ギガゾンビは自分の顔が引きつるのを感じた。
(何だこれは……)
 そこに記されたデータは、恐るべきものだった。
 仮に劉鳳という男が本調子であったなら、亜空間破壊装置が作動していなかったら、どれほどの力を発揮していたか検討もつかない。
 ギガゾンビの背筋に氷塊が落ちた。
 苛立たしげに、手元のコンソールを叩き、劉鳳の戦闘時刻の亜空間破壊装置の作動状況をチェックする。
 ややあって、ギガゾンビの舌が大きく打ち鳴らされた。
 案の定というべきか、劉鳳の戦闘時刻の亜空間破壊装置の出力は、わずかに弱まっていた。
 1つでもこの空間を覆うには十分とはいえ、やはり5つあったものが1つになったのだ。
 当然だが無理は出る。

 ――とは言っても

(ええい! アルター能力者というのは、化物か!?)
 弱まったとはいえ、それはほんの僅か。
 本来、無視しうる程度なのだ。
 にもかかわらず、あの劉鳳という男は、亜空間破壊装置の壁をぶち破り、彼らの世界では『向こう側』などと呼ばれている空間に、
 アクセスしてのけたのだ。
 そして、劉鳳は死んだが、彼に勝るとも劣らぬもう一人の男は未だ生存している。
 首輪がはめられている限り、こちらの絶対的優位は覆らないとはいえ……。
 ギガゾンビは腕組みをした。
(気に入らん、気に入らんぞ……)
 取るに足らない存在だと思って侮っていると、足元をすくわれるというのは、骨身に染みるほどしっている。
 首輪解除の動きや、亜空間破壊装置の破壊をこれまで放置してきたのは、これもまた座興だと思っていたからだ。

96 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:32:50 ID:PZT8JobA
 
 ――無駄な足掻きをする人間ほどみていて面白いものは無い

 そして、足掻いた末に見せる絶望の表情は、とてもとても良いものだ。
『技術手袋』を支給したのは、そのためだ。
 途中で切れている鎖を金の鎖だと思って手繰り寄せる滑稽さを嗤い、金の鎖が切れた鎖だと知った時の参加者の絶望の顔を見るつもりで支給した。
 だが、どうにも嫌な予感がする。
 
 ――参加者達があまりにも希望に満ちすぎている

 もっと絶望に顔をひきつらせていても良さそうなものだ。
 ところが、彼らの中の幾人かには、明らかに『アテ』でもあるような言動がチラホラみられ、
その瞳には、目的地を定めたような光がある。
 そんなものが、あるはずはないのに。
 奴等の行く先には絶望の夜しかないはずなのに。
 だが、あの目が気になる。
 幾人かに宿る、真っ直ぐな、何かを見据えたものの目が。
(……ここで読み間違えると、万が一ということがあるかもしれんな……)
 参加者の中には、この世界につれてきた時よりも高い戦闘能力を引き出している者達がいる。
 データ上では『カートリッジ』を全弾使い切っているはずの魔力を消費しながら、怒りでそれを補ってしまった少女や、
劉鳳と同じ領域に達しつつある同じ能力を持つ青年。
意志の力で科学の壁を乗り越えてしまう者達。
彼等の首輪が万が一にも外れることがあれば……。

――脅威となりうる

ギガゾンビの眉間に深い皺が刻まれた。
絶対的な君臨者であるべき自分が、脅かされるようなことがあってはならない。
さりとて今、首輪を全て爆破してこのゲームを終わらせたくは無い。
この戦いは、貴重な収入源でもあるのだ。
どの世界でも、大抵の娯楽は飽食しつくしてしまい、刺激に飢えている富裕層という者は多数存在する。
厳選に厳選を重ねて客を絞り、リスクを承知で亜空間破壊装置に一瞬だけ穴を開け、彼等に圧縮したデーターを送信しているのだが、
凄まじい反響だった。
どれだけでも金を払うからもっと高画質の物を寄越せだの、倍額払うから他より早く配信してくれだのという人間の多いこと多いこと。
鋼の肉体を持つもの同士の戦闘に熱狂する者、美少女が無残に死んでいく様に大喜びするもの、
人間ドラマとやらに涙する者、
大して力を持たない者が圧倒的な力を持つ相手に一泡吹かせるところが好きだ、という者……。
 ギガゾンビは陰惨な笑みを浮かべた。
(これが人間、まさしく人間よ!)

97鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:33:35 ID:PZT8JobA
文明が進むにつれ、世の中は窮屈になった。
 血を、より残酷なものを、より刺激的なものを求めるのが人間の性だというのに、それをやたらと制限しようとする愚暗の輩が跋扈するようになった。

 ――くだらん、まったくもってくだらん

 コロシアムで、猛獣にキリスト教徒が食われる様をみて熱狂し、罪人の無残な処刑の有様をみて歓喜するのが人間の本性なのだ。
(それを分かっとらんカスどもが多すぎる!) 
ギガゾンビの生まれた世界では、暴力シーンが1分流れただけで、世の『良識派』とやらが発狂したようにクレームを入れるため、
創作物すら、毒にも薬にもならない物に成り下がっている。
それに比べて、21世紀の創作物のなんと刺激に満ちていることか……。
 ギガゾンビは、一冊の本を取り出した。彼のバイブルともいえる本だ。
 この本を読んだ時、震えた、絶頂を覚えた、勃起すらしていた。
 何度も何度も読み返した。
 そして――
 
この話を実現したいと思った。

 そのために、そのためだけに、科学を極めた。
 そして、古代の日本に王国を作り、このゲームを開催しようと準備を進めていた時に、横槍が入った。
 収監された時はもう終わったかと思った。
 
だが、帰って来た。

あの脱出不能と謳われる牢獄から自分は帰って来た。
(費やした時とたゆまぬ努力が無駄でなかったことの証の為に! 理想の物語の完成のために!
バトルロワイアル開催成就のために! 私は……。帰って来た!)
そして、ついにやり遂げた。
そう。

 ――信じていれば、諦めずに追いかけ続けていれば、夢はいつか必ずかなう!!

(この私の悲願の成就、誰にも邪魔はさせん! 邪魔はさせんぞ!)
 例え、参加者であろうと、だ。
 彼らはただ最後の一人になるまで殺しあっていればいいのだ。
 そうでなければ、原作どおりにならないではないか。
 ギガゾンビは手を伸ばし、コンソールを操作した。
 画面の中では、一人の少年が剣を天に翳し、誓いの言葉を発している。
(厄介なヤツだ! 貴様のような存在は、このゲームの中では、あってはならぬ存在だというのにっ!!)

98鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:34:09 ID:PZT8JobA
 侮っていた。
 まさか、一般人の、しかも幼児にあんな力があるなどと、予想外にもほどがある。
 
 ――目だ

 あの黒曜石の瞳に宿る大空を写したような輝きが気に入らない。
(真っ直ぐなあの目、あの目はバトルロワイアルには無用の物だ)
 あの輝きが他者に伝染し、集団が生まれ、科学の道理を意志の力でこじ開ける者達の首輪が外されでもしたなら……。
 ギガゾンビの眉間の皺は、更に深さを増した。
無論爆破をしようと思えば、できる。
 しかし、それでは物語としての完成度が落ちてしまう。
 主催者による遠隔爆破など、無粋の極みだ。

 ――だが、どうする?

 ギガゾンビの心の水面は大きく揺らいでいた。



 峰不二子は困惑していた。
 温泉に入ろうと、危険を侵して猶予の30秒を使って禁止エリアを突破し、やれやれと安堵の域を吐いた所で

――バッ●マンの仮装?

と思わずツッコミたくなる格好の男が現れたのだから。
いきなり、空間にドアが出現し、唖然としている間にそのドアをくぐって男は現れた。

――銃を抜く暇すらなかった

嫌な汗が背中をつたうのを不二子は感じた。
 今の自分は完全に男の間合いに入ってしまっている。
 自分が銃を抜こうとした瞬間に、男の剣が閃いて自分は両断されるだろう。
(……落ち着け……落ち着くのよ……)
 不二子は自分に言い聞かせた。
 無差別に参加者を殺して回る類なら、既に自分は死んでいる。
 にもかかわらず、何もしてこないということは、相手に何か考えがあるということだ。
 男が口を開いた。
「ようこそいらっしゃいました」

 ガクっと不二子の肩が落ちた。

「どうぞ、こちらへ。当エイハチ温泉は、サウナに水風呂、ジャグジーに露天風呂、色々取り揃えております。
まずは、どちらになさいますか?」
「……そうね、まずはゆっくりとお湯に浸かりたいわ」

99鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:34:34 ID:PZT8JobA
 脱力しつつ、不二子は何とかそれだけを口にした。
「ならば、どうぞ大浴場の方へ。当温泉の泉質は、アルカリ性単純温泉。適応症は、神経痛,リュウマチ,肩こり,腰痛 肥満,喘息,腎炎,糖尿病,冷え性,不妊症, 便秘,更年期障害,水虫等で、
古来より、「長寿美肌の湯」と称えられて――」
 男の口上を右から左へと聞き流しながら、不二子はほっと安堵のため息をついた。
 どうやら、何事もなく温泉に浸かれそうだ。
 ほどなく一行は温泉の入り口へと辿り着いた。
 のれんをくぐり、廊下を歩き、更衣室へと――
「……いつまでついてくる気?」
 不二子は背後の男に冷たい視線を叩きつけた。
「お手伝いは無用なのですか? お背中を流すお手伝いを――」
「結構よ!」
 ピシャリと言い捨て、不二子は更衣室のドアを閉めた。
 不二子の姿が消えると同時に、男からへりくだった態度が消えうせた。
「グ、グリフィス様〜」
「何だ? コンラッド」
 近寄ってくるコンラッドを見下ろすその目は、将の目だった。
 気圧されるものを感じつつも、
「どうして、何も聞かずに、簡単に入れちゃったギガ? 万が一あの女が、亜空間破壊装置を破壊しようとするヤツだったらえらいことギガ」
「その心配はまずないな」
「何でそう思う、ギガ?」
 首をかしげるような仕草をするコンラッドに、
「お前は匂いが分からないから、気づかなかっただろうが、あの女からは酷い刺激臭がした。
女にとってあんな刺激臭を漂わせておくことは耐えがたいことだ。匂いを落そうと温泉に来てもなんら不思議じゃない」
 ミッドランドの淑女達が、競うように香水を振り掛けていたのを思い出しながらグリフィスは言った。
「間違えるなよ? コンラッド。ギガゾンビ様の目的は、あくまでこのゲームを楽しむことだ。
参加者が一人減れば、それだけあの方の楽しみが減ってしまう」

――俺にとっても都合が悪いしな

 グリフィスは心の中で呟いた。
 あの女は、あちこちに傷を負っていたから、戦闘行為をしてきた可能性が高い。
 好戦的な参加者が減ることは、グリフィスにとっても不本意なことなのだ。
「なるほどギガ……。確かにそうギガね」
「だが一応監視はしておけ。あの女が、この施設を巡っているうちに……。という可能性はゼロじゃないからな」
「了解したギガ」
 コンラッドに指示を与え、グリフィスは歩き去った。

100鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:35:01 ID:PZT8JobA


 熱い湯が身体に心地よい。
「……ふぅ……」
 不二子は至福のため息をついた。
 この腐れゲームに巻き込まれて以来、心休まる暇がなかった。
 ふと、爪に目をやり、不二子はげんなりした。
 爪と爪の間に土が入り、黒ずんでいる。
(……まあいいわ。どうせまた、汚れるんだろうし)
 この温泉から出た後は、また血みどろの殺し合いをやらなければならないのだ。
 綺麗にしたところで意味は無い。
 そう、女らしい感覚など、今の自分にとっては無用の長物。
(これ以上漬かっているのは、まずいわね……。気持ちが萎えちゃう)
 不二子は、立ち上がった。
 湯が不二子のしなやかな、丸みを帯びたからだをつたい落ちていく。
 ドアを開け、置いてあるタオルで手早く身体を拭き、衣服を身に着ける。
(さて、これからどうしようかしら?)
 やはり、思考はそのことに集中した。
 殺し合いを避け、このまま山中に身を隠すという選択肢もあるにはある。

 ――だが、そんな消極的なことで勝ち残れるのか?

 不二子は嘆息した。
 力が足りない、どう考えても自分には力が足りない。
 不二子は頭を振った。
(嘆いていても仕方ないわ)
 もう自分は踏み出してしまったのだから。
 どんなことをしても、外道と呼ばれようなことをしてでも勝ち残ると決めたのだから。
 マッサージチェアに身を沈め、振動に身を委ねながら再び思考を巡らせようとして――

 ――ふと、引っ掛かりを覚えた。

 実をいうと、温泉に入っている時から、何かが引っかかっていた。
(何かしら……)
 こういう引っ掛かりを放置しておいてはいけないことを、不二子は知っていた。
 何故なら、こういう経験則から来る第六感的なものこそ、隠し扉の発見や暗号の解読につながるからだ。
 考えるうちに、一つの考えに不二子は突き当たった。

 あの男。


 温泉に自分を導いた男が、引っかかっているのだ。
 何故ここにだけ、『人間』を配置する必要があるのだ?
 不二子の中の好奇心が鎌首を上げた。
 マッサージチェアから立ち上がり、不二子は通路を歩き始めた。
 いくつかの部屋のドアを開け、中を調べてみる。


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