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没作品投下スレ

86毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:46:30 ID:obbHa4eY
 ◆ ◆ ◆

 突然の銃声が、俺に向かって放たれたものだと気づくまでに半瞬。痛みが脳に伝達されるまでにさらに半瞬。
 だが――それは俺の動きを止めるのに十分だった。止まる勢い。剣を振り抜くことも出来ない。
 脇腹を抉る銃弾の感触。急所は外れたか? しかしそれに「死ななくて良かった」などと安堵することは出来ない。
 なぜなら目の前にさらに確実な「死」が待ち受けているからだ。
 眼前に魔力が最大まで充填された鉄槌が見える。あれが振り下ろされ、炸裂したとき、俺の命はこの現世には残っていないだろう。

 せめて俺に出来ること……それは後ろの連中を守ることだけだ。

 猛進。少しでも前で受け止め、後ろへの飛び火を防いでみせる。

 近接。しかし、既に鎚は振り上げられ――

 激痛。痛みに身体は悲鳴を上げる。

 それは仲間を守るという強い意志に反する否定。間に合わない――!

 そして――鉄槌が振り下ろされんとす、まさにその時。

 一筋の疾風が走った。


「生憎だが……いつまでも寝ているわけにはいかないんでな!」

 黒いサザンクロスの放った飛礫が魔女の手から魔槌を弾き落とす!

「……ゲイン!」
「誰かは知らないが……あんたはここを、俺を守ってくれたんだろ? ならば相応の礼はしよう。助太刀だ」

 その瞳は鷹の如く。黒いサザンクロスの名を冠する請負人、ゲイン・ビジョウは生と死の狭間から帰還する。
 その手に握られたものは玩具の域を超えぬパチンコ一つ、それから放たれるものは小石の飛礫。
 だが魔女の猛攻を防ぐには十分。一擲で魔槌を落とす腕前たるや、その二つ名に全く恥じないものだった。

 しかし、寸前まで魔力を注ぎ込まれた魔槌は爆発の発現を止めようとはしない。
 放たれる寸前まで高純度に凝縮された魔力は暴発を引き起こす!

 この世界を為す成分のいずれにも属さない虚無。それは全てを飲み込み破壊し消し尽くす力。
 此度放たれた力はその場の誰にも向かわなかった。
 暴走した虚無の力は地階へと向かい――このホテルの根幹を為す鉄骨と、それを支える大地を抉る。
 壁が軋み、床は悲鳴を上げ始める。間もなく、この建物の全ては瓦解し、そこに生者の姿は無くなるだろう。
 ならば何を為す? 自分は……仲間を守るために何をする?
 守ると誓ったのだ。守ってみせる。その決意は胸の中でたぎる。

「みさえっ! 起きやがれ!」
「ん……。え? 何これ!? 一体どうなってんのよガッツ!?」
「ぼやっとするな、ここが崩れるんだ。脱出するぞ! 二人とも俺に掴まれ!」
「えっ、えっ、ええええええええ!?」

 ぼやぼやしている暇など無い。握っていた重剣は奇襲によって空けられた穴から外へと放り投げる。
 魔女が鉄槌を拾う暇に、みさえ、ゲインの二人を両肩に抱き、卓上のキャスカを掴む。
 糞人形の姿が無い。やはりあの銃撃はあいつの仕業か? さっさと逃げ出したと見える。気にはなるが放っておくしかない。
 いくつもあるデイバック……その全てを掴むことは不可。ええい、ままよ!
 直感でそのうちの一つを掴み、外へと広がる暗き穴を見据える。

「ちょ、ちょっとあんた、まさかあそこから……」
「跳ぶ。舌を噛むなよ」

 一呼吸おいた後、疾走。迷う時間すら惜しい。俺は穴から夜の闇の中へと飛び出した――


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